マイティ・ソー「神と呼ばれた男」

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1 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 21:55:39.28 ID:VK39oSdq0

ソー・オーディンサン「ようし、もう一度乾杯だ!グラスを掲げよ!」スッ

勇敢なるヴォルスタッグ「我らが全能の父オーディンに!」

颯爽たるファンドラル「その息子ソーに!」

容赦無きホーガン「そして我らがアスガルドと……」

レディ・シフ「この地、ミッドガルドに!そしてなにより……」

ロキ・ラウフェイサン「……我らの友情に」

 「「「かんぱぁ〜〜〜〜〜い!」」」

 \ガシャ〜〜〜ン!/

 「「「ワーーーッハッハッハ!」」」グビグビ

 「「「もう一杯!」」」ガシャーーーン!


店員「お客さん!何度も言ってんじゃないスか!飲み干す度に床にジョッキ叩きつけるのやめてくださいヨォ!」

ソー「細かいこと言うな人間よ。これがアスガルドの流儀だ」ワッハッハ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1656680138
2 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:01:29.88 ID:VK39oSdq0
このSSは「マイティ・ソー」と、とある日本の漫画のクロスオーバー作品ですが、「マイティ・ソー」のキャラクターを大雑把に知ってさえいれば問題なく読めるようになっております
楽しんでいただければ幸いです
3 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:03:47.59 ID:VK39oSdq0
ファンドラル「しかしミッドガルドのジパングに来るのは何千年ぶりかしれんが、随分と楽しい国になったものだな」

ヴォルスタッグ「ウム、かつては住民と同じく食い物もか細かった。それが今やこれほど機知に富んだ食文化が育っているとは!やはりミッドガルドは面白い!」モグモグ

ホーガン「これが東洋の神秘よ」ニタリ

シフ「たしかにこの『オデン』とやらは味が染み込んでいて美味しいわ。ニホンシュも渋くてイイ」

ロキ「……」

ソー「どうした弟よ。宴会の場でふてくされるのはお前の常だが今日は一段とヒネておるな」

ロキ「当然だ!お前達こんなことしていていいのか!?」

ファンドラル「なにが?」

ロキ「我々がミッドガルドに居るのはオーディンに追放されたからだ!ソーの傲慢で尊大な態度を改めるため、謙虚さを学んでこいと追い出されたのを忘れたか!」

ヴォルスタッグ「もちろん忘れていないとも。あ、店員さん、ダイコンとチクラとコンブとタマゴとドテヤキ追加でお願いします」

ロキ「食っとる場合かァーッ!ソーの傲岸不遜の態度を改めねば我らはアスガルドに帰れんのだぞ!それなのになぜイザカヤなどという場で飲み食いしているのだ!」

シフ「ロキの言い分にも一理あるわね」モグモグ

ロキ「ホッペ一杯にヤキトリ頬張りながら言っても説得力ないぞ!」

ソー「弟よ心配するな。食べ終わったらちょちょいっとなんかそれっぽいことやってさっさと帰ろう。父上にはペコペコしときゃ誤魔化せるさ。オッサンが喜びそうな土産でも持ってきゃコロっとほだされるって」

ロキ「全能の父をむちゃくちゃ言うな貴様……」
4 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:05:29.93 ID:VK39oSdq0
店長「お客さん外国の人かい?さっきからジョッキをばんばか割ってるって聞いたが」

ソー「おお、店の長か。そなたには礼を言わせてもらおう。随分と楽しませてもらっているぞ」

店長「そいつは良かったが……ジョッキ代は弁償してもらうよ。それにたらふく飲み食いしてるようだがちゃんと金はあんだろうね」

ホーガン「これで足りるか?」ドサッ

店長「ゲッ……! き、金の延べ棒!」

ホーガン「あいにく持ち合わせはこれだけしかないのだ。足りぬのならツケにしてほしいのだが」

店長「と、とんでもない!この土地一帯が買えらあ!ありがとうございます!」

 ヴォルスタッグ「なあ、ホーガンっていつもあれ持ち歩いてるのか?」

 ファンドラル「だとしたらだいぶアホだな」

店長「お客さん達、もしかして『十番勝負』を見にきたのかい?」

ロキ「じゅうばんしょうぶ?なんだそれは」

店長「この近くで『横綱 播磨灘(はりまなだ)』が会場設けて相撲やってんだよ。年齢国籍経験問わず誰でも横綱に挑戦できるって興行さ」

シフ「スモー……」

店長「簡単に言うとだね、日本で一番強い相撲取りが『我こそはってヤツがいるならかかってこい!』ってやってんだよ」

ソー「ホーガン、ヨコヅナとは何だ?」

ホーガン「このジパングの……いや、日本の国技である相撲において最高位であり……“神”と呼ばれる存在だ」


ソー「……ほう」ニヤリ
5 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:10:34.55 ID:VK39oSdq0

 \ワイワイ/ \ガヤガヤ/ \ザワザワ/

実況〈さあコチラは『播磨灘十番勝負』会場です!屋根もない晴天の下に設けられた土俵に溢れんばかりの観客が押し寄せています!〉

実況〈この十番勝負は十日間、横綱播磨灘が誰からの挑戦も受けて立つという異例の興行であります!〉

実況〈年齢、経験不問。横綱はいかなる挑戦も受け付ける所存ですが、七日目の本日、挑戦者はピタリと止まってしまいました〉

実況〈無理もありません。播磨灘はまさに鬼のような強さ!横綱に昇進してから一度として土俵を割っていないのです!〉


 横綱 播磨灘「ふん!ふん!」バシィ!バシィ!

