このスレッドはパー速VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

【来たれ!】ここだけ異能者の集まる学園都市【新規大歓迎】 - パー速VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆BDEJby.ma2 :2016/03/09(水) 21:56:01.93 ID:s0Oqdzov0
このスレッドは学園都市と称していますが、とある魔術の〜シリーズとは世界観の異なるものです。
とあるシリーズを舞台としたスレッドをお探しでしたら、申し訳ありませんがブラウザバックをお願いします。

ここは異能者……能力者が集まる大都市。通称:学園都市である。
この都市は学園都市の名の通り、人口の8割程度を学生が占めている。さらにその学生の殆どが能力者であり、学生は皆、異能の力と共に共存している。そしてまた、その背後には別の異能を操る者の存在も…………。

(世界観や用語について詳しくは>>2参照)


ここは自分自身のオリジナルキャラを創作し、他プレイヤーのキャラとある時は何気ない日常風景、あるときは戦闘などを文章で交流するロールスレッドです。



【キャラクター作成について】
プレイヤーが使用するキャラクターは、無能力者、能力者、魔術師の中から選択し作成できます。
能力者はLevel1〜4、魔術師はランクD〜Aまでのキャラが作成可能です。
学園都市で生活するどのような人物でもルールの範囲内であれば制作が可能です、但し能力者のみは学生に限ります
また、世界観に関わる組織の長やそれに準ずるような立場の人間はPCにすることは出来ません
人外、また能力以上に特殊な生態を持つ存在はPCにすることは出来ません
版権キャラクターをそのまま使用する事は推奨しません


【キャラクターの武装に関して】
能力者側の特殊な武器(ex.炎で出来た剣、妖刀)の所持することは出来ません
上記の特殊な武器の使用は魔術師側のみ認められています。
能力者側は能力の応用で武器を強化する(又は能力を纏わせる)などは可能です
学園都市内での過度な武装所持は風紀委員(>>2参照)によって取り締まりを受ける可能性があります
魔術師の魔術の行使には何かしらの装備が必要となりますが、必ずしも武器である必要はありません

【キャラクターの所属する組織に関して】
世界観を決定づける組織を個人の判断で制作してはいけません(議論スレへどうぞ)
既存の組織の長にPCを設定することは推奨しません     (こちらも、議論スレへどうぞ)
既存の組織に所属する事に制限はありません
小規模、もしくは個人の範囲の組織を設定する事は可能です


ロールについては、スレッドに参加する前に、こちらのサイトによく目を通してください。
なりきりの基本となるマナーやルールが詳しく書かれています。↓↓
http://harmit.jp/manner/manner.php


したらば避難所雑談所
http://jbbs.shitaraba.net/internet/20492/

WIKI
http://www8.atwiki.jp/schoolcitiy/


【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このパー速VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

2 : ◆BDEJby.ma2 :2016/03/09(水) 21:57:40.03 ID:s0Oqdzov0
【基本的世界観用語】
学園都市……数年程前に突如として10代の若者を中心に発現した”異能”、そしてそれを扱う”能力者”を教育収容すべく我が国日本が建設した研究都市。
10万人を超える人口を都市内に有しており、中でも学生の割合は8割を占める。


能力者………数年程前に10代を中心に発現した”能力”を操る者の事。
能力強度(単純な強さである為にその人物の戦法や工夫などは反映されない)によって1〜5までのレベル分けがされており、最高の強度を誇る能力者は俗に『Level5』と称されるが現時点で存在している能力者はLevel1〜4まで。

魔術師………能力が発現されるよりも遥か昔から受け継がれている、”能力”とはまた違ったタイプの”異能”。
数年程前から確認された新たな異能”能力”について調査する為に数多くの魔術師が学園都市に潜入している。
魔術に関わらない学園都市の人間からすればその存在はもはや噂のようなものである。
魔術師にはその技能によってランク分けがされておりランクはD〜Sまで存在する。(キャラ設定が可能なのはD〜Aまでです。)

魔術師はその思考によって大きく組分けがされており、それぞれ

[バルタザール]:穏健派。能力者側との接触の事前調査の為に学園都市に潜入している
[メルキオール]:中立派。能力者側の動向を監視する為に学園都市に潜入している
[カスパール]:過激派。能力者側の危険性を確認する為に学園都市に潜入している

という3つの組分けで、その思考のもとに全世界に様々な魔術組織が存在する。





【組織】
風紀委員会……全体の人口の内8割を学生が占める学園都市において、都市内の治安維持を司る組織。当然の如く、構成員は学生オンリーである。

管理委員会……学園都市の基本方針を司る学園都市の頭ともいえる組織。都市内の規律を制定するだけでなく、都市外との外交も司っている。

学園都市第一学園……都市内の数ある学園の中で最も規模が大きく、校風が自由である学園。
(この学園に必ず属さなければならないというわけではありません。)
3 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [sage saga]:2016/03/11(金) 21:04:44.59 ID:MV3NokEp0
放課後の路地裏で、少年が一筋の汗をタラリと垂らす。
彼はふらふら歩いた先の路地裏で、十数人の複数の男に取り囲まれていた。

少年の名前は大木 陸。学園都市第一学園の一年生だ。
名前だけ聞くと太い名前だと感じる人間が多いかもしれないが
この少年の場合は当てはまらなかった。
放課後や休みの日に風の向くまま、気分の向くままにあてもなく都市を彷徨う存在。
そんな彼だからこそ、能力者には狙われやすかったのかもしれない。

「皆さん方、もうちょっと楽に生きることはできないのかな―――
 俺を狙っても一銭の特にもならないよ」

周りを囲う筋骨隆々の男達を窘めてみるものの、返って来るのは同じ数の鋭い負の視線。
加えて不幸な点があるとするなら、氷や炎に雷と言った分かりやすい自衛手段の能力を
少年は持ち合わせていなかったことだ。
実際【彼の能力は避けることしかできない】、その癖希少価値は高い。
故に彼は現在進行形で文字通り無能力者の嫉妬、羨望、嫉みのいい的になっている。
勿論全く嬉しくはなかった。

「能力者だからって、俺ら舐めてんじゃねえぞ死ねやぁ!」

不良の一人が鉄パイプを持って飛び掛ってくる。
簡潔に言うと、少年は今ピンチで、困っていた。
できれば風紀委員、いや風紀委員じゃなくてもいい。この状況を打破してくれる人間なら。
最悪気を引いてくれれば自分でどうにかできる。彼はとにかく状況が変わるための散在を欲していた。
4 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/11(金) 21:29:51.46 ID:bkxU+iGM0
>>3
────ダン!!そこに強引に介入するのは、事故でも起きたかのような爆発音だった。



