都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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171 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/23(火) 03:02:48.05 ID:xM07uYAD0
皆さんオツデス
今年の抱負も何もないけど
イケメンを出して盛大に毛を毟りたい
172 :鳥居を探すの人 ◆12zUSOBYLQ [sage]:2018/01/23(火) 22:52:04.26 ID:pizmkOBA0
みなさんあけおめ&乙ですー!
とりあえずピエロの続きを二月中に投下したいっす!
書くの遅くてマジすいません
173 :まだズ ◆John//PW6. [sage]:2018/01/27(土) 11:36:34.02 ID:Sb7yhMUfo
 
改めまして明けましておめでとうございます
鳥居の人、お久しぶりでございます
私もこの週末か来週末には出す物を出したいです
 
今年の初夢は明らかに10代な女の子の尻を撫で回して泣かれる内容でした
正夢にならぬよう頑張ります
 
174 :大王は伝説使徒 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2018/01/27(土) 17:38:46.15 ID:dR1kzffcO
えー、業務連絡。兄者との協議の結果、狐と会話した少女の名前は
[藪小路 翔華(やぶこうじショウカ)]ちゃんに決定しました。
今後どのような活躍をするか、お楽しみに!

>>170
おつありですの。あと命名サイトもありがとうございます。
美子ちゃんは割と大事にしたいキャラなので、応援頂ければ幸いです。

>>173
>今年の初夢は明らかに10代な女の子の尻を撫で回して泣かれる内容でした

1.噂話に熱中しすぎ、他の事が疎かになる暗示。
2.性的願望の高まり。あるいは、やや一方的な愛情を示すもの。
3.金運に関する夢の場合、「泣かれる=失う」なら、無駄遣いの暗示かも(独自解釈)

という検索結果が出たよ翔太郎
175 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 15:13:51.64 ID:0df+33dm0
人が戻ってきてうれしいうれしい

ところで冒涜的神話を調べてたんだが
ニャルみたいな外なる神は地球神の因果律の影響を受けないし
地球に顕現した貌もやろうと思えば天使や悪魔相手に舐めプしてSEIBAIすることも可能なのか…

これって最強…いやチートすぎない?
176 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/01/28(日) 15:26:26.49 ID:0df+33dm0
この程度ではチートとは言わない(断言)

ところで海外には可愛らしい旧支配者のぬいぐるみが売ってるそうな
これはほしい…
177 : [sage saga]:2018/02/01(木) 20:16:35.90 ID:c1zcRU87o
ウッ....ハァハァ....
ウウウッ....ハァハァ....ウッ!?

........ハァハァ
ウゥウ〜....ハァハァ
178 :次世代ーズ 前回 >>132-134 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:38:42.03 ID:ale9fTeBo
 


 ある学校で、男子生徒が放課後、教室に居残っていた
 男子が何となく窓の外を見ると、向かいの校舎の屋上に人の影がある
 男子は不審に思い、窓に近づいてよく見ようと目を凝らした


 その瞬間だった、人影が飛び降りたのは
 重たい物が堅い地面に激突する音が、確かに聞こえたのはその直後だ


 突然の出来事に混乱した男子生徒は暫く動揺していたが
 兎に角人を呼ばないと、飛び降りた人はまだ助かるかもしれない、そう思い
 人影が落ちたであろう場所に駆け付けるが、其処に誰かが飛び降りた痕跡は無かった

 取り乱した男子生徒は、部活中の生徒や付近を通り掛かった教員を捕まえて話をしたが
 誰かが飛び降りる現場など誰も目撃していないのだと言う

 騒ぎを聞いてやって来た用務員は男子生徒の話を聞くなり
 腑に落ちたような顔をして、男子生徒に説明を始めた

 昔、この学校で飛び降り自殺があったのだと
 女子生徒が校舎の屋上から飛び降りたのは、丁度、男子生徒が飛び降りを目撃した時間帯
 彼女が死んだ後、時折このようにして在る筈の無い飛び降りの光景を目撃する生徒が少なくなかったそうだ


 彼女は死してなお、飛び降りを繰り返しているのかもしれない










 
     「繰り返す飛び降り」
 







 
179 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」 1/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:39:58.10 ID:ale9fTeBo
 



 週が明けて月曜日、その夜
 俺達は東中に向かっていた。勿論理由は東ちゃんに会う為だ
 俺達、ってのはつまり


「まあ頼まれたからには聞いてやっけどよぉ」
「新谷のおいちゃん、やっぱり陽が落ちると寒いね」
「そだね、でも寒くなると星が綺麗に見えるんだよな、ほら」


 先週金曜の顔ぶれと一緒だからだ
 「人面犬」の半井のおっさんに新谷さん、「コロポックル」のれおん
 そして俺の計四名、この数で押し掛けるからには今夜中に東ちゃんを見つけたい所だ


「なあ、兄ちゃん」
「おん?」


 後ろから新谷さんに話し掛けられた
 ホワイトシェパードな新谷さんは見た目がほぼ犬に近い
 この日も新谷さんはれおんを背中に乗っけていた


「あいつら、人身売買やってたんだよな。もう捕まったかな……」
「今頃は『組織』に捕まってるよ。わざわざやって来てたわけだしな」
「だといいんだけど」
「大丈夫だよ、後のことは『組織』が何とかするだろ」


 あいつら、ってのは先週金曜にれおんを誘拐しようとした連中のことだ
 現場には俺たちの後から『組織』所属の二人組が駆け付けたわけだし、直ぐ気づいただろう
 むしろあれで犯罪者共をみすみす見逃してたとしたらだ、『組織』は余程のポンコツってことになる

 それ以上に気になるのは奴の存在、あの『組織』の刀使いだ
 現場で遭遇したとき俺を注視していたわけで、間違いなく俺に気付いていた

 ひょっとしなくても確実に目を付けられてる? 「組織」に?
 やばくない?

 いやいや考えるのは止めろ俺! もう既に何度も悩んだろ俺!
 悩み過ぎて眠れない夜を過ごしたりもしたけど、そもそも「組織」に目を付けられたんなら
 もっとこうストレートに接触してくるだろ普通。だからきっと大丈夫だ。多分、多分ね


「それより新谷さん、れおんも一緒なのは何か訳とかあったり?」
「そりゃおめえ、留守番は危ないからだ」


 迷いを振り捨てて、取りあえず今気になっていることを訊いてみると
 答えが返って来たのは先頭を行く半井のおっさんからだった


「確かに野良の連中が侵入してくるリスクは低いだろうが
 オヤジは寝入っちまってるし、ヤバい部屋はヤバいからな
 おまけに最近は『黒服』が付近を張ってるようだしな、万が一ってこともある」
「オヤジ?」
「いずれ紹介するよ、“地下区”のこともな」


 地下区? よく分からんが学校町の地下が根城ってことだろうか
 ううむ、この町のことは一応下調べしてきた積りだったけど、まだまだ未知がいっぱいとは
 前に瑞樹さんから色々教えてもらったことを思い出しながら……あ、そうだ
 半井のおっさんに真っ先に言うべきことがあったんだ


「そういやおっさん、以前の霊園訪問の件で『墓守』さんが怒ってたぜ」
「は、なんで急にその話が出てくんだ? 大体あれだ、ほら、墓でうるさくしてたのはお前だろ早渡」
「おもにありもしない呼び出し方を新参者に吹き込んだ不届き極まりない都市伝説が居るってとこにな
 おっさん、あんたのことだからな?」
「は? 俺!? あっおいまさか! 早渡お前『墓守』にバラしたのか!?」
「馬鹿言うなよ、『墓守』さんは最初から最後まで全てをバッチリ把握済みだ」
「阿呆かお前!! あれだ、あの、あの人はキレるとめっちゃ怖えんだぞ!?」
「知るか、俺にホラ吹いた報いだろ」
 
180 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」 2/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:40:43.87 ID:ale9fTeBo
 



 そうこうしてる内に東中に到着した
 半井のおっさんが軽くパニックになってるのは華麗にスルーだ
 東中は何というか、静かなのは静かなんだが何処か不穏な雰囲気なのは相変わらずだ
 
 
  そうだな
  俺はこの場所が好きになれない
 
 
 今回は校庭ではなく、校舎の方を目指す
 何となく東ちゃんはそっちに居るような気がしたからだ


「一応もう一度説明しとくとだな」
「わあってるって、お前の惚れた女の捜索だろ」
「違うって、本当に最近知り合ったばかりなんだって」
「兄ちゃんのおともだちなの?」
「友達ってか、知り合いだな。あんま話したわけじゃないんだ」
「やっぱ惚れてんだろ、JCによ」
「いや俺はどっちかで言えば年上のが好き、みたいな?」


 何故、夜中の東中に来たのか
 既におっさん達に理由を伝えてあった
 人探しは手の多い方がいいし、何よりおっさんは鼻が利く


「しかし、――『三年前』の事件の犠牲者、か」


 一通りふざけた後、半井のおっさんが口を開いた
 おっさんから「三年前」の話を聞くのは初めての筈だ


「あの事件も胸糞だったな」
「中学の子供たちが連続で飛び降りたやつでしょ? 怖いよね、契約者って」
「確かに実行犯は契約者だが、裏で糸引いてたのは『狐』って話だ」
「あれ、おっさん知ってたのか?」
「馬鹿野郎、早渡、俺を誰だと思ってやがる
 それに、『狐』に警戒してたのは『組織』だけじゃ無えんだ
 当時は俺達んとこに『犬神』様が居候してたからな
 他の連中よりも『狐』の動向については幾らか察知してたんだよ」
「『犬神』様」
「そうだ、あのときは確か新谷も……、いやお前確か当時は辺湖に逃げてたんだったか」
「うん、半井さんの指示で」
「まあ、そうだな。兎に角、信仰も薄い今の世じゃ『犬神』様では到底あれに対抗出来る筈も無く、な
 見てるこっちが可哀想なくらいブルっちまっててよ、まあそれでも三年前は『狐』が失せたから良かったんだ」
「早渡の兄ちゃん、『犬神』様は今年の春先に学校町を出て行ったんだ、れおんも覚えてるでしょ」
「うん」
「春先って言えば」
「そうだ、『狐』が学校町に戻ってくるのを知った途端にな
 『貧乏神』の子と一緒に出来るだけ遠くに逃げるって聞かなくてよ
 その時点で俺達も嫌な予感がして、警戒モードに入ったってわけだ」
「そんなことが」


 これは初めて聞く話だ
 狐と犬は相性が悪い、何処かで聞いた話がふと脳裏を掠めていった


「まあ、あの事件から暫く経って『飛び降り』のガキが夜な夜な現れるって噂は耳にしてたが」
「今から会いに行くのってその子なんでしょ? どんな子だろ」
「俺が会ったときは、まあ普通の子だったよ。ただ最後の方は様子がおかしかったけど」
「お前が会いたがってるのは『狐』の手掛かり探しの一環か」
「別にそれが目当てってわけじゃ無いんだけどさ、ちょっと気になって」
「しっかし、よく今まで『組織』に討伐されずに済んだな」


 まさに『組織』に目を付けられてて、そろそろヤバそうなんだよ
 などとは言わないでおこう、これ以上余計なフラグは立てたくないからな

 さて、校舎だ
 どっから探そうか

 
181 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」3/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:41:28.73 ID:ale9fTeBo
 



「どうする、ここはやっぱ二手に分かれて探す?」
「待て待て待て、駄目だ却下」


 無難な方法を提案したところ即座に半井のおっさんに止められた


「バラけると有事の戦力的にちょっちヤベえぞ?
 この中で戦えるのは俺と早渡くらいだからな、万が一ってこともある」
「気にし過ぎ――とも言えないか」
「早渡、お前『モスマン』のことは忘れちゃいねえだろうな?
 最近は気味悪いくらい東区で目撃されてんだ、今夜遭遇しないとも限らんぞ」
「でも、此処に来るまでに『モスマン』は見なかったよ?」
「甘えんだよ新谷、見えないときほど危険なんだ。少しは気ぃ張っとけや」


 というわけで全員で固まって探すことになった
 確かに分散すると連携は携帯頼りになるし、何かあったときに心許ない


「それで、どうかな」
「うん、夜は色んな臭いが混ざっちゃうからさ、時間掛かっちゃうかも」
「そりゃお前の経験不足だ新谷
 弱いが確かに匂いはあるな。早渡、アタリはついてるか?」
「先ずはこの先に行こう」


 この先
 以前、花房直斗と一緒に来たとき、奴が献花した一角だ
 別に“波”を感じるわけじゃないが、今夜は勘でも冴えてるのかそんな気がしたんだ

 半井のおっさんと並ぶように歩を進める
 後続する新谷さんは心なしか緊張しているようだった


「お」
「ビンゴだ早渡、気をつけろ。臭いが濃いぞ」



 いた



 東ちゃんが、いた

 花やぬいぐるみが供えられた壁際に向かって
 東ちゃんはしゃがんでいた

 丁度こっちに背を向けるような格好だ

 足が、速まる

 心拍が、速まる


「東ちゃん」

 彼女の、名を呼ぶ

「東ちゃん!!」



 おもむろに彼女は振り返った

 顔は青白く、頭から血を流している


 彼女の“波”は、以前のものでは無かった

 東ちゃんは変質していた


 
182 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」4/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:42:24.62 ID:ale9fTeBo
 



 俺は東ちゃんに距離を詰めた
 彼女は逃げるでも無く、俺の顔を見ている

 無表情で


「誰?」

「俺だよ、覚えてないかな
 前にここで会ってさ、それで」

「知らない」

「覚えてない?
 花房君も一緒だったんだけど、奴のことは覚えてるよね?」

「知らない」

「覚えてないのか
 屋上で『再現』を見たことも覚えてない?」

「覚えてない。何の話?」


 不意に“波”が、少し強くなった
 東ちゃんが俺に警戒してるのが嫌でも分かる

 意を決した


「本当に覚えてない?
 『三年前』のあの日のこと、『再現』で見たの」

「覚えてない。あんた誰なの? 何しに来たの?」

「東ちゃんのことが気になって来たんだ
 『あの日』、何があったのか、俺は理解できたけど
 東ちゃんの様子がおかしいみたいだったから、心配で」

「心配? 何が心配なの?」


 東ちゃんは嗤っていた

 眉間に皺が寄り、俺を睨み付けた、歪な笑顔




 
183 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」5/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:43:12.30 ID:ale9fTeBo
 

「やめてくれる? そういうのうざいだけだから。早く出てって」

「駄目だ聞けない、東ちゃんと話がしたいんだ」

「帰って。あんたも私のこと、笑いに来たの?
 馬鹿にしに来たんでしょ? お願い、帰って。早く出てって」

「あんたも? 俺意外にも誰か来たの?
 そいつが東ちゃんのこと、馬鹿にしたのか?」

「なんであんたなんかにそんなこと教えなくちゃいけないの?
 助けてよ、私、あんたのこと殺したくないよ。頭の中でずっと声がして
 みんなが、出てきて。違う、私、違うの、お願い止めて。もう帰って! 帰ってよ! 目の前からいなくなって!!」


 今度は泣き出し始めた
 遠くからのおぼろげな灯りを受けても、彼女の眼は微かな光すら宿していない

 そして
 彼女の“波”が先程よりも変化しているのが分かる

 不安定に
 まるで、暴走する都市伝説のように

 コードに呑まれたANのように


「私がどれだけ怖い思いしてるか分かる? 分からないよね! 分かるはず無いよ!!
 気づいたら、屋上に立ってるの、フェンスの向こう側に、そんな積り無いのに
 そしたら、飛び降りてて、頭から真っ逆さまに、堕ちて、痛くて、寒くて、震えて」

「東ちゃん」

「私、好きじゃ無いんだよ? なのに、気づいたら、屋上に立ってて、もう一人の私が笑うの、
 誰かを道連れにしちゃおうって、怖いよ、みんながさ、私の声で言うの、お前のせいだって、
 違う、私、これ、好きじゃ無いし、私のせいじゃない、私だけ助かったんじゃない、違う、違う違う違うっ!!
 道連れにすれば楽になれるって、私が言うの! 気付いたら、屋上に居て、私、違う、やだ、やりたくない!
 違う、怖い、一人じゃないなら怖くないって、違う、嘘だ、私、やだ、こうはいを、やだ、私、私、後輩を殺したくないっ!!」

「東ちゃん」


 彼女の手を、掴んだ


「言って信じてくれるか分かんないけど、君を助けられるかもしれない
 俺を信じてくれるか、東一葉ちゃん」


 東ちゃんは驚いたように眼を剥いた
 不意に沈黙が場を支配した


「それ、知ってる。私の、私の――名前」


 黙った
 その代わり、彼女の言葉を肯定するために頷いた
 東ちゃんの眼から大粒の涙が溢れ、零れ落ちるのを、ただ、見守った


「馬鹿じゃないの」


 それは擦れた声だった
 不意に“波”が和らいだ


「なんで早く助けに来てくれなかったの?
 私が飛び降りる前に、なんで来てくれなかったの?
 どうして私がこんなになってから、止めてよ、優しくしないで、もう私は、もう、遅いから」

「遅くないよ、こっちに来いよ」

「じゃあ、助けてよ」

 
184 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」6/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:43:54.80 ID:ale9fTeBo
 



 顔を上げた彼女の顔は、もう歪んでいなかった
 涙を零しながら、ようやく東ちゃんは声を発した


「助けてよ」
「  っ!?」


 出し抜けに
 “波”が強まった
 さっきの比じゃない
 なんだこれは!?


「そんなにカッコつけるんならさ、私のこと、助けてよ」


 そして
 東ちゃんは消失した


 思わず舌打ちした
 失敗した! 上手くやれば何とかいけると思ったんだが!!


