都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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225 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/03(木) 23:25:39.07 ID:yRxGgk5Xo
早渡君は男を見せてくれるって信じてるぜ!
226 :次世代ーズ ◆John//PW6. [!nasu_res]:2018/05/13(日) 06:07:30.15 ID:CmTjTw9Yo
 

   この話には穏やかな暴力・グロテスク描写が含まれています
   苦手な方は>>232までスキップして下さい

   ○今回の話
    ※この話は作中時間軸で【9月】の出来事です
    ※この話には「前回の話」が存在しません
 
227 :次世代ーズ 22 「道化」 2/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:09:31.98 ID:CmTjTw9Yo
 



 山沿いの車道をミニバンが爆走していた
 その後を縋るように大型二輪が追い掛けてくる
 二台ともかなりの速度を上げているが、ミニバンは車体そのものが大きく揺れていた

 まるで中で何かが暴れているかのように

 追走する二輪のドライバー、薄汚れた灰色の小男は
 風圧に振り飛ばされまいとほぼ二輪にしがみつくような体勢で
 しかし、ミニバンが暴れる様子を細目をこらして観察していた

 彼、「チュパカブラ」は都市伝説、厳密にはUMAと呼ばれる存在だ
 この者は東海地方で活動にしくじった挙句、生命の危機に瀕する重傷を負い
 奇跡的に一命を取り止めた後に同行者らと学校町を目指していた


 「チュパカブラ」の注意はミニバンの中で行われている密事へと向けられていた









ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

「思った以上に曇広がるの早いな」


 誰に言うでも無く、運転手はそう漏らした
 眉間に皺を寄せてフロント越しに空を見つめる
 山の向こうからは急速に暗雲が拡がり始めていた


「こりゃ一降り来そうだな」


 「ピエロ」のドライバー、「ルーキー」はそうぼやいた
 彼はまだ十代ほどの若い青年で、特に道化の装束の化粧も施してはいない
 今は特にそうする必要が無いからだ

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 そして彼の呟きは後部席の男に聞こえることは無かった
 まず車内には大音量でサイケめいたトランスが響いているからだ
 ルーキーには正直な所、耳が潰れると錯覚するほどの爆音だ

サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 次にルーキーは後ろの男に声を掛けた訳では無かったからだ
 むしろ彼は後部席の状況に注意を向けないように振る舞っていた
 それもそのはず
 後ろでは「ジョー」が少女を犯している真っ最中だったからだ

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

 
228 :次世代ーズ 22 「道化」 3/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:10:14.31 ID:CmTjTw9Yo
 

「こいつぁスゲえぞ」


 全身薄汚れた半裸を震わせながらジョーは唸った
 この者の巨体が下敷きにするのは暴行を加えられた少女だ
 四肢を鉄の拘束具で固定され体操服を引き裂かれた格好の少女は
 既にジョーに何度も突き上げられ、口から血混じりの泡を吐きながら失神していた

 その横に、少年が同じようにして拘束されていた
 ほぼ全裸と言って良いほどの状態で暴行の程度は少女よりも深刻だ
 全身にどす黒く変色した青痣と切傷を負い、顔面は大量の鼻血と汚物で塗れていた
 異様なほど充血した両眼は既に意識が無いためか焦点を失っている

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛

 少女と少年は「花子さん」と「太郎さん」
 ジョーが学校町への道中、ついでに拉致した子ども達だ


「底が見えねえ、やっぱ都市伝説はいいもんだ、なあ!」
「ぐっ    お゛っっ         い゛ぎっ、   た゛ろ゛ っ く゛」


 不意に太郎さんの眼に、意識が宿った


「はな゛こちゃっ」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 ジョーに下腹を蹂躙されている花子さんに向かい
 少年は手を伸ばそうと拘束具に抵抗し


「何やってんだオイ、餓鬼」


 ジョーの右手によって阻まれた
 先程のように、拳が二度、三度、少年の顔面に叩き付けられ


「オラ、餓鬼はコイツで遊んでろよ」


 先程と同じく、黄褐色の薬剤が詰まった注射器が
 痛々しい程に勃起した少年の陰茎突き立てられた

 躊躇もなく、薬剤が太郎さんのナカへと一気に注入される


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン

「ああ゛ああア゛ア゛ぁぁァああ゛あ゛あっっアア゛あ゛ぁぁ゛ァぁああアあ゛ッああ゛あ゛あ゛アア゛あああ゛あっッ!!」

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 太郎さんの絶叫は車内のBGMによって掻き消された
 最早悲鳴を上げようにも声が出ない程に彼らの喉は傷つけられ過ぎていた
 太郎さんも、花子さんも


「やだこれやだこ゛れ痛い助けて゛痛いやだやだやだ助け゛て
 もう悪いこ゛としな゛いから助けてい゛やだこれ怖いやだちん゛こ壊れち゛ゃうたすけ゛


 少年は踏み躙られ過ぎた局部に手をやることさえ叶わず
 拘束具に固定されたままでその場を掻き毟る両手の爪は既に全てが剥がれており
 もう自分が何を叫んでいるのか理解できないまま全身が痙攣を始め
 少年の痛々しく膨れ上がった陰茎からは血に染まった大量の精液が強制的に噴き出され
 両眼の血管は既に破裂し血の涙を垂れ流したまま、やがて血塗れの白眼を剥きながら汚物を吐き戻した

 
229 :次世代ーズ 22 「道化」 4/8 ◆John//PW6. [!nasu_res]:2018/05/13(日) 06:11:27.94 ID:CmTjTw9Yo
 

ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「                                 」
「                             たろう くん 」


「       」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


サッカンサッカンサッカンゴーカン💛 ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「                                                               」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛



                                                     」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 たすけてくださいだれかたすけておねがいしますたすけてください
 ぼくはどうなってもいいからはなこちゃんをたすけてくださいぼくはもうむりですたすけてくだ


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


 ほんとはわかってる だれもたすけになんかこないって
 ぼくたちみたいなやつを たすけてくれるひとなんかいないって わかってるんだ


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛


 これはぜんぶわるいゆめ
 めがさめたらぜんぶおわるんだ
 そしていつもみたく はなこちゃんとあそぶんだ
 もうこわいものはなにもないんだって ずっと ずっといっしょに
 ずっと はなこちゃんと いっしょに


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「たろう くん     たろうくん     」


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
 
230 :次世代ーズ 22 「道化」 5/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:12:08.11 ID:CmTjTw9Yo
 

 譫言を漏らし続ける太郎さんに一瞥もくれず
 ジョーは花子さんに覆い被さるように腰を振り続けていた


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「お゛     お゛っ     うっ  あっ   た゛ろ    ぐっ  」


 ジョーの巨躯の内部から漏れる花子さんの声に耳も貸さず
 だが
 太郎さんが身動ぎした
 拘束された手は彼女に届かない
 それでも、少年は花子さんの方へ首を捻った
 それが彼に出来る最期だった


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン サッカンサッカンサッカンゴーカン💛


 ジョーの巨躯が花子さんから離れた
 そのまま拘束具ごと少年を手繰り寄せると、そのまま反転させ
 花子さんと抱き合わせるような状態のまま拘束し直し始めた


「だろう く゛ん゛」
「はな 、ちゃ 」


 少年には抵抗するだけの力は残されていない
 口と鼻から垂れる血液と吐瀉物が花子さんの頬に掛かった


「お愉しみは終わりを告げ、斯くして聖なる祈りの時間がやって来た。諸君、静聴せよ」


 ジョーの唸るような低音だけが耳朶を打つ
 まるで車内のBGMを無視するかのように


「この世の一切の災厄は例外なく全てを蹂躙する
 何人たりともその艱難に抗う術なく、囚われ、奪われる
 救いはこの世のものではなく、唯、来世のためにある、祈り給え」


 太郎さんと花子さんを再拘束し、ジョーは次々と台車の
 そう、二人が拘束された台のロックを順に解除していく


ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン
ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン ゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカンゴーカンサッカン


「おお、天にまします我らが神よ、願わくは御名を崇めさせ給え
 この者ども、無垢なる者は邪悪に蹂躙され、純潔を奪われた哀れな子羊
 今、二つの魂が天上へ向かい給う、この者共を神の御国に迎え給え、永久の安らぎを与えたまえ」


 祈りと呼ぶよりもむしろ呪いを吐くかのような調子で祈りは捧げられた
 バックドアを開放すると共に、車内に籠った大気が外部へと一気に吐き出される


「そして! 今! おおおおおおおっ!!
 二人はーァ!! 太郎君とォ、花子さんはァァア!!
 神の御許でいつまでもいつまでもいつまァァでもぉぉーオお! 幸せに幸せに幸せに暮らしましたァァァァァアアア!!」


 ジョーは二人の乗った台車を外へと思い切り蹴り飛ばした
 喧しい金属音と共に台車ごと放りだされる

 恍惚とした表情を浮かべるジョーの手には、起爆装置が握られていた


 
231 :次世代ーズ 22 「道化」 6/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:12:40.19 ID:CmTjTw9Yo
 






「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ」

「たろうくん」

「         はな こ ちゃん    ?」

「もう わたしは だいじょうぶだから  へいきだよ」

「はなこちゃ でも ぼく はなこちゃ まもれなかった  ごめ ね」

「ううん あやまらないで  わたし こわくないよ」

「      」

「たろうさんといっしょだから  だから こわくなんかないよ」






 
232 :次世代ーズ 22 「道化」 7/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:13:17.70 ID:CmTjTw9Yo
 


 ミニバンのバックドアが開放された瞬間
 あまりの爆音にチュパカブラは肩を震わせた
 急に驚かされた為、危うく二輪のバランスが崩れそうになる

 ハンドルにしがみつきながら、しかし彼は確かに目撃した
 後部席から吹っ飛ぶように放たれたそれが、車道を猛スピードで逆走していく
 幸か不幸かそこは直進道路だ、チュパカブラはほぼ無意識にそれを目で追った

 その大型の荷台には簡素な車輪が設置された台車と呼ぶべき代物だ
 そしてその上にはまだ幼い少女と少年が拘束されているのを彼は知っていた
 「ピエロ」のボスであるジョーが凌辱の限りを尽くした、「花子さん」と「太郎さん」だ

 二人は抱き合うように拘束されたまま、爆走する二台から急速に離れていく
 自分たちはやがて下り坂に差し掛かる、あの二人は直に見えなくなるだろう


 ミニバン内から流れる大音量のBGMを背景に、ジョーが狂ったように頭を振りながら絶叫していた
 多分あれは薬物か何かを摂取しているに違いない

 チュパカブラはジョーから坂の向こうへと消えた二人へと視線を移した
 もうあの二人の姿を見ることは叶わないが彼は憑りつかれたように背後を凝視していた


 衝撃波が、大気を揺さぶった


 今度こそ本当に二輪のバランスを崩しかけた
 彼は祈るようにハンドルをしがみつき、必死に態勢を立て直そうと試みる
 一時的に麻痺した聴覚には爆音トランスもジョーの絶叫も捉えられない
 チュパカブラはもう一度後方に顔を向けた

 坂の上からは黒煙が上っているのが確認できた
 ジョーは台車ごと二人を爆殺したらしい

 チュパカブラは自分が武者震いをしたのに気づかないまま
 頭を激しく振りながら勃起した逸物ごと身体をくねらせる半裸の男を呆然と眺めた









 
233 :次世代ーズ 22 「道化」 8/8 ◆John//PW6. :2018/05/13(日) 06:13:52.49 ID:CmTjTw9Yo
 



 この男、ジョーと出会ったのは数か月前だ
 東海地方での吸血活動に失敗、それにより「組織」の襲撃を許してしまった
 あの忌まわしい女黒服により、口吻と片腕を切断されたばかりでなく
 内臓の殆どを挽き肉にされる重傷を負ったのだ
 あのままでは確実に死ぬ運命にあったであろう、だが彼ら「ピエロ」は救いの手を差し伸べてきた

『チュパさん、アンタさえ良ければ俺達と来てくれないか』

 あの日の会話は今でも鮮明に焼き付いている
 廃屋を秘密裡に改装した裏社会の闇病院で、ジョーという男は鋭い眼光を向けたまま話を切り出した
 彼ら「ピエロ」もまた、東海地方での活動で多くの同士を喪い、彼ら自身も致命傷を負っていた
 中でも特にジョーは重篤だった、彼は死んでいなければおかしい状況だった
 左肩から左脇腹にかけての致命的な裂傷を負いながら生き残ったのは奇跡としか言い様が無い
 彼らが重傷を負ったのは、言うまでもなく悪辣な「組織」の手によるものだった

『アンタはもう顔が割れてる、一人でサバイバルするのはベリーハードだ』
『で、でも、俺なんかが……いいんですか? 足を引っ張っちまうかもしれませんよ』
『気にすんな、俺の見立てじゃアンタは強いよ、俺達と同じだ。致命傷を負い、そして生還した』

 裂傷の上から打ち込まれた極大の医療用ステープラーを隠すことなく、ジョーは淀みなく話を続けた

『学校町に!? 危険ですって、ジョーさん!! あそこは「組織」の根城って聞きますぜ!?』
『そう、そこが狙いなんだチュパさん。却って学校町こそが安全地帯と化したんだ、今となっては』
『すんません、俺はオツムが足りねえからカラクリがよく分かんねえんだ』
『「狐」、奴が戻ってきた。警戒は手薄になる、小物に構ってる余裕が無え。こっちもビジネスがやりやすい』



 そして、現在
 チュパカブラはジョーを眺めている
 彼は今やハイになったのか狂ったように高速のヘドバンを繰り返していた

 別動隊として動いているグリングリンは無事であろうか
 今どのような状況にあるのだろうか
 彼は策士だ、おそらく各地に散った手勢に集合を掛けつつ、計画を練っているのだろう

 チュパカブラは未だ見ぬ学校町に思いを馳せる
 「ピエロ」らと出会うまであの場所は都市伝説の墓場と形容される程に過酷な地域という認識しか無かった
 しかし、ジョーの話を信じるならば警戒すべきは一部だけであって、眠れる宝は今でも腐るほど転がっている

 それだけでは無い
 学校町には人間も人外も美女が多いらしいのだ
 その情報が彼、チュパカブラの精神と性欲を高鳴らせた
 もしかすれば東海地方に潜伏していた頃には果たせなかった悲願を
 少女達を 生きたまま 吸血しながら 強姦する という夢にまでみた願望を果たせるかもしれない



 彼らが振り返ることは無い

 「ピエロ」が
 そして「チュパカブラ」が
 彼らが見据えるはただ一つ


 学校町のみ




□□■
234 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/05/17(木) 21:11:03.04 ID:NLBw5j++0
何がホワイトだこのブラック野郎!!
もう頼れるのは大王の人しかいねえぞ…
235 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/06/09(土) 22:47:31.34 ID:odHndwsbo
 
次世代ーズの中の人です
5月から色々とバタついていますがギリギリな感じです
7年間お世話になったPC飛んだのが一番痛かった
6月中旬までに上げたい所存

>>255
早渡はスケベですが根っこが純情野郎なので大方大丈夫です
スケベですが

>>234
言い訳はしないぜ……
でも本音はR-18GよりR-18を書きたいんだ、ぼかぁ(言い訳)
なんならR-28でもいい……
PCデータ移行の時、最初期のネタを見つけましたが
その中に激おこの早渡が同い年の巫女さんの尻を真っ赤になるまで引っ叩く……という謎の1行メモがありました
だからどうだというわけではありませんが
236 :梅雨明けーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:01:53.51 ID:6YvBkhzVo
 
改めまして次世代ーズです
今に始まったことではありませんが
誤りや脱字等、投下後に気づくことが多く……

>>235のレスでもアンカー>>255の部分は
正しくは>>225ですね……

今回は【11月】の話を行きます
237 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:02:44.04 ID:6YvBkhzVo
 

○前回の話
 前回の話は>>91-100です
 今回は【11月】の出来事になります



○あらすじ
 赤鐘亜百合の死亡と同時に始まった一連の騒動は、新宮ひかりらの活躍により一先ずの収束に向かったが
 その混乱に乗じた「ピエロ」によってひかり達の下へ暗殺者二名が送り込まれる
 一方、「ピエロ」達が東区の住宅街で放火を実行するも、それらは都市伝説や契約者有志によって阻止されつつあった

 ともあれ、「ピエロ」は闇夜に紛れ暗躍を開始した
 放たれた二名の暗殺者と共に、展開される予知・察知系能力者への罠
 「通り悪魔」や「サキュバス」の“支配”を受けたピエロを、“魅了”によって再支配する「イナンナ」
 企図される学校町内の学校への襲撃計画、女子生徒を嬲り倒す男女の契約者
 そしてコアメンバーによる“中心”への接触

 これは一日目の夜、闇が深まった時分の出来事である



○時系列 【9月】〜【11月】

●【9月】
・早渡、「組織」所属契約者と戦闘

・「怪奇同盟」に挨拶へ

・早渡、東中で東一葉と出会う
 花房直斗、栗井戸星夜、「先生」から三年前の事件について聞く

・早渡、東中を再訪し東を捜す
 東、自分を取り戻す
 その夜の内に居候先を確保

・「ピエロ」、学校町を目指す          ☜ ここまで投下済み

・∂ナンバー、「肉屋」の侵入を予知
・「肉屋」戦


●十月
・「ピエロ」、学校町へ侵入


●十一月
・戦技披露会開催

・診療所で「人狼」イベント
 「人狼」終了後、東と早渡が遊びに来る

・「バビロンの大淫婦」、死亡

・角田ら、「狐」勢力と交戦
 赤鐘愛百合、アダム・ホワイト死亡、角田慶次は重傷を負う

・新宮ひかり、角田らと「狐」の刺客に介入
 ・「ピエロ」側の暗殺者二名、ひかりらを牽制
・「ピエロ」、東区にて放火活動を開始するも妨害を受ける
・暗殺者二名、ひかり及び桐生院兄弟と交戦     ☜ >>82-86

