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ブルー「俺達は…」ルージュ「2人で1人、だよねっ!」『サガフロ IF】

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308 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 01:26:46.72 ID:E62zd+uU0


レッド「本当か!?ありがとうな!」

ブルー「有事だ、やむを得ん」スッ


レッド「いやぁ、助かるぜ…ええっと」スッ



 術士は宝石を大事に仕舞いこみ、[バックパック]を背負う、まだ名も知らぬ少年と刑事に向き合い…
少年が差し出した握手の右手に目を向け、名を名乗ることにした



ブルー「自己紹介がまだだったな、ブルーだ」



ヒューズ「俺はヒューズ、見ての通り[IRPO]所属の刑事だ、そっちの小僧はレッドってんだ」


















                  ブルー「赤<レッド>…だと…?」ピタッ













差し出された右手に答えるべく手を伸ばし掛けたブルー……だが、その手が先方の挨拶には答えず、空虚を掴む事となる





レッド…red… 赤



少年の名を聞いてあからさまに術士は怪訝な顔をする

"苛立ち"…表情どころか体全体から醸し出す不愉快だと言いたげな空気に、若干少年は気圧された


レッド「ど、どうしたんよ?」







ブルー「…」


ブルー「やはり、やめた」


レッド「はぁぁぁぁぁ!?なんでだよっ!!」

309 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 01:56:15.92 ID:E62zd+uU0


ヒューズ「おいおい、術士さんよぉそりゃまたどうしてだ」

ブルー「気が変わった、それだけだ」



レッド「何言ってんだよ!アンタさっき協力しようって言っただろう」




―――パシンッッ!




レッド「〜っッ!」ビリッ










   ブルー「貴様の名前が気に喰わん」








差し伸べた右手は…友好の挨拶は白い手で弾かれた、乾いた音が響いた船室…一瞬の静寂と張りつめた空気



 小此木烈人<おこのぎ れっと>…通称レッド少年は…目の前の男を睨みつけた
突然の仕打ちだった、此方に一体なんの非礼があったというのか、アイスブルーの瞳はゾッとする程に冷たく

それこそ、親の仇でも見るかのような眼つき…叩かれた手の甲の痛みも熱もサッと引いてしまう程に凍てついていた




ブルー「失せろ…俺は貴様らと共に行動はせん」


ヒューズ「…おたく、"赤"って単語に恨みでもあんのかい?えらく冷たい目だな」


レッド「なんだってんだよ…くそっ!」



ブルー「……」


ブルー「船が賊共に占拠されたままなのは此方とて都合が悪い、だが俺は俺で独自に行動する」

ブルー「分かったら、さっさと出て行け」プイッ



ヒューズ「…はぁ〜、レッド、理由は分からんが奴さんは梃子でも動きそうにない、諦めようぜ」

レッド「…わかったよ」



スタスタ…



ブルー「行ったか…俺もアイツ等を探しに行かねばな」

310 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 02:11:11.16 ID:E62zd+uU0



レッド「何なんだよアイツ…」ブツブツ

ヒューズ「まっ、世の中色んな奴がいるってことだろ」



納得いかない、口に出さずとも表情で隣を歩く刑事に訴えかけるも「俺にぶー垂れ顔見せるなよ」と肩を竦められるだけだ
 感じの悪い陰気な奴に遭遇した、レッドはそう思って忘れることにした…パイレーツ共の事に切り替えようと…



この時、彼は思いもしなかったであろう





後に"家族の仇"が待ち構える建物に乗り込む際に、術士ブルーと手を組むことになる等と…






―――
――




白薔薇「厄介なことになりましたね」

アセルス「…うん、ルージュとはぐれるし、偶々逃げ込んだ部屋でこうして息を潜めたけど…」

白薔薇「海賊がまだ出歩いているかもしれませんからね…」


アセルス「まさか、あんなに強いのが沢山出てくるなんて思わないし、まだ大人しくしていよう」






―――ガチャッ



アセルス/白薔薇「!?」



アセルス「まさか――!この部屋に居るのがバレたのか!白薔薇は武器を持って私の後ろに下がって!」つ【幻魔】チャキッ






レッド「いてて…なんでこの廊下あんなに敵ががうろついてたんだ?この部屋は逃げ遅れた人は――――!?」



アセルス「海賊めっ!!出て行けぇぇぇ――――!!!」ブンッ


レッド「うわっ!?」



鞘に納めたままの【幻魔】を鈍器代わりにッ!アセルスは突然の来訪者目掛けて一太刀振り下ろすッッ!



レッド「ウオオオオオオオオオオオオォォォ!!」ガシィィン!

アセルス「なっ――素手で受け止められた!?」



真剣白羽取りであるッ!!
311 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/06/27(水) 02:51:13.42 ID:E62zd+uU0


         レッド(あ…危ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!)グググッ!

       アセルス「こ、この…!離して!離しなさいっ!!」グググッ!



アセルスは腕に力を籠めるも、レッドが両手で掴んだ妖刀は大岩の下敷きになった西遊記の孫悟空のように抜け出せない









          レッド「ぐぅ、ぐぎぎぎぎ……あ…?…アセルス姉ちゃん?」


           アセルス「くぅぅぅぅ…って、ぇ…? うわぁッ」スポンッ! ――ドサッ








レッドは入室と共に襲い掛かって来た襲撃者の顔を見て、―――思わず手の力を抜いた

アセルスは鞘による殴打で気絶させようとした来訪者の声を聴いて驚き、―――引っ張った[妖魔]ごと後方へすっ飛んだ






レッド「ね、姉ちゃん!大丈夫か?」


アセルス「…?誰?」




尻餅をつきながら、自分を覗き込んでくる顔を見る―――自分の名前を知ってる彼を思い出そうとするが記憶に出てこない

ふと、自分は12年間も歳を取らずに意識不明状態だったのだからそれもそうかと思い当たった…記憶にある顔の筈が、無い




レッド「やっぱり!やっぱりそうだよ!!俺だよ、烈人…おこのぎ れっと!」

アセルス「おこのぎ――――」ハッ!





レッドにとっては、実に12年ぶりの…

アセルスにとっては、ほんの僅か数日前の…


―――奇妙な再会となったのである…




アセルス「烈人くん!ああ!小此木先生の所の烈人くんか!…大きくなったな〜、いやぁ全然わからなかったよ」

アセルス「でも目の辺りなんか変わってない感じかな」



彼女がまだ人間だった頃、[シュライク]の街で普通に女子高校生として生きてた頃によく遊んであげた7歳の少年
確かに、よく見れば顔に面影がある…



アセルス「…てっきり海賊が来たのかと思って、ごめんね?」
312 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 06:59:12.70 ID:HRC0Je1fo
やはり我慢できなかったか……まあアニー見捨てて脱出しないだけマシか
313 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/06/27(水) 20:35:55.53 ID:3L3C93qBO
キグナスクリア直前でアセルスから木陰のローブ借りパクするのはいい思い出
314 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:39:42.12 ID:6HTZ/fks0


レッド「ははは!さっきのは驚いたよ、昔のチャンバラごっこを思い出すなぁ〜本当よく遊んでもらってさ」

レッド「姉ちゃん全然変わってないよな〜髪の色は緑じゃなかったけど…」


 後ろ頭を掻きながら10歳年上の、それでいて憧れだった近所のお姉さんとの記憶を思い出して
レッド少年は気恥ずかしそうに笑った













そして、"違和感"に気が付いて、ピタリと顔に浮かべた笑みを消した








レッド「…い、いや、ちょっと待てよ、いくら何でも変だぞ!?」ハッ!







同じくしてアセルスの顔からも笑みが消えた、12年の時を経て、"自分を知ってる人"に巡り合えた安堵が失せた

分ってしまったのだ、そうだとも、…人間が、普通の人間が10年近く年を取らない筈がないのだのだから








レッド「どう見ても高校生くらいだ!!もう10年以上も前の話だっ!」


アセルス(…あぁ…)







悪意は、あったわけじゃない



好きで傷つけたというのでもない




誰が悪い、という話でもあるまい






レッド「貴様っ!何者だ!!」バッ!



レッドは飛び退き、大好きだった近所に住む憧れのお姉さんに化けた"何者"かに向け拳を構える

315 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 00:54:10.31 ID:6HTZ/fks0









アセルス(…そう、だよね…私は―――私の存在は、"おかしい"んだよね…)








白薔薇と[ファシナトゥール]を脱し、故郷の[シュライク]へ帰って来た時…彼女は自宅で育ての親の叔母に会った

少しだけ老けた叔母に、10年近く前に行方不明になった―――死亡者扱いされた――娘と同じ姿の化け物が現れた






そう言われた時のアセルスの心情とくれば、胸の奥を抉られたような心持ちだった





そして、今…再び、自身の存在を否定された

人間じゃない、自分は【バケモノ】になってしまったんだと打ちのめされる想いを再び…っ






        白薔薇「お待ちください!」



レッド「あ、アンタは…」

ヒューズ「この船に乗ってたのか!」




白薔薇「この御方は…本当にアセルス様なんです、複雑な事情があって齢を取らない肉体となり眠り続けていたのです」


レッド「そんな眠り姫みたいな話を信じろっていうのか…ぃ…」




 眠り姫、童話のタイトルがパッと思い浮かぶような御伽噺<オトギバナシ>さながらな事を言われ率直な感想を述べたが


……そこまで言いかけてレッドは、ふと『宇宙の彼方からやってきた正義の味方に命を救われ変身ヒーローになった』と
自身も大概、夢物語な体験をしてるではないかと思い当たり、否定できなくなった





レッド「………」


レッド「ほ、本当に…姉ちゃん、…なん、だな?」



アセルス「…」…コクッ


レッド「…そ、そうか……ごめんよ、俺ヒドイ事言っちまった…」ペコッ

316 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 01:26:46.11 ID:6HTZ/fks0




ヒューズ「はぁ〜…お前らなぁ、今そんなこと言い合ってる場合じゃねーだろう」


ヒューズ「白薔薇さんに、アセルス、だったな……あの銀髪小僧と、もう一人は?」




銀髪小僧、…はぐれた紅い魔術師ともう一人…ヒューズにとって会いたくない人物ベスト1に入る女性を尋ねた



アセルス「それが二人共はぐれちゃって…」


レッド「? 知り合いが船の何処かに居るのかい?」


白薔薇「はい、金髪の女性と、紅い服を着た魔術師の方です…」




ヒューズ「まーた、船内にいる逃げ遅れの要救助者が増えたワケか」


ヒューズ「おう、二人共ここで待ってろよ…こういうのは野郎の仕事だからな、行くぞレッド」

レッド「ああ!アセルス姉ちゃん!それに白薔薇さんだったな!二人共此処に隠れててくれよな!」



アセルス「何処に行くつもり!」



レッド「ちょっくら船を取り戻しにだ!」

ヒューズ「ハイジャック犯を逮捕してボーナス貰うんだよ、かつ丼くらいは奢ってやるぞ」




アセルス「私達も行くわ!はぐれた仲間をどのみち探すつもりだったし、それに烈人君を放っておけない」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらば御付きします」スッ




ヒューズ「…」ピタッ


ヒューズ「おい、こいつぁ映画やドラマじゃねーんだ、マジモンの実戦だ」ギロッ




アセルス「…私だって、戦える!」




レッド「…姉ちゃん」


BJ&K「…生体反応異常数値」ウィーン





レッド「…わかった一緒に行こう、いざとなったら、後ろに下がってコイツに怪我を治してもらう」

レッド「ヒューズ、今は戦力が欲しいんだろ?」


ヒューズ「……はぁ、わぁーったよ、好きにしろい」

317 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/11(水) 01:55:33.56 ID:6HTZ/fks0
―――
――




「ひぎぃぃぃぃぃぃ――――ギッ」ボッブジュシュッッ





 蟲型モンスターが悲鳴を上げたのは、頭部が光の牢獄に囚われたからであった
球体状の発光する檻は一瞬縮み上がったかと思えば勢いよく破裂した、"中身"と一緒に弾け飛び

後には頭部を失い、手足をバタバタさせる胴体が残った…脳が焼失させられても少しの間動くのは虫ゆえの生命力の高さか


それをやった張本人は手で鼻を覆いながら、血の匂いと醜いソレの最期の"もがき"から顔ごと背けた






ブルー「…気色の悪い奴らめ、…やけに屯って居るから乗客を閉じ込めているのかと思えば」



 階段を下り続けて、パイレーツの手下どもが妙にうようよ居る通路だと、…目的の人物が囚われているかもしれない
そんな可能性が浮かび、正面から出向き残さず駆除して行ったものの




ブルー「動力室か、…当てが外れたな」クルッ



宇宙船<リージョン・シップ>の心臓部と呼べる部屋を見張っていただけだったようだ





物言わぬ屍と化したモンスターの群れを横切り、階段を上がる

…彼は共に乗って来たアニー、ルーファスを求め船内を廻っていた






ブルー「…ん?」テクテク…ピタッ



ブルー(展望エリアに居るあの後ろ姿は…あの時のウエイトレス…確かユリア、と言ったな)






ユリア?「……」



ブルー(逃げ遅れか、一応世話になった身だ…適当な部屋まで連れてってやるか)テクテク


ブルー「おい」


ブルーはユリア、と思われる後ろ姿に声を掛けました…





           ユリア?「…ふ、ふふふ、うふふふ!まだ捕まってない乗客が居たのね」ニヤッ


318 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/11(水) 09:11:25.50 ID:r6EsgT80O
たまに親切心を出したらロクでもない目にあうとかブルーさんマジふんだりけったり
319 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/20(金) 23:00:23.79 ID:31j7vM970




くるり、その後ろ姿は此方へと振り向く



フリルのついた可愛らしいウエイトレス衣装も艶のある黒髪にもそぐわぬ顔がそこにあった






骨、それ以上でもそれ以下でも無い顔立ち…というか皮膚が無い、人間<ヒューマン>の肉体ではない



船内のスタッフルームから盗って来たのか、衣装を纏い鬘を被った[スケルトン]系譜のモンスターがそこに居たのだ








         ユリアに化けてた海賊「BINGO!」バッ!


          隠れていた海賊A「はーっははは!まんまと引っ掛かったな!マヌケぇ!!」バッ

          隠れていた海賊B「こうやって目立つ格好で突っ立ってればアホが釣られると思ったぜェ!」バッ







   化けてた海賊「くっくっく!我らノーマッド海賊団!死の属性トリオ!」

   隠れていた海賊A「俺達のチームワークから逃れられた奴ぁ今まで一人も居ないんだよォ!!」

   隠れていた海賊B「テメーの不幸を呪うんだなァ!!」








      海賊s「「「金目のモン頂いた後、ふんじばってやんよぉ!!覚悟しやがれッ!!」」」ヒャッハー!
















              ブルー「『<ヴァーミリオンサンズ>』」キュィィィィン!





 化けてた海賊「へっっぶぅ!?」
 海賊A「まそっぷ!?」
 海賊B「ギエピー!?」
 

320 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/20(金) 23:16:55.60 ID:U7m/0L760
ひどすぎるッピ!
321 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/21(土) 00:07:58.70 ID:HjqFCyQW0




ブルー「…なんだったんだ、今のは」スタスタ…





 やけに自信満々で襲ってきた海賊は見事なチームワークで他界した、横一列に並び最大火力の直撃で同じタイミングで
仲良く消滅したそうな…



―――
――






レッド「」キョロキョロ…

レッド「おっし!!VIPルームエリアは見張りが居ねぇ!皆!いいぜ!」サッ!



ヒューズ「ふぅーっ…VIPルームね、客室に酒のボトルでもありゃ景気づけに貰ってきたいモンだ」

レッド「[IRPO]本部に請求書出すぞおっさん」


アセルス「此処以外は全部見回ったの?」


レッド「ああ、レストランもユリアやBJ&Kが居た医務室、会計室…大体全部みたさ」

レッド「だから、その連れの人が何処かに隠れてるならこの階の可能性が高い筈なんだ」


ヒューズ「こっち側は来なかったからな…」





『VIPルーム扉前』






レッド「…みんな準備は良いか?」チラッ

アセルス「うんっ!」

白薔薇「はい」


レッド「海賊が待ち受けてるかもわかんないからな、せーので行くぞ!」

―――
――



【VIPルーム内部】



ルーファス「ふむ、それにしても君は運が良いのだな船内を逃げ回っていたら此処に辿り着いたとは」

ルージュ「いやぁ…本当に助かりました、仲間とはぐれて心細かったんです」」ペコッ、ペコッ

ルーファス「何、エミリアの知人ならそれくらいどうということはないさ、それで?行くのかね」


ルージュ「はい!外の様子も落ち着いたようですしそろそろ探しに行こうかと」

322 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/21(土) 00:19:56.11 ID:xHGBJzXqo
ルージュは秘術だから勝利に興味持つことはなくて残念だったなルーファス
323 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 01:41:48.88 ID:nslvRKgi0



 サングラスを掛けた男性にとう告げて彼は扉の前に立った、無論この部屋を出て仲間を探す為だ
しかし、彼がその扉を開けることは無かった


ガチャッ!バンッッ!


