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勇者(Lv99)「誰が僧侶を殺したか」
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68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/01(月) 21:36:16.72 ID:pwCzG2L2O
続き気になるわー乙
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/01(月) 21:50:53.32 ID:lclKyg4Q0
バッドエンドしか見えねえ
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/02(火) 08:15:02.20 ID:2ALaYfBKO
実は犯人は俺なんだ
今まで黙っていてすまない
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/02(火) 15:08:09.32 ID:vqehcgjMO
>>70
[
ピーーー
]しかない
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/02(火) 22:50:04.07 ID:ias3hxaK0
第25話 想い違い
二人はお互いを睨み付け、互いの出方をうかがう。
勇者の腕がピクリと動く。
魔法使い「 」
その動きに反応して、魔法使いは口を開いた、しかし
魔法使い「!!」
王者の剣から走る稲妻が魔法使いの詠唱を阻む。
とっさに魔神の杖をかざす、杖の先端に装飾されたスカイブルーの水晶に稲妻が吸い込まれ、魔法使いの魔力を回復させた。
魔法使い「!」
魔法使いの視界の中にすでに勇者の姿はない。
視線が勇者を探すよりも先に、魔法使いは詠唱を唱えていた。
魔法使い「炸裂呪文!」
魔法使いを中心に、空間が膨張し、弾けた。
勇者「!」
魔法使いの上方、剣を振り落とさんとしていた勇者が吹き飛ばされた。
吹き飛ぶ勇者を、魔法使いの視界がとらえる。
頭よりも先に体が動く、不測の事態や奇襲に対する対応力は数年間の冒険から培われた経験の為せる技である。
魔法使い「幻妖呪文」
魔法使いのふるう杖から薄紫の煙が噴き出し、魔法使いの姿をかき消した。
勇者「……」
地面に着地した勇者は、紫煙の漂う地点へ向け手をかざす。
勇者「―― 極 大 雷 撃 呪 文 」
魔法使い「なっ!?」
轟く雷鳴と爆裂する光の暴力が、勇者のかざす手の先を破壊で埋め尽くす。
魔法使い「――ッ」
想定外の極大呪文に魔法使いは動揺する。
極大呪文、下手をすれば即死の可能性すらある魔法だ。
そんな呪文を自分に向け、仲間に向け放ったことに、戦いが始まってなお、魔法使いは信じたくはなかった。
魔法使いの行動が遅れる。
魔神の杖での吸収が間に合わず、吸収を逃れた雷撃が魔法使いの左腕と右足を飲み込んだ。
魔法使い「がぁあぁぁぁッ!!」
左腕の前腕から先と右足の膝から先が消滅する、断面は焼けただれ固着していた。
肉の焼けるにおいが鼻孔をつく。 激痛に意識が遠のいた。
……
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/02(火) 22:50:47.84 ID:ias3hxaK0
第6話 魔物のいない世界
なぜ世界中の人間が争いを始めたのか理解できなかった。
これでは、魔王がいた頃のほうがまだ平和だったとすら思う。
何のために魔王を倒したのか、わからない。
自分の開発した武器が、人間に向けられている。 そのことがどうしようもなく胸を揺さぶる。
そうだ、戻そう、世界を、人間同士協力していたあの頃に。