「おいおいおいおい待て待て待て待て」


 半井のおっさんの声にビクッとなった
 そういや集中してた所為ですっかり後ろの皆のことを忘れてた


「ちょっと急に口説きに入った理由をね、おじさんに聞かせてほしい。何やってんだテメーは?」
「いやちゃんと理由があんだよ! 前に説明したろ!? 見ての通り、東ちゃんは“取り込まれ”かけてた!
 前会ったときはあんなじゃなかったんだ! だから多分“揺り戻し”だろうと見当をつけたんだ
 “取り込まれ”から引っ張り出すには、まず落ち着かせて、“名前を呼んでやること”、だろ!?」
「早渡、あのな? そういうのは“取り込まれ”が比較的軽い奴にはよく効くんだけどよ
 俺の見立てじゃ、あの嬢ちゃんはほぼ“なりかわり”っつーか、もう完全に――」


『たすけてよ』


 咄嗟に顔を上げた
 献花された一角の遙か上方、校舎の屋上に人影は見えない

 ならば何処だ?


「おっさん! 今の聞こえたよな」
「わあってるよ! “取り込まれ”のキッツい奴なら“オリジナル”通りにしか行動出来なくなるからな!」
「待ってよ、早渡の兄ちゃん、半井さん! 俺、さっきから置いてけぼりなんだけど!!」
「うるせえ新谷!! あの嬢ちゃんを探せ! お前の鼻は飾りか!?」
「原話通りなら“飛び降り”だ! 新谷さん、屋上に居ないか見てくれ!」


 自分が何処でヘマしたのかを判断する材料さえ無い
 明らかに踏んだ場数は少ない、とはいえそんなのは言い訳にはならない

 俺がしようとしてたのは、“取り込まれ”かけたANを元に戻すこと
 自我を獲得した都市伝説が自分の原話(オリジナル)に引きずり込まれかけたとき
 それを阻んで、自我の側へと引っ張り戻してやることだった

 もう少しで上手く行くんでは、と思ったのに
 甘かったとしか言いようが無い


 どうする?
 こっから先はどうするんだ?


「居たよ! 兄ちゃん! 直ぐ上だ!!」


 
185 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」7/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:44:41.99 ID:ale9fTeBo
 

 新谷さんとれおんの声に、意識が思考の渦から引っ張り出される

 校舎から数歩離れ、改めて屋上を仰いだ

 いる

 東ちゃんがいる

 先程は姿が無かったが、今はシルエットが見える

 屋上の縁に、彼女は立っていた


 どうする、俺



『お前は七尾(がっこう)で都市伝説の殺し方(ころしかた)は習っても、壊し方(たすけかた)は教わらなかったからな』

 心臓が早鐘のように音を立てるのを感じながら
 俺は彦さんの言葉を思い出していた
 「七つ星」でお世話になった、俺の兄貴分だった

『尤も、契約者で都市伝説を態々壊そうなどと考える奴は、そうは居ないのだが』

 彦さんの話では、AN、つまり実体化した都市伝説は
 そもそも実体化している時点で狭義の都市伝説から逸脱しているのであり
 それ故に、既に都市伝説では無いのだと、確かそういう話だった筈だ
 思い出せ

『だから彼らは、ある面で生きているのであり、ある面で人を襲い[ピーーー]のであり、故にある面で[ピーーー]せるのだ』

 “取り込まれ”かけた都市伝説が、その状態から脱するには
 都市伝説が、自信の原話(オリジナル)から完全に支配されているわけじゃ無いことを示してやれば良い

 あるいは、身を以て理解させれば良いのだという

『最も手早い方法は恐怖を与えることだ
 残念なことに、恐怖というのは横槍を入れることにかけては最高と言って良くてな』

 この話をしているときの彦さんは
 何故か、寒気を覚える微笑を浮かべていた

 兎に角、殴るか、さもなくば相手の服従する原話に基づく行動へ“介入”してやること
 それが、都市伝説を元に戻す、あるいは壊す方法、らしい
 曰く、実力が伴えば都市伝説を壊すのは容易い
 
 だがまさか東ちゃんを殴り飛ばすわけにもいかないだろ

『少しで良い。少しだけ“干渉”してやれば良い
 例えば「口裂け女」の質問に横槍を入れて掻き乱すこと
 そうすれば、もしかすると彼女の中に混乱が生じて自我が芽生えるかもしれない。あるいは』

 彦さんは酒を含みながら、薄く笑っていた

『健闘空しく彼女に殺されるだけかもしれない。そこはお前の実力次第だ、脩寿』



 “介入”
 今、俺にできること
 つまりそれは東ちゃんに“介入”すること
 具体的には彼女の飛び降りを阻止することだ



 
186 :次世代ーズ 28 「繰り返す飛び降り」8/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:45:26.58 ID:ale9fTeBo
 


 “黒棒”じゃ力不足だ
 それだけじゃ東ちゃんを止められない

 もっと“力”が必要だ


 既に俺は、昔の感覚を呼び起こそうと、記憶の底から引きずり出そうとしていた
 学校町に来てからあれはまだやったことが無い
 これで無理なら俺には無理だ


「おい、早渡! 聞いてんのか!? ヤベえぞ!!」


 東ちゃんが飛び降りる前に
 “尾”を引きずり出せないと、終わる

 不意に
 昔、口にしていた聖句を思い出した
 ANを発動させるときに必ず諳んじた一節を


   されど主よ 我が目はなほ汝にむかふ 我 汝に依ョり


 東ちゃんが飛ぶ前に

 引きずり出せ


 熱いモノを無理矢理引き抜くような痛みが背中に奔る

 主観時間が一気に鈍る

 東ちゃんの方を睨んだ



 東ちゃんが、屋上から落ちた

 重力に絡め取られながら

 彼女の体が、落下していく



 急げ

 引きずり出した“尾”を見る間も無く

 思い切り、天を指差した

 “尾”がその方向へと、東ちゃんへと突き進んでいく



   主よ 我 汝を呼ふ 願はくは速かに我に来たり給へ 我 汝を呼ふとき 我が聲に耳を傾け給へ



 空っぽの頭で、その言葉に縋り付きながら


 込み上げる怒りと絶望を抑え込みながら


 俺は“尾”で東ちゃんの体を受け止めた








□■□
187 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/02/10(土) 14:46:59.71 ID:ale9fTeBo
 

独自設定で勝手に学校町を拡張しやがって、と怒られそうですが
一応、ちゃんと参照元があります! と弁明します……

聡明な読者の皆様におかれましてはご存知の通りですが
学校町の地下(?)は20年ほど前の時点で水没しました
水没しました(多分)

アクマの人と花子さんの人に感謝と謝罪のの土下座 orz
投下がめちゃくちゃ遅れました
そしてギザ十の人にも感謝


本当は3話くらい一気出しする予定でしたが自分の未熟の所為で遅れに遅れてしまった……
次回、「私の方が先輩だからね!」「あの男……ぶっ[ピーーー]してやる……!」、やります


 
188 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/02/12(月) 00:40:09.11 ID:immnASWBo
お疲れ様です
早渡は何を行ったのか?
東ちゃんがどうなってしまうのか?
次の展開を期待しておりまする
189 :冬のかき氷 [sage]:2018/02/14(水) 00:24:51.39 ID:aqE6A8qeo
ある冬の週末のこと。ちらちらと降り始めた雪を見て
日本全国寒波襲来!という報道を思い返しつつも
男は馴染みの店に入るとカウンター前の列に並んで
何を頼むか考え始めた。

「今日はイチゴスペシャルか……いや、あんこ抹茶も捨てがたい……」

男が呟きながら悩んでいるのはそう、かき氷の注文であった。
大学の友人には揃ってこんな寒い日にバカだのアホだの言われた男だが
かき氷が好きなのだからしょうがない。いや、大好きなのだからしょうがない。

「待てよ両方…………2ついけ……いけるか?」
「……いけますよ」

男が振り向くと、女の子がグッと手を握り締めてこちらを見つめていた。
目と目が合ったことにほんの少し驚いて反射的に視線を下げると
寒い日にも関わらず露出した、白く眩い肌の見える首元には雪の結晶のネックレス。
そのまま視線が胸元に留まりそうになるのをこらえて顔をあげ、口を開く。

「ならイチゴスペシャルとあんこ抹茶を一つずつ」
「かしこまりました!」

名前は知らないが顔馴染みの店員に、常連権限で注文を済ませて席に座る。
窓の外を見れば雪の勢いがほんの少し増したように思えて
早く暖かくなってほしいと、男は今度こそ心の中で呟いた。
190 :冬のかき氷 [sage]:2018/02/14(水) 00:25:28.69 ID:aqE6A8qeo
そんな日常から数日後のある日の夕方……すっかり日も没した時分
人通りの少ない住宅街の道で薄く積もった雪を踏みしめながら
男は馴染みのあの店、つまりかき氷のことを考えていた

「来月から始まる謎の新メニュー、気になりすぎる……」

そんなことを呟いていると、前方から物音が聞こえた気がした。
いやこれは物音ではない――――戦闘音だ。
男は舌打ちすると走り出し、ファスナーを下ろしてコートを脱ぎ捨てる。
続いて靴を脱ぎ捨てシャツを放り、ベルトを外してズボンを置いていく……
もちろん男が狂った訳ではない。こうしなければ戦いに障りがあるだけのこと。
ようやく見えた現場では、和服の女性が大きな車輪の猛突進をかろうじて避けていた。

「大丈夫、パンツは……また買える!ウオオオオオオオオオ!!!!」

雄叫びと共に男の体が炎に包まれる。
その背からさらにロケットのごとく炎が吹き上がったかと思うと
男は弾丸のように前へ前へと加速し、ほんの一瞬で現場にたどり着き
車輪の横腹で目を見開く髭面のおっさんの顔に、容赦なく右ストレートを叩き込んだ。
こうして住宅街に現れた都市伝説『輪入道』は、あっけない最期を迎えた。

「なんとか倒せたか……あの、大丈夫で「きゃああああ?!!」……あっ、と、クション!」

悲鳴をあげ長い黒髪を振り乱して脱兎のごとく逃げ出した
顔も知らない和装美女(推定)を見送ると、男はクシャミをして服を回収し始めた。
冬の夜空の下で、契約都市伝説『人体発火現象』が鎮火し全裸になった彼の背は
寒さ以外のなにかで縮こまっているようであった。
191 :冬のかき氷 [sage]:2018/02/14(水) 00:25:58.21 ID:aqE6A8qeo
ある冬の日のこと。男が馴染みの店で列に並んでいると

「あの……ちょっといいですか?」

男が横を向くと、名前は知らない顔馴染みの店員が手招きしている。
案内されるがままに奥の席に座ると、店で見覚えのないかき氷が運ばれてきた。
チョコレート色のかき氷にかけられたチョコレートシロップ
さらに振りかけられているのはチョコチップとこれは……砕いたビスケットか
ふとそこで今が何月なのかを思い出した。

「これは……まさか?」
「その、新メニューは本当だと来週からなんですけど……試食してくれる人が少なくて」

なのでよかったら、お礼に……いつも来てくれてますし……
黒いポニーテールを揺らしながら、どことなく恥ずかしげに言う彼女の前で
男はスプーンを持ちゆっくりとかき氷を食べ始めた。
常連特権、素晴らしい。そう心の中で呟きながら……

二月も半ば、寒い冬の日のことだった――――
192 :冬のかき氷 ◆MERRY/qJUk [sage]:2018/02/14(水) 00:32:58.32 ID:aqE6A8qeo
この寒い時期にかき氷好きが高じて店で若い女の子と盛り上がった……
という話を道端で小耳に挟んだので突貫で書きました

この物語はフィクションです
危険なので冬の夜に全裸徘徊はやめましょう
あとチョコのやけ食いもやめましょう
193 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/02/14(水) 02:01:55.61 ID:E4MBbMCB0
皆さん乙です
早渡がようやく本気出したか
しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…
かき氷の単発の人改め悪魔の人も乙!
冬場に氷菓が食べたくなる?普通だ!炬燵で雪見大福は格別だからな
かき氷にチョコシロップとは粋な演出ですね

ところで和装の美女は男の股間を見たのかそれが問題d(
ところで俺は今日職場でチョコを20個もらう予t(
194 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/02/14(水) 02:08:40.21 ID:E4MBbMCB0
ところで皆さんどれくらいチョコ貰うんですかねえ
195 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/02/14(水) 02:10:31.85 ID:E4MBbMCB0
やっべ途中送信
学校町の野郎共は沢山貰う奴と全く貰えない奴の差が極端なイメージだが
果たして
196 :大王は伝説使徒 ◆dj8.X64csA [sage saga]:2018/02/16(金) 22:37:58.57 ID:3qFja0t9O
>>189-192
乙ですの。人体発火……不便だなぁwww
某TRPGのドレイクという人型種族も、ドラゴン化すると服が破ける残念仕様でしてー
戦うと脱げるのが最近のムーブメントなのかしら

それはそれとして、かき氷なのか。でも食べたい
197 :次世代ーズ 前回 >>178-186 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:30:52.85 ID:nPXwulCpo
 




「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああすっっっ!!!!!!!」


 闇夜をつんざく、絶叫
 歯を食いしばりながら頭上の声の主を仰いだ

 東一葉
 「三年前」の事件の犠牲者にして都市伝説「繰り返す飛び降り」と化した女の子

 原話(オリジナル)に“取り込まれ”かけていた所に俺達が割り込んだ
 何かって言うと、彼女が飛び降りようとしたところで邪魔をしたんだ
 もっと具体的に言うと、飛び降りた直後に俺の“尾”で受け止めた
 “取り込まれ”を阻止して彼女を正気に戻す方法をこれしか知らなかったからな

 で、だ


「いやだあああああああっっ!! 離してええええええええっっっ!!!!」
「ちょっ! おいぃぃっ!? あああ暴れんじゃねえって!!! おいぃぃっ!!!」


 正気に戻ったのか分からないが、めっちゃ暴れてる

 状況を乱暴なほど簡単に説明すると現在彼女は宙高く浮いている
 東ちゃんが飛び降りた瞬間に、生やした“尾”を飛ばすように引き伸ばして
 “尾”の先端で彼女の体を掴んで止めたような格好だ
 そして東ちゃんはなんでか“尾”から逃れようと死にもの狂いで暴れている

 そうだな、ついでに言うと、俺が“尾”を生やしたのは本当に久し振りだ
 少なくとも学校町に越してきてから“尾”を使ったことなんて――余計なこと考えてる場合か!?


「離しっ、やだあ、やだああああっ!!! 離さないでぇぇぇぇぇっ!! いやああああああっっっ!!!!」
「だからっっっ!!!!!!! 暴れんなってっっっ!!!!!!!」
「おい早渡!! 上だ!! 屋上に押し上げろっ!!!」
「出来るなら最初からそうしてらあああっ!!! クソっ! お、“尾”の感覚がっっ!! クソぁあっっ!!!」
「いやだああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!」


 久し振り過ぎて上手く制御出来ないだなんて笑い話にもならねえぞ!?
 兎に角、東ちゃんをホールドしたままゆっくり地面に下ろさないと!!
 だが持つか? 持つのか俺の“尾”っぽ!? 持ってくれよ!!

 途中から東ちゃんのパンツが見えたまんまになっちゃったが構ってる余裕はない

 先程までの彼女の様子とは大違いな絶叫に半ば耳が麻痺したまま
 “尾”がバラけないように全神経を制御に集中するしかない!


