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真紅「BIO ROZEN STORIES」 - パー速VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 12:38:44.03 ID:7yBwTtc0
BIO HAZARD × ROZEN MAIDEN



・このスレッドはローゼンメイデンがメインのオリジナルSSです
・エロは一切無し、グロ描写は途中から含まれます
・荒らし・煽りはスルー推奨
・完全なランダムペースで進行します
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 13:00:30.49 ID:7yBwTtc0
◇キャラクター紹介

真紅…この物語の主人公。誇り高き第五ドール。水銀燈との中は険悪だったのだが…。固有武器はステッキ。

JUM…生身の人間。真紅と翠星石の契約者。特技は裁縫で、壊れたローゼンメイデンのパーツを組み直す事も出来る。

水銀燈…第一ドール。ドールの中で唯一空を飛ぶ事が出来る。真紅との仲は険悪だったのだが…。ヤクルトが好き。

金糸雀…第二ドール。自称ローゼンメイデン一の頭脳派。固有武器は日傘。

翠星石…第三ドール。庭師姉妹の姉。固有武器は庭師の如雨露。

蒼星石…第四ドール。庭師の姉妹の妹。固有武器は庭師の鋏。

雛苺…第六ドール。幼稚な性格だが、割としっかりした一面も。うにゅーが大好き。

カワイソな兎…謎の兎。外見はラプラスの魔にそっくりだが別人。新アリスゲームを編み出した張本人。異次元を自在に操る。

ゾンビ…bのフィールドに存在する謎の生きる屍。外見は人形がまるで腐ったかの様な感じ。武器を持って真紅達に襲いかかる。

雪華綺晶…第七ドール。真紅達は存在を知らない。実体の無いドールで、ゾンビの体を奪う事で実体を得る。
3 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 13:34:53.19 ID:7yBwTtc0
朝が来た。
真紅は眠りから覚めた。今日もいつもと変わらない平穏な朝が訪れた。
そしていつもの様に朝食をとり、いつもの様にくんくんのDVDを観賞しながら平和な一日を過ごす…

筈だった。

しかし、真紅の居た場所はいつもの寝室では無かった。周囲にゴミの様なガラクタが高く積み上げられた、奇妙な薄暗い部屋に居たのだ。

真紅「ここは…どこ?」

鞄を開けて部屋を見渡した真紅はしばしの間、頭が混乱していた。
そこで真紅は考え始めた。自分が何故こんな場所で眠っていたのだろうか。すると一つの可能性が浮かび上がった。

これはJUMのいたずらなのではないのか、と。

普段、紅茶を毎朝いれさせたり、ストレス発散に殴ったりする等、JUMをろくな扱いをしていなかったので、
それに腹を立てたJUMが、真紅を鞄ごとこんな場所に放置したのではないか。

真紅は再び辺りを見渡した。どうやらゴミの山で完全に閉じこめられている様で、ゴミの山からは時折きしめく物音がしており、部屋に充満している腐卵臭の様な臭いが真紅の鼻をついた。
ふと床を見ると、近くに翠星石の鞄も転がっていた。どうやら翠星石もとばっちりを受けたらしかった。
4 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 13:53:42.82 ID:7yBwTtc0
ひとまず真紅は翠星石の鞄を叩いて起こす事にした。

真紅「翠星石、起きて頂戴」

翠「……何ですかぁ? もう少し眠らせやが……えええええ?」

部屋を見た翠星石は、通常の二倍程の大きさに目を見開いて叫び声を上げた。
なお、まだ暗闇に目が慣れていない真紅には見えなかったが、部屋にはまだ四つの鞄が置いてあった。
そして翠星石の叫び声を聞いて、鞄の中のドール達が次々に目を覚まし始めたのだ。

水銀「……何であんたがそこに……ハッ?」

金「もう…うっさいわねー……ええっ?」

蒼「……ここは…どこだろう?」

雛「……うにゅーが食べたいのー!」

なんと、この場所に計6体のドールが揃っていたのだ。よってJUMがいたずらでここに放置したという可能性は無くなった。
しかし、何故ドールがこんな部屋に集められたのかは全く検討が付かなかった。

その時、暗闇の奥から一つの影が姿を現した。

?「…皆さん、揃ってお目覚めの様ですね」

真紅「あなたは……ラプラスの魔!」
5 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 14:22:11.81 ID:7yBwTtc0
?「それは人違いというものですよ、真紅殿。 私は『カワイソな兎』と申します。あ、呼ばれる時は兎で結構です」

突如現れたカワイソな兎と名乗った、兎に酷似した外観を持つ人物は、ラプラスの魔に似て非なる者だった。
体色は薄青色で、白いシルクハットを被り、鋭い目は目薬を差していないせいか酷く充血していた。

真紅「……兎は何者なの?」

兎「フム…その質問には後ほどお答えしましょう」

翠「兎野郎がここに連れて来やがったですか?」

兎「御名答、翠星石殿。あなたのおっしゃった通り、私があなた方をここ…『bのフィールド』に連れて参りました」

水銀「bのフィールド!? あんた何を言っているの?」

兎「クク、知りたいですか? ま、私もあなた方に教えなければ埒が開きませんしね」

ドール達は兎の口から発せられるであろう第一声を固唾を飲んで待ち構えた。

兎「bのフィールド…それは私の創り出した、nのフィールドとは全く異なるタイプの異次元空間です」

水銀「創ったですって!?」

兎「そう!私の手に掛かれば、自在に異空間を創り出す事は造作も無いのです!」
6 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 14:36:58.36 ID:7yBwTtc0
兎「そしてこの空間内では…あなた方は特殊能力を使えません!」

真紅「な…何ですって!?」

雛「うにゅー、苺わだちが使えないの!」

なんと、兎の言っている事は本当だった。ドール達は一切の特殊能力の使用を制限されていたのだ。

兎「おや、皆さんまだ驚くのは早いですよ? この空間では生きる屍…『ゾンビ』も存在します!」

翠「な? ゾ、ゾンビ? 何ですかそれ?」

兎「それは、あなた方にこれから挑んで貰う新アリスゲームには欠かせない存在でしてね…」

一同「新アリスゲーム!?」

兎「そう!『新アリスゲーム』! 私の用意した最高のゲームです!!」

一瞬、場の空気が凍り付いた。一体こいつは何を企んでいるのか?

兎「…おやおや? 私の言ってる事が信じられない、といった顔をしておりますねぇ?」

真紅「あなたは…一体何を言っているの…?」
7 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 15:07:29.75 ID:7yBwTtc0
兎「クク…あなた方の中には互いに殺し合う事を良しとしなかった者がいた!」

兎「それではアリスが決定しない…そこでこの私が新ルールを考案したのです!」

水銀「ふざけないで!あんたの垂れ事なんかに付き合ってられないわよ!」

蒼「そうだ…これは僕たちの戦いなんだ、あなたが関与する権利なんて無い」

兎「まあまあ、落ち着いて…!喚いた所でこの空間からは出れませんから…!」

そして真紅達は、兎の口から衝撃的な新ルールを聞かされる事になる。

兎「基本のルールは同じ…あなた方には適度に殺しあってローザミスティカの奪い合いをして貰います」

兎「但し!この新アリスゲームでは、攻撃を仕掛けて来るのがドールだけとは限りません」

兎「先ほど申し上げた、奇妙な生命体…ゾンビもあなた方を襲うでしょう」

兎「それこそが! 新ルールの骨頂です!」

兎「これにより半強制的に、そしてより確実に!アリスを決定する事が出来るのです!我ながら素晴らしい!」

真紅「そ、そんな…!」

水銀(これは悪くないかもしれないわぁ…)
8 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 15:22:50.31 ID:7yBwTtc0
兎「せいぜいズタボロになりながら生き長らえるこったな!」

兎「コホン…失礼。あなた方は特殊能力は制限されますが、各自の武器と…」

兎はすぐ横に異次元を出現させ、中から巨大な工具箱を引っ張り出した。

兎「こちらの『銃器』を使用する事が出来ます」

そう言うと兎は真紅達の目の前で工具箱を開いて見せた。中には大小様々な形をしたものが入っていた。

金「これが…銃器って奴かしら?」

雛「あ!ヒナね、これ知ってるのー!」

雛苺はそう言いながら小型のものを指さした。

雛「これね、ひきがねを弾くとね、お水がピューって出るのよ!」

兎「ハッハッハ…雛苺殿、これらは全て本物の銃ですよ」

雛「うゆ?ほんものー?」

真紅「ひょっとして、これらが弾を発射する為の道具…?」

兎「真紅殿、よくご存知ですな。弾を撃って人を[ピーーー]為の、いわば凶器です」

金「何だか恐ろしいかしら…」
9 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 15:46:56.34 ID:7yBwTtc0
>>8修正

兎「せいぜいズタボロになりながら生き長らえるこったな!」

兎「コホン…失礼。あなた方は特殊能力を制限されていますが、各自の武器と…」

兎はすぐ横に異次元の穴を出現させ、中から巨大な工具箱を引っ張り出した。

兎「こちらの『銃器』を使用する事が出来ます」

そう言うと兎は真紅達の目の前で工具箱を開いて見せた。中には大小様々な形をした物が入っていた。

金「これが…銃器って奴かしら?」

雛「あ!ヒナね、これ知ってるのー!」

雛苺はそう言いながら、小型の銃を指さした。

雛「これね、ひきがねを弾くとね、お水がピューって出るのよ!」

兎「ハッハッハ…雛苺殿、これらは全て本物ですよ」

雛「うゆ? ほんものー?」

真紅「…これ私、扱った事があるわ」

兎「ほう…それは興味深い。これらは弾を発射して人を殺傷する為の道具、いわば凶器です」

金「何だか恐ろしいかしら…」
10 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 16:16:15.20 ID:7yBwTtc0
水銀「…何であんたがこんなのを扱った事があるのよ?」

真紅「以前JUMから借りたのよ。最近JUMは通販で銃を買っていたから…」

金「どれも中が筒みたいになってるかしら」

兎「では、これよりあなた方に銃器を一つだけ選んで頂きます。水銀燈殿、まずはあなたからお選び下さい」

水銀「え、私から?」

金「待つかしら!何故水銀燈から選ばせるのかしら? カナが先に選びたいわ!」

兎「金糸雀殿、これはドールの番号順に選ばせて貰います。従って、何ら不公平ではありません」

蒼「あの、まだ僕たちは銃がどんな仕組みになってるのか分からない上に、こんなたくさんの種類から選ばせるんですか?」

兎「そうですよ、蒼星石殿。但し、選んだ銃の簡単な紹介だけはして差し上げましょう」

兎「なお、仕組みや扱い方に関しての解説は、後ほど行いますのでご安心を。」

水銀「んー………じゃあこれにしとくわぁ」

水銀燈の選んだのは長めの銃で、よく見るとなかなか凝った造りをしている銃だ。

兎「そちらはAK-101、通称カラシニコフと呼ばれる突撃銃です。作動不良が特に少ない、優れた傑作銃の一つでしょう。」
11 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 16:43:40.78 ID:7yBwTtc0
兎「では金糸雀殿、次はあなたの番です」

金「ムムム…どれにしようか悩むかしら……大きい物ほど強いとは限らないと思うのよ」

金「うーん、これにしようかしら!」

金糸雀の選抜した銃は、ユニークな形をした近未来的外観の銃だった。

兎「ほほぅ、それを選ばれるとは、流石ローゼンメイデン一の頭脳派は見る目が違いますね」

金「フッ、それ程でも無いかしらー!」

兎「それはP90と呼ばれるPDW、もとい短機関銃です。特殊な弾薬を使用し、装填数も多い事から、非常に優れた銃となっています」

翠「ムッキー!何か無性にムカつくです!」

蒼「落ち着きなよ翠星石。次は君の番だよ」

翠「こうなったら、チビカナなんかよりずーっと良い奴を選んでやるです!」

無駄に張り切った翠星石の選んだ銃は、プラスチック製の長筒の銃だった。

兎「それはレミントンM870という傑作散弾銃です。開発された年代は古いながらも、その堅牢な構造の信頼性故に現在も世界で広く使われています」

翠「で、これは強いんですか?」

兎「使い方にもよるでしょう」
12 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 17:00:21.58 ID:7yBwTtc0
蒼「へぇ…銃器にも色々な種類があるんだなぁ」

蒼「おっと、次は僕の番だったね。僕は…」

兎「パス」

蒼「へ?」

兎「いや、だってさ、蒼星石殿のあの鋏ってチート級じゃん? だからパス。銃は無し!」

蒼「そんなガーン!」

兎「次は誇り高き第五ドール…真紅殿、好きな物をお選び下さい」

真紅「そうね…どれにしようか迷うわ……」

真紅「…これは!JUMが通販で購入していたのと同じ…!」

真紅「私はこれにするわ」

真紅が悩んだ挙げ句選んだ銃は、これまで選ばれてきた中で一番小さい手の平サイズの銃だった。
13 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 17:25:33.01 ID:7yBwTtc0
兎「ふむ、それを選ばれるとは、やはり通なものですねぇ」

兎「…あなたはコルトガバメントと呼ばれる傑作銃をご存知でしたか?」

真紅「私はそこまで詳しく無いわ」

兎「ふむ…その銃はその傑作銃のモデルの一つ、コルト380ガバメントと呼ばれる物です」

兎「堅牢な造りで信頼性が高く、安定したパフォーマンスを発揮し続ける事の出来る秀逸な自動拳銃です。」

真紅「小さい割に、思ってたよりも重いわね」



兎「…では最後に雛苺殿、余った中からお選び下さい」

雛「うにゅー、ヒナこれにする!」

雛苺の選んだ銃は、小型で軽量な銃だった。

兎「プッ!そ、それは……ククク…!」

雛「…うゆ?」

兎「コホン…失礼。それはイングラムM10という短機関銃です。まあ、ここにある中で一番の駄作でしょう。」
14 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 18:17:21.06 ID:7yBwTtc0
兎は工具箱を異次元の穴へ放り込むと、今度は麻袋を引っ張り出すと、真紅達に向き直った。

兎「では、次にあなた方の精霊をこちらで預からせて頂きます」

真紅「えっ!人工精霊を!?」

水銀「何なのよあんた!さっきから偉そうに!」

水銀燈は背中の黒い翼を広げると、空中に飛び上がり、戦闘体勢へ入った。

兎「おや、飛行能力だけは制限されなかったようですね?」

水銀「くっ…羽が飛ばせない!こうなったら直接…!」

兎「ククク…この私に勝てるとでも思ってるんですか…?  ハッ!!」

兎は左手を開いて水銀燈に向けると、空気の波動が直進し、水銀燈に直撃した。

水銀「ぐうっ!!…体が…動かない…!?」

兎「あなた方は私に抵抗する権利はありません。それを良く覚えておいて下さい」

兎は水銀燈を解放すると、ドール達に各自の武器がある者はそれを出した上でこちらに手渡す様に指示をした。
ドール達はしぶしぶと兎の指示に従った。先ほどの能力を見せつけられては、抵抗するだけ無駄だと判断したからだった。
15 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 18:44:35.08 ID:7yBwTtc0
水銀「メイメイ!…行ってきなさい」
金「ピチカート!…しばらくお別れかしら…」
翠「スィドリーム、少しの間我慢するです…」
蒼「レンピカ…安心して。僕は生きて帰ってくる」
真紅「ホーリエ!…私は見捨てたりしないわ」
雛「ベリーベル、ダメよ、いくのよ…!」



兎「ふむ、これで全部の様ですね。ではこちらで預からせて頂きます。なお、勝者にのみ返却という形となります」

そう言うと兎は麻袋に全ての人工精霊を中へ誘導し、袋の口を閉じてしまった。

兎「次に、あなた方にこちらの装備を配布しましょう」

兎は異次元の穴の中に手を伸ばすと、シルバーでコーティングされたケースを持ち出した。そして、ケースの中から一本の極太のベルト状の何かを取り出した。

兎「これぞ名付けて『戦闘ベルト』!これには既にあなた方の銃器に合わせた弾薬が取り付けられています」

兎「さらに、背面に道具を仕舞う事も出来る優れ物!一人につき一本ずつ用意してあります」

兎「それでは、これを腹の辺りに身に付けて下さい」

そして、ドール達は戦闘ベルトの着用に取り掛かった。
16 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 20:08:38.85 ID:7yBwTtc0
水銀「これ、重過ぎてうまく着けられないわよぉ!」

雛「うゆー、だれか手伝ってなのー!」

翠「ほらチビ苺、翠が着けてやるですよ」

蒼「僕のには変な球体が取り付けてあるな…?」



兎「……皆さんどうやら着け終わったようですね」

兎「では、これより銃のレクチャーを受けて貰いますが…」

兎「その前に、私が何者なのかを話しておきましょう」

真紅「…………」

兎「…私はローゼンとは一切関係の無い存在であり、兎であります」

兎「その私がローゼンメイデンに興味を持ち始めたのは、ほんの数日前の事でした」

兎「実は、私とラプラスの魔は親友同士という間柄だったんです」

兎「私はラプラスの魔からローゼンメイデンの事を聞いた…そして強い興味を持ってしまってですね…」

兎「しかも暇だったという事で、この新アリスゲームを考案したんです」

真紅「そんないい加減な…!」

兎「でも、あなた方にとってはある意味好都合ではありませんか? 持って生まれた特殊能力では無く」

兎「銃撃戦という平等に戦える土俵が用意された訳ですから」

真紅「…………」

兎「…私の紹介は以上です。ではこれより、銃のレクチャーを始めます」
17 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 20:36:22.41 ID:7yBwTtc0
兎「…しかし! するのは私では無く……この方です!」

兎は突然、異次元の穴に腕を肩まで突っ込むと、中から何者かを引っ張り出したのだ。

?「痛てっ…!」

真紅「…JUM!?」

JUM「お?…うおおおおお!?」

真紅「ええええっ!?」

そこに居たのは『JUM』の筈なのだが、明らかにおかしな点が一つあったのだ。
昨日まで腰の高さだった筈の場所には頭があったのだ。つまり、JUMは驚く程に小さくなっていたのである。
しかしJUMからは、ドール全員が自分と同じ位に巨大化したかの様に見えていたに違いない。

JUMは目を大きく見開き、真紅と目を合わせたまま、その場に呆然と突っ立っていた。
兎を除く全員が、今の状況を全く把握する事が出来なかった。

JUM「だっ、誰だお前らは!? ここはどこなんだ!?」

というより、これが本当にJUMなのだろうか?

