にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」

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130 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/11/08(水) 12:25:46.56 ID:DubOfsvNo
待ってる
131 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/10(日) 13:18:52.70 ID:1rxnywWL0
これもしかして、夏季限定で創るやつではないか…?
132 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/25(水) 19:05:02.48 ID:DAsfPPyq0
もう夏真っ盛りだな
133 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 22:27:01.33 ID:EUzcFC930


◇先生のその一言は、3人を竦み上がらせました


「少しだけ、昔話をしようか」


◇笹原先生が長い髪を掻き分けて海辺を見つめながら呟きました


「もう十数年も前になるな…私と、深山、山内、それに山田の学生時代」

「いやぁ、本当懐かしいねー…そう言われると歳ってのを実感するよ」

「山田、茶化すな…続きを言うぞ?私達はある部活動のメンバーだった



絵里「部活動、ですか…」



◇夜が近い、それもこんな【水辺】に居るのです

◇絵里ちゃんの顔色が優れないように見えるのはきっと気のせいじゃない






「私達が所属していた部…今はもう無い【オカルト研究部】だ」






◇ザザァン、と先生の声に「そうだね」と同調するかのように波が鳴った


「私達ね?凄く仲のいい5人組だったの…私と深山さんがじゃれ合って」

「ふふ、そうだったなぁ…笹原が呆れながら笑って、山田もからかって」

「ああ、いつでも部活動という名目で遊びに行ったっけなぁ…」





真姫「5人…?」



◇真姫ちゃんが当然のように怪訝な顔をします

◇此処にいる先生方4人が音ノ木坂のOBで同じ部活動なのはわかります


◇ですが、話題に出てくる5人の内の一人がこの場には居ません

◇話の脈絡、この集まりからして、何らかの関連があるのは明白なのに





「……」

「絢瀬、お前は…特に知っていると思うが、部活動設立の最低限の校則」


◇山内先生が目を伏せ、顔を曇らせ…笹原先生が絵里ちゃんに問いました




「部の設立には最低でも5人の申請が居る…これが"音ノ木坂の校則"だ」


絵里「…は、はい…それはご存知ですが」

134 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 22:45:51.62 ID:EUzcFC930


◇知っていて当然と言えば、当然です




◇私達、μ'sがまだ9人揃う前…まだ絵里ちゃんが自分にも厳しかった頃


◇あの頃は、部の申請の件で一悶着があったのですから




「私達の部はお世辞にも…なんだ、その、マイナーって奴でな」

「そりゃオカルト研究なんて、年頃の女の子はしないでしょ普通」



◇深山先生が後ろ頭を掻きながら言葉を紡いでいく



「その普通じゃない変わり者が集まりウチの部は何やかんやで存続した」



「…ある年の夏に、ね?思い出作りをしようって言いだした子が居るの」

「全員でお小遣い出し合って、西瓜を買ってな…水着何着るだとか」

「あの年の夏は本当に輝いてたよ、青春真っ盛りってね!」

「んで、あたしも4人と一緒に海水浴に行ったのさ」






「…でも、それが私達が集まれる最後の夏になってしまったの」







◇…夕陽が、沈んだ

◇太陽はもう見えない、だけど水平線だけはまだ光が…"残光"があった



◇海洋の色と夜が混ざり合っていく


◇まだ辛うじて暖色の赤紫に暗色の絵の具を足して混ぜていく感じ






「あたしら、4人はその年に大事な仲間を一人失ったのさ…」


◇山田先生がジャージの上ポケットに両腕を入れて彼方を見つめた




「あの子は、本当に良い子だったの……今でも信じられないわ
  波に攫われて、そのまま、本当にそのまま死んでしまったなんて」



◇山内先生の目尻から涙が零れ落ちた、声には感情が籠っていて

◇あれは、きっと…夢か何かだったんだと、そう言いたそうでした

135 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 22:56:37.23 ID:EUzcFC930


絵里「っ!も、申し訳ありません…」



「あー、良いんだ、こっちから話題振ったんだから謝る事ないって」


「…ここに」





◇笹原先生は一枚の古い写真を取り出しました




「ここに、アイツと私達4人で撮った記念写真があるんだ」

「丁度、近くに居た人にシャッター切ってもらうの頼んでね」




「絢瀬、矢澤、そして西木野…お前達に、まずこの写真を見て欲しい」









◇3人は、先生の手に握られていた一枚の写真を見ました















絵里「きゃああああああああああああああぁぁぁっっ!!!」ドサッ!!







