このスレッドは950レスを超えています。そろそろ次スレを建てないと書き込みができなくなりますよ。

【シャニマス×ダンロン】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 Part.2

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

420 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:53:00.72 ID:cC0CFlEJ0
-------------------------------------------------

【結華のコテージ】

ルカ「……このポテトチップス、味付けはくどいけど案外いけんだぜ」


部屋には炭火焼ステーキ味のポテトチップスの香ばしいにおいが充満する。
酒なんかが欲しくなる味付けだが、一応二人はまだ未成年だ、今回はお預け。
つくづく面倒くさい。酒を使うことができたなら、もっと話も円滑に進んでいただろうにと思う。
酒の力でうっかり口を滑らせてしまう効用は私が実証済み、アルコールが進めばメガネ女の深く閉ざした心を開け放つその心ばかりの助けにもなっただろう。


冬優子「……ほんとね、いかにも体に悪いもの食べてますって感じの味だけど」

ルカ「そのジャンキーさがいいんだろ! ……美琴だったら一生食わないだろうけど」

結華「……」


メガネ女がまったく口を開かないので、私と黛冬優子がポテトチップスをつつくだけの無為な時間が過ぎていく。
さっきも言った通り、このポテトチップスの味付けは過ぎるほどにくどい。私と黛冬優子も、じきにその袋に伸ばす手は止まりつつあった。
お菓子がなくなると、この部屋に居座る名分もなくなってしまう。



……そろそろ、踏み込まないといけないんだろう。

421 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:55:18.43 ID:cC0CFlEJ0

ルカ「……なあ、メガネ女。この前は悪かったな」

結華「……この前?」

ルカ「……ライブハウスで、お前の傷も癒えてないってのに田中摩美々のことをほじくり返すような真似して」

結華「……うん、気にしないで」

(『気にしないで』ってなぁ……)


人が変わったようなしおらしさに私も二の口が継げない。
謝りはしたのだが、メガネ女自身が田中摩美々の死を直視し、受け入れなければきっとこの状態は進展することはない。
さて、どうしたものか。千雪が私にやったように小学生と中学生に会わせてみる?
いや、黛冬優子が手紙を案じたように、きっとこれも逆効果なんだろう。
そもそも他人からの働きかけを受けること自体が、こいつにとっては負担になる。


結華「あ、あのさ……二人が来てくれたのは嬉しい、けど……これは自分で向き合わなきゃいけない問題だから」

ルカ「それはそうかもしれねーけど……お前は一人で向き合えんのか?」

結華「……」

ルカ「私には、お前がそんなに強いようには____」


そこで、黛冬優子が私の前に左手を出して制した。
どうやら私はまた危険な一歩を踏み出しかけていたらしい。
三峰結華の地雷原においてはこいつの方がよく見えているようだ。
私は出かけた言葉を慌てて戻して、一歩引くことにした。

422 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:57:23.00 ID:cC0CFlEJ0

冬優子「……あんたね、いつまでそうやってるつもりなのよ」


先陣に立った黛冬優子はため息交じりにそう言い放った。
組んだ左腕を掴む右手、服には皺が寄った。


冬優子「自分の殻に閉じこもってれば傷つくことがないとでも思ってんのかもしんないけどね、あんたのその刺々しい殻のせいで傷ついてる人間だっていんのよ」

冬優子「月岡恋鐘はあんたが顔を見せなくなってからも隣にあんたが座る日を待ち続けて、料理だってあんたの大好物ばっかり作ってる。今あんたがやってるのは、その大事なお仲間に対する裏切りよ」


あえて黛冬優子は『裏切り』という言葉を使った。
それはメガネ女自身が今直面している信じがたい現実を象徴するような言葉だ。その言葉にはぴくりと眉を動かして、明確な反応を示した。


結華「裏切りって……ふゆゆはアンティーカがどんなユニットだったのかも分かってないでしょ、外部の人間が勝手に推し量って非難なんかしてこないでよ……!」

冬優子「そうね、一個もわかんないわ」



冬優子「____あの幽谷霧子がどうして人質をとったり、大崎甘奈を殺害したりしたのかなんかもふゆにはサッパリ」



423 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:58:22.70 ID:cC0CFlEJ0

更に黛冬優子は詰めていく手を止めなかった。
ここまでくると私ももう言葉を挟み込むことは諦めていた、邪魔をしてはいけないと思った。
黛冬優子はこいつの地雷を見えたうえで、それに踏み込む覚悟を決めた。
そうしないと、言葉が届かない。捨て身の覚悟で踏み込んで、双方が共倒れになろうとも言葉を届けないといけない、そう判断したらしい。


結華「……ちょっと、それは流石にないでしょ」


メガネ女も黛冬優子の言葉には流石に不快感をあらわにした。
だが、その反応は織り込み済みだ。



冬優子「でも、三峰結華。あんたならそれが分かってあげられるんじゃないの? 今わかんないからって何なの、あんたは幽谷霧子の何を見てきたわけ?」



424 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/03(木) 23:59:35.84 ID:cC0CFlEJ0

結華「は、はぁ……!?」

冬優子「そりゃ人なんだもの、知らない一面、理解できない一面だってあるでしょうよ。でも、そこから向き合うのを逃げてちゃ、一生あんたは一人なのよ」

結華「……!」

冬優子「あんたがいっつも周りのために自分を押し殺したり、場を回すために苦心したりしてんのはふゆも知ってる。てか、見りゃわかんのよそんなこと」

冬優子「でも、それってあんたが他の人の気持ちや考えに人一倍敏感なことの証拠でしょ? あんたは他の人のことを理解して、歩もうとすることができる、それだけの強さを持った人間だってことなのよ」


それは黛冬優子でなければ言えない、言ったところで意味のない言葉だった。
メガネ女が常日頃から背負い込んでいる役目とその苦労、それは近くにいる者が気取ってはならぬものであり、他の人間から指摘するのも望ましくないもの。同じ苦労を背負うものでなければ、その言葉に裏打ちはない。
他の人間のために自分の考えや感情をベールに包みこんできた黛冬優子は、あの裁判ですべてを白日の下に晒した。
そして、三峰結華もそのありのままを自分の目で見た。

黛冬優子の言っていた『同族』、その言葉の意味を私はここでようやくつかんだのだ。

425 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:01:11.15 ID:6V+DEOK70




____そして、黛冬優子はもう一歩踏み出した。




426 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:02:26.16 ID:6V+DEOK70

冬優子「だから、あんたも信じなさい。あんたがそうしてるように、他の連中だってあんたの気持ちを分かろうとしてる、あんたに歩み寄ろうとしてんだから」


その一歩は軽やかで、まるで羽が落ちてきたように、ふんわりとした着地。


冬優子「……そのことに自信が持てないってんなら、ふゆが第一号になるから」


きっとこの一歩も彼女の地雷の上にあったはずだ、それでも……爆発は起きなかった。


冬優子「事なかれ主義の果てに『ふゆ』を演じ続けることになったふゆなら、あんたの理解者第一号にもうってつけなんじゃない?」


すっかり彼女の地雷は湿気てしまったようだ。

427 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:03:37.45 ID:6V+DEOK70

結華「……ぷっ、あはは!」

冬優子「ちょっと、何笑ってんのよ」

結華「だって、三峰の理解者第一号なんて……Pたんみたいなこと言うから」

冬優子「……はぁ? あいつ、こんなくっさいこと言ってたわけ?」

結華「まあでも、理解者第一号は流石にもううちの家族が取ってるからちょっとふゆゆは遅いけどね!」

冬優子「あら、それじゃあ……第何号になるのかしら?」

結華「六……か七ぐらい?」

冬優子「微妙な数字ね」


指を折って数えると、あいつの言う『家族』がなんなのかはなんとなく察しがついた。
向き合うのが辛いだのなんだの言っていた割に、随分と自信満々じゃねえか。
……いやきっと、答えはずっと決まってはいたんだろうな。
ただ、それを解答として決めてしまうことが怖かった。そういうことなんだ。
428 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:04:57.73 ID:6V+DEOK70

結華「はぁ、天下のアイドル黛冬優子にここまで譲歩されたんだったら、三峰もそろそろ動かなきゃだなー」

冬優子「そうよ、ふゆがここまで譲歩するなんてそうそうないんだから」

冬優子「ほら、明日から一緒に頑張ろう? ゆいにゃん♡」

結華「はわわ……こんなレス貰っちゃって、ファンとしては嬉しくも畏れ多い……」

冬優子「普通だったらCD何枚積んでもやったげないんだから、家宝にでもしなさい」

結華「じゃあ家宝用に一枚、撮ってもいい? ほら、ルカルカ撮って撮って!」

ルカ「あ? おう……まあ、いいけど……」

ルカ「……はい、チーズ」


笑顔がいけ好かねえ女だと思ってた。
軽妙なトークとその表情の裏には、何か算段が透けて見えるようで、距離を詰めているようでこちら側からは踏み込ませないような圧を感じていた。
それは決して間違ってはいなかったわけだが、いつまでもその色眼鏡のもとにこいつを見るのはどうやら不適切らしい。


カシャ


デジタルカメラのモニターに映ったその笑顔は、裏に何の考えもなく友情を見せびらかすみたいなバカ丸出しの表情だ。

429 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:06:31.03 ID:6V+DEOK70
-------------------------------------------------

【ホテル 結華のコテージ前】


冬優子「サンキュ、あんたのおかげでなんとかなったわ」

ルカ「私は何もしてねー、ただポテチ持ってっただけだ」

冬優子「そうね、あのポテチもひどいもんだったわ。今でも口に味が残ってる」

ルカ「うっせ、だったら食った分返せ」


三峰結華の説得を無事成功せしめた私たちはコテージ前で労いをかけあっていた。
つくづく283プロの連中は強引すぎるしお節介すぎると思う。千雪にしかり、こいつにしかり、人との距離の取り方ってものをまるで知らない。
ちょっとの間も一人にしてくれないんだから、まるで気が休まらない。


冬優子「……ありがとね、ふゆ一人じゃこうはならなかった。それは本当」

ルカ「あ?」

冬優子「ふゆはあのインターホンを鳴らす勇気もなかったし、ヒートアップしたところを諫めてくれるやつがいなきゃ余計なことを口走ってたと思う」

(余計なことは割と言ってたと思うけど……)
430 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:07:22.74 ID:6V+DEOK70

冬優子「……そこにいるだけで救われる人もいるってことよ」

ルカ「『救われる』、なんて……話してる相手が私だって分かって口にしてるんだとすれば相当に性格悪いな」

冬優子「あら、ふゆの性格はこの島でもピカイチにいいわよ?」

ルカ「ハッ……いい性格してんな」


勿論私の言う『いい性格』は皮肉だ。
それはこいつもわかってのこと、分かったうえでむしろ機嫌よくしたように高笑いしてみせた。


冬優子「あんた、結構話せんじゃない。見直したわ」

ルカ「ケッ、そんならケッコー」


こうして私と黛冬優子の共同戦線は幕を下ろすこととなった。
戦友たちは背を向けてそれぞれのコテージへと戻っていく。
もうこれで、私たちの関係も終わり。明日からは____
431 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:08:21.18 ID:6V+DEOK70