・上記と同時刻、早渡は「モスマン」により右手を切り飛ばされる
・同じ時間帯、「イナンナ」による「ピエロ」洗脳(魅了)     ☜ >>92-100

・「ピエロ」、“中心”に接触を開始     ☜ 今回の話は大体ここです

 
238 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:03:20.76 ID:6YvBkhzVo
 



○主な動向 【11月】

●「狐」

前スレ475-479 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/475-479
 ・この話で「バビロンの大淫婦」が消滅



●「死亡フラグ組」 ※「狐」と同時刻

前スレ641-648 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/641-648
 ・赤鐘亜百合死亡、角田慶次が致命傷を負う

前スレ663-665 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/663-665
 ・アダム・ホワイト死亡

前スレ668-669 鳥居の人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/668-669
 ・新宮ひかり、角田慶次の致命傷を癒す

前スレ674-676 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/674-676
 ・裏切者が小道郁だと発覚

前スレ718-721 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/718-721
 ・「死亡フラグ組」の下へ「ピエロ」到達
 ・「ピエロ」付の暗殺者二名、現場に介入

前スレ733-735 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/733-735
 ・上記現場に「死毒(「先生」)」と「ライダー」介入
 ・「ライダー」、全員を回収し現場から離脱
 ・「死毒」、能力を発動

前スレ750-752 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/750-752
 ・「死毒」、暗殺者二名の抹消を宣告

前スレ780-783、784 次世代ーズ、花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/780-783
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/784
 ・暗殺者二名、「死毒」との対決から離脱







 
239 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:03:59.62 ID:6YvBkhzVo
 



○主な動向 【11月】

●「ピエロ」 ※「狐」、「死亡フラグ組」とほぼ同時刻

前スレ773-776 花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/773-776
 ・「ピエロ」、東区、北区で放火活動を企てるも都市伝説・契約者有志により阻止される
 ・「ライダー」、病院で角田慶次と紅かなえを降ろし、ひかりを送迎

前スレ788-792 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/788-792
 ・「ピエロ」、東区での放火活動を契約者有志に阻止される
 ・早渡、「モスマン」と出合い頭に右手を切断される
 ・暗殺者二名、離脱したひかりの追跡開始

前スレ827、836-837 鳥居の人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/827
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/836-837
 ・桐生院兄弟、放火活動中のピエロと対峙
 ・暗殺者のうち「海からやってくるモノ」が予知・察知能力へのカウンターを発動

前スレ869-870、872-873、875-876 やの人、花子さんの人
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/869-870
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/872-873
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/875-876
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/878-879
 ・ヤエルとユリ、ピエロを虐殺
 ・「死毒」、河川に瓢を投入、ピエロを拷問に掛けるも情報得られず
 ・ヤエルとユリ、ピエロを“魅了”し潜伏先の探査を企図

前スレ963、966、998-999 鳥居の人、花子さんの人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/963
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/966
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/998-999
 ・ひかり、桐生院兄弟と合流
 ・「ライダー」、ひかりに別れを告げ離脱
 ・暗殺者二名、ひかり達を捕捉


本スレ>>68>>82-86 鳥居の人、次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/68
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/82-86
 ・ひかり達、暗殺者二名と対峙し戦闘開始

本スレ>>91-100 次世代ーズ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1495934148/91-100
 ・「イナンナ」、学校町の都市伝説・契約者により“支配”されたピエロを、“魅了”で再支配
 ・「イナンナ」、再支配ピエロに小中高襲撃を刷り込む
 男女二人組の契約者、下校途中の女子生徒を襲撃、女子の容姿をコピーし行方をくらませる





 //時系列 ここまで
240 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 1/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:05:42.21 ID:6YvBkhzVo
 



 学校町南区、某ビル屋上


「みさ、おきてよ」


 もう身動ぎすらしなくなった友人を揺すった
 先程まで聞こえていたはずのか細い呼吸も、もう分からない

 あの少年と少女が立ち去ってどれくらいが経ったのか
 あの少年はまず友人を、続いて自分を滅茶苦茶にした
 そして、あの少年は自分とそっくりの姿に変身して、自分の服を着て、行ってしまった


   じゃあ、俺たちはお前ん家で 夕メシ 食って くっから
   気が向いたら、 お袋の味 って奴を教えに来てやるよ


 あの少年はそう言って、少女と一緒に此処から飛び降りて行った
 少年は自分の家族を[ピーーー]つもりだ


「おきて、おねがい。おきて……」


 自分の携帯は少年に奪われた
 そして、友人の携帯は目の前にある
 少年の手で破壊された、携帯だった残骸が

 これでは、助けを呼べない
 家族に連絡を取ることも、出来ない


「おきて……」


 陽も落ちた、寒い、空気が冷たい
 夜の闇の中で、もう何も言わなくなった友人を揺さぶるしかなかった


 誰も助けに来ない

 誰も


 あの少年と少女は嗤っていた
 何もできない自分と友人を、嗤っていた


「たすけて」


 無意識に、ただその言葉だけを呟いていた


「だれか、たすけて――」


 掠れた喉で、何度その言葉を口にしただろう


 不意に、視界の隅に光が差した
 咄嗟に顔を向け、眩しさに思わず光を手で庇った


 誰かが、こっちへ近づいてきた








 
241 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:06:34.29 ID:6YvBkhzVo
 

「負傷者、2名。発見しました」


 「組織」Rナンバー、「援護班」所属
 スカートスーツに、顔を包帯で覆った「黒服」、乱野憐子は
 声を絞り出すようにして、ようやくそれだけを無線で報告した

 目の前の惨状に、声を失っていた
 中央高校の制服の子と、全裸に近い状態で腹を裂かれている子が居たからだ
 全裸の子は茫然とした体でこちらを見つめ続けていた


「これも『ピエロ』がやった、てのか?」


 相方のPナンバーの黒服の声に我に返った
 立ち尽くしている場合ではない

 乱野は重傷を負った二人の少女へと駆け寄る


「種別:US、未成年女子2名、陽性です
 両名とも全身に創傷、一名は腹部に切創、ダーム脱出あり、一名は顔面に擦過型の剥脱
 Class III以上です、至急対応してください」

『ベースに回せ。応援を送る』
「お願いします」


 一息で無線へ告げると、少女と視線が合った


「もう大丈夫だよ、今から病院に行くからね」
「こっちはアタシやる。そっちの子頼む!」


 相方が中央高校の子の応急処置を開始した
 乱野は応急用のフィルムを取り出し、少女の体を床へと寝かせた
 先ずは飛び出した内臓の固定だ、これほどの創傷を直ぐに処置できる霊薬は持ち合わせていない


「おかあさん」
「え?」
「おかあさんが……」


 少女が、か細い声で呻いていた


「お母さん? どうしたの?」
「おかあさん、たべられちゃう……。たすけてください」


 少女は泣き出した
 お母さん? 食べられる? どういうことだ

 一瞬、乱野は状況に躊躇した
 この場で何があったのかをヒアリングすべきなのか
 だがその必要は無かった
 直後、Pナンバーの黒服達が到着したからだ


「先輩、ちょっとマズいですよ!」


 後ろから声を掛けてきたのはこの春に配属されたばかりの新人だ
 相方のPナンバーの部下である、リーディング系能力の黒服だった


「この子達に酷いことしたのは男女二人組の契約者で
 二人組は今、この子の家に向かってて、お母さんを食べる気みたいです! って、うわ……」


 勢いのままそうまくし立てた新人は、慌てて乱野の背後に引っ込んだ
 少女の傷を直視してしまったらしい

 
242 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:07:21.05 ID:6YvBkhzVo
 

「んだとォ!? おいミッペ! この子の実家、何処か分かるよな! 調べろ!!」
「んあっ、ちょっ、待ってくださいよ!」


 「ミッペ」と呼ばれたのはリーディング系の黒服だ
 そして、そう呼んだのは遅れてやってきたミッペのバディだ
 彼女もミッペと同時期に配属された新人である


「あっ、待てお前ら! 単独行動は駄目だって言ったろ――」

「メイプルさん、オレとミッペで動くんだから単独行動じゃ無ェっすよ!
 それにもう研修期間は済んだんスから心配いらねーって!! おらっ、行くぞミッペ!」

「ちょっと! 首に手ぇ回すの止めてください!」

「コラ待て二人とも! 新人の独断行動は厳禁っつっただろうが!!」


 応急処置から手を離し、新人二名を怒鳴りつける
 が、遅かった
 新人二人は既にこの場から消え失せていた


「あンの、クソ新人共が……っ!! レンコ悪い、この場を――」
「駄目ですっ!! この子達をベースに移送しないといけません!!」
「あ゛ーもうっ! 分かったよ、クソッ! おい、聞こえてるか!? クソ新人が二人、勝手に飛び出した! 追跡してくれ!」
『らじゃーなのです!!』
「アイツら……、戻ってきたらタダじゃ済まさねえぞ……!」


 メイプルと呼ばれた相方の黒服は、こめかみに青筋を浮かべながら応急処置を再開した
 仕方が無い、新人の独断先行は許される行為では無いが
 この場の処置を投げ打って良い理由にはならない
 一刻も早くこの子達を「ベース」、つまり「組織」管轄の病院へ移送しなければならない

 怒りを抑える相方に一瞥を送りながら
 乱野憐子は胸の奥に奔った僅かな胸騒ぎを、無理やり押し殺した

 大丈夫、新人ちゃん二人は、Pナンバーのスタッフさんが追いかけてくれる
 だからきっと、大丈夫
 自分にそう言い聞かせながら



 彼女らにはまだ報告は入っていない
 「現在、学校町に感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ暗殺者が侵入している」という報告は









 
243 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:08:25.43 ID:6YvBkhzVo
 



 学校町 東区

 「組織」過激派の人員は車道沿いに繁華街の方向へ向かっていた
 無論、「ピエロ」及び連中の中枢を発見しこれを討伐するためだ

 先程踏み込んだ現場には相当数の「ピエロ」が潜伏していた筈だ
 恐らくまだ遠方へは行っていない、主任はそう判断し
 部下を散らして連中の捜索を開始した

 東区の放火については既に穏健派も動いているという話で
 それ以前に数名の契約者と思われる者達が目撃されていたようで
 既に鎮圧が済んでいるのかもしれない


 に、しても

 主任は思考を巡らせる
 10月から「ピエロ」の報告が上がっていたが
 いずれも散発的で、しかし契約者・一般人の別なく襲撃するという状況から
 「赤マント」と同程度には警戒されていた

 だが、今夜の動きは怪しむべき点が多い
 これほど目立つ動きを見せたのは初めてと言って良い
 おまけにピエロ装束の連中だけでは無く、それ以外の契約者が行動を共にしているという報告があった
 事象改竄系の契約者、そして観測系能力に対するカウンター能力を持つ契約者
 報告が事実だとすれば、そのいずれも脅威度が高い


(『狐』、なのか?)


 主任も「ピエロ」が「狐」の手駒であるという点には懐疑的だ
 その部分は現時点での過激派幹部連中の判断と一致している
 手の内を晒さず掴ませまいとする「狐」の手口と、「ピエロ」の活動とは一見相反している
 だが――
 長年過激派の黒服として現場で指揮を執る身として
 直観が告げる警告を無視できずにいた

 「ピエロ」は愉快犯的な犯行を繰り返しているが、無為無策では無い
 このタイミングで登場した同行契約者の存在、これをどう考えるべきか――


「主任、よろしいでしょうか」


 後に従う部下から声が掛かる


「今回の『ピエロ』の動き、やはり裏に『狐』が」
「判断を出すのは早計、それが幹部(うえ)の判断だ」
「主任ご自身はどうお考えです?」
「……俺はそれを判断する立場には無い、今は捜索に集中し――」


 咄嗟に光線銃を抜き、続けざまに発砲

 前方の街路樹の影にいたのは、そう、「ピエロ」だ


「戦闘を許可するッ! 戦えッッ!!」

「なンだ野郎しか居ねえのかぁア!? 『黒服』ゥゥゥゥッ!!」


 前方から、だけでは無い
 横合い、対向車線側からも奇怪な装束の道下達が出現した

 皆、銃器の類を手にしている


「『弾除け』と『人払い』はッッ!?」
「既に展開済みです!!」


 
244 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:09:04.75 ID:6YvBkhzVo
 

 主任は確認するかのように周囲に視線を奔らせる
 遅い時間では無いが、車の通りも通行人の姿も無い


「まだ非常命令は出ていないッ! 可能な限り物損は控えろッッ!」


 主任の言葉とほぼ同時に部下達は光線銃を発砲し出した
 非常命令云々、物損は云々は穏健派の手により義務化された条項だ
 そう、許可が無い限りは人間、そして物品への被害は最小限に抑えなければならない

 それが建前だが、彼らは腐っても過激派だ
 つまり主任の言葉はただの念仏に過ぎず、律儀に守られる訳では無い

 また守る必要も無い、何故なら


「おーれーたーちーピーエーローをー」「舐ァァめるなぁぁぁぁ!!! っとぉ!!!」


 自動小銃を乱射し始めた「ピエロ」相手に、そんな余裕は無いからだ


「こいつらホントやりたい放題だなッ、クソッ! 市街地で銃撃戦などッ!!」
「主任、もうちょい詰めてください」


 手近な物陰に潜り込み、隙を見て光線銃を発砲
 「ピエロ」数名の頭部を撃ち抜いた


「これじゃキリが――」


 悪態を吐く余裕も無かった
 後方が突如爆破した


「今度は何だッッ!?」


 爆炎が夜の歩道を赤く照らす
 「人払い」が無ければ確実に一般の注意を引き付けるレベルだ
 いや、「人払い」を展開している現状でも怪しい、炎が上がり過ぎている


「本部に連絡入れろッッ! 応援が必要だッッ!!」
「無理です主任、圏外になってます、多分妨害されてます」
「なら異空間通信に切り替えろッ!!」
「その機能ついてんの主任の端末だけです」
「なら俺のを使えッッ!!」


 部下に己の携帯を押し付け、光線銃を構え直した
 物陰の向こう側では「ピエロ」共が奇声を上げて銃器を乱射していた


「クッソ、完全に包囲されたかッ!?」

『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!
 どーぉぉぉぉうだいクソ黒服共ぉぉ!! 胸焼けするほど嬉しいだルぉぉオオおおおおうっ!?』

「今度は何だッッ!?」


 突如、電気的に拡声された女の哄笑が鼓膜を叩いた
 死角から顔を出すと、「ピエロ」の居る前方が強い光で照射されている
 どうも「ピエロ」の内、数名が何処から調達したのか、スポットライトを使用しているらしい



 光の中には、仁王立ちの女が居た

 シャイニーカラーのパンツに、トラだかライオンだかの顔面が大きく印刷されたシャツ、という出で立ちの中年女性が


 
245 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:09:39.18 ID:6YvBkhzVo
 

 「何者だ……ッ」


 主任が絶句するのも無理は無い
 その女の風体も雰囲気もこの場の緊張感に全くそぐわないものだ


『んンんん!? アタシが誰かってぇぇぇぇぇぇ!?
 フン、「ピエロ」の子達が不甲斐ないって言うからねえぇ!!
 わざわざ出張ってきてあげたンだよぉぉぉぉぉ!!
 アンタら黒服をぉ、丸焦げにするためにねぇぇぇぇぇぇぇ!!』

「面目ないです先生!」「先生やっちゃってくだせえ!」


 バックから「ピエロ」達の声援を受けつつ、女はふんぞり返るような恰好でそう言い放つ
 不意にスポットライトが黒服達の潜む物陰に照射された


『ンじゃまぁぁ、ド派手に行こうかねぇぇぇぇぇっ!!
 「ポップロックス」とぉ、「コーラ」でぇぇぇぇっっ!!!!』

「まずい、散開しろぉッッッ!!!」


 黒服達が物陰から転がり出るように離脱した、刹那



 アスファルトを深く抉るように、地面が爆破した
















□■□
246 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/09(月) 19:10:45.22 ID:6YvBkhzVo
 




中央高校の女子
  襲われた二人組の一人で、顔面を削がれるように食われた
  南区商業の女子とは中学の頃からの友人で、この日は二人で遊んでいた

南区商業の女子
  襲われた二人組の一人で、ふくらはぎを食われ腹部を裂かれた
  襲撃者の男子は彼女の容姿をコピーし彼女の実家へ向かった模様





乱野憐子
  R-No.888。Rナンバー(穏健派)の「援護班」所属
  同じ班内に意中の男性(?)が居るらしいが詳細は不明
  「脳は10パーセントしか使われていない」の元契約者で「組織」の黒服
  実に7年振りの登場となります

メイプル
  Pナンバー(穏健派)所属
  黒服になる前の記憶はあるらしいが多くを語ろうとしない
  「メイプル」は彼女自身が登録した名前だが、外見は日本人

俺っ子の黒服
  Pナンバー所属
  この年の春に配属された新人、一人称「俺」だが女子黒服
  新人扱いされるのがイヤな時期に差し掛かってから早数か月
  上司のメイプルの頭痛の種となっている

ミッペ
  Pナンバー所属の女子黒服
  この年の春に配属された新人で、リーディング系の元契約者である
  俺っ子の黒服とバディで、流されやすい性格(ただし本人は否定している)