◇最初に絶叫を上げたのは絵里ちゃんで、"ソレ"を覗き込んだ瞬間に
 飛び退く様に砂浜に尻餅をつきました…



◇ワンテンポ遅れてにこちゃんと真姫ちゃんも…




にこ「そそそ、その、その女の人は…」ガチガチ

真姫「ぃ、ぃゃ…」ガタガタ






「……そうだ、お前達をこの1ヶ月間苦しめて来た"お化け"だ」


136 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2018/08/31(金) 23:47:29.79 ID:EUzcFC930


真姫「いやぁあああああああ!ヤダヤダぁーーっ!」

凛「ま、真姫ちゃん!落ち着いて!大丈夫だから!」ガシッ

真姫「放してえぇぇ――――っ!!」



◇いつもクールで冷静な真姫ちゃんからは想像も着かない取り乱しで

◇それにいの一番に反応できたのは凛ちゃんでした


◇泣きじゃくる子供のように暴れる真姫ちゃんの腕を掴んで
  宥めようとするのに、海未ちゃんと穂乃果ちゃんも協力して


◇一方で、肩を震わせながらも辛うじて平然を保つ絵里ちゃんに希ちゃん


◇腰が抜けたようにペタリと、座り込んだにこちゃんをことりちゃんが
 それぞれ駆け寄っていきました…

◇かくいう私自身もにこちゃんの肩を持ち、立ち上がるのを手助けします



「お、落ち着いて!大丈夫だから!今日は3人を助ける為に来たの!」



◇山内先生の言葉が耳に入った3人は幾分かは落ち着きを取り戻します



◇自分達は得体の知れない恐怖から解放されるのだと

◇その事実が平常心を呼び戻したのです



真姫「ほ、本当なんですか…!?本当に私達呪い殺されたりしないの!」


◇途中から先生への敬語も忘れて問い詰めるように叫ぶ辺り
 この一か月、如何に精神的に擦り切れて来たかがよく分かります



「あ、ああ…ってか呪い殺すってお前なぁ」

「…まぁ、知らん人からしたらそれが普通なんだよ、うん
         アタシだってそんな現象と初遭遇したらそう思う」




真姫「…?」




「あー、何が何だか分からないという顔だな、私達オカルト研究部はな」


「仲が良かったあの子を失った事で私達はずっと鬱屈としてたの…」


「そそ、それで…私達はやったんだよなぁ」


「ああ、アタシ等もまさか本当にできるとは思っちゃいなかった…」



◇…先生方の誰が言ったのかは、覚えていません…でも聞き取れました





     『死んだ人間を現世に呼び出すなんて…』
137 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/23(日) 22:42:57.93 ID:PkUGU6/4o
もう更新しないの?
138 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/26(水) 20:01:15.39 ID:4bKVvDQ6O
来年の夏まで待て
139 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/03/03(日) 14:13:01.09 ID:1jegZSVZo
保守
140 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/31(土) 21:11:22.30 ID:9ARcnktu0
――――
―――
――







      ある日、突然に


      ある日、何の前触れもなく


      ある日、唐突過ぎて理解できない程に








   大切な人を亡くしてしまったら、あなたは何を想うだろうか


   かけがえの無いものが欠けて、心にもぽっかりと穴が開いて


   そんな喪失感を埋められるのなら、取り戻せるのだとしたら






――
―――
――――



「昔から日本に限った話じゃないけど何処の国にもあるんだよ」


◇山田先生が誰かの呟きに続く様に切り出し始めて深山先生も頷いて…


「口寄せとか、言霊だとかお前達の世代だとあんまり聞かないか」



「現世の人が一日だけでもいいからあの人にもう一度逢いたい」

「お盆に一日だけ遊びに来てくれるって迷信も聞いたりするよね?」


◇笹原先生も山内先生も俯いて、声を紡ぎます



「夏休みに部活仲間でワイワイやるのが何よりも好きだったよ
  深山も山内も笹原も、亡くなったあの子もその気持ちは同じだった」



◇先生の声は震えていて、…私にも少しだけ気持ちが分かる気がしました

◇μ'sの皆と居られる日々がどれだけ大事か




◇そしてそんな当たり前の日常がある日、崩れ去ったら



◇…いつも隣で一緒に笑ったり泣いてくれる凛ちゃんがいなくなったら

◇自分がもしその立場だったら、で考えたら胸がきゅって締め付けられて

◇その苦しさから実質的な痛みは無いのに、痛くて涙が出そうで…
141 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/31(土) 21:16:27.66 ID:9ARcnktu0