冬優子「じゃ、また明日。朝、朝食会で会いましょ……【ルカ】」





432 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:09:03.25 ID:6V+DEOK70

≪千雪「じゃあルカちゃんには、お友達を作ってもらおうかな」

ルカ「は、はぁ……?」

千雪「283プロのみんなともっと仲良くしましょう!」≫



(……ったく、しゃあねえな)




ルカ「おう、じゃあな……【冬優子】」




____友達同士、ってことらしい。



433 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/04(金) 00:09:47.34 ID:6V+DEOK70

という訳で本日はここまで。
次回更新は3/5(土)の22時ごろからを予定しています。
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
434 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/04(金) 00:18:01.64 ID:jJhX87iTO
乙です!!冬優子可愛かった
435 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 21:58:04.03 ID:/22W6gE+0
____
______
________

=========
≪island life:day 13≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


ずっと私たちの前に立ち込めていた不安の薄靄は、少しだけだが晴れて行っているような気がする。
私たち以前に行われていたかもしれない、283プロ連中のコロシアイ、その真偽はいまだわかってはいないし、何の手掛かりもない。
だとしても、それにいつまでも囚われて足踏みするだけの時間は終わりつつある。

昨晩の冬優子との三峰結華の説得もうまくいった。
今日からはあいつも朝食会にまた顔を出すはずだ。
いなくなっていた人間が戻ってくる、それだけで沈んだ気分を取り戻す効用としては大きいものが見込める。
特に、あの長崎女。あいつの煩いまでの声量もきっと戻ってくるだろう。

さ、支度をしたらさっさとレストランに行くか。

436 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 21:59:45.98 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------

【ホテル レストラン】

レストランにつくと、待っていたのはここ二日顔を見せていなかった三峰結華だった。
あいつは前までと同じように、朝から気軽いしゃべり口で私を出迎え……



……はしなかった。




結華「ル、ルカルカ! ど、どうしよう……大変、大変なんだよ!」

ルカ「は、はぁ……? なんだよ、久々に参加してすぐに……なんか悪いもんでも食べたか?」

結華「う、うん……実はそうなんだよね」

ルカ「マジか……胃腸薬は呑んだのか?」

結華「ってそうじゃなくて! とにかくこっち、来て!」


説明しようにもできないといった感じで三峰結華はもどかしそうにしながら、最終的には私の手を引いてレストランの中に連れ込んだ。
別にレストランの中におかしなところはない。いつも通り、卓と椅子が並んで、その上には朝食も用意されている。
出席しているメンバーの頭数も、三峰結華が参加していることを除けば何も変化はない。



……ただ、何人かの様子は明らかにおかしかった。
437 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:01:09.69 ID:/22W6gE+0

恋鐘「ルカさん、おはようございます!」

私の姿を見るなり、方言の影も形もない標準語で挨拶を私にぶつけてくる長崎女。



夏葉「……なんかもう、食事をするのも面倒ね。誰か口に運んでちょうだい」

まるで溶けるかのように机に突っ伏してやたら怠惰な様子の小金持ち。



愛依「ルカさん、私と一緒に香草茶はいかがでしょうか。朝の爽やかな目覚めにうってつけですの」

頭の悪そうな言い回しから一転、上品が過ぎる言い回しで小指を立てながらティーカップを啜るギャル女。




ルカ「……は?」


理解が、追いつかなかった。
438 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:02:12.45 ID:/22W6gE+0

結華「こがたんとなっちゃんとめいめいが朝から様子がおかしいんだよ〜!」

恋鐘「結華さん、どうしたんですか? そんなに取り乱して……もしかして、お腹が空いていらっしゃるんですか?」

恋鐘「でしたら私が腕によりをかけて中華そばをおつくり致します! こう見えて、結構自信あるんですよ!」

結華「ちゃ、ちゃんぽんじゃない……だと……?!」


夏葉「ふぁあああ……まだ朝早いし寝ててもいいかしら、人間14時間は睡眠をとった方が健康でいられるのよ」

果穂「だ、ダメです夏葉さん! ちゃんと寝るときは自分のコテージで寝てください!」

智代子「そ、それ以前に寝すぎだよ夏葉ちゃん!?」


あさひ「愛依ちゃん、今日のご飯も美味しいっすよ! 食べないっすか?」モッソモッソ

愛依「ふふ、あさひさん口元にソースが着いてますよ。今私のハンカチーフで拭いて差し上げますわね」

冬優子「ハンカチーフって今時おっさんでも言わないわよ……」


まるで地獄のような光景に、思わず頭を抱えた。


美琴「ルカ……これって」

ルカ「わけがわかんねー……な、何が起きてんだよ……!?」
439 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:03:37.73 ID:/22W6gE+0

バンッ!!

変わり果てた連中の様子に戸惑っているのもつかの間。
今度はレストランの扉が乱暴に開かれた。


透「……はぁ……はぁ……」

結華「あ、とおるん!? ど、どったの……そんな焦って!」

ルカ「お、おい……まさか……」

透「ひ、雛菜が……なんか、めっちゃ変」


適当女が抱きかかえるようにしているのはあの能天気女。
だが、こいつの様子の異常さも遠巻きに見てすぐに分かった。
にへらとした表情はどんよりと曇り、どこでもない遠くを見つめてため息を吐く。
けだるげな体にはまるで力がこもっていない。


雛菜「……どうせみんな死ぬんだし、もうどうでもよくないですか〜」


こいつの様子は、いつもと違うとかそういう次元じゃなかった。


結華「た、大変だ! ひななんが一番重症だよ!」

透「いつもは朝から部屋に来るんだけど、今日来なかったから。見に行ったらこれだった」

冬優子「……ったく、何がどうなってんのよ!? この愛依、めっちゃくちゃに気色悪いんだけど!?」


まさに阿鼻叫喚の一言に尽きた。
言動がまるで別物になってしまった仲間に振り回されててんやわんや。
もうこれでは朝食会どころではない。
私と美琴は二人並んで呆然と立ち尽くし、その状況を見つめることしかできなかった。
440 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:04:48.48 ID:/22W6gE+0

と、その時。放課後クライマックスガールズの連中が異様な騒ぎ方をしていた。
どうやら小金持ちが本格的にごね始めたらしく、無理やり二人係で机からひっぺがそうとしはじめたようだ。


夏葉「はぁ……なんだか体がだるいわ、なんか足も痛いし今日はもう帰ってもいい?」

智代子「あ、足が痛いって……小学生がサボる時の常とう句だよ……」

夏葉「果穂、歩けないから私を部屋まで運んでちょうだい」

果穂「こんなにぐでっとした夏葉さん見るのはじめてで……す……!?」

智代子「ど、どうしたの果穂!?」





果穂「夏葉さんの身体、すっごくあついです……!」




441 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:06:18.66 ID:/22W6gE+0

智代子「えっ!? ……ほんとだ、おでこがすごく熱い……熱があるよ!」

ルカ「……!? お、おい、てめェら!」


慌てて他の連中の方を見やった。
放クラから上がった報告を受ける否や、それぞれのユニットですぐに触診による検温が始まった。
額に手を当て、じっと待つ。そしてそのいずれも結果は。


結華「こがたんも発熱してる……しかもとんでもないの!」

冬優子「愛依もダメね……こりゃ相当きてるわ」

透「雛菜もやばいぐらい出てる」


同時多発的に極度の高熱、そして性格がまるで変わり果ててしまう現象が起きた。
これは明らかに……何かが起きている。


ルカ「おい、モノクマ……! てめェが何かやったんだろ……出てこい!」


私が声を上げると、やつは待っていましたと言わんばかりにすぐその姿を現した。
442 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:07:44.98 ID:/22W6gE+0

バビューン!!


モノクマ「はいはい、お呼びですかー!?」

結華「お呼びどころじゃないよ……これ、何が起きてるの?! みんな様子がおかしくなって、熱まで出てるんだよ!?」

モノクマ「おやおや、これはこれは……皆さん大変お辛そうですね」

恋鐘「はい! すごい熱が出ているので、正直立っているのもしんどいです!」

結華「なら座ろっかこがたん!?」

ルカ「おい、このツッコミが追い付かない状況はどういうことなのか説明してもらうぞ」

モノクマ「説明も何もオマエラの予想通りだよ。これはとある病気に集団感染しているからこうなってるんですよ」

美琴「病気に集団感染……でも、これまで誰も病気らしい病気なんか罹患してなかったと思うけど」

モノクマ「そりゃそうですわ、この病気が生まれたのはつい昨晩のこと! とある研究施設からウイルスが流出しちゃいましてね、それがこの島に入り込んじゃったみたいなんです」

愛依「まあ、ウイルスだなんて……私、怖いです……」

冬優子「……あんたはもう感染してんのよ」

443 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:08:52.70 ID:/22W6gE+0





モノクマ「そして、そのウイルスこそが今回の動機……【絶望病】なのです!」





444 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:09:47.41 ID:/22W6gE+0

ルカ「ぜつぼう、びょう……?」

モノクマ「そっ! この島に生息している蚊が媒介する病気でね、感染した人は極度の高熱になって、更には性格も全くの別人になっちゃうって言う病気なんだ!」

あさひ「じゃあみんなはその蚊に刺されちゃったからこうなってるってことっすか?」

モノクマ「そうだね、差し詰め月岡さんは【標準語病】、有栖川さんは【ぐうたら病】、和泉さんは【お嬢様病】そして市川さんは【ネガティブ病】って言ったところかな」

美琴「高熱が出た時に普段よりしおらしくなる人とかいるけど、そういうことなのかな」

ルカ「いや、そんなレベルの変化じゃねーだろ……これは症状の一つだ」

モノクマ「今回はこのパンデミックの状況下でオマエラが耐えられるかどうかを見物しようかなって思って!」

智代子「ね、ねえこの病気って治るんだよね?! それに……感染症ってことは……まだまだ広がる可能性もあるんでしょ? ワクチンとか、特効薬とか……ドラッグストアにあるの?」

モノクマ「え? 言わなかったっけ? この病気はつい昨日生まれたばっかの新病なんだよ?」

445 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:10:52.41 ID:/22W6gE+0



モノクマ「治るわけないじゃん! ワクチンなんかもあるわけないよ〜!」



ルカ「……は?」


それは最悪の宣告だった。
治療法も、対策法も不明な感染症……これまでの遠回しな圧をかけてくる動機とは全くの別物。
モノクマは私の命を材料に、直接的な圧をかけてきた。
コロシアイをせずとも、このままではいずれ絶望病に感染してしまう。
高熱の中で、自我を崩壊させながら衰弱し、息絶える。
そんな末路は想像しただけで身の毛がよだつ。
医療設備もまともにない環境で、得体のしれない病にかかってしまう恐怖。

