おくさまはおきつねさま

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183 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:31:37.35 ID:LakI5gP+0

浮かんだ白色をぼんやりと目で追うと公園の自販機が目に留まった。

(カイロ代わりに自販機でなんか買ってくか)


手のひらに熱く染みるお茶の缶を手に取った。

「いいなこれ。まこも、お前もなんか飲むか? おしることか……」

(この辺かな)

すぐ横を見下ろす。

「うー?」

「んえ……」

知らない間にまこもよりも幼い幼児が指を加えて俺を見上げていた。

184 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:32:38.36 ID:LakI5gP+0

「おじさんだれとしゃべってうの?」

「あ、えっとな……かみさまだよ……」

「かみさま?」

幼児が首を傾げたところでその子の母親だと思われる人が彼を引っ張って行った。

「あ! す、すみません! こら、勝手に知らない人に声かけちゃだめでしょ!」

「いえ、ぜんぜん」

「ままー、あのおじさんかみさまとおはなししてたの」

「しっー!」

(さすがにここにはいないか……ってかおじさん≠ゥ。まああの年齢くらいの子なら成人男性なんて誰でも父親と同じくらいに見えるか)

寒さを寄せ付けないほどの体温の上昇を感じたが気を取り直して財布から硬貨を取り出す。

(まあ、家の中も寒いし土産程度にはなるだろ)
185 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:33:09.62 ID:LakI5gP+0

百二十円を自販機に呑ませおしるこのボタンを押そうとしたところで指が止まった。

(あの尻尾があれば……)

( 二人で寄り添えばこんなもの、別に……)

僕はお釣り口から硬貨を取り出すとまだ開けてもない缶を隣のゴミ箱に突っ込んだ。

(いらないか)

「あ、飲めばよかった」

冬の寒さと強烈な羞恥心は脳みそまで凍らせた。
186 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:33:50.08 ID:LakI5gP+0

「ただいまー」

このままじゃ春になる前に、骨から心の臓まで凍りついてしまいそうだ。

そうなってしまう前に

(だれか……)

僕を……



「おやすみ」




187 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:34:29.70 ID:LakI5gP+0
……………………

「おーい。おいキミ! 聞いているのか。もう定時だが進行状況は」

「あ、す、すみません。もうちょっとで終わります。六時までには荷物まとめて電気も消しとくんで……」

「今日は朝からボーッとしているぞ。まあ、業務の方はしっかりとこなしているようだから煩くは言わんが……その、何かあったのか?」

「別に特には」

「嘘だな。最近のキミがおかしいのは今日に限らない」

僕がマウスの上に置いた手の上から、先輩はそっと手を添えてくれた。

「頼って欲しいと、前に言ったはずだが」

188 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:35:17.42 ID:LakI5gP+0

「あ、いや! ほんと大したことじゃなくて! いや、やっぱり大したことなんですけど別に、仕事とは関係のない話で……」

「はぁ、もういい。今日はもう上がれ。残りの分は私がやっておくよ」

「え? もう少しなのでさすがに自分が……」

「だが下で待っておけ。話は聞かせてもらうぞ。部下がこのままだと私が不安だ。いいか? 何かは吐いてもらうからな! 言いたくないことなら、代わりの笑い話でも考えておくことだな」

「……はい。ありがとうございます」
189 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:35:54.78 ID:LakI5gP+0
……………………

僕は先輩の言葉に甘えると荷物を片付けて先に退社した。まこもが見えなくなった日を境に先輩は僕に親身になってくれるようになった。いや、ずっと優しかったのかもしれないが、それに僕が気付けなかっただけだろうか。

「待たせたね」

「いや自分の方こそすみません……わざわざ……」

「私から言ったことだ。さて、場所を移そうか」

(先輩は優しいな)

凍てついた心が、優しさで溶かされていく。

190 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:36:51.89 ID:LakI5gP+0

「前と同じ場所でもいいかね。それともどこか……」

(でも、またまこもが一人に)

「どうした。またぼーっとしてるぞ」

「あ……」

このまま彼女とまた飲み交わして、胸に押し付けた不満を全て垂れ流すのはさぞ気持ちのいいことだろう。

でもきっと、今目に見えた充実感をもう一度味わってしまうのは心地よすぎて……戻した記憶すらまた捨てることになる。
191 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:37:21.63 ID:LakI5gP+0


(まこも。あとさ、何が足りないんだ?)

何が……


あの日の僕を覆せる?



