都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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256 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:04.64 ID:HXt21WMGo
 その日は朝から雨がふっていました
 こくごの時間も雨、おんがくの時間も雨、きゅうしょくのときも雨でした
 ごごのじゅぎょうがおわって、かえりの会がおわったあとも、ずっと雨でした


「たっくん、しーっだよ」


 ぼくと【花子さん】は、かえり道にある公えんにかくれて道ろを見ていました
 【花子さん】が人さしゆびをくちびるにあてて、ぼくにしずかにするように言いました

 そしたら、道ろのむこうがわから、白いふくをきたかみの毛のながい女の人がやってきました
 からだがよこにむいたまま、カニみたいに足をうごかしています
 【ひきこさん】はああやってよこ向きにしか歩けないんだよ、と【花子さん】がおしえてくれました
 ぼくのところからは、女の人のかおは見せませんが、目と口が大きくさけたこわいかおをしているそうです

 ぼくが【ひきこさん】を注いして見ていると、きゅうに【花子さん】がぼくのかたをぽんぽんとたたきました
 【花子さん】が小さくゆびをさす方向を見ると、【ひきこさん】のはんたいがわから、おばあさんがあるいてきました
 むらさきの、ぐるぐるもようがいっぱいついた、見たことがないへんなきものをきた、おばあさんでした

 ぼくは、あっ、とびっくりしました
 【ひきこさん】が、いきなりおばあさんめがけてすごいいきおいではしり出したからです
 ぼくはおばあさんがあぶない、と思いましたが、【花子さん】がぼくの口をおさえて


「だめっ、しーっ」


 と、ぼくの耳もとでそう言いました

 ぼくはいそいでおばあさんの方を見ると、おばあさんは【ひきこさん】のうしろに立って、へんなポーズをしていました
 【ひきこさん】は、今にもとびかかるようなポーズをしているのに、そのままかたまっていました
 まるで、月ようびのよるにテレビでやってる、じだいげきみたいでした


 「なにやってんだい、ここはつう学ろだよ
  あんたはすこし、ちのにおいがつよすぎるね」

 
257 : [sage]:2018/09/03(月) 01:29:59.27 ID:HXt21WMGo
 おばあさんの声は大きくないのに、ぼくの耳にもはっきりとそう言ってるのがきこえました
 すると【ひきこさん】は、まるですなで作ったおしろがいっきにくずれるみたいに、地めんにたおれると
 そのまま消えていなくなってしまったのです


「ひえっひえっひえっ
 それにしても、いいしりこだまでのお
 ぴちぴちのぷりぷりでほれぼれするわい、ひえっひえっひえっ」


 おばあさんはそう言うと、まるでかたなのようにかまえていたものを、たかくかかげました
 その先の方には、青くすきとおるボールのようなものがのっていました
 前に【花子さん】がおしえてくれたのですが、このおばあさんは大きくてながいスプーンをつかって
 わるい人のおしりから、しりこだま、という大せつなものをぶっこぬいて、わるい人をやっつけるそうです

 おばあさんは、スプーンにのっかったしりこだまを大じそうにしながら
 きものの中から出した、きんちゃくぶくろに入れると、はしるように行ってしまいました


「【ムラサキのおばあさん】、かっこよかったね」
「うん」


 ぼくたちも公えんから出て、おうちにかえることにしました
 【ひきこさん】はこわかったけど、おばあさんがすごい人なんだとおもいました

 ぼくは【花子さん】にさよならを言って、おうちにかえりました
 【花子さん】もおうちにかえりました
 【花子さん】のおうちは、あき地にあるかきの木です
 だから【花子さん】のことを知っている人たちからは、【かきの木の花子さん】とよばれています


 おかあさんから、もうすぐあき地でこうじがはじまる、というはなしをききました
 もしかすると【花子さん】はいなくなってしまうのかもしれないので、ぼくはちょっと心ぱいです
 でも、【花子さん】にはまだ、そのことをはなせていません



 終
258 :○前回の話 >>240-245 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:04:31.44 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中央高校付近

 作戦行動中の新人黒服二名が独断で飛び出し、敵性対象を追跡中――
 その連絡が入ったのは今から十数分前
 「組織」Pナンバー応援部隊の三名は新人黒服の生体信号を辿り、目的地へ急行していた

 南区の某ビル屋上で女子生徒を襲撃した者は
 女子生徒の家族を捕食すると言い捨て彼女の実家へと向かった
 その場でリーディングを実施したミッペによれば、襲撃者は男女二人組の契約者

 それが現場のメイプルから急ぎ伝えられた情報だ


「あっ、いたのです! ミッペちゃん見つけたのです!」


 二つ結びの黒服が示す先には、住宅街のゴミ集積所
 その前で座り込んだ少女黒服の姿があった


「ミッペ! どうしちゃった!? おい!!」


 応援三人組のリーダーがミッペの肩を掴んだ
 ようやく彼女らの存在に気づいたかのようにミッペが顔を上げた
 その表情には恐怖が張り付いている


「あ、キルトさん……。ココは、どこなんですかぁ……?」
「なんだどうしたミッペ、何があった!? クジっちはどこよ!?」
「さっきから頭が……、変なイメージが勝手に流れ込んできて……、海が、磯臭くて」
「クジっちはどうしたよ!? 一緒じゃなかったの!?」
「クジちゃんは……、あ……、あの子のお母さん助けるって、先に……!」

「たいちょー、ミッペは何らかの能力の間接的影響をー受けていると思われー」
「アクアフレッシュ、あんたは私に付いて! ぷーたんはミッペを頼む!」
「らじゃーなのですっ!」 「りょーかいー」


 リーダーは後の二人に指示を出し、“ジャミング”を起動した
 都市伝説起因の異常事象を一般人に認識させない一種の「結界」だ


「ミッペ、どの家か教えて!」
「三軒向こうの、あの平屋です! でもぉ、ヤバいですよぉ!」
「ヤバいから行くんだよッ!!」


 リーダーとアクアフレッシュは既に飛び出していた
 なるほど、問題の平屋からは異様な気配を感じる


「敵さんの戦力も分かりもしないのに、向こう見ずに飛び出してくれちゃって、んもーッ!!」


 愚痴を吐き捨てながら問題の家屋へ接近
 家屋内で争っているのか、物々しい破壊音が聞こえてきた
 おまけに異様な気配が剣呑な殺気として具体的な輪郭を帯びだしている


「アクア、念のため報こく――」


 走りながら後方の仲間へ声を掛けた、次の瞬間だ


 雷のような爆音と閃光が空間を奔った!


 迷いもなく門を蹴破り敷地へ侵入、アクアフレッシュもこれに続いた

 家屋の玄関、ではなく脇の庭先へと踏み込む

 庭に面したガラス窓は全て吹き飛んでおり、強烈なオゾン臭が黒服の鼻を衝いた
 
259 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:05:58.33 ID:kM0nq+B5o
 

 外塀に叩きつけられたのか、庭に倒れ断続的な痙攣を繰り返す新人を、まず確認した
 ミッペと共に飛び出した一人称「俺」の女子黒服、久慈だ


 リーダーはコンマ数秒で彼女から屋内へと視線を走らせる


「ハァーーハァァハァッ!!!! 新手かぁぁぁァ!!?? 黒服ぅぅぅゥゥゥ!!!!!」


 その者は、破壊され尽くした屋内に独り立ち、哄笑を響かせていた
 外見は少女、南区商業高校の制服を着た女子生徒の姿だ
 少女の傍には倒れた女性、襲撃された子の母親か

 女性の被害程度を見極めることができない
 この敵対者から目を離せば即殺られる、本能がそう警告を発している


「ハァァーッハァァァーーッ!! 黒服を喰っても腹は膨れないんだけどさぁぁぁ
 可愛いから相手して、グッチャグチャにしてやるよォぉぉぉーーっ!!」


 少女が放っているのは圧倒的な殺気と眼光ばかりでは無い
 周囲の空間に奔る無数の光は間違いなく電撃かその類だ


「ハヒッ! ヒ、ヒヒャ! ヒャッハ!! 来いよ、黒服ぅぅぅッ!!!」


 少女の体が突如震え出した
 哄笑を依然として維持したまま、体が内面から無理矢理押し広げられるように“変化”を始める


「まずいぞー! リーダー!! ヤツの出力が上がってるー!!」


 後方のアクアフレッシュが怒号めいた注意を飛ばした

 少女の姿がおぞましい外見へと変貌していく――


 空間の殺気が再度、膨らみ始めた


「アクアッ!! 防御ッ!!」


 リーダーの警告とほぼ同時に、少女周囲の放電量が一気に増大!



「掛かって来いよぉぉぉッ!!! 黒服ぅぅぅゥゥゥぅううウウうううウウッッ!!!!!!」



 敵対者は黒服に向かって牙を剥き、嗤った





 鹿のような二本角


 獣の頭蓋骨を思わせる頭部


 狭い屋内のためか、体を折り曲げるようにして狂相を向けるこの者は


 既に少女から獣人へと“変貌”を遂げていた





 
260 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:06:34.93 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町西区

 早渡修寿はようやく廃工場から抜け出した
 右腕を押さえ、ふらつきながらも、血走った眼で周囲の警戒を続けている

 「モスマン」の殺意は相当のものだった、だが奴を倒した
 そして収穫はゼロ、しかもこれからどうする? よりにもよって携帯を忘れるなど
 己の迂闊さを呪いつつ、彼は東区の状況を案じていた

 東区へは高奈先輩が向かった筈だ、彼女ならきっと大丈夫だ
 早い内に見つかると良いのだが


 不意の激痛に思考が掻き乱される
 呻き声を漏らしながら動かない右手を見下ろした

 最早右肩より先の感覚が無い
 今は痛みより全身を襲うだるさが強いが、断続的に激痛の波が押し寄せてくる

 切断された右手は強制的に繋げたものの、上手くやれたか断言できない
 そもそもあの毒鱗粉だ、全身に毒が回ってるとして――あとどれくらい持つ?

 どうする、真っ先に「先生」の診療所へ電話すべきか
 この周辺に公衆電話があるとも思えない、工場に押し入って電話を借りるか、もしくは民家に助けを求めるか
 東区は「ピエロ」共が放火を始めていた、そもそも診療所へ辿り着けるかどうかすら怪しい、それより一旦自宅へ戻るか


「財布、忘れてないよな?」


 血塊を吐き捨て、車道脇の縁石に崩れ落ちるようにへたり込んだ
 思った以上に毒の回りが速い、急ぐ必要がある


「んお? 早渡?」


 流れが少ない車道でタクシーを捕まえようと漠然としていた早渡は
 横合いから掛かる声とエンジン音に、ぎこちなく首だけを捻った
 肩回りに寝違えのような痛みが走る


「……星崎先輩」
「はいよー星崎ですよー」


 見れば中央高のブレザー女子、学年が一つ上の星崎先輩だ
 梅雨明けの頃に奇妙な縁で出会った、地味さと呑気さを足して煮詰めたような女子である


「ひどい怪我だね、アレかな? 喧嘩帰り? 顔面も真っ赤になっとる」


 星崎先輩の問いに早渡は黙った
 まさか「モスマン」と殺し合っていたなどと言える筈も無い


「まあさ、良ければ乗ってく?」


 彼女は早渡の沈黙を破くと、後方に停められたスーパーカブを親指で示した








「ねえ、病院行こうか? 近いよ、病院」
「保険証、いま、持ってねえっす」
「そっかあ、じゃあ家でいい? 南区だったっけ、家」
「はいっす、ありがたいっす」


 二人はカブに揺られ、南区方面へと向かっている
 早渡の顔面は毒の所為か赤から青へと変色し始めていた

 毒消しが家にあったかも思い出せない
 一旦「えりくさあ」で治療を試みつつ、さもなくば病院行きだ
 
261 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:07:33.30 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区

 乱れた呼吸を整え、周囲の惨状を見渡す
 現場は凄惨な状況だが、まず「ピエロ」は全滅させた
 だが肝心の――あの奇天烈な風貌の中年女性
 大阪のおばちゃんめいた恰好の契約者、あれの姿が見えない

 逃げられたな

 主任は胸中で毒づいた
 因みに、「ピエロ」に対する拘束と尋問を検討しなかった訳では無い
 だが狂笑しながら自身の頭部を爆発させた「ピエロ」を見て即座に断念したのだ
 あれはどう見ても最初から脳内に炸薬を仕込んであったとしか思えない様子だ


「カス共が……ッ!!」


 主任が悪態をつくのも仕方ない話だ
 視線の先にあるのは言い訳もつかない程に大きく抉れたアスファルトだ
 眼前ばかりでは無く、連中の射程範囲には大小問わず無数のクレーターが形成されていた
 言うまでも無いことだが、主犯はあの中年女の契約者である


「主任、事後処理は隠蔽部隊を要請しますか?」

「無駄だ。『ピエロ』があとどれほど潜伏しているか分からん
 修繕したとしてまた破壊されないとも限らんからな
 爆破痕は立入禁止、車道へ迂回路を設定しろ」

「了解、そのように伝えます」


 こちらとて被害が無かった訳では無い
 爆破による死傷者若干、ライフル弾による重傷者複数
 継戦は未だ可能とはいえ、敵側の戦力には少々侮りがたいものがある

 舐めていた訳でも無い
 しかし、あのピエロ装束の道化共
 個々の軽薄な態度とは裏腹に統制の取れた戦闘能力を発揮していた
 裏で糸を引いている者がいるのはまず間違いないだろう

 加えて、あの中年女の契約者
 当初は無差別爆破しか能が無いと見做していたが
 あの能力密度といい、出力の高さは並のものではない

 看過できない、将来の脅威となりかねない


「『ピエロ』側に爆破能力を持った契約者がいる、門条にも連絡を入れておけ」


 側近の黒服に報告の指示を出す
 門条は現在「狐」の件専任となっているが
 「ピエロ」への対応にも指揮側として一部関与している
 その上、今夜の「ピエロ」の騒動が「狐」の件と無関係とは言い切れないのだ

 過激派幹部の意向を窺っている場合では無い
 門条には逐次報告を入れておいた方が良いだろう、万が一があっては遅いのだ!

 負傷者への応急処置、爆破痕への簡易工作、既に消滅した「ピエロ」が遺した銃火器
 周囲に眼差しを向けながらも主任は黙考を続ける
 正直今直ぐにでもキレて怒鳴り散らしたい気分だが――

 ところで、我々過激派は門条と直接やり取りを交わすホットラインを持たない
 奴の部下へ報告を行い、時間差により奴へ伝えられる

 そこに考えが至り、思わず怒張した血管をこめかみに浮き立たせながら
 彼は口を開いた


「門条への報告に付け加えろ!
 『ピエロ』側には何名か道化の仮装をしていない契約者がいる
 これは俺の推測に過ぎんが……、奴らは『ピエロ』の協力者だ。これから更に複数名出てくるかもしれん」
 
262 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:08:19.62 ID:kM0nq+B5o
 



 学校町東区、中学付近


「全身ミイラの癖に舐め腐りやがっ、お゛あ゛あ゛ぁぁ゛ーーッッ!!」
「チェスト! チェストォ!! チェストぉぉオオーーッッ!!」


 東区、いや、学校町内で最大の規模を誇る中学校
 その近辺にある、とある廃屋の中で「ピエロ」と「トンカラトン」が殺死合いを繰り広げていた


「オンッ! おぉオンッ!! おーーンッッ!!」
「ぐわし! ぐわし! おゴォォーオオッ!! エ゛ん゛ッ!!(死)」


 逆手の脇差を器用に扱い「ピエロ」の右手ごとチャカを壁に縫い付けると
 もう一方の脇差で「ピエロ」の頭部を即座に刺突! 貫通!


「兄者ァァッ!! 無事かァッ!?」


 手際よく「ピエロ」を始末するは、「トンカラトン」、名をヤッコ
 トンカラトンで構成された勢力、『朱の匪賊』四番隊、その副々隊長である!


「うぜえっ! てめえッ!! この俺様☻を何だと思゛ッッ!!??」
「猪口才ッ!! だがこれで、袋の鼠ッッ、いヨォォーーぉぉッ!!」


 素っ頓狂な大音声と共に屋内の柱に道化の頭部を激突せしめ
 その反動で以て敵の脚に絡めた物干し竿で道化を転倒させた挙句
 降り抜いた刀で「ピエロ」の股間目掛けて切っ先を振り下ろす――!!


「ハァァッ!! ハァァァッ!! ん゛あぁァアアああ゛あ゛ーーッッ!!(両 / / 断)」


 更に畳みかけて悶絶する「ピエロ」の顔面へ刺突! 貫通!
 途端に道化は絶叫を停止、白目を剥いて激しい痙攣を引き起こすばかり!

 絶命を確認の後、「ピエロ」の首に足を蹴り込み、乱雑に引き抜くは
 『朱の匪賊』四番隊副隊長にして、この四番別動隊を率いる「兄者」、名を珍宝(ちんほう)と発す!


「ぬぅぅぅッ、奇ッ怪な南蛮道化共めッ!! 我らが隠れ家に気付いておったか」


 連中の襲撃により荒らされた屋内を睥睨し、「兄者」は唸った

 日も暮れ、すっかり闇夜に染まった時分
 突如この隠れ家に「ピエロ」共が前触れなく襲撃して来たのだ
 当然別動隊、都合五名は総出でこれを返り討ちにし、逃さずまとめて切り伏せたのである

 因みに彼ら「トンカラトン」が念入りに「ピエロ」の頭部へ刺突を行ったのには訳がある!
 敵である「ピエロ」共は脳内に爆薬でも詰めているらしく、放置すれば絶命と引き換えに今際の爆弾と化しかねない
 そこで彼ら「トンカラトン」は彼奴らの頭蓋の内にある起爆装置をそのトンカラトン感知力によってピンポイントで破壊していたのだった!


