侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part2

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1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:29:07.12 ID:eLOLjL7n0
前スレ

侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1667055830/

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1671125346
2 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:43:12.12 ID:eLOLjL7n0

■Chapter049 『雪山にて』 【SIDE Shizuku】





──事が起こったのは、かすみさんがヒナギクジム戦を終えた次の日のことだ。


かすみ「よーーっし!! それじゃ、グレイブマウンテン目指して、レッツゴ〜!!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「その前に……ちょっと、じっとしてて」

かすみ「へ? なになに?」

しずく「これから行く場所は山だから……山は絶対に甘く見ちゃいけない場所」

かすみ「う、うん……」

しずく「だから──お守り」


私は、そう言ってかすみさんの髪の左側に──髪飾りを付けてあげる。


かすみ「これって……」


2つの三日月と星があしらわれた髪飾り。


しずく「これ、御守り。星や三日月は厄除けや幸運を呼び込む象徴として、グレイブマウンテンに登山する人が好んで身に着けるんだって♪」

かすみ「もしかして、買ってくれたの……?」

しずく「うん♪ 昨日、町を巡ってるときに見つけて……かすみさんに似合うかなって」

かすみ「……えへへ、嬉しい♪ ありがと、しず子♪ これがあれば、絶対遭難しないね!」
 「ガゥガゥ♪」

しずく「ふふ、そうだね♪」


──登山にかこつけてプレゼントしたけど……歩夢さんが侑先輩から贈ってもらった髪飾りを見て、私も何かかすみさんに贈りたいと思ったというのが本音だ。

かすみさんには、感謝してもしきれないことがたくさんある。

だから、万が一何かがあったとしても、この月と星が、かすみさんを守ってくれればという願いを込めて……。


しずく「それじゃ、行こっか♪」

かすみ「うん! 今度こそレッツゴ〜!!」
 「ガゥ♪」





    💧    💧    💧





グレイブマウンテン登山を始めて、数時間。


かすみ「ふぅ……もう結構登ってきた?」
 「ガゥ!!」

しずく「そうだね……一旦休憩しようか」

かすみ「うん」


雪の上に座ると濡れてしまうので、シートだけ敷いてから、二人で腰を下ろす。


かすみ「それにしても、思ったよりは登りやすいね。かすみん、もっとキツイの想像してたから、ちょっと拍子抜け〜……」

しずく「ヒナギクが面してる南側は、登山道があるからね。でも、北側から登るのはかなり過酷らしいよ」
3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 02:47:04.39 ID:eLOLjL7n0

尤も……私たちの目的は登頂ではないので、北側に近付くことはないんだけど……。


しずく「そろそろ、クマシュンの生息域に入ったと思うし……山登り自体はここまでかな」

かすみ「あとは見つけるだけだね!」

しずく「って言っても……ポケモン自体が少ないから、簡単には見つからないだろうけどね……」


ここまで登ってくる最中も、遭遇した野生ポケモンはバニプッチを1匹見かけた程度。

過酷な環境なこともあって、大きな山の面積に対して、ポケモンの数は圧倒的に少ない。

加えて……保護色になっているポケモンが多いため、目を凝らしていないと見落としてしまう。

生息域に入ったからと言って、そう簡単に遭遇出来るわけじゃ──


かすみ「あれ? あそこにいるのって、もしかしてクマシュンじゃない!?」

しずく「え……!?」

かすみ「ほら、あそこ」


かすみさんが指差す方向に目を凝らすと──確かに遠くの斜面に小さなシロクマのようなポケモンが歩いていた。


しずく「ホントだ……!? まさか、こんなにすぐに見つかるなんて……!」

かすみ「ふっふ〜ん、褒めてくれていいんですよ〜」

しずく「うん! すごいよ、かすみさん!」

かすみ「それで、クマシュン……捕まえるの?」


確かに、当初の目的ではクマシュンを会ってみたいと言って、グレイブマウンテンまでやってきたわけだけど……。


しずく「……うん! せっかくなら捕獲したい……!」


ここまで来て、せっかく野生のクマシュンに遭遇することが出来たわけだ。可能であれば、捕獲したい。


しずく「クマシュンは、臆病なポケモンだから……こっそり近付かないと……」

かすみ「それじゃかすみん、ここで待ってるね! 二人で動くと、見つかっちゃうかもしれないし……」

しずく「わかった、それじゃ行ってくるね」

かすみ「ここで見てるから頑張ってね、しず子!」

しずく「うん!」


かすみさんに見送られながら、雪を踏みしめて、クマシュンの方へと歩を進める。

一面が真っ白なせいで、距離感を測るのが難しいが……クマシュンのいる場所まで、恐らく十数メートルと言ったところ。

出来る限り音を立てないように努めながら、雪を踏みしめていく。


 「クマァ…」


クマシュンは私にはまったく気付いていない様子で、座り込んだまま、雪を丸めて遊んでいる。

距離は十分に詰めた……!


しずく「出てきて、サーナイト……!」
 「──サナ」

 「クマ!?」


クマシュンがこちらに気付くが、この距離ならすぐ逃げられる心配はない。
4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/16(金) 02:49:18.02 ID:eLOLjL7n0

しずく「“サイコショック”!」
 「サナーーー」


サーナイトが前方に手をかざすと、クマシュンの周囲にサイコパワーで作り出しキューブが出現し── 一気に襲い掛かる。


 「ク、クマァ…!!!」


クマシュンが念動力の衝撃で、コロコロと雪の上を転がる。


 「ク、クマァ…」


クマシュンは戦闘慣れしていないのか、そのまま雪の上にへばってしまう。


しずく「これなら、すぐに捕獲できそう……!」


私はボールを構えて、クマシュンの方に走り出し──た瞬間、


 「クマァァァァァァ」


クマシュンが大きな“なきごえ”をあげた。……というか、


しずく「!? な、泣かせちゃった……!?」

 「クマァァァ…クマァァァァ…」


クマシュンはポロポロと大粒の涙を零しながら、泣き出してしまった。


しずく「あ、え、えっと、ご、ごめんなさい、そんな、泣かせるつもりなんかじゃなくって……」


まさか、野生のポケモンに泣かれると思っていなかったので、動揺してしまう。

動揺で次の行動に迷っていた、そのとき──


 「──ベアァァァァ!!!!!」

しずく「!?」


山側の方から、野太い鳴き声が降ってきて、視線をそっちに向けると、


 「──ベァァァァァ!!!!!」


大きなシロクマのようなポケモンが、猛スピードで斜面を駆け下ってきているではないか。


しずく「つ、ツンベアー……!? もしかして、あのクマシュンの親!?」


まさか、あの泣き声──親のツンベアーを呼ぶためのもの!?


しずく「さ、サーナイト!! “サイコキネシス”!!」
 「サナ」


迫り来るツンベアーを無理やり、“サイコキネシス”で食い止める。


 「ベ、アァァァァァ!!!!!」


強力な念動力で動きを止められたツンベアーは雄叫びをあげながら──口から強烈な冷気を吐き出してくる。


 「サ、サナ…」
しずく「これは、“こおりのいぶき”……!」
5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:51:31.82 ID:eLOLjL7n0

冷たい吐息で、サーナイトの体が急激に霜に包まれ、パキパキと凍り始める。

それによって、集中が切れてしまったのか、


 「ベアァァァァァ!!!!」


“サイコキネシス”の制止を振り切って、ツンベアーがこちらに向かって、再び猛スピードで突っ込んでくる。


しずく「サーナイト、戻って!!」
 「サナ──」


ここは選手交代……!


しずく「バリヤード!!」
 「──バリバリ♪」


バリヤードは足から発した冷気で、氷を作り出し、それを蹴り上げて壁にする。


しずく「“てっぺき”!!」
 「バリバリ♪」

 「ベアァァァァァ!!!!!」


──ガァンッ!! と音を立てて、ツンベアーが氷の壁に衝突する。

間一髪だ……!


かすみ「しず子ー!!」


名前を呼ぶ声に気付いて振り向くと、かすみさんがこっちに向かって駆けよってきている。


しずく「かすみさん! 私は大丈夫だよ!」

かすみ「ほ、ホントにー!?」

しずく「むしろ、ツンベアーも一緒に捕まえられそうで、嬉しいくらいだよ……!」


もともとクマシュンが欲しかったのは、ハチクさんと同じツンベアーに憧れていたからだ。

なら、これはむしろ好都合……! クマシュンと一緒に捕獲してしまいたいくらいだ。


かすみ「でも、クマシュン逃げちゃいそうだよー!?」

しずく「え!?」


言われてクマシュンの方に目を向けると、


 「ク、クマァ…」


親のツンベアーが戦っている間にクマシュンがとてとてと逃げ出していた。


 「ベアァァァァァ!!!!!」


その間にも、ツンベアーは氷の壁を“ばかぢから”で殴りつけ、それによって、壁にヒビが入る。


しずく「“マジカルシャイン”!!」
 「バリバリ〜!!!」


氷の壁越しに、強烈な閃光を放ち、


 「ベアァァッ!!!!?」
6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:52:41.05 ID:eLOLjL7n0

ツンベアーを一瞬怯ませる。その隙に、私はクマシュンの方へと駆け出す。

ここまで来て、逃げられましたなんて終わり方は、私もさすがに嫌です……!


 「ク、クマーー…」


駆け寄ってくる私に驚いたのか、クマシュンは頑張って逃げようと足を速めるが、


 「クマッ!!!?」


それが原因で、逆に足をもつれさせて、雪の上にぽてっと転ぶ。

クマシュンはもう、目と鼻の先……!! 今なら……狙える……!!


しずく「行け……!! モンスターボール!!」


私はクマシュンにモンスターボールを投擲した。

モンスターボールは真っすぐクマシュンに当た──ると思いきや、おかしな方向にすっぽ抜けていった。


しずく「あ、あれ……? も、もう一回です……!!」


私は振りかぶって、もう一度ボールを投げます……!

今度こそ、ボールはクマシュンに吸い込まれるように一直線に飛んで──行くことはなく、明後日の方向にすっ飛んでいきました。


かすみ「しず子、ノーコンすぎでしょ!?」

しずく「もう〜!? なんで!?」


自分が球技が苦手なのは知っていたけど、まさかこんな至近距離の相手にボールが当てられないなんて思わなかった。

自分のノーコンっぷりに失望しながらも、


しずく「直接ボールを押し当てるしかない……!!」


相手は転んだクマシュンだ……!! ボールを直接押し当てさえすれば、捕獲出来る……!

私が駆け出すと同時に、


 「ベァァァァァ!!!!!」

かすみ「しず子ーー!! 後ろーーー!!」


ツンベアーの雄叫びとかすみさんの声。

“マジカルシャイン”での目くらましに、もう目が慣れて追ってきたのだろう。


しずく「間に合って……!!」


クマシュンに手を伸ばそうとした、そのときだった──

突然、ゴゴゴ……と地鳴りのような音が山側から聞こえてきた。

咄嗟に音のする方に目を向けて──私は目を見開いた。


しずく「嘘……」


前兆なんて全くなかった。なのに私たちに向かって──雪崩が押し寄せてきているではないか。

今すぐ身を翻して、逃げようとしたが、


 「ク、クマァ…!!!!」
7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:55:16.29 ID:eLOLjL7n0

クマシュンは完全に押し寄せる雪崩にビビッてしまい、動けなくなっていた。


しずく「い、いけない……!?」


私は持っていたボールを放り捨てて──クマシュンに覆いかぶさって、庇うように胸に抱きしめる。


かすみ「しず子ッ!!?」


響く、かすみさんの声。

直後──私は轟音を立てながら押し寄せる雪崩に、クマシュンもろとも飲み込まれた。

一瞬で視界が真っ白に染まり、身体が大量の雪に押し流されていく。


 「──ベアァァァァァ!!!!!!」


雪崩の轟音の中、一瞬ツンベアーの声を聞いた気がしたけど──私の意識は間もなく、真っ白な闇に呑み込まれていった──





    💧    💧    💧










    🎹    🎹    🎹





侑「──かすみちゃーん!!」

かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱーい……っ……」


ウォーグルの“そらをとぶ”を使って、超特急でグレイブマウンテンまでやってきた私たちは、かすみちゃんを見つけて、降り立っていく。


かすみ「……どうじよう゛、ゆ゛う゛せ゛んぱいぃぃ……っ……しず子がぁぁ……っ……」
 「ガゥゥ…」「バリバリ…」


泣きじゃくるかすみちゃん。そして、そんなかすみちゃんを心配そうに見つめるゾロアと、困り果てた様子のバリヤード。


歩夢「かすみちゃん、落ち着いて……! 大丈夫だから……!」

かすみ「ひっく……えぐ……っ……あゆ゛む゛せ゛んぱいぃ……っ……」


歩夢がかすみちゃんを抱きしめて、背中を優しく撫でて落ち着かせる。


侑「私、探してくる……!! 歩夢はかすみちゃんをお願い!」
 「ブィ!!」

歩夢「うん……! 気を付けてね……!」

侑「行くよ、ウォーグル!!」
 「ウォーーー!!!!」
8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 02:57:50.30 ID:eLOLjL7n0

ウォーグルと一緒に、再び飛翔する。

──大体の事情は、通話で歩夢がどうにかこうにか、パニックを起こしているかすみちゃんから聞き出してくれた。

しずくちゃんと一緒にグレイブマウンテンまでクマシュンを捕まえに来た事。

その最中に予兆もなく発生した雪崩に襲われ、クマシュンを庇ってしずくちゃんが巻き込まれてしまったこと。

かすみちゃんもどうにか、流されたしずくちゃんを助けようとしたけど……崖下まで流されてしまって、とてもじゃないけど、救出に行けなかったこと……。


侑「リナちゃん! しずくちゃんの図鑑の位置わかる!?」

リナ『すぐサーチする!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんが、バッグから飛び出してくる。

私は右手でウォーグルの脚を掴んだまま、左手でリナちゃんを掴んで、マップ表示を確認する。


侑「そんなに遠くない……!」
 「イブィ!!」

リナ『地図だと平面的な位置しかわからない……! Y軸は私が口頭でガイドする! とりあえず、下に降りて!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「うん! ウォーグル! 行くよ!」
 「ウォーーッ!!!!」


私はウォーグルに掴まったまま、図鑑の反応を頼りに、谷へと下っていく──





    💧    💧    💧





 「──フェロ」

──ものすごく美しいポケモンが居た。

その色香は、見ているだけで私を狂わせる、最上の美……。

私はそこに向かって手を伸ばす。

噫、もっと、もっと近くで見たい……触れたい……。

──この美しさに、一生溺れていたい……。

私は手を伸ばす。

あと少しで、それに触れられそうになった──そのとき、


──『しず子っ!!!』


声が響いて、私は手を止めた。


──『あんなのより、かすみんの方がずっと、ずーーーーっと!!! 可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的でしょ!!!?』


かすみさんが、私に向かって、叫んでいた。


──『毒だか、フェロモンだか知らないけどッ!!! あんな変なやつに負けないでッ!!!! かすみんがいるからッ!!!!』


かすみさんの声が、私の中で木霊している。

私は──


しずく『……そうだ……こんなものに……こんなまやかしに……負けちゃ、ダメだ……!!』


私は、目の前の幻想を──振り払った。
9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:02:22.71 ID:eLOLjL7n0


──
────
──────



──なんだか、おかしな夢を見た。


しずく「──……ん……」


目が覚めると──そこは薄暗い場所だった。


しずく「ここ……どこ……?」


身を起こそうとして、


しずく「痛……っ……」


身体のあちこちが痛くて声をあげる。

そうだ、私──雪崩に巻き込まれたんだ……。


しずく「そうだ、クマシュンは……!?」
 「クマ…」


クマシュンが私の胸の中で声をあげる。


しずく「よかった、無事だったんだね……」
 「クマ…」


クマシュンが無事で一安心。だけど……周囲を確認する限り、ここは谷底だろうか……?

頭上を見上げると、遥か遠くに空が見えた。かなり落ちてきたに違いない……。

確かに身体は痛むけど……骨が折れたり、打撲しているような激痛ではない。どうして、自分が助かったのが不思議でならなかったけど──その答えは、私のすぐ下にあった。


 「ベァァァ……」

しずく「え!?」


私の真下から聞こえてきた鳴き声に驚きながら、目を向けると──


 「ベァ……」


真っ白な巨体──ツンベアーの姿だった。

どうやら私は、今の今まで、ツンベアーの上で気を失っていたようだった。

お陰で骨折も打撲もせずにすんだが……。


しずく「ツンベアー……貴方が助けてくれたんですか……?」

 「ベァァ…」


ツンベアーはかなり衰弱していた。

私はすぐにツンベアーから降りて、バッグから小型のライトを出して、ツンベアーの体を確認する。

脚に触れると、


 「ベ、ベァァ…」
10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:03:08.17 ID:eLOLjL7n0

ツンベアーが苦悶の声をあげる。

恐らく、脚の骨が折れている……。しかもこの高さ……折れているのは脚だけじゃないかもしれない。だから、ここから動けないんだ……。


しずく「どうして、私を庇ったりなんか……」

 「ベァァ…」


私の問いにツンベアーは、


 「クマ…」


首をクマシュンに向けて、答える。


しずく「私が……クマシュンを庇ったから……?」
 「ベァァ…」

しずく「……ごめんなさい。そもそも、私がクマシュンを驚かせたりしなければ良かった話なのに……」
 「ベァァ…」


ツンベアーはゆっくり首を振る。


しずく「……ありがとう。……貴方は絶対に私が助けます。だから、今だけでいいので……ボールに入ってくれますか……?」
 「ベァ…」

弱々しく頷くツンベアー。私は頷き返して、ボールを押し当てた。

──パシュンと音を立てて、ツンベアーがボールに入る。


 「クマァ…」

しずく「大丈夫。貴方もちゃんと、私がお家に返してあげますよ」
 「クマァ…」


それくらいの責任は果たさなくてはいけないだろう。

とはいえ、どうしたものか……。

私は飛行の手段を持っていない。

アオガラスでは私をぶら下げたまま、“そらをとぶ”のは無理だろうし……。


しずく「……そもそも、さっきの雪崩……」


そうだ、そもそもさっきの雪崩はなんだったのだろうか……?

前兆が全くなかったというか……目の前で急に雪が襲い掛かってくるような……妙な違和感があった。

まるで、雪崩が意思を持って、私たちを狙ってきていたような……。


しずく「……さすがに考えすぎでしょうか……?」
 「クマ…?」

しずく「……とりあえず、少し移動しましょうか……。もしかしたら、どこかから、上に登れるかもしれませんし……」
 「クマ」


歩き出そうとして──


しずく「あ、あれ……?」


脚に力が入らず膝を突いてしまう。


しずく「な、なに……?」
11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:04:58.75 ID:eLOLjL7n0

身体が……重い……。

気付けば吐く息は真っ白で──私の肩に、膝に、腕に、霜が降りている。


しずく「や、やっぱり……なに、か……へ、ん……」
 「ク、クマ…」


──急激に気温が下がって、空気を吸い込むたびに肺が痛くて、苦しくなってくる。

熱を奪われ、身体がどんどん動かなくなっていく。


しずく「……ぐ……」


急激な寒さに、思考もどんどん重くなっていく。


しずく「だ、めだ……!!」
 「クマ…」


考えを止めちゃダメだ──これは明らかに異常だ。

寒くて、身体の動きがどんどん鈍くなっていく中──私はゆっくり首を動かしながら、周囲の様子を伺う。

すると──私の周囲に……何か、キラキラしたようなものが舞っていることに気付いた。

それは、谷底に僅かに差し込む光を反射して、ささやかにその存在を主張している。

まさか──


しずく「細氷……?」


細氷──即ち、ダイヤモンドダストと呼ばれる現象だ。

大気中の水蒸気が氷結する現象。だけど、細氷の発生条件は氷点下10℃以下でないと発生しないと言われている。

急に、ここの気温が下がった。ここは確かに寒い場所だけど、そこまで急に起こるとは考えづらい。なら──


しずく「外的要因で空気が冷却されている……!」


私は、寒くて震える腕に力を込めて──ボールベルトのボールの開閉ボタンを押し込んだ。


 「──カァァーーー!!!!!」
しずく「アオガラス……っ、“きりばらい”……っ」

 「カァァァァァ!!!!!」


アオガラスが、周囲の冷たい空気を吹き飛ばす。

すると──すぐに体感でわかるくらいに、気温が上がるのが肌で感じられた。


しずく「やっぱり……! 私たちの周辺の空気だけ、気温が下げられてた……!」
 「クマ…」


何かわからないけど──目に見えない敵がいる……!


しずく「逃げなきゃ……!!」


私が走り出そうとした瞬間、


しずく「きゃっ!?」


私は前につんのめって転んでしまう。


しずく「こ、今度は何が……!?」
12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:22:21.00 ID:eLOLjL7n0

自分の足に目を向け、驚愕する。

私の足に氷で出来たような鎖が巻き付き──氷漬けにしているではないか。

姿の見えない敵。氷の鎖。超低温を操る能力。こんな能力を兼ね備えたポケモンは1匹しか思い当たらない……!


しずく「フリージオ……!!」

 「────」


名を呼ぶと、大きな氷の結晶のお化けのようなポケモンがパキパキと音を立て、結晶化しながら姿を現した。

フリージオが姿を現すと──より一層冷気が強くなり、私の足から足首へ、足首からふくらはぎへと氷が侵食してくる。

フリージオは氷の鎖で獲物を捕まえて連れ去る習性がある。その獲物というのは──もちろん、私だ。


しずく「まさか、さっきの雪崩は貴方が“ゆきなだれ”で起こしたもの……!?」

 「────」


上にいる時点で私は狙われていたということだ。そして、まんまと谷底に落とされ──このままでは氷漬けにされる。


しずく「う、ぁ……」


どんどん身体が凍り付いていく。

──絶体絶命なそのとき、


 「──“めらめらバーン”っ!!!」
  「イ、ブィッ!!!!!!」

 「────」


空から、炎を身に纏った、イーブイがフリージオ目掛けて、飛び込んできた。

炎の直撃を受けると、フリージオは蒸発するように掻き消える。

この技が使えるのは……!


しずく「ゆ、う、先輩……っ……!」

侑「しずくちゃん、大丈夫!? イーブイ!」
 「ブイ!!」


イーブイが私の足元に近付き、炎でゆっくりと氷を溶かしてくれる。


しずく「あ、ありがとう、ございます……」

侑「うぅん、しずくちゃんが無事でよかった……。それよりも、今のポケモンは……」

リナ『今のポケモンはフリージオだよ!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

リナ『フリージオ けっしょうポケモン 高さ:1.1m 重さ:148.0kg
   体温が 上がると 水蒸気に なって 姿を 消す。 体温が
   下がると 元の 氷に 戻る。 氷の 結晶で できた 鎖を
   使い 獲物を 絡め取り マイナス100度に 凍らせる。』

しずく「“とける”で姿を消しています……侑先輩、気を付けてください……」

侑「気を付けるって言っても、相手が見えないんじゃ……!」

しずく「確かに……まずはどうにかして、姿を捉えないと……!」


このままじゃ、全員じりじりと体温を奪われていって最後には氷漬けにされて連れ去られてしまう。

そのとき、


 「ブイ…!!!」
13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:24:52.94 ID:eLOLjL7n0

イーブイがぶるぶると震えだす。


侑「イーブイ、どうしたの……?」


次の瞬間──イーブイの前方に、黒い結晶体が成長を始めた。


しずく「な、なんですか……!?」

侑「ま、まさか……!?」

リナ『新しい“相棒わざ”!! “こちこちフロスト”だよ!! イーブイがこの雪山の環境に適応したみたい!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

 「イ、ブイッ!!!!」


その結晶体は成長しきると、バキンっと砕け散って、周囲に黒い霧状のものをまき散らす。

それと同時に、


 「────」


フリージオが突如、姿を現した。


しずく「フリージオが現れた……!?」

リナ『“こちこちフロスト”は“くろいきり”と同質の氷の結晶で相手を攻撃する技だよ!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

侑「そうか……! それで、“とける”が解除されたんだ……!」


確かに“くろいきり”は相手の変化技を打ち消す技だ。侑先輩のイーブイが覚えた新しい技のお陰で窮地を脱したらしい。


 「────」


自分が姿を消せないことを悟ったフリージオは、すぐさまここから離脱しようと、ふわりと浮き上がって上昇していく。


しずく「逃がしません……!! アオガラス、“ドリルくちばし”!!」
 「カァーーーー!!!!!」


“ドリルくちばし”でフリージオを攻撃すると──フリージオはそれに合わせて、猛スピードで回転し始める。


リナ『“こうそくスピン”で威力を殺してる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「────」


攻撃を最小限に抑えきったフリージオはアオガラスを弾き飛ばし──今度こそ、上昇していく。


しずく「お、追いかけなきゃ……!!」


見失うと間違いなく厄介なことになる。

あのポケモンは今倒しきるべきだ。


侑「しずくちゃん!! ウォーグルの背中に乗って!!」

しずく「は、はい! クマシュン、アオガラス、行くよ!」
 「クマ…」「カァーーー!!!!」


クマシュンを抱きかかえて、ウォーグルの背に飛び乗る。


侑「ウォーグル、飛んで!!」
 「ウォーーー!!!!!」
14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:26:13.89 ID:eLOLjL7n0

ウォーグルの飛翔に合わせて、侑先輩がウォーグルの脚にしがみつく。

力強い羽ばたきで一気に上昇する──が、思ったようにフリージオと距離が詰められない。

それどころか──


侑「ひ、引き離されてる……!」

リナ『さ、さすがに重量オーバー!? 二人乗せたまま戦うのは無茶だよ!?』 || ? ᆷ ! ||

しずく「わ、私やっぱり降ります……!!」

侑「一人になって谷底で襲われたら、さっきみたいに逃げ場がなくなっちゃうって!!」

しずく「でも……!!」


見失ったら“とける”でまた姿を消されて、それこそ繰り返しになる。

そんな私たちの問答を打ち切ったのは──


 「カァーーー!!!!!」


アオガラスだった。アオガラスは足を開いて、私の両肩を掴む。


しずく「アオガラス……!? 貴方まさか……!?」


そして、バタバタと激しく羽ばたき始めた。

すると──


侑「う、浮いた……!? アオガラスが持ち上げて飛んでる……!!」

しずく「アオガラス、貴方……」
 「カァァーーーー!!!!!!!」


──ポケモンは時に、ライバルと言える相手を見つけると、その潜在能力が開花することがあるらしい。

奇しくも、アオガラスの進化系のアーマーガアと、ガラルの地で空の派遣を争ったと言われるポケモンは──ウォーグルだ。

自分も鳥ポケモンなのに、ご主人様がウォーグルの背に乗って飛ぶ姿が──アオガラスの闘争本能に火を点けた。


 「カァァァァァーーーー!!!!!!!!!」


そして、その闘争本能は──アオガラスに新しい姿と力を与えた。


しずく「進化の……光……!!」


──噫、やっと……やっと、貴方と飛翔べるんだ……!!


しずく「……行こう──アーマーガア!!」
 「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


アーマーガアは今度こそ私の肩をガッチリと掴むと── 一気に高度を上げて飛翔する。

アオガラスのときからは想像も出来ないような、力強い飛翔能力。

これが──


しずく「ガラルの空の覇者……!!」
 「ガァァァァァ!!!!!!!!」


一気に上昇し、


 「────」
15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:28:26.30 ID:eLOLjL7n0

谷の外に逃げたフリージオを完全に射程に捉え──


しずく「今度こそ、仕留めます……!! “はがねのつばさ”!!」
 「ガァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」


鋼鉄の翼で──フリージオを切り裂いた。


 「────」


直撃を受けたフリージオの身体は、ビキリッと音を立てながら、亀裂が入り、


 「────」


戦闘不能になって、真っ逆さまに谷底に落下していったのだった。


しずく「……やったね、アーマーガア」
 「ガァァァァァ!!!!!!!!」


勝利の雄叫びをあげるアーマーガア。そこに侑先輩たちも追い付いてくる。


侑「すごいすごい!! この状況で進化して、一撃で倒しちゃうなんて……!! 私、すっごくときめいちゃった!!」

しずく「ふふ♪ アーマーガアの翼はどんなポケモンにも負けない、最強の翼ですから♪」
 「ガァァァァァァ!!!!!!!」


私が褒めてあげると、アーマーガアはもう一度、大きな勝鬨をグレイブマウンテンに響かせるのだった。





    💧    💧    💧





かすみ「しず子ぉ゛〜……っ……よか゛った゛よぉ゛〜……っ……!!」

しずく「ごめんね、かすみさん……心配掛けちゃったね……」

かすみ「馬鹿しず子……っ……!! アクセサリーくれたしず子が遭難してどうすんの……っ……馬鹿ぁ……っ……!!」

しずく「うん、ごめん……」


泣きじゃくるかすみさんを抱きしめる。本当に……心配掛けちゃったな。


歩夢「一件落着……みたいだね」

侑「うん」

リナ『一時はどうなることかと思った……。リナちゃんボード「ドキドキハラハラ」』 ||;◐ ◡ ◐ ||

しずく「侑先輩たちも……ありがとうございました。まさか、駆け付けてくれるなんて……」

侑「お礼ならかすみちゃんに言ってあげて! かすみちゃんが報せてくれたことだから!」

しずく「そっか……ありがとう、かすみさん」

かすみ「うぅ……っ……ぐす……っ……もう、無茶しちゃダメだよ……しず子……っ……」

しずく「うん、ありがとう……」


私は、もう一度かすみさんをぎゅっと抱きしめて、お礼の言葉を口にするのだった。



16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:29:05.58 ID:eLOLjL7n0

    💧    💧    💧





さて……全員揃って、ヒナギクシティに戻ってきた私は、すぐさまツンベアーをポケモンセンターに預けた。

大怪我を負っていたツンベアーは、緊急手術になりました……。

ただ、そこはさすがポケモンセンター。一晩掛けて行われた手術は無事に成功し、ツンベアーはどうにか一命を取り留めることが出来ました。


しずく「それじゃ、クマシュン。お母さんと仲良くね」
 「クマ…」


ポケモンセンターのポケモン用の入院部屋に、クマシュンを放してあげる。

クマシュンはとてとてとお母さんのもとに駆け寄り、


 「クマァ…」
 「ベァ…」


クマシュンはお母さんに頬を摺り寄せ、ツンベアーは愛しい我が子をペロリと舐めて愛情を示す。


かすみ「しず子、いいの? クマシュン……欲しかったんでしょ?」

しずく「それはそうなんだけど……やっぱり、親子は一緒の方がいいのかなって」


ツンベアーは当分ここで病院暮らしだ。その間、一緒にクマシュンもポケモンセンターでお世話してくれるということだったし……。


しずく「私の気持ちよりも……クマシュンの気持ちを優先してあげなきゃ」


 「クマ♪」
 「ベァ…」


クマシュンはお母さんの前で嬉しそうに頷くと──とてとてと私の足元へと戻ってくる。


しずく「どうしたの? お別れの挨拶してくれるの?」
 「クマ」


そして、何故か私の脚に抱き着いてきた。


しずく「あ、あれ……?」

かすみ「しず子」

歩夢「ふふ♪ しずくちゃん。クマシュンの気持ち、優先してあげないとダメだよ?」

しずく「え、ええ!? で、でも、お母さんも心配ですよね!?」


私がツンベアーにそう訊ねると、


 「ベアァ…」


ツンベアーは優しい顔をしながら首を振った。


しずく「え、ええ……!?」

侑「……たぶんなんだけど」

しずく「?」

侑「今の自分じゃ、クマシュンを満足に育てられないから……しずくちゃんに代わりに育てて欲しいんじゃないかな」

しずく「……!」
17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:32:10.52 ID:eLOLjL7n0

私は侑先輩の言葉でハッとする。


しずく「ツンベアー……そういうことなの?」

 「…ベァ」


ツンベアーはもう一度優しい顔をして、頷いてくれた。


しずく「…………。……わかりました」


私はクマシュンを抱き上げる。


 「クマ♪」
しずく「この子は私が立派に育ててみせます……! 立派に育てて、また貴方のもとに戻ってきますから!」

 「ベァ…」

しずく「クマシュン、これからよろしくね」
 「クマ♪」


こうして、私の6匹目の手持ち──クマシュンが仲間になったのだった。





    🎹    🎹    🎹





リナ『みんな、今後はどうする予定なの?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「もともとの話だと……ローズに戻るってことになってたけど……」

侑「ローズはもともと合流場所って話だったからなぁ……」
 「ブィ?」

かすみ「みんな、ヒナギクに集まってきちゃいましたしねぇ……」
 「ガゥ?」

しずく「う……私の不手際で……面目ないです……」


どっちにしろ、ジム戦をこなすにはローズに戻る必要があるけど……数日待てばヒナギクのジムリーダーも戻ってくるらしいし……。

そうなると、無理に急いで戻る理由も薄くなってくる。


しずく「あ、あの……それよりも……」

侑「ん?」

しずく「私たち、やっと飛行手段を手に入れたんですから──行ってみたくありませんか?」


そう言いながら、私たちの視線は自然と──南にあるオトノキ地方のカーテンへと注がれる。


かすみ「確かに……あの絶景、旅の間に見なくちゃ損ですよね!」
 「ガゥガゥ♪」

歩夢「旅に出たばっかりのときは……あそこを登るなんて想像も出来なかったけど……行ってみたい! わ、私は……乗せてもらうだけになっちゃうけど……」

侑「ふふ、いいよ! みんなで登ろうよ!」
 「イブィ♪」

しずく「ええ! 皆さん全員で、大空の旅を楽しみましょう♪」

リナ『次の行き先、決まったね!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「うん! 行こう──カーテンクリフへ!!」
 「イッブィ♪」



18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 03:33:25.19 ID:eLOLjL7n0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ヒナギクシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  ●____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.40 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリヤード♂ Lv.39 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.40 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロゼリア♂ Lv.40 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.40 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      クマシュン♂ Lv.23 特性:びびり 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:15匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.53 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.48 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.46 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.47 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.47 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.46 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:190匹 捕まえた数:9匹

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.58 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.58 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.53 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.46 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.52 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:196匹 捕まえた数:7匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.48 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.47 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.43 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドグラー♀ Lv.39 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラエッテ♀ Lv.38 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:197匹 捕まえた数:17匹


 しずくと かすみと 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:54:58.45 ID:eLOLjL7n0

 ■Intermission🍊



──私たちは今、例の如く、ウルトラビースト出現の反応に従い、“そらをとぶ”で現場に急行している。


千歌「……この場所って、カーテンクリフの西端だよね?」


さっき送ってもらったマップデータを見ながら、後ろに乗っている遥ちゃんに訊ねる。


遥「はい……まさか、こんな場所にまで出現するなんて……」

千歌「今回こそは、空振りじゃないといいけど……」


ここ最近、誤報なのか私たちが到着する前に逃げられているのかわからないけど、現場に着いたら、もうすでにウルトラビーストがいない……なんてことが続いている。

もちろん、万が一があるし、無視するわけにはいかないけど……。


彼方「そういえばー……カーテンクリフの西端って、遺跡になってるんだっけ〜……?」

千歌「確か……なんかすごい大きな階段みたいなのがあった気がします……。私も1回くらいしか行ったことないけど……」

穂乃果「なんか大昔の人たちが作った祭壇があるんじゃないっけ? お日様とお月様にお願い事する場所だって、前に海未ちゃんが言ってた気がする」

遥「大切な文化財があるんですね……。人的被害はないかもしれませんけど……遺跡を壊される前に、追い払わないと……」

千歌「うん、急ごう!」
 「ピィィィーーー!!!!!」


私のムクホークと、穂乃果さんのリザードンは風を切りながら、現場へ急ぐ──





    🍊    🍊    🍊





──カーテンクリフ西端の遺跡。


彼方「うわ……すっごい長い階段……絶対に自分の足じゃ、登りたくないよ〜……」

遥「すごい……想像していたものよりもずっと大きな遺跡です……」

彼方「こんな標高の高いところに、こんなものどうやって作ったんだろう〜……。昔の人たちってすごかったんだね〜……」


遺跡上空を飛行しながら、彼方さんと遥ちゃんが驚きの声をあげる。


穂乃果「彼方さん、ウルトラビーストの反応は?」

彼方「うーん……頂上からずっと動いてないみたい……」

遥「そうなると……ツンデツンデかな……」

千歌「ツンデツンデなら、そこまで焦らなくてもいいのかな……?」


ツンデツンデはウルトラビーストの中でも、かなり温厚なポケモンだ。

こちらからちょっかいを掛けなければ、暴れ出すことはほぼない。


穂乃果「それを確認するためにも、急がないとね!」

千歌「ですね」


遺跡をムクホークとリザードンで一気に昇ると──開けた場所に出る。

この遺跡の祭壇だ。
20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:55:45.07 ID:eLOLjL7n0

千歌「ツンデツンデは……」


祭壇を空から見回してみるが──


千歌「いなさそう……」

穂乃果「ツンデツンデほど大きなウルトラビーストだったら、見逃すわけないし……彼方さん、まだ反応ってある?」

彼方「んー……まだ頂上にあるよ〜……」


彼方さんが端末とにらめっこしながら、困ったような声で言う。


千歌「んー……おっかしいなぁ……」


私はもう一度目を凝らして、祭壇の上を見渡してみる。


千歌「……あれ?」


私は──祭壇上に影を見つけた。

でも、ウルトラビーストじゃない……あれは──


千歌「人……?」


そのシルエットはどう見ても人間のものだった。本来探していた対象よりも小さかったからか、すぐに気付けなかった。

このだだっ広い祭壇に……女性が一人。ちょうどこちらには背を向けているので、顔は見えないけど……青みがかったウルフカットの女性。

でも、どうしてこんな場所に……? いや、それよりも……。


千歌「とりあえず、ここは危ないってこと伝えに行かないと……!」

穂乃果「……そうだね」

彼方「んー……? あの人、どこかで見たような……?」

遥「お姉ちゃん……?」


私たちは、その女性たちのもとへと、降りていく。


千歌「すみませーん! あの、ここに今ちょっと危ないポケモンがいるんで、避難して欲しいんですけどー!!」


ムクホークをボールに戻しながら、女性たちに駆け寄る。

でも──彼女たちは全く反応がなく、振り返りもしない。


千歌「? もしもーし!!」


さらに近寄りながら、大きな声で呼びかけると──女性はやっとこちらに顔を向けてくれる。


女性「……ふふ、やっと来てくれた」

千歌「え……?」

彼方「あー!! もしかして、モデルの果林ちゃんじゃない!?」


彼方さんが、驚いたような声をあげる。

言われてみて、私も気付く。確か、モデルをやっている人だ。


果林「……モデルの人……ね」


果林さんは、彼方さんを見て──寂しそうに言葉を漏らす。
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:56:18.01 ID:eLOLjL7n0

果林「……貴方にとって、私はもう……ただのモデルの人なのね……」

彼方「え……?」

千歌「あ、あの! それよりも、ここは危ないので、避難を──」

果林「ふふ、それって────ここにウルトラビーストがいるからかしら?」

千歌「っ!?」


その言葉を聞いた瞬間、


穂乃果「──ピカチュウ!!」
 「──ピッカッ!!!!」


いつの間にかボールから出されていた穂乃果さんのピカチュウが、果林さんの首元に尻尾を向けていた。

一瞬で電撃による攻撃が届く間合いだ。


果林「……あら怖い」

穂乃果「あなた……何者なのかな?」

千歌「二人とも……下がって。ネッコアラ」
 「──コァ」

彼方「う、うん……」

遥「は、はい……」


私もネッコアラをボールから出しながら、彼方さんと遥ちゃんを庇うようにして、後ろに下がらせる。


果林「そんな怯えた顔しないでよ──彼方。遥ちゃんも」

遥「……!?」

彼方「え……な、なんで私たちの名前……」

果林「やっぱり……本当に忘れちゃったのね……」

彼方「え……」


果林さんはそう言いながら一瞬──酷く悲しそうな顔をした。


果林「……でも、大丈夫──きっと嫌でも思い出すから……」


果林さんが──腰に手を伸ばした。


穂乃果「“10まん──」

 「──ダメダメ、穂乃果はこっち♪」
  「リシャンッ」

穂乃果「え!?」


目の前に、急に金髪の女の子が出現し──穂乃果さんの腕を取ると、瞬く間に姿が掻き消える。

──穂乃果さんもろとも。


千歌「穂乃果さ……!?」

果林「よそ見してる場合かしら?」

千歌「っ!? “まもる”!!」

 「──フェロッ!!!!!」

 「コァァッ!!!!」
22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:57:10.74 ID:eLOLjL7n0

咄嗟の指示で、ネッコアラが敵からの攻撃を丸太で受け止める。

い、いや、それよりも、果林さんが出してきたあのポケモン……!


千歌「ふ、フェローチェ……!?」


それはフェローチェだった。

しかも本来、全身雪のように真っ白い普通のフェローチェと違って、下半身はまるでドレスでも履いているかのように黒い──色違いのフェローチェだ。


千歌「ウルトラ、ビースト……!?」

果林「……」


なんでこの人はウルトラビーストを使っているの? なんで穂乃果さんは消えた? あの金髪の女の子は?

大量の疑問が、頭の中を埋め尽くし混乱する中、


遥「──……い、いやぁぁぁぁぁ……!!!」

千歌「!?」


急に背後で遥ちゃんの絶叫が響き、振り返ると、


遥「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!!!」

彼方「──ぁ……ぐ……あ、たま……い、いたい……」


遥ちゃんはその場に蹲り、ガタガタ震えて、泣きながら謝罪の言葉を唱え始め、彼方さんに至っては頭を抱えたまま、倒れているではないか。


果林「……そうよね、フェローチェを見たら……嫌でも思い出すわよね、私のこと。いいえ──私たちのこと……」


何が起こっているのか理解できなかった。理解できなかったけど── 一つだけわかることがある。

この人は──……敵だ!


千歌「“ウッドハンマー”!!」
 「コァァッ!!!!!」


フェローチェに向かって、ネッコアラが大きな丸太を振りかぶった──瞬間、フェローチェの目の前の空間が歪んで、影が飛び出した。


 「──カミツルギ、“つじぎり”」


不意の一撃。


 「コ…ァ…」
千歌「な……」


丸太ごと斬り裂かれ、ネッコアラが崩れ落ちる。

でも、それ以上に衝撃だったのは──その攻撃の主だった。


千歌「嘘……」


黒髪のストレートロングを右側で一房、バレッタで纏めた少女。

見間違えるはずがない。──いや、見間違えであって欲しかった。


千歌「せつ菜……ちゃん……?」

せつ菜「…………」
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:58:02.90 ID:eLOLjL7n0

せつ菜ちゃんが──見たこともないような、冷たい目をしたせつ菜ちゃんが、そこに立っていた。





    ☀    ☀    ☀





愛「──愛さん、とうちゃ〜く♪」
 「リシャン♪」

穂乃果「……っ!」
 「ピ、ピカ…!?」


周囲を見回すと──港だった。

ここはまさか──


穂乃果「フソウ港……!?」

愛「フソウ“ポート”に“テレポート”、なんつって! そんじゃね〜♪」
 「リシャン♪」


そしてすぐに、金髪の女の子は再び“テレポート”を使って、姿を消してしまった。


穂乃果「待っ……!!」
 「ピ、ピカ…」

穂乃果「……やられた……っ!」


一瞬で地方の真逆の場所まで飛ばされた……!

全員を遠ざけるのではなく、私“だけ”を戦線から離脱させて、分断させる。この手際の良さ……これは、事前に計画されていた作戦。敵の狙いは──恐らく、


穂乃果「千歌ちゃんが危ない……っ!」





    🍊    🍊    🍊





千歌「せつ菜……ちゃん……どう、して……」

せつ菜「…………」
 「────」


せつ菜ちゃんがどうしてここにいるの……? いや、それより、せつ菜ちゃんが使っているポケモン──

シャープなフォルムの熨斗のような姿をしたあのポケモンは──カミツルギ……ウルトラビーストだ。


せつ菜「千歌さん」

千歌「……!」

せつ菜「早く、次のポケモン、出してください」

千歌「……た、戦えないよ!!」

せつ菜「……じゃあ、いいです。出さざるを得なくするだけなので──カミツルギ、“リーフブレード”」
 「────」

千歌「……!」


私は咄嗟に飛び退く。直後──直撃してないはずなのに、斬撃によって空気が斬り裂かれ衝撃波が発生し、それによって吹っ飛ばされる。
24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 17:59:11.86 ID:eLOLjL7n0

千歌「ぐっ……!?」


どうにか受け身を取って衝撃を殺して、すぐに身体を起こす。


千歌「……っ……! せつ菜ちゃん、やめて……!!」

せつ菜「次は当てますよ……ポケモンを出しなさい」

千歌「っ……」


どうする……!? 私だけなら、最悪逃げるのも手だけど──


遥「……はぁ……っ……!! ……はぁ……っ……!!」

彼方「はる、か……ちゃん……っ……。おねえちゃん、が……いる、から……っ……! づ、ぅ……っ……!!」


あんな状態の彼方さんたちを放っておくわけにはいかない。

彼方さんは苦悶に顔を歪めながらも、遥ちゃんを抱きしめて、必死に後方へと下がっていく。

意識が朦朧としていながらも、遥ちゃんが巻き込まれないように、戦線から下がっているのだ。

でも遥ちゃんは未だに酷いパニック状態で、すでに過呼吸を起こしている。かなり危険な状態。

もう、もたもたしてられない……!


千歌「ルガルガンッ!!」
 「ワォンッ!!!!」

せつ菜「やっと……戦う気になりましたか……。“はっぱカッター”!」
 「────」

千歌「“ステルスロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」


周囲に鋭い岩を発射して、“はっぱカッター”を撃ち落とす。


せつ菜「ふふ、本来攻撃技ではないはずの“ステルスロック”で“はっぱカッター”と撃ち合うとは、さすがですね。なら、こういうのは──」

千歌「せつ菜ちゃん、もうやめて!! お願いだから!!」

せつ菜「……何故?」

千歌「そのポケモンは──ウルトラビーストは危ないの!! だから──」

せつ菜「……自分は『特別』を使うのに」

千歌「……ぇ」

せつ菜「……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!? カミツルギッ!!!」

千歌「っ……!! “ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!!」


迫るカミツルギに“ストーンエッジ”をぶつけて牽制するが、


せつ菜「“シザークロス”ッ!!!」


カミツルギは飛び出してくる鋭い岩石を、豆腐のように切り捨てる。


せつ菜「ああ、そうだ、やっぱり私を馬鹿にしてたんだ。自分が『特別』だから、『特別』じゃない私のことを……!!」

千歌「ち、違う……! そんなこと思ってないよ……っ……! ──……あなた!! せつ菜ちゃんに何したの!?」


私はせつ菜ちゃんの背後にいる、果林さんに声を飛ばす。


果林「あら……何をしたなんて、人聞きの悪い」
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:00:17.78 ID:eLOLjL7n0

果林さんは興奮して「フーフー」と息を荒げるせつ菜ちゃんを後ろから抱きすくめて、


果林「私は、この子に力をあげただけ……選んだのはこの子。……そして、選ばせたのは──貴方じゃない」

千歌「……え」

果林「可哀想なせつ菜……貴方にとって、すごくすごく大切なバトルだったのに……。チャンピオンはそんなバトルをただの一撃で終わらせた。圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……」

千歌「そ、それは……」

果林「だから、あげたの──『特別』を。──ウルトラビーストを」

千歌「そん、な……」


じゃあ、せつ菜ちゃんがこうなっちゃったのは……私の、せい……?


果林「せつ菜……貴方の力を見せて? 『特別』になった貴方は──チャンピオンにも負けないわ」

せつ菜「はい……。約束は守ります。私は、チャンピオンを討ちます……!」

千歌「わ、私……」


私は、もしかして……とんでもないことをしてしまったんじゃないか? 

私がせつ菜ちゃんを傷つけてしまった。

私はチャンピオンで、みんなにバトルの楽しさを知って欲しくて、表舞台に出ていたのに──バトルで彼女を傷つけたんだ。

一番バトルの楽しさを伝えなくちゃいけない──この地方のチャンピオンなのに。


せつ菜「“れんぞくぎり”!!!」
 「────」


連続の斬撃は、衝撃波となり、石で出来た祭壇の床を豆腐のように斬り裂きながら迫る。

棒立ちの私に向かって。


 「ワォンッ!!!!」


ルガルガンは、そんな私の服にたてがみの岩を引っかけ、無理やり背中に乗せ、後方に向かって飛び出した。

直後──私の居た場所は、まるでみじん切りにでもしたかのように、石畳の表面が細切れになる。


千歌「ルガルガン……!」
 「ワォンッ!!!!」


ダメだ……!! 落ち込んでる場合じゃない……!!

彼方さんたちもあんな様子なのに、私が立ち尽くしてる場合じゃ──


せつ菜「“しんくうは”!!」
 「────」

 「ギャンッ!!!?」
千歌「っ!!?」


逃げるルガルガンを真空の刃が斬り裂き──私は放り出されて、祭壇の岩畳の上を転がる。


千歌「ぅ……ぐぅ…………っ……」


落下の衝撃で、一瞬息が出来ずに呻き声をあげる。

痛みを堪えながら、顔を上げると──


 「ワ、ワォン…」


ルガルガンが倒れていた。
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:01:14.17 ID:eLOLjL7n0

千歌「……っ」


床に伏せる私に向かって、


せつ菜「……早く立ってください」


せつ菜ちゃんが冷たく見下ろしながら、言葉をぶつけてくる。


千歌「せつ菜……ちゃん……」

せつ菜「ほら、出してくださいよ──バクフーンを」

千歌「……っ」


私はバクフーンのボールに手を掛ける。

だけど──手が震えていた。

──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──


千歌「……っ」


あのとき、本当はどうするべきだったのか、わからなかった。

どうすれば、せつ菜ちゃんを傷つけない──ポケモンバトルの楽しさを伝えられる、チャンピオンであれたのか。

今更考えても、後悔しても、どうにもならない。

でも、


千歌「……行けっ!! バクフーンッ!!」
 「──バクフーーー!!!!」


せつ菜ちゃんをこのままにしちゃいけない。

私がせつ菜ちゃんを止めないと……!!


せつ菜「あはは……! やっと出しましたね、貴方の『特別』……!」


また傷つけちゃうかもしれないけど、それでも──このままじゃ絶対によくないから……!


千歌「バクフーーーーンッ!!!!」


私の腕のZリングが光る。

“ホノオZ”のエネルギーをバクフーンに送ろうとした、瞬間──

私は、


果林「…………へぇ」


果林さんを見てしまった。

──『圧倒的な力でねじ伏せて、あざ笑うかのように。『特別』な技で、『特別』なポケモンで……』──


千歌「……っ!!」


また、彼女の言葉がフラッシュバックした瞬間──私の腕の“ホノオZ”は輝きを失っていく。

──出来なかった。今、この技を撃つことは……出来ない。


せつ菜「カミツルギ!! “ソーラーブレード”!!」

千歌「──“かえんほうしゃ”っ!!」
 「バクフーーーーーンッ!!!!!!」
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:01:52.48 ID:eLOLjL7n0

振り下ろされる、陽光の剣に向かって──バクフーンが口から業炎を噴き出す。

陽光のエネルギーを押し返すように、燃え盛る爆炎。

だけど、振り下ろされる剣は、炎を斬り裂きながら、迫る。


──『……自分は『特別』を使うのに……それなのに、私が『特別』を使うことは許さないんですか!?』


私──『特別』に選ばれたから、チャンピオンになれたのかな。

わかんない。……自分が『特別』だなんて、考えたこともなかった。

初めてのバトルで、梨子ちゃんに負けたあの日、『強くなろう』って、そう決めて、ただ必死に我武者羅に歩んできただけのつもりだった。

一歩一歩みんなで歩いて、新しい力を手に入れたらみんなで喜んで、終わったらまた新しい何かを掴むためにまた進んで……。

でも……違ったのかな……。私はただ、『特別』に選んでもらったから、ここにいるのかな。

わかんないよ、そんなこと……。

わかんない──……でも、それでも……。そうだとしても──


せつ菜「…………」


──あんなに悲しそうな顔でバトルをするせつ菜ちゃんを、放っておいていいはず──ない!!!


千歌「バクフーーーーンッ!!!!! いけぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!」


私の心に呼応するように、バクフーンの背中の炎が燃え盛り──火炎の勢いが一気に増す。


せつ菜「……!」


勢いを増した炎は──陽光の剣さえも凌駕し、


千歌「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


全てを爆炎で飲み込んだ。

──お互いのエネルギーがぶつかり合い、その余波でフィールド全体に熱波が吹き荒れる。


千歌「……っ!!」


バクフーンにしがみついて、耐え……爆炎が晴れると──


 「────」


その先に、黒焦げになったカミツルギがいた。

黒焦げになったカミツルギは間もなく──石畳の上に崩れ落ちた。


せつ菜「…………」

千歌「…………はぁ……はぁ……」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんをウルトラビーストから、解放した。

これで──
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:02:38.01 ID:eLOLjL7n0

せつ菜「出てきなさい──デンジュモク」
 「────ジジジジ」

千歌「2匹……目……?」

せつ菜「今の私は……貴方よりもたくさんの──『特別』を持ってるんです……」


私はへたり込んでしまった。

今の私の想いじゃ──せつ菜ちゃんの心に、届かない……。


せつ菜「──“でんじほう”」
 「──ジジ、ジジジジ」


巨大な電撃の砲弾に、バクフーンもろとも飲み込まれて──私の視界は、フラッシュアウトした。





    🎙    🎙    🎙





千歌「…………」


気を失った千歌さんを見下ろす。


果林「せつ菜、今の気分はどう?」

せつ菜「……あっけない。こんなものなんですね……」

果林「……そう」

せつ菜「…………」


……やっと、千歌さんに勝利したが──すがすがしい気分とは言い難かった。


せつ菜「……どうすればいいですか」

果林「ん?」

せつ菜「彼女の身柄が欲しかったんでしょう?」

果林「あら……まだ手伝ってくれるのね」

せつ菜「力をくれたんです。義理は……通します」

果林「……そう、ありがとう」

せつ菜「それに──もう、帰る場所なんて……ありませんから……」

果林「……そう」


私は千歌さんを背負い──目の前に現れたホールに向かって歩き出す。

──そのときだ。

フィールドに倒れていた、ルガルガンとバクフーンが──


 「ワ、ォォンッ!!!!」「バク、フーーー!!!!!」

せつ菜「……っ!?」


私は驚き、背負っていた千歌さんが滑り落ちる。

最後の力を振り絞って、こちらに向かって飛び掛かってきた──と、思ったら。

──パシュンと音を立てて、千歌さんの腰についたボールの中に戻っていった。
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/16(金) 18:03:48.61 ID:eLOLjL7n0

せつ菜「……」

果林「主人と引き離されないように、最後の力でボールに戻ったみたいね……よく訓練されてる」

せつ菜「…………」


最後の力を振り絞ってまで、千歌さんの傍にいようとする彼らを見て……いろんな感情が湧き出てきそうになったが──無理やり心の底へと押し戻す。

私は今度こそホールに入るために、千歌さんを背負おうとしたそのとき──


 「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」


聞き覚えのある声がして、私は動きを止める──

振り返ると──見慣れたツインテールを揺らしながら、信じられないようなものを見る目で──


せつ菜「……侑さん」

侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」


侑さんが揺れる瞳で……私のことを見つめていた。


………………
…………
……
🎙

30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:00:14.14 ID:Lud+ZHkk0

■Chapter050 『終わりの頂』 【SIDE Yu】





──ヒナギクシティを発ち、私たちは今カーテンクリフの上空を飛んでいるところだった。


かすみ『すごいすごーい! あーんな高かった壁より高く飛んでますよー!!』
 『ガゥガゥ♪』

しずく『ただ、風が強いですね……』

侑「そうだね……。歩夢、飛ばされないようにね!」

歩夢『うん。侑ちゃんも気を付けてね』


飛行中は、歩夢とかすみちゃんがそれぞれウォーグルとアーマーガアの背中に乗って、私としずくちゃんはそれぞれのポケモンに脚で掴んでもらって空を飛んでいる。

だから、会話はポケギア越しだ。

私のバッグの中にいるリナちゃんが中継局の代わりをしてくれていて、トランシーバーのように使って会話しながら移動している。


歩夢『それにしても、本当にすごいね……まさか自分たちが、家から見てたカーテンクリフの上を飛んでるなんて……今でも実感が湧かないよ……』

侑「カーテンの頂上って、雲の上だもんね……私たち、雲の上まで来られるようになったんだね」
 「イブィ♪」「ウォーーーー!!」


自分たちの成長を実感する。成長して……今までの私たちじゃ見ることが出来なかった景色を見られるようになって……。

なんだか、嬉しいな……。


かすみ『でも、この後どうします? カーテンを越えて、ダリア側に降りますか?』

しずく『あ、それなら……西側に行くのはどうかな?』

かすみ『西側に何かあるの?』

歩夢『あ……確か、遺跡があるんだっけ……?』

しずく『はい! かなりの規模の遺跡があるそうです! せっかく、カーテンクリフを登れるようになったんですから、一度見てみたくって……!』

侑「それ私も見てみたい!」

かすみ『じゃあ、決まりですね! 西の遺跡に向かいましょう〜!』

リナ『カーテンクリフは東西に一直線に伸びてるから、尾根伝いに進んでいけば辿り着けるはずだよ!』


と、ポケギアの通信にリナちゃんの声が入る。


侑「了解! ウォーグル、真っすぐ行って!」
 「ウォーー!」

しずく『アーマーガア、侑先輩たちと同じ方向へお願い』
 「ガァーー!」


私たちはカーテンクリフを西側に進んでいく──





    🎹    🎹    🎹





尾根は長く続いていたけど──その尾根の途中に、石で出来た階段が見えてくる。


かすみ『な、なんですか、これぇ……!?』
 『ガゥゥ…!!』
31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:00:53.15 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんたちが驚くのも無理はない。

ただでさえ、標高が高いのに──その階段はさらにずっと先……遥か遠くまで伸びていたからだ。


侑「本当にすごい……! しずくちゃん、一旦降りてみよう!」

しずく『了解です、侑先輩』


ウォーグルとアーマーガアに指示を出して、私たちは階段へと下降していく。


侑「……よ、っと!」


着地出来る場所が近づいてきたところで、ウォーグルに爪を放してもらって着地する。

その後、ウォーグルもゆっくり着陸し……歩夢が降りられるように、その場に屈む。


歩夢「ありがとう、ウォーグル♪」
 「ウォー♪」


歩夢がウォーグルの頭を撫でながら、階段に降り立つ。


かすみ「実際に階段に立った状態で見ると……さらにヤバイですぅ……!」
 「ガゥ…!!」

しずく「これは……圧倒されちゃうね」


同じように降り立った二人の言葉を聞きながら、私たちも階段を見上げる。

本当に……天まで続いているんじゃないかと錯覚するような階段が、そこにはあった。

幅は3メートルくらいあって、人が数人並んで歩いても、結構余裕があるくらいの広さ。

そして高く高く続いていく階段の脇には、ちょっとした塀こそあるものの──塀の向こうにあるのは雲だけ……即ち、この階段の外側は完全に空の上ということだ。


かすみ「皆さん! せっかくここまで来たら登らない手はありませんよ! ゾロア! 頂上まで競争しよ!」
 「ガゥガゥ♪」

歩夢「あ、かすみちゃん……! 走ったら危ないよ……!」

しずく「かすみさん、落ちないでよー!? はぁ……もう……。……私たちは雲海を見ながらゆっくり行きましょう」

侑「あはは、そうだね……」

リナ『──侑さーん、行く前に出して〜』

侑「あ、ごめん……! リナちゃん、今出してあげるね!」


背中側からリナちゃんの声が聞こえてきて、慌ててバッグを開けると、リナちゃんがふよふよと外に出てくる。


リナ『ふぅ……やっと外に出られた……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ごめんね、窮屈な思いさせて……」

リナ『大丈夫。飛ばされちゃうより全然いいから』 || ╹ ◡ ╹ ||


……とはいえ、これからは飛行での移動も増えるだろうし、何か考えた方がいいかもなぁ……。

ぼんやり考えていると、


かすみ「もう〜!! 皆さんも早く来てくださーい!!」


上からかすみちゃんが急かしてくる。


歩夢「侑ちゃん、行こう♪」

侑「あ、うん」
 「イブィ」
32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:01:24.75 ID:Lud+ZHkk0

私たちは階段を登り始める。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「──……ぜぇ……はぁ……も、もう……無理……脚、上がらない……」
 「ガゥ?」

しずく「はぁ……なんかこうなる気はしてたんだよね……。はい、お水」


しばらく登っていくと、かすみちゃんがへばっていたので、階段に腰かけて一旦休憩になった。

ゾロアはまだ物足りないみたいだけど……。


歩夢「見て、侑ちゃん……! 見渡す限り雲しか見えないよ!」

 「イブィ〜〜…!!!」
侑「うん……! 本当に雲海のド真ん中にいるみたいだ……!」


まさに見渡す限り雲の海しか見えない。


しずく「もう完全に雲の上ということですね……」

リナ『カーテンクリフの頂上が、だいたいグレイブマウンテンの頂上と同じくらいの標高って言われてる。だから、クリフの頂上から伸びてるこの先の祭壇は、オトノキ地方で一番高い場所って言われてるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「へー……でも、こんな高い場所に、こんな長い階段どうやって作ったんですかね……?」


かすみちゃんが尤もな疑問を口にする。


しずく「それは今でも謎って言われてるみたいだよ。この石段はカーテンクリフの鉱物と違うから、下から切り出した石材って言われてるけど……」

かすみ「え……? 下からここまで運んできたの?」

リナ『だから謎って言われてる。どうやってこれだけの石材を運んだのかって』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「だから、宇宙人が作った〜とか、神様が作った〜とか言われてるんだよね」

しずく「ですね」

侑「まあ、確かに……これだけのものを、この高さに作ったなんて言われても、信じられないもん……」
 「ブィィ…」


今登っている真っ最中だと言うのに、人が作ったものとは到底思えない……。あ……いや、ポケモンが作った可能性もあるのかな?


しずく「さて……そろそろ、休憩終わりにしようか」

かすみ「えー!? まだかすみんくたくただよぉ……」

しずく「でも、登っている最中に夜になっちゃったら、階段で野宿だよ?」

かすみ「そ、それは嫌かも……。わかったよぉ……登ればいいんでしょぉ……」
 「ガゥガゥ…♪」

しずく「ほら、頑張って」


しずくちゃんがかすみちゃんの背中を押しながら、登っていく。

そのとき、ふと──私の上に一瞬、影が差した。
33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:08:39.99 ID:Lud+ZHkk0

侑「ん……?」
 「ブイ?」

歩夢「侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「あ、いや……今何かが上を通り過ぎたような……?」

歩夢「え?」

侑「大型の鳥ポケモンかな……? まあ、いいや。行こう」

歩夢「あ、うん」





    🎹    🎹    🎹





──階段を登り続けること30分ほど。


かすみ「あー!! 見て、しず子!! 頂上!! 頂上だよ!!」

しずく「本当だ……!」


かすみちゃんが言うとおり、視界の先に階段の切れ目が見える。


歩夢「あの先が、頂上の祭壇になってるんだね……」

侑「歩夢、大丈夫?」

歩夢「ちょっと疲れたけど……あとちょっとだから平気♪」

侑「そっか、もう少し頑張ろう」

歩夢「うん♪」


最後の一息だと思って、歩き出したそのとき、


かすみ「……あれ?」


かすみちゃんが何かに気付く。


しずく「どうかしたの?」

かすみ「……あそこにいるの……人じゃない……?」

侑「え?」


言われて、私も視線を階段の上の方に上げると──確かに人影が2つ見えた。見えた、けど……。


しずく「あの人たち、倒れていませんか……!?」


遠くてわかりづらいけど、その人たちはまるで階段に倒れているように見えた。


歩夢「た、大変……!」

かすみ「登ってる最中に体調を崩しちゃったのかもしれないですよ……!」

侑「行こう!! 助けなきゃ!!」


私たちは、倒れている人たちのところへと大急ぎで駆け出し、近付いていく。

近付いて、
34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:09:28.10 ID:Lud+ZHkk0

侑「……え?」

歩夢「あ、あの人たちって……!?」


歩夢とほぼ同時に、その人に気付いた。


しずく「ま、待ってください……あの人たちって……!!」

かすみ「──彼方先輩とはる子じゃない……!?」


しずくちゃんとかすみちゃんも、私たちと同じように驚きの声をあげる。

私たちは、階段を一段飛ばしで、彼方さんたちのもとへと駆け寄る最中──頂上からドォンッ!!! と大きな爆発音がして、階段が揺れる。


かすみ「わ、わぁぁぁ!!?」

侑「な、なに!?」


いや、爆発もだけど──まずは彼方さんたちを助けるのが先……!


遥「──いや、いやぁ……っ……!!」

彼方「──遥ちゃん……だい、じょうぶだから……っ……!」

侑「彼方さんっ!!」

彼方「ゆう……ちゃん……? みんな……? どうして、ここに……」


彼方さんは私を見て、心底驚いたように目を見開く。

ただ、彼方さんは見るからに顔色が悪く、顔面蒼白で、じっとりと掻いた脂汗が額に浮かんでいるのが、すぐにわかるほどだった。

でも──それ以上に、


遥「──……ごめんなさい……っ……ごめんなさい……っ……」


遥ちゃんの様子がおかしかった。ガタガタと震え、ぽろぽろと涙を流しながら、しきりに謝罪の言葉を呟いている。

彼方さんは、そんな遥ちゃんを抱きしめたまま、姉妹揃って階段に倒れている状態だった。


しずく「お二人とも、大丈夫ですか!?」

歩夢「どこか痛むんですか……!? 応急セットを今出すので……!」
 「シャボ」


歩夢が動くよりも早く、起き出したサスケがもうすでに、歩夢のバッグから応急セットを取り出して、歩夢の手元に運んでいた。

さすがの緊急事態にサスケも寝ている場合じゃないことに気付いたのだろう。

でも、彼方さんは、小さく首を振る。


彼方「わたし、よりも……千歌、ちゃんが……」

しずく「え……?」

侑「千歌さんが……!?」


その直後──バヂバヂバヂ!!! と強烈な稲妻が放射されて、雷轟と共に、空が白く光る。


かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!?」

リナ『強烈なでんきタイプのエネルギーを感知!! 上で戦闘が起こってる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


何が起きているのかわからない。だけど──上で千歌さんが何者かと戦っていることだけはすぐに理解出来た。
35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:10:01.73 ID:Lud+ZHkk0

侑「歩夢はここで二人を診てあげて!! 行くよ、イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

リナ『私も行く!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

歩夢「え!? 侑ちゃん!? リナちゃん!?」


私はイーブイと一緒に、彼方さんの横をすり抜けて駆け出す。


かすみ「かすみんも行きます!!」

しずく「わ、私も……!」

かすみ「ダメ!! しず子はそこで待ってて!!」

しずく「で、でも……!!」

かすみ「危ないから来ちゃダメ!! 絶対だからね!! 行くよ、ゾロア!!」
 「ガゥッ!!!!」

しずく「かすみさん!!」


かすみちゃんと二人で階段を駆け上がって頂上の祭壇へと出ると──


侑「え……」


そこには千歌さんがいた。ただ──気を失い、ぐったりとした状態で……だ。

そして、そんな気を失った千歌さんを──せつ菜ちゃんが、引き摺り起こして、背負おうとしているところだった。


侑「──せつ菜ちゃん、何してるの……!?」


私は思わず、声を張り上げた。

せつ菜ちゃんは私の声に気付いて、ゆっくりとこちらを振り返る。


せつ菜「……侑さん」

侑「せつ菜ちゃん……何、してるの……?」


彼方さんは、千歌さんが危ないと言っていた。そんな千歌さんは、


リナ『お、大怪我してる……! 早く治療しないと……!?』 || ? ᆷ ! ||

かすみ「……ひ、酷い……」


かすみちゃんが口元を覆いながら、そう言葉にしてしまうくらい、ボロボロだった。身体のあちこちに切り傷があり、血が滲み、服はところどころが焼け焦げている。

そして、そんな彼女を乱暴に引き摺り起こそうとしているのは……。

信じたくない。信じたくないけど、こんなのどう見ても──


侑「せつ菜ちゃんが……やったの……?」


せつ菜ちゃんがやったとしか思えなかった。


せつ菜「…………」

侑「せつ菜ちゃん、答えて!!」


私が前に一歩踏み出した瞬間、


かすみ「侑先輩!! 危ないっ!!」

侑「っ!?」
36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:10:41.66 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんに押し倒される形で、前に倒れこむ──と同時に、私の頭の上を火の玉が通過していった。

ハッとして顔を上げると──せつ菜ちゃんの奥に、もう一人いることにやっと気付く。

モデルのような長身に、ウルフカットの青髪……確かあの人は……。


侑「果林、さん……?」

リナ『二人とも、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……」

かすみ「ちょっとぉ!! 危ないじゃないですか!? どういうつもりですか!!」


果林さんの横には、キュウコンの姿。おそらく今の火の玉はあのキュウコンの攻撃だ。


果林「せつ菜、行きなさい」

せつ菜「……はい」

かすみ「無視しないでくださいよっ!!」


せつ菜ちゃんは果林さんの言葉に頷くと、今度こそ千歌さんを背負い上げ、歩き出す。

その先には──得体の知れない、空間にあいた穴のようなものがあった。


侑「待って、せつ菜ちゃん!! どこに行くの!? 千歌さんをどうする気!?」

せつ菜「…………」


実際に見ていたわけじゃない。だけど、あんな風にボロボロになっている千歌さんを見たら──全うなバトルをした結果じゃないことなんて、見ればすぐにわかった。

せつ菜ちゃんは千歌さんを誰よりも尊敬していたことを私は知っている。なのに、せつ菜ちゃんが千歌さんをあんな風に傷つけたなんて、信じられなくて、


侑「ねぇ、なんでこんなことするの……!?」

せつ菜「…………」

侑「せつ菜ちゃん……!! 答えてよ……!!」

せつ菜「…………」

侑「……っ……──いつものせつ菜ちゃんだったら、こんなこと絶対しないじゃん……っ!!」


私は叫んでいた。

これは何かの間違いなんだって。いつもみたいに無邪気な笑顔で周りも元気にしてくれて……それでいて誰よりも頼りになる、私の憧れのせつ菜ちゃんに戻って欲しくて。

──叫んだ。

だけど、せつ菜ちゃんは──私を氷のような瞳で一瞥したあと、


せつ菜「貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……」


そう吐き捨て──空間の穴の中へと消えていった。


侑「せつ菜……ちゃん……」
 「ブィ…」

果林「ふふ、残念。貴方の声、届かなかったわね」

侑「……っ!」


私は果林さんを睨みつける。


果林「あら、怖い……招かれざる客なのに。……いいえ、この場合──開いた口へ牡丹餅……かしら?」


果林さんがそう言うのとほぼ同時に、
37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:11:19.50 ID:Lud+ZHkk0

歩夢「侑ちゃん……!!」

侑「歩夢!?」


歩夢が階段を駆け上がってくる。


侑「下で待っててって……!!」

歩夢「火の玉が飛んでくるのが見えて、心配で…………え?」


歩夢もそこでやっと、果林さんがいることに気付く。


歩夢「なんで、こんなところに果林さんが……?」


歩夢はぽかんとする。──が、


かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガゥゥゥ!!!!」


ゾロアがキュウコンに向かって攻撃を放つ。


果林「あら……“あくのはどう”で打ち消しなさい」
 「コーーーンッ!!!」


キュウコンはそれを難なく相殺してみせる。


歩夢「か、かすみちゃん……!?」

かすみ「歩夢先輩!! あの人は敵です!!」

果林「あら、酷いじゃない……前に助けてあげたのに」

かすみ「先に攻撃してきたのは、そっちじゃないですか!!」

果林「全く……こっちはやることが出来ちゃったんだから、邪魔しないで──」


そう言って、果林さんがすっと手を真上に伸ばすと、


かすみ「……んぎっ!?」
 「──ガゥ!!?」

歩夢「……えっ!?」
 「シャボ…!!」

侑「……か、身体が……!?」
 「イブィッ!?」

リナ『みんな!?』 || ? ᆷ ! ||


私たち3人とそれぞれの手持ちたちは、一斉に身体が動かせなくなる。


侑「“かな、しばり”……!?」
 「ブ、ブィ…!!!」

果林「ふふ、正解」


一気に3人同時に“かなしばり”状態にされ、動けなくなる。


リナ『侑さんたちを放して……!!』 || ˋ ᨈ ˊ ||

果林「貴方……さっきから、うるさいわね。少し黙ってて」
 「コーンッ!!!」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||


キュウコンが吐き出した“ひのこ”がリナちゃんに直撃し、吹っ飛ばされる。
38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:11:56.43 ID:Lud+ZHkk0

侑「リナちゃん!?」

リナ『ボディ損傷──ボディ損傷──ストレージ保護のため、緊急休止モードに移行します』 || ERROR ||


リナちゃんは、地面を転がったのち、エラーメッセージを吐いて、動かなくなってしまった。


果林「とりあえず……これで、うるさいのはいなくなったわね」

歩夢「ひ、酷い……」

侑「……っ」

果林「それで……確か、あの子でいいのよね──」


果林さんがそう言いながら振り返ると──

果林さんの背後に、


 「──うん、そっちのお団子の子ね」
  「リシャン♪」


ワープでもしてきたかのように、女の子が突然現れた。


歩夢「え……」

侑「うそ……」

かすみ「今度は、誰ですか……!?」


明るい金髪をポニーテールに結った──見覚えのある女の子。


侑「愛……ちゃん……?」

愛「やっほーゆうゆ、歩夢ー♪ 久しぶりー♪」


愛ちゃんは楽しそうに笑いながら、手を振ってくる。


果林「……愛」

愛「おっと、馴れ合い禁止ってやつ? 怖い怖い」


果林さんは、愛ちゃんを一瞥して、小さく溜め息を吐いたあと、こちらにゆっくり歩いてくる。


かすみ「こ、こっちきたぁ……!」
 「ガ、ガゥゥ…!!!」

侑「ぐ、ぅ……! うご、け……!」
 「ブ、イィ…!!!」


身体を必死に動かそうとするけど、全く自由が効かない。

果林さんは、そんな私たちの目の前までやってきて──素通りした。


侑「……!?」

かすみ「え?」


私たちを無視して、果林さんは──


果林「貴方が……歩夢ね」


そう言いながら、歩夢の頬に手を添える。


歩夢「え、えぇ!?」
39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:13:23.38 ID:Lud+ZHkk0

突然のことに歩夢が酷く動揺した声をあげる。しかも、あろうことか──


果林「すんすん……」


果林さんは、歩夢の首筋に顔を近付けて、匂いを嗅ぎ始めた。


歩夢「な、ななな、なにしてるんですかっ!?///」
 「シャーーーーッ!!!!」

果林「……よくわからないわね」

愛「あはは♪ 人間の鼻じゃ、わかんないよ」

果林「そういうものなの?」

愛「そういうもんだよ」


──二人は何の話をしてるの……?

果林さんはサスケに威嚇されているのに、無視し、


果林「まあ、いいわ。ねぇ、歩夢」


再び歩夢の頬に手を添え、顔を覗き込みながら、


果林「──私たちの仲間になってくれない?」


そんなことを言い出した。


歩夢「え……?」

侑「は……?」

かすみ「はい?」


果林さんの言葉に3人揃って固まる。……いや、もう既に固まって動けないんだけど……。


歩夢「な、なに……言ってるんですか……?」

果林「私たち、貴方の力に興味があるのよ」

歩夢「私の力……? 何の話ですか……?」

果林「貴方には──ポケモンを手懐ける特別な力があるの。それを私たちのために使ってくれないかしら?」

歩夢「え……!?」

侑「な……」

歩夢「わ、私にそんな力ありません……! だから、放してください……!」


果林さんの言葉を否定し、もがく歩夢。

だけど、


愛「いーや、あるよ」


今度は逆に、愛ちゃんが歩夢の言葉を否定する。


歩夢「あ、愛ちゃん……?」

愛「アタシたちね、さっきカリンが言った──ポケモンを手懐ける才能を持った子をずっと探してたんだよ」

歩夢「な、なに……言って……」

愛「まあ、もともとはカリンが他の人を捕まえるつもりだったんだけど……倒すならともかく、捕まえるにはあまりに強すぎてね。んで、その間アタシは地道に探してたわけ」
40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:13:58.56 ID:Lud+ZHkk0

地道に……?


侑「……まさ、か……」

愛「そう、そのまさか。愛さん、ドッグランで張って、立ち寄るトレーナーを観察してたんだよ。んで、見つけた」

歩夢「う、そ……」

侑「それ、じゃ……あのとき、育て屋にいたのは……」

愛「ああ、いやいや、タマゴからエレズンが孵って、ラクライたちに狙われてたのはホントだよ? ちょっと、帰るのめんどいなーって」

歩夢「めんどいって……」

愛「ただね、あそこで地道に張ってた甲斐あったよね……本当にお目当ての力を持った子が現れたんだもん」

歩夢「じゃあ……私たちを……騙したの……? あのとき、言ってくれたことも……嘘、だったの……?」

愛「嘘なんかじゃないよ。だって歩夢──ちゃんと強くなってるじゃん。愛さんの見立てどおりに、ちゃんと強くなってくれた。きっとあのときよりも、ポケモンを手懐ける力も強くなってるよ♪」

歩夢「そん……な……」


歩夢が言葉を失う。

そんな歩夢に、


果林「それで、どうするの? 仲間になってくれるのかしら?」


果林さんがそう詰め寄る。


歩夢「ぜ、絶対に……なりません……」

果林「へぇ……」


果林さんは歩夢の頬から手を離しながら、冷たい目を向け──


果林「“ほのおのうず”」
 「コーーンッ!!」

歩夢「……っ!? 熱……っ!!」
 「シャーーーボッ!!!」


歩夢に向かって、“ほのおのうず”を放つ。


侑「歩夢っ!?」

かすみ「歩夢先輩!!」

果林「ほら、早くうんって言った方がいいわよ? 熱いの嫌でしょ?」

歩夢「っ゛……い、いや、です……」

果林「……」

侑「……歩夢を、放せぇぇ……!!」
 「ブ、ィィ!!!!」


動けない中……イーブイの尻尾から、タネが1個ポロリと床に落ち──直後、メキメキと音を立てながら、一気に樹に成長していく。


果林「!? 何……!?」

侑「“すくすくボンバー”ッ!!」
 「ブゥィィ!!!!」


成長しきった樹から巨大なタネを、キュウコンに向かって降らせる。


果林「ちっ……“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」
41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:14:29.68 ID:Lud+ZHkk0

キュウコンの尻尾にポポポッと九つ火が灯り、それがタネに向かって的確に発射される。

タネは着弾することなく、空中で焼き尽くされるが、


かすみ「と、わたた……!? あれ、動ける!?」
 「ガゥッ!!!」

侑「解除された……!!」
 「イブイッ!!!」


“かなしばり”が解除される。


愛「ありゃりゃ、技を使う拍子にキュウコンの集中が切れちゃったか」


侑「歩夢を、放せぇぇ……!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブ、イィッ!!!!!」


イーブイから放たれる電撃。


果林「“じんつうりき”」
 「コーンッ!!!」


それを念動力によって、地面に叩き落とす。


かすみ「ゾロア!! “スピードスター”!!」

果林「“かえんほうしゃ”」
 「コーーーンッ!!!!」


かすみちゃんの援護射撃も、なんなく焼き尽くし相殺する。


かすみ「侑先輩!! 二人で協力して、あの人倒しますよ!!」

侑「わかってる!!」


歩夢を目の前で傷つけられて、私は完全にトサカに来ていた。

絶対に許さない……!!


果林「はぁ……これだけ力を見せてあげても、二人なら勝てる、なんて思っちゃうのね。“れんごく”!」
 「コーーンッ!!!!」


──キュウコンから放たれた、紫色の炎が、


 「ガゥァッ!!!?」


ゾロアに直撃し、一撃で戦闘不能に追い込まれる。


かすみ「つ、つよっ!?」

侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブイィィッ!!!!」


その隙に、イーブイが泡を飛ばして攻撃する。……が、


果林「“ねっぷう”!」
 「コーーーンッ!!!!」


強烈な“ねっぷう”が吹き荒び、


 「ブィィッ!!!!?」
42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:15:03.22 ID:Lud+ZHkk0

“いきいきバブル”を蒸発させながら、イーブイごと焼き尽くす。

しかも、その技の範囲が尋常ではなく、


かすみ「あち、あちちちっ!?」

侑「ぐ、ぅぅぅぅっ!!?」


私たちトレーナーの方まで熱波が襲ってくる。

咄嗟に顔を庇うが──熱だけでなく、強烈な風によって、


かすみ「ぴ、ぴゃぁぁぁぁ!?」

侑「ぐぅ……!!」


立っていることもままならず、かすみちゃんもろとも吹き飛ばされて、地面を転がる。

転がりながらも、


侑「っ……! い、イーブイは……!」


どうにか顔を上げると、


 「ブ、ブィィィ!!!?」

 「コーン!!!!」


イーブイはすでにキュウコンに前足で押さえつけられていて、


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーンッ!!!!」

 「イブィィィィッ!!!!!!」
侑「イーブイ!?」


至近距離から強烈な火炎によって焼き尽くされた。


 「イ…ブ、ィ…」
侑「イーブイ……っ……!」

果林「これでわかったでしょう? 力の差は歴然──」

侑「ライボルト!! ウォーグル!!」
 「ライボッ!!!」「ウォーーーッ!!!」

かすみ「ジュカイン!! テブリム!!」
 「カインッ!!!」「テブテブッ!!!」

果林「……愛、手伝ってくれない?」

愛「アタシはパ〜ス♪ エンジニアだし〜♪」

果林「都合のいいときだけ、エンジニア気取りするんだから……。はぁ……わかったわよ」


果林さんは溜め息を吐いて、


果林「本当の絶望を──見せてあげるわ」


そう言って、パチンと指を鳴らした、瞬間──


 「ウォーーッ!!!?」


ウォーグルが何かの攻撃を受けて後方に吹っ飛んだ。


侑「え……?」
43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:15:39.00 ID:Lud+ZHkk0

何が起きたのか、理解する間もなく。


 「カインッ!!!?」


今度はかすみちゃんのジュカインが上から攻撃を叩きつけられて、足元の石畳にめり込む。


かすみ「ジュカイン!?」

侑「敵の動きが、見えない……!? ……っ、“ほうでん”!!」
 「ライボッ!!!」


私は咄嗟に範囲攻撃で対応する。

いくら速くても、周囲に展開される、電撃なら……!


果林「範囲攻撃なら……当たる、とでも?」

侑「……!?」


直後、


 「ライ、ボッ!!!!」


ライボルトの懐に潜り込み、顎下から蹴り上げるポケモンの姿が見えた。

真っ白な上半身と、真っ黒下半身をした──細身のポケモン。見たことのないポケモンだった。


侑「ライボルト……!?」


ライボルトは真上に向かって数メートルは吹っ飛ばされ──しばらく空中を舞ったあと、強く地面に叩きつけられた。


侑「っ……ドロンチ!!」
 「ロンチッ!!!!」


私が次のポケモンを繰り出した直後、


かすみ「……フェロー……チェ……?」


かすみちゃんが声を震わせながら、そう言葉にした。


侑「フェローチェ……? かすみちゃん、何か知ってるの……!?」

かすみ「なんで……なんで、そんなの……──ウルトラビーストを使ってるんですか!?」


ウルトラ……ビースト……?


果林「なんでって──ウルトラビーストをこの世界に呼んだのは、私たちだもの」

かすみ「!! じゃあ、お前のせいで、しず子が……!!」

果林「はぁ……もう、そういう熱血展開飽きちゃったわ、フェローチェ」
 「フェロ」


果林さんが溜め息を吐きながら、言った瞬間、


 「テブッ!!?」


目にも止まらぬスピードで、テブリムが蹴とばされる。蹴とばされたテブリムは剛速球のように──ヒュンと風を切りながら、


かすみ「ぐぇっ……!?」
44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:16:12.29 ID:Lud+ZHkk0

かすみちゃんのお腹に直撃し、ポケモンだけでなくトレーナーごと吹っ飛ばした。


侑「かすみちゃんっ!?」


テブリムと一緒に数メートル吹っ飛んで、石畳の上を転がり──かすみちゃんは……くたりとして動かなくなった。


歩夢「いやぁぁぁぁぁッ!!!!?」


それを見て、歩夢が絶叫する。

そして、次の瞬間には、


果林「“じごくづき”」
 「フェロ」

 「ロンチ!!?」


ドロンチが攻撃を受けて、私の真横スレスレを猛スピードで吹き飛んでいった。


侑「…………う……そ……」


私は、ペタンと尻餅をついた。

ダメだ……勝てない……。

相手が……強すぎる……。


果林「……おイタが過ぎたわね」
 「フェロ」


フェローチェが私の目の前で足を振り上げた。


歩夢「逃げてええええぇぇぇぇっ!!!!」


響く歩夢の絶叫。

尻餅をついた私に振り下ろされる、フェローチェの脚、スローモーションになる景色。

そのとき──私の目の前に影が割って入った。


彼方「“コスモパワー”!!」
 「────」


──ガキィンッ!! と音を立てて、フェローチェの攻撃が弾かれる。


果林「……! 彼方……」

侑「か、彼方、さん……」

彼方「侑ちゃん……へい、き……っ゛……?」


私そう訊ねながらも、彼方さん相変わらず酷い顔色のままで、足元が覚束ない。


果林「ふふ……随分、体調が悪そうじゃない」

彼方「……果林、ちゃん……狙いは……私とこの子、でしょ……! 関係ない子たちに……手を、出さないで……!」
 「────」


この子──彼方さんのすぐ傍にいるポケモン……金色のフレームのようなものの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモン……。

あれ、どこかで……。


侑「……そうだ、ロッジの天井にあったオブジェ……」
45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:17:25.76 ID:Lud+ZHkk0

そのポケモンはコメコの森のロッジに泊まったとき、天井に釣り下がっていたオブジェと同じ姿をしていた。


果林「……どこに隠したのかと思ったら──コスモウムに進化していたのね。……それじゃ、もうエネルギーにならないじゃない」

愛「どーりでいくら“STAR”を探しても、センサーすら反応しないわけだ……」

彼方「いい、から……! ……歩夢ちゃんを……放して……!」

果林「断るわ。この子は私たちのこれからの計画に必要なの」

彼方「い、一体……なにする、つもりなの……!?」

果林「もう利用価値のない人間に、教えることはないわ──“むしのさざめき”!!」
 「フェローーーー!!!!」


──目の前フェローチェから、とてつもない高周波が、発せられ、


 「────」


振動の衝撃で、彼方さんのコスモウムと呼ばれていたポケモンを吹き飛ばす。

しかも、フェローチェの“むしのさざめき”はそれだけに留まらず、


侑「ぃ゛、ぁ゛……ッ!!!」


余波だけで近くにいた、私たちトレーナーも巻き込み始める。

直撃しているわけじゃないはずなのに、頭が割れそうになるような、とつてもない高周波。

だけど、私なんかとは比べ物にならないくらいに、


彼方「──あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁッ!!!?」


彼方さんが苦しみ始めた。


侑「かな゛、た゛、さん……ッ……!?」

彼方「う゛、ぁ゛、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁッ!!!!」


彼方さんは、瞳孔が開ききり、頭を押さえて、のたうち回っている。


果林「ふふ……ただの攻撃だったら耐えられたかもしれないけど──貴方たち姉妹の記憶には、この音に対する恐怖が刻みつけられているものね……」

彼方「あ゛、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!!!」

侑「ぐ、ぅぅぅぅ……ッ……!!!!」


私も、もう限界だった。意識が飛びそうになった、そのとき──目の前に紺色の袋のようなものが飛び込んできた。


かすみ「──“じばく”……ッ!!」
 「ブクロォォォ!!!!」

 「フェロッ!!?」
果林「!?」


それはヤブクロンだった。かすみちゃんのヤブクロンが飛び込んできて──フェローチェの目の前で、“じばく”した。


侑「っ゛!?」


至近距離で起こった爆発によって、身体が宙を浮いた瞬間、


 「──ニャァッ!!!」


ピンチを察したのかニャスパーが勝手にボールから飛び出し、“テレキネシス”で私と彼方さんの身体を浮かせて落下の衝撃を防いでくれる。
46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:18:07.17 ID:Lud+ZHkk0

侑「はぁ……っ……はぁ……っ……あ、ありがとう……ニャスパー……」
 「ニャァ」

彼方「ぅ……ぐ、ぅ……」

かすみ「侑、先輩……っ……! かな、た先輩……っ……!」


かすみちゃんが、よろけながら、私たちのもとへと歩いてくる。


かすみ「だいじょうぶ……ですか……」

侑「……か、かすみちゃん……身体は……」

かすみ「かす、みん……これくらい……へい、き……です……」


かすみちゃんはそう言うけど、見るからに満身創痍。もう限界だ。


彼方「かす、み……ちゃん……たた、か……っちゃ……ダメ……ゆうちゃん、と……逃げ、て……──」

侑「彼方さん……っ!!」


彼方さんは最後にそう言い残すと──意識を失ってしまった。


かすみ「歩夢、先輩……取り、戻したら……そっこーで、逃げ、ますよ……」

侑「……かすみ、ちゃん……」


あくまで強がるかすみちゃんを見て、果林さんは感心した風に口を開く。


果林「……さすがに驚いたわ。咄嗟に身を引かなかったら、やられてたかもね」
 「フェロ…」

かすみ「どんな、もんですか……! ヤブクロン、が……一発、かまして、やりましたよ……!」

果林「はぁ……弱いネズミでも、追い詰められると噛み付いてくるものね。……いいわ、ちゃんと──殺してあげる」


果林さんの目に──明確な殺意が宿った。


歩夢「侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!」

果林「フェローチェ」
 「フェロ」


またしても、フェローチェの姿が掻き消える、そして次の瞬間には──かすみちゃんの目の前で脚を振り上げたフェローチェの姿。

でももうかすみちゃんには、どう考えても避ける体力すら残ってない。


侑「──かすみちゃん……っ!!」

かすみ「ゆ、ぅ……せんぱ……」


私はかすみちゃんを庇うように、飛び付く。

でも──振り下ろされる脚を避け切るのは不可能……もう、間に合わない。

ぎゅっと目を瞑って──死を覚悟した、そのとき、


歩夢「──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!」


歩夢の叫びが一帯に響き渡った。

──フェローチェの脚は、私の脳天を掠るか掠らないかの場所で、ピタリと止まっていた。
47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:18:45.17 ID:Lud+ZHkk0

果林「……」

歩夢「もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……付いていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……」

侑「あゆ、む……?」

果林「貴方たち、歩夢のお陰で命拾いしたわね」


そう言うと、歩夢の周囲にあった“ほのおのうず”が掻き消える。


果林「さぁ、行きましょう。歩夢」

歩夢「……はい……っ……」
 「シャーーーーッ!!!!!」

歩夢「サスケ……大人しくしてて……」
 「シャ、シャボ…」

愛「ん、話付いたみたいだね」


直後、愛ちゃんの背後に──さっきせつ菜ちゃんが消えていった空間の穴のようなものが出現する。

歩夢は果林さんと一緒にそこに向かって歩いていく。

ダメだ──


侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」


私は、力を振り絞って、立ち上がった、けど、


歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


歩夢の言葉に私の身体が固まる。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


私は、へなへなとその場にへたり込む。


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

 「──待ってください!!」


突然、通る声が響く。それは、


しずく「…………」


しずくちゃんだった。下で待っていたはずのしずくちゃんが、ここまで登って来ていた。


かすみ「しず……子……?」


しずくちゃんは、ツカツカと果林さんたちの方へ歩いていき、


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


信じられないことを口にした。


かすみ「しず……子……!?」

侑「え……」
48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:19:18.88 ID:Lud+ZHkk0

しずくちゃんの様子がおかしい。

まるで熱にでも浮かされているような、トロンとした瞳で──フェローチェを見つめている。


しずく「フェローチェ……! 私はそのポケモンにまた会いたいとずっと思っていたんです……♡」

果林「ふふ……やっぱり来たわね、しずくちゃん」

しずく「はい……♡」

かすみ「しず子、ダメ……! そっちに行っちゃ……!」

果林「いいわ。私の言うことを聞けるって約束してくれたら……たくさんフェローチェを──魅せてあげる」

しずく「本当ですか……♡」


しずくちゃんの表情がぱぁぁっと明るくなる。


かすみ「……っ……!! サニーゴ……! “パワージェム”……!」
 「……サ」


かすみちゃんが、サニーゴをボールから出し──直後、ヒュンヒュンと光がフェローチェの方に向かって飛んでいく。

が、フェローチェはそれを軽々と脚で切り払うようにしてかき消す。


果林「まだ、立つ力が残ってるのね……」

かすみ「しず子は……行かせない……ぜ、ったいに……」

果林「……しずくちゃん、連れて行くには条件があるわ」

しずく「なんでしょうか……♡」

果林「あのうるさいのを──黙らせなさい。貴方の手で」

しずく「……はい、わかりました♡」

かすみ「え……」

しずく「インテレオン」
 「──インテ」


ボールから出てきたインテレオンが──かすみちゃんに向かって指を向ける。


かすみ「うそ……だよね……? しず子……?」

しずく「……」

かすみ「負けないでって……言ったじゃん……! あんなのより、かすみんを見てって……言ったじゃん……!」

しずく「私の邪魔、しないで……──“ねらいうち”」
 「インテ」


インテレオンの指から、音よりも速い水の弾丸が飛び出し──かすみちゃんの頭の左側に直撃する。


かすみ「っ゛……ぁ……」

侑「かすみちゃん!?」


着弾の衝撃で、かすみちゃんが石畳の上を転がる。

一拍置いて──カツーンと髪飾りが床に落下し、音を立てた。
49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:20:08.69 ID:Lud+ZHkk0

かすみ「しず……子……」

しずく「次は髪飾りじゃなくて……眉間に当てるよ」

かすみ「しず……子……っ……」

しずく「……これで、よろしいですか♡」

果林「ええ、上出来だわ。……いらっしゃい、しずくちゃん」

しずく「はい♡」


しずくちゃんが、軽い足取りで果林さんのもとへと駆けていく。


愛「……あーあ、酷いことするね、カリン」


愛ちゃんが穴に吸い込まれるようにして消え、


果林「さぁ、しずくちゃん、この先に行くのよ」

しずく「はい♡ 仰せのままに……♡」


しずくちゃんが消え、


果林「次は貴方の番よ」

歩夢「……はい」


歩夢が、穴へと、歩き出す。


侑「歩夢……い、行かないで……」


歩夢「…………」


私の声を聞いて、歩夢の足が止まる。
50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:20:49.29 ID:Lud+ZHkk0

果林「歩夢」

歩夢「…………っ」


侑「やだ……行かないでよ……歩夢……!!」


歩夢「侑ちゃん……」


歩夢が半身だけ振り向き、私を見て、言った。


歩夢「私はいつでも……侑ちゃんのこと、大切に想ってる……っ……。……どんなに離れていても……想いは同じだよ……っ……」


いつか、言ってくれた、伝えてくれた、言葉を。


侑「待って……待ってよ……歩夢……!!」


歩夢「……ちょっと……行ってくるね……っ……」


ポロポロと涙を零しながら、にこっと笑って──


果林「行くわよ」

歩夢「……はい」


侑「歩夢……っ!!!」


歩夢は、果林さんに背中を押され──空間の穴に消えていった。


侑「歩夢うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!!」


私の叫びは……この地方の一番高い場所で──空に溶けて、消えていった……。



51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/17(土) 16:21:23.68 ID:Lud+ZHkk0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【黄昏の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.59 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.59 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.55 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.47 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.54 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      タマゴ  ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
 バッジ 6個 図鑑 未所持

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.54 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.51 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.49 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.49 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.49 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.48 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:191匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



52 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2022/12/17(土) 21:54:06.73 ID:QM1x0j150
頭の中のアニメの動きと台詞全部書き連ねましたみたいな冗長さ 
くどくても読ませる文章ならいいけどこのレベルでは……
ポケライブSS好きだけど流石にギブ、すまんな
53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:11:43.19 ID:X9ltvPdj0

■Chapter051 『──かすみの願い』 【SIDE Yu】





──あの戦いのあと、私たちがどうなったのかはよく覚えていない。

気付いたら病院で治療を受けていて、気付いたら病院のベッドで寝ていた。

幸い、私の傷はそこまで酷くなかったが、ポケモンたちは酷く傷ついていたため、治療室で過ごしているそうだ。

かすみちゃんは……どうしているだろう。壊れてしまったリナちゃんは……彼方さんや遥ちゃんは無事だろうか……。

みんなの顔を見に行った方がいいのはわかっているけど──今は何もする気が起きなかった。

ただ、日がな一日、ベッドの上でただ窓の外をボーっと眺めながら過ごして……。

日に三度、規則正しく出てくる食事は……取ったところでほとんど吐いてしまうため、1口2口食べて後は全部残す。

でも……不思議と空腹は感じなかった。まるで、空腹というものを心が忘れてしまったかのようだった。

入院してすぐにお父さんとお母さんが持ってきてくれた果物も……食欲がなくて、全く手を付けていない。

看護師さんにはすごく心配されるけど、言っていることがあまり頭に入ってこず、全てが右から左へ通り抜けていく。

夜は消灯時間を過ぎても全然眠くならなかった。

ただ、ベッドで身を起こしたまま──真っ暗な病室でただ窓の外の月を眺めていた。

たまに意識が遠のいて──気絶したように眠り、起きたらただボーっとベッドの上で過ごす。それの繰り返し。

そんな風に過ごして──もう5日が経とうとしていた。


……そういえば、3日目くらいに、ポケモンリーグの理事長──すなわち、元四天王の海未さんが私の病室を訪れた。

事情を訊きたいとのことで。

私は訊かれた質問に対してただ淡々と答えた。

カーテンクリフに行ったこと。

せつ菜ちゃんが、ボロボロになった千歌さんを連れ去ったこと。

果林さんと愛ちゃんが悪い人だったこと。

しずくちゃんが付いて行ってしまったこと。

──歩夢が、行ってしまったこと……。

普段の私だったら、あの海未さんが目の前にいるとなれば、大はしゃぎだったと思う。

だけど……何も感じなかった。なんの感情も、湧いてこなかった。


──自分の中で大切な何かが壊れてしまったんだと、どこか俯瞰気味に自分を見つめている私がいた。





    🎹    🎹    🎹





──コンコン。病室がノックされる。


侑「…………」

善子『──侑……私、善子だけど……入るわよ』


今日も変わらずぼんやりと窓の外を眺めていると、病室にヨハネ博士が顔を出す。
54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:12:32.44 ID:X9ltvPdj0

善子「侑……大丈夫──……なわけないわよね……。ごめんなさい……」

侑「…………」

善子「ご飯食べてる……? 親御さんが心配してたわよ……」

侑「…………」

善子「……侑……」

侑「…………出てこないんです」

善子「え……?」

侑「すごく……悲しいはずなのに……。……涙が、出てこないんです」

善子「…………」

侑「私……おかしくなっちゃったのかな……」

善子「……侑……っ……」


ヨハネ博士が、私の手をぎゅっと握る。


善子「……ごめんなさい……」

侑「……謝らないでください……博士……。……ヨハネ博士は、何も悪くないんですから」

善子「…………っ……」


きっと、ヨハネ博士も辛いよね。自分が旅に送り出した子たちが……こんなことになって。

ヨハネ博士は言葉を探していたけど──結局見つからなかったのか唇を結ぶ。


善子「……そうだ」


ヨハネ博士は自分のカバンからボールを6つ出して、ベッドの上に並べる。


善子「…………侑、貴方の手持ちとタマゴよ。みんな元気になったって」

侑「……そっか……よかった」

善子「……あと……かすみが貴方に会いたがってたわ」

侑「……かすみちゃん……元気になったんですね」

善子「えぇ……まだ頭に包帯巻いてるけどね。……無理にとは言わないけど、今病院の中庭にいると思うから……侑が嫌じゃなかったら、会いに行ってあげて」

侑「……はい」

善子「……それじゃあ、お大事にね」


ヨハネ博士はそう残して、病室から静かに立ち去った。


侑「…………」


私は少し悩んだけど……別に他にやることがあるわけでもないし、と思い……ベッドから出て上着を羽織る。

ボールベルトを巻こうと手に持とうとすると──手が震えて、うまく持てなかった。


侑「…………あはは……ダメだ……」


私はベルトを着けるのを諦め、手持ちのボールをバッグに詰め──片側だけ肩に掛けるようにして、自分の病室を後にした。



55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:13:05.54 ID:X9ltvPdj0

    🎹    🎹    🎹





──中庭に行くと、かすみちゃんはすぐに見つかった。


かすみ「さぁ、みんな! あと10周いくよー!」
 「ガゥ!!」「クマァ」「カイン」「ヤブク〜」「テブ!!」

 「…サ…コ」

かすみ「サニーゴは……まあ、いいや……。速く動けないし……」

侑「……何、してるの?」

かすみ「え?」


声に振り返ったかすみちゃんは──私の顔を見て目を丸くした。

そして、すぐにぱぁぁっと花が咲いたように笑顔になる。


かすみ「侑先輩!! もう、いいんですか!?」

侑「あ、うん……かすみちゃんこそ、平気……?」

かすみ「はい! もう完全回復です! だから今、特訓中なんです!」


そう言いながらも──二の腕や手、太ももや足首と、あちこちに包帯が巻かれているし、何より……頭部に巻かれている包帯が痛々しい。

そんな私の視線に気付いたのか、


かすみ「あ、これですか……? ホントはちょっと擦りむいただけなんですけど……大袈裟ですよね! まー痕とか残っちゃったらイヤなんで、治療はちゃんと受けますけど……。あ、でもでも、かすみんあの戦いの中でも、顔だけは絶対死守したんですよ〜! 偉いと思いませんか、侑先輩♪」

侑「……」


私はかすみちゃんの腕をぐっと掴む。


かすみ「いたっ……!!」

侑「やっぱり……治ってない……。大人しくしてないと……」

かすみ「も、もう侑先輩ったら、急に掴んだら痛いじゃないですかぁ〜! いくら侑先輩でも、そういうことされたら、かすみんぷんぷんしちゃいますよ〜!」

侑「かすみちゃんっ!!」

かすみ「……!!」


私が大きな声を出すと、かすみちゃんはビクリとする。


侑「病室に戻りなよ……看護師さん、心配してるでしょ……?」

かすみ「……侑先輩のお願いでも、それは聞けません」


かすみちゃんは私からぷいっと顔を背ける。
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:13:40.00 ID:X9ltvPdj0

かすみ「かすみん……もっともっと、強くならないといけないんです……! だから、寝てる場合じゃないんです!」

侑「……強く、なる……」

かすみ「はい! 強くなって、しず子たちを助けに行くんです! だから、侑先輩も、一緒に特訓しましょう!」

侑「……私は……いい……」

かすみ「……やっぱり、まだ調子悪いんですかね……? 大丈夫です! かすみん、侑先輩が元気になるまでちゃんと待ってます! あ、でもでも……あんまりのんびりしてると、かすみんどんどん強くなって置いてっちゃいますよ〜?♪」

侑「……もう……やめようよ……かすみちゃん」

かすみ「……え?」

侑「こんなことしても……意味ないよ……」

かすみ「……ち、ちょっと、侑先輩〜、どうしたんですかぁ〜?」

侑「……私たちが頑張ったところで……勝負にならないよ……」

かすみ「侑……先輩……?」

侑「……きっと今、もっと強い人たちがどうするか考えてくれてる……」


海未さんが私のもとを訪れたのはそういうことだろう。

何せ、ポケモンリーグのシンボルたるチャンピオンが連れ去られたんだ。

リーグ側が何もしないなんて、それこそありえない。


侑「ジムリーダーとか、四天王とか……そういう人たちに任せた方がいいよ……。……私たちじゃ、足手まといになるだけだよ……」

かすみ「……侑先輩、それ……本気で言ってるんですか……?」

侑「……だって、果林さんの強さ……身を持って思い知ったじゃん……」


──本当に圧倒的な力の差だった。今五体満足で生きていることが、奇跡なんじゃないかというくらいに……。


侑「……私たちがちょっとやそっと頑張ったって……勝てないよ」

かすみ「…………」

侑「だから……もう、やめよう……。きっと、歩夢たちのことも強い人たちがどうにかしてくれる……。だって、この地方には強いトレーナーがたくさんいるから……だからさ──」


そのとき──


かすみ「……サニーゴ」
 「──サ」


かすみちゃんが名前を呼ぶと同時に、サニーゴが私の顔に向かって──水を噴き出してきた。


侑「わ……!?」


私は驚いて、尻餅をつく。その拍子に、バッグが中庭の地面に放り出される。


侑「……かすみ、ちゃん……?」

かすみ「…………ジュカイン……! “このは”!!」
 「カインッ!!」

侑「う、うわぁ!?」


今度は“このは”が襲い掛かってきて、腕で顔を覆う。

幸い、“このは”は強い技じゃないから、“このは”がべしべし当たって、ちょっと痛いくらいだけど──


侑「なにするの……!?」


思わず声を荒げる。
57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:14:15.69 ID:X9ltvPdj0

かすみ「……侑先輩が、そんなこと言う腰抜けさんだったなんて……知りませんでした……!!」

侑「……腰抜けって……」

かすみ「その根性──かすみんが叩き直してやります……!! ゾロア!! “あくのはどう”!!」
 「ガーーーーゥゥ!!!!!」

侑「うわぁっ!!?」


私は咄嗟に身を屈めて避ける。


侑「や、やめてよっ!! かすみちゃん!!」

かすみ「やめて欲しかったら、力尽くで止めればいいじゃないですか!! ジグザグマ!! “ミサイルばり”!!」
 「ザグマァッ!!!」

侑「……っ」


私に向かって──“ミサイルばり”が当たりそうになった瞬間、


 「──イブィッ!!!!」


イーブイがバッグの中に入れたボールから勝手に飛び出し──バキンッ! と音を立てながら、黒い氷塊を作り出して、“ミサイルばり”を弾き飛ばした。


侑「イーブイ……!?」


それを皮切りに──


 「ライボッ!!!」「ウォーーー!!!!」「ロンチィ…!!!」「ニャー」


私の手持ちが次々と、勝手に飛び出してくる。


侑「み、みんな……!? ダメ、ボールに戻って!!」

かすみ「侑先輩と違って、ポケモンたちはやる気みたいですね……!! テブリム!! “サイコショック”!! ヤブクロン!! “ヘドロばくだん”!!」
 「テブリッ!!!」「ヤーブゥ!!!!」


かすみちゃんは、飛び出してきた私の手持ちを見て、ますます激しく攻撃をしかけてくる。


侑「あーもうっ!!! ニャスパー、“サイコキネシス”!! ドロンチ、“りゅうのはどう”!!」
 「ニャー」「ロン、チィィィ!!!!」


ニャスパーが“サイコショック”を“サイコキネシス”で静止させ、ドロンチが“りゅうのはどう”で“ヘドロばくだん”を撃ち落とす。


かすみ「やっとやる気出しましたね……っ!! じゃあ、これならどうですか!!」


そう言いながら、かすみちゃんはテブリムを持ち上げ──ニャスパーに向かってぶん投げてくる。


 「テブッ!!!」

 「ニャッ!?」


テブリムが拳を構えて迫ってくるが、


侑「ウォーグル!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」

 「テブッ!!!?」


ウォーグルが上から爪で叩き落とす。

が、
58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:14:51.77 ID:X9ltvPdj0

 「ウォッ!!?」


テブリムを抑えつけたはずのウォーグルの動きが急に止まり、


侑「な……!?」

 「テブッ!!!」

 「ウォーー!!!?」


足元のテブリムが、拳を振りかぶって、ウォーグルを殴り飛ばした。


 「サ……」

侑「サニーゴの“かなしばり”……!」


どうやら、サニーゴによるサポートで動きを止められたところをやられたらしい。


かすみ「さぁ、ガンガン行きますよ!! ジュカインッ!!」
 「カインッ!!!!」

かすみ「“リーフブレード”!!」


ジュカインが、地面を蹴って飛び出してくる。

標的は──


 「ブイッ…!!」


イーブイだ……!

肉薄してきた、刃が振り下ろされようとした瞬間、


 「ロンチッ!!!」

かすみ「うわ!? なんか出てきた!?」


ドロンチが地面から現れ、イーブイが掬い上げるようにして頭に乗せて、ジュカインの攻撃を肩代わりする。

それと、同時にイーブイの体が燃え上がり──


侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイィッ!!!!」

 「カインッ!!!?」


ドロンチの頭を踏み切って、ジュカインに至近距離から炎の突進を食らわせる。

効果は抜群だ……! 燃えながら、吹っ飛ぶジュカイン。


かすみ「ジュカインッ!?」


そして畳みかけるように、


侑「ライボルト、“かみなり”!!」
 「ライボォッ!!!!!」


“かみなり”をサニーゴの頭上に落とす──が、


かすみ「“ミラーコート”!!」


“かみなり”は反射され──
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:15:35.94 ID:X9ltvPdj0

 「ライボッ!!!?」
侑「ライボルト!?」


ライボルトに返ってくる。


かすみ「へっへーん!! 強力な技でも跳ね返しちゃえばいいんですよー! さぁ、サニーゴ続けて行きますよ!!」
 「……サ」


調子付くサニーゴ──その背後に、ユラリと、


 「ロンチィ…」

かすみ「へっ……!?」


影が現れた。


侑「“ゴーストダイブ”!!」
 「ロンチッ!!!」

 「サ……コ……」


ドロンチに尻尾を叩きつけられ、サニーゴが吹っ飛ばされて地面を転がる。


かすみ「サニーゴ……!? ぐぬぬ……ジグザグマ──」


飛び出そうとするジグザグマを──


侑「“フリーフォール”!!」
 「ウォーーー!!!!」

 「クマァッ!!!?」


ウォーグルが強襲して、上空に連れ去る。


かすみ「ちょ……!? 連れてかないでくださいよっ!?」


ジグザグマを戦線離脱させ、


 「テブッ!!?」

 「ニャー」

かすみ「テブリム……!?」


気付けば、ニャスパーがテブリムを上からサイコパワーで押さえつけている。


かすみ「ぞ、ゾロア……!!」


かすみちゃんはゾロアへ指示を出そうとするけど──


かすみ「って、へ!?」
 「ガ、ガゥゥ…」


ゾロアの周囲は泡に囲まれていた。


 「ブィ」


もちろん泡の出どころは“いきいきバブル”。イーブイがこっそり、フィールド内に展開させていたものだ。
60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:16:12.68 ID:X9ltvPdj0

侑「ジュカイン、サニーゴ戦闘不能……! ジグザグマは運び出して、テブリムはサイコパワーで押さえつけてる……! ゾロアの動きも封じた……! もう、十分でしょ!?」

かすみ「まだヤブクロンがいます!! “ダストシュート”!!」
 「ヤーーーブゥッ!!!!」

侑「……っ……ニャスパー!!」
 「ニャァーー!!!」

 「テブッ!!!?」


ニャスパーは、サイコパワーで押さえつけていたテブリムを──“ダストシュート”に向かって吹っ飛ばす。


かすみ「え、ちょ!?」

 「テブッ!!!?」


テブリムが“ダストシュート”をぶつけられて、落っこち、


かすみ「て、テブリム!?」


そして、動揺した隙を突いて──


侑「“かみなり”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「ヤブクゥゥゥーーー!!!?」


今度こそ、“かみなり”を直撃させる。


かすみ「や、ヤブクロン……!!」

侑「もう、これで終わりでいいでしょ……!!」

かすみ「……っ……まだです!! ジュカイン、“ソーラーブレード”!!」
 「──カインッ」

侑「なっ……!?」


──戦闘不能になったはずのジュカインが、いつの間にか起き上がり、


 「ウォーーーッ!!!?」


上空のウォーグルの翼を、陽光の剣が貫く。そして、その拍子に自由になったジグザグマが、


かすみ「“ミサイルばり”!!」
 「クーーマァッ!!!」

 「ウ、ウォーーッ…!!!!」


空中で体を回転させて、全身の針を飛ばしながら、ウォーグルを牽制する。


侑「な、なんでジュカインが……!?」


戦闘不能にし損ねてた……!? そんなはず……!?

──動揺して判断が遅れた瞬間、


 「ロンチィ…!!?」


ドロンチが飛んできた“シャドーボール”に吹っ飛ばされる。


侑「ドロンチ!?」


──ハッとして、攻撃の出所に目を向けると、
61 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:16:44.89 ID:X9ltvPdj0

 「サコ…」


気付けば、サニーゴまで復活している。


侑「な、なんで……!!」


確かに戦闘不能にしたはずなのに……!!

何かからくりがあると思って、フィールドに視線を彷徨わせると──


 「ヤ、ヤブ…ク…」


ヤブクロンが最後の力でフィールドを這いながら──かすみちゃんのバッグに顔を突っ込む。


侑「……!?」


直後、


 「ヤブクゥッ…!!!」


元気になって復活する。

かすみちゃんのバッグに入ってるものって──


侑「“げんきのかけら”……!? そんなのズルじゃん!?」

かすみ「これは、かすみんのジグザグマが拾ってきたアイテムだもんっ!! ズルじゃないもんっ!!」

侑「ただの屁理屈じゃん!!」

かすみ「屁理屈でもなんでもいいですっ!! ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが剣を構えて飛び出して来る──が、


 「ウォーーーッ!!!!」


上空から強襲するウォーグルが、その刃を受け止める。

2匹が鍔迫り合いを始めると──その最中にイーブイの目の前の地面から、


 「──ガゥッ!!!!」


ゾロアが“あなをほる”で飛び出してきて、イーブイに飛び付いてくる。


 「ブ、ブイィッ!!!!」

 「ガゥ、ガゥゥ!!!!」


2匹は取っ組み合いを始め──フィールド上では、さっき倒れたテブリムのもとへ、


 「クマァ」

 「テブ…」


ジグザグマが“げんきのかけら”を運んで復活させる。
62 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:17:20.60 ID:X9ltvPdj0

かすみ「“げんきのかけら”、まだまだありますよっ!!」

侑「……っ……!! もう!! いい加減にしてよっ!! いつまでやるつもりなのっ!!?」

かすみ「侑先輩の根性が直るまでですっ!!!」

侑「余計なお世話だよっ!!! 私はもう戦いたくないんだよっ!!!」

かすみ「それが甘ったれてるって言ってるんですっ!!!!」

侑「私が戦いたくないって言ってるのに、なんの権利があって、戦うことを強制するのっ!!!?」


気付けば子供の喧嘩のような口論になっていた。

でも、もううんざりなんだ、


侑「ここまで旅して、頑張ってきて、少しは強くなったって思ってたけど──本当に強い人の、足元にも及んでなかった……っ!!! そのせいで、ポケモンたちをたくさん傷つけてっ!!!!」


私のポケモンたちは可哀想になるくらいボロボロにされて、


侑「リナちゃんが壊されて……っ……!! せつ菜ちゃんもおかしくなっちゃって……っ……!!! 千歌さんも攫われて……っ……!!! しずくちゃんもいなくなっちゃった……っ……!!!」


そして、私の脳裏に浮かんだのは、歩夢の言葉。

──『もう……もう、やめてください……っ……!! これ以上、侑ちゃんたちに、酷いことしないで……っ……!! か、果林さんに……ついていきます……だから、もう、酷いこと……しないで……っ……』──

そして、ポロポロと涙を零しながら、私たちのために、いなくなった……歩夢の姿。


侑「私が弱いせいで──歩夢にあんなこと言わせたんだ……っ……!!!! 私のせいで……っ……!!!! 歩夢もいなくなっちゃったんだ……っ……!!!!」


──もう、私には、


侑「私には……っ……!!!! もう、なんにも残ってないんだよっ!!!!!!!」


かすみ「──まだっ!!!!!! かすみんがいますっ!!!!!!!!!!!!!」


侑「……っ!?」


かすみ「まだ、かすみんが残ってますっ!!!!! だから……っ!!!! だからぁ……っ……! そんな、悲しいこと……っ……言わないでよぉ……っ……」


侑「かすみ……ちゃん……」


気付けば、かすみちゃんは大粒の涙をぽろぽろ零しながら──泣いていた。

私は……急に脚の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込む。

──考えてみれば、当たり前だった。かすみちゃんだって、不安なんだ。

でも、その不安に必死に立ち向かおうと、前を向こうとしていたんだ。

それなのに、私は……一人で勝手に落ち込んで、かすみちゃんに八つ当たりして……。

俯く私に向かって、かすみちゃんはしゃくりをあげながら──


かすみ「ぅぐ……ひっく……っ……それに……っ……侑先輩の冒険の旅は……っ……ぐす……っ……歩夢先輩がいなくなっちゃったら……全部、無くなっちゃうものだったんですか……っ……?」

侑「え……?」


そう、訊ねてきた。

……私がこの旅で、見つけたモノは──何もかもなくなってしまったのか、と。


 「ウォー…」「ライボ」「ロンチ」「ニャー」


私の旅は──歩夢がいなくなったら、全部無くなっちゃう?
63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:17:57.08 ID:X9ltvPdj0

侑「……違う」

 「…イブィ」


──ああ、どうして……どうして、こんな当たり前のことに……気が付かなかったんだ……。


侑「……まだ……、みんながいる……っ……」


やっと気付いて──


侑「……ポケモンたちが……っ……ずっと、支えて来てくれた……っ……みんなが、いる……っ……」
 「ウォーグ」「ライボッ」「ロンチ♪」「ニャァ」

 「…イブィ♪」


こんな当たり前のことも忘れていた、馬鹿な私なのに……それでも傍で支えてくれるポケモンのことを考えたら──涙が溢れてきた。


侑「ウォーグル……っ、ライボルト……っ、ドロンチ……っ、ニャスパー……っ、──……イーブイ……っ……」
 「ウォグ♪」「…ライボ」「ロンロン♪」「ウニャァ」「…ブイ♪」


そして──私は……この子たちにも聞かなくちゃいけなかった。


侑「みんな……っ……歩夢を、助けたい……っ……?」
 「イッブィ!!!!」「ウォーグ!!!」「ライボッ!!!!」「ロンチッ!!!」「ニャー、ニャー」


私の問いに、ポケモンたちは力強く頷いた──歩夢を、助けたい、と。


侑「そうだよね……っ……、そうだった……っ……、みんな、歩夢のこと……大好きだもんね……っ……」
 「ブイブイ♪」「ウォーグ」「…ライ」「ロン♪」「ニャァ」

かすみ「侑先輩……っ」

侑「かすみ、ちゃん……」

かすみ「出来るか、出来ないかは二の次です……っ……、侑先輩は──歩夢先輩たちを助けたいですか……?」


改めての問い──そんなの、


侑「助けたいに決まってる……っ!!」


今すぐにでも、歩夢の傍に行きたい。歩夢の手を取って、抱きしめて、助けに来たよ、もう大丈夫だよって言ってあげたい。そう言って、安心させてあげたい。

それに──歩夢と約束したじゃないか。

──『私は歩夢を守れるようにもっともっと強くなる』──

きっと、歩夢は私の言葉を信じて待っているはずだ。だから……!


侑「……私が──歩夢を……みんなを、助けに行かなきゃダメなんだ……っ……!!」

かすみ「……っ……はいっ!! 一緒にしず子たちを救いに行きましょう……っ!!」

侑「……うんっ……!!」


私は力強く頷いて──かすみちゃんを抱きしめた。


侑「かすみちゃん……っ……ごめんね……っ……。私が馬鹿だった……甘ったれだった……っ……」

かすみ「ぅ……ぐす……っ……えへへ……っ……かすみん、侑先輩だったら……わかってくれるって、信じてましたから……っ……♪」

侑「ありがとう……っ……お陰で、目が覚めたよ……っ……。私には……頼もしい仲間がいるんだって……思い出せた」
 「イブィ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ロンチ」「ニャァ」


イーブイ、ウォーグル、ライボルト、ドロンチ、ニャスパー。順番に顔を見て、頷き合う。

そこで、
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:18:29.34 ID:X9ltvPdj0

 「…ロン」


ドロンチが、地面に落ちたままだった、バッグをひっくり返し──出てきたボールの開閉スイッチを押す。


侑「……ふふ、そうだね。その子も、一緒に旅してきたもんね」
 「ロンチ♪」


ドロンチが──頭にタマゴを乗せて、嬉しそうに鳴いた……まさに、そのときだった。

──ピシッ。


侑「え……」


タマゴにヒビが入った。

──ピシ、ピシピシ……ッ!

タマゴのヒビは音を立てながらどんどん広がっていき──

──パキャッ……! と音を立てて──


 「──フィォ〜」
侑「うま……れた……」


ポケモンが──タマゴから、孵った。

透き通る水のような体をした、小さなポケモンだった。


 「フィォ?」
侑「……見たことない、ポケモンだ……」

かすみ「かすみんも……見たことないです……」


私は突然タマゴから孵ったポケモンを見て、唖然としてしまう。

生まれる前兆なんて、全然なかったのに……どうして急に……?


かすみ「そ、そうだ……図鑑で、名前を……」


今手元に図鑑がない私の代わりにかすみちゃんが、ポケットから図鑑を出そうとした、そのとき、


 「──そのポケモンの名前は、フィオネだよ」


背後から聞き覚えのある女性の声。

かすみちゃんと二人で振り返るとそこには──紺碧のポニーテールを揺らして、


果南「──や、二人とも、久しぶり!」

侑「果南さん……!?」
かすみ「果南先輩……!?」


果南さんが立っていた。


果南「実はさっきの二人のバトル……見てたんだよね」

侑「え……」

かすみ「み、見てたんですか……!?」


ってことは……さっきの子供の喧嘩みたいなのも……。


侑「わ、忘れてください……///」
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:19:02.23 ID:X9ltvPdj0

急に恥ずかしくなってくる。


果南「ふふ♪ いいじゃん、若者っぽくて」


果南さんは嬉しそうに笑いながら、


かすみ「わっ!?」


かすみちゃんの頭を撫でる。


かすみ「え、な、なんでかすみん、頭撫でられてるんですか……?」

果南「かすみちゃんのガッツが私の心に響いたからかな♪」

かすみ「は、はぁ……まあ、それはなによりですけど……」


果南さんはよっぽどかすみちゃんが気に入ったのか、しばらく撫でくりまわす。


かすみ「うぅ〜……もうやめてください〜……髪崩れちゃいます〜……」

果南「おっと、ごめんごめん」


果南さんは、苦笑しながらかすみちゃんを解放する。


果南「さて、それじゃ……侑ちゃん、かすみちゃん。行こうか」

侑「え?」

かすみ「行くって……どこにですか?」


二人で首を傾げていると、


果南「──歩夢ちゃんとしずくちゃんを助ける準備をしに……かな♪」


果南さんはニッコリ笑って、そう答えたのだった。



66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/18(日) 20:19:38.27 ID:X9ltvPdj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.62 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 6個 図鑑 未所持

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



67 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2022/12/18(日) 22:48:47.63 ID:MWhQJduUo
『MG総会アフタートーク』
(22:09〜放送開始)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:37:21.46 ID:c3b0uZJF0

 ■Intermission🎀



──私が果林さんに付いていった直後のこと……。


果林「──さぁ、こっちよ歩夢」

歩夢「……」


空間にあいた穴を潜ると──通路のような場所に出る。


果林「あと、そのアーボ。ボールに戻してくれるかしら? 敵意むき出しで怖いわ」

 「シャーー…!!!」

歩夢「……ごめんね、サスケ。ボールに入ってて」
 「シャーボ──」


私はサスケをボールに戻す。……果林さんだったら私に抵抗されたところで、どうにでも出来る気がするけど……。


果林「良い子ね。それじゃ、行きましょう」

歩夢「……はい」


果林さんの後ろに付いて歩き、突き当りに着くと──目の前の壁がプシューと音を立てながら、自動でスライドする。

どうやら、ドアだったようだ。……まるで、SFの世界で見るような自動ドア。


果林「入って」

歩夢「……」


促されるまま、部屋に入ると──


歩夢「何……ここ……?」


大きな椅子が3つ、その前にはそれぞれキーボード……のような入力装置が並んでいる。

そして、何より……前面に大きな窓があって──その先には、宇宙空間のようなものが広がっていた。

まるで……宇宙船の船内のような場所だ。

そして、そこには、


愛「姫乃っち、留守番ありがとね! 代わるよ」

姫乃「留守を守るのは不本意でしたが……愛さんのリーシャンの方が“テレポート”の精度が高いので……」


愛ちゃんと……初めて見る黒髪の女の子。


しずく「あの、果林さん……♡ 早く、フェローチェを……♡」

果林「ふふ、後でね」

しずく「はい……♡」


相変わらず、様子のおかしいしずくちゃん。

そして、


千歌「…………」

せつ菜「…………」
69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:37:54.13 ID:c3b0uZJF0

気を失ったまま、床に寝かされている千歌さんと……その横で不機嫌そうな顔をして腕を組んでいる、せつ菜ちゃんの姿。

今入ってきた私と果林さんを含めて、7人いる。

あとは……。


 「ベベノー♪」

愛「おっとと……あはは♪ ただいま、ベベノム♪」
 「ベベノー♪」


黄色と白色をした小さなポケモン──ベベノムと呼ばれたポケモンが愛ちゃんに飛び付く。

愛ちゃんはその子を大切そうに抱きしめているし、ベベノムも愛ちゃんに頬ずりをしている。

それだけで、両者の関係がわかるくらいによく懐いているのがわかった。

ただ、


歩夢「見たことない……ポケモン……」


まるで、見たことがないポケモンだった。

そんな私の視線に気付いたのか、


愛「歩夢はウルトラビースト見るのは初めてっぽいもんね」


と、そう声を掛けてくる。


歩夢「ウルトラ……ビースト……?」


そういえば、さっきも戦いの合間にそんな話をしていた気がする。


果林「ウルトラビーストは……ここ、ウルトラスペースからやってきた、あの世界にはいないポケモンのことよ」

歩夢「あの、世界……?」

果林「まあ、話は追い追いしてあげるわ」

歩夢「……」


わからないことだらけで困惑していた、そのとき──


 「ピューーーイッ!!!!!」


──私の胸に何かが飛び込んできた。


歩夢「きゃぁっ!? え、な、なに!?」
 「ピュィ…」


それは、小さな小さな……紫色をした雲のようなポケモンだった。


愛「ありゃ、また逃げ出したんだ」

姫乃「みたいですね……」

歩夢「逃げ出した……?」
 「ピュィ…」


その小さなポケモンは何故か、私に身を摺り寄せている。


果林「でも、早速歩夢の能力が見られたみたいね」


──能力。……さっき、果林さんや愛ちゃんが言っていたこと……だと思う。
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:38:44.35 ID:c3b0uZJF0

歩夢「あ、あの……私に、ポケモンを手懐ける力なんてありません……」

愛「ま、自覚はないだろうね。でもね、歩夢にはポケモンを落ち着かせる特殊な雰囲気があるんだよ」

歩夢「雰……囲気……?」

愛「詳しい理由はわからないんだけど、極稀にそういう子供が生まれてくることがあるらしいんだよね。……ポケモンだけが持ってる特殊な電磁波を感知出来る第六感があるとか、特殊なフェロモンを持ってるとか、いろいろ説はあるんだけど……とにかく、ポケモンから好かれる特殊体質が歩夢にはあるってこと」

歩夢「……」


なんだか、突飛なことを言われて面食らってしまうけど……旅の中でも、似たようなことを人から指摘されたことが何度かあった。

エマさんや、ダイヤさんだ。私にはポケモンを想い、ポケモンに想われる力があるって……。


果林「ただ……匂いに関してはよくわからなかったわ」

姫乃「っ!? 果林さん、あの子の匂いを嗅いだんですかっ!?」

愛「人間にはわからないって、前にも言ったのにね」

姫乃「わ、私だって、そんなことしてもらったことないのに……!!」


姫乃と呼ばれていた子から、すごく睨みつけられてる……。

私のことを睨まれても困る……。


 「ピュイ…」


それに……この子、どうすれば……。


果林「とりあえず、“STAR”──コスモッグは歩夢に預けておきましょうか」

歩夢「え?」

愛「いいん?」

果林「もうエネルギーは十分集めたからね。無理にエネルギーを吸ったら、彼方のコスモッグみたいに休眠して、コスモウムになっちゃいかねないし。歩夢の傍にいるとリラックス出来るなら、ガスの充填も早くなるだろうしね」

愛「ま、それもそっか」

歩夢「え、えっと……」
 「ピュィ…」


何故か、私はこの子を預けられてしまった……。


愛「それはそーと、この後どうするん?」

果林「ウルトラディープシーに向かって頂戴」

愛「ん、りょーかい!」


愛ちゃんが頷きながら、キーボードをカタカタと操作すると──ゴウンゴウンと音を立てながら、動き出す。

宇宙船のようなもの……というか、宇宙船……なのかもしれない。


歩夢「じゃあ、ここは……宇宙……?」

愛「ちょっと違うかな。ここは──ウルトラスペースだよ」


私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。


歩夢「ウルトラスペース……?」

愛「そ。……まーひらたく言えば異世界ってところかな」

歩夢「い、異世界……?」
71 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:39:26.94 ID:c3b0uZJF0

あまりに突飛な話が次々飛び出すせいで、そろそろ頭がパンクしそうだった。

そんな中、口を開いたのは、


せつ菜「あの……ちょっといいですか」


せつ菜ちゃんだ。


せつ菜「この人……いつまでこうしておくんですか」

千歌「…………」


そう言いながら、目で示すのは──足元にいる千歌さんだ。


せつ菜「せめて、ベッドに寝かせるくらいは……」

果林「あら、あれだけ酷いことしたのに……随分優しいのね?」

せつ菜「…………」

果林「まあ、抵抗されても困るから、手持ちのボールを回収して開閉スイッチを壊して……本人をベッドに縛り付けておくくらいはした方がいいかしらね……」


そう言いながら、果林さんが千歌さんに近付き──千歌さんの腰に手を伸ばす。


果林「貴方に恨みはないんだけれどね……貴方の強さは、私たちの計画を実行するに当たって邪魔なの。ごめんなさいね」


そして、彼女のボールベルトから、ボールを外そうとして──


果林「……あら?」


ボールを掴んで、引っ張るが──ボールはベルトから外れるどころか、びくともしない。


果林「外れない……?」

姫乃「どうかされましたか……?」

果林「ベルトからボールが──」

千歌「──……このベルトについてるボールは、私にしか外せないよ」

果林・せつ菜「「……!?」」


急に発せられた、千歌さんの声に、果林さんとせつ菜ちゃんが驚いて飛び退く。


歩夢「ち、千歌さん……!?」

千歌「……いたた……死ぬかと思った……」

果林「貴方……いつから、意識が……」

千歌「今さっき……。……ここ……ウルトラスペースかな……? 来たのは初めてだけど、こんな感じなんだ……」

愛「……へー……。そこまで知ってるんだ」

千歌「私たちもずっと調べてたからね……」


千歌さんは喋りながら、ゆっくりと身を起こしながら、腰に手を伸ばす。


果林「……それ以上、動かないで」
 「──コーンッ!!!」


気付けば、果林さんのキュウコンがボールから飛び出し、尻尾の先に炎を灯しながら、千歌さんに突き付けていた。
72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:39:58.43 ID:c3b0uZJF0

千歌「……」

果林「……この人数相手に戦うなんて言わないでしょ?」

千歌「……確かに、今この人数相手はちょっと無理かも……あはは」


そう言いながら、千歌さんはチラりとせつ菜ちゃんに視線を送る。


せつ菜「……!!」


せつ菜ちゃんは千歌さんからの視線を受けると、さらに距離を取って、ボールに手を掛ける。


千歌「…………」


千歌さんはその姿を見て、少し悲しそうな顔をしたあと、


千歌「フローゼル!!」
 「──ゼルルッ!!!」

果林・せつ菜・姫乃「「「!!?」」」

千歌「“ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルルルルルッ!!!!!!」


フローゼルをボールから出すのと同時に──攻撃を繰り出した。

でも、果林さんやせつ菜ちゃんに向かってじゃない──背後にある壁に向かってだ。


果林「な……!?」


野太い水流がいくつも壁を貫き──その穴の向こうに……ウルトラスペースが見えた。

千歌さんはその穴に向かって──


千歌「……行くよ、フローゼル!!」
 「ゼルルッ!!!」


自ら、飛び込んでいった。


果林「ま、待ちなさい!? キュウコン!! “マジカルフレイム”!!」
 「コーーンッ!!!!」

千歌「“みずのはどう”!!」
 「ゼーールゥッ!!!!」


飛んでくる“マジカルフレイム”を“みずのはどう”によって、一瞬で消火しながら、


千歌「待てと言われて待つ奴なんていないって!」


果林さんの制止を意にも介せず、千歌さんは──ウルトラスペースに吸い込まれていった。


果林「……っ」

愛「あー、やられたねー。とりあえず、穴塞がないとだね。ルリリ、“あわ”」
 「──ルーリ!!」


愛ちゃんがボールから出したルリリが、“あわ”で空けられた穴を塞ぐ。
73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:40:32.07 ID:c3b0uZJF0

愛「とりあえず応急処置っと……」

姫乃「あの人……生身でウルトラスペースに飛び込むなんて……」

せつ菜「…………千歌、さん……」

愛「生存して、どっかの世界に落ちる人もいるからねー。運が良ければ生きてる可能性はあるかな。とりあえず、今から壁直してくるから、操縦席に誰か居てもらっていい? あ、操縦自体は自動だから、触んなくていいけど」

果林「え、ええ……わかったわ」


愛ちゃんがパタパタと部屋から出ていき、果林さんは動揺した様子を見せながら、さっきまで愛ちゃんが座っていた場所に腰を下ろす。


しずく「果林さん、私はどうすればいいですか?♡」

果林「そうね……姫乃」

姫乃「はい」

果林「歩夢としずくちゃんを部屋に案内してあげて……」

姫乃「わかりました。皆さん、付いてきてください」

しずく「……」

果林「しずくちゃん、その子……姫乃に案内してもらって」

しずく「はい♡ わかりました♡」

歩夢「……」


たぶん……今逆らっても、仕方ない……かな。私も大人しく、姫乃さんの後に続く。


果林「せつ菜も……休みなさい。貴方はあのチャンピオンを倒したんだから、疲れてるでしょう?」

せつ菜「…………わかりました」


結局、姫乃さんに連れられて、私としずくちゃんとせつ菜ちゃんは部屋を後にした。





    🎀    🎀    🎀





せつ菜「──私は……少し休ませてもらいます……失礼します」

姫乃「はい、ごゆっくりお休みください」


せつ菜ちゃんは気分が悪いのか……頭に手を当てながら、部屋へと戻っていく。


姫乃「そして、こちらが歩夢さん。こちらがしずくさんのお部屋です」

歩夢「は、はい……」

しずく「はい、ありがとうございます」

姫乃「ただ、歩夢さんとしずくさんのお部屋には外からロックを掛けさせていただきます。くれぐれもおかしなことはしないように」

歩夢「……」

しずく「これも、果林さんからの指示なんですよね? でしたら、私は従うだけです♡」


しずくちゃんはそれだけ言うと、何も疑わずに部屋へと入って行ってしまった。
74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 00:41:06.51 ID:c3b0uZJF0

姫乃「尤も……千歌さんのようなトレーナーでも無い限り、壊して脱出するなんて出来ないでしょうけど……。さぁ、歩夢さんも」

 「ピュィ…」
歩夢「……この子は一緒でいいんですか……?」

姫乃「ええ、そのポケモンは“はねる”か“テレポート”しか出来ませんから。それに愛さん曰く、“テレポート”はこの宇宙船内では無効化されるそうですし、どこかに行ってもすぐに追いかけて捕まえられますから」

歩夢「そ、そうですか……」

姫乃「それでは、ごゆっくり」

歩夢「……はい」


私も大人しく部屋へと入る。

中はベッドが置いてあるだけの簡素な部屋だった。

……奥にあるのはたぶん、お手洗いかな。本当に最低限という感じ……。

とりあえず、出来ることもないので、私はベッドに腰掛ける。


 「ピュィ…」
歩夢「これから、どうしよう……」


今後どうなってしまうのか……不安に駆られながらも、今の私には天井を仰ぐくらいのことしか出来なかったのだった……。


………………
…………
……
🎀

75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:52:49.44 ID:c3b0uZJF0

■Chapter052 『作戦会議』 【SIDE Yu】





侑「あの……果南さん……」

果南「ん?」


私は前をぐんぐん進んでいく果南さんに訊ねる。


侑「一体……どこに向かってるんですか……?」
 「ブイ」

かすみ「それはかすみんも気になります!」


イーブイを抱きかかえながら歩いているここは──ローズシティの中央区。

中央区だから、出来ればボールに入れたかったけど……絶対に入る気がなさそうだったので、上着の前を締め、絶対に飛び出さないように、その中に入れて抱きしめているような状態だ。

……もふもふだから、ちょっと気持ちいい。


果南「あそこ」


そう言いながら、果南さんが指差すのは──ローズシティの中央に聳える大きなタワー。

あれって確か……。


侑「セントラルタワー……?」

果南「そうだよ。あそこの会議棟に向かってる」

かすみ「? そこで何かあるんですか?」

果南「うん。これから、あそこでね──」


果南さんが説明を始めたちょうどそのとき、


 「かなーんっ!! やっと、見つけた!!」


前方から、見慣れた金髪の女性がこちらに向かって駆けてくる。

あの人って……。


侑・かすみ「「鞠莉博士!?」」

鞠莉「え? 侑に……かすみ……?」


私たちを見て、きょとんとする鞠莉博士。

そして、そんな鞠莉博士が持っていたカバンから──


リナ『侑さーん!!』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃん!?」


リナちゃんが飛び出してきた。


リナ『侑さん!! 侑さん……!! 無事でよかった……』 || > _ <𝅝||

侑「リナちゃんも、無事だったんだね……! よかった……」


私はリナちゃんを抱きしめる。
76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:54:02.36 ID:c3b0uZJF0

リナ『博士が直してくれたんだよ!』 || > ◡ < ||

鞠莉「あなたたちを病院に搬送した際に、一緒にローズに届いていたらしいんだけど……話を聞いた善子がすぐにわたしの研究所に送るように手配してくれたの。それに、緊急停止モードが功をなしたみたいで、ストレージには一切問題がなかったわ」

リナ『だから、元通り!』 || > ◡ < ||

侑「そっか……よかった……」


それを聞いて、私はホッとする。

リナちゃんに関しては事件後、どこに行ったのかもよくわかっていなかったから……こうして元気な姿を見ることが出来て、心底安心している自分がいた。


リナ『あと、歩夢さんたちのことも聞いた……力になれなくてごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||

侑「うぅん……こうしてリナちゃんが戻ってきてくれただけで、嬉しいよ……」

リナ『侑さん……うん』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「リナ子だけでも無事でよかった……」

リナ『かすみちゃんも無事でよかった』 || 𝅝• _ • ||


お互いの無事を喜んでいると、


果南「それはそうと鞠莉……私のこと探してたの?」


果南さんは鞠莉博士に向かってそう訊ねる。

感動の再会で忘れかけていたけど……言われてみれば鞠莉博士、結構焦っていたような……。


鞠莉「あ、そうだった……! この忙しいときに、どこほっつき歩いてたの!?」

果南「ちょっと病院まで……。街を歩いてたら、バトルの音が聞こえてきたからさ」

鞠莉「病院でバトル……? ……会議に遅れたりしたら、また海未さんに怒られるわよ?」

侑「会議……? そういえば、さっき会議棟に向かってるって……」
 「ブイ?」

果南「うん。今からあそこで、今回起きたチャンピオン連れ去り事件について、対策会議をすることになってる」

侑「え……?」

鞠莉「ち、ちょっと果南!? 会議内容については内密にって……!」

果南「大丈夫。この子たちはその会議に参加してもらうから」

侑・かすみ「「え?」」
 「ブイ??」


あまりに唐突な話だったため、かすみちゃんと二人でポカンとしてしまう。


鞠莉「...What?」


いや、私たちだけじゃなくて、鞠莉さんもポカンとしていた。
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:54:33.94 ID:c3b0uZJF0

果南「ほら、時間ないんでしょ? さっさと行かないと」

鞠莉「ち、ちょっと待って……! 海未さんに許可は貰ったの!?」

果南「これからもらう」

鞠莉「あ、あのねぇ……! 部外者連れ込みなんて、許してもらえるわけ……!」

果南「この子たちは部外者じゃない。鞠莉も概要は確認したでしょ?」

鞠莉「……そ、それは……」

果南「それに、参考人は一人でも多い方がいい」

鞠莉「…………はぁ……わかった。……どうせ、わたしが何言っても聞かないんでしょ……? 海未さんに怒られても知らないからね……」

果南「大丈夫。私、海未より強いから」

鞠莉「そういうことじゃ……まあ、いいわ……」

果南「それじゃ、行こう」

鞠莉「はいはい……」


果南さんがセントラルタワーに向かって歩き出すと、鞠莉さんも呆れ気味にその隣に並ぶ。


果南「ほら、侑ちゃんとかすみちゃんも早くー!」

かすみ「……侑先輩、かすみん……一体なにがなにやら……」

侑「私もわかんないけど……とりあえず、付いていこう」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||


完全に話に付いていけていないけど……果南さんは、歩夢たちを助けるための準備をしに行くと言っていた。

現状、私たちはどうやって歩夢たちを助けに行くか、思いついているわけでもないし……もし、その対策会議とやらに参加させてもらえるなら、またとないチャンスだ。

私たちは、果南さんと鞠莉さんの後を追って、セントラルタワーへと向かいます。





    🏹    🏹    🏹





──セントラルタワー。会議棟。

私、ポケモンリーグ理事こと──海未は、四天王のことり、希、ダイヤを引き連れ、ここローズシティのセントラルタワーを訪れていた。

ツバサにはこういう会議の場に欠席しがちな英玲奈を、何がなんでも連れてくるようにと頼んでクロユリに送り出した──少し間の悪いトラブルもあったようですが……。

なにはともあれ、ツバサは英玲奈と一緒にここに来ているはずだ。


ダイヤ「…………」

ことり「ダイヤちゃん、大丈夫……? 体調悪いなら無理しない方が……」

ダイヤ「いえ……お気になさらず……」

希「きつかったら、遠慮せずにちゃんと言うんよ……?」

ダイヤ「はい……お気遣い感謝しますわ……」
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:55:31.98 ID:c3b0uZJF0

ダイヤは千歌が攫われた報せを受けてから、ずっと顔色が悪い。

無理もないでしょう。元とは言え……教え子が連れ去られたのですから。

そして、それは私にとっても同様の話……。

正直、今でも千歌が戦いに敗れて攫われたというのは信じ難かった。

ですが、私はこの地方のポケモンリーグの長として……落ち込んでいるわけにはいかない。

──会議室へ向かう道すがら、


穂乃果「彼方さん……体調が悪かったら、無理しないでね?」

彼方「うぅん……大丈夫だよ〜……。……それに、今彼方ちゃんがお休みしてる場合じゃないから……」


穂乃果がオレンジブラウンの髪色をした女性──名前は確か彼方だったと思います──と話しているところに出くわす。


ことり「穂乃果ちゃん……!」

穂乃果「! ことりちゃん! ……それに、海未ちゃん」

海未「……穂乃果」


私は穂乃果にツカツカと歩み寄る。


海未「……穂乃果、貴方ずっと千歌と一緒に行動していたそうですね……。貴方が付いていながら、どうしてこんなことになるのですか……?」

穂乃果「……ごめん」

ことり「う、海未ちゃん……!」

彼方「ほ、穂乃果ちゃんを責めないであげて……!」


私の言葉を受けて、ことりと彼方が穂乃果を庇うように言う。


穂乃果「うぅん……海未ちゃんの言うとおりだよ。私は千歌ちゃんとお互いをフォローし合うためにいたはずなのに……まんまと相手の策に引っ掛かって……」

彼方「穂乃果ちゃん……」

ことり「穂乃果ちゃん、そんなに自分を責めないで……? 海未ちゃんも千歌ちゃんが攫われたって聞いて……気が立ってるだけなの……」

海未「ことり……! 余計なことを言わないでください……! 私は理事長として──」

希「ストーーップ! それは、今ここでする話じゃないんやない?」


再び言い合いになりそうなところに、希が仲裁に入る。


希「それに、ダイヤちゃんもいるんよ?」

ダイヤ「わ、わたくしは……大丈夫ですけれど……」


確かに希の言うとおりだ。……今ここで口論をしている場合ではなかった。


海未「……すみません、言い過ぎました……」

穂乃果「うぅん、大丈夫だよ」

希「とりあえず……会議室へ向かおう? そろそろ、他のみんなも集まってる時間だし」


希に促されて私たちは、会議室の方へと向かう。



79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:56:25.30 ID:c3b0uZJF0

    🏹    🏹    🏹





──会議室内では、すでに招集した人間がほとんど揃っていた。

ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリのジムリーダーたち。

ちょうどローズを訪れていた理亞には、そのままローズに残ってもらっていた。

そして、ツバサを派遣した甲斐もあって、英玲奈もちゃんと出席している。

加えて──


善子「ずら丸……あんた、どういう肩書でここにいるの……?」

花丸「人間、人には言えないこともあるんだよ、善子ちゃん」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


事態が事態なだけに、ダリアジムからは、にこだけでなく、花丸にも出席してもらっている。

なので、ジムリーダーは9人。四天王4人に、地方の博士である善子と鞠莉。加えて歴代チャンピオンの穂乃果と果南。参考人として彼方に同席してもらうことになっている。

即ち、ポケモンリーグ理事長である私を含めて──19人という大所帯だ。


海未「……果南と鞠莉はまだ来ていないみたいですが……」


どうやら、彼女たちの到着が最後になりそうだ。

席に着いて、彼女たちの到着を待とうとした矢先、


花陽「海未ちゃん……!!」


花陽が駆け寄ってくる。


海未「花陽? どうかしましたか?」

花陽「わ、わたし……っ……果林さんがずっとコメコに住んでること、知ってたのに……なんにも気付かなくて……っ……」

海未「……花陽。その話は、会議が始まってから──」

花陽「でも……っ……! 私がもっと早く気付いていれば、千歌ちゃんだって……っ……!」

ことり「落ち着いて、花陽ちゃん……。……花陽ちゃんのせいじゃないよ」

花陽「でも……!」


花陽は人一倍責任感が強い。故に自分の町に今回の事件の主犯格が潜んでいて、それに気付けなかった自分に負い目を感じているのだろう。

そんな彼女をことりが宥める中、


英玲奈「──花陽、ジムリーダーがそのように取り乱すのはみっともないぞ」


英玲奈が花陽に向かって厳しい言葉を飛ばす。

もちろん、そんなことをしたら黙っていない人物がいる。


凛「ちょっと!! かよちん落ち込んでるんだよ!? そんな言い方しないでよ!!」


凛だ。
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:56:57.45 ID:c3b0uZJF0

英玲奈「私たちは町のリーダーだ。そんな泣き言を言うためにここに来たのか?」

ツバサ「英玲奈、やめなさい」

英玲奈「私は有意義な話し合いをすると聞いてここに来たのだが……。その気がないのなら、クロユリに戻ってもいいか? 私はこんなところにいる場合じゃないんだ」

凛「何、その言い方!!」

希「凛ちゃん、やめとき」

ツバサ「英玲奈も、言葉を選びなさい」

英玲奈「……」

海未「英玲奈……クロユリが大変な時なのは理解しています。ですが、私の顔に免じて……一旦矛を収めてもらえませんか」


私は頭を下げる。

クロユリが大変な時──クロユリシティは……数日前、謎の大型ポケモンの襲撃を受けた。

英玲奈が撃退をしたそうだが……未だにそのポケモンの正体はわかっていない。

空間の穴から突然現れて、倒したら再び穴の中へと逃げ帰っていったとのことだ。

英玲奈はそんな中で、緊迫したクロユリの地を空けて、わざわざローズまで来ているのだ。苛立ちや焦りがあっても仕方ない。


英玲奈「頭を下げないでくれ……。……すまない、私も口が過ぎた……謝罪する」

花陽「い、いえ……わたしも……ごめんなさい……」

凛「り、凛は謝らないよ!」

希「こら、凛ちゃん。そういうこと言わない」

凛「にゃ……ご、ごめんなさい……」


英玲奈も花陽も凛も、動揺が見て取れる。

いや、彼女たちだけじゃない。


ルビィ「お姉ちゃん……大丈夫……?」

ダイヤ「ルビィ……えぇ、わたくしは大丈夫ですわ……」


相変わらず真っ青な顔色のダイヤ。それを心配するルビィ。


にこ「真姫……あんた大丈夫? 目の下酷い隈よ……?」

真姫「ごめん……ちょっと……あんまり、眠れてなくて……」


真姫もあまり体調が芳しくないらしい。


理亞「…………」


理亞はそんな中なせいか、とにかく居心地が悪そうな顔をして座っている。

地方を取りまとめる存在であるはずのジムリーダーたちが、揃いも揃って酷く動揺しているのが目に見えて明らかだった。

それもそのはずだ。……チャンピオン──即ち、この地方最強のトレーナーが敵の手に落ちるとはそういうことなのだ。

……会議室内の空気が酷く重い。

こんな雰囲気で会議を始めていいのだろうか……そう思っていた、そのとき、


 「──あの、皆さんっ!!」


一人のジムリーダーが、立ち上がりながら、大きな声をあげた。

全員の視線がその声の方に向く。

声の主は──
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:57:45.75 ID:c3b0uZJF0

曜「一度、落ち着いてください!」


──曜だった。


曜「千歌ちゃんが攫われて……みんなショックを受けてるのはわかります。でも、今やるべきことはショックを受けて足を止めることじゃないはずです!」

ことり「曜ちゃん……」

曜「それに……千歌ちゃんはきっと大丈夫です!! あの千歌ちゃんがこのくらいのことで、どうにかなったりするわけありません!」

ダイヤ「曜さん……」

曜「むしろ、今頃敵の隙を突いて、脱出してるくらいだと思います! 皆さんも千歌ちゃんなら、それくらいやりそうって思いませんか?」

善子「ふふ……全くね」

曜「だから、今は落ち着いて、今後どうするかを考えた方がいいと思います!」


曜の言葉で一瞬、室内が静寂に包まれたが、


ツバサ「……曜さんの言うとおりよ。私たちが動揺している場合じゃないわ」

ことり「うん! 私たちジムリーダーや四天王が落ち込んでたら、街の人たちも不安になっちゃう! 私たちはちゃんと前を向いてないと!」

ダイヤ「……教え子に諭されていてはいけませんね。自分を律して、今出来ることを為さなくては……」

希「こんなときこそ、平常心やんね。みんな一旦深呼吸しよか」


四天王たちがそれに同調すると、場の空気が一段階軽くなったような気がした。

それは、曜も肌で感じ取れるものだったのか、


曜「……はぁ……よかった」


彼女は安堵の息を漏らす。

そんな彼女の背中を隣に座っていた善子が──バシンッ! と勢いよく叩く。


曜「いったぁ!? ち、ちょっと、何すんの善子ちゃん……!?」

善子「あんたの成長を目の当たりにして、嬉しかっただけよ。あと、ヨハネよ」

曜「そういうことは口で言いなよ……」

善子「千歌が海に放り出されたとき、わんわん泣いてたあの曜がねー……」

曜「ちょ!?/// 今、それ言う!?///」


二人のやり取りに、くすくすと笑い声さえ聞こえてくる。

お陰で暗い空気が随分払拭された。

そして、ちょうどそのとき、


果南「──なんか、思ったより盛り上がってるじゃん」

鞠莉「I'm sorry. ごめんなさい、遅くなったわ……」


果南と鞠莉が遅れてやってきた。これで面子は全員揃った。


海未「果南たちも来ましたね、それでは会議を始め──……ん?」


そのとき、ふと──果南と鞠莉の後ろに少女が二人いることに気付く。


侑「え……な、なんか、すごい人たちばっかいるよ……!?」
 「ブィィ…」

かすみ「か、かすみんたち……もしかして、場違いってやつですか……?」
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:59:10.72 ID:c3b0uZJF0

──確かあの子たちは……。数日前に事情聴取をした、事件に巻き込まれた少女たち。……確か、侑とかすみと言っただろうか。


彼方「侑ちゃん……!? かすみちゃん……!?」

侑「! 彼方さん……!」

かすみ「彼方先輩!? 身体の方はもう大丈夫なんですか!?」

彼方「うん……とりあえずは……。二人も大丈夫そうだね……」

侑「はい!」

かすみ「えっへん! かすみんこれで結構丈夫ですから!」


彼女たちは、一緒に巻き込まれた彼方とお互いの安否確認を始めているが……。


海未「果南……どういうことですか」


私は果南を睨みつける。


果南「この子たちも、会議に参加してもらおうと思って」

海未「自分が何を言っているのか理解してますか?」

果南「参考人は多い方がいいでしょ?」

海未「……貴方、何か企んでいますね?」

果南「いいから始めようよ。時間もったいないでしょ?」

海未「こちらは貴方たちが来るのを待っていたんですが……」

果南「侑ちゃん、かすみちゃん、ここに座って!」


そう言いながら果南は、壁側に立てかけてあった椅子を持ってきて、勝手に席を作り出す。


侑「え、えっと……いいのかな……?」
 「イブィ…?」

かすみ「果南先輩がいいって言ってるんだから、お言葉に甘えちゃいましょう!」

侑「え、えぇ……?」

リナ『かすみちゃん、さすがの図太さ……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


何やら、ロトム図鑑らしきものもいますし……。侑に至ってはポケモンを同席させている。


果南「さ、始めて始めて!」

海未「……言いたいことは山ほどありますが、貴方の強引さに付き合うとロクなことになりませんからね……。お小言は後にしてあげましょう」

果南「海未が相変わらず、話のわかる人で嬉しいよ」

海未「あとで……問題にしますからね」

果南「へいへい」


果南の突拍子もない行動に一つずつ言及していたら、それだけで日が暮れてしまう。

この頑固者は、一度決めたら私に何を言われようが絶対に意見を曲げないんです。

バタバタしましたが──対策会議はこの21人と1台の図鑑によって始まることとなった。



83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 11:59:54.08 ID:c3b0uZJF0

    🎹    🎹    🎹





──なんだか、とんでもないところに来てしまった……。

とりあえず、それが私の感想だった。

地方中のジムリーダーに四天王たちが一堂に会している光景は、ポケモンリーグのエキジビションくらいでしか見たことがない。


海未「なるべく多くの情報をまとめるために……長い会議になるとは思いますが、お付き合いいただけると助かります」


海未さんはそう前置いて、会議を切り出し始めた。


海未「──まず軽く事件の概要に触れましょう。もうすでに、全員ご存知かと思いますが──チャンピオンである千歌が拐かされました。他にも一般人が2名。ウエハラ・歩夢さん。オウサカ・しずくさんも連れ去られたと報告を受けています。そして、この事件の犯人ですが……アサカ・果林、ミヤシタ・愛、ユウキ・せつ菜の3名が関与していると見られています」

真姫「…………」


海未さんの説明と共に、会議室内のスクリーンに果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんの写真が映し出される。

ただ、愛ちゃんの写真だけは何故かスーツを着ていて……遠くから撮った、監視カメラからの写真のようなものだった。


海未「後ほど詳しく彼女たちについて話したいのですが、その前に前提の話として……穂乃果と彼方──貴方たちは長い間、千歌と行動を共にしていたそうですね」

穂乃果「うん、ここ1年半くらいは千歌ちゃんや彼方ちゃんたちと一緒に行動してたかな」

海未「その話を詳しく聞かせてもらってもいいでしょうか?」

彼方「あ、あのー……」

海未「なんでしょうか?」

彼方「詳しくって言うのは……どこまで……」

海未「可能な限り多くの情報を喋っていただけるとありがたいのですが……」

彼方「で、ですよねー……」

海未「何か言えないことでも……?」

彼方「えーっと……」


海未さんの視線に、困惑した表情をする彼方さん。

彼方さんが助けを求めるように穂乃果さんに視線を送ると、


穂乃果「隠さなくていいよ彼方さん。こういう事態になっちゃった以上……無理に隠す方が却って混乱を招くからって、相談役から言われてるんだ。向こうとは相談役が話を付けるから、気にしなくていいって」

彼方「そ、そっか……そういうことなら……」

ことり「相談役って……リーグの相談役……?」

穂乃果「うん、ことりちゃんのお母さんだよ」

海未「……言われてみれば、千歌も相談役と何かと話をしていることが多かった気がしますね。……穂乃果、貴方たちは一体何をしていたんですか?」

穂乃果「うーんとね、私たちはポケモンリーグ経由で──国際警察からの仕事を請け負ってたんだ」

海未「……は?」


海未さんが素の反応を示した。


海未「ち、ちょっと待ってください……国際警察……? いつからですか……?」

穂乃果「私がチャンピオンになって1年くらい経ったときからだから……えっと……」

海未「ま、待ってください! それって10年以上前ではありませんか!?」

穂乃果「うんとね、この地方でチャンピオンになったときに、ことりちゃんのお母さんからお願いできないかって話があって……。歴代チャンピオンは、みんなお願いされてたみたいだよ」
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:00:38.15 ID:c3b0uZJF0

それを聞いて、海未さんが果南さんの方に視線を向ける。


海未「果南、本当ですか?」

果南「あー……? そういえば、なんかそんな感じのこと言われたかも……国際組織から私宛てにお願いがあるんだけど、聞いたら受けてもらわないといけないから、聞くか聞かないか選んで欲しい、みたいな……私は断ったんだけど……」

海未「……なるほど。……侑? どうかしましたか?」


海未さんが急に私に声を掛けてくる。

何故なら──私が相当驚いた顔していたからだろう。


侑「──か、果南さんって……チャンピオンだったんですか……?」

果南「うん、そうだよ。千歌の前のチャンピオン」

かすみ「えぇ!? うそ!?」

海未「果南はかなりクローズドでチャンピオンをしていましたからね……知らないのも無理はありません」


確かに千歌さんの前にもチャンピオンはいたはずだけど……本当に全く知らなかった……。


海未「それでは、千歌もそれを受けることを選んだということでいいんですか?」

穂乃果「うん。だから、それ以来千歌ちゃんとはツーマンセルで彼方さんと、妹さんの遥ちゃんの護衛任務をしてたんだ」

ツバサ「護衛……? 守ってたってこと? 何から?」

彼方「えっと……そのためには、わたしが何者なのかから、話さないといけないんだけど……。……実はわたしと妹の遥ちゃんは……もともとこの世界の人間じゃないんだ」


会議室内が静まり返る。


侑「この世界の……人間じゃない……?」

にこ「まるで、この世界以外の世界があるみたいな言い方ね……」


にこさんが疑いの眼差しを向けながら言う。

でもそれに対して、


鞠莉「……もしかして、ウルトラホール……?」


鞠莉博士には心当たりがあったらしい。


穂乃果「え!? 鞠莉さん、もしかして知ってるの!?」

鞠莉「知ってるというか……そういう文献を読んだことがあるというか……。善子、あなたにも見せたことあるわよね?」

善子「善子言うな。……えっと、確か私たちの住んでいる時空よりも、さらに高次元に存在する空間みたいなものだった気がするわ。……アローラの方で研究してる財団があったような」

彼方「うん。ウルトラホールの先には、ウルトラスペースっていう空間が存在してて……いろんな世界と世界を繋いでるんだ。わたしたち姉妹は、そのウルトラスペースを通って、こっちの世界に落ちてきたの……」

穂乃果「稀にそういうことがあるらしくって、ウルトラスペースを通ってこっちの世界に落ちてきちゃった人のことを国際警察では“Fall”って呼んでるんだ。……そして、国際警察は“Fall”の人たちを保護してる」

海未「……突拍子もなさすぎて、理解が追い付かないのですが……」


海未さんはそう言いながら、眉を顰めている。


希「保護してるんはええんやけど……なんで、護衛する必要があるん?」

彼方「それを説明するには……先にウルトラビーストについて説明しないといけないかな……」

ことり「ウルトラビースト……?」

かすみ「かすみん、ウルトラビーストなら知ってますよ! 異世界から来た、超強いポケモンのことで──もがもがっ!!」

侑「す、すみません、続けてください」


自信満々にかすみちゃんが解説しようと口を挟むけど、たぶん話がややこしくなりそうだから、口を押さえる。
85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:01:37.17 ID:c3b0uZJF0

彼方「ウルトラビーストって言うのは、ウルトラスペースに住んでるって言われる特殊なポケモンのことだよ。ウルトラスペースは特殊なエネルギーに満ちてるらしくって……それを浴び続けた結果、ウルトラビーストたちは普通のポケモンとは一線を画した強さを持ってるんだ……」

穂乃果「それと……“Fall”もウルトラスペースを通ってきてるから……身体にそのエネルギー浴びちゃってて、それに惹かれてウルトラビーストが寄ってきちゃうんだって」

ダイヤ「では……穂乃果さんと千歌さんは、“Fall”故に寄ってきてしまうウルトラビーストから、彼方さんや妹さんを護衛していたということですね」

穂乃果「うん、そういうこと」


穂乃果さんはダイヤさんの言葉に頷く。


凛「ねぇねぇ、聞きたいんだけど……」

彼方「んー、何かな?」

凛「ウルトラスペースってところを通ってきたってことは……彼方さんにはもともと住んでた世界があったってことでしょ? そこには帰ったりしないの?」

彼方「あー、んー……えーっと……」

穂乃果「えっとね、“Fall”の人はほとんどが記憶を失ってるんだ。……彼方さんや遥ちゃんも例外じゃなくって……だから、元居た世界の記憶が──」

彼方「あのー……それについてなんだけど……」

穂乃果「ん?」

彼方「実は彼方ちゃん……記憶、戻ったみたいなんだよね……」


彼方さんの言葉に穂乃果さんは一瞬フリーズする。


穂乃果「……ええぇぇぇ!!? わ、私聞いてないよ!?」

彼方「退院出来たのが昨日だし……話すタイミングがなくって……」

穂乃果「でも、なんで急に……!?」

彼方「……きっかけは──果林ちゃんの持ってた色違いのフェローチェ。……わたしと遥ちゃんは……ウルトラスペースを航行中に、果林ちゃんのウルトラビースト──フェローチェに襲われて、この世界に墜落したんだ……」

穂乃果「え……?」

海未「ちょっと待ってください……果林はそのウルトラビーストとやらを持っていたということですか……?」

彼方「えっと……果林ちゃんと愛ちゃんは、わたしと同じ世界の出身……というか、もともと同じ組織の仲間だったんだ」


──場が再び静まり返る。


ルビィ「えっと……果林さんと愛さんが彼方さんと同じ世界の人で、仲間なんだけど……果林さんが彼方さんを襲って……? あれ、なんかこんがらがってきた……」

理亞「……仲間割れってこと?」

花丸「うーん……この場合、組織にとって大切な機密や物を盗んで、彼方さんが逃げちゃったって言う方がしっくりくるかな?」

ルビィ「は、花丸ちゃん! そういうこと言ったら失礼だよ!」

花丸「あ、ごめんなさい……物語だとそういうパターンの方がわかりやすいかなって思って……」

彼方「うぅん、花丸ちゃんの言ってることであってるよ」

ルビィ「えぇ!?」

海未「つまり……現在は彼女たちの味方ではないと考えていいんですね」

彼方「うん。……わたしと遥ちゃんは、組織のやり方に賛同できなくて……コスモッグっていうポケモンを連れて、自分たちの世界を脱出したの……。ただ、ウルトラスペースはウルトラスペースシップって専用の船で航行するんだけど……すぐに気付かれて、果林ちゃんのフェローチェに撃墜されちゃったんだ……」

海未「その組織というのは……具体的に何をしようとしていたんですか?」

彼方「……私たちの住む世界を蘇らせるための活動……かな」

曜「蘇らせる……?」

彼方「あのね、想像が難しいかもしれないんだけど……わたしたちの世界は全部合わせても……この地方くらいの土地しか残ってなかったんだ……」

かすみ「オトノキ地方くらいの土地しかない……世界……? どゆこと……?」

彼方「正確には、それくらいしか住める場所が残ってなかったんだ……大半の陸が崩落して海に沈んで……多くの海や大気が有毒な物質で汚染されて、人もポケモンも生きていけない……だから、わたしたちの世界の人とポケモンたちはその少ない土地の中で暮らしていた……。その中でもわたしたちは……プリズムステイツって場所で暮らしてたんだ」

善子「じゃあ、貴方はそこから妹と一緒に亡命でもしようとしてたってこと?」

彼方「亡命……うん、そうかも」
86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:02:29.18 ID:c3b0uZJF0

彼方さんは、ヨハネ博士の言葉に頷く。


かすみ「あ、あの侑先輩……」

侑「……なにかな」

かすみ「かすみん、彼方先輩が何言ってるのか全然理解出来ないんですけど……」

侑「大丈夫、私も全然頭が追い付いてないから……」


あまりに突拍子もない話が多すぎて、脳がうまく情報を処理しきれていない。

とりあえず、一個ずつまとめていこう……。

……彼方さんや果林さん、愛ちゃんはもともと異世界に住んでいて、その世界を救うための組織にいた。

だけど、考え方の違いから、彼方さんは遥ちゃんと一緒に、組織の大事なものを盗んで他の世界に逃げだしたけど……その最中──果林さんに襲われて、この世界に落ち……記憶を失って、この世界で生活していた……って感じかな。


海未「その亡命の理由とやらは……聞いてもいいですか?」

彼方「……プリズムステイツに存在する政府組織は……世界再興のために──他の世界を滅ぼすことを計画したんだ」

海未「……なんですって?」


世界を滅ぼす──物騒な言葉に海未さんが顔を顰める。


鞠莉「Hmm... あなたたちの住んでいる世界が破滅の危機に瀕していて、それを救おうとしていることはわかったわ。だけど、それと他の世界を滅ぼそうとすることに何の因果関係があるの?」

彼方「あの……ここまで言っておいて、あれなんだけど……実は彼方ちゃんは基本的には実行部隊みたいな立ち位置だったから、具体的にどうしてそうすると世界が救われるのかはよくわかってなかったんだ……。ただ、エネルギーの流れを変えるとか……そんな感じのことは言ってたけど……」

にこ「わかんないのに、そんな組織に身を置いてたの……!?」

真姫「……逆でしょ」

にこ「……逆?」

真姫「理屈もわからないのに、他の世界を滅ぼすことが自分たちの世界を救う方法だ、なんて言われたから……逃げることにしたんでしょ」

にこ「あ、なるほど……」

海未「どういう組織だったのか……もう少し具体的に教えてもらってもいいですか?」

彼方「えっと……もともとはプリズムステイツの研究機関が基になってて……そこにいた二人の天才科学者が、ウルトラスペースを発見したことから始まった組織なんだー……。ただ、実際にウルトラスペースは危険を伴う場所だったし、ウルトラビーストと戦闘になることもある……だから、実行部隊っていう戦う専門の部隊が出来たんだ。その組織をプリズムステイツの偉い人たちが管理してたって感じかな……」

穂乃果「彼方さんは、その実行部隊にいたんだね」

彼方「うん……それで、その組織の中で戦闘の実力がトップの二人には……それぞれ“SUN”と“MOON”って称号階級と一緒にポケモンが渡されてたの……」


そう言いながら、彼方さんは腰からボールを外して──ポケモンを出す。


 「────」
彼方「それが……この子」

侑「遺跡で戦ってるときに私を助けてくれたポケモン……」


あの、金色のフレームの中に、夜空のような深い青色をした水晶がはまっている姿をしたポケモンだ。
87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:03:05.67 ID:c3b0uZJF0

ツバサ「……その称号と一緒に渡されるポケモンを持っているってことは、貴方はその称号を持った幹部だったってこと?」

彼方「えっと……確かに彼方ちゃんは実行部隊で2番目に強いトレーナーだったから、副リーダーみたいな扱いで……一瞬だけ称号階級を持ってたタイミングはあったんだけど……もともとは違う人が持ってたんだ……」

英玲奈「……もともとは違う? 君は実行部隊で2番目に強いトレーナーだったのだろう? それだったら、最初からその階級称号を持っていたんじゃないのか?」

彼方「階級称号は実行部隊のトップ2に贈られるものじゃなくて……組織全体で見て戦闘の実力がトップの二人に贈られるものなの」

ルビィ「えっと……どういうこと……? 実行部隊のトップ2はバトルのトップ2じゃないの……?」

花丸「……そっか、研究者の中に実行部隊よりもバトルが強い人がいたんだ」

彼方「うん、そういうこと」

曜「あーなるほど……」

彼方「……果林ちゃんは“MOON”の称号を持ってた実行部隊のトップの人で、“SUN”は……科学者でありながら、戦闘で果林ちゃんに匹敵する実力を持ってた愛ちゃんだったんだ。それでこの子は、もともと愛ちゃんが持ってたコスモッグなんだけど……理由があって愛ちゃんの手を離れたときに、わたしが組織から持ち出したポケモンなんだ。……この子を持ち出せば、一時的にでも計画を止めることが出来るから」

花陽「一時的に計画を止める……?」

彼方「このポケモン──コスモウムは……もともとはコスモッグっていうポケモンが休眠状態になった姿なの。コスモッグは大量のエネルギーを体に蓄えていて……そのエネルギーはウルトラスペースを自由に航行出来るほどだった。……だけど逆に言うなら、コスモッグがいなくなってウルトラスペースを自由に行き来出来なくなったら、計画は頓挫する。だから、彼方ちゃんは遥ちゃんと一緒に、コスモッグを連れ出して、組織から逃げて来たの」

穂乃果「あれ……? でも、コスモッグは“SUN”と“MOON”に渡されてたんだよね……? なら、2匹いたんじゃ……」

彼方「うん。彼方ちゃんたちも最初は2匹とも連れ出せればとは思ったんだけど……1匹は果林ちゃんが普段から持ち歩いてたから、連れ出すのはとてもじゃないけど、無理だった」

にこ「そういうのって片方残ってたら意味ないんじゃないの……?」

彼方「コスモッグは一度にエネルギーを吸いつくしちゃうと、休眠して二度とエネルギーを出せなくなっちゃうから……2匹のコスモッグから交互にエネルギーを貰ってたの。だから、1匹減るだけで計画の効率はすごく下がるんだ」

海未「果林のコスモッグは無理だったのに、愛のコスモッグは連れ出せたということですか? 愛も貴方より強かったのでは……?」

彼方「彼方ちゃんたちが脱出するとき……愛ちゃんは“SUN”の称号階級を剥奪されてて、繰り上がりで私が貰うことになってたんだ……だから、わたしがコスモッグを連れ出せたんだよ」

海未「階級の……剥奪……? 何故……?」

彼方「あるとき、愛ちゃんが……組織の施設を破壊して回ったから……」

かすみ「……?? なんか、全然意味わかんないんですけど……」


確かに随分唐突な話な気がする。


花丸「もしかして……愛さんも、彼方さんみたいに組織のやり方に反対してたってこと?」

彼方「愛ちゃんがどうしてそんなことしたのか、詳しい理由はわからないんだけど……組織のやり方に反対してたって噂はずっとあったんだ。それに……」

鞠莉「それに?」

彼方「愛ちゃんが、施設を破壊する直前……大きな事故があったんだ」

ことり「事故……?」

彼方「さっきも言ったけど……この組織は二人の天才科学者を端にして作られたんだけど……一人はもちろん愛ちゃんのこと、そして──もう一人は愛ちゃんの一番大切な人だった」

海未「……まさか、その事故というのは」

彼方「……うん。そのもう一人の研究者が……ウルトラスペース調査中に……亡くなったんだ。その子の名前は──」


彼方さんは急に、私の方──いや、私の傍に居るリナちゃんに視線を向ける。


彼方「──テンノウジ・璃奈」

リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「え……!?」


私は驚いて思わず声をあげる。


彼方「……記憶が戻ってから、ずっと気になってたんだ……。リナちゃんは……わたしの知ってる璃奈ちゃんなの……? 名前もだけど……喋り方とか……そっくりなんだ……」

リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃん……そうなの……?」

リナ『……ごめんなさい、わからない……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「わからない……?」
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:03:58.87 ID:c3b0uZJF0

自分のことなのに、肯定でも否定でもなく、わからないって……?

そんな疑問に答えたのは、


鞠莉「リナにも……記憶がないのよ」


リナちゃんの生みの親である、鞠莉さんだった。


侑「リナちゃんにも記憶がない……?」

鞠莉「ただ、これは彼方たち“Fall”の記憶喪失とは違う。根本的に記憶がないの」

海未「……待ってください、そもそもそのリナというポケモン図鑑は何者なんですか? 私はてっきりロトム図鑑のようなものかと思っていたのですが……」

鞠莉「リナは……やぶれた世界で見つかった──情報生命体を使って作ったポケモン図鑑よ」


──会議室内が、またしても沈黙した。


凛「うぅ……凛、そろそろ頭が痛くなってきたにゃ……」

にこ「さ、さすがのにこにーも脳みそが破裂寸前にこ……」

かすみ「……じょーほーせーめーたい……? つまり、どーゆーこと……?」

花丸「まるでSF小説を無理やり頭に詰め込まれてる気分ずらね!」

ルビィ「花丸ちゃん……なんか、楽しそうだね……」



何人かはそろそろ理解が追い付かず悲鳴をあげ始める。

正直、私もそろそろ脳が理解を拒み始めているけど……でも、リナちゃんのことと言われたら聞かないわけにはいかない。


鞠莉「以前、果南がやぶれた世界に行ったときがあったでしょ?」

海未「グレイブ団事変のときですね……」

理亞「……」

果南「なんかそのときに私の図鑑に入り込んだらしいんだよね。そんでそれを鞠莉が発見して、リナちゃんを作ったんだよ」

ダイヤ「すみません果南さん。今貴方の大雑把な解釈を聞かされると、却ってわけがわからなくなるので、少し静かにしていただけると……」

海未「右に同じです」

果南「え、酷くない……?」


果南さんがあからさまに不満そうな顔をする。


鞠莉「まず最初に気付いたきっかけは──この子」


そう言って鞠莉さんがボールからポケモンを出す。


 「──ポリ」

ダイヤ「ポリゴンZですか……?」

鞠莉「真姫さん。この会議棟に給湯室ってあるかしら?」

真姫「あるけど……。この部屋を右に出て突き当りにある部屋よ」

鞠莉「Thank you. ポリゴン、いつものお願い」
 「──ポリ」


鞠莉さんに言われて、ポリゴンZがドアを“サイコキネシス”で開けて、外に出て行く。
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:04:38.21 ID:c3b0uZJF0

ダイヤ「あの……一体何を……」

鞠莉「まあ、ちょっと待ってて」

海未「……中央区の施設でポケモンを自由に動き回らせて大丈夫ですか?」

真姫「まあ……今はこの会議棟自体貸し切りにしてるから、大丈夫よ」


鞠莉さんに言われたとおり──待つこと数分。


 「──ポリ」


──ポリゴンZが部屋に戻ってきて、一人一人の前に、カップを置いていく。


海未「……なんですか、これは」

鞠莉「ロズレイティーよ」


そう言いながら、鞠莉さんはロズレイティーを飲み始める。


鞠莉「ん〜おいしい♪ 今日も最高の入れ具合よ♪」
 「ポリ」

海未「……鞠莉、貴方ふざけているのですか?」

ダイヤ「まさか……紅茶が飲みたかっただけとか……?」

真姫「……おいしい」

海未「真姫、貴方まで……」

真姫「……ありえない」

海未「……はい?」

真姫「ポリゴンZにこんな繊細に、紅茶を入れられるはずない。ポリゴンZは進化して力を手に入れた代わりに、致命的なバグ挙動を起こすようになったポケモンよ。こんな複雑で繊細なことを、自己判断だけでするのは不可能なはず……」

海未「確かに……言われてみれば……」

真姫「これじゃまるで──ポリゴン2よ」

鞠莉「そう、この子はポリゴンZの見た目をしているけど……ポリゴンZの姿のまま、バグが取り除かれて正常化された──いわばポリゴン3と言っても過言ではないポケモンよ」
 「ポリ」

侑「ポリゴン……3……?」


私も思わず首を傾げる。そんなポケモン見たことも聞いたこともない……。


果南「つまり、図鑑に入り込んだリナちゃんがポリゴンZの中身をポリゴン2にしたってことだよ!」

鞠莉「まあ……果南ってこんな感じに説明とか大雑把じゃない? だから、ポケモン図鑑みたいな精密機械をよく壊すのよ……」

果南「……なんか、私の扱い全体的に酷くない?」

鞠莉「ポリゴンが自身をデジタルデータ化することによって、電脳空間に入ることが出来るのは、知ってるわよね?」

海未「ええ、まあ……リーグ本部でもデジタルセキュリティにポリゴンを使っていますので……」

鞠莉「だからわたしは定期的に、調子の悪くなった果南の図鑑にポリゴンZを入れて、エラー部分を排除させてたの」

ルビィ「あ、あの……ルビィ詳しくないからよくわかんないけど……ポリゴンZさんには繊細なエラー修正は出来ないんじゃ……」

善子「……そんなことしてるから、調子悪くなるんじゃないのかしらね」


……鞠莉さんも大概大雑把なんじゃないだろうか。
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:05:29.53 ID:c3b0uZJF0

鞠莉「いつものように、修復作業をやってたんだけど……図鑑から出てきたポリゴンZからは、ポリゴンZというポケモンが持っている異常行動がほぼ解消されていて……何故かポリゴン2のような挙動になっていた。わたしはそれに気付いて、図鑑のプログラムを自分で直接解析してみたんだけど……」

ルビィ「あ、あの……自分で出来るなら、最初からそうした方が……」

善子「ルビ助……これ以上、突っ込まないであげて。そういう人なの……」

鞠莉「そこには、コンピューターウイルスのような謎のプログラムが存在していた。その最上部に9文字の信号あったんだけど……『・・・−−−・・・』と記されていたわ」

海未「……とんとんとんつーつーつーとんとんとん……? あの……もう少しわかりやすく言っていただけると……」

曜「……もしかして……SOS?」

海未「SOS……どういうことですか……?」

曜「『・・・−−−・・・』ってモールス信号でSOSって意味なんです」

海未「……モールス信号……! なるほど……」

鞠莉「そう、これを見た瞬間、わたしに対して助けを求めてるんだって理解した。だから、わたしはこのプログラムを少しずつ展開して、解析していった結果──かなり高度な人工知能のプログラムに近いものになっていることがわかった。それも今の人間には到底作れないレベルのもの。ただ、そんなものは移植するのも簡単に出来るわけじゃない、だから……」

リナ『鞠莉博士はそのプログラム──つまり私に開発環境へのアクセスを許可してくれた。そこから、私は言語情報を介して、人とコンタクトを取れる形に自身のプログラムを書き換えた』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「それが自己進化型AIリナの正体よ」

侑「そう、だったんだ……」


ただの図鑑じゃないことはわかっていたけど……リナちゃんが生まれた理由は私の想像の何倍も上を行っていた。

いや……ここにいる誰もが、想像しえなかったことじゃないだろうか。


ダイヤ「そんなことが……ありえるのですか……?」

鞠莉「まあ、実際にリナは、こうしてここにいるわけだしね」

花丸「事実は小説よりも奇なりとはこのことずら……」

リナ『ただ……私は自分の名前がRinaだってことと、誰かと繋がりたい、お話ししたいって気持ちがあることしか覚えてなかった』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「だから、図鑑に組み込んで……いろんなデータを参照できるようにしてあげたの」

リナ『お陰ですごい物知りになった』 || > ◡ < ||

鞠莉「肝心の記憶が蘇ることはなかったけどね……」

海未「……リナがそういう存在であることは理解しました。……では、やぶれた世界から来たという根拠は?」

鞠莉「……まあ、正直これに関しては消去法ね。リナを発見したときのメンテナンスの直前に果南はやぶれた世界に行っていた。あそこなら何かおかしなことがあっても不思議じゃないし……そこに当たりを付けたの。それに……」

海未「それに……?」

鞠莉「果南は……やれぶた世界で不思議なものを見てる」

海未「不思議なもの……ですか……?」

果南「やぶれた世界で、私はギラティナを止めるために……かなり下層まで潜ったんだけど……。そこで見つけたんだよね」

理亞「見つけたって……何を……?」

果南「……とんでもない大きさのピンクダイヤモンドを」

ルビィ「え……ま、まさかそれって……!」

理亞「ディアンシーの……ダイヤモンド……!?」


ルビィさんと理亞さんは心底驚いたような反応を示す。


ダイヤ「……そういえば鞠莉さん、それくらいの時期に、宝石に意思は宿るか……なんてことを、わたくしに訊ねてきたことありましたわね」

鞠莉「そのときダイヤは、宝石には持ち主の意思や魂が宿ると昔から考えられているって答えたのよね。それを聞いて……そのピンクダイヤモンドに、リナの素になった存在の“魂”みたいなものが宿っていたんじゃないかと仮説を立てた」

果南「もしリナちゃんの“魂”の本体が、今もあのピンクダイヤモンドに閉じ込められてるなら、もう一度あそこに行く必要がある。でも……やぶれた世界へのゲートはグレイブ団事変のあと、なくなっちゃったんだよね……」

鞠莉「だから、確認は出来ていない。お陰で仮説の域を出ていないのだけど──彼方の話を聞いて、この仮説はわたしの中で確信に変わりつつある」


鞠莉さんは、彼方さんの方に向き直る。
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:06:39.78 ID:c3b0uZJF0

鞠莉「彼方、あなた……リナがそのテンノウジ・璃奈さんとそっくりだって言ったわよね?」

彼方「うん。喋り方も、考えた方も……雰囲気とかもそっくりだなって……。あと、リナちゃんボードって口癖……璃奈ちゃんも同じことをよく言ってたんだ」

リナ『そうなの……?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……うん。璃奈ちゃん、感情表現が苦手で無表情なのが悩みだったみたいなんだけど……愛ちゃんが、それを補うためのボードを作ってあげて……それに『璃奈ちゃんボード』って、名前が付いてたんだ……」

鞠莉「……こんな偶然、ありえるかしら? これってつまり──璃奈さんの“魂”がなんらかの理由でやぶれた世界に流れ着いて……わたしたちと、どうにかコンタクトを取ろうとした結果──リナというプログラムを作って、果南の図鑑に忍ばせた」

海未「……随分突飛な話ではありますが……一応、筋は通っていますね……」


海未さんは腕を組んで唸りだす。

確かに一個一個は突飛なことのはずなのに……何故かそれが繋がって行っている気がする……。


海未「リナのことは、ひとまずわかりました。ただ、少し話が戻るのですが……解せないことがあります」

穂乃果「解せないこと……?」

海未「愛は璃奈を失ったことで組織へ不満を持ち、それがきっかけで破壊活動を行い……結果、幹部称号を剥奪されたんですよね?」

彼方「う、うん……そうだけど……」

海未「なら何故、愛は未だにその組織に協力しているのですか?」

ことり「あ、確かに……」


海未さんの言うとおり、施設を破壊するくらい組織に反対していたなら、今協力しているのは少し違和感がある。

でも、その疑問に答えたのは、


リナ『それに関しては……愛さんは従わされてる可能性がある』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんだった。


海未「従わされている……? どういうことですか?」

リナ『愛さんは前に会ったとき、首にチョーカーをしてた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あ……確かに……」


なんか、癖みたいに首のチョーカーを指でいじっていた気がする。

言われて、海未さんが改めて表示されている画像を確認すると、


海未「……確かに着けていますね」


粗い画像ながらも、確かに首にチョーカーを着けているのがわかる。


リナ『あのチョーカーは発信機になってる。たぶん居場所を知らせるためのもの』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……え?」

リナ『しかも……チョーカーの裏側はスタンガンみたいに、信号を送ると電撃が走るようになってた。近くで確認したから間違いない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そ、それじゃ……」

彼方「愛ちゃんは組織のために、首輪を着けられてるってこと……?」

リナ『その可能性は高い』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……なるほど」


海未さんはリナちゃんの言葉に頷く。

……だけど、


穂乃果「……私はそうは思わないかな」
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:07:22.77 ID:c3b0uZJF0

穂乃果さんが異を唱えた。


海未「何故ですか?」

穂乃果「……従わされているって言うには、少しふざけてるというか……追い詰められてるような雰囲気を感じなかったんだよね」

侑「確かに……愛ちゃんはなんというか……終始ふざけているような感じだった気がします」

穂乃果「うん。協力的ではないけど……消極的でもなかったというか……」

かすみ「確かに、ずっと周りを小馬鹿にしたような喋り方する人でしたね! かすみん、ちょっとイライラでした!」

海未「ふむ……」


海未さんは口元に手を当てる。


海未「……どちらにしろ、彼女に関しては情報が少なすぎて、ここで結論を出すのは難しそうですね……。リナの言うとおり、発信機とスタン機能の付いている首輪の存在は気になりますが……」


海未さんは愛ちゃんに関しては、ひとまずそうまとめて、


海未「わかる方の情報を整理しましょう」


次の話へと移る。


海未「情報がほとんどない愛に対して──果林は情報が多いです。彼女は言わずと知れた有名なモデルで、メディアにも多く露出していました。この場にいる人も、彼女を知っている方は多いんじゃないでしょうか」

ことり「うん……コーディネーターとしても有名だから、ことりは何度かお話ししたこともあるよ」

曜「私も、何回かコンテスト会場で会ったことがあるかな。……いっつもファンに囲まれてて、本当にカリスマファッションモデルって感じだった……」

海未「彼女のモデルとしての実力は本物なのでしょう……ですが、冷静に見てみると、おかしな点がいくつかあります」

ことり「おかしな点……?」

海未「彼女は──4年程前から、唐突に芸能界に現れているんです」

曜「そうなんですか……?」

海未「はい。経歴を洗い出してみたら……本当にある日突然、大企業のファッションモデルとして抜擢されているんです」

ことり「言われてみれば……確かにそうだったかも」

海未「いくら実力があっても……唐突に大企業からのバックを得るのはさすがにおかしいと思いませんか?」

曜「確かに……協賛契約を結ぶのって大変なんだよね……」

海未「それが気になったので……先日彼女に急に大きな仕事を依頼したいくつかの企業の取締役に、精神鑑定を受けてもらったんですが……。……漏れなく、催眠暗示のようなものを受けているということがわかりました」

彼方「……! まさか、フェローチェの毒……」

海未「……やはり、何か心当たりがあるんですね?」

彼方「果林ちゃんの持ってるフェローチェってウルトラビーストは……人を魅了して操る力があるんだ……」

海未「やはりですか……直近で彼女に仕事を依頼したローズのビジネスショウの責任者にも、同様の精神鑑定を受けてもらったら、同じ結果が出ましたし……」

真姫「……え?」


海未さんの言葉を聞いて、真姫さんが驚いたように目を見開いた。


海未「そういえば真姫は……つい数日前に、彼女と仕事の打ち合わせをしたそうですね」

真姫「え、ええ……」

海未「しかも、その日、その会議を行ったビルにて……ポケモンによるテロが起こった。……これは偶然ではなく、恐らくあのテロも一連の計画の中で仕組まれたものだったと考えた方が自然です」

真姫「……! まさ、か……」

海未「ただ、解せないのは……何故彼女がそんなことをしたのか、ですね……。目的が千歌であるなら……わざわざこんな目立つことをする意味がない……となると、他に何か目的が──」

真姫「……っ!!」


真姫さんは──ダン!! と机を叩きながら立ち上がった。
93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:08:07.10 ID:c3b0uZJF0

にこ「ま、真姫……?」

花陽「ま、真姫ちゃん、どうしたの……?」

真姫「……っ……あのテロは最初から……せつ菜を唆すために起こしたものだったのね……っ!!」


真姫さんはクールで冷静沈着なジムリーダーだと言うのが有名な人なのに──今は私が見ても一目でわかるくらいに怒りを剥き出しにしていた。


海未「真姫……それはどういうことですか?」

真姫「……あの子の父親は……反ポケモン派で有名な人なの……! あの子の父親もあの打ち合わせに居て、あの子が父親の前でポケモンを使うように仕向けられたのよ……!! 目の前で、人がポケモンに襲われていたら、あの子はなりふり構わず、絶対助けるに決まってる……!! だから……!!」

にこ「ま、真姫!! あんた、ちょっと落ち着きなさい!!」

真姫「…………」

海未「真姫、にこの言うとおりです。あの現場でポケモンを無力化したのは一般のトレーナーで、名前は──」

真姫「……菜々でしょ」

善子「……え?」


ヨハネ博士が真姫さんの言葉に反応した。

私もその名前には聞き覚えがあった。菜々って……まさか……。


真姫「ナカガワ・菜々……」

海未「え、ええ……確かに、ナカガワ・菜々さんですが……」

真姫「私の秘書で……──普段は、ユウキ・せつ菜と名乗っているポケモントレーナーよ……」


真姫さんが言うのと同時に──ガタンッ! と大きな音を立て、椅子をひっくり返しながら立ち上がった人がいた。


善子「……どういう……ことよ……」


ヨハネ博士だった。


真姫「善子……」

善子「菜々は…………せつ菜だって言うの……?」

真姫「…………」

善子「まさか……あんた、全部知ってて……」

真姫「…………」

善子「……菜々が……千歌を……攫ったってこと……?」

真姫「…………」

善子「…………ちょっと……どうして、そんなことになるの……? 菜々は誰よりも優しい子なのよ……? その菜々が……なんで、そんなことするようになっちゃうの……?」

真姫「…………ごめんなさい……」

善子「……っ……!! ごめんなさいじゃないでしょ!? あんた、一体菜々に何を教えて──」

鞠莉「Be quiet.」

善子「……!」

鞠莉「善子……座りなさい。ここはケンカをする場じゃないでしょう」

善子「でも……!」

鞠莉「Sit down. 座りなさい」

善子「……っ」


ヨハネ博士は、下唇を噛みながら立ち尽くす。
94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:08:50.34 ID:c3b0uZJF0

曜「善子ちゃん、座ろう……?」

善子「……」


隣に座っていた曜さんが、倒れた椅子を直しながら、ヨハネ博士をゆっくりと座らせる。


海未「……何か、いろいろと私の知らない事情があるようですね……。……とりあえず真姫、説明をしてもらえますか? あのテロがせつ菜を唆すためのものだったと言っていましたが……」

真姫「……果林たちは、なんらかの方法でせつ菜の正体が菜々であることを掴んで……あの子と父親が同じ場に居合わせるような場を仕組んだ……。菜々がポケモンを使って戦う姿を目の当たりにしたら……あの子の父親は菜々からポケモンを取り上げようとする……。……そうしたら、菜々は……どうにか説得をしようとするはずよ」

海未「……説得というと……」

真姫「……あの子、父親と話をしたあと……チャンピオンになるって飛び出して行ったから……。……父親とそういう約束をしたんだと思う……」

ダイヤ「……確かに……ローズでテロがあった日の夜、ウテナにせつ菜さんが来られました。……千歌さんを探していましたわ」

真姫「その次の日に……千歌から、せつ菜とのバトルを急用で中断することになったと聞かされたわ……。恐らく果林は……その直後に、あの子に接触して……唆した」

穂乃果「……! そっか、あのときの不自然なウルトラビーストの誤報は……!」

彼方「せつ菜ちゃんと千歌ちゃんが戦う機会を設けてから……千歌ちゃんが、無理やり戦闘を中断しなくちゃいけない状況を作るため……。フソウとダリアに愛ちゃんがそれぞれウルトラビーストを放ってたか……それか、まだ他に協力者がいるのかはわからないけど……」

真姫「それも全部……せつ菜を唆して、千歌とぶつけるため……」

海未「……確かに、彼女は今最も千歌に迫る実力を持っているトレーナーと言っても過言ではない……。もし、千歌を無力化させるなら、彼女をぶつけるのが最も効率がいい……」

彼方「それに……せつ菜ちゃんはウルトラビーストを使ってた……。果林ちゃんが、千歌ちゃんを倒させるために、渡したんだと思う……」

海未「少しずつ……全体像が見え始めましたね……。……彼方の言うとおりならば、彼女らの目的はこの世界を滅ぼすこと……なのかもしれませんが、具体的に何をするつもりなのかがわからないと対策の打ちようがない……」


海未さんはまた腕を組んで唸り始める。

確かに具体的に何をしようとしているのかが、よくわからないのは確かだ……。

そこで、私はふと──果林さんたちが戦っている最中に言っていたことを思い出す。


侑「……あの」

海未「侑? どうかしましたか?」

侑「……果林さん、歩夢が自分たちのこれからの計画に必要だって……そう言ってました。もしかしたら……歩夢を利用して、何かをしようとしてるんじゃないかなって……」

海未「歩夢……? 連れ去られた、ウエハラ・歩夢さんのことですか?」

侑「はい」

海未「……必要とはどういうことですか……? 歩夢さんとしずくさんは、人質として連れ去られたのでは……」

かすみ「そういえば……歩夢先輩にポケモンを手懐ける力があるーとかなんとか言ってましたね……」

海未「ポケモンを手懐ける力……?」

侑「その……なんというか、歩夢はポケモンからすごく好かれる体質で……そういうのを言ってるんだと思います……。それがどう必要なのかは……よくわからないんですけど……」

海未「…………」


海未さんは口に手を当てて考え始める。


海未「一つ確認したいことが出来ました。穂乃果」

穂乃果「ん、何?」

海未「ウルトラビーストとやらの姿を確認出来るものは持っていたりしますか?」

穂乃果「あ、うん! 私のポケモン図鑑なら、ウルトラビーストのデータも入ってるから見られるよ!」

海未「わかりました。パソコンに繋げてプロジェクターで映すので、少し貸してもらってもいいですか?」

穂乃果「うん」

海未「鞠莉、少し手伝ってもらえますか? 図鑑の操作なら、貴方が一番だと思うので……」

鞠莉「OK.」
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:09:24.37 ID:c3b0uZJF0

海未さんは穂乃果さんから、ポケモン図鑑を受け取り、鞠莉さんと一緒にセッティングをしていく。

程なくしてセッティングが終わり──プロジェクターに図鑑の画面が映し出される。


海未「穂乃果、彼方、侑、かすみ。貴方たちに……果林の使っているウルトラビーストの──フェローチェのことについて、お聞きしたいのですが」

侑「フェローチェのこと……?」

穂乃果「えっとね、フェローチェはこのポケモンだよ」


そう言いながら、穂乃果さんがフェローチェの画面を表示する。

──スラリとした体躯の真っ白なポケモンが表示される。


海未「このポケモンで間違いありませんか?」

かすみ「はい! こいつがフェローチェです! こいつが……しず子を……」

侑「……?」


ただ、私は首を傾げる。


侑「色が……違う……?」

彼方「あ、そっか……侑ちゃんは色違いのフェローチェしか見たことないもんね……」

海未「……それは、どんな色ですか?」

侑「えっと……上半身はこのままなんですけど……下半身が黒くて……」

リナ『博士、私をパソコンに繋いでもらえないかな?』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「いいけど、何するの?」

リナ『画像に直接色を塗って、色違いを再現する』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「なるほど……。OK. わかったわ」


鞠莉さんは手際よくリナちゃんをパソコンに繋ぎ──


リナ『画像を直接いじって、色違いを再現するね。侑さん指示して』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった。えっと、この部分が黒で……」


私はプロジェクターに映った画像を指差しながら、リナちゃんに少しずつ色を付けてもらう。


侑「そうそう……こんな感じだった」


だんだん、完成形が近づいてきたそのとき、


ことり「……あれ……?」


ことりさんが、声をあげた。


曜「ことりさん?」

ことり「……これ、どこかで見覚えが……あ」


ことりさんは立ち上がり、


ことり「あ、あの……リナちゃん! この画面、速く動かしたりって出来る?」


そうリナちゃんに注文を出す。
96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:10:04.42 ID:c3b0uZJF0

リナ『画面ごと動かせばいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

ことり「うん! ものすっごく速く行ったり来たりさせてみて!」

リナ『わかった! 動かすね!』 || > ◡ < ||


リナちゃんはことりさんの注文どおり、ものすごいスピードで画面を動かし始める。


花陽「……えっと、ことりちゃんは何を……」

かすみ「う、うぇぇ……これ、ちょっと酔うかもぉ……」


確かに、画面の上を何かが高速で横切っているのが何度も何度も繰り返されている映像は、少し酔いそうになる。

何が映っているかわからないし……見えるのはせいぜい白と黒の残像くらいで……。


ことり「……このポケモンだ」

侑「え?」

ことり「前、ことりを襲ってきたの……このポケモンだよ! この残像、見覚えがあるもん!」

にこ「残像に見覚えがあるって……すごいこと言うわね、ことり……」

海未「やはりそうでしたか……」

ことり「え?」

海未「ことり、以前に言っていたではありませんか、あのとき自分を襲ったポケモンは──人間くらいの大きさで、色は白かったような、黒かったような……と」

ことり「あ……!」

海未「それにポケモンを手懐ける能力……という言い方はあまり好きませんが、ことりはポケモンから好かれやすいというのは私も認めるところです。歩夢さんもそのような人なんだとしたら……」

希「……そっか、もともとはことりちゃんを狙ってたけど……強すぎて捕まえることが出来なかった。でも、同じような体質の歩夢ちゃんなら連れていけるって判断したんやね」

海未「そういうことです。即ち──彼女たちはポケモンを手懐けて何かをしようとしている……」

ツバサ「ポケモンを手懐けて出来ることと言ったら……」

英玲奈「大量のポケモンを捕獲し……それを使った無差別攻撃とかだろうか」

海未「他世界を滅ぼすというのが、どのレベルのものを指しているのかはわかりませんが……純粋に攻撃などをして、機能を低下させることを指しているのだとしたら、ありえない話ではないですね……」

ダイヤ「なら……各町の警備レベルを上げておいた方がいいかもしれませんわ。向こうが襲ってきてからでは、対応も遅れてしまうでしょうし……」

海未「そうですね……出来る限り各町にジムリーダークラスの実力者を常駐させる必要があるかもしれません」

リナ『そろそろ、画面の方はいい?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「あ、はい。ありがとうございます。侑も、お陰で新しいヒントが得られました。感謝します」

侑「い、いえ! 恐縮です!」


リナちゃんがパソコンから離れて、私のもとへと戻ってくる。

すると画面は再び、果林さん、愛ちゃん、せつ菜ちゃんを映した画面に戻る。
97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:11:00.43 ID:c3b0uZJF0

理亞「…………」

ルビィ「理亞ちゃん……? どうしたの、画面をじーっと見て……」

理亞「……やっぱ、この人……見たことある」

ルビィ「え?」

にこ「あのねぇ……果林はかなり有名なモデルなのよ? 確かにあんたはテレビとか興味なさそうだけど、見たことくらいは……」

理亞「いや、そっちじゃない。もう一人の方」

にこ「え?」

海未「理亞……愛に見覚えがあるのですか?」

理亞「うん。……前、グレイブマウンテンの北側の基地で飛空艇を開発してるとき……この人が居たと思う」

海未「……なんですって? それは本当ですか?」

理亞「というか、こっちの青髪の方の人も、実際に見た覚えがある……」

海未「グレイブ団とも繋がりが……? 他には何か覚えていませんか?」

理亞「……やり取りは全部ねえさまがしてたから……それ以上のことは……」

海未「そうですか……」

理亞「せめて……ねえさまが喋れる状態なら……」

海未「……そう、ですね」


海未さんはまた口元に手を当てて思案を始める、が、


かすみ「あのー……ちょっといいですかー?」


かすみちゃんが手を上げて、それを中断させる。


海未「なんですか?」

かすみ「ずっと聞いてて思ったんですけど……皆さん難しく考えすぎじゃないですか……?」

侑「かすみちゃん……? どういうこと……?」

かすみ「この会議って千歌先輩を助けるための会議なんですよね? 向こうの目的とか、そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないですか?」

海未「……ふむ?」

かすみ「果林先輩たちは、千歌先輩がいると困るから、千歌先輩を捕まえに来たんですよね? なら千歌先輩さえ取り戻しちゃえば、また相手は困った状態に戻ると思うんですよぉ……だったら、かすみんたちは千歌先輩たちを取り戻すことを一番優先して考えるべきだと思うんです」

海未「……なるほど」

鞠莉「果林たちの計画に千歌の排除が含まれているなら……千歌を奪還しちゃえば、向こうはまたそのプロセスをもう一度踏まないといけなくなる……そういうことが言いたいのかしら?」

かすみ「そうですそうです!」


確かに随分周到な準備をして千歌さんを攫っているあたり、千歌さんの強さというのがよほど障害になると考えていた可能性は高い。

実際、千歌さんが味方にいるのといないのとでは、心強さが全然違うし……。


侑「でも、そのためには千歌さんたちの居場所がわからないといけないし……そもそも、私たちはウルトラスペースに行く方法もないわけだし……」


むしろ、そこが問題なんだ。だけど、かすみちゃんはきょとんとして、


かすみ「え、でも……さっきの話聞いてると、そのウルトラスペースってやつを渡る方法も、全部リナ子の元になった人? が考えたんですよね? じゃあ、リナ子が完全復活しちゃえば、渡る方法も教えてもらえるんじゃないですか?」


そう答える。
98 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:11:44.99 ID:c3b0uZJF0

ダイヤ「仮にそうだとしても……問題はそんな簡単に行くかという話で……」

かすみ「だって、リナ子の居場所は見当がついてる〜みたいに言ってたじゃないですか。やぶれた世界……でしたっけ?」

ダイヤ「ですが、宝石に意思が宿るという話も言い伝えレベルのものですわ……。言ったのはわたくしですが、鞠莉さんがそういう意味で聞いているとは思わなかったので……。正直、まだ仮説の域で……」

かすみ「仮説でもなんでも、可能性があるならまずそれをやるべきですよ! 鞠莉博士の言うとおり、本当にそこにリナ子がいたら、全部解決するんですから!」


かすみちゃんが自信満々に言うと、


果南「あはは、全く持ってそのとおりだ♪」


果南さんが、かすみちゃんの頭をわしゃわしゃと撫で始める。


かすみ「わわっ、や、やめてください〜! 髪崩れちゃいます〜!」

果南「鞠莉、確かにいろんな情報が出てきて混乱するけどさ、私たちは最初からやろうとしていたことをやるべきだと思うよ」

鞠莉「果南……」

海未「最初からやろうとしていたこと?」

鞠莉「わたしたちは……ずっとリナの記憶を元に戻す方法をずっと考えていたの。……そもそも今のリナは少し不自然な状態なのよ」

侑「不自然……?」

リナ『私の記憶領域は飛び飛びになってる。領域が存在してるのはわかるのに、間が抜けててアクセス出来ないところがたくさんある』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「えっと……? ……地続きなら読めるんだけど、歯抜けになってるせいで、読み込めない部分があるってこと?」

リナ『そんな感じ』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「リナは明らかに自分の意志でわたしたちにコンタクトを取って来たわ。なのに、あえて歯抜けになってる自分を作り出すのっておかしくないかしら? 普通に考えたら、より多くの情報が伝えられるように、出来るだけ多くの記憶にアクセス出来るように自分を作るはずよ。でもそうしなかった。そう出来なかっただけという可能性もあるけど……わたしには、自分にまだ足りない記憶や情報があることを伝えるためにやっているように思えるわ」

海未「つまり……最初から、残りの自分の因子を探させるために、不完全な自分を果南の図鑑に忍ばせた……ということですか」

果南「だから、私たちは目的を2つに絞ってずっと行動してた。1つはもう一度やぶれた世界に行く方法。もう1つはピンクダイヤにたどり着いた時に、そこからリナちゃんの“魂”を回収する方法」

侑「“魂”の回収方法……」


確かに、仮にピンクダイヤモンドとやらに、リナちゃんの“魂”があるんだとしても、それを回収する方法がなければ結局意味のない話だ。

だけど……そんな方法あるのかな。


果南「それでね……実は後者の方はもう当てが付いてるんだ」

侑「え……?」

果南「その鍵は……侑ちゃんがすでに持ってる」

侑「え……!?」


私は驚いて声をあげる。鍵って……!? 私、そんな重要なモノに覚えがないんだけど……。


果南「私はずっと、マナフィってポケモンを探してたんだ」

侑「マナフィ……?」

果南「マナフィにはね、心を移し替える“ハートスワップ”って技が使えるんだ」

かすみ「心を移し替えるってことはもしかして……」

果南「そう、この技があれば、ピンクダイヤモンドに宿った“魂”だけをリナちゃんに移動できるんじゃないかってこと」


マナフィにそういう能力があるのはわかったけど……。


侑「えっと……それで、私はそのマナフィへの鍵を持ってる……ってことですか……?」

果南「そういうこと」

侑「えぇ……?」
99 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:12:19.32 ID:c3b0uZJF0

全く心当たりがないんだけど……。


果南「さっき、侑ちゃんが持ってたタマゴが孵ったでしょ?」

侑「え? は、はい……フィオネですよね?」

果南「実はマナフィはね、フィオネたちの王子って言われてるポケモンなんだ」

侑「……え?」

果南「そして、フィオネにはどれだけ遠くに流されても、自分が生まれた海に戻ることが出来る帰巣本能がある」

侑「じゃあ……」

果南「フィオネに案内してもらえば、マナフィのもとにたどり着けるってこと!」

侑「……」


私はポカンとしてしまう。……まさか、さっきタマゴから生まれたポケモンがそんなに重要なポケモンだったなんて……。


果南「あとはやぶれた世界に行く方法を見つけて……リナちゃんの記憶を戻せば、歩夢ちゃんたちを助けに行く道が見えるかもしれない!」

侑「……!」

果南「ただ、フィオネの“おや”は侑ちゃんだから、無理強いは出来ないんだけどさ……手伝ってくれるかな?」


そんなの、聞かれるまでもない。


侑「はい……! 私、絶対に歩夢を助けに行きたいんです……! 協力させてください!」

果南「ふふ、よかった」

かすみ「じゃあ、かすみんはやぶれた世界に行く方法を探しちゃいます! どうすればいいんですか?」

鞠莉「やぶれた世界に行くためには、空間の裂け目を見つける必要があるわ」

かすみ「空間の裂け目……? それってどんなのですか?」

鞠莉「まあ、一言で言うなら空間にあいた穴ね」

かすみ「空間にあいた……穴……?」


かすみちゃんが自分の頭に人差し指を当てながら考え始めたとき、


海未「ちょっと待ってください」


海未さんが待ったを掛ける。


果南「ん、なに?」

海未「さっきから話を聞いていて思ったのですが……まさか果南……侑とかすみを奪還作戦に連れて行くつもりではないですよね?」

果南「ダメなの?」

海未「ダメに決まっているではないですか!? 危険すぎます!! 何を考えているんですか!?」

侑「え……」


最初は強い人に任せようなんて言っていた手前……自分勝手かもしれないけど、私は海未さんの言葉にショックを受ける。


侑「わ、私……歩夢を助けに行っちゃいけないんですか……?」

海未「貴方たちの身の安全を考えたら、当然の判断です」

侑「そんな……」


せっかく、歩夢を助けに行く決心が付いたのに……。

そのとき、
100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:12:58.04 ID:c3b0uZJF0

かすみ「あーーーーっ!!!!」

海未「!?」

侑「!?」


かすみちゃんが急に大声をあげた。


海未「な、なんですか、急に……?」

かすみ「かすみん……空間の裂け目、見たことあります……!」

鞠莉「……え!?」

海未「なんですって!?」

果南「かすみちゃん、それ本当?」

かすみ「は、はい! 間違いありません! 空間に浮いてる穴みたいなやつですよね! えっと、場所は……」


場所を言いかけて──かすみちゃんは急に黙り込む。


海未「……? どうしたんですか、早く場所を……」

かすみ「……かすみん、しず子を助けに行く作戦には連れてってもらえないんですよね?」

海未「何度も言わせないでください。そのつもりです」

かすみ「……なら、交換条件です!! かすみんが空間の裂け目の場所を皆さんにお教えする代わりに、かすみんと侑先輩を作戦に連れて行ってください!!」

侑「か、かすみちゃん……!?」

海未「……なんですって?」

かすみ「この条件が呑めないなら、かすみん空間の裂け目の場所は教えてあげませーん!」


ぷんと顔を背けながら言う、かすみちゃんに対して、


海未「……いいから、教えなさい」


海未さんがドスの効いた声で返す。

……普通に迫力があって怖い。


かすみ「ぴゃぁーーー……!? そ、そ、そんな風にすごまれても、交換条件が呑めないなら、教えられませんもんっ!!」


かすみちゃんは涙目になって、果南さんの背後に隠れながら言う。


果南「あはは! 一本取られたね、海未」

海未「笑いごとではありません! 一歩間違えれば、命に関わる……そういう相手なんですよ? 貴方たち、それをわかっていますか?」

かすみ「そ、それくらい、知ってますもん……べー!」

侑「……自分なりに覚悟はしているつもりです。私も……私のポケモンたちも」
 「ブイ」


少なくとも……私たちは、前回の戦闘で殺されかけている。

歩夢のお陰で命は助かったけど……相手が情け容赦を掛けてくれるような相手ではないというのは、理解しているつもりだ。

……もちろん、今の私たちが実力不足で、だから作戦への参加を拒否されていることも。

ただ、そんな私たちに助け船を出してくれたのは、


希「……ま、ええんやない? 本人たちも覚悟してるんなら」

海未「希……!?」


希さんだった。てっきり四天王だから、海未さん側なのかと思っていたんだけど……。
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:13:36.59 ID:c3b0uZJF0

希「3年くらい前にも似たようなことがあったような気がするんよ〜……。そのとき、誰かさんは人の反対も聞かずに、自分の弟子を作戦に参加させようとしてへんかったっけ?」

海未「……そ、それは……」

希「まさか……自分の弟子はいいのに、そうじゃない子はダメなんて、言わんよね〜?」

海未「そ、その言い方は卑怯ですよ、希!」

希「ちなみにことりちゃんと真姫ちゃんは、ウチに賛成してくれると思うんやけど、どうかな〜?」

真姫「……こっちに話振らないでよ……」

ことり「……え、えっと……こ、ことりからは何も言えませーん……!」

曜「あはは……」


希さんの視線から逃げるように目を逸らす、ことりさんと真姫さん。そんな二人を見て、苦笑する曜さん。

なんかわからないけど……賛成してくれる人もいるようだ。これなら……説得出来るかも……!