水銀「き、聞きたいのはこっちの方よ!何で小さくなった訳?」

真紅「…JUM? あなた本当にJUMなの?」

翠「…チビ人間が…チビチビになってやがるです!」

蒼「みんな落ち着いて! ここはbフィールドなんだろう? 何があってもおかしく無いよ!」
18 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 20:53:59.71 ID:7yBwTtc0
兎「そう!ここはbのフィールドですから、何があってもおかしくはありません!」

JUM「はあ? bのフィールド? つーかお前誰だよ?」

兎「コホン!ではこれよりJUM殿から銃のレクチャーを受けて貰います!制限時間は一分! 始めッ!!」

JUM「え? な、な、何だよ!?」

真紅「JUM!落ち着いて!」

JUM「ちょ、ちょっと待ってくれ!状況を説明してくれないか?」

兎「待ちません!残り50秒!」

真紅「今はそんな事どうだっていいわ! 早く説明して頂戴!」

水銀「そうよ、早くしなさいよ!グズグズしてたらすぐに時間切れよぉ!」

JUM「わ、わ、わ、分かった!何かよく分からんけどやってやる!真紅、銃貸せ!」

兎「あと残り40秒!!」

JUM「ええとだな、これは確かここを弾いて…あ、あれ?」

真紅「JUM!慌てないで、ゆっくりでいいから!」

翠「何もたもたしてるですかチビ人間! 早くしろです!」

JUMはプチパニックを起こしており、うまく説明する事が出来ないでいた。

兎「あと残り30秒!」

19 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 21:30:56.10 ID:7yBwTtc0
JUM「あああ!もう何がどうなってんだよ畜生!」

蒼「JUM君、ここは深呼きゅ…」

真紅「絆パンチ」

ドコオオォォォン!(^ω^ )

一同「!!?」

JUM「ガハァァァッ!! 真紅ッ、お前何…」

真紅「JUM、冷静になって頂戴。……今はあなただけが頼りなのよ」

JUM「……!!」

JUM「オーケー! 任せろ!」

兎「あと残り20秒!!」

JUMは先程とはうって変わって、高速でしっかりと説明をし始めた。

JUM「どんな銃でも、このトリガーを弾けば弾がこっから真っ直ぐ出る!」

JUMはガバメントの銃身の先を指さした。

JUM「撃つとこんな感じだ!」

バンッ(^ω^ )

雛「ひいっ!」

JUM「大体どんな銃でも反動が発生するから気を付けろ!」

JUM「弾が出なくなったら、マガジンを交換する事!これがマガジンだ」

JUMはガバメントのグリップからマガジンを引き抜いて見せた。

金「カナの銃のマガジンはこれかしら?」

翠「あれ?翠のにはマガジンが…」

兎「残り10秒前!!」
20 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 22:04:02.23 ID:7yBwTtc0
JUM「次は射撃姿勢!真紅、雛苺を!」

JUMは真紅にガバメントを返し、雛苺に構え方を教えるように促した。

真紅「分かったわ。じゃあ雛苺、その銃の持ち方は…」

JUM「よし、まずは水銀燈!……早く銃貸せよ!」

水銀「あんたに貸したらやられるかもしれないのよぉ!?」

JUM「…じゃあ次! 金糸雀!」

金「カナもお断りかしら!」

JUM「…もういい!じゃあ翠星石!」

翠「はいですぅ!」

兎「0!! 終了ーーーーーーーーーーー!!」

JUM「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ終わってないんだ!」

兎「ダメダメダメダメ、絶対ダメー! 亡骸になりたいなら構いませんけど?」

JUM「うっ……!」

兎「コホン…失礼。それでは、いよいよ新アリスゲームの始まりです! 皆さん心の準備はよろしいですか?」
21 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 22:23:40.08 ID:7yBwTtc0
真紅「待って! JUMはどうするつもりなの?」

兎「フム…折角ですし、殺 しておきましょう」

一同「!!」

翠「待ちやがれですぅ! チビ人間は、翠と真紅のミーディアムですよ!?」

兎「そんな事は存じておりますよ? 翠星石殿。まあ、もし殺 されたくなければ…そうですねぇ……」

兎「JUM殿にもこの新アリスゲームにゲスト出演…といった所でしょうか」

真紅「な……何ですって!?」

JUM「…良く分からないけど、僕は別に構わない」

真紅「JUM!!」

兎「では、交渉成立ですね。それでは参りましょう……!」

兎「さあ戦え! いざ勇め! 勝利をその手に掴み取れ!」



兎『クイックゥゥゥゥーーロォォォォーーディィィィンン!!!!』

JUM「それなんて翠星石のギャ」



一同「ギャアアアアアアアアアア!!!!」

真紅達は次元のうねりに飲み込まれ、そのままどこかへと消え去ってしまった。
22 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 22:42:11.48 ID:7yBwTtc0
※これから先の話には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています
 それらを苦手とする方は読み進める事を控えるようにして下さい



翠「………うう…ここは…?」

翠星石は一人、鉄製の床の上に横たわっていた。周りは鉄の壁に囲まれており、所々赤く錆びている箇所がある。
それはまるで、血糊がこべり付いてる様にも見えたのだが。

翠「…ハッ! み、みんなはどこですか?」

翠星石の声は部屋中に響き渡った。だが返事は無く、聞こえてくるのは液状化した赤錆が天井から滴り落ちる音だけだった。

翠「何だか…気味が悪いです…」

翠星石は背中の如雨露を手に取ると、ドアに向かって静かに歩き始めた。歩く度に、鉄の音が嫌に響く。

翠「まずは…皆と合流するです」
23 : ◆1IpdltObcE :2009/08/15(土) 23:31:19.91 ID:7yBwTtc0
ギィィィィー…(`A` )
古い木製の扉がゆっくりと開かれた。

真紅「本当に誰も居ないみたいね…」

真紅は狭く薄暗い部屋を出た。着いた場所も薄暗くて分かり辛いのだが、大きな広間の様な場所らしい。床は大理石でできており、辺りは石灰の臭いが立ち込めている。
広間の天井の中央に金色の大きなシャンデリアが吊るしてあり、今なおその輝きは失せていない。そこに立ててある蝋燭の内、およそ半数は炎が消えている。どうりで薄暗い訳である。

真紅は戦闘ベルトの右フックの腰にコルト380ガバメントを、背中に固有武器のステッキを装備していた。この二つがあれば、遠近問わずに万能に戦えるだろう。

真紅「皆は無事かしら……」

真紅がシャンデリアの近くへ移動しようとしたその時、背後から物音が聞こえた。真紅は素早く振り向き様に銃を構えた。

そこに居たのは水銀燈だった。しかも、彼女も真紅に向けてカラシニコフをぎこちなく構えていた。
かつての親友との再会は、険悪なムードで行われる事になったのだ。
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/15(土) 23:42:55.31 ID:Tv2T1NI0
ゾンビ「マッツァオだぁーーッ!!」
25 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 09:11:11.67 ID:Hd2wFcU0
真紅「水銀燈…!」

水銀「あら、誰かと思えば真紅じゃない。こんな所で何してるのよぉ?」

真紅「……私を撃つ気?」

水銀「…だって仕方無いじゃない? 新アリスゲームの真っ最…」

その時、水銀燈は真紅に背後から襲い掛かろうとする何者かの姿を目で捉えた。
と同時に、真紅の目にも水銀燈に背後から跳び掛かる何者かの姿が映り込んだ。

バンッ!(`A` )

真紅は思わず引き金を弾いてしまった。それも、水銀燈に跳び掛かっている何者かに向けて。
同じく、水銀燈も引き金を弾いていた。しかも、真紅に襲い掛かろうとした何者かに向けて、である。

二人共、一瞬だけ自分が何をしたのか理解出来なかった。殺 らなければ殺 られる相手を、何故かばったりしたのか。
そして、二人共自分は撃ち殺 されたものだと思った。

「ヴオオォォォアア!」

しかし、銃撃を受けた何者かが断末魔を上げながら床に倒れた音を聞くと、二人共にようやく事態を理解する事が出来た。

二人の間には固い『絆』が今もそこにあったのだ。
26 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 09:23:43.98 ID:Hd2wFcU0
真紅「なっ!……これが…ゾンビ!?」

水銀「うっ!……まさかすぐ後ろに居たなんて…」

真紅「…周りを見て。既に囲まれているわ。話は後よ」

水銀「…フン、何か面白くなってきたじゃない?」

二人は背中合わせになり、それぞれの銃を構えた。共闘は久しぶりの事だった。

真紅達の周りには続々とゾンビらしき者が集まってきており、それぞれ手に様々な武器を持って真紅達に襲い掛かろうとしていたのだ。
ざっと見て10体ほどは居るだろう。だが、二人の手に掛かればこれ位は全然大した事は無い。

水銀「さて、あんた達をじっくりとジャンクにしてあげるわぁ!」

そして、カラシニコフとガバメントの発砲音が連続して部屋に鳴り響いた。
27 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 09:51:45.91 ID:Hd2wFcU0
JUM「オエエェェェェッ!!」(`q`;)

JUMは嘔吐した。必ず、かの邪智暴虐の兎を除かなければならぬと決意した。

JUMの居た部屋は、現実であるとは思えない程の、異常極まり無い部屋だった。
壁一面は余す所無く血糊で赤黒く染まっており、床には足の踏み場が無い程に、何かの腐った肉片や肉塊、風化して脆くなった何かの骨片らしき物体がが大量に散乱していた。
その光景は余りにも酷過ぎた。そのせいで気分を悪くしたJUMは嘔吐させられる羽目になったのだ。
おまけに、血生臭かった部屋の臭いに新たな臭いがブレンドされる事になり、JUMの吐き気はさらに促進された。

JUM「ウップ・・・ウェェェェェ!!」

JUMは自分をこんな事態に陥れた兎に対して、早速すさまじい嫌悪感と憎悪心を募らせ、さらに必ず復讐する事を心に誓ったのだ。

JUM「くっそ…あの兎野郎…!許さね…オェッ!」

JUMはひとまず部屋から出る事にした。こんな部屋に居続けていればそのうち発狂して死 にかねないと判断した。

JUM「オプッ、あんな所にドアが…!」
28 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 10:30:19.69 ID:Hd2wFcU0
JUMがドアまで歩いて行く際に、踏みつけた肉片や骨片の音や感触の気味の悪さがさらに吐き気を激化させた。

そして半狂乱になりつつも何とかドアの前まで辿り着き、血糊でべた付いたドアノブを回して部屋から出た。
出た先は廊下になっており、幸いにも異常な点が全く無い、至って普通の廊下だった。

JUM「やっと出れた…! これで新鮮な空気が吸える…!」

JUMは脱力してその場に座り込んでしまった。走った訳でも無いのに息が上がっている。

JUM「ハァ…少し休憩しよう……」

JUMは顔に付着している汚物を袖で拭い取ると、取り敢えず今までの状況を整理する事にした。

JUM「そうだ…あれは僕が鏡の前に来た時だった…兎に引きずり込まれたのは…」

JUM「つまり、ここはnのフィールド…? いや、bのフィールドがどうとか言ってたな…」

JUM「とにかく、そのせいでドール達がでかくなっていたのか…? 意味分かんねえよ…!」

JUM「新アリスゲーム…僕がゲスト出演…何なんだよ一体…!」

JUMは兎野郎に対してさらに激しい怒りが湧いてきた。詳しい事情は分からないが、とにかく全てあの兎野郎のせいなのだ。
29 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 11:42:00.77 ID:Hd2wFcU0
JUM「ウップ!何で僕がこんな目に…! あの兎野郎、今度会ったら…!」

JUMはズボンの右ポケットから銀メッキの施された銃器を抜き出した。

JUM「…こいつで脳天をブチ抜いてやる!!」

その銃はコルトパイソン357と呼ばれる優れたリボルバー式拳銃である。
強力な威力を持つ弾薬を使用する銃で、兎の頭をブチ抜くにはうってつけと言えた。

JUMはパイソンとその幾つかの予備弾薬を護身用と称して自宅で持ち歩いていたのである。
もちろん通販で購入した。

JUM「待ってろよ兎野郎…!」

JUMはポケットにパイソンを仕舞ってふらふらと立ち上がり、早速探索を開始した。
廊下には奥にドアが一つ、後ろに先程の部屋のドアが一つ、そして左側に何やら怪しげな上り階段があった。

JUMは階段を上って行く事にした。きっと奴はこの上にいるに違いない。直感でそう思ったのだ。

階段の段差を一つずつ上る度に、床がきしめく音がした。ようやく上り終えると、細い通路の奥に錆びた鉄製のドアが見えた。

JUM「また…さっきみたいな部屋だったら嫌だな…」
30 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/16(日) 11:43:45.09 ID:JPMFtbYo
JUMはパイソンとその幾つかの予備弾薬を護身用と称して自宅で持ち歩いていたのである。
                           ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
31 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 13:17:09.80 ID:Hd2wFcU0
JUMはゆっくりと扉を開き、部屋の中を見渡した。
部屋の周りには様々な機械が設置してあり、どれも酷く破損していて使い物になっていなかった。
ふと部屋の中央を見ると、誰かがそこに仰向けになって倒れていた。

JUMはおそるおそる近づくと、倒れた者の姿を確認した。

JUM「うっ……!」

JUMは思わず呻き声を上げた。そこに倒れていたのは、酷く劣化してまるで腐ったかの様に見える謎の大きな人形だったのだ。

冷静さを取り戻しつつあったJUMは、またここで考えを巡らせ始めた。
この自分と同じ位の大きさの腐った人形、JUMが居た例の惨い部屋、兎の言っていた新アリスゲームという単語、そしてドール達が何故か所持していた銃器の関連性…

JUM「……バイオハザードにそっくりだ!」

JUMはポケットからパイソンを引き抜き、後方に跳び退いて人形ーー『ゾンビ』に銃を向けた。

ズドン!(^ω^ )

そして一発、ゾンビの腹に弾丸をブチ込んだ。ゾンビははらわたをブチ撒ながら向こうに吹っ飛んだ。
32 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 14:07:11.57 ID:Hd2wFcU0
JUM「ハア、ハア、ハア…オェッ!…何だ…只の人形じゃないか…」

人形ははらわたを出したままピクリとも動かなかった。JUMは人形の贓物が予想外にリアル過ぎたので、またも気分が悪くなってきた。
おまけに、人形の裂け目から赤い液体がじわじわと床に伝わって来ていた。まるで本物の人間の血の様だ。

JUM「うっ…どうやらここには兎野郎は居ないみたいだな…早く部屋を出よう」



翠星石は鉄格子を降りていた。水の流れる音がする。どうやら近くに川か何かがある様だ。

梯子を降りきった場所は下水道みたいな場所だった。とても暗くて周りがよく見えないが、近くを下水が流れている。
下水は思ったより綺麗な様で、底が透き通って見えた。ほんのり潮の香りがする。海が近いのだろうか。これは海から流れてきた水なのだろうか。

翠「みんなどこにいるですかー?」

返事は無い。というより、こんな場所に人が居るとは到底思えない。しかし、翠星石は念入りに探索をする事にした。
翠星石は自前のマッチ棒を擦って明かりを灯した。光に寄ってきた虫を追い払い、奥へと進み出した。

しばらく進むと、もう一つの鉄格子を発見した。ここから上に登れそうだ。
33 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 14:27:31.50 ID:Hd2wFcU0
翠星石が梯子に足を掛けたその時だった。暗闇の奥から何者かの呻き声が聞こえて来たのは。

翠「ま、まさか…!」

翠星石は背中の如雨露を手に取り、何者かの接近を待ち構えた。それは重い足取りでゆっくりと、しかし確実にこちらへ向かって来ている。

翠「ゾンビだったら…ボコボコにしてやるです…」

「ヴオアアアアア!」

突然走り出して襲い掛かってきたのは、ぼろぼろの服を着用し、肉体の腐食が激しく、その手に鎌が握られた人形だった。
翠星石は一歩踏み込み、如雨露で頭を殴りつけて先手を取ると、素早く人形の上にのし掛かり、連続で如雨露を振り下ろした。