「道化はいいッ! 捨て置けッッ!! 六ン馬ッ! 『本隊』の動きはどうなっておるッ!?」
「動き、怪しいです。監視網から、消えた。行方、知れず。つい、先程、道化、斃した後には、既に、姿が、無い」


 比較的被害の軽微な襖を開けば、廃屋唯一の光明が暗闇を照らす
 畳の上に這うはコード、コード、これまたコード
 そして部屋の一角に積み上げられたのは大小様々な機材の雑多な山
 その上に遠慮がちに載せられておるのは、いずれも数世代前のモニター、そしてノートPCである
 光の正体はモニターや機材のLEDディスプレイの明滅によるものであった
 これらは全て現地調達にて獲得されたたもの、電源は外部より違法的に引き込まれたものだ


 「ピエロ」の襲撃によりささやかな夜食が中断された
 「兄者」はすっかり冷めたタイムセール半額44円のフライドチキンを手掴みし、食い千切り、そして咀嚼した

 
263 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/6 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:01.97 ID:kM0nq+B5o
 


 明滅したモニターが示すのは、「本隊」そして「LOST」の表示である


「勘付かれたか、さもなくば、これも『女狐』の妖しげな術の仕業か……」


 咀嚼したチキンを呑み込み、「兄者」は暫し黙考する
 「兄者」率いる別働隊の者達は、この町へ来た当初こそ嫁獲りに勤しんでいたが
 一番隊からの恐るべき報告が密使により伝えられたとき
 「兄者」は四番隊への裏切りとも取られる任務遂行を決意したのである


「三番隊により、『十六夜の君』と呼ばれていた者の正体が、かの忌まわしき『女狐』であらば」


 「兄者」はその場の全員に聞こえる、朗々とした声色で言った


「三番隊、四番隊の背後から糸を手繰っておったその者が、今や表に姿を現しているのやも知れぬ」
「兄者ァ、するってえとよォ、やっぱし隊長殿は、もう」
「うむ、既にかの『女狐』の毒牙に掛かり、その尖兵として踊らされている可能性も考えておかねばなるまいて」


 「兄者」は五指を覆う朱い包帯に付着したチキンの衣を丹念に舐め取った
 まっこと、悪くない別働隠れ家ライフであった


 しかし、それも今宵で終わりだ


「者共ッ!! 聞けッッ!!」


 「兄者」、珍宝の訓示に、ヤッコ以下、銀冶、門佐、六ン馬の全「トンカラトン」が背筋を正す


「四番隊が姿を消したッッ!! 時は来たッッ!! 今宵ッ、我ら別働隊はこの隠れ家を放棄するッッ!!」
「とうとう暴れ時だなァッッ!! 兄者ァァッッ!!」
「応ッ!! 六ン馬ッ!! 『師団』一番隊に伝令を飛ばせッッ!!」
「合点、承知」
「いよいよ我らは消息を絶った四番本隊の所在を突き止めるッッ!!」
「ゥ応ォォッッ!!」「応――」「応ッ」


 吼えるような返事と共に、各名は床の間の天袋を開き、床板を引き剥がし、天井板を外した!
 其処から取り出したるは何れも密輸入の重改造を施した違法RPG-7、違法カラシニコフ、違法軽機関銃である!
 無論、襲撃した「ピエロ」共が取り落とした銃火器の回収も抜かりは無い!


「そしてッ! 隙あらばッ、――隙あらば、必ずや隊長以下本隊の同志を正気に戻すッッ!!」


 そう発し、珍宝は鍔広の麦わら帽子を目深に被った
 駆け寄るヤッコが、彼の背中に朱き外套を羽織らせる
 その外套は、当然のことだが、墨字で「 朱 ノ 師 団 」と大書された逸品である!


 遂に時は来たれり! 戦である!! 合戦である!!!







□■□
264 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:09:44.09 ID:kM0nq+B5o
 
○Pナンバーの黒服たち

ミッペ
 Pナンバーの新人、趣味は刺繍とごはん

久慈
 Pナンバーの新人、一人称が俺、最近耳にピアスを開けた

リーダー
 Pナンバー、新人二名(ミッペ、久慈)の先輩格で登録名はキルト、趣味はバイアスロン

アクアフレッシュ
 Pナンバー、本編では「アクアフレッシュ」と呼ばれているが髪色が白青赤のストライプだからである

ぷーたん
 Pナンバー、公私ともにふわふわしている、趣味はお昼寝





○学生共

早渡修寿
 モスマン毒にやられて以降、顔が赤くなったり青くなったり

星崎
 中央高校の二年生
 下の名前はトマト、後輩からはポンコツ呼ばわりされている





○過激派

主任
 元は過激派出身で異例の昇進を遂げた(?)門条と
 万年下管停まりの自分の違いは何なのかと枕を濡らす日々





○「朱の匪賊」嫁探し組

珍宝
 四番隊副隊長、「ちんぽう」ではなく「ちんほう」と読む

ヤッコ
 四番隊副々隊長、隊内のムードメーカー兼トラブルメーカー

銀冶/門佐/六ン馬
 四番隊の中でも推しが副隊長な「トンカラトン」共
 口数は少ないが、テックに弱い珍宝を陰に陽に支えている





○Pナンバーの命名規則について
 「組織」では以前から各ナンバーの頭文字を登録名の頭文字として指定する傾向が強かったそうだが
 Pナンバーはこうした傾向を一切無視、「自由に登録名を決定して良い」とわざわざ文書化までして制定した
 発案者は当時のP-No.0である



 
265 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/17(水) 06:10:32.92 ID:IrWMP6vto
今夜はここまで
あと二つ
266 :シャ ◆7aVqGFchwM [sage saga]:2018/10/19(金) 19:54:13.23 ID:ddOPe4EgO
確かにイニシャルP縛りはきついなw
Rもたいがいだったけども何せ日本名Pがなあ
そういう意味ではザン・ザヴィアーは偉大だと思う
267 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:39:49.55 ID:3JghBcqEo
 
>>252-253
やの人お疲れ様です
チャームが効いてない……?
いや効果が阻害されてる……?
まさか、もう勘付かれたのか……!?

>>266
シャドーマンの人お久しぶりです
和名イニシャルPも高難度でしたが
洋名イニシャルPが簡単かと言うと……自信が無い
因みにPナンバー命名は自由と書きましたが
P-No.0や上位幹部に忠誠を誓っている黒服は
自発的に氏名両方かいずれかのイニシャルをP始まりにしているようです
ついでに言うとPナンバーの場合はP-No.というシステムに、というより
P-No.0や上位幹部その者に忠誠を誓っていることが多いイメージですね


では二発目行きます
 
268 :○前回の話 >>258-263 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:43:33.32 ID:3JghBcqEo
 



 学校町、位置不明

 其処は暗く、どこまでも暗く、陰気の凝縮された空間だ
 湿度の高い空気があたかも粘液のようにその場に居る者達へとまとわりつく


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 道化の装束に身を包んだ巨漢のピエロはまさにその場にあって
 命じられた通り“クランベリー”を潰して果汁を搾り出す作業に勤しんでいた
 周囲は完全に闇に溶けているが、僅かな光源によって床が錆び付いた何らかの金属であることが分かる
 床の金属には元々何かの彫刻が施されていたようだが
 こうも錆と謎の汚れに覆われていては一体何が刻まれていたのか知る由も無い


「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」


 巨漢ピエロは自身の巨躯を縮めるようにして粛々と与えられた仕事を続けている
 まずは“クランベリー”のヘタを切断する
 こうすることで“クランベリー”はくぐもった悲鳴を上げるのを止める
 次に震えの止まらない“クランベリー”を固定し圧縮することで甘い果汁を搾り出す
 それを金属の床へ滴らせることがこの作業の最も重要な工程だ


「今で14だ」


 この空間に居るもう一人、頬のこけた神経質そうなピエロは
 “ポータル”から次の“クランベリー”を強引に引っ張り出し、通話相手に唸った
 古参だからという理由で呼び出されてみたらこれだ、正直この場から逃げ出したかった
 最初の話とは大違いだ、そもそも“クランベリー”もこの作業も彼にとって全く趣味では無い
 この町に来てからというもの、もっと美味なモノを食い散らかす積りだったのに貧乏くじばかり引かれている


「もうこれで15人目だぞ!?」


 通話の相手を押し殺した声で脅しかける
 乱暴に掴み出された“クランベリー”が小さな悲鳴を上げて身を捩った
 全ての“クランベリー”は白い布でくるまれリボンでしっかりと結ばれている
 この包装は完璧だ、逃げ出すことなど無理な話である


「どうする? 続けんのか止めんのか、どうなんだ!?」
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
『待ってください、作業を一旦中止してください』


 相手の声色に僅かな緊張が混じった
 「ピエロ」のボス、「ジョー」が何をしているのかは知らないが
 通話先の様子が妙だ、何やら慌ただしいようだが何が起こっているのか分からない

 
269 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:45:33.33 ID:3JghBcqEo
 

『今ジョーが確認を取っています、そのまま待機してください』
「フゥーーゥッ、フゥーーゥッ」
「待てマッシャー、一旦中止だ! おい、待てっ!!」


 巨漢ピエロが作業を続けようと次の“クランベリー”を掴んだ
 神経質ピエロは慌てて引っ手繰り返す、“クランベリー”が鋭い悲鳴を立てた


「おいこのウスノロ!! 待てっつってるのが分かんねーのかっ!?」
「ブフゥーーッ! ブフゥーーッ!」
『中止命令が出ました。作業を終了してください』


 作業中止、幾ばくか緊張が緩んだ
 不機嫌そうな相方の唸り声を聞きながら神経質ピエロは額の汗を拭う


「おい、作業終了だマッシャー! 中止命令が出た!」
「ブフスゥゥーーッッ!」
「そっちの案配はどうなんだ、おい。お前は随分落ち着いてんじゃねえか、え?」
『全然落ち着いてないですよ、正直余裕がありません』


 唇を舐めて通話先の「ルーキー」に軽口を叩いた
 奴は「ピエロ」の中でも新参者だが的確な手腕で「ジョー」をアシストできる実際稀有な存在だ


「大暴れできんのもそろそろなんだろ? そん時ぁパーッと楽しもうぜ」
『だといいんですが』


 「ルーキー」の応答はどこか歯切れが悪い
 大方「ジョー」と教授の作業とやらが詰まってるんだろう
 神経質ピエロは「ジョー」によろしく言っとけと伝え通話を切った


「オラ行くぞ、こんな陰気臭えとこに長居したかねえんだよ俺は」
「フスーーッ、フスーーッ」


 返事代わりに鼻息を立てるマッシャーを引き連れ、彼は“ポータル”へ侵入した
 すすり泣いていた“クランベリー”は神経質ピエロにどつかれ悲鳴を上げる
 後は覚醒させた“クランベリー”をもう一度眠らせればこの地獄のような仕事からは解放される

 全ては「組織」に気付かれずに進める必要がある
 手持ちの“クランベリー”はいずれも外部から調達してきたものだ
 学校町内で収穫するとなれば確実に「組織」その他の注意を引くことになる
 この“ポータル”にしてもそうだ、学校町外部と接続しているならともかく
 転送は全て学校町内でのやり取り、その上今回は「先生方」の護衛も受けている
 「組織」に勘付かれることも無い
 少なくとも、今はまだ


 彼らピエロが“ポータル”へ姿を消し、接続が解消されたとき
 その空間は完全な闇に沈んだ

 夥しい果汁が広がった金属の床は依然として不気味な静寂を湛えている








 
270 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:46:20.75 ID:3JghBcqEo
 



 「組織」管轄の病院


「すいません部長。アタシの失態で、こんな」


 丸顔なスーツの女性に先行しながらメイプルは死にそうな顔で謝罪した
 南区ビル屋上で重傷の女子二名を保護してから何時間が経過したか
 既に時刻は日付の変わる時分に差し掛かろうとしていた


「監督不行届は確かに問題だが、叱責は後だ
 メイプル、被害者の容態は?」

「はい、少女二名も母親も現在は安定してます
 意識が戻り次第、ヒアリングと記憶処理を実施予定です」

「捕食されかけたと聞いてどうなることかとは思ったが……」


 後で憐子にも礼を言わねばな、丸顔の黒服はそう呟きながら一室に入った

 集中治療室の病床に横たえられた黒服をガラス越しに眺める
 全身を包帯でくるまれているのはメイプルの部下で
 ビル屋上の一件で飛び出していった一人称俺の女子黒服、久慈である

 丸顔は腕を組んで溜息を吐いた


「現場の報告はこっちにも入ってる。襲撃者の能力出力は並の契約者のものではない
 『組織』の古い区分では即時捕殺に指定されてもおかしくないレベルだ
 最近は、特に穏健派が強くなってからは下っ端が現場で強敵と戦うリスクも減っている
 そんなの相手にヒヨっ子が生きて帰って来れただけでも御の字だ」

「……」


 涙目でガラス向こうの部下を見つめるメイプルを尻目に
 丸顔は悟られぬよう安堵の溜息を吐く


「しつちょー、ぶちょー、今ー話し掛けてもよろしいですかー?」
「ん? ああ、入れ」


 いつの間に入口の方には別の黒服が居た
 新人二名の追跡兼応援に向かった部隊の一人、アクアフレッシュだ
 彼女は大きなタブレット型の端末を丸顔にも見せながら話を切り出した


「問題のー、襲撃者なんですけどー
 交戦時に『変身』した形態からー正体を割り出すとなるとー、やっぱりコイツになるんですよー」


 彼女が話しているのは、屋上で少女二名を襲い重傷を負わせ
 更に内一名の少女の母親を襲撃して捕食しかけながら
 現場に駆け付けた新人の久慈、および応援部隊と交戦した「襲撃者」の少年のことだ

 襲撃者は、屋上で襲撃した少女の容姿へ「変身」して彼女の制服を奪い
 少女の実家で母親の襲撃・暴行を実行、割って入った久慈に攻撃を仕掛けた後
 応援部隊の黒服キルトとアクアフレッシュの前で獣人の形態へ「変身」の後に交戦
 彼女ら二名を電撃攻撃で牽制しつつその場から離脱した


 
271 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 4/7 ◆John//PW6. [sage saga]:2018/10/21(日) 19:47:18.61 ID:3JghBcqEo
 



 タブレットに映し出された情報を目で追う
 「組織」データベースの映像記録で、半人半獣の怪物が表示されていた
 「Wendigo」 ――確かに名称にはそう記されている

 「ウェンディゴ」、カナダ南部からアメリカ北部の先住民に伝承される悪性の精霊だ
 獣人の実体を持つとも、人に姿を見せることはないとも云われており
 精神的な攻撃を執拗に行うとも、森に人を迷い込ませて食い殺すとも伝えられている

 ちなみにこの「ウェンディゴ」、外見については諸説あるが
 日本のオカルト解説本で紹介された「シカの角を持つ半人半獣」のイメージが後の「ウェンディゴ」の外見に影響を与えたという説もある
 尤も人々の抱くイメージによって実在化した都市伝説の外見が変化する例は幾らでもあるので外見については措くとしよう

 いずれにせよ、少女二名は体の一部に捕食痕があり母親も食われかけたという報告からは
 襲撃者の正体、あるいは契約伝承が「ウェンディゴ」であると判断する材料にはなろう


「なるほど、精霊であれば消極的ではあるが『変身』能力の説明もつく」
「えーまーそうですねー、妖精精霊一般はー、大抵『変身』デフォルトで出来ますからー。でもー」


 「変身」の能力は「ウェンディゴ」の特徴として取り立てて言及されることは無い
 しかし、世界各地に残る伝承によれば「精霊」一般は様々な魔法を行使し、あるいは「変身」能力を有するとされる
 広く「変身」能力を使用しうる存在だと捉えるなら、精霊の一種である「ウェンディゴ」もまた「変身」能力がある
 そう言えるかもしれない、だが


「でもー『ウェンディゴ』だとするとー、くじっちゃんを吹っ飛ばしたー『電撃攻撃』の説明がー、まったく出来なくなっちゃいますー」
「『電撃』か……。全く別の能力者か、あるいは多重契約者という線も捨てきれんな」


 応援部隊の情報によると、襲撃者と交戦した久慈は
 放たれた電撃によって大きく吹き飛ばされ戦闘不能に陥っている
 またこの電撃の威力により、応援部隊は近接戦闘に出ることができなかったのだ

 加えて――、丸顔の黒服は目を細める
 屋上で新人のミッペがリーディングした情報が正しければ、襲撃者の少年には女子が一緒だった
 母親襲撃の現場には姿が無かったとのことだが、この女子の存在が非常に匂う

 担当医からの報告では、都市伝説能力で生成されたとみられる“蛆虫”が少女達の傷口から多数摘出されたらしく
 解析を試みたものの傷口を離れた途端に消滅したらしい。恐らく情報流出対策だろう
 断定は出来ないが“蛆虫”がこの少女の能力である可能性は否定できない


「悩んでいても仕方が無い、今掴んでいる情報を全て門条側にも報告してくれ
 連中が新しい情報を入手しているかもしれん」

「らじゃーですー」

「メイプル、我々もミッペの所へ行くぞ。案内してくれ」


 アクアフレッシュはタブレットを小脇に抱え足早に退室する
 丸顔とメイプルも集中治療のモニター室を後にした


「ミッペに関してはこっちに非がある、情報の連携が遅れた所為だ」
「いえ、そんな」
「流せる問題では無い。感知系能力に対するカウンター能力など……」


 丸顔の眉間に険しさが混じる
 穏健派から入った報告によると、「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者が存在する
 射程や追加能力等の詳細が不明な現状、下手にリーディング系の能力を行使するのは危険だ

 しかし現状では、リーディング系の能力を使用すると具体的にどのようなカウンターを食らうのかも分かっていない
 応援部隊が現場に駆け付けた際、真っ先にミッペを保護したようだが彼女は錯乱気味だったという
 ミッペは一体何を感知したのか確認する必要がある


「厄介なことになってきたな、『狐』の件に加え『ピエロ』とは」
「……」



 
272 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:48:01.44 ID:3JghBcqEo
 

「気合入れろ風日」


 前を向いたまま後ろに続くメイプルに声を掛ける


「部下はいつでも上司の背中を見ているものだ、胸を張れ」
「……ッ!」


 息を飲む気配の後パンパンと鋭い音が廊下に響く
 頬を両手で叩く。メイプルが己に喝を入れる際によくやる行為だ


「すんません部長! 必ず巻き返します」


 丸顔は答えず、ただ僅かに頷いた









 階を上がると、廊下の長椅子にミッペとぷーたんが座っていた
 ミッペは久慈と共に飛び出した新人、ぷーたんはミッペを保護した応援部隊の一人だ


「あっ、室長に部長ー! 今からそちらに行こうと思ってたのです!」


 ぷーたんは如何なる状況でも己のペースを崩さない黒服だ
 そして後輩への面倒見も良い。彼女はどうやらずっとミッペに付き添っていたらしい


「保護した女の子達も、女の子のお母さんも無事なのです
 もう手術も終わってぐっすりお休みしてるのです
 明日、お話を聞いて記憶を処理してあげるのです!」

「さっきアクアから聞いたよ、記憶処理は適切にな
 今は少しミッペと話がしたい。いいか?」

「はい、ミッペちゃんはちょっと混乱してたみたいなのですが
 今は大分落ち着いてるから大丈夫だと思うのです
 私はキルトさんのお手伝いに行ってくるのです」


 彼女は丸顔とメイプルに会釈するとぽてぽてとその場を去った
 入れ替わるように丸顔が長椅子に腰掛ける
 メイプルは立ったままで腕を組んだ


「うう、メイプルさんに、部長さんまで……。独断行動の処罰ですかぁ……?」
「説教は後でミッチリやる! 今は部長がお前に確認したい件があると」
「ビル屋上と襲撃者追跡中に能力を発動したらしいな。状況を詳しく聞きたい」


 メイプルの台詞を引き継ぐように丸顔が切り出した
 ミッペの直属上司はメイプルだ。彼女の険しい視線に怯えつつミッペは丸顔におずおずといった体で応じた


「リーディングで読み取ったことを話せばいいんですかぁ……?」

「いや、内容は既に確認してあるよ。聞きたいのはそこではない
 そうだな、リーディングを発動したとき妙なモノを見たようだな。それについて確認したいんだ」


 途端にミッペの顔色に明らかな恐怖が浮かんだ
 丸顔とメイプルは顔を見合わせる


「敵方にやばい能力持ちが居るらしくてな、お前の情報がかなり重要なんだ。ミッペ、なんでもいい。話せそうか?」

 
273 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:48:37.49 ID:3JghBcqEo
 

 メイプルにそう告げられ、ミッペは間近に座る丸顔の顔を見た
 彼女の体が震え出したが、ややあって意を決した表情へ変わった


「私、『メトリー』を使おうとしたんです
 屋上で、あの子達はすごく怯えてたから、言葉に出来ないくらい怖い目にあったのかなって
 そしたら、何故か最初、『メトリー』が上手く発動しなかったんです」

