都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達…… Part13

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82 :次世代ーズ 「気づいた」 1/5 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/06(木) 22:11:59.00 ID:w7DfirXHo
 

「お兄ちゃまたち気をつけて」


 突如背後に出現した「ピエロ」側の二人組に向けて
 正確にはこちらと彼ら二人を隔てるように生成された氷壁に向けて
 手鏡を構えながら、彼女、新宮ひかりは桐生院の兄弟に警戒を促した


「タートルネックをきてる人は、あたしと同じで現実を上書きする能力だよ
 スーツのふとっちょの方はちょっとむずかしいの
 知ろうとしたり見ようとしたら発動するタイプみたいなんだけど」

「知ろうとしたら発動するタイプ?」

「そうなの轟九お兄ちゃま」


 ひかりの説明は概ね正確だった
 廃工場にて初めて対峙した際、二人組について「ロンギヌスの槍」の能力で読み取っていた
 しかし同時に、彼らについて知り得たのはそこまでだった
 それ以上を読み取ろうとしたとき、「槍」の接続が“切断”された所為だ
 “切断”の原因は不明、恐らくスーツの方の能力であることは検討がつく
 それ故、彼女はそれ以上のリーディングを断念したのだ


「ひかりちゃん、何か他に手がかりは無いかな?
 あの二人組はひかりちゃんに何か言わなかった?」

「えっとね、真降お兄ちゃま
 さいしょにあったとき、あたしの能力がとても都合がわるいって言ってたの
 それから――ライダーのおじちゃまも、あたしの能力にカウンターを掛けるタイプって」

「ひかりちゃんの能力、カウンタータイプ、ということはつまり」

「認識されたら発動するタイプ、ってとこか?
 敵さんの視点で考えりゃ手の内が読まれるのは避けたいってわけか
 見知ったらカウンター……死んだり発狂する系、って言やあ『くねくね』か『夜刀神』の系統か」

「いえ、兄さん。先程から潮風の匂いが増している。海の怪異かもしれない」

「海か、なら『海難法師』かその類か?」


 周囲を油断なく警戒しつつ、真降と轟九の兄弟は思考を巡らせる
 だがそろそろ頃合いだ、二人組が何時仕掛けてきてもおかしくは無い


「真降、俺たちの周囲に氷柱を作ってくれ、それも頑丈な奴な」


 前方から目を離さず、轟九は弟にそれだけを告げる
 氷の壁越しに黒い影が上へ上へ昇っていくのが確認できた


「ああぁぁぁぁぁぁぁ」


 氷壁の頂上より姿を現したのはスーツの方だった
 先程の微笑みとは異質な、無数の皺が刻まれた笑顔だ
 裂けているのではないかと錯覚するほど口角が引き伸ばされている


「ひかひかりちゃん、んんいまそっちにいいいくからねぇぇぇ」


 だが氷壁の上から顔を出したのはスーツの方だけでは無かった
 彼と一緒によじ登ってきたのは、肉が焦げ、皮膚が焼け爛れた道化達だ
 なんということだ、先程の「火遊び」に巻き込まれた筈の「ピエロ」達ではないか
 彼らは焼死した筈では無かったというのか


「ひかりちゃんが俺をまってる、はやくはやく『はいれたはいれた』したいしたい」

「ウフ、ウフフ」「ニンゲン、イッパイ……」「オニク、オニク、うぇるだん、ばーべきゅー」



 
83 :次世代ーズ 「気づいた」 2/5 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/06(木) 22:12:38.00 ID:w7DfirXHo
 

『どうにもウチのが見苦しくて悪いね』


何処からともなく響くその声は、あのタートルネックの青年のものだ


『さて、君たちも君たちで随分と厄介そうだ
 正直、高級の馳走を前に僕も如何手を付けようか迷っていたよ
 こんな嬉しい状況は滅多に無いからね。そう、だから、慎重に正攻法で行くことにした』


 当然のことだが

 何の前触れもなく

 彼は、新宮ひかりの真正面に出現した


「ふぁいやー!!!!」


 ひかりが「アルキメデスの鏡」を発動したのは彼の出現と同時だ
 噴出する爆炎が「アブラカダブラ」の契約者を飲み込み、後方の氷壁を一気に蒸発させる


 だが


 「カダブラ」は健在だ、左手を翳して炎を禦いでいるのが辛うじて視認できる
 炎の中に居る彼の顔が、悪意に歪んだ


「まずい!」


 真降が警告を発したとき、ひかりが片手で「槍」を握りしめていた


「――そに害なす者との空間を『虚無』に書き換えよ」


 爆炎の噴出音にかき消されるかのような小さな声で、ひかりは唱える
 その直後、爆炎を引き裂くように金色の矢が乱射された
 機関銃めいて撃ち込まれる幾多の矢は、正確にひかりと真降へ向けられていた