ルージュ「ほぐっ!?」ゴッッッ



鈍い痛みが頭部に走る、開けようとした扉が勢いよく開いた、開けたのはルージュではない廊下に居た人物だ



レッド「あっ…」




ルージュ「〜〜〜っ」(頭抱えて蹲り)


レッド「そ、そのわりぃ…」アセアセ




 扉の眼と鼻の先に誰か居るとは思わなかった、その人物が海賊共の仲間かどうかは知らないが
レッドはそれよりも先に罪悪感が勝り、相手を警戒よりも謝る事を優先した…



この時、ルージュは顔を伏せていたから瞬時には気づかなかった




"さっき"見た顔と瓜二つだ、と




アセルス「ルージュ!ルージュじゃないか!」

白薔薇「まぁ!こんなところにいらっしゃったのですね!」



レッド「えっ!?ってことは探してる人なのかい?」

ルージュ「う、うっ…その声は、二人共無事だったんだね…」


レッド「あー、ルージュ…でいいんだよな?その、本当ごめん、まさかドアの前に居るとは思わなくて」

ルージュ「い、良いんだよ、僕も悪かったから…」スッ






レッド「!?」ギョッ


ルージュ「…? 僕の顔に何かついてるの?」



レッド「ぇ、あ、違う…けどよ…」



"すこし前に会った感じの悪い奴"と似通った顔

ただ、アイツよりかは眼つきがきつくなくて、なんだか温厚そうな人柄だな、と少年は思った
涙目で見てくるのと、罪悪感の所為かもしれないが…

 兎にも角にも彼がルージュ、という人物に対して抱いた感情は対立的ではなかった
ブルーの不遜極まりない態度の後でもブルー似の顔に悪い感情を持たなかったのであった
324 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 01:58:35.56 ID:nslvRKgi0


レッド(…にしても、似すぎだろ)

レッド(世の中、自分にそっくりな人間が3人は居るってよく言うけどなぁ〜)マジマジ




マジマジと銀髪の魔術師を眺める



蒼い法衣、金を束ねた髪…凍り付くような鋭い眼差しと人を寄せ付けない冷たい雰囲気


紅い法衣、流れる銀の髪…どこか人懐っこそうで誰とでも手を取り合ってくれそうな人柄




まるで正反対だ、なのに…"似ている"のだ、不思議なことに



白薔薇「あのー…彼がどうかなさったんですか?」

アセルス「あ!わかったぞ…そりゃ確かにルージュは女の子みたいな顔してるし初見じゃわかんないよね私も間違えたわ」




勝手に自分の中で答えを出して勝手に納得するアセルス姉ちゃん

…そう考えるのも無理はないだろう、まさか彼の双子の兄とこの船で出会いましたなどと普通思わない、世の中狭すぎだ




ルージュ「えぇ…僕、男だよ…」ゲンナリ




またか、また間違われたのか…、げんなりとした表情でアセルスの言葉に続けていく術士


そんなコント漫才染みた緊張感の無い会話が繰り広げられる中、ヒューズが1人の男をじっと見ていた…








ヒューズ「‥ほー、まさかお前が乗ってるとはなぁ、ルーファス」ニヤリ

ルーファス「…腕利きパトロールがこんな所でなにをしている?さっさとシップを取り戻せ」






方やエリート警察、方や裏社会の組織の幹部…




ヒューズ「今やってるとこだ、実を言うと戦力がちと足りてなくてな、どうだ?協力しないか」

ルーファス「…"連れ"が奴らに捕まったようだ、協力させてもらおう」ハァ…





"連れ"……サングラスの男は金に煩い部下の女と、スーパーモデルの顔を思い浮かべながらため息を吐いた


325 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 02:35:13.75 ID:nslvRKgi0



レッド「って!オイ!おっさん同士で勝手に話を進めんなよ!」


ヒューズ「お前等が漫才やり始めたからだろーに」

ヒューズ「それにな、こいつは結構使える男だぜ」


ルーファス「君は?」


レッド「レッドだ、こっちは医療ロボのBJ&K、それから…」



アセルス「アセルスよ、彼女は白薔薇」

白薔薇「以後お見知りおきを」ペコッ



ルーファス「…ふむ、とすると君達がエミリアの言ってた連れか」


ヒューズ「」ギクッ


ヒューズ「な、なぁ?ルーファス、この船ってエミリアどっかに居んのか?」

ルーファス「居る、というよりも捕まっている連れの1人がそうだ」




ヒューズ「そ、そかー、たははは…」

ルーファス「お前の自業自得だ、IRPO隊員の特権で裁判なしに留置場送りにしたんだ半殺しくらい覚悟しとけ」


ヒューズ「うぐっ!?…海賊共を逮捕したら即逃げるわ…」




ルーファス「さて、よろしく頼むよレッド君達」




 妖魔2人、メカ1人、そして人間<ヒューマン>が4人…これだけの人数ならば海賊に太刀打ちできなくも無い
戦いに置いて必要な物は古来より『数』と謂われている


かの異世界<リージョン>でもとある老人が『どんな勇者も多くの敵の連係には耐えられんものだよ』と格言を残す程だ




必要最低限の人員はそろったかもしれない、だがそれでも後もう一押しだ

 敵だってアホじゃない真正面から行けば敵の[ガンファイター]共の火線真っ只中だ
それこそ飛んで火にいるナントヤラで蜂の巣にされてしまう




白薔薇「それで、どうなさるおつもりなんですか?」

ヒューズ「ああ、クソ真面目に行きゃ、あっという間にお陀仏だ…他に通路ねぇのか?」




レッド「他に…」ウ〜ン

レッド「…」



レッド「いや待てよ!確か下の方に非常用の通路があるんだ!船がドライブ中でもそこからなら!」ハッ!

326 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/23(月) 03:08:06.69 ID:nslvRKgi0

―――
――



【キグナス号:操縦室】


ノーマッド「"ブツ"の積み込みはまだ終わらないのかいっ!」


海賊A「もう少しですお頭」


ノーマッド「ったく、チンタラしてたらサツが来ちまうだろうに」


ノーマッド「ま、いざとなりゃあこの人質共を使うがねぇ」ニィ




「ひっ!」ビクッ
「なんで…こんなことに、私は旅行を楽しんでただけなのに」グスッ


海賊B「ぶつくさ言ってんじゃねえぞ人質共!撃ち殺されてぇのか!ああ"?」ジャコッ



「ひぃぃっ!!」
「〜〜〜っ」プルプル

アニー「…」
エミリア「…」

「こ、殺さないで…」ガタガタ


海賊B「けっ!」チャキッ、スタスタ…




「もう、もうやだよぉ…」
「うっ、ううっ…」

エミリア「…アニーごめんね、私が脚を挫いたりしなきゃ逃げれたでしょ?」ヒソヒソ


アニー「ダチ見捨てて逃げる程アタシは腐っちゃいないよ」ヒソヒソ


アニー「何度も一緒に組んでヤバい橋を渡った仲じゃんかよ、だから今度も運命共同体って奴だわ」ニィ


エミリア「アニー…」

アニー「大丈夫、まだルーファスや…期待していいか分かんないけど知り合いの魔術師が居るわ」

アニー「海賊共が吠え面かくのを楽しみにしましょう」フフッ


エミリア「ふふっ、それもそうね、こんな時だからこそ前向きにならなくちゃね」




―――
――



【双子が旅立ってから3日目 午後16時10分  キグナス号:非常用通路前】


レッド「着いた、ここがそうだ」

ルージュ「此処から、操縦室に行けるの?」

レッド「ああ…けど、覚悟を決めた方がいいぜ」

327 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/23(月) 09:19:19.94 ID:qu9/6D6YO
ヒューズは一度ちゃんとエミリアに半殺しにあっといたほうがその後の責任回避的にいい気が……
328 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/24(火) 22:59:01.57 ID:5UEKilyt0


レッド「この非常通路を通れば操縦室に辿り着ける、…海賊もまさかこの通路から人が来るなんて思わない」

ルージュ「うん?そういう場所程普通は警戒するんじゃないの?」



 至極尤もらしい意見だ、機関室から配管をよじ登った所にある業務員しか知らない隠された緊急脱出用通路なら兎も角
こんな船内の誰の眼からも見える位置に堂々と扉があるのだ




レッド「言ったろ、覚悟決めた方がいいって」

レッド「このドアの向こうは"船外"だ…混沌<宇宙空間>の海をドライブ中に宇宙船<リージョン・シップ>から出れば…」



ヒューズ「おいおいおいおい!ちょいと待てって…この船は普通に渡航中だせ?」

ヒューズ「んな状態で外になんざ出たらどうなるか分かってんのか?」





混沌の海…見渡す限りが闇である空間、星々<リージョン>の合間にある暗黒の海


そんな所に生身の生物が出れば瞬時に身体が圧縮され、最後は消しゴムになって消滅する…塵どころか脳細胞1つ残らない




ヒューズ「混沌に飲み込まれるのはごめんだぜ、まだ敵さんの弾掻い潜る方がマシってもんだ」


カンベンしてくれよ…と大袈裟に腕を振るう、他の面子も顔色は優れない



レッド「俺にも詳しいリクツは分かんないけど、船の周りにリージョンと同じでフィールドが張られてるんだ」

レッド「だから短時間なら外に出ても大丈夫だってホークが言ってたんだ」



 機関士であり上司の言葉を口にするレッド少年、この非常用通路は本当に有事の際にしか使われない
仲間が述べているように、生身で混沌の海に出るのだ


 短時間は大丈夫だと言っても、"あくまで短時間"だ…道中で立ち止まったり、何か躓いたりしようものなら
その場で身体は圧縮され、暗黒海の地平線の遥か彼方に消え去り、THE・ENDである




ルーファス「立ち止まらずに駆け抜ける、そういうことだな」


アセルス「うっ…それしかないんだね」



レッド「姉ちゃん…危ないし、今なら引き返せる、俺達が後はなんとかすっからさ」

アセルス「…いや、私も行くよ!」


ヒューズ「はぁ…腹括るしかねーな」





一同は、扉の前に立つ…レッドが戸を開ける為に手を伸ばす…後ろで息を飲む音、駆け抜ける準備をする者

…全員が覚悟を決めた


329 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 00:05:18.79 ID:DfKh3z180


…ペタペタ


カモフック「お頭〜!」ペタペタ





彼は[カモフック]見ての通り、モンスター族でありノーマッド団の一員である

http://epsaga.sapp-db.com/zukan_det.php?no=512&tid=2
※参考画像


 海賊帽子を被り、右腕が"フック船長"宛らの鉤爪で二足歩行で語尾が「〜カモ」という団員きっての愛苦しさである
キュートな足をペッタペッタ鳴らしながら彼はノーマッドに積み荷の積み込み作業が終わった所を報告しに来たのだ



カモフック「"ブツ"の積み込み終わったカモ〜!」

ノーマッド「あぁん"?終わったかもぉ?ハッキリしなこのバカチン!」バキッ


カモフック「ふげっ!?い、痛いカモ…」


ノーマッド「荷物運ぶのに時間を掛け過ぎだよ!仕事は迅速にやんな!」

ノーマッド「…チッ、パトロール隊員の小型艇がこの船に取りついてたって報告が今更来たんだ…」

ノーマッド「こうして正面口に[ガンファイター]を配備して見張っちゃいるが…どーにも嫌な予感だ」




 腕を組み、女海賊は苛立ちを隠さないでいた
海賊の勘が知らせている、雲行きが怪しいと……パトロール隊員もそうだが、それ以上に操縦室のモニターに映る
混沌の地平線を彼女は眺めていた…


何も見えない、映らない暗黒の宇宙…胸騒ぎはその深淵の先にあるようでならなかった



ノーマッド(…なんだってんだい、援軍のパトロールでも来るってのかい…)





闇の向こうに、何か、自分達のとって好からぬ者がいる気がしてならない

嘗て、海賊として強奪を行った帰り道[タンザー]に飲み込まれたあの日のような…言い知れぬ悪寒がするのだ




ノーマッド「気分が悪いったらありゃしない、おい!カモ!酒持ってきな!」イライラ


カモフック「わかりましたカモ…」トボトボ








結論から言おう

リージョン強盗団、ノーマッドの勘は正しかった





今、この瞬間も離れた宇域からキグナス号の様子を監視する一機の機影がある

…それは軟骨魚介類の鱏<エイ>の様な形をした漆黒の機体であった
330 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/07/25(水) 00:42:10.60 ID:LYxy+VXyo
勘が良くても回避しようがなければなぁ……
331 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 00:46:55.54 ID:DfKh3z180




ガチャッ!ドタドタドタ…!





カモフック「…?なんか下の階が騒がしいかも」ペタペタ


カモフック「かもっ!?!?」








ヒューズ「動くな!パトロールだ!全員手を上げろ!」カチャ!


ノーマッド「なっ!こいつら…どっから沸いて出たんだいッ!カモ!やっちまいなっ!」バッ!

レッド「あっ、待て!」



カモフック「行かせないかもぉ!!」ガコッ ヒュッ!





 気の抜けた声とは裏腹に、茶色の体毛を逆立たせ海賊の一員は敵意を"文字通り"飛ばして来た
先述したが[カモフック]の右腕は鉤爪になっており、彼奴の右腕は着脱が可能なのだ

右脚を前に出しのめり込むように踏み込んで、その勢いを活かしながら右手首を軽く曲げる
投球でスナップを利かせて変化球を投げるのと同じ様に…


金属製の鉤爪は遠心力を伴い、空を切りつけながら舞う、彼奴の独自の戦法[ブーメランフック]だ!



   レッド(!? 腕を…金属の腕を飛ばして来やがったッ!)









           -『へっ、面白れぇもんみせてやるよ!ゆけぃ!![クロービット]』 -






   レッド「…っ、義手を…飛ばす…攻撃っ!」ピタッ





ふと、彼の脳裏には1つの風景が思い起こされた、炎上する自宅、白髪の大男…あの忘れもしない家族の仇の顔がッ!



ヒューズ(あんの馬鹿っ!何棒立ちしてんだ!)

ヒューズ「レッド!避けろォ!」


レッド「―――ハッ!う、うわぁぁ!」


332 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/25(水) 01:47:08.12 ID:DfKh3z180





        アセルス「――−―危ないっ」ディフレクト!

         レッド「ね、姉ちゃん!?」





ヒューズにも、ルーファスでさえも反応しきれない速度で前に出る人物が居た
 それは引き抜いた妖刀と人ならざる者の血が混ざったアセルスだからこそ可能な反射速度であった

女性の細腕が繰り出したとは思えない劔の一閃、刀身は輝く義手を弾き飛ばし幼馴染の身を守る盾となる



カモフック「おおっ!?や、やるぅかも〜!」バッ!カポッ、カチャッ タァン!タァン!


二足歩行の鴨はその場で高く飛び上がり器用にも宙に跳び、そのまま弾き飛ばされた義手を手首が離れた右腕に装着する
 左腕のライフル銃で銃を撃ち始めたヒューズ、[サムライソード]片手に接近を試みるルーファスを牽制しながら



レッド「姉ちゃん…すまねぇ!油断した!」

アセルス「気にしなくていい!白薔薇!ルージュ!アイツの動きを!」



白薔薇「はい!」ポォォォ!
ルージュ「任せてよね!」キュィィン




ルージュ「『<エナジーチェーン>』

白薔薇「其、御心は我の前に伏せよ!―――『<ファッシネイション>』」





深紅の魔術士は指先から人の念動力による鎖を――

薔薇の淑女は妖魔が扱える妖<あやかし>の魅了術を―――



                           ―――――それぞれ、放つッ!





ヒュッッ バチィィ!!


カモフック「はぎゃぁッッ!」ビリィィ!!



金属製の鉤爪の先端部に念の鎖が絡みつく、そして身体全身に伝わる電流に鴨は身を焦がし…
 プスプスと焦げ臭い匂いを漂わせる彼奴の瞳にハート型の薄いピンクの光が飛び込んでくる



カモフック(―ぉ、ぉあああぁつ!!)クラッ




がくがく、と脚を震わせ、惚けた顔で天井をぼんやりと眺める海賊…淑女の放った魅了魔法にに骨抜きにされた彼目掛けて




          BJ&k「圧縮レーザー、発射します」ピピッ ビーーーッ!!

333 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/07/31(火) 22:59:54.84 ID:rxMo2bYc0


 光学兵器の輝きは真っすぐ、[カモフック]目掛けて飛んでいく




    ボジュッッッ!!



 アセルスの剣技や白薔薇の妖術、ルージュの『<エナジーチェーン>』…ヒューズの体術やルーファスの[稲妻突き]
そしてレッドの鍛え抜いた拳による一撃


 この面子の中で恐らく尤も高火力であろう物騒な代物を搭載した医療メカは惚けた顔で棒立ちの鴨を
こんがり焼けた香ばしい北京ダックに変えてやった




カモフック「…ゲホッ…やばい、かも」




嘴を開けば、喉の奥から真っ黒な黒煙が出てくるという漫画タッチな見た目と化した彼は今更ながら数の上での不利を悟る




カモフック「し、下っ端かもーん!!」ダッ!







ソルジャービル×4「「「「キィーーーーッ!!」」」」





レッド「あっ!あんにゃろう手下を呼び出して自分だけ逃げやがった!」

ルージュ「くっ!!マズイぞ…アイツ、人質が居るところへ向かったんだ!」


ソルジャービルA「キッキィー」ダダダダッ



 槍の先端に勝らずとも劣らない[クチバシ]を吐き出す様な姿勢で突撃を始める兵隊達
それを蹴り飛ばすレッドとヒューズ、嘴を刀の鍔で受け切って殴りつけるルーファス、単純な戦力で言えばこの様に
攻撃を防ぎつつ返り討ちにてきる程度……


つまり、何ら問題無く倒せる"雑魚"だ




本当に単なる時間稼ぎだ、…そう逃げ出した鴨にとって時間さえ稼げればいいのだ














人質の首元に刃を押し当て戻って来れる時間だけの時間さえ稼げれば…っ!!




334 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 00:15:46.51 ID:YYc+HEkOo
カモめ、大人しく北京ダックになっていればよかったものを……
335 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/01(水) 00:44:43.68 ID:pViOsR1g0

 リージョン強盗団、ノーマッド一味は悪運の強い奴か否かで言えば…まぁ強い方なのだろう
[タンザー]に飲み込まれても、"指輪"を探しに来た緑の獣っ子たちに助けられることもあり、こうして外に運よく出れた


そんな彼等も今日ばかりは運に見放されていたのかもしれない



 レッド少年、武装した医療メカ、刑事のヒューズ、妖魔二人組に紅き術士、裏組織の幹部…早々たる顔ぶれが
寄りにもよって今日同じ船に乗り合わせたのだから



カモフック「これで逆転のチャンスかもー!今に見てろ〜」ペタペタ…!