____私たちの不安に更なる根源的な恐怖を上乗せしてきたのだ。

446 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:12:27.81 ID:/22W6gE+0

雛菜「どうせ無理だって〜……全員ここで死んじゃうって〜……」

モノクマ「こんな変な病気で死にたくなかったら、さっさと誰かを殺して歌姫計画の成功者になるのが一番! 舟だってすぐにチャーターしてあげるからね!」

ルカ「てめェ……舐めた真似しやがって……!」

結華「ルカルカ! 今はそれどころじゃないよ……とにかく、みんなを休ませてあげないと……」

ルカ「……クソッ!」

モノクマ「まあ病院の入院に足る重病だとは思うからさ、病院までは運んであげる! そこから先のことはオマエラにマルっとおまかせしまーす」


モノクマの言葉通り、絶望病にかかった四人はすぐに病院へと搬送されていった。
まだ感染していない残りの連中も、対処法が見当たらぬ中狼狽するばかり。ひとまずは病院に行って方針を立てることにした。
447 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:14:58.77 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------

【第3の島 病院】

美琴「……とりあえず、今は四人とも眠っているみたい。かなりの高熱が今も出ているようだから、まだ当分は安心できないね」

ルカ「そうか……きついな」

果穂「みなさん……だいじょうぶでしょうか……」

冬優子「ふゆたちは医学の専門知識も全くない……祈ることしかできないわね」

結華「……それこそ、きりりんでもいれば話は違ったんだけどね」


病院に到着した私たちは、四人の容態を確認。
未だ熱の引かぬ様子は予断を許さない状況、とはいえ私たちは素人で出来ることも限られている。
ロビーの対策会議は、ピンと張りつめた空気だった。
そして、懸念材料はこの四人だけでなく、私たち自身にも及ぶ。


あさひ「でも、わたしたちこそどうするっすか? モノクマも言ってたっすけど、これって感染症なんっすよね?」

智代子「そうだね……わたしたちみんなが罹っちゃったらそれこそどうしようもないし……」

美琴「とにかく、隔離が必要かな。果穂ちゃんとあさひちゃんは年齢も低いし、感染リスクが大きいし……居住空間を分けておくだけでも感染する可能性はぐっと減らせると思う」

ルカ「……だな、この病院は入院患者と同数まで付き添いの人間が宿泊可能らしいから。ちょうど四対四で分けるのがいいか」

冬優子「病院に泊まる人間と、近くのモーテルに泊まる人間に分けるべきね。情報はいつでも共有できるようにしておきましょ」

あさひ「モーテルに泊まるっすか!? やった! ずっと泊まってみたかったっす!」


冬優子の言う通り、活動の拠点そのものを当分はこの第2の島に移すべきだろう。
いつ緊急事態になっても駆けつけられるように、病院に留まらない人間も近くに置いておくことには全員の合意が取れた。
後はその割り振りだ。面倒を見る人間には感染のリスクが伴う。慎重な判断の元決定せねばならない。

448 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:16:37.15 ID:/22W6gE+0

結華「果穂ちゃんとあさたんはモーテル組で確定として……後はどうする?」

ルカ「ガキ連中の面倒見るんだったら冬優子、お前はモーテルに行っとけ」

冬優子「……そうね、果穂ちゃんはともかくあさひの面倒はふゆじゃないと見れないだろうし」

あさひ「あはは、冬優子ちゃんとまた一緒っすね」

冬優子「……」

智代子「それじゃあわたしは病院に残ろうかな、夏葉ちゃんのことが心配だし……」

透「それなら、私も残りたい……かも。雛菜のこと、心配だし」

(……こいつが泊まるんだったら、監視役がいるか)

ルカ「……じゃ、私も病院だ。美琴、お前はどうする?」

美琴「……それじゃ、ルカの手伝いをしようかな」

ルカ「決まりだな」

結華「えっ、ちょっと待ってよ……三峰もこがたんの看病したいんだけど……」

冬優子「結華、あんたはこっちに来なさい」

結華「え、ふゆゆ?! なんで……」

449 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:17:49.03 ID:/22W6gE+0

冬優子「ふゆはこの子たちの面倒見るので手いっぱいなの。情報共有するにしても、ふゆの分も担ってくれるしっかり者が一人必要になると思うのよね」

冬優子「それに……病院の側は心配しなくとも、ルカがいるわ。あいつもなんだかんだ言って面倒見良いんだから大丈夫よ、それはあんたも知ってのことでしょ」

ルカ「……ケッ」

結華「……」

結華「わかった、ルカルカ。こがたんをよろしくね」

ルカ「おう」


緊急の事態ではあったが、とりあえずの対策の方針は定まった。
患者四人と同数の四人、私、美琴、適当女、甘党女の四人が病院にとどまり看病を行う。
小学生、中学生、冬優子、三峰結華の四人がモーテルで待機しておく。
後でどうにか両者間で連絡を取る手段も用意するらしい。

先行きの見えぬ混迷のパンデミック、誰しもその表情は薄暗かった。

そして、すぐに私たちは割り振り通りに分かれて行動を開始した。
私たち看病班はこれからずっと病院に泊まって交代交代に患者の様子を見ることになる。
かなりの長期戦になりそうだな。
450 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:18:50.26 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

結華『よっと……ちゃんと映ってるかな?』

ルカ「おう、見えてるぞ。こっちの音声も問題なしか?」

結華『うん、バッチリ。こういうのは初めて使うんだけど、設定とかもこれでよさそうだね』

美琴「それにしてもいいアイデアだね。こうやってリモートで情報共有ができるようにしておけば直接会わなくても済むから、感染の可能性を少しでも減らせる」

結華『それこそインターネット環境があれば話は早かったんだけど、そういうわけにもいかないから電波の送受信どまりだけどね』


あれから数時間、私たちはそれぞれの支度をした。
病院に長期で残ることを見越し、食料をスーパーから大量に運搬。
病院には看病人用の休憩室があったものの、人数分全員のベッドはないし、隙間時間での仮眠も必要となるだろうからブランケットも併せて用意した。
そしてモーテル組が用意したのがこの【テレビ通話】だ。
インターネット環境がないこの島でも、同一規格の機械を使えば電波の届く範囲内で映像付きで通話が可能になる。
元々は高齢者介護の場などで使われるものらしいが、今回はちょうどよかった。
451 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:20:23.35 ID:/22W6gE+0

冬優子『看病は完全に任せっきりになる。やっぱりこっちとしても容体は気になるところだから随時知らせてちょうだい』

果穂『何か必要なものがあればあたしたちで調たつしてきます!』

透「おー、通販じゃん。超便利」

智代子「もしや、食べたいものをオーダーすれば作ってくれたりなんかは……?」

冬優子『……そんな引っ切り無しに呼び出されたら隔離の意味がないと思うんだけど?』

智代子「うぅ……面目ないです」

冬優子『まあ、たまには作ったげるわよ。どうせこいつらの分も用意しなきゃなんだしね』

あさひ『冬優子ちゃん、今日はオムライスがいいっす!』

美琴「ホテルのレストランにはいかないの?」

結華『流石に食事のたびに島を渡るのは負担だからねー。各部屋にキッチンはあるからこっちで済ませようかと思ってるよ』

452 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:21:15.52 ID:/22W6gE+0

ルカ「……あれ、そういえばお前ら今どこから通話してんだ? モーテルの内装とはちょっと違うよな?」

あさひ『今はライブハウスっすよ。モーテルだと遠すぎて電波が届かなかったっす』

透「まあ古いやつだし、しょうがないか」

智代子「今はこうやって通話ができるだけでも感謝だもんね!」

冬優子『それじゃとりあえずはこれでやりとりをすることに決定でいいわね? 連絡を取るのは【朝と晩の8時】の一日二回』

ルカ「ん、了解」


一日二回の定期連絡。私たちは病院に籠りっぱなしになるわけだし、顔を突き合わせる機会もなくなる分このテレビ通話は貴重だな。


ルカ「さて、そろそろ連中の様子を見に行くか。目を覚ます頃合いだろ」

美琴「そうだね……私たちも万全の注意を払って看病するようにしよう」

智代子「マスクと消毒液もばっちりあるから、適宜使っていこうね!」

透「うがい手洗い、バッチグー」
453 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:23:16.39 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【恋鐘の病室】


恋鐘「おや、みなさん……ここは一体?」

智代子「ああ、恋鐘ちゃん待って。ベッドに座ったままでいいから、ゆっくり落ち着いて!」

美琴「熱は……まだ下がってないみたいだね」

恋鐘「部屋の雰囲気から察してみるに、私が意識を失っている間に病室に運び込まれたようですね。私は入院中、ということでしょうか」

ルカ「……いつになく冷静で気持ち悪いな」

透「モノクマの動機でウイルスにやられてるみたいなんで。しばらくは入院」

恋鐘「そうですか……申し訳ないです、私がもっと衛生に気を配っていればこんなことには……」

智代子「ううん、しょうがないよ! 悪いのはモノクマなんだもん!」

恋鐘「いえ、そういうわけにはいきません! 私も誠意をお見せしないと……何か手伝えることはございますか? 料理に掃除、なんでも致します!」

ルカ「それなら感染を広げねーためにまずはベッドで横になってくれ」

智代子「こんなに元気そうなのにウイルスに体は侵されてるんだよね……」

美琴「これはちゃんと様子を見ておかないとだめだね……」
454 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:24:11.18 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の病室】


夏葉「入院ってすごいのよ……ずっと寝たまんまでいいし、料理も勝手に出てくるし……」

ルカ「その料理を作って運ぶ人間がいるんだけどな」

智代子「何度見ても別人ってレベルじゃないよ……こんなだらしない夏葉ちゃん……面白すぎるよ」

ルカ「おい!」

夏葉「智代子、あなたチョコレートを持っていないかしら? 体が糖分を欲しているの、なんでもいいから甘いものが食べたいわ」

透「こらー、寝たまんまで甘いもの食べたら太るぞー」

夏葉「いいのよ、それならそれで。欲望を満たし、私腹を肥やしてぶくぶくと膨れ上がって最終的にはじけ飛ぶ……そんな風船みたいな人生を私は送りたいわ」

美琴「高熱でうなされてるときに見る夢みたいな話だね」

ルカ「……なんか知能指数まで下がってねーか」

夏葉「ふぁああ……それじゃ、私はまた寝るから……後はよろしく……」

透「うわ、三秒で寝た」

智代子「ちょっとぐらいリハビリさせないと治った後が心配だね……」
455 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:25:14.37 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


智代子「なんだか入った瞬間ハーブのいい匂いがしてるんだけど!?」

愛依「あら、丁度紅茶が入りましたの。皆さんご一緒にアフターヌーンティでもいただきませんか?」

ルカ「おいどこからこんなティーセット用意したんだこいつ!」

美琴「すごいね……おいしそうなケーキ」

愛依「ふふっ、野イチゴをあしらった卵黄ケーキですのよ。うちのパティシエールが皆様のために用意してくださいましたわ」

ルカ「おいもうツッコミが追い付かねーぞこいつ」

透「おー、すご。スポンジフワフワ」

智代子「えっ、本当に?! それじゃあわたしも失礼して……」

愛依「小鳥の囀りも聞こえてきました……今日は本当に暖かで心休まる晴天でございますね……」

ルカ「おい病人! 窓際に行くな! 戻ってこい!」

美琴「へぇ……カモミールティなんだ」

愛依「カモミールにはリラックス効果がありますの。美琴さんはダンスのレッスン終わりにいただくとよいかもしれませんね」

ルカ「看病人も正気に戻れ!!」
456 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:26:19.35 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の病室】