翠「くたばりやがれですー!」

「ヴオオァァァァァ!」

十数発振り下ろすと、人形は酷く破損して動かなくなった。辺りに肉片と赤い液体が飛び散り、それは翠星石のドレスや如雨露にも付着していた。
翠星石は左手で再びマッチ棒を着火して、倒れた人形を照らし出した。

翠「うぇっ、グロテスクな奴です……こいつが…ゾンビ…!?」

ゾンビの実体を知った翠星石はしばらくの間、放心状態になっていた。まさか、同じ動く人形だったとは。
34 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 15:43:16.55 ID:Hd2wFcU0
ふと我に帰った翠星石は、上から微かな光が漏れ出る鉄格子を登り始めた。登るにつれて段々と明るくなってくる。
登り終えた先は、牢屋の様な部屋だった。土壁と鉄柵で囲まれた密室で、天井にランプが取り付けてあった。

鉄柵で出来た扉を開くと、同じ様な部屋が左右に幾つも連なった通路に出た。ある部屋の中には、ゾンビが倒れた状態で閉じ込められていた。
通路の奥に、頑丈そうな鉄の大きな扉が見えた。翠星石はその扉の前まで歩いて行くと、扉を押したり引いたりした。

翠「ムム、開かねぇです」

翠星石は諦めずに、距離を置いて扉に向かってタックルを仕掛けた。今度は激しい音を立てて開いた。

次の場所は石の階段の丁度踊り場になっていた。上と下に階段が延びていた。どちらとも途中で曲がっている為、先が見えなかった。

翠「うーん…下りてみるです」

そして翠星石が十数段下りた時、上の方から何かが転がってくる音がした。翠星石は後ろを振り返ると…



なんと、物凄い勢いで巨大な岩が階段を転がり下りてきたのだ! このままでは翠星石は岩に巻き込まれてしまう!
35 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 18:43:01.60 ID:Hd2wFcU0
翠「きゃああああっ!?」

翠星石は慌てて駆け出した。一旦さっきの牢屋の部屋へと戻ってやり過ごす事も考えたが、それには間に合わないと判断した。
岩は階段の幅ギリギリのサイズ程あり、横に避ける事も出来そうにない。よってとにかく階段を駆け下りる事にした。転べば一貫の終わりだ。

こんな時、もし特殊能力が使えれば、如雨露で木を生やして岩をせき止める事なんてのは造作も無いだろう。

翠星石はどこか凌げる場所なないか探しながら駆け下りていた。しかし、翠星石の目に飛び込んできたのは、階段の先が瓦礫の山に埋もれた光景…すなわち『行き止まり』だった。

翠「もう……駄目です……!」

翠星石は瓦礫の前まで走り込んだが、そこでしゃがんで目を伏せてしまった。もはや成す術が無かった。後は転がってくるであろう岩の下敷きになるのを待つばかりであった…。



が、いつまで経っても岩がここまで転がってくる様子が無い。翠星石はおそるおそる目を開けてみると、近くの壁が崩れて大きな穴が開いていた。どうやら勢い剰った岩が途中で壁を貫通したらしかった。

翠「た…助かったです…!」
36 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 19:11:40.96 ID:Hd2wFcU0
ガガガガガガガガッ!(`A` )
バンバンバンッ!(^ω^ )

広間中にカラシニコフとガバメントの弾丸が飛び交った。その弾丸は鋼鉄の雨となり、周りにいるゾンビ共に降り注ぐ。
二人の活躍のお陰で、ゾンビに攻撃の機会も与えずに早くも片付いた。

真紅「…ふぅ、これで終わりかしら」

水銀「もう終わりみたいね? 早かったわぁ」

真紅「……それで、あんたはこのゲームに乗る気なの…?」

水銀「……………」

水銀「…じゃあね、真紅」

それだけ言うと、水銀燈は翼を広げて低空飛行でその場から飛び去った。

真紅「待って! まだあんたの答えを聞いてないわ!」

真紅「………水銀燈…」

真紅はまだ息のあったゾンビにステッキでとどめを刺すと、水銀燈が飛んでいった方へと足を運び始めた。
真紅と水銀燈が居なくなったその場所には、大量のゾンビの死骸や肉片、赤い液体が散乱したままだった。

真紅「…もしドールの内の誰かがこのゲームに乗り気だとしたら…大変な事になるわね」

真紅は広間の奥に木製のドアを発見した。まずドアの横に張り付いて中の様子を伺う。そしてドアを蹴り開け様に銃を構えた。

真紅「…またゾンビね!」
37 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 20:54:39.25 ID:Hd2wFcU0
今度は二体のゾンビが部屋を彷徨いていた。一体は斧を持ち、もう一体はスタンガンとナイフを握っている。

真紅は素早く斧ゾンビの頭部に照準を合わせると、二回引き金を弾いた。
一発目で顔の一部が砕け落ち、もう一発で顔の半分が吹っ飛び、そのまま床に倒れ込んだ。
弾を撃ち込んだ所で、ガバメントがホールドオープンした。これはマガジン内の弾丸が尽きた事を意味する。

真紅は素早く空のマガジンを抜き取ると、戦闘ベルトに装備されたマガジンを取り付け、スライドを軽く引き再び銃撃が行えるようにした。
しかし、その少しの間にもう一体のゾンビに距離を縮められていた。ゾンビは左手のスタンガンを真紅に押し当てた。

バチバチバチバチッ(^ω^ )
真紅「うああっ!」

怯んだ真紅にゾンビの右手に握られたナイフが突きつけられた。とっさにステッキでナイフを叩き落とすと、弾丸を腹に数発ブチ込んだ。

バンバンバンッ!(^ω^ )
「ヴオオォォォ!」

ゾンビは断末魔を上げてその場に崩れ落ちた。真紅はスタンガンでやられた脇腹を押さえ込む。

真紅「複数のゾンビを一人で対処するのは厳しいのだわ…」

しばらく休憩した後、部屋の奥の通路へと入った。
38 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 21:52:00.21 ID:Hd2wFcU0
真紅「…あれは?」

壁に取り付けられた窓から見える、向こう側の建物の窓に、人間の姿が一瞬だけ見えた。

真紅「もしかして…JUM!?」

真紅は急ぎ足で先へと進んだ。通路を抜けると、向こうの建物へとつながった橋に辿り着いた。
橋は全て金属で出来ており、建物からむき出しの状態だった。真紅はここで、ようやくこの空間上の外の世界を見たのである。

空には月が出ていた。星が瞬く雲一つ無い綺麗な夜空だった。空気は肌寒く、そよ風が吹き抜けている。
橋を見おろすと、地面はコンクリートで固められており、そこに数台の自動車が止められていた。

真紅「bのフィールドはこんな風になっていたなんて…」

真紅は向こうの建物に入り、JUMらしき人物が居た部屋へと急いだ。



「ヴオアアアアア!」

JUM「な、何だ…?」

JUMはゆっくりと振り返った。何者かが開いたドアからゆっくりとこちらに向かって来るのが見えた。
この部屋は電灯が無いせいで薄暗く、始めはその姿を視認する事さえ難しかったが、段々とJUMの居る窓の近くに来るにつれて、その輪郭がはっきりしてきた。
39 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 22:16:52.71 ID:Hd2wFcU0
そいつは以前機械の置いてある部屋で見た、あの人形と同じ形状をした人形であった。唯一異なる点は、鎌を持ってこちらに歩いてくる点である。

JUM「こ、こいつは…動く人形、ローゼンメイデンか!?」

「ヴオオォォォォ!」

JUM「うっ! お、襲って来る! にっ、逃げないと!」

JUMは反対側のドアに向かって逃げようとした。しかし、足が恐怖のあまり硬直しており、動かす事が出来なかった。

JUM「あああ足が、ななな何で動かないんだよ!?」

JUMはパニックを起こしてしまった。それは最初に居た部屋の衝撃的な光景の影響も少なからずあっただろう。

JUM「そそ、そうだ! こっちには銃がある!」

JUMは震える手でポケットからパイソンを引き抜くと、人形に向けて引き金を弾こうとした。しかし、うまく指に力が入らなかったのだ。

JUM「URYYYYYYYYYY!!」

ついにJUMは頭が真っ白になった。
殺される。奴の手で首を引き裂かれて殺される。そればかりがJUMの頭の中を支配していた。
その間に間合いを縮めた人形が、JUMの首を狙って鎌を振り下ろしたその時だった。

バンバンバンッ!(^ω^ )
40 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 22:48:06.54 ID:Hd2wFcU0
「ヴアアアァァァァ!」

突然JUMの目の前で人形が断末魔を上げて倒れたのだ。何故なら、部屋に駆けつけた真紅が人形にガバメントを発砲したからである。

JUM「た…助かったのか…?」

真紅「JUM! 怪我は無かった?」

JUM「し、真紅! ど、どうしてそこに居るんだ!?」

真紅「あなたの姿を向こうから確認して、今駆けつけて来た所よ。無事で良かった…」

JUM「……真紅…ありがとう」

真紅「…小さくなったJUMは何だか頼りないわね」

JUM「プッ、何だよそれ? こっちから見ればそっちがでかくなったんだよ」

真紅「ま、取り敢えずあなたには詳しい事情を説明する必要があるわ。よく聞きなさい」

真紅は兎の居た部屋で起こった事を一通り説明した。

朝起きた時には既にあの部屋に連れ去られていた事、犯人はカワイソな兎と名乗ったラプラスの魔の親友である事、bのフィールドでは特殊能力が使えない事、精霊も取り上げられたが、代わりに銃器が配布された事、

そして、新アリスゲームの内容と、謎の生きる屍であるゾンビの事。

JUM「成る程な…ようやく事態が飲み込めて来たぞ」
41 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/16(日) 23:07:40.37 ID:.erPX9E0
タルカスさんマダー?
42 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 23:20:10.87 ID:Hd2wFcU0
真紅「そして、さっきあなたを襲った人形がゾンビよ」

JUM「そこに倒れてるローゼンメイデンが?」

真紅「それがローゼンメイデンだとは思えない…お父様は七体のドールしか造られてない筈だから」

JUM「…七体? もう一体いるのか?」

真紅「まあ、その話はいいでしょう。とにかく、ゾンビはたくさんいるわ」

真紅「だから一人で探索するのは危険よ。私について来なさい」

JUM「オーケー、もちろんそのつもりだ。これからどうするんだ?」

真紅「他のみんなを探すわよ。水銀燈にはさっき会ったわ」

JUM「水銀燈に? よく殺されなかったな…」

真紅「私は水銀燈と共闘したのよ。私に対する敵意は無い様に見えたけど…よく分からないわ」

JUM「そうか……よし、そろそろここを出よう」

真紅「JUM、何か武器になる物は持ってる?」

JUM「当たり前だ。銃がある。お前達を探してる時に身に付けていたからな。で、まずはどこへ向かう?」

真紅「そうね…まずは左の方から探索しましょう」

真紅とJUMは二人揃って部屋を出ると、左の通路の探索を開始した。
43 : ◆1IpdltObcE :2009/08/16(日) 23:45:56.62 ID:Hd2wFcU0
蒼「うーん……」

蒼星石は木製の床の上で目を覚ました。どうやら随分と長い時間気を失っていたらしい。それに寝違えた様だ。首が痛い。

蒼「いてて………ん?」

蒼星石は目の前で起こっている事にしばし放心状態となった。自分はまだ夢を見ているのではないかと錯覚した。
試しに頬を強めに抓ってみた。痛かった。どうやら夢では無いらしい。

何故に僕は囲まれているのだろうか。というよりも、こいつらは何者なんだ?

自分と同じ位の大きさの、ぼろぼろの服を着た腐食の激しい人形が、武器を持ってこちらに向かって来ていたのだ。
蒼星石のすぐ後ろは壁があったので、逃げ場の無い状況だった。

蒼「ああ…そうか死亡フラグか…」

蒼星石が背中の鋏をゆっくりと手に取り、中段に構えたその時だった。

?「蒼星石ー! 今助けるのー!」

蒼「……雛苺!?」

ゾンビ共の後ろからこちらに駆けて来る雛苺がかいま見えた。右手にはイングラムをぎこちなく握っている。これは新たな死亡フラグ、かな?

雛「そこどけなのーーー!!」
パララララララララ(^ω^ )
44 : ◆1IpdltObcE :2009/08/17(月) 00:04:29.13 ID:a2VEOOY0
蒼星石の予感は的中、雛苺は走りながらイングラムをブッ放してきた。弾道はバラバラで、次々にゾンビに命中し、肉をえぐり取っていく。
しかし弾は蒼星石にも問答無用で飛んできたので、素早く伏せていなければ危うく射殺されていただろう。

「ヴエアアァァァァ!!」

雛「おまえら死 ねなのーーー!!」

雛苺はゾンビに急接近し、至近距離から理不尽な程に弾を浴びせかけた。集中放火されたゾンビの肉体は見る影も無く砕け散り、肉片をバラ撒いた。
そしてまだ立っているゾンビに次々に発砲し、1マガジンを撃ち切る頃には、生きたゾンビの姿は既にそこには無かった。

雛「蒼星石ー、だいじょうぶー?」

蒼「ハハ……助かったよ雛苺、ありがとう」

雛「えへへー」

蒼(本当は雛苺に殺されかけたけど…)

蒼「こいつらが、例のゾンビって奴等なのか?」

雛「うゆー、ヒナも初めて見たのよ」

蒼「そうだ、他のみんなは今どこに居るんだい?」

雛「うゆ…ヒナ分からないのよ」

蒼「そうか…じゃあみんなを探しに行こうか」

雛「うん! みんなもヒナが助けるの!」

蒼星石と雛苺は立ち上がると、早速探索を開始した。
45 : ◆1IpdltObcE :2009/08/17(月) 11:01:49.93 ID:a2VEOOY0
部屋を出ると、木目の美しい壁が続く廊下へと出た。綺麗に清掃されており、埃一つすら見当たらない。
通路上には幾つかのドアがあり、そのほとんどが木製のこれまた美しいドアだったが、中には蜘蛛の足で堅く閉ざされた様な奇妙な扉もあった。それのせいで、不気味な光景と化している。

蒼「雛苺はどこに居たんだい?」

雛「うにゅー、ドアがおおすぎて分からないの」

蒼「ここのどこかの部屋の中に居たんだね」

雛「だれもいなくて怖かったのよ。でもね、ヒナ泣かなかったの!」

雛「ヒナがしっかりしないといけないって、そう思ったの!」

蒼「雛苺……」



金「フッフッフ…蒼星石達はカナの存在に気づいて無いかしら!」
46 : ◆1IpdltObcE :2009/08/17(月) 11:29:41.48 ID:a2VEOOY0
蒼星石と雛苺の後ろ姿をドアの隙間からじっと監視し続けているのは、ローゼンメイデン一の頭脳派(自称)の金糸雀である。
彼女は蒼星石達が油断している隙に背後からP90の弾を浴びせかけ、ローザミスティカを安全に奪おうという計画を実行しようとしていた。

金「今回こそは、楽してズルしていただきかしら!」

金糸雀が出るタイミングを見計らっていたその時だった。後ろから何者かの足音と、不気味な呻き声が聞こえてきたのは。

「ヌヲオオォォォォ…」

金「ちょっと! 今集中してる所なんだから、邪魔しな…」

金「…きゃああああああ!?」

蒼「な、何だ?」

雛「カ、カナリア!」

蒼星石と雛苺は後ろを振り返ると、奥の方で金糸雀が腰を抜かして座り込んで居るのが見えた。
そして金糸雀の目の前に、黒いフードを身に纏った巨大な大男が、大人二人分はあろうこれまた巨大な斧を携えてそこに立っていたのだ。

「ヌヲオオォォォォ!!」

金「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!」

その光景を見た蒼星石は、素早く金糸雀のもとに駆け出した。

蒼「金糸雀ッ! 今助ける!」

雛「へ、変なのがいるの!」
47 : ◆1IpdltObcE :2009/08/17(月) 11:47:14.18 ID:a2VEOOY0
大男は斧を振りかざし、そこにいる金糸雀に向けて勢いよく振り下ろした。

ズガアアァァァァン!!(`A` )

間一髪、蒼星石は跳び込みながら金糸雀を抱きかかえ、そのままの勢いで大男の足の間をくぐり抜けた。

蒼「怪我は無い?」

金「あ、ありがとう…」

「ヌヲオオォォォォ!!」

大男は突然狂った様に斧を横に振り回し始め、両側の壁を引き裂きながら雛苺の方へと向かっていった。

雛「こ、こっちに来るの!!」

蒼「雛苺、逃げろ!」

蒼星石と雛苺は大男を挟んで位置している為、雛苺を直接カバーしに行く事は困難な状況だった。
蒼星石は素早く大男の背中へ駆け寄った。

蒼「喰らえっ!!」
ドスッ!(^ω^ )