「[ピーーー]。なんて──────、

暁に燃える夕陽が、僅かに差し込む都市の路地裏。
たった独りの青年とそれを取り囲むように陣形を固めた不良共の騒乱に、拳で強引に割り込む影一つ。
それもまた燃えるような真紅の鉢巻を額に巻いて、学ランという”漢”の象徴を羽織り。
それは最先端の科学都市に似合わない、どこか『番長』という古めかしい概念を彷彿とさせる出で立ちだった。


─────軽々しく言ってんじゃねぇぞ[ピーーー]やオラァァ!!」


その”漢”の名は─────高天原いずも、という。
学園都市の自称『番長』を奢る、第一学園高等部第2学年所属の人物。
握った拳は細く小さなものでありながら、振るわれたそれは爆音と共に五人ほどの不良を吹き飛ばした。

触れた対象との間に爆発という現象を発現する。
名を『爆破剛掌』、強度は段階にして3。
しかし、火力だけに一点特化したその能力はLEVEL3だからと侮れるものではなく───。
乱入者は、取り囲まれていた青年を護るように立ってから、青年に背中を向けつつもこう話しかけた。


「………よお、大丈夫か少年!
ここはオレに任せな!何たってオレは────、

迫り来る屈強な不良達。
対して少年の前に現れた学ラン姿の人物はそれほど大きいわけでもなく。
もし男性基準で見るのなら、むしろ小さいくらいの体躯だった。………しかし、強気で宣言し、実行する。


「─────この学園都市の『番長』だからな!!」


それは自称であるとしても、今この瞬間だけは彼女は『番長』になれているだろうか。
小柄でありながら、能力を行使して屈強な不良達を強引に薙ぎ倒してゆく────。



//よければ…!お願いいたします!
5 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [saga]:2016/03/11(金) 21:32:54.09 ID:bkxU+iGM0
>>3
────ダン!!そこに強引に介入するのは、事故でも起きたかのような爆発音だった。



「死ね。なんて──────、

暁に燃える夕陽が、僅かに差し込む都市の路地裏。
たった独りの青年とそれを取り囲むように陣形を固めた不良共の騒乱に、拳で強引に割り込む影一つ。
それもまた燃えるような真紅の鉢巻を額に巻いて、学ランという”漢”の象徴を羽織り。
それは最先端の科学都市に似合わない、どこか『番長』という古めかしい概念を彷彿とさせる出で立ちだった。


─────軽々しく言ってんじゃねぇぞ死ねやオラァァ!!」


その”漢”の名は─────高天原いずも、という。
学園都市の自称『番長』を奢る、第一学園高等部第2学年所属の人物。
握った拳は細く小さなものでありながら、振るわれたそれは爆音と共に五人ほどの不良を吹き飛ばした。

触れた対象との間に爆発という現象を発現する。
名を『爆破剛掌』、強度は段階にして3。
しかし、火力だけに一点特化したその能力はLEVEL3だからと侮れるものではなく───。
乱入者は、取り囲まれていた青年を護るように立ってから、青年に背中を向けつつもこう話しかけた。


「………よお、大丈夫か少年!
ここはオレに任せな!何たってオレは────、

迫り来る屈強な不良達。
対して少年の前に現れた学ラン姿の人物はそれほど大きいわけでもなく。
もし男性基準で見るのなら、むしろ小さいくらいの体躯だった。………しかし、強気で宣言し、実行する。


「─────この学園都市の『番長』だからな!!」


それは自称であるとしても、今この瞬間だけは彼女は『番長』になれているだろうか。
小柄でありながら、能力を行使して屈強な不良達を強引に薙ぎ倒してゆく────。



//saga忘れするときちがいになるんですね…すみませんsaga追加です
6 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/11(金) 21:59:32.36 ID:MV3NokEp0
>>4
爆発音と共に迸る閃光、迸る閃光に目が眩む。
実際番町を名乗る少女のその在り方は、大木にとって眩しかった。
不良に良いイメージは持って居なかったが
番町を名乗る少女の在り方は、不良と言うよりも極道のそれに見えた。
善人では決して無いが、筋を通す。それが昔の極道や、ヤクザ者の在り方だったらしい。
荒々しいながらも番町を名乗る少女からは、それが感じられた。


「神も仏も信じちゃいないけれど―――救ってくれるのはいつも人間だったね」

突如現れた名高い強大な番町の前に、驚く不良達。どうやら彼女の名は知れ渡っているらしいな、と大木は考える。
しかしそもそも頭が良い人間は、この学園都市で能力者を襲ったりはしない。
彼我の戦力の差を理解しつつも毒を食らわば皿まで、の精神を悪いほうに発揮した不良達は
何とか番長の攻撃の間を縫って少年に近づこうとする。
―――こいつを人質にしてしまえ。
不良達の声が聞こえてくるようだ。しかし一度爆風によって後退した不良達が
大木の元に走ってくる間、それだけの時間があれば十分だった。包囲網はすでにズタズタにされている。

不良達の体に、大木が投擲したダーツの矢が突き刺さった。

大木から放たれた矢は、腕の筋を的確に捉え、機能を低下させる。
3人ほど戦力を半減させた大木は、細い目を少し開くと、番町に笑顔を送る。

「死ぬつもりはなかったけど、正直番長がいないときつかった、ありがとう」

不良の数はあと数人といったところか。数はみるみるうちに減っていく。
7 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [saga]:2016/03/11(金) 22:32:15.06 ID:bkxU+iGM0
>>6
「…ははっ、簡単な話だ!
この世に信じられるのは結局、人間しかないってな!」

微かに聞こえてきた青年の声に、依然として陽気な声を張り上げて応答した。……不良を蹴散らしつつ。
高天原いずも自身で言えば彼女が信じてきたのは、神でも仏でもなく『番長』という夢だったろう。
兄が成した理想の姿に憧れを抱き、そしてその姿に自分を重ね、それだけを信じて『番長』の拳を振るう。

「オラァァ!!さっきまでの威勢どうした!」

ただしそんな『番長』であっても所詮はLEVEL3といったところか。
大胆で馬鹿げた火力の中には、不良の軍勢がつけいる隙なんていくらでもあった。
───現に今、自らの懐をすり抜けていった男達は逃げるという道を選択するのでは無く、大木のもとへと一直線に向かっている。
それが意味する危険性を知っていて、だからこそ彼女は、

「─────────なッ!?」


なんていう間抜けな声を今更上げて、青年の方を振り返っていた。─────間に合わないッ!!