「もう会えないっていうのが苦しくて、4人ともずっと未練を持ったわ」



「ははっ、笑っちまうだろう?
  現世で生きてる奴が死者に未練を持つってな、普通は逆だろうに…」


「…山田が茶化した様に私自身滑稽だと思えるくらい認めたくなかった」

「それでオカルト研究部の総力を以て馬鹿な真似をしたってワケ」




希「…先生達の大切な人を取り戻す儀式、ですか?」




「そういうこと、自分達が自由帳に書いた妄想の魔法陣を浜辺に描いて」
「なんかそれっぽい道具をその辺のスーパーでお小遣い出して買って」
「みんなで、手を繋いで陣の中でお祈りなんかしたわね」
「ああ、あたし等が学生時代に流行ったコックリさんの真似事みたいに」



「現実逃避みたいな物だったよ、大事な人を失うと半身裂かれた気分で」

「ひょっとしたらあれは猛暑日に暑さで見てた悪夢だったんじゃないか」





「そう願ってやってたらな、…"出てきた"んだよ」





◇ゾワリ、空気が変わった気がした

◇彼岸花の色と同じ葉をつけた樹々を見かけるようになった今日この頃

◇まだ微かに残る残暑の熱が一気に下がった様に思えたのは



◇…私の気のせいじゃない



◇この一連の騒動の当事者である真姫ちゃん達は震えて

◇他の皆も、微動だにせず先生方の話に耳を傾けています

◇かくいう私も、唾を飲み込みました





「この世には科学とかそういうもんじゃ説明つかない現象が存在する」

「脳死状態や心肺停止回復の見込みが無い
  そう判断された植物人間が元気になり医者を驚かせたケースもある」

「同列に扱って良いか判断に困るけど人間の理解を越えた現象が起きた」



「強い風が吹いて、思わず目を閉じちゃって
       次に目を開けたら――――――死んだ筈の子が居た」



◇顔色は赤みなんて無くて、半透明で脚も膝から下がスゥーって消えてる

◇大昔の日本人の一体誰が歴史で最初に想像して世に言い広めたのやら

◇音に聞く通りの特徴をそのままの、お化けが出た、先生達はそう言った
142 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/31(土) 21:52:04.69 ID:9ARcnktu0


「最初あたし等もマジにびびったよ、死んだ友達が化けて出たんだ」

「丁度そこの3人と同じような反応してたな、特に笹原」

「お、おい!深山ぁ!」


「ふふっ、今思い出してもあの時の京子ちゃん可愛かったわよ」

「内山までやめろ!それは忘れろ!!」



海未「あ、あの…先生?」



「うっ、いかんいかん話がまた脱線しかけたな」


「じゃあ話戻すけどさ、微動だにしないあの子に声を掛けたんだ」

「山田が勇気を振り絞って声を掛けてもあの子は何も言わない…いや」



希「喋れないんですね?」



◇先生達は希ちゃんの言葉に無言で頷いていた



「死人に口なしとはよく言った物だけど、それはマジだったんだなぁ」

「…本来の意味とはちょっと違うと思いますけどね」


「一般的なお化けのイメージが生きてる人を妬ましく思って
     相手を呪い殺してしまうなんてものかもしれないけどね」


「あぁ、それは誤解だった」


「お化けも地縛霊や背後霊、…『守護霊』って種類があるの知ってる?」


「あの晩から儀式をした私達以外にはあの子の姿は見えなくて」

「授業中も雨上がりのグラウンドにできた水溜りから見守ってくれてた」




「私達4人には視えてるのに、仲良かった他の子には全く、ね」



「彼女がどうして水と関わりがある場所に現れるのかは分からない
  死因が溺死だったからなのか、はたまた不浄霊が渇きを潤したり
 三途の川を求めて無意識で水気のある場所を目指していると言うのか」