そして蒼星石は渾身の力を込めて、大男の背中に鋏を突き刺した。しかし、肉質が堅かったせいで奥まで刺さらず、大男は怯む事無く前進をし続けた。

雛「このー、死 ねなのーーー!」

雛苺は大男に向けてイングラムを発砲しようとした。だが、マガジンの交換を忘れていた為、弾は出なかった。

雛「あ、あれ…? おかしいの、弾が出ないの!」
48 : ◆1IpdltObcE :2009/08/17(月) 12:09:05.94 ID:a2VEOOY0
蒼「雛苺! 早く逃げろ!」

蒼星石はもう一度、雛苺に逃げるように指示をした。それを聞いた雛苺は廊下の向こうへと全力疾走したが、戦闘ベルトが重いせいで通常より遙かに遅かった。

「ヌフオオォォォォ!!」
ズガァァッ!ドガァァッ!(`A` )

雛「ハア、ハア、ハア…!」

蒼星石が必死に鋏で大男を斬り続けても、びくともせずに斧を振り回し、雛苺に迫っていく。
そして早くもスタミナ切れを起こした雛苺に斧が直撃するのは時間の問題だった。

蒼「雛苺!どこか部屋に隠れて!」

雛「うゆ、分かった、なの…!」

部屋に入れば追い込まれる危険性があったが、もう他に打つ手立ては無かった。雛苺はすぐ隣のドアを開け、中に転がり込んだ。
しかし、大男はすぐにそのドアの前まで追いつくと、斧を振り下ろしてドアを周囲の壁ごと粉砕してしまった。

「ウヲオオオォォォォ!!」
ドガシャアアアアン!!(`A` )

雛「いやああああ! 助けてーーー!!」

蒼「やめろぉぉ! 雛苺に手を出すなぁぁ!!」

蒼星石は大男に跳び掛かり、首を狙って鋏で一突きした。
49 : ◆1IpdltObcE :2009/08/18(火) 22:49:50.31 ID:jyd91OQ0
石の階段をひたすら駆け上がっているのは、如雨露とレミントン装備の翠星石である。
その二つの重量に加え、謎の生地で出来た重い戦闘ベルトとそれに装備された12ゲージと呼ばれる散弾銃の弾薬でかなりの負担になっていた。
にも関わらず、翠星石は全力で階段を駆け上がっている。何故なら…

また岩が転がって来る恐れがあり、しかも身を隠す場所は上の牢屋の場所しか無かったからだ。

翠「ゼー、ゼー、ゼー…」

途中で転びそうになりながらも何とか踊り場まで辿り着き、安堵の息を洩らしてそこにブッ倒れた。実際かなり苦しかった。

翠「全く…どうなってやがんですか…この場所は…!」

すると、上の方から地響きが伝わって来た。やはりまた来たか。
翠星石はふらふらと立ち上がって、すぐ横の牢屋の中に入ろうとした…。が。

鉄の扉が閉まっていたのだ。

翠「なっ!? し、閉めて無かった筈なのに…!」

しかも扉は押しても引いても開かなかった。またタックルで開けようと思ったが、今の疲弊しきった状態ではとても出来そうでは無かった。

そしてついに、階段の上の曲がった所から巨大な岩が姿を現した。勢いを増しながらこちらへと転がってきている。
50 : ◆1IpdltObcE :2009/08/18(火) 23:29:24.41 ID:jyd91OQ0
翠「こうなりゃ最後の手段です…!」

翠星石はここで初めてレミントンを手にした。使い方の詳細はJUMに教わる機会が無かった為よく分からなかったが、とにかくトリガーを弾けば弾が出るらしい。
翠星石はレミントンのグリップをJUMのガバメントの構え方みたいに片手で持ってみた。  重い。  重過ぎてかなりグラつく。
そして、翠星石はこちらに向かってくる岩に何とか銃口を向けると、勢いよく引き金を弾いた。

カチッ(^ω^ )
翠「………あ…れ…?」

…そういえばJUMはマガジンがどうのとか言ってたっけ。でもこの銃にマガジンとかどこにもねぇです。
こうしてレミントンは空撃ちに終わった。……そして翠星石は死ぬ覚悟を決めた。



岩は勢いを増しながら転がり続け、翠星石を容赦無く擦り潰していった。



真紅「……どうやら間に合ったみたいね、正直もう駄目かと思ったのだわ」

翠「あれ……生きてる…!?」
51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 03:40:06.72 ID:GtrwHY20
クラウザーさんマダー?
52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/19(水) 03:40:49.94 ID:TV6CwKg0
や   ら   な   い   か

http://s1.bitefight.jp/c.php?uid=34604
53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/08/19(水) 17:38:30.19 ID:Ye0xIggo
続けてください
54 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 17:58:41.02 ID:f0f.dT60
翠星石は生きていた。岩が向かって来る直前にJUMが鉄の扉をこじ開けて、間一髪で牢屋の場所に翠星石を救出したのだ。

JUM「まさか岩が転がって来てたなんてよ…びっくりしたぜ」

翠「チビ人間…! 真紅…! 翠はずっと会いたかったですぅ!」

JUM「うおっと、急に抱きつくなよ! …会いたかったのはお互い様だろ?」

真紅「そうね。私も三番目に会えたのが翠星石で良かったわ」

翠「あぅぅ…チビ人間がチビチビになってるです…」

JUM「ま、そうだな…抱きかかえるのは無理だと先に断っておこう」

真紅「それよりさっきの岩は、一体何だったの?」

翠「ぐすっ、翠にもよく分からんです…急に転がって来やがって…押し潰されそうになって…」

真紅「……まさか他のドールの仕業…!?」

JUM「…いや、只のトラップか何かじゃないのか? とにかくここは気味が悪いから上で話そう」

翠「上…? チビ人間達はどっから来たんですか?」

真紅「そこの天井に穴が開いてるでしょう? あそこから降りてきたのよ。あなたの声を聞きつけて…ね」

JUM「じゃあ、僕が肩車するから二人が先に上がってくれ」
55 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 18:30:54.06 ID:f0f.dT60
そして、まずは真紅を上へと登らせる事にした。

JUM「…うぐぐ、お、重い!」

真紅「…レディーに対して失礼極まり無いわね…後で覚えておきなさい」

JUM「…ふぅ、次は翠星石だ、ほら早く登れよ」

翠「…いつもは嫌がる筈のJUM登りを…!」

JUM「…今は状況が違うだろ。ほら、さっさとしろ」

翠星石もJUMの肩車で何とか上までよじ登れた。残るはJUMだけとなった。

JUM「よーし、お前ら僕を引っ張り上げてくれ」

真紅「このステッキに掴まっ…」

「ヴオオォォォアア!」

JUM「うわっ! ゾゾゾ、ゾンビがッ! う、うわあああああああ!!」

真紅「JUM!!」

先程まで倒れたまま動く事の無かった牢獄に入れられたゾンビ達が、突然起き上がって牢獄の扉を開け、JUMに襲い掛かろうとしていたのだ。
真紅と翠星石はすぐに飛び降りて助けようとしたが、一足遅かった。

JUM「がはぁぁぁぁっ!」

JUMの肩に掴み掛かった一体のゾンビが、JUMの首の肉を一部噛み切ってしまったのだ。

翠「チ、チビ人間!!」

真紅「このッ! よくも私の下僕を! 許さないわ!!」
56 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 19:15:03.69 ID:f0f.dT60
真紅は飛び降りながら、JUMに掴み掛かったままのゾンビの後頭部をステッキで殴り倒すと、ベルトのフックから素早くガバメントを抜き出した。
翠星石も同じく真紅の後に続いて、殴り倒されたゾンビの顔面に如雨露を振り下ろしながら着地し、JUMを挟んで真紅と背中合わせになった。

牢屋の通路上には多くのゾンビが溢れ返っており、真紅達はそのゾンビに前と後ろで挟み撃ちされた態勢となっていた。

真紅「翠星石、準備はいい?」

翠「よくも…よくもJUMを…! ぜってーに許さんです! 覚悟しやがれです!」



蒼星石の鋏は大男の首に深々と突き刺さり、そこから返り血が蒼星石の顔に飛び散った。

「ヌヲオオォォォォウ!!」
ドガァァァッ!!(`A`#)

怯んだ大男は、強靱な左腕で蒼星石にバックブローを仕掛けた。攻撃を受けた蒼星石は数メートル程吹っ飛ばされてそのまま気を失ってしまった。

蒼「がはぁぁぁっ!!」
ドサッ(`q` )

金「ひっ! そ、蒼星石!!」

雛「いやああああ! もうやめてぇぇぇぇ!」
57 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 19:31:55.37 ID:f0f.dT60
蒼星石の一撃で怒り狂った大男は、今度は蒼星石をターゲットに切り替えた。
こちらへ振り返ると、物凄い早さで斧を振り回しながら迫ってきた。

「ヌヲオオォォォウウ!!」
ズガッ!ドガッ!(`A`#)

金「ひっ! こ、こっちに向かって来た!」

金「このままじゃ…蒼星石がやられてしまうかしら!」

金(いや…元々[ピーーー]つもりだった奴を、わざわざ助ける必要なんて…!)

金(でも、蒼星石は…動けなかったカナを助けてくれたかしら…)



「ヌヲオオオォォォォ!」

金「…そっ、そこの怪物! このカナが相手してやるかしら!」

そう言うと金糸雀は背中に吊るしたP90を両手に持って左肩に当て、そのバイオリンを演奏するかの如き構えでその銃口を大男に向けた。
しかもその構え方は偶然にも、P90の正式な射撃姿勢と一致していたのだ。

金「喰らえーーーーっ!!」
パパパパパパパパパパン(^ω^ )
58 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 19:58:47.71 ID:f0f.dT60
>>57修正

蒼星石の一撃で怒り狂った大男は、今度は蒼星石をターゲットに切り替えた。
蒼星石と金糸雀の方へ振り返ると、物凄い速さで斧を振り回しながら迫ってきた。

「ヌヲオオォォォウウ!!」
ズガッ! ドガッ!(`A`#)

金「ひっ! こ、こっちに向かって来たかしら!」

金「このままじゃ…蒼星石がやられてしまうかしら!」

金(いや…元々殺 すつもりだった奴を、助ける必要なんて…!)

金(でも、蒼星石は…動けなかったカナを助けてくれたかしら…)



「ヌヲオオオォォォォ!」

金「…そっ、そこの怪物! こっ、このカナが相手してやるかしら!」

金糸雀はそう言うと、背中に吊るしたP90を両手に持って肩に当て、そのバイオリンを演奏するかの如き構えでその銃口を大男に向けた。
そしてその構え方は偶然にも、P90の正式な射撃姿勢と一致していたのだ。

金「喰らえーーーーっ!!」
パパパパパパパパパパパパン!(^ω^ )
59 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 22:33:12.59 ID:f0f.dT60
P90の銃口から高速で弾丸が連続発射され、大男の体に着弾するとその特殊な形状によって凄まじい破壊力を発揮した。
蒼星石の鋏ですら貫通出来なかった屈強な肉体を徐々に削っていき、1マガジン撃ち切る頃には奴の肉体を一部貫通していたのだ。

「ヌフウウウゥゥゥゥ!」

体中を蜂の巣にされた大男は後方に大きく仰け反った。しかしそれでも倒れる事は無く、体勢を立て直すと再び斧を振り回しながら前進し始めた。

金「なんてタフな奴かしら! 早くマガジンの交換を…!」

P90のマガジンは上部に取り付ける特殊なスタイルで、またその銃の特異な形状から素早い交換には熟練を有した。
これまでマガジンの交換どころか銃器にすら触れた事の無かった金糸雀は悪戦苦闘する羽目になる。

金「う、うまく出来ないかしら!」

「ウヲオオォォォウウ!」

金糸雀が手間取っている間に、大男は蒼星石の目前まで迫っていた。そして斧を高く振り上げ、蒼星石の首を目掛けて振り下ろそうとしたその時だった。

パララララララララララ(^ω^ )
60 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 22:55:12.84 ID:f0f.dT60
突如、大男の後方から聞こえてきたタイプライターの様な音の正体は、マガジンを交換して再び銃撃可能となった雛苺のイングラムの発砲音だった。

「ヌフヲオオォォォォ!」

雛「みんなはヒナが助けるのよ! だれも死なせたりしないのーーー!」

弱小弾をバラ撒くイングラムも深い傷を負った大男には効果覿面だった。大男は呻き声を上げながら体を捩って苦しんだ。
中には大男を貫通した弾が金糸雀の所まで飛来してきたが、幸いにも金糸雀に命中はしなかった。

雛「このー、死 ねなのーーー!!」
パララララララララララ(^ω^ )

雛苺は1マガジン分の弾を撃ち尽くした。しかし、未だ大男は倒れる事は無かったが、前のめりになって呻き声を上げ続けていた。

金「とどめかしら!!」

雛苺の足止めのお陰でリロードを終えた金糸雀は、恐怖心を抑えつけて大男に接近し、至近距離から垂れ下がった頭部へ向けてP90を発砲した。

パパパパパパパパパパン!(^ω^ )
「ヌフヲオオオオオオオウウウウ!!」

P90から放たれた弾丸は、容赦無く大男の頭部を砕いていき、ついには後頭部を貫通して肉片と血をバラ撒きながら後ろに倒れ込んだ。
61 : ◆1IpdltObcE :2009/08/19(水) 23:22:08.43 ID:f0f.dT60
金「……や、やったかしら…?」

雛「蒼星石ーー!」

雛苺はすぐに蒼星石の元へ駆け出したが、金糸雀はしばらく放心状態でその場に突っ立っていた。

雛「蒼星石ー! だいじょうぶー? しっかりするのー!」

蒼「う……雛苺…?」

雛「よかった! 無事だったのね!」

蒼「…ハッ! あの…化け物は…?」

雛「あれね、ヒナとカナでやっつけたのよ! だからもう安心して!」

蒼「そうか…それは良かった…」

蒼星石と雛苺が話していると、向こうから金糸雀が暗い表情をしてこちらにやって来た。

金「……あのー…あなた達に…謝っておく事があるかしら…」

雛「ううん、もういいのよ!」

金「…えっ?」

蒼「金糸雀は、僕たちのローザミスティカを狙っていたんだろう?」

雛「もう気にしなくていいの。分かってくれれば、それでいいのよ!」

金「…!! あ…ありがとう二人とも…!」

三人はしばらくの間そこに居座っていた。だが、新たな追跡者がこちらに近づいて来ている事をまだ知る由も無かった。
62 : ◆1IpdltObcE :2009/08/20(木) 18:15:23.38 ID:n2iN9iE0
蒼「……さて、そろそろみんなを探しに行こうか」

雛「蒼星石、もうだいじょうぶなの?」

蒼「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

そう言うと蒼星石は雛苺の頭を優しく撫でてやった。

雛「えへへ♪」

金「でも、みんなどこに居るかなんて見当も付かないかしら」

蒼「確かにね…こうなったら手分けして探そうか?」

雛「別にかまわないの!」

金「それはなかなかいい作戦かしら!」

蒼「よし、決まりだね。僕は向こうを探すから、雛苺は左の、金糸雀は右の通路の探索を頼むよ」

雛「はいなのー! 」

金「了解かしら!」

そして、蒼星石達は三人別々になって廊下の探索を開始した。
63 : ◆1IpdltObcE :2009/08/20(木) 19:55:36.74 ID:n2iN9iE0
蒼星石は斧で斬り裂かれた跡のある通路を真っ直ぐ行き、途中の曲がり角を曲がると、壁に取り付けられたお洒落なデザインの小さな窓を見つけた。

蒼「何が見えるのかな…?」

窓を覗いた蒼星石が見た物は、地平線まで延々と続く綺麗な青い海と青い空、そして数羽の渡り鳥たちだった。窓からはほのかに潮の香りが漏れ出している。

蒼「……bのフィールドはこんなになっているんだ…!」

蒼「つまり、ここは海の近くにある建物なのか…」

一方、雛苺は左の通路を歩いていた。ドアを開けたり閉めたりとせわしなく動いている。

雛「うゆー、だれもいないの」

雛「この変なドアはきもちわるいのー!」

雛苺は蜘蛛の足で固められた扉は避けて探索を続けた。

その頃、金糸雀はローゼンメイデン一の頭脳派らしく効率良く探索しようとしていた。

金「この部屋、何だか怪しい臭いがするかしら!」

金糸雀は周りの扉と大差無い扉を怪しく思って部屋に突入した。
部屋の中は壁一面に本棚が置いてあり、部屋の中央の机にも大量の本が積み重ねてあった。

金「わあ…本が一杯あるかしら!」

ふと、机の一冊の本を手に取った。表紙には何も書かれておらず、埃が被っていた。
64 : ◆1IpdltObcE :2009/08/20(木) 20:22:49.62 ID:n2iN9iE0
金「…この本は何かしら?」