「テメェ……!!く……そ!……おい!逃げろォォ!!」

彼女は声を荒げる。悲劇の可能性を前にしながら、自らの体を男たちの腕が拘束しかけていたからである。
ただし、ここで彼女の馬鹿さ加減が露見することとなる。
路地裏の前を通った時、彼女の目に映った大木 陸という青年は、不良に囲まれている『可哀想な青年』だった。
だから自分の助けが必要だと、拳と共に乱入した。ただただ、そんな理由だった。

─────でも、彼は。間違いなく。

「………くそ!…心配したオレが馬鹿だったッ!!
お前、”強い”じゃねぇか!!………どういたしましてっ!!」


……彼女は自身を拘束しかけていた腕を跳ね飛ばし、その腕の持ち主の方を振り返る。弱者を屠る弱者の汚らしい顔である。
こういうつまらない話のエンディングは本当に至ってシンプルの締めとしよう。

「ラストォォォォ!!」

────鉄拳制裁!
細くて、それでいて屈強な少女の拳が、最後の1人の顔面へとのめり込む。……吹き飛ばす!!


─────────────
──────────
───────
────
──


全てが終わって、同じ路地裏。
『番長』を名乗る少女は不良の体を積み重ねた山の上に座り、青年へと話しかける。


「というわけで、お疲れさん。怪我ない?」
8 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/11(金) 22:55:51.11 ID:MV3NokEp0
>>7
最後の不良の体に、少女の拳が吸い込まれていく

――――『番町』は困った少年にとっては、風紀委員よりも自分を守ってくれる英雄だった。

当たり前だったのだ、町を守る番人だから、番町。
シンプルな答え。それが快活な少女には最も相応しい言葉に違いない。
いつも細い目をしている大木は最後の不良が倒れるまで、番町から目を離せなかった。
純粋に、憧れに近い感情を抱いた。

……その後、積み重なった山の上に座っている番長に気押されつつ
(重なっている人たちは大丈夫なのだろうか、と考えてしまう)
持ち運んでいる荷物の中からプリッツめいたお菓子を取り戻すと、番町に差し出した。

「おかげさまで傷一つなかったよ。食べるか?」

助けてもらったが、自己紹介をしてなかったことを思い出す。
いつまでも番町さんではまずいだろう、自己紹介するなら自分からだ。

「俺は第一学園の一年。大木 陸って言うんだけど、先輩かな。番町さんのこと『強い』と思える」

制服を見て疑問を指摘してみる。番町を名乗る少女は心の芯がぶれずにメラメラ煌いているような少女だ。
純粋に聞いた名前を心に刻み付けておきたかった。
9 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/03/11(金) 23:14:03.18 ID:bkxU+iGM0
>>8
「なら良かった!……おっ……サーンキュー!」

大木からお菓子を受け取るとにへらぁと暖かさの籠った笑みを浮かべつつ、礼を述べた。
外見的には中性的で、会話の仕方の所為で男よりな印象をつける高天原いずもであるが、こういうところの笑いなどには何処か女性特有の暖かさや、一種の優しさすら感じられる。
そして先程から青年が、自分が下に敷いている不良達を気にしている様子だったので、プリッツを一本口に放り込みつつこう述べた。

「こういうのはこんな感じで上から押さえつけられると精神的にクるんだよ。
ついてきてくれるって奴もいれば、殴ってくるやつもいらぁ。殴ってくるやつは殴り返して、ついてきてくれる奴に変えればいい。」

完全に暴力じみた独持論だが、確かにこういうような暴力に心酔した集団にはこのようなプライドをへし折る手段しか方法はないのだろう。
ちなみに、こんなことを言っている彼女であるが彼女についてきてくれるって奴は誰もいなかったので、このセリフは無かったことにしていいレベルで信用のないものになる。勿論、青年はそんなことを知る由もないのであるが。
プリッツをリスのように齧ったり、一気に何本も頬張ったりしつつ、会話は自己紹介に移る。

「えっと……大木 陸………!リクな!覚えた!!」

「オレの名前は高天原いずも!
漢字じゃあ”出”るに”雲”って書いて”出雲”だけど基本ひらがな表記よろしく!!

年齢的にゃあオレが一個上になるけど、別になんて呼んでくれても構わんぜ??
……というかむしろ年の差とか気にしない感じの呼び方希望したい!」

高天原いずもは第一学園の第2学年。大木からすれば一つ上の先輩にあたるが、実際のところはサボりまくったりでロクでもない先輩である。
10 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/11(金) 23:52:12.93 ID:MV3NokEp0
>>9
「大変恥ずかしいけれど、道に迷うことが多いから持ってるだけだけどね。
 気に入ってくれたならよかった」

大木にとって恥部に等しくあまり外に漏らしたくないことだが、豪快な番町の前で不思議と嘘を付く気になれなかった。
お菓子はいざという時の非常食としての面が強い。
先ほどまでの不良達の獲物を見るような笑顔と、番町の笑顔は比べる質が違った。
温かみのある笑顔につられてこちらも笑ってしまう。大木も余ったプリッツの袋を開けて食べ始めた。

「そんなものなんだね、殴れば分かるか。まあ心を折るほうが早いのは納得できるかな」

俺もそれができるといいんだけどなあ、とぽりぽり頬をかく。助けられたこともあってか
元来臆病な大木と活発な番町の噛み合わない組み合わせだったこともあって、番町の持論が大木にすんなりと入ってしまう。
強気な番長に助けられて洗脳されている気弱な人間の構図が完成されつつあった。
何か良くないほうに目覚めようとしているのかもしれない。舎弟とか多そうだなあと大木の中で勝手に番町の格が上がっていく。

「年の差考えないならいずもさんとかいずもちゃんとか…しっくりこないな、いずもって呼び捨てでいいか?」

大木的にはいずもさんと呼びたかった。番長とこのまま呼んでもいいぐらいだ。
しかし年の差を気にしないことを考えるなら選択肢は限られる。
ちゃん付けはしっくりこないし、向こうがリクと呼ぶなら呼び捨てもいいかもしれない。

「俺もさ、不良をぶちのめす、とかはいかないかもしれないけど
 困ってる人が居たら助けられる人間になろうと思えたよ。
 俺も一応能力持ってるしな」

心の強さは気の持ちようという。
臆病な少年が、強気な少女に感化されただけかもしれない。
しかし今なら厄介ごとを抱えて道端で倒れてる人間ぐらいは、助けようという気になれた。

「此の世に信じられるのは人間しかいない、か。ありがとな。
 縁が合ったら、また合おうな。番町っていう呼び名、似合ってたぜ」

最後に、似合わない強めの言葉を使っていずもにもう一度礼を言うと、臆病だった少年は歩き出す。
錯覚かもしれないが、少年の心には火が灯っている気がした。

//ありがとうございました!
11 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/12(土) 05:51:58.20 ID:5rnsX1cN0
>>10

「はっはっは!…なら今回で新しい用途が増えたじゃねーか!
今回で言えばオレ、みたいに、仲良くなった奴にあげるなりすりゃあいいんだよ!これうまいし。
それにそんな恥ずかしいことか?お前なりに生き残る道考えた結果ってこったろ?」