智代子「こ、今度は部屋一帯がなんだかじめじめしてるよ……」

雛菜「あ、誰か来た……きっと雛菜をみんなしてバカにするためだよね〜……」

ルカ「おいコラ、カーテンぐらい開けろって」

シャアアア…

雛菜「眩しい……こんな昼間から太陽の光なんて浴びたら雛菜灰になっちゃう〜……」

ルカ「お前はドラキュアか」

透「雛菜、大丈夫? ほら、熱さまシート持ってきたよ」

雛菜「透先輩……優しい……」

雛菜「でもきっと雛菜以外にも同じことしてる……雛菜だけ特別だって勘違いしちゃダメだよね……」

ルカ「看病なんだから当たり前だろーが」

雛菜「はぁ……どうせ病気も治んないし、雛菜死んじゃうんだろうな〜……」

雛菜「もっといろいろしたかったな……自分の足で走り回ったり、誰かとピクニックしたり……幸せな人生を送りたかった……」

透「病気になる前に全部やってるじゃん」

ルカ「……はぁ、こっちが胃もたれしそうだ」
457 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:27:14.59 ID:/22W6gE+0
◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「とりあえず全員の様子をみたが、こりゃしんどそうだな」

智代子「うん……見た目上は元気でも、熱は全然下がってない。いつ急変するかもわからないよ」

美琴「とにかくいつでも動けるようにはしておいた方がよさそうだね」

ルカ「おう、深夜の時間帯以外はかわるがわる面倒を見るぞ、ロビーと休憩室でお前らも無理せず休め」

透「うぃー」


そこからはつきっきりの看病だ。
私たちに医療知識はまるでないので、無茶をしないように行動の監視や食事などの補助が主となるがそれだけでも結構な重労働。
それが四人ともなると流石に堪えるところだ。
458 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:29:05.69 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------
【病院 ロビー】


「ふぅ……」


つかの間の休憩、疲労がため息となってどっとあふれ出す。
昨晩はこんなことになるとは夢にも思わなかった。
メガネ女を引きずり出すことに成功して……とりあえずは一歩前進と思っていた矢先にこれだ。

だけどウダウダ言っていたところで始まらない。
私が足踏みをしているその瞬間にも着実に病魔に蝕まれていく連中がいる。
これからはとにかく看病に集中しないといけないな。


「さて、どうするか……」


【自由行動開始】

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
☆看病期間中の自由行動について
病院に滞在中でもこれまで通り自由行動は一定の回数で可能になっています。
ただし、その仕様が通常時と少しだけ異なります。
病院にいるメンバーとはこれまで通り交流+プレゼントの進呈が可能ですが、
モーテル組とはテレビ通話での交流となるため、プレゼントを渡すことはできません。
親愛度の上昇に補正がかかることもないので、ご注意ください。

加えて、このパンデミック期間中は浅倉様と市川様との交流も解放されています。興味があればぜひお試し下さい。
また、モノモノヤシーンや自動販売機も病院内に用意しておりますのでご自由にご利用くださいませ。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
459 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:32:46.34 ID:5+1aEVnm0
雛菜
460 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:35:25.37 ID:C1ESk1VB0
1 浅倉
461 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:39:28.21 ID:/22W6gE+0
1 雛菜選択

【雛菜の病室】

コンコン

ルカ「うーす、入るぞー……うお……」


つい先ほどあけたばかりのカーテンは閉め切られ、上からガムテープまで貼られている。
どこまで日の明かりが嫌なんだ、こいつは……
あんなにお気楽で日向ぼっこが大好きですって面をしていた平常時からはとても考えられないありさまだ。
なにやらぶつくさ文句を並べるこいつを他所に、もう一度無理やりにカーテンを開けてやる。


雛菜「あぁ〜……雛菜の肌が黒焦げになっちゃう〜……オーブンに入れすぎた食パンみたいになっちゃうよ〜……」

ルカ「どんだけ虚弱な肌してんだよ……」


だが、平常時からの変化として、こうして私を抵抗なく受け入れているという点もある。
もはや抵抗するほどの余力もない、ということなのだろうが……
これはチャンスかもしれない。今ここで踏み込むことができれば、あるいは……


-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
462 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/05(土) 22:46:09.42 ID:TrlXK+3m0
1 【ひまわりの種】
463 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 22:53:39.26 ID:/22W6gE+0
【ひまわりの種を渡した……】

雛菜「え……」

雛菜「そっか……今の雛菜は人間以下……家畜と一緒だもんね〜……」

雛菜「これくらいの食事でちょうどいいってことなんだ〜……」

雛菜「あは〜……こんな雛菜のために、わざわざ用意してくれてありがとうございます……」

雛菜「嬉しくてうれしくて、ガッツいてのどに詰まらせて死んじゃったらごめんなさい〜……」

ルカ「ま、待て待て! 他にもちゃんと病院食は用意してるから! 早まんじゃねえ!」

(な、なんだこいつ……)

(……これは、渡すのに成功……は、してねえか)

-------------------------------------------------

身体に噴出している汗をタオルで拭うのも、能天気女はされるがまま。
口では嫌だの死んじゃうだの何かとうるさく申し立ててはいるが、体に力がこもっていないのだからお構いなし。
そのままちゃっちゃと看病を終えて、体をベッドの上に横たえた。


雛菜「あは〜……雛菜、もうダメなのかな〜」

ルカ「まだ発症して数時間と経たねえだろうが、黙って寝てろ」

雛菜「……」

ルカ「……」

ルカ「……なあ。こんな弱ってる状態の時に訊くべきなのかはわからねえが……お前は、実際どう思ってるんだ」

雛菜「……って言うと〜?」


私の問いかけの所在を求めて、虚ろな目を私に寝台の上から向ける能天気女。
その回答はずばり、前回の学級裁判。その終わりに、ゲームの内容について仔細を知っているかどうかをたずねられ、なおも口を閉ざした浅倉透への感情だ。
あのときのこいつの瞳は、決して信頼だけではなかった。
七草にちかの糾弾に反発こそすれ、こいつ自身も信頼を寄せるべき相手に、ずっと解答をはぐらかされづけている。
大好きな幼馴染に向けるべき感情はどうなのか。それをこいつ自身はどう考えているのか、それを知りたかった。


ルカ「浅倉透、あいつは信用できるのか?」

雛菜「……」

雛菜「ワラジムシって知ってる〜?」

ルカ「……あ?」

雛菜「ダンゴムシみたいな見た目なんだけどね〜……自分の力じゃ丸くなることもできない、自分の身体を守ることもできない、弱っちい虫の事なんだけど〜……」

雛菜「今の雛菜は、そのワラジムシよりもずっと弱い……虫よりもへなちょこなんだけど……」

雛菜「それでも、透先輩はずっと雛菜のそばにいてくれるし、守ってくれてる……だから、透先輩のことは……信じたい……」

雛菜「もしかしたら雛菜は透先輩からすればたくさんいる中の一人かもしれないけどね〜……」

(……こいつ)


病気のせいでネガティブな接頭語、接尾語がついてはいたものの、その真意は分かりやすい。

……「信じたいと思っている」

今現在も浅倉透への信頼を失ったわけではない。ただ、その感情には少しずつ揺らぎが生じている。
私の見立て通りの反応だった。

(……今なら、もっと探りを入れられるかもな)


1.お前から見て浅倉透に怪しいところはないか?
2.本当にお前は浅倉透を信じているのか?
3.自由安価

↓1
464 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 22:57:39.45 ID:5+1aEVnm0
1
465 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:07:00.93 ID:/22W6gE+0
1 選択


能天気女がやっと一瞬のぞかせた本音。
思わず私はそれに飛びついた。

ルカ「……なあ、お前から見てあいつには、浅倉透には怪しいところはないか?」

雛菜「え……」

ルカ「お前だってそうなんだろ……? あいつは、なんか変だって……そう思ってんだろ?」

雛菜「……」


だが、その反応は鈍い。
熱で頭が回っていないこともあるだろう、私の質問を何度も咀嚼するようなそぶりを見せて、口ごもる。


雛菜「わかんない、わかんないよ……雛菜は何にも……」

(……ダメか)


思わず諦めかけた、その瞬間。


雛菜「……でも、透先輩は……雛菜と一緒にいるときでも、いっつも何か焦ってる」

ルカ「……え?」

雛菜「なにか、大事なものをなくしたって……そう言ってたような……」

ルカ「お、おい……それって____」

雛菜「……あ」

バタン!!

ルカ「お、おい!?」


能天気女はそれだけ口走るとバタンと音を立てて寝台の上に倒れ込んでしまった。
慌てて容体を見たが……どうやら病気の影響もあって意識がもうろうとしていたらしい。
私の問いかけに脳がショートしてしまったようで、一時的に気絶してしまったようだ。

……くそっ、焦っちまったか。
だけど、ノクチルの二人の結束は必ずしもカンペキじゃないことの確認が取れたのはそれなりの収穫かもしれない。
あいつ自身自分のことは敵ではないと主張してはいるものの……場合によっては、この能天気女をこちら側に引き込むことも考えるべきかもしれないな。

それもこれも、とにかくはこのパンデミックが収まってからの事にはなるんだが。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【市川雛菜の親愛度レベル…1.5】
466 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:12:00.30 ID:/22W6gE+0
-------------------------------------------------
【病院ロビー】


「なにか、なくしている……か」


看病としては失敗、捜査としては成功……だろうか。
病気で沸騰しているところに頭を使わせるような真似をしてしまい気絶までさせてしまった能天気女本人には悪いが、浅倉透に対する嫌疑の足掛かりとなるような証言は得られたような気がする。
別にあいつを問いただすわけではないが、この有効な証言は頭に入れておいた方がいいものだろうな。

パンデミックだからと言って手をこまねいているつもりは毛頭ない。
この病院の中で出来ることはすべてやりつくす。

私自身が生き残るのが、最優先だからな。


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…25個】

1.交流する【人物指定安価】※気絶してしまった雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
467 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:16:06.03 ID:5+1aEVnm0
468 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:21:05.97 ID:/22W6gE+0
1 透選択

【病院 仮眠室】


ルカ「……ん、休憩中悪いな」

透「あ、うん。そっちも休憩?」

ルカ「……まあな」


浅倉透が一人で休憩に入る瞬間を見つけ、看病の合間に抜け出してきた。
これまでは中々接触ができなかった絶好の好機。
……逃すわけにはいかねえよな。


透「あ、これ……いる?」

ルカ「あ? んだこれ……」

透「エナジーゼリー。結構あるから、腹ごなしにちょうどいいよ」


……なんか、気が抜けるな。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
469 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:25:58.52 ID:VLI9zLx+O
メスシリンダー
470 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:33:16.56 ID:/22W6gE+0
【メスシリンダーを渡した……】