実況〈挑戦者を待つ横綱、一人黙々とテッポウをして(※)身体を温めています〉

 ※テッポウ・・・丈夫な柱に対して行う突っ張りの練習

実況〈無敵の横綱に挑む者は現れるのでしょうか。もはや名乗りを上げるのは辞世の句を詠むと同義。この興行も七日目で中止となるのか――〉

実況〈――!……い、いや!挑戦者です!土俵への花道に現れた影が……六つ!?〉


ソー「我こそは全能の父オーディンの息子にして雷の神、アスガルドの皇子ソー・オーディンソン!ヨコヅナハリマナダ!我はそなたに挑戦しようぞ!」

 \ザワザワ……/ \ナンダナンダ……?/ \ナンダアイツ……/

実況〈金髪の欧州人だ!筋骨隆々の男が名乗りを上げた!プロレスラーでしょうか!?それともボディビルダー!?いずれにせよガタイと態度は大きいようです!〉

播磨灘「ぬ……」


ヴォルスタッグ「あやつがヨコヅナか。ただのでぶっちょにしか見えんな」

ロキ「鏡?」

ファンドラル「ソーよ、スモーのルールは知っているのか?」

ソー「そんなもの知らん」

ファンドラル「やっぱソーだよな」

ホーガン「まず土俵の中央に立ち会い、気が高まったところで土俵に手をつくのだ。両者が手をついた瞬間が始まりの合図となる。土俵……あの円の外に出るか、土俵に足の裏以外がついたら負けだ」

ホーガン「ちなみに土俵は“神の降臨する場”とも言われる神聖な場だ。不敬は許されんぞ」

シフ「やけに詳しいわね」

ホーガン「日本のことは任せてくれ」ニヤリ
6 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:12:18.10 ID:VK39oSdq0
ソー「ようし」ザッ

実況〈えっ……!? ふ、服のまま土俵に上がったぞ!く、靴は脱いでいるが服を着たまま相撲を取る気か!?〉

ソー「ジパングの民よ!これよりこのソー・オーディンソンがスモーチャンピオン、ヨコヅナを成敗する様をお見せしようぞ!」

 \ザワザワ……/ \あいつ正気か?/ \でも面白そうだぞ/

ソー「今ここに、このドヒョーに、真の神であるソーが参上した!一介の人間に過ぎぬ偽りの神に鉄槌を下してくれる!」

 \ワハハハハ!/ \言うじゃねえか余所モン!/ \がんばれー!応援してるぞー!/

実況〈こ、このソーと言う男、観客に手を振っている!まるで初っ切り(※)だ!これで本当に横綱に挑むつもりなのか!?〉

 ※初っ切り…取り組みの前に、相撲の禁じ手をコミカルに紹介する見世物。力士が客席に手を振ったり、行司を抱え上げたりと面白おかしいモノ

ホーガン「ソー! 礼儀を……」

行司「き、君!どういうつもり――」

播磨灘「かまわん行司。名乗りも要らん。やらせたる」

行司「っ……」

シフ「ソー、相手はミッドガルドの純粋な人間よ。勝負になるわけがない。大人が子供をいたぶるようなマネはアスガルドの王子にふさわしくないわ」

ソー「ミッドガルド人といえど神と称えられている男だ。問題ない」

シフ「しかし……」

ロキ「兄上、スモーは始まる前にドヒョーに塩をまいて清めるのがならわしだ。これを使うといい」スッ

ソー「そうか。これをまけばいいんだな」ムンズ バサァーッ

ソー「さあ、これでいいだろう。早くやろうヨコヅナ」

播磨灘「……相撲とったことあるんか?」

ソー「霜の巨人との力比べなら幾千とこなしてきた。ジパングで神と呼ばれる男の強さ……見せてもらおうぞ」

播磨灘「おのれ、何様のつもりじゃ」

ソー「神様だ」
7 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:14:50.00 ID:VK39oSdq0
播磨灘「……」トン

実況〈播磨が土俵に手をついた!やる気だ!服を着たままの男を相手に相撲を取る気だ!〉

行司「見合って見合って! はっけよ〜〜〜い……」

ソー「本物の神の力をお見せしよう」スッ……

 トンッ

行司「のこった!」

ソー「いくぞ!」グワ

播磨灘「うおおおお!」

 >ブワシイィィィイイイイ!<

ソー「!?」グラァッ

 実況〈あーーーっと!播磨の強烈な張り手ーーー!」

 ファンドラル「ば、バカな!?ソーが怯んだ!?」

播磨灘「半端な気持ちで土俵あがりおって……!」ガシッ

 \グワアッ!/

ソー「!」

 実況〈播磨、金髪男を頭上に持ち上げたー!〉


播磨灘「相撲を舐めんなーーーーー!」

 >ドワアアッ!<


 実況〈放り投げたァーーーーー!〉
8 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:24:21.31 ID:VK39oSdq0
ソー「っ……っ!……うく……う……」


行司「播磨灘!」

 \ワアアーーーーー!/ \ハリマー!/ \ニッポンイチー!/

実況〈お聞きくださいこの大歓声!不敬極まり無い謎の挑戦者をくだした横綱への大歓声!観客は大興奮です!〉

ファンドラル「ま、まさか……ソーを抱え上げて放り投げるなんて!ありえん……!」

シフ「アスガルド人の肉体は人間よりも遙かに密度が高い。ましてやソーは最強の戦士……それを……」

ロキ「……」

ソー「っ……お……俺が負けた……? オーディンの息子であるこの俺が……?」ワナワナ

ヴォルスタッグ「おのれ!よくもソーを!この勇猛なるヴォルスタッグが仇を――」

ホーガン「よせヴォルスタッグ。一人の力士が相撲を取るのは一日に一度。横綱に挑むのなら明日挑むのだ」

ヴォルスタッグ「ぬゎんと!一日一善というヤツか!」

ロキ「お前意味わかってねーだろ」

ホーガン「横綱、明日も挑戦していいだろうか?今度はこのヴォルスタッグが挑む」

播磨灘「かまわん」フン

ホーガン「感謝する」ペコリ

ファンドラル「ホーガン、やけにジパングに詳しいな」

ホーガン「昔色々あってな。海軍に所属していたこともあるし、人間界と魔界の命運をかけた格闘大会のために戦士を招集したりもした」

ファンドラル「貴様何モンだオイ」
9 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:25:49.85 ID:VK39oSdq0
ファンドラル「ソー、一体なにがあったんだ。酒がまだ抜けてなかったのか?だがお前は千鳥足でもビルジスナイプで大陸横断レースに参加したくらいだろうに」

