都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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141 :大王は伝説使徒 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:33:10.26 ID:JEwpHkLf0
特に理由のないクリスマス投稿が都市伝説スレを襲う!

という訳でアーバントの人、もとい大王の人だよ。たぶんテンションおかしいけど、気のせい。
例によって伝説使徒のね……筆が進むんだよ。特にサッカー少年のほう。
今回の投稿で

●前回(>>12-18
人知れず伝説使徒を倒し、周辺の治安を守る少年がいた。
その少年は【こっくりさん】と契約し、その肉体を貸し与える事で、戦う力を得ていた。

さて……幼いうちに伝説使徒と関わってきた少年も、いよいよ中学生となる。
はたしてどんな未来が待ち受けているのか―――
142 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:34:05.48 ID:JEwpHkLf0
 少年は、そわそわしていた。

 少年の名は[服部 蹴斗(はっとりシュウト)]。今日から中学生となる。
 新しい出会い、より高レベルな部活動、そして……

『そんなに楽しみなんだ』

 頭の中に声が響く。
 蹴斗の隣には、【こっくりさん】と呼ばれる少年がいた。

 伝説使徒(アーバント)……それは人間どころか動物ですらない。
 しかし確実に知性を持って、そこに生きているという『ミーム』を持つ、不思議な存在。
 【こっくりさん】も、そのひとりである。

 蹴斗はより幼い頃に【こっくりさん】と契約した。
 その力で、身の回りにいる狂暴な伝説使徒を倒してきた。
 今となっては長い付き合いの相棒である。

「(あぁ、当然さ。だって……)」

 蹴斗は口ではなく心で唱えるように返事する。
 ふたりはもう、口ではなく心で通じ合えるほど深い繋がりを得ていた。

 そんな蹴斗が待っているのは、【こっくりさん】よりも古い親友である。
 その名は[又木 十三(またぎジュウゾウ)]。蹴斗とは幼馴染だ。

 とある事情により、親友は小学校の頃に遠くへ引っ越した。
 蹴斗はとても悲しんだが、再会の約束をして見送った。
 そんな親友との再会が、今日やっと果たされるのである。

 【こっくりさん】には、そういう友情は分かり難いものだった。
 それでも妙な温かさが、主である蹴斗から伝わった。
 不思議と、自分も楽しみになるような……

 ふと戸が開く。蹴斗は、入ってきた顔に見覚えがあった。

「おーい!……って」

 蹴斗の声に、親友の又木が手を振り返す。その後ろには……。





 猟銃を胸に抱えた、強面の大男が続いていた。





 思わず蹴斗は吹き出し、口を押さえる。
 ふと周りを見ると、クラスメイトの視線はこちらにあった。
 また、【こっくりさん】は十円玉の中に隠れたようだ。

「(もしかしてだけど、あれ……。)」
『うん、伝説使徒。普通のクラスメイトは気づいてないよ』
143 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:34:46.62 ID:JEwpHkLf0
 伝説使徒は『ミーム』によって構成されている。
 よって実体はなく光を反射しないため、目で見る事はできない。
 例外はあるが、確実に見えるようになる方法は2つ。

 1つ、伝説使徒のターゲットにされる事。
 もう1つ、伝説使徒と契約する事。

「(あれにオレしか気づいてないのか……敵じゃない、のか?)」
『殺し屋みたいな顔だけど、妙におとなしいよね。』

 考察する蹴斗達の方へ、又木は歩み寄る。
 そして一定距離を保つように、マタギのような風貌の強面伝説使徒がついていく。

「よ、久しぶり!」
「あ、あぁ、久しぶり。」

 又木の挨拶に、少し戸惑いつつ蹴斗は返す。
 後ろを気にしながら旧友を深めたが、これと言って変わったところはないようだ。

「変わりないようで良かったよ。」
「そういう蹴斗は、ちょっと大人びいた感じだな。」

 指摘されて気付く。伝説使徒との戦いは、常に命懸け。
 そんな世界で生きているうちに、普通の子どもとは言えなくなっていたようだ。
 ……現に今も、撃たれそうな恐怖と戦っている。

「あ、それで思い出した。今日は肝試し大会があるそうだぞ。」
「肝試し……」

 よくあるイベントである。暗い夜道をビビったり、一周回ってハイテンションで駆けたり。
 が、そういったものには噂……ミームが付随する。
 つまり肝試しの舞台は、伝説使徒の巣という他ない。