金糸雀は埃を払うとその表紙をめくってみた。中は異国のものらしき文字で埋まっていた。金糸雀は一字も読めなかったのだが…

金「…これは小説かしら? まあ折角だし貰っていくかしらー」



「キシシシシシシィ…」

蒼「………? 気のせいかな…」

蒼星石は何者かの気配を一早く察知した。

蒼「……嫌な予感がする」

蒼星石は急いで元の場所まで戻ると、ひとまず雛苺と金糸雀に招集を掛けた。

蒼「雛苺! 金糸雀! ちょっと戻って来て!」

雛「はーいなの!」

雛苺はすぐに駆け戻って来た。しかし…

蒼「金糸雀が見当たらない…まさか…!」

蒼「雛苺! 僕について来て!」

蒼星石と雛苺は、すぐに左の通路を駆け出した。金糸雀の身に何か起こったに違いない。

蒼「金糸雀ーー!居たら返事してくれ!」

雛「カナリアーー!」

金「カナは・・・ここよ・・・!」
65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/20(木) 20:23:08.81 ID:vOvdRYs0
P90って弾小さいからゾンビには効果小だよなぁ…
66 : ◆1IpdltObcE :2009/08/20(木) 20:50:18.07 ID:n2iN9iE0
どこかで微かな金糸雀の声が聞こえた。蒼星石はもう一度金糸雀の名前を呼んだ。しかし、返事は返って来なかった。

蒼「くそっ! 金糸雀! どこに居るんだ?」

雛「蒼星石、あれを見て!」

雛苺はある一つの開いた扉の部屋の中を指さしていた。蒼星石が駆け寄って部屋の中を見渡すと…部屋の木の床の中央に、大きな穴が開いていたのだ。
蒼星石はすぐに穴に駆け寄ると中を見下ろした。そこには腰が抜けて座り込んでいる金糸雀が居た。

蒼「金糸雀! 大丈夫?」

金「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!」

金糸雀は何者かに酷くおびえていた。そう、穴の中に居たのは金糸雀だけでは無かったのだ。
なんと、金糸雀の周囲を十体程のゾンビが武器を持って襲い掛かろうとしていたのだ。

蒼「金糸雀ッ! 今助ける!」

雛「あっ、ヒナも!」

二人は自ら穴の中へ降り立つと、蒼星石は鋏を、雛苺はイングラムを構えて臨戦態勢に入った。

金「あわわわわわわ…!」

蒼「まさかこんな所にもゾンビが居たなんて!」

雛「カナリアはヒナが護るのよー!」

「ヴオオォォォォ!」

蒼「来るぞっ!」
67 : ◆1IpdltObcE :2009/08/20(木) 21:20:17.50 ID:n2iN9iE0
ガバメントの弾丸がゾンビの肉をえぐり、如雨露の打撃がゾンビをノックアウトした。
真紅と翠星石はゾンビとの戦闘の真っ最中だった。ゾンビの数は大分減ってきており、あと数体倒せば安全が確保出来るだろう。

真紅「このぉぉっ! 死 ねぇぇっ!」
バンバンバンッ(^ω^#)

翠「てめぇら、とっととくたばりやがれですー!」
ドコッ! ボカッ!(`A`#)

二人はJUMがゾンビによって怪我を負わされた事により、怒りのパワーで次々にゾンビを倒していった。

真紅「これで最後よぉぉ!!」
ボカァァァン!(^ω^#)

締めは真紅のステッキによる渾身の一撃で終わった。後には散乱したゾンビの死骸や肉片、赤い液体とガバメントの空薬夾だけが残っていた。
真紅と翠星石は、首から血を垂れ流しながら床で倒れて気絶しているJUMへと駆け寄った。

真紅「JUM、大丈夫?」

翠「しっかりするですチビ人間!」

JUM「んん……痛てぇっ!」

真紅「…傷が痛むの? どうしましょう…」

JUM「なに…これ位平気…オッ、オェェェェェ!」
げろげろげろ(`q`;)

翠「キャアアアアアア!?」

真紅「JUM! どっ、どうしたの?」
68 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/22(土) 19:58:11.77 ID:.lVP7KQ0
ジャムを吐くなよ
69 : ◆1IpdltObcE :2009/08/22(土) 23:40:28.67 ID:PsOwMSM0
JUMは牢屋の通路上に散らばったゾンビの残骸を見てまた気分を悪くした。これで三回目だ。最初に居た異様な部屋、真紅と再会した際に制裁を下されたゾンビ、そして、この無惨な光景。
一体僕に何回吐かせれば気が済むんだ。兎野郎、もう絶対許さん。例えドブの汚物に顔を埋めながらひれ伏して謝っても、だ。

JUM「とにかく、早く上に登るぞ…」

真紅「JUM、本当に大丈夫なの…? 何なら私が肩車を…」

JUM「バカ言うな。男の僕がそのレディーとやらに任せられる訳無いだろう」

翠「成るべく負担を軽くすべきです。先に戦闘ベルトを上に放り投げておくです」

しかし、戦闘ベルトがかなりの重量がある為なかなかうまく行かず、結局はJUMはそれを着けたままの真紅達を肩車する羽目になった。

JUM「ぐぇぇぇっ! 首が痛てぇ!!」

真紅「少しの辛抱よ。我慢して」

翠「うぅ…チビ人間の傷が痛々しいです…」

JUM「そう言えば、さっき僕の事を本名で呼んでたよな? どういう風の吹き回しだったんだ?」

翠「えっ! き、聞こえてたんですか!? べべべ別にあれは翠がチビ人間の身に…」

JUM「痛い痛い! 肩を強く掴むな! 早く登れ!」
70 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 00:10:03.79 ID:zIiTfXg0
JUMは痛みに顔を歪めながらも、何とか真紅と翠星石を上の部屋へと登らせると、ステッキと如雨露を掴んでそこに引っ張り上げて貰った。

JUM「はあー、やっとこれで惨い光景を見なくて済むぜ…」

翠「上がこんな部屋になってたなんて…驚きですぅ」

翠星石が驚くのも無理は無い。すぐ下の石壁と鉄柵に囲まれた気味の悪い牢屋に比べて、ここは正反対とも言える部屋だったからだ。

壁は明るめの白を基調として、そこに様々な丸や三角、四角等の色付きの模様が入っており、天井は高く、その照明は眩し過ぎる程に明るく部屋全体を照らし出している。
木製の床は美しい木目をしており、また端整に磨き上げられた感じで艶が出ている。所々に玩具が置いてある事から、ここは子供部屋らしかった。

真紅「ここの床が外れる様になっていたのよ。それであなたの叫び声を聞きつけて助けに来た、という事よ」

JUM「まあこの辺りには見た所ゾンビは居ないみたいだから、安心して話が出来るな…痛てて」

翠「とにかくその傷、何とかしないとヤバいです! 血がドクドク流れてきてるですよ!」

JUM「大げさだな、この位全然大した事無いってのに…」
71 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 00:28:04.50 ID:zIiTfXg0
真紅「JUM、見え透いた嘘はやめて頂戴。…もしかして、私たちを心配させない為にワザと?」

翠「チ、チビ人間……!」

JUM「ちっ違うって、マジ大丈夫マジ平気。ほーら肩をこんなに振り回しても…GUHAAAAAAA!!」

真紅「しかし困ったわね…薬なんて持っていないもの」

翠「こうなったら、薬を探しに行くです!」

JUM「…おいおいマジかよ? 僕の事はホントに気にしなくていいのに…」

JUM(しかも薬だけじゃ駄目だろ…軽く縫合レベル)

真紅「そうと決まったら、早速実行に移しましょう」

JUM「ちょっと待て! まだ翠星石に散弾銃の扱い方を教えて無かった筈だ」

JUM「それを教えてからでも遅くはないだろ? いや、寧ろ生存率UPにつながる筈だ」

翠「じゃあ、とっとと教えやがれです!」

JUMは翠星石からレミントンを受け取ると、まず発射機構の説明から始めた。

JUM「僕も散弾銃にはあまり詳しく無いが、普通に扱える程度の知識は持ち合わせている」

翠「チビ人間、散弾銃って何ですか?」

JUM「簡単に言えば、散弾を発射する銃だな。まあ、百聞は一見に如かずだ。まずは試し撃ちしてみろ」
72 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 00:55:59.34 ID:zIiTfXg0
翠「でも、さっき撃った時に弾が出なかったですよ? この銃、マガジンが無いんです!」

JUM「ああ…そっちか。マガジンはあるさ、その銃の『内部』に」

翠「えっ? どういう事ですか?」

JUMはレミントンの下側の穴を指さした。

JUM「いいか。この散弾銃は他の銃器と違って、内部にチューブマガジンってのが既に取り付けてあるんだ」

JUM「だから、マガジンの交換では無く、この穴から直接弾薬を挿入する事で装填を行う…って既に弾入ってるな」

翠「へぇぇ……でも弾が出なかったのは何故ですか?」

JUM「弾を装填した後は、薬室に弾を送り込まなくちゃいけない。要はフォアグリップを引けばいい」

JUMは銃身の下のパーツを握って前後に動かした。

JUM「これで撃てる筈だ。後これはポンプアクションだから、弾を発射する度に引く動作を忘れずにな」

翠「……もっと解り易く説明しろです」

JUM「…えーと、一回撃ったらここを引け。撃てなくなったら弾を込めた後で引け。これでいいか?」

翠「大体分かったです。じゃあ早速試し撃ちをしてみるです」
73 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 11:49:48.92 ID:zIiTfXg0
JUMは翠星石にレミントンを返すと、射撃姿勢の指導を行った。それまでの間、真紅はステッキを握る力を強めて震えていたのだが。

JUM「翠星石には脇腹に構えるスタイルが適当だな。撃った時の反動に気を付けろよ」

翠「よーし、撃つですよ…とうっ!」

ズダァァァァン!(`A` )

翠星石が壁に向けてレミントンを発砲すると、物凄い爆音と共に銃口から無数の散弾が飛び散って壁に無数の穴を開けた。
撃った時の反動も凄まじく、翠星石は思わず後方に転倒してしまった。

翠「きゃあああっ!!」

JUM「うおおっ! 破壊力が凄ぇな!」

ここでついに部屋の端で傍観していた真紅が痺れを切らして叫んだ。

真紅「撃ったからもういいでしょ? さあ、早く行くわよ! 急いで!」

JUM「お、おい何をそんなに怒ってるんだ?」

翠「ちょっと待つです二人ともー!」

こうして、真紅達は負傷したJUMに使う薬を探す為に部屋から出た。
そして道中、JUMは疑問に思ってた事を口にした。

JUM「なあ、薬なんてどこにもある訳無いと思うんだが…」

真紅「あら、どうしてそんな事を思ったの?」
74 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 12:10:10.89 ID:zIiTfXg0
JUM「いや、当然の事だろ。フィールドに薬があるなんておかしい事だろ?」

JUMが困惑した表情で訴え掛けると、隣を歩いていた真紅が歩を遅めて語り始めた。

真紅「…私が思うに、このフィールドは現実世界の物をコピーした物だと思うのだわ」

翠「翠もそう考えたです。創られた物にしては、あまりにも出来過ぎているです」

JUM「……と言うと?」

真紅「つまり、現実世界に存在した物はここにも在る…薬が入手可能って事よ」

JUM「いや、全然分からないです。寝言は寝て言えよ…」

翠「あーもうっ!これだからチビ人間は何時まで経ってもチビのままなんです!」

JUM「何だとぉ? この性悪人形が!」

ここですかさず真紅が止めに入る。

真紅「止めなさい二人共! 下らない事でいちいち喧嘩しないで頂戴。話を進めるわよ」

真紅「…簡単に言えば、ここは現実世界をそっくり写し取った物…とでも言えばいいかしら」

JUM「そう考えた根拠はどこにある?」

翠「あ、あったです! あそこに医務室が!」

JUM「な、何だって!?」

真紅「…つまりは、そういう事よ」

JUM「いや、分かんないです」
75 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 12:29:27.05 ID:zIiTfXg0
三人は医務室に入ると、部屋に並べてある棚の中から薬らしき物を幾つか漁り出した。
医務室は意外と広く、それに見合うだけの大量の薬が置いてあった。薬品の独特の臭いはJUMに何故か懐かしさを感じさせる。保険室のそれと似ているからか。

真紅「どれが何の薬なのかさっぱりなのだわ…」

JUM「そこは僕に任せろ。大体の薬の種類は分かるから」

JUMが薬の判別を始めるがよそに、翠星石が大量の袋や瓶などを抱えてこちらにやって来た。

翠「チビ人間ー! たくさん薬持って来てやったですー!」

JUM「僕的には包帯か針と糸が欲しいんだけどな…」

真紅「包帯ならそこに落ちてるわよ」

薬の識別を終えたJUMは真紅にベッドに横になる様に促された。しかしベッドは恐ろしく固かった。これなら床に寝そべった方がマシだと思える程に。
そして真紅によって首の傷口に大量の軟膏らしき物が塗られた。僕は思わず悲鳴を上げた。こいつは染みるとかのレベルじゃ無い。まるでアイスピックで首を貫かれたかの様な鋭い痛みが僕を襲った。

JUM「GYAAAAAAAA!!」

真紅「ちょっと、男の子でしょう? これ位我慢しなさい」
76 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 12:56:38.58 ID:zIiTfXg0
翠「あのー、いくら何でも薬の付け過ぎじゃ…」

真紅は一体何を考えてやがる。首が見えなくなる位大量の薬を塗るとかおかしいだろ。JUMは失神しかけながらそう思った。
事実、真紅の持っている軟膏の入ったチューブは新品の筈だったのに腹が既に潰れていた。

その後、真紅に任せてられないと思った翠星石が取って代わってJUMの首にきつく包帯を巻いた。これでようやく止血されただろう。

翠「…これで多分もう大丈夫です。翠星石に感謝しろです」

JUM「あーサンキュ…で、さっきの話の続きなんだが…」

真紅「…私がこれまでに見た中には、大理石で出来た広間や鉄柵に囲まれた牢屋などがあったわ」

真紅「でも兎が創った物にしては出来過ぎている…細部まで凝った造りになっているもの」

JUM「でも、お前らのnのフィールドも結構凝ってるだろ」

翠「次元が違うんです! こんな風に医務室とかあったり…とにかく異常なんです!」

真紅「それに…このフィールドには外もある」

JUM「何だって? 外の世界まで創ってあるというのか?」

真紅「JUMはあの時窓の外を見てなかったのね…それなら理解出来なかったのも無理ないわ」
77 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 13:34:33.76 ID:zIiTfXg0
JUMの頭にあの時の光景が思い描かれた。
JUMが兎を探して通路を探索中、何やら怪しげな部屋に入ったら果たして誰も居なかった。あれだけ探して何も見つからないとかアホかと途方に暮れかけたその時、背後からドアの開く音が。
そこで動く人形ーーゾンビに初遭遇だ。実質二回目だったが、最初の方は動いてなかったしな。ああ、そう言えば確かに窓があったな。月明かりに照らされたゾンビを見てパニクったんだったけ。

翠「へぇ…それは初耳ですぅ」

JUM「…でまあとにかく、細部が凝ってるからって何で現実世界のコピーだと言えるんだ? 兎野郎がちょっと頑張っちゃった的な感じじゃないのか?」

真紅はその質問にしばらく答えなかったが、何かを決心したのか、ゆっくりと口を開けてこう言った。






真紅「……実は、この場所は私が以前目覚めた場所にそっくりなの…寸分の狂いも無くね」

JUMはようやく理解した。成る程、そういう事だったのか。と同時に、真紅に無理矢理言葉を吐き出させてしまった事を申し訳なく思った。

つまりはこうだ。
真紅達は過去に現実世界で実在したーー今はどうか知らんがーーこの建物に訪れた、もしくはここで目覚めたのだ。
78 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 13:58:47.21 ID:zIiTfXg0
そして探索する内に、この場所はそれと全くの同一の物だと気づいた。部屋の造りはもちろん、置いてある物から瓦礫の位置まで全て…かどうかは分からないが…
とにかくそれで判断して、薬もきっと同じ場所にあると考えたのだろう。実際あった訳で、その仮説は成り立ったも同然だ。

しかし問題なのは、何故に兎野郎はそっくりそのまま創る事にしたか…否、コピーする事にしたかである。薬まで放置してあるとは…普通なら処分するかそこまで創らないだろう。

真紅「…多分、あの兎には空間をフィールド内にそのままコピー出来る特殊能力があるんだと思うわ」

JUM「ああ…それなら僕が最初に居た悲惨な部屋の光景も辻褄が合うな」

JUMは言った。兎野郎があんな惨い部屋を自ら創ったとは思えないからである。

翠「でも、翠にはあまり鮮明な記憶が残って無いです…」

真紅「私にも無いけれど、探索する内に思い出されるのよ…苦い思い出と共にね」

JUMが慌てて口を挟む。

JUM「つっ、つまり兎野郎はこのフィールドを創ったが、追加でゾンビだけ創って後は放置状態って事か」

真紅「まあ、今までの状況を見る限りはそうなるわね」
79 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 14:57:13.52 ID:zIiTfXg0
ザクッ! ドスッ!(`A` )
パララララララララ(^ω^ )

蒼星石の鋏が肉を断ち、雛苺のイングラムが肉に穴を開ける。
二人はゾンビと戦闘の真っ最中だ。腰が抜けて動けない金糸雀を護る為に戦っている。二人の活躍のお陰でゾンビは残り二体まで減らしていた。