「科学じゃ解明できない事なんだから
    こんな憶測の域でしかない理なんて述べるだけ無意味よね」



「ずっと一緒に居て分かったことは、水面に映った彼女の面影が
   いつも何処か心配そうに私達を見ていた時と同じだった事」


「そして事故に遭いそうになった時に
   超能力だか妖術だか何だか知らないが助けてくれた事だけだ」


「貴女達、ここ一月の間を振り返ってどう?彼女が現れるタイミングは」


◇心当たりはあるでしょう?内山先生が確認を取るように3人に尋ねた
143 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/08/31(土) 22:40:56.31 ID:9ARcnktu0


真姫「…あります」


真姫「凛や穂乃果は覚えてるでしょ、私が交通事故に遭いそうだった日」


穂乃果「あぁ〜、あったね!通学路の十字路を大型トラックが横切った」

凛「にこちゃんがお腹壊すくらい梨を食べてた日だから覚えてるにゃ」



にこ「アンタねぇ…どういう覚え方よ」





真姫「後ろ首に雨水が落ちてきて、最初は単に不運が重なったと思って」


◇段々、真姫ちゃんは後になる方につれて声が小さくなっていきました



真姫「今思えばあの時からだったんだな、って考える様になりました」





「先入観や勝手なイメージ、固定概念があると人は真実を見誤るんだ
  あたし等が最初、あの世から呼び出しちまった時に大騒ぎした様に」


「俗にいう守護霊で、実は危険から守るためにずっと傍に立ってくれて
   見守ってくれていた、そんなの何も知らない人に分かる訳がない」


「ええ、なんせ彼女は言葉を発せないのだから
       誤解を解くも何もできる筈が無かった」


「多分、絢瀬も矢澤も西木野も3人が気が付いてないだけでこの数日
  実は近くまで迫っていた危険から3人を遠ざけようとしていたんだ
 ただその事実を知る者や代弁する人物がいなかっただけで」





◇そこまで言うと、先生達は一区切りと言わんばかりに一呼吸置いて

◇複雑そうな顔でお互いの顔を覗いていた真姫ちゃん達に歩み寄って






「意図せずに起きた、偶然の発見だったとはいえこの儀式を創った…」

「ごめんな、私達が結果的にお前達を怖がらせちゃって」

「…代弁者というには烏滸がましいだろうが、彼女に悪気は無かった」

「代わりに謝らせて、ごめんなさいね」



◇思い思いに4人が…いえ、5人が怖がらせてごめんと頭を下げました


にこ「それは…その…」
絵里「…頭をあげてください」
真姫「ぁ、…っ」



「……お前達をそろそろ解放してやらないとな」

「ええ、長く憑かせてしまったのですもの…」
144 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage saga]:2019/09/01(日) 00:05:01.43 ID:YGNtNCsU0