ソー「……わ、わからん……なぜ負けたのか自分でもわからんのだ」

シフ「あのハリマナダとかいうヤツ、人間ではないやも……巨人の一族か?もしくはガンマ爆弾で変異した超人とか」

ソー「……ええいっ!何か姑息な手を使ったに違いない!神聖なる戦いに不敬を働きおって!ハリマナダゆるすまじ!」

ホーガン「不敬はお主だ」

ヴォルスタッグ「気を落とすなソー。誰にでも不調の時はある。我も空腹に耐えかねて牛肉ホルモンを刺身で食べた時はちょっとお腹痛くなったし」

ロキ「あのハリマナダという男……どこか兄上に似ているかもしれんな」

ソー「!」

ファンドラル「なにを言うロキ。あの修羅のような男がソーと似通っていると?」

ロキ「傲岸不遜な態度、荒れ狂う闘神の如き強さ、そっくりだと思わんか?そんなヤツに力勝負で負けたとあっては悔しくてしょうがないだろうて」

ファンドラル「……まあ、言われてみれば……」

ホーガン「何もかも自分の思い通りにならんと気が済まなそうなトコロとかな」

ソー「冗談はオーディンの鼻毛だけにしてくれ!このソーがあんな傲慢男と似ているか!明日ヴォルスタッグがヤツを倒したら、その次の日は再び我が相手をしてくれよう!二日続けて敗北の汁をすすらせてくれるわ!」」

ロキ「……」
10 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:56:35.67 ID:VK39oSdq0

 ――・・・・・・

実況〈さあ今日も今日とて播磨灘十番勝負八日目!溢れんばかりの観客が集まっていますが、今日も挑戦者は現れるのでしょうか!〉

実況〈昨日謎の金髪男を軽々と下した播磨灘、今日はマトモな取組相手が現れるのでしょうか!〉

実況〈!……あーっと、土俵への花道に人影が現れたぞ!それもかなりの巨漢のようだ!〉

ヴォルスタッグ「ワッハハハハハ!勇猛なるヴォルスタッグが馳せ参じたぞ!」

実況〈昨日の六人組の一人だ!金髪男と違ってちゃんと廻し姿で現れたぞー!〉

ファンドラル「ヴォルスタッグ、そのカッコはなんなんだ?」

ヴォルスタッグ「礼をわきまえようと思ってな。スモーファイターはこの格好で戦うのだ。どうだ、似合うだろう?」

シフ「多分アスガルド人で一番似合ってるわ」

ホーガン「力士はマゲを結わえ髭を剃るものなんだがな……まあ廻しを巻いただけでも御の字か」

ソー「友よ、明日は我がハリマナダと戦うのだ。あんまり痛めつけると明日の戦いを投げ出されるやもしれん。加減してやれよ」

ヴォルスタッグ「それは出来ぬ相談だな。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすのだ」

ソー「わははは、良いだろう。ならば気にせず存分にやるがいい」

実況〈ボルスタッグと名乗る巨漢が土俵に向かいます。溜まり(※)の播磨灘とにらみ合う〉

 ※溜まり・・・土俵下、取組を待つ力士が待機する場所

播磨灘「ふん、ガタイは幕内級か」

ヴォルスタッグ「貴様との戦いもこのヴォルスタッグの偉大なる戦歴の一つに加えてくれよう」
11 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:57:52.10 ID:VK39oSdq0
 呼び出し「に〜〜〜し〜〜〜、ボルスタ〜〜〜ッグ〜、ボルスタ〜〜〜ッグ〜」

 呼び出し「ひが〜〜〜し〜〜〜、播磨〜〜〜灘、播磨〜〜〜灘」

ロキ「ヴォルスタッグ、清めの塩だ」スッ

ヴォルスタッグ「礼を言うぞロキ」クイッ プッ

実況〈両者が土俵に上がり、塩を振りまきます〉

播磨灘「見てくれだけは一丁前やな。ヒゲも剃ったら合格や」

ヴォルスタッグ「この髭は戦士としての力強さの象徴だ。そして男の証。剃り落とすなどできるものか」

播磨灘「狸が。化けるなら尻尾も隠さんかい」

ヴォルスタッグ「!……このヴォルスタッグを狸と?わっはははは!面白い、気に入ったぞ」

播磨灘「鍋にして食うたる」スッ……

実況〈播磨が構えた。ボルスタッグも姿勢を低くする。手をついたら開幕だ!〉


 \ダンッ/

播磨灘「うおーーー!」

ヴォルスタッグ「アスガルドのためにーーー!」

 >ドカーーーン!<

 実況〈頭と頭がかち合ったー!〉

  >ガシィッ!<

 実況〈両者廻しを取った!播磨が上手、ボルスタッグが下手だ!〉
12 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 22:59:05.33 ID:VK39oSdq0
ヴォルスタッグ「ぐっ……!……人間にしては強い。だがこのヴォルスタッグに力で敵うと思うな!」ズザザザザーー!

 実況〈ボルスタッグが押す!押す!播磨が土俵際まで押し込まれたー!〉

ヴォルスタッグ「うおおおおー!」

播磨灘「っ……!」グググ

 実況〈耐える播磨!土俵いっぱいで俵に足がつく!さらに押すボルスタッグ!〉

ヴォルスタッグ「どおりゃあーーー!」グググ

播磨灘「……!」グググ

ヴォルスタッグ「っぐ……!ぐぐ……な、なぜだ……これ以上進まん……」グググ

播磨灘「……おのれはハリボテや。戦いっちゅうのは見てくれだけやない。中身が伴わな勝てんのじゃ!」ズザザザザー!

ヴォルスタッグ「!」

 実況〈播磨が押し返す!俵まで追い詰められながら、土俵中央まで押し戻したー!〉

 シフ「ま、まさか!ヴォルスタッグを真正面から押し返した!?」

 ファンドラル「あのハリマとかいうやつ、本当に人間か!?」

 ソー「……なんと」
13 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:01:06.35 ID:VK39oSdq0
ヴォルスタッグ「お、おのれ……勇猛なるヴォルスタッグの本気を見せてくれよう!」グッ!

ヴォルスタッグ「……!?」グゥッ!

ヴォルスタッグ(び、ビクともせん……なぜだ……まるで地に根を張っているかのごとく動かん!)

播磨灘「見てくれで強さを誇るな!」グイッ!

ヴォルスタッグ「!」

播磨灘「おのれの力一つで誇れーっ!」グワアッ!

 実況〈吊り上げた!ボルスタッグの巨体を播磨灘が持ち上げたーーー!〉

播磨灘「失せろーーー!」グワオ!