192 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:38:02.38 ID:LakI5gP+0


「すみません先輩」

「今日はよく謝る日だな。キミが入社してきたばかりの日々を思い出すよ。だが謝るのは場所を変えてからでも」

「そうじゃないんです!」

「え!」

先々と前を歩こうとする先輩の手を掴んで引き止めた。こんな強引なことを彼女にしたのは初めてだ。また謝ることが増えてしまった。

「ど、どうした?」

「実は、前に奢ってくださった日に自分は大きな嘘をついていました」

「えぇ? そういうのも別に後からでも」

「今じゃないとだめなんです」

「わ、分かった、から……手を離してくれ……」

「はい。すみません」

本当に今日はよく謝る日だ。

193 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:38:44.35 ID:LakI5gP+0

「で、嘘というのは何の話だ?」

「実は自分には……同居している恋、人……? かみさま……いや……」

(まこも、勝手に言ってしまうよ)

(もしお前がそういう風に思ってないのなら、ごめんな)

心の中でまこもにも一つ謝罪を入れて僕は叫んだ。

「妻がいます」

194 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:39:27.59 ID:LakI5gP+0

「な……それは、本当か?」

「はい。それで、今日は妻が僕の帰りを待ってくれているので……すみません! またの機会に!」

最後にもう一度大きく先輩に謝罪すると僕は走り出した。

(帰るんだ)

かみさまとか、おきつねさまとか、こどもとかおとなとか、そんなのは関係ない。

僕には、僕の帰りを待ってくれている人がいるから……愛する人がいるから……



おくさまが、いるから……



195 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:40:57.15 ID:LakI5gP+0

「……最近、妙に逞しく見えるようになったと思ったら、そんな立派な男性になっていたのか」


「ははっ……やられたな……」


196 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:42:03.61 ID:LakI5gP+0

……………………

「まこも!」

家の扉を開いて玄関に飛び込むと、三角座りで壁にもたれかかり廊下に座り込んだ女の子がそこにいた。僕の声に気がついたのか虚ろな目でこちらを見た。


目が、合う。目が合っていることを、認識できる。


197 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:42:41.37 ID:LakI5gP+0

「ま、こも」

「ふぇ……?」

革靴を雑に放り脱いだ。一目散に膝をついて彼女を抱きしめる。さらさらの髪、もふもふの尻尾、何もかも、何もかもが温かい。しっかりと、僕の腕にその温もりが収まっているのを感じる。

「んぎゅ。みえてるん、ですか?」

「ああ、見えてる。聞こえてるぞ」

まこもは身体ごと拘束された腕を抜き出して僕の背広をその手で掴んだ。
198 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:43:07.75 ID:LakI5gP+0

「う、あぁ……うれしぃ、です……よかったです。よかったですよぉ……」

僕らはお互いの目からこぼした喜びを、お互いの服で拭った。

「ぐすっ、えへへ……」


彼女が見えなかったここまでの辛く、哀しい日々は


「おかえりなさい、です」


その一言で、幕を下ろした。


199 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/11(月) 04:44:16.84 ID:LakI5gP+0
なうろうでぃんぐ

(-ω-)
200 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/11(月) 05:08:09.07 ID:J63ysRCNo
201 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/12/14(木) 17:16:32.43 ID:jrZsZU9K0


「まこも、もうそろそろ着替えようと思うんだけど」

まこもに背広を掴まれたまま何十分も廊下に座り込んでいた僕は彼女に手を離すように促した。それでも力が込められた彼女の指先は数日分の僕を求めてか一向に離れる気配を見せない。

天井に目を散らしながらどうしてやろうかと考えていると先に彼女の方から所望がくだった。

「……だっこしてください」

大きく潤んだ瞳ですがられる。いつもの寂しがりやと甘えたがりな一面が頂点に達しているのだろう。当然断ることなどできるはずもなく僕は彼女を抱え込むと立ち上がった。
202 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:17:06.55 ID:jrZsZU9K0





『おくさまとだんなさまと……』





203 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:18:00.84 ID:jrZsZU9K0

(軽い)

どんなに太っただのなんだのと茶化してもやはり彼女は幼児体型の域を越すことはできなかった。こうして抱えてしまえばもはや大きめのペットのようにすら思えてしまうが、彼女の全てが愛おしい僕にとってはありのままの愛を伝えるのに丁度いい体格だった。

( ああ、本当に小さい……)

「えへへ、ちからもちですね〜」

小さいことは罪だ。

もしもこのまま彼女が抵抗しないのなら、部屋に入った瞬間降ろしたまこもを押し倒してしまうことも容易だ。それを可能にしてしまうこの彼女の大きさは僕にとって罪深いものだった。

