【安価】ようこそ実力主義の教室へ

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581 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/25(木) 08:48:04.73 ID:xaYy5BJrO
>>580
 4:週末】

 週末の土曜日。
 わたしは寮から徒歩5分程度の学校に登校していた。
 今日は数週間に1度のボランティア活動の日。
 ボランティアといっても近所のお年寄りや子供と触れ合うようなイベントではなく、単純に校庭の草むしりをするだけ。誰がやってもペースの誤差こそあれ、結果に差が出ない作業のため気楽で良い。
 周りを見渡すと、思いのほか参加する生徒が多かった。1年生から3年生まで合わせて51人。特に1年生の姿が目に留まる。
 参加目的は大きく4つほど思い浮かぶ。

 1つ、単純な慈善活動
 2つ、OAAの『社会貢献生』という項目の点数稼ぎ
 3つ、参加特典のケヤキモールで利用可能なミールクーポン
 4つ、わたしみたいに参加を半ば強制されている人

 1年生の姿が多いのは、つい先日もOAAによる客観的な評価を目にしたからだと考えられる。こういうところで評価を上げる姿勢はとても良いと思う。
 わたしは生徒会役員ということで参加している。これまでも4回ほど休日に駆り出されていたけれど、そのおかげでOAAの評価に繋がったと考えると非常に報われた気持ちになる。
 その他にも、ついさっきまでグラウンドで部活動に熱を入れていた野球部とサッカー部はユニフォームで全員参加らしい。

「そろそろ持ち場につけー」

 野球部の顧問の先生が指示を出し、各自が持ち場につく。作業中は、他の人の迷惑にならなければ私語も許される。スポーツドリンクも自由に取れるらしいので、適度に休憩しながら程々に進めていこう。

【コンマ判定
 1・5:生徒会役員 1年
 2・8:生徒会役員 2年
 3・7:生徒会役員 3年
 4・6:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
 9・0:東雲雪菜(1-A)
 ゾロ目:化野(2-A)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 続きは今晩にします。】
582 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/25(木) 13:43:08.90 ID:ctn9ScqS0
583 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:41:26.45 ID:YgBFoyleO
>>582
 0:東雲雪菜

 遅くなってしまいました。
 続きは26日の夜にします。】

「春宮様、お隣よろしいですか」

「あ、東雲さん。うん、もちろんいいよ」

 艶やかな黒髪を結った女子生徒────東雲雪菜さんが話しかけてくれた。
 彼女とは先の特別試験にて接点を持ち、最近では廊下ですれ違うと挨拶が出来るような友達に近い存在。はっきりと友達と言い切れない最大の理由は『様』を付けて呼ばれていること。なんとか『さん』まで持っていきたいんだけれど、なかなか難しい。
 彼女はどこか絶対的な一線を引いているように感じる。おそらくこの先、本当に余程の事がないとその一線を越えることは出来ないと思う。

「春宮様は生徒会役員として参加、といったところでしょうか」

「うん、そうだよ。あ、でも別に嫌って訳ではないんだよ? ミールクーポンも貰えるし」

「高校生の貴重な3時間を使った報酬が1500円相当のミールクーポンというのは、法外な賃金ではありますけれどね」

 東京都の最低賃金を鑑みると、時給にして半分以下。仮にも国立校を謳う学校がするべきではない。
584 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:41:57.96 ID:YgBFoyleO

「まぁ、でもボランティアだからね。校庭をまずまず綺麗に出来れば良いってレベルだし、それこそ完璧なものを求めるなら業者を呼んだ方が早いだろうし」

「そうですね。一般の学校では無償だと聞きます。学校の敷地内で利用できるミールクーポンを配布というのは、この学校らしいですね」

 皮肉っぽく言う東雲さん。
 学校生活を満喫していらっしゃる。

「東雲さんはどうしてボランティアに?」

「先日に発表されたOAAの点数稼ぎです。どうやら春宮様には随分と差をつけられてしまったようなので、少しでも追い着きたいと考えた次第です」

 1年生のライバルの中でも東雲さんは筆頭として挙げられる。トップで独走しているAクラスのリーダーであることもそうだし、未だに未知な面が大きい。
 そんな東雲さんのOAAの評価は確か……。

??????
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力    89(A)
身体能力  76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力   80(A-)
??????