そして、人質が一か所に集められているスペースに裏組織の構成員が二人、つまりアニーとエミリアである












カモフック「…かも?」








     ガンファイターの残骸×2『  』プシュー プスプス…







そして、…そして、もう一人




この船には寄りにもよって、厄介な人物が後1人、乗り込んでいる



…非常口から突っ込んで来た襲撃者たち以外に、まさか"それとは別で単独行動してる奴"が居るとは思わなかったのだ












        ブルー「…ほう?蛻の殻だったからな、人質を置いて海賊共は皆逃げたと思ったが…」

        ブルー「ちゃんと見張りを置いていたようだな」








…神は言っている、オマエは此処で北京ダックになる定めだと

336 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 01:02:27.58 ID:MhUReRJlO
まるで逃げた先にケンシロウでも待ち構えているかのような絶望感
337 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 06:25:05.66 ID:YYc+HEkOo
逃げ出した先に楽園なんてありはしないのさと言わんばかりの絶望
338 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/01(水) 11:47:01.92 ID:VYiB5yFpO
ある意味なおさら悪いところに突っ込んだなww
339 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 21:11:09.90 ID:xEUqCl450
知らなかったのか?大魔王からは逃げられない
340 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/04(土) 23:32:13.25 ID:PiyknoQk0
期待
341 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 22:10:51.49 ID:NpR4Vt+Q0
―――
――




アセルス「うぐっ…!」ズサァァ!!


ソルジャービル「クワアアアァァァ!!」ヒュッ!











ルーファス「背がガラ空きだ」ザシュッ!スパッ



 ソルジ/ャービル「 」(真っ二つ)



アセルス「あ、ありがとうござい「身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ」ダッ!


アセルス「っ!」



 これまで、幾度となく戦闘を重ねてそこそこ戦える力を得たと思っていた…
手にした妖刀[幻魔]も最初期と比較すれば扱えはしていた


 だが、わかる人間には分かるのだ、"アセルスは剣に引き摺られている"っと
達人の眼から見れば使用者の技量が武器と釣り合わないと



ヒューズ「おう、あんま気にすんなよ野郎はいつもあんな感じでな、昔っからデリカシーってのがねぇのさ」ガシッ バキィ!

ソルジャービル「ほか"っ」ゴキャッ




 鋭い[クチバシ]の突きを繰り出して来た兵の下顎から脳天をぶち抜くようなアッパーカット
頭部が天を見上げるを通り越し背後を見据えるようになった、脊髄があり得ない曲がり方をしている…



ソルジャービル「」ドサッ



ヒューズ「ふぃーっ…朴念仁なんだよ野郎は、あんなんだから13歳年下の鉄の女に関節技キメられんの、さッ!!」ブンッ!




ソルジャービル死骸「 」グワァン!!


ヒューッ!ドガッ!!! ぐべぇ!? ドシャァァ!!




BJ&K「レーザー標準、OK、発射します!」ギュィーーン!



チュドーン! ぎぃびぃいいいいいい!?!?

342 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 22:34:28.15 ID:NpR4Vt+Q0


ルージュ「大分…よっと! 数が減って来たね!!」サッ! ゲシッ!!


 突っ込んで来た敵を避けに蹴り飛ばし、それをすぐ傍で彼同様に術で援護していた白薔薇が切りつける
サングラスを掛けた男が一刀両断した個体、不良刑事の剛腕で撲殺された者…



レッド「どっせいぃぃぃ!!!」シュバッッ!



ソルジャービル「ぅぎゅッ!!―――ぎ、ぎゅ」バタッ




ソルジャービル「き、キィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」



 残すは1体、次々と倒れる同胞を見て破れかぶれとなったか
見境なく突撃を繰り返す…此処までくれば勝敗など決まった様なものだ



ルーファス「ヒューズ!行けッ!道を塞いでいた障害は粗方排除した!コイツ1体どうという事は無い!」



先の[カモフック]が人質を取って戻ってくれば戦局は一変、此方は手出しもできず一方的に嬲られる可能性はあり得る
 敵の半数以上は既に落ち、この状態であれば人員の一人二人追跡に欠いたとしてもさして問題は無いだろうと判断した



ヒューズ「へっ!あんがとよ!お前ん所の店で今度お高いメニュー注文してやるよ!」ダッ!


ルーファス「注文するより飲み食いしたままのツケをいい加減払え!」バッ!カキィィン!!ブンッ!






ルージュ「アセルス!レッド!僕がルーファスさんを援護する!君達も行くんだ!」

白薔薇「この中で脚が速いお二人ならば間に合います!さぁ!」



レッド「すまねぇ!恩に着る!BJ&Kお前も来てくれ!」ダッ!

アセルス「分かった二人共!後で合流しよう!」バッ!

BJ&K「了解、戦闘行為を一時中断します」ウィーン!




 捜査官ヒューズの後をレッド、アセルスが追い、人質に万が一の事があった場合を考え医療ロボを連れて戦線離脱をする

 持久走なら術士の自分よりも体力がある少年少女(後、疲れという概念が無いロボット)に任せるのが賢明だろうと
紅き術士は、未だ死に物狂いで抵抗を続ける[ソルジャービル]と対峙する壮年の援護に回った



―――
――




タッタッタ…!


ヒューズ「…?なんだぁこりゃ」



        北京ダックにされた者「 」ブスブス…

343 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/18(土) 23:38:40.99 ID:NpR4Vt+Q0


ヒューズは困惑した、鴨が一足早く人質を確保し最悪の展開を想定していた為…これは何とも面食らった様な感覚だ



[カモフック]はもう何処にもいない

代わりに黒ずんだ鴨肉が焦げ臭い匂いを漂わせながら転がっているだけだ




よく目を凝らすと顔が"あった"と思われる部分から、此処で恐ろしい何かがあったのだろうと苦悶に満ちた表情が伺えた




レッド「ヒューズぅぅぅ!!…ぜぇ、ぜぇ…!人質はみんな無事なのか―――…?えっ、こいつは…」

アセルス「…うわっ…なにこれ、死んでる………うっ」




 犯罪者ではあった、しかしながらさっきまで生きてて人語を喋ってた生物が此処まで惨ったらしく死んでいるというのは
流石にキツイ光景であった、モンスターの命を奪うことを体験して来たアセルスお嬢でさえ口元を覆う死にざま



BJ&K「…ピピッ!生体反応なし…」

BJ&K「死因、焼殺、外肉に留まらず、胃腸、肝臓…内肉まで完全に焼かれていると判断、死亡推定時刻は…」





ヒューズ「…こりゃあ、本当にすぐのすぐだった見てぇだな、まだほんのり熱が残ってらぁ」ピトッ



死骸に手を触れ、それからカモフック……だったモノ、の瞼をせめて閉じさせる

眼を見開いたまま絶命していて、食品店で売ってる水揚げされた魚…いや、調理済みの塩焼きみてーな目だと思った




「ひ、ひぇぇぇ…!」ガクガク!

「う、うわぁぁぁ…!なんだあの死骸はぁ!?」



ヒューズ「んん?…人質の皆さんか? あー!うぉっほん!皆さん!落ち着いてください!IRPOの者です!」バッ!



刑事が[IRPO]捜査官であることを証明する腕章を見せ、解放された人質を宥め始めた
 聞くところによると、金髪の中世的な顔立ちをした人物が部屋に入って来て、人質一人の縄を解いた後




 『何があったか知らんが、見張り一人置いて海賊共は撤退したらしい…無駄に疲れた、俺は自室で寝る、後は任せたぞ』




とだけ、知り合い?らしき金髪の女性にそれだけ告げて足早に去っていた、らしい


「あ、あの死体…あの刑事がやったのかな?」ヒソヒソ

「うわぁ…ヒくわ…」ヒソヒソ



ヒューズ(えぇ…なんか、俺が虐殺したみたいな流れになっちゃってるよオイ…)


344 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/18(土) 23:52:07.33 ID:1oEKjxjb0
なんだこれ懐かしいうえに面白い
期待
345 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 00:20:15.78 ID:jPo/7H4A0


ヒューズ(捕まってた人質に怪我人は無し、か…)


ヒューズ「負傷者はいねぇ見てぇだ…おいレッド!逃げたノーマッドの奴を追――」チラッ









エミリア「けほっ、けほっ…ちょ、ちょっとなによ、この焦げ臭い匂い…」

アニー「うえ…っ、本っ当鼻にくる匂いじゃん…くっそ、ブルーの奴〜…助けに来たかと思ったら人に全部押し付けて」









ヒューズ「レッド、ノーマッドを追うぞ、めちゃくちゃダッシュで」ガシッ


レッド「えっ、お、おわぁ!?」


アセルス「あっ!?ふ、二人共!?」



<嬢ちゃんとメカは人質の面倒みてくれーーーッ!





 ぞろぞろと部屋の奥から出て来た人質の皆さん、その中で一人、ブロンド髪の美人を目にするや否や逃げるように刑事は
走り去っていった
 後には唖然とした顔で残されたアセルスと、テキパキ人質の健康チェックを行う勤勉な医療メカの姿あった




―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後17時37分  キグナス号:展望デッキ】



レッド「くそっ!」ガンッ


 逆立った黒髪の少年は握り拳を作り、下唇を悔しそうに噛んでいた…そんな彼の横に立つ刑事はデッキの窓から
遠ざかっていく1機の船体を眺め心底、憂鬱そうに溜息を吐いた


ヒューズ「逃げられちまったな、積み荷は奪われちまってこれであの会社がクロだって証拠はパーだ」


ヒューズ「…後は何処の惑星<リージョン>に逃げるか知らんが海賊共をとっ捕まえて吐かせるしかねぇな」


…めんどくせぇ、とぼさついた髪を掻きながら、「エミリアとは相乗りだし、今日も厄日だぜ…」と彼は呟き
窓硝子から背を向けて退室しようとした直後であった




  レッド「!? ヒューズ!!なんだあれは!!」





逃げた海賊の船に近づく1機の黒い機影をレッドが見つけたのは―――!
346 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 01:04:14.19 ID:VRZZAVsAo
逃げ足早いなヒューズ……
347 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 01:37:48.07 ID:jPo/7H4A0


混沌の空間を漆黒の鱏<エイ>が泳いでいた、バーニアスラスターを吹かし白亜色の炎が箒星の輝きを創り前方へ進む



プロペラ式の海賊船とステルス機能を始めとした科学の最先端を織り込んだ漆黒の機体では距離が縮まるのは当然であり
 魚介類を模した機体は生物で言う口にあたる部位を海賊船に向ける



バチッ



星が弾けたような眩さだった、喩えるならば夏の夜に火をつけたばかりの一本の線香花火


見渡す限り闇しかない空間で光の華が咲いた






漆黒の機体から放たれた破壊光線は、寸分違わず"獲物"を花火にしてしまったようだ


一瞬の光、上がる火の手、赤々と上がる火柱にミニチュア人形の影が、遠目に見ていた彼等の眼には映った






…混沌<宇宙空間>の中を、―――生物が生きられない空間で生身の人間が船から放り出されたらどうなるか
それこそ先刻、レッドが全員を引き連れて、非常口から突入する前に説明した通りである




ヒューズ「…あれは、"ブラックレイ"…捜査官の間でも与太話だと噂されていたが…実在したのか…」


ヒューズ「ブラッククロスの戦闘シップが…!」



レッド「…ブラッククロス」ピクッ




両親と妹の仇である悪の秘密結社の名前…レッドはそれを聞いて青筋が浮かぶ想いだった



レッド「…キャンベル社長と、ブラッククロス…」




少年も刑事も考えることは一緒だった、あまりにも状況が出来過ぎている

武器の売買を行っていた会社の女社長からのリーク

それで積み荷(密輸武器)を奪いに来た海賊…

その海賊船を粉微塵にした犯罪組織の戦闘シップ



ヒューズ「…ま、あの女社長はクロだと睨んでたがね、目論見通り証拠は隠滅、ってことか」

レッド「シーファー商会」ボソ


ヒューズ「あ"?」


レッド「言ってたろ、[クーロン]のシーファー商会ってトコと取引してるって、キグナス号の次の目的場は[クーロン]だ」


レッド「…ブラッククロスとキャンベルは繋がっている、となればその商会も怪しいもんだ、停泊中に降りて調べてやる」
348 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/19(日) 01:53:27.46 ID:jPo/7H4A0
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        (__/ l  rュ        _∨: : :/ . ̄ ヽ
     ,:⌒7 l rュ    . -‐   ___V‐:': : :,ハニニム
      ー{   ー─一 ´  . -=ニニニ -=≦ニ}ニニj
       ≧=-------=ニニニニニニニ} ̄ ¨¨¨  ̄
          ̄ ̄ ¨¨¨¨¨¨  ̄ ̄


 T-260G「…ゲン様、私達出番が少ないです」

 ゲンさん「うぃーっく!酒だ酒ぇ…」





              今 回 は 此 処 ま で !!  次回 3章



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349 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 02:05:55.97 ID:n3E2h3Yv0
350 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/19(日) 03:01:19.29 ID:VRZZAVsAo

ゲンさんは秘術で出番があるだろうがT-260Gは……
351 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/20(月) 23:47:32.81 ID:cL/2cY5BO
乙乙!
352 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 22:55:49.49 ID:RUt02vHU0
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  何か忘れてると思ったら、リージョン強盗団 ノーマッドに関してのちょっとした解説を書き忘れてた




 【リージョン強盗団ノーマッド】は作中で登場する場面が大きく分けて2カ所です




 @ キグナス号

 A タンザー




 サガフロは7人の主人公が居て、プレイヤーはその7人から1人選んで各主人公のシナリオを進めていく

 当然選んだ主人公次第では発生しないイベントやそもそも行けないリージョン等もある


例)クーンが[ファシナトゥール]や[時間妖魔のリージョン]に行けない等



原則的に一部を除いて術の資質集めイベントは誰であっても行うことは可能です

その中で"印術"を得る為、各地にある石の試練を通過する際、必ず[タンザー]には立ち寄ることになります





印術の試練を開始して、[勝利] [解放] [保護]何れかのルーンを1つ取得した状態でシップに乗ると強制的に

事故率が高いと(悪い意味で)有名なシップ、スクイッド型に搭乗します…



タンザーに飲み込まれ、そこで開幕早々にノーマッド一味に絡まれるというのが全主人公共通のシナリオです


※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる

正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり


逆に、我関せずのスタイルを崩さないブルー、呆れ顔で静観するエミリア、穏便に済まそうとするリュート等々…











さて、既にお気づきかもしれません…






>※主人公によってはノーマッド一味の部下と戦闘になる
>正義感の強い、クーン、アセルス、レッド等は乗客を脅す部下たちに突っかかり





レッド主人公の場合、自由行動が可能になるのはキグナス号強襲事件の後です…タンザーに行けるようになるのはその後


そう… "ブラック・レイによって粉微塵にされたはずのノーマッドが平然とタンザーの内部に居るのです!!"


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353 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/08/21(火) 23:08:06.02 ID:RUt02vHU0
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 タンザーに飲み込まれた後のレッド自身の台詞からも、あの時のパイレーツか!と発言する辺り

 サガフロ時系列的にノーマッドがタンザーに飲み込まれたのはキグナス強襲後の出来事…











 つまり、船が砲撃で粉微塵にされ、全員が混沌の海<宇宙空間>に放り出された直後

 死ぬより早くタンザーに飲み込まれ助かるという悪運の強さが分かるワケですね…



 女頭領、ノーマッドの悪運高さはこれだけに留まらず


 彼女が持つ【全て集めるとどんな願いも叶う魔法の指輪の1つ『盗賊の指輪』】を求めて来たクーンに追い詰められ


 タンザー内部の消化器官に喰われ、一定ターン以内にタンザーの器官を戦闘で倒せないと
 ノーマッドが飲み込まれるという結果に終わるのですが


 何故かクーン編のEDで普通に生存してる姿が確認できるという…







            \  すっごーい!   /

                     i`ヽ   ,`ヽ
            ,,,-、   .iヽi  ヽノ   }
            |  ` ‐-+、        i,-,  ,ノ⌒i
        __,-‐―!    { `ヽ :::.  _,,{_ノ_ i   }
       ヾ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.: :.:.:.ヽ   ヽ、., '     ヽ、__{
          ,‐ミ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヽ、   ノ            }
        ,-‐'  `ヽ‐-:::::::::::::::::::_{`´   ,、        ノ
      `ヽ、:.:.:.:.::.:.:::::::_,. -‐ ´ }    | ` 、   / {
         ` ‐- 、;;;;:{     人  {  ● ` ´ ●
              ヾ   } (  ヽ-、!        ノ
               }  ├i `‐-、  ` --─一´
           ,-‐‐´  _ノ .|  { !,, ,,-‐''´
           {`‐-< ̄   .{  {  X  } ヽ
           ヽ  ノ       ヽ_>‐{ !⌒   ヽ
            `´           { ノ''ヽ ̄`―´
                     `‐、  }
                       `´


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354 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/21(火) 23:25:08.10 ID:wxMc/4O00
異能生存体かな?
355 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/08/22(水) 01:22:01.84 ID:tvb8a5nzO
星の海を股にかける大海賊だから多少はね?
356 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:33:23.10 ID:O7fjBJ/k0


 その日は、一際暑い一日だった


 東風が熱を帯びた身で忙しなく巡る人々の肌を焼く、日傘をさして歩く者も在らば麦わら帽子を被る者
露店で売られている飲料を透き通るグラスに一杯注ぎ氷をひとつまみ入れる
銅貨を数枚手渡し、これ見よがしに、それでいて贅沢に茹だる様な暑さに苛まされる者に見せつけて喉を潤す住人




 暑い中、二人のよく似た少年…整った顔立ちと長く伸びた髪から少女にも見えたかもしれない





 蒼を身に纏った金髪と、紅を身に纏った銀髪が石畳の広場を歩き、木陰でお互いに笑い合っていた






    『そのおもちゃよっぽど気に入ったんだな』ペラッ
    【そーれ!バーン!バーン!…えへへ!露店のおじさんがサービスでくれたもんね!】カチッ!