「おおっっ……!!! おあああっっ!!!」
「あとチョイだ、あとチョイっ! 早渡ィっ、踏ん張れぇぇっ!!!」

「離さないでええええええっっっっ!!!!! やだあああああああうお゛っっ、げほっっ、ごほっ」


「うおおおおおっ……!!! おあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!!」

















 
198 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:32:12.57 ID:nPXwulCpo
 


 その後
 軽く一時間くらい経過したんじゃないかと思う

 “尾”を使った所為か
 全身から力が抜けるような脱力感に襲われながらだったので
 その間のことは、もう記憶も飛び飛びだ


 まず、東ちゃんを無事地面に降ろすことには成功した
 “尾”を使うのが余りにも久し振りだった為か全身をくすぐられたような感覚だ
 膝がガクガク笑いながらもどうにか気合で立っていたが

 次に、東ちゃんは悲鳴を上げてその場から逃げ出した
 「人面犬がいるううう!!」とか絶叫してたんで半井のおっさん見てビックリしたんだろう
 今更だろって話だが半狂乱になって飛び出した東ちゃんを慌てて追い掛けたものの
 東ちゃんを探し出すのに滅茶苦茶時間が掛かってしまったんだ

 最終的に校舎と校舎の隙間部分の更に奥に隠れた東ちゃんを見つけ出して
 何とか説得して出てきてもらったんだが、具体的に何を言って説得できたのかは
 ほぼ何も考えずに喋ってた所為か、あまり覚えていない

 ああ、ただ東ちゃんも正気に戻って前のことを思い出したのか
 俺のことを記憶してくれてたようで、それが幸いした
 こうして俺達は半べその東ちゃんになんとか出てきてもらったんだ

 それで、だ
 今の俺が何をしているかというと、
 半井のおっちゃんの提案で何か飲み物を買いに行く所だ
 この中学、高校とは違って自販機が設置されていないらしい
 お陰で一旦校外に出た上で自販機を探さなくちゃならなくなった

 正直まだフラフラしてるんだけどね













 
199 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:32:51.12 ID:nPXwulCpo
 











 そう、故に早渡達は知り得ない
 東一葉と合流を果たした彼らを遠方より観察する人影があったことに


「もうちょっと近づいた方がよくないのー?」
「駄目よ、これ以上距離を詰めて勘付かれたらまずいでしょ」


 その者達は双眼鏡で早渡達の動向を監視していたのだ


「やっぱりあの人、犯人じゃ無さそうな感じなのー」
「何言ってんのよ!? 今見てたでしょ!? アイツが『学校の怪談』の子を追い詰めてるの!!」
「でもぉー……なんだか、助けようとしてる風に見えたなのー……」
「いいメリー? これだけ状況証拠が揃いつつあるのに容疑から外すなんて考えられないわ!」
「あれ、でも……、あの『怪談』の女の子は……」
「上手く逃げ出せたみたいね。それにしてもあの子、なんで今夜は屋外に居たのかしら?」


 早渡が自販機を探すために校外に出た所も、その者達は把握していた


「まさか人間のみならず都市伝説まで襲ってるなんて……、とんだ見境無しね」
「どうするのー……? 今から追い掛けてやっつけるのー?」
「いえ、今夜はあくまで様子見、でも尻尾は掴んだわ。あの男、絶対に――」


 片割れの声に、敵意が滲む


「――ぶっ[ピーーー]してやる……!」


 その者達がどのように早渡と関わるのか
 彼らはまだ、知る由も無い











 
200 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 4/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:33:28.75 ID:nPXwulCpo
 



          ●



「その、ありがと」


 東ちゃんはおずおずとコーンポタージュの缶を受け取った

 結局自販機を見つけるのに手間取って時間を使ってしまった
 買ったのは手に持てる量の問題で俺と東ちゃんとれおんの分だけだ


「まあ、俺達の分は無いよね」
「新谷ぃ、そういうナマはテメエでプルタブ開けれるようになってから言えや」
「悪い、今度改めて奢るからさ」


 れおんにみかんジュースのボトルを渡し、俺はスポドリのプルタブを開けた
 喉の奥へと一気に流し込む。冷たさが体に沁みるのが妙に心地よい
 少しは先程の疲れも紛れたかもしれない


「それで、さ。君は、わたしの心配して見にきてくれたの?」
「嬢ちゃん、キモいんならキモいってはっきり言ってやれよ。早渡の奴は喜ぶからよ」
「俺を変態みたいに言うのはやめろ?」


 取りあえず余計なおっちゃんの一言に突っ込んで、東ちゃんに向き直る


「ほら。花房君から『三年前』の真相を聞くってときにさ
 東ちゃんも一緒だったら事件の『再現』にも付き合う、って答えたじゃん
 なんつーか、俺の都合で勝手に東ちゃんを巻き込んだわけだし」

「気にしないでよ、あのとき言った通りだから
 わたしもあのときのこと、『飛び降り事件』のこと、知りたかったし」


 彼女は両手でポタージュ缶を握ったままで答えた
 その顔は外灯があるとはいえ、校舎の陰に紛れてよく見えない


「そっか、わたし都市伝説になっちゃったんだ
 なんかまだよく信じらんないよ、死んだ人間が都市伝説になるってあるの?
 ていうかさ、都市伝説って実在するんだ?」

「現に目の前に居るだろ、人面犬の俺や『コロポックル』のガキがよ。それに早渡は『契約者』だ」
「契約者?」
「都市伝説と契約を結んだ人間のことだよ」


 おっちゃんの説明を一応補足しとく
 とはいえ、今の東ちゃんにとって必要な説明では無い気もするが


「死んだ人間が都市伝説になるかは、珍しいことだけど前例が無いわけじゃ無いしな」
「そっかー……」


 東ちゃんの声は何処か困惑気味だ
 仕方がない、いきなり理解しろってのが無理な話だ


「それで『再現』見終わった後、東ちゃんが急に居なくなったけど」

「ごめん、実はあの後のことも、あんまりはっきりと思い出せないんだ
 なんて言えばいいんだろ、この姿になってからさ、今日屋上から飛び降りるまで、ずーっと悪夢見てたみたいな気分
 悪夢の中にいた、って言った方がいいのかな」


 花房君が花選びのセンス無いってとこはハッキリ覚えてるんだけどね
 東ちゃんはそう困ったように笑ったようだった

 
201 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:34:07.90 ID:nPXwulCpo
 


「あと、あー。あの、さ
 出来れば、さっきわたしが、飛び降りる前に話してたこと
 あの、全部忘れてくれると嬉しいな、って、ダメ? ダメかな?
 さっきのって、なんかうわ言みたいな感じだから。もう、恥ずいから
 わたし、すっごい冷たいこと言ってたよね、あれ本心じゃないからね? だから忘れてね?」

「ん、OK。今夜限りで後はさっぱり忘れるよ」

「あと、さ。そろそろ名前教えてよ!
 いつまでも君呼びは嫌だし、それにそっちはわたしの名前知ってるのに
 わたしが知らないって気持ち悪いじゃん! だから名前教えて!」


 おん?
 まだ自己紹介してなかったか


「俺は早渡脩寿。高一だよ」
「むー、高一なら、ええと、うーん、多分わたしより一個下だよね?」


 当然そうなる
 花房君の一つ年上って話だったからな


「じゃあ、あの! 東ちゃんって呼び方はやめよーね!
 一応わたし、君より先輩だし! 敬っていいんだぞ!? ていうか、あの、敬って!!」


 あら
 ひょっとして東ちゃん、改め東先輩は意外と上下関係を重んじるタイプなのか
 これは意外だな


「じゃあこれからは東先輩と呼ぶことにするっす」

「あっ、ちがっ、待って! そうじゃなくて! 東ちゃんなんて呼ばれ方が嫌なだけだから!
 あの、ほら! いよっちって呼んでよ! わたしのあだ名だから!」

「いよっち先輩」

「そ――そうそう!!」


 なんだ、いよっち先輩
 握りこぶしな両手をポタージュ缶ごとぶんぶん振ってるが
 そんなに先輩呼びが嬉しかったのか
 てかリアクションが一々面白いな


「それで、青春タイムの最中悪いが、俺達も自己紹介がまだだったよな?」


 半井のおっさんの声にいよっち先輩が固まった
 どうもおっさん達の存在を殆ど忘れてたんじゃないだろうか


「俺が半井、『人面犬』な? で、こいつが俺と同じく新谷だ
 で、こっちのチビが『コロポックル』のれおんだ」


「いよっちちゃん、よろしくね」
「いよっちせんぱい」
「へ、あ、あー、ちっちゃい子にそう呼ばれると、なんかその、恥ずいよー!」


 れおんの奴、さっきからずっと黙ってたのに
 澄ました顔でいよっち先輩呼びとは中々やるな


「でも何だかこうやって人と話するのって久し振りだよ!
 前に花房君達と話したけどさ、そう言えば話し掛けてくる人なんて今まで居なかったなーって
 自分のこと、ずっと幽霊だと思ってたから、中学の子もみんなわたしが見えないみたいで――」


 
202 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:34:42.86 ID:nPXwulCpo
 


「――あ、ふ
 っと、ごめん。安心しちゃったのかな。ちょっと眠くなってきちゃったよ」


 眠気が? そりゃいい兆候だ
 睡眠や食事はANには必ずしも必要の無い要素だ
 そもそもコードに忠実な個体になると欲求は全く必要なくなる
 こうした欲求は“取り込まれ”から脱して自我を維持していく上で重要だそうだ
 まあ全部彦さんからの受け売りだけどな!
 というわけで俺がコーンポタージュをチョイスしたのも決して気まぐれからじゃない


「ところで嬢ちゃん、今夜は何処で寝るんだ?」
「え、あ。それ考えてなかったや」
「でも今まで中学に居たんだよな?」

「うん。でも、さっきも言ったけど半分悪夢見てたような感覚だし
 学校で寝てた覚えが正直無いっていうか、ていうか夜の学校で眠るなんて怖いしやだよ!?」

「どうする? 早渡」
「いよっち先輩。……うち、来る?」
「え? それって早渡後輩の、お家? え、うーん」

「まあまあ待て待て早渡、いくら都市伝説とはいえ年頃の嬢ちゃんだ
 オメーのような野郎と一つ屋根の下ってのはちょっち憚られるだろ」

「まあそりゃそうなんだけど、他にベターな案が無くってさ」


 流石に高奈先輩に頼るってのはまずい
 いきなり女の子を連れてきて泊めて貰うよう頼むなんて、向こうからすれば困惑モノ過ぎるだろ


「おっさん、そっちに伝手はあるか?」
「無いわけじゃねえが、ちょっち話つける必要がある。久し振りに会う相手だからな」


 成程、ならばおっさんに任せよう
 一応当初の手段として用意していた、いよっち先輩を「七つ星」に連れて行くって手もある
 学校町から向かうとしたら結構手間な手続きを踏むことになるが、何も考えなかったわけじゃない


「そういや肝心なことを忘れてたんだけどよ
 嬢ちゃん、お前都市伝説になってから中学の外に出たことあるかい?」

「え? ううん、無いと思う。考えもしなかったから」
「何だおっさん、何か引っ掛かる所があったのか?」

「いやよ、『繰り返す飛び降り』が地縛霊みたいなもんだったら
 そもそも嬢ちゃんが学校から離れられっか怪しいぜ」

「えー、いくら何でもこれ以上夜の学校に居るのはやだよ!!」



 
203 :次世代ーズ 29 「空より来りて」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:35:22.86 ID:nPXwulCpo
 


 いよっち先輩はやや涙声だ
 半べそになる程にここが嫌なのか
 いや、気持ちは分かる。この中学、妙に雰囲気が不穏だし


「大丈夫、策は用意してある」
「ほんと!?」


 今夜中学にやって来たのは確かにいよっち先輩の様子を確かめるためだった
 だが、以前の状況から彼女が“取り込まれ”かけていることも考慮に入れて計画は立てていた
 万が一いよっち先輩を保護するとなった場合のことも一応は考えてたんだ
 何も考えずにのこのこ中学に来たわけじゃ無いぜ


「おし、用は済んだしとっとと帰ろうぜ
 何だか静か過ぎる夜でよ、薄気味悪いもんだ――」



 全身が総毛だったのはこの瞬間だ
 途轍もない“波の先触れ”が脊髄を撫でた感覚

 口より先に体が動いていた

 いよっち先輩とれおんを掴むように、奥へと押しやった



「物陰に隠れて!! 速く!!」



 直後、後方で爆破音

 何かが地面に直撃したような振動が脚伝いに奔った



「うひゃい!! 何? 何なの!?」
「クッソ、このタイミングで来たのかよ!? 新谷ィ! れおんの傍、離れんな!!」
「いよっち先輩、姿勢低くしてて!」



 遠い外灯の光を受けて、地面に突き刺さったそれが鈍い輝きを放っている
 玉虫色のような不気味な反射光だ



「早渡やべーぞ! ありゃピンポイントでこっち狙ってやがる!!」



 校舎が死角となって現時点では襲撃者に直視はされていないようだが

 動きを悟らせないよう、僅かに足をずらして校舎の縁から空を睨んだ



 不気味な低音の唸りを上げながら、「奴」が滞空している





 俺達はたった今、「モスマン」の標的にされた








□■□
204 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:36:13.34 ID:nPXwulCpo
 

Q.いよっち先輩を受け止めたとき、どうして早渡は情けない声で絶叫していたのですか?

A.

早渡「いやほら、“尾”を出すの久しぶりだったし」
早渡「“尾”って腰からじゃなくて背中から生やしてるんだけど」
早渡「なんというか感覚的に凄くくすぐったかった」
早渡「なんかこんな風に言うと我ながら間抜けっぽく聞こえるけど」
早渡「全身が強制的に力抜けそうになったからね?
    気合入れなきゃいよっち先輩を落っことしてたかもだしね?」



早渡(てかこの程度でくすぐったいとか駄目だろ俺)
早渡(自主トレに励まないと……いっそ禿げ上がるくらいに……)






??(気にせず、電話、してくれても。良いのに)
??(もう長いこと脩寿くんと話してない……)ワナワナ
??(出番が無いですの……でもこれくらいじゃへこたれませんの……)プルプル

??(あの男……絶対この手で[ピーーー]……! 絶対にぶっ[ピーーー]してやる……!!)
 
205 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/03/08(木) 22:37:04.65 ID:nPXwulCpo
 

前回からほぼ一ヶ月か、遅い(白目)
花子さんとかの人に土下座です orz
次回でいよっち先輩については一区切り付く算段です


>>140
>ノイちゃんも沢渡もサンタコス着ようぜ

遅くなってすまない……>>158をご覧頂きたい!


>>174
>という検索結果が出たよ翔太郎

……もうちょっとポジティブに行こうぜ相棒(違う)
真面目に行くと1〜3までさもありなん、といった所ですね
流石に中の人淫行につき逮捕なオチは避けたい


>>180
>次の展開を期待しておりまする

ありがとうございます。次の次はピエロ行きます


>>193
>しかも女の子を助けるなど着々ともげろポイントを稼ぎやがって…

早渡のもげろの時は近い


「ピエロ」回りで混乱を催したのは次世代ーズの中の人の責任なので
終わりまではみっちり致す所存であります…… orz


 
206 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/03/09(金) 07:41:51.51 ID:apbiv13no
>>205
× >>180
○ >>188

>>192
おおう、お久しぶりです
私の中では既に店員さんと和装美女がイコールな前提で堪能しましたが果たして!
先ほど折角だし物は試しと氷菓をやけ食いにトライしましたが
ただ歯にしみるのがつらいです……

 
207 :鳥居を探すの人 ◆12zUSOBYLQ :2018/03/12(月) 13:43:04.28 ID:qSZIpYliO
なあ、俺今、一生懸命前の続き書いてる。
スマホから書いてるんだが、「幼女は」の続きの予測変換が「最高だ」ってなるの、何故だと思う…?
208 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/03/14(水) 07:34:55.99 ID:tygmt2dmo
>>207
予測変換で「幼女は」「最高だ」と来ましたか……
自分は「消したけど」が来ましたが、つまり鳥居の人は……(ゴクリ)

例によって過去スレ見返してますが
ひかりちゃん初登場は戦技披露会のときか、ふむ
209 :次世代ーズ 前回 >>197-203 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:52:06.01 ID:ImuJP87eo
 






 滞空するのは黒い人影
 だがあれはヒトじゃない、体躯以上に拡げられた翅がその証拠だ
 おまけに顔面と思しき部分からは二点の真っ赤な光を放ってやがる


「『モスマン』か……、この距離で見るのは初めてだけど
 ほんと毛むくじゃらのジャミラみたいな奴だな……」

「完全に俺達狙いとなっちゃあ戦るしか無えぞ、早渡」


 分かってるって、ここに来る前の約束だったしな
 『今夜は俺の所用に付き合うこと
  もしもヤバそうな都市伝説に会ったらまず俺が相手すること』
 そういう条件で半井のおっさんは同行してくれることになったんだから


「しっかし『モスマン』かよ。頑張るけどさ」


 校舎の死角から向こう側を窺うようにモスマンの動きを警戒する
 あっちは大きく八の字を描くかの如く緩慢に羽ばたいているが
 大きく移動を開始する素振りは見せていない
 どうも滞空してこちらの様子を観察しているらしい


「早渡どうする、タイマン張んのか?」

「馬鹿言え、遠距離相手じゃ分が悪すぎるよ
 いよっち先輩を逃がす時間稼ぎだ。頼んだぜおっさん」

「そっちは任された。だが相手は『モスマン』だ
 二手に別れたら直ぐに勘付かれちまうぞ?」

「仲間を呼ばれる前に急いだ方がいいな
 一応確認するけど、アイツ以外に他の『モスマン』は来てないよね?」

「アイツだけっぽいな、ニオイも気配も」


 おっさんの言う通り、俺達を狙った「モスマン」はあの一体だけ
 “波”を読もうと既に感覚は全開だが、他の個体が付近に居る様子は無い
 少なくとも、今の所は


「逃げるなら今だな」


 ジャケットの内ポケットから白いマフラーを引っ張り出した
 それを不安そうな顔をしたいよっち先輩の首に巻き付ける


「早渡後輩!? 何すんの!? って、何これ」
「マフラーだよ、特別製の。学校出るまで絶対外すなよ?」
「おし、れおんは新谷に乗れ! いつでも走れるように準備しとけよ!」


 やるしか無いのは分かってる
 分かってるんだけど一応おっさんに訊いとこう


「知り合いにさ、戦闘慣れした契約者か都市伝説さん居ないのん……!?
 出来れば、こう、遠距離が得意な方とかさ!」

「居るには居るが、どいつもこいつも近場じゃ無えな!
 それに呼んでる時間が無えわ! まあ気張れや!」


 気軽に言ってくれるな、おっさん
 あれだ、今は敵を撒くことだけを考えよう


「んじゃ、当初の手筈通り何かあれば直ぐに連絡」
「何も無ければ連絡無しで逃げ切る、だろ。そっちは準備OKか?」
「大丈夫だ。じゃあ――始めるか」



 
210 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 2/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:53:13.78 ID:ImuJP87eo
 

 身を翻して校舎の縁越しに「モスマン」を睨んだ

 不意に奴の体が下方へとブレた
 先程よりも羽音がうるさくなり出した

 確かな手応えは感じた。正しくは“尾”伝いの感触だが
 「モスマン」の様子を窺ってたときから既に“尾”を生やして
 地面や校舎の壁を這わせるように引き伸ばし
 真下の位置でとぐろを巻きつつ、奴を捕らえる瞬間を窺っていたんだ
 ただ単に奴の様子を眺めてたワケじゃない


 くすぐったさは気合で我慢だ
 掴んだからには離すつもりは無い
 “尾”の制御だけで「モスマン」を地面へと引っ張り込む
 奴が地面に叩き付けられる感触と同時に墜落の激突音が校舎越しに聞こえた

 今だ

 片手を高く上げておっさん達に合図を送る


「ほら! 嬢ちゃんも走るぞ! 急げ!!」
「え? え? ちょ、え!? でも早渡後輩は!?」
「話聞いてなかったのか!? いいから逃げんだよ!!」


 その瞬間、おっさん達は踵を返して駆け出し始めた


 おっさん達、ほんと大丈夫かな
 なんて心配している場合じゃない


 さあて「モスマン」、暫く付き合って貰うぜ
 奴は今、“尾”に引き込まれて地面に墜落したままのはず
 十分な時間はこっちで釘づけにしないと
 ただし悠長にやり合ってるわけにもいかない
 既に仲間を呼ばれていたとしたら面倒なことになるからな



 校舎の陰から出る
 奴は恐らく校庭に落っこちたはずだ

 速足で前方に向かうと、いた
 校庭のほぼ真ん中で黒い影が暴れ回っている
 あれが「モスマン」だ、どうも“尾”が絡んで身動きが取れないらしい

 なら好都合だ
 一旦、生やしていた“尾”を切断した
 そして再度“尾”を発現する

 引きずり回してぶち転がそう

 新たに生やした“尾”を前方の「モスマン」めがけて撃ち込んだ
 奴の脚と思しき部分に先端が絡み付く
 いける、このまま引きずり回しだ

 重心を落として“尾”を強く引き込む
 それに合わせて「モスマン」の体が引き摺られた

 重い、こっちが引き摺られないようにしないと

 俺がそこまで考えていた、そのとき


 「モスマン」と、目が合った


「は」


 強い、敵意が、奔った


 
211 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 3/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:54:10.48 ID:ImuJP87eo
 









「げっほ、ごほっ!! がはっ」



 完全に油断した!
 血を吐いてる場合か俺!!
 直ぐ立って身を隠さないと!!