585 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:42:29.98 ID:YgBFoyleO

 確かに『社会貢献性』が他の項目と比べて少し弱かったと思う。それでも学年の平均55をずっと上回る値だけどね。

「ただ、こうして春宮様も参加されていると追いつこうにも追いつけませんね。引き離されないだけマシだと考えましょうか」

「あ、なんかごめんなさい」

「謝ることではありません。来年は生徒会に所属することも視野に入れておくだけです。その頃にはきちんとOAAの評価も出来ていると思いますし」

「きちんと、って?」

「聞いていませんか? 1年生の評価の約半分程度は中学校卒業時の成績を反映していると。まだ学校側も測れていない部分があるのでしょうね」

 なるほど。それは聞いていなかった。
 聞かないと教えてくれない、というのもこの学校らしい。知らないは一生の恥とも言うし、学校独自のルールについて疑問に思ったことがあれば聞くようにした方がいいかもしれない。
 そんなことを話しながら手元の作業を進めて行く。
 何の工夫も要らない草むしりのため、みるみると校庭から雑草が消えて行く。野球部とサッカー部の全員参加効果は絶大だった。

「この調子なら早めに終わりそうですね」

「そうだね。あ、東雲さん。もしよかったら、この後一緒にケヤキモールに行かない? 用事があるならまた今度でも構わないんだけど」

「シャワーを浴びた後でよろしければ、ぜひご一緒させて下さい。寮に戻って……いえ、それだと……」

「水泳部のシャワーなら使えると思うよ」

「それは助かります。どうにも暑いのは苦手で」

 見た感じ、汗をかいているようには見えないけれど、ジャージの下はどうか分からない。
 実際、わたしも長袖の下はやや蒸されて気分が良いとは言えない。日焼けを気にせず半袖で挑めたら良かったんだけど、なかなか色々な事情で難しい。

「急いでやっちゃおうか」

「はい。春宮様もご無理をなされぬよう」

 約束を取り付けている間にも他の生徒の作業ペースは右肩上がりで、ほとんどが片付いてしまっている。ほんのあと5分くらいで終了の合図がかかると思う。
 よし、もう少しだけ頑張ろうっ。
586 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:43:14.35 ID:YgBFoyleO

◇◇◇

 ミールクーポン1500円分を貰って、わたしと東雲さんは競技プール場の方へと向かう。
 水泳部にもクラスメイトの宮野さんをはじめ、知り合いが多い。部長の麻倉先輩とは結構気兼ねなく話せる関係まで仲良くなれた。

「??????はい、ではお借りします」

 代わりに今度の部活動に臨時で参加することになってしまったけれど、それはわたしにとっても望むところ。喜んで快諾をさせていただき、更衣室とプール場の間のシャワー室へ。
 備え付けのシャンプーやトリートメント、ボディーソープ、清潔なタオルが置いてあり、同時に8人が利用できる親切設計。
 また、更衣室に戻れば化粧水や乳液まで置いてあるのだから嬉しい。もちろん個人的なお気に入りの商品は持ち込むしかない。

「……とても品のある良い香りがします」

「ん、あぁ、これかな? ヘアオイル。少しだけ持ち歩くようにしてるんだ」

 以前、宮野さんに教えて貰ったシトラスのヘアオイルを出しているメーカーが夏限定として売り出したローズのオイル。試しに買ってみて気に入り、普段から少量を持ち歩くようにしていることが功を奏した。
587 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:43:47.70 ID:YgBFoyleO

「もしよかったら使ってみる?」

「…………わたくしは、そういうのは……」

 日頃、常に余裕を感じさせる表情を絶やさない東雲さんだけれど、この瞬間だけは伏し目がちに暗い表情を見せる。
 ヘアオイル自体が嫌いなのか、手に取ったことがないモノへの抵抗感か。
 ライバルという関係であっても、彼女とは仲良くしたいと考えている。そこに損益は存在せず、ただひたすらに彼女とは学生として、そして人間として成長し合える何かがあると直感で感じ取れる。

「嫌い?」

「き、嫌いでは……ないんですけれど」

「じゃあ付けてみようよ。今も綺麗な髪だけど、もっと綺麗になると思うから」

 わたしは東雲さんの後ろに立ち、ヘアオイルを少々ずつ手に取って長い黒髪に馴染ませていく。
 普段使いしている洗髪剤の香りとローズの相性は悪くなさそう。きっと喧嘩しないで良くまとまってくれるはず。
 一通り馴染ませた後、僭越ながらドライヤーで髪をしっかりと乾かしていく。ローズの香りが心地良い。東雲さんもリラックスしてくれているようで何より。
 10分近くかけて乾かし、ドライヤーを置く。
588 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:44:19.22 ID:YgBFoyleO

