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【僕らは】ここだけ組替ロボット世界【1人じゃない!】 - パー速VIP 過去ログ倉庫

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1 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) [sage]:2014/04/14(月) 21:35:02.86 ID:EMZHeVzoo
 20XX年、世界有数の技術立国・日本。
 高機動プラモデル――《HMP》は、老若男女のホビーとして空前絶後の存在となっていた。
 HMPとは全高約30cmの小型ロボット。
 頭・胴体・右腕・左腕・脚部の5パーツや手持ち装備を自在に組み合わせ、無限の可能性を発揮する。
 超AIで共に語らい、多種多様な武器で共に戦う、君の仲間だ!

 いよいよ始まる全国大会。蠢く闇。犯罪組織ブルーローズとは。それに立ち向かうEDENとは?
 「ここだけ組替ロボット世界」で、新時代のバトルにダイヴせよ。
 詳しくはウェブで、このURLをチェック!

【したらば】
http://jbbs.livedoor.jp/game/54824/

【wiki】
http://www59.atwiki.jp/kumirobo/

【前スレ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1375021722/
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) [sage]:2014/04/15(火) 23:08:02.98 ID:QRLI6Zgqo
さーてこちらを動かしていきたいところです
3 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(北海道) [sage]:2014/04/16(水) 06:48:38.82 ID:OUFYsOUro
スレ建てドーモです!
4 :麻木ナオヒロ :2014/04/16(水) 20:50:56.84 ID:qxxu78rY0
某HMP専門店。
店主がHMP好きを拗らせて脱サラ、趣味全開で始めた店だ。
それだけに自作のデータベースや様々な条件を細かく設定出来るフィールグラムを複数台設置してあるなど設備も充実している。
……ま、今回はフィールグラムを使うだけなのだけど。

「それじゃ、よろしくお願いします」

『ほぉ、そちらもフライメックか。面白くなりそうじゃないか』

鞄からルリが飛び出し、フィールグラムに着地。
背のコードを引き抜く。

「フィールドはランダム、でいいですよね。
 ……あ、フィールドセレクトにフライメックver.なんてあったんだっけ、これでもいいですか?」

/yesなら
コンマ
1.9 谷間
2.8 鉄塔林 
3.7 空中都市
4.6 超超高ハイウェイ
5  螺旋の塔
0  月面廃墟

/noなら
1.9 雑木林
2.8 公園(縮尺大きめ) 
3.7 図書館
4.6 海岸
5  氷河
0  廃墟
5 :麻木ナオヒロ :2014/04/16(水) 21:02:36.23 ID:qxxu78rY0
/超超高ハイウェイ
推定高度800mというSFチックな高速道路。
片側3車線で緩やかなカーブを描いている。上下の動きはなし。
リュージュやスケルトンのコースのように路面は大きく歪んでおり、壁面と路面の区別がない。
高架部分は等間隔で魚の骨のような出っ張りがあり、そこを足場にすることも可能。
フライメック同士の戦闘を想定しているため限界高度は上下ともにないようなものだが、うっかり落ちると全損は確実。

/海岸
オーソドックスなビーチ。
砂浜と海、が5.5:4.5くらい。
砂浜は所々にパラソルがある以外に障害物はなく、
海はまったくなにもない。やや荒れた波程度か。
6 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/16(水) 21:07:47.12 ID:zdkVWzJp0
>>4
「...よろしくおねがいします」

辺りを見回すと同時に、緊張を解く。
余りHMPの験は無いが、ここで学べば良い。まぁ負けても良いが...やはり勝ちたい。

『へぇ...フライメック相手取るのは初めてかな。つっても戦闘回数なんざタカが知れてるけど』

同じ様に鞄からデルタを取り出し、フィールグラムに着地させる。既にコードは抜いてある様だ。

「ん...フィールメックVerか...良いよ、折角ならそれでやろう」

相手にそう告げて、フィールグラムを見る。丁度、超超高ハイウェイが出来上がった辺りだ。
相手は自分よりも二回りは大きい。自分のHMP、デルタが25なのに対して相手は30ちょっとはありそうだ。

「(...一撃喰らえば負けと言っても良い...さぁ、行くぞ!)」

搭載した武装は3つ。
シールドは勿論、ブレードも共に副装備に搭載してある。だが、それは格納されており分からない。
目立つのは右手に掛かった折りたたまれている大型レールガンだ。
7 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/16(水) 21:29:28.22 ID:qxxu78rYo
>>6

//『現在の私のアセンは
頭部 《ヴァルキューレ》よりフェーダ(設定スレ>>52
 胴体 《ヴァルキューレ》よりフリューゲルス
 腕部 《ジャバウォッキー》よりバンダースナッチ&バンカースナッチ(設定スレ>>12
 脚部 《ナインテイル》よりキュービーエフ(設定スレ>>16
……だ。すまない。』//
//あとステージ設定を一部変更します…。
 このハイウェイは一方通行、ということにします。


「おっと、ハイウェイか。
 ちょっと変わってるけど。
 ハイウェイかな、これ」

『そんなことはどうでもいいさ。
 重要なのはこの妙ちきりんなフィールドでどう利を取るか、だろう?』 

「ま、そうだね。
 ……カーブの頂点は完全な筒状か。あそこかな、取り敢えずの目標は」

【ナオヒロに言われ、その取り敢えずの目標地点へと向かう。
 今回はハイウェイの端からのスタートだ、恐らく相手もそうなのだろう、
 カーブの先に姿はみえない。
 エネルギーを温存するために跳躍と滑空を織り交ぜながら進む。
 相手も同じように進んでいるなら、カーブの頂点やや前に接敵となるか?】
8 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/16(水) 21:42:58.52 ID:zdkVWzJp0
>>7
//了解。自分の物は全て設定スレ《>>58》にあります。


「(...ハイウェイか...なるほど、フライメック用とだけあるな...地上戦も出来なくは無いけども...ってか、比べてみりゃそこまで違わないか)」

やはり経験が浅いと目もきかない。とは言え相手が若干大きいのは変わらないか。

まぁ、その場合は落下というリスクが存在するので、やはりフライメック以外でこのステージ戦うのは避けたい所だ。
とは言え、フライメックであるデルタ1体しか持っていないので関係ないが。

『(...まず、相手は同じフライメック...装備はどちらかと言えば近接より、って所か?)」

それを踏まえるなら、どちらかと言えば此方に利がある。
自分が一番弱いのはバラマキ型、回避が難しいからだ。
逆に、単発型は避けられれば非常に良い。
更に言えば、近接系もスピード勝負さえ負けなければ問題は無いだろう。

一応、フライメックにしては持久力もスピードもある方だ。代わりに防御は無いに等しいのだが。

まぁ、経験不足を考えれば...

「『(まず全力で裏を取るべきか)』」

意識は共通、戸惑う事なくバックパックに点火する。
何故地の利を取ろうとしないのか。それは彼らが未熟であること。そして地の利を上手く活用出来ないと判断した為だ。

「...デルタ、恐らく相手は正面から来る筈だ、後ろから吹っ飛ばせ」
『了解!』

命令を聞いたデルタは、まず真っ先にハイウェイに対して垂直に飛行を始める。
恐らく、ハイウェイの中腹を越して、相手の裏側を取る程度の連続飛行は可能な筈だ。
寧ろ、そのための超軽装だ。

ハイウェイから凡そ100mの距離を持って、ハイウェイに沿って前進。
右手のレールガンの弾を込めて、ハイウェイに照準を合わせつつ敵を探す。

『中盤は筒になってるらしいぜ?』
「...問題ない、反対側の入り口を目指せ」
『なるほどな、よし...」
9 :神楽 岬・男14 :2014/04/16(水) 21:49:11.18 ID:zdkVWzJp0
//>>8ミスった...100mじゃなく100cmです
10 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/16(水) 22:06:57.00 ID:qxxu78rYo
>>8
=神楽の策は、タイミングがうまく重なりナオヒロ達には気付かれずに達成された。
 形式上、背面を取ることには成功した。
 カーブの頂点を越えて敵の姿が見えない、その場合にルリとナオヒロがどう判断したかというと=

「上か、後ろかだね」

『上なら私の姿は見えないだろう。
 後ろでも、私が気付かなかったということはそれほど近くはないということ。
 カーブの頂点を越えた今、やはり私を見ることは出来ないはずだ』

「こっちからも見えないけどね」

もし上から狙ってるなら、飛び出した瞬間にズドンされるんだろう。
じゃあ戻ったら……後ろにいるならやっぱりズドンかな。
流石にこの道路をぶち抜いて下から出るのは無理がある。
どうしたものか、……決まっている、か。

「このままこのチューブトンネルを飛び出して、下に行こう。
 高架の間を行くのは無理じゃないでしょ」

これなら上からの射撃に対して壁が出来るし、背後にいたとしても裏を取り返せる。
11 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/16(水) 22:38:24.99 ID:zdkVWzJp0
>>8
『...さーて...そろそろか?』
「目標まで大体残りは50ぐらいだな...持ちそうか?」
『機動特化を舐めるなよ?まだあと倍はイケるぜ』

裏取りは、戦術の中ではかなり有効だ。しかし、相手との位置関係上、気付かれずに裏を取るのは基本的に不可能だ。
だが、仮にそれが出来れば、まず初弾は相手の背部から撃ち抜ける。

左手でレールガンを支えつつ、敵を探す。
仮に相手に発見されても、初弾を受ける前に自分が発見できれば問題ない。
機動性だけは自信がある。いや、寧ろ機動性を抜いたら何も無いのだが。

『...よし...チューブトンネルの裏は取ったぞ』
「...良くやった、じゃあ...お前の機動力、見せてやれ」

相手の背後を取ることは出来た様だ。しかし、相手がそれに気づかないとは思えない。

一度ハイウェイに着地し、作戦を練る。
これから相手が取る可能性がある行動を推測する。

1、上空に離脱し、奇襲。
2、こちらにUターンし、正面戦闘。
3、トンネルを抜けた場所での待ち伏せ。

1、2はトンネルに入り、警戒しつつ進めば問題は無い筈だ。
ただ、3は厄介だ。しかも恐らく相手が一番取る可能性が高い。
それを踏まえ、神楽は命令を出す。

「...まず正面を警戒しながらトンネルを突破。そして抜けたら上空を警戒して、敵が居なければそのままトンネルの上に行け」
『...分かった、敵が居たら、撃ち抜けば良いんだな?』
「そういうことだ」

そして、神楽の命令に従ってデルタは行動を始める。瞬間加速用のブースターを何回も噴射し、トンネルを抜ける。
上空にレールガンを向け、警戒を始めるだろう。

この読みが吉と出るか凶と出るか...恐らく凶だろうが。

【現在ステータス】
【H】100%【B】100%
【L.A】100%【R.A】100%【L】100%
【ENERGY】92% 【O.D】0%
12 :神楽 岬・男14 :2014/04/16(水) 22:39:02.77 ID:zdkVWzJp0
>>11//今度は安価ミス>>10です
13 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/16(水) 23:09:44.65 ID:qxxu78rYo
>>11
【指示の通りトンネルを抜け、カーブの内側2向かって飛び込んだ。
 そのまま右手の《バンダースナッチ》を高架に放ち、アメコミヒーローさながらに飛び移る。
 ……狙撃らしいものはない。後ろだったか。
 そのまま高架下を移動中、上で風鳴り音が大きく響いた。
 これは、上を通ったということか?
やはりこちらの背後を取っていたということだな。
 しかし後ろに回った敵が上のチューブトンネルを通っているということは……】

『また戻らなくてはいけないのか』

【出ない溜め息が出そうになる。         ・・・
 エネルギーばかり減っていくぞ、このフライメックもどきの体、あちらよりガス欠は早いだろう。
 エネルギー切れの敗北は避けたかった。】

「……ただ戻っても仕方ない。
 今から追いかけたってスタートの分だけあちらの方が出口にたどり着くのは早いわけだし。
 相手が先に出てるなら、その分だけ有利を味わって貰おう」

【意味の分からない不適なことを言うナオヒロから指示が。
 成る程、そういうことか、……うまくいくのかこんなもの。】

【出口付近まで戻るとチューブトンネルの上まで飛び上がり、相手の様子を伺う。
 成る程、こちらが上にいると思っているようだ。
 ならばその読み通りになってやろう。】

『私はここだよ、おチビさん』
                ・・
チューブトンネルの上に立ち上がり細腕を振ってアピールするルリ。
そう、《バンダースナッチ》がないのだ。
……いや、上手く隠しきれないためにワイヤーが見え隠れしているが。
相手の発砲を誘い、ルリは回避しようとして落下。
……したふりをする。下の高架には《バンダースナッチ》が撃ち込まれており、
それを用いてサーカスの空中ブランコのように、落ちた側の反対から飛び出して見せようと言うのだ。
そうしたら、落ちたルリを追撃しようとしている相手を背後から、ざくり。
……といけたらいいなー、という作戦である。
14 :神楽 岬・男14 [sage saga]:2014/04/16(水) 23:34:04.72 ID:zdkVWzJp0
>>13
「...居たぞ、どうやら読みは外れたらしいが、結果的に当たった様だな」
『....ま、それはそれで結果オーライってね』

チューブの上に立つ敵HMPを視認し、神楽は瞬時に推測を重ねる。

「(...単純に此方に乗ったというのか?...いや、それは無いだろう...どこかに罠がある...だとすれば深追いは禁物だ..)」

そこまで考え、次の指示を出す。

「...デルタ、まず後ろに飛べ。そして空中狙撃戦に持ち込め。そうすれば勝機がある。」
『...このまま撃ち抜きゃ良いんじゃねえのか?』
「...どうせ罠だろう、深追いは厳禁だ、いいな?」
『...はぁ?...まぁ、いいが』

神楽の間の考えの差を感じながらも、指示に従う。
レールガンをセットし、軽く後ろにブーストしながら照準を合わせる。

『(...?...何か糸みてえなのがあるな...まぁ、良いか)』

そして、レールガンの引き金を引く。
ロボットに扱いやすい様に、電源のスイッチが引き金の形となっているのだ。

<キィィ...ズガァーーーーz______ン>

機械音の様なチャージ音。そして3秒後に弾丸が発射される。
だが、既に相手はそこに居ない。ここまでは予定通りーーーしかし

「...!反対だ!」
『.......なっ!?』

リロードに2秒、発射に3秒...合計5秒。
恐らく一度距離を取るだろうと予想していたが、甘かった。
相手は瞬時に攻撃へと移っていた。

可能な限り迅速に回避行動へと移る...間も無く。
側方から突撃してきたHMPの攻撃を、ノーガード、マトモに食らってしまった。

この機体を扱うに当たり、最もやってはいけない事だ。防御無しの状態での被弾。それは、たった1回で致命傷となる。

『...ッーーーー!!』

勢いのままに吹っ飛び、投げ出される。
ハイウェイからの落下を防ぐため、体制を直しブースターで勢いを殺す。

相手の作戦はーーー事実、完璧に成功したと言って良いだろう

【ステータス】
【H】100%【B】79%
【L.A】100%【R.A】43%【L】100%
【ENERGY】82% 【O.D】32%

//申し訳ありませんが、ここで一度落ちます...明日以降にまた続きが出来ればいいなと思っているのですが、如何がでしょうか?
15 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/16(水) 23:37:22.02 ID:qxxu78rYo
>>14
//あい了解しました、こちらの遅レスによるものですよねー…申し訳ないです
//私も明日も夜空いていますので、持ち越しといたしましょうか
16 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/16(水) 23:43:32.26 ID:zdkVWzJp0
>>15
//いえ、そうでは無いですから大丈夫です...
//明日の夜は、一応考えていますがもしかしたら予定があるかもなのです...その時はまた言います...すいません、利己的で...
//えーっと、一応雑談スレにも書きましたのでそちらも見てくださるとうれしいです
17 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/17(木) 01:23:03.94 ID:MuHVH8F4o
>>14
【奇襲は成功、しかし勢い重視の攻撃故に頭に決めることは出来なかったか。
 また、相手のメインウェポンであろうあの銃器の発砲を見れなかったのは少し痛い。
 チャージを要することや発砲音からするとコイルガンやレールガンの類のようだが……。
 知識がある方ではない、決め付かずにいよう。
 クローを動かし、《バンダースナッチ》をフリーにするとワイヤーを巻き取る。】

「とりあえずは、一発。
 ここから畳み掛けるよ」

『ああ、まだまだエンドロールには早いだろう!?』

【跳躍からの飛翔で加速をつけ、相手との距離を詰めに掛かる。
 あの銃器はよく分からないが、チャージを必要とするならば攻め続ければ撃てないだろう。
 そのためにも、こちらの距離でやらせて貰う!】
18 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/17(木) 07:57:51.54 ID:VEN7NAAX0
>>17
「...まだ1発だ、致命傷では無いだろう?」
『当然だ...フッ...面白いじゃあねえか!』

やはり1発というアドバンテージはこの機体には大きい。だが、幾ら装甲が無くても、一撃特化型以外で瞬殺というのは無いだろう。

「...機動戦なら負けは無い、行け!」
『了解!』

神楽の指示を読み取ったのか、動力の殆どをブースターに送り込む。

相手はこちらに向かって飛翔を始めた辺り。このまま居てもブースターなどを見るに1秒はあるはずだ。
1秒、その時間があれば....

『そんなモンかぁ?あんたらのスピードは!』

相手を挑発し、いままでの戦闘で出していない、MAXスピードで上空に離脱する。
他の追随を許さない、そんな設計を元に作られたこのスピードのMAXスピードーー

『ほら、こいよ!』

ロケット弾のように空中に飛び出し、レールガンの銃口を向ける。
19 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/17(木) 19:34:53.69 ID:LlJi15+to
>>18
「機動特化機体かー」

見慣れない機体だった為に相手の取る戦術、得意分野が分からなかったが、こういうタイプだったか。
シンプルなシルエットから汎用機かと思っていたが、それは軽量化の結果と。
その痩躯にルリは追い縋ることが出来ない。
詰めようとした一手はあっさりと消える。

「辛いね、相手は射撃武装ありの高速機。しかも飛んでる。
 こっちは近接しかないから引き撃ちされたら打つ手なしだ」

『距離を開けられるとそれだけ辛いな。
 あの銃がレールガンの系統なら、距離があろうと発射と着弾は殆ど同時だろう。
 このくらいの距離しかないのならば近い方がまだ避け易い……などと言っている間に、来るぞ』

【銃口がこちらを向く。
 チャージ必須ならば連射はないだろうが、そうでなかった場合は厳しい戦いを強いられる。
 相手に捕捉させないような機動を取ることも、相手の方が速い以上なかなか厳しい。
 ならば、】

ルリの体が上昇を止める……というか落ち始めた。
上を見たまま、スラスターを停止させて重力のままに落ち続ける。
わざわざ自分から距離を取るなんてなにを考えてるんだこいつ。
全く分からないが……顔だけは取り繕っておこう、不安を相手に悟らせる必要はない。
20 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/17(木) 22:16:39.09 ID:VEN7NAAX0
>>19
「引いたか...撃ち抜け、場所は任せる」
『ラジャー!(了解!)』

短いやり取りの間に、必要な伝達を全て済ませる。相手がこちらを追ってこない以上、焦る必要は無い。

相手はやはり機動力でこちらに勝る訳ではない様だ。
そして、攻撃も基本的に近接と見た。
普通に考えれば引き撃ちで完封できる相手だが、先ほどの策から考えて相手の方が上手だろう。それを考えればここで決めておく必要がある。

照準を相手に合わせる。赤い十字が敵の中央部を捉える。しかし何故かまだチャージにすら入って居ない。

「...任せると言っただろ?」

神楽はデルタにそう一言告げ、眺める。自分が口出しして良いのはここまでだ。

『...距離40...50...55...キィィイイ』

徐々に離れる相手を見て、チャージ開始。
そして、3秒後に発射されるであろ弾道を演算処理、軽く銃口の向きを修正する。
赤い十字が捉えたのは、敵ボディ...ではなく敵の左腕。

ーーーそして
『ィイインーーーズガァーーーーz______ン』

本日二発目の弾丸を撃ち出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【H】100%【B】100%
【L.A】100%【R.A】100%【L】100%
【ENERGY】56% 【O.D】31%
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
21 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/17(木) 22:35:30.32 ID:VEN7NAAX0
>>20//すいませんステータスミス
//【B】79% 【R.A】43%です
22 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/17(木) 23:02:02.71 ID:MuHVH8F4o
>>20
【撃ってきた。
 照準器のようなものは見えなかったはず、ヘッドパーツそのものの眼がいいようだ。
 この《フェーダ》のものと同じく猛禽の眼ということか。
 ならば発射のほんの前に照準をずらしたのは故意なのだろう、どういう意図かまでは分からないが。
 ……しかし、それ故にこちらも避け損ねてしまった。
 素直なボディ・ヘッド狙いなら回避しやすかったものを。】

《左腕損傷:損傷率30%》

銃弾は見事にルリの左手を撃ち抜いた。
綺麗に抜けていったせいか見た目は穴一つだが、これでワイヤーギミックは使えない。
手に保持しておくので一杯だ。
と、ルリは反転したかと思うと地面に向かって一直線に、スラスターを全開にする。
残り高度は何百メートル、とはいえこのままならそう掛からずに地表にキスしてしまう。
……なんとなく読めてきたが、やたらにリスキーだ。
上手く行けばいいのだが。
23 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/17(木) 23:10:04.73 ID:MuHVH8F4o
//何百メートルは架空の高さです。
 フィールグラムの処理によってうまいことなってるんじゃないかなー
 ……すみません
24 :神楽 岬・男14 [sage]:2014/04/17(木) 23:59:51.82 ID:VEN7NAAX0
>>22
『...貫通確認、しっかり空いたな』
「...追撃の判断は任せるとしようか、頼むぞ」

デルタの視界に写る被写体は、未だ高度を下げ続けている。
さて、この後どうしたものか。追撃を取るのが最善策だろうが、まず接近戦は論外だ。
だが、このまま行くと相手はそのまま落下、全損は免れない。
...それは後味が悪いな。
いっそ空中で吹っ飛ばすのも手だが、それはそれで問題な気がする。というかAIが狂ってしまうかもしれない。

それを考えれば...まず、相手の攻撃手段を先に封じてしまうのが良いか。
人工知能の中で処理を繰り返し、1つの解を導いた。

『...3発目...キィィイイ』

3回目の発砲。引き金を引き、チャージ音が響く。

狙うべくはーーー相手の右腕。

《ズガァーーーーz______ン》

先程と同じ発砲音と共に、弾丸を相手の右腕の肘辺りに向けて発射。

『(...エネルギー残量も考えねえとな)》

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【H】100%【B】100%
【L.A】100%【R.A】100%【L】100%
【ENERGY】41% 【O.D】31%
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
25 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/19(土) 01:14:32.95 ID:v+w7tH4Wo
>>24
【先程の射撃の後だ、もしやと思い右手を引いたら、直後に発砲音。
 右手の爪がへし折られた。まだ狙えるのか。
 速度で絶対的な差がある以上、追った所で何もないと思ったのだが引いた所で同じことだったとは。】

「相手に追ってこさせるのは無理そうだね。
 フライメックだし高機動型だし、狙撃適正はそんなに高くないと思ったけど……。
 甘く見積もりすぎてた、このままだといいように撃たれて終わりそうだ。
 ここからの巻き返しはかなり綱渡りしてくことになるけど、いくしかないよね」

【……知った口を、指示を寄越すならもっと早くにしろというのだ。
 ともかく、指示を確認する。
 やはりそういう方向になるか。
 ……私が逸ったせいだからな、やるさ】

ルリが進路を変え、高架橋脚へ向かって行く。
スラスターを徐々に押さえ、速度を殺しながらの行動だ。
その裏に回ればレールガンで狙われる心配も多少下がる。
そうしたなら後は陰に隠れたままいくらか上昇をする手筈だ。
この機体の武装的に何時までも上を取られているのではどうしようもないのだ。
しかし相手の方がスピードに優れ、既に上を取られている以上正攻法ではやり返すことが出来ない。
限界高度はないが、下は限られている為にルリは勝機を求めたのだろう。
それは途中で破れたが、2射で相手のENに負担をかけることは出来ただろう。
……こちらのENもカツカツだが。
ともかく、相手がどこまで近付くかが今の勝負どころだ。
ルリがいる地点は地上380m(設定)。
ハイウェイまでは420m、重力の援護もない、ENも無駄に出来ない今ではどこまで上がれるかか分からないが……。
敵がこちらを見下ろしているなら上がっていくしかないだろう。
相手のENも何時までも持つものではない、勝負をかけに来るはずだ。
26 :神楽 岬 [sage]:2014/04/19(土) 08:55:03.02 ID:7k+9soJd0
>>25
『二発目、着弾確認』
「...オッケー、じゃああとは好きにして良いぞ」
『そう来ると困るんだがなぁ...ま、指示は後で頼むぜ』

未だ高度は下がり続けている。神楽の手元に送られてるデータは《EN:41%》という数字。
ここらで勝負を決めないと後々面倒になるだろう。

『...ま、好きにして良いんだろ?...このままのペースでレールガン撃ってたんじゃ、相手を倒せてもこっちまで全損確定だ。ついでに残弾もそろそろ切れるしな』

そう言うが否や、右手の武装を展開。
全長10cm程のレーザーブレードが出現する。
そして、そのまま高架橋へと向かう敵機に対して、斜めに突撃。
左右の手を撃ち抜いたのちに、やっと近接戦をする腹を決めたという事だろうか。
逆に言えば、2発撃たされ、ENを消費させられ、近接戦に持ち込まされたとも考えられる。
27 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/20(日) 14:03:21.11 ID:oKvL2QKPo
【高架橋脚にたどり着き、反転。
 そこからいくらか上昇するうちに、一筋の光を目の端に捉える。
 ビームサーベルだろうか。接近戦を挑みにきたならば、僥倖だ。
 上にいられるよりも勝つ見込みがいくらか増すと言うものだ。
 しかし、まだブラフという可能性もある、すぐに飛び出すのは愚作か?
 ……いや、ブラフであろうと、行かねば勝てないのだ。
 躊躇う必要は、無い】

『さあ、風穴あけ返してやるぞ!』

【高架橋脚の左側から飛び出し、相手と向き合う。
狩りをする猛禽のように襲いかかる相手に対し、自分の体を振り回すようにアッパーカットを放つ。】

まずは一発。当たればいいし、当たらなくてもいい。
相手の攻撃にぶつけるのもいい。
ここで大事なのはアッパーの勢いだ。
アッパーの勢いに乗じて体を回転、体を後方に、脚を相手側に向ければ連続蹴りに移行する。
相手も自分もフライメック、更に相手の方が空戦に優れているとなると対ヒュームボットなどに比べると無制限に蹴り続けることは出来なさそうだが。
28 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/20(日) 20:26:25.66 ID:j6ogpcth0
>>27
今この状況で、深追いしてカウンター。これが最もまずい状況だ。
それを防ぐためには、ガードが最適だろう。

そして、それを実行するために必要なのはーーー

『「来いよ!今度は接近戦だ!」』

二人揃って敵を挑発し、次いで防御に移る。
右手に展開しているレーザーブレードを収納。そこからシールドを展開するまでおよそ0.3秒。
相手のアッパーカットを防ぎつつ、次の策を練る。

「(このまま連打をされればシールドが持たない...カウンターを決めようとも、それには技量が追いつかない、か...)
『(距離を取るのが最適解か...?いや、ここから無理に離れるのは危険が伴うな)』

次いで相手の方を確認する。
この勢いのまま一回転...とは行かないだろう。その割には勢いが強すぎる。
だとすれば、つまり追撃。

反射的にシールドを下に向け、相手の足を逸らす。
しかし、その時点でシールドは消耗している。余り長くは受け続けられないのだ。

//遅れて申し訳ないです
29 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/21(月) 01:20:18.16 ID:1a5LfuYxo
>>28
【アッパーも、蹴りへの移行モーションもシールドに弾かれるが、相手が防御を取ったのは下策だと言ってやれる。
 こちらに防御ごと押し込めるような武器はないが、それでも相手は距離を取るべきだった。
 シールドに脚を弾かれた、その勢いで上体を跳ね上げるように起こす。
 その動きの中でも相手を見据え、距離を確実に認識する。
 クローはへし折れたが、それでもまだこの掌は武器であるのだ。
 右腕を前に、相手に向けて伸ばすように。
 否、伸びる。
 右腕のワイヤーギミックを発動、相手に掌を押しつけるようにこの手が伸びる。
 この行動の意味するところはただ一つ……!】 

ウィルス注入。
成功すれば確実なアドバンテージをもたらすが、
大きなアクションで仕掛けたためにこれを捌かれるとルリの動きは連動を欠き隙を晒すことになるだろう。
しかしちまちまとした積み重ねではこの状況はひっくり返らない。
リスキーであっても、勝負の賭け時は今だ。

//遅れて申し訳ないだなんて、こちらやらかしまくってますからそれこそ私こそ本当にごめんなさいー!
30 :神楽 岬ーーデルタ :2014/04/21(月) 07:44:55.37 ID:3x87WfgM0
>>29
このまま受け続ける事は不可能だろう。いいところあと2、3回程度だ。
それを考えれば、まず真っ先に離れるべきなのだが....しかし相手は何をしている?

「...!避けろ!!」『なっ!?」

二人の声が同時に響き渡る。
本来の予想は、このまま連続してのアッパーカット。そしてシールド崩壊直前に投げ捨てて距離を取る。というもの。

無論予想がアッパーであればそのシールドは下を向いている訳で。
上から迫るワイヤーギミックが、機体の左肩に命中する。

「....っ...やられたな...」

と、同時にウイルスがCPUを侵食。
軽い錯乱状態...どころか。

『OVER DRIVE』

無機質な機体アナウンスと共に、真下に自由落下を始めた。
ここから10秒間。この時間は完全に隙である。

31 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/21(月) 20:17:08.00 ID:1a5LfuYxo
>>30
【ウィルス注入により一時的だが相手の無力化を成功。
 しかし地表との距離はまだ遠く、激突までは2分は掛かるだろう。
 このまま墜ちていくのを眺めていても勝てるわけではない、決めに行く】

『終劇、といこうか』

ルリは墜ちる相手HMPに突っ込んでいき、左手と《バンダースナッチ》をパージした右手でその頭部を掴もうとする。
パワーのある腕部だ。左手は破損しているとはいえ、両手で万力のように圧をかければ造作もなく破壊できるだろう。
QBFによるラッシュや落下を待つなどするよりも確実な勝ち筋、だ。
32 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/21(月) 22:15:20.66 ID:3x87WfgM0
>>31
「...焦るなよ...まだ致命傷にはなってない」

自分に言い聞かせ、状況打破の策を練る。
《OVER DRIVE》はオーバーヒートを回避する為の一時的シャットダウン...それがウイルスによって作動しただけだ。

つまり、10秒後、この機体の意識ーAIーは回復する。しかし、急激な状況変化に適応するには回復してから時間がかかる。
その時間を凌げるかが勝機の分かれ目だ。

『再起動ーー3...2...』

無機質な音声によるカウントダウンが始まった。その数字が0になった瞬間ーー

『0...バックアップデータロードーー完了ーーAI:DELTA再起動』

ヘッドパーツの眼に光が灯り、意識を回復させた。
だが、既に相手の腕部が頭を挟み込んでいる。この急激な状況変化を把握するまでに数秒はかかる。

『...なっ...どういう...!』
「落ち着け、まだ死んでない。とは言え時間の問題だがな」

デルタに呼びかけ、手元のディスプレイに写る《HED》の横の数値を眺める。
その数値はかなりの速度で減少していた。
《ーーー残り、67%ーー》

「(...持って2分...どうするか...)」
33 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/21(月) 22:36:13.64 ID:1a5LfuYxo
>>32
『頭部破損狙いだ、意識のない内に終わらせてやりたかったが』

【破損無しの《バンダースナッチ》ならば掴んで潰すのも貫いて壊すのも造作もないが、
 確実性を重視して破損個所に負担をかけないよう手心を加える必要があった。
 ……しかし、相手が復帰したとなれば、力技も必要になるな。】

ルリの背面、腰のアクティブバインダーが向きを変える。
その進行方向は高架橋脚。
相手HMPをそこに叩きつけ、壁面まで利用してヘッドパーツを潰すつもりだ。
こちらは速度では大きく劣るが、相手は軽量化によってそれを得た機体。
爆発的な推力で無理矢理に機体を飛ばすタイプではない。
つまり、いまルリが背面にまとわりついた状態では重量の増加もあって振り切ることは難しい……はずだ。
34 :神楽 岬ーーデルタ [sage saga]:2014/04/21(月) 23:01:44.70 ID:3x87WfgM0
>>33
『...なるほどな』

目の前に広がる光景を見て、やっと全てを悟った様子。
まぁ、一言で表すならーー『絶体絶命』ーーこれが一番しっくりくる。

「...チッ...叩きつける気か...」

エネルギー量は速度×重量...それを考えれば、どれだけ速度を出しても自分の機体では余り意味がない。しかし、幾ら軽くてもクアトロモーターを使用して全動力をジェットパックに送り込めばーー多少のエネルギーは出る筈だ。
しかし、それでもやはり相手に与えられるダメージはタカが知れている。

ーーと、すれば。
やはり武装が最も効果がありそうだ。
ブラリと下げたシールドを収納し、エネルギーブレードを展開。
まぁ、一言で言ってしまえば、「死ぬ前に殺す」という事だ。しかし、その武器切り替えはあくまで「フェイク」。そして次への布石だ。

実は武装代わりになるものがもう一つ。
背面に背負った「ジェットパック」だ。ある程度方向も調整できるため、狙うのは不可能ではない。
これは、ファンを回す事で反作用を利用して空中を飛行するのだが....今、この状態で相手に向けて全開まで使用したらどうなるだろうか。
その風圧で多少は相手の腕を緩められるかもしれない。最も希望があるのはそのまま吹っ飛んでくれることだが。

4つのモーター全てが動力をジェットパックへと送り込む。背後に回ったのが運の尽き、とでも言いたい所だが、時間がない。
高架橋と衝突するまでもうあと15秒も無い筈だ。
35 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/22(火) 13:46:12.96 ID:zCHzHyhGo
>>34
【低い唸りが聞こえてくる。次いで、体を揺らす風。
 成る程、ブースターの推力で私を吹き飛ばそうと言うのか。
 ……舐めて貰っては、困る!】

『この程度、そよ風だ……!』

【体は軋みを上げるが相手の頭部を掴む両手を緩めはしない。
 まだ手は離せない。
 高架橋脚まであと10秒程度か。
 相手の速度を最大限利用するには最低でもあと3秒は持たせなければ。
 私という重荷を失えば相手は急加速を得る、それを殺しきるにはこの距離は短い筈。
 方向を逸らそうとも推力が後ろに集中している以上、前へ進むことは避けられない。
 反転するならまた別だが、そもそも私が追撃をかけない訳がない。
 《バンダースナッチ》の射出機構が死んでいるためにリーチの不安はあるがもう攻める以外の選択は取れない。
 恐らくこれがラストアタックになるだろう。】

=そして、ルリは4秒後に手を離した。
 しかしルリとナオヒロは、武器の切り替えに気付いていない。
 デルタがブラフとして取った行動だが、これがどう転ぶか=
36 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/23(水) 20:14:14.13 ID:nJvB4Lt50
>>35
『ーーーッ!』

空中に放り出され、一気に加速、高架に激突するまで4秒程度ーー

やはり効かないか。だがこのまま叩きつけられて全損という訳にも行くまい。
高架自体を吹っ飛ばして貫通させるのはまず無理として、この速度を殺し、尚且つ追撃を避ける方法。それを探さねば勝機は無い。
...一応、装甲が弱くとも軽量である分ある程度の速度であれば衝突しても全損というわけにはならないだろうが...せめてボディとヘッドの部分は守っておきたい所だ。
ーーいや、もうノーダメージなんて甘い考えはしていられない。
ダメージを受けようと勝つための最善策を選ばねば。

空中でジェットパックを横に向け、機体を180度反転。相手に正面を向けつつ、右手に持ったレーザーブレードを左手を使用して右手の肘に当てる。その切っ先は高架の壁に向けている。
そして、この状態で高架へ激突ーー

『....ッ!!』

ーー機体に走る衝撃、そして、レーザーブレードが右腕の肘と高架の壁に減り込む。まるで杭の様に機体と壁を繋ぎ合わせている。

左手が自由になり、そのままレールガンを展開、照準を定める。
ーーだが、チャージに掛かる時間は先程よりも長い。凡そ4秒程度。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【H】43%【B】56%
【L.A】86%【R.A】24%【L】78%
【ENERGY】21% 【O.D】72%
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

手元に表示されるデータを見て、神楽は顔を歪める。
各部位の損傷が思った以上に激しい。恐らくこの一撃を外せば次は無いだろう。ただ、あのデルタが相手を撃ち抜けるか、二重の意味で懸念がある。
まぁ、外すのは兎も角狙うのは本人の...いや、AIの意向だからそれは尊重してやろう。