 全身が痛む、がここから離れないとやばい
 頭痛が酷い、頭の中をガンガン響きまくってる
 奴はどうなった!? “尾”を振りほどいたのか?

 前方を睨む
 奴はこちらを見ていた
 “波”の重圧が凄い、殺意満々じゃないか

 「モスマン」は“尾”を全て引き千切ったようだ
 地面から2、3メートルの位置で滞空したまま翅を拡げている

 照準は、俺に向いている



「やっべ!!」



 身を投げ捨てるように横合いに跳んだ
 直後、腹の底を叩き付けるような轟音と震動が襲った



「ごほぉっ!!」



 大丈夫だ、直撃じゃない!

 奴の攻撃で割れた窓のガラス片から身を庇う

 落ち着け!

 さっき、俺はアレを食らったんだ

 モスマンから放たれた“何か”を受け、俺の体は校舎まで吹っ飛ばされた

 いや、直撃では無かった。あんなの直撃したら、俺の体はバラバラになってたはずだ

 だが、直撃でなくとも俺は吹っ飛ばされて、校舎に叩き付けられた

 一瞬何が起こったか分からなかった

 鱗粉の一撃でも食らったかと思ったが、それも違う

 仮に鱗粉弾だったとしたら俺の体は真っ二つだ

 じゃあ何だ、何なんだあの攻撃は



 転がり込むように再び校舎の陰に逃げ込んだ


 乱れた呼吸以上に手前の心臓の鼓動が大きく響く



 
212 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 4/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:54:51.12 ID:ImuJP87eo
 



 俺が一発目を食らって血を吐いて地面に倒れてる間に、奴は起ち上がった
 そして俺と目が合った瞬間、二発目を撃ち込みやがった
 あれは鱗粉攻撃では無かった

 だとしたら何だ、相手は「モスマン」、蛾だ
 攻撃の直前、奴は翅を拡げていた
 そして直前には強い殺気を放っていた
 いやだが、あれが鱗粉で無いなら、――まさか音波か?

 確かに蛾はある種の超音波を知覚するらしいが
 コウモリのように超音波を発信するか? あり得ないとは言えない
 だが待て、そもそもだ、ANなら「基本、何でもあり」だろうが!
 しっかりしろ俺! “科学の見方”で考えたらアウトだ、相手はANだぞ


 深呼吸を繰り返す
 今のところ、奴が距離を詰めてくる気配は無い
 だが“波”が完全にこっちに向けられている、俺を警戒している


 一旦、奴の攻撃を「音の塊」を放つものだと考えよう
 頭の中を断続的に押し寄せる鈍い痛みに奥歯を噛み締める
 体中にぶつかってきた衝撃は、音の塊か
 だとしたら脳みそ含めて外から内から揺さぶられたわけだ
 確か、二発目の攻撃の直前に翅を拡げていたが、つまりあれが攻撃部位か

 一発目のときはどうだった?
 確か、奴は不意に上体を起こして、翅を拡げたんじゃなかったか?


 呼吸が落ち着いてきた
 おし、そろそろ反撃の時間だ
 奴の注意はこっちを向いてる、今がチャンスだ


 携帯を内ポケットから取り出す
 幸いなことに奴の一撃で壊れたわけでは無いようだ
 おっさん達から特に連絡は無い、ので首尾よく逃げ切ったんだろう

 携帯をポケットに戻しながら、考える
 「モスマン」からは「組織」特有の臭気は感じない
 尤も、“波”を隠蔽している線は排除できないが今は措こう
 問題なのは独身のANにこんな器用な真似ができるかどうかだ
 無論答えは否だ、コイツは間違いなく「契約者持ち」だと見ていい

 だとしたら何の為に? 何故俺達を狙った?
 単に喧嘩が売りたかっただけか、それとも別の目的か

 俺は最初、「モスマン」は狐の配下なのかを疑った
 「狐」の影響を受けているなら多かれ少なかれ“波”に影響はあるはずだとも考えた

 奴はどうだ?
 「狐」の配下なのか?

 分からない
 奴の“波”からは特に何も感じない
 ただ俺に対して強烈な殺意を向けているだけだ


 これ以上考えても仕方ない、反撃の時間だ
 俺は校舎脇に置かれていた金属製のバケツを掴んだ



 
213 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 5/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:55:28.48 ID:ImuJP87eo
 



 「モスマン」が徐々に移動を始めた
 ゆっくりとだが前方へ、校舎へ向かって進んでいる

 未だに俺の動きに警戒しているようだ
 だが、俺はもう奴の前には居ない

 校舎の死角から奴の動きを盗み見る
 俺はバケツを掴んで校舎を回り込むように移動した
 丁度、「モスマン」からすれば向かって右の校舎の陰に潜んでいる
 “波”を読むに、奴はまだ俺が前方校舎に隠れているものと思い込んでいるらしい

 だとしたら好都合だ
 勿論「モスマン」が俺に気付かないフリをしてる可能性だってある
 油断は禁物だ

 しかし、それでも
 この機会を逃がすわけにはいかない
 準備はもう出来てる、早速仕掛けに行くぞ



 腕を大きく振るい、バケツを宙高くに投げ上げた
 バケツは放物線を描きながら――狙い通り、モスマンからやや左側に落下した
 校舎の壁に音が跳ね返って甲高い残響音が響く


 「モスマン」が身動ぎし、翅を拡げ掛けた


 校舎の陰から飛び出す


「おい! 『モスマン』っ!!」


 喉に痛みが走る程の大声に、奴は気付いたようだ

 翅を拡げたまま、こちらへ身を向けようとする


 待ってました


 俺は背後に隠していた“尾”を大きく振りかぶる

 今、俺の腕より少し長めに発現した“尾”の先端が握っているのは

 飴細工を引き伸ばすようにして生成した、槍の形状をした“黒棒”だ


 右腕を振りかぶるのと同時、“尾”がそれに同期して動く

 渾身の勢いでボールを投げ付けるように

 “尾”で“黒棒”を投擲した


 まだだ、まだ終わりじゃない

 投げられた“黒棒”は意外なほど正確に、奴の片翅に突き刺さった

 「モスマン」の体が、衝撃のためか、大きくぶれた


 今だ


「  爆ぜろ  」


 声と共に、“黒棒”が破裂した



 
214 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 6/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:56:08.64 ID:ImuJP87eo
 



 声が、いや“波”が、夜の大気を劈いた

 これは「モスマン」の声か!?
 頭の中に響く奴の“波”が鋭い痛みを齎す

 直後に窓ガラスが割れる音が響いた
 一度だけじゃない、次々とガラスの割れる音が鳴り止まない

 「モスマン」の「音の塊」だ
 やたらめったらに周囲を攻撃してやがるんだ

 “波”がこちらへ向こうと迫るのを捉えた
 ぼさっとしてる場合じゃない!!

 校舎の陰へと回避した直後、さっきまで立ってた場所を殺気が奔っていった
 物凄い圧を感じる、なんて野郎だ!?
 腹の底を揺すられるような感覚が持続する
 もう一発、ブチ込んどいた方が良かったか?



 不意に、殺気が止んだ



 改めて感覚を押し拡げる

 “波”は感じる、「モスマン」のものだ
 だが、先程よりも恐ろしく弱まりつつある

 致命傷を与えたのか?
 いや違う、“波”が遠ざかりつつある

 どうやら奴はこの場から逃走したようだ



 周囲に警戒しつつ、校舎の陰から外へ出た

 中学は不気味な程に静まり返っていた
 先程の「モスマン」との一戦が嘘であるかのような静けさだ

 取りあえず、つい先程まで「モスマン」が滞空していた場所へ向かう


 そこには、黒いモノが落ちていた
 暫く眺めて理解した、これは「モスマン」の片翅だ

 “黒棒”が破裂したとき、狙い通り奴の翅を破壊できたようだ

 主から切り落とされたそれは、都市伝説が消滅するときのように
 淡い燐光に包まれながら、光の泡と化しつつあった





 さて


 手負いの「モスマン」を深追いするつもりは微塵も無い
 アイツが仲間を呼んで戻ってこないとは言い切れない
 そして、これだけ「モスマン」が暴れ回ったからには
 この場に「組織」が駆け付けないとも限らない


 再度感覚を全開にするが、他に“波”は無い
 今の内にこの場を離れた方が良さそうだ
 それも、一刻も早く





 
215 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 7/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:57:05.06 ID:ImuJP87eo
 








 気づけば公園のベンチに寄り掛かっていた
 体中が重い、というか中から鈍い痛みが断続的に押し寄せる

 何とか立ち上がりながら辺りを見回した
 ここは確か、南区の公園のはずだ
 中学は東区だったから、つまり俺は
 半ば記憶が飛んだまま、ここまで逃げてきたってことか

 この公園、そういや半井のおっさんから「モスマン」の話を振られた場所じゃないか
 別にどうってわけじゃないけど、どことなく因縁を感じる


 体を動かす度に痛みが響く
 あの「音の塊」、直撃こそ回避したものの、相応にダメージは入ったらしい

 こりゃ、明日学校休んだ方がいいかもしれない

 水飲み場の蛇口を捻る
 その冷たさが心地良い
 噴き出る水を直接顔に当てた

 そのまま水を飲む
 急に胃から込み上げてきた
 もうそのまま吐き捨てると、口の中に血の味が広がった

 相当かもな、これ

 水飲み場に広がった赤が徐々に排水される
 その様をぼんやりと眺めながら、水を飲み、また少し吐いた


 不意に胸が震えた
 と思ったら携帯の着信だ
 半井さんからか? 慌てて身を起こし、確認すると確かに半井さんからだった


『お? 無事か早渡!? こっちは首尾よく逃げ果せたぞ!!』
「こっちも何とか撒いたよ、思った以上にヤバい奴だったじゃないか、おい」
『それよりお前、あっちょっち電話代わるからな! てか、知り合いなら最初にそう言っとけよ!!』


 うん? なんだ、いきなり
 ちょっと何を言ってるのか理解できなかったが


『早渡、君? 高奈です、今、どこに、いるの?』


 うん!? 半井のおっさんの携帯に、高奈先輩が、出た?


「いやあの、今、南区の公園なんすけど。って、なんで先輩が」
『あら。前に、言わなかった、かしら。私と、半井さんが、知り合いだって』


 初耳だ
 いや待て、聞き覚えがあった、はずだ
 確かあれは――そうだ、「怪奇同盟」だ
 篠塚さん所を訪問したときにそんな話を聞いた覚えがある
 
216 :次世代ーズ 30 「退避の後に」 8/8 ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:57:45.52 ID:ImuJP87eo
 
『大体の事情は、半井さんから、聞きました。一葉さんのことは、任せて』
「――ッ!! そうだった、すいません。あの、いよっち先輩のことなんすけど」
『大丈夫、半井さんと新谷さんから、話は聞いています。こっちは、心配しないで』
「そ、それは……、良かった……」

『それより、「モスマン」を足止めしたと、聞いたのだけど。早渡君は、大丈夫なの?
 今、私達は、辺湖にいるから、南区なら、直ぐに行けるわ。場所は、何処?』

「いや、あの! 大丈夫っす! 俺はピンピンっすから!」

『嘘は、駄目よ。声が、かすれているもの』

「いやあのほらっ!! これは本当に大丈夫なんすよ!!
 走って逃げてきただけなんで! 一応これでも鍛えてるんで! まじで!!」


 考えなくたって理解できる
 いよっち先輩のことを半ば押し付けたような形だ
 俺のことで迷惑掛けるわけには、絶対にいかない


「それよか、いよっち先輩のこと、よろしくお願いします!
 色々と事情はあるんすけど、改めて全て話しますんで」

『難しいことは、これから考えます。
 まずは、手当とお風呂が先ね。彼女も、もう、眠そうだし』

「眠そう? そりゃあ良かった……あの、半井のおっさんに代わって貰えるっす?」

『……分かりました。
 ――んあ、早渡どうした? 無事か? どうだった「モスマン」は』

「片翅引き千切るとこまではやったよ、ただあいつも相当暴れたけどな」

『ハネもいだのかよ、やるじゃねえか。だがそうなると仕返しに来ないかが心配だな』

「今気になるのは『組織』だ、連中動くかな」

『多分な、一応学校町の全域はあいつらの監視下にあるようだし
 「モスマン」が暴れたとなっちゃ奴らも黙っちゃいねーだろ』

「OK分かった、一応警戒しとくよ
 あとさ、いよっち先輩のこと、ありがと」

『へっ、頼まれたからにはきちんと仕事するって言ったろーがよ、んじゃな』


 電話を切られた
 最後のは照れ隠しか?
 まあいい、とにかく当初の目的は果たせた


 体が最早だるい
 そのままベンチに寝転がった
 痛みが引くまでの間はこれで凌ごう

 待てよ、そういやアレ持ってきてたっけ
 寝返りを打って、背中に手をやった
 蠢く“尾”を掻き分けるようにして手を突っ込み、目的のブツを掴んだ

 ソレを引っ張り出す
 褐色の瓶に詰められてるのは「えりくさあ」の希釈液だ
 蓋を開けて一気に流し込む


 こいつは、効く
 体中に沁み込む
 若干痛みが駆け抜けていくが、多分大丈夫だ

 少しだけだ、少しだけ休もう
 俺はそのまま目を閉じた






□□■
217 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/03/21(水) 21:59:17.36 ID:ImuJP87eo
今夜は以上
次はずっと空いてた22の話やります
218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 13:49:14.64 ID:BBcCYceF0
嘘つきは誰だ
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/04/01(日) 20:27:54.30 ID:BBcCYceF0
嘘つきは誰だと思う?
220 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/04/01(日) 21:42:16.31 ID:BBcCYceF0
嘘つき天使は今年も来なかったようだな
221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2018/04/01(日) 22:47:59.39 ID:oG94W7tP0
正義「嘘をつく暇もなかったね」
剣裁「正直スマンかった。詫びに舞い降りた大王書くから」
正義「エイプリルフールは午前まで、だからね?」
222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/04/06(金) 03:14:16.41 ID:GlCG5+H70
女子高生を登場させたい
ボクっ子の女子高生を登場させたい
なりゆきでサキュバスと契約させたい
それで次々と男達を誘惑して篭絡して堕落させたい
色々やった後に早渡君と知り合いになって仲良くなりたい
その後で騙して二人っきりになった後に押し倒して男女の関係になりたい
女の味を教えまくって足腰立たなくなるまで搾り取った後に他の女じゃ満足できなくなるまで洗脳したい

最後に「ゴメンね☆我慢できなかったから許してニャン♪」って言いたい
223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/04/15(日) 05:06:14.43 ID:iHIUJLFx0
人間を根絶やしにしなければなるまいて
224 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/04/20(金) 19:43:28.84 ID:MEXZjdkto
皆さんこんばんは、次世代ーズの中の人です
GW中は働き詰めが決定したため燃え上がっていますが
あと2本出せば一応「ピエロ」回りの最低限の説明ができるかなという認識です
(現状今のままでも「ピエロ」は暴れ回れるし、東区で暴れ回ってるので「ピエロ」側としてはなんの問題もない)

今のところ【「ピエロ」の本格活動】は、花子さんの人、鳥居の人が前スレで投下された
「バビロンの大淫婦」消滅〜死亡フラグ組の落着(前スレ >>475-479、641-648、663-665、668-669、674-676)
の【翌日、日没前後】で行きます
このスケジュール固定で頑張ろうと思う

このペースなら多分行けるはず
裏方は避難所に置きます

>>222
地の文おじさん「やれるもんならやってみろ!!(煽り) いえ是非やってみろください!!」
早渡に興味を持って下さったことは非常に嬉しい
しかし早渡はサキュバスが怖いというか、ぶっちゃけトラウマなんですが
果たして大丈夫かな?
225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 23:25:39.07 ID:yRxGgk5Xo
早渡君は男を見せてくれるって信じてるぜ!
226 :次世代ーズ ◆John//PW6. [!nasu_res]:2018/05/13(日) 06:07:30.15 ID:CmTjTw9Yo
 

   この話には穏やかな暴力・グロテスク描写が含まれています
   苦手な方は>>232までスキップして下さい

   ○今回の話
    ※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
    ※この話には「前回の話」が存在しません
 