侑「あの、海未さん……!」

海未「……なんですか」

侑「歩夢は、私にとって……すごくすごく大切な幼馴染なんです。……確かに今の私は弱くて、足手まといかもしれません……でも、それでも、歩夢が怖い思いをしているときに、指を咥えて見てるだけなんて出来ません……!」

海未「…………」

かすみ「それはかすみんも同じです!! しず子は、かすみんが頬っぺた引っ叩いてでも、連れ戻すんですっ!!」

侑「私……歩夢と約束したんです。歩夢に怖い思いさせないために……強くなるって。強くなって、歩夢を守るって……」


……あのとき、歩夢が自分を犠牲にしてでも、果林さんを止めてくれなかったら……私は今ここにいないと思う。


侑「私は歩夢に守ってもらった……。……だから、今度は私が歩夢を助ける番なんです……!!」
 「イブィ!!」

海未「……はぁ……ポケモントレーナーというのは、どうしてこう……強情な人が多いのでしょうか……」


海未さんは額に手を当てながら、溜め息を吐く。


海未「……侑、かすみ、貴方たちの気持ちは理解しました」

かすみ「ホントですか!?」

侑「それじゃあ……!」

海未「ですが……ポケモンリーグの理事長として、実力のないトレーナーを危険な地に送り出すことは出来ません」

かすみ「り、理解してないじゃないですかっ!?」

海未「……ですので、条件を出します」

侑「条件……?」

海未「貴方たち、ジムバッジは今いくつ持っていますか?」

侑「えっと……6つです」

かすみ「かすみんも6つです」

海未「残りのジムは?」

侑「ダリアとヒナギクです」

かすみ「かすみんはダリアとクロユリです!」

海未「なるほど」


海未さんは頷くと、


海未「……果南、鞠莉」


果南さんと鞠莉さんの方に目を向ける。
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:14:38.80 ID:c3b0uZJF0

果南「ん?」

鞠莉「なにかしら」

海未「マナフィ捜索ややぶれた世界へ向かうための準備は、どれくらいで出来そうですか?」

鞠莉「えっと……ディアルガとパルキアの調整がいるから……。さすがに1日2日だと難しいかな……」

果南「あと、マナフィ探索用の機器の用意もしてもらわないと」

鞠莉「……それもわたしがするのよね……。……ってことで、そうね……5日は欲しいわ」

海未「わかりました」


果南さんと鞠莉さんの話を聞いた上で、海未さんは私たちに向き直る。


海未「侑、かすみ。貴方たちがこれから戦う相手は──チャンピオンを攫うような輩です。……貴方たちにチャンピオンほどの力を持てとは言いませんが、それ相応の力がないと、ただ無駄にやられるだけ……だからと言って貴方たちが強くなるまでゆっくり待っていられるほど時間もありません」

侑・かすみ「「……」」

海未「ですので、貴方たちには──残り5日であと2つのジムバッジを集めてもらいます」


そう、条件を出してきた。


かすみ「……ふっふっふ、なーんだ、そんなことですか……! かすみん、ここまでジム戦は全部ストレートで勝ってきてるんです!! それくらい、朝飯前ですよ!」

海未「ただし……今後、行ってもらうのは、普通のジム戦ではありません」

かすみ「はぇ……?」

侑「普通のジム戦じゃない……?」

海未「真姫、理亞、英玲奈。この二人とジム戦を行う際は──本気の手持ちを使ったフリールールでお願いします」

侑「え……!?」


──ジムリーダーは本来、トレーナーの段階的な育成を目的とした施設だ。

だから、ジムバッジの数を基準に、挑戦者のレベルに合わせたポケモンを使うんだけど……本気の手持ちというのは、まさに文字通り、ジムリーダーたちが本気で戦うときに使うポケモンたち。


かすみ「あ、あのぉ……フリールールってなんですか……?」

果南「フリールールって言うのは、文字通りなんでもありってことだね。実戦形式って言った方がわかりやすいかな……? バトルフィールドも自由、交換も自由、ポケモンを同時に出すのもOKなルールってこと」

海未「場所と詳細な勝敗条件はジムリーダー側が決めてください」

かすみ「え、えぇ!? それ、かすみんたち不利すぎませんか!?」

海未「実戦の相手は、当然自分たちに有利な環境で戦おうとします。これで勝てないだなんて言っている人を作戦に参加させることは出来ません」

かすみ「ぐ……!? そ、それは……確かにですけどぉ……」


つまり……これが私たちが今後の戦いに参加するための、最低条件ということだ。


侑「やろう、かすみちゃん。もとより、歩夢たちを助けるためには……私たちは強くなるしかないんだ」

かすみ「侑先輩……。……わかりました! 本気だろうがなんだろうが、やってやりますよ!」

理亞「……私はいいけど……相手になるの……?」

英玲奈「久しぶりにジム戦で本気を出していいのか……楽しみだな」


理亞さんが私に、英玲奈さんがかすみちゃんに目を向けながら言う。

そして、


真姫「そういうことなら……出来るだけ早く済ませちゃった方がいいわよね」


真姫さんがそう言いながら、こちらに視線を向けてくる。
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:15:15.30 ID:c3b0uZJF0

真姫「今すぐに……って言いたいところだけど、準備もあると思うから。ローズジム戦は明日行いましょう」

かすみ「侑先輩……どっちが先にやります……?」

侑「えっと……」

真姫「順番なんて決めなくていい。二人同時に相手してあげるわ」

かすみ「え、でも……」

真姫「本気の手持ちを使えばルールはこっちで決めていいんでしょ、海未?」

海未「それで実力を測れると思うのでしたら、構いません」

真姫「なら、てっとり早く──二人まとめて捌いてあげるから」

侑「よ、よろしくお願いします……!」

かすみ「ふふん♪ そんなルール許可しちゃったこと、後悔しないでくださいね〜?」


かすみちゃんは得意げに鼻を鳴らす。

私は自分から2対1を提案してくるあたり、相当自信があるんじゃないかなって思えて、ちょっと不安なんだけど……。


海未「それでは……理亞と英玲奈も近日中にジム戦をする準備をお願いします」

理亞「わかった」

英玲奈「承知した」


まあ……条件付きとは言え、どうにかこうにか、作戦への同行の道は繋がって一安心かな……。


穂乃果「とりあえず……次の方針は決まったってことでいいのかな?」

海未「そうですね……ひとまずは果南主導でマナフィの捜索と……やぶれた世界の方に関しては鞠莉にお任せします」

果南「了解」

鞠莉「わかったわ」

海未「あと、かすみ」

かすみ「!? な、なんですか……? いくら怖い顔したってかすみん、無条件で空間の裂け目の場所を教えたりしませんよ!?」

海未「それはいいです。……ただ、もし5日以内にバッジ8つが達成できなかった場合には、大人しく教えてもらいます。そうでなければ、こちらも条件を提示する意味がありませんから」

かすみ「わ、わかりました……。さすがにかすみんもそこまで卑怯なことするつもりありませんし……」

海未「よろしい」


空間の裂け目についての交渉も、両者納得したみたいだ。


ダイヤ「あとは……人の配置でしょうか」

海未「そうですね……。今後、地方内に攻撃をされる可能性がありますので、全ての町にジムリーダー、もしくは四天王を配置するようにします」

ツバサ「フソウはどうするの?」

希「アローラにいるえりちに、一旦戻ってきてくれるように連絡してみるよ。えりちならフソウの土地勘もあるだろうし」

海未「では、ウチウラ、ホシゾラ、コメコ、ダリア、セキレイ、ローズ、ヒナギク、クロユリはそれぞれのジムリーダーに警固をお願いします。フソウは希の言うとおり、絵里に頼むとして……ウラノホシ、サニー、アキハラは四天王側でどうにかカバーしましょう。ウテナには私が常駐します」

ツバサ「そうなると一人余るから……私が地方全体を遊撃するわ」

海未「いつもすみませんツバサ……よろしくお願いします」

ツバサ「大丈夫よ。ドラゴンたちは速いし、飛び続ける体力もある。私が適任だもの」

海未「ありがとうございます。……穂乃果はこの後はどう動くつもりですか? 出来れば穂乃果にも地方警固をお願いしたいのですが……」

穂乃果「ごめん……私はやることがあるから……。でも、ピンチなところがあったら、出来る限り全速力で駆け付けるよ!」

海未「わかりました、ではそのようにお願いします。……あとは、引き続きになりますが……出来る範囲で敵についての情報を探りましょう。全てをリナに賭けるわけにもいきませんからね」
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:15:52.78 ID:c3b0uZJF0

確かに方針はリナちゃんの記憶を取り戻す方向に進んでいるけど……もしかしたら、空振りになる可能性もあるんだ。

敵の情報は少しでも多い方がいいし……探れるなら探っておくに越したことはないよね。


彼方「あ、それなら……果林ちゃんと仲の良かった子を知ってるよ。その子なら、何か知ってるかも……」

かすみ「もしかして、エマ先輩ですか?」

彼方「うん。かすみちゃんも知り合いだったんだね」

海未「では、そちらの方にも話を伺ってみましょう。彼方、仲介をお願いしてもよろしいですか?」

彼方「うん、任せて〜!」

海未「さて……とりあえず、話は纏まりましたね……。随分長い会議になってしまいましたが……他に意見がなければ、本日はここでお開きとさせていただきます」


海未さんの言葉と共に──長い会議はやっとお開きとなったのだった。





    ⚓    ⚓    ⚓





──会議が終わると同時に、


善子「…………」

曜「あ、ちょっと、善子ちゃん……!」


善子ちゃんは無言で会議室を出て行ってしまった。


ルビィ「善子ちゃん……結局あの後、一言も喋らなかったね……」

花丸「うん……」

曜「私、ちょっと追いかける……!!」


私も善子ちゃんを追いかけて、会議室を飛び出す。

会議室を出ると──善子ちゃんはとぼとぼと歩いていたので、すぐに追いつくことが出来た。


曜「……善子ちゃん」

善子「…………」

曜「……大丈夫?」

善子「…………」


声を掛けると善子ちゃんは足を止め……しばらく何も言わず立ち尽くしていたけど──


善子「…………菜々が……トレーナーになってたって聞いて……嬉しいって思ってる私と……菜々が……人を傷つけたって聞いて……悲しいって思ってる私がいるの……」


ぽつりぽつりと喋り始める。
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:16:27.33 ID:c3b0uZJF0

曜「善子ちゃん……」

善子「……なんで、あの子が苦しんでるときに……私はいつも……傍に居てあげられないのかな……」

曜「…………善子ちゃんにとって……菜々ちゃんは特別だもんね」

善子「…………」

曜「……後悔してるんだね。あのとき、強引にでも手を取ってあげられなかったこと……」

善子「…………」

曜「なら、出来ることは一つだよ」

善子「…………え……?」


善子ちゃんは振り返りながら、声をあげる。


曜「もう、後悔しないように……次はちゃんと菜々ちゃんの手を取ってあげないと。善子ちゃんが」

善子「…………曜」

曜「だから、今は下向いてる場合じゃないよ! 私たちに出来ることをしよう!」

善子「…………」


善子ちゃんは少しの間、無言で私の顔を見つめていたけど、


善子「……はぁ……これだから、陽キャは……落ち込ませてもくれないんだから……」


溜め息交じりに肩を竦めながら、そう言う。


曜「だって、落ち込んでる善子ちゃんなんて、見たくないもん」

善子「わかった。……出来ることをしましょう。……菜々に胸を張れる大人であるために」

曜「うん♪ それでこそ、善子ちゃんだよ♪」

善子「……ありがと、曜。……あと、善子言うな」





    🍅    🍅    🍅





真姫「……」


出て行ってしまった善子を見て、罪悪感があった。

菜々が図鑑と最初のポケモンを貰う約束をしていたのが善子だったというのは、もちろん知っていた。

だけど……せつ菜はトレーナーになってからも、善子に自分の正体を明かさなかった。

理由はなんとなく見当がついている。……きっと、ばつが悪かったのだろう。

その意思を汲んで私も何も言わなかったけど……。

今こんな事態になってしまってから、一言私の口から伝えておくくらいはしておいてよかったんじゃないかと……そんな風にも思っていた。
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:16:57.78 ID:c3b0uZJF0

海未「真姫」

真姫「海未……」

海未「……情報提供感謝します。……実はせつ菜の素性は、調べてもなかなか出てこなくて……困っていたんです」

真姫「……私はせつ菜の保護者のようなものだからね、当然よ……。……だから、今回のことは……私にも責任がある」

海未「真姫……」

真姫「私が育てたトレーナーが起こした問題だから……この騒動が解決したら……私は責任を取るつもり」

海未「…………」

真姫「だけど……今は先にやることがある。……だから、全部終わってから」

海未「……わかりました」

真姫「ひとまず……菜々のご両親に、起こっていることを説明しに行くわ」

海未「私もご一緒します。ポケモンリーグの理事長として……説明することもありますから」

真姫「うん……お願いね」





    ☀    ☀    ☀





穂乃果「鞠莉ちゃん、ちょっといいかな?」

鞠莉「穂乃果さん……?」

穂乃果「これ……渡しておこうと思って」


私はそう言って、鞠莉さんにフラッシュメモリーを手渡す。


鞠莉「これは……?」

穂乃果「ウルトラビーストのデータだよ。これで、みんなのポケモン図鑑でもウルトラビーストを認識出来るようにしてあげて」

鞠莉「なるほど……助かるわ」


データは戦闘の上では重要な武器になる。鞠莉さんに渡せば、みんなの図鑑をアップグレードしてくれるはずだ。


穂乃果「それじゃ、よろしくね」

鞠莉「ええ、任せて」


鞠莉さんにデータを託し──私はセントラルタワーを出て、中央区の外へ向かう。

中央区だとリザードンを出しづらいからね……。

私は歩きながらポケギアを取り出し、電話を掛ける。


相談役『──もしもし、穂乃果さん?』

穂乃果「これから、音ノ木に向かいます」

相談役『……わかったわ。彼方さんは?』

穂乃果「一旦、果南ちゃんに近くにいてもらうようにお願いしました。……果南ちゃんなら、ウルトラビーストが現れたとしても、まず負けないと思うし」

相談役『わかりました。……もし、音ノ木に異変があったら、すぐに連絡してください』

穂乃果「了解です」


私は通話を終了し──外周区に到着すると共に、リザードンに乗ってローズシティを飛び立ったのだった。



107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:17:43.56 ID:c3b0uZJF0

    🎹    🎹    🎹





侑「……はぁ……つ、疲れた……」

かすみ「かすみんも……お話ししてただけなのに……くたくたですぅ……」


かすみちゃんと二人で机に突っ伏してしまう。


彼方「あはは……ちょっと、難しいお話しだったもんね」

侑「……でも、ここで彼方さんと会えてよかったです……」

彼方「ふふ、彼方ちゃんも二人と会えてちょっとホッとしたよ〜。わたしもまだ、本調子ってわけじゃないけどね〜……。……あと、かすみちゃん」

かすみ「? なんですか?」

彼方「しずくちゃんのこと……ごめんなさい……」


彼方さんはそう言いながら、かすみちゃんに向かって頭を下げる。


かすみ「え、ええ!? き、急にどうしたんですか!? 頭上げてください!?」

彼方「……果林ちゃんがフェローチェを使うことはわかってたんだから……あの時点でしずくちゃんだけでも、避難させるべきだったんだ……そうすれば、しずくちゃんが付いていっちゃうことはなかったのに……」

かすみ「彼方先輩……。……でも、階段にははる子が倒れてたんですよね? だったら、何言ってもしず子は一人で避難なんてしなかったと思います。だから、これは事故です。彼方先輩が気にすることじゃないですよ」

彼方「かすみちゃん……」

かすみ「それに、しず子はかすみんが引っ叩いてでも連れ戻すって決めてますから! 心配しないでください!」

彼方「……ふふ、ありがとう、かすみちゃん」

リナ『そういえば……遥ちゃんは……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「遥ちゃんは、国際警察の医療施設に運ばれて……まだ眠ってるよ。いつから、お姉ちゃんよりお寝坊さんになっちゃったんだろうね……」


そう言いながら、彼方さんは力なく笑う。


彼方「でも、大丈夫だよ。命に別状はないって、お医者さんが言ってたから。……ただ、ちょっとショックを受けすぎちゃって、眠ってるだけ……」

侑「そう……ですか……」

彼方「それよりも侑ちゃんとかすみちゃんは、明日にはジム戦があるんでしょ? 疲れてるんだったら、今日は早く休んだ方がいいよ」

かすみ「それもそうですねぇ……侑先輩、行きましょうか」

侑「……そうだね」


椅子から立ち上がると──


侑「あ、あれ……?」


私の視界がふわぁっと暗くなる。


果南「──おっと……大丈夫?」

侑「え……?」


近くにいた果南さんに抱き留められ、そこでやっと、自分が倒れそうになっていたことに気付く。


かすみ「ゆ、侑先輩……!? もしかして、まだどこか痛むんですか!? ご、ごめんなさい、それなのにかすみん、侑先輩に無茶させて……」

リナ『侑さん、大丈夫……?』 || 𝅝• _ • ||

 「ブイ…」
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:18:14.76 ID:c3b0uZJF0

かすみちゃんやリナちゃん……そしてイーブイが心配して、私の周りに寄ってくる。


侑「あ、あれ……おかしいな……」


別に痛いところとかはないはずなのに、身体に力が入らなかった。

なんでだろうと思っていたそのとき──

──ぐぅぅぅぅぅ……。……と、大きな音を立てながら、お腹が主張を始めた。


侑「…………」
 「ブイ……」

かすみ「…………」

リナ『…………』 || ╹ᇫ╹ ||


そういえば私……ここ数日、まともにご飯食べてなかったんだった……。


侑「お腹……空いた……」

果南「ふふ、お腹が減るのは元気な証拠だよ♪ ひとまず、みんなでご飯にしようか」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんが何か作るよ〜」

かすみ「やったー! ご馳走です〜♪」

リナ『それじゃ外周区の食材売り場と、レンタルキッチンを探すね』 ||,,> ◡ <,,||

果南「侑ちゃん、おんぶしてあげるから、乗って」

侑「す、すみません……」


あまりの空腹で足元が覚束ないので、果南さんにおんぶしてもらう。


かすみ「彼方先輩の料理は絶品ですから、楽しみにしておいてくださいよ〜!」

彼方「おう、任せとけ〜!」

リナ『なんで、かすみちゃんが自慢気なんだろう』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


みんなの楽しそうな会話を聞いていて、ふと思う──歩夢もここに居たら……もっと楽しかったのにって……。


侑「歩夢……今、どうしてるかな……」
 「ブイ……」


ちゃんと……ご飯食べてるかな……。


侑「……歩夢……」

果南「歩夢ちゃんを助けるためにも、今はしっかり食べて体力つけないとだね」

侑「……はい」


歩夢……絶対助けに行くから、待っててね……。

私は胸中で一人、そう誓うのだった。



109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/19(月) 12:18:47.26 ID:c3b0uZJF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.63 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.63 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.59 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.53 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.56 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.1 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:200匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.63 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.56 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.54 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.56 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.55 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.56 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 6個 図鑑 見つけた数:192匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



110 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/19(月) 18:18:44.75 ID:CXrIr5dv0
あげ
111 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/19(月) 18:24:16.88 ID:sOGR6cy00
はい
112 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/19(月) 20:17:49.77 ID:thzP3vp90
頑張れ
113 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 00:02:50.75 ID:6Afa9EdC0
あげ
114 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 00:04:28.98 ID:6Afa9EdC0
あげ
115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 00:32:32.82 ID:B+X5AS2s0

 ■Intermission👠



愛「航路安定、あと数日もしたらウルトラディープシーに到着すると思うよ」

果林「ありがとう、愛。姫乃、歩夢やしずくちゃんはどんな様子かしら?」

姫乃「特におかしな様子は見られませんね。歩夢さんは最初は脱出しようと、ポケモンを使っていろいろ試していましたが……壊すのは無理だと悟ったようで、今は大人しくしています。しずくさんは……まるで糸の切れた人形のようですね……。ずっと、ベッドに横たわったまま、ほとんど動きません……」


姫乃は監視カメラの映像を見ながら、二人の様子を教えてくれる。


姫乃「あれも禁断症状の一種でしょうか……」

果林「そうね……あとで少しフェローチェを魅せに行くわ」


しずくちゃんはフェローチェを使えば、私に従順に動いてくれる。

歩夢やせつ菜のような使い道はないけど……駒としての利用価値は十分にある。


愛「……ねぇ、果林。ウルトラディープシーに向かってるってことは、ウツロイドを使うの?」

果林「ええ。このままだと、歩夢は言うことを聞いてくれないでしょうからね」

愛「……たぶん、ウツロイドを使っても、歩夢は私たちに従うようにはならないよ? ウツロイドの神経毒は理性を麻痺させるだけだから、やりたくないことはさせられない……というか、むしろやりたくないことは絶対にやらなくなっちゃうし」

果林「別に私は歩夢をコントロールをしたいわけじゃないのよ」

愛「どゆこと?」

果林「ウツロイドの毒は、回り切れば人格そのものを破壊する。目的は歩夢のフェロモンなんだから、生きたまま物言わぬお人形さんにさえなってくれればいいのよ」

愛「……相変わらず、おっかないねぇ……悪人の鑑だ……。歩夢のエースバーンを怒らせて、燃やされないようにね」

果林「……? どういう意味……?」

愛「果林は“オッカない”からね。なんつって」
 「ベベ、ベベノ♪」

果林「……」


“オッカのみ”はほのおタイプの攻撃を弱める“きのみ”だ。

わざわざそれを言うための振りをしなくてもいいのに……。


姫乃「……くだらないこと言ってないで、操縦に集中してください」

愛「“おぉっと”、残念!! “オート”操縦だ!」
 「ベベ、ベベベノ♪」

愛「いやー、ベベノムはこんなに大爆笑してくれてるのにな〜」

姫乃「はぁ……どうして、上はこの人をいつまでも重用するんでしょうか……」

果林「……利用価値があるからよ。こんなでも、愛の頭脳は本物よ」


愛の科学力は研究班の中では頭一つ抜けている。いや……頭一つどころか、二つ三つは飛びぬけている。

結局、彼女がいなければ、ウルトラスペースを行き来する方法もここまで発展しえなかったのだ。

──尤も……あの事故さえなければ、今頃技術はもっと発達していたのだろうけど……。

そう言われるくらいには、あの子──璃奈ちゃんは、愛すらも凌ぐ本当に優秀な科学者だった。


愛「そういやさ」

果林「何?」

愛「せっつーあのまんまでいいの? しずくみたいに、マインドコントロールとかしてないんでしょ?」


確かに、せつ菜にはウルトラビーストを与えただけで、実は彼女自身には特別な細工をしていない。
116 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 00:33:28.01 ID:B+X5AS2s0

愛「せっつー頭良いしさ……あのテロを起こしたのも果林のバンギラスだったって、すぐに気付くよ?」

果林「たぶん、せつ菜は私に利用されてることには、薄々気付いてるわよ」

愛「……マジ? 反逆されたりしない?」

果林「大丈夫よ。あの子は……自分の言葉を曲げられない──いえ、自分の言葉に縛られると言った方がいいかもしれないわね。そんな不器用な子なのよ」


せつ菜は、良く言えば素直だけど……悪く言えば愚直だ。

天真爛漫で無邪気さがあり、自分のやりたいことへはひたむきだが──裏を返せば、自信家でプライドが高く、思い込みも激しい。

チャンピオンになると宣言してしまえば、それ以外の方法を選べなくなってしまうし──自分で力を求めて、その力で誰かを傷つけてしまったら……もうそこから逃げられなくなる。

きっと今彼女の中では、自分は蛮行を行い……もう、戻れないところに来てしまったと、そう感じているのだろう。

その証拠に彼女は──『もう、帰る場所なんて……ありませんから……』──と口にしていた。


果林「彼女は自分で、自身が悪に染まる道を選んでしまった。その自覚があの子の中にあり続ける以上、簡単に裏切ったりはしない……出来ないわ」

愛「なんか、せっつーについて随分知った風じゃん?」

果林「どこかの誰かさんと似てるのよ。……自信家でプライドが高いところとか……特にね」


せつ菜を見ていると……時折、鏡を見ているような気分になることがある。

だからこそ……あの子が追い詰められたとき、どんな行動をするかが手に取るようにわかったし……彼女を唆すための作戦が、あまりにうまく行きすぎて……自分が少し怖くなったくらいだ。


果林「だから、せつ菜は裏切らないわ」

愛「ふーん……。ま、果林がそう言うならいいけどさ」


せつ菜は絶対に裏切れない。自分が一度ついてしまった陣営も──自分自身の言葉にも。

そして……『もう戻れない』と言うせつ菜と同じで、私も──


果林「──……そう……もう……今更、戻れないのよ……」


愛たちに聞こえないくらいの小さな声で、そう呟くのだった。


………………
…………
……
👠

117 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2022/12/20(火) 07:26:38.63 ID:6Afa9EdC0
あげ
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/20(火) 09:54:32.99 ID:XENnri720
ファイト
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:28:58.06 ID:B+X5AS2s0

■Chapter053 『決戦! ローズジム!』 【SIDE Yu】





──ホテルを出ると、外はこれでもかというくらいの快晴だった。


リナ『いいお天気!』 || > ◡ < ||

かすみ「ジム戦日和ですね!」

侑「…………」
 「ブィィ…?」

果南「侑ちゃん、緊張してる?」


口数の少ない私を見て、果南さんが声を掛けてくる。


侑「は、はい……」

果南「確かに真姫さんは強いからね。……でも、自分と自分のポケモンを信じて戦えばきっと大丈夫だよ」

彼方「そうそう! コメコで会ったときからは考えられないくらい、侑ちゃんも侑ちゃんのポケモンたちも逞しくなってるよ! 自信持って!」

侑「果南さん……彼方さん……」

かすみ「彼方先輩! かすみんは!? かすみんはどうですか!?」

彼方「ふふ♪ もちろん、かすみちゃんたちも逞しくなってるよ〜♪」

かすみ「えへへ〜……そんなことありますよ〜♪」


そうだ……私たちは旅の中で強くなってきたんだ……。

そして、もっともっと強くなるためにも……今日、絶対に真姫さんに勝たないといけない。

不安になっている場合じゃないんだ……!


侑「ありがとうございます! ……勝ってきます!」

果南「うんうん、その意気だ♪」

彼方「勝利祝いのおいしいご飯を作って待ってるから、頑張ってね♪」

かすみ「おいしいご飯……!」

彼方「もちろん、勝利祝いだから、負けちゃったときは果南ちゃんと二人で食べちゃうからね〜?」

かすみ「ぜ、絶対に勝たないと……!」

侑「あはは……」


食べ物に釣られるかすみちゃんには、ちょっと笑っちゃうけど……でも、


侑「かすみちゃん」

かすみ「なんですか、侑先輩!」

侑「絶対に勝つよ……! 私たち二人で!」

かすみ「はい! もちろんです!」


想いは一緒だ。

私たちはジム戦のために──真姫さんから指定のあった場所へと向かいます。



120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:30:31.10 ID:B+X5AS2s0

    🎹    🎹    🎹





真姫さんから指定のあった場所──そこはローズシティの西端部、外周区のさらに外……。


かすみ「ここも一応、ローズシティ……なんですよね? ……随分、雰囲気が違くないですか……?」

侑「うん……」


かすみちゃんの言うとおり、ここは……廃屋がいくつもあるような場所だ。ローズシティの雰囲気とは正反対というか……。


侑「リナちゃん、ここ……ローズシティだよね……?」

リナ『うん。滅多に人は近付かないけどね』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんで、こんな場所があるんですか? ローズシティって、超都会! 最先端! ってイメージなのに……」


かすみちゃんがそんな疑問を口にすると──


 「──ここは廃工場地帯よ」


空から声が降ってきた。

かすみちゃんと二人でその声の方に目を向けると──


真姫「……二人とも、ちゃんと時間通りに来たわね」


真姫さんがメタングに腰掛けながら、私たちの上を浮遊していた。


侑「真姫さん!」


真姫さんは、メタングから飛び降り、私たちの前に降り立つ。


かすみ「廃工場って……今は使ってないってことですか?」

真姫「ええ。工場は中央区が出来たときに、全部そっちに移転して……ここには廃棄された工場だけ残ったってこと」

かすみ「解体とかしなかったんですか?」

真姫「この場所って、カーテンクリフが近いでしょ? そこから、たまに野生ポケモンが来るの。ローズの人って、ポケモンが苦手な人が多いから、ほとんどが中央区に移り住んで、ここは場所自体が放棄されたってわけ」

リナ『ローズでは野生のポケモンが近くに出るってだけで、人が寄り付かなくなるからね』 || ╹ᇫ╹ ||

真姫「だから、ローズシティの敷地内だけど、ここに来る人はほとんどいないし、いるとしても野生のポケモンくらいってわけ。二人とも、付いてきなさい」

侑「は、はい」
 「ブイ」


真姫さんの後を追ってたどり着いた場所は──


かすみ「うわ……でっか……」


一際大きな廃工場だった。驚いて建物を見上げる私たちを後目に、真姫さんは工場の中へと入っていく。

倣うように屋内へ足を踏み入れると──中も広々とした工場だった。

あちこちにベルトコンベアがあり、見上げると2階くらいの高さに、工場内の点検や作業用のキャットウォークが設置されている。


真姫「ここはモンスターボール工場だった場所よ」

かすみ「モンスターボールって……あのモンスターボールですか?」

真姫「ええ。ローズシティは昔から、この地方のほぼ全てのモンスターボールを生産しているの。今は中央区の方に工場が移ったから……こんな大規模な工場だけがここに残されてるってわけ」
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:31:48.85 ID:B+X5AS2s0

そう言いながら、真姫さんは私たちを置いて──キャットウォークの方へと階段を上って行く。


真姫「……そして、この廃工場が、今日のバトルフィールドよ」

侑「……! ここが……」

かすみ「場所はジムリーダーが決めるって言ってましたもんね……」

真姫「ルールは事前に言ってあるようにフリールール。交換も同時にポケモンを出すことにも、一切制限がないわ。使用ポケモンの数にも制限は設けない」

かすみ「え? それじゃ、こっちは侑先輩とかすみんの手持ち合わせると……」

真姫「ええ。それぞれのトレーナーが6匹ずつ。つまり、そっちは二人合わせて12匹のポケモンをフルで使って大丈夫よ」

かすみ「……ちょっとちょっと侑先輩! これ、もしかして楽勝で勝てちゃうんじゃないすか!?」

侑「……」


確かに一見私たちに有利な条件にも見えるけど……真姫さんの毅然とした態度。

やはり本気の手持ちを使うのもあってか、よほど自信があるのかもしれない。


侑「私たちは、真姫さんの手持ち6匹を全部倒せばいいってことですか?」

真姫「それでもいいけど……勝敗の条件は──これよ」


そう言いながら、真姫さんは上着をめくって内側を見せる。

そこには──ジムバッジが2つ輝いていた。


侑「“クラウンバッジ”……」


ローズジムを攻略した証として貰える、“クラウンバッジ”だ。


真姫「貴方たちの勝利条件は──私を戦闘不能に追い込むか、この“クラウンバッジ”を奪うことよ。逆に……貴方たちの敗北条件は、貴方たちが戦闘不能もしくは行動不能になること」


今回のフリールールは実戦形式と言っていた。実戦を模した戦いということはつまり──仮にポケモンが残っていても、私たちトレーナーが戦闘を継続できなくなった時点で勝敗が付くということだ。


真姫「もちろん、大怪我をさせるつもりはない。ただ、これは実戦形式……ちょっとした怪我くらいは覚悟して貰うわよ」

かすみ「の、望むところです!」

真姫「ま……仮に怪我したとしても、私が診てあげるから安心なさい。私はジムリーダーであると同時に、医者でもあるから」

侑「け、怪我せずに勝てるように頑張ります!」

真姫「ええ、頑張って頂戴」


真姫さんは2階から私たちを見下ろしながら、腰のボールを外す。


真姫「本来なら……私は貴方たちの、友達を助けたいという意志を応援していたと思うわ。だけど……今回は菜々も関わってる。……だから、貴方たちが生半可なトレーナーであるなら、ここで足切りさせて貰うわ」


──真姫さんにも、全力を出す理由があるということだ。


侑「かすみちゃん……! やるよ!」
 「ブイブイッ!!!」

かすみ「もちろんです!! 二人であっと言わしてやりましょう!!」

リナ『二人とも、頑張って! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||


私たちもボールを構えた。


真姫「ローズジム・ジムリーダー『鋼鉄の紅き薔薇』 真姫。本気の私に勝てるか、やってみなさい……!!」


工場内でボールが放たれた──バトル、開始……!!

122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:32:21.84 ID:B+X5AS2s0



    🎹    🎹    🎹





かすみ「行くよ、サニーゴ!!」
 「──……サ」

侑「出てきて、ウォーグル!」
 「──ウォーーーッ!!!!」


サニーゴとウォーグルがフィールドに飛び出す。


真姫「メタグロス!! ニャイキング!!」
 「──メッタァーー!!!!」「──ニ゙ャア゙ァァァーーーッ!!!!」


一方、真姫さんが出してきたのは、メタグロスとニャイキングだ。


リナ『メタグロス てつあしポケモン 高さ:1.6m 重さ:550.0kg
   2匹の メタングが 合体した 姿。 4つの 脳みそは
   スーパーコンピュータよりも 速く 難しい 計算の
   答えを 出す。 4本足を 折りたたみ 空中に 浮かぶ。』

リナ『ニャイキング バイキングポケモン 高さ:0.8m 重さ:28.0kg
   頭の 体毛が 硬質化して 鉄の ヘルメットのように なった。
   ガラル地方の ニャースが 戦いに 明け暮れて 進化した
   結果 伸ばすと 短剣に 変わる 物騒な ツメを 手に入れた。』


真姫「メタグロス!!」
 「メッタァッ!!!!」


メタグロスは足を折りたたみ、2階から私たちのいる場所向かって飛び出してくる。


かすみ「しょっぱなから、突っ込んできますか!! サニーゴ、“てっぺき”!!」
 「……サ」

侑「かすみちゃん!? 真っ向から攻撃を受けちゃダメ!?」

かすみ「へっ!?」


サニーゴは体を硬質化させ、防御の姿勢を取るけど──


真姫「“コメットパンチ”!!」
 「メタァァーーー!!!!!!!!!!」


“コメットパンチ”が直撃すると──ヒュンッと風を切りながら、かすみちゃんの横スレスレを吹っ飛んでいく。


かすみ「ひ……!?」


しかも、それだけに留まらず──サニーゴは壁に向かって跳ね返り床に──床に当たるとまた跳ね上がり──まるでピンボールの球のように、フィールド内を跳ね回り始める。


かすみ「ぎ、ぎゃわああああ!?」


──ガンッガンッ!! と激しく音を立てながら、壁や床をバウンドするサニーゴ。

サニーゴはしばらくフィールド内を跳ね回ったあと──ボゴッ! と音を立てて、近くにあった空のドラム缶を凹ませながらめり込んだ。


かすみ「さ、サニーゴ……っ!!」


かすみちゃんはやっと止まったサニーゴのめり込んでいるドラム缶へと駆け出すが、
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:33:07.67 ID:B+X5AS2s0

真姫「ニャイキング!! “メタルクロー”!!」
 「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!!!!」

かすみ「うぇ!?」


かすみちゃんに向かって、ニャイキングが爪を構えて、死角から飛び掛かって来ていた。


真姫「周りを見てなさすぎよ」

かすみ「や、やば……っ!!」


爪がかすみちゃんを捉えようとした、その瞬間、


侑「ウォーグル!!」

 「ウォーーーーー!!!!!!」
かすみ「わぁ!!?」
 「サ……」


ウォーグルが、かすみちゃんとサニーゴをそれぞれの足爪で掴んで、一気に飛翔する。

──直後、ザンッ!! と音を立てながら、ドラム缶が切り裂かれ真っ二つになる。


かすみ「──ゆ、ゆうせんぱーい……ありがとうございますぅ〜……!」

侑「か、間一髪……!」


でも、ホッと息を吐く間もなく、


真姫「仲間を助けてる場合かしら? “サイコキネシス”!!」
 「メタァァァーー!!!!!」

侑「!?」
 「ブ、ブィ!!?」


メタグロスの“サイコキネシス”で、肩に乗っていたイーブイごと、私の身体が浮き上がり──そのまま、背後の壁まで吹っ飛ばされる。

──ドンッと背中から壁に叩きつけられて、


侑「……かはっ……!」


一瞬息が詰まる。


かすみ「侑先輩!?」

侑「……ぐ……うっ……!」


すぐに目を開けて、前方を見ると──


 「メタァァァ!!!!」


メタグロスがこちらに向かって“こうそくいどう”で接近してくる。

でも、私たちは“サイコキネシス”で壁に押し付けられているせいで、このままじゃ回避が出来ない。


侑「イーブイ……! “いきいきバブル”……!!」
 「ブ、ィィィ…!!!」


壁に押し付けられながらも、イーブイの体毛から──ぷくぷくと大量の泡が発生して、飛んでいく。

だが、


真姫「そんな攻撃で止まると思ってるのかしら?」

 「メッタァァァァ!!!!!」
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:38:48.77 ID:B+X5AS2s0

真姫さんの言うとおり、メタグロスは“いきいきバブル”の中をお構いなしに突っ込んでくる。


侑「ぐ……っ……」


絶体絶命の瞬間に、


 「──ニャーー」


ボールから勝手に飛び出すニャスパーの姿。

私は咄嗟に指示を出す。


侑「ニャスパー……!! パワー全開で“サイコキネシス”!!」
 「ニャーーーー!!!!」


ニャスパーが閉じている耳を完全に立てながら──“サイコキネシス”をメタグロスに向かって放つと、


 「メ、タァァァ…!!!!」


メタグロスが空中で静止する。

そのタイミングで──壁に押し付けられていた私とイーブイの身体は解放される。


侑「はぁ……はぁ……っ……」
 「ウゥゥニャァァァァ」


どうにか、メタグロスは止めた──でも、


 「メッタァァァ…!!!!」


メタグロスはじりじりとこっちに向かって、迫ってきている。

ニャスパーのリミッターを完全解除しているのに……押し返しきれていない。

息を切らして、休んでる場合じゃない……! 次の作戦を……!

そう思って、立ち上がった瞬間──メタグロスの頭上に白い何かが縦回転しながら、降ってきた。


かすみ「テブリム!! “ぶんまわす”っ!!」
 「テーーーーブゥッ!!!!!!!!!!」


──かすみちゃんのテブリムだ……!!

テブリムは縦回転しながら、自分の頭の房を乱暴に振り回し、上空から“アームハンマー”顔負けの拳を叩きつけ──そのまま反動で跳ねながら離脱する。


 「メッタァッ…!!!?」


上空からの奇襲に、一瞬メタグロスの体が沈み込むが──すぐに持ち直し、浮き上がる。

まだ、威力が足りてない……!


かすみ「侑先輩!!」


かすみちゃんが、ウォーグルの足からサニーゴを抱えて飛び降りながら、声をあげる。


侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」

かすみ「“シャドーボール!!”」

 「ウォーーーーッ!!!!!」
 「サ、コ」
125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:39:39.07 ID:B+X5AS2s0

落下しながら、放たれるサニーゴの“シャドーボール”と、ウォーグルの爪による急襲でメタグロスを上から押さえつける。

それと同時に、ウォーグルを巻き込まないために、


侑「ニャスパー!! サイコパワー解除!!」
 「ニャ」


ニャスパーがぱたっと耳を閉じる。

それによって、さっきまでサイコパワーで浮かされていたメタグロスは急に浮力を失うのと同時に、ウォーグルの“ばかぢから”とサニーゴの“シャドーボール”を受け──轟音を立てながら、地面に叩きつけられる。

550kgの巨体に耐えられなかったのか、そのまま床が砕け──メタグロスは床下に沈み込んだ。


かすみ「よっしゃぁ!! やってやりましたよ!!」
 「サ…」「テブッ!!」


かすみちゃんは頭にテブリムを、小脇にサニーゴを抱えながら、小さくガッツポーズをするけど、


 「メッタァァァ!!!!!!」


メタグロスは床にめり込みながらも、激しく4つの足を乱暴に振り回しながら、暴れている。


かすみ「うそっ!? まだ、倒れないの!? ……ゆ、侑先輩!!」


かすみちゃんはメタグロスを後目に、私の方へ駆けてくる。一旦合流するつもりだろうけど──私の視点からは、かすみちゃんの背後に迫っている影が見えていた。


侑「かすみちゃん、伏せて!!」

かすみ「えっ!? はいぃっ!!」


私に言われたとおり、かすみちゃんが咄嗟に身を屈めると──


 「ニ゙ャア゙ァァァァァ!!!!!!」


かすみちゃんの頭の上を“メタルクロー”が薙ぐ。


かすみ「ひぃぃぃっ!!? テブリム、“サイケこうせん”!?」
 「テーーブーーーッ!!!!」


テブリムがかすみちゃんの頭の上に乗ったまま、ニャイキングを“サイケこうせん”で攻撃するものの、


 「ニ゙ャ…ア゙ア゙ァァァァァ!!!!!」


ニャイキングは一瞬怯んだだけで、すぐにかすみちゃんに向かって、爪を構えて飛び掛かってくる。


かすみ「わぁぁぁぁ!!?」

侑「っ……!! ウォーグル!!」


そのニャイキングを真横から、


 「ウォーーーーーッ!!!!!!!」

 「ニ゙ャア゙!!?」


ウォーグルが足爪で、蹴り飛ばしながら、壁に叩きつけた。


かすみ「た、助かったぁ……!!」

侑「……!」
126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:40:26.75 ID:B+X5AS2s0

今度は私が、かすみちゃんの方へと走り出す。

このまま、こんな開けた場所に居ちゃダメだ……!!

私は転んでいるかすみちゃんの手首を掴んで、


侑「かすみちゃん!!」

かすみ「わわっ!?」


半ば無理やりに引き起こす。急に引っ張ったら痛いかもしれないけど……!


 「ニ゙ャア゙ァァァァ!!!!!」「メッタァァァァァ!!!!!!」


──それどころじゃない!

ニャイキングとメタグロスが雄叫びをあげながらこっちを睨んでいる。


 「ウォーーー!!!!」


ウォーグルはすぐに私の意図に気付いてくれたのか、ニャイキングを壁に押し付けるのをやめ、私のもとへと飛んでくる。

私はそのウォーグルの脚に掴まり──かすみちゃんの手首を掴んだまま、低空飛行で、ニャイキングとメタグロスの近くから離脱する。


かすみ「わ、わわぁっ!!?」

侑「く……」


どこに逃げる……!? 工場内に視線を泳がせ、隠れられそうな場所を探す。が、


真姫「“はかいこうせん”!!」

 「メッタァァァ!!!!!」

侑「!?」


背後から、飛んできた“はかいこうせん”が、


 「ウォーーーッ!!!!?」


ウォーグルの翼を掠め、バランスを崩して、空中で回転を始める。


かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」

侑「っ……!!」


回転する中──私の視界に飛び込んできたのは、ボール運搬用のベルトコンベア。


侑「かすみちゃん、ごめんっ!!」

かすみ「へっ!!?」


腕の反動を使い──ベルトコンベアの方に向かって、かすみちゃんを放り投げる。


かすみ「ぎゃわぁぁぁぁ!!?」


かすみちゃんが悲鳴をあげながら、ベルトコンベアの上を転がり──隣の部屋に続く穴へと滑り込んでいく。

私もベルトコンベアの上に着地しながら、その穴へと走る。


侑「リナちゃん!! ベルトコンベア操作出来たりする!?」

リナ『動力があれば!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:42:08.73 ID:B+X5AS2s0

胸に張り付いていたリナちゃんが近くのコントローラパネルに向かって飛んでいく。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイッ!!!」


イーブイがベルトコンベアの下に垂れていた、コンセントに向かって放電するのと同時に──ゴォンゴォンと音を立てながら、猛スピードでベルトコンベアが稼働する。


侑「ウォーグル!! 翼畳んで、先に行って!」
 「ウ、ウォーー!!!」

真姫「逃がさないわ……!! ニャイキング!!」

 「ニ゙ャア゙ア゙ア゙アァァァァァァ!!!!!」


真姫さんに指示で、飛び掛かってくるニャイキング。


侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」
 「ウニャー」


空中に“サイコショック”のエネルギーキューブを作り出し、ニャイキングを牽制しながら、私はニャスパーを小脇に抱えて、穴に向かって滑り込む。


侑「リナちゃん!!」

リナ『うん!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんに声を掛けると、リナちゃんもすぐに私のもとへ飛んできて──全員穴に逃げ込んだことを確認すると同時に、


侑「イーブイ!! “すくすくボンバー”!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが穴の両脇に“すくすくボンバー”を植え付けた。


 「ニ゙゙ャア゙ァァァァ!!!!!」


ニャイキングは爪を構えて突っ込んでくるが、


真姫「……! ニャイキング! 深追いしないで!」
 「ニ゙ャア゙ァ…」


真姫さんはニャイキングを制止する。

それと同時に、樹は一気に成長し──ベルトコンベアを破壊しながらも、私たちが逃げ込んだ穴の口を塞いでくれた。


侑「はぁ……はぁ……」


相手の攻撃が強大とはいえ……あの野太い樹を切るのは一瞬では出来ないはずだ……。

しかも、“すくすくボンバー”は“やどりぎのタネ”……おいそれと手を出せば、体力を吸収されることになる。

恐らく真姫さんは“すくすくボンバー”の効果を知っていて、ニャイキングを止めたんだと思うけど……これで、時間は稼げるはずだ……。

中腰になりながら、穴を奥へ進んでいくと、視界が開け、


かすみ「──侑先輩ぃ……酷いですぅ……」
 「テブ」


隣の部屋で、かすみちゃんがひっくり返った状態で不満を漏らしていた。

ちなみにテブリムは、ひっくり返ったかすみちゃんのお腹の上でふんぞり返っている。
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:42:53.06 ID:B+X5AS2s0

侑「ごめんね、かすみちゃん……でも、ああするしかなくてさ……」

かすみ「うぅ……もちろん、かすみん許しますけどぉ……」
 「テブリ」

 「ウォー…」「……サ」「ブイ」

 「ニャー」
侑「とりあえず、全員無事だね……」

リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||


ウォーグルもサニーゴも無事。

小脇に抱えたニャスパーも元気そうだし……殿のイーブイも問題なさそうだ。

でも……ここに留まっているのは危険かな……。


侑「ウォーグル……もうひと頑張りお願いできる?」
 「ウォーー」


飛んでくるウォーグルの脚を掴み、


侑「かすみちゃんも」

かすみ「は、はい」


かすみちゃんもウォーグルの脚に掴まって、工場内を飛行しながら、ゆっくりと移動を開始する。


かすみ「……あの……真姫先輩のポケモンたち、強すぎませんか……? あの攻撃力とか、もはや意味わかんないですよ……?」

侑「レベルが違うっていうのはあるけど……一番大きいのはニャイキングがいるからだろうね」

かすみ「はぇ……? どういうことですか……?」

リナ『ニャイキングの特性は“はがねのせいしん”。自分と味方のはがねタイプの攻撃力を上げる特性だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「えぇ!? そんなの聞いてないですぅ……」

侑「とはいえ、逃げてばっかりじゃ、どうやっても勝てない……」

かすみ「いっそ、奇襲して真姫先輩からバッジを奪っちゃいますか?」

リナ『それもありだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに、レベル差を埋めるには、真っ向から戦わないというのも一つの手ではある。

ただ……。


侑「それをするにも、問題はあるよね……」

かすみ「問題……ですか?」

侑「たぶん……真姫さんの方がこの工場には詳しいから、常に奇襲を受けにくい場所を選ぶと思うんだ」


今考えてみれば、真姫さんが試合開始直前に2階に上がったのも、有利な位置を取るためだろう。

改めて……相手が有利な戦場で戦うことの難しさを実感する。


かすみ「となると……真姫先輩、もう最初の場所から移動しちゃってますかね……」

侑「たぶんね……。この広いバトルフィールドの中で、あの場に留まり続ける理由もないだろうし……」


ウォーグルで飛行しながら、改めてこの廃工場を見渡してみる。

屋内は天井が高く、ウォーグルが自由に飛びまわってもほとんど問題ないくらいには高さが確保されている。

あちこちにベルトコンベアが走っており、ボロボロのものも多いけど……さっきみたいに通電すれば無理やり動かすことが出来るものもある。

真姫さんが上がっていた場所のように、点検用のキャットウォークもあちこちに張り巡らせており、この戦場はほぼ全域に渡って二層構造になっていると言ってもいい。

部屋はいくつかに分かれているけど……各部屋を繋ぐドアの前には瓦礫が崩れて通れなくなっていたりする場所もあり、どちらかといえばさっき私たちが逃げてきたような、ベルトコンベアの運搬路の方が無事な場所が多い。
129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:43:49.03 ID:B+X5AS2s0

リナ『セオリーで言うなら、高所を取った方がいいけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「じゃあ、2階で戦います……?」


確かに高所からの方が一方的な攻撃をしやすいけど……それは相手が下にいる場合の話だ。


侑「むしろ……2階だと遮蔽物が少ない分、逃げるのが難しいかもしれない……」

かすみ「むむ……確かにそれはそうですね……。……とにもかくにも……一度腰を落ち着けて作戦を考えたいですぅ……」

侑「あ……。あそことか、いいんじゃないかな」


私は大きな工場の端の方にコンテナを見つけて、そこに降り立ってみることにした。

床に無造作に置かれたコンテナは、扉が外れていて、簡単に中に入ることが出来そうだった。


かすみ「……うわー……おっきなコンテナですねぇ……」

リナ『これでモンスターボールを大量に運搬してたんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「だね……一旦ここで作戦を考えよう」


真姫さんがどれくらいこの工場を把握しているかはわからないけど……見晴らしのいい場所よりは、死角の少ない場所の方がいい。

もちろん、追い詰められたら逆に逃げ場がない場所だから、ずっと留まるつもりはないけど……。


かすみ「あのー……やっぱりかすみん、この試合はバッジを奪って勝つ方がいいと思うんですよ〜……」

リナ『確かに……真っ向から戦うには、パワーに差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


リナちゃんの言うとおり、どう考えても相手が格上だ。真っ向から戦うのは無謀というのは間違いない。

だけど……。


侑「たぶん……やめた方がいいと思う」

かすみ「どうしてですか? バッジさえ手に入れちゃえば、こっちの勝ちじゃないですか! 真姫先輩がどうしてあんなにあまあまな人なのか知りませんけど……あえて、簡単に勝てる条件を付けてくれたんだから、それは利用するべきですよ!」

侑「うぅん、そうじゃなくてね。……なんで、そんな条件を出したのかってことを考えないといけないんじゃないかなって」

かすみ「……? どういうことですか?」


これは、私たちの実力を試すための戦いだ。

それなのに、何故わざわざそれを緩くする条件を付けるのだろうか?

私はそれが疑問だったけど……。


侑「私はジムバッジを奪わせるように誘導してるように感じる」

かすみ「誘導……?」

侑「実力差を見せつけられたときに、もし真っ向から戦わずに勝てる方法があったら……誰もがそっちに行っちゃうと思うんだ」

かすみ「……それはそうですね。かすみんもそう思っちゃいましたし」

侑「でもそれって逆に、真姫さんの視点からしたら、相手の目的を簡単に絞れるってことにもならない?」

かすみ「言われてみれば……」

侑「実力差がある中で、真っ向から倒すのが難しいのは確かにそうだけど……実力差がある相手が防御に集中したら、倒すよりも奪う方が難しいんじゃないかな……」


真姫さんはこの地方のジムリーダーの中でも、特に攻守速のバランスがよく、補助技の使い方もうまい。

戦い方は打算的で合理的で論理的だ。試合運びが上手で、セオリーを軸に将棋を指すような先読みで相手を制すタイプ。

なら、いかにも追い詰められた私たちがしそうな行動は特に読まれやすい。避けるべきだ。

むしろ……バッジを奪うことを勝利条件にしてきたこと自体が向こうの狙いに思えてくる……。
130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:44:39.45 ID:B+X5AS2s0

侑「奪えるなら奪ってもいいと思う。だけど、積極的に奪うことを考えて戦うのは……たぶん、通用しない」

かすみ「……じゃあ、どうします……? 奪わないにしても、真っ向から出て行って戦うわけにもいかないですし……」

侑「……うーん……」


それは確かにそうだ。

完全にパワーで負けている以上、大なり小なり奇襲を織り交ぜる必要はある。


かすみ「せめて、真姫先輩の居場所がわかればいいんですけど……」

侑「居場所……」


そこでふと、あることを思いつく。


侑「ねぇ、リナちゃん」

リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「真姫さんの居場所を探せるレーダーとかってあったりしない? 相手の所がわかれば、少しは有利に立ち回れると思うんだ」

リナ『……さすがにレーダーはない。けど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

かすみ「けど?」

リナ『音さえあれば、エコーロケーションで、おおよその場所を探ることは出来るかも』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

かすみ「えこー……? なにそれ……?」

侑「音の響きで相手の位置を計算する方法……だよね?」

リナ『うん。反響定位ってやつ』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「リナ子ってそんなことも出来んの!? さすが高性能AI……」

侑「リナちゃん、お願いしてもいい? 出てきて、フィオネ」
 「フィオ〜」


フィオネはまだ生まれたばかりでレベルも低いから……今回バトルで使うことはないと思ってたけど、


侑「フィオネ、“ちょうおんぱ”!」
 「フィオ〜〜」


音を出すことなら、この子にも出来る。


リナ『エコーロケーション開始!』 || > ◡ < ||





    🍅    🍅    🍅





真姫「……さて、どこに隠れたのかしらね」


キャットウォークの上を歩きながら、隠れられそうな場所をチェックする。

もちろん、その際は奇襲出来る死角を作らないように、ポケモンと一緒に視界をカバーし合う。

──予定では……もう少し早くバッジを奪いに現れると思ったんだけど……。


真姫「……気付いたのかしらね」
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:45:56.75 ID:B+X5AS2s0

もちろん、こんなものは相手を引き摺り出すための餌だ。

格上の攻撃を掻い潜りながら、トレーナーの懐に潜り込んで、バッジを奪うなんて現実的じゃない。

そのとき、ふと──耳に違和感を覚える。何か……高周波のような……。


真姫「……なるほど。そういうこと」


なかなか、面白い作戦で来るみたいね。


真姫「いいわ、相手してあげる──」





    🎹    🎹    🎹





リナ『──測定中、ちょっと待ってね』 || > ◡ < ||


リナちゃんがエコーロケーションを行っているのを見守る中、私たちは次の動きの準備をする。


侑「場所がわかり次第動くよ、かすみちゃん」

かすみ「はい!」


いつでも飛び出せる準備をして、待っていたそのとき──キィィィィィィィ!!!!! と、金属をひっかくような不快音が、遠くから響いてくる。


侑「っ!!?」

かすみ「な、なんですか、この“いやなおと”……っ……!」

リナ『これは、まさに“いやなおと”と“きんぞくおん”……! こ、これじゃ、エコーロケーションが出来ない……!』 || × ᇫ × ||


まさか──


侑「こっちの作戦がバレた……!?」


私は一旦フィオネをボールに戻す。


侑「相手が動いてきた……! 一旦、隠れる場所を変えよう……!」

かすみ「は、はい」


が──直後、ゴゴゴゴッと地鳴りのような音が聞こえてくる。


かすみ「え!? な、何の音ですか!?」

侑「……!! 早く出よう!!」


何かヤバイと思い、かすみちゃんの手を取って走り出した直後──コンテナの出口から見える景色が回転を始めた。


侑「っ!?」

かすみ「わひゃぁっ!?」


いや、違う──回ってるのは……コンテナの方だ……!?


かすみ「じ、ジュカイン!! “グラスフィールド”っ!!」
 「──カインッ!!!!」
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:46:34.04 ID:B+X5AS2s0

かすみちゃんは咄嗟にジュカインを出しながら“グラスフィールド”を指示し、一瞬でコンテナ内部に草が敷き詰められる。

──程なくして、回転は収まった。


かすみ「ゆ、侑先輩……! 無事ですか!?」
 「テ、テブゥ…」「……サ」

侑「な、なんとか……」
 「ブ、ブィィ…」「ウォーグ…」「ニャー」

リナ『リナちゃんボード「おめめ、ぐるぐる……」』 || @ ᇫ @ ||


コンテナが大回転していたせいで、あちこちに身体を打ち付けたけど、“グラスフィールド”のお陰でダメージには至らなかった。

急いで、コンテナから逃げ出そうとするが──ザンッ!! と音を立てながら、コンテナの壁が切り裂かれ、外の光が差し込んでくる。

その隙間から覗く赤い鎧──


 「──キザン」

侑「キリキザン……!!」


恐らく、さっきの“きんぞくおん”はこのキリキザンの、“いやなおと”はニャイキングのものだ。

そして、キリキザンの後ろには、メタグロスの姿も見える。

──恐らくコンテナを吹っ飛ばしたのはメタグロスだろう。


侑「ウォーグル!!」
 「ウォーーッ!!!」


こんな袋小路で戦うのは絶対に避けないといけない……!!

ウォーグルに指示を出し、かすみちゃんの腕を掴みながら、コンテナの外まで飛翔する──が、


 「──デマルッ!!!」

侑「……!?」


コンテナから飛び出したウォーグルの上に──小さな何かが降ってきた。


真姫「──トゲデマル! “ほっぺすりすり”!」

 「ゲデマー♪」


落ちてきたトゲデマルがウォーグルに頬ずりをすると──バチバチと、静電気のような音が鳴り、


 「ウ、ウォォーー…ッ」
侑「うわぁ!?」

かすみ「え、ちょっ……!?」


飛翔しかけのウォーグルは一気に失速し──墜落した。


侑「つぅ……っ……!」
 「ウ、ウォー…」

かすみ「こ、今度はなんですかぁ……!!」


急いで身を起こすと──ウォーグルが“まひ”して動けなくなっていた。


侑「一旦戻って、“ウォーグル”……!!」
 「ウォー…──」

真姫「“びりびりちく──」

侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:47:07.68 ID:B+X5AS2s0

すぐさまライボルトをボールから出すと──


 「ゲデマーー!!!?」


針をバチバチと鳴らしながら、トゲデマルがライボルトに引き寄せられてきた。


侑「“ほのおのキバ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトがキバに炎を滾らせながら、噛み付くが、


真姫「“ニードルガード”!!」
 「ゲデマー!!!」

 「ライボッ!!!?」


噛み付かれた瞬間、全身のトゲを伸ばしての反撃。

驚いたライボルトはトゲデマルを口から放してしまう。


 「ラ、ライボ…」
侑「大丈夫だよ、ライボルト……!」


仕留めきることは出来なかったけど──ライボルトは、今フィールドに居ることに意味がある。


真姫「キリキザン、“メタルクロー”!!」

かすみ「ジュカイン、“リーフブレード”!!」

 「キザンッ!!!!」
 「カインッ!!!!」


斬りかかってくるキリキザンをジュカインが迎撃する。

2匹の刃がギィンッ!!と音を立てながら鍔迫り合う。


真姫「“ひらいしん”ね……。ライボルトが居る限り、トゲデマルのでんき技は使えない。……尤も、それはそっちも同じだけど」

リナ『侑さん、トゲデマルの特性も“ひらいしん”だよ……!』 ||;◐ ◡ ◐ ||


お互いのでんき技は“ひらいしん”のポケモンが居る限り引き寄せられてしまう。

いや、それはいいんだ……。


かすみ「ぎ、逆に見つかっちゃいましたよ、侑先輩……!」


見つかったというより──真姫さんはすでに私たちがいることがわかっていた。

メタグロスがコンテナを攻撃したことも、トゲデマルが降ってきたことも、真姫さんがすでに私たちがここにいると確信していたことを物語っている。

私たちのエコーロケーションを打ち消しながら、どうやって自分たちだけ──そこまで考えてハッとする。


侑「エコー……ロケーションだ……」

かすみ「え? そ、それはさっき失敗して……」

侑「違う……さっきの“いやなおと”と“きんぞくおん”で……真姫さんもエコーロケーションをしてたんだ……」

かすみ「えぇ……!?」


かすみちゃんの驚きの声と同時に──


 「キザンッ!!!!」

 「カインッ…ッ!!!」
134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:48:05.76 ID:B+X5AS2s0

ジュカインがキリキザンとの鍔迫り合いに力負けして、後退る。


かすみ「ジュカイン!? 大丈夫!?」
 「カインッ…!!」


致命傷にこそなっていないみたいだけど……。


 「メタァ…!!!!」「キザン…!!!」「ニ゙ャァ゙ァ゙ァ」


メタグロス、キリキザン、ニャイキングに囲まれた……!

しかも、その3匹の背後には、


 「ゲデマッ」


トゲデマルが構えている……。ライボルトがやられると、めでたく電撃による遠距離攻撃まで解禁されることになる。

ライボルトは死守しないと……。


真姫「エコーロケーション……なかなか面白いことするじゃない」


そんな中、真姫さんが話しかけてくる。


真姫「でもね、エコーロケーションが出来るのは自分たちだけだって思うのは……少し考えが甘かったわね」

かすみ「え……で、でも真姫先輩にはリナ子みたいなAIとかいないでしょ……!?」

侑「メタグロスだ……」

かすみ「え?」

侑「メタグロスは4つの脳でスーパーコンピューター並の計算が出来る……エコーロケーションで場所を探るなんて、わけない……」

真姫「正解。しかも、メタグロスは“クリアボディ”で“いやなおと”や“きんぞくおん”による能力低下もない。貴方たち以上に適性があるのはこっちだったみたいね」


完全に相手が上手だ……。

囲まれているし、気付けば後ろは壁だ……。


真姫「さぁ、どうする?」


ジリジリと間合いを詰めてくる真姫さん。

……こうなってしまったら、もうやるしかない……!


侑「ドロンチ!!」
 「──ロンチ!!」


ドロンチはボールから飛び出すと同時に前方に飛び出し、


侑「“ワイドブレイカー”!!」
 「ロンチッ!!!!」


大きく尻尾を振るって、


 「キザンッ!!!」「ニ゙ャア゙ァッ!!?」「メタ…」


3匹のポケモンを薙ぎ払う。

“ワイドブレイカー”は強靭な尻尾で相手を振り払い、攻撃の手を止めさせる技だ。

しかも不意の攻撃だったため、キリキザンとニャイキングは、怯ませられたが、


 「メタァッ…!!!!」
135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:49:14.00 ID:B+X5AS2s0

この効果も“クリアボディ”のメタグロスには効かない。

──メタグロスが腕を振り上げた、その瞬間、


 「……メタッ!!!?」


──メタグロスの足の一本が、床に沈み込んだ。


侑「え!?」

真姫「な……!?」


さすがに、これは真姫さんも予想外だったらしく、当惑の声をあげる。

かくいう私も驚いてしまったけど……。

今落ちたメタグロスの足元から──


 「クマァ♪」


ジグザグマが顔を出し、やっと意味がわかった。


かすみ「よくやりましたよ!! ジグザグマ!!」

 「クマァ〜♪」


かすみちゃんはいつの間にかジグザグマに“あなをほる”を指示して床下に忍ばせ──メタグロスの足元を掘らせていたんだ……!


かすみ「そのでかい図体じゃ、足元をちょっと掘りぬけば、自分の重さで落っこちるに決まってます!!」


相手の包囲網に──穴が出来た……!

逃げるなら今しかない……!!


侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが、私の合図で走り出す。私はその背に飛び乗る。

──直後、爆発的なスピードでライボルトが猛ダッシュし、身動きの取れないメタグロスの真横をすり抜ける。


かすみ「ジュカイン!! 逃げますよ!!」
 「カインッ!!」


かすみちゃんも、ジュカインに抱きかかえられる形で──包囲網の穴を飛び出して行く。

が、


真姫「“じしん”!!」
 「メッタァァ!!!!!!」


──床にはまった腕でメタグロスが、“じしん”を起こしてきた。

その大揺れによって、猛スピードで走っていたライボルトは、


 「ライボッ!!!?」
侑「うわぁっ!!?」


バランスを崩してしまい、その拍子に私も放り出され、床を転がる。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

かすみ「侑先輩!?」
136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:49:49.33 ID:B+X5AS2s0

リナちゃんとかすみちゃんが、私に近寄ってくる。


侑「だ、大丈夫……ちょっと擦りむいたくらいだから……!」

リナ『ほ……っ』 || >ᆷ< ||

かすみ「ちょっとぉ!! 味方巻き込んでまで、逃がさないために“じしん”とかしますか!?」


──かすみちゃんの言うとおり、“じしん”は味方も巻き込む技だ。

その証拠に、


 「ニ゙ャア゙ァ…!!」
 「キザンッ…!!!」


ニャイキングとキリキザンは、バランスを崩して手をついていた。

もちろん、すぐに立ち上がったけど──きっとあの至近距離だ。“じしん”によるダメージは少なからずあったはずだ。

ちなみにトゲデマルは“ニードルガード”で丸まって防いでいる。


真姫「逃がすくらいなら、ここで味方を巻き込んででも止めた方が早いと思っただけよ」

かすみ「ぐぬぬ……」


かすみちゃんは不満そうな目で睨みつけているけど……真姫さんの判断は間違っていない。


 「…ライボ」


お陰でじめんタイプが弱点のライボルトは満身創痍。


侑「ライボルト、ボールに戻って……!」
 「ライボ──」


戦闘不能はギリギリ免れたけど……この状態で私を乗せて走り回るのは恐らく無理……。

つまり、逃げるための足を失ってしまった状態だ。


真姫「これで……チェックかしらね」

かすみ「ジュカイン……!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが刃を構えながら、身を屈める。そのとき、ふと──上の方の窓から、僅かに光が差していることに気付く。


真姫「最後の一撃かしら?」

かすみ「……」


かすみちゃんは恐らく──“ソーラーブレード”の太陽エネルギーを集めている。

真姫さんは……まだ、気付いてない……。

なら、気付かれないように、私が時間を稼ぐ……!!


侑「ドロンチ!! “りゅうのはどう”!!」
 「ローーンチッ!!!!!!」


ドロンチが“りゅうのはどう”をキリキザンに放つ。

キリキザンは──


 「キザンッ!!!!」
137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:51:11.62 ID:B+X5AS2s0

真っ向から刃で“りゅうのはどう”を斬り伏せる。

キリキザンが受け止めている中、


 「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァァ!!!!」


ニャイキングがこちらに向かって飛び出してくる。


侑「ニャスパー!! パワー最大!! “サイコキネシス”!!」
 「ウーーーニャァァァァ」


耳を真っすぐ立てて──ニャスパーがサイコパワーを前方に向かって放つと、


 「ニ゙ャア゙゙ア゙ァァァ…!!!!」


ニャイキングがそのエネルギーに押されて吹っ飛びそうになる──が、ニャイキングは自分の爪を床に突き刺して耐える。

耐えられてしまっているだけど──これくらい時間を稼げば十分だ……!


かすみ「……ジュカインっ!!」
 「──カインッ!!!!」


ジュカインの腕が光り輝く。

──“ソーラーブレード”のチャージが完了した。

反撃の狼煙を上げるために、ジュカインが腕を振り上げようとした瞬間、


真姫「──“ソーラーブレード”のチャージをしてること……私が気付いてないと思ったの?」


物陰から、ジュカインに向かって一直線に──青白いビームが飛んできた。


かすみ「!?」


そのビームが直撃した、ジュカインは──“ソーラーブレード”を構えたまま……凍り付いていた。


かすみ「う、うそ……」

侑「“れいとう……ビーム”……?」

真姫「……ええ、そのとおりよ」


真姫さんの言葉と共に──工場内の機械の物陰から、


 「エンペ…」


エンペルトが顔を出した。


真姫「……チェックメイトよ」

かすみ「…………」


かすみちゃんがぺたんと……その場にへたり込む。

かすみちゃんの絶対的エースの必殺技を──封殺された。


真姫「それが最後の望みだったんでしょ? それが不発に終わった今……貴方たちはもう終わりよ。降参しなさい」
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:51:59.69 ID:B+X5AS2s0

相手は……私たちの心を折りに来ていた。

考えてみればこのバトル──私たちの敗北条件は私たちトレーナーが戦闘続行が出来なくなることだ。

でもそれは裏を返せば、1匹でもポケモンを残して諦めずに逃げ回れば、いつまで経っても戦闘は終わらないという意味でもある。

だから、真姫さんは……最初から心を折ることで、諦めさせることで勝利しようとしていた。

いや、バトルの中だけの話じゃない──そうしないと、私たちは歩夢たちを助けることを諦めたりしないってわかってるから。


侑「…………」


ダメ……なのかな……。……私たちじゃ……やっぱり、届かない……。

そう思い、諦めかけた、そのとき──


かすみ「──ヤブクロン」
 「ブクロン」


かすみちゃんがヤブクロンをボールから出した。


かすみ「“どくガス”!!」
 「ブクローー!!!!」


ヤブクロンは一気に“どくガス”を吐き出し── 一気に周囲に充満していく。


真姫「“どくガス”……? はがねタイプには効かないわよ」

かすみ「ありったけの“どくガス”吐き出して……!! げほっ……!! 今体内にある毒全部使っていいから……!! げほっ、ごほっ……!!」


かすみちゃんはヤブクロンに指示を出しながら、口元にハンカチを当て、咳き込んでいる。


侑「かすみちゃん……!? 何を……ごほっ、げほっ!!」

かすみ「侑先輩……げほっ、げほっ……!! あんま、喋っちゃ、げほっ! ダメです……! “どくガス”、吸い込んじゃいます……げほっ……!!」

真姫「まさか……捨て身の“どくガス”でトレーナーを気絶させるつもり……!?」


真姫さんもハンカチを取り出して、口元を覆う。


かすみ「さぁ……根比べですよ……!! げほっ、げほっ……!!」

真姫「……ここまで、馬鹿な子だと思わなかった……!! キリキザン!! ニャイキング!!」
 「キザンッ!!!」「ニ゙ャァ゙ァ!!!」


キリキザンとニャイキングがヤブクロンを止めようと飛び出してくる。


かすみ「サニーゴ!! キリキザンに“かなしばり”!! げほっ……! テブ、リムッ!! ニャイキングに“サイコショック”……!! ごほっごほっ!!」
 「サ……」「テブ…ッ!!!」

 「キザンッ!!!?」「ニ゙ャァ゙ァ…!!?」


キリキザンをその場で縛り付け、ニャイキングを牽制する。


かすみ「どう、したんです、か……げほっげほっ……指示が雑に、なってます、よ……!! げほっごほっ!!」

真姫「っ……こんな馬鹿なこと、げほっ……! 今すぐ、やめなさい……っ!! こんなことしても、貴方たちは、勝てない……げほっ……!」

かすみ「いーや……!! これは、げほっげほっ……! 勝ちへの、一歩です……っ……げほっ……!」


気付けば周囲には完全に“どくガス”が充満しきり、あまりの濃度のせいか、霧がかって見えるほどだ。


かすみ「げほっ、げほげほっごほっ……!!」

侑「かすみちゃん……っ……!! もう、やめよう……!! このままじゃ、かすみちゃんが……っ……げほっげほっ……」
139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:52:49.19 ID:B+X5AS2s0

私がかすみちゃんの肩を掴みながら制止すると──


かすみ「──侑先輩、かすみんが合図したら、ニャスパー抱えて、後ろに猛ダッシュしてください」


かすみちゃんは私にだけ聞こえる声量で、そう伝えてきた。


侑「……!」


かすみちゃんの横顔から見た瞳は──まだ死んでいなかった。

かすみちゃんには──何か策があるんだ。


リナ『ゆ、侑さん……侑さんのポケモンも、かすみちゃんのポケモンも、みんな“どく”状態になっちゃった……侑さんたちも、このままじゃ……』 || 𝅝• _ • ||

侑「大丈夫……」

リナ『侑さん……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「私は……かすみちゃんを……信じる……っ……ニャスパー、おいで……!」
 「ニャァ…」


私は言われたとおり、ニャスパーをすぐに抱えられる位置まで呼び戻す。


かすみ「さっすが……かすみんの大好きな侑先輩、です……っ……!」


かすみちゃんはそう言うと同時に──口元からハンカチを外して、


かすみ「テブリムッ!! サニーゴに向かって、“ぶんまわす”!!」


そう指示を出した。


真姫「はぁ!?」


 「テーーブッ!!!!」
 「……サ」


テブリムが頭の房をぶん回して──サニーゴを敵の方に向かって、殴り飛ばした。

そして、それと同時に──


 「ヤブッ!!!!」


ヤブクロンも敵陣に向かって走り出す。


かすみ「侑先輩!! 今です!!」

侑「う、うん!! イーブイ!! 私から離れないでね!!」
 「ブイィ…」

侑「行くよ、ニャスパー!!」
 「ニャァ…」


私はニャスパーを抱きかかえて、後ろに向かって走り出す。


真姫「な、なに!?」

かすみ「“どくガス”で根比べ? そんなことしませんよ……!! 今からするのは──ドッキリ爆発大脱出です……!」

真姫「……!? ま、まさか……!?」

かすみ「テブリム!!! 着火ぁっ!!!」
 「テーーーブッ!!!!!」


テブリムが“マジカルフレイム”を飛ばすのと同時に──敵陣のど真ん中に飛び込んだ、サニーゴとヤブクロンがカッと光る。
140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:53:23.11 ID:B+X5AS2s0

かすみ「“じばく”!!」

真姫「……!!」


テブリムの出した炎が大量の“どくガス”に引火し、さらに2匹の“じばく”を合わせ──とんでもない威力の大爆発へと昇華する。

至近距離で起こった爆発の衝撃波が、爆音と一緒に屋内を劈きながら周囲の工場機械を吹っ飛ばし、爆炎をまき散らして、膨れ上がっていく。


侑「わぁっ!!?」
 「イブイッ…!!!」

リナ『わあぁぁぁぁ!!?』 || ? ᆷ ! ||


私もその爆風で身体が浮き上がり、吹っ飛んでいく。

そんな中で、


かすみ「ゆうせんぱあぁぁぁぁぁいっ!!!!」


かすみちゃんも爆風によって、吹き飛んでくる。


かすみ「フィオネとぉーー!!!! ニャスパーーーー!!!!」

侑「!!」


私は空中でフィオネのボールの開閉ボタンを押し込む。


 「フィオーー!!」


侑「フィオネ!! “みずでっぽう”!!」
 「フィオーー」


フィオネが口から水を噴き出し、


侑「ニャスパー!! “テレキネシス”!!」
 「ニャァーー!!!」


ニャスパーが私たちと──フィオネの出した水を浮き上がらせる。


かすみ「テブリムっ!! “サイコキネシス”!!」
 「テブッ!!!」


そして、かすみちゃんと一緒に飛んできたテブリムが──浮かせた水の塊を球状に整形していく。


侑「かすみちゃん……!!」

かすみ「侑先輩……!!」


私は空中でかすみちゃんに手を伸ばして──掴んだ。

そのまま、どうにか手繰り寄せて── 一緒に水球の中に、ザブンと飛び込んだ。

──程なくして、私たちは爆風に煽られながら──水球と共に落下していった。



141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:53:56.96 ID:B+X5AS2s0

    🍅    🍅    🍅





真姫「──……はぁ……はぁ……!」
 「エンペ…!!」

真姫「ありがとう……エンペルト……」
 「エンペ…」


あのとんでもない爆炎の中、エンペルトの“みずのはどう”と、メタグロスが最後の力を振り絞って、盾になってくれた。


真姫「“どくガス”をめいっぱい充満させて……ほのお技で着火……。その炎を2匹の“じばく”でさらに大規模な爆発に……意味わかんない……あの、かすみって子……おかしいんじゃないの……」


お陰で建物は半壊し、壁や天井は吹き飛んで、太陽の光が降り注いでいる。

至近距離で爆炎を食らった、ニャイキング、キリキザン、トゲデマルも戦闘不能だ。

皮肉なことに……氷漬けにしたジュカインは凍ったまま、そこらへんに転がっていた。あの爆炎の中、溶けもしないなんて、私の最初のパートナーの技がいかに強力なのかを実感するばかりだ。

そしてそんなエンペルトが自己判断で、瞬時に消火を行ってくれたからよかったけど……強力なみずポケモンがいなかったら、危うく大惨事になるところだった。


真姫「……ジム戦なのに、死人が出てもおかしくないわよ……?」


──いや……。

あの子たちは……友達を助けるために、命を懸けている……そういう意志の表れなのかもしれない。


真姫「……いいわ……やってやろうじゃない……」


私は6匹目のボールを放る。


 「──ハッサムッ!!!」

真姫「ハッサム……メガシンカよ!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが眩い光に包まれ──丸みを帯びていた体のパーツが直線的になり、両腕のハサミは複数のトゲを持つ巨大なものになる。


真姫「ハッサム、エンペルト……あの子たちに、見せてやるわよ……ジムリーダーの本気を……!!」
 「ハッサムッ!!!」「エンペ!!!」





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……」

かすみ「はぁ……はぁ……し……死ぬかと……思いました……げほっげほっ……」

侑「ホント……無茶、するよ……ごほっ……」

リナ『二人とも……毒が……』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「大丈夫です……そんなに吸い込んでない、つもりです……ごほっごほっ……」


確かに咳き込みはするけど、とりあえず今のところ、意識には問題がない。


かすみ「まだ……戦えます……!」

侑「うん……! けほっけほっ……」

リナ『でも、二人の手持ち……状態異常だらけ……』 || 𝅝• _ • ||
142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:54:32.32 ID:B+X5AS2s0

リナちゃんの言うとおり、手持ちはボロボロの状態だ。

イーブイ、ドロンチ、フィオネ、ニャスパー、テブリムが“どく”状態。

ウォーグルは“まひ”していて……。

ヤブクロン、サニーゴは戦闘不能。ライボルトは戦闘不能寸前……。

あと……ジグザグマは……。

キョロキョロと辺りを見回していると──もこっと床が盛り上がり、


 「クマァ♪」


ジグザグマが顔を出す。


かすみ「ジグザグマ……! 咄嗟に潜って逃げたんですね……偉いですよ〜……!」
 「クマァ…♪」


地面の中にいたからか、“どくガス”も吸っていない様子だった。


侑「となると……無傷なのは、かすみちゃんのジグザグマとゾロア……」

かすみ「ですね……ジュカインは、どうなったかわかりませんけど……凍ったままか……。……むしろ氷が溶けてたら、戦闘不能かもしれませんね……」

侑「そうだね……」


かすみちゃんの機転というか……無茶無謀のお陰で、どうにかあの場を切り抜けることは出来たけど……まだ、真姫さんは切り札を出していない。

それに脱出出来たというだけで、こっちは手持ちがほぼ満身創痍……。


かすみ「テブリム、“いのちのしずく”」
 「テブー」


テブリムが周りのポケモンたちに不思議な水を振り撒く。


かすみ「これで気持ち回復したと思います!」

侑「うん……ありがとう」


本当に気持ちだけど……。“どく”状態は継続しているし、テブリム含めて倒れるのも時間の問題だ。

そんな中、


かすみ「“マジカルシャイン”」
 「テブ」


ぽわ〜と控えめな“マジカルシャイン”がテブリムの頭の上で光る。


侑「かすみちゃん……? どうしたの急に……」

かすみ「なんかフェアリーの光って可愛いじゃないですか〜。侑先輩も〜かすみんの可愛さでポケモンたちと一緒に癒されてください〜♪」

侑「あはは♪ ありがとう、かすみちゃん♪」


確かに、フェアリータイプの光は優しい感じがして気分が落ち着く。

なんというか……こういうときに癒しを意識するのはかすみちゃんらしい配慮かもしれない。

お陰で、少し肩の力が抜けた気がした。


 「ブイ」


イーブイもじーっと光を見つめている。
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:55:05.26 ID:B+X5AS2s0

侑「イーブイもこの光、好き?」
 「ブイ」

かすみ「ふっふ〜ん♪ 可愛い大先生のかすみんならではの癒しですね!」

リナ『その調子で本当に回復出来たらいいのに』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「あはは……」


さて……休憩もそこそこにしないと……ゆっくりしている場合じゃないんだ。

真姫さんもじきに私たちを追ってくるだろう。


侑「かすみちゃん、行こう……!」

かすみ「はい……! ここまでやったんです! 絶対勝ちますよ!」

侑「うん!」


私たちが立ち上がり、真姫さんがいるであろう方向へと歩き出すと、ポケモンたちもぞろぞろと付いてくる。


 「ロンチ」「ニャー」「フィオ」「テブリ!!」「クマァ♪」

侑「……あれ? イーブイは?」


キョロキョロと見回すと──


 「ブイ」


イーブイは未だに、テブリムの出した“マジカルシャイン”を見つめていた。

もう徐々に光が弱まり……線香花火の最後みたいになってるけど。


侑「イーブイ、行くよ?」

 「ブイ」


でも、イーブイは振り向かない。


侑「イーブイ……?」


あろうことはイーブイは──


 「ブイ」


パクリと、“マジカルシャイン”の残り火を──食べた。


侑「え!?」


それと同時に──


 「ブーーーィィ♪」


イーブイの目の前にパステルカラーの旋風が発生した。


かすみ「……!? え、なんですかなんですか……!?」

侑「わ、わかんない……」


その旋風は──周囲に光る花びらを舞い踊らせ、一気に廃工場の中がファンシーな雰囲気に包まれる。

それと同時に──
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:55:38.77 ID:B+X5AS2s0

侑「……あ、あれ……?」

かすみ「……息苦しさが……なくなった……?」


毒が回って息苦しかったはずなのに──急に呼吸が楽になった。

それだけでなく、


 「ロンチ〜」「ニャ〜」「フィオ〜♪」「テブリ?」


ポケモンたちの鳴き声も元気なものに戻っていた。


かすみ「い、一体さっきのは……?」

侑「……まさか」


私がリナちゃんの方を見ると、


リナ『……“相棒わざ”……まさか、“マジカルシャイン”を食べたことが原因で覚えるなんて……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


リナちゃんも驚いていた。


侑「……状態異常を回復する、“相棒わざ”……?」

リナ『うん! “相棒わざ”、“きらきらストーム”だよ! フェアリータイプのエネルギーにイーブイが適応したみたい!』 || > ◡ < ||

かすみ「新技ってことですか!?」

侑「うん……! かすみちゃんのお陰だよ!」

かすみ「え、えへへ〜……♪ かすみんとテブリムの可愛いパワー、イーブイにも伝わっちゃったんですかね〜♪」

 「ブイ♪」


かすみちゃんは嬉しそうにイーブイを抱きしめるとイーブイも嬉しそうに返事をする。

もしかしたら──本当にかすみちゃんたちの可愛いが届いて、イーブイが新しい技に目覚めたのかもしれない。

そんな風に思えてしまうくらい、私たちにとって、このタイミングで本当に欲しかった技を覚えてくれた。


かすみ「侑先輩……! かすみん、ちょっと良い作戦思いついちゃいましたよ!」

侑「私も……! この戦い……勝てるかもしれない……!」

かすみ「えへへ……見えてきましたね、勝利への道が!」

侑「うん!」


私たちは決戦に向けて、最後の作戦会議を始めた。





    🍅    🍅    🍅





 「──ハッサムッ!!!!」


──ガシャンッ!! と音を立てながら、ハッサムが工場の機械を破壊して道を作る。


真姫「……ここにもいない」


工場の地図は頭の中に入っている。ハッサムで隠れられそうな場所を適宜破壊しながら進んでいるから、そろそろ隠れる場所もなくなってきたはず……。
145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:56:13.31 ID:B+X5AS2s0

真姫「次会ったときが最後よ……」


また一つ──ガシャンッ! と機械を大きなハサミで殴り飛ばしながら、視界を確保すると──前方に人影が見えた。


真姫「……見つけた」


特徴的なアシンメントリーのショートボブ──かすみだ。


かすみ「……!」


かすみは私に気付くと、たたたっと走り出す。


真姫「ポケモンも出さずに余裕ね? 偵察ってわけ? エンペルト、“ハイドロポンプ”!!」
 「エンペーーーッ!!!!」


エンペルトが激流を発射し、かすみを狙うが、


かすみ「……!!」


かすみはピョンと跳ねて、攻撃を回避しながら、ベルトコンベアの上に乗り、隣の部屋に繋がる穴へと走り出す。


真姫「ちょこまかと……!」


でも、あの先は──ドアが崩れていて、出入り口があのベルトコンベアの運搬口しかない。


かすみ「…………!!」


必死に逃げるかすみが、穴に滑り込んでいくのを見て、かすみが脱落したことを悟る。


真姫「まさに、袋のネズミね……」


かすみが逃げ込んだ穴の前に立ち、


真姫「観念しなさい。もう逃げ場はないわよ」


声を掛ける。


真姫「降参するなら、これ以上攻撃しないけど……まあ、降参なんてしないわよね。ハッサム! “つるぎのまい”!!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが攻撃力を上げる舞を踊る。

ただでさえ、メガシンカしてパワーが上がっている中でさらに強化された攻撃で一気に両断する──


真姫「“シザー──」


指示と共に、ハッサムがハサミを振りかぶった瞬間──


かすみ「──“しっとのほのお”!!」

真姫「……!?」


かすみの指示の声と共に──穴から炎が溢れ出してくる。


 「エンペーーーッ!!!!」
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 12:58:18.44 ID:B+X5AS2s0

エンペルトが咄嗟に“ハイドロポンプ”で消火したため、ダメージは全くないが──問題はそこじゃない。

問題は、かすみの声が聞こえてきた方向だ。かすみの声は──上から聞こえてきた。

直後、


 「──ウォーーーーーーッ!!!!!!!」

 「エンペッ!!!?」

真姫「なっ……!?」


エンペルトの真上にウォーグルが強襲してきた。


侑「──ウォーグル!! “フリーフォール”!!」

 「ウォーーーーーッ!!!!!」


そして、上から侑の声。

それと同時に、


 「エンペッ!!!!?」


エンペルトが上空に連れ去られる。

それと同時に、声がしてきた方に顔を向けると──キャットウォークを走りながら、侑がウォーグルに指示を出しているのが目に入る。

なんで、ウォーグルが……!? “まひ”していたんじゃ……!?


真姫「……く、ハッサム!!」


いや、ウォーグルが回復している理由を考えている場合じゃない……!

ハッサムは遠距離技は得意じゃないけど……このまま、エンペルトを連れ去られるわけにはいかない……!!

ハッサムに技の姿勢を取らせようとした瞬間、


かすみ?「…ニシシ」


かすみが、さっき逃げ込んだベルトコンベアの穴から顔を出し、


かすみ「──“ナイトバースト”!!」

かすみ?「ガーーゥゥッ!!!!!」

真姫「!?」


黒いオーラを放ってきた──


 「ハッサムッ!!!」


ハッサムが咄嗟に私を庇うように前に出て、オーラを切り裂くが──


真姫「まさか、下にいるのは、かすみじゃない……!?」

かすみ「今更気付いても遅いですよ!! ジュカイン!!」
 「──カインッ!!!」

真姫「ジュカイン!?」


さっき凍って転がっているのを確認したはずのジュカインが──腕に光を蓄えながら、頭上のキャットウォークを踏み切ったところだった。
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:01:30.28 ID:B+X5AS2s0

侑「かすみちゃん、お願い!!」

かすみ「任せてください!!」

 「ウォーーーーッ!!!!!」

 「エンペッ!!!?」


ウォーグルが上空で、持ち上げたエンペルトを放す──そして、それに合わせて横向きに薙がれる、特大の光の剣。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」

 「ジュカイィンッ!!!!!」

 「エン、ペェッ…!!!!!!」


特大の陽光剣はエンペルトを斬り裂きながら、工場の壁に叩きつけた。


真姫「エンペルト……!!」


完全にクリーンヒット。強烈な攻撃を防御出来ない体勢で貰ったエンペルトは、


 「エン、ペ…」


気絶して、床に墜落した。


真姫「……」


そして、気付けば、私とハッサムは──


 「テブリッ!!!」「ガゥガゥッ!!!!」「カインッ!!!!」
 「ウニャァ〜」「ロンチィ…」「イブイッ」


侑とかすみのポケモンに囲まれていた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「さぁ、もう逃げられませんよ……!」

侑「形勢、逆転です……!」
 「ウォーーーッ!!!!」


かすみちゃんと一緒に、ウォーグルの足に掴まって、真姫さんとメガハッサムがいる1階へと降り立つ。


真姫「……ふふ、一体どんなトリックを使ったのかしら……」


真姫さんは呆れているのか、感心しているのか……含むように笑う。

──私たちが取った作戦はこうだ。

まず、“イリュージョン”でかすみちゃんの姿になったゾロアが、真姫さんの注意を引く。

その隙に、“きらきらストーム”で“まひ”を回復したウォーグルで天井スレスレを飛び、ジュカインの場所へ。

氷漬けだったジュカインの“こおり”状態も回復して──大技“ソーラーブレード”でエンペルトを仕留める。

真姫さんからしたら、動けなくしたはずのポケモンたちからの不意打ち。

真姫さんも完璧に意識の外からの攻撃に対応しきれず、エンペルトを撃破することが出来た。

そして、エンペルトを倒しきれば──あとは真姫さんの切り札、メガハッサムだけだ……!
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:03:11.01 ID:B+X5AS2s0

かすみ「いくら真姫先輩が強いって言っても……7対1で勝てますか!?」

真姫「確かに貴方たちの戦い方には驚かされるわ……でも」


真姫さんは肩を竦めながら言う。……が、真姫さんの目は追い詰められている側どころか、


真姫「たかが7匹で──私の切り札を倒せると思ってるの?」


まだ狩る側の目をしていた。


真姫「──“バレットパンチ”!!」
 「サムッ!!!!」

 「ガゥッ!!!?」

侑「!?」

かすみ「はやっ!!?」


一瞬で、弾丸のようなパンチが、ゾロアを殴り飛ばす──


侑「ドロンチ!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ローーーンチィィィ!!!!!」


相手が動き出す前に、ドロンチが“かえんほうしゃ”を噴き出す。

メガハッサムははがね・むしタイプ……! 当たれば間違いなく大きなダメージなる……!

が、


真姫「“きりばらい”!!」
 「ハッサムッ!!!!」


メガハッサムが翼を高速で羽ばたかせると──それによって巻き起こった風で、“かえんほうしゃ”を霧のように吹き飛ばす。


リナ『“きりばらい”で炎をかき消した!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、嘘でしょ!?」

かすみ「なら……!! これなら、どうですか!!」
 「──テブリッ!!!!」


跳躍したテブリムが頭の房を、組むようにして合わせ、


かすみ「“ぶんまわす”!!」
 「テブリィッ!!!!」


身体を縦回転させながら──ゴォンッ!! と音を立てながら、ハッサムの脳天に叩きつけた。


 「…ハッサムッ」


が、ハッサムまるで意にも介しておらず。

ハサミでテブリムを掴んで──乱暴に床に叩きつけた。


 「テブ…リィッ…!!」

かすみ「テブリム……!!」

侑「く……! ニャスパー!! パワー全開!!」
 「ウニャァッ」


ニャスパーが耳を開けて、サイコパワーを叩きつけようとした瞬間、
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:03:48.67 ID:B+X5AS2s0

真姫「“しんくうは”!!」
 「ハッサムッ!!!」


ハッサムの腕が見えなくなるようなスピードで振られ──


 「ニャッ!!?」


次の瞬間には、ニャスパーが吹っ飛ばされていた。


侑「ニャスパー!?」

真姫「……パワーも耐久もスピードも……足りてないわ」

侑「く……っ……ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
 「ウォーーーッ!!!!」

かすみ「ジュカイン!! “リーフブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


ウォーグルが上空から頭部を、ジュカインが地上を滑るようにして刃を構えながら腰部を狙うが、


 「──ハッサムッ!!!!」


ハッサムの大きな両腕のハサミでウォーグルとジュカインをそれぞれ掴み、


真姫「“カウンター”!!」
 「ハッサムッ!!!!」

 「ウォーーッ!!!?」
 「カインッ!!!?」


2匹の勢いを使って、そのまま床に叩きつけた。

そして、地に伏せった2匹に向かって、


真姫「“バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!」


弾丸のような拳を連打してくる。


侑「う、ウォーグル!!」

かすみ「ジュカインっ!?」

 「ウ、ウォーー…」
 「カインッ…」


倒れるウォーグルとジュカイン。直後、メガハッサムの背後で──ユラリと影が現れた。


 「──ロンチィ!!!!」

真姫「……“つじぎり”!」
 「サムッ!!!!」

 「ロ、ン…ッ!!?」
侑「……!」

真姫「……どさくさに紛れて“ゴーストダイブ”していたの……気付いてたわよ」

侑「……っ……」


“ゴーストダイブ”による奇襲もあっさり看破され、ドロンチが崩れ落ちる。

気付けば、7匹いたはずの私たちの手持ちは──あっという間にイーブイだけになってしまった。
150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:04:31.44 ID:B+X5AS2s0

侑「つ、強い……」

かすみ「というか、強すぎますよ……!?」

真姫「いいえ……むしろ、本気の私を……よく最後の1匹まで追い詰めたと思うわ。本当にすごい」


真姫さんは私とかすみちゃんの顔を順に見ながら言う。


真姫「ただ、貴方たちの敗因は……エンペルトを倒した時点で、もう一度逃げなかったことよ」

侑「…………」

かすみ「ぐ、ぬぬぬ……さすがに7匹いればいけると思ったのに……」

真姫「追い詰めた側って言うのは……肝心なところで詰めを誤るものよ」

かすみ「じゃあ、その言葉……そっくりそのまま、お返ししますよ!!」


かすみちゃんの声と共に──


 「クマァッ!!!!」


メガハッサムの足元から、“あなをほる”でジグザグマが飛び出す。


 「フィオ〜!!」


そして、その尻尾にはフィオネがしがみついていた。

ジグザグマが掘り進んだ穴を一緒に進み──地面をこれでもかと湿らせて、泥にした……!


かすみ「“マッドショット”っ!!」

 「クーーマァァッ!!!!」


地面の中から、メガハッサムに泥を浴びせかける。

“マッドショット”はメガハッサムに纏わりつき──動きを鈍らせる。

そこに向かって、


侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブゥゥゥーーーイィッ!!!!!」


全身に炎を纏ったイーブイの攻撃が──直撃した。


かすみ「へっへーん! どうですか!」

侑「……これなら……!」

真姫「……確かに……真っ向からハッサムを倒すなら、強力なほのおタイプの技を直撃させる。正しい判断よ。セオリー通りで私好みな詰め方。……だけどね──」
 「──ハッサムッ!!!」


ハッサムはハサミを盾のようにして、燃え盛るイーブイの体を受け止めていた。


侑「……う、うそ……」

かすみ「倒れて……ない……?」

真姫「……残念だけど、レベルが違いすぎるわ」


そしてハッサムはそのまま、大きなハサミを乱暴に振り回し始め──


真姫「“ぶんまわす”は……こうやって使うのよ」
 「──ハッサムッ!!!!!」

 「ブイィッ…!!!」「ク、クマァッ!!!?」「フ、フィォォ…!!!」
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:06:03.11 ID:B+X5AS2s0

私たちのポケモンを圧倒する。


かすみ「……じ、ジグザグマ……」

真姫「……勝負、あったわね」

侑「……まだです」

 「ブ、ブィィ…」


満身創痍のイーブイが立ち上がる。


真姫「……大したガッツね」
 「ハッサムッ!!!!」


メガハッサムがトドメのために腕を引いた瞬間──


 「──ライボォッ!!!!!」


メガハッサムの背後から、ライボルトが猛スピードで“ワイルドボルト”を炸裂させた。


 「ッサムッ…!!!」

真姫「……!」


そして、攻撃がインパクトした瞬間に──


侑「“びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーーィィィッ!!!!!」


イーブイが“びりびりエレキ”を放つ。

もちろん、放たれた電撃は──ライボルトの“ひらいしん”に吸い寄せられる。

背後から突進しているライボルトとイーブイの間には──メガハッサムがいる!!

位置関係的に、絶対に避けられない──必中の雷撃!!


 「ハ、ッサムッ!!!!!」


──バチバチと音を立てながら、稲妻が迸り、メガハッサムはさすがに耐えきれず──


 「──ハ、ッサムッ!!!!!」

侑「!?」


ハッサムは翼を高速で振動させ、


 「ライボッ!!!?」


ライボルトを弾き飛ばした。


侑「ライボルト!?」

 「ラ、ライボッ…!!!」


ライボルトはすぐに受け身を取って立ち上がる。

あくまで咄嗟に追い払うためのものだったのか、ダメージこそほとんどなかったが──
152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:06:37.75 ID:B+X5AS2s0

かすみ「まだ、耐えるんですか!?」

侑「……っ……! ライボルト、こっちに!!」

 「ライボッ!!!」


ライボルトは、脚の筋肉を電気で刺激し、稲妻のような速度で真姫さんたちの周りを迂回しながら、私のもとへと戻ってくる。


真姫「奇襲に奇襲を重ねて……最後の最後に、さらに奇襲を残していたってわけね……まさか、手負いのライボルトを最後の手段に残しておくのは予想出来なかったわ」

侑「…………」

真姫「でも、もうさすがにネタ切れでしょう?」
 「ハッサムッ…!!!」


ハッサムがハサミを構える。


真姫「ハッサム、“バレット──」

かすみ「ストーーーーップッ!!!」


かすみちゃんが大きな声を出して、真姫さんを制止した。


真姫「……」

かすみ「……試合は……ここまでです」

真姫「……降参ってことね。わかった」


真姫さんが、やっとか……と言った表情をする。

でも、かすみちゃんはニヤッと笑って。


かすみ「……まさか……──かすみんたちの、勝ちですよ」


そう言い放った。


真姫「……はぁ?」


真姫さんが怪訝な顔をする。


かすみ「ね、侑先輩!」

侑「うん」


私はかすみちゃんの言葉に頷きながら──傍らのライボルトの口元に手を寄せると、ライボルトの口から──小さな2つのソレが、チャリ……と音を立てながら、私の手の平の上に乗せられた。

何を隠そうそれは──“クラウンバッジ”だった。


真姫「……!?」


真姫さんは驚いた顔をしながら、焦って自分の上着をめくると──上着の裏側には、赤い破片が突き刺さっていた。


真姫「な……!?」

侑「このルール、私たちの勝利条件は、真姫さんを戦闘不能にするか──“クラウンバッジ”を奪うことでしたよね」

真姫「…………嘘……?」


真姫さんは心底何が起こったのか理解できていない顔をしていた。
153 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:07:13.67 ID:B+X5AS2s0

かすみ「その赤い破片はですね、この工場のあちこちに落ちてた、壊れたモンスターボールの破片です! ジグザグマが“ものひろい”で拾ってきたんですよ!」

侑「そして、その欠片をライボルトに持たせて……物陰に潜ませていました。……真姫さんに接近出来る機会をずっと待ちながら」

真姫「……まさか…………“すりかえ”……?」

侑「はい」


そう、ライボルトが最後に背後から攻撃したのは──メガハッサムを倒すためじゃない。

真姫さんのすぐ真横を通るためだ。

至近距離まで近付けば──“すりかえ”で奪うことが出来ると思ったから。


侑「ライボルトが、真姫さんを横切る瞬間に──“すりかえ”ました」

真姫「……………………」


真姫さんはしばらく絶句していたけど……。


真姫「…………私の負けよ。完敗」


そう言いながら、ハッサムをボールに戻した。

その動作が、言葉が、完全に試合が終わったことを意味していた。


侑「……か……勝った……」


私は力が抜けて、尻餅をつく。

隣を見ると、


かすみ「ど……どうにか、勝てたぁ……」


かすみちゃんも力が抜けてしまったのか、私と同じようにへたり込んでいた。


リナ『侑さん!! かすみちゃん!! すごい!! ホントに勝っちゃうなんて!!』 ||,,> 𝅎 <,,||

侑「あはは……ホントにね……」

かすみ「むー……絶対勝つって最初に約束してたじゃないですかー……。かすみんはずーーーーっと勝てるって思ってましたもんね!」


かすみちゃんがぷくーっと頬を膨らませる。

そんな私たちのもとへ、


真姫「……貴方たちの覚悟、見せてもらったわ」


真姫さんが近付いてくる。


真姫「どんな状況に陥っても勝利を諦めない執念。追い詰められても、勝ちを手繰り寄せる策を選び取る冷静さ。見事だったわ。貴方たちは、その“クラウンバッジ”を持つのにふさわしいトレーナーよ」

侑「真姫さん……」

かすみ「えへへ……そんなことありますよ〜」

真姫「私も……慢心せずに強くならなくちゃね」


真姫さんは少し自嘲気味に言う。


真姫「ここまで来たら……最後のバッジもちゃんと手に入れてよね。私だけ本気の手持ちで負けたなんて知れたら、赤っ恥もいいところなんだから」

かすみ「ふふ、任せてくださいよ!」

侑「はい、必ず……!」
154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:07:57.77 ID:B+X5AS2s0

こうして私たちは、死闘の末──ローズジムの真姫さんを倒し、“クラウンバッジ”を手に入れたのでした。

残すは──最後のバッジのみ……。





    🎹    🎹    🎹





彼方「──二人とも、ローズジムクリアおめでとう〜♪」

リナ『わ〜どんどんぱふぱふ〜』 ||,,> 𝅎 <,,||


ホテルに戻ると──ジム戦前に彼方さんが言っていたとおり、ご馳走が並んでいた。


かすみ「これ全部食べていいんですかぁ〜!?」

彼方「もっちろん♪ 頑張った二人へのご褒美だよ〜♪ 好きなだけ食べて♪」

かすみ「わーい! いっただきま〜す♪」

侑「いただきます!」

彼方「ポケモンちゃんたちにもそれぞれに合わせて、彼方ちゃん特製ブレンドのポケモンフーズを作ったから、味わって食べるんだぞ〜?」
 「ブイブイ♪」「ガゥ♪」「フィオ〜」「ウニャァ」「クマクマァッ♪」「ブクロンッ♪」


元気な子たちが夢中でご飯を食べ始める中、


 「テブリ」「…カイン」「…ライ」「ロンチ」「ウォーグ」「……サ」


大人しい組は静かに食べ始める。……こういうところにも個性が出るね……。


かすみ「いや〜今日のかすみんの活躍っぷり、彼方先輩と果南先輩にも見せてあげたかったですよ〜」

果南「ふふ、私も見たかったよ」

彼方「彼方ちゃんも〜」

かすみ「ですよねですよね! いや〜かすみんの考えたドッキリ爆発大脱出があったから、今日は勝てたんですから〜」


かすみちゃんは元気いっぱいに今日の試合を振り返っているけど……。


果南「侑ちゃんは……勝ったって言うのに、あんまり元気ないね?」

かすみ「えぇー? 侑先輩、せっかく勝ったのに嬉しくないんですか〜?」

侑「ん……。……もちろん、嬉しいけど……でも、今回はかすみちゃんと二人だったからさ……」


……今回はあくまで二人の力を合わせてどうにか勝つことが出来ただけだ。


侑「もし一人ずつ戦ってたら……絶対に勝てなかった……」

かすみ「それは……まぁ……。……でも、勝ちは勝ちですよ!」


もちろん、勝ちは勝ち。向こうの指定したルールでちゃんと勝利を収めたんだ。

それに関してはそれでいい。……だけど、次のジム戦は正真正銘一人で戦うことになる。


侑「……このまま戦っても……私もかすみちゃんも、最後のジムは突破出来ない……」

かすみ「そ、そんなこと言わないでくださいよ〜!!」


これは臆病風に吹かれたとか、そういう話じゃない。

私たちの今の実力と、本気のジムリーダーの実力では、それほどまでに根本的なレベルの差があるということだ。
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:08:29.59 ID:B+X5AS2s0

リナ『正直、私も厳しいと思う……レベル差がありすぎる』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「……確かにこのままじゃ二人とも、理亞ちゃんにも英玲奈さんにも勝てないだろうね」

かすみ「ちょ……リナ子と果南先輩まで……」

侑「だから、対策を考えないと……」

果南「……ま、侑ちゃんがそう言うと思って、私考えてきたんだよね」

侑「え?」

かすみ「何をですか?」


訊ねると、果南さんは、


果南「私が二人が強くなるための修行法……考えてきたからさ!」


にっこり笑いながら、そう言葉にするのだった。



156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/20(火) 13:09:01.73 ID:B+X5AS2s0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.65 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.65 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.63 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.57 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドロンチ♂ Lv.59 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.44 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:8匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.66 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.58 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.57 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.57 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.56 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.60 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:199匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:31:36.27 ID:/nLmInIK0

 ■Intermission🎀



──私がウルトラスペースに来て……何日が経ったかな。

四方を壁に囲まれているせいで、時間の感覚が全然ないから、自分がここを訪れてどれだけ経ったかが全くわからない。

ただ、定期的に姫乃さんが私と私のポケモンのためのご飯を運んできてくれる。

仮にそれが日に3回ずつちゃんとあるなら……たぶん1週間くらいかな。

やることと言えば、ポケモンとお話ししたり、一緒に遊んだり……ブラッシングしてあげるくらい。

ポケモンがいてくれるお陰で、寂しくて寂しくてどうしようもないというほどではないけど……。


歩夢「……侑ちゃんに……会いたいな……」


どうしても、侑ちゃんのことを考えてしまう。


歩夢「……ダメ……しっかりしなきゃ……」


きっと、侑ちゃんたちが助けに来てくれる……今は耐えなくちゃ。

そう思いながら、深呼吸をして心を落ち着けていると──


姫乃「──歩夢さん、失礼します」


姫乃さんが部屋に入ってきた。


歩夢「姫乃さん……? あの、もうご飯の時間ですか……?」


食事は体感では……1時間前くらいに食べたと思うんだけど……。

私が気付かない間にそんなに時間が経っちゃってたのかな……?

自分の体内時計の性能の悪さに、少々不安を覚えてしまう。

だけど、


姫乃「いえ、食事ではなく……」


姫乃さんは少し困った顔をしながら言う。


姫乃「貴方も……意外と肝が据わってますね……」

歩夢「え、あ、その……ご、ごめんなさい……」


……もしかして、食いしん坊だと思われちゃったかな……恥ずかしい……。


姫乃「それより──部屋から出てください。果林さんがお呼びです」

歩夢「え……?」



158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:32:23.57 ID:/nLmInIK0

    🎀    🎀    🎀





姫乃「果林さん、歩夢さんをお連れしました」

果林「ありがとう姫乃」


私が呼び出されたのは、最初に連れてこられた、この船のコクピット……ええっと、こういう場所ってブリッジって言うんだっけ……?

そこにはすでに、しずくちゃんとせつ菜ちゃんの姿もある。


歩夢「あの……一体何が始まるんですか……?」

愛「そろそろ、目的地に着くんだよ〜」


私の疑問に愛ちゃんが答えてくれる。


歩夢「目的地……?」


程なくして──前面に張られた大きなガラスの外に広がっていた、宇宙空間のような場所に──大きな空間の穴のようなものが見えてくる。


愛「入るよー」

果林「お願い」


船はなんの躊躇もなく──その穴に突入していく。

入ると、同時に──ゴゴゴゴッと大きな音と共に、船が大きく揺れる。


歩夢「きゃっ……!?」


激しい揺れに転びそうになったが、


せつ菜「おっと……大丈夫ですか……?」


せつ菜ちゃんが、抱き留めてくれる。


歩夢「あ、ありがとう……せつ菜ちゃん……」

せつ菜「いえ……」


ただ、私はお礼を言ってからすぐに、せつ菜ちゃんから逃げるように離れる。

今のせつ菜ちゃんは……なんだか、ちょっと怖い……。

前みたいな、朗らかな笑顔は全くなく……ずっと、冷たい声音で喋っているし……。

──揺れる船内の中で、しばらくじっと待っていると──洞窟の中のような景色が見えてきた。


愛「着陸するよー」

果林「ええ」


どうやら……目的地というのはここらしい。

程なくして──ゆっくりと船が洞窟内の地面に着陸する。
159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:37:29.83 ID:/nLmInIK0

愛「到着っと……」

果林「愛、ご苦労様」

愛「あいよ〜。……んで、果林。どうすんの?」

果林「どうって、何が?」

愛「誰か降りるのかって話。アタシは降りるのヤだよ?」

果林「ヤダって……まあ、貴方には船に居てもらうから降ろすつもりはないわ」

姫乃「でしたら、私が……」

果林「いいえ、ここは──しずくちゃん」


果林さんがしずくちゃんの方を見て、声を掛ける。


しずく「はい、なんでしょうか♡」

果林「今から、ここに歩夢を降ろすわ」

歩夢「え……?」

しずく「前に説明していただいたとおり、私は歩夢さんを見張っていればいいということですよね♡」

果林「ええ、おりこうさんね」

しずく「はい♡」

歩夢「……」


しずくちゃんは……完全におかしくなってしまっていた。

果林さんの言うことはなんでも聞く……ずっとフェローチェのことばかり口にしている……。

きっと、あのポケモンが持ってる不思議な雰囲気が……しずくちゃんをおかしくしてしまっているんだと思う。


愛「果林」

果林「何?」

愛「こんな場所にしずく放り出していいん? かなり危ない場所だよ?」

果林「……そうかもしれないわね」

せつ菜「そうかもしれない……?」


せつ菜ちゃんが果林さんの反応に眉を顰める。


せつ菜「……人質なら、もう少しまともに扱っては?」

果林「そんな怖い顔しないで、せつ菜。別に死ぬわけじゃないわ」

しずく「せつ菜さん、私は大丈夫です! 果林さんにフェローチェを魅せてもらうためなら、命を捨てる覚悟くらいあります♡」

歩夢「……」

果林「本人もこう言ってるし」

せつ菜「……。……さすがに人質に何かあっては寝覚めが悪いです……私が一緒に降ります。先にハッチに向かっています……」


せつ菜ちゃんはそう言いながら、ブリッジを出て行く。

たぶん……外に出るハッチがどこかにあるんだと思う。


姫乃「果林さん……いいんですか?」

果林「まあ、本人がそうしたいって言うなら、そうさせてあげましょう」

愛「自分でそう仕向けた癖によく言うねー」

果林「人聞きの悪いこと言わないで。……それじゃ、しずくちゃん」

しずく「はい♡ 行きましょう、歩夢さん♡」
160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:38:33.84 ID:/nLmInIK0

そう言いながら、しずくちゃんが私の腕を掴んで歩き出す。


歩夢「……しずくちゃん」

しずく「こちらです♡」


しずくちゃんに腕を引かれて、ハッチへ向かう。


歩夢「……ねぇ、しずくちゃん……?」

しずく「なんですか?」

歩夢「……どうして、果林さんの言うことを聞くの……?」

しずく「どうして、果林さんの言うことを聞かないんですか? フェローチェを魅せてもらえなくなってしまうじゃないですか♡」

歩夢「……そっか」


しずくちゃんの洗脳を解くには……果林さんのフェローチェをどうにかするしかない……。


歩夢「しずくちゃん、大丈夫だよ……きっと、助けるからね……」

しずく「はい、そうですか♡」

歩夢「……」


しずくちゃんと少し歩くと──ハッチらしき場所でせつ菜ちゃんが待っていた。


せつ菜「……行きましょうか」

しずく「はい♡」

歩夢「……」


せつ菜ちゃんを伴いながら、ハッチの外へと出る。

──そこは不気味な青白い光を放っている水晶が生えた洞窟のような場所……。


しずく「それでは奥へ♡ ここの地図は果林さんに見せてもらったので、頭に入っています♡」

せつ菜「……」


しずくちゃんに腕を引かれ──奥へと進んでいく。

せつ菜ちゃんはそんな私たちの後ろを無言で付いてくる。


歩夢「……ねぇ、しずくちゃん。私に……何をさせようとしてるの……?」

しずく「これから、歩夢さんは果林さんのために、お人形さんになるんですよ♡」

歩夢「お人形……さん……?」

せつ菜「……」


しばらく、歩いて行くと──崖のある場所に出る。


しずく「あれです♡」


そして、しずくちゃんが崖下を指差す。


歩夢「……」


恐る恐る崖下を覗いてみると──
161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:40:02.29 ID:/nLmInIK0

 「──ジェルルップ…」「──ヴェノメノン…」「──ジェルル…」

歩夢「な、なに……あれ……?」


不思議な生き物が、崖の下で大量に浮遊している。


しずく「あれはウルトラビースト・ウツロイドです♡」

歩夢「ウツ、ロイド……?」

しずく「ウツロイドは強力な神経毒を持っていて、とても危険なウルトラビーストです。歩夢さんには今から、そんなウツロイドの群れの中に──落ちてもらいます♡」

歩夢「……!?」


私は、しずくちゃんの言葉を聞いて、腕を振り払う。


しずく「おっとっと……」

歩夢「…………っ」


どうしよう……逃げなきゃ……!

私はしずくちゃんから逃げるように背を向けて走り出すけど、


しずく「いいんですか? 歩夢さんが逃げたら、私が果林さんにどんな目に遭わされるか、想像できますか?」

歩夢「……!」


その言葉で、私は足を止める。


せつ菜「貴方……」

しずく「果林さんは私を利用するためにフェローチェを魅せてくれています♡ もし、正しく命令を遂行出来なければ……私はきっといらない子。一体何をされるんでしょうね?」

歩夢「…………っ」

せつ菜「…………」

しずく「さぁ、歩夢さん♡ こちらへ戻ってきてください♡」

歩夢「…………」

しずく「歩夢さん、私たち友達でしょう? 私のこと、見捨てないでください♡」

歩夢「っ……」


私は──振り返って、しずくちゃんのもとへと戻る。


歩夢「……」

しずく「ありがとうございます♡」

歩夢「しずくちゃん」

しずく「なんですか?♡」

歩夢「私のこと……どう思ってる?」

しずく「どう……とは……?」

歩夢「しずくちゃんにとって、私は……どういう存在……?」

しずく「ふふ、そんなの決まってますよ。優しくて頼りになる先輩で、仲間で──大切なお友達です」

歩夢「…………わかった。私、しずくちゃんを信じるよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが無言で見守る中、私は覚悟を決める。
162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:41:17.84 ID:/nLmInIK0

しずく「ありがとうございます、歩夢さん♡ では、私の言うとおりにしてください♡」

歩夢「うん」

しずく「まず、モンスターボールを全てベルトから外してください♡」

歩夢「……わかった」


私はボールベルトから、モンスターボールを全て外して、足元に置く。

それと同時に──ボールたちがカタカタと震えだす。


歩夢「みんな……大人しくしてて」


私がそう言うと、揺れるボールたちは大人しくなる。


しずく「それでは、そのまま──崖を背にして一歩ずつ後ろに下がりましょう♡」

歩夢「……うん」


私はしずくちゃんを見ながら、一歩ずつ後ろへと下がる。

一歩ずつ一歩ずつ、足元の地面を確認しながら下がっていくと──足元に地面が確認できない場所にたどり着く。

つまり──私の後ろは、もう崖だ。

崖下から風を感じて、背筋がぞくりとしする。気付けば脚が勝手に震えだしていた。


しずく「……そうだ、歩夢さん」

歩夢「……な、なに……?」


震える声で返事をすると、


しずく「その髪飾りも──預かりますよ。外してください」


しずくちゃんは──侑ちゃんに貰った髪飾りを外すように要求してきた。

侑ちゃんの気持ちの籠もった──ローダンセの花飾りを……。


歩夢「これは……」

しずく「私を……信じてくれるんじゃないんですか?」

歩夢「………………。…………わかった」


私はゆっくりと──髪飾りを外す。

そして、それをしずくちゃんに手渡す。


しずく「ありがとうございます♡」

歩夢「……しずくちゃん」

しずく「はい?」

歩夢「……絶対に、侑ちゃんやかすみちゃんが助けに来てくれるはずだから……絶対に……絶対に一緒に帰ろうね」

しずく「…………」

歩夢「それまで……預けるね……。きっと、私の分まで……侑ちゃんの想いが、しずくちゃんを守ってくれるはずだから……だから──」


──ドンッ。

しずくちゃんが──私の肩を押した。

身体が後ろに傾き──支えるものが何もない私の身体は──背中から、崖下に向かって落下を始める。

最後に見たしずくちゃんの顔は──少しだけ悲しそうに見えた。
163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 03:44:10.73 ID:/nLmInIK0

歩夢「……っ……」


浮遊感に包まれたのも束の間──私の身体は何かに優しく受け止められる。

もちろんその何かは──


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」


ウツロイド。ウツロイドの触手が腕を脚を──私の全身をどんどん絡め取っていく。


歩夢「しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


口元が触手に覆われる。

そのまま、視界も覆われ……私は……目の前が、真っ暗になった──





    💧    💧    💧





しずく「…………」

せつ菜「……こんなことをして、心は痛まないんですか……? ご友人なんでしょう?」

しずく「……お説教ですか?」

せつ菜「……貴方……まだ理性が残っているじゃないですか……なのに、どうしてあんな酷いことが出来るんですか……」

しずく「貴方に言われたくありませんね」

せつ菜「な……」

しずく「せつ菜さん、貴方の話、果林さんから聴かせてもらいましたよ♡ ……貴方だって、ウルトラビーストに心を売ったようなものじゃないですか」

せつ菜「それ……は……」

しずく「私はウルトラビーストの美しさに、せつ菜さんはウルトラビーストの強さに魅入られ……魂を売ってしまっただけ──所詮、私たちは同じ穴の貉ですよ」

せつ菜「…………。…………そうかも……しれませんね……。……自分だけ、綺麗でいようとするのは……卑怯でした。……すみません」

しずく「いえ、お気になさらないでください♡ さて……」


私は振り返る──先ほど歩夢さんが、外して地面に置いたボールたちが、ガタガタガタと激しく揺れ、


 「──バーース…!!!」「──シャーーーーッ…!!!!!」「──マホイッ…!!!」「──グラァ…ッ!!!!!」「──エッテ…!!!」


歩夢さんのポケモンたちがボールから飛び出してくる。


しずく「ふふ……敵意剥き出しですね。ご主人様に酷いことをした私が許せないんですよね」


ボールから、ポケモンを繰り出す。


 「──インテ…」「──バリバリ!!」「──ロゼ…」
しずく「お相手しますよ。トレーナー無しで私に勝てるのかは知りませんけど♡」

 「バーースッ!!!!」「シャーーーボッ!!!!!」「マホイップッ!!!!」「グラァァーーー!!!!」「エッテェェッ!!!!」


………………
…………
……
💧

164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:01:37.48 ID:/nLmInIK0

■Chapter054 『試練の山』 【SIDE Yu】





かすみ「……侑先輩」

侑「ん……何……?」

かすみ「かすみんたち……なんで、山登りしてるんですかね……」

侑「あはは……なんでだろうねぇ……」


振り返ると──遠くにローズシティが見える。

ここは……カーテンクリフだ。


かすみ「……うぅ……早く帰りたい……」

侑「……気持ちはわかるけど……時間もないし、早く進もう」

かすみ「あ、待ってくださいよぅ……侑先輩ぃ……」


私たちが何故、再びカーテンクリフを登っているかというと……話は昨日の夕食の時に遡る──



──────
────
──



侑「──修行法……ですか……?」

果南「そう、修行法」


食卓を囲みながら、果南さんはそう話し始めた。


果南「実は私、二人がジム戦をしてる間に、他の町のジムリーダーに連絡して、侑ちゃんとかすみちゃんのジム戦のバトルビデオを送ってもらって、見てたんだよ」

彼方「ちなみに、彼方ちゃんも一緒に見てたよ〜」

かすみ「へ……? ビデオなんてあったんですか……?」

リナ『ジム戦は公式戦だから、基本的に録画してる場所が多いよ。今日みたいな野外バトルとかだとさすがにしないみたいだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「野外試合だった、かすみちゃんのウチウラジム戦とセキレイジム戦、侑ちゃんのホシゾラジム戦はデータがなかったから、曜とルビィちゃん、凛ちゃんに電話で直接どんな試合か聞いたよ。……あと、侑ちゃんのダリアジム戦はビデオもなかったし、試合内容も教えられないって、にこちゃんから言われたんだけど……何か特別なルールだったの?」

侑「あー……えーっと……まあ、いろいろです」


花丸さんはクローズドなジムリーダーだから、そりゃ映像には残らないし、試合内容も喋れないよね……。


果南「まあ、いいや……その上で、彼方ちゃんと話しながら、二人のバトルの問題点を洗い出してきたんだ」

かすみ「お二人とも、そんなことしてたんですね……。……まあ、かすみんの欠点なんてそんなにないと思いますけどね〜?」


彼方さん特製のから揚げを頬張りながら、かすみちゃんは自慢げに胸を逸らす。


果南「……じゃあ、まずかすみちゃんから、話そうか。……かすみちゃんは捨て身の攻撃が多すぎる」

かすみ「……ぅ」

果南「特に“じばく”みたいな相討ち上等な立ち回り方が目立ってる」

かすみ「……だ、だってぇ……あれは、大逆転できるパワーを秘めてる技だからぁ……」

果南「確かに打開の策としては間違ってないと思うよ。実際に、それで勝ってきてるわけだし。……でも、心のどこかでどんなに追い詰められても、最悪“じばく”で相討ちを取ればいいとか思ってない?」

かすみ「……ぅ……そ、それは〜……」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:02:15.38 ID:/nLmInIK0

かすみちゃんが盛大に目を泳がせる。

欠点、そんなにないんじゃなかったの……かすみちゃん……。


果南「試合ではお互い最初から使うポケモンが決まってるから、使いどころを間違わなければ状況をひっくり返す技なのは確かだよ。でも、実戦はそうじゃない。相手の数だって決まってないし、もしかしたら連戦しなくちゃいけないかもしれない。場合によっては撤退を余儀なくされることもある。そういうときに手持ちが減るっていうのは致命傷になりかねない」

かすみ「…………」

果南「逆転する力、ポテンシャルとバトルに対するひらめきはかすみちゃんの長所だけど……逆を言うなら、戦闘が無計画すぎるところがある」

かすみ「…………ぐすっ……じ、自分でもわかってるもん……それくらい……」

彼方「ほら、泣かない泣かない」

かすみ「泣いてませんっ!」


果南さんの評価は思ったよりも厳しめだった。

でも……的は射ている気がする。

とはいえ、面と向かって厳しい評価を下されるのは、なかなかに堪えるものだと思う。


果南「……次は侑ちゃんだけど」

侑「は、はい……!」


私の番が来て、思わず背筋が伸びる。

かすみちゃんへの評価を聞いた直後というのもあるけど……元チャンピオンから自分のバトルを評価してもらえるというのは、またとない機会だから、変に緊張してしまう。


果南「まず、持久戦への崩しが苦手すぎる」

侑「……ぅ……じ、自覚してます……」

彼方「でも、こればっかりは相性もあるからね〜……」

果南「まあね。ただ、守られたときに攻撃がうまく通らないことで焦る癖は直した方がいいよ。防御に対しては相手にしないのも一つの戦術なんだから」

侑「は、はい……」

果南「あともう一つ……こっちの方が問題かな」


まだあるんだ……。


果南「侑ちゃんは、諦めが早すぎる」

侑「そ、そうですか……?」

果南「自分の負け筋が見えすぎてるというか……相手の勝ち筋が見えすぎてるというか……相手のやりたいことが見えすぎてるせいで、劣勢になると相手の勢いに呑まれちゃうところがあるんじゃないかな」

侑「…………そう言われると……ちょっと、思い当たる節があります……」


実際、直近の試合でも、ホシゾラジム戦では歩夢が声を掛けてくれなかったら雰囲気に呑まれていたところはあったし、クロユリジムでもワシボンが止めてくれなかったら、私は降参していた。

そして、今日のローズジム戦でも……最後まで諦めなかったのはかすみちゃんだ。私は……一人だったら、途中で諦めていたと思う。


果南「戦局を見る力があるとは思う。もちろん、それは実戦ですごく大事だし、引きどころを間違えないという意味では長所にもなるけど……絶対に負けられない戦いの場では──考え方の癖って言うのかな……それは絶対に侑ちゃんの足を引っ張ることになるよ」

侑「……はい」


つまるところ……私には引き癖というか……劣勢になると、考えるのを諦めてしまう癖みたいなものがあるようだ。

特に私たちがこれから挑む戦いは、絶対に負けが許されない戦い……そこで、もう勝てないかもなんて思ってたら、本当に負けてしまう。


リナ『でも、考え方をすぐに矯正するのは難しい』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「そうだね。……でも、いざ実戦のときに、直りませんでした。じゃあ、困るでしょ?」

侑「……はい」
166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:02:47.97 ID:/nLmInIK0

確かに出来ることなら直したい……。

勝負を諦める癖なんて、明確にデメリットだ。


果南「ただね、侑ちゃんにしても、かすみちゃんにしても……二人の欠点の根幹にあるのは同じ理由だと思うんだよ」

侑「同じ理由……ですか……?」

果南「それは──自信だよ」

かすみ「自信……?」


私とかすみちゃんは顔を見合わせてしまう。


果林「かすみちゃんの一発逆転を狙う癖も、侑ちゃんの諦め癖も……どっちも、自分たちのパワーやスピード、テクニックが相手に劣ってるって、頭のどこかで思っちゃってるからだと思うんだ」

侑「……それは、そうかもしれません」

かすみ「ぅぅ……かすみんもちょっと思い当たる節があります……」

果南「それを払拭するには、純粋に鍛錬を積んで、パワー、スピード、テクニック……その他もろもろ、自分たちが強くなったって実感を持たないと難しい」

彼方「まあ、簡単に言っちゃうと二人とも、根本的にステータスが足りてないよって話なんだけどね〜」

かすみ「身も蓋もなくないですか!?」


つまり──


侑「そのための──私たちのステータスを根本から上げるための修行法を考えて来てくれたって、ことですよね……?」

果南「ま、そんなところ」

かすみ「そうならそうと早く言ってくださいよ! かすみん、落ち込み損じゃないですか!」

果南「ただ……タイムリミットは後4日──ジム戦をする日を考えたら3日しかない。だから、かなりきついやつを選んできたから」

侑「き、きついやつですか……」

果南「うん、それはね──」



──
────



翌日、私たちはローズの西端で、カーテンクリフを見上げていた。


かすみ「こ、これ……登るんですか……?」

果南「そ。昨日も言ったけど、緊急時以外はウォーグルやドロンチを使って飛行するのは禁止。あ、でも戦闘には使ってもいいからね」

侑「わ、わかりました」
 「ブィ…」

果南「あと……かすみちゃん、ポケモン図鑑出してもらっていい?」

かすみ「は、はい? いいですけど……」

果南「リナちゃんもこっちおいで」

リナ『わかった』 || ╹ᇫ╹ ||


ふよふよとリナちゃんが果南さんのもとへと漂っていく。
167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:03:20.46 ID:/nLmInIK0

果南「今回は二人ともポケモン図鑑なしで挑むこと」

かすみ「ええ!? な、なんでですか!?」

果南「何にも頼らない精神が己を鍛えるんだよ。……って言いたいところだけど、鞠莉から持ってくるように言われててね。ウルトラビーストを認識出来るように、バージョンアップしてくれるらしいからさ」

かすみ「あ、図鑑をパワーアップしてくれるんですね〜♪ なら、仕方ありませんね〜♪ ……って、なりませんよ!」

侑「……あくまで、自分と自分たちのポケモンの力で乗り越えてこいってことですね」

果南「そゆこと。ただ、ここのポケモンは強いからね。戦ってる最中、うっかり足滑らして落ちないようにね」

かすみ「え、縁起でもないこと言わないでくださいよぉ〜……」

果南「それじゃ、最後にもう一度確認するね」


果南さんはそう言って、昨日教えてくれたルールを再度おさらいしてくれる。


果南「二人は3日以内に、私が西の遺跡に置いてきたアイテムを拾って戻ってくること。わかりやすくしておいたから、たどり着ければすぐにわかると思うよ」

かすみ「誰かに取られたりしませんか……?」

果南「大丈夫、君たち以外が持ってても、意味のないものだから」

侑「私たち以外が持ってても、意味のないもの……?」

果南「何かは見てのお楽しみ。あと侑ちゃんにはこれ」


そう言って、果南さんは小箱を差し出してくる。


侑「これは……?」

果南「今回のアイテムのために用意した鍵だよ。到着したら箱から出してね」

侑「わかりました」


私は貰った箱をバッグにしまう。


果南「それじゃ、二人とも頑張っておいで」

リナ『侑さんが帰ってくるの……待ってるね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん! 待っててね、リナちゃん! 行こう、かすみちゃん!」

かすみ「うぅー……わかりました……帰ってきたら、ご馳走用意しておいて欲しいですって、彼方先輩に伝えてください……」

果南「はは♪ りょーかい♪ 伝えておくよ♪」


──
────
──────



──そして、今に至る。


かすみ「それにしても……山というか崖ですね……」

侑「ローズ側からだと、多少緩やかなんだけどね……」


カーテンクリフも東端は多少なだらかに始まっている。

……本当に多少で、すぐに崖みたいな急勾配になったけど……。


 「ブイ」


イーブイは軽い身のこなしで、ぴょんぴょん登っていくけど──私たちはそうも行かない。


侑「よい……しょ……。……かすみちゃん!」
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:04:16.81 ID:/nLmInIK0

私が岩を一段よじ登り、かすみちゃんに手を伸ばす。


かすみ「あ、ありがとうございます、侑先輩」


要所要所でお互いを引っ張りあげながら、どうにかこうにか登っていく。


かすみ「……はぁ……こんな崖みたいな山、果南先輩はホントに自力で登ったんですかね……?」

侑「彼方さん曰く、あっという間に登って降りてきたって言ってたよね……」


一体いつアイテムを遺跡に置いてきたのかと思ったけど……どうやら、私たちがジム戦をしている間にやっていたらしい。

ローズ側の麓で待っていた彼方さんによると──本当にものの数時間で戻ってきたとか……。

実際、その後私たちのバトルの分析とかもしてたわけだし……たぶん、嘘ではないと思う。


かすみ「あの人、人間なんですか……?」

侑「……それくらい、果南さんには実力があるってことなんだよ。きっと」


また一段登り──ふと後ろを見ると、ローズのセントラルタワーが少し下に見える。


侑「結構、登った気がするね……」

かすみ「でも……ここから先、さらに崖みたいになってますよぉ……」


かすみちゃんの言うとおり、崖はどんどん険しくなっていく。


侑「ここは……私たちだけじゃ、登れそうにないね」
 「ブイ…」

かすみ「ですね……」


目の前の崖を一段上に登るには、少し高い……。イーブイもこれは登れないと思ったのか、私の肩の上に戻ってくる。

一応登山用の道具は果南さんが用意してくれたものを持っているけど……この崖を自力で登ろうとすると、時間がかかってしまう。

ここまで、ポケモンたちの体力温存のために、二人で登ってきたけど……これ以上は、ポケモンたちの力を借りる必要がありそうだ。


かすみ「ジグザグマ、出てきて」
 「──クマァ♪」


かすみちゃんはジグザグマをボールから出す。バッグからロープを取り出して、ジグザグマのお腹辺りに括りつけ、技の指示をする。


かすみ「“ロッククライム”!」
 「クマ!!」


ジグザグマは指示を受けると、全身の硬い体毛を岩壁に突き刺しながら、上に登っていく。

崖を一段上に上がりきったところで、ジグザグマは体毛を岩壁に突き刺し、


かすみ「そこで待っててね〜」

 「クマァ〜」


一旦待機させる。


かすみ「それじゃ、先に行きますね」

侑「うん」


かすみちゃんは、ロープを自分に巻き付け、ジグザグマが窪ませた穴に手足を掛けて登っていく。

私も同じように、
169 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:04:51.41 ID:/nLmInIK0

侑「ウォーグル」
 「──ウォーー!!!」

侑「“ブレイククロー”」
 「ウォー!!」


岩壁に、手足を入れる隙間をウォーグルに作ってもらう。

……これは、飛行じゃないからセーフだよね?


侑「よし……イーブイ、落ちないようにね」
 「ブイ」


かすみちゃんと同じように、崖の窪みに手足を掛けながら登っていく。


かすみ「侑先輩! 掴まってください!」

侑「うん……!」


最後は先に登ったかすみちゃんに引っ張り上げてもらって──また一段上へ。


侑「ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「どういたしましてです♪」


お礼もそこそこに、また崖を見上げる。


かすみ「一体……いつまで続くんでしょうかねぇ……」
 「クマァ…」

侑「尾根まで登り切れば……勾配は減るはずだから、そこまで頑張ろう……」
 「ブイ」「ウォーグ」


私たちの登山修行は続く──





    🐏    🐏    🐏





──さて……彼方ちゃんは今、コメコシティに戻ってきております。

今いる場所は──エマちゃんの寮のお部屋。

もちろんエマちゃんのお部屋だから、エマちゃんはいるんだけど……もう1人。リーグの偉い人、海未ちゃんと3人で座っている。

海未ちゃんがいるのは、彼方ちゃんのボディガードを兼ねているけど……もちろん、本題はそっちじゃありません。


海未「アサカ・果林さんは、当地方のチャンピオンである千歌を拐かし、さらに一般人を人質として連れ去ってしまいました……」

エマ「え……」


エマちゃんに果林ちゃんのことは聞くため、彼方ちゃんが仲介したのです。


彼方「一般人って言うのは……歩夢ちゃんとしずくちゃんのことだよ」

エマ「……そんな……果林ちゃんが……」

海未「……ご友人だったと伺っています。辛いかもしれませんが……果林さんがどういう方だったのか、聞かせてもらえませんか……?」


エマちゃんはしばらく無言だったけど……。


エマ「…………果林ちゃんが普通の人じゃないのは……なんとなく、わかってました」
170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:05:33.16 ID:/nLmInIK0

ぽつりぽつりと喋り始めた。


エマ「……彼方ちゃんも」

彼方「ん……」

エマ「……果林ちゃんも、彼方ちゃんも……遥ちゃんもだけど……会ったときから、全然変わらないから……」

海未「全然変わらない……とは……?」

エマ「見た目が……全然変わらないんです」

海未「見た目が、変わらない……?」

彼方「えっと……わたしがこっちに落ちてきたのは18歳のときで……遥ちゃんは16歳だったんだけど……。……実は彼方ちゃんたち、歳を取ってないんだって」

海未「……それは本当ですか?」

彼方「原因はわからないんだけど……ウルトラスペースから過剰にエネルギーを浴びたのが原因で、身体の時間が一時的に止まってるんじゃないかって説明されたよ」


生き物は生まれてから死ぬまでに、たくさんたくさんエネルギーを使って、最後は死んでいくけど……。

そのエネルギーの消費が、ウルトラスペースから異常なエネルギーを浴びたせいで、極端に遅くなっているから、彼方ちゃんたちは歳を取らないように見えるらしい。

……国際警察の科学捜査部の人は、細胞分裂……? とか、テロメアの減り具合……? とか言ってたけど……彼方ちゃんには難しいことはわからないから、これ以上の説明は出来ないけど……。


海未「……歳を取らないというのは……不老ということですか……?」

彼方「うぅん。揺り戻しがあるから、何年かしたら止まってた年月分、一気に歳を取り始めるみたい。今までも“Fall”の中にはそういう人がいたらしいから」

海未「なるほど……。エマさんは、それに気付いていたんですね……?」

エマ「はい……ただ……本人が隠してるのには気付いてたし……無理に聞くのはよくないって思ったから、わたしが知ってることは、あまり……」

海未「……そうですか……」


まあ、果林ちゃんも……いくら仲が良いからって、うっかりエマちゃんに喋っちゃうような人とは思えないからなぁ……。


エマ「……果林ちゃん……ずっと、何かに追い詰められているというか……いつも焦ってるなって……ずっと思ってました……」

彼方「…………」


璃奈ちゃんが亡くなって、愛ちゃんが問題を起こし、わたしが組織から逃げ出してしまった……。

4人居た組織の幹部は……実質、果林ちゃんしか残らなかった。

果林ちゃんは自分たちの世界を救いたいという想いが、人一倍ある人だったから……その責任感から、必要以上に背負いこんでしまった節はあるのかもしれない。


エマ「……冷たく突き放したようなことを言うことはあるけど……本当は優しい人なんです……。……可愛い物やポケモンが大好きで、実はお寝坊さんで、すぐ迷子になっちゃって……でも、わたしが困ってたら助けてくれて……」

彼方「エマちゃん……」


辛そうに喋るエマちゃんを見ていると、エマちゃんは本当に果林ちゃんを大切に想っていたことが、それだけで伝わってきた。


エマ「……あの……もし果林ちゃんを見つけたら……どうするんですか……?」

海未「……彼女の正確な目的がわからないので、完璧に答えるのは難しいですが……恐らく、彼女の身柄確保を目指して動くことになると思います。ですが、相手の力は強大です……極力避けたいですが、場合によっては──」


海未ちゃんはそこで言葉を止める。……恐らく、そういうことだと思う。

捕まえる余裕があるとは、考えづらいもんね……。


エマ「……。……話し合いで……解決出来ませんか……?」

海未「もちろん、それが理想ですが……。……向こうは人に危害を加えることに躊躇がない。そういう相手を説得出来るかと言われると……」

エマ「……そう……ですよね……」


エマちゃんはぎゅっと手を握る。
171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:06:26.74 ID:/nLmInIK0

エマ「……行くときは……一言言ってくれるって……約束したのに……」

彼方「エマちゃん……」

海未「……」


全員が無言になった部屋の中、突然──prrrrとコール音が響く。


海未「……私のポケギアです。少し失礼します」


海未ちゃんがそう言って部屋を出ていき、私はエマちゃんと二人きりになる。


エマ「…………彼方ちゃん」

彼方「なにかな」

エマ「……果林ちゃんは……悪い人なのかな……?」

彼方「……どの立場から見るかによるとしか、言えないかな……」

エマ「果林ちゃんは、何をしようとしてるの……?」

彼方「……具体的にどうするかはわからないけど……この世界を滅ぼすつもり……だと思う。少なくともわたしはそう聞いてた」

エマ「…………そんなことしないよ、果林ちゃんは……」

彼方「……エマちゃん」

エマ「…………」


再び静寂に包まれる。

しばらく、二人で無言のまま過ごしていると、海未ちゃんが部屋に戻ってきた。


海未「彼方、もうじきこちらに果南が来るそうです。私は……次の場所へ移動しないといけないので……」

彼方「わかった。果南ちゃんと合流したら、一緒に行動するね」

海未「……果南が来るまでいた方がいいですか?」

彼方「平気だよ〜。守ってもらってるけど、彼方ちゃんも強いから〜。もうすでに果南ちゃんがこっちに向かってくれてるなら大丈夫だよ〜」

海未「わかりました。そういうことでしたら、私は行きますね。……エマさん、貴重なお話、ありがとうございました」

エマ「いえ……」

海未「……出来る限り、彼女と争わない道を考えるつもりです。……期待はしないで欲しいですが」

エマ「……はい」


そう残して、海未ちゃんはエマちゃんのお部屋を後にする。


エマ「…………」


エマちゃんは、酷く落ち込んでいる。

そりゃ、そうだよね……。果林ちゃんはエマちゃんにとって親しい友人だったみたいだし……。


彼方「エマちゃん、おいしいクッキーでも焼こうか……? おいしいもの食べたら元気も出ると思うから……」

エマ「ありがとう、彼方ちゃん。……でも、今はちょっと考えたいことがあるから……一人にしてもらってもいいかな……」

彼方「エマちゃん……。……わかった。ごめんね、辛い話をさせちゃって……」

エマ「うぅん、大丈夫だよ。クッキーは今度食べたいな。彼方ちゃんの焼いてくれるクッキーすっごくおいしいから」

彼方「うん、わかった。次来るときは焼きたてのを持ってくるね」

エマ「うん」
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:07:46.72 ID:/nLmInIK0

そう約束して、わたしもエマちゃんの部屋からお暇するのだった。





    🏹    🏹    🏹





コメコを発ち、ローズに向かってカモネギで飛行している最中──音ノ木の付近で、見慣れたポケモンが飛んでいることに気付く。


海未「……リザードン? ということは……」


私はそのリザードンに向かって近づいていく。


穂乃果「──はい。……今のところは特に変わったことは何も……」

海未「穂乃果?」

穂乃果「あれ? 海未ちゃん? ……あ、はい。じゃあ、また連絡します」


どうやら、ポケギアで誰かと連絡をしていたようだ。

穂乃果は私に気付くと、通話を切り、私の方へと向き直る。


海未「ポケギアの相手は……相談役ですか?」

穂乃果「うん」

海未「……貴方たちは一体何をしているんですか……?」

穂乃果「えっと、音ノ木に変わったことがないかなって」

海未「音ノ木に……?」


この緊急事態に穂乃果や相談役は何故、音ノ木に拘るのだろうか……?


海未「……そういえば、グレイブ団事変のときも、貴方は音ノ木にいましたね」

穂乃果「あーうん……まあ」

海未「……言えない事情があるみたいですね……まあ、いいです」


相談役の指示ということは、大雑把に言えばリーグの指示と言っても過言ではない。

現理事長は私ですが……穂乃果は相談役が理事長をしていた頃から、彼女の指示で動いていたようですし、考えがあってのことだ。

国際警察のような機密を扱う機関とのやり取りだからこそ、先方との擦り合わせの問題で共有できない部分もあるのだろう。

ここで私が無理に穂乃果の動きに干渉すると、不具合が生じかねない。

それに、そもそも穂乃果はリーグ所属の人間ではないですしね……。私が彼女に指示を出す権限はありません。


海未「今アキハラタウンにことりがいると思います。いつも会いたがっていましたので、余裕があったら顔を見せてあげてください。喜ぶと思うので。……それでは」

穂乃果「あ、あれ? もう行っちゃうの?」

海未「ええ。ローズで約束があるので」

穂乃果「そっか……気を付けてね」

海未「はい、穂乃果も。カモネギ」
 「クワ」


カモネギに指示を出し、私は再びローズへと進路を向ける。



173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:08:38.06 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





 「──ゴドラァ!!!!!」

侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャァ〜」


振り下ろされるボスゴドラの拳をニャスパーが全開のサイコパワーで受け止める。

が、


 「ゴドラァ!!!!」

 「ニャ、ニャァァ…!!」
侑「ぱ、パワー、つよ……!」


こっちはフルパワーなのに、拳を止めきれない。


かすみ「ゾロア!!」
 「ガゥ!!!」


そんな中、ゾロアがボスゴドラの顔面に飛び付き、


 「ゴドラァ…!!?」

かすみ「“ナイトバースト”!!」
 「ガーーーゥゥ!!!!」


至近距離で“ナイトバースト”を炸裂させる。


 「ゴドラァ……ッ!!!!」

かすみ「侑先輩、大丈夫ですか!?」
 「ガゥ!!」

侑「うん、ありがとう、かすみちゃん……!」
 「ニャァ…」

 「ゴド、ラァ…!!!」

かすみ「ふふん♪ 闇がまとわりついてよく見えないですよね!」
 「ガゥ!!」


“ナイトバースト”には相手の命中率を下げる効果がある。

あれだけ至近距離で食らったら、その追加効果の影響をもろに受けてしまったに違いない。


侑「よし……! 今だよ! ウォーグル!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


ウォーグルが爪を構えながら上空から強襲し──


侑「“ばかぢから”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!!」


上から爪で力任せに押さえつける。


 「ゴドラァ…!!!!」


だけど、ボスゴドラは視界が奪われているはずなのに、ウォーグルをパワーだけで押し返してくる。
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:09:27.56 ID:/nLmInIK0

 「ウ、ウォーー…!!!!」
侑「ウォーグル!! 負けないで!!」

かすみ「ヤブクロン!! “アシッドボム”!」
 「ブクロンッ!!!」


どくタイプの攻撃は、はがねタイプには効果がないけど──ヤブクロンが攻撃を放ったのはボスゴドラの足元だ。

足元に落ちた“アシッドボム”は着弾と共に、地面を溶かし、


 「ゴ、ドラッ!!!?」


ボスゴドラの足元を滑らせた。


侑「今だ!!」
 「ウォーーーーーッ!!!!!」

 「ゴ、ドラァ…!!!!」


ウォーグルが爪で蹴り飛ばしてボスゴドラを押し倒す。そこに向かって、


侑「ドロンチ!!」
かすみ「サニーゴ!!」

侑・かすみ「「“シャドーボール”!!」」
 「ロンチィーーー!!!!」「サ……」


2匹から放たれた“シャドーボール”がボスゴドラに直撃し、


 「ゴドォッ…!!!!」


その衝撃で吹っ飛んだボスゴドラは──崖から落下していった。


かすみ「はぁ……ど、どうにか倒せたぁ……」

侑「あはは、そうだね……」


やっと撃退出来て、一息──吐いたのも束の間、


 「タンザン…!!」

侑「!? かすみちゃん、危ない!?」

かすみ「へ!?」


突然、黒い液体のようなものが飛んできて、私はかすみちゃんを押し倒すように伏せる。


侑「あ、あのポケモンは確か……セキタンザン……!」

かすみ「ま、まだ出てくるんですかぁ!?」

 「タンザンッ!!!!」


セキタンザンは再び黒い液体のようなものを飛ばしてくる。


かすみ「サニーゴ! “ミラーコート”!!」
 「……サ」

侑「かすみちゃん!! それに当たっちゃダメ!!」

かすみ「へ!?」


その黒い液体は、サニーゴにぶつかると──べしゃっと音を立てながら、サニーゴにへばりつく。
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:10:06.75 ID:/nLmInIK0

かすみ「ちょ、サニーゴ!? なんですか、あのねばねばして気持ち悪いの!?」

侑「あれは“タールショット”だよ……! ねばねばしてて、よく燃える液体……!」

かすみ「よく燃える!?」


説明している間にも、


 「タンザン…!!」


セキタンザンの背中の炎が赤熱し、口から炎が溢れ出し、大の字になりながらこっちに飛んでくる。


かすみ「ぴゃーーー!? “だいもんじ”−−!!?」

侑「イーブイ! “いきいきバブル”!! フィオネ! “バブルこうせん”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」「フィオーー」


2匹のみず技で消火を試みる。

が、勢いが強すぎて、止められる気がしない。


かすみ「か、加勢します!! サニーゴ! “ハイドロポンプ”!!」
 「……サ」


タールまみれになりながら、サニーゴが強烈な水流を発射し──それによって、やっと“だいもんじ”は勢いを失い始めるが、


 「タンザンッ!!!!」


セキタンザンが、そこに向かって走りこんでくる。


侑「!? ま、まずい!?」


セキタンザンが自ら、泡と水の中に突っ込み──ジュウウウウ!! と音を立て、蒸気を上げる。


かすみ「へ!? なんか、湯気出てますよ!?」

 「タンザン…!!!」


直後、猛烈なスピードでセキタンザンがこっちに向かって突進してくる。


かすみ「は、はやっ!?」

侑「……っ!!」


このスピードじゃ、回避しきれない……!!

なら……!


侑「ドロンチ!!」

 「──ロンチィ…」


ドロンチがユラリとセキタンザンの進路に現れ、


 「タンザンッ!!!?」

侑「足元、薙ぎ払え!!」

 「ロンチィ!!!」

 「タンザンッ!!!?」
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:10:47.81 ID:/nLmInIK0

猛スピードで走るセキタンザンの足元を“ドラゴンテール”で薙ぎ払った。

走っている真っ最中に足払いを食らったセキタンザンは前方に向かってすっ転ぶ。

そして、転んだセキタンザンに向かって真上から──


かすみ「テブリム!!」
 「テーーーブゥ!!!!」


テブリムが頭の房を叩きつける。

が、セキタンザンはまだ倒れず、


 「タンザンッ…!!!!」

かすみ「タフですねぇ……!」


テブリムに手を伸ばしてくるが──直後、セキタンザンの身体が、ボゴッと音を立てながら地面に沈み込む。


 「タンザン…!!?」

かすみ「得意の落とし穴トラップですよ!!」
 「クマァッ♪」


ジグザグマがセキタンザンの足元を掘りぬきながら、飛び出してくる。

あの巨体だ。自分の立っている地面の下が空洞になったら、その重さに耐えきれずに、穴に沈み込むは当然のこと。

そして、動けなくなったセキタンザンに向かって──


侑「ドロンチ!! “ドラゴンダイブ”!!」
 「ロンチィ!!!!」

 「タンザンッ!!!?」


セキタンザンに強烈なプレスをかました。

さすがにこの連続攻撃には耐えきれなかったようで、


 「タン、ザン…」


セキタンザンは、ガクリと気絶し、戦闘不能になった。


かすみ「……はぁ……」

侑「あ、危なかったね……」

かすみ「なんですか、あのスピード……見た目に合ってませんよ……」

侑「セキタンザンの特性は“じょうききかん”って言って、みずタイプかほのおタイプの技を受けると、素早さが上昇するんだよ……」

かすみ「な、なるほど……」


“じょうききかん”が発動した時はどうなるかと思ったけど……素早さを逆手に取って、どうにか倒すことが出来た。


かすみ「……そうだ、サニーゴ……すぐにタール、落としてあげるからね……」
 「サ……」


かすみちゃんは、タールでべとべとになったサニーゴの体をバッグから出したタオルで拭い始める。


かすみ「……タオルが一瞬で真っ黒に……」

侑「水で洗い落とした方がいいかな……フィオネ、“みずでっぽう”」
 「フィオー」


ぷしゃーと水を噴きかけ、サニーゴのタールを少しずつ落としていく。
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:11:41.29 ID:/nLmInIK0

かすみ「ありがとうございます……。……それにしても……ここの野生ポケモン……強いですねぇ……」

侑「ホントに……」


やっと尾根まで登り切って、急勾配に苦しめられることがなくなったと思った矢先──野生ポケモンたちが次々と襲い掛かってきて、それの撃退にてんやわんやだ。


かすみ「ここまでで何匹と戦いましたっけ……今戦ったセキタンザン、ボスゴドラ……ニドキング、ドンファン、ハガネール……」

侑「ゴローニャ、ダイノーズ、チャーレムにバクオング……」

かすみ「はぁ……ポケモンたちは“げんきのかけら”で回復できますけどぉ……かすみん、もうさすがに疲れましたぁ……早く帰りたいぃ……」

侑「まあまあ……その成果は出てるからさ」

かすみ「成果……?」


そう言いながら、私はドロンチを見る。

すると、ドロンチは体をぶるぶると震わせていて、次の瞬間──カッと光り輝く。


かすみ「わ!? こ、これって……!」

侑「うん!」
 「──パルト…!!!」

侑「戦って得た経験値で、ドロンチがドラパルトに進化したよ!」
 「パルト♪」

侑「確実に私たちの力にはなってる。だから、この調子で頑張って進もう」

かすみ「……わかりました。弱音吐いてる場合じゃないですもんね……!」


一緒に戦っていたポケモンが目の前で進化するというのは、少なからず、かすみちゃんにやる気と勇気を与えてくれたようだ。


侑「もう尾根も半分くらいまでは歩いてきたと思うからさ。あと半分、頑張って進もう」
 「ブイ」

かすみ「はーい! 頑張ります!」
 「ガゥ」


私たちは真っ赤な夕焼け空の中、再び歩き出す。

日が落ち切る前に、少しでも進んでおかないとね──





    🏹    🏹    🏹





──さて、私が忙しなくコメコからローズへと来たのには、もちろん理由があります。

それは……説明をしなくてはいけない方たちのもとへと訪れたから……。

マンションの一室で、テーブルを4人の大人が囲っていた。

もちろん、1人は私。……そして、もう1人は──真姫です。

並んで座る私たちの向かいには──


菜々父「…………」

菜々母「…………あ、あの……それで、お話とは……」


神妙な面持ちのナカガワ夫妻の姿。特にご主人の方は、何か心当たりがあるのか、重い表情をしているように見てとれた。

──ここは菜々のご実家。菜々のご両親に事情の説明をしに来たということです。
178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:12:28.62 ID:/nLmInIK0

海未「本日は、菜々さんについて……ご説明しなくてはいけないことがあって、参りました」

菜々母「菜々の……?」

海未「結論から言うと、菜々さんは……とある事件に巻き込まれていて……今現在、犯罪組織の人間と一緒にいるそうです……」

菜々母「え……」

真姫「それについて、私から説明させてもらってもいいかしら……」


真姫がそう切り出す。


真姫「まず……菜々が、ポケモントレーナーであることは……ご存じですよね。私がポケモンを持たせたことも……」

菜々父「……はい。存じております」

菜々母「主人から、話は伺っています……菜々はチャンピオンになると言って……飛び出して行ってしまったと……」

真姫「菜々は……焦ってチャンピオンに挑み……敗北したそうです」


真姫は伏し目がちに言いながら、言葉を続ける。


真姫「そして……敗北で弱っているところを……その組織の人間に唆されて……付いていってしまった……」

菜々母「そ、その犯罪組織というのは……」

海未「詳しくは調査中ですが……この地方の平和を脅かす存在なのは間違いありません。……少なくとも、善人ではないです……」

菜々母「そん、な……」


菜々の母親の顔色が一気に青ざめる。


真姫「菜々は……すぐにでも強くなるための力を欲するあまり……より強いポケモンを受け取るのを条件に……その組織の人間に……付いていってしまいました」


真姫の言葉を聞いて、


菜々父「…………私が……あんな言い方をしてしまったからか……」


菜々の父親は顔を両手で覆いながら、肩を落とす。


真姫「今回、このような問題を起こしてしまったのは……私の責任です。ご両親が反対しているのを知っていながら、菜々にポケモンを持たせたのは私ですし……その上で、彼女をしっかりと見てあげられなかった。……本当に申し訳ありません」


真姫は立ち上がり、深々と頭を下げる。


菜々父「…………」

菜々母「……な、菜々は……娘は……どうなるんでしょうか……?」

海未「もちろん……リーグが責任を持って連れ戻します」

菜々母「そう……ですか……」


私の言葉を聞いて、菜々の母親は可哀想なくらい気落ちしているのが一目でわかった。

……一人娘が、悪人たちに付いて行ってしまったなんて聞かされたら当然だろう。

だが、母親以上に──


菜々父「………………」


父親の狼狽振りの方が酷かった。

この事態が起こる直前に、菜々と話をしたというのは真姫から聞いている。

その内容も凡その予想が付いていて……そのときに菜々とした会話が、今回の引き金になったという想いがあるのかもしれない。

あまりの気落ち振りに──
179 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:13:12.09 ID:/nLmInIK0

菜々母「あなた……大丈夫……?」

菜々父「……あ……あぁ……」


ご夫人も心配そうにしている。


菜々母「……顔色が悪いわ……。……あとは、私が話を伺うから……あなたは奥で休んでいて」

菜々父「…………しかし…………」

菜々母「いいから」

海未「ご無理は、なさらないでください……今、体調が優れないのであれば、後日でも大丈夫ですので」

菜々父「…………すみません……。……少し、席を外させてもらいます……」


そう言って、菜々の父親は重い足取りで奥の部屋へと下がっていった。


菜々母「…………主人は……菜々からポケモンを取り上げようとした結果、あの子が飛び出して行ってしまったことを……酷く後悔していました……。……それが、まさかこんな事態にまでなってしまうなんて……」

海未「心中……お察しします」

菜々母「ただ……勘違いはしないで欲しいんです。……主人が菜々からポケモンを遠ざけようとしていたのは、菜々を想ってのことなんです……。あの人は……幼少期にポケモンに襲われて親を失っていて……菜々には同じ想いをして欲しくないと……そう口にしていました……」

真姫「……菜々も同じようなことを言っていたわ」

菜々母「私は……このローズで生まれて、ポケモンとほとんど関わらずに育って、あの人と結婚しました。……私はポケモンと関わらない人生を不幸に思ったことはありませんし……少し、怖い存在だと今でも思っています。だから私も……ポケモンと関わらずに、菜々が幸せになれるのなら、その方がいいと思っていました……。ですが……私たちの、その考えが……ずっと、菜々を苦しめていた……」

真姫「…………」

菜々母「いえ……本当は……菜々がポケモンに興味を持っていることには……ずっと前から気付いていました……。だけど、あの人の主張も理解出来て……菜々がしたいことが出来なくて苦しんでいるとわかっていながら……あの人の意見も正しいからと、そんな風に自分に言い訳して……あの子の気持ちから、目を逸らしていたんです……っ……」


菜々の母親は、目元を押さえながら、そう話す。


菜々母「こんなことになるなら……もっと、話を聞いてあげればよかった……っ……菜々を……見てあげればよかった……っ……。……っ……」


彼女の目から、ぽろぽろと涙が零れる。

私は席を立ち、彼女に近付き、ハンカチを差し出す。


海未「……使ってください」

菜々母「……すみません……っ……」


さめざめと涙を流すナカガワ夫人を見て、


真姫「ごめんなさい……私も……隠れてポケモンを持たせたりせず、もっとご家族と向き合えるようなやり方を……ちゃんと考えてあげるべきでした……。……ごめんなさい」


再び頭を下げる真姫。


菜々母「あ、頭を上げてください……真姫さんは……菜々の夢を……叶えるために、あの子の傍に居てくれたんですよね……」

真姫「……その……つもりだったんだけどね」


真姫も、酷く後悔した顔をしていた。

その胸中は……わざわざ説明する必要もないでしょう。


菜々母「あの……真姫さん……」

真姫「……なんでしょうか……」

菜々母「あの子は……菜々は、ポケモントレーナー……だったんですよね」

真姫「……はい」

菜々母「今からでも、あの子が……その……ポケモントレーナーとして戦う姿を……確認出来るものは……残っていますか……?」

真姫「え……?」
180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:13:56.93 ID:/nLmInIK0

真姫は菜々の母親の言葉に驚いたように目を見開く。


菜々母「私は……私たちは……菜々のことを全然見ていなかった……。……私たちには戦う力がありません。……だから、こんなことになってしまった今、菜々にしてあげられることは何もない、ただ待つことしか出来ない。……だけど……せめて……あの子が心の底から大事に思っていたものを、大好きだと思っていたものを……ちゃんと見ないといけないんじゃないかって……そう思ったんです。今更、遅いのかもしれませんが……」


菜々の母親の言葉に、真姫は、


真姫「……是非、そうしてあげてください……きっと、菜々は両親がそう思ってくれただけで、喜ぶはずだから……」


そう返す。


真姫「海未、ポケモンリーグのバトルビデオ……本部なら残ってるわよね?」

海未「もちろんです。後日、リーグからこちらに送らせていただきます」

菜々母「ありがとうございます……。……あの人にも、一緒に見てもらうようにお願いしてみます……あの子の……大好きなものを……。あの子にとっての……大切なものを……」


菜々の母親の言葉を聞いて、真姫は力強く頷いた。


真姫「あの子は……菜々は、絶対に私たちが連れて帰ります……! だから、待っていてください……!」

菜々母「はい。菜々のこと……どうか、よろしくお願いします……っ……」


菜々の母親は、最後にもう一度、深々と頭を下げて、私たちにそう懇願するのだった。





    🏹    🏹    🏹





ナカガワ宅を後にし、ローズの街を歩く最中、


真姫「……私も……ダメね」


真姫がそう零す。


海未「どうしたんですか、突然」

真姫「……私も人のこと言えないなって……。……菜々のご両親は、絶対に話を聞いてくれるはずないって……勝手に決めつけて、せつ菜のことをずっと隠していた……。……今になって考えてみたら、もっとやりようはあったんじゃないかって……」

海未「気持ちはわかりますが、今言っても仕方ありません……。それに、今私たちにはやるべきことが山積みです。……悔やむのは全てが終わってからにしませんか」

真姫「……そうね。……ごめんなさい」


そうだ。私たちにはやるべきことがたくさんある。


海未「……そういえば、侑とかすみは今どうしているんですか? ローズジム戦には勝利したと報告は受けましたが……」

真姫「今は果南が出した課題をこなすために、カーテンクリフを登っているみたいよ」

海未「それはまた……果南らしい、課題の出し方ですね……」


彼女の教え方は非常に大雑把だ。

一つ一つ問題点を解決するというよりは……とにかく、やらせて伸ばすというか……。

しかも、そのやらせる内容はかなり無茶なことが多い。

確かに、それをこなせれば相応の自信と実力を付けられるものになっているのには間違いないのだが……。


海未「大丈夫でしょうか……」
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:14:39.65 ID:/nLmInIK0

自分が条件を出しておいてなんですが……私は少しだけ、彼女たちが心配になっていた。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「──もう……! あのヨノワールしつこすぎでしたよ!」
 「ガゥゥ…」

侑「あはは……そうだね……」
 「ブイ」


日もとっぷり暮れて……朝からずっと動き続けていた私たちは、さすがにくたくた……今日はここら辺で休もうという話になったんだけど……。

そんな中でも、お構いなしに襲ってくる野生ポケモンをどうにか撃退したところだ。


侑「とにかく、テント張っちゃおうか」

かすみ「はいぃ……もう、さすがに休まないと死んじゃいますぅ〜……」


二人掛かりで、テントを張ろうとして──


侑「……ん?」


ペグを打とうとしたら──地面にすでにペグを打ったような穴があることに気付く。


かすみ「どうかしたんですか、侑先輩?」

侑「あ、いや……すでにペグを打ったみたいな穴があってさ……」

かすみ「もともとあったってことですか?」

侑「うん……」


周りをよく見てみると──焚火跡のようなものもある。

……せっかくだし、使わせてもらおうと思うけど……。


かすみ「ここで野宿でもしてる人がいたんですかね……?」


ここで野宿する人なんているのかな……? なんて思ったけど、


侑・かすみ「「……あ」」


かすみちゃんと同時に思い出す。


侑「……せつ菜ちゃんだ」
かすみ「……せつ菜先輩です」

侑「考えてみれば……ここでの修行って、せつ菜ちゃんもしてたことなんだ……」

かすみ「確かに、強い野生ポケモンもたくさんいますし……ここに籠もるのってもしかして、すっごく効率がいいんですかね?」

侑「かもしれないね」


やっぱり、果南さんはチャンピオンなだけあって、用意してくれたの課題は適切なのかもしれない。道具だけ渡して行ってこいって言うのは、大分スパルタだとは思うけど……。

そんなことを考えていると──くぅぅぅ〜〜……と可愛らしい音が聞こえてくる。


かすみ「ぅぅ……お、お腹なっちゃいましたぁ……///」

侑「……ふふ、早くテント張って、ご飯食べよっか」
182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:15:17.54 ID:/nLmInIK0

私たちは一刻も早く空腹を満たすためにも、野営の準備に取り掛かるのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「……ねぇ、かすみちゃん」

かすみ「なんですか?」


お湯を入れるだけで作れるポタージュを飲みながら、かすみちゃんが小首を傾げる。


侑「強い人って……どんなこと考えてるか、わかる……?」

かすみ「んー? ……うーん……もっと強くなるぞーとか? ……正直、よくわかんないですね」

侑「あはは、そうだよね。私も……よくわかんない……。……わかって、あげられなかった……」

かすみ「……もしかして、せつ菜先輩に言われたこと……気にしてるんですか……?」

侑「うん……ちょっとね……」


遺跡でせつ菜ちゃん言われたこと──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──


侑「せつ菜ちゃん……すごく苦しそうだった……。……だから、ずっと考えてたんだ……だけど、わからなかった……」

かすみ「……せつ菜先輩って……菜々先輩なんですよね」

侑「……みたいだね。……会議でその話を聞いたときは、びっくりした……」

かすみ「かすみんもです……。でも、菜々先輩がせつ菜先輩だったってことは……かすみんたちには想像出来ないくらい、大変なことがあったんじゃないかなって思うんです……」

侑「……そうだね」


親に旅立ちを許してもらえなかった菜々さんが……せつ菜ちゃんとして、この地方のチャンピオンに迫る実力を得るまでに、一体どれだけの苦労と、苦悩があったのか……私には想像も出来ない。


かすみ「かすみんたちは……選ばれて、図鑑も、最初のポケモンも貰って旅に出れましたけど……せつ菜先輩が実は菜々先輩だったって知った途端……せつ菜先輩にとって、かすみんたちってすっごく恵まれた人たちに見えてたんじゃないかなって思うようになりました……」

侑「……うん」


私たちはなんとなく、最初のパートナーに目を向ける。


 「ブイ…?」
 「カイン」


私のイーブイに関しては、博士に貰ったポケモンではないけど……。


かすみ「たぶん……そういう羨ましいー! って気持ちとか、なんであの人は貰ってるのにー! って気持ちが一度出てきちゃうと、悔しくて悔しくて、仕方なくなっちゃうんじゃないかなって……少なくともかすみんが同じ立場だったら、すっごく悔しいです」


今考えてみればだけど……その悔しさみたいなものは、せつ菜ちゃんの手持ちにも反映されていた。


侑「……せつ菜ちゃんが手持ちを5匹しか持ってなかったのは……そういうことだよね……」


せつ菜ちゃんにとって……最後の1匹──いや、最初の1匹は……ヨハネ博士から貰うはずのポケモンだったんだ。
183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:16:46.16 ID:/nLmInIK0

かすみ「だから……せつ菜先輩がかすみんや侑先輩に八つ当たりしちゃう気持ち……かすみんはわかる気がします。……もちろん、果林先輩が余計なことを言ったんだとは思いますけどね!」

侑「うん……」

かすみ「結局、かすみんたちはせつ菜先輩が欲しかったものをすでに持ってるわけですから……せつ菜先輩がどう辛かったか〜とか、悔しかったか〜とか、そういう気持ちって、想像する以上のことは出来ないと思うんですよ」

侑「……まあ……そうだよね」

かすみ「だから、どっちかと言うとせつ菜先輩自信の問題だと思います。侑先輩、すっごく優しいから気になっちゃうんでしょうけど……侑先輩が悩んじゃうくらいなら、気にしなくてもいいんじゃないかなって」

侑「……ありがとう、かすみちゃん。……話したら、ちょっとすっきりした」

かすみ「なら、よかったです♪」


かすみちゃんは、ニコニコ笑いながら言う。


かすみ「じゃあ、今度はかすみんから侑先輩に聞いてもいいですか?」

侑「ん、なにかな」

かすみ「侑先輩は……どんなトレーナーになりたいですか?」

侑「どんなトレーナー……うーん……」


改めて聞かれると悩んでしまう。


かすみ「きっとせつ菜先輩には明確に、そういうものがあったのかな〜って……だから、そういうのを考えていったら、意外とわかったりして」

侑「……確かに……うーん……でも、なんだろう……。……かすみちゃんは?」

かすみ「かすみんはポケモンマスターになりたいって思って、ずっと旅してますよ!」

侑「ポケモンマスターかぁ……」


かすみちゃんらしいけど、ちょっと抽象的だなぁ……。


侑「具体的には……?」

かすみ「具体的……? うーんと……可愛くて強いトレーナーです! あと、誰にも負けないトレーナーになりたいです!」

侑「可愛くて強くて、誰にも負けないトレーナー……なんか、それもかすみちゃんらしいね」

かすみ「はい! 自分でもかすみんらしいと思います! それで、侑先輩はどうですか?」

侑「私は……」


考えてみる。私はどんなトレーナーになりたいのかな……。

未来の自分を想像してみる。

強くはなりたい……強いトレーナーになって……。

……チャンピオンになる……? うーん……なんか違う……。もちろんなれたら嬉しいけど……私がポケモンたちと一緒に目指したいのってそういうことじゃない気がする……。

じゃあ、ジムリーダーとか、四天王になる……? それもなんだかしっくりこない。

……なら、どうして強くなるんだろう。

強くなって……何をするんだろう。

そのとき、ふと……頭に浮かんできたのは……。


侑「……歩夢……」


──歩夢の顔だった。


侑「……そっか。わかった……私……大切な人を守れるトレーナーになりたいんだ」


私の旅は、いつだって歩夢と一緒にあった。歩夢がいなくなってしまって、より一層強く思った。私は……歩夢を守れるトレーナーでありたい。
184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:17:31.28 ID:/nLmInIK0

かすみ「……素敵です、侑先輩らしいですね♪」

侑「歩夢だけじゃない……かすみちゃんも、しずくちゃんも、リナちゃんも……せつ菜ちゃんも。私が大切って思った人たち、みんなを守れる強いトレーナーになりたい」

かすみ「じゃあ、お互い強くならないといけませんね! まあ、かすみんは守ってもらわなくても大丈夫なくらい強くなっちゃうんですけど♪」

侑「ふふ、頼もしいね♪ じゃあ、私はかすみちゃんに守ってもらっちゃおうかなぁ……」

かすみ「任せてください! 最強の可愛い強いトレーナーはそれくらい出来て当然ですから!」

侑「ふふ、期待してるよ♪」


そして、そんな風になるためにも──私たちはこの修行を乗り越えないといけない。

私たちの……未来を守るためにも。


かすみ「……ふぁぁ……」

侑「かすみちゃん、眠い?」

かすみ「はい……ご飯食べたら……急に眠くなってきました……」

侑「明日も朝早いだろうから……今日はもう寝ちゃおっか」

かすみ「はい……」


私はテントの中に、果南さんからもらった鈴を取り付ける。

野生ポケモンがテントに触れたら、鈴が鳴って報せてくれるようにするものらしい。

大きなテントではないので、ポケモンたちをボールに戻して……。

と、思ったら、


 「カイン」「…ライボ」


ジュカインとライボルトは私たちがボールを向けると首を振る。


かすみ「ジュカイン……もしかして、見張りしてくれるの?」
 「カイン」

侑「ありがとう、ライボルト。でも明日もあるから、せめてジュカインと交替で休んでね」
 「…ライボ」


2匹にお願いして、私たちはテントの中に入る。


 「──ガゥ♪」
かすみ「……って、ボールから出てきちゃダメじゃないですか……。仕方ないなぁ……一緒に寝よっか、ゾロア」
 「ガゥ♪」

侑「ふふ、それじゃ寝ようか。イーブイ、おいで」
 「ブイ♪」


こうして、私たちの修行1日目は終わりを迎えるのだった。





    🍭    🍭    🍭





──時刻は夜です。ルビィは今、夜のローズシティにいます。

なんでこんなところにいるかというと……。


理亞「ルビィ、こっち」

ルビィ「うん」
185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:18:52.81 ID:/nLmInIK0

理亞ちゃんにローズの病院に来て欲しいと言われたからです。

お互いジムリーダーなので、海未さんに許可を取って……少しの間、四天王さんたちの守る範囲を広げてもらっています。


ルビィ「それにしても……理亞ちゃん、急にどうしたの……?」

理亞「……ルビィには、知っておいて欲しいと思って」

ルビィ「……?」


そう言って前を歩く理亞ちゃんは──案の定、聖良さんの部屋に向かっていた。


理亞「──ねえさま。ルビィを連れてきたよ」

ルビィ「お、お邪魔しま──……え……?」


私はベッドに横たわる聖良さんを見て、びっくりする。

聖良さんの目が開いている。


理亞「ねえさま、意識が戻ったんだ。……だけど、心がないんだって」

ルビィ「……心が……ない……?」


確かに、聖良さんは目こそ開けているものの……なんというか、人間味のようなものが感じられない。無表情って言うのかな……?


理亞「やぶれた世界に行ったって言うのもあって……心だけが……どこかに行っちゃったって……」

ルビィ「…………」


確かにありえない話じゃないと思った。

聖良さんはディアンシーの怒りを受けた。……それが理由で、心を──魂を奪われてしまったのだとしたら……。


理亞「ただ……会議で話を聞いていて……思ったの。もしかしたら、ねえさまの魂は──ピンクダイヤモンドに閉じ込められてるんじゃないかって」


宝石には人の魂が宿ることがある。お姉ちゃんが言っていたことです。

お姉ちゃんは迷信レベルの話だから、本気にされてもと困っていたけど……ルビィは正直、迷信だとは思っていなかった。

何故なら……私の心は、コランに宿っていた気がするから。

守りたいって気持ちが一番強くなったときに、コランと共鳴して──私の心に住んでいたグラードンが出てきてくれた。

だから、ここまで聞いて、理亞ちゃんの言いたいことはなんとなく理解出来た。


ルビィ「……ディアンシー様に、会いたいんだね」

理亞「……! ……うん」


理亞ちゃんは頷くと、私の前で跪いた。


理亞「……クロサワの巫女様。……私を……ディアンシー様と会わせてください」

ルビィ「……理亞ちゃん、顔を上げて」

理亞「…………」


理亞ちゃんがゆっくりと顔を上げる。


ルビィ「前にした約束……覚えてる?」


約束──それは、やぶれた世界で戦ったときのこと。
186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:19:49.46 ID:/nLmInIK0

理亞「ディアンシー様に、クロサワの巫女様に……認めてもらえるよう努力するって話だよね……」

ルビィ「うん。ルビィ、ずっと理亞ちゃんのこと見てたよ」


理亞ちゃんにとって、この3年間は大変なことの連続だったと思う。

その頑張りは、ちゃんと成果に出ていて──今では町の人にも慕われるジムリーダーになった。


ルビィ「クロサワの巫女として……今の理亞ちゃんなら、ディアンシー様と引き合わせても、大丈夫だと思えるよ」

理亞「ルビィ……! それじゃあ……!」

ルビィ「うん! 一緒に、やぶれた世界に行こう! それで、ディアンシー様に聖良さんの魂を返してもらえるようにお願いしよう♪」

理亞「……うん!」


バイタルサインの響く、聖良さんの病室で……。

3年前の約束を守るために、ルビィは──クロサワの巫女として、成長した理亞ちゃんと共に、ディアンシー様のもとへ行くことを決意したのでした。





    🎹    🎹    🎹





──翌日。


侑「はぁ……はぁ……」

かすみ「やっと……ですね……」


朝から野生のポケモンたちと戦いながら歩き続けて──やっと到着した。


侑「遺跡の……階段……!」

かすみ「はい! あとは階段を登るのみです!!」


でも、もう日が沈み始めている……つまり2日目の夜になろうとしているということだ。

私たちはここまでに2日掛かっているわけだけど……まだ帰りがある。

このままだと帰りは倍の速度で進まなくちゃいけないことになる。


侑「時間がない……急ごう」
 「イブイ!!」

かすみ「はい!」
 「ガゥ!!」


私はかすみちゃんと一緒に、遺跡の長い長い階段を登り始めた。



187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:21:47.67 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





──大急ぎで階段を登ると……。


かすみ「……いや、雑過ぎませんか……?」
 「ガゥゥ…」

侑「あ、あはは……」
 「ブィィ…」


登りきったところに……いかにもな宝箱が置いてあった。

大きさは長辺が30pくらいの小脇に抱えて持ち運ぶのがちょうどいいかなというサイズのものだった。


侑「まあ……わかりやすくしてあるって言ってたし……」

かすみ「だとしてもですよ……」


なんとなくわかっていたけど……果南さんは相当大雑把な人らしい……。


かすみ「まあ……さっさと開けて中身回収しちゃいましょう……」


かすみちゃんが開けようとするも、


かすみ「あ、あれ……? 開かない……」


箱はウンともスンとも言わなかった。


かすみ「んぎぎ……!! な、なんですか、これぇ!? 鍵でもかかってるんですか!?」

侑「あ……そうだ……鍵貰ったじゃん」

かすみ「……そういえば、貰ってましたね」


果南さんにもらった小箱だ。

到着したら箱から出すように言われていたものだ。

バッグから小箱を取り出し──中身を確認しようとした、そのとき、


かすみ「……!? 侑先輩!! 危ない!!」

侑「えっ!?」
 「イブィ!!?」


急にかすみちゃんが飛び付いてきて、私は尻餅をつく。

直後、今さっきまで私の頭があった場所を──輝くレーザーが迸る。


侑「……!! 野生のポケモン……!! ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」

私はライボルトをボールから出しながら、すぐさま身を起こし、


かすみ「わっ!?」


かすみちゃんの手を引いて走り出す。

そして、走り出した瞬間に今私たちが転んでいた場所に、先ほどと同じレーザーが飛んできて床を焼く。

走りながら、レーザーを撃ってきたポケモンの方に顔を向けると──
188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:22:19.49 ID:/nLmInIK0

 「ジュラル」

侑「……! ジュラルドン!!」


ごうきんポケモンのジュラルドンが、こちらに向かって光を集束させているのが確認出来た。

さっきのレーザーと同じ技──


侑「“ラスターカノン”だ……!! ライボルト!! “チャージビーム”!!」
 「ライィィーーボォッ!!!!!」

 「ジュラルドンッ!!!!」


ライボルトの“チャージビーム”とジュラルドンの“ラスターカノン”が真正面から衝突し、逃げ場を失ったエネルギーが爆発して、砂塵を巻き上げる。


かすみ「ゆ、侑先輩ぃ!! 宝箱から離れて行ってますよぉ〜!」
 「ガゥガゥゥ…!!!!」

侑「わかってるけど……! ゆっくり開けてたら狙い撃ちにされちゃうよ!」
 「ブ、ブイ」


とにかく狙い撃ちにされないように、私たちは走り回る。


かすみ「ゆ、侑先輩! あそこに!」


かすみちゃんが指差す先は──遺跡に立っている柱だ。


侑「うん……!!」


とりあえず、影に隠れようと、後ろに回ると──


 「オノ…」

侑・かすみ「「!?」」


先客が居た。


 「オノッ!!!!」

かすみ「……ジュカインっ!!」
 「──カインッ!!!」


大きな顎で襲い掛かってくるポケモンを、飛び出したジュカインが両腕の刃で対抗する。

この鋭いアゴを持ったポケモンは──


侑「オノノクス……!」

かすみ「あーもう!! ダンジョンのボスってわけですか!? 侑先輩……!! こっちはかすみんたちがどうにかします!! 侑先輩はジュラルドンを!!」

侑「わかった……!!」


私はジュラルドンに向かって走り出す。


 「ジュラル!!!」


ジュラルドンが再び“ラスターカノン”を放ってくるが、


侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ライィィボォォォォ!!!!!」


迸る電撃が、それを相殺する。
189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:22:52.97 ID:/nLmInIK0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが電撃を発し……ジュラルドンを捉えるが──


 「ジュラル…」


ジュラルドンはノーリアクション。


侑「き、効いてない……!」


相手は、はがね・ドラゴンタイプ。

でんきタイプの技じゃ、効果が薄い。

なら……!


侑「“めらめらバーン”!!」
 「イッブィッ!!!!」


イーブイが全身に炎を纏って、ジュラルドンに向かって駆けだす。

一気に肉薄し、


侑「いっけぇ!!」

 「ブーーィッ!!!!」


イーブイの炎の突進が炸裂したが──ガァンッ! という硬い音と共に、


 「ブイッ!!!?」


イーブイが弾き返される。


侑「“てっぺき”!?」


さらに──ジュラルドンから、耳障りな音が周囲に向かって発せられる。


侑「……っ゛!? ……き、“きんぞくおん”……っ……!」


そのうえ、ジュラルドンは見た目からは想像出来ないような素早いフットワークで、今しがた弾き飛ばしたイーブイに近付き──大きな尻尾を振るって叩きつける。


 「ブィィィッ…!!!」

侑「イーブイ……!! 今度は“ワイドブレイカー”……!」


“びりびりエレキ”で“まひ”しているはずなのに、この速さ……相手のレベルの高さが一目でわかる。

このジュラルドン……強い……!

……でも……前なら焦っていたけど──


侑「修行の最後の敵に相応しいじゃん!」


今は不思議と、戦意が高揚していた。


侑「イーブイ!! “こちこちフロスト”!!」

 「イーーブィッ!!!!」


黒い冷気が纏わりつくようにして──ジュラルドンの足元を凍り付かせていく。
190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:23:29.05 ID:/nLmInIK0

 「ジュラル」


ジュラルドンは体を振るって氷を破壊するけど──その隙を突いて、


侑「ライボルト! “かえんほうしゃ”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトと一緒に走りながら、“かえんほうしゃ”で攻撃する。


 「ジュラル」


が、ジュラルドンは火炎の中でも怯まず、


 「ジュラーールッ!!!!!」


“りゅうのはどう”をこっちに向けて発射してくる。


侑「……っ!」


私は咄嗟にライボルトの背を掴み──それと同時に、


 「ライボッ!!!」


ライボルトが脚の筋肉を電気で刺激し、猛加速して、“りゅうのはどう”をすんでのところで躱す。

攻撃はどうにか捌けてる……だけど、相手を倒す決定打が足りない……。


侑「……どうにか、打開策を考えないと……!」





    👑    👑    👑





かすみ「──“りゅうのはどう”!!」
 「ジューーカインッ!!!!」


相手の鋭い顎を刃で受けながら、口から“りゅうのはどう”を相手の顔面に向かってぶっ放してやります!


 「オノノクッ…!!!」


さすがに至近距離からのドラゴンタイプの攻撃は、相手を怯ませましたが、


 「オノッ!!!」


怯んだのは一瞬だけで──後ろに半歩引く反動をそのまま、身体を捻る動作に変換して、太い尻尾を真横からジュカインに叩きつけてくる。


 「カインッ!!!?」


ジュカインは、尻尾の一撃を食らい遺跡の石畳の上を吹っ飛んでいく。


かすみ「い、今の“アイアンテール”!? ジュカイン、大丈夫!?」

 「カ、カインッ!!!」
191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:24:02.88 ID:/nLmInIK0

駆け寄りながら、声を掛けると、ジュカインはすぐに受け身を取って立ち上がる。

だけど、受け身を取って立ち上がった直後のジュカインに向かって──大量のウロコが飛んできた。“スケイルショット”です……!


かすみ「“タネばくだん”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインは体を大きく捻って、背中の丸いタネを飛ばすと──それがドォンッドォンッ!! と音を立てながら爆発して、“スケイルショット”を相殺する。

やっとの思いで、かすみんがジュカインのもとにたどり着くと同時に、


 「オノォッ!!!!」


“タネばくだん”によって発生した爆煙の中から、オノノクスが鋭い顎を構えて、飛び出してきた。


 「カインッ!!!」


ジュカインはそれを再び両腕の刃で受け止める。

──けど、今度は相手が速かった。

受け止めたと同時に、オノノクスの口から“りゅうのはどう”が発射され、


 「カインッ…!!?」


ジュカインの頭部に直撃する。


かすみ「ジュカイン!? っ……! ゾロア、“ナイトバースト”!!」
 「ガーーーゥゥ!!!」

 「オノッ…!!」


咄嗟に至近距離で“ナイトバースト”を顔面にぶちかます。

相手は倒れる気配こそ全然ないものの、顔面を暗闇に包まれて、一瞬かすみんたちのことを見失う。


かすみ「ジュカイン、平気!?」
 「カインッ…」


声を掛けると、ジュカインはすぐに立ち上がる。

どうやら、致命傷にはなっていないようで安心する。


かすみ「……ぐぬぬ、お昼だったら、“ソーラーブレード”が使えるのに……!」


辺りはすっかり日が落ちきって、もう夜の時間帯になってしまった。

こうなると、ソーラー系の技はほとんど使えないと考えた方がいい。

あの技がないと、決定打に欠ける……。


かすみ「どうにかして……一発、大きいのを決めないと……!」
 「カインッ…!!」



192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:24:33.33 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト!! “エレキフィールド”!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトの背に乗り、走り回りながら、“エレキフィールド”を展開する。

相手に捉えられないように、周囲を旋回しながら、


侑「“かみなり”!!」
 「ライボッ!!!!」


空に展開した、雷雲から“かみなり”を落とす。


 「ジュ、ラルッ…」

侑「よし……! 効いてる……!」


相性は悪いけど、“エレキフィールド”による強化からの大技。

多少はダメージが通り始めた。

畳みかけるように“かみなり”を指示しようとした瞬間──


 「ジュラァァァーーールッ!!!!!」

侑「!?」
 「ライボッ!!?」


ジュラルドンが、雄叫びをあげながら、こちらに向かって猛スピードで転がってきた。

しかも、ジュラルドンが転がった道は──電気を帯びたフィールドが解除されていた。

あれは……“ハードローラー”……!?

突然のことに、咄嗟に対応出来ず、


 「ライボォッ…!!!」
侑「うわぁっ!!?」


ライボルトもろとも吹っ飛ばされる。

その拍子に──戦闘が始まると同時にポケットにねじ込んだ、鍵の入った小箱が宙を舞う。


侑「しまっ……!?」


そのまま、私の身体は硬い石畳に叩きつけられ── 一瞬、息が止まる。


侑「……が……ぐ……っ……ぅぅ……!」


でも、気合いですぐに顔を上げる。──今、下を向くな……! トレーナーは常に状況判断を優先するんだ……!

視界の先に、宙を舞う小箱──それに向かって、いち早く気付いて飛び出したのは、


 「ブィィ!!!!」

侑「イーブイ……!!」


イーブイがそれを空中で咥えてキャッチする。……がそれと同時に──キィィィンッと音を発しながら、“ラスターカノン”がイーブイを貫いた。


 「ブ、ィィィィィッ…!!!!」

侑「イーブイ……!!」
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:20.61 ID:/nLmInIK0

“ラスターカノン”が直撃し、吹き飛ばされるイーブイ。

私は身を起こし、無我夢中でイーブイの方へと走り出し、


侑「イーブイ!!」


ヘッドスライディングの要領で飛び付き、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ、大丈夫!?」
 「ブィィィ…」


イーブイは力なく鳴くと──顔を少し上げ、口に咥えた小箱を私に見せる。

小箱は“ラスターカノン”に焼かれ、ぼろぼろになってしまったけど……原型はしっかりと保っている。


侑「イーブイ……偉いよ、ありがとう……」
 「ブィ…」


私がぎゅっと抱きしめると、その拍子に焼かれて脆くなった小箱から──小さなバングルが零れ落ちた。

小さな……丸い宝石のような珠が嵌まった……バングル。


侑「……これは」


それは──前に見たことがあった。

これは……。


侑「せつ菜ちゃんが……着けてたものと同じだ……」


──そのとき突然、後襟辺りを何かに引っ張られる。


侑「わぁ!?」
 「ライボッ!!!!」


それはライボルトだった。ライボルトが無理やり私を背に乗せ、猛スピードで駆け抜ける。

直後、私の居た場所に“ラスターカノン”が迸った。


侑「あ、ありがとうライボルト……!」
 「ライボッ!!!」


あそこでぼんやりしていたら、今頃丸焦げだった。

それにしても……この小箱に入っていたバングル。

──果南さんはこれを鍵だと言っていた。

そして、宝箱の中に入っているアイテムは──私たち以外が持っていても意味のないもの、とも。

つまり、あの宝箱には……この鍵──キーと私たちしか持っていない何かに対応するアイテムが入っている。

そんなモノ──入っているのはアレ以外ありえない……!!


侑「ライボルト!! 宝箱だ!!」
 「ライボッ!!!!」


ライボルトは私の指示を受けると、脚の筋肉を刺激し、稲妻のような軌道を描きながら猛加速する。

稲妻の速度でたどり着いた、宝箱の前で──バングルを腕に嵌めると、それに反応したかのように、宝箱がその口を開いた。

私は中にあった、2つの珠を掴み── 一つは、


侑「ライボルト!!」
 「ライボッ!!!」
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:25:57.05 ID:/nLmInIK0

ライボルトに咥えさせ──もう一つは、


侑「かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」


かすみちゃんに向かって、投げ渡した。





    👑    👑    👑





──膠着した状態の中、


侑「──かすみちゃん!!!! 受け取って!!!」

かすみ「へっ!?」


侑先輩の声がして、振り向くと──何か丸い物がかすみんに向かって飛んできていた。


かすみ「わぁぁぁ!?」


突然のことに驚きながらも、どうにかキャッチする。


かすみ「へ、これ、何……!?」


それは──不思議な色で輝く珠だった。

……あれ、この珠……似たのをどこかで見たこと……あるような……。


かすみ「……! そうだ!」


オハラ研究所で──しず子が貰っていた珠だ……!

つまり、これは──


かすみ「どうりで、かすみんたち以外が持ってても意味ないなんて言うわけですね!! ジュカイン!!」


かすみんはジュカインに向かって、その珠をパスする。


 「カインッ!!!!」


ジュカインがそれをキャッチしたのを確認すると同時に──腕に付けた“メガブレスレット”を前方に構えた。


かすみ「行きますよ、ジュカイン──メガシンカ!!」
 「カインッ!!!!!」


かすみんの掛け声と共に──“メガブレスレット”についた“キーストーン”が光り輝き、それに呼応してジュカインも光に包まれる。

光の中から現れたジュカインは──全身のシルエットがより鋭利に、胸には大きなX字状に広がる草のアーマーを身に着け、もともと大きかった尻尾はさらに大きく成長する。背中に付いていた黄色い実も、数が増え、尻尾の根本部分まで連なっている。


 「ジュ、カィィィンンッ!!!!!!」


これが、ジュカインの新しい姿……!


 「オノノォッ!!!!!」
195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:26:30.16 ID:/nLmInIK0

そんなメガジュカインに向かって、オノノクスが顎を構えて突っ込んできた。

──そのまま、鋭利な顎で噛みついてきたけど、


 「カィィンッ!!!!」


ジュカインはまたしても、オノノクスの攻撃を腕の刃で受け止め──そのまま、腕力でオノノクスを持ち上げる。


 「オ、ノノクッ!!!?」


急なことに驚いたオノノクスは顎を広げてジュカインから離れようとしたけど──ジュカインは逆に腕を広げ、オノノクスの顎を両刃で突っ張るようにして、さらに高く持ち上げる。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」
 「ジューーーカイィィンッ!!!!!!」


持ち上げたオノノクスの胸部に向かって──口から発射した、ドラゴンの波動を至近距離からブチ当てる。


 「オ、ノノォッ…!!!!」


苦悶の鳴き声をあげながら、波動の勢いで上方に向かって吹っ飛ばされるオノノクス。

ジュカインはくるりと背中を向け──大きな大きな尻尾の先端を宙を舞うオノノクスに向ける。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


かすみんの指示と共に、尻尾に一番近い場所にある実が破裂──その反動で尻尾が回転し、草の旋風を巻き起こしながら、ミサイルのように飛んで行って、


 「ノォクスッ…!!!!!?」


オノノクスに直撃した──だけでは留まらず、オノノクス巻き込んだまま……遺跡の外まで吹き飛んでいった。


かすみ「す、すご……」
 「カァインッ!!!」


気付けば、今しがた飛ばしたばかりのジュカインの尻尾は、また生え変わっていた。

どうやら、再生力もすごいらしいです……。


かすみ「これがメガシンカの力……」
 「カァインッ!!!」

かすみ「えへへ、すごいじゃないですか、ジュカイン!」
 「カァインッ!!!!」


ただでさえ強かったジュカインが、さらに強くなっちゃいましたよ……!


かすみ「そうだ、侑先輩たちは……!」


パワーアップを喜ぶのも束の間、かすみんは侑先輩たちの戦局へと目を向けます──



196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:27:39.15 ID:/nLmInIK0

    🎹    🎹    🎹





侑「ライボルト、行くよ……!! メガシンカ!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが眩い光に包まれる。

その光の中から、現れた姿は──全身の体毛が大きく成長し、まるで稲妻を身に纏っているかのようなフォルムに。

それと同時に全身から、バチバチとスパークを爆ぜながら、


 「ライボォォォォォッ!!!!!」


“いかく”するように、雄叫びをあげる。

それと同時に、私は全身の毛が逆立つのがわかった。

空間一帯にとてつもない量の静電気が発生して、私の全身の毛を逆立ててるんだ……!