204 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:18:49.22 ID:jrZsZU9K0
久しぶりに顔を合わせた今日くらいは、濁りのない愛でまこもを包んであげたいのに……彼女もきっとそれを望んでいるというのに……

「でもだっこなんてやっぱりまこもはまだまだこどもだなー」

あえて逆撫でしてしとやかなまこもを煽る。一本の毛も立てていない彼女はあまりにも甘美な毒。一口で食べてしまわないように相対的に自分を律していく。

「……今はべつに、それでもいいです」

(なっ)

僕の首を抱く力を強めながらまこもは言った。

「あ、そう」
205 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:19:30.02 ID:jrZsZU9K0

和室に入ってまこもを降ろした。彼女を襲ってしまわない内に別室へと着替えに走ろうとする。

「それじゃあ、ちょっと着替えてくるから」

「まってください」

風に乗ろうとする袖を掴まれた。

「……どうした?」

どうせ無意識なのだろうが、今日のまこもは誘い方がひどい。僕の袖を掴んで引き止めておいて、何かを言おうか言わまいかと頬を赤らめてもじもじとしている。

(やばいって)

何かを言うなら、はやくして欲しい。

「あの、どうせ着替えるのなら」

狼の爪と、牙が……

「いっしょにおふろ、入りませんか?」

「え」

206 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:20:14.88 ID:jrZsZU9K0
……………………

「大きな背中ですね〜、洗うのが大変です」

まこもが僕の背を流している。もちろん、タオル一枚だ。

「どうしたんだよ、いきなり」

「今日はずっといっしょです。おふろも、お布団も、全部いっしょです。……いいですよね?」

(どういう意味だよそれ)

深い意味なんてない。分かってる。ただ、僕と身を寄せ合いたいだけ……

(僕のことを必要としてくれているだけでも喜ばしいことじゃないか)

変な汗が発汗する背にまこもが桶水をかけた。泡と汗とが流れる。水と一緒に流れて欲しかった劣情だけを残して。

207 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:20:53.49 ID:jrZsZU9K0

「次はわたしの背中をお願いしてもいいですか?」

「わかった」

(背中だけ、背中だけ)

他の場所を触ってしまわないように言い聞かせる。場所を入れ替わると僕の目の前には小さな背中が向けられた。

普段は長い金髪で隠されたその範囲は彼女が髪を上げている今だけははっきりと白くその存在を主張している。

背とともに見えるのはうなじ、人差し指でなぞってしまいたくなるが嫌がるだろうからやめる。
欲求を抑えようと視線を下げた先には彼女の座る風呂いすにつぶされたおしりが目にとまった。微かにのぞかせる桃のわれめのその先が見たくなった。

揺れる尻尾のメトロノームが彼女の妖艶さを引き立たせる音のないリズムを刻んでいる。
208 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:21:35.34 ID:jrZsZU9K0

(駄目だな)

このかみさま、全身が……

(エ)

「どうしたんですか?」

「……なんでもない」

でも振り向いたその横顔だけは無邪気で幼い。矛盾している。それとも彼女に興奮している自分が異常で尋常じゃないのだろうか。

薄目にして、できるだけ無心で垢すりを上下する。

(何も考えるな)

無心で、無心で……

209 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:22:19.35 ID:jrZsZU9K0

「いたぃっ」

「あ」

「もうちょっとだけ、優しくおねがいします」

「ごめん」

こすっていた場所には淡い赤線が浮かんでいた。もう少しで彼女の繊細な柔肌を傷つけてしまうところだった。

多分このまま続けても、彼女の肌を傷つけてしまうか、風呂どころではなくなるかのどっちかだろう。

なら

(……しょうがないよな)

「まこも」

一ミリだけ、僕の中の狼を許す。

「手で、洗ってもいいか?」

「ふぇ?」

(……やっぱり五ミリかもしれない)

一瞬迷った顔をしたまこもだったがやがて微笑むと僕の手が地肌に触れることを了承してくれた。

「いいですよ」

210 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:23:03.71 ID:jrZsZU9K0

(さて)

手のひらでボディーソープの泡を立てるとまこもの背中に触れた。

「っ」

心臓が跳ねる。

なぜ、いつまで経ってもなれないのだろう。言ってしまえば僕はもう彼女にその想いを伝えているし、彼女にもそれを受け入れてもらっているし、彼女と繋がったことも……まだ数えられる程度だけど……ある、わけだ。

なのに、どうしても彼女の産まれたままの姿を目に焼き付けてそれに触れるというのには……高揚感が止まらない。
211 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:23:40.03 ID:jrZsZU9K0