──例えば、この『番長』を名乗る少女にとっては、それは”拳”なのだろう。
この都市で暮らし、そして『番長』という夢を叶えるために、障害は自らの”拳”でぶち壊してきた。
時にはその”拳”を開き、誰かの手に自らの手を差し伸べたりもした。…これこそが高天原いずもという、ちっぽけで強がりな少女の生きる道だった。
……であれば、何を恥じることがあるだろうか。現に彼のお菓子はこの場を和ませているではないか。
少女は邪気を感じさせない笑いで、なおも明るい声で少年にそう応答したのだった。

「……まあでも、”暴力沙汰”じゃなくてもこいつらみたいな危険な存在を回避する方法はいくらでもあるんだけどな。
オレは『番長』として見過ごせはしねぇけど。
”逃げる”とかのがもっと穏便に解決できるじゃん?
ぶっちゃけ、オレは”逃げる”勇気があるのが心底羨ましい。
…………殴らずに済むわけだし、さ。」

現在こそ『番長』と成っているが、元を辿れば、過去の彼女は今では想像もつかないほどに清楚で落ち着いて、そして気弱なごく普通の少女だったりする。
自らが抱いた”憧れ”が”能力”という天啓と自身を取り巻く”状況”によって、その少女の外面を塗り固めた………それが実際は高天原いずもの本質だった。
───故に、この大木の心情をどこか見透かしたような言葉は、殴ってばかりの彼女の本心なのだろう。
「誰も傷つけたくはない」という『番長』と相容れない願望が、最後の一言にはよく現われ出ていた。

「呼び捨て大歓迎だ、リク。特にあだ名があるわけでもねぇし、一番親近感持てるしな!
それに、”さん”はまだしも”ちゃん”なんて呼んでたらオレはキレちゃうぜ?
今のオレは”ちゃん”なんていう可愛らしいもんじゃねぇ。」

「………おう、それで充分!!100点だ!
そういう人間には自然に人が集まる。どんな能力だろうが、そんなのができるのは”強い”人間だけだからな。
あとは実行に移せば、文句なしの120点だ!お互いがんばろーぜ!」

自分は『爆破剛掌』を持っていて、だから”強い”。
しかしそれは外面の強さ。心にしっかりとした意志の灯火が燃えていない限り、”強い”とはいえない。
そして少女には何より、「なろうと思えた」という彼の言葉が嬉しかった。自らの行動は人を動かすことができるのか、と自らの行動がどこか肯定されたような気がして。
そして、間もなく。はっきりとした肯定の言葉が青年から飛来してきた。

「おう!またいつか!!
……ん………?……あ。…えっと……?」

何を驚くことがあるのかは知らないが、「似合っている」という彼の言葉に目を丸くする。
それは強がりの気弱な少女が、誰よりも待ち望んだ称号だったから。

───最初の出会いは。
そんな言葉を受けて、似合わない柔らかな感謝の言葉と、『番長』としてではなく、1人の少女としての笑顔、そして手を振って終わるとしよう。



「─────……うん!……ありがと!!」


臆病な少女は再び、自らの覇道を歩み続ける。
こんなのは錯覚かも知れないが、強がりで気弱なその少女の心の火は、新たな火のお陰でより一層強さを増したような気がした。

//ありがとうございました…!このいずもというキャラとしてもいい出会いでした!
12 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/13(日) 19:21:46.64 ID:gOpyy6vD0
街の賑わう大通りを一本外れた所にある金網に囲われた倉庫群。人気のない倉庫や道を錆びれた街灯が寂しげに照らす。
倉庫群の内の一つの倉庫。他のものより少し大きい倉庫の扉は開かれていて、この都市ではなんとも珍しいアナログな南京錠がひしゃげた状態で扉の側に落ちていた。
鍵を壊し扉を開けた犯人が倉庫の中を覗き込んでため息をつく。

「はぁ、なーんだ。鉄骨ばっかり、ただの資材置き場かぁ……つまんないのーっ」

クルリと踵を返し、先ほど砂を忍ばせ破壊した警備ロボット二台を尻目に倉庫群から離れようと歩き出す。
最初は、警備ロボットが付いている倉庫なんてなにか面白い物があるに違いない!という安直でおバカな発想から湧き出る好奇心が抑えられず侵入したのだが、どうも期待はずれだったようだ。
ガシャガシャと不恰好に無警戒に金網をよじ登る少女。その様子はなんとも怪しげで異質だ。
13 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/13(日) 20:53:17.80 ID:DnnJh2xs0
>>12
好奇心というものは、アダムとイブの時代に食べたらいけないと言われていた果実であり
パンドラの箱とかいう開けたとたんに希望以外の負の要素が湧き出てくる物に似ている。
つまるところ、人間なら誰しもが空けてしまう物なのだ。
臆病だが風船のように気ままで好奇心旺盛な少年―――
大木陸が、好奇心に負けて物騒そうな少女に話しかけるのは、無理もないことだろう。

「えっと……なにしてるんだ。泥棒、とか?」

口に出して少女に呼びかけてから第一声にしてはまずすぎる、と後悔する。
いずもに感化されたのか。
怪しすぎる人間に、相手の素性も分からないのもかかわらず大胆に話しかけすぎた。
14 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/13(日) 21:18:21.23 ID:gOpyy6vD0
>>13
「…っ!!わぁっ!!」

好奇心のまま動き、器物破損、不法侵入、その他もろもろの犯行を犯したが良いことはまったくの0で、ばれた時にしらばっくれる演技の練習でもしようかと思考を巡らしている少女。
しかし偶然出くわした少年の一声により少女の呑気で平和な思考は吹き飛ぶ。
少女は驚いて毛を逆立てる猫みたいにビクッー!と身体を一瞬跳ねさせ、今降りようとした金網から勢い良く降りる。その降りた勢いはほとんど"落ちた"、に近い。

「あ、あ、あのね!別にその泥棒とかじゃなくて!そのー、えっとー、……あ、そうだ!社会見学的な?勉強勉強!ここの倉庫はどんな役割を果たしているのかなーって気になっちゃってさぁー…!
まぁとにかく泥棒とかじゃないから!見てただけだから!!ね?」

汚れたブレザーの砂埃を払おうともせずに一目散に自分の犯行の目撃者である少年の目の前へと近づいて、必死に弁解を図る。
下手くそとかいうレベルじゃないウソの言い訳を放ち、少年の肩をポンポンと叩いて必死の眼差しを向けた。
究極のその場しのぎの言い訳なのでその辺に横たわる警備ロボットなどについて言及された時のことなんて考えちゃいない。
15 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/13(日) 21:33:44.73 ID:DnnJh2xs0
>>14
「ちょっと、大丈夫か!?」

どうやら確かに降りるというよりも、落ちてきたように見えたらしい。
落ちてきた少女に驚き、慌てて駆け寄る大木。

その後怒涛の言い訳を並べる少女に、物騒な人物じゃなさそうだと心中で胸を撫で下ろす。
襲い掛かってこられなくてよかったと安堵を隠さないあたりこの少年の臆病さは直らない気もする。

