速水奏「プロデューサーさんにスカウトされた話」

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1 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:35:01.77 ID:EyxvIr6M0

デレP(以下P)「すみません。少し宜しいでしょうか」



P(駅前のスクランブル交差点は、それに似つかわしいくらい多くの人が行きかい)

P(人を見ることが生業である自分たちにとっては、うってつけの場所だ)



速水奏「私?」

P「はい。突然恐れ入ります、私、こういうものです」スッ

奏「……?」

P「芸能事務所のプロデューサーをしております。恐れ入りますが、あなたをスカウトさせていただきたく、お声がけさせていただきました」

奏「……」

P「宜しければ少しお話をさせていただきたいのですが、お時間ございますでしょうか」

奏「……」

P「……あの?」

奏「え? ああ。いいえ、突然でびっくりしてしまって」

P「はは、そうですよね、すみません」

奏「それで? 芸能と言っても、いろいろあるでしょう?」

P「聞いていただけますか?」

奏「どうぞ」

P「ありがとうございます。弊事務所は多岐にわたり芸能活動を支援しております。自分の担当はアイドル部門でして……」

奏「アイドル。あの、歌って、踊る」

P「そうですね。雑誌モデルやCM、演技ができるならドラマなども仕事になるでしょうか」

P「様々な活動を通し、仕事を経験されていく中で、歌手や俳優など好みに合わせた方向性へ行くことも可能で……」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1751294101
2 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:36:55.85 ID:EyxvIr6M0

P「ああ、もちろん今すぐでなくて構いません。今のお仕事などもございますでしょうから、最初の間は両立しながらでも」

奏「お仕事ねぇ。それで、私を、アイドルに?」

P「はい。是非」

奏「どうして?」

P「おっと……。どうして、ときましたか」

奏「だって、気になるでしょう?」

P「そうですね。……まずは、この大勢の中で目を惹かれたから、です」

奏「そう?」

P「目に留まることが、この職業の絶対条件。それを、あなたは満たしました」

P「そして、声を掛けてからの立ち振る舞いもいい。眼鏡に色が入っているので少し見づらいですが、瞳の形も良さそうだ」

奏「なかなかに値踏みしてくれますね。評価は高いようですけど」スチャ

P「気に障りましたらしつれ……」

奏「ばぁ。お望みの瞳は、こんな感じだけど、どう? プロデューサーさん」

P「かっ」

P「……奏……」

奏「ハーイ」

P「…………あ〜〜……」

奏「くくっ……ふっ、あはははっ」
3 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:37:51.91 ID:EyxvIr6M0

P「言い訳にしかならないんだが」

奏「ふふっ、どうぞ」

P「眼鏡しているし、髪型も変えていて……厚底で背も高いし」

奏「普段の格好だと、芸能人ってバレるくらいになっているのよねぇ」

P「難儀なことで……」

奏「誰のせいかしら」

P「……あと、声色も変えたな」

奏「気づいていないんですもの。つい、楽しんじゃった」

P「はぁ……」

奏「ほら、いきましょう」

P「うん?」

奏「スカウトで話を聞くのは、喫茶店でしょう?」

P「…………そうですね……」
4 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:40:39.94 ID:EyxvIr6M0

──喫茶店

P(スカウトは、9割は話を聞いてくれず)

P(1割の半分が話をまともに聴いてくれず)

P(話を聞いてくれたとしても、そこから事務所預かりまでなってくれる人は、結局1%にも満たないだろうか)

P(世の中は割と健常なものかなと、思わないでもない)

店員「お待たせいたしました。アイスコーヒーのお客様。こちらアイスティーです」カチャ…

店員「ごゆっくりどうぞ」スタスタ…

P「……ふぅ」ゴクッ

奏「スカウトなんて、まだするものなのね」

P「まぁ……ピンときたってやつだ」

奏「あら。それが、まさか私だったなんて」

P「仕方ない。見つけた、って思ったよ」

奏「見つけたって、例えば宝物とか? そんな目ね」

P「そう。原石だと思ったよ」

奏「ふふ……原石だった?」

P「話してみてもね。上質だった」
5 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:41:44.33 ID:EyxvIr6M0

P「箱を空けてびっくりだ。もう磨いてあるんだから」

奏「そうねぇ。まだ途中かな」

P「それは、殊勝だな」

奏「謙遜じゃないわよ。……でも、スカウトしたのが既にデビューしているアイドルだったなんてね」

P「勘弁してくれよ」

奏「ああ、いえ。責めてないの。……むしろ、嬉しいかも」

P「どうして」

奏「変装がちゃんとできていたとか」

P「出来ていても、あまり意味かったんじゃないか」

奏「それこそ、どうして」

P「俺が声をかけたってことは、特別な雰囲気が消せてないってことになる」
6 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:42:51.81 ID:EyxvIr6M0