透「あ、これ理科の実験で使ったやつ」

ルカ「おう、なんか水の量を測ったり……微生物を観察したりだったか?」

透「……ミジンコ、これの中に入れたら浮くのかな」

ルカ「あ? んなもん、知らねーけど……」

透「これ、貰っていいですか。なんか、ちょっと、試したい」

ルカ「お、おう……」

(……随分と妙なもんを気に入るな)


【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

透「とりあえず、なんとか四人で看病回せば何とかなる感じですよね」

ルカ「……まあ、今のところはな。病気の実態も何もわかんねーから、滅多なことは言えねーけどよ」

透「……だよね」


仮眠室には不思議な緊張感が漂っていた。
私とこいつは何もない仲ではない。過去二回の学級裁判のいずれにおいても衝突を行っている。
それをお互い意識しないはずもなく、肌がピりつくような空気を感じずにはいられない。


ルカ「……お前も、分かってんだろ?」

透「え……」

ルカ「私が、わざわざお前のもとにやってきた。その意味が分からないとは言わせねーからな」

透「……」

ルカ「話す気はない。でも、敵じゃない。いつまでその一本で行く気なんだよ」

透「……」

ルカ「……都合が悪くなるとすぐにだんまりか、そんな真似されるとこっちもどうしようもねーんだよな」

ルカ「……さっき、お前の幼馴染の病室に行ってきた」

透「雛菜の、病室……」

ルカ「あいつは言ってたぞ、お前は何か大事なものをなくしたって」

ルカ「更にはこうも言ってた、お前への信頼は少し揺らぎかけてるって」


正確にはそんな証言が取れたわけではない。
ただ、意訳すればそれと大差はない。
なんにせよ、やっと手に入った武器を振り回すのを我慢できるほど私も大人ではない。
咽喉元にそのナイフを突き立てたくて突き立てたくて、ずっとウズウズしていたのだ。


透「……えっと」


さあ、ここまで来たらあと一歩。
……攻め手を、間違えるな。


1.お前は幼馴染も騙し続けるのか?
2.そのままだと、お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?

↓1

471 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/05(土) 23:39:46.85 ID:C1ESk1VB0
2
472 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:49:34.23 ID:/22W6gE+0
2 選択

ルカ「……お前がずっと口を閉ざすのは、別に自由だ」

ルカ「でも、それをすればするほど……お前はもっと大事なものをなくすんじゃねーのか?」

透「……!!」

ルカ「……市川雛菜、お前にとっても大切な幼馴染なんだろ」


……真実をひた隠しにすることで、何か大事なものを失ってしまう。
そんな経験は嫌と言うほどよく知っている。
こいつと私の経験とでは内容も、状況もまるで違うし、私にも到底はかり切れない。
でも、もし、千雪なら……


ルカ「失ってから後悔するんじゃ、遅い。そう思うぞ」


真実を追求する、その前段階としてこの一言は確実に言っていただろうと思う。


透「……あー」

透「そっか……そこまで言われちゃうか」

ルカ「駆け引きだとかそういうんじゃなくてな、ただ単純に、私の視点から観測したすべてを口にしただけだ」

ルカ「だから、そこから判断するのはお前。話すも話さないも、お前の自由だよ」

透「……ちょっと、時間をくれないかな」

ルカ「おい、また____」

透「この病院にいる限り、逃げ道もないでしょ」

ルカ「お前……!」


明らかに、これまでとは違っていた。
ただ真実をはぐらかすだけではない、何かもっと別の覚悟を決めた……そんな瞳。
空気が一瞬にして書き換えられたのを肌で感じた。

やっぱり……こいつは、ただ敵だとか味方だとか、そういうラベリングをする対象じゃないんだと思う。


透「……ん」

透「じゃ、いったん看病で抜けるから」

ルカ「……おう」


あいつの中で、何かが動いたのなら。

……多分、私の選択は間違えてなかった。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【浅倉透の親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…27個】
473 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:50:52.34 ID:/22W6gE+0
____
______
_________


冬優子『夜8時の定期連絡始めるわよー……って、既に結構しんどそうね。大丈夫?』

ルカ「……なんとか、いっぱいいっぱいだよ」

智代子「うん……恋鐘ちゃんは放っておくとすぐに無茶して手伝いをしようとするから見とかなくちゃいけないし、夏葉ちゃんは食事すらも面倒くさがるし……」

智代子「愛依ちゃんは急にティータイムを始めちゃうし、雛菜ちゃんは気が付いたら部屋の隅っこでいじけちゃうし……」

智代子「なかなか気が休まりません……がくっ」

冬優子『……そういえばあんたんとこのパートナーと、浅倉透が見えないけど休憩中?』

ルカ「おう、交代交代で休憩をとるようにしたからな。いまは私たちの番だ」

智代子「ふゆちゃんたちの方は大丈夫?」

冬優子『ええ、今は結華があさひと果穂ちゃんの相手をしてくれてるし、特に困ったこともないわ』

智代子「それならよかったよ、お互い頑張ろうね!」

冬優子『うん、チョコちゃんもファイトだよ♡』

ルカ「ハッ、それじゃ切るぞ。そろそろあいつらの様子をまた見に行かねーとだからな」

冬優子『了解、あんたも頑張んなさいよ、ルカ』

ルカ「すげー落差だなおい……」


プツッ
474 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:51:42.75 ID:/22W6gE+0

智代子「よし、それじゃあまた気合入れて頑張らないとだね!」

ルカ「ん、晩飯片付けて、寝るように促すとこだな」

智代子「……」

ルカ「……どうした?」

智代子「いや、前から思ってたけど……ルカちゃんなんだかふゆちゃんと仲いいよね?」

ルカ「え……あー、それは……その……」

智代子「いいなー、ずるいよ! わたしもルカちゃんと仲よくなりたい!」

ルカ「はぁ? 別に、冬優子とはそんなんじゃねーよ、ただちょっと顔なじみっつーかなんつーか……」

智代子「乙女の秘密ってやつですか……?」

ルカ「乙女なんてガラじゃねーだろ……少なくとも私は」

智代子「でも、本当になんだかルカちゃん丸くなったよね」

ルカ「お前もだろ、お菓子食いすぎなんだよ」

智代子「そ、そっちの話ではなくてですね!? ……ほら、この島に来た初めはわたしたちとお話もほとんどしてくれなかったじゃないですか」

ルカ「それは……確かにな」

智代子「でも、今はこうやってわたしの冗談にも付き合ってくれるし……やっぱり、変化があったのかな」

ルカ「まあ……そうだな、千雪が私の面倒を無理やりにでも見て来たから、気が付けばお前らと話すことにも慣れちまったって感じだよ」

智代子「千雪さんが……そっか、そうだったんだね」

ルカ「……悪いな、なんか思い出させるような真似しちまって」

智代子「ううん、ルカちゃんの大切な思い出だもん、聞かせてもらえてむしろ嬉しいよ」

ルカ「……ケッ」

ルカ「ほら、無駄話してる時間はねーぞ。さっさとあいつらの様子見ねーと何しでかすかわかんねーって」

智代子「はーい!」
475 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:52:46.77 ID:/22W6gE+0
____
______
________

【病院 ロビー】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


連中の食事を片付け、寝るまでの世話をしてやって、ようやく一日目の看病は終了。
私たちにもやっと休息の時間が回ってくる。


ルカ「……ふぅ、とりあえずは終わりだな」

美琴「みんなお疲れ様、四人とも寝たみたいだからひとまずは睡眠をとっておいて」

智代子「うん、そうさせてもらおうかな……右に左に行ったり来たりだったからなんだか想像以上に疲れてるかも……」

透「でも、深夜は看病大丈夫? 急変とか、ないかな」

ルカ「あー……確かにそれはそうだけどよ」
476 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:53:47.32 ID:/22W6gE+0

透「じゃ、私起きとくよ。まだあんま眠くないし」

智代子「えっ、だ、大丈夫? 透ちゃんも、結構頑張ってくれてたよね?!」

透「まあ、まだ若いし。エネルギッシュなティーンだから」

美琴「……だったら、私も起きてる」

ルカ「美琴……お前」

美琴「大丈夫、何もしない。彼女が何かしないか見てるだけだから」

ルカ「……信用していいのか?」

美琴「うん」

ルカ「……わーったよ、私はロビーで寝てっから何かあったら言えよ」

智代子「えっ、ルカちゃん……悪いよ、仮眠室譲るよ?」

ルカ「いい、いい。私はもともと固い寝床の方がよく寝れんだ、ベッドはお前が使え」

智代子「そ、そう……?」

透「じゃ、夜番は私らで頑張るから。いい夢見てよ」

美琴「私たちも合間合間では仮眠をとると思うから、気兼ねしなくて大丈夫だからね」

ルカ「おう……悪いな」


私は初日の夜番を二人にゆだね、ロビーでそのまま眠りについた。
問診の時に座るスツールを並べた即席のベッドのようなものだが、疲労もあってか私はすぐにその意識を手放した。
貴重な休息、少しでも疲労を和らげるための睡眠。
夢なんて全く見ない熟睡だった。
477 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/05(土) 23:57:58.33 ID:/22W6gE+0

という訳で本日はここまで。
自由行動パートはいつも手癖でその場で書いているのですが、今回透の部分で少し踏み込みすぎてしまいました。
次回更新分と少し齟齬が生じてしまっていますが、変更しない方がストーリーとしては通りそうなのでどうかご容赦ください。
自由行動の回数を考えずに動機提示まで行ってしまったので……ノープランで書くとここら辺にボロが出ますね。申し訳ない。

次回更新分で事件発生まで行きたいと考えています。少し長めになるかもしれませんが、開始時刻の前倒しは特には致しません。
3/6(日)の22時ごろから再開予定です。
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
478 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 00:04:42.41 ID:carM39qF0
お疲れさまでした
479 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 00:08:35.09 ID:PcuD0/db0
>>1乙!
ていうか次回でもう事件発生か
マジで誰が退場するのか予想つかない・・・
480 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:01:49.40 ID:6WraeaE50
____
______
________

=========
≪island life:day 14≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう〜!』


アナウンスとともに目を覚ました。
眠り自体はそう不快でもなかったが、体はやはり少し負担だったか。体を起こすとバキバキと音が鳴った。
だが弱音も吐いていられない。ここからは私の出番だ、託されてる分はしっかり働いておかねーとな。


美琴「おはよう、ルカ」

ルカ「おう……美琴、いたのか」

美琴「うん、明け方まで様子は見てたけど四人とも特に異常はなかったよ。もちろん、彼女もね」

ルカ「そうか……ならよかったよ、私も起きたんだ、お前もしっかり休めよ」

美琴「うん、大丈夫。途中で仮眠は少し取らせてもらったから」

ルカ「他の連中は?」

美琴「智代子ちゃんが早めに起きて来たから今は彼女が。後は仮眠室」

(……【後】と来たか)


どうやら朝までずっと寝てたのは私だけだったらしい。
なんとなしに気恥ずかしさを覚えたが……その分働いて返さないといけないな。
まずは朝の様子を一通り観察するとこから始めるか。
481 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:02:50.08 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【恋鐘の病室】