「うん、怪我がなくて良かった。……泥棒じゃないことは、分かったよ。
 社会見学はしたくなる年頃だよねえ、分かる分かる。俺もけっこうやるんだよね、社会見学」

知ったような口を並べる黒木。
しかし実際この男、迷子になったあげく知らず知らずのうちに立ち入り禁止区域に入ってしまったことがある。
しかも両手の指に収まるものではなかった。
壊れている機械はスルー。人助けはしたいが、正義の味方を気取るつもりもない。

「分かってるよ、分かってる……」

警備員に摘み出された記憶を思い出し、遠い目になる黒木。
必死なのは少女だけではないようだ。
16 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/13(日) 21:56:46.86 ID:gOpyy6vD0
>>15
「だ、だよねー!社会見学楽しいもんねー!最近のマイブーム!」

自分の心配をしてくれているところを見ると通報だとか面倒なことはしない人のようだ、と少女も安堵し、満面の笑みで言葉を返す。
犯行を目撃した人の9割は警察や風紀委員に通報したりするので、そうなったら能力を行使して逃げねばならないので色々面倒なのだ。
元々の犯行の動機である好奇心を抑えればいいのだが、好奇心による行動は彼女にとって反射的であり、気がつけばやらかしてしまっているのだ。

「あ、さっき心配してくれてありがとねっ キミ優しいねっ
社会見学してると怪我しそうになることが多いからさー まぁ怪我しても絆創膏持ってるから多少大丈夫だけど!」

ブレザーについた砂埃をぱっぱと払いつつ、少年の瞳を見つめて礼を言う。

17 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/13(日) 22:16:28.21 ID:DnnJh2xs0
>>16
「俺もだな、まあ趣味の結果に社会見学になってる感じだけどさ」

あはは、と笑う大木。先ほどから嫌われないように立ち回っているのは大木が優しいから
という理由だけではなかったりする。警備ロボットを壊すような能力者に、大木は勝てないだろう。
Level3以上の能力者で医療系じゃない能力の人間には勝てる気がしない。
つまるところ臆病の結果的に、媚を売らざるをえないのだ。
戦闘を回避するためなら、土下座でもしていいかもしれない。

――――――自分が死ぬ妄想はしたくないのだ。

「……まあ、優しい訳じゃないよ。本当に優しいなら、こんなことするなって怒るべきなんだろうな」

ただ猫のように活発な少女を見ていると、警戒しているのが馬鹿らしくなってくる。
それに言い訳を述べていた先ほどの姿を見て、大木も毒気を抜かれてしまった。

「俺は大木 陸っていうんだ、あんたの名前は?」

先程までの臆病にも見える失態、それなのに警備機械を壊すほどの能力者。
興味を惹かれ少女の名前を聞こうとしている大木。何故かと言うのなら
きっと二人に共通している性格

―――好奇心のせい、なのだろう。
18 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/13(日) 22:43:00.41 ID:gOpyy6vD0
>>17
「大木 陸!陸……りっくん!…って呼んでいい?」

少年の名を聞くとすぐさま言いやすいニックネームを作り出し、それを常用していいか少年へ尋ねる。
たとえ初対面の相手でも友好度的なものが一定以上ある彼女。人懐っこい彼女は一度関わった人とはもっと仲良くなりたい思う。その表れがニックネームなのだ。

「私は咲城 紗久っていうよ!紗久でもサッキーでもさっきゅんでもしろりんでもサクサクでもなんとでも呼んでいいからね!……あ、さっきゅんは恥ずかしいからやっぱナシで!へへ…」

そして自己紹介を促されると快く嬉しそうに思いつく限りの呼ぶ方が恥ずかしくなるようなニックネーム付きの自己紹介をした。
彼女にとっての友好の印であるニックネームだが、普通に名前を呼ばれても嬉しいので、なんとでも呼んでいいとは心からの本心である。
19 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/13(日) 23:09:17.39 ID:DnnJh2xs0
>>18
提案された呼び名に、唖然とする大木。
可愛らしい少女からの提案、吝かではないものなのだが、いいのか?と思ってしまう。
これが女子力なのか、凄まじいパワーを感じるなどと言葉の意味が合っていないことを考えてしまう。

「ああ、いいよ。俺もどんな呼び名でもいい」

死んだような目でこいつの前では素でいていいな。媚を売ることもしなくてもよさそうだ。
そんなことを思う。臆病な大木にとって、強大な能力者に無駄な気を使うのは心の盾のようなものだ。
猫のような少女は、能力を持っているにも関わらず、その純粋さで臆病な少年の盾を剥がすことに成功したのである。

「咲城 紗久か。普通に紗久って呼ぶよ。渾名を付けなくても普通に可愛い、いい名前じゃないか」

一見口説いているように聞こえるかもしれないが、大木に紗久を口説く意思はない。
友達なら紗久のような人間が居てもいいと思える。
しかし大木はどんなに可愛い相手でも能力者と恋人になることだけは避けたかった。
臆病故に能力者ではなく無能力者の人間とお付き合いしたいと思っているし、その思いが変わることはないだろう。

「じゃあ友好の証だ、食うか?……嫌いならいいけど」

いずもの提案通りに持参している鞄からプリッツの箱を取り出して、紗久に渡してみる。
仲良くした相手にプリッツを渡すようにすることは、大木にとって決まったことだ。
20 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/13(日) 23:41:52.46 ID:gOpyy6vD0
>>19
「可愛いなんて、照れるなぁ〜っ、えへへへ……可愛いだってさ……」

陸からの褒めの言葉に紗久の褐色の肌は仄かに赤くなり、照れ臭そうに癖っ毛な髪をクリクリ弄りだす。名前を良く言われただけなのに、自分の全てを賞賛されたかのように喜ぶその姿は彼女の超楽天家でポジティブな性格をそのまま体現している。
良く言われれば言われるほどその人への親交度は上昇していき、すぐさま親友へと昇華させる彼女。しかし親交度の限界は親友であり、誰であれ恋人だとかそういった関係にはならない。少し精神の幼い彼女にはそんな発想はないからだ。

「…わぁ!それ好き!!食べる食べる!!ありがとうりっくん!
……うーむ、この丁度いい塩加減、サクサクスナック感……美味しい…」

友好の証として陸から差し出されたそれを見るやいなや、飛び上がり嬉しさを身体全体で表した。基本的にお菓子類なら嫌いなものはない彼女にとってはお宝のようなものだ。
遠慮なしに袋から二、三本取り出してバリバリとなんとも幸せそうにお菓子を食べる。
二、三本が食べ終えればまた次の二、三本を食べ、友好の証は次々と彼女の腹の中へ入っていく。
21 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/14(月) 00:16:57.40 ID:pcvA2tG50
>>20
「ほれほれ、もっと照れとけ。照れてる所も可愛いぞ」