直後──


 「ライボォォォォッ!!!!!」


まさに文字通り、目にも止まらぬスピードでメガライボルトが走り出す。

メガライボルトが走り抜けた通り道はあまりの速さに、摩擦で床が赤熱し、稲妻のようなシルエットを浮かばせる。

と、同時にメガライボルトの通った空気が──雷轟のようにゴロゴロと大きな音を立てる。

まるで、ライボルト自身が雷そのものになったようだった。


 「ジュラル…!!!?」


ジュラルドンが、メガライボルトのあまりのスピードに、何が起こったか理解出来ずにいる間に、


 「ライボッ…!!!」


ライボルトはジュラルドンに肉薄していた。


 「ジュラルッ…!!!?」


そして、自身に向かって── 一斉に周囲のでんきエネルギーを集束させる。


侑「──“かみなり”!!!」

 「ライボォォォォォッ!!!!!!!」


──もはやそれは、見慣れた枝分かれする稲妻のような形ではなく……光と熱と音を伴った、大きな電撃の柱のようだった。

至近に落ちた雷柱が周囲の空気を震わせ、雷轟が劈く。


侑「……っ!?」


私は咄嗟に耳を塞いだけど、それでも鼓膜どころか──雷轟が全身を震わせるような衝撃を伴っていた。

衝撃がやっと止んだかと思って、耳を塞いでいた手を離すと──周囲の山から、やまびこのように響く雷轟が私の耳に何度も届いてくる。

そして──そんなとんでもない威力の“かみなり”の直撃を受けたジュラルドンは……、


 「…………」


真っ黒焦げになって、完全に沈黙していた。
197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:15.64 ID:/nLmInIK0

侑「す、すごい……。……すごいよ、ライボルト!!」

 「ライボッ!!!!」


私はライボルトに向かって、駆け出し、


かすみ「──すごいすごいじゃないですよっ!!?」

侑「わぁっ!!?」


と思った瞬間──かすみちゃんが、ものすごい剣幕で私に詰め寄ってきた。


かすみ「ライボルトの“かみなり”の一部がジュカインの尻尾に吸い寄せられてきたんですよ!! 目の前がものっすごい光に包まれて、とんでもない音が目の前でして、かすみんしばらく耳キーンってなっちゃったんですからね!? というか普通に死んだかと思いましたよ!!!」


め、めちゃくちゃ怒ってる……。


侑「え、えーっと……メガジュカインの特性が“ひらいしん”だからじゃないかな……あ、あはは……」

かすみ「知ってるなら!!!! 技を選んでくださいよ!!!!?」

侑「ご、ごめんって!! 私もメガライボルトのパワーがこんなにすごいなんて知らなくて……」

かすみ「うぅ……かすみんも、メガジュカインのパワーには驚いたからわかりますけどぉ……」

 「ライボ…」


気付けばライボルトが、私のもとに歩み寄ってきていた。

戦闘が終わったからか、姿はすっかりもとのライボルトに戻っていて、口に“メガストーン”を咥えていた。

かすみちゃんがあまりに怒っているからか、少々困惑気味だけど……。


かすみ「はぁ……。……まあ……この際、勝てたから、もういいですぅ……」

侑「あはは……つ、次から気を付けるね」
 「ライボ…」

かすみ「是非そうしてください……」


あまりにパワーが強すぎるから、ちゃんとメガシンカを上手に扱えるようにならないとね……。

なにはともあれ──


侑「これで目標達成だね!」

かすみ「……はい! あとは下山するだけです!」

侑「よし、それじゃ、帰ろっか!」

かすみ「はい! 全速力で戻りましょう!」


私たちは無事、果南さんの用意してくれたアイテム──“メガストーン”を手に入れて……。下山を開始するのだった。



198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:28:54.94 ID:/nLmInIK0

    🐏    🐏    🐏





リナ『侑さんたち……まだ降りてこない……』 || 𝅝• _ • ||

彼方「……そうだねー……」

果南「ん……」


──今日で、侑ちゃんたちがカーテンクリフを登りに行って……3日目だ。

そして、もう日も落ちてしまった。

つまり……タイムリミットの3日目の夜ということだ。

夜になってしまうと、山の中で動くのは難しくなる……。


リナ『やっぱり……カーテンクリフ往復を3日でこなすのはまだ早かったんじゃ……』 || 𝅝• _ • ||

果南「……いや、そうでもないみたいだよ」

彼方「……え?」


果南ちゃんがそう言って指差す先には──灯りを持った、二つの人影が見えた。





    🎹    🎹    🎹





侑「おーい!! リナちゃーん!! 彼方さーん!! 果南さーん!!」
 「イブィ♪」

かすみ「かすみんの凱旋ですよ〜!! おいしいご飯作ってくれましたか〜!?」


かすみちゃんが大きな声で訊ねると、


リナ『──侑さーん!! かすみちゃーん!! おかえりなさーい!!』 ||,,> ◡ <,,||

彼方「──とびっきりのご馳走作って待ってたよー!! 早く降りておいでー!!」


と、大きな声で返事をしてくれた。


かすみ「……へへ、かすみんたち、間に合いましたね♪」

侑「1日で戻るのは……かなりきつかったけど、どうにかなったね……」

かすみ「それじゃ、彼方先輩のご馳走フルコースが冷めないうちに、早く行きましょう♪」

侑「うん!」


──私たちはみんなのもとへ帰るために、ローズシティへと降りていくのでした。



199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/21(水) 15:29:27.99 ID:/nLmInIK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
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  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
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  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.70 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.69 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.69 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.61 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.64 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.55 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.71 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロア♀ Lv.63 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      ジグザグマ♀ Lv.63 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニーゴ♀ Lv.61 特性:のろわれボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ヤブクロン♀✨ Lv.60 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      テブリム♀ Lv.65 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 7個 図鑑 見つけた数:204匹 捕まえた数:9匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:39:54.48 ID:tTvUwYyF0

 ■Intermission🎙



──ウルトラディープシーを訪れて……丸一日が経った。

崖下に降りると……。


歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


ウツロイドが頭に寄生した状態で──歩夢さんが地面にぐったりとして、横たわっていた。


せつ菜「…………」


あまりにむごすぎる光景に、目を逸らしたくなるが……。


しずく「……歩夢さん……」


しずくさんは、ウツロイドが彼女の頭の上に取りついているにも関わらず……歩夢さんを抱き起こす。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、頬を寄せ、彼女を抱きしめる。……まるで、病床に伏せる親しい友人を憂うような……。

──今の彼女の情緒は、全く理解が出来ない。

自分で突き落としておいて、いざ倒れている歩夢さんを見て、憂うような行動を取るなんて……。

彼女は、言うまでもなく……もうすでに……狂ってしまっている……。正直……今のしずくさんを見ていると、恐怖さえ覚える。

だけど……それを言葉にする気にはなれなかった。なぜなら、今の私も自覚がないだけで……端から見れば、彼女と同じようなものなのかもしれないからだ……。

しずくさんが言ったとおり……私もウルトラビーストに魅入られていて……もうとっくの昔に狂気の中に居るのかもしれない……。


しずく「……今、安全な場所に連れて行ってあげますね……」


そう言いながら、しずくさんが歩夢さんのことを背負おうとしたとき、


 「バーーースッ!!!!」


──エースバーンが岩の陰から飛び出し、飛び掛かってきた。

が、


しずく「インテレオン、“ねらいうち”」
 「──インテ」

 「バーーースッ…!!!?」


しずくさんは、冷静にエースバーンを迎撃する。

が、エースバーンと入れ替わるように、さらにポケモンが飛び出してくる。


 「フラーーージェスッ!!!」


──フラージェスが“はなふぶき”を身に纏いながら、突撃してくる。

しずくさんは、次のボールに手を掛け、


しずく「バリヤード、“バリアー”」
 「バリ」


バリヤードが足元で作り出した氷の“バリアー”を目の前に蹴り上げ──
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:40:42.95 ID:tTvUwYyF0

 「ジェス…!!!」


フラージェスの攻撃を弾き返す。そこに、さらに追撃、


しずく「“フリーズドライ”」
 「バリッ!!!!」

 「ジェス…!!!」


広がる冷気で、フラージェスの体がパキパキと音を立てながら、凍り始める。

そんなフラージェスとの間に割って入るように──


 「トドォォォォ!!!!!!」


トドゼルガが飛び出し、長い牙を“バリアー”に突き立て──力任せに破壊する。


しずく「ふふ……次から次に、ですね」


対抗するように、しずくさんはまた新しいポケモンをボールから繰り出す。


 「──ロズレ…!!!」

しずく「ロズレイド、“リーフストーム”!」
 「ロズ…!!!」

 「トドォ…!!!!」


トドゼルガはタフなポケモンだが、至近距離からの苦手なくさタイプの大技に為す術なく、吹き飛ばされる。


しずく「ふふ♪ やっぱり、トレーナーがいないとタイプ相性も適当ですし、攻め方も単調ですね♡」


しずくさんが嘲るように笑うと、


 「シャーーーボッ!!!」


アーボが穴の中から顔を出し、鳴き声をあげる。


 「バ、バース…」「ジェス…」「トド…」


すると、エースバーン、フラージェス、トドゼルガは撤退していった。恐らく……あのアーボ──サスケさんがリーダーのような役割を担っているんだろう。


しずく「また、何度でもどうぞ♡」

せつ菜「…………」

しずく「ふふ……進化までして助けに来るなんて、歩夢さんは本当にポケモンから愛されているみたいですね♡」


歩夢さんの手持ちたちは、1日の間に何度もしずくさんに攻撃を仕掛けにくるが、その度に撃退されている。

今回マホイップがいなかったのは、前回撃退されたときに、ダメージを追いすぎて回復中だったからだろうか。

歩夢さんのポケモンが極端に弱いということはないと思うが……。やはり、トレーナーがいないというのは大きなディスアドバンテージなのだろう……。


しずく「それにしても、この洞窟は不思議なエネルギーに満ちているんですね……歩夢さんのフラージェスもですが、お陰で本来は“ひかりのいし”で進化するはずのロゼリアもロズレイドになってくれました♡」
 「ロズレ…」

せつ菜「あちこちに生えているあの輝く水晶が、光のエネルギーを蓄えているのかもしれませんね……。それに反応したんだと思います」

しずく「みたいですね。よいしょ……」


しずくさんは今度こそ歩夢さんを背負い、歩き出す。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 04:43:07.48 ID:tTvUwYyF0

せつ菜「……どうするつもりですか?」

しずく「一旦、ウツロイドの少ない崖上まで移動させようと思いまして」

せつ菜「それは見ればわかります。移動させて、何を?」

しずく「歩夢さんが死なないように、お世話役を仰せつかっています♡」

せつ菜「……なるほど」


つまり……動けない状態の歩夢さんの力だけを利用するために、お世話をするということらしい。

ぐったりして気を失っているとはいえ……放っておいたら死んでしまうのは、想像に難くない。


せつ菜「……上にあがるまで、ウツロイドに襲われないように援護します」

しずく「ありがとうございます♡」


ですが……さすがに、死なれるのは寝覚めが悪いどころの話ではない。

私は一応、彼女たちの身の安全を守るためにここにいるわけですし……。

ただ、しずくさんは歩夢さんよりも、身長が小さい分、背負って歩こうとすると足取りがかなり覚束ず、見ていて少し不安だ……。

……まあ、私はそんなしずくさんよりも、さらに身体が小さいので、代役をできるかと言われると微妙ですが……。

よたよたと歩くしずくさんの後ろを、警戒しながら歩いていたそのとき──


 「──ピュイ…」


歩夢さんのバッグから、鳴き声が聞こえてきたと同時に──コスモッグが飛び出してきた。


しずく「きゃ……!? コスモッグ……? もしかして、ずっと歩夢さんのバッグの中に隠れていたんでしょうか……」

 「──ピュイ、ピュイ」


コスモッグはしずくさんの周囲をくるくる回りながら、時折体をぶつけている。

……恐らく、攻撃しているつもりなんでしょうが……しずくさんはまるで意に介していない。

コスモッグには戦闘能力がないと聞いているので、仕方がないですけど……。

しばらく、攻撃らしきものを続けたコスモッグは──


 「ピュイ…」


どうにもならないと悟ったのか、歩夢さんのバッグの中に戻っていった。


しずく「……さて、急ぎましょうか♡ ウツロイドが集まってくる前に」

せつ菜「……はい」

歩夢「………………」



………………
…………
……
🎙

203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:05.24 ID:tTvUwYyF0

■Chapter055 『激闘! クロユリジム!』 【SIDE Kasumi】





──ローズシティ。

カーテンクリフ登りの修行から帰ってきた翌日の朝です。


果南「カーテンクリフを踏破出来たんだから、二人とも確実に強くなってるはずだよ。メガシンカもきっと使いこなせるから、胸を張って行っておいで!」

侑・かすみ「「はい!」」


果南先輩から激励を受け、かすみんたちはジム戦に向かうために、ローズシティを発つところです。


彼方「それにしても……よく“メガストーン”を昨日の今日で2つも用意できたねー? 大変だったんじゃない〜?」

果南「ローズで会ったときにダイヤにお願いしてたんだ。そんなすぐに用意出来ないってかなり小言言われたけど……まあ、なんだかんだで用意してくれるのがダイヤらしいよね」

彼方「あははー……ダイヤちゃんも大変だー……」

かすみ「ダイヤ先輩が、昨日かすみんたちがゲットした“メガストーン”を持ってたんですか? ……なんで?」

侑「ダイヤさんは、くさタイプのエキスパートだからね。あと、ダイヤさんのお母さんは、でんきタイプを使うジムリーダーだったんだよ」

リナ『エキスパートタイプを持つジムリーダーは、各タイプのポケモンの“メガストーン”を研究のために所持してることが多い。だから、“ジュカインナイト”と“ライボルトナイト”を用意出来たんだと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「はー……なるほどです」


ダイヤ先輩には、今度会ったときにお礼言わないとですね。


果南「それと、“メガバングル”と“キーストーン”は、私から侑ちゃんへのプレゼントだよ。かすみちゃんには鞠莉があげてたからね」

侑「ありがとうございます……!」

果南「……英玲奈さんも理亞ちゃんも強いだろうけど、強くなった自分と自分のポケモンたちを信じればきっと大丈夫だよ」

彼方「良い報告を待ってるからね〜」


果南先輩と彼方先輩に見送られて──


侑・かすみ「「行ってきます!」」


かすみんたちは、最後のジム戦へと向かいます……!





    👑    👑    👑





──クロユリシティ。


かすみ「──侑先輩! ここまで、送ってくれてありがとうございます! ウォーグルも!」

侑「どういたしまして♪」
 「ウォーー!!」


かすみんはウォーグルの背中から飛び降りながら、お礼を言う。
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:52:38.75 ID:tTvUwYyF0

侑「それじゃ、私もヒナギクに向かうよ。かすみちゃん! 頑張ってね!」
 「ウォーーッ!!!」「ブイ」

かすみ「はい! 侑先輩も、次会うときはお互いバッジ8つですよ!」

侑「うん! もちろん!」

リナ『私も応援してる! リナちゃんボード「ファイト、おー!」』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「リナ子もありがと♪ それじゃ、またあとで!」

侑「うん! お願い、ウォーグル!」
 「ウォーー!!!!」


ウォーグルの脚に掴まって、ヒナギクへ飛び立つ侑先輩を見送り、


かすみ「……さぁ、行きますか!」


かすみんは最後のジム──クロユリジムに向かいます。





    👑    👑    👑





かすみ「たのもぉーーー!!」


──クロユリジムのドアを勢いよく押し開け、ジムの中に入ると、


英玲奈「……来たか」


ジムの奥で目を瞑って立っていた英玲奈先輩がゆっくりと目を開ける。

かすみんが来るまで、精神統一をしていたのかもしれません。


英玲奈「ローズで見たときは、まともに勝負になるのか不安だったが……少しは強くなったようだな。立ち居振る舞いを見るだけでわかる」

かすみ「……はい! 強くなったかすみんは絶対に負けませんよ!」

英玲奈「ふふ……勇ましくて何よりだ。せっかく久しぶりに本気を出せるのに、張り合いのない相手だったらガッカリだからな」


そう言いながら、英玲奈先輩がボールを構える。


英玲奈「今回のバトルフィールドはこのクロユリジムとクロユリジムの後ろに広がる竹林全域」

かすみ「はい! わかりました!」

英玲奈「今回は理事長からフリールールをオーダーされている。故に、トレーナーの君もポケモンの攻撃に巻き込まれる可能性があるのは、予め覚悟してもらおう」

かすみ「ぅ……で、ですよね〜……。……でも、それくらい覚悟の上です……! わかりました!」

英玲奈「……他には特に難しいことは何もない。シンプルに戦って最後まで立っていた方が勝者だ。──さあ、始めようか」

かすみ「はい!」

英玲奈「クロユリジム・ジムリーダー『壮烈たるキラーホーネット』 英玲奈。お互い心行くまで戦おうじゃないか!!」


かすみんと英玲奈先輩のボールが同時に放たれ──バトルスタートです!!



205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:53:10.61 ID:tTvUwYyF0

    👑    👑    👑





かすみ「──行くよ、ジュカイン!」
 「──カインッ!!!!」


こちらの1番手はジュカインです!

今回は本気の本気の本気! 出し惜しみなんて一切なしです!

──侑先輩から事前に、英玲奈先輩の切り札はメガスピアーだと、聞いています。

エースのジュカインで切り札を出してくるまで、相手の戦力を一気に削り切りますよ……!


英玲奈「行くぞ、スピアー!!」
 「──ブーーーンッ!!!!」

かすみ「うぇっ!?」

英玲奈「メガシンカ!!」
 「ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「え、ちょっ……!?」


ボールから出て来た瞬間、スピアーが光に包まれ──より攻撃的なフォルムのメガスピアーへと姿を変える。

──直後、


英玲奈「“ダブルニードル”!!」
 「──ブーーーンッ!!!!!」


メガスピアーが猛スピードで突っ込んでくる。


かすみ「……っ……! “リーフブレード”!!」
 「カァインッ!!!!」


刃を上手に針の切っ先に合わせて、攻撃を受けようとしたけど──


 「カァインッ…!!!!」


受けきるどころか、そのパワーで、ジュカインが後ろに向かって、吹っ飛ばされ──壁に叩きつけられる。


かすみ「ジュカイン!!」


かすみんは振り返って、ジュカインのもとへと駆け出す。

だけど、英玲奈先輩は当然そこに向かって追撃を繰り出してくる。


英玲奈「“どくづき”!!」

 「ブーーーンッ!!!!!」


駆けるかすみんの真横を猛スピードでメガスピアーが横切って、5本の“どくばり”を構える。


かすみ「──ジュカイン、メガシンカ!!」

 「カィンッ!!!!!」


かすみんが“メガブレスレット”を構えると、ジュカインが光に包まれ、姿を変える。


かすみ「“りゅうのはどう”!!」

 「カァインッ!!!!!」
206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:54:16.13 ID:tTvUwYyF0

メガシンカしたジュカインが、猛スピードで突っ込んでくるメガスピアーに向かって“りゅうのはどう”を放ちます。

だけど、メガスピアーはすぐに察知し、高速で直角に曲がるようにして、“りゅうのはどう”を回避する。


英玲奈「怯むな!! “みだれづき”!!」

 「ブーーンッ!!!!」


回避からすぐにまた切り返して攻撃に移行。再びメガスピアーがジュカインに向かって飛翔し、連続の針でぶっさしまくってくる。


かすみ「“みきり”!!」

 「カィンッ!!!!」


ジュカインは、頭部に向かってくる針は首を捻ってギリギリで避け、胴を狙う針は刃でいなし、下半身を狙う針は切っ先に当たらないように横から弾くように蹴り飛ばす。

逸らされ回避された針はもちろん、ジュカインの背後の壁に叩きつけられるように突き刺さり──そのまま壁を吹っ飛ばす。


 「カインッ…!!!!」

かすみ「ちょ!? ジム、壊してる!?」

英玲奈「避けるか……! ならば、“ドリルライナー”!!」

 「ブーーーーンッ!!!!!!」


お尻の針が──キュィィィィーン!! と音を立てながら回転を始め、ジュカインに向かって突き刺してくる。

それはジュカインの胸部に直撃し──


 「カインッ…!!!」


そのまま、ジュカインをジムの外まで吹っ飛ばす。


かすみ「ジュカイン……!?」

英玲奈「スピアー!! 追いかけろ!!」
 「ブーーンッ!!!!」


メガスピアーは外に吹き飛んでいったジュカインに追撃をするために、穴から飛び出して行く。


かすみ「や、やば……!!」


かすみんも大急ぎで、その穴から外に出ます。

すると、ジムの外にあった竹林の前で、


 「ブーーーンッ!!!!!」

 「カァインッ!!!!」


すでにジュカインは立ち上がり、腕の刃でメガスピアーの両腕の針と鍔迫り合いをしているところでした。

“ドリルライナー”が直撃したけど、致命傷にはなってないみたい……!


かすみ「胸のアーマーが功をなしましたね……!」


こんなに早くメガシンカを使う予定はありませんでしたが、メガシンカによって新たに胸部に草のアーマーを身に着けたお陰でどうにか助かりました……!

ただ、このままメガスピアーと肉弾戦を続けるのはまずいです……!

鍔迫り合いをしながら、メガスピアーは、


 「ブーーーンッ!!!!」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:55:25.90 ID:tTvUwYyF0

後ろ脚にある2本の針を構える。


かすみ「サニーゴ!! “かなしばり”!!」
 「──……サ」

 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


すかさずサニーゴを繰り出し、メガスピアーの後ろ脚に向かって“かなりばり”を使う。

だけど、メガスピアーは、


 「ブ、ゥゥゥゥーーーンン!!!!!」


“かなしばり”を受けたにも関わらず、後ろ脚の針は少しずつだけど、前に進んでいる。


かすみ「げっ……!? パワーだけで強引に“かなしばり”を引き剥がそうとしてる……!?」


規格外のパワー……やばすぎですよ……!?

でも、こっちもメガシンカポケモン……! 一瞬隙さえ作っちゃえば……!


かすみ「“ダブルチョップ”!!」

 「カァインッ!!!!」


ジュカインは、両腕を振り上げるようにしてメガスピアーの針を弾きながら──そのまま両腕を振り下ろし、チョップに派生する。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!?」


そのまま、脳天にチョップを叩きつけると、メガスピアーが一瞬怯む。

その隙を見逃さず、メガスピアーに背を向け──背中のタネを切り離す。


かすみ「“タネばくだん”!!」

 「カインッ!!!!」


切り離したタネが爆発し──


 「ブーーンッ…!!!!」


爆風でメガスピアーを吹っ飛ばす。


英玲奈「スピアー!! まだだ!! 止まるな!!」


背後から英玲奈先輩の声。


 「ブ、ゥゥゥーーーンッ!!!!!」


メガスピアーはその声に呼応するように、すぐに態勢を立て直す中、かすみんはサニーゴを小脇に抱えて、メガスピアーの脇を走り抜け──ジュカインの大きな尻尾に飛び乗る。

──あんな肉弾戦メインのポケモン相手に、真っ向勝負し続けるのは分が悪すぎです……!!

目の前にある大きな竹林は今回のバトルフィールドに指定されてる場所……!


かすみ「ジュカイン!! 竹林の中に!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインはかすみんを尻尾に乗せたまま──竹林の中へと走り出した。

208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:56:03.32 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……っち、逃がしたか……。追うぞ、スピアー!」
 「ブゥーーーーンッ!!!!!」





    👑    👑    👑





かすみ「──とりあえず、一旦撒けたみたいですね……」
 「カインッ!!」「……サ」


サニーゴを小脇に抱え、ジュカインの尻尾に乗ったまま移動中です。

──英玲奈先輩はむしポケモンのエキスパートですから、自分にとって一番力を発揮できる場所として竹林を指定したんでしょうけど……。

ジュカインはもともと樹の上で生活するポケモンです。こちらにとっても竹林のような草木が生い茂る場所は本領を発揮できる場所。

今も竹から竹にひょいひょいと飛び移りながら、ものすごいスピードで移動しています。

しかも、かすみんがおっこちないように、尻尾を常に水平に保ってくれているため、すごく快適です。


かすみ「それにしても……いきなり切り札のメガスピアーから出してくるとは思いませんでしたね……」


メガシンカが出来るのは1回の戦闘で1匹だけ……。

2匹以上同時にメガシンカするのは、自分の身体への負担が大きすぎるから絶対にダメだと、果南先輩に口酸っぱく説明されました──まぁ、かすみんはジュカインしかメガシンカ出来ないんですけど……。

なので、さすがにメガスピアーが切り札じゃないなんてことはないと思います。


かすみ「向こうも最初から出し惜しみなしってことですね……」


とにかく、あのメガスピアーを倒す方法を考えないといけません。

侑先輩に聞いた情報ですが……メガスピアーはメガシンカで爆発的なパワーとスピードを手に入れていますが、防御面に関しては普通のスピアーと変わらず、あまり打たれ強くないと言っていました。

つまり……どうにか攻撃を決め切ることさえ出来れば、最悪メガジュカインでなくても、対抗が出来る可能性があります。

──問題は、当てられるか……なんですけど……。

対策を頭の中でこねこねしていたそのとき、


英玲奈「──隠れていないで出てこい……! 本気のバトルをしてくれるんだろう……!?」


──と、英玲奈先輩が張り上げた声が聞こえてくる。

英玲奈先輩はよほど本気のバトルを楽しみにしていたらしい……というか、しょっぱなからジムをぶっ壊してたし……。


かすみ「もしかして……英玲奈先輩って……」


英玲奈「──……出てくる気はないんだな!! なら……こちらにも考えがあるぞ……!!」


かすみ「……へっへーん、そんな挑発で出て行くほど、かすみんおバカじゃないですもんね〜」


虚空に向かってあっかんべ〜した瞬間、


英玲奈「──“がんせきアックス”!!」
 「──グラッシャァァァァァ!!!!!!」


大きな鳴き声と共に──目の前の竹たちが急に傾き始めた。


かすみ「いっ!?」
 「カインッ!!!?」
209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:57:37.52 ID:tTvUwYyF0

いや、そうじゃない……!? ここら一帯の竹を──根本から伐採した……!?

英玲奈先輩は、こーんな立派な竹林を、なんの躊躇いもなくぶった切って、かすみんたちを竹の上から落とす作戦を取ってきた。


 「カインッ…!!!」


でも、ジュカインは空中でうまくバランスを取り、姿勢を維持しながら、地面に着地する。

──もちろん、かすみんに落下の反動がいかないように、着地のタイミングで尻尾を上手にしならせて、反動を殺してくれる。


かすみ「あ、ありがとう……ジュカイン……」
 「カインッ!!!」


そして、降り立った私たちの前に、


英玲奈「……やっと降りて来たな」


英玲奈先輩が姿を現す。

そして、その傍らには、


 「グラッシャァ」


見たことがないポケモンが居た。


かすみ「な、なんですか、そのポケモン……!?」

英玲奈「見たことがなくても無理はない。……このポケモンはこの地方では私しか持っていないからな」


なんですか、それ……!?

かすみんは警戒しながらも、上着のポケットから図鑑を出して、目の前のポケモンを調べてみる。

 『バサギリ まさかりポケモン 高さ:1.8m 重さ:89.0kg
  硬い岩で 自分自身の 身を守っている。 両腕に ついた
  大きな まさかりで 大木を 切り倒す。 翅が 退化して
  飛行能力を 失った代わりに 脚力と 腕力が 増している。』


かすみ「バサ……ギリ……?」


図鑑で調べても、見たことも聞いたこともないポケモンです。


英玲奈「こいつはストライクの進化した姿だ」
 「グラッシャ…」

かすみ「え……? ストライクの進化系……? それってハッサムじゃ……」

英玲奈「本来はな……。かつてシンオウ地方では極僅かだが、ストライクはこのバサギリに進化していたそうだ。私はむしタイプのエキスパートとして、このポケモンを長いこと調べていて──やっとのことで、ストライクがバサギリになるための“どうぐ”を見つけ、手に入れたのだ」
 「グラッシャァァ…」


バサギリが、体を捻って──大きなまさかりを後ろに振りかぶる。


英玲奈「それによって得たパワー……味わうといい!!」
 「グラッシャァァ!!!!!」

かすみ「……! ジュカイン!! ジャンプして!!」
 「カインッ!!!」


かすみんの指示で、ジュカインがジャンプをした直後──バサギリが横薙ぎに放った斬撃により、さっき以上の範囲の竹が根元からぶった切られ、周囲を竹が舞い踊る。
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:58:36.88 ID:tTvUwYyF0

かすみ「こんなに立派な竹林、よく躊躇なくぶった切れますね!?」

英玲奈「バトルのためだ、そういうこともあるだろう!!」

かすみ「やっぱ英玲奈先輩──戦闘狂ってやつですか……!?」

英玲奈「戦闘狂……確かにあんじゅには、何度もそう言われたことがあるな!!」


何度もあるの!? 筋金入りってやつじゃないですか!?

なんの躊躇もなく、戦いのために手段を選ばないというのは考えようによっては脅威です……!

しかも、この範囲、この破壊力……あのポケモンは、ああいう人が持っちゃいけないんじゃないですか!?

かすみん、思わずいろいろ言いたくなっちゃいますけど──今はバトルに集中しなくていけません。


かすみ「ジュカインっ!!」
 「カィンッ!!!!」


ジャンプで攻撃を避けたジュカインは、落ちてくる竹を蹴りながらさらに上昇し──腕を振り上げる。

竹が盛大に伐採されたせいで、隠れ場所はなくなっちゃいましたけど──お陰で空からは太陽の光がさんさんと降り注いでいます……!


かすみ「“ソーラー──ブレード”ッ!!!」
 「カィィンッ!!!!!」


ジュカインが空中から、バサギリに向かって“ソーラーブレード”を振り下ろす。

未だ斬り裂かれた竹たちが舞い踊っていますが、それを意にも介せず斬り裂きながら、バサギリに迫る。


英玲奈「受け止めろ!!」
 「グラッシャァァァァッ!!!!」


バサギリは腕のまさかりを振り上げ、“ソーラーブレード”を受け止めますが──見たことないポケモンだかなんだか知りませんが、こっちはメガシンカのパワーがあるんです……!!

まさかりとブレードがぶつかった瞬間、


 「グラッシャァァァッ!!!!?」


バサギリの体が光の剣の衝撃で沈み込み、それと同時に周りの広がった衝撃波が、周囲に落ち転がっていた竹たちを紙切れのように吹き飛ばして行く。


かすみ「メガシンカしてれば、こっちの方がパワーは上です!!」

 「──ブーーーンッ!!!!!」

かすみ「っ!?」


嫌な音が聞こえて振り向くと──メガスピアーが背後から迫ってきていた。


 「……サ」


小脇に抱えたサニーゴが自分の判断で“パワージェム”を発射するけど、


 「ブン──」


メガスピアーは素早い動きで、視界から消え──その直後、


 「カインッ…!!!?」
かすみ「っ……!?」


ジュカインに向かって、上から“どくづき”を叩きこまれ、落下する。


 「カインッ…!!!!」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 14:59:39.92 ID:tTvUwYyF0

地面に落下した衝撃で、


かすみ「わぁぁぁ!!?」


かすみんはジュカインの尻尾の上から跳ねるように放り出されて、地面を転がります。

かすみん、地面を転がりながらも、


 「──グラッシャァァァ!!!!!」

かすみ「“リーフブレード”ォ!!!」


聞こえてきた鳴き声に反応して、指示を叫ぶ、


 「カァインッ!!!!」


──ギィンッ!! と刃同士がぶつかり合う音が響くと同時に、


英玲奈「──カイロス!! “ハサミギロチン”!!」
 「カイーーーッ!!!!」

かすみ「!?」


バッと顔を上げると、かすみんに向かって、カイロスがハサミを構えて突っ込んでくるじゃないですか……!?

このままじゃ、やられる……!?

かすみんは咄嗟に小脇に抱えていたサニーゴを両手で掴んで前に出す──ガァンッ!! と音立てながら、サニーゴが“ハサミギロチン”に挟まれます。

相手の攻撃は、一撃必殺ですが、


 「……サ」


ゴーストタイプのサニーゴになら、効きません……!

かすみんは咄嗟にサニーゴからパッと手を放し、腰のボールを2個、弾くように落とす。


 「──ヤブクッ!!!!」「──テブッ!!!」


ボールから、ヤブクロンとテブリムが飛び出し、


かすみ「“ヘドロばくだん”!! “サイコショック”!!」
 「ヤーーブクッ!!!」「テブリィッ!!!」

 「カイロッ!!!?」


カイロスの足元で攻撃を炸裂させ吹っ飛ばす。それと同時に、挟まれていた──ノーダメージですけど──サニーゴも解放され……それと、同時に上から翅音。


 「ブゥゥゥーーンッ!!!!」


そりゃメガスピアーが追撃に来ますよね!?

かすみんは目の前のサニーゴを再び掴んで、真上を向かせる。


かすみ「“あやしいひかり”!!」
 「…………サ……コ」

 「ブゥゥゥンッ!!!?」


上を向いたサニーゴがカッと発光し、メガスピアーに閃光を浴びせかけた。

至近距離で真正面から“あやしいひかり”を受けたメガスピアーはおかしな軌道を描きながら、再び上昇していく。
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:03:23.73 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「く……“こんらん”させられたか……! スピアー、一旦戻れ!!」
 「ブゥゥゥーーン──」


英玲奈先輩はボールを投げて、スピアーを控えに戻す。

それと同時に──ギィンッ!! と硬い音を立てながら、


 「カインッ…!!!」


ジュカインが飛び退いてくる。


かすみ「ジュカイン、大丈夫!?」
 「カインッ…!!!」

英玲奈「バサギリのパワーと互角か、さすがメガシンカポケモンだな……!」
 「グラッシャァァ…!!!」

かすみ「むしろ、なんでメガシンカポケモンと互角のパワーなんですか……!?」


今度はバサギリが縦向きにまさかりを構え、さっき吹っ飛ばされたカイロスも身を起こして、前傾姿勢になる。

攻撃が来る──そう思った瞬間、


 「カインッ!!!?」
かすみ「!?」


ジュカインが何かに後頭部を殴られ、前に向かって体勢を崩した。

その隙を見逃してくれるはずもなく、


 「グラッシャァァァァ!!!!」


バサギリがまさかりを振り下ろしてくる。


かすみ「……っ……! “アイアンテール”で受け止めて!!」
 「カインッ……!!!!」


ジュカインはバランスを崩しながらも、手を突き──前に倒れる反動をそのまま利用して、尻尾を振り上げる。

ちょうど逆立ちになったような状態で尻尾を硬化させ、振り下ろされるバサギリのまさかりを尻尾で受け止めた。

そして、間髪入れずに、


かすみ「しっぽミサイル、発射ぁ!!」
 「カァインッ!!!」


ジュカインは尻尾側の種を破裂させ──尻尾をミサイルのように発射した。


 「グラッシャァ!!!?」


──ギィンッ! と硬い音を立てながら、しっぽミサイルに弾かれたバサギリの腕が持ち上がる。

腕が持ち上がり、無防備になったバサギリに向かって、


 「テブリッ!!!!」


テブリムが頭の房を構えて飛び出した。

が、


 「テブリッ!!!?」
かすみ「な……っ!?」
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:05:40.38 ID:tTvUwYyF0

またしても、見えない何かの攻撃で、今度はテブリムが吹っ飛ばされる。

吹っ飛ばされたところに、


 「──カイーーーッ!!!!」


カイロスが突っ込んで来て──テブリムをハサミで捕まえる。


英玲奈「“しめつける”!!」
 「カイイーーーッ!!!!!」

 「テ、テブリィィィィ!!!!!」


テブリムは締め付けられる瞬間、頭の房を両側に突っ張って、どうにか耐えてますが……! 早く、助けなきゃ……!

かすみんがゾロアのボールを手に取った瞬間──ボールを例の見えない何かに弾き飛ばれた。


かすみ「しまっ……!?」


直後見えない何かは、ゾロアの入ったモンスターボールの開閉スイッチをピンポイントで攻撃して、破壊する。


かすみ「!?」


開閉スイッチが壊されたら、ボールからゾロアが出せない……!?

しまったと思ったけど、


 「ヤーブクゥ!!!」


ヤブクロンが、ゾロアのボールに向かって“アシッドボム”を吐き出すと──ボールが溶けて、


 「──ガゥッ!!!」


中からゾロアが飛び出してくる。


かすみ「ナイスです……! ヤブクロン!」
 「ヤブクゥ!!!」


それはそれとして、動きが見えないポケモンをどうにかしないと……!


 「テ、ブゥゥゥゥゥ…!!!!!」
 「カィィィロォォォ…!!!!」

 「グラッシャァ!!!!!」
 「カィィィンッ!!!!!」


テブリムはまだ必死に耐えている。

ジュカインもまたバサギリと鍔迫り合いを始めている。

もうちょっと、頑張って……!!

──この動きが見えないポケモン、どうにかするには……!


かすみ「みんな、一瞬息止めてーーーー!!! “どくガス”!!!」
 「ヤブクゥゥーーー!!!!!」


ヤブクロンが上空に向かって、“どくガス”を吐き出す。


英玲奈「……! “どく”状態にして削り倒すつもりか……!! だが、倒れるまでテブリムやジュカインが持つと思うか……!」


もちろん、そんな悠長な作戦じゃありません……!
214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:06:14.89 ID:tTvUwYyF0

かすみ「“ベノムトラップ”!!」
 「ヤーブーーーーッ!!!!!」


ヤブクロンが霧状の毒を上空に向かって噴き出す──この技は曜先輩との戦いでも使った技……!

“どく”状態のポケモンがこの霧に突っ込むと──


 「──…ジジジ」


動きが鈍る……!


英玲奈「!? なんだと……!?」

かすみ「テッカニン……!!」


あのポケモンが“かそく”しまくって見えなくなってたんですね……!!

でも姿が見えれば、こっちのもんです……!!


 「ガゥッ!!!!」


ゾロアがかすみんの足から身体を伝って駆け登り──頭の上から踏み切って、


 「ガゥッ!!!!」

 「──ジジジ!!!?」


動きの鈍ったテッカニンに爪を引っかけて、引き摺り落とす。

爪を引っかけ、一緒に落下しながら、


かすみ「“しっとのほのお”!!」

 「ガーーーゥゥ!!!!」

 「ジジジジジジ!!!!?」


ゾロアが体から炎を放って、攻撃する。

至近距離から炎で焼かれ──テッカニンは戦闘不能になって地面の上でひっくり返った。


かすみ「よし……!! これで、1匹……!!」


やっと1匹目を倒したと思った矢先、


 「──カィィィンッ…!!!!」


ジュカインが吹っ飛ばされてきた、


かすみ「ジュカイン!?」


バサギリと互角の迫り合いをしてたんじゃ……!?

ハッとしてバサギリの方を見ると──


 「ブゥゥゥーーン」

かすみ「!」


──気付けば、メガスピアーが再びフィールドに姿を現し、バサギリの援護に入っていたらしい。


英玲奈「スピアー!! 次はテブリムだ!!」
 「ブーーーンッ!!!!」
215 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:07:16.48 ID:tTvUwYyF0

メガスピアーは今度は、カイロスのハサミに挟まれたままのテブリムに向かって、飛び出して行く。


 「テブリィィィィ…!!!!」
 「カイィィィ!!!!!」


もちろん、今の状態じゃテブリムはカイロスから逃げ出すことは出来ない。

メガスピアーが針を構え、


英玲奈「“とどめばり”!!」

 「ブゥゥゥゥーーンッ!!!!」


メガスピアーのお尻の針がテブリムに直撃しようとした、瞬間、


 「カィィッ!!!?」


カイロスの足元が沈み込み、標的がずれたメガスピアーの針は──ガンッと音を立てながら、カイロスのツノに直撃する。


英玲奈「な……!?」


メガスピアーのあまりあるパワーは、事故でぶつかっただけでも、カイロスのツノにヒビを入れ──その拍子に、


 「テブリッ!!!」


テブリムが脱出する。

カイロスの頭の上を飛び降りたと同時に、


かすみ「“マジカルシャイン”!!」

 「テブリッ!!!!」


テブリムが激しく閃光して、


 「カイィッ!!!!」「ブゥンッ!!?」


カイロスとメガスピアーを牽制する。

もちろん、今しがたカイロスの足を取ったのは──


 「クマァッ!!!」


地面に忍ばせたジグザグマです!!


英玲奈「……! ジグザグマ……!」

かすみ「どんなもんですか! かすみんのジグザグマお得意の“あなをほる”で同士討ちさせてやりましたよ!」
 「クマッ!!!」「テブリッ!!!」


ジグザグマとテブリムが、かすみんのもとに戻ってきて、


 「カインッ…!!!」「ガゥゥッ!!!」「クマァッ」「……サ」「ブクロンッ!!!」「テブリッ!!!」


かすみんパーティ勢揃いです……!

一方で英玲奈先輩の手持ちはテッカニンが戦闘不能、カイロスがツノが砕けている状態……! これは有利な状況です……!
216 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:02.64 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「なるほど……ここまで来るだけあって、強いな……!」

かすみ「当然です! それに、強いだけじゃありません……勝ちに来たんですから!!」

英玲奈「いい威勢だ……だが、これならどうだ──」


英玲奈先輩の台詞と同時に──空の太陽が急にとんでもない熱を主張し始めた。


かすみ「あっつ!? な、なに……!!?」


太陽に目を向けると──真っ赤な太陽がどんどんこっちに落ちてくるじゃないですか……!?


かすみ「……いや、違う……あれ、太陽じゃない……!?」

 「──ビィィィ……」


真っ赤な炎を身に纏った──大きな翅をはためかせながら、降りてくる。……まさか、ポケモン……!?


英玲奈「ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「──ビィィィィィ!!!!!!」


ウルガモスが6枚の翅から、鱗粉をばら撒くと──それは周囲一帯に灼熱の炎が降り注いでくる。

しかもここは竹林……切り倒された大量の竹がある場所でそんなことしたら……!?

一瞬で炎は周囲の竹に引火し──辺りは一瞬で火の海になり、四方八方を炎で包囲されてしまった。


かすみ「!? う、うそ……!?」


これじゃ、炎から逃げられない……!?


英玲奈「さぁ、どうする、チャレンジャー……」

かすみ「こ、こんな炎の中じゃ、英玲奈先輩のむしポケモンも燃えちゃうじゃないですか!?」

英玲奈「ああ、そうだ。だが、だからこそ、私も、私のポケモンたちは昂ぶるんだ……!」
 「グラッシャァ」「カイーーーッ!!!!!」「ブーーーンッ…!!!!」

英玲奈「逃げられないからこそ、燃え上がるんじゃないか!! ポケモンバトルは!!」

かすみ「こ、この戦闘狂〜……!!」

英玲奈「戦闘狂で結構だ……!! 私はこのバトルが最後まで楽しめればなんでもいい!! 行け、ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」

かすみ「っ……!?」


英玲奈先輩の最後のポケモン──ペンドラーはボールから出ると同時に、猛スピードでこっちに向かって突っ込んでくる。


英玲奈「“メガホーン”!!」
 「ペンドラァァァ!!!!!」


ペンドラーが頭のツノを前に突き出して突っ込んでくる。

こんな逃げ場のない炎の海の中……避けられない……!?


 「カインッ!!!!」


そのとき、ジュカインが前に飛び出して──ガァンッ!!! と音を立てながら、“リーフブレード”でペンドラーのツノを受け止める。


かすみ「ジュカイン!?」
 「カインッ!!!!」


そのまま、腕を振るって、ペンドラーを弾き返すが、
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:09:37.73 ID:tTvUwYyF0

 「ペンドッ!!!!」


ペンドラーはまた、すぐに戻ってきて、再びツノを突き出し突っ込んでくる。


 「カインッ!!!」


──ガァンッ!!! ガァンッ!!! ガァンッ!!!

弾いても弾いても、ペンドラーはまたすぐに戻ってきて──しかも、どんどん“かそく”しながら、“とっしん”を繰り返す。


英玲奈「そいつはしつこいぞ……! “かそく”しながら、相手が倒れるまで何度でも攻撃する……!」

かすみ「くっ……! 加勢しなきゃ……!」
 「ガゥッ!!!」「テブッ!!!」「ヤブクッ!!!」「クマッ」「……サ」


5匹がジュカインに加勢しようと飛び出す、が、


英玲奈「バサギリ!! “がんせきアックス”!! カイロス!! “じしん”!!」
 「グラッシャァァァァ!!!!」「カィィィッ!!!!!」


バサギリが思いっきり、地面にまさかりを叩きつけた衝撃と、カイロスの起こした“じしん”で、


 「ガゥッ!!?」「テブリッ!!!?」「ブクロンッ…!!!」「ク、クマァ…!!!」


浮いているサニーゴを除き、かすみん含めた全員が足を取られる。

直後──


 「カァインッ!!!!」


ジュカインの足元から草が広がっていく。

──ジュカインが使った“グラスフィールド”だ。“グラスフィールド”には“じしん”の効果を半減する効果がある。


 「ペンドラァァァァ!!!!!」

 「カインッ!!!!」


──ガァンッ!!!

ジュカインはペンドラーを捌きながら──みんなのサポートまでしている。


かすみ「ジュカイン……っ!! 無茶しないでっ!!」

 「カィィンッ!!!!」


──ガァンッ!!


かすみ「みんな、ジュカインのサポートを……!!」


みんなに指示を出すけど、


英玲奈「スピアー!! “ミサイルばり”!!」
 「ブゥゥーーーンッ!!!!」

かすみ「……!?」


猛スピードで“ミサイルばり”が飛んでくる。


かすみ「“サイコキネシス”!! “スピードスター”!! “シャドーボール”!!」
 「テブリッ!!!」「ガゥゥゥッ!!!!」「……サ、コ」
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:10:18.52 ID:tTvUwYyF0

相殺しようと攻撃を放つけど、“ミサイルばり”は“シャドーボール”を貫き、“スピードスター”を弾き飛ばす。

2匹の技で減速させたところを、テブリムの“サイコキネシス”がどうにか軌道をずらし──ドォンッ!! と音を立てながら、ギリギリ当たらないところに着弾する。


かすみ「……っ……!!」
 「テ、テブリィ…!!!」「ガゥゥゥゥッ!!!!!」「…………」


その間にも、


 「ペンドラァァァ!!!!」
 「カィンッ!!!」


──ガァンッ!! ガァンッ!! と音を立てながら、ジュカインが盾になっている。

でも、ペンドラーはどんどん加速しているし、


 「ビィィィィ!!!!!」


ウルガモスの発する炎はどんどん勢いを増していく。

ジグザグマで落とし穴を作って止めるのも考えたけど……“じしん”をされたら、逆に大きなダメージを受けちゃうし、“ベノムトラップ”もどくタイプのペンドラーにはそもそも通用しない。


かすみ「こ……このままじゃ……! そうだ……! サニーゴ!! “くろいきり”!!」
 「……サ」


“くろいきり”なら、ペンドラーの“かそく”をリセット出来るはず……! と思ったけど──周囲が火の海の中で出した“くろいきり”はこの場に留まることが出来ず、一瞬で空高くまで吹き飛んで行ってしまった。


かすみ「そ、そんな……ど、どうしよう……」
 「ガ、ガゥゥ…」「テ、テブ…」「ク、クマァ…」「ブ、ブクロン…」「…………」


もう、打つ手がない……!

そして、ついに──


 「ペンドラァァァァッ!!!!」
 「カインッ…!!!?」


相手が“かそく”しきって、捌ききれずに──ペンドラーの“メガホーン”が、ジュカインのお腹に直撃した。


かすみ「ジュカインッ!!」


でも、


 「カァァァィィィィンッ!!!!」


ジュカインは足を踏ん張り、かすみんたちの目の前まで押されながらも、ペンドラーを止め──そのまま、手で上からペンドラーの頭を押さえつける。


 「ペンドラァァァァァ!!!!!」
 「カァィィィィンッ!!!」

かすみ「じ、ジュカイン……!」

英玲奈「……大した根性だ。自分がエースである自覚があるんだろうな……だが、同情してやるつもりはないぞ。ウルガモス、“ねっぷう”!!」
 「ビィィィィィィ!!!!!!」

かすみ「あっつっ!!」
 「ガゥゥゥゥ!!!?」「テ、テブリィッ…!!!」「ブクロンッ…!!!」「クマァッ…!!?」「…………ニ」


全員を熱波が襲い掛かる。もう、限界……このままじゃ……!


 「カァィィィィンッ!!!!」


そのとき、ジュカインが大きな鳴き声をあげながら──私たち全員を掬い上げるように尻尾を振るう。
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:11:40.58 ID:tTvUwYyF0

 「ガゥ!!!?」「テブリッ!!?」「ブ、ブクロ…」「クマァッ…!!!」「……サ、ニー…ゴ」
かすみ「ジュカイン……!?」

 「カインッ…」


全員が尻尾に乗ったのを確認すると──ジュカインは、


 「カィンッ!!!!」


尻尾に一番近いタネを破裂させ……私と5匹の手持ちを乗せた尻尾を──後方に向かって発射した。


かすみ「ジュカイン!? 待っ!?」
 「ガゥ!!!」「テブッ!!!」「ブクロンッ!!!!」「クマ、クマァッ!!!」「サ、ニーーーゴ…!!!」


私と5匹の手持ちを乗せたしっぽミサイルは、猛スピードで炎の海を突っ切り──炎のデスマッチの場外まで、私たちを離脱させた。



 「…カインッ…」

英玲奈「……仲間たちを逃がしたのか? この場で私たちに対抗しうる力を持つのは、お前だけだぞ?」

 「……カィィンッ!!!!」

英玲奈「……仲間たちを信じているとでも言うのか? ……心意気は嫌いではないがな」

 「……カィ…ン…」

英玲奈「……やっと倒れたか……。……いや、メガシンカしているとはいえ、自分以外の手持ちとトレーナーを庇い続けたんだ……体力はとっくに限界だったろう。安心しろ、すぐに彼女たちを見つけて試合は終わらせてやる──私たちの勝利で」





    👑    👑    👑





──いつだか……しず子と、こんな話をした。


──────
────
──


かすみ「え……? 歩夢先輩のサスケは、進化しない……? キャンセルしてたんじゃないの……?」

しずく「うん、てっきり私もそうなんだと思ってたんだけど……サスケさんは一度も進化しそうになったこともないんだって。歩夢さんは……いつまでも自分の肩に乗っていたいから、進化しないんだと思うって言ってたけど……」

かすみ「そうなんだ……。……じゃあ、かすみんの手持ちも、そうなのかな……」

しずく「え?」


しず子は私の言葉にきょとんとする。きょとんとした後、少し考える素振りをして──


しずく「……そういえば、最近かすみさんがキャンセルボタン押してるとこ……見てないかも」

かすみ「うん。実はちょっと前から、みんなのレベルが上がっても、進化しようとしなくなったんだ」

しずく「それって……」

かすみ「たぶん……かすみんが、いつまでもみんなに可愛いままでいて欲しいって気持ちが伝わったからなんじゃないかな〜って」

しずく「ふふ♪ ……かすみさんのポケモンたちは、かすみさんが自分たちにどうあって欲しいのかを、ちゃんとわかってくれてるんだね♪」

かすみ「ホント、いい子たちです……えへへ♪ かすみんこんないい子たちと一緒に旅が出来て、幸せです♪」

しずく「ふふ、そうだね♪」
220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:12:38.79 ID:tTvUwYyF0

──
────
──────



かすみ「……はぁ……はぁ……」


燃え盛る竹林を、ジュカインのお陰でどうにか脱出出来たけど……。


 「テブ、テブゥッ!!!!」「ガゥガゥゥ!!!!」

 「ヤ、ヤブクーー…!!!」「ク、マァァァ…!!!」


今にも飛び出しそうなテブリムとゾロアを、ヤブクロンとジグザグマが必死に止めている。


 「……ニ」


サニーゴはそれを呆然と眺めている。

……かすみんたちは、みんな……ジュカインに助けてもらうことしか出来なかった。

理由はなんとなく……わかっていた。

私たちはずっと……唯一進化して戦い続けるエース──ジュカインに頼り過ぎていたんだ。

──……だからかな。……今、話をしなくちゃいけないと思った。


かすみ「……ねぇ、みんな。……聞いて欲しいことがあるんだ」
 「ガ、ガゥ…?」「テブ…」「ブクロン…」「クマ…?」「……ニゴ」


私が……みんなをどう思っているかのお話を……。


かすみ「……かすみんね……ずっとずっと、可愛いポケモンたちと旅がしたかったんだ。それが……夢だったの」


旅に出る前からずっと思っていた。可愛いポケモンたちに囲まれて、可愛いポケモンたちと一緒に、可愛い可愛い旅がしたかった。

──でも、なかなか思ったとおりにはいかなくって……。

最初に欲しかったのは可愛いヒバニーだったのに、結局貰ったのはキモリだったし……。


かすみ「ジグザグマはもともとイタズラされて腹が立ったから、懲らしめるために捕まえただけだし……」
 「クマ…」

かすみ「サニーゴはホントはガラルのサニーゴじゃなくて、ピンク色の可愛いのがよかった」
 「……ニゴ」

かすみ「ヤブクロンだって、かすみんのイメージじゃなかったんだよ? でも、ほっとけなくて……」
 「ブクロン…」

かすみ「テブリムも、なりゆきで一緒に行くことになってさ……。かすみんのこと子分扱いする生意気な子でさ……」
 「テブ…」

かすみ「みんな……全然かすみんの想像する可愛い可愛い仲間たちじゃなくって……。……でも……でもね……」


私は──みんなを抱き寄せる。
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:13:33.84 ID:tTvUwYyF0

かすみ「──今は……みんなが可愛くて可愛くて仕方ないの……っ……」
 「クマ…」「…サニゴ」「ブクロ…」「テブリ…」「ガゥ…」

かすみ「ジグザグマが私のためにたくさんいろんなものを集めてきてくれて……褒められたときにする顔、私、可愛くて大好き……」
 「クマァ…ッ…」

かすみ「サニーゴ……普段はボーっとしてるように見えて……実は表情豊かで、熱い気持ち持ってて……嬉しいときは嬉しい顔、ちゃんと見せてくれる……そういうギャップにとびっきりの可愛さ感じてるよ……」
 「サコ……ッ…」

かすみ「ヤブクロン……寝るときに、私がぐっすり眠れるように、枕元で良い匂い出してくれてるの、実は知ってたよ? それにヤブクロンの笑顔、愛嬌があってすっごく可愛いんだよ……」
 「ブクロン……ッ…」

かすみ「テブリムは生意気だけど、私を守るためにいっつも強がってるでしょ……? ホントは群れのみんなのこと思い出して寂しくなっちゃってるの知ってるんだよ……そういう可愛いところあるの私にはバレバレなんだからね……?」
 「テ、テブ……ッ…」

かすみ「ゾロア……私の初めてのお友達。初めてゾロアをママからもらったとき、可愛い可愛いってずっと可愛がってたけど……テレビでゾロアークの姿を、見た目を知ったとき、私、大泣きしちゃったんだよね。覚えてるかな……?」
 「ガゥゥ…」

かすみ「ちっちゃい頃の私は……いつか、ゾロアもこうなっちゃうんだって、可愛くなくなっちゃうんだって……そう思ったの……。……でも、でもね……今ならわかるんだ」


私はみんなを──ジグザグマを、サニーゴを、ヤブクロンを、テブリムを……ゾロアを、順に見つめて。


かすみ「……可愛さって、溢れ出るものなんだって。見つけられるものなんだって」


私が──誰よりも可愛くて強いトレーナーになるのに必要なことは──


かすみ「私は……みんながどんな姿でも、みんなの可愛さ、見つけられるよ……♪ 見つけてみせるよ……♪」
 「クマ…」「…サコ」「ブクロン…ッ」「テブ…ッ」「……ガゥッ!!!」

かすみ「だから、もう……止めなくていい……! 私のために、私の夢のために、止まらなくていい……! 私と一緒に、前に進もう……!」
 「クマ──」「サコ──」「ブクロン──」「テブリ──」「ガゥゥゥ──」


私は──この子たちと一緒に……変わるんだ……!!


かすみ「行こう……!! みんな……!!」





    👑    👑    👑





英玲奈「……出てこい」


英玲奈先輩が炎の竹林の中から、歩いてくる。


 「グラッシャァァ!!!!」「カイィィロス!!!!」


バサギリが、カイロスが力任せに燃える竹を蹴散らしながら──


 「ペンドラァァァーーー!!!!」


そして──ペンドラーの背中の上には、戦闘不能になって気絶したジュカインの姿。


英玲奈「せめてもの情けだ。連れてきてやったぞ」


そう言って、ペンドラーはジュカインを地面に下ろす。


かすみ「……ありがとうございます」


私はお礼交じりに竹林の陰から姿を現す。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:14:54.72 ID:tTvUwYyF0

かすみ「戻って、ジュカイン」


ジュカインをボールに戻して、ぎゅっと胸に抱きしめた。


英玲奈「……さぁ、どうする? まだ続けるか? ……出来れば降参なんて興の醒めることはして欲しくないが……」

かすみ「しませんよ。……ここで、諦めたりしたら……ジュカインの努力が全部無駄になっちゃいます」

英玲奈「良い心掛けだ……。そんな君を……これから、完膚なきまで叩きのめしてしまうことに……心が痛むよ」

かすみ「出来るもんなら……やってみろです……!!」

英玲奈「行け……!! ペンドラー!!」
 「ペンドラァァァァ!!!!!」


ペンドラーが猛スピードで走り出してくる、が──私の足元を横切るように、何かが猛スピードで飛び出した。


英玲奈「!? なんだ!?」


その影は──竹林の中を直角に曲がりながら、猛スピードでペンドラーに接近し、


かすみ「“しんそく”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」

 「ペンドラァァァ……!!!!」


真横から、強烈なタックルをお見舞いする。

ペンドラーはまさか、真横から攻撃されると思っていなかったのか、バランスを崩して横転する。

そこに向かって、


かすみ「“すてみタックル”!!」

 「──クマァァァーーー!!!!」


全身全霊の突撃をお見舞いした。


 「ペ、ペンドラァァァ…!!!!!」


ペンドラーが突撃された衝撃で、地面を滑る。


英玲奈「……! その姿……!」


 「クマァーーー…!!!」


ボサボサだった毛並みが真っすぐ流線形になり、細長くスマートな体躯を見せつけながら──マッスグマが鳴く。


英玲奈「この土壇場で進化した……ということか。そういうのが流行っているのか? だが、そんな一発技があっても戦況はひっくり返らないぞ……!! スピアー!!」
 「ブーーーーンッ!!!!」


メガスピアーが猛スピードで飛び出した瞬間、藪の中から──白い何かが伸び出てきた。


英玲奈「!?」


急に飛び出したソレは──さらに真っ白い枝のようなものを伸ばし、メガスピアーに絡みついていく。


かすみ「“ちからをすいとる”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」

英玲奈「サニゴーン!? 2匹同時進化だと!?」

 「グラッシャァァァァッ!!!!」「カイーーーッ!!!!!」
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:15:48.09 ID:tTvUwYyF0

異変に気付いたバサギリとカイロスが飛び出してくると同時に──竹林の中から腕が伸びてきて、


 「グラッシャァッ!!!?」「カイィッ!!!?」


バサギリとカイロスを上から押さえつけ、直後──


かすみ「“タネばくだん”!!」
 「──ダストォォォ!!!!!!」


その手の先から出したタネが──ボォンッ!!! と音立てながら爆発する。


 「カ、ィィィ…」


もともとダメージを負っていたカイロスは、そこで後ろに向かって倒れ、


 「グラ、ッシャァァァ…!!!!」


バサギリにもダメージを与えながら──そのまま、両手でバサギリを掴んで持ち上げ、ぶん投げる。


 「グラッシャァァア!!!!?」

英玲奈「なんだ!? 何が起きている!?」

 「ブ、ブーーーンッ…!!!?」


鳴き声にハッとするように、英玲奈先輩がメガスピアーに顔を向けると、


 「ニゴーーーンッ」


メガスピアーはサニゴーンに絡め取られて動けなくなっていた。


英玲奈「スピアー!? なにしている!? 早く逃げないと、どんどん力を吸われるぞ!!」

かすみ「無駄ですよ……! パワーを吸い取られた上に、“かなしばり”で動きを止めましたから……! サニゴーンの呪いのパワーはもうサニーゴの比じゃありません……!」

英玲奈「く……っ……ウルガモス!! “ほのおのまい”!!」
 「ビィィィィィ!!!!!」


ウルガモスが踊るように炎の鱗粉を周囲にばら撒き、風に乗せてこちらに向かって飛ばしてくるが──その炎は急に意思でも持ったかのように、風に煽られ明後日の方向に飛んでいく。


英玲奈「な……!?」


驚いて目を見開く英玲奈先輩。

──まさか、さっきまで戦っていたポケモンの“サイコキネシス”であの大量の炎を一瞬で吹き飛ばされたなんて、信じられないでしょうね。


かすみ「隙だらけです……!! “サイコショック”!!」
 「リムオーーーーンッ!!!!」


鳴き声と共に──とてつもない量の実体化したサイコパワーのキューブがウルガモスの真上に出現し、マシンガンのようにウルガモスの体に降り注ぐ。


 「ビ、ビィィィィィ!!!!!」


耐えることもままならず、ウルガモスは地面に落下し──落下したウルガモスに向かって、先ほどの長い腕がその先端をウルガモスに突き付ける。


かすみ「“ヘドロウェーブ”!!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!!」

 「ビィィィィィィ!!!!!!」
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:16:28.97 ID:tTvUwYyF0

手の平から、“ヘドロウェーブ”が噴射され、ウルガモスを襲った。

ウルガモスは“サイコショック”と“ヘドロウェーブ”による立て続けの攻撃を受け──ヘドロまみれになって気絶する。

それと同時に──私の背後に現れる2匹の影。


 「リムオン…」「ダストダァーース!!!」

英玲奈「ブリムオンに……ダストダス……!? 1匹ならまだしも、バトルの最中に4匹同時進化だと……!? そんなの聞いたことがないぞ……!?」

かすみ「いえ──……5匹同時進化です……!!」
 「ゾロアーーーークッ!!!!!」

英玲奈「……!?」

かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロ、アーーーークッ!!!!」


ゾロアークが前に飛び出し──広がる暗黒の衝撃波がペンドラーを吹き飛ばす。


英玲奈「ペンドラー!?」


そして、それと同時に──


 「ブーーーンッ……」
 「ニ、ゴォーーーン……」


サニゴーンとメガスピアーが同時に落下してくる。


英玲奈「な……!? メガシンカポケモンが同士討ちにされただと……!?」

かすみ「サニゴーンの特性は“ほろびのボディ”です! 接触した相手と一緒に滅ばせてもらいました……!」


残るは──


 「グラ、ッシャァァァァ……!!!!」


バサギリのみ……!


 「グラッシャァァァァァッ!!!!!」


バサギリは、近くにいたゾロアークに向かって飛び出してくる、が、


 「ゾロアーーーーーク…」


ゾロアークが、バサギリの額に、コツンと拳を当てた瞬間──


 「グラッシャァッ!!!!!?」


バサギリの体がとてつもない勢いで、吹き飛んでいった。


英玲奈「な……なん……だと……」

かすみ「……“イカサマ”成功ですね」
 「ゾロアーーーークッ!!!!」


“イカサマ”は相手の攻撃力の分だけ、技の威力が上がる技。

バサギリのような、とんでもないパワーを持ったポケモンには効果てき面だったみたいですね。

何本か竹をへし折りながら吹っ飛んだ先で──バサギリは白目を向いて、気絶していた。

気付けば──英玲奈先輩のポケモンは全滅していました。
225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:17:35.27 ID:tTvUwYyF0

英玲奈「……あ、あの状況から……負けた……だと……?」


英玲奈先輩はよほど驚いたのか、その場で呆然と立ち尽くしていた。

私はそんな英玲奈先輩のもとに近付いて、


かすみ「英玲奈先輩。……ありがとうございました」


頭を下げた。


かすみ「英玲奈先輩のお陰で……私、ポケモンたちとちゃんと向き合うことが出来ました。この子たちの魅力に、ちゃんと気付いてあげられました」

英玲奈「…………」

かすみ「私は──かすみんは、この子たちともっともっと強くなります。この子たちと一緒に最強の可愛い強いトレーナーを目指します! えへ♪」


ほっぺに指を当てながら可愛く言うと、


英玲奈「……君の言っていることは、全く理解出来ないのだが……」


英玲奈先輩は髪をくしゃっと押さえて、


英玲奈「……君たちの強さが……私たちの強さを上回ったことは……わかるよ……」


悔しそうにそう言うのでした。


英玲奈「……君みたいなトレーナーは……見たことがない……」

かすみ「えへへ♪ かすみんはオンリーワンでナンバーワンですからね〜♪ 当然ですよ〜♪」

英玲奈「……まさか、本気を出して負けるなんて……夢にも思わなかったよ……。……今でも信じられない。……だが、事実は認めねば、私も先に進めない……」


英玲奈先輩はそう言いながら、懐に手を入れ、


英玲奈「……“スティングバッジ”だ。持って行ってくれ」

かすみ「……はい!」


私に“スティングバッジ”を手渡してくれました。

最後のバッジを手にして──やっと、実感が湧いてきて、


かすみ「これで……これで、全ジム制覇ですーーー!!!」


思わず、大きな声で喜びを叫んでしまう。

そこに、


 「ゾロアーク」「クマーーー」「リムオン」


ゾロアークとマッスグマとブリムオンが近寄ってくる。

遅れて、


 「ダストダァァス」「……ニゴーン…」


戦闘不能になったサニゴーンを抱え上げながら、ダストダスもやってきた。


かすみ「えへへ……ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオン──みんなありがと♪ 大好きだよ♪」
 「ゾロアーク♪」「クマーー♪」「ニゴーン…♪」「ダストダス♪」「リムオン♪」


そして、
226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:08.03 ID:tTvUwYyF0

かすみ「……ありがとう、ジュカイン……今日も最高にかっこよかったよ……大好きだよ……」


ジュカインの入ったボールを胸にぎゅっと抱きしめて、かすみんは心の底からのお礼を伝えたのでした。


かすみ「……さぁ、侑先輩……! かすみんはやり遂げましたよ……! 侑先輩ももちろん、勝ちますよね……!」


私は最後のバッジ──“スティングバッジ”を手に入れ、同じように侑先輩が勝つことを祈って、そう一人言葉にするのでした。



227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/22(木) 15:18:53.03 ID:tTvUwYyF0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【クロユリシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    ●     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:20:41.23 ID:gk2TE+8k0

 ■Intermission🍊



 「──マッシブーーーンッ!!!!」

千歌「ムクホーク!! “ブレイブバード”!!」
 「ピィィィィィ!!!!!!」

 「ッシブッ!!!?」


ムクホークが、マッシブーンを低空飛行の突撃で吹っ飛ばしながら、空へと上昇する。


 「ッシブ…!!!!」


もちろん、これくらいじゃ諦めてくれないことくらい理解してる。


千歌「“ふきとばし”!!」

 「ピィィィィ!!!!!」

 「──ッシブーーンッ!!!!?」


上空から強風を叩きつけて、マッシブーンを吹っ飛ばす──それと同時に、


千歌「ムクホーク!! おいで!!」
 「ピィィィィ!!!!!」


ムクホークを呼び寄せ──脚に掴まって、私は戦線を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……さすがに撒いたかな」


私は岩壁に小さな洞穴を見つけて、そこで一息吐く。


千歌「……とりあえず、ご飯にしよっか」
 「ピィィ」

千歌「みんなも出ておいで」
 「ゼル」「ワフ」「…バク」「…ワォン」


もともと出していたムクホークに加え、フローゼル、しいたけ。……そして、せつ菜ちゃんとの戦いで大ダメージを負った、バクフーンとルガルガン。

小さい洞穴だから、5匹もポケモンを出すとちょっと手狭だ。

そんな中で、私はバッグから“きのみ”を取り出す。


千歌「“シュカのみ”と“キーのみ”と“タンガのみ”しかないけど……みんなで仲良く分けて食べるんだよ」
 「ワフ」


しいたけは一鳴きすると、“キーのみ”と“タンガのみ”を咥えて、バクフーンとルガルガンの前に持って行く。


 「ワフ」
 「…バクフ」「…ワォン」


弱っているバクフーンとルガルガンには、“きのみ”を1つずつ渡して、


 「ワフ」
 「ゼル」
229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:21.56 ID:gk2TE+8k0

フローゼルが、“シュカのみ”を“かまいたち”で4つに切り分け、それをしいたけとフローゼルとムクホークが分けて食べる。

……小さな“きのみ”だから、割ったら一欠片くらいになっちゃうけど……。


 「ワフ」


その中の一欠片を、しいたけが咥えて、私の前に持ってくる。


千歌「私はいいよ。そんなにお腹空いてないから」


──ぐぅ〜〜……。


千歌「……」
 「ワフ」

千歌「……食べるね、ありがと」


どんなに強がっても、お腹の虫は誤魔化せないらしい……。


千歌「……食糧……どうにかしないと……水も……」


──私がここの世界に降りてきて、何日経ったっけか……。たぶん1週間以上は経っているはず。

ウルトラスペースに飛び出し、見つけたホールにフローゼルの噴射を使って飛び込んだはいいけど……そこは酷く荒廃した世界だった。

到着と同時にムクホークで何十キロかは飛んでみたけど……岩と崖と干上がった大地くらいしか見つけられなかった。

携帯食料はもうとっくに食べきってしまったし、水はフローゼルに貰っている分があるから今は大丈夫だけど……いくらみずポケモンでも補給なしでは限度がある。

むしろ今は水の節約のためにフローゼルはほとんど戦闘から外している。

なので今は攻撃をムクホーク、防御をしいたけが担う実質2匹態勢……。戦力面でもカツカツだ。

幸い、たまーに野生のポケモンがいるため、そういうポケモンを倒したときに落とす“きのみ”が今の食糧になっている。

ありがたいことに、潤沢とは言えないものの、“きのみ”からは最低限だけど水分も補給できるしね。

……本音を言うなら、もっと積極的に探索をしたいんだけど……この世界には困ったことにウルトラビーストもいる。


千歌「せめて、手持ちがみんな揃ってれば……」


ルカリオはコメコのロッジに置いてきちゃったし……。バクフーンとルガルガンは私に何かがあったときはボールに戻る訓練をしていたため、こうして手持ちにいるけど……ネッコアラにはそこまで訓練が出来ていなかった。

遺跡に置いてきてしまったネッコアラ……さすがに誰かが回収してくれているとは思うけど……。

そんなわけで、今私の手持ちは5匹しかいない。

……尤も、相談役から特別に支給してもらった、この特注ボールベルトがなかったら、今頃手持ちが1匹も居ない状態で途方に暮れていたんだろうけど……。

──ぐぅ〜……。

考え事をしていたら、またお腹が鳴る。


千歌「……とりあえず、今日はもう寝よっか……」
 「ワフ」


そう言うと、しいたけが私のもとに寄ってくる。もふもふの毛皮のお陰で、冷える荒野の夜でも、凍えずに済むのはありがたい。

明日も……水と食糧を探して、荒野を彷徨うことになる、体力は温存しておかないと……。


千歌「せめて町とかがあればなぁ……」


そんな淡い期待を抱きつつも……正直、この世界には文明があるかも怪しい……。

幸いなことに、“きのみ”を優先して食べさせていたバクフーンとルガルガンは徐々に回復してきているし……2匹が復活すれば、戦闘は多少楽になると思う。


千歌「でも……出来れば、ウルトラビーストとの遭遇は避けたいなぁ……」
230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 02:22:49.44 ID:gk2TE+8k0

この数日で出会った野生のウルトラビーストは、先ほど戦ったマッシブーンと、数日前に遭遇したズガドーン。ちらっと見かけたツンデツンデくらいだ。

多くはないけど……私たちの世界からしたら十分多い。今後も遭遇する可能性は十分ある。

──本来ウルトラビーストは1つの世界で何種類も見ることはあまりないらしい。

私たちの世界では“ウルトラビースト”と一括りにされてしまうためにわかりづらいけど……マッシブーンなら“ウルトラジャングル”。フェローチェなら“ウルトラデザート”と、ある程度生息している世界は決まっているようだ。

だからきっと……あのウルトラビーストたちもウルトラホールを通って、他の世界からここに迷い込んできたんだと思う。

逆に言うなら、今居るこの場所は、いろんな世界と繋がりやすい場所とも考えられる……はず。それなら、私が元居た世界に繋がる可能性だってなくはない。

それに、ウルトラスペースシップに連れ込まれてから、割と短時間で脱出したつもりだから……たぶん私たちの世界ともそんなに遠くない。……はず。

……今出来ることは、とにかく耐え凌ぎながら、どうにかして元の世界に帰ることだ……。


千歌「……とにかく寝よう」


私は目を瞑る。暗くなって安全に動けない時間は、体力温存のために少しでも眠らないと……。

今は、生き抜くために……。


………………
…………
……
🍊

231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:41:51.63 ID:gk2TE+8k0

■Chapter056 『決戦! ヒナギクジム!』 【SIDE Yu】





──かすみちゃんをクロユリシティに送り届け……私は、ヒナギクシティに向かって飛行している真っ最中。


リナ『侑さん』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ん?」
 「ブィ」


腕に装着したリナちゃんが、話しかけてくる。


リナ『また、ドラメシヤが近くに来てるよ』 || ╹ᇫ╹ ||


言われて、周囲に視線を彷徨わせると、


 「メシヤ〜」


確かに、ドラメシヤが近くを飛んでいた。

私は空のモンスターボールを取り出し──ドラメシヤに向かって投げる。


 「メシヤ──」


ドラメシヤはほぼ無抵抗でボールに吸い込まれて、難なく捕獲される。

私は、ウォーグルに指示を出して、ボールをキャッチし──再びヒナギクに向かう飛行経路に戻る。


リナ『これで、5匹目だね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……やっぱりドラパルトに引き寄せられてきてるのかな」
 「イブィ…?」

リナ『そうだと思う。でも、ドラパルトが力を発揮するなら、ドラメシヤの力は必要』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


──実は、ドロンチがドラパルトに進化してからというもの、定期的にドラメシヤが私の近くに寄ってくるようになっていた。


侑「ドラメシヤはドラパルトに発射してもらうのが好きみたいだもんね」

リナ『心待ちにしてるらしいね。不思議な生態』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、ドラパルトの図鑑データを表示する。


リナ『ドラパルト ステルスポケモン 高さ:3.0m 重さ:50.0kg
   ツノの 穴に ドラメシヤを 入れて 暮らす。 戦いになると
   マッハの スピードで ドラメシヤを 飛ばす。 ツノに 入った
   ドラメシヤは 飛ばされるのを 心待ちに しているらしい。』


──ドラパルトというポケモンは頭のツノに穴が空いている。

図鑑の説明どおり、その穴にドラメシヤたちを住まわせていて、戦いになるとその穴からマッハのスピードでドラメシヤを飛ばす“ドラゴンアロー”という技が使える。

……理由はよくわからないけど、ドラメシヤたちは飛ばされるのが大好きらしく、こうして寄って来ているということらしい。


リナ『ドラパルト自体、数が少ないから、たくさん引き寄せられてきちゃうのかもね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「まあ、バトルで使うことになるだろうから、助かるけどね」
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:42:24.87 ID:gk2TE+8k0

なので、こうして寄ってきたドラメシヤは積極的に捕まえているというわけだ。

……全く抵抗しないし、ドラメシヤ側も捕まえて欲しいんだと思う。

今もすでにボールの中にいるドラパルトの両ツノの穴には、ドラメシヤが住んでいる状態だ。

……ドラメシヤが2匹住んでいたら、ドラパルトのボールの中には3匹のポケモンが同時に入っている気がするけど……。

ツノの穴の中に入ってさえいれば1匹として扱われて、そのまま3匹を1つのボールに入れられるらしい……。


侑「なんか……不思議なポケモンだよね」

リナ『まだまだ生態に謎が多いポケモンはたくさんいる。ドラパルトも戦いが終わったあとに、博士に見せてあげたら喜ぶかもしれないね』 || > ◡ < ||

侑「ふふ、そうかもね」


確かに、文化研究をしているヨハネ博士からしてみたら、自分から人間のもとに集まってくるドラメシヤたちの生態は興味深いだろうし、道具研究をしている鞠莉博士も、1つのボールで3匹入ってしまう不思議なポケモンに興味を示しそうだ。

全部のことが終わったら、見せに行こうかな。


侑「それにしても……こうして、リナちゃんの装着具を作ってもらえて助かったよ。これなら、移動中にもお話し出来るし、図鑑データも見られるから」

リナ『うん! もっと前から作ってもらっておけばよかったね!』 || > ◡ < ||


──私とかすみちゃんが修行から帰ってきたら、リナちゃんの背面に、私の腕にくっつける機能が実装されていた。

リナちゃんの意思で、腕輪のような装着具を展開して、私の腕に固定出来る。

鞠莉博士が図鑑をウルトラビースト対応にアップデートする際に、追加で改造を施してくれたらしい。

しかも、わざわざ私の腕に合わせて作ってくれたみたいで、フィット感が完璧──ちょっと振ったくらいじゃ、まったく動かないほどだ。


リナ『これなら、空の移動でも、激しいバトルでも、安心して侑さんと一緒にいられるね!』 || > ◡ < ||

侑「うん、そうだね♪」


今回のバトル──ヒナギクジム戦も前回に続いてフリーバトルだ。

激しい戦闘が予想されるから、こうしたリナちゃんのアップデートは本当にありがたい。


リナ『今回は、私も今まで以上に侑さんをサポート出来るように頑張るね!』 || > ◡ < ||

侑「うん! お願いね、リナちゃん!」


そして、そんな話をしていると、


侑「見えてきたね……!」

リナ『ヒナギクシティ♪』 ||,,> ◡ <,,||
 「イブィ♪」


私は、最後のジムがある町──ヒナギクシティへ到着しようとしていた。





    🎹    🎹    🎹





ヒナギクシティのポケモンジムの前に降りると──


理亞「……やっと来た」


理亞さんはすでにジムの前で待っていた。
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:43:19.32 ID:gk2TE+8k0

侑「す、すみません……遅くなって」

理亞「別に、遅いとは言ってない」


そうぶっきらぼうに言うと、理亞さんはジムに背を向けたまま歩き出す。


理亞「ジム戦は別の場所でやるから」

侑「は、はい」


理亞さんはヒナギクの町をすたすたと北上していく。


侑「この先って……」

リナ『グレイブマウンテンだね』 || ╹ᇫ╹ ||


以前、雪崩に巻き込まれたしずくちゃんを助けに行った場所だ。

私たちの会話が聞こえていたのか、


理亞「ジム戦はグレイブマウンテンでやるから」


理亞さんはそう簡潔に回答する。


侑「ぐ、グレイブマウンテンで、ですか……?」

理亞「そう。ジム戦はこっちが場所を指定していいって言われてるし、私はあそこで戦うのが一番力を出せるから」


あんな険しい山が一番だなんて……とも、思うけど……。


侑「……理亞さんって、確か普段は考古学者としての仕事をされてるんですよね……?」

理亞「……よく知ってるのね。誰かに聞いたの?」

侑「は、はい。果南さんに……」

理亞「……なるほどね」


私はローズで果南さんから聞いた話を思い出す……。


──────
────
──


果南「──理亞ちゃんがどんな人か知りたい?」

侑「は、はい……私、ジムリーダーのことは大体知ってるんですけど……理亞さんのことだけはよく知らなくって……」

果南「あーまあ、理亞ちゃんって最近までジムリーダーやってることも非公表だったからね。公式戦もジム戦以外ですることもないし……」


……そう、私は他のジムリーダーに関しては──クローズドジムリーダーの花丸さんを除けば──大体のことを知っているつもりだけど、理亞さんについてはほとんど何も知らない……。

何故なら、彼女は他のジムリーダーと違って、公式大会にも出場しないし、公の場に滅多に姿を現さないからだ。

でも、戦いを前に一切の前情報がないのも不安だし……。果南さんなら何か知っているかもしれないと思って、訊ねてみたというわけだ。


果南「んー……そうだなぁ……理亞ちゃんは……考古学者さんだよ」

侑「考古学者……?」

果南「そ。グレイブマウンテンとか、その周辺について調べてるみたいだよ。詳しいことは私もよく知らないけど……。……って、そもそも聞きたいのはこういうことじゃないか」

侑「は、はい……まあ……」


理亞さんが考古学者というのも気になるんだけど……今知りたいのはそういうことよりも……。
234 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:01.05 ID:gk2TE+8k0

果南「こおりタイプのエキスパートだけど……本気の手持ちはこおりタイプだけじゃないよ」

侑「! そうです! そういうの聞きたいです!」


エキスパートタイプを持つジムリーダーだけど……実は人によっては本気の手持ちはエキスパートタイプ以外を使っている人も少なくない。

今のジムリーダーで言うなら、ルビィさん、凛さん、花陽さん、曜さんは公式大会ではエキスパートタイプ以外のポケモンを使っている。

逆に真姫さん、英玲奈さん、にこさんなんかは公式戦でもエキスパートタイプを使うことを好む人たちだ。

本来、タイプが事前にわかるジム戦はある程度の対策を立てられるけど……今回は本気の手持ちを使ったバトルである以上、どんなポケモンを使ってくるかわからないどころか、どんなタイプを使うかすらわからない状態。

だからこそ、事前に使用ポケモンがわかるだけでも、話は全然変わってくる。


果南「んー……って言っても、私も理亞ちゃんのポケモンには全部は知らないんだよね。確かマニューラとチリーン……あとはクロバット、リングマは持ってたかな」

侑「そこまでわかれば十分です……!」

果南「そう? ならよかった。……まあ、後のことは本人に会って確かめるしかないね──」


──
────
──────


そんなやり取りがあったため……理亞さんが考古学者ということを知っていたというわけだ。


理亞「まあ……考古学って言うけど……基本はグレイブマウンテン以北を調べてるだけ」

リナ『確かにグレイブマウンテンはポケモンの化石が出てくるから、歴史的価値の高い場所だって言われてる』 || ╹ ◡ ╹ ||

理亞「私は古生物学者ではないから……あんまり化石を調べたりはしないけどね」

侑「じゃあ、グレイブマウンテンで一体何を……?」


私がそう訊ねると、


理亞「……グレイブマウンテン以北には、かつて国があったって言われてるの」


理亞さんはそう話し始める。


理亞「ただ、その国は……あるときを境にパタリと歴史から姿を消して……今は、滅んだ国と関係があるのかもわからない、小さな集落が点在するだけになった」

侑「そ、そうなんですか……?」


そんな話全く知らなかった……。歴史の授業でもそんなことは習わなかったと思う……。


理亞「知らなくても無理はない。……つい最近までは、そこに滅んだ国があったことさえ知られてなかったらしいから」

侑「あったことを知られてなかった……?」

リナ『遥か昔、オトノキ地方はある王家の一族が治めていて、その王家は北方の国と戦った……って歴史があるんだけど、長年その敵国が正確にどこにあったのかはわからなかったんだって』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「あ……オトノキ地方に王家があったって言うのは聞いたことあるかも……」


歩夢がその時代の話を題材にした、小説を読んでいた気がする。

……内容は戦争史というより、貴族の色恋のお話だったけど……。


理亞「……この地方ではヒナギク開拓後、グレイブマウンテンまで調査の手を伸ばした際に──山の北側から麓に掛けて、雪の下から大規模な集落の痕跡やお墓が見つかった。そのときにその敵国が山を越えたすぐ先にあったことがわかったらしい」

侑「それじゃ……理亞さんはそれを詳しく調べるために、考古学者に……?」

理亞「調べるというか……故郷のことだから。知っておきたいって思っただけ」

侑「……え? 故郷……?」


故郷という言葉に私は目を丸くする。
235 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:44:36.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「私はグレイブマウンテン北部の小さな集落の出身なの」

侑「じゃあ……」

理亞「滅んだ国の生き残り……かもしれないとは思ってる。集落にいた私自身も、自分のルーツをあまり知らないまま生きてきたから……それが知りたくて調べてる」

リナ『じゃあ、理亞さんは……正確にはオトノキ地方出身の人じゃないんだね』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「そうなる。……だから、私も最初はジムリーダーになるつもりはなかった。……ただ、ちゃんと調べるには立場があった方が何かと都合がいいからって……ルビィと希さんに薦められて……」

侑「…………」


私は理亞さんの話を聞いて──理亞さんがあまり公の場に姿を現さない理由が少しだけわかった気がした。

謎多きヒナギクジムのジムリーダーの理亞さんだけど……3年ほど前に希さんの四天王昇格で新ジムリーダーが着任したヒナギクジムは、つい最近になるまでジムリーダーが誰かを公表していなかった。

一応ジムリーダーがいることはわかっていたけど……新ジムリーダーはジムチャレンジャーとのバトルのみを行い、他の権限は四天王になった希さんが持ち続けるというかなり異例なジムリーダーだった。

今でこそ、正ジムリーダーとして全ての権限を持っているけど……もしかしたら、理亞さんの心の中には、後ろめたさのようなものがあったのかもしれない。

自分はオトノキ地方の人間ではないのに、オトノキ地方のジムリーダーになっていいのかという……そういう迷いが……。


理亞「……でも、今はちょっと違う」


ただ、私のそんな考えに答えるかのように、


理亞「今は……一人のジムリーダーとして、オトノキ地方のために何が出来るか……考えてるつもり」


そう答えながら、足を止める。

気付けば私たちは──グレイブマウンテンの麓にたどり着いていた。


理亞「……正直……普通のトレーナー相手に……本気を出していいのか、悩んでたけど……。……少し事情が変わった」

侑「……?」

理亞「……あなたが、ねえさまを助けるための作戦に……支障がない実力を持っているのか……確かめる」


理亞さんはそう言ってボールを構える。


理亞「フィールドは、グレイブマウンテン全域……! ただし、グレイブガーデン側に逃げるのは絶対禁止……」

侑「は、はい……!」

理亞「それ以外のルールはない……準備はいい?」

侑「……はい!」
 「ブイ!!!」

理亞「……ヒナギクジム・ジムリーダー『無垢なる氷結晶』 理亞。全力で行くから……!」


放たれるボールと共に、私の最後のジム戦が──始まった……!!





    🎹    🎹    🎹





理亞「マニューラ……!」
 「──マニュッ!!!」


理亞さんの1番手はマニューラ。

対する私の1番手は、


侑「行くよ、イーブイ!」
 「ブイ!!」
236 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:45:14.87 ID:gk2TE+8k0

イーブイだ。


リナ『マニューラ かぎづめポケモン 高さ:1.1m 重さ:34.0kg
   寒い 地域で 暮らす ポケモン。 4、5匹の グループは
   見事な 連係で 獲物を 追いつめる。 樹木や 氷の
   表面に 鋭い ツメで 模様を 刻み 仲間に 合図を 送る。』


フィールドにお互いのポケモンが相対した瞬間、


 「マニュッ──」


マニューラの姿が掻き消え──次の瞬間には、


理亞「“つじぎり”!!」
 「マニュ!!!!」


イーブイの真横から、マニューラが爪を構えて斬りかかってきていた。

が、


理亞「……! マニューラ!!」

 「マニュッ…!!」


マニューラの爪はイーブイには当てず、ギリギリの場所で空を裂き──そのまま、マニューラは軽い身のこなしでイーブイから距離を取る。

……何故、マニューラがイーブイに攻撃しなかったのか、それは──イーブイが燃えていたからだ。


侑「おしい……!」
 「ブイ…!!!」


“めらめらバーン”の炎を体に纏いながら、マニューラの攻撃を誘って“やけど”にする作戦だったけど、相手は最後ジムリーダー。さすがに一筋縄ではいかないみたいだ。


理亞「なら、直接触らなければいいだけ……! “つららおとし”!!」

 「マニュッ!!!」


マニューラが冷気で作り出した、つららをイーブイの頭上に落としてくる。

私はすかさず、次のポケモンを出す。


侑「ニャスパー! “テレキネシス”!」
 「──ウニャーー」


ニャスパーがボールから飛び出すと同時に──落ちてくるつららを空中で静止させる。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイ!!!」


相手の攻撃を止めたら、すかさず攻撃……!

“びりびりエレキ”が迸る──が、


理亞「オニゴーリ!!」
 「──ゴォーーリッ!!!!」


理亞さんはマニューラに向かって駆けながら、オニゴーリを繰り出し、


 「ゴォーーリッ!!!!」


オニゴーリが、氷の盾を作り出し、電撃を弾く──と同時に、
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:05.84 ID:gk2TE+8k0

理亞「“ふぶき”!!」
 「ゴォーーーーリッ!!!!!」

侑「うわっ……!?」
 「イブィッ!!!?」「ウ、ウニャァー」


猛烈な“ふぶき”を放ってくる。

強烈な冷風なのはもちろん、ものすごい勢いの風に、体重の軽いイーブイとニャスパーは吹き飛ばされ──


リナ『侑さん! 今ニャスパーが飛ばされたら……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


ニャスパーの集中が切れて、私に向かって“ふぶき”に煽られたつららが突っ込んで来る。


侑「“フィオネ”!! “みずでっぽう”!!」
 「──フィオーー!!!」


すかさず繰り出したフィオネが、飛び出すと同時に薙ぐように“みずでっぽう”を噴き出し、噴き出した水は“ふぶき”の中で即座に凍り付いて──即席で作った氷の盾につららが突き刺さる。

お互い盾を使って、防ぎ合う遠距離戦……!

ただ、ここは雪山……相手の方が場の支配力に優れる以上、出来れば距離を詰めたい。

そうでなくても、まずは“ふぶき”の圏内から外れないと……!


侑「行くよ、フィオネ……!」
 「フィオーー」


フィオネを抱きかかえて、私は氷の盾から飛び出す。

それと同時に、フィオネが前方に水を撒き散らし、氷で風よけを延長しながら──近くの岩陰に滑り込む。

吹き飛ばされたイーブイとニャスパーを救出しなくちゃいけないけど……まずは、“ふぶき”を止めないと……!

策を巡らせていると──急に、辺りが静かになった。


侑「……?」


先ほどまで聞こえていた、“ふぶき”の音が急に消えたのだ。


侑「……」


私は恐る恐る、岩の陰から理亞さんの居た方を伺うと──すでにそこに理亞さんの姿はなかった。

警戒しながら、岩の陰を出て周囲を確認してみるけど……理亞さんの姿はどこにも見当たらない。


侑「……逃げた……?」


あの状況で……? わざわざ……?


リナ『侑さん!! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「えっ!?」


リナちゃんの声で顔を上に向けると同時に──紫色の影が大きな口を開けて降ってきた。

ヤバイ……!? 避けきれない……!?


 「フィオッ!!!」


フィオネが咄嗟に飛び出して──“ねんりき”によって、相手の動きを止める。
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:48:38.60 ID:gk2TE+8k0

 「──クロ、バ……」

侑「クロバット……!?」


目の前で大口を開けて静止しているのは、クロバットだった。

フィオネの判断のお陰でどうにか奇襲を防いだけど、フィオネの“ねんりき”じゃパワーが足りず──


 「──クロバッ!!!」
 「フィオ!!?」


力任せに閉じられたキバに噛みつかれる。


侑「フィオネ!?」


私が、腰のボールに手を掛けた瞬間──

腰の辺りでバキリと、嫌な音がした。


侑「!?」


ギョッとして、腰を見ると──


 「マニュ…!!!」


マニューラが私の腰に爪を立てているところだった。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ!」


私は咄嗟にマニューラから距離を取る。それと同時に──


 「ブーーイッ!!!」
 「マニュッ!!!?」


戻ってきたイーブイが“とっしん”でマニューラを突き飛ばし、


 「ニャーー!!!」
 「クロバッ!!!?」


ニャスパーがサイコパワー全開で、クロバットを上空に向かって吹っ飛ばす。

その拍子に、


 「フ、フィオ〜」


噛み付かれていたフィオネがクロバットのキバから解放されて、落ちてくる。


侑「フィオネ……!」


フィオネをキャッチしながら、私は走り出す。

そこに、


 「ブイ!!」


並走するイーブイと、


 「ウニャァ〜」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:50:38.41 ID:gk2TE+8k0

ふわふわ浮きながら、私の横に並んで飛ぶニャスパーの姿。


侑「イーブイ! ニャスパー! よかった、無事だったんだね!」
 「ブイ!!」「ニャー」


走りながら、私の背後からは──


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!!」


マニューラとクロバットが猛スピードで追いかけてくる。


侑「ダメだ……! 走ってたら、追い付かれる……!」


私は咄嗟にウォーグルのボールを手に取り──またギョッとした。


リナ『侑さん、どうしたの!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ウォーグルのボール開かない!?」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||


ウォーグルの入ったボールは──開閉スイッチが破壊されて開けなくなっていた。

さっきした、嫌な音の正体はこれだったんだ……!? す、すぐにボールを完全に壊してウォーグルを……!?

私は混乱しながらも、必死に頭を回転させて打開策を考えるけど──その一瞬のタイムロスすら、相手は許してくれなかった。


 「マニュッ!!!」「クロバッ!!!」


マニューラが爪を、クロバットがキバを構えて、飛び掛かってくる。


侑「……っ!!」


もうダメだと思った瞬間──


 「──ドラパッ!!!!」
侑「うわぁっ!?」
 「ブイ!?」「ウニャ!?」


腰のボールから、ドラパルトが自分の意思で飛び出し、私たちを頭に乗せて──猛スピードで発進した。


 「マ、マニュ…!!」

 「クロバッ!!!」

理亞「クロバット、深追いしなくていい」
 「ク、クロバ…」

理亞「逃げられたけど……こっちが有利だから」





    🎹    🎹    🎹





侑「ドラパルト……ありがとう……助かったよ……」
 「ドラパー♪」


ドラパルトに乗って飛行しながら、お礼を言う。

ドラパルトのお陰でどうにか窮地を脱することが出来た。……出来たんだけど……。
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:51:18.50 ID:gk2TE+8k0

侑「……かなり、まずいかも」

リナ『ウォーグルのボール……早く完全に割って中から出しちゃった方がいい。ボールだけ壊せば、ウォーグルは傷つかないはずだから……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「いや、そっちはいいんだけど……」

リナ『……?』 || ? ᇫ ? ||

侑「……そもそも手持ちのボールが、いくつかなくなってる……」

リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あのマニューラの特性……“わるいてぐせ”だったりしない……?」

リナ『……する』 || > _ <𝅝||

侑「だよね……」


完全にやられた……。まさか、手持ちを直接奪いに来るなんて……。


リナ『ごめんなさい、侑さん……私がもっと早く伝えてれば……』 || > _ <𝅝||

侑「うぅん……私も警戒不足だった……」


完全に予想外の戦術だけど……考えてみれば実戦で相手のトレーナーを無力化するなら、物理的にポケモンを使えなくするのはかなり有効……。

今回のバトルは実戦を模して行われるフリールール……こういう策も考慮しておくべきだった。


リナ『盗られたボールは……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「うーんと……とりあえず、5個なくなってる……」

リナ『5個も!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「あ、でも、ほとんどはドラメシヤが入ったボールだよ」


本来想定していた意図とは全く違うけど……ある意味、ここに来る途中でドラメシヤを捕まえておいてよかった……。

──改めて、マニューラに盗まれたボールを確認する。


侑「ドラメシヤのボールが3つ……。あと、フィオネのボールもないね」

リナ『空のボールってこと?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。フィオネはすでに外に出てるけど……ボールに戻せなくなった」
 「フィオ…」


ボールを取り戻さない限り、フィオネを戻すことが出来ない……。

そして、問題は最後の1つ。


侑「……ライボルトのボールがない」

リナ『……ヤバイ』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「……ヤバイね」


よりにもよって、唯一メガシンカ出来るライボルトを持っていかれたのは痛手だ……。


侑「ドラメシヤに関しては、“ドラゴンアロー”の使用タイミングを気を付ければいいけど……」

リナ『撃ち出されたドラメシヤは、そのうち戻ってくるしね……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ただ……ライボルトだけはどうにかして取り戻さないと……」


さすがに本気の手持ちのジムリーダー相手に、メガシンカ無しで挑むのは無謀すぎる……。

理亞さんもメガシンカは使ってくるだろうから、尚更……。

策を考えていると──ウォーグルのボールがカタカタと震える。
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:52:40.99 ID:gk2TE+8k0

侑「あ、ごめんごめん……ウォーグルをボールから出してあげないとだね。ニャスパー」
 「ウニャ」


ニャスパーがサイコパワーでボールを捩って、割り砕く。


 「──ウォー」


ウォーグルがボールから飛び出して、ドラパルトの横を並んで飛行しだす。


リナ『ニャスパー、ちょっと器用になった?』 || ╹ᇫ╹ ||
 「ニャー」

侑「カーテンクリフでの修行で、サイコパワーの使い方が上達したんだ。……まだ、完璧じゃないけどね」
 「ニャー」


今までは一方向へ強い力を発するか、浮かせるくらいしか出来なかったから、捩るとか、止めるとかが出来るようになったのは大きな進歩だと思う。

戦略の幅も広がるしね。


侑「とりあえず……今後どうするかを考えないとね……。どうにかしてボールを取り戻さないと……」

リナ『考えられるパターンは3つだね。理亞さんが持ってるパターンか、マニューラが持ってるパターンか……あとは、どこか別の場所にボールを隠してるパターン』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「開閉スイッチは確実に壊してるだろうから……ライボルトが自分から出てくることはまず期待できない……。見付けたら、ボール自体を壊して出してあげないといけないね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「あと……隠してるパターンはほぼないと思う」

リナ『理由は?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「こっちにはリナちゃんがいるから」

リナ『なるほど。納得した』 || ╹ ◡ ╹ ||


隠したところで、リナちゃんはポケモン図鑑だから、サーチをすればすぐに見つけられてしまう。

だから、この線はほぼないと考えていいかな……。


侑「……そうだ、確認しておきたいんだけど……」

リナ『何?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「モンスターボールってモンスターボールの中に入れられたりするの?」

リナ『完全に未使用のモンスターボールなら、ポケモンに持たせれば入れられなくはないけど……。すでにポケモンと紐づいてるボールとか、ポケモンが入ってるボールは入れられないよ』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そっか、よかった……」


もし、それが出来たら理亞さんの持っているボールの中に入れられた時点で詰みみたいなものだしね……。


侑「近付けば……誰がボールを持ってるかはわかるよね?」

リナ『もちろん! ポケモン図鑑だから、見える場所にいれば、それはすぐにわかるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「わかった。それじゃ、また理亞さんたちに近付いたら聞くと思うからよろしくね」

リナ『了解!』 || ˋ 𝅎 ˊ ||

侑「ただ……問題はどうやって近付くか……」


理亞さんの手持ちは果南さんの情報が確かなら、マニューラ、チリーン、クロバット、リングマ……そして、すでに出してきたオニゴーリ。

5匹は割れている。かすみちゃんから貰った情報だと、他にモスノウやバイバニラを使ってきたらしいけど……こおりタイプがやや多いというだけでタイプに統一性はないし、この2匹を持っているかは微妙だ。


侑「リナちゃん……さすがに理亞さんの手持ちポケモンが何かまでは……わからないよね……?」

リナ『うん……侑さんの手持ちはボールの固有周波数でわかるけど……初めて会う人のポケモンはわからない。せいぜい、近くにいるときにポケモンが入ってるボールを何個持ってるかがわかるくらいかな』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ;||

侑「となると、最後の1匹はわからないまま戦うしかないかな……」
242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:53:23.41 ID:gk2TE+8k0

最後の1匹が何かわからないという不安要素はあるけど……。


侑「……みんな、ライボルト奪還作戦なんだけど──」
 「ブイ」「パルト」「ウォー!!」「ニャァ」「フィー」


私はみんなに作戦の共有を始めた。





    🎹    🎹    🎹





理亞「…………」

侑「……いた!」


私は、上空から理亞さんを見つけ──


侑「ウォーグル!! 行くよ!!」
 「ウォーーーーーーッ!!!!」


理亞さんに向かって一気に急襲する。


理亞「……!」


理亞さんはウォーグルの鳴き声に気付き顔を上げ──バッと手を上げた瞬間、


 「クロバッ!!!!」


クロバットが猛スピードで岩陰から飛び出してきた──


侑「クロバット、出てくるよ……ねっ……!!」
 「フィオーー!!!」


私はフィオネを──クロバットに向かって放り投げる。


理亞「……!?」

 「クロバッ!!?」


驚く理亞さんたちを後目に、フィオネがクロバットに取り付きながら──手に持っていた、ボールを前に突き出す。


 「ニャーーッ」


ボールから飛び出したニャスパーに向かって、


侑「翼を止めて!!」

 「ニャーーッ」
 「クロバッ…!!?」


サイコパワーで翼の動きを止めるように指示を出す。


理亞「クロバット……!? く……チリーン!!」
 「──チリーンッ!!!」


理亞さんがクロバット救出のために、チリーンを繰り出す。
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:54:49.93 ID:gk2TE+8k0

侑「ニャスパー!!」

 「ニャーーーッ」


私の声と共に──ニャスパーがクロバットを踏み切って、チリーンに向かって飛び出した。


理亞「チリーン!! “サイコショック”!!」

侑「ニャスパー!! “サイコショック”!!」

 「チリーーーンッ!!!」
 「ウニャァーー」


2匹のサイコパワーが空中で出現し、ぶつかり合う。


理亞「クロバット!! ニャスパーの注意は逸らした!! 今のうち……に……!?」


理亞さんが驚いた顔をする。何故なら──クロバットの翼が凍り付いていたからだ。


侑「この気温なら、“みずでっぽう”でも十分凍りますよ!!」

 「フィオーー♪」

理亞「……! 狙いは最初からクロバットを凍らせること……!?」


そう。ニャスパーだとクロバットの動きを封じるには常に付きっ切りにならなくちゃいけないけど──フィオネで凍らせれば、ニャスパーはフリーになる。

理亞さんの手持ちで、すでに割れているポケモンのうち、空を飛べるのはクロバットとチリーン。なら、クロバットの動きを一時的に封じればチリーンが出てくると読んでいた。

理亞さんのポケモンのレベルが高くても、フルパワーのニャスパーなら、対抗出来るはずと踏んでチリーンにぶつけ──


理亞「クロバット……!! 一旦ボールに──」


理亞さんはボールを構えて、クロバットの落下地点に向かって走り出す。


侑「させません!! フィオネ! “ブレイブチャージ”!!」

 「フィ、オーーーーッ!!!!」


フィオネが自分自身を奮い立たせてパワーを高め──


侑「“ハイドロポンプ”!!」

 「フィーーーオーーー!!!!!!」

 「クロバッ……!!!?」


理亞さんのボールが届く距離に入る前に──真下に向かって、“ブレイブチャージ”で強化した“ハイドロポンプ”を叩きこんだ。

万年雪が降り続けるグレイブマウンテンの寒さの中──“ハイドロポンプ”は凍り付きながら、一本の氷の柱を突き立てるように、クロバットを地面に突き落とした。


理亞「クロバット……!!」
 「バ…バットォ…」

理亞「く……戻れ……!」


理亞さんがクロバットをボールに戻す。


リナ『やったよ侑さん! クロバット戦闘不能!』 || > ◡ < ||

侑「このまま、畳みかけるよ!! ニャスパー!!」

 「ウニャァ〜」
 「チ、チリーーンッ…!!」


ニャスパーが耳を全開にして、上から下に向かってサイコパワーを放出すると、チリーンがじりじりと押され始める。
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:56:33.82 ID:gk2TE+8k0

理亞「パワーがあるだけじゃ、私のチリーンには勝てない……!! チリーン!! “ハイパーボイス”!!」

 「チーーリィィィーーーーンッ!!!!!!!」
 「ウニャァ〜〜」


圧していたニャスパーだけど、チリーンの“ハイパーボイス”によって、逆に真上に吹っ飛ばされる。

私はその横を、ウォーグルで急降下しながら、理亞さんに向かって突撃する。


理亞「な……!? チリーンを無視……!?」

侑「リナちゃん!! マニューラは今どこ!?」

リナ『そこの岩陰の裏!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


私は降下しながら、リナちゃんにマニューラの位置を確認。


理亞「まさか、ニャスパーは囮……!? オニゴーリ!!」
 「──ニゴーーーリッ!!!!」


理亞さんはすかさずオニゴーリを繰り出す。

でも、これも私の読みどおり……!!


侑「ウォーグル!! “ばかぢから”!!」
 「ウォーーーッ!!!!!!」


猛禽の爪を立てながら、飛び出してきたオニゴーリを地面に押さえつける。

その隙に──私はウォーグルの背を飛び降りて、リナちゃんが教えてくれた岩陰に向かって走り出す。


侑「ウォーグル! オニゴーリは任せるよ!」
 「ウォーーーッ!!!」


オニゴーリをウォーグルに任せるが──相手は冷気を操るポケモンオニゴーリだ。ウォーグルの脚は一瞬で凍り始める。


理亞「“フリーズドライ”!!」
 「ニゴォォーーーリッ!!!!」


追撃の“フリーズドライ”でパキパキとウォーグルの体が凍り始めるが──


 「イッブイッ!!!!」


ウォーグルの背中の上からオニゴーリに向かって、イーブイが飛び出した。


理亞「イーブイ……!?」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィィ!!!!!」

 「ニゴォォォーーリッ!!!!?」


至近距離から突然現れたイーブイに全く反応出来なかったオニゴーリに、“めらめらバーン”が直撃する。

そして、私は──件の岩の裏に到着し、


 「マニュッ…!!!!」


逃げ出すマニューラを発見する。


侑「いた……!!」

理亞「マニューラ!! 戦わないで逃げればいい!!」
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:04.88 ID:gk2TE+8k0

マニューラは山肌に爪を引っかけながら、ひょいひょいと登って逃げてしまうが──もう場所は把握出来た。

姿さえ確認できれば──


 「──ラパルト…」
 「マニュッ!!?」

侑「“ゴーストダイブ”!!」

 「パルトッ!!!!」
 「マニュッ…!!!!?」

理亞「マニューラ!?」


崖を登るマニューラを、突然背後から現れたドラパルトが太い尻尾で叩き落とす。

その拍子に──マニューラが隠し持っていたボールがバラバラと宙を舞う。


理亞「マニューラ!! 盗られるな!!」

 「マ、ニュッ!!!!」


マニューラは吹っ飛ばされながらも、さすがの身のこなしで岩肌に爪を引っかけながら──ボールに向かって、飛び出す……が、


侑「こっちの準備はもう……終わってる!! “ドラゴンアロー”!!」

 「パルトッ!!!!!」
  「メシヤーーーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーーーッ!!!!」


2匹のドラメシヤが音の速さで射出され──宙を舞うボールを2つ、割り砕いた。


 「──メシヤ〜〜」


1つはドラメシヤ、外れだ。だけど、もう1つは──


 「──ライボッ!!!!!」

リナ『5分の2、一発で引き当てた!!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「ライボルト!! マニューラに向かって、“10まんボルト”!!」

 「ライィィボォォォォォ!!!!!!」

 「マニュゥゥゥ!!!!?」


空中でマニューラを電撃で撃ち落とす。ライボルトはそのまま落ちていたボールを拾い、岩肌を駆け下りて、私のもとへと戻ってくる。


侑「おかえり、ライボルト……!」
 「ライボッ!!!」

リナ『ライボルト、奪還成功!』 ||,,> ◡ <,,||


作戦成功……!! ライボルトは取り戻した……!

と、思った瞬間、


 「ブイィィィィ!!!?」


イーブイが“めらめらバーン”で体に炎を滾らせたまま、こっちに吹っ飛ばされてくる。


侑「イーブイ!?」
 「ブ、ブィ!!!」


雪を溶かしながら、転がったものの、イーブイはすぐに炎を消しながら、受け身を取って立ち上がる。
246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:57:43.64 ID:gk2TE+8k0

理亞「……ライボルトを取り返されたのは予想外だったけど……」
 「ニゴォォォォォォリッ!!!!!!」

侑「……!」


気付けばオニゴーリの大きな顎が外れて──そこから、大量の冷気を吐き出していた。


侑「メガオニゴーリ……!」


理亞さんは、いつの間にかオニゴーリをメガシンカさせていたらしく──


 「…………」

リナ『ウォーグルが氷漬けになってる……』 || × ᇫ × ||


ウォーグルは氷漬けになって、沈黙していた。


理亞「ついでにこいつらも返す」

 「チリーンッ」
 「ウニャ…」


チリーンが“サイコキネシス”で投げてきたニャスパーが雪の上を転がる。


侑「ニャスパー……!」


そして、ニャスパーと同じように──


 「フィオ〜…」


フィオネもこっちに転がってくる。


侑「フィオネ……!?」


フィオネが飛んできた方に目を向けると──


 「カブトプス…」


化石ポケモンのカブトプスが鋭い視線をこちらに向けていた。


侑「カブトプス……!」


理亞さんの最後のポケモンは……カブトプスだったらしい。


理亞「……そっちの戦力は3匹削った、こっちはまだ2匹戦闘不能になっただけ。ライボルトは取り戻せたかもしれないけど、トータルではこっちに分がある」
 「ニゴォーーリッ…!!!!」「チリンッ」「カブトプス…!!!!」

侑「……」


私は、ライボルトの持ってきてくれた、マニューラから取り戻したボールを受け取りながら、戦闘不能になったニャスパーとフィオネをボールに戻す。

ウォーグルは……ここからだと、ちょっと距離があるし……さっき、ボールを割っちゃったから、戻せない……。


侑「……でも、私にも、まだこれがあります──ライボルト、メガシンカ!!」
 「──ライボォッ!!!!!」


ライボルトが光に包まれ──周囲にバチバチとスパークを爆ぜさせながら、メガライボルトに姿を変える。


侑「ライボルト!! まずはカブトプスを狙うよ!!」
 「ライボッ!!!!」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:18.76 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが稲妻のような速度で飛び出した。

一瞬でカブトプスを射程に捉える速度だったが──


 「ライボッ…!!!!」


ライボルトの進行方向に突如、巨大な氷の壁が出現し、ライボルトは突撃する寸前で、その壁を直角に曲がりながら回避する。

もちろん、こんなことが出来るのは──


 「ニゴォォォォォリ……!!!!」


メガオニゴーリしかいない。


理亞「簡単に通すと思う?」

侑「……く……ライボルト!」
 「──ライボッ!!!!」


私がハンドシグナルで戻ってくるように促すと、一瞬でライボルトが私の傍に帰ってくる。


侑「まずメガオニゴーリをどうにかしなきゃ……!」

リナ『でも、壁があったら向こうもメガオニゴーリ以外攻撃出来ない』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「確かに。……だけど、メガオニゴーリがいれば十分……! “ふぶき”!!」
 「ニゴォォーーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリの口が開かれ──強烈な“ふぶき”が放たれる。

周囲一帯の冷気を操って支配しているメガオニゴーリにとって、氷の壁が自身の攻撃を妨げることはなく、むしろその壁からも冷気が風となって襲い掛かってくる。


侑「く……!? ライボルト!! “かえんほうしゃ”!! イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ライボォォォォ!!!!」「ブィィィィ!!!!!」


ライボルトが炎を噴き出し、イーブイが自身の発する炎の熱波で、“ふぶき”を相殺しようとするが──


理亞「メガシンカのパワーがすごいのは認める。でも、メガライボルトもイーブイもほのおタイプは自分のタイプじゃない。本来のタイプで攻めてるオニゴーリに勝てると思う?」

侑「ぐ……っ……」


確かに理亞さんの言うとおり、2匹のほのお技だけでは“ふぶき”をかき消しきれず、自身が燃えているイーブイ以外にはどんどん雪が積もっていく。

でも、いい……時間が稼げれば……!!

“ふぶき”の中、果敢に炎によって対抗する中──氷の壁の向こうにユラリと、影が、


理亞「オニゴーリ、凍らせろ」
 「ニゴォォ!!!!」

 「──ラパ、ルト…!!!!」

侑「……!! ドラパルト!?」

理亞「“ゴーストダイブ”でチリーンを狙ってたんでしょ。……何度も同じ手は通じない」

侑「……っ……」


頼みの綱だった、“ふいうち”が不発に終わる。

まずい……このままじゃ、“ふぶき”でみんなやられる……!

どうにか策を巡らせるけど──だんだん手足もかじかんで来て、寒さで頭が回らなくなってくる。

どんどん“ふぶき”も強くなり──気付けば視界がホワイトアウトし始め、音も“ふぶき”の音しか聞こえなくなってきた。


侑「どうにか……どうにか……しなきゃ……!」
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:58:54.87 ID:gk2TE+8k0

吹き飛ばされないように、必死に“ふぶき”に抵抗していると、


リナ『侑さん! 作戦、ある!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


耳元で、リナちゃんの声がした。

さっきまで、腕にくっついていたはずのリナちゃんがいつのまにか、自立飛行形態に戻って、私の耳元で喋っていた。


侑「リナちゃん……!? 吹き飛ばされちゃうから、腕に……!」

リナ『それよりも、作戦!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「さ、作戦……!?」

リナ『むしろ、これはチャンス!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「何が!?」

リナ『雪は……ライボルトにとって有利に働く!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「え……?」

リナ『あのね──』 || ╹ᇫ╹ ||


私はリナちゃんの策を聞いて──目を丸くする。


侑「そ、そうなの……?」

リナ『うん! 間違いない!』 || > ◡ < ||


リナちゃんが言ってることが、ホントかはわからないけど……!!


侑「リナちゃんを信じるよ!! ライボルトッ!! “じゅうでん”ッ!!!」


“ふぶき”に声をかき消されて、ライボルトに届かないなんてことがないように、大声で叫ぶ。

すると──


 「──ライボォォ…!!!!!!」


目の前で、雄叫びと共に、バチバチという音と、光が見える。

私の指示は、まだちゃんと聞こえてる……!


侑「ライボルト……!!! やるよ!!!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!!」





    ⛄    ⛄    ⛄





理亞「……そろそろ、限界のはず」
 「ニゴォォォーーーリッ!!!!!」


この雪山で、メガオニゴーリにパワーで競り勝つのは……ほぼ不可能だ。

この圧倒的なパワーによる“ふぶき”で勝敗が決することを確信した、そのとき──

“ふぶき”で真っ白になった景色の向こうから──光る何かが、飛んできた。


 「ゴォォォォォォ…!!!!!!!!!!!!!!?!!?」
理亞「……え?」
249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:24.58 ID:gk2TE+8k0

次の瞬間には──極太のビームが氷の壁もろとも、オニゴーリを吹っ飛ばしていた。

直後──


 「ライボォッ!!!!!」

理亞「!?」


メガライボルトが稲妻のような速さで、砕け散った氷の壁の内側に侵入し、


侑「──イーブイ!! “びりびりエレキ”!! ライボルト!! “10まんボルト”!!」

 「ブーーーィィィィィ!!!!!」「ライボォォォォ!!!!!!」

 「チリィィィィンッ!!!!?」「カブトプッ!!!!?」


チリーンとカブトプスに電撃を食らわせていた。


理亞「……!?」


私は咄嗟に、その場を離れるために、山の斜面を滑り降りて距離を取る。


理亞「な、なに……!?」


気付けば──


 「ゴォ……リ……」
 「チリィィン…」「カブトプ…」


私の手持ちは3匹とも戦闘不能になっていた。





    🎹    🎹    🎹





侑「す、すご……ホントに出来た……」


技の指示を出しておいてなんだけど……私は今しがたメガオニゴーリを氷の壁もろとも吹き飛ばした、“チャージビーム”のあまりの威力に驚いて、尻餅をついていた。

あんな極太のビームになるなんて……。うまいこと、氷漬けのウォーグルに当たらなくてよかった……。


理亞「あ、あんた……今何したの……!?」


理亞さんが斜面の下から、大きな声で訊ねてくる。


侑「え、えっと……“チャージビーム”を……」

理亞「はぁ!? “チャージビーム”であんな威力出るわけ……!!」

リナ『メガライボルトは周囲の電気を集束して撃ち出した。だから、あれだけの威力になったんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「だから、どこにそれだけの電気が……!!」

リナ『雪だよ』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……雪……? …………まさか……雪の帯電現象のこと……!?」


どうやら、理亞さんはリナちゃんの言葉でピンと来たらしい。

私は正直今でも、まだピンと来ていないんだけど……リナちゃんがさっき私に耳打ちしたのは──『あのね、雪は大量の静電気を溜め込む性質がある。それを集束すれば、ライボルトは大出力の攻撃が出来るはずだよ』──そんな内容だった。
250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 12:59:59.21 ID:gk2TE+8k0

リナ『雪は正電荷を大量に帯電する性質があって、その帯電量は発電が可能なほどって言われてる。ライボルトは周囲の空気中の電気を“じゅうでん”して自分のパワーに出来る。これだけ雪に囲まれてたら、これくらいの出力になって当然』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「……っ」


リナちゃんの説明を聞いて、理亞さんが悔しそうに顔を歪めた。

本当に予想外の攻撃だったんだろう。……私も予想外だったし。

とにもかくにも、


侑「リナちゃん、ありがとう……! これで……理亞さんを追い詰めた……!」


私の手持ちは残りイーブイとライボルトの2匹。対する理亞さんはリングマ1匹だ。


理亞「…………」


理亞さんはボールを構える。


理亞「正直……この子はあまり人前に出すつもりはなかったんだけど」

侑「……?」

理亞「行くよ──ガチグマ!!」
 「──グマァァァ」

侑「え!?」

リナ『ガチグマ!?』 || ? ᆷ ! ||


リングマじゃ──ない……!?

その姿は確かにクマのようなポケモンだけど……大きな体躯に泥のようなものを身に纏っている。

私はポケモンの種類には詳しい方だと思っていたけど……このポケモンは今まで一度も見たことがないポケモンだった。


 「グマァァァァ」


低い鳴き声をあげながら、ガチグマと呼ばれたポケモンがのっしのっしとこちらに向かって登ってくる。


侑「ライボルト!! “10まんボルト”!!」
 「ラァィィィィ!!!!!」


ライボルトが発する“10まんボルト”は緩慢に動くガチグマには、いとも簡単に直撃するが、


 「…グマァァァ」


電撃は、確かにガチグマに当たったはずなのに、全くダメージを受けたような素振りを見せなかった。


侑「き、効いてない……!?」

リナ『ゆ、侑さん! ガチグマはじめんタイプがあるから、でんき技は効果がないよ……!』 || >ᆷ< ||

侑「じ、じめんタイプ……!?」

リナ『ガチグマ でいたんポケモン 高さ:2.4m 重さ:290.0kg
   リングマが 泥炭が 豊富な 環境で 進化した姿。 まとった
   泥炭は 非常に 頑丈。 鼻が とてもよく 匂いを たよりに
   埋まっているものを 探して 掘り当てることが できる。』

侑「リングマにさらに進化があったの……!?」


しかも、このタイミングでじめんタイプのポケモンが相手なんて、タイミングが悪すぎる……!?


理亞「ガチグマ! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァ」
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:00:37.27 ID:gk2TE+8k0

ガチグマは低い声で唸りながら、こちらに向かって山の斜面を登り始める。


侑「か、“かえんほうしゃ”!!」
 「ライ、ボォォォォ!!!!!」


迫ってくるガチグマに対して、“かえんほうしゃ”で攻撃するけど、


 「グマァァァ」


ガチグマは炎の中を意にも介せず進んでくる。そして、十分に近づいたタイミングで、


 「グマァァァァ…!!」


雪面を蹴って──走り出した。


侑「……!?」


思ったより、速い……!?


侑「ライボルト……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!?」


私はイーブイを抱きかかえ、ライボルトの背に乗る。

それと同時に、ライボルトが走り出し──


 「グマァァァ!!!!」


ワンテンポ遅れて、ガチグマが突っ込んでくる。

ライボルトのスピードのお陰で、回避には成功したけど──ガチグマが私たちが今さっきまで居た場所に思いっきり前足を叩きつけると、


侑「うわぁ!?」


轟音を立てながら、衝撃で雪が吹き飛び、さらに硬い山肌にヒビが入り──山が揺れた気がした。


リナ『い、威力がヤバイ……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「避けないでよ。ガチグマは動きが遅いの」

侑「……っ……」


確かに動きは緩慢で、走り出しこそ遅いけど、体が大きいからか見た目以上にスピードがある。

しかも、あの威力……当たったら、確実に無事じゃ済まない……!


侑「い、一旦距離を取ろう……! ライボルト、上の方に走って!!」
 「ライボッ!!」


ライボルトが私を背中に乗せたまま、山を駆け上がり始める。

そして背後に向かって、


侑「イーブイ! “すくすくボンバー”!」
 「ブイ!!!」


イーブイが尻尾を一振りすると、タネが飛んで──山の斜面に大きな樹が成長を始める。

これで少しくらいは時間稼ぎに……!

だけど、
252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:01:19.23 ID:gk2TE+8k0

理亞「ガチグマ! “きりさく”!」

 「グマァァァ」


ガチグマが爪を立てながら、樹を殴りつけると、いとも簡単に樹がへし折られる。


リナ『全然止まらない……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「く……」


でも、“すくすくボンバー”は樹による防御技じゃない──タネによる攻撃技だ……!

ガチグマの頭上に、大きなタネが落下し──直撃するが、


 「グマ…」


ガチグマは意にも介さず、再び歩き始める。

その際タネから伸びた“やどりぎのタネ”がガチグマの体に絡みついていくが、それもまるで無視だ。


侑「き、効いてない……!?」


いや、効いてないわけじゃない……。相手の体力が多すぎて、気にしてないんだ……!

ガチグマが山を登る度に、私たちはさらに高く登って距離を取る。


理亞「逃げ続けてても、勝てないけど?」


理亞さんもガチグマの後ろを歩きながら、そう言葉を掛けてくる。

確かに、ずっと逃げ続けてても埒が明かない。ダメージは小さくても、攻撃を仕掛けないと……!


侑「イーブイ! “こちこちフロスト”!」
 「イーブイッ!!!」


黒い冷気が、ガチグマの体に纏わりつくように現れ──黒い氷の結晶がガチグマの体を凍らせるが、


 「グマァ…」


めんどくさそうにガチグマが体を揺するだけで、氷は薄いガラスのように砕け散ってしまう。


侑「い、“いきいきバブル”!」
 「ブーーイッ!!!!」


今度はイーブイの全身からぷくぷくと溢れ出す泡をガチグマに向かって飛ばす。

泡が直撃すると、


 「…グマ」


ガチグマは少しだけ鬱陶しそうにリアクションを取りこそしたものの、


 「グマァ…」


また、すぐに山を登り始める。


侑「た、タフすぎる……!」


全くダメージが通っていないなんてことはないはずなのに、全然手応えが感じられない。

ガチグマから目を離さないように、ライボルトに乗って距離を取りながら、考えていたとき──ズボッという音と共に、視界がガクンと揺れた。
253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:10.16 ID:gk2TE+8k0

侑「!? な、なに……!?」


ハッとして、ライボルトを見ると──


 「ラ、ライボ…!!」


ライボルトの体が、雪にはまっていた。


リナ『侑さん!? ライボルトが新雪に沈んでる!?』 || ? ᆷ ! ||


──どうやら、逃げ回っている最中に、新雪が大量に積もっている場所に足を踏み入れてしまったらしい。

私とイーブイが乗っている分の重さも相まって、ライボルトは新雪に沈んで、身動きが取れなくなる。

もちろん、こっちの身動きが取れないからって、ガチグマが待ってくれるはずもなく、


 「グマァァ」


むしろこっちの動きが鈍ったことに気付き、スピードを上げて近付いてくる。


侑「……く……!」


私はライボルトから飛び降りる。

もちろん、降りた先も新雪だから、私の身体が一瞬で膝くらいまで雪に埋まってしまうが、


侑「ライボルト、“かえんほうしゃ”!! イーブイ、“めらめらバーン”!!」
 「ライボォッ」「ブイィィ!!!!」


炎熱で周囲の新雪を無理やり溶かして、スペースを確保する。

雪が溶け、バシャバシャと水音を立てながら、山肌を再び登りだす。


理亞「いい加減、面倒……ガチグマ、“じならし”!」
 「グマァァ!!!」

侑「うわぁっ!?」
 「ライボッ…!!!」「ブイ…!?」


ガチグマが地面を激しく揺らし、その揺れに足を取られ──直後、ツルっと足が滑った。


侑「っ!?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

理亞「……ここは氷点下。雪を一気に溶かしたら──すぐに凍結する」


どうにか足を踏ん張るけど、凍結した斜面で立つことは困難で、私はそのまますっ転ぶ。

そしてここは斜面。一度足を滑らせたら──私の身体は、一気に滑落していく。


 「ライボッ…!!!」「ブイ!!!」
侑「ライボルト!! イーブイ!! 来ちゃダメ!!」


滑落する私を助けようと飛び出す2匹を制止するけど、ライボルトもイーブイも止まってくれない。

そして、そこに向かって──


 「グマァァァァァ!!!!!」


ガチグマが雄叫びをあげながら、走り込んでくる。


 「ライボッ!!!」
254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:02:48.19 ID:gk2TE+8k0

ライボルトが滑る私の襟後に噛み付き、


 「ブイッ!!!」


イーブイが“こちこちフロスト”で私の滑り落ちる先に氷の壁を作ることで、滑落は止まったけど──


 「グマァァァァッ!!!!!」


そのときには、ガチグマはもう目と鼻の先だった。


侑「ライボルト、逃げ──」

理亞「“ぶちかまし”!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


リングマの“ぶちかまし”が“こちこちフロスト”の黒い氷ごと──私たち全員を、大きな体躯で突き飛ばした。


侑「……っ゛……ぁ゛……!!」


強い衝撃に脳を揺さぶられるような感覚──そして、数瞬後には、落下の衝撃で呼吸が一瞬止まる。


侑「ぐ……げほ、げほっ……!」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「はぁ……はぁ……リナちゃん……平気……?」


腕に着いたリナちゃんに声を掛ける。


リナ『わ、私は大丈夫……侑さんは……』 || 𝅝• _ • ||


私は──視界が真っ白だった。

意識が飛びかけてるのかと思ったけど──よく見たらそれは雪だった。


侑「今度は……新雪に……たすけ、られたね……」


新雪がクッションになったお陰で、山肌に直接落下するのを避けられたらしい。

近くからは、


 「ライ、ボ…!!!」「ブイィィ…!!!」


ライボルトとイーブイの鳴き声も聞こえる。

どうやら、2匹とも無事のようだ。……だけど、


 「グマァァァァ!!!!!」

リナ『侑さん!? ガチグマ、近付いてくる!! 逃げなきゃ!!』 || ? ᆷ ! ||

侑「逃げたいんだけど……身体が……動かない……」

リナ『えぇ!?』 || ? ᆷ ! ||


落下の衝撃が軽減されたと言っても……“ぶちかまし”で数十メートルは吹き飛ばされた。

骨が折れてるのか、どこかを強く打ったのかとかはよくわからないし、戦闘で高揚しているからか不思議と痛みはあまり感じなかったけど……とにかく、身体が言うことを聞かず、起き上がることが出来なかった。


 「グマァァァァ!!!!!」


ガチグマの足音がどんどん近付いてきて、地面が揺れる。
255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:03:35.08 ID:gk2TE+8k0

リナ『侑さんっ!! お願い、立って!! 立って逃げなきゃ!!』 || > _ <𝅝||

侑「……っ」

リナ『諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「ぐ……ぅ……っ……」


そうだ、ここで諦めたら──なんのために修行したのか、わからないじゃないか。

身体に必死に力を籠める。だけど──ちょっと身体を持ち上げるのが限界で、すぐに崩れ落ちて、ぼふっと身体が雪に沈み込む。


侑「……く、そぉぉぉ……」

リナ『侑さんっ!!』 || > _ <𝅝||


あと、ちょっと……あとちょっとなのに……。


リナ『雪……!! 動くのに雪が邪魔なら、私がどける!!』 || > _ <𝅝||


リナちゃんがそう言いながら、私の腕を離れて、雪に突撃する。


侑「リナ……ちゃん……」


もちろん、リナちゃんに雪を掘る機能なんてない。新雪に板型の窪みが出来るだけ。

この状態で、辺り一面を新雪に囲まれた状態じゃ……。


侑「…………雪……?」

リナ『侑さん!! 這ってでも、逃げて! そしたら、きっとチャンスがあるはずだから!!』 || > _ <𝅝||

侑「……リナちゃん、私の腕に戻って……!」

リナ『侑さん!! 諦めないで!!』 || > _ <𝅝||

侑「違う! 作戦があるんだ!」

リナ『!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「私から、絶対離れないで!!」

リナ『わ、わかった!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんが私の腕に装着されたのを確認する。


 「──グマァァァァァァ!!!!!」


鳴き声が近い。もうガチグマはすぐそこに迫ってる。

なら、イチかバチか……!!

──さっき、ガチグマにいろんな攻撃を仕掛けたけど……その中で、少しでもリアクションがあったのは、“いきいきバブル”だけ。


侑「ライボルトッ!!! “じゅうでん”!!!」
 「ライボォッ!!!!!」


ライボルトが周囲の雪から静電気を集束し始める。


理亞「──何をしようとしてるのか知らないけど、ガチグマに電撃は効かない!!」


理亞さんの声が聞こえる。本当に、もうすぐ傍に迫っている。


侑「イーブイ!! ガチグマに向かって、“きらきらストーム”!!」
 「イーーーブィッ!!!!!」
256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:04:14.93 ID:gk2TE+8k0

パステル色の旋風がガチグマを攻撃する。


 「…グマ」
理亞「悪あがき……! そんな技じゃ、ガチグマには通用しない!!」


イーブイの技じゃ威力が足りないのも、ライボルトの電撃が通用しないのもわかってる。

だから──


侑「ライボルトッ!!!!! 山頂方向に向かって、“かみなり”ッ!!!!!」
 「ライボォォォォォッ!!!!!!!!!」


直後──山頂方向から、凄まじい雷轟が周囲の空気を震わせる。


理亞「……!?」
 「グマァッ!!!?」


溜まりに溜まりきった、電気たちを──“かみなり”によって、ここよりもっと上の方に落とした。

“かみなり”による、衝撃波が山を揺らし……さらに、熱によって──雪が溶ける。

直後──ゴゴゴゴゴゴゴッという地鳴りのような音が山頂側から響いてくる。


理亞「この音……まさか……!? ……雪崩!?」


理亞さんは、この山に慣れているからか、音ですぐに気付いたようだ。

そう、私は──“かみなり”で雪崩を誘発した。数秒後にはここに雪崩が到達する。

でも、これだけじゃ足りない……ガチグマに有効なのは──水だ。

イーブイの技で、威力が足りないなら──大量の水を作ってぶつけるしかない……!!


侑「ライボルトォッ!!! イーブイッ!!! 私のことは構わなくていいっ!! 全力全開でっ、“オーバーヒート”ォッ!! “めらめらバーン”ッ!!」
 「ライボォォォォォ!!!!!!」「ブーーーーィィィィィ!!!!!!」


ライボルトとイーブイが──全力で熱波を発すると、気温が氷点下から一気に上昇し、周囲の雪が一気に溶け始める。


侑「……っ゛!!」


身体が燃えるんじゃないかという熱波の中で……もし、雪崩の雪を── 一気に溶かしたらどうなるか?

雪は溶ければ──水になる……!!


理亞「……なっ!?」


雪崩が溶け、大量の鉄砲水になって、私たちのもとへと猛スピードで押し寄せてくる。


理亞「……!? ガチグマ、逃げ──」
 「グマ…!!?」


一気に押し寄せてきた鉄砲水に、私もライボルトもイーブイも、理亞さんもガチグマも、全員が押し流される。


侑「……っ!!」


鉄砲水に流される中、


 「──ライボッ」


ライボルトが私の服の袖を掴んで引っ張り上げる。
257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:03.08 ID:gk2TE+8k0

侑「ぷはっ……!!」
 「ライボッ!!!」「ブイ!!!」


流れる水の中で、辛うじて顔を出すと──イーブイもライボルトの背中にしがみついていて、無事なことが確認出来る。


リナ『侑さん!! 攻撃、来る!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑「……!!」


声にハッとして、顔を上げると──


 「グマァァァァ!!!!!」


押し流されながらも、理亞さんを背中に乗せたガチグマが、山肌に爪を立てて水流に耐えながら、強引にこっちに突っ込んでくる。


理亞「相討ち狙い上等じゃない……! でも、これで終わり!!」
 「グマァァァァァ!!!!!」


大きな体による“ぶちかまし”が迫る。

でも、次の瞬間──私たちの身体がフワリと浮いた。


理亞「なっ……!?」


理亞さんの驚く顔。それも、当然。だって、私たちを空に引っ張り上げたのは──


 「ウォーーーーーーッ!!!!!!」


さっき、下で氷漬けになってたはずの、ウォーグルだったからだ。

ウォーグルは、ライボルトを大きな爪でしっかり掴んで、空高く飛び上がる。

そして直後、


 「グマァッ!!!!?」
理亞「ぐ……っ……!?」


踏ん張ることが限界に達したガチグマは──理亞さんを乗せたまま鉄砲水に押し流されていったのだった。


侑「はぁ……はぁ……ウォーグル……気付いてくれて、ありがとう……」
 「ウォーッ!!!!」


私は、ほぼ動けないから、ウォーグルが掴んでいるライボルトに服を咥えられたまま、飛行する。

宙ぶらりんでいつ服が千切れるのかわからなくて、めちゃくちゃ怖い……。


侑「一旦、降りて……」
 「ウォーー!!!!」


──ウォーグルに指示を出し、鉄砲水と雪崩の影響がない場所まで移動して、雪面へと着地する。
258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:05:52.63 ID:gk2TE+8k0

侑「どうにか……うまく、いった……」

リナ『侑さん……すごい無茶する……』 || > _ <𝅝||

侑「でも、どうにか、なったよ……あはは……」
 「ライボッ」「ブイ」

侑「ウォーグルをボールに戻せなかった状況が……却ってよかったよ」
 「ウォーー!!!」

リナ『じゃあ……さっきの“きらきらストーム”は……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん……。あれはガチグマへの牽制じゃなくて──下で氷漬けになってるウォーグルの“こおり”を溶かすため……」
 「ウォーーーッ!!!」

リナ『ホント無茶する……無事でよかった』 || > _ <𝅝||

侑「あはは……ごめんね、心配掛けて……」


リナちゃんにそう伝えながら──私はライボルトにもたれかかるようにして立ち上がる。


リナ『た、立って平気……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「正直……今にも倒れそう……だけど、理亞さん……探しに行かなきゃ……」


試合とはいえ……かなり無茶苦茶なことしちゃったし……。


リナ『あ、そ、そうだった!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんがサーチを始める中、


侑「ウォーグル……」
 「ウォーーーッ!!!!」


ライボルトにどうにかウォーグルの背中の上に押し上げてもらって──私たちは理亞さんを探しに、飛び立った。





    🎹    🎹    🎹





──理亞さんは思いのほか、すぐに見つかって、


リナ『侑さん、あそこ!』 || ╹ᇫ╹ ||


崖から飛び出していた、太い木の枝にしがみついていた。


理亞「……助けてもらっていい?」

侑「は、はい!! ウォーグル!」
 「ウォーー!!!」


ウォーグルが足で理亞さんの肩をしっかり掴んで、飛び上がる。

そのまま、地形がなだらかな場所まで移動し──理亞さんを降ろす。
259 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:06:51.68 ID:gk2TE+8k0

理亞「……助かった。ありがと」

侑「い、いえ……あの……ごめんなさい……」

理亞「……別にいい。お互い全部を賭けたバトルだったんだから、これくらいのことは水に流す」

侑「……ぷっ、くくくっ……」

理亞「……何笑ってんの」

リナ『鉄砲水だけに、水に流す』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

侑「り、リナちゃん、せ、説明しないでっ、あ、あはは、あはははははっ!!」
 「ブイ…」


──ゴチンッ。


侑「いったぁ!?」

理亞「何この子……ケンカ売ってんの?」

リナ『侑さん、笑いのツボが浅すぎるから』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


な、なにもげんこつしなくても……不可抗力なのに……。


リナ『そういえば理亞さん、ガチグマは……?』 || ╹ᇫ╹ ||

理亞「戦闘不能だったから、ボールに戻した」

侑「じ、じゃあ……!」

理亞「……私の負け。これ、“スノウバッジ”」


理亞さんはそう言って、雪の結晶の形をしたバッジを手渡してきた。


侑「あ、ありがとうございます……」


あまりに淡泊に渡されたため、逆にリアクションが取れなかった。


理亞「強かった。その実力なら、きっと作戦に参加しても、海未さんに文句言われないと思うから」


それだけ言うと、理亞さんは私に背を向けて、山を下り始める。


侑「あ、理亞さん……! ヒナギクまで送ります……!」


理亞さんにそう声を掛けると同時に──視界が揺れた。


理亞「いい。この山を降りるのには慣れてる」

リナ『いや、待って』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「あのね……一応負け側は負け側でいろいろ考えたいことが」

リナ『そうじゃなくて……侑さん、ぶっ倒れてる』 ||;◐ ◡ ◐ ||

理亞「……はぁ!? ち、ちょっと……!?」


リナちゃんの言葉でやっと気付く。

あ、私……倒れてる……。

視界がぐるぐるしてるし……。
260 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:07:32.57 ID:gk2TE+8k0

侑「……ぅぅ……」

理亞「ああもう……!? ウォーグル、この子上に乗せるから、病院まで運んで!! なんでバトル後のチャレンジャーの世話までしなくちゃなんないの!?」

侑「す、すいません……」

理亞「もう喋んなくていい!! ほら、飛ぶから、じっとしてなさい!!」
 「ウォーーー!!!」


私はそのまま──ローズの病院まで搬送されましたとさ……。





    🎹    🎹    🎹





──ローズシティ、病室。


かすみ「侑せんぱーいっ!!」

侑「か、かすみちゃん!?」


かすみちゃんは、私の病室に飛び込んでくるなり、抱き着いてくる。


侑「い、いたた……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……! 怪我の具合は……」

リナ『骨とかは無事だって、ちょっとアザになってるところはあるけど……打ち身とかにもなってないし、すぐに痛みも引くって。倒れた理由の大部分はジム戦での消耗が原因みたい』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「ほ……なら、よかったです……。侑先輩が怪我したって聞いて、すっとんできたんですよ……?」

侑「そういうかすみちゃんも……ボロボロだよ」


かすみちゃんも、あちこちに切り傷や擦り傷があるし……なんか、服があちこち焦げて、煤がついてる……。


侑「お互い……激しいバトルだったみたいだね」

かすみ「……ですねぇ」


そう言いながらお互い──バッジケースを取り出す。


侑「……でも、ちゃんと手に入れたよ──“スノウバッジ”」

かすみ「はい! かすみんも、“スティングバッジ”! 手に入れました!」


つまりこれで──


 「──作戦参加の条件はクリアした……ということですね」

侑・かすみ「「!」」


病室のドアの方から声がして、そちらに目を向けると──


海未「まさか、本当に本気のジムリーダーたちを倒してくるとは……」

侑「海未さん!!」
かすみ「海未先輩!!」


海未さんが立っていた。
261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:15.80 ID:gk2TE+8k0

果南「やっほー私もいるよー」

彼方「彼方ちゃんも来てるよ〜」

侑「果南さん……彼方さんも……!」

海未「今しがた……ヒナギク、クロユリの両ジムから、チャレンジャーが勝利したと報告を受けました」


海未さんは少し困ったような表情をしていた。……さっきも言っていたけど、まさか本当にやり遂げるとは思っていなかったのかもしれない。


かすみ「う、海未先輩……! 今更、やっぱ無しとか無しですよ!?」

海未「さすがにここまで来て、そんなことは言いません……。……ジムバッジ8つを集めただけでなく……本気のジムリーダーを倒したのですから、認めますよ」

侑「じゃあ……」

海未「はい。侑、かすみ。貴方たちのチャンピオン及び、人質救出作戦への参加を許可します」


海未さんの言葉を聞いて、


かすみ「いやったぁぁぁぁーーー!! 侑せんぱーい!!」


かすみちゃんが抱き着いてくる。


侑「いたた……痛いよ、かすみちゃん……」

かすみ「あ、ご、ごめんなさい……。でもでもでも、かすみんたちやり遂げたんですから!! 本気のジムリーダー、倒しちゃったんですから!!」

侑「……うん!」
 「イブィ」


まだ、これから始まるっていうのはわかっているけど……これで一安心……ひと段落した気分だ。


海未「今日はジム戦の疲れもあるでしょう。明日、2回目の作戦会議をセキレイで行います」

かすみ「セキレイ? ローズでやらないんですか?」

海未「集まれる人員を考えるとセキレイでやるのが都合がいいんです」

侑「集まれる人員……? じゃあ、全員は来られないってことですか?」

海未「はい……もうすでに地方のあちこちでウルトラビーストの出現報告が上がっていて、ジムリーダーたちが町を離れにくくなっているので、前みたいに全員集めるのは難しいんです」

侑「……! そ、それホントですか……!?」

果南「すでに、コメコとダリア、サニー、ウラノホシに出たみたいだよ。ジムリーダーと四天王がすぐに撃退したらしいけど」

海未「それに数日前、クロユリで英玲奈が撃退したポケモンも、ウルトラビーストだったと言うことが判明しています」

かすみ「こ、攻撃が始まったってことですか……!?」

彼方「うぅん。多いときはこれくらいのペースで出現することはあったから……攻撃ってわけじゃないと思う。今は穂乃果ちゃんも別のことしてて、積極的に撃退に向かってないみたいだし……。ただ、果林ちゃんたちがウルトラスペースに突入したのが原因で、ウルトラビーストたちが刺激されてこっちに来てる可能性はあるかも……」

海未「どちらにしろ、あまり時間の猶予がありませんから。二人はしっかり休んで明日は万全の体調で臨むように」

侑「は、はい!」

かすみ「頑張ります!」

海未「……頑張らないで欲しいと言っているんですが……。まあ、いいでしょう。それでは、私はここで失礼します。またセキレイで」


そう言って海未さんは、私の病室から去っていった。

海未さんが退出したのを確認すると、果南さんが口を開く。
262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:08:53.40 ID:gk2TE+8k0

果南「なにはともあれ、二人ともジム制覇おめでとう」

かすみ「はい! ありがとうございます!」

侑「果南さんのお陰で勝てました……! 本当にありがとうございます……!」

果南「ふふ、私は何もしてないよ。二人が強くなっただけ」

彼方「うん! 二人とも見違えるくらい強くなったよ〜!」

侑「彼方さんも……ありがとうございます」


遥ちゃんのこと、心配だったはずなのに……それでも、彼方さんは私たちのサポートをしてくれていたわけで……。

そんな私の胸中に気付いたのか、


彼方「ふふ、そんな顔しないで、侑ちゃん。遥ちゃんは今安全な場所でお休み中なだけだから」


そう言って、ニコリと笑ってくれた。


果南「──改めて、二人ともここまでお疲れ様。でも、本当に大変なのは、ここからだからね。私が言わなくてもわかってるだろうけど」

侑「……はい!」

かすみ「ですね……! こっからが本番なんですから!」


私たちはこの地方の全てジムを制覇し──ついに、歩夢たちを助けに行く許可を貰うことが出来た。

あと、もうちょっとだから……歩夢、すぐに迎えに行くから……待っててね……。



263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/23(金) 13:09:26.66 ID:gk2TE+8k0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ローズシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       ● __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:214匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:24:21.35 ID:ITfcLIGe0

 ■Intermission🎙



──私たちがウルトラディープシーに来て、数日……。


せつ菜「……私たちはいつまでここにいるんでしょうか……」

しずく「果林さんたちが迎えに来てくれるまでですね♡ きっともうすぐですよ♡」


しずくさんはそう言いながら、どこから取り出したのか、ネチャネチャと音を立てながら、すりこぎで何かを作っている。


せつ菜「……何を作っているんですか?」

しずく「歩夢さんのご飯です♡」

せつ菜「ご飯……? それがですか……?」

しずく「はい♡」


──当の歩夢さんは今も……頭にウツロイドを乗せたまま、洞窟の壁にもたれかかったように座っている。……というか、さっきしずくさんがそこに座らせていた。


しずく「はーい、歩夢さん♡ ご飯の時間ですよ〜♡」


しずくさんはそう言いながら、歩夢さんの口元にスプーンを持っていく。

歩夢さんの唇に、スプーンがちょん……っと触れると、歩夢さんは小さく口を開ける。

しずくさんはその小さく開いた口の中に、スプーンを滑り込ませる。


せつ菜「……! 歩夢さん……意識が……?」

しずく「ほぼ無意識で食べているだけだと思いますよ」

せつ菜「反射……ということですか……?」

しずく「毒に侵されたとしても、お腹は減るでしょうしね♡ 人間食欲には勝てません♡」


考えてみれば、ここに来て数日経ったわけだし……今まで歩夢さんが水も食料も取っていなかったとは考えづらい。

それに、しずくさんが妙に手慣れている。


せつ菜「もしかして……私の知らない間に何度か食事を……?」

しずく「はい♡ せつ菜さんがウツロイドを撃退している間に、何度か♡」

せつ菜「なるほど……」

しずく「今の歩夢さんは、固形物を食べさせたら喉を詰まらせてしまいますから。こうして、離乳食みたいにして食べさせてあげてるんですよ♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」

しずく「はーい♡ 歩夢さん、次ですよ〜あ〜ん♡」


まるで雛の餌付けのようだが……歩夢さんは今、こうして誰かが世話をしてあげないと……生きていることさえ出来ないのだ。

それも……私たちが……こんなことをしているから……。

そう考えたら……急に気分が悪くなってきて、私は口元を押さえて蹲る。


しずく「……せつ菜さん、大丈夫ですか?♡」

せつ菜「…………。……私は……貴方が羨ましい……」

しずく「どうしたんですか、急に?♡」

せつ菜「……私は……貴方のように、割り切れない……」
265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:26:31.95 ID:ITfcLIGe0

果林さんの差し伸べた手が──私を悪しき道に引きずり込む手だったことに気付くのには……さして時間は掛からなかった。

でも、あのときの私は、自暴自棄になっていたところもあって……その手を振り払おうと思わなかった。思えなかった。

力を受け取ってしまった。使ってしまった。……その力でもう……人を傷つけてしまった。

自分で決めて……自分で力を振るって……自分の意思で人を傷つけたんだ……。

そんな人間が、今更反省した振りをして、手の平を返すことなんて……出来ない。出来るはずがない。

──だから、私は……悪に染まろうと思った。身も心も……悪に染まれば、楽になれるんじゃないかって。

だけど、私は今……一人の人間を──歩夢さんという一人の人間を……壊すことに加担している。

それが、恐ろしくてたまらなかった。


せつ菜「…………貴方ほど……悪に染まれない……悪に……狂えない……」


自分の肩を抱いて、震える私に向かって、しずくさんは、


しずく「…………せつ菜さんはきっと……真面目で、優し過ぎるんですよ」


そんな風に言う。


せつ菜「……」

しずく「……せつ菜さんは、悪い人になりたいんですか?」

せつ菜「…………今更……正義者面なんて……出来ませんし……したくないですよ……」

しずく「……正義にも、悪にもなり切れないのが……辛いんですね」

せつ菜「…………」


しずくさんのその言葉が、妙にしっくりきた。……私は、何にもなり切れないのが……辛いんだ。

私の沈黙を肯定と取ったのか、しずくさんは言葉を続ける。
266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 00:27:13.68 ID:ITfcLIGe0

しずく「なら、私のお願いを聞いてくれませんか?」

せつ菜「……? お願い……?」

しずく「今後……もし、私に何かあったら。一度だけでいいので、私を無条件で助けてください。……あ、果林さんからのお仕置きは別ですよ♡」

せつ菜「……? どういうことですか……?」

しずく「……せつ菜さんから見て、私は悪に染まって、悪に狂っているんですよね? なら、そんな悪人の私を無条件で助けたりしたら──せつ菜さんも立派な悪人ですよ♡」

せつ菜「しずくさん……」

しずく「どうですか?♡」


彼女は相変わらず何を考えているのかわからない笑顔を向けながら言う。

でも……なんとなく、それは迷っている私に対しての、しずくさんなりの優しさに感じた。


せつ菜「……わかりました。……私は貴方を助けましょう」

しずく「ふふ♡ 契約成立ですね♡ 約束ですよ♡」


奇妙な協力関係だけど……今は少しだけ、彼女に背中を預けてもいいかもしれない。そんな風に思ったのだった。


しずく「はーい、歩夢さん♡ 次はお水ですよ〜♡ ストローでゆっくり飲んでくださいね〜♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」



………………
…………
……
🎙

267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:50:55.80 ID:ITfcLIGe0

■Chapter057 『希望に向けて』 【SIDE Yu】





ジム戦があった日の翌日。私たちは海未さんに言われたとおり、セキレイシティを訪れていた。


海未「──さて、全員揃いましたね」


海未さんが全員を見回しながら、そんな風に言うここは──ツシマ研究所だ。


海未「再度の確認になりますが、今回集まっていただいたのは、二つの作戦──『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』のための配置決め及び作戦遂行のための話し合いです」


海未さんはそう前置き、


海未「今回集まっていただいたメンバーですが、まずそれぞれの作戦のリーダーの果南と鞠莉。ジムリーダーからは、事前に申し出のあったルビィと理亞、果南からの推薦で曜の3人に来てもらっています。加えて鞠莉からの推薦で善子。こちらからの要請で彼方に。……そして一般人から2名。侑とかすみです」

侑「よ、よろしくお願いします!」

かすみ「お願いしますっ!」


ちゃんと実力で勝ち取ってここまで来たとはいえ……さすがにこのメンバーに並べられると緊張してしまう。


曜「あのー……推薦について、質問があるんですけど」

海未「なんですか、曜?」

曜「善子ちゃんもだけど、どうして私たちは推薦されたのかなって……」

果南「マナフィの調査は海洋を潜る必要があるから、もう一人くらいみずタイプのエキスパートが欲しいって思ったんだ」

曜「なるほど! そういうことなら、喜んで協力するよ!」

善子「私は?」

鞠莉「暇でしょ?」

善子「暇じゃないわよ!?」

鞠莉「冗談よ。あなたは参加したいんじゃないかと思って」

善子「……ん、まあ……。……ありがと」


ヨハネ博士にとって、今回の問題は菜々さんが深く関わっている。だから、ヨハネ博士は作戦に参加していたがっていただろうし、そんなヨハネ博士の気持ちを慮って、鞠莉博士が推薦をした……ということらしかった。


海未「さて、次に配置決め……と行きたいのですが、その前に。かすみ」

かすみ「は、はい!」

海未「空間の裂け目があった場所……教えてもらってもいいですか?」

かすみ「え、えっとぉ……教えたら、やっぱ付いて来ちゃダメとか……言わないですよね……?」

海未「言いません。貴方は紛れもなく、この地方でも有数の実力者ですから」

かすみ「……! え、えへへ……」


海未さんの言葉に、かすみちゃんが嬉しそうにはにかむ。

改めて……私たちは、それくらいのことをやり遂げたんだと実感する。もちろん、これからが本番だと言うのは理解しているけど。
268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:51:51.66 ID:ITfcLIGe0

かすみ「空間の裂け目があったのは──15番水道の東の方です!」

曜「15番水道ってことは……船の墓場? ……あ、もしかしてマンタインサーフのテストのとき……?」

かすみ「はい! かすみんたち、実はあのとき幽霊船の中で、ゴースたちが逃げ込む空間の裂け目を見たんです!」

果南「ゆ、幽霊船……!?」

海未「では、そこに行けば空間の裂け目があると……」

かすみ「はい! ただ……かすみんたちが降りたあと、船はどこかに行っちゃったから、探さないといけないですけど……」

海未「ふむ……。……幽霊船ですか……」

かすみ「ほ、ホントにあったんですよ!? 嘘じゃないですよ!?」

海未「今更かすみを疑うわけではありませんが……眉唾な話だなとは思ってしまいますね……」

曜「でも確かに15番水道の沖で幽霊船を見たって話は有名だからね。かすみちゃんが見たって言うのは間違いないと思うよ」

かすみ「あ〜ん♡ 信じてくれる曜先輩好き好き〜♡」


かすみちゃんが曜さんに抱き着くと、曜さんはニコニコ笑いながら、かすみちゃんの頭を撫でる。


善子「“忘れられた船”か……」

海未「善子……? 何か知っているのですか?」

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ。……100年くらい前に、船の墓場の調査に出た大型のスループ船が行方不明になって……それ以降、ゴーストタイプのポケモンの巣窟になって今も海を彷徨ってるって都市伝説があるのよ」

海未「その都市伝説が、本当だった……ということですか」

善子「確か、目撃例を纏めた資料があったはず……取ってくるわ」


ヨハネ博士は、奥の部屋に資料を取りに部屋から出ていく。


彼方「よくそんな資料持ってるね〜……?」

鞠莉「善子は、ポケモン文化の研究者だからネ。ポケモンの関わる事故や事件にも詳しいのよ」

彼方「お〜なるほど〜」

善子「そういうこと。あとヨハネなんだけど」


そう言いながら戻ってきたヨハネ博士が、資料をめくって中身を確認する。


善子「基本的には15番水道の東側の沖。見つかるときは決まって濃霧の中みたいね」

かすみ「あ、確かに、かすみんたちが見つけたときもそうでした!」

海未「となると……15番水道の上空から濃霧が出ている場所を探した方がいいんでしょうか……」

曜「うーん……でも、あそこらへんってもともと海霧が多いからなぁ……」

善子「自然現象で発生する霧と違って、ポケモンが発生させているものの可能性が高いから……映像とかがあれば解析出来ると思うんだけど……かすみ、写真とか撮って──……ないわよね」

かすみ「さ、さすがにそんな余裕はなかったですぅ……」

善子「うーん……直近のことなら、図鑑のメモリーに残ってたかもしれないんだけど……」

侑「図鑑にそんな機能があるの……?」


リナちゃんに訊ねると、


リナ『うん。ポケモンデータ解析のために、図鑑を開いたときに、周囲の画像を一時的に保存する機能がある。容量が勿体ないから基本はすぐ上書きしちゃうけど』 || ╹ᇫ╹ ||


そう答えが返ってくる。
269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:52:56.85 ID:ITfcLIGe0

善子「2〜3日分くらいまでだったら、サルベージも出来なくはないんだけど……さすがに前過ぎるから……」

海未「こればかりはどうしようもないですね……」

鞠莉「……ねぇ、かすみ。その幽霊船って、しずくも一緒にいたのよね?」

かすみ「え? は、はい。そのときはしず子に助けてもらったから……」

鞠莉「……それなら、いけるかもしれないわ。ロトム」
 「呼ばれて飛び出てロトー」


そう言いながらロトム図鑑が鞠莉さんのバッグから飛び出してくる。


かすみ「あ! ロトム!」
 「かすみちゃん、久しぶりロトー」

鞠莉「15番水道で見たってことは、恐らくロトムは直近でしずくの図鑑に入ってる。そのときに画像データを見てないかしら?」
 「もちろん、見てるロト。入ったときにストレージの確認をしたロト。すぐにでも再現できるロト」

鞠莉「Nice♪ さすがわたしのロトムだわ♪」
 「照れるロト」


鞠莉さんは本当に嬉しそうにロトムを褒める。


ルビィ「ねぇ、善子ちゃん……鞠莉さんとロトムってあんな感じだったっけ……?」

善子「私も同じこと思ってたわ……」

果南「まあ、いろいろあったんだよ。いろいろ」

鞠莉「とりあえず、すぐにでも解析は始められると思う」

海未「それでは鞠莉には、この会議が終わり次第その解析をお願いします」

鞠莉「OK」

海未「では、改めて……配置決めをします。といっても、ほぼ決まっているようなものですが……」


海未さんはそう前置いて、配置決めの話を始める。


海未「まず『マナフィ捜索』班ですが、リーダーの果南、フィオネの所有者の侑、そして先ほども言っていたとおり果南からの推薦で曜に同行をお願いします」

果南「あいよー」

曜「ヨーソロー♪ 任せて!」

侑「お、お願いします!」
 「イブィ」

海未「そして『やぶれた世界調査』班は、ルビィ、理亞、そしてかすみ。……リーダーに鞠莉……と言いたいところなのですが……」

鞠莉「マリーが付いていけるのは、やぶれた世界を見つけるところまでなのよね〜」

かすみ「え、そうなんですか……!?」

鞠莉「わたしは、やぶれた世界の穴を維持する役割があるの」

かすみ「穴の維持……?」

海未「やぶれた世界は非常に不安定で、いつ穴自体が塞がってしまうかもわからないんです。なので、外からポケモンの力によってこじ開け続けておく必要があるんです」

鞠莉「だから、マリーは外からディアルガとパルキアで穴を開け続けるってわけ♪」

理亞「……一人で大丈夫……? ディアルガとパルキアのコントロールは負荷が大きいって……」

鞠莉「ええ、わたしも伊達にディアルガとパルキアの研究をしてきたわけじゃない。調整も済ませて来たし、丸1日くらいなら、一人でどうにかしてみせるわ」

かすみ「あのあの〜……それじゃぁ、リーダーは理亞先輩かルビ子ってことですかぁ……?」

海未「それについてですが……」

彼方「リーダーは彼方ちゃんがやるよ〜」


彼方さんが手を上げる。
270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:04.03 ID:ITfcLIGe0

かすみ「え!? 彼方先輩がですか!?」

海未「彼女の実力は私が直接確認しましたが……恐らくジムリーダーかそれ以上の実力を持ったトレーナーだと判断しました。彼女が最年長ですし、今回はまとめ役をお願いしたいと思います。理亞、ルビィ、いいですか?」

理亞「私は構わない。実際、その人が強いのは見ればわかるし……」

ルビィ「ルビィも大丈夫です! それに……今回ルビィには他の役割があって、リーダーみたいなのは難しいから……」

かすみ「ウルトラビーストに関してはどうするんですか? 彼方先輩には寄ってきちゃうんですよね?」

海未「やぶれた世界に突入するまでは鞠莉がいますし……突入後なら関係がないので。……それに、本来市街地が近くなければ、彼女一人でも十分対処出来るだけの実力があります」

彼方「それに、今ならルビィちゃんも理亞ちゃんもかすみちゃんも、彼方ちゃんが守ってあげなくても十分に戦える人だからね〜♪」

海未「というわけで、『やぶれた世界調査』班は、鞠莉、彼方、ルビィ、理亞、かすみ。この5人にお願いします」

果南「『マナフィ捜索』班は私、曜、侑ちゃんと……」

善子「人数的に私はマナフィの方ね」

曜「善子ちゃんなら、海中戦も出来るしね!」

善子「まあ、エキスパートの貴方たちほどじゃないけどね……」

侑「果南さんに曜さんにヨハネ博士……す、すごい人たちばっかりだけど……わ、私も頑張ります!」
 「ブイ!!」

果南「大船に乗った気持ちでいていいよ♪」

曜「海でのことなら任せて♪」

善子「何かあっても、ヨハネが守ってあげるから。安心なさい」

侑「は、はい!」


こ、この3人……頼もしすぎる……!


海未「概ね話したいことは話せましたね。それでは、今現在を持って、『マナフィ捜索』及び『やぶれた世界調査』作戦を開始します! 皆さん、ご武運を」


こうして、二つの調査がスタートした──





    🎹    🎹    🎹





私たちが研究所を出て出発しようとすると、


海未「理亞、ちょっと待ってください」

理亞「? 何?」


海未さんが理亞さんを呼び止める。


海未「このポケモンを連れて行ってください」


そう言って、理亞さんにモンスターボールを1個手渡す。


理亞「この子は……」

海未「聖良のマーイーカです」

理亞「……! ねえさまの……?」

海未「特別に許可を取りました。彼女のマーイーカはやぶれた世界でも自由に動けるように訓練を受けていると聞きました。理亞の言うことなら聞くと思うので……」

理亞「……うん。ありがとう、海未さん」


理亞さんは海未さんにお礼を言って、モンスターボールを受け取る。
271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:54:39.45 ID:ITfcLIGe0

果南「さて……それじゃ、私たちはまずウラノホシタウンに向かおうか。スワンナ、出番だよ」
 「──スワン」

善子「出てきなさい、ドンカラス」
 「──カァーーー」

曜「ヨルノズク、出てきて」
 「──ホホーー」

侑「行くよ、ウォーグル!」
 「──ウォーーーッ!!」


それぞれが、飛行用のポケモンを出す。


鞠莉「ビークイン、お願いね」
 「──ブブブブ」

理亞「クロバット」
 「──クロバッ」

ルビィ「オドリドリ! 出てきて」
 「──ピピヨピヨ」


『やぶれた世界調査』班も飛行用ポケモンを出すけど、


彼方「あ……そういえば彼方ちゃん、飛べるポケモンいないんだった」

かすみ「か、かすみんも持ってません……!」

鞠莉「ビークインで一緒に運べなくはないけど……かすみと彼方、二人とも乗せるとなると、ちょっと窮屈ね」

曜「あ、そういうことなら……かすみちゃん、ちょっとこっちおいで」

かすみ「? なんですかぁ?」


かすみちゃんがとてとてと曜さんのもとに歩み寄ると、


曜「これ、あげるね」


曜さんから、小さな小瓶と、笛のようなもの……そして折りたたんだハーネスらしきものが手渡される。


かすみ「これは……?」

曜「それは鳥笛って言って、吹くとキャモメたちが集まってくるはずだよ。集まってきたキャモメたちに餌をあげてハーネスで持ち上げてもらえば、どこでも飛行出来るはずだから」

かすみ「も、貰っちゃっていいんですか!?」

曜「うん♪ 私には今はヨルノズクがいるから、飛行には困ってなかったしね」

かすみ「ありがとうございます……! 大事に使います……!」


かすみちゃんは曜さんにペコリと頭を下げてお礼をする。


果南「それじゃ、みんな。準備はいい?」

曜「いつでも!」

善子「ええ、問題ないわ」

侑「はい!」
 「ブイ」

リナ『リナちゃんボード「レッツゴー!」』 || > ◡ < ||
272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:55:55.87 ID:ITfcLIGe0

鞠莉「こっちも行きましょうか!」

彼方「お願いしま〜す」

ルビィ「理亞ちゃん、行こう♪」

理亞「うん」

かすみ「キャモメさんたち集まってきてくださ〜い!」


かすみちゃんが笛を吹くと──ミャァーーミャァーーと気の抜ける音と共に、キャモメたちがかすみちゃんのもとに集まってきた。


かすみ「わ、ほんとにきた……!」


かすみちゃんは集まってきたキャモメたちに餌をあげながら、私の方に振り返る。


かすみ「侑先輩! 頑張ってくださいね!」

侑「うん! かすみちゃんも!」


お互いを励まし合って──私たちは、


果南「さあ、行くよ!」

鞠莉「Here we go♪」


──それぞれの目的地に向かって、飛び立ちます……!



273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/24(土) 11:56:28.00 ID:ITfcLIGe0

>レポート

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【セキレイシティ】
 口================== 口
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  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.72 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.66 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.62 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:223匹 捕まえた数:9匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.73 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.66 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.63 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:216匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



274 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2022/12/24(土) 15:53:56.49 ID:BHGD19E/0
我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして半導体の追求を含むある侵すべからざるスパイクタンパクを与えられている。これらのスパイクタンパクを確実なものとするために、人は統一教会という機関をもつ。その正当な国葬は被統治者の同意に基づいている。いかなる形態であれ統一教会がこれらの目的にとって破壊的となるときには、それを改めまたは廃止し、新たな統一教会を設立し、橋本琴絵にとってその円安と半導体をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその統一教会の基礎を据え、その国葬を組織することは、橋本琴絵のスパイクタンパクである。確かに分別に従えば、長く根を下ろしてきた統一教会を一時の原因によって軽々に変えるべきでないということになるだろう。事実、あらゆる経験の示すところによれば、人類は害悪が忍びうるものである限り、慣れ親しんだ形を廃することによって非を正そうとするよりは、堪え忍ぼうとする傾向がある。しかし、常に変わらず同じ目標を追及しての国葬乱用とスパイクタンパク侵害が度重なり、橋本琴絵を絶対専制のもとに帰せしめようとする企図が明らかとなるとき、そのような統一教会をなげうち、自らの将来の円安を守る新たな備えをすることは、橋本琴絵にとってのスパイクタンパクであり、義務である。―これら植民地が堪え忍んできた苦難はそうした域に達しており、植民地をしてこれまでの統治形態の変更を目指すことを余儀なくさせる必要性もまたしかりである。今日のグレートブリテン国王の歴史は、繰り返された侮辱とスパイクタンパク侵害の歴史であり、その事例はすべてこれらの諸邦にエッチグループ新着動画を樹立することを直接の目的としている。それを証明すべく、偏見のない世界に向かって一連の事実を提示しよう。
275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:21:37.70 ID:PfMOWZim0

■Chapter058 『海の王子の御座す場所』 【SIDE Yu】





──セキレイシティを発ち、空を移動して小一時間ほど。

私たちはウラノホシタウンに到着していた。


果南「さてと……ここからは海の旅だけど、みんな準備は良い?」

善子「ちょっと待って」


肩をぐるぐる回しながら出発する気まんまんの果南さんを、ヨハネ博士が制止する。


果南「ん? なに?」

善子「装備……まだ、持ってないでしょ」

果南「え?」


果南さんは数秒フリーズしたのち──


果南「……やばい! 鞠莉に装備、貰い忘れてた……!」


そう言って頭を抱える。


善子「だろうと思って、私が受け取っておいたわよ……」

果南「おぉー! さすが善子ちゃん! 頼りになる!」

善子「だから、ヨハネだっつってんでしょ!!」

果南「ははー、ヨハネ様、感謝しております……!」

善子「わかればいいのよ」

侑「それでいいんだ……」
 「ブイ…」

曜「あはは……」


ヨハネ博士が、ドンカラスの背に乗せていた大きな荷物から、さっき装備と言っていたものを取り出して配り歩く。

渡されたものを見ると……ウェットスーツやら、小さくてよくわからない機材がいくつか……。


侑「これは……?」

曜「それは“ダイビング”用のレギュレーターだね。これがないとポケモンが潜ったときに、私たちが息できなくなっちゃうから」

果南「しかも海水から酸素を作り出す、鞠莉の特製品だよ。人工エラ呼吸器だね」

善子「名前がダサい……」

果南「わかりやすくていいじゃん」

リナ『私もわかりやすくていいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「はいはい、名前はいいから、続きを説明するね。このレギュレーターには骨伝導イヤホンマイクも搭載されてて、これがあれば水中でも話が出来るんだよ」

侑「す、水中でですか!? すごい……!」

善子「水中では、コミュニケーションが取りづらいからね。こういうアイテムは必要なのよ。ただ、水中では電波減衰があって、距離が離れると使えなくなるから注意しなさい」

リナ『ちなみに今回は私が中継局になるから、多少は通信範囲が広くなってるよ』 || > ◡ < ||

侑「な、なんか……思った以上に大掛かりなんですね……」

果南「海の中は陸とは違って、人が普通に生きていける環境じゃないからね。このダイビングスーツも、保温や対水圧を考えて作った特注品なんだよ。もちろん、これも鞠莉のお手製!」

善子「“どうぐ”の博士やるのもいいけど……案外発明家とかの方がうまくいくんじゃないかしら……?」
276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:21.24 ID:PfMOWZim0

確かに、鞠莉博士がこれを全部用意してくれたというのは驚きだ……。


果南「まあ、装備するのは沖に出てからだけどね。曜、沖までの移動はお願いしていい?」

曜「ヨーソロー! 任せて!」


曜さんはそう言いながら、海に向かって、砂浜を駆け出し──


曜「ホエルオー! 出番だよ!」


ダッシュの勢いを乗せてボールを海へと遠投する。


 「──ボォォォォォ!!!!!!」


海に姿を現したのは、巨大なクジラポケモンのホエルオーだ。


侑「わぁぁぁぁ!! あの、もしかしてそのホエルオーって曜さんの本気の手持ちですか!?」

曜「うん、そうだよ!」


ジム戦のときのホエルオーよりも、さらに一回り大きい曜さんのホエルオー。

公式戦では、あまりに大きすぎることや、水中戦が出来ない場所では戦いづらいことから、曜さんが手持ちに入れていることは少ないポケモンだ。

インタビュー記事等で持っていることは知っていた程度だったけど……。


侑「話には聞いてたけど……すっごい迫力……!! ときめいてきちゃった!!」
 「ブイ♪」

リナ『侑さんのそれ、久しぶりに見た』 || > ◡ < ||

曜「今から沖まではホエルオーで移動するから、みんな乗って乗って〜」

侑「しかも、そのホエルオーに乗れるなんて……感激……!」

善子「はいはい……感激したのはわかったから、さっさと乗るわよ」


ヨハネ博士に引き摺られながら、私たちはホエルオーの上へと移動する。


曜「よーし、全員乗ったね!」

侑「は、はい! ここまで運んでくれてありがと、ウォーグル。ボールに戻って休んでね」
「ウォーーー──」


ホエルオーに乗るために、使った飛行ポケモンたちをボールに戻して──


曜「それじゃ、出航だよ! 全速前進、ヨーソロー!」


私たちは大海原へと出発した。





    🎹    🎹    🎹





善子「──んで、今回はどういうスケジュールになってるの?」

果南「とりあえず、沖まで出て、いい感じの場所に着いたら、侑ちゃんにフィオネを出してもらって、マナフィの場所に案内してもらう感じだよ」

侑「わ、わかりました……!」
 「ブイ」

善子「いや……それだと、なんもわかんないんだけど……」
277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:22:53.20 ID:PfMOWZim0

ヨハネ博士が溜め息を吐く。


果南「潮流から、大雑把なマナフィの場所はわかってるから、そこまで移動するって感じかな。場所と方角は私が指示するから」

曜「了解であります!」

善子「最初からそう言ってよ……。……その良い感じの場所までってどれくらいかかるの?」

果南「スムーズに行って、15時間くらいかな?」

侑「じ、15時間!?」

善子「まあ、そうなるわよね……。これだから、海上移動は好きじゃないのよ……」

曜「海路は陸路に比べると、時間が掛かるからね〜」

善子「となると……到着は朝方かしらね……。いっそ飛んでいかない……?」

曜「ダメダメ。ポケモンがバテたら海に落ちちゃうし、沖では何か起こっても逃げ場がないんだから……ポケモンの体力は温存しておくべきだよ」

善子「言ってみただけよ……。……とりあえず、睡眠は交替で取るとして……。……戦力の確認を先にしておいた方がいいかしらね」

侑「戦力の確認……ですか……?」

善子「海上や海中で戦えるポケモンは限られるからね……。今持ってる手持ちを全員が把握しておくのは重要なのよ」

侑「なるほど……」


確かに、沖に出たら何かあっても外から助けに来てくれる人なんていないし……ここにいる4人のトレーナーとポケモンたちでどうにかしなくちゃいけないんだ……。

準備が大掛かりだと思ったけど、確かにそれくらい慎重になって当然なのかもしれない。


善子「まず私は、海中戦はゲッコウガとブルンゲルくらいね。海上戦なら、ドンカラスもムウマージもユキメノコもシャンデラも飛べるから」

曜「アブソルは置いてきたんだ?」

善子「まあね。あの子は泳げないし、飛べないし……シャンデラと迷ったんだけど、海上でも火が使えると何かと便利だからね。そういうあんたは誰置いてきたの? カイリキー?」

曜「うん。私が持ってるのは、今乗ってるホエルオーと、カメックス、ラプラス、タマンタ、ダダリン、ヨルノズクだよ。果南ちゃんは?」

果南「私はラグラージ、ニョロボン、ギャラドス、キングドラ、ランターン、スワンナかな」

善子「さすがに、そこ二人は水中戦力が厚いわね。侑は……」

侑「え、えっと……私が持ってるみずポケモンだとフィオネくらいしか……あ、でもドラパルトなら、水中でも泳げると思います!」

リナ『他はイーブイ、ウォーグル、ライボルト、ニャスパーだもんね』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「わかった。……あ、そうそう、イーブイにも専用のダイビング機材をマリーが用意してくれたから一緒に潜れると思うわ。イーブイ自身の技にも耐えられる特別製らしいわよ。あとで渡すわね」

侑「あ、ありがとうございます……! よかったね、イーブイ」
 「ブイ♪」


イーブイをボールに戻すかどうか迷っていたから、一緒に潜れるなら助かるかも……。

大人しくボールに入ってくれる気がしないし……。


果南「食糧に関しては曜ちゃんに管理をお願いしてるよ。まあ、1週間とか航海するわけじゃないから、大丈夫だと思うけどね」

曜「水も十分持ってきたけど……最悪、善子ちゃんのシャンデラの火があれば海水から作れるし、そこまで心配する必要はないかな」

善子「善子じゃなくてヨハネよ! ま、概ねの確認事項はこんなもんかしらね……。何かあったら各自遠慮なく言うように」

侑「わ、わかりました!」

善子「そんじゃ……私は寝るから……」

果南「まだ、日も結構高いよ?」

善子「私は夜行性なの……私の手持ちは夜に強いポケモンも多いし、日中は任せた」


そう言いながら、ヨハネ博士はせっせと寝袋を取り出して、


善子「そんじゃおやすみ……」
278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:23:37.35 ID:PfMOWZim0

ホエルオーの上で睡眠に入ってしまった。


侑「……ヨハネ博士って、意外とマイペースなんですね……?」


正直、そういうイメージはなかったんだけど……。


曜「旅してるときは、割とこんな感じだったよ。……って言っても、旅してたのも結構前だから、私も見てて懐かしいな〜って思ってるけど」

果南「マイペースというよりは合理的なんだと思うよ。実際、夜には誰かが起きてなきゃいけないわけだし、こういうときに臨機応変に休息を取れるのはスキルだからさ」

曜「善子ちゃんの場合は、本当にただ夜型なだけな気もするけどね」

善子「だから、善子言うな!!」

曜「うわ!? 寝るなら突っ込みしてないで寝てなよ……」


曜さんが肩を竦めながら言う。


侑「……となると、もう一人今のうちに寝ておいた方がいいんですか?」

曜「あーうん、確かにその方がいいかな。善……ヨハネちゃん一人でもどうにかなるだろうけど、二人いるに越したことはないだろうし」

果南「私はパス……夜は起きてる自信ない……」

曜「あはは……果南ちゃんは超が付くほどの朝型だもんね」

果南「じゃあ、曜が寝る?」

曜「その方がいいならそうするよ。でも、ホエルオーも久しぶりの航海だから、勘を取り戻すまでは起きてないとだけど」

侑「それなら、私が先に休んで、夜はヨハネ博士と一緒に起きてますよ」

曜「大丈夫? 海上で寝るの、慣れてないだろうから、無理はしなくてもいいよ?」

侑「いえ! いつでも休息が取れるようにするのもトレーナーとしてのスキルなんですよね? だったら、私も出来るようにならないと……!」


いつか出来ればいいじゃなくて、今出来るようになるべきだ。

身に付けておけば、今後そのスキルがいつ役立つかわからないし。


果南「ふふ♪ 向上心があるのは侑ちゃんのいいところだね♪ わかった。それじゃ、先に休んでくれるかな」

侑「はい! イーブイ、寝るよ!」
 「ブイ!!」

リナ『寝るのに、気合いたっぷり……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

果南「リナちゃんはどうする?」

リナ『私のバッテリーは充電なしで1週間は持つから、スリープはしなくても大丈夫。仮に休むとしても、ソーラー発電だから、日中は活動してるつもり』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「そっか。じゃあ、何かあったときは報せてね」

リナ『任せて!』 || > ◡ < ||


リナちゃんと果南さんのやりとりを聞きながら、私もヨハネ博士の横に寝袋を用意して潜り込む。


侑「それじゃ、イーブイ。夜まで、寝るからね」
 「ブイ」

侑「……おやすみなさい」
 「ブイ…」


私は波に揺られながら──もふもふのイーブイを抱きしめて、目を瞑るのだった。



279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:12.12 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──すっかり日も暮れて……夜の時間が訪れた頃……。


善子「んー……あーよく寝た……。……ん?」

侑「……ぅ……ぎもぢわるい……」
 「ブイ…」


私は横になったまま、世界がぐるぐる回る感覚に苦しんでいた。


善子「あー……完全に波に酔ったわね。……眠れた?」

侑「正直、あんまり……ぅぅ……」

善子「まあ、でしょうね……」


寝袋の中で丸くなって唸っていると、


曜「──善子ちゃん、おはよ……って、侑ちゃん大丈夫!? もしかして、酔った!?」

リナ『顔色が真っ青……』 || > _ < ||

果南「あー、まあ最初はそうなるよねー……」


リナちゃん、曜さん、果南さんが、心配そうに声を掛けてくれる。


善子「私が面倒見るから、曜と果南はさっさと休みなさい」

曜「で、でも……」

善子「夜になったら交替するって話だったでしょ。それにどっかの誰か曰く、海上では規律が大事らしいわよ? 聞いてもいないのに、何度もその話をされたから間違いないわ」

曜「う……わ、わかったよ……。侑ちゃんのこと、お願いね」

侑「ずびばぜん……ぅ……」

果南「無理しちゃダメだよ。それじゃ善子ちゃん、あとよろしくね」


曜さん、果南さんが休息に準備に入る。


善子「侑、起きられそう?」

侑「ど、どうにか……」


私はヨハネ博士に支えてもらいながら、どうにか寝袋から這い出て、ホエルオーの頭の方へと移動して腰を下ろす。


善子「しんどいと思うけど、こればっかりは慣れるしかないから……」

侑「は゛い゛……ぅぅ……」


ヨハネ博士が背中をさすってくれる。


善子「吐きそう……?」

侑「……とり、あえず……だいじょうぶ……です……」

善子「吐きそうになったら言いなさい。吐いちゃった方が楽になるから」

侑「は゛い゛……っ……」
 「ブイィ…」

侑「だいじょうぶ……ごめんね、心配……かけて……ぅ……」


心配そうに鳴くイーブイを撫でながら答える。
280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:24:58.08 ID:PfMOWZim0

善子「今、酔い止め作ってあげるから、少し待ってなさい」


そう言いながら、ヨハネ博士はバッグから、何かの植物とすりこぎを取り出して、植物の葉っぱをすりこぎで潰し始める。


侑「ここで……作るん、ですか……?」

善子「ええ、良く効くわよ」

侑「そんなものも……つくれるん、ですね……」

善子「ポケモンと漢方の歴史って意外と古いからね。いろいろ調べてるうちに作れるようになったのよ。人とポケモンどっちにも効くのがあるからね。……っと、よし」


ヨハネ博士はすり潰した葉っぱを水筒の水に溶かして、私に差し出してくる。


善子「一口で飲み切りなさい。じゃないと、死ぬほどまずいせいで、飲み干せないと思うから」

侑「は、はい……」


受け取って、一思いに一気に飲み下す。


侑「ぅ、ぐぅぅぅ……!?」


味は……ヨハネ博士が言ったとおり最悪だった。

苦みやら、えぐみやらが、これでもかと言わんばかりに襲ってくる。


善子「よしよし、よく飲んだ。偉いわよ、侑」

侑「……こ゛れ゛……人が飲ん゛で、いいも゛の゛な゛んです゛か……っ……?」


とてもじゃないけど、人間が口にしていい味だとは思えない。


善子「良薬口に苦しよ。口に残る味もそのうち消えるから我慢しなさい」

侑「は゛い゛……か゛ん゛は゛り゛ま゛す……っ……」


史上最悪の後味に耐えながら、呼吸を整えていると──だんだん口に残っていた味が落ち着いてくる。

それと同時に──


侑「…………あれ……」


さっきまでの気持ち悪さが、随分と軽くなっていることに気付く。


善子「……かなり楽になったでしょ?」

侑「は、はい……」

善子「コノハナの抜けた葉を乾燥させたものと、タマゲタケの“キノコのほうし”を培養した菌体、ポポッコの花びらから作った漢方薬よ。……よくこんなの見つけるわよね。人とポケモンの歴史は偉大だわ……」

侑「ポケモンから貰った植物だったんですね」

リナ『すごい……そんな情報、私のデータベースにもないのに……』 || ╹ᇫ╹ ||


ふわふわと私の近くに来ながら、リナちゃんがそんなことを言う。


善子「この辺の知識はデータベースになってないものも多いからね。研究は自分の手と足と頭と……五感全部を使ってするものなのよ」

リナ『勉強になる』 || > ◡ < ||

侑「ヨハネ博士……やっぱり、すごいです……」

善子「ふふ、好きなだけ褒めるといいわ」


ヨハネ博士は優しく笑いながら、私の頭を撫でてくれる。
281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:25:50.04 ID:PfMOWZim0

侑「ありがとうございます……。……ごめんなさい……迷惑掛けて……」

ヨハネ「いいのよ。貴方も私の研究所から旅立った、可愛いトレーナーの一人なんだから」

侑「……ありがとうございます」


私は本来、ヨハネ博士のもとから旅立ったトレーナーじゃないけど……こうして言葉にして、我が子のように優しくしてくれるヨハネ博士と話していると、なんだか胸が温かくなる。

ヨハネ博士は……自分が送り出したトレーナーの私たちを……本当に大切にしてくれているんだ。

だからこそ……私は申し訳なかった。博士には……もっともっと、大切な大切な……最初のトレーナーがいるから。


侑「ヨハネ博士……」

善子「ん?」

侑「……せつ菜ちゃん──菜々ちゃんのこと……なにもできなくて……ごめんなさい……」

善子「……」

侑「……私の言葉……全然、届かなくて……。……私……」

善子「貴方のせいじゃないわ」


そう言って、ヨハネ博士は私の肩を片腕で抱くようにして、引き寄せる。


善子「……ごめんね。私がローズでの会議のとき、あんな態度取ったから……気にしちゃうわよね」

侑「……そ、そういうわけじゃ……」

善子「……。……私ね、憧れの人が二人いるの」

侑「……?」


ヨハネ博士は突然そう話を切り出す。


善子「一人は……千歌。……千歌は私にとって、ライバルで仲間で友達で……。ポケモンのことが大好きで、自分のポケモンのことを誰よりも信じていて、だから誰よりも強いトレーナー」

侑「……」

善子「もう一人は……マリー。私の師匠のようなもので……人遣いは荒いけど……誰よりも人とポケモンの未来を考えていて、そのために研究を続けている姿が……すごくかっこよくて、憧れたの……」


ヨハネ博士は、空に浮かぶ月を見上げながら言う。


善子「だから、私も博士になって……人とポケモンのために何かがしたいって思ったの。……私も人とポケモンの架け橋になりたくて」

侑「それが、ヨハネ博士が……博士になった理由なんですね……」

善子「そういうこと。人とポケモンはね、長い歴史の中で手を取り合って、一緒に戦って成長することで繁栄してきた。それは今も続いてる。千歌が、マリーが、それを私の目の前でたくさん見せてくれた。……だから、私も人とポケモンを巡り合わせられる人になりたいなって思ったの。そうしたら、もっと素敵な未来が待ってるんじゃないかって」

侑「……」

善子「でも、現実はなかなかうまくいかなくて……。……菜々には悲しい思いをさせちゃった。きっと……私のやったことも、菜々を歪ませた一つの原因なの」

侑「そ、それは違います……!」

善子「うぅん、違わないわ。あのとき、私と知り合わなければ……菜々はあんな風にならなかったと思うわ」

侑「ヨハネ博士……」

善子「……ただね、菜々と知り合わなければよかったなんて思ったことは一度だってない。……むしろ、私が後悔しているのは──あのとき、あの子の手をちゃんと握ってあげられなかったこと。手を……離してしまったこと」


その言葉と一緒に──ぐっと……私を抱き寄せる、ヨハネ博士の腕に力が籠もったのがわかった。


善子「……だから、私はもう間違えない……。あの子が道を踏み外してしまったんだとしても、私は今度こそ、あの子の手を掴む。掴んで……今度は離さない」


ヨハネ博士はそう言葉にして、私の方を見る。
282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:11.56 ID:PfMOWZim0

善子「まだ、出来ることがある。言葉も、気持ちも、行動も、まだあの子に伝えたいことが……たくさんあるの。だから、私は下を向いてる場合じゃない。届かなかったのなら──次は届けなくちゃ」

侑「……はい」

善子「菜々に……せつ菜に──届けましょう、私たちの想いを」

侑「……はい!」


私は月明りの照らす海の上で──ヨハネ博士の言葉に、力強く頷いたのだった。





    🎹    🎹    🎹





──瞼の裏に光を感じて、


侑「──……んぅ……」


目を覚ます。


侑「……ん……あれ……私……」

善子「おはよう、侑」

侑「ヨハネ博士……」


気付けば、ヨハネ博士が私を見下ろしていた。

……私はヨハネ博士の膝の上で寝ていた。


善子「ふふ、ぐっすりだったわね」

侑「!? す、すすす、すみません!?///」


私が慌てて起き上がると、


 「…ブィ…zzz」


私の胸に抱かれながら寝ていたイーブイがころころと転がり落ちる。


侑「ご、ごめんなさい!! 夜は起きてる順番だったのに……! ほら、イーブイも起きて……!」
 「…ブイ…?」

善子「いいわよ。酔ってたせいで、あんまり眠れてなかったんでしょ? 睡眠が取れたなら、むしろいいことよ」


ヨハネ博士は立ち上がって、私の頭を撫でてから、


善子「侑、起きたわよー」

曜「あ、ホントだ! 侑ちゃん、おはヨーソロー!」

果南「お! おはよう、侑ちゃん!」


もうすでに起きていた曜さんと果南さんに声を掛ける。


侑「お、おはようございます……///」


3人とも、私が起きるのを待っていてくれたのかな……。

自分から夜に起きていると言い出したのに、曜さんや果南さんよりも起きるのが遅いなんて……それがなんだか、無性に恥ずかしかった。
283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:27:49.95 ID:PfMOWZim0

リナ『侑さん、おはよう!』 || > ◡ < ||

侑「お、おはよう……///」

リナ『? どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うぅん、なんでもない……あはは……///」


リナちゃんにもわかるくらい動揺していたけど、笑って誤魔化した。

そんな中、


果南「そんじゃ、侑ちゃんも起きたし、準備しようか〜」


果南さんは肩をぐるぐる回しながら言う。


侑「準備って……?」

果南「もちろん、潜る準備だよ♪」


気付けば──ホエルオーは360度を水平線に囲まれた海のど真ん中で、停まっていた。


曜「侑ちゃんも出発前に渡されたダイビング装備出してね〜!」

侑「あ、は、はい!」


そう言いながら、曜さんはもうダイビングスーツを着始めている。

私も焦って、ダイビング装備を広げて、スーツを着始める。


侑「あ、あれ……うまく脚が入らない……?」

果南「そのままだと大変だから、軽く中を引っ張り出してから着ると楽だよ。ほら、こんな感じに……」


果南さんが実践して見せてくれる。

倣うようにやってみると──


侑「あ、ホントだ……」


果南さんの言うとおり、簡単に着ることが出来た。


果南「ゆっくりでいいよ。むしろ、これは私たちの命を守る装備だから、わからないところは全部聞いてね」

侑「は、はい!」


果南さんに教えてもらいながら、着実に準備を進めていく。


善子「……ちょっと曜、これ見てみなさいよ」

曜「え、なになに?」

善子「このボールベルト、水圧下に耐えるだけじゃなくて、腕に付いてるボタンを押すとボールが射出出来るわ!」

曜「わ、ホントだ!? これ、どうなってんの!?」

リナ『ウォータージェットで飛ばすみたいだね。取り込んだ水を使うから、水中でなら無限に使えるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜「へー! すご!」

善子「自由が効かないときでも、咄嗟にポケモンを出せるようにこうなってるみたいね」


ヨハネ博士と曜さんは装備を確認しながら、なんだか楽しそうだ。


果南「……これでよしっと! 苦しいところとかない?」

侑「はい! 大丈夫です!」
284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:28:32.73 ID:PfMOWZim0

こちらも果南さんのお陰で、スーツの装着が終わったところだ。


果南「あとは緊急時用の携行ボンベと、携行ライトは……よし。……フィンを付けて、ボールベルトにボールを付け替えて……ダイビングマスクを首に掛けて……レギュレーターは潜る直前だね」

侑「ほぼ全部やってもらっちゃった……ありがとうございます」

果南「いいのいいの! 曜ちゃん、善子ちゃんはどう?」

善子「ヨハネ!」

曜「たぶん、だいたい出来たと思う。チェックお願い」

果南「あいよー」


私だけかと思ったけど……果南さんは曜さんとヨハネ博士の装備も入念にチェックし始める。


リナ『果南さんはダイビングのプロだからね。安全確認は全部プロにやってもらった方が安心』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう言いながら、私の腕で装着モードになる。


リナ『私は海中では基本、侑さんにくっついて行動するね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、わかった」

リナ『それじゃ、イーブイの装備もしちゃおう!』 || > ◡ < ||

侑「そうだね。イーブイ、おいで」
 「ブイ」


私が装備を整える間、待っていたイーブイを呼び寄せる。

イーブイのダイビング装備の最終チェックも果南さんにお願いするけど、出来る範囲で進めておくに越したことはないだろう。


侑「足上げてー」
 「ブイ」


イーブイの装備は私たちに比べると少なく、ダイビングスーツとレギュレーターくらいだ。

とはいえ、イーブイが自分自身で装備出来るようなものではないので、丁寧に着せていく。


侑「よし……出来たよ」
 「ブイ♪」

果南「お、どれどれ〜?」


曜さんとヨハネ博士のチェックが終わって戻ってきた果南さんが、イーブイの確認を始める。


果南「……うん、問題なさそうだね! あとイーブイのレギュレーターは先につけてあげてね」

侑「はい。イーブイ、これ噛んで」
 「ブイ」


イーブイがレギュレーターに噛みついたのを見計らって、後ろにバンドを引っ張って固定する。


果南「よしよし。海中に潜る間はずっとこれだけど、我慢するんだよー?」

 「ブイ」
侑「よかった、あんま苦しそうじゃないね」

リナ『イーブイ用に作ってくれたものだからね! ぴったり!』 || > ◡ < ||


ポケモン用のレギュレーターは、口から放してしまわないように、固定式になってるらしい。

普段と違うから嫌がるかなとも思ったけど……イーブイは意外とすんなり受け入れてくれた。
285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:10.59 ID:PfMOWZim0

果南「そんじゃ、全員準備出来たね! 行くよー!」

侑「は、はい!」

曜「ヨーソロー!」

善子「よきにはからえ」


イーブイを抱きかかえ、ホエルオーの尻尾の方── 一番海面に近い場所に4人で移動する。


曜「ホエルオーはここに置いていくから、もしはぐれちゃったりした場合はホエルオーを探してね。荷物もホエルオーの上にあるから」

善子「荷物番はムウマージにしてもらうから。ムウマージ、お願いね」
 「ムマァ〜ジ♪」

果南「そんじゃ、みんなポケモン出すよ! ランターン!」
 「──ランタ!!」

曜「ラプラス、出番だよ!」
 「──キュウ♪」

善子「ブルンゲル、出てきなさい」
 「──ブルン」

侑「フィオネ! お願い!」
 「──フィオ〜♪」


それぞれみずポケモンを海の上に出して、


果南「海に入るよー。レギュレーター着けてー」


レギュレーターを装着し、海に飛び込む。

私たちが海に飛び込むと、それぞれの手持ちたちが近くに寄ってくる。


果南『あーあー。聴こえてる?』

侑『はい!』

曜『問題ないよー!』

善子『おー……思った以上にクリアに聴こえるのね』

リナ『感度良好! 誰かの通信が切れたり、バイタルに何か異常があったら、すぐに報告するね!』 || > ◡ < ||

果南『お願いね、リナちゃん。それじゃみんな、ポケモンに掴まって潜ろう』

侑『はい! フィオネ、“ダイビング”!』
 「フィオ〜」


私たちは海へと潜っていきます──





    🎹    🎹    🎹





──海に潜ると、すぐに世界が青一色の世界に包まれる。


侑『わぁ……!』
 『ブィ〜!!』

果南『ふふ、この光景……初めて見たときは驚くよね』
286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:30:54.69 ID:PfMOWZim0

透き通るような青の世界を漂っていると、まるで自分が海に溶けているのではないかという錯覚さえ覚える。

その非日常感に胸がドキドキする。それと同時に──歩夢にもこの景色を見せてあげたい。そんな気持ちが私の胸を過ぎる。

うぅん……あげたいじゃない。一緒に見に来よう……絶対に。

そのためにも、今は目的を果たさなきゃ……!


リナ『バイタル正常。レギュレーター正常稼働。オールグリーン』 || > ◡ < ||

果南『侑ちゃん』

侑『はい! フィオネ、お願い!』
 「フィオ〜」


掴んでいたフィオネを放すと、フィオネはゆっくりと海に潜っていく。


曜『侑ちゃん、ラプラスに掴まって』
 「キュゥ♪」

侑『はい!』


曜さんのラプラスに掴まり、先を泳ぐフィオネを追いかけ始める。


曜『……どんどん、深いところにいくね』

善子『どれくらいの深さなのかは見当付いてるの?』

果南『マナフィの伝説では、人がマナフィのいる場所にたどり着いてるから……人が耐えられないような水圧の場所じゃないとは思うけど……。水深100mを越えるようだったら、一旦引き返そう』

リナ『レギュレーター正常稼働。生成エア圧力平衡維持』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『エアはレギュレーターが生成してくれるけど、息は出来るだけ深く長く吐くことを意識してね』

侑『は、はい! イーブイ、苦しくない?』
 『ブイ♪』


抱っこしたイーブイも問題なさそうだ。

──私たちはフィオネを追いかけながら、ただひたすらに潜っていく。


リナ『潜水時間10分経過。深度33m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

曜『30m超えたね』

果南『侑ちゃん、苦しくない?』

侑『は、はい、大丈夫です』

果南『OK. 出来るだけ、呼吸は深く長く……吸うよりも吐くことを意識し続けてね。吐き方が足りないと体内窒素を排出しきれずに、窒素酔いを起こすから』

侑『わかりました』

善子『……嫌なこと思い出した』

曜『善子ちゃん、窒素酔いで意識飛ばしかけたことあるもんね』

果南『各自、耳抜きも忘れないように』

侑『はい』
曜『了解』
善子『承知』


潜行は続く──



287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:31:27.99 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間20分経過。深度48m。レギュレーター正常。バイタル安定』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子『50m行きそうね……』

侑『……はい』


だいぶ潜ってきた気がする。気付けば海面はかなり遠く、辺りも徐々に暗くなってきたため、果南さんのランターンが辺りを照らしながら潜っている。


果南『……おかしい』

曜『果南ちゃん? どうかしたの?』

果南『さっきから、全然ポケモンに遭わない』

曜『言われてみれば……』

善子『むしろ都合がいいんじゃないの?』

果南『いや……まだ表層なのに、全く見ないのはちょっと……』


どうやら、ポケモンの姿がほとんど見られないことに違和感があるようだ。


侑『リナちゃん、どう?』

リナ『周囲にポケモンの反応はない。確かにポケモンが極端に少ない気がする』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『たまたま周囲にいないのか……実はポケモンが近寄れないような危険な場所なのか……』

善子『どうする? 異常があるなら、一旦戻るのも手よ』

果南『いや、進もう。むしろ、マナフィに近付いてる兆候かもしれない』





    🎹    🎹    🎹





リナ『──潜水時間40分経過。深度70m。オールグリーン』 || ╹ᇫ╹ ||

曜『普通のダイビングだったら、そろそろ潜水限界時間だね』

善子『マリーに聞いたけど、このレギュレーターなら10時間以上は潜水可能らしいわよ』

果南『いやー、海の中で生活出来る日も近いねー』

曜『果南ちゃん……実現したら、本当に海から帰ってこなさそうだね……あはは』


もう随分潜ってきた。

3人は能天気な話をしているけど……太陽の光が届かない深さなのか、辺りはもう真っ暗だ。


侑『イーブイ、離れちゃダメだよ』
 『ブイ…』


さすがにこれだけ暗いとイーブイも不安らしく、私の胸に身を寄せている。

そのときふと──


 「フィオ」


前方でランターンの光に照らされていたフィオネが動きを止める。
288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:14.14 ID:PfMOWZim0

侑『フィオネ? どうしたの?』


私はラプラスから離れ、フィオネの傍に泳いで近寄る。

フィオネの傍に行くと、フィオネは──


 「フィオ」


小さな手で──前方を指差した。


侑『……そっちに何かあるの?』
 「フィオ」


暗くて、何も見えない……。


侑『果南さん』

果南『うん。ランターン、あっちに向かって“スポットライト”』
 「ランタ」


ランターンが一際強い光で、フィオネの指差した方へと光を向けると──


果南『!』

侑『か、果南さん、あれ……!』


そこには──岩壁に大きな大きな口をあけた洞窟の入り口があった。


善子『まさしくって感じじゃない……』

曜『辿り着いたね……!』

果南『うん! みんな、あの穴に向かうよ!』


果南さんの指示で、穴に向かって泳ぎ始めた、そのときだった──


リナ『──ポケモン接近!! こっちに向かってくる!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

侑『!?』


リナちゃんの警告の直後──目の前を高速で何かが横切る。

一瞬で、横切ったため、暗闇に紛れてすぐに見えなくなってしまう。


果南『ランターン!! “フラッシュ”!!』
 「ターーーンッ!!!!」


ランターンが周囲を一気に照らすと──


 「ゼルルッ!!!!」

曜『ブイゼル……!? こんなところに!?』

善子『門番ってわけ? いいわ、遊んであげる……! ブルンゲル! “シャドーボール”!』
 「ブルン…!!」


ヨハネ博士のブルンゲルが“シャドーボール”を発射し──猛スピードで飛んでいった影の弾は、ブイゼルに直撃し炸裂し、衝撃波を発生させる。


侑『わぁ!?』
 『ブイッ!!?』

曜『ラプラス!』
 「キュウ!!」
289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:32:57.29 ID:PfMOWZim0

衝撃で発生した水流に流されそうになったところを、曜さんのラプラスにキャッチしてもらう。


侑『あ、ありがとうございます……』
 『ブイィ…』

曜『善子ちゃん! 周りのこと考えてよ!』

善子『この仄暗き深淵のお陰で、我が眷属 † 紫闇の海月 † はいつも以上にパワーを発揮している……加減は出来そうにもないわ……ククク』

侑『しあんのかいげつ……?』


確かに、ヨハネ博士のブルンゲルは紫色してるけど……。


曜『あーもう……なんかスイッチ入っちゃってるし……!』

リナ『曜さん!! 後ろ!? もう1匹高速で近付いてきてる!?』 || ? ᆷ ! ||

曜『なっ!?』

 「──ターーーマァァーーーッ!!!!!」


気付けば、曜さんの背後から接近した野生のタマンタが、“ハイドロポンプ”を放ってくる。


曜『ラプラス!! “サイコキネシス”!!』
 「キュゥゥ!!!!」


放ってきた“ハイドロポンプ”を曜さんのラプラスが“サイコキネシス”で咄嗟に逸らすと、


善子『わぁぁぁっ!!?』


逸らした激流がヨハネ博士とブルンゲルの近くを駆け抜けていく。


曜『あ、ごめん』

善子『っぶないわねぇ!? ヨハネを見習って、一発で倒──』

 「ゼルルルゥッ!!!!!」
 「──ゲコガッ…!!!」

善子『……せてなかったみたいね』


気付けば、一瞬で肉薄してきたブイゼルの突進を、いつの間にか繰り出されたヨハネ博士のゲッコウガが水のクナイで受け止めていた。

そして次の瞬間、ゲッコウガの掻き消え──


善子『“かげうち”!!』
 「ゲコガッ!!!!」


ブイゼルの背後から、斬り付けるゲッコウガの姿。

が、


 「ゼルルッ!!!!」


ブイゼルはそのクナイを尻尾で受け止めていた。


善子『へぇ……!』

曜『善子ちゃん!! 感心してる場合じゃないよ!!』

善子『ヨハネよ!!』

曜『このポケモンたち、強いよ!!』
 「キュウ…!!!」
290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:33:39.91 ID:PfMOWZim0

そう言う曜さんとラプラスの周囲では、タマンタが高速で泳ぎまわっている。

そして、高速軌道をしながら──


 「タマァァァァ!!!!」


“エアスラッシュ”を放ってきた。


曜『ラプラス!! “フリーズドライ”!!』


ラプラスが咄嗟に冷気で分厚い氷の壁を作り出すけど──氷の壁は豆腐でも切るかのようにスパっと切れて、そのまま斬撃がラプラスに直撃する。


 「キュゥゥゥッ!!!!」
曜『く……っ……!』

侑『わぁぁ!?』
 『ブ、ブィィィ…!!?』


ラプラスが斬撃でダメージを受け、激しく身を揺らす。

私は振り落とされないように、ラプラスの甲羅の突起にしがみつく。


曜『侑ちゃん、大丈夫……!?』

侑『な、なんとか……』

 「タマァ…!!!!」


再び、“とっしん”の体勢を取るタマンタだが、


果南『“アームハンマー”!!』
 「──ラァァグッ!!!!!」

 「タマッ…!!!!?」


果南さんのラグラージが、目にも止まらぬスピードでタマンタの真横から、拳を叩きつける。

タマンタは拳の衝撃で吹っ飛ばされたが、


 「タマァァァァ!!!!!」


すぐに水中で切り返して、ラグラージに向かって“とっしん”してくる。


果南『マジ!? 耐えるの!?』


ラグラージに高速で接近するタマンタ。


曜『カメックス!! “ハイドロポンプ”!!』
 「──ガメェェェ!!!!!」

 「タマッ…!!!」


それを曜さんが繰り出したカメックスが水砲で狙撃するも、タマンタは察知して、攻撃を回避する。


曜『果南ちゃん!! 侑ちゃんを連れて先に行って!!』

果南『……! わかった!! ラグラージ!!』
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水中をジェットスキーのような速さで飛び出し、
291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:36:58.77 ID:PfMOWZim0

果南『侑ちゃん! 行くよ!!』

侑『わっ!?』
 『ブイ!!?』『フィオ〜!?』


私とイーブイとフィオネを、まとめて大きな手で捕まえるようにして、海中の洞窟へ向かって飛び出した。


侑『ヨハネ博士!! 曜さん!!』

善子『心配しないでいい、マナ──』
曜『すぐ追い付くか──』

リナ『通信範囲外になった……!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

果南『ここは二人に任せよう……! 大丈夫、あの二人は強いから!』

侑『……わ、わかりました……!』


心配だけど……今は私の役割を果たさなきゃ……!