//昨日返信出来ず申し訳無いです...
37 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/23(水) 23:59:04.60 ID:n5FNTsxIo
>>36
振り返り、構えた銃口の先にルリの姿はない。
そして流れるシステムメッセージ。合成音声が勝者を告げる。
相手HMP────デルタの名を淡々と。
相手から手を離し、追撃をかけようとしていたルリだが腕を伸ばしたところでENが底をついたのだ。
飛行の多用や、最後の競り合いがフライメックとして完成度の低いルリを真綿で絞めるように追い詰めていたのだろう。
いや、俺からは残存ENなどの把握はできていたが今回はそれらを伝えなかった。
それが敗因だ──だがルリはそれについては俺を責めないだろう、自ら望んだことだ。
と、まあ、そんなことは後にしてひとまずはライバルサイドに、

「ありがとうございました。
 うーん、あと一手足りなかったなぁ」

//いえいえ、リアル優先です

38 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/24(木) 00:57:42.72 ID:3xu1vhPV0
>>37
「...!?」

突如出現した勝利者システムメッセージ。
そこに表示された《DELTA》の文字。

『なるほど...まぁ、今回は運が良かったな...実力じゃあ完全に負けてた...神楽、残り何%?』
「...ジャスト20%だよ」
『軽量化が幸いしたか...全く...後で修理しねえとなぁ...レーザーブレード刺さったまんまだし』

取り敢えず反省会擬きもここら辺にして、相手に礼を言う。

「いえ、こちらこそありがとうございました...僕は策略では完全に負けてましたよ...」

手元のディスプレイを見る。
そこに表示された破損箇所は、1回のHMPバトルにしてはかなりの数だ。

「...僕もこの機体の性質を分かり切れてませんし」
39 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/24(木) 20:44:40.12 ID:6JvAjtmbo
>>38
『……む、墜ちたのか、私は。 
 ナオヒロ、一応聞くが、』

「負けたね。EN管理が甘かった、というよりかは相手を読み切れなかったのが敗因かなぁ、これ。
 最近は分からん殺しされることが多いからもっと勉強しなくちゃな」

タブレットから聞こえてきたルリの声に答えながら、ボディを回収。
メディカルポッドに放り込んだ。

『そうか……、突発的な判断力を鍛えようとしたが、問題はそれ以前だったな。
 ……それと、そっちの。ナオヒロ、』

「デルタさん」

『デルタよ、レールガンを逸らしたのは何故だ?1射目は私の武器を奪うためでも、2射目は少なくとも腰から頭まででも抜けただろう?』

ルリは自己反省もそこそこに対戦相手へと問いかけた。
あそこでやっていれば、少なくとも最終盤のように危うい橋を渡る必要はなかったはずだ、といいたいのだろう。
もちろん、あそこでやられるつもりもなかったけども。

「策略なんて、思いついたことやってるだけだよ。
 ただの行き当たりばったりさ。
 ……ところで、まだよく分かってないってことは最近HMPファイト始めたのかな?
 その機体、俺も初めて見るんだ。なんてモデル?」
40 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/24(木) 23:08:19.60 ID:3xu1vhPV0
>>39
『...狙いを逸らした理由か...俺のAI(感情)が撃ち抜くのを拒んだって所かな』

搭載されいるAIーー言わば「人格」は、非常に高性能である。人間に近いどころかそれ以上の感情性を持っているかもしれない。しかし、今回みたいに足枷になることもある。

「...あぁ、始めたのは1週間前だっけな?...あの時は惨敗したけど...」
『敗戦記録相手に言ってどうすんだよ』

漫才の様なツッコミをスルーし、言葉を続ける。

「TYPE NAME:アロースタンド...製造元は不明で、とある店に3つだけ置いてあった」

製造元不明。そんなものを買う辺りこの少年も馬鹿なのか何なのか。

「設計思想は多分、高軌道高破壊力。だけど代わりに防御面とシステム面に問題あり、って所かな」
41 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/25(金) 11:38:15.85 ID:u+mZtG1vo
>>40
『……ほぉ』

言葉少なにルリは返す。
ルリの中のHMP観からすれば、その思考は欠陥なのだろう。
止めを刺せないAIなど販売することができない。
大量生産品であるルリのAIは闘うためのものだ。
感情や人格以前の、本能とも言える部分で、ルリは闘争を好むようになっている。
メディカルポッドの存在もあり、元のAIが《マスカドンナ》である為か、女性型なのにルリは壊すことも壊されることも厭わない。
勿論それはファイト中に限るし、俺の指示のせいもあるのだが……。

「……っ一週間かぁ。流石に凹むなぁ」

しかし一週間でああもやれるのか。
そりゃ戦略もなにも分からないのが普通だ。
……ああ、あまり深く考えないでおこう。悲しくなるから。

『設計思想自体は流行を追った形だな。
 やはり速さは大きくアドバンテージを稼ぐ。
 ……しかし、またレアモノか。運がいいのか悪いのか』

【最近では、怪しいワンオフらしきHMP《レッドセイバー》に、ある意味レアな《ディバインライト》付き《ロードモナーク》、
 それ以前まで行けば《パンドラ・ウェディング》を筆頭に何体か。
 人からすれば羨ましい経験を積んでいる気がするな】
42 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/25(金) 22:41:12.68 ID:cZpCAzqi0
>>41
『...説明に"AIは感情性が強く、戦闘に不向きな場合がございます"って書いてあったのにこいつ(神楽)は買いやがった、俺が言うのも何だが、馬鹿だろ』
「おいおい...俺にその言い草は無いだろ...?」

若干肩を落とす動作をするが、実際に凹んでいるわけでは無い様だ。こんな掛け合いも、やはりこいつならでは、と言った所か。ーー別にこれを期待して購入した訳じゃあ無い。

「...ま...まぁほぼマグレですし...多分地上戦じゃ勝てませんから、やっぱステージと機体の相性(?)...ですかね?」

今回は、ステージがほぼ空中用だったから良かったが...やはり地上戦では一発も当てられる気がしない。

「...まぁ...速さに見惚れたのもそうだし...何より装甲投げ打って欠陥背負ってでもそれを追求するって言うのがね...」

この「欠陥」とは、OVER DRIVEの事を指して居るのだろう。約10秒間の無防備状態という致命的な隙を。

43 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/25(金) 23:53:24.01 ID:19+arZBPo
>>42
『問題なのはそんな状態でOKを出したメーカーだろう。
 お前の身体は闘うために生まれたのだから』

「そんな言い方しない。
 ま、パートナーが満足してるなら良いんじゃないかな」

先程からの掛け合いを見ていると、これも一週間前からのものとは思えない。
相性自体は悪くないようだし、戦闘で割り切れないこともいずれ克服するだろう。

「いいや、ルリも言ったけどこっちが勝てそうになったのはそっちの……まぁ、ミス、のお陰で。
 それに、機体の相性やステージの有利不利なんて、負けた理由にはしたくないな」

【そうだ。
 機体が、ステージが如何に不利だろうとそれを越えて勝つこと。
 それを放棄してしまったら、そこから先へは進めない。
 負けたのなら、負けた理由を探し、それが何故起きたのかまでも追求しなければならない。
 ……今回は私の独断専行だ。】

「……欠陥?」

=こちらの二人はover driveについてはしらない。
 試合中の機能停止はルリのウィルスによるものだと思っているのだ=
44 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/26(土) 14:16:26.56 ID:yLUoAr1w0
>>43
『うぃーっす...まぁ、作られた俺でさえメーカーなんざ知らないからな。むしろ仕様じゃねえかと思ってる』

麻木の言葉を適当に流しておく。
自分は自分でこういう性格で、神楽も神楽でそういう関係なのだろう。今のこの雰囲気が一番居心地が良い。

「...相性を理由にしない、か...まぁ確かにそうだな...相性乗り越えて勝つべき、か...」

この戦いーー2体のプラモデルと2人の人間のぶつかり合いだーーは、予想以上に深いらしい。それを研究して、この機体に合った戦法を求めてみよう。

「...あぁ、言って無かったか...デルタ、お前が説明してやれ」
『了解...俺のCPU...インフィニティXCOREは、負荷を掛けすぎると《OVER DRIVE》...一時的なシャットダウンに陥るんだ...その間は一切の制御を受け付けない。これが『欠陥』って訳さ』

軽くーーというか殆ど全ての概要を説明する。
45 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/27(日) 02:21:01.97 ID:kZ4wvBfCo
>>44
メーカーの仕様か。
だとしたら、そのメーカーは残酷なことをする。
……それにしてもまたメーカー不明機か。
まさか同じ人物の作なんてことはないだろうが、なにやら怪しげなモノを感じてしまう。
中学生か俺は。

「理想だけどね。
 やっぱり縋りたくなるよ」

勝ったときは相性のおかげ、負けたときは自分のミス。
俺はそんな考えが出来るほど人間出来ていない。
やっぱり勝てれば自分の手柄にしたいし、負けたらどこかに責任を押しつけたくなる。


「なるほど、多重攻撃が有効なわけだ」

『選択を迫り続けることが出来れば禄に行動させずに勝つことも可能、ということだな。
 機動力を押さえ込む術があれば、になるが』

インフィニティなのに処理が脆いとはこれ以下に。
ま、そんなことはともかく次にやるときの攻略の糸口はそこになるかな。
攻め続けるというのはなかなかどうして難しいが。
そこを克服するためにも、最近の試合で今のアセンの弱みがはっきりしたことだしそろそろ替え時か。
46 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/27(日) 16:17:47.83 ID:NPsHrHyH0
>>45
「...ま、理想は高い方が良い、って誰か言ってたから良いでしょ」

無論、理想が理想のままでは意味がない。そんな理想を現実にしてこそ理想は意味を持つ。
ーーーーどう足掻いても実現不可能な想像は、言わば「妄想」だ。

「ま、その多重攻撃を全弾回避するための機動力なんだがな...とは言え、もうちょっと調整して最善を見出すつもりだよ」

今度、デルタに他のパーツとか組み込んで見ようか。いっそのことパーツ1つ1つに調整を掛けてもいいかもしれない。
...まぁ、それをやるだけの技術が無いのが現状だが。

「......ま、どっちにしろ次の時にどう進化出来るか...そこに尽きるな。更なる機動特化か、防御力アップか...」
47 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/27(日) 20:19:12.56 ID:1ozPzYf6o
>>46
「……そうだね」

現実では、高すぎる理想は現実との乖離に耐えられず自らを滅ぼすこともある。
理想と追うという行為は、時にはイカロスのようで滑稽だ。
しかし、彼はまだ中学生くらいか?
俺と違って、彼はまだまだ余りある伸び代を有しているだろう。
太陽を目指し飛び続けれられる、本物の翼を持っているかもしれない。

『近接機ならば《新絡婦》や《エアロニンジャ》のようなトリッキーなタイプなら有利が取れそうだな。
 遠距離を維持するタイプなら、《スターマイン》辺りの面制圧可能なタイプなら高負荷をくれてやれるな』

機動力に対する回答は、より速くなるか、速さを無意味なモノにするかだ。
……より速くというのは現実的ではないし、何より無粋だ。
ルリの挙げたHMPはそういう偏見が入っている気がした。

「その機体は中々いじるのに勇気がいるよねー。
 速くすると防御力か攻撃翌力は犠牲になるし、燃費は間違いなく悪くなる。
 防御力はエネルギーシールドを展開するタイプじゃないとその機体を殺しちゃうし。
 どちらにしろENはかつかつになりそうだね」

こういう機体を生かしてアセンを組むのは難しく、それだけに楽しい。
48 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/27(日) 20:41:29.32 ID:NPsHrHyH0
>>47
『...どれもこれも』
「聞いた事の無い名前だな」

掛け合いの様に連続で口を開く。
まぁ、始めて一週間、相手の機体名を覚えるなどということはしていない。

何より、この機体自体が特化型である以上、相手によって多少の違いはあれど戦法は限定される。

「ふふふ...そういうのを考えるのが楽しいのさ!まぁ、大体方針は決まってるけど」

その「方針」は、先の言葉に出てきた2つの選択肢のどちらかだろう。
何が必要か、勿論この機体の短所を補う為に長所を殺しては機体の特性の意味がない。

「ーーー防御全切り捨て、軌道特化のフォルムにする」

先の話からこいつは何を学んだのか。
面制圧相手に不利だと言ったばかりなのに。
49 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/27(日) 21:51:29.86 ID:kZ4wvBfCo
>>48
「始めたばかりならそんなもんだよね。
 新しいHMPもすぐ発表されてくし、俺も中々覚えられなかったよ。
 今もそこまでくわしくないけど、やっぱり知ってて損はないよ」

相手の機体の動き方や戦法を想定するには、やはり知識が必要だ。
初見のパーツであっても、既存パーツの知識から想像し、対応することも出来る。

『防御を取るよりは良い選択だろう。
 しかし、それは貴様の相棒のAIに負担をかけそうだな。
 高速型は一発被弾で終了だ。
 リスクを減らすために対戦時間は短い方がいい。
 攻撃翌力と精度を補強する必要があるだろうな』

【面制圧など追いつかない速度、相手に対応させない速度。
 それが可能ならばそうすればいいが、そこまで甘い世界ではない。
 ただ速いだけでは勝つことは出来ないのだ。
 速く、早くなければ。】
50 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/28(月) 22:41:42.37 ID:gBmj6uj40
>>49
「へぇ...まぁ、始めた時期が時期ですから既存量産機を全部覚えようとしたらキリがありませんけどね...まぁ頑張ってみよう」

...メリットとデメリットの天秤は置いておいて、まぁ覚えた所で損は無いだろう。

『...ま、そりゃあ全部コイツ(神楽)に任せるから、俺は成されるがままに、って所か』
「機動力特化の短期決戦型...やっぱそうなるよなー...ま、それを求めてるんだけど」

問題点を挙げたらキリが無い。しかし、それらを克服出来れば...出来ればそれこそ自分の思う機体になるかもしれない。

「...CPUの負荷は、データ処理的な負荷よりも物理負荷の方が問題かな。データ処理は...まぁさっきみたいにウイルスが入らなければ大丈夫だし...」

とは言え、物理的負荷にはめっぽう弱い。それはもう、本当に外装があるのか疑うレベルに。

「...ん...もうこんな時間か...?まぁ、予定は無いけど...」

既に接触から数十分が経過していた。別に次に予定は無いが、流石にずっとここに居座る訳にも行かない。
51 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/28(月) 23:16:12.23 ID:SkQJtunzo
>>50
「最初は本屋やこういう店の雑誌コーナーで適当なカタログぱらぱら見るくらいで十分だよ。
 それで気になる機体があればチェックすればいいし」

こういうのは強制することでもないなぁ。
好きならほっといてもハマるし、同じように、興味持たないタイプもいる。

『CPUの話ではない。物理やデータではなく心理的な負担だ。
 私の時のように躊躇えば致命的だぞ。
 その辺りはパートナーのお前がケアするんだからな』

問題と言い放ったデルタさんのAIについて、ルリからそんな言葉が出るとは。
HMPとして思うことがあるのだろうか?

「え、あー…。引き留めちゃって悪かったね。
 デルタさんと……、ええと、名前聞いても良いかな?
 あ、俺は麻木ナオヒロで、こっちはルリね」

荷物をまとめて、ルリを手に乗せる。
52 :神楽 岬ーーデルタ [sage]:2014/04/28(月) 23:27:32.43 ID:gBmj6uj40
>>51
「...なるほど...じゃあ今度来て見てみようかな」

ーーなるほど、面白そうだ。だったら目一杯研究してやろう。いや、こういうのは気楽にいった方が良いか。

「うん?...あぁ、大丈夫大丈夫、いや大丈夫じゃないけど、その場合は相手を破壊し切らない程度に撃ち抜けば良い」
『...とんだ楽天家だな、おい』

ツッコミを入れてる本人(本機)さえ悲しくなるレベルの楽天家だった。
だが...まぁ、それは冗談なのだろう。

『...ま、多分俺ら(HMP)は戦う為だけに作られた訳じゃないだろうしな。まぁ、いずれ対策考えておく』

「...あ、あぁ、名乗ってなかったか...神楽 岬だ。名前、覚えておくよ」

ニヤッと笑い、デルタを手に乗せる。やはりというか、軽い。非常に。
25cmと言えば結構な大きさだが、それでも片手で容易に持ち運べる。

此方も荷物を纏めて、店の外へ足を進める。そろそろ解散、か。
何というか、異常に濃い一戦だった気がする。

//もうそろそろ〆ですかね?
53 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/04/29(火) 00:19:45.29 ID:j09omo7Uo
>>52
「もしこの店に来るなら、気になったHMPのことは店長に聞いてみるといいよ。
 専門誌よりも噛み砕いて分かり易く教えてくれるから。
 ……ちょっと喋りすぎるけど」

時々お世話になるが、あの人のHMP熱は凄まじい。
良い人ではあるのだが……。

『……私は間違いなく闘うために生まれたからな、お前に同意は出来ない。
 私達はHMPだが、私とお前では違うのだよ』

=HMP格差というか、HMPにもコンプレックスがあるようで。
 ある一件からだが、ルリはワンオフ機と自身について悩んだりするときもある。
 どう望もうと生まれの問題なのでどうかなるものでない。
 それだけに割り切りきれないのだ。=

「神楽くんね、またフィールグラムで」

『次は勝たせてもらう』

=言って、二人は店の奥へ。
 パーツの物色をするのだろう。=

//そうですね、これでこっちは〆てしまいます。
 長いことありがとうございました。またお願いします。
54 :羽麻リリカ [sage]:2014/04/30(水) 22:45:57.99 ID:ypWNtPI6o
今年は飛び飛びのGWということもあって、HMP店は昼間から大盛況だ
どこを見ても人、人、人!
フィールグラムには長蛇の列で、ファイト前から気力と体力を削ってくる素敵仕様である

そんな気力削りの罠をなんとか乗り越え、ファイトの順番を手にしたのがリリカであり、その対面に立つ相手だ

「お手柔らかにお願いしますね」
(いい相手でありますようにいいフィールドでありますように)

などといいつつ、お祈りしているのはなんだかんだ気力を削られたのだろう
さぁ、運命のランダムフィールドセレクトの結果は……

(コンマ1~3;ビル街 4~5ハイウェイ 6~0:荒野
55 :羽麻リリカ [sage]:2014/04/30(水) 22:51:11.72 ID:ypWNtPI6o
――重々しい音とともに浮かび上がったそれは荒野だった

リリカの顔が絶望に染まる
絡新婦は三次元機動力に特化したHMPだ
障害物が一切ない荒野では、その能力は発揮されない

「で、でたものは仕方ないですね。ですよね」
『はいはい。がんばりますよ』

涙目でどうにかなる、と自分に言い聞かせているようだが、そこまでの技量は……

『ま、勝負は博打さ、やってみりゃわかる』

そういって荒野に降り立つ紅恋は、あまりにも景色とミスマッチで、装備の貧弱さだけが目立っていた
56 :羽生コータロー [sage]:2014/04/30(水) 23:15:45.33 ID:vCXU23nZo
>>55
「よろしくね。こちらこそお手柔らかに」

向かいに現れたのは風が吹けば倒れてしまいそうなほど華奢な体格の青年
勤めていた玩具店が閉店し実家で穀潰し生活を送っている彼にとってHMPだけが楽しみである
それだけに、この予想以上の長蛇の列には人一倍ガッカリしていた

「……フィールドは荒野だね」
『なんだっていいぜ!任せろってんだ!』

バーニングヒーローのヒートが待ちきれない様子で答える
しかし試合開始のゴングが待ちきれないのは青年も一緒だった

(あの表情……ィールドが苦手なのかな?今回は一気に行こう)
57 :羽麻リリカ [sage]:2014/04/30(水) 23:25:40.89 ID:ypWNtPI6o
>>56
表示されるカウントが減り...ゼロになって、試合が始まる

バーニングヒーローは遠近対応タイプ、対しこちらは近距離特化

(始まってしまったものは仕方ありません。方策を考えましょう)

『(無駄に考えてるんだろうけど、突撃しかないでしょこれ……)』

糸を張る茂みすらない以上、ガチンコの殴り合いをするしかない

『ま、こういう状況に突っ込んでマスター育てるのも仕事仕事』
「あ、ちょ、待ちなさい!」

指示が飛ぶよりも早く、蜘蛛形態へと変形、
あのGを捕まえる軍曹を彷彿とさせるすばやい動きで、バーニングヒーローへと突っ込んでいく
とてつもなく低いために、実に狙いにくい
58 :羽生コータロー [sage]:2014/04/30(水) 23:37:06.15 ID:vCXU23nZo
>>57
「来るッ」
『来たッ』

巨大なガトリング、デコレーターを構え背を向けながらブースターを小刻みに噴射する
ある程度距離を取りながらガトリングで威嚇し、隙をついてチェーンソーの一撃を加えるつもりなのだろう
もっとも、動きながらの射撃で威嚇になるほど精度を出せるかは疑問だが

(あのHMPは近距離タイプだからこのまま距離を詰められなければ大丈夫なはず。しかし凄いセンスだなあ)

「デコレーター用意!撃ちまくれっ!」

弾丸のカーテンが散り散りに襲いかかる
59 :羽麻リリカ [sage]:2014/04/30(水) 23:49:10.02 ID:ypWNtPI6o
>>58
 驟雨のように降り注ぐ弾丸の中を、紅恋は突き進む
 直撃するほどのダメージは受けていないが、確実にHPは減っていく

「ひ、引き撃ちなんて、ち、チキンのすることです!」

 精神攻撃は基本とばかりにコータローにリリカが叫びをあげる

『(いやぁ、勝負ってそういうものだし)』

 勝てば官軍、である。やりすぎてはいけないが

『(しかし、なんの考えもなしに突っ込んだけど、たぶんこれジリ貧だよね)』

 絡新婦はブースターを吹かしての後退に追いつけるほど、速力に特化したHMPではない
 トリッキーな機体である以上、有利な場所以外では瞬殺もおかしくはないのだ

(はっ)

 と、そこでリリカが何かを思いついたようで、

「紅恋! こっちも引きなさい」
『はぁ? それ――あ、いや、わかった』
「はい」

 指示にうなずいた紅恋が、ぐっと急停止すると反転、尻を垂らすようにしながら距離をとり始める
 その軌跡には、まるで失禁でもしたかのように白い線が残されている
 時折、塊になって白いソレはフィールドに置かれているようだ
60 :羽生コータロー [sage]:2014/05/01(木) 00:02:05.60 ID:qyk7Mlduo
『ち、チキンだと〜!?結構ショック……』

リリカの精神攻撃に思わぬダメージを受けるヒート
メチャクチャ落ち込みながらも距離を保ちつつ攻撃の隙を伺う
が、その時。絡新婦が突然の後退を始めた

(そんな距離をとってどうするんだ?一体何をするつもりなんだ?)

(でも、乗ってあげよう!面白そうだ!)

「ヒート!追いかけろ!弾は温存しておけよ!」
『了解!……チキンかぁ……はぁ』
「落ち込み過ぎでしょ……」

ブースターを再び点火し蜘蛛を追いかける
一体何をするつもりなんだ?
61 :羽麻リリカ [sage]:2014/05/01(木) 00:09:42.77 ID:yHEKnn/no
>>60
(いや、そっちがダメージ受けても、困るんですけど)

 ダメージは通ったが、通ってほしい相手ではなかったようだ
 ヒーローとしては臆病者呼ばわりはつらいのだろうか?

(かかった!)
『(そう思うには早いんじゃない)』

 撒き散らした白線の上に、バーニングヒーローが入る
 ここまでくれば目的は果たしている、が……

『(ブースターを切らせる、のがあたしの仕事かねぇ)』

 そこまでして始めて罠に掛けられる
 そうとなれば

『痛いのはそんな好きじゃないんだけどなぁ』
「と、突然なんですか!?」
『いや、……うん、まぁ、いいや』

 突然足をとめた紅恋は、くるんと蜘蛛から人へと変形
 どこに仕舞っていたのか、くるくると喧嘩煙管を手の中で回し始める

『いつまで、その羽は生えてるんかね?』

 仁王立ちしたその姿……狙ってくれといっているようにしか見えないが……
62 :羽生コータロー [sage]:2014/05/01(木) 00:24:33.20 ID:qyk7Mlduo
(す、すっごく罠くせェ〜!でも突っ込みたくなる性分でね……)

「ヒートォ!空中ブーストで突っ込め!」
『待ってました!』

空中を滑るように駆け、喜んで火に入る夏の虫
こうすればブーストを切らない限り粘着するトラップに引っ掛かるとこは無いだろう
空中を自由自在に走り回り一撃を加える。高速戦闘タイプに改造されたヒートの得意技だ

『上等だ!テメェの策を真っ向からぶち壊してやる!』

ブースト全開でチェーンソーを振り回しながらジグザグにハイスピード突撃!
……と思いきや直前で急停止。砂埃が高々と舞い上がった
63 :羽麻リリカ [sage]:2014/05/01(木) 00:31:01.63 ID:yHEKnn/no
>>62
『(ま、そうくるよねぇ)』

 推力そのままに押し切ってしまえば、あちらの勝ち
 決まり手押し出し、といったところだろう

『でも、こっちにだって、意地があるんでね!』

 かわいいお嬢さまを泣かせるわけにもいかない

『こいやァ!』

 両足で土を噛み、煙管を硬く握って待ち受ける紅恋
 もう数秒で接触――というところでヒートが足を止めた

『(どういう――!?)』

 思わず行動が止まる
 これがヒートのいう策破壊か?
 であれば……

『(下からくる――?)』

 構えた煙管を下段に移動させつつ、煙が晴れるのを待つ
64 :羽生コータロー [sage]:2014/05/01(木) 00:46:23.23 ID:iBA4es4+o
>>63
『半分アタリだったな、お嬢さん!』

砂埃を引き裂いてヒートが下から飛び出てくる
しかしヒートの持つチェーンソーには、刃が無かった
刃は何処へ……

『あと、スマンな。真っ向からやるのは俺じゃなくてコイツだ!』

ヒートの真上、丁度紅恋の顔面の位置へと襲いかかるのは、消えたチェーンソーの刃

「改造していたんだよ。弾丸みたいに射出できるようにねっ!」
(まあ、バネで飛ばしてるから威力は保証できないけど……)

『さあっ、どうする!よけれるもんなら避けてみな!ピンチだぜっ!』
65 :羽麻リリカ [sage]:2014/05/01(木) 00:59:52.08 ID:yHEKnn/no
>>64
「なっ――!」

 チェーンソーが射出されるなど、晴天の霹靂というほかないだろう

『くっ――!』

 紅恋の計算領域にいくつもの案が生まれては消えていく
 どれも採用するにはスペックが足りない

 一秒、一秒――目の前に刃が迫ってくる
 どうにか採用した首をそらすという方法で回避を試みるが――

[HEAD:HP消失]

 不可能。間に合うはずもなかった
 後に残ったのは、顔面にチェーンソーの刃を突き刺し、オイルを血のように流している絡新婦だけだ
 ――だが、直接対峙しているヒートにはよく見えるだろう

 鬼気迫る表情で微笑みかけてくる紅恋の姿が……
 それはまるで、和製ホラーに出てくる鬼女のような表情であった

 ――お ぼ え て ろ――

 電源はもう切れているはずなのに
 そう、口が動いたような気がした

***

「どだい、無理な話だったんです……荒野じゃ、なにもできませんわ……」

 そんな悲惨な顔になった紅恋を回収しつつ、へこんだ様子のリリカがつぶやく
 運も実力のうち、というものなのだろう 
66 :羽生コータロー [sage]:2014/05/01(木) 01:12:10.15 ID:iBA4es4+o
>>65
『まんまと引っかかりやがった!俺の大勝利だ!勝ったからヒーローだ!さて、刃を抜かせてもら……』

店内に響き渡るHMPの絶叫
勝利の余韻で一瞬で気付かなかったようだが、この蜘蛛とても恐い。すごく恐い
血のように流れるオイルの
おかげで夏場の心霊特集番組が裸足で逃げ出すほどの「それっぽさ」がある
フィールドが廃墟的なものであればヒートがオイルを漏らしていたかもしれないが、荒野でなければこうも上手く戦えなかっただろう
今回の試合は、あまりにも運が良かった

……

「あの、いいファイトだったよ。良かったらお名前教えてくれないかな」

しぼんだ表情の少女に話しかける青年(無職)
やはり元玩具店の店員として、落ち込んでいる子供には声をかけられずにはいられなかったんだろうか
67 :羽麻リリカ [sage]:2014/05/01(木) 01:17:13.05 ID:yHEKnn/no
>>66
「うう、お世辞はいりません」
『賛辞は受け取っておくもんだぞー』

 マスターとは正反対に、DVNOから聞こえる紅恋の声は軽い
 だめでもともと、という路線だったからだろう

「羽麻リリカです……そういうあなたは?」
『あ、あたしは紅恋ねー。そっちの相棒に、よろしく』

 なんだかんだ素直に名前を答えるあたりは、まだまだ素直、というか……
68 :羽生コータロー :2014/05/01(木) 01:33:03.95 ID:iBA4es4+o
>>67
「お世辞なんかじゃないよ!君はきっと上手くなる。そんな雰囲気があるファイターだった」

「ああ、僕の名前は羽生コータローって言うんだ。で、こいつはヒート。
少し前まではおもちゃ屋で働いてたからさ、HMPには少し自信があるんだよ。困ったことがあったら言ってね。ぼく、この辺のショップによくいるからさ」

はたから見れば少し変質者じみているが、子供達が悲しんでる姿は見たくないからしょうがないね

「あっ、そうだ。このパーツをあげるよ。役に立つかどうかは分からないけどね。それじゃ、また!」

そう言って羽生はHMPケースから取り出したパーツを手渡しすると、そそくさと帰っていった
時折なにかうめき声が聞こえたがおそらくヒートのものだろう。たぶん

//雑なロールでごめんなさいマジで。もっとリリカちゃんを立たせるべきでした
お疲れ様でした
69 :羽麻リリカ [sage]:2014/05/01(木) 01:38:55.52 ID:yHEKnn/no
>>68
「そ、そうですか……?」

 言葉に頬を赤らめて、上目遣いでコータローを見る
 あれ、こいつちょろいんじゃ?

「羽生さん、ですね。なにかあれば、頼ることにします。ありがとうございます」

 素敵な人、みたいな顔で見ているが、本心がどうかはわからない

「えっあっ、ちょっ……!」

 そそくさと帰ってしまった羽生を見送ると、あとに残されたリリカも余韻に浸ることもできずその場を押し出される

『元おもちゃ店員、ねぇこのつながりは、便利かもよぉ?』
「……そうですね。次あったときは質問攻めしてみたいと思います」

 そんな会話をしつつ、二人も帰ったそうな

//こいつはこんな扱いでいいんですよ。お疲れ様でした。次へのつなぎってことで
70 :荒田シン [sage]:2014/05/09(金) 23:56:02.82 ID:jIupH7Re0
GWも終わり、異常とも言えた人波が引き、いつもの落ち着きを取り戻したHMPショップ
そこに平日だというのにへばりついている男がいた
まだ時期は早いだろう薄手のTシャツを着こなしている彼は、開店時間から今に至るまでずっと陳列棚を往復していた
時折タブレット端末に打ち込んでいるところを見るに、装備を考えているのだろうか?
あまりにも周りを見ていないので、時折人に当たりそうになっている
危なっかしくてしかたがなかった
71 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/11(日) 04:54:57.76 ID:PWf/Cmxpo
>>70
=どん、と、とうとう荒田にぶつかった人物が。
 その人物も手元のタブレットに何かを打ち込んでおり、そのせいで周囲への気遣いができていなかったようだ。
 ぶつかったことに気付くとタブレットを下げて顔を上げた。=

「大丈夫ですか?
 不注意でした、すみません」

『全く、気をつけろ。
 子供達もいるのだからな』

鞄から出てきたルリにお叱りを受ける。
返す言葉もなく、相手にもう一度謝罪を。
……ん?よく見れば俺はこの人を知っているような……。

『おぉ、あの気味の悪いHMPの。
 ナオヒロ、覚えているか?』

同じように相手を見ていたルリの言葉に疑問符が浮かぶ。
気味の悪いHMP? 
恐らく野良試合をした相手のはずだ……えーと、えー…。

「あ、分かった。えっと……」

が、名前を聞いていなかった。人もHMPも。
半端に声をかけた状況が痛い。

「……そちらもアセンの変更ですか?」

妙な間を埋められず、脈絡のない質問をぶつけてしまった。
72 :荒田シン [sage]:2014/05/11(日) 06:26:20.22 ID:AEpIPO8A0
>>71
「あっ」

ナオヒロがぶつかったことで、シンはタブレットを落としてしまった。
わりと雑に扱っても大丈夫なようなカバーをつけているから故障はしていないが、操作していた内容がナオヒロの目に飛び込んでくる
DVNOのHMP管理画面が開かれており、旧パーツとの比較データと、外見の3Dモデルが表示されていた
総合評価を表す六角形のレーダーチャートが、かなり面白い形をしているのがわかる

「いや、こちらこそすみません」

ダメだなー集中すると……エリを連れて来るんだった
そんな小さなつぶやきが聞こえた

「怪我とか、大丈夫ですか?」

と、そこでまじまじナオヒロの顔を見たのか、こちらも思い出したようで

「ああ、確か前に野良試合をした……与太郎と呼ばないでの……
ええ、なかなか難航してますが
そちらも、ということは君もかな?」

奇遇、と言うほどでもないが、せっかくなので、会話をしてリフレッシュするのもいいかもしれないと

「もしよかったら、あっちの談話スペースで話さないかな?
もちろん、候補が絞れていたら、の話だけど」
73 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/11(日) 16:53:58.99 ID:4i+gN8Y/o
>>72
【先程相手が落としてナオヒロが心配しているタブレット。
 その画面にあったのはHMPの外見を含めた総合データだった。
 スペックを示すグラフがおかしな形をしていたが、どういった運用を目指しているのだろうか】

『……そのタブレットのはあのHMPのアセンプランか?』

「あ、ルリ、人の画面を見ない。
 重ね重ねすみません」

【どうせナオヒロも気になっていた癖に、
 解消できる疑問なら解消すればいいのだ。】

「え、あ、そうです。
 あの大会見てらしたんですか、いやあなんでか照れますね。
 ……えっと、じゃあ移動しましょうか」

まさかあのチーム名を聞くとは思わなかった。
注目度の高い大会だったのでダークホースであった《与太郎と呼ばないで》を知る人は少なくないが、まさか俺なんかまで知っているとは。

74 :荒田シン [sage]:2014/05/11(日) 18:53:32.19 ID:AEpIPO8A0
>>73
タブレットを拾いつつ
「ああ、気にしなくていいよ。見せたくないなら保護シート貼っておくしね。
いやー、いつもみたいに見栄え重視してたらレーダーチャートがおかしくなってね、ははは」

レーダーチャートから読み取れるバランスは壊滅的だ
特化と呼ぼうにも、それを支えるはずの項目が足りていない
今のところ、実用性は皆無の観賞用構成だった

かくして、二人は場所を変え

「チームが身近な店から出場していたからね。
楽屋にもいったんだけど、その時はいなかったみたいだから。すれ違っちゃったんだね」

なかなか楽しい大会だったね、と言いつつ

「あの頃とはアセンも変わってるとは思うけど、今度はどういう風に変えようと思ってるのかな?
あ、参考までに僕のほうはオールラウンドタイプにするつもり」

……あのレーダーチャートからは、本当にオールラウンドタイプを目指しているとはとは思えないだろう
75 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/11(日) 22:17:43.98 ID:PWf/Cmxpo
>>74
『ヴィジュアルアセンというわけか。
 私とはあまり縁のない言葉だ』

【私はHMPは勝ってこそと思っているので、単純な容姿の善し悪しはさして意味などないと思っている。
 しかしこの男は私と異なるタイプなようだな。
 美しい機体でなければ勝つ意味もないというのだろう。
 ……私の目からだとこの男のいう《見栄え重視》は理解から遠いが。】


「あー、そういえば有名な人が来たって聞いたような。
 貴方のことだったんですか」

ニッチながら一部から根強い支持があるデザインをする人、ということだったような。
そういう人が何人もいる訳ないので、たぶんこの人のことだったのだ。

「いやあハラハラする大会でした。
 あの後近接フライメックに組み替えたんですけど、ちょっとプランが甘かったみたいで。
 コンセプトは変えずに、プランの実行力を強くしようかな、と」

『……参考までに聞くが、オールラウンドとはつまりどういうことだ?』
76 :荒田シン [sage]:2014/05/12(月) 09:18:29.05 ID:Byyb7Hc/0
>>75
「一口に外観重視といっても、色々あるんだけどね。
基本的には一つの目的を追い求める過程で、どんなものでも美しくなって行くと思うよ
たとえば刀剣、たとえば拳銃。どちらも敵を[ピーーー]ために先鋭化してるだけなのに、そこから格好よさを読み取ることができる
それが読み取れないということは、なにかが足りてない。削りすぎている、とも言えるかな。感覚的な話になっちゃうけど」

「だから、僕としては君も十分美しいと思うよ
そして、もっと美しくなれるともね」

ルリの有り様は、彼の目指すところとは別物ではあるが、古代のストイックな戦士たちに似た無骨な美しさがある

「有名というか、悪名というか……」

苦笑いしているのは、自分の嗜好が大衆受けしないのをわかっているからだ
実際叩かれたのも一度や二度ではない。そこでやめられていたなら、彼はここにはいない

「なるほど、近接系か。近接はアセンもそうだけど、決断力と判断力が求められるから、難しいよね
僕とやった時は状態異常で攻めてきたけど、それは今でも変わらないのかな?」