気遣いをやめて、赤くなった適当に弄くりながら大木は確信する。

こいつは一緒に居て疲れはするが、妙に一緒に居るのが楽しいな。

好奇心旺盛な人間同士馬が合うとでもいうのだろうか。それとも紗久の猫のような癒しがそうさせているのだろうか。
普通の能力者というものは強大な力を持ち、突如現れた自分の力に溺れてしまうものだ。
少なくとも能力を持つと生活はともかく行動パターンは変わってしまう。
しかしこいつはどうだ、能力が無くとも好奇心で普通に立ち入り禁止の施設に進入する所が容易に想像できる。
違いがあるとすれば警備ロボットに捕まるかどうかくらいだろう。そして捕まっても反省はしまい。
能力者なのに怖くない、怯える必要もない。大木は、久しぶりに素を出していた。

いずもが大木にとって尊敬できる人物だとしたら、紗久は大木にとって親友になれそうな人物だろう。

「気に入ってくれたならよかった、それじゃあ俺はそろそろ家に帰るわ。
 紗久もあんまりここに居ると捕まるぞ?」

そう、まだここは壊れた警備ロボットが近くにある場所だ。
このまま別の人物に見つかって通報されるかもしれない、そうなったら紗久にとってたまったものではないだろう。
慌てるであろう紗久を置いて、大木は立ち上がった。

好奇心が強いもの同士、またどこかで合う事はあるだろう。
いや、すぐに再会することになる気がする。
大木も紗久も、楽しいことが好きな人間で在り続けるならば。

――――だから別れの言葉は、とてもシンプルだった。

「紗久、またな!」

手を大きく振って、黒木は紗久の前から去っていく。
『さよなら』ではなく『またな』。
その言葉に、黒木の気持ちは十分にこめられていた。

/ありがとうございました!
22 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/14(月) 00:34:28.65 ID:6+0hPxw30
>>21
「わっ、捕まるのはイヤ!風紀委員の人たち5時間くらいは解放してくれないもんっ!まったく暇だよねあの人たちも!」

風紀委員が聞いたら大激怒しそうなことを言いつつ慌てて紗久もその場を後にしようと歩き出す。
このままどこかへ去れば今日の犯行はなかったことになるし、彼女自身もすっかり忘れる。現行犯で捕まらなければやってないのと同じなのだ。
しかし彼女は"良いこと"や都合の良いことは忘れない。今日あった"良いこと"、陸との出会いのことは決して忘れないだろう。そして陸自身のことも。

お互いの好奇心によって出会った二人。
そう遠くないであろう再会の予感のする二人。陸のシンプルな別れの言葉に帰ってくるのはやはりシンプルな言葉。

「またねー!りっくん!!」

陸の遠ざかる背中をしばらく見つめて、紗久もスキップ気味に帰路につく。とても満足げで、幸せそうな表情をしながら。

/ありがとうござましたぁ!
23 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/15(火) 20:04:31.68 ID:BAJ7AKrD0
学園都市にも、屋内から周囲を一望できるような展望台はある。
高所恐怖症の人間でない限り、人は高い場所から周りの風景を眺めることが嫌いではない。
窒息しそうな日常の中で、無意識に開放感を覚えているからなのだろうか。
ガラス越しに眼下を眺めているまばらな学園都市の住民の中に、一際目立つ少女が居た。

陽愛白

―――その少女は、純白という言葉がとても似合う少女だった。

髪の色は白く、着こなしているワンピースの色も白く、ハイヒールの靴の色も白い。
ワンピースに申し訳ない程度にあしらっている、僅かな桜の薄い赤色ですらより白を目立たせる結果になっていた。
少女は傍からは良い所のお嬢様に見えるだろうし、実際その認識は正しい。
陽愛と言えば、株を少し齧っている人間なら直に会社名が出てくるぐらいの大企業。
彼女はそこの社長令嬢なのだ。
そんな少女が何故護衛の人間も付けずに展望台にいるのか。
それは彼女自身が拒否したからに他ならない。つまる所、彼女は一人で誰にも邪魔されずに景色が見たかったのだ。

口元に微笑みを浮かべながら眼下を眺める少女。
しかし夢中になっているが故に視野が狭くなっていた彼女は
無意識に左右に動きながら眼下を眺める際、貴方に思いっきりぶつかってしまう。

貴方がどんな人物でどういう反応を返そうが
純白の少女は微動だにせず、微笑みを崩さずに毅然と貴方に謝罪するだろう。

「すみません私の不注意でした、お怪我はありませんか?」
24 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/15(火) 21:40:19.54 ID:/MUE2wWi0
>>23
その日は学校も終わってから、1人で帰路に向かう筈だった
誰とも話さず、誰とも触れ合わず
今日という日を────ただ無為に過ごす
────そうしようと思っていた。


「...うわ、凄いな」

不意に見えた展望台とすることの無い漠然とした時間が後押ししていたせいか
気がつけば、そのタワーの窓から街を見下ろしていた
思わず口に出た言葉が搔き消えるような高さに思わず足が竦む
このガラスの向こうは落ちれば死が待つ高さと分かると自分は高所恐怖症で無くとも
それでも────震えが来る

長めの前髪で右目を隠した髪型
制服の紺色ブレザーに黒のスラックスを着用
髪から覗く左目の宝石の様な緑眼が特徴の少年もまた、その絶景を見下ろしていた

深い意図は無い。
ただ、変化の無い日常に嫌気がさしたのかもしれない
ルーチンワークのような日常を変えるためにここに来たのかもしれない

手は手すりを握りながらも目線は街並みへ
彼も周囲の様子に気がつかなかったみたいだ
同じ絶景を見ていた少女に トンとぶつかってしまい────。

「あっ...こ、こちらこそっすすすみませんっ!!」

見るからにお嬢様というか、自分とは一線を引く綺麗な人に
思わず声が裏返りながら勢い良く頭を下げ返していた

「怪我とか全然な、なな無いですっ! むしろ貴方こそ...!」

謙虚というか卑屈というか
自信がなさげな、少年なのだろう
目を合わせることが苦手で人見知りが激しいようで
25 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/15(火) 22:14:29.93 ID:BAJ7AKrD0
>>24
白い少女はぶつかった卑屈そうな少年を前にして、微笑を崩さない。
この白い少女はどんな相手でも、どんな時もこのように笑っているのだろうか?
そう思えてしまうかもしれない。
笑ってはいる、しかし表情の変化……

―――そんなものが、この白い少女にはなかった。

「いえ、悪いのは私の方ですから」

ハイヒールというバランスに優れず、運動に適していない靴。
その靴に多大なエネルギーが掛かったにも関わらず、少女は微動だにしていなかった。

「ありがとうございます。でもこれでも足腰は鍛えていますの。
 こんな見た目ですが、最近ゴミの片付けのボランティアをしていますので」

それでも悪いと思っていらっしゃるなら少し、私のお喋りに付き合っていただいても
よろしいですか?と少年に問う白い少女。その笑顔の下に何を思うのか、全く想像できない。
了承が取れたと見るや、少女は改めてガラス越しに下界を眺めながら少年に話しかける。