恋鐘「おはようございます!」

ルカ「おう、わかったからベッドに横になれって」

恋鐘「清々しい目覚めです、これも皆さんに看病いただいているおかげですね!」

ルカ「朝からテンションたけーな、なんだお前」

美琴「深夜でもこの感じだから体力を下手に使ってそうで心配になるんだよね……」

恋鐘「ご心配いただきありがとうございます」

ルカ「はぁ……とりあえず朝飯食って、ちゃんと養生すんだぞ。それが一番のお礼になんだから」

恋鐘「はい、お任せください」

ルカ「……ったく」
482 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:03:37.44 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【夏葉の病室】


夏葉「……ぐがー」

ルカ「……まあ、やっぱこいつは寝てんな。このまま放置でいいか」

美琴「元から彼女、朝はあまり強くないみたいだから」

ルカ「そうなのか?」

美琴「うん、この島に来てからは果穂ちゃんと智代子ちゃんもいるから早く起きるように努めてたみたい。病気になって性格が変わって、その分の枷が外れちゃったのかな」

ルカ「はは……そうかもな」

夏葉「むにゃむにゃ……もう持ち上がらないわ……重量をやみくもに増やしたところでトレーニング効率は悪い……」

ルカ「……どうやら見てる夢は元の性格準拠みてーだぞ」

美琴「……なんだか暑苦しそうな夢を見てるんだね」

483 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:04:48.15 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【愛依の病室】


ルカ「……なあ、なんでこいつのベッドは天蓋付きなんだ」

美琴「なんだか入るたびに部屋の様子が変わってるんだよね……」

ルカ「アロマポットまで焚きやがって……病人の自覚が一番ないのはこいつなんじゃねーか」

愛依「あら、セバスチャン……もう起きる時間かしら……?」

ルカ「誰がセバスチャンだ。……別に、寝てて大丈夫だ。朝飯はお前の好きなタイミングで食えばいいからな」

愛依「お気遣いいただきありがとうございます、後でお礼にアップルパイを焼いて差し上げます」

美琴「アップルパイはお嬢様なのかな……」

ルカ「そもそも菓子作りなんかすんな、ほらおとなしくしてろ」
484 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:06:02.49 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

【雛菜の部屋】


智代子「ひ、雛菜ちゃん! そんなことないよ、ほら、ファイト!」

ルカ「……おい、何やってんだ」

智代子「あ、ルカちゃんおはよう! あのね……雛菜ちゃんがまた例の発作を起こしてて」

雛菜「雛菜が地球にいることで、アフリカの恵まれない子供の分の酸素がさらに減っちゃうんだよね〜……」

ルカ「……こりゃ深刻だな」

ルカ「おら、とりあえずベッドに戻れ。てめェが使う酸素の心配するぐらいならそのエネルギーを植樹に使え」

雛菜「でも雛菜の血液は毒だから……きっと植物も雛菜に触られるの嫌だと思う〜……」

智代子「そんなことないよ、ほら! 朝ご飯もあることだし、野菜食べて食物繊維で毒素を抜こうよ!」

美琴「昨日の晩もこんな感じで星を眺めながら『隕石が落ちてきたら全部終わり』って嘆いてたんだよね」

ルカ「かもしれない運転が過ぎんのも考えもんだな……」
485 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:07:55.63 ID:6WraeaE50
◆◇◆◇◆◇◆◇

結華『なるほど……とりあえずは異常なしなんだね、安心した!』

ルカ「性格がひん曲がっちまったせいで予測不能な行動に出るのだけ気になるけどな」

あさひ『話聞いてたらなんだか面白そうっす〜……わたしも看病に回りたかったっす〜』

(……)

果穂『みなさん、つかれてないですか? 休けいはしっかりとって、無理しないでください!』

美琴「うん、ありがとう。ちゃんとみんな睡眠もとってるから大丈夫だよ」

透「そっちは大丈夫? なんか、事故とか」

冬優子『ええ、特には何もないわ。ただ一つ問題があるとすればこいつがうるさいだけ』

あさひ『冬優子ちゃん、電気街にラジコンあるらしいっすよ! 取りに行くっす!』

智代子「あはは……頑張って」

ルカ「まあなんかあったら連絡してくれ、誰かしらはロビーにいるだろうから」

結華『オッケー、こっちも定期連絡以外にもちょくちょくライブハウスに様子を見には行くようにするね!』

プツッ
486 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:09:05.25 ID:6WraeaE50

ルカ「さて、そんじゃまた看病に戻るか」

智代子「うん、今日も頑張ろうね!」

ルカ「美琴とお前は寝てていいぞ、あれからずっとだったんだろ?」

美琴「ううん、大丈夫。深夜当番って言ってもずっとじゃなかったし、今もそう眠くはないの」

透「私は寝とこうかな。いいですか、仮眠室」

智代子「うん、大丈夫だよ! わたしたち三人で頑張るから、透ちゃんはとりあえずゆっくり休んでて!」

ルカ「おう……無理はすんな」

美琴「……」

ルカ「美琴、やっぱあいつは気になるか?」

美琴「……夜の間は特に目立ったことはしてなかった。昼も寝ておいてくれるんだったらそっちの方が安心だから」

(……やれやれ)


そういうわけで昼の間は基本的には三人で看病を回すことに。
定期的な見回り、食事なんかの世話、昨日とやっていることは変わらない。
ただ、どれほど熱心に看病をしてもこいつらの病状がよくなるわけじゃない。
熱もまるで下がらず、性格も戻る気配もない。
自分たちのこの看病に果たしてどれほどの意味があるのか、それを疑問に思わないように、必死に目を瞑って看病を続けた。

487 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:10:39.08 ID:6WraeaE50
-------------------------------------------------
【病院 ロビー】

とりあえず朝の観察では異常はなし。
とはいえ油断なんか微塵もできやしない。
完全に未知の病気で、その症状も聞いたことがない。ここからどう転がるのかは医者ですらも分からないだろう。
そして、こうして看病を行っている私たちだって感染リスクからは逃れられないわけで……実際この生活もいつまで続けられるのかは甚だ疑問だ。

「……はぁ」

気を抜けばすぐにため息が漏れ出る。
私は口からこぼれた息を吸い上げるようにして立ち上がった。
嘆いても時間の無駄、それだけを頭で復唱して、考えることをやめた。

【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…27個】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
488 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 22:12:23.94 ID:PcuD0/db0
1 夏葉
489 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:18:14.93 ID:6WraeaE50
1 夏葉選択

【夏葉の病室】

コンコン ガララ

夏葉「あ……よく来てくれたわね、お菓子ならそこにおいといてちょうだい……」

ルカ「それが人を出迎える態度か……それに病人に菓子は用意しない、大人しくしてろ」

夏葉「えぇ……体が、体がチョコレートを欲しているの……お願いよ……ギブミーチョコレート……」

ルカ「私は米兵かよ……おら、諦めな」


本当に見る度見る度だらけっぷりが加速していく。
もはやシーツと一体化しているような、満足そうな表情を浮かべて横になっているさまは中々滑稽だ。
とはいえ、こんな状態でも額に手を当てると火傷しそうなぐらいに熱い。
本音では、相当に苦しんでいるんだろう。

……どうにか楽にしてやれないものか。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【トイカメラ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1
490 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 22:22:27.18 ID:QLxva49a0
トイカメラ
491 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:31:14.00 ID:6WraeaE50
【トイカメラを渡した……】

ルカ「ガキ向けのちゃちなカメラだけどよ、お前なら結構楽しめんじゃねーか?」

夏葉「まず、立たないとダメでしょ?」

ルカ「……あ?」

夏葉「それに、被写体を探して……シャッターを切る」

夏葉「見たいと思ったら現像までしなくちゃいけない。そんな工程が無駄にかさむ動作、私はやりたくないわ」

ルカ「……お、おいおい」

夏葉「そんな無駄を踏むぐらいなら、私は一分一秒でも長く眠ることを選ぶわ!」

(チッ、普段のこいつなら喜んだだろうに……)

-------------------------------------------------

他の連中に比べると、こいつの世話はだいぶん楽。
素行がぐうたらな分、寝かしつけたり、暴走を行ったりしないように監視する手間はだいぶん省けている。
とはいえ、容体が急変するとも限らないのでそばに入れる限りはちゃんと見てやらないとな……

夏葉「……ぐごご」

ルカ「……ったく、こんなアホ面こいて寝てるってのにやべえぐらいの高熱なんだもんな」

ルカ「……」

ルカ「そろそろ氷嚢の氷も溶けんな、入れ替えてやるか」


そう思って席を立ち、背を向け、冷蔵庫に向かおうとした瞬間。


夏葉「……ルカ?」


背後から私を呼び止める声。
ただ、その声色は病院に来てから聞き続けたそれとは違う。
私を小間使いにしようとする、怠惰な呼び声ではない。
数日前までの、私たち生き残っているメンバーを引っ張っていくリーダーとしての声色。
いつもの小金持ちの声を、そこに写し取っているように感じた。
思わず私は即座に振り向いた。


ルカ「ど、どうした……!?」


だが、そこににいた小金持ちの姿は……想像とは違っていた。
布団をくしゃくしゃに手繰り寄せるようにして、しおらしく肩を落としている……落胆の表情だった。


夏葉「ごめんなさい……こんなことになってしまって」


時々私も病気でうなされているときに、妙に冴えてしまう瞬間がある。
たいていが未明だとか深夜だとか、そういう冴えても仕方がないタイミングで、自分の身の上を呪うほかにやることもないそれ。
今のこいつはその妙な冴えのせいで、隠しているはずの本音を吐露してしまっていた。


夏葉「智代子に果穂……そして、283プロのみんな……この島にいるのは多くが私よりも年下でしょ……?」

夏葉「だから……私が、守らないと……助けてあげないと……その責任があるって言うのに……」

夏葉「こんな、病気なんかに……侵されて……」

ルカ「……お前」


私よりも背丈もそれなりに大きいはずの小金持ちの姿が、なんだか妙に小さく見えた。


1.いつ誰がお前にそんな責任背負わせたんだよ
2.自分を追い込む必要なんかない
3.自由安価

↓1

492 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 22:33:59.69 ID:carM39qF0
2
493 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:41:50.24 ID:6WraeaE50
2 選択

ルカ「……お前は確かに立派だよ、自分だけじゃなくいつも他の連中のことも気にかけて。そんだけの責任感があってこその行動なんだろうなって私でも思う」

ルカ「だけど……だからこそ、そんな風に自分を追い込む必要なんかないんじゃねーのか」

夏葉「……えっ」


実際、私もそうだ。
世話を直接焼かれるようなことはないにせよ、学級裁判でもいつも議論の流れを生み出してくれるのはこいつ。
こいつがいなければたどり着けなかった真実だってあるだろう。
だからこそ、こんな不慮の事態で自分を追い詰めるような真似をしているのは私としても見ていられなかった。
病気の症状で私たちを道具にしたとしても、普段の行動で十分おつりがくる。
少なくとも甘党女と小学生は、きっとそう思っていることだろう。