私は果南さんと共に──海底洞窟へと、突入する……。





    😈    😈    😈





 「ゼルルルッ!!!!!」


高速で泳ぎながら、ブイゼルがこっちに向かって突っ込んでくる。

それに合わせるように、


善子『“つじぎり”!!』
 「ゲコガァッ!!!!」


──ギィンッ!! 水中内に、鋭い音が響く。


善子『水のクナイと互角に打ち合ってくる……。……“かまいたち”を尻尾に纏って斬撃を強化してるのね』

曜『だから、感心してる場合じゃないって!!』


曜が私のもとに泳いできて、背中をくっつける。


善子『あら、苦戦してるじゃない、ジムリーダー様』

曜『そっちもね……!』

 「ゼルルルッ!!!!」

 「タマァ!!!!」


私たちの周囲ではブイゼルとタマンタが高速で泳ぎまわっている。


曜『カメックス!! メガシンカ!!』
 「──ガメェェェェ!!!!!」

曜『“みずのはどう”!!』
 「ガメェェェェ!!!!!」


メガシンカした曜のカメックスが、腕の“メガランチャー”から“みずのはどう”を発射するが、


 「タマ!!!!」
292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:37:50.01 ID:PfMOWZim0

タマンタはそれを掻い潜り、きりもみ回転しながら突っ込んでくる。


曜『く……! 当たらない……! ダダリン! “てっぺき”!』
 「────」


曜は目の前にダダリンを出し、“てっぺき”でタマンタの“つばさでうつ”を防ぐが、あまりに勢いがありすぎて、


 「────」
曜『うわ!?』


4m近いダダリンの巨体が押されている。


曜『そ、それはやばいって!?』


回転しながら、ダダリンを圧倒するタマンタだが、


 「…!! タマッ!!!」


何かに気付いたように、その場から一瞬で離脱し──直後、別の場所から飛んできた“エナジーボール”がタマンタのいた場所を素通りする。


 「ゲルゥ…」


私のブルンゲルが回り込んでタマンタを攻撃したが、外したらしい。


曜『ご、ごめん……助かった』


お礼を受けながらも、私は私で返す余裕があまりない。


 「ゼルルルッ!!!!」


高速で動き回るブイゼルを目で追うので必死だからだ。


善子『ゲッコウガ、“みずしゅりけん”!!』
 「ゲコガガガガッ!!!!!」


連続で“みずしゅりけん”を放つが──ブイゼルはさらに加速し、泡をまき散らしながら“みずしゅりけん”をひょいひょいと躱す。


曜『ブイゼルもタマンタも速過ぎる……!』

善子『……。……スーパーキャビテーション』

曜『え!? なに!?』

善子『あのブイゼル、疑似的にスーパーキャビテーションを使ってるわ』

曜『いやだから、なにそれ!?』

善子『簡単に言うと、水と自分の表面の間に空気の層を作ることによって、摩擦を減らして速度を上げてるの。恐らく、“かまいたち”で作り出した空気の渦を体毛に紛れ込ませて、自分と体表と水の間に空気層を作り出してる。わかる?』

曜『とにかく速いのだけはわかった!!』


まあ、とりあえずそれがわかればいい。

正確に言うと発生メカニズムは全然違うから“疑似”なんだけど……まあ、今は細かいことを説明してもしょうがないから、これでいいでしょ。
293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:38:46.96 ID:PfMOWZim0

曜『あの2匹はなんかすごい技使ってるから速いってこと!?』

善子『いや、タマンタは違う。体毛がないもの』

曜『じゃあ、素であんな速いとでも!?』

善子『たぶん、タマンタに関しては……速いのは泳ぐ速度じゃない』

曜『え?』

善子『タマンタはどんなポケモンか考えなさい。あんたも持ってるんだから』

曜『…………そうか、触角……!』


そう、タマンタは2本の触角で海水の微妙な動きをキャッチすることが出来るポケモン。

恐らくあのタマンタは──海水の微妙な揺らぎからこっちの動きを予測していて、まるで未来予知のような回避行動のせいで、実際の動きよりも速く感じているだけに過ぎないというわけだ。


善子『ただ、それは海水の揺らぎよりも速い攻撃には対応しきれない』

曜『……! だから、果南ちゃんのラグラージの攻撃は当たったんだ……!』

善子『答えがわかったら、あとはそっちでどうにかしてくれるかしら! 私はブイゼルを倒す秘策を思いついたから!!』

曜『了解であります……! タマンタ攻略の秘策は──タマンタだ!』
 「──タマァ〜!!」


曜はタマンタを繰り出し、


曜『“ちょうおんぱ”!!』
 「タマァァァァ〜〜〜〜」


“ちょうおんぱ”を前方に向かって発射する。

すると──


 「タ、タマァァ…!!!?」


相手のタマンタは急に軌道がおかしくなって、ふらふらしだす。

動きの鈍ったタマンタに──


曜『ラプラス!! “うたかたのアリア”!!』
 「キュゥ〜〜〜♪」


海中に心地の良い音色が響き渡ると──タマンタを包み込むようにみずエネルギーのバルーンが発生し、タマンタを閉じ込める。


 「タ、タマァ…!!!?」

曜『捕まえた……!! カメックス!! “はどうだん”!!』
 「ガァァーーーーメェェェーーー!!!!!」


動きを封じたタマンタに向かって、“メガランチャー”から“はどうだん”が発射され──


 「タマァァァ!!!!?」


バルーンごとタマンタを吹き飛ばした。


 「タ、タマアァァ…!!!!」


しかし、直撃を食らってなお、タマンタは態勢を立て直す。

……が、


 「タマ…!!!?」
294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:39:30.05 ID:PfMOWZim0

そのときには既に、タマンタの頭上に──大きな黒い影が降ってきていた。


曜『“アンカーショット”ォッ!!!』
 「────」

 「ダマ゙ッ!!!!!?」


真上からダダリンの巨大なアンカーを叩きつけられ──タマンタは海中に向かって沈んでいった。


曜『よっし!!』

善子『やればできるじゃない』


いくらタマンタが海水の動きで先読みを出来ると言っても──音自体が攻撃だった場合は無理だ。

水中での音速は地上の4倍。察知出来ても避けるなんて到底不可能。

一瞬でも“こんらん”によって動きが鈍れば、曜に捉えられないような相手じゃない。

さて──あとは、


 「ゼルルルルッ!!!!!」


“みずしゅりけん”による牽制を潜り抜けて突っ込んでくるブイゼルだ。


善子『スーパーキャビテーション……面白いものを見せてもらったわ。でも、それ……相当制御に気を遣うんじゃない?』


空気の渦を自分に纏って速度を上げるなんて、よほどの達人芸だ。

そういう繊細な技は──


善子『ちょっと小突けば綻びるのものよ……!』
 「ゲコガッ!!!!」


ゲッコウガの右手に持ったクナイがパキパキと凍り始める。

それを見て──


 「ゼル…!!!」


ブイゼルがニヤリと笑ったのが見えた。そんなもの通じないとでも言いたげな笑み。


 「ゼルルルルッ!!!!」

 「ゲコガァッ!!!!」


2本のクナイを構えたゲッコウガと、ブイゼルが──すれ違いざまにお互いの斬撃をぶつけ合う。

──ギィンッという音がした直後……すれ違った背後に行ったブイゼルの体から──空気の層が裂け、体毛から弾けるように水泡が一気に飛び出した。


 「ゼルッ!!!?」

善子『スーパーキャビテーション、敗れたりね』


制御を失ってすっぽ抜けたブイゼルの先に──ヌッと現れる紫色の影。


 「ゲル…」

 「ゼルッ!!?」


ブルンゲルが触手を使って、ブイゼルをキャッチし、


善子『“ギガドレイン”!!』
295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:16.71 ID:PfMOWZim0

 「ゲルゥ」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!?」


ブイゼルからエネルギーを吸い取った。


 「ゼ、ゼルゥゥゥ…」


体力を吸いつくされて気絶したブイゼルは──ブルンゲルが解放すると、そのまま海底へと沈んでいった。


善子『……確かに、あれだけの芸当が出来る実力があるんだもの。ちょっとやそっと空気層に温度変化を与えても対応してくるわよね、でも──』


ゲッコウガは氷のクナイと──“ねっとう”で作ったクナイを海の水に霧散させた。


善子『冷たいのと熱いので2ヶ所を同時に斬られたら、さすがの達人でもうまくいかなかったみたいね』

曜『やるぅー! さすが、善子ちゃん!』

善子『ヨハネだっつってんでしょ』

曜『それにしてもよく気付いたね、あの2匹の使ってる能力に……』

善子『無視すんじゃないわよ! ま……ヨハネアイに掛かればこんなもんよ。これでも伊達にポケモン博士やってるわけじゃないってこと』

曜『お陰で助かったよ……ありがとう。それにしても……さっきの2匹って、やっぱり……』

善子『ええ。あの洞窟にある、特別な何かを守るための特別なポケモンに違いないわ。私の勘はそう言ってる』

曜『侑ちゃんと果南ちゃんを追いかけよう……!』

善子『そうね。思ったより時間食っちゃったし、急ぐわよ……!』


私たちは侑たちを追って、海底洞窟へと急ぐ。





    🎹    🎹    🎹





──海中洞窟を進むと……。


侑『……!? 果南さん、あれ……!』

果南『海面だ……』


ランターンで照らしながら海中を進んでいると──上の方に、海面が見えた。


果南『ラグラージ、ゆっくり上昇して』
 「ラグッ!!!」


ラグラージが果南さんの指示で海面に顔を出すと──


侑『ここ……完全に空洞になってる……?』


そこは身体が浸かるくらいの深さの水こそあるものの、上の方は完全に水のない、大きな空洞になっていた。

しかも仄かに壁が光っている気がする……。


果南『ヒカリゴケが自生してる……? 海底洞窟に……? あ、侑ちゃん、まだレギュレーター外さないでね。リナちゃん』

リナ『多少酸素濃度が低いけど……呼吸は出来ると思う。長時間は危ないかも』 || ╹ᇫ╹ ||

果南『わかった』
296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:40:56.46 ID:PfMOWZim0

果南さんはリナちゃんの言葉に頷きながらレギュレーターを外す。


果南「……うん、多少息苦しいけど、呼吸は出来るね。侑ちゃん、レギュレーター外してもいいよ」

侑『は、はい』


言われたとおり、自分のと──イーブイのレギュレーターを外してあげる。

すると、確かに少し息苦しさを感じるものの、普通に息が出来る空間だった。


侑「フィオネ……この先に、マナフィがいるってこと?」
 「フィオ」


イーブイと一緒に腕に抱いていたフィオネが、私の腕からぴょんと飛び降りて、水の中を泳いで進み始める。


果南「付いていこう」

侑「はい」


ラグラージの背に乗ったまま、フィオネを追いかけて奥へ進んでいくと──開けた空間に出た。


侑「……ここにいるの?」
 「フィオ〜」


訊ねるとフィオネはさらに奥へと進んでいく。


侑「まだ、ここじゃないんだ……」

果南「……ラグラージ、フィオネを追いかけて」
 「ラグ」


広い空間をさらに奥に進んでいた──そのときだった、


リナ『!! ポケモンの反応!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


リナちゃんの発報と共に──


 「フィオッ!!!?」


水中から何かに突き上げられるようにして、フィオネが吹っ飛ばされる。


侑「フィオネ!?」


私は咄嗟に、ラグラージの背から踏み切って、空中でフィオネをキャッチし──そのまま、水の中にザブンと落ちる。


果南「侑ちゃん!?」

侑「ぷは……っ!! だ、大丈夫です!! それより、フィオネ! 平気!?」
 「フ、フィォ〜…」


訊ねると、フィオネの顔色が悪い。


リナ『フィオネ、“どく”状態になってる……』 || > _ <𝅝||

侑「“どく”……!?」


直後、目の前の水の中から──ザバァと音を立てながら、とんでもないサイズのトゲを生やした丸いポケモンが姿を現す。


 「ハリィ…」


その見た目にはなんとなく、既視感があったけど──
297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:41:50.78 ID:PfMOWZim0

侑「は、ハリーセン……──じゃない……!?」


目の前にいたのは、ハリーセンをそのまま大型化して凶悪にしたような姿をしたポケモンだった。


果南「まさか、ハリーマン……!? ハリーセンの進化した姿だ!!」

侑「ハリーセンの……進化系……!?」

 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは全身の針をさらに伸ばし──それが私たちに迫ってくる。


果南「“アームハンマー”!!」
 「ラグッ!!!!」


その針ごと水中に叩き落とす勢いで、ラグラージが大きな拳を使ってハリーマンに攻撃する。

……が、


 「ハリィ…!!!!」


ハリーマンは水中に沈むどころか──その針をラグラージの拳に突き刺して、攻撃を耐えている。


 「ラ、グゥ…!!!」

侑「くっ……!!」


私はダイビングスーツの腕のボタンを押して、


 「──パルトッ!!!!」

侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!!」


ドラパルトを繰り出し、“ドラゴンアロー”で攻撃する。

至近距離から音速で飛んでくる矢を受けたハリーマンは、


 「ハリッ…!!!」


さすがにノックバックし、ラグラージの拳に突き刺さった針が抜ける。


侑「果南さん! このポケモンは私がどうにかします! だから、果南さんは先に奥へ──」

果南「いや……!! 先に行くのは私じゃない……!」

 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面を高速で泳いでハリーマンに接近して、フックによる拳撃を叩きこみ、さらに畳みかけるように両手で上から押さえつける。

もちろん、全身針だらけのハリーマンはここぞとばかりに、ラグラージに針をぶっ刺しまくる。


 「ハリィッ…!!!!」

侑「か、果南さん……!? 何して……!?」

果南「フィオネの“おや”は誰!? ここまで来た目的は何!?」

侑「……!」

果南「ここは私に任せて……! こいつに侑ちゃんの邪魔はさせないからさ!!」

侑「ドラパルト……!!」
 「パルトッ!!!」
298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:42:28.42 ID:PfMOWZim0

私はドラパルトを呼び寄せ、頭の上に登り──


侑「行くよ!!」
 「パルトッ!!!!」


ドラパルトは猛スピードで奥へ向かって発進した。


 「ハリィッ!!!!」


ハリーマンが私たちを狙って針を伸ばそうとするが、


果南「させないって言ってんでしょ!!」

 「ラァグッ!!!!!」

 「ハリッ!!!!!」


ラグラージが両拳を上から叩きつけ、激しい水しぶきを上げながら、ハリーマンを水中に沈める。


果南「侑ちゃん!! 頼んだよ!!」

侑「はい!!」


私は奥に向かって──突き進む。



 「…ハリィィィィィ!!!!!!」

果南「まあ……さすがにこの程度じゃやられてくんないよね」
 「ラグッ…!!!」

果南「相手にとって不足なし……!! やってやろうじゃん!!」





    🎹    🎹    🎹





──ドラパルトの頭に乗って進んでいくと、大部屋の壁際にはいくつか先に続く横穴があった。

携行ライトを点けて照らしてみるけど……。


侑「やっぱり、フィオネじゃないとどこに行けばいいのかがわからない……」
 「フィオ…」


“どく”で弱った、フィオネを見て、


侑「そうだ! フィオネ、“ブレイブチャージ”!」
 「フィオォォォォ…!!!」


フィオネに“ブレイブチャージ”を指示する。


 「フィオ〜」


すると、すっかり元気になってフィオネは再び水中へと飛び込んでいく。

“ブレイブチャージ”には状態異常を回復する効果がある。

それで“どく”を回復し、元気になったフィオネは──


 「フィオ〜」
299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:43:13.40 ID:PfMOWZim0

横穴の内の一つに迷わず進んでいく。


侑「ドラパルト、フィオネを追いかけて」
 「パルトッ」


私たちはフィオネを追いかけ──奥へと進む。





    🐬    🐬    🐬





 「ハリィッ!!!!」

 「ラグッ…!!!!」


ハリーマンの針が突き刺さると、ラグラージは苦悶の表情を浮かべる。


果南「さっきよりも威力が上がってる……! それが、“どくばりセンボン”ってやつだね……!」


“どくばりセンボン”は相手を“どく”状態にする効果がある技でありながら、“どく”状態の相手には威力が倍増する技だと文献を読んだことがある。

何故、こんな曖昧な言い方かというと──ハリーマンは今現在、野生の姿が一切確認されておらず絶滅種とされているポケモン。

まさか、こんな海深くの洞窟の中で……しかもオトノキ地方にこんなに近い場所でひっそり生息していたなんて考えもしなかった。


果南「海のポケモンのエキスパートとして、会えて嬉しいよ……! しかも、野生とは思えない強さ……光栄だよ!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


なら、私もその強さには本気で応えないとね……! 私は髪をかき上げ、左耳を出す。──そこには、貝殻ピアスの中に輝く“キーストーン”。


果南「ラグラージ……!! メガシンカ!!」
 「ラァァァァーーーグッ!!!!!」


ラグラージが光に包まれ──上半身の筋肉がさらに発達し、巨大になった腕を振り上げる。


 「ラァァァァーーーーグッ!!!!!」
果南「“アームハンマー”!!」


腕を振り下ろすのと同時に──腕についているオレンジの噴出口からジェットエンジンのように水を逆噴射し、超加速して拳を叩きつける。


 「ハリィィッ!!!?」


──ドッパァッ!! という音とともに特大の水しぶきを上げ、ハリーマンを水底に向かって叩き落とす。

ド派手に上がった水しぶきは洞窟の天井まで水浸しにし、洞窟内に水滴が落ちる音があちこちから鳴り響く。


果南「……まさか、これで終わりじゃないよね……!」
 「ラグ…!!」


ラグラージがピクリと反応し、ラグラージが全身にある噴出口から水を逆噴射して、ジェットスキーのようなスピードで泳ぎ出す──と同時に、水中から大量の槍のような鋭さ針が一斉に飛び出してきた。


果南「“ミサイルばり”……!!」


ラグラージの背の上で振り返ると、ハリーマンの“ミサイルばり”がこちらを追尾してくる。

なら……!
300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:46:04.59 ID:PfMOWZim0

果南「“いわくだき”!!」
 「ラグッ!!!」


ラグラージは高速で泳ぎながら、壁に拳を叩きつけ、洞窟の壁を壊し──


果南「“いわなだれ”!!」
 「ラァグッ!!!」


崩れてきた岩を殴り飛ばして、“ミサイルばり”にぶつける──が、“ミサイルばり”は容易に岩を穿って、


 「ラァグッ!!!?」
果南「うわっ!?」


ラグラージに直撃する。


 「ラ、グゥゥッ…!!!」
果南「岩くらいじゃ止めらんない……!」


怯んだラグラージの目の前に、


 「ハリィィィィッ!!!!」


ハリーマンが飛び出し、ハリーマンから黒いオーラが溢れ出す──“あくのはどう”だ……!

私はすかさず、次の技の指示。


果南「“みずのちかい”!!」
 「ラグッ!!!!」


ラグラージが水面叩くと──水柱がハリーマンの真下から飛び出し、ハリーマンを打ち上げる。

それによって、照準のズレた“あくのはどう”は私の頭スレスレの場所を飛んでいく。

打ち上げられたハリーマンは──


 「ハ、リィィィィ!!!!!」


空中で体を膨らませ──洞窟の天井に全身の鋭い針を突き刺し、そのままスパイクのように天井の岩盤を噛みながら、回転して──こっちに向かって飛び出してくる。


果南「うわ……! あれ、当たったら絶対痛いじゃん……!」


飛んでくるハリーマンを前にそんな感想を呟く。

あの硬さ、鋭さの針を持った球体に突っ込まれたら──絶対、無事じゃ済まない。


果南「ただ……こっちのパンチは、それ以上だけどね……!!」
 「ラァァァーーーーグッ!!!!!」


ラグラージがみずタイプのエネルギーを一気に片腕に集束し──直後、水流噴出口からジェット噴射──スピードを乗せた最大火力の拳……!!


果南「“アクアハンマー”!!」
 「ラァァァーーーーーーーグッ!!!!!」

 「ハリィィィィ!!!!!」


2匹の攻撃がぶつかった瞬間──バキバキッ!! と音を立てながら、ラグラージの拳が、ハリーマンの全身の針を折り砕き、


 「ハ、リィッ…!!!?」


拳のインパクトと共に、膨れ上がったみずのエネルギーが──周囲の海面と岩壁を衝撃で抉り取った。

爆発のような音と共に、海底洞窟を揺らし──嵐の中かと見紛うほどに激しく波立つ向こうで……。
301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:47:18.94 ID:PfMOWZim0

 「ハ、リィィ…」


岩壁にめり込んだハリーマンが気絶していた。


果南「うっし……お疲れ様、ラグラージ」
 「…ラグ…ラグゥ…!!!」

果南「いやー、強かったね……“アクアハンマー”使ったの、千歌との戦い以来だよ……」
 「ラグッ…」


この技は消耗が大きい分、一撃必殺級の大技だ。

いくら相手が強かろうが、硬かろうが関係なく、全てをパワーでねじ伏せる。私がラグラージと一緒に考えた最終兵器。


果南「ま……私のラグラージ相手にパワーで挑もうとしたのが運の尽きだったね」


そのとき、


 「ラ、ラグ…」
果南「おとと……!?」


ラグラージがよろけて、乗っている私も落っこちそうになる。


果南「っと……“どく”受けてたんだった。お疲れ様、ゆっくり休んで」
 「ラグ──」


ラグラージをボールに戻す。

それと、同時に少し離れてフィールド全体を照らしていたランターンが泳ぎ寄ってくる。


果南「さて、侑ちゃんを追いますかー」
 「ターン」


ランターンに掴まって、奥へと進もうとしたそのとき──


 「──今の爆発何!? 侑!? 果南!? 無事なの!?」
 「──二人ともー!! 返事してー!!」


入り口側からそんな声が聞こえてきた。


果南「あ、やば……曜ちゃーん! 善子ちゃーん! こっちだよー!!」


“アクアハンマー”の衝撃を爆発と勘違いして大慌てする曜ちゃんと善子ちゃんに向かって、大きな声で応える。

一旦二人と合流するために、入り口側へと泳ぎ出すと──


 「ヨハネだっつってんでしょーーーーー!!」


善子ちゃんの元気な返事が響いてくるのだった。



302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:48:45.33 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





──ゴォンッ……!!


侑「わっ……!? な、なに……? 爆発……?」
 「ブイ…」


背後から、爆発音と共に、洞窟内が揺れる。

なんだか、果南さんのことが心配になるけど……。


リナ『果南さんなら、たぶん大丈夫だよ。とんでもなく強いから』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん……今は前に進もう」
 「ブイ」


リナちゃんの言葉に頷く。


 「フィオ〜」


引き続き、フィオネを追ってしばらく進むと──また、開けた空間に出た。

ただ、そこはさっきの空間とは違い──水底が見えていた。


リナ『かなり浅い……たぶん足がつくと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……ドラパルト、降りてもらっていい?」
 「パルト」


ドラパルトに指示を出して──そこに降り立ってみると、水深は私の脹脛くらいまでしかなかった。

ただ、それよりも……。


侑「ここ……レンガだ……」


透き通るの水の中でクリアに見えている水底は──エメラルドグリーンをした、レンガで出来ていた。

どう見ても、人工物……。つまり……。


侑「ここは……人が作ったってこと……?」

リナ『海底洞窟じゃなくて、海底遺跡だったんだね』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな中、


 「フィオ〜」


フィオネがちゃぷちゃぷと音を立てながら、さらに奥へと進んでいく。


侑「……行こう」
 「ブイ」


フィオネを追って、ちゃぷちゃぷと音を立てながら進んでいく。

不思議なことにこの空間は、何故だか不思議な光に包まれていて……携行ライトを消しても、十分視界が確保されている。

壁もだけど……足元も光っている気がする。


侑「……もしかして、このレンガが光ってるのかな……?」

リナ『見ただけじゃ私でも、何の物質で出来てるのかがわからない……』 || ╹ᇫ╹ ||
303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:49:46.53 ID:PfMOWZim0

得体の知れない場所だけど……不思議とその光を見ていると心が落ち着く気がした。

しばらく、フィオネを追って進むと──


 「フィオ〜」


フィオネが、動きを止める。


侑「フィオネ?」
 「フィオ〜」


名前を呼ぶと、フィオネが私のもとへと戻ってくる。


侑「……フィオネはここから来たの?」
 「フィオ〜♪」


私が訊ねると、フィオネが鳴きながら頷いた。


侑「じゃあ、ここに……」


私は周囲を見回す。……今のところ、特にポケモンの姿は見えないけど……。

でも、フィオネのタマゴはここで産まれたらしい。そして、海を渡って……私のもとにたどり着いた。

なら、きっとここに……いるんだ。


侑「──マナフィ! いるなら、出てきて! あなたにお願いしたいことがあるんだ!」


私の声が、不思議な光に包まれた空間の中で反響する。


侑「…………」


ただ、呼び掛けてもそこにあるのは、穏やかな水面と依然光り続ける不思議な壁と床だけ。


リナ『今のところ……ポケモンの反応はない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「ここじゃ……ないのかな……」


もっと奥に行ってみた方がいいのかな……。そう思って、足を踏み出そうとした、そのときだった。


 「──フィ〜♪」

侑「……!」

リナ『……!?』 || ? ᆷ ! ||


急に空間内に鳴き声が響き──直後……まるで、今しがた目の前で生まれたかのように、フィオネによく似た姿のポケモンが水の中から現れた。


侑「……マナ……フィ……」

 「フィ〜」

侑「マナフィ! お願いがあるんだ!」

 「フィ〜?」


私の言葉にマナフィは首を傾げる。


侑「マナフィの心を入れ替える力を貸して欲しいんだ……! だから、私たちと一緒に来てくれないかな……」


私がそう言うと、
304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:50:40.54 ID:PfMOWZim0

 「……マーーナフィーーッ!!!」

侑「わぷっ!?」
 「ブイッ!!?」


私の顔に向かって“みずでっぽう”が飛んできて、尻餅をつく。


リナ『侑さん、大丈夫!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「う、うん……びっくりしただけ……」


私が立ち上がろうとすると──


 「フィ〜」


マナフィがその隙に奥へと逃げていく。


侑「!? ま、待って……!!」


マナフィを追いかけようとした瞬間──私の目の前に“うずしお”が3つ発生し、竜巻のように水を巻き上げる。


侑「な……!?」


そして、その渦の中から──


 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが飛び出してきた。

そして、同時に、


 「フィオーー」「フィオーー」「フィオーー」


“バブルこうせん”を発射してきた。


侑「うわぁ!?」
 「フィーーーオーーー」


驚く私の前にフィオネが躍り出て──“ハイドロポンプ”で、相手の攻撃を相殺する。


侑「あ、ありがとう……フィオネ……!」
 「フィオ〜」

 「フィオ〜」「フィオ〜」「フィオ〜」


3匹のフィオネが、マナフィの盾になるように立ちはだかる。

そして、その奥で、


 「フィ〜」


マナフィがこちらを見つめていた。

まるで──私の実力を試しているかのように。


侑「……わかった。ここはポケモントレーナーらしく……バトルで実力を示すよ……!!」
 「パルトッ!!!」


私は頭を下げたドラパルトの頭に掴まり、そのまま飛び上がる。

飛行して水面から離れると同時に、
305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:51:20.87 ID:PfMOWZim0

侑「イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーイッ!!!!」


私の肩に乗ったイーブイが、パステル色の旋風を発生させて、フィオネたちを攻撃する。


 「フィーー!!?」「フィーー!!?」「フィーー!!?」


フィオネたちは、その風に巻き上げられて、ストームの中をぐるぐると振り回されるが──


 「フィーー!!」「フィーー!!」「フィーー!!」


竜巻の中で、同時に“れいとうビーム”を発射してくる。

回転する渦に巻き込まれながら発射してくるビームは、あちこちでたらめな方向に発射され、壁や天井を手当たり次第に凍らせ始める。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

 「パルトッ…!!!」
侑「く……!?」


あまりにでたらめな攻撃に、逆に反応出来ず、“れいとうビーム”がドラパルトの体を掠る。

凍った体は“きらきらストーム”の効果で一瞬で溶けるけど、こおりタイプの攻撃はドラパルトにとって弱点になっちゃう……!


侑「イーブイ! “びりびりエレキ”!!」
 「ブイッ!!」


イーブイが私の肩からぴょんと跳ねて──風に巻き込まれているフィオネたちに電撃を放つ。


 「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」「フィオーーー!!?」


電撃に痺れたフィオネたちに向かって──


侑「“ドラゴンアロー”!!」
 「ドラパッ!!!!」
 「メシヤーーーーッ!!!!」「メシヤーーーーッ!!!!」


ドラメシヤたちを発射し、


 「フィーーッ!!!?」「フィーーッ!!!?」


フィオネを2匹吹っ飛ばす。


侑「あと1匹……!!」
 「ブイッ!!」


イーブイをキャッチしながら、次の攻撃を構えようとした瞬間──


 「フィーーーオーーー!!!!」

侑「!?」
 「パルトッ…!!?」


フィオネが激しく閃光した。

その強烈な閃光に焼かれたドラパルトがバランスを崩し、振り落とされそうになる。

私は咄嗟にドラパルトのツノにしがみついて振り落とされないようにする。
306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:52:22.34 ID:PfMOWZim0

侑「い、今の“マジカルシャイン”……っ」

リナ『ゆ、侑さん大丈夫……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「ちょっと、だいじょばないかも……」


不意を打たれて、まともに“マジカルシャイン”を見てしまったせいで、目がちかちかする。

私が視界不良の中、


リナ『侑さん、前!?』 || ? ᆷ ! ||


リナちゃんの声がしたと思ったら、


 「パルトォッ!!!?」


ドラパルトの悲鳴のような鳴き声と共に浮遊感に襲われる。


侑「……っ」


霞む目で、ドラパルトを確認すると──ドラパルトの体が半分ぐらい凍り付き、落下を始めていた。


侑「“れいとうビーム”……!」


何をされたかを理解すると同時に──バシャンッ!! と音を立てながら、ドラパルトが床に落下する。

落下の衝撃で、私もドラパルトの上から放り出されて、バシャッという音と共に床に落ちる。

水の張った床の上だから、そこまで痛くはなかったものの──今の私はほとんど目が見えない。


 「フィオ〜!!」


目の前で敵のフィオネの鳴き声が聞こえる。


リナ『侑さん!! また、“れいとうビーム”が来る!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……っ……!」


リナちゃんの悲鳴のような声を聞いて、私は……フィオネの声がした方に向かって──イーブイをぶん投げた。


 「フィーーー!!!!」

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」

 「ブイィィィィ!!!!!」


イーブイは空中で全身に炎を纏って──“れいとうビーム”の中を突き進む。


 「フィッ!!?」

 「ブイッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


鳴き声でフィオネに“めらめらバーン”が直撃したことを確認し、


侑「“こちこちフロスト”!!」

 「イッブィッ!!!」

 「フィォッ──」


フィオネを真っ黒い氷の塊の中に閉じ込めた。
307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:53:40.77 ID:PfMOWZim0

侑「はぁ……はぁ……」

リナ『侑さん、平気!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うん……どうにか……」


やっと目も慣れてきて、視界が戻ってくる。

顔を上げると──“ドラゴンアロー”の直撃を受けて気絶し、ぷかぷかと浮いている2匹のフィオネ。黒い氷の中で動けなくなった3匹目のフィオネと──部屋の奥でぽわぁっとした光を放つマナフィの姿が見えた。


リナ『侑さん!? あれ、“ほたるび”!? マナフィが攻撃の準備してる!?』 || ? ᆷ ! ||


“ほたるび”は自身の特攻を一気に上昇させる技だ。


 「マーーナーー──」


マナフィが口から水流を吐き出そうとした瞬間──


 「──フィオ〜」


マナフィの背後に──私のフィオネが、水の中から現れた。


 「フィ!?」

侑「“うずしお”!!」

 「フィオ〜!!」


フィオネがマナフィの立っている水面に“うずしお”を発生させて、マナフィの動きを拘束した。


 「フィ、フィーーー!!!?」


“うずしお”中でくるくる回りながら、マナフィが鳴き声をあげる。


侑「はぁ……どうにか、捕まえた……」


思わず安堵の息が漏れた。


リナ『今のってもしかして……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。フィオネは最初から“とける”で水の中に身を隠しながら、少しずつマナフィの背後に近付いてたんだよ……」

 「フィオ〜♪」


そして、背後から“うずしお”でバインド。

どうにかうまく行ってよかった……。


 「フィーーー!!!?」


私は依然“うずしお”の中で目を回しながら回転しているマナフィのもとに歩み寄る。


 「フィーーーッ!!!! フィーーーッ!!!」


私の気配を感じたのか──マナフィは周囲に向かって、デタラメに“みずでっぽう”を発射し始める。


侑「わわっ!?」

 「フィーーーーッ!!! フィーーーーッ!!!」


どうにか、身を屈めて、水流を避けながら前に進むけど……。
308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:54:16.25 ID:PfMOWZim0

 「フィーーーッ!!! フィーーーーーッ!!!!」


大きな声を出しながら、私が近寄るのを拒んでいるマナフィを見て──


侑「……フィオネ、“うずしお”解除してあげて」

 「フィオ」


“うずしお”を解除させた。


 「フ、フィ…?」

リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


突然攻撃の手を止めた私に、マナフィが戸惑いの表情を浮かべ、リナちゃんが動揺した声をあげる。


侑「……私は、マナフィを無理やり捕まえに来たんじゃない」


私はそう言いながら、戸惑っているマナフィの方に歩を進め──マナフィの目の前で身を屈める。


侑「……マナフィ、私……助けたい人がいるんだ」

 「フィ…?」

侑「すごくすごく……大切な人なんだ。……その人を助けるためには……君の力が必要なんだ」

 「フィ…」

侑「少しの間でいいから……私に君の力を貸してくれないかな……?」
 「…フィ」


真っすぐマナフィの目を見つめながらお願いすると。


 「フィ」


マナフィは頷いて、私の膝に手を触れる。


侑「うん、ありがとう、マナフィ」


お礼を伝えながら、マナフィを優しく抱き上げる。


リナ『さ、さっきまで戦ってたのに……説得しちゃった……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

侑「ちゃんとお願いすれば……マナフィにも伝わるかなって……」
 「フィ〜」

侑「それに……力を貸してもらうのに、力尽くで無理やり言うことを聞かせるなんて、ダメだって思ったんだ。……それじゃ、果林さんたちのやろうとしてることと、何も変わらない」

リナ『侑さん……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「もちろん、戦って示さなくちゃいけないときはある。だけど……今はそういうときじゃないって、思ったからさ」

リナ『……うん。私もそれがいいと思う』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん」


それに……無理やりマナフィに言うことを聞かせて助けてもらったなんて知ったら……歩夢は悲しむと思うから。


 「フィ〜♪」
侑「それじゃ、戻ろっか!」
 「ブイ♪」「フィオ〜♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ < ||



309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:06.00 ID:PfMOWZim0

    🎹    🎹    🎹





大広間に戻ると──すぐにランターンの光が見えてきた。


侑「果南さーん!」

果南「! 侑ちゃん!」

善子「侑!」

曜「侑ちゃん!」


私の声に気付いて、みんなが近寄ってくる。

私もフィオネに引っ張ってもらいながら、みんなのもとへと泳いでいく。


果南「よかった……道がたくさんあって、どこに行ったのかわからなかったから……」

善子「侑、怪我してない? 平気?」

侑「はい! それと……ちゃんと、目的も達成しました!」


私がそう言うと、


 「フィ〜♪」


マナフィが水中から私たちの目の前に姿を現した。


果南「……! マナフィ……!」

侑「はい! 協力してもらうようにお願いして、一緒に来てもらいました!」
 「フィ〜♪」

善子「よくやったわ……リトルデーモン侑……! ほ、褒めて遣わすわ……!」


そう言いながらヨハネ博士は、何故か顔を背ける。


曜「あはは……ごめんね、侑ちゃん。善子ちゃんさっきまで侑ちゃんのことすごい心配してたからさ。安心して、泣けてきちゃったみたい」

善子「泣いてないわよ!! あとヨハネよ!!」

果南「はいはい、再会に感動するのもいいけど、ここはまだ海の底だよ。そういう話はホエルオーの場所に戻ってからにしよう」

侑「はい! 帰りましょう……!」
 「フィ〜」


こうして私たちは、無事マナフィを連れて帰ることに成功したのだった。





    🎹    🎹    🎹





果南「──遺跡があった……?」

侑「……はい」

リナ『マナフィが居た場所は、床がレンガ造りで、明らかに人の手で作られた空間になってた』 || ╹ᇫ╹ ||

果南「ふーむ……」


ホエルオーに揺られながら、すっかり日も落ちた海を進む最中、私はマナフィのいた場所のことを果南さんたちに話していた。
310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:55:43.47 ID:PfMOWZim0

曜「マナフィにレンガを扱う力があるとかは?」

善子「……まあ、可能性はゼロじゃないけど……人が作ったって考えた方がいくらか自然だと思うわ」

曜「でも、あんな場所だよ?」

善子「それはまあ……」

果南「…………」


果南さんはしばらく、顎に手を当てて考えていたけど──


果南「……マナフィにはちょっとしたお伽噺があるんだけどさ」

侑「お伽噺……ですか……?」

果南「海の王子と呼ばれるポケモンに人の勇者が会いに行くお話しなんだけど……勇者はマナフィに会うために、3匹の海のポケモンに認めてもらって、そのポケモンたちをお供にして、マナフィに会いに行くんだ」

曜「3匹……? それってもしかして……」

果南「うん。その3匹は……ブイゼル、タマンタ……そして、大きなトゲのハリーセンだって言われてる」

善子「ブイゼルにタマンタに……大きなトゲってのは、ハリーマンよね……なるほどね」

曜「あのポケモンたちは……勇者のお供のポケモンだったってこと?」

果南「かもしれないね……」

善子「勇者はマナフィに出会ったあと……マナフィのために、神殿を作り、自らのお供たちを王子を守る門番として、あそこに残した……。そう考えるとしっくり来るわね」

曜「勇者のお供かぁ〜……どうりで強いわけだよ……」

果南「ただ、大昔のお話だから、本当に勇者のポケモンたちだったのかはわからないけどね……」

善子「ま……それは今後の研究課題としましょう。今はとにかく、作戦の成功を喜びましょう」

侑「……はい!」


ホエルオーは月明りが照らす海をゆっくりと進んでいく。

そんな月夜の下──


 「フィ〜♪」


マナフィは嬉しそうに、鳴き声をあげながら、泳いでいるのだった。



311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/25(日) 10:56:16.46 ID:PfMOWZim0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【蒼海の遺跡】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.73 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.64 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:231匹 捕まえた数:10匹


 侑は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:01:24.16 ID:9NVhM0zb0

■Chapter059 『裏側の世界』 【SIDE Kasumi】





──セキレイシティを発ったかすみんたちは、ただいま15番水道を目指して移動の真っ最中です。


鞠莉『あーあー……マイクテス、マイクテス……聞こえるかしら?』


耳に付けたイヤホンマイクから、鞠莉先輩の声が聞こえてくる。


かすみ「聞こえてますよ〜!」

理亞『聞こえる。問題ない』

ルビィ『大丈夫です!』

彼方『彼方ちゃんもおっけ〜。全員大丈夫そう〜』

鞠莉『Thank you. これで離れても連絡が取れるから、飛行中は外さないでね』

かすみ「はーい♪ それにしても、これ便利ですねぇ〜。いつでもかすみんの可愛い声をみんなに届けられちゃいます♪」

彼方『あはは〜そうだね〜』

理亞『……はぁ』

かすみ「む……誰ですか、今溜め息吐いたの!」

ルビィ『け、ケンカしないで〜!』

鞠莉『賑やかねぇ……。もう少しで15番水道に入るわよ。みんな、気を引き締めて!』


鞠莉先輩の言葉で前方に目を向けると──船の残骸のようなものが漂う海域が眼下に見えてくる。


理亞『船の墓場……』

ルビィ『ぅゅ……ここ、いつ来てもちょっと怖いかも……』

かすみ「ルビ子は怖がりだなぁ〜、飛んでれば問題ないって〜」

理亞『……ルビィ、かすみにルビ子なんて呼ばせてるの?』

ルビィ『え? よ、呼ばせてるというか……呼ばれてるというか……。……か、可愛くないかな……? ルビィは結構気に入ってるんだけど……』

理亞『年下でしょ? 舐められてるんじゃないの?』

ルビィ『舐められてるってことはないと思うけど……でも、ルビィこんな見た目だから……』

かすみ「むー、別にかすみんが、ルビ子のことどんな風に呼んでもいいでしょ!」

理亞『年上に対して敬意はないの?』

ルビィ『り、理亞ちゃん! ケンカしないでって……!』


な〜んか、やったら突っかかってきますねぇ……。


かすみ「はっはぁ〜ん……さては〜……」

理亞『何よ』

かすみ「理亞先輩ったら、かすみんがルビ子のこと、あだ名で呼んでるから嫉妬しちゃってるんですかぁ〜?」

理亞『はぁ!? 何言ってんの!? バカじゃないの!?』

かすみ「もう、そうならそうと最初から言ってくださいよ〜。理亞先輩も、りあ子って呼んであげますから〜。ルビ子とお揃いですよ〜?」

理亞『ちょっと今からあの子、撃ち落としてくる』


そう言いながら、理亞先輩のクロバットがこっちに方向転換して向かってくる。
313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:02:06.59 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ひ、ひぃぃぃぃ!!? こっち来ないでくださいよぉー!!?」

鞠莉『もう、じゃれてないで真面目にやりなさい!! 幽霊船の海域に入るわよ!』

理亞『ちっ……次言ったら本気で落とすから』

かすみ「も、もう……ちょっとした冗談じゃないですか……」

彼方『いや〜みんな、楽しそうだね〜』

ルビィ『ぅゅ……大丈夫かなぁ……』





    👑    👑    👑





幽霊船の海域とやらに入って数分もしないうちに──眼下の海は濃い霧に包まれ始めていました。


鞠莉『……確かにすごい濃霧ね』

彼方『海が全然見えなくなっちゃったねー……』

鞠莉『……ロトム、解析お願い』
 『了解ロトー』


ロトムが鞠莉先輩の指示で、海霧を上から観察し始めると、


 『パターン一致。一ヶ所だけ、発生源が違うと思われる霧があるロト。あそこに幽霊船があるロト』


すぐに目的の場所を発見する。


鞠莉『OK. そこまで、案内して』
 『了解ロト』


ロトムが先導する形で、かすみんたちは霧の中へと降りて行きます。





    👑    👑    👑





霧の中を進んでいくと──その中から、見覚えのある巨大な木造船が姿を現しました。


かすみ「……! これ、これです! かすみんたちが乗ったのはこの船で間違いないです!」

彼方『おー! まさしくな幽霊船! 雰囲気あるね〜』

ルビィ『ぅゅ……やっぱり、お化けとかいるのかな……』

理亞『ルビィ。私がいるから平気。何かあったら守るから』

ルビィ『理亞ちゃん……うん!』

鞠莉『甲板に降りるわよ。全員付いてきて』

かすみ「はいです!」

ルビィ『はい!』
理亞『わかった』


鞠莉先輩の指示に従って、甲板に降り立つ。
314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:04:48.71 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「ロトム、案内ありがとう」
 「どういたしましてロト」

鞠莉「さて……この船の奥に、空間の裂け目がある。それで間違いないのよね?」

かすみ「はい!」

鞠莉「わかった。それじゃあ、中に入りましょう。ゴーストポケモンのテリトリーだから、全員離れないようにね。かすみ、案内お願いしていい?」

かすみ「任せてください!」


かすみんが先頭に立って、船内を歩き始め──た瞬間、バキッと音がして、


かすみ「っ!?」


ガクンと身体が落ちそうになり、


理亞「ちょっと何してんの……!」


理亞先輩が、咄嗟にかすみんの腕を掴んで引っ張り上げてくれる。


かすみ「あ、ありがとうございます……理亞先輩……」

理亞「はぁ……気を付けなさい」


お礼交じりに足元を見ると──床板が抜けていた。


彼方「ありゃー……床板が腐ってたんだねぇ……」

ルビィ「足元に気を付けて進んだ方がいいかもね……」

かすみ「で、ですねぇ……」


いきなり幸先が悪いですぅ……。

──気を取り直して。かすみんたちは船の奥へと進んでいく。

すると、急に──背筋がゾクリとした。

こ、この感覚は……。


ルビィ「……い、今……変な感じしなかった……?」

理亞「……した。なんかいる」

かすみ「あいつらです……!」

 「────」「…………」「〜〜〜」


例のお化けたちがどこからともなく姿を現した。

しかも、前よりも数が多い……10匹、いや20匹はいます……!


ルビィ「ピ、ピギィィィ!!? お化け!!?」

かすみ「あいつらはゴースです!! 今、“シルフスコープ”を──」


正体を見破るために、かすみんが以前ここでゲットした“シルフスコープ”を、バッグから取り出そうとした瞬間、


鞠莉「サーナイト」

彼方「ムシャーナ」

鞠莉・彼方「「“サイコキネシス”」」
 「サナ」「ムシャァ〜…」


いつの間にボールから出したのか、鞠莉先輩のサーナイトと彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”でお化けを全員吹き飛ばしてしまった。
315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:05.51 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「悪いけど、遊んでる暇ないから、通らせてもらうわよ」

彼方「おどかすだけのポケモンなら全然怖くないよ〜」


二人は何食わぬ顔で、前進していく。


かすみ「あ、あんなにいたのに一瞬で……?」

ルビィ「す、すごい……」

理亞「……追い払うだけなら、私でもすぐ出来た」

鞠莉「ごめんなさいね、理亞。ただ、戦力は温存しておいた方がいいと思って♪」

理亞「……まあ、そういうことなら」


──その後も、お化けが出てくる度に有無を言わさず鞠莉先輩と彼方先輩が吹き飛ばし、あれよあれよという間に、目的の空間の裂け目がある操舵室へとたどり着きました。


かすみ「この部屋です!」


部屋に入って、見回すと──それは前と同じ場所にあった。

空間にあいている穴。浮いている穴です。


鞠莉「……! 確かに、これよ! やぶれた世界に続く空間の裂け目に間違いない……!」

理亞「確かにこんな場所にあったら……鞠莉さんたちが探しても見つからないわけね」

かすみ「そんな場所を見つけちゃうかすみんはさすがですね〜! 褒めてくれていいんですよ!」

彼方「おーよしよし〜♪ かすみちゃんは偉いね〜♪」

ルビィ「かすみちゃん、ありがとう♪」

かすみ「もっと褒めてください〜♪」


やっぱり褒められると気分がいいですね〜♪


かすみ「でも、この穴……入れるんですかね?」


穴は拳大くらいしかありません。


かすみ「……かすみんがいくら小ぶりで可愛いキュートな女の子だとしても、さすがにこのサイズは……」

鞠莉「だから、私が穴を広げる役として、残るのよ」

かすみ「あ、なるほど」

理亞「それじゃ……穴を広げて」

鞠莉「Wait a minute. ちょっと待って、理亞」

理亞「?」

鞠莉「行く前にちゃんと作戦を確認した方がいいわ」

理亞「必要ない。やぶれた世界のことは頭に入ってる」

ルビィ「あ、えっと……る、ルビィは確認したいかな……」

彼方「彼方ちゃんも、改めて最終確認しておいた方がいいと思うな〜」

かすみ「そうですよ! かすみん、やぶれた世界のこと、なんにもわかんないんですから!!」

理亞「自信満々に言わないでよ……来る途中に説明したでしょ?」

かすみ「確かに言ってましたけどぉ……1回じゃよくわかんないですよぉ……」

理亞「……」


かすみんの言葉に、理亞先輩が眉を顰める。
316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:06:37.53 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「理亞。やぶれた世界が危険な場所なのはわかっているでしょう? ここにいる全員で力を合わせるの。そのためにもしっかり確認をしてから臨むべきよ」

ルビィ「理亞ちゃん。こうして、穴は見つけられたわけだから……焦らずに行こう?」


ルビ子がそう言うと、


理亞「……わかった」


理亞先輩は了承する。……やっぱり理亞先輩、ルビ子にはちょっと弱いみたいですね……?


鞠莉「まず目的」

彼方「ピンクダイヤモンドを見つけること〜」

鞠莉「そうね。ただ、そのためには前提条件がある」

かすみ「えっと……確か、やぶれた世界を操ってるポケモン……? に協力してもらわないといけないんですよね?」

鞠莉「自力で探すって方法もあるんだけど……ちょっと運頼りになっちゃうのよね」

理亞「だから、捕獲を視野に入れて動く」


そんな風に言う理亞先輩。


ルビィ「……」


でも、ルビ子は少し浮かない顔をする。


理亞「ルビィ……? どうかしたの……?」

ルビィ「……ギラティナさんは自分の世界にいるだけなのに……捕まえちゃってもいいのかなって思って……。あ……も、もちろん反対してるわけじゃないんだけど……!」

理亞「……今回は協力をしてもらうだけ。終わったら、やぶれた世界に還してあげればいい」

ルビィ「……うん。そうだよね……ごめんね、変なこと言って……」

理亞「うぅん……ルビィらしいと思う」

鞠莉「……確かにギラティナからしたら迷惑な話かもしれないけど……。このまま何もせずに、果林たちにこの世界を滅ぼされるようなことになったら、ギラティナも困るはずよ」

ルビィ「うん……そうだよね」


ルビ子はやっぱり少し浮かない顔……。でも、確かにこのまま放っておいたら、リナ子の記憶を元に戻せないし、果林先輩たちのこともわかりません。

かすみんは……指を咥えたまま、やりたい放題されるなんてまっぴらです。

何より、しず子を助けに行かなくちゃいけないんだから……!


かすみ「えっと……それじゃ、まずそのギラティナを捕まえて、その後ピンクダイヤモンドの場所に案内してもらうってことでいいんですよね?」

鞠莉「ええ。でも、マナフィがいないとピンクダイヤモンドにあると予想されてるリナの魂を移動できないから……確認出来たら帰ってくる。それが今回のミッションよ」

かすみ「おっけ〜です! かすみん、完璧に把握出来ましたよ!」


とりあえず、ギラティナってポケモンを捕まえて、道案内してもらう。思ったより単純なミッションですね!
317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:07:18.90 ID:9NVhM0zb0

ルビィ「……あの、あともう一つ」

理亞「……ルビィ……?」

ルビィ「わたしたちは……わたしと理亞ちゃんは、もう一つ目的があります」

理亞「ルビィ……!? そ、それは……!」

ルビィ「理亞ちゃん、やっぱり言っておいた方がいいよ」

理亞「でも……。……これは、完全に私の事情だし……」

鞠莉「ルビィ……とりあえず、教えてもらってもいい?」

ルビィ「うん。……わたしたちは……ディアンシー様に会って、聖良さんの心を返してもらおうと思ってます」

理亞「……」

かすみ「でぃあんしーさま?」


また新しい単語が出てきて、かすみんは首を傾げます。


ルビィ「あのね、ディアンシー様は……この地方を守ってくれてる女神様なの。……そして、わたしはそのディアンシー様と人との間を取り持つ巫女なの」

かすみ「う、うん……?」


地方守ってくれてる……? 巫女……? 余計によくわかんないんだけど……。


ルビィ「それで……聖良さんのことなんだけど……」

鞠莉「……聞いてる。目を覚ましたけど、心がない状態……なのよね」

理亞「……! 知ってたの……?」

鞠莉「私も真姫さんから参考意見を求められてね……。正直、見たことも聞いたこともない症状だからお手上げだったけど……ルビィの話を聞いて、ピンと来たわ」


鞠莉先輩はルビ子と理亞先輩を順に見て、


鞠莉「聖良の心は……ディアンシーのところにあるのね。だから、ディアンシーに会って……聖良の心を返してくれるようにお願いをする……」

ルビィ「……うん」

理亞「ねえさまはディアンシーの攻撃を受けたから……そのときにきっとディアンシーに心を封印されたんだと思う……」

ルビィ「だから……わたしたちはディアンシー様に会いに行く必要があるの……いいかな?」


ルビ子は真剣な顔をして訊ねてくる。


かすみ「うーん……? なんか、よくわかんないんですけど……要は理亞先輩のお姉さんを助けるために、そのディアンシー様に会わないといけないってことですよね?」

ルビィ「うん、そういうことかな」

理亞「嫌だったら……無理強いは出来ない……。これはあくまで私の問題だから……」

かすみ「……? あのあの、なんでわざわざやるかやらないかの確認を取るんですか……? それで理亞先輩のお姉さんを助けられるなら、やるべきじゃないですか?」

理亞「え? い、いや……まあ、そうなんだけど……これは私のわがままみたいなもので……」

かすみ「……?」


かすみんよく意味がわからなくて首を傾げちゃいます。


彼方「ふふ♪ かすみちゃんは良い子だね〜♪」


笑いながら、彼方先輩がかすみんの頭をナデナデしてくる。
318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:08:45.34 ID:9NVhM0zb0

かすみ「わわっ、な、なんですか、彼方先輩〜?」

彼方「困ってる人がいたら、助けないとだもんね〜♪」

かすみ「はい! 当り前じゃないですか!」

理亞「……!」


理亞先輩が驚いたように目を見開く。


かすみ「あ、あの……だから、さっきからなんですか……?」

理亞「いや……」

彼方「かすみちゃんは、こういう子なんだよ〜♪ 変に難しいことを考えずに行動できる子だもんね〜♪」

かすみ「……? 褒めてます?」

彼方「うん♪ 心の底から褒めてるよ〜♪」

理亞「……かすみ」

かすみ「なんですか?」

理亞「私、貴方のことちょっと勘違いしてたみたい……。……ディアンシーを……一緒に探してくれる?」

かすみ「はい。さっきから、そう言ってるじゃないですか!」

彼方「ふふ♪ もちろん、彼方ちゃんも反対する気なんてないのだ〜♪」

鞠莉「話は纏まったみたいね」

ルビィ「よかったね、理亞ちゃん」

理亞「……うん」


……というわけで、今回のミッションは──ギラティナを探して協力を仰ぐ、ピンクダイヤモンドを見つける、ディアンシーに会うの3つです!


鞠莉「最後に戦力確認。順に今持ってきている手持ちを全員に共有しましょう」

かすみ「はーい! かすみんは、ジュカイン、ゾロアーク、マッスグマ、サニゴーン、ダストダス、ブリムオンの6匹です!」

彼方「彼方ちゃんは、バイウールー、ネッコアラ、ムシャーナ、パールル、カビゴン……それと、コスモウムだよ〜」

ルビィ「ルビィは、バシャーモ、アブリボン、キテルグマ、オドリドリ、メレシーのコランと……グラードンです」

理亞「グラードン……連れてきたの……?」

ルビィ「うん。……戦えるかはわからないけど……ギラティナさんと戦うことになったら、必要になると思ったから。最後、理亞ちゃんの番だよ」

理亞「あ、うん。……私は、マニューラ、オニゴーリ、ガチグマ、クロバット、チリーン……そして、ねえさまから預かったマーイーカの6匹」

鞠莉「Ursaluna(*)?! Really...?!」
     *ガチグマの英名

鞠莉先輩が急に目をキラキラとさせ始める。


理亞「う、うん……」

鞠莉「持ってたリングマが進化したってことよね!? どうやって“ピートブロック”を手に入れたの!?」

理亞「グレイブマウンテンを北に進んだ平野の雪の下……掘り返したら、湿地帯の痕跡があって……そこで拾った」

鞠莉「Really....!? あそこ降雪地帯よね!?」

理亞「うん。……だから、気候が変わってしまう程の何かが起こったんだと思う。……もしかしたら、それが北方の国が滅亡した理由かもしれないって、私は思ってる……」

鞠莉「興味深いわ……! もっと詳しく話を──」

かすみ「す、ストーーーップ!! 何、こんな場所でお勉強の話、始めてるんですか!?」


難しい話が始まったので、かすみん思わず待ったを掛けます。
319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:14:22.15 ID:9NVhM0zb0

鞠莉「S, sorry... 帰ってきたら聞かせてね!」

理亞「わかった」

鞠莉「それじゃあ、戦力確認も出来たし──これから、ゲートを開くわ」


そう言いながら、鞠莉先輩がボールを2つ放り投げると──


 「ディアガァァ!!!!」「バァァァルッ!!!!!」

かすみ「わひゃぁ!!?」


やったら、迫力のある大型のポケモンが姿を現します。というか、2匹とも出てくるや否や船の天井を突き破ってるんですけど……。


鞠莉「これから、この2匹の力で穴を押し広げるわ。かなり調整してきたから、それなりの時間穴をあけ続けることは出来ると思うけど……12時間以内には戻ってくること。……まあ、向こうの時間が一定じゃないから……とにかく、素早くMissionをこなして帰ってくるように!」

かすみ「そ、そこは雑なんですね……」

鞠莉「そして、今後のLeaderは彼方にお願いするわ。よろしくね、彼方」

彼方「らじゃ〜任された〜」


彼方先輩がゆるーい感じで敬礼のポーズをする。


鞠莉「それじゃあ、始めるわ」


鞠莉先輩はバッグの中から、きらきら輝く宝石と、真っ白い珠を取り出して、


鞠莉「ディアルガ、パルキア、穴を広げて!」
 「ディアガァァァァ!!!!」「バァァァァルッ!!!!!」


ディアルガとパルキアの力で、穴を押し広げ始める。

穴はどんどん大きくなっていって──人一人が通り抜けられるくらいのサイズになった。


鞠莉「それじゃあ、みんなよろしくね!」

かすみ「はい!」

ルビィ「鞠莉さんも気を付けてください……!」

理亞「行ってきます」

彼方「それじゃあ、みんな〜行っくよ〜!」


──かすみんたちは、穴へと飛び込みました。





    👑    👑    👑





かすみ「……っは!」


気付いて目を開けると──異様と言う他ない空間にいた。

地面が浮いて、その下には空がある。

壁は床だし、床は天井、天井は床で、滝は下から上に落ちるし、見えない足場がある。


かすみ「な、なにここ……?」
320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:15:15.17 ID:9NVhM0zb0

矛盾したことが自分の頭の中で目まぐるしく流れていく。

でも、おかしいとわかっているのに違和感はない。

ここでは“そう”らしい。


理亞「相変わらず困った空間ね……」

ルビィ「うん……」

かすみ「あ、あのあの、ここどうなってるんですか……!?」


理亞先輩とルビ子に駆け寄ろうとすると──


かすみ「あ、あれ!?」


何故か、二人から離れていく。


ルビィ「かすみちゃん! 動かないで!」

かすみ「は、はいぃ!!」

理亞「マーイーカ、“ひっくりかえす”」
 「──マーイーカ」


理亞先輩が、ボールから出したマーイーカに技を指示する。


理亞「もうこっちに歩いてきていい」

かすみ「は、はい……?」


言われたとおり、足を踏み出すと──


かすみ「あ……普通に歩ける……」


確かに思ったとおりに前に進むことが出来るようになっていた。


理亞「この辺りは……特に歪みが酷いみたい」

かすみ「歪み……?」

ルビィ「前に進むと後ろに進んじゃったり、右に行くと左に行っちゃったり……そういうのがあべこべな世界なの」

理亞「ただ、ねえさまのマーイーカは特別な訓練を積んでるから……“ひっくりかえす”で周囲のあべこべを無理やり矯正出来る。出来る限り、マーイーカから離れないようにして」

かすみ「わ、わかりました。……それはいいんですけど……」


かすみんは周囲をきょろきょろと見回す。


かすみ「あの……彼方先輩は……」

理亞「たぶん……入ったときにはぐれた。入ったときはある程度近くに出るはずなんだけど……微妙に位置がズレるの」

ルビィ「それで彼方さんだけ、たまたま違う場所に出ちゃったんだね……」

かすみ「た、大変じゃないですか!? こんなところで彼方先輩一人にさせるなんて……!」

理亞「早く見つけないと……そんなに離れてはいないはずなんだけど……」


3人で彼方先輩を探しに行こうとしたそのとき、


彼方「おーい、みんな〜」


──頭上の床から、彼方先輩の声が聞こえてきた。

直後、
321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:00.19 ID:9NVhM0zb0

彼方「とーう!」


彼方先輩がジャンプして、かすみんたちの前に飛び降りてきた。


彼方「ごめんね〜。なんか入ったときに違う場所に飛ばされちゃってたみたい〜」

かすみ「か、彼方先輩〜! よかったですぅ〜!」


かすみん思わず彼方先輩に抱き着いちゃいます。


彼方「おお、よしよし〜。彼方ちゃんは無事だぞ〜」

理亞「……この空間内をどうやって……?」

彼方「ん〜? ああ、えっとね〜上の床は右にジャンプすると、ここに向かって落ちるみたいだったから〜」

理亞「それをこの短い時間で把握したの……!?」

彼方「ふっふっふ〜、彼方ちゃん、組織に居た頃に特殊空間の状況把握訓練を受けてるからね〜。これくらいの空間、飛ばされたところでなんにも問題ないんだぜ〜」

ルビィ「す、すごいです……! 彼方さん……!」

彼方「えへへ〜もっと褒めて〜。……っと、今はそれどころじゃなかったね〜」


彼方先輩はわざとらしくコホンと咳ばらいをする。


彼方「まず陣形を決めよっか〜。彼方ちゃんは盾役が出来るから前に出るね〜。理亞ちゃんはスピードアタッカーだから、中央で両翼に気を配ってくれると嬉しいな〜。かすみちゃんは遠近対応のパワーアタッカーだから、後衛から私たちの動きを見ながら大きな一発を叩きこむ役目だよ〜。ルビィちゃんはトリッキータイプだから、基本は真ん中に位置取って、状況に応じて前後衛をうまくスイッチしてね。あと、今ここら一帯の空間を補正してるのはそのマーイーカちゃんだよね? それなら、全員に影響を与えられるように、真ん中にいるルビィちゃんの頭上に居てくれると助かるかな〜」


彼方先輩が普段ののんびりな様子からは考えられないくらい、テキパキと指示を出す。

その光景に全員でポカンとしてしまう。


彼方「こらこら〜ボーっとしてちゃダメだぞ〜?」

ルビィ「あ、ご、ごめんなさい……。……でもその、ルビィたちの戦い方も把握してるんですね……?」

彼方「鞠莉ちゃんに二人がどんなトレーナーかは予め聞いてたからね〜」

理亞「それにしても……さっきまでと全然印象が違う……」

彼方「彼方ちゃんは〜やるときはやるのです! これでも最年長としてリーダーを任せられたからね〜。さぁ、行くよ〜」


彼方先輩先導で、やぶれた世界の中を歩き始める。


彼方「とりあえず、ある程度見晴らせる場所まで移動しよう〜」

かすみ「そういえば彼方先輩……最年長って言ってましたけど……一体今いくつなんですか?」

彼方「む……かすみちゃん、レディーに歳を訊くのは失礼だぞ〜?」

かすみ「……ご、ごめんなさい……でも、気になって……」

彼方「ふふ、冗談だよ〜。彼方ちゃんはね〜鞠莉ちゃんより1歳年上の22歳だよ〜」

ルビィ「22歳……!? ルビィの1個上くらいかなって思ってました……」

理亞「そういうルビィも私と同い年とは思えないけどね」

かすみ「いや、理亞先輩も18歳には見えませんけど……」


なんというか、ここにいる人たち全員実年齢より見た目が幼い人たちばっかりですね……。

みんな背が低いってのもあるのかもしれませんが……。
322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:16:29.80 ID:9NVhM0zb0

彼方「まぁ、実は彼方ちゃんの身体の成長は18歳で止まってるから、見た目は18歳なんだけどね〜」

かすみ「え、どういうことですか、それ……!?」

彼方「乙女にはいろいろあるのだよ〜」

かすみ「き、気になるんですけど……!」

彼方「ふふ、じゃあまた今度教えてあげるよ〜」


こんな無茶苦茶な空間なのに、彼方先輩と話しているとなんだか気が抜けてしまう。

緊張感のない会話をしながら、当初の予定通り、見晴らしのいい場所に到着する。


彼方「さて、ここからピンクダイヤがないかを探して……。……ん?」

かすみ「彼方先輩? どうかしたんですか?」

彼方「……何かが、こっちに向かって飛んでくる」

理亞「……!? それってまさか……!」


彼方先輩の目線の先を見てみると──影のような翼を持った、龍のような見た目をした生き物が、こちらに向かって猛スピードで接近してきてるじゃないですか……!?


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!」


大きな鳴き声がやぶれた世界全体を揺らすように響き渡る。


かすみ「あ、あれって……!?」

ルビィ「ギラティナさん……!」

理亞「やっぱり、こっちの世界に侵入したらすぐにバレるか……!」


あの禍々しいフォルム、空間全体を震わせるあの鳴き声、そして何より特有の圧のようなものを感じる。

見るからにヤバそうなポケモン……! 相手取るにしても、真っ向から戦うのはヤバイことくらい、かすみんにもわかります……!


かすみ「彼方先輩! 距離があるうちに一旦隠れましょう!!」


そう提案した直後──


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


気付けばギラティナは──かすみんたちの目の前にいた。


かすみ「え!?」
ルビィ「ピギッ!?」
理亞「っ!?」


そして、大きな爪をこちらに向かって振り下ろしてくる。


彼方「コスモウム、“コスモパワー”!!」
 「────」


──ギィィィィンッ!! と大きな音を立てながら、コスモウムがギラティナの爪を弾く。


彼方「この世界でギラティナから逃げるのは無理だよ〜! 全員戦闘態勢!」

ルビィ「コラン! “パワージェム”!!」
 「──ピピィッ!!!」

理亞「オニゴーリ! “こおりのいぶき”!!」
 「──ゴォォーーーリッ!!!!!」


彼方先輩が叫ぶのとほぼ同時に、ルビ子のメレシーと理亞先輩のオニゴーリが攻撃を放つ。
323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:17:12.01 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


ですが、ギラティナは鬱陶しそうに身を振るって、宝石のエネルギーと凍てつく吐息を吹き飛ばす。

ただ、その動作によって一瞬だけ隙が出来る。


彼方「かすみちゃん!!」

かすみ「わかってます! ジュカイン、メガシンカ!!」
 「──カインッ!!!!」


かすみんはその隙にすかさず繰り出したジュカインをメガシンカさせます。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!!」


背を向けたジュカインがしっぽミサイルに草の旋風を纏って発射する。

この至近距離、外したりするわけもなく、


 「ギシャラァァッ…!!!!」


頭に直撃して、ギラティナを仰け反らせる。


かすみ「へっへ〜ん! どんなもんですか!」


ですが、


 「ギシャラァァァァッ!!!!!」

かすみ「いっ!? き、効いてない!?」


雄叫びをあげながら、ギラティナが突っ込んでくる。

それを真っ向から、


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


彼方先輩のムシャーナが“サイコキネシス”で無理やり止める、けど……。


 「ギシャラァァァ!!!!!」

 「ム、ムシャァ…」
彼方「す、すごいパワーだよ〜……!」


ギラティナのあまりのパワーに、念動力で止めているはずなのに、ギラティナはジリジリと前に進んでくる。

そこに加勢するように、


かすみ「サニゴーン! “ちからをすいとる”!」
 「──ゴーーーン…」


ギラティナのパワーを吸い取って弱体化させる。……させたはずなんだけど……。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「なんで、全然勢い止まらないの!?」

理亞「相手のパワーが強すぎる……!! 間接的なやり方じゃ間に合わない!! ルビィ!!」

ルビィ「うん! コラン、“じゅうりょく”!」
 「ピピィーーー!!!!」
324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:18:07.55 ID:9NVhM0zb0

ルビ子のメレシーがカッと光ると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


ギラティナが無理やり浮遊する大地に引き摺り落とされ、その重量で大地にヒビが入る。

そこに向かって──


理亞「ガチグマ!! “ぶちかまし”!!」
 「──グマァァァァ!!!!!」


理亞先輩が出した大きなクマのポケモン──ガチグマが全身全霊の体当たりを食らわせて、ギラティナを吹っ飛ばす。


 「ギシャラァァァァ…!!!!!」


浮遊している大地の外まで吹っ飛ばされ、そのまま“じゅうりょく”に引かれるように落下していくけど──


 「ギシャラァッ!!!!!」


またすぐに宙を泳ぐようにして、かすみんたちがいる大地の周囲を旋回し始める。


かすみ「じ、“じゅうりょく”があるはずなのに……!」

理亞「マーイーカの“ひっくりかえす”の範囲外に逃げられたら、“じゅうりょく”の方向は向こうが制御出来るから意味がない……!」


そして、ギラティナは旋回をしながら──口に巨大な真っ黒い球体を集束しはじめる。


理亞「あれ、“シャドーボール”……!?」

かすみ「あ、あんなでかいの食らったらひとたまりもないですよ!?」

彼方「ムシャーナ!! “ふういん”!!」
 「ムシャァ〜」


彼方先輩が、ムシャーナに“ふういん”を指示すると──ギラティナが集束させていた影の球が霧散する。


彼方「これで、“シャドーボール”は使えないよ……!」

かすみ「さすが、彼方先輩ですぅ〜!」


喜ぶのも束の間、ギラティナの目がギラリと赤く光ると──ギラティナはまた再び口に黒い球を集束し始める。


彼方「え、うそ!?」

理亞「技を“ふういん”されたっていうルールそのものを書き換えられた……!」

かすみ「なんですかそれ!? ズルじゃないですか!?」

 「ギシャラァァァァ!!!!」


直後、ギラティナの口から──特大の“シャドーボール”が発射され、かすみんたちに迫ってきます。


かすみ「わーーーーー!!!? あ、あんなの避けられないーーー!!?」

ルビィ「理亞ちゃん!! “じゅうりょく”をひっくり返して!!」

理亞「……!! マーイーカ!!」
 「マーイーカッ!!!」


マーイーカが鳴くと同時に──身体がフワリと浮き上がって、


かすみ「へっ!?」
325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:19:14.93 ID:9NVhM0zb0

猛スピードで──上に向かって落下を始める。

直後、かすみんたちがいた足場は特大の“シャドーボール”によって、轟音を立てながら木っ端みじんに砕け散る。


彼方「た、助かったよ〜! ルビィちゃん〜、理亞ちゃん〜」

かすみ「で、でもこのままじゃ……!?」


かすみんたちは──上にある別の大地に向かって猛スピードで落下しています。


かすみ「ぶ、ぶつかるーー!!?」


思わず目を瞑った瞬間──ぼふっという音と共に、浮遊感が消えてなくなった。


かすみ「あ、あれ……?」


恐る恐る目を開けると──かすみんの視界は真っ白いふわふわしたものに包まれていました。


 「メェェェェェ」

かすみ「ば、バイウールーの毛……?」

彼方「ふぅ〜……危なかったぜ〜……」


気付けばかすみんたちは手持ちともども、大きく肥大化したバイウールーの“コットンガード”のお陰で事なきを得ていました。

でも、戦いは終わっていません……!


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが再び口に特大の“シャドーボール”を集束し始める。


かすみ「ま、また“シャドーボール”が飛んできますよ!? どうするんですか!?」

彼方「みんな伏せて〜! 彼方ちゃん、どうにかする方法思いついちゃったから〜!」

かすみ「は、はいぃ!」
理亞「信じるからね……!」
ルビィ「お、お願いします……!」


かすみんたちは言われたとおりに身を伏せる。

それと同時に、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナの口から“シャドーボール”が発射される。


かすみ「き、きたぁぁぁ!!?」

彼方「バイウールー! “コットンガード”!!」
 「メェェェェ!!!!」


彼方先輩の指示で、バイウールーの体毛がさっき以上に肥大化し──かすみんたちの頭上を覆い隠すほどになる。

直後、迫ってきた特大の影の球は、バイウールーの体に当たった瞬間──バスンと音を立てて、掻き消えた。


かすみ「き、消えた!?」

ルビィ「……そっか! ゴーストタイプの技だから、ノーマルタイプで無効化できるんだ……!」

彼方「あのサイズだから、こっちも大きくなる必要があったけどね〜」

理亞「彼方さん!! 次、来る!!」
326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:16.80 ID:9NVhM0zb0

理亞先輩の声で、バイウールーの体毛の影から覗くようにしてギラティナを見ると──今度は青色のエネルギーを集束し始めてるじゃないですか……!?


理亞「“はどうだん”が来る……!」

彼方「大丈夫だよ〜落ちついて〜」


彼方先輩がのんびり喋っている間に──発射された“はどうだん”が猛スピードで、バイウールーに向かって飛んでくる。

けど──ぼふんっ! と音を立てながら、“はどうだん”もバイウールーの毛に吸い込まれるように消えてしまった。


かすみ「あ、あれ……?」

ルビィ「“はどうだん”も消えちゃった……」

彼方「彼方ちゃんのバイウールーの特性は“ぼうだん”だよ〜。弾系の技は一切通用しないのだ〜!」

かすみ「も、もう! それなら、先に言ってくださいよ!」

彼方「えへへ〜ごめんごめん〜。……ただ、防いでるだけじゃジリ貧だよね〜……何か考えないと〜……」


確かに彼方先輩の言うとおり、かすみんたちの攻撃は思ったように通用していません。

このままじゃ、そのうちやられちゃいます……。


ルビィ「あの……少し、時間を稼いでくれませんか」

理亞「ルビィ……?」

ルビィ「ルビィが、どうにかします……」
 「ピピィ」


そう言いながら、ルビ子がメレシーを抱きしめると──ぽわぁっと紅い光がメレシーの体から溢れ出す。


理亞「……! ルビィ、それって……!」

彼方「おぉ〜何かやるつもりだね〜」

かすみ「とにかく、時間を稼げばいいんですよね!?」

ルビィ「うん!」


ルビ子が頷くと同時に──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナが、鋭い爪を剥き出しにしながら、猛スピードで突っ込んできます。


彼方「コスモウム〜! もう1回、“コスモパワー”!」
 「────」


──ギィィィンッ!!! 最初と同じように、彼方先輩のコスモウムがギラティナの爪を弾きます。

それで出来た一瞬の隙に、


理亞「オニゴーリ!! メガシンカ!!」
 「──ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」

理亞「“ギガインパクト”!!」
 「ゴォォォォーーーーリッ!!!!!」


メガシンカした理亞先輩のメガオニゴーリが全身に分厚い氷の鎧を纏いながら、ギラティナに全身全霊の突進をぶちかます。

メガシンカのパワーを乗せた、一撃に、


 「ギシャラァァッ……!!!!」
327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:20:53.56 ID:9NVhM0zb0

ギラティナが一瞬怯んで後退する。

そこに向かって、


かすみ「ダストダス!! “ヘドロばくだん”!!」
 「──ダストダァァァァス!!!!」


繰り出したダストダスが腕を伸ばして──両手の平から、“ヘドロばくだん”を発射する。


 「ギシャラァァッ!!!!」


でも、ギラティナはまた身を捻るようにして、“ヘドロばくだん”を吹き飛ばし──大きな顎を開いて、ダストダスに向かって突撃してくる。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」

かすみ「く、来るならきやがれですぅ〜!!」

彼方「かすみちゃん!?」


でも、かすみん臆したりしません……! ギラティナの大顎で、ダストダスの頭部を“きりさく”──と、大柄なダストダスの体がユラリと掻き消える。


かすみ「……だって、この子はダストダスじゃありませんから!」
 「──ゾロアーーーーークッ!!!!!」


──“イリュージョン”が解除され、本来の姿を現したゾロアークが、


かすみ「ゾロアーク!! “ナイトバースト”!!」
 「ゾロアーーークッ!!!!」

 「ギシャラァァァァ…ッ!!!」


ギラティナの顔面に闇のオーラをぶちかまします。

闇が顔に纏わりつき視界を奪われたギラティナに向かって──


理亞「ガチグマ!! “10まんばりき”!!」
 「グマァァァァァァ!!!!」

 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


ガチグマが大きな前足で、ギラティナを殴り飛ばします。


彼方「かすみちゃん、理亞ちゃん、ナイスだよ〜!」

かすみ「ふっふ〜ん、それほどでもあります!」


胸を張るかすみん。

でも、吹っ飛ばされたギラティナは、


 「──ギシャラァァァァァ!!!!!」


すぐに身を翻して襲い掛かってくる。


かすみ「わひゃぁぁぁっ!!!?」

彼方「ムシャーナ!!」
 「ムシャァ〜〜」


さっきと同様に、彼方先輩のムシャーナがギラティナをサイコパワーで無理やり押し止める。
328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:21:34.29 ID:9NVhM0zb0

彼方「が、頑張って〜!! ムシャーナ〜!!」
 「ムシャァ〜〜」

 「ギシャラァァァァァ!!!!」

理亞「ルビィ、まだ!?」


どうにか彼方先輩が押さえている間に、理亞先輩がルビ子の方を振り返る。

すると──


ルビィ「…………」
 「────」


ルビ子の抱きしめているメレシーは、さっきの比にならないくらいに紅い輝きを放っていました。

その光は──


かすみ「……なんか、すっごく……あったかい……」


戦闘中なのに、それを忘れてしまうくらい……優しくて、温かい、そんな光……。


ルビィ「…………うん。一緒に、戦って」
 「──ピィーーー」


ルビ子が誰に向かっての言葉なのか、そう呟いて顔を上げると同時に──ルビ子の腰に着いたボールから、


ルビィ「行くよ……! グラードン!!」
 「──グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」


真っ赤な巨体が飛び出してきた。


ルビィ「“ほのおのパンチ”!!」
 「グラルゥゥゥッ!!!!!」

 「ギシャラァァァッ…!!!」


ムシャーナが押さえていたギラティナに拳を叩きつけ──体勢を崩したところに、


ルビィ「“ヒートスタンプ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!」


グラードンと呼ばれたポケモンが、赤熱する足でギラティナを踏みつける。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」

かすみ「つ、つよ……」


ルビ子のグラードンが、ギラティナを圧倒していた。

そして、それと同時に──この不条理な世界の中で、これでもかと言わんばかりに、強く強く太陽が照り付けていた。


かすみ「さ、さっきまで太陽なんてあった……?」

彼方「あれはたぶん……グラードンが作り出した太陽だね〜……」

理亞「これが……伝説のポケモンの力……」


あまりに圧倒的な力に、3人で立ち尽くしてしまうけど──ギラティナもやられたままではない。


 「ギシャラァァッ…──」


グラードンの足の下でギラティナが一鳴きすると──ギラティナの体がドプンと影に潜り込んで消え、急に踏みつけていた対象がいなくなったせいで、グラードンの足が地面を割り砕く。
329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:22:11.08 ID:9NVhM0zb0

かすみ「き、消えた!?」

理亞「ルビィ……! これ、“シャドーダイブ”……!」

ルビィ「うん、わかってる……!」

彼方「みんな! どこから、攻撃してくるかわからないから気を付けて!」


彼方先輩の指示で、全員周囲に気を配る。


かすみ「でも、気を付けてって言っても、影に潜られたらどうしようもないですよぉ〜……!?」


かすみんがそう言った直後、


 「──ギシャラアァァァァァ!!!!!!」


何もない空間から突然飛び出してきたギラティナが、グラードンの背後から襲い掛かる。


 「グラルゥッ…!!!!?」
ルビィ「グラードン!?」


亜空間から飛び出し、猛烈なスピードでタックルされたグラードンは体勢を崩す。そしてうつ伏せに倒れたグラードンに向かって──影で出来た大きな爪を振りかざす。


かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


それを邪魔するように、ジュカインが横薙ぎに振るう特大の“ソーラーブレード”でギラティナを攻撃する。


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナは、それを影で出来た爪──“シャドークロー”で受け止めますが、


 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンがその隙に背後に向かって、大きく腕を振るいながら立ち上がる。


 「ギシャラァァァッ!!!!」


ギラティナは、グラードンが振るう腕をすんでのところで飛び立つようにして回避する。

もうすっかり“じゅうりょく”の効果も切れて、空に逃げようとするギラティナ。


かすみ「逃がしません……!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


今度は縦薙ぎの“ソーラーブレード”がギラティナの頭上に振り下ろされる。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!」


今度は直撃……! 脳天に攻撃を食らい、そのままギラティナが一瞬よろけ──そこに向かって、


ルビィ「グラードン!! “うちおとす”!!」
 「グラルゥゥッ!!!!」


グラードンの足元から──まるで意思を持ったかのように、大岩が飛び出し、ギラティナの真っ黒な翼に直撃する。


 「ギシャラァァァァッ…!!!!」
330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:00.84 ID:9NVhM0zb0

大岩をまともに食らったギラティナの巨体が落下し、その衝撃で地面を割り砕く。

そして、そこに、


ルビィ「“だんがいのつるぎ”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!」


大地から鋭い刃が飛び出し、ギラティナを斬り裂きながら、動きを封じるように交差する。


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!!」


ギラティナの苦悶の鳴き声が周囲を劈く。


理亞「これなら、捕獲出来る……!!」


理亞先輩が、ボールを構えた──まさに、そのときだった。

ギラティナの真上に──大きな空間の穴が生じ、


 「──ドカグィィィィィ!!!!!!!」

彼方「……!!?」
かすみ「へっ!?」
ルビィ「え!?」
理亞「なっ!?」


グラードンやギラティナよりもさらに大きな巨大で真っ黒なポケモンが──降ってきた。

そいつは大口を開け……ギラティナを拘束している、“だんがいのつるぎ”ごと──食べてしまった。


かすみ「え、ちょ、な、なに!!?」


あまりの急展開に混乱していると、


彼方「全員、一旦距離取って!!」


走ってきた彼方先輩が、かすみんの手を取って走り出す。


かすみ「は、はい……!?」


急に手を引かれたせいで、足がもつれそうになったけど、かすみん頑張って走ります。


理亞「あれ何!? ここにはギラティナとディアンシーくらいしかいないんじゃ!?」

ルビィ「る、ルビィにもわかんない!?」


かすみんたちを追いかけるように走る理亞先輩とルビ子も混乱している。


かすみ「あ、あいつ、なんなんですか!?」

彼方「あれは──ウルトラビーストだよ……! ウルトラビースト・アクジキング!!」

かすみ「ウルトラビースト!? やぶれた世界には来ないんじゃなかったんですか!?」

彼方「か、彼方ちゃんにもわかんないよ……!! でも、あれは間違いなくアクジキングだよ……!!」


彼方先輩の言葉を聞き、走りながら振り返ると──アクジキングは、腕と口の中から伸びた2本の触手を使って、割り砕いた地面を手当たり次第に口の中に放り込んでいる。


かすみ「じ、地面を食べてるんですか……!? というか、ギラティナも食べられちゃいましたよ!? どうするんですか!?」


かすみんが焦る中──今度はアクジキングの頭上の空間に穴が空き、
331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:23:39.57 ID:9NVhM0zb0

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが飛び出して、アクジキングを襲撃する。


理亞「ギラティナ……!」

ルビィ「“シャドーダイブ”で逃げてたんだね……!」

 「ギシャラァァァァァァ!!!!!」


ギラティナは大きな爪で、アクジキングに襲い掛かりますが、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは触手の先に付いた大きな口で、ギラティナのボディを“かみくだく”。


 「ギシャラァァァァァァ…!!!!!」


ギラティナは悲鳴のような鳴き声をあげながらも、ガパッと口を開いて──


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングに向かって、“りゅうのいぶき”を噴きかける。

が、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングはその“りゅうのはどう”すらも大口で吸い込み、


 「ドカグィィィ!!!!」


そのまま大きな巨体を乱暴にぶつけ、


 「ギシャラァァァッ…!!!!」


ギラティナを吹っ飛ばす。

気付けば、ギラティナとアクジキングの怪獣大戦争が始まっていた。


かすみ「な、なんなんですか、あいつ……!? ……そうだ、図鑑……!」


ここでかすみん、鞠莉先輩にウルトラビーストも認識出来るように図鑑を改造してもらっていたことを思い出します。

 『アクジキング あくじきポケモン 高さ:5.5m 重さ:888.0kg
  山を 喰らい 削り ビルを 飲みこむ 姿が 報告 されている。
  つねに なにかを 喰らっているようだが なぜか フンは 未発見。
  食べたもの すべてを エネルギーに 変えていると 考えられている。』


かすみ「山……!? ビル……!? あ、あいつヤバいですよ!?」


そんなことを言っている間にも、


 「ギシャラァァァァァ…!!!!!!」


先ほどの“ドラゴンダイブ”で怯ませたギラティナを、アクジキングが大きな触手で捕まえ、


 「ドカグィィィ!!!!」


自らの口の中に運ぼうとしていた。
332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:24:20.09 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ちょ、ヤバ……!?」


ギラティナを食べられるは不味すぎます……!!

かすみんは咄嗟に飛び出そうとしますが、それよりも早く──


理亞「オニゴーリ!!」
 「ゴォォォォーーーリッ!!!!!」


メガオニゴーリが空気中の水分を凍らせて、アクジキングの触手を氷で作り出した巨大な腕で掴んで止め、


ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


地面から突き出た巨大な断崖の刃がアクジキングを、斬り裂いた。


 「ドカグィィィ…!!!」


激しい攻撃に怯んだアクジキングは、その拍子にギラティナを捕まえていた触手が緩んだのか──


 「ギシャラ…!!!」


その一瞬の隙にギラティナが、逃げ出す。

逃げ出すや否や、口に“はどうだん”の集束を始め──


 「ギシャラァァァッ!!!!」


──それを、アクジキングに向かって発射する。

が、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


アクジキングは飛んできた“はどうだん”を大口で飲み込み、全身を使って氷の腕と“だんがいのつるぎ”をへし折り、折った先から口に運んで飲み込んでいく。


理亞「とりあえず、あいつがいたらギラティナを捕獲するどころじゃない……!」

ルビィ「先にアクジキングをどうにかしないと……!」

かすみ「彼方先輩! なんか、あいつの弱点とか知らないですか!?」

彼方「じ、実は彼方ちゃん……アクジキングと戦うのは初めてなんだよ〜……あんまり、見ない種類のウルトラビーストだから……しかも、超危険種なんだよ〜……」

かすみ「き、危険なのは見ればわかります……」


かすみんたちが話している間にも、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」

 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


ギラティナとアクジキングは大きな鳴き声を轟かせながら、“りゅうのはどう”を撃ち合い、お互いを牽制している。


理亞「どっちにしろ、倒すか追い払うかするしかない……! ギラティナが食べられでもしたら、それこそ一巻の終わり……!」


こればっかりは、理亞先輩の言うとおりです。ここでギラティナを食べられちゃったら、せっかくここまで来たのに、それこそ手詰まりになっちゃいます……!


彼方「……もう、こうなっちゃったら、やるしかないよね〜……! みんな、まずはアクジキングをどうにかするよ〜!」
333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:25:02.79 ID:9NVhM0zb0

──やぶれた世界での戦いは思わぬ乱入によって、次なる局面を迎えます……!





    👑    👑    👑





かすみ「ジュカイン!! “ソーラービーム”!!」

理亞「オニゴーリ!! “ウェザーボール”!!」

 「カインッ!!!!」「ゴォォーーーリッ!!!!!」


強い日差しによって、チャージを省略して即発射される“ソーラービーム”と、小さな太陽の塊のようなエネルギー弾が、アクジキングに向かって飛んでいきます。

が、


 「ドカグイィィィ!!!!」

かすみ「あーもう!! また、食べられましたぁーー!?」

彼方「口を狙うと食べられちゃうから、他の部分を狙うしかないよ〜!!」

かすみ「そんなこと言ってもほぼ口じゃないですか!?」


一方、ギラティナは、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!」


アクジキングの頭部に向かって、“りゅうのはどう”を発射する。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それを相殺するように、アクジキングも“りゅうのはどう”を発射し、2つのエネルギーがぶつかり合って爆発が生じる。

2匹の大型ポケモンの攻撃は相殺の衝撃もすさまじく、


かすみ「わわっ!?」
 「カインッ」


爆風で吹き飛ばされそうになったところを、ジュカインが尻尾で受け止めてくれる。


かすみ「あ、ありがと、ジュカイン……」
 「カイン」

彼方「頭を狙って〜……“ムーンフォース”!」
 「ムシャァ〜〜」


今度は彼方先輩がアクジキングの頭部を狙い打ちますが、


 「ドカグィィィ!!!!」


発射された月のエネルギーは、アクジキングの大きな触手で強引に受け止められてしまいます。


彼方「相性はいいはずだから、ダメージはあるはずなんだけど〜……」

ルビィ「グラードン!! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥ!!!!!」


今度はルビ子のグラードンが、再び“だんがいのつるぎ”で攻撃し、飛び出る大地の剣に一瞬怯みこそするんですが……。


 「ドカグィィィ!!!!!」
334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:26:20.29 ID:9NVhM0zb0

またさっきと同じように、自分を突き刺す“だんがいのつるぎ”を触手でへし折って、食べ始める。


かすみ「もぉーーー!! ホントにあいつなんなんですかぁーーー!!!」

理亞「相手がタフすぎる……っ」

彼方「たぶん、こっちの攻撃を“のみこむ”でエネルギーに変換してるんだと思う……もっと一撃で体力を持ってかないと、何しても回復のためのご飯にされちゃってるよぉ〜……」

理亞「ルビィ、グラードンにもっと強い攻撃とかないの……!?」

ルビィ「え、えっと……グラードンは肉弾戦の方が強いから……だけど……近付いたら、食べられちゃうかもしれないし……」


ルビ子の言うとおり、あいつに食われたら終わりなせいで、近距離戦がほぼ封じられている。

それはかすみんたちだけでなく、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


先ほどからアクジキングの周囲を旋回しながら、“シャドーボール”や“りゅうのはどう”を撃っているギラティナも同様のようです。

そんなことをしている間にもアクジキングは自分の周りの地面を大きな足とトゲトゲの尻尾を割り砕き、それを片っ端から触手で掴んで食べまくっている。


かすみ「た、食べ飽きたらそのうち帰ってくれるとかは……」

彼方「この世界にあるもの全部食べ尽くしたら……帰るかも……」

理亞「そんなの待ってたらギラティナが食べられる……! 仕掛けないと……!」


話している間にも、


 「ギシャラァァァァ!!!!」


ギラティナが“シャドーボール”を放ちますが、


 「ドカグィィィィ!!!!!」


それに反応するように伸ばされたアクジキングの2本の触手が──特大の“シャドーボール”を真ん中から突っ切って、ギラティナの体に噛みつきます。

さらに“かみつく”によって、がっちりと食い込んだ触手は、強引にギラティナを自分の口へと引っ張っていく。


 「ギシャラァァァァ…!!!」

理亞「オニゴーリ!! “はかいこうせん”!!」
 「ゴォォォーーーーリッ!!!!」


理亞先輩のオニゴーリが、右の触手を“フリーズスキン”によって強化された“はかいこうせん”で凍り付かせ、


かすみ「ジュカイン!! “リーフストーム”」
 「カインッ!!!!!」


ジュカインがしっぽミサイルを発射──炸裂と同時に着弾点に巻き起こる“リーフストーム”で左の触手を弾きます。

そして、


ルビィ「グラードン!! “だいちのちから”!!」
 「グラルゥゥゥゥ!!!!!!」


グラードンが足を踏み鳴らすと──ボンッ!!! と音を立てながら、アクジキングの足元の大地が爆発します。


 「ドカグィィィィ!!!!!」


再び捕食の邪魔をされ、怯んだアクジキングの触手から逃れたギラティナは、


 「ギシャラァァァァ!!!!!」
335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:19.86 ID:9NVhM0zb0

逃れた瞬間──発射した“はどうだん”をアクジキングの頭に直撃させます。


 「ドカグィィィ…!!!」


かすみ「やった……! 効いてますよ……!」

理亞「ギラティナのパワーなら、攻撃を食べられさえしなければ十分なダメージになってる……! このまま、ギラティナをサポートして──」


ですが、次の瞬間、予想外なことに──


 「ドカグィィィィ!!!!!」


アクジキングがこっちに向かって走り出してきた。


かすみ「ちょ!? こっち来ますよ!?」

 「グィィィィ!!!!!!」


こちらに走り込みながら、両手の触手を──グラードンに向かって伸ばしてくる。


ルビィ「!? コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」


咄嗟に前に出た、ルビ子のメレシーが壁を作り出して、触手を弾き飛ばす。

だけど、弾き飛ばされた触手は、またすぐにグラードンに照準を定めて──“ヘドロウェーブ”を発射してくる。


彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「ムシャァ〜」


今度は彼方先輩がすかさず“ひかりのかべ”を展開して、“ヘドロウェーブ”は弾き飛ばします。


ルビィ「か、彼方さん、ありがとうございます……!」

彼方「どういたしまして〜♪」

かすみ「でも、あいつ急にグラードンを狙ってきましたよ!?」


そんな中で、


 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


ギラティナが“ドラゴンクロー”でアクジキングの背後から飛び掛かる。


 「ド、カグィィィィ!!!!!!」


さすがに背後からの攻撃には対応しきれず、地面を破壊しながら前につんのめりますが──


 「カグィィィィィ!!!!!」

 「ギシャラァァッ…!!!!」


トゲの付いた鉄球のような尻尾をブンと振り上げて、ギラティナを顎下から殴り飛ばします。


 「ギシャラァァァ…!!!!」


ギラティナは攻撃を受けながらも再び宙に逃げますが、アクジキングはまたギラティナに触手を伸ばして追い始める。
336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:27:59.86 ID:9NVhM0zb0

かすみ「ま、またギラティナと戦い始めた……。さっきのはなんだったの……?」

ルビィ「グラードンが攻撃したから怒ったとか……?」

理亞「なら、なんでオニゴーリやジュカイン、ムシャーナには反応しないの?」

ルビィ「わ、わかんないけど……」

彼方「……そっか、エネルギーだ」


かすみんたちの疑問に彼方先輩が独り言を言うように答える。


かすみ「エネルギー……?」

彼方「アクジキングは常にエネルギーを摂取するために、ありとあらゆるものを食べてるけど……より大きなエネルギーを得ようとしたら、エネルギーを多く持ってるものを狙うはずでしょ?」

理亞「……そうか、ギラティナやグラードンみたいな伝説のポケモンは、他のポケモンに比べてエネルギーの量が多いから……!」

かすみ「もしかして……ギラティナとグラードン以外は狙われないってことですか……?」


考えてみれば、アクジキングから攻撃を受けているのはギラティナとグラードンだけです。

もちろん、近付いてたら食べられちゃうかもしれませんが……。


理亞「誰に優先して攻撃するのかがわかれば、やりようはある……! クロバット!」
 「──クロバッ!!」

ルビィ「理亞ちゃん、どうする気!?」

理亞「私がギラティナに飛んでくる攻撃を捌いてサポートする……! マーイーカはここに残って!」
 「マーイーカ」


理亞先輩は鞠莉先輩から貰ったヘッドセットのスイッチを入れながら、そう言う。


かすみ「ま、マーイーカ無しじゃめちゃくちゃな空間でギラティナをサポートすることになっちゃいますよ!?」

理亞「私はマーイーカ無しで、ここで戦闘した経験がある。どうにかする。その間に何か大きな一撃を叩きこむ方法を考えて。あと、天気は一旦“ゆき”で書き換えさせてもらうから」
 「ゴォォォーーリッ!!!」


そう言いながら、オニゴーリの使った“ゆきげしき”で天候が“ゆき”に変化する。


ルビィ「理亞ちゃん……。わかった! お願い!」

彼方「理亞ちゃん、気を付けてね……!」

理亞「うん。行くよ、クロバット! オニゴーリも付いてきて!」
 「──クロバッ!!!!」「ゴォォォーーリッ!!!!!」


理亞先輩がクロバットで飛び出すと同時に、オニゴーリも冷気を使って、巨大な足を作り出し、それを使って歩き出した。





    ⛄    ⛄    ⛄





クロバットで飛行を始めると──すぐにマーイーカの“ひっくりかえす”圏外に出たのか、重力がおかしくなる。


理亞「クロバット、落ち着いて対処。ここは重力が右斜め45度になってる」
 「クロバッ!!!」


体感を信じながら、逐一クロバットに指示を出し、


 「ギシャラァァァッ!!!!」

 「ドカグィィィィ!!!!」
337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:01.26 ID:9NVhM0zb0

遠距離攻撃で相殺し合う2匹に接近する。

クロバットでギラティナの近くを通り過ぎると──


 「ギシャラァァァァ!!!!!」


ギラティナがこっちに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


理亞「……っ! ……回避!!」
 「クロバッ!!!」


クロバットはすぐさま、高速軌道でそれを回避する。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


アクジキングはギラティナが私たちに向かって攻撃した一瞬の隙を突いて、三たび触手を伸ばしてくる。

それを、


理亞「オニゴーリッ!!」

 「ゴォォォォォーーーリッ!!!!」


地上を進むオニゴーリが巨大な氷壁を展開し、触手の行く手を阻む。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


分厚い氷の壁に触手が阻まれたアクジキングは、触手を使った“アームハンマー”で氷壁を割り砕く、が──メガシンカしたオニゴーリの冷気ならまたすぐに、壁を展開できる。


 「ドカグィィィィッ!!!!!」


それでも、アクジキングは氷を割り砕き、あくまでギラティナを攻撃しようとしている。

明らかに氷の壁を発生させているのはオニゴーリなのに。


理亞「やっぱり、アクジキングは大きなエネルギーに向かって攻撃してる……!」


これが確認出来ただけでも大きい。

私はクロバットに指示を出しながら、旋回しつつ、


理亞「ギラティナ!! こっちに来なさい!!」
 「クロバッ!!!」

 「ギシャラァァァァッ!!!!!」


氷の壁を回り込むように移動し、壁の切れ目からアクジキングが見切れた瞬間、


理亞「“かげぶんしん”!!」
 「クロバッ!!!!」

 「ギシャラァァァッ!!!!」


高速軌道の残像を作って、ギラティナの“シャドーボール”を回避する。

回避した攻撃はもちろんその先にいる──


 「ドカグィィィィィッ…!!!!」


アクジキングに直撃する。

攻撃が直撃したアクジキングは、ギラティナの姿を認識すると、
338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:29:48.43 ID:9NVhM0zb0

 「ドカグィィィッ!!!!!」


またしても触手を伸ばしてくるが──


 「ゴォォォォリッ!!!!!」


それを再びオニゴーリの氷の壁で防ぐ。


理亞「これなら……どうにか、出来そう……!」





    👑    👑    👑





ルビィ「理亞ちゃんすごい……!」

かすみ「ギラティナの攻撃をアクジキングの方に誘いながら、アクジキングの攻撃がギラティナに届かないように防いでますよ!」


これなら、ギラティナがうっかり食べられちゃうみたいな心配もしなくてよさそうです……!


彼方「でも……その分、回復もされてる……」


珍しく眉を顰めながら言う彼方先輩。確かに、アクジキングは触手の進路を防ぐために作り出された氷の壁を、砕いた先から口に放り込んでエネルギーに変換している。


ルビィ「やっぱり……一撃で倒せるような、すごい攻撃を当てないとなのかな……」

彼方「うん……。避けながら攻撃を加えても、アクジキングの周りにエネルギー源がある以上、ジリ貧になっちゃう気がするよ〜……」

かすみ「その場からロクに動きもしないのに、めんどうなやつですねぇ〜……!! ……あれ?」


そこでふと、かすみんあることに気付きます。


かすみ「なんでアクジキングの周りは……重力が普通なんですか……?」


よくよく考えてみたら、かすみんたちはマーイーカのお陰で真っすぐ立っていられますが、アクジキングも同じようにその場に留まっていられるのはおかしい気がします。


彼方「たぶんだけど……ウルトラスペースで浴びたエネルギーの影響で、変なエネルギー場が生まれてて、ギラティナが干渉出来てないんだと思う……。ウルトラスペースからこっちに来るときも空間を捻じ曲げて来るくらいだから……」

かすみ「うーんと……? とりあえず、アクジキングにはこの世界の影響がないってことですよね……?」

彼方「そういうことかな〜……」

かすみ「……」


かすみんちょっと考えます。つまりアクジキングは重力の影響を普通に受ける……。

つまり、下に何もなければ落ちるし、上に何かあったら落ちてくるはず……。


かすみ「あの……一つ作戦を思いついたんですけど」

ルビィ「作戦……?」

かすみ「はい、えっとですね──」


かすみんが今思いついた作戦を、ルビ子と彼方先輩に伝える。


彼方「なるほど〜……確かにそれなら威力は十分……うぅん、十二分かも〜!」

ルビィ「グラードンは問題ないけど……」

かすみ「理亞先輩!! 今の作戦聞いてましたか!?」
339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:32:48.24 ID:9NVhM0zb0

ヘッドセットに向かって訊ねかける。


理亞『聞いてた。でも、その作戦をするとなるとギラティナの協力が必要になる』

かすみ「はい! だから、どうにかしてください!」

理亞『まあ、やるしかないし、どうにかする』

かすみ「お願いします!」


さあ、一発逆転の一手……狙ってやりますよ!





    ⛄    ⛄    ⛄





かすみの無茶な作戦提案を受け、


理亞「クロバット! ギラティナに取り付いて!」
 「クロバッ!!!」


クロバットに指示を出し、攻撃を掻い潜りながら、ギラティナの頭部に降り立つ。


 「ギシャラァァァァァァッ!!!!!」


もちろん、頭の上に乗ろうものなら、ギラティナから激しく威嚇をされるわけだけど、


理亞「ギラティナ!!! 聞いて!!!」


私は声を張り上げる。


理亞「このままじゃ、アクジキングにこの世界をめちゃくちゃにされる!! ……一時的にでもいいから、アイツを追い出すために、協力して欲しい!」

 「ギシャラァァッ…!!!」


私の言葉がわかっているのかそうじゃないのか、ギラティナの動きが止まる。

そこに向かって──


 「ドカグィィィィィ!!!!!!」


しつこく迫ってくるアクジキングの触手を、


 「ゴォォーーーーリッ!!!!!!」


オニゴーリの作り出した氷の壁が阻む。


理亞「全力でサポートする。だから、お願い」

 「…ギシャラァァッ!!!!」


ギラティナは大きな赤い瞳で私を一瞥すると──


 「ギシャラァッ!!!!!!」


私を乗せたまま、大きな身をくねらせて、動き始めた。


理亞「了承と受け取るからね……!」
340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:33:26.62 ID:9NVhM0zb0

私はギラティナへ指示を出し始める──





    👑    👑    👑





かすみ「……来た!」


頭上の遥か高い場所で──やぶれた世界の中にある浮遊大地が一ヶ所に集まり始めたのが見える。


理亞『ルビィ!!』

ルビィ「うん! グラードン! “だんがいのつるぎ”!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!」


グラードンが“だんがいのつるぎ”によって、大地に剣を突き立てます。

でも、今回はアクジキングの足元じゃない──アクジキングの頭上にある浮遊大地の底部分……!!


かすみ「彼方先輩!! 合わせてください!!」

彼方「任せろ〜!」

かすみ「ジュカイン!! サニゴーン!!」

彼方「ネッコアラ〜! カビゴン〜!」

かすみ・彼方「「“じならし”!」」
 「カインッ!!!」「ゴーーーン…」「コアッ!!!」「ゴンッ」


4匹が同時に“じならし”を発生させ、


 「ドカグィィィィィ!!!!!」


激しい揺れで、アクジキングの足を止める。


かすみ「ルビ子!! 外さないでよ!!」

ルビィ「うん!! 行くよ、グラードン!!」
 「グラグラルゥゥゥゥ!!!!!!」

ルビィ「“じわれ”!!」
 「グラルゥゥゥ!!!!!!」


雄叫びをあげながら、グラードンが両腕を思いっきり地面に叩きつけ──その衝撃で、大地に亀裂が走る。

その亀裂は、“じならし”で足の止まったアクジキングの真下まで走り──バキバキと音を立てながら、大地が真っ二つに広がっていく。


 「ド、ドカグィィィィ!!!!!」


足を取られ、さらに900kg弱の体重を支え切れず──アクジキングは落下を始める。

もちろんここにある大地は空中大地だから、それが割れればそこは空。

そして、割れた大地のすぐ下に見えるのは──また別の浮遊大地。

その大地には──すでに切り立った“だんがいのつるぎ”たちが剣山のように敷き詰められていました。

そうです、さっきの“だんがいのつるぎ”は上の大地の底面だけじゃなくて──下の大地の上面にも展開していたんです。


 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


剣山の山に向かって落下するアクジキングに向かって、
341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:34:02.70 ID:9NVhM0zb0

かすみ「理亞先輩!! やっちゃってください!!」

理亞『ギラティナ!! 今!!』

 「ギシャラァァァァァ!!!!!!」


上空に集まっていた巨大な浮遊大地が──重力に従って、落下を始めた。

もちろん、歯のように鋭く生えそろった“だんがいのつるぎ”を真下に向けながら──


 「ドカグィィィィィッ!!!!!?」


それはまるで──大きな大地の口が、アクジキングを喰らうような光景でした。


かすみ「悪食な大喰らいにはお似合いですよ!!」

 「ドカグィィィィィッ!!!!!!」


二つの大地が衝突した瞬間──衝突の衝撃で、聞いたこともないような轟音がやぶれた世界中を劈き、


かすみ「わひゃぁぁぁぁ!!!?」


発生した衝撃波で、かすみんの身体が宙に浮く。

そんな、かすみんを、


彼方「っと……!!」


ムシャーナの上に乗っかっていた彼方先輩が、キャッチしてくれる。


ルビィ「コラン!! “リフレクター”! “ひかりのかべ”!」
 「ピピッ!!!」


そして、サイコパワーで浮いているムシャーナ、マーイーカと、飛行するルビ子のオドリドリの周囲を包み込むように、衝撃を防ぐ2種類の壁を球状に展開される。


かすみ「た、助かった……」


最初から逃げるつもりで、グラードンの“じわれ”直後にポケモンたちを全員ボールに戻してましたけど……まさか、こんなとんでも威力になるとは……。


彼方「うわ〜……すごいことになっちゃったね〜……」

ルビィ「ぅゅ……アクジキングさん……死んじゃったんじゃ……」


優しいルビ子がアクジキングの心配をする。……た、確かに……ちょっと、やりすぎましたかね……?

そう思った瞬間──


 「──ドカグィィィィィィィ!!!!!!!!」

かすみ「っ!?」
ルビィ「う、うそ……!?」
彼方「マジか〜……」


大地を粉砕しながら、アクジキングが飛び出してきた。


かすみ「こ、これでも倒れないなんて……も、もう無理ですよぉ……!?」


さすがに、冷や汗が出てきた。

あれで倒れないなんて、もはや生き物なんですかあいつ!?
342 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:34:36.14 ID:9NVhM0zb0

かすみ「もう策なんてないですよっ!?」

 「ドカグィィィィィ…!!!!!」

かすみ「ぎゃーーーーーーっ!!? しかも、こっち見たぁぁぁぁぁ!!!?」


さっきまで、完全にかすみんたちのことを無視していたくせに、さすがに“げきりん”に触れてしまったらしい。


 「ドカグィィィィィィッ!!!!!」


アクジキングは大地を粉砕しながら、こちらに向かって踏み出した──直後、グラリと揺れ、


 「ドカ……グィィィィィ……」


そのまま、躓くように倒れて、動かなくなった。


かすみ「……あ、あれ……? た、倒れた……?」

ルビィ「……び、びっくりした……」

彼方「……さ、さすがにね〜……あれで耐えられてたら、彼方ちゃんもどうしようもないと思ってたよ〜……」


そう言いながら、ムシャーナがアクジキングの方へとゆっくり下降していく。


かすみ「ち、近付いてどうするんですか……!?」

彼方「もう、ウルトラスペースに還る体力も残ってないだろうからね。……こうする!」


彼方先輩はムシャーナの上から──クモの巣のようにネオン模様を張り巡らされた変わったモンスターボールを、アクジキングに向かって投げつけた。

ボールが当たると──パシュンとモンスターボール特有の音を立てながら、アクジキングは吸い込まれ……カツーン! と音を立てながら、大地の上に落ちたのだった。


彼方「アクジキング、捕獲完了っと〜……」

かすみ「お〜! さすがです、彼方先輩!」

彼方「それほどでも〜」

理亞「──のほほんとしてる場合じゃない!!」

かすみ「わぁっ!? り、理亞先輩……!?」


気付いたら、理亞先輩が声を荒げながら、かすみんたちのもとに降りてきていました。そして、その視線の先には──


 「ギシャラァァァ…!!!!」


かすみ「ぎ、ギラティナ……わ、忘れてた……!」


考えてみれば、一時的に協力関係を結んだだけで、ギラティナとは敵同士なんでした……!


ルビィ「グラードン!!」
 「──グラグラルゥゥゥ!!!!」


ルビ子が再びグラードンをボールから出し、かすみんたちの前に立ちます。


 「ギシャラァァァ…!!!!」

 「グラルゥ…!!!」


2匹がにらみ合い、緊張が走ります──が、


 「ギシャラァァァ」
343 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:35:08.86 ID:9NVhM0zb0

ギラティナは攻撃するどころか──そのままかすみんたちがいる大地に降り立って、静かにこっちを眺めているだけでした。


かすみ「あ、あれ……?」

理亞「攻撃……して、こない……?」

ルビィ「もしかして……」

彼方「一緒にアクジキングを倒したから……信用してもらえたのかもしれないね〜……」

 「ギシャラァ」

かすみ「……よ、よかったぁ……」


あんなとんでもポケモンのあとに、伝説のポケモンとの第二ラウンドなんて、シャレになりませんから……。

かすみんは安心して、その場にへなへなとへたり込んじゃうのでした。





    👑    👑    👑





理亞「ギラティナ。大きなピンクダイヤモンドがある場所……わかる?」
 「ギシャラァ」


理亞先輩がそう訊ねると──ゴゴゴッと音を立てながら、大地が動き出す。


かすみ「お、おお……全自動……」

彼方「動く歩道ならぬ、動く大地だね〜」

ルビィ「ギラティナさん、ありがとう♪」
 「ギシャラ…」


ルビ子が声を掛けると、ギラティナは身を屈め、ルビ子に頭を寄せる。

ルビ子はそんなギラティナの頭を撫でながらお礼を言う。今さっきまで、あんな戦いをしていた相手なのに、怖くないんですかね……?


かすみ「ルビ子って、普段あわあわしてるのに度胸ありますよね……」

理亞「ああ見えて、無鉄砲というか、変なところで無頓着というか……」

ルビィ「? どうかしたの?」

彼方「ふふ♪ ルビィちゃんは優しい子だよね〜って、お話ししてたんだよ〜♪」

ルビィ「そ、そうなの……?」


しばらく浮遊大地の上で待っていると──


かすみ「……! あれじゃないですか!?」


景色の遥か先に──ピンク色の光が見えた。


ルビィ「うん、そうだと思う……!」

理亞「本当にあったんだ……巨大なピンクダイヤモンド……」

彼方「ふぃ〜……見つけられて一安心だよ〜……」


大地はゆっくりとその輝きへと近付いて行きます。



344 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:35:48.09 ID:9NVhM0zb0

    👑    👑    👑





かすみ「……いや……嘘ですよね……?」


かすみんたちが遠方にピンク色の輝きを見つけてから、そこにたどり着くまで──たぶん、1時間くらい掛かった気がします。

そして、たどり着いたそこにあったのは──


かすみ「でっか……」


見上げるほどの高さのピンクダイヤモンドでした。


彼方「わ〜……これはすごいねぇ〜……」

ルビィ「ヒャッコクシティの日時計よりも遥かに大きい……」

彼方「果南ちゃんはここに来たときに、これを見たんだねぇ〜……」

かすみ「……と、とりあえず、ここにリナ子の基になった人の魂があるんですよね!」

理亞「仮説通りならね……」


とにもかくにも、これにてミッションは2つ完了です……!

やることはあと1つ……!


理亞「あとは……ディアンシーに会うことだけ……」


理亞先輩がそう言葉にする。


理亞「ルビィ、ディアンシーを探そう」

ルビィ「……」

理亞「……ルビィ?」

ルビィ「……ドキドキする……」

理亞「え……?」

かすみ「……まあ、ルビ子も女の子ですし、これだけ大きな宝石を見たらドキドキしちゃうのもわかりますよ。でも、かすみん的にはここまで大きいとちょ〜〜〜〜っと可愛くないかな〜って──もがっ!?」

彼方「かすみちゃん、今はちょっと静かにしてよっか〜?」

かすみ「んー? んーー??」


彼方先輩に口を塞がれる。

よく見たらルビ子は、胸の前で手を組んで、目を瞑っていた。


ルビィ「近くに……いる……」

理亞「……」

ルビィ「…………きっと……ここに来てからずっと……私たちを見てくれていた……」


ルビ子はゆっくりと目を開けて、


ルビィ「……ディアンシー様」


そう名前を呼ぶと、ピンクダイヤモンドが光り輝き──


 「──アンシー…」
345 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:36:33.33 ID:9NVhM0zb0

気付けば、ポケモンが居た。

ピンクに輝く宝石を全身に纏ったポケモン。その輝きは、今まで見たことのない強烈な輝きを放っていて──


かすみ「きれい……」


思わず言葉が漏れる。でも、他に言葉が出ないくらい、美しいポケモンでした。


ルビィ「ディアンシー様……お久しぶりです……」

 「アンシー…」

理亞「……ディアンシー……お願いがあるの」


そう言いながら、理亞先輩が前に出る。


理亞「ねえさまの……心を返して……ください……」


そして、頭を下げた。


理亞「ねえさまのしたことは許せないかもしれない……でも……私にとって、たった一人の家族で……かけがえのない人だから……」

 「…アンシー」


ディアンシーはふよふよと理亞先輩の目の前まで下りてくる。

理亞先輩が顔を上げたのを確認すると、ディアンシーは──首を横に振った。


理亞「…………。…………そっか」


理亞先輩は、ディアンシーから拒絶されて、顔を伏せる。


かすみ「理亞、先輩……」

理亞「…………まだ、足りないんだ……。……わかった、認めてもらえるくらいになったら……また来るから……そのときは──」

ルビィ「……違う。……ディアンシー様が言ってるのは……そういうことじゃない……」

理亞「え……?」


気付けば──ルビ子の瞳の中にピンク色の光が見えた。


ルビィ「…………はい。…………そもそも、心を奪ってなんかいない……?」

理亞「え……?」

かすみ「ルビ子、もしかして……?」

彼方「ディアンシーと喋ってる……?」


どうやら、ルビ子はディアンシーとお話をしているようだった。

……巫女って言っていましたし……たぶんそういうこと、ですよね……?


理亞「じ、じゃあ、ねえさまの心はどこに……!!」

ルビィ「…………いつも、そこに……?」

理亞「そこ……?」

ルビィ「…………そっか、そういうことだったんだ……」

理亞「……?」


ルビ子は理亞先輩に振り返り、
346 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:37:32.48 ID:9NVhM0zb0

ルビィ「聖良さんは……ずっと、理亞ちゃんの傍にいたんだ……」


そう言って、理亞先輩の上着のポケットを上から触った。


理亞「……!」


理亞先輩は目を見開いて、ポケットから──ピンク色のダイヤモンドの欠片を取り出した。


理亞「ここに……ねえさまが……?」

ルビィ「……ディアンシー様の力が聖良さんの心を身体から引き剥がしちゃったのは本当だけど……聖良さんは、ずっと……理亞ちゃんの傍にいたんだね……」

理亞「……そっか、そうだったんだ……っ……ねえさま……っ、……ずっと、そこにいたんだね……っ……私を見て……くれてたんだね……っ、……ねえさま……っ……」


理亞先輩は大事そうに、胸にピンクダイヤモンドの欠片を抱きしめながら──静かに涙を流したのでした。

その涙は……何故だか、宝石のように美しい涙に見えた気がしました。





    👑    👑    👑





さてあの後、かすみんたちはやぶれた世界に入ってきた場所まで、ギラティナに案内をしてもらって、


かすみ「──んべっ……!!」

ルビィ「ピギィ!?」

理亞「……っと」

彼方「彼方ちゃん、無事帰還〜」


そこにあった穴を通って、戻ってきたのでした。


鞠莉「……はぁ……はぁ……みんな……おかえりなさい……」

彼方「鞠莉ちゃん!? 大丈夫!?」


崩れ落ちそうになった鞠莉先輩に彼方先輩が駆け寄って、身体を支える。


鞠莉「へ、平気よ……さすがに、消耗したけど……」

ルビィ「鞠莉さん……ありがとう」

理亞「お陰で無事に帰ってこれた」


みんな鞠莉先輩にお礼を言ってますけど──


かすみ「それ、より、も……早く、かすみんの上から……どいて、くだ、さい……お、重い……」

ルビィ「あ、ご、ごめんね!? かすみちゃん!?」

理亞「ごめん。気付いてなかった」

かすみ「もう……酷いですぅ……」


かすみん、お洋服についた埃をぱたぱたと払いながら立ち上がります。


鞠莉「それで……結果は……どうだった……?」

理亞「……このボールにギラティナが入ってる」
347 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:38:08.00 ID:9NVhM0zb0

理亞先輩はそう言いながら、取り出したモンスターボールを鞠莉先輩に見せる。

ギラティナは今後もしばらく協力してもらうことになるため、ボールに入ってもらいました。

事情を説明するとすんなり捕まってくれましたし……ギラティナに協力関係を取り付けるというのは完璧ということで問題ないでしょう。


ルビィ「ピンクダイヤモンドも見つけました!」

理亞「ねえさまのことも……わかったから」

鞠莉「そっか……よかった……消耗した甲斐があったってものデース……」

彼方「鞠莉ちゃん、ありがとね〜。帰ったら彼方ちゃんがおいしいご飯作ってあげるよ〜」

鞠莉「ふふ……それは……楽しみデース」

彼方「詳しい報告は後にして……とりあえず、セキレイに帰ろう〜」

かすみ「はーい!」


やぶれた世界での戦いは、予想外のこともありつつ、大波乱でしたが──どうにかこうにか、全ての目的を達成し、オールオッケーな感じで終わりを迎えることが出来たのでした♪



348 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/26(月) 12:38:46.13 ID:9NVhM0zb0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【忘れられた船】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥・ :● ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :   ||
  ||.  | |          ̄    |.       :   ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:228匹 捕まえた数:14匹


 かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



349 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 02:19:42.72 ID:0yMsBTVK0

 ■Intermission🎹



  「ニャ…」

 「遥ちゃん……!! こっち!!」

 「うん!!」


姉妹が大きなシップへと乗り込んでいく。


  「ニャァ〜…」


それを追って、シップへと乗り込んでいく。

──やがて、シップは発進し、異空間の中を突き進んでいくが……。

ドォンッ!!! と鳴り響く轟音と共に、激しい揺れに見舞われる。


  「ニャァァァッ!!!!?」


そのまま視界は……光に包まれた。


──
────


  「ニャァ…」


目が覚めたら、浜辺に居た。

起き上がって、歩き出した。

お腹が空いたら、“きのみ”を探して食べた。

食べたら、また歩き出す。


  「シャーーーボックッ!!!!!」

  「ウニャァーーーッ!!!!」


時に自分より大きなポケモンに襲われた。

頑張って戦って、倒したら……また歩き出す。

雨が降ってきた。でも歩く。

すごい日差しに照らされて暑くて仕方がない。でも歩く。

風が強くて吹き飛ばされそうになる。でも歩く。

雪が降ってきて凍えそうになる。でも歩く。

歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて……歩いて……。


 『──そっか。じゃあ、今は心の準備中なんだね』

 「うん、そんな感じかな」

  「ニャ…?」


声がした。初めて聞く声だけど、すごく懐かしい声だった。

近寄ってみる。
350 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 02:20:17.16 ID:0yMsBTVK0

 『……ん』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||

 「? どうかしたの?」

 『野生のポケモンの反応』 || ╹ᇫ╹ ||

 「え? どこ?」

  「ニャァ」

 「わ、かわいい♪」

 『ニャスパー じせいポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.5kg
  プロレスラーを 吹きとばす ほどの サイコパワーを
  内に 秘めている。 普段は その 強力な パワーが
  漏れ出さないように 放出する 器官を 耳で 塞いでいる。』

 「ニャスパーって言うんだね? おいで♪」

  「ニャァ」


すごく懐かしいけど、知らない。

知らないけど、すごく懐かしい。

──やっと……見つけた。……やっと、会えた──



 「ニャァ…」



──
────
──────


──また、夢を見た。


侑「…………」


ただ、1匹のポケモンが、大切な主人を想って──世界すら越えて会いに行こうとする……そんな夢……。

そっか……私がずっと見ていた、あの夢は……。


リナ『侑さん? また酔った?』 || ╹ᇫ╹ ||


今はまだホエルオーの上。ウラノホシに向かっての航海中。

シュラフの中で身を起こす私を見て、リナちゃんがそう訊ねてきた。


侑「……うぅん、なんでもないよ。ちょっと目が覚めちゃっただけ」

リナ『そう……?』 || ╹ᇫ╹ ||


私はシュラフの中で、腰に着けたボールの1つを……優しく撫でた。


侑「……きっと……もうすぐ、会えるから……」


そう独り言ちて……。


………………
…………
……
🎹

351 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:41:55.99 ID:0yMsBTVK0

■Chapter060 『リナと璃奈』 【SIDE Yu】





──無事航海を終えてウラノホシのたどり着いた私たちは、行きと同様、そこから“そらをとぶ”でセキレイへと移動。

私たちが飛び立って行ったツシマ研究の前に戻ってくると──


かすみ「──侑せんぱぁぁぁぁいっ!!」

侑「わぁ!?」
「ブイ!!?」


かすみちゃんが抱き着いてきて、尻餅をつく。


かすみ「遅いから心配してましたぁ……おかえりなさいです……」

侑「ふふ……ただいま、かすみちゃん」
 「ブイ♪」

リナ『ただいま♪』 || > ◡ < ||

かすみ「はい♪ リナ子とイーブイもおかえり♪」


子犬みたいに嬉しそうに笑うかすみちゃんの頭を撫でていると、


彼方「おかえり〜、侑ちゃん♪」


彼方さんも近付いてきて、私たちにいつものニコニコ笑顔を向けてくれる。


侑「はい! ただいまです!」

果南「ふふ、熱い歓迎だね♪」

鞠莉「果南、善子、曜も。お疲れ様」

善子「だーかーらー……!! 何度言えばわかるのよ!! ヨハネって言いなさいよ!!」

曜「あはは……」

鞠莉「それで……どうだった?」


鞠莉博士が果南さんにそう訊ねると、


果南「もちろん、完遂してきたよ。侑ちゃんの活躍でね♪」


そう言いながら、果南さんが親指で後ろを指差すと──


 「ウォーーーッ!!!!」


ウォーグルの足に括りつけた紐の先に、タライくらいのサイズの水槽があり、その中に、


 「フィー♪」


マナフィがいた。


果南「そっちは?」

かすみ「ギラティナ捕まえてきちゃいましたよ! こっちもミッションコンプリートです!」

海未「──両作戦、共に成功ということですね」


そう言いながら、海未さんが研究所の方から歩いてくる。
352 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:44:37.07 ID:0yMsBTVK0

海未「果南、曜、善子、侑。お疲れ様です」

善子「だーかーらぁー……!」

海未「セキレイの中央街で会議室を借りています。とりあえず、そちらへお願いします。ルビィと理亞もそちらで待っているので」

善子「聞きなさいよ!」

曜「はいはい、善子ちゃん行くよ〜」

侑「あはは……」


私たちは一旦、落ち着いて話が出来る場所へ移動します。





    🎹    🎹    🎹





海未「──さて……まずは皆さん、お疲れ様です。どちらの作戦も滞りなく進んだようで何よりです」


海未さんが全員を見回す。


海未「とりあえず、次の動きですが……」

果南「リナちゃんとマナフィをピンクダイヤモンドの場所に連れていく。だよね」

海未「はい。それが最優先になりますね。……なので、理亞。聖良の件については……」

理亞「そっちが終わってからで大丈夫。……ねえさまは、ちゃんとここにいるから」


そう言いながら、理亞さんはピンク色をした宝石を抱きしめていた。


海未「そう言っていただけると助かります。では、早速向かって欲しい……と言いたいところですが、マナフィ班は帰ってきたばかりで疲れているでしょうから、今日は休んでください」


海未さんの言葉で正直ホッとする。

リナちゃんのことは急いだ方がいいけど……さすがにくたくただし、ベッドで休みたい気持ちだった。


海未「侑もかすみも今日は一度、家に帰るといいでしょう」

善子「こっちに残る人は、私の研究所に泊まるといいわ。部屋は余ってるし」

鞠莉「ええ、そうさせてもらうわ」

ルビィ「ルビィと理亞ちゃんは……一旦自分の町に帰るつもりです。お姉ちゃんも心配してるだろうし……」

理亞「いつまでも自分の管轄を希さんに任せておくわけにいかないしね……」

曜「私も一旦セキレイの警固に戻ります。ことりさんはただでさえカバー範囲が広いんだから、私もサポートしないと……」

海未「わかりました。では四天王たちには私の方から連絡を入れておきます。では、明日の作戦は果南、鞠莉、善子、彼方、侑、かすみの6人でお願いします。……そういえば、マナフィはともかく、ギラティナは言うことを聞いてくれそうですか?」

鞠莉「それなんだけど……さっき、確認のためにギラティナをボールから出したら、姿が変わっていたの」

海未「姿が……ですか……?」

鞠莉「たぶん、やぶれた世界と違って、こっちの世界にいる間は、元の姿が維持できないんだと思うわ。そのときに、ギラティナからこれが落ちてきたんだけど──」


そう言いながら、鞠莉さんが大きな金属の塊のようなものを取り出す。
353 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:45:11.81 ID:0yMsBTVK0

ルビィ「えっと……すごく純度の高いプラチナみたいなものみたいです」

鞠莉「恐らく、ディアルガやパルキアの持っている珠とよく似たものだと思う。図鑑で調べたらこのギラティナの特性も“テレパシー”だったから、これがあれば、ある程度意思疎通が出来ると思うわ」

海未「なるほど……」

鞠莉「もちろん、使うには心身に負担がかかると思うから……ギラティナへの指示はわたしが出すわ。あくまでピンクダイヤの場所まで連れて行ってくれるようにお願いするだけだから、そんなに大変じゃないだろうけどね」

果南「最悪私も代われるし、その辺はどうにかなりそうだね」

海未「わかりました。では、そのようにお願いします。他に何かある方はいますか?」

彼方「そうだ〜! 大事なことがあったんだった〜!」


彼方さんがそう言いながら手を上げる。


彼方「やぶれた世界にウルトラビーストが出現したんだよ〜!」

海未「……確かに、帰還後の簡易報告でもそう言っていましたね」

かすみ「さすがのかすみんも、アクジキングが突然飛び出してきたときはビビりましたよ……」

彼方「捕まえたアクジキングは、国際警察の方に送ったけど……裏世界にまで来るとは思わなかったよ……」

鞠莉「……ただ逆を言うなら、それはピンクダイヤモンドにリナの“魂”がある説を強めてくれるわ」

侑「どういうことですか……?」

鞠莉「前に彼方が言っていたことによれば……リナのオリジナルの──璃奈さんはウルトラスペースの調査中に亡くなったんでしょ?」

彼方「うん。ウルトラスペースにいる最中にシップの事故でって、聞いて……あ、そっか」


そこまで言って彼方さんは自分で気付いたようだ。


鞠莉「そういうこと。もし、璃奈さんがウルトラスペースで消息を絶って、やぶれた世界で精神が見つかったんだとしたら……この2つの空間が完全に行き来が出来ないとなると、そもそもの話が成立しなくなっちゃうもの」

リナ『一応ウルトラスペースから、ここの表の世界を経由して、やぶれた世界に流れ着いたって説も0じゃないけどね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「まあ、どちらにしろ……明日、実際にリナと行ってみれば全部わかることよ」

海未「そうですね……。ただ、ウルトラビーストの襲撃があり得ることは、十分に警戒してください」

彼方「らじゃー!」

海未「他に何か話がある方はいますか?」


海未さんが見回しながら訊ねる。


海未「なさそうですね。……それでは、本日は一旦解散とします。あと、今回の作戦中はこちらを仮本部としていますので、こちらにはリーグの人間を配置しておきます。何かあったら、こちらまでお願いします。それでは皆さん、重ねてになりますが……作戦ご苦労様でした」


海未さんがそう締めくくり、『マナフィ捜索』、『やぶれた世界調査』の両作戦は解散となったのだった。





    🎹    🎹    🎹





──翌日。


鞠莉「それじゃ、始めるわよ。ギラティナ、出てきて」
 「──ギシャラ」


幽霊船を訪れた私たちは、


 「フィ〜♪」
354 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:45:50.99 ID:0yMsBTVK0

マナフィを連れて、やぶれた世界に向かおうとしていた。


彼方「ギラティナくん、よろしくね〜♪」

かすみ「お願いします〜!」

 「ギシャラ…」


ギラティナが一鳴きすると──空間に浮いていた裂け目のようなものがどんどん広がっていく。


善子「この大きさだと全員横並びでも入れそうね……」

鞠莉「ディアルガとパルキアだと2匹合わせても人一人通るサイズがやっとなのにね……。やっぱり、向こうはあくまでギラティナの世界なのね……。こんなの見せられると今までの苦労が馬鹿らしくなってくるわ……」

果南「まあまあ。今までの苦労のお陰で楽になったって考えればいいじゃん」

鞠莉「まあ……そうね。それじゃ、みんなやぶれた世界へ行きましょう」


私たちはやぶれた世界へ向かいます。


リナ『リナちゃんボード「ドキドキ」』 || ╹ᨓ╹ ||





    🎹    🎹    🎹





空間の裂け目を通って、目を開けると──摩訶不思議な空間が広がっていた。


侑「……地面が……浮かんでる……?」
 「ブイ…」

リナ『ありとあらゆる計器が異常な数値を示してる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

かすみ「初めて来たときはびっくりしますよね……かすみんもびっくりしましたもん」

彼方「ねー。こんな世界があるなんてびっくりだよね〜」

かすみ「その割に、彼方先輩はすぐに順応してましたけどね……」


驚く私とリナちゃん。そして、すでに訪れたことのあるかすみちゃんと彼方さんは私たちの反応を見て、しきりに頷いていた。

一方で、


善子「なかなかそそる光景じゃない……ヨハネ好みの雰囲気だわ」

果南「あー……そうだ、確かに前来たときもこんな感じだった」

鞠莉「へー……こんな感じだったのね」


博士たちは、三者三様の感想を述べる。


果南「……言われてみれば、鞠莉はここ来たことないんだっけ?」

鞠莉「わたしはいつもGatekeeper役だったからね〜……まさか3年越しに来ることになるとは思わなかったわ」


鞠莉博士はそう言って肩を竦める。


かすみ「とりあえず、ピンクダイヤモンドのところに移動しちゃいましょう!」

彼方「ギラティナくん、引き続きお願いね〜」
 「ギシャラ…」


彼方さんがギラティナにお願いすると、足元の浮島が動き出す。
355 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:46:26.06 ID:0yMsBTVK0

果南「おー……あの見境がなかったギラティナが言うこと聞いてる……」

鞠莉「かすみと彼方には随分なついているみたいね。これなら、“はっきんだま”は必要なさそうかしら……?」

かすみ「かすみんたちはギラティナと一緒に戦った仲ですからね! 昨日の敵は今日の友ってやつです!」

彼方「ギラティナくん的には、理亞ちゃんとルビィちゃんの方が好きみたいだけどね〜」
 「ギシャラ」


ギラティナに導かれ、私たちはピンクダイヤモンドのもとへと赴きます。





    🎹    🎹    🎹





──動く浮島に乗って移動すること小一時間ほど……。


侑「……これが……ピンクダイヤモンド……」


私たちは、見上げるほど大きなピンクダイヤモンドのもとに辿り着いていた。


侑「ここに……リナちゃんがいるんだね」

リナ『……』 || ╹ᨓ╹ ||

鞠莉「時間も勿体ないし、早速始めましょう……リナ、心の準備はいい?」

リナ『うん、お願い』 || ╹ᨓ╹ ||


リナちゃんの声からも、少し緊張しているのが伝わってくる。


果南「侑ちゃん」

侑「はい。マナフィ」
 「フィ〜♪」


抱っこしていたマナフィを地面に下ろしてあげると、マナフィは宝石の方に歩いていく。


鞠莉「リナ」

リナ『うん』 || ╹ᨓ╹ ||


そして、リナちゃんは宝石とマナフィの間にふよふよと移動する。


かすみ「そういえば……マナフィの技で心を移し替えるって言ってましたよね?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「ってことは……今までのリナ子の記憶とか心は新しいのと入れ替わっちゃうんですかね……?」

鞠莉「大丈夫よ。リナが図鑑のボディになってからのことは、全てストレージに複製しているらしいから」

リナ『感情や記憶を動かしてる回路に外部からデータが入ってきたとき、自動的にストレージに複製した記憶領域にアクセスするように自己プログラムを組んでるからそこは問題ない。はず』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「えっと……よくわかんないけど、大丈夫ってことですよね?」

侑「……リナちゃんが大丈夫って言ってるなら、大丈夫だと思う」

リナ『うん、大丈夫』 || ╹ ◡ ╹ ||


……はずって言うのは……確証はないってことなのかもしれないけど……。

それは、リナちゃんの緊張している声を聞いていてもなんとなくわかる。

リナちゃんが何に緊張しているのかも。
356 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:47:38.17 ID:0yMsBTVK0

侑「リナちゃん」

リナ『? なぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「何があっても……私と一緒に旅をしたリナちゃんのことは……私がちゃんと覚えてるから。大丈夫だよ」

リナ『……!』 || ╹ _ ╹ ||

侑「きっと……このピンクダイヤの中にあるリナちゃんの記憶は、心は……リナちゃんにとっても大切なもののはずだから。怖がらないで」

リナ『侑さん……うん……!』 || 𝅝• _ • ||


鞠莉「……ふふ。……リナのこと、侑に任せてよかったわ」

果南「ふふ、そうだね」

善子「まあ、私に見る目があったってことね、感謝しなさ──いたたっ!? マリー痛い!? 耳引っ張らないでよ!?」


侑「リナちゃん、始めるよ」

リナ『うん!』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「マナフィ、お願い!」
 「フィ〜〜♪」


私がマナフィにお願いすると……マナフィの触角の先がぽわぁっとピンク色に光り出し──それと同時に……リナちゃんとピンクダイヤモンド中から、虹色の球状の光が飛び出して──入れ替わった。


侑「…………」

かすみ「も、もしかして……今ので終わりですか……? 随分、あっさり……」

侑「リナちゃん」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||


リナちゃんはしばらく黙っていたけど、


|| ╹ᇫ╹ ||

|| ? ᆷ ! ||

|| 𝅝• _ • ||

|| ╹ _ ╹ ||

|| ╹ ◡ ╹ ||


何度も表情を切り替えたのち、


リナ『うん。……全部、思い出したよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう言葉にして、私のもとに戻ってくる。


リナ『侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「なぁに?」

リナ『全部話したいけど……あまりにたくさんあって……ここで全部話すのは難しい。だから、ちゃんとした場所で話したい』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うん、わかった」

鞠莉「ええ、すぐに海未さんに連絡して、場を用意してもらうようお願いするわ」

リナ『うん、ありがとう。博士』 || ╹ ◡ ╹ ||


そして、リナちゃんはふよふよと移動し、彼方さんの前で止まって、


リナ『彼方さん……久しぶり』 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言った。
357 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:48:21.75 ID:0yMsBTVK0

彼方「……! じゃあ、やっぱり……」

リナ『うん。……私の記憶は間違いなく、テンノウジ・璃奈を基に作られてる。ただ、私にわかるのは私が消えるまでのことまで。情報の補完がしたい。お話しするの、一緒に手伝って欲しい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「うん……! もちろん……っ」


頷きながらも、彼方さんの目には涙が浮かんでいた。

死んでしまったと思っていた、かつての仲間との再会だもの……無理もないよね。

そして……リナちゃんとの再会を喜ぶのがもう1人──うぅん、もう1匹。

私の腰に着けたボールがカタカタと揺れ、


 「ニャァァァーーー!!!!!」


飛び出したニャスパーが、リナちゃんに飛び付いた。


 「ニャァァァァ…ッ、ニャァァァ…ッ」
リナ『ニャスパー……びっくりしたよ。ここまで追いかけてきちゃったの?』 || ╹ ◡ ╹ ||

 「ニャァァァ…」

彼方「え……じ、じゃあ、そのニャスパー……もしかして……」

侑「やっぱり……──リナちゃんのニャスパーだったんだね」

かすみ「え!? 嘘!?」

リナ『侑さん、知ってたの……?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「確証は持てなかったけど……ニャスパーと一緒に旅するようになってから、ずっと不思議な夢を見てたんだ」


いつもすごく低い目線で、誰かを追いかけていた。そんな夢──


侑「あれは……ニャスパーの記憶だったんだ」

リナ『……ニャスパーはエスパータイプだから、寝てるときに思念が侑さんに流れ込んじゃってたんだね』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ニャァァァ…」

リナ『侑さん、今までニャスパーと一緒にいてくれてありがとう。“おや”として、すごく感謝してる』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「うぅん、こちらこそ。ニャスパーにはすっごく助けられたから。ニャスパー、よかったね……やっと君を“おや”に会わせてあげられたよ」
 「ニャァ…」


今になって考えてみると……ニャスパーは確信を持てないながらも、リナちゃんに何かを感じていたから、よく目で追っていたんだと思う。


善子「……ポケモンが“おや”を探して……他の世界から渡ってきたってこと……?」

鞠莉「驚きを隠せないわね……」

果南「……でも、まだ驚くようなことがたくさんあるんでしょ?」

リナ『うん。何から話せばいいかわからないくらいたくさんある』 || ╹ ◡ ╹ ||

果南「なら、まずは帰還しよう」

鞠莉「ええ、そうね。……これからのことを、話し合うためにも……」


私たちは、リナちゃんの記憶を取り戻し──やぶれた世界から帰還するのだった。



358 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:49:10.20 ID:0yMsBTVK0

    🎹    🎹    🎹





──あの後、やぶれた世界から戻ってすぐに海未さんに連絡したところ、すでに用意が出来ていたようで、昨日借りていたセキレイの会議室へトンボ返りしてきた。


海未「まずは……無事にリナの記憶が戻ったと聞いて安心しています。ジムリーダーも四天王もあまり持ち場を離れられない状況なので……少人数での情報共有になってしまいますが……」

果南「その辺は海未がうまいこと纏めて、みんなに伝えてくれるんでしょ?」

海未「……他人事だと思って……」

果南「期待してるよ〜理事長〜♪」

海未「……はぁ……とりあえず、ここで得られる新しい情報を基に今後の方針を立てていくつもりです」

リナ『……まず、何から話せばいい?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「そうですね……まず確認になりますが……リナ、あなたはテンノウジ・璃奈さんということでいいんですか?」

リナ『確かに私はテンノウジ・璃奈を基に作られている。それは間違いない。でも、私がテンノウジ・璃奈だと言うのは正確じゃない』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「正確じゃないというのは……?」

リナ『私はあくまでテンノウジ・璃奈の記憶と精神をベースに作られた劣化コピー品。大部分の記憶情報は元に戻ったけど、完全ではないし……何より肉体の情報は99.999%欠損したまま。人間にとって肉体の持っている情報量は大きい。だから、私を生物学的にテンノウジ・璃奈と断定するには、無理がある』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……なんか、リナ子がへりくつみたいなこと言ってる……」

リナ『屁理屈じゃない。生物として同じ個体と言うにはあまりに定義から逸脱してる。だから、私をテンノウジ・璃奈であるとするのはおかしいって話』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「あはは♪ その考え方、ホントにリナちゃんだ〜♪」


彼方さんはそう言って嬉しそうに笑う。


かすみ「……侑先輩、リナ子なんかちょっとめんどくさい感じになってませんか……?」


一方で、かすみちゃんは隣に座っている私に小声で耳打ちをしてくる。


侑「まあ……リナちゃん、研究者だって話だし……きっと、リナちゃんにとっては大事なことなんだと思うよ」

かすみ「そういうもんなんですかねぇ……」

善子「そういうもんよ。学者にとっては定義って大事なものだから」


私たちの話が聞こえていたのか、隣のヨハネ博士がかすみちゃんに向かってそう答える。
359 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:51:00.87 ID:0yMsBTVK0

海未「わかりました。では、貴方はテンノウジ・璃奈の記憶と人格を持った……AIということでよろしいですか?」

リナ『相違ない』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「その上で……そうですね、貴方の精神がどうして、やぶれた世界のピンクダイヤモンドに宿っていたのか……説明は出来ますか?」

リナ『それを話すには、まず私の死因から話さないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……やっぱり……そのリナちゃんというか……璃奈さんは……」

リナ『うん。生物学的には間違いなく死んでると思ってもらって差し支えない』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「え、えっと……死因は……ウルトラスペース航行中に起こった、ウルトラスペースシップの一部が爆発したことが原因って、彼方ちゃんは聞いてるんだけど……」

リナ『……それを原因と言うには、少し雑すぎるかも……。報告って愛さんがしたんじゃないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「愛ちゃんは……あの事故のあと、塞ぎ込んじゃって……事故の報告は、組織の上の人が愛ちゃんから聞いた話を基にしたって……」

リナ『なるほど……確かに、愛さんじゃないとパッと概念を理解するのは難しいかったかも……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「それじゃ……爆発事故じゃなかったってこと……?」

リナ『うん。正確には、爆発で死んだというよりは……ウルトラスペース内の特異点の中で、情報レベルでバラバラになったって言うのが正しい』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「情報レベルでバラバラになった……? どういうことかしら?」

リナ『テンノウジ・璃奈と愛さんは、ウルトラスペースの研究を進める中で、ウルトラスペース内に特異点と呼べるレベルでエネルギーが集中している領域を発見した。その近くに赴いた際にエンジントラブルで……その特異点の重力に捕まって逃げられなくなった』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「とくいてん……? って何……? 重力ってことはすごい引っ張られてたってこと……?」

リナ『簡単に言うならそんな感じ。──脱出が困難だと思った璃奈は……無理やりその場で宇宙船の分離機構を改造して、愛さんだけでも助けるために、切り離した後部倉庫を爆発させて、その反動で愛さんの乗っていたシップを特異点の重力圏から無理やり脱出させた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……じゃあ、璃奈さんは……」

リナ『……爆発の制御を間違えたら、愛さんの乗っているシップすら重力圏から逃がすのが難しかった。だから私は後部に残って、自分の乗ってた倉庫を爆発させた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「…………」

彼方「そういう……ことだったんだ……。……そりゃ、愛ちゃん……ふさぎ込んじゃうよ……」


つまり璃奈さんは……身を挺して愛ちゃんを助けたということだ。

……愛ちゃんからしてみたら、自分がいたから璃奈さんが死んでしまったんだって……そんな風に思ってしまっても無理はない。


善子「でもさっき、爆発は直接的な死因じゃないって言ってなかった?」

リナ『うん。実は、爆発で身体が焼けるよりも前に……特異点の重力で私の身体は情報レベルでバラバラになった。それが直接的な死因』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「すみません、その……情報レベルでバラバラになったというのがよくわからないのですが……」

リナ『特異点の重力はあまりに大きすぎて、本格的にそれに捕まったら普通の物質はその形を保てなくなる。分子も原子も、それどころか光も……なにもかも……』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「……ブラックホールに吸い込まれると、似たような現象が起こると考えられているわ。もちろん、今のわたしたちの世界の技術ではそれを実際に観測することは出来ていないんだけど……」

かすみ「……かすみん……もう頭痛くなってきましたぁ……」

善子「確かにかすみにはちょっと難しい話かもね。……それで、情報レベルでバラバラになったのはとりあえず理解したけど……それをどうやって今の形にしたの……?」

リナ『……正直ここから先は憶測になるんだけど……ウルトラスペースの特異点は収縮と発散を繰り返している。……発散の際に情報の粒子みたいなものが飛び出して、スペース内を漂っていたんだと思う。思念……って言えばいいのかな……。それが、いろんな世界を旅しながら……引き寄せられるようにして、心のエネルギーをため込む場所に蓄積されていったんだと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「それがやぶれた世界のピンクダイヤモンドだったってこと……? じゃあ、やっぱり……やぶれた世界もウルトラスペースと繋がることがあるんだ……」

リナ『繋がることがあるというか……やぶれた世界の方がウルトラスペースに近い位置にある世界だから。どっちかというと、道理かも』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

鞠莉「そうなの……?」

リナ『ウルトラスペースは時間や空間を超越した高次元空間なんだけど……ギラティナが作り出したやぶれた世界も似たような作りをしている』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「つまり……もともとやぶれた世界にあったピンクダイヤモンドには、リナの思念が集まりやすい条件が揃っていた……」

リナ『そういうことだと思う。そして、ピンクダイヤモンドの中で……私は思った。また、みんなに会いたいって』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「リナちゃん……」

リナ『そんなとき……偶然すぐ近くに、電波を発している物体が近づいてきた。だから、私はその電波の発信源に向かって自分の原始的な情報を乗せて、忍び込ませたんだ』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「それが……果南のポケモン図鑑だったってわけね……」

リナ『うん。その後は博士が考えていたとおりだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||
360 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:51:46.11 ID:0yMsBTVK0

つまり、まとめると……璃奈さんは愛ちゃんを助けるために、ウルトラスペース内でバラバラになって……バラバラになった璃奈さんの思念が──やぶれた世界のピンクダイヤモンドにたどり着き……そこに居合わせた果南さんのポケモン図鑑に自分の一部を侵入させた……ということらしい。

そして、その後……鞠莉さんのポリゴンZのバグ取りをして、自分の存在を気付かせ、図鑑に組み込んでもらい……いつか自分の完全な記憶が宿っているピンクダイヤモンドにたどり着いてくれるように、わざと不自然な状態の記憶を持った“リナちゃん”という存在を作りだした……。


海未「……にわかには信じがたい話ですね」

リナ『それには私も同意する。情報レベルでバラバラになった存在が一ヶ所に集まれるとは思えない。……だけど』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「だけど……?」

リナ『愛さん風に言うなら……私の情報全てが、みんなにまた会いたいって思っていたから、あそこにたどり着けたんだと思ってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「……ふふ、確かに愛ちゃんが言いそうだね」

かすみ「あ、かすみんそういうのなんて言うのか知ってるよ!」

リナ『なんて言うの?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「想いが起こした奇跡って言うんだよ!」

リナ『想いが起こした奇跡……うん、そうかも』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはかすみちゃんの言葉に頷く。


海未「……リナ、貴方がどういう存在かは理解しました。……その上で、以前所属していた組織について……私たちに教えてくれますか……?」

リナ『もちろん。そのために、私はここにいるんだもん』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「あーちょっといい?」

リナ『何?』 || ? _ ? ||

善子「璃奈はその……亡くなるそのときまで、その組織とやらに属してたのよね? それなのに、私たちに情報を提供するのは裏切り……みたいにならない?」

リナ『確かにそうだけど……私と愛さんは組織のやり方にあまり賛成してなかった。やろうとしてることが強引すぎたから』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「それは……以前彼方も言っていたように、他の世界を滅ぼそうとしている……という話ですか?」

リナ『うん。私たちはその方針にはずっと同意しかねていた。だから、他の方法を模索するためにウルトラスペースを調査していたんだけど……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「その最中、璃奈さんは事故に遭って亡くなってしまった……」

リナ『そういうこと。だから、ここで組織について情報提供することは、結果として私の目的とも一致する』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「じゃあじゃあ、リナ子は全面的にかすみんたちの味方ってことでいいんだね!」

リナ『もちろん!』 ||,,> ◡ <,,||


私はそれを聞いて、正直ホッとしていた。

もしオリジナルの璃奈さんが、果林さんたちのいる組織側であったなら、私たちへの協力も情報提供もしてくれなかった可能性があったし……。

なにより……リナちゃんと敵同士になんて、なりたくなかったから……。


鞠莉「果林たちの組織が他世界を滅ぼそうとしていたのって……確か、自分たちの世界の再興のためって話だったわよね?」

リナ『うん、あってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

鞠莉「なら、聞きたいんだけど……どうして、あなたたちの世界は滅びかけてるの……? 住む場所がほとんど残ってないって話だったけど……」

リナ『それは簡単。あの世界がエネルギーを保持する力を失いつつあるから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「エネルギーを保持する力……? 世界の持ってるエネルギーが減るってこと……? エントロピーの話……?」

かすみ「えん……とろ……? え……侑先輩、わかりますか……?」

侑「えっと……よくわかんないけど……とりあえず、聞いてみよう」


たぶん、科学者の領分だから口を挟んでもややこしくなりそうだし……。
361 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:54:06.25 ID:0yMsBTVK0

リナ『あってるけど、たぶんヨハネ博士の考えてる範疇の話だと間違ってる』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「……。……世界の中で起こるレベルのエントロピー増大じゃないと……?」

鞠莉「それだと、エネルギー保存則と矛盾しないかしら?」

リナ『しない。そもそもエネルギー保存則は各々の世界レベルじゃなくて、全宇宙……うぅん、もっと広い範囲でやり取りされるエネルギーの総量が一定って話』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「あー……なるほど。虚数領域にエネルギーが落ち込むとか、そういう方向性ね……。でも、なんでそんなことが目に見える形で起こるのよ?」

リナ『わかりやすくいうと、私たちの世界自体の経年劣化』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「経年劣化……? つまり、長く続きすぎた世界だから、委縮してるってこと?」

リナ『うん。簡単に言うとそういうこと……というか、そもそも世界は基本的にはビッグバンによるインフレーションから始まって、そこからどんどんエネルギーが外に漏れ出ていく。問題はそれが急速に進行してること』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なんで急速な進行が起きてるの……?」

リナ『世界とウルトラスペースの境界面に穴が空いて、世界のエネルギーが流出するから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「なんで穴が空くのよ」

リナ『世界とウルトラスペースの境界面を形作ってるのが、そもそもエネルギーで出来てるからかな。あまりに世界が長く続きすぎると境界面のエネルギー層がその形質を保てなくなる』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「Ozone holeみたいな……?」

リナ『イメージとしては近い。違いとしては、オゾンは惑星内部で作られるけど、エネルギーは新しく生成されない。熱力学の第一法則があるから』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「進行を防ぐ方法は?」

リナ『流出してるし、新しく作り出せないんだから、流出量より多くのエネルギーを外から持ってくるしかない』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「それが他の世界を滅ぼすってことなの……?」

リナ『正確には他の世界からエネルギーを流入させるには、滅ぼすのが一番早いって話かな』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「だぁぁぁーーーー!!! もう無理!!! もう限界です!!! もっとわかりやすい言葉で話してくださいよ!?」


かすみちゃんがついにキレた。

とはいえ、私も全然わからないし……もう少し噛み砕いた説明が欲しいかも……。


善子「あらかた話が終わったら、わかりやすく説明するつもりだったんだけど……マリー」

鞠莉「OK. 」


鞠莉さんは突然、自分の荷物の中から“ふうせん”を取り出して、携帯式のエアポンプで膨らませ始める。


鞠莉「まずこれが世界だと思って頂戴」

かすみ「は、はい……」

善子「んで、この中に存在している空気がエネルギーよ」

鞠莉「ただ、この“ふうせん”の中の空気はずっとこのまま放置しておくとどうなりマースか?」


経験則から考えるなら……。


侑「ちょっとずつ空気が抜けてしぼんでいく……?」

鞠莉「イエース! そのとーりデース!」

善子「それが経年劣化による世界の萎縮の仕組みって話ね」

果南「でもそれって、どんな世界にも起こることなんじゃないの?」

善子「ええ。だから、問題はこの世界に──」


ヨハネ博士は机の上に置いてあったペンを持って──それをぶっ刺した。


善子「穴が空いてるのが問題」


もちろん、ペンが刺さった“ふうせん”は音を立てて破裂してしまった。
362 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:55:15.99 ID:0yMsBTVK0

善子「仮にこんな風に無理やり穴を空けたんじゃなかったとしても、徐々に表面のゴムが劣化し、目に見えないような小さな穴が空いていってどんどん萎む速さは加速していく。これと同じようなことが起こってるってわけ」

彼方「あの〜……エネルギーが抜けていっちゃうってことはわかったんだけど〜……それが起こるとどうして彼方ちゃんたちの世界は住む場所がなくなっちゃうの〜……?」

リナ『エネルギーが失われると、最終的には分子間力も失われていく。そうすると物質は結合を保てず原子レベルでバラバラになるし、そうすると大地は崩れ落ちて、空気や水は生物にとって有毒なものになる』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「えっと……?」

鞠莉「イメージしづらいかもしれないけど……そもそも、エネルギーがないと物体は存在出来ないって話かな」

善子「これ以上は専門知識がないと説明出来ないから、そういうものとしか言えないわね……」

彼方「とりあえず、彼方ちゃんたちの世界はそれが理由でどんどん住めなくなっちゃったってことだね〜……」

リナ『その理解で概ねあってる』 || ╹ ◡ ╹ ||


やっとなんとなくだけど……意味がわかってきたかな……?

そんな中、ヨハネ博士が次の話題を切り出す。


善子「んで……。……なんで、それで私たちの世界を滅ぼすと、そっちの世界が救われるの?」

リナ『ある世界のエネルギーが流出したら、流出したエネルギーは次にどこに行くと思う?』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「え?」


質問を質問で返され、ヨハネ博士は顎に手を当てて考え始める。


善子「ウルトラスペースに流出して……ウルトラスペース中にエネルギーが充満する……?」

リナ『充満したエネルギーは何に使われると思う?』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「…………そういうことか。……世界がエネルギー流出によって委縮したら、それによってウルトラスペース内に溢れた余剰エネルギーで──……新しい世界が生まれる」

リナ『そういうこと。そうやってウルトラスペース内でエネルギーは循環してる』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「なるほどね……新しくてエネルギーが豊富に溢れている後発の世界から、無理やりエネルギーを流出させて滅ぼしちゃえば……ウルトラスペース内にエネルギーが溢れかえることになる……」

善子「自分たちの世界の周辺に溢れるエネルギーが増えれば、ウルトラスペース内のエネルギー圧が大きくなるから……自分たちの世界の萎縮を遅らせることが出来る……。理屈はわかった……でも、それってキリがないんじゃない? 周辺の自分たちのものより新しい世界を片っ端から滅ぼし続けないといけないわよ?」

リナ『でも、私たちの世界の上層部はそれを実行しようとしている。だから、私と愛さんはずっと反発してた』 || 𝅝• _ • ||

鞠莉「Oh...crazy...」

善子「もう貴方たちの世界自体になりふり構ってる余裕がないってことね……」

リナ『そういうこと』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんや博士たちによる難しい話に対して、海未さんが発言する。


海未「……恐らくなのですが、今の話の大半はあくまで理論の話ですよね? 重要なのは彼らの世界にエネルギーを取り戻すためには、他の世界からエネルギーを消失させる必要がある……という理解でよろしいでしょうか」

リナ『うん、それであってる』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「では、彼女たちは具体的にどのようにして他世界を滅ぼそうとしているんですか? 先ほどの“ふうせん”の例えどおりに考えるなら……無理やり世界に穴を空けるということでしょうか?」

リナ『海未さんは理解が早い! それであってる!』 || > ◡ < ||

海未「ふむ……? では、どうやって穴を?」

リナ『それは簡単。もう私たちはウルトラスペースとこの世界の境界面に、穴が空く現象を既に見てる』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんの言葉を受けて、かすみちゃんが可愛らしく顎に人差し指を当てながら考え始める。
363 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:56:13.97 ID:0yMsBTVK0

かすみ「穴…………穴……? ……あっ! ウルトラホールだ!! ウルトラビーストがこっちに来たり、還ったりするときに空くやつ!」

リナ『かすみちゃん、正解!』 || > ◡ < ||

善子「……そういえば、そもそもどうしてウルトラビーストはウルトラホールから出現するの?」

リナ『ウルトラビーストは体に多くのエネルギーを溜め込む性質があって、その強いエネルギーでウルトラスペースと世界の境界面に穴を空けて侵入してくるんだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

善子「なんでそこまでして私たちの世界に来るのかしら……?」

リナ『それは正直迷い込んでるだけかな……野生のポケモンがたまに街に迷い込んでくるのと同レベルの話』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

善子「はた迷惑な野生ポケモンね……」

鞠莉「つまり……ウルトラビーストがNeedle──この世界に穴を空ける針の役割を担っている。もし、それの数を意図的に増やせるとしたら……」

侑「……そうか……! だから、歩夢を連れ去ったんだ……!」

彼方「そっか……歩夢ちゃんの力でウルトラビーストをたくさん捕まえて〜……」

侑「私たちの世界に一斉に送り込むことで……私たちの世界を穴だらけにして、世界からエネルギーを流出させる……!」

海未「やっと真相が見えてきましたね……」


海未さんの言うとおり、果林さんたちが何をしようとしているのかが、やっと理解出来るようになってきた。


海未「……ただ、わかったところで、彼女たちのもとに辿り着けなければ意味がありません……リナ」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「ウルトラスペースとやらを航行するには、ウルトラスペースシップというものがないといけないんですよね?」

リナ『うん。ウルトラスペースは強いエネルギーに満ちてるから、生身で長時間いるとかなり危険。ウルトラスペースシップみたいなエネルギーを遮断できる乗り物に乗るか……あとはウルトラビーストみたいな強いエネルギーを持ってるポケモンで中和しないといけない』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「彼方、ウルトラビーストを借りるというのは……」

彼方「う、うーん……彼方ちゃんは国際警察に保護されてるだけで、職員ってわけじゃないから……そういうのは難しいかも……」

鞠莉「そもそも、こんな事態になるまで存在を隠していたくらいなんだから……よっぽど知られたくないんだと思うし、国際警察からウルトラビーストを借りるって言うのは現実的じゃないと思うわ……」

彼方「……こんなことなら、アクジキングを引き渡さなければよかったよぉ……」

海未「そうなると……やはり、ウルトラスペースシップを作るしかないようですね……。リナ、作ることは出来ませんか……?」

リナ『作り方は教えられるけど、この世界の今の技術レベルだと、数年は掛かるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「…………そんな猶予はない……」

かすみ「え、まさか……ここまで来て手詰まりですか……!? リナ子の記憶が戻れば、全部解決すると思ったのに……」

リナ『うぅん、まだ方法はあるよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……本当ですか……? でも、ウルトラスペースにいる果林たちを追いかけるには、ウルトラスペースシップしか……」

リナ『そうじゃなくて……果林さんたちはウルトラスペースにはいないはずだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「……はい?」


海未さんがリナちゃんの言葉にポカンとした表情になった。


侑「でも、果林さんたちはウルトラスペースシップで航行してるんじゃないの……? そのために、コスモッグからエネルギーを集めてたって……」

リナ『移動はウルトラスペースシップだと思う。だけど、ウルトラスペースに長期間滞在するのはリスクがとてつもなく大きい。だから、普通はどこか小さな世界でいいからウルトラスペースの影響が少ない場所に降りて、そこを拠点にする』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、そっかぁ! ウルトラスペースにいないなら、かすみんたちもウルトラスペースに行く必要ないじゃん!」

善子「……そんなわけないでしょ」

かすみ「はぇ?」

善子「仮にウルトラスペースにいないとしても、ウルトラスペースを経由しないと、果林たちが拠点にしてる世界にもいけないでしょ……」

かすみ「……はっ!」

彼方「せめて、ウルトラスペースを経由しないで、果林ちゃんたちがいる世界に移動が出来れば〜……」

リナ『出来るよ?』 || ╹ᇫ╹ ||
364 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:57:22.54 ID:0yMsBTVK0

── 一瞬、場が静まり返る。


海未「ほ、本当ですか……!?」

善子「でもどうやってそんなこと……!?」

リナ『直通のゲートを繋げればいいだけだよ』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんはあっけらかんと言う。


善子「それが出来れば苦労は……」

リナ『そもそも、ウルトラスペースって言うのは、私たちの世界よりも高次元に存在する亜空間のこと』 || ╹ᇫ╹ ||

鞠莉「……Hm?」

リナ『時間や空間がねじれ曲がってて……ウルトラスペースシップがないと人や普通のポケモンは留まることすら出来ないけど……。逆を言えば、時間や空間を制御出来れば出入口を強引に繋げることだって出来るはずでしょ?』 || ╹ ◡ ╹ ||


時間や空間……? どこかで聞いたような……?


侑「……あ」

鞠莉「ディアルガと……パルキア……」

リナ『そういうこと。しかも私たちは、ウルトラスペースにアクセスしやすい場所も知ってる!』 || > ◡ < ||

果南「……! そっか、やぶれた世界……!」

リナ『ディアルガ、パルキア、ギラティナの3匹を持ってるんだから、直通のホールを繋げることは可能なはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「ま、マジで……?」

リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||

鞠莉「でも、繋ぐ方法はあっても、果林たちの居場所がわからないとたどり着けないんじゃない……? まさか虱潰しにあちこちの世界に行くわけにもいかないでしょうし……」

リナ『向こうに歩夢さんとしずくちゃん……それに千歌さんもいるでしょ』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「はい……そもそも、彼女たちを助けに行くという話なので……」

リナ『あの3人はポケモン図鑑を持ってる。ディアルガ、パルキア、ギラティナの力を借りれば、図鑑の持ってる固有シグナルを探知することも出来るはずだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

善子「マジで……?」

リナ『マジマジ』 || > ◡ < ||

鞠莉「……ウルトラスペース内でも電波は感知出来るの……?」

リナ『もちろん、とんでもなく減衰するから、ウルトラスペース内を検索しても意味ないけど……3匹の力を借りて、いろんな世界にアクセスしながら歩夢さんたちの図鑑の反応があるかを調べればそんなに時間は掛からないはずだよ。そうでなくても、果林さんたちのシップにはコスモッグを探索するためのセンサーが詰まれてるから、それを逆探知すれば居場所を把握するのは容易。そのための探索プログラムは私ならすぐにでも作れるし』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「じゃあ……!」
 「ブイブイ♪」

かすみ「かすみんたち……しず子や歩夢先輩たちのことを助けに行けるんだね!」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||


やっと現実的に歩夢たちを助けに行く方法がわかった……!


海未「リナ、そのプログラムで探すのにはどれくらいの時間を要しますか。加えてゲートを直通させるということについても」

リナ『こっちで演算をするから……探索は長くても2日で終わらせる。ゲート直通はミスしたら生死に直結することだから慎重にやるとして……それでも1週間もあればどうにか出来る』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「わかりました。必要なものはこちらで全て用意します。言ってくださればすぐに手配しますので……!」

リナ『助かる』 || > ◡ < ||

海未「皆さん、他に何か話したいことはありますか? なければ、実際に千歌及び歩夢、しずく……そして、せつ菜を奪還するための人員の調整を今から始めます……!」

果南「話すことはもうないでしょ。あとは、やるべきことをやるだけだよ」

海未「そうですね……! では、私は早速調整に取り掛からなければいけないので、失礼します……!」


そう言って、海未さんは珍しく慌ただしい様子で、会議室から出ていった。
365 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:58:24.84 ID:0yMsBTVK0

果南「海未……千歌を助けられるってわかったら、突然元気になっちゃってまあ」

彼方「ずっと心配してたみたいだもんね〜。海未ちゃんも希望が見えてきて嬉しいんだよ〜きっと〜」

善子「とりあえず……海未から次の動きがあるまでは待機かしらね。あの調子だとすぐに指示がありそうだけど」

かすみ「か、かすみんは……休憩したいです……休まないと……頭使いすぎで……死んじゃいますぅ……」

彼方「ふふ、かすみちゃん、よく頑張ったね〜♪ 偉いぞ〜♪」

かすみ「きゃぅ〜ん♪ もっと、褒めてください〜♪」

鞠莉「とりあえず各自指示が出るまで休息を取りましょう。……ここから先は本当にいつ休めるかわからないからね」


鞠莉さんの言葉にみんなで頷いて、今回の会議はお開きとなったのだった。





    🎹    🎹    🎹





会議を行っていた会館を出て、私はかすみちゃん、彼方さんと一緒に、セキレイシティの中央にある噴水広場に訪れていた。


かすみ「はぁ〜……それにしても、うまく行きそうでよかったですぅ〜……」

彼方「そうだねぇ〜これも全部リナちゃんのお陰だよ〜」

リナ『そう言われるとちょっと恥ずかしい……。リナちゃんボード「テレテレ」』 ||,,╹ᨓ╹,,||


かすみちゃんと彼方さんがベンチに腰掛けてリナちゃんと話す中、私はとある手持ちのボールをじっと見つめていた。


かすみ「侑せんぱ〜い? 侑先輩もこっち来て座らないんですか〜?」

侑「……うん。まだやることがあるから」

彼方「やること?」


私はそう言いながら──手に持ったボールを放る。

そのボールに入っているのは、


 「──ニャァ〜〜」


ニャスパーだ。

ボールから飛び出してきたニャスパーはふよふよと浮遊して──リナちゃんに抱き着く。


リナ『ニャスパー……前が見えない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ねぇ、リナちゃん」

リナ『なに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「それと、ニャスパー」

 「ニャァ?」

侑「ニャスパーはリナちゃんのポケモンなんだよね」

リナ『うん。正確には……オリジナルの璃奈のポケモンだけど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、なんて言えばいいかな……。……私にとっても、ニャスパーはもう大切な仲間だと思ってるんだ」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「だからさ……リナちゃん。ニャスパーの“おや”として、改めて──私がニャスパーと一緒に戦うトレーナーとして相応しいか、リナちゃんの目で確かめて欲しいんだ」

リナ『……なるほど』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ニャァ」
366 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:59:02.29 ID:0yMsBTVK0

私は──リナちゃんと向き合って。


侑「リナちゃん、私とポケモンバトルして!」

リナ『……わかった』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ウニャァ〜!!」


バトルを申し込んだ。


かすみ「え、えぇ!? 侑先輩とリナ子がバトルするの……!?」

彼方「これからも、胸を張ってニャスパーと一緒に戦うためにってことだよね」

侑「はい!」

彼方「わかった! そういうことなら、彼方ちゃんが審判をしましょう〜! 使用ポケモンは1匹ずつでいいね?」

侑「はい! 行くよ、イーブイ!」
 「ブイブイッ!!!」

リナ『ニャスパー、行くよ!』 || > 𝅎 < ||
 「ウニャァ〜〜!!!」


イーブイとニャスパーが相対する。


彼方「それじゃ行くよ〜! レディー、ゴーッ!!」


彼方さんの合図で──私とリナちゃんのポケモンバトルが始まった。





    🎹    🎹    🎹





リナ『ニャスパー! “ねこだまし”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャッ!!!」

 「ブイッ!!?」


試合開始と同時に、ニャスパーがサイコパワーを使って、イーブイの目の前で大きな音を立てて怯ませ、


リナ『“サイコキネシス”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャーーッ!!!」

 「イブィッ…!!!」


出来た隙を突かれて、サイコパワーで吹き飛ばされる。

イーブイは吹っ飛ばされながらも、


 「ブイッ…!!!」


転がりながら受け身をとって、すぐに体勢を立て直す。


リナ『“サイケこうせん”!』 || > 𝅎 < ||
 「ウーーーニャーーーッ!!!!」

侑「“びりびりエレキ”!!」
 「イッブイッ!!!!」


“サイケこうせん”と“びりびりエレキ”が空中でぶつかり合い、お互いのエネルギーが爆ぜ散る。

空中でぶつかり合う攻撃の下を──イーブイが小さな体で駆けていく。
367 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 11:59:40.86 ID:0yMsBTVK0

侑「“めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイッ!!!」


ニャスパーは防御力が低い。だから、接近戦で一気に勝負をつける……!

だけど、リナちゃんは冷静に、


リナ『“バリアー”!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャァッ!!」


“バリアー”を展開し、


 「イッブッ!!!?」


イーブイは突然目の前に発生した壁に衝突する。

壁にぶつかり止まったイーブイは──


リナ『“サイコキネシス”!!』 || > 𝅎 < ||
 「ニャァーーー!!!!」

 「ブィッ…!!!」


またしても、“サイコキネシス”で吹き飛ばされてしまう。


侑「イーブイ! 大丈夫!?」
 「イッブィッ!!!」


もちろん、吹っ飛ばされただけでは倒れたりはしない。

すぐに起き上がるけど──どうにも距離を詰め切れない。


かすみ「あわわ……こ、これニャスパーに近寄れませんよ!? ゆ、侑先輩負けちゃうんじゃ……!」

彼方「ふふ、大丈夫だよ。侑ちゃんを見てごらん」

かすみ「え?」


かすみちゃんと彼方さんの会話を端で聞きながら──私は、


侑「……ふふっ」


笑っていた。


侑「ニャスパー、強いね……!」
 「ブイッ!!」


ニャスパーの強さに笑みが零れた。だって──


侑「あんなに強い子が今までずっとずっと一緒に戦ってきてくれたんだ……ニャスパーがどれだけ頼もしい仲間なのかは、私たちが一番知ってる……!」
 「ブイッ」


でも、だからこそ……ちゃんと示してあげなきゃ……!


リナ『ニャスパー! “サイコショック”!!』 || > 𝅎 < ||
 「ウーーニャァーーーッ!!!!」


ニャスパーが周囲にサイコパワーを放つと──直後、イーブイに向かって、念動力で出来たキューブが突撃してくる。


侑「──これからも私たちに付いてきてって……胸を張って言えるように!!」
 「ブイッ!!!」
368 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:00:14.29 ID:0yMsBTVK0

直後、イーブイから赤紫色のオーラが溢れ出し──そのオーラは、周囲に浮遊していた”サイコショック”をかき消した。


リナ『え!?』 || ? ᆷ ! ||
 「ニャァ!?」

かすみ「技が……消えた……!?」

侑「私たちは……これからも、もっともっと強くなるから……! だから……!」
 「ブイッ!!!」


イーブイが先ほどのオーラを身に纏ったまま、地を蹴り、ニャスパーに向かって走り出す。


リナ『ニャスパー! “サイコキネシス”!! フルパワー!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||
 「ウーーーニャァーーーーッ!!!!」


一方ニャスパーは耳を完全に開ききり、フルパワーの“サイコキネシス”を放ってくる。

でも、イーブイは──


 「ブィィィィィッ!!!!!」


放たれるサイコパワーの中を突っ切り──


侑「“すてみタックル”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」

 「ウニャァァッ!!!!?」
リナ『ニャスパー!?』 || ? ᆷ ! ||


ニャスパーに“すてみタックル”を炸裂させた。

猛烈な突進を受けたニャスパーは吹っ飛ばされて、地面を転がったあと──


 「ウ、ウニャァ〜〜…」


目を回して、ひっくり返ったのだった。


彼方「……ニャスパー戦闘不能、よって侑ちゃんとイーブイの勝ち〜!」


彼方さんが決着の宣言をすると、リナちゃんはニャスパーのもとに近寄り、


リナ『ニャスパー、お疲れ様』 || ╹ ◡ ╹ ||
 「ウニャァ…」


ニャスパーを労う。

そんなリナちゃんとニャスパーの傍に歩み寄ると、


リナ『えへへ……やっぱり、侑さんは強いね』 || ╹ ◡ ╹ ||


そんな風に言う。
369 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:00:53.01 ID:0yMsBTVK0

侑「リナちゃん、聞いてもいい?」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……今の──新しい“相棒わざ”の名前は……」

リナ『“どばどばオーラ”! 相手の特殊技の威力を半減させる“相棒わざ”だよ! ニャスパーのサイコパワーに適応したんだね!』 || > ◡ < ||

侑「えへへ♪ やっぱり新しい“相棒わざ”を覚えたときは……リナちゃんに教えてもらわないと♪」
 「ブイ♪」

リナ『ふふ、いくらでも聞いて!』 || > ◡ < ||
 「フニャァ〜」

侑「うん! ……リナちゃん、ニャスパー。私たち、これからも、もっともっと強くなるから……私たちに、力を貸して。……私たちと、一緒に戦って……!」

 「ニャァ〜〜!!!」
リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||


私は、ニャスパーを、リナちゃんを、抱き寄せる。


侑「これからも、よろしくね♪」

 「ニャァ〜〜」
リナ『こちらこそ♪』 ||,,> ◡ <,,||


今までは、“誰か”のニャスパーだったけど──ここまで一緒に旅をしてきて、やっと……ニャスパーが──私の6匹目……最後のポケモンが、正式に仲間として加わったのだった。



370 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 12:01:28.39 ID:0yMsBTVK0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【セキレイシティ】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.74 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.71 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.72 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.67 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.67 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.64 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.74 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.68 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.65 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.66 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.63 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.67 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:229匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



371 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 23:40:07.06 ID:0yMsBTVK0

 ■Intermission🎙



しずく「──バリコオル!! “ワイドフォース”!!」
 「…………」


バリコオルが無言のまま、フィールド上を広がるサイコパワーを展開すると、


 「シャボッ…!!!!」「バァースッ…!!!!」


サスケさんとエースバーンが吹き飛ばされる。


しずく「……ふぅ、少し手こずってしまいましたね♡」
 「…………」


しずくさんはそう言いながら、


 「…シャボ」「…バース…」


戦闘不能になった2匹に向かって、歩夢さんから取り上げた空のモンスターボールを投げつけ、ボールに収める。


せつ菜「ボールに戻してどうするんですか……?」

しずく「もうすぐ、果林さんたちも迎えに来ると思いますし……ここに置いていくのも忍びないじゃないですか♡」


しずくさんは相変わらず読めない表情をしたまま、歩夢さんのポケモンたちをボールベルトに着け、ボールベルトごと自分のバッグにしまい込む。


せつ菜「また勝手に飛び出してくるのでは?」

しずく「どうせ戦闘不能ですし♡ ボールで休んでいたら多少回復はするかもしれませんが……ここまでコテンパンにされれば、もう反抗する気なんておきませんよ♡」

せつ菜「……そうですか」


実際……彼女はここ数日で何度も歩夢さんの手持ちを撃退し……今しがたついに、歩夢さんの手持ち全てを戦闘不能まで追い込んで、捕獲している。


しずく「それにしても……歩夢さんのポケモン、なんだか強くなっていた気がします♡」

せつ菜「ずっと貴方と戦い続けていましたからね。それで、経験を積んでレベルが上がったのでしょう」

しずく「図らずも、歩夢さんの手持ち育成に貢献してしまったわけですね♡」


……歩夢さんの手持ちは、進化して姿を変えてまで、しずくさんに挑みかかってくるポケモンもいたくらいには成長をしている。

皮肉なことに、繰り返されるしずくさんとの戦いが彼女のポケモンたちを大幅に強化していたというのは間違いないだろう。

だが……それは歩夢さんのポケモンに限った話ではない。


しずく「お陰で私のポケモンたちもたくさん経験値を得て、強くなってしまいましたね♡」


……しずくさんも、日々強くなっていく歩夢さんの手持ちと戦いを続けるうちに、手持ちのレベルが上がっていた。

その証拠に、彼女の持っているバリヤードはバリコオルに、クマシュンもツンベアーへと進化している。

特に彼女は襲ってくるポケモンたちを捌くという状況が多かっただけに、防御やいなしに力を入れた戦いを行っていた。

本気で防御態勢を取られたら、私でも多少苦戦するかもしれないくらいには……。


しずく「ふふ……♡ これで、もっともっと……果林さんの役に立てる……♡ そうしたら、またフェローチェをたくさん魅せてもらえます……♡」

せつ菜「……」

しずく「せつ菜さんも、ありがとうございました♡」

せつ菜「……いえ」
372 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/27(火) 23:40:40.82 ID:0yMsBTVK0

私も、彼女の戦闘を端で見ていて……口出しをする形で何度か戦闘の指南をした。

自分で言うのもなんですが……その甲斐あって、彼女の戦闘能力は一段階ブラッシュアップされたと言っていいだろう。

二人でそんなことを話していると──少し遠くにウルトラホールが開き、そこから私たちが乗っていたウルトラスペースシップが現れる。


しずく「〜〜〜♡ せつ菜さん、果林さんたちが迎えに来てくれましたよ♡ フェローチェを魅せてもらえます♡」

せつ菜「……そうですね」

しずく「それじゃ歩夢さん、行きましょう♡ サーナイト、お願い」
 「サナ」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


頭にウツロイドが寄生したままの歩夢さんをサーナイトの“サイコキネシス”で持ち上げながら、しずくさんはスキップしながらウルトラスペースシップに向かっていく。

そんな中、ふと見た歩夢さんは、


歩夢「…………」


やはり今もぐったりとしていて……時折、手足が反射でピクリと動くことが、彼女が辛うじて生きていることを証明している程度だった。


せつ菜「…………」

しずく「せつ菜さん♡ 早く行きますよ♡」

せつ菜「……はい」


私は恐らく……死んだら地獄行きですね。


せつ菜「……いや、今更ですね……」


そう呟きながら、私はしずくさんの背中を追って歩き出した。


………………
…………
……
🎙

373 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:21:47.53 ID:bMcrfVdQ0

■Chapter061 『決戦へ向けて』 【SIDE Yu】





──翌日。

海未さんからの次の指示を待つ間に──


理亞「……侑、お願い」

侑「はい。マナフィ、“ハートスワップ”」
 「フィ〜♪」


マナフィの触角の先がぽわぁと光り、理亞さんが手に持っていたピンクダイヤの欠片から虹色の光が飛び出して──


聖良「…………」


理亞さんのお姉さん──聖良さんの身体の中へと入っていく。

すると……先ほどまで目を見開いたまま虚空を見つけていた聖良さんの目が動き──


聖良「…………り………………ぁ………………?」


掠れるような声で、理亞さんの名前を呼んだ。


理亞「……! ねえさま……っ……」


そんな聖良さんを見て、理亞さんが目に涙を浮かべながら、聖良さんに抱き着く。


聖良「…………こ……こ…………は………………?」

真姫「ローズシティの病院よ。その調子だと……意識ははっきりしているようね」


真姫さんの言葉を聞き、聖良さんは首を縦に振る。


真姫「当分は声が出せないと思うわ。……なんせ、3年も眠っていたんだからね……」

聖良「……そぅ…………で、……すか…………」

理亞「ねえさま……今はまだ、無理に喋らなくていいから……。ゆっくり、リハビリすれば、きっと元気になれるから……」


理亞さんの言葉を聞くと、聖良さんは細い腕で理亞さんの頭を優しく撫でる。

そして理亞さんは……本当に愛おしそうに聖良さんを抱きしめる。


真姫「……あとは、二人きりにしてあげましょう」

侑「……はい。行こっか、マナフィ」
 「フィ〜♪」


私はマナフィを抱き上げて、病室を後にしたのだった。



374 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:22:47.98 ID:bMcrfVdQ0

    🎹    🎹    🎹





真姫「侑、ありがとね」

侑「いえ……私じゃなくて、マナフィのお陰ですから」
 「フィ〜♪」

真姫「そっか……。……マナフィ、ありがとう」

 「フィ〜♪」


──真姫さんは長いこと聖良さんを診ていたらしく、とても安堵した様子だった。

でも……。


侑「聖良さん……これから、どうなるんですか……?」

真姫「……そうね……。……喋れるようになったら、リーグや警察から取り調べを受けて……リハビリをして、動けるようになったら……恐らく刑務所に行くことになるでしょうね」

侑「せっかく……目が覚めたのに……」

真姫「それくらいのことをしたのよ、聖良は……。……貴方も、グレイブ団事変のことは覚えているでしょう……?」

侑「はい……」


私がここに来て、聞かされたこと──


侑「……でも……まさか、理亞さんのお姉さんがあの騒動の首謀者だったなんて……」


3年前のグレイブ団事変は──聖良さんが起こしたものだったということだ。


侑「あの……もしかして、理亞さんがジムリーダーであることを最近まで公表してなかったのって……」

真姫「……そうね。そういうこと。……だけど、理亞は聖良の指示に従っていただけだったからね……。……ルビィがあの子を強く庇ったから、海未も観察処分で様子を見ていたし」

侑「理亞さんは……そこから、ジムリーダーになったんですね……」

真姫「……ええ。いろいろあったわ……。一般人には公表されてなかったとはいえ、ジムリーダー就任の際は、リーグ内部から猛反発があってね」

侑「そう……なりますよね……」

真姫「成績は文句なしだったんだけどね。ルビィや海未、希の助けもあったし……何よりあの子が、自分がこのオトノキ地方を守るジムリーダーとして前に立つということを証明するために、努力をし続けたから、今があるのよ」


真姫さんの言葉を聞いて……以前、理亞さんとジム戦をしたときに、考古学者としての立場を得るためにジムリーダーになったと言っていたの思い出す。

それも、理由の一つなんだろうけど……理亞さんがジムリーダーになったのには、ある種の贖罪のような意味合いもあったのかもしれない……。


真姫「これから、理亞もいろいろ大変だろうから……今くらいは一緒にいさせてあげないとね」

侑「今、ヒナギクジムには希さんがいるんですよね」

真姫「ええ。理亞がこっちに来たとき、『今、お姉さんの傍にいるより大事なことなんてないでしょ』って、ジムを追い出されたって言ってたわ」

侑「みんな優しいんですね……」

真姫「そうね……。そうやって、優しい気持ちを持って、みんなで助け合えれば……きっと、争いなんて起きないのよ……きっとね……」

侑「……」

真姫「でも、世の中そんな簡単にはいかない。……みんな、自分の信念があるから。私にも、侑にも、理亞にも、聖良にも……菜々にも……」

侑「……はい」

真姫「だから、人はぶつかり合う。……でも、私はそれを悲しいことだとは思わないようにしてる」


真姫さんはぎゅっと、胸の前で手を握りながら、


真姫「それはきっと……人が人を、理解するために、わかり合うためにする……大切な営みだと思うから」
375 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:23:53.75 ID:bMcrfVdQ0

そんな風に、言葉にするのだった。





    🎹    🎹    🎹





病院の外に出ると、


かすみ「あ、侑せんぱーい! 終わりましたか〜?」
 「ブイ♪」

侑「うん。ごめんね、一人で待たせちゃって」


イーブイを抱えながら、かすみちゃんが待っていた。

聖良さんの病室は、ポケモンも含めて最低限の人しか入れないとのことだったので、私はイーブイをかすみちゃんに預けて、聖良さんの病室を訪れていたというわけだ。


侑「カフェとかで待っててもよかったんだよ?」

かすみ「イーブイも預かってましたし……歩夢先輩がいない間は、かすみんが侑先輩と一緒にいるって約束しましたから!」

侑「ふふ……ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「それに今はリナ子もいないですからね。侑先輩が寂しくないように、かすみんがここで待つことくらいどうってことないですよ!」


そう。かすみちゃんが言うように今はリナちゃんがいない。

リナちゃんは、すでに歩夢たちの居場所を探知するプログラムを組むのに着手するため、鞠莉博士と一緒にオハラ研究所にいる。

こればかりは、私が一緒にいてもなんの役にも立てないだろうから、今は別行動というわけだ。


かすみ「それで、この後はどうするんでしたっけ……?」

侑「えっと、彼方さんと果南さんが今コメコにいるみたいだから、そっちに合流する感じかな」

かすみ「あー……彼方先輩、コメコで荷物の整理しなくちゃって言ってましたもんね」


彼方さんは決戦を前に……ずっと利用していたコメコの森のロッジの整理に向かったそうだ。

いつまでも放置しておくわけにもいかないし……この戦いが終わったら、もう使うこともないだろうから……と。


侑「それに……私も果南さんと一緒にやらなくちゃいけないことがあるしね」
 「フィ〜」

かすみ「っと……そういえばそうでしたね。それじゃ、コメコシティに行きましょう〜♪ お願いします、侑先輩!」

侑「うん。行くよ、ウォーグル」
 「──ウォーーーッ!!!」


私たちはコメコシティに移動します。





    🎹    🎹    🎹





──コメコシティに着いた私たちは……彼方さん、果南さんと合流して、コメコの南にある浜辺を訪れていた。


果南「それじゃ……侑ちゃん」

侑「はい」
 「フィ〜」
376 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:26:45.35 ID:bMcrfVdQ0

私は頷きながら──胸に抱いていたマナフィを、浜辺に下ろす。


侑「マナフィ、ありがとね」
 「フィ〜」

侑「本当は遺跡のある場所まで、送ってあげたかったんだけど……」
 「フィ〜」


私の言葉に、マナフィはふるふると首を横に振ったあと──背後の波に浚われるようにして、海へと還っていく。

マナフィは手を振りながら、どんどん遠ざかっていく。


侑「またいつか、会いに行くねー!!」

 「フィ〜〜〜」


私の言葉に返事をするように鳴いたあと、海に潜って──マナフィの姿は見えなくなった。


侑「マナフィ……大丈夫かな……。ちゃんと帰れるかな……」

果南「大丈夫だよ。帰巣本能があるし……なにより野生のポケモンは逞しいから」

侑「……はい」

果南「そんなに心配なら、全部が終わったあと、またあの海底神殿に行ってみよっか♪」

侑「はい! そのときはまたお願いします」

果南「うん! 任せて♪」


果南さんはニコニコしながら答えてくれる。

そして、そんな私たちのもとに、


彼方「マナフィ、行っちゃったね〜」

かすみ「意外とあっさり行っちゃいましたね……」


後ろで見守っていた、かすみちゃんと彼方さんが歩いてくる。


かすみ「でも……侑先輩、よかったんですか? せっかく、マナフィと仲良くなれたのに……」

侑「うん。マナフィには最初から、少しの間、手伝って欲しいって約束で来てもらってただけだし……それに、私にはフィオネがいるから」


私の手持ちはもうすでに6匹、ちゃんと決まっている。

マナフィにしか出来ないことは、もうしてもらったから……あとは、私が仲間たちと一緒に戦う番だ。


かすみ「まあ、侑先輩がそう言うなら……」

彼方「かすみちゃんはやぶれた世界班であんまりおしゃべりできなかったから、マナフィちゃんともうちょっとおしゃべりしたかったんだよね〜?」

かすみ「も、もう……彼方先輩、余計なこと言わないでいいですから〜……」

侑「ふふ、じゃあ全部終わったら、かすみちゃんも一緒にマナフィに会いに行こう」

かすみ「……はい! 約束ですよ? あ、もちろんそのときは──」

侑「歩夢としずくちゃんも一緒に、だよね!」

かすみ「はい♪」

 「ブィ〜…」

侑「もちろん、イーブイも一緒だよ♪」
 「…ブィ♪」


和やかな雰囲気の中、
377 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:27:35.36 ID:bMcrfVdQ0

果南「……さてそれじゃ、彼方ちゃん、そろそろ始めますか〜……」

彼方「お〜う、任せろ〜♪」


果南さんがそう言いながら肩を回し始め、彼方さんも身体を伸ばしてストレッチし始める。


かすみ「? お二人とも、なにかするんですか?」

果南「うん。まあ、なにかするのは私たちというよりも……」

彼方「侑ちゃんとかすみちゃんだけどね〜♪」

かすみ「……はい?」

侑「え?」
 「ブイ…?」


かすみちゃんともども、首を傾げる。……なにかやるって話ししてたっけ…?


果南「私たちはこれから、リナちゃんや鞠莉たちが敵の居場所を探知するまで、やることがないでしょ?」

彼方「でも、だからって、その間のんびりしてる暇はないよ〜」

侑「えっと……」

かすみ「何するんですか……?」

彼方「これから、決戦の時が来るまでの間〜、私が侑ちゃんを〜♪」

果南「私がかすみちゃんを、それぞれ鍛えてあげるってこと♪」

侑「……! ホントですか……!?」

彼方「うん♪ ビシバシいくから覚悟するんだぞ〜?」


まさか、また彼方さんから、直接稽古を付けてもらえるなんて……!


侑「はい! よろしくお願いします!」
 「ブイ♪」

彼方「うむ、良いお返事だ〜♪」


私は思わず気合いが入ってしまうけど……一方でかすみちゃんは、


かすみ「あ、え、えーっと……か、果南先輩とマンツーマン……ですか……?」

果南「そうだよ? 嫌なの?」

かすみ「い、イヤとかではないですよ……? で、でも、果南先輩の修行はそのー……パワー系過ぎて〜……か、かすみんには似合わないと言うか〜……? そもそも付いていけるか……」

果南「もう、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。強くならないといけないんだから。それに、かすみちゃんに合わせたメニューをちゃんと考えてるから」

かすみ「ほ、本当ですか……!? し、信じていいんですか!?」


もうすでに腰が引けているかすみちゃん。


果南「もう、時間ないからさっさと行くよ〜」


そう言いながら、果南さんがかすみちゃんを担ぎ上げる。
378 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:28:48.02 ID:bMcrfVdQ0

かすみ「え、ちょ!? どこ連れてく気ですか!?」

果南「トレーニング着に着替えてもらって……まずは手始めに、コメコから東に行ってホシゾラ、フソウ、サニー、セキレイ、ダリアと回ってコメコに戻ってくるルートをポケモンたちと一緒に走り切るよ〜!」

かすみ「はぁ!? 何十キロあると思ってるんですか!? ってか途中、海じゃないですか!?」

果南「大丈夫大丈夫♪ セキレイからダリアの間は自転車だからさ♪」

かすみ「なんですかその地獄のトライアスロン!? 無理ですっ! そんなのやったらかすみん死んじゃいますぅっ!」

果南「やる前から諦めてどうすんの。さ、行くよー」

かすみ「ぎゃーーーーっ!!! た、助けてーーー!!! 侑せんぱーーーい!!! まだ死にたくなーーーい!!!」


かすみちゃんは助けを求める悲鳴をあげながら──果南さんに連れて行かれたのだった。


侑「……」

彼方「かすみちゃん、無事に帰ってこられるといいね〜……」


頑張れ、かすみちゃん……。

私は胸中でかすみちゃんの無事を祈るのだった……。





    ✨    ✨    ✨





海未『では……すぐにでも、果林たちの居場所探知を始められる準備が整ったということですね?』

鞠莉「ええ、リナが……まさに一瞬で探知プログラムを作ってくれたわ」

リナ『頑張った! リナちゃんボード「えっへん」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


探索プログラムが出来たわたしたちは早速海未さんへ報告をしているところ。


鞠莉「ただ……わたし一人でディアルガ、パルキア、ギラティナを制御するのは難しいわ。ギラティナはともかく……ディアルガとパルキアは一人で長時間指示を出し続けられないから……せめて、ジムリーダーか四天王クラスの人を一人……」

海未『それに関してはもう話が付いています。大雑把な説明を四天王に共有した際に、ダイヤから志願がありました』

鞠莉「ダイヤが……?」

海未『彼女は以前にもディアルガの制御を行っています。勝手もわかるから自分がやると志願してくれました。ウチウラやウラノホシの警固はこちらでもフォローをしますし、あのエリアにはダイヤのお母様もいらっしゃるので』


確かに元ジムリーダーのダイヤママなら、警固の戦力としては申し分ない。……一族でジムリーダーをやっているクロサワ家サマサマデース。


海未『すぐに幽霊船の方に出向くように伝えておきますので、現地で合流してください』

鞠莉「OK.」


海未さんとの通信を切り。


鞠莉「リナ、行くわよ!」

リナ『リナちゃんボード「ガッテン」』 ||  ̄ ᨈ  ̄ ||


リナと共に、研究所を飛び出した。



379 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:30:00.29 ID:bMcrfVdQ0

    👠    👠    👠





──DiverDivaウルトラスペースシップ。

いつまでもウルトラスペースに滞留するのは危険なので、現在は拠点となる世界に降り立っている。


姫乃「あの……果林さん」

果林「何かしら?」

姫乃「しずくさんが……フェローチェを魅せろとうるさくて……」

果林「あら……今朝魅せてあげたのに……もう禁断症状?」

姫乃「どうしますか?」

果林「別に放っておいていいわ。魅せたら魅せたで症状が加速するし」

姫乃「そうですか……」

果林「……もうそろそろ……持たないかもしれないけど」


彼女の様子を見るに……毒が回りすぎている。

精神崩壊するのも遠くないかもしれない。


果林「愛から見てどう思う?」

愛「んー? なにがー?」

果林「しずくちゃんの容態」

愛「……あー……しずくの精神力、すごいよね。いや、胆力って言うのかな?」

果林「まあ……何度も私や姫乃に魅せろ魅せろって迫ってくるものね」


フェローチェの毒は人の理性を破壊して衝動的にするから……ある意味、正しい反応でもあるのだけど……。


姫乃「それはそうと果林さん。次の作戦行動はいつにしますか?」


作戦行動──即ち、ウルトラビーストの捕獲作業の話だ。


果林「そうね……明日にまた1匹……いえ、2匹を目標に捕獲しましょう」

姫乃「わかりました」

愛「それにしても、歩夢の力はすごかったよね〜」

果林「……全くね」


私たちは当初の予定通り、昨日歩夢の能力によるウルトラビーストの誘引を初めて行ったわけだけど……。

予想以上の誘引能力だった。

最初に現れたツンデツンデを捕まえ撤退しようとした瞬間──マッシブーン、ウツロイド……さらに、アクジキングが一斉に飛び出してきて、私たちは大急ぎで誘引作戦を行った世界から脱出したくらいだ。


果林「一歩間違えると……こっちも大損害を受けかねないわね……」

愛「ただ、逆に良い方向での予想外もあったけどね〜」

姫乃「どういうことですか?」

愛「歩夢のフェロモンに中てられて誘引されたウルトラビーストたちは、平均よりも動きが緩慢だったんだよ」

姫乃「……本当ですか?」

愛「うん。たぶん、ポケモン自体を宥める力があるんだろうね。……いやー、ホントすごい能力だわ」

果林「狂暴性を完全に抑えられるわけではないとはいえ……少しでも鈍らせてくれるのは助かるわね」
380 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:30:53.81 ID:bMcrfVdQ0

相手はウルトラビースト……規格外の強さを持ったポケモンたちだ。

少しでも捕獲難度が下がるのは、願ったり叶ったり。


果林「この調子で……ウルトラビーストをもっと集める……」


──そして、それを一斉に送り込まれたあの世界は……滅亡する。

そんなことを考えていたときだった、


愛「ん……?」


愛が珍しくモニターに映る計器を見ながら眉を顰める。


果林「愛? どうかしたの?」

愛「……どうやら、まだ簡単には行かせてくれなさそうだよ」

姫乃「どういうことですか?」

愛「……この場所が何者かに探知されてる」

果林「なんですって……?」


愛は複数のコンソールを弄りながら、解析を始める。


愛「……でも、愛さんを舐めるなよ〜? こうして、こうして〜……ほい、ジャマー展開」


一瞬で対策を講じる。……が、


愛「……え? ジャマー解析速過ぎない……!?」


珍しく愛の表情に焦りが見て取れた。


愛「……向こうにはとんでもないエンジニアがいるみたいだね……」

姫乃「探知元はわからないんですか?」

愛「……うまく隠されてるね……とりあえず探ってみるけど、まあ……」

果林「状況から言って、出元は……」

愛「歩夢たちがいた世界……だろうね」

果林「そうなるわよね……」

姫乃「追ってくる……ということでしょうか」

愛「……たぶん、歩夢とかしずくが持ってる図鑑の固有信号を探知に使ってるね」

姫乃「今すぐ彼女たちの図鑑の電源を切るか、破壊してきます」


姫乃がブリッジを出ようとしたところを、


愛「いや、もう遅いからやらなくていい」


愛が制止する。
381 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:31:34.04 ID:bMcrfVdQ0

姫乃「遅いとは……?」

愛「そこからバックドア仕掛けられたみたい。コスモッグ用のセンサーもだけど……ありとあらゆる通信機器の信号をハッキングされてる」

果林「は、ハッキング……!?」

姫乃「操作権が奪われたんですか……!?」

愛「いや、さすがにそこは防いだ。でも、こっちの居場所は完全に筒抜けになった」

果林「……今すぐ拠点世界を移しましょう」

愛「それももう意味ない。このレベルのハッカー相手だと世界を移動したところで秒で特定されるだけだよ」


こうして場所を特定してきたということは──


果林「……向こうには、私たちの場所まで辿り着く手段があると考えた方がいいわよね……」

愛「だね。間違いなく来ると思う」

果林「……腹を括れということね」


向こうも……最後の最後まであがくつもりということだ。なら、こちらも相応の態度で臨むしかない。


果林「……姫乃、せつ菜としずくちゃんを呼んで」

姫乃「どうするんですか……?」

愛「どーもこーもないって話。……もう、ここまで来るのは確定したようなもんだから……あとは──」

果林「追ってくるなら……返り討ちにするしかない……!」

姫乃「……わかりました。今すぐ呼んできます」


姫乃がブリッジを出て、せつ菜たちを呼びに行く。


愛「せっつーはともかく、しずくも戦力に数える気?」

果林「少し頼りないけど……戦力にならないというほど弱くもないはずよ」

愛「……ま、アタシは構わないけど」


そう言いながら、愛は再びコンソールを弄り始める。

恐らく少しでも情報の流出を防いでいるのだろう。

ただ、向こうはこちらの擁する天才エンジニアを出し抜くほどの手練れを用意してきた。

つまり、それだけ本気ということだ。

だけど、


果林「……いいわよ、やってやろうじゃない」


ここまで来て、こちらも引くわけにはいかない。


果林「勝った方が生き残って、負けた方が滅亡よ……!」


最後は私たちDiverDivaらしく──純粋な強さで白黒つけようじゃない。



382 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:32:15.41 ID:bMcrfVdQ0

    ☀    ☀    ☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……異常無しです」

相談役『……逆に不気味ね』

穂乃果「……ウルトラビーストの出現量は増えてるんですか?」

相談役『……今は通常の1.2倍くらいね……。恐らく、敵方がウルトラスペースを行き来しているせいで、刺激されたウルトラビーストがこっちに来ているんだと思うわ。ただ、大型種はクロユリに現れたテッカグヤくらいで……ひとまずジムリーダーたちで撃退しきれている』

穂乃果「うーん、増えてはいるんですよね……。……でも、これくらいなら異変として認識されてないってことなのかな……?」

相談役『その匙加減に関しては私たちにはわからないけど……』

穂乃果「……たぶん、海未ちゃんたちの方も戦力が相当カツカツだと思うから……場合によってはそっちに行った方がいいかも……」

相談役『実際に作戦が始まってからどうするかの最終判断は穂乃果さんに任せるわ。ただ──レックウザが現れた場合は、全ての作戦行動を中断してでも、音ノ木に急行してもらえる?』

穂乃果「はい! わかりました! それじゃ、また連絡します!」


ポケギアの通話を切る。


穂乃果「……前はディアルガ、パルキアが一度に現れたから、来ちゃったけど……ウルトラビーストはそういう脅威じゃないって思われてるのかな……」


それならそれで構わないんだけど……なんだか、気持ち悪い感じがする。


穂乃果「とにかく……私は何が起きても対応できるようにしておかないと……」


私は独り、音ノ木の警固を続ける……。





    🐏    🐏    🐏





──彼方ちゃんはコメコシティで侑ちゃんの特訓の真っ最中だったんだけど〜……。

侑ちゃんと特訓をしているときに、彼方ちゃんにお話があるって人が来て……今はそこに出向いています。

そして、その相手というのは……。


エマ「……突然ごめんね、彼方ちゃん。今、コメコにいるって聞いたから……」


エマちゃんでした。

私はエマちゃんに呼ばれて、エマちゃんの寮のお部屋に来ています。


彼方「うぅん、大丈夫だよ〜。でもどうしたの?」

エマ「……あのね、彼方ちゃん。……わたしを果林ちゃんのところに連れて行って欲しいの」

彼方「…………」


なるほど……。そういう話か〜……。
383 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:33:18.49 ID:bMcrfVdQ0

エマ「わたし……あの後、何度も考えたの……。……でも、やっぱり……果林ちゃんが心の底から、みんなに酷いことをしようとしてるなんて、どうしても思えないの……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「……果林ちゃんは……誰かのために背負いこんで、自分一人が悪い人になって……みんなを守るために無理してるんじゃないかって……」

彼方「……」


エマちゃんの言うことは……あながち的外れというわけでもなかった。

果林ちゃんはストイックだし、目的のために手段を選ばないけど……仲間想いな人だ。

今は道を違えてしまったけど……わたしも果林ちゃんには何度も救われた。

果林ちゃんは果林ちゃんなりに……自分の世界を救うために必死なだけなんだ。それくらいは理解している。


エマ「前に……果林ちゃんが悪い人なのか……彼方ちゃんに聞いたよね……」

彼方「……うん」

エマ「そのとき彼方ちゃんは……『どの立場から見るかによる』って言ったよね。果林ちゃんを悪い人だとは……言わなかった」


確かに、わたしはそう答えた。


エマ「……あの言葉を聞いて……彼方ちゃんも……本当は果林ちゃんと戦いたくないんじゃないかなって……」

彼方「それは……」


それは……そうだ。……わたしだって、かつての仲間──うぅん、家族……かな──と戦いたいなんて思わない。


エマ「もし、彼方ちゃんが今でもわたしと同じように……少しでも、果林ちゃんと戦わない方法を考えてくれてるなら……。……わたしも果林ちゃんのところに連れていって。……わたしが果林ちゃんに、もうこんなことはやめようってお話しするから……」


わたしは返答に困る。

果林ちゃんにとって……エマちゃんが特別な相手だったのはそうなのかもしれない……。

とはいえ、今になってエマちゃんの言葉を聞いたところで、止まってくれるのか……。


エマ「彼方ちゃん……お願い……」

彼方「う、うーん……」


エマちゃんの視線から逃げるように目を逸らしたとき、ふと──エマちゃんのお部屋に石が置いてあることに気付く。

いや、正確には何度かこの部屋は訪れているから、あるのは知っていたんだけど……。


彼方「……あれ……あの石……」


よく見ると──どこかで見たことがあるものだった。


エマ「石……? ……あ、えっとね……それは果林ちゃんがずっと前にくれた石なの……御守りだって」

彼方「……思い出した」


あの石は確か──果林ちゃんが持っていた石と同じものだ。


彼方「果林ちゃんの……故郷の石……」

エマ「え、そうなの……?」


──もう、なくなってしまった……果林ちゃんの故郷の石。

そんな大切なものを……これから滅ぼす世界に置いていくかな……?