「発動しなかった? それは何か外部の干渉の所為か」

「多分違うと思います、なんだか……感覚的には勝手に切れちゃったというか
 もう一度発動して、あの子達に起こったことを読み取ったんですけど
 その時には特におかしいことは無かったんですよぉ」


 ミッペは顔色を窺うように丸顔を見つめている
 丸顔は短い黙考の後、口を開いた


「その後、久慈と現場へ向かい、二度目のリーディングを実施したわけだな
 その時の状況についても話してくれ」

「はい……。あの子の実家に向かってる間、お家の場所を詳しく特定しようとして
 屋上の『メトリー』を続けようともう一回発動して、“足跡”を辿ろうとしたんですよぉ
 そしたら……」


 ミッペの震えが心なしか酷くなった


「急に、ノイズだらけの映像が映り込んできたんです
 変なんですよぉ。普通『メトリー』で流れてくる映像がノイズがかることなんて無いんですけど
 その時だけなんだか……人の居ない村みたいな、古い映像が流れ込んできて」

「動揺しているな。続けられそうか?」

「が、頑張ります……!
 それで、私の『メトリー』っていつも映像だけなんです。なのに、この時は急に
 海の、磯臭い匂いまで流れ込んできたんですよぉ。それだけなのに、すごく怖くて
 ずっと、なんか向こう側に見えない目玉があって、それに覗かれてる気分がずっと続いて」


 彼女の呼吸が大きく乱れ始めた
 丸顔は涙目のミッペの背中に手を当てがった


「多分あの時、私は干渉されてたんだと思います
 自分が何なのか、何処にいるのか、まるで暗闇に投げ出されたみたいになって
 気付いたら、ぷーたん先輩達がいて、いつの間にクジちゃんは先に行ってて……それで、私」

「海の近くの村、が見えたんだな?」

「はい。村です。多分映像の中に何かが居たんだと思います
 私のときは見えなかったんですけど、でも……でも、絶対に見たらいけない奴ですよぉ!!」


 
274 :次世代ーズ 「一日目の夜、『組織』」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:49:07.85 ID:3JghBcqEo
 

 丸顔は先に立ち上がり、興奮気味のミッペも立ち上がらせた
 ミッペはやがて両手で顔を覆い震え始めた


「メイプル、ミッペを『中央医務局』へ頼む
 先方に話は通してる。念のため診てもらう必要があるからな」

「部長は」

「門条側に報告を入れる
 『ピエロ』の件と連中の『狐』の件がどう関与しているのかは不明だが
 敵性の契約者が動き出しているとなれば悠長なことはやってられん」


 丸顔に代わり、メイプルがミッペの肩を抱き支えた
 部長の表情は先程よりも険しい


「ミッペ、悪いことをした
 先に敵方の情報を情報を共有しておけばお前も怖いモノを見ずに済んだ」

「だ、私は大丈夫です……!」

「解除命令があるまで、絶対に能力は使ってくれるな
 メイプル、ミッペを頼んだぞ」

「了解っす」


 丸顔は二人を残して足早にその場を去った
 背中から怒気が立ち上がっているのを感じる。あの様子だと相当頭に来ている筈だ


「メイプルさん……、ごめんなさい……」


 部下の消え入りそうな声を聞いた
 ミッペはまだ顔を両手で押さえて震えている


「お前も久慈も生きて帰ってこれて良かったよ。説教はミッチリやるけどな」

「クジちゃん……。メイプルさん、『医務局』行く前にクジちゃん見に行ってもいいですかぁ?」

「さっき見に行ったがあいつ寝てんぞ」


 ミッペは顔から手を離した
 彼女は両眼を真っ赤にして泣いていた







□■□
275 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:49:46.16 ID:3JghBcqEo
 



門条さん側(穏健派「狐」捜査サイド)に伝わる情報


○過激派主任からの報告

 ・「ピエロ」は確かな戦闘能力と連携能力を有する
 ・「ピエロ」側に少なくとも一人、契約者がいる
  爆発系の能力で、恐らくアメリカ産の都市伝説「ポップロックスで大爆発」の契約者と推測される
 ・憶測だが「ピエロ」側にはピエロ仮装をしていない契約者が複数存在する可能性がある
  しかも仮装ピエロよりも戦闘力が高く、「ピエロ」の協力者と思われる


○Pナンバー丸顔部長からの報告

 ・「ピエロ」側と思われる二人の襲撃者が存在する
 ・一人は少年の契約者で、「変身能力」を有する
  確認された外見は、少年の姿、少女に「変身」した姿、「ウェンディゴ」の姿(シカの角を持つ半人半獣)
  また「高出力の電撃で攻撃する能力」も有している
  出力が極めて高いため熟達した能力者でなければ交戦は危険、食人嗜好が窺え残忍な人格の危険性あり
 ・もう一人は上記の少年と共に目撃された少女
  能力は不明ながら「蛆虫を生成する能力」である可能性が高く、その方面から絞り込めるかもしれない

 ・連携の遅れから感知系能力を使用した黒服がいる
  彼女の話では「初回の能力発動時に、能力が切断され」
  「二回目の発動時には海沿いの漁村の映像が流れ込んできた」
  また映像を目撃した後、その黒服は若干の錯乱を催している
 ・その黒服の報告では、「漁村の中に何者かが存在し、それに見られている感覚がした」という







 
276 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/21(日) 19:51:01.85 ID:3JghBcqEo
 
前回(>>258-263)と今回合わせて、花子さんとかの人に土下座でございます……
正直「狐」が動き出した時点での門条氏のオーバーワークっぷりを考えたくない
そしてそのオーバーワークな状況を作り出す一端に加担したのは紛れもなく私なのだが……
土下座でございます……


この時点で上記通り門条さん側に情報が渡っています
「海からやってくるモノ」に関しては「先生」から門条さんに連携が入ってる筈なので
ぶっちゃけ無用な情報かもしれませんが一応


「ピエロ」側には感知・予知系能力者へのカウンター能力を持つ契約者、「海からやってくるモノ」のスペックは
前スレの743を(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/743)
前回登場の「朱の匪賊」については
前スレの497をご参照ください(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/497)

今更ですが「朱の匪賊」副隊長(珍宝)と副々隊長(ヤッコ)は
四番本隊とは九月以降ずっと別行動を取っていました

 
277 :社長出勤者 ◆KeBxPres.2 [sage]:2018/10/21(日) 19:53:52.21 ID:3JghBcqEo
 

そしてここでかつての社長出勤者名義を使用
ようやくというか次世代編でようやくPナンバーが登場するに至ったので
この機会を逃したら今まで以上にぐだりそうなのもあって、先に以下出しておきます

エタり中のバールの少女氏『バールの少女』にて登場のIナンバー、Mナンバー、Vナンバーと
『社長出勤者劇場』で過去登場してるかと思えば全く登場していなかったPナンバーの概要をここに載せます

そしてご関係の皆さまに精一杯の謝罪を致します……orz



○各ナンバー概要

・Pナンバー
 穏健派
 女子黒服で構成される
 現世代編よりも過去の時点からP-No.0は�部の�激・強�派によっ�拉ch
 ��誘k���
 謎の失踪を遂げた☺
 P-No.1も0と同じく失踪した
 上記と同時期にPナンバー上位幹部に過激・強硬派が侵略を実行し内部治安が荒れに荒れた
 次世代編では上記過去の事件を知らない新人黒服が多い
 また次世代編では現世代編からの上位幹部及び0ナンバーが一新されている


・Vナンバー
 過激派、かつては過激派最大手の派閥だったようだ
 恐らくAナンバー、Bナンバー、(全盛期だった頃の)Hナンバーとは敵対している
 ダーク・エイジ(過激・強硬派が「組織」内で優位だった時代)には日常的に殺し合いが発生していた
 内部派閥は穏健派寄りからゴリッゴリの過激派寄りまで、と理念が細分化されており一枚岩ではない
 昔から自治権が非常に強く、外部ナンバーの干渉を受けないことで有名
 またナンバーについては永久欠番制ではなくリナンバリング制を採用、犯罪行為の外部追跡が困難になっている
 上位幹部及び0ナンバーに関しては終身制ではなく任期制で、数年〜十数年に一度総選挙が実施される
 この時ばかりは外部の穏健派やら他の過激・強硬派やらの思惑が錯綜して大混乱の様相を呈する
 意外どころでは(多分「組織」内で唯一の)労組が存在する
 次世代編では穏健派の台頭と内部抗争のダブルパンチで弱体化が進行している

・Mナンバー
 中立派
 所属者の殆どが研究活動に従事
 中立派というスタンスだが、研究員を外部ナンバーの各派閥(ほとんどは過激・強硬派)に研究員を提供し
 派遣先の研究課題を担う、といった意味での中立派であり、例えばEナンバーのような立ち位置とは全く異なる
 研究部門が大きいものの現世代編の時点では小規模ながら捜査部門も新設、こちらは文字通りの穏健派寄り
 一部研究者が過激・強硬派内での研究で培ったノウハウを利用して暴走しており、穏健派からは信用されていない
 0ナンバーは「M資金」の黒服で、上位幹部らと共に主に外貨との調整を担当しているようだが……
 噂によると彼は年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている

・Iナンバー
 派閥不明
 穏健派からは強硬派、過激・強硬派からは穏健派と見られている
 一部の中立派とは非常に仲がよろしくない
 「組織」の黒服が持っている筈の基本能力を有していない構成員が多く、かつては欠陥品呼ばわりされる事もあった
 過去に起きた諸事件の所為で構成員が少ないものの追加の人材採用を殆ど行っていない
 かつては西日本の伝統的な都市伝説関係勢力との交渉を担当していた
 ダーク・エイジの頃、過激・強硬派の奸計で0ナンバーが「組織」への叛乱を宣言
 その後にI-No.0とその仲間たちが蒸発したことで
 過激・強硬派の手により権限の殆どを凍結され一時は解体寸前にまで追い詰められた
 にも関わらず現世代編、次世代編、共にしぶとく生き残っている



・「次世代ーズ」における次世代編の特徴
 現世代編での「夢の国」戦や対「教会」戦経験者は
 伝説級の契約者・黒服として、次世代新人達からはある種の畏敬の目で見られている





……最後にもう一度土下座しますorz


 
278 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/26(金) 23:11:57.24 ID:6zDmIJsQo
乙です
リーディング系封じの設定はとてもいいなあと思いつつ、どう崩していくのかも楽しみです。
>>年端もゆかぬ少年黒服らしく、上位幹部(一桁ナンバー)により監禁に近い扱いを受けている

つまりMナンバーの上位組はショタ食いのお姉さま方ということに違いあるまい!
279 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:57:19.36 ID:gqpg7PQCo
 
>>278
ありがとうございます
今回の「海からやってくるモノ」の射程圏は
学校町全域が対象になっていますが果たして足りるのかどうか

Mナンバーについては……
出したいですね、お姉さん気質の女性黒服……


今日は週末の貴重な休日でしたが
不吉な呼び声により出勤が決定したため
>>268-274の続きは早くて今週木金曜の投下になりそう、です

ハロウィンの与太話を投げるのだ
280 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 12:59:56.20 ID:gqpg7PQCo
 


@ハロウィンタイム開始前

 コトリー「……」
 せと  「がんばるぞー」 ☜ キュートな感じのゾンビメイク

 コトリー「……」 ☜ 終始無言
 コトリー(みなさんごきげんよう……
      『ラルム』でアルバイトしてますの、コトリーと申しますの……)

 コトリー(ハロウィンの時期は賑やかなのですけど……なのですけどっ!!
      ……なぜだか学校町のハロウィンは気持ちがゾワゾワして不安になりますの……)
 コトリー「……」 チラッ

 JD先輩「よーしグヘヘ、思いのほかバッチリ❤」 ☜ 露出激しいサキュバスコス
 おばちャ「今日は私もホールでいいのかしらぁ」 ☜ 色々危ない狐娘コス
 せと  「限定メニューも店長の自信作なんですよね!」 ☜ いつもより若干テンション高い

コトリー(どうしてみんなやる気満々なんですのぉぉー!!ξ(˃︿˂)ξ )




Aハロウィンタイム中

コトリー「お待たせしました、アールグレイとシフォンケーキですの!」
リリン 「あ ありがとうございます」

コトリー「あらシノノメ様、可愛い角ですわね! ξ(ㆁ◡ㆁ)ξ」
リリン 「ありがとーございますー🌟
     ハロウィンセールの間はお店でもずっと付けてるんですよーコレー!」

リリン (こんにちは、隣町在住の『リリン』です)
リリン (私は心の声で私から私に語り掛けてます)
リリン (今、あたまからデコレーションした角が生えてるんですよー)
リリン (皆さんこれを飾りだって思ってるみたいなんですけどー、実はこれ自前なんですよー)
リリン (言ったら信じてくれるかなぁ……
リリン (……なーんて……  ほんとは言う度胸なんて、私になんか無いんですけどね…… ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥)

コトリー「  」 ブルッ
コトリー(シノノメ様は『ラルム』の常連さんなんですけど、今日はいつもより不気味な雰囲気ですの……)
コトリー(いつもは落ち着いた大人の女性って感じの方なのですけど、これもハロウィンパワーなんですの……??)

コトリー「どうぞごゆっくりー」 ☜ 鉄壁の営業スマイル
リリン 「はいー…… どうもー……」 ☜ 何故だかテンションが下がっている




B業務終了後

コトリー「はふぅ」

コトリー(今日はいつもより疲れましたの……
     それもこれも絶対ハロウィンパワーの所為ですの……!)

コトリー(早渡さんもありすさんもかやべぇさんも来てくれませんでしたの……
     明日でもいいから来てほしいですのー……!!)

せと  「たまちゃん大丈夫?」
コトリー「いぴッ!!」
コトリー「あ゛っ! だだだ大丈夫ですの! 今日はいつもよりくたびれましたわね!」
せと  「何だか具合悪そうだよ、無理しないでね」 ☜ 心配そう

コトリー(不覚ですの! せとのゾンビメイクに一瞬心臓が変な音しましたのー……
     やっぱりこの時期は妙に苦手ですわー……)

店長  「みんなお疲れ様! どうかな! 明日のホールはメイド服で」 ☜ 満面の笑顔
せと   「嫌ですっ!!」 ☜ 真顔で即答
コトリー 「いやですの!! ξ(ㆁ-ㆁ)ξ」 ☜ 営業スマイルで即答
店長  「    っ 」 ☜ 笑顔のままキッチン方面へスライド後退


コトリー(皆さんもハロウィン、お楽しみ下さい! ですの!  ……はふぅ)


 
281 :次世代ーズ ハロウィン ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:01:26.50 ID:gqpg7PQCo
 

■登場人物

コトリー
 「ラルム」のアルバイトさん、高一
 ホラーが嫌いというわけではないが、学校町のハロウィンは何故だか怖くて苦手

せと
 遠倉千十、「ラルム」のアルバイトさん、高一
 怖いモノ全般が苦手なはずなのに、ハロウィン時期はどこか楽しそう

リリン
 名前は「東雲クロワ」に決定した
 伝承存在「リリン」、非常に気が弱い
 普段は隣町のランジェリーショップの店員さん

JD先輩
 「ラルム」のスタッフ
 イベント時期は無理してでもシフトを捻じ込んでくる

おばちゃん店員
 「ラルム」のスタッフ、縁の下の力持ち

店長
 「ラルム」店長、隙あらばコトリー&千十にメイド服を着せようとするため警戒されている


 
282 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/10/28(日) 13:04:14.32 ID:gqpg7PQCo
ハッピーハロウィン

この数日後に早渡は地獄を見ることになる
283 :○前回の話 >>268-274 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:30:45.53 ID:zKSSrdQuo
 



「マヒル、お前に端末預けてたよなぁ? はよ」
「かぁクンちょっと待ってね」
「あーマジゴミだわ、ゴミカス、カスカス」


 グリングリンがその場へと乗り込んできたのは日付が変わって間もない頃だ
 横合いから聞こえる契約者共の談笑を無視
 彼は大量のモニターと機材に囲まれたピエロと白衣の女へと詰め寄った


「おい、ジョーの首尾はどうなってる」


 低く静かだか凄みのある声に白衣女はたじろいだ
 女の代わりにピエロ装束の男がグリングリンの前に出る


「現状、特に問題があった等の連絡はありませんが」

「チッ、それが大問題なんだ。身内に先走りやがった馬鹿共がいる
 大方焚き付けた連中がいるんだろうが……。しかも勝手に自殺まで始めやがって。気に食わねえ」


 グリングリンは銀色の眼光を鋭く女へと向けた
 白衣女は唐突に現れたこの長身ピエロに気圧されていた


「放火チームのことですか? あれは“自己終了処理”も含めてジョーからの直接指示ですよ」
「それも気に食わねえ、一遍ジョーと話させろ。ルーキーには繋がるだろ」


 グリングリンはピエロの肩を掴み脇へどけると女に構うことなく卓上の機材を乱雑に操作し始めた
 彼女とピエロは若干困惑気味に顔を見合わせた
 ヘッドセットを不適切に耳へ押し当てグリングリンはモニターの一つを睨む
 間もなくコネクション中のステータスから「Sound Only」のアイコンへと表示が変化した


『隊長、どうしました?』
「ルーキー、俺だ、グリングリンだ。ジョーと繋げ」
『えっ、グリングリン……? な、何か問題でも』
「いいからジョーと繋げ、問題も問題だ。あいつは何考えてんだ」
『しかし……、ジョーは既に“接続”を……』
「その状態でも放火の指示は出せたんだろ? 繋げ」
『えっ、あの……。しょっ、少々お待ちを』


 会話はヘッドセットだけでなく壁面据え付けのスピーカーからも響いていた
 そしてルーキーの焦った声色の後に音声は沈黙した


「“先生”、すいません! さっきの俺なんだわ。悪いって伝えといて!」


 突然の大きく響く声に白衣女の心臓は縮み上がった
 咄嗟に声の方向へ目を向ければ、「七尾」の問題児とその目付け役の少女だ
 グリングリンに悟られぬよう白衣女は何処かに通話中の問題児を黙らせるようジェスチャーを送るが
 肝心の少女がこちらを見ていない


「悪いって、さっきのは拾った携帯で間違えて掛けようとしただけだよぉ
 もち、任務はじゅんちょーじゅんちょー。悪いことは全然してないしぃ、俺ってばいい子だからあ
 だからぁ違うって、ほんとにぐうぜん拾った携帯なんだって。盗んでないし、襲ってもいないよお! うん、まだな。まだ」


 神経を逆撫でするような問題児の声質に白衣女は気を揉んだが
 グリングリンは問題児へと一瞥をくれるに留まった


『グリングリン、駄目です。ジョーの応答が無い』
「ふっざけんな、“接続”中だろうが知」
《  何事だ  》



 
284 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 2/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:32:38.97 ID:zKSSrdQuo
 

 暫くあって返ってきたルーキーの応答、苛立ちを隠しすらしないグリングリンの返事
 そして、別の音声が介入したとき、白衣女は突如として恐怖を覚えた

 老人じみたその声は彼ら「ピエロ」の親玉のものだ
 スピーカーからの音声は若干ノイズ掛かってはいるが、明瞭に聞き取れる
 ただそれだけなのに、何故こうも背筋を撫でつけるような薄気味の悪さを帯びているのか?
 そもそもだ、この声はスピーカーから発されたものなのか? 自身の内側から響く錯覚に囚われなかったか?