    『ああ、何故か服を着てない女の本を返しただけでな』
    【不思議だよねぇ〜、キミはその[ワカツ]の剣術の本面白いの?】


    『そうだな…魔術とは違い、闘気というモノを操る剣術は興味深い』
    【剣かぁー僕は運動神経よくないからなぁ…それに剣より銃の方が何か恰好良いもん】カチッ!カチッ!


    『フッ、飛び道具など術があるだろう、実用性を考えれば懐に入られた時の為の剣が良いに決まってる』
    【むぅ!意見が別れたね…】








    『…久々に笑った気がするな』
    【えっ?】






    『学院で同じ歳の奴らと話してて此処まで楽しいと思ったことはなかった…本当何故だろうな』

    『心が晴れ晴れとしているんだ…なんで安心するんだろうな』
    【……へー、不思議、僕もなんだか安心するんだ】


    【なんだかずーっと昔に落として無くなっちゃった宝物をタンスやベッドの裏で見つけたみたい】


    『…ぽっかりと、空いた何かが埋まった感じ、か?』

    【! そーそー!すごいね!今僕の考えてる事と同じだよぉ!…いやぁキミ人の考えを読むの巧いね】



    『いや…そうじゃないんだ…別にお前の思考を当てたワケじゃない…ただ』
    【?】






    『俺が、純粋に今、思ったことなんだ』


―――
――
357 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!蒼_res]:2018/10/16(火) 22:43:47.30 ID:O7fjBJ/k0












パチッ…


         …? …あぁ、そうか鴨肉を焼いた後、アニーに丸投げして仮眠を取るため客室に戻ったんだな














時計は……【20時15分】…とんだアクシデントに見舞われたモノだ


陽の高い内に[クーロン]を出て帰って来るのが夜中とは…






…丁度今、発着場に着陸するとアナウンスも流れて来た…荷物を持って降りる支度でもしておくか



358 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/16(火) 22:54:26.70 ID:O7fjBJ/k0






           ※ - 第3章 - ※



    〜 資質を得る、という事…ぶらり、いい旅夢気分 〜




359 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/16(火) 23:22:16.71 ID:NjW0TnI/0
いよっ!待ってました!
360 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/10/17(水) 23:27:18.20 ID:fnGjHvzgO
素早い復帰で嬉しい
続きも待ってます!
361 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/26(金) 23:18:38.97 ID:ks/1nI6H0
【双子が旅立ってから3日目 午後20時28分】




 仮眠を取り、目覚めてすぐの身体は節々がまだ少し鈍ったように思えた
術士は気怠げに蒼の法衣をはためかせながら発着場を後にした…目指す先は自分が金塊で得た資金にモノを言わせた安宿だ


 長期滞在、という形で宿室を確保した彼の半ば仮住まいと化したオンボロ宿屋へと向かう最中
ふと見覚えのある後ろ姿が目に留まった






リュート「はーい!皆さん拍手拍手!スライムの曲芸だよ〜!この輪っかを見事潜り抜けたら拍手〜」

スライム「(`・ω・´)」キリッ! ピョーンッ!



シーン…




 路上のど真ん中で曲芸とやらをやっている1人と1匹が居た、彼等の手前には空っぽの蓋がくり抜かれた缶詰の缶がある
おそらく道行く人の御捻りを入れて貰う為なのだろう…今のところの儲け?空っぽであることから分かる通りだ




リュート「…ちぇっ、世知辛い世の中だなぁ…」ポロロン♪

スライム「(´・ω・`)」シュン…





ブルー「…」







ブルーは見なかったことにした、というか他人のフリをした、知り合いだと思われたくない








リュート「おぉっ!?オイ見ろよスライム!ブルーだぜ!帰って来たんだな!おーい!ヤッホー!」手フリフリ

スライム「(`・ω・)ぶくぶくぶー!」ピョーン!ピョーン!



ブルー「畜生ッ!」




だが、人混みに紛れて姿を眩ませるのが間に合わなかった

敢え無く彼は、センスが無くて売れない路上パフォーマーの知り合いという奇異の眼で群衆の注目を浴びた



―――
――


リュート「はっはっは!なんだよ、そう怖い顔すんなよ〜俺達、一緒に大金稼いだ仲だろ、相棒?」ニコッ

馴れ馴れしく肩に手を置き笑ってくる男を恨めし気にブルーは睨みつけた
362 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/27(土) 02:47:10.48 ID:P1zUPoOk0


 2人(と1匹)は[クーロン]の寂れた通りにある、おでん屋台の古木を組んで作った簡素な長椅子に腰掛けていた
悪態を吐いてすぐに立ち去ろうとしたが弦楽器を背負った無職にしつこく付き纏われ
最終的に折れて少しだけ話に付き合うという所に落ち着いたのだ

 眠らない魔都の雑踏や目が白黒するようなネオンライトが仮眠明けの覚醒し切ってない脳に嫌に響く
せめて静かな場所に移動しろ!とキレ気味に抗議した結果が寂れた通りのおでん屋の屋台に移動した経緯であった




…まぁ[クーロン]で"まともな静かな場所"など無いに等しく、今彼等の居る場所も比較的に静かな場所でしかないのだが



裸電球を針金で吊るしただけのか細い灯りと古めかしいラジオから流れる時代遅れの選曲がこれまた哀愁を漂わせていた
 おでんと書かれた赤提灯と紺色の暖簾…夕食をまだ取っていない彼は何か軽く胃に詰められるモノは無いかと思っていた
空腹を埋めれるのであれば店の外装なぞどうでも良かった、味さえ悪くなければ何でもいい


トクトクトク…


 硝子のコップに注がれる焼酎とやらを呷るように飲むリュート…飲み始める前からコイツは酔ってるのではないかと
ちびちびと飲みながら横目でブルーはこのプー太郎を訝しんだ


リュート「いんやぁ、災難だったなぁ〜船がハイジャックされたんだろう?」

ブルー「まったくだ…[タンザー]の件と良い、これと良い…どうも俺はシップと相性が悪い」



味の染みこんだ煮卵を割りばしとやらで器用に食っていくリュート
その横で味噌という調味料を塗ったくった"デンガク"という食べ物にがっつくスライム


箸、という食器を使うのはブルーにとってあまり馴染が無くどうにもモノを巧くつかめなかったがそれでも意地になって
串のように突き刺さずに苦戦しながらも大根を口に放り込んだ

 昨日の蟹すき鍋の時と良い、このリージョンの人間は何故ナイフやフォークでなく箸などという物を愛用したがるのか
言葉には出さずに少しだけ呆れとも感心ともどちらともつかない感情を抱いた





ブルー「…味は、悪くないな」モグモグ





食べ辛いのが難点だが、祖国の料理に勝らずとも劣らないなとオンボロ屋台のおでんを彼は高く評価した



リュート「だろぉ?なんだって食ってみるもんさぁ〜、えーっとどこまで話したっけ?」

リュート「あー、そうそう船がジャックされた話だな、そんで犯人たちと戦ったんだろう?」


ブルー「まぁな、奴らなど術で一網打尽だったがな」フッ


リュート「う〜ん、術かぁ…便利だよなぁ、やっぱ使えた方が就職に役立つよなァ」



[マジックキングダム]は完全な術の実力社会主義だ、魔術師としての才能の有無で将来性が決まる節がある
故にリュートのぼやきを相槌を半分流しで聴いていたブルーはそれには心の中で頷いた




リュート「しっかし考えてみると便利そうだけど、術だけってのも問題なんじゃないのかい?」

リュート「肝心な時に術力が切れて、うわーガス欠だーってなったら困るし術を反射したり効き目の無い敵と会ったら?」



ピタリ、不慣れな箸の動きが止まりブルーは眼を丸くした…
馬鹿だ馬鹿だと思っていた男が意外にも的を得た質問をしてきたのだから
363 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:12:02.02 ID:FFroIjC90


ブルー「貴様の言う事も一理あるな」




ブルーは術が使えなくなった時、自衛の手段が恐ろしい程に無くなる


 それは以前、アニーと二人で[保護のルーン]があった空間に行ったときに証明されている
巨蟲の一撃で術の詠唱ができない状況に陥ったあの時同様に喉や、肺をやられれば立ちどころに蹂躙される未来しかない


術の使えない術士など、非力な人間でしかないのだから…





彼は昔、本で学んだことがある…世には己の術力全てと引き換えに全てを焼き払う『<塔>』という術が存在すると


高位の術士が使えばその火力たるや現在確認されている術の中で隣に並ぶモノはいないと評されるほどである

使えばありとあらゆるものが屈服すること間違いなしだが、これは本当に最後の切り札と言っても過言ではない






もう一度言うが己の術力全てと引き換えに、だ




 短期決戦や1対1のサシでの勝負ならともかく、その後も敵の増援が控えて居たりと
長期戦を想定した場合に使えばどうなるか…


ガソリンが底を尽きた自動車が荒野のど真ん中に置き去りにされるようなモンである





ブルー「術に頼らずに戦う術を手にすることを考えねばな…」



顎に手を当て、空腹さえも忘れ黙り込む―――武器…銃、は…不要だな、とバッサリ考えから外す

 手頃で使いやすいだろうが…それでも敵との相性がある
例をあげれば[スケルトン]種のようなモンスターには銃撃は効果が薄い



…すぐさま浮かんだのは、剣だ



 運命のいたずらか、彼は自分の幼い日の夢を見た…顔はぼやけていて思い出せないが自分と同じ年頃で銀髪の少年と
祖国を廻って遊んだ一夏の思い出


記憶の中の自分は[ワカツ]剣術の本を読んでいて
その中には術の力とはまた別の闘気なるモノを用いた特殊な攻撃がある事を知った


よくよく思い返せばアニーが虫共に対して撃ち放っていたのもそうだ




ブルー「…アニーか、女の腕力でも技と速さを生かして十分に立ち回る…」フム



ブルー(癪だが奴に相談してみるか)


 隣の席で考え事に耽っているブルーのおでんを盗み食いしようとするリュートに気づくことさえなく
ブルーは今後の予定を決めた…
364 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 01:54:43.38 ID:FFroIjC90
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―――
――


【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分】


噂通りの場所だなーっと、観光パンフレットを片手にルージュは呟いた

 乗客の大半はまだまだ警察…即ち[IRPO]の事情聴取を受けている中、ハイジャック騒動で刑事に協力したルージュ等は
優先的に手短な手続きだけで解放された…「面倒だがこれも規則なんでな、まっ!ちったぁ融通は利かせるぜ!」と
ヒューズ刑事の計らいで長い列に並ばされることなく済んだわけである



暗がりの街に目が痛くなる程の光の渦、耳鳴りを覚えそうなくらいに様々な音が流れていく



エミリア「ささ、こっちよ!着いて来て銃を販売してる店を紹介するから」


ルージュ「はいっ!ところで、ルーファスさんは?」

エミリア「うん?ああ、アイツならアニーと先に帰ったわ」


ルージュ「アニーさん…確かエミリアさんのお友だちの方ですね、僕はまだ一度もお会いしていませんが」

エミリア「ええ、あの海賊たちのドタバタで結局紹介できなかったわね…」


エミリア「この街で困った事があったら彼女を頼ると良いわって会わせてあげたかったんだけどねー」


ルージュ「この名刺を渡せば良い、んでしたっけ?」


エミリア「そうよ、私があげたグラディウスの名刺ね…あの子いつもイタ飯屋の前に立ってるから」

エミリア「なんかあったらエミリアから紹介を受けたって言って名刺を差し出すと良いわよ」



エミリア「それにアセルスと白薔薇ちゃんはもう彼女と面識があるし協力を取り付けやすい筈よ」




エミリア「…ところで二人は?」




約束通り、銃を扱う店を紹介してくれるとルージュは金髪美女の後をついてく…

…何故、マンホールの下へ降りて行こうとするのか疑問に思った所で話題に上がった同行者の話を振られた





ルージュ「あの二人は別行動中ですよ、心配だからついて行こうとかと言ったら、問題無いと言われまして」

ルージュ「なんでも、このリージョンにお住まいの"ヌサカーン"というお医者様の元を尋ねるそうでして」



エミリア「妖魔医師って白薔薇ちゃん言ってたわよね…アセルス、人間に戻れるのかしら?」

ルージュ「……僕には、何とも言えません」






ルージュ「…あの、さっきから気になってるんですが、なんでマンホールの下へ降りるんですか?」

エミリア「あ、この街の武器屋はマンホールを下りた下水道にあるのよ」ヒョッコリ


地中から顔をだした土竜のようにひょっこりと顔だけ出して引き攣った顔のルージュにエミリアは答えた
365 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 02:40:47.01 ID:FFroIjC90
―――
――

【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ&エミリアが武器屋に行く同時刻)】



ポツッ…ポツッ…




 光化学スモッグに薄汚れた街の配管から濁り水が流れ落ち、それは雨水が生み出した小さな溜まり場に行きつく
無数の交差する電線の上には行き倒れの人間そのものを喰らわんとする鴉が眼を光らせており…

常人ならば誰も好んで通りたくないだろうそんな裏通りを一組の女性たちが歩いていた


一人は美しい貴婦人のような出で立ちで頭に白い薔薇の飾りをつけた淑女

もう一人は可憐さよりも凛々しさの方が前に出る整った顔立ちで緑髪が目立つ少女





 綺麗な花には棘がある、などとはよく言ったモノで…一見すれば彼女等は治安の悪いこの街の通りでは
恰好の餌に見えるだろうが、この二人は人間<ヒューマン>ではない、妖魔だ


不用意に敵意を以て近づけば、路地裏に転がる冷たい骸になるのはこっちである



丁度、彼女等二人の眼界にある建物の主と同じ…危険な人物なのだから








アセルス「…此処が、そのヌサカーンって人の…」ゴクッ


白薔薇「はい、妖魔医師ヌサカーン様ですわ、この御方ならばあるいは…」





アセルスは一度だけ白薔薇の顔を見た、自分に付き添ってくれたこの姉の様な優しいヒトを

…固唾を飲み、不安とも期待とも取れる奇妙な感情を胸に暗黒街にひっそりと存在する闇医師の居城の門戸に手を掛けた




ガチャッ!ぎぃぃぃ…







アセルス「た、たのもーーーーっ!」

白薔薇「…アセルス様、それでは道場破りか何かですわ…」





…アセルスお嬢は緊張していた



アセルス「あ、あぁ…!そ、そうだね!ごめんくださーい!どなたかいませんかー!」


366 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/10/31(水) 03:34:22.28 ID:FFroIjC90


 薄暗い室内、古びた柱時計に古き良き時代からあるダイヤル式の黒電話
鼻につんっ!と来る病院特有の薬品臭さ…病院の立地条件も相まって院内は不気味そのもので
10代半ばの少女アセルスは歳相応の反応をするのも無理は無かった





アセルス「…あのー…どなたか、…い、いらっしゃいませんかー…」ピトッ

白薔薇「アセルス様、大丈夫ですから」ナデナデ




 さっきまでの威勢の良さはどこへやら、普段は勝気でモンスターとの戦闘にもめげない彼女が語気を弱め
姉代わりの貴婦人の腕にぴたりと、夏場の樹に止まった蝉か何かようである

そんなアセルスを教育係の白薔薇姫は微笑ましくなでるのであった、そして…





白薔薇(それにしても、変ですわね…)ハテ?



白薔薇(ゾズマから聴いた話では来客を驚かせる"おもてなし"に精を出す奇人だとはお聞きしていましたが…)


白薔薇(にしては、あまりにも気配が無さすぎる…何処かに隠れている、ような感じにはとても)






そして、黒電話が置かれた受付机の上に置かれた来客者に宛てたであろう…この病院の主の文を見つけた












【 ちょっと、[ヨークランド]まで緑の獣っ子と往診に行ってきます

      あと各地を廻って奇病を抱えた女性客を診るので しばらく [クーロン]に帰りません ヌサカーンより】














アセルス「 」( ゚д゚)

白薔薇「…あらあら、まぁ…」







……かくして、アセルスの人間に戻れるかもしれない、という期待はいともたやすく崩れたのであった

367 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/11/01(木) 11:50:22.33 ID:DMumBUm9O
あの仕掛けはリアルにビビる
368 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 21:48:15.92 ID:vBgNsOZB0
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――


【双子が旅立ってから3日目 午後20時20分(ルージュ組、アセルス組がそれぞれ同時進行中)】




「ブラッククロスぅ〜?知らねぇな」スタスタ…

レッド「そうか、ありがとう」







暗黒街[クーロン]…海賊騒動の件を終え、レッド少年は自分の家族の仇である悪の秘密結社の情報を掴もうと
 キグナス号乗務員が次の小惑星<リージョン>へ旅立つ前の休息期間を利用して一人、…いや一機と闇市を歩いていた





BJ&K「…」ウィーン


レッド(…あの後、医務室でコイツに『異常発見、特殊な…』と言われかけた時はビビったな)



 医療ロボット、BJ&K…彼はレッドの生体反応を見て、通常の人間とは違う事に気が付いた
レッドが遠い宇宙の何処かにあるヒーローの惑星<リージョン>から来た人物に力を託され一命を取り留めた人間だと
機械ゆえに生体反応から分かったのだ



レッド(バレたら俺はヒーロー協会の掟とやらで抹消されちまうからな)

レッド(咄嗟にそれ以上喋るな、喋ったらお前をぶっ壊す、俺の傍から離れても壊すっつっちまったからな)




 後ろ頭を掻きながら、乱暴な事を言ったもんだと彼は少し後悔した
そして医療ロボは「命令内容が不正ですが壊されたくないので私もついていきます」と律儀についてくるという



「…ひひっ」
「くすくす♥」





レッド「…」スタスタ




 齢19、まだ大人になりきれない年頃の彼は…正直に言うとこの街の雰囲気に少しだけ気圧されそうではあった
物陰でまだ年若い彼を見ながらほくそ笑む男女の声色や目線、その全てが
まだ大人になり切れない彼の少年の部分に触れてきそうで心細さはあった