奏「んー…… 消せてない?」

P「こなれてるな」

奏「ふぅん?」

P「馬鹿にできないもんだぞ。それで詐欺の発覚とかあるくらいだ」

奏「こなれてる、ね。あーあ、もうジャージで出るべきかしら」

P「実践している人もうちにいそうだけど…… 高校生なら
そこまで変じゃないだろ」

奏「でも高校生には見えないって、嫌ほど言われるのよねぇ」

P「まぁ、それが雰囲気だ。……ぼさぼさした感じにしてみるか?」

奏「ん〜。じゃなきゃ、とても変わってみるとか」

P「変わってみる?」

奏「美嘉とか、唯みたいな」

P「ギャル系? そうだな……見たくないとは言わないけど……」

奏「……ふぅん。プロデューサーさんの好みとは違いそうね」
7 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:43:56.74 ID:EyxvIr6M0

奏「……最初からそうだった?」

P「最初から?」

奏「あの時。海岸で会った時から」

奏「あの時も、私が目に留まった?」

P「…………まぁ。何としてもアイドルに、とは思ったよ」

奏「キスをしてでも?」

P「ごほっ…… 慣れないことをしてでも」

P「といっても、あれは奏が言ったんだろう」

奏「そうね、そうだわ」

P「……」

奏「さっき、私のことを殊勝だ、なんて言ったでしょう」

奏「そんなんじゃないの」

P「うん?」
8 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:45:18.14 ID:EyxvIr6M0

奏「やめたのよ」

P「なにを?」

奏「背伸びするの」

P「……ん〜、そうなのか?」

奏「ご納得いただけない?」

P「あまりね。好きでそう見せているのかなとは、思っていたけど」

奏「違うの」

奏「背伸びをしながら、背伸びをしていない」

P「?」

奏「この矛盾がわかる?」

P「…………いや、わからない」
9 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:45:57.83 ID:EyxvIr6M0

奏「年相応に見られなくても、それが、私」

奏「そう思う様にしたの。思えるようになった」

奏「私の中の何かを変えたわけじゃない。私はずっと、私」

奏「勝手にされた評価に、応えなくっていいって、わかったの」

奏「……あの人が、飾るのをやめて、輝いたように」

P「あの人? ……ああ」

奏「そう、あの人」

奏「おかげで、だいぶ生きやすくなったのよ?」

P「そうだろうな」

P(……ああ、そうか)
10 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:46:35.49 ID:EyxvIr6M0

P(周りがみな、特別視する。それに応えようと)

P(いまの自分より、背伸びをして、しすぎて)

P(いつしかその生き方に、慣れてしまっていた)


──アイドルになってしたいことは

──変身と籠絡と、あと……復讐?


P(だから復讐なのだろうか)

P(生きづらい生き方をしていた自分への)

P(大人っぽいというレッテルを貼り続けられ、それに応え続けてきてしまった、自分への)

P(いっそのこと、自分が活きる世界に行ってしまえと言う、それはほとんど身投げのような)

P(復讐)
11 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:47:06.81 ID:EyxvIr6M0

P(それなら)

P(背伸びをやめたというなら、それは)

P「……」

P「……生きやすくなったなら、まぁ、良かったんだろう」

P「奏にとって」

奏「うん……」

奏「……でも、背伸びした方が、キスはしやすいわよね?」

P「それは本当にわかりません」

奏「ふふ、連れない人」
12 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:47:38.98 ID:EyxvIr6M0

奏「ちょっと前から思っていたんだけど」

P「うん?」

奏「プロデューサーさんの好みなのかしら」

P「なにが」

奏「さっき、私とわからなくても声を掛けてくれた」

奏「それって、そんな雰囲気がいいのかな、って」

P「……そんなって?」

奏「私が言うのはおこがましいのだけど……」

奏「あいさんとか、留美さんとか……真奈美さんみたいな」

奏「そんな雰囲気の、女性」

P「…………」

奏「……」

P「……」

奏「え、そこで黙っちゃうの?」

P「……あー……」

P「否定できないんじゃないか、とは……」

奏「ふぅん」

奏「ふふっ……そうなんだ」
13 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:48:11.53 ID:EyxvIr6M0

P「…………何回でも、声を掛けると思う」

奏「え?」

P「そこに速水奏がいたら、俺は」

P「何回でもスカウトに行くよ」

奏「……」

P「……」

奏「愛の告白?」

P「さすがに違う」

奏「ふふっ、ふふふ……」
14 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:48:42.96 ID:EyxvIr6M0

奏「いいよ。それは、まだ」

奏「少しずつ大人になるから」

奏「だから今は、自分の範囲で、背伸びを楽しみましょう」

P(……矛盾することを受け入れて、成長していくのか)