主任
  過激派所属
  キレやすいタイプだが自分のそういう面に自覚はある
  休日は朝から安酒を呑みつつ古いコメディ番組を鑑賞している





中年女性
  まるで「大阪のおばちゃん」のステレオタイプなおばちゃん
  「ピエロ」側の刺客で、「ポップロックス(キャンディー)で大爆発」の契約者



 
247 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/22(日) 10:48:15.54 ID:67B6I2/xo
乙です
ビジュアルが大阪のおばちゃんとなると強いんだろうけど強キャラ感あるかと言われるとまたちょっと違う気がするww
248 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/07/23(月) 21:36:00.38 ID:br9VH1Jyo
 
暑い……うえに書く荒筋が長くなる _:(´ཀ`」 ∠):_
削るか、いやまだ早いぞ…… _:(:3 」 ∠):_

>>247
そうですね、強キャラって言うよりコメディ的な強さかな
方言キャラは普段へらっとしてて土壇場でさらりと実力を発揮する流れが好きですね

本当は関西方言込みでキャラを書ければ最高なんですけどね
色々難しかったので所謂「標準語」に戻しました……
 
249 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/26(木) 13:49:28.91 ID:DlleHqYA0
乙乙
それはそうと今週末に台風一家が攻めてくるらしい
250 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 10:07:53.44 ID:jyATZaCB0
>11に今更気づいた
花子とかの人が戻ってきた暁にはドロドロの学園ものが見れるんじゃないかと期待しとこう
251 : [sage saga]:2018/08/08(水) 04:41:13.72 ID:JaAg68Uv0

穴埋めてきなもの投下
252 : [sage saga]:2018/08/08(水) 04:48:30.25 ID:JaAg68Uv0

ユリは呼吸を整え集中する。
魔力を変換し、チャームを組み上げていく。
広く、なるべく多くの者に届くように。
そして対象を特定するために、ピエロ達から文字通り搾り取った情報を組み込む。
これでピエロ達にだけよく効き、それ以外にはほとんど効かないチャームの完成だ。
まあ、ピエロ以外にも吊り橋効果くらいはでるかもしれないが。
むしろ出逢いの切っ掛けを提供しているのだから感謝されてもいい気がする。
完成したチャームの欠片をヤエルに渡す。

「……出来た。増幅して」
「ええ、わかったわ」

チャームの欠片を元に、ヤエルも自身のチャームを編み上げる。
元の効果を妨げず、なおかつ効果の底上げをするように。
その間ユリは羽を拡げ、チャームを放つため集中している。
ユリの羽は鳥の羽毛のような柔らかそうな質感をしている。
形状も重力に従うように緩やかな曲線をしており、動きに合わせてゆらゆらと揺らめいている。

「……こんなもんかしら」

ヤエルも準備を終え羽を拡げている。
ヤエルの羽は、いかにもコウモリといった感じで、自らの意思を示すように力強く拡げている。

「合わせてね」
「いつでもどうぞ」

二人の放ったチャームは混ざりあい、水の流れるように周囲に拡がっていく。
微かに鼻腔をくすぐる甘い香りが、空気と混ざり拡散していく。

「さて、何体くらい掛かるかしら」
「……ちゃんと掛かれば、すぐに私達を探しに来る」
「え、私にも来るの? それ嫌なんだけど」
「…………」

______
前スレ>>878-879をも少しまじめにやった感じのを脳内補完
______
253 : [sage saga]:2018/08/08(水) 05:01:22.03 ID:JaAg68Uv0

結局、二人の元に来たピエロはすぐ近くにいた何組かだけだった。
効果範囲や移動時間など考えても少なく感じた。
掛かった手応えも、処理したピエロの数よりももっと多かった。

「もう一回やってみる? あんたのロリコンホイホイ」
「ロ…………チャームはちゃんと効いてる。……重ね掛けしても、あまり意味ない」

抗議の声を呑み込みヤエルを睨みながら分析する。
掛けたチャームはピエロ達の優先順位の一番上に私達を入れ込むもの。
チャームはちゃんと掛かっていた。
遭遇したピエロには自身のチャームの反応が感じられたし、効果が現れていた。
ただ、何かのついでに私達を襲ったような違和感。
私達を認識したことで本来の効果が現れたような。
何にせよ、もう一度同じものを掛けたところで、魔力の無駄になる可能性がある。
浪費するのは避けたい。
最近あまり食べてないし。

「それじゃあ、このまま移動しながら討伐しましょうか」
「……それがいい」

二人は再び羽を隠して、散歩でもしている風に歩きだした。

終わり





ユリはヤエルにロリ体型でよくからかわれて
睨んだりキックしたりしてるがそれも軽くあしらわれている様子

それぞれのチャームの作り方の違い
ユリは一つ一つ丁寧に組み上げる
ヤエルは攻撃に纏わせてぶちこむために編み上げる イメージ
ユマは練れば練るほど色が変わってテーレッテレー(それで成功するとは言ってない)
254 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/12(日) 13:49:44.62 ID:0QVk1mAM0
や、乙です
葉は部下の好きにさせてそうだね、や
や、ところでもうすぐお盆だが
スクブスにもお盆はあるのか、や
255 : [sage saga]:2018/08/14(火) 23:32:00.49 ID:tT2x/T4N0

>>254
>>葉は部下の好きにさせてそうだね、や
>>スクブスにもお盆はあるのか、や

きっと現場判断に任せてるんですよ
三尾たちのチームは現地行動をサポートするためのチームなんです
モンハンのギルド的なものです
何故か彼女らも現場によく出てますが


サクバスにとっての盆はどうなんでしょう
サキュバス同士のって意味ならサキュバス自体にそんなコミュニティがあるかは疑問だけど
せいぜい知り合い仲間内のぐらいの規模?
人間の盆をどう思うって意味なら畜魂祭みたいな感じ?
今出てる二人は人間の扱いは基本的に食べ物です
256 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:04.64 ID:HXt21WMGo
 その日は朝から雨がふっていました
 こくごの時間も雨、おんがくの時間も雨、きゅうしょくのときも雨でした
 ごごのじゅぎょうがおわって、かえりの会がおわったあとも、ずっと雨でした


「たっくん、しーっだよ」


 ぼくと【花子さん】は、かえり道にある公えんにかくれて道ろを見ていました
 【花子さん】が人さしゆびをくちびるにあてて、ぼくにしずかにするように言いました

 そしたら、道ろのむこうがわから、白いふくをきたかみの毛のながい女の人がやってきました
 からだがよこにむいたまま、カニみたいに足をうごかしています
 【ひきこさん】はああやってよこ向きにしか歩けないんだよ、と【花子さん】がおしえてくれました
 ぼくのところからは、女の人のかおは見せませんが、目と口が大きくさけたこわいかおをしているそうです

 ぼくが【ひきこさん】を注いして見ていると、きゅうに【花子さん】がぼくのかたをぽんぽんとたたきました
 【花子さん】が小さくゆびをさす方向を見ると、【ひきこさん】のはんたいがわから、おばあさんがあるいてきました
 むらさきの、ぐるぐるもようがいっぱいついた、見たことがないへんなきものをきた、おばあさんでした

 ぼくは、あっ、とびっくりしました
 【ひきこさん】が、いきなりおばあさんめがけてすごいいきおいではしり出したからです
 ぼくはおばあさんがあぶない、と思いましたが、【花子さん】がぼくの口をおさえて


「だめっ、しーっ」


 と、ぼくの耳もとでそう言いました

 ぼくはいそいでおばあさんの方を見ると、おばあさんは【ひきこさん】のうしろに立って、へんなポーズをしていました
 【ひきこさん】は、今にもとびかかるようなポーズをしているのに、そのままかたまっていました
 まるで、月ようびのよるにテレビでやってる、じだいげきみたいでした


 「なにやってんだい、ここはつう学ろだよ
  あんたはすこし、ちのにおいがつよすぎるね」

 
257 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:59.27 ID:HXt21WMGo
 おばあさんの声は大きくないのに、ぼくの耳にもはっきりとそう言ってるのがきこえました
 すると【ひきこさん】は、まるですなで作ったおしろがいっきにくずれるみたいに、地めんにたおれると
 そのまま消えていなくなってしまったのです


「ひえっひえっひえっ
 それにしても、いいしりこだまでのお
 ぴちぴちのぷりぷりでほれぼれするわい、ひえっひえっひえっ」


 おばあさんはそう言うと、まるでかたなのようにかまえていたものを、たかくかかげました
 その先の方には、青くすきとおるボールのようなものがのっていました
 前に【花子さん】がおしえてくれたのですが、このおばあさんは大きくてながいスプーンをつかって
 わるい人のおしりから、しりこだま、という大せつなものをぶっこぬいて、わるい人をやっつけるそうです

 おばあさんは、スプーンにのっかったしりこだまを大じそうにしながら
 きものの中から出した、きんちゃくぶくろに入れると、はしるように行ってしまいました


「【ムラサキのおばあさん】、かっこよかったね」
「うん」


 ぼくたちも公えんから出て、おうちにかえることにしました
 【ひきこさん】はこわかったけど、おばあさんがすごい人なんだとおもいました

 ぼくは【花子さん】にさよならを言って、おうちにかえりました
 【花子さん】もおうちにかえりました
 【花子さん】のおうちは、あき地にあるかきの木です
 だから【花子さん】のことを知っている人たちからは、【かきの木の花子さん】とよばれています


 おかあさんから、もうすぐあき地でこうじがはじまる、というはなしをききました
 もしかすると【花子さん】はいなくなってしまうのかもしれないので、ぼくはちょっと心ぱいです
 でも、【花子さん】にはまだ、そのことをはなせていません



 終
258 :○前回の話 >>240-245 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:04:31.44 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中央高校付近

 作戦行動中の新人黒服二名が独断で飛び出し、敵性対象を追跡中――
 その連絡が入ったのは今から十数分前
 「組織」Pナンバー応援部隊の三名は新人黒服の生体信号を辿り、目的地へ急行していた

 南区の某ビル屋上で女子生徒を襲撃した者は
 女子生徒の家族を捕食すると言い捨て彼女の実家へと向かった
 その場でリーディングを実施したミッペによれば、襲撃者は男女二人組の契約者

 それが現場のメイプルから急ぎ伝えられた情報だ


「あっ、いたのです! ミッペちゃん見つけたのです!」


 二つ結びの黒服が示す先には、住宅街のゴミ集積所
 その前で座り込んだ少女黒服の姿があった


「ミッペ! どうしちゃった!? おい!!」


 応援三人組のリーダーがミッペの肩を掴んだ
 ようやく彼女らの存在に気づいたかのようにミッペが顔を上げた
 その表情には恐怖が張り付いている


「あ、キルトさん……。ココは、どこなんですかぁ……?」
「なんだどうしたミッペ、何があった!? クジっちはどこよ!?」
「さっきから頭が……、変なイメージが勝手に流れ込んできて……、海が、磯臭くて」
「クジっちはどうしたよ!? 一緒じゃなかったの!?」
「クジちゃんは……、あ……、あの子のお母さん助けるって、先に……!」

「たいちょー、ミッペは何らかの能力の間接的影響をー受けていると思われー」
「アクアフレッシュ、あんたは私に付いて! ぷーたんはミッペを頼む!」
「らじゃーなのですっ!」 「りょーかいー」


 リーダーは後の二人に指示を出し、“ジャミング”を起動した
 都市伝説起因の異常事象を一般人に認識させない一種の「結界」だ


「ミッペ、どの家か教えて!」
「三軒向こうの、あの平屋です! でもぉ、ヤバいですよぉ!」
「ヤバいから行くんだよッ!!」


 リーダーとアクアフレッシュは既に飛び出していた
 なるほど、問題の平屋からは異様な気配を感じる


「敵さんの戦力も分かりもしないのに、向こう見ずに飛び出してくれちゃって、んもーッ!!」


 愚痴を吐き捨てながら問題の家屋へ接近
 家屋内で争っているのか、物々しい破壊音が聞こえてきた
 おまけに異様な気配が剣呑な殺気として具体的な輪郭を帯びだしている


「アクア、念のため報こく――」


 走りながら後方の仲間へ声を掛けた、次の瞬間だ


 雷のような爆音と閃光が空間を奔った!


 迷いもなく門を蹴破り敷地へ侵入、アクアフレッシュもこれに続いた

 家屋の玄関、ではなく脇の庭先へと踏み込む

 庭に面したガラス窓は全て吹き飛んでおり、強烈なオゾン臭が黒服の鼻を衝いた
 
259 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:05:58.33 ID:kM0nq+B5o
 

 外塀に叩きつけられたのか、庭に倒れ断続的な痙攣を繰り返す新人を、まず確認した
 ミッペと共に飛び出した一人称「俺」の女子黒服、久慈だ


 リーダーはコンマ数秒で彼女から屋内へと視線を走らせる


「ハァーーハァァハァッ!!!! 新手かぁぁぁァ!!?? 黒服ぅぅぅゥゥゥ!!!!!」


 その者は、破壊され尽くした屋内に独り立ち、哄笑を響かせていた
 外見は少女、南区商業高校の制服を着た女子生徒の姿だ
 少女の傍には倒れた女性、襲撃された子の母親か

 女性の被害程度を見極めることができない
 この敵対者から目を離せば即殺られる、本能がそう警告を発している


「ハァァーッハァァァーーッ!! 黒服を喰っても腹は膨れないんだけどさぁぁぁ
 可愛いから相手して、グッチャグチャにしてやるよォぉぉぉーーっ!!」


 少女が放っているのは圧倒的な殺気と眼光ばかりでは無い
 周囲の空間に奔る無数の光は間違いなく電撃かその類だ


「ハヒッ! ヒ、ヒヒャ! ヒャッハ!! 来いよ、黒服ぅぅぅッ!!!」


 少女の体が突如震え出した
 哄笑を依然として維持したまま、体が内面から無理矢理押し広げられるように“変化”を始める


「まずいぞー! リーダー!! ヤツの出力が上がってるー!!」


 後方のアクアフレッシュが怒号めいた注意を飛ばした

 少女の姿がおぞましい外見へと変貌していく――


 空間の殺気が再度、膨らみ始めた


「アクアッ!! 防御ッ!!」


 リーダーの警告とほぼ同時に、少女周囲の放電量が一気に増大!



「掛かって来いよぉぉぉッ!!! 黒服ぅぅぅゥゥゥぅううウウうううウウッッ!!!!!!」



 敵対者は黒服に向かって牙を剥き、嗤った





 鹿のような二本角


 獣の頭蓋骨を思わせる頭部


 狭い屋内のためか、体を折り曲げるようにして狂相を向けるこの者は


 既に少女から獣人へと“変貌”を遂げていた





 
260 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:06:34.93 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町西区

 早渡修寿はようやく廃工場から抜け出した
 右腕を押さえ、ふらつきながらも、血走った眼で周囲の警戒を続けている

 「モスマン」の殺意は相当のものだった、だが奴を倒した
 そして収穫はゼロ、しかもこれからどうする? よりにもよって携帯を忘れるなど
 己の迂闊さを呪いつつ、彼は東区の状況を案じていた

 東区へは高奈先輩が向かった筈だ、彼女ならきっと大丈夫だ
 早い内に見つかると良いのだが


 不意の激痛に思考が掻き乱される
 呻き声を漏らしながら動かない右手を見下ろした

 最早右肩より先の感覚が無い
 今は痛みより全身を襲うだるさが強いが、断続的に激痛の波が押し寄せてくる

 切断された右手は強制的に繋げたものの、上手くやれたか断言できない
 そもそもあの毒鱗粉だ、全身に毒が回ってるとして――あとどれくらい持つ?

 どうする、真っ先に「先生」の診療所へ電話すべきか
 この周辺に公衆電話があるとも思えない、工場に押し入って電話を借りるか、もしくは民家に助けを求めるか
 東区は「ピエロ」共が放火を始めていた、そもそも診療所へ辿り着けるかどうかすら怪しい、それより一旦自宅へ戻るか


「財布、忘れてないよな?」


 血塊を吐き捨て、車道脇の縁石に崩れ落ちるようにへたり込んだ
 思った以上に毒の回りが速い、急ぐ必要がある


「んお? 早渡?」


 流れが少ない車道でタクシーを捕まえようと漠然としていた早渡は
 横合いから掛かる声とエンジン音に、ぎこちなく首だけを捻った
 肩回りに寝違えのような痛みが走る


「……星崎先輩」
「はいよー星崎ですよー」


 見れば中央高のブレザー女子、学年が一つ上の星崎先輩だ
 梅雨明けの頃に奇妙な縁で出会った、地味さと呑気さを足して煮詰めたような女子である


「ひどい怪我だね、アレかな? 喧嘩帰り? 顔面も真っ赤になっとる」


 星崎先輩の問いに早渡は黙った
 まさか「モスマン」と殺し合っていたなどと言える筈も無い


「まあさ、良ければ乗ってく?」


 彼女は早渡の沈黙を破くと、後方に停められたスーパーカブを親指で示した








「ねえ、病院行こうか? 近いよ、病院」
「保険証、いま、持ってねえっす」
「そっかあ、じゃあ家でいい? 南区だったっけ、家」
「はいっす、ありがたいっす」


 二人はカブに揺られ、南区方面へと向かっている
 早渡の顔面は毒の所為か赤から青へと変色し始めていた

 毒消しが家にあったかも思い出せない
 一旦「えりくさあ」で治療を試みつつ、さもなくば病院行きだ
 
261 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:07:33.30 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区

 乱れた呼吸を整え、周囲の惨状を見渡す
 現場は凄惨な状況だが、まず「ピエロ」は全滅させた
 だが肝心の――あの奇天烈な風貌の中年女性
 大阪のおばちゃんめいた恰好の契約者、あれの姿が見えない

 逃げられたな

 主任は胸中で毒づいた
 因みに、「ピエロ」に対する拘束と尋問を検討しなかった訳では無い
 だが狂笑しながら自身の頭部を爆発させた「ピエロ」を見て即座に断念したのだ
 あれはどう見ても最初から脳内に炸薬を仕込んであったとしか思えない様子だ


「カス共が……ッ!!」


 主任が悪態をつくのも仕方ない話だ
 視線の先にあるのは言い訳もつかない程に大きく抉れたアスファルトだ
 眼前ばかりでは無く、連中の射程範囲には大小問わず無数のクレーターが形成されていた
 言うまでも無いことだが、主犯はあの中年女の契約者である


「主任、事後処理は隠蔽部隊を要請しますか?」

「無駄だ。『ピエロ』があとどれほど潜伏しているか分からん
 修繕したとしてまた破壊されないとも限らんからな
 爆破痕は立入禁止、車道へ迂回路を設定しろ」

「了解、そのように伝えます」


 こちらとて被害が無かった訳では無い
 爆破による死傷者若干、ライフル弾による重傷者複数
 継戦は未だ可能とはいえ、敵側の戦力には少々侮りがたいものがある

 舐めていた訳でも無い
 しかし、あのピエロ装束の道化共
 個々の軽薄な態度とは裏腹に統制の取れた戦闘能力を発揮していた
 裏で糸を引いている者がいるのはまず間違いないだろう

 加えて、あの中年女の契約者
 当初は無差別爆破しか能が無いと見做していたが
 あの能力密度といい、出力の高さは並のものではない

 看過できない、将来の脅威となりかねない


「『ピエロ』側に爆破能力を持った契約者がいる、門条にも連絡を入れておけ」


 側近の黒服に報告の指示を出す
 門条は現在「狐」の件専任となっているが
 「ピエロ」への対応にも指揮側として一部関与している
 その上、今夜の「ピエロ」の騒動が「狐」の件と無関係とは言い切れないのだ

 過激派幹部の意向を窺っている場合では無い
 門条には逐次報告を入れておいた方が良いだろう、万が一があっては遅いのだ!