 \ダァーーーン!/

ヴォルスタッグ「がっ……!」


行司「播磨灘!」


 \ワアーーーーーーーー!/

 実況〈これが横綱だ!これが播磨灘だ!と言わんばかりに吊り上げた播磨!(※)土俵下まで放り投げられたボルスタッグ、まだ何が起こったのか飲み込めていない様子だ!〉

  ※吊り上げ・・・相手の廻しを両手で掴んで持ち上げる技

ファンドラル「信じられん……あのヴォルスタッグを放り投げただと……」

ロキ「間違い無い。あのハリマナダという人間は巨人の一族の末裔だ。じゃなきゃこんなことありえない」
14 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:02:22.69 ID:VK39oSdq0
ヴォルスタッグ「……ふっ……ふふふ……」

ヴォルスタッグ「わーーーっはっはっはっは!いやはや参った!このヴォルスタッグがよもや投げ飛ばされるとは!完敗だ!ハリマナダ、おぬしの強さは詩となり、人々に永劫語り継がれるであろう!」

播磨灘「ふん、次やる時は髭も剃ってこい」

ヴォルスタッグ「ああ!その時こそ勝利するのはこのヴォルスタッグだがな」

播磨灘「ぬかせ」フッ

 \パチパチパチパチ/ \パチパチパチ/ \パチパチパチ/

実況〈激しい取り組みを見せてくれたボルスタッグへ観客から拍手が送られます。ボルスタッグを含む外国人六人組が十番勝負会場を後にします〉


シフ「ソー、明日もう一度挑戦すると言っていたけど……本当に再戦するつもり?もしオーディンの息子たるものが二度も同じ相手に負けたとなれば……」

ソー「……俺は――」

ファンドラル「待ってくれソー。明日は我に任せてくれぬか」

シフ「あなたが?体格差は歴然よ。アリが象に噛みつくようなものだわ」

ファンドラル「体格差などとくだらんもの、我らが今まで何度ひっくり返してきたと思っている。霜の巨人に比べればあのハリマとかいう男など赤子も同然よ」

ソー「……ファンドラル、お前の華麗な戦いをヨコヅナの目に焼き付けてやれ」

ファンドラル「心得た」ニッ
15 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:04:33.28 ID:VK39oSdq0
記者「ちょ、ちょっと待ってくれ君達」タタタ

ホーガン「なんだ?定命の者よ」

記者「私はスポーツ新聞の記者だ。播磨に挑む謎の六人組に取材がしたい。話を訊いてもいいかね?」

ファンドラル「スポーツしんぶんのきしゃとはなんだ?」

記者「相撲の内容や結果を多くの人に伝える仕事をしているんだよ(彼らの母国にはスポーツ新聞がないのだろうか?)」

ファンドラル「なるほど、ジパングの吟遊詩人か」

シフ「我らに訊きたいこととは?黄金の林檎の栽培方法か?」

記者「そうだな、まずは君達はなぜ播磨に挑戦する?外国の人間である君達が相撲の神である横綱に無謀にも挑戦する理由が知りたい」

ヴォルスタッグ「知れたこと。戦いの場があればいかなる時でも逃げぬ。それがアスガルドの戦士だ」

記者「聞いたことない国だな……小さい国なのかな?日本語は堪能だが」

シフ「アスガルドの民はミッドガルドのあらゆる言語に通じている。当然の教養だ」

ソー「詩人よ。お前はスモーについて詳しいのだな?」

記者「あ、ああ。伊達に何十年も取材をしていないよ」

ソー「俺はスモーについて何も知らない。教えてくれないか。スモーを学びたいのだ」

ロキ「!?」

記者「そうか……なら相撲の歴史書を渡そう。私のバイブルの一冊だ。あと相撲の決まり手八十二手の指南書とルールブックも。それから漫画ののたり松太郎とバチバチと火之丸相撲」スッ

 ヴォルスタッグ「この男、常にあんなに本を持ち歩いているのか?」

 ファンドラル「だとしたらだいぶアホだな」

ソー「感謝する」

記者「君達、どこかのホテルに宿泊しているのか?」

ホーガン「野営には慣れているからな。では失礼する」ザッ

記者「つ、つまり野宿してるってことか……なんてストイックな連中だ。彼らなら……もしかしたら播磨に土をつけれるかもしれん」
16 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:06:19.42 ID:VK39oSdq0

 ――・・・・・・

実況〈さてさて!播磨灘十番勝負九日目!会場は連日満員御礼であります!〉

実況〈鬼の播磨に挑む力士はもはや残っていないと思われましたが、二日前より謎の外国人六人組が二日続けて横綱に挑みました!〉

実況〈果たして今日も彼らは現れるのでしょうか!そしてどんな取り組みを見せてくれるのでしょうか!〉

 <ザッ

実況〈あーっと!花道に六つの人影が!やはり今日も現れた!黒船六連隊だー!〉

ファンドラル「お待たせしたなジパングの淑女諸君。アスガルドが誇る勇士、この颯爽たるファンドラルが美麗極まる戦いを魅せてくれようぞ」

実況〈挑戦者はファンドラルと名乗る男だー!しかし細身だ!これほど線の細い男がかつて土俵に上がったことがあったでしょうか!廻し姿に金髪金髭の力士が歴史上いたでしょうか!〉


記者「無茶だ。あんな細い身体で播磨とやるなんて……マッチ棒のようにへし折られるのは目に見えている」

ヴォルスタッグ「吟遊詩人よ、案ずることはない。ファンドラルの軽業はアスガルド一だ。指一本触れることもできぬかもしれんぞ」

記者「……なるほど。播磨が横綱に昇進する前、最後に黒星を喫した相手は身軽さと技術を武器とした力士だった。ファンドラルは播磨にとって相性の悪い相手と言える。もしかするともしかするかも」

ソー「相撲の歴史において身軽さが武器の小兵力士は決して少なくない。栃ノ海、鷲羽山、旭道山、寺尾、そして舞の海……彼らは技と速さで体格差を覆してきた。ファンドラルも同じだ」