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/02(火) 22:52:44.22 ID:ias3hxaK0
続きは明日です。
75 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/03(水) 00:10:45.50 ID:4XukhikH0
第26話 殺害方法のみ
魔法使い「……」
魔法使いは目を覚ました。 目の先、腰を下ろし石碑に背を預け片膝に腕を置いた姿勢で、勇者が彼を見つめていた。
魔法使い「……ッ」
失った左腕と右足が痛む、少しでも動かすと脳髄に激痛が響いた。
破壊面は高熱による固着が止血の効果を及ぼしており、出血死の可能性は薄いようだった。
勇者「お前の目的はなんだ? この城は? なぜ勇者の仲間に魔物の心が必要なんだ?」
立ち上がり、魔法使いの前に立った彼はそう言った。
魔法使い「何を言ってるのか……わかんねぇよ」
脂汗を流し、激痛に顔をゆがめながら魔法使いは口を動かす。
勇者「……力場の杖」
勇者の言葉に呼応し、手のひらに光が収束すると杖の形に変形し、力場の杖となった。
魔法使い「……」
魔法使いは涙を流す、なぜこんなことになったのか、現状がどうしようもなく情けなく、やるせなかった。
なぜ……なぜ……
勇者は息を吸うと、呟くように言葉を発する。
王者の剣、紅蓮の斧、蒼空の槍、破邪の剣、幻魔の斧、天使の槍、聖嵐の剣、水月の斧、十字の槍、紫電の剣、海哭の斧、浮雲の槍、鎧破の剣、寂光の斧、界雷の槍、謐滅の剣、塵渦の斧、風陣の槍、金剛の剣、地砕の斧、神木の槍、風響の剣、斬馬の斧、貫烈の槍、樹隕の剣、電岩の斧、彗星の槍、風刃の剣、天斬の斧、闇祓の槍……
勇者の言葉に応じてふくろから取り出される武器が次々と床に重なってゆく。
やがて勇者は力場の杖をかざす、床に転がった武器が一斉に宙に浮きあがり、その切っ先を魔法使いへ向けた。
勇者「…これが、僧侶と戦士の殺害方法だ。実際はもっと少なかったろうがな」
無数の武器を背景に立つ勇者を見て、魔法使いは目を瞠った。
勇者「もういい加減、とぼけるのはやめないか? 俺も且つての仲間にこんな事したくない」
勇者は、疲れた様子でそう言った。
魔法使い「……それで……俺が犯人扱いか……」
勇者「そうだ、俺たちの布陣は前衛を防御力の高い俺と戦士、後衛を僧侶と魔法使いが担当していた。 僧侶が背後から襲われた以上、普通に考えればを殺すチャンスがあったのはお前だけだ」
魔法使い「……」
魔法使いは、涙を流しながら激痛に歯を食いしばる。
この痛みは失った体の痛みなのか、砕けそうな心から発せられるものなのか、彼には分らなくなっていた。
勇者「なぜ、魔物の心が必要なんだ?」
魔法使い「……俺と僧侶は付き合ってた」
勇者「……だからどうした?」
魔法使い「俺が……僧侶を殺す……? そんなことあるわけない」
勇者「……ッ!!」
この状況でなお要領を得ない魔法使いの返答に、勇者は激昂する。
内側から溢れ出すマグマのような怒りは、やがてある悪魔的な誘惑へと勇者を誘った。
76 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/03(水) 00:13:28.34 ID:4XukhikH0
考えてみると今日は書き込む時間なさそうだったので今投稿します。。
続きは明日です。
77 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/03(水) 06:26:32.50 ID:paQ0m09to
戦士は殺される時、二人の後ろにいたから無理じゃね
78 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/03(水) 10:38:50.16 ID:Qywp5FDJ0
乙!