BJ&K「…ピピッ、人の大規模な集まりを確認、情報収集に適しそうですよ」

レッド「!」ハッ

レッド「あ、あぁ…ありがとうな」





…たとえ、メカでも今は"独り"じゃなくて良かった、彼は思った

369 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/02(金) 22:55:44.29 ID:vBgNsOZB0


情報収集に勤しむ少年は医療ロボと共にひたすら暗黒街を渡り歩く、彼はメカと違い人間<ヒューマン>だ

 動けばカロリーも消費する、あの騒動でそういえば何も食ってなかったなと身体が空腹の音で知らせ出した頃
適当に眼に止まったコンビニエンスストアで何か軽いモノを買って行こうと歩きだした





「へっへっ…よぉ!見ろよあの頭!」

「ヒューッ!まぁ〜ったく奇妙なヘアースタイルだぜぇ!!鳥の巣かww」
「ちっげーよ、サボテンだろぉ?」



「「「ぎゃーはははははっwwww」」」






…治安の悪い街でこの程度のゴロツキ共はまだタチの良い方だろう

どこの惑星<リージョン>にもまるでお決まりのようにいるコンビニ前で屯うガラの悪い若者という奴だ

 緑、白、空色、3本カラーリングの横縞が印象的な看板灯の下
『家庭ごみの持ち込みを固くお断りします』と書かれたゴミ箱の前に座り込み煙草の吸殻をこれでもかと言わんばかりに
撒き散らしているモヒカンヘアー達



レッドは何も言わずに彼等に背を向けた



「サボテンくぅ〜ん、アタシ等とあそんでかなぁ〜い…イイ事してあげるわよ!キャハハ」

「おい俺らが遊んでやるっつってんだ、無視すんなよ、なんとか言えよォ」




背を向けたレッドは無表情で静かに歩き出した



「へへっ、そんなこというなよなァ〜ビビッて逃げちゃうよ、弱虫くんなんだから、あっ!もう逃げてるか」


「「「「ぎゃーっはははははwwww」」」」


―――
――



暗がりの道を白熱灯の灯りを頼りに階段を降りていく、小さな安宿の横をレッドとBJ&Kが降りていく


レッド「…」



レッド「……昔の俺なら、蹴り入れてたな、オレも大人になったということか‥‥フッ」




[シュライク]に住んでた頃、まだ学生時代だった頃なら余裕でシメてただろうなと思った

…ヒーローになってから何が切欠で抹消されるか分からんと慎重になっていたのはあるかもしれない




以前の自分なら考えるよりまず行動だったが、少しだけ考えるようになった、そんな気がするのだ

370 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/03(土) 00:30:17.81 ID:EDU40oww0


「聞いたか?この街の裏通りに居た闇医者が他所のリージョンへ行っちまったとよ!」

「あ〜、あの奇病フェチで無一文でも診察してくれる変人の…勿体ねぇ」




「俺は見たんだ!アイツが鉄パイプでロープを切るのを!アイツぜってー[ワカツ]の剣豪だって!」




「さっき変な路上パフォーマーが居たんだけどさぁー、あの芸クッソつまんなかったわよねぇ」
「あっ!わかるぅ〜!」




レッドは歩いた、だが…得られた物は全くと言って良い程に何も無かった…

―――
――




レッド「…収穫無し、か…しゃーない、戻るか」クルッ



スタスタ…


白熱球の灯りに照らされた階段を昇り来た道を戻る…、一度通った道を戻るという事は当然ながら先のコンビニ近くを
通るわけで、当然―――




「お、お、おぉ…サボテンくん戻って来たよぉ…スゥ、ハァ…」



―――当然、ガラの悪い連中がまだそこには居た

透明なビニール袋に何か透明な液体が入っていて、彼等は"ソレ"の匂いをしきりに嗅いでいた


「へ…ふえへへ」スゥ…ハァ


「おひゃ、らいふえげ」





レッド少年は露骨に顔を顰めた、彼はヒーローになる前から正義感の強い男だった
 だから目の前の"行為"を行う集団に心底嫌悪感を抱いたのだ




レッド(こいつら、"ヤク"やってやがるな…)



犯罪都市[クーロン]では日常茶飯事な光景だが、観光客からしたらひどく不愉快な光景である
 これ以上、この手の輩に関わり合いたくないとその場を離れようとしたレッドは次の瞬間信じられないモノを目にする


「う、ウゴゴ…ウウゲエエエエエエエ」…ベキッ、 ベコッメキョ…グッ ボコボコ


「きゃあああああああああぁぁ!」

「らんらー。ろうしたんら?おまえあー ―――ウゲッ」ガッ!




レッド「!? な…なんだぁ!?あれは!!」
371 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 22:43:36.89 ID:FWNstqpd0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時29分】



エミリア「どうかしら?」

ルージュ「色々種類はあるけど、いきなり強い銃はやっぱり扱い辛さもあるし」


ルージュ「これにしときます!」つ 【アグニCP1】


エミリア「確かに初心者向けではあるわね…ね、基本的に店頭に並ぶ銃は此処ぐらいしか良い店は無いわ」

エミリア「もし、それに慣れたら新しい銃を新調しに[クーロン]にくると良いわよ」


ルージュ「この場所以外にはないんですか?」



エミリア「…んー、銃、といえば銃だけど
       メカにパーツとして組み込んだ方が良さそうな重火器専門の店が一応裏通りにあるのよね…」


エミリア「横流し品で正規軍から色々と強いのを取り揃えてるけど…重火器は、ねぇ…」


ルージュ「何か不都合が?」キョトン

エミリア「いや…戦闘が終わった後の成長性が…」ブツブツ



ルージュ「???」


―――
――


ルージュ「それでは!エミリアさんお元気で!」ペコリ

エミリア「ええ、術の修行の旅ってのはイマイチ私には分からないけど大変なんでしょう?頑張るのよ!」



 腰まで伸びた白銀の長髪は去っていくブロンドの女性に礼を告げ、裏通りに住まう医者の居城へと向かうべく踵を翻す
おそらく、緑髪の少女らが居るからだ…待つよりどうせなら迎えに行った方がいいと判断してだ





タッタッタ…!

ルージュ「うん?」クルッ





巡礼者「 」バッッ! ドンッ



ルージュ「うわっ!」ドサッ


ルージュ「いたた…な、なんだぁ?あの人…凄く急いでるみたいだけど、人にぶつかって謝りもしないなんて…」ムゥ…


「てめぇ!!待ちやがれェ!!」タッタッタ!


ルージュ「…あれ?この声は…」ハッ!





レッド「でめぇ!!そこの巡礼者風の男ぉ!麻薬売りは貴様だな!!」タッタッタ!

372 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/11/13(火) 23:15:10.86 ID:FWNstqpd0


ルージュ「君は…確かレッド!レッドじゃないか!」ダッ!



レッド「―――あっ!アンタは確かルージュ…だったな!丁度いい!アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」ダッ!




 見知った顔の少年が一人の巡礼者を追っていた
紅き術士は自分の名と同じ意味合いを持つ少年と奇しくも早い再会を果たす


 何事かと魔術師は少年に並走するように走り、事態を問うと追跡に夢中だったレッド少年は横目でチラリと
自分についてきたルージュの存在に漸く気づいたのだ…そして第一声が「アイツ捕まえんの手伝ってくれ!」なのだから
術士は目を丸くした





レッド「話せば長くなっちまうから手短に言う!アイツはこのリージョンで麻薬<ヤク>を売ってんだ!」

ルージュ「麻薬だって!?」

レッド「ああ!」




マンホール下の武器屋で銃を品定めしていた合間に、レッド少年は奇妙な光景を目の当たりにした

あの屯って居たガラの悪い若者たちの内の一人が突然、"変貌"するという怪奇だ



 腕や顔…いや、身体全身の皮膚がボコボコと沸騰した鍋底の熱湯のように泡立ち膨れ上がり、瞬く間に人間から怪物へと
その姿を変えていき、手当たり次第近くにいた通行人を襲い始めたのだッ!



それは"ただの麻薬"ではない…飲む者の細胞を意図的に変質させ、人体を改造し化け物を生み出すという―――






レッド少年が追い続ける悪の秘密結社【ブラック・クロス】の人物が新薬の実験、組織の資金を集める為の物だったァッ!





 群衆の眼があるが故に"アルカイザーに変身することができなかった"彼はそのまま生身で改造戦士と化した男を倒し
事の成り行きを見ていた巡礼者風の装いをした男を見つける…そして奴こそが薬物を売っていた張本人と聴き

被害の出た一般人の治療をBJ&Kに任せ一人で追跡していたとうのが此処までの経緯であった







ルージュ「麻薬だなんて…っ!そんなの放っておけない!わかった!」ダッ!

レッド「っ!すまねぇ…恩に着るぜ!」





共闘はした、が出会ってそこまで過ごした時間は僅かだというのに…普通、こんなヤバい事件に首を突っ込んでくれる奴は
いないというのに、ルージュはレッドの突然の申し出に快く頷いてくれたのだ


"正義の心"を持つ少年と共に並走するこの紅き魔術師も、…彼もまた正しいと思う行動の為に動くタイプの男だった…っ!
レッドは心の中で、この青年の純粋な心に感謝した
373 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/11(火) 23:15:48.89 ID:6QiV02sE0


 鮮赤と深紅が暗黒街の闇を切り裂く様に並走する、ネオンの輝きも何事かと窺う人々の顔も目に映るモノ全てが
線になっては視界の端から逸れていく


竹笠の後を追い、街の闇へ奥へと進んでいく――ネオンの輝きも人の気配も失せ、ついには街の裏通りへと入り始めた頃だ







レッド「チクショウ!!…見失っちまった」ギリッ

ルージュ「レッド!落ち着くんだ!…僕達は此処までアイツとはそれ程距離に差をつけられずにつけて来た」

ルージュ「とすれば、何処かに隠れて息を潜めているんだ!」


レッド「あ、ああ…一体どこに」キョロキョロ




長い階段、雑居ビルの天辺まで一気に駆け上がれる錆びついた梯子…開きっぱなしのマンホール、候補など幾らでもある




ルージュ「危険ではあるけど、手分けして探さないか?」

レッド「二手に分かれるのか」

ルージュ「ああ、事前に裏通りは治安が悪いとは聞いていたけどキミと僕ならきっと余程の事が無い限りはきっと…!」


 レッドは[ソルジャービル]達との戦闘を顧みる、術士として後衛を務めながらも
懐に飛び込んで来た敵兵を避けて蹴り飛ばした姿を見るに護身術も多少は齧っている…ならば行けるか?と


レッド「わかった、その手で行こう無理はするなよ!危険だと思ったらすぐに退いてくれ」

ルージュ「うん、キミも気を付けてね」




互いに頷き、捜索を分担して行う事にした―――異臭のする配管が剥き出しの路地裏を一人ルージュは歩く…


"麻薬の売買"という悪行を許すわけにはいかないと、彼はつい勢いでレッドについて来てしまったが
 結果的に言えばこの裏通りの何処かにまだ居るかもしれない仲間のアセルス等をほったらかしにしてしまったことに
今更ながら後ろめたさを覚えた




ルージュ(緊急事態だったとはいえ、やっぱり悪い事だったかな…あとで二人と合流したら謝ろう)タッタッタ…


―――
――

時を同じくして…そのアセルスお嬢は…



「ひひひ、ね、ねぇ?そこのお嬢さんたちイイモノ売ってるんだけど買わない?今なら安くしておくよ」ヒヒヒ


アセルス「 お 断 り し ま す ! 」



あからさまに怪しい白衣の男に商談を持ちかけられていた

「…ちぇ、いいよ…[裏メモリボード]を50クレジットなんて破格なのに」ブツブツ スタスタ…


白薔薇「変わった方が多いリージョンですわね」

アセルス「…はぁ、ヌサカーンってお医者様が居ないのに変なのは居る、か」ガックシ…
374 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/12(水) 02:09:50.35 ID:INgrk9Io0


一筋の希望が見えたと思えば、それは此処に在らず
目に見えて落胆する少女を見て白薔薇姫は暫し迷った、項垂れた緑髪が雨に濡れ余計に悲壮に見えてしまう


白薔薇「アセルス様、まだ手が無いワケではございません…」

アセルス「白薔薇…?」





白薔薇「望みは薄いかもしれませんが、良き知恵をお貸しくださる方に心当たりがございますわ」

アセルス「誰なの?その人は…」



 厳密に言えば知恵を貸してくれそうなのは"2人"だ、2人ではあるが…その内の一人[零姫]と呼ばれる女性が現在消息不明
何処かで生きていることは間違いないのだが、白薔薇はその人物が何処にいるか知らない為、残る一人の名だけを挙げた









 白薔薇「その御方は…妖魔の君の一人、氷炎の小惑星<リージョン>、[ムスペルニブル]に城を構える御仁」







        白薔薇「人呼んで、指輪の君…ヴァジュイール様に御座います」






アセルス「ヴァジュイール?え、でも妖魔の君って」

白薔薇「はい、…オルロワージュ様と同じく頂点に立たれる御方です」





それを聞いてアセルスは身の毛もよだつ怒りに駆られた、オルロワージュと同じ妖魔の君!?冗談じゃないッ!

 自分の都合だけで女の人を攫って、あまつさえ勝手に人間を辞めさせて自分の愛人に仕立てる奴と同格の妖魔なんて
そんな碌な奴じゃない!山豹を思わせる彼女の怒りに貴婦人は「どうかお怒りを鎮めください…」と宥める



白薔薇「ヴァジュイール様に限らず、妖魔の君と呼ばれる方々は
       全てがオルロワージュ様と同じ思想をお持ちではありません」




ある者は修行に明け暮れ術の道を究めて最終的に自身の"時"を停めたり

"退屈"を何よりも嫌い、客人を手厚く持て成し"興"に何よりもめり込むなど…その考え方は千差万別であると



 そして指輪の君も、相当な変わり者として妖魔の中ではあらゆる意味で有名な人であり
また人間から見て寛容な大人物と評する声もあるのだ…(一方で勝手に人をテレポートさせる自己中心的との声もあるが)




白薔薇「あの御方のお眼鏡に叶えば…あるいはお力添えを頂けるかもしれません」


ひょっとしたら零姫の事も何か存じていて、せめて居場所くらい教えて貰えるのでは?と淡い期待も貴婦人の中にはあった
無論、彼が彼女等を気に入り、良き友として見てくれるならばの話だが…
375 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/15(土) 11:12:18.31 ID:Iy7IpdVQO
つ【ハイドハイドハイドハイドビハインド】
376 :>>375 ヴァジュ様「う、美しい…ッ!」花火ボーン! [saga]:2018/12/19(水) 00:44:33.38 ID:GIh0EGVY0


アセルス「…白薔薇がそこまで言う人なら…」



 納得、とまではいかないのも無理はない、彼女の境遇の元凶たる妖魔の君が如何様な存在か
彼女の知る最たる例が魅惑の君だけなのだから気持ちも分らなくはない膨れっ面のアセルスお嬢は渋々と頷きながらも
裏通りから[クーロン]の繁華街へと通ずる道へ向き返った



アセルス「なら帰ってルージュと合流しよう、そろそろ銃も手に入ってる頃だろうから…」



タッタッタ…



白薔薇「そうですわね――――アセルス様」


タッタッタ…


アセルス「!」ピクッ



タッタッタッタッタ…!!





 その足音に初めに気が付いたのは白薔薇姫だった
同じく妖魔と化したアセルスも遅れて此方に何者かが走って来る音に気が付く、犯罪都市の裏通りだ浮浪者の一人二人が
金品目当てに追剥をしたとしても何ら可笑しなことは無い


白薔薇は静かに[フィーンロッド]に手を伸ばす

同じくアセルスお嬢も侍が腰に差した刀に手を伸ばすように白薔薇姫と同じ武器の柄を握りしめる









       -『身の丈に合った武器を使え、でなくばいざという時に死ぬぞ』-





あの一件…キグナス号でサングラスを掛けた男、ルーファスに言われた言葉だ

妖刀[幻魔]を完全に扱い切れていない自分では…この武器に頼り切った自分ではいつか、地に膝をつくことになる
己自身が強くなり、成長した時こそ[幻魔]を手に戦おう、彼女はそう誓い、此処へ来る前に武器を新調したのだ


[幻魔]は今、ルージュの[バックパック]に預けてある



だから妖刀の力には頼れない、信ずるべきは己の力、ただそれのみッ!


アセルス(…落ち着け私、…そんじゃそこらの奴になんか負けっこない)キッ



 西洋剣の構えを取る白薔薇姫、侍が抜刀する様を彷彿させる東洋剣のスタイルで身構えるアセルス…同じ武器にして
全く異なる剣術の形を取る女性二人が目にした突然の来訪者…それはッ!



            巡礼者「 」タッタッタ…!


アセルス「ふえ!?…お、お坊さん…?」キョトン
377 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:14:31.43 ID:GIh0EGVY0




意外ッ!それは巡礼者ッ!






…身構えていたアセルスは毒気抜かれたような顔をした、浮浪者―――もしくはオルロワージュの放った刺客かと!?―と
本気で身構えていた分、草鞋で水溜りの上をばしゃっ!と踏み歩くお坊さんの登場に目を丸くした


勿論、単に獲物を油断させる為だけにそのような恰好をしていて、そこから懐に忍ばせた刃物でグサリ!なんてことも考え
すぐに緩んだ気を引き締めたのだが…




タッタッタ…


シーン…




白薔薇「…行ってしまわれましたわね」

アセルス「…そ、そだね」カァ///





 ただの通りすがりの坊さんだったようだ
自分達二人の真横を素通りして走り去る姿を見て水溜りに映る自分達の姿が滑稽に見えた


思い出したらなんだか顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなってきた…






タッタッタ…!