記者「き、君……やけに詳しくなったね。若干ミーハーっぽいのは否めんが」

ソー「お前にもらった書に加え、会場の観客が相撲に関する書物をいくつか読ませてくれた。付け焼き刃ではあるが色々学んだのさ」
17 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:08:35.42 ID:VK39oSdq0
実況〈さあ、ファンドラルが土俵に向かいます〉

ロキ「清めの塩だ。景気よく撒いておけ」

ファンドラル「うむ、すまんな」グッ バッ

実況〈天下の横綱播磨灘と金髪のスレンダー力士が土俵上で相まみえます!こんな取り組みは今までもそしてこれからもおそらく見れないでしょう!〉

播磨灘「おのれ、今の内に暇つぶす方法考えとけ」

ファンドラル「なんの話だ?」

播磨灘「五体満足で土俵を降りられん。長い入院生活になるで」

ファンドラル「これは驚きだな。アンタなら相手を殺すつもりでかかってくると思ったが、病院送りで済ましてくれるのか」

播磨灘「命の取り合いすんのは力士相手や。おのれのような奴殺したら名がすたるわ」

ファンドラル「言ってくれるね。だがアンタにゃ俺のマワシを取るのは無理だ。影を追うことしかできんだろうよ」

行司「あいやファンドラル!ファンドラル!」

行司「こなた播磨灘!播磨灘!」

 実況〈さあ、両者が土俵中央で立ち会います!〉

行司「見合って見合って……」

ファンドラル「……」

播磨灘「……」スッ

実況〈播磨が先に手をついた!〉
18 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:09:25.79 ID:VK39oSdq0
 \トンッ/

播磨灘「うおおおー!」グワ!

ファンドラル「ホッ!」ピョイン

播磨灘「!」

 実況〈あーっと!播磨の突進をファンドラルがジャンプで飛び越えたー!〉

 記者「八艘跳びだ!(※)まるで跳び箱の様にかわした!あんなのは見たこともない!」

  ※八艘跳び・・・立ち会いと同時に大きく横に飛び上がり、相手の突進を躱して回り込む技。

播磨灘「おんどりゃ……!」グオ!

ファンドラル「猪の相手は慣れてるんでね」ヒョイ

 実況〈まるで闘牛だ!播磨が再度突撃するもファンドラルは軽くいなしている!〉

ファンドラル「さあ、私はここだぞ」クイクイ

播磨灘「このガキャァー!」グオア!

ファンドラル「颯爽たるファンドラルの戦いは、蝶のように舞い……」ヒョイ

播磨灘「うおおー!」グワア!

ファンドラル「花のように笑う」ヒョイ ニヤ

 実況〈播磨の激烈な攻めを軽々しくいなすファンドラル!さしもの播磨も息が上がってきた!〉
19 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:10:39.75 ID:VK39oSdq0
播磨灘「……なぜ攻めてこん。勝つ気ないんか!」ハアハア

ファンドラル「お前はソーに恥をかかせた。彼はアスガルドの王子にして我らの盟友でもある。まずはお前に屈辱を味あわせる。そして体力を失ったところで地面に組み伏せてやるさ」

播磨灘「しょうもない相撲とりくさって……!」グオ!

 実況〈播磨、渾身の突進!〉

ファンドラル「馬鹿の一つ覚えを――」

播磨灘「ぼけー!」グワ!

ファンドラル「!?」ガポー

 実況〈の、のど輪だ!(※)かわされる瞬間にファンドラルの喉を掴んだ!〉

  ※のど輪・・・相手の首(喉)をわしづかみにする技

播磨灘「おんどれがやっとるのは曲芸じゃ。土俵でヘラヘラしおって。力士の足下にも及ばんわ!」

ファンドラル「うぐっ……!」

播磨灘「出直してこいーーー!」

 >ブアシイィッ!<

ファンドラル「っ!……――」

 ドシャーッ>
20 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:13:29.90 ID:VK39oSdq0
 実況〈きょ、強烈ーーー!のど輪からの凄まじい張り手!ファンドラルが大きく吹っ飛び、客席に叩きつけられたー!〉

播磨灘「フン!」

 \ワアアアーーーーー!/ \ウオオオーーーー!/ \ハリマーーー!/

 記者「……強い。苦手としていた技巧派を相手にこの戦い……もはや播磨に弱点は無い。完全無欠の横綱だ。播磨は戦いの神だ!」

 ソー「……」

ファンドラル「ゲホッ……ゲホ……ま、参った。ダークエルフですら捕らえられなかった我が足捌きを……これがヨコヅナという男の実力か」

播磨灘「土俵は狭い円の中で戦うモンや。おのれがいくら飛び回っても所詮カゴの中の鳥じゃ。やるならサーカス小屋行け」

ファンドラル「フフ……返す言葉も無いよ。スモーとは奥の深いものなのだな。そなたの強さに敬意を表するよ、ハリマナダ」

播磨灘「ふん」


シフ「あのハリマナダという男、力だけでなく瞬時の判断力と技術も優れている。アスガルドの戦士に劣らない武人だわ」

ヴォルスタッグ「よもやミッドガルドにあんな戦士がいるとはな!やはり人間は面白い!」

ソー「詩人よ」

記者「!……な、なんだね」

ソー「ハリマナダの戦いの歴史を知りたい。学べる書物はあるか?」

記者「そうだな……播磨が横綱に昇進して以降の取組なら社にVHSが残っているハズだ。見るかい?」

ソー「助かる」

ホーガン「ソー、お主……横綱に挑むのだな」

ソー「戦いはまず相手を知ることから始まる。ヤツは要塞だ。攻城戦には下調べが必要だからな」

ロキ(……今まではただ力任せに相手をねじ伏せてきたソーが……戦士として、いや王として成長しつつあるというのか……)
21 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:33:40.95 ID:VK39oSdq0