「あまり好きじゃないな……」

 伝説使徒は、人を襲ってミームを保つ。蹴斗は平穏主義者だ。
 犠牲者が出ないようできる限り倒したいが、クラスメイト全員を守り切れるかは怪しい。
 いっそ中止に追い込みたいが……。

「安心しろ、オレがいるから。」

 又木は自信満々に指差す。

「なぜか知らないんだけど、俺の周りだと心霊現象は起きないんだ。
 呪いの石は砕けるし、こっくりさんは失敗するし……。」
「(あぁ、コイツのせいか……。)」

 蹴斗の視線は大男に向く。目があったが、その思考は全く読めない。

『たぶんこの殺し屋マタギ、自分を【守護霊】だと思い込んでいるんだよ』
「(思い込む?)」
『伝説使徒では稀にあるんだ、自分が何者か分からないってこと。
 【守護霊】は武器を持たないはずだし、本当は【悪霊】なんじゃ……』
144 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:35:24.80 ID:JEwpHkLf0
 伝説使徒はミームによって自らを保つ。つまりミームとは手段である。
 このマタギの風貌をした殺し屋面の大男は、【守護霊】という手段で自らを保っているのだ。
 しかし【悪霊】として生まれた可能性もあるし、あるいはもっと異なる存在だったかもしれない。
 全ては謎に包まれている。

「だからオレと一緒に回ろうぜ、なんて―――」
「いや、ちょっと良いか?」

 又木の提案を、蹴斗は遮った。

「……信じてもらえないだろうけど、俺の周りではよく起こるんだ、そういうの。」
「えっ……じゃあ本当に付き合おうか?」
「いや、俺は俺で対処するから……別の班を守ってくれないか?」

 蹴斗は又木とヒソヒソと相談する。
 自分ひとりでは守り切れなくとも、又木の協力があれば負担が少なくなる。
 この大男を信用していいかは不明だが、親友である又木を信用した。

「とりあえず調べて、何も無かったら一緒に行こうぜ。」
「あ、あぁ、分かった。」

 そう言っている間に学校のチャイムが鳴る。入学式の時間だ。
 全員が席に座って数分後、教師が入ってくる。

「えーっと、初めまして。今日から俺が担任だ。宜しく。」
「「 雑ッ! 」」
「自己紹介は後々。先にちゃっちゃと並んで、入学式を済ませようぜ。」

 投げやりな態度の教師に渋々従い、全員が廊下に並ぶ。
 その間も、蹴斗は肝試しについて考えていた。

「(オレと十三以外にも、契約者とか居たらなぁ)」
『いるよ。』
「(えっ、マジか?)」

 蹴斗の思い煩いを、【こっくりさん】が払拭する。

『殺し屋マタギが入ってきた時、キミ以外にも反応していた生徒が居たんだ。
 確実に、見える人……おそらく契約者だろうね。顔は憶えたよ。』
「(ありがてぇ。後で教えてくれ。あとは……。)」

 入学式が始まり、校長の気だるい挨拶が行われている中、蹴斗は手袋をはめる。

「(こっくりさん……鳥居へ。)」
『あいさー。』

 右手の手袋に書かれた鳥居マークへ、【こっくりさん】が吸い込まれるように入っていく。
 そして左手の掌には、見づらく『Y』『N』と書かれていた。

「(肝試しの舞台には伝説使徒がいる?)」
『……Yes。』

 右手の指先が、左掌の『Y』を差す。
 そう、【こっくりさん】による儀式を、簡略化した手袋だ。

 いちいち儀式を行わないと、【こっくりさん】は全知なる情報源へアクセスできない。
 複雑な疑問であれば、50音表やタイプライターを使って儀式を始める。
 しかしこの手袋があれば、2択の疑問をすぐ解決できる。
145 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:37:41.29 ID:JEwpHkLf0
「(数は10体以上?)」
『……No。』
「(良かった、5体以下か?)」
『Yes。ちなみに、反応していた生徒は4人だったよ。』

 クラスメイトは約30人。5人ずつ別けるなら6組だ。
 蹴斗、又木に加え、4人の契約者を班長にすれば、襲われるリスクを軽減できる。

 そうこう思案している間に、入学式が終わる。
 クラスに戻ると、さっそく自己紹介が始まった。

『じゃあ、教えるからメモしといてね。』

 男子2名、女子2名が該当者だった。
 女子に任せるのは気が引ける……と思う反面、契約者なら他のクラスメイトより強いか、とも考える。
 一か八か、とりあえず試すか。