「このチャートじゃ明らかに無理だけど」

そう言って苦笑いを浮かべると

「オールラウンダーはようするにバランスの塊だよ。
突き詰めれば万能だけど、基本的には器用貧乏にしかならない
性能的には尖ってない
だからパーツ的には無難で、買おうと思えばどこの店にもある……つまらないパーツが詰まってる」

だが、だからこそ、難しい
ほんの少しでもバランスが崩れた瞬間、全てがなくなる

「すごく通しにくい針穴に糸を通す感じでね。つい、こんなダメなチャート作りで現実逃避しちゃう」
77 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/12(月) 19:52:14.35 ID:kDp3UeqOo
>>76
『ふん、私が美しいか。……君のセンスはひとまず置いて、素直に礼を言わせて貰おう』

【羽の意匠の他は飾り気のない、顔半分を隠した頭部とメカニカルな胴。
アールヌーボーのような文様で飾られた巨大な鍵爪の腕。
 脚はアジアのテイストを持った獣型だ。
 カラーリングこそ統一されているが、キメラ染みたこの容姿は美しいと言えまい。
 それを美しいといったのは、】

『機能美というか、目的に対する追求か。
 君の目指すところとは違うのだろうが、私はそれでいい。
 より美しくもなってやろう』

「あなたのデザインもやっぱり信念があるんでしょう?
 どんな目的に向かっているんです?」

先ほどの言葉からすると、あのデザインも伊達や酔狂のためではなさそうだ。
そうなるとその目的というものが気になってくる。

「今は《バンダースナッチ》のウィルスを使ってます。
 HMPによっては高い耐性もあったりしますけど、《ショックラッシュ・レフト》よりも今のアセンにあっていると思ったので」

『実際は中々難しいところだ。
 フライメックでヒット&アウェー以外の戦法というのは噛み合わなかったな。
 リスクを減らして防御の薄さをカバーする必要がある以上、自分の舞台に引き込む必要があるトリックプレイは弱いと言わざるを得ない。
 こちらがリスクを避けてしまっては相手に付け入る隙を与え、舞台に上がって貰えない』

流行に乗らないこととメタを読まないことは≠だ。
しかしただメタも流行に組み込まれているわけでそれに習ったのでは面白くない。
流行しているスタイルに対してどう対応するかはいつも悩ませられる。

『ああ、私の知っているオールラウンドと差違はないようだ。
 そんな歪んだ機体でオールラウンドと言うものだからつい認識に違いがあるのかと思ってしまった。』

こいつ、失礼なことを。

『いわゆるオールラウンダーが面白味に欠けるというのは同意だ。
 器用貧乏……強みがない以上、どうしても相手に流される。
自分のスタイルを貫けない。
 真のオールラウンダー、本当に何でも出来るなら兎も角な』

ルリはこう言うが、小さくとも丸いことは強さだ。
事実、ルリの今のアセンは対応力が低く無理を強いられた。
それでも否定するのは、ただルリの趣味に合わないと言うだけ。
我が強いのだ、こいつは。

『そういえば君のところのHMPはどうした?
 彼女の意見も聞いてみたいところだな』
78 :荒田シン [sage]:2014/05/12(月) 23:00:24.19 ID:Byyb7Hc/0
>>77
「うん、がんばって。それは憧れを惹きつける美しさのはずだから」

自分のそれは違う、とそういっている

「僕が目指しているのは、幼少期からの理想だよ。
僕にとって美しい女神であり、僕の嫁の体現。
まあ、ご存知の通り、普通の人にしてみるとかなり悪趣味なんだけどね」

具体的にどんな姿を目指しているのかを口にしないのは、想像させることによって不快感を与えたくないからなのか

「だから、そうだねぇ……ある意味では機能美が目的.なのかな?
うまく言葉には出来ないけど、少なくとも観賞用とは、また違う。動いてなきゃ、意味がないんだ」

後半の言葉は自分に言い聞かせているような
不気味な狂信の色があった

「なるほど、混乱させてがぶりと行くわけだ。
見た目からすると、確かにこっちのほうが似合って見えるね
ただ、発売して時間が経ってるからね。対策は十分すぎるほど取られているっていうのが、難しいところだね」

ヒットアンドアウェイよりも、ヒットからパワーと手数で圧倒するのがジャバウォッキー、ひいてはバンダースナッチだとシンは分析している
だが、発売して久しく、一斉を風靡したウィルスも対策済パーツが増えている
そうなれば、もう一手が欲しいところなのだろう

「本当のオールラウンダーは……あれは柳だよ。
いや、沼のほうがいいかな? こちらが何かをすればするほど、術中にはまってしまう……
何代か前のチャンピオンが有名だね。あの人は、ただ、恐ろしかったよ」

異様、と、そう評することしかできないプレイヤーだった
鉄面皮ではない。むしろ感情表現は豊かで……だからこそ、目に見えるそれに、心の隙間を犯される
あらゆる全てが計算尽くに思えて、なにを信じていいかわからなくなる
AIだけならば惑わされないかもしれない。だが、人機一体となって戦わなければならない最高位のファイトでそれは不可能といっていい
結果として人間というセキュリティホールから、彼はAIをハックし、勝利し続けたのだ
その時代も、今は過去だが

「もしかすると、彼のファイトから学べるものもあるかもしれないね。こと、トリックという点で、彼はあまりに恐ろしいから」

その姿を思い出したのか、肩を震わせたシンはルリの問いに笑みを浮かべた

「エリならクレードルでオーバーホール中だよ。アセンを考える時はいつもそうしているんだ。
あの子は今までの戦いを整理して、僕は身体を整えるってわけ」
79 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/13(火) 23:03:24.96 ID:C7jZIARTo
>>78
『なに、憧れなどどうだっていいさ。
 君もそんなものが欲しくてやっているわけではないだろう?』

【強さも、美しさも。
 周りがではない、自身が納得できる高みで
なければ。
 ……逆に言えば納得できるのであればどんな低いところでもいい。
 私はそんなところに甘えるつもりはないがな】

「子供の頃の理想を大人になって形にするって言うのは素敵ですね。
 そういうの、持ち続けられなかったので」

ものはどうあれ、自分は色々諦めてきた人間だ。
目的を落とさずに持ち続ける姿勢は眩く、妬ましく、憧れを持ってしまう。
だからこそ今の目的は追求していたい。

『物理的な状態異常よりも対策が容易だからな。
 思っていたよりも成果を上げられなかった。
 それでもヒット&アウェーでは面白くないから他の方法を模索中だが』

メタを外していてそれで負けを重ねたのでは笑えもしない。
そういう意味ではオールラウンダーはメタには入らず、しかしどんな環境でも渡りきるポテンシャルがある。

「あ、その人の試合、画面越しにですけど見たことあると思います。
 対戦相手の行動を尽く逆手にとって、自分が優勢な状況を積み上げていくような。
 ……もしかして、対戦したことあるんですか?」

その口振りはまるで近くでそのファイトを見ていたようだ。
対戦経験はなくとも、なにかの接点があったのかもしれない。

『しかしそんなファイターも今は頂を降りている。
 盛者必衰と言うが、回転の早い世界だ。』

『ほう、よくアセンに口出ししないでいられる。
 私はナオヒロと趣味が違うからな、任せてなど置けないな。
 なにせ実際に戦うのは私達なのだから要望もある』
80 :荒田シン [sage]:2014/05/14(水) 00:29:04.83 ID:0uWeKE3j0
>>79
「まあ、ね。でも、僕は俗人だからねぇ。
何かをデザインすれば、誰かに認めて欲しくなる。
……かといって、受け入れられやすいものは、あんまり書く気はしないんだけど。
それじゃ、ご飯は食べられないからね」

勿論仕事としてならば別だが、エリの制作はあくまでも趣味だ。
ならば、誰におもねる必要もない。

「んー、ある意味では強かったんだろうね。アレに依存していなくては立てなかったくらいには、弱かったんだとも思うけど」

夢というものは麻薬だ。適切に使えば本人を飛躍させるが、溺れれば何者にもなれなかった廃人になる。
その二つを分けるの意志と運だ。どちらが欠けても、夢は叶わないし、夢を捨て去ることも出来ない。

「面白く戦えるのが一番だよね。
実際はなかなか……泥臭くなっちゃうのが辛いところ」

人間、そこまで割り切れないものだ。
欲が出過ぎると面白くなくなると知っている。けれど、そうなったとき、その欲を満たせばまた面白くなるはずだと錯覚してしまう。

「いや、たまたま最前列のチケットが取れてね。まあ、あれでチケット運を使い果たしたみたいなんだけど……」

そして、打ちのめされた。恐ろしかった。
カメラによって切られていない、生の全身から伝わってくる何かが、あまりにも恐ろしかったのだ。

「まあ、使い果たしただけはあったよ。ナマで感じるものは、大事だ」

ふぅと、そこで一息ついてエリの話題

「その点は扱いやすい子だね。そろそろ、そういう欲求も出てきているみたいだけど……。
ただ、あの子も今の極端なアセンが勉強だっていうのは理解してくれているから、まだ言わないでいてくれると思うけど……どうだろうね。女の子は…子供はわからない。
まあ、一番言われそうなのはデザインかな」

その発言は、AI相手のものというよりは、自分の子供に対するような気配があった。
まあ、手塩にかけて仕込んだAIなのである。そんな感情を抱いているのも不思議ではないだろう。
81 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/14(水) 23:07:51.39 ID:xuqxuDRIo
>>80
『デザインの場合はファイトに置ける勝利のような指標が無いからな。
 個人で完結してはただの独り善がりになってしまうか。
 まあ、ファイトも一人では出来ないがな。
 高みは人々の上に、ということか』

【自己満足で悪いとは言わないが、それだけでは進めぬ道がある。
 というかこの男、商業デザイナーだったのか。
 それならば人に認められるのは文字通りの必須事項だな】

「夢に潰されずに立ち続けるのは簡単じゃないと思うんですよ。
 夢から乖離していく現実って堪え難いこと……ですよね」

挫ける度に何度となく縋り、そして見送ってきた夢の背中。
あの時はしがみつくのに精一杯で、立つこともままならなかった。
今ではもう、あれらが本当に夢だったのかは分からない。
時が経ち、あれらはもう俺の糧……になっているのだろうか。

『面白く戦う、か。
 面白く戦うとは何だ?
 自身の作戦を完璧に行うことか?
 相手を圧倒的に倒すことか?
 泥臭くとも勝とうとすることは、面白くない戦い方になるのか?』

【泥臭い戦い、というのは美しくはない。
 しかしそれと面白さは別だ、と私は思う。
 自身の全てを削り取るように、相手と自分の限界を越えていくように。
 そんな紙一重を重ねる戦いが、面白くない筈がないだろう?】

「目の前であの人のファイトを見たんですか!
 それは羨ましいですね、あんなレベルの高いファイターのファイトを生で見る機会そうないですよ」

【そんなに目を輝かせるな。全く、子供か】

『まるで教師……というよりは親か。
 父から娘が外れていくのは仕方のないことだろう。諦めろ。
 デザインは……』

【うむ、やっぱり仕方ないな】
82 :荒田シン [sage]:2014/05/15(木) 00:06:00.80 ID:Ho45dqvg0
>>81
「己の中に指標を作るなら、過去と戦うことになるかなぁ。いつだって、最新作が最高傑作でありたいものだけどね。
商業に限れば売り上げや人気投票だけど、広告戦略とかでこれも変わってくるからあんまりアテには出来ないかな」

やっぱり好みも大きいからね、と言いつつ

「まあ、人間(じんかん)で生きるならこればっかりはしかたない。ほどほどに気にして生きるのがいい。
勝った負けたも分かり易い指標だけど、溺れると違法改造してる人たちみたいなことになっちゃうからね」

結局、指標の置き方一つで見え方も変わってくるということだ

「そうだね。
現実は、放っておくとどんどんと夢を遠のかせていってしまう。だから、それを乗り越えて叶えた人を強いって言いたくなるのはわかるし、実際強いんだと思うよ。
でもね、夢を捨てることもまた強さなんだよ。
諦めた、折れた、妥協した。そうやって愚痴を言うのは簡単だよ。でも、他の何かを投げ出してまでやりたかったことだよ? それは、簡単に投げ捨てられるものじゃない。心の何処かに、燻ってる。
夢の残骸を見るのは辛いことだよ。恥ずかしいことだってたくさんしたはずだからね。けれど、その時にしたたくさんのことは、確実に血肉になってる。
いま、それは使っていないのかもしれない。でも、何処で点と点が繋がるかなんてわからないからね。案外、老後に芽吹くこともあるかもしれないよ」

そういって苦笑したシンは、頭をかいた
説教くさいね、と申し訳なさそうだった

「それは個々人によるからね。
もちろん泥臭くて面白いならいいんだ。でも、得てして執着の果てのそれは……面白くない。
まあ、人間的価値観だから、君たち戦闘AIとはまた違うのかもしれないね」

察することは出来る。だが、真なる理解は出来ないだろう
なにせ片方は生態なのだから

「最高に盛り上がったね、あの時は。ああいう体験を、またしたいものだよ。……ちょっと年寄りくさいけど」

たはー、と頭をかいて

「現実の娘は非情だからね。
洗濯物は汚物、臭いは悪臭。早く[ピーーー]ばいいのにとかさ。困っちゃうよ。はっはっは。
まあ、エリがそんなこと言うようになったらそれはそれで嬉しいけどね。ここまで来たかって感じがするよ」
83 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/15(木) 22:59:20.59 ID:wIrgSWq+o
>>82
『私も、HMPの身ながら何時だって今この瞬間の私が最高だとは言えないな。
 身体も精密部品の固まりであるから時々で機微はあるし、心理的な状況もある。
 しかしそれでも考えるのはナオヒロとファイトのこと位なものだ。
 気にすることが多くて大変だな、人間というものは』

【……私のAIは犬並か。
 …………いやいやいやいや。】

『しかし、私の存在は勝負のためだ。
 基準がそこになるのは仕方がないだろう。
 違法に溺れるかは個人の良識の問題だ。
 アスリートが全員ドーピングしているか、というと違うのと同じだ。
 誇りを汚して得るものに価値はない。どころか、自らを貶めるだけだ』

【HMPファイトをするために生まれて、勝負を基準にしない道理はない。
 勝負ならば勝ちたいのは当然で、そこにそこそこ勝つなんてものはない。
 この辺りの違いは人と私の埋めようのない差だな。】

「いえ、説教臭いだなんて。
 今は中々過去を振り返って直視出来ませんが、いつか見つめ直せれば」

夢だったものが過去から思い出になり、笑って話せるようになったら、それらは俺の中でなにになるのだろうか。
今よりは、その経験を生かせるようにはなりそうか。

『勝利への執着を捨てて、本気のファイトが出来るのか?
 勝たなくていいファイトなどあるものか。
 ……君の言うとおり、これは価値観の相違だな』

【今日は自分と人の違いを再認識する日だったのか。
 ……ナオヒロと私も、これくらい違うのだろうか】

「そうですかー。
 人にそれだけ言わせられるようなファイトが出来るって羨ましいですね。
 俺もそんなファイトを見てみたいですよ」

そして願わくば、観衆ではなく、当事者としてそこに。
ファイターとして立ち会いたい。
そんなファイトを演じてみたい。

『…………ん?お、なんだか不可解なことが聞こえたが。
 娘といったか?それが口振りからすると思春期か?
 ……一体幾つ若作りしているんだ、君』
84 :荒田シン [sage]:2014/05/16(金) 00:00:05.40 ID:Ho45dqvg0
>>83
「はは、そう言ってくれると助かるよ。歳をとってこうはなりたくなかったんだけど、なかなかままならないね」

人は教えたがるものだ。相手が望んでいなくても、そうすることがよいと思い込んでしまえば、ペラペラ話してしまう。

「本気、ではあるんだと思うよ。でも……苦痛なんだってさ。
食べ飽きるという感覚が近いんだろうね。まあ、あとそれほどの地位となると、期待も背負わなきゃいけないから。
美味しいと言わなきゃいけない食事は、楽しくないよ」

しかも、その期待を投げてくる連中はえてしてたった一度の敗北で掌を返す。
気にしないが一番だが、それが出来れば困りはしない。

「まー、それは大会予定をチェックして、チケットを申し込んで、いい席が当たるのを祈るしかないね。
自分がそこに並び立つなら、また別だけども」

誰にだって可能性はある。それを掴むのか、それとも捨てるのか。それは、本人次第だ。

「若作りって……家に引きこもって光をあんまり浴びないでいると、あんまり皮膚が老化しないものなんだよ。
日本でも北のほうに年齢不詳の美人さんが多いのはそれが理由だと言われてる」

日光によって肌は傷ついて、シミやシワ、弛みへと変わっていく。
そしてほんのささいな弛みなどに、年齢は現れるのだ。
それが恐ろしくてしかたないから、女性陣は必死に日光を恨み、弾き飛ばす科学を全身に纏うのである。

……結局年齢を言おうとはしないあたり、本当にいくつ鯖を読ませようとしているのか。

「まー、あれは思春期云々関係ないような気もするけどね。言葉に年々論理性が増してくるのは、一応の親として複雑なところだよ」

死んじゃえという稚気に満ちる言葉から、最近投げつけてくる論理的な文面への進化は、時の流れを感じさせる。
それが愛の言葉であれば、素直に親バカも出来ようが、内容が内容なので、なかなか褒めるわけにもいかない。

「……って、何の話しようとしてたんだっけ?」
85 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/16(金) 02:45:56.90 ID:akJ0X/nfo
>>84
『やはり違うな、私と君達は。
 私が生まれた目的は1つしかない故に、飽きなど無い。
 戦って勝つこと。
 それが存在の理由だからな。
 周りなどもどうだっていい。
 私達にはパートナーがいる。
 パートナーさえいるならば私達は崩れない』

ルリはこう言うが、相手の言うことも分かる。
食べ飽きるほどの感覚を味わったことはないが、好きでしていたことが義務になることの辛さは知っているつもりだ。

「チケット運悪くて、一度近くでそこそこ大きい大会があったときもすんごい席で……」

そこに立つことを想像することは口に出せない。
それに伴う実力のない今では口に出すのははばかられる。

『吸血鬼か、君は。
 見た目だけならナオヒロとそう違わないが、12から18くらいの娘が居るのだろう?
 紫外線を浴びないだけで何年時間を止めているのだ』

そうか、俺よりもうちの親の方が年が近いのかもしれないのか。
……そう考えるとなんだかすごい。

「あ、えーと……多分アセンについて、でしょうか?」
86 :荒田シン [sage]:2014/05/16(金) 11:59:40.84 ID:egaYWk4P0
>>85
「その力強さで、パートナーを支えてあげるんだよ。
今話したように、人は弱いものだから」

時にそれは不健全な関係になってしまうかもしれない
けれど、誰も隣にいないよりは、遥かにマシだ

「そこまで言われると、どんな席が当たったのか気になるなぁ……。
まあ、あれに関しては本当に祈るしかないからね。コネなりあれば、また別なのかもしれないけど」

規模が大きくなればなるほど、コネでもチケットは取りにくくなる
それに、コネで関係者席に詰め込まれて楽しいかというと、ものによっては物足りなかったりするものだ

「そんなどこぞの巨匠みたいなことはないよ。
まあ、あとはもともと老け顔でね。あれは顔の年齢を超えると、しばらく顔が老けなくなるから」

はっはっは、と笑っているが、若いころは老け顔で苦労したこともあるのかもしれない

「そうそう。なんでこんな話に……。
話を戻すと、君の場合は状態異常武器を持っているのがバレている、というのを生かしてみたらどうだろう
どうしても警戒して間合いに入りたくなくなるから、その時にもう片方の武器で穴を埋めてみたり、むしろそっちがメインだと錯覚させるのもありかもしれないね
使われない武器のことをいつまでも警戒出来るほどファイト中って余裕がなかったりするし、した場合はそっちに思考リソースを奪われるから、どうしても穴が出来る
そこを詰めていくようなアセンは、面白いんじゃないかな」
87 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/16(金) 19:55:22.42 ID:ZDV8lmG+o
>>86
『言われるまでもない。
 私達が崩れずとも、パートナーが崩れれば無意味だからな』

【所詮所有物だ。
しかしパートナーだ。
感情を解する、言葉を解する、共に歩む友として人間の良き隣人でありたい。】

「フィールグラムからちょっと遠いくらいで席自体はそんな悪いというわけじゃなかったんですが、前の人達がみんな背が高くて。
 両サイドの人が観戦中に熱くなる人だったのもあって全然集中して見れませんでした……。
 オペラグラスかなにかがあれば良かったんですが、会場販売もなくて。
 コネですかー…、頼れそうな知り合いは、うーん、いないような」

父も母もHMPファイトに興味はないし、その方面で知り合いはいないだろう。
会場関係者と知り合いなら可能性があったりするが、それも期待は出来なさそうだ。

『予め年をとっておいたという感じか?
 年をとる、という感覚は私にはないのでよく分からないな』

【古いパーツを使っている、とは違うだろうし、傷だらけのパーツというのもやはり違うだろう。
 なかなか理解しにくいものだ。】

「そうですね、やるなら偽装するか意識を誘導するのがベタってことになりますよね。
 以前のアセンでは後者を若干意識していたんですが、サブウェポンに怖さが足りなくて思ったような効果は得られませんでした。
 ……それに、相手のミスを待てる堪え性が無くって」

【なんだ、私のことか?】
88 :荒田シン [sage]:2014/05/17(土) 06:18:08.64 ID:epLeb4qc0
>>87
「それは……なんというか……」

観戦スタイルは人それぞれだが、そのせいで割を食う人というのはいる
ちょうど、目の前のナオヒロはそちらに分類されてしまうようだ

「あらかじめ年をとった、というよりは……新品なのになんだか古臭い感じのするパーツ、が近いのかな?」

パーツというのは使っていれば味が出るものだが、それを新品段階で持っているようなもの、が近いだろう
元々使っていたパーツには馴染むが、一皮剥くと、使われている技術は最新鋭のものだったりする
そんな外見とのギャップが、老け顔や童顔だろう

「まあ、サブはこれから詰めていけば良いんじゃないかな?
そうだよねぇ、罠師は、精神的に余裕がないと厳しいからね。
常に状況を俯瞰して、罠を仕込んで、時にはワザと露見させて誘導する……僕も堪え性がないから、一生出来ないと思う」

というか、シンのプレイスタイルは行き当たりばったりの作戦もクソもないものである
堪え性もなにもない
彼は動いているHMPが好きなのであって、勝ち負けは二の次なのだ
それをエリがどう考えているかは、また別の話だが

「ん……ん? ああ、そうか!」

と、唐突に唸り出した

「ん、あ、いや、いきなりごめん。ちょっとアセンが思いついてね」

話をしているうちに、閃くものがあったようだ
89 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/18(日) 00:51:21.44 ID:HfNoL3Gro
>>88
『成る程、ウェザリングか』

それはなんか違うだろう。
傷や汚しで経年表現をするウェザリングでは例えとして合わないと思う。
だからといってルリに分かりやすい、いい表現も思いつかないので黙っておくが。


『まず相手の戦力を正確に読めなければならない時点で相当難易度が高いな。
 私達は実力も知識もまだまだ足りていない』

「野良試合だと分からん殺しされることも多いしね……うん」

最近の試合の幾つかを思い出す。
どれも罠にかけるとか以前にイニシアチブを取られてしまっていた。
第一、取り敢えず突っ込んでパーツを削りながらチキンレースすることが多いの自分達だ。
お利口なファイトスタイルにはそうそう出来ない。

『こんな話の中でどんなアセンを思い付いたのだ。
 君の発想は私達と遠いものだ。
 良ければ後々の為に聞かせてくれないか?』
90 :荒田シン [sage]:2014/05/18(日) 14:57:58.52 ID:a7jRfX520
>>89
「ウェザリングとは違うけど……うーん、うまい例えが思いつかない……」

屈辱的な表情で、敗北宣言をする
こればっかりは一致する言語がないのでしかたがない

「知識かぁ……パーツの知識なら力にはなれるけど、戦術はなぁ。
似た系統のプレイヤーを見つけて、その人が出た大会の映像データを片っ端から買い集めて分析ってのが知識にするのは早いかなぁ。
それが実践出来るかどうかは……場数だよねぇ
場面のランダム生成アプリってあったはずだから、それで戦術作成のトレーニングとかも面白いかも」

知識だけあっても勝てないのである。こればっかりは、数をこなすしかない

「ノル・ラヴォスっていう、中〜遠距離で威力最大になる武器パーツがあるんだけどーーああ、エネルギーじゃなくて物理だからフライメックでも安心だよーーこれをサブで積めば距離を取られるのは潰せると思う
至近で食らうより、距離取った時の方がだいたい倍くらいダメージが変わるような設定にしてたはずだから」

ノル・ラヴォスはざっくり言えば手投げ槍の形をしたロケット弾である
しかし、その形状ゆえに、遠距離武器ではないという誤解を誘発刺させる
また槍頭と柄を繋ぐ部分にブースターが備えられているが、極めて目立ちにくい形状のために、ますます遠くまで飛びそうにない印象を与えるが、遠距離武器を名乗れるくらいには射程がある
またこのブースターのためのエネルギーは武器そのものが持っているため、武器としてではなく補助ブースターとして使い捨てるという使い方もあるようだ

「少しだけトリッキーだけど、まあ、バレたら普通の遠距離武器だから」
91 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/18(日) 20:44:46.86 ID:YysffEmCo
街の中の裏路地にある寂れたショップ。こんな場所でもHMPファイトは盛んに行われている。
たった一つしかない年季の入ったフィールグラムだが、ここは老若男女が楽しく戦う憩いの場…だったが、今日は何やら雰囲気が違う。

また一つ、悲鳴が上がった、情けない表情をしたファイターと、凄惨な光景に言葉も出ない観客の目線はフィールグラム内に釘付けだ。
夜の月が見下ろす古城をモチーフとしたフィールグラム内では、執拗な攻撃が続いている、それは誰がどう見ても最早戦闘とは言えない物だ。

《…意気込みは良かったが、こんな物か?》

フィールグラム内のHMPが低いボイスを流す。黒いボディと赤い各所のカラーリング、黒いマントと紅い槍を装備したその姿は正しく吸血鬼其の物といった禍々しいHMPだ。
紅い目を光らせたそのHMPの相手は、ボロボロになったHMP、最早戦闘続行はほぼ不可能に近く、辛うじて作動している状態だ。

「ケッ、雑魚ばっかりだな」

吸血鬼型のHMPのファイターもまた、退屈そうに呟いた。
チェーンまみれのパンクファッションに身を包んだ赤髪の少年、月見夜如月は呟いた後、自身のHMPであるブラッディヴラドに指示を出す

「ヴラド、終わらせろ」
《わかった》

指示の通りにブラッディヴラドは、相手のHMPを片手で抑え込み、もう片方の手で槍を構える。
周囲の制止の声も相手の悲鳴もまるで聞く耳を持たずに、次の瞬間にはHMPの串刺しがまた一つ出来上がった。
如月は、先程からずっとこうした戦いを続けていたのだ、次々に相手を見つけては、破壊寸前までいたぶって、それから倒す。
これで五体目、ボディパーツに孔が空いたHMPをブラッディヴラドが乱暴に放り投げ、それを拾いにいった相手を如月は冷たい目で見下ろし、こう言うのだ。

「…何だよ?何か言いてえのか?」
「…安心しろよ、ぶっ壊れちまったなら弁償してやるから、そのゴミよりもっと高くていい奴をな」
「睨むなよ、そう怒るなって。所詮玩具だろ?」

それは紛う事なき暴君のやり方、冷徹で酷薄な殺戮だ。
古城の中に立つHMPに新たに挑もうと息巻く者は未だ無く、それを察したのか如月も、つまらなさそうに溜息をついていた。

「…どうしたよ?俺を倒して正義の味方になりてえ奴はもういないのか?」

92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/18(日) 23:19:31.33 ID:V0MO6fyzo
>>91

如月と彼のHMPの、ヒールじみた振る舞いがそうさせるのだろうか。
かの吸血鬼型HMPに挑むファイターは、何れもみなギャラリーの歓声に背中を押されて戦いに赴く。
だがその度に、歓声は如月の無慈悲な所業に対する罵声に変わり、罵声はすぐに悲鳴に変わる。
やがてその悲鳴さえも止み、店内がしんと静まり返る。もはやこの店内には誰一人、彼に挑戦するものは無い。

『ご主人(マスター)、さっき買ったパーツなら丁度良いんじゃないですか?』
「あのなあ。いくら相手と相性が悪いからって、徹底的にメタった上で挑むんじゃ練習にならないだろう」
『水中戦型のゾイノイドだなんて、私じゃそうでもしない限り勝てませんって!ご主人聞いてます?』

「……初狩りで粋がってるだけってわけじゃ無さそうだな」
『ご主人?何を──』

そう思われた、その時だった。
店内のファイトに目もくれず、ショーケースに展示された海蛇型HMPを眺めながら、
ケースの中の自身の機体と何事か喋っていた少年──如月と同年代ほどか──が、ふとそちらに視線を遣った。
破壊されたHMP。そのファイター達の沈痛な表情。さも退屈げに溜め息を吐く如月。
ひとしきり観察を終えて、大まかに状況を把握したのか。小声で何事か呟くと、フィールグラムへと歩み寄る。
93 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/18(日) 23:33:12.89 ID:YysffEmCo
>>92

「………」

如月が、近付いてきた少年の姿に気付いたようだ、その少年の道を開ける様に分かれた人混みは、少年を『怖い物知らず』とでも言いたげに眺めている。
如月の表情は変わらない、右目が前髪に隠れたしかめっ面で、目の前に現れた少年を無言のまま見やるだけだ。

「…はん、命知らずがまた一人…ってか?」

「…来いよ、口だけの文句を言いにきた訳じゃあねえだろ?」

《………》

古城の中庭を彷彿とさせるフィールグラムにて、塔の上に立つHMP、ブラッディヴラドと共に、如月は少年を新たな挑戦者として挑発する。
一触即発のその空気に、周囲のオーディエンス達がどよめき、挑戦者の少年は何者かと騒ぎ出す。
94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/18(日) 23:52:46.30 ID:V0MO6fyzo
>>93

『マスター?ねえちょっと』
「命知らずって程じゃないだろう。ブルーローズに喧嘩売るようなわけでも無し」

ふん。と小さく鼻を鳴らして、少年は如月に応じる。
観衆へのリップサービスもそこそこにケースを開き、HMPをフィールグラム内の所定位置にセットした。
白い機体。揺れる白銀のマイクロファイバーが、赤い月光を弾いて輝く。
ライカンスロープ。タイプ、ヒュームボット/ゾイノイド。吸血鬼に対するは、人狼を模したEDEN監修の新型機。

「……そうだな、始めよう」

薄い笑みを浮かべて、思い出したように「良いファイトを」と付け加えたのは、
或いは如月のヒールめいたファイトスタイルに対する皮肉か何かだろうか。
己の主人が何を考えているのか知ってか知らでか、白い狼少女は小さく溜め息をこぼした。
95 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 00:10:28.59 ID:Vj2KeElMo
>>94

少年の言う『良いファイトを』の言葉に対して如月は鼻を鳴らす。

(───良いファイト?『良い』って、どんなだよ?)

この少年はそれを教えてくれるのか、いや、忘れてしまったそれを思い出させてくれるのだろうか?
僅かな期待と、「あり得無い」という諦めを胸に、如月は相手のHMP、ライカンスロープに目を移す。

《…主、あの機体は》
「…ケッ、ライカンスロープなんて巫山戯た機体使いやがって…」

ライカンスロープの機体データは、如月もしっかりと知っている、相手がチューンをしていないとするならば、相性は悪くは無い筈だ。
ブラッディヴラドが塔の上から降り立つと、平坦な中庭に機体が対峙するようになる、広くも狭くも無い地形に、四方を兵に囲まれた立地だ。

「ヴラド、いつもとやる事は変わらねえ…やれ」

如月が端末から指示を出し、ブラッディヴラドが動き出す…とは言っても、二つの足をしっかりと地に付けた歩行でだ。
右腕のマントで体を覆うようにしながら、舐めてるのかと思う程に優雅に歩行する、しかし敗れて行った者たちはこの歩行こそが恐怖であった。

罠か真か、迷いあぐねて接近を許してしまえば、中距離からの槍の刺突がライカンスロープに襲い掛かるだろう。
血が染み込んだかのような槍は軽く動作速度は早い、その上この槍には突いた相手からエネルギーを吸収する効果まで付随している。
96 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 00:16:16.24 ID:Vj2KeElMo
>>95
/四方を兵に囲まれた×
/四方を塀に囲まれた○
97 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/19(月) 00:43:54.39 ID:DBWGoaEbo
>>95

少年のライカンスロープにはカスタムが施されていたが、それは至ってシンプルなものだ。
背部……人間で言う両の肩甲骨の辺りにジョイントが増設され、そこから短い可動肢が伸びている。
二つの可動肢に接続されているのは、銃身の短い、見慣れない型の二連装砲だ。
走行時のバランスを殊更に考慮してでもいるのだろうか、スタビライザ内蔵のテールは純正品より一回り大きかった。

「ふざけた格好はお互い様だろう。ファイターとHMP、足して2で割ってとんとんだ」

どう見ても、追加バッテリーなどを積んでいるようには見えない。
ライカンスロープのバッテリーはボディのサイズに見合わない高効率を誇るが、
それでも容量は平均水準、中の中と言ったところ。
射程外からエネルギーを馬鹿食いするクローを往なしつつ、吸収効果付きのランスを打ち込めるヴラドとの相性は、悪い。

「ルゥ、挨拶代わりだ。土手っ腹に一発見舞ってやれ」
『はい、ご主人──!』

もっとも、それも彼我の運動性の差にさえ目を瞑ればの話だ──
とばかりに、ライカンスロープは姿勢を前傾させた。槍の穂先が左肩を掠め、装甲を浅く抉って抜けてゆく。
人工筋肉をフル稼働させ、地を強く蹴って跳躍。低空ジャンプから拳を固めて、繰り出すのは大振りな右ストレートだ。
狙いは宣言通り、ボディパーツ。カウンターで相手の意表を突く事を狙い、
派手な駆動音を立てるクローは敢えて起動しない。

(……バッテリー残量の減りが速い。あの槍、エネルギーを吸収するのか?)