金糸雀は思っていた。どうして私を助けようとしてくれるの? どうして私の為に自ら危険を侵して戦ってくれるの? どうして…?
気が付くと、自然に目からは涙が溢れていた。そして、ゾンビが丁度片づいた所だった。二人が金糸雀の所に駆けつけてきた。

蒼「怪我は無い? 金糸雀」

雛「カナリアー、だいじょうぶー?」

金「……うっ…うっ…」

嗚咽が漏れ出た。顔を手で塞いではいるが、どう頑張っても抑えつける事は出来なかった。

蒼「金糸雀……?」

雛「なんで泣いてるのー?」

金「…カナ……二度も…うっ……助けられて…」

蒼「そんな…助けるのは当たり前じゃないか」

金「カナ……あなた達に…うっ…あれだけ悪さ……してきたのに…うっ……それなのに…!」

雛「カナー、泣かないで」

金「それに…比べて……カナは……役立たずで……!」

蒼「金糸雀……」
80 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 15:27:09.02 ID:zIiTfXg0
蒼星石は金糸雀に掛ける慰めの言葉が見つからなかった。しかし代わりに、雛苺が金糸雀に優しく語り掛けてくれた。

雛「カナは役立たずなんかじゃないのよ。ヒナがそれを知ってるのよ。カナはあの変なのをやっつけてくれた。おかげで蒼星石が助かったのよ」

雛「もしカナがいなかったら、ヒナも蒼星石もバラバラになってたの。だからもう…じぶんが役立たずなんて言わないで?」

金「雛苺…! うっ…うわあああああああああん!」

そして金糸雀は号泣した。涙は止まるとこを知らなかった。雛苺の優しさが、金糸雀の頑なな心を溶かしたのだ。
蒼星石は、雛苺がどれ程精神的に成長したかを目の当たりにした。もう雛苺は、昔の様な泣き虫な雛苺じゃない。他者を思い遣る心を持った優しい子に成長したのだ。
きっとそれは、この新アリスゲームという極限状態が引き金となったのだろう。自分がしっかりしなくちゃという思いが、雛苺に大きな変化をもたらしたのだ。

しかし、これじゃまるで姉と妹の立場が逆転したみたいだな。蒼星石は苦笑しながら金糸雀の肩に手を置いた。

蒼「……ほら、元気出して」

金「うっ……くすん…」

雛「いい子いい子なのー」
81 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 19:15:36.90 ID:zIiTfXg0
三人はしばらくそこで金糸雀を慰めると同時に勇気付けてやっていた。それはして当然の事に思われるが…

実はそんな事をしている場合では無かったのだ。何故なら、今なお強力な追跡者が蒼星石達のもとへ着実に迫っていたからである。それも、先程の大男とは桁違いの…

蒼「……金糸雀は何も悪くないよ。悪いのは…」






兎「そう、この私ですな」

次元の狭間を渡り歩いていた兎は突然そう言うと、不気味な笑みを浮かべて話を続けた。

兎「ククク…段々と面白くなって来ましたよ…!」

兎「蒼星石殿のグループのもとへと向かっている追跡者…またの名を『タイラント』は…なにせ、ゾンビの中で屈指の戦闘力を誇る怪物ですからね…!」

兎「ククク…! これは本当に愉快極まり有りませんな…! 果たしてどうなってしまうのか? 楽しみでしょうがないですねぇ…!」



兎「ククク…クハハハハハハハハハハハハ!!」

兎の気味の悪い耳障りな笑い声だけが、次元の狭間へと吸い込まれていった。
82 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 22:02:02.30 ID:zIiTfXg0
蒼星石は未だに何者かの強い気配を感じていた。この気配は、そこに居たゾンビ達の物じゃなかったらしい。
蒼星石は金糸雀に手を差し伸べ、彼女と共にゆっくりと立ち上がった。そして、ここで辺りを見渡した。

四方の壁はコンクリートで固められており、アスファルトで出来た床にはゾンビの残骸やコンクリートの破片が散らばっている。
天井は木製で、そこにぽっかりと穴が開いている。今さっき僕たちが落ちてきた穴だ。しかし、天井が高くて登れそうにない。僕は仕方無く他に出口がないか探した。

あった。あそこに銅色をした扉が設置されている。他に出口はなさそうなので、僕たちはそこからここを出る事にした。
しかし、悲しいかな、ここでまた思いがけない悲劇が起こるなんて、誰が想像しただろうか。連戦に次ぐ連戦、しかも、今回のは一際格別だったのだ。

それは蒼星石が扉の取っ手に手を掛けた時だった。轟音と共に、いきなり隣の壁が崩れさったのだ。蒼星石は鋏を持って身構えた。雛苺と金糸雀は悲鳴を上げて蒼星石の後ろへと逃げ込んだ。
やがて土煙の中から奴が姿を現した。そう、そこで蒼星石が見た物はーーー絶望だった。…否、正確に言えば、絶望の根源だった。
83 : ◆1IpdltObcE :2009/08/23(日) 22:57:29.60 ID:zIiTfXg0
蒼星石は戦慄した。ここまで自分を恐れさせた奴は初めてかもしれなかった。ーーー敵わない。蒼星石はそう思った。

そこには、あの大男の倍近くはあろう巨大な体躯をした追跡者が拳を突き出して立っていた。体は科学室の人体模型の巨大版といった所か。皮膚が無く、異常発達した筋肉が全身を覆っていた。
特に右腕は常識の域を越えている。巨大な丸太と見紛う程に発達している。胸の所には肥大した心臓がむき出しで波打っており、全身に鮮血を休み無く送り込んでいる。
そして特徴的なその顔は、目が顔の筋肉によって半開き状態になっており、鼻は無く、顎は筋肉によって前にしゃくれ出ている。髪の毛は生えていない。

人体の事をあまり知らないドール達には、この生命体がどの様に目に映っていたかは定かでは無いが、只、恐ろしい者として映り込んでいたのは確実だろう。
拳一つでコンクリの壁を粉々に打ち砕く程の怪力…一発でも貰えばそこでドール終了ですよ。

蒼星石はすぐに逃げ出したい焦燥に駆られた。こんなのと戦っても勝ち目は無い、逃走しよう。しかし、頭では分かっていても、体がそれに応じてくれなかった。……即ち、足が固まっていたのだ。
84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/24(月) 00:21:32.30 ID:PPDPig60
スタァァーズ…
    スタアアアアアズ…!!
85 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/24(月) 21:59:24.09 ID:WUJZr.20
キャーーーーーーー!
蒼星石逃げろーーーーーーーー!
86 : ◆1IpdltObcE :2009/08/25(火) 22:44:17.54 ID:T6JIqPE0
蒼「あ…足が……!?」

蒼星石にとって、この様な経験は初めてだった。恐怖で足が動かなくなる事があるなんて、知らなかった。
しかし、奴はゆっくりとこちらに歩き出している。このままでは何も出来ないまま確実に奴にやられてしまう。それだけは、何としても避けなければならない…!こんな所で終わりたくない…!



お父様に…翠星石に再会するまで……死んでたまるか…!



蒼「はああああああああっ!!」

蒼星石は力強い一歩を踏み出した。足が動いた!これならいける!

扉を蹴り開け、半泣き状態の雛苺と放心状態の金糸雀の手を取り、一目散に駆け出した。
出た先は細い通路になっており、途中で道が二手に分かれている様だ。蒼星石は右に曲がろうとしたが、右の通路から壁を破って奴が現れた。蒼星石はすぐさま左の道へ進路を変えた。
道は途中まで直線状だが、直角に曲がった箇所があった。壁に激突しない様に、かつスピードを落とさない様に走り抜けた。
後ろから奴が物凄い勢いで追って来ている。その速さは蒼星石のそれを上回っていた。あいつはパワーだけじゃなくてスピードもあるのか!なんて厄介な奴なんだ!
87 : ◆1IpdltObcE :2009/08/26(水) 21:49:58.49 ID:g4EKNVY0
>>69修正

JUMは今日で三回目となる嘔吐をやり終えた。息は絶え絶えながらも真紅に自分は大丈夫だと告げた。実際は大丈夫ではないが、これはゾンビに噛まれた傷の影響では無い。
最初に居た悲惨な部屋、次に訪れた部屋のゾンビの内容物、そして今目の前に広がるおぞましい光景…JUMはグロテスクな物を見る度に吐いてきた。段々と胃液の割合が高くなってきている。
全く、一体僕に何回吐かせれば気が済むんだ。あの兎野郎、もう絶対に許さん。例えドブの汚水に顔を突っ込みながらひれ伏して謝っても、だ。

JUM「ウプ…とにかく早く上に登ろう…」

真紅「JUM、本当に大丈夫なの…? 何なら私が肩車を…」

JUM「…バカ言うな。男の僕がレディーとやらに任せられる訳無いだろ」

翠「でも、なるべく負担は軽くすべきです。戦闘ベルトはここに置いていくです」

JUMが制止しようとしたが、戦闘ベルトは外せない仕様になっていた為、どのみちそれを着けたまま肩車する事になった。

JUM「ぐぇぇぇっ! 首が痛てぇ!!」

真紅「少しの辛抱よ。我慢して」

真紅が何とか登り切ったので、次は翠星石の番となった。翠星石はJUMの首に目をやった。
88 : ◆1IpdltObcE :2009/08/26(水) 22:00:05.97 ID:g4EKNVY0
>>69修正2

翠「うぅ…チビ人間の傷が凄く痛々しいです…」

JUM「…そうか? …まあどうって事はない。ほら、早く登れよ。僕はこんな所に長居したくないんだ」

翠「それじゃ、失礼するですぅ…」

翠星石はJUMの肩に手を掛け、なるべく負担を掛けないように気を付けながらゆっくりと登り始めた。

JUM「…そういえば、さっき僕を名前で呼んでたよな? どういう風の吹き回しだったんだ?」

翠「えっ! き、聞いてたんですか!? べべべ別にあれは翠がチビ人間の身に…」

JUM「痛い痛い! 肩を強く掴むな! てか早く登れ!」
89 : ◆1IpdltObcE :2009/08/26(水) 22:22:58.51 ID:g4EKNVY0
>>70修正

JUMは痛みに顔を歪めながらも、何とか翠星石を上へ登らせると、自分は差し伸べられたステッキと如雨露を両手に掴んでそこに引っ張り上げて貰った。

JUM「はあー、やっとこれで惨い物を見なくて済むぞ…」

翠「それにしても、牢屋の上がこんな部屋になっていたなんて…驚きですぅ!」

翠星石が驚くのも無理は無いだろう。すぐ下の石壁と鉄柵に囲まれた薄暗く気味の悪い監獄に比べて、ここは正反対とも言える部屋だったからだ。

天井や壁は明るい白色を基調としていて、そこに丸や三角、四角などの色付きの模様が散りばめられており、天井は高く、その照明は眩し過ぎる程に部屋全体を明るく照らしている。
木製の床は美しい木目をしており、また丹精に磨き上げられた感じで艶が出ている。そしてあちこちに玩具が転がっている所から、ここは子供部屋らしかった。

真紅「幸運にもここの床が外れる様になっていたの。それであなたの叫び声を聞いて何とか助けに行く事が出来たわ」

翠「そうだったんですか…ありがとです、恩に着るです」

JUM「この辺りにはゾンビも居ないみたいだから、安心して話が出来るな…いっ、痛てててぇっ!!」
90 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/27(木) 06:16:08.81 ID:vPZmHTc0
修正し杉だろww
91 : ◆1IpdltObcE :2009/08/27(木) 21:42:45.05 ID:nh2iSww0
>>71修正

翠「ほら、やっぱ重傷ですぅ!しかも血がドクドク流れてるですよ!」

JUM「な、何だよ大げさだな。この位全然大した事無いって…」

真紅「見え透いた嘘は止めて頂戴。その傷が深刻な事は誰の目から見ても明らかよ」

JUM「……ちっ、僕だって分かってるよ。お前らに心配を掛けさせたく無かったんだ」

翠「チビ人間……」

真紅「下僕の管理は私の勤めよ。私がその傷を何とかするわ」

翠「でも、どうするんですか? 薬なんてどこにも無いですよ?」

真紅「この近くに医務室があった筈よ。きっとそこに薬もあるわ。早速行きましょう」

JUM「ちょっと待て。まだ翠星石に散弾銃の扱い方を教えてない。ゾンビと遭遇した時の為に、今教えておく」

翠「じゃあ失血死する前にとっとと教えやがれです!」

JUMは翠星石からレミントンを受け取ると、まずは発射機構の説明から始めた。

JUM「僕も散弾銃にはあまり詳しく無いが、普通に扱える程度の知識は持ち合わせている」

翠「チビ人間、散弾銃って何ですか?」

JUM「その名の通り、散弾を撃ち出す銃だ。引き金を弾くと散弾が飛び散る。ちょうど節分の豆撒きみたいな感じだな」
92 : ◆1IpdltObcE :2009/08/27(木) 22:12:15.42 ID:nh2iSww0
>>72修正

翠「でもその銃、引き金を弾いても弾が出なかったです。しかもどこにもマガジンが無いですよ?」

JUM「マガジンならあるさ。この銃の『内部』にな」

翠「えっ? どういう事ですか?」

JUMはレミントンをひっくり返すと、下側に開いている穴を指さした。

JUM「この銃は他の銃器と違って、内部にチューブマガジンってのが取り付けてあるんだ」

JUM「だからマガジンの交換では無く、この穴から直接弾薬を挿入する。分かったか?」

翠「へぇー、そうだったんですか」

JUM「だが弾を入れただけじゃ撃てないぞ。薬室って所に弾を送り込む必要がある。要はこのフォアグリップを引けばいい」

JUMは翠星石から弾薬を受け取ると、穴に弾薬を挿入した後、銃身の下のパーツを握って前後に動かした。

JUM「これで撃てる筈だ。あと、これはポンプアクションだから、弾を発射する度に引く動作を忘れずにな」

翠「…もっと分かり易く説明しろです」

JUM「…えーと、一回撃ったらここを引け。撃てなくなったら弾を込めてから引け。これでいいか?」

翠「…大体分かったです。じゃあ試し撃ちをしてみるですよ」
93 : ◆1IpdltObcE :2009/08/27(木) 22:37:29.92 ID:nh2iSww0
>>73修正

JUMは翠星石にレミントンを返すと、次は射撃姿勢の指導を行った。それまでの間、真紅は手を強く握りしめて僅かに震えていたのだが。

JUM「翠星石には脇腹に構えるスタイルが適当だな。撃った時の反動に気を付けろよ」

翠「よーし、撃つですよ…とうっ!」
ズダアアァァン!(`A` )

翠星石が壁に向けてレミントンを発砲すると、銃口から凄まじい爆音と共に無数の散弾が飛び散り、壁に無数の穴を開けた。
撃った時の反動もかなりあり、翠星石は思わず後方によろめいてしまった。

翠「きゃあああっ!?」

JUM「うおおっ! 破壊力が凄いな!」

ここでついに真紅が痺れを切らし、ステッキを床に叩き付けながら大声を張り上げた。

真紅「撃ったからもういいでしょう? さあ早く行くわよ、急ぎなさい!」

JUM「お、おい、何をそんなに怒ってんだよ?」

翠「ちょ、ちょっと待つです二人共ー!」

こうして三人は部屋から出ると、負傷したJUMに使う為の薬が置いてあると思われる医務室へと向かった。
しかし道中、JUMはこんな疑問を口にした。

JUM「医務室に行ったとしても、薬は絶対に無いと思うんだけどな…」
94 : ◆1IpdltObcE :2009/08/27(木) 23:16:55.22 ID:nh2iSww0
>>74修正

真紅「…あら、どうしてそう思ったの?」

JUM「考えてもみろ。ここは兎野郎の創ったフィールドなんだ。あいつがわざわざ親切に薬まで創ると思うか?」

JUMが困惑した表情で訴え掛けると、隣を歩いていた真紅が歩を遅めて語り始めた。

真紅「確かに、薬は無いかもしれないわ。だからといって、JUMを放置しておく訳にもいかないじゃない。JUMが死んだら、私と翠星石、それに雛苺も終わりよ」

JUM「それもそうだな…まあ無かった時は、せめて傷口を布か何かで縛っておくか…」

真紅「でも、私はそこに薬があるという確信があるの」

JUM「……勘か?」

真紅「違うわ。…私が思うに、この空間は現実世界の物をそのままコピーした世界…とでも言うのかしら」

翠「翠星石もそう考えたです。この場所はあまりにも似過ぎている…」

JUM「……と言うと?」

真紅「つまり、現実世界に存在した物はこの世界にも在る…薬が入手可能なのだわ」

JUM「いや、全然意味が分からないです。寝言は寝て言えよ…」

翠「あーーもうっ!これだからチビ人間はいつまで経ってもチビのままなんです!」

JUM「何だとー? この性悪人形が!」
95 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/28(金) 04:13:13.32 ID:dlmyXlE0
投下を早く早く!
96 : ◆1IpdltObcE :2009/08/28(金) 22:22:38.39 ID:rRNDydk0
>>75修正