「……出れるじゃねえか」
《  “接続”そのものは済んだ 今や俺自身が通信だ グリン 何用だ  》
「何用もクソも……、放火はお前の指示か、どういう魂胆だオイ」


 回線に割って入ったジョーにグリングリンも鼻白んだ様子だったが
 苛立ちを取り戻したかのようにマイクに向かって凄み出した


「完全に『組織』の注意が向いたぞ、東区の放火でな
 結構な数のピエロが削られてやがる
 おまけに『通り悪魔』と『淫魔』が忌々しいクソ垂らしやがった
 それだけじゃねえ、傭兵共の一部が『組織』の連中と派手に殺り合ってる!
 大半の屑共ならともかく、穏健派が本格的に動き出したらどうする積りだ!?
 一ケタが出張ってきたらヤバいぐらい不利になるぞ!!」

《  そのための「先生方」だ 「一ツ目」の動きも把握している
   放火は必要な措置だ “サーカス”と同じく陽動の一部と考えろ  》

「こんなに早くか!? 前倒ししたのか!?」

《  そうではない だが 当初の計画を変更せざるを得なくなった  》


 二人のやり取りを白衣女と傍のピエロは見守るより外ない


《  俺は今「中心」に接続している 「門」が休眠状態にあるのも確認済みだ
   「門」を開くには当初の通り生贄が必要だ 封印は汚染されなくてはならない
   プロトコルに従い生贄を潰したが 「門」は覚醒の兆候を見せなかった 「教授」の想定に無かった問題だ  》

「アクティベートに失敗したってワケか」

《  「門」は無垢なる者の生贄を欲している 要するに血が足りない 我々はそう考えた
   事態の解析には「教授」の助力が要る これを「組織」に気付かれるわけにはいかん
   結果を焦り護りが疎かになれば 我々のビズは全て徒労に終わる そのための陽動だ
   現時点では 既に「教授」の解析は済んだ  ピエロ達には撤退 もしくは自害を命令している
   ともあれ 「教授」の解析過程で 問題は血の量では無いことが判明した
   どうやら封印の解錠には 生贄の条件が設定されているようだ これが最大のイシューだ
   我々では到底対処できる規模のものではない これ以降の仕事は「教授」に任せることにした  》

「ようやく話が見えてきたぜ。でもよ、元々『門』云々は『教授』の問題だろ?
 俺らのビズはあくまで『門』の確認まで、後は知ったこっちゃ無えって取り決めの筈だ
 ああクソッ……。で、どうなんだよ。もう一つの大問題は。俺らにはそっちのが最重要だろ」

《  無論よ 莫大な報酬が掛かってるからな
   そちらに関して大きな変更はない 手筈が済み次第「行動」を開始する  》

「それでどうすんだ。もう24時回ってるが、今からド派手にやんのか?」

《  話を急ぐな 続きがある 夕方頃に「狐」が動いたという報告があった  》

「ああ゛!? おいおいおい、なら今直ぐやんなきゃ駄目だろうが!!」

《  だが 奴が動いたにしては 観測の網に一切の反応が無い
   「中心」も 沈黙を守ったままだ 「先生方」からにも確認を要請したが
   「狐」の活動を確認できたという 追加報告はまだ上がっていない  》

「あ゛、どっちなんだよ。ガセか?」

《  「先生方」の確認が済んだ後でも 「サーカス」は遅くない
   だが 知っての通り 「組織」はこちらの動きをある程度察知している
   既に 陽動の中で 全知の観測者が迎撃に向かったという情報も入っている
   在野の契約者の中にも 多少骨のある者が頭を回しているようだ
   この状況で 「狐」の出方を窺うあまり チャンスをみすみす逃すわけにいかん  》


 
285 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 3/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:33:24.81 ID:zKSSrdQuo
 

 ジョーは一旦言葉を区切った
 モニター上の「Sound Only」のアイコンを、グリングリンに加え白衣女とピエロが凝視する


《  状況判断の結果だ  本日 日没前に 「サーカス」を決行する  》

「ヘッ、散々引っ張りやがって! 全部『組織』に潰されなきゃいいがな!」


 グリングリンの言葉に、先程までの苛立ちとは異なるある種の興奮が滲んだ
 彼とて今更「組織」の一桁ナンバーを恐れているわけではない
 折角の「サーカス」を丸潰しにされないか、そこだけがグリングリンにとっての問題なのだ


《  その点は問題ない 「先生方」にも更なる切り札はある
   「教授」の側にも隠し玉があるという話だが これはお楽しみだな
   「組織」幹部の動きは気にするな いずれにせよ お前はサイドビズにでも集中していればいい  》

「そうもいかねえだろ、不死身のジョーさんよ
 『信念の無えビズは容易にクソ以下に成り下がる』
 これ、誰の言葉だったか忘れちまったってか? あ?」

《  お前がそれを言うようになるとは いよいよ今日は血の雨でも降るかな  》

「降らしてやんだよ、学校町によ! 売れる喧嘩は売っとかねえとな、こっちにもプライドがあんだろ? なあ」

《  そっちの仕込みは任せたぞ  》


 話は終わった
 グリングリンはヘッドセットを投げると、おもむろに白衣女へと向き直った


「ジョーは傭兵を高く買ってるらしいが」


 通信での会話とは違い、この場へやって来たときの低音で唸った
 白衣女と傍のピエロに緊張が走る
 グリングリンは白衣女に一瞥をくれ、件の問題児と少女の契約者へと剣呑な視線を向けた
 問題児は依然として携帯越しの相手と耳障りな声色で通話を続けている


「俺は全ッ然信用してねえ。『教授』の義理だから言いたかねえがよ
 今夜は『先生方』が結構暴れたみたいじゃねえか、あれも適切な行動だったんだよな?
 そうであってほしいもんだ。おい隊長、後は任せたぜ。全『ピエロ』に『サーカス』は本日の日没前と伝えろ」

「はっ、はい! 了解です!」


 隊長と呼ばれた、白衣女の傍にいるピエロは慌てたように姿勢を正す
 グリングリンは大仰に首を振って骨を鳴らした


「ブギー! スカル!」
「「ここに」」


 白衣女の目には突如として新手のピエロが現れた、少なくともそう見えた
 グリングリンの両脇には、最初から存在したように二人のピエロが控えていた
 両名ともに仮面を装着した者達だ。各々白と黒、気味の悪いデザインの仮面である


「ジョーの言葉通りだ、まだ16時間ちょっとある。取り掛かるぞ」
「「仰せのままに」」


 グリングリンは二人のピエロを従えてその場を後にした
 最後に一度、白衣女に双眸を向けた


「“スプリンクラー”の最終調整に入る」










 
286 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 4/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:04.89 ID:zKSSrdQuo
 





 その場から立ち去るグリングリン達を胡乱な目つきで追いつつ
 問題児の契約者は端末の通話を切り上げた

 彼は「七尾」出身の契約者、そして問題児
 少なくとも一部外野からはそう呼ばれている

 数時間ほど前に南区で女子生徒二名を襲撃し
 ビル屋上に拉致した後で拷問と暴行を加えた挙句
 内一名の容姿に「変身」して制服を奪い彼女の実家を襲撃
 母親をゆっくり捕食する段となったところで「組織」黒服の介入を許し
 しかし女子計三名の黒服を牽制しつつ余裕の離脱を決めて此処へ戻って来た者こそ
 この契約者、「七尾」ANクラス出身で「けものへん」所属、閏猾二である

 彼はまだなお襲った女子の容姿を保持し続けていた
 無論女子の制服も着用したままである


「はぁー、あの様子じゃ“先生”も気付いてないっぽいな。まじチョロ」


 閏は言い切らぬ間に、定時連絡のために使用した彼本来の地声から
 「変身」によって得られた女子生徒の声へと戻した


「あの子の携帯で掛けようとするなんて、かぁクンっぽいうっかりだよね」
「褒めんなって照れんだろぉ。まあいいや“先生”も許してくれたし」
「でもかぁクン、なんで女の子の格好続けてるの? ちょっと複雑な気分だよ?」
「そりゃ明日のためよ、まずはテキトーに男モンの制服手に入れないとだしな」


 そのためには、そう彼は少女声のまま続けた
 定時連絡の直前まで弄っていた携帯を再び取り出す
 これは女子生徒から制服を奪った際についてきたオマケだ
 携帯の生体認証などは「変身」能力でどうにでもなるので楽勝である


「檻に囲われた家畜って何やって無駄に生きてんのかある程度掴んどかないと」
「ふぅん、でもあの子の携帯の中身なんかより私の中身を見てほしいなあ」
「気が向いたらな」


 閏はソファにだらしなく身を沈め、詰まらなさそうに携帯を弄んでいる
 傍らの少女はそんな問題児の肩に頭を預けて半ば抱き着く格好だ

 余談だが、このとき遠巻きに彼らを凝視していた白衣女はその光景に絶句していた
 元々少女、稲尾まひるは「七尾」の問題児を監視するべく彼の担当となった契約者だ
 しかしその実、彼女は完全に篭絡されていた。こうとなっては閏のストッパーとして全く役に立たない

 そんな白衣女の胸中を知ってか知らずか
 閏は心底どうでもよさそうな雰囲気で言葉を続けた


 
287 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 5/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:34:58.70 ID:zKSSrdQuo
 

「『ピエロ』の皆さんも大変なんすねえ、俺らは関係ねえけど」

「パートナーなんだから仲良くしないとだよかぁクン」

「まっ仕事だし文句言わないけどさぁ
 こっちは明日の一仕事をクリアすれば全部オッケーだし」


 女子携帯の物色に飽きたのか、閏は簡易テーブルに携帯を放った
 代わりにテーブルに置かれていたタブレット型の端末を手繰り寄せる


「そーいやマヒルは早渡修寿の顔、知らないんだよな」
「早渡クンのことはかぁクンが全部やってたからね、どんな子なのかな?」
「特別に見せてやんよ、見事なゴミ面だぜ」


 話題が今回の任務のターゲットに及んで、閏の声色が俄かに活気づいた
 軽快なタップ操作によって画像データが表示される
 遠景から撮影されたと思しき学生の静止画だった
 写っている男子が着ているのは学校町南区の商業高校の制服だ
 丁度、閏が現在着用している女子制服と同じ高校のものである


「こいつが早渡修寿、ANクラスで扱かれたとはいえ能力的には大したことない」
「でも任務的には結構重要っぽいんでしょ、この子」
「佳川の“計画”に必要な駒なんだってさ」


 閏は爪先で執拗にタブレット表面を叩いた
 彼が早渡修寿というターゲットに執着していることは稲尾まひるも把握している


「ここ数週間、こいつの動きを観察してた
 なんで学校町に来たのは知らねえけど、相変わらずクソみたいな性格してるよ
 懇ろでもないのに身の程知らずもいいとこ、女に付きまといやがってるだけのゴミ屑が」

「かぁクンはどうしたいの? 殺しちゃう?」

「バァカ、生きててこその利用価値だろ
 まぁ個人的には直ぐにでもぶっ殺しときたいゴミだけどさ
 てかそもそもこいつは初等部6年の頭で死んでなきゃおかしい筈だったんだよ
 余計なことした馬鹿が絶対いるんだよなあ」


 そう口にする閏の両眼に剣呑な光が宿る
 それは彼の内側で膨れ上がる憎悪と共振していた

 閏が“先生”から受けた命令は「早渡の生存確認」だ
 これは佳川有佳の意向を受けた任務でもある
 閏は学校町到着から程なくして早渡の存在を突き止めていた
 だがまだ“先生”には未報告、その点は稲尾も理解していた


「生存確認オッケー、でもそれじゃ足りねえんだよ
 早渡修寿の“サンプル”まで回収しないことには片手落ちってやつだからな」

「“サンプル”?」

「これだよ、おら」


 閏は制服の内側から取り出したそれを無造作に稲尾へ押し付けた
 バイオハザード(生物災害)とへクスハザード(呪詛災害)のシンボルが記された透明袋だ
 中には炭化したかのような黒い棒状の破片が収容されている
 稲尾は閏から袋を受け取り、袋越しに破片の硬い感触を確かめた
 閏はついでにタブレットも稲尾に押し付け、彼女に持たせた




 
288 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 6/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:35:35.55 ID:zKSSrdQuo
 

「まじチョロ、ってわけには行かなかったけどさ、いちお回収には成功した
 でもこれじゃ足りねえんだよなあ、これだけじゃあ俺が満足できねえんだよ」


 閏は間延びした声色だが先程よりも興奮が昂ぶりつつあることに稲尾も気付いている
 彼は稲尾の背中から手を回して彼女を抱き寄せるとその胸を揉みしだき始めた
 稲尾もそれに合わせて肢体をくねらせ閏により密着する


「あいつの“血”が要る。“先生”もそれが狙いなんだよなあ
 佳川は絶対に欲しがるだろうし交渉のカードとしちゃSSレアでしょ、マジで
 古い奴なら俺も持ってるけど、今現時点の早渡修寿の血液ってところが大事なわけ」


 空いたもう一方の手を咥え、指先を噛み潰した
 痛みと己の骨が砕ける感覚とが内なる獣性を刺激する


「まっ前提としてはそうなんだけどさ、その上で?
 俺としてはあのゴミ野郎を徹底的に痛めつけないと気が済まないんだよなあ
 あいつは自分がゴミだと思い知らなくちゃいけない、生きてちゃ駄目な奴なんだよ
 呑気に学生ごっこやって、女に付きまとって。あのカスは一体何様の積りなんだろうなあ」

「ふぅん、そんなに嫌いなんだ。早渡クンのこと」

「嫌いっていうより? ゴミが人間のフリして振舞ってるのが駄目だろって話?
 とにかくこいつを殺って血を抜き取る
 殺しちゃアウトだけど別に捥ぐなとは言われてないし、ダルマにするくらい余裕だろ」

「あー、かぁクン悪ぅい いまのかぁクンすっごい悪い顔してるぅ


 きゅうと悪意の滲んだ笑顔を浮かべる稲尾の横で
 閏はバキバキと音を立てて己の指を骨ごと噛み砕いていた
 足りない、全然足りない、早渡修寿の味わう痛みは俺以上のものでなければ


「あいつはゴミで低脳の屑だけど家畜じゃない
 普通のやり方じゃ警戒されるから、“餌”が必要なわけ
 おびき寄せるために、マヒルにも分かるよねえ?」

「何匹か候補がいるんでしょ、大丈夫 ちゃんと理解してるよ


 相方から放たれる憎悪と獣じみた悪意こそ稲尾を魅了してやまないものだ
 両手の塞がった閏に代わって彼女がタブレットを操作した
 何名かの女子の静止画をスライドする


「まずこの神経質そうな眼鏡と早渡修寿が鼻伸ばしてたこの巨乳女は駄目だ
 学校町の契約者で、ANは知らんけど結構動ける
 俺が本気出せば幾らでも嬲れるけど作戦的にリスクなんだよなあ
 というわけで第一候補は今んとこ、――そっちの子」



 
289 :次世代ーズ 「一日目の夜、『ピエロ』」 7/7 ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:14.49 ID:zKSSrdQuo
 

 閏は顎でしゃくって稲尾の画像スライドを停めさせた
 表示された制服女子の静止画に、稲尾の眼が僅かに細まる
 セーラー冬服を着た少女が、友人と連れ立って気の弱そうな微笑みを浮かべている
 この町の東区にある高校の制服だった


「とおくらせとちゃん、早渡修寿がせとちゃんせとちゃん言ってっから名前覚えちゃったよ
 契約者じゃないのは確実。トロそうだけど意外と脚速いよこの子
 あと勘が良いのかお友達の入れ知恵か、野良のANを避けて動いてる
 理想なのは人目の少ない所に連れ込んでから両脚をへし折って持ち運ぶってとこだけど
 上手くいくかちょっと心配だなあ、でも早渡修寿が結構入れ込んでるみたいだしなあ」


 稲尾が遠倉千十の画像に冷酷な眼差しを向けることなど知らず
 閏は噛み砕いた指先で犬歯を何度も撫で付けている


「やっぱこの子の血が欲しいなあ、犯しながら食ったら最ッ高に美味そう
 俺がせとちゃんに成り代わって早渡修寿を騎乗位で舐めプする予定だったけど
 どうしよっかなあ、ゴミ野郎をダルマにしてから目の前でせとちゃんレイプしても楽しそうだし」

「ふぅんふぅん、私の前でそんなこと言っちゃうんだあ、不貞腐れるよ?」

「なんだよマヒルたん、嫉妬してんの? 醜いなあ」


 稲尾が拗ねたときどうすれば良いのかを閏は熟知している
 彼女の首筋に血塗れの舌を這わせ、筋に沿って舐め上げた
 嫌がる素振りを見せるがただのフリだ、彼女はこうされるのが好きなのだ


「それで かぁクンッ この子は、どうするのッ


 照れ隠しのように稲尾はタブレットを更にスライドした
 彼女が閏に見せたのはこの町で最も大きい中学の制服を着た女子の画像だ


「ああ、いよっち先輩ね。早渡修寿がそう呼んでるガキんちょ
 第二候補だったんだけどちょっと難しいかもな
 この子も面白そうなんだけど、まずどういうわけか人間辞めちゃってる
 早渡修寿も結構この子に執着してるっぽいから使えると思ったんだけど
 集めた情報でも行動パターンがはっきりしないから厳しいんだよなあ」

「じゃあ狙いは やっぱりせとちゃんなんだねっ んっ、かぁクンくすぐったいよお


 稲尾はタブレットをテーブルへ放ると閏の肩に腕を回した
 彼は今、稲尾の首付け根を丹念に舐めている
 彼女はそんな相方の頭を優しく包んだ


「ねえかぁクン、せとちゃん使い終わったら私の好きにしていい?」

「いいよお」

「本当にいい? 壊してもいい?」

「いいよお」

「ありがとう


 稲尾は嬉しそうに閏の頭を自分の首に抱き寄せ、薄く微笑んだ


「かぁクン大好き









□□■
290 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/03(土) 23:36:49.95 ID:zKSSrdQuo
 

こんばんわ
今回も遅れました…… そして花子さんとかの人とやの人に土下座でございますorz
【11月】の「狐」勢力が動き出した夕方から日付が変わるまで(便宜上、【1日目】と【2日目】と呼ぶ)の動きを一通り出しました


今回の話の要点は以下の通りです

 ・日付が変わる前後の時点で「ピエロ」の東区放火作業は終了しました
  関与した「ピエロ」は撤退するか自殺しています

 ・放火の裏で「ピエロ」中枢メンバーは何かをしていました
  引き続き何かを続行します

 ・「ピエロ」は【2日目】の日没前の時点で「サーカス」を開始します

 ・「七尾」関係者は「七尾」関係者狙いで動きます


「次世代ーズ」はこれ以降
時折【11月】のピエロ【1日目】と【2日目】の話に追加と補足を行いつつ
【9月】から【11月】に至るまでのエピソードを追っていくことにします

「ピエロ」戦への介入は是非ともご自由に
【11月】のピエロの行動は前スレ(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1483444899/)の500をベースにより過激に
【2日目】の時点ではピークに達します


 
291 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/04(日) 13:40:43.78 ID:C6PQ5Zk4o
 
undertale周辺で大きな動きがあったなんて今更知った……
おのれぇ……_:(´ཀ`」 ∠):_
292 : [sage saga]:2018/11/04(日) 20:28:17.95 ID:iRxMkBRm0
>>267
>>いや効果が阻害されてる……?
>>まさか、もう勘付かれたのか……!?
具体的な事は分からないけど、何かしら干渉されてる
チャームの扱いの上手いユリが言うのだから確か
ユリはチャームの本来の効果が出ていないのでやや不機嫌
っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう

銃やらナイフやらなら身体能力差で当たらんだろうけど、チャームかける前に
至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
まあ、別に食らってもいいし前衛交代してもいいし
(ぁ
293 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/05(月) 20:34:12.41 ID:tZiDNJDMo
>>292
魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが

>っていうのを分かった地点でヤエルが報告してるでしょう
色々考えてみるといい感じで早まりそうですね……

 ・「先生」からもひかりちゃんからも暗殺者二名の報告が上がる
  (暗殺者らの所属がばれる)
 ・サキュバス様の魅了に何らかの干渉が入ってる件で報告が上がる
  (バックでなんかやってるのがばれる)

……「組織」の初動対策が当初の想定以上に早まる、ということは
意外と被害が抑えられるかな

>至近距離でノーモーションで頭爆発されたら、ユリが巻添え食らいそうだな
頭部爆弾の具体的なカラクリがまだ出てないので今週中に出したいですね
一応自動でも遠隔でもないです
294 :○時間軸としては>>268-274の後になる ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 13:58:55.44 ID:v5b6mchQo
 



 現在、丁度日付が変わった真夜中の時分だ

 Pナンバー幹部である女性黒服はテレプレゼンス端末の前に立っていた
 今しがた長い認証コードの入力を終えたばかりだ

 「ピエロ」による東区放火の報告が入って既に数時間が経過した
 現場からは未だ脅威の鎮圧に完了したという連絡は無い

 「ピエロ」――10月初頭から学校町内での活動が確認された敵対的都市伝説だ
 「組織」は彼らを有害存在であると認定し出現の度に実力で排除に当たってきた
 だが今夜の連中の動きはどうだ、今までとはまるで違う
 あたかも彼ら自身の存在を知らしめるかのような暴挙に出ているではないか

 脅威の排除は言うまでも無い
 しかし最優先事項は治安維持、非契約者に対する都市伝説の隠蔽だ
 現場からアップデートされる報告に鑑みて、恐らく現場レベルの対処では間に合うまい

 暫くの待機の末、M-No.010との通信が確立された
 相手の姿が端末に投影される


「今晩は P-No.6、先程の件ですね」


 M-No.010、実質的なM-No.0の“代理人”だ
 他ナンバー幹部からMナンバー幹部への連絡役でもある
 物腰こそ丁寧だが凡そ誠意なるものを感じさせない黒服、要するにいやなやつと噂されている

 端末前の女性黒服、P-No.6は内心身構えていた
 相手は白を黒と言い包める怪人物であると定評のある黒服だ
 他のPナンバー幹部からは十二分に警戒しろと忠告されている


「その通りです、M-No.010。『角隠し』の展開を要請します」


 「角隠し」――それは「組織」が学校町中に設置した「結界」の一種である
 主に認知欺瞞型の領域を作り出す人工都市伝説で
 非契約者が都市伝説やそれに類する存在を認識できなくなる「結界」である

 穏健派、中立派が開発を主導し、平時の管理はMナンバーが担当している
 その発動には0ナンバーや「上層部」の承認が必要となる筈だが


「緊急的な治安維持が求められています
 例外措置として学校町の東区限定で『角隠し』の展開をお願いします」


 今回の一件に限った例外措置として「角隠し」発動を要請する
 これがM-No.010にコンタクトを取った理由である
 都市伝説の脅威を一般人から隠蔽する、これは全てにおいて優先されるべき事項だ

 必要な承認データ等は申請要旨と共に前もってM-No.010へ送信している
 準備は万端だ、何も不備は無い筈である





 
295 :次世代ーズ 「一日目の夜」 2/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:13.94 ID:v5b6mchQo
 

「その件なのですが、P-No.6」


 モニターに投影された相手は手元のPC端末を操作していた
 余談だがM-No.010は通信開始以降、P-No.6と一切目を合わせていない。いやなやつだ


「既に要請を受けて、2時間ほど前に東区への『結界』の展開を実施していますが」
「……は?」
「展開完了についても各ナンバーへ通知済みですよ
 二度手間ですか。せめて穏健派内で最低限の報告共有は実施頂きたいものですね」


 既に「角隠し」が展開されていた? 2時間前に? つまりこれは無駄足か? 報告は入っていないが?
 P-No.6の頭から血の気が引き、脚の感覚が急速に薄れていくが、どうにか踏みとどまる

 どう返答すべきだ。M-No.010相手に気取られる真似は避けたい
 いやそもそも本当に発動されているのかを確認しなければ。Pナンバー幹部へ連絡を取るか?

 P-No.6が遅疑逡巡する中、相変わらずM-No.010はPC端末を注視している
 指を滑らせ、数度キーを叩いているようだ


「ちなみにこれはまだ各ナンバーへ報告していないのですが
 『角隠し』の発動出力は現時点で平均値の3倍で設定されています
 担当チームの採取データが正確ならばこの出力値でようやく実効性を確保できている」


 どういうことだ? M-No.010は何を言っている?


「チーム主査の所見によると、学校町外では平均値で実効性を確保しえますが
 町内だと時間経過と共に出力値を漸次的に引き上げなければ作用有効値に至らない状況ですね
 興味深いことに、『結界』発動の段階からこの事象が観察されています
 原因は未だ特定できていませんが恐らく外的能力に起因するものかと」

「そ、それはどういう……?」


 P-No.6はとりあえず口を挟むことにした
 後ろ手で隠し持った携帯端末からPナンバー幹部へ連絡を取りつつ
 それを悟らせまいとM-No.010の話す内容へ問いを試みる
 小難しいことを言っているが、要するに「角隠し」の出力を上げないと効果が得られない状況だということか?


「『結界』発動に関して問題が発生しているのであれば、M-No..010! 報告義務があります! ご説明を!」
「そうですね、貴女のような黒服にも理解できるように説明致しますと」


 M-No.010はP-No.6へ一切目を向けずPC端末の操作を続けている
 話をするときは相手の目を見て話せと教えられなかったのだろうか? いやなやつだ!


「『角隠し』の効果が何らかの能力によって干渉を受けています。原因は目下調査中です」






















 
296 :次世代ーズ 「一日目の夜」 3/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:00:59.30 ID:v5b6mchQo
 



 学校町東区


「どういうことなの……?」


 「組織」穏健派所属の若い黒服は困惑の表情を隠し切れない

 無理もない
 先程まで東区の住宅街に放火しようと火器やガソリンの類を持ち込んでいた「ピエロ」共に異変が生じた
 彼らは唐突に動きを停止すると、そのまま自分の体にガソリンを浴びせ投身自殺を始めたのである

 その黒服が契約した挙句“呑まれた”のは、伝承存在「コボルト」
 不可逆な解釈歪曲の末、金属や鉱物に魔法を掛けて機能不全に陥れる能力に特化している
 それ故に銃火器を使用する相手にとっては最悪の相性である

 「ピエロ」は銃火器を所持している為
 黒服とその相棒の能力によって片っ端から銃火器を使用不能に追い込んでいた。のだが


「どうなってるんだ、おい!」


 拳銃を捨ててナイフで首を引き裂き始めた「ピエロ」の一体を凝視しつつ
 相棒の「コボルト」が歯を剥き出して唸った

 「ピエロ」共が一斉に自殺を始めた
 遥か前方にいる「ピエロ」の群れはこちらに背を向けて走り去ろうとしていた


「逃亡するぞ!! 追え!! 追撃しろ!! 攻撃の手を緩めるな!!」


 別の黒服が怒号を飛ばす。彼は確か過激派所属だ

 「コボルト」の黒服も相棒を連れて追撃に加わろうと
 逃走する「ピエロ」に向けて走り出そうとした、そのときだ!

 「コボルト」の黒服より前方にいる、「ピエロ」目掛けて光線銃を乱射する黒服の前に
 空から新手の「ピエロ」が一体、飛び降りてきたのだ! 恐らく電柱の上にでも潜んでいたに違いない


「ディフェ〜〜ンス!! ディ〜〜フェ〜〜〜〜〜ンス!!」
「貴様っ!!」


 黒服は眼前の乱入「ピエロ」に光線銃を乱射する!
 全弾「ピエロ」に直撃しているが、全く効いている様子が無い!


「うひー! 博士の防弾チョッキは最高だンな〜〜!!
 おいぃ黒服! よく聞け!! オイラは勇敢だからなあ!!
 仲間のために体張れるんだじぇエエ〜〜!! 食らえ!! 特製『ピエロ』爆弾!!」


 一瞬だった、「ピエロ」の頭部が炸裂した!
 閃光が視界を焼き尽くし、衝撃が大気伝導で「コボルト」の黒服の全身を叩いた
 悲鳴を上げて黒服は転倒、相棒が咄嗟に前へ飛び出し黒服の身を庇う


「大丈夫かおいっ!! クソッ! 黒服巻き込んで自爆しやがった!!」


 爆発音により悲鳴を上げる聴覚が相棒の悪態を辛うじて拾い上げる
 眼前の惨事に、黒服は倒れたまま戦慄していた









 
297 :次世代ーズ 「一日目の夜」 4/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:01:32.48 ID:v5b6mchQo
 



 同じく、東区


「それが“スイッチ”だ、押すなよ?」
「……自動で起爆するわけでは無いようだな」


 「ピエロ」の引き起こした喧騒は、今や無数の爆発音へと変わりつつある
 だが日頃から閑静な東区の住宅街は普段と変わらず静まり返っていた
 まるで初めから「ピエロ」の暴動など無かったかのように

 当然である
 この町は「組織」の手で都市伝説的な脅威から保護されている
 「結界」もしくはその他の能力で都市伝説存在を非契約者から隠蔽し
 黒服や子飼いの契約者によって害悪となる都市伝説や契約者を駆逐する
 それが「組織」常套の手法である


「それが『ピエロ』の、多分どっかに接続されてる。脳みその中かな?」
「いや、恐らく口腔の何処かだ」


 だが今夜は珍しく長引いた
 加えて「組織」による完全鎮圧ではなく「ピエロ」側が自発的に撤退したようだ
 「組織」側が経験の浅い人材ばかりを現場へ投入したのか、「ピエロ」に相応の実力があったのか
 あるいはその両方か

 いずれにせよ「組織」所属でない彼らにとっては些末事である


「これか、骨に絡みついているな」


 彼らは今、東区住宅街の路地裏にいた
 この時間は元から人通りが無い場所で、その上「組織」の隠蔽工作も効いている


「これだ、臭いが甘い」
「『爆発キャンディ』、多分ビンゴだ」
「形状的には『わたパチ』のようだな、爆発する『わたパチ』なんて聞いた覚えが無いが」
「まあ……、契約者の力量次第で外見はいくらでも加工できるだろ」


 マスクを外した「口裂け女」が今しがた「ピエロ」から摘出した物質を検めていた
 装着された外科用青手袋の上に、真っ赤に染まった綿状のそれが乗っている

 直下の壁面に半ば立て掛けられるように安置されているのは生殺しの「ピエロ」の一体
 周辺には「口裂け女」が生成したと思しきメス数本、そして大小様々なハサミが散乱している
 脊髄の各所を執拗に破壊して行動不能にしたとはいえ、確認は手早く済ませたいところだ

 やや距離を取ってスーツを着崩した男が佇んでいた
 壁面に背を預けたまま“解体”の一部始終を漫然と観察している


 
298 :次世代ーズ 「一日目の夜」 5/5 ◆John//PW6. :2018/11/09(金) 14:02:47.64 ID:v5b6mchQo
 

「恐らくもう一方は脳みそに接続されてる。デッドマンスイッチさ
 こんな芸当が出来る奴は限られてくる。そこらの契約者じゃ無理だよ」


 外灯から路地裏に差し込む微かな光を頼りに「ピエロ」の“解体”を行った
 連中の奥歯には“スイッチ”が仕込まれており
 歯茎に埋められた頭髪状の線は首筋へ仕込まれた『爆発キャンディ』に接続されている
 “スイッチ”を入れれば『爆発キャンディ』が「ピエロ」の頭部ごと爆破する。そんな具合だ

 『爆発キャンディ』にはもう一本の接続が確認でき、恐らくそれは『ピエロ』の脳と直結している
 不発の状況で『ピエロ』が殺害されると同時にこの『爆発キャンディ』も消滅する。恐らくはそういう設計だろう
 にしても、情報流出対策として考えても奇妙なほど手が込んでいる


「何故このタイミングで『ピエロ』が」
「さあな、俺にも分からん。社長も考えあぐねてたよ」
「聞江さんの具合は」
「寝込んでる。連日連夜うなされてたらしい」
「ふむ……」


 「口裂け女」は男に綿状の『爆発キャンディ』を押し付ける
 男は汚物を扱うかのように裏返したビニール袋で受け取った


「『狐』と関わっているとは思えん。『ピエロ』からは奴の気配が微塵も感じられなかった
 それに『狐』の戦略からして、こんな『ピエロ』連中を駒とするようなリスクを犯すとも考え辛い」

「社長も同意見だったよ。『狐』の学校町潜伏に当ててやって来たって線はあるかもしれないけど
 しかし本気で潰しに来たんならこんな挑発めいた小出しするかね?」


 「口裂け女」は暫しの沈黙の末、ハサミを生成した
 把手をスピンし逆手に持ち直すと「ピエロ」の脳天へ一気に刺し込んだ
 一瞬が震えた直後、「ピエロ」の全身が弛緩する


「ルルとカモミは」
「構わず逃げろって伝えたけどさ、社長をサポートするって意地張ってる」
「敵戦力が不透明すぎる。正直戦り合う真似は避けてほしいんだが」
「アンタからもなんとか言ってやれよ、闇子さん」
「まだやることがある」


 青手袋を打ち捨て、マスクを着け直す
 男も壁面から身を起こした


「何も起きなきゃいいけどね」
「絶対に良からぬことが起きる。確信がある。だから私が来た」


 男と「口裂け女」は路地裏を後にした
 遺された「ピエロ」の躯は消滅光に呑まれ、やがて世界に還元された












□□■
299 : [sage saga]:2018/11/18(日) 02:52:17.09 ID:GBsRHGnz0
>>293
>>魔弾の黒服さんとサキュバス様方との関係が気になる昨今ですが?

ただの知り合いくらいです
サキュバスからの評価は「まあ頑張ってる食べ物」「少し気が利く食べ物」
夢魔の所の奴らは自分より弱くて特に見所無ければ「食べ物」です
がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない

魔弾のサキュバス攻略チャート
実弾用の射撃場使う→ランダムで三尾が来る(取壊し検討の為)→戦闘訓練開始→訓練担当が出れない時に代理で夢魔の部下のサキュバスが来る
・最初の印象が悪いと評価が「生ごみ」からになるので気を付けよう
・機嫌を取るときはユリにはソフトクリーム、ヤエルにはヨーグルトがオススメ


ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
わたパチの威力ガチの攻撃用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
300 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/29(木) 22:54:34.54 ID:JyNb+3Zoo
 
泣きそうになりながらwikiまとめを途中まで進めました
【9月】のエピソード群を丁寧に追っていくか厳選ピックアップで行くか
あれこれ考えて泣きそうになりながら書くのはたのしんどいですね

>>299
>ただの知り合いくらいです
知り合いなのか……
>がだからと言って食べたりぞんざいに扱ったりはしない
ということはまだ食べられたことは無い……? それならあんしんですね(なに!?)

>ピエロは逃げるか死ぬか爆ぜるかに別れるのね
大体そのような感じです

>わたパチの威力ガチの攻撃翌用の爆発やん、前衛とか関係ないなこれ、黒服死んだのかな
あの話を色々トリミングする前の初稿では即死していた

>おまけに何かばら蒔いてまだヤバイことしようとしてるのか
はい……主に「コークロア」 な ど を……
 
301 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/11/30(金) 12:35:51.99 ID:Y98tIo4po
>>300 訂正
「コーク・ロア」を空中散布したところで効果は知れているので
散布はたぶん別のやつ、それはそれとして「コーク・ロア」は別途用意、といったところか
302 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/07(金) 00:38:07.31 ID:aroElhuxo
wiki編集乙
物語の展開も気長にまってるぜ
303 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/08(土) 15:07:01.77 ID:bx+66Rtx0
皆さん乙
ピエロも気になるけど九尾の狐と凍り付いた碧の方も気になる
どっちを取っても犠牲が避けられそうになさそうなのが…
304 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/10(月) 21:34:53.05 ID:rL+r8JPvo
重い展開が重なってますなあ
305 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/15(土) 13:18:19.33 ID:Vwc+lKXNo
年の瀬が足音を立てて近づきつつあるこの頃ですが、お元気でしょうか
皆様もあったかくしてぐっすり寝るなどして、体調を崩されぬようお気をつけ下さい……
こんにちは、次世代ーズです

かくいう自分は翌水曜日まで拘束され本編はおろかうぃきの整理もストッポします
打倒青い鼻のトナカイさん! 打倒ルドルフ! 皆様もどうかお元気で
306 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/20(木) 23:58:37.34 ID:qstT5Gxso
来年で十年目を迎えるらしいがクリスマス前になると一気に過疎るのは相変わらずだな
307 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/24(月) 20:29:31.10 ID:txgXOLV9o
年末はみんな忙しいのだ
忙しいのはきっと良いことなのだ…
308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 17:14:37.47 ID:XnjBon0L0

きっとクリスマスは大事な人と過ごしてるからみんな書き込めないのさー
予定がない事がばれるから書き込まないんじゃないんだよー
309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/12/27(木) 22:59:30.39 ID:c3NfYIwKo
かわりに俺様が君達のオケツをゆっくりと撫でまわしてやろう
さあケツを差し出すのだ
310 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:52:34.81 ID:UvP9lMiqo
 



 「悪の十字架」

 都市伝説に詳しくない諸氏も一度は耳にしたことがあるであろう
 この話には様々な類話(バリエーション)が存在するが基本的な筋書きはほぼ一緒だ

 ある人が必要に駆られ、あるいは逼迫した状況下で
 10時に開業する施設へと向かうことになる、という場面から話が始まる
 場合によってはその際、24時間営業している店が存在しない時代の話なり
 そのような施設が存在しない僻地での出来事なり、といった補足説明が付くこともある
 そして、その人が施設へと辿り着き、貼り紙等で提示された情報を確認したとき
 思わずある台詞を吐いてしまう……、というのが共通した流れである

 この話は「青い血」、「悪魔の人形」、「恐怖のみそ汁」などといったジョーク系怪談に分類され
 あるいは「あぎょうさん」、「そうぶんぜ」、「よだそう」、「火竜そば」などの
 言葉遊び系ギャグ都市伝説と共に紹介されることが少なくない

 さて、今回の要諦は

 お察しの諸氏も多いことであろう
 この話は、所謂“実体化した都市伝説”として存在しているのであり
 それと契約した能力者が「組織」に所属している、という点である



 
311 :次世代ーズ EX 「悪の十字架」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:53:28.23 ID:UvP9lMiqo
 



 朝、時刻は8時30分を少し過ぎた頃

 少年は一人、近隣のスーパー前に立っていた
 まだ幼さの残る顔つきだが、外見的に中学生か高校生くらいだろうか

 その日は祝日ということもあってか、スーパー周辺には彼以外の人影は無い
 少年は妙にニヤついたまま閉鎖された自動ドアに印字された字面を目で追っていた

   「 激安スーパー  10:00 〜 24:00 」


「ふ、フフ……、ふふふ、フッフッフ……」


 休みの日はこうして開店前のスーパー前に待機して過ごすのが彼の習慣であった
 そして、そう、ここからが彼の契約者としての異常性を発揮する場面でもある


「フッフッフ、アハッ、アッハッハ! アハッ! アハァァーーッッ!!
 そう! 何時だって! 開くのは10時! このスーパー開くの10時!!」


 ひとしきり笑った少年は自動ドアに向き直り
 おどけるように表情を百面相してその台詞を――口にする!