二つ返事に駆け出したライカンスロープとは対照的に、DVNOを見つめる少年の表情は険しかった。
98 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 01:07:27.23 ID:Vj2KeElMo
>>97

《………》

マントの脇から突き出した槍の効果は浅い、深手を負わせるまでにはいかなかったが、それでも十分だ。
元よりこういうやり方が如月の戦い方だ、トドメの一撃は最後の最後までとっておき、それまではひたすら生かさず殺さず、じわじわとエネルギーを削って行く。
実際、ブラッディヴラド自体もそれに伴った性能をしている、所謂『待ち』の戦法が得意なのだ。

ライカンスロープの拳がブラッディヴラドのボディに入る、槍を突き出した後で引き寄せる必要があり、マントでの防御は間に合わなかった。
だが、ライカンスロープの一撃は、その威力と衝撃とは裏腹に、ブラッディヴラド自体の立ち位置はピクリともしていない。
あれ程の衝撃だが、吹き飛ぶどころか後ずさってすらいないのだ、まるで柱に拳を突いたかのように。

「…舐めんなよ、その程度でヴラドが動くかよ」
《……ッ》

ブラッディヴラドの脚部パーツ、『ロードウォーク』は、まるで獣脚のように開いた足と巨大な爪を持つパーツだ。
このパーツ、運動性能は低く跳躍やダッシュは苦手だが、その分だけ握力が非常に高く安定性が高い。
確かにボディに一撃をくらったのは安くないダメージだが、この距離ならばそう攻撃を外したりはしない、これはブラッディヴラドが最も得意とする待ち戦法の一つ。

《緩いわぁッ!!》

低い男のボイスを響かせながら、自身に拳を突き立てているライカンスロープの胴体目掛け、左のアームで短く持った槍を突き出す。
消音性に優れるパーツが多いブラッディヴラドの攻撃は、音を立てずに、しかしそれでも当たれば確かな効果を生み出す。
99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/19(月) 01:39:58.06 ID:DBWGoaEbo
>>98

『ご主人!』
《怯むな、効いてる。吹き飛ばないって事は、衝撃を後ろに逃がせないって事だ》

手応えはあったが、倒れる気配はまるで無い。まるで大木だ。今度はライカンスロープが血相を変えて、主人へと指示を仰いだ。
待っていたと言わんばかりに、DVNOを介してアドバイスのメッセージが送られる。
敵HMPはワンオフ機。それ故に情報面でのアドバンテージは相手にあるが、恐れていては始まらない。

(戦術は待ち主体。火力、運動性は低いが、間合いに入った相手への反応性は頭抜けて高い)
(そしてあのエネルギー吸収……メタゲームの一角を占める近接高速高火力の速攻型HMPに対するメタ機、と見る)
(あのマントは防具か?だとしたら随分薄っぺらだな。衝撃には弱そうだ)

「当然その分、パーツへの負荷も高い……ルゥ、お前の持ち味は何だ?」

ゆえに少年は、静かに状況を観察する。この一合で得られた情報を、最大限に活かすために。
刹那の黙考。下した結論は至って単純。
ライカンスロープの持ち味の一つ──極限の運動性を以てして、削り殺される前に、叩き潰す。

『……そう言う貴方は、遅すぎますっ!』

空いた左手から、微かな破裂音が響く。圧搾空気が弾ける音。
左腕部ワイヤーアンカー──狩人殺し(ハンターキラー)の、射出音。狙いはこちらから見て左方、そう遠くない地面。
着弾と同時に一瞬だけホバーを起動。スラスターを吹かしてウインチを巻き上げ、左側に倒れ込むように槍を回避する。
回避からやや遅れ、相手の突き出した左手を掴むべく、ライカンスロープ右手が天に掲げられた。

相手を掴んでから、ゼロ距離でクローを起動して握り潰すのが狙いだろう。単純ゆえに凶悪な攻撃だ。
100 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/19(月) 02:01:14.23 ID:/KhoPnvVo
>>90
『思いついたら教えてくれ。私としても新たな理解を得るのは楽しみだ』

なんだか怖い顔の相手と対照的に、ルリの声色は楽しそうだ。
ルリは結構こういうところがある。
自分に分からないことがあるだけ世界の広さを感じるとか何とか。

『何の因果かワンオフやレア機に当たることが少なくなくてな。
 こちらの戦術が裏目になることも多く、やはりそもそもの経験が足りないのかもしれない。
 誰かに焦点を当てて対策を組むより、まずはデータベースとの一人回しを行った方が良いかもしれないな。
 GWも開けて、今がいい時期だろう』

大学生の余りある時間を使えば、人の少ない、本来ならHMPファイトに向かない時間帯を有効使うことが出来るはず。

「成る程……ルリ、こういうパーツみたい」

早速ブツを検索、ルリと共に閲覧する。
……これは中々、簡単なパーツではなさそうだ。

『少しだけトリッキーと言うが、同時に結構リスキーだな。
 接近戦ではあまり役に立たないが、相手に誤認させるには接近戦に持ち込むような立ち回りが必要だ。
 一発撃ちきりというのもメインウェポンに据えるには頼りない。
 ……しかし、サブウェポンといては使えるな。
 ブースターとしての利用も私の推力を補強する手段として悪くない。
 いっそ弾頭は《ズィーク》の穂先なんかと換えてしまうのも手か』

アドバイスを貰っておいてこの口振りである。
自分の愛機ながら、まるで自分と似ていない……と思う。
男性に謝りながら、諫める意味でルリの頭を指で突く。
101 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 02:12:57.35 ID:Vj2KeElMo
>>99

「………」

少年に対して、如月は何も語らず、ジッと少年と戦場を交互に眺めている。
この状況を見るのは、何も戦場だけが情報源ではない事を如月は知っている、相手の機体と戦い方だけを見ては勝利はこないと。

(…気付き始めたか?つーか、こんだけやりゃ気付くよな)
(んじゃ、精々それを狙って攻めて来い、好きなだけな)

これだけわかりやすい戦法を何度も何度もしていれば、当然ながらそれをメタる者もいたし、相性が悪い相手もいた。
だが、それでも如月は勝ってきたという自信がある、相性だけが戦いではないと証明してきた。

「…遅いってよ、ヴラド」
《ううむ…!》

体を張ったカウンターをも回避されたが、確かにエネルギーは削っている、高速戦闘機体に対してはこういった小さな積み重ねは基本となる。
後は、如月のエネルギー容量の計算があっているかどうかにかかっている、まだまだ戦いは始まったばかりだ。

《ならば…捕らえるのみだ!》

ライカンスロープが伸ばした右手が、ブラッディヴラドの左腕を掴もうとする…が、ライカンスロープの反応が素早いのなら、それを途中でやめることも出来る筈だ。
ライカンスロープがもしブラッディヴラドの腕を掴んでいたのなら、同時にブラッディヴラドもライカンスロープの右腕を掴んでいる、その、右足で。
右足の握力は近接機の握力に劣らない握力を持ち、ライカンスロープがそうするのと同じく腕を握りつぶそうと力を込めて来るだろう。
お互い、そう簡単には腕が壊れたりはしないだろうが、そのまま続けるなら単純な力くらべとなる。
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/19(月) 03:06:24.95 ID:DBWGoaEbo
>>101
五指に内蔵されたクローは、一度解き放たれれば超高出力の高周波振動による衝撃を対象に叩き込み、
殆どのHMPのパーツを容易に破断しうるだけの威力を持つ。力比べなどするまでもなく、どちらのパーツが先に破壊されるかは自明だ。

『取った──!』
「いや、深すぎる。引け!」

クローの持ち主であるライカンスロープは、それを誰よりよく知っているがゆえに、その威力を過信し。
そして、右腕を捕らえられた。

アームパーツ、スコル&ハティは超高出力のアクチュエータが生み出す振動に耐えるべく、
ライカンスロープのパーツの中でも飛び抜けて頑丈に設計されている。それでも、何れ限界は来る。
純正ヒュームボットと四脚獣型の可変機とでは、アームパーツの重要性が違う。

(……的確だな。中々どうして、らしからぬ実力派だ。直接振動に晒される前腕じゃなく、二の腕を狙ってきたか)
(前腕部ならアームガードをパージすれば容易に離脱できたが、これではな。……僅かに強度に劣る上、抵抗もしにくい)

『ご主人、申し訳──』
「反省は勝ってからだ。前を見ろ」
『っ、了解です!』

フィールドに響く甲高いハム音は、さながら狼の遠吠え。相手の左腕をしっかりと捉えた五指が、高速で振動を始める。
月と太陽を喰らう、双子の狼の片割れ。ライカンスロープの主武装たる超振動クローが遂に封印から解き放たれ、
標的の装甲を削り砕いてゆく。代償に動きを封じられ、その右腕をみしみしと凄まじい圧力に軋ませながら。
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage]:2014/05/19(月) 03:13:27.22 ID:DBWGoaEbo
//>>102の「純正のヒュームボットと四脚獣型の可変機では〜」のくだりですが、訂正です
//「そして純正のヒュームボットと四脚獣型の可変機では、アームパーツの重要性が違う。一対一の交換では、損なのはこちらだ」
104 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 03:31:20.15 ID:Vj2KeElMo
>>102

《く…腕を破壊する気か…!》

「…ライカンスロープ機のアームパーツの内蔵装備か、こりゃ力負けするな」

ライカンスロープの初期装備であるアームパーツの内蔵装備の威力、噂には聞いていたがこうして使われるのは初めてだ。
だが、一目見て如月はわかった、このままではブラッディヴラドの腕が潰れるのが先だ、いくら足の握力が高くとも相打ちにまでもいかない。
如月の指示は、自分の優位を秤にかけて、冷徹に行われる。

「ヴラド」

「腕、捨てろ」
《うむ!》

次の瞬間、ブラッディヴラドの左腕が、根元からまるごとパージされる、それは何の躊躇いもなく当然のように、ブラッディヴラド自身すらもきっぱりと左腕を切り捨てる。
ライカンスロープの攻撃対象はいとも簡単に本体から離れ、それと同時にブラッディヴラドは身を捻った。
軸足にした左脚のグリップ力は凄まじく、まるで公園の遊具が如く、ライカンスロープの体を振り回し、地面に叩きつけながら擦り付けようとするだろう。

「…まさか、ヴラドにこんな付け焼き刃みたいな行動をさせるとはな」
「いいぜ、お前はただの雑魚とは違うって認めてやるよ」
「俺は月見夜如月、お前も名乗れよ、戦の作法って奴だ」

ここで如月は、少年に対して興味を示したかのように話し掛ける。
今までつまらなさそうにしていた表情には凶暴な笑みを称え、楽しそうに名前を問うた。
これは即ち、如月が少年を明確に敵と認めた、その証明だ。
105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage saga]:2014/05/19(月) 04:36:10.61 ID:DBWGoaEbo
>>104

握り潰した腕の手応えが、軽い。標的が即座に左腕をパージした事を悟り、ライカンスロープはアクチュエータを停止する。
このHMPは相手の次の行動を予測できない程の考えなしではないが、しかし、ヴラドと如月の連携に追随するには一手遅い。

『きゃあ!?』

凄まじい力で地面を引きずり回され、足と言わず胴と言わず、耐久度が速いペースで削れてゆく。
今更腕部をパージしたところで、恐らくは慣性に従って地面に叩き付けられるだけだ。
四肢の一つを失えば体重制御にも少なくない影響があるため、受け身を取ってダメージの軽減を行う事さえできないだろう。

《スクランブル・マニューバ》

先ずは態勢を立て直す事を優先すべきだ。そう判断した少年は、何事かDVNOにメッセージを打ち込んだ。
次の瞬間。パブロフの犬めいてライカンスロープの脚部が駆動し、スラスター出力を全開にして地面に足を踏ん張った。
それでも尚殺し切れない衝撃を殺すべく、背部可動肢が動く。AMBAC等という生易しいものではない。
ライカンスロープは背負った砲の砲口を後方地面に向け、最大出力で衝撃波を投射したのだ。
本体出力に影響しない近接防御火器兼、緊急加速用のブースター。
フィールドシューターの反動の強さを逆手に取った、合理的なカスタムの成果であった。

『……まだ、まだです。まだ、戦えます。私は、私のご主人は、誰にも負けない正義の味方なんだから──!』
「後半には同意しかねるが、まあ、そういう事だ。仕切り直させて貰ったぞ」

「千里(せんり)。藍澤 千里……中々どうしてやるじゃないか、如月。」

かくして立ち上がり、血を吐くようにして吼えるライカンスロープ。
対して、DVNOと戦場とを目を細めて観察しつつ、淡々と名乗りを返す少年。

如月は、或いは周囲のギャラリーは、その名を知っているかも知れない。
もう十年近くも前に近接特化仕様のナインテイル≠駆って公式大会の最年少レコードを塗り替えた選手の名を。
106 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 05:11:57.29 ID:Vj2KeElMo
>>105
「…ははっ!おいおい、砲撃ってのは地面に撃つもんじゃあねえだろ?」
「そのままぶっ倒れてりゃまだよかったのによ…」

ライカンスロープが体制を無理矢理立て直すのを見ながら、ブラッディヴラドはパージした左腕から槍を引き剥がす。
右腕パーツのマントは腕そのものに装着されている為に右手で武器を持つ事も出来る、しかしこれでは防御と攻撃が同時に出来ず、またその二つの動作間に若干のもたつきが出来てしまう為に、あまりいい状態ではない。
如月は、ライカンスロープの対応動作の予想外の動きを楽しむように声を高くする、さっきまでつまらなさそうにしていた彼は、明確な敵を見付けた今、とても楽しそうだ。

《…ほう、大した忠犬ぶりだな、貴公》
《だが我輩とてそれは同じ…主が久方振りに笑っている今、隻腕とて倒れはせぬぞ!》
「ああそうだぜヴラド…こんな楽しい戦いは久しぶりだ!何としてもぶっ倒すぞ!」

「…その名、聞いた事がある…クク、そりゃそうか、やる筈だぜ」

千里という名前を如月は知っていた、HMPファイト歴はそう長くは無い物の、著名な者の名前くらいは知識として仕入れている。
最年少レコード保持者、そんな奴が相手となれば、それは周囲の人間とは違う筈だ、楽しい筈だ。
冷め切っていた心にまた火が灯っていく、昔のように純粋に戦いを楽しめそうな、そんな気が───

した、と、思っていたのに。

それは、誰のせいでもない、言ってしまえば自業自得であった。
観客の中に何人か千里の名前を知る者がいた、彼等を発端に観客のボルテージは広がって行き、ついには大きな歓声と、声援が湧き上がるようになった。
それと同時に、如月に対するブーイングもまた湧き上がる、当然だ、HMPをボロボロにしてきたクラッシャーと、それを止める元最年少レコード保持者という構図なら、誰が応援されるかなんて決まっている。

「───………」

応援して欲しかった訳じゃない、ブーイングされないと思っていた訳じゃない、わかっていたのに。
それでも、そのアウェイな空気に浸されて、如月の笑顔は一瞬にして曇り、そして思い出す…自分は、所詮ただのヒールだった事を。
如月は、つまらなさそうなしかめっ面をして、鼻を鳴らした。

「ヴラド、構えろ」
「…先手はくれてやるよ正義の味方、精々カッコいい必殺技でもだしてみな」
《……主………》

指示通り構えたブラッディヴラドと、攻撃を誘う如月、隻腕のブラッディヴラドには最早先手を取る余裕も無いのか、もしくは諦めたのか。
勝負を捨てた見るにはまだ早いかもしれない、確かに如月は楽しくなさそうな雰囲気に戻ってはいるが、しかし、そうであったからこそ冷酷な判断を今までしてきたという事を忘れてはならない。
何かを企んでいるのは間違いないが、しかし如月からは既に覇気が、『戦う』という意思が消え失せていた。
107 :荒田シン [sage]:2014/05/19(月) 11:24:09.29 ID:JGz19BRd0
>>100

「ただひたすらの修練だね。地味で辛いけど、効果は確実に出るはずだよ」

ただ、だからこそやらないものもいる
先の見えない修行は、なんとも辛いものなのだ

「ははっ、手厳しいなぁ。でも、人間には先入観っていうのがあるんだ。
そこをつくためのコンセプトだよ。まあ、それに単品で評価出来るほどのものを作ったつもりもないしね」

これを標準装備しているHMPがトリックスターであるという話だ
近接武器のイメージを持つものが遠距離で、遠距離武器のイメージを持つものが近接武器というひねくれたHMPだったのだ
ゆえに、その装備は全て揃わなければきちんと評価は出来ない

「ま、役に立ってくれれば幸いかな。たしか、そんなに数も出てなかったはずだから、初見殺しは結構狙えると思うよ」


108 :藍澤 千里 [sage saga]:2014/05/19(月) 21:50:38.56 ID:DBWGoaEbo
>>106
元は壊れたHMPの姿を見ていられずに始めたファイト。
しかしギャラリーの声援を背に受けた千里は、不思議と無感動だった。

「そうか。先手は譲ってくれるのか」
『ご主人……。』

幾らヒールを演じているとは言え、手ずからワンオフ機を作成するほどにHMPに入れ込んでいるファイターが、
他人のHMPをゴミ呼ばわりは宜しくない。思うさま叩きのめしてそう一言言ってやるつもりだったが、
今では何かが心の隅に引っ掛かっている。月見夜 如月。その名前に聞き覚えがあったのだ。
それでも相手が只の卑劣漢だったなら。違法改造や不正行為を厭わない、真性の悪党だったなら。
違和感を無視し、ライカンスロープに、クローを振るって眼前の敵を叩き潰せと命じただろう。

だが、目の前の相手は違う。自分の中のファイターの勘とでも言うべきものが、そう告げている。だから──

「なら……ルゥ。変形して180゚回頭。一定の距離を保って目標HMPの周囲を走り続けろ」
『は、はい?』
「バランサーをカットして、機体制御をフルマニュアルに。装甲はデッドウェイトだ、速やかにパージ」
『え、ちょっと待って下さいご主人。何を?』
「戦わずして勝てると言っている。良いか。お前の四肢には高効率圧電素子が組み込まれている」
「装甲と全追加装備をパージし、セーフモードに限りなく近い状態で走行すれば、エネルギーの収支はプラスになる」

千里は冷ややかに、相手のバッテリーが切れるまで逃走しろ、との指示をライカンスロープへと下し、
「これが俺の必殺技。お前に対する必勝法だ」とうそぶいた。
確かに圧電素子が組み込まれているのは本当だが、言っている事はまるで出鱈目。
故にこの場で唯一それを知っているライカンスロープは、棒立ちで呆気にとられた表情を隠しもしない。

この指示によって熱狂しているところに冷や水を浴びせられたギャラリーが、にわかにざわつきだす。
それもその筈だ。藍澤 千里というファイターは、生まれついての正統派(ベビーフェイス)として知られる。
相性や技術の差による窮地を、咄嗟の機転とHMPとの強い絆で覆す、大衆受けの良い魅せるファイトスタイルは、
効率を最重要視し、勝つためならば手段を厭わない──そんな意志を感じさせる今の少年の言動とは、てんで真逆なのだ。

ギャラリーの一部はその背中に疑念の眼差しを浴びせ、酷いものになると「騙りか」「そっくりさんじゃないの」等と、
心ない言葉を投げかける始末。千里への声援と如月へのブーイングは、その分だけ弱まった。

(……同情したわけじゃないぞ、如月。ただ、勝つって気概の感じられない、その眼付きが気に食わないだけだ)
(さあ、雑音は黙らせた。逃がさないぞ悪党、微温いお遊びなんて許さない。食い付け、そして死ぬ気で掛かってこい……!)

さっきまで応援しておきながら掌を返すものには、取り合おうとする素振りさえ見せず肩を竦めて、口の端を上げる千里。
彼の必勝法が出鱈目だと気付かずとも、直接相対する如月には分かる筈だ。醒めた言葉とは裏腹に、彼の目に燃える熱い炎が。
あの長口上は、勝利宣言でもなければ如月を庇ったものでもない。挑発だ。

//レスった傍から寝落ちてました、面目ない……
//そして>>92で取得したキセキポイントを早速挑発に使用します
109 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/19(月) 22:13:59.78 ID:/KhoPnvVo
>>107
『コンピュータ戦は味気ないが、やらねばいつまでも辛酸を舐めさせられる。
 より素晴らしいファイトの為だ、やってやるさ』

本当にルリはストイックだ。
いや、ただファイトが好きなだけかもしれないが、それでも頼もしい。

『作った?君の作品のものなのか?
 成る程、気を悪くしたならすまない。
 歯がないので着せる衣もなくてな』

あっけらかんと言うルリの頭部にでこぴんを叩き込む。
ルリは間抜けな声を上げて転倒するが、すぐさま立ち上がった。
そのまま抗議の声を上げているが、無視だ無視。

「初見殺しは勿論、単純なロケットランチャーよりも応用が利きますし戦術の幅が広がりそうです。
 単純に、防御力も補強できるのもいいですね」
110 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/19(月) 22:47:07.48 ID:Vj2KeElMo
>>108

《……これは…!》
「………」

追い付けないスピードで逃げ回り、エネルギー切れを狙った戦法、最後の最後、あと一撃といったタイミングでのこれだ。
それに対して納得がいかないのは観客だけではない、如月とブラッディヴラドも困惑した。
だが、如月は既に勘付いたようだ、これは千里の言う必勝法などではない、と。

「…ざけんじゃねえぞ……」

「ふざけてんじゃねえぞ藍澤ァ!!」

如月は千里のやり方に、ついぞ声を荒げて怒りを露わにする。
その声に観客は一瞬震え上がり、静まった中で如月の怒りは声となり続いていく。

「わざわざ装甲を捨てて逃げゲーだぁ!?ンなもんどいつもこいつも望んじゃいねぇんだよ!」
「てめぇがやるべきはそうじゃねえだろうが!俺をカッコ良くぶっ倒してめでたしめでたしじゃねぇのかよ!!」
「バカにしやがって!てめぇに譲ってやるのはやめだ!」

「ヴラド!」
《ああ!》

如月のその目には、千里のような情熱の炎ではないが、怒りの力でも確かにやる気を生み出すに至る。
吠えるように指示を出すと、ブラッディヴラドもそれに応えて動き出す、棒立ちのライカンスロープに向かって駆け出した。
いくら運動性能が低いとはいえ、ただ真っ直ぐ走るだけなら出来る。
ブラッディヴラドはそのまま、ダッシュのスピードを乗せて槍をライカンスロープの胴体に向けて突き出した。
111 :荒田シン [sage]:2014/05/19(月) 22:49:16.02 ID:JGz19BRd0
>>109
「構わないよ。君のそれくらいで気分を害するなら、商業デザイナはやっていけないしね」

匿名のレビューは辛辣だ
時に人格否定すら伴うアレに耐えられなければ、やっていくのは難しい
フリーランスならばなおのことだ
誰も、守ってはくれないのだから

「実際受けが悪くてねぇ。こういう遊びはインディーズじゃなきゃ危ない危ない
友達にも言われたよ、ターゲットが狭すぎるってさ」

はっはっは、と高笑い

「見栄えと保持方法の兼ね合いの結果、盾をつけることにしたんだけどね。
絵巻にあるような背負うのもよかったんだけど、こうしたほうがいいかなって」

ただの槍、という感じは薄くなったが携行数は増えた
同時に装備との干渉も起きてしまったが

「アセンによっては翼と干渉するから、そこは気をつけて」
112 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(長屋) [sage saga]:2014/05/20(火) 00:29:07.26 ID:oRfSiKVco
>>110
声を荒げ肩を震わせて怒る如月に対し、怖じ気づいた様子もなく、ふん、と小さく鼻を鳴らして、千里は告げる。

「譲ってやる、だ? ハナから勝つ気の無いファイターの予定調和に付き合わされて」
「そんな後味悪い勝ち方に、俺と俺のHMPが満足するとでも思ったのか?」

『(……ああ、そういう事だったのですね、ご主人)』

突如始まった両者間の煽り合いに、混乱を通り越して凍り付くギャラリー。
一方、再び開幕のように静まり返った場内の様子に、戸惑うばかりだったライカンスロープもようやく全てを察したようだ。

「嘗めるな。そんな糞ゲーはこっちから願い下げだ。……なあ、ルゥ?」
『ご主人の意向とあらば』
「それでこそだ。クローとホバーの起動が一回。EN残量にはまだ余裕があるだろう。許可する=v

向かってくるブラッディヴラドに対し身構えつつ主人に答えて、それから、何事か横目に目配せする。
それに応じて、千里。端末を操作し、DVNOの立てる警告音を無視してパッドを叩いた。
ライカンスロープのカメラアイが、不吉に煌めく。内蔵スピーカーから漏れ出す、言葉にならない唸り声。

「……俺達がやってんのはHMPファイトだ!ごっこ遊びじゃねえんだよ、月見夜ァッ!」
『────────ッ!!』

これまで一貫して冷静に振る舞い、HMPに作戦を提示し続けてきたファイターが、
事ここに至り遂に気焔を上げる。それに共鳴するように、人狼が吼えた。
姿勢を前傾させ狼の上顎と下顎を模したフェイスガードを噛み合わせ、読んで字の如く騎兵槍の穂先を食い止める。いや、止まらない。
ならばと両腕を振るい、挟み込む──いや、挟み潰すようにして槍身を掴み、更に勢いを削ぎ落とす。まだ止まらない。
ならばと槍の穂先を咥えこんだまま、上体を後方に大きく反らす。突進の勢いを逆用して相手を持ち上げ、後方へ投げ飛ばすつもりなのだ。
人工筋肉の叩き出すトルクをフル活用した、正しく獣じみた荒業である。

もし相手が槍を突き込む手を引いたなら、今度こそ単純な力比べをする格好になるだろう。
また、投げ飛ばされる前に槍だけを手放したなら、ライカンスロープはヴラドの目の前で
丁度ブリッジのような態勢になり、大きな隙を晒す事となる。
113 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/20(火) 00:49:03.21 ID:KiNGhmFwo
>>112

「……ッ!ヴラド!止まれ!!」
《ぬぅ……っ…!》

ブラッディヴラドの勢いに乗せた突進を、人狼の大顎が噛み付き、掴みかかり、勢いを噛み殺していく。
それでもまだ止まらないが、如月はいち早くライカンスロープの狙いに気付いた、すぐさまブラッディヴラドに指示を出すと、ブラッディヴラドも地面に爪を食い込ませブレーキをかけた。

(まずい…このまま槍を離しゃスカせるが、そうしたら深手を負わせらんねぇ…)
「ヴラド……!」

《…これしき!!》

隻腕により出力が落ちるが、それでもフットパーツの力を最大限に上げ、持ち上げられるのを阻止するブラッディヴラド。
なんとしても槍を捨ててはならない、しかしただの力比べには向かない機体だ、搦手を使うにもそこに回す隙は無い。
それでも、ブラッディヴラドは何も言われずともその行動を選んだ、全ては主人の為に、戦いの楽しみを思い出して欲しいから。

「…ヴラド!」

ただ、名前を呼んでやるしか出来ない、この状況を打破する策が、思いつかない。
負けたくないと思っているのに、なのに、冷静に働く頭は冷酷にその事実を予測していた、それが如月自身、どうにしたって赦せなかった。

《……ぐ……ゥゥゥゥゥゥ!!》

勝敗がついたのは一瞬だった、余りの力に耐え切れなくなったブラッディヴラドのアームパーツが悲鳴を上げたかと思うと、ブラッディヴラドの機体はそのまま投げ飛ばされていた。
拮抗していた力が急激に弾けたせいで、その力は暴走し、投げ飛ばされたブラッディヴラドの機体は思い切り城壁に叩きつけられる。
壁から崩れ落ちるブラッディヴラドの機体と、機体の限界を知らせるDVNOをぼんやりと見つめ、如月は俯き歯噛みした。


「……俺の負けだ」

シンとした店内の中で、悔しさを含む如月の声が、響き渡る。
114 :藍澤 千里 [sage saga]:2014/05/20(火) 02:32:10.64 ID:oRfSiKVco
>>113

(……こうなったからには、ルゥは俺の指示に耳を貸さない)
(DVNOから遠隔でサブAIを強制停止するにしたって、その際には少なからず隙ができる。さあどうする、考えろ)

ボディパーツのサブAIを起動し、月の狂気(ルナティック)に中てられた人狼は、眼前の敵を打ち倒す為だけに全力で駆動する。
今の彼女にとって、その他の全ては些事に過ぎない。狂乱する人狼の手綱を握るのは、彼の──ファイターである千里の役目だ。
重心を据え、渾身の力でヴラドを持ち上げんとするライカンスロープを見つめながら、彼はただその時を待つ。

(敵機が踏み留まったら──続行。吸収の徴候が有るかエネルギーが危険域に達するかしたら、隙を見て停止)
(ランスを手放したら──即座に停止。ホバーで跳躍、尾部ブレードを起動して切り付けつつバック宙で距離を開ける)
(敵機が仕込み武器かそれに類するギミックを使ったら──先程のダメージが波及、右腕ないし脚部にガタが来たら──)

脳裏で想像しうる事態に対する対応策を十重二十重にも巡らせながら、ただ、待つ。
間を置かずDVNOから警告音。エネルギー急速に減少。危険域。パッドをスワイプ。緊急停止ボタンに指を掛けつつ状態確認。
フェイスカバー内部にランスによる損傷。原因はこれか、と合点──ブラッディヴラドの見せた執念と言うべきだろう。

(……潮時か?)

そんな思考を経て千里が状況に見切りを付け、補助AIを停止すべく指を動かそうとしたその時。
不意に、先程のライカンスロープの言葉が脳裏をよぎった。
誰にも負けない、正義の味方>氛沁ゥ分が疾うに捨てた夢を、彼女はいつも誇らしげに口にする。
只の1ファイターである自分をまるで英雄でも見るように見つめ、その指示は何があろうと忠実に遂行する。

「……信じるぞ、ルゥ」

そして今回も、きっとそうなる。自分を信じる愛機を信じて、千里は束の間指を止め、
フィールグラム内のライカンスロープを注視した。小声でそっと愛機の名前を呼ぶ。
それが何の助けになるとも思えないが、今の彼にできる事はそれだけだった。眼前の相手と同じように。

ややあって、力の均衡が崩れる。ランス諸共に吸血鬼を投げ飛ばした人狼は、受け身も取れず強かに石畳に頭を叩き付けた。
フェイスカバーの上顎部にヒビが入り、カメラから見える彼女の視界がブラックアウトする。
強い衝撃によるサブAIの誤動作を避けるべく、即座に緊急停止ボタンを押す。

『maす、た──?  試a いは、どうなりました?』
「俺達の勝ちだ。……よくやった」

自機エネルギー残量、5%──僅差の勝利だった。
こちらが効率を重視するあまりサブAIをカットしていたら、恐らくあと数秒は粘られていた。
そうなれば、或いは。とは思ったものの口にはせず、未だ立ち上がれずにいるライカンスロープに労いの言葉を投げかけ、
次にフィールグラムを迂回して対戦相手へと歩み寄ると、千里は俯く如月に右手を差し出した。

「……まずは、有り難う。いい勝負だった。次はギャラリーも無しの、本当のサシで闘ろう」

//すみません、半ば置きみたいな有り様に……
//亀ですが避難所レス了解しました、おやすみなさい
115 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo :2014/05/20(火) 22:34:02.07 ID:KiNGhmFwo
>>114

《───……主…───すま───…な……───》

力なく壁から崩れ落ちたブラッディヴラドの声は、ノイズ混じりに謝罪の言葉を主人に告げる。
如月はそんなブラッディヴラドの機体とパーツを拾い上げると、鎖の音を鳴らしながら棺桶型ケースに納めていく。

「…謝んじゃねえよ……」

俯いて、ブラッディヴラドを回収しながら如月は小さな声で呟いた。

ふとした声に顔を上げると、藍澤が右手を差し出している。如月は軽く目を見開いて、その手と藍澤の顔とを交互に見て。
静かに、誰にも見せないように笑みを浮かべると、すぐにしかめっ面を作って顔を上げ、立ち上がる。

「ハッ、調子に乗ンなよ正義の味方さんよ」
「今回俺が負けたのは俺が策を間違ったから、ただそれだけだ、『どっちが負けてもおかしくなかった』とか、そんなんじゃねえ」
「こいつは借りだぜ、俺はいつかこの借りは返す、てめえの相棒を惨めにぶち壊してやるよ」
「その時まで震えて待ってな、精々腕でも磨いてよ」

如月がその手を取る事は無い、かけられた言葉と気持ちを突き放すような言葉を嫌味に吐くと、機体を納めた棺桶の鎖を体に掛けて背中を向けた。
呆然とする人混みを掻き分け、凶暴な眼光を最後に一睨み、藍澤を睨み付けると、そのまま歩いて行く。

「……楽しかったぜ…」

フィールグラムを囲む観客すらも遠く離れて、店を出た瞬間に呟いた一言は、閉じる自動ドアに遮られた。

/乙でしたー!
116 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/21(水) 00:02:35.36 ID:Zt05F9fjo
>>111
『デザイナーとは辛いな。
 私が言うことでもないが』

デザインに限らないが、市場に出た物は殆ど全てが評価に晒される。
その中には心ない評価も少なくないだろう。
だから、ちょっとした批評程度慣れているのだろう。
それでも、ルリには後で小言を言わなければ。

「面白いとは思いますけど、……中々メイン層の子供にはそこを理解して貰えなさそうですね。
 勿論巧い子もいますが、多くはまだ大味なファイトしか出来ませんし。
 だからメーカーは、分かり易く戦いやすい高速高火力の流れを作ったんでしょうかね」

こういった遊びの効いたパーツは使うのも使われるのも面白いが、ただ勝つだけならばもっとストレートに性能を追求したものがある。
寂しいことだが、ファイターの多くが求めているのはそういったパーツだ。

『装備との干渉か……、起こるだろうな。
 この翼では仕方がないが』

【腰から生えたウィングバインダーは位置が悪い上に可動域も広い。
 これによってかなり無理のあるアクションも可能になっているが、まさかの落とし穴だ。
 実物を装備しなければ何とも言えないが、どうするかな】  

117 :荒田シン [sage]:2014/05/21(水) 01:21:45.54 ID:T7Y8jyTf0
>>116
「パトロンがいた時代と違って、表現者も増えたし、表現者になりやすくなったからねぇ。
護身術も覚えないと、さ。だから、気にしなくていいよ」

おそらくルリに釘を刺そうとするであろうナオヒロにそう告げる
「この子は直裁だからこそ可愛いと思うよ」、とも

「んー、あとはその流れはわかりやすくかっこいいからね。
愛機が巨大な力で相手を叩きのめすのは気持ちいいからさ。
ただ、それも行き過ぎるとこれは僕には出来ないかもって思われちゃうからね。
少なくとも速度域はもう少し下げたほうが良いんじゃないかなぁとは思うかな……まあ、これは歳をとってきて早いものが見えなくなってきたからっていうのもあるけどね」

高火力を求め続けた先にあるのはただの一撃必殺の応酬だ
そうなれば当てるための戦術を極めるだけになる……それは複雑に過ぎて子供には手を出しにくくなるだろう
策をねることで頭はよくなるかもしれない。けれど、それに喜びを覚える子ばかりではないのだ
速度もそうだ。出そうと思えば現行のHMPでも人間が捉えられない速度くらいは出せる
それをしないのは、見ていてつまらなくなるからだし、認識出来なければ指示も出せないからだ
インフレバトル漫画でよくある一般人役など誰もやりたくはない
プレイヤーである子供達には、あくまで主役でいてもらわなくてはならないのだ

「まあ、そろそろ高火力ブームも終わりそうな気がするけどね。上がってしまった火力平均を下げるのは難しいけど、ぼちぼち落ち着いて行くとは思う
次に何がくるか、まではわからないけど」

まあ、世知辛い話は脇に置いて、と

「んー、その翼だと干渉があるかもしれないなぁ。カスタムすればどうとでもなると思うけど……ちょっと待ってね」

ポケットからペンを取り出すとさらっとメモ帳に何かを書き、そのページを破る
ついで素早くある形に折ると、ナオヒロに差し出した

「槍をマウントしたときのだいたいの大きさがこれくらいだね。ここの線までが盾、あとは槍の長さになる
槍のマウントの仕方とか、んー、結構サイバーな感じの槍にしたから、三つ折り展開式の槍とかに変えちゃえば干渉は防げるかな」

折られた紙の大きさは盾と思しき部分が前腕を覆うほど
槍と思しき部分はかなり長く、腕を横に水平に上げた状態で背中の中ほどまでに到達する
118 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/21(水) 22:10:01.26 ID:Zt05F9fjo
>>117
相手からこう言われてしまっては俺からルリに言うことは出来ないか。
可愛いと言われてルリは口元を微妙な形にしているが、からかわれたとでも思ったのか?
実際のところ彼からしたら俺もルリもひよっこだろうし、子供扱いされても仕方無いのだけど。

「初めはただ速度に優れた程度の丸いパーツだったものが、市場競争の中で行き過ぎた感じでしょうか。
 メーカーが乱立しすぎて歯止めが効きにくい状態なんでしょうね」

『 《ロードモナーク》辺りはスピードと火力を追い求め過ぎた形の一つだな。
 極端な大火力と優れた機動力を持つが、明らかに一般向けを逸脱している。
 まあアレは元々小学生辺りは狙っていないような値段だが』

「そろそろ大手メーカーが環境の再構築を狙って新パーツを投入してきそうですが、今の環境をどう崩すんでしょうね。
 消費者としては楽しみであり恐ろしくもあり……ですね」


『ほうほう、そうなるのか。
 槍の長さはネックであるが、あまり短くしてしまってはこの武器の利点を殺しかねないのがな。
 もっとマウント位置を下げて前に伸ばしたら……可動は兎も角、邪魔だな。
 まずはアドバイス通り展開式にして使ってみるのがいいか』
119 :荒田シン [sage]:2014/05/21(水) 22:59:10.64 ID:T7Y8jyTf0
>>118
「その辺りはいわゆる市場原理ってやつかな。
売れなきゃ食っていけないからね。世知辛いけど」

中小だからこそ出来る産業というのはあるが、それはあくまでニッチにすぎず、潮流を変えるほどの力はない
だからこそ、企業体力のある大企業に、どうにかしてほしいところなのだが

「あー、ああいうのは老舗だからこそ出来るんだろうね。ロイヤルローズなんかも、そうだね。
まあ、あっちは全力でバカやった結果みたいな感じだけど」

あの会社はよくわからない、と首を振る

「ま、好きにいじり倒していいよ。ユーザーがどういう風に使うのか見るのも、楽しみの一つだからね」
120 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/21(水) 23:37:55.06 ID:Zt05F9fjo
>>119
「企業側としても今出せば売れるであろう商品より売れるかわからない商品を優先する意味はないですからね。
 それでも、メタゲームの固定やファイトスタイルの一強化、一極化でコンテンツを[ピーーー]ようなことになる前には新機軸を売っていくんでしょうけど。
 なまじ今の環境が噛み合って見えるせいで手を出しにくそうではありますね」

現在の火力は当たればただで済まないものも多く、装甲よりも機動力が発達したのは当然と言えば当然だ。
だが、それだけを続けることは出来ない。
消費者はより強く、しかしより楽しめるものを求めるのだ。
同じような環境が続いては飽きてしまう。

「どちらもブランドに固定のファンがありますし、メインストリームにきちんとした商品を抑えてますからね。
 大企業ではありませんけど、企業イメージの中でならある程度冒険しても買い手が望めるってのは強いです」

『それでも《ロードモナーク》も《ロイヤルローズ》もどこかおかしいことは否定できんな。
 ある程度優秀な機体にあんなをデフォルトでモノ持たせて金に塗るのも、五桁に乗るあの値段も』