「―――という訳で、肝試しの班長だが。」
「はい先生!」
「なんだ、トイレか?」
「そうトイレ……じゃなく! 班長に立候補です。」

 そう言った後、又木と契約者4名を班長に推薦する。

「ふん……。」
「面倒くさいけど、まあ良いぜ。」

「アンタの推薦っていうのが気に入らないけど。」
「は、班長……できるかな……?」

 男女4人の反応はそれぞれだった。
 又木に視線を送ると、こくりと頷いてくれた。

「ま、くじ引きとか面倒くさいし、せっかくなんで6人にやってもらうか。
 という訳で、班長集合〜。」

 今回ばかりは教師のズボラに救われた、と思う蹴斗。
 契約者(+マタギの霊)は教師の前に集合した。

「班はざっくり別けるから、その間にしおり読んどけ。」
「じゃあ……『ドキドキ!? オンボロ旧校舎ツアー』?」

 教師曰く、貧乏性でいまだに取り壊せていない旧校舎をそのままホラースポットにしたらしい。
 定期的に清掃もするらしく、衛生面での問題はない。
 精神衛生上の問題は多々ありそうだが。

「色々あったらしいぞ。旧校舎でのいじめだとか、飛び降りだとか……。
 妖怪を見たって噂もある。しおりに纏めてあるから読んどけ。」

 以前知り合った『同業者』によると、ミームとは『生き残れるよう進化する情報』だそうだ。
 より伝達しやすく、より末永く語り継がれる【怪談】というミーム。
 それを伝説使徒が補強し、事実性を高める。その結果、【怪談】はより強くなる。
 新入生に語り継がれるこのしおりは、伝説使徒が生み出したミームの化身なのだろうか。

『ボク達にとっては、ありがたいぐらいだけど。』
「(人を襲う伝説使徒は、ごめんだね。)」
146 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:38:14.69 ID:JEwpHkLf0
 単なるエンターテインメントでは終わらない。過激化した伝説使徒は人を襲う。
 その方が語る側・聞く側も面白いのだ。だからミームは拡散される。
 不思議な事に、この脅威を生み出してしまったのは人間そのものである。
 しかし、それでも、守りたいものがある。蹴斗の決意は固い。

「じゃあ、時間になったら来いよ〜。」


―――夕刻

 このお遊びに付き合う、怖いもの知らずなクラスメイトが集う。
 班に分かれ、10分毎に異なるコースで旧校舎へ向かう……というルールだ。

「さっさと行くか……。」
「に、2番目は、私達……10分後だね……。」

 第1班が気怠そうに向かう。第2班も震えつつ準備していた。
 正直頼り難いが、危険を回避するぐらいはできると信じたい。

「(俺は第4班で、十三は第6班。大丈夫だと信じたいが……)」
「居たわね。吹き出しくん。」
「ふ、ふきだしって……あっ!」

 声をかけてきたのは、第3班の班長である女子。
 [神倉 美子(かみくらミコ)]。巫女の家系らしい。

「吹き出した上に班長に立候補だなんて、目立ちたがり屋さんね。
 おまけにアタシ達まで巻き込んで。」
「悪かったな。同じ契約者同士、伝説使徒を倒そうぜ?」
「……アンタ、ホントに能天気。」

 美子は呆れるような溜息をつく。そして蹴斗の反論を待つ間もなく続ける。

「契約者同士って本当に仲良しこよしかしら?
 アンタが思っているほど、伝説使徒との契約は平和なものじゃないわよ。」
「うっ……。」
「なにより。アンタごときに伝説使徒を倒せるの?
 強さも数も、何も分からない相手に、大した自信ですこと。」

 まったく反論できない蹴斗。そんな沈黙を破ったのは。

「分かるよ。」
「なに?」

 【こっくりさん】だった。蹴斗の肩にしがみ付きつつ、答える。

「蹴斗が分からない事は、ボクが教える。足りない力は、ボクが補う。
 それで良いでしょ? 『護符売りの美子』さん。」
「……詳しいのね、オチビさん。」
「チビじゃないやい! あと、君のことは【風のウワサ】で調べたよ。
 狡い商売だねぇ。まぁ契約者らしい儲け方だろうけど。」

 【こっくりさん】の挑発により、美子との険悪な空気が漂う。
 諍いがしたいわけではないのだが……と思う蹴斗だった。
147 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:38:52.03 ID:JEwpHkLf0
 ふと、表現しがたい殺気のようなものが背筋を襲う。