227 :次世代ーズ 22 「道化」 2/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:09:31.98 ID:CmTjTw9Yo
 



 山沿いの車道をミニバンが爆走していた
 その後を縋るように大型二輪が追い掛けてくる
 二台ともかなりの速度を上げているが、ミニバンは車体そのものが大きく揺れていた

 まるで中で何かが暴れているかのように

 追走する二輪のドライバー、薄汚れた灰色の小男は
 風圧に振り飛ばされまいとほぼ二輪にしがみつくような体勢で
 しかし、ミニバンが暴れる様子を細目をこらして観察していた

 彼、「チュパカブラ」は都市伝説、厳密にはUMAと呼ばれる存在だ
 この者は東海地方で活動にしくじった挙句、生命の危機に瀕する重傷を負い
 奇跡的に一命を取り止めた後に同行者らと学校町を目指していた


 「チュパカブラ」の注意はミニバンの中で行われている密事へと向けられていた









ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

「思った以上に曇広がるの早いな」


 誰に言うでも無く、運転手はそう漏らした
 眉間に皺を寄せてフロント越しに空を見つめる
 山の向こうからは急速に暗雲が拡がり始めていた


「こりゃ一降り来そうだな」


 「ピエロ」のドライバー、「ルーキー」はそうぼやいた
 彼はまだ十代ほどの若い青年で、特に道化の装束の化粧も施してはいない
 今は特にそうする必要が無いからだ

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 そして彼の呟きは後部席の男に聞こえることは無かった
 まず車内には大音量でサイケめいたトランスが響いているからだ
 ルーキーには正直な所、耳が潰れると錯覚するほどの爆音だ

サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 次にルーキーは後ろの男に声を掛けた訳では無かったからだ
 むしろ彼は後部席の状況に注意を向けないように振る舞っていた
 それもそのはず
 後ろでは「ジョー」が少女を犯している真っ最中だったからだ

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 
228 :次世代ーズ 22 「道化」 3/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:10:14.31 ID:CmTjTw9Yo
 

「こいつぁスゲえぞ」


 全身薄汚れた半裸を震わせながらジョーは唸った
 この者の巨体が下敷きにするのは暴行を加えられた少女だ
 四肢を鉄の拘束具で固定され体操服を引き裂かれた格好の少女は
 既にジョーに何度も突き上げられ、口から血混じりの泡を吐きながら失神していた

 その横に、少年が同じようにして拘束されていた
 ほぼ全裸と言って良いほどの状態で暴行の程度は少女よりも深刻だ
 全身にどす黒く変色した青痣と切傷を負い、顔面は大量の鼻血と汚物で塗れていた
 異様なほど充血した両眼は既に意識が無いためか焦点を失っている

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛

 少女と少年は「花子さん」と「太郎さん」
 ジョーが学校町への道中、ついでに拉致した子ども達だ


「底が見えねえ、やっぱ都市伝説はいいもんだ、なあ!」
「ぐっ    お゛っっ         い゛ぎっ、   た゛ろ゛ っ く゛」


 不意に太郎さんの眼に、意識が宿った


「はな゛こちゃっ」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 ジョーに下腹を蹂躙されている花子さんに向かい
 少年は手を伸ばそうと拘束具に抵抗し


「何やってんだオイ、餓鬼」


 ジョーの右手によって阻まれた
 先程のように、拳が二度、三度、少年の顔面に叩き付けられ


「オラ、餓鬼はコイツで遊んでろよ」


 先程と同じく、黄褐色の薬剤が詰まった注射器が
 痛々しい程に勃起した少年の陰茎突き立てられた

 躊躇もなく、薬剤が太郎さんのナカへと一気に注入される


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

「ああ゛ああア゛ア゛ぁぁァああ゛あ゛あっっアア゛あ゛ぁぁ゛ァぁああアあ゛ッああ゛あ゛あ゛アア゛あああ゛あっッ!!」

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 太郎さんの絶叫は車内のBGMによって掻き消された
 最早悲鳴を上げようにも声が出ない程に彼らの喉は傷つけられ過ぎていた
 太郎さんも、花子さんも


「やだこれやだこ゛れ痛い助けて゛痛いやだやだやだ助け゛て
 もう悪いこ゛としな゛いから助けてい゛やだこれ怖いやだちん゛こ壊れち゛ゃうたすけ゛


 少年は踏み躙られ過ぎた局部に手をやることさえ叶わず
 拘束具に固定されたままでその場を掻き毟る両手の爪は既に全てが剥がれており
 もう自分が何を叫んでいるのか理解できないまま全身が痙攣を始め
 少年の痛々しく膨れ上がった陰茎からは血に染まった大量の精液が強制的に噴き出され
 両眼の血管は既に破裂し血の涙を垂れ流したまま、やがて血塗れの白眼を剥きながら汚物を吐き戻した

 
229 :次世代ーズ 22 「道化」 4/8 ◆John//PW6. [!nasu_res]:2018/05/13(日) 06:11:27.94 ID:CmTjTw9Yo
 

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「                                 」
「                             たろう くん 」


「       」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「                                                               」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛



                                                     」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 たすけてくださいだれかたすけておねがいしますたすけてください
 ぼくはどうなってもいいからはなこちゃんをたすけてくださいぼくはもうむりですたすけてくだ


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 ほんとはわかってる だれもたすけになんかこないって
 ぼくたちみたいなやつを たすけてくれるひとなんかいないって わかってるんだ


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛


 これはぜんぶわるいゆめ
 めがさめたらぜんぶおわるんだ
 そしていつもみたく はなこちゃんとあそぶんだ
 もうこわいものはなにもないんだって ずっと ずっといっしょに
 ずっと はなこちゃんと いっしょに


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「たろう くん     たろうくん     」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
 
230 :次世代ーズ 22 「道化」 5/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:12:08.11 ID:CmTjTw9Yo
 

 譫言を漏らし続ける太郎さんに一瞥もくれず
 ジョーは花子さんに覆い被さるように腰を振り続けていた


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「お゛     お゛っ     うっ  あっ   た゛ろ    ぐっ  」


 ジョーの巨躯の内部から漏れる花子さんの声に耳も貸さず
 だが
 太郎さんが身動ぎした
 拘束された手は彼女に届かない
 それでも、少年は花子さんの方へ首を捻った
 それが彼に出来る最期だった


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛


 ジョーの巨躯が花子さんから離れた
 そのまま拘束具ごと少年を手繰り寄せると、そのまま反転させ
 花子さんと抱き合わせるような状態のまま拘束し直し始めた


「だろう く゛ん゛」
「はな 、ちゃ 」


 少年には抵抗するだけの力は残されていない
 口と鼻から垂れる血液と吐瀉物が花子さんの頬に掛かった


「お愉しみは終わりを告げ、斯くして聖なる祈りの時間がやって来た。諸君、静聴せよ」


 ジョーの唸るような低音だけが耳朶を打つ
 まるで車内のBGMを無視するかのように


「この世の一切の災厄は例外なく全てを蹂躙する
 何人たりともその艱難に抗う術なく、囚われ、奪われる
 救いはこの世のものではなく、唯、来世のためにある、祈り給え」


 太郎さんと花子さんを再拘束し、ジョーは次々と台車の
 そう、二人が拘束された台のロックを順に解除していく


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「おお、天にまします我らが神よ、願わくは御名を崇めさせ給え
 この者ども、無垢なる者は邪悪に蹂躙され、純潔を奪われた哀れな子羊
 今、二つの魂が天上へ向かい給う、この者共を神の御国に迎え給え、永久の安らぎを与えたまえ」


 祈りと呼ぶよりもむしろ呪いを吐くかのような調子で祈りは捧げられた
 バックドアを開放すると共に、車内に籠った大気が外部へと一気に吐き出される


「そして! 今! おおおおおおおっ!!
 二人はーァ!! 太郎君とォ、花子さんはァァア!!
 神の御許でいつまでもいつまでもいつまァァでもぉぉーオお! 幸せに幸せに幸せに暮らしましたァァァァァアアア!!」


 ジョーは二人の乗った台車を外へと思い切り蹴り飛ばした
 喧しい金属音と共に台車ごと放りだされる

 恍惚とした表情を浮かべるジョーの手には、起爆装置が握られていた


 
231 :次世代ーズ 22 「道化」 6/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:12:40.19 ID:CmTjTw9Yo
 






「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」

「たろうくん」

「         はな こ ちゃん    ?」

「もう わたしは だいじょうぶだから  へいきだよ」

「はなこちゃ でも ぼく はなこちゃ まもれなかった  ごめ ね」

「ううん あやまらないで  わたし こわくないよ」

「      」

「たろうさんといっしょだから  だから こわくなんかないよ」






 
232 :次世代ーズ 22 「道化」 7/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:13:17.70 ID:CmTjTw9Yo
 


 ミニバンのバックドアが開放された瞬間
 あまりの爆音にチュパカブラは肩を震わせた
 急に驚かされた為、危うく二輪のバランスが崩れそうになる

 ハンドルにしがみつきながら、しかし彼は確かに目撃した
 後部席から吹っ飛ぶように放たれたそれが、車道を猛スピードで逆走していく
 幸か不幸かそこは直進道路だ、チュパカブラはほぼ無意識にそれを目で追った

 その大型の荷台には簡素な車輪が設置された台車と呼ぶべき代物だ
 そしてその上にはまだ幼い少女と少年が拘束されているのを彼は知っていた
 「ピエロ」のボスであるジョーが凌辱の限りを尽くした、「花子さん」と「太郎さん」だ

 二人は抱き合うように拘束されたまま、爆走する二台から急速に離れていく
 自分たちはやがて下り坂に差し掛かる、あの二人は直に見えなくなるだろう


 ミニバン内から流れる大音量のBGMを背景に、ジョーが狂ったように頭を振りながら絶叫していた
 多分あれは薬物か何かを摂取しているに違いない

 チュパカブラはジョーから坂の向こうへと消えた二人へと視線を移した
 もうあの二人の姿を見ることは叶わないが彼は憑りつかれたように背後を凝視していた


 衝撃波が、大気を揺さぶった


 今度こそ本当に二輪のバランスを崩しかけた
 彼は祈るようにハンドルをしがみつき、必死に態勢を立て直そうと試みる
 一時的に麻痺した聴覚には爆音トランスもジョーの絶叫も捉えられない
 チュパカブラはもう一度後方に顔を向けた

 坂の上からは黒煙が上っているのが確認できた
 ジョーは台車ごと二人を爆殺したらしい

 チュパカブラは自分が武者震いをしたのに気づかないまま
 頭を激しく振りながら勃起した逸物ごと身体をくねらせる半裸の男を呆然と眺めた









 
233 :次世代ーズ 22 「道化」 8/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:13:52.49 ID:CmTjTw9Yo
 



 この男、ジョーと出会ったのは数か月前だ
 東海地方での吸血活動に失敗、それにより「組織」の襲撃を許してしまった
 あの忌まわしい女黒服により、口吻と片腕を切断されたばかりでなく
 内臓の殆どを挽き肉にされる重傷を負ったのだ
 あのままでは確実に死ぬ運命にあったであろう、だが彼ら「ピエロ」は救いの手を差し伸べてきた

『チュパさん、アンタさえ良ければ俺達と来てくれないか』

 あの日の会話は今でも鮮明に焼き付いている
 廃屋を秘密裡に改装した裏社会の闇病院で、ジョーという男は鋭い眼光を向けたまま話を切り出した
 彼ら「ピエロ」もまた、東海地方での活動で多くの同士を喪い、彼ら自身も致命傷を負っていた
 中でも特にジョーは重篤だった、彼は死んでいなければおかしい状況だった
 左肩から左脇腹にかけての致命的な裂傷を負いながら生き残ったのは奇跡としか言い様が無い
 彼らが重傷を負ったのは、言うまでもなく悪辣な「組織」の手によるものだった

『アンタはもう顔が割れてる、一人でサバイバルするのはベリーハードだ』
『で、でも、俺なんかが……いいんですか? 足を引っ張っちまうかもしれませんよ』
『気にすんな、俺の見立てじゃアンタは強いよ、俺達と同じだ。致命傷を負い、そして生還した』

 裂傷の上から打ち込まれた極大の医療用ステープラーを隠すことなく、ジョーは淀みなく話を続けた

『学校町に!? 危険ですって、ジョーさん!! あそこは「組織」の根城って聞きますぜ!?』
『そう、そこが狙いなんだチュパさん。却って学校町こそが安全地帯と化したんだ、今となっては』
『すんません、俺はオツムが足りねえからカラクリがよく分かんねえんだ』
『「狐」、奴が戻ってきた。警戒は手薄になる、小物に構ってる余裕が無え。こっちもビジネスがやりやすい』



 そして、現在
 チュパカブラはジョーを眺めている
 彼は今やハイになったのか狂ったように高速のヘドバンを繰り返していた

 別動隊として動いているグリングリンは無事であろうか
 今どのような状況にあるのだろうか
 彼は策士だ、おそらく各地に散った手勢に集合を掛けつつ、計画を練っているのだろう

 チュパカブラは未だ見ぬ学校町に思いを馳せる
 「ピエロ」らと出会うまであの場所は都市伝説の墓場と形容される程に過酷な地域という認識しか無かった
 しかし、ジョーの話を信じるならば警戒すべきは一部だけであって、眠れる宝は今でも腐るほど転がっている

 それだけでは無い
 学校町には人間も人外も美女が多いらしいのだ
 その情報が彼、チュパカブラの精神と性欲を高鳴らせた
 もしかすれば東海地方に潜伏していた頃には果たせなかった悲願を
 少女達を 生きたまま 吸血しながら 強姦する という夢にまでみた願望を果たせるかもしれない



 彼らが振り返ることは無い

 「ピエロ」が
 そして「チュパカブラ」が
 彼らが見据えるはただ一つ


 学校町のみ




□□■
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/17(木) 21:11:03.04 ID:NLBw5j++0
何がホワイトだこのブラック野郎!!
もう頼れるのは大王の人しかいねえぞ…
235 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/06/09(土) 22:47:31.34 ID:odHndwsbo
 
次世代ーズの中の人です
5月から色々とバタついていますがギリギリな感じです
7年間お世話になったPC飛んだのが一番痛かった
6月中旬までに上げたい所存

>>255
早渡はスケベですが根っこが純情野郎なので大方大丈夫です
スケベですが

>>234
言い訳はしないぜ……
でも本音はR-18GよりR-18を書きたいんだ、ぼかぁ(言い訳)
なんならR-28でもいい……
PCデータ移行の時、最初期のネタを見つけましたが
その中に激おこの早渡が同い年の巫女さんの尻を真っ赤になるまで引っ叩く……という謎の1行メモがありました
だからどうだというわけではありませんが
236 :梅雨明けーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:01:53.51 ID:6YvBkhzVo
 
改めまして次世代ーズです
今に始まったことではありませんが
誤りや脱字等、投下後に気づくことが多く……

>>235のレスでもアンカー>>255の部分は
正しくは>>225ですね……

今回は【11月】の話を行きます
237 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:02:44.04 ID:6YvBkhzVo
 

○前回の話
 前回の話は>>91-100です
 今回は【11月】の出来事になります



○あらすじ
 赤鐘亜百合の死亡と同時に始まった一連の騒動は、新宮ひかりらの活躍により一先ずの収束に向かったが
 その混乱に乗じた「ピエロ」によってひかり達の下へ暗殺者二名が送り込まれる
 一方、「ピエロ」達が東区の住宅街で放火を実行するも、それらは都市伝説や契約者有志によって阻止されつつあった

 ともあれ、「ピエロ」は闇夜に紛れ暗躍を開始した
 放たれた二名の暗殺者と共に、展開される予知・察知系能力者への罠
 「通り悪魔」や「サキュバス」の“支配”を受けたピエロを、“魅了”によって再支配する「イナンナ」
 企図される学校町内の学校への襲撃計画、女子生徒を嬲り倒す男女の契約者
 そしてコアメンバーによる“中心”への接触

 これは一日目の夜、闇が深まった時分の出来事である



○時系列 【9月】〜【11月】

●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘

・「怪奇同盟」に挨拶へ

・早渡、東中で東一葉と出会う
 花房直斗、栗井戸星夜、「先生」から三年前の事件について聞く

・早渡、東中を再訪し東を捜す
 東、自分を取り戻す
 その夜の内に居候先を確保

・「ピエロ」、学校町を目指す          ☜ ここまで投下済み

・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦


●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入


●十一月
・戦技披露会開催

・診療所で「人狼」イベント
 「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る

・「バビロンの大淫婦」、死亡

・角田ら、「狐」勢力と交戦
 赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田慶次は重傷を負う

・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
 ・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦     ☜ >>82-86

・上記と同時刻、早渡は「モスマン」により右手を切り飛ばされる
・同じ時間帯、「イナンナ」による「ピエロ」洗脳(魅了)     ☜ >>92-100

・「ピエロ」、“中心”に接触を開始     ☜ 今回の話は大体ここです

 
238 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:03:20.76 ID:6YvBkhzVo
 



○主な動向 【11月】

●「狐」

前スレ475-479 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/475-479
 ・この話で「バビロンの大淫婦」が消滅



●「死亡フラグ組」 ※「狐」と同時刻

前スレ641-648 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/641-648
 ・赤鐘亜百合死亡、角田慶次が致命傷を負う

前スレ663-665 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/663-665
 ・アダム・ホワイト死亡

前スレ668-669 鳥居の人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/668-669
 ・新宮ひかり、角田慶次の致命傷を癒す

前スレ674-676 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/674-676
 ・裏切者が小道郁だと発覚

前スレ718-721 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/718-721
 ・「死亡フラグ組」の下へ「ピエロ」到達
 ・「ピエロ」付の暗殺者二名、現場に介入