 負傷者への応急処置、爆破痕への簡易工作、既に消滅した「ピエロ」が遺した銃火器
 周囲に眼差しを向けながらも主任は黙考を続ける
 正直今直ぐにでもキレて怒鳴り散らしたい気分だが――

 ところで、我々過激派は門条と直接やり取りを交わすホットラインを持たない
 奴の部下へ報告を行い、時間差により奴へ伝えられる

 そこに考えが至り、思わず怒張した血管をこめかみに浮き立たせながら
 彼は口を開いた


「門条への報告に付け加えろ!
 『ピエロ』側には何名か道化の仮装をしていない契約者がいる
 これは俺の推測に過ぎんが……、奴らは『ピエロ』の協力者だ。これから更に複数名出てくるかもしれん」
 
262 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:08:19.62 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中学付近


「全身ミイラの癖に舐め腐りやがっ、お゛あ゛あ゛ぁぁ゛ーーッッ!!」
「チェスト! チェストォ!! チェストぉぉオオーーッッ!!」


 東区、いや、学校町内で最大の規模を誇る中学校
 その近辺にある、とある廃屋の中で「ピエロ」と「トンカラトン」が殺死合いを繰り広げていた


「オンッ! おぉオンッ!! おーーンッッ!!」
「ぐわし! ぐわし! おゴォォーオオッ!! エ゛ん゛ッ!!(死)」


 逆手の脇差を器用に扱い「ピエロ」の右手ごとチャカを壁に縫い付けると
 もう一方の脇差で「ピエロ」の頭部を即座に刺突! 貫通!


「兄者ァァッ!! 無事かァッ!?」


 手際よく「ピエロ」を始末するは、「トンカラトン」、名をヤッコ
 トンカラトンで構成された勢力、『朱の匪賊』四番隊、その副々隊長である!


「うぜえっ! てめえッ!! この俺様☻を何だと思゛ッッ!!??」
「猪口才ッ!! だがこれで、袋の鼠ッッ、いヨォォーーぉぉッ!!」


 素っ頓狂な大音声と共に屋内の柱に道化の頭部を激突せしめ
 その反動で以て敵の脚に絡めた物干し竿で道化を転倒させた挙句
 降り抜いた刀で「ピエロ」の股間目掛けて切っ先を振り下ろす――!!


「ハァァッ!! ハァァァッ!! ん゛あぁァアアああ゛あ゛ーーッッ!!(両 / / 断)」


 更に畳みかけて悶絶する「ピエロ」の顔面へ刺突! 貫通!
 途端に道化は絶叫を停止、白目を剥いて激しい痙攣を引き起こすばかり!

 絶命を確認の後、「ピエロ」の首に足を蹴り込み、乱雑に引き抜くは
 『朱の匪賊』四番隊副隊長にして、この四番別動隊を率いる「兄者」、名を珍宝(ちんほう)と発す!


「ぬぅぅぅッ、奇ッ怪な南蛮道化共めッ!! 我らが隠れ家に気付いておったか」


 連中の襲撃により荒らされた屋内を睥睨し、「兄者」は唸った

 日も暮れ、すっかり闇夜に染まった時分
 突如この隠れ家に「ピエロ」共が前触れなく襲撃して来たのだ
 当然別動隊、都合五名は総出でこれを返り討ちにし、逃さずまとめて切り伏せたのである

 因みに彼ら「トンカラトン」が念入りに「ピエロ」の頭部へ刺突を行ったのには訳がある!
 敵である「ピエロ」共は脳内に爆薬でも詰めているらしく、放置すれば絶命と引き換えに今際の爆弾と化しかねない
 そこで彼ら「トンカラトン」は彼奴らの頭蓋の内にある起爆装置をそのトンカラトン感知力によってピンポイントで破壊していたのだった!


「道化はいいッ! 捨て置けッッ!! 六ン馬ッ! 『本隊』の動きはどうなっておるッ!?」
「動き、怪しいです。監視網から、消えた。行方、知れず。つい、先程、道化、斃した後には、既に、姿が、無い」


 比較的被害の軽微な襖を開けば、廃屋唯一の光明が暗闇を照らす
 畳の上に這うはコード、コード、これまたコード
 そして部屋の一角に積み上げられたのは大小様々な機材の雑多な山
 その上に遠慮がちに載せられておるのは、いずれも数世代前のモニター、そしてノートPCである
 光の正体はモニターや機材のLEDディスプレイの明滅によるものであった
 これらは全て現地調達にて獲得されたたもの、電源は外部より違法的に引き込まれたものだ


 「ピエロ」の襲撃によりささやかな夜食が中断された
 「兄者」はすっかり冷めたタイムセール半額44円のフライドチキンを手掴みし、食い千切り、そして咀嚼した

 
263 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:01.97 ID:kM0nq+B5o
 


 明滅したモニターが示すのは、「本隊」そして「LOST」の表示である


「勘付かれたか、さもなくば、これも『女狐』の妖しげな術の仕業か……」


 咀嚼したチキンを呑み込み、「兄者」は暫し黙考する
 「兄者」率いる別働隊の者達は、この町へ来た当初こそ嫁獲りに勤しんでいたが
 一番隊からの恐るべき報告が密使により伝えられたとき
 「兄者」は四番隊への裏切りとも取られる任務遂行を決意したのである


「三番隊により、『十六夜の君』と呼ばれていた者の正体が、かの忌まわしき『女狐』であらば」


 「兄者」はその場の全員に聞こえる、朗々とした声色で言った


「三番隊、四番隊の背後から糸を手繰っておったその者が、今や表に姿を現しているのやも知れぬ」
「兄者ァ、するってえとよォ、やっぱし隊長殿は、もう」
「うむ、既にかの『女狐』の毒牙に掛かり、その尖兵として踊らされている可能性も考えておかねばなるまいて」


 「兄者」は五指を覆う朱い包帯に付着したチキンの衣を丹念に舐め取った
 まっこと、悪くない別働隠れ家ライフであった


 しかし、それも今宵で終わりだ


「者共ッ!! 聞けッッ!!」


 「兄者」、珍宝の訓示に、ヤッコ以下、銀冶、門佐、六ン馬の全「トンカラトン」が背筋を正す


「四番隊が姿を消したッッ!! 時は来たッッ!! 今宵ッ、我ら別働隊はこの隠れ家を放棄するッッ!!」
「とうとう暴れ時だなァッッ!! 兄者ァァッッ!!」
「応ッ!! 六ン馬ッ!! 『師団』一番隊に伝令を飛ばせッッ!!」
「合点、承知」
「いよいよ我らは消息を絶った四番本隊の所在を突き止めるッッ!!」
「ゥ応ォォッッ!!」「応――」「応ッ」


 吼えるような返事と共に、各名は床の間の天袋を開き、床板を引き剥がし、天井板を外した!
 其処から取り出したるは何れも密輸入の重改造を施した違法RPG-7、違法カラシニコフ、違法軽機関銃である!
 無論、襲撃した「ピエロ」共が取り落とした銃火器の回収も抜かりは無い!


「そしてッ! 隙あらばッ、――隙あらば、必ずや隊長以下本隊の同志を正気に戻すッッ!!」


 そう発し、珍宝は鍔広の麦わら帽子を目深に被った
 駆け寄るヤッコが、彼の背中に朱き外套を羽織らせる
 その外套は、当然のことだが、墨字で「 朱 ノ 師 団 」と大書された逸品である!


 遂に時は来たれり! 戦である!! 合戦である!!!







□■□
264 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:44.09 ID:kM0nq+B5o
 
○Pナンバーの黒服たち

ミッペ
 Pナンバーの新人、趣味は刺繍とごはん

久慈
 Pナンバーの新人、一人称が俺、最近耳にピアスを開けた

リーダー
 Pナンバー、新人二名(ミッペ、久慈)の先輩格で登録名はキルト、趣味はバイアスロン

アクアフレッシュ
 Pナンバー、本編では「アクアフレッシュ」と呼ばれているが髪色が白青赤のストライプだからである

ぷーたん
 Pナンバー、公私ともにふわふわしている、趣味はお昼寝





○学生共

早渡修寿
 モスマン毒にやられて以降、顔が赤くなったり青くなったり

星崎
 中央高校の二年生
 下の名前はトマト、後輩からはポンコツ呼ばわりされている





○過激派

主任
 元は過激派出身で異例の昇進を遂げた(?)門条と
 万年下管停まりの自分の違いは何なのかと枕を濡らす日々





○「朱の匪賊」嫁探し組

珍宝
 四番隊副隊長、「ちんぽう」ではなく「ちんほう」と読む

ヤッコ
 四番隊副々隊長、隊内のムードメーカー兼トラブルメーカー

銀冶/門佐/六ン馬
 四番隊の中でも推しが副隊長な「トンカラトン」共
 口数は少ないが、テックに弱い珍宝を陰に陽に支えている





○Pナンバーの命名規則について
 「組織」では以前から各ナンバーの頭文字を登録名の頭文字として指定する傾向が強かったそうだが
 Pナンバーはこうした傾向を一切無視、「自由に登録名を決定して良い」とわざわざ文書化までして制定した
 発案者は当時のP-No.0である



 
265 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:10:32.92 ID:IrWMP6vto
今夜はここまで
あと二つ
266 :シャ ◆7aVqGFchwM [sage saga]:2018/10/19(金) 19:54:13.23 ID:ddOPe4EgO
確かにイニシャルP縛りはきついなw
Rもたいがいだったけども何せ日本名Pがなあ
そういう意味ではザン・ザヴィアーは偉大だと思う
267 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:39:49.55 ID:3JghBcqEo
 
>>252-253
やの人お疲れ様です
チャームが効いてない……?
いや効果が阻害されてる……?
まさか、もう勘付かれたのか……!?

>>266
シャドーマンの人お久しぶりです
和名イニシャルPも高難度でしたが
洋名イニシャルPが簡単かと言うと……自信が無い
因みにPナンバー命名は自由と書きましたが
P-No.0や上位幹部に忠誠を誓っている黒服は
自発的に氏名両方かいずれかのイニシャルをP始まりにしているようです
ついでに言うとPナンバーの場合はP-No.というシステムに、というより
P-No.0や上位幹部その者に忠誠を誓っていることが多いイメージですね


では二発目行きます
 
268 :○前回の話 >>258-263 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:43:33.32 ID:3JghBcqEo
 



 学校町、位置不明

 其処は暗く、どこまでも暗く、陰気の凝縮された空間だ
 湿度の高い空気があたかも粘液のようにその場に居る者達へとまとわりつく


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 道化の装束に身を包んだ巨漢のピエロはまさにその場にあって
 命じられた通り“クランベリー”を潰して果汁を搾り出す作業に勤しんでいた
 周囲は完全に闇に溶けているが、僅かな光源によって床が錆び付いた何らかの金属であることが分かる
 床の金属には元々何かの彫刻が施されていたようだが
 こうも錆と謎の汚れに覆われていては一体何が刻まれていたのか知る由も無い


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 巨漢ピエロは自身の巨躯を縮めるようにして粛々と与えられた仕事を続けている
 まずは“クランベリー”のヘタを切断する
 こうすることで“クランベリー”はくぐもった悲鳴を上げるのを止める
 次に震えの止まらない“クランベリー”を固定し圧縮することで甘い果汁を搾り出す
 それを金属の床へ滴らせることがこの作業の最も重要な工程だ


「今で14だ」


 この空間に居るもう一人、頬のこけた神経質そうなピエロは
 “ポータル”から次の“クランベリー”を強引に引っ張り出し、通話相手に唸った
 古参だからという理由で呼び出されてみたらこれだ、正直この場から逃げ出したかった
 最初の話とは大違いだ、そもそも“クランベリー”もこの作業も彼にとって全く趣味では無い
 この町に来てからというもの、もっと美味なモノを食い散らかす積りだったのに貧乏くじばかり引かれている


「もうこれで15人目だぞ!?」


 通話の相手を押し殺した声で脅しかける
 乱暴に掴み出された“クランベリー”が小さな悲鳴を上げて身を捩った
 全ての“クランベリー”は白い布でくるまれリボンでしっかりと結ばれている
 この包装は完璧だ、逃げ出すことなど無理な話である


「どうする? 続けんのか止めんのか、どうなんだ!?」
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
『待ってください、作業を一旦中止してください』


 相手の声色に僅かな緊張が混じった
 「ピエロ」のボス、「ジョー」が何をしているのかは知らないが
 通話先の様子が妙だ、何やら慌ただしいようだが何が起こっているのか分からない

 
269 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:45:33.33 ID:3JghBcqEo
 

『今ジョーが確認を取っています、そのまま待機してください』
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
「待てマッシャー、一旦中止だ! おい、待てっ!!」


 巨漢ピエロが作業を続けようと次の“クランベリー”を掴んだ
 神経質ピエロは慌てて引っ手繰り返す、“クランベリー”が鋭い悲鳴を立てた


「おいこのウスノロ!! 待てっつってるのが分かんねーのかっ!?」
「ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!」
『中止命令が出ました。作業を終了してください』


 作業中止、幾ばくか緊張が緩んだ
 不機嫌そうな相方の唸り声を聞きながら神経質ピエロは額の汗を拭う


「おい、作業終了だマッシャー! 中止命令が出た!」
「ブフスゥゥーーッッ!」
「そっちの案配はどうなんだ、おい。お前は随分落ち着いてんじゃねえか、え?」
『全然落ち着いてないですよ、正直余裕がありません』


 唇を舐めて通話先の「ルーキー」に軽口を叩いた
 奴は「ピエロ」の中でも新参者だが的確な手腕で「ジョー」をアシストできる実際稀有な存在だ


「大暴れできんのもそろそろなんだろ? そん時ぁパーッと楽しもうぜ」
『だといいんですが』


 「ルーキー」の応答はどこか歯切れが悪い
 大方「ジョー」と教授の作業とやらが詰まってるんだろう
 神経質ピエロは「ジョー」によろしく言っとけと伝え通話を切った


「オラ行くぞ、こんな陰気臭えとこに長居したかねえんだよ俺は」
「フスーーッ、フスーーッ」


 返事代わりに鼻息を立てるマッシャーを引き連れ、彼は“ポータル”へ侵入した
 すすり泣いていた“クランベリー”は神経質ピエロにどつかれ悲鳴を上げる
 後は覚醒させた“クランベリー”をもう一度眠らせればこの地獄のような仕事からは解放される

 全ては「組織」に気付かれずに進める必要がある
 手持ちの“クランベリー”はいずれも外部から調達してきたものだ
 学校町内で収穫するとなれば確実に「組織」その他の注意を引くことになる
 この“ポータル”にしてもそうだ、学校町外部と接続しているならともかく
 転送は全て学校町内でのやり取り、その上今回は「先生方」の護衛も受けている
 「組織」に勘付かれることも無い
 少なくとも、今はまだ


 彼らピエロが“ポータル”へ姿を消し、接続が解消されたとき
 その空間は完全な闇に沈んだ

 夥しい果汁が広がった金属の床は依然として不気味な静寂を湛えている








 
270 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:46:20.75 ID:3JghBcqEo
 



 「組織」管轄の病院


「すいません部長。アタシの失態で、こんな」


 丸顔なスーツの女性に先行しながらメイプルは死にそうな顔で謝罪した
 南区ビル屋上で重傷の女子二名を保護してから何時間が経過したか
 既に時刻は日付の変わる時分に差し掛かろうとしていた


「監督不行届は確かに問題だが、叱責は後だ
 メイプル、被害者の容態は?」

「はい、少女二名も母親も現在は安定してます
 意識が戻り次第、ヒアリングと記憶処理を実施予定です」

「捕食されかけたと聞いてどうなることかとは思ったが……」


 後で憐子にも礼を言わねばな、丸顔の黒服はそう呟きながら一室に入った

 集中治療室の病床に横たえられた黒服をガラス越しに眺める
 全身を包帯でくるまれているのはメイプルの部下で
 ビル屋上の一件で飛び出していった一人称俺の女子黒服、久慈である