79 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/03(水) 12:39:06.78 ID:KfXfvg8Bo
こんなに続きが気になる作品はそうない
80 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/04(木) 19:52:42.66 ID:leYoC1l+0
第25話 勇者
勇者「……僧侶……か」
勇者は、口元に笑みを浮かべながら、言葉をつづけた。
勇者「なぁ魔法使い、僧侶はどうしてあんなにバカだったのかな」
魔法使い「……ッ!」
魔法使いは、反射的に勇者を睨みあげる。
勇者「それだけじゃない、なんで戦士はあんなに頭が良かったのだろうか?」
魔法使い「……?」
勇者「魔法使い、お前は争いや戦いを好まない男だ、さっきの戦闘にしてもあんな優しい魔法を使わなければもう少し善戦出来ていただろう。 そんなお前がなんで魔法使いなんだろうな?」
魔法使い「……勇者……お前何を…」
この場面にそぐわない笑みさえ浮かべる勇者に、魔法使いは恐怖を感じた。
勇者「戦士が魔法使いを、僧侶が戦士を、お前が僧侶をやれば、このパーティは適正、資質ともにバランスが取れていると思わないか?」
魔法使い「……!」
猪突猛進な僧侶、冷静沈着な戦士の二人の姿が脳裏をよぎる。
それは、いつも思っていたことだ、魔法使い自身なぜ自分が僧侶でないのかと悩んでいたこともある、たが女神様のお導きで決まったことだと、そう割り切っていた……
勇者「そう俺が決めたからだ」
魔法使い「!!?」
魔法使いは、呆然と勇者を見上げた。
勇者「もちろん最低限の能力は有する奴を選んだ、冒険に支障の出ない範囲でな、だが俺よりも強くなる可能性は極限まで排除した、結果こうやって裏切り者を返り討ちにできたんだから、何がどう転ぶかわからないよな」
戦士が、彼女が魔法使いだったならば、きっとこんな簡単にはいかなかっただろう。
適正をあえて外すことで、限界値を絞る。
結果として残るのは
パーティーの最強は勇者であるという、世界を救うこととは全く関係のない虚栄である。
81 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/04(木) 19:53:11.62 ID:leYoC1l+0
魔法使い「……ッ!!」
魔法使いは顔を赤く染め、激怒と驚愕の入り混じった表情で勇者を見つめた。
今までの旅が、魔法使いの脳裏をよぎる、辛く苦しい冒険の旅。 何度も死を覚悟したし、何度も挫けそうになった。 でもそのたびに僧侶の純粋さが、戦士の冷静でも優しい言葉が自分を支えてくれた。
皆苦しかっただろう、適性外の職に苦しむこともあったはずだ。
でもみんな、世界のために、その一心で命がけの旅を続けてきたのだ。
そんなみんなを、この男は――
魔法使いの表情に、勇者はゾクゾクと全身に快感が走るのを感じた。
もっと傷つけ、貶め、辱めてやりたいという衝動が心の底から噴き出す。
勇者「本当は戦士――あの鬱陶しい女にこの話をしてやりたかったんだがな、残念だ、だけどさ、みんな健気だよな、全く自分に向かない職業で必死に頑張ってきたんだから、どう頑張ったってたかが知れて――」
魔法使い「――勇者ァァぁァアアアッ!!」
魔法使いは叫び声をあげると、激痛も忘れ右腕を勇者へとかざす。
魔法使い「 極 大 灼 ――
無数の武器群が魔法使いの全身を貫き、彼を絶命させた。
勇者「……」
勇者は静かに、突き刺さった武器でハリネズミのようになった魔法使いの死体を見下す。
魔物の心の正体がわからなかったのは痛手だが、その分楽しませてもらった。
魔王戦を前に不安要素を取り払っただけでも良しとするしかあるまい。
魔物の心、歴代の勇者もそのハンデを超え魔王を倒したとするなら、状況はさして変わらないだろう。
そうだ、これは自分に与えられた試練なのだ。
勇者は不意に天啓を得る。
極楽へとたどり着くための試練
そのための剣
そのための仲間の選定
そのための迷宮魔王城
そのための魔物の心
そのための魔王討伐
だとしたら自分は意図せず試練の難易度を下げていたのだろう。
なんという幸運。 いや、きっと無意識にそのことを考慮していたのだ。
なぜなら、俺は勇者となる500万人に1人の資質を備えているのだ。 それくらいできて当然。
やはり自分は特別なのだ。
そうだ、それですべてに説明がつく。
す べ て は 、 女 神 様 の 試 練 だ 。
勇者はそう結論づけると、二人の死体を残し歩きだした。
82 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/04(木) 19:54:27.26 ID:leYoC1l+0
明日は過去編、この続きは明後日です。
83 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/04(木) 22:04:11.85 ID:Z+kNbaDNo
つ、つまりどういうことだってばよ
84 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/04(木) 23:25:33.47 ID:2/7y99wDO
>>83
全部読めばわかるんじゃない?