「開くの10時かぁぁー!! 悪の10時かぁぁーーっ!! 『悪の十字架』ァァーーッッ!!」


 するとどうしたことか!
 少年の隣に、いつの間にか奇天烈な格好の怪しい者が立っているではないか!


「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! 悪の十字架ー! (♦ww♦)」


 その者は端正なタキシード姿で、表は黒に裏は真っ赤なマントを羽織るという
 ステレオタイプなヨーロッパ型吸血鬼の格好をしているではないか!

 そう、この者こそが少年と契約を交わした「悪の十字架」が人として現界した姿
 謂わば、「悪の十字架の悪魔」である!
 ――繰り返すが彼はあくまで悪魔と称し、吸血鬼では無い。外見がいくら吸血鬼寄りだとしても、だ


「悪の十字架ァァーーッッ!! 悪の十字架アアーーッッ!! アッハハハハハハーッ!!」
「悪の十字架ー! 悪の十字架ー! フォハッ、フォハッハ、フォハハーーッ! (♦ww♦)」


 少年と悪魔は同時に叫び、同時に哄笑した
 何がおかしいのかは傍目には不明であるし、そもそも彼らは怪しい者達と呼ばれるに相応しい状況だ

 ここで一度、この少年の能力について言及しておきたい
 彼の能力の発動条件は、通常「10時開業の施設の前で、開業前の時間に待機すること」であり
 発動する能力とは、「『悪の十字架』を唱えることで、『悪の十字架の悪魔』を召喚すること」である

 ――そう、たったこれだけの能力である
 正直なところ、何の役に立つ能力なのかは全く不明である
 ついでに触れておくが、「組織」の調査によると「悪の十字架の悪魔」の身体能力は
 平均的な成人男性の身体能力を数段階下回る程度のものであった


 正直、少年と悪魔の存在を「組織」も持て余し気味だったようだが
 つい先日、晴れて彼らの新たな所属が∂ナンバーへと決定した
 「組織」内でも比較的新しく設立された部門である

 まあそんなことは彼らにとってさほど深刻な内容でも無かった
 少年と悪魔は開店前のスーパーの前に立ち、引き続き高笑いを続けている


 彼らが一体どのような活躍を繰り広げるのか、まだ誰にも分からない









□□■
312 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 01:58:33.14 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは
今投下したのはEXの方です
関係者各位、よろしくお願いします

ちなみにですがこの悪魔
別に発動条件を満たさずとも普通に召喚できます
そもそも悪魔の自由意志で消えたり現れたりできます
契約者も把握済みで普通に呼び出したり一緒にご飯食べたりする
313 :次世代ーズ EX 「青い血」 1/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:00:18.92 ID:UvP9lMiqo
 



 「青い血」――初っ端からネタバレするとジョーク系怪談である

 筋書きが一定していない分、話のバリエーションは豊富で
 「青い血」というワードについても冒頭で意味深に言及されるか全く触れられないこともある

 具体的な話の筋としては
 お昼には必ずお弁当を食べるようにと、おじいさんがおばあさんに釘を刺される穏当なものから
 無人島に漂着して極度の飢えに苛まれるパターン、売店で供される「青い血のジュース」というパターン
 さらには教室に広がった青い血を恐る恐る舐めたり、見知らぬ男に無理矢理なにかを飲まされたり、という過激なものまで
 要するに枚挙に暇が無い、のだが肝心の締めは全て同じ
 最後の「あ〜美味ち」 → 「あーおいち」 → 「青い血」なオチがつく

 最初はそれっぽい雰囲気で始めるのがコツだが
 どう足掻こうとくだらない結末を迎えるため、ギャグ系怪談としてまとめられている
 それどころか都市伝説という括りで紹介されることも無いではない


 以上が「青い血」の一般的な概要である


 さて、都市伝説原理主義者の黒服諸君には残念なお知らせだが
 この「青い血」、あろうことか既に都市伝説として実体化してしまっている

 そればかりか都市伝説管理集団「組織」の備品としてばっちり登録、管理されている


 一体どういうことなのか?
 それをこれから紹介するとしよう






 
314 :次世代ーズ EX 「青い血」 2/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:02.60 ID:UvP9lMiqo
 

 まず「青い血」の外見的特徴から説明する

 これは大部分が金で構成された、やや歪な形状の小さな杯である
 外形はWDH:30x30x70(mm)の直方体に収まる程度のものだ

 杯の中はおよそ15mlの青い液体によって満たされている
 この液体、「組織」の調査では一応「組成が人間の血液に近い」と判明している

 杯から液体が全て除去されると
 「杯の中から青い液体が毎分約5ml出現する」という現象が発生する
 そしておおむね3分ほどで杯は再び青い液体によって満たされるのである

 「青い血」は現在「組織」穏健派のPナンバーによって厳重に管理されており
 取り扱いはたとえ実験目的であってもP-No.上位管理者、俗に言う一桁ナンバー複数名の承認が必要となる

 また、「青い血」を許可なく各種媒体によって記録すること
 さらには如何なる理由あれ「青い血」が記録された媒体を「組織」外部へ持ち出すことは厳禁とされ
 違反者は厳罰に処される、そんな規定まで付いている

 加えてこの「青い血」、管理区分は「禁忌指定」に分類されている
 大多数の流出性器物が分類される「二種指定」をすっ飛ばして堂々の「禁忌指定」である
 この時点でお察しの黒服諸君も多いだろうが、こうした取扱既定には「青い血」の特性が深く関わってくる



 実は先述した外見的特徴についてだが、通常の方法ではあのように観測はできない
 具体的に言うと、一般人を含めた契約者や都市伝説、黒服各位が「青い血」を直接視認した場合
 「これまでに飲食してきたなかで最も美味と感じた飲食物」か
 「まだ飲食したことは無いが口にすればきっと最高に美味だと感じる飲食物」として認識する
 直接視認せずとも「青い血」の数メートル以内に接近した段階で好みの飲食物の香りを感じるようになる
 そして、こうした飲食物を何が何でも口にしたいという耐えがたい欲求が生じてしまい
 影響を受けた者は手段を選ばずに「青い血」を摂取しようと狂暴化する

 では鏡映しにしたり、映像や写真等で見たり、などの間接的に観測した場合は問題無いかと言うと
 当然そんな筈は無く、ばっちり影響を受けてしまうことが分かっている
 要するに、「青い血」は認識汚染を含む強力な精神干渉能力を有しており直接間接を問わず影響を及ぼす物品なのである

 それなら強化系や防護系などの能力の行使や精神干渉に対する高い抵抗値を持っていれば対抗可能かと言うと
 多少は影響を緩和できるという程度で、結局一時しのぎにしかならないということも判明している

 上述の外見的特徴は、精神干渉に高い抵抗性能を持つ黒服が
 特殊な条件付けを受けた上で、脳みそに悪影響を及ぼす薬剤を投与されることで
 はじめて「青い血」の影響を回避して観測しえた情報である
 一般黒服諸君にはとてもじゃないがオススメできない手法だ


 
315 :次世代ーズ EX 「青い血」 3/3 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:01:46.60 ID:UvP9lMiqo
 

 続いて、この「青い血」を摂取した場合どうなるのかについて説明する
 ――説明する間でも無さそうだが話のついでだ


『これよりPナンバー関係者外秘の歳末器物実験を開始します』
「離せ! 離せ! うわああああああああああああっ!!」


 「青い血」を特殊な手法を使用せずに通常視認した場合
 視認者が欲する飲食物として認識され、摂取したい強い欲求に駆られる点は先に触れた通りである


『P-No.2020、目の前にある物が何に見えるか答えてください』
「離せ! はな――、あれは……、穏健派の、高級クラブでしか食べれない……、幻の骨付きスペアリブ……!?」
『良いでしょう。研究班、P-No.2020へ「青い血」任意量の投与を許可します』
「了かい、かい口する」
「おい待て! 何する! あ、んごあっ! ああがっ! ああがっ!!」


 そして「青い血」を摂取すると、途端に抗い難い強烈な多幸感、恍惚、そして性的絶頂を体感するハメになる


「んんあーっ ああーっ あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っっ
「きょうせい開口を解じょする」
「んごあっ ごっごほっげほっ!! あっ ああーっ おいちいっ ああっおいちいいいっっ


 症状はおおよそ10分から20分程度で治まるが
 ここで注目したいのは「青い血」を摂取すると強力な依存性が形成される点である


「離せぇぇぇぇっっ 離せよぉぉぉぉぉっっ もっと食わせろぉぉぉぉぉっっ
「予ていどおり、P-No.2020をいち時収ようする」
『許可します、退出してください』
「食わせろぉぉぉっっ もっとあるんだろぉぉっ スペアリブぅぅぅっっ 食わせろよ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛おお゛っっ


 一度依存性が形成されると、対象者は狂暴化してあらゆる手段を講じてでも再び「青い血」を摂取しようとするようになる
 狂暴化はおおむね24時間前後継続するが、特筆すべきはその間「青い血」以外の精神干渉系能力が全く効かなくなる点だ
 継続時間を過ぎると狂暴化自体は鎮静するものの
 再度「青い血」を認識した途端に狂暴化して「青い血」を摂取しようと周囲に暴力を振るうようになるのである
 ついでに依存性が一度でも形成されてしまうと都市伝説能力や霊薬等で依存性を除去することができなくなる

 補足しておくと、先述した外見的特徴の部分で触れたように
 「青い血」単純認識による場合でも、「青い血」を摂取しようと狂暴化するが
 「青い血」摂取後の狂暴化は、単純認識時の比では無い位に危険度が増す

 とまあこうした特性の故に「青い血」は「禁忌指定」として厳重に管理されている、というわけである
 幸いなことに「青い血」関連の大規模事故はこれまでのところまだ発生していないが
 伝染災害を危険視した幹部達によって取扱方針が制定されることになった

 ここまで「青い血」の危険性ばかり説明するような内容になってしまったが、一応この物品にもそれなりの展望がある
 「青い血」を特定の薬剤で稀釈し精神干渉系能力の被害者に対して適切に投与することで
 依存性や狂暴化を極力抑えたまま、影響を受けた精神干渉を無効化、あるいは大幅に低減できる効用が期待されている
 現時点ではまだ実用段階に至っていないが、近い将来にも試験的運用が開始される予定らしい

 「組織」研究者の今後の活躍を祈ろうではないか









□□■
316 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:09:07.01 ID:UvP9lMiqo
 
こんばんは

ところでwikiまとめですが
整理途中で大問題が見つかりました

移行がうまく行ってなかったのか
IME辞書登録された語句の内、次世代ーズ関連の特定の語句が
登録から脱落した状態で数ヶ月そのままだったことが判明しました

なのでこれまで投下分にばっちりミスが残っていますね
多分聡明な読者の皆様といえど多分気付かれていない自信があります
が、それはそれとして己が赦せないのでセルフお仕置きの時間だ😌
 
 
 
 
 
317 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:10:40.92 ID:UvP9lMiqo
 



 九月

 まだ夏の気配を色濃く残しつつも、秋の朱空へと染まりゆく頃
 日没の迫る学校町の通学路で、それは起きた


「見せちゃうぞ……、見せちゃうぞ見せちゃうぞンばアアぁぁああーーッッ!!」

「いやあああああああっホントに出たぁぁぁぁアアアアアっっ!!??」
「ああーーっっ!! 変態っっ!! 露出魔だああぁぁぁぁーーっっ!!」
「キャアあああああああああっっ!! もっくんのより小さくて薄汚いよォォおおーーっっ!!」


 この町の南区にある商業高校のJKギャルたちが
 突如現れた露出狂のおじさんを前に、三者三様の絶叫を上げ、脱兎の如く逃げ出した


「――っふ、ふヒッ! ふ、ふひひ、ふヒンッ!! ふ、うっふふふふ、ふヒッヒ、ヒヒヒッ!!」


 その男はティアドロップ型のサングラスと大きなマスクで顔面を隠し
 九月だというのにトレンチコートを着込んでいる
 そして当然、コートの下は全裸であった
 これ以上の説明は不要であろう


「ふヒヒッ!! た、短小って……小汚いって……ッッ アハッ アハハハッ ヒンッ たまらんっ


 おじさんはJKの悲鳴の一部に甚く反応しているようで
 実際のところ彼は軽く達していた

 警察が直ちに介入すべき事案であるが
 幸か不幸か、周辺に巡回中の巡査は見当たらないようである
 更に付け加えると先程の悲鳴はかなりの音量で響いた筈だが未だ人の気配は無い


「ふふ、ウッフフ、……はあ、最高だった   ――さて」


 おじさんは全開にしたコートを羽織り直してボタンを留める
 そして後方へと振り返った



 其処に蠢くは無数の人影だ
 何時の頃からか此処、学校町の黄昏時に出現するようになった魔性

 それは「逢魔時の影」と呼ばれていた


「ここから先は通行料を頂くが、――よろしいかな」


 
318 :次世代ーズ EX 「一方その頃」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:11:19.10 ID:UvP9lMiqo
 

 場に居た「逢魔時の影」は全滅した


 おじさんは溜息を吐いた
 先程まで「影」であった残りカスが風に乗って消滅する
 手刀を引き戻すと、周辺の大気に微かな黒色の稲妻が奔った


 そろそろ純情JKの通報を受けたお巡りがやって来る頃合いだろう


 彼は高く跳躍
 最も近場に位置する鉄塔の頂点へと降り立ち、其処に佇んだ


 陽は既に暮れている
 夕闇はじきに光無き夜を誘う

 薄明の世界に包まれた学校町を見下ろすおじさんは
 やがて目を細め、遠景の一点を注視した


「さてさて」


 夕陽が死に、大地を夜の帳が抱き始める時分
 おじさんの眼は“彼”を捉えていた


 「繰り返す飛び降り」と化した少女、東一葉と共に直前まで談笑していたようだが
 “彼”――早渡脩寿もまた、この露出狂の男を眼差していた


 “彼”はこちらに気付いている


 おじさんの双眸は、獲物を見定めたかの如く、さらに細められた


「『七尾』の残党め、この町で一体何を企んでいる」
















□□■
319 :次世代ーズ EX ◆John//PW6. [sage]:2018/12/28(金) 02:16:40.98 ID:UvP9lMiqo
 
 
 
アクマの人に土下座でございます
「逢魔時の影」、お借りしました
ありがとうございます

本格的に【9月】をやっていきますが、年末は働き詰めが決定した上
年越しを職場で迎えるっぽい💢ので、次来るのは年明けです


皆様、どうぞ良いお年をお迎え下さい
 
 
 
320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:48:39.05 ID:YTGbKHpF0
明けましておめでとうございます
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/01/01(火) 01:51:44.02 ID:YTGbKHpF0
>>320途中送信
今年はこのスレ10周年らしいので
楽しくやっていけたらと思います
ついでにまた人で賑わうようになれば嬉しい
322 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 1/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:07:41.89 ID:/ElaL/Wro
 



 数年前の元日の話だ



 つい先ほど日付が変わり、新しい年を迎えたばかりの真夜中

 「七尾」チャイルドスクール、研究棟の一室
 テーブルにはピザや寿司の食い残しや、掛け蕎麦の空椀が乱雑に置かれている

 そして、テーブルから離れた側では
 西陣織紬を着込んだ男子と、Yシャツの上から白衣を羽織った男が
 今しがた入室してきた鏡餅の着ぐるみを着用した男子を見て爆笑していた


 「早渡wwwwお前wwなんだその格好はよwwwwww」
 「アッハハハハハ! おい早渡、一体誰にやられた! アハッ!」


 腹を抱えて笑いに笑う二人組を、早渡と呼ばれた男子は半ば憔悴した半眼で睨みつけた


「うるせえぞ一伐、大体こういうのはお前の仕事だろうが……!」
「いやwwwwww早渡wwお前、良く似合ってるぜwwwwww最ッ高だよwwwwww」
「ハハハッ! で、誰にやられたよ早渡、空七ちゃん達か?」
「オメーのお仲間にだよ! トランジ! あのアマども、日頃の恨みとばかり寄ってたかって揉みくちゃに……!!」


 彼ら、ANクラス関係者がこんな時間まで起きているのはさほど珍しいことではない
 ましてや年末年始だ
 この時期は冬休みとして設定されており
 特に年明けから三箇日にかけては、普通クラス寮も消灯時間が平時より若干緩めになる

 これから彼らは普通クラス高学年を対象として、サプライズのお年玉配布へと向かう所であった
 通常のお年玉配布は元旦夜明け後に個々の生活指導教員から一人千円ずつ支給されるが
 研究棟からのお年玉ということで別途二千円札の配布が電撃的に決定したのである

 無論、金の出所に関してロクでもない経緯があったりするのは此処だけの秘密だ


「脩寿――、ちょっ、何その格好!」


 早渡の背後から部屋に入って来たのは
 ANクラス同級生の女子二名、空七とふわるだ

 二人とも早渡の格好を見るなり、一伐やトランジに負けず劣らずの爆笑を始めた
 特にふわるはツボに嵌ったらしく、しゃがみ込んで両手で顔を隠しつつお腹から湧き出る笑いに全身を揺すっていた

 不意にふわるが片手をずらして早渡を見た ――目が合う
 片手を振り上げてこのッ!! と凄むと
 体格に似合った小さな悲鳴を上げて空七の後ろに隠れ、爆笑し続けていた


「でも、本当に、その格好、脩寿が、自分で、着たの?」
「違えよ笑うな空七! 女子研究員どもが無理やり着せやがったんだぞ!?」


 笑いで切れ切れになった空七の問いに、早渡は噛みつくように応じる

 連中、女性研究員達はトイレ帰りの早渡を事前警告もなく急襲した
 本格的な捕獲デバイスを装備して殴り込んで来たので事前から計画でも練っていたんだろう



 
323 :次世代ーズ EX 「七尾時代の年越し」 2/2 ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:08:31.39 ID:/ElaL/Wro
 

「それだけじゃねえ!! これ見ろ!! ご丁寧に首輪まで嵌めやがって!!」


 着ぐるみと顔の隙間に手を突っ込み、無理やり押し広げて首筋を見せつける
 首には言葉通りの首輪が装着されていた。緑のLEDが規則的に点滅しているやつだ

 この首輪は普段からセクハラ大魔王などとありがたくない称号で専ら有名な早渡脩寿が
 新年早々女子寮へ乗り込んで悪いことをしないようにと女性研究員達が強制的に装着した一品だ

 具体的に言うと、早渡が女子寮のテリトリーに足を踏み入れた瞬間
 神経活動妨害パルスが彼の全身を襲い、激痛と共に七転八倒の末、行動不能にする物騒な代物である


「そんなに信用ないのかよ、俺は!!」
「お前の場合自業自得でしょ」
「んーぬぬ……!! 俺はガキには興味無えんだよッ!! 大人のお姉さん一択だろおがァァッッ!!」