「星空、東條、用意してた物を」


凛「はいっ!」ゴソゴソ

希「わかりました」



◇今日、駅前で集合した時に凛ちゃんが持ってたフィットネスバック

◇そして希ちゃんが背負っていたリュックの中身が姿を現します




にこ「ろ、蝋燭ぅ〜?しかもこんな大量に…」




「あぁ、これだけあればできるな」









「…学生時代、私達があの子を呼び出して、もう一度逢って遊びたい
        そんな願いを叶えてから暫くして考えるようになった」


「こうして現世にとどめておくことは彼女にとって幸せなのか
       これは私達の勝手な我儘でしかないんじゃないか」


「結論から言うと、深山も山内も、山田も皆同じことを考えていて
  話し合い末にやっぱり本来あるべき場所に帰した方が彼女の為だと」


「今から、あたし等がやったのと同じことをするだけさ」



「夏の終わりにふさわしい、…送り火って奴をね」




◇私が調べた結果と先生達から前もって聞いた話

◇この日、3人に守護霊として憑いてる人を黄泉の国にお帰り頂く為に

◇凛ちゃん、希ちゃんには準備を手伝ってもらいました




◇希ちゃんに至っては『ウチも騒動の一端を担いだようなもんやから」と




◇送り火、東京都内でもお盆の時期に五山送り火

◇大文字焼きの方が通じるでしょうか?お盆に還って来た人を帰す行事




◇それとは反対で迎え火という物も存在するらしいです

◇屋上で初めに希ちゃん達がやったお呪いでも蝋燭はキーアイテムでした



「よし、ざっとこんなもんだろう」

145 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:48:23.15 ID:30BSrq270

◇沈み切った御日様の忘れ物も徐々に水平線の向こう側に溶けて

◇暗くなってしまった浜辺に残された光源は蝋燭の先端で揺蕩う送り火



◇私は、いえ…先生方を除く皆は眼を見開いたことでしょう



◇なぜならハッキリと"視"えるのですから


ことり「し、写真と全く同じ顔のっ!」
穂乃果「…信じられない」










「…よう!久しぶり元気してたか?アタシ等は見ての通り教師やってる」


◇深山先生が旧知の友人に、気さくに話しかけるように目の前の人に語る

◇返事は来ない




「こうして夏の終わりに君の顔を見るか、同窓会でも開いたようだよ」


◇笹原先生がもう何年も会わなかった友達と昔を懐かしむ様に声を掛ける

◇返事は来ない




「ぐすっ、私達は大人になって…でも貴女だけは変わらないんだよね…」


◇内山先生が幼い頃からの知己の親友との再会を尊ぶ様に涙ながらに話す

◇返事は来ない





「その、悪かったな…あの世で安らかに寝てたのに、起こしちまってさ」


◇山田先生が青春時代を共にした仲間の眼を真っすぐに見つめて一言謝る

◇返事は来ない



「あの晩、あたし達の独り善がりで現世に留まらせてさ…
   そんなの勝手過ぎだって気づいて送り火で返したのにな」


「アタシ等【オカルト研究部】が作った儀式が書かれたノート
    アンタが無理矢理起こされたりしないように燃やすべきだった」



◇山田先生と深山先生がそう言ってから笹原先生が言葉を続ける


「だが、未練がましく残してしまってな…燃やす事で一時とはいえ
    掛け替えの無い友との再開の事実さえも無かった事にしそうで」


「だな、…アタシ等は、今度こそ何の因果か首の皮一枚で
   掴み取れた5人の繋がりが断ち消えることを怖がっちまったのさ」
146 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:51:32.42 ID:30BSrq270


◇思い思いに先生方は言葉を紡いでいく

◇それでもこの世に呼び出されてしまった彼女は返事を返さない

◇表情一つ変えない、変えれない、何故なら―――





◇呼んだ人を厄災から護ろうとするだけの『守護霊』でしかないから




◇そこに居ると分かるのに

◇夢でも幻でもないとこの場に立つ私達自身が証人として立証できるのに




◇今にも消えてなくなってしまいそうな程に存在が希薄で

◇やはり、真夏の熱に浮かされて見た何かではないかと考えそうで…



◇人の夢と書いて儚い



◇先生の感情の篭った声もただ夜の海に消えて行くだけの音にすら思える

◇見ていて、こっちまで胸がきゅっと締め付けられる









「…見苦しい所をお見せしましたね」

「ああ、大の大人が君たち子供の前ですまないな」


◇目を真っ赤に泣きはらした内山先生と沈んだ顔の笹原先生が私達に言う



「山田、名残惜しいけどさ、そろそろ…」

「わかってるよ…」



◇先生達は浜辺に円形状に並べた沢山の蝋燭の中心に3人を手招きする

◇『BiBi』の3人が事の発端となった日と同じ様に手を陣の中心に立った



◇その周りを囲む様に四方に先生方が立って言葉を紡ぎ出す

◇おかえりください、おかえりください…



◇そう告げた


ヒュゥゥ…


◇生温かい風が一陣吹いて、蝋燭の火が1つ、また1つと消えて行く

◇それは温暖化の影響で温度の上がった海水が近いからなのか

◇それだけで説明するには物足りない、肌に纏わりつく様な生温かい風で
147 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:53:45.70 ID:30BSrq270