ルカ「お前がいっつも他の連中にしてやってる分の施し、その恩返しでもしてもらってるつもりでよ」

ルカ「看病してもらうんだったら存分に利用し尽くせよ、丁度お誂え向きにお前は【ぐうたら病】なんだ」

ルカ「甘党女、張り切ってたぞ。いつも助けられてる分私が頑張るんだ〜ってな」

夏葉「……そう、なのね」

ルカ「……まあ、私としては癪だけどよ。なんか用があればちょっとぐらいは聞いてやるぞ」

夏葉「……じゃあ」

ルカ「おう」

夏葉「なんか電気街からゲーム機とか持ってきてもらえないかしら、寝てばっかりだと退屈なのよ」

ルカ「……はぁ」


クソッ、今の一瞬ですぐに冴えは消え失せてしまったらしい。
すっかり絶望病のぐうたらモードに逆戻り。

でも、一瞬だけでもこいつの本音を見れたのは、価値があったかもしれないな。
それこそ、甘党女に伝えてやってもいいかもしれない。

……いや、そいつは野暮ってもんか。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【有栖川夏葉の親愛度レベル…3.5】
494 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:45:41.67 ID:6WraeaE50
【病院 ロビー】


小金持ちの看病を終えて一度ロビーに戻る。
あれからまた暫く粘ってはみたものの、冴えは二度とはやってこず。
深い眠りに入った様子で、起こすわけにもいかないのであきらめることとした。

この病気はかなりの高熱を発生させ、性格も捻じ曲げる。
でも、能天気女のことといい、小金持ちのことといい、それ以外にも……本人の弱いところを掘り起こすようなそんな症状もあるのかもしれないな。
ただの偶然なのかもしれないが。
もし、本当にそんな症状があるのなら……私が感染したらどうなるんだろう。

「チッ」

滅多なことを考えてしまった。
もしここで私まで感染しちまったら始末は誰がどうつけるって言うんだよ……


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…107枚】
【現在の希望のカケラ…27個】

【事件発生前最後の自由行動です】

1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1
495 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 22:48:40.41 ID:2BUkC5p30
ひなな
496 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 22:55:26.35 ID:6WraeaE50
1 雛菜選択

【雛菜の病室】

コンコン ガララ……

ルカ「……うおお!?」


部屋が真っ暗になっていることはもはや触れる必要すらないとして。
入った瞬間私の鼻をくすぐる臭い。これは……葬式の時の匂い、か……?
臭いの元を探ると、能天気女が部屋の隅で何かを手に持っている。


雛菜「あは〜……この匂い……すごく落ち着く〜……」

ルカ「お、お前……それ、線香じゃねえか……」

雛菜「人って、いつかはみんな同じように焼かれて、同じように埋められて……同じように、このお線香の匂いに包まれるんだ〜」

雛菜「だから、この匂いを嗅いでると、雛菜もみんなとおんなじだって思えて……」

ルカ「……換気するぞ」


……これ以上こいつの話を聞いてるとこっちの頭が先に参りそうだ。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ジャバの天然塩】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1

497 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/03/06(日) 23:01:23.00 ID:QLxva49a0
エプロンドレス
498 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:07:50.62 ID:6WraeaE50
【エプロンドレスを渡した……】

ルカ「……私の趣味じゃねーけど、普段のお前ならこういうの似合うんじゃねーか?」

雛菜「エプロンドレス……これってメイドさんのやつですよね〜……」

雛菜「あ、そっか……雛菜を冥途送りにしてやるっていうメッセージなんですね〜……」

ルカ「下種の癇繰りが過ぎるぞ……ただのプレゼントだ、着てみて嫌だったら捨てな」

雛菜「……」

雛菜「あは〜……かわいいかも〜……」

(……喜んだん、だよな?)

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

雛菜「雛菜のためにこんな病室一個も使っちゃって……これだけの敷地があれば、もっと愛されている誰かのお墓を建てられたはずなのにな〜……」

ルカ「不動産会社にそういう文句は言え。ほら、シーツ交換するからどいてろ」


息をするように口から綴られるネガティブな文言はもはやスルー。
部屋の隅っこにいるのをいいことに、病室の設備周りを綺麗に整えてやった。


ルカ「……あ、そうだ。昨日は、悪かったな」

雛菜「はい〜?」

ルカ「病気のとこに、無理やり問いただすような真似しちまってよ。あれで病気が悪化でもしたらこっちの責任だしな」

雛菜「……」

雛菜「いえいえ〜、むしろこんな雛菜と会話してくれたなんて……酸素の無駄遣いをさせてしまって申し訳ないです〜」

ルカ「どんなへりくだり方だよ……」


こうもいつもと違うと、やはりどうしても調子が狂う。
ネガティブになって聞き分けがよくなったというべきか、それとも言葉が余計に響かなくなったとみるべきか。
だが、私たちから距離をひたすらに置こうとするのがなくなっただけでも大分大きいのは確か。
ノクチルの二人でも、こっちの方が距離をとりたがる節はあった。

(……どうしよう、もう一度何か探ってみるか?)


1.もう一度浅倉透に対して怪しいところはないか聞いてみる
2.昨日浅倉透と話したと報告してみる
3.自由安価

↓1
499 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 23:14:37.50 ID:carM39qF0
2
500 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:24:56.78 ID:6WraeaE50
2 選択

ルカ「……昨日よ、お前と話してから浅倉透と話してみたよ」

雛菜「……透先輩と?」

(……!!)

絶望病にかかっているというのに、私の口からその名前が出た瞬間に空気が俄かに変わる。
とはいえ、これまでの敵意や殺意に塗れたそれには完全には満たない。
やはり本調子ではない、ということなのだろう。

ルカ「お前が言っていた、あいつが何かを“なくしている”っての。本人に少しだけ訊いてみた」

雛菜「それで、透先輩はなんて言ってました〜……?」

ルカ「……その場では解答はもらえなかった。でも、この病院にいる限り、逃げ場はないって」

雛菜「それって、近いうちに話すってことですよね〜……?」

ルカ「……だと、思っていいはずだ」

雛菜「……そっか、透先輩が……」

雛菜「雛菜も、それ……何を指してるかまでは知らないんですよね〜……そっか、幼馴染の雛菜も知らないのに、そうなんだ〜……」

(うっ……)

身に纏わりつくような、嫌に粘着質な気配。
べたべたとして心地の悪い感触、この感情のことを私は良く知っている。
嫉妬と恨み……そのブレンドだ。
普段のこいつなら、こんな感情は向けてこないだろうにと思う。
この感触も、絶望病由来の物なんだ。


ルカ「……確かに、お前よりも先にわたしが聞くこともあるかもしれない」


致し方ないものと割り切って、私はそれを拒絶はしなかった。
相手が病人だからということもあるが、これは千雪の命令を遂行するためでもある。
私はこいつらの感情に向き合う義務と責任とがある。
そこから逃げ出すようじゃ、まだまだだ。


ルカ「だから、話聞けたら、お前にも共有する」

ルカ「お前も、この島で暮らす……一応、一員なんだからな」

雛菜「……あは〜」


私の返答に、能天気女は幾分かの納得はした様子で、布団の中に頭を引っ込めた。
危ないところだった。この手を間違えていれば、こいつとの間の溝はまた別のかたちで広がってしまうこともあっただろう。

……立ち振る舞いは慎重に。
人づきあいと言うのはなかなか面倒なものだ。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【市川雛菜の親愛度レベル…3.5】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…28個】
501 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:26:38.75 ID:6WraeaE50
____
______
________


結華『そっか……まだみんなの病気はよくなんないか……』

ルカ「正直知識も何もないからな、全部結局はあいつら次第だ」

あさひ『風邪薬とかも、効かないっすか?』

透「風邪とかじゃないしね、ウイルスにはウイルスの薬使わなきゃダメじゃん」

結華『熱も下がってないんだよね?』

ルカ「ああ、全然変わらねえ。あいつらあんな平気な風して余裕で39度台の熱出してやがるからな……せめて熱でも下がらねえと衰弱しちまうぞ」

あさひ『……愛依ちゃんに会いたいっす』

結華『あさたん……もうちょっとの我慢だよ、きっとよくなるから』

透「そっちは何かありますか」

結華『いや、こっちは何も変化はないよ! 時々島の探索もできる範囲でやってはいるけど、新しい発見はないかな』

ルカ「チッ……いやな停滞だな」

結華『ルカルカ、完全にそっちに任せちゃってるけど、何か必要なこととかあったら気軽に言ってくれていいからね! ルカルカの力になれるコトなら、なんでも協力するから!』

ルカ「おう、わかった」

透「なにかあったらまた連絡します。それじゃ、また明日」

あさひ『また明日っす〜!』

プツッ
502 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:28:09.93 ID:6WraeaE50

今日の夜の間の看病は私とこいつの二人で引き受けることになった。
私は昨日朝まで熟睡していたし、こいつも日中はよく眠っていたらしく、体力に余裕がある。
それに、私自身こいつと今一度話したいとも思っていたからだ。

看病に行く前、通信を終えて静まり返ったロビーで私は話しかけた。


ルカ「……この前は悪かったな」

透「え、急に何」

ルカ「千雪の裁判終わり、急に胸ぐら掴んで恫喝なんかしちまってよ」

透「あー……いいよ、別に」

ルカ「……私も動転してた」


でも、その動転はこいつへの疑念からの派生だ。
私たちにひた隠しにする、外部の人間とのつながり。
そこに私たちの求める回答の一つがあるであろうことは容易に想像がつく。
その気持ちが私に焦らせた。

今は一旦その時の非礼を詫びることにした。
こいつだって、私たちと全員と一蓮托生の一人。
中学生のように悪意が表に出ていないうちから敵対を続けるのは得策ではないと気付いたのだ。

そして、何より私にとってこいつへの認識を改める要因になったのがこの絶望病だ。
あんなに血相を変えて飛び込んできて幼馴染の容体を案ずる。コロシアイに加担している人間とは思いがたい行動ではなかろうか。



だから、私はここで見極めたい。
浅倉透という人間の真意を、七草にちかがぶつけた敵意が適正だったのかを。
503 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:29:12.94 ID:6WraeaE50

ルカ「幼馴染がやっぱ心配か」

透「そりゃね、雛菜しかこの島にはいないからさ。病気してたら落ち着かないよ」

ルカ「これまでずっと別行動だったのに、助けを求めてくるぐらいだもんな」

透「……それは、ごめん」

ルカ「……別に責めようってわけじゃねーんだ。お前ら幼馴染同士の結束ってのは確かなもんなんだろうなと思ってよ」

透「ずっと一緒だからさ、うちら。小糸ちゃんは一回中学校だけ別だったけど、それ以外は変わんない」

透「……変わんない」

ルカ「……どうした?」

透「……いや、別に」


何か意味ありげにポツリと言葉を繰り返すと、浅倉透は視線を逸らした。
そこに内在するニュアンスを掴みたくて、私はさらに探りを入れた。

504 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:30:18.37 ID:6WraeaE50

ルカ「お前よ、病院に残る側になった目的って本当にそれだけなのか?」

透「え」

ルカ「お前、幼馴染のことを随分と信用してるようだけど、こいつにはもしかして話してるんじゃねーか? お前がつながってる、外の世界のやつっての」

透「……!」

ルカ「私たちが看病している間に、ついうっかり口にしやしまいかって」

透「いや、そうじゃない……違うって」


強い言葉で否定した。
こいつとしてもどうにか誤解を解きたいと言う気持ちはあるらしい。
確かに、今にして思えばこいつが私たちと距離を取ったのはあの能天気女の暴走によるところがあった。
まるで信用しない私たちに豪を煮やして単独行動を開始した。そこからも目立った動きはないし、そこを咎める必要はきっとないんだろう。

505 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:32:08.25 ID:6WraeaE50

ルカ「七草にちかが言ってたこと、お前が外の人間と繋がってるってのは……結局本当なんだよな?」

透「……うん、本当だよ」

ルカ「そいつとは、まだ連絡は取ってるのか?」

透「……ううん、取れなくなっちゃった」

ルカ「……そうなのか?」

透「あの裁判以降一度もね、モノクマがなんかしちゃったみたい」

(……もしかして、七草にちかが告発したことで明るみになっちまったからか?)