 丸顔は腕を組んで溜息を吐いた


「現場の報告はこっちにも入ってる。襲撃者の能力出力は並の契約者のものではない
 『組織』の古い区分では即時捕殺に指定されてもおかしくないレベルだ
 最近は、特に穏健派が強くなってからは下っ端が現場で強敵と戦うリスクも減っている
 そんなの相手にヒヨっ子が生きて帰って来れただけでも御の字だ」

「……」


 涙目でガラス向こうの部下を見つめるメイプルを尻目に
 丸顔は悟られぬよう安堵の溜息を吐く


「しつちょー、ぶちょー、今ー話し掛けてもよろしいですかー?」
「ん? ああ、入れ」


 いつの間に入口の方には別の黒服が居た
 新人二名の追跡兼応援に向かった部隊の一人、アクアフレッシュだ
 彼女は大きなタブレット型の端末を丸顔にも見せながら話を切り出した


「問題のー、襲撃者なんですけどー
 交戦時に『変身』した形態からー正体を割り出すとなるとー、やっぱりコイツになるんですよー」


 彼女が話しているのは、屋上で少女二名を襲い重傷を負わせ
 更に内一名の少女の母親を襲撃して捕食しかけながら
 現場に駆け付けた新人の久慈、および応援部隊と交戦した「襲撃者」の少年のことだ

 襲撃者は、屋上で襲撃した少女の容姿へ「変身」して彼女の制服を奪い
 少女の実家で母親の襲撃・暴行を実行、割って入った久慈に攻撃を仕掛けた後
 応援部隊の黒服キルトとアクアフレッシュの前で獣人の形態へ「変身」の後に交戦
 彼女ら二名を電撃攻撃で牽制しつつその場から離脱した


 
271 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/7 ◆John//PW6. [sage saga]:2018/10/21(日) 19:47:18.61 ID:3JghBcqEo
 



 タブレットに映し出された情報を目で追う
 「組織」データベースの映像記録で、半人半獣の怪物が表示されていた
 「Wendigo」 ――確かに名称にはそう記されている

 「ウェンディゴ」、カナダ南部からアメリカ北部の先住民に伝承される悪性の精霊だ
 獣人の実体を持つとも、人に姿を見せることはないとも云われており
 精神的な攻撃を執拗に行うとも、森に人を迷い込ませて食い殺すとも伝えられている

 ちなみにこの「ウェンディゴ」、外見については諸説あるが
 日本のオカルト解説本で紹介された「シカの角を持つ半人半獣」のイメージが後の「ウェンディゴ」の外見に影響を与えたという説もある
 尤も人々の抱くイメージによって実在化した都市伝説の外見が変化する例は幾らでもあるので外見については措くとしよう

 いずれにせよ、少女二名は体の一部に捕食痕があり母親も食われかけたという報告からは
 襲撃者の正体、あるいは契約伝承が「ウェンディゴ」であると判断する材料にはなろう


「なるほど、精霊であれば消極的ではあるが『変身』能力の説明もつく」
「えーまーそうですねー、妖精精霊一般はー、大抵『変身』デフォルトで出来ますからー。でもー」


 「変身」の能力は「ウェンディゴ」の特徴として取り立てて言及されることは無い
 しかし、世界各地に残る伝承によれば「精霊」一般は様々な魔法を行使し、あるいは「変身」能力を有するとされる
 広く「変身」能力を使用しうる存在だと捉えるなら、精霊の一種である「ウェンディゴ」もまた「変身」能力がある
 そう言えるかもしれない、だが


「でもー『ウェンディゴ』だとするとー、くじっちゃんを吹っ飛ばしたー『電撃攻撃』の説明がー、まったく出来なくなっちゃいますー」
「『電撃』か……。全く別の能力者か、あるいは多重契約者という線も捨てきれんな」


 応援部隊の情報によると、襲撃者と交戦した久慈は
 放たれた電撃によって大きく吹き飛ばされ戦闘不能に陥っている
 またこの電撃の威力により、応援部隊は近接戦闘に出ることができなかったのだ

 加えて――、丸顔の黒服は目を細める
 屋上で新人のミッペがリーディングした情報が正しければ、襲撃者の少年には女子が一緒だった
 母親襲撃の現場には姿が無かったとのことだが、この女子の存在が非常に匂う

 担当医からの報告では、都市伝説能力で生成されたとみられる“蛆虫”が少女達の傷口から多数摘出されたらしく
 解析を試みたものの傷口を離れた途端に消滅したらしい。恐らく情報流出対策だろう
 断定は出来ないが“蛆虫”がこの少女の能力である可能性は否定できない


「悩んでいても仕方が無い、今掴んでいる情報を全て門条側にも報告してくれ
 連中が新しい情報を入手しているかもしれん」

「らじゃーですー」

「メイプル、我々もミッペの所へ行くぞ。案内してくれ」


 アクアフレッシュはタブレットを小脇に抱え足早に退室する
 丸顔とメイプルも集中治療のモニター室を後にした


「ミッペに関してはこっちに非がある、情報の連携が遅れた所為だ」
「いえ、そんな」
「流せる問題では無い。感知系能力に対するカウンター能力など……」


 丸顔の眉間に険しさが混じる
 穏健派から入った報告によると、「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者が存在する
 射程や追加能力等の詳細が不明な現状、下手にリーディング系の能力を行使するのは危険だ

 しかし現状では、リーディング系の能力を使用すると具体的にどのようなカウンターを食らうのかも分かっていない
 応援部隊が現場に駆け付けた際、真っ先にミッペを保護したようだが彼女は錯乱気味だったという
 ミッペは一体何を感知したのか確認する必要がある


「厄介なことになってきたな、『狐』の件に加え『ピエロ』とは」
「……」



 
272 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:48:01.44 ID:3JghBcqEo
 

「気合入れろ風日」


 前を向いたまま後ろに続くメイプルに声を掛ける


「部下はいつでも上司の背中を見ているものだ、胸を張れ」
「……ッ!」


 息を飲む気配の後パンパンと鋭い音が廊下に響く
 頬を両手で叩く。メイプルが己に喝を入れる際によくやる行為だ


「すんません部長! 必ず巻き返します」


 丸顔は答えず、ただ僅かに頷いた









 階を上がると、廊下の長椅子にミッペとぷーたんが座っていた
 ミッペは久慈と共に飛び出した新人、ぷーたんはミッペを保護した応援部隊の一人だ


「あっ、室長に部長ー! 今からそちらに行こうと思ってたのです!」


 ぷーたんは如何なる状況でも己のペースを崩さない黒服だ
 そして後輩への面倒見も良い。彼女はどうやらずっとミッペに付き添っていたらしい


「保護した女の子達も、女の子のお母さんも無事なのです
 もう手術も終わってぐっすりお休みしてるのです
 明日、お話を聞いて記憶を処理してあげるのです!」

「さっきアクアから聞いたよ、記憶処理は適切にな
 今は少しミッペと話がしたい。いいか?」

「はい、ミッペちゃんはちょっと混乱してたみたいなのですが
 今は大分落ち着いてるから大丈夫だと思うのです
 私はキルトさんのお手伝いに行ってくるのです」


 彼女は丸顔とメイプルに会釈するとぽてぽてとその場を去った
 入れ替わるように丸顔が長椅子に腰掛ける
 メイプルは立ったままで腕を組んだ


「うう、メイプルさんに、部長さんまで……。独断行動の処罰ですかぁ……?」
「説教は後でミッチリやる! 今は部長がお前に確認したい件があると」
「ビル屋上と襲撃者追跡中に能力を発動したらしいな。状況を詳しく聞きたい」


 メイプルの台詞を引き継ぐように丸顔が切り出した
 ミッペの直属上司はメイプルだ。彼女の険しい視線に怯えつつミッペは丸顔におずおずといった体で応じた


「リーディングで読み取ったことを話せばいいんですかぁ……?」

「いや、内容は既に確認してあるよ。聞きたいのはそこではない
 そうだな、リーディングを発動したとき妙なモノを見たようだな。それについて確認したいんだ」


 途端にミッペの顔色に明らかな恐怖が浮かんだ
 丸顔とメイプルは顔を見合わせる


「敵方にやばい能力持ちが居るらしくてな、お前の情報がかなり重要なんだ。ミッペ、なんでもいい。話せそうか?」

 
273 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:48:37.49 ID:3JghBcqEo
 

 メイプルにそう告げられ、ミッペは間近に座る丸顔の顔を見た
 彼女の体が震え出したが、ややあって意を決した表情へ変わった


「私、『メトリー』を使おうとしたんです
 屋上で、あの子達はすごく怯えてたから、言葉に出来ないくらい怖い目にあったのかなって
 そしたら、何故か最初、『メトリー』が上手く発動しなかったんです」

「発動しなかった? それは何か外部の干渉の所為か」

「多分違うと思います、なんだか……感覚的には勝手に切れちゃったというか
 もう一度発動して、あの子達に起こったことを読み取ったんですけど
 その時には特におかしいことは無かったんですよぉ」


 ミッペは顔色を窺うように丸顔を見つめている
 丸顔は短い黙考の後、口を開いた


「その後、久慈と現場へ向かい、二度目のリーディングを実施したわけだな
 その時の状況についても話してくれ」

「はい……。あの子の実家に向かってる間、お家の場所を詳しく特定しようとして
 屋上の『メトリー』を続けようともう一回発動して、“足跡”を辿ろうとしたんですよぉ
 そしたら……」


 ミッペの震えが心なしか酷くなった


「急に、ノイズだらけの映像が映り込んできたんです
 変なんですよぉ。普通『メトリー』で流れてくる映像がノイズがかることなんて無いんですけど
 その時だけなんだか……人の居ない村みたいな、古い映像が流れ込んできて」

「動揺しているな。続けられそうか?」

「が、頑張ります……!
 それで、私の『メトリー』っていつも映像だけなんです。なのに、この時は急に
 海の、磯臭い匂いまで流れ込んできたんですよぉ。それだけなのに、すごく怖くて
 ずっと、なんか向こう側に見えない目玉があって、それに覗かれてる気分がずっと続いて」


 彼女の呼吸が大きく乱れ始めた
 丸顔は涙目のミッペの背中に手を当てがった


「多分あの時、私は干渉されてたんだと思います
 自分が何なのか、何処にいるのか、まるで暗闇に投げ出されたみたいになって
 気付いたら、ぷーたん先輩達がいて、いつの間にクジちゃんは先に行ってて……それで、私」

「海の近くの村、が見えたんだな?」

「はい。村です。多分映像の中に何かが居たんだと思います
 私のときは見えなかったんですけど、でも……でも、絶対に見たらいけない奴ですよぉ!!」


 
274 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:49:07.85 ID:3JghBcqEo
 

 丸顔は先に立ち上がり、興奮気味のミッペも立ち上がらせた
 ミッペはやがて両手で顔を覆い震え始めた


「メイプル、ミッペを『中央医務局』へ頼む
 先方に話は通してる。念のため診てもらう必要があるからな」

「部長は」

「門条側に報告を入れる
 『ピエロ』の件と連中の『狐』の件がどう関与しているのかは不明だが
 敵性の契約者が動き出しているとなれば悠長なことはやってられん」


 丸顔に代わり、メイプルがミッペの肩を抱き支えた
 部長の表情は先程よりも険しい


「ミッペ、悪いことをした
 先に敵方の情報を情報を共有しておけばお前も怖いモノを見ずに済んだ」

「だ、私は大丈夫です……!」

「解除命令があるまで、絶対に能力は使ってくれるな
 メイプル、ミッペを頼んだぞ」

「了解っす」


 丸顔は二人を残して足早にその場を去った
 背中から怒気が立ち上がっているのを感じる。あの様子だと相当頭に来ている筈だ


「メイプルさん……、ごめんなさい……」


 部下の消え入りそうな声を聞いた
 ミッペはまだ顔を両手で押さえて震えている


「お前も久慈も生きて帰ってこれて良かったよ。説教はミッチリやるけどな」

「クジちゃん……。メイプルさん、『医務局』行く前にクジちゃん見に行ってもいいですかぁ?」

「さっき見に行ったがあいつ寝てんぞ」


 ミッペは顔から手を離した
 彼女は両眼を真っ赤にして泣いていた







□■□
275 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:49:46.16 ID:3JghBcqEo
 



門条さん側(穏健派「狐」捜査サイド)に伝わる情報


○過激派主任からの報告

 ・「ピエロ」は確かな戦闘能力と連携能力を有する
 ・「ピエロ」側に少なくとも一人、契約者がいる
  爆発系の能力で、恐らくアメリカ産の都市伝説「ポップロックスで大爆発」の契約者と推測される
 ・憶測だが「ピエロ」側にはピエロ仮装をしていない契約者が複数存在する可能性がある
  しかも仮装ピエロよりも戦闘力が高く、「ピエロ」の協力者と思われる


○Pナンバー丸顔部長からの報告

 ・「ピエロ」側と思われる二人の襲撃者が存在する
 ・一人は少年の契約者で、「変身能力」を有する
  確認された外見は、少年の姿、少女に「変身」した姿、「ウェンディゴ」の姿(シカの角を持つ半人半獣)
  また「高出力の電撃で攻撃する能力」も有している
  出力が極めて高いため熟達した能力者でなければ交戦は危険、食人嗜好が窺え残忍な人格の危険性あり
 ・もう一人は上記の少年と共に目撃された少女
  能力は不明ながら「蛆虫を生成する能力」である可能性が高く、その方面から絞り込めるかもしれない

 ・連携の遅れから感知系能力を使用した黒服がいる
  彼女の話では「初回の能力発動時に、能力が切断され」
  「二回目の発動時には海沿いの漁村の映像が流れ込んできた」
  また映像を目撃した後、その黒服は若干の錯乱を催している
 ・その黒服の報告では、「漁村の中に何者かが存在し、それに見られている感覚がした」という







 
276 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:51:01.85 ID:3JghBcqEo
 
前回(>>258-263)と今回合わせて、花子さんとかの人に土下座でございます……
正直「狐」が動き出した時点での門条氏のオーバーワークっぷりを考えたくない
そしてそのオーバーワークな状況を作り出す一端に加担したのは紛れもなく私なのだが……
土下座でございます……


この時点で上記通り門条さん側に情報が渡っています
「海からやってくるモノ」に関しては「先生」から門条さんに連携が入ってる筈なので
ぶっちゃけ無用な情報かもしれませんが一応


「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者、「海からやってくるモノ」のスペックは
前スレの743を(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/743)
前回登場の「朱の匪賊」については
前スレの497をご参照ください(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/497)

今更ですが「朱の匪賊」副隊長(珍宝)と副々隊長(ヤッコ)は
四番本隊とは九月以降ずっと別行動を取っていました

 
277 :社長出勤者 ◆KeBxPres.2 [sage]:2018/10/21(日) 19:53:52.21 ID:3JghBcqEo
 

そしてここでかつての社長出勤者名義を使用
ようやくというか次世代編でようやくPナンバーが登場するに至ったので
この機会を逃したら今まで以上にぐだりそうなのもあって、先に以下出しておきます

エタり中のバールの少女氏『バールの少女』にて登場のIナンバー、Mナンバー、Vナンバーと
『社長出勤者劇場』で過去登場してるかと思えば全く登場していなかったPナンバーの概要をここに載せます

そしてご関係の皆さまに精一杯の謝罪を致します……orz



○各ナンバー概要

・Pナンバー
 穏健派
 女子黒服で構成される
 現世代編よりも過去の時点からP-No.0は�部の�激・強�派によっ�拉ch
 ��誘k���
 謎の失踪を遂げた☺
 P-No.1も0と同じく失踪した
 上記と同時期にPナンバー上位幹部に過激・強硬派が侵略を実行し内部治安が荒れに荒れた
 次世代編では上記過去の事件を知らない新人黒服が多い
 また次世代編では現世代編からの上位幹部及び0ナンバーが一新されている


・Vナンバー
 過激派、かつては過激派最大手の派閥だったようだ
 恐らくAナンバー、Bナンバー、(全盛期だった頃の)Hナンバーとは敵対している
 ダーク・エイジ(過激・強硬派が「組織」内で優位だった時代)には日常的に殺し合いが発生していた
 内部派閥は穏健派寄りからゴリッゴリの過激派寄りまで、と理念が細分化されており一枚岩ではない
 昔から自治権が非常に強く、外部ナンバーの干渉を受けないことで有名
 またナンバーについては永久欠番制ではなくリナンバリング制を採用、犯罪行為の外部追跡が困難になっている
 上位幹部及び0ナンバーに関しては終身制ではなく任期制で、数年〜十数年に一度総選挙が実施される
 この時ばかりは外部の穏健派やら他の過激・強硬派やらの思惑が錯綜して大混乱の様相を呈する
 意外どころでは(多分「組織」内で唯一の)労組が存在する
 次世代編では穏健派の台頭と内部抗争のダブルパンチで弱体化が進行している

・Mナンバー
 中立派
 所属者の殆どが研究活動に従事
 中立派というスタンスだが、研究員を外部ナンバーの各派閥(ほとんどは過激・強硬派)に研究員を提供し
 派遣先の研究課題を担う、といった意味での中立派であり、例えばEナンバーのような立ち位置とは全く異なる
 研究部門が大きいものの現世代編の時点では小規模ながら捜査部門も新設、こちらは文字通りの穏健派寄り
 一部研究者が過激・強硬派内での研究で培ったノウハウを利用して暴走しており、穏健派からは信用されていない
 0ナンバーは「M資金」の黒服で、上位幹部らと共に主に外貨との調整を担当しているようだが……
 噂によると彼は年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている

・Iナンバー
 派閥不明
 穏健派からは強硬派、過激・強硬派からは穏健派と見られている
 一部の中立派とは非常に仲がよろしくない
 「組織」の黒服が持っている筈の基本能力を有していない構成員が多く、かつては欠陥品呼ばわりされる事もあった
 過去に起きた諸事件の所為で構成員が少ないものの追加の人材採用を殆ど行っていない
 かつては西日本の伝統的な都市伝説関係勢力との交渉を担当していた
 ダーク・エイジの頃、過激・強硬派の奸計で0ナンバーが「組織」への叛乱を宣言
 その後にI-No.0とその仲間たちが蒸発したことで
 過激・強硬派の手により権限の殆どを凍結され一時は解体寸前にまで追い詰められた
 にも関わらず現世代編、次世代編、共にしぶとく生き残っている



・「次世代ーズ」における次世代編の特徴
 現世代編での「夢の国」戦や対「教会」戦経験者は
 伝説級の契約者・黒服として、次世代新人達からはある種の畏敬の目で見られている





……最後にもう一度土下座しますorz


 
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 23:11:57.24 ID:6zDmIJsQo
乙です
リーディング系封じの設定はとてもいいなあと思いつつ、どう崩していくのかも楽しみです。
>>年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている

つまりMナンバーの上位組はショタ食いのお姉さま方ということに違いあるまい!
279 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:57:19.36 ID:gqpg7PQCo
 
>>278
ありがとうございます
今回の「海からやってくるモノ」の射程圏は
学校町全域が対象になっていますが果たして足りるのかどうか

Mナンバーについては……
出したいですね、お姉さん気質の女性黒服……


今日は週末の貴重な休日でしたが
不吉な呼び声により出勤が決定したため
>>268-274の続きは早くて今週木金曜の投下になりそう、です

ハロウィンの与太話を投げるのだ
280 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:59:56.20 ID:gqpg7PQCo
 


@ハロウィンタイム開始前

 コトリー「……」
 せと  「がんばるぞー」 ☜ キュートな感じのゾンビメイク

 コトリー「……」 ☜ 終始無言
 コトリー(みなさんごきげんよう……
      『ラルム』でアルバイトしてますの、コトリーと申しますの……)

 コトリー(ハロウィンの時期は賑やかなのですけど……なのですけどっ!!
      ……なぜだか学校町のハロウィンは気持ちがゾワゾワして不安になりますの……)
 コトリー「……」 チラッ

 JD先輩「よーしグヘヘ、思いのほかバッチリ❤」 ☜ 露出激しいサキュバスコス
 おばちャ「今日は私もホールでいいのかしらぁ」 ☜ 色々危ない狐娘コス
 せと  「限定メニューも店長の自信作なんですよね!」 ☜ いつもより若干テンション高い

コトリー(どうしてみんなやる気満々なんですのぉぉー!!ξ(˃︿˂)ξ )




Aハロウィンタイム中

コトリー「お待たせしました、アールグレイとシフォンケーキですの!」
リリン 「あ ありがとうございます」

コトリー「あらシノノメ様、可愛い角ですわね! ξ(ㆁ◡ㆁ)ξ」
リリン 「ありがとーございますー🌟
     ハロウィンセールの間はお店でもずっと付けてるんですよーコレー!」

リリン (こんにちは、隣町在住の『リリン』です)
リリン (私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリン (今、あたまからデコレーションした角が生えてるんですよー)
リリン (皆さんこれを飾りだって思ってるみたいなんですけどー、実はこれ自前なんですよー)
リリン (言ったら信じてくれるかなぁ……
リリン (……なーんて……  ほんとは言う度胸なんて、私になんか無いんですけどね…… ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥)

コトリー「  」 ブルッ
コトリー(シノノメ様は『ラルム』の常連さんなんですけど、今日はいつもより不気味な雰囲気ですの……)
コトリー(いつもは落ち着いた大人の女性って感じの方なのですけど、これもハロウィンパワーなんですの……??)

コトリー「どうぞごゆっくりー」 ☜ 鉄壁の営業スマイル
リリン 「はいー…… どうもー……」 ☜ 何故だかテンションが下がっている




B業務終了後

コトリー「はふぅ」

コトリー(今日はいつもより疲れましたの……
     それもこれも絶対ハロウィンパワーの所為ですの……!)

コトリー(早渡さんもありすさんもかやべぇさんも来てくれませんでしたの……
     明日でもいいから来てほしいですのー……!!)

せと  「たまちゃん大丈夫?」
コトリー「いぴッ!!」
コトリー「あ゛っ! だだだ大丈夫ですの! 今日はいつもよりくたびれましたわね!」
せと  「何だか具合悪そうだよ、無理しないでね」 ☜ 心配そう

コトリー(不覚ですの! せとのゾンビメイクに一瞬心臓が変な音しましたのー……
     やっぱりこの時期は妙に苦手ですわー……)

店長  「みんなお疲れ様! どうかな! 明日のホールはメイド服で」 ☜ 満面の笑顔
せと   「嫌ですっ!!」 ☜ 真顔で即答
コトリー 「いやですの!! ξ(ㆁ-ㆁ)ξ」 ☜ 営業スマイルで即答
店長  「    っ 」 ☜ 笑顔のままキッチン方面へスライド後退


コトリー(皆さんもハロウィン、お楽しみ下さい! ですの!  ……はふぅ)


 
281 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:01:26.50 ID:gqpg7PQCo
 

■登場人物

コトリー
 「ラルム」のアルバイトさん、高一
 ホラーが嫌いというわけではないが、学校町のハロウィンは何故だか怖くて苦手

せと
 遠倉千十、「ラルム」のアルバイトさん、高一
 怖いモノ全般が苦手なはずなのに、ハロウィン時期はどこか楽しそう

リリン
 名前は「東雲クロワ」に決定した
 伝承存在「リリン」、非常に気が弱い
 普段は隣町のランジェリーショップの店員さん

JD先輩
 「ラルム」のスタッフ
 イベント時期は無理してでもシフトを捻じ込んでくる

おばちゃん店員
 「ラルム」のスタッフ、縁の下の力持ち

店長
 「ラルム」店長、隙あらばコトリー&千十にメイド服を着せようとするため警戒されている


 
282 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:04:14.32 ID:gqpg7PQCo
ハッピーハロウィン

この数日後に早渡は地獄を見ることになる
283 :○前回の話 >>268-274 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:30:45.53 ID:zKSSrdQuo
 



「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」


 グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
 横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
 彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った


「おい、ジョーの首尾はどうなってる」


 低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
 女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る


「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」

「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
 大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」


 グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
 白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた


「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」


 グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
 彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
 ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
 間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した


『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』


 会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
 そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した


「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」


 突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
 咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
 グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
 肝心の少女がこちらを見ていない


「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
 もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
 だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」


 神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
 グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった


『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《  何事だ  》



 
284 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:32:38.97 ID:zKSSrdQuo
 

 暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
 そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた

 老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
 スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
 ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
 そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?


「……出れるじゃねえか」
《  “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ  》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」


 回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
 苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した


「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
 結構な数のピエロが削られてやがる
 おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
 それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
 大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
 一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」

《  そのための「先生方」だ 「一ツ目」の動きも把握している
   放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ  》

「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」

《  そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった  》


 二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない


《  俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ
   「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない
   プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ  》

「アクティベートに失敗したってワケか」

《  「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた
   事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん
   結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ
   現時点では 既に「教授」の解析は済んだ  ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している
   ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した
   どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ
   我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした  》

「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
 俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
 ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」

《  無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな
   そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する  》

「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」

《  話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった  》

「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」

《  だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い
   「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが
   「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない  》

「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」

《  「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない
   だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している
   既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている
   在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ
   この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん  》


 
285 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:33:24.81 ID:zKSSrdQuo
 

 ジョーは一旦言葉を区切った
 モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する


《  状況判断の結果だ  本日 日没前に 「サーカス」を決行する  》

「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」


 グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
 彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
 折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ


《  その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
   「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな
   「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい  》

「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
 『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
 これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」

《  お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな  》

「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」

《  そっちの仕込みは任せたぞ  》


 話は終わった
 グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った


「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」


 通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
 白衣女と傍のピエロに緊張が走る
 グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
 問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている


「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
 今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
 そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」

「はっ、はい! 了解です!」


 隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
 グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした


「ブギー! スカル!」
「「ここに」」


 白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
 グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
 両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である


「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」


 グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
 最後に一度、白衣女に双眸を向けた


「“スプリンクラー”の最終調整に入る」










 
286 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 4/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:04.89 ID:zKSSrdQuo
 





 その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
 問題児の契約者は端末の通話を切り上げた

 彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
 少なくとも一部外野からはそう呼ばれている

 数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
 ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
 内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
 母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
 しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
 この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である

 彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
 無論女子の制服も着用したままである


「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」


 閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
 「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した


「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」


 そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
 定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
 これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
 携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である


「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」


 閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
 傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ

 余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
 元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
 しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない

 そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
 閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた


 
287 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:58.70 ID:zKSSrdQuo
 

「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」

「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」

「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
 こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」


 女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
 代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる


「そーいやマヒルは早渡修寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」


 話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
 軽快なタップ操作によって画像データが表示される
 遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
 写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
 丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである


「こいつが早渡修寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」


 閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
 彼が早渡修寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している


「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
 なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
 懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」

「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」

「バァカ、生きててこその利用価値だろ
 まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
 てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
 余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」


 そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
 それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた

 閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
 これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
 閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
 だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた


「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
 早渡修寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」

「“サンプル”?」

「これだよ、おら」


 閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
 バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
 中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
 稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
 閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた




 
288 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:35:35.55 ID:zKSSrdQuo
 

「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
 でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」


 閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
 彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
 稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する


「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
 佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
 古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡修寿の血液ってところが大事なわけ」


 空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
 痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する


「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
 俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
 あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
 呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」

「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」

「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
 とにかくこいつを殺って血を抜き取る
 殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」

「あー、かぁクン悪ぅい いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ


 きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
 閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
 足りない、全然足りない、早渡修寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ


「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
 普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
 おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」

「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫 ちゃんと理解してるよ


 相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
 両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
 何名かの女子の静止画をスライドする


「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡修寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
 学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
 俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
 というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」



 
289 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:14.49 ID:zKSSrdQuo
 

 閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
 表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
 セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
 この町の東区にある高校の制服だった


「とおくらせとちゃん、早渡修寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
 契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
 あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
 理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
 上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡修寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」


 稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
 閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている


「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
 俺がせとちゃんに成り代わって早渡修寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
 どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」

「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」

「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」


 稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
 彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
 嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ


「それで かぁクンッ この子は、どうするのッ


 照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
 彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ


「ああ、いよっち先輩ね。早渡修寿がそう呼んでるガキんちょ
 第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
 この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
 早渡修寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
 集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」

「じゃあ狙いは やっぱりせとちゃんなんだねっ んっ、かぁクンくすぐったいよお


 稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
 彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
 彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ


「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」

「いいよお」

「本当にいい? 壊してもいい?」

「いいよお」

「ありがとう


 稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ


「かぁクン大好き









□□■
290 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:49.95 ID:zKSSrdQuo
 

こんばんわ
今回も遅れました…… そして花子さんとかの人とやの人に土下座でございますorz
【11月】の「狐」勢力が動き出した夕方から日付が変わるまで(便宜上、【1日目】と【2日目】と呼ぶ)の動きを一通り出しました


今回の話の要点は以下の通りです

 ・日付が変わる前後の時点で「ピエロ」の東区放火作業は終了しました
  関与した「ピエロ」は撤退するか自殺しています

 ・放火の裏で「ピエロ」中枢メンバーは何かをしていました
  引き続き何かを続行します

 ・「ピエロ」は【2日目】の日没前の時点で「サーカス」を開始します

 ・「七尾」関係者は「七尾」関係者狙いで動きます


「次世代ーズ」はこれ以降
時折【11月】のピエロ【1日目】と【2日目】の話に追加と補足を行いつつ
【9月】から【11月】に至るまでのエピソードを追っていくことにします

「ピエロ」戦への介入は是非ともご自由に
【11月】のピエロの行動は前スレ(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/)の500をベースにより過激に
【2日目】の時点ではピークに達します


 
291 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/04(日) 13:40:43.78 ID:C6PQ5Zk4o
 
undertale周辺で大きな動きがあったなんて今更知った……
おのれぇ……_:(´ཀ`」 ∠):_
292 : [sage saga]:2018/11/04(日) 20:28:17.95 ID:iRxMkBRm0
>>267
>>いや効果が阻害されてる……?
>>まさか、もう勘付かれたのか……!?
具体的な事は分からないけど、何かしら干渉されてる
チャームの扱いの上手いユリが言うのだから確か
ユリはチャームの本来の効果が出ていないのでやや不機嫌
っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう

銃やらナイフやらなら身体能力差で当たらんだろうけど、チャームかける前に
至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
まあ、別に食らってもいいし前衛交代してもいいし
(ぁ
293 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/05(月) 20:34:12.41 ID:tZiDNJDMo
>>292
魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが

>っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう
色々考えてみるといい感じで早まりそうですね……

 ・「先生」からもひかりちゃんからも暗殺者二名の報告が上がる
  (暗殺者らの所属がばれる)
 ・サキュバス様の魅了に何らかの干渉が入ってる件で報告が上がる
  (バックでなんかやってるのがばれる)

……「組織」の初動対策が当初の想定以上に早まる、ということは
意外と被害が抑えられるかな

>至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
頭部爆弾の具体的なカラクリがまだ出てないので今週中に出したいですね
一応自動でも遠隔でもないです
294 :○時間軸としては>>268-274の後になる ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 13:58:55.44 ID:v5b6mchQo
 



 現在、丁度日付が変わった真夜中の時分だ

 Pナンバー幹部である女性黒服はテレプレゼンス端末の前に立っていた
 今しがた長い認証コードの入力を終えたばかりだ

 「ピエロ」による東区放火の報告が入って既に数時間が経過した
 現場からは未だ脅威の鎮圧に完了したという連絡は無い

 「ピエロ」――10月初頭から学校町内での活動が確認された敵対的都市伝説だ
 「組織」は彼らを有害存在であると認定し出現の度に実力で排除に当たってきた
 だが今夜の連中の動きはどうだ、今までとはまるで違う
 あたかも彼ら自身の存在を知らしめるかのような暴挙に出ているではないか

 脅威の排除は言うまでも無い
 しかし最優先事項は治安維持、非契約者に対する都市伝説の隠蔽だ
 現場からアップデートされる報告に鑑みて、恐らく現場レベルの対処では間に合うまい

 暫くの待機の末、M-No.010との通信が確立された
 相手の姿が端末に投影される


「今晩は P-No.6、先程の件ですね」


 M-No.010、実質的なM-No.0の“代理人”だ
 他ナンバー幹部からMナンバー幹部への連絡役でもある
 物腰こそ丁寧だが凡そ誠意なるものを感じさせない黒服、要するにいやなやつと噂されている

 端末前の女性黒服、P-No.6は内心身構えていた
 相手は白を黒と言い包める怪人物であると定評のある黒服だ
 他のPナンバー幹部からは十二分に警戒しろと忠告されている


「その通りです、M-No.010。『角隠し』の展開を要請します」


 「角隠し」――それは「組織」が学校町中に設置した「結界」の一種である
 主に認知欺瞞型の領域を作り出す人工都市伝説で
 非契約者が都市伝説やそれに類する存在を認識できなくなる「結界」である

 穏健派、中立派が開発を主導し、平時の管理はMナンバーが担当している
 その発動には0ナンバーや「上層部」の承認が必要となる筈だが


「緊急的な治安維持が求められています
 例外措置として学校町の東区限定で『角隠し』の展開をお願いします」


 今回の一件に限った例外措置として「角隠し」発動を要請する
 これがM-No.010にコンタクトを取った理由である
 都市伝説の脅威を一般人から隠蔽する、これは全てにおいて優先されるべき事項だ

 必要な承認データ等は申請要旨と共に前もってM-No.010へ送信している
 準備は万端だ、何も不備は無い筈である





 
295 :次世代ーズ 「一日目の夜」 2/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:13.94 ID:v5b6mchQo
 

「その件なのですが、P-No.6」


 モニターに投影された相手は手元のPC端末を操作していた
 余談だがM-No.010は通信開始以降、P-No.6と一切目を合わせていない。いやなやつだ


「既に要請を受けて、2時間ほど前に東区への『結界』の展開を実施していますが」
「……は?」
「展開完了についても各ナンバーへ通知済みですよ
 二度手間ですか。せめて穏健派内で最低限の報告共有は実施頂きたいものですね」


 既に「角隠し」が展開されていた? 2時間前に? つまりこれは無駄足か? 報告は入っていないが?
 P-No.6の頭から血の気が引き、脚の感覚が急速に薄れていくが、どうにか踏みとどまる

 どう返答すべきだ。M-No.010相手に気取られる真似は避けたい
 いやそもそも本当に発動されているのかを確認しなければ。Pナンバー幹部へ連絡を取るか?

 P-No.6が遅疑逡巡する中、相変わらずM-No.010はPC端末を注視している
 指を滑らせ、数度キーを叩いているようだ


「ちなみにこれはまだ各ナンバーへ報告していないのですが
 『角隠し』の発動出力は現時点で平均値の3倍で設定されています
 担当チームの採取データが正確ならばこの出力値でようやく実効性を確保できている」


 どういうことだ? M-No.010は何を言っている?