 新たに入室してきた円伶が早渡に至極真っ当な意見を突き刺してきた
 後ろに続く飛鳥博士は早渡の格好に目を丸くしている

 早渡は密かに空七を睨んだ
 彼女は顔を背けて隠している積りだろうが肩を震わせている
 未だに笑い足りないらしく、爆笑を必死に押し留めているものと見える

 着ぐるみはともかく首輪の方は十中八九佳川の特製品だろう
 あの女、きっと安全な場所からワイン片手にこのザマをモニターしているに違いない

 悪いが佳川、お前の好きなようにはさせねえ
 オレ様の名に懸けて年頭から早速伝説を残してやるぜ
 首輪なんざ怖くねえ、初っ端から女子寮にブッ込んでやるからよ、覚悟しとけよ女子職員ども

 早渡の中に黒い獰猛な笑みが広がった瞬間であった


「普通クラスの先生達って、まだ理事に呼び出されてんの?」
「そ、だからサプライズは俺達でやんなくちゃいけないってワケだ」
「クリスマスの機材トラブルの件、大問題になってるみたいだな」


 ひとしきり笑った後の一伐とトランジ、そして円伶の会話は早渡の耳になど入っていない


「じゃ、女性陣も揃ったことだし。E5の普通クラスにサプライズお年玉、行くか!」
「「「おー」」」
「あ、早渡。お前一応初っ端から飛ばしていくのは控えろよ? この時期のお姉様方はちょっと優しくないぞ?」
「それが怖くて早渡ハーレム王国が築けるかッつー話だろうがよ!!」
「お前マジでやめときな早渡、大河内研究員が今度お前が問題起こしたら去勢するって公言してたの忘れたの?」


 音頭を取るトランジこと星虎次博士、それに応じる一伐、空七、ふわるの三人
 そして早渡に釘を刺すトランジと、それに吼える早渡、に再度釘を打ち込む円伶
 ついでにそのやり取りを呆れたような笑いと共に見守る飛鳥博士
 彼らはわいのわいのやりながら部屋を後にする


 この後、期待通りというかやっぱりというか
 お年玉を個々の部屋長へ渡す道中、普通クラスの男子達に煽られた早渡は
 「男を見せてやらあ!!」などと理解不能な絶叫を上げながら女子寮への突撃を実行した

 無論、首輪の効果は抜群であったのは言う間でも無い話だ





 これが、「七尾」が襲撃を受け、そして解体する、その年の元日の出来事だ

 今にして思えば、あのときの俺、こと早渡脩寿は
 久し振りに屈託なく爆笑する九宮空七を、本当に久し振りに見たのだ






□□■
324 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/04(金) 03:10:39.87 ID:/ElaL/Wro
 
明けましておめでとうございます
本年も宜しくお願い致します

年始は投下分の整理を進めようと思います……
325 :次世代ーズ ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:53:53.51 ID:wVaou1aSo
 

○前回の話

 >>209-216
 ※今回の話は作中時間軸で【9月】の出来事です



○三行あらすじ
 東区中学でいよっち先輩の“取り込まれ”をなんとかした (>>178-186, >>197-203
 「モスマン」に襲撃されたけど脱出に成功した(>>209-216
 良かったね!



○時系列

●【9月】
 ・早渡、「組織」所属契約者と戦闘

 ・「怪奇同盟」に挨拶へ     (アクマの人とクロス)

 ・東中で花房直斗、栗井戸聖夜から三年前の事件を聞く
  その際にいよっち先輩と出会う
  その後、診療所で「先生」から「狐」について聞く     (花子さんとかの人とクロス)

 ・東中を再訪、いよっち先輩が自分を取り戻す
  「モスマン」の襲撃から脱出

 ・「ピエロ」、学校町を目指す

 ・早渡、また「ラルム」へ     ☜ 今回はここ!

 ・∂ナンバーの会合
  「肉屋」侵入を予知


●【10月】
 ・「肉屋」戦 (9月終盤か、10月初頭?)
 ・「ピエロ」、学校町へ侵入


●【11月】
 ・「組織」主催の戦技披露会実施

 ・診療所で「人狼イベント」

 ・「バビロンの大淫婦」、消滅
 ・角田ら、「狐」配下と交戦
  新宮ひかり、上記交戦へ介入

 ・「ピエロ」、東区にて放火を開始、契約者らにより阻止される

 ・暗殺者二名がひかり、桐生院兄弟と交戦     (鳥居の人とクロス)

 ・「ピエロ」中枢、東区放火組に撤退か自害を指示






 
326 :次世代ーズ 31 「おさそい」 1/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:55:12.36 ID:wVaou1aSo
 









 今


 俺は


 何を考えていた?



 いけない、ボーッとしてた

 顔を上げる

 店内の照明が眩しい、慣れるまで目を細めた



 俺は今日も「ラルム」に来ていた
 学校で面倒な用事で捕まったので、ここに着いたのは夕暮れだ
 外の陽はもう落ちてるかもしれない

 意味もなく深呼吸する

 いよっち先輩はその後、高奈先輩の自宅に居ることになった
 結局東区中学から逃げ出して以降は直接会ってはいない
 「お嬢は面倒見いいから問題ねえよ」とは半井さんの台詞だが
 迷惑かけてないかちょっとだけ心配だ


 あの夜、いよっち先輩を連れ出したあの夜
 「モスマン」と戦ってどうだった
 俺はまるで動けてなかった。昔よりも駄目になってる
 立ち回りを振り返れば基礎的な心得すら抜け落ちていた
 これはブランクの所為でも、前のように技が編めなくなった所為でもない

 腑抜けてる

 学校町まで乗り込んできといて、これはまずい
 組織の変なのから逃げたときもそうだったけど危機意識が全然ない
 やばいよ
 大体夏休みは普通に動けただろ俺!?
 一体なんでだ、とか考えてる場合じゃないな。今まで以上に自主トレで遅れを取り戻さないと
 するとメニューは、だ。やっぱり“尾”を出したり消したりとか、制御を一からやってくしか


「あの……脩寿くん」
「うえっ」


 いつの間にかテーブルの傍に千十ちゃんがいた
 思わず変な声が出ちまった


「食事をお持ちしました、『野菜と厚切りベーコンのたっぷりラクレット』です
 ……なにか考えごとしてたの?」

「うん、ちょっと」

「そっか……」


 お、気の所為か千十ちゃん何だかもじもじしてる?


「あのね、脩寿くん。あの……、最近は毎日ずっと『ラルム』に来てるよね」
「ッッ!? あああ、あの、迷惑だった!?」

 
327 :次世代ーズ 31 「おさそい」 2/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:56:07.04 ID:wVaou1aSo
 


 千十ちゃんの言いたいことは分かるぞ

 ここんとこずっと「ラルム」にやってきては夕飯食べるようにしてたからな
 なんというか、いよっち先輩を探しに行く夜は必ず「ラルム」に寄ってたし
 つまり最近はずっと通いっぱなしだ

 で、「ラルム」はちょっとお洒落なイタリアンでフレンチのカフェ、だ
 店長さん曰く学生さんでも気軽に入れるようなお店にしたいってことだが
 正直なところ、俺のような奴がのこのこやってきて良い雰囲気の場所ではない


「ごめん千十ちゃん、さすがに迷惑だったよね」
「あっちがっ違うよ、そうじゃないの! ただ、あの……その」


 迷惑では、ない? だとしたら何だろうか?
 しかし千十ちゃんは見るからに言い辛そうな感じだ
 体の内側で、緊張が高まる
 俺は固唾を飲んで千十ちゃんの次の言葉を待った


「あの、あのね。うちって、他のお店より値段が高めでしょう?
 だからその、脩寿くんのお財布が、大変じゃないかなって……」


 千十ちゃんは内緒の話をするように声を潜めてそんなことを言う
 俺は思わず周囲を見回した
 よし大丈夫、普段はよく見るおばちゃんズの姿はなく
 対面で座る老夫婦と、サマーセーターのお姉さん以外にお客さんはいない
 今日の「ラルム」は普段より空いている。まあ平日の夕方だしな


「大丈夫! 全然平気だし! 痛くないし!」
「あの、脩寿くんって、自炊とかしてる? ご飯作るのって楽しいよ!」
「うん、自炊はするよ。独りで住んでると一応やらないとね。ただね」


 自炊、というワードに、この半年間が一気に思い起こされた
 今年の四月、学校町に引っ越してきてから初めて自炊をすることになった

 楽しかった
 作れる料理のレパートリーも増えた
 これ買う必要あるのかって鍋も買った。本当に楽しかったんだ

 でもね
 多分、独り暮らしな人間は体験済みなんだろうけど
 独りで食べるものを作って、独りで食べるんだよね
 これだけだと当たり前のことなんだけど
 実際に体験すると

 死にたくなる、寂しさのあまり


「というわけで独りで食べてると頭おかしくなりそうになるんだ!」

「そ、そうだったんだ……」

「だから外食のありがたみがよく分かるようになったんだよ!
 他人が作ってくれたものを食べられる幸せ! 最高に尊い!」

「だったら、あのね! あの、もし良かったら
 私のお家に、夕ご飯、食べに来ない? ど、……どうかな」

「えっ」

 
328 :次世代ーズ 31 「おさそい」 3/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:56:53.66 ID:wVaou1aSo
 



 千十ちゃん
 今、なんて

 夕ご飯を? 千十ちゃんのお家で? 食べる?


「うええあああの、そんな! 悪いよ!」

「気にしないで! あの、私のお姉ちゃんも、脩寿くんに会いたがってるし!
 それに、あの、久しぶりに色々、脩寿くんともお話したいし、だからあの、 ……だめ、かな」

「駄目じゃないけど!     でもほんとに、     いいの?」

「……脩寿くんが来てくれると、嬉しいです」

「是が非でも行きますよろしくお願いします」



 正直に白状します
 心のなかでは狂喜乱舞してます
 顔面もニヤけそうになるのを堪えてます

 落ち着け、俺!
 落ち着けるか馬鹿!!


「それじゃあ、あの、来週の金曜日はどうかな?
 その日ならお姉ちゃんも空いてるから」

「行きます、絶ッッ対に行きます」

「……! うん! ありがとう」


 笑顔でそう返す千十ちゃんの顔は
 暖色な照明の下でも分かるほど真っ赤になっていた

 思わず見惚れそうになりながら、不意に誰かの視線に気づく

 キッチンの方からコトリーちゃんと店長さんがこっちを窺っていた

 しばらく目が合った後、二人はゆっくり横にスライドして隠れてしまった



 待て

 どっから見られてたんだ!? 全部!? 全部か!?

























 
329 :次世代ーズ 31 「おさそい」 4/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:57:34.45 ID:wVaou1aSo
 









 陽はとうに暮れて、夜

 闇に紛れるようにして
 マジカル☆ソレイユは東区路上の一角を調べ回っていた


「えーと、ここでこう来て、こう動くとしたら
 ここに抱き枕を仕掛けるとして……あとは、そうね……」


 彼女はスクール水着の上から羽織りものを着て
 白の長手袋に白のニーソックスという格好だが、傍から見ればコスプレ趣味の危ない痴女だろう
 一応彼女に言わせれば、これは契約者としての活動装束なわけだが、傍から見れば危ないコスプレ女である


「あの男、ラルムでも見たから怪しいと思ったけど
 毎日のように東区を徘徊してるみたいね、いやらしい
 こそこそ変態行為の下調べをやってたってわけね、いやらしい
 でも、――この私とメリーから逃げられるなんて思ったら大間違いって理解させてやるわ」


 屈んだソレイユはビニールテープを路面に貼り付けている
 近場に光源がないため分かり辛いが、既にこの一帯には彼女によって無数のテープが貼られていた

 その様子を背後から相棒のメリーが眺めていた
 ソレイユの持ち込んだ段ボール箱の上に乗っかったメリーは
 むうむう鳴きながらソレイユに対し複雑な眼差しを注いでいた

 メリー
 「メリーさんの電話」と呼ばれる都市伝説
 それが実体化した存在がこの、白い体毛に黒い顔の、羊のぬいぐるみである

 そう、羊のぬいぐるみである
 原話(オリジナル)では外国製の人形と説明されるが
 明言されない場合が多いものの、おおむね「ヒト型の人形」という点は共通している
 何故羊のぬいぐるみの姿で実体化したのか謎であるが、今はそれが語られるときではない


 
330 :次世代ーズ 31 「おさそい」 5/5 ◆John//PW6. :2019/01/23(水) 21:58:13.77 ID:wVaou1aSo
 

「ねー、ソレイユちゃん、ほんとにやるのー?」

「自信があるわ! アイツは明日、必ずこの道を通る!
 100%の確立よ! 断言していいわ! 作戦は成功する!」

「むぅー」


 「本当に作戦を実行するのか」という意味で訊いたのだが
 「本当に作戦は成功するのか」の方で取られてしまった
 仕方がない、ソレイユは頑固だし一度決めたら中々考えを変えないタイプだ
 仕方がない、のだがそれ故にメリーは心配しているのだ
 そもそもソレイユが目を付けた“彼”が、あの変態クマの正体である確証はない
 それを確かめてからでも遅くはない筈なのだが、彼女は何故か“彼”こそ変態クマであると信じ切っている


「そういえば学校で千十と話しててね、今度友達を紹介したいって言われて」

「え、お友達ー?」

「そそ、しかも契約者で、男子よ。多分『組織』所属じゃないかもって話
 勿論私のことは黙っててほしいってことにしたけど、でもまさか男子苦手な千十がね
 珍しいこともあるものだわ」

「男子のお友達ー」

「まあどんな奴なのか知らないけど、ちょっとは興味あるわね
 千十が嬉しそうに話すくらいだからさ」

「わたしも会ってみたいなのー」

「そのうちね」


 よし、ソレイユは立ち上がった
 明日の準備が完了したようである


「あの変態クマに触手で全身を撫で回された屈辱……、一度たりとも忘れちゃいないわ」


 彼女の言葉に怒りと決意が籠った
 ソレイユの決意は固い。最早メリーが説得する余地がない程に


「明日の放課後決行するわ! いざ爆殺! 変態クマ!!」
「あっ……爆殺はやり過ぎだと思うのー」



















□■□
331 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/23(水) 22:09:00.79 ID:wVaou1aSo
 

>>330
 × 確立
 ○ 確率

 wikiをあらかた整理しました
 本編は【9月】を書いていきます
 エゴが溜まると突発的に【11月】のピエロなエピソードを投下するかもです
 ひとまず次回は早渡脩寿がマジカル☆ソレイユに襲われます
 以上です


 
332 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/01/27(日) 23:39:49.85 ID:SCYZvxF1o
乙です
なんだよ早渡、お前、家で夕食食べようイベント発生させて
その上次回はマジカル☆ソレイユに襲われる(意味深)なんて……ハーレムルート開拓する気かよ?!
333 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/01/30(水) 18:32:08.62 ID:WUV7HQbGo
 
>>332
ありがとうございます
もげろ!イベントを積み上げすぎるとあとでたいへんなことになりますが
早渡に関してはガンガン積み上げていこうと思っています😊

ところで小さい頃の早渡の好みのタイプは、長身で巨乳でブロンドの年上女性だった筈ですが
どういう心境の変化があって今に至っているか、よく分かっていない……
 
334 :次世代ーズ 前回 >>326-330 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:12:52.12 ID:Qm5h1XQro
 




 この日の放課後も俺は東区を散策していた

 目的もなく単に歩き回っているだけかというとそれも違う

 理由あって大家さんが管理していた物件を片っ端から探し回っているんだが
 ネットで紹介されてる以外にも多数の物件を所有していたらしく、これが中々見つからない
 越して来てからというもの、歩き回ったり人づてに訊いたりして探索を続けてきたけど
 あんまり成果は上がっていない

 で、今探しているのは東区にあるという貸家だ
 「戸建ての物件」なことと、「大分前に、住んでた一家が全員失踪した」という怪しい曰くくらいしか情報がない
 いや特に二番目の、いかにも人の興味を引きそうな話題ならすぐに見つかるだろと思っていたが、甘かった
 同じクラスのダチ公曰く、東区にはそういう噂のある物件は意外と多い、らしい
 七月からずっと探し回っていたものの、色々あったおかげでまだ特定には至っていない


 まあ焦りは禁物だな
 前方を歩いている女子高生の背中をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えていた
 あの制服は東区にある高校か、あの高校って確か自宅アパートに近かったような気もする
 正直なところ、商業高校に行く! って決めてなければ、東区の高校へ行くべきだった
 若干後悔してるところも少しあるが、まあそんなことはいいか


 「狐」の件も花房君達のおかげである程度情報を手に入れたし
 いよっち先輩の方も一段落ついたわけだし
 「狐」周りで大きな動きがあるまでは、しばらくこっちに専念してもいいかもだ

 にしても、さすがに最近はラルムに通い過ぎだったな
 足るを知るってやつだ。これからは週一、……いや週二にしよう
 というわけで今日はラルムへ行かないけど、大家さんのためにも探索は続けないとな
 それに地道に続けていけば、必ず手掛かりにも行き当たるはずだ


 角を曲がった


 しっかし最近は色々あってまともに東区を散策するのが本当に久し振りだ
 ここんとこずっと、いよっち先輩に会おうと中学辺りをうろついてたし



「ぎゃーっ!! 誰かーっ!!」



 色々考えていたところに
 割って入った絶叫


 俺の身体は身構えていた


 妙なのは、このとき脳裏を走ったのが
 「誰か襲われたのか?」ではなく、「なんだ今のは?」だったことだ

 声色がなんというか、わざとらしくなかったか
 演技っぽかったというか


 ていうか前にもあったな似たようなことが
 確かコトリーちゃんが赤マントに襲われてたときか



「誰かーっっ!! あ、赤マントがーっっ!!」



 「赤マント」!?
 野郎!! またか!?



 
335 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 2/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:14:11.18 ID:Qm5h1XQro
 

 一瞬、躊躇した

 何故だ? 何をためらった?




 とにかく、声のする方向へと、走る




 いや、でもおかしい

 絶叫の響き方からして声の主はそう遠く離れていない

 この距離で何かANなり異常があっとしたら
 まず何か気配というか“波”を感知できるはずだ


 感覚なら既に押し広げている


 “波”は感じた
 でもこれは「赤マント」のものじゃない
 「赤マント」の“波”は、概ね共通して錆び付いたような鉄のニオイ
 だが付近から感じるのはむしろ、乾燥したような、灼け付くようなニオイだ
 「赤マント」のそれではない

 そんなことは現場に辿り着けば分かる


 なのに何かが腹の奥底に違和のように貼りついてる

 何だこれは? 誘い出されてる、そんな感覚なのか?