 だが全ての矢はひかりが創造した「虚無」へと飲み込まれていく

 金色の矢には見覚えがある、真降はそう思い起こした
 先刻から東区の上空を飛翔し、次々と「ピエロ」達を射抜いていった、あの矢だ


「なるほど、『矢』を“奪った”のか」


 低い、吐き捨てるような調子でひかりが呟く


「“奪った”とは聞こえが悪い、ただ“拝借”しただけさ」


 遂に爆炎の壁から「カダブラ」の青年が姿を現した

 その瞬間、「カダブラ」の横面が太い氷柱によって殴り飛ばされた


「させるかっ! 阿呆っっ!!」


 桐生院轟九の一撃だ
 弟が生成した氷柱をへし折り、それで殴り付けたのだ

 のだが

 「カダブラ」はその直後に“転移”したようだ
 ひかりと兄弟にやや距離を置く位置に再出現する


 
84 :次世代ーズ 「気づいた」 3/5 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/06(木) 22:13:24.17 ID:w7DfirXHo
 

「『カダブラ』のぉぉぉぉぉぉ!! 俺の獲物にぃぃぃ手を出すなぁぁぁぁぁ!!!」


 声が割り込む
 「海からやってくるモノ」の契約者だ
 今や完全に消滅した氷の壁から民家の壁へと
 四つん這いの体で張り付き、不快害虫のように蠢いていた


「ひかりちゃんに『はいれた』するのは俺の仕事だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 更にはゾンビさながらの外見をした「ピエロ」達が
 緩慢な動作ではあるが徐々にひかりと兄弟へ向かっている
 先程の「アルキメデス」により下半身を完全に炭化させられた数名は
 地面を這いながらもこちらへ詰めてくる


「兄さん、ひかりちゃんを!」


 真降は瞬時に氷の剣を生成し「カダブラ」に対し一気に距離を詰める
 振るい上げた剣の間合いはタートネックの襲撃者を捉えた


「人を[ピーーー]したことはあるかい?」


 剣の筋を、しかし「カダブラ」は紙一重で回避する
 つい先程は轟九の膂力で顎を正確に殴り飛ばされた筈だ
 しかし回避の足捌きだけ見てもまるで効いている様子が無いのは何故だ


「[ピーーー]しの味を楽しんでみたくは無いか? 君のことだ、いまに 病 み つ き に な る 」


 「カダブラ」の足が、不意に鈍った
 突きを仕掛けるなら今だ、だがこれは――
 罠の匂いを察知し、真降は寸前で踏みとどまる


「惜しい」


 「カダブラ」の、最早隠すことのない悪意に満ちた声を聞いた
 だが、真降は彼の顔を見てはいなかった

 剣の切っ先は寸前で止められている
 そして、それは「カダブラ」にでは無く、真降と「カダブラ」の間に出現した女性に向けられていた

 スーツ姿のOLだ
 若い女性だ、様子から見て先程仕事が終わって、これから帰るといった体のOLだった
 先程まではこの場に居なかった、というより、そもそもこの場でひかりと落ち合ったとき、他の人の姿は無かった筈だ


「え?」


 呆気に取られた、正しくそのような表情で、彼女はそれだけを口にしていた
 彼女は何処からやって来たのか、何故この場に出現したのか


「君がすべきだったことは、寸止めじゃあ無い」


 それはいきなりだった
 OLの胸から、鋭い氷柱のような物が飛び出した


「[ピーーー]しを味わうことだ、OK?」

「え、へ?」


 状況が未だよく分かっていないスーツの女性は
 やがて、自分のシャツに鮮やかな赤が拡がっていくのに気づいたようだ

 
85 :次世代ーズ 「気づいた」 4/5 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/06(木) 22:14:20.24 ID:w7DfirXHo
 

 「カダブラ」は満足そうに薄く嗤うと、まるでゴミを放り捨てるかのように腕を振るう
 真横から響く、堅い物が砕ける音、真降が眼だけを動かして確認する
 先程の女性だ、「カダブラ」に投げ捨てられ、民家のブロック塀に激突したのだ
 先程の破砕音はブロックが破壊された音だ、女性は地面に崩れ、激しく痙攣していた

 その瞬間、嗤う「カダブラ」の体が大きく、ブレた
 彼の立っていた箇所から、アスファルトを貫くように鋭い氷柱が生成されている
 だが「カダブラ」は寸前で回避したのか、大した怪我は無く、その真横に再出現していた


「おやおや、怒ったかな? 氷使い」


 相変わらぬ嘲りを顔面に貼り付かせ、彼は真降と対峙する
 真降は飽くまで平時と変わらぬ冷静な眼差しのままだ


「どうした『契約者』、早く僕を[ピーーー]しに来なよ
 ああ、安心しなって、『肉の楯』なら幾らでも代わりがあるんだから
 それとも、年増は好みでは無いかな? 確か、君は中央高校の子だったかい?
 ブレザーの子は良いものだね、どうせ[ピーーー]なら、君の見知った顔の方が嬉しいかな?」


 「カブラダ」は愉快そうに顔を歪めている
 彼の手にはいつの間にか、氷の剣が握られていた
 「アブラカダブラ」の能力により生成されたものだろうか

 真降は思案する
 ひかりちゃんが話したように彼の能力が事象改竄系だったとしても、だ
 やろうと思えば彼は直接対峙する間でも無く、僕らを[ピーーー]れた筈だ
 であれば、何故それをしない? しないのでは無く、出来ないのか?
 つまり彼の能力は万能では無い?