「あ、ありがとうございます。良い香りがして、なんだか艶もある気もしますし、とても嬉しいです」

「うん、よかった。髪とか結んだりしない?」

「このままか、まとめたりする程度ですね。あまり編み込んだりするのは、試してみたことがなく……」

「ほんのワンポイントだけでも三つ編みにしてみるとかね。この辺りとか」

 左頬付近の髪を少量だけ手に取り、軽く編み込みをする。このまま下までやって、あとはリボンなどで留めれば華が出る。
 確か、夏帆先輩から戴いたのが鞄にあったような。貰い物なので譲ることは出来ないけれど、試してみる分には利用できる。

「ちょっと待ってて」

 更衣室のロッカーまで戻り、鞄から白いリボンを取って東雲さんのもとへ。じっと座って待っててくれた彼女の髪を改めて編んでいく。リボンで結ぶと、予想通り可憐な少女が鏡に映った。

「他にもアレンジは色々あるけどね。東雲さんの髪なら色々と試せると思うよ」

「そ、そうですか。……今度、試してみますね。ええと、これはどうしたら」

「解散する頃に返して貰えればいいよ。せっかくならこのまま外に行こうよ」

「春宮様が、そう仰るのなら……」

 照れている様子は初めて見た。
 申し訳ないけれど、あんな表情は出来ない人だと心のどこかで思い込んでいたため驚く。
 ただ驚いてばかりではいられない。東雲さんより髪が短い分、一足早くに髪を乾かし始めていたけれど、それも途中だった。かなり時間が経ってしまったけどきちんとやっておこう。

589 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/26(金) 01:44:48.92 ID:YgBFoyleO

◇◇◇

 ケヤキモールへと移動した。
 ジャージや体操着はクリーニングに出し、わたし達は登校時の制服姿で飲食店を目指す。
 時刻は13時に迫り、やや混んでいるけれどきっと良いお店は見つかる。

「何か食べたいものはある?」

「春宮様にお任せ致します。好き嫌い、アレルギーはございません」

 さっきまでの照れた表情は何処へ。
 普段通りの余裕のある笑みを浮かべたライバルの姿。その方が東雲さんらしくはあるけれど。
 ただ、それでも髪のリボンと匂いは嬉しそうなのが滲み出ている。

「じゃあ和食で。結構空いてそうだったし」

「承知しました」

 侍女のように半歩後ろを着いてくる彼女に隣を歩けとは言い出せないまま目的地へ。やはり空席が目立ち、すぐに奥の方の席へ案内される。
 一息ついた後、ミールクーポン1500円分を堪能できるように食後のぜんざいまでを注文して待つ。


【安価です。
 1.「普段はお化粧とかしないの?」
 2.「雨宮さんのことだけどさ」
 3.「休日って何をしているの」
 下1でお願いします。】
590 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/26(金) 17:46:54.11 ID:BHJei12XO
3
591 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:48:12.89 ID:BuUp22UaO
>>590
 3:「休日って何をしているの」
 最近更新できず申し訳ありません。】

 ふと思う。
 放課後や休日に東雲さんは何をしているのか、と。
 ほぼ毎日のようにケヤキモールへ立ち寄っているけれど、本当に東雲さんの姿を見かけたことがない。1度目はクイズ大会にて、2度目は望月くんとの約束に現れた時に話したくらい。
 何をしていても彼女の自由だけれど、とにかく気になる。ここは思い切って聞いてみよう。

「東雲さんって、休日とか何をしているのか聞いてもいい?」

「わたくしの休日ですか? 寮の部屋もしくは学校の図書室で過ごすことが多いです」

「クラスメイトの人と遊んだりは?」

「一度もありません。……あぁ 先月のクイズ大会は別です。わたくしが我が儘を言って、神宮様にはお越し頂きました」

 ということは、基本的にはずっと一人ということ。
 一人で過ごすことを否定するつもりはないけれど、そこまで徹底する根本的な意志が気になる。きっと誘われることも多いはずなのに。
 ここは……。
592 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:48:51.03 ID:BuUp22UaO

「東雲さん、そろそろ『様』付けはやめない?」

「大変恐縮ですが、それは万に一つもありえません。わたくしが何方かと親密になることはないでしょう。兄様は例外ですが」

「そ、そっか。うーん。わたしは東雲さんともっと仲良くなりたいんだけどなぁ」

 紛れもない本音を伝える。
 ただ彼女の意志は堅いようなので……おや?