途中でそれを聞くのは野暮ってもんよ
85 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/05(金) 11:41:19.94 ID:t9wJsWHw0
>>80
は25話じゃなくて27話でいいんだよな?
86 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 21:34:24.87 ID:jbWZ7of70
すみません
>>80
は27話ですね…… ご指摘いただきありがとうございました。
87 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 21:37:38.52 ID:jbWZ7of70
第7話 始まり
城内のある個室
賢者「……勇者の剣に組み込んだ女神を模した心理テストなんだが、本当にこの性格設定でいいのか?」
初代勇者「迷宮実験の結果から割り出した結論だ、実績は十分だと思うが?」
賢者「しかしこの性格はあまりに勇者像からかけ離れていないか?」
初代勇者「こういう人種は周りの目を異常なまでに気にするがゆえに自分をうまく取り繕おうとするからな、多少の粗は勇者の肩書きがごまかしてくれるだろう」
賢者「……嫌いなタイプの人間なら、多少は罪悪感が薄れるか?」
初代勇者「言っている意味がわからん。 このシステムを定めるまでに、何人の人格を破壊してきたと思ってる。いまさらそんな感情は捨てている」
賢者「……疑似加護の最大出力は迷宮を破壊できないレベルと言っていたが、それでも世界に及ぼす影響は小さくないぞ、いくら俺たちの100分の1の出力と言ってもこの勇者モドキが暴走したらどうするつもりだ?」
初代勇者「この人種が暴走なんて考えられんが、まぁこの人格の傾向は割り出せているんだ、そこから導けるケースに対してアレが対応できるように心に組み込んでおけばいいだろ」
賢者「あまり複雑な呪いは効果を弱めるかもしれないぞ」
初代勇者「最悪の保険だ、俺の見立ててでは1パーセントも可能性はない、そういうやつだからこそ選ばれるわけだしな。そこに割り当てるリソースは少しでいい、あとは実践の中で微調整していけば問題ないだろ」
賢者「……しかし」
初代勇者「ここでグダグダ机上の空論を並べ立てても意味ないだろ? 実際稼働させてみなきゃわからない問題も必ず出てくる、何をそんなに躊躇する?」
賢者「アレはどうしても使わなきゃダメだろうか?」
初代勇者「そのために世界にふくろを普及させたんだ、今更怖気づいてどうする」
賢者「……そうなんだが……危険じゃないか? せめてヒントは排除すべきだと思うんだが」
初代勇者「このヒントが、後々必ず効いてくるのは間違いない、その結果起こる極限状態は貴重なデータだ。 今後のフィードバックも考えればあった方がいいだろ」
賢者「俺が言ってるのは、その言葉が分かりやすすぎるってことなんだが、迷宮までは持つかもしれんが……その先はやはり不安が残る」
初代勇者「……ずっと冒険を共にして日常となっているんだぞ? これは人間の本能の問題だ。げんに1000人の人間を対象にテストした結果はお前も見ただろう? 俺たちの心はそういう風にできているんだよ、……強迫的にそう思いたいんだ」
賢者「……まぁ……俺もそう思うが」
初代勇者「仮にその発想が浮かぶほどの人物ならまず勇者の選定からはじかれる。何度も言うがこの勇者は短絡的に物事をとらえるからな。 そこまで深く考えないし、理屈に沿わなくても行動を起こせるんだ。そしてこのトリックは日常的な時間が経てば経つほど発見が難しくなる。」
賢者の男はそこでハッとしたように視線を勇者の後ろに向けた。
賢者「おい、勇者」
賢者は声を潜めて勇者を廊下へ誘う。
勇者とともに廊下に出た賢者は、顔を青くして勇者を見つめる。
賢者「奥の扉の隙間から見えたものについて説明しろ」
勇者「今回の会話を聞かせたかったのさ」
賢者「!?」
勇者「いろいろ考えられると面倒なんでな。単純な希望があると、思考はそこにしか向かなくなるだろ?」
賢者「……ッ」
絶句する賢者の前で勇者はニヤリと笑った。
勇者「さて、さっきの話だが少し訂正がある、勇者選定の件だが、心理テストに加えて100通り以上のランダムな実践試験を加えてくれ」
88 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/05(金) 21:40:21.34 ID:jbWZ7of70
つまり500万人に1人の都合のよい人間ということですね。
ちょっと区切りが悪いので明日3話更新して明後日完結とします。