「ひっ。」
「あ……その顔、あの時と一緒だねぇ。」

 見回すと、又木が手を振ってやってくる。

「えっと、お話し中だった?」
「……別に?」

 そっぽを向いて去ろうとした美子だったが、立ち止まり。

「これ……1枚・千円だから、大事に使ってよね。
 アンタは……要らないでしょうね。」

 そういってお守りを4つも渡された。礼を言う暇もなく、第3班は出発する。

「4人分か……ありがたいな。」
『気に食わないけどね。』

 あとで班員に配ろうと決めつつ、又木の方を向きなおす。

「えっと……巫女さんだっけ? もしかして『見える人』って奴なのかな?」
「そうみたいだな。護符を作ってるらしいし。」
「……お前も、か?」

 後ろを向き、マタギの霊を見る。目は合うが、真意は分からない。
 正直、教えてもいいのかもしれない。
 ただ、あんな非日常的な世界を教えてしまって、本当に良いのか分からない。
 その時は、それが怖かった。

「第4班ー! 準備しろー!」
「悪い、行ってくるわ。」
「蹴斗!……気をつけろよ。」

 こうして、蹴斗の肝試しが始まる。



―――肝試し・第4班



「いや〜ん、こわ〜い。」
「「 大丈夫、俺が守るから。 」」
「……ハモった。」

 蹴斗は思わず、「お前ら2人が結婚してろ」と一蹴した。
 基本的に、肝試し大会とは娯楽なのだ。だからこうなるのも仕方ない。

「いやーでも神倉さんの護符があるから気が楽だな。」
「……美子さん、本職巫女なのね。」

 班の4人が護符をチラリと見て、懐にしまう。
148 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:39:45.21 ID:JEwpHkLf0
「これで〜、1回ぐらいは助かるのかな〜?」
「俺が身を挺して庇えば、2回ですよ。」
「何言ってるんだ、3回だろ。」

 蹴斗は思わず、「はいはい残機5つ」と一蹴した。
 正直、このまま終わればいいのにと思ってしまう。
 実は、こういうノリは嫌いじゃないのだ。

『そう上手くは行かないよねぇ』
「(最大5体、ちゃっちゃか追い払うか。)」

 そう会話していると、班の女子が。

「……ところで班長。……霊感って信じる?」
「ん? なんだ藪から棒に。」

 暗い印象の女子で、目の焦点は蹴斗ではなく虚空を向いていた。

「……班長の隣、霊がいる……って言ったら?」

 班員の3名が飛び上がる。蹴斗も少し飛び上がりそうになったが。

「あ〜……たぶん、守護霊的なサムシングだから、安心しろ?」
「……そう? 又木くんも、凄い守護霊、持ってるよね……。」
「わ、分かるのか?」
「……大きくて、強いって分かる……あと、優しいの。」

 優しい? と聞きかけてふと考えてみる。
 契約者ではないであろう彼女にとって、外見にとらわれない感覚というものがあるのかもしれない。
 あの霊は……優しい霊、なんだろうか?

「よく分からないけど〜、怖い霊とか居ないの〜?」
「居たら教えてくれよ、庇うからさ。」

 とりあえず辺りを見渡す。と、ぼわっと火の玉が浮かんでいた。

「「 ひ〜と〜だ〜まァ〜!? 」」
「……【人魂】?」

 普段なら警戒するが、ふと冷静になる。これは肝試し大会だ。

「あれさ、先生達のイタズラじゃね?」
「「 えっ? 」」
「霊感が無くても見えてるんだったら、ガチの火の玉じゃないか。
 ああいうイタズラグッズ、理科の実験で作った記憶あるし。」

 そう蹴斗が答えると、胸をなでおろす3人。
 しかし1人だけ、腑に落ちない様子の少女。

「何かおかしいか?」
「……あのね、私……あれが『キツネ』に見えるの……。」
「ッ!?(こっくりさん!)」
149 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:40:35.78 ID:JEwpHkLf0
 とっさに、蹴斗はポケットから十円玉を取り出し、火の玉目掛けて投げる。
 十円玉は不思議な軌道を描き、繁みの中へ入っていく。「痛ッ!」という声も聞こえた。