アセルス「ってまた足音―――」









ルージュ「ハァ…ハァ……って、あ、あれ!?二人共!?」タッタッタ


アセルス「ルージュ!?なんで此処に…迎えに、来た、の?」


ルージュ「いや、人を追っかけてたら―――そうだ二人共!この辺で笠を被って、棒を持った人が走ってこなかった!?」

白薔薇「その御方でしたら彼方へ向かわれましたがどうかなさいましたか?」スッ


白薔薇姫の指差す方向を見てルージュは簡潔に理由を説明する



ルージュ「時間が無いから手短に言う、アイツは街で麻薬を売ってたんだ!レッドと捕まえる為に追ってる!」

アセルス「烈人くんも!?」


378 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 01:48:57.69 ID:GIh0EGVY0


アセルス「それだけ聞ければ十分だ!白薔薇!私達も追おう!麻薬なんて売る奴は放っておけないって!」

白薔薇「アセルス様の御命令とあらばご一緒します」



ルージュ「二人共、巻き込んでごめん!ありがとう!」



三人が早速、巡礼者を追おうとしたその時だった























ゾワッ










三人の中でいち早く"ソレ"に察したのはルージュだった





それは彼自身が魔術師だからなのか、単に彼という人間の[霊感]が高かったからなのか、昔からそうだ

[ルミナス]でアセルス等があの全身青色で統一した妖魔…[水の従騎士]が正に彼女等に襲われる直前がそうだった



嫌な予感を直感的に察知することができた



背筋に嫌な感触が走り思わずルージュは立ち止り身震いした

次に気が付いたのは上級妖魔である白薔薇だ、最後に気が付いたのはアセルスお嬢





ルージュはゆっくりと、ゆっくりと裏通りの…薄汚れた街角の小さな一角を見た、降りしきる雨、雨樋<あまどい>から
伝ってくる汚水に晒され…錆びて腐り切った鉄材や何かの工事で使う気だったのか
キノコや苔、黴菌<かび>が繁殖してもはや使い物にならない角材



…その角材の上に腰を下ろして座りながら此方を眺める"ソイツ"とルージュは目が逢った


黴菌<カビ>だらけで、毒々しい茸が生えて…胞子のようなものをふよふよ漂わせていたソイツと…

379 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga!美鳥_res]:2018/12/19(水) 02:27:04.76 ID:GIh0EGVY0









               「ふしゅるるるる…終わりだ!!」






380 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 03:05:03.90 ID:GIh0EGVY0


妖魔だ、見た瞬間に理解した
今までアセルス等を追って来た刺客たちの中でもコイツだけは"別格"だ、と


騎士と呼ぶには細い体つきで、手に持った武器が杖である所からも魔法使いといった印象が強い


全身が緑系統の配色でこの濁った雨が降りしきりコンクリートジャングルではその姿はさぞ目立つ
 しかしながら、初めからそこに居るという気配を感じさせない、奇妙なこの感覚…


目の前にいるのに、居ない


魂だけのお化けか何かと対面しているように錯覚する、手を伸ばせば触れられず、雲をつかもうとでもしてるんじゃないか
そう思わせる程にソイツは…存在感を消していた、視界に入っているのに




森の従騎士「我こそは森の従騎士…主の御命令に従い、姫を取り戻しに来た邪魔立てする者は排除する」フシュルルル





白薔薇を庇うように前に出るアセルス、いつでも術を放てる姿勢に入るルージュ…一斉に戦闘態勢に入る



ルージュ(…なんだ、アイツの身体の周りに浮いてるあの白いのは…)ゴクリッ




白銀の魔術師は森の従騎士と名乗った妖魔の風貌に言いようの無い不安を抱いた…
緑色を基調とした身の周りに蛍のように薄らと半透明で光る"何か"が浮いてるのだ、直感的に分かる


"アレに触れてはいけない"




森の従騎士「立ち塞がるか、ならば死ね」コォォォォ…
白薔薇「! お、お二人共!一か所に固まっていてはいけません!散開してくだ―――」




騎士を名乗る者がどのような攻撃を放つか
  ――いや術を唱えるのか?ならば相手が先に詠唱を終える前に術を反射する術を掛ければ良い!

と、紅き術士も、体術や杖を用いた棒術が来るなら[ディフレクト]しようと構えていた麗人の少女も浅はかな考えでいた



あろうことか敵が仕掛けて来た戦法は術でもなければ剣技や棒術のような物理攻撃ですらなかった



    パカッ


従騎士の仮面の唇にあたる部位…マスクが音を立てて開いたのだ





 森の従騎士「ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""」キィィン





怒声、悲鳴、絶叫、奇声


無数の音が、騎士の声帯から同時に発せられ

それは無数の糸が絡み合い帯を造る様なうねりとなった…特定の魔物が使う技、音波攻撃の[スクリーム]だ
381 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2018/12/19(水) 04:29:27.92 ID:GIh0EGVY0


 本来であれば不可視の衝撃波…もとい"音撃波<ソニックウェーブ>"は大気を震わせ空間をも歪め――そう喩えるならば
真夏の猛暑日に遠くの景色がぐらぐらと揺らいで見える陽炎現象に似たモノが垣間見える

輪っか、円環状の振動が相手の口部から放たれ波状に広がる様に伸びていくのが確かに認識できる




…もう一度言うが波状に広がるように伸びていく、[スクリーム]は大勢の敵を巻き込む範囲攻撃の一種として界隈で有名だ



一番後ろに居た白薔薇姫、その彼女を庇うように前に出ていたアセルス、そしてその二人より前に居たルージュ




直撃だった、音の振動が身体全身に響き渡り…銀髪の好青年は自らの身体から嫌な音が鳴るのを直に感じた
ビリビリとした痺れ、鈍い痛み、手足の指、関節が思う通りに動かなせない





ルージュ「――」ドサッ





硬い地面に前のめりに倒れ、血反吐を吐き出す…まだ意識はあるが受けたダメージは彼自身が思う以上に深刻だった

骨に罅、振動は体内を駆け巡り、内臓、脳…あらゆるものを文字通りシェイクしていった




アセルス「――っ ハァ、―フゥーッ…ぐぅ…ハ、  る、るーじゅ?」


偏に魔術師が盾になったのもあるが妖魔の血で人間<ヒューマン>ではなくなったアセルスと
一番後ろに居た妖魔の白薔薇姫だけである、まともに動ける状態なのは…



ルージュ「 」ピクッ、ピクッ




アセルスの目の前には目は焦点があわず、地に伏せたまま痙攣する親友の姿だ
上記の通り、体内にもダメージが行き届いている所為か彼は起き上がることもできずにいる

気絶はしていない意識は確かにある…だが指先から膝や肘、身体の自由がもう効かないのだ



アセルス「」プッツン



アセルス「あぁぁぁぁああああァァァ―――ッ!!お前ぇぇ!!よくも…っ!!」ダッ!!



目の前で親友がやられたッ!!激昂したアセルスは感情のままに[フィーンロッド]を構え突っ走る

 重傷のルージュを見て彼の生命を繋ぎとめようと迅速に回復術の詠唱に入った白薔薇はそれを見て何かを叫ぼうとして
一瞬躊躇った…森の従騎士の事は彼女がよく知っている、故に最初の[スクリーム]が来ると分かった時点で「散開しろ」と
そう言いたかった、間に合わなかったが


そして今回も音撃波から立ち直り、すぐにでも伝えるべきを伝えるべきだったがそれよりも生死に関わる彼を救うのが
最善手だと判断した…

事態は一刻を争う、1秒でも早く回復術を紅き魔術師に掛けねば手遅れになってしまう…っ!
アセルスに何かを叫びたかった白薔薇姫は『伝えるか』『ルージュを見殺しにするか』を天秤に掛けた結果、詠唱を続けた



だからこそアセルスが今行った、森の従騎士に対して行なってはならない禁忌<タブー>を伝えきれなかった

382 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 12:09:13.99 ID:cLWp4x5r0
炎と水は2人でも楽勝なクソザコなのにこいつからいきなり難易度はね上がるんだよなぁ
383 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2018/12/19(水) 20:09:46.23 ID:GSEMXO/TO
森の従騎士>>>(越えられない壁)>>>>>>>猟騎士


セアト・・・。
384 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/01/30(水) 00:49:36.37 ID:yXOt2kS70


助走をつけてアスファルトを蹴り、[フィーンロッド]の先を目前の敵の喉首目掛けて突き立てる


ガッ!!


アセルス(くっ…か、堅い!喉に全然突き刺さらないなんて!)


 苦虫を噛み潰したような顔をする彼女を見て従騎士の仮面は再び口元を開く
アセルスは口部が再びオープンフェイスになったことをみてゾッとした、この至近距離であの[スクリーム]を浴びるのかと

動揺の走るアセルスの意に反して目の前の騎士は――――!



森の従騎士「――――くくっ…」ニタァ




…アセルスお嬢の警戒した攻撃を放たなかった、いや放つ必要が無いのだ
彼奴が態々口を露わにしたのは…そのほくそ笑みを見せつける為だ



 アセルスの瞳に白い光の球が映った、自分と敵の合間に割って入って来た発光体
常に森の従騎士に纏わりつく様に浮いていた光るソレの正体をこの時、間近で見て漸く分かった







                  首だけの骸骨「ケカカ…」ボォォォ





アセルス「ぁ―――」


頭蓋骨が宙に浮いていた―――歪んだ並びの悪い歯並び、生身の人間なら突き出た鼻がある部位はガッポリと穴なっていて
その奥の空洞までくっきりと見える、眼球が収まっているはずの空虚には何も無い筈なのに

そこには確かにアセルスを凝視する目玉があるようにさえ錯覚する…っ!!







        白薔薇「『<スターライトヒール>』―――アセルス様ぁぁ!!!」パァァッ!

      森の従騎士「汝、呪いあれ『<カウンターフィアー>』」ボソッ






2人の詠唱が終わるのはほぼ同時であった奇跡の星光が傷つき倒れたルージュに生命を宿し

蚊の鳴くような呟きで囁かれた呪いの言葉が頭蓋骨を模った怨讐の思念に勅令を下す


ボッ!バシュッ!バシュッ!


 光と化した生首が流れ星のように一筋の線を描き少女の体内に入り込む、防具をすり抜け
肉体すら関係無いと言わんばかりに彼女の胸の中に入っていく


   "呪い" が アセルス の 精神 に 入り込む ! アセルス の 精神 が 侵食 されていく !



     アセルス「―――――――――」

385 :書き溜め分少しだけ投下 [saga]:2019/02/17(日) 02:19:36.90 ID:HGQPydB/0


 森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた



 何故ならばソレがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程に凶悪極まりなく、又、これまでに屠られてきたであろう
数多の標的達が苦しめられた戦法であるからだ

 ["カウンターフィアー"]その名に違わぬ性能を持つ不死の属性を持つモンスターが使う技
我が身に直接触れた相手に等しく精神汚染の呪いを掛けるのだ…
肉を切らせて骨を断つとは諺で言うが、これは骨を切らせて心を折るとでも言うべきか



 ―――ドクンッ!
    ――――ドクンッ!






      アセルス「は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!」




呪いを一身に受けた少女の眼は瞳孔が開き、悲鳴とも咆哮とも分からぬ叫びを空へ向かって放つ
 傷は癒え一時とは言え昏睡していたルージュが立ち上がり状況を飲み込もうとする最中で白薔薇がアセルスの名を呼ぶ



 アセルス「―――っ」ブツブツ ブンッ!ブゥンッ!



何かを小さな声で呪詛しながら手にした武器をあらぬ方向へ振り続ける少女はこちらへと向き返りそして



 アセルス「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!来ないで!私は人間…人間よ、バケモノなんかじゃないっ」ブツブツ、フーッ フーッ


 ルージュ(! なんだ、正気を失っているのか!?)


 アセルス「あああああああぁぁぁぁぁ!!来るなぁ!」ダッッ! グンッ!!



 精神に潜り込んだ呪いの影響で【混乱】したアセルスが刺突を構えて白薔薇に一直線に駆け出す
この瞬間、紅き術士は何が最適解か判断するのが僅かに遅れた

錯乱状態のアセルスが唯一の回復術の使い手である白薔薇へ攻撃
更に森の従騎士は泣きっ面に蜂とでも言うのか毒素をばら撒く[胞子]を構えていると来た

騎士を止めるか、アセルスを止めるか







 ルージュ「 ぼ、僕を護れッ!『<サイコアーマー>』!!」PSY UP!! VIT UP!!





 光の帯が術者を包み込んでいく…輝く環が脚の爪先から頭部まで覆い尽くし終えた後ルージュは己の術で
身体中を駆け巡る霊感能力の上昇と、肉体の強度が増した事を実感する



 ルージュ「くっ…!間に合えぇぇぇ―――っ!!」ダッ



視えざる強固な鎧を装備した彼はアセルスお嬢と白薔薇姫の間に割って入れるようにアスファルトを蹴る

386 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:22.45 ID:HGQPydB/0


 ふよふよ、緩やかに毒素をばら撒く死人茸の胞子が降って来る、冬の頭頃に見受けられる可愛らしい粉雪の様に
ファンシーな見た目とは裏腹な殺傷力を持つそれを浴びてしまう前に為さねばと脚を動かす




―――グシュッ!




 ルージュ「こっっ、ぁ――」ブジャッ!

 白薔薇「る、ルージュさん!!」


 ルージュ「いい!!肩がやられただけそれより下が――」



下がれ、言い切る前に[胞子]は無慈悲にもその場にいた3人に降り注いだ
 肉がジュウウウ!と音を立てて溶解する音、焼ける痛みに声を押し殺せない、ルージュも白薔薇もアセルスさえも



ルージュ「」ドサッ

白薔薇「」ドサッ

アセルス「」ドサッ…カランッカランッ



 術士も妖魔の貴婦人も武器を取りこぼした少女の姿も、森の従騎士の仮面奥にある瞳には映っていないのだろう、と
倒れた一行には冷たい雨が降る中で表情が一切窺えない騎士が何の感動も無くその様を見ているように思えた



アセルス「ぅ、うぅ… ふたり、とも、ごめんなさい…」


白薔薇「…正気に戻られたのですね」
ルージュ「…キミは悪くない、って暢気な事言ってる場合じゃないよね」チラッ



誰一人動けなかった…反省会なんてしてる場合ですらない、頭ではわかる


だが身体は言う事を聞かない、小指一本すら動かない、頭は動くというのにだ



 諦めの境地…っ! もはや悟りのような心境…っ!

      勝機を見いだせないからこそそんな事を言っていられる…っ! 絶対絶命の万事休す…っ!



倒れた一行の視線は皆、一点を見つめていた


森の従騎士「……」カシャッ


 従騎士の仮面は先程見せた口部の動きと同じように目元を開かせた、此処で初めて3人は自分達を見つめる
騎士の眼つきを知る事となる…


ゆっくりと取るに足らない虫けらを見るような眼つきで此方を観ながら歩み寄り
致命傷となるであろう[スクリーム]を直撃させるべく口部マスクを開いた森の従騎士の姿だ


誰もが思った、『嗚呼…ここで全滅するんだな』と


パカッ…!

森の従騎士「任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…」スゥゥゥ


これからの大絶叫の為にと肺に多量の空気を取り組むべく騎士は大きく息を吸い込んだ…
387 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:20:54.19 ID:HGQPydB/0






















            「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!























        ドゴシャァァァッッッッッッツ!!!! !  !  !     !












騎士は三人にトドメの一撃を繰り出すことはできなかった、否、逆に"奇妙な闖入者"に一撃喰らわされた


388 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:22:34.64 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後20時58分 (森の従騎士戦 開始直後)】



 ばしゃり、降り頻る雨のレースカーテンを掻き分ける様にレッド少年は犯罪都市の裏通りを疾走していた
偶々繁華街で出会った気の良い術士とは二手に別れて捜索しようという提案を受けた後だった



 レッド「くっ…見失っちまったってのかよ」



 目立つ格好、走り辛い見た目に反して男二人を振り切る脚力を持った巡礼者風の姿は既に影も形も無い

元より入り組んだ土地であったし、雑居ビルの屋上まで伸びる錆びた非常階段や鉄梯子、下水道へ繋がるマンホールと
逃げようと思えば何処にでも行けるし身を潜めることも容易いのだ

追跡対象を見失った彼は小さく舌を打ち、両手をズボンのポケットに入れて空を仰ぐように見つめた


喉の奥が少しだけ痛かった、こんなことは学生時代に誰にも負けまいという意志を持ったままゴールテープ切った時以来だ



僅かに開いた唇から零れる吐息は寒空の下で吐く白息に似ていて、煙雨に紛れて薄くなり消えていく…
 その様子をぼんやりと眺め、運動後の脳に酸素が回り始めた頃に彼はルージュの方は巡礼者を見つけられたのかと考えた



 レッド(此処でボケっと空見上げててもしゃーないか)



 少年は麻薬売りを追って全速力でかっ飛ばして来たが、そもそも奴がこちらの方面に逃げたという確証が無い
枝分かれした何処かの小道でルージュの向かった方角に逃げ去ったのかもしれない

ズボンに手を突っ込んだまま首を横に振って逆立った髪から水分を飛ばす、踵を返して来た道を歩み始めた時だった――















 -   ヴァアアアア アアアアアアア"ア""アアア アアアアア""アア"" ア"ア"ア  ア" ア ア""  -









  レッド「っ、な、なんだぁこの頭が割れそうな甲高い音は!?」キィィン





耐えかねてポケットから取り出した手を耳に当てる


…それは厳密に言えば"音"ではなく"声"だ
少年の見やる方角で今この瞬間にアセルス等を追って来た刺客の一人が[スクリーム]を放ったのであった



 レッド「…音が鳴り止んだ…?あっちの方角で何かあったのか」ダッ



休めていた脚に再び鞭を打ち、彼は何らかの事体が起こったと思わしき現場へ駆け始める
389 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:10.47 ID:HGQPydB/0



  レッド(くそっ!なんだってんだ…胸騒ぎがするぜ)ハァ…ハァ…



 自分でさえ自覚できる程に動悸がする、それは碌な休息も取らずに肺を酷使しているからでもはない
レッドは奇妙な既視感を覚えていた、あの日―――



   レッド「くそったれ、これじゃあまるで…っ!!」



――あの日、自分の家族を失ってしまった日と同じじゃあないか!!