◇蝋燭の火が消えて行く度に、目の前にいる『守護霊さん』は輝く

◇光源が消えて浜辺は闇に包まれる筈なのに、明りが消える毎に

◇その光を取り込む様に彼女の身体がポゥっと光っていた



◇…不謹慎ながら私はそれを見て『綺麗だ』と思ってしまいました



◇蛍の光が一か所に集まって複数の輝きがそこにあるように

◇彼女の身体が光っていく様を






にこ「あっ…」



◇少し離れて見ている私達も『BiBi』の三人も、そして先生達も…

◇おそらく先生達は二度目になると思う



◇消えて逝く前の彼女の顔が、とても安らかで見る人を安心させる微笑み

◇見方によってはどうとも捉えられる表情だった





◇現世にこれ以上縛られることが無くなって安堵を浮かべているとも

◇今日まで自分をまだ思い続けてくれた友人に再開できた喜びとも

◇消える間際の最後まで3人を見守る様な優しさとも

◇帰してくれたことへの感謝の笑みとも

◇別れ際だからこその微笑とも








◇夜刻、幽霊が佇まう刻限に彼女は帰っていった








◇その人の心情は語られないのであれば当人にしかわからない


◇最期に何を想ってあの顔だったのかも全ては客観的に見た人が唯々…

◇自分の感性で判断した事を、きっとああだった、こうだったんだろって

◇相手の感情はこうだった、と決めつけているだけに過ぎない


◇いなくなってしまった以上、答え合わせなどできない、真相は謎のまま




◇かくして、私達μ'sが遭遇した一夏の、ちょっと不思議で

◇怖くて…でも何処か温かくて優しい不思議体験は幕を閉じたのでした…
148 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:54:49.01 ID:30BSrq270
―――――――
―――――
――――
――