「ちょっと待ってろよ……!」
「……私も行く……。」

 茂みの中に居たのは……1匹のキツネだった。

「うぎゃ、見つかっちまいましたか。」
「……キツネさんが喋った。」

 どうやら【狐火】だったようだ……。しかしなんだろうか、このキツネ。
 いったん専門家に任せようと、蹴斗は【こっくりさん】に体を貸す。

「えっと、【妖狐】の一種だね。」
「……ヨウコ?」
「キツネの身体を乗っ取った伝説使徒さ。肉体があるから普通の人でも見えるし、声も聴ける。」
「……すごい。飼いたい。」

 思いっきり伝説使徒とか教えてるけど、大丈夫か?と不安になる蹴斗。
 それを他所に、【こっくりさん】はキツネを持ち上げる。

「放してくだせぇ。俺っちにゃあ、妻と3匹の子どもが居るんでさぁ。」
「知らないよ。それより、キミはここをテリトリーにしている伝説使徒?」
「一応そうでさぁ。あの校舎が使われてた頃から、人を化かして遊びつつ、憶えを良くしてもらってたんでさぁ。」

 どうやら大古株のようだ。それならしっかり話を付けたい。
 ……だからオマエ、撫でてる場合じゃないぞ、と蹴斗は言いたかった。

「……キツネさん、人を襲うの?」
「襲う……。『化かす』のは、手品みたいなものでして、人を傷つけるものじゃございません。
 人様に不利益を与えないよう、善処しているつもりではございます。」

 キツネが言うには、現在の関係……つまり毎年の『肝試し』を続けて貰いたいそうだ。
 しかし、人が傷ついたり、ましてや死人や行方不明が出ては、行事が中止となってしまう。
 そうなっては、下級妖怪達の住処が奪われてしまうという訳だ。

「お願いでさぁ、放してくだせぇ。俺っちも生きたい一心なんです。」
「だってさ。どうする蹴斗? ボクとしては倒したくないんだけど。」
「……蹴斗くん?」

 あ。口を滑らせやがった。もういいやと投げやりになる蹴斗。
 しかしキツネの処遇はどうしたものかと考えていると。

「……キツネさん……もっと火の玉、出せる?」
「出せまさぁ。もっと明るく照らす事もできますぜ。」
「……じゃあ、火の玉で……イルミネーションとか、アートを描くの……。
 そしたら今より……もっと有名になれるよ。」

 少女から意外な代案が出てきた。確かに、普通の化かし方よりは魅力的だ。
 『手品』から『魔術』への変化……さながら、旧校舎でのサーカス。

「有名に……それは面白い! では夏の夜までに猛特訓して、狐火絵の先駆者になってみせましょう!」
「よし、じゃあ彼女に免じて許してあげる。
 だから、この旧校舎近辺の治安維持をよろしく。そしたら口裏合わせてあげる。」
150 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:41:26.51 ID:JEwpHkLf0
 まさか、一件落着した。こんなにも平和的な伝説使徒との遭遇があっただろうか。
 これで安心して……。

「それは無理なご相談です。」
「……キツネさん。」
「俺っちは強くありません。人を傷つけないのも、強くないからでさぁ。
 特に……あの『新入り4体』を抑える力なんて、俺っちにはありません。」



 その時、悲鳴が鳴り響く。
 木々が揺れ、小動物がざわめく声も聞こえる。



「お願いでさぁ! あいつ等を……新入り共を倒してくだせぇ!
 『便町の透明人間狩り』でしょう!? あなた方ぐらいしか、頼りがないんです!」

 ……蹴斗は初めてだった。
 ここまで必死に、伝説使徒を倒してほしいと頼まれた事。その相手が、伝説使徒である事。

 だが、迷う必要はなかった。答えなんて最初から決まっている。

「すまない、行ってくる。班の皆を任せた。」
「……あ。」



「便町の……【透明人間】……。」



―――肝試し・第3班



「アンっタねぇ……1枚・千円よ? この1時間で何千円溶かしたと思う?」

 神倉 美子は戦っていた。敵は2体の【幽霊】だった。
 【男子生徒の霊】は消耗しているが、もう1体、【女子生徒の霊】はさっき来たばかりだ。

 美子の背後には、なぜか班員が眠りについていた。
 よく見ると、バリアのようなもので守られているように見える。

 さて、どう仕切り直すか……といったところで。

「居た!」

 そこに駆け付けたのは、蹴斗だった。

「アンタッ! どうしてここに!?」
「助けに来たんだよっ! 悪いかッ!?」
「要らないわよ助けなんて! お守りあげたんだから、さっさと逃げなさい!」

 そう受け答えしている間にも、【幽霊】は襲い掛かろうとしている。
151 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:43:00.04 ID:JEwpHkLf0
「ッ! 今隙を作るから、アンタは」
「悪いけど。」