【買う方も買う方だが、作った方も作った方だ。】

『軽く10ほど一人回しして、使用感を見ながらやらせて貰おう。
 また次に会うときには私達なりの回答を見せてやろう』
121 :荒田シン [sage]:2014/05/21(水) 23:55:00.56 ID:T7Y8jyTf0
>>120
「だからこそマーケティングなり、広告戦略なりで色々やろうとはしてるみたいだけどね。
ま、その辺の努力は、頭のいい人たちに任せよう」

よくわからない、というのが正直なところで、分析はしているが専門家ほどの制度はない

「いつかはあんなもの作る側に回ってみたいけどねぇ」

楽しいのは間違いないだろう

「期待してるよ。その頃には、こっちもアセンが決まって動き始めているだろうしね。
もしよければ手合わせ願いたいところ」

さて、次はどうするかなと……会話の裏でアセンを考え続けている
122 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/22(木) 00:31:22.98 ID:I8xrX2I+o
>>121
「こういうのは色々考えなきゃいけないことが多いですからねー、各企業の偉い人がどうにかしてくれるのを待ちましょう」

数字が絡む話は苦手だ。
なんとなく発売予定の情報から次はどんなパーツがくるか想像するのが精々だ。

「制作者がやりたいことやった、って感じが全面に出てますからね。
 あんなことが出来れば楽しいでしょうね」

手先はそれほど器用な方ではない。
メンテナンスやちょっと削ったり足したりは出来るが、本格的な改造なんかは無理だ。
HMPを一から作るなど……。

『ああ、やろうじゃないか。
 君のHMPに今からよろしく言っておいてくれ。
 ……そういえば結局そっちはどんなアセンにするのだ?』

そういえばこちらの話ばかりで向こうのことを聞いていなかった。
123 :荒田シン [sage]:2014/05/22(木) 01:03:58.30 ID:jlBEEBCr0
>>122
「んー、ぼちぼち形にはなってきたかなぁ
今回の話題にものってみて、今の所はこんな感じかな」

全く操作しているようには見えなかったが、一応形にはなっているらしい

差し出されたタブレットには、先ほどよりは幾分マイルドになったレーダーチャートが表示されている
機動力が低い代わりに、防御力が高めになっているのが特徴といえば特徴か

「地盤を固めて、押していくっていうのがコンセプトかな?」

タップするとパーツへの細かな注釈が現れる
構成は上からアネモネ、現行のものを引き継ぐ自作パーツ、楯無、フローラ
その全身に施されるのは、ショックや圧をエネルギーに変換する改造だ。
機構のための追加装甲によって重量が増加し、機動性が低下する。脚部はそれらの重さに耐えつつも、機動可能なようモーターを変える、とのこと
ベースとなるパーツは在り来たりだが、またどんな醜悪な外見となるのかわかったものではない

「まあ、あとは武器が決まれば、かな。
せっかく楯無を使うんだから刀を持たせたいところではあるけどねぇ……」

楯無はマニュピレータの繊細さが優れている
細かな操作が求められる武器をもたせるのにも向いているはずだ

「ここからが難しいんだよなぁ、って思うよ。
遠距離系だと、なにかオススメってあったりするかな?」
124 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/22(木) 04:28:52.07 ID:I8xrX2I+o
>>123
『何時の間に修正していたのだ。……時代に逆行するスタイルだが、打たれることを前提にしているのか。
 武器にも依るが、長期戦に持ち込むことでアドを重ねるわけだな』

【なかなかイヤらしい機体だ。
武器がほぼ打撃な私などではきつい戦いになるだろう。】

「武器、ですか。
 ……そうですね、ルリにどうかと思って考えていた中の一つなんですが、《スリーピング・ビューティー》の《マ・レフィセント》。
 これは長期戦で生きると思うんですけど、そのアセンとだと少し噛み合わない……かな?
 アレ色物と言えば色物ですし、《楯無》の細やかな動作性を生かすものでもないのが……。」

【自分から提案しておいて消極的だな。
 まあ確かにあのパーツは癖が強いが、パーツに不可がかかりやすい高速機には良い牽制だと思うぞ。
 当たれば、だが。
 しかしどこにでも当たりさえすればそこそこ効果があるのは強みだ。】
125 :荒田シン [sage]:2014/05/22(木) 17:40:40.41 ID:jlBEEBCr0
>>124
「耐え忍ぶことを教えようと思ってね
まあ、もっとガチガチにしてもいいんだけど、偏重じゃいつもと変わらないから」

あくまでも今回はバランス型を目指すのだ
そのためには、自分のクセを[ピーーー]ことを躊躇ってはならない

「マ・レフィセント……眠り姫に出てくる悪意ある魔女か。
高速機相手に長期戦に持ち込むとなれば、いやらしいパーツだよね」

他の武器があってこそ、なパーツだが、活かし方によってはかなりの嫌がらせが出来るだろう

「楯無の腕力なら近接にも使えるだろうしね。……まあ、武器そのものもいじらないといけないけど
見た目も僕の好みだし、うん、選択の一つに入れることにするよ
ありがとう」

これを軸におくならば、もう一つの武器は選択幅を狭めることが出来る
考える上で、かなり楽になった
126 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/22(木) 22:09:57.40 ID:I8xrX2I+o
>>125
『耐え忍ぶことを教えるか、耳が痛いな』

俺もルリもせっかちではないが、堪え性があるとはいえないからなぁ。

「眠りの呪いというよりは腐敗の呪いって感じの装備ですけどね。
 アナログな効果ですけど、その分対策し難いのが強みですね。
 これもそれ程メジャーなパーツではありませんし、相手の厄介なシールドや装甲をある程度無力化出来ることから汎用性も悪くないと思います。
 ビームシールドや布製マント、金属メッキ加工のパーツには豆鉄砲なのは玉にキズですが」

……破砕系の武器や強い爆風を発生させるボムタイプとの相性がいい点でも相手の思い描くアセンとズレてしまうな。

「《楯無》に持たせるには持ち手が少し小さめですけど、あなたならそのくらいは簡単かな、と思いまして。
 参考になったのでしたら良かったです。
 採用されるときには、刃の形状から近接戦を行う際には以前のアセンで装備してたナイフとノウハウが違うので、ちょっと慣らしが必要かもしれませんが」
127 :荒田シン [sage]:2014/05/22(木) 23:30:49.85 ID:jlBEEBCr0
>>126
「まあ、僕にないからあんまり意味があるとは言えないんだけどね」

ただ、確実にエリは意志の芽生えがある。
いつか命令を聞かず、最適な行動を自分で選択するようになるだろう
そうなってくれれば……

「眠り系となれば、たぶんウィルス系になるからね。
それより対策がしにくいのはありがたい。
あー、確かに持ち手が小さいね。その辺りは組み直したりしないと」

モーションについては、あるHMPのために集めたデータがごまんとある
そう多くない試行回数で対応できるはずだ

「いやぁ、こういう会話は楽しいね。
いつまでもやれそうだ」
128 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/23(金) 00:52:15.93 ID:m6u8N8k4o
>>127
『指示を出す方と受ける方両方に無いよりはマシだろうさ。
 まあ、私達なら忍耐力はナオヒロに任せるがな。
 私はどうも本質的に向いていなくてな』

あと10年もすれば付いてくるかもしれない。
が、今からはい付けますとは無理だ、無理。

「改造前提のパーツを奨めてしまってすみません」

【彼はどんなパーツであれ手を入れていたと思うが。】

「人それぞれの好みやアイディア、戦略論がありますからね。
 デザイナーですし、世代が違うのもあって新鮮でした」
129 :荒田シン [sage]:2014/05/23(金) 01:24:28.09 ID:9lVtzZsa0
>>128
「まあ、それもそうだね。お互いの欠点を補い合って、長所を伸ばすのがパートナーだからね」

何もかも一人でできるのなら相棒などいらないのだ
事実そういう人向けに、感情や判断を全て人間に委ねるAIを積んだHMPが存在する

「いやいや。改造して積めるだけいいよ。重量とか大きさ的に積めない武器もあるからねぇ。
最初に乗せてたカンディルなんかあれギリギリもいいところだったから」

例に出したカンディルは、本来35cm以上のHMPに積むべき重機関銃だ
小型HMP並みの大きさがあったせいで、初代エクリプスはほぼカンディルのオマケと言っていい外見であった

「こういう時は改造技術を持っててよかったなって素直に思うよ。あ、なにかあれば、頼んでくれてもいいよ?
気分転換にもなるしね」

ダメだとはわかっているが、締め切り前というのは他のことをして逃避したくなるものだ
とくに仕上がりが遅い時などは……

「はは、そう言ってくれると嬉しいな」

さて、と、椅子から立ち上がるとタブレットをしまいこみ

「おかげでかなり完成形が見えたよ。ありがとう。
これ、僕の連絡先。なにかあれば、力になるよ」

そう言って、清々しい顔で去って行く
近いうち、装いを変えたエクリプスが見られるだろう
130 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/05/23(金) 19:17:22.30 ID:+mz5SVw4o
>>129
『その形も人それぞれだ。
 戦闘は全てHMPの判断で行うコンビもあれば、人間が指示を全て執るコンビもある。
 まあそれぞれがいいと思うスタイルがいいのだろう』

前者は国重君、後者はタクミくんが当たるか。
くにしげ

「カンディル……あー、あの、重機関銃ですか」

自分達が戦ったものより更に前のアセンだろうか。
機体が今と同じように少女型をベースにしていたのなら、相当無理して積んだのだろう。

「そうですよね、僕そういう技術は殆ど持っていないのでアセンの幅を余り広げられなくて。
 なので、もしかしたらお世話になるかもしれません」

『なに、こちらもアイディアを貰ったからな。
 《ノル・ラヴォス》の改造について遠くないうちに連絡するだろうさ、そのときはよろしく頼むよ』

=こちらも席を立ち、島棚へ戻っていく。
 早速購入していくのだろう=
131 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/27(火) 18:46:40.62 ID:n2VvQ1UWo
身を刺すような寒さは過ぎ去り、かと言って夏の暑さに茹だることもない、5月の休日の昼下がり。
そんな行楽日和の季節だというのに、滝沢真一は恋人とデートに出掛けるような予定などもなく、朝から過酷なアルバイトに勤しんでいた。
して、その仕事内容とは――――


「フハハハハッ! この私に挑むのは、100万年早かったな!!」


過疎化の進む弱小商店街を救うために立ち上がった、地域密着型ヒーロータバスコライダー=B
その姿に身を扮した滝沢が今、駅前広場に作られた特設ステージの上で、某バッタ仮面の如く変身ポーズを決め、
そこから僅かに離れた位置で、彼に敗北したと思わしき男が、両手を地に付いて項垂れている。

そう、滝沢のアルバイトとは――この怪しげなご当地ヒーローに成り切り、商店街の客引きのためにHMPイベントを熟すことであった。

観客の中からチャレンジャーを募り、ステージで待ち構えるタバスコライダー――もとい、滝沢とHMPファイトを行うだけのシンプルな内容だが、
彼自身の実力の高さも相まってか、イベントは中々の賑わいを見せており、最初は知り合いに頼まれて嫌々この仕事を引き受けただけの滝沢も、
今ではトウガラシソード≠ニいう名の赤い剣を振り回し、ノリノリでパフォーマンスを披露したりしている。


『全く、何故私までこんなことを…………』


ステージに設置されたフィールグラムの上で、滝沢の相棒レッドセイバー=\―愛称ロラン≠ェ、肩を落として溜め息を吐くが、
そんな姿を知ってか知らずか、滝沢は「さぁ、次の挑戦者は誰だ!?」と、観客に煽りを入れる。

ちなみに今日の彼らの戦績は、ここまで12戦全勝――――
初心者の小学生相手にも、大人げないセメントマッチを繰り広げるタバスコライダーの猛攻を止めるファイターは、果たして現れるのだろうか。
132 :小日向 愛莉 [sage]:2014/05/28(水) 01:07:57.85 ID:U2/FvfXFo
>>131

会場は、確かに湧いていた。だが観覧者たちは顔を見合わせるばかりで、壇上に上るファイターはなかなか現れない。
わかっているのだろう。タバスコライダーは剣闘士ではなく処刑人。魅せバトルなんてチャチな真似はせず、誰が相手でも容赦はなく。
こうなってしまうともはや挑戦どころではなく、13人目の犠牲者は誰だ!? なんて、兢々とした雰囲気まで漂っていた。

そんな、諦めムードの観衆のあわいを、ひょこひょこと抜け出てくる小さな影があった。
清潔な純白のブラウスと大人びた黒のスカートに、真紅のリボンが鮮やかに映えるモノクロのフレアエプロンを重ねて。
現れるのは、喫茶店の制服のような装いの矮躯。
タバスコライダーの前に歩み進む“彼女”は、年の頃12、3と思しき――物静かそうな、ちっちゃな女の子だ。
二つ結びにされた水色の髪が、その幼さを強調している。

「うーん……近づいてみたけれど、やっぱり見たことが……スクラッチビルドでしょうか……」

彼女が首を傾げながら見定めるのは、フィールグラムで既に配置を完了している“赤いやつ”。
これと完全に同じ機体は、今まで見たお客さんの誰も使っていなかった。もちろん、全部確認したわけではないけれど。

『何であれ、ここまで来たからには戦ぶりで確かめるほかあるまいよ。さあ愛莉、挨拶せい」
「あ、いきなりジロジロと見てしまってごめんなさい……挑戦、大丈夫ですか?」

腕に抱いたHMP――見るに『ロードモナーク』一式。メッキ塗装のボディが晴天の下で眩しい――に促されて、タバスコライダーに声をかけるだろう。
今まで赤い騎士の圧倒的な強さに関する話題で一色だった観客のどよめきには、「ロードモナーク使いの子供ってなんだよ」というものが混じり始めたに違いない。
133 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/28(水) 03:25:05.77 ID:Q0XB/VjDo
>>132

生まれてこの方16年、喧嘩はガチンコしか知らない滝沢の辞書に手心≠ニいう言葉はなく、
今回のイベントでも本気を出し過ぎてしまったことで、挑戦者の足が止まり始め、内心焦りを感じつつあったが、
壇上に登って来た新たなるファイターの姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。

と、同時に――彼女とその愛機の風貌から、滝沢の直感が微かな異常を読み取った。

年齢は先程秒殺した小学生などとそう変わらない――いや、あるいはそれより幼くさえ見えるものの、
そんな彼女にはどう見ても相応しくないロードモナーク≠ニいう、ハイエンド且つゲテモノな機体のチョイス。
だが、そのミスマッチが妙にしっくり来るようにも思える、戦い慣れした雰囲気。落ち着いた佇まい――――

司会のお姉さんは「わぁ〜、可愛いチャレンジャーさんですね〜!」などと呑気に言っているが、
この少女は多分強い=\―と、滝沢は本能的に感じていた。

だが、こちらとしても負けるわけにはいかない――――
何故ならば、タバスコライダーには大型ショッピングモールを駆逐し、この商店街を救うという使命があるからだ。


「フーハハハッ! 私の力を目の当たりにして、尚も臆せず戦いを挑んで来た勇気は認めよう!
しかし、君は知ることになる……この世界には、本当に強い戦士が居るということを!

――――行くぞッ、我が半身! ナイト・オブ・パブリカ!!」

『……――――私の名前はロランだ』


などと若干間抜けなやり取りをしながら、滝沢はフィールグラムの対面を指差し、ロランへと出撃の指示を下す。

ともあれ、これで準備は全て整った――――
今までの和やかな空気は、徐々に戦闘前の緊張感と融け合っていき、
そしてランダムで選ぶステージが決定した時、両者の戦いの火蓋は切って落とされることになるだろう。


//
奇数:遊園地
偶数:溶岩地帯
00:???(スペシャルステージ)
134 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/28(水) 03:28:23.56 ID:Q0XB/VjDo
【遊園地】
広い空間の中にミニチュアサイズの観覧車、ジェットコースター、メリーゴーラウンドなど、様々なアトラクションが配置されている。
それら全てが障害物となり、あるいは武器にもなる、ギミック感満載の賑やかなステージ。
135 :小日向 愛莉 [sage]:2014/05/28(水) 17:04:22.77 ID:U2/FvfXFo
>>133

「愛莉です。よろしくお願いします、えっと……た、タバスコライダーさんに、ロランさん」

きっと外見からは想像もつかないほど苦労してデザインされたのだろう、ご当地ヒーローの名前を、少し恥ずかしそうな声音で復唱する。
なにせ、地元のマスコットキャラに取り敢えずHMPファイトをさせる、というわりと投げやりなイベントだ。
赤い鎧のHMPも困惑していそうだし、折角だから彼の気晴らしになるくらいにはいいファイトにしたい……ぐらいに、少女は考えているのだが。

『ぬっはっはは、一介の騎士が“覇者”たる余に真の強さを示そうとは面白い冗談だな!
 来るが良い、ナイト・オブ・パブリカ。大将首だろうと“HMPカフェ コッペリア”のコーヒー券だろうと奪っていけぃ――取っていけるものならば、だが!』

黄金にきらめくHMPの方は、フィールグラムに降り立った途端にこの長広舌だった。
彼が自ら示すのは、左肩のウェポンバイダー兼可動シールドにプリントされた、件のカフェのロゴ。
視線を移せば、少女の制服にも同じものが縫い付けられているのがわかる。いわゆる看板娘というやつらしかった。

 確かにヒーローショーと言えば悪役が必要だと愛莉も思うのだけど、勝手にコーヒー券を賭けるのにはツッコミたかった。
 週に何枚かは外で配っていいとお父さんも言っていたとは言え、外様の商店街のイベントに制服のまま来るのはちょっと考えがなさすぎたと反省する。
 しかしまぁ……タバスコライダー(の中の人)さんにとってちょっとした労いになると思えば、悪くはないかな。

「……とのことです。もちろん、勝たないとサービスはナシですよ」

ちょっとだけ格好つけたつもりの、すました顔で愛莉はパートナーの言葉に念を押した。
フィールグラムの対戦台に、おとぎの国から飛び出してきたような小さな小さな遊園地の仮想空間が浮かび上がる。
愛莉のパートナー、カラメリゼが配置されるのは、キャラクターの石像から噴水が湧き上がる中央広場の東端の空間。
この筐体がイベント仕様ではない通常のセッティングであれば、相手の機体は西端に現れるはずだ……。
136 :小日向 愛莉 [saga]:2014/05/28(水) 17:05:04.57 ID:U2/FvfXFo
/ウェポンバイダー→ウェポンバインダー、です。ageつつ、いちおう修正しておきます!
137 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/28(水) 23:57:52.48 ID:Q0XB/VjDo
>>135

愛莉とカラメリゼが示したコッペリア≠フロゴを見て、滝沢は興味深げに目を細める。
尤もそんな表情でさえ、タバスコライダーのマスクに隠されて、相手に伝わることはないのだが――――


「ほう……。カフェショップの命たるコーヒーを賭けに出すとは、見上げた覚悟だ。
ならば私が敗北した際には、戦士の誇り――このトウガラシソード≠くれてやろうではないか!」


滝沢はそう言いながら、左腰に収められた剣――刀身が赤、柄が緑に塗装され、言われてみればトウガラシに見えなくもない――を抜き放ち、頭上へと掲げる。
これは勿論刃付けなどはされていないものの、無駄に刀身がドライカーボンで作られており、喧嘩で使えば木刀などより強力な得物となり得るが、
12歳の少女が貰い受けたとして、ガラクタ以上の価値が生まれるとは思えない。
ちなみにタバスコライダーは、この剣を使った縦一閃斬り――南蛮大切斬≠ニいう必殺技を設定されていたりするのだけれども、今はその話は置いておこう。

――――――――――
――――――――――――――

そして舞台は切り替わり、フィールグラムの上へ。

ロランとカラメリゼの両機が降り立ったのは、広大な中央広場の東と西の最端。
ただでさえ距離が離れている上に、噴水などの障害物のせいで相手を視認することもできず、接敵するまでには多少時間が掛かるだろうか。
まずは優位なポジションを確保するため、攻撃よりも索敵が重要になる筈だ――などと、愛莉は考えているかもしれない。

――――しかし、こちらの速さ≠ヘ、そんな計算を容易に覆す。


「お前のスピードを見せてやれッ! 疾風迅雷――ランニング・オン・ザ・コースター!!」

『――――分かったから、普通に指示を出せ!!』


相変わらずボケとツッコミを応酬しつつ――だが、こんな指示でも何となく通じてしまうのは、二人の信頼関係が成せる技なのか。
ロランは背部のフレキシブルブースターを噴射するや否や、一気に直上へとジャンプし、
遊園地の上空を横断する、巨大なジェットコースター――そのレールに着地すると、溝部分に踵のローラーを引っ掛け、再度ブースターを点火。
見る間にコースターの速度と遜色ない程まで加速し、レール上を滑走することで、ぐんぐんカラメリゼとの距離を詰めていく。
眼下に敵機を捉えられる位置に達するには、ものの数秒とさえ掛からないだろう。
138 :小日向 愛莉 [saga]:2014/05/29(木) 04:07:43.68 ID:eTS0y1pVo
>>137

疾風怒濤、駆け抜ける嵐のように、想像を絶する疾さで彼我の距離を縮めんとするロラン。
熱探知レーダー上には赤い光点として示されているその姿を矯めつ眇めつ、愛莉は思案する。

《ディバインライト》はじっくりと勝負を詰める相手には刺さるが、この相手はやはりと言うかそうではない。
サイズに対して大きく取られた推力を目一杯使って猛攻を重ね、お互いに隠し玉を出す間も無く敵を封殺する。
今までの挑戦者は、皆それだけで倒された。「剣戟に長けた高速機」としてのレッドセイバーに討たれたのだ。

「(それだけじゃないことは、さすがにわかってますよ……)」

だけれども、自分が来たからには【その先】を見たいと。HMPファイターとしての、そして無残に散った少年少女の代理人としての矜持が疼いた。
少女の淑やかな一面がひっくり返って勝負師の顔が覗けば、行動に移るのも素早い。

「上を取られたらかないません。園内北側の“コーヒーカップ”方面に少しずつ退避しながら、撃ちましょう」
『フフフ、承知した。奴は必ず撃ち落とす。ああ、撃って落とすとも!』

ロランが近距離まで迫ってくるまでのわずか数秒の間に、カラメリゼも駆けた。
横断する敵の動きと十字交差するように、地図上のy軸――北方向へ。高出力のブースターの噴射炎が大気を暖め、その姿は陽炎を背負う。
コーヒーカップのアトラクションを選んだのは屋根の存在を見越してだが、何よりもゲン担ぎのためだ。

とは言え、移動が間に合うはずもない。だから、このムーブにはもう一工程が加えられることになる。
黄金のHMPは、コースターの全長の半分程度を視界に収められる位置に来ると、腰のスラスターで急転回して、

「まずは一杯、熱いのをどうぞ」

滑走するロランの頭――と、彼を前後で挟んだ、ジェットコースターの『支柱』部分、合計で3つのターゲットに対し、
ウェポンバインダーの裏側に内蔵した三連砲から、耐熱プラスチックさえ溶断し得るほどの高温を帯びた粒子ビームを一本ずつ射るだろう。

ロラン本人に放たれるものは、しょせん跳躍に対応するためのブラフで、ここまで加速がついていれば命中は期待できない。角に引っかかれば万々歳か。
本命は、支柱をプラズマカッターの仕事のように溶断し、ジェットコースターそのものを崩落させることを目的に放たれた二本の光軸。
これに対して、神速の紅騎士はどのような判断を下すだろうか――。
139 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/29(木) 20:23:02.19 ID:PajN2xlao
>>138

黄金の鎧の中身がシモ・ヘイヘか、ヴァシリ・ザイツェフというわけでもあるまいし、
このスピードまで加速したロランを、直接狙撃するのが難しいということは、誰にでも分かることだ。

しかし、それならば――と言わんばかりに、敵はジェットコースターの支柱を射抜き、こちらの足場を崩しに掛かる。
非常に的確な判断だ……。やはり、この相手は今日戦った12人とは明らかに違う。
愛莉が壇上へと登って来た時、滝沢が直感した強者の雰囲気≠ヘ間違いではなかったと、改めて確信する。

――――が、愛莉の読みには、一つだけ誤算があった。


「迎撃のために、足を止めるのを待ってたぜ……! ビームに向かって飛び込め、ロランッ!!」


滝沢が下した指示は、有ろう事かロランを狙うビームへ飛べ≠ネどという、突飛な内容であった。
だと言うのに、それを受けたロランは迷うことなくレールを離れ、カラメリゼが放った3本の光の矢のうち、自らを狙った1本を目掛けてダイブする。
そのままビームはロランを直撃する――かと思われたが、それは騎士の装甲を捉える寸前、何かに弾かれて明後日の方向へ逸れてしまった。

ビームを弾いたものの正体は、ロランの左手の爪――対エネルギーコーティングを施されたアームドクロ―≠ニいう武装だ。

この防御性能が、相手の誤算――――
滝沢とロランにとってオーバーウェルム≠ノよる長距離射撃は、最初から威嚇の意味を持っていなかったのだ。
むしろ射撃姿勢をとるため、カラメリゼが体の向きを転回し、動きを止めるのを待っていたとさえ言い切ってもいい。
敵がこちらを迎え撃つ瞬間――そのタイミングこそ、こちらが接近するための最大のチャンスにもなる。


「左手側から旋回、そのまま踏み込んで――――全力で叩き斬ってやれ!」

『――――――――ハァァァァァー……ッ!!』


ロランが急降下する背後で、先程まで踏み締めていたレールの崩れる音が鳴り響くが、今更そんなことはどうでもいい。
頭部のバルカンでカラメリゼを牽制するのも忘れず、ロランは左側――相手から見れば右腕側≠ノ滑空し、
時計回りに弧を描くようにして、瞬く間に距離を縮めて行く。

滝沢がわざわざ左に回り込むように指示したこと――これにも当然、意味がある。
ロードモナーク≠フ三連砲は、左肩に装備しているという仕様上、自機の右方を狙うのは難しいと考えたのだ。
さらに右半身にはディバインライト≠ニいう、このような高速戦では、デッドウェイトにしかならないデカブツまで背負っていると来た。

つまり、あの機体は格闘・射撃・防御のあらゆる面において小回りが効く左腕≠ノ比べ、右腕≠ヘ圧倒的に不自由――――
無論、そんなデメリットを考慮してない程温い相手だとは思っていないが、機体の構造上の弱点は、分かっていたところで簡単にどうにかできるものでもないだろう。
ロランが一足一刀の間合いに踏み込むのを許せば、左上から右下へと振り下ろす、強烈な袈裟斬りがカラメリゼを見舞うことになる。
140 :小日向 愛莉 [saga]:2014/05/30(金) 02:31:11.45 ID:J+JPBhoAo
>>139

「なるほど……今まで、よく剣と豆鉄砲以外を隠しながら戦ってきましたね」
『まったく、面白いヤツよ。決闘とはこうでなくてはな』

迷うこと無く光の槍に飛び込み、それを切り払って見せたロランに対し、飽くまでも愛莉たちは平常の心持ちで応じる。
こっちには、腐っても“見えている脅威”として働くディバインライト≠ェある。相手が遠距離でのろのろとしている筈もない。
だから、相手が無理をしてでも接近してくるのは分かっていたのだ。もっとも、ここまで自然な流れでやってのけるのは計算外だったが。

カラメリゼが両腰の可動スラスターを前に向け、足跡を追うように放たれるバルカンを稲妻じみたジグザグの後退で回避する。
さて、機体のアンバランスさという明確な弱点を晒しているのは確かに問題だが、だからこそ相手はそこにつけこんで来ようとするだろう。
であるなら自分は裏の裏の裏までを読んで戦うだけ。慌てることなく、ふたりは潜思した。
あんなに完成度の高いマイナーHMP、どこのディーラーが卸しているのだろう――という疑問は、今は隅に置いて。

「カラメリゼ、思いっきり右方向に舵を切って下さい。身体ごとです」
『承知した!』

敵は右斜め前から推力と位置エネルギーの助けを存分に得て襲い掛かってくる。そして、こちらの右半身が不自由であることを知っている。
だがこのペアには、弱みを逆手に取るほどの操縦テクがあった。
剣が迫る瞬間、カラメリゼは弾かれるように「更に右」へ加速し――その上で、ゆるやかに身体を左旋回させていく。

注視していれば分かるだろうが、この時彼は左肩のシールドを思い切り右手方向に傾け、思い切り重心を右側に寄せていた。
この状態で背中・腰・脹脛の推進器を全力で蒸かし、更に上体の体(たい)捌きでもって進行方向の微調整を行ったのだ。

結果、ロランの大剣の刃は確かにロードモナークに触れはしたものの、その部位は輝く盾の滑らかな傾斜面。
叩っ斬る前に勢いを受け流されてしまい、表面に凹みが生じるぐらいの損傷しか与えられないだろう。

『踏み込みは十分だったぞ、角兜。だがちょっとばかしやり過ぎたなァ――ッ!!』

剣を振り下ろして着地するとき、相手には恐らく隙が出来る。今度はカラメリゼにとって絶好の機会が訪れた。
彼はすばやく向き直ると、ロードモナークの標準装備であるハルバードを振りあげ――ロランの背中に、意趣返しとばかりに右手側から打ち下ろそうとする!!
141 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/30(金) 04:57:06.85 ID:6drNRSdco
>>140

『ちィッ……! 浅い……――――ッ!!』


ロランが振り下ろした袈裟斬りの太刀は、貝殻の如き流線型を持った、カラメリゼの盾に受け流される。
超巨大砲の印象に騙されてしまいがちだが、格闘戦での立ち回りも中々どうして――実に鮮やかだ。
そしてこちらが剣を振り抜いた直後の隙を狙って、敵は間違いなく、反攻の一閃を繰り出してくるだろう。

分かっている。しかし――――


「退くな……!! そのままもう一歩、踏み込め――――ロランッ!!」

『――――オォォォッ……!』


今の至近距離からでは、カラメリゼの反撃を完全に回避することは不可能である。
けれども、相手の手持ち武器はハルバード――つまり、ポールウェポンだ。
武器の特性上、その長さを目一杯使える距離ならば、極めて優秀な格闘装備となり得るが、
逆に相手に密着されてしまった体勢では、これ程扱いにくいものもない。

――――だからこそ、この状況では、絶対に後ろへ退くわけにはいかないのだ。
少しでも距離を離そうとすれば、それこそ本当の命取りに成りかねない。

指示を受けたロランは、ボクシングのクリンチ≠ゥ、あるいはレスリングのタックル≠フようにして、カラメリゼに組み付くべく歩を進め、
結果としてこちらの背中を狙ったハルバードの刃は、ロランの腰辺りに命中し、赤い鎧を大きく刮げ落とす。
決して軽いダメージとは言えないが、どうにか被害を最小限に食い止めることはできたと言っていいだろうか。

《胴体部:損傷率45%》

さて、この状況……。ハルバードの威力を殺せる間合いに入ったはいいが、当然これでは自らの大剣を振ることも叶わない。
ならば、どうするか――? レッドセイバー≠ノは、こんな距離でも最大限の効果を発揮できる、取って置きの武装があるのだ。
喧嘩は頭突きに始まり、頭突きに終わる≠ネど、よく言ったものだ――と、滝沢は思う。密着状態で使えて、且つこれだけの威力が見込める打撃技は他にない。


「分かってるな、ロラン! 狙いは相手の頭部……――いや、左肩のウェポンバインダーだ!」

『…………私の角は、伊達ではないぞ。――――受けてみろッ!!」


ロランが頭を大きく振り被ると同時――額から生えた巨大な角が、瞬時に紅へと染まって行く。
これは角を模して作られたヒートブレード≠ナあり、剣身に高熱を帯びさせることで、敵機を溶断する代物だ。
その剣を、ロランは頭突きの要領で叩き下ろし、カラメリゼの左肩――ウェポンバインダーの付け根を狙う。

最初は相手の頭部を目掛け、必殺の一撃を狙うべきか迷ったけれど、ここはより確実に仕掛けよう――――
攻守万能のオーバーウェルム≠切断すれば、敵の戦闘力を大幅に削ぐことができる筈だ。
142 :小日向 愛莉 [saga]:2014/05/31(土) 00:14:10.58 ID:8qHdgvzqo
>>141

剣術、拳闘、喧嘩殺法。まったくこのコンビは、敵を打ち負かす手段においてどれだけの引き出しを抱えているのか。
一進一退のクロスレンジの駆け引き。DVNOを抱える愛莉の両手にも、思わず汗がにじむ。
落ち着いた、ともすれば眠たそうな空色の瞳に、小さな小さな火花が灯る。
《オーバーウェルム》は攻防において最重要のパーツであり、会敵からものの数秒で壊されるわけにはいかない。

「ようやく隠し玉をひとつ見せてくれましたか。
 ……では、私のほうからも“裏メニュー”をご案内します」

骨の髄まで看板娘、と言った風な愛莉の口ぶりに、カラメリゼは何かを察したように頷いた。
次の瞬間ロランの視界には火花が散り、その首の動きは止められるだろう――刃先が擦れあう、鍔迫り合いの音と共に。

『――ふふン、あいにくと武器の改良には余念が無くてな!』

カラメリゼの手の内からは、いつのまにかハルバードが消えていた。
それは柄のおおよそ真ん中を境として、左手の穂先を欠いた短槍と、右手の複雑な形状の斧頭を持った手斧に分かたれていたのだ。
そして今ロランの赤熱した角を受け止めているのは、勢いを付けて振るわれた『斧』のほうだ――。

 抑えた。今なら頭を潰すことも――いや、相手はまだ《爪》を残している。ここで砲撃を弾かれれば、それは私達を襲いかねない。
 なら左手の方は、もしもの反撃に備えて残しておく。コーヒーを飲んでいる時のように落ち着いて戦えば、すぐには負けないはず。

「よぉし……このまま、仕切り直しましょう」
『さあ、教えてやるぞッ。盾にはこういう使い方もあるという事を!』

腕の力と頭突きの勢いの危うい均衡を崩される前に、カラメリゼが動いた。
推力を真後ろに向けて収束させ、急加速する。その勢いのままに彼は一気に相手の角を跳ね返し、
更には「ショルダータックル」――ウェポンバインダーの強度を活かして、全重量をロランの胴体に叩きつけて吹き飛ばす攻撃を見舞おうとするだろう。
143 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/31(土) 01:54:22.79 ID:gDFMn7n/o
>>142

「ちぃっ、これも止めやがるか……!」


戦いに熱中するあまり、滝沢も今がヒーローショーの最中だということを忘れて、
いつの間にか素の喋り方に戻ってしまいつつあるが、そんなことを気にしている暇はない。

灼熱の一本角を使った頭突き攻撃は、分裂したハルバードの穂先によって受け止められてしまう――――
なるほど……。長柄武器の弱点であるショートレンジでの取り回しを、こういったカスタムを施すことで対応するとは――やはり、この少女は凄腕だ。
しかし、こと格闘戦での手札の多様さという点ならば、こちらも全く劣る気はしない。
例えば今のような鍔迫り合い≠フ状態――剣道においては、その離れ際に用いるこういった技もある。


「左斜めに後退、引き際に――――逆胴だ!」

『――――シィィ……ッッ!!』


ロランは角を弾かれた瞬間、直ぐ様左後方へとバックステップを踏んで、突進してくるカラメリゼを闘牛士のように躱しつつ、
今度は相手の左腹部辺り――つまり逆胴≠目掛けて、右手に握ったビームソードを叩き下ろす。

これは剣道では引き技≠ニ呼ばれるような打ち込みであり、
密着状態から離れ合うタイミングで、相手の面や小手を狙って叩いて行くのが一般的だが、
今回のケースのように、敵が左半身を前に出して攻め込んで来た時には、後退しながらの逆胴打ちが極めて有効になる。

――――滝沢とロランのタッグには、こういう引き出しもあるのだ。

組み付いてからの頭突きという、荒々しい喧嘩殺法から、今度は流れるように身を捌いての剣道技……。
まさに剣道家≠ニ不良少年≠ニいう両面を併せ持った、滝沢ならではの格闘スキルだ。
この千差万別に移り変わる攻撃を――果たして相手はどう受け止めるだろうか。
144 :小日向 愛莉 [saga]:2014/05/31(土) 03:36:16.62 ID:8qHdgvzq0
>>143

衝突できず。この時点で、カラメリゼは腰部スラスターを前方に向けて減速しつつ左方へ回頭することを決めた。
ロランの攻めは攻防一体、大振りな攻めを躱した以上、生じる隙に攻撃を叩きこまない道理はない。
それを承知していたからこそ、リカバーのために左手を空けているのだ。

裂帛の気迫をまとった横腹への斬撃に、ハルバードの石突き部分から発振したビーム刃を下から押し当てる。
無論それだけでは押し負けることは分かっているので、第三の手――バインダーに内蔵されたビームソードを刃の切っ先に宛がうのも忘れない。
鋼の騎士の討ち合いは続く。粒子を刃の形と成す力場同士が激しく干渉し、閃光が相対する二機を鮮烈に照らし出した。

 拮抗している――と言いたいのはやまやまだけれど、実のところ力不足の感がある。
 ライバルは「術理」に通じている。手札を見せきった状態で接近戦を続けていれば、カラメリゼは押し負けるに違いない。
 こうなると、二の太刀が来る前にちょっとした危険を冒してでも痛手を負わせなければ。
 それが正解か、それとも早まった行いかは、ひとつ占ってみるまで分からないけれど。