「チーム主査の所見によると、学校町外では平均値で実効性を確保しえますが
 町内だと時間経過と共に出力値を漸次的に引き上げなければ作用有効値に至らない状況ですね
 興味深いことに、『結界』発動の段階からこの事象が観察されています
 原因は未だ特定できていませんが恐らく外的能力に起因するものかと」

「そ、それはどういう……?」


 P-No.6はとりあえず口を挟むことにした
 後ろ手で隠し持った携帯端末からPナンバー幹部へ連絡を取りつつ
 それを悟らせまいとM-No.010の話す内容へ問いを試みる
 小難しいことを言っているが、要するに「角隠し」の出力を上げないと効果が得られない状況だということか?


「『結界』発動に関して問題が発生しているのであれば、M-No..010! 報告義務があります! ご説明を!」
「そうですね、貴女のような黒服にも理解できるように説明致しますと」


 M-No.010はP-No.6へ一切目を向けずPC端末の操作を続けている
 話をするときは相手の目を見て話せと教えられなかったのだろうか? いやなやつだ!


「『角隠し』の効果が何らかの能力によって干渉を受けています。原因は目下調査中です」






















 
296 :次世代ーズ 「一日目の夜」 3/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:59.30 ID:v5b6mchQo
 



 学校町東区


「どういうことなの……?」


 「組織」穏健派所属の若い黒服は困惑の表情を隠し切れない

 無理もない
 先程まで東区の住宅街に放火しようと火器やガソリンの類を持ち込んでいた「ピエロ」共に異変が生じた
 彼らは唐突に動きを停止すると、そのまま自分の体にガソリンを浴びせ投身自殺を始めたのである

 その黒服が契約した挙句“呑まれた”のは、伝承存在「コボルト」
 不可逆な解釈歪曲の末、金属や鉱物に魔法を掛けて機能不全に陥れる能力に特化している
 それ故に銃火器を使用する相手にとっては最悪の相性である

 「ピエロ」は銃火器を所持している為
 黒服とその相棒の能力によって片っ端から銃火器を使用不能に追い込んでいた。のだが


「どうなってるんだ、おい!」


 拳銃を捨ててナイフで首を引き裂き始めた「ピエロ」の一体を凝視しつつ
 相棒の「コボルト」が歯を剥き出して唸った

 「ピエロ」共が一斉に自殺を始めた
 遥か前方にいる「ピエロ」の群れはこちらに背を向けて走り去ろうとしていた


「逃亡するぞ!! 追え!! 追撃しろ!! 攻撃の手を緩めるな!!」


 別の黒服が怒号を飛ばす。彼は確か過激派所属だ

 「コボルト」の黒服も相棒を連れて追撃に加わろうと
 逃走する「ピエロ」に向けて走り出そうとした、そのときだ!

 「コボルト」の黒服より前方にいる、「ピエロ」目掛けて光線銃を乱射する黒服の前に
 空から新手の「ピエロ」が一体、飛び降りてきたのだ! 恐らく電柱の上にでも潜んでいたに違いない


「ディフェ〜〜ンス!! ディ〜〜フェ〜〜〜〜〜ンス!!」
「貴様っ!!」


 黒服は眼前の乱入「ピエロ」に光線銃を乱射する!
 全弾「ピエロ」に直撃しているが、全く効いている様子が無い!


「うひー! 博士の防弾チョッキは最高だンな〜〜!!
 おいぃ黒服! よく聞け!! オイラは勇敢だからなあ!!
 仲間のために体張れるんだじぇエエ〜〜!! 食らえ!! 特製『ピエロ』爆弾!!」


 一瞬だった、「ピエロ」の頭部が炸裂した!
 閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が大気伝導で「コボルト」の黒服の全身を叩いた
 悲鳴を上げて黒服は転倒、相棒が咄嗟に前へ飛び出し黒服の身を庇う


「大丈夫かおいっ!! クソッ! 黒服巻き込んで自爆しやがった!!」


 爆発音により悲鳴を上げる聴覚が相棒の悪態を辛うじて拾い上げる
 眼前の惨事に、黒服は倒れたまま戦慄していた









 
297 :次世代ーズ 「一日目の夜」 4/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:01:32.48 ID:v5b6mchQo
 



 同じく、東区


「それが“スイッチ”だ、押すなよ?」
「……自動で起爆するわけでは無いようだな」


 「ピエロ」の引き起こした喧騒は、今や無数の爆発音へと変わりつつある
 だが日頃から閑静な東区の住宅街は普段と変わらず静まり返っていた
 まるで初めから「ピエロ」の暴動など無かったかのように

 当然である
 この町は「組織」の手で都市伝説的な脅威から保護されている
 「結界」もしくはその他の能力で都市伝説存在を非契約者から隠蔽し
 黒服や子飼いの契約者によって害悪となる都市伝説や契約者を駆逐する
 それが「組織」常套の手法である


「それが『ピエロ』の、多分どっかに接続されてる。脳みその中かな?」
「いや、恐らく口腔の何処かだ」


 だが今夜は珍しく長引いた
 加えて「組織」による完全鎮圧ではなく「ピエロ」側が自発的に撤退したようだ
 「組織」側が経験の浅い人材ばかりを現場へ投入したのか、「ピエロ」に相応の実力があったのか
 あるいはその両方か

 いずれにせよ「組織」所属でない彼らにとっては些末事である


「これか、骨に絡みついているな」


 彼らは今、東区住宅街の路地裏にいた
 この時間は元から人通りが無い場所で、その上「組織」の隠蔽工作も効いている


「これだ、臭いが甘い」
「『爆発キャンディ』、多分ビンゴだ」
「形状的には『わたパチ』のようだな、爆発する『わたパチ』なんて聞いた覚えが無いが」
「まあ……、契約者の力量次第で外見はいくらでも加工できるだろ」


 マスクを外した「口裂け女」が今しがた「ピエロ」から摘出した物質を検めていた
 装着された外科用青手袋の上に、真っ赤に染まった綿状のそれが乗っている

 直下の壁面に半ば立て掛けられるように安置されているのは生殺しの「ピエロ」の一体
 周辺には「口裂け女」が生成したと思しきメス数本、そして大小様々なハサミが散乱している
 脊髄の各所を執拗に破壊して行動不能にしたとはいえ、確認は手早く済ませたいところだ

 やや距離を取ってスーツを着崩した男が佇んでいた
 壁面に背を預けたまま“解体”の一部始終を漫然と観察している


 
298 :次世代ーズ 「一日目の夜」 5/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:02:47.64 ID:v5b6mchQo
 

「恐らくもう一方は脳みそに接続されてる。デッドマンスイッチさ
 こんな芸当が出来る奴は限られてくる。そこらの契約者じゃ無理だよ」


 外灯から路地裏に差し込む微かな光を頼りに「ピエロ」の“解体”を行った
 連中の奥歯には“スイッチ”が仕込まれており
 歯茎に埋められた頭髪状の線は首筋へ仕込まれた『爆発キャンディ』に接続されている
 “スイッチ”を入れれば『爆発キャンディ』が「ピエロ」の頭部ごと爆破する。そんな具合だ

 『爆発キャンディ』にはもう一本の接続が確認でき、恐らくそれは『ピエロ』の脳と直結している
 不発の状況で『ピエロ』が殺害されると同時にこの『爆発キャンディ』も消滅する。恐らくはそういう設計だろう
 にしても、情報流出対策として考えても奇妙なほど手が込んでいる


「何故このタイミングで『ピエロ』が」
「さあな、俺にも分からん。社長も考えあぐねてたよ」
「聞江さんの具合は」
「寝込んでる。連日連夜うなされてたらしい」
「ふむ……」


 「口裂け女」は男に綿状の『爆発キャンディ』を押し付ける
 男は汚物を扱うかのように裏返したビニール袋で受け取った


「『狐』と関わっているとは思えん。『ピエロ』からは奴の気配が微塵も感じられなかった
 それに『狐』の戦略からして、こんな『ピエロ』連中を駒とするようなリスクを犯すとも考え辛い」

「社長も同意見だったよ。『狐』の学校町潜伏に当ててやって来たって線はあるかもしれないけど
 しかし本気で潰しに来たんならこんな挑発めいた小出しするかね?」


 「口裂け女」は暫しの沈黙の末、ハサミを生成した
 把手をスピンし逆手に持ち直すと「ピエロ」の脳天へ一気に刺し込んだ
 一瞬が震えた直後、「ピエロ」の全身が弛緩する


「ルルとカモミは」
「構わず逃げろって伝えたけどさ、社長をサポートするって意地張ってる」
「敵戦力が不透明すぎる。正直戦り合う真似は避けてほしいんだが」
「アンタからもなんとか言ってやれよ、闇子さん」
「まだやることがある」


 青手袋を打ち捨て、マスクを着け直す
 男も壁面から身を起こした


「何も起きなきゃいいけどね」
「絶対に良からぬことが起きる。確信がある。だから私が来た」


 男と「口裂け女」は路地裏を後にした
 遺された「ピエロ」の躯は消滅光に呑まれ、やがて世界に還元された












□□■
299 : [sage saga]:2018/11/18(日) 02:52:17.09 ID:GBsRHGnz0
>>293
>>魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが?

ただの知り合いくらいです
サキュバスからの評価は「まあ頑張ってる食べ物」「少し気が利く食べ物」
夢魔の所の奴らは自分より弱くて特に見所無ければ「食べ物」です
がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない

魔弾のサキュバス攻略チャート
実弾用の射撃場使う→ランダムで三尾が来る(取壊し検討の為)→戦闘訓練開始→訓練担当が出れない時に代理で夢魔の部下のサキュバスが来る
・最初の印象が悪いと評価が「生ごみ」からになるので気を付けよう
・機嫌を取るときはユリにはソフトクリーム、ヤエルにはヨーグルトがオススメ


ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
わたパチの威力ガチの攻撃用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
300 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/29(木) 22:54:34.54 ID:JyNb+3Zoo
 
泣きそうになりながらwikiまとめを途中まで進めました
【9月】のエピソード群を丁寧に追っていくか厳選ピックアップで行くか
あれこれ考えて泣きそうになりながら書くのはたのしんどいですね

>>299
>ただの知り合いくらいです
知り合いなのか……
>がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない
ということはまだ食べられたことは無い……? それならあんしんですね(なに!?)

>ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
大体そのような感じです

>わたパチの威力ガチの攻撃翌用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
あの話を色々トリミングする前の初稿では即死していた

>おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
はい……主に「コークロア」 な ど を……
 
301 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/30(金) 12:35:51.99 ID:Y98tIo4po
>>300 訂正
「コーク・ロア」を空中散布したところで効果は知れているので
散布はたぶん別のやつ、それはそれとして「コーク・ロア」は別途用意、といったところか
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 00:38:07.31 ID:aroElhuxo
wiki編集乙
物語の展開も気長にまってるぜ
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/08(土) 15:07:01.77 ID:bx+66Rtx0
皆さん乙
ピエロも気になるけど九尾の狐と凍り付いた碧の方も気になる
どっちを取っても犠牲が避けられそうになさそうなのが…
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 21:34:53.05 ID:rL+r8JPvo
重い展開が重なってますなあ
305 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/15(土) 13:18:19.33 ID:Vwc+lKXNo
年の瀬が足音を立てて近づきつつあるこの頃ですが、お元気でしょうか
皆様もあったかくしてぐっすり寝るなどして、体調を崩されぬようお気をつけ下さい……
こんにちは、次世代ーズです

かくいう自分は翌水曜日まで拘束され本編はおろかうぃきの整理もストッポします
打倒青い鼻のトナカイさん! 打倒ルドルフ! 皆様もどうかお元気で
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/20(木) 23:58:37.34 ID:qstT5Gxso
来年で十年目を迎えるらしいがクリスマス前になると一気に過疎るのは相変わらずだな
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 20:29:31.10 ID:txgXOLV9o
年末はみんな忙しいのだ
忙しいのはきっと良いことなのだ…
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 17:14:37.47 ID:XnjBon0L0

きっとクリスマスは大事な人と過ごしてるからみんな書き込めないのさー
予定がない事がばれるから書き込まないんじゃないんだよー
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 22:59:30.39 ID:c3NfYIwKo
かわりに俺様が君達のオケツをゆっくりと撫でまわしてやろう
さあケツを差し出すのだ
310 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:52:34.81 ID:UvP9lMiqo
 



 「悪の十字架」

 都市伝説に詳しくない諸氏も一度は耳にしたことがあるであろう
 この話には様々な類話(バリエーション)が存在するが基本的な筋書きはほぼ一緒だ

 ある人が必要に駆られ、あるいは逼迫した状況下で
 10時に開業する施設へと向かうことになる、という場面から話が始まる
 場合によってはその際、24時間営業している店が存在しない時代の話なり
 そのような施設が存在しない僻地での出来事なり、といった補足説明が付くこともある
 そして、その人が施設へと辿り着き、貼り紙等で提示された情報を確認したとき
 思わずある台詞を吐いてしまう……、というのが共通した流れである

 この話は「青い血」、「悪魔の人形」、「恐怖のみそ汁」などといったジョーク系怪談に分類され
 あるいは「あぎょうさん」、「そうぶんぜ」、「よだそう」、「火竜そば」などの
 言葉遊び系ギャグ都市伝説と共に紹介されることが少なくない

 さて、今回の要諦は

 お察しの諸氏も多いことであろう
 この話は、所謂“実体化した都市伝説”として存在しているのであり
 それと契約した能力者が「組織」に所属している、という点である



 
311 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:53:28.23 ID:UvP9lMiqo
 



 朝、時刻は8時30分を少し過ぎた頃

 少年は一人、近隣のスーパー前に立っていた
 まだ幼さの残る顔つきだが、外見的に中学生か高校生くらいだろうか

 その日は祝日ということもあってか、スーパー周辺には彼以外の人影は無い
 少年は妙にニヤついたまま閉鎖された自動ドアに印字された字面を目で追っていた

   「 激安スーパー  10:00 〜 24:00 」


「ふ、フフ……、ふふふ、フッフッフ……」


 休みの日はこうして開店前のスーパー前に待機して過ごすのが彼の習慣であった
 そして、そう、ここからが彼の契約者としての異常性を発揮する場面でもある


「フッフッフ、アハッ、アッハッハ! アハッ! アハァァーーッッ!!
 そう! 何時だって! 開くのは10時! このスーパー開くの10時!!」


 ひとしきり笑った少年は自動ドアに向き直り
 おどけるように表情を百面相してその台詞を――口にする!


「開くの10時かぁぁー!! 悪の10時かぁぁーーっ!! 『悪の十字架』ァァーーッッ!!」


 するとどうしたことか!
 少年の隣に、いつの間にか奇天烈な格好の怪しい者が立っているではないか!


「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! 悪の十字架ー! (♦ww♦)」


 その者は端正なタキシード姿で、表は黒に裏は真っ赤なマントを羽織るという
 ステレオタイプなヨーロッパ型吸血鬼の格好をしているではないか!

 そう、この者こそが少年と契約を交わした「悪の十字架」が人として現界した姿
 謂わば、「悪の十字架の悪魔」である!
 ――繰り返すが彼はあくまで悪魔と称し、吸血鬼では無い。外見がいくら吸血鬼寄りだとしても、だ


「悪の十字架ァァーーッッ!! 悪の十字架アアーーッッ!! アッハハハハハハーッ!!」
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! フォハッ、フォハッハ、フォハハーーッ! (♦ww♦)」


 少年と悪魔は同時に叫び、同時に哄笑した
 何がおかしいのかは傍目には不明であるし、そもそも彼らは怪しい者達と呼ばれるに相応しい状況だ

 ここで一度、この少年の能力について言及しておきたい
 彼の能力の発動条件は、通常「10時開業の施設の前で、開業前の時間に待機すること」であり
 発動する能力とは、「『悪の十字架』を唱えることで、『悪の十字架の悪魔』を召喚すること」である

 ――そう、たったこれだけの能力である
 正直なところ、何の役に立つ能力なのかは全く不明である
 ついでに触れておくが、「組織」の調査によると「悪の十字架の悪魔」の身体能力は
 平均的な成人男性の身体能力を数段階下回る程度のものであった


 正直、少年と悪魔の存在を「組織」も持て余し気味だったようだが
 つい先日、晴れて彼らの新たな所属が∂ナンバーへと決定した
 「組織」内でも比較的新しく設立された部門である

 まあそんなことは彼らにとってさほど深刻な内容でも無かった
 少年と悪魔は開店前のスーパーの前に立ち、引き続き高笑いを続けている


 彼らが一体どのような活躍を繰り広げるのか、まだ誰にも分からない









□□■
312 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:58:33.14 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは
今投下したのはEXの方です
関係者各位、よろしくお願いします

ちなみにですがこの悪魔
別に発動条件を満たさずとも普通に召喚できます
そもそも悪魔の自由意志で消えたり現れたりできます
契約者も把握済みで普通に呼び出したり一緒にご飯食べたりする
313 :次世代ーズ EX 「青い血」 1/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:00:18.92 ID:UvP9lMiqo
 



 「青い血」――初っ端からネタバレするとジョーク系怪談である

 筋書きが一定していない分、話のバリエーションは豊富で
 「青い血」というワードについても冒頭で意味深に言及されるか全く触れられないこともある

 具体的な話の筋としては
 お昼には必ずお弁当を食べるようにと、おじいさんがおばあさんに釘を刺される穏当なものから
 無人島に漂着して極度の飢えに苛まれるパターン、売店で供される「青い血のジュース」というパターン
 さらには教室に広がった青い血を恐る恐る舐めたり、見知らぬ男に無理矢理なにかを飲まされたり、という過激なものまで
 要するに枚挙に暇が無い、のだが肝心の締めは全て同じ
 最後の「あ〜美味ち」 → 「あーおいち」 → 「青い血」なオチがつく

 最初はそれっぽい雰囲気で始めるのがコツだが
 どう足掻こうとくだらない結末を迎えるため、ギャグ系怪談としてまとめられている
 それどころか都市伝説という括りで紹介されることも無いではない