「……春宮様が、ですか」

 少し気まずそうに目を逸らす東雲さん。
 露骨な拒否反応、あるいは涼しい顔で「春宮様といえど、例外なく親密な関係になることはありえません」なんて言われるかもと思っていたのに。
 これはもう少し押し込めばいけるのか……?

「うん、わたしが。この学校の仕組み上、とても親密というのは難しいかもしれないけれど、放課後とか休日にこうやって遊びに行く位の友達になれたらなって」

「……」

 東雲さんと目が合う。
 沈黙ではあるけれど、目を見て分かることはある。
 弱々しい目。何かに怯えるような、臆病という2文字を訴えかける目をしていた。ちょっと触れてしまえば壊れてしまいそうな脆弱性すら垣間見える。
 少し、無理をさせすぎたかもしれない。東雲さん本人が望まないのであれば、わたしたちの関係は同級生でライバル程度に留めておくべきなのだと分かる。
593 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:49:19.76 ID:BuUp22UaO

「ところで話は変わ────」

「……それは、はい。お誘いいただければ」

「…………いいの? 無理してない?」

「人間関係の構築も、わたくしがこの学校に進学を決めた理由の一つです。春宮様にそう言っていただける内は、ぜひお誘いいただきたく存じます」

 まだ揺らいでいるようにも見えるけれど、先ほどまでの弱々しい目の中には前を向こうという強い意志が感じられた。言葉通り、人間関係の構築には彼女自身思うところがあったのかもしれない。

「うん、じゃあ是非。わたしは生徒会の業務があるから平日の放課後は少し難しいかもしれないけれど、お昼休みとか休日にお話できたら嬉しいかな」

「はい。24時間365日、携帯を握りしめてお待ちしております」

 うーん、重たい。
 『友達』という距離感の認識に齟齬があるのかな。

「四六時中は東雲さんも大変じゃない? 気付いたときだけで大丈夫だから。1時間くらいの未読ならわたしも気にならないし」

 本当はすぐにでも返事が欲しいと思ってしまう本心は隠しておく。誰かにメッセージを送った後、少しソワソワしてしまう気持ちは誰にでもあると思いたい。
594 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:49:48.45 ID:BuUp22UaO

「それでは春宮様に失礼です。親しき仲にも礼儀あり、と教官は仰っていました」

「そんなことないよっ? もっとフラットというか気兼ねない関係でもいいんじゃないかな」

「……そこまで仰るのでしたら。ただ、必ず1時間に1度は確認させていただきます。早朝でも深夜でも」

「いや、まず深夜とか早朝に連絡することはないと思う。えっと、朝7時から夜10時まで。その間だけにしよう」

「はい、承知いたしました」

 頷く東雲さん。
 なんだか、用が無くても毎日お話くらいはしないといけない関係性まで発展してしまったような気がする。
 付き合い始めたら毎日連絡を取りたいタイプなのかもしれない。わたしも若干その気があるため、それを咎めることは出来ない。


595 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:51:58.39 ID:BuUp22UaO

◇◇◇

 こうして半ば強制的に参加させられたボランティア活動だったけれど、思いがけない関係性を構築することが出来た。
 東雲さんと仲良くなれるのは良いこと。帰りにお揃いのリボンを買ったことで更にその関係は強固になったと思う。

「………」

 その日の夜10時前。寝る支度を済ませてベッドの上でクラスメイトとメッセージのやり取りをしながら、改めて『東雲雪菜』という生徒のことを考える。
 学校側が生徒に与える正当な評価システムOAAによると、そこには優等生そのものの成績が表れている。

----------
1-A 東雲 雪菜(しののめ ゆきな)
学力    89(A)
身体能力  76(B+)
起点思考力 81(A-)
社会貢献性 72(B)
総合力   80(A-)
----------

