ヒーローとその姉(オリジナル百合)

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110 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/17(火) 07:45:38.07 ID:DJ0+3vY6O
いいぞお
111 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 22:25:30.78 ID:Uw2lHI160
次の日は朝から曇天だった。天気予報では雨または雪。
昼休みに桜田ちゃんと雪が降りますようにと祈ったのが天に通じたのか、
学校からちあきちゃんの家に行く途中で、白い埃みたいなものが腕について、鳥の糞かと思って慌てた。

「あ、雪」

紺色のコートにどんどん引っ付いていく。
空を見上げると鼻の中に雪が入ってきた。

「っくしゅん!」

コートのフードを頭に被る。
積もったらいいのに。

「雪だるまつく〜ろ〜」

小声で歌う。
その声が角を曲がって来た小学生にしっかり届いていて、
まじまじと見られてしまって恥ずかしいったらありゃしなかった。
112 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 22:48:44.77 ID:Uw2lHI160
私がちあきちゃんの家の前に着いた頃には、私のコートが漂泊されたみたいになっていた。
使われてなさそうな車庫の奥の階段から庭に入って、裏の方に周り、カーテンの隙間から中を覗いた。
ベッドの上には誰もいない。トイレかな。ざくざくと砂利を踏む。近隣住民に、不法侵入のストーカーと勘違いされそう。
反対側のリビングの方は、灯りはともされていなくて、暗がりの中、ちあきちゃんの姿を探す。

いた。
ソファの上。
クッションかと思ったら、ブランケットに身を包んだちあきちゃんだった。
うずくまっているようにも見える。

「え、だ、大丈夫……?」

恐る恐る、ガラス戸をコツコツと叩く。
ちょっと覗くだけにしようと思っていたのに。
予想外の事態に、私は焦った。

「ちあきちゃん?」

小さな体がピクリと動いた。
顔だけ上げてこちらを見ている。
だるそうだ。
ぶるぶると震えつつ、這うようにこちらに向かってくる。
113 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 23:04:59.43 ID:Uw2lHI160
「む、無理しなくていいよ」

とガラス越しなので聞こえてないのか、カーテンが開け放たれた。
戸を開けて、ちあきちゃんが言った。

「寒いから、早く入って」

苛立ち気味だった。

「は、はい」

玄関からじゃなくていいのか、と聞くこともできずに、
私はそこに靴を脱いで転がりこんだ。
中は暖房が効いていて、冷え切った手足がじんと痺れた。
ちあきちゃんはまたソファの元の位置に戻って体を縮こませる。

「……大丈夫?」

「大丈夫に見えるなら、眼鏡かけた方がいいんじゃない」

相当機嫌が悪い。
というか、しんどいのだろう。
114 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 23:32:57.21 ID:Uw2lHI160
「絵ちゃんこそ、コートびしょびしょになるよ……」

「え、あ」

急いで袖やら裾やらの雪を手で払って戸を閉める。
ちあきちゃんが力なく物干しスタンドを指さした。
あそこに掛けておけと言うことらしい。

「……何しに来たの」

手袋もついでに乾していると、ちあきちゃんが言った。

「熱出たって聞いたから」

「ひろ君に聞いたの?」

「うん」

「そ、暇なのね」

「なんか、さっきからトゲある」

「だって、絵ちゃんはひろ君と喋ってるでしょ。ずるい。ひろ君もずるい。二人は普通に話せるのに……私だけ、仲間外れだし。どうしてよ」

ソファの背に隠れて、ちあきちゃんがどんな顔で言ったのか分からない。
でも、きっと年上の癖に、可愛い仏頂面をしているに違いなかった。
元凶はちあきちゃんなんだけど、それを言うほど私も子どもじゃない。

「ごめんね。そういうつもりじゃないからね」
115 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 23:46:18.92 ID:Uw2lHI160
ソファーの正面に周り、

「ちあきちゃん」

小声で呼ぶと、手でしっしっと払われる。

「ところで、なんでここで寝てるの」

「ひろ君の帰り待ってるのよ……」

「今日は夜まで帰らないって」

ちあきちゃんの体がぴくりと動いた。
何か叫ぶかと思ったが、その気力もなかったらしい。
ほんとに、こんな人が怖いだなんて。
大きな赤ん坊みたい。
116 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/17(火) 23:47:52.44 ID:Uw2lHI160
いかん、寝ます
117 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/18(水) 00:36:22.24 ID:M7FEmY8rO
良い…
118 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/01/18(水) 03:51:40.32 ID:xteJy95eO
一転してちあきさんにグイグイ行くのがすばらしい
119 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/18(水) 21:43:55.32 ID:m7LCNG3t0
ちあきちゃんは、ちゅうー、とネズミのような鳴き声を発して、

「絵ちゃんはいつまでいるの」

「ちょっと様子見に来ただけだから、すぐ帰るよ」

「そうなの……」

言って、しんと黙る。
少し、息切れしてる感じ。

「ね、デザートにマンゴープリン買ってきたけど食べる? 口に合うか分からないけど」

「うん……」

「今、食べる?」

「う……んん」

どっちだ。

「ちあきちゃん、しんどい?」

「……ん」

話に聞いていたより、かなり重症じゃない?