「本当に綺麗ですわね……この学園都市は科学の結晶。人類の智慧が詰まっていますわ。
 ここまでいけば、立派な機能美として映えましょう。とても美しい、この景色を汚したくない―――そう思いませんか?」

その言葉は少年に問いかけるというよりも、少女が自らに確認しているようで。
まるで独り言のようにも思えるものだった。
26 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/15(火) 22:35:01.46 ID:/MUE2wWi0
>>25
「──────。」

人からの蔑称、蔑みを受けてきたから分かる
自慢できた事では無いが、彼は他人の表情とかそこから想像される相手の感情を理解する事が得意だ
そんな彼が、彼女のあまりに動かない表情に────思わず息が詰まった
氷のような、人形のようなその顔を

何者だ、この人は。と心の中で問う

「あ、はっハイ...俺なんかでよければ...」

その底知れぬ不安感を肌でヒシヒシと感じつつも
つい、いつも通りに受け答えてしまう
その返答のせいで、その虚無感とも言えるオーラを表情の裏に隠す少女のいるこの場所に縫いとめられる気がする

「────確かに、この街は綺麗ですね。...」

街が完成されたばかりだから────では無い
この際問われる綺麗さというのは、そんな時間の事では無いだろう
完成された芸術を見ている気分だ
あまりに綺麗すぎて、自分のいる世界とは思えないから

「綺麗な街が好きなんですか────?」

別に暗所や薄汚れたものが好きとは言わない
ただ、汚れを許さないその綺麗さは逆に苦痛とも言えよう
まるで、邪魔なモノを排斥する様な綺麗を前に少女に問いかけた
27 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/15(火) 22:59:10.94 ID:BAJ7AKrD0
>>26
白い少女は、会話の間も殆ど少年を見ていない。彼女が見ているのは学園都市の風景だ。
おそらく、観察眼に優れた少年の疑問は間違っていないだろう。
白い少女は誰と話している時も笑顔のままだ。

白は最も染まりやすい色のはずなのに。誰の色に染まることもない。

「綺麗な街が好き……そうですわね。美しい物は美しい、それだけですわ。汚れてほしくはありません」

白い少女は、ここで風景を見ることを中断して少年に向き直る。
社長令嬢であるにも関わらず、誇示するように自らの名前を名乗ることをしない白い少女。
相手の少年の名前も尋ねない。いや、もしかすると尋ね様とも思っていないのかもしれない。

「だからボランティアをしているんですの。学生が多いので、ゴミは溜まりやすいんですわよ
 …掃除ロボットだけでは手が足りません。ゴミは見えずらい所にも落ちていますから」

ニコニコ。ニコニコ。少女は笑顔だ。
この白い少女を見ていると、とてもゴミ拾いをしそうな人間でないことに少年は気づくだろうか。

「ゴミ袋いっぱいになってしまうので、とても大変で。……大抵は分別して燃やすので、大丈夫ですけど
 だからこそ、やりがいがあると思っていますわ」

白い少女は、笑顔を崩さない。真意は読み取れない。
どれが嘘で、どれが真実なのか。
一般的に嘘を付く最良の方法は、嘘を付かないこと。
次善の方法は嘘を最低限にして真実大目に話すことだ。 
28 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/15(火) 23:17:52.48 ID:/MUE2wWi0
>>27
彼女と目が合う
その飲み込まれそうな瞳に思わず一歩退く
見惚れる────ではない、これは恐怖か
底知れぬ彼女の言葉に言葉が詰まってしまうらしい

「...ゴミ、掃除ですか」

街の清掃は自動で動く小型のロボが行っている
限度はあるだろうが、そのロボで街の清掃の大半は賄えている
彼女の言う"ボランティアとはどういう意味なのだろうか

いや、考えるまでもないだろう
これは予感だ。この人は危ないと鼓動が訴えている
この人は危ない、逃げろと心の何処かで誰かが訴えている

だから、確かめよう

「────それって」

喉が詰まる。言葉が出る事を嫌がっているようだ
想像が想像を呼ぶ、自分が彼女に感じるこの不安感に
彼女が見ているものを────彼女が見てきた事を想像する
その真意に一歩前に踏み出す
その一歩がいかに危険か気付きつつも



「────"誰を"掃除してるんですか」

そう、これは確信だ
彼女の掃除しているのは道に転がる空き缶などでは無い
彼女が見下ろした先にいる人々
その中の誰だと言うのだ────と、彼女の瞳に自分の緑眼を合わせて問い掛ける
29 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/15(火) 23:41:41.69 ID:BAJ7AKrD0
>>28
「―――あら、あらあら」

白い少女の笑顔に、クスクスという声……笑いが加わる。口元に手を当てて少女は笑う。
常に高貴な雰囲気を漂わせている少女は、それだけでも絵になった。

「言いがかりにも程がありますわよ。人を殺すような人間がこんなにのんびりとしていますか?
 私はただ、風景を見にきただけだというのに。ゴミ拾いも善意ですのよ。私、悲しみましたわ」

少女は雰囲気を全く変えることはなかった。腹芸に慣れているのか、それとも本当にゴミ掃除をしているのか。
もし嘘ならば、普通の人間なら表情を変えて相手に掴み掛かってもおかしくない。
少女であるならば泣く可能性すらある。
しかい白い少女は笑ったままだ。

怒ることもなく、泣くこともない。それが少年にはかえって不気味に映るかもしれない。

「推理小説か、SFか―――妄想の世界に個人で耽るのは結構です。
 しかしその世界に他人を巻き込むのは頂けませんわね」

そう、証拠がない。本当にゴミの片付けをしている可能性もある。
風紀委員に言った所で鼻で笑われるのがおちだ。
元より社長令嬢、あらぬ疑いをかけた所で噂にしかならない、それに白い少女は名前を明かしていない

―――――――しかし、少年の推測は正しい

「不愉快ですわね」

不愉快、と口で言いながらも少女は表情を崩さない。笑顔のままだ。
しかし観察力に優れた少年なら、確証を得るのには十分だっただろう。

過ぎたる白は、過ぎたる黒と――――――等価だった。
30 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/16(水) 03:52:18.24 ID:u3reXm2E0
>>29
「──────っ」