「カラメリゼ、足払いです。目の前までやって来たナイトの駒を、しっかり倒しますよ」
『あい分かった。……覇者の前に膝を折れ、ナイト・オブ・パブリカ!』

選択された反撃は、武器でもなんでもない――シンプルな足払い。
騎士は剣戟のために重心と意識を偏らせていると踏んで、貴族の靴のように尖った黄金の脚が刈り取るような横薙ぎを見舞おうとするだろう。
それで転んでくれたなら、間髪入れずに《オーバーウェルム》の三連ビームを移動力の要たる両脚めがけて放つ腹づもりだ。

しかしながら、上で繰り広げられる剣戟のほうでは、カラメリゼは着実に押し負けつつある。
この攻撃になんとかして対処できれば、左腕と隠し腕の剣をいっぺんに弾かれて、今度こそ大きな隙を晒すだろう――。
145 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/05/31(土) 23:40:10.98 ID:gDFMn7n/o
>>144

《脚部:損傷率21%》

ピピッ……と警告音が鳴り響き、滝沢のDVNOに、今受けたばかりのダメージが表示され、
それからコンマ1秒遅れること、カラメリゼによる横薙ぎのキックに、ロランの足が絡め取られたことに気付く。
まるで橋本真也の水面蹴り≠ナも食らったかのように、ロランの体が後ろに傾いていき、
目線が太陽に近付く――仰向きの姿勢となって、このまま転ばされてしまうかと思われたが――――


『くっ……しまった……ッ!!』

「背部ブースター全開、持ち堪えろ――――ロランッ!!」


これがもしも、ロランとカラメリゼの純粋な一騎討ちだったのならば、
この一撃でゲームセット。さらなる追撃によって脚部を潰され、為す術もなくトドメを刺されることとなっただろう。

――――が、その窮地を、間一髪で滝沢の指示が救う。

ロランは背中に擁した二基のフレキシブルブースター――騎士のマントを模して作られた――を目一杯に噴かし、倒れかけた上体を強引に持ち上げて、
さらにその推力を活かし、今も激しく鎬を削り合っている、右手のビームソードを押し込む力へと変換する。


『だから、私の名前は……――――ロラン≠セと、言っているッ!!!』


ロランは自らの剣を抑え込んでいる、敵の短槍と隠し腕を弾き飛ばすべく、鋸を引くように右手を振るい、
そしてそれに成功したのならば、切り返し様に振り下ろす縦一閃――――
これで四度目のアタックだ……。今度こそ、無防備となったカラメリゼの左腕を胴体から斬り落とし、
そのまま稲光の如く、敵機の後方へと抜き去っていくことになるだろう。
146 :小日向 愛莉 [saga]:2014/06/01(日) 02:55:52.57 ID:Xw1XyfUwo
>>145

幾度も剣閃を重ねて激しくぶつかり合った二騎だったが、ここで詰める、という所で余力を残していたのはロランの方だった。
不意にその勢いを増して繰り出される剣に、カラメリゼのガードが完全にまくられる。
そして振るわれた返しの一刀は、気持ち良いくらい綺麗に――カラメリゼの左腕を、肘先から斬り飛ばした。

【L.ARM:損傷率45% 左腕ロスト】

『が、ははは……肩を持って行かれなかっただけマシというわけだな……やりおるわ』
「ロランさん、ごめんなさい。カラメリゼ、だいぶ熱くなっちゃってるみたいです」

装甲値と武装の半分以上がバインダーにかかっているため見かけ上の損傷率は低いが、片腕を潰されるのが痛くないわけではない。
例えばこの状態で《ディバインライト》を撃とうとすれば反動を殺しきれるか分からないし、予備動作ももたつくだろう。
ついでに言えば、ハルバードの半分も腕ごと実質的にオシャカだ。少し、趨勢があちらに傾いたか。


「……実を言うと、私も楽しくなってきてます」


――だからこそ、ここからまた戦況を引っくり返してやろうと死に物狂いになれる。
愛莉の澄んだ丸い瞳と、カラメリゼの睨みをきかせた狐のような切れ長の眼が、同じ闘志を宿して。
片腕を失ってもなお威厳に満ちる黄金の帝は、傷を確かめる間もなく背中側へと流れていったロランの影を追う。

『たいそうな斬り付けだったぞ、……ロラン。ではその返礼に、串刺しとしてやろう――!』

バインダーの裏側に据えられた粒子ビーム砲が、ふたたびロランへ向けて牙を剥いた。奔る三位一体の閃光。
今度は三本をすべて直接攻撃のために用い、足・膝・腹にかけて照射する算段だ。
そしてカラメリゼは砲撃を行いつつ、後方――件の「コーヒーカップ」がある方へと、スラスターを噴いて超低空を滑るように移動しようとするだろう。
147 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/06/01(日) 05:26:02.95 ID:lCvCzvcFo
>>146

――――仕留め損ねた。
ロランが繰り出した剣戟は、カラメリゼの左腕を胴体から切断すべく、肩の付け根辺りを狙ったつもりだったが、
やはり無理な体勢から剣を振るったせいで、手元がやや狂ってしまったか……。肝心要のバインダー部分は、そのまま相手に残してしまった。
となれば、ロランが敵の後方へ抜けていくのを、みすみす見逃してくれる筈がない。しかし、それに気付いたとしても――――

「やべえ……! ロラン、後ろだッ……――――!!」

ロランは咄嗟に身を翻し、後方から迫る三本の光線――そのうち、自分の腹部を狙って来た一つだけはアームドクロー≠ナ弾き飛ばすことに成功するも、
残りの二本によって、左の膝に風穴を開けられ、さらには踵部分に備えた拍車型ローラーまでも破壊されてしまう。
膝の人工筋肉を破られたことで、そこから下が動かなくなり、さらにローラーまで失ったとなれば――最早ロランの左足は、ただ歩くのを支えるだけの松葉杖みたいなものだ。

《脚部:損傷率65%》

そして、相手の射撃を貰ってバランスを崩したロランが、受け身を取りながら投げ出された場所――――
そこはカラメリゼが逃げ込んだコーヒーカップ≠ニは、通路を挟んで反対側――サーキット%烽フド真ん中だった。
――――つまり、もうこちらが身を隠す場所は、周囲には一切存在しないということだ。
左足を潰されて機動力を失い、さらに遮蔽物も見当たらないこの状況――分かっている。……奴は間違いなくアレ≠撃って来る。
だとしたら、どうする? ブースターを全力噴射して、上空へ逃げるか? いや、もう一度どこかに隠れる場所を探してみるか――――

「ハッ、馬鹿げてるぜ……。そうだよな、ロラン」

『ああ、その通りだ。――――何れにせよ、今の状態でここから逃げ切れるという確証もない』

滝沢は脳裏によぎったそれらの案を、全て一蹴。鼻で笑い捨て、忘却の彼方へと吹き飛ばす。
こちらがどこへ逃げようと、どこへ隠れようと、あの相手ならば――愛莉とカラメリゼ≠ネらば、間違いなく当てて来る。
今日のこれまでの戦いで、奴らにそれだけの腕があることは充分に分かっている。仮にそうでなくとも――ここで逃げ隠れするような選択を、この二人が選ぶわけもない。
迷ったら強気=\―それこそが、滝沢とロランのファイトスタイルの信条なのだ。

来るがいい、黄金の帝王よ。貴様の威光≠ニ、我が竜殺し=\―――どちらが強いか、ここで試してくれようじゃないか。

「行くぜッ――――――――――!!!」

滝沢が号令を掛ける――その一言で、ロランにも全てが伝わる。
ロランは動かない左足を引き摺るようにして立ち上がり、サーキットの中心部で、右手の剣を大上段へと振り被る。
すると騎士の剣には、収め切れなくなった電流が剣身の周囲で螺旋を描くほどの、莫大なエネルギーが集約していき――――


『「ド ラ ゴ ン ッ ……――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――― バ ス タ ァ ァ ァ ァ ァ ー ッ !!!!」』


滝沢とロランの咆哮が共鳴すると同時に、溜め込まれたエネルギーが刃の形を成して解き放たれた。
――――瞬間、剣を纏うビーム刃が肥大。フィールグラムの最奥までをも両断してしまうような、弩級を超えるサイズの大剣へと変貌する。
そして、その剣をカラメリゼに向けて――ただ真っ直ぐに$Uり下ろす。
これでいい。このあまりにも単純で、破壊的で、幻想的な一閃が――万物を斬り裂く光となる。

紅蓮の騎士が誇る、至高最大、究極の一撃――――止められるものならば、止めてみせよ。
148 :小日向 愛莉 [saga]:2014/06/02(月) 03:24:53.73 ID:hu0aQf7yo
>>147

カラメリゼは斉射からの流れるような動きで、柵を飛び越えて屋根の下に潜り込んでいた。
手近なコーヒーカップの陰に隠れながら取るのは、やはりと言うべきか腰だめの砲撃体勢。
折り畳まれていた巨砲が55cmにも及ぶ真の姿を顕し、観客からはどよめきが上がる。
左腕を失ったことで欠いた安定は、コップの縁の上に橋を渡すように砲身を置くことでどうにか確保した。

両騎が必殺の武装を突き付け合うこの状況は、決して破れかぶれの産物ではなかった。
ロランからしてみれば回避能力を大きく損ない、一撃で決着を付けなければ勝利は望めない。
接近戦における解答を失ったところで、そうそう訪れない必殺の好機を逃すまいとするのはカラメリゼにとっても必然。

「オーダーには、最高のおもてなしで答えるのが看板娘の勤めですね」
『相違ないな。……全力でやらせてもらうぞ』

全てを出し尽くした上での最後の対峙――心地良い緊張感が、愛莉の胸いっぱいに広がっていた。

「遮光モニターを下げます。《マジェスティ》を狙撃モードに移行」

《ディバインライト》が吠え猛る時が来た。
カラメリゼは双眸をバイザーで覆い、踵からは反動を殺すアウトリガーが展開する。

「残余電力71%のうち、55%を《ディバインライト》機関部に導入。エネルギー圧縮過程に異常なし。
 粒子収束機、運転開始。最終未来予測は私がやります。カラメリゼ、銃爪を任せました」

今までに機体を動かしてきたそれの、約二倍にも値する電力がたった一発に注ぎ込まれる。
抑え付けきれない膨大な粒子が銃口から溢れ出し、きらめく鎧を仄かに照らす。
ロックオンマーカーが赤い機影に重なれば、右手の指がトリガーにかかり……

――ほぼ時を同じくして“賽は投げられた”。


  『――――――――当・た・れぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ ッ!!!!!』


ついさっきまで地面だった瓦礫を巻き上げ、衝撃波で宙に輪を描きながら、極大の光線が奔る。
滅殺の波は進路上に存在する全てを削り取り、呑み込んでいく。
天を灼き尽くす光の刃を止める――否、その担い手を、塵ひとつ残さずに抹消するために――!!


【HEAD:損傷率100%】


その残酷なメッセージが先に映し出されたのは、果たしてどちらのDVNOだったか。
もし、滝沢がこの時に愛莉の方をちらと見たなら――破壊の嵐が過ぎ去るよりも「前」に、彼女が項垂れるのが分かるかもしれない。

……それは、いわゆるタッチの差というものだった。
大上段に振りかざろされた光剣が雷霆のごとくカラメリゼを打ち据える瞬間、破滅の光もロランを飲み込もうとしていた。
事実、いちど瞬きをする間にロランも閃光の中にその身を溶かすだろう。しかし、一秒でも生き長らえた方が勝つのがゲームのルール。
――最短距離でHEADを粉砕する「振り下ろし」を選んでいたことが、最後の最後で功を奏したのだ。
手慣れた動作を、迷うことなく、息をするように。それは剣禅一如の境地と言っても言い過ぎではない、見事な一本だった。
149 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/06/02(月) 20:54:55.72 ID:DL36XTKXo
>>148

ドラゴンバスター≠ニディバインライト≠フ衝突によって、フィールグラム内を埋め尽くす、爆炎。閃光。粉塵――――
その中で、ロランが暴威の嵐に飲み込まれる直前――確かに竜殺しの刃が、敵の頭部を捉え、
DVNOを見据える愛莉が首を垂れる姿を、滝沢も見逃しはしなかった。

それらが意味することは、つまり――――自分とロランが勝利≠オたという事実だ。


「――――ふぅ、何とか勝ったみてーだな……」


滝沢はホッと息を吐いて、胸を撫で下ろすと、
サーキットの中心で倒れ伏せる愛機に「……ありがとよ、相棒」と、一言の感謝を告げる。
尤も、既に意識を失ったロランに、その言葉が届くことはないのだが……。

そして、会場から聞こえる歓声に、ようやく自分の仕事を思い出したとばかりに、
滝沢はステージの対面に立つ、愛莉の方へと向き直り――――


「いい勝負だった。しかし……――――100万年早まったな、強き少女よ!」


本当に今更だが、地域密着型ヒーローのモードへ戻った滝沢は、
右手を腰元に、左手を肩の対角へと突き出す変身ポーズ≠決めながら、自らの勝利を宣言した。
馬鹿げた台詞と動作だが、その姿を見た観客は、僅かながらに声援を強める。
やはり古来から受け継がれてきた、この儀式じみたポーズも、純粋な少年少女達の心には響くものがあるのだろうか。
150 :小日向 愛莉 [saga]:2014/06/02(月) 23:58:16.56 ID:hu0aQf7yo
>>149

「ありがとうございます。……とにかく楽しい勝負でした」

対戦が終わり、DVNOを内蔵した薄型の通信端末をポケットにしまって挨拶をする時も愛莉は冷静だった。
抑揚に乏しい口調は、ともすればムスッとしているようにも聞こえたたかもしれないが、実際はそんなはずもない事はあなたなら分かるはずだ。
心の底からこみ上げてくる余韻をゆっくりと噛み締めているからこそ、この少女は多くを語らない。

このまま司会が進行をしなければ、ずっとその場で戦いの記憶を掘り下げているのではないかと思われた愛莉だけれど、
突然、何かを思い出したように「はっ」として、タバスコライダーのそばにてくてくと歩み寄る。

「あっ、これが約束のものです。《HMPカフェ・コッペリア》で、コーヒー1杯とHMP用の味覚パフがひとつ無料になります。
 何かの用事で立ち寄ることになった際に、ついでに立ち寄っていただけるとうれしいです。
 (……ロランさんと一緒に来てくだされば、あなたが誰かもついでに分かりますしね)」

 二駅ほど離れた商店街で老舗のお菓子を買って帰る時に、ふらりと立ち寄ったイベントで父親の店の宣伝なんて、ちょっと、いやだいぶ失礼だ。
 とは言えカラメリゼが約束したことだし、イベントの終了時に出待ちなんて真似はできそうもない。
 加えて、多少ばかり出すぎた真似をしてもみんなが許してくれるくらいには、二人でいい勝負をしたではないか。

――なんて言い訳はともかくとして、愛莉は囁くような声と共に、裏面に地図と住所が印刷されたクーポンをあなたに手渡そうとするだろう。

受け渡しが終わったら、彼女は13人目の敗者として、イベントの進行を滞らせないうちに壇から降りていく。
もしもタバスコライダーから何か言うことがあるとすれば、ここで伝えることになるだろう。
151 :滝沢真一 ◆RED//SE1zQ [saga]:2014/06/03(火) 14:05:51.05 ID:QInW81uqo
>>150

「ああ、そういえばそんな約束もあったな……――ありがたく貰っておくことにしよう」


クーポンを受け取った滝沢は、右手を顎に当てて、少しばかり何かを思案した後、
襟元に付いた集音マイクのスイッチ切って、ステージから降りて行く愛莉へと声を掛ける。
これで会場にいる観客には、滝沢の声が届かなくなる筈だ。


「私は――いや、俺の名前は滝沢真一だ。今日は楽しかったぜ、またやろうな! 愛莉!」


滝沢は右手の親指をグッと立てて見せると、ヒーローとしてではない――自分自身の心からの言葉を、彼女へと告げる。
相変わらず表情の変わらないマスクに隠されているものの、その顔は何故か、軽快な笑みを浮かべている――ように見えたかもしれない。

――――――――――
――――――――――――――

しかし、この状況。どうしたものか――――
ロランがこれでは、メディカルポッドに入れても、直るまでには結構時間が掛かってしまうだろうし、
まさかこんな商店街のイベントで、ここまで手酷い傷を負うとは思っていなかったので、予備のHMPも持って来てはいない。
今後のイベント進行はどうしようかと、滝沢が考え込んでいると、上空から新たな影がステージへと舞い降りた。


「人の世に三悪有り。それは、酒と、賭博と――――大型ショッピングモール!
巨悪の魔の手から、平和な商店街を守るためにやって来た――――私の名前はバニラエッセンス・レディ=I!」


それはタバスコライダーを救うために現れた、もう一人のご当地ヒーローであった。
彼女の正体は一体誰なのか? そして、いつの間にか消えた司会のお姉さんは、どこへ行ってしまったのか?
様々な疑問を抱えながらも、観客たちは今日のイベントを、日が暮れるまで楽しんで帰ることになるだろう。
152 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/06/14(土) 03:14:38.21 ID:yKOYK7rQO
いちおうほ
153 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/07/14(月) 00:05:40.58 ID:fGddf2vYO
てすと
154 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/07/14(月) 00:05:56.36 ID:fGddf2vYO
よし、生きてるな
155 :青崎 修 :2014/07/14(月) 19:46:09.24 ID:mcUuY51jO
したらばの方急に人がいなくなりましたね……
ああ、ロールしたい……
156 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/07/14(月) 20:59:45.66 ID:/WHahgg/O
君嫌われてるんだよ
157 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(SSL) :2014/07/21(月) 21:26:04.53 ID:Cx36zDsC0
声なき声に
158 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(大阪府) [sage]:2014/07/22(火) 13:08:27.86 ID:EvBRfJpRo
青崎がいなければロールするんだけどなー
159 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/07/29(火) 21:24:47.42 ID:I4SuXjttO
学生は夏休み
10月にはBF2期
うまくいけば復活するかもね
160 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/13(水) 21:47:53.64 ID:GaTX3HTmo
コンピューター技術や情報技術が発達した今でも伝統文化は伝わり続ける物らしい。
盆の季節に神だか先祖だかを迎える為の祭事の縁日が、街の神社で開かれていた。

「……人が多過ぎんだよ」

祭囃子と人の群れ、うんざりした表情で波に流される男一人。
月見夜如月はこの様な祭事に浮かれるような人間でないし、人の集まる場所は好きではない、とにかくこのような場所は嫌いであった。
ただ、今回この縁日でHMPファイトの大会があるだとか聞いて、ほんの少し気になったので見てやろうと脚を運んだだけ、だ。

「やっぱこなけりゃよかった……」

大会があるとなれば、『あいつ』へのリベンジのチャンスでもあるかと思ったが、それ以上にこの空気は如月には毒だったらしい。
ふらふらと人混みに流されながら、今にも誰かにぶつかってしまいそうに、顔色の悪いモヤシ男が歩く。
161 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/13(水) 22:02:32.31 ID:skm8v3Ejo
>>160
 げっそりした如月のほうへと走ってくる影がある
 彼に比べればあまりにも小さなその体躯は、人ごみに埋もれていながら、滝を遡る鯉のように機敏だった

「遅刻ですっ!」
『馬鹿、当たるよ!』

 とはいえ幾らなんでも周りを見ていなさすぎたのか、ふらふらとしていた如月に少女はぶつかってしまう
 それも全速力で走っていたせいで、かなりハードに

「きゃっ……ご、ごめんなさい!」

 即座に謝りはしたが、如月の顔を見るや少し頬が引きつったのは、小学生ゆえの素直な感情というやつなのだろう
 もしかすると、謝られたという感じはなくなってしまうかもしれない
162 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/13(水) 22:19:37.00 ID:GaTX3HTmo
>>161
「あーくそ、やっぱ帰るか……」
《主、もう少しだ、諦めるな》
「……わかってんよ、冗談だ──うおっ!?」

諦め掛けた如月を、腰のケースに収められたHMPが励まし、意地になって歩みを進める。
どう見たって危ない人間でしかない彼の歩みを妨げるようにぶつかってきた小さな体が、如月を弾き飛ばした。

比喩とかではなく、如月はリリカに衝突した衝撃で吹っ飛んだのである。小学生女子にぶつかられて尻餅をつく男性もそうよく見られた物ではないであろう。

「………」

如月自身も、自分が何にぶつかって転んでしまったのかを確認すると、自分で自分が情けなくなってきた。

「…あー……やっぱ帰ろっかな……」

163 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/13(水) 22:27:09.63 ID:skm8v3Ejo
>>162
 まさか小学生がぶつかっただけで吹っ飛ぶ人間がいるとはこちらも想定外である

『……流石に、貧弱すぎやしないかね?』

 ぽつ、と肩の上にいた紅恋がうっかり本音をこぼした
 
「そういうことを言ってはいけませんよ
 その……大丈夫、ですか?」

 ぶつかって乱れてしまった髪を直しつつ、吹っ飛んだ如月に歩み寄る
 その途中で、彼女の目に腰のケースが入った

「もしかして、大会に参加なさるんですの?」

 ――目の色が変わった
 無垢そうな小学生のそれではなく、ファイトを求める野獣の目に
164 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/13(水) 22:44:53.14 ID:GaTX3HTmo
>>163
「うるせーな……」

まさか他人のHMPに馬鹿にされるとは思わなかった、悪態をつきながら如月は立ち上がる。

「ちょっと滑っただけだよ、ガキに心配される程でもねえ」
「……なんだ、お前大会に出んのか」

小学生相手に強がって、口を尖らせながら目を逸らし、如月は答える。
『大会参加者か』と、リリカの目が変わったが、赤い髪の隙間から横目で見詰め返し、首を振った。

「いいや、見学するだけだよ、大会に出る程俺は強くはねぇからな」
「……んな事より、参加者なら早く行かなきゃならねぇんじゃねえのか?もう始まるだろ」

165 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/13(水) 22:53:26.03 ID:skm8v3Ejo
>>164
「そう、ですか……? (とてもそうは見えませんでしたけど」

 表面上は心配そうにしつつ、小声で貶す辺り性格が悪い
 自分の声の通りと、雑踏の喧騒を計算して声量を決めているのだから、どこまで計算してるんだこの小学生

「ご心配ありがとうございます。でも、もう間に合いませんわ」
『無理だねー
 こっから加速して最短経路行っても向こうで何か起きてない限り、間に合わんて』

 けらけらと笑うHMPを肩に乗せて、くすくすとリリカは笑う

「なので、どうせなら会場までお話しませんか?
 ちょっと面白いこと言ってましたもの」

「あなたは強いから大会に出るんですの?
 楽しみたい、から出たいのではなくて?」

 くす、と嗤うように問いが飛んでくる
166 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/13(水) 23:30:20.05 ID:GaTX3HTmo
>>165
「……そんなに簡単に諦めていいのかよ?」

自分が言えた義理ではないが、簡単に大会出場を取り止めたリリカの物言いに、頬を引きつらせながら呟いた。
かといって、『諦めるな』なんて言える程の性格ではないし。

「そりゃそうだろ、強くなきゃ大会なんて出る権利ねーよ」
「負けりゃそこで終わりだ、強い奴しか生き残れねえんだよ、勝負ってのは」

思いも寄らない所で連れ合いが出来た如月は、不機嫌そうに人混みを睨みながら、さっきまでよりもゆったりと歩く。
167 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/13(水) 23:38:01.36 ID:skm8v3Ejo
>>166
「瞬間移動できるわけでもないですし、ダメなら仕方ないでしょう」
「まあ、間に合うよう出てこなかった自分が悪いのですわ」

 ざっくりとそう言い切る
 それに見ることも、時には大事だ

「あなたはそういうスタンスなのですね」

 歩調を合わせてくれていることに、いい人かもと評価を変えつつ

「たしかに、負ければ終わりですけど、そこで得るものってありません?」
「強い方は、恐ろしいです。けれど、その恐ろしさを腑分けすれば、きっと自分も同じことが出来るはずです」
「同じ人間ですもの。見て戦って食らいついて盗んでいく」
「そりゃ、勝ちたいですけど。今は、弱い。なら、負けることを恥じないで、盗んでいくだけですわ」

 まあ、と言葉を折って

「あくまで、私みたいなお遊びの範疇なら、こういう方法ですけども」
「あなたのスタンスは……なんだか、命を懸けているみたいですわね」
 
 もしかして、そういう方ですの?と見上げつつ
168 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 00:05:17.06 ID:JB5VhGPwo
>>167
「……ガキにはわかんねえよ、勝負の世界の厳しさは」

「勝ちが1なら、負けは0だ、負けたら何も残らねえんだよ、どれだけ頑張っただの、どう次に活かすかだの、そんなもんは見てくれねえんだ」
「やるからには負けは許されない、勝ち続けなきゃなんねえんだよ、別にHMPファイトに限った事じゃねえ」

「……でも、俺はダメだよ、勝ち続けるなんて出来やしなかったからな」
「もう負けたくはねえんだよ俺は、だから絶対勝てる時しか戦わねえと決めた。命を賭けてる訳じゃねえが、そうだとするなら妥当な判断だろ?」

物事全て勝ちに固執する、凝り固まった概念の持ち主だ、しかしそれでも勝ち続けるなんて不可能な話である。
負けを知って、牙を折られた如月は、それ以降戦う事をしたくはなくなってしまった、それはHMPファイトも同様になる……筈だった。

「……まあ、他のことならそう言って諦めてる所なんだけどな、HMPファイトに関しては別だ」
「取り敢えず、あの野郎をコテンパンにのしてやらねえと気が済まねえ」

「『強くないから出ない』っつーのはあれだ……謙遜だよ、察しろよ」

これまで、様々な事を敗北と共に諦めて来ていたらしい如月だが、それでもHMPファイトにだけは敗北を諦めの引鉄にはならなかった。
それは確かに彼がHMPを愛しているからという事実に他ならず、歪んだ中の唯一の拠り所である証明であった。
169 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 00:17:16.51 ID:TjqkFA6fo
>>168
 見えてきた熱に、リリカは嬉しそうに笑った
 もっと冷ややかな男かと、そう思っていたのに嬉しい裏切りだった
 
「世の中成果主義ですものね」

 一度でも躓けば赦さない
 それは、お嬢様として育てられていく上で、将来自分がなるべき姿だ
 
「いいじゃないですの。そういう安定志向。好きですわ」

 それでも、譲れないものが確かにあるのだから
 その分野でだけは泥を啜れるのだから

「今は牙を研いでいるとき、ということですわね」
「いいですわ。素敵です。その相手をあなたがぶつかるとき、見てみたいです」

 くすくすと笑う声は、実に楽しそうだ
 
「でも……その方向性の謙遜はちょっとどうかと思いますわ」

 露骨にリリカの目が泳いでいた
170 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 00:46:39.15 ID:JB5VhGPwo
>>169
「……しかしなんつーか、ガキらしくねえ奴だな、お前」
「良く見りゃ服もいい奴着てるし、まさかいい所の娘……な訳ねえよな、そんな奴が一人で出歩く筈がねえし」

何というか、つい話しこんでしまう雰囲気といい、言葉選びといい、服装といい、改めて見るとリリカには数々の違和感がある。
ただの小学生には思えないが、まさかだからといっていい家のお嬢様とも思えないな、と如月は呟いた。
そういう如月だって、こう見えていい家のお坊ちゃんなのに。

「俺が少しその気になりゃそうそう負けやしねえんだよ、まずHMPからしてそこらで売ってんのとは違うんだから。な?ヴラド?」
「……ヴラド?」

なんだかんだで、HMPに対しては大した自信があるらしく、したり顔で自慢しながら自分のHMPに話を振る。
が、肝心のHMPからの返事はなく、不思議に思った如月は腰のケースに目線を向ける、するとその先には驚きの光景が!

「………」

腰の棺桶型ケースの蓋は開いており、ぷらぷらと開きっ放しの蓋がぶら下がっている、そしてその中に収まっている筈のHMPの姿は……無い。

如月の目の前は───真っ白になった。
171 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 00:57:23.33 ID:TjqkFA6fo
>>170
「淑女を目指す身の上ですわ、とだけ」

 くす、と笑ってみせる
 まさか互いにいいところの子だと思っていないというのは、なかなか面白いものだろう

 自信満々な如月の姿はなんだか、面白い
 年はかなり離れているのに、喜び方はそう違わないのだ

「ヴラド、それが相棒の名前ですの……?」

 言いつつ、どんな姿なのか想像しながら彼の腰に目を向けると……

「中には誰も居ませんわね……ではなくて!」

 紅恋と叫ぶより早く、彼女の肩上に止まっていたHMPが飛び出した
 右腕のワイヤー武器が、ちょうちんをぶら下げている紐に引っかかり、彼女を引き上げる
 紐上に到達すると蜘蛛へ変形し、頭上から周囲を探索する

「ぶつかった座標は?」
『ちょいログ見つつ追う。スリープ入ってたなら、落ちた段階で起きるから踏み潰されてはいねーだろうが』

 量産品でない、というなら、誰かに持っていかれているかもしれない
 拾って届けてくれているだけなら、それでいいのだが……

「急ぎますわよ!」

 何のためらいもなく如月の手を握ると、リリカはもと来た道を引き返さんとする
 既に紅恋は先行して偵察中だ
172 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 01:30:44.37 ID:JB5VhGPwo
>>171
いない、というか───気付いていなかった……。
恐らくリリカとぶつかった拍子に蓋が開き、それに気付かずにいたのだろう、いくら気が散っていたとはいえ、やってはならない事をしてしまった。

(……やべえ……この人混みじゃ拾われてないにしろ探すのも骨だぞ)
(くそッ!なんで気付かなかった俺!?いつもなら蓋が開いてるくらいすぐに気付いてるのに……!)

今来た道をばっと振り返って見るが、人、人、人の人混みの中、これだけの人間の中からHMP一体を見つけるのがどれだけ大変な事だろうか。
すぐさまDVNOを起動するが、画面にデータは映らず通信も出来ない、大会がある為に辺りの回線が絞られているのだろうか。

「やるしかねえ……こうなりゃ虱潰しに……」

手だてが無くなった訳じゃない、まだ無理矢理探し当てるという方法が残っている。
意を決して走り出そうとした如月であった……が。

「うおぉっ!!?ちょっと待て!いきなり引っ張るな!」

それよりも早く、リリカに手を引かれ、あまりに急な動作に如月は半ば引き摺られるように、転びそうに前につんのめりながら連れて行かれる。

173 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 01:42:26.50 ID:TjqkFA6fo
>>172
 意識を先行させすぎて、気を使うのを忘れていた

「ぶつかった私のせいですわ。だから、絶対見つけます」

 す、と一瞬だけ振り返って、如月に告げる
 目には確かな意思があった
 
「うちの子を先行させてますわ。
 あれはこういう場所が得意ですので」
 
 とはいえ通信帯が絞られているのなら、そちらも見失わないようにしなくてはならないだろう
 無論、下より上にいるのし、向こうもこちらの位置を把握しているだろうからはぐれることはないだろう
 と、光を反射するものが目に入った。
 あれは目印だろう

「目印に紐を垂らしてくれています
 あれを追って、ぶつかった場所にとりあえず戻りましょう」
 
 上を見ればちょうちんを垂らしている糸に、人形のカタチにあまれた紐がくくりつけられている
 それは先行する紅恋がつけた道しるべだ
 ログから場所を解析している彼女の後を追えば、迷うことはない

「低いところはお任せください。チビはこういうとき活用するものですのよ」

 そういって進みながら低めの位置に目線を飛ばしている
174 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 02:14:24.99 ID:JB5VhGPwo
>>173
小学生女子に引っ張り回されるなんて、なんと屈辱的だろうか、だが今はそんな事を言っている暇なんかではない。
とにかくHMPを見つけなくては、長年連れ添った相棒をこんな事で失う訳にはいかない、失いたくはない。

「……ッ」

だが実際はどうだ、相棒を探す事まで、自分の力ではなく他人のおかげで成り立っているではないか。
それがどうにも、如月は気に食わなかった。というよりも、どう感じればいいのかわからなかった。
勿論ただの親切かもしれないし、ぶつかった事による責任なのかもしれないが、自分が他人に引っ張られているという事自体が、この男からすればプライドとかそういう物を傷付けるのだろう。

少し走ると、ぶつかった場所から少し離れた場所で、子供達が群がっているのが見えた。どうやら寄ってたかって何かに注目しているようだが……?

