真・恋姫夢想【凡将伝Re】5

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300 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2023/05/15(月) 19:40:43.90 ID:+mgD/ox/0
ぎり、と歯を食いしばり黄忠は陸遜を睨みつける。

「この……!
卑怯者!娘は関係ないでしょう!」

「笑止千万、とはこのことですねぇ。
貴女は何を言っているのですか?私たちはこれから殺しあうのでしょう?
 だったら何をすれば敵将の心を折れるか、とかは当たり前の布石です」

「……なるほどね」

ハッタリであろうと断じようとする。
だが、その黄忠に孫権が口を開く。

「言っておくけどね。うちの子は優秀よ?
厳戒態勢にある後宮に馳せ参じて玉体を守護するくらいには穏行も、武も、ね」

そう。周泰は警戒が厳しい禁裏に単身踏込み、玉体を守りきったのだからして。
その実績は嘘偽りないものである。
虚実混ぜる陸遜の言を見極めようとしていた黄忠。だからこそ、真実しか話さない孫権の言葉に項垂(うなだ)れる。

「さて、問うわ。正統なる漢朝に降るや否や。
 と言っても貴方達には言葉が届かないかもね。
 だからもっと卑近な例で問いましょう。
 女としての貴女、武将としての貴女、そして母としての貴女。
 一体、どの貴女が決断するのかしらね」

くすり、と孫権は笑う。

「母としての貴女、武将としての貴女に言っておくわ。今貴女が抱えている苦しみ。無辜の民を死地に追いやることを理解しているのでしょう?
 だって、貴女はとっても理性的だものね」

黙り込む黄忠に優しく孫権は微笑む。

「荊州に帰ってきなさいな。孫家は貴女を将として抱える準備があるわ」

当然、娘の助命もしてあげる。
住み慣れた荊州。そして動乱に巻き込まれた幽州。どちらで娘と共に生を歩むのかしら、と。

「じ、時間を……」

苦しげに口に出したのは時間稼ぎ。或いは逃避の一言。

「いいわよ。明日の払暁まで待ってあげる」

くすくす、と笑う孫権に場が支配されている。
その事実に歯噛みしながらも黄忠は。




そして、襄平は日の出を合図に無血開城するのであった。

攻めるは心。そして戦わずにして勝つ。
孫子の兵法の、つまりは真髄であった。
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