 以上が「青い血」の一般的な概要である


 さて、都市伝説原理主義者の黒服諸君には残念なお知らせだが
 この「青い血」、あろうことか既に都市伝説として実体化してしまっている

 そればかりか都市伝説管理集団「組織」の備品としてばっちり登録、管理されている


 一体どういうことなのか?
 それをこれから紹介するとしよう






 
314 :次世代ーズ EX 「青い血」 2/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:02.60 ID:UvP9lMiqo
 

 まず「青い血」の外見的特徴から説明する

 これは大部分が金で構成された、やや歪な形状の小さな杯である
 外形はWDH:30x30x70(mm)の直方体に収まる程度のものだ

 杯の中はおよそ15mlの青い液体によって満たされている
 この液体、「組織」の調査では一応「組成が人間の血液に近い」と判明している

 杯から液体が全て除去されると
 「杯の中から青い液体が毎分約5ml出現する」という現象が発生する
 そしておおむね3分ほどで杯は再び青い液体によって満たされるのである

 「青い血」は現在「組織」穏健派のPナンバーによって厳重に管理されており
 取り扱いはたとえ実験目的であってもP-No.上位管理者、俗に言う一桁ナンバー複数名の承認が必要となる

 また、「青い血」を許可なく各種媒体によって記録すること
 さらには如何なる理由あれ「青い血」が記録された媒体を「組織」外部へ持ち出すことは厳禁とされ
 違反者は厳罰に処される、そんな規定まで付いている

 加えてこの「青い血」、管理区分は「禁忌指定」に分類されている
 大多数の流出性器物が分類される「二種指定」をすっ飛ばして堂々の「禁忌指定」である
 この時点でお察しの黒服諸君も多いだろうが、こうした取扱既定には「青い血」の特性が深く関わってくる



 実は先述した外見的特徴についてだが、通常の方法ではあのように観測はできない
 具体的に言うと、一般人を含めた契約者や都市伝説、黒服各位が「青い血」を直接視認した場合
 「これまでに飲食してきたなかで最も美味と感じた飲食物」か
 「まだ飲食したことは無いが口にすればきっと最高に美味だと感じる飲食物」として認識する
 直接視認せずとも「青い血」の数メートル以内に接近した段階で好みの飲食物の香りを感じるようになる
 そして、こうした飲食物を何が何でも口にしたいという耐えがたい欲求が生じてしまい
 影響を受けた者は手段を選ばずに「青い血」を摂取しようと狂暴化する

 では鏡映しにしたり、映像や写真等で見たり、などの間接的に観測した場合は問題無いかと言うと
 当然そんな筈は無く、ばっちり影響を受けてしまうことが分かっている
 要するに、「青い血」は認識汚染を含む強力な精神干渉能力を有しており直接間接を問わず影響を及ぼす物品なのである

 それなら強化系や防護系などの能力の行使や精神干渉に対する高い抵抗値を持っていれば対抗可能かと言うと
 多少は影響を緩和できるという程度で、結局一時しのぎにしかならないということも判明している

 上述の外見的特徴は、精神干渉に高い抵抗性能を持つ黒服が
 特殊な条件付けを受けた上で、脳みそに悪影響を及ぼす薬剤を投与されることで
 はじめて「青い血」の影響を回避して観測しえた情報である
 一般黒服諸君にはとてもじゃないがオススメできない手法だ


 
315 :次世代ーズ EX 「青い血」 3/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:46.60 ID:UvP9lMiqo
 

 続いて、この「青い血」を摂取した場合どうなるのかについて説明する
 ――説明する間でも無さそうだが話のついでだ


『これよりPナンバー関係者外秘の歳末器物実験を開始します』
「離せ! 離せ! うわああああああああああああっ!!」


 「青い血」を特殊な手法を使用せずに通常視認した場合
 視認者が欲する飲食物として認識され、摂取したい強い欲求に駆られる点は先に触れた通りである


『P-No.2020、目の前にある物が何に見えるか答えてください』
「離せ! はな――、あれは……、穏健派の、高級クラブでしか食べれない……、幻の骨付きスペアリブ……!?」
『良いでしょう。研究班、P-No.2020へ「青い血」任意量の投与を許可します』
「了かい、かい口する」
「おい待て! 何する! あ、んごあっ! ああがっ! ああがっ!!」


 そして「青い血」を摂取すると、途端に抗い難い強烈な多幸感、恍惚、そして性的絶頂を体感するハメになる


「んんあーっ ああーっ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっ
「きょうせい開口を解じょする」
「んごあっ ごっごほっげほっ!! あっ ああーっ おいちいっ ああっおいちいいいっっ


 症状はおおよそ10分から20分程度で治まるが
 ここで注目したいのは「青い血」を摂取すると強力な依存性が形成される点である


「離せぇぇぇぇっっ 離せよぉぉぉぉぉっっ もっと食わせろぉぉぉぉぉっっ
「予ていどおり、P-No.2020をいち時収ようする」
『許可します、退出してください』
「食わせろぉぉぉっっ もっとあるんだろぉぉっ スペアリブぅぅぅっっ 食わせろよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おお゛っっ


 一度依存性が形成されると、対象者は狂暴化してあらゆる手段を講じてでも再び「青い血」を摂取しようとするようになる
 狂暴化はおおむね24時間前後継続するが、特筆すべきはその間「青い血」以外の精神干渉系能力が全く効かなくなる点だ
 継続時間を過ぎると狂暴化自体は鎮静するものの
 再度「青い血」を認識した途端に狂暴化して「青い血」を摂取しようと周囲に暴力を振るうようになるのである
 ついでに依存性が一度でも形成されてしまうと都市伝説能力や霊薬等で依存性を除去することができなくなる

 補足しておくと、先述した外見的特徴の部分で触れたように
 「青い血」単純認識による場合でも、「青い血」を摂取しようと狂暴化するが
 「青い血」摂取後の狂暴化は、単純認識時の比では無い位に危険度が増す

 とまあこうした特性の故に「青い血」は「禁忌指定」として厳重に管理されている、というわけである
 幸いなことに「青い血」関連の大規模事故はこれまでのところまだ発生していないが
 伝染災害を危険視した幹部達によって取扱方針が制定されることになった

 ここまで「青い血」の危険性ばかり説明するような内容になってしまったが、一応この物品にもそれなりの展望がある
 「青い血」を特定の薬剤で稀釈し精神干渉系能力の被害者に対して適切に投与することで
 依存性や狂暴化を極力抑えたまま、影響を受けた精神干渉を無効化、あるいは大幅に低減できる効用が期待されている
 現時点ではまだ実用段階に至っていないが、近い将来にも試験的運用が開始される予定らしい

 「組織」研究者の今後の活躍を祈ろうではないか









□□■
316 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:09:07.01 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは

ところでwikiまとめですが
整理途中で大問題が見つかりました

移行がうまく行ってなかったのか
IME辞書登録された語句の内、次世代ーズ関連の特定の語句が
登録から脱落した状態で数ヶ月そのままだったことが判明しました

なのでこれまで投下分にばっちりミスが残っていますね
多分聡明な読者の皆様といえど多分気付かれていない自信があります
が、それはそれとして己が赦せないのでセルフお仕置きの時間だ😌
 
 
 
 
 
317 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:10:40.92 ID:UvP9lMiqo
 



 九月

 まだ夏の気配を色濃く残しつつも、秋の朱空へと染まりゆく頃
 日没の迫る学校町の通学路で、それは起きた


「見せちゃうぞ……、見せちゃうぞ見せちゃうぞンばアアぁぁああーーッッ!!」

「いやあああああああっホントに出たぁぁぁぁアアアアアっっ!!??」
「ああーーっっ!! 変態っっ!! 露出魔だああぁぁぁぁーーっっ!!」
「キャアあああああああああっっ!! もっくんのより小さくて薄汚いよォォおおーーっっ!!」


 この町の南区にある商業高校のJKギャルたちが
 突如現れた露出狂のおじさんを前に、三者三様の絶叫を上げ、脱兎の如く逃げ出した


「――っふ、ふヒッ! ふ、ふひひ、ふヒンッ!! ふ、うっふふふふ、ふヒッヒ、ヒヒヒッ!!」


 その男はティアドロップ型のサングラスと大きなマスクで顔面を隠し
 九月だというのにトレンチコートを着込んでいる
 そして当然、コートの下は全裸であった
 これ以上の説明は不要であろう


「ふヒヒッ!! た、短小って……小汚いって……ッッ アハッ アハハハッ ヒンッ たまらんっ


 おじさんはJKの悲鳴の一部に甚く反応しているようで
 実際のところ彼は軽く達していた

 警察が直ちに介入すべき事案であるが
 幸か不幸か、周辺に巡回中の巡査は見当たらないようである
 更に付け加えると先程の悲鳴はかなりの音量で響いた筈だが未だ人の気配は無い


「ふふ、ウッフフ、……はあ、最高だった   ――さて」


 おじさんは全開にしたコートを羽織り直してボタンを留める
 そして後方へと振り返った



 其処に蠢くは無数の人影だ
 何時の頃からか此処、学校町の黄昏時に出現するようになった魔性

 それは「逢魔時の影」と呼ばれていた


「ここから先は通行料を頂くが、――よろしいかな」


 
318 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:11:19.10 ID:UvP9lMiqo
 

 場に居た「逢魔時の影」は全滅した


 おじさんは溜息を吐いた
 先程まで「影」であった残りカスが風に乗って消滅する
 手刀を引き戻すと、周辺の大気に微かな黒色の稲妻が奔った


 そろそろ純情JKの通報を受けたお巡りがやって来る頃合いだろう


 彼は高く跳躍
 最も近場に位置する鉄塔の頂点へと降り立ち、其処に佇んだ


 陽は既に暮れている
 夕闇はじきに光無き夜を誘う

 薄明の世界に包まれた学校町を見下ろすおじさんは
 やがて目を細め、遠景の一点を注視した


「さてさて」


 夕陽が死に、大地を夜の帳が抱き始める時分
 おじさんの眼は“彼”を捉えていた


 「繰り返す飛び降り」と化した少女、東一葉と共に直前まで談笑していたようだが
 “彼”――早渡脩寿もまた、この露出狂の男を眼差していた


 “彼”はこちらに気付いている


 おじさんの双眸は、獲物を見定めたかの如く、さらに細められた


「『七尾』の残党め、この町で一体何を企んでいる」
















□□■
319 :次世代ーズ EX ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:16:40.98 ID:UvP9lMiqo
 
 
 
アクマの人に土下座でございます
「逢魔時の影」、お借りしました
ありがとうございます

本格的に【9月】をやっていきますが、年末は働き詰めが決定した上
年越しを職場で迎えるっぽい💢ので、次来るのは年明けです


皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい
 
 
 
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:48:39.05 ID:YTGbKHpF0
明けましておめでとうございます
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:51:44.02 ID:YTGbKHpF0
>>320途中送信
今年はこのスレ10周年らしいので
楽しくやっていけたらと思います
ついでにまた人で賑わうようになれば嬉しい
322 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:07:41.89 ID:/ElaL/Wro
 



 数年前の元日の話だ



 つい先ほど日付が変わり、新しい年を迎えたばかりの真夜中

 「七尾」チャイルドスクール、研究棟の一室
 テーブルにはピザや寿司の食い残しや、掛け蕎麦の空椀が乱雑に置かれている

 そして、テーブルから離れた側では
 西陣織紬を着込んだ男子と、Yシャツの上から白衣を羽織った男が
 今しがた入室してきた鏡餅の着ぐるみを着用した男子を見て爆笑していた


 「早渡wwwwお前wwなんだその格好はよwwwwww」
 「アッハハハハハ! おい早渡、一体誰にやられた! アハッ!」


 腹を抱えて笑いに笑う二人組を、早渡と呼ばれた男子は半ば憔悴した半眼で睨みつけた


「うるせえぞ一伐、大体こういうのはお前の仕事だろうが……!」
「いやwwwwww早渡wwお前、良く似合ってるぜwwwwww最ッ高だよwwwwww」
「ハハハッ! で、誰にやられたよ早渡、空七ちゃん達か?」
「オメーのお仲間にだよ! トランジ! あのアマども、日頃の恨みとばかり寄ってたかって揉みくちゃに……!!」


 彼ら、ANクラス関係者がこんな時間まで起きているのはさほど珍しいことではない
 ましてや年末年始だ
 この時期は冬休みとして設定されており
 特に年明けから三箇日にかけては、普通クラス寮も消灯時間が平時より若干緩めになる

 これから彼らは普通クラス高学年を対象として、サプライズのお年玉配布へと向かう所であった
 通常のお年玉配布は元旦夜明け後に個々の生活指導教員から一人千円ずつ支給されるが
 研究棟からのお年玉ということで別途二千円札の配布が電撃的に決定したのである

 無論、金の出所に関してロクでもない経緯があったりするのは此処だけの秘密だ


「脩寿――、ちょっ、何その格好!」


 早渡の背後から部屋に入って来たのは
 ANクラス同級生の女子二名、空七とふわるだ

 二人とも早渡の格好を見るなり、一伐やトランジに負けず劣らずの爆笑を始めた
 特にふわるはツボに嵌ったらしく、しゃがみ込んで両手で顔を隠しつつお腹から湧き出る笑いに全身を揺すっていた

 不意にふわるが片手をずらして早渡を見た ――目が合う
 片手を振り上げてこのッ!! と凄むと
 体格に似合った小さな悲鳴を上げて空七の後ろに隠れ、爆笑し続けていた


「でも、本当に、その格好、脩寿が、自分で、着たの?」
「違えよ笑うな空七! 女子研究員どもが無理やり着せやがったんだぞ!?」


 笑いで切れ切れになった空七の問いに、早渡は噛みつくように応じる

 連中、女性研究員達はトイレ帰りの早渡を事前警告もなく急襲した
 本格的な捕獲デバイスを装備して殴り込んで来たので事前から計画でも練っていたんだろう



 
323 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:08:31.39 ID:/ElaL/Wro
 

「それだけじゃねえ!! これ見ろ!! ご丁寧に首輪まで嵌めやがって!!」


 着ぐるみと顔の隙間に手を突っ込み、無理やり押し広げて首筋を見せつける
 首には言葉通りの首輪が装着されていた。緑のLEDが規則的に点滅しているやつだ

 この首輪は普段からセクハラ大魔王などとありがたくない称号で専ら有名な早渡脩寿が
 新年早々女子寮へ乗り込んで悪いことをしないようにと女性研究員達が強制的に装着した一品だ

 具体的に言うと、早渡が女子寮のテリトリーに足を踏み入れた瞬間
 神経活動妨害パルスが彼の全身を襲い、激痛と共に七転八倒の末、行動不能にする物騒な代物である


「そんなに信用ないのかよ、俺は!!」
「お前の場合自業自得でしょ」
「んーぬぬ……!! 俺はガキには興味無えんだよッ!! 大人のお姉さん一択だろおがァァッッ!!」


 新たに入室してきた円伶が早渡に至極真っ当な意見を突き刺してきた
 後ろに続く飛鳥博士は早渡の格好に目を丸くしている

 早渡は密かに空七を睨んだ
 彼女は顔を背けて隠している積りだろうが肩を震わせている
 未だに笑い足りないらしく、爆笑を必死に押し留めているものと見える

 着ぐるみはともかく首輪の方は十中八九佳川の特製品だろう
 あの女、きっと安全な場所からワイン片手にこのザマをモニターしているに違いない

 悪いが佳川、お前の好きなようにはさせねえ
 オレ様の名に懸けて年頭から早速伝説を残してやるぜ
 首輪なんざ怖くねえ、初っ端から女子寮にブッ込んでやるからよ、覚悟しとけよ女子職員ども

 早渡の中に黒い獰猛な笑みが広がった瞬間であった


「普通クラスの先生達って、まだ理事に呼び出されてんの?」
「そ、だからサプライズは俺達でやんなくちゃいけないってワケだ」
「クリスマスの機材トラブルの件、大問題になってるみたいだな」


 ひとしきり笑った後の一伐とトランジ、そして円伶の会話は早渡の耳になど入っていない


「じゃ、女性陣も揃ったことだし。E5の普通クラスにサプライズお年玉、行くか!」
「「「おー」」」
「あ、早渡。お前一応初っ端から飛ばしていくのは控えろよ? この時期のお姉様方はちょっと優しくないぞ?」
「それが怖くて早渡ハーレム王国が築けるかッつー話だろうがよ!!」
「お前マジでやめときな早渡、大河内研究員が今度お前が問題起こしたら去勢するって公言してたの忘れたの?」


 音頭を取るトランジこと星虎次博士、それに応じる一伐、空七、ふわるの三人
 そして早渡に釘を刺すトランジと、それに吼える早渡、に再度釘を打ち込む円伶
 ついでにそのやり取りを呆れたような笑いと共に見守る飛鳥博士
 彼らはわいのわいのやりながら部屋を後にする


 この後、期待通りというかやっぱりというか
 お年玉を個々の部屋長へ渡す道中、普通クラスの男子達に煽られた早渡は
 「男を見せてやらあ!!」などと理解不能な絶叫を上げながら女子寮への突撃を実行した

 無論、首輪の効果は抜群であったのは言う間でも無い話だ





 これが、「七尾」が襲撃を受け、そして解体する、その年の元日の出来事だ

 今にして思えば、あのときの俺、こと早渡脩寿は
 久し振りに屈託なく爆笑する九宮空七を、本当に久し振りに見たのだ






□□■
324 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:10:39.87 ID:/ElaL/Wro
 
明けましておめでとうございます
本年も宜しくお願い致します

年始は投下分の整理を進めようと思います……
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