前スレ733-735 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/733-735
 ・上記現場に「死毒(「先生」)」と「ライダー」介入
 ・「ライダー」、全員を回収し現場から離脱
 ・「死毒」、能力を発動

前スレ750-752 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/750-752
 ・「死毒」、暗殺者二名の抹消を宣告

前スレ780-783、784 次世代ーズ、花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/780-783
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/784
 ・暗殺者二名、「死毒」との対決から離脱







 
239 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:03:59.62 ID:6YvBkhzVo
 



○主な動向 【11月】

●「ピエロ」 ※「狐」、「死亡フラグ組」とほぼ同時刻

前スレ773-776 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/773-776
 ・「ピエロ」、東区、北区で放火活動を企てるも都市伝説・契約者有志により阻止される
 ・「ライダー」、病院で角田慶次と紅かなえを降ろし、ひかりを送迎

前スレ788-792 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/788-792
 ・「ピエロ」、東区での放火活動を契約者有志に阻止される
 ・早渡、「モスマン」と出合い頭に右手を切断される
 ・暗殺者二名、離脱したひかりの追跡開始

前スレ827、836-837 鳥居の人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/827
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/836-837
 ・桐生院兄弟、放火活動中のピエロと対峙
 ・暗殺者のうち「海からやってくるモノ」が予知・察知能力へのカウンターを発動

前スレ869-870、872-873、875-876 やの人、花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/869-870
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/872-873
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/875-876
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/878-879
 ・ヤエルとユリ、ピエロを虐殺
 ・「死毒」、河川に瓢を投入、ピエロを拷問に掛けるも情報得られず
 ・ヤエルとユリ、ピエロを“魅了”し潜伏先の探査を企図

前スレ963、966、998-999 鳥居の人、花子さんの人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/963
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/966
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/998-999
 ・ひかり、桐生院兄弟と合流
 ・「ライダー」、ひかりに別れを告げ離脱
 ・暗殺者二名、ひかり達を捕捉


本スレ>>68>>82-86 鳥居の人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/68
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/82-86
 ・ひかり達、暗殺者二名と対峙し戦闘開始

本スレ>>91-100 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/91-100
 ・「イナンナ」、学校町の都市伝説・契約者により“支配”されたピエロを、“魅了”で再支配
 ・「イナンナ」、再支配ピエロに小中高襲撃を刷り込む
 男女二人組の契約者、下校途中の女子生徒を襲撃、女子の容姿をコピーし行方をくらませる





 //時系列 ここまで
240 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 1/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:05:42.21 ID:6YvBkhzVo
 



 学校町南区、某ビル屋上


「みさ、おきてよ」


 もう身動ぎすらしなくなった友人を揺すった
 先程まで聞こえていたはずのか細い呼吸も、もう分からない

 あの少年と少女が立ち去ってどれくらいが経ったのか
 あの少年はまず友人を、続いて自分を滅茶苦茶にした
 そして、あの少年は自分とそっくりの姿に変身して、自分の服を着て、行ってしまった


   じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
   気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ


 あの少年はそう言って、少女と一緒に此処から飛び降りて行った
 少年は自分の家族を[ピーーー]つもりだ


「おきて、おねがい。おきて……」


 自分の携帯は少年に奪われた
 そして、友人の携帯は目の前にある
 少年の手で破壊された、携帯だった残骸が

 これでは、助けを呼べない
 家族に連絡を取ることも、出来ない


「おきて……」


 陽も落ちた、寒い、空気が冷たい
 夜の闇の中で、もう何も言わなくなった友人を揺さぶるしかなかった


 誰も助けに来ない

 誰も


 あの少年と少女は嗤っていた
 何もできない自分と友人を、嗤っていた


「たすけて」


 無意識に、ただその言葉だけを呟いていた


「だれか、たすけて――」


 掠れた喉で、何度その言葉を口にしただろう


 不意に、視界の隅に光が差した
 咄嗟に顔を向け、眩しさに思わず光を手で庇った


 誰かが、こっちへ近づいてきた








 
241 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:06:34.29 ID:6YvBkhzVo
 

「負傷者、2名。発見しました」


 「組織」Rナンバー、「援護班」所属
 スカートスーツに、顔を包帯で覆った「黒服」、乱野憐子は
 声を絞り出すようにして、ようやくそれだけを無線で報告した

 目の前の惨状に、声を失っていた
 中央高校の制服の子と、全裸に近い状態で腹を裂かれている子が居たからだ
 全裸の子は茫然とした体でこちらを見つめ続けていた


「これも『ピエロ』がやった、てのか?」


 相方のPナンバーの黒服の声に我に返った
 立ち尽くしている場合ではない

 乱野は重傷を負った二人の少女へと駆け寄る


「種別:US、未成年女子2名、陽性です
 両名とも全身に創傷、一名は腹部に切創、ダーム脱出あり、一名は顔面に擦過型の剥脱
 Class III以上です、至急対応してください」

『ベースに回せ。応援を送る』
「お願いします」


 一息で無線へ告げると、少女と視線が合った


「もう大丈夫だよ、今から病院に行くからね」
「こっちはアタシやる。そっちの子頼む!」


 相方が中央高校の子の応急処置を開始した
 乱野は応急用のフィルムを取り出し、少女の体を床へと寝かせた
 先ずは飛び出した内臓の固定だ、これほどの創傷を直ぐに処置できる霊薬は持ち合わせていない


「おかあさん」
「え?」
「おかあさんが……」


 少女が、か細い声で呻いていた


「お母さん? どうしたの?」
「おかあさん、たべられちゃう……。たすけてください」


 少女は泣き出した
 お母さん? 食べられる? どういうことだ

 一瞬、乱野は状況に躊躇した
 この場で何があったのかをヒアリングすべきなのか
 だがその必要は無かった
 直後、Pナンバーの黒服達が到着したからだ


「先輩、ちょっとマズいですよ!」


 後ろから声を掛けてきたのはこの春に配属されたばかりの新人だ
 相方のPナンバーの部下である、リーディング系能力の黒服だった


「この子達に酷いことしたのは男女二人組の契約者で
 二人組は今、この子の家に向かってて、お母さんを食べる気みたいです! って、うわ……」


 勢いのままそうまくし立てた新人は、慌てて乱野の背後に引っ込んだ
 少女の傷を直視してしまったらしい

 
242 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:07:21.05 ID:6YvBkhzVo
 

「んだとォ!? おいミッペ! この子の実家、何処か分かるよな! 調べろ!!」
「んあっ、ちょっ、待ってくださいよ!」


 「ミッペ」と呼ばれたのはリーディング系の黒服だ
 そして、そう呼んだのは遅れてやってきたミッペのバディだ
 彼女もミッペと同時期に配属された新人である


「あっ、待てお前ら! 単独行動は駄目だって言ったろ――」

「メイプルさん、オレとミッペで動くんだから単独行動じゃ無ェっすよ!
 それにもう研修期間は済んだんスから心配いらねーって!! おらっ、行くぞミッペ!」

「ちょっと! 首に手ぇ回すの止めてください!」

「コラ待て二人とも! 新人の独断行動は厳禁っつっただろうが!!」


 応急処置から手を離し、新人二名を怒鳴りつける
 が、遅かった
 新人二人は既にこの場から消え失せていた


「あンの、クソ新人共が……っ!! レンコ悪い、この場を――」
「駄目ですっ!! この子達をベースに移送しないといけません!!」
「あ゛ーもうっ! 分かったよ、クソッ! おい、聞こえてるか!? クソ新人が二人、勝手に飛び出した! 追跡してくれ!」
『らじゃーなのです!!』
「アイツら……、戻ってきたらタダじゃ済まさねえぞ……!」


 メイプルと呼ばれた相方の黒服は、こめかみに青筋を浮かべながら応急処置を再開した
 仕方が無い、新人の独断先行は許される行為では無いが
 この場の処置を投げ打って良い理由にはならない
 一刻も早くこの子達を「ベース」、つまり「組織」管轄の病院へ移送しなければならない

 怒りを抑える相方に一瞥を送りながら
 乱野憐子は胸の奥に奔った僅かな胸騒ぎを、無理やり押し殺した

 大丈夫、新人ちゃん二人は、Pナンバーのスタッフさんが追いかけてくれる
 だからきっと、大丈夫
 自分にそう言い聞かせながら



 彼女らにはまだ報告は入っていない
 「現在、学校町に感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ暗殺者が侵入している」という報告は









 
243 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:08:25.43 ID:6YvBkhzVo
 



 学校町 東区

 「組織」過激派の人員は車道沿いに繁華街の方向へ向かっていた
 無論、「ピエロ」及び連中の中枢を発見しこれを討伐するためだ

 先程踏み込んだ現場には相当数の「ピエロ」が潜伏していた筈だ
 恐らくまだ遠方へは行っていない、主任はそう判断し
 部下を散らして連中の捜索を開始した

 東区の放火については既に穏健派も動いているという話で
 それ以前に数名の契約者と思われる者達が目撃されていたようで
 既に鎮圧が済んでいるのかもしれない


 に、しても

 主任は思考を巡らせる
 10月から「ピエロ」の報告が上がっていたが
 いずれも散発的で、しかし契約者・一般人の別なく襲撃するという状況から
 「赤マント」と同程度には警戒されていた

 だが、今夜の動きは怪しむべき点が多い
 これほど目立つ動きを見せたのは初めてと言って良い
 おまけにピエロ装束の連中だけでは無く、それ以外の契約者が行動を共にしているという報告があった
 事象改竄系の契約者、そして観測系能力に対するカウンター能力を持つ契約者
 報告が事実だとすれば、そのいずれも脅威度が高い


(『狐』、なのか?)


 主任も「ピエロ」が「狐」の手駒であるという点には懐疑的だ
 その部分は現時点での過激派幹部連中の判断と一致している
 手の内を晒さず掴ませまいとする「狐」の手口と、「ピエロ」の活動とは一見相反している
 だが――
 長年過激派の黒服として現場で指揮を執る身として
 直観が告げる警告を無視できずにいた

 「ピエロ」は愉快犯的な犯行を繰り返しているが、無為無策では無い
 このタイミングで登場した同行契約者の存在、これをどう考えるべきか――


「主任、よろしいでしょうか」


 後に従う部下から声が掛かる


「今回の『ピエロ』の動き、やはり裏に『狐』が」
「判断を出すのは早計、それが幹部(うえ)の判断だ」
「主任ご自身はどうお考えです?」
「……俺はそれを判断する立場には無い、今は捜索に集中し――」


 咄嗟に光線銃を抜き、続けざまに発砲

 前方の街路樹の影にいたのは、そう、「ピエロ」だ


「戦闘を許可するッ! 戦えッッ!!」

「なンだ野郎しか居ねえのかぁア!? 『黒服』ゥゥゥゥッ!!」


 前方から、だけでは無い
 横合い、対向車線側からも奇怪な装束の道下達が出現した

 皆、銃器の類を手にしている


「『弾除け』と『人払い』はッッ!?」
「既に展開済みです!!」


 
244 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:09:04.75 ID:6YvBkhzVo
 

 主任は確認するかのように周囲に視線を奔らせる
 遅い時間では無いが、車の通りも通行人の姿も無い


「まだ非常命令は出ていないッ! 可能な限り物損は控えろッッ!」


 主任の言葉とほぼ同時に部下達は光線銃を発砲し出した
 非常命令云々、物損は云々は穏健派の手により義務化された条項だ
 そう、許可が無い限りは人間、そして物品への被害は最小限に抑えなければならない

 それが建前だが、彼らは腐っても過激派だ
 つまり主任の言葉はただの念仏に過ぎず、律儀に守られる訳では無い

 また守る必要も無い、何故なら


「おーれーたーちーピーエーローをー」「舐ァァめるなぁぁぁぁ!!! っとぉ!!!」


 自動小銃を乱射し始めた「ピエロ」相手に、そんな余裕は無いからだ


「こいつらホントやりたい放題だなッ、クソッ! 市街地で銃撃戦などッ!!」
「主任、もうちょい詰めてください」


 手近な物陰に潜り込み、隙を見て光線銃を発砲
 「ピエロ」数名の頭部を撃ち抜いた


「これじゃキリが――」


 悪態を吐く余裕も無かった
 後方が突如爆破した


「今度は何だッッ!?」


 爆炎が夜の歩道を赤く照らす
 「人払い」が無ければ確実に一般の注意を引き付けるレベルだ
 いや、「人払い」を展開している現状でも怪しい、炎が上がり過ぎている


「本部に連絡入れろッッ! 応援が必要だッッ!!」
「無理です主任、圏外になってます、多分妨害されてます」
「なら異空間通信に切り替えろッ!!」
「その機能ついてんの主任の端末だけです」
「なら俺のを使えッッ!!」


 部下に己の携帯を押し付け、光線銃を構え直した
 物陰の向こう側では「ピエロ」共が奇声を上げて銃器を乱射していた


「クッソ、完全に包囲されたかッ!?」

『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!
 どーぉぉぉぉうだいクソ黒服共ぉぉ!! 胸焼けするほど嬉しいだルぉぉオオおおおおうっ!?』

「今度は何だッッ!?」


 突如、電気的に拡声された女の哄笑が鼓膜を叩いた
 死角から顔を出すと、「ピエロ」の居る前方が強い光で照射されている
 どうも「ピエロ」の内、数名が何処から調達したのか、スポットライトを使用しているらしい



 光の中には、仁王立ちの女が居た

 シャイニーカラーのパンツに、トラだかライオンだかの顔面が大きく印刷されたシャツ、という出で立ちの中年女性が


 
245 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:09:39.18 ID:6YvBkhzVo
 

 「何者だ……ッ」


 主任が絶句するのも無理は無い
 その女の風体も雰囲気もこの場の緊張感に全くそぐわないものだ


『んンんん!? アタシが誰かってぇぇぇぇぇぇ!?
 フン、「ピエロ」の子達が不甲斐ないって言うからねえぇ!!
 わざわざ出張ってきてあげたンだよぉぉぉぉぉ!!
 アンタら黒服をぉ、丸焦げにするためにねぇぇぇぇぇぇぇ!!』

「面目ないです先生!」「先生やっちゃってくだせえ!」


 バックから「ピエロ」達の声援を受けつつ、女はふんぞり返るような恰好でそう言い放つ
 不意にスポットライトが黒服達の潜む物陰に照射された


『ンじゃまぁぁ、ド派手に行こうかねぇぇぇぇぇっ!!
 「ポップロックス」とぉ、「コーラ」でぇぇぇぇっっ!!!!』

「まずい、散開しろぉッッッ!!!」


 黒服達が物陰から転がり出るように離脱した、刹那



 アスファルトを深く抉るように、地面が爆破した
















□■□
246 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:10:45.22 ID:6YvBkhzVo
 




中央高校の女子
  襲われた二人組の一人で、顔面を削がれるように食われた
  南区商業の女子とは中学の頃からの友人で、この日は二人で遊んでいた

南区商業の女子
  襲われた二人組の一人で、ふくらはぎを食われ腹部を裂かれた
  襲撃者の男子は彼女の容姿をコピーし彼女の実家へ向かった模様





乱野憐子
  R-No.888。Rナンバー(穏健派)の「援護班」所属
  同じ班内に意中の男性(?)が居るらしいが詳細は不明
  「脳は10パーセントしか使われていない」の元契約者で「組織」の黒服
  実に7年振りの登場となります

メイプル
  Pナンバー(穏健派)所属
  黒服になる前の記憶はあるらしいが多くを語ろうとしない
  「メイプル」は彼女自身が登録した名前だが、外見は日本人

俺っ子の黒服
  Pナンバー所属
  この年の春に配属された新人、一人称「俺」だが女子黒服
  新人扱いされるのがイヤな時期に差し掛かってから早数か月
  上司のメイプルの頭痛の種となっている

ミッペ
  Pナンバー所属の女子黒服
  この年の春に配属された新人で、リーディング系の元契約者である
  俺っ子の黒服とバディで、流されやすい性格(ただし本人は否定している)





主任
  過激派所属
  キレやすいタイプだが自分のそういう面に自覚はある
  休日は朝から安酒を呑みつつ古いコメディ番組を鑑賞している





中年女性
  まるで「大阪のおばちゃん」のステレオタイプなおばちゃん
  「ピエロ」側の刺客で、「ポップロックス(キャンディー)で大爆発」の契約者



 
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 10:48:15.54 ID:67B6I2/xo
乙です
ビジュアルが大阪のおばちゃんとなると強いんだろうけど強キャラ感あるかと言われるとまたちょっと違う気がするww
248 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/23(月) 21:36:00.38 ID:br9VH1Jyo
 
暑い……うえに書く荒筋が長くなる _:(´ཀ`」 ∠):_
削るか、いやまだ早いぞ…… _:(:3 」 ∠):_

>>247
そうですね、強キャラって言うよりコメディ的な強さかな
方言キャラは普段へらっとしてて土壇場でさらりと実力を発揮する流れが好きですね

本当は関西方言込みでキャラを書ければ最高なんですけどね
色々難しかったので所謂「標準語」に戻しました……
 
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 13:49:28.91 ID:DlleHqYA0
乙乙
それはそうと今週末に台風一家が攻めてくるらしい
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 10:07:53.44 ID:jyATZaCB0
>11に今更気づいた
花子とかの人が戻ってきた暁にはドロドロの学園ものが見れるんじゃないかと期待しとこう
251 : [sage saga]:2018/08/08(水) 04:41:13.72 ID:JaAg68Uv0

穴埋めてきなもの投下
252 : [sage saga]:2018/08/08(水) 04:48:30.25 ID:JaAg68Uv0

ユリは呼吸を整え集中する。
魔力を変換し、チャームを組み上げていく。
広く、なるべく多くの者に届くように。
そして対象を特定するために、ピエロ達から文字通り搾り取った情報を組み込む。
これでピエロ達にだけよく効き、それ以外にはほとんど効かないチャームの完成だ。
まあ、ピエロ以外にも吊り橋効果くらいはでるかもしれないが。
むしろ出逢いの切っ掛けを提供しているのだから感謝されてもいい気がする。
完成したチャームの欠片をヤエルに渡す。