 ――・・・・・・

 \ワイワイガヤガヤ/ \ドヤドヤオイオイ/ \ヤイヤイザワザワ/

実況〈さあーーー!播磨灘十番勝負最終日!晴天の下の土俵での熱戦を一目見ようと会場に入り切らないほどの観客が押し寄せています!〉

播磨灘「……」

実況〈腕を組み、無人の花道を睨み付け待ち続ける播磨!果たしてこの土俵へ向かう花道に……いやさ処刑台への花道に勇者は現れるのでしょうか!〉


記者「……昨夜ソーを会社に案内して播磨の試合を見せたが、いつまでも見終わらないから先に帰ってしまった。あの後一体何時まで見続けていたのだろう」

記者「いや、そもそもなぜ今になってあれほど播磨を研究し始めたのだろうか。まさか……」

 ザッ……

実況〈!……花道に人影が!挑戦者だ!挑戦者が……!?〉


ソー「……」


実況〈金髪の男だ!三日前に突然現れ、自らを神と名乗ったソーという金髪の男だ!〉

実況〈だが三日前とはまるで別人だ!廻し姿、金髪を髷に結い、髭も剃り落としている!服のまま土俵に上がった三日前とは全然違う!〉

実況〈その後ろには仲間の五人組!二日前に挑んだボルスタッグと昨日のファンドラルを含む仲間を引き連れて、ソーが土俵への花道を前進します!〉
22 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:35:18.24 ID:VK39oSdq0
記者「ちょ、ちょっと待ったソー!一つの場所(興行)で同じ力士同士は二度取組まない。君は三日前に一度播磨に挑んでるだろう」

実況〈記者の男性が花道を歩くソーに物言いです〉

ソー「詩人、三日前に土俵に上がったのは力士ではない。土俵と力人(ちからびと)への敬意も無く、無礼極まり無い愚者だった。今日、俺は力士“雷皇”として土俵に上がり、横綱に挑む」

記者「らいおう……だと」

実況〈雷皇という四股名の力士として播磨に挑むつもりだ!以前とは生まれ変わったという意思表示か!〉

播磨灘「ほう」ニヤ

記者「し、しかしそんな無茶な……」

ソー「横綱、俺の……雷皇の挑戦を受けてくれるか?」

播磨灘「受けて立つ!わしは日下開山播磨灘や!(※)」

 ※日下開山(ひのしたかいさん)・・・横綱のこと


シフ「まさかソーがあんな格好で……それも髭まで剃るとは。少し前までは考えられなかったことだわ」

ファンドラル「ああ、『なぜ俺がミッドガルドのしきたりに合わせねばならんのだ』とか言って廻しなんか巻くハズがなかったものな」

ヴォルスタッグ「髭を落とすなどもってのほかだ」

ホーガン「相撲を……横綱を見て何かを学んだのだろう。だからこそもう一度横綱に勝負を挑むのだ」

ロキ「だがアスガルドの王子たるものが二度も……それも人間なぞに負けたとあってはしめしがつかん。もしこの戦いにソーが敗れるようであれば……次期王の座を辞するべきだと思わないか?」

ファンドラル「!……何を言い出すロキ!」

ホーガン「……」

ヴォルスタッグ「……案ずることはない。ソーは勝つ。必ず!彼はアスガルドの王になる男だ!」

シフ「ロキ、あなたソーが負ければいいと思っていない?」

ロキ「さあ」
23 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:36:01.95 ID:VK39oSdq0
呼び出し「に〜〜〜し〜〜〜〜〜、らい〜〜〜おう〜〜〜、らい〜〜〜おう〜〜〜」

呼び出し「ひがぁし〜〜〜〜〜、はりま〜〜〜なだ〜〜〜、はりま〜〜〜なだ〜〜〜」


実況〈さあ、この一番!〉

 \ワアアアアアアッ!/

播磨灘「……」グッ…… \ズズーン!/

実況〈播磨の見事な四股!横綱の偉大さを見せつけるかのような強烈な四股だ!〉

ソー「……」グッ…… \ズズーン!/

実況〈雷皇も四股を踏む!あの無礼厚顔な男がこれほど見事な四股を踏むようになるとは!〉

 記者(四股は見た目以上に難しい動作だ。実際にやってみると重心移動に苦労する。それをあれほど綺麗に踏めるとは……)

播磨灘「……」グッ バサァー

実況〈播磨が塩を撒く〉

ロキ「兄上、これを。清めの塩だ」スッ

ソー「ロキよ、二度も俺を騙せると思うな」

ロキ「!」ドキ

ソー「だが……お前の悪戯のおかげで己の愚かさに気付いたとも言える。ある意味お前には感謝せねばならんな」

ロキ「な、なんのことだか私にはサッパリ……」

ソー「フッ……」グッ バサァー

実況〈雷皇も豪快に塩を撒いた!さあ、いよいよです!〉
24 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:39:37.40 ID:VK39oSdq0
シフ「ロキ、ソーの言っていた悪戯とはなんのこと?」

ロキ「い、いや、昨日兄上が寝てる時オデコに肉って書いたことかな〜?」

ファンドラル「あ!こ、この塩……ロキが清めの塩だとソーに渡した塩は『サダ・ヤスケーの塩』じゃないか!」

ロキ「ゲッ!」

ホーガン「サダ地方のヤスケー海で取れる塩か。たしかアスガルド人が少しでも触れれば弱体化し、ミッドガルド人と同じくらいの肉体強度になるという……」

ヴォルスタッグ「まさかロキ、三日前のソーとファンドラル、そしてこのヴォルスタッグが戦った時に渡したのはこの塩か!」

ファンドラル「どうりで我々が人間に力負けするわけだ!元来アスガルド人はミッドガルド人より何倍も強靭な肉体なのだからな!」

ロキ「い、いや〜、どこかで間違って渡しちゃったのかな?はっははは……ま、まあそういうこともたまにはあらあな。ゆるしてちょ」

ファンドラル「ぜってーわざとだろ!」

シフ「ちょ、ちょっと待って。今、ソーは気付いていながら塩を撒いたわ。わかっててあえて人間と同じ肉体で戦うつもりなの!?」

ヴォルスタッグ「ぬう、ソーは公正な戦いを求める生粋の戦士とはいえ、あのハリマナダを相手に弱体化した身体で挑むのは無謀ぞ」

ホーガン「ソー……」
25 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:41:35.36 ID:VK39oSdq0
行司「本日、この一番にて千秋楽!」

 \ワアアアアアア!/ \がんばれー雷皇ー!/ \ぶっ潰せ播磨ー!/

実況〈土俵中央、播磨と雷皇が睨み合います!〉


播磨灘「……一丁前の顔つきになったな」

ソー「お前の傲慢な言動は鏡を見ているようだった。戦いに明け暮れ、力を見せつけることに喜びを感じる戦いの神……」

ソー「だがそれは間違いだった。お前は他の誰よりも“相撲”に敬意を持っている。誰よりも“横綱”であることに誇りを持っている。そこが俺とお前の違いだった。俺には……何かを敬う心などなかった」