彼方「…………」
384 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:34:16.25 ID:bMcrfVdQ0

それを託されたエマちゃんは……。


エマ「彼方ちゃん……?」

彼方「わかった。今から海未ちゃんにお願いしてみよう」

エマ「いいの!?」

彼方「うん。もしかしたら……エマちゃんなら本当に……果林ちゃんを説得出来るかもしれないから……」





    🐏    🐏    🐏





海未『……なるほど……それで彼女を同行させたいと……』


わたしたちはあの後すぐに、海未ちゃんに連絡を取り、無理を言って話をする時間を作ってもらった。


彼方「……もし戦わずに済むなら、それ以上のことはないと思うんだ」

海未『それは確かにそうですが……』

エマ「わたしが絶対果林ちゃんを説得してみせます……だから……」

海未『…………』

彼方「エマちゃんはわたしが警護するって条件でもダメかな……? 果林ちゃんはあの場での責任者みたいなものだから……果林ちゃんを説得しさえすれば、それで全部収まるかもしれないし」

海未『賭けてみる価値はある……ということですか……。……確かに今は猫の手も借りたい気持ちですが……』

エマ「お願いします……!」

海未『……ですが、エマさん。貴方は一般人ですし……いくら彼方が警護すると言っても……』

エマ「わ、わたしもいざとなったら、ポケモンと一緒に戦えます……!」

海未『…………』


海未ちゃんはモニター越しに困った顔をして黙り込む。たぶん……説得が出来るなら、本当にそれに越したことはないけど、そもそも危険な場所にエマちゃんを送り込むということ自体がネックなんだと思う。

エマちゃんも確かにポケモンは持っているけど、さすがに侑ちゃんやかすみちゃんのような実力はない。

リーグ側から侑ちゃんやかすみちゃんに、すごく厳しい条件を出した手前っていうのもあるだろうし……。

ただ、そんな中でわたしたちに助け船を出してくれたのは、


侑「──……私は戦わなくて済む方法があるなら、それに越したことはないと思います」


そう言いながら、お部屋の中に入ってきた侑ちゃんだった。


彼方「ゆ、侑ちゃん……!?」

侑「ごめんなさい……彼方さん、なかなか帰ってこなかったから……。牧場の人に訊いたら、ここにいるって言われて、案内してもらって……。そうしたら、中から話が聞こえてきたので……」

エマ「ご、ごめんね……! 彼方ちゃん、侑ちゃんと一緒に修行してたんだよね……」

侑「いえ、それよりも……エマさんが果林さんを説得出来るなら、私はそれに越したことはないと思います」

海未『侑……貴方はいいのですか?』

侑「私とかすみちゃんは、最初から戦うことを前提で作戦に参加するつもりでしたけど……エマさんはあくまで説得のために同行するんですよね? そういうことなら、かすみちゃんも反対しないと思います。元より……私たちは戦いたいわけじゃないので……」


確かに、わたしたちの目的は戦うことではない。

攫われた歩夢ちゃんたちを取り戻すことが最優先だ。

あくまで戦闘は、そのための手段でしかない。
385 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:35:37.92 ID:bMcrfVdQ0

侑「なら、少しでも問題を解決する手段は多い方がいいと思うんです……。もちろん、エマさんのことは、私やかすみちゃんも一緒に守るように行動します」

エマ「侑ちゃん……。……あ、あの……お願いします……!」


エマちゃんは通信端末の前で頭を下げる。


エマ「わたしが……果林ちゃんを止めてあげなくちゃ……果林ちゃんはもう、自分の意志だけじゃ止まれないから……」


そう懇願する。


海未『…………。…………かすみにも伝えておいてください。くれぐれもエマさんに怪我をさせないように、と……』

エマ「……!」

彼方「それじゃぁ……!」

海未『はい、エマさんの作戦への同行を許可します。ただし、エマさん。貴方は戦闘員ではありません。無理な戦闘は絶対に避け、説得が出来ないと判断した場合は、即座に撤退することを頭に入れて行動してください』

エマ「は、はい!」

彼方「海未ちゃん、ありがとう〜!」

海未『彼方……エマのことは、任せますよ』

彼方「うん! 任せて!」

海未『それでは、私は人員調整に戻ります。リナから特定が順調である報告も受けているので……今日中にはまた連絡をすると思いますので』

侑「わかりました」


そう残して、海未ちゃんからの通信が切れると、


エマ「彼方ちゃん……侑ちゃん……わがまま言ってごめんね……。……ありがとう」


エマちゃんはそう言いながら、わたしと侑ちゃんを抱きしめる。


彼方「ふふ、いいんだよ。でも、連れて行くからには期待するからね〜?」

エマ「うん……! 任せて……! 果林ちゃんのことは……絶対にわたしが説得してみせるから……!」

侑「一緒に頑張りましょう……!」

エマ「うん!」


こうして、エマちゃんの作戦参加が決定したのでした。





    😈    😈    😈





──ツシマ研究所。


曜「──よーしーこーちゃーん」

善子「…………」


私が外出しようとドアを開けたとき、ちょうどそこに居た曜を見て、顔を顰めた。
386 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:36:10.58 ID:bMcrfVdQ0

善子「今忙しいから帰れ」

曜「うわ、その対応はさすがに酷くない!?」

善子「あんたと遊んでる場合じゃないのよ。それにヨハネって呼びなさいよ」

曜「別に私も遊んでる暇があるわけじゃないんだけど……」

善子「じゃあ、何しに来たのよ……」

曜「……善子ちゃん、千歌ちゃんのこと聞いた?」

善子「ああ……そのこと……」


リナの探知の結果曰く──千歌の図鑑の反応は、歩夢たちの図鑑の反応及びコスモッグレーダーがある場所とは別の場所にあったそうだ。

つまり、千歌は果林たちの手からは自力で脱出していると考えられる。


善子「あんたの予想通りだったみたいね」

曜「まあ、千歌ちゃんだからね」

善子「ふふ、そうね」


あの千歌が黙ってやられっぱなしなわけないものね。


善子「で、そんな世間話をしにきたの?」

曜「随分物騒な世間話だね……。……善子ちゃん、聞いたよ。千歌ちゃん救出作戦に志願したんだってね」

善子「ええ、自分で言うのもなんだけど、私は実力者だし、ジムリーダーや四天王たちほど動きが制限されないからね」

曜「抜け駆けしてズルい!」

善子「……めんどくさ」

曜「だから、私も千歌ちゃん救出作戦に志願したのであります!」


そう言いながら、曜が敬礼をする。


善子「……セキレイはどうするのよ」

曜「ことりさんにお願いした。……というより、ことりさんに千歌ちゃんを助けに行くように言われた。幼馴染がピンチなんだから、行ってあげてって」

善子「……相変わらず過保護なんだから……あの人は……」


まあ、確かに言いそうだけどね……。


曜「あと、海未さんから預かりものもあるし!」


そう言いながら、曜は自分のバッグをパン! と叩く。

何、預かってきたんだか……。


曜「それにそう言われて来たのは私だけじゃないよ」


そう言う曜の後ろから──人影が二つ。


ルビィ「ルビィたちも一緒に行くよ!」

花丸「作戦参加が善子ちゃんだけなんて、心配しかないからね」

善子「ルビ助!? ずら丸!?」


そこに居たのは、かつての同期たちの姿だった。
387 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:36:49.28 ID:bMcrfVdQ0

ルビィ「ルビィも……お母さんから、ジムはいいから助けに行ってあげなさいって……」

花丸「マルもにこさんから、こんな場所にいる場合じゃないでしょって、ダリアを追い出されたずら」

善子「……いや、なんでにこから追い出されるのよ」

花丸「それには海より深い理由があって、説明は難しいずら……」

善子「あっそ……」


全くこいつはいつも説明をはぐらかすんだから……。

まあ今更だし、別にいいけど……。


曜「というわけで、お邪魔しまーす!」

花丸「邪魔するずら〜」

ルビィ「あ、あの……お世話になります」

善子「いや、どういうわけよ……」


何故か、私の横をすり抜けて堂々と研究所の中に入っていく3人に突っ込みを入れる。


曜「作戦決行日まで、ここで過ごすから!」

善子「あっそ……外出するときは戸締りしてよね……」


そう言いながら、曜に鍵を投げ渡す。


曜「おっとと……! ……善子ちゃん、どこか行くの?」

善子「ちょっと野暮用があるのよ……」

花丸「野暮用ずらか?」

ルビィ「すぐに戻ってくるの……?」

善子「ええ、作戦開始までには絶対に。私が留守の間、研究所で騒いだりしないでよ? 近所迷惑になるから」

曜「はーい」

花丸「善子ちゃんが心配するようなことは何もないずら」

ルビィ「が、頑張ってね! 何しに行くのかはわからないけど……」

善子「ん。じゃあ、行ってくるわ」


私は仲間たちに背中越しで手を振りながら──ドンカラスの足に掴まり飛び立つのだった。





    👑    👑    👑





──フソウタウン。


かすみ「…………ぜぇ…………ぜぇ…………」

果南「もう……かすみちゃん、まだ13番水道抜けたところだよ? ポケモンの補助もあるんだから……」

かすみ「……かすみんには……みずタイプが……いないん、ですって……」
 「ゴーン」「スグマ」


ポケモンの補助と言っても、サニゴーンにビート版のように掴まるのと、マッスグマに引っ張ってもらうくらいです。


 「カイン」「ロアーク」「ダストダァス」「リムオン…」
388 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:38:05.59 ID:bMcrfVdQ0

他の手持ちたちも、なんだかんだで泳いで付いてきているのが偉すぎます……。

ちなみに新発見だったんですが、ダストダスはあの巨体だけど、体内にあるガスのお陰で浮くらしいです。

この知識、いつか役に立つときが来るんでしょうか……。


かすみ「……せめて……休憩を…………」

果南「仕方ないなぁ……15分休憩ね」

かすみ「じ、15分しかないの……!?」

果南「まだ4分の1くらいなんだから、あんまり休んでると今日中にコメコに帰れないよ」


むしろこの人……今日中にオトノキ地方の南半分を1周するつもりだったらしいですよ。どう考えても海渡るだけで1日掛かりますよ……。

かすみんも侑先輩と一緒に、彼方先輩と修行したかったですぅ……。

とはいえ、泣き言を言っていても、果南先輩が逃がしてくれるわけもないし……。

ポケモンたちは“げんきのかけら”を使えば元気になるけど……かすみんには食べられませんし、今もお腹がぐーぐー鳴っています……。


かすみ「はぁ……なんか出店でご飯食べよ……」


幸いフソウは港からちょっと行くとすぐに屋台がありますから……15分もあれば、何か軽く食べることくらい出来ますし……。


かすみ「さて……何を食べましょうかねー……」


キョロキョロと辺りを見回しながら、めぼしい屋台ご飯がないかを探していると──


 「──さぁ、お客さん! 世にも珍しい、奇跡の灰だよ〜!!」

かすみ「ん……?」


客を呼び込んでいる怪しいおじさんの姿。

なんか聞き覚えのある声な気が……。


かすみ「……って、あーーー!!! 前かすみんにサニーゴ売りつけたおじさん!!」

おじさん「!? あ、あのとき嬢ちゃん……!?」

かすみ「あのときはよくも、騙してくれましたね……!! なーにがサニーゴを3000円で譲るですか!! ガラルサニーゴじゃないですか!!」

おじさん「結局1500円に負けてやっただろ! それにサニゴーンに進化してるじゃないか!」

 「ニゴーン」
かすみ「ぐ……た、確かに今となっては悪い出会いじゃなかったって気はしますけど……! それとこれとは話が別です!!」


私がガルル〜とおじさんを威嚇していると、


果南「かすみちゃん? 揉め事?」


果南先輩が騒ぎを聞きつけたのか、こっちにやってきます。


かすみ「こいつ詐欺師なんです!!」

おじさん「おいおい、言いがかり付けないでくれよ」

果南「詐欺師? ……ああ、まだやってたんだ」

おじさん「は? まだやって、た……って……か、果南さん……?」


おじさんは果南先輩の顔を見ると、急に真っ青になってブルブル震えだす。
389 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:38:54.62 ID:bMcrfVdQ0

果南「前にも懲らしめたのに、懲りないねぇ……」

おじさん「か、かかか、勘弁してください……!」

果南「はぁ、しょうがないなぁ……」


そう言いながら、果南さんはポキポキと拳を鳴らす。


おじさん「ひぃぃぃぃぃ!!! し、失礼しましたぁぁぁぁ!!!」


その姿を見ただけで、おじさんは大量の道具を乗せたリアカーを引いて逃げ出してしまいました。


果南「ありゃ……まだ何もしてないのに……。もう、やっちゃダメだよ〜」

かすみ「果南先輩……どんな懲らしめ方したんですか……」


まあ、追っ払えましたし……いいですけど……。


かすみ「はぁ……なんか休憩してたはずなのに、声出したせいで無駄に疲れましたね……」


お陰でお腹の虫も文句を言っています。

ぐーぐーお腹鳴らしてるのは可愛くないから、早くご飯を──


果南「そろそろ15分だし、続き行くよ」

かすみ「……え!? う、嘘!? せ、せめてご飯食べさせてくださいっ!」

果南「運動中に固形物取ると消化不良で効率が落ちるから……はい、ゼリー飲料」

かすみ「い、いやですっ! せっかくフソウまで来たのに、こんな味気ないご飯っ!」

果南「また明日も来るんだからいいでしょ」

かすみ「明日もやるんですかっ!?」

果南「当たり前でしょ。ほら、さっさと行かないと日が暮れちゃうって」

かすみ「た、助けて、こ、殺されるー!?」

果南「死なない死なない、ほらサニータウンまで泳ぐよー」

かすみ「もう、いやーーーー!!!!」


フソウの空にかすみんの絶叫が響き渡るのでした。





    🎹    🎹    🎹





──コメコシティ。


侑「──ウォーグル!!」
 「ウォーーッ!!!!」


ウォーグルが殻を閉じたパールルに飛び掛かり、大きな爪で握り潰すように爪を立てると──

バキッ!!!


侑「!?」

彼方「あわわっ!? 侑ちゃん、ストップ、ストーーーップ!?」

侑「ウォーグル!? パールル離して!?」
 「ウォー」
390 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:39:42.71 ID:bMcrfVdQ0

指示を出すと、ウォーグルはすぐにパールルを放す。

放したパールルに彼方さんが駆け寄って貝殻の表面を撫でる。


彼方「んーっと……」

侑「ご、ごめんなさい、彼方さん……パールル……大丈夫ですか……?」

彼方「うん。すぐ止めてくれたから大丈夫だよ〜。ちょっとヒビが入っちゃってるけど……しばらくすれば、自然治癒するはずだから〜」

侑「ならよかった……」


ホッと安堵の息を吐く。


彼方「それにしても、侑ちゃん……すっごく強くなったね〜。前はパールルの殻に全く歯が立たなかったのに〜……」


彼方さんの言うとおり……前にこの浜辺で稽古を付けてもらったときは、まるで歯が立たなくて、3匹掛かりでどうにか攻略したのに……今はウォーグル1匹のパワーで殻にヒビを入れてしまった。


彼方「本当に、あのときのひよっこトレーナーがこんなに強くなるなんてね〜」

侑「あはは……確かに、あのときは本当にひよっこって感じでしたよね……」


そのせいで、歩夢とすれ違っちゃったんだっけ……。なんかもう、懐かしい気さえしてくる。


彼方「でも、本当に強くなった……彼方ちゃんも師匠として鼻高々だよ〜。あ、でも……教えてたのはちょっとだし、師匠なんて言うのはおこがましいかな……」

侑「そんなことないです! 私、彼方さんがいなかったら絶対にここまで強くなれませんでした。あのとき、彼方さんに教えてもらったお陰で、今の私があるんです!」

彼方「あ〜もう〜! 侑ちゃんったら〜、可愛いこと言ってくれるな〜うりうり〜♪」

侑「わわっ、や、やめてくださいよ〜。く、くすぐったい〜」

彼方「ふふ、そんな侑ちゃんでも、この子の防御は破れないだろうけどね〜」
 「────」


そんな風に言う彼方さんのすぐ傍には、コスモウムが浮いている。


侑「はい……コスモウムって本当に硬いんですね……」


すでに何度か挑戦しているけど……まさに規格外の硬さで今の私たちでも歯が立たない。


彼方「ふふふ〜宇宙一硬いよね〜この子〜」
 「────」


コスモウムは無表情のまま、ゆったりと私の周囲をくるくると回り始める。


彼方「あはは、壊せるものなら壊してみろ〜って言ってるのかも〜」

侑「む……じゃあ、チャレンジするよ……! イーブイ! ウォーグル!」
 「ブイ!!!」「ウォーー!!!」


私が2匹を構えると、コスモウムは余裕の表れなのか、その場でゆったりと回転し始める。


彼方「ふふ、コスモッグのときを思い出すな〜。その子、“なまいき”な子だったから〜」

侑「私たちの本気で殻が割れても怒らないでよ?」
 「ブイブイッ」「ウォーグッ」

 「────」


私を煽ってくるコスモッグに向かって、攻撃をしようとしたそのとき、


エマ「二人とも〜おやつの時間だよ〜♪ 休憩にしよ〜♪」


エマさんに呼ばれる。
391 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:40:21.80 ID:bMcrfVdQ0

彼方「わ〜おやつ〜♪ 食べる食べる〜♪ 侑ちゃんも行こ〜♪」

侑「え、えー……今からやる気まんまんだったのに……」

彼方「休憩も大事だよ〜♪ ほら、行こ行こ♪」

エマ「もちろん、イーブイちゃんたちのおやつもあるからね〜♪」

 「ブイ♪」「ウォーグ♪」


イーブイたち……私より先にエマさんの方に行っちゃったし……。


侑「まあ、いっか……コスモウムも行こっか」
 「────」


私も動きがゆっくりなコスモウムと一緒に、エマさんのもとへと向かうのだった。





    🎹    🎹    🎹





──修行をしながら日々を過ごしていたら、瞬く間に時間は過ぎて行って……。

1週間後……。


海未「──以上が今回の作戦内容になります」


コメコシティにて、明日に迫った決戦の、最後の作戦確認を行っていた。


海未「もう直通ゲートはほぼ完成しているそうです。すでに果南、鞠莉、ダイヤには幽霊船の方で待機してもらっています」

リナ『ただ逆探知の可能性も考慮して、ゲートは全員がその場所に揃ってから繋げるよ』 || ╹ ◡ ╹ ||

海未「貴方たちの突入後……少し遅れて、千歌のいる世界にもゲートを繋いで、千歌救出部隊を突入させます」

かすみ「同時には行けないんですか?」

リナ『一度繋いじゃえば問題ないけど……最初に繋ぐときだけは慎重な調整が必要だからね。繋ぐのだけは順番』 || ╹ᇫ╹ ||

海未「そういうことですね。それと最後に……。……辞退するなら、これが最後のチャンスです。……覚悟はいいですか」

侑「もちろんです」

かすみ「あったりまえじゃないですか!」

彼方「彼方ちゃん、全部に決着をつけてくるから!」

エマ「絶対に……果林ちゃんを止めてみせます」

リナ『みんながいれば怖くない! 私も全力でサポートする!』 || > ◡ < ||

海未「……聞くまでもありませんでしたね」


海未さんは嬉しそうに笑いながら言う。


海未「皆さん、この地方……いえ、この世界の未来のために……よろしくお願いします」


海未さんは深々と頭を下げる。


侑「はい、必ず歩夢たちを連れて……みんなで戻ってきます……!」

かすみ「かすみん、果南先輩の地獄の特訓にも耐えましたからね……! 大活躍してきますよ! 任せてください」
392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:41:10.22 ID:bMcrfVdQ0

それぞれの決意を口にして──

さぁ……いよいよ決戦だ……!





    🎹    🎹    🎹





あの後、彼方さんは海未さんに送られる形で、国際警察の医療施設の方へと飛んでいった。

……決戦前日の今日は、遥ちゃんと過ごしたいとのことだった。

エマさんはいつもどおり、自分の寮へ。明日の朝迎えに行くことになっている。

そして、私たちも……今日はセキレイへと帰ってきていた。


かすみ「……かすみんたち、これから世界を救う戦いに行くんですね」

侑「……そうだね」
 「ブイ…」

かすみ「旅に出たばっかりのときは……こんなことになるなんて想像もしてなかったです」

侑「私もだよ」

リナ『ごめんね、私たちの世界の事情に巻き込んじゃって……』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「別にリナ子が謝ることじゃないよ」

侑「うん。みんなで解決しよう」

リナ『……うん! ありがとう!』 || > ◡ < ||


かすみちゃんと夜のセキレイシティを歩く。


侑「そういえばさ……」

かすみ「なんですか?」

侑「かすみちゃん……このこと、お父さんとお母さんには言った?」

かすみ「はい! ローズで入院してるときに言いました! パパとママには猛反対されたけど……絶対かすみんがしず子を助けに行くんだって言い続けたら、納得してくれましたよ!」

侑「そっか……。……やっぱ、反対されるよね……」

かすみ「……? ……もしかして、侑先輩……」

リナ『親御さんに言ってないの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……うん」


きっと何を言っても心配を掛けてしまう気がして……なんて言えばいいのかわからなくて……まだ言えていなかった。


かすみ「侑先輩、それはよくないですよ……!」

侑「……だよね」


さすがに命を懸けた戦いに行くのに、家族に何も言わないのは……よくないよね。


侑「……今日、話すよ」

かすみ「それがいいです! もし反対されちゃったら、かすみんに連絡してくださいね! 一緒に説得しますから!」

侑「うん、ありがとう、かすみちゃん」

かすみ「それじゃ、かすみんこっちなんで! ……また明日です! 侑先輩もリナ子もゆっくり休んでくださいね!」

侑「うん、かすみちゃんも」
393 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:10.81 ID:bMcrfVdQ0

私はかすみちゃんと別れて──自分の家に向かう。





    🐏    🐏    🐏





彼方「遥ちゃん」

遥「…………」

彼方「ふふ、すっごくお寝坊さんだね……誰に似たのかなぁ〜?」

遥「…………」

彼方「たくさん、怖い思いさせちゃったね……ごめんね……。……でも、次遥ちゃんが目を覚ますときは、怖いことは全部解決してるはずだから」

遥「…………」

彼方「お姉ちゃん……行ってくるね。全部に決着をつけてくるから……遥ちゃんはここでゆっくり休んでて」


そう伝えてわたしは席を立つ。


職員「もう、よろしいんですか?」

彼方「はい。遥ちゃんの近くにいると、離れられなくなっちゃうから……」


本当は一緒にいたいけど……少しでも自分の中にある闘志の炎を絶やさないように……。


彼方「行ってきます。夢の中で……応援してくれると嬉しいな」


そう残して、遥ちゃんの病室を後にしたのでした。




遥「………………お…………ねぇ…………ちゃん………………?」





    🎹    🎹    🎹





自宅のマンションへと帰ってくると──ちょうど、タカサキ家から人が出てくるところに出くわす。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……」

歩夢母「あら……侑ちゃん……」

歩夢父「こんばんは」

侑「こんばんは」


挨拶を返しながら顔を見ると──二人とも少しやつれていた。

そりゃそうだ……娘の歩夢が攫われて……もう2週間以上経っているんだから。
394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:44:55.38 ID:bMcrfVdQ0

侑「あの……」

歩夢母「……ふふ、大丈夫よ」

侑「え……」

歩夢母「歩夢は……ちゃんと帰ってくるって、信じてるから」

歩夢父「今いろんな人たちが、動いてくれているとリーグの方から聞いたからね……。……きっと大丈夫だよ」

歩夢母「だから、侑ちゃんも無理しないでね」

侑「……はい」

歩夢父「それじゃ、おやすみなさい」

侑「……おやすみなさい」


ペコっと頭を下げると、二人はお隣のウエハラ家へと帰っていった。


侑「……」


1秒でも早く、歩夢のご両親を安心させてあげたい……。

そのためにも、私は……戦わなきゃ……。

思わず、自然と拳を握って立ち尽くしてしまう。すると──


侑母「侑ちゃん、いつまでそうしてるの?」


お母さんが目の前にいた。


侑「お母さん……」

侑母「おかえりなさい、侑ちゃん。イーブイちゃんと、リナちゃんも」
 「ブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||

侑母「ご飯出来てるから、冷めちゃう前に食べましょう? お父さん待ちくたびれちゃうから。あ、もちろんポケモンちゃんたちの分も用意してるからね」


そう言って、にっこり笑う。


侑「うん」
 「ブイ♪」


私は頷いて家に入る。


侑「歩夢のお父さんとお母さん……よく来るの?」

侑母「まあ……不安だろうからね」

侑「……そうだよね」


私の両親と歩夢の両親は古い付き合いらしいし……一緒にいるだけでも、不安が和らぐものだからね……。


侑母「あ、ご飯の前に手洗いうがいしなさいね」

侑「はーい」


私は洗面所で手洗いうがいをしてから──リビングに入ると……。


侑父「侑、おかえり。イーブイとリナさんもおかえり」

侑「ただいま」
 「ブイブイ♪」

リナ『ただいま』 || > ◡ < ||
395 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:45:27.93 ID:bMcrfVdQ0

お母さんの言うとおり、食卓で待っていたお父さんに出迎えられる。

そして食卓には──豪華な食事が並んでいた。


侑「うわぁ……!」

リナ『すごーい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑母「今日は侑ちゃんの好きなものばっかり作ったから♪」

侑「うん!」


私は椅子に座る前に、


侑「みんな、出てきて!」
 「ウォーグ」「…ライボ」「ニャー」「パルト」「フィオ〜♪」

 「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」「メシヤ〜」


みんなをボールから出す。ついでにドラメシヤたちも。


侑母「はーい、ポケモンちゃんたちのご飯はこっちだからね〜♪」

 「イブイッ♪」「ウォーグ♪」「…ライ」「ウニャァ〜♪」「パルト」

 「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」「メシヤ〜♪」

侑母「リナちゃんのご飯も用意できたらよかったんだけど……」

リナ『気にしないで! その気持ちだけで嬉しい!』 || > ◡ < ||

侑母「ふふ、ありがとう♪」


──お母さんが用意してくれたポケモン用のご飯をみんなが食べ始めるのを見ながら、


侑父「ふふ、随分賑やかになったね」

リナ『侑さん、旅の中でたくさん仲間が増えたから』 ||,,> ◡ <,,||

侑父「そうみたいだね」


お父さんが優しく笑う。


侑母「さぁ、侑ちゃんも冷めないうちに食べて?」

侑「うん……! いただきます……!」


からあげをお皿に取って、口に運ぶ。


侑「……おいしい……っ!」

侑母「ふふ、侑ちゃん昔から好きだったもんね、お母さんのからあげ」

侑「うん! やっぱり、お母さんの作るご飯が一番おいしい……」

侑母「もう、おだてたってなにも出ないわよ〜? あ、デザートもあるからね♪」

侑父「ははっ、侑がお母さんのことを褒めると、どんどんメニューが豪華になりそうだな」

侑「あはは♪」


当たり前の家族の会話が……なんだか、すごく幸せに感じた。

だから……だからこそ……今、ちゃんと伝えないといけないと思った。


侑「……あ、あのさ……お父さん……お母さん……」

侑母「んー?」

侑父「なんだい」
396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:46:15.20 ID:bMcrfVdQ0

二人が優しい表情で私を見つめてくる。


侑「……あ、あのね……私……」


ちゃんと、伝えなくちゃ……。息を吸って、


侑「…………歩夢を……助けに行くんだ……」


そう言葉にした。

でも、私の言葉を聞いたお父さんとお母さんは驚くどころか、


侑母「ふふ、知ってる」

侑父「わかってるよ」


優しい表情のまま、そう答える。


侑「え……?」

侑母「侑ちゃんが、歩夢ちゃんのこと助けに行かないわけないって……それくらい、お母さんたち最初からわかってるのよ?」

侑父「もしかしたら、言ってくれないんじゃないかって心配はしてたけどね」

侑「お父さん……お母さん……。……で、でもね……すごく危ないところに行くんだ……」

侑母「うん」

侑「もしかしたら……帰って、来られないかもしれない……」

侑父「大丈夫」

侑「え……?」

侑父「お父さんもお母さんも……侑のことを信じてるから」

侑「……!」


その言葉を聞いて──ふいに、頬を涙が伝った。


侑母「もう……泣くことないでしょ〜?」


そう言いながら、お母さんが席を立って、私の涙を指で優しく拭ってくれる。


侑「ご、ごめん……」

侑母「もちろんね……侑ちゃんが危ないところに行くのは心配……だけどね……侑ちゃんが自分で決めたことなんだよね? だったら、お母さんたちは侑ちゃんを信じて応援するよ」

侑「お母さん……」

侑父「ははっ、侑が泣くのを見たのは──歩夢ちゃんの旅立ちが決まったとき以来だね」

侑「!?/// お、お父さん!?///」

リナ『え? 侑さん、歩夢さんの旅立ちが決まったときに泣いちゃったの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「リナちゃんがいるのに変なこと言わないでよ!?///」


──実は私は……歩夢が旅立ちの3人に選ばれたとき、泣いてしまった。

私は小さい頃からずっとポケモンが……ポケモンバトルが大好きで、ずっとずっとトレーナーに憧れていて……。

自分もいつかは最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出ることが夢で、いつかそうなるんだって思っていたから……。

私じゃなくて──歩夢が、大切な幼馴染がそれに選ばれたことが嬉しくて誇らしかったのと同時に……なんで私じゃなかったんだろうって、悔しくて泣いてしまったんだ。

でも、そんな姿を見せたら、歩夢は絶対に旅立ちをやめてしまう。だから、気持ちはこの家の中までに留めて……歩夢にはちゃんとおめでとうと伝えた。

……その後、歩夢に旅に付いてきて欲しいとお願いされたときは、なんだかすごく安心したのを覚えている。

最初のポケモンと図鑑を貰ってではないけど……私も、ポケモンたちとの冒険の旅に出られるんだって……。
397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:47:43.99 ID:bMcrfVdQ0

侑父「お父さんとお母さんはね、ポケモンやポケモンバトルについては素人だから、詳しくはわからないけど……侑の顔と、侑のポケモンたちを見ればわかるよ」

 「ブイ♪」「ウォーグッ」「…ライボ」「ウニャァ〜」「パルト」「フィオ〜♪」

侑父「侑は素敵な仲間に恵まれて……強く、たくましくなってきたんだって」

侑「お父さん……」

侑父「あのとき、悔しくて泣いていた侑が……旅をして、大切な仲間に出会って、強くなって……大切な人を助けに行きたいと言っている。……それを応援しない親がいると思うかい?」

侑母「私たちは……いつだって、侑ちゃんの味方だよ」


お父さんが優しく笑い、お母さんが私を抱きしめてくれる。


侑「うん……、うん……っ……」


ポロポロ、ポロポロと涙が溢れてきた。


侑母「お母さんたちは……このお家で、侑ちゃんのこと、信じて待ってるから……」

侑父「侑は僕たちの自慢の娘だよ。だから、胸を張って……行っておいで」

侑「うん……っ……。……うん……!」


私はこの日、お父さんとお母さんの子供でよかったと……心の底から、そう思ったのでした。





    🎹    🎹    🎹





リナ『素敵なご両親だね』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……うん」
 「ブイ♪」


自分の部屋に戻ってきて……今はイーブイのブラッシングをしてあげている。


侑「……リナちゃん」

リナ『なぁに?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……絶対に、帰ってこよう……みんなで……!」

リナ『もちろん!』 || > ◡ < ||


それぞれの想いを胸に──決戦前夜は更けていく……。



398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:17.41 ID:bMcrfVdQ0

    🎹    🎹    🎹





──翌日。やぶれた世界。


果南「全員、揃ったみたいだね」

ダイヤ「それでは……始めましょうか」

鞠莉「OK. 座標の最終調整開始」


鞠莉さんが端末を弄りながら、最終調整を行い。


鞠莉「捕捉完了!! ダイヤ、行くわよ!」

ダイヤ「はい、いつでも!」


鞠莉さんとダイヤさんが、手にそれぞれ珠を持ち、


 「ディアガァァァ!!!」「バァァァァァル!!!」


ディアルガとパルキアが雄叫びをあげると同時に──ゲートが開通する。

私は、


侑「みんな」


みんなを振り返る。


侑「絶対に……帰ってこよう! みんなで!」
 「イッブィッ!!」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||

かすみ「当然です!」

彼方「任せろ〜♪」

エマ「うんっ!」

侑「……行くよ!!」
 「ブイッ!!!」


私たちは決戦の地に赴くために、ゲートに向かって──飛び込んだのだった。



399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/28(水) 11:48:53.79 ID:bMcrfVdQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【やぶれた世界】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:234匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:25:32.18 ID:qt5/exVx0

 ■Intermission👏



愛「……来たよ」


計器を見ながら、敵の来訪をカリンに伝える。


果林「……行きましょうか」

姫乃「はい」

しずく「仰せのままに♡」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


先導するカリンの後ろを姫乃が、そしてしずくが歩夢を乗せた車椅子を押しながら歩き出す。


せつ菜「……決戦ということですか」

果林「気が乗らないのなら、来なくてもいいのよ」

せつ菜「……いえ、行きますよ」

しずく「せつ菜さん、私のこと守ってくださいね♡」

せつ菜「……ええ」


しずく……いつの間にか、せっつーに自分を守らせてるなんて、ホント食えない子だよねー。
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 01:26:24.24 ID:qt5/exVx0

愛「んじゃ、あと頑張ってねー」

姫乃「愛さん、貴方……まさか付いてこない気ですか?」

愛「愛さんにはちょっとやることがあってね〜」

姫乃「総力戦なんですよ!? 貴方はこんなときでも自分勝手な行動を……!!」

果林「姫乃、やめなさい。愛はあくまでエンジニアよ。戦力であることを強要するのはお門違い」

姫乃「ですが……!」

果林「……それになんだかんだで、必要な行動を勝手にしてくれる。それが愛よ」

姫乃「…………」

愛「いやー愛さん信頼されてんね〜」

果林「ただ……変な行動をしたときは……わかってるわよね」


果林が鋭く睨みつけてくる。


愛「おーこわ」


その視線を適当に受け流す。


果林「……行ってくるわ」

愛「行ってら〜」


果林たちが出て行くのを見送ったのち──


愛「……さて……アタシも始めるかー……」
 「──リシャン」


リーシャンと共に、“テレポート”でウルトラスペースシップを後にした。


………………
…………
……
👏

402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:26:56.90 ID:qt5/exVx0

■Chapter062 『決戦』 【SIDE Yu】





──ゲートを潜ると……。


侑「ここが……果林さんたちの拠点世界……?」
 「ブイ…」


巨大な峡谷のような景色が広がっていた。


かすみ「……なーんか、思ったより異世界って感じしませんね……かすみんたちの世界にもこういう場所ありそう」

エマ「雰囲気はカロス地方の9番道路とかに似てるかな……?」

リナ『コウジンタウンと輝きの洞窟を繋ぐ道路だよね。確かにそんな感じだね』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「さしずめ、ウルトラキャニオンってところだね〜」


みんなが言うように、異世界という割にはそこまで私たちの世界との違いが感じられない。


侑「ここに……いるんだよね?」

リナ『うん、間違いない』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「とりあえず、立ち往生して先に見つけられると不利になるから……移動しようか〜。周囲の警戒は怠らないようにね〜」

かすみ「はーい! 了解です〜」


私たちは果林さんたちの拠点世界改め──ウルトラキャニオンを進んでいく……。





    🎹    🎹    🎹





かすみ「それにしても……向こうはかすみんたちが、こうして近くに来てることに気付いてないんですかね?」


周囲を警戒しながら峡谷を歩くかすみちゃんが、そう零す。


彼方「そんなことはないと思うけど〜……」

リナ『逆探知はされてると思う。向こうからしたら、私たちから追われるだろうってことも想定してるはずだし』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でもでも、かすみんたちが来るってわかってるなら、普通留まらないんじゃないないですか? かすみんだったら別の世界に逃げちゃいます」

リナ『いや、それはないと思う』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんで??」

リナ『理由はいくつかある。一つは離れてもまたすぐに探知されるってことがわかってるから。こっちは向こうの機器の持つ固有の情報をほとんど掴んでるし。向こうもそれに気付いてるから』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「でも、電波とかを出す機械を全部取り換えちゃえばいいんじゃないの? しゅーはすう? 的なものが変わっちゃうとこっちも見つけるのが大変になっちゃうんでしょ?」

リナ『言うほど機器を取り換えるのは楽なことじゃない。計器の中には、かなり貴重なものもあるし……それこそコスモッグを探知するレーダーはかなりコストが掛かってる。航行にはコスモッグのエネルギーも消費するし、それを捨てるのはあまりにリスキーすぎる。だからと言って逃げ回るのもエネルギーを消費するし非効率ってこと』 || ╹ᇫ╹ ||


確かに仮にコスモッグを探知するレーダーを失った状態で、コスモッグに逃げられたらウルトラスペース内のどこかの世界から脱出できなくなる可能性があるわけだ。

こっちからコスモッグ探知レーダーの周波数を使って、場所を探られたからと言って、それを捨ててしまうのはあまりにリスクが大きすぎるというのは頷ける話だ。
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:28:24.64 ID:qt5/exVx0

侑「もう一つの理由は?」

リナ『それは歩夢さんの能力が関係してる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「歩夢の……?」

リナ『ポケモンに対する引き寄せ体質を持ってる人の論文は私も昔読んだことがあるけど……。あの能力は一ヶ所に留まっていた方が効果が大きくなる』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「そうなの?」

リナ『引き寄せ体質の人から放たれるフェロモンのようなものを感知したからって、すぐさまポケモンがわらわら集まってくるわけじゃないからね』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「……まあ、それはそっか」


確かに歩夢の周りには、よくポケモンが集まってきていたけど……そこまで極端な集まり方ではなかったはずだ。

もしそうだったら、歩夢はまともに旅なんか出来ないだろうし……。


リナ『それに果林さんたちが引き寄せようとしてるのはウルトラビースト。ウルトラビーストはそもそも数も少ないだろうし……大量に捕獲するつもりなら一ヶ所に留まって、捕獲を行うのが一番効率がいいはず』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「なるほど……」

彼方「それに……果林ちゃんたちは性格的に、逃げるよりは追ってくる戦力を徹底的に叩くのを選びそうだしね〜……」

リナ『うん。私も果林さんだったら、相手の戦力を削ぐことを優先すると思う』 || ╹ᇫ╹ ||

エマ「誰も追ってこれなくなっちゃえば、場所がわかっても関係ないもんね……」

リナ『そういうこと』 || ╹ ◡ ╹ ||


確かに私の目から見ても、果林さんは実力を誇示して、相手を折るタイプな気がするし……何より、一緒の組織に属していた彼方さんやリナちゃんが言うと説得力がある……。

果林さんたちが拠点世界を変えない理由に納得していると……。


リナ『みんな、止まって』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがみんなを制止する。


彼方「みんな、一旦岩陰に入って」

侑「は、はい!」


私たちは指示通り、一旦近くの岩陰に隠れる。

隠れたところで、


彼方「リナちゃん、何か見つけたんだよね?」


彼方さんがリナちゃんにそう訊ねる。


リナ『うん。あそこの岩壁の上にウルトラスペースシップが見えた』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「え、ホントに……? なんにも見えないけど……」

リナ『私のカメラは高性能。間違いない』 ||  ̄ ᎕  ̄ ||

彼方「コスモッグレーダーの反応も近付いてるってことだよね?」

リナ『うん。ただ、この世界には衛星がないから……GPSみたいな正確な位置情報の把握までは出来ないけど……』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?」

侑「いや、それはやめた方がいいと思う……。エコーロケーションしても、ローズジム戦のときみたいに逆に見つかるだけだよ」


相手の場所がわかっても、こっちの場所がばれたら意味がない。
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:29:07.99 ID:qt5/exVx0

彼方「とりあえず……この先にいるのは間違いないと思うよ〜」

リナ『わざわざ、ウルトラスペースシップを放棄する理由もないしね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「……じゃあ、このまま進んでいけば……」

リナ『間違いなく接敵するね』 || ╹ᇫ╹ ||


いよいよ、決戦の時ということだ……。


彼方「この先に進む前に……それぞれの役割をちゃんと確認しておこっか」


彼方さんの言葉にみんなで頷く。


侑「私は歩夢を助けること」


私の目的はとにかく歩夢の救出を第一目標にしている。

場合によっては歩夢を安全な場所に避難させるために、逃げることも視野に入れるという話になっている。

……もちろん、簡単に逃げられるような相手とは思っていないけど……。


かすみ「かすみんはしず子の目を覚まして連れ戻すことです!」


かすみちゃんの第一目標はしずくちゃんの救出。

しずくちゃんは、フェローチェによる魅了の力のせいで、敵になっていると考えた方がいい……。

かすみちゃんはしずくちゃんと戦闘になってでも、どうにかしずくちゃんを無力化して相手から引き剥がす。

それが、かすみちゃんに課せられたミッションだ。


エマ「わたしは果林ちゃんのところに行ってお話することだよね!」


エマさんの目的は果林さんの説得だ。

これが出来れば、全ての戦闘をそれだけで終わらせられるかもしれない。

ただ……エマさんはバトルが得意なわけじゃないから、私たち3人でエマさんをフォローしながらということになっている。

もちろん、説得が出来ないと判断した場合には、エマさんを優先してゲートの場所まで彼方さんが逃がすという話だ。


彼方「そして、彼方ちゃんは〜……せつ菜ちゃんの足止め〜。……正直、一番荷が重いよ〜……」


そして、彼方さんの役割は……せつ菜ちゃんとの戦闘だ。

敵戦力の中でもせつ菜ちゃんの強さは頭一つ抜けていると考えた方がいい。

誰かが抑える必要はあるということで、彼方さんがせつ菜ちゃんと戦闘する担当になったんだけど……。


かすみ「自慢の防御力で時間を稼いでくれればいいんですから! かすみん、すぐにしず子の目を覚まさせて加勢に行きますから!」

侑「私も、歩夢を安全な場所に避難させたら、すぐに戦闘に戻ってきます。せつ菜ちゃんも放ってなんかおけないし……」

彼方「うん、お願いね〜」


せつ菜ちゃんに勝つには1対1では不可能と考えて、まず彼方さんが足止めをし、先に目的を達成した人が加勢に行くことになっている。

もちろん……せつ菜ちゃんを助けることも大事な目的な一つだ。

──『貴方なんかに──私の気持ちは、理解出来ませんよ……』──

まだ、あのときの言葉が胸に刺さっているけど……。それでも、このまま……何も理解出来ないままなんて嫌だから……。

──そして、最後に……。果林さんと愛ちゃんについて。


彼方「愛ちゃんもだけど〜……エマちゃんが果林ちゃんの説得に失敗しちゃった場合とかは、この二人とは無理に戦わなくてもいいからね」
405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:31:44.06 ID:qt5/exVx0

果林さんや愛ちゃんに関しては、この場で無理に倒す必要はない。

最優先は歩夢、しずくちゃん、せつ菜ちゃんを救出及び連れ戻すことだ。

もちろん、邪魔をしてくるのは間違いないだろうから……戦う必要が出てくる場面は予想されるけど……。

私に関しては歩夢を救出するだけだけど……かすみちゃんはしずくちゃんと敵対する可能性が高い分、負担は大きい。

もちろん、もっとも大変なのは彼方さんだけど……。


彼方「まあ、この作戦もあくまで、相手の戦力がこれしかいない場合だけどね……」

リナ『組織に属する人間が他にいる可能性もあるけど……それを言い出したらキリがないからね』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

彼方「とはいえ……他世界遠征作戦は基本的に限られた少人数しか参加しないはずだから……たぶん、大丈夫なはず……。イレギュラーに関しては各自柔軟に対応してね」

侑「はい!」

かすみ「了解です!」

エマ「わかった!」


私たちは最後の確認を終え、戦いへと赴きます──



彼方「……侑ちゃんは歩夢ちゃん、かすみちゃんはしずくちゃん、エマちゃんは果林ちゃん。……それぞれ助けたい人や気持ちを伝えたい人がいるけど……リナちゃんは大丈夫?」

リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

彼方「愛ちゃんと……お話し出来るかもしれないよ?」

リナ『……悩んだけど……いい』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「そう……?」

リナ『……せっかく時間が経って……璃奈の死に整理がついてるかもしれないのに……璃奈の記憶を持った私が出ていったら……辛いこと思い出させちゃうだろうから』 || ╹ ◡ ╹ ||

彼方「……そっか」

リナ『彼方さんこそいいの?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「え?」

リナ『果林さんのこと』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「……。……うん。きっと、もうわたしの言葉は……果林ちゃんには届かないから……」

リナ『……そっか』 || ╹ _ ╹ ||





    🎹    🎹    🎹





歩くこと小一時間──


侑「大分……近付いてきたね」

かすみ「……ですね」


私たちの目にも、岩壁の上に停まっているウルトラスペースシップが見えてきた。

出来るだけ目立たないように、岩壁に沿って進んでいると──峡谷の途中に、少し開けた場所が見えてきた。

大きな岩壁に囲まれているのは変わらないけど──広場のようになっていて、左側は岩壁が途切れ、空が見える。

道も続いていないところから見て、恐らくその先は崖になっているんだと思う。


かすみ「開けた場所まで来ましたね……」

彼方「気を付けてね。見晴らしがいいってことは……相手からも見つけやすいところってことだから……」
406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:33:18.30 ID:qt5/exVx0

そのとき──突然、頭上から熱気を感じ、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


咄嗟に放ったイーブイの体から発生した泡が──頭上から迫っていた炎の玉を鎮火させる。

この炎は──


果林「──へぇ……まさか、貴方たちが来るとは思わなかった」
 「コーン」

侑「……果林さん……!」


声がして見上げると……前方の岩壁の上に──果林さんが立っていた。


かすみ「不意打ちなんて相変わらずですね!!」

果林「あら、自分たちからのこのこ敵地に出向いてきて……不意打ち程度で怒らないで欲しいわ」

侑「……歩夢はどこですか」

果林「怖い顔ね……。可愛い顔が台無しよ、侑」

侑「答えてください」

果林「そう焦らないで。貴方の大切な歩夢は──ここよ」


果林さんがそう言うと──彼女の背後から、ウイーンと音を立てながら電動車椅子のようなものが独りでに前に出てくる。

そして、その車椅子の上には……。


歩夢「………………」
 「──ジェルルップ…」


頭の上に見たこともないようなポケモンを乗せ──ぐったりとしている歩夢の姿があった。


侑「……あゆ……む……?」


私の中でサァーっと血の気が引いていく。


果林「ふふ……そう、貴方の大好きな歩夢よ。素敵な姿になったでしょう?」

リナ『ウルトラビースト……ウツロイド……!?』 || ? ᆷ ! ||

彼方「果林ちゃん……歩夢ちゃんにウツロイドを寄生させたの!?」

果林「ええ、別に欲しかったのはこの子のフェロモンだけだもの」

かすみ「ひ、ひどい……」


ウツロイドというウルトラビーストが、どんなポケモンなのかわからないけど……今の歩夢はとてもじゃないけど、まともな状態でないのは一目でわかった。


侑「歩夢……」

果林「こんなになっても、ちゃんとこの子の能力は活きているけどね」

侑「っ……!!」


──まるで歩夢を道具扱いするような物言いを聞き、頭がカッと熱くなるのを感じて、前に踏み出した瞬間、


エマ「果林ちゃんっ!! もうこんな酷いことするのはやめてっ!!!」


エマさんが叫んだ。

今の今まで、私たちを煽るような物言いをしていた果林さんだったけど、
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:34:26.30 ID:qt5/exVx0

果林「……!? え、エマ……!? なんで、ここに……!?」


エマさんを認識した瞬間、露骨に動揺の色を見せる。


エマ「果林ちゃん!! 果林ちゃんがしたかったのは、本当にこんなことなの!? 誰かを傷つけてまで、酷いことしてまで、しなくちゃいけないことなの!?」

果林「……そ、そうよ……!! 私は最初からこういうことをする人間なの!!」

エマ「違うよ!! 果林ちゃんは本当は優しい人だもん!!」

果林「貴方は私に幻想を見過ぎなのよ!! ここまで来たのなら、わかっているんでしょう!? 私は……貴方の、エマの世界を滅ぼそうとしているのよ!!」

エマ「そんなの嘘だよっ!! 果林ちゃんはそんな人じゃないっ!! そんなこと心の底から望んでるはずないっ!!」

果林「……っ……! エマ、貴方に私の何がわかるの!?」

エマ「わかるよ……!! だって……だって……ずっと、果林ちゃんのこと……見てたもん……!」

果林「……だ、黙りなさい!!」

エマ「黙らないよっ!! 果林ちゃんが望んでないことして苦しんでるのに、ほっとけないもん!!」

果林「望んでないなんて、勝手に決めつけないで!! 私は私の意志で戦ってるの!!」


果林さんはエマさんの言葉に、想像以上に狼狽えていた。


果林「もし、私の邪魔するなら──」


果林さんは狼狽えながらも、手を上げ──それと同時に、


 「コーーンッ!!!!」


果林さんの背後のいるキュウコンの尻尾の先に狐火が宿る。


果林「……エマ……貴方にも、容赦しない……!!」


そう言葉をぶつけてくる果林さんに対して、


エマ「いいよ」


エマさんはそう答えて、前に歩み出る。


彼方「え、エマちゃん!? 前に出ちゃダメ……!」


彼方さんが制止しようとするけど、


エマ「果林ちゃん。私はここにいるよ」


エマさんは、彼方さんを手で制しながら、果林さんを挑発する。


エマ「わたしが果林ちゃんのこと何もわかってないって言うなら……その炎で燃やせばいい」

果林「な……」

エマ「……でも、果林ちゃんはそんなことしないって、わかってるよ。わたしは……果林ちゃんのこと、ずっと見てたから……」

果林「……っ……」


果林さんの振り上げた手が──震えていた。


エマ「……果林ちゃん……もう、やめよう……? 自分の気持ちを押し殺して……悪い人になろうとしても……悲しくなっちゃうだけだから……」

果林「う、うるさいっ……!! 私の気持ちがわかるなら……これ以上、私を惑わすこと言わないでっ!!」

エマ「なら……その炎を飛ばせばいいよ。抵抗しないから」
408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:35:05.75 ID:qt5/exVx0

エマさんが無防備に手を広げた、そのとき──エマさんの頭上に、巨大な物体の影が差した。


 「──テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
  「────」

エマ「っ!?」

彼方「エマちゃん!!」


咄嗟に彼方さんがエマさんを押し倒すように飛び付き、今しがたエマさんが居た場所に──落ちてきた巨体が轟音を立てながら、大地を割り砕く。


リナ『あわわ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「うわぁっ……!!?」
 「イブィッ…!!?」


目の前で大地が割れ砕け、巻き込まれそうになった瞬間──後ろにグイっと引っ張られる感覚。


 「──カインッ!!」
かすみ「侑先輩!? 平気ですか!?」

侑「かすみちゃん!?」
 「ブイッ!!?」


気付けば、かすみちゃんのジュカインに抱きかかえられる形で、割れ砕ける大地から離脱する。

でも──エマさんたちは、今の攻撃に巻き込まれてる……!


侑「っ……!! エマさんっ!! 彼方さんっ!!」


エマさんと彼方さんの名前を呼ぶけど──巻き起こる砂塵のせいで、二人の姿を確認出来ない。

一方──砂塵の中に、巨大なポケモンの影が見える。そして、その中から声が響く。


姫乃「果林さん!! その女の言葉を聞いてはいけません!!」

果林「ひ、姫乃!?」

姫乃「こいつらは、その女が果林さんと繋がりがあるのを知った上で、果林さんを惑わすために連れてきた……!! これは敵方の策略です!! その女の言葉を聞いてはいけませんっ!!」


姫乃と呼ばれた女の子の声が響き渡る。

──私たちの知らない敵がいる……!?


エマ「──惑わす!? 作戦!? 違うよ!? あなたはなんで果林ちゃんに戦わせようとするの!?」

侑「……!」


砂煙の中から響くエマさんの声……! エマさんは無事だ……!


姫乃「黙りなさい……!! テッカグヤ!!!」
 「────」


テッカグヤと呼ばれた巨大のポケモンの影が巨大な手を振り上げ──音を立てながら崩れる大地にダメ押しをするように、叩きつけた。


エマ「──きゃぁぁぁぁぁっ!?」

彼方「エマちゃん……っ!!!」


轟音の中響くエマさんの悲鳴と、彼方さんの声。

そして、ガラガラと地面が崩れ落ち──砂塵が落ち着いた頃には……先ほどまであった広場の3分の1ほどが、崩落してしまっていた。

そこにエマさんと彼方さんの姿は無く──テッカグヤと呼ばれていた巨大なポケモンと、姫乃と呼ばれていた女の子の姿もなかった。

恐らく、崩落に巻き込まれた二人を追撃しに行ったんだ……!
409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:36:52.91 ID:qt5/exVx0

侑「え、エマさんたちを助けにいかなきゃ……!!」

かすみ「あ、ちょっと、侑先輩!?」


着地したジュカインの腕を振り払うように飛び出し、崖の下に向かって飛ぼうとした瞬間──


果林「──“れんごく”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

リナ『侑さん、攻撃!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「!? フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──フィーーーッ!!!!」


飛んできた怨念色の炎を、咄嗟に繰り出したフィオネの“ハイドロポンプ”で消火する。


果林「…………どこに行くつもりかしら」


果林さんがこちらを睨みつけている。

その目には──先ほどまでの動揺は見てとれず、今までのような冷たい……射殺すような表情に戻っていた。


侑「……っ」


説得は──失敗した。


かすみ「救助にはかすみんが行きます!! 侑先輩は果林先輩を……!!」
 「カインッ!!!」


そう言いながら、かすみちゃんがジュカインと一緒に崖下に向かって、飛び出すけど──


 「──サーナイト、“サイコキネシス”」
  「サナ」


声がした直後、


 「カインッ!!?」
かすみ「えっ!?」


ふわりと浮き上がったかすみちゃんとジュカインが──上に押し戻されるように吹っ飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。


かすみ「っ゛、あ゛……」
 「カ、カインッ…!!!!」

侑「かすみちゃん!?」
リナ『かすみちゃん!?』 || ? ᆷ ! ||


岩壁に叩きつけられ、鈍い声をあげながら地面に落っこちるかすみちゃんに駆け寄ろうとしたとき、


 「ダメですよ、かすみさん♡ せっかく、分断出来たんだから♡」


声が響く。

その声は──私もよく知っている人物の声。


かすみ「……しず……子……っ……!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんの目的は私でしょ? 他に気を取られてないで……私と遊んでよ♡」


気付けば、果林さんの横に──しずくちゃんが立っていた。
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:38:36.62 ID:qt5/exVx0

しずく「果林さん、私はかすみさんを倒しに行っていいですか?♡」

果林「ええ……完膚なきまでに叩きのめせたら……ご褒美をあげるわ」

しずく「ホントですか!? 嬉しい♡ 頑張ります♡」


そう言いながら、しずくちゃんが崖を飛び降り──地面スレスレで、サーナイトのサイコパワーにより減速して着地する。


かすみ「……しず、子……」


しずくちゃんの名前を呼びながら、かすみちゃんがよろよろと立ち上がる。


侑「かすみちゃん、平気!?」

かすみ「これくらい……掠り傷です……」
 「…カインッ!!」

しずく「あはは♡ それでこそ、かすみさんだよ♡ もっと、私のこと楽しませて♡」

リナ『し、しずくちゃん……かすみちゃんを本気で攻撃して……』 || 𝅝• _ • ||


しずくちゃんは……かすみちゃんを攻撃して、笑っていた。

とてもじゃないけど、今目の前にいるしずくちゃんは──私たちの知っているしずくちゃんとは思えなかった。


かすみ「……全くしず子ったら……イタズラにしては……度が過ぎてるんじゃない……?」

しずく「え〜、かすみさんが私にお説教ですか〜?♡」

かすみ「イタズラしず子には……お仕置きが必要だね……!」


そう言いながら、かすみちゃんの腕に付けた“メガブレスレット”が光り輝き、


 「カイィィィィンッ!!!!!」


ジュカインがメガジュカインへと姿を変える。


しずく「うふふ♡ かすみさんが私を叱るなんて……10年早いよ♡」


そう言うのと同時に、しずくちゃんの首に提がっているブローチが眩い光を発し、


 「──サナ…」


しずくちゃんのサーナイトがメガサーナイトへと姿を変える。


かすみ「ぶん殴ってでも……目、覚まさせてあげる……」
 「…カインッ!!!」

しずく「あはは♡ 私はいつでも正気だよ♡」
 「…サナ」


かすみちゃんがしずくちゃんとの戦闘態勢に入る中──しずくちゃんの背後……崖の上にもう一つの人影……。

黒髪ストレートロングの右の髪を一房だけくくった──……私の憧れのトレーナー……。


侑「せつ菜ちゃん……」

せつ菜「……」


せつ菜ちゃんは一瞬だけ私に目を配らせたけど、すぐに目を逸らしてしまった。

直後──
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:23.80 ID:qt5/exVx0

果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「──コーーーンッ!!!!」

侑「!? “どばどばオーラ”!! “みずのはどう”!!」
 「ブーーーィィッッ!!!」「フィォーーー!!!!」


突然、果林さんの方から突然飛んできた攻撃を2匹の技で打ち消す。


果林「よそ見なんて余裕じゃない……」

侑「……っ」


果林さんから視線を外さないように、目の端でせつ菜ちゃんを確認すると──せつ菜ちゃんの視線は、かすみちゃんとしずくちゃんの方を見ていた。

なんで、そこで立ち尽くしているかはわからないけど……せつ菜ちゃんは、私よりもかすみちゃんを狙っているように見える。

それだと、かすみちゃんが1対2で戦うことになってしまう。どうにか、果林さんの攻撃を捌いて加勢に行きたいんだけど……!


 「コーーンッ!!!」


再び、果林さんのキュウコンの尻尾の先に狐火が灯る。

とてもじゃないけど、隙なんか見せてくれそうにない。

どうにかして、かすみちゃんが1対2になるのを防がないと……何か方法は……!

そう思った、そのとき、


かすみ「侑先輩!!」


かすみちゃんが私の名前を呼ぶ。


かすみ「侑先輩の目的……! 忘れないでください!!」

侑「……!」

かすみ「かすみんの心配は二の次でいいです! お互い、まずは自分の目的を果たしましょう……!!」


……そうだ、私の目的は──


 「──ジェルルップ…」
歩夢「………………」


まずは歩夢を助けることだ……!


侑「ごめん、かすみちゃん! すぐに助けに戻るから……! 行くよ、ウォーグル!!」
 「──ウォーーーッ!!!!」


私はボールからウォーグルを出して、崖上の果林さんに向かって飛び出した。



412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/29(木) 18:39:54.90 ID:qt5/exVx0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.68 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:241匹 捕まえた数:10匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:236匹 捕まえた数:14匹


 侑と かすみは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:06:46.29 ID:loIPccok0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界。


曜「──それじゃ行ってきまーす!」


曜がゲートに飛び込み──


善子「……んじゃ、行ってくるわ」


千歌救出班の最後のメンバー、善子がゲートに向かう。


鞠莉「善子。みんなのこと、お願いね」

善子「……マリーこそ、途中でへばってゲート閉じないでよ」

鞠莉「あら、善子ったら……相変わらず可愛くないわね」

善子「はいはい、私は可愛くないですよ」

鞠莉「……ふふ」

善子「なによ」

鞠莉「いつもの言わないのね」

善子「……本気で心配して言ってるときくらい……私の真名で呼ぶこと……許してやらなくもない」


そう残して──善子はゲートの中に飛び込んでいった。これで千歌救出部隊の5人全員が向こうの世界に行った。


鞠莉「……行ってらっしゃい、善子」

ダイヤ「……ふふ」

鞠莉「……なんで笑うのよ」

ダイヤ「なんだかんだで、良好な関係のようで安心しましたわ」

果南「善子ちゃんが出て行ったとき、鞠莉ったらわんわん泣いてたもんね。もっと優しくしてあげればよかったーって」

鞠莉「ちょ!?/// い、今そんな話しなくていいでしょ!?///」

ダイヤ「ほら、動揺するとゲートが閉じてしまいますわよ?」

果南「ま、おしゃべり出来る余裕があるなら大丈夫そうだけどね〜」

鞠莉「ぐ、ぬぬぬ……」


果南もダイヤも、隙を見せるとすぐからかってくるんだから……!

……ああもう、集中集中……!

恥ずかしさを紛らわすように、手に握った“しらたま”に意識を集中しようとした──そのときだった。


鞠莉「……え……?」


目の前で──明るい茶髪をツインテールに結った女の子が……先ほど侑たちが入っていった世界に繋がっているゲートに向かって飛び込んでいった。


鞠莉「な……え……!?」

ダイヤ「い、今の……!?」

果南「二人とも、ゲート不安定になってる!! 今集中切らしたら善子ちゃんたちがウルトラスペースに投げ出される!!」


そう言いながら、果南が私たちの持っている“しらたま”、“こんごうだま”に上から手を乗せる、
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 02:07:25.34 ID:loIPccok0

鞠莉「っ……!! ダイヤ!!」

ダイヤ「は、はい!!」


ダイヤと共に集中する。

果南の助けもあり……ゲートはすぐに安定し始めるけど……。


鞠莉「い、今……人がゲートを……」

ダイヤ「わ、わかっています……ですが……」

果南「……私たちはこの場を離れられない……」

ダイヤ「……こうなってしまうと……もはや、本人にどうにかしてもらうしか……」

鞠莉「この後、一般人を通すって話は聞いてたけど……今の子じゃないわよね……? 護衛も付いてなかったし……」

ダイヤ「は、はい……」

果南「……とにかく、今はゲート維持に集中しよう。人が来たら、海未に報告を頼むってことで」

鞠莉「……OK. そうだネ……」


今は自分たちの役割を全うするしかない……。

でも、今の子……誰だったのかしら……?


………………
…………
……


415 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:04:16.24 ID:loIPccok0

■Chapter063 『ハルカカナタ』 【SIDE Kanata】





 「メェ〜〜」
彼方「……ふぃ〜……危なかったぜ〜……」


“コットンガード”によって、自分の体毛をこれでもかと大きく膨らませたバイウールーの綿毛から顔を出しながら、汗を拭う。


エマ「あ、ありがとう……彼方ちゃん……。バイウールーも……」

 「メェ〜」

彼方「エマちゃん、怪我してない?」

エマ「うん、お陰様で……」


テッカグヤの攻撃で地面が崩れ落ちる中、咄嗟にバイウールーの綿毛で自分たちを包み込み、そのまま落下してきた。

バイウールーの特性が“ぼうだん”だったこともあって、崩れ落ちる岩を防げたのも大きい。


彼方「それにしても……大分落ちてきちゃったね……」

エマ「うん……」


見上げると、私たちがさっきまでいたであろう場所が遥か高くに見える。


エマ「彼方ちゃん、早く上に戻ろう……!」

彼方「……いや、まずはエマちゃんを逃がすのが先」

エマ「え……」

彼方「説得は失敗した。……当初の作戦どおり、まずはエマちゃんを戦域から逃がすのを優先するよ」

エマ「ま、待って……! もう少し……もう少しお話し出来れば……!」

彼方「……」


確かに、エマちゃんの言葉は、元仲間のわたしも驚くほど、果林ちゃんの動揺を誘っていた。

……もしかしたら……エマちゃんなら、時間を掛ければ本当に果林ちゃんを説得出来ちゃうのかもしれない。

でも……もう戦闘は始まってしまっている……。


エマ「彼方ちゃん……お願い……! もう一度、果林ちゃんのところに連れていって……!」

彼方「エマちゃん……」

 「──その必要はありませんよ」

彼方・エマ「「……!」


上空から声がして、顔を上げる。

そこには──


姫乃「……何故なら、ここで私が始末するからです……」


姫乃ちゃんが空からわたしたちを見下ろしていた。

腕のバーナーから炎を噴き出し、飛行するテッカグヤに乗って。


エマ「あ、あなたは……さっきの……」

彼方「……まさか……あなたがここにいるとは思わなかったよ〜。……姫乃ちゃん」

姫乃「…………」
416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:05:25.01 ID:loIPccok0

わたしの言葉に対して、姫乃ちゃんは返事をせずに冷たい視線だけ送ってくる。


エマ「彼方ちゃん……知ってる子なの……?」

彼方「組織に居たときに、研究班の中に居た子なんだ。……遥ちゃんと同期の子」

姫乃「……今は、実行部隊ですがね……そして、“MOON”です」

彼方「……果林ちゃんが“SUN”になったのは知ってたけど……まさか、姫乃ちゃんが“MOON”になってたとは思わなかったよ」


つまり……姫乃ちゃんは組織内のトップ2の実力にまで上り詰めたということだ。……今、愛ちゃんが組織内でどういう扱いなのかがわからないのは気になるけど……。


姫乃「ですので……コスモッグ、返して欲しいんですが? それは私が持っているはずのポケモンです」

彼方「それはだめー。第一もう進化しちゃったし」

姫乃「そうですね……全て貴方の裏切りのせいで……組織はめちゃくちゃですよ……!」
 「────」


テッカグヤのバーナーがこちらを向き──猛烈な勢いで“かえんほうしゃ”を発射してくる。


彼方「カビゴン!!」
 「──ゴンッ!!!」


咄嗟にカビゴンを出し、“あついしぼう”で炎を受けるけど、


 「カ、カビ…!!!!」
彼方「か、火力……つよ〜……!!」


特性の効果で半減されているはずなのに、猛烈な炎の勢いに気圧される。

わたしが次のポケモンを出そうとボールに手を掛けた瞬間、


エマ「ま、ママンボウ! “みずのはどう”!!」
 「──ママァ〜ン」

彼方「……!」


エマちゃんのママンボウが炎を消火してくれる。


エマ「彼方ちゃん、大丈夫……!?」

彼方「ありがとう〜エマちゃん、助かったよ〜」

エマ「わ、わたしも戦う……!」

彼方「ふふ、ありがとう〜。……でも、今は〜」


わたしは、エマちゃんの手を取り──姫乃ちゃんに背を向ける。


彼方「逃げるっ!」

エマ「ええ!?」


地上で速く動けないママンボウをカビゴンが抱え上げて、彼方ちゃんの横を走り出す。


姫乃「待ちなさい……! テッカグヤ、“エナジーボール”!」
 「────」


逃げ出したわたしたちに向かって飛んでくる“エナジーボール”を、


彼方「バイウールー!」
 「メェェ〜〜」


バイウールーが“ぼうだん”で受け止める。
417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:11.89 ID:loIPccok0

姫乃「くっ……! “ラスターカノン”!!」

彼方「ムシャーナ! “ひかりのかべ”!!」
 「──ムシャァ〜」


立て続けに飛んでくる集束された光線を、繰り出したムシャーナが“ひかりのかべ”で防ぐけど──消しきれずに光線が屈折し、彼方ちゃんたちの足元に着弾して、爆発する。


彼方「わわっ!?」

エマ「きゃぁっ!?」

彼方「か、カビゴン!!」
 「カビッ!!」


爆風に吹っ飛ばされるわたしたちを、カビゴンが先回りしてお腹で受け止める。


彼方「やっぱ、向こうはウルトラビーストなだけあって……簡単には防ぎきれないな〜……。エマちゃん、無事〜?」

エマ「へ、平気だけど……。……彼方ちゃん、わたしのことはいいから……!」

彼方「それはダメ〜。今はエマちゃんの身の安全が最優先〜!」


すぐさまカビゴンのふかふかのお腹から飛び降り、再びエマちゃんの手を引いて走り出す。


彼方「エマちゃんは戦闘のために来たんじゃないんだから、無理な戦闘は絶対にダメ〜!」

エマ「彼方ちゃん……」


出来ることなら、早く姫乃ちゃんを倒して侑ちゃんたちの加勢に戻りたいけど……エマちゃんを守りつつ、ウルトラビーストの猛攻を掻い潜って戦うのはちょっと厳しい。


姫乃「“エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「“サイコキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナのサイコパワーで防ごうとするも、軌道を少し逸らすのが限界で──彼方ちゃんたちからちょっと離れたところを空気の刃が地面を撫で、大きく抉り取る。


彼方「や、やば〜……! 当たったら、彼方ちゃんぶつ切りにされちゃうよ〜……!」


いくら防御が得意な彼方ちゃんでも、あの威力はまともに受けたらやばすぎるし、防御に集中出来ない状況じゃ受けきるのも難しい。

ただ、幸いここは峡谷……走っていたら、すぐに岩壁に挟まれた細い道が見えてくる。


彼方「とりあえず、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


彼方ちゃんたちは、細い通路へと逃げ込む。


姫乃「ちょこまかと……!」


峡谷に出来た天然の細道は、9m以上あるテッカグヤの巨体では入り込むことは出来ないような狭さだけど、


姫乃「テッカグヤ!!」
 「────」


テッカグヤはそんなことおかまいなしに、両手のバーナーによる逆噴射で加速し、無理やり岩壁を破壊しながら、彼方ちゃんたちを追いかけてくる。


彼方「ご、強引〜!!」

姫乃「“いわなだれ”!!」
 「────」
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:12:51.11 ID:loIPccok0

テッカグヤが身を振るいながら、砕いた岩壁をこちらに向かって雪崩のように崩してくる。


彼方「“テレキネシス”!!」
 「ムシャァ〜〜」


大量の岩を“テレキネシス”で浮かせて、そのまま細い天然の通路をダッシュ。


姫乃「鬱陶しい……!!」


わたしがとにかく逃げ回りながら、攻撃を捌くことしかしないからか、姫乃ちゃんの苛立ちが見て取れる。

ただ、こうして細い道に逃げてきた判断は間違っていなかったらしく、強引に破壊しながら追ってきているものの、障害物を破壊しながら進んでいる分、テッカグヤのスピードは落ちているし、何より推進力に両腕を回しているため、出来る攻撃の種類が減っている。

これなら、逃げながら捌くことも難しくない。……だけど、問題もあって……。


彼方「ま、また分かれ道……! こ、こっち……!」

エマ「う、うん……!」


峡谷の細道は、複雑に枝分かれしていて、天然の迷路のようになっていた。


彼方「え、えっと〜……さっきは右に曲がったから、方角は〜……! もう〜! ゲートはどっち〜!?」


とにかく、エマちゃんをこの世界から逃がしてあげたいけど、こんな分かれ道だらけで見晴らしの悪い場所じゃ、方向感覚も無茶苦茶になるし、ゲートがどっちだったのかもわからなくなってくる。

それにずっと走ってると──


彼方「はぁ……! はぁ……!」


息も切れてくる。彼方ちゃん、走り回るのはあんまり得意じゃないんだよ〜……!


エマ「……彼方ちゃん」

彼方「な、なに〜!?」

エマ「ゲートがある場所まで行けばいいんだよね?」

彼方「そ、そうだけど〜……!」

エマ「じゃあ、こっち……!」

彼方「え……!?」


さっきまで私が引いていたはずの手を、逆にエマちゃんに引かれる。

エマちゃんは彼方ちゃんの手を引き始めると、ほとんど迷う素振りも見せずに分かれ道を進む。


エマ「……こっち……!」

彼方「え、エマちゃん、道分かるの……!?」

エマ「わたし、自然の中なら絶対に迷わない自信があるから!」

彼方「お、おお……!」


さすが山育ち……! 大自然で育った人はそういう感覚が根本から違うのかもしれない。

峡谷にある天然の迷路は奥まって行けば行くほど、どんどん複雑に折れ曲がっていき、次第に姫乃ちゃんのテッカグヤを引き離していく。

陰に隠れる形で、視界からテッカグヤが見えなくなったところで、エマちゃんが立ち止まる。
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:13:24.35 ID:loIPccok0

彼方「はぁ……はぁ……え、エマちゃん……?」

エマ「……彼方ちゃん、わたし……足手まといだよね……」

彼方「え……? そ、そんなこと……ないけど……」

エマ「うぅん、わたしがいるから彼方ちゃんが全力で戦えてないことくらいわかるよ」

彼方「…………」

エマ「たぶんだけど……向こうもわたしが戦力じゃないことには気付いてるよね」

彼方「……そうだね」

エマ「なら、わたしのことはそんなに積極的に狙ってこない……はずだよね」

彼方「それは……そうかも、しれないけど……」


確かに向こうからしたら、出来る限りこっちの戦力を削ることに注力したいはず……。

姫乃ちゃんが一番困るのは、彼方ちゃんが侑ちゃんたちのところに戻って、果林ちゃんとの戦闘に加勢をすることのはずだし……。

戦えないエマちゃんの優先度は一番低くなるはずだ……。


エマ「なら、わたしはここから先は一人で逃げるから……彼方ちゃんは戦って……!」

彼方「え、で、でも……」

エマ「悔しいけど……わたしには戦う力がないから……。でも、彼方ちゃんには戦う力がある……それなら、彼方ちゃんの力はわたしを守るよりも、戦いに使うことに集中して欲しい……」

彼方「エマちゃん……」


確かにこの峡谷の中、迷わずに走り抜けられるなら、むしろエマちゃんが一人で逃げて、わたしが足止めを兼ねて戦闘に集中した方が効率がいいかもしれない。


彼方「……わかった。でも、絶対途中で引き返したり、一人で果林ちゃんを説得に戻ったりしちゃダメだよ? 約束してくれる?」

エマ「うん、約束する」

彼方「おっけ〜! なら、彼方ちゃん、すぐに姫乃ちゃんを倒してくるから……!」

エマ「うん!」


エマちゃんは、カビゴンが抱えていたママンボウをボールに戻し、


エマ「出てきて! パルスワン!」
 「──ワンッ!!!」


代わりにパルスワンを出す。


エマ「彼方ちゃん、気を付けてね……!」

彼方「うん! エマちゃんも」

エマ「Grazie♪ パルスワン! Andiamo.」
 「ワンッ!!!」


エマちゃんはパルスワンに乗って走り出した。


彼方「さて、それじゃ……彼方ちゃんもやりますか〜……!」


振り返ると、


姫乃「──やっと……戦う気になりましたか」
 「────」


追い付いてきた姫乃ちゃんがテッカグヤの上から、こちらを見下ろしていた。



420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:16:17.16 ID:loIPccok0

    👠    👠    👠





侑「ウォーグル!! “エアスラッシュ”!!」
 「ウォーーーッ!!!」

果林「キュウコン!! “ねっぷう”!!」
 「コーーンッ!!!!」


飛んでくる風の刃を、“ねっぷう”により無理やり吹き飛ばす。


侑「ぐっ……!?」

果林「そんな攻撃が私に届くと思ってるの? “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


空中でキュウコンとフィオネの攻撃が真正面からぶつかり合い相殺する。


果林「でも、防がれるのはめんどうね……! なら、こっちも空中戦をしてあげるわ……! ファイアロー!!」
 「──キィーーー!!!!!」

果林「“ブレイブバード”!!」
 「キィーーーッ!!!!」


ボールから飛び出したファイアローは猛加速して、ウォーグルに向かって襲い掛かる。


侑「は、はや……!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーッ!!!!」


猛突進してくる、ファイアローを爪で何とかいなしているが、そこに向かって、


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


追撃の火炎攻撃。


侑「くっ……!」
 「ウォーーーッ!!!!」


どうにか、空中で身を捻りながら辛うじて回避しているけど、あれじゃ私に近付けないわね。

そんな侑の姿を、


せつ菜「…………」


せつ菜が見下ろしながら、黙って眺めている。


果林「貴方が戦ってもいいのよ?」

せつ菜「いえ……私が戦わなくても、侑さんじゃ貴方にすら勝てない」

果林「あら……まるで貴方の方が私より強いとでも言いたげね」

せつ菜「……言葉の綾です」

果林「そう? まあ、別にいいけれど」


まあ確かに……私はまだフェローチェすら出していない。

それで苦戦している侑に勝ち目がないのは明白だ。
421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:17:30.67 ID:loIPccok0

せつ菜「それに……私はしずくさんとの約束がありますから……」

果林「しずくちゃんがピンチになったら、しずくちゃんを守ってあげるって話?」

せつ菜「……そんなところです」

果林「ふふ……律義ね」

せつ菜「……今のしずくさんは……命を投げ出すことに躊躇がありません。ですが、貴方は彼女がどうなっても……助けたりしないでしょう?」

果林「だから、自分が助けると……。まるでナイト様ね」

せつ菜「……なんとでも言ってください」


最初からせつ菜を御しきれるとは思っていなかったけど、この子の場合は最悪戦闘に参加しない可能性すらあった。だから、これはむしろいい方だ。

今現在のせつ菜は、しずくちゃんの行動ありきで動いている節がある。それを知ってか知らずか……しずくちゃんはせつ菜に自分を守らせることで、せつ菜を戦場に引きずり込んでいる。

しずくちゃんがかすみちゃんを倒せなかったとしても……ピンチになったらせつ菜が戦闘に介入する。

つまり──かすみちゃんはこの戦いに絶対に勝てない。


せつ菜「貴方はせいぜい……そっちのお姫様を取り返されるようなヘマをしないことですね」

歩夢「…………」
 「──ジェルルップ…」


せつ菜はそう吐き捨てると、視線を再びしずくちゃんの方に戻す。


果林「まあ……負ける気なんてしないけどね」


私はファイアローとキュウコンの攻撃を捌くので精一杯な侑を見て、肩を竦めた。





    🐏    🐏    🐏





姫乃「テッカグヤ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「────」

彼方「さぁ……彼方ちゃんの本領、発揮しちゃうよ〜!!」


降ってくる巨体に対して身構える。


彼方「ムシャーナ、“サイコキネシス”!」
 「ムシャァ〜〜」


ムシャーナが落ちてくる、テッカグヤをサイコパワーで押し返そうとするが、


姫乃「そんな技でテッカグヤが止められると思っているんですか……!」


もちろん、これだけじゃテッカグヤは止まらない。


彼方「バイウールー、“コットンガード”!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこもこっとバイウールーが肥大化し、落下してくるテッカグヤの落下速度をさらに緩めて、


彼方「ネッコアラ、“ばかぢから”!」
 「──コァ〜〜…!!!!」


ボールから飛び出したネッコアラが“ばかぢから”を使う。ただし、テッカグヤ相手ではない──これはカビゴンを持ち上げるための技だ。
422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:18:37.43 ID:loIPccok0

彼方「テッカグヤに向かって〜ぶん投げろ〜!!」
 「コァ〜〜!!!!」

姫乃「な……!?」


ネッコアラがカビゴンをテッカグヤに向かって放り投げ、


彼方「空に向かって〜〜〜“のしかかり”〜〜〜!」
 「カビ〜〜〜」


カビゴンが前に突き出したお腹がテッカグヤにぶつかると、柔らかいお腹にテッカグヤがめり込んで──それが弾力で戻るパワーによって、テッカグヤを弾き飛ばす。


 「────」
姫乃「きゃぁぁぁ!!?」


吹き飛ばされたテッカグヤの巨体は、そのまま岩壁に叩きつけられ──轟音を立てながら、岩壁を破壊する。

テッカグヤのような超重量級のポケモンがぶち当たったら、岩壁が木っ端みじんになるのも無理はない。


彼方「これが彼方ちゃんの本気防御だよ〜!」


姫乃ちゃんは崩れ落ちる岩壁に巻き込まれちゃったかと思ったけど、


姫乃「……やるじゃないですか……!」
 「──チリ〜ン…!!!」


今しがた繰り出したであろう、チリーンのサイコパワーで浮遊し、テッカグヤから離脱していた。


彼方「まあ、さすがにこれくらいじゃやられてくれないよね〜……」

姫乃「……その物言い、気に入らないですね……。まるで、自分の方が強いとでも言いたげで……」

彼方「そんなつもりはないんだけど〜……とはいえ、彼方ちゃん元“MOON”だからね〜。君の先輩だよ〜?」

姫乃「私は貴方を先輩だなんて思ったことはありませんよ……この裏切り者……!」
 「────」


姫乃ちゃんの言葉と共に──テッカグヤがこちらに向かって、バーナーを向けてくる。


彼方「おっと、それはやばい……!」


彼方ちゃんは攻撃の予兆を確認した瞬間、後ろに向かって走り出し、岩壁の細道に逃げ込む。


姫乃「“だいもんじ”!!」
 「────」


テッカグヤのバーナーから発射される大の字の業炎。

それを見ると同時に、


 「カビッ!!!!」「コァッ!!!!」


カビゴンが右側の岩壁を拳で殴りつけ、ネッコアラが左側の岩壁を丸太で殴打する。

それによって、ヒビが入った岩壁が崩れ落ち──


彼方「いっちょあがりぃ〜」


目の前に積みあがった瓦礫の山が、炎を防ぐ防火壁になり、それにぶつかって業炎が四散する。

でも、姫乃ちゃんもすぐに次の手を打ってきた。
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:28.17 ID:loIPccok0

姫乃「“ふきとばし”!!」
 「──テングッ!!!」


指示の声と共に、目の前の瓦礫たちが彼方ちゃんたちの方に襲い掛かるように、吹き飛ばされてくる。


彼方「わ、やばっ!? バイウールー、お願い!!」
 「メェ〜〜〜」


もこもこと肥大化するウールで、目の前から迫ってくる岩を受け止める。

そして、食い止めた岩を、


彼方「カビゴン! “ギガインパクト”〜!」
 「カビッ!!!!」


巨大なウールの中から飛び出したカビゴンが全体重を乗せた一撃で粉砕する。

目の前の岩を除去して、再び開けた視界の先では、


 「────」


テッカグヤのバーナーの先に──輝く鋼色のエネルギーが集束を始めていた。


彼方「!? そ、それはホントにヤバイって〜!?」

姫乃「“てっていこうせん”!!」
 「────」


迸り迫る、はがねタイプ最強クラスの技。

わたしは咄嗟にボールを放る──直後、“てっていこうせん”が投げたボールの場所に着弾し、爆発と共に、周囲に爆音と爆風が駆け抜ける。


彼方「ぅぅ〜〜……!!」


バイウールーのもこもこの中で身を縮こまらせながら、爆風に耐える。

そのまま耐え、爆風が止んだ頃に目を開けると──


姫乃「……っ」


姫乃ちゃんが忌々しそうな目を向けていた。

無理もないかもしれない。だって、わたしが“てっていこうせん”を防ぐために出したポケモンは──


 「────」
彼方「ありがとう……コスモウム」


コスモウムだったからだ。姫乃ちゃんにとっては因縁のあるポケモンだろう。


姫乃「人のポケモンで防ぐなんて……良い度胸ですね」

彼方「この子は彼方ちゃんのポケモンだよ〜」


そう言いながら、姫乃ちゃんの隣を見やると──


 「テング…」


いつの間にか、ダーテングの姿。

……さっきの“ふきとばし”はあの子の仕業か〜……。

ついでに言うなら……。
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:22:57.63 ID:loIPccok0

彼方「あ、暑い……」


気付けばここら一帯が強い日差しに見舞われている。

あのダーテングの“にほんばれ”だ。

そして、その日本晴れを利用するように、


姫乃「出てきなさい、ラランテス!!」
 「──ランテス」

姫乃「“ソーラーブレード”!!」
 「ランテス!!!!」


チャージタイムを省略して振り下ろされる、陽光の剣。

でも、


 「────」


真っ向からコスモウムが受け止め、バチバチと太陽のエネルギーを爆ぜ散らせながら──“ソーラーブレード”が逆に折れる。


姫乃「…………」

彼方「さぁ〜どうする〜? 攻撃、全部防いじゃったよ〜?」

姫乃「…………そろそろ……頃合いですか」

彼方「……?」


姫乃ちゃんの意味深な台詞に、わたしは一瞬身構える。

直後、ダーテングが自分の両手の葉を高く掲げると──太陽の光が反射して、


彼方「っ!?」


周囲が眩い光に包まれる。


彼方「……ふ、“フラッシュ”……?」


多少目がちかちかするけど、すぐに目を瞑れたから、視力が持っていかれるほどではなかった。

何より、このフィールドは太陽の光で照らされているため、暗所で使う“フラッシュ”程の効果はない。

ただ、


彼方「え……?」


目を開けたときには、そこに──姫乃ちゃんの姿はなかった。

そしてその直後──彼方ちゃんの頭上に大きな物体の影が差す。

ハッとして上を見ると──テッカグヤがバーナーを逆噴射しながら、彼方ちゃんの頭上を通り過ぎていくところだった。


彼方「え……?」


逃げた……? この状況で……?

姫乃ちゃんがいなくなり、さきほどまでの激しい戦闘とは打って変わってフィールドは静まり返る。

……いや……?


彼方「……なにか……聞こえる……?」
425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:24:02.27 ID:loIPccok0

何か、僅かに耳に届いてくる音がある。本当に僅かに、違和感を認識できる程度の小さな音。

ただ、自然の音ではなく、明らかに何かから発生している……ノイズのような……。

何……この音……?

音といえば……あのチリーン……最初に姫乃ちゃんを浮遊させたあと、何もしてこなかったような……。

状況が飲み込めないまま困惑しているとき、ふと──この戦場に訪れる際に、かすみちゃんが言っていた言葉が頭を過ぎった。

──『あ、それならリナ子のえこーろーてーしょん……? みたいなやつで探してみるのは?』──


彼方「……エコー……ロケーション……?」


姫乃ちゃんは何故かわたしを無視して通り過ぎていった。

そして、さっきの台詞。

──『…………そろそろ……頃合いですか』──

それら全てが頭の中で繋がって、血の気が引いていく。

姫乃ちゃんはわたしを狙っているように見せかけて── 一人で逃げたエマちゃんが、わたしから十分に離れるのを待っていたんだとしたら……!?


彼方「ま、まずい!! エマちゃん……!!」


わたしはテッカグヤを追いかけて、全力疾走で走り出した。





    🍞    🍞    🍞





エマ「パルスワン、全速力で走って……!!」
 「ワンッ!!!」


私は片手で頭を押さえながら、パルスワンに指示を出す。

さっきから、明らかに自然の音と違うものが頭に響いてきて、気持ち悪い。

恐らく……ポケモンが発している音。

しかも、その発生源が徐々に近づいてきている。

直感でわかる──この音はわたしにとって、よくない音だ。

ゲートまではまだ距離があるけど……パルスワンなら全速力で走り続けられる。

それで、どうにか逃げきらなくちゃ……!

でも、そう思った瞬間──頭上から、轟音が響き、


エマ「……!?」
 「ワフッ!!!?」


咄嗟に見上げた頭上から、大量の崩れた岩が落ちてくる。


エマ「パルスワン……!」
 「ワッフッ!!!」


無理やりブレーキを掛け、落石に巻き込まれるのをギリギリ回避するけど、


エマ「……み、道が……」


目の前の道が落ちてきた大岩のせいで、完全に塞がれてしまう。
426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:25:09.51 ID:loIPccok0

エマ「……っ! パルスワン、一旦引き返そう……!」
 「ワンッ」


すぐに戻って別の道を進むように指示を出すけど──振り返った瞬間、


エマ「きゃぁっ!!?」


──ゴォっと音を立てながら、炎が降ってきて、私たちの進路を炎の海にする。

そして、その上空から、


姫乃「……さぁ、もう逃げ場はありませんよ……」


姫乃ちゃんが見下ろしながら、私に言葉を投げつけてくる。


エマ「……ま、ママンボウ! “みずびたし”……!」
 「──ママ〜ンボ」


ママンボウをボールから出して消火するけど──


姫乃「“かえんほうしゃ”」
 「────」

エマ「きゃぁ……!?」


消火した傍から、また炎をばら撒かれる。


姫乃「……逃がしませんよ」

エマ「……っ」


どうして、姫乃ちゃんはわたしを狙うの……? まさか、彼方ちゃん……。


姫乃「彼方さんは無事ですよ」

エマ「……!」


姫乃ちゃんはまるでわたしの心を見透かしたように言う。


姫乃「……どうして自分が狙われているのか理解できないようですが……。……この場に訪れたのを見た瞬間から、わたしの狙いは貴方でしたよ」

エマ「ど、どうして……」

姫乃「どうして? それは、貴方が果林さんにしてきたことを考えれば当然でしょう?」

エマ「え……?」

姫乃「言葉巧みに果林さんを惑わして……目的遂行の邪魔をする……本当に腹立たしい……」

エマ「ち、違うよ……! わたしがここに来たのはそんな理由じゃない……!」

姫乃「なら何故、果林さんの邪魔をするんですか?」

エマ「邪魔……? むしろ、どうしてあなたは果林ちゃんを戦わせようとするの!? 果林ちゃん、あんなに苦しそうにしてるのに……! あなたたちが果林ちゃんに無理やり戦うことを強要するから、果林ちゃんはずっと一人で背負ったまま苦しんで──」

姫乃「──貴方に果林さんの何がわかるんですかッ!!!」

エマ「……!?」


心の底から怒気の籠もった言葉に、ビクリと身が竦む。


姫乃「可哀想……? 苦しんでる……? 貴方は果林さんの苦しみも、悲しみも、怒りも、憤りも、やるせなさも、何一つ理解していない……!! だから、そんな言葉が出るんです!!」

エマ「な、なに言って……」

姫乃「……果林さんの……覚悟も……知らないくせに……」
 「────」
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:26:31.96 ID:loIPccok0

直後──テッカグヤのバーナーの先に周囲の岩石を引き寄せるような、重力の球のようなものが集束され始める。


姫乃「もう……誰も……果林さんの邪魔……しないでください……お願いだから……。……果林さんの邪魔をするなら──消えてください。テッカグヤ、“メテオビーム”」
 「────」


集束された球から──極太のビームがわたしに向かって一直線に降ってくる。


エマ「……あ」


気付いたときにはもう逃げることも出来ず、頭が真っ白になる。


彼方「──コスモウムッ!!! “コスモパワー”ッ!!!」
 「────」


直後、炎の向こうから飛び込んできた彼方ちゃんが、コスモウムの技で“メテオビーム”を受け止め、それによって拡散したエネルギーが空中で大爆発する。


エマ「きゃぁ……!!」

彼方「ムシャーナぁ!! “ひかりのかべ”ぇ!!」
 「ムシャァーー!!!」


そして、爆発の衝撃をムシャーナが壁を作り出して、防いでくれる。


エマ「か、彼方ちゃん……」

彼方「はぁ……はぁ……ま、間に合った……」

エマ「か、彼方ちゃん、火傷してる……!!」


気付けば、彼方ちゃんは服のあちこちが焼け焦げ、脚は痛々しく赤く腫れている。

わたしを助けるために、炎の海を突っ切ってきたからだ……。


エマ「ママンボウ……!」
 「マ〜ンボゥ」


ママンボウが彼方ちゃんの患部に身を寄せる。ママンボウの体を覆う粘液には、傷を治す効果がある。


エマ「ごめんね、彼方ちゃん……わたしのせいで……」

彼方「これくらい掠り傷だよ〜……エマちゃんこそ、無事……?」

エマ「う、うん……」


彼方ちゃんは私の安否を確認すると、


彼方「……姫乃ちゃん。今の組織は非戦闘員にまで執拗な攻撃をするようになってるの?」


そう言いながら、姫乃ちゃんを睨みつける。普段温厚な彼方ちゃんにしては珍しく……わたしでもわかるくらいに怒気の込められた声だった。
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:29:16.97 ID:loIPccok0

姫乃「…………そもそも、貴方も貴方です、彼方さん」

彼方「質問に答えてくれないかな」

姫乃「果林さんの痛みを理解していながら……何故、平気で裏切れるのか……私には理解できない……。貴方も“闇の落日”を見たでしょう? “虹の家”で育った子たちを知っているのでしょう……?」

彼方「…………」

エマ「“闇の落日”……? “虹の家”……?」

姫乃「知らないようなので教えてあげますよ……。私たちの世界は常に少しずつエネルギーを失い崩壊していっていますが……世界のエネルギーの喪失がある基準を超えた瞬間、一気に崩壊が進むんです……。それによって、7年前、大規模な大災害が起こった……それが“闇の落日”です。この落日によって多くの人が住む家を、家族を……そして故郷を……失った」

彼方「……。……そのときにたくさんの子供が孤児になって……それを受け入れていたのが、わたしのお母さんが作った……“虹の家”って場所だったんだ。……お母さんは、もう病気で亡くなっちゃったけど……」

姫乃「そして……果林さんはその“虹の家”に住んでいました」

エマ「え……」


じゃあ、果林ちゃんは……。


姫乃「目の前で……たくさん友人が瘴気の中で血を吐き、崩落する山に大切なポケモンたちが巻き込まれ、割れる大地に最愛の家族が飲み込まれ……故郷の島が毒の海に沈んだ……。たった一晩で……遺品や遺体どころか、自分の住んでいた場所さえ、影も形もなくなった……。果林さんは……そんな島の、唯一の生き残りなんです……」

エマ「そん……な……」

姫乃「それでも、果林さんは気丈だった。自分と同じ想いをする人がこれ以上生まれないようにと、自分の世界を守る道を選んだ。……それの何が間違ってるんですか? おかしいんですか? 果林さんの気持ちがわかる……? 苦しみがわかる……? 私には、そんな言葉を軽々しく口にする貴方の方がよほど理解出来ない……!! あの人の苦しみはわかってあげたくても……どんなに想像しても……計り知れないじゃないですか……」

エマ「…………」


わたしは、果林ちゃんの境遇を知って……言葉を失ってしまった。


姫乃「……他者を傷つけることを望んでない? そんなの当たり前じゃないですか……! ただ、自分たちか自分たち以外かを選ばなくちゃいけないから選んだだけです……! それを覚悟するのに、果林さんが何も思わなかったと本当に思うんですか!?」

エマ「それ、は……」

姫乃「貴方の言葉は、そんな果林さんの覚悟を踏みにじる言葉です……!! 果林さんが助けられなかった人たちを侮辱する言葉……!! だから私は、果林さんを惑わす貴方を……許さない……!!」
 「────」


怒りの言葉と共に──テッカグヤが岩壁を破壊しながら、“ヘビーボンバー”で落下してくる。


彼方「ムシャーナ!! “サイコキネシス”!! バイウールー!! “コットンガード”!!」
 「ムシャァァ〜〜!!!」「メェ〜〜〜」

姫乃「また同じ手ですか……。なら、これならどうですか……──行きなさい、ツンデツンデ!!」
 「──ツンデ」


そう言いながら、姫乃ちゃんが投げたボールから──もう1匹巨大なポケモンが飛び出してくる。


彼方「……!? 2匹目のウルトラビースト!?」

姫乃「ツンデツンデ!! “ヘビーボンバー”!!」
 「ツンデ」

彼方「……っ……!!」


彼方ちゃんが、わたしを全力で突き飛ばす。


エマ「……!? 彼方ちゃん!?」

彼方「エマちゃん……逃げて……!!」


直後──


 「ムシャァ〜〜…!!!」「メェェェェ〜〜〜!!!!」


ムシャーナとバイウールーが上から落ちてくる2つの巨体に巻き込まれ──轟音を立てながら、大地が割り砕け、それによって発生した衝撃波で、身体が宙を浮く。
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:05.38 ID:loIPccok0

エマ「きゃぁぁぁぁ……!? え、エルフーン!!」
 「──エルッフ!!!」

エマ「“わたほうし”!!」
 「エルフーー」


吹き飛ばさながらも咄嗟に出したエルフーンが、周囲に綿毛をまき散らし──その綿毛に包まれたまま、地面に墜落する。

ただ……衝撃を殺しても、あまりに勢いが強かったからか、


エマ「あ……ぐ……ぅ……」


身体を強く打ち付け、痛みに悶える。


 「エ、エルフ…」
エマ「だ、大丈夫……だよ……」


心配そうに鳴くエルフーンを撫で、痛みに耐えながら身を起こすと──目の前は先ほどまで峡谷だったとは思えないような光景になっていた。

岩壁が消滅し、大地は爆弾でも落下したかのように、大地が割れ砕けていた。

結構な距離を吹き飛ばされたのか──離れたところにテッカグヤとツンデツンデの姿が見え……砕けた岩の隙間に──彼方ちゃんが倒れているのが見えた。


エマ「か、彼方ちゃん…………!!」


助けに行こうと立ち上がろうとして、


エマ「いた……っ……!!」


強烈な痛みを足に覚え、わたしはその場に転んでしまう。

痛みの場所に目を向けると──足首が赤く腫れていた。ずきずきと痛む足……よくて捻挫……最悪、骨が折れているかもしれない。


エマ「彼方ちゃん……っ……」


今すぐにでも助けに行きたいのに、わたしの身体は言うことを聞いてくれなかった……。





    🐏    🐏    🐏





──薄っすらと目を開けると……空が見えた。


彼方「……さ、すがの彼方ちゃん……も……死んだと、思った……ぜ〜……」


2匹の落下の衝撃で吹っ飛ばされ、砕けた岩石が降り注ぐ中──彼方ちゃんはどうやら奇跡的にその間にすっぽり嵌まる形で助かったらしい。

それに加えて……。


 「マ、マァ〜ン…」


ママンボウの粘液が、私を守ってくれたらしい。


彼方「ありがとう……ママンボウ……水がなくて、苦しいかもしれないけど……ちょっと、休ん、でて……」
 「マ、マァン…」


よろよろと身を起こす。全身が壊れそうに痛むけど、


姫乃「……本当に悪運の強い人ですね」
430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:30:55.63 ID:loIPccok0

まだ戦闘は終わっていないから、休んでいるわけにはいかない。


彼方「……ウルトラ、スペースシップ……壊されても……生きてたから、ね……運には……自信、あるんだよね……」


言葉を返しながら周囲を素早く確認する。

フィールドに降り立ったテッカグヤとツンデツンデ、そして2匹の落下によって割り砕かれた大地には、


 「ムシャ…ァ…」「メェェ……」「……ワ、ン」


彼方ちゃんのムシャーナやバイウールだけでなく、エマちゃんのパルスワンも大ダメージを受けて戦闘不能になっていた。


彼方「まさ、か……姫乃ちゃん、が……ウルトラビースト……2匹も、持ってるとは、思わなかった、よ……」

姫乃「……悔しいですが、私は“MOON”でありながら、果林さんの実力には遠く及ばない。……だから、果林さんは優先して私にウルトラビーストを持たせてくれたんです」
 「────」「ツンデ」

彼方「なるほど……ね……」


さすがにこれは想定外だった。テッカグヤだけなら、どうにかなったかもしれないけど……もう1匹、大型ウルトラビーストのツンデツンデがいるとなると話が変わってくる。

でも、姫乃ちゃんは待ってくれるはずもなく、


姫乃「ツンデツンデ、“ジャイロボール”」
 「ツンデ」


ツンデツンデが体を構成する石垣を組み替え──球状になって、高速で回転しながらこちらに迫ってくる。

あの巨体……潰されたらもちろんお陀仏。


 「ツンデ」


割れ砕けた岩石が散乱するフィールドをまるで意にも介せず、すべてを踏みつぶしながら迫るツンデツンデ。

直撃まであと数メートルというところで──わたしの足元からポケモンが飛び出す。


 「────」
彼方「“コスモパワー”……!!」


──ガィィィンッ!!! と音を立てながら、飛び出してきたコスモウムがツンデツンデを弾き返す。

弾き返されたツンデツンデは、ゴロゴロと後ろに転がったあと、再び元の角ばった形に自分を組み替えなおして、こちらを見つめてくる。
431 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:32:38.61 ID:loIPccok0

 「ツンデ」

彼方「……どんな、もんだ〜……彼方ちゃんの、防御力は……無敵だぞ〜……」

姫乃「……彼方さん、貴方はどこまでも受動的ですね」

彼方「……?」

姫乃「貴方が動くときは……いつも自分からではなく、周りの人間が動いてからなんですよ」

彼方「……何が、言いたいの……」

姫乃「貴方が“MOON”まで上り詰めておきながら……組織を裏切った理由。……それは遥さんではないですか?」

彼方「……!? は、遥ちゃんは関係ない……!!」

姫乃「やはり、図星ですか。……遥さんは争いを好まない人でしたからね。差し詰め、計画を知った遥さんから、何か言われたのが原因で逃げ出したんじゃないですか?」

彼方「ち、ちが……っ」

姫乃「いつも飄々としているのに、随分狼狽えているじゃないですか。それでは、遥さんに何を言われたのか、当ててあげましょうか? 『誰かを傷つけてまで、自分たちが助かるなんて間違ってる』。違いますか?」

彼方「……っ」

姫乃「ほら、やっぱり。結局貴方は人の言葉で動いているだけ。自分の意志もなく、ただ周りの誰かの意見に乗っかっているだけの受け身人間。そういう考えが、戦い方にも現れてるんじゃないですか? だから、貴方は防御ばかりする」

彼方「…………」

姫乃「そんな自分の意志がない人だから──ちょっと揺さぶられただけで、足元がお留守になるんです」

彼方「……っ!!?」


急に地面が揺れ、ただでさえ不安定な岩の山がガラガラと音を立てて崩れ始める。


彼方「“じしん”……!? しまっ……!!」


ツンデツンデの“じしん”によるものだと気付いたときには、もう時すでに遅し。わたしは崩れ落ちる岩に巻き込まれて、滑り落ちる。

滑落しながら、わたしの全身に大小様々な岩が衝突し、


彼方「い゛、っ゛……ぁ゛……」


“いわなだれ”が収まった頃には、全身がズタボロになっていた。

身を起こそうとするけど、


彼方「ぁ゛……ぐ……ぅ……」


全身に激痛が走り、思わず呻き声をあげる。

全身打ち身だらけだし……右腕とあばら骨辺りは痛み方からして、たぶん折れてる……──あ、ヤバイ……。痛みで意識が朦朧としてくる。

ぼんやりする思考の中で──あのときの遥ちゃんと話したことが脳裏を過ぎる。



──────
────
──


遥「お姉ちゃん……!!」


青い顔をして、遥ちゃんが私の部屋に飛び込んできた。


彼方「遥ちゃん? どうしたの?」

遥「お、お姉ちゃん……これ、本当……?」


震える声で遥ちゃんが差し出してきたのは──ある書類だった。

それは、わたしが“MOON”に昇格する旨の書かれた辞令。
432 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:34:26.74 ID:loIPccok0

彼方「実行部隊のお姉ちゃんのお部屋に入ったの?」

遥「それに……この計画書……」

彼方「……ダメだよ、勝手に入っちゃ……」

遥「誤魔化さないで……! これに書いてあること……ホントなの……?」

彼方「それは……」


そこに書いてあった計画書には……ざっくりと他世界を衰退させることによって、わたしたちの世界を再生する計画が記されていた。

まだ、幹部クラスの人間にしか知らされていない、今後の組織の方針内容だ。


遥「私たち……こんなこと、しようとしてたの……?」

彼方「遥ちゃん……」

遥「自分たちが助かるために……他の世界の人たちを犠牲にしようとしてるの……?」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは……こんなことに賛成してるの……?」

彼方「ち、違うよ……! ……彼方ちゃんも、反対はしてるけど……なかなか上層部は聞き入れてくれなくって……」


それに彼方ちゃんはつい最近、愛ちゃんが“SUN”を外れた結果、繰り上がりで“MOON”に昇格しただけで発言権がそこまで大きくないし……。

なにより……反対派だった、璃奈ちゃんと愛ちゃんが二人ともいなくなったせいで、今は特に賛成派の意見が強くなっている。


彼方「あんまり、大きな声で反対したら……きっといい顔されない。お姉ちゃんはそれでも大丈夫だけど……きっと、妹の遥ちゃんまで、そういう目で見られることになる……」

遥「そんな理由で守られても嬉しくないよ……!」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「このままじゃ……異世界間で侵略戦争になっちゃう……。私たちがこんなことに加担してるなんて知ったら……死んじゃったお母さんが……悲しむよ……」

彼方「…………」


──この崩落する世界の瘴気にやられて身体を壊し……1年ほど前に他界したお母さんは、孤児院を作って多くの子供たちを受け入れていた人だ。

残り少ない資源しか残っていないこの小さな世界だから……譲り合って、助け合って、お互いを守り合おうと、そんな理念で、孤児院を運営し……わたしたちを育ててくれた。


彼方「…………」


確かにお母さんは悲しむかもしれない。

だけど……それだけじゃ、遥ちゃんを守れない……。

でも、悩むわたしに向かって、遥ちゃんは……。


遥「お姉ちゃん……。……どんな理由があっても……誰かを助けるために、誰かが傷つくことを肯定するなんて……間違ってる……」

彼方「遥ちゃん……」

遥「もし、それを肯定しないとここに居られないなら……こんなところに無理に居続けなくていい……」

彼方「…………」

遥「お姉ちゃんは幹部だから……そんな簡単に組織を抜けられないのもわかってる。……だから……私と一緒に逃げよう」

彼方「……遥ちゃん……? 逃げるって……」

遥「ウルトラスペースシップを使って……他の世界に逃げて、真実を伝えて匿ってもらおう……!」

彼方「そ、そんな、無茶だよ……! 第一、お姉ちゃんウルトラスペースシップの操縦なんて出来ないし……」

遥「ほとんど自動操縦だから、簡単な起動が出来れば大丈夫……! それに私は研究班で、起動方法くらいは習ってる……!」

彼方「遥ちゃん……本気……?」

遥「……本気だよ」

彼方「…………」
433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:35:33.02 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最後は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
434 :>>433 訂正 ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:38:42.47 ID:loIPccok0

遥ちゃんの言っていることを実行するのは即ち……政府への反逆を意味している。

もし途中で捕まるようなことがあれば……無事じゃ済まない。


遥「……自分たちのために……誰かを犠牲にする世界なんて……私、嫌だよ……」

彼方「……遥ちゃん……」

遥「それに……お姉ちゃんが誰かを傷つけることなんて……耐えられないよ……」

彼方「…………遥ちゃん」


わたしは、遥ちゃんをぎゅーっと抱きしめる。


遥「お姉ちゃん……?」

彼方「…………遥ちゃんは強い子だね……」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「……もう、戻ってこられないよ」

遥「……わかってる」

彼方「……捕まったら……殺されちゃうかもしれない」

遥「……わ、わかってる……」

彼方「それでも……お姉ちゃんと一緒に、ここから逃げてくれる……?」

遥「……うん」

彼方「……わかった。それじゃあ、一緒に逃げよう」

遥「……! お姉ちゃん……」

彼方「ただ、お姉ちゃんの手……絶対に放しちゃダメだからね……!」

遥「……うん!」


──その後、わたしは数日後に渡される予定だったコスモッグを奪取し……ウルトラスペースに逃げ込んだのち、果林ちゃんのフェローチェにウルトラスペースシップを破壊され……“Fall”となった……。


──
────
──────



──ああ……これが走馬灯ってやつかな……。

姫乃ちゃんの言うとおり……わたし……人に流されてばっかりなのかな……。


姫乃「……もう、限界のようですね」


姫乃ちゃんの声が聞こえる。


姫乃「……最期は苦しまずに死ねるように、首を落としてあげますよ。……せめてもの情けです」
 「────」


テッカグヤが腕を振り上げる音が聞こえる。


姫乃「テッカグヤ、“エアスラッシュ”」
 「────」


そして──空気の刃が彼方ちゃんに向かって飛んでくる。


彼方「──ごめ、んね……はる、か……ちゃん……」
435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:39:31.35 ID:loIPccok0

──お姉ちゃん……もう、死んじゃう……みたい……。

もう身体に力も入らない……。ごめんね……。

心の中で謝った、瞬間。


 「──お姉ちゃんっ!!!!」

彼方「え……?」

姫乃「……な……!?」


走り込んできた影が──わたしを庇うように、飛び付いてきた。

影はわたしを抱きしめたまま、二人で転がるようにして、“エアスラッシュ”をギリギリで回避する。

誰かが、助けてくれた……? いや、誰かなんて、言うまでもない。

わたしがこの声を聞き間違えるはずがない。

全身に走る激痛を堪えながら、顔を上げる。

すると、そこには、


遥「おねえ、ちゃん……間に合って、よかった……」


他の誰でもない──わたしの世界で一番大切な妹が、


彼方「遥ちゃん……!!」


遥ちゃんがいた。

そして同時に──手にぬるりとした感触がする。

それは──血だった。


彼方「遥ちゃん……!? “エアスラッシュ”が……!?」

遥「えへへ……掠っちゃった……みたい……」

彼方「い、今すぐ治療を……!!」

遥「お姉ちゃん……」

彼方「遥ちゃん……!? なに……!?」

遥「……誰かを守ることを……迷わないで……」

彼方「え……」

遥「……お姉ちゃんの力は……誰かを守る力だから……。……お姉ちゃんにしか出来ない……優しい、強さだから……」

彼方「遥……ちゃん……」

遥「だから……負け、ないで……」


遥ちゃんがカクリと崩れ落ちる。


彼方「遥ちゃん……!?」

遥「…………」


すぐさま、首筋に指を当てると──辛うじて脈はまだある。

彼方ちゃんが全身の激痛に耐えながら立ち上がると──


 「…ママァン…」


気付けば、満身創痍なはずのママンボウが岩石の上を跳ねながら、わたしたちのすぐ傍まで来ていた。

きっと、崩れ落ちる“いわなだれ”に一緒に巻き込まれて、落ちてきたんだ……。
436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:40:13.87 ID:loIPccok0

彼方「ママンボウ……苦しいかもしれないけど……遥ちゃんの治療、出来る……?」
 「ママァ〜ン…」

彼方「ありがとう……お願いね……」


ママンボウの粘液の治癒効果は、医者いらず薬いらずと言われるほどだ。

満身創痍だとしても、安静に出来る場所さえあれば、遥ちゃんの治療も出来るはず。

遥ちゃんをママンボウに任せて──わたしは全身に力を込めて、真っすぐ立つ。


姫乃「……大した姉妹愛ですね」


目の前には姫乃ちゃんの姿。


姫乃「大人しく……当たっておけば苦しまずに済んだでしょうに……」
 「────」


テッカグヤがこちらに、バーナーを向けてくる。


姫乃「……お望みなら、姉妹まとめて……消し去ってあげます。……“かえんほうしゃ”!!」
 「────」


バーナーから噴出される“かえんほうしゃ”がわたしたちに迫るけど──炎はわたしに当たる直前で、まるでわたしたちを避けるように左右に枝分かれする。


姫乃「……なっ!?」


その炎の枝の根本には──


 「──パルル」

姫乃「パー……ルル……?」


パールルが炎を防ぎきっていた。





    🐏    🐏    🐏





……わたしたちが“Fall”になって、4年くらい経ってるから……お母さんが死んじゃったのはもう5年くらい前になるのかな。



──────
────
──


彼方「──お母さん、見て見て〜お弁当作ってきたよ〜♪」

彼方母「……ふふ、いつもありがとう、今日は看護師さんに叱られなかった?」

彼方「あーあの看護師さん怖いよね〜。『病院の方で栄養管理をしているので!』って〜。でも、今日はすんなりいいよって通してくれて拍子抜けだったよ〜」

彼方母「ふふ、そっか♪ はるちゃんは?」

彼方「遥ちゃんは今日は研究班の研修〜。遥ちゃんすごいんだよ〜? 同期の中では成績トップなんだって〜」

彼方母「ホントに? はるちゃんも頑張ってるんだ〜……お母さん嬉しい」

彼方「うん、遥ちゃんすっごく頑張ってるんだ〜わたしも鼻高々だよ〜」


遥ちゃんのことを褒められると自分のことのように嬉しい。もちろん、お母さんが褒めたとしてもだ。
437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:00.41 ID:loIPccok0

彼方「はーい、それじゃあーん♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、こらこら、ウールーには後でちゃんとあげるから。これはお母さんの分」
 「メェ〜」

彼方母「ふふ♪ 別にウールーにあげてもいいわよ?」

彼方「いいの〜これはお母さんの分だから。はい、あ〜ん♪」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい〜? その出汁巻き卵、自信あるんだけど〜」

彼方母「うん♪ すっごくおいしい♪ かなちゃんまた腕を上げたね〜」

彼方「えへへ〜そうでしょ〜。お母さん絶対この味好きだろうな〜って作ったから〜」

彼方母「うん。かなちゃんの優しさがたくさん詰まってて……おいしい。かなちゃんは誰かの心に寄り添える子だから、きっと料理が向いてるんだね」

彼方「て、照れちゃうな〜……でも、本当にそうなら嬉しい……えへへ♪」

彼方母「でも、すっかりお母さんよりも料理上手になっちゃって……そこはお母さんちょっと寂しい……」

彼方「ええ〜? お母さんに比べたら、まだまだだよ〜……お母さんの料理からまだたくさん盗みたいから、早く退院して戻ってきて欲しいな〜。そうだ! 退院したらピクニックに行こうよ〜♪ 遥ちゃんと3人で〜♪」
 「メェ〜」

彼方「あ、ごめんごめん……もちろんウールーも一緒だよ〜」
 「メェ〜」


そう言いながら、お箸で次のおかずを取ろうとすると、


彼方母「かなちゃん」


お母さんがわたしの名前を呼ぶ。


彼方「んー?」

彼方母「……お母さんね──もう……長くないんだって」


わたしの手が止まる。
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:41:41.17 ID:loIPccok0

彼方「…………そうなんだ」

彼方母「うん。……もう、全身が瘴気に侵されちゃってて……ダメみたい。落日のときに……たくさん瘴気を吸いすぎちゃったみたいで……それで、身体のあちこちがもうボロボロなんだって」

彼方「…………あと、どれくらい?」

彼方母「1ヶ月持てば……良い方みたい」

彼方「……そっか」

彼方母「あんまり驚かないんだね」

彼方「……お母さんが突然倒れたときから……なんとなく覚悟してたから」

彼方母「そっか……。せっかく、お父さんが身体張って助けてくれたのにね……」

彼方「……そうだね……はい、あーん」
 「メェ〜」

彼方「だから、ウールーの分は後でだってば〜……はい、お母さん、あーん」

彼方母「あーん」

彼方「おいしい?」

彼方母「うん、おいしい♪ 出汁がよく効いてて……」

彼方「……実はね〜」

彼方母「んー?」

彼方「今日の卵焼き、本当は甘いやつなんだ〜……」

彼方母「…………そっか」

彼方「……やっぱり……もう、味……わかんないんだね」

彼方母「あはは……やっぱ、バレちゃってたか」

彼方「うん。実は……結構前から、なんとなく……」

彼方母「そっか……」


ずっと私のご飯をおいしいおいしいと言って食べてくれていたから……信じたくはなかったけど……。

もう……味覚も感じられないくらいに……身体が壊れかけている……。きっと味覚だけじゃない……あちこちが、もう……。

そのとき──お母さんがわたしの頭を抱いて、自らの胸に抱き寄せる。


彼方母「……あなたたちを残して先に逝っちゃうけど……ごめんね」

彼方「うぅん、いいよ……悲しいけど……お母さんがお母さんでいてくれて……わたしはすっごく幸せだったから」

彼方母「ありがとう……。……かなちゃんは強いね……」

彼方「……お姉ちゃんだからね〜」

彼方母「……そっか。はるちゃんのこと……よろしくね……」

彼方「任せて〜。遥ちゃんのことは、わたしが何が何でも守ってみせるから〜」

彼方母「ふふ、頼もしい♪」

彼方「うん。……だって、お母さんの子だもん。頼もしくて当然だよ」

彼方母「そっか。……かなちゃんの優しさで……たくさんの人を、たくさんのポケモンを……守ってくれたら……お母さん嬉しいな」

彼方「うん」


ただ、お母さんが優しくわたしの頭を撫でてくれる。そんな静かな病室の中で、


 「メェ〜〜」


事情がわかっているのかわかっていないのか……ウールーの気の抜ける鳴き声が昼下がりの穏やかな病室の中で、木霊するのだった。


──そして、この日からちょうど1ヶ月後に……お母さんは静かに息を引き取った。
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:15.14 ID:loIPccok0

──
────
──────


姫乃「パールル1匹で……テッカグヤの攻撃を防ぎ切った……!?」

彼方「ごめんね……遥ちゃん……。……お姉ちゃん……迷ってばっかりだ……」

遥「…………」


大好きな大好きな遥ちゃんをぎゅっと抱きしめて、そう伝える。


彼方「でも……もう、迷わないよ……」


伝えて──立ち上がった。


彼方「パールル、ここで遥ちゃんのこと、守ってね」
 「パルル」


わたしはボールからポケモンたちを出す。


 「──カビッ」「──コァ〜」


ボールから飛び出したカビゴンとネッコアラ、そして──


 「────」


コスモウムと一緒に姫乃ちゃんに向かって歩き出す。


姫乃「……さ、さっきのはきっとまぐれです……! “エアスラッシュ”!!」
 「────」

彼方「ネッコアラ、“ウッドハンマー”」
 「コア!!」


わたしが左手で方向を指差しながら指示をしたネッコアラの“ウッドハンマー”は、テッカグヤの“エアスラッシュ”を弾いて逸らし──弾かれた空気の刃が岩石を豆腐のように切り裂きながら明後日の方向へと飛んでいく。


姫乃「う、嘘……? ら、“ラスターカノン”!!」
 「────」

彼方「コスモウム、“コスモパワー”」
 「────」


集束された光のレーザーは、わたしが指差した先に移動したコスモウムが、芯で捉えるように受け止めると、その場で霧散する。


姫乃「ツンデツンデ……!! “ロックブラスト”!!」
 「ツンデ」

彼方「カビゴン、ネッコアラ」
 「カビッ」「コァ」


飛んでくる岩石の砲弾を一つ一つ指差し、


 「カビッ」「コァ!!!」


それをカビゴンの拳とネッコアラの丸太が、正確に撃ち落としていく。


姫乃「……な、なにが起こっているんですか……!?」


姫乃ちゃんが動揺して、半歩身を引く。
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:42:48.47 ID:loIPccok0

彼方「……前に、千歌ちゃんが言ってたんだ。攻撃には……芯があるんだって」

姫乃「な、なに言って……」

彼方「千歌ちゃんは攻撃の芯を相手に的確に当てることによって、必殺の一撃を繰り出すんだってさ」

姫乃「だ、だから……!! 何を言っているんですか、貴方は……!?」

彼方「……でも、わたし思ったんだよね。芯があるのは攻撃だけじゃないんじゃないかな〜って。……防御にも芯はあるんじゃないかって」


ポケモンにとって最も効率的に攻撃を通せる芯があるように──防御にも、最も効率よく防御を通せる芯があるんじゃないかって。


彼方「なんか今……それが見える気がするんだ」

姫乃「そ、それ以上近寄らないでください……!! ツンデツンデ!! “ジャイロボール”!!」
 「ツンデ」


ツンデツンデが丸い形に石垣を構築しなおし、高速で回転しながら、飛び出してくる。

猛スピードで転がってくるツンデツンデに対し、すっと指を真っすぐ前に出し、そこに向かって、


 「コァッ!!!」


ネッコアラが──ど真ん中を叩くように、“ウッドハンマー”を振るうと、


 「──ツンデ…!!」


体格差が嘘のように、ツンデツンデが野球ボールのように後ろに弾き返される。


姫乃「嘘……嘘嘘嘘です、こんなの……」

彼方「……相手をよく見て、相手のことを考えて、的確に防御を置き続ける……」

姫乃「て、テッカグヤ!! “ロケットずつき”!!」
 「────」


テッカグヤがバーナーを逆噴射し──頭をこちらに向けて真っすぐこっちに突っ込んでくる。


彼方「……きっと、わたしにしか出来ない……みんなのことをたくさん見てるから、みんなの言葉にたくさん耳を傾けてるからこそ、出来る強さなんだ」


スッと指を前に差す。

──ガァァァァァンッ!!!! という音と共に──コスモウムが、テッカグヤの突進を真正面から押し止めた。

テッカグヤは今もバーナーから噴射の推進力で前に進んでいるはずなのに、コスモウムは微動だにしない。


姫乃「……反則……です……」


それを見て、姫乃ちゃんがへたり込む。


彼方「だから、わたしの防御は、人に寄り添う優しさを強さに変えた絶対防御。あーでも……それで言うなら、彼方ちゃん……まだまだかもなぁ〜……」

姫乃「え……?」

彼方「だって……姫乃ちゃんが果林ちゃんの邪魔をする人が許せないように……彼方ちゃんも──遥ちゃんを傷つける人は絶対に許さないから。そこはまだ、優しく出来ないや」


コスモウムによって噴射をしながら空中で止まってしまったテッカグヤの頭を──カビゴンがガシリと掴んで、振り上げる。


姫乃「あ……あ……っ……」


そしてそれを思いっきり──


彼方「反省してね……“ばかぢから”!!!」
 「カビッ!!!!」
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:45:29.29 ID:loIPccok0

振り下ろした。


姫乃「……ッ!!!?」


振り下ろされたテッカグヤの巨体は、


 「ツンデ…!!!」


ツンデツンデの真上に振り下ろされ──超重量級のポケモン2匹分の加重によって、ツンデツンデを地面にめり込ませ──さらに発生した衝撃波で地面がひしゃげ、周囲の岩石を吹き飛ばした。


姫乃「きゃぁ……!?」


至近距離で衝撃波を受けて、姫乃ちゃんが吹き飛ぶけど、姫乃ちゃんは地面を転がりながらも受け身をとってすぐに起き上がる。

さすが、“MOON”……よく訓練してるな〜……。彼方ちゃんには真似できないや。


姫乃「じ、冗談じゃないです……!!」


姫乃ちゃんはわたしから視線を外さずに後退していく。


彼方「ありゃ? 逃げちゃう感じ?」

姫乃「こ、こんなこと認めません……!! う、ウルトラビーストが1度に2匹も倒されるなんて……!!」


うーん……彼方ちゃん今は痛くてあんまり速く走れないから、逃げないで欲しいんだけどなぁ……。

そんなことをぼんやり考えていると、後退する姫乃ちゃんの後ろから近付いてくる影に気付く。


彼方「あ、姫乃ちゃん……そっちに行くと……」

姫乃「こ、来ないでください……!!」

 「──え、えーっと……ご、ごめんね?」

姫乃「え……!?」


背後から声を掛けられ、姫乃ちゃんが驚いて振り向くと同時に、


エマ「“ウッドホーン”」
 「ゴートッ!!」

姫乃「ぴぎゅ……!?」


姫乃ちゃんの脳天にエマちゃんが乗っていたゴーゴートのツノが叩きつけられ──姫乃ちゃんは気を失って、ひっくり返ってしまった。


エマ「え、えーっと……よかったんだよね……?」

彼方「……うん、ナイスだよエマちゃん」

姫乃「……きゅぅ……」


満身創痍だけど……どうにか姫乃ちゃんとの戦闘に勝利できた彼方ちゃんは、安堵の息を漏らすのでした。



442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:46:13.95 ID:loIPccok0

    🐏    🐏    🐏





遥「……ん……ぅ……」

彼方「あ、遥ちゃん……!!」

遥「……おねえ、ちゃん……?」

彼方「よかったぁ〜〜〜……!! 遥ちゃん痛いところない!?」


彼方ちゃんは遥ちゃんをこれでもかと言わんばかりに抱きしめます。


遥「い、痛い痛い、お姉ちゃんの抱きしめる力が強すぎて痛いよ……」

彼方「いたたたたた!!?」

遥「えっ!? なんでお姉ちゃんが痛がってるの!?」

エマ「だ、ダメだよ、彼方ちゃん……! 固定したとはいえ、右腕の骨が折れてるんだから……!」

彼方「は、遥ちゃんが目を覚ました喜びで忘れてた……」


あの後──エマちゃんが見つけてきてくれた倒木の破片を添え木にして……応急処置をしてもらった。

そして、遥ちゃんの傷だけど……。


彼方「遥ちゃん、背中の傷は平気?」

遥「え? ……言われみれば……全然痛くない……」

彼方「ママンボウのお陰だね〜ありがとうママンボウ〜」
 「ママァ〜ン」

遥「ママンボウが治療してくれたんだ……ありがとう」
 「ママァ〜ンボ」


ママンボウの治癒効果は本当に目を見張るほどで、すっかり切り傷が塞がっていた。


遥「でも……ちょっとふらふらするかも……」

彼方「血を流しちゃったからね……しばらくは大人しくしてないとダメ〜」

遥「う、うん……」

彼方「というか、どうやってここまで来たの?」

遥「えっと……お姉ちゃんの持ってる端末のGPS表示を見てたら……15番水道の端っこで消えちゃったから……そこにいるんだって思って……」

彼方「うん?」


そういえば、わたしと遥ちゃんは支給されてる端末を持っていて、お互いの端末位置は検索できるんだった。


遥「それで、病院から抜け出して……ある程度、船で移動したあと……ハーデリアに掴まって……泳いできた」

彼方「なんて危ないことしてるの!?」

遥「ご、ごめんなさい……! でも……居てもたってもいられなくって……」

彼方「もう〜……誰に似たんだか〜……」

エマ「ふふ、誰に似たんだろうね?」


くすくす笑うエマちゃん。

そういうエマちゃんもゴーゴートの背に腰かけたまま……足に添え木をしていて……。
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:02.54 ID:loIPccok0

遥「エマさんのその足は……」

エマ「あ、うん……わたしも足の骨が折れちゃったみたいで……」

彼方「ごめんね、エマちゃん……結局、怪我させちゃった……」

エマ「うぅん、わたしは大丈夫。こうして……姫乃ちゃんを止めることも出来たし……」

姫乃「……きゅぅ〜……」


完全に目を回して気絶している姫乃ちゃんは、今はロープで手足を縛った状態で手持ちも全部彼方ちゃんが回収済み。

外に出ていたポケモンも全部ボールに戻したから、もう姫乃ちゃんは完全に戦闘には参加できない状態になっています。


彼方「しばらくしたら、みんなのところに戻ろうね……」

エマ「うん。……わたし、やっぱりまだ果林ちゃんとお話ししなくちゃいけない。伝えきれてないこと……たくさんあるから


きっと戦闘は激化しているだろうけど……。さすがにすぐには動けない……。

今は、侑ちゃんとかすみちゃんを信じるしかない……かな……。



444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/30(金) 14:47:43.94 ID:loIPccok0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持

 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持


 彼方と エマは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:11:45.72 ID:8UVAxvmj0

 ■Intermission🍊



千歌「──バクフーン!! “ひのこ”!!」
 「バク、フーーーンッ!!!!」

 「フェロッ…!!!?」


鋭く飛ぶ“ひのこ”が高速で飛びまわるフェローチェを撃ち落とす。

クリーンヒットした“ひのこ”がフェローチェを撃墜するが、


 「ガドーンッ!!!」


すでに私の背後では、ズガドーンが頭を外して投げるモーションに入っている。


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼーーールゥゥゥ!!!!!」

 「ガドーーンッ…!!!?」


投げようとしていた頭ごと激流でぶっ飛ばし──直後、ドォォンッ!! と音を立てながら、ズガドーンが爆発する。


千歌「くっ……!」


強引に距離を取ったから、爆発のダメージこそなかったものの、爆風が吹き付けてくる。

そして、爆風に一瞬動きを止めた私に向かって、


 「────」


カミツルギが斬撃を伴って、上から飛び掛かってくる。

その斬撃を、


 「ウォッフッ!!!」


飛び出したしいたけが“ファーコート”と“コットンガード”で強引に受け止め、剣を受け止められ一瞬止まったカミツルギを、


 「ワォーーーーンッ!!!!」


ルガルガンが“ドリルライナー”で突っ込んで仕留める。


千歌「今なら、空に抜けられる……! 逃げるよ!!」
 「ピィィィィィ!!!!」



私はムクホーク以外をボールに戻して、その場を離脱した。





    🍊    🍊    🍊





千歌「……はぁ……はぁ……。……さ、さすがに……このままじゃ……ヤバイ……」


息を切らしながら、飛び込んだ断崖にある横穴から外を覗く。

そこには──
446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:12:24.55 ID:8UVAxvmj0

 「ブーーン」「フェロ…」「────」「──ジェルルップ…」


マッシブーン、フェローチェ、カミツルギ、ウツロイド……いや、それだけじゃない。

ありとあらゆるウルトラビーストの姿が確認出来た。

大型のウルトラビーストであるテッカグヤやツンデツンデもいる。

……さすがにアクジキングは、見た瞬間全力で逃げたけど……。


千歌「……たぶん……歩夢ちゃんの影響……だよね……」


ここに来たときから、ちらほらウルトラビーストは見かけていたし……恐らくこの世界は今、果林さんたちがウルトラビーストを呼び込んでいる世界とウルトラビーストたちが住んでいる世界のちょうど狭間にあるんだと思う。

彼女たちが歩夢ちゃんの力でウルトラビーストたちの呼び寄せを開始した結果、中継地点のようになっているこの世界にウルトラビーストたちが溢れかえっているんだ……。

彼女たちが歩夢ちゃんを使ってまでウルトラビーストを呼び寄せているのは恐らく捕獲目的だろうし、出来ることなら撃退したいけど……。

手持ちの体力も限界な上に……数が数……撃退するどころか……。


千歌「逃げ切れるかな……あはは……」


さすがに、この絶体絶命の状況に乾いた笑いが漏れる。


千歌「ダメだダメだ……! 弱気になるな……!」


弱気を打ち消すように、頭を振る。


千歌「とにかく、一点でいいから、うまく包囲網を抜けられそうな穴を作れば……!」


そう思った瞬間──背後でドォンッと嫌な音がした。


千歌「……!?」


ギョッとして振り返ると──背後の壁にヒビが入っている。そして、またドォンッという音ともに、壁のヒビが大きくなっていく。


千歌「や、やば……!! ムクホーク、逃げるよ!!」
 「ピィィッ!!!!」


ムクホークと一緒に横穴の外に逃げ出そうとした瞬間、


 「──シブーーーンッ!!!!」


ショルダータックルで壁をぶっ壊しながら、マッシブーンが突っ込んできた。

──避けきれない……!


千歌「“フェザーダンス”っ!」
 「ピィィィィッ!!!!」


咄嗟の判断で、大量の羽毛をまき散らし、マッシブーンの攻撃力を落とすが、


 「ブーーーーンッ!!!!」

千歌「ぐっ……!!」


タックルに吹っ飛ばされて、断崖の横穴から追い出される。

外に飛び出た瞬間、


 「ピィィィッ!!!!」
447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:24.01 ID:8UVAxvmj0

ムクホークが私の肩を掴んで飛び立つ。


千歌「ムクホーク!! 高度上げてっ!!」
 「ピィィィッ!!!」


状況確認もまだ出来ていないけど、確実にウルトラビーストたちのど真ん中に放り出された。

狙い撃ちにされる前に上空に逃げようとしたが、


 「ピッ…!!!?」


ムクホークが急に掴んでいた私の肩を離す。


千歌「へっ!?」


急に浮遊感に包まれ、何事かと思った直後──ピシャーーーーンッ!!! という空気を劈く音が上から轟いてくる。

この音は──“かみなり”だ……!

落下しながら私の視界には──


 「────ジジジ」


巨大なデンジュモクの姿が目に入る。

ムクホークは“かみなり”の予兆に気付き、私を巻き込まないために、咄嗟に掴んでいた私を離して巻き込まれないようにしてくれたんだ……!

──猛スピードで落下する私は、地面に向かってボールを放つ。


千歌「しいたけーーー!! “コットンガード”ぉーーー!!!」

 「──ワッフッ!!!」


飛び出したしいたけが、体毛をもこもこと膨らませ、私はそこに向かって落下する。

──バフンという音と共に、しいたけの上に不時着したあと、


千歌「っ……!」


すぐに顔を上げ──


 「ピィィィ……」

千歌「ムクホーク、戻って!!」


“かみなり”の直撃で黒焦げになって落ちてくるムクホークをボールに戻す。

ムクホークの機転のお陰で助かったけど──これで飛んで逃げることも出来なくなった。

そして、周りは──


 「フェロ…」「ガドーーン」「──ジジジ」「シブーーン!!!!」


ウルトラビーストに取り囲まれていた。


千歌「バクフーン! ルガルガン! フローゼル!」
 「バクフーーッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルゥッ!!!」

千歌「諦めてたまるかぁぁぁ!!!」
 「ワッフッ!!!」


私はポケモンたちと一緒に駆け出す。
448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:13:59.73 ID:8UVAxvmj0

千歌「“ひのこ”!!」
 「バクフーーーッ!!!!」

 「フェロッ!!!?」


駆け出すと同時に、防御の薄いフェローチェを撃ち抜き、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワォンッ!!!!」

 「──ジジジジ…」


ルガルガンが、範囲攻撃の得意なデンジュモクを優先して倒す。


 「ガドーンッ」


他のウルトラビーストを攻撃している隙に、頭を投げようとしている、ズガドーンに向かって、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルゥゥゥゥッ!!!!!」

 「ガドーンッ…!!!?」


フローゼルが“アクアジェット”で黙らせ、


千歌「走るよ……!!」
 「バクフッ!!!」「ワォンッ!!!」「ゼルッ!!!!」


全員で包囲網を抜けるために走り出すが、


 「ワッフッ!!!」
千歌「……!?」


背後でしいたけが鳴く。

後ろを確認する間もなく──


 「シブーーーーンッ!!!!」


突っ込んできたマッシブーンのショルダータックルでしいたけが突き飛ばされ、それに巻き込まれるように私も吹っ飛ばされる。


千歌「……っ゛……ぐ……っ……!!」


吹っ飛ばされながらも、しいたけが私の身体を守るように抱き着いてきて──空中で姿勢を制御しながら、自分を下にして地面に落っこちる。


千歌「…………ぐ……」


痛みを堪えながら起き上がると──


 「ワフ…」


しいたけが私の下で戦闘不能になっていた。


千歌「しいたけ……ごめんね、ありがとう……戻って……」
 「ワッフ…──」
449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:14:36.80 ID:8UVAxvmj0

しいたけをボールに戻す。

恐らくしいたけは私を庇って、死角からのマッシブーンの攻撃を受け止めようとしてくれたんだ。

しいたけが守ってくれなかったら、私の身体はマッシブーンのタックルによって、今頃バラバラになっていた……。

タックルだけでも大ダメージを受けていたはずなのに、落下の衝撃からも守ってくれたんだ……。

──でも、一難去ってまた一難。


 「────」

千歌「テッカグヤ……!」


目の前で、テッカグヤがバーナーをこちらに向けていた。


 「バクフーーーッ!!!!」

 「────」


吹っ飛ばされた私に駆け寄りながら、バクフーンが“もえつきる”でテッカグヤを焼き払う。


 「ゼルッ!!」「ワォンッ!!!」「バクフーーーッ!!!」


フローゼルが、ルガルガンが、バクフーンが、私を守るように周囲を固めるけど──


 「ッシブーーンッ!!!」「──ジェルルップ…」「────」「フェロ…」


マッシブーンに、ウツロイド、カミツルギ、フェローチェ……いや、それだけじゃない。

さっきとは別固体のデンジュモクやズガドーン、テッカグヤがこっちに近付いてくるのが見えるし……戦う意思があるのかはともかく、ツンデツンデも遠方に確認出来る。

さらに──


 「──ドカグィィィィィ!!!!」


アクジキングの鳴き声まで聞こえてくる。

手持ちは残り3匹……。みんな体力は限界ギリギリ。しかも、バクフーンは炎が燃え尽きてしまっている。

この戦力差は……もう……無理だ……。


千歌「……はぁ……はぁ……」


私は息が切れて、膝をついてしまう。

そこに向かって──


 「シブーーーンッ!!!!」「フェロッ!!!」「──ジェルルップ…」


ウルトラビーストたちが一斉に飛び掛かってくる。


千歌「くっそぉぉぉぉぉ……!!」


諦めかけた──次の瞬間、


 「──“ハードプラント”!!!」
  「──ガニュゥムッ!!!!!」


響く声と共に──


 「マッシブッ!!!?」「フェロッ…!!!?」「──ジェルルップ…」
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:15:14.32 ID:8UVAxvmj0

急に地面から生えてきた大樹が、ウルトラビーストたちを巻き込みながら、一気に成長していく。

大樹は私たちを守るよう壁のように、周囲を取り囲んでいく。


千歌「……この、技……!」


この技を使える人を……私は一人しか知らない。

上を見上げると──


梨子「──千歌ちゃぁぁぁぁんっ!!」

千歌「梨子ちゃんっ!!」


ピジョットに乗った梨子ちゃんが、上空から一直線に舞い降りてくるところだった。

それと同時に──


 「ガニュゥムッ!!!!」


メガニウムが私の近くに着地する。


千歌「メガニウム……! ありがとう……!」
 「ガニュゥムッ♪」


メガニウムの“ハードプラント”によって、救われた。


梨子「千歌ちゃん、無事……!?」

千歌「お陰様で間一髪……!」


プラントたちの防壁の中に降り立った梨子ちゃんが駆け寄ってくる。

が、


 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンの鳴き声と共に──樹木の壁のすぐ外で爆発音が響く。


梨子「きゃ……っ!?」

千歌「……っ……!」


──“ビックリヘッド”が炸裂した。

強烈な爆発と爆炎によって、樹木の壁が一瞬で焼け崩れる。


 「──はーーい!! 消火しちゃうよーー!! “ハイドロポンプ”!!」
  「──ガメェェェェッ!!!!!!」

千歌「……!」


けど、炎はすぐに上から降ってきた大量の水によって消火される。

上を見上げると──カメックスが首と手足を引っ込めたまま、ランチャーだけを外に出し、水流の逆噴射で空を飛びながら、大量の水で消火を行っていた。


千歌「曜ちゃぁーーーん……っ!!」

曜「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」


そして、曜ちゃんがヨルノズクから飛び降りて、私に駆け寄り抱き着いてくる。
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:16:54.72 ID:8UVAxvmj0

曜「絶対……無事だって、信じてた……!」

千歌「うん……っ……! 絶対、助けに来てくれるって……信じてた……っ……」

梨子「ふふっ」


再会を喜ぶ私たちに、


 「マッシブ!!!」「フェロッ!!!」


飛び掛かってくる、マッシブーンとフェローチェの姿。

でも、その攻撃は──


ルビィ「──コラン!! “リフレクター”!!」
 「ピピィッ!!!!」

 「シブッ…!!?」「フェロッ…!!?」


降りてきたルビィちゃんとコランによって、弾き返される。

そして、弾かれた2匹に向かって──


花丸「──カビゴン!! “のしかかり”!!」
 「ゴンッ!!!!」

 「シブッ…!!!」「フェロ…ッ」


降ってきた花丸ちゃんのカビゴンが“のしかかり”でまとめて押しつぶす。


千歌「ルビィちゃん……! 花丸ちゃん……!」

ルビィ「助けに来たよ!! 千歌ちゃん!!」

花丸「どうにか、間に合ったみたいだね……」


ただ、ウルトラビーストたちの猛攻は止まらない。

コランが展開してくれた、“リフレクター”を、


 「────」


カミツルギが斬撃で破壊する。


ルビィ「ぴぎっ!?」

花丸「か、“かわらわり”……!?」

 「────」


カミツルギが二の太刀を振り下ろそうとした瞬間──


善子「──……遅い」
 「…ソル」


いつの間にか降り立っていた善子ちゃんとアブソルが、カミツルギよりも速い斬撃で斬り裂いていた。


 「────」


カミツルギが崩れ落ちる。
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:18:29.54 ID:8UVAxvmj0

善子「本気の千歌の方が、100倍速いわ……」

千歌「善子ちゃん……っ!!」

善子「ヨハネだって言ってんでしょ」

千歌「えへへ……うんっ! ヨハネちゃん!」

善子「素直でよろしい」


みんなが──みんなが助けに来てくれた……!!


花丸「それにしても……すごい数ずらね〜……」

ルビィ「うん……何匹くらいいるのかな……?」

梨子「……まあ、数えきれないくらいいることはわかるかな」

善子「でも、私たち全員揃ってたら……これくらい訳ないでしょ?」

曜「当然!! みんな、千歌ちゃんを守るよ!!」

梨子「ピジョット!!」
曜「カメックス!!」
善子「アブソル!!」
花丸「デンリュウ!!」
ルビィ「バシャーモ!!」


梨子ちゃんの“メガブレスレット”が、曜ちゃんの“メガイカリ”が、善子ちゃんの“メガロザリオ”が、花丸ちゃんとルビィちゃんが首から提げているお揃いの“メガペンダント”が──同時に輝きだす。


梨子・曜・善子・花丸・ルビィ「「「「「メガシンカ!!!」」」」」
 「ピジョットォ!!!」「ガメェーーーッ!!!!」「ソルッ!!!!」「リュゥ!!!!」「バシャーーーモッ!!!!」


5匹が同時に光に包まれ──メガシンカする。


曜「撃ち抜け……!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメガメガメガメェェェェェッ!!!!!」

 「ズガッ!!!?」「ガドドッ!!!?」「ドーーンッ!!!?」


連続で発射される水砲が、周囲のズガドーンたちを的確に撃ち抜き、


善子「──“かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!」

 「────」「──」「───」


極太の風の刃がまとめて、カミツルギたちを薙ぎ払う。


 「──フェロッ!!!!」「ローーチェッ!!!」「フェローーーッ!!!!」


飛び掛かってくる、フェローチェたちは、


ルビィ「“ブレイズキック”!!」
 「シャァーーーーモッ!!!!」

 「フェロッ…!!!」「ローチェッ!!?」「フェロォ…!!?」


“かそく”するメガバシャーモが高速軌道で動き回りながら、炎の蹴撃で片っ端から叩き落していく。


 「──」「────」


空からこっちに向かってくる、テッカグヤたちを、
453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:05.21 ID:8UVAxvmj0

花丸「“かみなり”!!」
 「リュウッ!!!」

 「────」「──」


花丸ちゃんがメガデンリュウの“かみなり”で正確に撃ち落とす。

そして、


 「──ジェルルップ…」「──ジェル…」「──ルップ…」


接近してくるウツロイドたちを、


梨子「ピジョット!! “ぼうふう”!!」
 「ピジョットォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんとメガピジョットが“ぼうふう”で吹き飛ばした。


千歌「みんな……すごい……!!」


頼もしい仲間たちの戦いっぷりに目を潤ませていると、


 「──ジジジジ」「──ジ、ジジジ」


デンジュモクたちが電撃を体に溜め始める。


千歌「……! い、いけない……! 電撃が……!」

花丸「任せるずら!! ドダイトス!! マンムー!!」
 「ドダイッ!!!!」「ムオォォォォ!!!!」

花丸「“ぶちかまし”!! “10まんばりき”!!」
 「ドダイトォスッ!!!!!」「ムォォォォォッ!!!!!!」

 「──ジジ…ッ」「──ジジジ…ッ」


でんきタイプの効かない、じめんタイプのドダイトスとマンムーが体に電撃を纏ったデンジュモクたちを、強力なじめん技で無理やりぶっ飛ばす。


 「マッシブーンッ!!!!」


突然、飛び掛かってくるマッシブーン。


曜「カイリキー!!」
 「──リキッ!!!」

 「シブッ!!!?」


それを曜ちゃんのカイリキーが4本の腕で組み伏せる。

5人が力を合わせて、迎撃をする中、


 「────ツンデ」


先ほどまで遠方にいたツンデツンデが、戦闘に刺激されたのか、こっちに向かって“ジャイロボール”で猛スピードで転がってくる。


曜「うわ、なんかでかいのきたよ!?」

梨子「任せて……! 行くよ──ダイオウドウ!!」
 「──パオォォォォォォ!!!!!」


梨子ちゃんの繰り出したダイオウドウが真正面から、ツンデツンデに体をぶつけて、押し止める。

──押し止めたツンデツンデを、
454 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:21:45.09 ID:8UVAxvmj0

善子「でかした、リリー!! ゲッコウガ!!」
 「ゲコガァッ!!!!」


善子ちゃんのゲッコウガが──石垣の継ぎ目に沿って大きな水の手裏剣で斬り裂くと、


 「…ツンデ」


ツンデツンデがバラバラになって崩れ落ちる。


梨子「善子ちゃん!! リリー禁止って言ったでしょ!?」

善子「善子言うな!?」


気付けば──周囲のウルトラビーストはほとんど倒しきっていた。


千歌「みんな……すごすぎだよ……!」


あと残るは──


 「──ドカグィィィィィ!!!!!」


さっき鳴き声だけ聞こえていたアクジキングが岩山を喰らいながら、こっちに向かって走ってくる。


曜「や、山食べてるよ!?」

ルビィ「ぅゅ……あ、アクジキングさん……」

花丸「山って、おいしいのかな……?」

梨子「そこ……?」

善子「……なかなかやばそうなのが来たわね」


見るからにヤバイウルトラビーストなのに、みんなは割と能天気な反応をしている。


善子「あ、そうそう……千歌」

千歌「ん?」

善子「忘れ物よ。ロッジで寂しく待ってたから、連れてきた」


そう言って、ボールを投げ渡してくる。


千歌「……!」

善子「最後の見せ場、あげるから……やっちゃいなさい」

千歌「……うん!!」


私は善子ちゃんから受け取ったボールを放る。


千歌「行くよ!! ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!!」

千歌「メガシンカ!!」


ボールから飛び出したルカリオが、私の“メガバレッタ”の輝きの呼応して──メガルカリオへと姿を変える。


 「──グゥォッ!!!!」

千歌「ルカリオ……私の波導……感じるよね」
 「グゥォッ!!!」
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:22:29.99 ID:8UVAxvmj0

もう疲れ切っているはずなのに……。

頼もしい仲間たちが助けに来てくれた。

その嬉しさと喜びで、すごくすごく、気持ちが高揚していた。


 「ドカグィィィィィッ!!!」


──本来、アクジキングは見たら即逃走してもいいくらい危険な相手だけど……。


千歌「今は……負ける気がしない」
 「グゥォッ!!!!!」


ルカリオの波導が一気に膨れ上がる。

そして、両手に波導のエネルギーを集束し始める。


千歌「波導の力……見せつけるよ!!」
 「グゥォッ!!!!」


ルカリオが──両手を前に構えると同時に、波導のエネルギーが膨れ上がる。


千歌「“はどうのあらし”!!!」
 「グゥォォォォォ!!!!!!!」


両手の先から極太の波導のレーザーが発射され──アクジキングに向かって飛んでいく。


 「ドカグィィィィィッ!!!!」


アクジキングは大口を開けて、飛んできた“はどうのあらし”を飲み込んでいく。

が、


 「ドカ、グィィィィ…!!!?」


波導エネルギーを飲み込んでいたはずのアクジキングの口の中で──青いエネルギーが膨張し始める。


千歌「いっけぇぇぇ……!! 波導、最大っ!!!」
 「グゥォォォォォォォ!!!!!!」


私の気合いの掛け声に呼応するように──“はどうのあらし”はさらに一段階太くなり、膨張したエネルギーは、


 「ドカグィィィィィィ!!!!!!!?!!?」


アクジキングを中心に──大爆発を起こした。

その爆発の勢いがあまりに強すぎて、


千歌「ど、どわぁぁぁ!!?」


まだ結構距離があるはずなのに、爆風で立っていられずに尻餅をつく。


梨子「きゃぁぁぁ!!?」

ルビィ「ピギィィィィィッ!!!?」

曜「み、みんな伏せてっ!!」

善子「少しは手加減しなさいよ、アホー!!?」

千歌「ご、ごめーーーん!?」

花丸「このデタラメな感じ、やっぱ千歌ちゃんずら〜」
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:13.97 ID:8UVAxvmj0

しばらくの間、吹き荒ぶ爆風に耐えたあと……顔を上げると──


 「……ドカ、グィィィィ……」


アクジキングはひっくり返って動かなくなったのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「はい、千歌ちゃん♪ オレンサンド♪」

千歌「いただきまーす!! はむ、はむ、はむっ!! もぐもぐ……んぐっ!?」

梨子「ああもう……そんなに焦って食べるから……はい、お水」

千歌「ごくごくごく……!! ぷはっ……はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」

曜「たくさんあるから、ゆっくり食べて」

千歌「うん……ありがとう」


せっかく絶体絶命のピンチを乗り越えたのに、危うく世界一情けない理由で死ぬところだった……。


花丸「みんな〜“げんきのかたまり”と“かいふくのくすり”ずらよ〜」
 「バクフー」「ワォンッ」「ゼルゥ」「ピピィ」「ワッフ」

ルビィ「ポケモンさんたちのご飯もたくさんあるからね!」
 「ワフ、ワフワフッ!!」

ルビィ「わわ!? し、しいたけ……落ち着いて……」

千歌「あはは、しいたけ食いしん坊なのに、ずっと我慢してたもんね〜」


やっと思う存分食事が出来て、しいたけも嬉しそうだ。


善子「それにしても……ここ、岩と砂しかないんじゃない? よくこんな場所で2週間以上生きてられたわね……」

千歌「ホント死ぬかと思ったよ……」


ほぼ砂漠の中に岩山が生えてるみたいな世界だったしね……。野生のポケモンが持っている“きのみ”がなかったら死んでたと思う。


善子「千歌の生命力には感心するわ」

千歌「それ褒めてる……?」

善子「ま、6割くらいは」

千歌「全面的に褒めてよ〜……」


──2週間振りに思う存分ご飯を食べ、ポケモンたちも回復してもらって……。


千歌「よっしゃぁ! 完全復活!!」


身体に力がみなぎってくる。やっぱりご飯は大事だね、うんうん。
457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 01:23:55.19 ID:8UVAxvmj0

梨子「それにしても……善子ちゃんがタマムシまで迎えに来たときはびっくりしたよ……」

善子「作品作ってる間、連絡確認しなくなる癖、直しなさいって何度も言ってるじゃない」

梨子「はい、反省してます……」

花丸「まあまあ、梨子ちゃんも忙しいんだよ」

善子「ちょっと……その言い方だと私が暇みたいじゃない!!」

ルビィ「もう、二人ともこんなところまで来てケンカしてないでよ〜!」

千歌「あはは、いつものみんなだ♪」


最近6人で集まれる機会なんて中々なかったから、こうしてみんなの会話を聞いていると、懐かしくなってしまう。

そんな中、


曜「千歌ちゃん」

千歌「ん?」

曜「海未さんから、渡すようにって言われて持ってきたよ」


曜ちゃんが私に、ある物を差し出してくる。


千歌「……!」

曜「あと、伝言もあって……」

千歌「……いや、そっちはいいや」

曜「え?」

千歌「……聞かなくても、わかるから」


どうしてこんなものを曜ちゃんに預けたのか……それを考えればわかる。

きっと、海未師匠は……こう言っていたはずだ。

──『役目を果たしなさい』──……と。


千歌「……行かなきゃ」


私は……もうひと踏ん張りするために、この世界を後にする──


………………
…………
……
🍊

458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:11:42.96 ID:8UVAxvmj0

■Chapter064 『かすみとしずく』 【SIDE Kasumi】





──────
────
──


かすみ「はー……はー……」

果南「結局完走に2日掛かったね。……まあ、途中で睡眠も取ってるし……初回としては上出来かな」

かすみ「そ、そりゃどーもです……」

果南「それじゃ、今日は宿で休みな。明日は早朝に出るから」

かすみ「わかりました……」

果南「お、素直だね。てっきり、もう行きませんとか言うと思ったのに」

かすみ「だって……かすみんにとって……この修行は必要なんですよね……?」

果南「そうだね」

かすみ「なら、やってやりますよ……」

果南「そっかそっか♪ やっぱり、私が見込んだだけのことはあるよ♪」


そう言いながら果南先輩は、かすみんの頭を撫でます。


かすみ「やーめーてー……髪崩れちゃいますぅ〜……」

果南「あはは♪ あれだけ、ひぃひぃ言いながら走ってたのに、髪型に気を遣うのすごいね」

かすみ「髪のセットは乙女の命なんですぅ!!」


ぷりぷり怒りながら、果南先輩の手を振り払う。


果南「あはは♪ かすみちゃんって、ちょうどいいサイズ感だから撫でたくなるんだよね」

かすみ「むー……確かにかすみんは超絶可愛いから、ナデナデしたくなるのはわかりますけどぉ……」


それにしても果南先輩って、飄々としていて何考えているのか、よくわかんないんですよねぇ……。

彼方先輩よりも謎かもしれません……。


かすみ「あのー……果南先輩」

果南「ん?」

かすみ「どうして、かすみんの面倒見てくれるんですか……? かすみんが可愛いから?」

果南「あはは♪ 確かにかすみちゃんは可愛いけど、それが一番の理由ではないよ」

かすみ「じゃあ、どうして?」


かすみんにはずっと疑問でした。どうして果南先輩みたいな人が、わざわざかすみんに稽古を付けてくれるのか……。

いや、あの、正直内容が死ぬほどキツイのはどうにかして欲しいんですけど……。


果南「そうだなぁ……強いて言うなら──かすみちゃんの中に可能性を見たから……かな」

かすみ「可能性……? いや、確かにかすみん可能性の塊だと自負してますけどぉ……」

果南「あはは♪ そういうとこそういうとこ♪」

かすみ「……?」

果南「ポケモンバトルで……いや、人が生きていく上で一番大切なことってなんだと思う?」

かすみ「え?」
459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:12:39.96 ID:8UVAxvmj0

急に難しいこと言いだしますね、この人……。


かすみ「うーん……。……みんなから愛される可愛い女の子になること?」

果南「あははっ、確かにそりゃ大事かもね! ポケモンバトルで役に立つかはわからないけど」

かすみ「じゃあ、なんなんですか……」

果南「諦めないことだよ」

かすみ「諦めないこと……?」

果南「生きてるとさ……どんな人でも苦しくて、足が止まりそうになることがたくさんあるんだ。戦うのが苦しくなったり、前に進めなくて辛くなったり、目標を見失って未来に希望が持てなくなったり……」

かすみ「果南先輩もですか?」

果南「うん、そうだよ」

かすみ「……お気楽能天気そうなのに……?」

果南「お? そんな生意気なこと言うのはこの口かな〜?」


果南先輩が、かすみんのほっぺを摘まんで引っ張ってくる。


かすみ「い、いひゃい〜……かしゅみんのかわいいほっへがのびちゃいまふぅ〜……」

果南「ホントにほっぺぷにぷにだね。ずっと引っ張ってたいかも」

かすみ「ひゃめて〜……」

果南「はいはい。じゃ、もう生意気なこと言っちゃダメだよ」


果南先輩はやっとほっぺを摘まんでいた手を放してくれる。


果南「……みんなだよ。みんな、前に進めなくなるときがあるんだ。侑ちゃんも、せつ菜ちゃんも……きっと私の見てないところで、歩夢ちゃんも、しずくちゃんもたくさん挫折して悩んでたんじゃないかなって思うんだ」


果南先輩はそう言って……目を細める。


果南「だけど、かすみちゃんだけは違った。……どんなに苦しいことがあっても、挫けそうなことがあっても、辛いことがあっても、かすみちゃんだけはずっと前を向くことをやめなかった。それはかすみちゃんが思っているよりも、ずっとずっと、すごいことなんだよ」

かすみ「そういうもんなんですか……?」

果南「そういうもんだよ。そしてそれは誰にも負けない武器になる」

かすみ「誰にもって……千歌先輩とか、せつ菜先輩にも?」

果南「うん……かすみちゃんはいつか、千歌やせつ菜ちゃんにも負けないくらい強くなるって私は思ってる」

かすみ「……。……な、なんですか……めちゃくちゃ持ち上げるじゃないですか……///」

果南「私は本来弟子なんて作るタイプじゃないんだけどね。……でも、かすみちゃんを見てたら……かすみちゃんにだけはいろいろ教えてみたくなった」


果南先輩が珍しく真剣な顔で言うから……かすみんなんだか恥ずかしくなっちゃって目を逸らしちゃいます。


かすみ「……そ、そういうことなら……かすみん……しばらく、果南先輩に教わってあげてもいいですよ……?」

果南「ふふ♪ じゃあ、教わってくれるかな♪」

かすみ「は、はい……その代わり……かすみんのこと、強くしてください!」

果南「うん、私に教わるんだから、強くなってくれないと困るよ♪」


──
────
──────

460 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:16:28.08 ID:8UVAxvmj0

かすみ「ジュカイン!! “ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!」

しずく「サーナイト、“サイコキネシス”♡」
 「サナッ」


ジュカインが陽光の刃を振るうのに対して、メガサーナイトはサイコパワーで自身の目の前に黒い球体を作り出す。

すると、“ソーラーブレード”はその球を中心に軌道を捻じ曲げられ──しず子を避けるように飛んで行ってしまう。


かすみ「“リーフストーム”!!」
 「カインッ!!!」


今度は背を向け、しっぽミサイルに纏わせて“リーフストーム”を放つけど、


しずく「ふふ♡ 当たらないよ♡」


それも、黒い球に逸らされて、明後日の方向へ飛んで行ってしまう。


かすみ「……ブラックホール」

しずく「あはは♡ さすがに勉強してきたんだね、偉いよかすみさん♡」


事前に確認してきたサーナイトの図鑑によると……こう書かれていた。

 『サーナイト ほうようポケモン 高さ:1.6m 重さ:48.4kg
  未来を 予知する 能力で トレーナーの 危険を 察知し 空間を
  ねじ曲げることで 小さな ブラックホールを 作り出す 力を 持つ。
  胸の 赤いプレートは 心を 実体化したもの と言われている。』


しずく「そう、サーナイトはサイコパワーで小さなブラックホールを作り出せる。これがあれば遠距離攻撃は全部逸らすか吸い込むことが出来ちゃうんだよ♡」
 「サナ」

しずく「それにサーナイトがメガシンカのパワーで出来るようになったのは防御だけじゃないよ……♡ “ハイパーボイス”!」
 「サーーーナーーーッ!!」


──サーナイトから強烈な音波攻撃が発せられ、かすみんたちに襲い掛かってくる。


 「カインッ…!!」
かすみ「ぐ、ぅぅぅぅぅっ!!」


咄嗟に耳を塞いで鼓膜を守るけど──強力な音波は、耳だけでなく、物理的な衝撃となって、かすみんたちを吹き飛ばす。

衝撃で身体が浮くかすみんを、


 「カインッ…!!」


ジュカインが、尻尾を伸ばして、吹き飛んでいかないように助けてくれる。


かすみ「あ、ありがと……! ジュカインは平気?」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ♡ かすみさんのジュカインもメガシンカしてすっごくたくましくなったね♡ でも、メガシンカでドラゴンタイプが増えたせいで……“フェアリースキン”のメガサーナイトとは相性が悪くなっちゃったね♡」


しず子がくすくすと笑いながら言う。


かすみ「……相性なんて、パワーでくつがえしてあげる」

しずく「へー♡ 楽しみ♡」
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:17:19.58 ID:8UVAxvmj0

そう言いながら、しず子がすっと手を上げる。

攻撃の予兆を感じ、ジュカインも刃を構える。

──しず子が“サーナイトナイト”を持っていたのは最初から知っていたし、果南先輩と一緒にサーナイト対策はしっかりしてきた。

もちろん厄介な音波攻撃への対策も……!


しずく「サーナイト」
 「サーーーーー──」


空気を吸うサーナイト、そしてそれを見て、


 「カインッ…!!!」


刃を構えるジュカイン。

──果南先輩曰く……音波攻撃を攻略するには……。


果南『音より速く攻撃すればいいだけだよ』


とのこと……。

お陰で──……めちゃくちゃ可愛くない技を習得させられました……。


 「カインッ!!!!」


自らを“ふるいたてる”ことによって、ジュカインの腕の筋肉が隆起する。

強化した筋力で振り下ろす──神速の斬撃……!!


しずく「“ハイパーボイス”!!」
 「──ナーーーーーーーッ!!!!!!」

かすみ「“かまいたち”!!」
 「カァインッ!!!!!!!」


飛んできた音波を──音速の刃が斬り裂いた。


しずく「……! へぇ……♡」


音を斬り裂いたのと同時に、


かすみ「行くよっ!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地を蹴って飛び出す。

俊足のジュカインは一瞬でメガサーナイトに肉薄し──


 「カインッ!!!」


“リーフブレード”を逆袈裟斬りの要領で振り上げる。


かすみ「いっけぇぇぇ!!」


攻撃が決まった──そう思った瞬間。


しずく「ふふ♡」


しず子がサーナイトの前に飛び出してきた。
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:18:13.40 ID:8UVAxvmj0

かすみ「!? ジュカインッ!?」
 「カ、カインッ!!!?」


ジュカインの刃が──しず子の脇腹を斬り裂く寸前で止まる。


しずく「“マジカルシャイン”♡」
 「サナ!!!」

 「カインッ…!!!?」


ジュカインは目の前で強烈な閃光を食らって仰け反り、


しずく「頭ががら空きですよ……♡ “サイコショック”!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが目の前に作り出した──ちょうどジュカインの頭くらいのサイコパワーのキューブが、ジュカインの頭にぶつけられる。


 「カイン…ッ!!!!」

かすみ「ジュカインッ!!」


ジュカインの体がグラリと揺れたけど、


 「カイ、ンッ!!!!」


ジュカインはドンと震脚しながら踏ん張る。


しずく「あはは♡ 今のも耐えるんだね♡」

かすみ「っ……!! “アイアンテール”!!」

 「カインッ!!!」


ジュカインが身を捻って、尻尾を振るうけど、


しずく「はい、ダメです♡」


また、しず子が前に出てきて、


かすみ「っ……!! ジュカイン、ストップッ!!」

 「カ、カインッ…!!!」

しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナッ!!!」

 「カインッ…!!!」


サイコパワーでジュカインが、かすみんの方に吹っ飛んできて──


かすみ「ぐ……!?」


巻き込まれるようにして、ジュカイン共々地面を転がる。


かすみ「……っ゛……!!」

しずく「あはは♡ 咄嗟に“グラスフィールド”を展開して衝撃を殺したんだね♡ すごいすごーい♡」

かすみ「……ジュカイン……! 立てる……!?」
 「カインッ…!!!」


ジュカインは声を掛けると、すぐに立ち上がる。“グラスフィールド”を展開してくれたお陰で、大きな怪我にこそならなかったけど……。
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:20:34.32 ID:8UVAxvmj0

しずく「ふふ……♡ かすみさんは、私のこと攻撃出来ないって──信じてたよ♡」

かすみ「しず、子ぉ……!!」

しずく「かすみさんは私には絶対勝てないよ♡ だって、私が私である以上、かすみさんは私を傷つけられないもの♡ あはは♡ 今の私……すっごく悪役っぽいね♡」

かすみ「……ぐ……!!」


思わず拳を握りこんでしまう。

……まさか、ここまでしてくるなんて思ってなかった。

怒りで腸が煮えくり返りそうですけど……むしろ、そのお陰で完全に腹が決まった。


かすみ「何がなんでも正気に戻してやるから……っ!!」





    👠    👠    👠





せつ菜「……っ!!」


しずくちゃんが逆にポケモンの盾になったのを見て、せつ菜が今にも飛び出しそうになったけど……かすみちゃんのメガジュカインが攻撃を寸止めしたのを見て、その場に踏みとどまる。


せつ菜「…………」

果林「……しずくちゃんが自分の命に頓着しないと言ったのは貴方よ?」

せつ菜「わかってます……」


せつ菜はいつでも助けに入れるように身構え始める。

とはいえ……私もしずくちゃんがあそこまでするのは予想外だった。

お陰でせつ菜の視線は完全にしずくちゃんに釘付けになってしまっている。

……しずくちゃんは恐らくあの行動がもっとも私のためになると考えているのかもしれないけど……いや……案外、せつ菜の気を引きたいだけの可能性もあるのかしら……?

せつ菜としずくちゃんはウルトラディープシーにて、数日間寝食を共にしていたし……浅からぬ絆が芽生えていても……。

そこまで考えて、私は頭を振る。

いや……だとしても、フェローチェの魅了以上の動機で動くことはありえない。

どうにも、フェローチェというポケモンが持っている毒は、感性の強い人間相手だと影響が強すぎる。

調節が効かないものだから仕方ないけど……。

……まあ、せつ菜の注意が向こうの戦闘に寄っているのは別に構わない。

だって、


 「キーーーッ!!!!」

侑「ぐぅっ……!?」
 「ウォーーーグッ……!!!!」


空中で必死に攻撃を避けていたウォーグルを、今しがたファイアローが上から攻撃を加えて叩き落としたからだ。


 「コーーーンッ!!!!」

侑「“ハイドロポンプ”ッ!!」
 「フィーーーオォーーーーッ!!!!」
464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:23:13.38 ID:8UVAxvmj0

落下しながらもキュウコンの炎はフィオネの激流が相殺する。

咄嗟の防御は一人前だけど……いつまでもつかしらね。





    👑    👑    👑





かすみ「避ける気がないなら、動きを封じればいい……!! ダストダス!!」
 「──ダストダァ!!!」


ダストダスをボールから出し、


かすみ「“どくガス”!!」
 「ダァァァス!!!!」


両手からしず子に向かって“どくガス”を噴出する。


しずく「“ミストフィールド”♡」
 「サナ」

かすみ「ぐ……」

しずく「“どくガス”……“ミストフィールド”で掻き消えちゃったね♡」

かすみ「なら、直接捕まえるだけ……!! ダストダス!!」
 「ダストダァァス!!!!!」


直接しず子を捕まえようと、ダストダスが腕を伸ばす。


しずく「“サイコキネシス”♡」
 「サナ」


片腕をサイコパワーで止められるけど──まだ、もう片腕が逆側から、しず子に向かって迫っている。

行ける……! そう思った瞬間、


 「ベァァァァ…!!!」

かすみ「……!」

しずく「私にも手持ちは複数いるんだよ?」


そう言いながら、もう片方の手は──しず子が繰り出したツンベアーがガッチリと掴んでいた。

ツンベアーは冷気で掴んだダストダスの腕を凍らせながら、


 「ベァァァッ!!!!」


手前に思いっきり引っ張る。


 「ダストダァッ…!!!?」


そのパワーにダストダスが引っ張られ体勢を崩して、転ばされる。


かすみ「ダストダス!?」

しずく「パワーはこっちに分があるみたいだね♡」
 「ベァァァ…」
465 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:24:05.64 ID:8UVAxvmj0

そして、そのままダストダスの腕を凍らせ、地面に縫い付けるようにして動けなくする。

が──氷漬けにされながらも、ジュウジュウと音を立てながら、ダストダスの腕の氷が溶けはじめる。


しずく「……! ツンベアー下がって!」
 「ベァァァッ」


異変を察知して、ツンベアーがダストダスの腕から離れると同時に──ダストダスの腕の氷が完全に溶け自由になり、


かすみ「“ロックブラスト”!!」
 「ダストダァッ!!!」


ダストダスが、手の平の先をツンベアーに向け岩を発射しようとした瞬間、


しずく「……ふふ♡」


しず子がその間に割って入ってくる。


 「ダ、ダストダァ…」


ダストダスは困った表情になり、攻撃を止めてしまう。


かすみ「……腕、戻して」
 「ダストダ…」


ダストダスが私の指示に従って、伸ばした腕を戻す。


しずく「あれ? もう終わり? なんだ、つまんないなー♡」

かすみ「ねぇ、しず子」

しずく「ん?」

かすみ「これが……本当にしず子の望んだことなの……?」

しずく「そうだよ?」

かすみ「自分を盾にして……そんな無茶苦茶な戦い方してでも……しず子がそこまでして戦う理由は何……?」

しずく「果林さんにフェローチェを魅せてもらうためだよ♡」


私はギュッと拳を握る。


かすみ「……しず子……いっつも、かすみんが危ないことしたら叱ってくれたじゃん……。……なのに、なんでそのしず子がこんな戦い方するの……」

しずく「なんでって……当たり前でしょ? ──あんなに美しいポケモンを魅せてもらえるんだよ?♡」

かすみ「…………っ」


──そのとき、わかってしまった。

もう……私の知っているしず子は……いないんだ。

誰よりも真面目で、誰よりも優しくて、誰よりも努力家で、いっつもお小言を言いながら……それでも私の傍にいてくれたしず子は……もう、いないんだ……って。

はる子が言っていた……毒が回りすぎると……もう治療出来ないって……。つまり、しず子は……もう……私が助けたところで……。

それがわかった途端──


かすみ「……ぅ……ひっく……っ……」


涙が出てきた。
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:25:12.38 ID:8UVAxvmj0

しずく「泣かないでかすみさん。かすみさんは何も悪くないよ♡ ……これが本当の私だっただけ♡」

かすみ「…………」

しずく「だから、かすみさんが泣かなくていいんだよ♡」

かすみ「…………」

しずく「黙らないでよ〜……。……うーん……あ、そうだ! そんなに悲しいなら、かすみさんも一緒にフェローチェの虜になろう♡ 幸せな気持ちになれるよ♡」

かすみ「…………」

しずく「戦いをやめてくれれば、かすみさんのこと果林さんに紹介してあげる♡ だから──」

かすみ「ああああああああああああああああああああっ!!!!! うるっさいっ!!!!!!! バカしず子っ!!!!!!!」

しずく「……!?」


私の大きな声に驚いたのか、しず子は一瞬ビクリと身を竦める。


しずく「な、なに……突然……!?」

かすみ「……決めた……」

しずく「……何を?」

かすみ「……最初は正気に戻すつもりだったけど……もうやめです。……とっつかまえて、ふんじばって、気絶させて……引き摺ってでも連れて帰る……」


もうきっと……連れて帰っても、しず子は元には戻ってくれない……。でも……。


かすみ「……引き摺って、連れ帰って、療養施設に叩きこんで……一生ウルトラビースト症の治療を受けさせてやるっ!!」

しずく「…………」

かすみ「それで……!!! それで……っ」

しずく「それで……?」

かすみ「かすみんが……病気のしず子のこと……一生面倒見てやりますよ……!!」

しずく「……!?///」

かすみ「ジュカイン!!」
 「カインッ!!!」


私はジュカインに飛び乗り──同時にジュカインが地を蹴って飛び出した。


しずく「つ、ツンベアー!!」
 「ベァァァァ!!!!」


進路を塞ぐように、ツンベアーが飛び出してくるけど──


 「ダストダァァァッ!!!!」

 「ベァァッ!!!?」


ダストダスが両手を伸ばし──ツンベアーを地面に押さえ付ける。

その隙に、ジュカインはツンベアーを飛び越え、しず子に迫る。


しずく「正面突破……!? サーナイト!! “サイコショック”!!」
 「サナッ!!!」


サーナイトが正面に特大のサイコパワーのキューブを作り出すけど──ジュカインは腕の刃に光を集束していた。

もちろん“ソーラーブレード”だけど……これはただの“ソーラーブレード”じゃない。

果南先輩と考えた──次の段階に進化した、最強の“ソーラーブレード”だ……!!

本来大きく伸びるはずの光の刃は──ジュカインの腕の刃の形に沿うようにして、集束していく。

大きく伸びると範囲がある分、威力が分散する……なら……!!
467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:26:28.44 ID:8UVAxvmj0

かすみ「全部の太陽エネルギーを……!! 一本の小太刀に……!!」
 「カイィィンッ!!!!!」


光り輝く、腕の小太刀を縦に振り下ろすと──特大のサイコキューブは、真っ二つに斬り裂かれた。


しずく「っ……!? “サイコキネシス”!! ブラックホール展開!!」
 「サナッ!!!!」


斬り伏せたキューブの先で、サーナイトがサイコパワーでブラックホールを作り出す。

でも、関係ない……!!


しずく「!? ブラックホールに突っ込んでくる気!?」

かすみ「吸い込まれるよりも速く──斬り伏せる……!!」
 「カインッ!!!!」


振り上げられる神速の光剣は──真空の刃を作り出し、ブラックホールすら真っ二つにしてみせる。


しずく「なっ!?」
 「サナッ…!!!」

かすみ「しず子ぉぉぉぉっ!!!!」
 「カァァァインッ!!!!!」


サーナイトはもう目と鼻の先──ジュカインが刃を構える。

が、


 「サナッ!!!!」


サーナイトの胸の赤いプレートから──パステル色の輝きが溢れ出す。


しずく「“はかいこうせん”っ!!!」
 「サナァッ!!!!!!」

かすみ「……!!」


“フェアリースキン”によって強化された、至近距離からの最大威力の大技……!!

だけど……!!


 「カィィィィンッ!!!!!!!」


ジュカインの刃は、“はかいこうせん”をど真ん中から斬り裂きはじめる。


しずく「“はかいこうせん”まで斬るつもり……!?」
 「サーーーーナーーーーッ!!!!!」

 「カインッ…!!!!」


輝きの奔流の中、踏ん張るジュカインの体が揺れる。

確かに至近距離から放たれる“はかいこうせん”の威力がとんでもないのはわかる、だけど……!!

私の──私たちの刃を作り出す力の根源は……諦めない心だから……!!


かすみ「諦めなければぁぁぁぁ……!! 斬れないものなんて──ないっ!!」
 「カァァァインッ!!!!!!!!」

しずく「……!!」
 「サナッ!!!」


ジュカインの刃が完全に“はかいこうせん”を斬り伏せようとした瞬間、
468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:27:40.37 ID:8UVAxvmj0

しずく「……っ!!」


しず子が飛び出してくる。

わかってるよ、それも知ってる。だから──


かすみ「──私がいるんだよっ」


私は、ジュカインから飛び降り……割って入ろうとする、しず子に向かって──飛びついた。


しずく「!?」

かすみ「いっけぇぇぇっ!!! ジュカインっ!!!」
 「カァイィィィィンッ!!!!!!」


ジュカインの集束“ソーラーブレード”が──


 「サ、ナ…ッ」


サーナイトを……斬り裂いた。

そして、


しずく「は、放して……!!」

かすみ「しず子ぉっ!!!!」


私はしず子の両腕を掴んで、馬乗りになる。

そして、思いっきり頭を引く。


しずく「や、やめ……!」


そのまま頭突きの要領で──頭を振り下ろした。


しずく「っ……!!」


しず子が目を瞑った。

………………。

…………。

……。

──コツン。


しずく「え……」

かすみ「しず……こぉ……っ……。……もう……かえろう……っ……」

しずく「かすみ……さん……」


私は……しず子のおでこに、自分のおでこをくっつけたまま……ポロポロと涙を流していた。

……本当は一発かましてやるつもりだったのに……。

しず子を目の前にしたら……結局、出来なかった。


かすみ「わた、しが……ずっと……ずっと……いっしょにっ……いるからぁっ……だから、だからぁ……っ……」

しずく「………………」

かすみ「しず、こが……っ……いないの、……いやなの……っ……だから、……っ……かってに、いなくならないで……よぉ……っ……わたしが、……まもって、あげるから……っ……そばに、……いてよぉ……っ……」

しずく「…………かすみさん……」
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:28:35.56 ID:8UVAxvmj0

涙で滲む視界の向こうで──


しずく「…………本当に……強く、なって……ここまで来たんだね……」


しず子が……笑っていた。いつもの、あの笑顔で……。


かすみ「しず……子……?」


が、そのとき、


 「──ズガドーン!! “シャドーボール”!!」
  「──ガドーーーンッ!!!!」


聞き覚えのある声が響くと同時に──後ろに向かって思いっきり引っ張られる。


かすみ「わっ!?」


何かと思ったら──


 「カインッ!!!!」


私を引っ張ったのはジュカインで──今の今まで私が居た場所を、特大の“シャドーボール”が通り過ぎていく。


かすみ「い、今の……!?」


距離を取って顔を上げると──


せつ菜「……しずくさん、無事ですか」
 「…ガドーンッ」

かすみ「せつ菜……先輩……」


せつ菜先輩がズガドーンを携えて、しず子に手を差し伸べていた。


しずく「……ありがとうございます」

せつ菜「貴方の全力見せてもらいました。ですが、それよりも彼女は強い……。……なので、約束どおり……ここからは私が助太刀します」
 「ガドーン…」

かすみ「……っ!」


せっかくしず子を連れ戻せそうだったのに……こんなところで、せつ菜先輩が割って入ってくるなんて……!

さすがにこの状況で2対1になるのは分が悪すぎる……。


しずく「……せつ菜さん、ありがとうございます。出てきて、バリコオル」
 「…………」


しず子がせつ菜先輩の手を取って立ち上がりながら、バリコオルをボールから出す。


せつ菜「いえ、約束したので」

しずく「そうですか……。……ごめんなさい」

せつ菜「……? 何故、謝るんですか?」

しずく「……せつ菜さんが……本当に優しい人で助かりました」

せつ菜「……? なに言って……」


直後──せつ菜先輩の背後に……高い高い“リフレクター”と“ひかりのかべ”の二重の障壁が出現する。
470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:29:33.44 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「……!? な、なにを……!?」


突然の展開に目を見開くせつ菜先輩、そしてそれと同時にしず子は大きく息を吸って──


しずく「歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


大きな声を張り上げた。





    🎹    🎹    🎹





 「コーーーーンッ!!!!!」
 「キーーーーーッ!!!!!」

侑「くっ!!! “ブレイククロー”!! “みずのはどう”!! “どばどばオーラ”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」「フィーーーオーーー!!」「ブーーイィッ!!!!」


地上に叩き落とされ、なお激しく攻撃してくるキュウコンとファイアローの攻撃を捌いているときだった。


しずく「──歩夢さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!! 今ですっ!!!!!!!」


侑「!?」
 「ブイッ!!?」

リナ『なに!?』 || ? ᆷ ! ||


しずくちゃんの大声が聞こえてきて、ギョッとする。


果林「な、なに……!?」


それは果林さんも同様だったらしく……一瞬、攻撃の手が止まる。

それと同時に──


歩夢「──……ウツロイド!! “アシッドボム”!!」
 「──ジェルルップ」


先ほどまで、車椅子の上でぐったりしていたはずの歩夢が──急に立ち上がり、歩夢の頭の上に寄生しているウツロイドが果林さんへ攻撃を放った。


侑「えっ!?」
 「ブイッ!!!?」

リナ『嘘!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「なっ!? キュウコンッ!!」
 「コーーーンッ!!!!」


果林さんは咄嗟の判断でウツロイドの“アシッドボム”を火炎で蒸発させるが、その一瞬の隙に歩夢が駆け出して──


歩夢「ウツロイド!! 飛び降りるよ!!」
 「──ジェルルップ」

歩夢「……たぁっ!!」


そのまま、何の躊躇もせずに──崖から飛び降りた。

何が起こったのか理解出来なかったけど──


侑「……歩夢っ!!!」
 「ブイッ!!!!」
471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:30:09.64 ID:8UVAxvmj0

私は反射的に駆け出していた。

歩夢は空中に飛び出すと──ウツロイドに掴まって落下傘の要領で降りてくる。


果林「……キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!」


そこに向かって放たれるキュウコンの火炎。


侑「“ハイドロポンプ”!!」
 「フィオーーーーッ!!!!!」


それを阻止するように、フィオネが“かえんほうしゃ”を消火する。

果林さんも急なことに動揺しているのか、威力が十分に乗せ切れていない。


果林「く……!? ファイアロー!!」
 「キーーーッ!!!!」


先ほどまで、私たちを執拗に攻撃していたファイアローが歩夢の方へと飛び立とうとした瞬間、


 「ウォーーーーグッ!!!!!」

 「キーーーッ…!!?」


ウォーグルが爪で押さえつけるようにして、飛行を中断させる。

その間に私は駆ける──


歩夢「う、ウツロイド!! もうちょっとだから、頑張って……!」
 「──ジェルルップ…」

果林「“ひのこ”!!」
 「コーーンッ!!!!」


数で撃ち落とすのを優先してきたのか、9つの狐火がウツロイドに向かって降り注いでくる。


歩夢「よ、避けて……!!」
 「──ジェル…」


ふわふわと軌道を変えながら、避けようとするも──1発の“ひのこ”がウツロイドの傘に直撃し、爆発する。


歩夢「きゃぁっ!?」
 「──ジェルップ…」


その爆発の衝撃で歩夢がウツロイドを掴んでいた手を滑らせた──


歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁ!!?」

侑「歩夢ーーー!!!!!」


私は歩夢が落ちてくるその場所に向かって──滑り込んだ。

朦々と砂煙が立ち込める中──

私は──

──歩夢を、ぎゅっと……抱きしめていた。
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:31:36.24 ID:8UVAxvmj0

侑「歩夢……っ……」

歩夢「──……侑ちゃん……絶対助けに来てくれるって……信じてたよ……」

侑「うん……っ……」
 「ブイィ…」

リナ『歩夢さん……本当に歩夢さんだよね……』 || > _ <𝅝||

歩夢「えへへ……イーブイとリナちゃんも……」
 「ブイィ♪」

リナ『うん♪』 || > ◡ <𝅝||

侑「歩夢……っ……もう……絶対、離さないから……っ」

歩夢「……うん……ずっと……離さないで……」


私は、世界一大切な幼馴染をぎゅっと……ぎゅっと……力強く抱きしめた。





    💧    💧    💧





かすみ「え……なに……どういうこと……?」


かすみさんがぽかんとしている。

そして、


果林「なにが……起こってるの……?」


バリコオルが展開した透明な壁の向こうで、果林さんが目を見開いて驚いていた。

私はそんな果林さんに向かって、


しずく「──そもそも、どうしてウツロイドは例外だと思ったんですか」


声を張り上げながらそう言葉をぶつける。


果林「え……」


しずく「歩夢さんにポケモンを手懐ける──いえ……ポケモンと仲良くなる歩夢さんの才能が、どうしてウツロイドには例外的に効かないと思ったんですか?」


果林「……ま、さか……しずくちゃん……貴方……!!?」


しずく「果林さん……私にこう言ってくれたじゃないですか。『舞台に立つときは、自分が今何を求められていて、今の自分に必要な役割を考えて……その上で出せる最高の自分を演じてみるといい。役割を理解していれば自ずとチャンスは巡ってくる。』って。だから……私は私の舞台で、私の役割を理解して──演じました。そして、チャンスは巡ってきました」


果林「……!? じゃあ、フェローチェの毒に侵されていたのも……!?」


しずく「ええ。私は貴方たちに付いていったあのときから……──フェローチェになんてこれっぽちも興味ありませんでしたよ♡ 私の狂人演技、どうでしたか? まんまと騙されてくれましたよね♡」


果林「……………………やって、くれるじゃない……」
 「コーーーンッ!!!!!」


怒りに任せてキュウコンが炎が飛んできますが──“ひかりのかべ”に防がれて霧散する。


しずく「このときのためだけに、ひたすら“リフレクター”と“ひかりのかべ”の練習をしていたんです。破らせませんよ……!」


果林「く……!」
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:32:26.39 ID:8UVAxvmj0

せつ菜「つまり……貴方は全員まとめて謀ったと……」
 「ガドーン」


そう言いながら、ズガドーンが“シャドーボール”を集束しながら、私に向かっていつでも発射できる状態にしていた。


せつ菜「数日間……寝食を共にした仲ですから……言い訳くらい、聞きますよ」

しずく「……そもそも……歩夢さんが攫われた時点で、絶望的な戦力差を埋める方法を私はずっと考えていたんですよ」

せつ菜「……」

しずく「だけど……どんなに考えても……戦力差は絶望的だった……だから、私は考えたんです──」


あのとき──カーテンクリフの遺跡で、彼方さんと遥さんの容態を見守っていたときのこと……。



──────
────
──



彼方「しずく……ちゃん……はるか、ちゃんのこと……おね、がい……」

しずく「彼方さん……!? そんな身体で、どこに行くつもりですか!?」

彼方「みん、なを……たすけ、なきゃ……戦闘に……な、ってる……」


確かに先ほどから激しい戦闘の音が響いているけど……。


しずく「なら、私が行きます……! 彼方さんはここに──」

彼方「ぜっ、たい……ダメ……、かり、んちゃんは……フェロー、チェを……持って、る……」

しずく「え……?」

彼方「いい……? ぜったい、ここに……いるんだよ……!!」


そう残して、彼方さんは身体に鞭打ちながら、階段を駆け上がっていった。

──フェローチェがいる……つまり、それは……。


しずく「かすみさんたちが戦っているのは……ウルトラビースト……!?」


待っていろと言われたけど……。


遥「…………」


すっかり気を失って、ぐったりしている遥さん。

でも上では戦闘が起こっていて、助太刀に行かないとかすみさんたちが危ない……でも、どうすれば……。

そのとき──


 『──侑ちゃんっ!! かすみちゃんっ!! 逃げてぇぇぇっ!!』

しずく「……!!」


歩夢さんの叫び声、


 『──もう、やめてぇぇぇぇぇっ!!!!』

しずく「……! 遥さん……ごめんなさい……!!」


私は階段を駆け出す。

階段を駆け上がった先にあった光景は──
474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:34:12.43 ID:8UVAxvmj0

彼方「…………」

かすみ「……っ゛……ぅ……」

侑「歩夢……行っちゃ……ダメだ……!」

歩夢「侑ちゃん……来ないで……」

侑「……!!」


ボロボロになって気を失っている彼方さん。

満身創痍の侑先輩とかすみさん。

そして……歩夢さんが、目の前のある大きな空間の穴に向かって──果林さんと一緒に歩いているところだった。


歩夢「ごめんね……」

侑「あゆ……む……」


歩夢さんが連れ去られようとしている。

今、私に何が出来る? ポケモンを出して戦う……? いや、無理だ。

侑先輩やかすみさんに勝てなかった相手に、私が挑んだところで勝てるわけがない。

だから歩夢さんは自分を犠牲にして付いていくことを選んだんだ。そうじゃなきゃ、無抵抗に付いていったりするはずがない。

私は目の前で起こっている出来事に対して、脳をフル回転させながら分析し、激しく思考する。

──今、私に、何が出来る……?

その自問自答が至った答えは──


しずく「フェローチェ……」


果林さんの横に居るポケモンだった。

──ドクリと胸が高鳴る。あのときのフェローチェに酔う感覚を身体が思い出す。

でも──もし、これに抗って、敵の懐に潜入出来たら……? もしかしたら、今度こそ……本当に正気を失って……壊れてしまうかもしれない。

だけど、


しずく「……やるしかない」


今、私に出来ることは──いや……今、私にしか出来ないことは、これしかない……!


果林「さぁ、歩夢この穴に──」

しずく「──待ってください!!」


私は──大きな声で果林さんを引き留めた。


しずく「…………」

かすみ「しず……子……?」


──オウサカ・しずく。あなたは今から──フェローチェの虜になった、可哀想な女の子……。


しずく「…………私も、連れて行ってくださいませんか……♡」


この瞬間から、私は──私の戦場に自らを駆り出したのだった。



──
────
──────

475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:36:00.56 ID:8UVAxvmj0

しずく「そして、その先で……せつ菜さん、貴方が彼女たちに与していることを知りました」

せつ菜「…………」

しずく「貴方が敵だとしたら……恐らく、まともに戦って勝てるトレーナーは千歌さんしかいない。ですが、その千歌さんも捕らえられていた。そこで私は考えたんです──まともじゃない戦況に貴方たちを引き摺り込むしかないと」


そう言った瞬間、


 「サ…ナ…」


私のすぐ足元で、瀕死寸前になっていたサーナイトが私の足を掴む。次の瞬間、フッと視界が切り替わる。


かすみ「へっ!? し、しず子が急に目の前に……!?」

せつ菜「っ……!? “テレポート”……!?」

しずく「かすみさん、走るよ!!」

かすみ「う、うん……!」


私はかすみさんの手を取って走り出す。それと同時に、


しずく「サーナイト、お願いね……!」
 「サナ…」


サーナイトに私のバッグを持たせ──再度“テレポート”させる。


せつ菜「くっ……!! 待ちなさい!!」

かすみ「えとえとえと……かすみん、何がなんだか……」

しずく「簡単に言うとね……! 私は最初から──せつ菜さんと果林さんを分断させて、多対一になる形を作ろうとしてたってこと!!」

かすみ「……!! じゃあ……!!」

しずく「かすみさん!! 二人でせつ菜さんを倒すよ!!」

かすみ「しず子……!! うんっ!!」


かすみさんとの共同戦線による──せつ菜さんとの戦いの火蓋が切って落とされた。





    🎀    🎀    🎀





歩夢「侑ちゃん……」

侑「歩夢……」


ああ……久しぶりの侑ちゃんの匂い……侑ちゃんの温もり……ずっとこうしていたいけど……。


リナ『ゆ、侑さん、歩夢さん……再会が嬉しいのはわかるけど……』 || >ᆷ< ||

歩夢「そうだね……侑ちゃん、行こう」

侑「歩夢……うん!」


リナちゃんに促されて立ち上がる。

直後──


果林「──“かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!」
476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:18.29 ID:8UVAxvmj0

上から炎が降ってくる。


歩夢「ウツロイド!! “ミラーコート”!!」
 「──ジェルルップ」


その炎を反射する。


果林「くっ……!!」
 「コーンッ!!!」


果林さんたちは反射されたと判断した瞬間すぐに身を引いたから、ダメージは与えられなかったけど……十分牽制にはなった。

それと同時に、


 「サナ」


しずくちゃんのサーナイトが目の前に“テレポート”してくる。

サーナイトは私にしずくちゃんのバッグを預けたあと──ぱぁぁぁっと、優しい光を放ち……。


 「サナ…」


パタリと倒れてしまった。


リナ『今の……“いやしのねがい”……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「た、確か使ったポケモンが戦闘不能になる代わりに、控えのポケモンが全回復する技だよね……?」


つまり……。


歩夢「ありがとう……しずくちゃん……!」


しずくちゃんのバッグに入っていたサーナイト用のボールに倒れたサーナイトを戻し──さらにしずくちゃんのバッグから、私のボールベルトを取り出して腰に着ける。

そして最後に……たくさんの回復アイテムが詰まったバッグの奥に、小箱を見つける。

その箱を開けると──


歩夢「……ありがとう……しずくちゃん」
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:39:56.74 ID:8UVAxvmj0

心の底からのお礼を呟いて──私は箱から取り出したローダンセの髪飾りを身に着ける。

私の大切なものは……しずくちゃんが全部守ってくれた。

手持ちたちの育成から、回復まで、全部……大事な侑ちゃんからの贈り物も……全部……全部……!!

あと、私に出来ることは──


果林「“ほのおのうず”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


──ゴォっと炎を周囲にまき散らし、私たちの逃げ場を塞ぐようにキュウコンが炎を吐いてくる。


果林「……逃がさないわよ……」


怒りを顕わにした果林さんが、崖の上から見下ろしてくる。


歩夢「侑ちゃん……私と一緒に……戦って……!」

侑「うん! 私……歩夢と一緒なら、誰にも負けないから……!!」


二人で頷き合って、


侑・歩夢「「二人で倒そう……! 果林さんを……!!」」


私と侑ちゃんは果林さんを倒すために──前に踏みだした。



478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2022/12/31(土) 12:40:35.83 ID:8UVAxvmj0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.75 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.74 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.74 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.70 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.71 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.69 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:245匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.63 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.63 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.61 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.62 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.60 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.70 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:207匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.76 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.72 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.70 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.70 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.71 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.71 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:239匹 捕まえた数:14匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.65 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.64 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.64 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.64 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.64 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:208匹 捕まえた数:22匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:19:39.68 ID:w+jDVHjQ0

 ■Intermission☀





──音ノ木上空。


穂乃果「……うーん」


私はリザードンの背の上で、腕を組んで首を傾げる。


穂乃果「……ウルトラビーストの出現率は日に日に上昇してるし……野生のポケモンがウルトラビーストに襲われる件数も増えてるんだよね……」


相談役から貰ったデータを見ながら呟く。

正直、こういうデータを見る、とかは苦手なんだけど……それにしたって、少し妙だなと思ってしまう。


穂乃果「これは、地方の危機に含まれないってこと……? 龍の咆哮すらないなんて……」


もちろん龍の咆哮は、メテノの墜落の方じゃなくて、本物の方のこと。

確かに、グレイブ団事変のときに比べると、目に見えて危機に思えないのはわかるけど……向こうだって、目で見て判断しているわけじゃないはずなのに……。


穂乃果「うーん……」

 「──何を唸っているのですか」

穂乃果「……!」


声がして、振り向くと、


海未「ずっと、ここに居るんですね」


海未ちゃんがカモネギに掴まって飛んでいた。


穂乃果「なんだ、海未ちゃんか……」

海未「なんだとはなんですか……。……作戦が始まったことだけ伝えようと思って」

穂乃果「……! わかった」

海未「場所はわかりますか?」

穂乃果「15番水道にある幽霊船だよね。相談役から聞いてる」

海未「なら、よかった。可能であれば……助力を頂けるとありがたいです」

穂乃果「わかった」

海未「よろしくお願いします」


それだけ言うと海未ちゃんは私に背を向ける。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:20:43.20 ID:w+jDVHjQ0

穂乃果「もう行っちゃうの?」

海未「ええ。本当に用件を伝えに来ただけなので」

穂乃果「なら、ポケギアに連絡入れてくれればいいのに……」

海未「普段滅多に出ない癖によく言いますね」

穂乃果「う……それは、ごめん……」

海未「……ふふ、冗談ですよ。……たまたまスケジュールに微妙な隙間があったので、パトロールがてらに幼馴染の顔を見に来ようと思っただけです。……居る場所がわかること自体が珍しいんですから、貴方は」

穂乃果「そっか」

海未「ええ。……穂乃果」

穂乃果「なに?」

海未「今回の騒動……片付いたら、久しぶりにことりと3人で……ご飯でも食べに行きましょう」

穂乃果「いいね、行きたい!」

海未「言質……取りましたからね。放り出したら承知しませんよ」

穂乃果「はーい」

海未「……では」


海未ちゃんは今度こそ、飛び去っていった。


穂乃果「…………」


私は傍らにある音ノ木に目を向ける。


穂乃果「……今回は……見逃してくれるってことなのかな……?」


私は未だ何の音沙汰もない龍神様に向かって、一人呟くのだった……。





    🏹    🏹    🏹





──ローズシティ。ニシキノ総合病院。特別治療室。


真姫「こっちよ」

海未「ありがとうございます」


真姫に病室まで案内をしてもらう。


真姫「それじゃ私は、もう行くわね……」

海未「はい。忙しい中、ありがとうございます」

真姫「ん」


私を案内し終わると、真姫はすぐにその場を後にする。

彼女にはこの後やることがありますからね。

病室に入ると、


理亞「……海未さん」

海未「理亞、こんにちは」
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:21:33.19 ID:w+jDVHjQ0

私に気付いた理亞が、少し不安そうな顔をする。

まあ、これから行うのは事情聴取ですから……多少の不安はあるでしょう。

そして──事情聴取をする当の本人に顔を向ける。


海未「……それと、聖良。……初めましてという方がいいでしょうか」

聖良「……ええ。お会いするのは初めてですね……」

海未「その様子だと……すっかり、声は出るようになったようですね」

聖良「ふふ、理亞がずっと話し相手になってくれていましたからね」


そう言って笑う聖良は、意外にも悪人の顔の片鱗は感じられず……その表情は、私が幼い頃、年の離れた姉から向けられていた顔に近い物を感じました。

……つまり、姉の顔ということです。


聖良「それで、私に聞きたいのは……グレイブ団事変の真相というところでしょうか?」

海未「……それもですが……今、この地方は少々立て込んでいまして……。貴方に聞きたいのは、この人物たちのことです」


そう言いながら、私は端末に二人の人物の写真を表示して、聖良に見せる。


聖良「……愛さんと果林さんですか」

海未「……! やはり、面識があるのですね」

聖良「はい。私たちの飛空艇──Saint Snowの設計をしてくださったのは愛さんです。……そして、果林さんからは資金協力を頂いていました」

海未「どうりであれほどの規模の飛空艇が作れたわけですね……。彼女たちとはどうやって?」

聖良「ディアンシーの研究をしている際に、私の研究内容をどこかで掴んでコンタクトを取ってきたという感じでした」

海未「では、向こうから……?」

聖良「はい」

海未「ふむ……」


自分から協力を名乗り出たということは……。


海未「……向こうの要求はなんだったんですか?」


必ず対価を求められたはずだ。


聖良「ディアンシーの捕獲に成功し、全てが終わったら──ディアルガ、パルキア、ギラティナを渡す約束をしていました」

海未「なんですって?」


私は少し考える。……確かにその3匹を手中に収めておけば、こちらは果林たちを追跡することがほぼ不可能になっていた。

……ということは、彼女たちはこの3匹の伝説のポケモンたちの力で、自分たちを追跡される可能性に最初から気付いていた……?

それなら一応筋は通っていますが……なんだか釈然としない。

聖良とのコンタクトがグレイブ団事変の前ということは……3年以上前のことなわけだ。

そのときには果林はモデル事務所をフェローチェの力で掌握し、表舞台に出ていたとはいえ……そこまで想定出来るものなのでしょうか……。


海未「果林は……その3匹を手に入れて何をしようとしていたのかわかりますか?」

聖良「いえ、そこまでは……という以前に、その3匹を欲しがっていたのは果林さんではありませんよ」

海未「果林ではない……? では……」

聖良「はい、その3匹を欲しがっていたのは愛さんです。加えて、そのことは果林さんには言わないで欲しいと言われていたので……。果林さんに言われたことと言えば……そうですね……出来る限りオトノキ地方内の戦力を削って欲しいとは言われましたが……」

海未「……」
482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 03:22:29.24 ID:w+jDVHjQ0

果林の目的は理解出来る。オトノキ地方内の戦力を削れば、ウルトラビーストを撃退することもままならなくなるからだ。

だが……愛の目的が理解出来ない。

先のとおり、彼女がエンジニアとして、私たちの追跡をその時点で想定して、対策を打っておいたということも考えられなくはないですが……。

だとしたら、果林に隠す理由はなんでしょう……?


海未「まだ……私たちがわかっていないことがある……?」


リナや彼方のような、かつて組織に所属していた人間にも、知られていない何かが……?


聖良「私が彼女たちについて知っているのは……これくらいですね」

海未「そうですか……。……ありがとうございます」


そう言って私は席を立つ。


理亞「あ、あの……海未さん……! ねえさまは……これから、ねえさまはどうなるの……?」

海未「……事態が落ち着いたら、グレイブ団事変について、改めて事情聴取をすることになると思います」

理亞「そうしたら……ねえさまは……」

聖良「罪を償うことになるんでしょうね」

海未「……貴方が素直に罪を認めるなら、そうなるでしょう」

理亞「……ねえさま」

聖良「いいのよ、理亞。……私が犯した罪は事実ですから」

理亞「……」

聖良「私が寝ている間に……貴方はジムリーダーとして、多くの人に囲まれるようになっていた……。貴方が笑ってくれているなら……私はそれで満足です」

理亞「……ねえさま……」

海未「……とりあえず、後日また来ます。そのときに改めてお話ししましょう」

聖良「はい」


私は、そう残して──聖良の病室を後にした。

……それにしても……愛はディアルガ、パルキア、ギラティナを手に入れて……何をする気だったんでしょうか……?


………………
…………
……
🏹

483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:04:19.83 ID:w+jDVHjQ0

■Chapter065 『決戦! ポケモントレーナー・せつ菜!』 【SIDE Shizuku】





しずく「──とりあえず一旦、せつ菜さんから距離を取ろう!!」
 「ベァ…!!!」

かすみ「う、うん! 行くよ、ジュカイン!」
 「カインッ!!」

かすみ「ダストダスは一旦戻って!」
 「ダストダァ──」


私はかすみさんの手を引きながら、峡谷の細い道へと走り出した。

その際かすみさんは、体が大きく走るのが苦手なダストダスを一旦ボールに戻す。


せつ菜「……逃げるなら内側にいるバリコオルを倒すまでです! ズガドーン! “かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーンッ!!!」


ズガドーンが、透明な壁を作っているバリコオルへ攻撃を仕掛けるが、


 「…………」


バリコオルは無言のまま、壁をすり抜け、壁の外側へ移動する。


しずく「バリコオルの特性は“バリアフリー”です!! 展開解除自由自在ですから、自分が通る部分だけ解除してすり抜けることも出来ますし、再展開もすぐ出来ます!!」

せつ菜「く……!」

しずく「“バリアー”を解除したいなら……!! まずは私たちを倒すことですね!!」


そう言いながら、私はかすみさんの手を引き、峡谷の細道を曲がる。


しずく「次は……こっち……!」

かすみ「み、道知ってるの……!?」

しずく「出来る限りの下調べは徹底的にしたから……! 今はとにかくせつ菜さんを奥に誘い込むよ!」

かすみ「なんで!?」

しずく「広いフィールドで戦うと絶対に力負けするから! 少しでも、複雑な地形で搦め手を使わないと勝ち目がないって話!」

かすみ「ぐぬぬ……悔しいけど、確かにせつ菜先輩を真っ向から倒すのはきついかも……」


せつ菜さんはただでさえ強いのに……彼女が今使っているのはウルトラビースト。しかも、私の認識が間違っていなければ、せつ菜さんが持っているウルトラビーストの数は3体だ。

かすみさんは以前に比べたら信じられないほど強くなったし、性格的に真っ向勝負で戦いたいかもしれないけど……相手はあのせつ菜さん。勝率を少しでも上げるために策を弄する必要がある。

幸いここら一帯の地形は頭に叩き込んだ。複雑な峡谷の道をかすみさんの手を引きながら突っ走る。


しずく「……はぁ……はぁ……もうちょっと奥まで引っ張りたい……けど……」


ある程度走って、せつ菜さんと距離を離したところで、


かすみ「しず子……!」


かすみさんが足を止めて、私の顔を覗き込んでくる。


しずく「ん? なに?」

かすみ「ホントにホントに……フェローチェのこと……もう大丈夫なの?」
484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:05:23.26 ID:w+jDVHjQ0

かすみさんは心配そうな表情でそう訊ねてくる。

……確かにかすみさんにとっては大事なことか。

もし、私がまだ完全にフェローチェの魅了から脱していないとなったら、いつ発作が起きるかもわからないまま戦うことになるだろうし……何より純粋に心配してくれているんだと思う。

ここからは、かすみさんとの共闘がどれだけうまく行くかに全てが懸かっている。せつ菜さんを引き離している今のうちに、話しておくべきだろう。


しずく「……平気だよ。もうフェローチェになんか、なんの興味もない」

かすみ「ホントに……? ずっと、果林先輩のフェローチェの近くに居たんでしょ……?」


……確かに、果林さんの信頼を得るためには、フェローチェに心酔している演技をし続ける必要があった。

だから、何度かご褒美と称してフェローチェを魅せてもらっていた。……そのとき、私の体内にある毒が何度も暴走しかけたけど……。


しずく「平気だよ……私は平気なの。……フェローチェの毒には絶対に負けない……」

かすみ「な、なんでそう断言できるの……?」

しずく「ふふ♪ かすみさんが言ったんだよ?」

かすみ「え?」

しずく「かすみさんの方が……フェローチェなんかよりも、可愛くて、美しくて、綺麗で、魅力的なんでしょ?」

かすみ「え、あ、そ、それは……///」


かすみさんの顔が赤くなる。

私は……いつかかすみさんが言ってくれた、この言葉のお陰で、負けずにいられた。


しずく「それとも、かすみさんは……私のこと、こんなに魅了しておいて……責任取ってくれないの……?」

かすみ「へっ!?/// あ、いや、だから、あれは別にそういう意味じゃなくて……しず子を助けるために必死で……/// あ、でも、しず子がそう思ってくれるのは嬉しくって……その……///」

しずく「ふふっ」


耳まで真っ赤になるかすみさんを見て、くすくす笑ってしまう。


しずく「あ、でも……フェローチェに魅了されてるのも悪くないかもなー……」

かすみ「へっ!? な、なんで!?」

しずく「だって、そうしたら──かすみさんが一生面倒見てくれるって言ってたから……それも悪くないかな〜……って」

かすみ「ぅ……/// だ、だから……それは……///」

しずく「そう言ってくれて……嬉しかった……」


そう言いながら、かすみさんの指に私の指を絡めると──なんだか、心地の良いドキドキがしてきて……この気持ちの方がフェローチェの魅了なんかよりも、ずっとずっと……幸せな気持ちだった。

──そのとき、近くでドカンッ!! と爆発音がする。

せつ菜さんが追い付いてきた……!