先ほど赤くなってしまった場所に手を滑らせる。

「んっ」

まこもが短くうわずった声を出した。

「くすぐったいですね」

誤魔化すような早口、その声で僕は心臓をくすぐられる。遠回しで高度で、決まって無意識なカウンター。触れると火傷する、ドライアイスを連想させる毛玉様。僕は正直、彼女を神様だと思いたくはない。

神様はみんなに平等だろうから……それでも、僕だけのかみさまにしてしまいしたい。この願いはきっと永遠だ。

212 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:24:21.43 ID:jrZsZU9K0

背を滑る手、泡の中で欲を膨らませてまこもの横腹を通過しようとする



「もう終わり。シャワーで流してる間に先浴槽入ってるから」

なんとか、踏みとどまった。僕も大人になったものだ。自分の頭をなでたい。

「え? もうですか?」

「まこもの背中ちっさいからすぐ終わったよ」

言いながら片足を上げて浴槽に浸る。

「あ! 待ってくださいよぉ」

シャワーがタイルを叩く音が響く。僕は目を閉じていた。開けていたら絶対、その神々しい肌色につられてしまうから。無心で肩まで沈めて百まで数える。

『風呂に入ったら必ず百は浸かること』幼い頃の父親との約束が脳裏によぎった。

213 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:25:04.58 ID:jrZsZU9K0

六十も数えると激しい雨音にも似たそれはぷっつりと途切れた。どうやら時間切れらしい。水面から腰を出そうとする。父との約束を破るのは、初めてかもしれない。

「おじゃましまーす」

(ん?)

立ち上がりきる前に膝の上に何かが乗った。腹をこそばゆく尻尾でなでられる。思わず、目を見開いた。

「言ったじゃないですか。今日は、ずっといっしょですよ?」

「あ、えぇ……おぅ……?」

絶賛忍耐修行中の下半身に最後の試練が訪れた。タオル越しに、まこもの桃が乗っている。
214 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:25:55.22 ID:jrZsZU9K0


「あのさ……神様が……いいのか? こんなの」

「今さらじゃないですか」

「……そうだけど」

くすくすと静かに笑った後にまこもはゆっくりと喋り始めた。

「確かにわたしはかみさまです。この町の、あの社に訪れてくださる皆さんのかみさまです」

「もう人々から忘れられた土地ですし、来てくれる人なんて何十日に一人かもしれませんが、今でも夢を見ると声が聞こえるんです。あそこで祈りを捧げた人の声が、だからわたしも夢の中でもっと偉い神様にその願いが届くように祈りを捧げるんです」

「人任せかよ。いや、神任せ?」

「しょ、しょうがないじゃないですかぁ! わたしにできることは極々限られているんですから!」

「まあ十五円で雇われてたらそんなもんか」

「さ、寂しいこと言わないでくださいよぅ」

「……冗談だ」
215 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:26:41.76 ID:jrZsZU9K0

「ごほんっ……でもですよ? かみさまだって、女の子や男の子なんです。恋する心は、人間さんと変わらないんです。あなたはそれをおかしいと思いますか」

少し前ならこんな話、馬鹿馬鹿しくて耳すら傾けなかったかもしれない。

しかし僕はおそらく先に彼女におとされてしまった。ただの人間が、かみさまに恋をしたのだ。その逆があったって

「おかしくない、と思う」

「ですよね。だから……」

まこもが身体をこちらに向けると浴槽の水面が大きく波打ち、その言葉とともに一部の湯が溢れ出した。




「わたしは、あなただけのおくさまですよ」



216 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:27:54.20 ID:jrZsZU9K0

(あ……)


しばらく言葉が出なかった。髪先から水滴を垂らして、ただ真っ直ぐとまこもを見つめていると照れくさそうな顔をした彼女が距離を詰めて僕の唇を奪った。

口は黙るどころか喋れなくなったが、身体はもう黙っていられなかった。

(どうして、くれるんだ)

まこもの背に腕を回して『これは僕のものだ』と子供のように彼女を手繰り寄せる。

水面はずっと揺られていた。僕たちが動きをとめなかったから。

「ちゅっ、ろ……んっ、ちゅ……」

もう、止まれるわけがなかった。無意識のうちに腰が浮いて耐えることをやめたモノが必死に彼女の身体を求めている。
217 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:28:35.30 ID:jrZsZU9K0

「ぷはっ……やっと、素直になってくれましたね」

(もしかして)

「誘って、た?」

「……そーゆーのは言わせないほうがモテますよ?」

「かみさまのお告げのつもりかよ」

「そうかもしれません。あ、あと……わたしをもっとぎゅーっとすれば幸せになれるかもしれません。これもかみさまのありがたーいお告げです」

(適当言いやがって)