二人の喧嘩が始まりそうになると、ここですかさず真紅が止めに入った。

真紅「止めなさい二人共! 下らない事で喧嘩しないで頂戴。…ほら、あそこに医務室が見えたわ」

真紅は話を中断し、取り敢えずJUMの治療をする為、三人は廊下の突き当たりの医務室と書かれた札のあるドアを開け、中に入った。
医務室は意外と広く、そしてそれに見合うだけの大量の薬が置いてあった。真紅の予感は幸運にも的中した。部屋の中の薬品の独特の臭いはJUMに懐かしさを感じさせた。保険室のそれと似ているからか。

真紅「薬はあったけれど、どれが何の薬なのかさっぱりなのだわ…」

JUM「そこは僕に任せろ。大体の薬の種類は分かるから」

JUMが机の上で薬の判別を始めるがよそに、棚を漁っていた翠星石が、大量の袋や瓶を抱えてこちらにやって来た。

翠「チビ人間ー! たくさん薬を持って来てやったですー!」

JUM「ああ、傷薬はあったからもういいよ。それで、どこかに包帯は無いのか?」

真紅「包帯ならここにあるわ。準備は整ったようね」

薬の識別を終えたJUMは、真紅にベッドに横になるように促された。しかしベッドは恐ろしい程に硬かった。
97 : ◆1IpdltObcE :2009/08/28(金) 22:47:24.23 ID:rRNDydk0
>>76修正

そして、真紅によってJUMの首の傷口に大量の軟膏が塗られると、激しく刺す様な痛みがJUMを襲った。こいつは染みるってレベルじゃない。
と同時に、JUMの悲鳴が部屋中へ響き渡った。

JUM「GYAAAAAAAAAA!!」

真紅「ちょっと、あなた男の子なんでしょう? この位は我慢しなさい」

翠「あのー、幾ら何でも薬の付け過ぎじゃ…」

真紅は一体何を考えていやがる。首が見えなくなる程の大量の薬を使うとかおかしいだろ。JUMは失神しかけながらそう思った。
事実、真紅の持っている軟膏の入ったチューブは、新品の筈だったのに既に腹が潰れていた。

その後、真紅に任せてられないと思った翠星石が、取って代わってJUMの首に流れ出た血をティッシュで拭き取ると、傷口を上から包帯できつく巻いた。これでようやく止血されただろう。

翠「…これでもう大丈夫です、多分。翠星石に感謝しろです!」

JUM「あー、サンキュ…。死ぬかと思ったわ…マジで」

真紅「…それは危なかったわね」

JUM「誰のせいだと思ってやがる。傷口に大量の薬を擦り込む奴があるかよ。…そうだ、さっきの話の続きを聞かせてくれないか?」
98 : ◆1IpdltObcE :2009/08/30(日) 18:11:29.65 ID:fUgUD9U0
>>77修正

JUMがそう言うと、翠星石にすかさず怒られた。翠星石曰く、「お前には空気ってのが読めないんですか!」と。それを宥めるように、真紅が話に割って入る。

真紅「いいのよ翠星石。…いずれ話さなければならない事だから」

そう言った真紅の顔は沈んでいる。JUMは解せなかった。何か言いたく無い事でもあるのだろうか?すると、真紅が問いをJUMに投げかけてきた。

真紅「JUM、少なくともあなたはあの時、建物の外を見たでしょう?」

JUM「……あの時…?あ、真紅が助けに来たあの部屋か」

JUMの頭にあの時の光景が思い出された。兎を追って通路を探索中に、何やら怪しげな部屋を見つけた。ドアを開けて入ったが果たして誰も居なかった。
あれだけ探して何も見つからないとかアホかと途方に暮れたその時だった、背後からキィとドアの開く音がしたのは。
そこで動く人形ーーーゾンビに初遭遇だ。実質二回目だったが、最初の奴は動いてなかったしな。ああ、そう言えば確かに窓があったな。月明かりがゾンビを不気味に照らしていたからな。

JUM「悪いが、窓から外を見ようとはしなかったな」
99 : ◆1IpdltObcE :2009/08/30(日) 18:44:07.42 ID:fUgUD9U0
>>78修正

真紅「…あなたは観察力が無さ過ぎるわ。ホント使えない下僕ね」

JUM「はいはい、悪かったですよ」

今回は珍しく翠星石が罵声を浴びせ掛けてこなかった。今は何やら神妙な表情をしている。
ここで真紅も押し黙ってしまった。二人とも浮かない顔をしている。JUMは何がどうなっているのか分からないので、真紅に話を続けるように促した。

JUM「…一体どういう事なんだ? 詳しく説明してくれないか?」

二人共その問いかけにしばらく答えなかったが、真紅が何かを決心したのか、ゆっくりと口を開けてこう言った。

真紅「……実は、この場所は私たちが一度訪れた場所にそっくりなのよ…前の世界でね」

JUMはようやく理解した。真紅が今まで説明を遠回しに言ったり、質問に言い淀んだりしていた訳が。成る程、そういう事だったのか。

つまりはこうだ。
真紅と翠星石は過去に現実世界で実在したこの建物に訪れた事があると。だからこの建物がコピーされたものという仮説も立てられたのだ。
それは探索する内に、さらに確信が持てるようになっていった。部屋の造りは勿論、置いてある物や瓦礫の位置までーーーは分からないが、一緒だったからだと。
100 : ◆1IpdltObcE :2009/08/30(日) 19:05:47.10 ID:fUgUD9U0
>>78修正2

とにかくそれらの事から判断して、薬もきっと同じ場所に置いてあると予想したのだろう。実際あった訳で、仮説は成り立ったも同然だ。

だが…どうしてもJUMに言えない、いや、言いたくない訳があった。それはきっと、口にすれば思い出されてしまうからーーー絶対に思い出したくない、悲劇的な過去の記憶が。
僕はこの考えに行き着くと同時に、真紅に無理矢理に言葉を吐き出させてしまった事を申し訳なく思った。真紅の目には涙が溜まっている。さぞかし辛い過去を経験したに違いない。

JUM「…ごめん。僕が気が利かないばっかりに」

JUMがそう言うと、真紅は首を横に振って、顔を上げて微笑んで見せた。涙が頬を伝っている。

真紅「…いいのよ、JUMが気にする事じゃないわ。寧ろ過去の記憶に囚われ過ぎてる私が悪いのよ」

翠「真紅……」

そう呟いた翠星石の目にも涙が。そうか、二人共大変だったんだな…とJUMは思った。

しかし問題なのは、何故あの兎野郎はそれにそっくりにbのフィールドを創ったのか…否、コピーしたかという事だ。まさか薬まで放置してあるとは…普通なら創らないか処分するだろう。
101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/08/30(日) 19:13:40.55 ID:fUgUD9U0
101匹わんちゃん
102 : ◆1IpdltObcE :2009/08/30(日) 19:55:20.35 ID:fUgUD9U0
>>78修正3

真紅「…多分、兎は空間をそのままコピー、そして再構築出来る能力を持っていると思うの」

JUM「再構築だって?」

真紅「ええ。このフィールドは部屋なんかは確かにそっくりだけど、位置が違うのよ」

翠「へぇ…それは初耳ですぅ。気付かなかったです」

真紅「例えばほら、牢屋の真上の部屋が子供部屋だったじゃない? どう考えてもおかしいと思わない?」

言われてみれば確かにそうだ。その配置はあまりにも不自然だ。それに、他にも矛盾するような建物の造りになっているではないか。
という事は、兎はコピーした空間を一旦バラバラにして、再度繋ぎ合わせたという事か。

JUM「そうする理由も分からなければ、薬を放置した意図も掴めないな。あいつは何がしたいんだ?」

翠「…あの兎野郎はゲームを楽しんでるだけだと思うです。そうしたのもゲームをもっと楽しめる工夫じゃないですか?」

真紅「そうとも限らないわ。あいつは私たちがこの場所の記憶がある事をラプラスの魔から聞かされていたかもしれない。その対策の為とも考えられるわ」

JUM「…しかしまあ、よく分かったよな、部屋の特徴だけでコピーだって事が。」
103 : ◆1IpdltObcE :2009/08/30(日) 20:16:24.46 ID:fUgUD9U0
>>78修正4

翠「とっ…当然ですぅ! この翠星石が見抜けない筈が無いです!」

真紅「私はさすがに部屋だけでは気付けなかった。外から建物の外観を見た時に初めて推測したのよ」

JUM「…ちなみに教えてくれないか? ここは現実世界のどこの建物なのかを」

JUMはそれが知りたかった。もしかしたら知っている場所かもしれない。少なくとも札に書かれた医療室の文字は日本語だ。つまり日本にある可能性が高いだろう。

翠「すまんです…翠星石にはあまり鮮明な記憶は残ってないです…」

真紅「私もそこまでは分からないわ。探索する内に徐々に思い出されるのよ。苦い思い出も…」

真紅の顔が再び曇り行くのを見て、JUMが慌てて口を挟む。

JUM「つっ、つまり兎野郎はこのフィールドを創ったが、追加はゾンビだけで後は放置状態って所か」

真紅「まあ、今までの状況を見る限りはそうなるわね」
104 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/01(火) 21:45:28.27 ID:Wk5pfTg0
続きを!
105 : ◆1IpdltObcE :2009/09/01(火) 22:20:44.71 ID:/.d6MUU0
そう思っていた矢先、またも曲がり角が現れた。蒼星石は右足を強く蹴って直角に曲がり切る。その後を追う追跡者は、壁を殴り壊した反動で向きを変えつつ走ってくる。
その後も曲がり角は度々出現した。曲がる際に足首にかなりの負担が掛かる。それは蒼星石だけでなく、引っ張られている二人にも同じ事が言えるだろう。
先へ進むに連れて、右手に繋がった雛苺の息遣いが段々と荒くなっていく。いつもははしゃぎ回っている雛苺だが、やはり三人の中では最も体力が低いようだ。
それでもなお道は続いていく。追跡者は追跡を止める所を知らないが如く、ペースを落とす事なく走り続ける。その手から逃げるべく走る三人だったが、じわじわと距離が詰められている。

道は一向に終わらない。こうなれば追いつかれるのも時間の問題だ。蒼星石は打開策を編み出す為、走りながらも必死になって考えを巡らせた。
一体どうすれば奴から逃れる事が出来る? すると、ある場面が頭に回想されてきた。それはJUM君の部屋の出来事だった。

蒼『JUM君、その品物は何なんだい?』

その時の僕は、いつもなら隅で本を読んでいる所だが、JUM君のしているパソコンに興味が向いていたんだ。
106 : ◆1IpdltObcE :2009/09/01(火) 22:21:49.11 ID:/.d6MUU0
そう思っていた矢先、またも曲がり角が現れた。蒼星石は右足を強く蹴って直角に曲がり切る。その後を追う追跡者は、壁を殴り壊した反動で向きを変えつつ走ってくる。
その後も曲がり角は度々出現した。曲がる際に足首にかなりの負担が掛かる。それは蒼星石だけでなく、引っ張られている二人にも同じ事が言えるだろう。
先へ進むに連れて、右手に繋がった雛苺の息遣いが段々と荒くなっていく。いつもははしゃぎ回っている雛苺だが、やはり三人の中では最も体力が低いようだ。
それでもなお道は続いていく。追跡者は追跡を止める所を知らないが如く、ペースを落とす事なく走り続ける。その手から逃げるべく走る三人だったが、じわじわと距離が詰められている。

道は一向に終わらない。こうなれば追いつかれるのも時間の問題だ。蒼星石は打開策を編み出す為、走りながらも必死になって考えを巡らせた。
一体どうすれば奴から逃れる事が出来る? すると、ある場面が頭に回想されてきた。それはJUM君の部屋の出来事だった。

蒼『JUM君、その品物は何なんだい?』

その時の僕は、いつもなら隅で本を読んでいる所だが、JUM君のしているパソコンに興味が向いていたんだ。
107 : ◆1IpdltObcE :2009/09/01(火) 22:44:40.75 ID:/.d6MUU0
JUM「ん? 蒼星石が僕のパソコンに興味を示すなんて珍しいな」

JUM君は半ば驚いた様な顔をしながら、モニター上に映し出された緑色の球体について解説してくれた。何でもそれは、戦争という物に使われた兵器という物らしい。
使用方法は、球体の上部に取り付けられたピンを外し、敵兵目がけて投げつける。すると数秒後にそれは爆発し、敵兵を殺傷させるという。

JUM『こいつは爆風で殺傷するタイプの『手榴弾』って奴だ。いわゆる爆弾だよ。ほら、何かロマンを感じるだろ?』

JUM君、君はそろそろ危険なんじゃないかな? でも、そのお陰で僕はこの絶望的な状況を覆す事が出来るかもしれない。そう、ついに僕は閃いた。
他のドール達の戦闘ベルトに装備されていた弾薬に対し、僕のそれに装備してあった謎の球体はーーーーまさしく『手榴弾』だったんだ。

蒼「…金糸雀ッ、自分の足で、走れるかな?」

蒼星石は振り返らずに、左手に繋いだ金糸雀に呼びかけた。金糸雀は自ら手を離した。それはOKという意味だろう。
自由になった左手で、腹に身に着けた戦闘ベルトをまさぐった。……あった。かの戦闘兵器が蒼星石の左手に触れた。
108 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 06:39:13.14 ID:lmiwpPs0
蒼い子は旧型の白リン手榴弾使いそう
109 : ◆1IpdltObcE :2009/09/02(水) 12:41:53.11 ID:PFk/2zU0
蒼星石はそれをベルトから外し、口を使ってピンを抜いた。そして、敢えて真下へと転がした。時間差で直に爆撃する事を狙っていたのだ。

蒼星石は力の限り走り抜ける。それを追って追跡者が迫って来る。そして、蒼星石達が爆風の射程範囲外に逃げきったその時、その手榴弾は爆発した。

ドカアアァァン!!(`O` )

爆発時の轟音と共に、爆風が通路を遮断した。爆撃を受けた追跡者は後方へと吹っ飛び、爆音で聴覚が若干麻痺した雛苺と金糸雀が悲鳴を上げた。
蒼星石はここでようやく振り返った。追跡者の体には大穴が空いており、そこから大量の鮮血が吹き出していた。だが、奴は倒れてはいなかった。未だにゆっくりながらも歩を進めていたのだ。
蒼星石は再び駆け出した。それに続いて、雛苺と金糸雀も走り出す。しかし雛苺の体力は既に限界を越えていた。重量のある戦闘ベルトが体力をより削ぎ落とす為の要因となっていた。
それに釣られるかの如く、追跡者も再び走り出す。先程までに比べ、そのスピードはガタ落ちしていたのだが、それは蒼星石達の身にも同じ事だった。

両者とも一定の距離を保ちながら走り続けた。突如それに終止符を打つが如く、通路の途中で扉が姿を現した。
110 : ◆1IpdltObcE :2009/09/02(水) 13:33:17.61 ID:PFk/2zU0
様々な機械が置いてある部屋の中、一際大きなポンプ状の縦に細長い機械の上に座り、両手でカラシニコフを弄んでいるのは第一ドールの水銀燈である。

水銀「これ、どうにかならない物なのかしら…」

水銀燈は軽くため息を吐いた。現在、カラシニコフの構え方を模索中である。あの時JUMの言う事を素直に聞いて置けば…いやいや、きっと撃ち殺されたに違いない。あれは賢明な判断だった筈よ。
水銀燈の悩みの種は、その射撃姿勢にある。真紅との共闘の際に気付いたのだが、弾を撃つ度に銃の一部分が発熱してくるのだ。
彼女の構え方は、右手にグリップを、左手にその機関部の下を握る形となっていた為、連続発射した際に発熱した機関部の影響をモロに受けていたのだ。
人間であればそこまで無いかもしれないが、人形の場合だとそうもいかないらしい。

水銀「これじゃ熱過ぎて持ってられないわよ! はぁ、こんな事なら真紅の選んだ奴にすれば良かったわぁ…」

しかし、JUMや真紅がしていた構え方では、銃身がブラついてうまくいかなかった。その為、新たな構え方を模索する必要があったのだ。
111 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/02(水) 21:23:20.96 ID:lmiwpPs0
銀様にナイフの握り方から高射砲の撃ち方まで手取り足取り教えたい
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/03(木) 23:24:07.96 ID:CKSrFkw0
wktk
113 : ◆1IpdltObcE :2009/09/04(金) 18:57:48.66 ID:Yum0FQ20
水銀「…それにしても良く出来てるわねぇ」

カラシニコフの機関部を見つめながらそう呟いた。ローゼンメイデンは美しく戦う為に銃の使用は禁止されている。よって、銃に一切興味の無かった水銀燈が銃をまじまじと観察出来る機会はこれが初めてだった。
シンプルでコンパクトに纏められたそれは、まさに技術力の結晶と云える物だった。詳しい原理なんかは分からないが、壊れる恐れがあるので敢えて分解はしない事にした。

引き金を弾くだけで弾が出る。人類はよくもまあこんな物騒な物を開発する気になるのかしらねぇ…

目を銃身の方へと移らせていくと、柄の様な物が目に入った。それは機関部と銃身の間に位置しており、何やら握り易そうな形状をしている。それを見た水銀燈はある考えに至った。
そもそもこれは人間が扱い易い様に造られた物だから、発熱の対策もやってある筈よ。だとすれば…