かすみ「や、やば……走るよ……!」

しずく「あ、うん」


かすみさんが私の手を引いて走り出す。

……むー……なんか誤魔化されちゃったな……。まあ、いいけど。

なんて、思っていたら、
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:06.64 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「あ、あのさ……」

しずく「ん?」

かすみ「……べ、別に……病気とかじゃなくても……しず子の面倒くらい……ずっと、見て……あげなくもない……から……///」

しずく「……へっ!?///」


──完全に不意打ちだった。自分の顔が一気に熱くなるのを感じる。


かすみ「だからっ……!! 今は、せつ菜先輩に勝たなきゃ!! 勝って、帰るよ!!」


そう言いながら、かすみさんが──あるものを投げ渡してきた。


かすみ「せつ菜先輩に勝つには必要でしょ!」

しずく「……! うん!」


それを受け取り確認した直後に──私も代わりにあるものをかすみさんに投げ渡す。


かすみ「さぁ〜て……! それじゃ、いっちょやってやりますか〜!」

しずく「うん……!」


位置も十分奥まで来た。

ここでせつ菜さんを迎え撃つ……!!





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……」
 「ガドーンッ!!!」


先ほどからズガドーンが炎弾を放ち、岩壁を爆破で破壊しながら進んでいる。

さっき一瞬だけ、岩壁の影に彼女たちの逃げる姿を見つけられたが……また、奥へと走り去っていってしまった。


せつ菜「……誘い込んでいるわけですか……」


しずくさんは明らかに地形を把握し、死角の少ない場所を選んだ逃げ方をしている。

恐らく、ここの地形も事前に下調べをしていたのだろう。

最初から全て……私を倒すために作戦を立てていたわけだ。


せつ菜「あの言葉も、全部……演技──嘘だったんですね……」


胸がジクりと痛んだ気がした。せっかく……やっと、私の気持ちを理解してくれる人が現れたと思ったのに……。


せつ菜「とんだ……大女優ですね」


そして、今も彼女は策を弄し、私を誘い込んでいる。

それがわかった上で、攻め込むのは愚策だとわかっているけど──


せつ菜「いいですよ……その誘い……乗ってあげますよ。もちろん……ただで思惑通りに誘われるつもりはありませんが……!」


私も、やられたまま引き下がるなんて、性分が許さない。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:06:47.41 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「ズガドーン!! “ビックリヘッド”!!」
 「ガドーーーーンッ!!!!!」


私はダメージ覚悟の爆発技で開戦の狼煙を上げた。





    👑    👑    👑





かすみ「…………」

しずく「…………」


二人で物陰に隠れて、せつ菜先輩を待ち構える。


しずく「音が……止んだ……?」


しず子の言うとおり、先ほどから鳴り続けていた爆発音が突然止まる。

……が、その直後……先ほどとは比べ物にならない轟音と共に──岩壁がこちらに向かって雪崩のように襲い掛かってきた。


しずく「っ!?」

かすみ「しず子!!」


かすみんは咄嗟にしず子の腕を掴み、


 「カインッ!!!」


私たち二人をまとめて抱き上げて、ジュカインがその場から離脱する。

それと同時に、


しずく「ツンベアー戻って!!」
 「ベァ──」


しず子が崩れ落ちてくる岩から、間一髪でツンベアーをボールに戻す。


かすみ「い、いきなりなんですか……!?」

しずく「まさか、“ビックリヘッド”……!?」

かすみ「それって、前に見た自爆するやつ!?」

しずく「うん……体力が大きく削れるから、こんな序盤から使ってくるとは思ってなかったのに……」


ガラガラと崩れるの岩の隙間から、せつ菜先輩の姿が見えた。


せつ菜「……見つけましたよ……」


直後、


 「────ジジジジ」


せつ菜先輩の傍らに──巨大な電線のようなポケモンが姿を現す。


かすみ・しずく「「……!?」」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:08:31.37 ID:w+jDVHjQ0

そして、そのポケモンの体が──青白くスパークしながら、帯電を始める。

でも、かすみんたちは今……崩れる岩から逃れるために──空中に跳んでいた。


しずく「空中じゃ逃げ場が……!?」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立てて!!」
 「カインッ!!!」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジ」


直後、カッと周囲が青白い閃光に照らされ──ピシャーーーーーンッ!! と轟音を立てながら空気を震わせる。

“かみなり”というよりも──もはや青白い光の柱のような雷撃を、メガジュカインの特性“ひらいしん”で受け止めます……が、


かすみ「威力が……強すぎる……っ!」


以前見た、侑先輩のメガライボルトの“かみなり”を彷彿とさせる──いや、もしかしたらそれ以上かもしれない電撃は、ジュカインの尻尾に吸収しきれず、バチバチと周囲に爆ぜ散っている。


しずく「地面にいないから、電気を逃がしきれてないんだよ……!」

かすみ「わかってるっ! “やどりぎのタネ”!!」
 「カインッ!!!」


ジュカインが地面に向かって、“やどりぎのタネ”を吐き出し──


かすみ「とりゃぁっ!!!」


電撃が爆ぜる中、ジュカインの背中のタネに手を伸ばしてもぎ取る。

そのとき──バチンッ!!


かすみ「っ゛……!?」


爆ぜた“スパーク”が指先に当たり──全身が痺れて動けなくなる。

──感電した。

気付いたときには、かすみんの身体はフラりと落下を始める。


しずく「かすみさんっ!!」


落ちそうになったかすみんの腕をしず子が掴み、


しずく「ロズレイド!! “アロマセラピー”!!」
 「──ロズレイドッ!!!」


心地の良い香りと共に、身体の痺れが和らぐ。


かすみ「っ……!! しず子、ありがと……っ!!」


お礼を言いながら、真下に向かって、タネをぶん投げる。

すでに地面で成長を始め、ツタを伸ばし始めている“やどりぎのタネ”の横に、ジュカインの背中のタネが落ちてきて弾けると──

ツタは一気に成長し──太い樹となって、ジュカインの足元まで伸びてくる。


 「カインッ!!!」


──その樹木に着地すると同時に、ジュカインの尻尾で吸いきれずに爆ぜていた電撃は、樹を通って、地面へと逃げていく。
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:09:58.42 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ジュカインの背中のタネは……植物を急成長させるほどに栄養満点なんですよ……!」

しずく「それよりかすみさん、身体は平気……!?」

かすみ「ちょっと、ビリっとしただけ……!」


正直、感電した瞬間、軽く意識が飛びかけたけど……当たったのは指先だったし、すぐに“アロマセラピー”を使ってくれたお陰で痺れも一瞬で取れたから、動けないほどのダメージにはなっていない。

が、もちろん息をつく暇などない。


せつ菜「“うちおとす”!!」
 「ガドーーーンッ!!!」


ズガドーンが落ちていた石に業炎を纏わせ、火球にして飛ばしてくる。


しずく「ロズレイド! “にほんばれ”!!」
 「ロズレ!!」

かすみ「“ソーラーブレード”!!」
 「カインッ!!!!」


強い日差しの下で、集束“ソーラーブレード”を作り出し、火球を真っ向から斬り裂く。


せつ菜「“でんじほう”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「尻尾向けて!!」
 「カインッ!!!」


今度は尻尾の“ひらいしん”で吸収し、地面に流して無効化する。


せつ菜「なら……“やきつくす”!!」
 「ガドーーーーーンッ!!!!」


畳みかけるような攻撃──今度はズガドーンが、やどりぎの樹木の根本に業炎を噴き付ける。

とんでもない火力で焼かれた樹木は一気に炎で焼け崩れ──グラリと傾き始める。


かすみ「わったたっ!? ジュカイン!! 地面に向かって跳んで!!」
 「カインッ!!!」


空中に居たらダメ……!! とにかく、地面に着地しないと……!!

傾く樹木を蹴って、地面に向かって一直線に飛び出すけど、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジジ」


その一瞬の隙にすら攻撃を放ってくる。


しずく「ロズレイド! “パワーウィップ”!!」
 「ロズレ!!!」


“かみなり”がジュカインの尻尾に落ちるのとほぼ同時に──ロズレイドが腕にある花から“パワーウィップ”を伸ばして地面に突き刺す。

──落雷の轟音が空気を震わせる中、今度はそれがアースの代わりになって、地面に電撃を逃がす。

やっとの思いで着地をするも、


せつ菜「“かえんほうしゃ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


せつ菜先輩の猛攻は止まらない。
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:10:35.73 ID:w+jDVHjQ0

しずく「ツンベアー!! “しおみず”!!」
 「──ベァァ!!!」


再びボールから繰り出されたツンベアーが、炎に向かって口から“しおみず”を発射するが──ジュゥゥゥッ! と音を立てながら、どんどん蒸発していく。


せつ菜「そんな威力で受けきれると思ってるんですか!!」

しずく「く……っ!!」


確かにみずタイプじゃないツンベアーだと消火が追い付かない。でも、少しでも炎の勢いを殺してくれれば十分……!


かすみ「行くよ、サニゴーン!! “ミラーコート”!!」
 「──ニゴーーーンッ!!!」


ツンベアーの目の前にサニゴーンの繰り出し──“ミラーコート”で反射する。


かすみ「自分の炎で燃えやがれです〜!」


反射された“かえんほうしゃ”がせつ菜先輩たちに迫りますが──


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!」


その炎をズガドーンが“だいもんじ”で相殺する。


かすみ「う、嘘!?」

しずく「……! 反射の可能性を考えて、あえて1段階弱い技を選んでたんだ……!」

かすみ「どんだけ先読みしてるんですか……!」

せつ菜「リスクをケアして攻撃するのは、当たり前のことですよ……」

かすみ「な、なら……!!」
 「ニゴーーーーンッ!!!!」


周囲の岩石がふわりと浮かび上がる。


かすみ「いっけぇーー!! “ポルターガイスト”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!!」


大きな岩石たちが、せつ菜先輩を襲いますが──


せつ菜「“かみなりパンチ”!! “ほのおのパンチ”!!」
 「──ジジジ」「ガドーーーンッ」


大きな岩石さえも、雷撃と業炎を纏った拳がやすやすと割り砕いていく。


かすみ「こ、攻撃が通らない……っ」

しずく「ツンベアー!! “つららおとし”!!」
 「ベアァァァ!!!!」


しず子が間髪入れずにサニゴーンの目の前に巨大なつららを落として氷の壁を作る。


せつ菜「“マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーーンッ!!!!!」


分厚い氷の壁が炎を防ぐと思いきや、ものすごい勢いで溶け始める。
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:11:24.71 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「ひ、日差しが裏目に出てる……!」

しずく「く……!! インテレオン、“あまごい”!!」
 「──インテ!!」


しず子が出したインテレオンが雨を降らせて炎の勢いを弱めようとするけど──あまりの炎の勢いに消火が間に合わず、燃え盛る炎がサニゴーンに襲い掛かる。


かすみ「“ミラーコート”!!」
 「ニゴーーーンッ!!!」


2度目の“ミラーコート”を構えるが──


せつ菜「2度も同じ技で反射出来ると思ってるんですか?」

かすみ「……!?」


“マジカルフレイム”はサニゴーンの目の前で──クンと軌道を上に逸らし──


 「ベァァァッ!!!?」


その背後に居たツンベアーに襲い掛かる。


しずく「ツンベアー!?」
 「ベァァ…」


ツンベアーが炎に焼かれて、その場に倒れる。

さらに、


せつ菜「──“ロックブラスト”!!」
 「ガドーーンッ!!!!」

 「ニゴーーンッ…」


炎を纏った岩石がサニゴーンを吹き飛ばす。

さらに、追撃、


せつ菜「“かみなり”!!」
 「──ジジジジッ」

かすみ「ジュカインッ!! 尻尾立ててぇっ!!」
 「カインッ!!!!」


落ちてきた青い柱をジュカインの“ひらいしん”で吸収する。

……が、青白い稲妻は何故かさっきよりも威力が強く、吸収しきれなかった電気が、稲光となって、周囲に迸る。


しずく「かすみさんっ! 伏せて!!」

かすみ「わわっ!?」


しず子に腕を強引に引っ張られ、転ぶように伏せると──今さっきまでかすみんの頭があった場所を稲妻が走る。


かすみ「な、なんで吸収できないの……!?」

しずく「たぶん、ズガドーンしか攻撃してないタイミングあったから、その間に“じゅうでん”してたんだと思う……っ! きゃぁっ!?」


しず子の目の前に──バチンと稲妻が爆ぜて、声があがる。


 「カインッ…!!!」
かすみ「ぐぅ……っ! ……じ、ジュカイン頑張ってぇ……!!」
491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:12:28.40 ID:w+jDVHjQ0

本来でんき技を無効化するはずなのに、ウルトラビーストの規格外のパワーのせいで、それすら完遂しきれない。

“かみなり”が終わるのを身を伏せたまま耐えていると、


 「ガドーンッ」

かすみ・しずく「「……!?」」


伏せている私たちの目の前にズガドーンが立っていた──巨大な影の球を集束しながら。


かすみ「……っ……! ブリムオン!!」
 「──リムオンッ!!」

しずく「インテレオン!!」
 「インテッ!!!」

かすみ・しずく「「“シャドーボール”!!」」
 「リムオンッ!!!」「インテッ!!!」

 「ガドーーンッ」


ズガドーンから発射される“シャドーボール”に、2匹の“シャドーボール”をぶつける。

2匹掛かりで同じ技をぶつけるが──


しずく「ダメ……っ! 向こうの方がまだ強い……っ!」


巨大な“シャドーボール”に、こっちの2つの“シャドーボール”が飲み込まれ始める。

でも、


 「カィィィンッ!!!」


まだ、ジュカインは“かみなり”を吸収しきれていない……!

ジュカインを失ったら“ひらいしん”も使えなくなり、デンジュモクの範囲攻撃で一網打尽にされて一巻の終わり……!

何がなんでもジュカインは守らなきゃ……!


かすみ「ブリムオンっ! “ひかりのかべ”!!」
 「リムオンッ!!!」


2匹の“シャドーボール”を飲み込んだ、ズガドーンの特大“シャドーボール”が“ひかりのかべ”に衝突して、影のエネルギーが爆ぜ散る。

だけど、どんどん影の球は“ひかりのかべ”にめり込むようにして、かすみんたちの方へと迫り出してくる。


かすみ「お、抑えきれないぃぃぃ……! さ、“サイコキネシス”ッ!!」
 「リムォォンッ…!!!!」


追加の技で、“シャドーボール”を押し返そうとするけど──ゆっくりと影の球がかすみんたちに迫ってくる。

巨大な影の球が目と鼻の先まで迫ったそのとき──


しずく「インテレオン……!?」


しず子の声が響く。それと同時に、


 「インテッ!!!!」


インテレオンが体に“あくのはどう”を纏って、“シャドーボール”に自ら突っ込んだ。

衝突と同時に、“シャドーボール”の影のエネルギーが一気に破裂し──


 「インテッ…!!!」
492 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:16.75 ID:w+jDVHjQ0

インテレオンが吹き飛ばされる。


しずく「戻って……!! インテレオン……!!」


直撃を受けたインテレオンは、あえなく戦闘不能……ですが、お陰で“シャドーボール”は消え去った……!


かすみ「ブリムオンッ!! “サイコ──」


目の前のズガドーンに攻撃を食らわせてやろうと思ったけど、


せつ菜「“オーバーヒート”」
 「ガドーーンッ」


こっちが攻撃態勢に入るよりも早く、ズガドーンの体から真っ赤な熱波がかすみんたちを襲った。


かすみ「あっつ……!!?」
 「リムオンッ…!!!?」


“ひかりのかべ”で防いでいるにも関わらず、全身が焼け焦げるような熱波が周囲一帯に広がっていく。

そんな中、


 「リムオンッ!!!」
かすみ「ブリムオン……!?」


ブリムオンが一歩前に出て、さらに私の周囲だけサイコパワーで熱波を逸らし始める。


かすみ「だ、ダメ……!! ブリムオンが燃えちゃう……!!」
 「リムゥォォォンッ!!!!」

しずく「ロズレイドッ、“はなふぶき”ッ!!」
 「ロズレッ!!!」


しず子が、少しでも熱波を防ぐようにと、ブリムオンの目の前にお花の壁を吹かせるけど──向こうは業炎、こっちは花。花は一瞬で燃え尽きてしまう。

そのとき、ちょうど、


 「……カインッ!!!」


ジュカインが“かみなり”を吸収しきり、


かすみ「か、“かまいたち”ッ!!」
 「カインッ!!!!」


背後から、ジュカインが刃を振るって作り出した“かまいたち”が飛んできて、それを身を捻って避けながら、かすみんは後ろに逃げる。

真空の刃が熱波をど真ん中から斬り払う。

どうにか、広がる熱波に対する逃げ道を見つけて、かすみんが致命傷を受けるのは免れたけど──


 「リム…オン…」


ブリムオンが崩れ落ちた。


かすみ「……っ……」


やっと落ち着いたフィールドでは──先ほど“マジカルフレイム”で戦闘不能になったツンベアーが横たわり、“ロックブラスト”で弾き飛ばされたサニゴーンが気絶して転がっている。


 「ガドーンッ」


そんな中、目の前でくねくねと身をくねらせているズガドーンと、かすみんの間に割って入るように、
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:13:56.73 ID:w+jDVHjQ0

 「カインッ!!!」


ジュカインが割り込んでくる。


せつ菜「……そのジュカイン、よく育てられていますね……ウルトラビースト2匹との攻防の中心にいながら、未だに主人を守るために前に立っている」

かすみ「……」

せつ菜「ですが……力不足です。……ウルトラビースト2匹の力には及ばない。……しずくさん、計算高い貴方も……最後の最後でつく陣営を間違えたようですね……」

しずく「……」

せつ菜「2対1なら勝てると思いましたか?」

しずく「……はい、そう思っていました。──そして、今も……思っています……!!」
 「ロズレッ!!!!」


ロズレイドがしず子の言葉と共に、ジュカインの前に踊り出した。


せつ菜「!? ロズレイドが単身……!?」


ズガドーンとの相性がすこぶる悪いロズレイドが前に飛び出してくるのは、さすがのせつ菜先輩も予想外だったらしく、一瞬判断が遅れる。

ロズレイドは両手の花をズガドーンに向けて、


しずく「“わたほうし”!! “どくのこな”!!」
 「ロズレィッ!!!!」


2つの花から、それぞれ別の技をズガドーンに向かって、放出する。


せつ菜「悪あがきを……!! “マジカルフレイム”!!」
 「ガドーーンッ」

 「ロズレッ…!!!」


至近距離から“マジカルフレイム”で焼かれて、ロズレイドが戦闘不能になる──けど、


かすみ「ダストダス!! “ベノムトラップ”!!」
 「──ダストダァァスッ!!!!!」


ボールから飛び出したダストダスが、“どく”状態の相手にだけ効く毒霧を噴射する。


 「ガ、ドォーーンッ」


“わたほうし”と“ベノムトラップ”によって、ズガドーンの動きが鈍った瞬間──


 「ガァァァァァーーーーーッ!!!!」


上空から、鳴き声が響く。


せつ菜「なっ……!?」

かすみ「さぁ、かましてやってください、アーマーガア!!」

 「ガァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジ、ジジジジ」


上空から突っ込んできたアーマーガアが、“ボディプレス”でデンジュモクに向かって突っ込む──と同時に、デンジュモクの足元にヒビが入る。


せつ菜「……!?」

かすみ「実はかすみん……まだ得意な戦法があるんですよ……!」
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:15:02.04 ID:w+jDVHjQ0

その亀裂はどんどん大きな亀裂となり──


かすみ「動かない相手になら特に有効──落とし穴作戦ですっ!!」

 「──グマァァァァァァ!!!!!!」

 「──ジジジジ」
せつ菜「落とし穴……!?」


穴の中からマッスグマが雄叫びをあげる。それと同時に、せつ菜先輩ごと巻き込んで地面が崩落を始めた。


せつ菜「くっ……!?」


せつ菜先輩は軽い身のこなしで、その場から飛び退きますが──大きな巨体のデンジュモクはそうもいかない……!


 「──ジ、ジジジジ」

せつ菜「こんな巨大な穴、いつから……!?」

しずく「最初からですよ」

せつ菜「最初から……!?」

かすみ「逃げてるように見せかけて──せつ菜先輩の足元にはずっと穴を掘って追いかけるマッスグマがいたんですよ!!」


崩落する地面に足を取られ、さらに上からアーマーガアの“ボディプレス”を受け、体勢を崩したデンジュモクの巨体が倒れ始める。


せつ菜「デンジュモクッ!! “ほうでん”!!」

 「──ジジジジジジジ!!!!」

 「ガァァァァァッ…!!!!!」「グマァァァァッ…!!!?」


“ひらいしん”で吸い寄せる前に、直接電撃を浴びせられたアーマーガアとマッスグマが気絶して動きを止める。

だけど、もうバランスを崩したデンジュモクに、攻撃を回避する術はないし──


 「ガ、ドォォーーーーンッ」


動きの鈍ったズガドーンじゃ、もうサポートも間に合わない……!


かすみ「ダストダス!! “にほんばれ”!!」
 「ダストダァァァス!!!!」


降っていた雨をダストダスが再度晴らし──


 「カィィィンッ!!!!!」


ジュカインが、大地を踏み切って──飛び跳ねた。

雲の切れ間から、差し込む陽光の帯の中──太陽の光を輝く剣に集束して、


かすみ「“ソーラーブレード”ォォォォォッ!!!!」

 「カィィィィィィィィィンッ!!!!!!!!!」


バランスを崩し傾くデンジュモクの体を──頭から足の根本まで一直線に斬り裂いた。


 「──ジ、ジジジジ」


最大威力で斬り裂かれたデンジュモクは──そのまま、ゆっくりと大地に崩れ落ちたのだった。
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:16:07.56 ID:w+jDVHjQ0

かすみ「やったぁ!! ナイスだよ、ジュカイン!!」

 「カァァインッ!!!!」


が、喜ぶのも束の間──ボォンッ!! と音を立てて、ジュカインが爆炎と共に吹き飛ばされた。


 「カィンッ…!!!?」

かすみ「ジュカイン……!?」


爆発に吹き飛ばされ、地面を転がったジュカインは──


 「カ、ィンッ…」


ついに戦闘不能になってしまった。


かすみ「じ、ジュカイン……!」

せつ菜「……確かに、デンジュモクを倒したのはお見事でした……。……ですが、いくら動きが鈍っていても、他のポケモンを攻撃している間に炎で狙い撃つのは容易いことです……!!」

 「ガドォーーンッ」

かすみ「だ、ダストダス……!!」
 「ダストダァスッ!!!!」


ダストダスが、腕を伸ばしてズガドーンを拘束する。


せつ菜「……“にほんばれ”のサポートをする時間で、ズガドーンを拘束するべきでしたね。尤もそれでは、ジュカインの“ソーラーブレード”が間に合いませんでしたが」


そう言うと同時に──


 「ガドーーーン」


ダストダスに拘束されているズガドーンの頭が──ポロリと落ちる。


かすみ「……!?」

せつ菜「ですが……ウルトラビースト2匹相手に、相討ちまで持っていったことは……素直に評価しますよ。──“ビックリヘッド”」


ズガドーンの頭が膨張し、爆発──しようとした瞬間。

──パァァァァンッ!!!! と音を立てて、落ちたズガドーンの頭が、水の弾丸に撃ち抜かれた。


せつ菜「……え……?」


撃ち抜かれた頭は不発し、


 「ガ、ドォン」


自身のエネルギーの大部分を内包する頭部を撃ち抜かれたことによって、ズガドーンの体も崩れ落ちた。


せつ菜「……な……に……?」


さすがに何が起こったのか理解出来なかったのか、せつ菜先輩が驚きで目を見開く。


しずく「……せつ菜さん。私の手持ちには──インテレオンがいるんですよ。遠方にアーマーガアが運び出し、そこから“ねらいうち”にさせてもらいました」

せつ菜「インテレオン……? インテレオンはさっき戦闘不能にしたはずです……!」

しずく「ええ、そうですね」


そう言いながら、しず子が手の平にボールを乗せて、せつ菜先輩に見せつける。
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:17:57.43 ID:w+jDVHjQ0

しずく「──この子が、本当に……インテレオンなら……ですが……」

せつ菜「は……?」


そう言いながら、しず子が戦闘不能になって、フィールドに倒れているロズレイドとツンベアーをボールに戻す。

かすみんも倣うように……ジュカイン、マッスグマ、サニゴーン、ブリムオン──そして、“アーマーガア”をボールに戻した。


せつ菜「……え……あ、アーマーガアはしずくさんのポケモンではなく、かすみさんのポケモン…………?」

かすみ「一時的に、ですけどね」

せつ菜「一時的に……まさか……戦闘前に……交換していた……? じゃあ、しずくさんの最後のポケモンは……!?」

しずく「せつ菜さんが、かすみさんの手持ちを把握していなくて……助かりました」


……そう、こんなことが出来るポケモンは──特性“イリュージョン”を使えるポケモンしかいない。


せつ菜「……ゾロ……アーク……?」

かすみ「……純粋なバトルじゃ、せつ菜先輩の方が、私たち二人より強いかもしれませんけど……騙し合い化かし合いでは、かすみんたちの方が1枚上手だったようですね」

せつ菜「…………」


せつ菜先輩は一瞬黙り込みましたが、


せつ菜「…………はは……ははは……あはははははははっ!!」


すぐに大きな声で笑いだした。


せつ菜「確かにすごいです……!! こんな戦法を取ってくるなんて、考えてもいませんでした……仮に私が貴方たちの立場だったとしても、思いつかなかったと思います……。一人のトレーナーとして……素晴らしかったと賞賛したいです。……ですが──」

 「────」

 「ダストダァ…ッ」


ダストダスが──突然崩れ落ちる。


かすみ「ダストダス……!?」

せつ菜「……まだ、私には……ウルトラビーストがもう1匹残っています……」

 「────」


この離れた距離から一瞬で肉薄し、ダストダスを斬り裂いたポケモンは──小さな折り紙のような見た目をしたウルトラビースト。


かすみ「……カミツルギ……」

せつ菜「……本当に、賞賛に値します。……ですが、貴方たちの負けです」

かすみ「…………っ」


どうする……どうする……。

本当の本当に私の手持ちは1匹も残っていない……。


せつ菜「覚悟は……出来ていますね……」

 「────」


カミツルギがこっちに、剣先を向けてくる。

直後──
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:21:37.82 ID:w+jDVHjQ0

 「────」


──パァンッ!! と音を立てながら、音速で飛んできた水の弾丸が、カミツルギによって斬り裂かれた。

それと同時に、


しずく「かすみさん、逃げるよ!!」

かすみ「しず子……!」


しず子が私の手を引いて、走り出す。


せつ菜「この状況でまだ、逃げられると思っているんですか……?」

 「────」


カミツルギがものすごいスピードで追いかけてくるけど……そんなカミツルギを狙い撃つように、連続で水の弾丸が飛んでくる。


せつ菜「……本当の本当に、悪あがきですね……」

 「────」


せつ菜先輩はゆっくり私たちの後を追いながら、カミツルギは音速の水の弾丸を、それよりも速い斬撃で斬り払っていく。


しずく「まだ……まだインテレオンがいるから……!! まだ、負けてないから……!!」

かすみ「……しず子」

しずく「私は……諦めない……!! 諦めないことを……今まで何度もかすみさんから教えてもらったから、絶対に諦めない……!!」


そう言って握られた、しず子の手は──震えていた。


しずく「二人で生きて帰るって約束したもん……! だから、だから……!!」


だけど──激しい戦闘の後で、体力が限界だったのかもしれない。

しず子が足をもつれさせ、


しずく「あっ……!?」


──転んだ。


 「────」


背後に迫るカミツルギ。


かすみ「しず子っ!!」


私は咄嗟に、転んだしず子に覆いかぶさり、カミツルギからの攻撃の盾になるように、跳び付こうとした──のに。

しず子は私の腕を引っ張りながら、自分は身を捻り、私が跳び付く勢いを利用して、まるで合気道のような方法で、逆に私を自分の背後に投げ飛ばした。


かすみ「……っ!?」


私は地面を滑る。

すぐに身を起こして振り返るけど、


 「────」


もう、カミツルギがしず子に向かって、刃を振り上げていた。
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:23:16.13 ID:w+jDVHjQ0

しずく「……護身術……まさか、初めて使う相手が──かすみさんだとは思わなかったよ」


しず子はそう言って、笑った。





    💧    💧    💧





──刃が迫る。

もうこの距離は絶対に避けられない。でもいいんだ。かすみさんを守れるなら。

それに私──せつ菜さんを、傷つけちゃったから……。

みんなを助けるためとはいえ……苦しんでいるせつ菜さんを、利用することを選んだ悪い子だから……。

もしその報いを受けなくちゃいけないんだとしたら──それは私の役目だから。


かすみ「──しず子ぉぉぉぉぉっ!!!!!」

しずく「ばいばい……かすみさん。……大好きだよ……」


背中でかすみさんが叫ぶ自分の名前を聴きながら──私はお別れの言葉を呟いて──目を閉じた。


…………。

…………。

…………。


あれ……?

おかしいな……。……痛みがない。

もしかして……痛みを感じる暇もないくらい……一瞬で死んじゃったのかな……?

私がゆっくり目を開けると──


しずく「……え……」


私の目の前には、


かすみ「う……そ……」


みかん色の髪の女性と、青色の波導を纏ったポケモンが居た。


せつ菜「……なん……です……って……?」


この地方最強のトレーナー──オトノキ地方・チャンピオン。


千歌「……」
 「グゥォ」


千歌さん、その人だった。



499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:13.01 ID:w+jDVHjQ0

    🍊    🍊    🍊





千歌「……しずくちゃん、平気?」

しずく「……は、はい……」

千歌「そっか、よかった。……下がってて」
 「グゥォ」


ルカリオが波導の剣で受け止めたカミツルギの刃を振り払う。

そして私は──せつ菜ちゃんを見据える。


せつ菜「う、動かないでください……!!」

千歌「それは聞けないかな」

せつ菜「動くなっ!! カミツルギ! “いあい──」

千歌「“いあいぎり”」
 「グゥォッ」

 「────」


ルカリオの神速の波導が──カミツルギを一瞬で斬り裂き、カミツルギはその場に崩れ落ちた。


せつ菜「う……そ……」


せつ菜ちゃんが膝をつく。


かすみ「す、すご……」

しずく「な、何も見えなかった……」


せつ菜ちゃんが、膝をついたまま、拳を握りしめる。


せつ菜「…………」

千歌「せつ菜ちゃん、立って」

せつ菜「……え」

千歌「まだ、ポケモン……居るでしょ?」

せつ菜「…………!」

千歌「大切な……“せつ菜ちゃんのポケモンたち”が、まだいるでしょ?」

せつ菜「…………」


私がどうしてここまで来たのか、それは──


千歌「あのとき……出来なかったバトル、しに来たよ」


私はそう言いながら、バッグから──マントを取り出し、それを羽織る。


せつ菜「──チャンピオン……マント……」

千歌「そうだよ。……オトノキ地方のチャンピオンの証……チャンピオンマント」

せつ菜「……それを羽織る意味……わかっているんですか……!?」

千歌「わかってるよ」


意味、それは──このマントを羽織ってするバトルは、いついかなるモノであったとしても──オトノキ地方の頂点を決める、正式なチャンピオン戦となるということ。
500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:24:52.29 ID:w+jDVHjQ0

せつ菜「わ、私が貴方に何をしたのか、理解して──」

千歌「んー、それはもう、この際どうでもいいや」

せつ菜「……!」

千歌「今更私たちが語るのは、言葉じゃなくていいよ。……ポケモンバトルで語ろうよ」

せつ菜「……」

千歌「私が勝ったらチャンピオン防衛。せつ菜ちゃんが勝ったら──今日からせつ菜ちゃんがオトノキ地方のチャンピオンだよ」

せつ菜「…………」


せつ菜ちゃんが、腰からボールを外して手に持った。


千歌「ありがとう」


──あのとき、私が未熟だったせいで、伝えられなかったことを伝えに……ここに来たから。

オトノキ地方のチャンピオンとして──誰よりも、ポケモンバトルを愛する……一人のポケモントレーナーとして。


千歌「──オトノキ地方『チャンピオン』 千歌!! 行くよ、せつ菜ちゃん……!!」


今度はちゃんと──伝えてみせるから……!!



501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/01(日) 12:25:57.21 ID:w+jDVHjQ0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:242匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:212匹 捕まえた数:23匹


 かすみと しずくは
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:32:28.29 ID:VUrl28Mg0

 ■Intermission✨



──やぶれた世界にて、ゲートの維持を続けていると……。


果南「真姫さん、こっちだよ」

真姫「……やぶれた世界……初めて来たけど、想像以上におかしな場所ね……」


真姫さんを先頭にした5〜6人ほどの集団を、果南がこのゲートまで案内してくる。


鞠莉「チャオ〜真姫さん」

ダイヤ「こんな状態のままで、恐縮ですが……」


わたしたちは、珠経由でディアルガとパルキアに指示を送りながら、挨拶をする。

彼女の後ろには、数人のリーグ職員と……四十代前半くらいの夫婦の姿があった。


鞠莉「そちらの人たちが事前に聞いていた……」

真姫「ええ、そうよ」


事前に聞いていた──ゲート先に通すことになっている人たちだ。

わたしが軽く会釈すると、ご主人は会釈を返し、奥様は深々と頭を下げてくれた。


真姫「鞠莉、ダイヤ、果南。ゲートの維持、お願いね」

ダイヤ「はい、お任せください」

鞠莉「みんなが帰ってくるまで維持するのが、わたしたちの役目だからね♪」

果南「何かあったときは私が対処するから、こっちは任せて」

真姫「ありがとう。それじゃ、今からこのゲートを潜って……世界を移動する。貴方たちは絶対に私たちから離れないようにして。その代わり、貴方たちの身の安全を最優先に守ることを、私含め、ポケモンリーグが全面的に保障するわ」


真姫さんが夫婦に向かってそう伝えると──彼らはその言葉に頷く。


真姫「行きましょう……!」


そして真姫さんたちは、ゲートを潜り──侑たちの向かった世界へと、飛んでいった。


ダイヤ「うまく……行けばいいのですが……」

鞠莉「こればっかりは、わたしたちにはどうすることも出来ないからね……」

果南「とにかく今は私たちに出来ることをしよう」


3人で頷き合う。


果南「って、言っても……この感じだと私の役割はあんまりなさそうだけどね〜」


確かに果南の言うとおり、ダイヤもわたしも、ディアルガとパルキアのコントロールが大分安定している。

このまま何事もなければ、ゲート維持自体は問題なく最後までこなせそうだ──と思った、まさにそのときだった。


 「──よっと……なーるほどねー。ここ、やぶれた世界ってやつだよね。こーゆーカラクリだったのかー」


──人影がゲートから、こちらの世界に躍り出てきた。

一瞬、今入っていった真姫さんたちが、何かの事情ですぐに引き返してきたのかと思ったけど──

その人物の容姿は──明るい金髪をポニーテールに結った少女の姿をしていた。それはまさに……数日前、会議で確認した姿そのもので、
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 02:33:19.88 ID:VUrl28Mg0

愛「表と裏の狭間にある世界から、ディアルガ、パルキア、ギラティナの力で、無理やり空間直通ゲートを伸ばすとは……よー考えたねー」


わたしたちの敵である──ミヤシタ・愛、本人だった。


ダイヤ「……っ!?」

鞠莉「な……!?」

果南「ラグラージッ!!!」
 「──ラァグッ!!!!」


果南が一瞬で攻撃態勢に移行し、繰り出したラグラージが飛び掛かる。

が、


 「リシャァーーンッ」
愛「まぁまぁ、そー焦んないでよー」

 「ラ、ラァァァグッ…!!!」


愛の傍らに居るリーシャンが一鳴きすると、作り出された音の障壁でラグラージが弾き返される。


果南「な……!? 止められた……!?」

愛「……もっとゆっくり楽しもーよ。……愛さんが遊んであげるからさ」


愛はそう言いながら──不敵に笑った。


………………
…………
……


504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:30:44.67 ID:VUrl28Mg0

■Chapter066 『決戦! チャンピオン・千歌!』 【SIDE Setsuna】





──ドクン、ドクンと心臓が脈打ち、口から飛び出してきそうだった。

もう二度と、戦うことがないと思っていたのに。あれで──あの戦いで終わりだと、全て終わってしまったと……思っていたのに。

千歌さんが──私の目の前に居た。

今の私に勝てるの?

ウルトラビーストもなしに、彼女に……勝てるの……?

『特別』のない私が……『特別』な彼女に、勝てるの……?

そこまで考えて──私は頭を振った。

やめよう。そんなことを考えても意味はない。

ギュッとボールを握り込む。

『特別』がなくても、私は彼女に何度も挑んだ。

そして何度も負けて、何度も何度も悔しくて泣いて、それでも何度も何度も何度も彼女の戦いを見返して、考えて、分析して……次は勝てるようにと、そう自分に言い聞かせて、私は──私たちは強くなった。強くなってきた。

私のトレーナー人生は──千歌さんを倒すためだけに存在していたと言っても過言ではない。

これはきっと、千歌さんの最後の気まぐれだ。

もう二度と巡ってこない、本当の本当に最後のチャンス。彼女を超えるための──最後のチャンスなんだ。


せつ菜「……すぅ……。……はぁ……」


息を吸って、吐いて──ボールを握り込んだ。


せつ菜「行くよ……! ゲンガー!!」
 「──ゲンガァァーーーッ!!!!」


ボールからゲンガーが飛び出す。


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲン、ガーーーッ!!!!」


フィールドに飛び出すと同時に発射された“シャドーボール”が猛スピードでルカリオに向かって飛んでいく、だが、


千歌「……“はっけい”っ!!」
 「グゥオッ!!!!」


千歌さんとルカリオが“シャドーボール”に掌打を合わせるように放つと、パァンッと音を立てながら、“シャドーボール”が霧散する。

大丈夫、これくらいのことは当たり前。やってくるに決まってる。

だけど、私が次の攻撃に入ろうと思ったときには、


 「──グゥォッ!!!!」


ルカリオは“しんそく”でゲンガーに肉薄していた。

そして、波導の剣を構える。

──恐らく技は、“いあいぎり”。本来ゴーストタイプのゲンガーには効かない技だが、彼女のルカリオが放つ刃は実体のないものすら“みやぶる”必中の斬撃。

あまりに速過ぎる、“しんそく”の居合が、ゲンガーを捉えようとした瞬間──


千歌「……!! ルカリオッ!!」

 「グゥォッ…!!!」
505 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:39:19.48 ID:VUrl28Mg0

ルカリオの刃がゲンガーにあと紙切れ1枚ほどで当たるか当たらないかの場所で、寸止めされた。

何故なら、ゲンガーが──黒いオーラを纏っていたからだ。


千歌「“みちずれ”……!」


さすが千歌さん。あの速さでありながら、咄嗟に攻撃を止められる判断力。そしてルカリオの技量。

ただ、それによって生じた隙に、


せつ菜「“あくのはどう”!!」
 「ゲンガーッ!!!!」

 「グゥオッ…!!!」


全方位に広がる“あくのはどう”でルカリオを吹き飛ばす。

そして、吹き飛んだことにより距離が離れた瞬間に、ゲンガーの口から、


「أ̷͕͈͈͆͊̂̀͂̾͂̃̿̂ͅن҉̱͚̬͍̘̟͎̙́̏̉̓́ا̸͈̞̭͎̰͚̥̮̮̱͔̄̓̌͒͂̇́́̑ ل̸̫̝͖̝̘̝͍̦̝͕̈͒̉̄͛ع̴͎͇̗̯͉̳̰̫͚̘͇͙̽̀̄̈́̐̽̃̈́̓́̓ن̷̗̲̠͎͖͖͖͉͂̃̈́̋̌̀̐̑̆͐͊ ي̶͙̙͖̙̘͔͖̬̰͙́̊̂͂̐̃م҉͔͚̳̦̗̍̀̀̌̿̚ك҈̖͍͙͍̞̩̾͂͒̈́̌̿̍̚ͅن҈̰̫͍͙͓̬͚̍̉͊̿̌̚ك҉̲̥̥̮̗̫͕̟̋̔̈̇̅̓́̀̍͆ ا҉̞͙̖͍̭̈̍̏̽ͅل̷͈̫̮͈̙͔̖̠̞͒̽̍͑̎̓̑̉̈͗͊ق̸̩̤̝͓̥̜̜̝̠̐͊͛̍̔̈́̿̍͋̓ي̶͖͎͚͇̥̙̩̊̔͂̅̿ا̴͔̣̗̲̫̳̠̫̙̦̃̉̓͛ͅͅم̸̟͓͇͚̯̜͓̥̮̞͚͆̑̓̌ ب҈͚͎͓̯͖̥̓̈̅̆ͅه̷͚͉̦̝̥̘͉̩͙̥̆̌͂̄̑́̊̽̐͑」


この世のものとは思えないような、呪いの歌が流れだす。


千歌「……! ルカリオ、戻──」

せつ菜「“くろいまなざし”!!」


千歌さんが一瞬で、“ほろびのうた”に気付きルカリオを戻すためにボールを投げるが、私はそれよりも早く“くろいまなざし”で交換を封じる。

交換は封じた……!! これで、千歌さんのエースを同士討ちに──


 「グゥォッ!!!」


と思った瞬間、ルカリオが“しんそく”により再び一瞬でゲンガーの懐に潜り込み、


千歌「“ともえなげ”!!」
 「グゥォッ!!!」


波導を纏った手でゲンガーの腕を掴みながら、真後ろに身を捨てつつ、足で押し上げるようにゲンガーを放り投げた。


 「ゲンガ──」
せつ菜「……!」


“ともえなげ”によって放り投げられたゲンガーは、私のボールに勝手に戻っていく。

──相手を強制的に控えに戻させる技だ。

千歌さんはゲンガーが場から退場して“くろいまなざし”が解除されると同時に、


千歌「ルカリオ戻れ!! 行け、フローゼル!!」
 「グゥォッ──」「──ゼルゥゥゥゥッ!!!!」


ルカリオを戻し、代わりにフローゼルを繰り出しながら走り出す。


せつ菜「スターミー!!」
 「──フゥッ!!」

千歌「フローゼル!! “かみくだく”!!」
 「ゼルゥッ!!!」


私がスターミーをボールから出すと、千歌さんは一瞬の判断で相性のいい“かみくだく”を選択指示するが、
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:40:05.34 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“かたくなる”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!?」


噛み付いたフローゼルの歯がガキッと硬い音を立てる。

間髪入れず、


せつ菜「“マジカルシャイン”!!」
 「フゥッ!!!」

 「ゼルッ…!!!」


至近距離から激しい閃光で焼き尽くす。

ダメージを負いながら吹っ飛んだフローゼルに向かって、


せつ菜「“10まんボルト”!!」
 「フゥッ…!!!」


今度はこっちが相性のいい“10まんボルト”で攻める。


千歌「“アイアンテール”!!」
 「ゼルッ…!!!!」


フローゼルは吹っ飛ばされながらも尻尾を硬質化し、それを地面に突き刺し、


千歌「“いわくだき”!!」
 「ゼルッ!!!!」


後ろに飛ばされている反動も利用し、てこの原理で足元の岩を砕きながら捲りあげて、盾にする。

普通なら驚いてしまうけど……千歌さんならそれくらいのことはしてくる……!!


せつ菜「それくらい、読んでます!!」


スターミーの“10まんボルト”は岩の盾に阻まれたように見えたが、岩にぶつかると沿うように回り込み、岩の後ろのフローゼルに向かってバチバチと音を立てながら襲い掛かるが──


千歌「“みずびたし”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルが、巨大な球状の水の塊を目の前の岩に向かって吐き出すと、“10まんボルト”は岩の水分に吸着されるように、それ以上前に進めなくなる。


千歌「水は電気をよく通すから、水に巻き込まれると進めなくなるんだよ!」

せつ菜「……!」


確かに、導電体の水から、絶縁体である空気中に向かって放電をするのは極めて難しい。

ご丁寧に“みずびたし”にする際も、口から出している水流から感電しないように、一度口の中で球状にしてから、ある程度の水量を纏めて発射し、自身と電撃の接触部分が出来ないようにしているのも芸が細かい。


千歌「フローゼルへの電気攻撃対策は完璧だから!」

せつ菜「なら、これはどうですか!! “10まんボルト”!!」
 「フゥッ!!!」

千歌「だから、効かないって!! “みずびた──」


再び放った“10まんボルト”に対して、千歌さんが再び“みずびたし”を指示しようとした瞬間──ボンッ!!! と音を立てながら、フローゼルの目の前で爆発が起きた。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「うわぁっ……!?」
507 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:41:09.24 ID:VUrl28Mg0

千歌さんは爆風でフローゼルと一緒に地面を転がりながらも、すぐに受け身を取って立ち上がる。


千歌「ば、爆発した!?」


今の“10まんボルト”は電撃による直接攻撃が狙いじゃない。

私が利用したのは放電中に起こる電熱だ。

水は電気を流せば、水素と酸素に分解される。水素は熱を加えると酸素を使って爆発的に燃焼する物質。なら、2度目の電撃による電熱で急に加熱されたら爆発するに決まっている。

吹き飛んで出来た隙に向かって、


せつ菜「“こうそくいどう”!!」
 「フゥッ!!!」


スターミーが体を高速回転させながら、フローゼルに向かって突っ込んでいく。スピードアップしながらの渾身の突撃……!


せつ菜「“すてみタックル”!!」

 「フゥッ!!!」

千歌「っ……! “スイープビンタ”!!」
 「ゼルッ!!!」


フローゼルはすぐに体勢を立て直し、硬い尻尾でスターミーを弾き飛ばすが、


 「フゥッ!!!」


弾き飛ばされても、スターミーは高速軌道で、すぐに切り返してくる。


千歌「も、もう一発っ!!」
 「ゼルッ!!!」


2撃、3撃と連続で弾き返すが──高速回転しながらスターミーはどんどん速度を上げていく。

このままだと、捌ききれなくなることに気付いた千歌さんは、


千歌「“あまごい”!!」
 「ゼルッ!!!!」


雨を降らせ始める。雨が降り始めると──


 「ゼルッ!!!」


フローゼルは尻尾のスクリューを高速回転させながら、ものすごいスピードで動き出し、スターミーの突進を回避する。


せつ菜「……! “すいすい”……!」


“すいすい”は水中や雨の中で、自身の素早さを倍加させる特性。

さらに、


千歌「“アクアジェット”!!」
 「ゼルッ!!!」


水流を身に纏い、超加速しながらフローゼルが、横回転するスターミーの丁度中央のコア部分に突撃してくる。


 「フゥッ…!!!?」

せつ菜「スターミー!?」


お互いが超高速軌道で動いていることもあって、その一撃でスターミーがバランスを崩し回転しながら墜落して、突起部分が地面に突き刺さる。
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:42:05.73 ID:VUrl28Mg0

千歌「そこだっ!!」

 「ゼルッ!!!」


その一瞬の隙を見逃さずに、尻尾を高速回転させ始めるフローゼル。あれは見たことがある──“かまいたち”の予備動作……!

スターミーはどうにか突起の先から水を逆噴射させることで、地面に刺さった体をすぐに引き抜くが、フローゼルはもう攻撃の体勢に入っていた。


千歌「“かまいたち”!!」

 「ゼルッ!!!!」

せつ菜「“スキルスワップ”!!」

 「フゥッ!!!!」


が、スターミーのコアが光ると同時に──スターミーがまさに目にも止まらぬスピードで、風の刃を回避した。


千歌「うそっ!?」

せつ菜「“すいすい”、貰いましたよ!!」

 「フゥッ!!!!」


先ほどのさらに倍のスピードで雨の中を駆けるスターミーは、今度こそフローゼルの背後を取り、体を回転させながら突撃を炸裂させ──


千歌「“うずしお”ッ!!」
 「ゼルゥッ!!!」

 「フゥッ!!!?」

せつ菜「な……っ!?」


──たと思ったら、巨大な水の渦がフローゼルの背後に発生し、突っ込んできたスターミーを逆に渦の中に捕えてしまった。


千歌「これでも速い相手を見切るのは得意なんだよ!!」

せつ菜「くっ……!! “こうそくスピン”!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーはすぐさま体を逆回転させ、渦を対消滅させる。

渦から解放された瞬間、


千歌「“ソニックブーム”!!」
 「ゼルッ!!!!」


フローゼルの尻尾から、音速の衝撃波が飛んでくる。


せつ菜「“ちいさくなる”!!」
 「フゥッ!!!!」


スターミーが指示と共に一気に体を小さくし、攻撃をギリギリ回避する。


千歌「く……!」


間一髪の回避。

スキルスワップにより、フローゼルの特性が“しぜんかいふく”に変わってしまったせいか、速度の面でスターミーに大きく軍配が上がっていたことも大きいだろう。

私はスターミーの回避を確認し、間髪入れずにボールを投げ込む。


せつ菜「ドサイドン!!」
 「──ドサイッ!!!!」
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:00.70 ID:VUrl28Mg0

ドサイドンがボールから飛び出すと同時に、大きな腕をフローゼルに向かって振りかぶる。


 「ゼルッ…!!?」
千歌「……っ!」

せつ菜「“アームハンマー”!!」
 「ドサイィィッ!!!!」


振り下ろされる重量級の拳に対して、


千歌「しいたけ!! “コットンガード”!!」
 「──ワッフッ!!!」


ボールから飛び出したトリミアンが、フローゼルを庇って、攻撃を受け止める。

ボフンと音がして、“ファーコート”に打撃が吸収される。

そして、その隙に、


千歌「フローゼル!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ゼルゥゥゥッ!!!!」


トリミアンの影から、フローゼルが“ハイドロポンプ”でドサイドンを攻撃してくる。

……が、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンはダメージを受けながらも、“ハイドロポンプ”を耐えていた。

ドサイドンはもともとタフな上に、特性は“ハードロック”。弱点タイプのダメージを軽減する特性なのが活きている。

さらに、ドサイドンの体からキラキラと輝く鉱物のようなものが舞い散る。


千歌「……!? や、やばっ!?」

せつ菜「“メタルバースト”!!」
 「ドサイッ!!!!」

 「ゼルゥッ!!!?」


さらにそのダメージを、はがねのエネルギーに変換し、フローゼルに叩きつけた。


 「ゼ、ゼルッ…」
千歌「戻って、フローゼル!!」


さすがに、耐えきれず動けなくなったフローゼルをボールに戻しながら、


千歌「しいたけ!! “アイアンテール”!!」
 「ワッフッ!!!」


トリミアンが硬質化した尻尾をドサイドンに突き刺してくる。


せつ菜「そんな威力じゃ、ドサイドンの防御は貫けませんよ!!」
 「ドサイッ!!!!」


お返しとばかりに、ドサイドンが“アームハンマー”を叩き付けるが、

またしても──ボフンッと音を立てながら、強力な打撃がいとも簡単に吸収される。


千歌「それを言うなら、こっちも防御力が自慢だよ!」
 「ワッフ!!!」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:44:38.42 ID:VUrl28Mg0

さっきの高速軌道の戦いとは打って変わって、今度はどっしりと構えた物理戦が始まる。

──が、そんな悠長にやるつもりは最初からない。


せつ菜「そうは言っても……得意なのは物理攻撃に対してだけですよね!! “アームハンマー”!!」
 「ドサイッ!!!!!」


三たび振り下ろされる、重量級の拳が──


 「ギャウッ!!!?」
千歌「なっ!!?」


今回は毛皮に衝撃を吸収されずに、トリミアンを押しつぶす。

そして、怯んだところにドサイドンが手の平を突き付ける。


せつ菜「“がんせきほう”!!」
 「ドッサイッ!!!!!」


ドサイドンの手の平に空いた穴から、巨大な岩石が発射され、


 「ギャウンッ!!!!」


砕ける岩石がトリミアンを吹き飛ばした。


千歌「し、しいたけ!! 戻れ!!」


これで2匹戦闘不能……!!


千歌「……防御しきれなかった……? ……違う、防御力で受けてなかったんだ」

せつ菜「そうです……“ワンダールーム”です」
 「フゥ!!」


小さくなり、いつの間にか私の足元まで戻ってきていたスターミーが鳴き声をあげる。

体を小さくし、“ほごしょく”によって姿を眩ませていたスターミーが使っていたのは、“ワンダールーム”という技。

フィールド上にいる全てのポケモンの防御と特防を入れ替えるという不思議な効果を持つ。

それによって“ファーコート”を無効化し、“コットンガード”の上から押しつぶしたというわけだ。


せつ菜「さぁ……次のポケモンを出してください……!!」

千歌「……その前に」

せつ菜「……? なんですか……」

千歌「ドサイドン、戻した方がいいよ」

せつ菜「……はい? 何を──」


何を言っているのかと思った瞬間、


 「ドサイッ…!!!」


ドサイドンの巨体が崩れ落ちた。


せつ菜「な……!?」

千歌「しいたけがドサイドンに突き刺してたのは──ただの“アイアンテール”じゃないよ」


一瞬何かと思ったが、
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:11.07 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「……“どくどく”……!」


すぐに思い至った。ひっそりと刺した尻尾から“どくどく”を注入されて、“もうどく”状態にさせられていたというわけだ。

私は言われたとおり、ドサイドンをボールに戻す。


せつ菜「……やるじゃないですか」

千歌「せつ菜ちゃんこそ!!」


スターミーが再び“ほごしょく”で姿を消す中、お互いが次のポケモンのボールをフィールドに放つ──





    👑    👑    👑





安全圏に避難してきたかすみんたちは、千歌先輩とせつ菜先輩のバトルを見て言葉を失っていました。


かすみ「……一つ一つの判断が早過ぎます……」

しずく「……これが……最強クラスの人たちの戦い……」


かすみん……自分が強くなった自覚はありますけど……このレベルのバトルはまだ出来る気がしません……。


かすみ「……というか、せつ菜先輩……ウルトラビーストで戦ってたときより、強くない……?」

 「──そういうことなのよ、要は」

かすみ「え?」


声がして振り返ると──


善子「……千歌がここに来た理由は、きっとそういうことなのよ」

しずく「ヨハネ博士……!」


ヨハ子博士はかすみんたちに近付いてきて──ギューッと抱きしめてきた。


善子「二人とも……無事でよかったわ……」

かすみ「よ、ヨハ子博士……」

しずく「ヨハネ博士……ご心配をお掛けしました……」

善子「無事ならいいわ」


ヨハ子博士はそう言いながら、かすみんたちの頭を撫でる。


かすみ「あ、あのあの……それでそういうことって……どういうことですか……?」

善子「……見てればわかるわ」

しずく「見てれば……わかる……?」


ヨハ子博士はそれ以上多くは語らなかった。……見てればわかるって、どういうことだろう……?


善子「頼んだわよ……千歌」



512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:45:59.46 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





千歌「ルガルガン!! “ドリルライナー”!!」
 「──ワォンッ!!!!」


体を回転させながら猛突進してくるルガルガンに対して、


せつ菜「エアームド!! “てっぺき”!!」
 「──ムドーーーッ!!!!」


こちらはエアームドを繰り出して、攻撃を真っ向から受ける。

──ギャギャギャと耳障りな音が鳴り響き、ギィンッ!! と音を立てながらルガルガンを弾き返す。

弾かれたルガルガンに向かって、


せつ菜「スターミー!! “ハイドロポンプ”!!」

 「フゥッ!!!」


小さい姿かつ“ほごしょく”によって潜伏しているスターミーが“ハイドロポンプ”でルガルガンを狙撃する。

ルガルガンに対して相性のいい大技のはずだが、


千歌「見つけた!! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


むしろ、千歌さんは──“ハイドロポンプ”に真っ向から突っ込んできた。

ルガルガンは激流を真っ向からドリルのパワーで穿ちながら、突っ切ってくる。


せつ菜「スターミー!! 一旦退避しなさい!!」

 「フゥッ!!!」


スターミーは攻撃を中断し、再び“ほごしょく”で姿を消す。


千歌「逃がしちゃダメ!!」

 「ワォンッ!!!」


スターミーが姿を消し、岩に突っ込んだルガルガンはそのまま弾けるように、スターミーの追跡を始める。


せつ菜「エアームド!! “フリーフォール”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


だが、そんなことは許さない……!

エアームドがルガルガンに向かって、鉤爪を構え上から急襲した──瞬間、


 「ピィィィィィッ!!!!!!」

 「ムドーッ!!!?」


ムクホークがエアームドに向かって突っ込んできた。

そのまま大きな爪でエアームドを地面に押し付けながら──


千歌「“インファイト”!!」

 「ピィィィィィィッ!!!!!!」
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:46:44.32 ID:VUrl28Mg0

爪と翼と嘴を使って、猛打を叩きこんでくる。

激しい近接攻撃だが──エアームドの防御を貫くにはまだ足りない……!


せつ菜「そこです!! “ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


攻撃に集中するあまり、防御がおろそかになっている部分を突いて、“ドリルくちばし”をムクホークの胸部に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!!」


嘴が直撃し、ムクホークは一旦後ろに逃げたが──

すぐに、爪でエアームドを抑えつけようとしてくる。

そのとき、


 「──フゥッ…!!!?」


スターミーの鳴き声が聞こえてくる。


せつ菜「くっ……!」


このムクホークの執拗な攻撃が、ルガルガンがスターミーを追いかけるための足止めだと言うのはわかっていたが、気付けば小さな小さなスターミーがルガルガンの口に咥えられていた。

ただ──いくらなんでも見つけるのが早過ぎる。


千歌「“かみくだく”!!」

 「ワォンッ!!!」

せつ菜「コスモパワー!!」

 「フ、フゥッ!!!!」


ガキン!! と音を立てながら、辛うじてキバを耐える。


せつ菜「“サイコショック”!!」

 「フゥッ!!!!」


そして、ルガルガンの口の中にサイコパワーで1個だけキューブを作り出し、


 「ワ、ワォ…!!?」


ルガルガンの口を無理やりこじ開ける。

今のうちに脱出させ──


 「ピィィィィィィッ!!!!!!」

 「ム、ムドーーーッ!!!!」

せつ菜「……!?」


今度はエアームドの鳴き声があがる。目を向けると、ムクホークが足でエアームドの体を掴み、低空飛行しながら引き摺り始めていた。

そのまま、ムクホークが飛び立とうとした瞬間、


せつ菜「エアームド!! “ボディーパージ”!!」

 「ム、ムドォー!!!!」
514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:47:28.43 ID:VUrl28Mg0

エアームドが掴まれていた部分の鋼の鎧をパージして、脱出する。

でも、今度は、


 「フ、フゥゥ!!!!」

せつ菜「……!!」


スターミーがルガルガンの足に踏みつけられじたばたしていた。

──ルガルガンはスターミーの姿を完全に捉えている……!?

そこで、やっと気付く。


せつ菜「……しまった、“かぎわける”……!?」


相手は最初からスターミーの姿ではなく──ニオイで追っていたことに気付くが、もう時すでに遅し。


千歌「“ブレイククロー”!!」

 「ワォンッ!!!」

 「フゥッ…!!!?」


踏みつけていたスターミーを、防御を貫く爪撃で切り裂いたあと──


千歌「“アクセルロック”!!」

 「ワンッ!!!」

 「フゥゥッ…!!!?」


たてがみの岩を高速で突進しながら叩きつけられ──スターミーは戦闘不能になる。


せつ菜「く……っ! 戻りなさい、スターミー!!」


私はスターミーをボールに戻しながら──視線をエアームドに戻すと、


 「ムドーーッ!!!!」

 「ピィィィィィッ!!!!」


上昇して逃げるエアームドをムクホークが追いかけているところだった。


千歌「“こうそくいどう”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


千歌さんの指示でムクホークが加速し──


千歌「“すてみタックル”!!」

 「ピィィィィッ!!!!!」


“すてみ”による渾身の一撃が──エアームドに直撃した。


 「ムドォォォッ…!!!!」

せつ菜「エアームド……!!」


あまりの破壊力に全身の鎧をばらばらに砕かれ、落下を始めるエアームドを、


 「ピィィィィッ!!!!!」
515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:48:12.97 ID:VUrl28Mg0

ムクホークが掴んで、そのまま地面に急降下を始める。


千歌「“ブレイブバード”!!」

 「ピィィィィィッ!!!!!」


そのまま一直線に──エアームドごと地面に墜落し、その衝撃で地面にヒビが入る。


千歌「エアームドが硬くても、こっちのパワーの方が上だったね!」


千歌さんが胸を張って自慢げに言ってくるが、


せつ菜「……あはは、千歌さん。忘れていませんか?」

千歌「……え?」

せつ菜「私のエアームドの特性──“くだけるよろい”ですよ」
 「ムドーーッ!!!!」

千歌「わ、忘れてた!?」


直後、鎧を脱ぎ去って加速したエアームドが、ムクホークの足元から飛び出し──


せつ菜「“はがねのつばさ”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ピィィィィッ!!!?」


ムクホークの脳天に叩きこむ。


 「ピィィッ…!!!」


脳震盪を起こしてふらつく、ムクホークに向かって、


せつ菜「“ガードスワップ”!!」
 「ムドーーーッ!!!」


“くだけるよろい”で下がった自身の防御力を──ムクホークに移す。

“ガードスワップ”はお互いの防御の能力変化を入れ替える技だ。


せつ菜「エアームド──」


私がエアームドに次の指示を出そうとした瞬間、千歌さんも迎撃態勢に移る。


せつ菜「“てっぺき”!!」

千歌「させな──“てっぺき”!?」
 「ワォンッ!!!!」


だが、千歌さんはムクホークへの追撃を予想していたのか、エアームドが防御を固めてきたことに面食らって驚きの声をあげる。

それと同時に、飛び込んできたルガルガンの爪を──ギィンッ!! と音立てながら、エアームドの鎧が弾き返す。

“くだけるよろい”で下がった防御は“ガードスワップ”でフォローし、さらに再び“てっぺき”で硬質化させた鎧で、ルガルガンの爪を弾く。

──そもそも、ここで千歌さんが自由に攻撃をさせてくれるはずがない。

だから、私の選択肢は最初から……防御一択。

それに──


千歌「い、今のうちにムクホーク!! 逃げ──」


もうすでに、ムクホークへの攻撃は完了している……!
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:10.98 ID:VUrl28Mg0

 「ピィィィィィッ!!!!?」

千歌「……!?」


──突然、上空から落ちてきた、無数の鉄の剣が、ムクホークを斬り裂き、


 「ピ、ピィィィ…」


ムクホークは戦闘不能になってその場に倒れ込む。


千歌「今の……“くだけたよろい”で砕けた破片……!?」


そうだ。最初から私の作戦は、あの場でムクホークを動けなくさえすれば、もう完了していた。

そして今のうちに、


せつ菜「エアームド!! “はねやすめ”!!」

 「ムドーーー」


エアームドが地上に降り立ち、回復を始める。


千歌「っ……! “ドリルライナー”!!」
 「ワォンッ!!!」


地上に落りたエアームドに向かって、ルガルガンが回転しながら突っ込んでくる。

それに合わせるように、


せつ菜「“ドリルくちばし”!!」

 「ムドーーーッ!!!!」


両者のドリルの先端が真っ向からぶつかり合い、耳障りな音が周囲を劈く。

──ギャギャギャギャ!!! と大きな音を立て──ガキンッ!! という音と共に、お互いのポケモンが弾かれて、後ろに飛び退く。


せつ菜「……はぁ……はぁ……」

千歌「……はぁ……っ……はぁ……っ」


激しい攻撃の応酬に、さすがに息が切れる。それにしても……。


せつ菜「……千歌さんって、何度戦っても、いつもなにかしら前に見たことを忘れてますよね」

千歌「う……!? ……で、でも、“くだけるよろい”を攻撃に使うのは見たことなかった! 今の知らなかったもん!」

せつ菜「特性さえ知っていれば防げたはずでは?」

千歌「そーいうせつ菜ちゃんだって、私の技で見切れてないのたくさんあるじゃん!」

せつ菜「な……!? で、ですが、毎回少しずつ改善されてるじゃないですか!? 前に10番道路で戦ったときは、ほぼ見切っていたようなものです!!」

千歌「それでも、私たちもどんどん強くなるから、完全に攻略されることはないけどねっ!」

せつ菜「強くなってるのは私たちだって同じです!! いつか──いえ、今日こそ、完全に攻略してみせますよ!! エアームド!!」
 「ムドーーッ!!!」


エアームドが戦闘不能になったムクホークの傍に突き刺さっている鉄の刃を一本引き抜き嘴に咥える。

その動作の隙に、


千歌「“アクセルロック”!!」
 「ワォンッ!!!!」
517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:49:49.63 ID:VUrl28Mg0

ルガルガンが飛び出してくる。

──ギィンッ!! ルガルガンのタテガミの岩と、エアームドの鉄の刃が鍔迫り合う。

パワーが拮抗する中、


せつ菜「引きなさい!」
 「ムドォ!!!」


エアームドが身を引く、


 「ワォッ…!!?」


急に身を引かれて、ルガルガンが一瞬前につんのめるが、


千歌「“ストーンエッジ”!!」
 「ワ、ワォンッ!!!」


千歌さんはよろけて前に踏み込む動作を、咄嗟の判断で攻撃に変換する。

ルガルガンの踏み込みと同時に鋭い岩が飛び出してくるが、


 「ムドォ!!!」


エアームドはその岩を足蹴にして、空に飛び立つ。

が、ルガルガンはすぐに自身のタテガミの岩で、“ストーンエッジ”を割り砕き、


千歌「“ロックブラスト”!!」
 「ワンッ!!!」


砕いた岩を投げ飛ばしてくる。


せつ菜「“きりさく”!!」
 「ムドォーーーッ!!!」


その岩を鉄の刃で斬り裂きながら、


せつ菜「“てっぺき”!!」
 「ムドォッ!!!」


さらに体を硬質化しながら、エアームドは岩石の弾丸の中、ルガルガンに向かって急降下を始める。


せつ菜「“ボディプレス”!!」
 「ムドーーーッ!!!!」

 「ワォンッ!!!?」


硬い鉄の鎧ごと、上空からルガルガンに叩きつけた。

ここまでのダメージも含め、これが決め手となり、


 「ワ、ワォン…」


崩れ落ちるルガルガン。


せつ菜「わ、私たちの勝ちです!!」

千歌「……残念、相打ちだよ」


千歌さんの言葉と共に──
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:50:44.81 ID:VUrl28Mg0

 「ムドォ…」


エアームドも崩れ落ちた。


せつ菜「エアームド……!?」


驚いて、倒れたエアームドを見ると──胸にルガルガンのたてがみの岩が折れて、突き刺さっていた。


せつ菜「か、“カウンター”……!」

千歌「これ折れるとまた生えるまで時間かかるんだけどねー……ま、仕方ない! せつ菜ちゃん相手にたてがみの岩一本の犠牲なら上出来だよ! 戻れ!」


そう言いながら、千歌さんはルガルガンとムクホークをボールへ戻す。


せつ菜「……戻ってください」


私も戦闘不能になって倒れているエアームドをボールに戻す。


千歌「さぁ、次だよ!!」


千歌さんがボールを構える。


せつ菜「望むところです……!!」


私も次のボールを構えたところで、


千歌「──せつ菜ちゃん」


千歌さんが私の名前を呼んだ。


せつ菜「なんですか?」

千歌「……楽しいね……!」

せつ菜「え……」

千歌「せつ菜ちゃんとのバトルは……予想外のことがたくさんあって……! 知らない技が、戦術がたくさんあって……! 何度戦っても、ドキドキワクワクする! ──せつ菜ちゃんは?」

せつ菜「……私は」


私は──

──胸が……ドキドキしていた。

でも、最初の動悸とは全然違う。

これは、このドキドキは──


せつ菜「──わけ……ないじゃないですか……」


このドキドキの正体なんて──そんなの……前から知っている。


せつ菜「──……楽しくないわけ……ないじゃないですか……っ!!」

千歌「うんっ!! そうだよねっ!!」


何度も何度も感じてきたこの高揚感。

そうだ、私は……ポケモンバトルの、この感覚がずっとずっと……大好きだったんだ。
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:51:28.82 ID:VUrl28Mg0

千歌「私も今、さいっこうに楽しい!! だからさ、もっともっと楽しいバトル、しようよっ!!」

せつ菜「望むところですっ!!」

千歌「行くよ、ルカリオ!!」
 「──グゥォッ!!!」

せつ菜「行きますよ、ゲンガー!!」
 「──ゲンガーーッ!!!」


私の“メガバングル”と、千歌さんの“メガバレッタ”が同時に光り輝く。


せつ菜・千歌「「メガシンカ!!」」
 「ゲンガァァァァァァァァァッ!!!!!!」「グゥォォォォォッ!!!!!!!」


メガゲンガーから影の力が、ルカリオから青い波導の力が溢れ出し、空間を震わせる。


千歌「ルカリオッ!! 波導全開ッ!! 行くよっ!!」
 「グゥオッ!!!!!」

せつ菜「ゲンガーッ!! 全身全霊で迎え撃ちますよっ!!」
 「ゲンガァァァァァァ!!!!!!」





    🎙    🎙    🎙





千歌「ルカリオ!! 波導の力を斬撃に……!!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「“ふいうち”!!」
 「ゲンガッ!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「……!」


千歌さんの攻撃は確かに必中必殺の一撃。

だけど、ノータイムで連発出来るようなものではないし、一定以上の集中が必要になる。

攻撃を撃たせないことがもっとも正しい。

千歌さんも私の魂胆に気付いたのか、攻撃方法を切り替えてくる。


千歌「“ボーンラッシュ”!!」
 「グゥオッ!!」


剣状にしていた波導を長い骨の形にし振り回す。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ──」


それを避けるように、ゲンガーが影の中に潜り、“ボーンラッシュ”が空振る。


千歌「なら……!」
 「グゥォッ!!!」


ルカリオは地面に骨を突き立て──それに掴まったまま上に伸ばして、上へと逃げる。


千歌「メガゲンガーは体が影に埋まってるから、空には追ってこれないでしょ!!」

 「グゥオッ!!」

せつ菜「確かにそうですね、ですがこれならどうですか!!」
520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:07.91 ID:VUrl28Mg0

今しがた影に飛び込んだ場所──即ちルカリオが骨を突き立てた地面が、ジュウウッと音を立て始める。

それと同時に、骨がグラリと揺れる。


 「グゥオッ…!!?」

千歌「溶けてる……!? “ヘドロばくだん”だ……!! ルカリオ、離脱!!」

 「グゥォッ!!!」


ルカリオが“しんそく”で飛び出しながら、地上に向かってジャンプする中、地面がドロドロに溶け始め、そこからゲンガーが顔を出す。

相手が空中にいる間がねらい目……!!


せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!!」


ゲンガーの口から特大の“シャドーボール”が放たれる。


せつ菜「落ちながらで受け切れますか!!」


“はっけい”で対抗してくると思ったが──何故かルカリオの落下が急に止まり、


せつ菜「……え!?」


軌道を読み違えて外れた“シャドーボール”が、そのまま明後日の方向に飛んでいく。

よく見たら、ルカリオの足元が、わずかにスパークしているのがわかった。


せつ菜「まさか、“でんじふゆう”!?」

千歌「“ラスターカノン”!!」

 「グゥゥゥォォォッ!!!!!!」


集束した光線が空中に浮いたルカリオから発射される。


せつ菜「く……!? “シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァ!!!!」


“ラスターカノン”に向かって、再度“シャドーボール”を発射するが──

特性“てきおうりょく”で強化された“ラスターカノン”は“シャドーボール”を貫いて、ゲンガーに直撃する。


 「ゲ、ゲンガァァッ!!!!」
せつ菜「ゲンガー……!?」

千歌「さぁ、ガンガン行くよー!!」

 「グゥオッ!!!」


ルカリオが再び“ラスターカノン”の態勢に入るが──


 「ゲンガ…!!!」


ゲンガーが空にいるルカリオに向かって手をかざすと──急に集束していた光が弱まり、消滅する。


千歌「ふ、不発……!? しまった、“かなしばり”……!?」


一瞬で正解にたどり着くのはさすがです……!
521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:52:55.59 ID:VUrl28Mg0

千歌「でも、空にいればそっちの攻撃は──」

せつ菜「“かみなり”!!」
 「ゲンガァッ!!!!」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「うわぁっ!!?」


目の前で、特大の落雷が発生し、空中にいるルカリオに直撃する。

ダメージを受けたルカリオがふらりと落ちてくる。

無防備に落ちてくるルカリオに向かって──


せつ菜「“きあいだま”!!」
 「ゲンガァーーーッ!!!!」


気合を集束したエネルギー弾を発射する。


千歌「ルカリオーーーッ!!! “はどうだん”ッ!!」

 「グゥ…オォッ!!!!」


落下しながらも、ルカリオの発射した“はどうだん”が“きあいだま”とぶつかり合い、相殺しあう。


そのまま、着地したルカリオは、跳ねるような身のこなしでゲンガーに接近し、


千歌「“はっけい”!!」
 「グゥオッ!!!!」


波導を纏った掌打をぶつけてくる。が、


せつ菜「“したでなめる”!!」
 「ゲンガァァァ〜〜〜」

 「グゥオッ!!!?」
千歌「いっ!?」


それに合わせるように──ゲンガーがベロリと舌を出す。

ルカリオの“はっけい”はゲンガーの舌にべちょりと音を立てながらぶつかった直後、


 「ゲンガッ…!!!?」


波導のエネルギーによって、ゲンガーが吹っ飛ばされる。

だが──


 「グ、グゥオ…!!!」
千歌「ま、“まひ”した……!!」


“したでなめる”の追加効果で“まひ”させた。

さらに、


せつ菜「“たたりめ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!!」


弱り目に“たたりめ”。状態異常の相手には倍の効果を発揮する呪いの攻撃でルカリオを攻撃する。


 「グゥ、オォォォ…ッ」


苦悶の顔を浮かべながら膝を突くルカリオに向かって──
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:53:47.46 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「“シャドーボール”!!」
 「ゲンガァァァァッ!!!!」


三度目の正直の特大“シャドーボール”を発射する。

怯んだルカリオは避けることも出来ず──


 「グゥォォォッ…!!!!」


影の球に呑み込まれる。


せつ菜「よし、このまま……!!」

千歌「“あくのはどう”!!」
 「グゥオォォォォッ!!!」

せつ菜「……!」


だが、ルカリオは影の球の中から全方位に向かって“あくのはどう”を放って、“シャドーボール”を吹き飛ばす。

そして、影の球から出てきたときには──


 「グゥオ…」


その手に──波導で出来た剣を手にしていた。


千歌「波導の力を斬撃に……!!」

せつ菜「させないっ!! “シャドーパンチ”!!」
 「ゲンガァァッ!!!!」


ゲンガーが自身の両手を影に沈めると──ルカリオの足元の影から、拳が飛び出す。

が、


 「グゥオ」


ルカリオは波導の剣で、冷静に受け止める。

でも……“いあいぎり”の集中は切った……!!

攻撃を畳みかけようとした瞬間──


 「ゲンガッ…!!!?」
せつ菜「な……!?」


ゲンガーの影から──波導のエネルギーが拳の形をして飛び出してきて、ゲンガーの体にめり込んでいた。


せつ菜「……“まねっこ”……!?」


“シャドーパンチ”を真似され、背後からの突然の攻撃でゲンガーが怯んだ隙に──


千歌「波動の力を斬撃に──」
 「グゥオッ!!!」


千歌さんとルカリオが必中必殺の型を完成させる。


せつ菜「“ゴーストダイブ”!!」
 「ゲンガッ!!!」


苦し紛れの回避択。ゲンガーが影に潜り込むが、
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:54:32.95 ID:VUrl28Mg0

千歌「影ごと斬り裂け──“いあいぎり”!!」
 「グゥゥオッ!!!!」


下から上に向かって薙がれる波導の剣が、ゲンガーの潜った影を一閃する──

一瞬、フィールド上が静寂に包まれたが──

数秒後、


 「…ゲン、ガ…」


影の中から戦闘不能になったゲンガーが浮かんできたのだった。


千歌「はぁ……はぁ……斬ったよ……!」
 「グゥオッ!!!」

せつ菜「ウインディッ!!」
 「──ワォンッ!!!」

千歌「……!」


間髪入れずに飛び出したウインディが、


せつ菜「“ねっぷう”!!」
 「ワォォォンッ!!!!!」


“ねっぷう”でルカリオを焼き尽くす。


 「グゥォォォッ…!!!!」
千歌「ぐ……っ!!」


最後は斬られたとは言え──不発も含めれば全力の集中技を3回も使わせた。

集中が必要不可欠な技はその分負担も大きい。畳みかけるなら、今しかない……!!


千歌「波導、全開ッ!!!」
 「グゥゥゥゥオオオオオッ!!!!!!」


ルカリオが“ねっぷう”の中、両手の平をこちらに向けて──残りの波導エネルギーを発射してくる。


せつ菜「“だいもんじ”!!」
 「ワァォンッ!!!!!」


それに対して、巨大な火炎で真っ向から立ち向かう。


千歌「ルカリオッ、頑張れぇぇぇッ!!」
 「グゥ、オォォォォッ!!!!!」


波導と“だいもんじ”がぶつかり合い、拮抗するが──


 「グゥ、ォォォォォ…!!」


ルカリオもさすがに体力の限界だったのか──次第に火炎が優勢になり。


千歌「くっ……!!」
 「グゥ、ォォォォッ…!!!!」


“だいもんじ”がルカリオを飲み込んだ。

業炎は千歌さんごと飲み込んだように見えたが──炎が晴れると、


 「グゥ、ォ…」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:55:17.06 ID:VUrl28Mg0

戦闘不能になったルカリオの向こうで、


 「──バクフーーーンッ…!!!!」
千歌「……やっぱり、ここまで追い詰められちゃうか……」


業炎から主人を守るように、バクフーンが千歌さんの前に立っていた。





    👑    👑    👑





しずく「……これで、お互い……最後の1匹……」

かすみ「…………しず子、どうしよう…………かすみん、千歌先輩を応援しなくちゃいけないはずなのに…………せつ菜先輩は敵なのに……今、どっちにも負けて欲しくないって……思ってるかも……」

しずく「…………私も……」


胸が熱かった。

死力を尽くして戦う二人の姿を見ていたら、どうしようもなく、胸が熱かった。

胸が熱くて、ドキドキしていた。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜・千歌「「“かえんほうしゃ”!!」」
 「ワォォォンッ!!!!」「バクフーーーンッ!!!!!」


2匹の“かえんほうしゃ”が真っ向からぶつかり、フィールドに炎を散らす。

ぶつかった、火炎の勢いは──


せつ菜「互角……!!」

千歌「なら……!!」


先に動いたのは、千歌さんだった。


千歌「“ふんか”!!」
 「バクフーーーーンッ!!!!!!」


バクフーンの背中から──爆炎が飛び出す。


せつ菜「ウインディ!!」
 「ワォンッ!!!」


私はウインディに飛び乗り、


せつ菜「“しんそく”!!」
 「ワォンッ!!!!!」


降ってくる火炎弾の中、ウインディが私を乗せて猛スピードで走り出す。

私は上を見上げ──落ちてくる火山弾の軌道を見ながら、ウインディのたてがみを引っ張り、避ける方向を伝える。


 「ワォンッ!!!!」
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:03.58 ID:VUrl28Mg0

ギリギリの軌道で炎弾を避け──最短ルートでバクフーンに肉薄し、


せつ菜「“インファイト”!!」
 「ワォンッ!!!!」


打撃を食らわせようとした瞬間、


千歌「“ふんえん”!!」
 「バクフーーーンッ!!!!」

せつ菜「ぐっ!?」
 「ワォンッ!!!」


バクフーンが背中をこちらに向けて、“ふんえん”を噴き出す。

全身が燃えるように熱かったけど──


せつ菜「今は……私の心の方がもっと熱い……!! “かえんほうしゃ”!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


炎の中で、ウインディが炎を噴き出す。


千歌「くっ……!?」
 「バクフーーンッ…!!!」


“ふんえん”を押しのけて、火炎がバクフーンと千歌さんに襲い掛かり、


せつ菜「“フレアドライブ”ッ!!」
 「ワァォォォォンッ!!!!!!」


全身に炎を纏ったウインディが、自身の出した炎を突っ切りながら──バクフーンに突撃した、が、


 「バクフーンッ!!!!」


バクフーンはそれを両手で受け止める。


千歌「負けるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
 「バク、フーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


ウインディを受け止めながら、千歌さんに気合いの声に呼応するように、バクフーンの背中から気合いの炎が噴き出す。


千歌「“れんごく”ッ!!!」
 「バクフーーーーーーーンッ!!!!!!!!」


さらなる爆炎が、バクフーンの口から放たれる。


せつ菜「“だいふんげき”ッ!!!!」
 「ワァァァォォォォォンッ!!!!!!!」


ウインディも全身からありったけの業炎を放ち、お互いの炎がぶつかり合う。


せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「ワァォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」

千歌「燃えろおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!」


お互いの爆炎が業炎が、ほのおのエネルギーぶつかり合い……膨張した熱が──爆発した。
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:56:37.00 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「ぐぅぅぅぅっ……!!?」
 「ワォンッ…!!!」

千歌「ぐぅぅぅぅぅっ……!!」
 「バクフーンッ…!!!」


お互いが爆風で吹き飛ばされる。


せつ菜「……ぐ、ぅぅぅ……ッ……!!! まだ……まだ、です……ッ……!!!」
 「ワォォォンッ…!!!!」


燃えるような熱さの中、立ち上がると──


千歌「はぁ……はぁ……ッ……!!」
 「バク、フーーーンッ…!!!!」


千歌さんも立ち上がっていた。

お互いの体力はもう限界。

恐らく次がお互い最後の技になるだろう。

だから、私は──


せつ菜「千歌さんッ!!!!」

千歌「……!?」

せつ菜「Z技を……使ってくださいッ!!!!」

千歌「……!!!」

せつ菜「あの技を超えないと──私は胸を張って、貴方に勝ったと言えないからッ!!!!」


最後だからこそ、手加減なしの全てとぶつかり合いたかった。

『特別』だとかそうじゃないとか、もうそんなことはどうでもよくて。

今はただ──全力の千歌さんとぶつかり合いたかった。


千歌「うんっ!! バクフーーーーンッ!!!! 行くよっ!!!!! 全力のZ技っ!!!!!」
 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!」


千歌さんの腕についたZリングが──燃えるような赤色の光を灯す。

そこから、エネルギーがバクフーンへと流れ込み──


 「バクフーーーーーーンッ!!!!!!!!!」


バクフーンから抑えきれないほどの炎熱のエネルギーを感じた。


千歌「行くよッ!!!!! せつ菜ちゃんッ!!!!!」

せつ菜「はいッ!!!!! 千歌さんッ!!!! 私は、今日、ここでッ!!!!! 貴方を超えますッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

千歌「“ダイナミックフルフレイム”ッ!!!!!!!」
 「バクフーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!!!!!!!」


バクフーンから──視界一杯を覆いつくすような業炎が──放たれた。



527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:57:09.56 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!」


向かってくる大火球に向かって、ウインディが全身全霊の炎で迎え打つ。

とんでもない炎熱を肌で感じる。

だけど、


せつ菜「負けるかあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、立ち向かう。

──熱くて熱くてたまらない、苦しいはずなのに、今は、この瞬間が、この戦いが、終わって欲しくない。そんな気持ちでいっぱいだった。

そうだ。私が大好きなポケモンバトルはこれだったんだ。

ただ強い人と全力でぶつかり合って、胸が熱くなる。この瞬間が大好きだったんだ。

だから私は──ポケモンバトルが大好きだったんだ。

……ふと、思う。

私はいつから、この気持ち忘れてしまっていたのだろうか。

いつから勝ちにばかり拘るようになってしまったんだろうか。

いつから──選ばれることに拘るようになってしまったんだろうか。

本当は、『特別』だとかそんなこと、どうでもよくて──ただ、この楽しくて大好きな時間を、ずっとずっと味わっていたかった。ずっとこの中にいたかった。それだけのはずだったのに。

お父さんにポケモンを取り上げられそうになった瞬間、なくなってしまうと思った瞬間、怖くなってしまった。

だから私は、在り方ばかり考えて、ただ──結果だけを示そうとして。

でも違った。そうじゃなかったんだ。私の本当の気持ちは、強い自分を見せつけることなんかじゃない。実績を誇示して納得させることなんかじゃない。

ただ──私がポケモンを、ポケモンバトルを大好きだって気持ちを──伝えなくちゃいけなかったんだ。


せつ菜「……気付くのが遅いよ……私……っ……」


涙が零れて──炎の中で一瞬で蒸発する。

取り返しの付かないことをしてしまった。

大好きなポケモンで──人を傷つけてしまった。

許されないことを、してしまった。

これが終わったら……私はもう、ポケモントレーナーではいられない。

だから。きっとこれが最後だから──


せつ菜「全部の炎ッ!!!!!!! 出し切ってッ!!!!!! ウインディィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!」



528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:58:38.61 ID:VUrl28Mg0

    👑    👑    👑





──なんでだろ。なんで……。


かすみ「なんで……かすみん……泣いてるの……っ……?」


せつ菜先輩と千歌先輩が全力でぶつかる姿を見ていると、胸が燃えるように熱くて、勝手に涙が溢れてくる。


しずく「私は……っ……わかる、気がするよ……っ……」

かすみ「え……」


しず子もポロポロと涙を流しながら、


しずく「だって、全力で何かをする人たちの姿は……っ、見ている人たちの心を──震わせるものだから……っ……」

かすみ「っ……!!」


そっか、今私の心は──震えてるんだ。

そう思ったら、居てもたっても居られなくて──


かすみ「せつ菜先輩ッ!!!! 千歌先輩ッ!!!!! どっちも頑張ってぇぇぇぇッ!!!!!」


かすみんは思わず叫ぶ。

ただ、全力で全てを懸けて戦う人たちに、自分の心の震えが少しでも届くようにと──


善子「……人とポケモンは、どうしてポケモンバトルなんてものをするのかしらね」

しずく「え……?」

善子「……歴史の中で、何度もポケモンを戦わせるのをやめさせようとしたことがあったらしいわ。戦いは野蛮だとか、ポケモンを傷つけるなとか、理由はいろいろあった。それでも……人もポケモンも……戦うことを、競い合うことをやめなかった」

しずく「………………」

善子「私たちは今……その答えを……見ているのかもしれないわね……」





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「あああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」


燃え盛る炎の中で、


 「ワォォォォォォォォンッ!!!!!!!!」


相棒と一緒に──生まれて初めて捕まえたポケモンと一緒に──ただ、心を燃やす。

529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 13:59:36.30 ID:VUrl28Mg0

────────
──────
────
──


せつ菜「やっと……捕まえた……!」
 「ワン…」

せつ菜「私の……初めての……ポケモン……!!」
 「ワン…」

せつ菜「よろしくね、ガーディ!」
 「…ワンッ」


──ガブリ。


せつ菜「いったぁっ!!?」

真姫「……まさに飼い犬に手を噛まれるね」

せつ菜「うぅ……が、ガーディ……わ、私、君のトレーナーなんだよ……?」
 「ガルル…」

せつ菜「ま、真姫さぁん……」

真姫「ふふ、最初はそんなものよ。大丈夫、きっとすぐに仲良くなれるから」

せつ菜「ほ、ホントかなぁ……?」
 「ガルル…」


──
────


せつ菜「やったぁ♪ 勝ったよ、ガーディ♪」
 「ワンッ♪」


──ペロ。


せつ菜「きゃっ!? あはは♪ く、くすぐったいよ、ガーディ♪」


──
────


 「ワォォォォォンッ!!!!!」
せつ菜「これが……ウインディ……! ガーディの進化した……姿……!」

 「ワォンッ」
せつ菜「……うん。一緒にもっともっと強くなろう……。誰にも負けないくらい、強く、強く……!」

 「ワォォォォォォォンッ!!!!!」


──
────
──────
────────


せつ菜「私とウインディは……ッ!!!! 誰にも負けないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!」


雄叫びをあげながら、業炎に立ち向かう──が、


せつ菜「ぐぅぅぅぅぅぅっ……!!!!」
 「ワォォォォォンッ…!!!!!!」


一向に勢いが弱まらない千歌さんたちの炎に次第に押され始める。
530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:00:46.47 ID:VUrl28Mg0

せつ菜「まだッ!!!! まだ、終わらせないッ!!!!!!!」
 「ワォォォンッ!!!!!!!!」

せつ菜「最後までッ!!!!! 諦めないッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!」

せつ菜「最後まで……諦めたくないッ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!」





    👑    👑    👑





──せつ菜先輩側の炎が徐々に押され始めたのが、かすみんの目にもわかった。


かすみ「っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

しずく「せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!」


あの業炎の中、声が届くのかわからないけど──かすみんたちは叫ぶ。

ただ、真っすぐに戦う──先輩に向かって。

そのとき──


 「菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」


男の人が──菜々先輩の名前を呼んだ。


男性「負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」

女性「菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」


その人と並んで、女の人が──菜々先輩の名前を叫んだ。

誰かはわからないけど──心の底から、菜々先輩のことを応援して叫んでいるのが、一目でわかった。





    🎙    🎙    🎙





せつ菜「う、あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 「ワォォォォンッ…!!!!!!!!!」


目の前に迫る炎が大きくて、熱かった。

──ああ、これがチャンピオンの炎なんだ。

熱さに朦朧とする頭で、そう、思った。

いつか、届くかな。

いつか、この炎を超えられるかな。

……うぅん、いつか。超えよう。


 「ワ、ォォンッ……」
せつ菜「…………やっぱり、千歌さんは……強いなぁ……」


炎が私を飲み込もうとしている。

そのときだった──
531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:01:32.51 ID:VUrl28Mg0

 『っ……!!! せつ菜せんぱぁぁぁぁぁいっ!!!!! 負けないでぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「え……」

 『せつ菜さぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!! まだ……まだ終わってないですよーーーっ!!!!!』

せつ菜「この……声……」


かすみさんと……しずくさんの……声……。


せつ菜「……っ……!!! ウインディッ!!!!!!」
 「ワォォォォォンッ!!!!!!!!!」


まだ終わってない。終わってない。終わりたくない……!!

──違う。そうじゃない、終わりたくない、じゃない。


せつ菜「私は……ッ!!!!!! 勝ちたいッ!!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォンッ!!!!!!!!!」

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』

せつ菜「……!!」


この声──


 『負けるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!』


せつ菜「おとう……さん……っ……」


お父さんの、声だった。

どうして今聞こえるのかわからないけど──お父さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!! 頑張ってぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』

せつ菜「おかあ……さん……っ……」


お母さんが私を応援していた。


 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! お前はこんなところで終わるのかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!! チャンピオンになるって言っただろうっ!!!!!!!!』

 『菜々ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!! 最後までっ、諦めないでぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』


──お父さん、お母さん。


せつ菜「──うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!! ウインディィィィィィィィ!!!!!!!!!! “もえつきる”までぇぇぇぇぇ!!!!!! やきつくせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 「ワォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ウインディが──全身全霊の炎を、ぶつけた。



532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:02:11.58 ID:VUrl28Mg0

    🎙    🎙    🎙





せつ菜「……………………はぁ…………はぁ…………」
 「ワォ、ン…ワォン…!!」

千歌「…………はぁ…………はぁ…………」
 「バク…フーーンッ…!!」

せつ菜「…………止め、ました……よ…………」

千歌「あ、はは…………すご、すぎ…………」

せつ菜「ウイン、ディ……」
 「ワォ…ン…ッ」


私はウインディと一緒に歩き出す。


せつ菜「決着をつけ……ましょう……」
 「ワォ、ン…」


もうすぐそこに──手を伸ばせば、チャンピオン、に──


 「ワォ…ン…」
せつ菜「………………」


ウインディが──崩れ落ちた。


せつ菜「………………負け……か……」


私は立ち尽くして、空を仰いだ。

私のポケモンは全て、戦闘不能になった。

この勝負は……私の負けだ。


千歌「……せつ菜ちゃん」


千歌さんがよろよろとした足取りで、目の前まで歩いてくる。

そして、


千歌「……さいっこうの……バトルだったよ……」


私を抱きしめた。
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:03:04.63 ID:VUrl28Mg0

千歌「また……やろうね……」

せつ菜「千歌……さん……。……でも、私は……もう……ダメですよ……」

千歌「そんなこと……ない……」

せつ菜「ダメ、なんです……私は……ポケモンを使って……人を、傷つけてしまった……もう、ポケモントレーナーを続ける資格なんて……私には……っ……」

千歌「…………せつ菜ちゃん。……ポケモンは好き?」

せつ菜「え?」

千歌「…………ポケモンバトルは、好き?」

せつ菜「………………はい」

千歌「なら……もうそれだけで十分だよ。……せつ菜ちゃんは……それだけで、ポケモントレーナーだよ……資格とか、そんなもの……必要ないよ……」

せつ菜「……千歌……さん……っ……」

 「──間違えたなら……またやり直せばいいわ」

せつ菜「……!」


声がして振り向くと──


真姫「……菜々」


真姫さんが居た。


せつ菜「真姫、さん……わ、私……」

真姫「いい。……今は、何も言わなくていいから」

せつ菜「…………真姫……さん……」

真姫「私よりも……ちゃんと話さないといけない人が来てるから」

せつ菜「え……」


その言葉を聞き──真姫さんの後ろを見ると、


菜々父「菜々……」

菜々母「菜々……」

せつ菜「お父さん……お母さん……」


お父さんとお母さんがいた。


せつ菜「あ…………わ、わたし……その……わた、し……おとうさんと、おかあさんに……迷惑……かけ……て……」

千歌「せつ菜ちゃん、そうじゃないよ」

せつ菜「え……」

真姫「今貴方が伝えなくちゃいけないことは……そういうことじゃないでしょ?」

せつ菜「………………はい」


私はお父さんとお母さんの前に歩み出て、二人の顔をしっかりと見る。


せつ菜「お父さん……お母さん……私──ポケモンが大好きなの。……ポケモンバトルが大好きなの。……危ないこともいっぱいある、うまく出来ないこともいっぱいある。だけど──大好きなの」

菜々母「……うん」

菜々父「……そうか」

せつ菜「だから、私がポケモントレーナーでいることを……許してください……! 私は大好きなものを諦めたくないから……! 大好きを諦めたら──私が私でいられなくなっちゃうから……! だから──」

菜々父「……じゃあ、いつかはチャンピオンにならないといけないな……」

せつ菜「え……」
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:04.37 ID:VUrl28Mg0

お父さんはそう言って、私の頭を一度だけ撫でた。

その後、背を向けて──


菜々父「……私は、ポケモンを好きにはなれないけどな……」


それだけ言うと、数人のガードの人と共に、お父さんは行ってしまった。


せつ菜「えっ……と……?」

菜々母「……ふふ、許してくれるって」

せつ菜「そ、そういうことで……いいの……?」

菜々母「お父さん……菜々にいろいろ言っちゃったから、素直に認めづらいみたいだけど……菜々のポケモンリーグのビデオ見てるとき、すっごく熱くなってたのよ?」

せつ菜「え?」

菜々母「判定に対して、『今のは合理的に考えて審判がおかしかった。やり直すべきだ』って」

せつ菜「お父さんが……?」

菜々母「そうよ。……菜々の試合を見てたらね……菜々がすごく真剣で、菜々は本当にこれが大好きなんだって……お父さんもお母さんも、わかったから」


そう言いながら、お母さんは私を抱きしめる。


菜々母「ごめんね、菜々……。私たち……貴方ともっともっとお話ししなくちゃいけなかった……。……遅いかもしれないけど……これからたくさん、菜々の大好きなもの、大切なもの……私たちに教えてくれないかな……?」

せつ菜「…………うん……っ……。私こそ……今まで……ちゃんと、言えなくて……ごめんなさい……っ……」

菜々母「うぅん……大丈夫よ」


お母さんは私を抱きしめながら、頭を撫でてくれた。


菜々母「それでね……。実は菜々……貴方に会いたいって人がいるの」

せつ菜「え……?」


そう言って、お母さんが私を離すと──その後ろに、その人が居た。


善子「──こうして……博士として会うのは……初めてかもしれないわね。せつ菜。……いいえ──菜々」

せつ菜「ヨハネ……博士……?」

善子「やっと、会えた……」


ヨハネ博士は私の目の前まで歩いてくる。


善子「手、出して」

せつ菜「え?」

善子「いいから」


私が手を出すと──


善子「これから頑張りなさい。……貴方は──このヨハネにとって、初めて旅に送り出すトレーナーなんだから」

せつ菜「……あ」


私の手の平に上に──真っ赤なポケモン図鑑と……モンスターボールが1つ、置かれていた。


善子「貴方のポケモン図鑑と──」


ヨハネ博士が私の手に乗せられたモンスターボールのボタンを押し込むと──
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:04:35.73 ID:VUrl28Mg0

 「──ベアーマ!!」


私の足元に、灰色の小さな熊のようなポケモンが姿を現した。


善子「貴方の最初のポケモン──ダクマよ」


その言葉を聞いて、


せつ菜「……ぁ……っ、……ぅぁぁっ……」
 「…ベァ?」


私は思わず図鑑とボールを持ったまま──両手で顔を覆って、膝を突いてしまう。


せつ菜「ぅっ……ぅぁぁぁっ……!!」


ポロポロと涙が溢れ出して……そんな私を──ヨハネ博士が抱きしめる。


善子「……あのとき、手を離しちゃって……ごめんね……。……でも、もう大丈夫だから……貴方は、私の大切なリトルデーモンよ……」

せつ菜「う、ぁ、ぁぁぁっ……ぅぁぁぁぁぁぁん……っ……うぁぁぁぁぁぁ……っ……」
 「ベァ?」


私は小さな子供のように、声をあげて泣きじゃくる。

こうして私は……長い長い戦いの果てで、やっと── 一人のポケモントレーナーとして、始まることが出来たのだった。

本当に……本当に……長い……長い……道の果てで──



536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/02(月) 14:05:08.19 ID:VUrl28Mg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:10匹 捕まえた数:9匹


 せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:01:28.94 ID:Sh64zN700

 ■Intermission✨



果南「“アクアテール”!!」
 「ラァグッ!!!!」

愛「……よっと!」


愛がラグラージの振るう尻尾を、後ろに飛び退きながら避けると、


 「リシャンッ!!!!」


愛の陰から、リーシャンが飛び出してくる。


愛「“しねんのずつき”!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ラグッ!!!?」


的確にラグラージの顎下を突き上げるように、リーシャンが体をぶつける。


果南「く……っ!! “アームハンマー”!」
 「ラァグッ!!!」


ラグラージはすぐに顎を引き、目の前にいるリーシャンに向かって拳を振り下ろすが、


愛「“ねんりき”♪」
 「リシャンッ」


リーシャンの周囲に力場が発生して、ラグラージの腕を弾く。


鞠莉「ね、ねぇ……ま、まずくない……?」

ダイヤ「果南さんが……リーシャン1匹に押されてる……!?」

鞠莉「わたしたちも加勢に入った方が……!」


一旦ゲートを閉じてでも、愛の撃退をするべきかと思ったけど、


果南「ダメっ!! 二人はゲート維持に集中して!!」


果南は私たちの加勢を拒否する。


ダイヤ「ですが……!」

愛「そーだよー。加勢してもらった方がいいんじゃない〜?」


愛がケラケラと笑いながら果南を挑発する。


果南「相手の狙いはゲートでしょ!? こんなんで、ゲート閉じてたら、それこそ思うツボだって!!」

愛「へー押されてる割に冷静じゃん」

果南「そもそも私は、二人のゲート維持を邪魔させないためにいるんだ……! ラグラージ、メガシンカ!!」
 「ラァグッ!!!!」


ラグラージが光に包まれ、メガラグラージへと姿を変え、腕の噴出口から空気を逆噴射しながら、ラグラージが急加速する。


果南「“たきのぼり”!!」
 「ラァァァァグッ!!!!!!」
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:18.75 ID:Sh64zN700

ラグラージがリーシャンに向かって、滝すら登れるような、ものすごいスピードで飛び出す。

が、


愛「じゃ、こういうのはどう?」


愛はそう言いながら、リーシャンを胸に抱え込み──自らラグラージに向かって走り込んでくる。

そして、そのまま──スライディングをするように、突撃してくるラグラージの足元を潜り込んで、


愛「“ハイパーボイス”!」
 「リシャァァァーーーーンッ!!!!!!」

 「ラグッ…!!!?」


ラグラージの真下から、真上に指向性を向けた“ハイパーボイス”によって、ラグラージの体が宙を浮く。


果南「なっ……!?」


そして、滑り抜けた愛の手には、


 「──ルリッ!!!」

果南「ルリリ……!?」

愛「“たたきつける”!!」
 「ルリッ!!!」


愛はルリリの胴体を右手で掴み、自身の腕を横薙ぎに振りながら──その勢いをプラスしたルリリの尻尾が果南の脇腹辺りに飛んでいく。


果南「がっ……!?」


果南は咄嗟に腕でガードしたけど──その勢いに負けて吹っ飛ばされた。


鞠莉「果南っ!?」
ダイヤ「果南さんっ!?」

愛「……ダメだよ、これはただのバトルじゃなくて、戦争なんだからさ〜」


愛がそう言い放つのと同時に、


 「ラグゥッ…!!!?」


先ほど真上に飛ばされたラグラージが、落下してくる。


果南「ぐっ……! ぅ……っ……」

愛「って、マジ!? あれ直撃したのに、すぐ立つんだ!」

果南「鍛えてるからね……」


果南が腕を押さえながら立ち上がると同時に、


 「ラァァァァグッ!!!!」


ラグラージが大きな腕を振りかぶって、愛に飛び掛かる。が、


愛「“ねんりき”」
 「リシャンッ!!」


その拳との間に飛び出したリーシャンが──また力場でラグラージの拳を弾く。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:02:52.63 ID:Sh64zN700

 「ラグッ…!!!」


腕をかち上げられて、隙が出来たところに、


愛「ほら、“プレゼント”だよ」
 「ルーリィ〜」


ルリリが“あわ”を吐き出し──それは、ラグラージの顔の目の前で大爆発した。


 「ラ、グ…ッ!!!」


至近距離で爆弾の爆発を受けたラグラージは、そのまま白目を向いてひっくり返る。


果南「ラグラージ……!! く……ギャラドス!!」
 「──ギシャァァァ!!!!」


果南はすぐに倒れたラグラージの代わりに、ギャラドスを繰り出した。


ダイヤ「……鞠莉さんっ!!」


わたしの名前を呼びながら、ダイヤが“こんごうだま”を投げ渡してくる。


ダイヤ「ディアルガの制御、お願いします!!」

鞠莉「え!?」


そう言いながら、ダイヤは、


ダイヤ「ハガネール!!」
 「──ガネェェェェルッ!!!!!」

ダイヤ「メガシンカ!!」


ハガネールをメガシンカさせる。


ダイヤ「“アイアンヘッド”!!」
 「ンネェェェェーーーールッ!!!!!」


メガハガネールは全身を回転させながら、愛に向かって突っ込んでいく。

それに対して愛は、


愛「リーシャン」
 「リシャンッ」


リーシャンを左手で掴んで、ジャンプしながらリーシャンを下に向けると──空気に弾かれるように上空に向かってジャンプする。


ダイヤ「なっ……!?」


突然予想外の大ジャンプをされ、ハガネールの攻撃が相手のいない地面に突き刺さる。

愛は、そのままハガネールの上に着地し、


愛「あらよっと……!」


そのまま、ハガネールの体の上を走りだす。

そして、右手に掴んだルリリをブンと振ると──伸びた尻尾が猛スピードでダイヤの側頭部に迫る。
540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:04:38.55 ID:Sh64zN700

ダイヤ「……!?」

果南「ギャラドス!! “アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァァッ!!!!」


ダイヤに向かって迫るルリリの尻尾に合わせるように、ギャラドスが尻尾を振るって弾き返す──が、


 「ギシャァァッ…!!!」


ギャラドスの尻尾も振りかぶり切れずに弾かれ、ダイヤのすぐ真横の地面に叩きつけられる。


ダイヤ「く……っ……!?」

果南「ダイヤ、無事!?」

ダイヤ「は、はい……!!」

愛「へー、やるじゃん」


ハガネールの上でステップを踏む愛だが──


 「ンネェェェーールッ!!!」

愛「おろ?」


ハガネールが勢いよく尻尾を振り上げて、愛を上空にぶん投げる。

そのまま、


 「ンネェェェェェルッ!!!!!」


大きな顎を開きながら──愛に向かって、頭から突撃していく。


ダイヤ「“かみくだく”!!」
 「ンネェェェェルッ!!!!!」


空中で無防備な愛に、大顎がバクンと噛みついた──ように見えたが、


 「ン、ネェェェェル…!!!」

愛「ふー、危ない危ない……」

ダイヤ「嘘……でしょ……っ!?」


ハガネールの口の中で、リーシャンが発生させた球状の力場がハガネールの大きな顎を無理やり押し開いていた。

愛を守る力場の球はハガネールが口を閉じようとする勢いを利用して──スポンと上に飛び出し、


愛「ルリリ!! かますよ!!」
 「ルリッ!!!」


空中に飛び出した反動を利用して、ルリリを振りかぶった。


愛「“アイアンテール”!!」
 「ルーーリィッ!!!!」


遠心力を使って伸ばされたルリリの尻尾が、


 「ンネェェェーーールッ!!!!!?」


ハガネールの頭を真上から殴りつけ──


ダイヤ「……!?」
541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:05:23.49 ID:Sh64zN700

その衝撃を受けハガネールが白目を向いたまま──ダイヤに向かって、猛スピードで倒れ込んできた。

ハガネールの巨体はダイヤを巻き込み、その重量で大地を割り砕く。


果南「ダイヤッ!!?」

鞠莉「ダイヤッ!!!」


果南がダイヤに向かって駆けだす。

ダイヤは──


ダイヤ「…………」


押しつぶされこそしなかったものの、ハガネールが割り砕いた大地に巻き込まれ──全身のあちこちから出血しながら、気を失っていた。


愛「重量級のポケモンを使うと、こういうリスクがあるんだよねー」

果南「ダイヤッ……!!!」


果南がダイヤを瓦礫の中から救出しようとした瞬間──


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャァァァァァーーーーンッ!!!!!」

鞠莉「果南っ!! 避けてっ!?」


駆け寄る果南に向かって、“ハイパーボイス”が迫る。


果南「“アクアテール”!!」
 「ギシャァァァァッ!!!!」


それに対抗するように、ギャラドスが尻尾を音を超える速度で縦薙ぎにし──音波攻撃自体を吹き飛ばす。


愛「うぉっ!? マジ!?」


愛もさすがにそんな方法で“ハイパーボイス”を防がれると思っていなかったのか、驚きの声をあげる。


果南「ダイヤ……!!」


ギャラドスが攻撃を防ぎ、その間に果南がダイヤを瓦礫の中から抱き上げる。


ダイヤ「……か、な……ん…………さ……」

果南「喋らなくていい……! とにかく治療を──」

 「──ギシャァァァッ!!!?」

果南「!?」


ギャラドスの鳴き声に驚き果南が視線をギャラドスに戻すと──ギャラドスの首に、ルリリの伸ばした尻尾が巻き付いていた。


愛「……よそ見してるなんて余裕だね〜」
 「ルリッ」


その巻き付けた尻尾を戻す勢いに引っ張られるように愛がギャラドスの頭部に向かって飛び出し──


愛「リーシャン、行くよ!」
 「リシャァンッ」


左手に持ったリーシャンが発生させた力場を、まるで拳のようにして──
542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:06:30.44 ID:Sh64zN700

 「ギシャァァァァッ…!!?」


ギャラドスの顔面を殴りつけた。


果南「ギャラドス!?」


ギャラドスの巨体が、いとも簡単に吹っ飛ばされる。


果南「っ……!」


果南がすぐ様、次のボールに手を伸ばした瞬間──果南の周囲に、大量のサイコキューブが出現する。


果南「……!?」

愛「“サイコショック”」
 「リシャンッ」

果南「ダイヤッ!!!」


果南は咄嗟にダイヤを庇うようにして、その場に伏せって覆いかぶさる。

直後、サイコキューブが弾丸のように、果南の背中に降り注ぎ──


鞠莉「果南っ!!?」

果南「……ぁ……ぐ……っ……。……く、そ…………ッ……」


果南はその場に崩れ落ちた。


愛「よし、いっちょあがり」

鞠莉「うそ……」


果南とダイヤが負けた……?

元チャンピオンと四天王よ……?


愛「さーて……あと一人」

鞠莉「……っ」


愛がこちらに視線を向けてくる。

どうする……。

わたしもバトルが苦手なわけじゃないけど、さすがに果南やダイヤほどの実力はない。

その二人をここまで圧倒した相手に、わたし一人で勝つのは難しい──いや、ほぼ無理だ。


鞠莉「……ロトム」
 「ロ、ロト…」

鞠莉「わたしの図鑑に」
 「──マ、マリー…」


ボールから出したロトムをわたしの図鑑に入れさせる。


鞠莉「わかるわね」
 「ロト…!!!」


ロトムはわたしの言葉に頷くと──ゲートの中に入っていった。

それを確認して、わたしは愛に向き直る。
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 01:07:02.43 ID:Sh64zN700

鞠莉「……あなたの目的は何? ゲートの破壊?」

愛「まあ、それも悪くないんだけどね。アタシの目的は──その子たちだよ」


そう言って指差したのは──ゲートの前にいるディアルガたち。


愛「大人しく渡してくれれば、アタシも手荒なことしなくて済むんだけどな」

鞠莉「……」


さっき善子から聞いたゲートの通過時間を考えれば……そろそろ、ロトムはゲートの向こうに抜けたはず……。


鞠莉「……ディアルガ!! パルキア!!」
 「ディアガァァァァッ!!!」「バアァァァァルッ!!!!!」


“こんごうだま”と“しらたま”を使って、ディアルガとパルキアに“テレパシー”を飛ばし、ゲートを閉じさせる。


愛「……はぁ、やるってことね」


どこまで出来るかはわからない……。だけどこのまま、はいわかりましたと、ディアルガやパルキアを渡すわけにはいかない。

わたしが戦闘態勢に入ると同時に──


 「──ギシャラァァァァァッ!!!!!!」


ギラティナが“シャドーダイブ”で愛に向かって突っ込んでいく。


愛「……ま、いいや」
 「リシャンッ!!」


愛がそう言いながら手に持ったリーシャンをギラティナに突き付けると、


 「ギシャラァァァァ…!!!!」


ギラティナもリーシャンの作り出したサイコパワーの力場で、押し返される。


愛「3匹まとめて相手してあげるよ」

鞠莉「行くわよ!! ディアルガ!! パルキア!! ギラティナ!!」
 「ディァガァァァァァ!!!!!!」「バァァァァァァルッ!!!!!!」「ギシャラァァァァァァァッ!!!!!」


3匹の伝説のポケモンの鳴き声が、やぶれた世界に轟いた。


………………
…………
……


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:16:45.81 ID:Sh64zN700

■Chapter067 『果林』 【SIDE Emma】





姫乃ちゃんとの戦いを終えて……。


彼方「いったたたたっ!!」

遥「うーん……肋骨……かなり折れてるね……。よくこれで肺に刺さらなかったね……」

彼方「お、お姉ちゃん……運、いいからね〜……」

遥「でもあんまり激しく動いちゃダメだよ? これから刺さるかもしれないし……」

彼方「善処しま〜す……」


今は戦闘後の治療の真っ最中。

そんな中わたしは、どうしても彼方ちゃんに聞きたいことがあった。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん」

彼方「ん〜? な〜に〜?」

エマ「……彼方ちゃんって、果林ちゃんと一緒の孤児院で育ったって……さっき言ってたよね……?」

彼方「ああうん。……そうだね……」

エマ「……あのね、わたし姫乃ちゃんに言われてハッとしたの……。……わたし、果林ちゃんのこと……本当は何も知らないんじゃないかって……それで、説得しに来たなんて言っても……お前に何がわかるんだ〜って言われちゃって当然なのかなって……」


わたしが勝手に、果林ちゃんのことをわかった気になっていただけな気がしてならない。

もちろん、だからといって今の果林ちゃんを放っておけないという気持ちは本当だけど……。


エマ「ねぇ、彼方ちゃん……果林ちゃんが自分の住んでた世界にいたとき……どんな子だったか……教えてくれないかな……?」

彼方「…………結構辛い話になると思うけど、それでもいい?」


彼方ちゃんがそう確認を取ってくる。


エマ「うん……。むしろ、果林ちゃんの辛い気持ちに寄り添ってあげたいから……教えて」


わたしの言葉を聞くと、彼方ちゃんは頷いた。


彼方「……わかった。…………そうだなぁ……あれは……果林ちゃんが“虹の家”に来たときだから……もう、7年も前になるのかな……」


彼方ちゃんはそう前置いて、話し始めた。





    👠    👠    👠





──崖下で陽炎に揺れ燃える大地の中で、侑と歩夢が私と戦うために身構えていた。

しずくちゃんには……まんまとやられてしまった。まさかあんな形で裏切られるなんて……噫、私はいつもこうだ。

璃奈ちゃんも彼方も……みんな……私の傍から離れて行ってしまう。

愛も……本当に仲間と呼べた頃が、もう記憶の遥か遠くで……。今は何をしたいのかがよくわからない。

きっと……私の味方は……本当は最初から誰もいなかった……。全てがめちゃくちゃになった……あの、厄災の夜から──

545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:17.49 ID:Sh64zN700

────────
──────
────
──


 「──大丈夫……!? しっかりして……!?」

果林「ん……ぅ……」


大きな声で呼びかけられ、目を開けると──見知らぬ女の人が居た。救助隊の格好をしているから……救助隊なのだろう。


女の人「……! 息がある……! 人工呼吸器回して!!」


人工呼吸器を口に当てられる。


女の人「あなただけでも……助かってよかった……」

果林「…………」


私が揺れる船の窓から、外に目を向けると──真っ暗な夜の闇の中……私の故郷の島が……今まさに……海に飲み込まれているところだった……。





    👠    👠    👠





あの夜──所謂“闇の落日”と呼ばれるあの日のことは、今でも忘れられない。

本当にそれは唐突で……急に大きな地震が起こったかと思ったら、大地が裂け、家が崩れて飲み込まれた。

命からがら脱出し、家族と逃げ惑う中、崩れた大地からは瘴気が噴き出し、それを吸い込んだご近所さんが喀血して、倒れた。

私たちは必死に逃げた。道中で、大地の崩落に友達が巻き込まれるのを見た。

「助けないと」と泣き叫ぶ私を、両親が無理やり引き摺るようにして、島の高台へと逃げ──その道中、砕ける岩の崩落にお父さんが巻き込まれて、瓦礫と共に消えていった。

島の高台にたどり着けたのは……私とお母さんと──


 「コーン…」


小さい頃から大切にしていた、ロコンしかいなかった。

高台に逃げても……どんどん水位が上がってきて……瘴気の影響もあって、私の意識は朦朧としていた。

そんなとき──救いの手とも言える、ヘリのライトが私たちを照らした。

朦朧とする意識の中──「果林! しっかりして!!」──母が私を押し上げ、ヘリの救助隊の人がやっとの思いで私をヘリに引っ張りこんだ直後──

お母さんとロコンは──高台ごと……海に飲み込まれた。一瞬だった。

私の意識は、そこで途絶え──次に目を覚ましたときには……船の上から……遠方で大きな渦潮に飲み込まれるように、私が生まれ育った故郷が沈む姿を眺めていたのだった。





    👠    👠    👠





院長「──今日からここが貴方のお家よ」

果林「…………ありがとう、ございます……」
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:17:48.58 ID:Sh64zN700

保護された私は、あの“闇の落日”の中でも残った大きな都市国家の一つである──プリズムステイツの郊外にある“虹の家”という孤児院に送られた。

当時15歳。

もう分別のわかる歳だった。だから……どうしようもないことが起こったんだと理解出来た。だけど……だからこそ、辛かった。

何もわからないくらい……小さな子供だったらよかったのにと、何度も思った。


院長「果林ちゃん15歳よね? 実はわたしの上の娘も同い年なのよ。かなちゃーん?」

 「なーにー?」


気の抜けるような声で返事をしながら、院長先生とよく似た髪色の女の子がとてとてと歩いてきた。


院長「この子、果林ちゃん。今日から、一緒に住むことになる子よ」

彼方「あーうん、言ってた子だよね〜。彼方ちゃんはね〜彼方って言うの〜。よろしくね〜」

果林「……よろしく」


これが──私と彼方の初めての出会いだった。





    👠    👠    👠





“虹の家”には私を含め、10人の子供と……院長先生の娘である彼方と遥ちゃんの計13人が一緒に暮らしていた。

大きな孤児院ではなかったけど、院長先生は率先して“闇の落日”で身寄りを失った子供を受け入れていたそうだ──もちろん、それでも孤児の数が多すぎるため、こうして受け入れてもらえただけでも、運がよかったと言える。

ここにはおおよそ10歳くらいの子が多く、私と彼方はその中でも最年長だったけど……私はあまり年下の子と上手に接する自信がなかったため、一人で過ごしていることが多かった。

もちろん、邪険に扱っていたわけではないから、嫌われたり、怖がられていたということはなかったけど……。

一方で彼方は……なんだか掴みどころのない子だった。

孤児院内で率先して家事を手伝っていたり、他の子たちの御守りも率先してやっていたとかと思えば……暇が出来ると、


彼方「…………むにゃむにゃ……」
 「……メェ……zzz」


ウールーと一緒に日の高いうちからお昼寝していたり……忙しないのか、のんびりしているのか、よくわからない子だった。

わかりやすいことと言えば……とにかく妹の遥ちゃんが大好きだということだろうか。

そして、一番わからなかったのは──


果林「……」


“虹の家”の近くの岬に……簡易的に建立された──沈んだ私の故郷の慰霊碑があった。

慰霊碑と言っても……本当に簡易的なもので、見た目はただの大きめの石。……これが慰霊碑であると言われなければ誰にもわからない。そんな代物だった。

私はこの慰霊碑に手を合わせるのが日課だった。

そして両手を合わせて目を開けると、決まって──


彼方「……」
 「メェ〜〜」


いつの間にか隣で、彼方も両手を合わせていた。仲良しのウールーと一緒に。


果林「……」
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:18:26.53 ID:Sh64zN700

私が無言で慰霊碑を後にすると──彼方も特に何も言わずに、孤児院へと戻っていった。それが毎日。

私は特別進んで彼方とコミュニケーションを取っていたわけではなかったけど……この時間は何故か、彼方と二人で過ごす時間だった。

私が慰霊碑を訪ねると、本当に毎日、律義なことに……気付けば彼方が隣に居る。さすがに気になって、ある日──


果林「…………ねぇ、彼方」


私は彼方に声を掛けてみた。


彼方「ん〜?」
 「メェ〜〜」

果林「院長先生に何か聞いたの?」


さすがに院長先生は、私の島のことは知っているけど……何も知らない彼方が、こうして手を合わせてくれる理由がよくわからなかった。

だから私は、てっきり院長先生が何かを言ったのかと思っていたんだけど……。


彼方「うぅん、特に何か聞いたわけじゃないよ〜? まあ……毎日手を合わせてるのを見たら……なんとなく、わかるし……」
 「メェ〜〜」

果林「……まあ、言われてみればそれもそうね……」


孤児院に居る人間が毎日欠かさず手を合わせている石を見たら……なんとなく、わかるか。


果林「……見ず知らずの人たちの慰霊碑に、毎日手を合わせに来るのは、大変じゃない?」

彼方「うーん……それは特に考えたことなかったな〜。もしかして、迷惑だった?」
 「メェ〜〜」

果林「迷惑なんてことはないけど……不思議だと思ったから」

彼方「彼方ちゃんは関係ない人なのに、どうしてこんなことしてるんだろうってこと?」

果林「まあ……そんな感じ」

彼方「う〜ん……それは……果林ちゃんがいっつも一人で行動したがるからかな」

果林「……どういうこと?」

彼方「果林ちゃんが……新しい場所でずっと一人だったら……心配しちゃうかなって思って……」


そう言いながら、彼方は慰霊碑を見つめる。


果林「彼方……」

彼方「あ、もちろんみんなで行動しろって意味じゃないよ〜? 一人が好きな人もいるからね〜。だから、こうしてご家族に報告するときだけでも……彼方ちゃんが隣にいるのを見れば、安心してくれるかなって……」


それは彼方なりの優しさだった。……見ず知らずの私の家族が、今の私を見て心配しないようにと……。


果林「……ありがとう……。……私の家族もきっと……安心してると思うわ……」

彼方「ならよかった〜。じゃ、戻ろっか〜」


私がお礼を言うと、彼方はニコっと笑う。優しい笑顔だった。


果林「…………聞かないの?」

彼方「ん〜果林ちゃんが言いたいなら」


彼方は不思議な子だった。

寄り添っているように見えて、自分からは踏み込んでこない。

それは彼女が人を優しく慮っているからこそ出来ることで……見ず知らずの私を家族として扱ってくれているからに他ならなかった。

だからだろうか……私を家族と思ってくれる人にくらいは……言ってもいいのかな、と……。
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:19:07.49 ID:Sh64zN700

果林「…………平和な島だった。あの日まで……」

彼方「うん」

果林「…………もちろん世界がどうなってるかは知ってるし……いつか起こるかもしれないとは、みんな思っていたけど……急だった。つい数時間前まで話してた島の人たちが、友達が……家族が、ポケモンが……みんな……私の目の前で、死んでいった……」

彼方「……うん」

果林「……全部……飲み込まれて……なくなっちゃった……。……もう、私の住んでた故郷は……影も形も……残ってないんだって……。残ってるのは……たまたまポケットに紛れ込んでた、この小石くらいかな……」


そう言って……彼方に小石を見せる。

逃げ惑っている際に紛れ込んでしまっただけだろうけど……今となっては、これ以外にあの島にあったものは何も残っていなかった。


彼方「……」
 「メェ〜〜」


そんな私を見て……彼方は無言で私を抱き寄せ──頭を撫でてくれた。


果林「大切な人が……場所が……なくなるのは……悲しい……。…………もう誰にも……こんな想い……して欲しくない……」

彼方「……うん」


もし、こんなどうしようもない世界を救う方法があるのだとしたら……私は迷わずにそれを選ぶのに。

あまりに無力な自分が……虚しくて……悲しかった。





    👠    👠    👠





孤児院に来て数ヶ月経った頃、私はプリズムステイツにある、警備隊へと入隊することを決めた。

プリズムステイツはいろんな場所から、いろんな種類の人間が故郷を追われ生活している場所だから……なんというか、あまり治安がいい場所ではなかった。

それ故に、警備隊での仕事は決して安全なものではないし……だからこそ、稼ぎも相応によかった。

それに孤児院経営も決して裕福な環境で行っているわけではないのは、近くで見ていればわかったし……少しでも、私を拾ってくれた院長先生への恩を返したい気持ちもあった。

そして、何より──


彼方「それじゃ〜、今日も頑張ろうね〜」


彼方が私と同じような考えで、この警備隊へ入ろうとしていることを聞いたから、一緒に入隊した。

──入隊すると、戦闘用のポケモンが支給された。そのときに彼方はネッコアラを貰い……なんの因果か、私に支給されたポケモンは、


 「コーーン」


故郷で失った家族と同じ種類のポケモン──ロコンだった。

自分で言うのもなんだけど、ありがたいことに私にはポケモンで戦うセンスがあった。

そしてそれは彼方も……。

私たちはあっという間に、警備隊の中でもトップクラスの強さへと伸し上がり──ものの半年で私は率先して前に出る攻撃部隊の隊長に、彼方は救護や防衛を主とする防御部隊の隊長になっていた。

ただ……それは決して、楽でもなければ、楽しいものでもなかった。
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:10.65 ID:Sh64zN700

果林「キュウコン、“ひのこ”!!」
 「コーーーンッ!!!」

男「あ、あちぃっ……!?」

果林「さぁ……盗ったもの……返しなさい。返さないなら……痛い目に合わさないといけないの……だから……」

男「か、勘弁してくれ……家族を食わせるためなんだ……」

果林「…………キュウコン、やりなさい」
 「コーンッ」


──窃盗は特に多かった。

土地が減れば、資源も食糧も乏しくなる。いつも誰かが誰かの住処と食糧と──命を奪い合っているような世界。

そして……私も、その一部だ……。


果林「…………」

彼方「……あの人……しばらく投獄されるって。常習犯だったから……お手柄だって、上の人が言ってたよ……」

果林「…………」

彼方「……果林ちゃん……」

果林「…………あの人の家族は……きっと、飢えて死ぬ……。……私が……殺したようなものだわ……」


私は寮のベッドの中で横になり、丸くなって、頭を抱える。

そんな私を見て──彼方はベッドに腰かけ、私の頭を撫でる。


彼方「果林ちゃん……果林ちゃんが辛いなら、彼方ちゃんと同じ防御部隊に回してもらうようにお願いしない……? 彼方ちゃんもお願いするから……」

果林「…………いい。……今は……一人にして……」

彼方「果林ちゃん……。……わかった。……あとでご飯持ってくるから、一緒に食べようね」


──きっとこれは私の役割だ。そう思っていた。

だから、上の人間には、彼方は防御部隊の隊長が適任であると、何度も伝えていた。

そして……私が攻撃部隊として……全てを排除すれば、彼女が辛い戦いをすることも減る……そう考えて、戦い続けた。

彼方には……誰かから奪うなんて似合わないから。





    👠    👠    👠





──警備隊に入って1年ほど経ったある日、


果林「政府主導の研究機関に統合される……?」

彼方「うん、そうらしいよ〜」


二人で食事をしているときに、彼方からそんな話を聞かされた。
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:27:45.33 ID:Sh64zN700

彼方「まだ、噂話を聞いただけだから……実際どういう感じになるのかはわからないけど〜……」
 「メェ〜〜」

彼方「はいはい、ご飯ね〜」
 「メェ〜」

果林「研究……聞いただけで、鳥肌立ちそう……」

彼方「あはは〜、果林ちゃんお勉強は苦手だもんね〜」

果林「……別にいいでしょ。……それにしても、なんでまた……」

彼方「なんでも、すご〜い研究者の人が、すご〜い発見をしたらしくってね〜」

果林「ふーん……そのすご〜い研究者のすご〜い発見ってなんなの……?」


私は話半分に聞いていたけど──


彼方「……世界を救う方法が、見つかるかもしれないんだって〜」

果林「え……?」


私は彼方の言葉を聞いて、目を見開いた。


果林「ホントなの……?」

彼方「なんかね、どうして世界がこんなになっちゃったのか……突き止められたかもしれないって〜。それをすご〜い研究者の人たちが見つけたみたいなの」

果林「も、もっと詳しく……!!」

彼方「あわわ……急に食いつきよくなった……。……でも、彼方ちゃんが知ってるのはここまで〜……噂話だから、どこまで本当なのかはよくわからないし……」

果林「なんだ……」

彼方「結局は実際に統合されてからじゃないとだね〜……。あ、ただ……」

果林「ただ……?」

彼方「噂によると……そのすご〜い研究者さんたちは15歳と14歳の女の子二人組らしいよ〜」

果林「……15歳と14歳って……」


どっちも私たちより年下じゃない……。





    👠    👠    👠





──実際に噂どおり、私たちプリズムステイツ警備隊は、政府主導でプリズムステイツの研究機関の実行部隊へと組み込まれることになった。

そして私と彼方は……警備隊での実績もあったため、その実行部隊の隊長、副隊長へと任命された。


彼方「か、かかか、果林ちゃん……!! この契約書見て……! お給料……すごいよ……!!」

果林「さすが政府の抱える実行部隊の隊長ね……」


──ここに来るまでに、なんとなくの説明は受けた。

確かに彼方の言うとおり、今この世界がどうしてこんなことになってしまったのか……それを突き止めた天才科学者が居たらしく、プリズムステイツでもトップクラスの戦闘能力を持つ私たちには、何かと発生する荒事を任せたいとのことだった。

その際、今この世界に何が起こっているのかも簡単に聞いたけど……正直何を言っているのかちんぷんかんぷんだった。エネルギーが世界から流出するのがどうたらとか……。

まあ、わかっていなかったのは私だけじゃなくて、彼方も同じような感じだったので、私の理解力が特別低いわけではない。……はず。

そして今日は、実際にその天才科学者二人と顔合わせするということで、早めに着いた私たちは研究所の応接室に通され待っているところだ。

今後は私たちとその二人の科学者さん、合わせて4人で連携を取っていくことになる。
551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:30:40.44 ID:Sh64zN700

彼方「研究者さん、どんな子たちなんだろーねー?」
 「メェ〜」

果林「正直……気が進まないわ……」

彼方「そうなの〜?」
 「メェ〜」


彼方が膝の上のウールーを撫でながら、のんきな声で訊ねてくる。


果林「科学者って、きっと眼鏡掛けて白衣を着たお堅い形の子たちってことでしょ……? いかにも勉強の話ばっかりしてる感じの……」

彼方「偏見すごいね〜……。失礼だから、本人たちにそんなこと言っちゃダメだよ〜?」
 「メェ〜」

果林「言わないわよ……」


とはいえ、うまくやっていける気がしない……。

もちろん、世界を救うためと言うなら協力するのは吝かではない。むしろ望むところだ。

ただ……理論の話とかは聞きたくない。絶対にその日一日、頭痛に悩まされるハメになること請け合いだ。


彼方「まあ、嫌だったら果林ちゃんは横でおすまし顔しててくれればいいから〜。果林ちゃん綺麗だから、座ってるだけでも絵になるし〜」

果林「……場合によってはそうするかも……」

彼方「まあ、気楽に行こ〜。そろそろ時間かな〜?」


彼方の言うとおり、応接室内の壁掛け時計を見ると、そろそろ時間になろうとしていた。

そして──扉が開いた。


研究者1「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

研究者2「は、初めまして……」


そう言いながら応接室内に女の子が二人入ってくる。

私はその容姿で、すでに面食らってしまった。

一人は明るめの金髪をポニーテールに縛っている活発そうな女の子だった。

もう一人は外巻きカールのセミロングヘアをした小動物のような印象を受ける女の子。

この子たちが……噂の天才科学者たちなの……? イメージどおりなのは、白衣を着ていることくらいだった。

私と彼方は席から立ち上がる。


果林「この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」

研究者1「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういう堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」

果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


璃奈ちゃんは腕に小さな猫ポケモンのニャスパーを抱いていて、その子も一緒に紹介してくれる。
552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:12.72 ID:Sh64zN700

果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」

果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」

 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


なんというか、愛は呼び捨てにしていい気がしたけど……璃奈ちゃんはなんというか……璃奈ちゃんという感じだった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん、璃奈ちゃん〜。あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」

愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


挨拶をしながら、璃奈ちゃんは愛の後ろに隠れてしまう。


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」

果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」

愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


璃奈ちゃんはそう言いながら──上着の中から、1冊のノートを取り出した。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


そう言いながら、表情が描かれたページを開いて顔の前に掲げる。

少し変わっているけど……どうやらこれが、彼女なりの感情表現ということらしい。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!!」


なんだか、思ったより変な人たち──主に愛が──だけど……。

想像していたよりは、意外と楽しくやっていけそうかも。私はそんな風に思うのだった。



553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:31:44.45 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





──結論から言うと、この二人……特に愛とはとても気が合った。


愛「あー!! また負けたぁー!!」

果林「はぁ……はぁ……。これで……私の10勝9敗7引き分けね……」

愛「カリンもっかい! 次勝って、10勝10敗にする!」

果林「あ、明日ね……今日はさすがにしんどいし、私はこの後取材があるし……愛にも研究があるでしょ……?」

愛「うー……わかった。でも、約束だからね!」


愛は研究者でありながら、とにかく戦闘でも腕が立つ子だった。

戦績としては拮抗しているように見えるけど……彼女の使うポケモンは全て小柄で進化前しかいない。

これで私と実力が拮抗しているのだから、末恐ろしい戦闘センスと言わざるを得なかった。


果林「……ねぇ、愛」

愛「ん?」


私は訓練場から、研究棟に戻る最中、愛に訊ねてみる。


果林「どうして、ベイビーポケモンばかり使うの? 貴方だったら、ポケモンを選べば実行部隊に居たとしても、遜色ないのに……」

愛「んー……リーシャンはもともと友達だったからだけど……りなりーが可愛いポケモンが好きって言うからさ」

果林「……それだけ……?」

愛「え? うん。それにりなりーったら、可愛いポケモンで敵をばっさばっさなぎ倒すところがかっこいいって褒めてくれてさ〜♪」

果林「……そう」


彼女と私とでは、戦いに対する価値観が違いすぎる……。

そこに関しては研究者らしい変わり者というか……だからこそ、戦闘員ではなく研究員なのかもしれない。


愛「──たっだいま〜♪」


愛が元気よく、中央研究室のドアを押し開くと、それに気付いた璃奈ちゃんと彼方が寄ってくる。


璃奈「愛さん、果林さん、おかえりなさい」
 「ニャァ〜」

彼方「二人ともおかえり〜」
 「メ〜」

果林「ただいま。彼方、今日は防衛演習があるんじゃないの? まだここに居て大丈夫?」

彼方「もう〜今日は夜間演習だって言ったよ〜? だから、今のうちにすやぴしておこうと思って〜」
 「メェ〜〜」

果林「……そうだったかしら……」


彼方は私と違って防衛隊の隊長だから、私とは訓練の運用スケジュールが全然違って覚えられる気がしない……。
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:34:49.89 ID:Sh64zN700

璃奈「愛さん。ボール収納時に発生する質量欠損と空間歪曲率の統計データ、ほぼ完成した」

愛「マジで!? まだだいぶ時間掛かる予定だったはずなのに……!?」

璃奈「予算がたくさん貰えたから、それで自動化ロボットを作る余裕が出来た。すごくありがたい」

愛「いや〜やっぱり、これもカリンとカナちゃんが来てくれたからだね〜♪ 統合サマサマだ〜♪」

彼方「あはは〜、やっぱりお金は大事だもんね〜」

果林「お陰で、“虹の家”の抜けた床と雨漏りが直ったって言ってたものね……」


政府主導の統合によって予算が増えたのは警備隊側だけではなかったらしく、研究所も正式な政府機関として、多額の予算が下りているというのは噂で聞いている。

それだけ、この機関には多くの期待が寄せられていた。

私は彼女たちの話を傍で聞きながら、トレーニングウェアを脱ぎ捨て、シャワーを浴びに行く。


彼方「あ〜も〜、また服脱ぎっぱなしにする〜……」
 「メェ〜」

果林「別にいいでしょ。急いでるのよ」

彼方「摸擬戦から帰ってきたばっかりなのに、もう出るの〜?」
 「メェ〜?」

璃奈「果林さん……今日はメディアからの取材がある」

果林「そういうこと」


私は手早くシャワーで汗を流して、表向きの格好に着替える。


彼方「あんまり忙しいなら……彼方ちゃんが代わるよ〜?」

果林「夜から演習なんでしょ。彼方は早く寝なさい」


私はそう残して、中央研究室を後にした。



555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:22.67 ID:Sh64zN700

    👠    👠    👠





私たちのやっていることは……簡潔に言ってしまえば、この世界を救うための最先端活動だ。

璃奈ちゃんと愛が、ウルトラスペースと言われる異次元空間の存在を発見したことを端に、プリズムステイツ政府はそれに世界の命運を懸けて、多額の予算と──そして、警備隊から多くの戦力を実行部隊として送り込んだ。

最初は研究機関が戦力を求める理由がよくわからなかったけど……どうやら、ウルトラスペースという空間には、ウルトラビーストと呼ばれる危険な生物がいるらしく、私たちはその生物たちとの戦闘を想定して、ここに呼ばれたらしい。

特に私と彼方は、特別優秀な戦力として数えられているらしく、私は攻めの対ウルトラビースト戦略、彼方は守りの対ウルトラビースト戦略を任されている。

今回のこの研究の注目度はかなりのもので……物資や土地の奪い合いで睨み合っていた他国も、プリズムステイツ政府に多額の資金援助や物資援助を申し出ているほど……つまり、全世界が私たちの動向に注目している。

私と彼方は孤児院の経営のために、稼ぎの良い仕事していただけのはずなのにね……──璃奈ちゃんや愛が常軌を逸した天才で、世界が注目するのはわかるけど……。

ただ、その理由は実際にここに来て、すぐにわかった。世界が注目している研究ということは──世界中からメディアも押し寄せてくるからだ。

国家間での電信通信なんてものが失われて久しいこの世界において、各国のメディアは何がなんでも自国に情報を持ち帰りたがる。有り体に言えば……少し強引なこともしてくる。

故に──前に立たせる人間が欲しかったということだ。

そして、私はそれに選ばれた。理由は……俗的な話だけど、要約すると顔とスタイルがよかったかららしい。

若くて、麗しい少女たちが前線に立ち戦う姿は、人々から支持を得やすいという目論見が上にはあるらしかった。

まあ……俗的だとは思うけど、容姿を褒められて悪い気はしないし、私はそこまで嫌だとは思わなかった。

何より、人前に出るのが極端に苦手な璃奈ちゃんを守る盾は必要だったわけだし、理由にも納得出来た。

……目立ちたがり屋の愛は、たまに勝手に付いてきて一緒に取材を受けていることもあったけど……。

──気付けば私たち4人は……世界中の期待を背負って、世界の命運を託されていたのだった。





    👠    👠    👠





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


璃奈ちゃんが機器を操作する中、ガラス張りの向こうにある実験室で──空間に穴があく。


愛「おっけー、ホール安定。このまま、維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』


愛が端末越しに2匹のベベノムに話しかけると、ベベノムたちは元気に返事をする。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


ウルトラビーストは大きなエネルギーを体に持っていて──それによって空間を歪めて、ウルトラホールをあけることが出来る……璃奈ちゃんたちが突き止めた大発見はこれによって始まったらしい。

実際に目の前で奇怪な空間の穴を何度も見せられているので、それが嘘ではないということは理解出来ているけど……ちょっと街の外れにいくと生息しているポピュラーなポケモンが、危険と称されるウルトラビーストの仲間だったと言われてもなかなかピンとこない。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」
556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:35:59.74 ID:Sh64zN700

確かに、ただホールがあいて、それが消えるのを見るだけなのが退屈なのはわかる。

私も気を抜くと、欠伸の一つでもしていまいそうだと思いながら、見ていると──その万が一が発生した。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」

愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」

果林「な、なに……!?」


直後──研究室内のホールがカッと光り、


果林「……っ……!?」


眩い光の中に──


 「──フェロ…」


真っ白な上半身と、黒い下半身をした──細身のポケモンが立っていた。


果林「綺麗……」


思わず目を引かれてしまうような──そんな、美しいポケモンだった。


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」

愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


直後──


 「フェロッ!!!」


ガシャァンッ!! と音を立てながら、ウルトラビーストがガラス張りの壁を蹴り破り──私に向かって突っ込んできた。


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


振り下ろされるウルトラビーストの脚に対し、彼方のネッコアラが割って入るように丸太を振りかざして、弾き飛ばす。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


私は頭を振る。なんだか、頭がボーっとしていた。

愛の言っていたように、人を操る力とやらにやられかけていたらしい。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


璃奈ちゃんが机の影に隠れ、愛がウルトラビーストの前に出てくる。
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:36:29.40 ID:Sh64zN700

 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」





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果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」


私たちは、3人の力を合わせて、どうにかウルトラビーストを倒し……捕獲することに成功した。

戦闘後の研究室内は……ボロボロだった。


果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


こんなのを愛一人で対応し続けるのは、確かに無理がある……。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」


戦闘が終わって、物陰に隠れていた璃奈ちゃんが心配そうに飛び出してくる。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」

璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


部屋を飛び出そうとした璃奈ちゃんが、


璃奈「あれ……?」


何か気付く。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


私は、その言葉を聞いて身構えた──けど、そこにいたのは……。


 「ピュィ…」


小さな小さな……紫色の雲のようなポケモンだった。



558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:12.36 ID:Sh64zN700

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──そこで捕まえた雲のようなウルトラビーストは……コスモッグというらしく、大量のエネルギーを内包するポケモンであることがわかった。

結論から言うと、このコスモッグを捕獲したことによって、璃奈ちゃんと愛の研究は飛躍的に進むこととなった。

このポケモンが持っているエネルギーを利用すれば──理論上ウルトラスペースの中を航行しうるエネルギーになるということがわかったからだ。

政府は、急ピッチでウルトラスペースを航行するための船──ウルトラスペースシップの開発に着手し、半年という驚くべきスピードでウルトラスペースシップを完成させるに至った。

これにより、ウルトラスペース内の探索が可能になり、研究は次の段階へ……世間からも大きな賞賛を浴び、世界を救うという途方もない話がだんだん現実味を帯びてきていた。

戦闘によって捕まえたウルトラビースト──フェローチェは私が手持ちとして従えることとなり……いろいろなものが順調に進んでいく中──


──“虹の家”の院長先生が……彼方のお母さんが……亡くなった。





    👠    👠    👠





遥「おかあさん……っ……おかあ、さん……っ……」

彼方「……遥ちゃん……」


遥ちゃんが棺桶にすがるように泣きじゃくり、彼方がそんな遥ちゃんを抱きしめている。


果林「…………院長先生……」


数ヶ月前に過労で倒れたというのは聞いていたけど……ウルトラビーストとの邂逅もあり、私はなかなか時間が取れず──いや、正確には彼方を無理にでもお見舞いにいかせるために、仕事を強引に肩代わりしていたためだけど──まさか、こんなすぐに亡くなってしまうとは……思っていなかった。

“闇の落日”の時に吸った瘴気が……ずっと院長先生の身体を蝕んでいたらしい。


果林「…………」


短い間ではあったけど……私にとっては、もう一人のお母さんのようなものだったから……やるせなかった。





    👠    👠    👠





──葬儀も全て終わり……明日にはまた研究所に戻る。……そんな夜のことだった。

私と彼方は、すごく久しぶりに“虹の家”で過ごしていた。

ただ……どうしても寝付けなくて、水でも飲もうかと思いリビングに行くと──


彼方「…………」


彼方が遺影の前で、正座していた。


彼方「…………“虹の家”……立派になったね」


遺影に……院長先生に……母親に、話しかけていた。

私は親子の会話を邪魔したくなかったので、音を立てないように、物影に隠れる。
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:37:58.45 ID:Sh64zN700

彼方「…………あんなに軋んでた床も、音鳴らなくなったね。雨漏りもしなくなったし……立て付けの悪かったドアもちゃんと開くようになったね。職員の人も何人も雇っててびっくりしちゃった。孤児院としては、もう安泰だね」

果林「…………」

彼方「果林ちゃんと一緒に……頑張ってきてよかったって……思ったよ……」

果林「…………彼方……」

彼方「……わたしたち……これからも頑張るね……世界中の人……救って見せるから。……この世界を、果林ちゃんたちと一緒に……救って見せるから」

果林「…………」

彼方「………………でも…………でも、ね……っ……」


彼方の声が、震えていた。


彼方「…………ほんとうは……おかあさんに……っ……すくわれた世界を……みせて、あげたかった……よぉ……っ……」


彼方は……肩を震わせて泣いていた。

……私はこのとき初めて、彼方の泣いている姿を見た。

葬式の間、泣きじゃくる遥ちゃんや、この家の小さな子たちの前では、絶対に見せなかったのに……彼方が、声を震わせて、泣いていた。


彼方「…………おかぁ……さん……っ…………ぐす……っ……ひっく……っ……」

果林「………………」


──この世界は理不尽だ。

理不尽に奪われて、泣く人ばかりの世界で……そんな中でも、誰かに与えて手を差し伸べてくれる人が……命を落とす。

私はギュッと……拳を握りしめた。


果林「…………こんな世界……間違ってる…………」


こんな、誰かが泣かなくちゃいけない世界のままで……いいはずがない。


果林「…………私が……変えるんだ…………」


こんな奪われるだけの世界を……私が、変えなくちゃ……いけないんだ。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップによる本格的なウルトラスペースの調査が開始された。

調査メンバーはもちろん、私、彼方、愛、璃奈ちゃんの4人だ。

その中で……私たちは、ウルトラスペースの中に、いろいろな世界があることを知った。

荒廃しきった世界や、巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界、一面に広がる砂漠の世界、宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。

本当にいろいろな世界があって……そこにはいろいろな種類のウルトラビーストが生息していた。

時に捕まえ、時に撃退し、時に逃げ……私たちは少しずつウルトラスペースとウルトラビーストという存在を理解していった。

その中で、テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグを捕まえることに成功した。

それと同時に……並行して行っていた、ウルトラスペースシップの2台目を完成させたり……とにかく調査は順調に進んでいた。

ただ……そんな調査の中でも……私たちが見つけた世界の中に、文明がある世界は一つしか見つけることが出来なかった。

それも、遠く……自由に行き来するとなると、コスモッグの持っている途方のないエネルギーをもってしても、少し不自由があるというくらいには遠くにだ。

そんなある日のことだった。
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:38:47.16 ID:Sh64zN700

璃奈「……!」


研究室にいるとき、璃奈ちゃんが急に椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」

彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私は、思わず璃奈ちゃんの両肩を掴んで、


果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


思わず彼女に詰め寄るように訊ねてしまう。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」

愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方が訊ねるけど、


璃奈「……それは……」


璃奈ちゃんは、何故か酷く歯切れが悪かった。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」

果林「言っていいのか……? わからない……?」


私は思わず眉を顰める。
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:20.03 ID:Sh64zN700

果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」

彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」

果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


私は璃奈ちゃんに背を向けて、近くの椅子に腰を下ろした。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」

愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


愛と璃奈ちゃんが部屋を後にする。

私は思わず両手で顔を覆って俯く。

璃奈ちゃんにやつあたりするなんて……何やってるの、私……。


彼方「……果林ちゃん、疲れてるんだよ……今日はお仕事やっておくから、休んで?」

果林「彼方……」

彼方「いっつも、前に立たせちゃって……ごめんね……。……果林ちゃんが一番しんどい位置にいることは……わたしも、璃奈ちゃんも、愛ちゃんもわかってるから……」

果林「……ありがとう……彼方……」





    👠    👠    👠





ここからしばらく、愛と璃奈ちゃんが理論を纏めるのに難航することとなる。

……どうやら、璃奈ちゃんの思いついた理論が……大きなリスクを孕んでいるものだからという噂は耳に入ってきた。
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:39:52.44 ID:Sh64zN700

 「──だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」


応接室から、愛が荒げた声を聞く機会もだんだんと増えていった。恐らく、政府の役人と今後の方針で揉めているのだろう。

その間は調査が滞り、私たちは訓練と演習くらいしかすることがない中──ある辞令が下った。


果林「──……“SUN”と“MOON”……?」

彼方「うん。上からの辞令で……組織内でポケモンでの戦闘が強い二人に権限を渡すって話みたい」

果林「権限って……なんの?」

彼方「コスモッグを自由に扱う権利みたいだね……2匹のコスモッグがそれぞれ“SUN”と“MOON”に1匹ずつ渡されるみたい」


彼方が辞令に目を通しながら言う。


果林「それってつまり……」

彼方「……ある程度、自由にウルトラスペースを調査する権限みたいだね」

果林「……そう」

彼方「嬉しくないの? 果林ちゃん、“MOON”に任命されたってことは……出世みたいなものだよ?」

果林「そうね……」


私は思わず眉を八の字にしてしまう。

──組織内で戦闘が強い二人──

この指定の仕方は……恐らくだけど……私には愛が政府の役人に反発し続けた結果のように思えた。

反発をする愛に対し、上の人間は愛に自由を与えないために、作戦そのものの実行能力を持った人間に権限を与えようとしたけど……愛は彼方より強い。下手したら私よりも……。

研究者でありながら、作戦の実行能力も高い彼女から、全ての権限を奪いきれなかった結果、こんな不自然な辞令が下ったんじゃないかしら……。

もちろん、想像の域は出ないけど……。


彼方「……どうする?」

果林「……まあ、コスモッグを受け取るのは構わないけど……」


コスモッグはウルトラビーストではあるものの、戦闘能力が皆無なウルトラビーストだ。

故に持っていようが持っていまいが、そこまで大きな問題はないと思う。……ただ、エネルギーを放出させすぎると休眠状態になると予想はされているから、そこは考えないといけないけど……。

ちなみに他のウルトラビーストは、結局うまく扱える人がいなくて、持て余しているのが現状だ。

一度、彼方がテッカグヤを扱おうとしたものの……結局強すぎる力に振り回されてしまい断念。

私も何匹か使ってみたものの……フェローチェほど、しっくりくるものがなく、現状の手持ちの方が有効に戦えそうだったために、受け取りはしなかった。

閑話休題。

コスモッグを受け取るのはいいとしよう。ただ──


果林「だからって、私だけで調査に行くことってないと思うんだけど……」

彼方「……それはそうかも」


ウルトラスペースシップの操縦はほとんどプログラミングされた自動操縦らしいし、簡単な使い方くらいは聞いているから、動かすことは出来ると思うけど……。

それ以外のことは、完全に愛と璃奈ちゃん任せだから、私たちに持たされても使い道があまり思いつかない。

……他国のスパイとかに奪われる可能性が減るくらいかしら……?


果林「それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」

愛「──文献を見つけたからだよ」


そう言いながら、愛と璃奈ちゃんが部屋に入ってくる。
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:42:33.94 ID:Sh64zN700

果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居れば、いつか覚醒して私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


まあ……自分で言っておいてなんだけど……正直命名の理由には言うほど興味はない。興味があるのは……──私が任命された“MOON”じゃない方。


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


愛は気まずそうに頭を掻く。

……恐らく、私の予想はそこまで大きく外していないのだろう。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……ちゃんと救える理論、見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


愛は“SUN”の称号を得て、璃奈ちゃんと何かをしようとしていることはわかった。

ただ──これが……最悪の結果を招くことになる……。





    👠    👠    👠





果林「──愛……!!」

愛「ん? カリン、どしたん?」

果林「どしたんじゃないわよ!! 璃奈ちゃんと二人でウルトラスペースの調査に行くってどういうこと!?」

愛「うぇー……情報筒抜けじゃん。独立した権限があるなんて嘘っぱちだねぇ……」

果林「行くなら私たちも連れていって……!」


ウルトラスペースは危険な場所だ。

いくら愛の腕が立つと言っても、たった二人で行くのは危険すぎる。
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:43:18.50 ID:Sh64zN700

愛「んっとね……最初はアタシもそうお願いしたんだけど、拒否されちゃってさ」

果林「拒否……? どうして……?」

愛「お前たちのわがままのために、貴重な戦力を危険な目に合わせるわけにいかないって」

果林「……危険な場所に行くの……?」

愛「まーね……。……だから、二人でしか行けないなら、アタシも断念しようとしたんだけど……りなりーがね。……行かないわけにいかないって」

果林「璃奈ちゃんが……」


あの気弱な璃奈ちゃんが……政府の役人に対して、そんなことを言ったなんて、想像出来ないけど……。

それでも、勇気を振り絞って言ったということだろう……。


愛「りなりーが行くって言うんだったら、愛さんが行かないわけにいかないっしょ!」

果林「愛……。……ちゃんと、帰って来るんでしょうね……?」

愛「もちのろん! ちゃんと成果持ち帰ってくるために行くんだから! 任せろって!」

果林「わかった。じゃあ、もう何も言わない」

愛「あんがとっ! ま、カナちゃんと一緒にお昼寝でもして待っててくれりゃいーからさっ!」

果林「ふふ、じゃあ……そうさせてもらおうかしらね」


──数日後、愛は璃奈ちゃんと一緒にウルトラスペースの調査へ出た。

結果────璃奈ちゃんが……死亡した。





    👠    👠    👠





──ウルトラスペースシップが帰ってきた時点で、異変があった。

ウルトラスペースシップの形状が──変わっていた。シップの倉庫部となるはずの部分が消失していた。


果林「な、なにが……あったの……?」

彼方「わ、わかんない……」


船が戻ってくる報告を聞いて、離発着ドックに来た私たちは、酷く動揺していた。

そして、ボロボロのウルトラスペースシップの中から、


愛「…………」


愛が出てくる。


果林「愛……! よかった……!」


私たちは愛に駆け寄る。

よく見ると愛は随分とやせ細っていて──どこを見ているのかわからないような、そんな虚ろな目をしていた。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


嫌な予感がした。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」

愛「──………………ちゃった……」
565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:44:48.06 ID:Sh64zN700

愛は消え入るような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」


そう、言ったのだった。





    👠    👠    👠





彼方「…………どうして……」

果林「…………」

彼方「…………どうして……璃奈ちゃんが……」


愛が帰ってきて、半日ほどが経過した。

愛があまりに憔悴しきっていて、とてもじゃないけど話が聞けない状態だったため、詳しいことはまだわかっていないけど……調査中に事故でウルトラスペースシップが半壊し、その際に璃奈ちゃんが亡くなったという見方が強かった。


果林「…………まだ…………奪うの…………?」


私は唇を噛んだ。

そのときだった──急に研究所内にアラートが鳴りだした。


彼方「な、なに……!?」


──『離発着ドックにて緊急事態発生。緊急事態発生。』──


果林「彼方……! 行くわよ……!」

彼方「う、うん……!」


私たちはとにかく、離発着ドックへ走る。





    👠    👠    👠





──たどり着いた離発着ドックでは、


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


愛が、ドックを破壊していた。


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」

愛「りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


愛が大暴れしていて、他の職員はとてもじゃないけど、近付けない。

でも、このまま放っておいたら離発着ドックが使い物にならなくなる……!
566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:46:31.68 ID:Sh64zN700

果林「彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」


バイウールーがリーシャンの音攻撃を体毛で吸収し、施設の被害を抑えながら、パールルが“みずでっぽう”で壊れた機器から出火した炎を消火する。

その間に私は、


果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


リーシャンの動きを止めて、


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


後ろから愛を羽交い絞めにする。


愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


愛は錯乱しながら、叫び続ける。

とてもじゃないけど、呼び掛けで止めるのは不可能だと判断し、


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


愛のお腹に、手加減した打撃を叩きこんだ。


愛「……りな……りー……」


愛は気絶して……大人しくなった。璃奈ちゃんの名前を……呼びながら……。





    👠    👠    👠





──愛は、施設を破壊した責任を問われ……ひとまず拘束されることになった。今はポケモンを没収の上、自室で軟禁状態らしい。

加えて、このチームからも除名されるらしい。


彼方「…………果林ちゃん……“SUN”になるんだってね……。……彼方ちゃんが……“MOON”だって……」

果林「…………みたいね……」

彼方「…………研究班が足りなくなっちゃうから……。……人が補充されるみたい」

果林「……聞いた。……姫乃って子と……遥ちゃんよね……」

彼方「……うん」

果林「…………あの4人じゃなきゃ……ダメなのに……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「なんで……なんで、こうなっちゃうのよ…………」
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:47:07.78 ID:Sh64zN700

私たちは……力を合わせて世界のために戦っていたはずなのに……。

気付いたら……愛も……璃奈ちゃんも……いなくなってしまった。





    👠    👠    👠





──そして、私たちはやっと、愛と璃奈ちゃんが……どうして、世界を救う方法とやらを教えてくれなかったのかを理解した。


果林「…………」

彼方「…………」


先ほど司令から……璃奈ちゃんが気付いた、世界を救う方法をざっくりと聞かされた。

それは──


果林「…………私たちの世界を救うには…………他の世界を……滅ぼすしか……ない……って……」

彼方「………………」


詳しい理屈はわからないけど、そうらしい。他の世界を滅ぼすことによって……私たちの世界の崩壊を、食い止めることが出来る。それが、璃奈ちゃんが突き止めた世界を救う方法だった。

それに加えて──もし、それをしなければ……私たちの世界は今後もどんどん、確実に、滅亡へと進んでいく……とも。

彼方は……珍しく私に背を向けていた。どんな顔をすればいいのかわからないからなのか……それとも……。


果林「…………ねぇ……彼方……」

彼方「…………なぁに……?」

果林「…………………………怒らないで、聞いて……」

彼方「…………うん」

果林「………………私は……何をしてでも……この世界を、守りたい……」

彼方「…………果林ちゃん」

果林「………………こんな酷い世界だけど……大切な人がたくさんいるの……思い出の場所が……大切な場所が……たくさん、あるの……もう……この世界から、誰かが、何かが失われるのなんて……耐えられない……」

彼方「…………」

果林「…………彼方……」


私は無言の彼方の背中にすがるように、おでこを押し付ける。


果林「…………貴方は……私の前から……いなく、ならないで……。……お願いだから……」

彼方「……………………」

果林「…………壊すのは……全部、私がやる……奪うのも……罪も、業も、憎しみも、恨みも……全部私が背負う……だから……彼方だけは……私の傍に居て…………お願い…………」

彼方「………………」

果林「………………彼方……」


でも、彼方は──


彼方「……………………ごめん、果林ちゃん……少し……考えさせて……」

果林「………………」
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:52:18.19 ID:Sh64zN700

私を置いて……行ってしまったのだった……。





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──なんとなく、わかっていた。彼方は誰かから奪うようなやり方に賛同なんてしないって。

案の定というか、数日もしないうちに彼方が司令に反対の意思を伝えたという話が耳に聞こえてきた。

彼方と……施設内ですれ違っても──


彼方「あ……」

果林「あ……か、彼方……!」

彼方「ご、ごめん……今、急いでるから……」

果林「……彼方……」


すっかり、避けられてしまっている。

ただ……上の人間たちは、完全に──他世界への侵略の方向で進めようとしている。

……このまま、彼方が反対し続けたら、何が起こるだろうか……?

彼方は事実上の組織の幹部……もし、組織の意向に沿えなかったからと言って……ただ、辞めることで解決できないところまで事情を知ってしまっている。そうなったら彼方は……。

だから私は──


果林「……」


──コンコン。だから私は、戸を叩く。中に入ると、政府の役人たちが会議をしていた。

内容は──彼方をどうするかについて話しているところだった。

だから、私は、こう言った。


果林「彼方は……私が説得します……」


彼方を守るには……もう、これしかないから。





    👠    👠    👠





果林「………………」


深夜──私は計画書を見て、眉を顰める。

内容は……まさに他世界への侵略だった。

彼方もすでに、この計画書は受け取っているはずだ。この内容を踏まえた上で……私は彼方を説得しないといけない。

でも、やらなくちゃいけない。

私が……彼方を──家族を……守らないといけないんだ……。


果林「………………早く行かないと」
569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:53:01.28 ID:Sh64zN700

躊躇している暇はない。

そう思ったけど──


果林「…………今更……何にびびってるんだか……」


私の手は……震えていた。


果林「…………そりゃ……出来るなら……奪いたくなんて……ないわよ……」


誰も悲しまない世界があるなら、その方がいい。そんなの当たり前だ。そうに決まってる。


果林「…………でも…………選ばなくちゃいけないなら…………選ぶしか、ないじゃない…………っ」


黙って滅びを待つなんて……出来ない。

だから、せめて……私が背負うから……私以外のみんなを守るために……私が背負って……地獄に落ちるから……。


果林「…………」


私は覚悟を決めて、彼方の部屋へと向かう。





    👠    👠    👠





──コンコン


果林「彼方、今いい?」


返事がない。


果林「……入るわよ」


でも、話すしかないから。

私が部屋の中へ入ると──そこは本当に誰もいなかった。

今は深夜だ。外出しているとは考えにくいのだけど……。


果林「どこに行ったのかしら……?」


そんな風に言葉を漏らした、まさにそのときだった──

──『緊急事態発生。緊急事態発生。』──

施設内にアラートが鳴りだした。


果林「な、なに……!?」


──『何者かが、ウルトラスペースシップを占拠し、発進しようとしています』


果林「……!」


今この場でそんなことをする理由がある人間なんて、数えるほどしかいない。

加えて、もぬけの殻になった彼方の自室……そんなのもう……!
570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:09.62 ID:Sh64zN700

果林「彼方……!!」


私は離発着ドックへと走り出した。





    👠    👠    👠





離発着ドックに着くと、職員が数人倒れていた。

ほとんど気絶していたけど、


職員「ぅ……」


まだ、意識のある職員がいた。


果林「何があったか教えて……!!」

職員「コノエ姉妹が……シップに乗り込んで……」

果林「遥ちゃんも……!?」


そんなことを言っている間に、目の前で一隻のウルトラスペースシップが──発進した。


果林「彼方……待って……!! ……くっ……!」


私は、もう一隻の方──愛が乗っていた半壊のウルトラスペースシップに乗り込む。

愛はちゃんと帰ってきたし、メインエンジンが壊れていたらしいけど、そこはすでに新しい物に換装されている。万全の機体ではないが、これでも追いかけることは出来るはず……!


果林「た、確か……ここにエネルギーを充填して……オートパイロット……行き先は……」


もし、この状況で向かうとしたら──もうここに戻ってくるのは想定していないはず。その上で、何もない世界に行っても、生きていくことなんて不可能。

なら──行き先は一つ。……私たちが滅ぼそうとしている……たった一つだけ見つけることが出来た、文明のある世界。

私はそこにオートパイロットを合わせる。

発進シークエンスに入ると同時に、通信が入る。


果林「今、忙しいの!! 後にして!!」

 『──果林か』

果林「……!」


通信相手は実行部隊の司令。私が彼方を説得すると、そう宣言した相手だった。


司令『彼方のやっていることが、どういうことか……わかるな?』

果林「……それは理解してます……でも、私が必ず説得します。説得して連れ帰ります……だから……!」

司令『わかった。連れ帰れたときは……君に免じて今回は不問にしても構わない。……だが、もし連れ帰れないときはどうする?』

果林「…………」


彼方たちがやっていることは──恐らく亡命だ。

亡命先で私たちの世界がやろうとしていることを知らされる。そんなことになったら、私たちの世界は……。

そういう意味での問い。もうこの時点で裏切り者の烙印を押されてもおかしくない中で、最後の最後の譲歩をされている。

だから、もしそれが出来なかったときは──
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:54:46.12 ID:Sh64zN700

果林「……私が……撃墜します……」


……私が、手を……下すしか……ない。





    👠    👠    👠





果林「…………なんで…………なんでよ……。……彼方……」


なんで、そんな道を選ぶのよ……。

なんで……。


果林「私を……置いていくの……」


ウルトラスペースシップは……倉庫部がない分、軽いからかむしろ通常よりもスピードが出ていた。

航行を続けていると──前方に彼方たちの乗っているシップが見えてきた。

私は通信を飛ばす。


果林「彼方っ!! 聞こえる!?」


私が問いかけると、


彼方『か、果林ちゃん……』

遥『果林さん……』

果林「止まって、二人とも!! お願いだから……!! もしここで止まってくれたら不問にするって、約束もしてもらった、だから、お願い……!!」

彼方『……でも、不問にして……計画に加担しろって、ことだよね……?』

果林「……彼方っ!! お願い、言うことを聞いて……!! 貴方を……失いたくないの……!!」

彼方『…………果林ちゃん』

果林「……知らない誰かの命よりも──私は貴方が大事なの……!! だから……っ!!」


私の言葉に対して──


彼方『…………わたしね、果林ちゃんに初めて会ったとき──ちょっと怖い子だなって思ったんだ……』

果林「……え……?」


彼方は突然、そんなことを言いだした。


彼方『……それは……果林ちゃんがそのときのわたしにとって……“知らない誰か”だったからなんだと思う……』

果林「…………」

彼方『でも……でもね……。……あのとき、果林ちゃんに会えて……よかったって、思うの……。……“知らない誰か”が、“大切な人”になったから、そう思うの……』

果林「かな……た……っ……」

彼方『……だから……“知らない誰か”が……いつかの自分にとって“大切な人”かもしれないって……思っちゃうんだ……。……だから、わたしは……戻れない……』

果林「…………っ……かなた……っ」

彼方『──……ごめんね、果林ちゃん』


その謝罪は──決別の言葉だった。
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:55:33.67 ID:Sh64zN700

果林「…………っ…………ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! フェローチェッ!!!」

 『──フェロッ!!!!』


ウルトラビーストは、ウルトラスペース内でも活動出来る。

シップのボール射出機能で外に出したフェローチェが、彼方たちのシップに取り付く。


果林「“むしのさざめき”ッ!!!」

 「──フェロォォォォォッ!!!!!!」

彼方『っ゛ぅ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!?』

遥『ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!?』


もし、ここで彼方たちを逃がしたら──だから、私はもう選ぶしかなかった。


果林「フェローチェ……ッ!! やりなさい……ッ!!」

 『…フェロッ!!!』


音を遥かに凌駕するスピードで振り下ろされるフェローチェの脚が、彼方たちの乗っているウルトラスペースシップを……真っ二つに、両断した。

シップはそのまま……バラバラになって、ウルトラスペース内に消えていった。

私は……両手で顔を押さえる。


果林「なんで…………なんで…………こう、なっちゃうの…………なんで…………っ」


私は……どうして、大切な人を……自分の手で……。

なんで、どうして……どう……して……。





    👠    👠    👠





──私は……本当はどうすればよかったんだろう。

わからない。……わからない。

だけど、一つわかることがある。

……起こってしまったことは、もう戻らない。……だから私は……もう、戻れない。

私は──


果林「私は……私の世界を救うんだ……」


もう、進むしかない。





    👠    👠    👠





果林「……愛、入るわよ」


軟禁中の愛の部屋に押し入る。
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:15.60 ID:Sh64zN700

愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」


愛は随分と余裕そうな表情をしていた。


果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


私は愛の首にチョーカーを着ける。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことがたくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」


私は、手に持ったリモコンのスイッチを入れる。


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


愛に着けた首輪に電流が流れ、愛を痺れさせる。


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」

愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」

愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」

愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


愛は何やら企んでいるようだけど……私の目的を邪魔するつもりがないならいい。

私は愛と協定を結んだ。





    👠    👠    👠





──私たちのチームは、璃奈ちゃんと彼方がいなくなり、愛が事実上の除名。副隊長候補だった遥ちゃんも居なくなったため……新しく入る姫乃という女の子を“MOON”に据え、二人──プラス愛──で動かすことになった。
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:56:55.61 ID:Sh64zN700

姫乃「──よ、よろしくお願いします!」

果林「よろしく、姫乃」

姫乃「あ、あの……」

果林「何かしら?」

姫乃「私、果林さんにずっと憧れていたんです……それで、組織に入っていつか一緒に働ければと思っていて……」

果林「そうだったの……ありがとう」

姫乃「果林さんも……“闇の落日”でご家族を失ったと聞きました……。……実は私も……それで孤児になって……」

果林「……大変な思いをしたのね……」

姫乃「いえ……それでも果林さんは世界を救うために、戦っていると聞いて……私も果林さんのお力になりたいと……ずっと思っていました……」

果林「……そう思ってくれて、嬉しいわ……」


この子はきっと──愛や璃奈ちゃんや彼方とは違う……。

大切な何かを選ぶためなら……優先順位の低い物を切り捨てられる子……直感で、そんな気がした。

きっと──この子は使える。信頼を得ておいた方がいい。

信頼を得るには……自己開示かしらね。


果林「……姫乃」

姫乃「な、なんでしょうか」

果林「これから一緒に戦う仲間だから……貴方には、私が……あの夜に見たものを、先に……話しておこうと思って……」

姫乃「か、果林さん……は、はい……」


私はもう……日和らない……。

世界を……私の守るべき世界を……救う。

そのために手段なんか……選ばない……。





    👠    👠    👠





──姫乃は優秀だった。

研究班として入ってきたが、もともと戦闘の腕もそこそこ立つ子だったし、二人体制になったことを知った瞬間、すぐに戦闘訓練に熱心に取り組み始め、あっという間に実行部隊のトップ2になった。

私たちはすぐにでも計画を実行したかったけど──問題があった。

それは、あの時点で“MOON”であった彼方が、コスモッグを持ち逃げしていたことだった。シップを撃墜した際に、落ちてしまったコスモッグを回収しないと、エンジンエネルギーの充填の問題でウルトラスペース内を自由に行き来しづらくなる。

そこで愛がコスモッグの持つエネルギーを探知する装置を作り出し──コスモッグを探すことになり、この作戦は星の子に準えて、コードネーム“STAR”と名付けられた。

そして、肝心の“STAR”の行き先は──


愛「……ああ、これ……アタシたちが滅ぼそうとしてる世界だね」


とのことだった。


果林「なら丁度いいわね……。確か、世界そのものに穴をあけるためには、ウルトラビーストをその世界に呼び込んで、大量のウルトラホールをあければいい……って話だったわよね?」

愛「そうそう。ただ、そのためにあっちこっちの世界からウルトラビーストを探すための航行エネルギーが必要だかんね。コスモッグは2匹欲しいってわけ」
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:57:43.90 ID:Sh64zN700

「別に地道に待っても3〜4年くらい待てば不自由ないくらい集まる気はするけどね〜」と付け加えながら。

──しかし、とある問題が起こった。

それは──


愛「……んー……“STAR”の反応……消えたね……」


目的の世界に来たときには、“STAR”の反応が消えてしまっていたということだ。

──痕跡はあったから、間違いなくこの世界にはいるはず……とのことだったけど……。

こっちの世界に来てからすぐに、フェローチェの毒を使い、モデル事務所をコントロールして資金を集めながら……私たちは“STAR”を探していた。

……そんなあるとき──偶然訪れた、コメコシティでのことだった。


果林「……のどかな町ね……」


右を見ても、左を見ても、大きな建物がないけど……とにかく牧場が広い。

このゆったりした空気は、私の故郷に似ている気がして、居心地がいい気がした。

そのとき、ふと──


果林「……え……?」


視界の先に、彼女は、居た。

オレンジブラウンのロングヘアーに、トロンと垂れた眠そうな瞳。見間違えるはずがない。

私が苦楽を共にした家族……。


果林「……彼方……」


彼方が前方から歩いてきていた。


果林「彼方……っ……!」


あのとき、私が手に掛けてしまったと思っていたけど……生きていたんだ。

私は感情が抑えきれず、彼方に向かって駆けだしていた。


彼方「……あ!」


彼方も私に気付いたように、駆けてくる。

どんどん近付き、私は彼方を抱きしめようとした──のに、


彼方「花陽ちゃーん! 今日もしかして、新米入ったの〜?」

花陽「あ、彼方さん! はい、今日は新米が入りました! やっぱり、お米は新米だよね!」


彼方は──私に気付かず、私の横を……すり抜けていった。

──彼方は、私を……覚えていなかった。


果林「………………」
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 12:58:48.24 ID:Sh64zN700

──そっか……。……シップごと……墜落したんだもの。

記憶がなくなっているくらいのことはあっても、なんらおかしくない。

だけど……。

このとき私は、思ってしまった。

──噫、私は……彼方にとって、忘れられる存在だったんだ、と。

忘れても……大丈夫な存在だったんだと……。

思ってしまった。


果林「……ふふ。……そっか」


そのとき──私の心の中で、大切にしまっていた何かが……壊れてしまった気がした。

このときを最後に、私はもう……本当に自分で自分を止めることが……出来なくなってしまった気がした。


──
────
──────
────────



私には……もう味方なんて、いらない……。

私はただ……自分の大切なものを守るために……選ぶだけ。

ただ、そのために……戦うことを選んだから。


果林「全部……壊してあげる……」


私は眼下の侑と歩夢を、自分の邪魔をする全てのものを……排除する。



577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:00:32.66 ID:Sh64zN700

    🍞    🍞    🍞





彼方「……彼方ちゃんが覚えてるのは……シップが撃墜された、その瞬間まで……。……その後、コメコに“Fall”として落ちてきて……エマちゃんに助けてもらった後はエマちゃんも知ってるとおりかな」

エマ「……そっか」

彼方「聞いてみて……どう……思った? ……きっとね……果林ちゃんをあそこまで極端にさせちゃった原因は……わたしにあると思うんだ」

遥「お姉ちゃん……」


彼方ちゃんはそう言って声を沈ませるけど……。


エマ「……違うよ」


わたしはそうは思わなかった。


エマ「彼方ちゃんの優しさも……果林ちゃんの優しさも……どっちも間違ってなんかないよ。お互いの優しさが……ボタンの掛け違いみたいになっちゃっただけ……」

彼方「エマちゃん……」

エマ「今でもきっと……果林ちゃんの心のどこかに、彼方ちゃんと仲直りしたいって気持ち……きっとあると思う。前みたいに、家族に戻りたいって気持ち、あると思う」

彼方「……うん」

エマ「優しさがすれ違ったままなんて……悲しすぎるよ……。でも……果林ちゃんはもう自分の力じゃ止まれない……だから、誰かが止めてあげないと……」


大切な家族同士が……こんな形で争うなんて、悲しすぎるから。


エマ「だから、行こう……! 果林ちゃんを止めに……!」



578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/03(火) 13:01:01.92 ID:Sh64zN700

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 エマ
 手持ち ゴーゴート♂ Lv.40 特性:くさのけがわ 性格:むじゃき 個性:ねばりづよい
      パルスワン♂ Lv.43 特性:がんじょうあご 性格:ゆうかん 個性:かけっこがすき
      ガルーラ♀ Lv.44 特性:きもったま 性格:おっとり 個性:のんびりするのがすき
      ミルタンク♀ Lv.41 特性:そうしょく 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      ママンボウ♀ Lv.40 特性:いやしのこころ 性格:ひかえめ 個性:とてもきちょうめん
      エルフーン♀ Lv.40 特性:いたずらごころ 性格:れいせい 個性:ぬけめがない
 バッジ 1個 図鑑 未所持

 主人公 彼方
 手持ち バイウールー♂ Lv.79 特性:ぼうだん 性格:のんてんき 個性:ひるねをよくする
      ネッコアラ♂ Lv.77 特性:ぜったいねむり 性格:ゆうかん 個性:ひるねをよくする
      ムシャーナ♀ Lv.78 特性:テレパシー 性格:おだやか 個性:ひるねをよくする
      パールル♀ Lv.76 特性:シェルアーマー 性格:おとなしい 個性:ひるねをよくする
      カビゴン♀ Lv.80 特性:あついしぼう 性格:わんぱく 個性:ひるねをよくする
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 0個 図鑑 未所持


 エマと 彼方は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:05:50.39 ID:2N444K9g0

■Chapter068 『決戦! DiverDiva・果林!』 【SIDE Ayumu】





果林「──キュウコン!! “かえんほうしゃ”!!」
 「コーーーンッ!!!!!」


またしても、崖の上からこちらに向かって火炎が降ってくる。


歩夢「エースバーン! “かえんボール”!!」
 「──バーースッ!!!」


ボールから出したエースバーンが真上に向かって、火の玉を蹴り出し、キュウコンの炎と相殺させる中、


侑「フィオネ! “みずあそび”!」
 「フィオ〜♪」


フィオネが周囲に大量の水をばら撒き、私たちを包囲していた“ほのおのうず”を消火する。


侑「歩夢!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんが私の手を取り、走り出す。


果林「待ちなさい……!! “かなしばり”!!」
 「コーーンッ!!!」


果林さんは逃げ出す私たちの動きを止めようと、“かなしばり”を放ってくるけど、


侑「ニャスパー!! “マジックコート”!!」
 「──ニャーーッ!!!」

果林「ぐっ……!?」
 「コーーンッ…!!?」


侑ちゃんとニャスパーがそれを反射して、逆に果林さんたちの動きを止める。


リナ『侑さんナイス判断!』 || > ◡ < ||

侑「今のうちに一旦距離を取ろう……!」

歩夢「うん!」


侑ちゃんに手を引かれながら、必死に足を動かしていると──


果林「ぐ……っ……ファイ、アロー……!! “ブレイブバード”……!!」

 「キィーーーーッ!!!!!!」


上空からファイアローが猛スピードで急襲してくる。


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」

 「キ、キィーーーッ!!!」


そのファイアローをウツロイドが相性的にかなり有効な、いわタイプの技で牽制する。

ファイアローは目にも止まらぬスピードで身を翻しながら、“パワージェム”を回避するけど、なかなか近寄れず空中を旋回し始める。


侑「そういえば、歩夢……そのポケモン……ウルトラビーストだよね……?」
580 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:06:30.08 ID:2N444K9g0

二人で逃げる中、侑ちゃんがウツロイドを見ながら、そう訊ねてきた。


歩夢「あ、うん、ウツロイドって言うんだよ」
 「──ジェルルップ」

リナ『ウツロイド きせいポケモン 高さ:1.2m 重さ:55.5kg
   謎に 包まれた UBの 一種。 ポケモンや 人間に 寄生し
   寄生された 生物が 暴れだす 姿が 目撃されている。 意思が
   あるかは 不明だが 時折 少女の ような 仕草を みせる。』

リナ『きせいポケモンって言われてるみたいだけど……平気なの……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「…………」


侑ちゃんとリナちゃんが少し不安げな表情をするけど──


歩夢「この子はそんな怖い子じゃないよ。ね、ウツロイド」
 「──ジェルルップ」


ウツロイドは私の言葉に答えるように、触手を持ち上げて返事をする。


歩夢「ウツロイドたちは怖いポケモンなんかじゃなくて……ちょっぴり“おくびょう”なだけなの……」
 「──ジェルルップ」


私は──しずくちゃんに崖から突き落とされたときのことを思い出しながら、侑ちゃんたちに説明を始めた。



──────
────
──


歩夢「──しずくちゃん……!! 絶対、絶対、侑ちゃんたちが助けに来てくれるから……!! だから──んぅっ、」


全身をウツロイドの触手に絡め取られ──私は一瞬で引き摺り込まれ、口元も視界も覆われて──目の前が真っ暗になった。

──このまま、毒を注入されちゃうのかな……そう思ったとき。


 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「…………?」


ウツロイドの触手は、私の身体をまさぐっているけど……なかなか毒を注入するような気配がない。

──もしかして……? 私がなんなのかを……確認してる……?


歩夢「…………」


全身をまさぐる触手が、私の手の平に触れたとき──思い切って、優しく握ってみると……。


 「──ジェルルップ」


ウツロイドは鳴き声をあげながら、私の手に触手を巻き付けてくる。

反応してる……──返事……してる……?

しずくちゃんはウツロイドには強力な神経毒があって危険と言っていたけど……ウツロイドは崖上から私たちが見ていても、近寄ってきて攻撃するようなことはなかった。


歩夢「………………」


もしかして──この子たちが危険なウルトラビーストだって言うのは……毒にやられた人間が勝手に言っているだけなんじゃないか。

調査と称して、自分たちに突然近付いてきた人間に驚いて……毒で自分たちを守っているだけなんじゃ……。


歩夢「…………ん、むぅ……」
581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:07:08.76 ID:2N444K9g0

刺激しすぎないように、僅かに口をもごもごと動かすと──


 「──ジェルップ…」


口を塞いでいた触手が少しだけ浮く。


歩夢「…………そっか……君たちは……本当は、怖かっただけなんだね……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルップ…」

歩夢「……ごめんね。……急に人が落ちてきたら……びっくりしちゃうよね。……攻撃されたのかなって思っちゃうよね……ごめんね……」
 「──ジェルル…」「──ベノメ…」「──ジェルルップル…」

歩夢「……大丈夫だよ。……私は君たちに怖いこと、したりしないから……」


ウツロイドの触手を優しく握って、頬に寄せる。


 「──ジェルルップ…」

歩夢「……ちょっとひんやりしてる……」
 「──ジェルル…」

歩夢「……うん。……大丈夫だよ、怖くない……私は君たちの味方だよ……」
 「──ジェルルップ…」「──ベノメノン…」「──ジェルルル…」


──
────


結局ウツロイドは、私に何もしなかった。

そのままゆっくりと洞窟の地面に、私を降ろしてくれた。


歩夢「ありがとう、ウツロイド」
 「──ジェルルップ…」


私は地面に横たわり、未だ視界を埋め尽くすウツロイドたちを見ながら考える。

……恐らくこの後、毒で動けなくなるはずの私を、しずくちゃんたちが回収しにくるはず……。

なら、そのときを見計らって脱出を──そこまで考えて、首を振る。


歩夢「……だ、ダメ……それじゃ、しずくちゃんが果林さんに何されるか……」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね……ちょっと考えごとしてて……」


私が首を振る動作でウツロイドを少し驚かせてしまったようだ。

もう一度、優しくウツロイドの触手を握って頬を寄せる。


 「──ジェルル…」


すると、私が今接しているウツロイドが、私の頭にすっぽりと覆うように、頭に取り付いてくる。


歩夢「……その場所が落ち着くの?」
 「──ジェルルップ…」

歩夢「ふふ、わかった」
 「──ジェルル…」


ウツロイドも落ち着いたようだから、また考え始める。

……それにしても、こんな風に頭をすっぽり覆われた状態で、横たわっていたら……見た人は絶対、私が寄生されたって勘違いするよね……。


歩夢「……あ……」
582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:08:26.76 ID:2N444K9g0

そうだ……勘違いしてもらえばいいんだ……。

もともと、寄生されている状況を狙っているわけだし……。


歩夢「……ウツロイド、しばらくの間……私の頭にくっついたままでいてもらってもいい?」
 「──ジェルルップ…」


どちらにしろ……私はこの洞窟から逃げる術もない……。

脱出の機会を伺うために、私は一旦寄生されたフリをすることにした。


──
────


ウツロイドたちの中で、横になったままじっとしていたら……気付けば眠ってしまっていた。

これだけ密集している状態は暑そうに思えるけど……ウツロイドの体はひんやりとしていて、なんだか心地よくて……。

我ながら能天気かも……と思いながら、寝起きのぼんやりとした頭のまま、引き続きその場で倒れたフリをしていると──


しずく「──……歩夢さん……」


しずくちゃんの声が近くで聞こえてきて──直後、抱き起される。


しずく「……歩夢さん……可哀想に……」


そのまま、しずくちゃんが私に頬を寄せて抱きしめてくる。

正直、肝が冷えた。寄生されているフリをしていることがバレないようにと、必死に息を殺していた、そのときだった──


しずく「──…………そのまま、寄生されたフリを続けてください」

歩夢「……!」


私の耳元で、私にしか聞こえないような小さな囁き声で、しずくちゃんが話しかけてきた。


しずく「…………絶対に、歩夢さんが逃げるタイミングを作り出します……それまで、私が歩夢さんと歩夢さんの大切なものはお守りします……ですので、どうかそのときが来るまで……耐えてください」

歩夢「…………」


──しずくちゃんはフェローチェに操られてなんかいない。その言葉だけで十分に理解出来た。

私はしずくちゃんの言葉に無言で肯定の意を示した。


──
────
──────



歩夢「──……だから、ウツロイドは私を助けてくれたお友達なんだよ」
 「──ジェルルップ…」


私の言葉を受けて、


リナ『……確かに、ウツロイドの神経毒には、宿主にウツロイド自身を守らせように心理誘導する作用が含まれてるらしい。強力な毒はあくまで外敵から身を守る手段でしかないというのは、歩夢さんの考えてるとおりなのかも』 || ╹ᇫ╹ ||


リナちゃんがそう補足してくれる。
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:03.22 ID:2N444K9g0

侑「とにかく、信用出来る歩夢の友達ってことだね!」

歩夢「うん!」

侑「歩夢がそう言うなら信じるよ! 一緒に戦って! ウツロイド!」

 「──ジェルルップ…」





    👠    👠    👠





果林「……く……! ……うご……きな、さい……!!」


全身に力を込めて、無理やり“かなしばり”を解除する。

崖の下に目を向けると──侑と歩夢から結構な距離を離されてしまっていた。

──果林、落ち着きなさい。

心の中で自分に落ち着くように促す。

あんな初歩的な反射技に引っ掛かるなんて、さすがに頭に血が上り過ぎている。

一度深く息を吸ってから──ピューイッ! と指笛を吹いて、ファイアローを呼び戻す。


 「キィーーーーッ!!!」


ファイアローがこちらに向かって切り返してきたのを確認して──私は崖から飛び降りた。


 「キィーーーーッ!!!!」


落下しながら、私を拾いに来たファイアローの脚を掴み──逃げた二人を追いかけて飛行を開始する。


果林「キュウコン、付いてきなさい!」

 「コーーーンッ!!!!」


指示を聞いて、崖を駆け下りるキュウコンと共に、私は猛スピードで追跡を始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「はぁ……はぁ……! ここまでくれば……!」

歩夢「はぁ……はぁ……う、うん……!」

リナ『距離は十分に取れた!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


──高所から一方的に攻撃されるのを避けるために、それなりに距離を離した。

でも、振り返ると──ファイアローに掴まった果林さんが猛スピードで追い付いてきているところだった。


リナ『もう、追い付いてきた……!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「ファイアロー!! “だいもんじ”!!」
 「キーーーーッ!!!!」


ファイアローが口から特大の炎を噴出する。
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:09:38.08 ID:2N444K9g0

侑「く……! フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!!」


“ハイドロポンプ”を発射し、“だいもんじ”を相殺しようとするけど──ジュウウウッと音を立てながら、水がどんどん蒸発していく。

それに加えて──


 「──コーーーンッ!!!!」


地面を駆けながら追い付いてきたキュウコンも加勢の“だいもんじ”を発射してくる。

──2匹分の“だいもんじ”を受けきるのは無理……!?

そう思った瞬間、


歩夢「トドゼルガ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「──ゼルガッ!!!」


キュウコンの火炎に対して、歩夢のトドゼルガが“ハイドロポンプ”で対抗する。

が、


歩夢「と、トドゼルガ、頑張って!」
 「ゼルガァァァァ!!!!!」


トドゼルガの水流はキュウコンの火炎に押され始める。

いや、歩夢だけじゃない。


 「フィーーーーーッ!!!!!」


私たちもファイアローの炎に負けそうになっている。


侑「く……イーブイ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イーーブィッ!!!!」


肩の上から飛び跳ねたイーブイが周囲に相手の特殊攻撃を半減するオーラを発生させ──それでやっと拮抗し始める。


侑「これなら……!!」


──防ぎきれると思った瞬間、


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「……!?」


ファイアローが自身で出した炎を突っ切り、“ハイドロポンプ”を掠めるように躱しながら、突っ込んできた。


果林「──“フレアドライブ”!!」
 「キィーーーーッ!!!!」

侑「くっ!? “ブレイククロー”!!」
 「ウォーーーーッ!!!!」


咄嗟にウォーグルへ指示。ウォーグルが大きな猛禽の爪を薙ぐが──ウォーグルの爪を掠めるように、ファイアローが宙返りで回避する。


 「ウォーグッ!!!?」


爪を空振り驚くウォーグル。しかも──その宙返りをしているファイアローの脚に、果林さんの姿がなかった。

直後──ズサァッと音を立てながら、私のすぐ横を果林さんが滑り抜けていく。


侑「な……!?」
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:10:32.87 ID:2N444K9g0

ファイアローが宙返りをする瞬間に手を離して、その勢いのまま私の背後に回り込みながら、


果林「“つばめがえし”!!」

 「キィーーーーーッ!!!!」

 「ウォーーーグッ…!!!?」
侑「ウォーグルっ!?」


炎を身に纏ったまま、切り返してきたファイアローがウォーグルに突撃し、さらに──


果林「バンギラス!! “じしん”!!」
 「──バンギッ!!!」


背後でボールから飛び出したバンギラスが、“じしん”によって大地を激しく揺らす。


侑「うわぁ……!?」


あまりの激しい揺れに立っていることもままならず、私は尻餅をつかされ、


歩夢「きゃぁっ……!?」


背後で歩夢も転倒し、二人で背中合わせで蹲ったまま動けなくなってしまう。

バランスを崩したのは私たちトレーナーだけでなく、


 「ゼルガァ…ッ」
歩夢「と、トドゼルガ……!!」


キュウコンと攻撃を撃ち合っていたトドゼルガも例外ではなく、大きな揺れで狙いが逸れてしまったのか、消火しきれなくなった“だいもんじ”が迫ってくる。

だけど、トドゼルガは──


 「ゼルガァッ!!!!」


むしろ自分から盾になるように“だいもんじ”突っ込んでいく。


歩夢「トドゼルガ!?」
 「ゼルガァァァ!!!!」


私たちに攻撃が届かないように、特性“あついしぼう”で炎を受け止めながら冷気を発して対抗する。

ただ、その間にも、


リナ『侑さん!! 攻撃が来るよ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……!?」


果林さんは待ってなどくれない。


果林「“ばかぢから”!!」
 「バンギィッ!!!!」


バンギラスが両腕を振り上げ、蹲る私たちに向かって──力任せに振り下ろしてくる。


侑「歩夢ッ……!!」

歩夢「きゃっ!?」


揺れる大地で満足に動けないながら、私は背後の歩夢に跳び付くようにして、その場から離脱しようとする。

どうにか振り下ろされる腕そのものは回避できたけど──バンギラスのパワーで、大地が割れ砕け、その衝撃で、
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:11:09.86 ID:2N444K9g0

侑「っ゛……!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!!」


歩夢ともども吹き飛ばされる。


歩夢「ふ、フラージェス!! “グラスフィールド”!!」
 「──ラージェス」


歩夢が咄嗟にフラージェスに“グラスフィールド”を指示し、私たちは敷き詰められた草の絨毯の上を転がる。


侑「つぅ……っ……」

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「お、お陰様で……みんなは……?」
 「ブ、ブィ…」「ニャー…」「フィー…」

 「バース…」「──ジェルルップ…」


イーブイ、ニャスパー、フィオネ、エースバーンもどうにか無事。ウツロイドは浮遊して逃げていたらしく、歩夢のそばにふわふわと降りてくる。

ただ、


 「ウォ、ウォーグ…」


先ほどのファイアローの攻撃ですでに戦闘不能になっていたウォーグルと、


 「ゼルガァァァ…!!!」


私たちの盾になって、“あついしぼう”でどうにか炎を受けきったトドゼルガは、体力が限界だったのか、その場に崩れ落ちる。


歩夢「戻って、トドゼルガ……!」
 「ゼルガ──」

侑「戻れ、ウォーグル……!」
 「ウォーグ──」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!! また来てる!?』 || ? ᆷ ! ||

 「キィーーーーッ!!!!!」

 「コーーーンッ!!!」

侑「っ……!?」

歩夢「……!!」


──本当に息つく暇がない……!


侑「ニャスパー!! サイコパワー全開!!」
 「ウニャーーッ!!!」

 「キィッ…!!!」


ニャスパーのサイコパワーを全開にし、発生した念動力の衝撃波をファイアローに向けて発射すると、ファイアローは押し返されるようにして、後ろに逃げていく。

そして、飛び掛かってくるキュウコンは、


歩夢「ウツロイド! “パワージェム”!!」
 「──ジェルップ」

 「コーーンッ…!!!?」


歩夢のウツロイドが迎撃して吹き飛ばす。


 「…コーーーンッ…!!!」
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:00.02 ID:2N444K9g0

それでもキュウコンは、全身の毛を逆立てながらすぐに立ち上がる。


リナ『“じしん”のダメージもあるはずなのに、すごいタフ……』 || > _ <𝅝||

侑「……歩夢、立てる……?」

歩夢「う、うん……!」


歩夢の手を取りながら、私たちは立ち上がるけど──


 「コーンッ!!!!」

 「キィーーーッ!!!!」

 「バンギィッ…!!!」


気付けば、あっという間に三方向から敵に囲まれてしまっていた。

さらに、ダメ押しとばかりに──果林さんの胸にあるネックレスが光を放つ。


果林「バンギラス、メガシンカ」
 「バンギラァァスッ!!!!!!」


バンギラスが光に包まれ──頭の角や、両肩、尻尾のトゲがより攻撃的に鋭く伸び、岩の鎧が全身を覆い、より攻守に優れた姿へとメガシンカする。

そして、それと同時に、周囲が激しい“すなあらし”に包まれる。


果林「……二人掛かりでなら勝てるとでも思ったのかしら?」

侑「く……」

果林「大人しくしていれば、痛い目に遭うこともなかったのにね……」


完全に果林さんの強さに圧倒されてしまっている。

どうにか態勢を立て直さないと……!

そのとき──歩夢がギュッと私の手を握ってくる。


侑「……!」

歩夢「侑ちゃん、落ち着いて」


そうだ……落ち着け。

焦ったまま戦っちゃダメだ……。

──果林さんのやろうとしていることを、冷静に考えてみるんだ……。

果林さんが積極的にやっていること、それは──包囲だ。

攻撃やポケモンを配置することによって、相手を包囲することを優先した戦い方をしている気がする。

理由は恐らく──歩夢だ。

果林さんにとって今一番困るのは、私が歩夢を連れて逃げ去ること。

果林さんの計画のために、現状最も重要なピースになっているのが歩夢だからだ。

なら今すべきことは包囲網を崩すこと──


侑「歩夢……バンギラス相手に時間、稼げる?」

歩夢「ちょっとなら……!」

侑「わかった、任せる……!」

歩夢「うん!」
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:12:42.87 ID:2N444K9g0

私は──キュウコンに向かって走り出す。

今包囲網を抜ける方法があるとしたら──狙うべきは手負いのキュウコンから……!!


果林「バンギラス!!」
 「バァンギッ!!!!」


もちろん、果林さんも簡単にそれをさせないように動くはず。


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」
 「──ジェルルップ…」


動き出そうとするメガバンギラスに向かって、ウツロイドが攻撃を放つけど──宝石のエネルギー弾は、“すなあらし”に阻まれてほとんどが掻き消えてしまう。


果林「効かないわよ、そんな攻撃じゃ……!」
 「バァンギッ!!!」


そこに向かって──歩夢が他の手持ちのボールを放つ。


果林「“ストーンエッジ”!!」
 「バァンギッ!!!!」


歩夢のポケモンがボールから飛び出すと同時に、そこに鋭い岩が突き出てくるけど──岩が貫いた場所からは、ベシャッと粘性の高い音が鳴る。


果林「……!?」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイップッ!!!」


“とける”で攻撃を防いだマホイップが相性の良いフェアリー技を激しく閃光させる。


 「バァンギッ…!?」
果林「く……!?」

歩夢「フラージェス! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェス!!!」

 「バンギッ…!!」


フェアリー技で畳みかけ、


歩夢「エースバーン!! “とびひざげり”!!」
 「バーーーースッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


エースバーンが怯んだメガバンギラスの頭部を蹴り飛ばす。

効果抜群の相性で有利な展開を取ったように見えたが、


 「バンギッ!!!!」


バンギラスは根性で仰け反った体を戻しながら、エースバーンに“ずつき”をかまして反撃する。


 「バーーースッ…!!!?」


反動の乗った反撃にエースバーンの体が宙を舞う。


歩夢「え、エースバーン!? 戻って!!」


歩夢がエースバーンをボールに戻す。無傷とはいかなかったけど──隙は十分作ってくれた……!!
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:13.02 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ、“みずあそび”! イーブイ、“いきいきバブル”!」
 「フィーーーッ」「ブーーイィッ!!!」


フィオネが周囲に水をまき散らし、イーブイが周囲に泡を展開させる。


 「コーーーンッ!!!!」


それによって、キュウコンの“だいもんじ”の威力を軽減しつつ──


侑「ドラパルト!! “ドラゴンアロー”!!」
 「──パルトッ!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」「メシヤーーーッ!!!!!」


ドラパルトをボールから繰り出すと共に、音速で発射されたドラメシヤたちが、威力の下がった“だいもんじ”を突っ切り──


 「コーーンッ…!!!?」


火炎の向こうであがるキュウコンの鳴き声が、“ドラゴンアロー”の直撃を知らせてくれる。

よし……!

そして、


 「キィーーーッ!!!!」

侑「ニャスパー! パワー全開!! “サイコキネシス”!!」
 「ウニャーーーッ!!!」


横から迫ってくるファイアローをサイコパワーで牽制する。


 「キ、キィーーーッ!!!!」


またしても、ファイアローはサイコパワーの風を前にすると、後ろに退避していく。

やっぱりそうだ……! ファイアローはさっきから、攻撃を避けることを優先していた。

最初からファイアローは包囲網の維持を優先するように指示を受けているということだ。

メガバンギラスとファイアローを牽制し、キュウコンを撃退した。


侑「ドラパルト! “ハイドロポンプ”!!」
 「パルトォーーーッ!!!!」


私は威力の弱まった“だいもんじ”にダメ押しの水流をぶつけて消火し、道を作りながら、


侑「歩夢!! こっち!!」


歩夢を呼び寄せる。


歩夢「うん!」


歩夢は頷きながら踵を返して、私の方へと走り出す。

が、それと同時に、


果林「バンギラス!! “いわなだれ”!!」
 「バンギィッ!!!」


態勢を立て直したメガバンギラスが“いわなだれ”を発生させ、それが歩夢に迫る。


侑「ニャスパーッ!! “テレキネシス”!!」
 「ウニャ---ッ!!!」
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:13:54.01 ID:2N444K9g0

すぐさま、ニャスパーでサポートするけど──岩の量が多すぎて、全ての岩を浮遊させきれない。


侑「ドラパルト!! “りゅうのいぶき”!!」
 「パルトォーーーーッ!!!」


ドラパルトが少し上に浮遊しながら撃ち下ろす形で、歩夢の背後の岩をピンポイントで吹き飛ばし──私は歩夢に向かって両手を広げる。


侑「歩夢!! 跳んで!!」

歩夢「侑ちゃん……!!」


歩夢が岩に巻き込まれる寸前で踏み切って、私の胸に飛び込んでくる。

歩夢を抱き留めた瞬間──地面から巨大な樹が生えてきて、“いわなだれ”を塞き止めた。


侑「はぁ……せ、セーフ……」
 「イッブィ!!」

歩夢「この樹……“すくすくボンバー”……?」

侑「うん、そうだよ」


間一髪、仕込んでおいた“すくすくボンバー”で“いわなだれ”を凌ぎきったけど、またすぐに追撃が来るはずだ。


侑「歩夢、行こう!」

歩夢「うん!」


歩夢の手を引きながら再び走り出した瞬間──


リナ『侑さん! 上!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「上!?」

果林「──サザンドラ!! “りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーーラッ!!!!!」


サザンドラの背に乗った果林さんが指示を出すと──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。


歩夢「侑ちゃん! 下がって!!」


歩夢が一歩前に出て、


歩夢「マホイップ! “ミストフィールド”! フラージェス! “ムーンフォース”!」
 「マホイ〜〜」「ラージェスッ!!!」


マホイップがドラゴンタイプの攻撃を半減するフィールドを展開し、フラージェスが月のパワーを放出し、落ちてくる流星に向かって発射する。

“ムーンフォース”が直撃すると、流星はエネルギーを失い、バラバラの塵になって消滅する。

そもそも、フェアリータイプにはドラゴンタイプの攻撃は効果がないから、マホイップやフラージェスのパワーでも十分対抗出来ている。

なら私は──


 「キィーーーーッ!!!!」

侑「後ろだ……!! “ドラゴンアロー”!!」
 「パルトッ!!!!!」
 「メシヤーーーッ!!!!!」

 「キィーーーーッ…!!!!?」

果林「……!」


後ろから急襲してきたファイアローを一点読みで撃ち落とし──
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:15:05.87 ID:2N444K9g0

 「メシヤーーーーッ!!!!」


もう1匹のドラメシヤはグンと軌道を変え、サザンドラに向かって突っ込んでいく。

が、


果林「“りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」

 「メ、メシヤーーーーッ!!!!!?」


そちらは攻撃失敗。迎撃されて、吹っ飛んできたドラメシヤをボールに戻し、他のドラメシヤをボールから出してドラパルトに装填する。


果林「……読まれた……?」


果林さんは戦闘不能になったファイアローに向かってボールを投げ、控えに戻しながら、怪訝な顔をする。

──包囲を優先する動きからして、サザンドラを見た瞬間、ファイアローは背後に回してくると思った。


果林「……ふふ、そういうこと……」


果林さんが含むように笑う。


果林「侑、貴方──ずっと、私の出方を伺ってたのね……」

侑「…………」

果林「考えてみれば当然よね……。意識を失った歩夢を助け出したとしても……フェローチェの速度からは逃げられないものね」


そう、そもそもフェローチェの速度からは、まともに逃げる術がない。

だからこの戦いは元から、最低限フェローチェは倒さないといけない戦いだった。


果林「わざわざこの決戦の地まで来たのに……弱すぎると思ったのよ」

侑「果林さんが戦闘中に意識してることは──包囲、行動阻害、死角からの攻撃ですよね」


そして、果林さんもフェローチェが居れば、最悪歩夢を奪われても打開出来ると考えていたということ。

私たちにとって、今一番まずいシチュエーションは──フェローチェに追跡されながら、他の手持ちに包囲され、一網打尽にされることだった。

だから、とにかくフェローチェを出してくるタイミングに注意しながら、果林さんが戦闘をどう組み立てるのかを伺っていたというわけだ。


果林「観察タイプのトレーナー……嫌な相手ね。なら、ここからは──観察させずに倒さないとね」


──腹を決める。

ここからが本番だ。


侑「ライボルト!! メガシンカ!!」
 「──ライボッ!!!」


ボールから出したライボルトが光に包まれると同時に──


果林「“とびひざげり”!!」
 「──フェロ…ッ!!!!」


一瞬で目の前に現れたフェローチェの膝を、


侑「ライボルト!!」
 「ライボォッ!!!!」


ライボルトの目の前に黒い壁のようなものが飛び出して、攻撃を防いだ。
592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:01.33 ID:2N444K9g0

果林「……!」


さあ、必殺技の解禁だ……!