ソー「お前は王だ。相撲という世界の王。俺に欠けていたものをお前はもっていた……俺は相撲とお前に敬意を表する。この数日で俺は多くを学んだ。三日前に土俵に上がった男とは別だと思え」

播磨灘「わかっとらんな。力士はごちゃごちゃ御託並べるモンやない。どっちが強いか、それだけや」

ソー「このソー・オーディンソン……雷皇として全力で戦おう。それが播磨灘……お前への礼儀だ」

 スッ……

播磨灘「受けて立つ。天下無双の横綱として」

 スッ……

実況〈見合って見合って……!〉


播磨灘「……」

ソー「……」


 タンッ
26 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:42:25.45 ID:VK39oSdq0
播磨灘「うおおおおおーーー!」

ソー「どあああああーーー!」


 >>ドカーーーーーン!!!<<


 実況〈両者の頭がぶつかったぁーーー!ものスゴイ炸裂音と衝撃が周囲に響いたーーー!〉

播磨灘「っ……!」

ソー「うおっ!」ガシッ

 実況〈速い!雷皇が上手を取った!〉

ソー「くらえぇーーー!」グワァ!

 実況〈上手投げ!〉

播磨灘「〜〜〜……!」グググ……

ソー「っ……!」グググ……

 \ダァンッ!/

 実況〈残した!播磨、雷皇の上手投げを耐えたー!〉

播磨灘「ぼけーーー!」グワァ!

 実況〈今度は播磨の下手投げーーー!〉

ソー「っ〜〜〜……!」グググ

播磨灘「このっ……!」グググ

 \ズダン!/

 行司「のこーった!のこった!」

 実況〈雷皇も残した!播磨の投げを耐え抜いたぁー!〉

 \ワアアアアアアアアアアアアア!/
27 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:43:43.14 ID:VK39oSdq0
ソー「はあ……はあ……」グッ……

播磨灘「はっ……はっ……」グッ……

 実況〈がっぷり四つ!播磨と雷皇、互いに廻しを掴んだまま機を狙う!〉

 実況〈一瞬でも隙を見せればやられる!その緊張感が二人の間に流れる時間を止めています!〉


 記者「雷皇は機をうかがっている……播磨を投げようと組んだまま虎視眈々と狙っている……」

 記者「だが播磨も同じだ。播磨の必殺『呼び戻し』(※)を繰り出す気だ……」

  ※呼び戻し・・・相手を自分の懐に呼び込み、反動をつけるように捻り返して豪快に放り投げる大技。
   大雑把に砕いて説明すると、組んだ相手の重心を右もしくは左に傾けさせた瞬間にひっくり返す。
   重心が動いた瞬間に捻って返しているため相手の身体が浮くほどの豪快な投げ技で、滅多に決まらないと言われている。


 ポツ…… ポツポツ……

 ザァーーー……

 実況〈雨が降り始めました。これも屋外での相撲ならではです〉

 実況〈両者、雨に打たれながらも廻しから手を放さない。がっぷり四つに組んだまま完璧な均衡を保っています〉
28 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:46:51.60 ID:VK39oSdq0
播磨灘「嘘やなかったな……三日前とは別人や」ハア…ハア…

ソー「父が俺に学ばせたかったのはこういうことだ。お前には感謝しているぞ播磨灘」ハア……ハア……

ソー「戦う相手に……そして自分と異なる文化に敬意を払う。この日本に来て俺は学んだ。俺は王として、戦士として、そして生きとし生ける者として成長できた」ハア…ハア…

播磨灘「小難しいこと抜かしおって。戦ってる相手に感謝するなんざ聞いたことないわ」ハア……ハア……

ソー「そうだな……まだ戦いの最中だ……オーディンの髭にかけて……俺はお前に勝つ!」

 >グワアァ!<

播磨灘「!」

 実況〈雷皇が吊り上げるっ!横綱の肉体を持ち上げ――〉


ソー「うおおおおおおおお!」

 グググググ……!

播磨灘「……!」

ソー「……!」

 実況〈――……つ、吊り上がらない!吊らせない!播磨、渾身の力で耐えるっ!〉

ソー「――っぶはぁ!……はあっ!はあっ!」

 実況〈耐え抜いたっ!雷皇の神の如き吊り上げに播磨が耐え抜いたーーー!〉
29 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:47:34.65 ID:VK39oSdq0
播磨灘「はあっ!はあっ!結局は嘘つきやったな……はあ……はあ……わしに勝つやと……大ボラ吹きおって!」グイッ!

ソー「っ……!……しまっ――」

播磨灘「300万年後に出直してこーーーい!」

 グワオォッ!

 実況〈出たぁーーー!播磨灘必殺の呼び戻しぃーーー!〉


 ――グ……!

播磨灘「っ……!?」

ソー「〜〜〜〜〜……!」

 グググググググ……


 実況〈――っ!?……ま、まさか……こんなことが……〉


 グググググググ……

 \ダァンッ!/

 行司「のこった!」

 \ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!/

 実況〈たっ、たっ……耐えたっ!鬼神播磨の必殺の呼び戻しをっ!雷皇が残したぁーーー!〉

 記者「あ……あり得ん……この世に播磨の呼び戻しを残せる者がいるなんて……」
30 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:48:29.30 ID:VK39oSdq0
 ザァーーーーー……

ソー「はあっ!はあっ!はあっ!」

播磨灘「はあっ!はあっ!はあっ!……このガキャ……」

ソー「ど、どうだ……耐えてみせたぞ……はあ……はあ……」

ソー「強すぎるというのも……考え物だな……お前は強すぎる。日本に並ぶ者がいない孤独な存在だ。だが……世界は広い。外の世界にはまだ見ぬ強豪はいくらでもいる……」ハアハア

播磨灘「……お前がその一人っちゅうわけか」ハアハア

ソー「そうだ。お互いに……世界の広さを知るべきだな。そして……より高みを目指そう」ハアハア


 ザァーーーーー……

 ゴロゴロ……

播磨灘「ふっ……横綱のわしに説教垂れるとはええ度胸やの」

ソー「こう見えてもお前より長く神をやっているからな」


播磨灘「御託はいらん!その身で受けろ!日下開山播磨灘の相撲を!」グオッ!

