夜だけ会える友達ってコミュニティに入ってた頃の話。

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1 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:00:09.10 ID:1Z2Z5NLr0

ふと人生を振り返ってみると、
友達ってものにあまり縁のない人生だった。

いわゆる、付き合いの長い友達が一人もいなかった。

学生時代は周りとも程々の関係でやり過ごしてきたが、
卒業してからは一度も連絡を取り合っていない。

日常を過ごすうえであまり困ることもなかったが、
このままではマズイとは薄々感じていた。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1764079208
2 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:01:24.84 ID:1Z2Z5NLr0

手っ取り早く交友関係を広げるために、
社会人サークルに入ってみた。

俺が選んだのは地域のボランティア活動をする団体だった。
年齢層も幅広く、男女も入り混じったような感じだった。

一回顔を出してみたが、雰囲気が合わず
それっきり行かなくなった。

周りが悪かったわけじゃなく、俺自身の問題だった。


3 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:02:08.01 ID:1Z2Z5NLr0

それから色々なコミュニティに入ってみたが、
結果はどれも同じようなものだった。

ただ、その中でも唯一気に入ったものがあった。

彼らからは「ナイトフレンドクラブ」と呼ばれていた。


4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:03:11.49 ID:1Z2Z5NLr0

その集まりでは代表者から週に一度だけ
以下のような内容が送られてくる。

・日にち
・集合時間
・場所

場所は決まって都内の片隅にある
こじんまりとしたバーだった。

集会は夜19時ごろに始まり
日付が変わる頃には解散となる。


5 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:06:00.47 ID:1Z2Z5NLr0

あまり厳しいルールは設けられてはいなかったが、
このコミュニティ内では「名前」「年齢」「仕事」
の話はタブーとされていた。

また、SNSの交換も原則禁止だった。
それらの規約がどれほどの拘束力があったかは分からない。

ただ、彼らとの繋がりはこの集まりの中で
完結するものだと認識していた。


6 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:08:24.43 ID:1Z2Z5NLr0

店にはだいたい十人ほどが集まるのだが、
その場で何をするかは個人の自由だった。

酒を片手に適当に会話する連中もいれば、
ソファでひとりで本を読んでいる女もいた。

集会にはどのタイミングで来てもいいし、
終わりまでいなくとも、いつ出て行ってもいい。

ある種、そのような気楽さが性に合っていたとも言える。


7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:09:33.10 ID:1Z2Z5NLr0

俺がはじめに仲良くなったのはコギリという男だった。

もちろん本名ではない。
各々名乗るときは大抵適当なハンドルネームを使っていた。

風貌だけで言えば、俺とあまり年齢も変わらないように見えた。

コギリはグレーのジャケットを羽織り、
いつも少しだけ眠たそうな目をしていた。


8 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:10:26.38 ID:1Z2Z5NLr0

コギリがどこに住んでいるのか、
普段は何をして収入を得ているのか、
俺は彼のことを何も知らなかった。

ただ、コギリとはどこか考え方の癖が
自分と似通っていると感じていた。

俺たちはその日「百万円が手に入ったら
どのように使うか」という話をしていた。


9 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:12:07.34 ID:1Z2Z5NLr0

「俺なら半分を投資に使って、
もう半分は趣味に当てがうだろうな」

「趣味?」と俺は改めて尋ねた。

「古地図を集めるのが好きなんだ。上質な地図には高値がつく」

日本だけに留まらず、彼はまだ現代のものとは
かけ離れていた頃の世界地図にも興味があった。

俺には古地図を収集する意味がよく分からなかった。
コギリはモスコミュールを片手に
「わからないほうがいいのさ」と語った。


10 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:12:37.37 ID:1Z2Z5NLr0

「多分、何年も経ったら俺自身もこんなもののために
金を費やす必要があったんだろうかと後悔するんだろうな。
だけど、そんなことを言ってたら金を使う意味なんてどこにもないだろ」