218 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:29:25.72 ID:jrZsZU9K0

これ以上ないほど密着する。何もかもがお互いに当たっている。彼女の慎ましい丘の柔らかささえしっかりと僕の上半身にその存在感を主張していた。

「ん……ありがとう、ございましゅ……しあわせです……」

(適当じゃなかった……)

圧倒的多幸感で脳内が埋められた。これ以上、何もいらないというくらい。それでも欲しいものがあるとすれば……

「まこも」

「……はい」
219 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:30:18.62 ID:jrZsZU9K0

目に見える、彼女との……


「んっ、ひゃっ……ぅ……」


「ふぁっ……ぁ……」


…………

……

220 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:31:06.56 ID:jrZsZU9K0
……………………

「行ってくる」

「あ、ちょっとまってください! もう一月も来ますしこれからはかなり冷えるみたいなので、これを……」

小走りで玄関に来たまこもはつま先立ちすると僕に黄色のマフラーを巻いた。

(めちゃくちゃ長いぞこれ)

「なにこれ」

「えへへ、わたしからの贈り物です。実は前の月からあなたに内緒で少しずつ編んでたんです! 」


221 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:32:00.62 ID:jrZsZU9K0

「本当はもう少し早く渡す予定だったんですけどあなたがわたしを見えなくなってしまったのでその間も寂しさを紛らわすために編んでたらそんな風になっちゃいました……でもおかげで二人で巻けますよ!」

「しかしこの身長差だとなぁ」

「縮んでください」

「無茶言うなよ」

「にしても今日でよかったかもしれませんね。今日は海外の神様のお祝いの日なんですよね」

「あ、そういうえばそうか」

「ええっと、確か……めりー、くりしゅます?」

「クリスマスな。……ありがと、大切に使う」

「はい!」

222 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:33:16.12 ID:jrZsZU9K0

道端を歩きながら、首に巻いた贈り物を握りしめるといつでもそこにまこもがいる気がした。外でも、家でも、温もりが途絶えることはない。


おくさま(かみさま)がそこにいてくれる限り。


223 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:33:49.24 ID:jrZsZU9K0

……………………



そのまま年が開けて、桜が舞って、蝉の鳴く季節も通り過ぎ、また食欲の秋を経て……約一年が経過した。

「おかえりなさいです」

「わざわざ出迎えなくてもいいのに。ちょっと歩くだけでも大変だろ?」

「ずっと寝たきりの方が悪いですよ」

「それもそうか。……もう少しだな」

「そうですね。えへへ、たのしみですよぉ」

「また寒くなるし、おなか冷やさないようにあったかくして寝ないとな」

「じゃあ、あなたの手であたためてあげてください」

「そうだなー」

丸くおさまった小さな命に手を添えると、そこに僕の一部が深く刻まれているのが感じられた。それはかみさまからの授かりもの……僕にとって、もう一つの愛おしい存在。
224 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [saga]:2017/12/14(木) 17:34:46.51 ID:jrZsZU9K0

「まふっ」

たまらずまこもごと抱きしめる。その二つを同時に包み込むと幸福感に溺れそうになった。

「ふふっ……みんながみんなのことをだいすきな……」





「そんな家族になりましょうね……」






225 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/12/14(木) 17:37:36.93 ID:jrZsZU9K0


これにておしまいです。

リメイクのつもりが元SSとはかなりかけ離れたものになってしまいました。もはや別物です。

ここまで読んでくださった方はありがとうございました。

(-ω-)
226 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 18:42:10.65 ID:TJBySztjo
よかったぞ
227 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 18:50:38.25 ID:WZOSEjO9o

リメイク元ってどんなの?
228 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 21:24:30.37 ID:H4QRVBZ/O

よかった
229 : ◆hs5MwVGbLE [saga]:2017/12/14(木) 22:52:06.26 ID:jrZsZU9K0
>>227


別板で書いてたやつなんでSSまとめサイト様の記事をかりていますが

狐幼女「一時間千円で触りたいほーだいです」 : みんなの暇つぶし なにかのまとめサイト(予定) http://minnanohimatubushi.2chblog.jp/archives/1976077.html

こんな感じのシリーズものSSでした
230 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/14(木) 23:43:10.61 ID:zgRazdjVo
こんなおくさまがほしい

おつおつ
231 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/15(金) 09:22:22.56 ID:LvAz4HubO
あんたのせいで狐っ娘に目覚めたぞこのやろうありがとう
232 :以下、名無しにかわりましてSS速報Rがお送りします [sage]:2017/12/15(金) 19:32:39.07 ID:V3MuWZZSO
きつねいいのう
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