89 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/06(土) 06:43:00.05 ID:FQBK4inqo
そういやあの心理テストには1ヵ所だけ明らかにおかしい所があったが
90 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 12:56:00.68 ID:SfwyFCTI0
第28話 真相との対峙
石碑の広場を超えた先は、なんの変哲もない一本道であった。 分かれ道もないただ曲りくねった通路。 一日歩き続けた勇者は、適当な場所で横になると、魔王城に入ってから初めて安心して眠った。
目を覚まし、身支度を整えるとまた歩き出す。 途中道に赤い塗料を塗ることも忘れない、そうして歩いていた勇者は、目を前に巨大な扉の存在を認め立ち止まった。
勇者「……」
勇者はふくろから王者の剣を取り出す。
悪魔をモチーフにした禍々しい装飾の施された二メートルほどの高さの扉を見上げ、一つ大きく息を吐いた。
そのあからさまな扉を、勇者は勢いよく押し開ける。
勇者「!?」
勇者は目を見開く。 扉の向こうは、ただ開けた空間が広がっていた。
100メートル四方の正方形の部屋に勇者は足を踏み入れる。
いつまでも続く静寂の中で、勇者は向かいの壁際に渦を発見した。
青い渦、旅の扉と呼ばれる時空のゆがみである。
このワープポイントの先がどこに続いているのかは見当がつかない、しかし、まだ先に進めることに勇者はホッと安堵した。
おそらくこの先に、魔王がいるのであろう、そうであるならこの魔物一匹いない魔王城にも説明がついた。
勇者は歩き出す。 その勇者を追い越して、足を止める者がいた。
勇者「――? !?」
突然の事態に勇者はぎょっと目を瞠った。
「ここが終点だよ」
そいつは勇者と向き合うと声を上げた。
勇者は絶句する。
目の前に立つことはおろかしゃべれるはずがない者の姿に、勇者は即座に発することのできる言葉を持たなかった。
91 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 12:58:52.26 ID:SfwyFCTI0
第29話 33回目の決着
そんな勇者が不自由に口にした言葉は単なる反射にすぎなかった。
勇者「……なんで……」
「第三十三回の勇者の冒険もこれで終了だ、今までご苦労だったね」
勇者「……なにを……!」
勇者はそこでハッとする、そいつの手にはいつの間にか力場の杖が握られていた。
そいつの側面に召喚される武器群。
武器の種類は勇者の剣と僧侶の槍が多いようだった。 武器の形状から射出に適した武器を展開していると見定めた勇者は、突発的に呪文を放つ。
爆雷がそいつに向け放たれる。 しかし勇者はその瞬間視認していた。
そいつの目の前に、魔返の斧が召喚されていることに。
斧の側面から反射された雷撃が勇者に襲い掛かる。
勇者「……ッ」
即座に相殺することをあきらめた勇者は、爆雷の直撃と同時に回復呪文を自分にかけた。
破壊される体が次の瞬間には回復していく、破壊と再生の激痛の中で歯を食いしばり、呪文をやり過ごした勇者。 その勇者に対して剣と槍が次々に射出された。
勇者「ハァッ!!」
勇者は王者の剣を振るい武器群を次々と撃ち落としていく。
弾ける火花と響く金属音の先、魔返の斧を盾に射出と召喚を繰り返す相手の姿に勇者は顔をしかめた。
防御に徹しても埒が明かないと判断した勇者は地面を蹴る。
武器群が勇者のいた地点に次々と突き刺さっていく。
突撃してくる剣と槍を躱しながら、側面を回り込むように距離を詰める勇者。
相手の攻撃の性質上切っ先をこちらに向ける必要があることに勇者は気が付いていた。
相手を中心に円周上に駆ける。その結果射出の標準合わせや、それと並行した武器の展開、複数の処理を強制することになり相手の攻撃の密度を減らした。
ある程度距離を詰めた勇者は、足を踏ん張りその場に停止する。 目の前に迫る剣を剣で撃ち落とすと、急停止の反動を利用して直線状に相手に迫った。
円状の一定の動きで刻まれたリズムを崩され、剣と槍の照準が狂う。
勇者は盾のように配置された魔返の斧を王者の剣で弾き飛ばし、その先の相手へ向け手をかざす。
勇者「!?」
斧により死角になっていた相手の片手には杖の束が握られていた。
それは勇者に向けかざされている。
そして花束のように手握られた杖達が――攻撃呪文を内蔵した杖の束が――火を噴いた。
勇者「 」
複数の攻撃呪文効果を含んだビームが、勇者の胴体に着弾する。
勇者は後方に吹き飛ばされ、胴体から煙を吐きながら地面を転がると壁に体を打ち付けた。
勇者「――ッ ――ッ」
激痛に息ができず、目に涙を滲ませながら勇者は声にならない声を上げた。
そんな勇者の四肢を四本の槍が貫いた。