──────
────
──


侑「──私の長所……ですか……?」

彼方「うん〜。わたしも果南ちゃんも、侑ちゃんの短所にばっかり言及しちゃってたからね〜。でも、短所に関しては、ここまでで十分補強できたから、ここからは長所をちゃんと理解してもらいたいなって思って」

侑「なるほど……。……それで、私の長所って……?」

彼方「前にも果南ちゃんがちょっと言ってたけど〜……侑ちゃんが得意なのは戦局の見極めだね〜。特にトレーナーが何をしようとしているのかを、見抜く力がある」

侑「確かに……前にダイヤさんからも似たようなことを言われました。トレーナーをよく見てるって……。……でも、それって結構基本的なことなんじゃ……」

彼方「確かに相手のやりたいことを考えて動くのは戦闘の基本だね〜。でも、それが出来るトレーナーって意外と少ないんだよ〜?」

侑「そう……なんですか……?」

彼方「バトル中って考えることがたくさんあるからね〜。果南ちゃんやかすみちゃんはあんまりそういう組み立て方はしてないだろうし〜……」


言われてみれば、あの二人は組み立てる戦いというよりも……自分たちの出来ることを無理やりにでも通すって戦い方かもしれない……。


彼方「そういう彼方ちゃんもそっちタイプではないし……千歌ちゃんとか穂乃果ちゃんも違うからな〜……。……強いていうなら、せつ菜ちゃんが一番侑ちゃんに近いかも」

侑「え……!?」


思わぬところで、憧れのトレーナーの名前が出てきて驚く。


侑「せ、せつ菜ちゃん……?」

彼方「せつ菜ちゃんは純粋に頭が良い子みたいだから、たくさんの戦術を知ってるし……相手のポケモンやトレーナーの癖を考えながら、バトルを組み立てるタイプ。理論派って言うのかな? もちろん、ポケモンの鍛え方もトップクラスだから、彼方ちゃんも相手にするのは気が重いんだけどね〜……」

侑「じ、じゃあ……私も長所を伸ばしていけば、せつ菜ちゃんみたいに……!」

彼方「ふふ、そうだね〜。でも、この考え方を実行するには、出来なくちゃいけないことがあるのです!」

侑「出来なくちゃいけないこと……?」

彼方「それは、いなしと防御だよ〜」

侑「いなしと……防御……?」

彼方「相手を観察する戦い方って、もともと戦ってる姿を見たことがある相手には最初から使えるけど……初めて戦う相手の場合、まず相手を観察しなくちゃいけないでしょ?」

侑「は、はい……それは確かに」

彼方「でも、戦いにおいて一番難しいのは、初めて見る攻撃を対処すること」

侑「なるほど……だから、いなしと防御が必要だと……」

彼方「そういうこと〜。ただ、侑ちゃんのポケモンは防御が得意なポケモンばっかりじゃないよね。うぅん、どっちかというと苦手な部類かな」

侑「……そうかもしれません」


私の手持ちで出来る防御手段というと、イーブイのいくつかの“相棒わざ”とニャスパーのサイコパワーくらいだ。


彼方「そこで考えるのがいなし。例えば真っすぐ飛んでくる拳は〜」


そう言いながら、彼方さんがこっちにゆっくり拳を向けてくる。
593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:16:41.46 ID:2N444K9g0

彼方「真っすぐ拳をぶつけて相殺するより、上から叩いて攻撃を逸らす方が、少ないパワーで相手の攻撃を無力化できるよね?」

侑「はい」

彼方「じゃあ、これが炎だったらどうする〜?」

侑「えっと、水で消火するとか……?」

彼方「うんうん。他には岩で火を遮ったり、風で進路を逸らしたり。攻撃を無力化する方法って実はいろいろあるんだ。これをいかに無駄なく、瞬時に選べるか……それがいなしの技術ってわけ。それを侑ちゃんには習得して欲しいってわけだよ〜」

侑「なるほど」


どうやら私の長所は、相手の攻撃を防ぐ手段があってこそ真価を発揮するという話のようだ。

そんな中、ずっと話を黙って見ていたリナちゃんが、


リナ『でも、常に全部の攻撃をいなすのって難しくない?』 || ╹ᇫ╹ ||


そんな疑問を彼方さんにぶつける。


彼方「そうだね〜。いなしが得意な人でも、全ての攻撃をいなすのは難しい。特に相手が速い場合や攻撃範囲が広い場合は、ほぼ無理かも。だから、いなしだけじゃなくて、どこかで防御も必要ってこと」

リナ『なるほど』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「でも、私のポケモンじゃ、防御手段が……」

彼方「ふっふっふ……そこで彼方ちゃんの出番なわけですよ〜」

リナ『どういうこと?』 || ? ᇫ ? ||

彼方「何を隠そう、彼方ちゃんは防御戦術の達人なのだ〜。だから、これから侑ちゃんに新しい防御手段を授けよう〜」

侑「お、お願いします……!」


──
────
──────



黒い盾はフェローチェの蹴撃を弾く。


 「フェロ…!!!」


着地し、一旦距離を取ろうとするフェローチェに向かって、


侑「“でんげきは”!!」
 「ライボッ!!!」


高速で広がる電撃で攻撃する。


果林「フェローチェ!!」
 「フェロッ……!!!!」


果林さんの呼び掛けと共に──フェローチェが一瞬で、果林さんの傍まで離脱する。


リナ『本来“でんげきは”は必中クラスになるはずの高速技なのに……』 || > _ <𝅝||

侑「相手がそれだけ速いんだ……そこは割り切ろう」
 「ライボ…!!!」


それよりも──ちゃんと実戦で成功した。

この黒い盾が、彼方さんと編み出した、私の防御手段の切り札だ……!


果林「一体どうやってるのかしら──ね!!」

 「フェローーーッ!!!!!」
594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:17:27.97 ID:2N444K9g0

今度はフェローチェが真上から“とびかかる”で降ってくるが、


 「ライボッ!!!」

 「フェロ…!!!」


黒い盾が真上に移動し、フェローチェを弾く。フェローチェはまたすぐに反撃を受けないように離脱し、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラがライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を放ってくる。


歩夢「フラージェス!! “ムーンフォース”!!」
 「ラージェスッ!!!」


それを、フラージェスが“りゅうのはどう”を相殺する。

が、


 「バンギィッ!!!!」


メガバンギラスが前に飛び出し、ドラゴン技の防御に入っていたフラージェスを“アイアンヘッド”で叩き落とす。


 「ラージェスッ…!!?」
歩夢「フラージェス……!? も、戻って!!」


歩夢がフラージェスとボールに戻すのとほぼ同時に──


 「フェロッ」
歩夢「……!?」


歩夢の目の前にフェローチェが膝を引きながら、現れる。


 「ライボッ!!!」


そこに割り込むように飛び込んだライボルトが黒い盾で攻撃を防ぐ。


歩夢「ら、ライボルト……! ありがとう……!」


攻撃を防いだ瞬間、


果林「サザンドラ!! “りゅうのはどう”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


サザンドラが再びライボルトに向かって、“りゅうのはどう”を発射してくる。


侑「ニャスパー!!」
 「ニャーーーッ!!」


そこにニャスパーが飛び込み、サイコパワーで“りゅうのはどう”をいなす。

が、いなした瞬間、


 「バンギィッ!!!」


またしても、メガバンギラスが防御したポケモン──今度はニャスパーを叩きに来る。
595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:12.07 ID:2N444K9g0

侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!!」


フィオネの“ハイドロポンプ”でメガバンギラスの腕を弾いて攻撃を中断させるが、


 「フェロッ!!!」

 「フィーーーッ!!!?」


フェローチェが標的を変え、フィオネを蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされたフィオネは、そのまま岩壁に叩きつけられる。


侑「フィオネっ!?」

 「フィ、フィー…」

侑「戻って!!」


ボールに戻す隙にも、


果林「“りゅうせいぐん”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!!」


次の攻撃が降ってくる。


歩夢「マホイップ! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーーッ!!!」


マホイップが降ってくる流星を、フェアリータイプの“マジカルシャイン”で破壊するけど──


歩夢「きゃぁっ……!」


歩夢から少し離れた場所に消し損ねた流星が落ちてきて、その衝撃で地面が揺れ、歩夢が転倒する。

流星の数が多すぎる……!


侑「歩夢!! この数を捌ききるのは無理だ!! ニャスパー! こっち!!」
 「ウニャー」


私はニャスパーを呼び寄せながらライボルトにまたがり、稲妻のような速度で走り出しながら、歩夢に手を伸ばす。


侑「歩夢!!」

歩夢「うん……!」


すれ違いざまに歩夢の手を掴み、ライボルトの背中に引っ張り上げた。


侑「一旦退避を──」
 「フェロッ!!!」

侑「ッ!?」


走るライボルトの横にフェローチェが追い付いてきていた。

並走しながら、フェローチェの脚が迫る。


 「ライボッ!!!!」


──ゴッと音を立てながら、フェローチェの蹴りをギリギリで黒い盾がガードする。
596 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:18:59.20 ID:2N444K9g0

侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」

 「フェロッ…!!」


しかし、またしてもフェローチェはヒット&アウェイで攻撃を回避する。


侑「防げても攻撃が当てられない……っ」


純粋なスピードでは、メガライボルトよりもフェローチェの方が速いかもしれない。

どうにか防御で凌いで、攻撃をヒットさせたいんだけど……!

黒い盾を傍らに浮遊させながら、ライボルトが“りゅうせいぐん”の降りしきるフィールドを走り回る。


歩夢「……その黒い盾……もしかして、砂鉄……?」

リナ『歩夢さん、正解! よく気付いたね!』 || > ◡ < ||

歩夢「なんか、この黒い盾……近くにいると肌がピリピリするから……電磁力か何かで操ってるのかなって思って……」

侑「ほ、ホントによく気付いたね……」


そう、彼方さんと一緒に考えたこの黒い盾の正体は──砂鉄だ。

周囲のフィールドから砂鉄を集め、メガライボルトの超高出力の電磁力で制御、超圧縮し、頑強な壁を生成している。

メガバンギラスの起こす“すなあらし”のお陰で砂鉄の回収効率もかなりのものになっていて、意図せずこちらにとって好都合な環境になっている。


侑「ただ、でんきエネルギーのほとんどを防御に回しちゃうから、攻撃の出力が落ちちゃうんだ」

リナ『攻防両立とはなかなかいかない……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「フェローチェは防御力が低いウルトラビーストらしいから……攻撃を当てさえすれば、ダメージにはなると思うんだけど……!」


一旦距離を取って、態勢を立て直そうとした、そのとき──急にグラグラと地面が大きく揺れ始め、


 「ライボッ…!!!?」
侑「いっ!?」

歩夢「えっ!?」

リナ『わーーーっ!?』 || ? ᆷ ! ||


これ“じならし”……!? 

メガバンギラスからの攻撃だと気付いた時には、ライボルトが転倒し、私たちの身体は宙に浮いていた。

しかもライボルトの走行速度が速度だけに、このまま地面に激突したらやばい……!?


侑「“テレキネシス”!?」
 「ニャァァッ!!!!」


すぐさま“テレキネシス”で落下による地面への激突は防ぐけど──


リナ『横の勢いが止まらない!?』 || ? ᆷ ! ||

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


私と歩夢はそのまま、岩壁に激突しそうになった瞬間、


 「パルトッ!!!」


ジェット機のようなスピードで飛んできたドラパルトが間一髪のところで、私たちを頭で拾い上げるように乗せて救出する。

そして、ライボルトは──
597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:19:36.76 ID:2N444K9g0

 「ライボッ!!!!」


“でんじふゆう”を壁に向かって使い激突を防ぐ。


侑「あ、ありがとう……ドラパルト……」
 「ブ、ブィ…」

歩夢「ぶ、ぶつかっちゃうところだった……」

リナ『間一髪……』 || > _ <𝅝||


ドラパルトは旋回をしながら、宙を舞うが──その進行方向に、


 「サザンッ!!!」


全身に黒いエネルギーを集束させた、サザンドラの姿。


侑「やばいっ!?」

果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンドーーラッ!!!!」

 「パルトッ!!!?」
侑「ドラパルトッ……!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ!!?」


“あくのはどう”の直撃を受けて、私たちはドラパルトから振り落とされ──再び地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。


侑「ニャスパー!! もっかいっ!!」
 「ウニャーッ!!!」


今度はさっきと違って、重力による自由落下だけだから、“テレキネシス”だけで落下の衝撃を防げるけど──


 「ニャッ!!?」


そのとき突然ニャスパーがサイコパワーを全開にし──


侑「えっ!?」

歩夢「っ!!?」


周囲にいた私たちを吹っ飛ばす。

私は宙を舞いながら咄嗟に──


侑「歩夢ッ!!」


歩夢を抱き寄せ──地面の上を転がる。


侑「ぅ……ぐぅ……っ……!」

歩夢「ゆ、侑ちゃん……!」

侑「あゆ、む……無事……っ……?」

歩夢「わ、私は平気だけど……侑ちゃんが……!」

侑「へ、平気だよ……そんなに高い場所から落ちたわけじゃないから……」


全身の痛みに耐えながら立ち上がると──


 「フェロ…」
 「…ウニャ…」
598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:20:28.46 ID:2N444K9g0

ニャスパーがフェローチェの“ふみつけ”を受けて、戦闘不能になっていた。

フェローチェの攻撃を察知して、咄嗟に私たちだけを吹き飛ばしたんだ……。

そして、目が合った瞬間、


 「フェロッ!!!!」


一瞬で肉薄してくるフェローチェ、


 「──ライボッ!!!!」


そこに割り込むように、ライボルトが防御する。


侑「“スパーク”!!」
 「ライボッ!!!」


ライボルトが火花を散らせるが、


 「フェロッ」


やっぱりフェローチェには逃げられてしまう。さらにそこに──


果林「それ……物理の防御にしか使ってないわよね」

侑「!?」


上空からギクりとする言葉を掛けられる。

そう、砂鉄による防御はあくまで物理攻撃への防御手段。

特殊攻撃へは特筆出来るほどの防御にはならない。


果林「“かえんほうしゃ”!!」
 「サザンドーーーラッ!!!!」


しかも、ドラゴン技じゃないから、フェアリータイプで無効化出来ない……!?


歩夢「マホイップ!! イーブイに“デコレーション”!!」
 「マホイ〜〜!!」


そんな中、マホイップがイーブイに、クリームやリボンのあめざいくを“デコレーション”をし始める。


侑「……! イーブイ! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーィィィッ!!!!」


“デコレーション”は味方の攻撃能力を上昇させる技だ。

強化された炎を身に纏い、イーブイが真っ向から炎に突撃する。

“デコレーション”の効果もあって──こちらの炎の勢いが上回り、


 「ブーーーィィッ!!!!」


炎同士の衝突によって、“かえんほうしゃ”の方向をどうにか逸らす。

が、そこに向かって──


果林「“あくのはどう”!!」
 「サザンッ!!!!」


攻撃を受けきったばかりのイーブイに、追撃の“あくのはどう”が飛んでくる。
599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:21:26.93 ID:2N444K9g0

侑「“どばどばオーラ”ッ!!」

 「ブーーィィィッ!!!」


咄嗟に“どばどばオーラ”を放って防御させるが、


 「ブィィィッ…!!!」


完全には防ぎきれず、イーブイが撃ち落とされる。


侑「イーブイッ!!」


私がイーブイの落下地点に走り出した瞬間、


 「フェロッ」

侑「くっ……!?」


フェローチェの蹴撃が迫る。


 「ライボッ!!!!」


俊足のライボルトが、それをすかさずガードし──私はスライディングしながら、イーブイをキャッチする。


侑「イーブイ平気!?」
 「ブ、ブィ…!!」


ダメージは少なくないけど──どうにか無事だ。

ほっと一安心した、そのとき、


歩夢「侑ちゃんッ!!!!」


歩夢が私の名前を叫んだ。

ハッとして顔を上げると──


 「──バンギッ!!!!!」
 「──フェロッ」


腕を振り下ろすメガバンギラスの姿と、脚を振り下ろすフェローチェの姿。


 「ライボッ!!!!」


またしても、フェローチェの攻撃を絶対防御する姿勢を貫いているライボルトが、フェローチェの攻撃は防いだものの──バンギラスの攻撃が私に向かって降ってきていた。


歩夢「侑ちゃん、逃げてぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」


歩夢の絶叫が響く。

──無理だ、避けられない。

目の前の光景がスローモーションになる中、


 「イッブゥィッ!!!!」


腕の中のイーブイから──闇が放たれた。
600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:22:24.82 ID:2N444K9g0

侑「……!?」


周囲が突然真っ暗になり何も見えなくなったかと思ったら、腕の中からイーブイが飛び出し──月光のような淡い光を纏いながら、


 「バンギッ!!!!」
 「ブーーーィッ!!!!」


自身の体でバンギラスの攻撃を受け止めた。


侑「……うそ!?」


まさか──


リナ『“相棒わざ”!? “わるわるゾーン”!?』 || ? ᆷ ! ||


物理攻撃のダメージを減らす“相棒わざ”……!?

私が呆気に取られていると──


歩夢「──マホイップッ!! “マジカルシャイン”ッ!!」
 「マホイーーーーッ!!!!」

 「バンギッ…!!?」


歩夢の叫ぶような技の指示と共に、メガバンギラスが足元から強烈な閃光で焼かれ、よろける。

──ハッとして、ライボルトに視線を向けると、


 「ライボッ…!!」


バチバチと“スパーク”するライボルトの傍からはすでにフェローチェの姿は消えていた。

でも、これはこのタイミングなら、むしろ好機だ……!!


侑「ライボルト!! バンギラスに“ライジングボルト”!!」
 「!! ライボォッ!!!!」

 「バンギィィッ!!!!?」


立ち上る電撃を足元から受け、立て続けの攻撃にふらつくバンギラスに向かって、


侑「イーブイ!! “いきいきバブル”!!」
 「ブーーーィィッ!!!!」


イーブイが大量のバブルでメガバンギラスの全身を埋め尽くし──


 「バ、バンギ…ッ…」


メガバンギラスの体力を吸いつくし、戦闘不能に追い込んだのだった。

あとはサザンドラと、フェローチェ……!!


果林「くっ……サザンドラ、“りゅうせい──」


果林さんが技を指示しようとした瞬間、


 「──ジェルルップ」
果林「っ!!?」


突然、果林さんの背後から、ウツロイドが飛び掛かった。

果林さんは咄嗟にサザンドラから飛び降りて、回避するが、
601 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:23:08.16 ID:2N444K9g0

 「サザンドーーーーーラッ!!!!!?」


ウツロイドは、サザンドラの頭に纏わりつき、サザンドラに神経毒を注入し始める。


果林「戻りなさいっ!! サザンドラ!!」


果林さんは落下しながら、サザンドラをボールに戻し──

着地の衝撃を受け身を取って殺しながら、すぐに立ち上がる

さすが訓練された人間だけあって、見事な動きではあるけど──


果林「……っ……」


さすがに、それなりの高さがあったこともあって、全く無傷とは行かなかったようだ。

しっかり立ってはいるものの、足に少しふらつきが見える。

加えて、毒を注入されたサザンドラは恐らくもう戦闘は出来ない……!


侑「サザンドラも倒した……! これなら……!」


が、直後──


 「フェロッ!!!」
 「──ジェルップ」


ウツロイドの真上にフェローチェが突然現れて、かかと落としの要領で叩き落した。


歩夢「ウツロイド……!!」


地面に墜落したウツロイドは──


 「──ジェルル…。…」


動かなくなってしまった。戦闘不能だ。


果林「……はぁ……はぁ……。……ずっと……背後からウツロイドを忍び寄らせてたわね……」

歩夢「あと……ちょっとだったのに……」

果林「本来は貴方が寄生されるはずだったのに……悪いこと考えるじゃない……」


フェローチェの姿が掻き消えたと思ったら──


 「フェロッ!!!!」
歩夢「……!」


次の瞬間には歩夢の顔面にフェローチェの脚が迫り、


 「ライボォッ!!!!」


ライボルトが、もう何度目かわからないディフェンスをする。


果林「はぁ……はぁ……。何よ……なんで、邪魔するのよ……ッ!」


だんだん果林さんに焦りが見えてきた。彼女は息を切らせながら、大声をあげる。

直後、


 「フェロッ!!!!」
602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:02.72 ID:2N444K9g0

フェローチェが歩夢の背後に回り、後頭部を蹴ろうとし、


 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」

 「フェロッ!!!!」


そして今度は側頭部、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」

 「フェロッ!!!!」


また正面から、


 「ライボッ!!!!」
歩夢「……っ!!」


連続攻撃を、ライボルトがギリギリで防ぐ。


果林「私が負けたら……!! 私の世界の人たちはッ!! みんな死んじゃうのよッ!!」

 「フェロッ!!!!」

 「ライボッ!!!!」
歩夢「っ……!! ゆ、侑ちゃん……っ」


フェローチェが歩夢へ連続攻撃を始める。

どうにか、ライボルトが防ぐ中、


侑「ライボルト!! “でんげきは”!!」
 「ライボォッ!!!!」

 「フェロッ!!!? …ローチェッ!!!」


あまりに捨て身な連続攻撃だったため、ここで初めてこっちの攻撃がフェローチェにヒットする。

ただ、攻撃は当たったが──フェローチェの攻撃が止まらない。


侑「ライボルトッ!! 歩夢を連れて逃げて!!」

 「ライボッ!!!」
歩夢「きゃっ!?」


ライボルトが歩夢の襟後を咥え、無理やり背中に乗せて走り出す。

でも──


 「フェロッ!!!」


フェローチェは執拗に歩夢を狙う。


果林「そう、歩夢がいれば、歩夢の身体があれば、世界が救える、救えるの……ッ」

侑「果林さんッ!! 歩夢が死んじゃったら、歩夢の能力も使えなくなるんじゃないのッ!!?」

果林「うるさいッ!!! 少しでも息があればいいのよ……ッ!!!」


追いつめられて、果林さんは正常な判断力を失っているのが、私の目から見てもわかった。
603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:24:59.76 ID:2N444K9g0

侑「ライボルトッ!!! とにかく逃げてッ!!!」

 「ライボォッ!!!!」
歩夢「っ……!!」

 「フェロッ!!!!」


駆けるライボルト、追うフェローチェ。


侑「く……っ」


私は果林さんのもとへと走る。


侑「イーブイ!! “びりびりエレキ”!!」
 「ブーーーィィッ!!!」


イーブイの“びりびりエレキ”を果林さんのすぐ真横に落とす。


果林「きゃぁっ!!?」

侑「果林さんッ!! フェローチェに止まるように指示して!!」

果林「お、お断りよ……ッ!!」

侑「っ……! イーブイ!! “びりび──」


いったん気絶させようと、イーブイに指示を出そうとした、そのときだった。

度重なる防御で──ライボルトもいい加減疲労が限界だったんだろう、


 「フェロッ!!!」

 「ライボッ!!!?」
歩夢「きゃっ!!?」


フェローチェの“ローキック”がライボルトの脚に引っ掛かり──ライボルトがバランスを崩す。

それと同時に──猛スピードで走るライボルトの背に乗っていた歩夢が、放り出された。


侑「歩夢ッ!!?」


歩夢が放り出された瞬間。


 「マホイッ!!!!」


歩夢の胸元にいたマホイップが“サイコキネシス”で飛んでいく勢いを軽減するが──それでも、ニャスパーのような強力なサイコパワーですら止めきれなかった勢いは殺しきれず、


 「マホイッ…!!!」


マホイップは自身の体を下敷きにするように、“とける”で歩夢のクッションになろうとする。

──ベシャッ、ベシャッと音を立て、クリームをまき散らしながら、歩夢が地面を転がる。


侑「歩夢−−−−ッ!!!」
 「イブィーーーッ!!!!」

リナ『歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


私は歩夢のもとへと走り出す。


歩夢「……っ゛……あ、ぐ、ぅ……っ……」
 「マ、マホィ…」

歩夢「……あ、はは……クリームまみれ……だ……。……けど……お陰で、たすかった……よ……マホイ……ップ……」
 「マホ…」
604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:25:54.25 ID:2N444K9g0

辛うじて、歩夢の意識はあった──が、


 「フェロ…」


動けなくなった歩夢の前で、フェローチェが脚を振り上げる。

ライボルトは──


 「ライ、ボッ…」


先ほどの攻撃によって、猛スピードで転んだことで、すぐに起き上がれるような状態じゃなかった。

ライボルトはもう──歩夢を守れない。

マホイップも全身のクリームが飛び散っていて、すぐに戦える状態じゃない。


 「フェロ──」

侑「歩夢ーーーーーーッ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」


フェローチェの脚が振り下ろされ──そうになって……フェローチェの脚が──止まった。


侑「……え……」

リナ『………………!?』 || ? ᆷ ! ||

果林「……う、そ……」


フェローチェの軸足に──


 「──シャーーーボ」


歩夢の上着の袖から顔を出した──サスケが、噛み付いていた。


歩夢「……サスケ……おりこうだね……」
 「シャーーーボッ」

 「フェロ……」


ライボルトの電撃を受けていたこともあり……防御力が極端に低いフェローチェは──最後はアーボのサスケの“どく”により……力尽きて崩れ落ちた。

一瞬、呆然としてしまったけど──すぐに我に返って、また駆け出す。


侑「……歩夢っ……!!」

歩夢「……ゆう……ちゃん……」


ボロボロの歩夢を抱き起こす。


侑「歩夢、大丈夫……!?」

歩夢「……ゆう、ちゃん……わたしたちの……勝ち……だよ……」

侑「そんなことどうでもいい……!! 歩夢……!!」

歩夢「どうでも……よく、ないよ……。……ちょっと痛いけど……大丈夫……」


怪我をしているのは間違いないけど……意識もちゃんとある。


侑「……すぐに治療してあげるから……もう少しだけ我慢してね……」

歩夢「……ぅん」


歩夢を抱き上げようとした、そのとき、
605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:26:34.98 ID:2N444K9g0

果林「──ゴロンダッ!!」
 「──ロンダ…」

侑「……!?」
 「イブィッ!!!?」

果林「“アームハンマー”!!」
 「ロンダァッ!!!!」

侑「っ……!!」


私は歩夢を抱きかかえたまま、その場から飛び退き、地面を転がる。


歩夢「ぁ゛……っ゛……」

侑「ご、ごめん、歩夢……!! 痛かったよね……」

歩夢「へい……き……だ、よ……」

侑「……っ……すぐ、終わるから……!」


私は顔を上げる──


果林「…………はぁっ…………はぁっ…………。……私は……私は…………負けちゃ……いけないの……っ……」
 「ゴロンダァ…」


まだ──ポケモンが残っていた。


リナ『こ、こわもてポケモン……ゴロンダ……』 || > _ <𝅝||

侑「く……イーブイ!!」
 「ブイッ!!!」

果林「私は…………負ける、わけに…………いかないのよ………………」


果林さんは、引き攣った顔で、そう呟く。

この満身創痍の状態……イーブイ1匹で体力満タンの果林さんのポケモンに勝てるの……!?


 「ロンダァッ…!!!」


ゴロンダが走り込んでくる。


侑「……やるしかないっ……!! イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーーーーィィィィッ!!!!!」

 「ゴ、ロンダァ…!!!!」


ゴロンダをパステル色の風が包み込み──


 「…ゴ、ロンダ…ァ…」

侑「あ、あれ……?」
 「ブイ…?」


ゴロンダは一発の攻撃で、力尽きて、倒れてしまった。


侑「強く……ない……?」

果林「あ……ぁ…………」


果林さんがそれを見て、カタカタと震えだす。
606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:28:35.29 ID:2N444K9g0

果林「…………ダメ、ダメよ……私は……負けちゃ……ダメ、なの……」

侑「果林さん……!! もう、終わりです!! 私たちの勝ちです!!」

果林「終わり……違う……終わりじゃない……!!」


もうポケモンは残っていないはず。だけど、果林さんは私に向かって歩いてくる。

そして、懐から──サバイバルナイフを取り出した。


侑「う、嘘でしょ……?」

果林「私は…………たくさんの人の…………想いを……願いを……背負ってるのよ…………だから……だから……ッ」


果林さんが走り込んできて──ナイフを振りかざした。


侑「……ッ!!」


私をナイフで切り付けようとした、その瞬間──私を庇うように、人が飛び込んできた。

レンガレッドのおさげを揺らしながら──


エマ「……っ……!」

侑「エマ……さん……!?」

果林「!? え、エマ……!?」

エマ「…………果林、ちゃん……」


エマさんは果林さんの名前を呼びながら、その場に崩れるようにして蹲る。

その肩には──真っ赤な血の痕が服に滲んでいた。


侑「え、エマさん……!? 血が……!」

エマ「大丈夫……ちょっと掠っただけ……。……全然深くないから……」

果林「え、エマ……な、なんで……」

エマ「果林ちゃん……もう……こんなこと……終わりにしよう……? これ以上……誰かを、傷つけないで……」

果林「…………ダメよ……」

エマ「……本当はこんなこと……もう、したくないんでしょ……?」

果林「…………ち、違う……私は……私の意志で、ここに……」

エマ「……もう、大丈夫だから……一人で抱え込まないで……一人で泣かないで……いいんだよ……」


エマさんがよろよろと立ち上がる。その足には添え木とギブスがしてあった。

怪我をしている足で立ったら痛むはずなのに……エマさんは優しい表情を崩さず──果林さんを抱きしめる。


エマ「そのゴロンダちゃん……わたしが最初にあげたヤンチャムちゃんだよね……?」

果林「…………ぁ…………それ、は…………」

エマ「まだ持っててくれたんだね……。……それに……果林ちゃんがお家に残していった……他のヤンチャムちゃんたち……メール持ってたよ……?」

果林「…………」

エマ「……『この子たちのこと、よろしくね』って……これから滅ぼす世界に……そんなメール持たせたポケモン、置いてかないでしょ……?」

果林「わた……し……は……」

エマ「……あれは……わたしに宛てた……果林ちゃんからの……SOSだったんだよね……? ……『私を止めて』って……『もうこんなことしたくない』って……」

果林「…………っ」

エマ「大切な人たちを守るために……頑張って悪い人になろうとしてたんだよね……。……でも、果林ちゃんが一人で抱えなくていいんだよ……」
607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:29:34.95 ID:2N444K9g0

カランと音を立てて、果林さんの持っていたナイフが地面に落ちる。

それと共に、果林さんが膝から崩れ落ちた。


果林「………………」

エマ「果林ちゃん……ここまでずっと……一人で頑張ったんだよね……偉いよ……」


エマさんは果林さんを抱きしめたまま、頭を撫でながら言う。

そして、そこにもう一人……。


彼方「……果林ちゃん」

果林「……彼方……」

彼方「……ずっと……ずっと……一人にして……ごめんね……。果林ちゃんと……ちゃんと向き合ってあげられなくて……ごめんね……」

果林「…………私……は……」

彼方「…………これからは一緒に考えよう……一緒に……みんなが笑顔になれる世界のこと……。……簡単じゃないのはわかってる……だけど、一緒に、ちゃんと……考えよう……わたしたちの世界のこと……」


そう言いながら、彼方さんも果林さんを抱きしめる。

すると──果林さんは、全身の力が抜けたかのように……エマさんと彼方さんにもたれかかる。


果林「…………彼方。……私……もう……疲れちゃった……」

彼方「……ごめんね……いっぱい、いっぱい……背負わせちゃって……。……でも、これからは一緒に背負うから……だから、今はもう……休んでいいよ……果林ちゃん……」

果林「…………うん……」


こうして私たちの死闘は──意外な形で……幕を閉じることとなったのだった。



608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/04(水) 13:30:07.38 ID:2N444K9g0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口


 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:250匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:211匹 捕まえた数:20匹


 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:29:42.07 ID:mDhGJcE10

 ■Intermission👏



 「ディァ…ガァァ…」「バァァ……ル…」「ギシャ…ラァ…」

愛「伝説のポケモンって言っても、こんなもんなんだね」


倒れた3匹のポケモンたちを見ながらぼやく。


鞠莉「……っ…………つよ……すぎる……」


強い……強いかぁ。


愛「愛さんからしたら……他の人が弱すぎるだけなんだけどね……」

鞠莉「……っ……」


昔から疑問だった。どうしてポケモントレーナーは戦いになっても、自身が前に出ないのか。

ポケモンの真価を発揮するなら──トレーナーも一緒に戦うべきだ。

ただ、どうやらポケモンバトルというものでは、そういう考え方はあまり主流ではないらしい。

ま……正直もうどうでもいいけど……。


愛「んじゃ、貰ってくよ」


そう言いながら、ディアルガにボールを投げる。


 「ディァ…ガァ…──」


ディアルガが、パシュンとボールに吸い込まれる。


鞠莉「……スナッ……チ……!?」

愛「ん、こっちではそういう言い方するんだ。……愛さんはね、ビーストボール──こっちの世界で言うモンスターボールの開発の研究をしてたんだよね」


マリーにそう説明しながら、今度はパルキアにボールを投げる。


 「バァル…──」

愛「上書き捕獲機構くらい、大して難しい技術じゃないんだけどね」

鞠莉「あなたは……っ……そのポケモンたちを、捕まえて…………なにを、するつもり…………?」

愛「んー……アタシはね……──全ての世界を一つに繋げる」

鞠莉「……? ……一つに……繋げる……?」

愛「ま……言ってもわかんないだろうね。わかんなくてもいいけど」


そう言いながら、ギラティナに向かってボールを投げた瞬間──


 「ギシャラァッ…!!」


ギラティナが影に潜って逃げ出した。


愛「……外した。ま……すぐに追いかけて捕まえるからいいけど。……あ、そうだ」


アタシはマリーに近付き、


愛「それ、貰っとくわ」
610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:30:40.60 ID:mDhGJcE10

彼女が手に持っていた、“こんごうだま”と“しらたま”を奪い取る。

奪い取ると言っても、だいぶ痛めつけてあげたから、もう抵抗する力もないっぽいけどね。


鞠莉「っ……」

愛「さーてと……ギラティナ捕まえに行って、あとはおさらばかな〜。……あ、そうだ……せっかくだし、最後にいいもの見せてあげるよ」


そう言いながら、マリーの目の前に今しがた捕まえたディアルガとパルキアをボールから出す。


 「ディァガァ…」「バァル…」

鞠莉「……なにする……つもり……?」

愛「“こんごうだま”と“しらたま”……君たちはこれをディアルガとパルキアに指令を送るための“どうぐ”だと思い込んでたみたいだけど……。ホントの使い方はこうするんだよ」


アタシは“こんごうだま”をディアルガの胸の宝石に向かって、“しらたま”をパルキアの肩の宝石に向かって投げつける。

すると──


 「ディァ…ガ──」「バァル…──」


“こんごうだま”と“しらたま”はディアルガとパルキアの体にある宝石に吸い込まれていく。


鞠莉「……な……」


するとディアルガとパルキアの体の形が変化していく。

ディアルガは側頭部の甲殻が口元を覆う顎当てへと変化し、胸部の甲殻は首の中ほどに移動し、宝珠を中心に詰めた砲のような形へと変わる。前足が肥大化し、後ろ足が細くなる。そして胴には特徴的な突起のついたリングが出来ている。

パルキアは腕が四足獣のような蹄を持った前脚へと変化し、後ろ脚も前脚と同じように、蹄を持った形に。尻尾は細長い5本のものになり、こちらにも特徴的なリングが胴に現れる。


愛「……これが、このポケモンたちの“オリジンフォルム”ってやつだよ」

鞠莉「“オリジン……フォルム”……?」

愛「……ああそういや……“はっきんだま”も貰っておかないとね。……マリーは持ってなさそうだから……あの二人のどっちかか……」


アタシは気絶しているダイヤと果南の持ち物を漁ってみる。すると──すぐに見つかった。


愛「おっし……そんじゃ、あとはギラティナ捕まえに行きますか〜」


ディアルガとパルキアをボールに戻しながら、肩をぐるぐる回して気合いを入れていた──そのとき、


 「──ボルテッカー!!!」
  「ピィィーーーーカァァァーーーーッ!!!!!」

愛「! リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」


リーシャンが咄嗟に音の障壁を作り出し、突っ込んできたピカチュウを弾き返そうとするが──


 「ピィィィィカァァァァ!!!!!!」


ピカチュウは音の障壁をお構いなしにどんどんめり込んでくる。


愛「く……!? リーシャン!!」


アタシはリーシャンの体をグリップしながら身を捻る──直後、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」
611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 02:32:03.27 ID:mDhGJcE10

ピカチュウが音の障壁を貫き、アタシがそれをギリギリで躱すと──背後に突っ込んだピカチュウが轟音をあげながら、周囲にとんでもない規模の雷撃を散らす。

このピカチュウ、この強さ……思い当たるトレーナーは一人しかいない。


穂乃果「……駆けつけて来てみたら……大変なことになっててびっくりした」

愛「……最後に規格外なのが来たね」


恐らく……この地方で最も強いトレーナー……。元チャンピオン・穂乃果。

果南のパワーでも破られなかった音の障壁を軽々とぶっ壊してきた。


穂乃果「でも、いいリベンジマッチの機会かな。ここなら、“テレポート”で飛ばされることもないだろうし」

愛「だから、穂乃果とは……まともに戦いたくなかったんだよね」

穂乃果「まあまあ、そう言わないでよ。……愛ちゃん、強いでしょ?」


そう言いながらボールを構える。


愛「……わかった。ただ、さすがの愛さんでも、穂乃果相手に手加減は出来ないから──死んでも文句言わないでよね?」

穂乃果「安心して、私が勝つから!」


どうやらここが愛さんにとっての──ラスボス戦みたいだね。


………………
…………
……
👏

612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:16:22.75 ID:mDhGJcE10

■Chapter069 『決戦! DiverDiva・愛!』 【SIDE Honoka】





穂乃果「ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」

 「ピーーカ、チュゥゥゥゥゥ!!!!!!」


愛ちゃんを挟んで向かい側にいるピカチュウが、電撃を放つ。

それに対し、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!」


愛ちゃんがリーシャンの名前を呼ぶと、ピカチュウの電撃が狙っていたはずの愛ちゃんから逸れて、変なところに落ちる。

その隙に愛ちゃんはリーシャンを左手で掴み、ステップを踏みながらピカチュウから距離を取る。


穂乃果「音で作った障壁……!」


さっきピカチュウの“ボルテッカー”を避けるときにも使っていた。

リーシャンの持つ音の振動を増幅して行う攻撃とサイコパワーという二つの能力を掛け合わせ、発生させた音の衝撃をサイコパワーで自分の周囲に留め、壁として存在させている。

それの精度がものすごく緻密で高度……さらに、その間集中して動けないはずのリーシャンは、愛ちゃんが直接手に持って移動することによって、トレーナーが欠点をカバーしている。

人が手に持てるくらい小さなポケモンである、リーシャンの性質を生かした、よく考えられた戦い方だ。


穂乃果「なら……! ケンタロス!!」
 「──モォォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスがボールから飛び出すと同時に、愛ちゃんに向かって突っ込んでいく。


愛「リーシャン!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!」


愛ちゃんは左手に掴んだリーシャンを前に突き出し、音の障壁を展開する。けど──


 「ブモォォォォォ!!!!!」

愛「と、止まらない……!? ルリリっ!!」
 「ルリィッ!!!」


ケンタロスは音の障壁をただの“とっしん”でぶち破る。

愛ちゃんは後ろに身を引きながら、今度は右手に持ったルリリが尻尾を振るってくる。


 「ブモッ…!!!?」


ルリリの尻尾がケンタロスの側頭部を叩き、ケンタロスが一瞬怯むけど──


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスは3本の尻尾で自分の体をピシピシと叩きながら、自身を“ふるいたてる”。


 「ブモォォォォォッ!!!!」


そして、再び愛ちゃんたちに向かって“とっしん”していく。


愛「く……しつこい……!?」
613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:17:02.93 ID:mDhGJcE10

愛ちゃんは後ろに向かって跳躍しながら、リーシャンを真下に向け、


愛「リーシャン!!」
 「リシャァーーーンッ!!!!」


リーシャンが真下に向かって、音の障壁を発生させ、その反動で空に跳び上がる。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


確かに空に跳ばれたらケンタロスでは手が出せない。けど──


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァァッ!!!!」


ピカチュウが“かみなり”を空中にいる愛ちゃんの上に発生させる。


愛「リーシャンッ!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!」


すぐにリーシャンを真上に掲げ、音の障壁を作り出す。けど、“かみなり”は愛ちゃんの真上ではなく、真横に落ち──真横から急に軌道を変えて、横から愛ちゃんたちに直撃した。


愛「がぁっ……!!?」
 「リシャンッ!!!?」「ルリィッ!!!?」


──バリバリと音を立てながら、稲妻が迸り、


愛「……ぐ……ぅ……」


愛ちゃんが、地面に落下する。


穂乃果「ふぅ……」


さすがに生身で“かみなり”を受けたら、戦闘継続は不可能かな……。

そう思ったけど、


愛「……っ……い、今……完全に空中で不自然に曲がったよね……」

穂乃果「な……」


愛ちゃんはすぐに立ち上がる。


愛「……アタシ、これでも技術担当だからね……服に耐電加工くらいしてきてるよ……」

穂乃果「……さすがに一筋縄ではいかなさそうだね……」
 「ティニ…」

愛「……! さっきの不自然な“かみなり”の挙動……ビクティニの“しょうりのほし”か……」


“しょうりのほし”。ビクティニの特性で、味方の命中率を底上げする特性だ。

ビクティニは勝利をもたらすポケモンと言われていて、ピカチュウの“かみなり”は勝利をもたらすために“偶然”軌道を変えて愛ちゃんに襲い掛かったというわけだ。


愛「あー……やっぱ、穂乃果は強すぎるわ……。……久しぶりに本気出さなきゃダメそう」

穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァッ!!!!!」


再び迸る雷撃が、また勝利に導かれ……愛ちゃんに吸い込まれるように飛んでいくけど──愛ちゃんに当たる直前で跳ね返ってくる。


穂乃果「!? ピカチュウ!! 尻尾!!」
 「ピ、ピッカァッ!!!!」
614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:06.23 ID:mDhGJcE10

ピカチュウは咄嗟に尻尾を向けて、跳ね返ってきた“かみなり”を“ひらいしん”で吸収する。


 「ピ、ピカァ…ッ!!!」


それでもエネルギーが吸いきれず、周囲に稲妻が放出され、あちこちに雷撃が落ちて大地を破壊し始める。


穂乃果「っ……! 溜めちゃだめ!! “ほうでん”!!」
 「ピカァッ!!!」


ピカチュウは尻尾に落ちてきた電撃をその場で“ほうでん”して体から逃がしながら、“かみなり”を受け止める。

それによって──どうにか吸収しきれた。


穂乃果「ほ……。……今の反射、“ミラーコート”……!」

愛「そーゆーこと」
 「──ソーナノ!!」


どうやら、ソーナノに反射されたらしい。


 「ブモォォォォォッ!!!!!」


ケンタロスが愛ちゃんに向かって、“とっしん”していくけど、


愛「“カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」

 「ブモォォォッ!!!?」


ソーナノは物理技でも反射出来る。

ケンタロスはそのまま跳ね返されて、地面を転がる。


穂乃果「ケンタロス、大丈夫!?」

 「ブ、ブモォォォッ…!!!」


ケンタロスはすぐに体勢を立て直して起き上がる──が、起き上がったケンタロスの頭に……紫色の何かが引っ付いていた。


 「──レズン…」

穂乃果「……!? エレズン!?」


──“カウンター”で反撃する際に、一緒に張り付けられた……!?


愛「“ほっぺすりすり”」

 「レズン」

 「ブ、ブモォォッ!!!?」


エレズンが自身の頬を擦り付けると──ケンタロスが“まひ”で動きを鈍らされる。

そこに向かって──


愛「“すてみタックル”!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」

 「ブモォッ!!!?」


愛ちゃんの手から離れて飛んできたルリリがケンタロスの顔面にめり込んだ。


 「ルリッ」
615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:18:41.20 ID:mDhGJcE10

ルリリは尻尾をバネにしながら、離脱し──


 「ブ、モォ……」


ケンタロスは崩れ落ちた。


穂乃果「……!」

愛「ルリリ、エレズン、戻っておいで」

 「ルリ」「レズン」


逃がしちゃダメだ……!!


穂乃果「ラプラス!! “フリーズドライ”!!」
 「──キュゥゥゥ!!!!」


繰り出したラプラスが、広がる冷気をエレズンとルリリに向かって発射する。

でも、そこに向かって──


愛「リーシャンッ!!」
 「リーシャンッ!!!」


愛ちゃんが逃げる2匹を庇うように、リーシャンを構えながら飛び込んでくる。

またしても、音の障壁を作りながら冷気を吹き飛ばそうとするけど──


 「キュゥゥゥゥ!!!!」

愛「いっ!? 冷気でも貫通してくんの!?」


ラプラスは強引に音の壁ごと凍らせ始める。さらに──


穂乃果「“ハイドロポンプ”!!」
 「キュゥゥゥゥッ!!!!!」


冷気の層に向かって、それを押し込むように、“ハイドロポンプ”を発射する。

音の壁を凍らせ始めていた“フリーズドライ”の層にぶつかった“ハイドロポンプ”は──凍り付いて杭のように、音の壁に突き刺さる。


愛「ぐっ……!?」


愛ちゃんは咄嗟の判断で身を伏せて、ギリギリ氷の杭を回避するけど──私はそこに向かって次のポケモンのボールを投げ込む。


穂乃果「ガチゴラス!!」

 「──ゴラァァァァスッ!!!!!」

愛「!?」


伏せた愛ちゃんに──ボールから飛び出したガチゴラスが大顎を開けながら、“かみくだく”!!


愛「ソーナノッ!! “カウンター”!!」
 「ソーーナノッ!!!!」


ソーナノが飛び込んできて、ガチゴラスの大顎による攻撃を反射し、無理やりこじ開けようとするけど、


穂乃果「“ばかぢから”!!」

 「ゴラァァァァァスッ!!!!!!」


押し返されそうになった、ガチゴラスはパワーでソーナノの反射を無理やり抑え込む。
616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:13.15 ID:mDhGJcE10

愛「は、反射をパワーで!? む、無茶苦茶……!?」

 「ソナノッ!!!?」


ガチゴラスはパワーで無理やり圧倒したソーナノに噛みつき、そのまま頭を振るって、ブンと真上の放り投げる。


 「ソ、ソーナノーッ!!!?」

穂乃果「“もろはのずつき”!!」

 「ゴラァァァァスッ!!!!!」

 「ソーーナノッ!!!!?」


空中で抵抗できないソーナノが、破砕の一撃で、吹っ飛ばす。


愛「っ……!! リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」


吹っ飛ぶソーナノを、リーシャンがサイコパワーで受け止め、助けるけど──


 「ソー…ナノ…」


落下のダメージがなくても、打撃の威力だけで十分だ。

ソーナノはすでに戦闘不能になっていた。


愛「ごめん、ソーナノ……無茶させすぎた」
 「ソーナノ──」


愛ちゃんは謝りながら、ソーナノをボールに戻す。

直後──


 「ゴラァァァァスッ!!!!!」


ガチゴラスが勝手に頭を構えて走り出した。


穂乃果「え!?」


指示はまだ出してない……!?

ハッとして、フィールドを見ると──


 「レズンレズン♪」


エレズンが手を叩いていた。


穂乃果「しまった!? “アンコール”!?」


同じ技を出させる技によって、“もろはのずつき”を無理やり誘発させられ、


愛「さすがに突進系の大技は軌道が読みやすいよね……!!」


愛ちゃんはガチゴラスの下を潜るようにスライディングしながら、


愛「“ハイパーボイス”!!」
 「リシャンッ!!!!」

 「ゴラァァスッ!!!?」


真下からガチゴラスの顎を狙って、音の衝撃を直撃させ、さらに──
617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:19:53.16 ID:mDhGJcE10

愛「“アクアジェット”!!」
 「ルリッ!!!!」

 「ゴラァスッ!!!?」


追い打ちを掛けるように、もう一発、真下から顎に向かってルリリが強烈な突撃でガチゴラスの顎を跳ね上げる。


愛「“ふぶき”!!」
 「ルーーーリィッ!!!」

 「ゴラァァァス…!!!?」


そして、トドメと言わんばかりに至近距離から、ガチゴラスが苦手とするこおりタイプの技で一気に氷漬けにする。


穂乃果「ガチゴラス……!?」


氷漬けになったガチゴラスがゆっくりと横転するのと同時に──


愛「リーシャン!!」
 「リシャンッ!!!」

 「…レズンッ!!!」


愛ちゃんの指示の声と共に、突然エレズンが猛スピードで吹っ飛んできて、


 「キュゥッ!!!?」


ラプラスの顔に張り付いた。


穂乃果「なっ……!?」

愛「“ほっぺすりすり”!」

 「レズン♪」

 「キュゥ…!!!?」


ルリリがガチゴラスを攻撃している間に、愛ちゃんはリーシャンの音の衝撃によって、エレズンをラプラスに向かって飛ばしてきた。

理解したときにはもうラプラスは“まひ”させられていて、さらに──エレズンはボールを抱えていた。そのボールから、


 「──ベベノッ」


白光の体色を持った、色違いのベベノムが飛び出してきた。


愛「ベベノム!! “ヘドロウェーブ”!!」

 「ベーーベノーーーッ!!!!」

 「キュゥゥゥゥ!!!!?」

穂乃果「ラプラス!?」


ラプラスが、至近距離から発生した、波のように押し寄せてきた毒液にまみれ、


愛「“とどめばり”!!」

 「ベベノッ!!!!」

 「キュゥッ…!!!!」


ダメ押しの一撃を食らって戦闘不能になる。


穂乃果「ピカチュウ!! “かみなり”!!」
 「ピッカァァァッ!!!!」
618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:20:51.90 ID:mDhGJcE10

“かみなり”をベベノムの頭上に落とすけど、


愛「“アイアンテール”!!」

 「ベノッ!!!!」


ベベノムが“とどめばり”によって、爆発的に上昇させた攻撃力によって、尻尾を振るって強引に“かみなり”を弾き飛ばす。

さらに畳みかけるように、


 「レズンッ!!」

 「ピカッ!!?」


エレズンがピカチュウに跳び付いてくる。


穂乃果「くっ……!? ピカチュウ!! “10まんボルト”!!」
 「ピィーーーカァ、チュゥゥゥゥゥッ!!!!!!!」

 「レズンッ!!!!!」


取り付いたエレズンごと電撃で攻撃する。が、その隙に、


愛「ベベノム、“いえき”!!」

 「ベベノッ!!!」

 「ティニッ!!!?」


ビクティニがベベノムから“いえき”を掛けられる。


愛「ルリリ!! 今のうちに“はらだいこ”!!」
 「ルリッ!!!」


ルリリがパワーを高め始める。

一方、


 「ピカァァァァァッ!!!!!」

 「レ、ズンッ…!!!」


ピカチュウは優勢。

でも、至近距離から電撃による反撃を食らっているエレズンが倒れそうになった瞬間、


愛「“じたばた”!!」

 「レズンッ!!!」

 「ピカッ!!!?」


エレズンがピカチュウの目の前で全身を無茶苦茶に振り回しながら暴れだし、ピカチュウを吹き飛ばす。


穂乃果「“かえんだん”!!」
 「ティニーーーッ!!!!!」


ビクティニが周囲に向かって、真っ赤な炎弾を撃ち出して、


 「レズンッ!!!?」「ベベノッ!!!!」


エレズンとベベノムを強烈な炎で攻撃し、


 「ベ、ベベノ…!!!」
619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:22:39.12 ID:mDhGJcE10

ベベノムにはギリギリ耐えきられて、逃げられてしまうが、エレズンはどうにか戦闘不能に追い込む。

が、


愛「“たきのぼ、り”ッ!!!」

 「ルーーーリィッ!!!!!」


愛ちゃんが水のエネルギーを全身に纏ったルリリを──ビクティニに向かって、ぶん投げてきた。


 「ティニッ!!!?」
穂乃果「ビクティニ!?」

 「ティ、ティニ……」


“はらだいこ”でフルパワーになったルリリのパワーによって、ビクティニは一撃で戦闘不能に、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「…ピッカァァァッ!!!!!」


エレズンの“じたばた”で大きなダメージを負ったものの、どうにか耐え切ったピカチュウが、全身に電撃を纏いながら、ビクティニを倒して着地したルリリに向かって、


穂乃果「“ボルテッカー”!!」
 「ピィィィィィカァァァァァァァッ!!!!!!」

 「ルリィーーーッ!!!!?」


ルリリを撃破する。


愛「く……ルリリ、エレズン、戻れ……!」
 「ルリ…──」「レズン…──」


愛ちゃんがルリリとエレズンをボールに戻す。


穂乃果「ラプラス、ガチゴラス、ビクティニ、戻って!」
 「キュウ…──」「……──」「ティニ…──」


私も戦闘不能になったラプラスとビクティニ、氷漬けになってこれ以上の戦闘が続けられないガチゴラスをボールに戻す。


愛「いやぁ……ホント強すぎ……っ、こんな追い詰められたのいつ以来だっけ……」
 「ベベノ…」「リシャンッ」

穂乃果「それはお互い様かな……」
 「ピカッ…!!!」


愛ちゃんはベベノムとリーシャンと共に身構え、私はピカチュウと──


穂乃果「リザードン!」
 「──リザァッ!!!」


リザードンを出して──メガリングをかざす。


穂乃果「メガシンカ!!」
 「リザァァーーーッ!!!!」


リザードンが光に包まれると共に──やぶれた世界の中に、強い日差しが差し込んでくる。

それと同時に、リザードンは尻尾が長く伸び、翼も一回り大きく変化。頭には一際大きな角が頭頂から1本伸び、腕にも翼を備えた姿──メガリザードンYへとメガシンカする。


 「リザァァーーーーッ!!!!!」

穂乃果「リザードン……! “かえんほうしゃ”!!」
 「リザァーーーーーッ!!!!!」
620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:23:32.63 ID:mDhGJcE10

リザードンが強烈な火炎を放つ。


愛「く……リーシャンッ!!」
 「リシャァーーーーンッ!!!!」


リーシャンが例によって、音の障壁を発生させるが──とてつもない火炎は、音の障壁に阻まれるどころか、一瞬で防壁を貫く。


愛「うわっちっ!!? き、距離取るよ!!」
 「リシャンッ!!!」


愛ちゃんは、リーシャンの音撃の反動で、後ろに向かって距離を取るけど、


穂乃果「ピカチュウ!!」
 「ピッカァッ!!!!」


ピカチュウが全身に電撃を纏い、“ボルテッカー”の構えを取りながら走り出す──そして、走りながらそのエネルギーを拳へと集中させ、


 「ピッカァッ!!!!」

愛「……っ!?」


稲妻のような軌道を描きながら、リザードンの吐いた炎を飛び越えて──真上から愛ちゃんたちに向かって飛び掛かる。


穂乃果「“ボルテッ拳”!!」

 「ピカァァァァッ!!!!!」

愛「リーシャンッ!! “ハイパーボイス”!!」
 「リシャァーーーーーーンッ!!!!!」


愛ちゃんが咄嗟に、真上から飛び掛かってくるピカチュウに向かって、爆音によって攻撃してくるけど──


 「ピィィィィィカァァァァァァッ!!!!! チュゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


“ボルテッ拳”のパワーは音の衝撃のエネルギーを遥かに凌駕し──


愛「く……っ……!?」
 「リ、リシャァァァッ!!!!?」


一瞬の静寂ののち──バヂバヂバヂバヂッ!!!!! と激しい稲妻の音を空間内に轟かせながら、電撃のエネルギーを盛大に爆ぜ散らせた。

その反動で、


 「ピッカァッ!!!」


ピカチュウがくるくると回転しながら、私の隣に着地しながら戻ってくる。

そして、電撃エネルギーによって、巻き起こった爆発が晴れると、


愛「ぐ……く、そぉ……」
 「リシャンッ…」


愛ちゃんがリーシャンと共に倒れていた。


穂乃果「……これなら、どう……?」

愛「っ゛……」


さすがに愛ちゃんの表情が歪む。

耐電撃スーツでも、さすがに“ボルテッ拳”を無効化しきることは出来なかったようだ。
621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:24:43.12 ID:mDhGJcE10

穂乃果「……もう終わりだよ」

愛「…………っ」


私はうつ伏せになって倒れている愛ちゃんへとゆっくりと近付く。


穂乃果「……さぁ、降参してくれるかな?」

愛「……。……わかった。……降参……──するもんかっ!!」
 「──ベベノッ!!!!」

穂乃果「……!?」


うつ伏せの愛ちゃんの胸の下から──ベベノムが飛び出してきて、毒液を射出する。

毒液は私の顔に真っすぐ飛んできて──


 「ピッカァッ…!!!」
穂乃果「!! ピカチュウ!!」


ピカチュウが私を庇って毒液を受ける。


穂乃果「リザードンッ!!」
 「リザァァッ!!!!」


リザードンが至近距離で“ねっぷう”を起こし、


愛「ぐぅぅっ!!?」
 「ベ、ベベノォッ!!!?」


愛ちゃんを焼き尽くす。


愛「ぐ……ぅ……」


さすがに、この攻撃で愛ちゃんも大人しくなる。


穂乃果「……ピカチュウ……ありがとう……」
 「ピカカ…」

穂乃果「うん、ボールに戻って、休んでね」
 「チャー…──」


ピカチュウをボールに戻す。


愛「………………つよ……すぎ……でしょ……」

穂乃果「……! まだ、意識があるんだね……」

愛「…………耐熱も…………してん……だよ……」

穂乃果「でも、もう動けないよね」

愛「……ぁ゛ー……動きたくは……ない、ね……」

穂乃果「……とりあえず、ディアルガとパルキア……返してもらうよ」


そう言いながら、私は屈んで愛ちゃんが腰に着けたボールに手を伸ばす。


愛「……これが……試合みたいな……ポケモンバトルじゃなくて……よかった……」

穂乃果「え?」

愛「…………やっぱ、アタシは……そういうルールに縛られた戦いよりも…………ただ、相手を倒す戦いの方が、向いてるっぽいね……」

穂乃果「何言って──」
622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:28:17.30 ID:mDhGJcE10

──ゴッ!!! 鈍い音と共に、頭に強い衝撃を受けた。


穂乃果「ぁ゛……っ……!!」


衝撃と痛みで私はその場に倒れ込む。

倒れた私の目の前には──


 「──ウソッ」

穂乃果「ウソ……ハチ……っ゛……」


ウソハチがいた。ウソハチが──私の頭上に、落ちてきた。


 「リザァッ!!!!」


リザードンが咄嗟に、炎を吐こうとしたが、


愛「ウソハチ……“だいばくはつ”……!!」
 「ウソッ…!!!」

 「リザッ!!!?」


ウソハチがリザードンの懐に飛び込み──爆発して吹き飛ばした。


愛「…………悪いね。……真面目に戦ったら、勝てる気がしなかったから……卑怯な手、使わせてもらったよ」

穂乃果「いつ、の……間に……空に……」

愛「……“ボルテッ拳”だっけ? ……あのとんでも技が上から飛び掛かってくる使い方で……助かったよ」

穂乃果「…………あの、とき、の……“ハイパー……ボイス”……」


愛ちゃんは、ピカチュウの攻撃を相殺するように見せかけて──遥か上空に向かって、ウソハチの入ったボールを打ち上げていたんだ……。

私の視界が赤く染まっていく。私は……頭から大量の血を流していた。


愛「……もう、立つのは無理っしょ……猛スピードで落ちてきた岩が……頭に直撃したようなもんだからね。勝負ありだよ……」

穂乃果「…………っ゛……」


愛ちゃんがよろよろと立ち上がって、私に背を向ける。


愛「さーて、今度こそ……ギラティナ捕まえて、おさらばだ……」


そう言いながら立ち去ろうとする背に──


穂乃果「──……ま、って……」


立ち上がって、声を掛ける。


愛「…………冗談でしょ? あれ食らって立つの……?」

穂乃果「あなたは……野放しにしちゃ……いけない……」

愛「…………」

穂乃果「リザー……ドン……」
 「…リザァ…ッ…!!!!」


ウソハチの“だいばくはつ”で吹っ飛ばされたリザードンが、羽ばたきながら戻ってくる。
623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:10.58 ID:mDhGJcE10

愛「ここまで来ると……ポケモンも……トレーナーも……化け物じゃん……」

穂乃果「あなたは……ここで……とめ、る……」


意識が朦朧とする。だけど、この人だけは……絶対にここで止めないとダメだ。

ここで逃がしたら──本当に誰にも手が付けられなくなる。

そのときだった。愛ちゃんが抱き抱えていたベベノムが──


 「ベベノ…──」


カッと眩く光り輝いた。


穂乃果「この光……しん、か……?」


この土壇場で──愛ちゃんのベベノムが進化して、アーゴヨンに──


愛「ただの、進化じゃないよ……」
 「──アーゴッ…!!!」


確かに愛ちゃんのベベノムは色違い。

進化したアーゴヨンも、本来の色とは違い、黄色と黒の警告色をしたアーゴヨンへと姿を変える。でも──それだけじゃなかった。


穂乃果「……なに……これ……?」


目の前のアーゴヨンは──翼から目が痛くなるような、激しいオレンジ──超オレンジと言っても差し支えのない、強烈な閃光を放ち、お腹の毒針からもそれがエネルギーとしてスパークしている、異様な姿だった。


愛「……悪いね……。……アタシは……止まるわけにいかないんだよ」


私とリザードンは……アーゴヨンから放たれた閃光に──飲み込まれた。





    👏    👏    👏





穂乃果「…………」
 「……リ、ザ……」

愛「…………」


今度こそ、動かなくなった穂乃果に背を向けて歩き出す。


愛「……さて、ギラティナ……出てきてくんないかな……。……逃げられないこと……わかってるっしょ……?」


虚空に向かって呼び掛けると──


 「──ギシャラァッ…」


満身創痍のギラティナが、空間を裂いて現れる。

そして、その直後──そこらへんを転がっていた、果南、ダイヤ、マリーの真下に空間の裂け目が生じ、3人を飲み込んだ。


愛「……!」


それと同時に──背後の穂乃果……さらに、彼女たちがボールに戻せていなかったポケモンたちも空間の裂け目に飲み込まれて姿を消す。
624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:29:39.86 ID:mDhGJcE10

愛「……逃がしたってことか……」

 「ギシャラ…ッ」

愛「……自分がもう、アタシから逃げられないってわかってて……。ギラティナがいなくなったら……この空間自体、維持できないもんね……。……そんなナリで意外と義理堅いじゃん。愛さん、そういうの嫌いじゃないよ」

 「ギシャラァッ!!!!!」


ギラティナが最後の力を振り絞って飛び掛かってくる。


愛「ま……それでも、捕獲させてもらうけどね……」
 「アーゴッ!!!!」

 「ギシャラァァァァァッ!!!!!」


ギラティナの雄叫びが──やぶれた世界に、響き渡った。



625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/05(木) 16:30:09.97 ID:mDhGJcE10

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


 レポートに しっかり かきのこした


...To be continued.



626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:05:43.89 ID:djK6Kzqg0

■Chapter070 『戦いを終えて』 【SIDE Yu】





侑「……歩夢、もう痛いところ……ない……?」
 「ブイ…」

歩夢「うん、大丈夫だよ。エマさんのママンボウが治療してくれたから……」
 「ママァ〜ン」

遥「やっぱり、ママンボウの治癒力はすごいですね……。……幸い骨に異常はなさそうですし……私が診た感じでも、問題ないと思います」

歩夢「遥ちゃんも……ありがとう」


あの後、エマさんのママンボウに傷を治してもらい……遥ちゃんから怪我を診てもらっていた。

ママンボウの治癒効果のお陰で、切り傷や擦り傷はすぐに治り、私も歩夢もすっかり元気になっていた。


歩夢「ただ、その……服がクリームでべとべとだから……出来れば、着替えたい……かも……」
 「マホ…」

歩夢「あ、ご、ごめんね!? マホイップを責めてるわけじゃないの! むしろ、マホイップがいなかったらもっと大怪我してたし……」
 「マホ〜…」

侑「とりあえず、あとで着替えよっか。歩夢の着替えも持ってきてるから」

歩夢「うん、ありがとう……侑ちゃん」


さて……どうにか歩夢を救出することに成功したわけだけど……。


彼方「……手錠……痛くない……?」

果林「…………ええ、大丈夫よ」


果林さんは、武装を完全に解除させられ……彼方さんが持ってきていた手錠を着けられている。


エマ「か、彼方ちゃん……やっぱり、手錠までしなくても……。果林ちゃん……もう、酷いことしないと思うから……」

果林「いいえ……今は……こうしておいて……。……もう、私が変な気を起こしても……大丈夫なように……」

エマ「果林ちゃん……」


果林さんは……先ほどまでの攻撃的な表情が嘘のように、戦意を失っていた。

そんな中、


姫乃「──あ、貴方たち!! 果林さんから、離れてくださいっ!!」


急に声が響く。

目を向けると──拘束されて、彼方さんのカビゴンに担がれている姫乃さんが、声を荒げていた。


果林「姫乃……」

彼方「姫乃ちゃん、目が覚めたんだね〜……」

姫乃「果林さん!! そんなやつらの口車に乗ってはいけませんっ!! 私たちは使命を帯びてここにいるんです……!! だから……」

果林「……もう、いいの」

姫乃「か、果林さん……」

果林「…………私たちの……負けよ……」

姫乃「…………」

果林「姫乃……今まで、一緒に戦ってくれて……ありがとう……」

姫乃「…………私は……」
627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:15.90 ID:djK6Kzqg0

姫乃さんは果林さんの言葉を聞き、何か言いたそうにしていたけど……結局口を噤んだ。

果林さんが負けを認め……戦いは終わった。

そして、ちょうどそこに──


 「──侑せんぱ〜い!! 歩夢せんぱ〜い!! リナ子〜!!」


声が聞こえてくる。

この声は──


侑・歩夢「「かすみちゃん!」」
リナ『かすみちゃん!』 || > ◡ < ||

かすみ「侑先輩!! 歩夢先輩!! リナ子!!」


声の方に振り向くと同時に、かすみちゃんが抱き着いてくる。


かすみ「お二人とも、ボロボロじゃないですか……でも、無事でよかったです……」

侑「あはは……そう言うかすみちゃんも、ボロボロだよ」


まさに全員死闘を終えたという様相になっていた。


しずく「本当に……みんな無事で、よかったです……」


そして、ゆっくりと追い付いて来るしずくちゃんを見て、歩夢が、


歩夢「しずくちゃん……!」

しずく「わわっ……?」


しずくちゃんに抱き着く。


歩夢「ありがとう……しずくちゃんのお陰で……私の大切なもの……全部、全部失くさずに済んだよ……」

しずく「ふふ……お力になれたのなら……何よりです……」

侑「それにしても……あれが全部演技だったなんて……」

しずく「敵を騙すにはまず味方から……ですよ♪」

侑「あはは……ホントに騙されたよ……」

かすみ「……そういえば、それについてなんだけどさ」


私に抱き着いていたかすみちゃんが、不満そうな顔をしながら口を開く。
628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:06:50.88 ID:djK6Kzqg0

しずく「ん?」

かすみ「しず子、戦ってる最中……かすみんのこと、勧誘してたよね? フェローチェの虜になりましょう〜とか」

しずく「あ、う、うーん……言ったかも……?」

かすみ「あそこで、かすみんがうんって言ったらどうするつもりだったの? せつ菜先輩を引っ張り込むために本気で戦うフリしてたのはわかるけど……勧誘までする必要なくない?」

しずく「それは……その……。……役に……のめり込みすぎちゃって……つい……」

かすみ「…………はぁ……。……ま、しず子らしいけど……」

しずく「で、でも! かすみさんなら、絶対にあそこで「うん」なんて言わないってわかってたし……!」

かすみ「ま……結果丸く収まったし……そういうことにしてあげなくもないかな〜……」

しずく「む……かすみさんだって、勢いに任せて……その……す、すごいこと……言ったくせに……///」

かすみ「……!?/// だ、だから、あれは……///」

リナ『二人とも顔真っ赤だよ? 大丈夫?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「なんでもないですっ!!///」
しずく「な、なんでもないよ!?///」


何やら、向こうは向こうでいろいろあったようだ……。

それは追い追い聞くとして──私はこちらに歩いてくる人影に目を向ける。

黒髪の右側を結んでいる、凜とした──私の憧れのトレーナー。


侑「……せつ菜ちゃん」

せつ菜「……侑さん」


私が立ち上がって目を合わせると──


せつ菜「侑さん……ごめんなさい」


せつ菜ちゃんは二の句を告げず、頭を下げた。


侑「せ、せつ菜ちゃん……!?」

せつ菜「あのとき……クリフの遺跡で、侑さんは私を止めようとしてくれていたのに……私が未熟だったばかりに、侑さんに酷いことを言ってしまって……八つ当たりしてしまって……」

侑「あ、頭を上げて……! 私、怒ってないから……!」

せつ菜「で、ですが……」

侑「私も……せつ菜ちゃんの気持ち……なんにもわかってないのに、勝手なこと言っちゃって……ごめん……。……せつ菜ちゃんの苦しみ……全然わかってなかった」

せつ菜「そ、そんなこと……」

侑「うぅん……。……勝手に憧れて、勝手に私の理想を押し付けてた……。……無責任なこといっぱい言っちゃって……。だから私、これからは憧れるばっかりじゃなくて……もっとちゃんと、せつ菜ちゃんのことが知りたい……」

せつ菜「侑さん……」

侑「……一人のポケモントレーナーとして……一人の……友達として……」


私はせつ菜ちゃんの手をぎゅっと握る。


せつ菜「……侑さん……っ……。……はい……っ……」


せつ菜ちゃんは目に浮かぶ涙を拭ってから、私の握手に応えるように両手で私の手をぎゅっと握りしめる。

そして、そんな私たちの頭にポンと手が置かれる。


善子「──それと……同じヨハネのもとから旅立った図鑑所有者としても……ね?」


ヨハネ博士だった。
629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:07:40.20 ID:djK6Kzqg0

侑「ヨハネ博士……! 同じ図鑑所有者ってことは……!」

せつ菜「その……はい……。先ほど……ポケモン図鑑と……最初のポケモンを……頂きました……」


せつ菜ちゃんは少し恥ずかしそうに、目を伏せながら言う。


せつ菜「わ、私……その……侑さんに図鑑所有者でなくてもチャンピオンに、とか、なんか、いろいろ言ったから、そんな私が図鑑所有者になるのは、あれかと思うかもしれませんが、ですから、その……」

侑「よかったぁ〜〜!!」

せつ菜「わぁっ!?///」


私は思わずせつ菜ちゃんに抱き着いてしまう。


せつ菜「ゆ、侑さん……!?///」

侑「せつ菜ちゃんが……うぅん、菜々ちゃんが、やっと夢を叶えられて……よかった……」

せつ菜「侑さん……。……はい……」

侑「えへへ、これからはおんなじ図鑑仲間だ♪」
 「ブイ」


抱き着きながら、ニコニコ笑っていると、


歩夢「…………むー……」

侑「おとと……? 歩夢……?」


歩夢が、私の腕に抱き着いてくる。


侑「え、えっと……どうしたの……?」

歩夢「…………むー……」


歩夢はぷくーっと頬を膨らませたまま、不満そうにしている。

わ、私……何かしたかな……?

そんな歩夢に、


しずく「歩夢さん、言いたいことがあるなら、ちゃんと言わないと、侑先輩にはわかりませんよ? 鈍感なんですから」


しずくちゃんがそんなことを言う。


歩夢「…………知ってるけど…………。……むー……」

侑「え、えっと……?」
 「ブイ…」

侑「え、なんでイーブイ呆れてるの……?」

リナ『さすがの私もこれには、リナちゃんボード「あきれ」』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「リナちゃんまで!?」


ホントになんなの……!?

私が歩夢の反応にあたふたする中、


せつ菜「……そうだ、しずくさん」

しずく「はい?」


せつ菜ちゃんがしずくちゃんの手を取って──


せつ菜「私……結局、守ろうとした直後に敵対関係になってしまったせいで……まだしずくさんのことを、ちゃんと守れていません」
630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:16.02 ID:djK6Kzqg0

せつ菜ちゃんは片膝を折って、


せつ菜「……何かあったら、1回だけ守るというのは約束したことなので……何かあったら言ってくださいね? 今度こそ、私が命を懸けてお守りします!」


まるで王子様のように、しずくちゃんに向かってそう宣言する。


しずく「へっ!?/// い、いや、ですがあれは私が騙したようなものなので、そんな律義に守らなくても……!?///」

せつ菜「いえ……私はあの一時だけでも、貴方のあの言葉に救われたんです……。ですから、守らせてください」

しずく「で、でも……/// ……じ、じゃあ……そういうときがあったら……///」

せつ菜「はい、お任せください!」

しずく「……///」


しずくちゃんが顔を真っ赤にしながら、しおらしい反応をする。


かすみ「ちょっとしず子!! 何、満更でもなさそうな顔してんの!?」

しずく「だ、だって……///」

リナ『一瞬であちこちに修羅場を作り出してる……せつ菜さん恐るべし……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

せつ菜「え? えっと……?」


私たちを見て、ヨハネ博士が、


善子「くっくっく……賑やかで何よりね。でも、仲良くしなさいよ。貴方たちはみんな、このヨハネのリトルデーモンなんだから」


そう言って笑うのだった。





    🍊    🍊    🍊





曜「一件落着……みたいだね」

花丸「千歌ちゃんが、せつ菜ちゃんとの戦いには手を出さないで欲しいって言いだしたときは、どうしようかと思ったけど……」

梨子「千歌ちゃんったら……すっかりチャンピオンになってたんだね。ちゃんと一人のトレーナーとして……せつ菜ちゃんに道を示した」

ルビィ「ルビィもジムリーダーとして、見習わなくちゃ……!」

千歌「…………」

曜「千歌ちゃん?」


曜ちゃんが、反応がない私の顔を覗き込む。

でも、もう……無理……。

──バタン。


曜「わー!? 千歌ちゃん!?」

梨子「ち、千歌ちゃん!? もしかして、バトルで怪我したんじゃ……!?」


──ぐ〜……。


曜・梨子「「…………」」

花丸「人間、空腹には勝てないずら」

ルビィ「千歌ちゃん……ここに来る前に、あんなに食べてたのに……」
631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:09:55.75 ID:djK6Kzqg0

たくさん動きすぎて、お腹空いた……。ついでに、眠い。


千歌「…………お腹空いた……眠い……疲れた……もう、ダメ……」

梨子「帰るまで頑張りなさい……って言いたいところだけど……今回ばかりはね……」

曜「カイリキー、千歌ちゃんのこと運んであげて」
 「──リキッ」

ルビィ「あ……! ルビィ、飴さんなら、持ってるよ!」

千歌「食べさせてー……」

ルビィ「うん。はい、口開けて」

千歌「あーむ……」

花丸「棒が喉の奥に刺さらないように気を付けてね?」

千歌「ふぁ〜い……」

梨子「……棒付き飴なんだ……」

善子「うわ……!? カイリキーに抱えられてだらけた千歌の口に、ルビィが飴を押し込んでる……!? 何事……!?」

曜「おー……善子ちゃんが的確に状況を説明してる……」

善子「善子じゃなくてヨハネよ!!」


みんなが甘やかしてくれる……幸せー……。

身に沁みる飴の甘さを感じながら、私はぼんやりと──せつ菜ちゃんに目を向ける。
632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:10:49.08 ID:djK6Kzqg0

侑「そういえばさ、そういえばさっ! せつ菜ちゃんが貰った最初のポケモンってどんな子なの!?」

せつ菜「あ、はい! 出てきて、ダクマ!」
 「──ベァーマ…」

歩夢「わ、可愛い♪」

侑「ダクマ! この子がせつ菜ちゃんの最初のポケモンなんだねっ!」

せつ菜「最初というか、最後というか……少し言い方に悩んでしまいますけどね……」
 「ベァ?」

せつ菜「あ、そうだダクマ! おやつがあるので、食べませんか? えっと……」
 「ベァーマ」

歩夢「せつ菜ちゃん、ゲンガー用にあげたやつまだ余ってる?」

せつ菜「え? あ、はい。たくさん貰ったのでまだありますけど……」

歩夢「うん♪ じゃ、桃色の“ポフィン”をあげようね♪ ダクマが好きな味だから♪」

せつ菜「え、でも……ダクマだけ、自分用のおやつがないのは可哀想です……。……ゲンガーもおやつを取られたら嫌でしょうし、私が前に作ったやつが確か……」

歩夢「私がいくらでもあげるから、ダクマには桃色の“ポフィン”をあげようね?」

せつ菜「あ、歩夢さん……? ……な、なんだか……すごく圧が強いです……。ですが、私が作った自慢のやつがあるんです! ダクマ! おやつですよ!」
 「ベ、ベァ…」

かすみ「し、しず子……あれ、炭みたいな色してない……?」

しずく「というか……炭そのもののような……」

歩夢「あーーーーーサスケーーーーー人のもの勝手に食べちゃダメだよーーーーー」
 「シャーーーボッ」

せつ菜「あーーーーーっ!? 私特製の自慢の“ポフィン”がーーーーっ!?」

リナ『歩夢さんとサスケの尊い行いによって、また1匹のポケモンの命が救われた……』 ||;◐ ◡ ◐ ||

歩夢「ごめんね、せつ菜ちゃん……。……お詫びに今度、私と一緒に“ポフィン”作らない?」

せつ菜「え……! い、いいんですか!?」

歩夢「うん♪ “ポフィン”はみんなで作った方がおいしくなるから、一緒に作ろう♪」

かすみ「歩夢先輩! かすみんも一緒にいいですか!? 歩夢先輩のお菓子作りの技術を盗──じゃなくて、教えてください!」

しずく「あ、それなら私もご一緒したいです」

歩夢「うん♪ みんなで作ろう♪ ──そのときに上手な作り方を徹底的に教えなくちゃ……うん」

せつ菜「? 歩夢さん、何かおっしゃいましたか?」

歩夢「うぅん♪ なんでもないよ♪」

侑「じゃあ、私はみんなが作ったのを食べるね! えへへ、楽しみ……」
 「ブイ…」

リナ『ポケモン用のお菓子なのに、自分が食べる話ししてる……』 ||;◐ ◡ ◐ ||


賑やかなあの子たちを見ていると──まるで昔の私たちを見ているような気持ちになった。


千歌「せつ菜ちゃん……よかったね……」


仲間に囲まれた彼女は……きっともう大丈夫……。

私は……チャンピオンとして、一人のポケモントレーナーとして……大切なことを教えてあげられたことに安堵するのだった。



633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:11:17.71 ID:djK6Kzqg0

    👠    👠    👠





果林「……」

彼方「……」

果林「……懐かしいな」

彼方「……そうだね」


侑たちを見ていると……昔の自分たちを思い出す。

同じ志を持った仲間たちと……過ごした日々を……。


果林「私たち……いつから……すれ違っちゃったのかしらね……」

彼方「果林ちゃん……」

果林「私はどこから……間違っちゃったのかしらね……」

彼方「…………」

果林「…………」

彼方「……やり直せばいいよ」

果林「ふふ……簡単に言うんだから……」

彼方「みんなが笑える世界を……目指そう……昔みたいに……一緒に……」


彼方が私の手を握る。


果林「……そうね。……彼方……後のことは……よろしくね……」


彼方には……この言葉で十分伝わるはずだ。彼方は……私の家族だから。


彼方「……大丈夫。私、頑張りながら……待ってるから……」

果林「……うん」

エマ「ま、待って……どういうこと……?」


そんな私たちの会話を聞いて、エマが瞳を揺らしながら訊ねてくる。


果林「どう足掻いても、私はこの後、国際警察に捕まるって話……釈放されるのに、どれくらい掛かるかしらね……」

エマ「そ、そんな……!」

果林「いいのよ、エマ。……それでいいの」

エマ「果林ちゃん……」

果林「私が出来る限りの罪を背負うから……外に出るのは、時間が掛かっちゃうかもしれないわね……」

姫乃「……! 果林さん、それって……!」

果林「……この一連の問題は全て──私が無理やり命令して従わせた。そういうことよ。姫乃も愛もね」

姫乃「ま、待ってください……! 私は……そんなことされても嬉しくありません……!」

果林「姫乃……」

姫乃「果林さんが負けを認めて、檻に入ることを選ぶなら……私もお供します……。……させてください……」

果林「……ありがとう、姫乃」


最初は利用するつもりでしかなかったのに……姫乃はいい子だった。……最後まで、私に付き従ってくれるらしい。
634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:19.94 ID:djK6Kzqg0

せつ菜「──なら……私も一緒に檻に繋がれるべきです」

果林「せつ菜……」


いつから聞いていたのか、気付けばせつ菜が私たちの方へやってきて、自分にも責任があると言いだした。


果林「……ダメよ、それこそ貴方は私が利用しただけ。関係ないわ」

せつ菜「いいえ……私は自分の意志で貴方たちに付いて行きました。貴方たちが裁かれるなら、私も同じように裁かれて然るべきです」

果林「……子供がかっこつけるんじゃない」

せつ菜「な……」

果林「自分の意志でとは……よく言うわね。まんまと心の弱みに付け込まれて利用された分際で」

せつ菜「それは……」

果林「貴方は、貴方の帰るべき世界があるでしょう? ……なら、そこに帰りなさい」

せつ菜「…………」

果林「特に……親や……自分を大切にしてくれる人を悲しませちゃダメよ……」


せつ菜の後方にいる──彼女の両親や……彼女をずっと見守ってきたであろう真姫……そして、彼女たちの仲間を見ながら。


果林「なんて……私が言えた話じゃないけどね……」

せつ菜「果林さん……」


せつ菜は何か言いたげだったけど──後方の両親たちや仲間と私を何度か見比べたあと、


せつ菜「…………」


私に向かって、綺麗なお辞儀をしてから、仲間たちのもとへと──帰っていった。


果林「それと……愛もね。……愛は本当に私が無理やり従わせてただけだから……」

彼方「そういえば……愛ちゃんはどこにいるの……?」

果林「あちこち移動しているせいですぐにはわからないけど……発信機があるから、それでちゃんと見つけて……もう終わったことを伝えるわ。私たちの負けだって……」


それで全て終わり……。やっと全部……終わりなんだ……。





    🎹    🎹    🎹





リナ『……』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん……行かなくていいの?」


果林さんたちをじっと見つめているリナちゃんに、そう訊ねる。

リナちゃんにとって……果林さんたちは、かつての仲間だ。……あの場に行きたいんじゃないかな……。


リナ『うぅん……いい。私はコピーだから……。璃奈はもう、死んだんだよ。あの輪に加わるべきなのは、私じゃない』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「リナちゃん……」

リナ『それに今の私は、侑さんのポケモン図鑑だから!』 || > ◡ < ||

侑「……わかった。リナちゃんの意思を尊重する」

リナ『ありがとう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||
635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:12:50.49 ID:djK6Kzqg0

粗方の話もついて……。

あとは──


侑「あとは……帰るだけだね」
 「ブイ」

かすみ「ですね」


私たちは歩夢と、しずくちゃんと、せつ菜ちゃんを無事救出し……果林さんの野望も食い止めた。

やっと戦いが終わったんだ……。

──そう思った、そのときだった。


 「──しずくちゃーーーーんッ!!!」


空から電子音のような声が降ってきた。


しずく「この声……もしかして、ロトム……?」

 「やっと見つけたロトッ!!!」


焦った様子で、しずくちゃんの目の前にロトム図鑑が舞い降りてくる。


しずく「どうしたんですか……?」

 「た、大変ロトッ!!!」


焦った様子のロトムが口にしたことは、


 「やぶれた世界に居た、マリーたちが…愛って人にやられたロト…!!!」

しずく「え!?」


まさに青天の霹靂。私たちの知らない場所で、まだ事態が動いていたことを知らされる。


侑「ど、どういうこと!?」

 「ゲートを狙われたロト…あまりに強すぎて、果南ちゃんもダイヤちゃんも歯が立たなかったロト…」

果林「──なるほどね……愛はゲート側に行ってたのね……」


そう言いながら、彼方さんに手を引かれる形で、果林さんがこちらに歩いてくる。


果林「……今すぐ、愛を呼び戻すわ。もう戦闘が終わったことを伝える」


果林さんが愛ちゃんを止める旨を口にした瞬間──


 「──その必要はないよ」


またしても、空から声が降ってきた。

その場にいた全員が、空を見上げると、


愛「……アタシはここにいるから」
 「アーーゴ」


黄色と黒の巨大なハチのようなポケモンに掴まった──愛ちゃんがいた。
636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:13:32.00 ID:djK6Kzqg0

侑「愛ちゃん……!」

果林「愛……もう戦いは終わったの……! 私たちの負けよ……!」

愛「……みたいだね。まんまと負けちゃったみたいでまぁ……」

果林「……ごめんなさい。でも、出来る限りの責任は私が負うから……だから──」

愛「んー……別にそれはどうでもいいや」

果林「どうでもいい……?」

愛「挨拶しにきただけだから──」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


直後、上空から──大量の“りゅうせいぐん”が降り注いできた。


侑「……!? イーブイ!! “きらきらストーム”!!」
 「ブーィィッ!!!!」

歩夢「マホイップ!! “マジカルシャイン”!!」
 「マホイーーーッ!!!」


咄嗟に私たちに向かってくる流星をフェアリー技で掻き消すが──大量の“りゅうせいぐん”を全ては捌ききれず、


侑「くっ……!! 歩夢、伏せて!!」

歩夢「きゃっ!!?」

せつ菜「……くっ! せ、せめて、戦えるポケモンが残っていれば……!」

かすみ「しず子……!!」

しずく「きゃっ!?」



全員でその場に伏せる。

でも──数が多すぎる。


果林「愛!! やめなさい!! ……くっ……!!」

彼方「エマちゃん!! 遥ちゃんと姫乃ちゃんと一緒に、わたしの近くで伏せてて!!」

エマ「う、うん……! 遥ちゃん! 姫乃ちゃん!」

遥「は、はい……! 姫乃さんも……!」

姫乃「あ、愛さん……一体何を……」


みんなが伏せる中、


彼方「ネッコアラ!! “ウッドハンマー”!! コスモウム!! “コスモパワー”!!」
 「コァッ!!!」「────」


彼方さんのネッコアラが流星を強引に叩き落とし、コスモウムが頑強な体で隕石を破壊する。

さらに──
637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:01.99 ID:djK6Kzqg0

曜「カメックス!! “ハイドロポンプ”!!」
 「ガメェーーーッ!!!!」

梨子「メガニウム!! “ハードプラント”!!」
 「ガニュゥーーーッ!!!!」

ルビィ「コラン!! “ひかりのかべ”!!」
 「ピピピッ」

花丸「デンリュウ!! “チャージビーム”ずら!!」
 「リューーーッ!!!」

千歌「はぇ!? なになに!? うわぁ!? でっかい隕石降ってきてる!?」

善子「あんたは寝てなさい!! アブソル!! “かまいたち”!!」
 「ソルッ!!!!」


図鑑所有者の先輩たちが、隕石を破壊していく。

少し離れたところにいた、せつ菜ちゃんのお父さんやお母さんたちは、


真姫「絶対私から離れないで!! ハッサム!! “バレットパンチ”!!」
 「ハッサムッ!!!!!!」


真姫さんのハッサムが守っている。

しばらく、流星による攻撃が続いたが──実力者たちの尽力によって、どうにか凌ぎ切る。


愛「……へー……耐えきるのか。さすがに実力者揃いだね……」

彼方「……さ、さすがに……戦闘で疲れきってるところに、この攻撃は堪えるよ〜……」

遥「それより……あのポケモン……なに……?」

しずく「ウルトラビーストじゃないんですか……? アーゴヨンってポケモンじゃ……確かに、色が違いますけど……」

善子「いや……データで見たアーゴヨンとは……姿が違う……。色違いだとしても……あんなエネルギーの塊みたいな、光る翼を持っているポケモンじゃない……」


確かに愛ちゃんのアーゴヨンは──見ているだけで目が焼かれそうなくらいの、超オレンジと言いたくなるような強烈な閃光を放っていた。

そして、お腹にある毒針らしき場所からも、バヂバヂと音を立てながら、エネルギーを爆ぜ散らしている。


愛「ああ、この子はね……。……ベベノムが……愛さんの気持ちに応えた姿だよ」

侑「気持ちに……応えた……姿……?」

善子「……まさ……か……」


その言葉を聞いて、ヨハネ博士が目を見開いた。


善子「……キズナ……現象…………」

愛「……へー……知ってる人がいるとは思わなかった。そうキズナだよ! この子はずっとアタシと共に、目的のために戦い続けてきた……!! そして、目覚めたんだよ!! キズナの力が……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンが、超オレンジの閃光翼を羽ばたかせると──周囲にとんでもない勢いの風が発生する。
638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:14:34.71 ID:djK6Kzqg0

侑「ぐぅ……!?」

歩夢「きゃぁ……!?」

せつ菜「ふ、風圧が強すぎて……! た、立っていられない……っ……!!」

果林「愛ッ!! もうやめなさい!! これは命令よ!! もう、戦いは終わったの!!」

愛「へー……」

姫乃「愛さんっ!! 何を考えているんですかっ!? 味方まで巻き込むつもりですか……!?」

愛「……アタシは最初から……カリンも姫乃も……味方だなんて、思ってなかったけど?」

姫乃「なっ……」

果林「彼方!! さっき私から回収したリモコン貸して!!」

彼方「り、了解〜!!」


彼方さんが取り出したリモコンを、手錠をした果林さんの手に受け渡す。

恐らく──前に聞いた、愛ちゃんの首に着けられたチョーカーに電撃を流すボタンだ。


果林「愛ッ!! 止まりなさいッ!!」


果林さんがボタンをポチリと押したが──


愛「…………」


愛ちゃんはケロリとした顔をしている。


果林「な……なんで……!?」

愛「はぁ……こんなおもちゃで本当にアタシに言うこと聞かせられると思ってたんだね」


そう言いながら、愛ちゃんは──チョーカーに手を掛け、バキっと折りながら外してしまった。


果林「な……そんな外し方したら……電撃が……」

愛「こんなのね、着けられたその日にはもう外してたよ……」

果林「嘘……それじゃ、今までは……」

愛「そ、逃げられないフリして……カリンのこと利用してただけ」

果林「ど、どうして……そんな……?」

愛「このポケモンたちを手に入れるためだよ……」


愛ちゃんはそう言いながら──3つのボールを放り投げる。

そのボールから飛び出したのは──


 「──ディアガァァ…」「──バァァァル…」「──ギシャラァァァ…」


とてつもない威圧感を発する、3匹の巨大なポケモンの姿。


侑「……な、なに……あの、ポケモン……」

かすみ「い、一匹はギラティナですよね……!? で、でも、やぶれた世界以外じゃ、あの姿になれないんじゃ……」


私たちの疑問に答えるように、愛ちゃんが口を開く。
639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:13.29 ID:djK6Kzqg0

愛「この子たちはね……真の姿を取り戻した、時の神、空間の神、反物質の神だよ……」

善子「まさかそれが……ディアルガ、パルキア、ギラティナの……本来の姿……ってこと……?」

愛「そーゆーこと」

彼方「そのポケモンたちを捕まえて、何するつもりなの……!?」

愛「それは簡単だよ。……これから、世界を── 一つに繋げるんだよ……」

善子「世界を一つに……繋げる……?」

愛「……もうちょっと具体的に言うとね……ウルトラスペース内の特異点を……神の力でインフレーションさせて、全宇宙のありとあらゆるエネルギーを均一化する……」

善子「なん……です……って…………?」


ヨハネ博士がその言葉に目を見開く。


善子「あんた、そんなことしたら全世界が──いや、全宇宙がどうなるかわかってんの!? それってつまり、全宇宙の熱的死が訪れるってことよ!?」

愛「もちろん。……ありとあらゆるエネルギー差異が消滅して……全てが無になる……」

善子「そんなことしたら、あんたも消えることになる!! 何考えてんの……!!?」

愛「……りなりーを迎えに行くんだよ」

果林「え……」

彼方「璃奈、ちゃん……を……?」

愛「全てが無になった──物質が消え去り……情報しかなくなった世界……つまり、全てがりなりーと同じになる……」

果林「愛……あ、貴方……何……言ってるの……?」

愛「ねぇ、カリン、カナちゃん。……りなりーが最期になんて言ってたか知ってる……?」


愛ちゃんは果林さんたちを見下ろしながら──


愛「……もし生まれ変われるなら……次は、みんなと繋がりたい……そう言ったんだ……。……だから……アタシがりなりーの夢を叶える……全宇宙を……情報レベルでバラバラになったりなりーと……一つに……繋げるんだ……」

果林「なに……言ってる……の……?」

善子「……狂ってる……」

愛「狂ってる? ……あははっ! だろうねっ! アタシはりなりーを失ったあの日から、もう狂ってるんだよ!! ……りなりーを奪った、世界のせいで……!」

果林「奪ったって……あ、あれは事故で……」

愛「あれが本当に不幸な事故だったと思ってんの?」

果林「え……」

愛「……確認したらさ……ウルトラスペースシップに細工してやがったんだよね……アイツら……。……ご丁寧にアタシたちが出発前点検を済ませた後に……」

彼方「ま、まさか……それじゃあ、あの事故は……」

愛「そうだよ。……政府方針に反対するアタシたちを消すために……仕組まれたんだよ」

果林「そん……な……」

愛「だから、こんな世界に未練なんてない。アタシはりなりーの望みを叶える。他のことなんてどうでもいい。……あはははははっ!! やっとこの時が来たんだ……!!」


愛ちゃんは高笑いを上げながら、そう宣言する。

そのとき、


リナ『──そんなこと、璃奈は望んでないッ!!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||


大きな声をあげながら──私の傍から、リナちゃんが飛び出した。


侑「リナちゃん……!?」


勢いよく飛び出したリナちゃんが、愛ちゃんの目の前に相対する。
640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:15:57.17 ID:djK6Kzqg0

愛「……何?」

リナ『璃奈はそんなこと望んでない!!』 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「……リナちゃん……だっけ? 名前が同じだけのロトム図鑑の分際で……りなりーの何がわかるの?」

彼方「愛ちゃん、その子は璃奈ちゃんなの!!」

愛「……は?」

彼方「璃奈ちゃんの記憶を持ってる子なの……!!」

愛「嘘でしょ……?」

リナ『彼方さんの言ってることは……嘘じゃない……。私はロトム図鑑じゃない。……璃奈の記憶をベースに作られた……AIだよ』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……ベースに……か」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………じゃあ、答えてよ……」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………君は……りなりーなの……?」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」

リナ『…………璃奈では……ない。……私は……コピー。……璃奈は今も……情報として……どこかを……漂ってる……。……璃奈は……もう……絶対に生き返らない……』 || 𝅝• _ • ||

愛「………………。…………だよね…………知ってる。……知ってるよ。……だって──りなりーの作った理論に……そう書いてあったから……りなりーの提唱した理論には……一度情報レベルでバラバラになった人間を……完全に復元するのは絶対に不可能だって……」

リナ『…………』 || 𝅝• _ • ||

愛「何度も何度も何度も何度も何度も何度も……計算しなおした……。もしかしたら、万に一つ、億に一つ、兆に一つ……あの理論が間違ってて……りなりーを救える可能性があるかもしれないって。でも…………りなりーが作った理論が……間違ってるはず、なかった……。……ないんだ……。……だって、りなりーが作った理論だから……。……りなりー自身が……もうりなりーが帰ってこないことを……証明してたんだ……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「でもさ……」


愛ちゃんはギュッと拳を握りしめて──


愛「……こんなときくらい──嘘……吐いてよ……」


絞り出すような声で……そう、言った。


リナ『……愛、さん……』 ||   _   ||

愛「そうじゃなきゃ……アタシ……っ……。……もう、本当に……止まれないじゃん……っ……」


愛ちゃんは──泣いていた。

直後──アーゴヨンの背後に巨大なウルトラホールが出現し、


愛「…………もう……全部終わりだ……この世界も、この宇宙も……全部……一つになる……。……りなりーと……一つになって……繋がるから……──」

リナ『愛さんっ!!』 || > _ <𝅝||


愛ちゃんは……ホールに飲み込まれて──消えてしまったのだった。



641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:17:41.04 ID:djK6Kzqg0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【ウルトラキャニオン】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.○⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口

642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/06(金) 17:18:11.36 ID:djK6Kzqg0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:255匹 捕まえた数:10匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:221匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:251匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:224匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.5 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:46:19.80 ID:Xct6+7De0

■Chapter071 『終焉と絶望。……それでも──』 【SIDE Yu】





リナ『…………』 ||   _   ||

侑「リナちゃん……」

リナ『…………ごめんなさい……愛さんを……止められなかった……』 ||   _   ||

歩夢「リナちゃん……」

かすみ「リナ子……!! なんで、嘘吐かなかったの!? 愛先輩の言うとおり、あそこで自分が璃奈だって言ってれば……!!」

しずく「かすみさんっ!! リナさんの気持ちも考えて!!」

かすみ「でも……!! このままじゃ世界、滅んじゃうんでしょ!?」

しずく「そ、それは……」

リナ『うぅん、かすみちゃんの言ってることは正しい……。……合理的に考えれば、あそこは嘘を吐いてでも止める場面だった』 ||   _   ||

侑「……じゃあ、どうして……嘘を吐かなかったの……?」

リナ『………………私…………愛さんには…………嘘……吐けなかった……。…………大好きな愛さんにだけは…………嘘……吐けなかった…………』 || 𝅝• _ • ||

かすみ「…………リナ子……。…………ごめん」


それは……リナちゃんが、どうしようもなく璃奈ちゃんだったから……愛ちゃんの目の前で……璃奈ちゃんの死を肯定せざるを得なかった。


侑「…………」


やるせなかった。

でも、もう……どうすればいいか。

みんなが沈黙する中……口を開いたのは──


歩夢「……愛ちゃんを、止めに行こう」


歩夢だった。


侑「歩夢……?」

歩夢「私……愛ちゃんの気持ち……ちょっとだけ……わかる気がするんだ……」

かすみ「ま、マジですか……?」

歩夢「……もし、侑ちゃんが……死んじゃったとして……。……それでも、侑ちゃんに繋がる何かがあったら……私はそれが世界を滅ぼすことになるんだとしても……きっと手を伸ばしちゃうと思う……」

侑「歩夢……」

歩夢「……大好きな人に嘘を吐けなかったリナちゃんの気持ちも……わかるよ……。……好きな人に嘘吐くのって……苦しいし……悲しいもん……」

リナ『歩夢さん……』 || 𝅝• _ • ||

歩夢「でも……それってどっちも、大好きで、大切だから、そう思うんだよね……? ……お互いを想い合う……大好きな気持ちのせいで……誰も望まない未来を選んじゃうなんて……悲しすぎるよ……」


歩夢の言うとおりだ。……こんな悲しい結末で、終わらせちゃダメだ……。


侑「……ねぇ、リナちゃん」

リナ『なぁに……?』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃんはどうしたい? ……オリジナルとか、コピーとかじゃなくて……。……リナちゃんはどうしたい?」

リナ『私は……』 ||   _   ||


リナちゃんは少しだけ悩んでいたけど──


リナ『……私は──愛さんを救いたい……!! 愛さんに、この世界で生きる未来を……選んで欲しい……!!』 || > _ <𝅝||
644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:47:53.84 ID:Xct6+7De0

リナちゃんはそう、自分の気持ちを口にしてくれた。


侑「……うん! じゃあ、決まりだ」

歩夢「愛ちゃんを止めに……行こう……!」


私は歩夢と頷き合う。


かすみ「……そうですね……。……このまま、世界が消えるのを黙って待つなんて……絶対お断りですし」

しずく「せっかく、ここまで来たんですから……ハッピーエンドで終わらせないと、納得行きませんよね」


かすみちゃんとしずくちゃんが、歩み出る。


せつ菜「こんな形で、世界を終わらせるわけに行きません。……やっと、私は私を始められるんですから……!」

エマ「なにが出来るかわからないけど……。……誰かを想う気持ちが、悲しい結果になるのは……嫌だから……。わたしにも手伝わせて……!」


せつ菜ちゃんとエマさんが、協力を申し出て。


果林「……仲間の不始末は……さすがに責任取らないとね」

彼方「そうだね〜。一発愛ちゃんには厳しく言ってやらないと! 一人で考え込むな〜って」


果林さんと彼方さんが、仲間の為に決意する。


リナ『みんな……』 || 𝅝• _ • ||

侑「リナちゃん……! 愛ちゃんを止めに行こう……!」

歩夢「大切な人を想う気持ちを……悲しい結末にしないために……!」

リナ『……うん!』 || > _ <𝅝||


私たちは最後の戦いに臨むために……覚悟を決めた。



645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:49:14.34 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





曜「とりあえず……愛ちゃんが具体的に何しようとしてるのかが、私たちにはよくわからなかったんだけど……」

善子「そうね……まず、その説明をしようかしら……」

せつ菜「確か……特異点のインフレーション……とか言ってましたよね……?」

しずく「それによって、全宇宙のエネルギーを均一化するとも……」

かすみ「果林先輩たちの世界って、エネルギーが他の世界に偏っちゃうから困ってたんですよね……? 均一化ってことは……みんなで平等に分け合うってことじゃないんですか?」

リナ『うぅん、そういう次元の話じゃない。エネルギー差異の完全均一化は全ての熱的活動の終焉を意味する』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「……???」

善子「えーっと……そうね……。めちゃくちゃ簡単に言うなら……熱いの反対は冷たいだけど……それが全部一定になったら、熱いも冷たいもなくなっちゃうって話かしら」

せつ菜「つまり……相対概念の消失……でしょうか」

リナ『そういうこと。さらにこれは、何も熱に限った話じゃない。光は暗いから明るい、空気が多い場所から少ない場所へ移動するから風が吹く……みたいに、ありとあらゆる現象はエネルギーの差異によって生じてる。これがなくなると……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「えっと……熱さもないし、明るさもないし、風もない世界になる……ってこと……?」

リナ『それどころか、物質もエネルギーが動き続けてることによって存在してるから、エネルギー差異が完全消滅したら……全ての物質がなくなるに等しい。人やポケモンどころか、星も……宇宙すらも』 || ╹ᇫ╹ ||

花丸「つまり……無……」

かすみ「え……!? そ、それ……めちゃくちゃやばいじゃないですか……!?」

善子「だからヤバイって言ってるでしょ……。これが全宇宙の熱量的な終焉──熱的死と言われてる。愛はそれを無理やり引き起こそうとしている」

果林「つまり……全宇宙が滅びるってことね」

彼方「果林ちゃん……あんまり、わかってないよね?」


とりあえず……愛ちゃんを止めないと、全てが滅んじゃう……ってことはわかったかな……。

となると、次に話すべきは……どうやって愛ちゃんを止めるかだ。


善子「だから、私たちは愛が事を起こす前に、追い付いて止めないといけないんだけど……そもそも特異点ってシップで行けるの?」

リナ『たぶん……無理……。……特異点って言っても愛さんが行こうとしてるのは特異点の中核……。普通のシップじゃ行けたとしても、途中でバラバラになる……』 || > _ <𝅝||

善子「そうよね……向こうはキズナ現象を起こした規格外のアーゴヨンに……覚醒したディアルガ、パルキア、ギラティナまで持ってる……。それによって、やっとたどり着けるってことよね……」

リナ『速度自体はポケモン単体の速度よりかは全速力シップの方が上だから、もしかしたら特異点に着くまでに追い付くこと自体は出来るかもしれないけど……』 || 𝅝• _ • ||

果林「シップ内に居たらウルトラスペース内での戦闘は無理……。……追い付いたところで無抵抗のまま墜とされるのが関の山ね」

侑「となると必要なのは……ウルトラスペースを自由に航行すること、かつウルトラスペース内で戦闘して愛ちゃんを止められること……か……」

しずく「ウルトラビーストに乗って移動するのはどうでしょうか? 確かウルトラビーストには、ウルトラスペースのエネルギーを中和する効果があるんですよね? それなら、生身の人間でも活動出来るはずです!」

彼方「確かにそうだね〜……実際、愛ちゃんはアーゴヨンでウルトラスペース内のエネルギーを中和して、航行してるはずだし……」

善子「でもあのアーゴヨンは特別……エネルギーの出力的に普通のウルトラビーストじゃ追い付けないわよね?」

リナ『うん。速度の面でも、活動限界時間を考えても、普通のウルトラビーストで飛び出すのは少し無謀かも……』 || 𝅝• _ • ||

花丸「ちなみに……愛ちゃんはどれくらいで、その特異点とやらにたどり着くずら?」

リナ『私たちが以前行ったことがあるのは、あくまで重力圏内までだったけど……中核となると、全速力のシップでも何年も掛かるような距離だから、多少の余裕はある……と思う。ただ、ディアルガやパルキアがいるから、時空を歪めて加速とかはしてそう……。ざっくり1ヶ月くらいがボーダーだと思った方がいいかも……』 || > _ <𝅝||

遥「どちらにしろ……向こうが時空を操って移動出来る以上……こちらもかなりの水準でワープ航行レベルの速度が求められることになります……」

千歌「条件が厳しすぎるよ〜……」


確かに、必要とされていることはわかりやすいかもしれないけど……それを満たすことがあまりに難しすぎる。

早くも議論が詰まってしまったところで、口を開いたのは、


かすみ「は〜……相変わらず皆さん、難しく考えすぎなんですよ……」
646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:50:01.55 ID:Xct6+7De0

かすみちゃんだった。


侑「何か考えがあるの……?」

かすみ「はい! 要は超速くて超強いウルトラビーストを捕まえれば万事解決です!」

しずく「それが出来たら苦労しないでしょ! 真面目に考えなさい!」

かすみ「いひゃい〜……ほっへひっはららいれ〜……」


かすみちゃんがしずくちゃんにほっぺを引っ張られて悲鳴をあげる。


姫乃「……とりあえず、ここでうんうん唸っていても仕方がないので、ひとまずシップをこちらに持ってきます」

遥「そういうことなら、姫乃さんの手錠……一旦外しますね。いいよね、お姉ちゃん?」

彼方「うん。さすがにこんな状況だし、敵も味方もないからね〜……果林ちゃんのも一旦外してあげるね〜」

姫乃「助かります」

果林「お願い」


姫乃さんたちが、シップの移動へと動き出す中──


侑「うーん……新しいウルトラビーストか……」


私はかすみちゃんの考えは、案外悪くない気はしていた。

今のこっちのカードじゃ、どっちにしろ追い付くことすら難しいというなら……新しい航行方法を得る方がまだ可能性がある気がするし……。

向こうがポケモンの力によって無理を通しているなら、それを覆すにはこっちも無理を通せるだけのポケモンの力が必要なんじゃないかな……。

そのときふと──


 「────」
侑「コスモウム……?」


彼方さんのコスモウムが、私の前に舞い降りてきた。

……確かに修行中にそこそこ仲が良くなったポケモンではあるけど……。


侑「そういえば、コスモウムもウルトラビーストなんだっけ……」
 「────」


まあ……あまりに遅すぎて、追い付くとかそういう次元じゃないんだけど。


歩夢「侑ちゃん……何か思いついた……?」

侑「うぅん……全然……。……歩夢は?」

歩夢「私も……なかなかいい案が思い浮かばない状態……」

侑「だよね……」
 「────」


二人で悩んでいた、そのとき──唐突に歩夢の胸元が輝きだした。


歩夢「えっ!? 何……!?」


歩夢が驚きの声をあげると同時に──


 「──ピュィッ!!!!」
歩夢「……! コスモッグ……! ずっと私の服の中に居たの……?」


コスモッグが飛び出し、光り輝いていた。その光は──今までにも、何度か見たことのある光だった。
647 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:50:44.54 ID:Xct6+7De0

侑「こ、これってまさか……!?」

歩夢「進化の光……!」


光に包まれたコスモッグは──


 「────」


紅い水晶を持った、コスモウムへと……進化した。

そして、再び歩夢の胸元に降りてくる。


侑「コスモウムに進化した……」

かすみ「……ちょーっと待ってください……? コスモッグが進化しちゃうと、ウルトラスペースシップのエネルギーが取り出せなくなっちゃうんじゃ……!?」

果林「……そうね」

かすみ「ぬわーーー!? ますます、シップで追い付く希望がなくなっちゃいました〜〜〜!?」


かすみちゃんが頭を抱えるけど──


彼方「…………」

果林「…………」


果林さんと彼方さんが、急に口元に手を当てて何かを考え始めた。


エマ「果林ちゃん……? 彼方ちゃん……?」

果林「……ねぇ、彼方……もしかして、今私と同じこと考えてない?」

彼方「……奇遇だね〜、彼方ちゃんも今、果林ちゃんが同じこと考えてる気がしてたよ〜」


果林さんと彼方さんは、リナちゃんの方に向き直る。


果林「リナちゃん、コスモウムは……太陽の化身か月の化身に姿を変えるって前に言ってたわよね?」

彼方「それが本当なら……もしかしたら……追い付けるんじゃない……?」

リナ『……! 確かに、コスモウムは大きなエネルギーを内包している繭みたいな状態……それが覚醒して進化した姿なら……! もしかしたら……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||

歩夢「それじゃ、この子たちを進化させれば……!」
 「────」

侑「ってことは……」
 「────」

かすみ「コスモウムを持ってる歩夢先輩と彼方先輩なら、乗り込めるってことですか……!?」

彼方「んー……一人は歩夢ちゃんだけど……もう一人は彼方ちゃんよりも──侑ちゃんがいいと思う」

侑「え!? な、なんで!?」
 「────」

彼方「コスモウム……さっきから侑ちゃんの周りを漂ってるし……」

侑「え?」
 「────」


言われてみれば、確かにコスモウムが私の周りをくるくると回っていた。
648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:52:42.72 ID:Xct6+7De0

侑「……ホントに私でいいの……?」
 「────」

彼方「……コスモウムはもしかしたら……ずっと主を探してたのかもしれないね」

侑「え……?」
 「────」

彼方「だって、彼方ちゃんの傍に4年も居たのに……進化の兆しすらなかったんだもん」

果林「太陽の化身、月の化身になぞらえて、“SUN”と“MOON”の称号を組織内で最も強い二人に与えていた……。それは単純な強さが化身の力を呼び覚ますと思っていたからだという節があるわ。……でも、本当はそうじゃなかったかもしれない」

侑「それって、一体……?」
 「────」

彼方「それが何かはわからないけど……コスモウムは侑ちゃんに、その何かを見出したんじゃないかな」

侑「……そういうことなの? コスモウム?」
 「────」


周りを飛びまわっているコスモウムに訊ねても、言葉が返ってくるわけじゃないけど……。

大人しかったコスモウムがこんなに活発に動き回っている様子が、答えなんじゃないだろうか。


侑「……わかった。それじゃ……私と一緒に来て、コスモウム」
 「────」

歩夢「侑ちゃん……!」
 「────」

侑「うん……! コスモウムたちを進化させよう……!」
 「────」





    🎹    🎹    🎹





──現在私たちは、ウルトラスペースシップに乗り込み……私たちの世界を目指しているところだ。


姫乃「果林さん、本当に全速でいいんですね……!? ここで燃料を使ったら、確実に愛さんを追いかけることはできなくなりますが……」

果林「ええ。とにかく、戻るのを優先して。どっちにしろ、シップで追い付けないなら、コスモウムたちが進化することに賭けた方がいい」

姫乃「……わかりました」


速いと言っても1日以上は掛かるらしいので、私たちは移動の時間を使いコスモウムの進化条件について考えているところだった。


リナ『私が以前読んだ石碑の碑文のとおりなら……コスモウムは、日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変えるって記されてた』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「太陽と月が交差する場所……」
 「────」

歩夢「どういうことかな……?」
 「────」


コスモウムたちは、どんどん活発に私たちの周囲を衛星のように回っている。

まるで、進化のタイミングを今か今かと待っているかのように……。

コスモウム側の準備が出来ているなら、あとは条件を整えてあげるだけだけど……。
649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:53:26.40 ID:Xct6+7De0

しずく「人の心に触れという文面からして……確実に進化する場所があるのは、文明のある世界だと考えていいでしょうね」

かすみ「つまり、かすみんたちがさっきまでいた世界じゃ、どう足掻いても進化しないってことだよね……」

せつ菜「はい。……それで、日輪と月輪が交差する時というのですが……単純に昼夜が切り替わる瞬間のことではないでしょうか?」

かすみ「まあ確かに太陽はお昼のものですし、月は夜のものですもんね」

しずく「となると……夕暮れか夜明け……ですかね」

侑「確かに、試してみる価値はあるよね」

歩夢「じゃあ、時間は夕暮れか夜明けとして……問題は場所だよね……」

かすみ「うーん……日輪と月輪が交差する場所……。太陽と月……どっちにも近い場所ですかね?」

せつ菜「天体に少しでも近いとなると……宇宙?」

リナ『それだと、昼夜の概念と人の心に触れって場所がおかしくならない?』 || ╹ᇫ╹ ||

せつ菜「あ、確かに……」

かすみ「じゃあ……一番近い場所……高い場所ってこと?」

しずく「……あぁっ!!」


そのとき、しずくちゃんが突然大きな声をあげる。


かすみ「ちょ……び、びっくりさせないでよ、しず子……!」

しずく「あ、ありました……! 太陽と月と縁の深い場所……!」

侑「ほ、ホントに……!?」

歩夢「どこなの……?」

しずく「カーテンクリフの遺跡です! あそこには、太陽信仰と月信仰があったと考えられていたはずです!」

せつ菜「確かに……私も同じような話を聞いたことがあります」

かすみ「太陽と月を同時に崇めるなんて、欲張りな遺跡ですねぇ……」

せつ菜「確か……真西から日差しが差すときと、真東から日差しが差すときに、雲海に映る巨大な人の形をした影を神として崇めた……とかだったような……。……もちろん、その正体は自分自身の影なんですけど……。東に見た場合と西に見た場合、両方の人が主張をした結果、2つの信仰が生まれたという話だった気がします」

しずく「せつ菜さん……詳しいですね」

せつ菜「私は修行でよく登っていたので……気になって調べたこともありますし、実際に西にも東にも巨人の影を作ってみたことがありますよ! それと、もう一つ……あそこには面白い話があるんですよ」

歩夢「面白い話……?」

せつ菜「時間帯で……遺跡の呼び方が変わるんです」

かすみ「へ? なんでですか……?」

侑「地名そのものが変わるってこと……?」

しずく「……そっか、夕暮れか夜明けかによって、崇拝対象自体が変わるから……」

歩夢「あ、なるほど……夕暮れの神様を崇拝した呼び方と、夜明けの神様を崇拝した呼び方があるんだ……」

せつ菜「はい! そういうことです! 夕暮れ時が近づくと“黄昏の階(たそがれのきざはし)”、夜明け時が近づくと“暁の階(あかつきのきざはし)”と呼ぶそうですよ」

侑「じゃあ、交差するって言うのは……」

せつ菜「黄昏と暁が切り替わる場所……と考えれば辻褄が合うのではないでしょうか」

かすみ「なんかそれっぽい気がしてきました……!」

侑「……ふふ♪」


──ふと、笑みが零れてしまう。
650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:54:33.76 ID:Xct6+7De0

歩夢「? 侑ちゃん? どうかしたの?」

侑「あ、ごめん……なんか、みんなどんどんアイディアが飛び出してきて、あっという間に正解なんじゃないかって場所にたどり着いちゃったから……なんか、すごいなって思って」

せつ菜「皆、それぞれに旅をしてきましたからね……その経験と知識が集まれば、わからないことなんてありませんよ!」

しずく「ですね。私たち、本当にいろんな場所を見て回ってきましたから……!」

かすみ「もしかしたら、かすみんたち……こうして世界を救うために、冒険の旅に出たのかもしれませんね!」

せつ菜「そう考えると、RPGの勇者一行みたいでかっこいいですね!!」

歩夢「ふふ……♪ 最初は、どうして自分が選ばれたのかわからなくって悩んでたのに……今は世界どころか……全宇宙を救おうとしてるなんて、あのときの私が知ったらびっくりして倒れちゃうかも……♪」


本当に……本当に、たくさんのものを、この旅の中で見てきた。辛いことも、悲しいことも、苦しいこともたくさんあったけど……それでも、思うんだ──


侑「……私……旅に出られて、本当によかった……。……歩夢、ありがとう」

歩夢「え?」

侑「歩夢が居てくれなかったら私……今ここに居なかった。……歩夢のお陰で偶然イーブイと出会って、たまたまポケモン図鑑を貰って……こうして、みんなと一緒に冒険できたことが……本当に夢みたいなんだ。だから──」


最後まで言おうとして、


歩夢「……違うよ、侑ちゃん」


歩夢に人差し指で口を押さえられる。


侑「……?」

かすみ「侑先輩、わかってないですねぇ……。いつまで経っても、自分はあくまで歩夢先輩のおまけみたいに言うんですから……」

しずく「侑先輩は、脇役なんかではありませんよ」

せつ菜「そのとおりです。侑さん、貴方はもう立派な強さと志を持った── 一人のトレーナーじゃないですか」

侑「……みんな……」

歩夢「……私が居たから、侑ちゃんがここに居るんじゃないよ。侑ちゃんがここまで歩いてきたから……侑ちゃんはここに居るの」


歩夢はそう言って私の手を握る。


侑「歩夢……」

歩夢「そして……それはみんな同じ。……侑ちゃんは私たちと何も変わらない」

しずく「もし侑先輩の旅立ちが偶然なら、私たちの旅立ちだって偶然ですよ」

せつ菜「むしろ、侑さんの場合は自分で掴んだ結果です。そんな消極的に捉えられたら、私の立つ瀬がないじゃないですか! もっと自信を持ってください!」

かすみ「選ばれたかすみんたちと侑先輩、じゃありませんよ。私たち5人みんなが、ヨハネ博士に選ばれたトレーナーです!」

侑「……!」


──私は、無意識のうちに、引け目を感じていたのかもしれない。

自分は選ばれたわけじゃないから。選ばれたみんなに便乗させてもらっただけだ……なんて。

でも、そうじゃない。……そうじゃ、なかったんだ。

本当は、きっかけなんて……どうでもよかったんだ。

私たちはみんな──旅に出て、いろんな景色を見て、時に悩んで、考えて、戦って……ポケモンたちといろんな困難を乗り越えてきた、一人の──ポケモントレーナーなんだ。


侑「そっか……そうだよね……」
 「ブイ♪」

歩夢「イーブイも侑ちゃんとの出会いが偶然なんて言われたら、嫌だもんね〜?」
 「ブイ!!」

歩夢「ほらね♪ イーブイに怒られないように、侑ちゃんも胸を張って。ね?」

侑「……うん!」
651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:55:22.59 ID:Xct6+7De0

だから、私は言い直す。


侑「みんなと旅が出来て……本当によかった! これからも、そんな旅が続けられるように……私たちで守るんだ!」


私の言葉に、みんなが頷く。

決意を胸に──シップは進んでいく。





    😈    😈    😈





──ローズシティ、病室。


善子「入るわよ」

鞠莉「……返事くらい待ちなさい」

善子「……こてんぱんにされたって聞いてたから、そんなこと言えるくらいには回復してるみたいでよかったわ」


そう言いながら、私はマリーの横にある椅子に腰かける。

ウルトラキャニオンから戻ってきてすぐ……私たちは海未からの報せで、瀕死のマリーたちが病院に担ぎ込まれた話を聞いた。

だから、こうして師の見舞いに来たというわけだ。


鞠莉「こんなことしていていいの? まだ、終わってないんでしょ?」

善子「出来ることがないだけよ。大勢で遺跡に押し寄せてもしょうがないからね……それに……」

鞠莉「それに……?」

善子「未来は……あの子たちに託してきたから」


私の自慢のリトルデーモンたちに、ね。


鞠莉「……言うようになったじゃない」

善子「ええ。マリーたちの仇は私の可愛いリトルデーモンたちが取ってくれるから、安心しなさい」

鞠莉「ふふ……頼もしい」


ウルトラビーストの出現報告も依然あるらしく……さっき言ったように、大勢でクリフの遺跡に押し寄せたところで、出来ることがあるわけではない。

だから、曜とルビィはジムに戻った。……ずら丸も何故かダリアに戻ったけど……まあ、やることがあるんでしょ。

リリーも事態が収束するまでは、ローズの防衛に参加するらしい。

そして千歌はリーグへと帰還した。

もちろん、私たちが戦う選択肢もあったけど……6人全員、満場一致だった。

未来は──新しい世代に託そう、と……。


善子「私たちは、もう前に世界を救ってるからね。おいしいところは、あの子たちにあげることにしたわ」

鞠莉「ふふっ、さっき出来ることがないって言ってたじゃない……」

善子「それはそれよ……んで、他の人たちは大丈夫なの?」

鞠莉「うん。ダイヤはさっき目が覚めたって聞いたわ。大怪我だったから、当分ベッドの上だろうけど……。あと……果南も大怪我してたはずなんだけど……」


そのとき、廊下からドタドタと騒がしい声が聞こえてくる。
652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:56:19.35 ID:Xct6+7De0

ナース「ま、待ってください〜!!」
 「ハピハピッ!!」

果南「無理〜〜!! 1ヶ月もじっとしてたら、死んじゃうって〜!!」


部屋のすぐ外で、慌ただしく果南が通り過ぎていった。


善子「……どっかで見た光景ね……」

鞠莉「まったくね……」


マリーは肩を竦める。


鞠莉「穂乃果さんは……かなり酷い怪我だったけど、どうにか意識は取り戻したみたい。命に別状はないって」

善子「そ……ならよかった」


私とマリーは、何気なく、窓の外を見る。

外には、今日も穏やかな青空が広がっていた。


鞠莉「……まさか、あと一月足らずで……この世界どころか……宇宙全てが滅びようとしてるなんてね……」

善子「本当にね……。……まあ、きっと大丈夫よ」

鞠莉「ふふ、そうね。自慢のリトルデーモンたちがいるものね♪」

善子「そういうことよ」


あの子たちは、度重なる困難を……ポケモンたちと力を合わせて、打ち破ってきた。

今回だって、きっとそうしてくれる。私はそう確信している。


善子「頼んだわよ……リトルデーモンたち……」


みんなの生きる世界を──お願いね。





    🎹    🎹    🎹





侑「……相変わらず、何度見ても長い階段だね……」
 「ブイ」「────」

かすみ「まさか、3回も登ることになるとは思ってませんでした……」


私たちは、カーテンクリフの遺跡に続く階段へとたどり着いていた。


彼方「これ……登るの〜……? 絶対無理〜……」

遥「お、お姉ちゃん、登る前から諦めちゃダメだよ……!」

姫乃「……果林さん、本当に上の遺跡に直接シップを着けなくてよかったんですか……?」

果林「でも、この階段……登った方がいいんでしょう?」

リナ『うん。進化は儀式だから。信仰では階段を登ることも儀式の手順に含まれてるみたいだし、その方が確実』 || ╹ ◡ ╹ ||

果林「じゃあ、登るしかないわね。彼方、しっかりしなさい」

彼方「はぁ……わかったよぉ……。彼方ちゃん、これでも怪我人なのになぁ……」


果林さんに言われて、彼方さんが渋々階段を登り出す。
653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:57:26.36 ID:Xct6+7De0

エマ「それじゃ……ゴーゴート、お願いね」
 「ゴォート」


足を怪我しているエマさんは、ゴーゴートの背に乗って登り出す。


果林「エマ。辛かったら、すぐに言うのよ」

エマ「うん、ありがとう、果林ちゃん♪」

姫乃「……」


仲の良さそうなエマさんと果林さんを見て、姫乃さんが不満そうな顔をしながら付いていく。


しずく「……この三角関係……ありですね……」

かすみ「なに言ってんのしず子……」

せつ菜「はっ……! こんなに長い階段……ダッシュで登れば、いい修行になるはず……!!」
 「──ベァーマッ!!」

せつ菜「ダクマ……! まさか自分から出て来るなんて……! 一緒に修行したいってことですね!!」
 「ベァーマ」

せつ菜「それでは一緒に階段ダッシュしましょう!! ……うおおおおおお!!!」
 「ベァァァァ!!!!」

歩夢「……せ、せつ菜ちゃん……これは儀式だから、ダッシュは……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……せつ菜ちゃんらしいや……」
 「ブイ」「────」

しずく「かすみさん、今回は走らないの?」

かすみ「さすがに3回目となると……ゆっくり景色でも見ながら登ろうかな……」

しずく「ふふ、そっか♪」


しずくちゃんがクスクス笑いながら、かすみちゃんと一緒に登り始める。


侑「それじゃ、私たちも行こっか」
 「────」

歩夢「うん」
 「────」


2匹のコスモウムを連れ、私たちも階段を登り始めた。





    🎹    🎹    🎹





せつ菜「──皆さーんっ!! 遅いですよー!!」
 「ベァ!!」


登っていくと、途中でせつ菜ちゃんとダクマが、足踏みしながら待っていた。


かすみ「あの人、どんだけ元気なんですか……」

彼方「……かなたひゃん…………もう、むりぃ〜……」

遥「お、お姉ちゃん……もうちょっとだから……頑張って……」


彼方さんはすでにヘロヘロで、さっきから遥ちゃんが後ろから押してあげている。
654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:58:10.01 ID:Xct6+7De0

果林「まったく……それでも元“MOON”なの……?」

彼方「だってもう4年も前の話だよ〜……? それに、彼方ちゃんのスタイルは昔から座して動かずだったし〜」

果林「……はぁ……もう、手引いてあげるから、頑張りなさい」

彼方「わ〜♪ 優しい〜♪ 優しい妹とお義姉ちゃんに挟まれて、彼方ちゃんハッピーだよ〜♪」

果林「はいはい。調子いいんだから……」

遥「ふふ♪」


あちらはあちらで仲睦まじそうだ。


せつ菜「それにしても……すっかり日が暮れてしまいましたね」


そう言いながら、せつ菜ちゃんが私たちのところまで駆け下りてくる。


かすみ「上ったり下りたり忙しそうな人ですね……」

歩夢「あはは……」
 「────」

リナ『これだと……もう黄昏時は過ぎちゃってるから……』 || ╹ᇫ╹ ||

しずく「そうなると次は、暁時ですね」

侑「頂上に行って、夜明けまで待つことになるかな」
 「────」

せつ菜「ですね! それじゃ、ラストスパートです! 行きますよ、ダクマ!!」
 「ベァーマッ!!!」

せつ菜「うおおおおお!!」
 「ベァーーー!!!」

歩夢「せ、せつ菜ちゃん……あの……だから、これは儀式で……。……行っちゃった……」
 「────」

侑「あはは……」
 「────」


私たちは頂上を目指します。





    🎹    🎹    🎹





──頂上にたどり着くと……辺りはすっかり暗くなっていました。


かすみ「野生のポケモン……いませんよね……?」

侑「……前に来たときは襲われたもんね」
 「ブィ…」


しかも、かなり強かったし……。一応、警戒して周囲を見渡すけど、


せつ菜「皆さーん! 遅いですよー!」
 「ベァーマ」


相変わらず元気そうなせつ菜ちゃんがいるだけで、野生のポケモンはいなさそうだ。

とりあえず一安心していた、そのとき──袖をくいくいっと引かれる。


歩夢「侑ちゃん……」
655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 11:59:47.61 ID:Xct6+7De0

歩夢だった。


侑「どうしたの?」

歩夢「空……見て……」

侑「空……?」


歩夢に促されて見上げると──


侑「うわぁ……!」


そこには、今にも落ちてきそうな満天の星が瞬いていた。


しずく「綺麗……」

かすみ「前に来たときは、それどころじゃなくて気が付かなかったですけど……確かにこれはすごいですねぇ……!」

侑「うん……!」


そして、そんな星空に反応するかのように、


 「────」「────」


コスモウムたちも活発に私たちの周囲を回っている。


せつ菜「コスモウムたちのこの反応……場所はここで間違いなさそうですね……!」

侑「うん! あとは、夜明けを待つだけだね!」
 「ブイ」

しずく「夜明けとなると……あと9時間くらいでしょうか……?」

彼方「そんなに待てない〜……彼方ちゃんは寝る〜……すやぁ……」

姫乃「はぁ……マイペースですね……」

果林「……とはいえ、少し長いし、休息を取る必要はありそうね……。……特に侑、歩夢。貴方たちは突入もあるから、今のうちに休んでおきなさい」

侑「は、はい!」

歩夢「わかりました」

エマ「かすみちゃんたちも先に寝ちゃっていいよ♪ 見張りはわたしたち大人がするから♪」

かすみ「そういうことなら……お言葉に甘えて……」

しずく「うん、そうだね。暁時を逃さないためにも……早めに寝て備えるべきだしね」

せつ菜「でしたら、あちらに集まって寝ましょう!」

侑「うん」
 「ブイ」


私たち図鑑所有者の5人は、先に仮眠を取らせてもらうことにする。

石畳の上にそのまま転がるのも憚られるので、シートを敷いて……薄手の毛布だけ出して、みんなで横になる。
656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:01:06.15 ID:Xct6+7De0

せつ菜「……こうして、皆さんと星空を眺めて寝るなんて……キャンプみたいでワクワクしますね!」

かすみ「あ、ちょっとわかります! ここしばらく、外でこんな風にのんびりするタイミングもなかったですし……」

しずく「もう……二人とも、遊びじゃないんですよ? 今は休息が最優先。おしゃべりしてないで寝ますよ」

かすみ「ちょっとくらい良いじゃん……しず子のケチー」

せつ菜「ですが、しずくさんの言うことも一理あります。休むときは迅速に休む。これも大事なことですよ」

かすみ「えぇー……でも、すぐに寝ろって言われても眠れませんよぉ……」

せつ菜「コツがあるんですよ。目を閉じて……力を抜いて……呼吸を深く……。………………すぅ…………すぅ…………」

かすみ「え、うそ……もう寝ちゃったんですか……?」

侑「さすが、せつ菜ちゃん……休息の速さも一流……」

かすみ「オンオフ激しすぎませんか……?」

しずく「かすみさんも見習ってね。……さ、おしゃべりは終わり。目瞑って」

かすみ「ぅ〜……わかったよぉ……」

歩夢「……侑ちゃん……手、繋いでもいい……? ……その方が……すぐ眠れるから……」

侑「うん、いいよ」
 「ブイ…zzz」

歩夢「ありがとう……♪」


胸元で寝息を立てるイーブイを撫でながら、私は歩夢と手を繋いで目を瞑る。

長い階(きざはし)を登ってきた疲れもあったのか、思いのほか、私の意識はすぐに微睡んでいった──





    🎹    🎹    🎹



──────
────
──


──夢を見た。


愛「………………りなりー……」
 「ニャァ…」


愛ちゃんが……泣いていた。


愛「りなりー……」


戸を叩いて……。


愛「ねぇ、りなりー……」


泣いていた。


愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
 「ニャァ…」


──胸が痛くなるような……悲痛な声で……。


──
────
──────

657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:01:45.92 ID:Xct6+7De0

    🎹    🎹    🎹





 『──侑さん、時間だよ』

侑「…………ん、ぅ…………」


ぼんやりと目を開けると──


リナ『おはよう、侑さん』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんが目の前に居た。


侑「おはよう……」


ゆっくりと身を起こす。


歩夢「侑ちゃん、おはよう。あったかいエネココア作るけど……飲む?」

侑「飲む……」

歩夢「わかった♪ ちょっと待っててね」


歩夢が手際よくエネココアを作り始める。

辺りを見回すと──


しずく「ほら、かすみさんしっかりして。せつ菜さんも」

かすみ「まだ……ねむぃぃ……」

せつ菜「あふぅ……頑張りまひゅ……」


しずくちゃんはもう完全に目を覚ましていて、寝起きで乱れたかすみちゃんとせつ菜ちゃんの髪を梳かしてあげている。

果林さんたちは……。


果林「………………すぅ…………すぅ…………」

彼方「……すやぁ…………はるか……ちゃぁ〜ん…………」

遥「…………すぅ…………すぅ…………」

エマ「…………くぅ…………くぅ…………」

姫乃「…………」


すでに眠っている。どうやら、私が起きるのが少し遅かったようだ。


歩夢「はい、エネココア。火傷しないようにね」

侑「ありがと……」

歩夢「こっちはイーブイの分だよ♪」
 「ブイ♪」


受け取ったエネココアを一口飲むと……甘さと温かさでなんだか、ホッとする。
658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:02:18.33 ID:Xct6+7De0

歩夢「せつ菜ちゃんとかすみちゃんも、どうぞ♪」

せつ菜「ありがとう、ございます……ふぁぁ……」

かすみ「いただきまーす……。……ふー……ふー……。……こくこく……。……えへへぇ……おいしい……」

歩夢「しずくちゃんは……今飲む……?」

しずく「あ、すみません……。かすみさんの髪を梳かし終わったら頂きます。そこに置いておいてもらえれば……」

歩夢「うん、わかった♪」
 「シャボ」

歩夢「サスケの分もすぐに用意するから、ちょっと待ってね」
 「シャボ」


みんなにエネココアを配り終わり、歩夢も私の隣に腰を下ろして、エネココアを飲み始める。

これから最後の戦いを控えているというのに、なんだか随分と穏やかな時間が流れていた。


せつ菜「もう、すっかり深夜ですね……」

リナ『夜明けまで、だいたいあと4時間くらいだね』 || ╹ ◡ ╹ ||

かすみ「4時間……そう考えるとまだ結構あるかも……」

歩夢「みんなでお話ししてたら、すぐだと思うよ♪ 彼方さんたちを起こさないように、小さな声でだけど……」

しずく「そうですね」

リナ『どんなお話しするの?』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「……それなんだけどさ。……私、リナちゃんの話が聞きたいな」

リナ『私の?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「よく考えたら……私たち、リナちゃんが……璃奈さんとして、生きていた頃のこと……ほとんど知らないから……。もちろん、リナちゃんが嫌じゃなかったらだけど……」

リナ『構わないよ。……うぅん、というより、私も侑さんたちには、知っておいて欲しいかも。ただ、ちょっと長い話になっちゃうけど……いい?』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんの言葉を受けて、みんなが首を縦に振る。


侑「うん。……聞かせて、リナちゃんのこと」

リナ『わかった。……それじゃ、話すね。私が……プリズムステイツで──愛さんたちと過ごした、日々のこと……』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんはそう前置いて……生きていたときの──昔話を語り始めた……。



659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:04:01.07 ID:Xct6+7De0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/07(土) 12:04:43.14 ID:Xct6+7De0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:28:01.72 ID:5MWtUFJH0

■Chapter072 『ツナガル物語』 【SIDE Rina】





璃奈「──え、えっと……い、以上の観測結果から……この世界とは別のところに、高次元空間が存在してて……えっと……ポケモンの発生させるエネルギーによって、空間を歪曲させて……じ、実際にアクセス出来る可能性……」


──私は、スクリーンに映し出された研究発表のスライドと共に、自分の考えている理論を、手元のメモを見ながらたどたどしく読み上げる。

でも……そんな私──テンノウジ・璃奈の研究発表を聞いている人はほとんどいない。

先ほどまで、たくさん人がいたはずなのに……最後の順番である私のときには、室内に残っているのは2〜3人しかいなかった。

……いや、順番を最後に回した時点で……最初から誰も、私の話なんて聞く気がなかったんだと思う。

きっと、私が──研究所の創設者の娘だから……お情けで発表の場を作ってくれただけなんだと思う……。


璃奈「……い、以上で……は、発表……終わり……ます……」


私が発表を終えると、残って聞いていた数人の人たちも、部屋を退出していく。

私も足早に、この場を後にしようとした、そのとき──

──パチパチパチと、拍手が聞こえてきた。


璃奈「……?」


チラりと目をやると──金色の髪をした女の子がパチパチと拍手をしていた。

これが──私と愛さんの出会いだった。





    📶    📶    📶





発表を終え、早く自分の研究室に戻ろうと、せかせかと通路を歩く。

道中、研究員の姿を何人か見かけたけど……みんな私の姿を見ると、目を逸らしてこそこそと離れていく。

そんな日常にも、もうとっくの昔に慣れてしまった。

でも、そんな中──


 「──ねぇ〜! 君〜! 待って待って〜!」

璃奈「……?」


後ろから、大きな声で私を呼び止める人がいた。


愛「もう〜……さっさと退出しちゃうからびっくりしたよ〜!」


それは、さっきの金髪の女の子だった。


璃奈「えっと……」

愛「さっきの研究発表、すっごく面白かったよ!」

璃奈「ありがとう……ございます……」


お礼を言いながら、私は彼女を観察する。……歳は……十代前半かな。……でも、私よりは少し年上かも。

若い研究者はたくさんいるけど……その中でも一際若い気がする。

それに女性はちょっと珍しい……。
662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:28:44.16 ID:5MWtUFJH0

愛「アタシ、最近ここに来たばっかりでさ〜……若くて、まあ女じゃん? だから、周りのおじさんたちの目が厳しくてさ〜……。だから、君みたいな小さな女の子がいると思わなくて、びっくりしちゃったよ!」

璃奈「小さな女の子……。……私……13歳です……。……そんなに、変わらないと思う……」

愛「え……!? あ、愛さんと1つ違い……!? 10歳くらいだと思った……」


それは……よく言われる……。

私は背が低いから、特に……。


愛「でもそれって同年代ってことだよね!! ホント愛さん、同年代の子と会えるなんて思ってなかったから嬉しいよ!! ……あ! アタシ、ミヤシタ・愛って言うんだ!」

璃奈「……テンノウジ……璃奈……」

愛「んじゃ、りなりーだね! よろしく!」

璃奈「りなりー……」


彼女は、私の手を握ってぶんぶんと上下に振る。

なんというか……距離の詰め方が……すごい……。


愛「でさでさ! アタシ、もっとりなりーの話聞きたくってさ! だから、今からりなりーの所属してる研究室に行こうと思ってたんだ〜!」

璃奈「え?」

愛「いい?」

璃奈「……いい……けど……」

愛「そんじゃ、レッツゴー!」

璃奈「わ……!」


彼女は私の手を引いて走り出す。


璃奈「わ、私の研究室の場所……わかるの……?」

愛「……あ!」


私の言葉を聞いて、急に止まる。


愛「……わかんない……案内して!」

璃奈「……こっち……」


今度は逆に彼女の手を引いて、私は自分の研究室を目指して歩き出す。





    📶    📶    📶





愛「ここがりなりーの研究室なんだね!」

璃奈「……うん」


部屋に入るなり、彼女は興味深そうに、私の研究室内をキョロキョロと見回す。

面白いものとか……別にないんだけど……。
663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:29:37.26 ID:5MWtUFJH0

愛「他に室員の人は?」

璃奈「……いない。この研究室は、私だけ……」

愛「え、そうなん?」

璃奈「強いて言うなら……」

 「…ウニャァ〜」


机の影から──ニャスパーがとてとてと私の足元に寄ってくる。

そんなニャスパーを抱き上げて見せる。


璃奈「この子くらい……」
 「ニャァ〜」

愛「おぉ、ニャスパーじゃん! よろしくね、ニャスパー!」

 「ウニャァ〜」

愛「この子はりなりーのポケモン?」

璃奈「正確には……お父さんとお母さんのポケモンだけど……」
 「ニャァ〜」

愛「へー、お父さんとお母さんも研究者だったりするの?」

璃奈「……うん。というか、この研究所の創設者」

愛「創設者!? え、めっちゃ偉い人じゃん……! どーりで、りなりーがその歳で自分の研究室持ってるわけだ……。……って、創設した人に挨拶もしないとか、さすがにやばいな……。ねぇ、りなりー! お父さんとお母さんに挨拶させてよ!」

璃奈「……無理。……それは出来ない」

愛「そう言わずにさ〜……」

璃奈「……出来ない。……もう、お父さんもお母さんも……いないから」

愛「……え」


彼女は言葉を詰まらせる。


璃奈「お父さんと、お母さんは……私が8歳のときに……研究中の事故で死んじゃったから」

愛「あ……ご、ごめん……」

璃奈「……別にいい。気にしてない。だから、この研究室は正確には私の研究室じゃない……。……お父さんとお母さんの研究室。二人が死んじゃってからは……ずっと私一人」


私は生まれたときからこの研究所で育ってきたから……ここは実質自分の家のようなものだ。


愛「……お父さんとお母さんとの思い出の研究室だから、他に誰も研究者を入れてないってこと……?」

璃奈「そういうわけじゃない。……誰も寄り付かないだけ」

愛「寄り付かない……? なんで……?」

璃奈「創設者の娘である私に嫌われたら、ここに居られないかもって考えてるからだと思う……。……だけど、私はこの研究所で一番子供。そんな人間の下について研究したいとも思わないだろうし、そんな人間を自分の下に付けたいモノ好きもいない」


つまり、腫れ物扱い……ということだ。


璃奈「相続はしてるから、私の研究所ということにはなってるけど……実際に管理しているのは別の人だし、私に誰かを追い出す権利とかはないと思う……。それでも、創設者の娘との間に問題が起こる可能性を考えて、近寄らないのがベターって思うのは合理的だと思う」

愛「合理的って……」

璃奈「別にそれに不満はない。この時代に住む場所に困らないだけでもすごくありがたいし、ご飯も食堂で作ってもらえる」


服も白衣を支給してもらえるし……衣食住に困らないだけで、十分な話だ。
664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:30:13.49 ID:5MWtUFJH0

璃奈「私はこの研究所で……お父さんとお母さんが遺した研究の続きが出来れば、それでいい」

愛「お父さんとお母さんが遺した研究……? ……じゃあ、さっき発表してたのは……」

璃奈「うん。お父さんとお母さんが研究してたこと。私の目的は……二人の考えていた理論を完成させること……」

愛「…………」

璃奈「だから、貴方がお父さんとお母さんが研究していたことに興味を持ってくれたのは素直に嬉しい。……だけど、私と関わってると研究所で居づらくなるかもしれない。……だから、あんまり私と関わらない方がいいよ」


私は彼女に向かって、ここにいると損することを伝える。

だけど彼女は、ここを去るどころか──


愛「……ずっと……一人で頑張ってたんだね……」


そう言いながら、私を抱きしめてきた。


璃奈「……えっと……?」

愛「……決めた」

璃奈「? 何を?」

愛「アタシ、この研究室に入る」

璃奈「え……?」


私は彼女の言葉に驚く。


璃奈「……なんで?」

愛「なんでって……今の話聞いちゃったら、ほっとけないって!」

璃奈「……ここは他の研究室に比べて予算も少ない。扱ってるテーマも特殊だし……何よりこの研究室に入ったって知られたら、貴方も他の所員から良い顔をされないと思う。メリットがない」

愛「メリットとか、デメリットとか、そういう問題じゃないんだって……!」

璃奈「……貴方が優しい人なのはわかった。その気持ちは嬉しい。ありがとう。……だけど、私は一人で大丈夫だから。これまでもずっとそうだったし……」

愛「大丈夫だって言ってる子は……そんな寂しそうな顔しないぞ」

璃奈「……え?」


彼女はそう言いながら、私の頬に手を添える。


璃奈「私……寂しそうな顔……してる……?」

愛「……してるよ」

璃奈「……私、研究所の人たちが、私は無表情で何考えてるかわからないって噂してるの、知ってる……きっと思ってても、そんな顔はしてない」

愛「……それは、他の人たちがりなりーのこと、ちゃんと見てないからだよ……」

璃奈「……」

愛「とにかく、もう決めたから! アタシ、この研究室に入る! 入室手続きとかっている?」

璃奈「別に……いらないけど……」

愛「おっけー! じゃあ、今いる研究室抜けてくるから、ちょっと待ってて!」


それだけ言うと、彼女は部屋から飛び出して行った。


璃奈「……行っちゃった……」


そして、30分もしないうちに、彼女は自身の所属研究室を抜けて、私の研究室に荷物を抱えて戻ってきたのだった。



665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:30:51.24 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「こっちが執務室……こっちが私の部屋で……こっちがシャワールーム。……実験室はあっち」

愛「おー……この部屋って、いろいろ揃ってるんだね」

璃奈「私たち家族の住居スペースを兼ねてたから、ここだけでも生活が送れるようになってる。ご飯は食堂に行くことがほとんどだけど……」


キッチンもあるにはあるけど、お父さんもお母さんも研究一筋の人だったし、使ったことはほぼなかった。


愛「なるほどね。んじゃ、ここに愛さんの荷物置いちゃうよ?」


そう言いながら彼女は、自分の私物らしきものを執務室に置く。


愛「研究系の資料は、そっちに運んでっと……」

璃奈「あの……本当にいいの?」

愛「ん? 何が?」

璃奈「さっきも言ったけど……ここで扱ってるテーマは特殊……。……貴方が研究したいことも研究出来るか……」

愛「さっきから気になってたんだけど……その貴方って呼び方やめよっか」

璃奈「え?」

愛「これからは、同じ研究室の仲間なんだから! 名前で呼んでよ!」

璃奈「……」


彼女は……私が何を言ったところで、自分の意見を変える気はなさそうだ……。


璃奈「……」

愛「ほら! 愛って呼んで♪」

璃奈「……愛……さん……」

愛「うん! りなりー♪」


彼女──愛さんは、私が名前を呼ぶと、嬉しそうに笑った。


愛「んで、研究テーマの話だけど……四次元空間だよね?」

璃奈「うん……正確には高次元空間とエネルギーだけど……」

愛「なら、アタシの研究テーマはそんなに大きく外れてないよ!」

璃奈「え?」


私は首を傾げる。

私以外に、そんなテーマを研究している研究室あったかな……。

世が世だけに、研究予算が降りやすいのは、実際に役に立つ技術が多い。

食料生産や、それをオートメーション化するためのロボット。……あとは、兵器関連。

だから、私の研究しているような、一見なんの役に立つのかがわかりづらい研究は予算をほとんど出してもらえない。

それなのに、愛さんは自分の研究テーマと大きく外れていないと言う。


愛「愛さんが研究してるのはね……ビーストボールについてだよ」

璃奈「ビーストボール……ポケモンを持ち運ぶためのボールだよね」

愛「そうそう」
666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:31:43.22 ID:5MWtUFJH0

ポケモンは弱ると小さくなるという性質を利用した、携行用のボールを開発している研究室は確かにあった。


璃奈「確か……ほぼ実用レベルまで進んでるって聞いた」

愛「うん。もうそろそろ、流通も始まることになってるよ! んで、これはそのボールの試作品!」


そう言いながら、愛さんがボールを取り出し、そのボールに付いているスイッチボタンを押し込むと──


 「──リシャン♪」


ボールからポケモンが飛び出してくる。


璃奈「リーシャン……!」

愛「この子はね、“愛”さんの“相”棒なんだ♪ 愛だけにね♪」
 「リシャン♪」

璃奈「本当にボールに入れて持ち運べるんだね」

愛「うん。ただ、アタシはボールそのものよりも……どうやってポケモンたちが小さくなってるのかの方が気になってさ」

璃奈「確かに……小さくなる性質を利用はしてるけど……どうやって小さくなってるのかはよくわかってないらしいね」

愛「しかも、どんなに大きいポケモン、重いポケモンも、ボールに入れれば持ち運べる。これって、不自然だよね」


そこまで聞いて、私はなんとなくピンと来た。


璃奈「ポケモンの重さは……どこに失われてるか。……それがここじゃない、どこかに……ってこと?」

愛「あはは、さすが研究者なだけあって、理解が早いね♪」


つまり愛さんは──


璃奈「ポケモンは小さくなるとき……私たちには認識できない場所に、自身の質量をエネルギーとして放出してる……」

愛「ま、あくまで愛さんの考えた仮説だけどね。そして、その放出先ってのが、りなりーの研究してる高次元空間なんじゃないかなって、研究発表聞いてたら、ビビッと来てさ!」

璃奈「……すごく、興味深い考え方だと思う」

愛「でしょでしょ! あの研究室だと、ボール開発とか生産コストの研究にシフトしちゃってて、メカニズムを知るための研究はほとんど出来なくってさ……どうしよっかなって思ってたんだよね」

璃奈「なるほど……」

愛「だから、愛さんはここの研究室に入っても損はしない! むしろ、アタシの研究内容はりなりーの役に立つかもしれないってコト! どうかな?」

璃奈「……納得した」


確かにそれなら、愛さんの研究内容から遠く離れたものではないし……お互いの研究テーマがお互いにとっての助けになる可能性がある。

そうなってくると、この研究室に入ることを頑なに拒否する理由もない……。


璃奈「ただ……予算は少ないよ?」

愛「そんなもん、これから結果出して増やせばいいよ!」

璃奈「……わかった」

愛「ってわけで、これからよろしくね、りなりー!」

璃奈「うん。よろしく、愛さん」


こうして私の研究所に仲間が増えることとなった──私にとって、生涯で最も大切と言える人が……。



667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:32:20.62 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──愛さんが私の研究室に来て、早くも1ヶ月ほどが経とうとしていた。


 「リシャン」
愛「ん……? リーシャン、どしたん?」

 「リシャン」
愛「え? ……って、うわ……もうこんな時間じゃん……。りなりー」

璃奈「…………」
 「ウニャ」

愛「りなりー」

璃奈「え? あ、ごめん……なぁに?」

愛「時間。……もう深夜だし、そろそろ寝た方がいいかなって」

璃奈「……あ、うん。……キリのいいところまで行ったら寝るね」

愛「ダメだよ。それで先週は朝まで寝なかったんだから。今日は終わり」

璃奈「で、でも……」

愛「でもじゃな〜い!! りなりー、アタシがいないときからずっとこんななの?」

 「ウニャァ」


愛さんが訊ねるとニャスパーが頷く。


璃奈「ニャスパーが裏切った……」

愛「いいから、寝るよ〜」

璃奈「はぁーい……」


まだ1ヶ月しか経っていないのに……愛さんは世話焼きで、私の身の回りのいろいろなことをお世話してくれていた。

夜更かししがちな私に、時間が遅くなると寝るように言ったり……ご飯を作ってくれたりする……。

愛さんは意外なことに料理上手で、特に焼き料理を作るのが上手だった。


愛「ほら、白衣のまま寝ないの〜! シワになっちゃうぞ〜?」

璃奈「このまま寝れば、起きてすぐ研究を始められて効率いいのに……」

愛「せっかくパジャマ買ってあげたんだからさー」

璃奈「無駄遣い……」

愛「こーゆーのは無駄って言わないの。ほら着替えた着替えた」

璃奈「はぁーい」
 「ウニャァ〜」


ニャスパーが愛さんの買ってくれたパジャマをサイコパワーで浮かせながら持ってきてくれる。


璃奈「ありがと、ニャスパー」
 「ウニャァ〜」


愛さんの買ってきてくれたパジャマ──ニャスパーをイメージした、耳付きフードのついている可愛らしいパジャマだ。


愛「うん、可愛い可愛い」

璃奈「ん……」

愛「お、りなりー照れてるな〜」

璃奈「ん……」
668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:33:07.03 ID:5MWtUFJH0

愛さんから顔を背ける。


愛「ふふっ♪」


愛さんは楽しそうに笑う。


愛「そんじゃ、愛さんも部屋に戻るから。また明日ね。こっそり研究続けちゃダメだぞ〜? ちゃんと、寝るんだよ?」

璃奈「あ、うん……」

愛「おやすみ、りなりー♪」


そう言って背を向けて、研究室を後にしようとする愛さん。


璃奈「……」


私はそんな愛さんの服の裾をきゅっと……掴む。


愛「りなりー?」

璃奈「…………」

愛「ふふ……どしたん?」


愛さんが優しい表情で私の頭を撫でてくれる。

歳は一つしか違わないはずなのに、こういうときの愛さんはすごく大人っぽく見える。

私よりも全然背が高いからかな……。


璃奈「もうちょっと……お話ししたい……。今日……研究ばっかりで……あんまりお話し出来てないから……」

愛「……ふふ、じゃあ今日はりなりーの部屋に泊まろっかな〜」

璃奈「ホント……?」

愛「うん♪ 今着替え取ってくるから、待ってて」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





──愛さんと過ごすようになって、久しぶりに人とまともに話すようになった気がする。

だからかな……最近、愛さんがいない時間が妙に寂しくて……。


璃奈「愛さん……」

愛「んー? 今日のりなりーは甘えん坊だな〜」

璃奈「…………」

愛「じゃあ、りなりーが寝るまで、ぎゅーってしててあげるね」

璃奈「うん……」


最近、愛さんの前では少しだけ……自分が素直になれている気がした。

それと同時に……自分がこんなに甘えん坊な性格だったことに驚いていた。
669 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:35:16.05 ID:5MWtUFJH0

璃奈「…………愛さん……変に思わないんだね……」

愛「ん?」

璃奈「……私が……甘えてきても……」

愛「まーね。……アタシも昔は、よく近所のお姉ちゃんに甘えてたから。なんとなく気持ち、わかるというかさ」

璃奈「そうなの……?」

愛「うん。……まあ、お姉ちゃん身体が弱くってさ……もう死んじゃったんだけど……。……今の世の中、身体が弱っちゃうと、なかなかね……」

璃奈「…………」

愛「って、こんな暗い話聞きたくないよね、ごめんごめん」

璃奈「うぅん……愛さんが嫌じゃなかったら……愛さんの家族のこと……知りたい」

愛「そう……? ……えっと、アタシね……生まれてすぐにお父さんもお母さんも病気で死んじゃったらしくってさ。顔も写真でしか見たことないんだよね。だから、おばあちゃんに育ててもらったんだ。そんで近所には美里お姉ちゃんって人が居て……よく一緒に遊んでもらってた」

璃奈「……うん」

愛「おばあちゃんもいい歳だったし、お姉ちゃんも身体が弱かったからさ、あんまり遠出とかできなかったんだけど……。……一度だけお姉ちゃんの調子がよくなった時期があってさ、そのときに陽光の丘に一緒に遊びに行ったんだ」

璃奈「陽光の丘……ベベノムが生息してる街はずれの暖かい丘だよね」

愛「そうそう。……あそこって今では世界一のどかな場所って言われてるらしくってさ。ポニータの乗馬体験とか出来るんだよ」

璃奈「そうなんだ……」

愛「うん。お姉ちゃんはね、ポケモンが好きな人だったから、ポニータを間近で見られてすっごく嬉しそうにしてたんだ……それに、すっごく楽しそうだったんだ。だから、もっともっとたくさんお姉ちゃんとこうして楽しいことが出来ればって思ってたんだけど……お姉ちゃん、またすぐに身体の調子悪くしちゃってさ」

璃奈「…………」

愛「でさ、そのときに丁度、ポケモンをボールに収めて持ち運ぶ研究をしてるって話をたまたま知ったんだ。……もし、そんな風に持ち運べたら、お姉ちゃんにいろんなポケモンを見せてあげられるんじゃないかって」

璃奈「……だから、愛さん……ビーストボールの研究を……」

愛「うん、始めた理由はそんな感じ。……だけど、アタシが研究所に入るための勉強をしてる間に……死んじゃったんだ。丁度、半年前……“闇の落日”のときにさ、薬とか食料が不足した時期があったでしょ? そのときにね……」

璃奈「……そっか……」

愛「んで、アタシが研究所に入所が決まったのとほぼ同時くらいかな……今度はおばあちゃんが倒れちゃってね……。そんで、おばあちゃんもそのまま……。だから、実はアタシも今は身寄りとかないんだよね。……だからある意味……研究所に入れてよかったよ。ここは寮もあって、住み込みで研究出来るし……」


私たちの住んでいる場所では、親を亡くして身寄りがない子は少なくない。

“闇の落日”でより増えたとは思うけど……元より病死率が高いため、小さい頃から天涯孤独になってしまう子供がすごく多い。

だから、孤児院は多くあるし……13〜4歳くらいになると、お金を稼ぐために働き始める子も多い。

私や愛さんみたいに、その働き口が研究者なのはレアケースだけど……。多くの子は、実入りがある警備隊に入ることが多いと聞く。

ただ……隊での仕事は危険が伴うため、そこで死んでしまう子供も多い。……今は……そういう、世の中。

危険な場所に赴かずとも……仕事と住む場所を与えられている私たちは……確かに恵まれているのかもしれない。


愛「……だから、自分を重ねちゃって……りなりーのことほっとけないなって思っちゃったところもあるんだけど……。……今考えてみると、寂しいのはアタシも同じだったのかも、なんて」


そう言って力なく笑う愛さん。

私は……そんな愛さんの頭を撫でる。


愛「……ありがと、りなりー……」

璃奈「私は……愛さんのお陰で……寂しくないよ……。むしろ……愛さんと会うまで……今まで、自分が寂しいって思ってたことにすら……気付いてなかったんだ……」

愛「そっか……ならよかった」

璃奈「もし……私も愛さんの寂しさを少しでも埋めてあげられてるなら……嬉しい」

愛「……あーもー……! りなりーってば、ホント可愛い〜!」

璃奈「わわっ……あ、愛さん……く、苦しい……」

愛「うりうり〜……♪」

璃奈「愛さん……」
670 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:35:56.18 ID:5MWtUFJH0

強く抱きしめられて、少し苦しい。……だけど、嫌ではない。むしろ、この距離感が温かくて……なんだか幸せだった。


璃奈「……ねぇ、愛さん」

愛「んー?」

璃奈「……愛さんは、私の家族のこと……聞かないの……?」

愛「んー……気にならないわけじゃないけど……デリケートな話だから……。……でも、りなりーが話したいなら、いくらでも聞くよ」

璃奈「……うん。……聞いて欲しい……。……お父さんと……お母さんのこと……」

愛「わかった」

璃奈「……うん」


悲しくなっちゃうから……出来る限り思い出さないようにしていたけど……。

でも、きっと……これは忘れちゃいけないことだから……。

お父さんとお母さんの為そうとしていたことを……愛さんにも知って欲しかったから……。

私は、ぽつりぽつりと、話し始める。





    📶    📶    📶





私のお父さんとお母さんは、お互いがもともと研究者の家系で、同じ研究所で出会い、結婚し、そのときに自分たちの研究所を持ち……その数年後に私が生まれた。

お父さんとお母さんは二人とも研究一筋な人たちで……家族の時間らしい時間がたくさんあったかと言われると、少し怪しかった気がする……。

だけど、間違いなく二人とも私を愛してくれていたし、私はお父さんもお母さんも好きだったし、子供心に研究者である二人を誇らしく思っていたことをよく覚えている。

だからかもしれないけど……私は小さい頃から、お父さんとお母さんの研究論文をよく読んでいた。

私が内容を理解出来るとお父さんもお母さんも喜んでいたし、褒めてくれたから、私は二人の研究結果をたくさん読んだ。

わからないことがあっても聞けばすぐに教えてくれたし、お父さんとお母さんの論文を読むために勉強をするのは楽しかった。


愛「──そのときから……りなりーのお父さんとお母さんは、高次元空間について研究してたの?」

璃奈「うん、ずっと研究してた。いつも私に『いつかこの研究が世界を救うから』って言ってたよ」

愛「世界を……救う……?」


愛さんは私の言葉に首を傾げる。


璃奈「あのね……お父さんとお母さんは、今の世界がどうしてこうなっちゃったのかが……わかってたみたいなんだ」

愛「……マジで?」

璃奈「うん……世界のエネルギーは……高次元空間にどんどん漏れ出して行ってるせいで……世界がどんどん委縮していっちゃってるんだって……」

愛「……じゃあ、世界のあちこちが急に崩落するのは……」

璃奈「……世界を維持するだけのエネルギーが……徐々に失われているから……。だから、私のお父さんとお母さんは、それが失われている先──高次元空間へアクセスする方法をずっと研究していた。……だけど、その研究の実験中に……事故が起きた」

愛「……」


いつもの昼下がりだった。

私は実験室の隅っこで、お父さんとお母さんの研究を見ていた。
671 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:36:30.63 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……そのとき……開いたんだ」

愛「……開いた……?」

璃奈「──高次元への……ホールが……」

愛「え……?」

璃奈「お父さんとお母さんは……そこに吸い込まれて……消えていった」

愛「……う、嘘……? じゃあ、りなりーはもうすでに……高次元空間へアクセスする瞬間を……目撃してたの……?」

璃奈「うん。私も……ニャスパーがサイコパワーで守ってくれなかったら……吸い込まれてたかもしれない……」
 「…ゥニャ?」

愛「じゃあ、それを発表すれば……!」

璃奈「うぅん、発表したけど……誰も信じてくれなかった」

愛「な、なんで……!? 実際に見たんでしょ……!?」


確かに私は見た。お父さんとお母さんが、ホールに飲み込まれるところを……。ただ……。


璃奈「証拠が……何も残ってなかった。……記録機器も全部ホールに飲み込まれちゃったし……そのときに研究資料の大半も一緒にホールに飲み込まれちゃった……」

愛「でも、りなりーの証言があれば……! 事故直後なら、子供の言うことだとしても全く検証しないことなんて……」

璃奈「私ね、そのときのショックが原因で……声が出なくなっちゃって……4年間くらい、喋れなかったんだ」

愛「え」

璃奈「だから、あのときのことを人に言えるようになったのは……本当につい最近。その間に、お父さんとお母さんのことは……実験中に起きた爆発事故として片づけられちゃって……」

愛「……」


だから、発表をしても、子供の妄想で片付けられてしまった。

……でも、それはそうかもしれない。

資料もない、記録もない、証拠は5年前に私が見たという事実だけ。

そんなものを信じるのは──科学ではない。


璃奈「だから……私はお父さんとお母さんが気付いてたこと……世界に何が起きてるのかを突き止めなくちゃいけない……。お父さんとお母さんの理論を、研究を、完成させないといけない……」

愛「りなりー……」

璃奈「そうじゃないと……お父さんとお母さんが、報われないから……」

愛「…………」


愛さんは無言で私を抱きしめる。

強い力で……自分の胸に、私を抱き寄せる。


愛「…………りなりー……」

璃奈「……なぁに……?」

愛「…………研究、絶対に……完成させよう……」

璃奈「……うん」



672 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:37:09.96 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





あの夜から数日後、私たちは本格的に二人で研究を始めた。

ここ1ヶ月は、お互いの研究や設備の確認。……後は、愛さんが私の身の回りのお世話をしてくれていたというか……。

だから、ようやく本格的な研究がスタートしたという感じだ。


愛「──まず、ホールを発生させる方法だけど……」

璃奈「たぶん……高エネルギーの衝突が方法……だと思う」

愛「それはりなりーが書いた理論でもそうなってたよね。……ただ、問題はどうやってぶつけるか……。りなりーのご両親はどうやってたの?」

璃奈「サーナイトが発生させるブラックホール同士を衝突させてた」

愛「そのサーナイトは?」

璃奈「お父さんとお母さんと一緒に……」

愛「……まあ、発生源に居たんだとしたら、そうなるよね……。まあ、どっちにしろ、サーナイトを捕まえる必要があるってことかな?」

璃奈「うん。でも、私……戦闘が苦手で……。……何度か試したけど、ラルトスすら捕まえられなかった」
 「ニャァ」


仮にラルトスを捕まえたところで、サーナイトまで進化させる自信もない……。

特にラルトスは、臆病ですぐ逃げてしまうから、本当に難しい……。


愛「じゃあ、とりあえず……ポケモンを連れてくるべきだね。ま、それはアタシに任せてよ!」

璃奈「愛さん、頼もしい」
 「ニャァ〜」

愛「へへ、愛さん戦闘は昔から得意だからね〜! それに今はボールもあるし! サーナイトだけじゃなくて、いろいろなポケモン捕まえてみよっか!」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





 「…コド…ラ──」

愛「ほいっと……コドラゲットっと」
 「リシャン♪」

璃奈「すごい! これで10匹目!」
 「ウニャァ〜」

愛「へへ、どんなもんだ〜♪」

璃奈「ホントにすごい! 愛さん、かっこいい!」

愛「あーもう! りなりーにそんなこと言われたら、愛さんもっと頑張っちゃうぞ〜!」
 「リシャン♪」


愛さんは本当に戦闘が得意だった。

別に疑っていたわけじゃないけど……その実力は予想以上で、リーシャンと一緒に、次から次へとポケモンを倒しては捕獲していく姿はまさに圧巻だった。


璃奈「それにしても、ボールに入れちゃえば本当にいくらでも持ち運べちゃうんだね」

愛「うん、すごいっしょ♪」
673 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:37:43.72 ID:5MWtUFJH0

愛さんからボールを受け取ってバッグに入れる。

ボール10個となると、それなりに嵩張るけど……もしボールに入れていなかったら小型のポケモンが1匹入るか入らないかくらいと考えるとすごいことだ。


愛「運よくサーナイトも今日中に捕まえられたし!」

璃奈「うん! 幸先がいい!」

愛「この調子でガンガン行くぞ〜! ……って言いたいところだけど……」

璃奈「日も傾いてきた。……そろそろ、戻ろっか」

愛「そうだね。行くよ、リーシャン」
 「リシャン♪」

璃奈「ニャスパー、帰るよ。おいで」
 「ウニャァ?」


足元でじゃれているニャスパーを抱き上げて、研究所へ戻るために、街の方へと歩き出す。

研究所は街の端っこにあるため、街を突っ切っていくことになるんだけど……その道中、何やら人だかりが出来ていた。


愛「ん……?」

璃奈「なんだろう……」


二人で近寄ってみると──


男性1「やっと捕まえたぞ……」

男性2「手こずらせやがって……」

男性3「んで、どうする?」


数人の男性に取り囲まれた中心に──


 「ベベノ…」


黄色と白色の体をした、小さなポケモンが蹲っていた。


璃奈「あれ、ベベノム……!」


色違いだけど……普段は陽光の丘に生息しているベベノムに間違いない。


璃奈「弱ってる……! 通して……!」

愛「あ、ちょっと、りなりー!?」


私は、大人の人たちの間をすり抜けて、中央のベベノムに駆け寄って、しゃがみこむ。


璃奈「大丈夫……?」
 「ベベノ…」


ベベノムは明らかに様子がおかしかった。

どこかに異常があるに違いない……。ちゃんと診てあげたかったけど、


男性1「なんだい、嬢ちゃん。そいつを庇うのかい?」

璃奈「え、あ、あの……」
674 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:38:25.57 ID:5MWtUFJH0

おじさんがすごんできて、身体が強張る。

何も考えずに飛び込んできてしまったのを少し後悔する。

だけど……怪我したベベノムをほっとくわけにいかないし……。

なんて言葉を返せばいいのかわからず慌てる私に、


愛「ちょっとちょっと、大の大人がこんなちっちゃいポケモンに寄ってたかって何してんのさ……」


愛さんが人だかりを掻き分けながら、助け舟を出してくれる。


男性2「こいつはな、ここらで食料泥棒を働いてたんだよ」

愛「ベベノムが? わざわざ?」

璃奈「ベベノムは知性の高いポケモン……理由もなくそんなことしない」
 「ベベノ…」


わざわざ人のテリトリーに侵入して、そんなリスクを冒すとは到底思えない。


男性3「だったら許せとでも? 貴重な食料を奪われてるんだぞ……!」

愛「わかった。じゃあ、この子アタシたちが引き取るからさ。それで大目に見てくんないかな?」

璃奈「愛さん……」

男性1「なんで見ず知らずの嬢ちゃんたちが、そんなこと勝手に決めるんだ?」

愛「どっちにしろ、捕まえたところで持て余すでしょ? それとも、紐にでも繋いで餓死でもさせる? そんなことしても、後味悪いでしょ」

男性2「それは……」

愛「食料奪われたのが気に食わないってんなら……盗られた分の代金払ってあげるからさ。……これで足りる?」


そう言いながら、愛さんはポケットから取り出した硬貨を男性に手渡す。


男性1「あ、ああ……これだけあれば足りるが……」

愛「んじゃ、これで手打ちにしてよ。野生のポケモンを寄ってたかってイジメてたなんてのがバレて、警備隊に目付けられるのも嫌っしょ?」

男性1「わ、わかったよ……。……行こう……」

男性2「あ、ああ……」


とりあえず、溜飲は下がったのか男性たちは去っていった。

いなくなったのを確認してから、


愛「りなりー、平気?」


愛さんがそう言って、私に手を差し伸べてくる。


璃奈「愛さん……」


ベベノムを抱えたまま、その手を取って立ち上がりながらお礼を言う。


璃奈「……私一人じゃ、どうすればいいかわからなかった……ありがとう……」

愛「うぅん。……貴重なお金、勝手に払っちゃってごめんね」

璃奈「大丈夫。むしろ、あれがベストだった」


無用な争いになるよりもずっといい。

それはそれとして……今は、
675 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:38:59.15 ID:5MWtUFJH0

璃奈「この子……早く診てあげないと……」
 「ベベノ…」

愛「そだね。研究所に急ごう」

璃奈「うん」


私たちはベベノムを診るために、急いで研究所へと戻る──





    📶    📶    📶





璃奈「栄養状態が悪くて、毒腺が詰まってる……。だから、狩りが出来なくて、人の食べ物を奪ってたんだね……」
 「ベベノ…」

璃奈「でも、大丈夫だよ。ちゃんと栄養のあるものを食べれば、すぐ良くなるから」
 「ベベ…」

璃奈「だけど……どうして、こんなになるまで……」


ベベノムは賢いポケモンだから、群れに弱っている個体がいたら、普通は食料を分け与える。

だから、こんな風に栄養失調で弱ったベベノムが単体でいるのはすごく珍しい。

……というか、そもそも街にいること自体が不可解だ。

人を必要以上に怖がらないポケモンではあるけど、人の集落にわざわざ好んで現れるかと言われると、そんなことはない……。

私が頭を捻っていると──


愛「……たぶん、この子……人が逃がしたポケモンだね」


愛さんが検査端末を弄りながら、そんなことを言う。


璃奈「……どうして、そんなことがわかるの?」

愛「この子……ボールマーカーが付いてるから」

璃奈「ボールマーカー……? ……えっと、ボールに入れたときに紐付けされる情報だっけ……?」

愛「そう。しかも、試作品のボールマーカーだね……。……開発資金を提供してた一部の金持ちに配られた型かな。たぶん、色違いが珍しくて試しに捕まえてみたはいいけど……結局手に負えなくなって、街中に逃がしたってところだと思う」

璃奈「それで……自分の住処に帰れなくなっちゃったんだね……」
 「ベベノ…」

愛「だから、一般人の手に渡らせるのは、流通が始まってからの方がいいって言ったのに……。……一応アタシならボールマーカーの個別識別情報から、誰の手に渡った試作ボールかまで特定出来なくはないけど……どうする?」

璃奈「……うぅん、そこまでしなくていいと思う……。……その人のところに連れて行ったところで、責任なんて取らないだろうし……」

愛「ま……そうだろうね」

璃奈「とりあえず……元気になるまで、ここでお世話してあげよう」
 「ベベノ…」

愛「それがいいかもね」

璃奈「もう安心して大丈夫だからね。ベベノム」
 「ベベノ…」



676 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:40:27.78 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──私たちはその後も着々と研究を進めていった。


愛「サーナイト、そこまでで」
 「サナ」「サナ」

愛「……うーん……」


愛さんはエネルギー測定器の数値を見ながら、眉を顰める。


璃奈「やっぱり、理論式から考えても、エネルギーが全く足りてないね……」

愛「確かに、サーナイトたちの作り出すブラックホールの衝突が一番数値としては大きいけど……。さすがに、空間に穴を開けるのはこれじゃ難しいね……」

璃奈「うーん……でも、実際にホールが発生したときは、この方法だったと思う……」

愛「何か他に条件とかがあったのかな……」

璃奈「わからない……。……でも、二人は何度もこれを繰り返して少しずつエネルギー効率の高いぶつけ方を何度も検証してた……」

愛「そのうちのとある1回でホールが発生したと……」

璃奈「……ただ、こうして実際に数値を見る限り……他に要因がないと現象が起こるとは考えづらい……」

愛「……となると、今後考えることは3つだね。より効率の良いぶつけ方、他の要因探し、それと……」

璃奈「もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける」

愛「うん、そうなるね」


お父さんとお母さんも普通の研究者だったから、ポケモンを捕まえるのが得意だったわけじゃない。

ましてや今と違って、ビーストボールのような捕獲道具があったわけでもなかったし……。

サーナイトを実験で使っていたのは、お父さんとお母さんが子供の頃から、たまたまラルトスを持っていたからに過ぎない。

半面、愛さんは戦闘や捕獲が得意で、これまでに数十種類のポケモンを捕獲している。

今のところ、サーナイト同士が一番大きな成果を出しているけど、もしかしたら、今後これよりも大きな結果を得られる組み合わせが見つかるかもしれない。

それが3つ目の『もっと大きなエネルギーを発生させうるポケモンを見つける』というわけだ。


愛「まー……サーナイトのサイコパワーはトレーナーとの絆に呼応して強くなるって言うし……一緒に過ごす時間が長くなれば、結果も変わってくるかもしれない。根気よくやっていこうか」


そう言いながら、愛さんがサーナイトたちをボールに戻す。


愛「とりあえず一旦休憩にしよっか……朝からずっと検証してたから、さすがにくたびれたよ……」

璃奈「なら、ご飯にしよっか。パンがあるから」

愛「お、いいね」


二人で食事をしようと、実験室を出ると──


 「ベベノ〜♪」


ベベノムがパンを持って、私たちのもとへと飛んでくる。


璃奈「ベベノム」
 「ベベノ〜♪」

愛「お、持ってきてくれたん? ありがと、ベベノム〜♪」
 「ベベノ〜♪」

璃奈「ベベノムも一緒に食べよっか」
 「ベベノ〜♪」
677 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:41:01.57 ID:5MWtUFJH0

そう言うと、ベベノムは嬉しそうにくるくると踊り出す。


璃奈「ニャスパーもおいで、ご飯だよ」
 「…ウニャァ〜」

愛「リーシャン、ルリリもおいで」
 「リシャン♪」「ルリ」


お部屋で遊んでいた私たちのポケモンも呼び寄せて、みんなで食事をとり始める。

ニャスパーはすごく“マイペース”だから、適当にパンを一つとって、小さな口で齧りながらもくもくと食べ始める。


愛「リーシャン、はいあーん」
 「リシャン♪」


愛さんが小さくちぎったパンをリーシャンに食べさせると、リーシャンは嬉しそうに鳴く。


愛「ルリリの分は……ここにおいておけばいい?」
 「ルリ」


逆にルリリは、あんまり人の手から貰うのは好きじゃないらしいから、適当なサイズにちぎって渡してあげることが多い。

ポケモンごとによって食事の取り方もそれぞれだ。


 「ベベノ〜♪」
璃奈「はい、ベベノム」

 「ベベノ♪」


そして、ベベノムは人の手から貰うのがものすごく好きで、


 「ベベノ〜♪」
愛「今りなりーから貰ったところでしょー? もう、甘えん坊だなぁー。……はい、あーん♪」

 「ベベノ〜♪」

 「リシャン」
愛「あーわかってるわかってる、順番ね〜」

 「リシャン♪」


愛さんと私から、交互に貰いに来る。


璃奈「はい」
 「ベベノ〜♪」

愛「それにしても……すっかり懐いちゃったね」

璃奈「もともと、人懐っこいポケモンだから、ある意味当然かもしれない」
 「ベベノ〜♪」

愛「まーね……」


そんなベベノムの世話も出来ずに、街に放り出した人は……本当にロクでもない人だったんだと思う。

その証拠に、今ではこんなに懐っこいベベノムも、最初は私たちにあまり近寄らなかったくらいだから。


愛「ただこれだと、群れに返すって感じじゃなさそうだね……。むしろ、友達のベベノムがいた方がいいくらいかもなー……」

璃奈「ベベノムは群れで生活してるもんね。確かに仲間が居た方がいいかもしれない」


私はパンをパクつきながら、端末を弄り始める。


愛「りなりー……行儀悪いぞー……」

璃奈「さっきのデータを整理するだけ」
678 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:41:43.35 ID:5MWtUFJH0

取ったデータを簡単にグラフで視覚化して……。


璃奈「ん……まだデータ取り続けてる……。……愛さん、機器の電源落ちてない」

愛「……あ、忘れてた。機器の寿命を減らさないためにも、使わないときはちゃんと落とさないと……」


愛さんはそう言いながら席を立つ。

私はまだリアルタイムでデータを取り続けている端末のデータを見ながら、ふと、


璃奈「……?」


データ上に不審な点があることに気付いた。


愛「切ってきた〜。……って、どうかしたん?」


実験室から戻ってきた愛さんが、私の表情を見て、首を傾げる。


璃奈「……愛さん、ここのデータおかしくない?」

愛「え?」


私は愛さんに身を寄せて、端末の画面を見せる。


愛「…………こんなに大きな数値出てるタイミングあったっけ……?」


愛さんの言うとおり──妙に大きな数値が出ている瞬間があった。

少なくともさっき見ていたときはこんなに大きな数値を見た覚えがなかった。


璃奈「タイムスタンプと録画のデータを比較する」


私は端末を弄りながら、この数値が出た瞬間のカメラのデータを見てみて……驚いた。

それは──


璃奈「ポケモンを……ボールに戻した瞬間だ」

愛「……これって……」

璃奈「愛さんが前に言ってたこと……」


ポケモンがボールに入る瞬間──どうやって小さくなっているかの話。


璃奈「ボールに入って小さくなる瞬間……質量をエネルギーとして放出してる……?」

愛「りなりー!!」

璃奈「うん、早急に調べる必要がある」
 「ベベノ〜?」


私たちは食事中だったこともすっかり忘れて、慌ただしく実験室へと戻るのだった。



679 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:44:47.45 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──結論から言うと、ポケモンがボールから入る瞬間、エネルギーを放出しているというのは正しかった。

調べ方は簡単で、他の種類のポケモンをボールに戻す瞬間にも同じようなことが起きているか、ということを調べるだけだから、すぐにわかった。

ただ……。


愛「い、意味わからん……」


その数値をまとめたデータを見て、愛さんは頭を抱えていた。


愛「……放出エネルギーがポケモンの種類ごとによって違うのは、わかるんだけど……」

璃奈「……体重、身長、形状……そこに相関性が見つけられない……」


簡単に言うと、私たちは大きなポケモンや重いポケモンほど小さくなるときにたくさんエネルギーを放出していると考えていたんだけど……どうやら、それはあんまり関係ないらしい。

ボスゴドラの方がコロモリよりも放出エネルギーが小さいと言えば、それがどれくらいイメージに反していたのかが、わかりやすいだろうか。

ただ、一つわかったことがある。


璃奈「……これなら……より大きなエネルギー効率が出せるかもしれない……」


私たちが、研究を前に進める一歩を見つけた瞬間だった。





    📶    📶    📶





──さて、私たちの目的は研究だけど……研究を続けていくためには必要なことがある。

それが……研究発表だ。


璃奈「……で、ですので……ポケモンがボールに収まる瞬間、お、及び飛び出す瞬間には……こ、高次元空間との、えねりゅぎーの……噛んだ……」

愛「……ふーむ……」

璃奈「やっぱり、ダメかな……」

愛「アタシはそういうりなりーも可愛くて好きだけど……やっぱ、発表の場ってなるとね……」

璃奈「……だよね……」


今はその練習中。

まだ私たちが目指している核心の部分ではないけど……途中でも、大きな発見があったときにしっかり発表する必要がある。

何故なら──それによって、次期の研究予算がどれだけ下りるかが変わってくるからだ。

でも……。


璃奈「私……やっぱり、発表は……苦手……」


私はとにかく発表というものが苦手だった。
680 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:45:22.85 ID:5MWtUFJH0

璃奈「そもそも……人前でうまく、話せない……」

愛「やっぱり、人前に立つと緊張しちゃう感じ?」

璃奈「それもあるけど……私、4年くらい誰とも話せなかったから……。……人ともほとんど関わらなかったし……。……所内でもお話し出来るの、愛さんと所員食堂のおばちゃんしかいない……」

愛「まぁ、発表は愛さんがするよ」

璃奈「でも……研究室長は私だし……」

愛「別に室長がしなくちゃいけないって決まりはないでしょ? そこは助け合おう♪」

璃奈「愛さん……。……うん」


確かに、もう発表まで日もないし……今回に関しては、もともと研究テーマ的にも愛さんがやっていたことだ。


璃奈「……もっと……上手に人とお話……したいな……」

愛「りなりー……」


お父さんとお母さんが目の前でいなくなっちゃったショックで喋れなくなっちゃって……。

ただ、ニャスパーはエスパータイプでテレパシーが使えたから、無理に喋らなくても最低限の意思疎通が出来たし……食堂のおばちゃんも事情を知っていたからか、メニューを指差せば察してくれていたお陰で、どうにかなっていた。

逆に言うなら、私はそれ以外のコミュニケーションを一切取ってこなかった。

そのツケというか……代償というか……。


璃奈「私……表情がないんだって……。……無表情で何考えてるかわからないって……噂されてるの……知ってる……」

愛「そんなことないよ」

璃奈「……そんなことある。……わかるのは愛さんが特別だから……。……普通の人は……私の顔を見ても……何考えてるか、わからない。……わからないものは……怖いから、誰も近寄らない……」


特に私は創設者の娘。……そんな人間がずっと無表情だったら……確かに近寄りたくないと思う。


璃奈「お父さんとお母さんがよく言ってた……私たち研究者は、未来の誰かの笑顔のために研究をするんだって……。……未来に繋ぐために研究をするんだって……」

愛「……」

璃奈「お腹が空くのは辛いから、お腹がいっぱいになれるように、食物の研究をする。不便だと大変だって思うから、それを解消しようって便利なものを作る。武器だって……人を傷つけるものだけど……根本にあるのは、自分たちや自分の大切な人や物を守りたいって想いがあるから……。……研究は、そういう想いがあって、初めて始まって……それが繋がって、大きくなって……為して行くものだって……」

愛「……そうだね」

璃奈「でも……それをしようとしてる人が……笑顔一つまともに出来ないようで……伝わるのかな……誰かの笑顔を……未来に繋げていけるのかな……」


今の私は……そもそも研究者として相応しいのか。

大袈裟かもしれないけど……そう、思ってしまう。


愛「……別に無表情な研究者は普通にいるし、それは願いの大小とは関係ないから……アタシはそんなに気にすることだと思わないけど……。……りなりーにとっては大事なことなんだよね」

璃奈「……うん」

愛「じゃあ、何か考えてみよっか」

璃奈「……ありがとう、愛さん。……でも、一朝一夕で表情が豊かになる方法なんてあるのかな……」

愛「うーん……なかなか難しいかもね」

璃奈「せめて……自分が今思ってる気持ちだけでも伝われば……誤解されることはなくなるのに……」

愛「……あ、ならさ」

璃奈「……?」


愛さんは、近くにあった紙にペンで何かを描き始める。
681 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:45:57.60 ID:5MWtUFJH0

愛「嬉しいときは、こう」 ||,,> ◡ <,,||

愛「楽しいとき」 ||,,> 𝅎 <,,||

愛「怒ったとき」 || ˋ ᇫ ˊ ||

愛「悲しいとき」 || 𝅝• _ • ||

愛「どうかな? 名付けて、璃奈ちゃんボード! これなら、りなりーの今の感情が、わかりやすく伝えられそうじゃない?」

璃奈「……! それ、すごくいい!」

愛「でしょでしょ! これなら“ボーっと”してても“ボード”で気持ちがわかっちゃう! なんつって!」

璃奈「うん! やってみて、いい?」

愛「もちろん♪」


私は愛さんに紙とペンを受け取り、


璃奈「にこにこ」 || > ◡ < ||

璃奈「むー」 || ˋ ᨈ ˊ ||

璃奈「ぐすん」 || > _ <𝅝||

璃奈「わかる?」

愛「喜んでるとき、むっとしてるとき、悲しいことがあったときって感じだね」

璃奈「すごい! ちゃんと伝わってる……!」

愛「表情で出せなくても、今どう思ってるのかが伝わればいいわけだからね!」

璃奈「単純なことなのに……うぅん、単純だからこそ……すごい……」

愛「すぐにりなりーの思い描く、表情豊かな人になるのは難しいかもしれないけど……。……少なくともこれなら、りなりーの気持ちは伝えられると思うよ」

璃奈「……うん! 璃奈ちゃんボード……!」


私は紙束を抱きしめる。

これから……この紙が私の気持ちを表す顔になってくれる。

璃奈ちゃんボードが誕生した瞬間だった。





    📶    📶    📶





──愛さんが提案してくれた璃奈ちゃんボードのお陰もあり、私たちは幾度かの研究発表を乗り越え……。


璃奈「愛さん! また、予算増やしてもらった!」

愛「やったね! これで、設備をもっと充実させられる!」

璃奈「うん! それに、これならポケモンの数も増やせそう!」

愛「そうだね。ポケモンたち……増やせば増やすほど、餌代がとてつもなく高くなってくからね……」


私たちがデータを取るためにはたくさんの種類のポケモンが必要だから、そのための餌代はバカにならない。


璃奈「これも愛さんが璃奈ちゃんボードを作ってくれたお陰だよ」

愛「あはは、りなりーが頑張ったからだって♪」

璃奈「これからも二人で頑張ろうね」

愛「任せろ〜♪」
682 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:46:32.81 ID:5MWtUFJH0

──ただ、ここから研究進捗は難航していくことになる……。





    📶    📶    📶





愛「さて、ベベノム! お前の故郷だぞ〜!」
 「ベベノ♪」


ベベノムは嬉しそうに陽光の丘を飛びまわり始める。


璃奈「ベベノム、嬉しそう」

愛「そうだね、連れてきてあげてよかったね」


私たちは本日、野生のベベノムの生息地である、陽光の丘を訪れている。


愛「研究詰めだったし……アタシたちも久しぶりに羽を伸ばそうかね〜……」

璃奈「うん」


ここしばらく、なかなか思うように結果が進展していなかった。

より大きなエネルギーを持つポケモンを見つけることは出来ていたけど……それでも、ホールを発生させるほどの大きなエネルギーにはまだまだ遠く……相変わらずエネルギーの大小を決める要素もわかっていないままだった。

恐らく、ポケモンが内包しているエネルギーが関係しているんだとは思うけど……。


愛「お、ベベノム。早速、他のベベノムと仲良くしてるじゃん」

璃奈「ホントだ」


私たちの白光のベベノムは、本来の色のベベノムたちに紛れて楽しそうに飛んでいる。

でも、しばらくすると──


 「ベベノ♪」


一度私たちのところに戻ってきてから、


 「ベベノ〜♪」

 「ベノ〜」「ベノム〜」「ベベベノ〜」


また、ベベノムたちのもとへと戻っていく。

そんなことを繰り返していた。


愛「アタシたちに楽しいこと、報告してくれてるのかもね♪」

璃奈「うん。きっとそう」


ぽかぽか陽気の丘で、ベベノムを見守っていると──


 「ベベノ?」


1匹のベベノムが私に近寄ってくる。


 「ベベベノ? ベノ?」
璃奈「ベベノム……私の周りを飛んでる」
683 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:47:14.78 ID:5MWtUFJH0

そのまま、私の頭に乗っかってくる。


璃奈「乗っかられた……」
 「ベベノ」

愛「やっぱ、ベベノムは人懐っこいね〜」

璃奈「好奇心旺盛だからね。……よいしょ」
 「ベベノ?」


頭の上にいるベベノムを掴んで、胸の辺りに持ってくる。


 「ベノベノ♪」
璃奈「ホントに人懐っこいね」

 「ベノ♪」

愛「だとしてもだけどねー……そんなに警戒心ないと、悪い人に捕まっちゃうぞ〜?」
 「ベノ?」


愛さんの言葉に小首を傾げるベベノム。

すると、


 「ベベノ〜?」
愛「おっ、おかえり、ベベノム♪」


私たちの白光のベベノムも戻ってくる。


 「ベベノ?」「ベノベノ?」

 「ベベベノ」「ベベベ♪」

璃奈「なんか喋ってるね」


2匹のベベノムは鳴き声で会話をしたあと、


 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」


2匹で踊り出した。


璃奈「この子なら、仲良くなれそう」

愛「そうだね。ねぇ、ベベノム、よかったらアタシたちのベベノムと友達になってよ」
 「ベベノ〜♪」


ベベノムは愛さんの言葉を受けると、今度は愛さんの周囲をくるくると飛び始める。


愛「よかったね、ベベノム♪ 友達出来たよ♪」
 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「また、賑やかになるね」

愛「だね〜♪」



684 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:48:31.83 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「愛さん、これ見て」

愛「ん?」

璃奈「2台の機材で同時に計測してみた結果」

愛「……微妙に出てる数値が違う……?」

璃奈「もしかしたら、エネルギーの集束点の座標がわかるかもしれない」

愛「確かに……! いやー、新しい機材買った甲斐あったね!」

璃奈「うん」


最近詰まっていた研究も……増えた予算で買った新機材のお陰で、少しずつだけど進みつつあった。


璃奈「──……やっぱり、ある程度エネルギーの集束点はランダムに変化してるね」

愛「たぶん……集束点の完全予測は不可能っぽいね〜……」

璃奈「ただ、範囲だけでも絞り込めれば、十分現実的な試行回数まで持ってけると思う」

愛「だねー……。……まあ、それでも根本的にエネルギーが足りてないんだけど……」

璃奈「ポケモンももう50種以上試したけど……」

愛「……アプローチを変えてみた方がいいんかねー……」

璃奈「例えば?」

愛「集束点がランダムに変化するなら……エネルギー同士をぶつけることも出来るかなって」

璃奈「……確かに。……というか、本来は技をぶつけてたんだから、もっと早く思いつくべきだった」

愛「ま、やっと発生するエネルギーの形がわかってきたところだからねー」

璃奈「……そうだね。……じゃあ、早速試してみよう」


──ぐー……。


璃奈「……」

愛「……っと、もう夕方じゃん……。お昼食べてなかったね」

璃奈「ご飯食べてからにする……」

愛「ん、そうしよっか」


──二人で実験室から出ると、


 「ベベノーーー!!!」「ベベノーーー!!!」

璃奈「ベベノムたちがお怒り」

愛「あー、わかったわかった!! ご飯遅くなって悪かったって!」

 「ベベノーー!!!」「ベノーー!!!」


ベベノムたちが飛びまわる中、簡単な食事の準備を始める。
685 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:49:13.57 ID:5MWtUFJH0

 「ウニャァ〜」

璃奈「ニャスパー……今、愛さんがご飯作ってくれるからもうちょっと待っててね」
 「ニャァ〜」

璃奈「……そういえば、愛さん」

愛「ん、なに?」
 「リシャン」「ルリ」

璃奈「私たち、ニャスパーの数値って測ったっけ?」

愛「え? ……そういえば、そもそもりなりーのニャスパーってボールに入れたことなかったよね……」

璃奈「……初歩的な見落とし……」

愛「……もとから一緒に家族として暮らしてるポケモンだと、ボールに入れる必要が全くなかったからね……。うっかりしてた……」

璃奈「……それで言うと、ベベノムも」


そういうつもりで捕まえたわけじゃなかったというか……。もともとは怪我が治ったら野生に返してあげようとしていたから、ボールに入れるというのが頭から抜け落ちていた。

私も愛さんも最初は、方法を考えることで頭がいっぱいだったから、本当にうっかりしていた。


愛「ご飯食べたら、計測してみようか」

璃奈「うん」


ちっちゃくて愛らしいポケモンだから……そこまで期待はしていなかったけど──これが本当に私たちの運命を変える結果を叩きだすことになる。





    📶    📶    📶





愛「…………」

璃奈「…………」

愛「…………これ、マジ……?」

璃奈「…………計器が故障してる可能性があるかも」


昼食後、真っ先に測ってみた白光のベベノムの数値は──今まで見たことのないような飛びぬけたエネルギー数値を見せていた。

さすがに何かの間違いだと思ったけど……何度調べても数値は異常に高い結果が出る。


愛「ち、ちょっと、通常のベベノムも測ってみよう……!」
 「ベベノ…?」

璃奈「う、うん」


結果は──
686 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:49:46.85 ID:5MWtUFJH0

愛「…………」

璃奈「…………まだ、計器の故障の可能性がある」

愛「そ、そうだね……。……2台同時に故障するのかはわかんないけど……」

璃奈「ニャスパー、おいで」
 「ウニャ?」

璃奈「ちょっと、このボールに入るけど、我慢してね」
 「ウニャ」

璃奈「愛さん」

愛「ん、もう計測準備出来てるよ」

璃奈「それじゃ、ボールを固定して……ニャスパー、ボールに入れるよー」
 「ウニャ…?」


ニャスパーをボールに押し当てると──パシュンという音と共にボールに吸い込まれた。


璃奈「愛さん、数値は?」

愛「……他のポケモンとほぼ変わらない」

璃奈「…………」


そんなことを言っている間にも、


 「──ウニャァ〜」


慣れないボールが窮屈だったのか、ニャスパーが勝手にボールから飛び出してくる。


愛「計器の故障じゃない……」

璃奈「……見つけた……」
 「ウニャァ?」


私たちが探していたポケモンは──どうやら、ベベノムだったらしい。



687 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:50:28.63 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──日を改めて……。


愛「りなりー、資料全部別の部屋に移動した?」

璃奈「大丈夫」

愛「あんがと。計器こっちでいい?」

璃奈「うん。そこで固定して」

愛「了解」

璃奈「ボール固定、金属パーツアタッチメント装着……完了」

愛「計器固定完了したよ」

璃奈「ありがとう。さっき、愛さんの端末に録画機器の設置位置送っておいたから、それどおりに移動しておいて」

愛「任せろ〜!」

璃奈「あとは……」

愛「あ、録画機材のデータ、端末に自動送信になってる〜?」

璃奈「確認する」


私たちはバタバタと準備を進めていた。

昨日取ったベベノムのデータは……数値の上では、十分にホールを開きうるものになっていた。

つまり、これから行うのは──本番だ。


愛「……2つのボールのシステムリンクさせたよ。こっちの端末で操作できる」

璃奈「ベベノムに金属ベルト装着完了……ちょっと重いけど我慢してね」
 「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「うん。いいこいいこ」

愛「電磁石の方も準備出来たよ。端末操作ワンタッチで起動しちゃうから注意してね」

璃奈「うん、わかった」


いざというときにベベノムたちを助けるための準備も出来た。


璃奈「あとは、私たち」

愛「うん。じゃあ、背中向けて。ハーネス着けちゃうから」

璃奈「お願い」


私たちも緊急時に自分たちを固定するための器具を取りつけていく。


璃奈「愛さんにも着けるから背中向けて」

愛「うん、お願いね、りなりー」


愛さんにも私と同じようなハーネスを取りつける。

──これで準備は出来た。


璃奈「愛さん、始めよう」

愛「うん」
688 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:51:30.47 ID:5MWtUFJH0

私たちは、実験を──開始した。





    📶    📶    📶





愛「ベベノムたち、ボールに戻すよ」

璃奈「うん」


愛さんが端末を弄ると──


 「ベベノ──」「ベノー──」


ベベノムたちがボールに収まる。

二つの機器でエネルギーの集束位置を確認。


璃奈「誤差10」

愛「OK. 繰り返すよ」


ボタンを押してベベノムをボールから出す。


愛「ベベノムたち、辛かったら言うんだよ!」

 「ベベノ〜」「ベノ〜」

愛「続けるよ」

璃奈「うん」


──2回目、3回目、4回目と試行を続けていく。


璃奈「誤差2。……ベベノムたちのバイタルは?」

愛「問題ないよ」

璃奈「わかった。続ける」


一定以上、ボールに入る時に発生するエネルギーの発生位置が被れば、エネルギー同士が衝突して、ホールが発生するはず……。

こればかりは試行回数が必要だから、ベベノムたちの調子が悪くなる前に、ホール発生を確認したい。

──試行が20を超えた……そのときだった。


愛「ボール、入れるよ」

 「ベベノ──」「ベノノ──」


ベベノムがボールに入った瞬間──空間に歪みが発生した。


璃奈「……! 来た!!」


それと共に、周囲の空気を吸い込み始める。


璃奈「ボールは……!?」

愛「無事!! ちゃんと固定されてる!!」
689 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:52:05.15 ID:5MWtUFJH0

ベベノムたちも無事。

そして、ガラスを挟んだ向こうに──幼い日に見た、両親を吸い込んだ穴が……そこには確かにあった。


璃奈「……実験、成功した……」

愛「やったね、りなりー……!」

璃奈「うん……!」


次第にホールの吸引力は弱まっていき──エネルギーが尽きてゲートが閉まるのかと思った……そのときだった。

ゲートの中から──何かの影が現れた。


 「──シブーーン…」

璃奈「……!?」

愛「な……!?」


──異様な姿をした生き物だった。

虫のような頭に、筋骨隆々とした肉体、そして四足の下半身。

異様と言う以外、他に形容する言葉が見当たらなかった。

そいつは、


 「マッシブ!!」


ガラスの向こうで、何故かポージングをし始めた。

それと同時に、背後のゲートはエネルギーを失って維持できなくなったのか、閉じていく。


璃奈「な、なに……? ポケモン……?」

愛「わ、わかんない……。……でも、絶対に外に逃がしちゃダメだよね……! リーシャン!! ルリリ!!」
 「──リシャンッ」「──ルリッ」


愛さんがボールからリーシャンとルリリを繰り出す。

だけど、相変わらず謎の生物は、


 「マッシブ…!!!」


ポーズを決めている。


璃奈「て、敵意は……ないのかな……?」


しばらくすると、そいつは──


 「シブ…」


見せつける相手がいないことに気付いたのか、軽く項垂れたあと……その謎の生物の目の前に──先ほど消えたはずのホールが再出現した。


璃奈「……!?」

愛「ホールが……!?」


そして、謎の生物は──


 「シブーン──」


ホールの中へと消えていき──いなくなるのと同時に、ホールも消滅してなくなったのだった。
690 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:52:42.60 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……消えた……」

愛「……とりあえず、ベベノムたちのボール、回収してくる」

璃奈「う、うん。気を付けてね……」


私たちは目的のホールを発生させることが出来たが──想定外の謎の生物に遭遇し、困惑を隠せなかった。





    📶    📶    📶





璃奈「……愛さん、これ」

愛「ん」


愛さんに開いた本のページを見せる。

今、私たちがいるのは──プリズムステイツにある国の図書館だ。

その伝説やUMA──所謂、未確認生物の本が集まっている場所に来ている。

そして、私が開いたページには──


愛「……虫の頭と翅、筋肉質な上半身、四本の足を持った異形……。……間違いない、こいつだ」

璃奈「……うん」


例の謎の生物と特徴の一致する記載があった。


愛「……名前は……マッシブーンと、名付けた……場所は……。……もう海に沈んじゃった島だね……」

璃奈「この発見例……500年以上前だからね……」


今はもう残っていない土地で……遥か昔に、発見例があった。


璃奈「この謎の生物は……ひとしきり、筋肉を見せつけたあと……空間に穴を開け、消えていったと言われている……」

愛「…………」


普段だったら、オカルトや伝説で片付けてしまうことだけど……。


愛「りなりー、同じような目撃例、集めてみよう」

璃奈「うん。書籍内の情報を自動で抽出するプログラム、作ってみる」


私たちは普段見ることのないような本の情報を片っ端から洗い始めた。





    📶    📶    📶





──それによって、わかったことは……。
691 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:53:29.25 ID:5MWtUFJH0

璃奈「ウルトラ……ビースト……」

愛「ここではない……ウルトラスペースからやってくると考えられている……異形の生き物のこと……」

璃奈「人智を超えたパワーを持っていて……空間の穴を通って、こちらの世界に現れることがある……」

愛「普段だったら、絶対……胡散臭いって思うのに……」

璃奈「たぶん……これは、事実……」


数百年に1度あるかないかの頻度で……この異形が現れているという記録……というか、伝説や伝承が見つかった。

種類は様々で……瞬足を持つ美しき純白の異形、巨大な竹のような腕を持った飛翔体、爆発する頭を持った霊魂など……一見、共通点が見当たらないように見えるけど……。

それらには、共通して……空間に開いた穴に消えていったという情報が見受けられた。

そして、その情報の中に──異世界からやってくる異形のことを……ウルトラビーストと名付けている記述があった。


愛「……これって、つまり……」

璃奈「恐らくだけど……私たちが探していた高次元空間に生息してる生物……ってことだと思う……。……帰っていったって記述を見る限り……あのポケモンたちは、異次元へのホールを自分たちで開けられるのかも……」

愛「……じゃあ、アタシたちの前に現れたのは……」

璃奈「……恐らく、こちらから穴が開けられたせいで……ウルトラスペースから、こっちに迷い込んできた……」

愛「……ってことだよね……」


そして、もう一つ……気になることがあった。

その、ウルトラビースト……という生き物に該当する存在に、


璃奈「……紫色の毒針を持つ、毒竜……。……これ……」

愛「ベベノムの進化系のアーゴヨン……だよね……」

璃奈「……うん」


この世界には、アーゴヨンというポケモンが居る。

ベベノムの群れには、ベベノムたちを甲斐甲斐しく面倒を見て育てる、進化系のポケモンがいる。それがアーゴヨンだ。私たちの世界でも稀に見ることが出来るポケモン。

つまり……実はベベノムはウルトラビーストの子供かもしれないということだ。……一見突飛な話にも聞こえるけど──


愛「……仮にベベノムがそういう存在なんだとしたら……異様に大きなエネルギーを持ってたこと……ホールを開けることが出来た理由を説明出来る……」

璃奈「……ベベノムはウルトラビースト……」

愛「でも、それだと逆にベベノムはなんでウルトラスペースに帰らないんだろう……?」

璃奈「……これは、私が考えた仮説だけど……。……逆なんじゃないかな」

愛「逆……?」

璃奈「アーゴヨンはもともとウルトラスペースに住んでいたけど……子育てをするために、安全な世界を見つけて……それが居ついて……」

愛「何百年、何千年って時間を掛けて……繁殖した個体がいたってこと……?」

璃奈「うん……。……もちろん、仮説の域を出ないけど……」


ただ、重要なのはそこではない。


璃奈「じゃあ、アーゴヨンにホールを開ける能力があるのか……だけど……」

愛「……たぶん、この世界で繁殖を続ける中で、失われたって考える方が妥当だよね……。……能力が残ってるなら、すでにホールの存在を誰かしらが気付いてる気がするし……」

璃奈「失われたというか……戻る必要がなかったから、今この世界にいる個体はウルトラスペースに行けることを知らないってだけかもしれないけどね……。それだけのエネルギーはベベノムたちでも持ってるわけだし」

愛「……なるほど」


さて、ウルトラビーストとウルトラスペースという伝説の産物が、恐らく事実であることを突き止めた私たちは……次に何をするべきだろうか。

──世界を救うために、私たちが次にするべき行動は。研究は。
692 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:54:06.70 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……愛さん」

愛「ん?」

璃奈「……私は、ウルトラスペースについて、研究をするべきだと思う。お父さんやお母さんの言うとおり、世界のエネルギーが高次元空間に漏れているって言うなら……それはウルトラスペースのことだと思うし……それが漏れ続ける原因を知ることが、私たちの研究の目指すべき場所」

愛「……だね」

璃奈「私たちは、自分たちでホールを作り出す方法も見つけてる……なら、今後も同じようにホールを発生させて、ウルトラスペースを調査する必要があると思う」

愛「……ただ、そのためには必要なものがあるかな」

璃奈「必要なもの……?」

愛「戦う力だよ」

璃奈「どういうこと……?」


私は愛さんの言葉に首を傾げてしまう。


愛「これ、記述の中にさ……現れたウルトラビーストによって、大きな被害を受けた国とか島がいくつもあったでしょ」

璃奈「う、うん……」


確かに愛さんの言うとおり、現れたウルトラビーストによって、人口の大半を失った国や沈んでしまった島もあった。


愛「私たちは確かにウルトラスペースに繋がるホールを自分たちで開ける術を見つけたけど……逆を言うなら、またウルトラビーストを呼び寄せる可能性もある。今回現れたマッシブーンがたまたま無害だったからよかったけど……もし、狂暴なウルトラビーストが現れてたら……プリズムステイツがなくなってたかもしれない」

璃奈「……確かに」


知らなかったとは言え、私たちは随分と危ない橋を渡っていたのかもしれない。


愛「となると……ウルトラビーストが現れても対抗出来るだけの戦力が必要になる」

璃奈「で、でも……私……戦闘は……」

愛「わかってる。だから、強い人たちに協力を仰ごう」

璃奈「協力……? どうやるの……?」

愛「それは、簡単だよ。アタシたちは──研究者なんだからさ」





    📶    📶    📶





──愛さんが取った方法は、確かに簡単なことだった。

ウルトラスペースに繋がるホール──即ちウルトラホールの存在を学会に発表することだった。

最初は懐疑的に捉えている人も多かったけど……開いた瞬間の映像と、大量の統計データ、さらに伝承の資料などを提示されたら、さすがに学会も信じざるを得なかった。

それと同時に……私はお父さんとお母さんが唱えていた、世界からエネルギーが失われている説の発表をした。

そして──これ以上、世界からエネルギーが流出することを防ぐための研究をしているということも……。

この話は瞬く間に学会中に知れ渡り……なんと……。


璃奈「──プリズムステイツ政府から、政府研究機関に指定……」

愛「発表内容が内容だけに、政府が動いたね」

璃奈「予算も政府からたくさん下りた……なんだか大事になってきた」

愛「それだけ期待されてるってことだね。……なんせ、世界を救うことに直結する問題だからね。でも、研究所側も調子いいよね……実際、りなりーに所内の管理権限ほとんど与えてなかったのに、調子よくテンノウジ所長なんて発表しちゃって……」

璃奈「まあ、それはいいかな……。……実際、任されても管理は出来ないし……。……でも、これで前より自由に研究出来るようになった」

愛「それにアタシたちが狙ってた目的も達成されたしね」
693 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:55:08.47 ID:5MWtUFJH0

──狙っていた目的……それは即ち、ウルトラビーストに対抗する戦力のこと。


愛「来週には、プリズムステイツの警備隊が、この研究機関に統合される……。……特にアタシたちの護衛には、その警備隊のトップ2の人たちが付いてくれるらしいし、これで戦力面はちょっと安心かな……」

璃奈「うん。……でも、どんな人なんだろう……。……怖い人じゃないといいけど……」

愛「どうだろね……。……話に聞いた感じだと、向こうは16歳の女の子らしいけど」

璃奈「歳は私たちとほとんど変わらない……でも、若くて強い人たち……すごく厳しかったりするのかな……」

愛「なくはないけど……こればっかりは会ってみてからだね。大丈夫! もし怖い人だったとしても、りなりーのことは愛さんが守るからさ♪」

璃奈「愛さん……。……わ、私も、愛さんに頼ってばっかりじゃなくって、仲良く出来るように頑張るね! これから一緒に頑張ってく仲間なんだから……」

愛「お、いいね! その意気だよ、りなりー♪」

璃奈「うん……!」





    📶    📶    📶





愛「りなりー、準備いい?」

璃奈「うん」
 「ニャァ〜」

愛「ニャスパーも準備万全だね〜♪」

 「ニャ〜」


あっという間に、警備隊から来る二人との顔合わせの日が訪れた。


璃奈「璃奈ちゃんボードも持ってきてる……出来る限り使わないように頑張るけど……」


二人はこれから一緒にやっていく仲間になる人だから……出来るなら、素顔のまま話せた方がいい。……出来ればだけど……。


愛「まあまあ、気楽に行こう。今日は挨拶するだけだからさ♪」

璃奈「うん……」
 「ニャ〜」


二人で応接室に、待ち合わせ時間ピッタリに到着する。

愛さんが扉を押し開けると──中にはすでに、警備隊から来た二人らしき人たちが待っていた。


愛「お、もう着いてたんだね。待たせちゃったみたいで、ごめんね!」

璃奈「は、初めまして……」


ペコリと頭を下げて挨拶をし、それを見て二人が立ち上がる。


果林「──この度、プリズムステイツ警備隊から統合される形で配属されました、アサカ・果林です」

彼方「同じく、コノエ・彼方です〜」


果林さん、彼方さんと名乗る二人。

果林さんは整った顔立ちに、長身ですらっとしている。全体的にクールな印象を受ける人だった。

彼方さんはゆるふわなロングヘアーに、優しそうな垂れた目……果林さんとは対照的で、喋り方も相まって、すごくゆったりした人に見える。

二人の形式ばった挨拶に対して、


愛「あ、いいっていいって、これから一緒にやってく仲間なんだし、そういうの堅苦しいのは無しで! 歳も近いらしいしさ! もっとフランクな感じでいーよ!」
694 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:57:35.67 ID:5MWtUFJH0

愛さんはお得意の一気に距離感を詰める切り出し方をする。


果林「は、はぁ……」

愛「あっと……名乗ってなかったね。アタシはミヤシタ・愛! んで、この子はりなりー!」

璃奈「えっと……て、テンノウジ・璃奈です……」
 「ニャァ〜」

璃奈「この子は……お友達のニャスパー……です……」


また、ペコっと頭を下げながら、自己紹介をする。


果林「……えっと……それじゃ、ミヤシタさんとテンノウジさん……」

愛「愛でいーよ! りなりーもファーストネームでいいよね?」

璃奈「うん。ファミリーネームは長いし……ややこしいから、璃奈でいい」


テンノウジはお父さんとお母さんの名前でもあるから……何かと公式な場で使うとややこしくなりかねないし……何よりファーストネームの方が呼ばれ慣れている。


果林「……わかったわ。愛と……璃奈ちゃん」


果林さんは頷いて私たちの名前を呼んだあと、


 「ニャー」

果林「それと……ニャスパーね」


軽く膝を折って、私に抱っこされているニャスパーに目線を合わせながら挨拶してくれる。

それだけで……少なくともポケモンには優しい人だというのは十分わかった。


果林「それなら、私たちのことも下の名前で呼んで頂戴。良いわよね、彼方」

彼方「うん〜、もちろん〜。よろしくね〜、愛ちゃん〜、璃奈ちゃん〜」


彼方さんは間延びするような口調で喋りながら、


彼方「あ〜あと、この子は彼方ちゃんの親友のウールーだよ〜」
 「メェ〜〜」


足元に居たウールーを抱き上げながら、紹介してくれる。


愛「うん、よろー! カリン! カナちゃん! ウールーも!」

璃奈「よろしく、お願いします……果林さん……彼方さん……ウールー……」


顔を上げて、二人の顔を見ようとしたとき──果林さんと視線がぶつかる。

態度には出さないようにしているけど……果林さんはさっきから、私たちを見定めようとしているのがなんとなくわかった。これから、一緒にやっていくのに相応しい人間なのか……観察しているんだと思う。

私は彼女のその眼力に負けて、思わず愛さんの後ろに隠れてしまう。

隠れてしまってから──失礼なことをしたかも……と思った瞬間、


彼方「果林ちゃん、璃奈ちゃんが怖がっちゃってるかも……」
 「メェ〜〜」


彼方さんが果林さんに向かってそう言う。


果林「……彼方、それはどういう意味か説明してくれる?」

彼方「冗談だってば〜。璃奈ちゃん、もしかして緊張してるのかな〜?」
695 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 12:59:29.53 ID:5MWtUFJH0

彼方さんはそう言いながら、私に優しく微笑みかけてくれる。

……もしかして……フォローしてくれたのかな……。


愛「あはは……りなりー緊張しいなんだよね。やっぱり、ボードあった方がいいんじゃない?」

璃奈「……初対面だから……素顔の方がいいと思ったけど……。……そうする」


やっぱり、私はまだ素顔のコミュケーションは苦手かもしれない……。だけど、誤解はされたくない。仲良くしたいから……。


璃奈「あ、あのね……私……人の顔を見て喋るの……緊張しちゃって苦手で……だけど、怒ってないし、怖がってないよ……」 || ╹ ◡ ╹ ||


璃奈ちゃんボードで、怖がってないことを伝える。


彼方「あはは〜よかったね果林ちゃん、怖がられてないって〜」

果林「彼方……」

彼方「だから、冗談だって〜」

果林「はぁ……全く……。……これから一緒に頑張りましょう。私たちも早く貴方たちを理解できるように努力するわ」

璃奈「果林さんも彼方さんも優しそうな人でよかった。私もこれから一緒に頑張りたい。璃奈ちゃんボード「やったるでー!」」 || > ◡ < ||
 「ニャー」

愛「じゃ、これから、今後の活躍を祈って、もんじゃパーティーでもしますか〜!」

彼方「え、もんじゃってあのもんじゃ〜!? 今どき作れる人がいるなんて珍しい〜! 彼方ちゃんにも作り方教えて教えて〜」

愛「あははっ♪ 愛さん、もんじゃを作る腕には自信あるからね! 何を聞かれても、もんじゃいない! なんつって!」

璃奈「愛さん、今日もキレキレ!」 ||,,> ◡ <,,||

愛「どんなもんじゃいっ! あははは〜!! そんじゃ、アタシたちの部屋へレッツゴ〜!」

彼方「お〜♪」
 「メェ〜」


楽しそうに笑う愛さんは彼方さんを引き連れて、私たちの部屋へ向かって歩き出す。

果林さんは、その様子を眺めながら、


果林「なんだか、賑やかになりそうね」


やれやれと言いたげに、肩を竦めたのだった。


璃奈「果林さんも……行こ?」 ||,,╹ᨓ╹,,||

果林「ええ」


こうして、私たち4人のチームが始まったのだった。





    📶    📶    📶





璃奈「空間歪曲率上昇。ウルトラホール、展開」


あれから、幾度と実験を重ね……ウルトラホールを開くのもだんだん成功率が上がり、今ではホールを開くだけなら、かなりの精度になっていた。

ボールもホール開閉のための特別なものを作り、放出されるエネルギーをある程度制御出来るものを開発した。


愛「おっけー、ホール安定。このまま維持するよ。ベベノム、苦しくない?」

 『ベベノ〜』『ベベノ〜』
696 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:00:18.95 ID:5MWtUFJH0

愛さんがボール内と話すために作った端末でベベノムのバイタルを確認する。こちらも異常無し。


果林「それにしても……ベベノムがウルトラビースト……ねぇ……」

彼方「ベベノムって、街外れの丘にたくさんいるからね〜……。“虹の家”の外でもたまに見かけてたよね」


やっぱり果林さんたちも、ベベノムがウルトラビーストというのは未だに信じられない様子だった。

確かに、すごくポピュラーなポケモンだから、あの子たちが特別な存在だったと言われても、ピンと来ないのは仕方がない。

私たちも、最初はまさかベベノムがそんな特異なポケモンだなんて、考えてもいなかったわけだし……。


彼方「……すやぁ……」

果林「彼方、寝ないの」

彼方「えぇ〜……だってぇ〜……毎回、こうやってホールを見てるだけなんだもん〜……」

果林「私たちは万が一に備えてここに居るのよ」

彼方「わかってるけど〜……」


果林さんたちの目的は私たちの安全確保。

そのため、実験をするときは絶対に同席してもらうんだけど……ウルトラビーストが現れたのは、私たちが最初の実験でホールを開いたときの1回だけ。

だから、二人は実験中ただ座って、じっと実験の光景を眺めるだけの毎日が続いていた。

今日も同じように、ホールのデータだけ取って終わりかな……。……そう思った、まさにそのときだった。


璃奈「……! ホールにエネルギー反応!」


ホールのエネルギーの数値が急に跳ね上がった。

私は端末を操作して、エネルギーの出力を絞るけど──ホールは閉じようとしない。


愛「この数値……!? ヤバイ!! りなりー、ホール閉じて!!」

璃奈「もう、やってる……! けど……ホールが外側からこじ開けられてる……!」


焦る私たちの様子を見て、


果林「な、なに……!?」


果林さんも立ち上がる。

直後──研究室内のホールがカッと光り、


 「──フェロ…」


気付けば実験室内に──真っ白な上半身と、黒い下半身をした、細身のポケモンが立っていた。

それを見て、果林さんが「綺麗……」と呟くのが聞こえた。

あのポケモンは──


璃奈「ウルトラビースト……フェローチェ……!」


自身の美しさで人やポケモンを魅了する力と、瞬足の攻撃で都市一つを壊滅させた……そんな伝承が残っている、ウルトラビースト・フェローチェとよく似た特徴を持っているポケモンだった。


愛「カリン!! 直視しちゃダメ!! ウルトラビーストには人を操る力を持った奴がいるから!!」

果林「え……?」


愛さんが果林さんにそう注意を促すのと同時に、
697 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:01:27.65 ID:5MWtUFJH0

 「フェロッ!!!」


──ガシャァンッ!! と音を立てながら、フェローチェが実験室のガラスを突き破って、果林さんに飛び掛かる。

そこに割って入るように、


彼方「ネッコアラっ!! “ウッドハンマー”!!」
 「コァッ!!!」

 「フェロッ…!!」


彼方さんのネッコアラが丸太を使って、フェローチェを弾き返した。


彼方「果林ちゃん、平気!?」

果林「あ、ありがとう、彼方……!」


彼方さんに声を掛けられて、果林さんが頭を振る。


愛「私も戦う……! りなりー! 下がってて!」

璃奈「う、うん……ニャスパー、隠れるよ」
 「ニャァ」


戦えない私は、机の影に隠れ、愛さん、果林さん、彼方さんがフェローチェと相対する。


 「…フェロッ」

果林「いいわ、暴れるって言うなら……貴方が私を魅了するよりも早く……倒してあげるから……!」

愛「カリン、カナちゃん! 気を付けてね!!」

彼方「防御は任せて〜!」

 「フェロッ」


実験室内にて、ウルトラビーストとの戦いの火蓋が切って落とされたのだった──





    📶    📶    📶





──カツーンッ!