 敬愛する父を自家用車の助手席に乗せて高速道路を走ったあの日

 悪の秘密結社なんていう餓鬼向けの番組に出てきそうなふざけた連中が突然やって来て父を、母を、妹を…

 レッド少年の家族とありふれた平穏な日常を焼き切った忌まわしき日を連想させるには十分だった…っ!




 郊外にあった小此木邸が炎に包まれ、赤焼け空に立ち昇っていく火粉、両腕が義手の大男の姿
組織のシンボルマークを表すバツ印を強調した全身タイツの戦闘員、己の腹部を抉る鉤爪…


どれもこれも忘れたいと思っても忘れえぬ記憶だ


 降っているのは建物が燃える煤でも火粉でもない、自分の頬にあたるのは濁った空が落とした涙滴
水分が火事の熱気で飛ばされ乾き切った空気とは真逆のじめりとした湿り気と水滴なのだ


だが、胸は煩いくらいに脈打つのだ…っ!


ここで走らなければ後悔する、間に合わなければ自分は"また失ってしまう"と警鐘を打ち鳴らしているのだ…ッ!



 レッド「…!なんだ、何か光が見えるぞ!」タッタッタ!


 雑居ビルで構築されたコンクリートジャングル、鉄骨と石材の雑木林を抜けた先に一点の星光を見た
それは[スクリーム]で危うく命を落とし掛けたルージュを救うべく白薔薇が唱えた[<スターライトヒール>]の輝きだった



 ―――間違いない、あれは"戦闘"の光だ


この先で戦闘行為が行われている、では誰だ?一体どこの誰が何者と対峙しているのか…






           アセルス『は、はぁぁぁ―――はがあか"あぁ――――ッ!』

            白薔薇『アセルス様ぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!』




 レッド「ッッッ!?」ビクッ




それは…幼少の頃、家族同然のように遊んでくれた"近所のお姉ちゃん"の悲鳴とその人の名を呼ぶ悲痛な叫びだった


 行方不明者として扱われて12年、生存はもはや絶望的で死亡者扱いされていた人、実姉のように慕ってきた人との再会は
家族を失い悪の組織への復讐心に燃えるレッド少年にとって何よりも心の救いだった


その彼女が…!そのアセルスが…っ!! この瞬間、今度こそ生命を断ち切られてしまうかもしれない場面に直面したッ!
390 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:23:36.50 ID:HGQPydB/0



 レッド(な、なんだよこれは…っ)



 息が詰まる、息が止まる、次々と飛び込んでくる景色――アセルスが錯乱して味方に刃先を突き立てようとする所
銀髪の術士が防御術を掛け身を挺して仲間を救いに行く場面、だが虚しくも敵の一撃で全員が倒れていく景色



無意識に強く握る拳があった、沸々と込み上げる激情があった




 キグナス号で共に海賊共と戦った仲だ、3人共戦闘に関してはそこそこやれる実力はあったのは彼とて知っている
だが、目の前の緑を基調とした魔導士を思わせる姿の妖魔は複数人を一度に相手しこうも打ち負かしている

恐らく、レッド少年一人が戦闘に加わった所で付け焼刃程度のモノだろうな










"レッド"であるならば、な









 レッド(…か弱い女に加勢するんだ、なら"ヒーローの掟破り"なんて言わねぇだろ、アルカールよ!!)グッ!







              レッド「 変 身 ッ!! ア ル カ イ ザ ー !!」カッッッッ!!ピカーッ!!







―――
――




森の従騎士『任務は遂行する、邪魔者は始末…そして、白薔薇姫様…[ファシナトゥール]へお戻りを…』スゥゥゥ


 [変身]が終わると同時に駆けだす、ただの人間<ヒューマン>から変貌した彼は生身の時とは比較にならない速度で地を蹴る
肉体に滾るエネルギー、全身を駆け巡るエナジーッ!全てが物の僅か数秒で人間の領域を超え、"超人"のラインを跨ぐッ!





       正義の使者――アルカイザーッッ!!ここに推参ッッッ!!





          アルカイザー「させるものかぁぁぁぁ!!シャイニングキィィィィックゥゥ!!!」ドウッ!




391 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:12.62 ID:HGQPydB/0

森の従騎士「なに!?まだ仲間が居たの、か"ぁ!?」ドゴッ


音撃波<ソニックブーム>を繰り出す寸での所で不発に終わる、闖入者の光り輝く蹴り[シャイニングキック]が炸裂したからだ

 オープンフェイスとなったマスクの瞳が初めて驚愕の色を覗かせた
振り向いた先に只ならぬ熱量を帯びた蹴りが迫っていたのだから仕方がない、強襲に近いソレを胸部に受け
森の従騎士は大きく身を仰け反らせながら水溜りに後ろ頭から突っ込んだ





             ドバシャアアアアアア―――z_____________________ァァァァッッッ!!






森の従騎士「ぐ、ご…き、貴様…何者だ…っ」ワナワナ



濁り水から顔を揚げ、トドメを刺すところで壮大に邪魔をしてくれた闖入者を怒り心頭の眼で睨みつける


 先述、奇妙な闖入者と称したがその出で立ちが正しく奇妙そのものであったからだ
赤とオレンジ、暖色系のカラーリングの脚部から頭部まで一切肌の露出が無い全身鎧
無論その人物の素顔も決して見ることができないフルフェイス仕様のヘルメットでバイク乗りが被るそれと同じ様に目元は
バイザーになっていて着用者の眼にはどう映るのか分からないが此方から見る限りは背中にはためくマントの色と同じ
孔雀青色の淡い輝きを放っている…、兜の天辺には鬼、否、一角獣のソレに見える角があり、耳の付け根の裏には翼が…


 ユニコーンとペガサス…有名な神話の生物の象徴を模した飾りをつけ、その鮮紅色のスーツを纏った拳から稲妻が迸る


彼が―――この惨状に対して抱いた怒りをそっくりそのまま表すように…



      アルカイザー「何者か、だと…?」





                      }  ヽ    |∨/ //    ____
                      }   `、  ./ /∨// , ・'"    `、
                      ヽ  ,r'´/~ヽ|//|///        |
                       ヾ/|‐/_,/ ||//|<_ ..-‐=、    `ヽ、
                  _........-―‐i / /  |.|~`/,r―-)    }}――‐-=}、_
                   ̄ ̄ ̄ ̄|ソ ./ .//|_/ }_/、   /li     //  ヽ、
                        .ヽ ./_//)'/ヽ_,r‐' \ヽ__.//  __/    .|
                 ,、o     {`'~>‐'´ `ヽ-.、   ヽ〈、 ̄~ ,'.l´}`lz、  |
             _,..-''"`}l     .人 |~ヽ   `、/ヽ、  | .|    ヽヽヽヽヽ./
            _}}__  }ヾ_  / >-' .`、   .`、 ヽ__ノノ}    <ヽ```ヽ/
          /  }}  `ヽ、~} / .,/ ./    `、   }    <ー'、     ̄ ̄ヽ
      ,xー=x、_..-、,r}ヾ、  ``}}ー'|,-}___  }ー--/    .∧_|        `、
     /   //  `==ヾ、   }}    |`'´`ヽ_)'<三彡}     .| .|    、     .`、
   ./    //   〉=/ r-,'~)、__..‐'‐、 /~/_`ヽ__)ヽ、,..'|" ノヽ  .`、     `、
  ./    //_,.-||// ,' ,' / |~})   >'-/__  ̄)ー-、 ) `-{´ .`、  .`、     `、
 / ,.-'´ ̄ ̄    // ) `ー'-'-'/=ー-='―' .ノ_  ̄ (~`、   ./.}   `、  `、     `、
/ /          ̄ </~ヾ、/| ̄フチフく´   `ー、ヽ ヽ  / /,--、 |   `、     |
               ヽ  ./|.,ト/ /,.|   ̄`ー―.'-‐'´ ̄~~| ,' |  .ヽ.|    `、    |
                \/〉´`l //ソ     ./~`ヽ___|,' |   `、   `、   ./
                 |/  .|/ ./    /      ./ .|  }    .}`、   `、 ./
                .,rl_/ /ー―'''´        ∧  } }    } ``‐--‐ヽヽ_,、
                ./ / /             .〈  } / /    .}      ヽ /
                }__}´ /´               } } { .{     /
             /},-、 /                 `-'ヽ {   ,〈
        }ヽ_..'// .}'/                     |ヽ  ./ |
        |~ヽ /´ 〈___/|/                     ヽ.}_/__ノ
        `ー``―'―‐'


     アルカイザー「正義の使者ッ!アルカイザー!悪を挫く為に此処に見参したっ!!」バッ!



       森の従騎士「せ、正義の使者…だと?」

392 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:24:42.94 ID:HGQPydB/0



 ルージュ(う、うぐっ ぅ…い、一体何が起きたんだ…)チラッ



 毒素の塊を浴びて身体中、焼けるような痛みが走る…意識が朦朧とし掛ける最中、紅き魔術師は…赤い正義の姿を見る
自分達は今まさに死刑を執行される所だったがマントを靡かせる……男性?…なのだろうか?


全身鎧の所為で性別は分からない、―――いや、身長、体格の良さ、後は声の低さでやっぱり男性なのだろうな

"聞き覚えの無い声"だが、彼は何者だ…友人とか知人とかではないし、助けてくれる理由は一体何なのか…



 ルージュ(い、いや…そんな事どうでもいい、この機を逃すわけには――確か[傷薬]が僕の[バックパック]に)ゴソゴソ



 従騎士の注意は幸いにも目の前の謎の人物に向いている、気取られない様に薬を出して自分の体力を回復させる
そして、脚が動く様になったらヒーラーの白薔薇姫も目覚めさせなくては…っ!!








  森の従騎士「…ならば問おう正義の使者とやら、貴様なにゆえこの者達に肩入れする、無関係な者共であろう」

 アルカイザー「無関係?いいや、違うね」


  森の従騎士「なんだと?」ピクッ



 アルカイザー「目の前で殺されそうになっている人が居てそれを見て見ぬフリをするなど俺にはできない」

 アルカイザー「そんな人が居ると知ってしまった以上は、俺にとってもう"無関係"ではないッ!」



  森の従騎士「…ふっ、まるで人間<ヒューマン>の子供向けに造られた三文芝居の脚本をそのまま読んだような台詞を…」

  森の従騎士「話しにならんな、くだらん正義感で我ら妖魔の問題に首を突っ込んだ事を、死んで後悔するがいい!!」


 アルカイザー「むっ!?」ヒュバッ!



 従騎士は杖を振り翳す、するとアルカイザーが立っていた地点に妖気が収束され、それは蜘蛛の巣状に展開される
取り込んだ者の生命力を絡め捕り奪い去る呪法の一種[エクトプラズムネット]だ
 一早くそれに気が付いたヒーローは呪いの網が完全に広がり切る前に跳び発ち難を逃れようとする
そして鞘から光り輝く劔[レイブレード]を引き抜き、勢いに乗って敵に切りかかる…っ!!



  森の従騎士(…くくっ、愚か者め、そうやって私に近づく者は誰であろうと――――)









 …森の従騎士を知る人物であれば対峙した際に決して行ってはならない禁忌<タブー>を誰もが熟知していた

何故ならば触れた者を【混乱】させる[カウンターフィアー]こそがこの刺客の代名詞と呼んでも過言でない程の戦法だから




それは、自他認める戦法であり

必然、この騎士にとっても今まで多くの敵を葬り去って来た実績共に不動の"勝ち確パターン"という奴だと自負していた

393 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:25:28.60 ID:HGQPydB/0
















―――――――――――――――――――… それゆえに …―――
















  森の従騎士(…待てよ、そういえば何故こやつは先の蹴りを私に放った時に…ッ!?)ハッ!











 …良く言えば自分の力に絶対的な、確固たる自信を持っていた

 …悪く言うならば、慢心、驕りでもあった



 迫りくる正義の使者の[シャイニングキック]をその身に受けた時、想定外の事態であるが為に気が回らなかった
自分に触れた者には何時だって必ず[カウンターフィアー]が発動して如何なる相手にも精神汚染の呪いが張り込む筈だった

だが実際はどうだ?

この全身鎧兜の人物は錯乱しているか、否、正気を保ち続けている
 従騎士はこの時点で気が付くべきだったのだ…、自分の必勝パターンが既に崩されているという事実に…ッッ!!




 積み上げて来た勝利の数だけ、『嗚呼、この闘い方をすれば絶対に勝てる、負ける通りなどありえない』と
信頼も等しく積み重なる…空気が1%も入っていない風船がはち切れそうな程に膨らんでいくのと同じで
騎士の油断もまた大きく膨らんでいったのだ


自分も認めるし、周囲の他人もまた、"こいつの戦法には隙が無いな"と認めたが故に誰も咎めない、忠告しない


自他認める戦法である――――それゆえに――――気が付くのに遅れた


生涯で全くもって一度たりとも予測しないレベル…っ!


想定する必要性が消え失せてしまった可能性…っ!



  森の従騎士「ぅ、ぅううおおおおおおおおおおおおおっっ!?」バッ!


騎士は淡く輝く空色の劔が身体を裂かんとする直前で、漸く"手遅れな受け身の姿勢"を取り始めた
394 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:02.34 ID:HGQPydB/0


        ズバシャァァァッッッッッ


  森の従騎士「ふ ぐっぅおお お おお"お  おお"おぉォ"ォ""ォ!!」



[レイブレード]の輝刃は相手の左肩から右脇腹まで大きな切り傷を生み出し、妖魔特有の青い血液が噴き出る
 半妖のアセルスの筋力を以てしても刀身が突き刺さりさえしなかった騎士を名刀で豆腐でも斬るかの如くやってのけた


  森の従騎士「ふ、ふしゅるるるる…っ、ギ、キ"サマ"アァ"…」ボタ…ボタッ…


 アルカイザー「その傷だ、帰還してすぐに手当すれば助かる…だから二度とこの人達に手を出すな!」


  森の従騎士「ふ、ふざけ"るなぁ"ぁああ あ あ !!ふしゅるるるるるぅぅぅ!」



 激昂すればするほどに青い血が傷から噴き出す、だが青い噴水の勢いと同じく騎士の怒りは収まらなかった
これまで上から受けた勅令はいつだって熟して来た誇りに罅を入れてくれたのだ

もう輝かしい誇りではない、埃を被った誇りだ

戦績に塗られた泥も、おめおめと逃げ帰ったとあれば主に始末されどちらにせよ退路など無い事も
 なによりもくだらん正義感で首を突っ込んで来た部外者という存在が一番、癇に障る



  森の従騎士「コロ"して"やる…っ コ"、コロ"ス、殺すッ…白薔薇姫以外全員だ
             黴<かび>と毒茸の菌糸に塗れて蛆虫の沸いた死骸にしてやるッ」ギリィ



 アルカイザー「……ならば、仕方ない」スチャ




 どういう訳か知らないがこの全身鎧スーツの戦士には[カウンターフィアー]が…いや、"『【状態異常】が効かない』"
一撃で意識を刈り取るべく[エクストラズムネット]を試みても恐らく先程の様に[見切り]をつけられるだろう



  森の従騎士「ならばこれはどうだ鎧の戦士よ!」ビュオオオオォォォ



杖を手にした腕を前に突きだし円を描く様に杖を旋回させる、無風の筈であるコンクリートの渓谷に小規模の竜巻が発生し
気流の塔は倒れ、縦から横へ……アルカイザー目掛けて獲物を丸のみにしようする蛇のように伸びていくッ!!


      ズバッ!  ズババッ
                     スパッ


 アルカイザー「くっ、[強風]か…!だがこれしきの事で!」ズバッ! ズシュッ!



 喩えるなら渦中にいるヒーローは見えない換気扇のプロペラで幾度も刻まれているようなモノで、腕をクロスさせ
身を守る自身の身体にも切り傷が走り、赤い血液が滴り始める


だが、騎士の狙いはこれではない





  アルカイザー「…!なんだと!!」



 アルカイザー…否、"レッド少年"がバイザー越しに見た光景はこともあろうに、自ら使用した[強風]を利用して
倒れたままの"アセルス姉ちゃん"目掛けて飛んでいく森の従騎士の姿であった


   森の従騎士「ならば…キサマのそのくだらん正義感を利用させてもらおうではないか!!」

395 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:26:55.40 ID:HGQPydB/0


 自らの技で我が身を切り刻んででも人質を取る、―――任務はあくまで"白薔薇姫を[ファシナトゥール]に連れ帰る"
邪魔をする者は排除しても良いという命令であった

 なにより、従騎士の主人…セアトはアセルスお嬢が気に喰わなかった
願わくば外界に出て不慮の事故で死んでくれればとすら切に願う程だ、邪魔をしたから排除したとすればさぞ喜ばれる


二重の意味でアセルスを人質に取るのは都合が良かったのだ



只でさえ[レイブレード]に切られた箇所が痛む上、自滅同然の[強風]に自ら巻き込まれたダメージで仮面下の顔を曇らせる
しかし、リスクを背負ってでもやる価値がある…


今から少女を人質に鎧男を嬲った時の苦渋の色、そして死の寸前で少女の首を折り曲げて殺してみせた時の反応が楽しみだ


騎士はほくそ笑みながら未だ倒れたままの緑髪の少女目掛けて一直線に――――ッッ!!











              ルージュ「[エナジーチェーン]っ!」ギュイイイィィン






  森の従騎士脚部「」グルンッ!ギュルルルッ

    森の従騎士「―――!?!?お、お前は…まだ息が―――ッ!」




 ルージュ「…さっき[サイコアーマー]を掛けた分、VIT<丈夫さ>が上がってたんだ今度は失神しなかったさ!」ブンッ!


 森の従騎士「ぐ、ぐおおおおぉぉぉぉ!?」グワァン!!



  アルカイザー「すまない助かった!恩に着るぞ![ディフレクトランス]!!」ダンッ!




 漁師の一本釣りよろしく、念波の鎖で脚を取られた騎士は渦の中から上空へ弾き飛ばされる
そこへ追い打ちで大地を蹴り上げ、雑居ビルの壁すらも利用した三角飛び蹴り…[ディフレクトランス]を繰り出すッッ!