勇者「――ッ」
回転しながら飛んでくる斧が勇者の肩口に突き刺さる。
勇者「あがぁあっぅ!!」
肩から血が噴き出す、返り血に汚れる斧が魔封の斧――触れたものの呪文を封じる斧――であることを認めた勇者は、完封されたことを察した。
そいつはゆっくりと無力化した勇者の前に歩く。
「さて、死ぬ前にこちらの質問にいくつか答えてもらおうか」
血を流し凍える体を震わせながら、勇者は戦慄する。
「最初にあったはずの女神の質問、その内容を話してもらえるかな?」
92 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 13:02:26.99 ID:SfwyFCTI0
第30話 そして歴史は繰り返す
始まりの国、ユーリ城地下。
旅の扉から現れる死体を、国王は無感情に見つめた。
側近達が慣れた手つきで死体を片付け始める、続いてふくろから武器を取り出し、王の前に並べた。
王は手に持った杖をかざす、すると武器は星屑に戻り、魔物の心が杖の先の水晶に吸い込まれるように収まった。 透明だった水晶が淡い赤色に染まる。
後に残ったのは、勇者の剣、戦士の斧、僧侶の槍、魔法使いの杖の四つだけだった。
側近A「武器たちはすぐに解析に回します」
王「うむ」
王はうなずく。 これもすべて、この平和を維持するために必要なことだ。
迷宮の攻略ルート、そこに至る過程はすべて武器が知っている。 極限状態を要求する迷宮を前に、その時の行動や思考をトレースすることでこの勇者の剣は常に時代に適した人物の選定を可能としていた。
この作業をこなす王や側近たちに罪悪感はない。
王や側近は、世襲制ではなく初代勇者により作り上げられた試験を突破した者にのみ与えられる役職であったからだ。
次世代の王もその側近も、人からの信頼や実績ではなく、定められた試験を突破することでまた選ばれる。
よって維持される。 この平和も。
それはこれからも変わることはないだろう。
側近B「最近反逆者と思わしき者たちが大きな動きを見せていますが、……いかがなさいますか?」
側近の一人の言葉に、王は目を閉じた。
王「放っておいても問題あるまい。 どうせ奴らはこの試練を突破することしか頭にないのだ」
本物の勇者以外に突破しようのない試験だ。 それに剣の履歴を見れば反逆者と思わしき人間は一目でわかる。 その人間を秘密裏に処理する。 また反逆者のデータ分析が、まだ半分に達していないということも履歴からこちらは掴んでいるのだ。
問題ない、少なくもの今後100年は。
王は無表情に、次に勇者の剣を中庭の祭壇に突き刺す日を考え始めた。
王の杖の先についた水晶の中で、魔物の心が小さく蠢いていた。
93 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/06(土) 13:04:08.15 ID:SfwyFCTI0
明日でラストです。 どんな反応を貰えるか期待半分、不安半分ですね…
94 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/06(土) 16:54:40.99 ID:FQBK4inqo
楽しみにしてるよ
95 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/07(日) 11:24:40.84 ID:+VqFryyL0
第8話 新しい世界
僕たち魔人族は人間族に敗北した。
生き残った少数の魔人族すべてにおいてそれから先の世界は地獄以外の何ものでもなかった。
人間は生き残った魔人族を奴隷同然のように扱い、いらなくなれば捨てられた。
そこに情などかけらもなくまさに物同然という扱いであった。
ただ魔人族自体数が少ないことや、実際に目にした人間もほとんどいないため、宿敵、魔物の元締めであったという認識で奴隷として扱っている人間はいないであろうと思う。
魔人族と人間には大きな違いが3つあり、それゆえに奴隷の種類にも2種類があった。
一つは長寿であること、成人後500年は生きることができる。
一つは魔物を操る術を生まれながらに持っていたこと。
特別その力に特化した一部の魔人族は、人格を洗脳され勇者によってユーリ城地下に建設されたテレパシー増強装置に繋がれた。
世界中の魔物の管理を行う道具へと変えられたのだ。
そしてもう一つはある器官が生まれながらに備わっている点であった。
その器官ゆえに人間は魔人族を身近な奴隷としても扱えるようにしたのだ。
その器官にはどんな物体でも電子化してしまい込む事がき、また出力も自在だった。
人間は僕たちに強力な呪文をかけて人格を破壊し、ただ物を出し入れできる物へと変えた。
それゆえに、僕らは人間たちからこう呼ばれる存在となった。