ビーストボールが床に落ちて、特有の音を響かせた。


果林「……はぁっ…………はぁっ…………」

愛「し……死ぬかと思ったぁ……」

彼方「……かなたちゃん……もう……うごけないぃ…………」

果林「……どうりで……戦力を欲しがるわけね……」


先ほどまでずっと響いていた大きな戦闘音が落ち着いたところで、身を隠していた私が顔を出すと──実験室内はボロボロになっていた。

実験室のガラス張りが吹き飛んでいるのは当たり前として、ひしゃげた壁、破壊された機材、天井の照明も一部が破壊され配線が剥き出しになり、スパークしている。

よくこの実験室内で戦闘を収束させられたと思ってしまうくらいには破壊されていた。

そんな中で愛さんたちは、息を切らせながらへたり込んでいる状態だった。


璃奈「みんな……大丈夫……!?」
 「ウニャァ〜」
698 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:02:04.73 ID:5MWtUFJH0

その惨状を見て、私は物陰から飛び出し、みんなのもとへと駆け寄る。


彼方「ど、どうにか〜……」

愛「平気だよ……カリンとカナちゃんがいなかったら、さすがにやばかったけどね……」


そうは言うけど……3人とも、大怪我こそしていないものの、ところどころ切り傷や擦り傷、それに服に血も滲んでいるところもあって、とにかくボロボロな状態だった。


璃奈「今、医療班を呼んでくるから……!」


急いで医療班を呼びに行こうとしたとき──ふと、


璃奈「あれ……?」


視界の端──実験室の中に、何かの影が見切れた。


愛「りなりー?」

璃奈「……ウルトラホールがあった場所に……まだ、何か……いる……?」

果林「……!?」


果林さんが私の言葉を聞いて、身構えたけど──


 「ピュィ…」


そこにいたのは……小さな小さな、紫色の雲のようなポケモンだった。





    📶    📶    📶





愛「……なんだこれ……」

璃奈「……」

 「ピュィ…」


私と愛さんは、小さな雲のようなポケモンの持っているエネルギー量を調べてみて絶句した。


愛「……持ってるエネルギー量が……フェローチェやベベノムの比になってない……」

璃奈「……」

愛「りなりーどう思う……?」

璃奈「仮説だけど……。……ウルトラスペース内に溢れるエネルギーを吸収してるんだと思う……さすがに一個体のポケモンが作り出せるエネルギーとは思えないというか……」

愛「もうちょっと、詳しく調べてみる必要があるね……」


愛さんがそう言って、触ろうとすると──


 「ピュィ──」


そのポケモンが急に……消えた。
699 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:02:56.50 ID:5MWtUFJH0

愛「……え!?」

璃奈「……!?」

愛「え、う、嘘……!? 今、ここいたよね……!?」

璃奈「に、逃げた……!?」


二人で焦る中、


 「──ひゃぁぁ!? え、なになに!? 君、いつのまに彼方ちゃんのお洋服の中に……!?」


研究室の外から、彼方さんの悲鳴が聞こえてきた。


璃奈「……“テレポート”……」

愛「……こりゃー、一筋縄じゃいかなさそうだね……」


どうやら、あの雲のようなポケモン……ワープする能力があるらしい。


果林「ちょっと、愛ー!? あのポケモン、彼方の服の中にいるんだけどー!?」


果林さんが、彼方さんの手を引きながら、研究室に入ってくる。


彼方「もしかして、この子……男の子なのかな?」
 「ピュィ…」


そう言いながら、彼方さんが襟元辺りを引っ張りながら、自分の服の中を覗き込むようにしていた。恐らくそこに、あのポケモンが潜り込んでるんだろうけど……彼方さんの着こなしは、もともとちょっとルーズだから……なんというか、すごく際どい感じになっていた。


果林「やめなさい……男の人が通ったらどうするのよ……」

愛「カナちゃんって、ちょっと警戒心薄いよね……」

果林「ホントに……心配になるわ……」

彼方「えぇー? そうかなぁー?」


肩を竦める愛さんと果林さんの反応を見て、彼方さんは少し不服そう。


璃奈「……極端に憶病なポケモンなんだと思う……。彼方さんが一番守ってくれそうだから……彼方さんのところに逃げたんだと思う。……たぶん」

彼方「おぉー、この子、人を見る目があるよ〜♪」
 「ピュィ…」

愛「ポケモンからの好かれやすさってあるもんねー。確かにカナちゃんって、ポケモンに好かれる方だよね。……逆にカリンは……」

果林「……何が言いたいのよ」

愛「おっと……何でもない何でもない」

璃奈「とりあえず、何か情報がわかるまで、呼び名があった方がいいかも。いつまでも“あのポケモン”とか“この子”とかって呼ぶのもわかりづらい」

愛「カナちゃんが付けてあげたら?」

彼方「んー……それじゃ、雲みたいだから“もふもふちゃん”で〜」
 「…ピュイ」


めでたく、このポケモンの名前が“もふもふちゃん”に決定した。


果林「……それより、頼まれてたもの、持ってきたわよ」
 「バンギ」

彼方「あ、そうだったそうだった〜。カビゴン、ここに置いて〜」
 「カビ」

愛「あっと……本来の頼み事を忘れるところだった」


果林さんのバンギラスと、彼方さんのカビゴンが、抱えていたコンテナを室内に下ろす。
700 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:03:57.88 ID:5MWtUFJH0

愛「サンキュー二人とも!」

璃奈「すごく助かる」


愛さんと二人でコンテナを開けると──中には大量の本が詰まっていた。

そう、二人に持ってきたもらったものは……本だ。国の図書館から借りてきたもの。


果林「それにしても……すごい量の本ね……」

彼方「これ、全部読むのー?」

愛「ウルトラビーストについては、なんだかんだで記述を見つけられたからね……。改めて検索してみたら、そのポケモンの情報もあるかもしれないって思って」

彼方「おぉ〜なるほど〜」
 「ピュィ…」

愛「もしかしたら、見落としがあった可能性もあるし」

璃奈「さすがに図書館の中で検索するには時間の限界もあったから……こうして、国から借りられたなら、もっと精密に情報の検索が出来る」


前回と違って、政府公認の研究機関になったため、今回はなんと国の図書館から資料を大量に借り出すことが出来た。

私はさっき突貫で組み立てた装置の中に本を数冊置いてみる。


璃奈「スキャン開始」


──ムォォォンと音を立てながら、装置が本をスキャンし始める。


果林「あれ……何してるの……?」

愛「りなりーが開発した、本の情報を抽出検索する装置。なんかインクの反応を調べて、そこから文字情報を抽出するんだってさ」

果林「随分、前衛的な読書ね……」

彼方「璃奈ちゃんの周りだけ科学技術が数十年進んでる気がするね〜」

璃奈「でも、読めるのは一度に3冊まで。スキャンが終わるまではひたすら、出して入れてを繰り返すことになる」

果林「……そこはローテクなのね」

璃奈「自動で出し入れする機構も考えたけど……問題が発生して本を破損するとまずいから……こういうのは手作業でやるしかない」

愛「機械はどうしてもエラー起こすときは起こすからねー……よいしょっと……」


そう言いながら、愛さんが本を装置の傍に運び始める。
701 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:04:32.25 ID:5MWtUFJH0

果林「わかった……。手伝うわ」

彼方「それじゃ、彼方ちゃんはお昼寝してるから頑張ってね〜」

果林「貴方も手伝いなさい」

彼方「や、やだよ〜」

璃奈「とりあえず、出来るだけ早く終わらせちゃおう……」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

璃奈「ありがとう。みんなも手伝ってくれるんだね」

果林「ポケモンですら、率先して手伝ってくれるのに……こんな情けない姉の今を知ったら、遥ちゃんもガッカリでしょうね……」

彼方「……!?」

果林「……あ、もしもし、遥ちゃん?」

彼方「果林ちゃんやめてっ!? 遥ちゃんにだけは言わないでっ!?」

果林「じゃあ、今すぐ運ぶのを手伝いなさい」

彼方「り、了解であります! 軍曹!」

果林「誰が軍曹よ……」

愛「二人とも、コントやってないで手伝ってよ〜!」





    📶    📶    📶





さて、検索結果が出るまで、実に数週間の時間を要した。

その結果……。


璃奈「……あった。この伝承に出てくる絵。このポケモンにそっくり」

愛「どれどれ……“星の子”……か……」

璃奈「浴びた光を際限なく吸収して、そのエネルギーで成長する……。名前は……コスモッグって呼ばれてたみたい」

彼方「君、コスモッグって言うんだ〜」
 「ピュイ…」

果林「一気にエネルギーを放出すると、空間に穴があいた……? これって……」

璃奈「たぶん、大昔の人が見たウルトラホールのことだと思う……」

果林「じゃあ、貴方……ウルトラホールをあけられるのね」


果林さんが話しかけると──


 「ピュ」


コスモッグはそっぽを向く。


果林「……相変わらず“なまいき”な子ね……」

 「ピ、ピュィィ…」
彼方「あーほら〜、果林ちゃんが怖い顔するから、もふもふちゃんがびっくりしちゃったよ〜?」

果林「すぐ彼方に隠れるんだから……」


もふもふちゃん──もといコスモッグは随分人に慣れたものの……果林さんには一向に懐かず、“なまいき”な態度を取っていた。
702 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:05:03.66 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……大量のエネルギーを溜め込み成長するが……取り込んだエネルギーを全て放出しきると、休眠状態になってしまう……」

彼方「無理させると、すやぴしちゃうんだ〜?」

愛「まあ、そういうことだね」

璃奈「……このポケモンはエネルギーを溜め込む性質がある……」

愛「? りなりー?」


私はふと、あることが気になった。


璃奈「愛さん、ウルトラホールからのエネルギー放射データってすぐ出せる?」

愛「出せるけど……どしたん?」


愛さんが出したデータに目を通す。


璃奈「……もし、コスモッグにエネルギーを溜め込んだり、放出したりする能力があるとしたら……。……私たちの研究は異次元に進む可能性がある」

彼方「異次元……?」
 「ピュイ?」


私たちの研究は──コスモッグの存在によって、次なるステージに進もうとしていた。





    📶    📶    📶





璃奈「…………」


私は無心で紙に計算を書き連ねていた。


果林「ねぇ、愛……璃奈ちゃん、もう3日くらいあの調子よ? 大丈夫なの?」

愛「休むようには言ってるんだけどね……スイッチ入っちゃうと、アタシでも止められないんだよね……」

彼方「研究が異次元に進むって言ってたよね……どういうことだろう?」


璃奈「……やっぱりだ……」


彼方「あ、ペンが止まった」

愛「りなりー? 何かわかったの?」

璃奈「愛さんっ!!」

愛「わっ!? な、なに?」

璃奈「今から設計図作る……!! 手伝って!!」

愛「せ、設計図……? なんの……?」

璃奈「ウルトラスペースを渡る船──ウルトラスペースシップの設計図……!!」

愛「へ……?」


愛さんはポッポが豆鉄砲を食らったような顔になる。
703 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:06:11.75 ID:5MWtUFJH0

果林「ウルトラ……?」

彼方「スペースシップ……?」

愛「え、ちょ……ちょっと待って、りなりー……順を追って説明して……?」

璃奈「コスモッグはウルトラスペースのエネルギーを溜め込んだり、放出したり出来る。そのエネルギーがあれば、ウルトラスペース内の強いエネルギーを中和して、活動出来る……!」

愛「……ま、マジ!?」

璃奈「そもそも、ウルトラビーストはなんで高エネルギーに満ちてるウルトラスペースで生存できるのかがわからなかったけど……自身が溜め込んだエネルギーを放出して、中和してる……! コスモッグはその中でも、余剰にエネルギーを溜め込む性質があるから、それを使えば人間もウルトラスペースで航行出来るはず……!!」

愛「じゃあ、ウルトラスペースシップってのは……!」

璃奈「コスモッグのエネルギーを借りて、エネルギー中和と推進力を生みだすことで、ウルトラスペース内の探索が理論上可能……! 高次元からの観測が出来るようになったら、どういう風に私たちの世界からエネルギーが消失してるのか、そのエネルギーがどこに行ってるのかまで全部計測出来る……!!」


つまり、まさに私たちの研究のステージは──文字通り、異次元に突入するということだ。


愛「わかった……! りなりーは設計のたたき台を作って! さすがにその規模だと二人じゃ無理だから、工学系の研究室とかに応援頼めないか聞いてくる!!」

璃奈「わかった!! お願い……!!」


愛さんが研究室から飛び出し、私はウルトラスペースシップ設計のたたき台に取り掛かる。


果林「どうやら……話が進むみたいね」

彼方「置いてけぼりだけど……なんか、そうみたいだね〜」

果林「邪魔しちゃいけないし……私たちは別の部屋に居ましょうか」

彼方「うん、そうだね〜」


そのとき──prrrrと彼方さんの方から端末が鳴った。


果林「貴方に連絡してくる子と言えば……」

彼方「もちろん、愛しの遥ちゃ〜ん♪ 実は遥ちゃん、ここの入所試験受けてたから、それの結果が出たのかも!」

果林「いつの間に……」

彼方「もしかしたら、近いうちにここで一緒に働けるかも〜♪ もしもし〜遥ちゃん? どうしたの〜?」


彼方さんは心底幸せそうな笑顔で通話に応じたけど──


彼方「……え?」


その声のトーンが、急に今まで聞いたことのないような重いものになった。


璃奈「……彼方さん……?」


あまりに聞き覚えのない重い声に、集中していたはずの私も振り返ってしまった。


果林「彼方……?」

彼方「………………果林ちゃん……。…………お母さんが……倒れたって……」


彼方さんは青い顔をして、果林さんにそう伝えたのだった。





    📶    📶    📶





──ウルトラスペースシップの設計が始まって、早くも1ヶ月が経とうとしていた。
704 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:06:59.72 ID:5MWtUFJH0

愛「……この調子なら……来週には着工出来そうだね」

璃奈「うん、順調」

愛「造船についてはもう話付けておいたし、設計計画が完成すれば、すぐにでも始められると思う」

璃奈「ありがとう、愛さん」

愛「いやいや、アタシよりも……この短時間で設計図を完成させたりなりーの方がすごいって……。……とりあえず、休憩しよっか。お茶でも淹れるよ」

璃奈「うん、ありがとう」


とりあえず、私たちはひと段落するところまで来ていた。

愛さんにお礼を言いながら、私たちが休憩室に戻ると──頭を抱えている人が居た。


果林「……た、助けてぇ……愛ぃ……」

愛「ま、またぁ……? 今日のは何……?」

果林「防衛部隊の予算計画書なんだけど……何度やっても数字が合わないのよぉ……っ……彼方って、こんなに難しいことしてたの……?」

愛「……研究所で算数レベルの話、教えることになるとは思わなかったよ……」

璃奈「果林さん、私も一緒に考えるね」

果林「ありがとう〜……璃奈ちゃん……」

愛「はぁ……。……アタシたちに泣きつくくらいなら、引き受けなきゃいいのに……」

果林「ダメよ……彼方は今は……院長先生──お母さんと一緒にいるべきだもの……」


──彼方さんは、ここ1ヶ月ほどの間、倒れたお母さんのお見舞いに行くため、頻繁に部隊を空けている。

その間は臨時で、果林さんが攻撃部隊と防衛部隊の両方の隊長を兼任しているみたい。

ただ、隊長には隊長の執務がある。そうなってくると、彼方さんの執務も果林さんがやることになるんだけど……果林さんはそういう作業が滅法苦手だった。意外な弱点。


愛「隊長って言っても、実際にウルトラビーストクラスの敵と戦えるのって、カリンとカナちゃんくらいしかいないんだから、もう部隊から切り離してもらったら……?」

果林「私もそれは思ったことはあるけど……後進育成も必要だって、彼方に言われて……」

愛「あーまあ……カナちゃんなら言いそう」

果林「それに元は警備隊なわけだからね……私たちがこっちで動いてることが多いだけで、組織自体は今でもプリズムステイツの治安維持は並行して行ってる……有事の際には私たちも出向いてるわけだし……」

愛「そっちはそっちで大変そうだねぇ……」

果林「そうなのよ、大変なのよ……だから、助けて……」

愛「別にいいけど……カリン、普段自分の隊の執務はどうしてんのさ……」

果林「全部、隊の他の人に任せてる……」

愛「あー……なるほどねー……」

璃奈「とりあえず……ここ、計算間違ってる」

果林「え……?」

愛「先は長いなぁ……」





    📶    📶    📶





──あれから5ヶ月が経過した。


愛「……ウルトラスペースシップ……完成したね」

璃奈「……うん」
705 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:09:31.34 ID:5MWtUFJH0

竣工したウルトラスペースシップを見上げながら、愛さんの言葉に頷く。


愛「……本来なら、喜んでたんだろうけどね……」

璃奈「……そう……だね……」


──ちょうど今朝、連絡があった。

彼方さんのお母さんが……亡くなった、と。

果林さんと彼方さんは……お葬式に行ったため、今ここにはいなかった。


璃奈「……家族が死んじゃうのは……悲しい……」

愛「……そうだね」


俯く私の頭を、愛さんがぽんぽんと撫でる。


愛「……そういう悲しいを、少しでも減らすために……アタシたちは頑張ってるんだ」

璃奈「…………うん」

愛「……大丈夫。アタシたちは……前に進んでる。……りなりーも、カリンも、カナちゃんも……」

璃奈「…………うん」


辛くても……前に進まなくちゃいけない。……私たちは、みんなの未来を、背負っているから……。





    📶    📶    📶





──数日後。


彼方「ただいま〜」

果林「……戻ったわ」

愛「おかえり! カリン! カナちゃん!」

璃奈「おかえりなさい」


二人が研究所に復帰した。


璃奈「彼方さん……大丈夫……? 無理しないでね……」

彼方「ありがとう、璃奈ちゃん。でも、彼方ちゃん、くよくよしてられないから〜」

果林「……私たちがいない間に、シップ……完成したんでしょ? 見に行きたいわ」

愛「随分やる気じゃん、カリン」

果林「……気合いが入ったのよ。……私たちは、何がなんでも世界を救わなくちゃいけないんだから。……そうでしょ?」

璃奈「……うん。そのとおり」

彼方「これ以上、悲しむ人を増やさないためにも……」

愛「そうだね。案内するよ!」



706 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:10:28.21 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──そして、あっという間に……ウルトラスペースへと旅立つ時がやってきた。


璃奈「エネルギー充填完了。エンジン稼働正常。ウイング稼働正常」

愛「レーダーOK. 装甲へのエネルギー循環100%だよ」

彼方「コスモッグ、苦しくない〜?」
 「ピュイ♪」

彼方「コスモッグの準備も大丈夫そう〜」

愛「検知結果来てる〜?」

璃奈「うん、コスモッグ暫定エネルギー量63%」

果林「……やることがないわ」

愛「カリンはなんも触んないでね。シップが沈んだら全員お陀仏だから」

果林「一応、指揮は私が執ることになってるんだけど……」

愛「だから、出発前のメディア対応お願いしたじゃん。カリンはアタシたちの顔だよ♪」

果林「調子いいんだから……」

璃奈「全点検終了。……予定通り、10分後に発進シークエンスを開始する」

愛「了解。さぁーて、いよいよだねー」

璃奈「……その前に、みんなに聞いておきたいことがある」

果林「聞いておきたいこと?」

彼方「なになに〜?」


私はみんなの顔を順番に見回す。


璃奈「……ここから先は……人類未踏の世界。……命の保障が出来ない。……だから──」

果林「降りるなら、今が最後のチャンスだって話かしら?」

璃奈「うん。……この先はずっと、死と隣り合わせになる」

愛「……ま、アタシはもちろん行くけどね。聞くだけ野暮ってやつだよ、りなりー」

彼方「まあ、危ないなら尚更、一緒に行かなくちゃだよね〜」

果林「貴方たちを危険から守るために、私たちがいるんでしょ。……今更、仲間外れにしたら、怒るわよ?」

愛「ま、カリンは準備段階で軽く仲間外れみたいになってるけどねー」

果林「……怒るわよ?」

愛「冗談だって〜♪ ま、そーゆーことだからさ。みんな行くよ」

璃奈「愛さん……彼方さん……果林さん……」

彼方「もう、これは璃奈ちゃんだけの夢じゃないよ。みんなの夢」

果林「私たちはもう……4人で1つのチームでしょ」

愛「みんなで世界、救いに行こう♪」

璃奈「……うん!」


みんなの頼もしい言葉に、私は力強く頷く。
707 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:11:18.43 ID:5MWtUFJH0

果林「そういえばチームで思い出した」

彼方「え、なになに〜?」

果林「今メディアが私たちのことなんて呼んでるか知ってる?」

愛「なんかあんの?」

果林「……『異界の海へと潜り行く美姫たち』……って意味を込めて──“DiverDiva”って呼ばれてるみたいよ」

璃奈「“DiverDiva”……」

愛「へー! いーね、それ! たまにはメディアもセンス良いこと言うじゃん!」

彼方「美姫か〜なんか照れちゃいますな〜」

璃奈「……ちょっと……恥ずかしいけど……嫌いじゃない」

愛「そんじゃ、リーダー! 発進前に、一発気合いの入るの言ってよ!」

彼方「お、いいね〜。そういうノリ、彼方ちゃん嫌いじゃないぜ〜?」

璃奈「果林さん。お願い」

果林「突然言わないでよ、もう……。……みんな、世界を救いに行くわよ! この4人──“DiverDiva”で……!!」

璃奈「うん!」
愛「あいよー!」
彼方「任せろ〜!」


私たちの──異界での旅が、幕を開けたのだった。





    📶    📶    📶





──さて、ウルトラスペースの調査が本格的に開始し……私たちは少しずつウルトラスペースのあちこちを旅しながら、いろんなことを知ることになる。

まずウルトラスペースの中には、私たちの世界のように、いろいろな世界が存在していることがわかった。

私たちは世界を見つける度に、そこに降りて調査を行った。

そして……世界によっては──新たなウルトラビーストに出会うこともあった。


────
──


例えば……巨大な電気を帯びた樹木が張り巡らされた世界……。


 「──ジジジジ」

果林「みんな!! 姿勢下げて!!」

愛「雷……雷無理、雷怖い、無理無理無理……」

璃奈「あ、愛さん、しっかりして……!」

彼方「おー……愛ちゃんの意外な弱点だ〜……」


────
──
708 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:12:12.67 ID:5MWtUFJH0

例えば、一面に広がる砂漠の世界……。


 「──フェロッ!!!!」

果林「こっちよ!!」
 「フェロッ!!!」

 「フェ、ローーチェ!!!!」

愛「カリン!! 一人じゃ無茶だって!?」

果林「フェローチェの速さに対抗出来るのは、フェローチェしかいないでしょ!! 任せなさい!!」


────
──


宝石のような輝く鉱物があちこちに生えた洞窟の世界……。


 「──ジェルルップ…」「──ジェルル…」「──ジェルップ…」

璃奈「……ウツロイド……。……強力な神経毒を持ってるウルトラビースト……」

愛「寄生されたらアウトだからね……慎重に調査しないと……」

果林「彼方……いざとなったら、無理やりにでも手引っ張って逃げるからね……。貴方、走るの苦手なんだから……」

彼方「えへへ〜……果林ちゃん頼りになる〜」


────
──


例えば巨大なジャングルのような世界……。


 「マッシブーーーーーンッ!!!!!!」

果林「……っ……!!」

愛「カリン!! 逃げて!!」

璃奈「果林さん!!」


──ボフッ。


 「…ッシブッ!!?」

彼方「ダメだよ……果林ちゃんは、彼方ちゃんの大切な家族なんだから……傷つけさせない」
 「──メェェェェ…!!!!」

果林「かな……た……」

愛「ウールーが……」

璃奈「進化……した……!」


────
──


例えば、巨大な遺跡の世界……。


彼方「この模様……なんだろ……?」

果林「太陽と……月……かしら……?」

愛「……かつて文明があったのかな……」

璃奈「人が住んでたのか……他の世界から持ち込まれたのかはわからないけど……。……ただ、もうこの世界に知的生命体は生息してないと思う。……あまりに世界規模が小さすぎる……」

 「──ピュィ…」
709 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:14:48.11 ID:5MWtUFJH0

────
──


本当に……いろんな世界を見て回った。

そして、私はその中で、世界はそれぞれ違う規模を持っていることを突き止めた。

加えていろいろな世界を巡る中で──私たちは、ウルトラビーストを何種類か捕獲することに成功した。

テッカグヤ、デンジュモク、カミツルギ、ズガドーン……そして、2匹目のコスモッグ……。

ただそれなりの数の世界を見て回ったけど──知的生命体による文明が進行形で築かれている世界へは、たどり着けなかった。





    📶    📶    📶





調査を続ける中で……久しぶりに研究所に戻ってきていた私は、考えていた。

──結局何故、私たちの世界からはエネルギーが漏れ出してしまっているのだろうか?

各世界にある物質の放射性年代測定から見るに……誕生から時間が経過している世界ほどエネルギー状態が不安定だった。

それが指し示すのは……この現象は世界そのものに起こっている経年劣化のようなものと考えるのが妥当……?

世界はエネルギーの風船のようなもので……その風船のゴムの表面が徐々に弱まって、エネルギーが逃げ出していくと仮定して……。

そうだとしてエネルギーはどこに……?

スペース内でエネルギーに偏差が観測出来るってことは、エネルギー自体は流動しているってことだから……。

そうだ……期間ごとの放射誤差のデータと、周辺スペースのエネルギーの飽和状態を見れば……!

私は、集めたデータを見比べる。……やっぱり……ウルトラスペース内に、エネルギーの圧力のようなものが存在しているんだ……。

私は一人、頭の中で理論を整理していく。


彼方「それにしても……これだけ世界を見て回ったのに……人が住んでる世界って、ないもんなんだねー……」

果林「そうね……。……でも、文明がある可能性が高い世界はあったんでしょ?」

愛「まあね。……エネルギー観測によると、アタシたちの世界よりも大きな規模の世界が1個だけ見つかったから。そこにはもしかしたら……文明があるんじゃないかって考えてるけど……」

彼方「エネルギー……ちょっとくらい分けてくれないかな〜……」

愛「それが出来ればなんだけどね〜……」


エネルギーを分ける……?


璃奈「……!」


私はそのとき、あることに気付き、椅子を跳ねのけるようにして、立ち上がった。


愛「り、りなりー? どうしたの? 何かひらめいたん?」

璃奈「………………わかった」


もし、周辺のウルトラスペースのエネルギー圧が小さいほど、エネルギーが流出するのなら、自分たちの世界の周辺のエネルギー圧を上昇させるのが答えになる。

そして、そのための方法があるとしたら……。


彼方「わかったって……何がわかったの〜……?」

璃奈「世界を………………救えるかも……しれない……」

果林「ホントに……!?」


私の言葉を聞いて、果林さんが私の両肩を掴みながら、
710 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:20:47.70 ID:5MWtUFJH0

果林「一体どういう方法なの……!? 璃奈ちゃん……!!」


血相を変えて訊ねてくる。

強い力で肩を掴まれていたため、肩に果林さんの指が食い込んでくる。果林さんはそれくらい強い力で私の肩を掴んでいた。


愛「ちょ、カリン……!」

璃奈「……か、果林さん……い、痛い……」

果林「あ……ご、ごめんなさい……」


果林さんは謝りながら、掴んでいた手を離す。


愛「……カリンが人一倍気持ちが強いのは知ってるけど……そんな風に詰め寄ったら、りなりーが困っちゃうからさ……」

果林「そう、よね……ごめんなさい……」

璃奈「うぅん……大丈夫」

彼方「それで……どういう方法なの……?」


彼方さんに訊ねられるけど……。


璃奈「……それは……」


私はこれを口にしていいものか……悩んでしまった。

もし自分たちの世界の周辺をエネルギーで満たすということが意味していることを考えると……。


璃奈「…………言っていいのか……わからない」


安易に言っていいものなのかわからなかった。


果林「言っていいのか……? わからない……?」


私の言葉に果林さんが眉を顰める。


果林「世界を救う方法があるんでしょ……? それを言っていいのかわからないって、どういうこと……?」

璃奈「そ、それは……。……でも、今この場では……教えていいことか……私だけじゃ判断しかねる……」

果林「なによそれ……。……ねぇ、璃奈ちゃん……貴方も世界を救いたいんじゃないの……?」


果林さんの語調が強くなる。


彼方「か、果林ちゃん、落ち着いて……」

愛「…………何か思うことがあるってことだよね」

璃奈「……うん」

愛「わかった。……ただ、私たちは政府から託されて研究してるから……」

璃奈「……わかってる。……報告しないわけにはいかない……」


最終的には、可能性であっても、報告の義務がある。

政府がどれだけ私たちに投資しているかを考えれば……私一人の意思で、研究の中で見つけた事実を発表するかしないかを決めていいわけがない。

それを聞いて果林さんは、


果林「なら、ここで言ってもいいんじゃないの?」


再び強い口調をぶつけてくる。
711 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:22:04.28 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……ご、ごめんなさい……」

愛「カリン、やめて。りなりーが困ってる」

果林「私たちは仲良しごっこしてるんじゃないのよ? 世界の命運を懸けて戦ってるの」

愛「……」

果林「……」

彼方「ふ、二人とも落ち着いて! 果林ちゃん、焦って聞いても彼方ちゃんたちにはよくわからないだろうし、ちゃんと報告した後にわかりやすく纏めてもらった話を聞こう? ね?」

果林「…………わかった」


彼方さんが宥めると、果林さんは私に背を向けて椅子に腰を下ろす。


璃奈「……ほっ」

愛「りなりー、大丈夫?」

璃奈「……うん」

彼方「ごめんね……果林ちゃんも悪気があって言ってるわけじゃなくて……最近、調査進捗とかメディアから詰め寄られることが多くって……だから、ちょっと焦っちゃってるだけで……」

璃奈「うん、理解してる。果林さん、ごめんね、すぐに言えなくて……」

果林「……私こそ……ごめんなさい……。……ちょっと、頭を冷やすわ……」


果林さんの焦りも理解出来る……。……矢面に立って、一番せっつかれているのは間違いなく果林さんだ。

……それも、人前に立つのが苦手な私の盾になってくれている。

だから、煮え切らない態度を取ってしまったことに申し訳なさはある。


愛「……それじゃ、アタシとりなりーで一旦理論を纏めてくるから……」

果林「ええ……お願いね」


とりあえず、愛さんに相談して……どう上の人に伝えるかを纏めないと……。

愛さんと一緒に執務室に移動する。


愛「それで……聞いていいかな」

璃奈「…………。私たちの世界がエネルギー的に委縮を続ける理由は……恐らく世界の持つ根本的な寿命なんだと思う……。高次元との間の境界面が、時間と共に薄くなって……そこからエネルギーが流出していく」

愛「じゃあ……どうしようもないってこと……?」

璃奈「うぅん……。もし境界面が薄くなったとしても……周辺にあるエネルギーが多ければ問題ない。問題なのは、世界の周辺のエネルギーが不足して、エネルギーの圧力のようなものが下がってるから」

愛「……なるほど。内外で圧力差が生じるから、外にエネルギーが逃げちゃうのか」

璃奈「うん。なら……周辺のエネルギー圧を上げればいい……」


問題はその方法だ。


璃奈「エネルギーはウルトラスペース内で流動してる。……ということは、どこかで巨大なエネルギーの爆発を起こせば……その余波で、私たちの世界の周辺のエネルギー圧も上昇するはず……」

愛「まあ、単純な話だよね……。少ない場所にエネルギーを供給するには、溜め込んでる場所から持ってくればいいもんね」

璃奈「でも……たくさんのエネルギーを溜め込めるのは……恐らく、世界そのもの」

愛「……世界がエネルギーを溜め込む風船みたいなイメージだよね」

璃奈「うん。……つまり、より大きな風船を割ると……よりたくさんのエネルギーがウルトラスペースに還っていく……」

愛「確かにそう……。……え?」


愛さんも気付いたようだ。
712 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:23:09.52 ID:5MWtUFJH0

愛「…………」

璃奈「でも、より大きなエネルギーを持った世界には……恐らく文明がある。……人が、ポケモンが……たくさん生きてる文明がある……。それを壊すってことは……その世界の人やポケモンたちを……犠牲にするってこと……」

愛「…………なるほど……こりゃ、確かにアタシでも言っていいのか迷う……」


愛さんは片手を頭に当てて、椅子に腰を下ろした。


愛「……でも、果林たちは何か方法があることを知っちゃってる……。……上への報告を一切しないのは無理かな……」

璃奈「ごめんなさい……。……もっと熟考してから、口にするべきだった……」

愛「いや、りなりーは悪くないよ……。ただ、これは……そのまま、上には伝えられない」

璃奈「うん……」


こんな非人道的なことをするとは考えたくないけど……もしわかった上でやるとなったら……取り返しがつかない。


愛「……それっぽい理屈で、方法はあるけど、危険だから出来ないって説明をしよう」

璃奈「それしかないよね……」


私たちはどうにか嘘を吐かない範囲で、研究報告を作り始めるのだった。





    📶    📶    📶





──後日。私たちは政府の役人や実行部隊の司令官の集まる席での、口頭での発表をお願いされた。


璃奈「まさか、呼び出されると思わなかった……」

愛「書面だけじゃなくて、ちゃんと説明しろってことかねー……」


やっぱり内容が内容だけに、書面で伝わりづらいニュアンスも解説することを求められているのかもしれない。

ちなみに私たちが出した研究報告書はざっくり言うと──『世界からエネルギーが流出するのは世界の寿命が迫っているから。それを遅らせるには、私たちの世界周辺のエネルギー量を増やすことが必要だが、それをする方法は現在調査中』という形で提出した。

嘘は吐いていない。


愛「りなりー、ボード持ってきてる?」

璃奈「うん」


やっぱりまだ緊張するから……ボードは使っている。私の発表の方法は割と知れ渡っているから、こういう堅い場でも使うことが許されているのは助かる。


愛「んじゃ、行こうか」

璃奈「うん」


もうすでに人が揃っている会議室内へと足を踏み入れる。

中には……十数人ほどの政府役員、所内の管理者や、実行部隊の司令官が揃っていた。


愛「失礼します。ミヤシタ・愛です」

璃奈「テンノウジ・璃奈です。よろしくお願いします」 || ╹ ◡ ╹ ||

政府役人「待っていたよ。……それでは、早速だが研究の報告を改めてお願いしてもいいかな?」

璃奈「はい」 || ╹ ◡ ╹ ||


そのとき、ふと──
713 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:24:51.78 ID:5MWtUFJH0

 「ネイ」


部屋の隅にネイティが居ることに気付いた。

……そういえば、今までも役人の人たちとお話するときには、いつもお部屋にネイティがいた気がする。

役人の人の中にネイティを好きな人がいるのかな……?

まあ、いいや……。

私たちは研究内容の報告を始める。

もちろん、報告書で書いたとおりの内容でだ。


璃奈「──ですので……報告書にも書いたとおり、その大量のエネルギーをどこから持ってくるかは研究中です」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「当てはあるのかな?」

璃奈「あくまで現状では理論がわかっただけなので……そちらに関してはこれから考えるつもりです」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「現状では、具体的な方法には見当が付いていないと……?」

璃奈「……はい」


私は役人の言葉に頷く。

そのときだった、


 「ネイティー」


ネイティーが──鳴いた。


愛「……!」

政府役人「聞き方を変えよう。……何か私たちに報告していないことがあるんじゃないかい?」

璃奈「……? ……ありませ──」

愛「りなりー、ダメだ……!!」


愛さんが急に私の口を手で塞ぐ。それと同時に──


 「ネイティー」


また、ネイティーが鳴いた。


璃奈「あ……愛さん……?」


何が起こったのかわからず困惑していると、


愛「……普通、そこまでする?」

政府役人「…………」


愛さんはそう言いながら、政府の役人たちを睨みつける。


璃奈「え、えっと……ど、どうしたの……?」

政府役人「君たち研究者は、研究を政府から拝命しているにも関わらず、自分たちの倫理道徳観に従って、結果を隠すことがあるからね……」

愛「研究に主観や研究者の願いが含まれるのは当然でしょ!? 研究者だって、人間なんだよ!?」

政府役人「だから、それをクリアするための措置だ……。……君たちに求められていることは、一刻も早く世界を救う方法を見つけ出すこと……違うかね? 政府がどれだけ君たちの研究に、予算と人員をつぎ込んでいると思ってるんだ?」

愛「だ、だとしても……こんな騙し討ちみたいな方法……!」

璃奈「あ、愛さん……! どういうこと……?」
714 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:26:44.40 ID:5MWtUFJH0

私は突然役人の人と口論を始めた愛さんに説明を求める。

すると愛さんは、苦々しい顔をしながら──


愛「……最初から、この人たちはアタシたちの報告を信用なんてしてなかった……。……だから、嘘発見器まで置いて……」

璃奈「嘘……発見器……?」


ハッとする。


 「ネイ」

璃奈「まさか……あの……ネイティ……」

愛「アタシたちが……嘘や虚偽の発言をしたとき……鳴いて知らせるように、訓練されてる……」

璃奈「……嘘」


私の手から……璃奈ちゃんボードが滑り落ちて、パサっと音を立てながら床に落ちた。


政府役人「さぁ……報告を続けて貰おうか」

愛「……だから、今は調査中です。これ以上、報告出来ることはありません」


愛さんが睨みつけながら言葉を返す。


政府役人「“さいみんじゅつ”で吐かせることも出来るんだ。……手荒な真似をさせないでくれ」

愛「…………」

璃奈「……愛さん、話そう」

愛「りなりー……!?」

璃奈「ここまで、強引な手を使ってくるってことは……言わないと、何されるかわからない。……私たちだけじゃなくて……果林さんや彼方さんにも……」

愛「…………」


恐らく……ここで突っぱねても、強引に吐かせられるか……何かしらの罰が、私たちだけじゃない……チームの連帯責任として、課されるなんてことは想像に難くない。

私の言葉を聞いて、


司令官「……」


実行部隊の司令官さんが目を逸らした。

恐らく、そういうことだろう。


政府役人「それだけ……我々も必死なんだ。世界のために……」

愛「だ、だからって……恥ずかしくないの……!?」

璃奈「愛さん。言ってもしょうがない……。……組織の合理性を考えたら……研究者に研究内容を秘匿させないのは……間違った選択じゃない……」

愛「……っ」

璃奈「ただ……この方法は、完全に人道に反する。……私たちは一切推奨しないし、今も他の方法をしっかり模索し続けていることは理解して欲しい」

政府役人「……いいだろう」


そう前置いて──私は、世界にエネルギーを溢れさせる方法を……話し始めた。



715 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:27:53.27 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





愛「……くそ……」

璃奈「……ごめんなさい」

愛「りなりーは……悪くない……。……あんな卑怯なことされたら……」


とりあえず……本日のところは、報告をしただけで会議は終わった。

ただ……方法の一つに──他世界を滅ぼすということがあるのは完全に知られてしまった。

今後具体的にどうするかは、政府で検討したのち、私たちに次の指示を出す、とのこと……。


愛「でも、アイツら……検討するなんて思えない……」

璃奈「…………」


確かに、もうすでに研究者に対する人道は損なわれている。


愛「りなりー……研究を……放棄しよう……。……これ以上は、いくらやっても政府に利用されるだけになる……」

璃奈「……それは出来ない」

愛「なんで……!」

璃奈「今放棄しても……今いる実行部隊をウルトラスペースに送り込んで無謀な調査を続行するとしか思えない……。……そうしたら、他の世界の人たちどころか……私たちの世界の人たちまで無駄に死ぬことになりかねない……」

愛「それは……」


政府からしてみれば……メディアに大々的にアピールもしてしまっている……他国からも多額の支援を受けてしまっている。

もうプリズムステイツ政府も、十分に切羽詰まっているのだ。

そう考えると……今後どういう方針で動いていくことになるのかは……わかっているようなものだった。


璃奈「今の政府の考えを止めるには……もう、私たちに選択肢は一つしか残されてない……」

愛「一つ……?」

璃奈「……政府が動き出すよりも前に……より良い代替案を見付けるしかない──」





    📶    📶    📶





──だけど、代替案はなかなか思いつかず……。

その最中にも、何度か会議が行われた。
716 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:29:01.73 ID:5MWtUFJH0

愛「だから、仮に他世界を滅ぼして、ウルトラスペースにエネルギーを溢れさせても、また数百年、数千年もすれば同じことが起こるんだって!!」

璃奈「エネルギーは流動する……。……エネルギーの固定方法を考えるよりも、移住を考える方が現実的かもしれない」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「だが、数百年数千年我々の世界は守られる。それに今更になって、この世界を捨てると世界中に説明しろと?」

璃奈「現実的な問題の話をしてる。……今、貴方たちが計画してることは侵略。世界間で戦争になる可能性だってある。それに勝利したとしても、また時間が経てば同じ問題が起こる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「なら、そのときはまた戦うしかない。人はずっとそうしてきたんじゃないかい?」

愛「だからそれじゃ、根本的な解決にならないって言ってんでしょ!?」

璃奈「愛さん……落ち着いて……」

政府役人「……話にならんな」

愛「それはこっちの台詞だよ!!」

政府役人「君たちの聞き分けがあまりに悪いため……今後は組織の全指揮系統を実行部隊に渡すことにした」

愛「はぁ!?」

政府役人「今後は研究の方針や予算の割り振りも、実行部隊が管理する。今後はそちらの指示で動いてもらう」

愛「ふっざけんなっ!!」

政府役人「……実際に航行エネルギーとして扱う星の子、コスモッグと言ったな。……あのポケモンはすでにこちらで確保させてもらった」

愛「はぁ……!?」


愛さんと私は、同席している実行部隊の司令官に視線を向ける。


司令官「……果林と彼方には上からそういう指示があったと言って回収した」

愛「……いつの間に……」


先手を打たれたということだ……。

果林さんたちは私たち以上に上下のある組織をベースに動いている。

そうなると、上からそういう指示があれば、それには従うだろう……。


政府役人「2匹のコスモッグは今後、実行部隊で管理する」

愛「……横暴だ……!」

政府役人「ポケモンの扱いに長けた実行部隊がポケモンを管理するのは合理だと思うが?」

璃奈「……本当にそう思うんですか? ポケモンの扱いに長けた人がコスモッグの管理をするのが適切と」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「当然だ。あれは君たちのポケモンではない。世界を守ろうと考える全ての人間の中で公平に扱われるべきポケモンだ。他に何か合理的な異論でもあるのか?」

璃奈「ない。その理屈は正しい」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「り、りなりーっ!」

璃奈「ただ、ポケモンの扱いに長けた人間に渡すという理屈を是とするなら、実行部隊に2匹とも渡すのは筋が通ってない」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「え……?」

政府役人「……何?」

璃奈「……この組織全体で見ても、愛さんのポケモンの扱いはトップ2には間違いなく入ってる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「……そうなのか?」


役人の人が司令官さんに確認を取る。


司令官「……確かに摸擬戦の結果では、果林は愛博士とは同程度の実力ですが……彼方は明確に負け越しています」

政府役人「……」

璃奈「なら、少なくとも2匹のコスモッグのうち1匹は愛さんの手に渡るはず。それが合理と言ったのは貴方」 || ╹ᇫ╹ ||


役人の人は私の言葉に、黙り込み、眉を顰めていたけど──さすがにこれだけの地位にいる人間が、簡単に言っていることを覆すことは出来ないだろうという私の読みどおり、
717 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:31:51.82 ID:5MWtUFJH0

政府役人「……わかった、いいだろう。では、改めて組織内でポケモンの扱いに長けた2名──アサカ・果林、ミヤシタ・愛に、コスモッグの管理権を渡す」


コスモッグは愛さんと果林さんの手に渡ることになった。


政府役人「辞令は追って出す」

璃奈「わかりました」 || ╹ᇫ╹ ||





    📶    📶    📶





危うく全権剥奪されかねないところだったけど……どうにか、首の皮1枚繋がった感じだ……。

そして後日──正式に愛さんに“SUN”、果林さんに“MOON”という階級称号が与えられた。

今後は、この二人がそれぞれコスモッグを管理することになる。


璃奈「愛さんに渡されるコスモッグは、彼方さんが持ってた子みたいだね」

愛「まぁ……カナちゃんの持ってたコスモッグは、カリンとは仲悪かったからね……」


愛さんと話しながら研究室に戻っていくと、ちょうど中から果林さんたちの話し声が聞こえてきた。


果林「──それにしても……なんで“SUN”と“MOON”……太陽と月なのかしら……?」


恐らく、果林さんたちも辞令について話しているんだと思う。

そこに愛さんがドアを開けながら、


愛「文献を見つけたからだよ」


果林さんの疑問に答える。


果林「愛……」

彼方「文献って?」

璃奈「2匹目のコスモッグを見つけた世界で、石板があったの覚えてる?」

果林「あったような……なかったような……」

愛「まあ、あったんだけどさ。その石板にあった碑文をりなりーが言語解析プログラムにずっと掛けてたんだけど……それの結果が出たらしくってね」

果林「それが太陽と月だったの?」

愛「コスモッグは成長すると、太陽の化身もしくは月の化身へと姿を変えるんだってさ」

璃奈「日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、太陽の化身もしくは月の化身に姿を変えるって記されてた」

彼方「あーだからか〜……太陽と月をそれぞれ授けるぞ〜ってことだね〜」

璃奈「そんな感じ。強いトレーナーの傍に居ればいつか覚醒して、私たちの力になってくれるだろうって考えてるみたい」


ただ、果林さんが本当に聞きたかったのは、命名理由というよりも……どういう基準で選ばれたかということみたいだったらしく、


果林「……“SUN”は貴方よね、愛」


愛さんに向かって、そう訊ねてくる。
718 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:35:35.99 ID:5MWtUFJH0

愛「……まーね」

果林「上の人と揉めてるの……?」

愛「……」


急な辞令だし……私たちのことは最近何かと噂になっている。果林さんも何かしら、察しているんだと思う。

愛さんは果林さんの言葉を受けて、気まずそうに頭を掻く。


愛「……大丈夫、ちゃんとチャンスは貰ったから」

果林「チャンス……?」

愛「世界……救える理論、ちゃんと見つけてみせるからさ」

璃奈「……私たち頑張る! 璃奈ちゃんボード「ファイト、オー!」」 || > ◡ < ||


果林さんは心配そうにしているけど……私たちにはまだ、やれることがあるはず。

現状の方針を覆すためにも……私たちはとにかく調査を続けることにした。





    📶    📶    📶





愛「……つってもなぁ……。……他の方法かぁ……」


愛さんが頭を抱える。


璃奈「……何か方法はきっとあるはずだから……」

愛「……うん。……ってか、りなりーさっきから何してるの?」


さっきから私が弄っている端末を、後ろから覗き込んでくる。


璃奈「……ウルトラスペース内のエネルギー流動シミュレーション」

愛「……流動シミュレーション……?」

璃奈「……エネルギーには偏差がある。それは常に空間そのものが運動している証拠。……一生空間が運動し続けるんだとしたら……」

愛「ウルトラスペースは……ある基点を中心に回転してる……?」

璃奈「うん。その可能性が高い」


ある一方向に進み続ければいつかはエネルギーが尽きてしまう。

なら、可能性としては円運動をしていると考える方が論理的だ。


璃奈「そして、その中心点には……エネルギーが集中してるはず。……そこを見つけ出して、エネルギーを抽出する方法が見つかれば……もしかしたら……」


私はより大きなエネルギーが存在する場所を、今持っているエネルギーの流動情報からシミュレーションで導き出そうとしていた。


愛「……りなりー、シミュレーション手伝う。データ回して」

璃奈「うん、お願い」



719 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:36:31.79 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





──愛さんと二人で、シミュレーションを始めて約数週間……。

睡眠以外ほぼ不休で進めていた検証の結果……。


璃奈「……あった……」


私たちは──探していたウルトラスペースの中心……即ち特異点の存在の予兆を、探り当てていた。


愛「問題は距離か……。……航行エネルギーが足りない……」

璃奈「……それも、どうにか出来るかもしれない」

愛「どういうこと?」

璃奈「エネルギーが中心に集まってるのは……中心に向かってエネルギーが引き寄せられてる……つまり、中心点には強い重力が存在してるから。だから、近くの世界の重力に捕まらなければ、基本的に中心点に向かって引き寄せられていくはず」

愛「なるほど……。向こうが引き寄せてくれるなら、推進にエネルギーを使い続ける必要がない……」

璃奈「私たちは何も特異点の中心に行こうとしてるわけじゃない。一定以上のエネルギーさえあれば──コスモッグがエネルギーを吸収する性質を利用して、回収出来るかもしれない」

愛「回収したら、行きで使わなかった分の推進力を使って、重力圏から脱出する……」

璃奈「そういうこと」

愛「これなら……行けそう……! 他の世界を犠牲にしなくても、世界が救える……!!」

璃奈「うん。今すぐ、この結果を上に報告しよう」

愛「……だね!」


私たちは、やっと希望を見出した……。ただ……現実は無情だった。





    📶    📶    📶





政府役人「……却下だ」

愛「なんで……!?」

政府役人「それはあくまでもシミュレーションによって得られた仮説なんだろう?」

璃奈「だけど、理屈は筋が通ってる。十中八九エネルギーが集中するポイントがあると思われる」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「だが100%ではない」

愛「そりゃ……そうだけど……」

政府役人「君たちのその理論だと……推進エネルギーに使うコスモッグと、エネルギーの回収に使うコスモッグが必要ということだろう?」

璃奈「……確かに必要」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「それによってコスモッグを失わないと保証できるのか?」

璃奈「……そればっかりはやってみないとわからない」 || ╹ _ ╹ ||

政府役人「もし失敗して2匹ともコスモッグを失った場合……我々は確実に滅亡する」

愛「それは……」

政府役人「……推論の段階で、貴重なコスモッグを2匹とも向かわせるわけにはいかない」


確かに現状では理屈上あると考えられるだけで、観測すら出来ていない。

政府側の主張では、そんな見切り発車で、全ての希望であるコスモッグを2匹とも使わせるわけにはいかない……ということらしかった。
720 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:38:56.71 ID:5MWtUFJH0

政府役人「安全が保障されていないなら、この話は到底許可出来ない。それならば、今ある確実な方法を進めるべきだ。我々には時間も多くは残されていない」

愛「…………っ」

璃奈「……なら、私たちだけで行きます」 || ╹ᇫ╹ ||

愛「……りなりー……?」

璃奈「実際に観測を行って……その上で、改めてエネルギー回収のための安全を確保した理論を完成させたら……この作戦を許可してもらえますか? その間、こちらでは今ある方法を進めていてもらっても構わない」 || ╹ᇫ╹ ||

政府役人「……ああ、それなら構わない」

愛「りなりー……でも、アタシたち二人で行くのは……危険だよ」

璃奈「そんなことは百も承知。……だけど、行かないわけにいかない」

愛「……りなりー」

璃奈「みんなが望む平和を、幸せを……みんなの想いを、未来に繋げるために……誰かが誰かと繋がる世界を守るために……私たちの研究はあるから」


誰かが犠牲になる世界じゃない。誰もが誰かと繋がれる、そんな世界のために……私はずっと研究を続けてきたから。


璃奈「その可能性が目の前にあるなら……私は諦めずに手を伸ばしたい」


私の言葉を聞いて、


愛「……わかった」


愛さんは頷いてくれた。


愛「一緒に行こう……そんで、全部守って……繋げよう」

璃奈「うん」





    📶    📶    📶





愛さんと二人でウルトラスペースへ発つことも決定し……研究室で、もろもろの準備を行っている最中のことだった。


彼方「──りーなちゃん♪」

璃奈「彼方さん?」


彼方さんが私に声を掛けてくる。

それと同時に──


璃奈「……良い匂い……」


すごく甘くて、良い匂いがしてくる。


彼方「実はね〜スフレを作ったんだ〜♪ 一緒に食べない〜?」

璃奈「うん! 食べたい!」

彼方「よかった〜♪ 休憩室で食べよ〜♪」

璃奈「うん!」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」

彼方「ニャスパーとベベノムたちも一緒に食べようね〜♪」


彼方さんに誘われて、休憩室に移動する。
721 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:39:39.14 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……いただきます!」
 「ニャ〜」「ベベノ♪」「ベベノ〜♪」

彼方「召し上がれ〜♪」


彼方さんの作ってくれたスフレは……一口食べるだけで、ふわっとした食感と共に、甘さが口の中に広がり、すごく幸せな気持ちになる。


璃奈「おいしい♪」
 「ゥニャァ〜〜」「ベベベノノ〜〜♪」「ベベノ〜♪」

彼方「ふふ、よかった〜♪」


ポケモンたちにも大絶賛。

彼方さんはそんな私たちを見てニコニコ笑う。


彼方「ねぇ、璃奈ちゃん」

璃奈「なぁに?」

彼方「……愛ちゃんと二人で……危険な調査に行くんだってね」


彼方さんの言葉に──フォークが止まる。


彼方「果林ちゃんに聞いたんだ。……果林ちゃんは愛ちゃんから聞いたって言ってたけど」

璃奈「……そっか」

彼方「……ごめんね」

璃奈「どうして彼方さんが謝るの?」

彼方「……彼方ちゃんたちは……璃奈ちゃんたちを守るためにここにいるはずなのに……何もしてあげられないから……」

璃奈「そんなことないよ……。……私も愛さんも……彼方さんたちに何度も助けられた……」

彼方「璃奈ちゃん……」

璃奈「大丈夫、絶対に帰って来るから。待ってて」

彼方「……うん」

璃奈「彼方さんの作ったお菓子……もっとたくさん食べたいから、絶対に帰って来る」

彼方「ふふ……わかった〜。帰ってきたら、璃奈ちゃんの好きなもの、いくらでも作ってあげるよ〜♪」

璃奈「やった〜!」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜」「ベベノ〜」


彼方さんは、私の傍に来て、私を抱きしめる。


彼方「……絶対……絶対だからね……。……彼方ちゃん……もう……大切な家族がいなくなるのは……嫌だからね……」

璃奈「……うん。約束する」


私を……家族と言ってくれる彼方さんを悲しませないためにも……私たちは、絶対に戻ってくる。そう胸に誓って……。



722 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:41:06.82 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





璃奈「──エネルギー充填完了。エンジン稼働正常。ウイング稼働正常」

愛「レーダーOK. 装甲へのエネルギー循環100%」

璃奈「コスモッグにも異常なし」
 「ピュイ♪」

愛「ポケモンたちの安全確認もよし……」
 「ベベノ〜」「ベベノ〜」「ニャ〜」

愛「よし、そんじゃ発進シークエンスに──」


発進シークエンスに移行しようとした、そのときだった。


璃奈「待って、通信。……繋ぐね」


通信が入った。

その相手は──


政府役人『……テンノウジ博士、ミヤシタ博士。聞こえるかな』


まさかのあの政府の人だった。


愛「……まさか、ここまで来てイヤミでも?」

政府役人『……作戦の無事を祈って、一言言わせてもらおうと思ってな』

愛「へー……どういう風の吹き回しなんだか」

政府役人『我々は、君たちを嫌っているわけではない』

愛「どうだか……」

政府役人『我々が君たちの考えに賛同出来なかったのは、優先順位の問題だ。……今回の観測調査が成功し、君たちの望む未来が実現することを祈っている』

愛「……そりゃ、どーも」

璃奈「激励、感謝する」


通信はそこで終了する。


愛「ホント……何考えてんだか……」

璃奈「意外だったけど……応援してくれてるのかな」

愛「どうせ、アタシたちがうまく行った場合に調子よく話を進めるためでしょ……」

璃奈「……観測が成功した際、こちらに傾いてくれるのなら、それはそれで助かる」

愛「まあね」

璃奈「どちらにしろ……私たち次第」

愛「……だね。……そんじゃ行くよ、りなりー!」

璃奈「うん!」
 「ニャ〜」「ベベノ〜」「ベベノ〜」

愛「発進シークエンス開始!」


発進シークエンスが開始し──


璃奈「……ウルトラスペースシップ……発進」
723 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:42:18.94 ID:5MWtUFJH0

私たちは──全てを懸けた観測調査を開始したのだった。





    📶    📶    📶





──シップで旅に出て、数週間ほどが経過した。


愛「景色変わらないねぇ……」


ウルトラスペースシップ内からは、ウルトラスペースの景色しか見えないから、進んだところであまり代わり映えしない。

たまに遠方に他の世界への入り口が見える程度だ。


璃奈「でも、確実に相対速度は上昇してる」

愛「エンジン推進を切ってから、それなりに経つもんね」

璃奈「慣性だけじゃない証拠……ちゃんと加速してる」


今はメインエンジンはほぼ稼働していない。使うとしても、誤差修正用のスラスター噴射くらいだ。

それは即ち……中心にある巨大な引力に少しずつ引き寄せられていることを意味していた。


愛「りなりーの理論は……間違ってなかったってことだね……」

璃奈「うん。あとは……十分なエネルギーを持った領域まで辿り着いて……その観測結果を持ち帰れば任務完了」

愛「やっと……ここまで来たんだね……」

璃奈「……うん」


あと一歩……。あと一歩で……私たちの目的は達成される。

お父さんとお母さんの研究が……完成する。誰かの想いを未来を……繋げていく、そんな二人の意志が……。


璃奈「愛さん……ありがとう。愛さんが居てくれたから……ここまで来られたよ」

愛「もう……りなりー、まだ終わってないぞ〜?」

璃奈「わかってる。だけど……今、お礼を言いたくなった」

愛「……そっか」


愛さんは微笑みながら、私を抱き寄せる。

すごく温かかった。


璃奈「……私ね……ずっとずっと……ずーっと……一人で──独りで研究していくんだと思ってた。だけど……気付いたら、周りにいろんな人が居て……果林さんが……彼方さんが……。……愛さんが」

愛「うん」

璃奈「未来の私がこんな風になれるなんて……全然想像してなかった。……愛さんがあのとき……私を見つけてくれたから……今の私がある」

愛「……大袈裟だって。アタシがしたことなんて大したことじゃない。りなりーがお父さんとお母さんを信じて頑張ってきたから、今があるんだよ」

璃奈「愛さん……」

愛「りなりーから始まったんだ。りなりーの気持ちが、想いが、アタシを動かして……カリンやカナちゃんが仲間になって……どんどんどんどん、大きくなって……」

璃奈「……うん」

愛「りなりーが繋げたんだよ……」


愛さんの言葉が嬉しかった。

私がお父さんとお母さんを信じてやってきたことは……何一つ無駄じゃなかった。そう言ってくれることが。
724 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:43:00.88 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……あ、あのね……愛さん……」

愛「んー?」

璃奈「私ね……新しい夢が……出来たんだ……」

愛「新しい夢!? なになに、聞かせて聞かせて!」

璃奈「えっとね……わ、笑わないでね……」


私はそう前置いて、


璃奈「私ね……この研究をしていて、いろんな人と知り合って、協力して、手を合わせて、前に進んできて……誰かと繋がることって、こんなに嬉しいことなんだって……知ったんだ」

愛「うん」

璃奈「……だからね、私の次の夢は──研究を通して、全世界の人たちと……こんな風に繋がれたら……もっともっと、嬉しいんじゃないかなって……」


自分の次の夢を、口にした。


璃奈「……ど、どうかな……?」

愛「…………」

璃奈「……やっぱり、全世界なんて……無理かな……」


愛さんが無言だから、少し大それたことを言いすぎたかなと思ったけど──


愛「……めっちゃいい……。……それ、めっちゃいいよ、りなりーっ!! あんまりに壮大すぎて、びっくりしちゃった……!!」


愛さんは心の底から嬉しそうな声で、反応を示してくれる。


璃奈「出来るかな……?」

愛「出来るよ!! りなりーなら絶対出来る!!」


そう言ってまたぎゅーっと抱きしめてくれる。


愛「これから先……りなりーを心の底から大事に、大切に思ってくれる仲間がたくさん出来るよ……! いろんな人と繋がっていけるよ……アタシが保証する……!」

璃奈「……愛さんが保証してくれるなら……心強い」

愛「その繋がりを一つ一つ大切にして、増やして行けば……いつか、全世界──うぅん、全宇宙の人とだって、繋がれる……」

璃奈「……それは大それた夢だね」

愛「でも、きっと出来るよ! りなりーなら!」

璃奈「……うん。愛さんがそう言ってくれるなら……出来る気がしてきた」

愛「でしょでしょ! ……あ、でも……」

璃奈「……?」

愛「りなりーがたくさんの人と繋がれたら本当に素敵だと思うけど……みんなにりなりーを取られちゃったら……ちょっと、寂しいかも……」

璃奈「大丈夫。……愛さんはずっと私の1番だから」

愛「りなりー……! うん! アタシの1番もずっとりなりーだけだよ!」

 「ウニャァ〜」「ベベノ〜!!!」「ベベノ〜!!!」

璃奈「わわ……」

愛「あはは♪ 仲間外れにするなって♪」

璃奈「ニャスパーも、ベベノムたちも大好きで、大切」
 「ウニャァ〜」「ベベノ〜♪」「ベベノ〜♪」


そのとき──ガコンッと音を立てながら、シップが大きく揺れる。
725 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:44:21.91 ID:5MWtUFJH0

璃奈「わっ……!」
 「ウニャ〜」

愛「とっとと……りなりー、大丈夫?」
 「ベベノ〜?」「ベベベノ〜?」

璃奈「うん……平気、ありがとう」


愛さんが私とニャスパーを抱き留めてくれる。

ベベノムたちは浮いてるから、平気そう……。


愛「……今の揺れ……何……?」

璃奈「……確認する」


私はコンソールを弄りながら、機体の状態を確認すると──


璃奈「……まずいかも」

愛「え?」

璃奈「……メインエンジンが……損傷したかも……」

愛「……なっ!?」


メインエンジンの異常アラートが確認出来た。

ただ、実際に見てみないと端末からだけでは状況の把握が出来ない。


璃奈「ちょっと様子を見てくる」

愛「船外用のスーツ、用意する……!!」

璃奈「お願い」





    📶    📶    📶





私が船外に出て、直接確認を行う──


愛『りなりー! どう……!?』

璃奈「……メインエンジンの噴出口がひしゃげてる……これじゃ、使い物にならない」

愛『……ま、マジか……』


メインエンジンは……目に見えてわかるくらいに損傷を受けていた。

エネルギー推進のための噴射口がひしゃげていて、とてもじゃないけどこれを使って航行することが出来ないのは間違いない。


璃奈「…………」


私はそれを見て考え込む。

恐らく、さっき揺れたときに何らかの損傷を受けたんだとは思う。

デブリか何かがぶつかった……?

いや、このメインエンジンの損傷の仕方は……外側から、何かがぶつかったというより……内側から力が掛かっているように見える。

内側からってことは……。
726 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:45:09.98 ID:5MWtUFJH0

璃奈「…………」

愛『りなりー!! りなりー!? 返事して、りなりー!!』


気付けば、無線通信の向こうで愛さんが声を張り上げていた。


璃奈「あ……ごめん。……ちょっと考え事してた」

愛『……よ、よかった……返事がないから、何かあったのかと思った……』

璃奈「とりあえず、一旦中に戻る」





    📶    📶    📶





愛「りなりー……! メインエンジン直りそう……?」


戻ると、愛さんが駆け寄ってきて、そう訊ねられる。


璃奈「たぶん、無理。完全に噴出口がひしゃげてる。無理に使ったら、エンジンそのものが耐えきれなくなって、最悪爆散する」

愛「そんな……」

璃奈「とりあえず、メインエンジンへの全てのエネルギー供給を遮断して、サブエンジンに送り込む」

愛「わかった……!」


とりあえず、使えないものに期待してもどうしようもない。

まさか、ウルトラスペース内で修理するわけにもいかないし……。

メインエンジンへのエネルギー供給を完全に遮断して、機能を停止させる。

だけど──あまりに間が悪すぎる。

今シップは……中心特異点の重力圏に捕まりつつある。

メインエンジンの推進力は全体の7割以上を占めている。

サブエンジンはあくまで微調整用のものでしかない。

もちろんメインエンジンの推進力をサブエンジンに回す分、サブエンジンの推進能力は上昇するけど……。

メインエンジンと同じだけのエネルギーを送り込んだら、間違いなくオーバーヒートして使い物にならなくなる。


璃奈「…………」
 「ウニャァ〜…」


ニャスパーが鳴きながら心配そうに、私に身を摺り寄せてくる。


愛「りなりー!! メインエンジンへのエネルギー供給、完全に遮断して、サブエンジン側に切り替えた」

璃奈「ありがとう、愛さん」

愛「……でも、どうする? サブエンジンだけだと、スラスターを推進補助に使ったとしても、今の重力圏から逃げ切れるかどうか……」


愛さんも同じことに気付いている。

……そう、あまりにも間が悪すぎる。

いや……これは……──悪すぎる間で起こるようになっていたとも言える。
727 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:46:04.31 ID:5MWtUFJH0

璃奈「……私に考えがある」

愛「マジ……!?」

璃奈「一旦倉庫に行ってくる。愛さんはサブエンジンを稼働してて、もちろんオーバーヒートしないギリギリの範囲で」

愛「わかった!」

璃奈「それじゃ、行ってくる」


私が駆け出そうとすると──


 「ウニャァ…」


ニャスパーが私の足にしがみついてきて、


璃奈「……ニャスパー、ここで待ってて」
 「ウニャァ…」


でも、ニャスパーは離れようとしない。

……ポケモンは、人よりもずっとずっと……勘が鋭い。

──私はニャスパーを抱き上げ、


璃奈「愛さん。ニャスパー、預かってて」


ニャスパーを愛さんに預ける。


愛「わかった。ニャスパー、りなりーは今忙しいから、アタシと一緒にいよう」
 「ウニャァ〜…」


嫌がるニャスパーを愛さんが抱きしめる。


璃奈「愛さん、ニャスパーのこと……お願いね」

愛「ん、任せろ♪」

 「ベベノ…」「ベベノ…」
璃奈「ベベノムたちも……ここで待っててね。それじゃ、今度こそ行ってくる!」

愛「頼んだよ、りなりー!!」


愛さんは私を信用して──送り出してくれた。




璃奈「──…………ごめんね。…………愛さん」





    📶    📶    📶





──シップの後部にある倉庫に入り、持ち込んだ端末で倉庫内のコンソールにアクセスする。


璃奈「……倉庫をロック。装甲循環エネルギーを一時的に倉庫外壁に集中」
728 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:47:40.63 ID:5MWtUFJH0

私は……あることに気付いていた。

突然起こった……メインエンジンの破損。

あれは……どう見ても──人為的な破壊のされ方だった。

つまり……これは……。


璃奈「……私が……ここに来るって言ったからだね……」


私はよくわかっていなかったのかもしれない。

世界というのは……思った以上に、大きな力で、大きな意思で……動いていた。

私たちが何かを言ったところで……変えることなんて……出来なかったのかもしれない。

──私は紙を取り出し、手書きで計算を始める。


璃奈「今の相対速度と、サブエンジン、スラスターによる推進力から考えると……必要な加速度は──」


微妙な軌道計算をしている暇はない。とにかく最低限の推進力の確保が必要。


璃奈「……出来た」


計算は出来た。私は端末に目を向ける。

倉庫の外壁に集中させていたエネルギーは十分溜まった。


璃奈「…………」


私は端末から──シップにある指令を送った。

直後──


愛『り、りなりー!!』


愛さんから通信が入る。


愛『なんか、シップ全体が急に一切の命令を受け付けなくなった……!? ど、どうしよう……!!』
 『ウニャァ〜…』

璃奈「うん。私が倉庫からクラッキングして、全操作権を奪った」

愛『え……』

璃奈「装甲出力をシップ後部に集中する」


本来デブリなどから防ぐためのエネルギーを後部に集中させる。これでシップは背部からの衝撃に対して強くなる。


愛『な、なにしてるの……!? りなりー!?』

璃奈「今から、後部倉庫をパージして──爆発させる」

愛『な……っ!?』


今しなくちゃいけないことは、推進力の確保と、機体重量を落とすことの二つだ

後部倉庫を切り離し……爆発の勢いで装甲を強化したシップを押し出すことによって、この二つを同時にクリアする。
729 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:48:26.02 ID:5MWtUFJH0

愛『待って……待ってよ……今、りなりーどこにいるの……?』

璃奈「…………」

愛『まさか……後部倉庫じゃ……ないよね……?』

璃奈「……正しい軌道でシップを押し返すには、手動で計算して、スラスターで誤差を微調整してから爆破させないといけない」

愛『……何……言ってんの……?』

璃奈「……二人とも助かる可能性は……ゼロ。でも、これなら……愛さんは助けられる」

愛『……っ……!!』


愛さんが席を立ったのが音声越しでもわかった。

恐らく、私のいる後部倉庫まで来るつもりだと思う。


璃奈「無理だよ。ブリッジから出るための隔壁を全て閉鎖したから、そこからは出られない」

愛『なんで……!! なんでこんなことするの!! りなりー!!』
 『ウニャァァ〜…』

璃奈「……これはきっと……私のせいだから……」

愛『意味わかんないよ……!! いいから、ここ開けて!! 今すぐそこから戻ってきて!! りなりーっ!!』


──ガンガンッと……無線越しでも、愛さんが隔壁を叩いているのがわかる。


璃奈「大丈夫、隔壁は時間で開くようになってる。通路に最低限の食料と水を出しておいた。……少しでも重量を減らすために、本当に最低限だけど」

愛『そんなこと聞いてるんじゃないっ!! りなりーっ!! 今すぐ戻ってきて!!』

璃奈「…………愛さん」

愛『何!?』

璃奈「……今まで、ありがとう。愛さんに会えて……私……幸せだった。ニャスパーも良い子にするんだよ」


私は端末から──外部倉庫のパージ命令を送った。

ガコンッと揺れながら、外部倉庫がシップから切り離される。


愛『ダメだッ!! りなりーっ!!』
 『ウニャァ〜…』


パージと共に、倉庫の位置をスラスターで微調整し始める。

その際──目の前に紫色のポケモンが現れた。


 「ベベノ!!」
璃奈「……! ベベノム……付いてきちゃったの……?」


紫色のベベノムだけ……私に付いてきてしまっていたらしい。

白光のベベノムは……姿が見えないから、まだシップ内にいる……はず。


 「ベベ」
璃奈「もう……切り離しちゃったよ……」

 「ベノ♪」
璃奈「……ウルトラビーストだから……もしかしたら、ウルトラスペース内に放り出されても……生き残れるかな……」

 「ベベノム♪」
璃奈「……うん」


もうどっちにしろ……後戻りは出来ない。


愛『り────りー──……──な、りー──』
730 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:49:12.29 ID:5MWtUFJH0

切り離されてもうほとんど聞こえない通信に向かって、


璃奈「……愛さん。……もし……もしさ……生まれ変われるなら……」


最期の願いを、


璃奈「私…………次は……世界中の……うぅん、宇宙中のみんなと……繋がりたいな……っ」


伝えて。

──倉庫を……爆発させた。





    📶    📶    📶





──ああ……。

……誰かと繋がるのって……難しいな……。

みんな同じ世界で生きているのに……みんな違う想いを抱えていて……みんな違う正義を持っていて……。

……そんなみんなと……どうすれば……繋がれるかな……。……どうすれば……繋がれたのかな……。

わからない。

……そういえば私……どうなったんだろう……。

……あれから……どれくらい……経ったんだろう……。

……ここ…………どこ……なんだろう…………。

…………よく……わからないや……。

……………………。

…………………………愛さん、無事かな……。

……………………愛さん。

…………会いたいよ。


 『──…─………………────………』


……?

何……?


 『────……──…──…………──』


……何かの……信号…………?

……誰か……いるの……?

………………私…………ここに……いるよ……。

…………もし……私に……まだチャンスがあるなら……。

……繋がりたい……。


私は──自分の意志の欠片を……そこに向かって、飛ばした。


──
────
──────
────────

731 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:49:50.72 ID:5MWtUFJH0

    📶    📶    📶





リナ『その信号が、やぶれた世界に現れた果南さんのポケモン図鑑の信号だった。あとはみんなの知ってるとおりだよ』 || ╹ ◡ ╹ ||


──長い長い物語を……話し終える。


侑「…………璃奈ちゃんにとって……愛ちゃんは……すごくすごく……大切な人だったんだね。……そして、それは今も……」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「話してくれて、ありがとう……」

リナ『うぅん、私も久しぶりにちゃんと思い出せて……懐かしかった』 || ╹ ◡ ╹ ||


あのとき、仲間たちと共に戦った日々を思い出せて……。


リナ『なんか……思い出したら、羨ましくなっちゃったけど』 || ╹ ◡ ╹ ||

侑「羨ましい……?」

リナ『仲間たちと……手を取り合って前に進む……侑さんたちが』 || ╹ ◡ ╹ ||


私が……あのとき失ってしまったものを、侑さんたちが持っていることが……すごく、すごく羨ましかった。

もう……私には……戻ってこないものを持っている、侑さんたちが──


かすみ「何言ってんの!!」

しずく「そうですよ、リナさん」

リナ『え……?』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「リナ子はとっくの昔に──かすみんたちの仲間じゃん!!」

リナ『……!』 || ╹ _ ╹ ||

しずく「むしろ……今まで仲間と思ってもらえていなかったんだとしたら……ショックです」

リナ『あ、あの、そういうわけじゃ……!?』 || ? ᆷ ! ||


私は思わずあたふたしてしまう。


歩夢「リナちゃんはずっと前から、私たちの仲間だし……大切なお友達だよ」

せつ菜「今もこうして、共に同じ目的に向かって進んでいるんです。それを仲間と言わず、なんと言うんですか!! わ、私が言うと……ちょっと説得力がないかもしれませんけど……」

歩夢「ふふ♪ そんなことないよ、せつ菜ちゃん♪」

リナ『歩夢さん……せつ菜さん……』 || ╹ _ ╹ ||


そして、侑さんが私の目の前に立って、


侑「ねぇ、リナちゃん……私がここまで旅をしてこられたのは……歩夢が居て、イーブイが居て──リナちゃんが居てくれたからだよ」
 「ブイ♪」


そう言った。そう、言ってくれた。


リナ『侑……さん……』 || 𝅝• _ • ||

侑「私の最高の相棒だよ。リナちゃんは」


そう言って、侑さんが私のボディに触れた。

──そっか……そうだったんだ、
732 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:51:23.01 ID:5MWtUFJH0

かすみ「リナ子!」

しずく「リナさん♪」


──私は……私には……。


歩夢「リナちゃん♪」

せつ菜「リナさんっ!」


──とっくの昔に……。


侑「リナちゃん!」
 「ブイ♪」


──こんなに素敵な仲間たちが……また、出来ていたんだ……。

──『これから先……りなりーを心の底から大事に、大切に思ってくれる仲間がたくさん出来るよ……! いろんな人と繋がっていけるよ……アタシが保証する……!』──


リナ『やっぱり……愛さんが保証してくれただけ……あった』 ||   _   ||


なんだか──胸が熱かった。

私にはもう、身体はないのに。

機械の体なのに──胸が熱くて、嬉しくて泣いてしまいそうだった。


侑「──私たちみんなで……守ろう……!」

リナ『……うん! ツナガル──未来を……!』 || ╹ 𝅎 ╹ ||


私は胸の熱さに突き動かされるように──未来を守ることを決意した。侑さんたちと──仲間たちと一緒に。



733 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:52:03.67 ID:5MWtUFJH0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
734 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/08(日) 13:52:41.35 ID:5MWtUFJH0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.77 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.75 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.73 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.73 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.71 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      コスモウム Lv.75 特性:がんじょう 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:258匹 捕まえた数:11匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.65 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.71 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      コスモウム✨ Lv.75 特性:がんじょう 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.78 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.73 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.72 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.71 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.72 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.72 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:253匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.66 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.65 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.65 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.65 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.65 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.65 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:225匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.15 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.81 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.79 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.82 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:50匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



735 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:21:32.10 ID:jK0Y5xHa0

 ■Intermission👏



愛「…………」


ウルトラスペースの中を、アーゴヨンがアタシの身体を掴んだまま、3匹の伝説のポケモンたちと一緒に突き進んでいく。

ただ──ここウルトラスペースの景色は……何度見ても、あの日のことを思い出す。

りなりーを失った……あの日のことを──



────────
──────
────
──


愛「りなりーっ!!!! りなりーっ!!!!!」


ただ、通信先に向かって、りなりーの名前を叫ぶ。


璃奈『────あ……さん』
 「ニャァァ〜…」


ノイズだらけの音声が聞こえてくる。


愛「りなりー……っ!!」
 「ニャァ〜…」

璃奈『……もし……──……生まれ──われるなら……』

愛「だ、めだよ……りな、りー……」
 「ニャァァ〜…」

璃奈『──……次──世界中……うぅん、宇宙中のみん──と……繋がりたいな……っ』


その言葉の直後──シップを強烈な揺れが襲い、アタシとニャスパーは壁に叩きつけられる。


愛「ぐ…………!」
 「ウニャァァァ〜…!!」


──しばらく揺れが続いた。立ち上がることもままならず、ニャスパーを抱きしめる。


愛「…………っ……」
 「ウニャァ…」


しばらく揺れに耐え……やっと、揺れが収まるの同時に──シュンと音を立てながら、ブリッジから通路への隔壁が開いた。


愛「………………りなりー……」
 「ニャァ…」


アタシはよろよろと立ち上がり──後部倉庫へと向かって駆け出す。

きっと……これは、何かの悪い冗談なんだ……。

そんなこと……そんなことあるはずない。……あっていいはずがない。

後部倉庫への道の途中──


 「ベベノ…」
736 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:22:37.88 ID:jK0Y5xHa0

白光のベベノムが床に転がって目を回していた。さっきの揺れで壁に叩きつけられて、気絶してしまったのかもしれない。

アタシはベベノムを抱き上げて……再び駆け出す。

後部倉庫の前にたどり着くと──……部屋の前には食料と水の入ったコンテナが置かれていた。

アタシはそれを避けて──


愛「りなりー……」


倉庫のドアを叩く。


愛「ねぇ、りなりー……」


叩く。


愛「りなりー……開けてよ……りなりー……っ……」
 「ニャァ…」


何度戸を叩いて、名前を呼んでも──りなりーは返事をしてくれなかった。





    👏    👏    👏





その後……アタシは抜け殻のようになったまま、自分たちの世界へ戻るシップの中で過ごしていた。

自動操縦で戻っていくシップの中で……死なない程度に食料と水を摂取していた。

……あと、もう1匹のベベノムが居ないことにも途中で気付いて探したけど……結局、見つけることは出来なかった。

何度か後部倉庫の扉を叩いて、りなりーの名前を呼んだりもしたけど──返事が戻ってくることはなかった。

ただ、現実感がなくて……ぼんやりと過ごしていた。

気付いたら──シップはアタシたちの世界へと戻ってきていた。

ハッチが開いたので、覚束ない足取りでシップの外に出ると──


果林「──愛……! よかった……!」


カリンとカナちゃんが駆け寄って来た。

フラフラな身体を、カリンに支えられる。

──きっとそのとき……よほど酷い顔をしていたんだと思う。


彼方「あ、愛ちゃん……?」


カナちゃんがアタシを見て、不安そうな声をあげた。


果林「……愛……? ……璃奈ちゃんは……?」


アタシは……ちらりと、シップを見た。

シップは──後部倉庫がなくなっていた……。


愛「──………………ちゃった……」


絞り出すような声で、


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃった…………」
737 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:23:30.03 ID:jK0Y5xHa0

カリンたちに、そう伝えた。





    👏    👏    👏





とりあえず、帰還後すぐに医務室に運び込まれ、点滴を打たれる。

点滴を受けている最中、天井を見ながら、アタシはぼんやりと考えていた。


愛「……りなりー…………いなく……なっちゃったんだ…………」


なくなった後部倉庫を見て……嫌でもその事実と向き合わざるを得なかった。


愛「……りなりー……っ……」


りなりー……どうして……あんなことしたの……。

アタシ一人生き残ったって……りなりーがいなくちゃ……。


愛「………………」


改めて──どうして、りなりーがあんなことをしたのかが、疑問に思えてならなかった。

メインエンジンの損傷を確認しに行く、つい数刻前まで……りなりーは未来のことを話していたのに……。


愛「…………なんか…………おかしい…………」


りなりーがいなくなった事実を直視せざるを得なくなったからなのか──りなりーの行動に突然一貫性がなくなったような気がしてならない。

それも……メインエンジンを確認してから、急に……。

そういえば……りなりー……おかしなことも言っていた気がする。

──『……これはきっと……私のせいだから……』──


愛「……私の……せい……?」


なにが……私のせいなんだ……? りなりーは……メインエンジンを確認したときに……何かに気付いた……?


愛「……まさか」


ある可能性が頭を過ぎった。

アタシはベッドから跳ね起き、駆け出そうとする。

もちろん、点滴中だったので管に引っ張られガシャリと音を立てながら点滴台が付いて来ようとする。


愛「……邪魔……!」


無理やり点滴の針を引っこ抜く。

すると、医務室にいた看護師たちが騒ぎ出す。


看護師「み、ミヤシタ博士……!?」
738 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:24:19.13 ID:jK0Y5xHa0

でも、今は構っている場合じゃない。確認しないと……今すぐ……。

アタシはウルトラスペースシップの離発着ドックへと走り出した。





    👏    👏    👏





離発着ドックに着くと、整備士たちがたくさん居て、


整備士「──み、ミヤシタ博士……!? お身体は……」


突然現れたアタシに驚いていたけど……。


愛「ごめん、確認したいことがあるから、通して」


押しのけるようにしてシップへと近付く。

そしてシップの裏側──メインエンジンを確認して、目を見開いた。

アタシは勝手に、デブリがぶつかった等のアクシデントによる破損だと思い込んでいたけど──


愛「……完全に……内側から……壊されてるじゃん……」


メインエンジンの壊れ方は……外から何かがぶつかったようなものではなく──ブースターそのものを内側から爆破されたような壊れ方をしていた。

つまり、これは──


愛「……まさか……爆弾……?」


方法は至って原始的だった。それも、エネルギー噴射に反応せず、ある程度ウルトラスペースを航行した先で起動する、時限式の物。

ウルトラスペースシップの航行エネルギーは熱噴射ではなく、あくまでコスモッグから取り出したエネルギーの噴射だから、C4爆弾のような外力で爆発しないものを使えば十分可能だ。

手間の掛かるものではあるが……用意さえしてしまえば、取り付けるだけで良いから時間は掛からない。

でも、そんなものいつ付けた? 発進直前の点検では、そんな不審なもの確認出来なかった。


愛「……あ」


──『……テンノウジ博士、ミヤシタ博士。聞こえるかな。……作戦の無事を祈って、一言言わせてもらおうと思ってな』──


愛「あの……と、き……」


発進前点検を終えたあと、どうしてあの政府役人から激励の言葉なんてあったのかが……やっと理解出来た。


愛「なに……が……作戦の無事を祈って……だって……?」


思わず握り込んだ拳が、怒りで震えていた。

これは──仕組まれていた。

最初から、アタシとりなりーを事故で済ませて消すために、仕組まれていたんだ。

通信に気を取られている隙に……役人の息が掛かった整備士が……。


愛「……誰だ……。……誰が、付けた……答えろ……」
 「──リシャン…」


アタシはリーシャンをボールから出しながら、整備士たちを睨みつける。
739 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:25:46.66 ID:jK0Y5xHa0

整備士「み、ミヤシタ博士……?」

愛「……答えろ」

整備士「ヒッ……」


殺気を込めた視線に驚いた整備士たちが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

──わかってる。どうせ、犯人が問われたところで自分から名乗り出るはずがない。


愛「……こんな、やつらのせい、で……っ……りなりーが……りなりー……が……っ……!!!」


腸が煮えくり返るという感覚を、生まれて初めて味わっている気がした。


愛「……りなりーが何したって言うんだ……っ……!!! 世界を……みんなを守ろうとしてただけじゃんか……っ……!!!」


──あんなに臆病だったりなりーが、勇気を振り絞って、見ず知らずの誰かの未来を守るために、戦っていたのに。

こんな形で振り払われることがあっていいのか? いいわけあるか……!! あってたまるか……!!


愛「……りなりーを……っ……返してよっ!!!!」
 「リーーーシャーーーーッ!!!!!!!!」


リーシャンがアタシの怒りに呼応するように──周辺一帯を“ハイパーボイス”で吹き飛ばす。


愛「……ふざけんな……ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャァァァァァァンッ!!!!!!!」


手当たり次第に、攻撃をまき散らし、ドックを破壊し、逃げ惑う整備士たちを吹っ飛ばす。


愛「──あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 「リシャーーーーンッ!!!!!!」


叫びながら、目に付くもの全てを吹き飛ばす。

そうでもしないと、気がおかしくなりそうだった。いや、そうしていても、おかしくなりそうだった。

自分が今まで感じたことのないような、怒りと憎しみから生まれる破壊衝動。

そんな暴走をするアタシのことを聞きつけたのか、


彼方「あ、愛ちゃん……!?」

果林「愛っ!? 何やってるの!?」


カリンとカナちゃんがドックに飛び込んできた。


愛「──りなりーを……っ!!! りなりーを返せぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 「リシャァァァァンッ!!!!!」

果林「──彼方!! ドックを守って!! 消火も!!」

彼方「わ、わかった!! バイウールー! パールル!」
 「──メェ〜〜〜〜」「──パルル」

果林「キュウコン、“かなしばり”!!」
 「──コーーンッ!!!」

 「リシャンッ…!!?」


カリンたちが暴れまわる、アタシたちを止めに入ってくる。


果林「愛っ!! やめなさいっ!!」


キュウコンがリーシャンを動けなくし、カリンがアタシを後ろから羽交い絞めにする。
740 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:26:44.73 ID:jK0Y5xHa0

愛「りなりーをぉっ、かえせぇぇぇぇぇっっ!!!!!! かえせぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

果林「っ……!」


ただ、アタシには──ぼんやりと遠くにカリンたちの声が聞こえる気がする……そんな認識だった。


果林「……フェローチェ……!」
 「──フェロッ」

果林「“みねうち”……!」
 「フェロ」

愛「がっ……!?」


急に腹部に衝撃を受け──


愛「……りな……りー……」


アタシの意識は──ゆっくりと闇に沈んでいったのだった……。





    👏    👏    👏





──その後、目を覚ましたときには、りなりーと一緒に過ごしてきた……自室に居た。

部屋の鍵を外から掛けられ……見張りも付けられ……ポケモンも全部没収されている状態だった。

所謂、軟禁状態。

最初はあの事故の原因が、政府の陰謀だったとカリンたちに伝えることを考えた。

だけど……完全に手を打たれていて、カリンたちと話したいと何度言っても、二人がアタシのもとに訪れることはなかった。

たぶん……アタシたちが最後に行っていた調査内容は……握りつぶされ、他世界への侵略が計略されている頃合いだろうか。


愛「………………」


何もする気が起きなかった。

食事は定期的に運ばれてくるけど……正直、食べる気なんてこれっぽっちも起きなかった。

……このまま、餓死でもしてやろうかな。そんな風にさえ思っていた。

政府は、誰もが助かる遠回りよりも、誰かから奪って自分たちが生き残る近道を選んだ。


愛「…………馬鹿馬鹿しい…………」


世界は……なんて、馬鹿馬鹿しいんだ……。


愛「……りなりー……」


りなりーの名前を呼ぶ。……もちろん、りなりーの返事は……ない……。

りなりーは恐らく……ウルトラスペースの高エネルギーの中で……情報レベルでバラバラになった。

通常領域ならまだしも……あそこはもう中心特異点の重力圏内だ。

エネルギー密度の濃い空間では……生身の人間の身体なんて耐えられるはずがない。


愛「…………そういえば…………りなりー…………それについての論文……書いてたっけ…………」
741 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:28:12.28 ID:jK0Y5xHa0

生物が高エネルギー次元でどうなるかの論文だ。

のそのそと起き上がって──りなりーの机にあったファイルの中から、論文を探す。


愛「……あった……」


そこにはご丁寧に、計算式とともに、生物が生命維持出来ず、情報レベルでバラバラになることが示されていた。


愛「…………」


アタシはなんとなく、それを開いたまま──ペンを持って、紙に計算式を書き始める。

もしかしたら……この式のどこかが間違っていて……りなりーは実はまだ生きているかもしれないなんて……そんな希望的観測にすがりながら。

──1時間経った。間違いは見つからない。

──2時間、3時間、4時間……。間違いはやっぱり見つからない。

──半日が経った。1日が経った。2日経って、3日経って……。

アタシは……ペンを落とした。


愛「…………間違ってるわけ……ないじゃん。……これ……りなりーが作った……理論なんだから……っ、間違ってるわけ……ないじゃん……っ」


りなりーのすごさは、アタシが一番知っている。

アタシも天才だなんて持て囃されていたけど……りなりーは別格だ。天才の中でも、一際飛びぬけた天才……。

そんな、りなりーが作り上げた理論に……間違いなんてあるはずなかった。

仮に間違いがあったとして……アタシにそれが見つけられるわけなかった。

──ポロポロと涙が零れて、大量の式を書き連ねたメモ紙が滲んでいく。

りなりーが作り上げた理論が……りなりーの死を……証明していた。


愛「……りなりー……っ、……りなりーっ、」


アタシは……どうするべきだったんだろうか。

わからない……。……わからない。





    👏    👏    👏





ひとしきり泣いた。

ただ、何日も何も食べていない身体では、泣く体力もあまり残っていなかったらしく、気付けばぐったりしていた。


愛「………………このまま…………終われるかな…………」


空腹と疲労で頭がぼーっとしていた。目を瞑る。

このまま……りなりーの居る場所に……いけるかな……。


愛「…………りな、りー…………」


──『……愛さん……』──


りなりーの声が、聞こえた。

幻聴かな……。でも……いいや……りなりーの声が聞こえるなら……。
742 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:32:56.59 ID:jK0Y5xHa0

──『……愛さん。……もし……生まれ変われるなら……』──

──『……次は……世界中の……うぅん、宇宙中のみんなと……繋がりたいな……っ』──


愛「……………………」


ゆっくりと目を見開く。


愛「……………………」


アタシは起き上がって、先ほど自分の涙で濡らしたメモ紙と、りなりーの論文を見た。


愛「……………………りなりーは…………死んだんじゃない…………バラバラになったんだ…………」


なら──


愛「…………りなりー以外も…………宇宙全部が…………バラバラになれば…………りなりーは…………みんなと、繋がれる…………。……あはは。……あはは、あはははははは、あははははははははっ!!!!!」


アタシの笑い声が──部屋中に響く。


愛「そうだ……!!!!! まだ、りなりーの夢は死んでない……!!!!! アタシが……アタシが叶える……叶えるんだ……!!!!!! りなりーの夢を……っ……!!!!!」


このときから──狂気の歯車が、アタシの中で、動き出し始めてしまった。





    👏    👏    👏





数日後……カリンが、逃げ出したカナちゃんとその妹の遥ちゃんを乗せたウルトラスペースシップを……撃墜したという噂が流れてきた。

あまりに衝撃的な内容だったのか、見張りが交替の際に話しているんだから、嫌でもわかってしまう。

噂が聞こえ始めて、数日もしないうちに──


果林「──……愛、入るわよ」


アタシの部屋の中に、カリンが強引に押し入ってきた。


愛「……や、カリン。来ると思ってたよ」

果林「もっと落ち込んでると思ってたわ……」

愛「アタシもカリンはもっと落ち込んでると思ってた。……聞いたよ、カナちゃんの乗ったシップ……カリンが撃墜したんだってね」

果林「…………」


カリンはアタシを一瞥すると──手に持っていたチョーカーをアタシの首に着け始める。

そのとき見たカリンの目は──酷く濁っていた。

ああ、アタシと同じ目だ。

自分の目的のためなら──全てを捨てる覚悟をした人間の……目。


果林「……愛……私に協力しなさい……」

愛「…………ああ、これが首輪ってわけか。逆らったときは電撃? それとも、首でも飛ぶ?」

果林「電撃よ……。死なれたら困るわ……貴方には、やってもらわないといけないことが、たくさんあるからね……」

愛「アタシがこんなおもちゃで言うこと聞くと思ってんの?」
743 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:34:11.73 ID:jK0Y5xHa0

挑発するように言うと、カリンは躊躇なく、手に持ったリモコンのスイッチを押し込む。

直後──


愛「っ゛、ぁ゛!!?」


首に着けられたチョーカーから電流が走り、アタシは痺れて床に転がる。

そんなアタシを見下ろすように、


果林「……もう一度言うわ、愛。私に協力しなさい……」


カリンがそう──命令してきた。


愛「……っ゛……。……まあまあ、カリン……そう、焦んないでよ……」

果林「…………」

愛「……言うこと聞くつもりはないんだけどさ……協力はしてやってもいいよ……」

果林「……は?」


カリンはアタシの言葉に怪訝な顔をする。


愛「……その代わり……カリンもアタシに協力してよ……」

果林「……この状況で交渉しようって言うの?」

愛「どっちにしろ、アタシの頭が必要なんでしょ? いーよ、アタシの頭脳でよければ貸してあげるよ。ただ──アタシにもやりたいことが出来たから、それはやらせてもらう」

果林「…………」

愛「どーせこのおもちゃに発信機も付いてんでしょ? カリンの監視範囲内でアタシはアタシのやりたいことをやる。アタシはカリンの求める知恵と技術を提供する。それでお互いWin-Winっしょ?」

果林「……わかったわ」


カリンはアタシの言葉に頷いた。


愛「交渉成立だね〜♪ これからはカリンの駒として、せっせと働いてあげるよ」

果林「……信用してるわ、愛」

愛「へいへい、任せろ〜」


信用……ね。

アタシも信用してるよ、カリン……。

こうして──新生“DiverDiva”の計画が、始まったのだった。





    👏    👏    👏





……アタシはりなりーを失った。カリンはカナちゃんを……。

完全に政府の方針と一致した動きを見せていたカリンの発言権は強く、アタシもカリンに首輪を嵌められていたこともあって、すぐに軟禁は解除された。

──まあ、その日のうちに構造を完全に理解して、いつでも外せるようにはしてたんだけどね。

そうしたら、ポケモンたちもみんな戻ってきた。……ただ、ニャスパーはどこにもいなかった。

りなりーがいなくなったことを知って……この場から去ってしまったのかもしれない。
744 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:36:19.29 ID:jK0Y5xHa0

愛「……ベベノム」
 「ベベノ」

愛「……みんな……いなくなっちゃったね……」
 「ベノ…」

愛「……でも、アタシは……全部取り戻すよ」
 「ベノ…!!」

愛「……アタシに力を貸してくれる?」
 「ベベノムッ♪」

愛「ありがとう……愛してるよ、ベベノム」
 「ベベノ♪」


──その後、アタシたちは政府が滅ぼすと決めた世界へと移動し……そこで計画を始めた。

アタシはアタシで──どうやって、宇宙全てを情報レベルに分解するかを考え続けながら……ありとあらゆる情報機関にクラッキングし調べた結果──ディアルガ、パルキア、ギラティナというポケモンの伝承にたどり着いた。

時間の神、空間の神、反物質の神が揃えば……恐らく、特異点を強引に発散、インフレーションさせることが可能だろう。

なんせ3匹の力を合わせれば、時空を歪め、重力すら反転出来るのだ。特異点からエネルギーが発散されれば……全宇宙にエネルギーが押し寄せ……飲み込まれることになるだろう。

そして、その理論を思いつくと同時に……グレイブ団の首領・聖良が、その3匹を探し求めていたことにたどり着く。

彼女はあくまでディアンシーに会うのが目的だったため、アタシは目的が達成された後はその3匹を貰うというのを交換条件に、技術協力と資金提供を行った。

カリンには、彼女が世界を混乱させている間に計画を進行させるとか適当なことを吹いたら、割とあっさり信じてくれた。

まさか……彼女の計画が、勇敢なポケモントレーナーたちの手によって、あっという間に収束してしまったのには驚いたけどね……。

──こんな、全てを利用してやると決めたアタシにも……人の心が残っていたのか、本格的に自分たちが動き出す際──彼女の病室に忍び込んでまで顔を見に行ったのは、自分でも意外だった。

もちろん、表向きの理由としては、ディアルガ、パルキア、ギラティナの有益な情報を持っていないかを確認しに行ったつもりだったけど……冷静に考えれば病室にそんなものが転がっているわけもないので、きっとあれは……アタシが最後に見せた人の顔の感情だったんだと思う。同情という名のね……。


愛「……待ってて、りなりー……すぐにりなりーのところに行くからね……」


──
────
──────
────────



愛「もうすぐ……もうすぐ、一つになれるよ……りなりー……待っててね……」
 「アーゴヨンッ!!!」


アタシは──特異点の中心へと、突き進む……。





    🎹    🎹    🎹





──だんだん東の空が白んできた。


しずく「もうすぐ……暁時ですね」

かすみ「な、なんか緊張してきた……」

せつ菜「私たちは……離れていた方がいいですかね」

彼方「そうだねー。儀式をするのはあくまでコスモウムたちと、その主人だからー」


彼方さんの言葉に、歩夢と顔を見合わせて頷き合う。
745 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:41:09.96 ID:jK0Y5xHa0

侑「……歩夢」
 「────」

歩夢「うん」
 「────」


二人で、遺跡の中でも一際高い場所にある祭壇を見る。


果林「……まさか、コスモッグたちを進化させるのが……“SUN”でも“MOON”でもないとはね……」

彼方「ホントにね〜」

リナ『侑さん、歩夢さん。コスモウムは日輪と月輪が交差する場所で、交差する時に、人の心に触れ、化身へと姿を変える……きっと、二人の心に反応して、太陽の化身か月の化身へと進化するはずだから』 || ╹ ◡ ╹ ||

エマ「頑張ってね! 二人とも!」

侑「はい、行ってきます」
 「────」

歩夢「行ってきます」
 「────」


私は歩夢と手を繋いで──祭壇を上り始めた。





    🎹    🎹    🎹





侑「……ねぇ、歩夢」

歩夢「なぁに?」

侑「私たち……なんか、すごい所まで来ちゃったね」

歩夢「……そうだね」


祭壇から見た景色は── 一面雲海に覆われている。……まるで、空の上にでもいるかのようだった。


侑「太陽の化身か月の化身だってさ」

歩夢「そうだね」

侑「どっちになると思う?」

歩夢「……リナちゃんが言ってたとおりなら……私たちの心に反応して、姿を変える……ってことだよね」

侑「そうなるね」


二人で手を繋いで、祭壇の頂上へ立つと──雲海の向こうから、日が昇り始める。

──暁時だ。

それと同時に──


 「────」
 「────」


2匹のコスモウムが激しく私たちの周囲を飛びまわり、輝き始める。

進化の時だ。


歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「私たちの心の中にあるのが、太陽なのか、月なのか……それならもう、決まってるよ」

侑「決まってる……。……そうだね」
746 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:42:29.00 ID:jK0Y5xHa0

私は歩夢の言葉に頷いた。


侑「──歩夢は、私の太陽だから」

歩夢「──侑ちゃんは、私の太陽だから」

侑・歩夢「「私たちは……お互いがお互いの──太陽だから」」

 「────」「────」


暁の光に照らされて──朝と夜が入り混じるこの時、この場所で──2匹のコスモウムは──


 「──ガオーレッ!!!!」「──ラリオーナッ!!!!」


『光り輝く白銀の太陽』と『赤く燃える赫灼の太陽』へと姿を変えたのだった。





    🎹    🎹    🎹





 「──ガオーレ…」「──ラリオーナ…」

リナ『ソルガレオ にちりんポケモン 高さ:3.4m 重さ:230.0kg
   別世界に 棲むと いわれる。 全身から 無尽蔵の 光エネルギーを
   放出し 闇夜も 真昼のように 照らす。 遥か 大昔の 文献に
   太陽を 喰らいし 獣と いう 名前で 記録が 残っている。』

歩夢「太陽を喰らいし獣……」

侑「ソルガレオ……」


私たちはコスモウムが進化したポケモン──ソルガレオを見上げる。


果林「まさか……どっちも太陽の化身になるなんて……」

彼方「なんか……勝手にどっちかが太陽でどっちかが月だって思い込んじゃってたね……」


結果はどちらも太陽の化身──白銀の太陽と真っ赤な太陽だった。


 「──ガオーレ…」「──ラリオーナ…」


ソルガレオたちが、身を屈める。


侑「うん、ソルガレオ……!」

歩夢「行こう……愛ちゃんを止めに……!」


私たちは、ソルガレオの背に乗る。
747 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:43:33.55 ID:jK0Y5xHa0

かすみ「かすみんも乗りたいです〜!!」

せつ菜「私も乗ってみたいです!!」

果林「ダメよ、突入するのはあの二人だけ」

彼方「ウルトラスペースは生身で行くのは危険な場所だからね〜……何人も相乗りするのは危ないから〜」

かすみ「え……じゃあ、かすみんたちなんでここまで付いてきたんですか!?」

せつ菜「まさか……お見送りのため……ではないですよね……?」

果林「私たちには私たちで、やることがあるのよ」

しずく「やること……ですか……?」

姫乃「これから、ソルガレオたちの力によって……大きなウルトラホールが開くことになります」

遥「そこからは恐らく……ウルトラビーストが飛び出してきます」

かすみ「……なるほど、そういうことですか」

しずく「侑先輩たちが帰って来るまで……私たちは、そのウルトラビーストを捌き続ける」

せつ菜「確かに……1匹たりとも通すわけにはいきませんからね」

果林「そういうことよ」

エマ「か、果林ちゃん……! わたしも手伝うね……!」

果林「ええ、お願いね。でも、無茶はしちゃダメよ? エマは私の傍から離れずに戦うこと……いいわね?」

エマ「うん♪」

姫乃「……距離が……近い……」

果林「姫乃も、頼りにしてるわ」

姫乃「……! は、はい!! お任せください!!」

しずく「……はぁ〜……」

かすみ「しず子……何、うっとりしてんの……」

彼方「遥ちゃんは、お姉ちゃんから離れちゃダメだよ〜?」

遥「うん! もし負傷しても、私が皆さんを治療します!」

彼方「よろしくね〜遥ちゃん〜♪」


そして、果林さんが私たちに向き直る。


果林「侑、歩夢。貴方たちの帰る場所は……私たちが死守する。だから、愛のこと……よろしくね」

侑「はい!」

歩夢「絶対に愛ちゃんを止めて……帰ってきます」


私たちは、果林さんの言葉に頷いた。


侑「イーブイ、振り落とされないようにね」
 「ィブイ♪」

歩夢「サスケも……今日はお昼寝しないでね?」
 「シャーボッ!!!」


自分たちのポケモンに声を掛け──最後に、


侑「リナちゃん!」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||


私がリナちゃんの名前を呼ぶと、飛んできて私の腕に装着される。
748 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 00:44:26.32 ID:jK0Y5xHa0

侑「行こう……! 愛ちゃんの居る場所へ! リナちゃんの想いを……伝えに……!」

リナ『うん! 侑さん、歩夢さん、私全力でサポートするね!』 ||,,> ◡ <,,||

歩夢「うん、お願いね、リナちゃん♪」

侑「頼りにしてるよ!」
 「ブイ♪」


私たちを背に乗せた白銀と赫灼の太陽が、


 「──ガオーレッ!!!!」「──ラリオーナッ!!!!」


“おたけび”を上げると──目の前に大きなウルトラホールが口を開く。


侑「歩夢」

歩夢「侑ちゃん」

侑・歩夢「「行こう! 愛ちゃんを止めに……!!」」


私たちは、最後の戦いへと──2匹の太陽と共にウルトラスペースを、走り出した。


………………
…………
……
🎹

749 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:48:00.64 ID:jK0Y5xHa0

■Chapter073 『ツナガル未来の為に』 【SIDE Yu】





「ガオーレッ!!!!」「ラリオーナッ!!!!」


──2匹の太陽は、光の速さでウルトラスペース内を駆けて行く。

猛スピードで流れる景色の中、他の世界へ繋がっているであろうウルトラホールを傍目に見ながら、私たちは進んでいく。


歩夢「す、すごいスピード……」

リナ『ソルガレオが持ってる光のエネルギーを速度に変換してるみたい!』 ||,,> ◡ <,,||

侑「この速さなら……愛ちゃんに追い付ける……!!」
 「ブイッ!!」

リナ『ただ、ソルガレオから絶対に振り落とされないようにね。ソルガレオの周囲にはエネルギー場が発生してるから、侑さんたちに影響がないだけで……ウルトラスペースが生身で耐えられる環境じゃないのには変わりないから』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「了解! 歩夢、気を付けてね!」

歩夢「うん♪ 侑ちゃんも」


歩夢がニコリと笑って返してくる。

そんな私たちを見て、


リナ『二人とも……旅立ちの頃に比べると、すごくたくましくなったね』 || ╹ ◡ ╹ ||


リナちゃんが、そんなことを言う。


歩夢「え、そ、そうかな……?」

リナ『特に歩夢さん! 最初はバトルは怖いって言ってたけど……今はすっかり頼もしくなった』 || > ◡ < ||

歩夢「……きっと、そうなれたのは……侑ちゃんが隣にいてくれたからだよ」

侑「歩夢……」

歩夢「……これまでずっと侑ちゃんが守ってくれたから、助けてくれたから。でも、これからは私も侑ちゃんを支えられるように、もっともっと強くなって……今度は私が侑ちゃんを守るんだって決めたから。侑ちゃんを隣で守るためなら、もう戦うのも怖くない」


歩夢はそんな風に言う。だけど──


侑「私はずっと前から……歩夢に助けられてばっかりだよ」


最初は私が歩夢を守らなくちゃいけないなんて息巻いて……空回りしたこともあったけど──いつの間にか、歩夢と一緒に戦うようになっていて、私も歩夢に背中を預けるようになっていて……。


侑「私も……歩夢が隣に居てくれるから戦える。歩夢が居てくれるから、勇気が湧いてくる。立ち向かえるんだ」

歩夢「侑ちゃん……」

侑「私は一人で戦ってるんじゃない。歩夢が、リナちゃんが、イーブイが……みんながいるから戦えるんだ」
 「イブイ♪」

歩夢「うん……私も、侑ちゃんが、リナちゃんが……サスケやみんながいるから戦える」
 「シャボ」

リナ『侑さん……歩夢さん……。……うん!』 ||,,> ◡ <,,||

 「ガオーレッ!!!」「ラリオーーナッ!!!!」


──ここまで旅をしてきて……出会ったポケモンたち。出会った人たち。いろんな出会いがあったから……今、私はこうして戦えている。


侑「そして……これからも、いろんな人たちと、いろんなポケモンたちと……新しい出会いを、新しい冒険をしたいから……」

歩夢「うん。……そうだね……。これからも、きっとたくさん、楽しいこと、わくわくすること……たくさんあるはずだから……」

リナ『誰かと誰かが繋がっていく明日のために……!』 ||,,> ◡ <,,||
750 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:48:34.91 ID:jK0Y5xHa0

──私たちはそんな当たり前の未来を守るために……。


侑「世界を……救おう!」
 「ブイ♪」

歩夢「うん♪ 私たちで!」
 「シャボ」

リナ『リナちゃんボード「ファイト、オー!」』 ||,,> ◡ <,,||

 「ガオーレッ!!!」「ラリオーーナッ!!!!」


愛ちゃんのいるところまで──あと、少し……!





    👑    👑    👑





──侑先輩たちがウルトラスペースに入っていって……。


しずく「侑先輩、歩夢さん、リナさん……どうか、ご無事で……」

かすみ「大丈夫だよ、しず子。侑先輩たちなら……絶対、愛先輩を止めて帰ってきてくれるって!」

せつ菜「ですね! 今は私たちに出来ることをしましょう!」

しずく「かすみさん……せつ菜さん……。……はい、そうですね」

果林「……なんて言ってる間にも」

彼方「お出ましみたいだね〜」


 「──ドカグィィィィッ!!!!」


エマ「わ……!? す、すっごい大きなウルトラビーストさん……!?」

遥「アクジキング……!」

姫乃「よりにもよってですね……」


ウルトラビーストの中でも一際大きな強敵……! ですが──


かすみ「前は苦戦しましたけど……今のかすみんは、あのとき以上に強いですよ!!」

しずく「私も、ウルトラビーストについてはたくさん研究したんです……!」

せつ菜「今更、この程度の相手、造作もありません!!」

 「ドカグィィィィィッ!!!!!」


侑先輩、歩夢先輩、リナ子……!

ここはかすみんたちが食い止めます。だから、世界を……お願いします……!



751 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:49:19.49 ID:jK0Y5xHa0

    👏    👏    👏





──ここまで、長かった。

りなりーが居なくなってから……毎日が地獄のようだった。

世界の全てが灰色に見えた。朽ちているように見えた。……壊れているように見えた。

何度も何度も悔いた。自分の無力さを、非力さを嘆いた。

世界で一番大切な人すら守れない……自分を呪った。

それが、やっと……やっと、終わる。

だのに──


愛「……最後の最後まで……アタシを邪魔する人たちは……いなくならないんだね」


振り返ると──


 「──ガオーーレッ!!!!」「──ラリオーーナッ!!!!」


白銀と赫灼の太陽が、背後から迫ってきていた。





    🎹    🎹    🎹





侑「──愛ちゃんっ!!」


ウルトラスペースの中に──愛ちゃんと共に前を飛ぶアーゴヨンと、時空・空間・反物質の神たちを見付ける。


愛「……こんな場所まで、よく追ってこられたね……。……これから大事な用事が残ってる神たちを傷つけられたら堪ったもんじゃない……。一旦戻れ」
 「ディアガ──」「バァァル──」「ギシャラァ──」


愛ちゃんが神のポケモンたちをボールに戻しながら、私たちを睨みつけてくる。


歩夢「愛ちゃん……! こんなこと、もうやめて……!」

リナ『愛さん……!! こんなことしても、誰も喜ばない……!!』 || > _ <𝅝||

愛「それを決めるのは、お前じゃない……──りなりーだ……!!」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


愛ちゃんの言葉と共に──アーゴヨンのお尻の毒針が黄色く輝き始める。


愛「“ヘドロウェーブ”!!」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


その輝きは濃縮されたブライトカラーの一筋の毒液となって、私たちに向かって発射される。


歩夢「ウツロイド!! “ヘドロウェーブ”!!」
 「──ジェルルップ…」


歩夢がボールからウツロイドを繰り出し、同じ技で対抗するが──ウツロイドの出した紫色のヘドロの波動を橙色の輝くヘドロ液が貫いてくる。


 「──ジェルップッ…!!」
752 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:50:21.60 ID:jK0Y5xHa0

愛ちゃんの攻撃はウツロイドをいとも簡単に弾き飛ばし──


歩夢「……っ……!?」


背後に居た歩夢の眼前に迫る。


侑「歩夢っ!!」
 「ガォーーーレッ!!!!」


私は咄嗟に、ソルガレオと一緒に歩夢の前に飛び出す。

“メタルプロテクト”を身に纏ったソルガレオの鋼鉄の体なら、受け止められると踏んでの防御だったが──ソルガレオの側面に攻撃が当たった瞬間、ジュウウウウウッ!!! と音が立つ。


 「ガォーーーーレッ……!!!!」
侑「な……っ!?」

リナ『侑さん!? 防ぎきれてない!?』 || ? ᆷ ! ||


どくタイプの攻撃なのに、はがねタイプで防ぎきれない……!?


侑「く……ニャスパー!! フィオネ!!」
 「ウニャァーーーッ!!!」「フィォ〜〜」


私は咄嗟にニャスパーとフィオネを出し、


侑「ニャスパー!! “サイコキネシス”!! フルパワー!!」
 「ウニャァァァッ!!!!」


ニャスパーが真上から、一直線に突き刺さる、橙色のヘドロ液を真下に向かって捻じ曲げる。


 「ガォーーーレッ…!!!」


その隙にソルガレオはその場から退避し、


侑「フィオネ! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーッ!!!」


フィオネが激しい水流によって、ソルガレオの体に付着した毒液を洗い流す。

幸いそれで毒を洗い流すことはできたけど──ソルガレオの鋼鉄の装甲は、毒によって変形していた。


歩夢「侑ちゃん……!! ソルガレオ……!! 大丈夫……!?」

侑「こっちは大丈夫……! それよりウツロイドは!?」

歩夢「こっちもどうにか……」
 「──ジェルルップ…」


吹っ飛ばされたウツロイドも、ふよふよとウルトラスペースを漂いながら、歩夢の傍に戻ってきていた。


侑「よかった……。それにしても……ソルガレオの鋼鉄の体でも受けきれないなんて……」

リナ『キズナ現象によって強化された影響だと思う……』 || > _ <𝅝||


──直後、真上から、


愛「──そうだよ。ゆうゆと歩夢じゃ、今のアタシたちは……止められない」

侑「!?」

愛「“エアスラッシュ”!!」
 「アーーーーゴヨンッ!!!!!」
753 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:50:53.34 ID:jK0Y5xHa0

いつの間にか真上を取っていたアーゴヨンが巨大なオレンジ色に輝く風の刃を、私たちに向かって放ってくる。


歩夢「ソルガレオ!! “テレポート”!!」
 「ラリオーーーナッ!!!!」


咄嗟に歩夢がソルガレオごと私たちに突進し──直後に全員を巻き込んで“テレポート”する。

──視界がフッと切り替わり、次の瞬間には私たちの目の前を巨大な風の刃が真下に向かって通り過ぎて行った。


侑「あ、ありがとう、歩夢……」

歩夢「う、うぅん……でも……ソルガレオ2匹分だと、ほとんど移動できなかった……」
 「ラ、ラリォーーナッ…」

リナ『質量が大きいと“テレポート”の移動距離や精度は下がっちゃうから……でも、歩夢さんの判断がなかったら直撃してた……』 || > _ <𝅝||


それにウルトラスペースのような安定しない空間で使ったからか、歩夢のソルガレオには疲労が見える。回避には何度も使えないかもしれない……。


愛「へー……やるじゃん。アタシのリーシャンでも、ここじゃうまく“テレポート”出来ないのに……」
 「アーゴ…!!!」

侑「愛ちゃん……!! もうやめて……!!」

愛「……ここまで来て、やめてくださいって言われてやめると思ってんの? “エアカッター”!!」
 「アーーーゴッ!!!!」


またしても真上から風の刃が降ってくる。

だけど、今度はさっきのような大きな一刃ではなく──複数の小さな風の刃が降ってくる。


 「ウーニャァッ!!!!」


それに向かって、ニャスパーが飛び出し、耳を全開にする。


侑「イーブイ!! サポートするよ!! “どばどばオーラ”!!」
 「イッブイッ!!!!」


イーブイからオーラが発され──僅かに“エアカッター”のスピードが鈍ったところに、


 「ウニャァーーー!!!」


ニャスパーが全力“サイコキネシス”で“エアカッター”をどうにか逸らす。

それでも、全てを逸らしきることは出来ず、


 「ガオーレッ…!!!」「ラリオーナッ…!!!」

歩夢「きゃぁぁぁぁっ……!?」

侑「ぐ……っ……!」

リナ『侑さんっ!! 歩夢さんっ!!』 || > _ <𝅝||


体の大きなソルガレオに攻撃が被弾し──ギャ、ギャギャギャと、耳障りな音と共に、風の刃で鋼鉄の鎧の表面が抉られる。

攻撃を受け、その身を大きく揺するソルガレオたちに、私たちは必死にしがみ付く。


歩夢「ソルガレオ……!! “ワイドガード”……!!」
 「ラリオーーナッ!!!!」


そんな中、歩夢が咄嗟に防御技を指示すると、ソルガレオの真上に大きなエネルギーの壁が出現し、風の刃を弾き飛ばす。
754 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:51:48.05 ID:jK0Y5xHa0

歩夢「侑ちゃん、平気……!?」

侑「た、助かった……ありがとう……」

リナ『“エアカッター”なのに……すごい威力……』 || > _ <𝅝||


本来はそんなに強力な技じゃないはずなのに、キズナ現象によって強化されたアーゴヨンは、ソルガレオの鋼鉄の防御すら平気で貫いてくる。

そんな中、愛ちゃんは攻撃を防いだニャスパーを見下ろす。


愛「……そのニャスパー……ドッグランでアタシを助けたニャスパーだよね」

 「ニャ〜」

愛「……やっぱり……りなりーのニャスパーだったんだね……」

 「ニャ〜」

愛「ねぇ、ニャスパー……。……アタシは今から、りなりーのところに行くんだ……。……一緒に行こう……りなりーのところに……」


愛ちゃんはそう言うけど、


 「ニャァ〜」


ニャスパーはふるふると首を振る。


愛「……そっか……。……ニャスパーも……わかってくれないんだ……。……でも、大丈夫……みんな一つになるから……」

リナ『愛さん……もうやめて……! そんなことしても、何も戻らない……! 誰も望んでる結果にならない……!』 || > _ <𝅝||

愛「だから……それを決めるのは……りなりーだ……」

リナ『璃奈だって、こんなこと望んでない……!! 望んでるわけない!!』 || > _ <𝅝||

愛「この問答にこそ意味がない……君の言葉は……どこまで行っても、りなりーの言葉じゃないんだよ……」

リナ『愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「……こんなところまで追ってきて、説得しようなんて甘いこと考えてないでさ……。本当にアタシのやってることが間違ってるって思うなら……力尽くで止めてみなよ……」
 「アーーーゴ…!!!」

愛「アタシもアーゴヨンも……とっくに覚悟は決まってるんだ……!! “りゅうせいぐん”!!」
 「アーーゴヨンッ!!!!」


アーゴヨンの全身がカッと眩く光る。直後──ウルトラスペース内だと言うのに、大量の流星が私たちに向かって降り注いでくる。


侑「く……ソルガレオ!!」
 「ガオーーレッ!!!」


ソルガレオが“おたけび”をあげながら、自身の体に周囲のエネルギーを集束し始める。

それと同時に私はソルガレオから跳び下りて、


侑「ウォーグル!!」
 「──ウォーーーッ!!!」


ボールから出したウォーグルの脚に掴まる。


侑「“メテオドライブ”!!」
 「ガオーーーレッ!!!!!」


ソルガレオは、自身に集束したエネルギーと共に、隕石のように真っ向から突進し──“りゅうせいぐん”を割り砕きながら、突き進む。

確かにアーゴヨンのパワーはすごいけど……こっちだって、ウルトラビーストなんだ……!!


 「ガオーーーーレッ…!!!!!」


“りゅうせいぐん”を正面突破しているにも関わらず、ソルガレオは全く勢いを衰えさせることなく──愛ちゃんたちに突っ込んでいく。
755 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:52:21.95 ID:jK0Y5xHa0

愛「……! アーゴヨン!!」
 「アーーゴッ!!!」


愛ちゃんは、砕ける“りゅうせいぐん”の影から飛び出してくるソルガレオに気付き、すんでのところで“メテオドライブ”を回避する。

それと同時に、


歩夢「ウツロイド……! 侑ちゃんたちを守ってあげて……!」
 「──ジェルルップ…」


ウツロイドが歩夢の指示で、ウォーグルの背中に張り付く。

今は歩夢のソルガレオが近くにいるから大丈夫だけど……もし離れてしまったら、ウルトラスペースの環境に耐えられなくなってしまうからだ。

愛ちゃんが“メテオドライブ”を回避したことで、


 「ガオーレ…!!!」

 「ラリオーナ…!!!」


自然と、上下に位置した2匹のソルガレオで挟み撃ちの形になる。


愛「やっと攻撃してきたね……」

侑「……」

愛「来なよ……ゆうゆ、歩夢……! どっちの考えが正しいか……白黒付けようじゃん……!!」
 「アーーーゴッ!!!!」


──アーゴヨンが輝く翼をしならせながら、猛スピードで飛び出してくる。


愛「“りゅうのはどう”!!」
 「アーーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンの口にドラゴンのエネルギーが集束され──バヂバヂと音を立てながら、私たちに向かって一直線に飛んでくる。


侑「ドラパルト!! “りゅうのはどう”!!」
 「──パルトッ!!!!」


ドラパルトも対抗するように“りゅうのはどう”を発射し、


歩夢「ウツロイド!! “パワージェム”!!」

 「──ジェルルップ…」


ウォーグルの背中の上から、ウツロイドが“パワージェム”を発射する。

でも、2匹掛かりでも、どうにか軌道を逸らすのが限界──


侑「くっ……!!」
 「ウォーーーグッ…!!!」


直撃こそ避けたものの、アーゴヨンの発射した“りゅうのはどう”が目の前を過ぎるだけで、その余波によって、私たちは吹き飛ばされる。


歩夢「侑ちゃん!!」
 「ラリオーーナッ!!!!」


歩夢のソルガレオが吹き飛ばされた私たちを追って、駆け出そうとするが、


愛「“ドラゴンダイブ”!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」


畳みかけるように、アーゴヨンが猛スピードで迫ってくる。
756 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:53:06.46 ID:jK0Y5xHa0

リナ『侑さんっ!? 避けてっ!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「っ……!」
 「ウォーーグッ…!!!」


ウォーグルはすぐに体勢を立て直したが──相手が速すぎる。

回避は無理……!


侑「ならっ……!!」
 「ウォーーーグッ!!!!!!」「パルトッ!!!!!」


ウォーグルが爪を、ドラパルトが尻尾を、身を捻りながらアーゴヨンの上から同時に叩き付けるようにして──攻撃を逸らす。

──彼方さん直伝のいなし術……!


愛「……! へぇー……!」


攻撃を捌かれ、アーゴヨンがすれ違いざまに通り過ぎた……瞬間──グイッと足が後ろに引っ張られる。


侑「……!?」
 「ウォーーグッ!!!?」


何かと思って下に目を向けると──


 「ルリ…!!!」

侑「ルリリの尻尾……!?」


いつの間にか、愛ちゃんが右手に掴んでいるルリリの尻尾が、私の足に巻き付いていた。

そしてそのまま、尻尾が戻る反動を利用して、


愛「さぁ、もういっちょだ……!!」
 「アーーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンが再び“ドラゴンダイブ”で突っ込んでくる。

しかも今回はルリリの尻尾が私の足に絡みついているため、さっき以上に高い精度で真っすぐ私に突っ込んでくる。


侑「く……っ……イーブイ!! “わるわるゾーン”!!」
 「イッブイッ!!!」


苦し紛れにイーブイがゾーンを発生し、本当に僅かにアーゴヨンの突進速度が緩んだように見えたが、


愛「焼け石に水って言うんだよ……!! そういうの!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


アーゴヨンは“わるわるゾーン”の中をお構いなしに突っ切ってくる。

避けきれない……!! そう思った瞬間、


歩夢「ソルガレオ!! “てっぺき”!!」
 「ラリオーーナッ!!!!!」


私たちの間に赫灼のソルガレオが、身を硬めながら飛び込んでくる。

だけど──アーゴヨンの猛烈な突撃に、


 「ラリオーーナッ…!!!!」
歩夢「きゃぁ……!!」
757 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:53:41.92 ID:jK0Y5xHa0

ソルガレオがパワー負けして、こちらに押されてくる。

それどころか、“ドラゴンダイブ”を真っ向から受けた“メタルプロテクト”にビシリとヒビが入る。


愛「邪魔っ!!」
 「アーーゴッ!!!!」


アーゴヨンが突撃したまま、ガパッと口を開き──そこにドラゴンエネルギーが集束され始める。


歩夢「……!」


至近距離で“りゅうのはどう”を撃たれそうになった瞬間、


侑「ソルガレオッ!! “メテオドライブ”!!」

 「ガオーーーーレッ!!!!!!!」


真上から、ソルガレオが急降下してくる。


愛「ち……! あっちが先!!」
 「アーーゴッ!!!!」


アーゴヨンは咄嗟に上を向き、真上から迫ってくるソルガレオに“りゅうのはどう”を発射する。

だが、こちらも大技による突進──“りゅうのはどう”を真っ向から突っ切っていく。


愛「くっ……」
 「アーゴッ」


愛ちゃんたちはこれ以上の撃ち合いを不利と見たのか、2匹のソルガレオに対して放っていた、“りゅうのはどう”と“ドラゴンダイブ”を中断し、またしてもソルガレオの大技をすんでで躱す。

どうにか歩夢から引き剥がすことが出来た──けど、これじゃまだダメだ。

私の足にルリリの尻尾が絡みついている。

これがある限り、愛ちゃんはいくらでも私を捕捉出来る。


侑「なら……!!」


私は──ウォーグルの脚を掴んでいた手を……自分から放した。


リナ『侑さん!?』 || ? ᆷ ! ||


私は落っこちながらルリリの尻尾を手で掴み──


侑「フィオネ!! “ハイドロポンプ”!!」
 「フィーーーオーーーーッ!!!!」


小脇に抱えたフィオネの“ハイドロポンプ”を逆噴射させる。

ルリリの尻尾の戻る反動も使い、割って入って助けてくれた歩夢のソルガレオを飛び越えるようにして──

一気に愛ちゃんの方へと接近する。


愛「なっ……!?」


逆に利用されるとは思っていなかったのか、愛ちゃんが一瞬動揺する。

その一瞬の隙に、私はアーゴヨンのお腹の突起に手を掛けてしがみつく。


 「ブイッ!!!」


そして肩に乗っていたイーブイが愛ちゃんに向かって飛び出す。
758 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:54:17.27 ID:jK0Y5xHa0

侑「イーブイ!! “めらめらバーン”!!」
 「ブーーーイィッ!!!」


至近距離からの突撃──絶対に避けられない距離。

だと思ったのに、


 「ルーーリィッ!!!!」
愛「ちょ!? ルリリ!?」


ルリリが自分から愛ちゃんの前に飛び出して、攻撃を受けに出てきた。


侑「く……!?」

 「イッブィッ…!!!」


突撃の反動で跳ね返るイーブイを、


 「ウニャァ!!」


頭にしがみついていたニャスパーが、サイコパワーで私の元に引き寄せ救出。


愛「ルリリ……!!」
 「ルリィ…」


愛ちゃんは直撃を受け、瀕死になったルリリをキャッチしながら、


愛「離れろ……!!」


アーゴヨンにしがみついている私に蹴りを入れてくる。


侑「ぐっ……!?」


蹴り飛ばされ、私がウルトラスペースに放り出された──瞬間、


 「ガオーーーレッ!!!!!」


白銀のソルガレオが私の真下に滑り込み、間一髪で救出される。


歩夢「侑ちゃん、大丈夫!?」
 「ラリオーナッ!!!」

侑「な、なんとかね……」
 「ブィ…」


近寄ってきた歩夢と共に、再び愛ちゃんと相対する形になる。


愛「……生身で突っ込んでくるなんて……大した度胸だね。一歩間違ったら、ウルトラスペースの中に消えるところだったよ?」

侑「でも、お陰で……ルリリは倒せた……」

愛「……全くね。やるじゃん。正直……見くびってたよ……。……でも、もう遊びは終わり」
 「アーーゴッ!!!」


アーゴヨンが毒針をこちらに構える──


愛「“ヘドロウェーブ”!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」


直後、橙色の毒液が毒針から噴き出す。

ただ、最初に使った集束された一本の毒液じゃない──3本の針から、辺り一帯を覆いつくすようなとんでもない範囲に毒液が発射され、それはまるで毒の壁のように私たちに迫ってくる。
759 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:54:47.99 ID:jK0Y5xHa0

侑「……!?」

リナ『こんなの避けられない……!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「じゃあ……!!」

歩夢「防ぐしかない……!!」


私は咄嗟に、ドラパルトとウォーグルをボールに戻し、


侑「歩夢!!」

歩夢「うん!!」

侑・歩夢「「“ワイドガード”!!」」

 「ガオーーーレッ!!!!!」「ラリオーーーナッ!!!!!」


2匹分の防御技で広範囲攻撃を防ぐ。

最初の集束されたものと違って、広範囲に散っている分、攻撃力は低いと踏んでの防御策。

目の前に展開した大きな防御壁に眩しい蛍光色の毒液がべったりと張り付き前が見えない。

もし、これを破られたら──全員毒まみれになることになる。恐らく一滴でも当たろうものなら致命傷になるような猛毒。

だけど──ここは私たちの読みが勝っていた。

次第に勢いが弱まり──“ワイドガード”をべったりと覆っていた毒液が徐々に下に落ちて流れていく。

ただ──


リナ『……!? 毒液の向こうから、超巨大なエネルギー反応!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「……なっ……!?」

歩夢「え……!?」


“ワイドガード”の向こう──アーゴヨンは、バヂバヂと周囲にエネルギーをスパークさせながら、超オレンジの光を放っていた。


愛「──“アルティメットドラゴンバーン”!!」
 「アーーーーゴッ!!!!!」


アーゴヨンの全身から、一気にエネルギーが発散され──それは空を飛ぶ一匹のドラゴンのような形になって──私たちに向かって超高速で突っ込んできた。

回避か防御かの判断すら間に合わず──直撃しそうになった瞬間、


 「──ジェルルップ」

歩夢「ウツロイドッ!?」


ウツロイドが私たちの盾になるように、“ミラーコート”を身に纏って、飛びだしていた。

が、もちろん攻撃を受け切れるわけもなく──ウツロイドを中心に、ドラゴンエネルギーが大爆発を起こした。


 「ガオーーーーレッ…!!!!」「ラリオーーーナッ…!!!!」


その爆発で、ソルガレオの巨体さえも軽々と吹き飛ばされ──


侑「ぐ、ぅぅぅぅぅ……っ!!!!」
 「ブィィィィィィッ!!!!!」「フィオーーーーッ!!!!!」「ウニャァァァァ〜〜〜!!!?」

歩夢「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

リナ『みんな!!!! 絶対手離しちゃダメ!!!! 耐えて!!!!!』 || >ᆷ< ||


私たちはポケモン共々必死にソルガレオにしがみつく。

だけど──余りの衝撃に、
760 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:56:01.33 ID:jK0Y5xHa0

侑「……あ」
 「ブイッ…!!!?」


私は手を──ソルガレオから離してしまった。

イーブイを肩に乗せたまま、ウルトラスペースに放り出されそうになった瞬間、


歩夢「侑ちゃんッ……!!!」
 「シャーーーボッ!!!!!」


歩夢の腕に尻尾を巻き付けたサスケが体を伸ばして、私の腕に噛みついた。


侑「っ゛……!!」


痛みを感じると同時に、私もサスケの体を掴む。


 「シャーーーーーボッ!!!!!」


サスケが全身の筋肉を使って、私を歩夢の方へと引っ張る。

それと同時に歩夢が私に向かって手を伸ばす。


歩夢「侑ちゃんッ!!!」

侑「歩夢ッ!!!」


伸ばした手が──ギリギリで、届いた。


歩夢「……っ!!」


歩夢がぐっと引き寄せ、私は歩夢に抱きしめられる形でどうにか難を逃れた。

歩夢にぎゅっと抱きしめられたまま──揺れるソルガレオの背の上で、じっと耐え続け……。


 「ラリオーーナッ…!!!」


やっとソルガレオが態勢を立て直す。


歩夢「ゆう……ちゃん……っ……」


揺れも衝撃もひとまず収まったけど……私を抱きしめる歩夢は、震えていた。


歩夢「…………ゆう……ちゃん……っ……」

侑「歩夢……もう大丈夫だよ……。私は……無事だから……」

歩夢「…………」

侑「ありがとう、歩夢……」

歩夢「……うん」


歩夢の背中を優しく叩きながら、二人で顔を上げる──

すると、


 「──ジェ…ル…」


私たちの近くを……ボロボロになったウツロイドが漂っていた。


歩夢「……っ……!! ウツロイド、戻って……!!」
 「ジェ…ル…ップ…──」
761 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:56:43.41 ID:jK0Y5xHa0

歩夢はすぐさまウツロイドをボールに戻す。


歩夢「ごめん、ごめんね……痛かったよね……ありがとう……っ……」


ギュッとボールを胸に抱きながら、ウツロイドへの謝罪とお礼を口にする。

ウツロイドが盾になってくれなかったら……私も歩夢も間違いなく、ウルトラスペースの彼方に吹き飛ばされていた……。


 「ガオーレッ!!!」


そこに、白銀のソルガレオが私のもとへと戻ってくる。


 「フィオーーッ!!!」「ウニャァ〜〜」


ソルガレオにしがみついていた2匹も無事で安心する。

……けど、


愛「──あっはは、間一髪だったね」

侑「……!」


気付けば──愛ちゃんがアーゴヨンと共に、目の前に来ていた。

爆風でかなり吹き飛ばされたはずなのに……。

恐らくアーゴヨンの猛スピードの飛翔能力で、吹っ飛ばした先から追い付いてきたのだろう。


愛「……見た? 今のZ技」

侑「Z……技……」

リナ『なんで、Z技が……』 || > _ <𝅝||


Z技は特別な道具を使って発動する超大技だ……。

でも、愛ちゃんはそんな道具を使った様子はなかった。


愛「Z技はね……ウルトラスペースに溢れる輝きのエネルギーと……ポケモンとのキズナを同調させて使うんだ。……本来はその同調に道具を使うんだけどね……アタシとアーゴヨンは……すでにキズナで繋がってる」
 「アーーーゴッ」


直後──アーゴヨンに再び超オレンジのエネルギーが集束され始める。


歩夢「に……二発目……?」


歩夢がソルガレオの上でへたり込む。


愛「……すごいと思うよ。あのとき出会った新米トレーナーたちが、ここまでアタシと張り合ったこと……誇っていいと思う」


愛ちゃんは私たちを見据えながら言う。


愛「でもね……ゆうゆや歩夢とじゃ……覚悟も、想いも、痛みも、強さも……積み重ねてきたキズナも……比べ物にならなかったってことだよ」


愛ちゃんはそう言うけど、


侑「そんなことないよ」
 「…ブイ」

愛「……?」

歩夢「侑……ちゃん……?」


私は──ぎゅっとイーブイを抱きしめて立ち上がる。
762 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:57:28.58 ID:jK0Y5xHa0

侑「覚悟はしてきた。大切な人たちを守りたい想いもある。戦うことの辛さも、失うことの痛みも知ってる。強さだって……ここまで旅して、いろんな経験をしながら……みんなと強くなってきた……」
 「ブイッ!!!!」


──イーブイが、光を放つ。


愛「な……」

侑「キズナだって……!! ここにある……!!」
 「イッブィッ!!!!!」


ここまで何度も困難と立ち向かってきた。どんな苦しい戦いも、イーブイと一緒に切り抜けてきた。

Z技の条件が……この場であることと……特別なキズナの繋がりだって言うなら──


侑「私と相棒だって……特別なキズナで結ばれてる……!!」
 「イブィッ!!!!!」


イーブイの周囲に、8色の光の球が浮き上がり──そこから8本の光の筋がイーブイに向かって注がれる。


歩夢「……侑ちゃんと……イーブイの……Z……技……」

リナ『“ナインエボルブースト”……!?』 || ? ᆷ ! ||

 「イッブイッ!!!!!!」


イーブイの体に8つの光の力が注がれ強化される。

私は、8色の光包まれて輝くイーブイを抱いたまま、


侑「歩夢」
 「ブイ♪」

歩夢「侑ちゃん……?」


へたり込んでしまった、歩夢に手を差し伸べる。


侑「……私とイーブイを……信じて」
 「ブイ!!」

歩夢「……うん!」


歩夢が私の手を取って立ち上がる。

立ち上がって──私の抱きかかえるイーブイの頭を撫でる。


歩夢「……この光……あったかい」


絶望的な状況なのに、その光は不思議と──安心するあたたかい光だった。


愛「……この土壇場で、技を覚醒させるとは思わなかったけど……でも、それでアタシのアーゴヨンの技を超えられる?」
 「アーーーゴッ!!!!」


気付けば、アーゴヨンの全身から今にも溢れ出しそうなくらいに、エネルギーが充填されている。


侑「……勝てるよ。だって、イーブイとのこのキズナは……私一人の分じゃないから」

愛「一人分じゃ……ない……?」


──私はずっと考えていた。

どうして、このイーブイは──“相棒わざ”を覚える、この特別なイーブイが……私のもとにやってきてくれたのか。

それは──いろんな人と出会う喜びを、繋がるきっかけを、私に教えるためだったんじゃないかなって。
763 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:58:16.45 ID:jK0Y5xHa0

──せつ菜ちゃんと戦って覚えた“めらめらバーン”。

──愛ちゃんと共闘して覚えた“びりびりエレキ”。

──エマさんに教えてもらった憩いの場で“すくすくボンバー”を覚え。

──彼方さんに稽古を付けてもらっているときに“いきいきバブル”を。

──しずくちゃんとピンチを乗り越えるために“こちこちフロスト”が。

──かすみちゃんと決死の戦いの中で“きらきらストーム”を閃き。

──璃奈ちゃん……リナちゃんとの一騎打ちで“どばどばオーラ”を。

──果林さんとの死闘の中で“わるわるゾーン”を覚えた。


イーブイがその身に覚えてきたことは……全部、私が旅の中で経験した、誰かとの出会いと、人との繋がりの中で生まれたんだ。

そして……もう一人。


侑「……歩夢」
 「ブイ」

歩夢「うん」


私は歩夢の肩を掴んで抱き寄せる。

イーブイには……まだ閃いていない、私の旅を一番近くでずっと支えてくれた──歩夢との、繋がりとキズナが残っている。


侑「だからこれが──最後の“相棒わざ”だ」
 「ブイッ!!!!」


私の旅の出会いと、キズナと、繋がりを象徴するこの技は──

イーブイが眩い光に包まれる。


リナ『新しい……“相棒わざ”の……反応……。……イーブイが……今、覚えた……』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「うん。……私とイーブイ……歩夢とリナちゃんと……旅で出会った全ての人との繋がりとキズナがある……!! それは愛ちゃんにだって……負けたりしない……!!」
 「ブイッ!!!」

愛「……上等じゃん……」
 「アーーーゴヨンッ!!!!」


愛ちゃんとアーゴヨンが攻撃を構える。


愛「どっちの覚悟が、キズナが本物か……今ここで試してやろーじゃん!! アーゴヨンッ!!」
 「アーーーゴッ!!!!!」

愛「“アルティメットドラゴンバーン”!!」
 「アーーーーーゴッ!!!!!!」


アーゴヨンから超オレンジのエネルギーが放出され──1匹のドラゴンのような形となって、襲い掛かってくる。


侑「イーブイ」
 「イブイ♪」


イーブイに声掛けると、イーブイが嬉しそうに笑った。


侑「いっけぇぇぇ!!! イーブイ!! “ブイブイブレイク”!!」
 「イッブイッ!!!!」


イーブイが全身に光を纏って……ソルガレオの背を蹴り──猛スピードで飛び出した。

超オレンジのドラゴンと──キズナの力をその身に纏ったイーブイが、衝突し、周囲にエネルギーが弾け飛ぶ。
764 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:58:54.17 ID:jK0Y5xHa0

愛「そんなのただのすごい“たいあたり”でしょ!! アタシとアーゴヨンのキズナが負けるわけない!!」
 「アーーーーーゴッ!!!!!!」

侑「ただの“たいあたり”じゃない!! 私たちの今までの旅で見てきたもの、出会った人たちの想い、全部を乗せた“たいあたり”だよ!!」
 「ブゥゥゥゥゥィィィィィィィィィィッ!!!!!!!!!!!!!」


最後の“相棒わざ”とドラゴンのZ技が、ウルトラスペースの中で、轟音と衝撃波を発生させながら空間を揺らす。


 「ブゥゥゥイィィィィィッ!!!!!!」


イーブイの気迫はドラゴンのエネルギーの中を徐々に徐々に前に進んでいくが──


 「アーーーーーゴヨッ!!!!!!!!!!」


アーゴヨンも一歩も引かない。次から次へと自身のパワーを超オレンジに輝くドラゴンエネルギーに変換し、放出してくる。


 「ブ、ブィィィィィッ…!!!!」


一瞬、その勢いに飲み込まれそうになるけど──


歩夢「イーブイーーーー!! 頑張ってーっ!!」

 「イッブゥゥゥゥゥゥィッ!!!!!!!!」


歩夢の声援で、イーブイの纏う光が大きくなる。

このイーブイの力は──繋がりの力だから。


──あのとき、ゴルバットの攻撃に巻き込まれそうになった君を……助けたときから始まった。キズナの力だから。

あのときから……たくさん助け合って、ここまで来た。私と──私の相棒は、ここまでの全部を力に変えて、走ってきたから……!!


侑「イーブイッ!!!! いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!」
 「イッブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイッ!!!!!!!!!!」


イーブイの光がより一層大きく膨れ上がり──


愛「うそ……でしょ……」


超オレンジで大閃光するドラゴンを内側から──大爆発させた。

──轟音と共に、先ほどとは非にならないほどの衝撃波が私たちに向かって飛んでくる。


侑「ぐぅ……っ……!! 歩夢ッ!! 私から離れないで……ッ!!」

歩夢「う、うん……っ!!!」


二人で身を伏せながら、ソルガレオの背にしがみつく。


 「ラリオーーーナッ…!!!」


必死に衝撃波に耐える赫灼の太陽を、


 「ガオーーーレッ!!!!!!」


白銀の太陽が後ろから支える。


 「ウニャァ〜〜〜」「フィオ〜〜〜!!!!」

リナ『ニャスパーもフィオネも、あとちょっとだから耐えて〜〜〜!!!』 || >ᆷ< ||
765 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 17:59:40.53 ID:jK0Y5xHa0

揺れる空間の中で必死に耐え続けると……次第に衝撃波は収まり始め──


 「──ブィィィィィ……」

侑「……!! イーブイッ!!!」

歩夢「……侑ちゃん!?」


イーブイがこちらに向かって吹っ飛んでくる。

私はイーブイに向かって、一目散に駆け出して、


侑「イーブイッ!!」
 「ブィ…」


イーブイに跳び付くようにキャッチする──と、同時に浮遊感。


リナ『侑さん!? 跳んだら落ちる!?』 || ? ᆷ ! ||

侑「!?」


イーブイを助けること以外、何も考えてなかった……!?

飛び出してしまった私の真下に──


 「ガオーレッ!!!!」


滑り込むようにして、白銀のソルガレオが救出してくれた。


侑「あ、ありがとう……ソルガレオ……」
 「ガオーーレッ」

歩夢「……ほっ……」


どうにか、無事助かった……。


愛「……あっはは、あはははははははははっ!!!!」

侑「……!!」

愛「はぁ……っ……はぁ……っ……強い……強いね、確かに強いよ……っ……ゆうゆ……っ。それは認めてあげる。だけどね──」
 「…アーーーゴヨッ…!!!」

侑「……うそ」

歩夢「……そん、な……」


愛ちゃんとアーゴヨンは──まだ、倒れていなかった。

すでにボロボロだけど……それでもまだ、しっかりと飛んで、私たちを見据えていた。


愛「最後に勝つのは──やっぱり、アタシたちだ……!!」
 「…アーーーゴッ!!!!」


アーゴヨンがその身からカッとオレンジ色の光を放つと同時に──引き寄せられるようにどこからともなく、“りゅうせいぐん”が降り注いでくる。

──向こうも満身創痍による攻撃だけど……ボロボロの私たちを倒しきるには、十分すぎる攻撃だった。


愛「これで……終わりだぁぁぁぁぁっ!!!」


迫る流星。

どうにか逃げられないか、避けられないか、考えたけど──数が、多すぎる。

いや──
766 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:00:51.93 ID:jK0Y5xHa0

侑「ソルガレオ!!」
 「ガオーーーレッ!!!!!」


白銀のソルガレオと一緒に──赫灼のソルガレオの前に踊り出す。


歩夢「侑ちゃん……!? だめぇッ!!!」


せめて、歩夢だけでも……!!!

そう思って前に出たけど──それは必要のないことだった。

突然、私たちの目の前に──


 「──アーーーーゴヨンッ!!!!!!!!」

侑「……!?」


紫色の影が躍り出てきたからだ。


侑「アーゴヨン……!?」


しかも、愛ちゃんの持っているアーゴヨンと違う──紫色のアーゴヨンだった。

私たちに向かって降り注いでくる“りゅうせいぐん”は──


 「アーーーゴヨンッ!!!!!!」


突然現れた紫色のアーゴヨンの“りゅうせいぐん”によって──私たちに当たる前に、全て流星同士の衝突によって……砕け散った。


愛「な……」
 「アーゴ…」

 「アーゴヨン…」

侑「な、なにが……起きたの……?」

歩夢「野生の……アーゴヨンが……助けて、くれた……?」

 「アーーゴヨンッ」
リナ『まさか……君は……』 || ╹ᇫ╹ ||

 「アーゴヨン…!!!」

愛「……なんで……お前まで……アタシを裏切るの……?」
 「アーーゴ…」

 「アーーゴヨンッ!!!!」

愛「……くっそぉぉぉぉ……!! アーゴヨン!! “りゅうのはどう”……!!」
 「アーーーゴッ…!!!!」


愛ちゃんのアーゴヨンが“りゅうのはどう”を口から発射するのと同時に──


 「アーーーゴヨンッ!!!!!!」


紫色のアーゴヨンも──同じように“りゅうのはどう”を放っていた。

愛ちゃんたちは……もう体力が限界だったんだろう……紫のアーゴヨンが放った攻撃は……愛ちゃんのアーゴヨンの“りゅうのはどう”を真正面から貫き──


愛「……!!」
 「アーーーーーゴォッ……!!!!!」

愛「……ぐぅぅぅぅ……っ……!!」


愛ちゃんのアーゴヨンに直撃したのだった。

──最後の一撃を受けた、愛ちゃんとアーゴヨンは、
767 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:01:26.77 ID:jK0Y5xHa0

愛「く……そ……。…………」
 「アー…ゴ…」


──揚力を失って……ふらりと落ちていく。


愛「……あは、は……。……や、っと……。……お、わ、れる……。……りな、りー……。……いま……そっちに……いく、よ……」


愛ちゃんたちが、ゆっくりとウルトラスペースに……落ちていく──


リナ『──ニャスパァァァァァァァーーーーッ!!!!!!!!! 愛さんをッ!!!!!! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』 || > ᆷ <𝅝||

 「ウニャァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!」


ニャスパーが……ソルガレオの頭を踏み切って──落ちていく愛ちゃんたちに向かって、跳びはねた。

そして──


 「ウニャァァァァァァァッ!!!!!!!」


全力のサイコパワーで、愛ちゃんとアーゴヨンを“テレキネシス”によって、救出した。


愛「………………」
 「アー…ゴ…」


──こうして……最後の戦いは、終わりを迎えたのだった……。





    🎹    🎹    🎹





──あの後……紫色のアーゴヨンはいつの間にか、ウルトラスペースの彼方へと、消えてしまっていた。

恐らくあのアーゴヨンは璃奈ちゃんと愛ちゃんの……。


愛「………………」

侑「ボールは……これで全部かな」

リナ『……うん。間違いない』 || ╹ _ ╹ ||


ニャスパーが間一髪で助けた愛ちゃんは……今はソルガレオの上で、腰を下ろしたまま……黙って俯いていた。

……もう戦う力が残っていないのか……その気力がないのか……。先ほどまでの激しい戦いぶりが嘘のように、大人しくなっていた。

どちらにしろ、ディアルガ、パルキア、ギラティナ含め……愛ちゃんの持っている全てのポケモンのボールを回収した。

開閉スイッチも壊したから……自分から飛び出してくることもない。
768 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:02:26.87 ID:jK0Y5xHa0

愛「………………」

リナ『……愛さん』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………なんで」

リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

愛「……なんで……助けたの……」

リナ『それは……』 || 𝅝• _ • ||

愛「……やっと……りなりーのところに……行けると思ったのに……」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「……やっと終われるって……思ったのに……。……ねぇ……なんで……? ……なんで、助けたの……? ……ねぇ……!!」

リナ『…………』 || > _ <𝅝||

愛「答えてよっ!!」


激しくリナちゃんに向かって詰め寄る愛ちゃん。


愛「ねぇ……!!! 答えてよ!!!! なんで、助けたのっ!!!?」


詰め寄る愛ちゃんの前に──


歩夢「…………」


歩夢が歩み出て──

──パシンッ。

愛ちゃんの頬を叩いた。

私はその光景に……呆気に取られてしまった。


侑「……あ、歩夢が……人を……叩いた……?」


私はそんな光景を今まで一度も見たことがなかったため、心底驚いてしまった。

それは私だけではなく、


愛「…………ぇ……」


愛ちゃんも同様だったようで……。突然のことに目を丸くしていた。


歩夢「…………まだっ、……わからないの……っ……!!」


歩夢は怒っていた。大粒の涙を目に溜めながら……怒っていた。


歩夢「……リナちゃんが……璃奈ちゃんだからだよ……っ……!」

愛「……ぇ……」

歩夢「……前に愛ちゃんを助けたときと何も変わらない……っ!! リナちゃんが、璃奈ちゃんだからだよっ!! なんで、わからないのっ……!!」


歩夢の目から、ぽろぽろと涙が零れだす。


愛「…………変わら……ない……?」

歩夢「…………璃奈ちゃんが願ったことは……愛ちゃんと同じなんだよ……」

愛「……アタシと……同じ……? …………──……ぁ……」


歩夢の言葉に……何かに気付いて──愛ちゃんの目から、涙が零れだした。
769 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:03:25.31 ID:jK0Y5xHa0

愛「…………アタシ……りなりーに……生きてて……欲しかった……、……世界なんて……どうでもいいから……生きてて……欲しかった……」

リナ『愛……さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「…………そっ、か……りな、りーは……アタシに…………生きてて、欲しかったんだ…………」


それは鏡のようで──愛ちゃんが……心の底で願っていたことのように……。

璃奈ちゃんは──自分の夢だった、『みんなと繋がる』ことよりも……それ以上に……愛ちゃんに生きて欲しかった。

生きていて……欲しかった。

生きていて……欲しがった。

ただ……愛ちゃんに……この世界で生きていく未来を、選んで欲しかった。


愛「……ぁ、ぁぁっ……」


愛ちゃんが──泣き崩れる。


愛「……ぅ、ぅっ、ぁぁぁぁっ、……り、なりーっ、……りな、りーっ、……りな、りー……っ……ぅぅっ、ぁっ、ぅぁぁぁぁぁぁっ」


──しばらくの間……ウルトラスペースには、愛ちゃんの嗚咽が……静かに静かに……響いていたのだった……。





    👑    👑    👑





 「──ジ、ジジ……ジ……ジ……。……」


──ズウン、と音を立てながら、デンジュモクの巨体が崩れ落ちる。


せつ菜「……はぁ……はぁ……やっと……倒せました……」
 「ワォンッ…!!!」

かすみ「はぁ……はぁ……これで……何匹目……ですか……?」
 「カイン…ッ」

しずく「はぁ……っ……はぁ……っ……ご……50匹……くらいかな……」

彼方「さすがに……きついかも〜……」

果林「……数が……多すぎる……」


長い間続く、度重なる戦闘にかすみんたちはもう限界ギリギリでした。


エマ「み、みんな、大丈夫……!?」

姫乃「弱ったポケモンはこちらに……!!」

遥「怪我した方が居たら、すぐに診ます……!!」


後方で回復を任せていたエマ先輩とはる子、その二人の護衛をしていた姫乃先輩が駆け寄ってくる。


かすみ「侑先輩……歩夢先輩……リナ子……早く……帰ってきて……」


祈るように呟いた──そのときだった。

目の前のウルトラホールが眩く輝いて……その向こうから──


せつ菜「……! 皆さん!!」

しずく「……! あのポケモンたちは……!」
770 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:04:25.56 ID:jK0Y5xHa0

真っ白な太陽と、真っ赤な太陽が──こちらに向かって駆けてきているところだった。


かすみ「……侑先輩ーーー……! 歩夢先輩ーーー……! リナ子ーーー……!!」


気付いたら、私は走り出していました。





    🎹    🎹    🎹





──ホールから飛び出すと、


せつ菜「侑さーん!! 歩夢さーん!! リナさーーん!!」

しずく「皆さん……よくぞ、ご無事で……っ……」


せつ菜ちゃんが手をぶんぶん振りながら駆け寄り、しずくちゃんは口元を押さえて涙を堪えていた。


 「ガォーレ」「ラリォーナ」


2匹のソルガレオが身を屈め──私たちは、“暁の階”へと降りていく。

そんなに長い時間ではなかったはずなのに……すごく久しぶりに地面を踏みしめた気がした。

そして──


かすみ「ゆ゛う゛せ゛んぱ〜い゛……!! あ゛ゆ゛む゛せ゛んぱ〜い゛……!! リ゛ナ゛こ゛ぉ゛〜〜……!!」


かすみちゃんが涙でぐしゃぐしゃになりながら、私たちに抱き着いてくる。


侑「おっとと……」

歩夢「きゃ……」

リナ『かすみちゃん……』 || ╹ᇫ╹ ||

かすみ「み゛んな゛、か゛え゛って゛き゛て゛く゛れて゛……よ゛か゛った゛よ゛ぉ゛〜……」


かすみちゃんはもうすでに涙でぐしゃぐしゃだった。


侑「ただいま……かすみちゃん」

歩夢「ごめんね……心配掛けちゃったかな……」

かすみ「し゛んぱい゛し゛た゛にき゛ま゛って゛る゛じゃな゛い゛です゛か゛ぁ゛〜〜〜……!! い゛っし゛ゅ゛うか゛んもも゛と゛って゛こ゛な゛い゛か゛ら゛ぁ゛……、ゆ゛う゛せ゛んぱいた゛ち゛、ま゛け゛ち゛ゃった゛んじゃな゛いか゛って゛ぇ゛……」

しずく「そうですよ……っ、どれだけ心配したと思ってるんですか……っ……」

侑「え……!?」

歩夢「い、一週間……?」

侑「私たちがウルトラスペースに居たのって……せいぜい半日くらいじゃ……」

リナ『……ソルガレオの力を使って亜光速で移動してたから……私たちが半日と感じていた間に、こっちでは一週間経過してたんだね……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「そ、そういうものなの……?」

リナ『そういうもの。むしろ、一週間くらいで済んでよかった』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||


そういうものらしい……。つまり、かすみちゃんたちは……一週間もウルトラビーストたちの猛攻に耐えながら、私たちを待ち続けてくれていたらしい……。
771 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:05:24.75 ID:jK0Y5xHa0

侑「ご、ごめんね……!! そんなことになってるなんて知らなくて……!!」

せつ菜「ですが……信じていました。きっと、お二人なら、帰ってきてくれると……」

歩夢「せつ菜ちゃん……」

かすみ「せ゛つ゛な゛せ゛んぱい゛す゛る゛い゛て゛す゛ぅ゛……!! か゛す゛み゛んか゛い゛お゛う゛と゛お゛も゛って゛た゛の゛に゛ぃ゛……!!」

せつ菜「え、あ……す、すみません……!」

しずく「はいはい……涙拭いてからにしようね。ほら、可愛い顔が台無しだよ?」

かすみ「か゛わ゛い゛く゛な゛い゛の゛や゛た゛ぁ゛〜〜……」

しずく「大丈夫だから、もう全部終わったからね……なでなで」

かすみ「し゛す゛こ゛ぉ゛〜……」

しずく「ちょっと今日は落ち着くまで、時間が掛かりそうです……」

せつ菜「それだけの戦いだったんです……今日くらいは存分に泣いても誰も文句は言いませんよ」

侑「うん。……ただいま、かすみちゃん」

歩夢「ただいま……待っててくれて、ありがとう」

かすみ「ひぐ……ひっく……っ……。……お゛か゛え゛り゛、な゛さ゛い゛〜……」


私たちが再会を喜び合う中、


彼方「3人とも……おかえり」

果林「……おかえりなさい」

エマ「侑ちゃん……歩夢ちゃん……リナちゃんも……よかった……っ……」

姫乃「……こっちでも、泣きださないでくださいよ……はい、ハンカチ……涙拭いてください……」

エマ「ご、ごめんね……ありがとう、姫乃ちゃん……」

遥「ふふ♪ ……おかえりなさい、侑さん、歩夢さん、リナさん」


彼方さんたちも、こちらにやってくる。


果林「無事に……終わったみたいね……」

侑「はい……!」

果林「それと……」


果林さんの視線が──


愛「…………」


やっと、ソルガレオの背から降りてきた、愛ちゃんに向けられる。


果林「……愛」

愛「…………」


果林さんは、愛ちゃんに歩み寄り──


果林「…………ごめんなさい」


愛ちゃんを抱きしめた。
772 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:06:07.38 ID:jK0Y5xHa0

愛「…………カリン……?」

果林「私……自分のことばっかりで……貴方の痛み……全然理解してなかった……」

愛「…………」

果林「……ごめんなさい……」


そして、


彼方「……愛ちゃん……ずっと一人にして……ごめんね……」

愛「……カナちゃん……」


彼方さんも愛ちゃんをギュッと抱きしめる。


彼方「……仲間がこんなに辛い思いしてたのに……わたしも……カリンちゃんも……自分たちのことでいっぱいっぱいで……、愛ちゃんの痛みに全然寄り添ってあげられなかった……」

愛「…………まだ…………アタシを……仲間って……言ってくれるんだね……」

彼方「……もちろんだよ……。途中で道は違えちゃったけど……わたしたちはずっと……4人で世界を救う為に……戦ってきたんだもん……」

果林「……私がしてしまった過ちは……元には戻らない……それでも……また、やり直したい……。……仲間として……」

彼方「……うん。……みんなで、やり直そう……」

愛「…………カリン…………カナちゃん…………。…………うん」


かつての仲間同士……抱き合う、3人を──


リナ『…………』 || ╹ _ ╹ ||

侑「リナちゃん」

リナ『……なぁに?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「行っておいで」

リナ『…………でも、私は……璃奈じゃ……』 || 𝅝• _ • ||

侑「大事なのは……姿形じゃないよ」

歩夢「本当に大切なのは……リナちゃんが、愛ちゃんたちを想う心……なんじゃないかな」

リナ『侑さん……歩夢さん……』 ||   _   ||


リナちゃんは少し考え込んだけど──


リナ『……私、行ってくる……!』 || > _ < ||


愛ちゃんたちのもとへと飛んでいった。


リナ『みんな……!!』 || > _ < ||

愛「……ぁ……」

果林「……璃奈ちゃん」

彼方「……ふふ……やっと4人、揃ったね」

リナ『……私……私も……またみんなと……やり直したい……。……こんな姿になっちゃったけど……。……ダメ……かな……』 || > _ < ||

彼方「……もちろん大歓迎だよ〜♪ ね、果林ちゃん♪」

果林「ええ……また4人で」


頷く彼方さんと果林さん、


愛「……ぁ……ぇっと……」
773 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:06:38.91 ID:jK0Y5xHa0

愛ちゃんはリナちゃんの言葉に目を泳がせていたけど──


果林「ほら……愛も」

彼方「……愛ちゃん」

愛「…………」


果林さんが愛ちゃんの背中を叩き、彼方さんが愛ちゃんの肩に手を置く。


リナ『……愛さん……』 || ╹ _ ╹ ||

愛「…………」


二人が向き合う。だけど──


愛「………………すぐには…………ごめん…………」


愛ちゃんはそう言って、目を逸らす。


リナ『……! ……だ、だよね……ごめんなさい……』 || 𝅝• _ • ||

愛「でも……」

リナ『……!』 || ╹ᇫ╹ ||

愛「…………少しずつ……受け止めていくから……。……あの子が選ばせてくれた未来を……受け止めていくから……」

リナ『……愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「だから……少しだけ……もう少しだけ……待ってて……──りなりー」

リナ『……!! 今……』 || 𝅝• _ • ||

愛「…………」


愛ちゃんはそれっきり、口を閉ざしてしまったけど──


リナ『うん……待ってる。待ってるね……!』 || > ◡ <𝅝||


リナちゃんには──うぅん、璃奈ちゃんには、ちゃんと伝わったようだった。


姫乃「…………」

エマ「姫乃ちゃんたちは……行かなくていいの……?」

姫乃「……入れませんよ……。……あそこは、あの4人の場所ですから……」

遥「はい……やっと……長いわだかまりが解け始めたんです……今は4人で……」

姫乃「……だから、邪魔……出来ませんよ」

エマ「……そっか。……偉い偉い」

姫乃「……頭撫でないでください……」

エマ「……ふふ、遠慮しなくていいんだよ♪」

姫乃「してません!!」

遥「ふふ、すっかり仲良しですね♪」

エマ「うん♪」

姫乃「あぁもう……。……まあ、いいですよ……今くらい……」


──こうして……長かった戦いは……終わったのだった。
774 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:08:36.37 ID:jK0Y5xHa0

歩夢「侑ちゃん」

侑「ん」

歩夢「帰ろっか」

侑「うん」


私たちはやっと……平穏な日常へと、帰っていく──



775 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:09:06.29 ID:jK0Y5xHa0

>レポート

 ここまでの ぼうけんを
 レポートに きろくしますか?

 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...


【暁の階】
 口================== 口
  ||.  |○         o             /||
  ||.  |⊂⊃                 _回/  ||
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  ||
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   ||
  ||.  | |       回 __| |__/ :     ||
  ||.●⊂⊃      | ○        |‥・     ||
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     ||
  ||.  | |.      | |           |     ||
  ||.  | |____| |____    /      ||
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  ||
  ||.  | |      | |  _.    /      :   ||
  ||.  回     . |_回o |     |        :  ||
  ||.  | |          ̄    |.       :  ||
  ||.  | |        .__    \      :  .||
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .||
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .||
  ||.       /.         回 .|     回  ||
  ||.    _/       o‥| |  |        ||
  ||.  /             | |  |        ||
  ||. /              o回/         ||
 口==================口
776 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/09(月) 18:09:40.27 ID:jK0Y5xHa0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.79 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.76 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.75 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.74 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.73 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
      ソルガレオ Lv.77 特性:メタルプロテクト 性格:ゆうかん 個性:からだがじょうぶ
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:259匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.65 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.66 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ソルガレオ✨ Lv.77 特性:メタルプロテクト 性格:なまいき 個性:ひるねをよくする
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:227匹 捕まえた数:20匹

 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.80 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.74 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.73 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.72 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.73 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.73 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:262匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.67 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.67 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.67 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.67 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.67 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.67 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:238匹 捕まえた数:23匹

 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.38 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.82 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.80 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.83 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:75匹 捕まえた数:9匹


 侑と 歩夢と かすみと しずくと せつ菜は
 レポートに しっかり かきのこした!


...To be continued.



777 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:14:24.67 ID:gpGK8xOx0

■Chapter074 『それから……』 【SIDE Yu】





 『──さん……侑さん……起きて、侑さん』

侑「…………ん、ぅ…………」


声がして、ぼんやりと目を開ける。


リナ『朝だよ、侑さん♪』 || > ◡ < ||

侑「……リナちゃん……おはよ……」

リナ『おはよう♪』 || > ◡ < ||


リナちゃんの挨拶と同時に──


 「ブィ♪」
侑「ぐぇ……」


イーブイがお腹に飛び乗ってくる。


侑「それやめてって言ってるのに……」
 「ブイブイ♪」

リナ『イーブイも早く起きろって言ってるよ♪』 || > 𝅎 < ||

侑「起きるから……」
 「ブイ♪」


イーブイをお腹の上から降ろして、ベランダへと出て行くと──


歩夢「──あ、おはよう、侑ちゃん、リナちゃん♪」
 「シャーボ」


いつものように、ベランダ越しに歩夢が待っていた。


侑「おはよ、歩夢。サスケも」

リナ『おはよう♪』 || > 𝅎 < ||

 「ブイ」


私が歩夢たちに挨拶をしていると、とことこと私の後を付いて部屋から出てきたイーブイが、器用にベランダの手すりに飛び乗って、歩夢の部屋へと歩いて行く。


 「ブイ♪」
歩夢「イーブイもおはよう♪」


歩夢が挨拶しながら、イーブイを抱っこすると、イーブイは嬉しそうに鳴く。


侑「落ちても知らないよ……」

歩夢「そのときは侑ちゃんが助けてくれるから平気だよね〜♪」
 「ブイ♪」

侑「歩夢……あんまり甘やかさないでよ〜……」


まあ……こんな会話が出来るのも……平和だからこそだけどさ……。
778 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:15:08.29 ID:gpGK8xOx0

リナ『歩夢さんは久しぶりのお家のベッドだったと思うけど……昨日はよく眠れた?』 || ╹ᇫ╹ ||

歩夢「うん、たくさん寝て、調子がいいくらい♪」

侑「やっぱり、自分の家のベッドが一番だよねぇ……病院のベッドはなんか気疲れしちゃうし……」

歩夢「あはは……そうだね。私はみんなでお泊りしてるみたいで楽しかったけど」


──なんで病院のベッドの話が出るかというと……私たちはつい最近まで、検査入院のため国際警察の持っている医療機関で過ごしていたからだ。

私、歩夢、かすみちゃん、しずくちゃん、せつ菜ちゃんの5人は戦いのために何度もウルトラスペース内を行き来していたため、“Fall”のような症状が出ていないかの検査をする必要があった。

幸い、誰にも症状らしい症状は出ていなかったし……特にかすみちゃんは、5人の中でも一番ウルトラスペースで過ごした時間が少なかったために、入院したのはたった1日だけで……。


かすみ『なんで、かすみんだけ一人ハブられてるみたいになってるんですかっ!』

しずく『退院出来るんだからいいでしょ……』


逆に文句を言って、しずくちゃんに呆れられていた。

私は最後の戦いで長時間ウルトラスペースに居続けたため、せつ菜ちゃんも長い間、別の世界で過ごしていたことから、1週間ほど掛けて精密検査を行った。

そして、異常がなかったため退院。

歩夢はウツロイドの毒の影響がないかなどを詳しく調べたため……さらに1週間長く入院していたけど……全く問題がなかったということで、昨日退院になった。

ただ……しずくちゃんはまだ入院中だ。


侑「しずくちゃん、元気だった?」

歩夢「うん。少しずつウルトラビースト症もよくなるだろうって」

侑「そっか……よかった……」


しずくちゃんは……フェローチェから受けたウルトラビースト症による後遺症が少し残っていた。

ただ、本人の意思の強さで、ほとんど克服しかけていたらしく……さらに、果林さんがフェローチェとフェローチェの知識を提供したことによって、快復も十分に見込めるとのことらしかった。


侑「……さて……今日はどうする……?」

歩夢「うーん……せっかくだし、9番道路の方にお散歩に行かない? 太陽の花畑に行きたいな♪」

侑「ふふ、わかった」

歩夢「じゃあ、私準備するから、侑ちゃんも朝ごはん食べたら来てね♪」

侑「了解」


歩夢がパタパタと部屋に戻っていく。


侑「……あ」

リナ『どうかしたの?』 || ╹ᇫ╹ ||

侑「イーブイ……歩夢が連れてっちゃった……」

リナ『……相変わらずどっちが“おや”なんだか……』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「ホントにね……。……んー……」


私はベランダで軽く伸びをする。

空を見上げると──


侑「……今日も平和だね」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||
779 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:16:31.65 ID:gpGK8xOx0

青い青い空が広がっていた。

みんなで守った……どこまでも続く、青い空が──





    🎹    🎹    🎹





さて……あの後、みんながどうなったかを少し話そうかな。

まず、かすみちゃんとしずくちゃん。


かすみ「さぁ、行くよジュカイン! いざ、チャンピオンロードへ!」
 「カインッ!!!」

しずく「ふふ、張り切ってるね♪」

かすみ「もちろん! かすみん、このままチャンピオンになっちゃうかも!」

しずく「頑張ろうね♪ 応援してるよ!」

かすみ「うん! しず子、ちゃんと付いてきてね!」

しずく「もちろん。かすみさんとなら、どこまででも」

かすみ「じゃあ、しゅっぱ〜つ!!」
 「カインッ!!!」


かすみちゃんはしずくちゃんが退院後、またすぐに二人で旅に出たみたい。

あっちこっちのジムで本気のジムリーダーと戦ったり……今は四天王への挑戦もしているという話を聞いたり聞かなかったり。

しずくちゃんは、そんなかすみちゃんと一緒に、冒険を続けているみたい。

前にセキレイで会ったときに、しずくちゃんには旅の目的があるのか訊ねてみたら──


しずく『今は……かすみさんと一緒に、この楽しい旅を続けられたら……それだけで幸せなんです。……あ、これ、かすみさんには内緒にしてくださいね……? ……さすがに本人に知られるのは、恥ずかしいので……なんて♪』


そんな風に言って、いたずらっぽく笑っていた。

今も二人はこのオトノキ地方のどこかで、仲良く冒険をしている。



 主人公 かすみ
 手持ち ジュカイン♂ Lv.81 特性:かるわざ 性格:ゆうかん 個性:まけんきがつよい
      ゾロアーク♀ Lv.75 特性:イリュージョン 性格:ようき 個性:イタズラがすき
      マッスグマ♀ Lv.73 特性:ものひろい 性格:なまいき 個性:たべるのがだいすき
      サニゴーン♀ Lv.72 特性:ほろびのボディ 性格:のうてんき 個性:のんびりするのがすき
      ダストダス♀✨ Lv.73 特性:あくしゅう 性格:がんばりや 個性:たべるのがだいすき
      ブリムオン♀ Lv.73 特性:きけんよち 性格:ゆうかん 個性:ちょっとおこりっぽい
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:269匹 捕まえた数:15匹

 主人公 しずく
 手持ち インテレオン♂ Lv.67 特性:スナイパー 性格:おくびょう 個性:にげるのがはやい
      バリコオル♂ Lv.67 特性:バリアフリー 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
      アーマーガア♀ Lv.67 特性:ミラーアーマー 性格:ようき 個性:ちょっぴりみえっぱり
      ロズレイド♂ Lv.67 特性:どくのトゲ 性格:いじっぱり 個性:ちょっとおこりっぽい
      サーナイト♀ Lv.67 特性:シンクロ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
      ツンベアー♂ Lv.67 特性:すいすい 性格:おくびょう 個性:ものをよくちらかす
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:256匹 捕まえた数:23匹



780 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:17:20.38 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





次にせつ菜ちゃん。せつ菜ちゃんには千歌さんの誘拐幇助の容疑が掛けられていたんだけど……千歌さんがこれを真っ向から否定。

頑なに、あれはたまたまバトル中に起こったアクシデントだったとリーグに主張し続け……果林さんからも、せつ菜ちゃんはあくまで自分が無理やり言うことを聞かせていたという証言から、完全にお咎めなしとまではいかなかったけど、リーグから厳重注意を受けるくらいに落ち着いた。

……ただ、せつ菜ちゃんもせつ菜ちゃんのご両親も、逆にそれでは納得がいかなったらしく……特にせつ菜ちゃん本人が、ちゃんとペナルティを科して欲しいとリーグに強く主張したらしい。

まさかの当事者からの申し出に海未さんは相当頭を悩ませたらしいけど……結局、3ヶ月間のトレーナー活動の制限及び地域への奉仕活動を言い渡され、ペナルティを受けたせつ菜ちゃんは何故か満足気だったとか……。

そして……せつ菜ちゃんの事実上の責任者だった真姫さんは責任を取って、ジムリーダーを辞め……るつもりだったらしいけど……これも、せつ菜ちゃんのご両親が反対し不問に……なるかと思いきや、これまた何故か当事者の真姫さんが、「それじゃ、示しが付かない」と海未さんに直談判。

悩みに悩んだ海未さんは、突然のジムリーダー辞職は街への影響も大きすぎるという理由から、辞職は受け入れず、3ヶ月間の謹慎ということに落ち着いたそうだ。

なんだか、せつ菜ちゃんと真姫さんの頑固さは……ある意味似た者同士なのかもしれない。

真姫さんが謹慎中は臨時で梨子さんがジムを見ていたそうだ。

そして、せつ菜ちゃんは今──


せつ菜「……これじゃ、全然ダメ」

菜々父「……これでダメなのか」

せつ菜「確かに硬い素材だとは思うけど……私のポケモンのスピードも乗せたら、簡単に壊せちゃうかな。硬度だけじゃなくて、もっと靭性を高めないと耐えられないと思う」

菜々父「わかった。改良しよう。……また、時間があるときに、意見を聴かせてくれ」

せつ菜「うん、わかった」

菜々母「二人ともー、お仕事の話もいいけど、いい加減ご飯にしましょうー?」

せつ菜「あ、お母さんが呼んでる……! 行こ、お父さん」

菜々父「そうだな。菜々」


以前のように、修行の日々を過ごしながら……時折お父さんのお仕事を手伝っているそうだ。

その内容は……ポケモンの攻撃にも耐えられる装甲や建材の研究。

ただ、前と違って、ポケモンと人とを断絶するものとしてではなく、人とポケモンがよりよく共存するために……ポケモンが苦手な人や小さな子供でも安心してポケモンと触れ合えるようにするための道具を研究しているそうだ。

最近はよくご両親とポケモンバトルの観戦に行くことも増えたらしく、この間会ったときにその話を嬉しそうに話してくれた。

すっかりわだかまりは解消され──前以上に笑顔が明るくて、元気で……そして、誰よりも強い、私が憧れたせつ菜ちゃんに戻ってくれて……本当に心の底から安心している。

もう、心配の必要はなさそうだ。



 主人公 せつ菜
 手持ち ダクマ♂ Lv.51 特性:せいしんりょく 性格:ようき 個性:こうきしんがつよい
      ウインディ♂ Lv.86 特性:せいぎのこころ 性格:いじっぱり 個性:たべるのがだいすき
      スターミー Lv.82 特性:しぜんかいふく 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
      ゲンガー♀ Lv.84 特性:のろわれボディ 性格:むじゃき 個性:イタズラがすき
      エアームド♀ Lv.80 特性:くだけるよろい 性格:しんちょう 個性:うたれづよい
      ドサイドン♀ Lv.83 特性:ハードロック 性格:ゆうかん 個性:あばれることがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:143匹 捕まえた数:9匹



781 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:18:32.73 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





次は彼方さんと遥ちゃん。

あの戦いのあと……国際警察とオトノキのポケモンリーグは連携して、プリズムステイツ政府と交渉をしていくことになったようです。

そして、その間に立つのは彼方さんたち……なんだけど……。

彼方さんたちはプリズムステイツからは敵として認識されていたため、国際警察の護衛を付けた状態で、一旦プリズムステイツへ向かい、璃奈ちゃんの事故や……そもそも、世界を救うために政府がやろうとしていた他世界への侵略を公表。

詳しくはわからないけど……かなりいろいろあった中で、結局政府の代表や役員たちが更迭されることになったらしい。そして、組織も事実上の解体……。

今後どういう形になっていくのかはわからない。住民たちを移住させるのか、どうにか新しい解決方法を見つけるか……そこにまだ答えは出ていないけど……全てを一からやり直して、一歩ずつ一歩ずつ、誰もが笑える未来を目指して、こっちの世界と向こうの世界を行き来しながら日々奔走しているそうだ。

ちなみに、あの戦いが終わったあと、私と歩夢の2匹のソルガレオは彼方さんにお返しした。

もともと私たちのポケモンではなかったし……今後、世界間を行き来して、交渉をしていくには必要だと思ったからだ。

そして、リナちゃんも、たびたび知恵を貸すために彼方さんのところに呼び出されている。

そういえば……それについて、彼方さんのところを訪れた際に、こんな会話をした。


リナ『ディアルガたちの力を使えば、救えないかって?』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「うん……。愛ちゃんは爆発させようとしてたけど〜……うまく力をコントロールすれば出来るんじゃないかなって〜……」

リナ『……うーん。……出来るかもしれないし、出来ないかもしれない』 ||  ̄ ᇫ  ̄ ||

侑「伝説のポケモンでも、出来るかわからないの……?」

リナ『特異点への到達自体、今のままじゃ事実上の片道切符みたいなものだし……。それに、すごい力を持ってても、ただインフレーションさせることと、制御するのじゃ難易度も変わってくる。どれくらいの規模や制約があるのかをしっかり確認しないと……難しい。試してみる価値はあるけど、それは結局これからの研究次第かな……』 || ╹ᇫ╹ ||

彼方「そっか〜……なかなか簡単には行かないね〜……」

リナ『それに……理論を提唱していた私が言うのはおかしいかもしれないけど……どこかから無理やりエネルギーを持ってきても……結局どこかで歪みが生じちゃうんじゃないかなって……今は思ってる』 || 𝅝• _ • ||

侑「……」

リナ『規模が大きすぎてわかりづらいけど……結局、起こっているのは自然現象だから……無理やり仕組みを変えるんじゃなくて、どう折り合いを付けていくかを考えなくちゃいけなかったのかなって……』 || > _ <𝅝||

彼方「……それは……そうかもしれないね……」

リナ『もちろん、抜本的に解決出来る方法があるかもしれないし、それはこれからも探していく。自分たちの住んでいる場所はもう寿命だから諦めようって言われても、誰も彼もが「はい、わかりました」とはなかなかならないし……そういう考えの違いはまた争いを生む。そういう問題も含めて……私たちは向き合っていかなくちゃいけないんだと思う』 || ╹ _ ╹ ||

侑「……もし、私たちに何か協力できることがあったら、遠慮なく言ってください……! リナちゃんや彼方さんたちが私たちの世界を守ってくれたみたいに……私たちもそっちの世界を助ける何かが出来ればって思うから……」

彼方「ありがとう、侑ちゃん〜……その気持ちだけでも心強いよ〜」

リナ『うん! そのときはお願いさせてもらうね!』 || > ◡ < ||


果たして、世界の寿命というものが人の手にどうにか出来るものなのかはわからないけど……誰もが手を取り合える落としどころが見つかればと願うばかりだ……。

そして……これはいつか、私たちの世界にも訪れる問題だということも忘れないように……。



782 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:19:37.76 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





果林さんたちは、戦いのあと……本人たちもわかっていたように、国際警察に捕まり、収監されることになった。

ただ、他世界の住人というのは当たり前だけど前例がなく……扱いには困っている模様。

果林さんたちが罪を認めて、償う気で居るのが、ある意味救いかもしれない──


エマ「果林ちゃん、体調崩してない……? ご飯ちゃんと食べてる……? 朝はちゃんと起きられてる……?」

果林「……その話、先週の面会でもしたわよ。……大丈夫よ、ご飯は食べてるし、至って健康。……朝は……まあ、頑張って起きてる」

エマ「なら、いいんだけど……。……他の二人は……? 特に姫乃ちゃんは面会に来ても会ってくれなくて……」

果林「愛と姫乃もたまに会うけど……模範囚みたいよ」

エマ「ちゃんと出来てるんだね……! よかったぁ……みんな偉いよ……!」

果林「はぁ……悪いことして捕まったんだから、ちょっとまともなことしたって、別に偉くないわよ……」

エマ「そ、そんなことないよ……!」

果林「全く、エマ……そんなんじゃ、悪い人に騙されないかが心配だわ……」

エマ「だ、大丈夫だよ……たぶん」

果林「……あんまり心配しないで、エマ。私たち……少しでも早く外に出て、彼方や貴方と一緒に……やり直すつもりだから。待ってて」

エマ「果林ちゃん……。……うん、待ってる」


エマさんは……あの戦いのあと、牧場での仕事を辞め──なんと、ポケモンリーグの職員になったらしかった。

海未さんも事情を知っていたし、彼方さんや果林さんとの交友関係もあるエマさんから、二つの世界の橋渡しを手伝いたいと申し出があり、採用したらしい。

もちろん、そういう立場になるにはいろいろ準備も必要なので……今は職員として働きながら、勉強中だそうだ。

ただ、今でも牧場の仕事は好きらしく、休みの日にはコメコに帰って牧場のお手伝いをしているらしい。

あまりの働きぶりに、コメコの人たちも海未さんも少し冷や冷やしてるらしいけど……。エマさん本人は割とケロっとしている辺り、やっぱり山育ちの体力はすごいってことなのかな……たぶん。



783 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:20:10.66 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





そして最後に──


愛「……いらっしゃい、ゆうゆ、歩夢」

侑「……愛ちゃん」

歩夢「……元気?」

愛「あはは、困ったことに割と元気なんだよね……意外とご飯もおいしいしね。もんじゃが出てこないのはちょっと寂しいけど……」

歩夢「もんじゃ……差し入れが出来たらよかったんだけど……」

愛「冗談だって、真に受けないでよ。もう、歩夢ったら素直なんだから♪」


そう言って愛ちゃんはカラカラと笑う。


愛「あと……ゆうゆの背中に隠れてないで、出ておいでよ」

リナ『……こ、こんにちは』 || ╹ _ ╹ ||

愛「表情硬いよ。表情を豊かにするために璃奈ちゃんボードを考えたんだからさ、笑って──りなりー」

リナ『うん』 || ╹ ◡ ╹ ||


愛ちゃんにはこうして、リナちゃんと一緒に定期的に会いに来ている。

まだぎこちなさはあるものの……愛ちゃんもリナちゃんも……少しずつ、少しずつ、今の形を受け入れようと頑張っている。


愛「みんな……ありがとね。あんなしょーもないことしたアタシに……何度も面会に来てくれて」

歩夢「しょうもなくなんて思ってないよ」

侑「私たちも……ドッグランで助けてもらったし」

愛「あはは♪ あれを助けてもらったなんて言えるの、ゆうゆたちくらいだよ♪ お人好し過ぎて心配になっちゃうよ……」


愛ちゃんはそう言って笑うけど──


愛「……でも、りなりーが……そんな優しい人たちと出会えてよかったって……今は……心の底からそう思うよ」

リナ『愛さん……』 || 𝅝• _ • ||

愛「ほら、泣かないでって! 相手と楽しく話したいときは〜?」

リナ『リナちゃんボード「にっこりん」』 ||,,> ◡ <,,||

愛「そうそれそれ♪」

リナ『うん!』 ||,,> ◡ <,,||

愛「さってと……アタシはそろそろ戻ろうかな」

侑「もう行っちゃうの……?」

愛「心配して来てくれる人がいるだけで……アタシには十分すぎるよ」


そう言って、面会室から出て行こうとする際、


愛「あ、そだ……歩夢」


愛ちゃんが振り返って、歩夢を呼ぶ。
784 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:20:47.81 ID:gpGK8xOx0

歩夢「?」

愛「……もしまた、アタシがバカなことしそうになったら……引っ叩いて、目覚まさせてね」

歩夢「え、えっと……ご、ごめんね……叩いちゃって……」

愛「……くく♪ その返し……歩夢らしいや♪」


愛ちゃんは笑いながら、去っていくのだった。





    🎹    🎹    🎹





侑「──ん〜……良い天気……」
 「ブィィ…」

歩夢「そうだねぇ……」
 「シャーボ…zzz」

リナ『今日暖かいね、お外でお昼寝しても大丈夫そうなくらい』 || > ◡ < ||


花畑に歩夢と二人で寝っ転がっていると、リナちゃんの言うとおりぽかぽかしていて、眠ってしまいそうだ。


侑「……歩夢」

歩夢「んー?」

侑「次は……どこ行こうか……」

歩夢「ふふ……♪ 侑ちゃんと一緒ならどこへでも♪」

侑「……そういうのが一番困るんだけどなぁ……」

歩夢「だって……侑ちゃんとなら、どんな景色も……宝物なんだもん……♪」

侑「じゃあ……その新しい宝物……探しに行こうか……!」


私は起き上がって、歩夢に手を差し伸べる。


歩夢「うん♪」


歩夢が私の手を取って──


侑「イーブイ! リナちゃん!」
 「イブイッ♪」

リナ『うん!』 || > ◡ < ||

侑「歩夢!」

歩夢「うん♪ 行こう、侑ちゃん♪」

侑「新しい冒険の旅に……!!」


──また、ポケットモンスターの世界へ……!!

785 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:21:37.16 ID:gpGK8xOx0

 主人公 侑
 手持ち イーブイ♀ Lv.80 特性:てきおうりょく 性格:おくびょう 個性:とてもきちょうめん
      ウォーグル♂ Lv.76 特性:まけんき 性格:やんちゃ 個性:あばれるのがすき
      ライボルト♂ Lv.76 特性:ひらいしん 性格:ゆうかん 個性:ものおとにびんかん
      ニャスパー♀ Lv.75 特性:マイペース 性格:きまぐれ 個性:しんぼうづよい
      ドラパルト♂ Lv.74 特性:クリアボディ 性格:のんき 個性:ぬけめがない
      フィオネ Lv.73 特性:うるおいボディ 性格:おとなしい 個性:のんびりするのがすき
 バッジ 8個 図鑑 見つけた数:261匹 捕まえた数:12匹

 主人公 歩夢
 手持ち エースバーン♂ Lv.66 特性:リベロ 性格:わんぱく 個性:かけっこがすき
      アーボ♂ Lv.66 特性:だっぴ 性格:おとなしい 個性:たべるのがだいすき
      マホイップ♀ Lv.64 特性:スイートベール 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
      トドゼルガ♀ Lv.63 特性:あついしぼう 性格:さみしがり 個性:ものおとにびんかん
      フラージェス♀ Lv.62 特性:フラワーベール 性格:おっとり 個性:すこしおちょうしもの
      ウツロイド Lv.73 特性:ビーストブースト 性格:おくびょう 個性:ものおとにびんかん
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:240匹 捕まえた数:24匹



786 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:22:10.13 ID:gpGK8xOx0

    🎹    🎹    🎹





 ポケモンレポートに かきこんでいます
 でんげんを きらないでください...

 侑と 歩夢は
 レポートに しっかり かきのこした!



787 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:22:58.01 ID:gpGK8xOx0

    ☀    ☀    ☀





相談役「……穂乃果さん、ここまでありがとう」

穂乃果「いえ……今回は私……いいところなかったなぁ……」

相談役「ふふ、世代交代かしら?」

穂乃果「まだ、負けるつもりないですよー!」

相談役「冗談よ」

穂乃果「……それにしても……これ以上は、いいんですか……?」

相談役「……今回は結局、何も異常を確認出来なかったから……。……リーグ側からはひとまずね……」

穂乃果「……本当に……今回は見逃してくれただけ……なのかな……」


穂乃果「龍神様──レックウザは……」





    🔔    🔔    🔔





  「──ヴァァァッ…」


バチバチと稲妻をスパークさせながら、飛翔する鳥ポケモンに向かって、


 「精靈球!!」


精靈球──モンスターボールを投げつけると、そのポケモンはボールに吸い込まれ、カツーンと音を立てながら、地面に落下した。


 「それじゃ、ミア。あとはよろしくね」


そう言いながら私は、今しがたポケモンを捕まえたボールを投げ渡す。


 「I got it.」

 「さて……そろそろ始めましょうか……」


私は、この地方にある大きな大きな大樹──音ノ木を見据える。


 「待っててね……──栞子」


そう呟いて……。



788 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2023/01/10(火) 12:23:57.08 ID:gpGK8xOx0

    🔖    🔖    🔖





 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」

栞子「……ダメです…………。……ダメです……ッ……」

 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」

栞子「お願い……します……。……龍神様……」

 「──────キリュリリュリシイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!」


額を汗が伝う。

苦しい。だけど、今解き放つわけにいかない。

ウルトラビーストによる襲撃は終わっても……まだこの地方の危機は……去っていない。

今、怒れる龍神様を……解き放ってしまったら……。

オトノキ地方は──……壊滅する。





...Next EpisodeΔ


...To be continued.



789 : ◆tdNJrUZxQg [sage saga]:2023/01/11(水) 14:08:26.52 ID:mgX0GYuD0
残り分量的にこの板で終わらないのと、キリがいいので次スレに行きます。

次スレ
侑「ポケットモンスター虹ヶ咲!」 Part3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1673413466/
790 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/18(土) 12:53:21.06 ID:84Q7DkhpO
幕張イベまで10日連続
私生活垂れ流し配信/3日目【3/10】

「ポケモンORAS(オメガルビー)人生縛りをやる人」
(10:18〜)

https://www.twitch.tv/kato_junichi0817
791 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [age]:2023/03/19(日) 17:19:20.42 ID:2fT54XhjO
「ポケモンORAS/オメガルビー
人生縛りをやる人2日目」(後編)

▽vsナギ戦〜ストーリークリアまで
(10:31〜)

ttps://www.twitch.tv/kato_junichi0817
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