ルカ「そいつは、私たちにとって敵ではないんだよな」

透「うん、味方だよ。このコロシアイとは無関係」

ルカ「でも、誰かは言えない……」

透「……」

ルカ「……なあ、なんで言えないんだ? その理由を聞かせてくれよ、別にお前を疑ってるわけじゃねーんだ、お前を信用するために、信用に足る情報をくれよ」

透「……えっと」

ルカ「いい、ゆっくり話せ」

506 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:33:05.43 ID:6WraeaE50

今この場には私とこいつしかいない。
病院から逃げ出すことは不可能。
詰問には正に打って付け、浅倉透も観念した様子で慎重に言葉を選びながら語り始めた。


透「……そもそも、私が連絡取れてたのはモノクマからの干渉を拒める手段があったからなんだよね」

透「この島にいる限り、モノクマには全部知られちゃうんだよね。何をしてるか、何を話してるのかも。全部」

透「だから、そこら辺をクリアにする機能を持ったのがあったんだけど……今はもう使えない、取り上げられちゃったから」

透「だから、伝えられないんだ。モノクマに知られたらまずいから」

ルカ「結局、私たちに言えることは何もないってのは変わんねーのか」

透「……ごめん」


情報には何も進展はなし。
モノクマへの抵抗手段があったと言うことは知れたが、今はもうそれも手元にないと言うのだから仕方ない。
ただ、進展はなくとも、浅倉透という人間は少し見えた。
声の調子、視線、息遣い。それをすぐ間近で改めて観察することで、こいつが嘘をついていないことは分かる。

507 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:34:00.67 ID:6WraeaE50

ルカ「じゃあ具体的な話をしなくてもいい、これだけ聴かせてくれ。お前は一体、どこまで知ってるんだ?」

透「……」

ルカ「この前のゲームといい、最初の動機といい、私たちの失った記憶ってのが重要な意味をもってんのは確かだ。お前はその私たちの失った記憶を……知ってるのか?」

透「……私は、あのゲームの中のコロシアイは何にも知らないよ。それは事実」

透「でも……みんなが失った記憶は、ちょっとだけわかる」

ルカ「……!? ま、マジか……?!」

透「でも……それは言えないんだ、言っちゃうと……全部、これまでが無駄になっちゃうから」

ルカ「これまでが無駄になる……?」

透「ねえ、記憶ってどこまである? この島に来る前の一番新しい記憶って?」

(この島に来る前の、一番新しい記憶……?)


確か、私はいつも通りソロライブを終えて、マネージャーが運転する帰りの車に乗ってた。
それでついついうたた寝しちまって……目が覚めたらこれだ。

508 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:35:59.42 ID:6WraeaE50

透「……そっか、それなら大丈夫」

透「あのさ、それが本来あるべき姿なんだよね。みんなは記憶がすっぽり抜け落ちている……それで、いいんだよ」

ルカ「お前……それってどういう意味なんだ」

透「思い出しちゃ、ダメなんだよ」

透「忘れといて、そのまま」


自らの胸に手を当てて、説き伏せるようにして浅倉透はそう言った。
失った記憶はそのままでいろだなんて、正直理解はできない。
でも、道理や理論じゃなくて、こいつの言葉には信じてみようと思わせるような妙な説得力があった。
その澄んだ瞳の奥底には、どっしりとして揺るがない軸のようなものがあり、その不思議な引力に引き寄せられるのだ。

……でも、だからといって見逃しはしない。
こいつの言葉を追っていけば必然的に結ばれる結論がある。



それは、



509 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:36:52.93 ID:6WraeaE50





ルカ「……お前が私たちの記憶を奪ったのか?」





510 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:38:04.47 ID:6WraeaE50

透「……」

ルカ「いつからの記憶がないかを把握してるってことはそういうことだろ? お前はこの希望ヶ峰学園歌姫計画の参加者じゃなくて……運営する側の人間なんじゃないか?」



透「……私が奪ったって言うか」





透「私たちが、奪った」




511 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:39:18.15 ID:6WraeaE50

ルカ「……マジかよ」

透「でも、信じてほしいんだ。モノクマの言葉に載せられちゃダメ。あいつは、悪者だよ」

ルカ「んなことは分かってる、このコロシアイは希望ヶ峰学園歌姫計画をあいつが乗っ取ったからこうなってるだけ、つまりは本来の歌姫計画はそうじゃなかった」

ルカ「だから……てめェはその本来の歌姫計画の実行者……その一人ってことなんだろ?」

透「……うん」


希望ヶ峰学園歌姫計画の実行者ということは、この島に私たちを集めた張本人ということになる。
でも、どうして?
他の283プロの連中とは別に、どうしてこいつだけがそんな役目を担っている?
他の連中はどうしてこいつのように希望ヶ峰学園歌姫計画を知らない?
そして、その歌姫計画はどうして私たちの記憶を奪うような工程が含まれている?
浅倉透が口にした言葉は、謎への解放なんかじゃない、新たな謎への導線だったのだ。

512 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:40:28.18 ID:6WraeaE50

透「……多分、今めちゃくちゃだよね。頭ん中」

ルカ「当たり前だ、お前……新しいことは言えないとか言った割に、疑問ばかり言いやがって」

透「ごめんって。……でもさ、私がみんなの味方だっていうのは変わんないから」

ルカ「そればっかだな……」


そもそもの『希望ヶ峰学園歌姫計画』とやらの実体も私たちにはよくわかっていない。
それの実行者がいくら味方だ敵だと言っても、信じるか否かの議論の上に載せることすら危うい証言だ。
でも、この状況においてなお、浅倉透は私から視線をずらそうとはしなかった。
ここにきて初めて私が耳を傾けた、この状況をこいつ自身も好機だと考えたんだろう。
自分自身を知ってもらうための、好機。
誤解を解くための、好機。


____後は私がこの瞳を信用するかどうかがすべてだ。


513 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:41:57.10 ID:6WraeaE50

七草にちかの命を懸けた糾弾、そしてそれに突き動かされた美琴。
それを思えば、こいつの主張など斥けてしまうべきなのかもしれない。

……でも、それは今ある信頼に縋り続けるだけの逃避に変わりない。
現実に向き合うことから逃げ続けても、私たちは真実にはたどり着かない。





ルカ「……だけど、わかった。私はとりあえずお前のことを一度信用することにする」





透「……!」

514 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:42:56.67 ID:6WraeaE50

ルカ「だから、お前も私たちのことを信用して……お前の幼馴染を説得しろ。あいつだって283プロの連中の人の好さは知ってんだ。今はこの状況下で視野が狭窄しちまってるだけ」

ルカ「そんで、私たちからも逃げんな。信用が欲しいなら、行動で勝ち取れ。……ま、私が言えたことでもないけどな」

透「……うん、そうだね」

ルカ「こういう言い方をしちゃ悪いが、今の看病の状況はうってつけだろ。精々張り切って面倒見てやるんだな。その分私の手も空くし」

透「ふふ、なにそれ、サボりじゃん。……でも、任せてよ。うちら、ナースの衣装着たこともあるし」

ルカ「なんだそれ、関係あんのかよ」

透「アリよりのナシ」

ルカ「……ハッ」


浅倉透という人間の感情に、今私は初めて触れたような気がした。
こいつだって283プロの人間で、人並みに笑うし、人並みに苦しむ。
今こうして肩を並べて笑う姿を見て、私は自分のこれまで持っていた敵意がどれだけあやふやなものだったのかを身につままされた。
まだ完全な信用をしたわけではない、でも、信用するにしてもしないにしても、見極めずに判断を下すことは避けるべき短慮だ。


ルカ「じゃ、また様子見に行くぞ。ベッドから抜け出してないとも限らねえ」

透「しゃー、看るか―」


____これで、少しは千雪の命令をまた遂行できただろうか。




【浅倉透・市川雛菜との通常時での交流が解禁されました!】



515 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/06(日) 23:45:44.18 ID:6WraeaE50

申し訳ない、事件発生まではもう少しあるのですが時間的に厳しくなってきたので本日はここまでにさせてください。
次回更新時に事件発生パートから非日常編の捜査パートを途中まで一気に進めることにします。

次回更新は火曜日か水曜日になると思います……改めて更新できそうな日に前もって書き込みに参ります。
それではお疲れさまでした、またよろしくお願いします。
516 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 23:50:13.12 ID:carM39qF0
お疲れさまでした
517 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 23:51:32.32 ID:carM39qF0
お疲れさまでした
518 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/03/06(日) 23:51:35.06 ID:PcuD0/db0
>>1乙!
やはりと言うか、予想はしてたけど
この島に参加させられたみんなは「アレ」なのね
519 : ◆vqFdMa6h2. [saga]:2022/03/07(月) 22:44:35.26 ID:voJBumxJ0

次回更新ですが3/8(火)の22時ごろからになりそうです。
捜査パートでは安価で行動指定もあるのでご協力いただけますと幸いです。

それとこれはつい先ほど気づいたことなのですが、章題についてミスをしていました。
章題はアイマスの楽曲をもじってつけるのに統一していたのですが、何を勘違いしたのか、
前章で放課後クライマックスガールズのGW楽曲『学祭革命夜明け前』を何故か『学祭革命前夜』と間違えてつけていました。
pixivで個人的にあげているまとめの章タイトルも『パステルカラー パスアウェイカラー』に急ぎ変更をしました。
混乱させてしまっていたら申し訳ないです…
748.14 KB Speed:1.1   VIP Service SS速報VIP 更新 専用ブラウザ 検索 全部 前100 次100 最新50 続きを読む
名前: E-mail(省略可)

256ビットSSL暗号化送信っぽいです 最大6000バイト 最大85行
画像アップロードに対応中!(http://fsmから始まるひらめアップローダからの画像URLがサムネイルで表示されるようになります)


スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)