ふくろ
と。
勇者(Lv99)「誰が僧侶を殺したか」 完
96 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/07(日) 11:25:20.84 ID:+VqFryyL0
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
97 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 16:19:31.66 ID:BnoSLOj6o
えっ終わりなの
色々気になることが残り過ぎるんだが
98 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 19:16:24.38 ID:j+w0oXF+o
乙
誰のふくろが誰を殺したのかが気になる
各々の持ち主だけを殺したのだろうか
99 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 20:56:51.22 ID:4Mgp2g4X0
>>89
何処がおかしかったのか分からない...
100 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 22:15:38.36 ID:oFZ/UCG20
乙!
101 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/07(日) 23:17:09.18 ID:IYdmND+do
乙
旅の途中であちこち回っている間に日常化して段々と意識できなくなるんだろうな…
途中のルート分岐が気になるかな
102 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 00:29:43.04 ID:vVSRNHVwo
>>98
ふくろは一つだろ?
103 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 12:01:48.60 ID:13KHI4Ago
解説が欲しいと思ってしまう今日この頃
104 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 15:54:45.42 ID:LOy5b60Bo
個人的に解説欲しいのは
>>92
だな
105 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 17:41:10.79 ID:RNDb/sBXO
>>66
の聞こえるはずのないフレーズって言うのも意味不明
106 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 20:31:37.60 ID:fzXiaI6N0
分かりづらい内容で大変申し訳ありませんでした。 力不足を痛感しております。
物語の流れを説明しますと
大筋
初代勇者が魔王を倒す
↓
魔物がいなくなって人間同士が争い始める
↓
魔物や魔王と戦っていた頃の方が平和だったと考えた勇者が、当時の世界を再現しようとする。
↓
初代勇者によってつくられた世界の話。
ふくろについて
魔人族と人間族はお互いが違うものであると本能的に認識している。
その存在が物言わぬ人形になった場合、人間は魔人族を物として認識するようになる。
人間にとってのふくろは、高級車くらいの認識。
システムについて
・魔物の脅威を勇者が防ぐ世界が前提
・永続的に同じ勇者というわけにはいかないので、頃合いを見て始末する必要がある。
↓
始末する存在としてふくろを利用する。 魔人族は勇者モドキの最大レベルでは絶対に倒せない存在かつ身近に溶け込めるというのが主な選定理由。
魔物の心について
旅の開始からふくろは心を持っている。
実際に勇者たちを攻撃できるのは魔王城の中に限られている。
心を持ったふくろは、魔人族の再建を前提に動く。
勇者モドキをこちらにとって都合の良い人間に変えることでシステムのコントロールができると考え、旅の合間に隙を見て反逆者を募っていた。
ちなみに最初の心理テストは結果はみえっぱりになります(元ネタはドラクエ3です)
いろいろ甘い設定、説明不足も多いですが、主な物語の説明としてはこんなところです。
ここまで付き合っていただき本当にありがとうございました。 そして貴重な時間を取らせてしまいすみませんでした。
107 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 20:48:05.21 ID:LOy5b60Bo