にこ「…。」グデーッ

絵里「なぁに机に突っ伏してるのよ」テクテク…



にこ「…っさいわね、頭いい奴にはにこの気持ちなんてわかんないわよ」

真姫「もう!日頃からテスト対策で勉強しないからそうなるのよ」ハァ…





にこ「……。」


にこ「なんか、こうしてると嘘みたいよね」



絵里「そう、ね…あんなに怯えてたのに」

真姫「主語がないわよ、主語が」



にこ「バッカねぇ、わざわざ何の話か言うまでもないでしょーが」

真姫「わかった上で言ったのよ、テストで赤点取ったにこちゃん」



にこ「一々引っ掛かる言い方をするわね…ったく」

にこ「…。」


にこ「あんなに怖がってた幽霊騒動が、あんなあっさりとした幕閉じ」

にこ「呆気なかったっていうか、さ…なんて言えばいいのかしらね」


にこ「ぽっかり穴が開いたような日々がただ過ぎて行ったっていうか」

絵里「何、にこってばもう少し憑りつかれて欲しかったわけ?」


にこ「んなワケあるかいっ!!」ビシッ


にこ「…ただ、その、怖かったし!嫌な思いしたのは確かだけど…その」




にこ「…なんだかんだで私達、知らない所で護られてた、ワケでしょ」




にこ「向こうからしたら、純粋な親切心(?)で助けてくれて」

にこ「なのに、過剰に私達が怖がってお礼も言わないで、さ…」



絵里「…。」
真姫「…。」


にこ「消える間際にあんな顔、見ちゃったら」

にこ「なんだか…申し訳なくなったっていうか」

にこ「あんな終わり方で本当に良かったのかなってモヤモヤすんのよ」

149 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:56:32.84 ID:30BSrq270


真姫「…優しいのね、にこちゃんは」

にこ「にこは100%優しさと可愛らしさで出来てるんだから当たり前よ」



絵里「悔いはなかったのか、そう問われれば…無いとは言い切れないわ」

絵里「物事なんて終わってみれば案外そんなものなのかもしれない」


絵里「今回の事にしたってそうよ」


絵里「真相を知るまで、どうにもできないしどうする事もできなかった」

絵里「呪い殺されるとか、お化けに対する勝手なイメージや先入観」

絵里「そういうのに邪魔されて冷静な判断ができなかったのは確かだわ」




真姫「冷静であったとしてもそんなの判りっこないわよ、仕方なかった」

真姫「そう思うしかないじゃないの」



にこ「そうだけどさぁ…」






絵里「…私、お化け話とかそういうの大っ嫌いだけど」

絵里「少しだけ、ほんの少しだけお化けが好きになったかもしれないわ」


真姫「同意よ、私もなんでもかんでも先入観で捉えちゃダメって」

真姫「いい教訓になったんだもの」


にこ「…私もよ、世の中には良いお化けも居るって知れたんですもの」


にこ「そういう意味じゃインチキくさいお呪いを持って来た希に感謝よ」





にこ「…ねぇ、二人共提案があるんだけどさ」


真姫/絵里「「…?」」


―――
――



◇あの騒動からしばらくが経って、私達は再びこの海岸に来ています

◇今でも色々な事を思い出しますね



◇まず希ちゃんが先生方にこってり絞られた後に例の儀式に関する書

◇あれを燃やそうとした時に被害者の3人が止めに入った事…


◇最初は私も凛ちゃんも、ことりちゃんや穂乃果ちゃんだって驚いて

◇目を丸くしたまま海未ちゃんが「何故ですか?」と聞きました

150 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:57:20.84 ID:30BSrq270

◇曰く、それは先生達の大切な青春時代の思い出でもあって

◇失ってから生き返らせてでも会いたいと願った大切な学友との繋がりで

◇それを燃やしてしまったら、あの晩の砂浜で独り言ちる様に呟いた通り


◇奇跡的に掴み取れた先生達とあの守護霊さんの、断ち消えてしまうから


◇ちょっとした騒動にはなった、でも"最悪"の事態では無かったからと

◇誰かが間違って呼び出さない様に注意書きの一つでも挟んで

◇それから誰にも見られない場所にしまっておけばいいんじゃないか、と



◇最期に笑顔で消えて行ったあの女の人を見て、どういった心変わりか

◇『BiBi』の3人は先生達に

◇彼女と先生達自身の繋がりを燃やさないであげてくださいと言いました




◇…私は、わかったつもりなのかもしれません

◇にこちゃんでも、真姫ちゃんでも、絵里ちゃんでもないからその気持ち

◇それを完璧に理解して代弁することはできませんけど…



◇でも、なんとなく3人がそう頼んだ気持ちがわかるような気がしました







「おっ、もうじき始まるのか?」

ことり「あっ、深山先生!はいっ!あと少しです!」


「深山…遅刻するなよと電話しただろうが…」ハァ

「ま、まぁまぁライブ前に間に合ったんですからいいじゃないですか」

「いんや、笹原の言う通りだって、偶にはガツンと言わなきゃ駄目」


◇内山先生の庇護も虚しく
   深山先生に言葉のダブルパンチが容赦なく炸裂します


「お前の事だ、どうせまた遅くまで麻雀でもしてたんじゃないのか?」

「ちょ、違うってば…ほら、アタシはこれ用意してたんだよ」スッ


「なるほどなぁあの子が好きだった花束なんて気が利くじゃないか…」

「…まぁ、そういうことなら遅刻の件も多目にみてやろう」



◇先生達のそんな談笑がされている中、今日の特別ステージが始まります





◇『BiBi』の皆から、『守護霊さん』への鎮魂歌



◇…というと少し語弊がありますね

◇『BiBi』からの気持ちや『先生達』の想いを唄に乗せようという企画
151 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/01(土) 23:59:23.45 ID:30BSrq270

◇ライブ、とは違います

◇踊るワケではなく、ただ歌うだけなのですから…



◇一夏の、大切な人との思い出

◇掛け替えのない愛おしい親友と過ごした日々



◇平凡でどこにでもあって、だけど過ぎ去ってみればそんな毎日が本当に


◇心の底から唯々、愛おしい…あの夏に、あの時間にきっと恋をしていた




◇学生時代の先生方が将来どうなるかなんてまだ何も分からず

◇ずっと5人の友情も消えず、大人になっても生きて交流があると信じた


◇そんな当たり前のようで、当たり前じゃなくなった恋しい時間

◇まるで蜃気楼のような『愛』を、時の流れに感じていた





◇歌が、現世からあの世に届くかどうかなんてわかりません


◇メルヘンやファンタジーじゃないんですから

◇でも現実でファンタジックな体験をしたなら、1%の奇跡に縋ったって

◇いいじゃないですか、奇跡が1度起きたなら2度目や3度目を信じても!



<おいおい!あれってμ'sじゃないか!?
<本当だ!噂は本当だったんだ!
<なになに?新曲披露するんだって?

<ワイワイ、ガヤガヤ…




絵里「…。」スゥ…

絵里「本日は集まってくれてありがとうございます!」

にこ「今日はにこ達がこの浜辺で新曲を披露するわよ!」

真姫「それでは皆さん、聞いてください」
















        にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」






                           ~fin~
152 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2020/08/02(日) 00:00:13.08 ID:GTFDsAr30
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 れんあいげぇむ一周年記念@ 怖くない ホラーと呼べない偽ホラー


にこ・絵里・真姫「「「夏、終わらないで」」」 完




[夏終わらないで]
https://www.youtube.com/results?search_query=%E5%A4%8F%E7%B5%82%E3%82%8F%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%A7

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153 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2020/08/02(日) 17:37:47.88 ID:XQBzUoJPo
完結お疲れ様でした
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