 全体的にわたしの方が点数だったりランクが上という事実はひとまず置いておくとして、彼女が文武両道で品行方正という学校側が求める学生のイメージを体現している姿はきっと教師陣も一目置いているところだと思う。
 誰に対しても絶対的な隔壁を置いているところは玉に瑕だけれど、それが実害に及んでいるわけではない。先の特別試験でも言葉数は多かった方だし。
596 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:52:33.17 ID:BuUp22UaO
 そんな東雲さんは、正に人との距離感を掴むのを不得手としているらしい。と言っても、特別クラスで浮いているという話を聞いたこともない。確かな信頼を得ながら、クラスメイトと友人の間に引かれた一本線を越えないようにしていると見受けられる。
 そしてそれは、故意というよりは彼女自身が自然と作り出した偶発的な隔壁であることが今日わかった。
 友人との接し方が分からない彼女なりの処世術なのだと。
 外見や言葉遣い、立ち振る舞いに至るまでいかにも深窓の令嬢感が出ているし、もしかしたら本当に良いところの生まれなのかもしれない。

「……そういえば」

 気になっていたことを思い出す。
 彼女が口にした『教官』という単語。
 教官……ねぇ。小学校や中学校の先生か、塾の先生か、その他の習い事の先生……あるいは、家庭教師のような方をそう呼んでいるのか。
 その姿は靄に包まれて見えない。
 特別気になるという訳でもないけれど、少し言い方が気になっただけ。今時、教官なんてそうそう聞くような単語ではないから。

597 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:53:32.95 ID:BuUp22UaO

「ん」

 と、そんなことを考えていると携帯が震える。
 望月くんからのチャットだった。
 内容は、

『今日は妹と遊んでくれたらしいね。
 ありがとう。
 話して分かったと思うけど、彼女はあんなかんじなんだ。
 もしよければ今後も仲良くしてくれると嬉しい。
 その代わりと言ってはなんだけど、君の知りたいことを1つだけ教えておく。』

 お礼の連絡だった。
 そして程なくして続けて彼からチャットが届く。

『S01T004651』

 どこかで見たようなアルファベットと数字。
 どこで見たっけな……。
 この組み合わせ、文字数はほぼ毎日見ている気もするんだけど……思い出せない。
 それに、わたしの知りたいことって?
 前の特別試験の『王様』の法則性も未だに知れていないまま。ただ、コレはまた別な気がする。
 ひとまず今晩は、望月くんと東雲さんの正体に迫る文字列かもと暗記しておくに留める。
598 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/11/30(火) 08:54:55.59 ID:BuUp22UaO

【安価です。自由行動
 1.1人で過ごす
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)
 3.人と会う
  1. 雨宮綾香(クラスメイト 白石詩波という芸能人 安価次第で音楽センスのステータスアップ)
  2. 宮野真依(クラスをまとめる水泳部の女子生徒)
  3. 一色颯(クラスをまとめる男子生徒)
  4. 望月弘人(ちょっと謎なクラスメイト)
  5.神宮紫苑(Aクラスの男子生徒 生徒会役員)
  6.東雲雪菜(Aクラスの女子生徒)
  7. 花菱乙葉(信頼のできる…? 3年生の女子生徒)
  8. 如月深雪(信頼のできる3年生の女子生徒)
  9.四条夏帆(信頼のできる2年生の女子生徒・選択に応じて料理スキルアップ)
  10.佐倉新汰(信頼のできる2年生の男子生徒)
 下1でお願いします。】
599 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/11/30(火) 21:16:41.85 ID:yGR7yPUjo
2
600 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 08:36:43.65 ID:B7nbQdOqO
>>599
 2.ケヤキモールへ(コンマ判定で人と会う)】

 生徒会主催の企画が『クイズ大会』として方向性の承認を得られたと報せを受けた日の生徒会業務終了後。
 わたしはケヤキモールに来ていた。
 時刻はもう19時を回っているけれど、この時間帯であってもモール内は生徒で溢れかえっている。
 そういえば、本格的な夏に向けてカフェでは新作のドリンクが出たとか。やけにあちら側に人が見えるのはその効果かもしれない。