いやかなり惹き付けられたよ
改めて乙
あいつが女神問答の内容を聞いたのはそういう事だったのか
しかし『体をうごかすのは 好きですか?』とその相反する答えはどういう事だったのか
実は違う質問なんじゃないかとか色々勘繰っていたのだが
108 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 21:02:29.75 ID:fzXiaI6N0
>>107
ありがとうございます。
重複する質問については性格みえっぱりから逆算した元ネタをそのまま流用したので深い意味があるわけではないです。
お騒がせしました。
109 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 21:21:50.94 ID:2juO7d80o
なるほど質問はDQ3の性格診断のフローチャートからの引用か
勇者の性格がみえっぱりにしては粗暴な振る舞いが多くて、作中武器ばかりで防具の描写が無かったし、初期みえっぱり→強制『モヒカンのけ』装備でらんぼうものになっているのかと考えていたけど深読みだったか
110 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 21:33:08.09 ID:fzXiaI6N0
>>109
モヒカンの毛はどこから(笑)
見栄(虚栄)のためだけに仲間を選定したり、魔王城から引き返すことを極端に拒んだりしたあたりに性格を出したつもりでした。
んーなかなか難しいですね。。勉強になります。
111 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/08(月) 21:48:28.33 ID:vVSRNHVwo
大体思ってた通りどけど魔物の心の反逆についてが良く解らない
112 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/08(月) 22:04:32.42 ID:fzXiaI6N0
>>111
心をゼロから作るというよりは、心をもとに戻している状態ですね、ある程度呪いで行動を縛れますが、そこにリソースを割くと不具合が発生したため(勇者モドキを殺さない、うまく動かずエラーが発生する等)縛りや命令系の呪いは最低限にとどめています。
ふくろの行動自体は目標を心理テストの解明に誘導することで呪いとは別の形で行動を縛っています(本人に自覚なし)。
明らかに描写の足らない部分ですね。
113 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/09(火) 14:19:34.77 ID:JLu2QZgu0
>>90
辺りのラストに入る前に読者がふくろの概要、真犯人にたどり着ける伏線ってあったかな?
なければただ設定で驚かすだけの話になっちゃうべ
114 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/09(火) 14:22:44.70 ID:JLu2QZgu0
ごめんageちゃった!
115 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/09(火) 16:32:26.29 ID:jJTTl8t+o
気付いた限りでは
・休憩しようとしたら椅子が1個多く出た
・商人とふくろの話
前者を気にする奴はあまりいなかったろうが後者は何となくでも引っ掛かる
116 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[saga]:2016/08/09(火) 21:29:47.55 ID:D30tLLfT0
上に加えて
・魔人族と人間族の種族間の隔たり
・魔王の手に突然鎌が握られる
・呪文を使わない魔王の戦い方
・勇者の理屈である最後尾の奴が僧侶を殺した発言。じゃあ戦士は?
→ドラクエのステータス画面では、どんな時にも最後尾にあるのはふくろ
・冒険中の武器を使った殺人方法
・初代勇者のふくろを普及させた発言
意識しながら書いていたのはこの辺でしょうか。
117 :
以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします
[sage]:2016/08/09(火) 21:41:56.70 ID:JLu2QZgu0
>>116
>最後尾はふくろ
なるほどドラクエやった事ないけどそういう事ならその他もろもろと含めて納得した
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