ソー「俺は負けん!俺は力人(ちからびと)!俺は雷皇!俺は……マイティ・ソーだ!」グアッ!


          カッ!

 \KRA-KOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOMMM!!!/
31 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:52:36.05 ID:VK39oSdq0
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
・・・
・・


 実況〈――……な……何が……一体何が起きたのでしょうか……一瞬理解できませんでしたが、どうやら土俵中央に雷が落ちたようです。がっぷり四つに組み合った二人のもとへ落雷したようです〉

 実況〈土俵上には誰の姿もありません。播磨も雷皇も……行司の姿もありません。黒焦げの落雷痕があるだけで……〉

 実況〈……あっ!〉


播磨灘「っ……」ムクリ


 実況〈播磨です!播磨が土俵脇で身体を起こしました!無事のようです!〉

 実況〈しかし雷皇と行司は……〉


ソー「――……ぐ……大丈夫か?行司よ」

行司「――……うう……あ、ああ……平気だ」


 実況〈無事です!雷皇も行司も無事です!〉

 \ワアアアアアアアアーーー!/

行司「……君、もしやあの状況で私を守ってくれたのか?」

ソー「行司は力士の勝敗を見定める者だ。お前がいなくては……俺が勝ち名乗りを受けられないからな」

行司「……ありがとう、雷皇関」


ファンドラル「……信じられるか?あのソーが戦いを投げ出して人間を守った」

ホーガン「ソーは変わった。かつての傲慢な男から成長したのだ」

ヴォルスタッグ「確信を持って言えよう。オーディンが望む以上にソーは高潔な者となったと」

シフ「フフ……そうね。あれこそ私達が仕える未来の王……マイティ・ソーよ」

ロキ「っ〜〜〜……」グヌヌ
32 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/01(金) 23:55:50.57 ID:VK39oSdq0

 ――・・・・・・

実況〈会場にお集まりの皆さん、大変長らくお待たせいたしました。播磨灘対雷皇の取組のビデオ判定の結果が出ました〉

実況〈落雷という予想外のトラブルに見舞われましたが、両力士の希望により取り直しはせず、あくまでこの一戦で勝敗を決めることとなりました〉

実況〈さあ、行司が軍配を握りしめ、勝利した力士の名乗りをあげます!〉


播磨灘「……」

ソー「……」


行司「……」スッ



行司「……播磨灘〜〜〜!」


 \ワアアアアアーーーー!/
33 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/02(土) 00:00:11.74 ID:i+/sawKQ0
ソー「……俺の負けだな横綱。だが素晴らしい一番だった」

播磨灘「……」

ソー「いつかまた……俺と相撲を取ってくれるか?友よ」

播磨灘「……断る」

ソー「!」

播磨灘「あの一瞬、廻しから手を放して行司を庇ったな。取組の最中で廻しから手を放すなんざ力士やない。おのれは力士失格や」

ソー「……手厳しいな」

播磨灘「おのれは相撲取りとちゃう。最初っからそうやった。雷皇と名乗ってもそれはお前のほんまの名とちゃう」

ソー「……!」

播磨灘「おのれの住む世界は土俵と違うやろ」

ソー「播磨灘……」

播磨灘「戦いたいっちゅうんやったらいつでも受けたる。ド突き合いやろうが将棋崩しやろうがなんでも来い。じゃがわしが相撲取るんは力士相手だけや」

ソー「……」

播磨灘「わしは天下無双の横綱、播磨灘や。おのれは誰や?一体何者なんか言うてみい」ニッ

ソー「……俺は――」


ソー「俺はアスガルドの戦士……マイティ・ソーだ」


 〜おわり〜
34 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/02(土) 00:04:30.63 ID:i+/sawKQ0
 〜おまけ〜

 ――アスガルド――

オーディン「ロキ!宝物庫からサダ・ヤスケーの塩を盗みおって!全能のお尻ペンペンだ!」ペシンペシン

ロキ「ぎゃわー!ゆるしてください父上ー!」ヒーン


ファンドラル「やれやれ、ロキのやつもこれで懲りればいいが」

ヴォルスタッグ「しかしソーよ、弱体化すると気付いておりながらあえてあの塩を使うとは、一体どういうつもりだったのだ?」

シフ「相手はミッドガルドの人間よ。アスガルド人の力で戦うなんて大人げないものね」

ソー「わかってないなシフ。播磨という男は相手に手を抜かれるなど死んでもゆるさん男だ。なにより、加減して戦える男でもないしな」

ホーガン「?……どういうことだ?……ソー、人間の肉体で戦ったんだよな?……わかっていてサダ・ヤスケーの塩を使って弱体化したんだよな?……そ、それとも普通の塩を撒いたのか?」

ソー「さあな」フッ

ホーガン「っ……」アゼン

ファンドラル「ど、どっちなんだ?ソーは人間としてヨコヅナと戦ったのか?それともアスガルド人の肉体のまま全力で戦ったのか?」

ヴォルスタッグ「ば、馬鹿なこと言うな。もしソーが本調子だったとしたらいくらハリマナダでも……いや……あの鬼神の如き力士ならあるいは……」

シフ「……答えは神のみぞ知る……ね」フフ


オーディン「いつまでも悪戯ばかりしおってからに!全能の一ヶ月外出禁止だ!全能の二週間テレビ禁止もな!」

ロキ「ひぎょえ〜〜〜!勘弁してください父上〜〜〜!」ビエーン

 〜おしまい〜
35 : ◆t8EBwAYVrY [saga]:2022/07/02(土) 00:06:30.37 ID:i+/sawKQ0
これにて完結です。ここまで読んでくれた方ありがとうございました


 MARVEL映画最新作『ソー:ラブ&サンダー』7月8日全国公開!
  雷神マイティ・ソーの新たな伝説を劇場で見よう!
36 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/07/02(土) 02:00:28.54 ID:j6X+qFuKo
播磨灘のほうは知らなかったけどめちゃくちゃ面白かった
DVD見返して映画見に行こうかなって気になったしssとしても販促としてもいいもの読ませてもらいました
おつ
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