「ひろ君に家にいてって言えば良かったのに」

「……あんたが言ったんじゃない。ひろ君以外に目を向けろって」

120 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/18(水) 22:42:36.24 ID:m7LCNG3t0
「もしかして、ちあきちゃんがひろ君に頼んで、私を呼んだの?」

「そうよ」

「偉い」

「偉くないわよ」

彼女の頭に手を置いた。
ゆっくり撫でる。
大丈夫。
ふいに、腕を掴まれる。
力は無くて、くにゃりと折れた。

「部屋で休もうよ、ちあきちゃん」

「おんぶして……」

それは無理。

「しっかりしてよ、大学生」

でも、その弱弱しい姿を見れて私は満足もしていた。
悪く言えば、気味が良かったのかもしれない。
もっと苦しめばいいのに。
ウソウソ。
私、そんなキャラじゃない。
そうだよね。
121 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/18(水) 22:56:17.32 ID:m7LCNG3t0
「ねえ、絵ちゃん、今日は……しないの?」

彼女が言った言葉が聞き取れなくて、

「え、何?」

聞き返す。

「ほら、ぎゅっと……してくれたじゃん」

熱に浮かされて、ちあきちゃんが恥ずかしい台詞を吐いている。
後ろから抱き付いたことだと悟った。

「あれ、すごく落ち着く」

「やだ、どしたの。甘えん坊」

ソファの上でもじもじしていて、ちょっと可愛いかもしれない。
122 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/18(水) 23:19:15.48 ID:m7LCNG3t0
「したら、部屋で休む?」

「うん」

今なら、たぶん大丈夫かな。
ソファの上に座らせてもらい、ダンゴムシのようなちあきちゃんに起き上がってもらう。
細い胴回りに手を交差させて、抱きしめてあげた。
温かい。
今日は甘い匂いはしない。
動悸もほとんど無くて。
経過は良好。
抱き心地がふわふわで、酔ったように私は肩に顔を埋めた。

「絵ちゃん……温かい」

「ちあきちゃんもだよ」

「昔、逆にひろ君にしたら、突き飛ばされた」

「そりゃそうだよ」
123 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/18(水) 23:59:56.63 ID:m7LCNG3t0
熱があったのに、私はちあきちゃんと昔の話をした。
ちあきちゃんに泣かされた話。
ひろ君がおねしょした話。
私がちあきちゃんの家にお泊りに行った時に怖くてすぐに家に帰ってきた話。
でも、ちあきちゃんが送ってくれたっけ。
過去の思い出には、いつもひろ君とちあきちゃんがいた。
ちょっと前まで、思い出しても気が滅入る事の方が多かった。
それを正直にちあきちゃんに伝えてから、

「私、ちあきちゃんにお礼を言わないといけないことばかりだったね」

「……馬鹿ね」

私が思っていた以上にちゃんと繋がっていたのかもしれない。
何を怖がっていたのか。
そんなに怖いものなんてなかったのに。それを確かめずに。
トラウマ何てそんなものかな。
124 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/19(木) 00:20:05.75 ID:ewI4O/lC0
「……小さい頃の事なんだから」

それだけ言って、ちあきちゃんは私の体にまた体重を預けた。
うん。
その程度の過去。
私が思うより、幸せだったんだろう。
将来に不安もなく、目の前の事だけが全てだった頃。
誰かを傷つけたとか傷つけられたとか。
許すとか。
いちいちそんなことも考えなくても良かった。

「絵ちゃん? どうしたの?」

「うん……」

「泣いてるの?」

「……少し」

「なんで」

「分からない」

きっと、私の心は人よりだいぶ大げさ過ぎる。
125 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/19(木) 00:32:51.99 ID:ewI4O/lC0
気が付いたら、私は眠っていた。
ちあきちゃんの膝の上に頭を置いて、彼女の手を握っていた。

「病人より先に寝る?」

「ごめんね」

私は小さく笑う。
怖い?
ううん。
嫌い?
ううん。

「……」

自分の頬を触ると熱を持っていた。
トラウマじゃなければ、この昂ぶりはなんだろうか――。






おわり
126 : ◆/BueNLs5lw :2017/01/19(木) 00:33:37.02 ID:ewI4O/lC0
ということで、終わりです
また機会があれば
127 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/19(木) 06:46:47.64 ID:MEE5snxeO
終わりか...残念だ
128 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/19(木) 08:21:57.68 ID:vzgiv2FGo

特に関係ない話なんだけど
女教師x女生徒が見たいなぁと思いました
129 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2017/01/19(木) 16:21:37.57 ID:SyNSCGOrO
第2部を楽しみにしてるよ
130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/01/20(金) 02:48:46.93 ID:v9xWcqNE0
乙です ラビットの方も楽しみにしてます
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