水銀「これを左手で握って撃てばいいのかしら」

そのハンドガードを左手で持つと、試しに脇腹に構えてみる事にした。銃身が安定し、なかなかいい感じである。対象無しの試し撃ちは弾の無駄使いになると思ったのでやめた。

水銀「私にかかれば、教わらなくたってチョロイもんじゃない」
114 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/04(金) 20:42:41.51 ID:KBC5YoM0
ちくしょう教えたかったのに
115 : ◆1IpdltObcE :2009/09/04(金) 22:34:30.97 ID:Yum0FQ20
水銀燈は自ら考案した射撃姿勢に満足すると、しかし足を組み、顎に手を当てて、今度は別の事を考え込みだした。

水銀「真紅……」

ぼさっと呟いてみた。頭の中には真紅と共闘した場面が自然と思い浮かばれた。何故、私はあの時に素直になれなかったんだろう? そのせいで、せっかくの共に活動出来るチャンスを逃してしまった。

私はあの時、真紅の言った質問に答えられなかった。『あんたはアリスゲームに乗る気なの?』あの子はそう聞いてきたわ。…私はもちろん、乗る気は無かった。こんなバカげた偽ゲームに、誰が乗るって言うのよ!
でも、私は答えなかった。否、答えられなかったわ。何故なのかは、私にも良く分からない…深層心理って奴の仕業かもしれないわねぇ。
確かに、真紅との仲は最悪だったわよ。……昔はね。互いに襲われていたゾンビを葬った時に再確認出来たわ……私と真紅を繋ぐ強い『絆』をねぇ。私自身、真紅を憎んでいる様で憎みきれていなかったのかもしれないわぁ。
なのに…何で素直になれなかったのかしらねぇ。私ったら本当におバカさぁんね…笑っちゃうわぁ。

水銀燈がクスリと自嘲気味に笑ったその時だった。

ドカアアァァン!!(`O` )
116 : ◆1IpdltObcE :2009/09/04(金) 23:04:21.19 ID:Yum0FQ20
水銀「なっ……何!?」

水銀燈は爆音のした方へとっさに身構えた。目を向けた方には、高さの低い機械類と壁、それに扉しか無かった。つまり、壁越しにその音は聞こえて来たと云う事だ。
壁越しにしては凄まじい程の轟音は、空気を振動させるかの如く強力であった。それにより水銀燈は、今の爆音は只ならぬ強力な銃器を使用した物だと推測した。
だとすれば可能性があるのは、金糸雀か翠星石のいずれかであろう。金糸雀はこの偽ゲームに乗り気で、翠星石は私を恨むがあまり攻撃してくる可能性があると踏んだ。とにかく身を隠さなければ。

水銀燈は、縦回転している巨大な鉄の歯車が噛み合うその中へと身を隠した。隙間からあの扉を窺える。
ふと、カラシニコフのリロードをしていなかった事を思い出し、すぐにマガジンの交換を行うと、レバーを引いて薬室に弾を送り込む『コッキング』をやり終えた。そして、扉に向けて銃を構えた。

数秒後、物凄い勢いで扉が蹴り開けられた。水銀燈は思わず引き金を弾きそうになったが、何とかこらえた。何故なら扉から出てきたのは、予想に反して蒼星石だったからである。
117 : ◆1IpdltObcE :2009/09/05(土) 20:22:03.20 ID:g92Tdho0
蒼「ハァッ、ハァッ、こっちだ…!」

息を切らして走っている蒼星石の後ろに、右手で繋がれた雛苺と金糸雀の姿が垣間見えた。金糸雀もかなり体力を消耗している様だったが、雛苺はその比では無かった。
足取りはおぼつかなく、顔色は真っ青で、目には涙が溜まっていたが、激しい息切れの為か声を上げる事すら出来ず、蒼星石に手を引かれるがままに、ただただ懸命に走り続けていた。

水銀「あれはどういう事かしら…?」

さっきの爆音は金糸雀の銃の発砲音だとすると、つまり何者かと遭遇した末に、逃避している最中といった所か。それは他のドールなのかゾンビなのかは水銀燈の知る所では無かったが、
それよりもあの三人が共に行動していたという事実の方が気になっていた。あの弱虫な雛苺を、好戦的な蒼星石と金糸雀が引き連れていたなんてねぇ。まさか、利用して最終的には[ピーーー]つもりなのかしら?

しかし、その数秒後に、水銀燈は全てを悟る事になる。

蒼星石達は扉を閉めると、そこから隠れるように近くの機械の後ろへと移動した。三人とも息も絶え絶えで床に倒れ込んだ。その直後、

ドコオオォォォン!!(`A`#)
水銀「!! 今度は何が起きたのッ?」
118 : ◆1IpdltObcE [saga]:2009/09/05(土) 20:44:28.91 ID:g92Tdho0
>>117修正

蒼「ハァッ、ハァッ、こっちだ…!」

息を切らして走っている蒼星石の後ろに、右手で繋がれた雛苺と、後を追う金糸雀の姿が垣間見えた。金糸雀もかなり体力を消耗している様だったが、雛苺はその比では無かった。
足取りはおぼつかなく、顔色は真っ青で、目には涙が溜まっていたが、激しい息切れの為か声を上げる事すら出来ず、蒼星石に手を引かれるがままに懸命に走り続けていた。

水銀「あれはどういう事かしら…?」

さっきの爆音は金糸雀の銃の発砲音だとすると、つまり何者かと遭遇した末に逃避している最中といった所か。それが他のドールなのか、ゾンビなのかは水銀燈の知る所では無かったが、
それよりもあの三人が行動を共にしていたという事実の方が気になっていた。あの弱虫な雛苺を、好戦的な蒼星石と金糸雀が引き連れていたなんてねぇ。まさか、利用した上で最終的には殺すつもりなのかしら?

しかし、水銀燈はその数秒後に全てを悟る事になる。

蒼星石達は扉を閉めると、そこから隠れる様に近くの機械の後ろへと移動した。三人とも息も絶え絶えで床に倒れ込んだ。その直後、

ドコオオォォォン!!(`A`#)
119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/07(月) 21:18:09.31 ID:m8Nplao0


| ^o^ | わ た し で す

120 : ◆1IpdltObcE :2009/09/08(火) 20:18:06.75 ID:lVYHmsA0
突然の地響きと共に、その扉や壁が破片となって崩れ去った。あまりの振動に耐え切れなくなったのか、天井のタイルが一枚外れ落ちてきた。それに続くように、腹に裂け目の入ったゾンビも一体降ってきた。

水銀「何ッ? 今度は何が起きたのッ?」

突然起こった事態に驚きを隠せない水銀燈。タイルとゾンビは床に落ちて無惨に砕け散った。その光景を見た金糸雀が思わず声を上げた。その隣で、崩れて煙の舞っている扉の様子をしきりに窺う蒼星石。
そして煙が晴れると、水銀燈の目におぞましい物が飛び込んで来た。

水銀「何よ……あれ……!」

崩壊した壁の穴に立つその存在は、極めて異様な雰囲気も醸し出していた。全身は謎の皮膚らしき物で覆われていて、腹の部分には巨大な穴が開いており、そこから大量の血が洩れ出していた。
そのすぐ上にある紅色の臓器らしき物が淡々と波打つ様は、まるで機械か何かの様に思われる。もしあれが心臓だとしたら、あれはひょっとして…人間なの?
しかし、その巨体は人間の倍近くあり、さすがの水銀燈の身をも竦ませた。これほど巨大な人間がいる訳ないじゃない!
121 : ◆1IpdltObcE :2009/09/08(火) 20:42:36.85 ID:lVYHmsA0
暫くすると、そいつはゆっくりと歩き始めた。機械の合間を縫って、血痕を残しながら進んでいく。目の動きは何かを探すかの如く、世話しなく部屋を見渡している。きっと蒼星石達を探しているのだろう。
その様子を見ていた蒼星石が、目を追跡者へ向けたままで静かに口を開いた。

蒼「見つかるのも…時間の問題だ。金糸雀、何かいい案はないかな…?」

その喋り方からすると、相当な体力を消耗している様だ。

金「そ…その変なので…何とかならないかしら…?」

それを聞いた蒼星石は、すぐ横で座り込んでいる金糸雀に顔を向けた。

蒼「…ダメだ。この距離じゃ…僕たちも巻き込まれる」

それを聞いた金糸雀は額に手を当てて考える仕草を取った。

金「じゃっ、じゃあ…誰かが囮に…あっ、やっぱ…」

金糸雀が言い直そうとした所を、蒼星石が一瞬目を丸くした後、うっすらと不気味な笑みを浮かべて言った。

蒼「フフ…君はそんな…いいアイディアを思いつくんだねぇ…流石は…ローゼンメイデン一の策士だよ」

金「えっ…ちっ、違…」

金糸雀が否定しようとするも、蒼星石は聞こえなかったかの様に話を続ける。
122 : ◆1IpdltObcE :2009/09/08(火) 21:05:42.98 ID:lVYHmsA0
蒼「でも残念ながら…僕は銃は無いし…雛苺はあの通りだ」

蒼星石は、後ろで倒れて激しく咳込んでいる雛苺を見た。金糸雀も釣られてその様子を見た。確かに、これではもう動けそうもなかった。
すると、ある事に気づいた金糸雀の顔から血の毛が引いていった。それを見た蒼星石は冷笑し、こう言い放った。

蒼「そう…金糸雀、君に囮役になって欲しいんだ」

金「…そ…そんな!」

金糸雀は今にも泣き出しそうになりながらも、別の策は無いかと必死に知恵を巡らせていた。しかし、そんな抵抗も無駄に終わった。

蒼「…さっさと行けよ!」

蒼星石が金糸雀を蹴り出したのだ。蹴られた金糸雀は床を転がっていき、丁度追跡者の目の付く所で止まった。追跡者を見た金糸雀の目が絶望に染まっていく。

水銀「蒼星石が金糸雀を利用するなんてねぇ…意外だわ」

その一部始終を見ていた水銀燈が呟いた。カラシニコフは構えたままだ。これを撃つか否かはまだ判断出来なかった。
金糸雀は呻き声を上げながら体を起こすと、蒼星石の隠れている機械へと向かおうとした。しかし、蒼星石の向けた鋏の切っ先がそれを制した。
その間、金糸雀を視認した追跡者は着実に歩を進めていた。
123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/08(火) 22:07:18.62 ID:Il2IW6U0
カwwwwwwwwナwwwwwwwwwwww
124 : ◆1IpdltObcE :2009/09/08(火) 22:28:21.56 ID:lVYHmsA0
金「そ…蒼星石……!」

金糸雀は訴え掛けてみたが、蒼星石は睨んだまま鋏を降ろす事は無かった。これ以上は無駄だと判断し、目から一粒の涙を落とすと、蒼星石とは反対側へと駆け出した。それを見た追跡者が後を追いかける。
金糸雀の体力はほとんど残っておらず、時々躓きながらも走り続けるものの、追跡者との距離はみるみる内に縮まっていく。

金「くっ…!」
パパパパパパパパパパン!(^ω^ )

金糸雀は素早く振り返ると、P90から閃光と共に弾を連続で撃ち出した。しかし、追跡者の体を僅かに削るだけでほとんどダメージは無かった。
この時、水銀燈は自分の憶測が外れていた事に気付く。先程の爆音は金糸雀のそれでは無かったのだ、と。

金「ピッ…ピチカート…!」

金糸雀は精霊の名前を呼んでいる。それは居ない筈だが、しかし絶望的な精神状態が僅かな期待、いや奇跡を見いだす為にそうさせていた。

しかし、現実は非情過ぎた。それにトドメを刺すが如く、金糸雀の近くに何かが転がってきたーーーそれは『手榴弾』だった…金糸雀は絶叫した。

金「いやああああああああああ!!」
125 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/10(木) 22:33:41.17 ID:UogXQ6Qo
続きをおおおおおおお
126 : ◆1IpdltObcE :2009/09/10(木) 23:39:38.04 ID:7yFdYGo0
ガララとドアを開ける音と共に、真紅がこちらに振り返って、

真紅「じゃあ、JUMを宜しく頼むわね」

と言い残して医務室を出ていった。ベッドの隣に腰掛けている翠星石は「任せとくです」とか言っていた。
つい先程、下の階辺りで爆音らしき物が聞こえたのだ。不振に思った僕達は、取り敢えず様子を見に行く事にした。
だが、僕はまだ安静にしとけと言われ、仕方無くベッドに横になったままでいる事に。そして僕をここに一人残すのは危険だと言う事で、話し合った結果、翠星石が共に待機してくれる事になった。

僕は反対した。一人で行動するのはいくら何でも危険だってね。例え真紅でも特殊能力が一切使えなければ、ゾンビの大群に遭遇した際にとても太刀打ちは出来ないだろう。
けれども真紅は僕の反対を押し切って、「危なくなったらすぐ戻って来るわ」と言って結局行く事に。何故そこまでして確認しに行こうとするのか、僕には良く分からなかった。

こうして、今この部屋にはJUMと翠星石の二人きりとなっていた。唐突に翠星石が話しかける。

翠「真紅は大丈夫なんですかねぇ…?」

JUM「僕のパイソンも持たせたし、きっと大丈夫だろ」
127 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/11(金) 03:44:52.07 ID:Ts939ko0
>僕のパイソン

JUMちょっと表出ろ
128 : ◆1IpdltObcE [sage]:2009/09/11(金) 17:49:15.49 ID:Nu8eX6Q0
申し訳有りませんが、作者が学業の都合により約半年程死ぬ事になりました。
よって、このスレは速やかに落として貰っても構いません。
129 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 22:48:32.00 ID:RuKsAC2o
なん・・・だと・・・
130 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/11(金) 23:04:17.38 ID:Ts939ko0
えっ?
















うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
131 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 12:07:55.55 ID:5m4.a/2o
ハハッワロス・・・嘘だろ?
132 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/12(土) 20:02:29.67 ID:6E5Tueg0
うわあああああああああああ
嘘だ嘘と言ってくれええええ
133 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/15(火) 00:15:30.38 ID:wcmJQc.0
また作者待ちの作品が増えた…

でも半年なら希望が見える!
134 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/15(火) 19:43:27.39 ID:MSXlfmE0
俺は待つぜ…
135 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/20(日) 04:35:57.19 ID:QfBKRXg0
待つ作業
136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/09/29(火) 01:27:16.96 ID:9Qhmfb.0
末作業
137 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/04(日) 02:19:08.91 ID:FOu2luEo
半年だと…
138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/04(日) 04:54:06.59 ID:50ADfM60
半年なんてあっという間だぜ?
139 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/11(日) 04:10:24.59 ID:o1GPiXM0
松作業
140 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/11(日) 10:27:13.36 ID:fO64tfw0
 このままでは、駄目だ。アリスは完成しない。
 薄暗いnのフィールドに鎮座したまま静かに黙考している。人間の体に兎の頭部といった、とても奇妙な外見をした人物である。彼は純金製の椅子に座り腕を組みながら、目の前の小さな台座に置かれた水晶玉を睨み付けた。それは不気味な青白い光を放ち、フィールド内を照らす唯一の光源となっていた。
 彼女達は戦意を喪失している。アリスゲーム自体を放棄している訳ではないようだが、こんな状況では一向にアリスは完成しないだろう。何とかしなければ…この私が、何とかしなければ。
 兎はゆっくりと顔を上げ、その目に決意の念を宿らせる。椅子から立ち上がって踵を返すと、空間に扉を出現させてそこから立ち去った。後に残された水晶玉はやがて何かを映し始める。そこにはある一室で紅茶を愉しむ、一体のドールが移り込んでいた。
141 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/11(日) 23:11:19.11 ID:o1GPiXM0
ん?
142 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/17(土) 18:54:31.32 ID:3ES0TrA0
保守
143 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/17(土) 21:59:07.63 ID:oWRZblc0
保守はいr(ry
144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/21(水) 22:44:40.14 ID:xoOeiQY0
末作業
145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/10/23(金) 19:59:05.64 ID:/xxqFkY0
しえん
146 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/24(土) 06:20:35.39 ID:epBiLwI0
わっふるわっふる
147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/30(金) 04:39:44.45 ID:TQX6LnE0
待つ作業
148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/13(金) 03:17:56.82 ID:M3gHRBY0
魔津作業
149 :アンリ「っ、騒ぐんじゃねえ!」 :2009/11/20(金) 21:59:55.85 ID:xQrc..Eo
待ち遠しい
150 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/23(月) 03:43:42.79 ID:I.08jgs0
待つ作業
151 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/11/30(月) 21:37:52.78 ID:Df7/KHI0
幕末作業
152 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/10(木) 04:46:03.19 ID:yHpSbUE0
学業はどうなったんだ
153 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/12/17(木) 01:38:07.08 ID:8586mEA0
パー速回復したか
154 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/16(土) 07:03:08.56 ID:Vs9YTgk0
age
155 :パー速のローカルルールが変わりました :2010/01/29(金) 05:53:46.28 ID:Z0pNp3c0
待つ作業
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