《──クッ!離さぬか!!我輩は主の元へ行かねばならぬのだ!!》
「……!あの声は……!」

雑踏の中で、子供達の中心から聞こえて来るHMPの合成音声、それを聞き付けた如月が急にスピードを上げ、リリカを振り切ってまで走って行く。
今までのふらふらした動きからは予想もつかないスピードで、物凄い形相で突っ込んでくる赤髪の男に、振り向いた子供が恐怖の叫びを上げたのと如月が子供達の群れの中心に飛び込んだのは同時の事だった。

それはまるで曲芸のように、縁日に来ていた人々の注目を集めただろう。
ダッシュからの飛び込み前転で見事に紛失していたHMPを子供達の手から奪い取った如月は、甲子園球児が如きスライディングを披露してから、両手に掴んだそれが自分の相棒である事を確認して安堵する。

「無事だったか?ヴラド……!」
《あ、ああ……無事だ、主よ》

感動の再開……と言っていいのだろうか?これは
175 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 02:30:22.82 ID:TjqkFA6fo
>>174
 突然見せられた如月の男らしい姿に、リリカは素直にかっこいいと思った
 たとえそれが、傍から見ると子供の手からおもちゃを強奪したようにしか見えなくても、だ
 
 相棒とは魂の半身だ。連れ添った時間が長くなればなるほど、その感覚は増大する
 どこか冷えている如月がここまで熱くなるのだから、二人の時間は推して知るべしというところだろう

 それを取り戻したこと――どれだけ情けない絵面でも、胸が熱くなってくるというものだ

「よかった、ですわね」

 そんな景色をちょっと離れたところで見つめながら、リリカは目尻に浮かんだものを拭い取った
 それから、ゆっくりと如月に近づいていって腰を下ろす

「改めて、あなたの相棒を紹介してくださる?」
176 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 03:02:00.54 ID:JB5VhGPwo
>>175
割と質のいい服が汚れたって構わない、ただ一人の相棒が無事なら。
埃なんかは払えばいいのだ、唯一の物が無くなる事と比べればこんな物、どうでもない。

「どこも壊れてねえな……?」
《うむ、大事ないぞ》

HMPの各部を手早く確認し、目立った傷が無い事を確認すると、如月は再び安堵した。
それからリリカに振り向くと、掌に載せたHMP…ブラッディヴラドを見せる。

「……ああ、こいつが俺のHMP、ブラッディヴラドだ」
《む、なんだ主よ、我輩を他人に紹介するとは珍しいな》
「お前を探すのを手伝ってくれたからな……」

ブラッディヴラドは如月が一から創り上げたHMP、線の細いシルエットに、黒と紅のコントラストが不気味な優雅さを持つ、吸血鬼を彷彿とさせる機体だ。
177 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 03:14:22.51 ID:TjqkFA6fo
>>176
「品のある佇まいですわね」

ヴラドを見て、驚いたりせずリリカは冷静にそう評価した
ヒロイックではないが、その薄ら暗い佇まいには品格がある

「これを自作したんでしょう? 素敵です」

ふふと笑いながらリリカは目を細めて、その細部を舐め回すように見ていく

これはどんな戦い方をするんだろう
この二人はどんなコンビネーションを見せるのだろう
想像すると、少しぞくぞくする
走ったことによるものとは別の赤が、リリカの頬を染めた

「そのうち、機会があればお手合わせしてくださるかしら?
 私の、この紅恋と」

まるでタイミングを合わせたかのように、しゅるりと頭上から蜘蛛が降りてきた
肩に落ちる寸前、人型に変形したそれは、エロチックな佇まいで二人を見ていた

『うちのは粘着質だからね、ほいほいいいよって言わないほうがいいよぉ』

まあ、口にしたのはリリカとは正反対の言葉だったのだが
178 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [saga]:2014/08/14(木) 03:47:07.87 ID:JB5VhGPwo
>>177
「……ああ、全部一から俺が作った」
「だから、そこらで売ってんのとは核が違うんだよ」

ふふん、と得意気に自慢する如月、一から作ったにしてはよく出来ている機体だ、どちらかというと作製や整備の方に才があるのかもしれないと思わせる程。

《……戦いたい……か》

リリカの申し出に、如月が答える前にヴラドが小さく呟いた。
思う所がある、如月は以前、一度ある男に負けてから殆ど戦っていないのをヴラドは知っていた。それはただ戦っていないのではなく、自分から逃げているようだと。
如月は『リベンジするまで無駄な戦いはしない』とヴラドに語ってはいたが……

「……戦いたい、か」
「ま、いいけど、負けたからって泣いたりすんじゃねえぞ?」

だが、ヴラドの心配を他所に如月はこれを承諾、とても簡単に勝負の約束を取り付けた。
これは如月がリリカに対して、僅かにでも心を開いているという事……だろうか。


──それはいいとして、だ。
何か忘れてはいないだろうか?果たして彼等は呑気に話していて、いいのだろうか?
ふと、如月は気付いた、やけに周りがスカスカだ、まるで周囲の人間がわざとスペースを開けているように。
いや、まるでではなく、本当に周囲の人間が一歩引いて如月を見ている、奇異な物を見る目で彼を見ている。
そりゃ当然、祭りの雑踏の中で、いきなり飛び込み前転で子供達に突っ込む奴がいれば、ドン引きするのは当たり前である。

「……ま、今日はもう帰るわ」

すごく居づらい、最早これでは大会見学もままなら無いであろう。
我に帰った如月は、ヴラドをケースに収めると、逃げるようにそそくさと人混みを掻き分けて行ってしまう。

祭なんて懲り懲りだ──如月はこの夜、そう考えていた。

/乙でした!
179 :羽麻リリカ ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/14(木) 03:55:34.43 ID:TjqkFA6f0
>>178
言質をとった、とばかりに肯きの言葉に対してリリカは笑顔を浮かべた
嬉しそう、というよりかは、凄みのある笑顔だ

「楽しみに、してますね」

半音高くなった声音が、その喜びを語っている

「その実力のほど、私に叩き込んでくださいまし」
『だからやめときなって言ったのに……そちらさんも、色々あるみたいだけどさー』

陶酔するように、そそくさ逃げて行く如月を見送るリリカの肩で、紅恋は飽きれた声を出していた
なんか色々されるのかなぁと思うと、少し面倒くさかったのだ

「あれほどのものなのですから、私ももっと己を磨かないとね?」
『はいはい、付き合えばいーんでしょ』

ゾッとする笑顔の少女が振り返ると、人垣が割れて道を作ってくれた
なんていい人たちなんだろう、そんな風に漠然と思いつつ頭の中をいっぱいにしたリリカは大会観戦へと向かった

なお、この日の大会データは後に再会したとき手渡したという

//こんな時間までお付き合いありがとでした!
180 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/19(火) 22:44:53.25 ID:Ffx2LhoGo
彼女たちの主人はマニアである
出会えばだいたいこのパーツがどうだの、あっちの会社はどうだのと、そんな話ばかりしている
もちろん、それは自分たちの強化に結びつくものだから、そんな会話を楽しんでいるのを邪魔するつもりはない
けれど、手持ち無沙汰なのは確かで……

『ねぇねぇ、ルリちゃん』

ぽん、とナノ秒の通信で、エリことエクリプスは相手の相棒――ルリに話しかけた
以前対戦したときにアドレスは知っているので、話しかけるのはそう手間でもなかった

『マスターたちって、なんか子供みたいだよね。いい年してるのに』

開口一番、ばっさりとマスターを切り捨てるような発言が飛び出してきた
181 :ルリ [sage]:2014/08/19(火) 23:03:35.74 ID:MRVIHaFho
>>180
【突然の通信に少々驚いた。成る程、エクリプスか。
 どうやら彼女は自分を放って話し込む主人にご不満なようだな。】

『ふん、私に夢中でいるなら子供で構わないさ。そうだろう?』

【やや誇張したが、嘘ではない。】

『子供であることが夢中であると言うことなら、私は何時までも子供でいて貰いたいものだ。
 ナオヒロに限らず、HMPファイターの誰もがな。』

【こうして熱く語り合う2人を他人から見ると玩具に熱心な変な人間になってしまうのだろうが、
 私からすればそれだけ私達に関心があるときうことだからな。
 これが聞けるうちは私の存在が肯定されている証明だ。】
182 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/19(火) 23:13:21.63 ID:Ffx2LhoGo
>>181
「まあ、そうとも言えるのかなぁ」

自信満々でうらやましいな、と少しエリは思う
そこまで胸を張れるほど、エリには自信がなかった

「それはそう、なんですけど。
 これでいいのかなぁ、みたいな、ちょっと心配な感じ?」

上手く意図を言語化できない

「こう、夢中で居てくれるのはいいんだけど……
 なんだろ、生活とか大丈夫かな?みたいな」

ナオヒロがどうかはわからないが、少なくともシンは生活の大部分をHMPに傾けている
社会不適合者の謗りを受けてもしかたのないくらいにだ
しかし、それでお金を稼いでいるのだから、大っぴらに抗議もできない

複雑な感情コードが回線に乗ってルリに届く
183 :ルリ [sage]:2014/08/19(火) 23:37:05.21 ID:MRVIHaFho
>>182
『私とナオヒロは対等の関係だが、対等の立場ではないからな。
 私は今が続くことを望むしかない。
 こうしてそれが感じられるうちは、私は私でいられるからな』

『……エクリプスの言う心配も分かるがな、そちらはまだそれで飯が食えているのだからマシだろう。
 似たような話は蘭花もしていたが、アレはアレでEDENの一員だ。
 社会不適合的であろうと、それで生活できているなら社会に認められているのだ。
 ナオヒロの方がよっぽど心配だな。』

【エクリプスの心配事はよく分かる。
 分かるが、共感は仕切れない。
 ナオヒロは荒田や蘭花ほど振り切れていない。
 将来的に心配なのは自分の立ち位置もだ。】
184 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/19(火) 23:42:50.91 ID:Ffx2LhoGo
>>183
「そう、ですね」

一瞬、回線に感情コードが乗り、ぶっつりと切れた
まるで内側にこもったかのようだった

(ルリちゃんは、強いよ)

そのときに見えたのは羨望だった
どうも、エリというAIには色々となぞがあるようだ

「贅沢な、悩みなのかもしれないですね。
 ……ナオヒロさん、はどうなんです?
 ルリちゃんから見て、そんなに危うい感じですか?」

創作物でよく描かれるような闇堕ちしてしまうようなものなのか
それともたんに、生活できないかもしれないという危うさなのか
185 :ルリ [sage]:2014/08/20(水) 00:05:35.94 ID:n9v5Xrmgo
>>184
『……?』

【今の感情はどういうことだろうか。
 エクリプスの思いを感じても、その意図までは読めない。
 何故その感情に至ったか迄は分かり得ないのだ。】

『まあ倒れてしまっては元も子もないことだ、生活面を心配するのは当然のことだな。
 ……私が心配しているのは、私のことさ。
 ナオヒロは蘭花や君の主人ほど私達に傾倒していないからな、将来的に私はお役御免となるだろう。
 そうなったとき、私はどうなるのか。……考えたくなど、ないのだがな。』

【自嘲がちに言う声色に、恐怖のような感情が乗る。】

『もしハマり込んだとして、私をいつまでも使ってくれる保証も無いがな』
186 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/20(水) 00:16:47.37 ID:SBtaKJy/o
>>185
「ああ、そういう……」

その実、主の心配もしているのだろうが

「うーん、見ている限りではかなりルリちゃんのこと、愛してると思いますよ?
でも、ルリちゃんはそれだけじゃ嫌なんですよね」

戦って戦って、戦いの果てに潰れて消える。
それは、戦闘に特化したHMPのAIに埋め込まれた呪いだ
だが、エリのいう愛しているというのは、少しベクトルが違う
ドールをめでるような、相棒に声を掛けるような、そういう愛情に近い
だから、ルリはきっと満たされない

「AIの成長限界の話はよくマスターがしてくれます
HMP筐体の限られた電脳の能力に合わせる形で、私たちは成長因子を刈り取られているせいで
私たちは、ある一点を超えられないのだとか」

本来的に言えばAIは永遠に成長し続けるものだ
過去の一地点でのパターンを、最新のところに持ってくることだって出来る
だが、それを容易に出来ないように、HMPは制限が掛けられている
なぜ? そうしなければバッテリーや処理能力の関係で、機体を動かせないからだ

「……こわい、ですか?
 人間に……ナオヒロさんに、ついていけないかもしれないということが」
187 :ルリ [sage]:2014/08/20(水) 00:37:12.06 ID:n9v5Xrmgo
>>186
『ナオヒロが私を愛している、か。
 私が愛されている、そのことにどんな意味がある?
 私とナオヒロは対等な関係だ、ビジネスにおける仕事相手のように。
 その関係の中での愛など、木っ端よりも頼り無い。』

=こぼれた言葉は本音か嘘か。
 ルリにとってルリは一玩具のひとつであり、ありきたりな一つだ。
 市販品のAIに市販品の躯、ルリのコンプレックスは以外にも深い。
 特別でない自分が、特別でいられるのか、という懸念を捨てられないでいる。=

『……そうだな、私は恐ろしい。
 ナオヒロが、ナオヒロを取り巻く環境がやがて私達までもを変えてしまうことが。
 私達は変わらないが、私達を変えることは容易い。 
 私が私であり続けられる保証はないのだ。
 変化の流れからこぼれ落ち、一度でも置いて行かれれば、私は二度と追いつけない。』
188 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/20(水) 00:49:40.93 ID:SBtaKJy/o
>>187
「人間は、愛に意味づけをするんだそうですよ。
たとえ量産品でも、誰もが持っているものでも……ずっと一緒にいれば、愛着が生まれるんだそうです」

ただ使っているだけの道具でも、なぜか捨てられないということはよくあることだ
であれば、より濃密な時間を長く過ごしている相棒を、はたして容易に捨てられるものだろうか

「愛は、かすがいです
人が完全な論理的生物でない以上、感情というモノによって、彼らは時に致命的に道を誤ります
どう考えても、論理に則らない、非合理的な行為でも彼らはそれをしようとするのです……
って、マスターの受け売りですけど」

「ええっと、つまりなにが言いたいかって言うと……そんな、不安に思わなくて大丈夫じゃないかなって。
ナオヒロさんは、ルリちゃんを捨てたりしませんよ。たぶん、ルリちゃんのほうから愛想を尽かさない限りは」

どこまでも楽観的な推測だ
それは、エリが愛し、愛されるように作られているからこその発言でもある

「だからたぶん、変わらなくても、それに似合った戦術をナオヒロさんは用意してくれるんじゃないかなぁ
だって、変わらないっていうのも、一つの変化ですから」

「あとルリちゃんって割りとツンツンさんなので、もっとそういう弱いところを見せてみるのもいいと思いますよ
コロッとハートを撃ち抜けちゃうかもです」
189 :ルリ [sage]:2014/08/20(水) 01:12:17.07 ID:n9v5Xrmgo
>>188
『あの男の言葉と聞くと、急にリアリティが増すな。
 悪く言うつもりはないが、あの男は偏執的な偏愛者だ、愛の強さとやらは存在自体が証明しているといってもいい。
 愛にどんな意味付けをしたのだろうな、聞きたくない気もするが』

【果たしてナオヒロに荒田のような愛が在るのか、分からないが。
 感情の持つ力は、私自身が証明したこともある。
 だがいつかナオヒロが屈したのも、感情によるものだ。
 物事+にばかり働くとは限らない。
 ……なんて、少々柄にもなくネガティブになったが、こんなものナオヒロに押しつけておこう。】

『ナオヒロが何時か私をどうするかは、そのときにならねば分からないからな。
 期待せずに、それまでは共にいよう。
 結局私はナオヒロの掌から降りられはしないのだから、その中では精々好きにやるさ』

『それと、別に奴のハートなぞ撃ち抜くつもりはない。
 社会不適合度を高めてどうする』
190 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/20(水) 01:22:43.80 ID:SBtaKJy/o
>>189
「さぁ……マスターはちょっとよくわからないので」

意外な話だが、荒田は子供などに向ける真っ当な愛情を向けていたりする
まあ、その愛情を導き出した背景はおぞましいものだが
エリとしては愛されているという事実が大事なのである

「うーん、落とすかどうかは別として、可愛い姿をもっと見せるのはいいと思うんですけど。
私が見たいっていうのが大きいですけど、やっぱりマスターとしっかり繋がるっていうのは、戦うときも安心感がありますし」

まあその辺りの信頼関係と言うのは既に築いているような気もするから、大きなお世話でしかないような気もするが

「ダメです?」
191 :ルリ [sage]:2014/08/20(水) 01:35:26.78 ID:n9v5Xrmgo
>>190
『まあ、アガペーに類するものだと思いたいが』

【何となくだが、荒田の愛は打算などのないもののような気がする。
 まあ形は何にせよ、当人?達が納得しているなら口を挟むつもりはない。】

『AI元の設定なのかは分からないが、そういうものは秘めておきたい質でな。
 君が見たいから、なんて下心を見せられては尚更、だ。
 どうしても、というなら私に勝ってから言うがいいさ』

【エクリプスのように可憐な少女型AIならともかく、私はそういうのが得意なタイプではない。】
192 :エクリプス ◆wasteVWpnE [sage]:2014/08/20(水) 01:45:45.79 ID:SBtaKJy/o
>>191
「お?」

私に勝ってから言えばいい→つまり、勝てば言うことを聞かせられる可能性が存在する?

「言質というか、ログとりましたからね!
絶対ギャップ萌えで、ファンクラブ作れちゃうレベルの行為させちゃうんだから!」

得意そうに見えないからこそ、そういう者がやらかしたときの破壊力はひとしおなのである
ギャップ萌えである

「ふふふ……ふふふー!
ヴァージョンアップした暁には、ルリさんを妥当して萌え萌えきゅん!させますからね!」

 びしぃと、文字空間にも関わらず指を差し、激しいSEが聞こえてきそうな感情データを送りつけて、

「私が負けたら……そのときはなんかします! なにかはわからないけど、なんか、すごいのやりますから!」

次のバトルをお楽しみに、です、とハイテンションなままエリは回線を切ってしまった
ちょうど主同士の会話にも一区切りがついたようだった
……はたして、彼女は何をさせるつもりなのだろうか

//なんか、雑っぽいですがこんな感じで〆ます!
//久しぶりの絡みおつありでした〜。おやすみなさい!
193 :ルリ [sage]:2014/08/20(水) 01:58:30.34 ID:n9v5Xrmgo
>>192
【急にハジケたな、この娘。
 ファンクラブ作れるほど、とは一体ドコでナニをやらせるつもりでいるのだ。
 当然、やるつもりも負けるつもりもないがちょっと先程の発言を後悔してきたぞ……。
 そういえば紅恋にも似たようなことを言った気がするが、ちょっと気をつけた方がいいかもしれない。】

=溢れんばかりの感情データの波と急激に高まったエクリプスのテンションに口も挟めず回線を切られたルリ。
 取り敢えず、エクリプスに勝ったらなにをさせようか考えておこうと思うのだった。=

『……どうしてこうなったのだろうなぁ』

=出ない溜息を吐きながら、鉤爪で頭を抱いた。=

//久しぶりにありがとうございました、ぐちゃぐちゃで申し訳ない。
//またお願いしますー。
194 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/24(日) 22:53:50.16 ID:B3TgulY7o
【夕方には涼しげな風も吹く、夏休みも終わろうかという今日、ナオヒロと前々から行こうと思っていたある店に足を運んだ。
 夏休みが終わってしまえば機を逃すやも知れぬからな、ギリギリだ……いや、まだセーフかも分からないのだが。】  

『ナオヒロ、あ奴らは今日店にいるか確認を取ったのか?
 居なければ何のためにきたのか分からんぞ』

「小学生だよ、あの子。お店に確認の電話なんてしたら俺不審者だって。
 それに、いなくてもHMPカフェだからファイターの一人くらいはいるかなって」

なんて言ってるが、今日は恐らく再戦出来るはずだ。
そんな勘があったから今日は家を出たのだ、運命だとかいうと犯罪臭がするので言わないでおくが。

「さ、て、ここかな。
 ……うん、コッペリア。ここだね」

タブレットを鞄に仕舞い、扉を開ける。
195 :小日向 愛莉&??? [saga]:2014/08/24(日) 23:12:34.37 ID:zsijctkU0
ここは、都内某所に店を構える個人経営のHMP喫茶《コッペリア》。
素朴にして瀟洒なカントリー風のカフェは、8月の眩しい日差しを格子窓越しに受け入れる。

書き入れ時を過ぎて閑散とした店内には、女性店員が二人いるに過ぎない。
片方は150cmにも満たない背丈の少女で、もう片方はそれより二回りほど大きな妙齢の娘。
彼女たちは使い終わったソーサーを洗ったり、酷使されたフィールグラムの調整をしたり

「キミはもうすぐ二学期か。いつ来ても働いてるけど、宿題は大丈夫? ほら、絵日記とかあるよね」
『子ども扱いしないでください……私、もう中学生ですよ』
「あっそーか。ごめんごめん」
『まったくもう……』

あるいは和やかに談笑したり、といった様子である。

「そういうアトリさんはどうなんですか」
『ふふーん、大学生は9月の下旬から新学期スタートだから今は何しててもいいのだー。知らないなんて子どもよ』
「そ、そうなんですか!? 覚えておきますっ」

アトリと呼ばれた女性は小さな給仕さんをあしらって笑いながら、ふとドアの方を見た。
こうして喋っているのも楽しいけれど、お金を貰って「仕事」をしている以上、ずっと暇なのは心が痛む。
こんな時、一人ぐらいお客さんが入ってくれれば、妙な重圧を感じなくて済むのだけれど……。
196 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/24(日) 23:25:49.09 ID:B3TgulY7o
>>195
ドアベルを鳴らしながら店内へ。
店内は中途半端な時間に入ったためか他のお客はいないようだ。が、宿敵はいる。
……良かった、これで彼女もいなかったら本当にお茶だけして帰るところだった。

「あ、席は勝手についても?」 

言いながら2人掛けの席に。
向かいの椅子に鞄を置き、中からルリを取り出す。
フライメックの時は自分で出てきてくれて楽だったな……。

『どうやら、いたようだな』

ルリは目敏く彼女を見つけ口元を歪める。と、表情が変わり、指をある方向に指し示す。

『フィールグラムはメンテナン中、といった様相だが?』

……あらら。
197 :小日向 愛莉&??? [saga]:2014/08/24(日) 23:44:50.23 ID:zsijctkU0
>>196

「いらっしゃいませー! お好きな席にどうぞ」
『! ナオヒロさん、ルリさん、お久しぶりです……』

店内に飛び込んできた人影を見ると二人は一斉にお辞儀をしたが、歓迎の言葉はそれぞれ違っていた。
妙齢の店員はアンダーリムの眼鏡を指先でくい、と押さえながら、愛莉の方を見て

「おや、お得意様? それとも……お友達?」

と尋ねるけれど、まさか『好敵手です』なんて返事が返ってくるなんて思っていなくて、思わずくくっと笑ってしまう。

『そうですね……でも故障しているわけではないので、すぐ終わります。
 ナオヒロさんが一杯頼んで頂ければカラメリゼも来てくれますよ。ルリさんは……勝利の美酒にとっておきますか?』

愛莉はちゃっかり注文を促しつつ、フィールグラムの基板を開いて何かしらの操作を行う。
表情こそいつも通り起伏に乏しいが、挑発までしてくるあたり、相当気分がノっているのは明らかだ。

「へぇ、愛莉ちゃんがこんなきっつーい口を効くとは……中々面白そうな人ね」

その様子を見て、もう一人はにやーっと悪戯げな笑みを浮かべながらナオヒロの方を見る。
パートナーの姿は見えないが、どうやら彼女もHMPファイターらしい。背後の棚には酒類やコーヒー豆の瓶に混じって、二人分のDVNOが置かれていた。
198 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/25(月) 00:01:45.67 ID:OUfXdllmo
>>197
「じゃ、取り敢えずは注文させて貰おうかな。
 俺はカフェオレのアイスでー、ルリはどうする?」

『先に貰っておこう。コーヒーパフを頼めるか?』

顔も躯も変わったが、不遜な態度はそのままに。アセンを替えてもルリはすぐに認識される。
気取った仕草で足を組み、鞄に腰掛けるルリ。
ファイトの後はセンサーになんらかの異常を抱えないとは言えないし、楽しみは後って感じかな。
……と、もう一人の店員さんと目が合う。
なにやら笑っているようだが、まあ子供と大人がこんなやりとりしてるのは滑稽だよなぁ。
ちょっと恥ずかしくなって、向かいの椅子からタブレットを取り出して顔の赤みを誤魔化す。

『ナオヒロ、照れ隠しなどわざわざせずともいいだろう。
 どうせこのあとファイトをするのだ、見られるどころかログまで残るぞ』

「や、別にそういうことじゃ……。
 それにログなんて見ないんじゃない?小日向ちゃんは兎も角」

『どうかな?あの女もファイターだぞ?恐らくだがな』

【いいながらコーヒー豆に埋もれたDVNOを鉤爪で指差す。
 第一、HMPに興味のない人間はこういう店で働かないだろう】
199 :小日向 愛莉&??? [saga]:2014/08/25(月) 00:38:13.21 ID:kILSDKn/0
>>198

『アイスカフェオレが一杯、コーヒーパフが一つですね。承りました』
「愛莉ちゃん、こっちは任せてねー」

注文を復唱しながら書き留めると、カウンターの向こうで待機している店員が動き始める。
ペーパードリップされるのは、そのまま飲む時よりずっと濃いコーヒー。
レギュラーコーヒーでカフェオレを作るのは意外と難しくて、豆の煎り方も普通とは少し違う。
その分、うまく出来た時の豊かな味わいは格別だ。

『お察しの通り、あの店員……アトリさんもファイターです。正直かなり強いですよ。
 特に接近戦の間合いになると、カラメリゼでも後手後手になってしまいます』

調整が完了したことのデモンストレーションがてら、愛莉はナオヒロが言及したところの「ログ」を再生する手順を行う。
筐体のリプレイ・ホログラムは、かつて二人の店員が繰り広げた試合の最終15秒ほどの記録を鮮明に映し出そうとしていた。

《三本腕、邪魔だなぁ。まあ今となっては二本だけど》
“ぐっ……”
《ア、一本になっちゃった?》

ほぼ純正のロードモナークに猛然と襲いかかっているのは、右腕に巨大なハサミ付きのシールドを備えたHMP。
ナオヒロにはそれが、「マンディブラリスフタマタクワガタ」を模した可変ヒュームボット『ゲイルスタッグ』だと分かるかもしれない。

ゲイルスタッグは楯の部分で攻撃を受け流しながら、長大な大顎を模したハサミのギミックで両腕を切り落としていく。
対するカラメリゼも当然無抵抗ではなく、《オーバーウェルム》から起死回生の粒子砲を放つも、それは空を切る。
相手は反撃を読んで虫型フライメックの姿に変形し、機体の投影面積を減らして躱したのだ。
電光なお遅きが如し、というくらい切り返しが早かった。

浮き上がった機械のクワガタムシはそのまま急降下して――カラメリゼの頭を挟み込み、圧潰させてしまう。
呆然とする今より少し幼い愛莉の顔がアップになると、記録映像は終わった。

『……これは私が小学6年生のころの動画なので、今でもこんな一方的な試合になるわけじゃないです。
 だけれど、アトリさんが弱くなったわけでもないですよ。むしろ』

「ますます磨きがかかっちゃったからね。ファイトの腕も、コーヒー入れるのも」

振り返れば、そこにアトリがコーヒーカップとパフを運んできていた。
200 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/25(月) 01:06:08.21 ID:OUfXdllmo
>>199
『ほう、やはりか。
 接近戦の鬼というわけだな、……ほう』

仮面越しで分からないが、アトリさんと呼ばれた店員さんを横目でみるルリ。
が、フィールグラムのログ再生が行われるとすぐに顔をそちらに向け、その内容に感心したような声をあげる。

「《ロードモナーク》も接近戦じゃ中々のスペックの筈だけど、あのHMP鮮やかに立ち回るね。
 なんだっけ、あのHMP。早口言葉みたいな名前のクワガタの奴だったかな?」

『《ゲイルスタッグ》だな。モデルはマンディブラリスフタマタクワガタ。
 インドネシアやマレーシアの一部に生息する大顎が凶悪な獰猛なクワガタだ。
 ……可変機構を生かした回避に容赦のない攻撃、やり手だな』

さらっと知識を披露したルリだが、モバイルバッテリー代わりに有線接続したタブレットから、
ネット接続して検索したことは俺にはバレバレだぞ。

「……あれ、このとき小6って今何歳なんだっけ?
 っと、ありがとうございます。ほらルリ」

てっきりまだ小学生かと思っていたが、中学生だったのか。
運ばれたカフェオレとパフを受け取りながら、2人の店員を見る。
中々、この店は恐ろしいところだったかも知れないなぁ。
……うん、カフェオレも美味い。

『アイリを倒せば、次はこちらのアトリか。
 ふふん、楽しみが増えたな』

パフを抱いてストローを加えていては様にならないが、こいつはいつも通りに不遜だなぁ。
201 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/25(月) 01:36:43.89 ID:kILSDKn/0
>>200

「こうして見ると、バトルの腕はめきめき上がったのに身長は全然ね? あと胸も」
『セクハラには解雇で応えますよ』
「やっ冗談よ……育ち方なんて人それぞれだもの、きっとだいじょうぶ」

「かいこ」の三文字で顔を引き攣らせるあたり、愛莉はこの快活でちょっとお調子者な女性の扱いを分かっているようだ。
偶然ながら名前が似ているのもあって、二人は歳の離れた姉妹のよう。

『今は中学一年です。
 夏休みが終わると流石に店番をすることは少なくなるので、今日会えたのは幸運でした』

「ちなみにあたしは大二。バイトの甲斐あって、最近パーツも新調できたの。
 《テンペストスタッグ》……さっき見たやつのマイナーチェンジ版。
 ルリちゃん、だっけ。今から戦うのが楽しみ〜」

『……大学生のお財布、羨ましいです』

アセンを変更した大学生はアトリだけではない。見れば、ナオヒロが駆るルリの姿も大きく様変わりしている。
しかも胸部パーツは《ロードモナーク》のもの――愛莉は身を持って知っているが、強気な価格設定のそれだった。

『とは言えカラメリゼのポテンシャルは今でも通用します。ディバインライトだって余計なものじゃありません。
 看板HMPとして、ホームでの勝ち星を獲りに行かせてもらいます』

そう言って、彼女は自分のDVNOを取ってこようとするだろう。
202 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/25(月) 02:02:20.85 ID:OUfXdllmo
>>201
はじめは姉妹かと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。
家族なら解雇はないだろうし。

「中1かー。もうギリギリかと思って、出てきて良かったよ。
 アセンの慣らしも終わったばかりだけど、戦えないんじゃ意味ないからね」

まだ小学生かと思ってた、とは言わないでおこう。顰蹙を買ってしまいそうだ。

『大2ということは、ナオヒロの一つ下だな。まあ年齢など私には関係のない話だが。
 ああ、私も楽しみだよ。アトリ』

【図らずも相手の機体を知ることが出来た。
 《テンペストスタッグ》か、先程のログから戦闘スタイルの系統を想像しつつ対策を練っておくとするか。】

「やー、パーツは中古のバラ買いで集めてるからね。丸ごと買いまくるほどの資金も場所もないよ」

それでも、小中学生よりは自由に動かせる資金が多いのは事実だが。

『私達はそれを奪いに来たのだよ。
 さあ、第2幕を始めようか』

ルリは鞄から槍を取り出しくるりくるりと弄ぶ。
俺もカフェオレをぐっ、と飲み干し荷物を持って一足先にフィールグラムへ。
203 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/25(月) 02:08:55.27 ID:kILSDKn/0
/すいません、明日はちょっと早いので戦闘に入る直前でロールを中断させてください
/できればリアルタイムでこれからも返信し続けたいのですが、ナオヒロさんはいつ来れますか?
/自分は明日なら夜9時くらいには返信再開できると思いますが、明後日まで続くと置きになってしまうかと
204 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/25(月) 02:14:49.21 ID:OUfXdllmo
//はい、了解です。丁度切り良いところですね。
 私も明日そのくらいから大丈夫だと思うので、また明日よろしくお願いします。
205 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/25(月) 21:29:39.35 ID:kILSDKn/0
>>202

愛莉はアトリからDVNO(皿と一緒に持ってきてくれたようだ)を受け取り、カラメリゼを呼ぶ。
静かな店内に独特のモーター音が木霊すると、店の奥から黄金の威容が現れた。

“本日は「コッペリア」へとご足労いただき、誠にありがとうございます。”

彼はハルバードを儀仗のように扱いながら、厳かな壮年の声音で二人を出迎えた。
ラスボス≠カみた武装とド派手なメッキ塗装の機体は、何をやっても迫力がある。
この店のマスターは実はカラメリゼだと言われても、信じる人は居るだろう。

“――さて、接客ムードはここでお仕舞いだ。わしはずっと貴公らを待っておった。
 手の内が割れていようと圧倒的なものは揺るがぬ。攻め手を変えたようだが、やすやすと打ち倒すことはできんぞ!”

『……ということです。では、火蓋を切るとしましょう』

パートナーの啖呵を諌めることもせず、愛莉はHMPの所定位置へのセットを完了する。
両陣営の準備完了を検知したフィールグラムは自動的にステージを決定し、投影を始める。
さあ、間もなく戦いの時だ――!

【ステージ】
コンマ偶数:古戦場
コンマ奇数:熱帯雨林
コンマゼロ:空母甲板
206 :愛莉&カラメリゼ [saga]:2014/08/25(月) 21:35:49.50 ID:kILSDKn/0
ステージ:熱帯雨林
HMPと同スケールのミニチュア熱帯雨林。ステージの中央を水深20cmほどの川が東西に流れる。
戦闘中に豪雨が降り注ぐことはないものの、常に立ち込めている薄霧と樹木の葉が視野を絞ってくる。
浸水地帯が多いためホバー系の機体やフライメックが有利なようだが、高速すぎる機体は視界不良のあおりを受けやすい。
ほとんどのオブジェクトが破壊可能であるため、二人対戦時には発見されやすくなることを割りきって草刈りをしながら進んでいくのもアリだろう。
207 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/27(水) 20:58:29.63 ID:4sr6TEx3O
>>205
『気取るなよ、金ぴか。
 そのメッキ諸共に貴様の不遜打ち崩してやろう。
 圧倒的な迄の敗北を、くれてやる』

過ぎた挑発を諫める前にルリはフィールグラムへ。
フィールグラムからホログラムが立ち上がるのを見て、慌ててヘッドセット他、準備を完了させる。

「……はぁ」

始まってしまえば小言は後だ。
さあ、精々大袈裟な物言いに恥じないファイトをしようか。

【投影が終了し、現れたのは深い霧、立ち乱れる木々。
 ぬかるんだ足場に強い土の香り……熱帯雨林ステージだ。
 変更したばかりのこのアセンにはさっそくの貧乏くじということになるか。】

『……ふふん、こうでなければな。
 勝利とは劇的な程に美しい』

熱帯雨林ステージ……相性は間違いなく悪いが、それでも戦いようはある。
さてまず第一歩、何から見せていくか、何を気を付けるか。
今回のノル・ラヴォス改に搭載したジャベリンは炸薬型3、質量投射型2、近接型2(1本は手持ち)。
障害物の多いここで炸薬型が多いのは少し痛いか。
……さて次に、このステージでもっとも気を付けなければいけないのは、こちらの認識外から《ディバインライト》を撃ち込まれて終わり、となること。
《ARIKA》のヘッドに替えたことで索敵能力は以前より上がっているが、それに甘えることも出来ないな。

「……結局気を付けるところは以前と同じと言えば同じだな。
 ルリ、《バンダースカッチ》で木に登って樹上を行こう。
 枝上でもその脚なら行けるはず。
 硬い分足場としては今いるところより良いと思う」

足を取られやすいここでは、踏み込みと重心移動で強力な推進力を制御するルリの移動法は殆ど機能しないだろう。
ならば、速度は生かせないが転倒などのリスクを避ける方向へ。
ルリが木に上ったのを確認すれば次の指示だ。
一旦、左手に持った近接型ジャベリンを右手に持ち替え、盾にマウントされた炸薬型をロック解除、装備する。
それを適当な方向、ステージの中央やや左方向に向けて投擲すればどこかの木に当たって炸裂、大きな音を立ててくれるだろう。
貴重な1本だが、勿体ぶってはいられない。
この静けさこそが最も怖いのだ、ならさっさとぶち壊していこう。
一石は投じた、何が返ってくるか。
ルリに中央方面右寄りへの移動を指示し、相手の出方を見る。
208 :愛莉&カラメリゼ [saga]:2014/08/27(水) 23:29:59.47 ID:O+9lazx50
>>207

戦場に降り立った二機のHMPが、お互いの腹を探りあい始めた。

相手が前回の試合で痛打を加えてきた巨砲を警戒しているだろうことは、愛莉にも想像がつく。
だが実のところ、外気温が高く設定され、遮蔽物も多いこのステージでは《マジェスティ》の熱源探知能力も広域捕捉も万全には機能しない。
怪獣大戦争状態のミニチュア都市とは、空間の密度が違う。開幕からあれ≠フ使用に踏み切るには余りにも不安要素の多い環境だ。

「頭上からの奇襲が嫌ですね。ハルバードはそのままで、少しずつ距離を詰めていきましょう。
 《ディバインライト》はあるだけで脅しになるし、相手の武器は有視界戦闘が前提だろうから……いずれは会うはずですが」

大事なのは、どちらが機先を制するかだ。
脹脛のバーニアノズルを露出させると、その推力でロードモナークは超低空に浮き上がり、木陰をじぐざぐ縫って小刻みに移動していく。
轟音が響いたのは、その途中だった。

「……高熱反応……変ですね。バクハツするようなものは積んでなさそうに見えましたが。
 あのサイズの内蔵武器でこんな威力のものは難しいとなると――あっ」

少女の思考は、それがドツボにはまる危険性を孕んでいるとは知らずに展開される。
――あの槍はジャベリンだ。そしてロケット弾だ。投げつけると爆発し、迂闊に受け流そうものなら大惨事を見る。

『余興に花火大会とは、なかなか機を利かせたものだな』
「そうですね。夏の終わりにぴったりです」

とは言え単純な投擲武器であれば、四連装砲塔を擁するカラメリゼにとって迎撃は容易い。
そして相手は爆発の地点を利用して自分の居場所についてのクイズをするつもりのようだが、結局はお互いを視界に収めながら戦うことになる。
なにせルリが槍をマウントできる本数は、物理的に限られている。段数を気にせず使えるのはあの爪しか無い。
こちらは《オーバーウェルム》でもって、無駄撃ちのリスクを嫌ってやって来るのを悠々と歓迎するだけだ。

「そのまま樹上に警戒しつつ、フィールド中央へ進んでください。
 でも川の岸の少し前で止まるべきですね。開けた所にいると、木に引っかかる可能性を考慮せずに槍を投げてくるでしょうから」

だから愛莉が選んだのは、近いうちの接敵を前提とした進撃だった。
209 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 00:18:50.06 ID:QxIriQsIO
>>208
こちらが投じた波紋は静かに消えた。
どうやら相手からもこちらの居場所は検討つきかねているらしい、少なくとも《ディバインライト》が今すぐ飛んでくるということは無さそうだ。
しかし、完全に無反応ではこちらとしても手が出ない。
もう少しつついてみようか。

「ルリ、相手の装甲は光り物だ。見逃さないように」

【もう1本、炸薬型の投擲指示。
 狙いはステージ中央、川。
 無論、そこに敵がいるとは思っていないだろう。これは先程蒔いた疑問を種を芽吹かせるためのもの。
 そして、爆発の閃光の中で巻きたつ水滴はレーザーに対する防御フィールドとなる。】

『まだ残暑の季節だ、涼やかで良いだろう?』

そして、投擲と同時にルリは川へと飛び込む。
背面のスラスターを全開に、水面上を走る!
ヒヤシンスレッグの踵に備えられたスラスターと素早い脚捌きを以てして、沈むより早く前に進むのだ!
……というのもフェイント。
実際は走ると言うのもはばかられる、推力に任せて沈みながら前進しているだけだ。
飛び込んだ岸近くの木に《バンダースカッチ》が打ち込まれており、敵がレーザーの減衰を嫌って前に出ればそれを巻き取り、全身のスラスターも併せて陸へ戻る。
つまりただ相手を引きずり出そうと言うだけの策だが、釣られてくれるだろうか。
210 :愛莉&カラメリゼ [saga]:2014/08/28(木) 00:48:46.96 ID:q1cAa3H40
>>209

霧と水滴とで乱された視界は、ルリの姿と、その白鳥の如き必死の歩みを紛らわす。

「……槍に気を付けて、身体を逸らしながら横スイングでいきます」
『承知した!』

命令を打ち込まれたカラメリゼは即座に動き、直進するルリと軸をずらしながら、ハルバードを横に振りかぶった。
しかしルリはこの動作を見た時点でワイヤーを巻き取り、向こう岸へと戻ってしまう。

「っ、前も嵌められそうになりましたね、それ……!」

川岸近くまで踏み込んでしまったカラメリゼ。だが、相手もすぐに姿勢を整えられるわけではないだろう。
愛莉は、後退したルリをワイヤーを打ち込んだ木ごと巻き込むように、《オーバーウェルム》の粒子砲を放つよう命じる。
フレキシブル・シールドがその腹を見せれば、四条の光芒が敵の頭上から足元までを舐めるように照射されるだろう。

もし無理にでも投擲を仕掛けられた時のために、武装バインダーを兼ねた楯の可動性を活かした戦術を取ったのだが――結果はどう出るだろうか。
211 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 01:13:26.94 ID:7Zcn3Q15o
>>210
「流石に鋭いね…」

でも

『わざわざ川に飛び込んだのだから、利点は生かさねばな』

【左手の盾を前に、頭と体を直撃から守る。
 更に、脚を思い切り水面に叩きつければ水柱が立ち上がる。
 レーザー主体のそちらの装備、このステージとの相性は良くないようだな。】

減衰したレーザーを脚と頭部、盾で受ける。
ダメージは軽微、戦闘には支障ない。
岸に戻りかかったルリに次の行動を支持、質量投射型の投擲だ。
こちらは炸薬型よりもシンプル、いわばデカい弾丸。
投擲方法もより荒々しく。強く、相手に打ち付けるように。
 
【肘の補助スラスターを点火。
 肩、肘、手首の振り抜きにジャベリンそのものに取り付けられたブースターの加速、それらを、更に高速化させる!
 先程までと同じと思い、その厄介なバインダーで防いで見せろ。凹むどころでは済ませんぞ。
 ……ん?】

「……あ」

《胴体損傷:損傷率15%》

しまったー…。
先程のレーザーの後ろの木へと向かっていた1本によって《バンダースカッチ》が抜け落ちていた。
減衰によって殆どダメージにならなかったためについ気付くことが出来なかったようだ。
《バンダースカッチ》が抜けたのは狙ったものではないだろうが、無駄にダメージ負ってしまった
ガイドを無くしたために、ルリは岸辺の岩に背中を打ち付けると言う情けないことに。
取り敢えずもう一度樹上への移動を指示するが、行動が何テンポか遅れた。
これが致命的な隙とならなければいいが。
212 :愛莉&カラメリゼ [saga]:2014/08/28(木) 01:38:39.71 ID:q1cAa3H40
>>211

「……怪我の功名、というものでしょうか」
『そのことわざ、国語の宿題に出てきておったな。偉いぞ愛莉』
「うるさいです」

立ち込める濃霧を切り裂き、水滴の壁でその切っ先を鈍らせながらも砲撃は成功した。
それも意外な授かり物を伴って。
お互いに計算づくで動いても、予想外のことが起こるのがHMPファイトということだろうか。

この隙の価値を最大化するために、愛莉は考える。
ディバインライトを撃ちこむ――には一寸時間が足りない。
それよりもいま大事なのは、川を渡ることだ。ルリが迎撃よりも退避を優先しているこのタイミングで、決定的に追い詰める必要がある。

「加速に時間がかかるロケット弾は、接近戦向きの武器だとは言えません。
 仮にまだ、剣なりを仕込んでいたとしても――手数はこちらの方が上、負けませんよ!」

《コマンドメント》の大推力エンジンポッドの稼働率を全開にして、カラメリゼは彼岸へ跳んだ――否、翔んだ。
先程からの細かなブースター利用もあって、EN残量は75%を割ろうとしているが構うものか。

放物線の頂点を過ぎたところで大上段にハルバードを掲げると、彼は着地と同時にルリへと振り下ろそうとするだろう。
迅速で見事な決断に基づく行動だったが――マスターである愛莉は、ひとつの可能性を考慮しきれていない。

それは、「あの槍の中に、正真正銘の《槍》が混ざっている」――という、至極シンプルなもの。
余りに強く投擲武器としての印象を植え付けられた愛莉は、接近戦において遅れを取る想定を一切せずに、篭手を失い丸腰の¢且閧ノ襲いかかろうとしていた。
213 :愛莉&カラメリゼ [saga]:2014/08/28(木) 01:51:33.73 ID:q1cAa3H40
/修正版です!