 真降は能力を発動した
 アスファルトを突き破るにように次々と氷柱を生成
 全て「カダブラ」狙いだ


 眼前の敵は哄笑を響かせながら回避行動を開始した


「真降お兄ちゃま! あの女の人は生きてるよ!」

「危ねぇひかりちゃん! 今は駄目だ!!」


 未だに痙攣を繰り返す女性に駆け寄ろうとしたひかりを、轟九はすんでの所で制止した

 真降が「カダブラ」に踏み込んだのと同時に、「ピエロ」が急に活性化した
 アクロバティックに轟九とひかりを襲い出した「ピエロ」共を
 轟九がほぼ独りで捌いていたのだ


「こんな閉所でさっきみたく『アルキメデス』をぶっ放すワケにもいかねえ――しなあっ!!」

「チョ、待ッ、オボァァァァァァァ……」

「ドウセ死ヌナラ、きれーナオ姉サンニ[ピーーー]サレタカッ、オゴァァァァァ……」

「ナンデコンナイケメン野郎にけつヲ叩カレナキャ、アゴォォォォォォォォ……」


 へし折った新たな氷柱で「ピエロ」共を次々と殴り飛ばしていく
 威勢の良かった「ピエロ」も彼の暴力を侮っていたようだ
 そのお陰で場の道化はほぼ蹴散らされていた


「真降! 油断すん――」


 不意に、先程から漂っていた潮風の匂いが、一際強まった

 轟九は言い掛け、突如大地を蹴る
 スーツの中年男が、ひかりの直ぐ傍に出現していたからだ

 逃がしはしない、「海から」の契約者の腹部に、轟九の蹴りがめり込む

 
86 :次世代ーズ 「気づいた」 4/5 ◆John//PW6. [sage]:2017/07/06(木) 22:15:02.67 ID:w7DfirXHo
 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 奇声を上げた「海から」の契約者の体が面白い程に吹っ飛ぶ
 彼はアスファルトの上を転げ回りながら、何とか四つん這いになってこちらを向いた

 その顔面に、轟九は一切攻撃を加えなかった
 だが、まるでギャグ漫画のように顔の中心がめり込んでいるのはどういうわけだ?
 「海から」の契約者は先程から奇声を発しているが、声を上げる口は最早彼の顔面には無かった

 いや、単にめり込んでいるのでは無い
 まるで顔の中心へと顔面の皮膚が呑まれるかのように、表皮が蠢いている


「うううううぅぅぅぅぅうううううぅぅぅぅぅううううぅぅうっぅぅぅぅぅううぅぅぅううううううぅぅぅぅぅぅぅうううぅぅぅっぅぅうううう
 ひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃんひかりちゃひかひかひか」


 それは、大地を伝って、それを聞く者の腹の底を揺さぶるような、低い声だった


「ひかりちゃん、あれを見ちゃ駄目な!!」


 「海から」の契約者を睨み付けたまま、手に持っていた氷柱を打ち捨てると
 新たな氷柱をへし折り、肩で担ぐような体勢を取った

 大きく踏み込み、氷柱を投擲する
 切っ先を真っ直ぐ、「海から」の顔面に向けて


「ぼごぉぉぉぉっっ!!!」


 寸分違わぬ正確さで、氷柱は彼の顔面へ突き刺さった
 いや、突き刺さっただけでは無い、それは完全に頭部を貫通していた


(思った通りだな)


 轟九は心の中で舌打ちする
 蹴りを叩き込んだ瞬間、彼は直感めいた違和を覚えていたが
 氷柱の貫通で勘が確信に変わった


(手応えが完全に人間のそれじゃあ無え――!!)


「うふ、うふふふふ、うふふうふふ、そうか、そうかそうか、そういうことか
 とうけつののうりょく、きょうりょくなみつど、οなんばー」


 氷柱が頭部を貫通してなお、スーツの男は低い言葉を発していた
 四つん這いのまま、今や電柱を昇り切って頂上からこちらを見下ろしている


「οナンバー?」


 「海から」の声に反応したのはタートルネックの青年だった
 「カダブラ」の双眸に、先程までは無かった冷たい光が混じる


「そうか、なるほど。するとつまり君は、あれの子息か」


 回避を止め、彼はおもむろに桐生院真降へと向き直った


「真降!! こいつら相手に手加減は無しだ!!」


 「カダブラ」の呟きを掻き消す勢いで轟九の怒号が飛ぶ

 真降は「カダブラ」に対し、構えを取った

 その手に握られていたのは――彼の「七星剣」だ




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