「……出来た。増幅して」
「ええ、わかったわ」

チャームの欠片を元に、ヤエルも自身のチャームを編み上げる。
元の効果を妨げず、なおかつ効果の底上げをするように。
その間ユリは羽を拡げ、チャームを放つため集中している。
ユリの羽は鳥の羽毛のような柔らかそうな質感をしている。
形状も重力に従うように緩やかな曲線をしており、動きに合わせてゆらゆらと揺らめいている。

「……こんなもんかしら」

ヤエルも準備を終え羽を拡げている。
ヤエルの羽は、いかにもコウモリといった感じで、自らの意思を示すように力強く拡げている。

「合わせてね」
「いつでもどうぞ」

二人の放ったチャームは混ざりあい、水の流れるように周囲に拡がっていく。
微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが、空気と混ざり拡散していく。

「さて、何体くらい掛かるかしら」
「……ちゃんと掛かれば、すぐに私達を探しに来る」
「え、私にも来るの? それ嫌なんだけど」
「…………」

______
前スレ>>878-879をも少しまじめにやった感じのを脳内補完
______
253 : [sage saga]:2018/08/08(水) 05:01:22.03 ID:JaAg68Uv0

結局、二人の元に来たピエロはすぐ近くにいた何組かだけだった。
効果範囲や移動時間など考えても少なく感じた。
掛かった手応えも、処理したピエロの数よりももっと多かった。

「もう一回やってみる? あんたのロリコンホイホイ」
「ロ…………チャームはちゃんと効いてる。……重ね掛けしても、あまり意味ない」

抗議の声を呑み込みヤエルを睨みながら分析する。
掛けたチャームはピエロ達の優先順位の一番上に私達を入れ込むもの。
チャームはちゃんと掛かっていた。
遭遇したピエロには自身のチャームの反応が感じられたし、効果が現れていた。
ただ、何かのついでに私達を襲ったような違和感。
私達を認識したことで本来の効果が現れたような。
何にせよ、もう一度同じものを掛けたところで、魔力の無駄になる可能性がある。
浪費するのは避けたい。
最近あまり食べてないし。

「それじゃあ、このまま移動しながら討伐しましょうか」
「……それがいい」

二人は再び羽を隠して、散歩でもしている風に歩きだした。

終わり





ユリはヤエルにロリ体型でよくからかわれて
睨んだりキックしたりしてるがそれも軽くあしらわれている様子

それぞれのチャームの作り方の違い
ユリは一つ一つ丁寧に組み上げる
ヤエルは攻撃に纏わせてぶちこむために編み上げる イメージ
ユマは練れば練るほど色が変わってテーレッテレー(それで成功するとは言ってない)
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 13:49:44.62 ID:0QVk1mAM0
や、乙です
葉は部下の好きにさせてそうだね、や
や、ところでもうすぐお盆だが
スクブスにもお盆はあるのか、や
255 : [sage saga]:2018/08/14(火) 23:32:00.49 ID:tT2x/T4N0

>>254
>>葉は部下の好きにさせてそうだね、や
>>スクブスにもお盆はあるのか、や

きっと現場判断に任せてるんですよ
三尾たちのチームは現地行動をサポートするためのチームなんです
モンハンのギルド的なものです
何故か彼女らも現場によく出てますが


サクバスにとっての盆はどうなんでしょう
サキュバス同士のって意味ならサキュバス自体にそんなコミュニティがあるかは疑問だけど
せいぜい知り合い仲間内のぐらいの規模?
人間の盆をどう思うって意味なら畜魂祭みたいな感じ?
今出てる二人は人間の扱いは基本的に食べ物です
256 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:04.64 ID:HXt21WMGo
 その日は朝から雨がふっていました
 こくごの時間も雨、おんがくの時間も雨、きゅうしょくのときも雨でした
 ごごのじゅぎょうがおわって、かえりの会がおわったあとも、ずっと雨でした


「たっくん、しーっだよ」


 ぼくと【花子さん】は、かえり道にある公えんにかくれて道ろを見ていました
 【花子さん】が人さしゆびをくちびるにあてて、ぼくにしずかにするように言いました

 そしたら、道ろのむこうがわから、白いふくをきたかみの毛のながい女の人がやってきました
 からだがよこにむいたまま、カニみたいに足をうごかしています
 【ひきこさん】はああやってよこ向きにしか歩けないんだよ、と【花子さん】がおしえてくれました
 ぼくのところからは、女の人のかおは見せませんが、目と口が大きくさけたこわいかおをしているそうです

 ぼくが【ひきこさん】を注いして見ていると、きゅうに【花子さん】がぼくのかたをぽんぽんとたたきました
 【花子さん】が小さくゆびをさす方向を見ると、【ひきこさん】のはんたいがわから、おばあさんがあるいてきました
 むらさきの、ぐるぐるもようがいっぱいついた、見たことがないへんなきものをきた、おばあさんでした

 ぼくは、あっ、とびっくりしました
 【ひきこさん】が、いきなりおばあさんめがけてすごいいきおいではしり出したからです
 ぼくはおばあさんがあぶない、と思いましたが、【花子さん】がぼくの口をおさえて


「だめっ、しーっ」


 と、ぼくの耳もとでそう言いました

 ぼくはいそいでおばあさんの方を見ると、おばあさんは【ひきこさん】のうしろに立って、へんなポーズをしていました
 【ひきこさん】は、今にもとびかかるようなポーズをしているのに、そのままかたまっていました
 まるで、月ようびのよるにテレビでやってる、じだいげきみたいでした


 「なにやってんだい、ここはつう学ろだよ
  あんたはすこし、ちのにおいがつよすぎるね」

 
257 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:59.27 ID:HXt21WMGo
 おばあさんの声は大きくないのに、ぼくの耳にもはっきりとそう言ってるのがきこえました
 すると【ひきこさん】は、まるですなで作ったおしろがいっきにくずれるみたいに、地めんにたおれると
 そのまま消えていなくなってしまったのです


「ひえっひえっひえっ
 それにしても、いいしりこだまでのお
 ぴちぴちのぷりぷりでほれぼれするわい、ひえっひえっひえっ」


 おばあさんはそう言うと、まるでかたなのようにかまえていたものを、たかくかかげました
 その先の方には、青くすきとおるボールのようなものがのっていました
 前に【花子さん】がおしえてくれたのですが、このおばあさんは大きくてながいスプーンをつかって
 わるい人のおしりから、しりこだま、という大せつなものをぶっこぬいて、わるい人をやっつけるそうです

 おばあさんは、スプーンにのっかったしりこだまを大じそうにしながら
 きものの中から出した、きんちゃくぶくろに入れると、はしるように行ってしまいました


「【ムラサキのおばあさん】、かっこよかったね」
「うん」


 ぼくたちも公えんから出て、おうちにかえることにしました
 【ひきこさん】はこわかったけど、おばあさんがすごい人なんだとおもいました

 ぼくは【花子さん】にさよならを言って、おうちにかえりました
 【花子さん】もおうちにかえりました
 【花子さん】のおうちは、あき地にあるかきの木です
 だから【花子さん】のことを知っている人たちからは、【かきの木の花子さん】とよばれています


 おかあさんから、もうすぐあき地でこうじがはじまる、というはなしをききました
 もしかすると【花子さん】はいなくなってしまうのかもしれないので、ぼくはちょっと心ぱいです
 でも、【花子さん】にはまだ、そのことをはなせていません



 終
258 :○前回の話 >>240-245 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:04:31.44 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中央高校付近

 作戦行動中の新人黒服二名が独断で飛び出し、敵性対象を追跡中――
 その連絡が入ったのは今から十数分前
 「組織」Pナンバー応援部隊の三名は新人黒服の生体信号を辿り、目的地へ急行していた

 南区の某ビル屋上で女子生徒を襲撃した者は
 女子生徒の家族を捕食すると言い捨て彼女の実家へと向かった
 その場でリーディングを実施したミッペによれば、襲撃者は男女二人組の契約者

 それが現場のメイプルから急ぎ伝えられた情報だ


「あっ、いたのです! ミッペちゃん見つけたのです!」


 二つ結びの黒服が示す先には、住宅街のゴミ集積所
 その前で座り込んだ少女黒服の姿があった


「ミッペ! どうしちゃった!? おい!!」


 応援三人組のリーダーがミッペの肩を掴んだ
 ようやく彼女らの存在に気づいたかのようにミッペが顔を上げた
 その表情には恐怖が張り付いている


「あ、キルトさん……。ココは、どこなんですかぁ……?」
「なんだどうしたミッペ、何があった!? クジっちはどこよ!?」
「さっきから頭が……、変なイメージが勝手に流れ込んできて……、海が、磯臭くて」
「クジっちはどうしたよ!? 一緒じゃなかったの!?」
「クジちゃんは……、あ……、あの子のお母さん助けるって、先に……!」

「たいちょー、ミッペは何らかの能力の間接的影響をー受けていると思われー」
「アクアフレッシュ、あんたは私に付いて! ぷーたんはミッペを頼む!」
「らじゃーなのですっ!」 「りょーかいー」


 リーダーは後の二人に指示を出し、“ジャミング”を起動した
 都市伝説起因の異常事象を一般人に認識させない一種の「結界」だ


「ミッペ、どの家か教えて!」
「三軒向こうの、あの平屋です! でもぉ、ヤバいですよぉ!」
「ヤバいから行くんだよッ!!」


 リーダーとアクアフレッシュは既に飛び出していた
 なるほど、問題の平屋からは異様な気配を感じる


「敵さんの戦力も分かりもしないのに、向こう見ずに飛び出してくれちゃって、んもーッ!!」


 愚痴を吐き捨てながら問題の家屋へ接近
 家屋内で争っているのか、物々しい破壊音が聞こえてきた
 おまけに異様な気配が剣呑な殺気として具体的な輪郭を帯びだしている


「アクア、念のため報こく――」


 走りながら後方の仲間へ声を掛けた、次の瞬間だ


 雷のような爆音と閃光が空間を奔った!


 迷いもなく門を蹴破り敷地へ侵入、アクアフレッシュもこれに続いた

 家屋の玄関、ではなく脇の庭先へと踏み込む

 庭に面したガラス窓は全て吹き飛んでおり、強烈なオゾン臭が黒服の鼻を衝いた
 
259 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:05:58.33 ID:kM0nq+B5o
 

 外塀に叩きつけられたのか、庭に倒れ断続的な痙攣を繰り返す新人を、まず確認した
 ミッペと共に飛び出した一人称「俺」の女子黒服、久慈だ


 リーダーはコンマ数秒で彼女から屋内へと視線を走らせる


「ハァーーハァァハァッ!!!! 新手かぁぁぁァ!!?? 黒服ぅぅぅゥゥゥ!!!!!」


 その者は、破壊され尽くした屋内に独り立ち、哄笑を響かせていた
 外見は少女、南区商業高校の制服を着た女子生徒の姿だ
 少女の傍には倒れた女性、襲撃された子の母親か

 女性の被害程度を見極めることができない
 この敵対者から目を離せば即殺られる、本能がそう警告を発している


「ハァァーッハァァァーーッ!! 黒服を喰っても腹は膨れないんだけどさぁぁぁ
 可愛いから相手して、グッチャグチャにしてやるよォぉぉぉーーっ!!」


 少女が放っているのは圧倒的な殺気と眼光ばかりでは無い
 周囲の空間に奔る無数の光は間違いなく電撃かその類だ


「ハヒッ! ヒ、ヒヒャ! ヒャッハ!! 来いよ、黒服ぅぅぅッ!!!」


 少女の体が突如震え出した
 哄笑を依然として維持したまま、体が内面から無理矢理押し広げられるように“変化”を始める


「まずいぞー! リーダー!! ヤツの出力が上がってるー!!」


 後方のアクアフレッシュが怒号めいた注意を飛ばした

 少女の姿がおぞましい外見へと変貌していく――


 空間の殺気が再度、膨らみ始めた


「アクアッ!! 防御ッ!!」


 リーダーの警告とほぼ同時に、少女周囲の放電量が一気に増大!



「掛かって来いよぉぉぉッ!!! 黒服ぅぅぅゥゥゥぅううウウうううウウッッ!!!!!!」



 敵対者は黒服に向かって牙を剥き、嗤った





 鹿のような二本角


 獣の頭蓋骨を思わせる頭部


 狭い屋内のためか、体を折り曲げるようにして狂相を向けるこの者は


 既に少女から獣人へと“変貌”を遂げていた





 
260 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:06:34.93 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町西区

 早渡修寿はようやく廃工場から抜け出した
 右腕を押さえ、ふらつきながらも、血走った眼で周囲の警戒を続けている

 「モスマン」の殺意は相当のものだった、だが奴を倒した
 そして収穫はゼロ、しかもこれからどうする? よりにもよって携帯を忘れるなど
 己の迂闊さを呪いつつ、彼は東区の状況を案じていた

 東区へは高奈先輩が向かった筈だ、彼女ならきっと大丈夫だ
 早い内に見つかると良いのだが


 不意の激痛に思考が掻き乱される
 呻き声を漏らしながら動かない右手を見下ろした

 最早右肩より先の感覚が無い
 今は痛みより全身を襲うだるさが強いが、断続的に激痛の波が押し寄せてくる

 切断された右手は強制的に繋げたものの、上手くやれたか断言できない
 そもそもあの毒鱗粉だ、全身に毒が回ってるとして――あとどれくらい持つ?

 どうする、真っ先に「先生」の診療所へ電話すべきか
 この周辺に公衆電話があるとも思えない、工場に押し入って電話を借りるか、もしくは民家に助けを求めるか
 東区は「ピエロ」共が放火を始めていた、そもそも診療所へ辿り着けるかどうかすら怪しい、それより一旦自宅へ戻るか


「財布、忘れてないよな?」


 血塊を吐き捨て、車道脇の縁石に崩れ落ちるようにへたり込んだ
 思った以上に毒の回りが速い、急ぐ必要がある


「んお? 早渡?」


 流れが少ない車道でタクシーを捕まえようと漠然としていた早渡は
 横合いから掛かる声とエンジン音に、ぎこちなく首だけを捻った
 肩回りに寝違えのような痛みが走る


「……星崎先輩」
「はいよー星崎ですよー」


 見れば中央高のブレザー女子、学年が一つ上の星崎先輩だ
 梅雨明けの頃に奇妙な縁で出会った、地味さと呑気さを足して煮詰めたような女子である


「ひどい怪我だね、アレかな? 喧嘩帰り? 顔面も真っ赤になっとる」


 星崎先輩の問いに早渡は黙った
 まさか「モスマン」と殺し合っていたなどと言える筈も無い


「まあさ、良ければ乗ってく?」


 彼女は早渡の沈黙を破くと、後方に停められたスーパーカブを親指で示した








「ねえ、病院行こうか? 近いよ、病院」
「保険証、いま、持ってねえっす」
「そっかあ、じゃあ家でいい? 南区だったっけ、家」
「はいっす、ありがたいっす」


 二人はカブに揺られ、南区方面へと向かっている
 早渡の顔面は毒の所為か赤から青へと変色し始めていた

 毒消しが家にあったかも思い出せない
 一旦「えりくさあ」で治療を試みつつ、さもなくば病院行きだ
 
261 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:07:33.30 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区

 乱れた呼吸を整え、周囲の惨状を見渡す
 現場は凄惨な状況だが、まず「ピエロ」は全滅させた
 だが肝心の――あの奇天烈な風貌の中年女性
 大阪のおばちゃんめいた恰好の契約者、あれの姿が見えない

 逃げられたな

 主任は胸中で毒づいた
 因みに、「ピエロ」に対する拘束と尋問を検討しなかった訳では無い
 だが狂笑しながら自身の頭部を爆発させた「ピエロ」を見て即座に断念したのだ
 あれはどう見ても最初から脳内に炸薬を仕込んであったとしか思えない様子だ


「カス共が……ッ!!」


 主任が悪態をつくのも仕方ない話だ
 視線の先にあるのは言い訳もつかない程に大きく抉れたアスファルトだ
 眼前ばかりでは無く、連中の射程範囲には大小問わず無数のクレーターが形成されていた
 言うまでも無いことだが、主犯はあの中年女の契約者である


「主任、事後処理は隠蔽部隊を要請しますか?」

「無駄だ。『ピエロ』があとどれほど潜伏しているか分からん
 修繕したとしてまた破壊されないとも限らんからな
 爆破痕は立入禁止、車道へ迂回路を設定しろ」

「了解、そのように伝えます」


 こちらとて被害が無かった訳では無い
 爆破による死傷者若干、ライフル弾による重傷者複数
 継戦は未だ可能とはいえ、敵側の戦力には少々侮りがたいものがある

 舐めていた訳でも無い
 しかし、あのピエロ装束の道化共
 個々の軽薄な態度とは裏腹に統制の取れた戦闘能力を発揮していた
 裏で糸を引いている者がいるのはまず間違いないだろう

 加えて、あの中年女の契約者
 当初は無差別爆破しか能が無いと見做していたが
 あの能力密度といい、出力の高さは並のものではない

 看過できない、将来の脅威となりかねない


「『ピエロ』側に爆破能力を持った契約者がいる、門条にも連絡を入れておけ」


 側近の黒服に報告の指示を出す
 門条は現在「狐」の件専任となっているが
 「ピエロ」への対応にも指揮側として一部関与している
 その上、今夜の「ピエロ」の騒動が「狐」の件と無関係とは言い切れないのだ

 過激派幹部の意向を窺っている場合では無い
 門条には逐次報告を入れておいた方が良いだろう、万が一があっては遅いのだ!