 迷いを振り切るように

 路地に躍り出た




 声は確かにこっちから響いてきたはず
 だがどうだ
 人影も、ANの姿もない

 いやでも“波”は強くなってる
 これは間違いない

 そして、嫌なことに
 “波”は前方にある電柱から放たれている


 さらに嫌なことに
 普通、人間なりANなりから発される“波”ってのは
 そもそもが生命的な何らかのエネルギーっつう、確かそんな話だった

 だがなんか、前方から感じる“波”はちょっと違う
 生命的な要素がこれっぽっちも感じられない
 まるで物か何かに、“波”だけが貼りついているかのような“感触”だ

 こんな譬えが当を得てんのか微妙だけど
 「人間だと思って近寄ってみたら人形でした」みたいな感じだ


 なにこのホラー展開






 
336 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 3/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:14:54.36 ID:Qm5h1XQro
 

 走ってきた所為か鼓動が速まっているのを無理やり無視して
 俺は電柱に近づいていく


 電柱の裏に、なにか居た
 いや、あった


 緑色をした、細長いぬいるぐみだ
 珍妙なキャラクターだ
 身長は1メートルもないサイズだ


 そこは重要じゃない


 問題なのは
 このぬいぐるみの表面を這うように流れる
 無数の赤い光だ


 間違いない
 “波”の正体はこの赤い光だ


 ぬいぐるみの頭部は幾重にも巻きつけられるように
 さらに身体の表面も不規則な形で
 赤い糸のようなものが縛り付けてある


 糸の上を脈打つように
 赤い光が走っていく


 これは、“呪詛”ではない
 その判断はほぼ直観だった


 そして


 この時点でようやく気付いた


 このぬいぐるみ自体がANなのでは、ない


 ましてや、ぬいぐるみが生きているわけでも、ない


 単純に、ただの物に、“波”が、文字通り“貼りついて”いるだけだ


 つまりこれは罠だ




 咄嗟に振り返った

 “黒棒”を出すより前に、速く




 誰かが、居た










 
337 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 4/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:15:38.82 ID:Qm5h1XQro
 

 考えるより先に手が動く
 “黒棒”を生成して叩き込もうと、標的をよく見て―― 一瞬、思考が停止した


 目の前に居るのは、女の子だった
 そしてこの子の格好が、なかなか強烈だった


 薄い生地のマントっぽいのを羽織っており
 その下からスクールな水着っぽいのを着ている


 視線が、泳ぐ


 やたら目を引く赤い髪の女の子は
 物凄い表情で俺を睨みつけている


 一拍遅れて、気付く

 彼女は白い長手袋で覆った手で
 俺の顔面に棒きれを突き付けている

 いや、これ棒きれとかそういうアレじゃない
 先程感知した“波”と同種の、しかしぬいぐるみから発されていたそれとは比にならない圧で
 俺に対して彼女の“波”が放たれている

 棒きれではない
 これは、彼女の、“杖”だ


 OK、落ち着け俺

 彼女の格好は世に言うところのコスプレってやつだ
 そこはいい、彼女のちょっと露出高めの容姿に呆気に取られたのはいいとしよう

 なんで俺はこの子に睨まれてるんだ

 なんで俺はこんなに緊張してるんだ?
 どうして鼓動がこうも速くなってるんだ?

 まあ待て、落ち着け俺
 とりあえずこういうときは話し合いだ
 何故に俺をこんなえらい表情で睨んでくるのか、理由を聞き出しても怒られはしないだろう




「観念しなさい、この変態クマ」




 俺が口を開くより前に、彼女が言い放ってきた

 ほぼ同時に、耳元を高熱の塊がかすめていった

 直後、背後から破裂音が響いた




「言っとくけど、余計な真似したら消し炭にするわよ」




 低い、冷たい声だった
 脅迫するかのような、というより脅迫そのものだ


 一体俺が何をした!?
 いや、俺は一体何をしてしまったんだ!?


 
338 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 5/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:16:24.40 ID:Qm5h1XQro
 

 落ち着け、まずは整理しろ俺

 俺を罠に嵌めたのはまず間違いなくこの女の子だ
 だが罠を張って俺を待ち構えてたにしては、殺意や悪意の類はまったく感じない

 そうだな、これはなんというか
 純粋な、混じりっ気なしの、文字通りの怒り……だろう多分

 そう、彼女は俺に対して怒りを抱いている
 それも凄まじいほどの怒気だ

 そして彼女は確か、俺を「変態クマ」と呼んだ
 当然の話だがこんなワードに心当たりはない

 何かを勘違いされてる可能性が高い

 そして
 彼女が杖から放った灼熱の塊
 間違いなくこの女の子はANホルダーだ

 そして
 背後を振り返る余裕は勿論なかったものの
 灼熱の塊は、恐らくブロック塀だか何だかに直撃して破裂していた
 そのとき感知した“波”から推測するに、彼女のANは、十中八九炎熱系だ



 つまり、俺の、天敵だ
 直撃したら、大変なことになる
 最悪、死ぬ



「覚悟なさい、アンタが今までやってきたことを後悔させてやるわ」



 今まで誠実に生きてきましたと胸張って言えるわけじゃないが
 でも少なくとも目の前のこの子をここまで怒らせるような真似はした覚えがない
 というか、そもそもこの子とは初対面のはず

 クソッ、心臓が滅茶苦茶ドコドコ鳴ってやがる
 これはアレだ、「僕はやってません」とか「何のことだか分からないなあHAHAHA」とか
 迂闊な言い方したら大変なことになっちゃうやつだ
 落ち着け、慎重に言葉を選ぶんだ俺



「ごめん、あの、身に覚えがないんだけど」

「覚えがない。へえ、そんなこと言うの
 一言目がよりによってそれ? ふざけてるの?
 今まであれだけやりたい放題やって、身に覚えがないっていうわけ?」



 うわあ、めっちゃ怒ってる
 口振りが冷静な分、怒りがこっちに突き刺さってくる



「そう、とぼけるつもりなのね
 あらそう、なら数日前に東区の中学校で
 『学校の怪談』の女の子相手を追い詰めて
 いやらしいことをしようとしていたのも、身に覚えがないって言うのね?
 あの日一緒だった『人面犬』達はお仲間かしら? 今日は独りだから弱腰なわけ? 違うわよねえ?」



 待て
 今の話は、なんだ?
 まさかいよっち先輩のことか?
 だとしたら待て、何だその「いやらしいこと」ってのは!?
 人面犬ってのは半井さん達のことだよな? どういうことだ!? 身に覚えがないんだけど!?


 
339 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 6/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:17:08.29 ID:Qm5h1XQro
 

「独りでもあれだけやりたい放題やってたわよねえ
 知らないとでも言うの? いい加減になさいよこの変態!
 アンタが私の体を、その、アンタのいやらしい触手で、私のおし、その、……体を撫で回したことも知らないって言うの!?
 ヌルヌルのベチョベチョにするって言い放って、エロ……くっ……、あっ、や、やらしいことしようと迫ってきたこともとぼける気ね!?」

「待って本当に身に覚えがないんだけど!?」



 OK、誓っていい
 かつてセクハラ大魔王などと不名誉な仇名で呼ばれていた暗黒時代ならともかく
 「七つ星」を経て学校町へやって来た俺は、誓ってそんな罰当たりなことはしていない
 ついでに言っておくとセクハラ大魔王な七尾時代だって、セクハラに及んだのは年上の女性職員だけだ!
 というわけで俺ではない!!
 完全に人違いじゃねえか!? とばっちりもいいとこだよ!!
 とにかくこの女の子にそこんとこを理解してもらわないと



「そう、しらばっくれる気ね。いいわ、いいわよ。そっちがその気なら――!!」



 物凄い圧が、俺を叩きつけた

 一瞬、体が吹っ飛んだと錯覚するほどの圧だ

 ヤバい、呼吸ができない

 落ち着け俺、向こうはちょっと話が通じない感じだ

 こういうときは一旦逃げないと危ない



「――こっちにも考えがあるわ
 あくまでシラを切り続けるつもりなら
 本当のことを話したくなるまで、体 の 端 か ら 灰 に し て い っ て や る わ 」



 逃げ切れるのか、これ

 体が、動かない

 金縛りに、掛かったかのように

 完全に、“波”の圧に、射竦められた

 ヤバイ

 逃げないと、この女の子に、殺される



「逃げられるなんて思っちゃいないでしょうね?
 言っておくけど、前の私と同じだなんて思ってたら、死ぬほど後悔させてやるわよ」



 足が動かない


 目を見張る


 動けないならせめて、この状況を、どうにかして凌がねえと



「アアヴ・エ・ファイ、ヴァスヴォーシュ・アント          (炎の鎖、私の戦意)
 アルヴィル・ノッド・アルヴィル――          (強く、より強く――)」




 
340 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 7/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:17:59.31 ID:Qm5h1XQro
 

 やべえぞ呪文まで唱え始めた

 これは脅しでも何でもない

 証拠に、女の子の杖を起点に、“波”の圧が増している


 このままだと


 やられる


 殺される


 どうする、どうする俺!?


 “黒棒”や“尾”では歯が立たない、ならどうする!?


 どうする!?




「――って、待って!!」



 ほぼ、思考停止しかかっていた俺の頭に

 聞き慣れた声が、飛び込んできた



「待って!! ありすちゃん!! 駄目!!」



 思わず

 その声の主を、目で追った

 その子は東区の高校の制服を着ていた



「あり……ソレイユちゃん! 駄目! 待って!!」



 その女の子は、俺に杖を向けていた子と俺との間に割って入った

 コスプレの子の前に、立ちはだかるかのように両手を広げた

 コスプレの子から、俺を守るように



「千十ちゃん!?」
「千十ぉ!!??」



 俺と、コスプレの子の声がほぼ重なった
 間に入ったのは千十ちゃんだった

 でも、なんで千十ちゃんがここに?






 
341 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 8/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:19:00.53 ID:Qm5h1XQro
 

「ちょっ、千十!! 何やってるのよ、こっちに来て!!」
「待ってあり、……ソレイユちゃん、脩寿くんと何かあったの!?」
「千十!! ソイツから離れて!! ソイツが変態クマよ!! 早くこっち来て!!」
「変態クマって……」



 千十ちゃんは言い掛け、振り返った
 俺と目が合う

 心臓が、凍り付きそうになった

 千十ちゃんの顔は、蒼ざめていた
 感覚が押し拡がった今、千十ちゃんの感情が突き刺さるほどこちらに伝わってきた

 千十ちゃんが抱いているのは、強い恐怖だ

 彼女は、俺から目を背け

 コスプレの子へと向き直った



「変態クマって、前に話してた痴漢してくるクマのぬいぐるみのこと?」
「そうよ! だから、早くソイツから離れて!!」



 息が、詰まりそうになった



「違うよ、脩寿くんじゃないよ! そんなことをするような人じゃないよ!!」



 千十ちゃんの言葉に
 一拍遅れて、理解が追いついた
 彼女は、俺を庇っているのか



「そうだよね脩寿くん、そんなことやってないよね」



 指が、手が、僅かに震える
 動ける、もう動ける



 千十ちゃんは俺の方を向いていた
 その顔にはまだ恐怖が刻まれているし
 今にも泣き出しそうな表情だった



 俺は、千十ちゃんに応えた



「本当に身に覚えがないんだ、俺はそんなこと、やってない」
「ほら! 脩寿くんじゃないよ! だから……ソレイユちゃん、お願い。杖を下ろして?」



 ソレイユ、そう呼ばれたコスプレの子を見た

 彼女は千十ちゃんに困惑に満ちた眼差しを向けていたが



 やがて、ゆっくりと、俺に突き付けていた杖を、下ろした



 
342 :次世代ーズ 32 「エンカウント side.A」 9/9 ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:19:39.21 ID:Qm5h1XQro
 

「千十、とにかくこっちに来て。早く」



 千十ちゃんは躊躇しているのか、再び俺に顔を向けた



 喉がカラカラだ
 心臓が早鐘のように収縮を繰り返してる



「俺は大丈夫、千十ちゃん。ありがと」



 それだけを搾り出した



 千十ちゃんは俺の方を見たまま二、三歩踏み出した
 それより先にコスプレの子が早足で千十ちゃんに歩み寄った
 依然、俺を睨みつけている



「ソレイユちゃん」
「ダメ、まだ信用できない」



 杖の代わりに取り出したのは携帯だった

 俺は口を強く結んだ
 そうでもしないと、全身から力が抜け落ちそうだったからだ

 コスプレの子はどこかに電話していた



「メリー」



 彼女は俺を睨んだまま
 それだけを通話先へ告げると



 千十ちゃんごと消失した



「は、あ」



 今度こそ本当に、力が抜けた
 辛うじて踏みとどまった

 完全にあの子の怒気に圧されていた



 助かった
 千十ちゃんに、助けられた



 それを理解するのに、どれくらいの時間が経ったろう



 俺はその場に坐りこんでしまった






□■□
343 :次世代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/02/06(水) 00:20:31.11 ID:Qm5h1XQro
 

 早渡脩寿
   炎が天敵
   直撃すると多分死ぬ
   あと毒にも弱い

 日向ありす=マジカル☆ソレイユ
   変態クマ絶対許さないガール
   今回ので気づく人は気づいたかもしれませんが、彼女はある単発リスペクトなキャラです

 遠倉千十
   ありすとは同級生
   スゴい怖がり、契約者同士や都市伝説戦がとても怖い





 以上が side.A
 次回、早ければ今週末に side.B やります
 続きます

 
344 :代ーズ ◆John//PW6. [sage]:2019/02/11(月) 16:04:48.68 ID:MdjjXc/co
今週末無理くさい……
345 : ◆John//PW6. [sage]:2019/02/11(月) 17:06:01.51 ID:P44/tLNXo
そういや週明けてたや……orz
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/13(水) 19:17:28.27 ID:ruEfGyeuo
ええんやで
ゆっくりいこうや
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/02/13(水) 20:31:52.87 ID:c1ZFq1pF0
まあこのスレは俺以外にプロの読者がいないだろうからな…(ズの人乙)
感想はまとめてぶん投げるのが趣味なんだぜ

昔のネタを発見して読み返してる内に懐かしさで死にそうになった
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/22(金) 20:23:23.96 ID:sNS5MRPlo
今更ですがまた道南で地震発生と聞いて
皆様方は御無事だろうか……
349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/30(土) 11:13:40.23 ID:RpW6QSvH0
今年こそはとエイプリルフールに合わせて組織爆破予告のカウントダウンタイマーを作成しようとしたが
技術力不足でちょっと無理そうだな
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/05/26(日) 03:08:52.76 ID:3lR00lVH0
 
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします :2019/05/26(日) 03:09:47.01 ID:3lR00lVH0
 
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 11:04:09.40 ID:sNQMiIR/o
十数年前にもう終わったと思っていたけどまさかこのスレが生き残っていたとは……
353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/05/28(火) 22:16:03.59 ID:ewLw4CDmo
5,6年くらい前からずっと過疎ってるけど
一昨年はちょっとだけ盛り上がってたけど
ゆっくりしてってね!
354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/06/15(土) 20:59:29.51 ID:WijZcjeN0
「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」スレ、10周年おめでとうございます


「組織」

A-No.   花子
B-No.   ギザ十
C-No.   花子
D-No.   花子
E-No.   八尺様
F-No.   ハーメルン
G-No.   花子
H-No.   花子
I-No.   バール
J-No.   彷徨うみさき
K-No.   はないちもんめ
L-No.   闇子
M-No.   バール、次世代ーズ
N-No.   犬神憑き
O-No.   占い師と少女
P-No.   次世代ーズ
Q-No.   ハンバーグ
R-No.   シャドーマン
S-No.   花子
T-No.   T
U-No.   彷徨うみさき
V-No.   バール
W-No.   魔法の銃弾
X-No.   花子
Y-No.   やる気ない
Z-No.   三面鏡
β-No.   シャドーマン
Δ-No.   DKG
ο-No.   プラモデル
π-No.   三面鏡
φ-No.   DKG
χ-No.   シャドーマン
Ω-No.   DKG
о-No.   鳥居
х-No.   シャドーマン
Я-No.   シャドーマン
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/07/16(火) 22:42:30.76 ID:ph3DDB2To
 
「はい!やって参りました!『サキュバスラジオ』第1回目の放送でっす!」
「パーソナリティはアタシ、しがないサキュバスが務めまーす」
「いや普段はこんなテンション高くないの!日のある内は弱いんだけど夜になると強くなるのだ!」
「というわけで今夜はガンガンやっていくぞ!」

「えーさて、このラジオはなんと今回が初放送なんです…が!」
「なんとなんと、始まる前からお便りが既に2通も届いてるわけなんですよ!」
「これはもう読むしかないでしょ!アタシすごく嬉しい!今までこんなにはしゃいだ事多分生まれて初めてかも!」

「じゃあ記念すべき1通目、読みますよ?読むからね?」
「しかも結構長いんだよね、これは気合入るね!」
「えー…っと、ラジオネーム『ハンバーグ大好き』さんからのお便りです」

「『こんにちは、ぼくは小学生です』 おお、小学生の男の子から!
 小さい子からのお便りですよ!!小さい子がこのラジオの事知ってるってのは嬉しいね!」

「えーっと、
 『親が共働きなので家に帰るといつも一人です
  ぼくはマンションに住んでますがとなりの部屋にはきれいなお姉さんがいます』
 …あー分かりましたよ、もう分かりました!ハンバーグ大好きくんはお姉さんの事が好きなんだね?
 それでこのお便りは恋愛相談ってわけね!アタシはそういうの得意だからね!任せといて!」

「で、続きは、と…
 『いつもお姉さんがご飯を作ってくれるので、ぼくはお姉さんのお家で夕ご飯を食べます
  お姉さんのお家はくさいです。何のにおいかお姉さんに聞いたらビールのにおいだよと教えてくれました
  でもお父さんもビールを飲みますがこんなにくさくないです』
 Oh…これは、小学生ならではの…無邪気な一言が乙女心をキズつけるやつですよ!
 ハンバーグ大好きくん!仮にお姉さんの事が臭かったとしても、本人にそれを言っちゃ駄目だからね!傷ついちゃうから!」

「『お姉さんは恋人をぼしゅう中だそうです。でもお姉さんは料理は出来てもそうじが出来ないし家の中がくさいです
  お姉さんは夜のお仕事をしているのでよく見るとお肌も荒れています。この前はあんまり見ないでって言われました
  ある日、お姉さんが実は私はサキュバスなんだよって教えてくれました』
 おっ!急になんか、サキュバスラジオっぽくなってきたね!お姉さんのカミングアウト!
 これはもしかして、ハンバーグ大好きくんの事を信頼できる人間だって、お姉さんは思ったのかな?
 普通はね、人間社会に潜り込んで生活してるサキュバスは自分がサキュバスですって言ったりしないからね
 住んでる環境とかにもよるけど、相当信頼できるこの人になら全部バレても大丈夫だって思える人にじゃないと、打ち明けないものだし
 でも小学生に打ち明けちゃうサキュバス…、これは不思議っちゃあ不思議だけどな……
 あとねー、臭いとかお肌が荒れてるとか、女の人に軽々しく言っちゃ駄目だからね!将来大人になった時に女の子に嫌われちゃうぞ?
 お姉さんに直接言うんだったら、『たまには掃除した方がいいと思う』とか、『掃除の出来るお姉さんは素敵だと思う』とか
 言い方をよく考えてから伝えようね!アタシとの約束だよ?
 それで、ええと、続きは…
 『ぼくはサキュバスだからくさいんじゃないかって思いました』
 関係ないよそれ!?サキュバスは臭くないよ!!むしろいい匂いするんだぞ!!なんでそんな酷い事言うの!?
 もう!ちょっとハンバーグ大好きくんはデリカシーが足りなさ過ぎ!お母さんにさ、『女の人にデリカシーが無いって言われた』って言って!
 女の子に言っちゃいけない事をね、お母さんに教えてもらいなさい!!
 君の事、クラスの女子から嫌われてんじゃないかって本気で心配になってきちゃうよ…」

 
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