キョン「またお祈りメールか…」

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8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2021/09/20(月) 19:25:12.62 ID:ijUOeYjJ0

もうすっかり夜になっていた。
佐々木にあのようなことを言われた後に、すぐに家に帰る気にはなれず、辺りを散歩していた。

『キョン。今の君は正直なの?僕にはそうは思えない』

さっきの喫茶店で、佐々木に言われた言葉の一部が頭の中で繰り返される。
不思議と怒りは湧かなかった。全くもっての図星でもあったし、佐々木があんなに激情を露わにすることに驚いていた。

「正直…か」

自分自身の魅力についてそのように評されたのは初めてだった。

確かに、高校時代の俺は正直だったかもしれん。
ハルヒの強引な提案に苦言を呈したり、古泉の気持ち悪い発言にツッコんだり、朝比奈さんに対してかわいい!と連発したり、長門には苦しくなったらすぐに助けを頼んだっけな。

それに対して、今の俺はどうだ?
嘘をついてまで内定を得ようとし、薄いプライドを守るためだけに就活を続けている。

いや、もっと正直に言おう。

今の俺は怖い。怖いんだ。

未だに内定を獲得できないでいる自分の無能さを知ることが怖い。
人と違っていってしまってることが怖い。
かといって人と全く同じでいることが怖い。
自分のことを笑っているように聞こえる他人の笑い声が怖い。
そんな奴等を見下すことでしか自我を保てない自分の浅慮さが怖い。

俺はいったい、何を守りたいんだ?
何を隠したいんだ?

俺はいったい、何がしたいんだ?

『今のキョンを見て、涼宮さんはどう思うかな…』

再び、佐々木の言葉が脳内に響く。

そうだ。心の奥底ではわかっている。
東京に出てきてから4年。片時も頭から離れたことのないあいつ。

俺は助けて欲しいのだ。
他ならぬ涼宮ハルヒに。

俺独りでは何もできない。そんなことは高校時代に嫌というほど痛感した。
しかし、SOS団を離れて、東京という華やかでもあり、冷たく無関心な街に生きるにつれて正直に生きることを忘れていた。

無様に助けを求めよう。

「なんで忘れてたんだろうな…」

スマホを取り出し、LINEを起動させる。
意図的に非表示にしていた涼宮ハルヒのアカウントをタップする。
あいつとのトークは3年前の卒業式を境に一切行われていない。

ここにきて指が震えた。怖い。通話のボタンが押せない。

内定を取れていない俺を知ってバカにされたら?
逆に今の俺に対して同情をされたら?
ハルヒが俺のことを忘れていたら?

「そんなこと…知るか…!」

構わない。

これまでのこと。
今の俺の就活のこと。
今後の進路について。

俺はハルヒと話したかった。

これが、今の俺の正直な気持ちだった。

ここからまた始めよう。
俺独りではなにもできない。それを認めて、無様に助けを借りて、仲間を巻き込み、
正直に生きよう。

「こんな気持ち、久しぶりだな…」

少し熱くなってしまった俺は照れ隠しに、自嘲気味に呟いた。

通話ボタンをタップした。

Fin.
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