P「知らないうちに、どんどん凄くなるな」

奏「ふふ。そうよ」

奏「今日の私は、昨日より凄い。明日はもっと素敵になる」

奏「いろんな可能性があるってこと」

奏「ジャージもダサく着こなせるし、ギャルにもなれるかも?」

奏「無理をしなくなったから、背伸びをしないことも、うんと背伸びをしてみせることも、自由にできる」

P「言葉遊びだけど……まぁ、奏らしいよ」

奏「ふふ……ね、やってみましょうよ」

P「なにを?」

奏「なにって……」スッ

グイッ

P「っと……」

奏「アイドルとプロデューサーよ。私たち」

奏「2人で、この世界を巻き込まなきゃ」

P「悪巧みみたいだな」

奏「得意でしょう?」

P「確かに……」
15 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:50:39.42 ID:EyxvIr6M0

P「とりあえず、ネクタイは離してもらっても?」

奏「いいわ」



P「……ま、わかったよ」

P「もっと仕事が欲しいってことでいいな」

奏「そういう要約、好きじゃないわ」

P「えぇ……」

奏「月は照らされて輝くの」

奏「磨かれて宝石になっても、明かりが無ければ輝かない」

奏「明かりをつけるのは誰?」

P「逆に言うけど、わかり難い言葉で煙に巻くの、奏の良くない癖だ」

奏「そう?」

P「そう」

奏「……でも、嫌いとは言わないのね」

P「……」ゴクッ

カラン

P「言わないな」

奏「……」
16 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:51:31.66 ID:EyxvIr6M0

奏「もう行かなきゃ」

奏「アイスティー、残っちゃった。せっかく頂いたのに」

P「経費だよ」

奏「だとしても。せっかくなら、貰っていただける?」

P「え? あ」

カラン

P(グラスを交換された……)

奏「これで飲み切ったように見える?」

P「意味あるか?」

奏「からかいすぎたお礼よ」

P「……お礼と言うけどな」

P「ストローにリップが付いてるぞ」ツンツン

奏「あら。じゃあ、それで飲むしかないわね」

P「……」

P「からかいのお礼でからかわれるのは初めてだよ」

奏「言ったでしょう? 背伸びはもうやめたの」

奏「私のやり方で、好きなだけからかっちゃう」

P「開き直られるのもな……」

奏「ふふふ、大変ね、プロデューサーさん」

奏「お見送りは大丈夫よ。スカウト頑張ってね」

コツコツコツ…

P「……」

ゴクッ ズズ…

P「……はぁ」

P「今日は帰るか……」

カラン
17 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:52:03.09 ID:EyxvIr6M0

──後日

P(……少し時間あるな。スカウトができるか……)

奏「おはよう、プロデューサーさん」ポン

P「えっ。ああ、かな……でっ!?」

P「……」

P「……いや、まぁ、そういう着方も見るけどさ」

P「制服スカートに色ジャージは、あまりにも……」

奏「芸能人オーラ、消せた?」

P「ああ、消えた消えた」

P「消えた、けど」

奏「けど?」

P「素材が良さそうだから、アイドルやってみませんか?」

奏「ふふっ、もうやってまぁす」
18 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/06/30(月) 23:52:54.58 ID:EyxvIr6M0

P「そうか」

奏「じゃあね、またあとで」

P「美嘉に見つかるなよ」

奏「気を付けるわ」タッタッタ…

P「……」



P(駅前のスクランブル交差点は、それに似つかわしいくらい多くの人が行きかい)

P(人を見るということについて、もっとよく考えなければいけないな、と)

P(思ったりするのに、うってつけの場所だ)



P「……」

P「!」

P「あの、すみません」

P「少し宜しいでしょうか」





おわり
19 : ◆WO7BVrJPw2 [saga]:2025/07/01(火) 00:00:13.16 ID:r7G2THvR0

お読み頂きありがとうございました。

奏、今年も誕生日おめでとう!
沖縄・福岡のシンデレラライブ行きながら作ったよー。
誕生日ネタは過去にやっているので、思うがまま書きたいことを書きました。



過去の奏SSです。よろしければどうぞ。

速水奏「はー……」モバP「はー……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1546751465/

速水奏「とびきりの、キスをあげる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1555420447/

速水奏「特別な、プレゼント」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1561907176/

速水奏「今年のチョコが、渡せない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1581598611/

速水奏「恋愛映画は苦手」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1588939565/

速水奏「月の丘の裏側まで」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1593528022/

速水奏「ずるいひと」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1615649135/

速水奏「練習はキスシーンの後で」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1625065215/

速水奏は癒したい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1639879679/

速水奏「眠り姫には口づけを」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1656684020/

速水奏「私がなりたい、アイドル」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1680014394/

速水奏「あなたの迂闊なプレゼント」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1719755291/

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