「さて」

 立ち寄った明確な目的は、小説と食料品の購入。
 その1つ、小説の購入は先ほど済ませた。そのためあとは食料品売り場へと行くだけなのだが……。


【コンマ判定
 1・7:花菱乙葉・四条夏帆(生徒会)
 2・6:佐倉新汰(生徒会)
 3・9:一色楓・宮野真依(クラスメイト)
 4・8:化野伊吹(2-Aの要注意人物…?)
 5:「あ、あの、春宮さん」 突然声を掛けられる
 0:望月弘人・早見有紗(クラスメイト
 ゾロ目:笹原真中(3-A 担任教師)
 下1のコンマ1桁でお願いします。
 2桁ゾロ目優先です。】
601 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 09:08:15.06 ID:UODfn2/h0
602 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:05:56.93 ID:GSnRKpMv0
>>601
 6:佐倉新汰(生徒会)】

 途中、わたしは方向転換をする。
 さっきの通路を真っ直ぐ進んでいれば食料品売り場だったけれど、右に曲がったことで雑貨屋が並ぶ一帯へ。
 風鈴や扇子、金魚や向日葵の箸置きなど季節感のある小物を視界に入れながら、手頃な曲がり角を見つける。よしよし、あそこなら人気も少ないし、あらゆる面で都合が良い。お店の人にはやや迷惑かもしれないけれど。
 歩調を一切変えることなく、予定に沿って曲がり、その場で振り返って5秒ほど待つ。すると、後ろを追ってきていた人物と鉢合わせをする。

「っ、と」

「わっ、せ、先輩っ? すみません、危ないですね、この曲がり角は」

「いや、俺の不注意だ。通路も広いし、もう少し大きく回るべきだった。悪いな、天音」

「いえ、先輩が謝るようなことではありませんよ」

 目の前に現れたのは、生徒会の副会長を務める2年Bクラスの佐倉新汰先輩。
 好青年、という3文字がこれほど似合う人は居ないだろうなぁというのがわたしの評価。もちろん第三者的な視点の評価、OAAにおいても3学年を通してもトップクラスに総合点が高いのだから疑う余地は無い。
603 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:06:28.15 ID:GSnRKpMv0
 そんな先輩がわたしを追ってきていたことは本屋を出て少ししてから気が付いていた。流石に数多くの生徒で賑わうケヤキモールの中で誰か特定するのには骨が折れたけれど、近頃の生徒会における先輩の動向を思い出せば納得がいった。
 このタイミングで接触してきたか、なんて。

「この先にご用ですか?」

「あぁ、この先に……いや、違うな。天音のことだから、全部計算尽くか? 俺が追っていることも気付いていたんだろう。思えば、何度も携帯を取り出すのも露骨すぎた」

「む、そうですか? 携帯のカメラで前髪を直す素振りをして背中の方を確認するなんて、誰でもやっていることだと思っていたのですが」

「お前なぁ……。気付いていたなら立ち止まれよ」

「目立つところで立ち止まっても良かった、と?」

「そういう話じゃない。まぁいい、お前はそれくらい好戦的な方が良い」

 好戦的……というより、生意気な後輩?
 いくら同じ生徒会に属していて距離が縮まっているからといって、少しやり過ぎたかもしれない。
604 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:06:56.65 ID:GSnRKpMv0
 胸の内で反省をして、本題を促す。

「わたしに何かご用ですか? 近頃、先輩がわたしの方をチラチラと見ていることと何か関係があるのでしょうか」

「気付いてたなら言えよ。でも生徒会だと乙葉先輩にドヤされるか。言わなくて正解だ、助かった」

「乙葉先輩も気付いていましたけどね。セクハラを受けてるなら相談して、とも言ってくれました」

「ぐ……。ほんとあの人は……」

 こめかみに手を当てて「はぁ」と溜め息を吐く先輩。いけない、本当に意地悪をし過ぎている。
 今度こそ本題へ。明日も学校だし。

「ここじゃあ人通りが全く無いわけじゃない。夜はまだか? よければ一緒にどうだ」

「ありがとうございます。ぜひ、御相伴に預からせて下さい」

「よし、じゃあ行くか」

 先輩の隣を並んで歩く。
 思えば、こうして男の人と並んで歩くのは……あぁ、ほぼ毎日、神宮くんと生徒会室まで行ってるっけ。それを除けば、初めてのような気がする。
 先輩は目測で180cmくらいはあるし、並ぶと私の背の低さが際立つ。どうにかして背を伸ばしたいところだけれど、高校生になってしまった今ではそれも難しい。