 本日二度目の光り輝く蹴り技を喰らい、更に上空へと押し上げられる騎士は粉々になった仮面の破片
青血を口から吐きだしながら自分が人質にしようと目論んでいた少女が[スターライトヒール]で生気を取り戻し
立ち上がる姿をしっかりと見た





     アセルス「……皆には、本当迷惑かけてばっかりだったわね…」スチャ!



     アセルス「だから、最後くらいは…取り戻さないとね」




静かに、目を瞑り両手は拾い上げた[フィーンロッド]の鞘を握りしめる、刀身は空を差し

掲げるように自分の額へと運ぶ―――その佇まいは中世の貴族騎士が神に祈るように剣を掲げるようにも見える

396 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:27:54.37 ID:HGQPydB/0




  森の従騎士「おのれ…っ、おのれ…おのれ、おのれぇぇぇぇぇェェェェ!!」





オープンフェイスの従騎士は血走った眼で少女を睨む、彼奴の周囲には[カウンターフィアー]の怨念が未だ嘗てない程蠢く


祈るように目を閉じ姫騎士は精神を研ぎ澄ます、武器に想いを込める…強い敵意、降って来る殺意を退けるべく





  森の従騎士「ならばせめてお前だけでもみ、み、みぃ、道連れにぃぃぃいいいいい!!」




  アセルス「打ち砕けぇ!![ファイナルストライク]−―――っ!!」










                 ――――−カッッッッ!!










アセルスは、祈り…手にした剣…いや杖<ロッド>を天へと投げた、神話に語り継がれる戦女神の投擲槍のように





[フィーンロッド]は騎士の心臓に突き刺さる、そして膨大な熱量と光の迸流…稲妻が踊り、力が螺旋を描く


―――
――






 「ンッンン〜、アセルスってばやるねぇ〜♪こりゃ頑張って頼まれ事早めに終わらせて見に来た甲斐があったよ」



 雑居ビルの屋上でその様子を一人の妖魔が眺めていた、褐色の肌に黒髪を結った美青年…ではあるのだが
上半身が裸で唯一肌を隠すのが乳首の位置につけたお星さまという誰がどう見ても変態にしか見えない残念な美青年だった



 ゾズマ「いやぁ、これで従騎士を3人もやったのか…しかし森の奴、飼い主同様にやっぱり見苦しい妖魔だったね」

 ゾズマ「…そして、彼女達は今後どうするつもりか、これまた見物だね」シュンッッッ!!



見物人はそれだけ言うと姿を消していった…


―――
――

397 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:28:23.60 ID:HGQPydB/0

【双子が旅立ってから3日目 午後21時18分】


――――ザァァァァァァァァ

     ――――ザァァァァァァァァ




     アセルス「…」ジッ




光が収まった


常雨の犯罪都市[クーロン]の空に最後の従騎士が散ったのだ



  ルージュ「や、やったの…か?」ヨロッ


   白薔薇「はい、気配はもう微塵も感じませんわ…今ので完全に消滅したに違いありません」



  ルージュ「お、終わったぁ…」ヘナヘナ、べしゃっ



 水浸しの地面に両膝を着く、思いっ切りずぶ濡れになるけど構うものかっ!と銀髪の術士は天を仰ぐ
ジッと空を見つめていたアセルスも緊張の糸が解けたのか胸を撫で下ろしホッと安堵の吐息を漏らす、そんな彼女を見て
微笑ましい表情で見守る白薔薇、そして―――




  ルージュ「えっと、アルカイザー…さん?ありがとう、助かりましたよ…」ペコッ


  アルカイザー「いや、礼には及ばない、偶々アイツに襲われている君達の姿を見つけたから救援に入っただけさ」

  アルカイザー「それより、キミのさっきの術…良かったぜっ!!」ニィ


  ルージュ「えっ、い、いやぁ〜それ程でも…あはは///」テレッ



 照れくさそうに右頬をポリポリとかく紅き術士に赤き正義は手を伸ばす、そしてヒーローは言うのだ
「本当にナイスファイトだった、キミがいなければこうはならなかっただろう」と


 …正義のバイザーの下にある、"本当の彼"―――――"素顔であるレッド少年"――は実姉のように慕ってきたアセルスを
人質に取られることだけは何が何でも避けたかった




  アルカイザー「本当に助かったよ」スッ




……"また失ってしまう所だった"




 二度も家族を失うあの恐ろしさを痛感させられる所だった



  ルージュ「……よっと!立たせてくれてありがとう」ザバァ、…ポタッ ポタッ


  ルージュ「段々思い出してきたよ、新聞紙やテレビのニュース、それにこの惑星<リージョン>でも貴方の噂は聞いてた」

  ルージュ「確か、[シュライク]って惑星<リージョン>で子供の誘拐事件を解決したヒーローが居るって」

398 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:29:19.94 ID:HGQPydB/0


  ルージュ「この星<リージョン>に来たのも何か事件がとかで?」


  アルカイザー「…ああ、実はパトロール中に麻薬の密売「ああああぁぁぁぁ!!」




…正義のヒーロー、アルカイザーは麻薬密売組織の調査をしていた時"偶然"妖魔に襲われている一行を見つけ救援に来た

…と、言う体裁にしておこう、そう思い立ちその内容で話し始めた時だったアセルスの甲高い声が上がったのは




  ルージュ「ど、どうしたんだ!?」





  白薔薇「あ、実は…」チラッ









  アセルス「わ、私の武器が……」


 [ファイナルストライク]を放って壊れたフィーンロッド『 』ボロッ



  ルージュ「うわっ、なんだコレ、もう使い物にならないじゃないか…」

  アルカイザー「きっとさっきの技を使用したことで耐え切れずに自壊したのだろう…」
  アルカイザー(…ビビったぁ、てっきりアセルス姉ちゃんに正体バレたかと、俺が掟で抹消されちまう)ドキドキ



  アセルス「ルーファスさんに言われたから、[幻魔]を扱う前に自分自身を鍛えようとしたけど…これじゃ」




身の丈にあった武器を使え、使い手が未熟では折角の剣も錆びつかせてしまうだけだ
 少女は助言を聞き、まずは剣術の基礎を磨こうと簡単な武器で心身共に鍛えるつもりであったが…肝心の武器がこれでは



  ルージュ「……」


  ルージュ「アセルスの武器もそうだけど、全体的に今の僕達自身にも問題があるのかもしれない…」



 顎に手を当てて術士は現状の問題点を挙げる、まず防具面に関してだが"耐性防具"が非常に乏しい
先の戦闘に関しても誰か一人が[音波無効]効果のある装備を付けていたらどうだろうか?[スクリーム]の直撃を受けても
助かり全滅の危険性が大幅に減ったのではないだろうか?


このパーティはその辺の工面が全くと言って良い程にできていないし、入手できる機会さえもなかった
 装備に関して仕方ない部分もあるから置いておくとして次に重要な問題があるとすれば"回復術"だ

誰か一人が倒れた、そうなった場合は[傷薬]片手に床に伏した仲間の元へ駆けつける必要がある


その倒れた誰かしか回復薬を持っていなかったら?あるいは回復術の使い手だったら?


 アセルスだけが無事で、ルージュ、白薔薇が先に戦闘不能になっていれば間違いなく戦線復帰は不可能で
チェスや将棋で言うところの"詰み"という状況であった筈だ


せめて全員が緊急時に備えて仲間、あるいは自分自身の傷を治癒する手段を持っていることが望ましいのだ

399 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:01.14 ID:HGQPydB/0




  ルージュ「…せめて僕かアセルスが白薔薇さんと同じように[スターライトヒール]を使えればいいのだけど」




……生憎とその[陽術]を覚える為の施設は、全身青一色の従騎士と乱闘騒ぎを起こした所為でしばらく封鎖中
資質も取れないし、術単品でテイクアウトもダメといった状態なのだ


今回は偶々強いヒーローが駆けつけてくれたから事なきを得たが、いつもそのような幸運が起きるとは限らない……
















            アルカイザー「ならば[京]に行ってみるのはどうだろうか?」








              ルージュ/アセルス/白薔薇「「「え?」」」






   アルカイザー「リージョンシップ『キグナス号』の次の目的地だ、なんでも全体的に"和"をイメージした惑星で」

   アルカイザー「毎年、各地の惑星<リージョン>から修学旅行の学生や観光客で賑わう」


   アルカイザー「ただの観光目的ではなく、そこでは[心術]の"資質"を得られる修行場もあるんだ」


   ルージュ「[心術]の資質…!」






――資質


[マジックキングダム]を旅立った双子の術士ブルー、ルージュの両名がこの旅で得るべき必要なモノ

資質を厳しい修行の末に得た人間は、その力を発展させてより高位の術を練りだす事ができる…魔術師として資質は大事だ
しかも人間の内なる心に眠る力、精神に宿る潜在能力を引き出す[心術]となれば身体の傷を癒すこともできる


…行って損はない筈だ




 アルカイザー「キミは見たところ術士だろ?なら今の話で[京]に興味が沸いたのではないだろうか?」

 アルカイザー「広い"宇宙空間<混沌の海>"から旅人もそれ目当てでやって来る、優れた剣や装備品の情報も恐らく」


  ルージュ「なるほど…」
  アセルス「[京]…か」

400 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:30:41.75 ID:HGQPydB/0


 リージョン界は広い、宇宙<ソラ>に煌めく数多の星々の数だけ知的生命体が生きる異世界<リージョン>がある
であらば[クーロン]では知り得なかった情報を知る機会もまたあるかもしれない



   白薔薇「アセルス様はどうなさいますか?」

  アセルス「…私は、行ってみたい」



 指輪の君、と呼ばれる上級妖魔の居城の門戸を叩くべく[ムスペルニブル]へ行くにしても準備だけは万全にしておきたい
白薔薇姫の事は当然ながら信頼しているが、あくまで白薔薇姫のこと『は』であって基本妖魔は信用したくない


鬼コーチだったり、突然背中を剣で突き刺すセアトだったり、半裸の変態だったり…etc



……


 まぁ、準備は大事だ、その人が半妖から人間<ヒューマン>に戻れる方法を知っていたとして教えてくれる保証はない上
知らなかったら知らなかったで無事に帰してくれる保証も無いのだから


 この時のアセルスは知らないが、実際問題ヴァジュイール氏は自分に無礼を働く者をその力で
何処ぞへと強制的に転移させる気難しい人物なのだ、丸腰で行ってモンスターの巣窟に飛ばされた日は堪ったモノではない




   アセルス「あっ、ルージュは…どうするの」


   ルージュ「とーぜんっ!僕も着いてくよ!此処まで来ちゃったら乗りかかった船って奴でしょ!」


  アルカイザー「話しは決まったようだな」ザッ



三人の旅の方針が決まった所で窮地を救ったヒーローはマントを翻し背を向ける



   アセルス「あっ、アルカイザー!…その、本当にありがとう!私達を助けてくれて!!」


  アルカイザー「当然の事をしたまでだ、麻薬組織の一員を追跡する任務がある、俺はこれで!――とうッ!」シュバッ!




  ルージュ「わわっ…すっげぇ、ビルの壁を山鹿みたいにピョンピョン蹴って飛んでっちゃったよ…」ほえ〜

  ルージュ「参ったな、めちゃくちゃ有名人だしサインとかもらっとくべきだったかな…」


   白薔薇「何にせよ今日はもうこの街で宿を取ってお休みになりましょう…皆さんずぶ濡れですし」

  アセルス「あはは…そうだね」クスッ


びっしょりと濡れた自分達を見て、アセルスは笑う


つられて術士も貴婦人も笑った





世界は雨だが、心はカラリとした空模様だった―――それは困難を乗り越え、お互いが無事であるからこそなのだろうな





  きっと …きっと この何が起きても大丈夫、不思議とそんな気になる瞬間だった…

401 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:31:24.66 ID:HGQPydB/0





 ルージュ「それにしてもあんな戦闘の後でも麻薬組織の一員を探す任務にすぐ戻るなんて」テクテク

 ルージュ「お休みも無くてヒーローって大変なんだなぁ…」テクテク







 ルージュ「……」テクテク


 ルージュ「………」テクテク






  ルージュ「………あれ?僕なんか大事な事忘れてるような?」ハテ?











―――
――







    巡礼者「  」タッタッタ…!




   レッド「ちっくしょう!!待ちがやれぇぇ――ッッ!!ぜぇぜぇ…!」ダダダダッ!


   レッド「見失ったのをやっと見つけたと思ったらこんな時間に……くっっっそぉぉぉぉ!!」ダダダダッ!











…ルージュがレッドの事を思い出し、慌てて宿を飛び出したのは深夜0時をとっくに過ぎ

麻薬密売人も[京]行きのキグナス号の乗客に紛れて完全に撒かれて

某ボクサー漫画の「燃え尽きたぜ…真っ白にな」状態で項垂れるレッドを丁度、おでん屋の屋台で発見したそうな…





402 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/17(日) 02:35:29.39 ID:HGQPydB/0
*******************************************************



                 今 回 は 此 処 ま で !




   ルージュ、アセルス、白薔薇はレッド(あとBJ&K)の乗るキグナスに乗ってそのまま[京]へ向かいます













  森の従騎士「カウンターフィアー!」

  アルカイザー「あ、自分…原作のゲームシステム的に【混乱】とか状態異常効かないッス」

  森の従騎士「\(^o^)/」


*******************************************************
403 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 03:40:43.28 ID:9z34UB780

いつも楽しみにしています
404 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/17(日) 11:53:09.86 ID:RTp4rglWO
乙でした
ところがどっこい、レッドはレッド編でしか登場しないから、残念ながらこのSSみたいな展開にはならないんだよなぁ…
405 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2019/02/18(月) 14:25:06.69 ID:PacNkGlNO
乙乙
こういうゲームではできない展開が熱くて面白い
406 :少し投下 [saga]:2019/02/19(火) 04:54:20.20 ID:T2Ou5U2b0

―――
――


時間は少し遡る、ルージュ一行が森の従騎士を撃破する数分前の事――




【双子が旅立ってから3日目 午後21時12分(アセルス、[ファイナルストライク]発動直前)】





リュート「げへへぇ、ブル〜ぅ、もう一件くらい"はしご"しに行こうぜ、いい店知ってるんだ」


ブルー「やかましいッ!このへべれけ男がっ!…梯子酒がしたいなら一人で行け俺を巻き込むな」チッ


リュート「へべれけってなぁ〜俺酒は強い方なんだぜぇ、酔ってなんかいねぇよ[ヨークランド]魂なめんなよぉ」


スライム「(・ω・)ぶくぶくぶー」リュート ノ ニモツ ハコビチュウ




リュート「大体、お前こんな時間から何処行くんだよ…どう見ても安宿の方角じゃないだろう」

ブルー「…」スタスタ


ブルー「…力」


リュート「あい〜?」
スライム「(。´・ω・)ぶく〜?」キョトン?



ブルー「…力をつけたいんだ、今以上の力を」


リュート「…」
スライム「…」



ブルー「術が使えない局面とやらを想定したとき俺が生存できる可能性は絶望的になる」

 ブルー「…何が何でも俺は生き延びる、ルージュを殺して、俺が故郷に帰る為にも…っ」



 リュート「…あー、お前さ」ポリポリ

 リュート「なに、他所の国の風習だとか、ルールだかにあんま干渉する気はねぇけども」


 リュート「一つの事に囚われ過ぎなんじゃねーの?」



  ブルー「なんだと…?」


  リュート「お前見てるとそう思うんだよなぁ、良くも悪くもストイックでこう疲れねぇか?」


  リュート「……まぁ部外者の俺がとやかく言うのもあれだけどさ」


  ブルー「貴様はさっきから何が言いたいんだ」




   リュート「人生ってのはいつだってギャンブルなんだぜ?どんだけ万全を期したって100%成功するなんて」

   リュート「そんなモンは何処の誰が決めたんだい?」

407 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2019/02/19(火) 04:55:44.32 ID:T2Ou5U2b0

  リュート「完璧にしたつもりでも失敗する時は失敗するし、逆に中途半端な奴が人生の成功者になることだってある」


  リュート「そりゃ準備しときゃ確率は上がったかもしれねぇけど…どうせ運なら最後の大勝負が来るまでの間に」

  リュート「人生たーっぷりと甘い蜜吸っときたいって思わねぇか?」

  リュート「ん〜、よくある子供向けの質問なんかであるだお、もし明日世界が滅ぶなら貴方は何したいですか〜的な」


  ブルー「…くだらん」


  ブルー「本当にくだらんな、ああ、餓鬼向けの莫迦な問答だ」クルッ、スタスタ…



  リュート「あっ、オイ!待てってよぉ〜!」タッタッタ…!


  ブルー「…酔っ払いとの無意味な会話に付き合う程暇じゃない」スタスタ


  リュート「だ〜か〜ら!酔ってねぇよォ!!なんか、なんかよ…その、アレだよ!アレなんだよ!!!」ハァハァ…!

















   リュート「――"お前の人生"、それでいいのかよ…!」



      ブルー「…」スタスタ…ピタッ










  リュート「俺は、なんだその、基本的に自分が楽しいことやって好きな事やって
               んでもってソレで食っていけたら最高の人生だなってのが俺の自論なんだ」


  リュート「お前のその、双子の弟さん…ルージュって奴とそう遠くない未来で殺し合うん…だ…ろ?」


  リュート「さっきも言ったが人生ってのはいつ何が起きるか分からない、それこそマジに運否天賦のギャンブルだ」


  リュート「…ルーレットを回して球っころが赤に入るか青に入るかみたいなモンなんだ」


  リュート「お前が強いのはそりゃ一緒に[タンザー]で暴れた仲だからわかっけど」


  リュート「万が一にだって負けちまう場合もある、そん時の走馬燈って奴が楽しい思い出の1つも無かったら―――」




   ブルー「 黙 れ ッ !!俺が負けるだと!?俺がアイツより劣っているとでもいうのかっ!!」



リュート/スライム「「!!」」ビクッ
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