「たしかにな」と俺は答えた。

俺たちはその日、無意味な皮算用を店が閉まるまで続けた。
まるで少年の頃に戻ったような感覚だった。


11 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:15:57.31 ID:1Z2Z5NLr0

コギリが店に来なくなったのは
知り合って2ヶ月ほど経ってからだった。

理由は分からない。
急な転勤があったのかもしれない。
何らかの事情で来れないだけか、
あるいはこの集まりに嫌気がさしたか、
そのいずれでもない可能性もある。

とにかく、彼はナイトフレンドクラブには
それっきり顔を出さなくなった。

当然、コギリの連絡先も知らなかった。
俺が彼と話す機会はすでに失われていた。


12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:17:56.56 ID:1Z2Z5NLr0

次に、俺はハスミという女と仲良くなった。

彼女は容姿だけで言うと自分よりも年下に見えたが、
他者との距離感や会話のアクセントにどこか余裕があった。

ハスミは店の中にクラシックギターを持ち込んでは
周囲の要望に応じて演奏を披露していた。


13 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:21:33.52 ID:1Z2Z5NLr0

その日は外が小雨だったせいか人が少なかった。
俺がカウンターで1人で酒を飲んでいると、
店に入ってきたハスミと偶然目があった。

特にこれまで話したこともなかったが
ハスミは気にかける様子もなく、
レインコートを店のハンガーにかけた後
こちらの席まで歩み寄ってきた

「こんばんは、今日は人が少ないね」

「もうしばらく雨も続くだろうな」

彼女は小さく頷いた。
「ねえ、お兄さんはお酒が好き?」

「ああ、そのために生きてるよ」

「なにそれ、いいね」ハスミはけらけらと笑った。


14 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:25:05.63 ID:1Z2Z5NLr0

「そしたら、今日は一緒に飲もうよ」

「もちろん」
俺はそのままジントニックを注文した

彼女とはその日、音楽に関する話をした。
誰の曲が好きか、どのような変遷を辿ってきたか、
意外なことにハスミとは趣味が合っていた。

ハスミはよく笑う女だった。
彼女が笑うと肩にかかるくらいのボブヘアーも小さく揺れていた。


15 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:26:32.66 ID:1Z2Z5NLr0

それからしばらく店にやって来ると
ハスミは必ず俺に声をかけるようになった。

俺たちがくだらない話で盛り上がっていると
周りの連中もその会話に加わってきた。

そのような関係性がどこか心地よかった。

いつの日かコギリと似た末路を辿ろうとも、
今の俺にはハスミと過ごすことが
人生の中での幾ばくかの楽しみになっていた。


16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:27:51.99 ID:1Z2Z5NLr0

「ハスミはどうしてこの集まりに来るようになったんだ?」
ある日、俺は彼女にそのようなことを尋ねた。

「あたし、地方から来たんだよ。だから東京に友達も居なくてね」

「誰かに誘われて?」

「そんな感じ。初めから深い付き合いになりすぎるのも怖くてさ」

「わかるよ、俺も似たような理由だ」

そう言うと、ハスミは「一緒だね」と笑った。


17 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:28:46.25 ID:1Z2Z5NLr0

「こっちに来た時は音楽さえあればそれでいいって考えてたんだけど、
段々とそう言うわけにもいかなくなったんだよね」

彼女は傍に置かれたギターケースを優しく撫でた。

「元々、人と話すのも得意じゃなかったんだよ。
それなのにここでこうして会話できているのが不思議だよね」

「全然そんな風には見えないけど」

「あはは、それはよく言われる」
実際はそうでもないんだよ、と彼女は続けて答えた


18 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:36:47.81 ID:1Z2Z5NLr0

「時々寂しくなったり、凹んだり、
そのたびに誰かに寄りかかりたくなるんだ。
それは何にもおかしいことじゃなくて、
最近になってようやく全部が自分自身なんだって
思えるようになってきたんだよ」

話の節々から掬い取ってみたが彼女は恐らく
音楽で生計を立てようとしていた

「誰かに頼ろうとするのは何も悪いことじゃないよ」

「そうかな?」
首を傾げる彼女に俺は深く頷いた。

19 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:43:37.63 ID:1Z2Z5NLr0

段々とハスミの内面にも惹かれ始めていた。
彼女の振る舞いにドキリとさせられることもあった。

俺は彼女と話すために足繁く店に通った。

20 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:44:06.74 ID:1Z2Z5NLr0

しかし、そのような生活がしばらく続いていた頃、
彼女は店にぱったりと来なくなった。

「彼女は重大な規約違反を犯した」
オーナーから告げられたのはそれだけだった。


21 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:45:27.15 ID:1Z2Z5NLr0

しかし、そのような生活がしばらく続いていた頃、
ハスミは店にぱったりと来なくなった。

「彼女は重大な規約違反を犯した」
オーナーから告げられたのはそれだけだった。


22 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:46:08.55 ID:1Z2Z5NLr0

俺はそれからナイトフレンドクラブには
一切寄り付かなくなった。

それには様々な事情が絡んでいた。
ハスミとのこともその一つだと言える。
コギリとの別れも合わせると、
おそらく俺は人付き合いに疲れていた。

仕事も繁忙期に差し掛かろうとしていた。
俺はしばらく目の前のやることに没頭していた。


23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:51:55.88 ID:1Z2Z5NLr0

仕事を続けて数ヶ月ほど経った頃、
秋口に差し掛かったタイミングで
数名ほど転職者がやってきた。

その中の1人の女性が同じ職場の
事務員として働くことになった。

彼女は初日から課内の挨拶周りをしていた。
だが不思議なことに、俺は彼女に見覚えがあった。

そしてどうやら彼女も俺のことを知っていた様子だった。


24 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/25(火) 23:55:44.88 ID:1Z2Z5NLr0

「すみません。この後すこしお時間ありませんか?」

そのような状態で、まず初めに彼女の方から
話しかけてきたのには驚かされた。
俺は適当に仕事を切り上げて席を立った。

昼休みが近かったため、そのまま彼女の要望で
社外のカフェで話をすることにした。


25 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/26(水) 00:05:46.55 ID:926NUXkS0

席で向かい合わせになってからも俺はやはりどこかで
記憶の片隅にいるはずの目の前の女に違和感を覚えていた。
どのような知り合いであるのか、俺にはいまだ見当もつかなかった。

彼女はコーヒーカップに注がれたラテを口に運ぶと、
ちらりとこちらに目線を向けた。

「急に呼び出してしまってごめんなさい」

「いや、それは気にしないでください」
俺自身も彼女が何者か気になっていたことを伝えた。


26 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/26(水) 00:06:22.58 ID:926NUXkS0

「なるほど、気づいてなかったんですね」
彼女はあまり感情の起伏がなさそうに見えたが、
この時は少し驚いた素振りをしていた。

「と、言うと?」

「そもそも、私のことを分かっていると思って話しかけたんですよ」

「なるほど」

「違和感は感じていた、ということですね」
それなら話は早いですと彼女は続けて言った。


27 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/26(水) 00:17:26.43 ID:926NUXkS0

「ナイトフレンドクラブって名前に聞き覚えはありますか」

俺は、その名前が彼女の口から出るとは考えてもおらず、
思わず返事に言い淀んでしまった。

そして、その時にようやく俺は彼女のことを思い出した。

そうだ。店の中でよく一人で本を読んでいる女がいた。
俺はソイツが目の前の彼女と同じ人物だとようやく理解できた。


28 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [saga]:2025/11/26(水) 00:17:52.13 ID:926NUXkS0
いったんここまでです・・
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