>>211

「……怪我の功名、というものでしょうか」
『そのことわざ、国語の宿題に出てきておったな。偉いぞ愛莉』
「うるさいです」

立ち込める濃霧を切り裂き、水滴の壁でその切っ先を鈍らせながらも砲撃は成功した。
それも意外な授かり物を伴って。
お互いに計算づくで動いても、予想外のことが起こるのがHMPファイトということだろうか。

しかし幸運は完璧ではなかった。カラメリゼは、それなりの精度でこちらへ向かってきた槍と直面する。
身を屈めて本体直撃を避けようとするが、張り出したシールドの中程が貫通され、その左半分が砲門ごと持って行かれてしまった。
L.ARMが受けたダメージは、損傷率にして60%。相当な威力に、愛莉の手が震える。

『ぬっ……』
「カラメリゼ、大丈夫ですか?」
『クク、今が攻撃の好機であることを考えれば、この程度は必要経費よ』

……だが、これで臆するほど彼女は甘いファイターではない。
降って湧いた隙の価値を最大化するために、愛莉は考える。
ディバインライトを撃ちこむ――には一寸時間が足りない。
それよりもいま大事なのは、川を渡ることだ。ルリが迎撃よりも退避を優先しているこのタイミングで、決定的に追い詰める必要がある。

「加速に時間がかかるロケット弾は、接近戦向きの武器だとは言えません。
 仮にまだ、ナイフやダガーを仕込んでいたとしても――手数とリーチの差は歴然ですよ!」

《コマンドメント》の大推力エンジンポッドの稼働率を全開にして、カラメリゼは彼岸へ跳んだ――否、翔んだ。
先程からの細かなブースター利用もあって、EN残量は75%を割ろうとしているが構うものか。

放物線の頂点を過ぎたところで大上段にハルバードを掲げると、彼は着地と同時にルリへと振り下ろそうとするだろう。
バンダースナッチの腕は伸びきった状態で木から脱落している。あれが戻る前に、優位を築いてしまうべし。
そんな迅速で見事な決断に基づく行動だったが――マスターである愛莉は、ひとつの可能性を考慮しきれていない。

それは、「あの槍の中に、正真正銘の《槍》が混ざっている」――という、至極シンプルなもの。
余りに強く投擲武器としての印象を植え付けられた愛莉は、槍によって反撃を受ける想定を一切せずに、攻め手を失った¢且閧ノ襲いかかろうとしていた。
214 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 02:15:11.49 ID:7Zcn3Q15o
>>213
おっと、渡りに船……と言う感じか。
樹上に上がろうかと《バンダースナッチ》を巻き取っていたところでセンサーに急接近する影が映る。
向こうから接近戦を挑んでくれるとは、こちらとしては願ったり叶ったり、か。

「ルリ」

【ただ名前を呼ぶだけ。
 それでもこの状況、取るべき指示は一つだろう。
 振り抜いたまま、下ろしていた左腕を上げる。
 盾の裏面、槍をとめていたロックが外れ、槍が手に落ちる。
 握るは一本の“スピアー”。
 上げた左腕のスラスターが火を噴く。
 掌から扱き出されるように、左回転を伴いながら槍が真っ直ぐにカラメリゼの頭部を狙う。
 槍頭が弾け飛び、ビームの刀身が現れた。】

こちらの攻撃とあちらの攻撃、動きだけならば速さは此方だ。
こちらが一時的に武器を失ったと見て、一撃で決めるべく大振りになったか。
215 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/28(木) 02:45:13.07 ID:q1cAa3H40
>>214

ルリが槍を構えようとしている。そんなもの、加速しきる前に楯の残った部分で弾くだけだ。
装甲はカラメリゼの方が勝っているのだから自爆戦法も怖くない。
このまま行けば最悪でも片腕は切り落として、悠々と決着をつけられる――

「――ヘッド大破!? え、そんな……っ」

ところが、現実はこうだ。
凝った武器でも何でもなくただの槍≠ナしかない武器が、HEAD《マジェスティ》を一刺しで貫通した。
しっかりと加速をつけていたせいで、皮肉なことだが装甲の分厚さも無意味だった。

フィールグラムが虚空に融け、筐体には首なしのロードモナークが残る。
愛莉はそれをよいしょと持ち上げ、すごすごとした様子で一回百円のメディカルポッドに置いた。

『あはは、愛莉ちゃん、熱くなりすぎー。物事が想定通りにいかないと、それが良いことでも頭が沸騰しちゃうのは悪い癖だよ?』
「……うう、確かに私、心のなかで舌なめずりしていたかもしれません」

ずっと試合を眺めていたアトリが、負けなんてよくあることだと言わんばかりに笑いながら、愛莉の頭をぽふぽふと叩く。
この馴れ馴れしいアルバイターの手癖の悪さにため息をつきながら、少女はナオヒロの方をじっと見て

「対戦ありがとうございます。盛り上がると二手先が読めなくなって……私、ほんとはまだ子供ですね」

思い悩むような顔で上目遣いをしながら、そう云うだろう。
216 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 03:07:02.44 ID:7Zcn3Q15o
>>215
『珍しく、鮮やかにいったな』

【《バンダースナッチ》で《マジェスティ》を押さえながら槍を引き抜く。
 そのまま《マジェスティ》をアイリへパス、私もメディカルポッドへ向かう。
 ……自分の脚でメディカルポッドに入るのも久しぶりだな。】

「そうだね、今回は概ねプラン通りに行けたから。
 だから愛莉ちゃん、ここは俺の見せ方が良かったってことで……そんなに凹まないで。
 物事がよく進めば流されちゃうなんて俺もよくやるしさ」

そういう風にこちらが誘導したわけで、読まれてしまっていたのでは面目つぶれというやつで。

「子供っていえば子供だから、になっちゃうけど、そのへんは経験量だしね」

【今は音声しか聞こえていないが、なんか不審者ぽいな。
 いや、殆ど不審者か。】
217 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/28(木) 03:32:13.43 ID:q1cAa3H40
>>216

「わわっ……ルリさん、怖いです……」

ひょいとパスされた生首をキャッチしようとして、愛莉はバタつき、尻もちをつく。
なんとか《マジェスティ》自体は回収したし、瓶や小物も割っていないが、危なっかしい。
この少女、運動神経はあまり良くないようだ。

「経験……ですか。確かに、こんな完璧に乗せられたのは初めてかもしれません。
 スクラッチビルド機の相手は考えることが多くて難しい……」

情報アドバンテージを突き崩すには、やはり実力が要る。
愛莉が思い出すのは前に近場の商店街で戦った、紅い騎士のようなHMPのこと。
ルリはセミスクラッチだが、あれについてはどのパーツも見覚えがなく、完全オリジナルのようだった。

「でも、考えれば考えるほど面白いです。
 電力消費がけっこう激しかったので、すぐにとは行きませんが……またいずれ勝負させてください」

世界が無限に広がっていくから、闘志は尽きない。
笑顔にはならないものの、沈んだ表情をいつものポーカーフェイスに切り替えて、愛莉はすっと頭を下げた。

『愛莉ちゃんばっかりずるーい、あたしもファイトしたいよー』

「むっ。アトリさん、小学生みたいですね」

……同僚のせいで、あんまり格好良く決められなかったけれど。
218 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 03:54:34.27 ID:7Zcn3Q15o
>>217
「あ、ちょ、大丈夫?……ルリぃ」

何かが壊れたりはしなかったが、愛莉ちゃんを転ばせてしまったのは宜しくない。
メディカルポッドから出てきたらきちんと謝らせよう。

「……何故だかワンオフ機や特殊な機体とのファイトが多くて、
 情報アドバンテージの面で散々泣かされてきたから今回は結構手を入れたんだ。
 でも《ノル・ラヴォス》そのものがマイナーパーツだから、まず見せる段階がいるんだけどね」

《ノル・ラヴォス改》に関しては同じ相手とやるときに疑心暗鬼を誘う目的もあるので、
初回戦闘時は多少無駄槍を打つのも仕方ないのだけど。

『ああ、またやろう。
 それと、先程はすまなかった。怪我はしなかったか?』

【ナオヒロからプレッシャーを感じ、何か言われる前に謝っておく。】

『やるか?アトリよ。
 直ぐにでも、とは行かないが』

【ファイトは長引かなかったが、それでもバッテリー消費はあるし多少メンテも行いたい。
 どうせやるならば全力でいきたいというものだ。】
219 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/28(木) 04:13:49.08 ID:q1cAa3H40
>>218

「えと、大丈夫です……ドッジボールとかキャッチボールも苦手で、いつもこうなってしまいます」

勉強とHMPは得意な方だと自負している愛莉だが、身体を動かすとなるとからっきしだ。
140cmに届いているか怪しい背丈に、思い切り握ったら折れてしまいそうな細い四肢。
或いはそれこそが、彼女をHMPの世界に駆り立てている要因の一つなのかもしれなかった。

『そうだね。連戦すると疲れるし、また今度まっさらな時にやろっか。
 仕事仲間が何も知らずに戦ったのに、自分は槍の全部わかってるのもちょっと申し訳ないし』

アトリからすると、伏せた札が一方的に見えている状態で戦うのは本意ではない。
騎士道的な美学――という事ではなさそうだ。瞳が、ほんのりギラついている。

「……カフェタイムの営業時間が、もうすぐ終わってしまいますしね」

時計を見るともう夕方。二時間ほどの準備時間を挟んで、この店は愛莉の父が営むバータイムに移行する。
もう少し時間があれば第二ラウンドに入れたかと思うと名残惜しいが、滑り込みセーフで一戦交えられただけでも良かったのだろう。
220 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/08/28(木) 04:52:28.84 ID:7Zcn3Q15o
>>219
「あー…、でもルリが投げ渡したのが悪いから」

そもそも人のものを投げて渡すのは宜しくない。
しかも破損したHMPのパーツなんて、うっかり落としでもしたらどうするのだと。

『そういうことだ、謝られてくれ。
 ……そうはいっても私のファイトを見た以上、私のスタイルを知ることは仕方がないことだ。
 更に言えば、それが欠点になるような温いファイトをするつもりはない』

「それに、アトリさんのHMPが《テンペストスタッグ》ってことをこっちは知ってますし、痛み分けですよ」

『まあそれでも、次に楽しみを作っておくのも良いだろう。
 ……なにより営業終了となってしまっては仕方ない』

言って、ルリは鞄にもぐりこむ。  
今日はひとまず退散だな。アトリさんは大学生だっていうから、まだ会う機会があるだろう。

//ちょっと寝落ちかけてきたのでイマイチしまらないところですが締めてさせてくだしい
//また機会があればお願いします、ありがとうございました
221 :愛莉&アトリ [saga]:2014/08/28(木) 17:17:13.69 ID:q1cAa3H40
>>220

『ぬふふ、じゃあ今度で決まりだね。
 HMPカフェコッペリアへ、是非また起こしください』

リピート需要の発生に胸の内でガッツポーズをしながら、アトリはぺこりと一礼した。
接待ファイトをせず全力で叩き潰しに行けるお客さんが増えるたび、彼女の血が騒ぐ。

「店員一同、お待ちしております。……今度は、私がコーヒーをふるまいますね」

そして二人は、去っていくナオヒロたちの背中を見送った。
カラメリゼの損傷が大きく修復が間に合わなかったのはちょっと残念だが、次に会うときは今回のぶんも大口を叩くだろう。


数分後、片付けが始まった店内で、

『しかし彼は強かったなあ。場数踏んでるっぽいし、改造のテクもなかなかだよね』

「はい。前に勝負した時よりもずっと手強かったです……」

『うーん、ナオヒロさんみたいな人だったら、EDENに居ても十分頼れるのになあ』

「……あなたみたいに適当な方が居るのがおかしいんですよ」

相変わらず辛辣な愛莉と脳天気なアトリの義姉妹漫才が、暫く続いていたという。

/寝落ちしまってごめんなさい、こちらこそロールありがとうございました!
222 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/01(月) 22:37:31.33 ID:WKBSGLkJo
ここは路地裏に並ぶとあるHMPショップ、夜遅くまで営業するこの店は、夜が深まる程賑わいを見せる。
静かに賑わうこの店に集まる客は、とても平和な人間には見えず……所謂『ヤンキー』の溜り場のようになっているが。
それでも、全員がHMPを愛するプレイヤーという一点で繋がっており、荒々しいながらもある意味では和気藹々とした空間であった。

そんな店の一角にあるフィールグラムに沢山の観客が野次を飛ばし、やたらと盛り上がっているようだ。
そこでは今まさに、一体のHMPが吹き飛ばされた瞬間であった。

「……はい終わりっと…イノシシみてーに単調だからやりやすいぜ、どいつもこいつも」

勝者は、赤い髪をした少年と、彼が操る吸血鬼型HMP。酷く傷付けられた相手HMPのファイターは、頭を抱えながら叫んでいた。

「おらおらどうした雑魚共、遠慮しねーでかかって来いよ!」
「……あー…これだよこれ、久し振りだぜこの感覚。こうでなくちゃな、うん」

倒された相手ファイターがすごすごと歩いて行く先には、今まで倒されて来たファイター達がうな垂れている。
連続バトルを繰り広げる少年を打ち倒す者はいないのか、実況が新たなチャレンジャーの登場を煽り、店の盛り上がりは外の街道に聞こえるくらいまでに大きくなっていた。
223 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/01(月) 23:03:07.24 ID:se8aYYAoo
>>222
『随分と調子が良さそうだな。
 弱気を見せるなら今のうちだぞ?その威勢で負けては格好も付くまい』

=艶消しの黒をメインに据えた、その様相は騎士に似た女性型HMPが姿に似つかわしくない挑発と共にフィールグラムに降り立つ。
 左腕には盾と槍を構え、一見正統派だがその右腕は鉤爪、《バンダースナッチ》。
 ウィルス攻撃が持ち味のトリッキーなパーツだ。=

「そんなこと言ってこっちが負けたら益々恥ずかしいからやめてよ。
 だけど、ま、勿論負ける気はないけどさ」

=そのHMPの後に続くようにフィールグラムの前に現れた青年はパートナーを諫めながらもライバルサイドを見据えていた。
 けしてぱっとする顔ではないが、その瞳には確かな意志を宿している────君を負かす、と。=

「さあて、始めようか。
 よろしくね」

=青年がライバルサイドへ声をかけると同時、フィールグラムからホログラムが立ち上る。=

//コンマ
19砂漠
28廃屋
37公園
46人工林
50コロシアム
224 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/01(月) 23:09:39.37 ID:se8aYYAoo
//人工林
疎らに木が生え、足下はクローバーなどで覆われたフィールド。
所々に落ち葉などはあるが、通常の森林フィールドより足下はなだらか。
散歩道のようになっており、やや草や木の密度が高い箇所と、拓けた箇所がある。
木々の多い箇所では盛り上がった木の根や陥没した地面、拓けた箇所では切り株などが見られる。
天候は雲の多い晴れ。アクティブオブジェクトは無し。
225 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/01(月) 23:21:25.70 ID:WKBSGLkJo
>>223
今までの対戦相手は、誰も彼も柄の悪い輩ばかりであった、故に次に立ちはだかった相手のその容姿が逆に如月の警戒心を上げる。
相手の使うHMPは、一見してみれば市販パーツの組み合わせにも見えたが、カラーリングから形から、如月自身の記憶とは違っている。

(……市販パーツの改造品を組み合わせた機体か…面白ェ……!)

「大した自信じゃねえか、んじゃこっちもやる気出させて貰うぜ」
「……勢い余ってぶっ壊しちまっても文句言うなよ!」

ギラギラと光る凶暴な眼差しをナオヒロに向け、牙を見せて威嚇の言葉を吐くと、木々の影の中にHMPが降り立つ。
漆黒のボディに所々の紅が映えるスラリとした上品な機体には、コウモリのそれの様な凶悪な頭部が眼を光らせる。
右手にはマント型をした盾パーツを翻しながら、左手に持った紅いランスをクルクルと回してから、堂々と構え直す。
威光を携える黒い吸血鬼型HMP───ブラッディヴラドが、暗い影の中に降り立った。

《……主に恥をかかせる訳には行かぬ、故に我輩は負けぬ!何処からでも来るが良い!》
226 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/01(月) 23:50:54.20 ID:se8aYYAoo
>>225
【フィールドは人工林、私の今居るところは散歩道エリアか。
 木々の量から判断したに過ぎないが、大きく外してはいないだろう。
 さて、ここならば私もそれなりにやりやすい。サーチ&デストロイと行かせて貰う!】

ルリが道なりに走り出した。
今までの試合から判断するに、相手のHMPは待ちのファイトスタイルだ。
それ故に、こちら仕掛けるのはリスクが伴うが襲われるのを待つなどしてはいられない。

「ルリ、エンゲージと同時にまず一発行けるように。γで行こう。
 すり抜け様でも良い、一度ぶつかったらそのまま駆け抜けて距離をとるよ。
 相手の運動能力を実際に確かめないとね」

今回の“槍”は質量投射のαが3本、炸薬のβが3本、近接型のγは1本だ。
1本しかない上、接近が必要なγを早々に使うのはリスクが絡むが、無駄撃ちを極力無くすには確かな相手のデータが欲しい。
相手の機体が行っていたファイトは見ていたが、見たことのないモデルである以上、警戒はして損はないはずだ。
……レーダーに反応、数瞬のうちに会敵となるだろう。
227 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/02(火) 00:19:58.22 ID:PE/W3lQWo
>>226
《主、我輩はどうすればいい?》
「あー、そのままでいい、あっち側から来てくれるみたいだからな、好都合だ」
「周囲の索敵しながら構えてろ、迎え討つ方がやりやすい」

向こう側から来るのならこちらの都合がいい、ブラッディヴラドは相手を迎撃する戦法を得意とする機体だ。
頭部のエコーセンサーを使い、周囲の状況をサーチしながら、ヴラドはその場で敵を待つ。

「ああ、今までの戦いを見てたなら解るだろ?」
「初手はこっちからは動かないぜ、ヴラドはな」

接敵、ルリは丁度ヴラドの背後が見えるだろう、依然動かず、振り向きもしないヴラドの姿は普通ならば不意打ちのチャンスに見えるが。
だが、その実ヴラドにはしっかりとルリの接近に気付いていた、如月の持つDVNOにも映る、エコーセンサーの反応。
それを知っていて尚、振り向いたりなどの反応はせずにあからさまな隙を晒しておく、この駆け引きが如月コンビの戦法だ。

「……ま、あんなに自信満々に出て来たんだからなぁ?ビビって手出さないなんて事はないよな?」

更に挑発で相手の出方を見る、こうして先に情報を引き出し、対応する───嫌らしいくらいに徹底する『勝ち方』だ。
228 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/02(火) 00:40:27.56 ID:H7hSNu4Ko
>>227
「この火力過多の環境でのファイトスタイルは勇気があるね。
 俺なら怖くて中々やろうとも思わないや」

【軽口を叩きながらもナオヒロはタブレットを叩き、私に指示を送ってきた。
 ほう……私はこれを成すのみだ。】

『無様を晒すなよ?吸血鬼』

瞬間、ルリが加速する。
本来重HMPを高速で動かすためのブースターだ。殆ど軽HMPのルリは瞬きの間に相手HMPの背後に迫る。
ここからが俺の指示の再現だ、足場は悪くない、行け!

【相手との距離が無くなり、こちらの間合いに至る刹那、左足を踏み込んで上体を傾け、地面を抉るように体を返す動きをとる。
 顔が地面を向いたと同時に、浮いた右脚部のスラスターを開き回転を加速。
そのまま今度は背中が地面と向き合えば、両足のスラスターと共に再び背面のブースターを全開に。
 体が宙を縦に回転しながら、吸血鬼の頭上を越えて正面に降りようとする。
 変則的に相手の頭上を取る形になる、何もなければ、脳天に《バンダースナッチ》を叩き込む所だ。】
229 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/02(火) 01:19:36.91 ID:PE/W3lQWo
>>228
「ヴラド、落ち着いていけ、いつも通りだ」
《了解した》

背後から迫るルリ、それに気付きながら振り向かないヴラドに、如月は指示ではない言葉をかける。
やる事は変わらない、構えて、叩く、それだけだ。

「強い奴ってのはな、自分からチョコマカ動いたりしねえんだよ」

ルリが高速で迫り、背後の間合いに入った瞬間、ヴラドは左手のランスを振り向きざまにルリへと振るう。
しかし、その瞬間にはもうルリは跳躍を開始しており、横に振られたランスは寸前で飛びこされ、頭上を飛び越えたルリが着地。
続け様に振るわれる爪を、振り向きながらの体制となりながら右手のマントで防ぐ。

薄い布の様に軽くはためくマント、だがこれはただの装飾に有らず、見た目からは予想もつかない程の防御性能を持つパーツだ。
その上、スラスターの加速を加えた大爪を防いでおきながらよろめきもしないヴラドの体制、これは脚部パーツの爪がしっかりと地面を掴み、大きな安定性を生み出しているからである。
この高速化した戦場において、ブラッディヴラドという機体はとにかく待ち戦法に特化した、時代に真っ向から立ち向かうアセンをしていた。それは持ち主の天邪鬼な性格が生み出したものか。

《この程度……屁でもないわ!》

更に、このマント状の盾は、高い位置で構えれば体の殆どを隠す、つまりは自分の反撃の動きを相手から隠す事が出来るのだ。
頭を狙う大爪を防いだマントの下から、反撃のランスが、ルリの右脚を狙って突き出された。
この紅いランス、【ヴァンパイアランス】は、突いた相手からエネルギーを吸収する能力を持つ武器パーツ。攻撃を受ければ受けるだけ、反撃の幅は狭まって行く。
230 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/02(火) 01:53:41.16 ID:H7hSNu4Ko
>>229
『ほう』

【爪撃はマントに阻まれ通らない。
実際に触れてみれば随分と厄介だ。】

だが、体を隠すようにするには腕を高く掲げる必要があり、視覚を阻害する。
更に、布か何かで出来ている故に軽いのも、いなしやすい。

『悪いが、そう簡単に脚はやれないな』

【マント越しに鋭く突き出される紅い槍。
 それをすんでの所で鎧に似せた補助フレームに乗せて流す。】

=因みに、補助フレームは外付けパーツなので電気は通っていない。
 吸血効果は不発になるだろう。= 

相手の右腕を掴んだまま、ルリが後退する。
そんな妙な動きが出来るのは《バンダースナッチ》の射出機能のロックを外し、ワイヤーを伸ばしているためだ。
わざわざこんな形で後退したのは、一瞬でも判断を鈍らせるため。
ルリが左手に持っていたγを地面に突き立てると、盾翌裏から別の槍が取り出される。
まだ最大威力を出すには距離がないが、狙いを行うには十分な距離だ。
狙いとは、厄介なマントの一時的な排除。
相手HMPの足下の地面に向けてβを投擲、それが起こす爆発で軽いマントを上に逃がすのが狙いだ。
そうなればルリは突き立てたγを引き抜き、全開の加速でもってそれを突き立てようとするだろう
231 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/02(火) 02:27:39.26 ID:PE/W3lQWo
>>230
「チッ……ワイヤーアームか…」

近距離で大きなダメージを見込める爪を、離れても使えるという代物は、余り軽く見る事は出来ない。
それは対応するべき距離が伸びたのもあるが、それ以上に危惧すべきは近接に使う筋力がそのまま遠距離からも使われることだ。
今はマントごと腕を掴まれているからいいものの、腕を直接掴まれていれば、機体自体にそれ程防御力の無いヴラドに握力によるダメージは必至。

(ワイヤーを叩っ斬るか…?いや、今の武器じゃ難しいか…)
(いや、それよりも相手の武器だ、あれは槍の換装?だが何故換装前の槍を残し───いや!)
「ッ!ヴラドッ!一旦下がれ!」

《……何!?》

大爪の処理をどうにか考えなければ苦戦を強いられる、しかしそう易易と考察時間はくれてはくれない。
ルリが槍を換装し、ヴラドに向けるのを見て如月は瞬時に『あれは射出用だ』と判断した、すぐさまヴラドに後退指示を出し、ヴラドもそれに答える。
が、ヴラドが下がり切る前にルリの槍が打ち出され足元で爆発、爆風を何とか持ちこたえるが、右腕のマントが爆風により捲れ上がってしまう。

「チィッ!もう【ロードオブナハト】の弱点を見つけたか!」

そう、ナオヒロの見込み通り、このマント状の盾【ロードオブナハト】は、軽さと防御性能を両立している代わりに、その軽さが弱点でもある。
盾らしくないその軽さは、爆風でなくとも強い風や衝撃で簡単に吹き飛び、思う様に構える事が困難になる。
そして、爆風により捲れ上がり構える事が出来なくなっているこの時を狙いルリが迫って来る。

《くっ……》

防御せず、ランス一本でカウンターを計るか…それは明らかにリスクが大きい。
爆風により体制を崩した状態では回避もままならないかもしれない、防御する盾を崩されたヴラドに如月が下した指示は───。



「ヴラド!『爪』だ!『爪』で防げ!」

如月の叫んだ指示に返事をする間もなく、ルリの槍が突き出される、しかしヴラドはそれを防いだ、言われた通りに『爪』で。
ヴラドは、自分の右腕に掴まるルリの『バンダースナッチ』を、ワイヤーを伸ばして支える腕の無い爪を盾として代用し、ルリの槍を受けたのだ。
防げたならばそれでいい、防げなくとも、相手からすれば相打ちとなり、大爪にダメージを与えられる。

《ぬぉぉぉぉぉッ!》

そして反撃、素早く身を反転させる様に捻りながら、防御に使った右腕を引き、攻撃に使う左腕を出し、相手の攻撃による衝撃をいなしながら攻撃する。
ボディを狙ってランスを突き出す、バッテリーに近いボディならば、エネルギー吸収効果は大きくなるはずだ。
232 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/02(火) 03:18:15.39 ID:H7hSNu4Ko
>>231
『!』

【姑息が裏目に出たか、自身の武器を盾にされたまらず槍から手を離す。
 同時に《バンダースナッチ》を吸血鬼の腕から外すことで自滅は防いだ。
 だが、ここからが正念場だ。】

相手の懐に武器も無しに突っ込んだ状態になった、相手がこの隙を見逃すことはないだろう。

【機体性能をフルに使い、この危機を越えようじゃないか!
 右腕の《バンダースナッチ》はまだ巻き取りきることが出来ない。
 使えるのは細腕と脚、そして推力か。】

『十分だ……!』

【前に向いた勢いを脚部で制御、止めきれない勢いは体を捻るようにして逃がす。
 そのまま背面のブースターに脚部のスラスターを併せて、体を回し再び向き合う。
 と、またも槍の一閃が。今度はボディ狙いか。
 ここは少し、掛けてみるか。】

相手の鋭い一突き、無傷では避けられない。
そこでルリはボディを抉らせながら、《バンカースナッチ》で槍を抱き込むようにして掴む。
避けられないなら、精々そこから作れるチャンスを無駄にしないだけだ。

「この距離であっても、痛い筈だぞ……?」

ルリの左腕、そこに備えられた全てのブースターが光を放つ。

「私もただでは済まないがな」

《セイチュウキンゾメ・ゲッカ》が吼える。
それに呼応するように、《ノル・ラヴォス改》に備えられた5本の槍それぞれのブースターが唸る。
殴ると言うより、腕が意志を持っているかのように、相手HMPの槍、左腕、その先のボディに向かっていく。
勿論、これが、槍を模したロケット弾がぶつかれば、ルリの言うようにただでは済まないはずだ。
233 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/02(火) 04:17:32.34 ID:PE/W3lQWo
>>232
完全に入らなかったとはいえ、ボディに傷をつけた事で、僅かながらのエネルギードレインが発生する。
本当に僅かな物だが、だが、こう言った僅かな差が勝敗を生むのがHMPファイトだ、これは確かに勝利への布石となる事が出来る。

「無理矢理突っ込むかよ……これだから脳筋は困るぜ……!」

などと悪態をつきながらも、如月の心情は宜しくは無かった。
スラスターの加速や大爪等、機体性能だけで見ればこの距離ではルリの方が高い、実質ヴラド自身は機体性能はそこまで高くは無く、武器パーツのインチキじみた性能に頼る機体だ。
故に、武器の一つであるランスが掴まれ追撃不可能な今、この肉薄した状況は非常に不味い状況である。

(相手のダメージはどんなもんか知らねーが、ボディじゃあどんだけダメージやっても停止させなきゃ大したアドバンテージにならねぇ!)
(こっちもまだ動くとはいえ爆風で満遍なく削られてるからな……下手すりゃパーツ一つ持ってかれて、そこから終わっちまうか…!)

こうして考えている間にも、ルリの行動の一つ一つが進んで行く、次の策を考える暇も無くなるが、それでも策を捻り出さなければ勝ち目は無い。
思考回路をHMPの電気信号よりも早く回し、判断の選択をCPUよりも正確にしなければならない。

(前見たいに武器を捨てるか?だがそうしたらどうやって攻撃する!?)
(この場で何とか決める事が出来ねぇと終わるぞ!?決めるには───)

一か八か、もう時間の無い今となっては、行動を迷ってやられるよりも、やれるだけやるしか道は無い。
間に合うか間に合わないか、ギリギリのタイミングでやる事は決まった、後はパートナーとの繋がりが決める。

「ヴラド!!ランスを離して左手をフリーにしろ!」

まずは第一段階、ヴラドは言われた瞬間に瞬時に左手からランスを離し、重荷を消し去る。

「そのまま左手でマントを支えて防御体制!」

そして、空いた左手でマントの先端を掴み広げる、これでマントが捲り上げられる事は無くなった。

「そのまま突っ込んで自分から当たりにいけ!」
「後は……耐えろ!!」

《……了解した!!》

そう、ここまでして防御体制をしっかりと整え、狙うのは自分からの突撃。
打撃攻撃に必要なスピードが乗り切る前ならば、衝撃も幾らか軽減出来る筈───それともう一つ、如月には考えがあった。
それは先程の爆発した槍を見て、マウントされた射出用の槍は他にも爆発する物があると見ての事。
それをこの近距離で、自分から当たりに行って爆発させれば、ルリにだって大きなダメージを与えられる筈だ。
もしそうなれば、いくら防御を重視したとしてもヴラドにだって大きなダメージが来るが……だが、少なくとも痛み分けには出来る。
234 :麻木ナオヒロ [sage]:2014/09/02(火) 04:49:37.93 ID:H7hSNu4Ko
>>233
《左腕損傷:損傷率100%…機能停止》
 《胴体損傷:損傷率56%》
  《頭部損傷:損傷率23%》

DVNOに表示されたメッセージ。
思った以上の痛手を受けた。マントによって、衝撃を想定以上に返された結果だ。
ランスを無理矢理に止めたこともあって随分と持っていかれた。

「ルリ、悪い。俺の読みが甘かったせいで雪だるま式だな。
 ……もっと削ってくよ」

『ふん、見くびるなよナオヒロ。
 腕が焼け脚が砕けようと、最後に立っていなくとも、勝ちさえすればいいのだ!』

【《バンダースナッチ》を回収し、脇腹に突き刺さった槍を引き抜く。
 そしてそれを右手で構えれば、足下の槍、γへと振り下ろしそれを砕いた。】

『仕切り直し、と言うほどでもないが。
 貴様から来るか?吸血鬼』
235 :月見夜 如月 ◆7/YIsiGcBo [sage]:2014/09/02(火) 05:10:04.53 ID:PE/W3lQWo
>>234

「……チッ」

至近距離での自爆特攻、これは部の悪い、そして情けの無い賭けだった。
こんなもの、いくら防御に重きを置いたとしても、ヴラドの機体性能じゃ耐えられる筈も無い、よくて停止ギリギリで持ちこたえる程度だ。
だから、出来れば相打ちにする事で守りたかった───自分のプライドを───負けてないと自分の心に言い聞かせておきたかった。

だが、現実は非情である。
フィールグラムにはダメージは負った物の立っているルリ、そして如月のDVNOの画面には……

「……ダメージによる機能停止、俺の負けだ」

無慈悲な赤い文字が、もう戦える状態でないと如月に告げる、読み取ったままを眈々と告げると、如月はDVNOを閉じて、倒れ伏したヴラドを拾い上げた。
爆発の衝撃で大きなダメージを負い、汚れたヴラドから埃を軽く払って、棺桶型ケースに寝かせる。

「……悪ぃな、つまんねぇ意地で無理させちまって」

小さな声で、申し訳なさそうに、聞こえていないであろう相手に労いの言葉をかけると、ケースの蓋を閉じた。

「勝利報酬だ、その武器はくれてやるよ、どうせスペアはあるからな」
「……今日はたまたま、俺が判断をミスったから負けたんだ、余り調子に乗るなよ」
「俺のヴラドは最強のHMPだからな、本気を出しゃあんな風な負け方はしねぇんだ」

「……覚えておきな、次にやる時がありゃ、その時は俺達が勝つ」

赤い髪の隙間から、睨むような鋭い目付きでナオヒロに告げると、踵を返してそこから離れていく。
人混みを掻き分けていくと、すぐに観客達に呑み込まれ、如月の姿は見えなくなってしまった。

この店の名物は勝ち抜きHMPファイト、朝日が登るまで戦いは続く。
戦いに勝利したファイターに挑むチャレンジャーを煽る実況が、ボルテージの高まった店内に響き渡っていた。

/お疲れ様でした
236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2014/10/05(日) 20:36:09.39 ID:9Bv28xsP0
保守
237 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/10/17(金) 04:49:55.69 ID:PSb1M11Ho
238 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2014/10/31(金) 00:41:00.50 ID:p1LM9bSio
239 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(SSL) :2014/11/07(金) 15:57:52.08 ID:pTy65tje0
240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) [sage]:2014/12/06(土) 09:33:53.33 ID:nvpwsscso
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