「準備完了しているよ。」



『フェイズシフト……バトルフェイズ!』



 蹴斗の服装が変わる。和風の道着のようであり、それでいて要所に防具がある。
 その洗練された衣装の変化は、見るものを止めた。

「何よ……アンタの伝説使徒、【子どもの霊】じゃないの?」
「伝説使徒の力じゃないよ。蹴斗の『エフェクター』さ。」


 エフェクター(付与者)。この世界を生きる子供たちに与えられた、進化の力。
 伝説使徒に対し、特殊なエフェクトを与えて強化する事ができる。
 その種類・能力・応用性は未知数。

 服部 蹴斗は『フェイザー』の付与者である。
 伝説使徒が持つ能力の段階をシフトさせる「フェイズシフト」を可能にする。
 単に【こっくりさん】の能力を使うだけの「スタンバイフェイズ」、
 そしてミームの鎧を身に纏う「バトルフェイズ」を使いこなしている。


『能書きはどうでもいい……まずは男子の方からだ!』
「手柄、横取りするよ!」

 【男子生徒の霊】に対し、【こっくりさん】は飛び込んで殴りかかる。
 質量と情報を併せ持った拳は、易々と幽霊を吹き飛ばした。

 そんな隙に、【女子生徒の霊】は後ろに居た生徒を襲おうとしている。
 それに気づいたのは美子だけだった。

「後ろっ!」
『にも俺が居るんだな。』

 たじろぐ【女子生徒の霊】に気もかけず、霊体となった蹴斗はラリアットで首を刈る。
 蹴斗の身体は、【こっくりさん】の手袋へと吸い込まれるように高速移動する。

『オフサイド・トラップ……』
「ボンバー!」

 【女子生徒の霊】の顔面に、黒い球体を勢いよくぶつけた。
 蹴斗は、絶妙なタイミングで手袋の中へ回避していた。

「じゃあ、トドメ貰うよ。」
『やっちまえ!』
152 :sample02-02 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:43:29.25 ID:JEwpHkLf0
 【こっくりさん】は胸元で黒い球体を増大させている。
 2体の幽霊は必死にもがこうとするが。

「悪霊封じ!」

 美子が投げた護符は、霊体に対する壁を作る護符だ。
 霊のいない場所で使えば結界として使えるが、逆に居る場所で使えば束縛に応用できる。

「必殺……ウィジャ・バウト!」

 結界から逃れられない幽霊2体を、押しつぶすような球体が上から降ってくる。
 幽霊2体はなす術もなく、その陰も残せず消滅した。



「……嘘。倒しちゃった。」
「あー、なんか強いって聞いて来たんだけど、強かったか?」
「【透明人間】の方が厄介過ぎて、比較対象にならないというか。」

 あっけにとられる美子を余所に、蹴斗と【こっくりさん】は雑談する。
 しかし、気を抜いてはいなかった。ここにいる伝説使徒は5体。
 【狐火】と【幽霊】2体を倒したので、まだ2体居るのだ。バトルフェイズを終了してはならない。

「神倉さん、護符はまだあるか?」
「え、あるわよ。作ろうと思えば作れるけど……。」
「じゃあ、あと2体張り切っていこうか。」

 戦う気満々の2人を見て、美子は溜息をつく。

「伝説使徒って……逃げたり、出会わないようにするものだと思っていたわ。」
「それが理想だけど、どうしようもない時はあるし、戦えない人もいるからな。」

 戦えるのだから戦う。それが契約者としての蹴斗だった。
 そして、仲間が居るなら、もっと戦える。



「一息ついたら行こうぜ……旧校舎。」






 ―――これは、『伝説使徒』と契約し、『伝説使徒』と戦う者達の物語―――
153 :大王は伝説使徒 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2017/12/24(日) 22:49:03.46 ID:JEwpHkLf0
という訳でサッカー少年でした。
知る人ぞ知る『ゴルゴマタギ』。出したさ余って登場させてしまいました。【守護霊】の一種……なのかなぁ?
あと巫女さんも登場。次回は本領発揮できるかな。

さて、なんと契約者5名+謎の守護霊でお送りする、大型連載に化けそうなんです。
名前は兄者と相談しつつ決めようかなぁ。契約伝説使徒は……既に決まってたり?
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