 負傷者への応急処置、爆破痕への簡易工作、既に消滅した「ピエロ」が遺した銃火器
 周囲に眼差しを向けながらも主任は黙考を続ける
 正直今直ぐにでもキレて怒鳴り散らしたい気分だが――

 ところで、我々過激派は門条と直接やり取りを交わすホットラインを持たない
 奴の部下へ報告を行い、時間差により奴へ伝えられる

 そこに考えが至り、思わず怒張した血管をこめかみに浮き立たせながら
 彼は口を開いた


「門条への報告に付け加えろ!
 『ピエロ』側には何名か道化の仮装をしていない契約者がいる
 これは俺の推測に過ぎんが……、奴らは『ピエロ』の協力者だ。これから更に複数名出てくるかもしれん」
 
262 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:08:19.62 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中学付近


「全身ミイラの癖に舐め腐りやがっ、お゛あ゛あ゛ぁぁ゛ーーッッ!!」
「チェスト! チェストォ!! チェストぉぉオオーーッッ!!」


 東区、いや、学校町内で最大の規模を誇る中学校
 その近辺にある、とある廃屋の中で「ピエロ」と「トンカラトン」が殺死合いを繰り広げていた


「オンッ! おぉオンッ!! おーーンッッ!!」
「ぐわし! ぐわし! おゴォォーオオッ!! エ゛ん゛ッ!!(死)」


 逆手の脇差を器用に扱い「ピエロ」の右手ごとチャカを壁に縫い付けると
 もう一方の脇差で「ピエロ」の頭部を即座に刺突! 貫通!


「兄者ァァッ!! 無事かァッ!?」


 手際よく「ピエロ」を始末するは、「トンカラトン」、名をヤッコ
 トンカラトンで構成された勢力、『朱の匪賊』四番隊、その副々隊長である!


「うぜえっ! てめえッ!! この俺様☻を何だと思゛ッッ!!??」
「猪口才ッ!! だがこれで、袋の鼠ッッ、いヨォォーーぉぉッ!!」


 素っ頓狂な大音声と共に屋内の柱に道化の頭部を激突せしめ
 その反動で以て敵の脚に絡めた物干し竿で道化を転倒させた挙句
 降り抜いた刀で「ピエロ」の股間目掛けて切っ先を振り下ろす――!!


「ハァァッ!! ハァァァッ!! ん゛あぁァアアああ゛あ゛ーーッッ!!(両 / / 断)」


 更に畳みかけて悶絶する「ピエロ」の顔面へ刺突! 貫通!
 途端に道化は絶叫を停止、白目を剥いて激しい痙攣を引き起こすばかり!

 絶命を確認の後、「ピエロ」の首に足を蹴り込み、乱雑に引き抜くは
 『朱の匪賊』四番隊副隊長にして、この四番別動隊を率いる「兄者」、名を珍宝(ちんほう)と発す!


「ぬぅぅぅッ、奇ッ怪な南蛮道化共めッ!! 我らが隠れ家に気付いておったか」


 連中の襲撃により荒らされた屋内を睥睨し、「兄者」は唸った

 日も暮れ、すっかり闇夜に染まった時分
 突如この隠れ家に「ピエロ」共が前触れなく襲撃して来たのだ
 当然別動隊、都合五名は総出でこれを返り討ちにし、逃さずまとめて切り伏せたのである

 因みに彼ら「トンカラトン」が念入りに「ピエロ」の頭部へ刺突を行ったのには訳がある!
 敵である「ピエロ」共は脳内に爆薬でも詰めているらしく、放置すれば絶命と引き換えに今際の爆弾と化しかねない
 そこで彼ら「トンカラトン」は彼奴らの頭蓋の内にある起爆装置をそのトンカラトン感知力によってピンポイントで破壊していたのだった!


「道化はいいッ! 捨て置けッッ!! 六ン馬ッ! 『本隊』の動きはどうなっておるッ!?」
「動き、怪しいです。監視網から、消えた。行方、知れず。つい、先程、道化、斃した後には、既に、姿が、無い」


 比較的被害の軽微な襖を開けば、廃屋唯一の光明が暗闇を照らす
 畳の上に這うはコード、コード、これまたコード
 そして部屋の一角に積み上げられたのは大小様々な機材の雑多な山
 その上に遠慮がちに載せられておるのは、いずれも数世代前のモニター、そしてノートPCである
 光の正体はモニターや機材のLEDディスプレイの明滅によるものであった
 これらは全て現地調達にて獲得されたたもの、電源は外部より違法的に引き込まれたものだ


 「ピエロ」の襲撃によりささやかな夜食が中断された
 「兄者」はすっかり冷めたタイムセール半額44円のフライドチキンを手掴みし、食い千切り、そして咀嚼した

 
263 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:01.97 ID:kM0nq+B5o
 


 明滅したモニターが示すのは、「本隊」そして「LOST」の表示である


「勘付かれたか、さもなくば、これも『女狐』の妖しげな術の仕業か……」


 咀嚼したチキンを呑み込み、「兄者」は暫し黙考する
 「兄者」率いる別働隊の者達は、この町へ来た当初こそ嫁獲りに勤しんでいたが
 一番隊からの恐るべき報告が密使により伝えられたとき
 「兄者」は四番隊への裏切りとも取られる任務遂行を決意したのである


「三番隊により、『十六夜の君』と呼ばれていた者の正体が、かの忌まわしき『女狐』であらば」


 「兄者」はその場の全員に聞こえる、朗々とした声色で言った


「三番隊、四番隊の背後から糸を手繰っておったその者が、今や表に姿を現しているのやも知れぬ」
「兄者ァ、するってえとよォ、やっぱし隊長殿は、もう」
「うむ、既にかの『女狐』の毒牙に掛かり、その尖兵として踊らされている可能性も考えておかねばなるまいて」


 「兄者」は五指を覆う朱い包帯に付着したチキンの衣を丹念に舐め取った
 まっこと、悪くない別働隠れ家ライフであった


 しかし、それも今宵で終わりだ


「者共ッ!! 聞けッッ!!」


 「兄者」、珍宝の訓示に、ヤッコ以下、銀冶、門佐、六ン馬の全「トンカラトン」が背筋を正す


「四番隊が姿を消したッッ!! 時は来たッッ!! 今宵ッ、我ら別働隊はこの隠れ家を放棄するッッ!!」
「とうとう暴れ時だなァッッ!! 兄者ァァッッ!!」
「応ッ!! 六ン馬ッ!! 『師団』一番隊に伝令を飛ばせッッ!!」
「合点、承知」
「いよいよ我らは消息を絶った四番本隊の所在を突き止めるッッ!!」
「ゥ応ォォッッ!!」「応――」「応ッ」


 吼えるような返事と共に、各名は床の間の天袋を開き、床板を引き剥がし、天井板を外した!
 其処から取り出したるは何れも密輸入の重改造を施した違法RPG-7、違法カラシニコフ、違法軽機関銃である!
 無論、襲撃した「ピエロ」共が取り落とした銃火器の回収も抜かりは無い!


「そしてッ! 隙あらばッ、――隙あらば、必ずや隊長以下本隊の同志を正気に戻すッッ!!」


 そう発し、珍宝は鍔広の麦わら帽子を目深に被った
 駆け寄るヤッコが、彼の背中に朱き外套を羽織らせる
 その外套は、当然のことだが、墨字で「 朱 ノ 師 団 」と大書された逸品である!


 遂に時は来たれり! 戦である!! 合戦である!!!







□■□
264 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:44.09 ID:kM0nq+B5o
 
○Pナンバーの黒服たち

ミッペ
 Pナンバーの新人、趣味は刺繍とごはん

久慈
 Pナンバーの新人、一人称が俺、最近耳にピアスを開けた

リーダー
 Pナンバー、新人二名(ミッペ、久慈)の先輩格で登録名はキルト、趣味はバイアスロン

アクアフレッシュ
 Pナンバー、本編では「アクアフレッシュ」と呼ばれているが髪色が白青赤のストライプだからである

ぷーたん
 Pナンバー、公私ともにふわふわしている、趣味はお昼寝





○学生共

早渡修寿
 モスマン毒にやられて以降、顔が赤くなったり青くなったり

星崎
 中央高校の二年生
 下の名前はトマト、後輩からはポンコツ呼ばわりされている





○過激派

主任
 元は過激派出身で異例の昇進を遂げた(?)門条と
 万年下管停まりの自分の違いは何なのかと枕を濡らす日々





○「朱の匪賊」嫁探し組

珍宝
 四番隊副隊長、「ちんぽう」ではなく「ちんほう」と読む

ヤッコ
 四番隊副々隊長、隊内のムードメーカー兼トラブルメーカー

銀冶/門佐/六ン馬
 四番隊の中でも推しが副隊長な「トンカラトン」共
 口数は少ないが、テックに弱い珍宝を陰に陽に支えている





○Pナンバーの命名規則について
 「組織」では以前から各ナンバーの頭文字を登録名の頭文字として指定する傾向が強かったそうだが
 Pナンバーはこうした傾向を一切無視、「自由に登録名を決定して良い」とわざわざ文書化までして制定した
 発案者は当時のP-No.0である



 
265 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:10:32.92 ID:IrWMP6vto
今夜はここまで
あと二つ
266 :シャ ◆7aVqGFchwM [sage saga]:2018/10/19(金) 19:54:13.23 ID:ddOPe4EgO
確かにイニシャルP縛りはきついなw
Rもたいがいだったけども何せ日本名Pがなあ
そういう意味ではザン・ザヴィアーは偉大だと思う
267 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:39:49.55 ID:3JghBcqEo
 
>>252-253
やの人お疲れ様です
チャームが効いてない……?
いや効果が阻害されてる……?
まさか、もう勘付かれたのか……!?

>>266
シャドーマンの人お久しぶりです
和名イニシャルPも高難度でしたが
洋名イニシャルPが簡単かと言うと……自信が無い
因みにPナンバー命名は自由と書きましたが
P-No.0や上位幹部に忠誠を誓っている黒服は
自発的に氏名両方かいずれかのイニシャルをP始まりにしているようです
ついでに言うとPナンバーの場合はP-No.というシステムに、というより
P-No.0や上位幹部その者に忠誠を誓っていることが多いイメージですね


では二発目行きます
 
268 :○前回の話 >>258-263 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:43:33.32 ID:3JghBcqEo
 



 学校町、位置不明

 其処は暗く、どこまでも暗く、陰気の凝縮された空間だ
 湿度の高い空気があたかも粘液のようにその場に居る者達へとまとわりつく


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 道化の装束に身を包んだ巨漢のピエロはまさにその場にあって
 命じられた通り“クランベリー”を潰して果汁を搾り出す作業に勤しんでいた
 周囲は完全に闇に溶けているが、僅かな光源によって床が錆び付いた何らかの金属であることが分かる
 床の金属には元々何かの彫刻が施されていたようだが
 こうも錆と謎の汚れに覆われていては一体何が刻まれていたのか知る由も無い


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 巨漢ピエロは自身の巨躯を縮めるようにして粛々と与えられた仕事を続けている
 まずは“クランベリー”のヘタを切断する
 こうすることで“クランベリー”はくぐもった悲鳴を上げるのを止める
 次に震えの止まらない“クランベリー”を固定し圧縮することで甘い果汁を搾り出す
 それを金属の床へ滴らせることがこの作業の最も重要な工程だ


「今で14だ」


 この空間に居るもう一人、頬のこけた神経質そうなピエロは
 “ポータル”から次の“クランベリー”を強引に引っ張り出し、通話相手に唸った
 古参だからという理由で呼び出されてみたらこれだ、正直この場から逃げ出したかった
 最初の話とは大違いだ、そもそも“クランベリー”もこの作業も彼にとって全く趣味では無い
 この町に来てからというもの、もっと美味なモノを食い散らかす積りだったのに貧乏くじばかり引かれている


「もうこれで15人目だぞ!?」


 通話の相手を押し殺した声で脅しかける
 乱暴に掴み出された“クランベリー”が小さな悲鳴を上げて身を捩った
 全ての“クランベリー”は白い布でくるまれリボンでしっかりと結ばれている
 この包装は完璧だ、逃げ出すことなど無理な話である


「どうする? 続けんのか止めんのか、どうなんだ!?」
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
『待ってください、作業を一旦中止してください』


 相手の声色に僅かな緊張が混じった
 「ピエロ」のボス、「ジョー」が何をしているのかは知らないが
 通話先の様子が妙だ、何やら慌ただしいようだが何が起こっているのか分からない

 
269 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:45:33.33 ID:3JghBcqEo
 

『今ジョーが確認を取っています、そのまま待機してください』
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
「待てマッシャー、一旦中止だ! おい、待てっ!!」


 巨漢ピエロが作業を続けようと次の“クランベリー”を掴んだ
 神経質ピエロは慌てて引っ手繰り返す、“クランベリー”が鋭い悲鳴を立てた


「おいこのウスノロ!! 待てっつってるのが分かんねーのかっ!?」
「ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!」
『中止命令が出ました。作業を終了してください』


 作業中止、幾ばくか緊張が緩んだ
 不機嫌そうな相方の唸り声を聞きながら神経質ピエロは額の汗を拭う


「おい、作業終了だマッシャー! 中止命令が出た!」
「ブフスゥゥーーッッ!」
「そっちの案配はどうなんだ、おい。お前は随分落ち着いてんじゃねえか、え?」
『全然落ち着いてないですよ、正直余裕がありません』


 唇を舐めて通話先の「ルーキー」に軽口を叩いた
 奴は「ピエロ」の中でも新参者だが的確な手腕で「ジョー」をアシストできる実際稀有な存在だ


「大暴れできんのもそろそろなんだろ? そん時ぁパーッと楽しもうぜ」
『だといいんですが』


 「ルーキー」の応答はどこか歯切れが悪い
 大方「ジョー」と教授の作業とやらが詰まってるんだろう
 神経質ピエロは「ジョー」によろしく言っとけと伝え通話を切った


「オラ行くぞ、こんな陰気臭えとこに長居したかねえんだよ俺は」
「フスーーッ、フスーーッ」


 返事代わりに鼻息を立てるマッシャーを引き連れ、彼は“ポータル”へ侵入した
 すすり泣いていた“クランベリー”は神経質ピエロにどつかれ悲鳴を上げる
 後は覚醒させた“クランベリー”をもう一度眠らせればこの地獄のような仕事からは解放される

 全ては「組織」に気付かれずに進める必要がある
 手持ちの“クランベリー”はいずれも外部から調達してきたものだ
 学校町内で収穫するとなれば確実に「組織」その他の注意を引くことになる
 この“ポータル”にしてもそうだ、学校町外部と接続しているならともかく
 転送は全て学校町内でのやり取り、その上今回は「先生方」の護衛も受けている
 「組織」に勘付かれることも無い
 少なくとも、今はまだ


 彼らピエロが“ポータル”へ姿を消し、接続が解消されたとき
 その空間は完全な闇に沈んだ

 夥しい果汁が広がった金属の床は依然として不気味な静寂を湛えている








 
270 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:46:20.75 ID:3JghBcqEo
 



 「組織」管轄の病院


「すいません部長。アタシの失態で、こんな」


 丸顔なスーツの女性に先行しながらメイプルは死にそうな顔で謝罪した
 南区ビル屋上で重傷の女子二名を保護してから何時間が経過したか
 既に時刻は日付の変わる時分に差し掛かろうとしていた


「監督不行届は確かに問題だが、叱責は後だ
 メイプル、被害者の容態は?」

「はい、少女二名も母親も現在は安定してます
 意識が戻り次第、ヒアリングと記憶処理を実施予定です」

「捕食されかけたと聞いてどうなることかとは思ったが……」


 後で憐子にも礼を言わねばな、丸顔の黒服はそう呟きながら一室に入った

 集中治療室の病床に横たえられた黒服をガラス越しに眺める
 全身を包帯でくるまれているのはメイプルの部下で
 ビル屋上の一件で飛び出していった一人称俺の女子黒服、久慈である

 丸顔は腕を組んで溜息を吐いた


「現場の報告はこっちにも入ってる。襲撃者の能力出力は並の契約者のものではない
 『組織』の古い区分では即時捕殺に指定されてもおかしくないレベルだ
 最近は、特に穏健派が強くなってからは下っ端が現場で強敵と戦うリスクも減っている
 そんなの相手にヒヨっ子が生きて帰って来れただけでも御の字だ」

「……」


 涙目でガラス向こうの部下を見つめるメイプルを尻目に
 丸顔は悟られぬよう安堵の溜息を吐く


「しつちょー、ぶちょー、今ー話し掛けてもよろしいですかー?」
「ん? ああ、入れ」


 いつの間に入口の方には別の黒服が居た
 新人二名の追跡兼応援に向かった部隊の一人、アクアフレッシュだ
 彼女は大きなタブレット型の端末を丸顔にも見せながら話を切り出した


「問題のー、襲撃者なんですけどー
 交戦時に『変身』した形態からー正体を割り出すとなるとー、やっぱりコイツになるんですよー」


 彼女が話しているのは、屋上で少女二名を襲い重傷を負わせ
 更に内一名の少女の母親を襲撃して捕食しかけながら
 現場に駆け付けた新人の久慈、および応援部隊と交戦した「襲撃者」の少年のことだ

 襲撃者は、屋上で襲撃した少女の容姿へ「変身」して彼女の制服を奪い
 少女の実家で母親の襲撃・暴行を実行、割って入った久慈に攻撃を仕掛けた後
 応援部隊の黒服キルトとアクアフレッシュの前で獣人の形態へ「変身」の後に交戦
 彼女ら二名を電撃攻撃で牽制しつつその場から離脱した


 
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