「何がいい、奢るぞ」

「今日はお魚の気分です! お刺身、煮付け、フライもいいですね」

「じゃああそこにするか」

 先輩には思い当たるお店があったようで、迷いなくお店へと向かう足が進む。
 道中、学校に慣れたか、とか、生徒会に慣れたか、とかそんなことを話した。他の人に聞かれても困らないような他愛のない雑談を。
605 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:07:34.76 ID:GSnRKpMv0
 そうこうしていると高そうなお店に着く。
 店構えからして1人あたり4000ポイントはしそう。既に入っている客層的にも、あまり学生向けではないかもしれない。ほとんどがこの敷地内で働く大人たちだった。

「よくいらっしゃるんですか?」

「あまり聞かれたくない話をする時とかな。見ての通り、学生は皆無だ。大人に聞かれる分には構わない」

 確かに一介の高校生にディナーで4000円相当はお小遣いの日ーーーーーーつまり、この学校においては毎月1日のポイント支給日のような特別な日でなければ難しい。
 わたしも覚えておくことにしよう。このお店は、今後誰かと内緒の話をするのにはちょうど良い。

「遠慮するな、好きなのを頼め」

「では、お言葉に甘えて」

 と言っても、値段の書かれたメニュー表を見てわたしの食欲は削がれている。1人あたり6000ポイントは下らない。日本酒を嗜む大人はそれ以上か。
 本当に大人向けのお店なんだなぁと思いながら、可能な限り安めでシェアできる料理を挙げていく。
 注文を終えると、いよいよ本題に入るらしい。

「まぁ、なんだ。駆け引きとか見栄は苦手だからな。単刀直入に聞きたい。今度の試験、お前は1位を取りに行くのか?」

 今度の試験。
 それは、先日聞かされた7月下旬の無人島サバイバルの試験のこと。
 期間は7日間。無人島で「ここへ行け」という指示に従う他、学科テストやビーチフラッグなどで得点を稼いで順位付けをするといった内容。
606 : ◆yOpAIxq5hk [saga]:2021/12/01(水) 23:08:14.20 ID:GSnRKpMv0
 確か、1位を取れば300クラスポイントと200万プライベートポイントだったか。非常に魅力的で、喉から手が出るほど欲しいと感じる生徒も多いはず。

「運動部との対決、中間テスト、そしてOAAの評価を見ればお前が優勝候補だってことは誰にでも分かる。もし本気で1位を取りに行こうとするのであれば……」

「止めますか? 先輩のクラスが化野先輩の居るAクラスに勝つために」

「いや、止めない。むしろ1位を取って欲しいと思っている。あいつのクラスに1位を取らせたら、それこそどうしようもなくなる」

 化野先輩が率いる2年Aクラスと新汰先輩が率いる2年Bクラスのポイント差は121ポイントだったはず。次の試験でどちらかが1位を取れば、その差は逆転するか大きく引き離されるか。
 もしBクラスが勝てば逆転となるけれど、その筋を潰して欲しいと先輩は言う。

「で、どうなんだ実際のところ。前に乙葉先輩が聞いてきただろ。もし無人島生活をするとして、上手く過ごしていけるかどうか」

 5月30日の生徒会室にて、確かにそう聞かれた。
 あのときは謙虚な姿勢も保ちつつ、やんわりと否定していた気がするけれど、実際は自信満々だった。
 試験の概要が発表された今、それはほとんど確信も同然。きっとわたしなら誰よりも早く目的地まで走れるし、学科テストでもビーチフラッグでも1位を取って、その先の総合優勝を狙えると思う。
 問題は、そのやる気があるかどうか。
 1人で挑んでクラスに貢献するか、誰かと一緒に7日間を過ごしてその人がペナルティを受ける可能性をほぼゼロにするか。
 本当は試験の本告知があってから決めようと思っていたけれど……どうしようかな。

【安価です。次の無人島試験の方針。
 1.1人で優勝を狙いに行く
 2.他の誰かと一緒に試験に挑む

 ここでの選択肢が最終の方針になります。
 1を選んだとき、実際1位を取れるかはコンマ判定にもよりますが、そこそこの確率で1位を取れます。
 下1でお願いします。】
607 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2021/12/01(水) 23:15:43.06 ID:SVW6WxxEO
2
608 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/01/17(月) 11:49:26.24 ID:qSTYWtdjO
エタってしまったか…
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