肯定されるか否定されるかは想定済みだった
だが、その顔は────言葉通りの不快感を発しながら崩さぬその笑顔が
揺るがぬ証拠に過ぎないと、確信した

一歩退いた足が動かない
この彼女の中の渦巻く悪性に身体が言う事を聞けない気がした
逃げる事すら躊躇うほどの悪性
目の前の少女の言葉が乾の足をその場所に縫い止める

「っ────...貴女は」

だからこそ、言葉を紡がねば
動けない足を奮い立たせ、震える心を支えながらも
たとえ、いかに危険でも少年は問い続ける

「貴女は、誰なんですか?」

乾はその問いを少女に投げ掛けた
その悪性を、その内に秘めたる黒を知る為に
目の前の少女が何者なのかを知る為に────。

命が危険に晒されるかもしれない
だが、乾にとってその程度気にすることはない
命の危険なんて怖くはない

その乾の緑色の瞳が、屈することなくその白い少女を見据えていた──。
31 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/16(水) 12:23:46.85 ID:6u5hBlCT0
>>30
「誰、ですか。そうですわね……」

白い少女は、微笑を浮かべながら間を取る。
ほんの少しぐらい……それこそ一寸と言っても良い程度の間だったが
その間は少年なら、少女が何かを考えていると分かったかも知れない。

「人から名乗らせるのは礼儀に反してますわよ?まあ……良いでしょう。
 私は陽愛 白と申します」

陽愛という名を聞いてピンとくる人間は、あくまで経済に詳しい人間だ。
シャープやら、ソニーやら。企業名を知っている人間は居るが
社長の名前を聞いてぱっと思いつく人間は多くないだろう。
とはいえ名前を聞かれたら社長令嬢の名前は噂として出てくるかもしれない。
しかし白い少女は、証拠が無い為かそれでも構わない様子だった。

「一つ、私から忠告を授けましょう。
 貴方のその愚直さは、ある面では美徳とも言えますわ。ですが――――」

その直後、言葉を切る少女。今回の一寸の間は、その後に続く言葉に重みを持たせるためのものだ。
口元の笑みを絶やさない白い少女。その微笑には、いつの間にやら淫靡な雰囲気が漂っていた。

「―――――根拠も無しに中傷する相手は考えた方がいいですわよ。……このような科学の町だからこそ
 神隠しというオカルトめいた事象が起こらないとも限りませんから」

少年の怯えが濃くなったことを確認しながら、口元に手を当て白い少女は笑う。
くすくす。くすくすと。
少年が恐怖に捕らわれるのを、楽しんでいるかのように。
いや、実際に白い少女は少年を甚振って楽しんでいた。
暫くの間恐怖に捕らわれる少年を想像し、さらに妖艶な雰囲気が濃くなるようだった。

「それでは、御機嫌よう。思ったより愉しい時間となりました」

スカートを軽く持ち上げて、白い少女は少年に頭を垂れるとくるりと背を向ける。
周りに一般人が居る以上、その様子が無防備であっても手を出すことはできない。
展望台という、人を上から物理的に見下ろせる傲慢な少女にとって最高の場所から、白は去っていった。

白は結局最後まで色を変えず、また口元の微笑を止めることは無かった。

//ありがとうございました!
32 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/16(水) 13:12:57.52 ID:u3reXm2E0
>>31
「陽愛────白。」

その名前について、少年は何も知らない
財閥の娘という事実には気付かないだろうが記憶に残る
この学園都市、自分が一介の学生に過ぎずともどうにかすればその名前を調べる事は出来るかもしれない

それがいかに危険か分かっているつもりだ────。
────忘れてしまえばいいだろうに近付けば何があるのか分からないのに。

会った時とはまるで違う、気迫というか内に湧いておる感情を如実に表す緑眼が煌めく
ただの内向的な少年────という訳でもないらしい

だが、彼女の妖艶ささえある不気味な言葉に顔を顰める
彼女の別れの言葉と挨拶に一歩も動けず
言葉1つ反応する事ができなかった

間が空いてようやく口を開く

「神隠し...? 一体...何の事だ────」

そう問おうとした時にはもう既に遅い
白と名乗った少女の姿は既になく、少年は1人
その展望台に取り残されていたのだった────。

/ありがとうございましたー!!
33 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/17(木) 22:07:24.00 ID:SoBWo0mL0
夜の学園都市を徘徊する影があった。
年は20台の半ばと言った所か。オジサンと言われるほど老けているでもないが
青年よりは男と言ったほうが、その影には似合うのではないだろうか。
上は灰色のジャンバー、下は青いジーンズ。
刈り上げた髪に、眼鏡を掛けた穏やかな風貌だ。
男の名はブギー・ヴァイアス。無島 勇気という偽名で学園都市に潜入している魔術師である。

「ふむ、気は進まなかったが。私としてもこの学園都市は興味深いものとなりそうだな」

私は工場の警備ロボットが破損した、修理しろという命令を聞いて工場に向かっていた。
古より伝わる魔術師、最近になって急に発現しだした能力者。
二つの【力】は、全く別の所から現れたように見える。
実際に魔術と科学は相容れぬ存在だと思っている者も多い。私もそう思っていた節もあった。
しかし我が主の考えは違ったらしい。

『行過ぎた科学は魔法と変わらないという。その言葉が本当ならば、行過ぎた科学が我々の魔術を
 高めないと断言できないだろ?私はね、超能力という存在が停止している魔術を高める物になると
 確信しているんだ』

主の考えは、私以外の魔術師が聞いたら一笑に付すかもしれない。
しかし主に命を救われた私は、あっさりと主の言葉を受け入れた。
私も最初は本当に魔術を発展させる助けになるのかという疑問もあった。
しかしこの都市を調べているうちに、能力者という存在の不自然さに気づいた。
なるほど、これなら確かに魔術が発達する助けとしれぬ。

そんなことを考えながら歩いていた私は、貴方に気付いた。
私は機械の修理をするためなのに、わざわざ遠回りして人気のない路地裏を歩いていた。
夜の学園都市はそこそこ危険だ。少なくとも路地裏は危ない。
強力な能力者に出会えるかもしれない、私はそのような期待をしていた。
ふむ、こちらから接触するべきか。

「こんばんは。いい夜だな。貴方はいつも夜間にこんな所を歩いているのか?
 少し危ないのではないかな?」

危険な人物なら歩いているお前が言うな、と切れられそうであるが構わないな。
挑発して能力を見せてもらうのも、私としては十分にアリだ。
私が殺されてもいいと思える素養を持つ能力者に早く出会いたい物である。
34 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/17(木) 22:31:31.55 ID:5Q1bVmfG0
昼下がりの学園都市の事。
学園都市ほど広大な都市であれば、様々な建築物が立つものだ。
学校は勿論、沢山のマンション、学生寮、果ては研究所まで。ありとあらゆる施設が此処にあり、しかもそれらは全て学生のために建てられていると言うのだから驚きだ。

そんな学園都市には当然、公園のような施設も存在する。
思春期の学生たちは学校生活や、あるいは電子機器のゲームに忙しない。こういった自然を満喫する機会は少ないものだが──────────
それでも、それを欲する人間は存在する。たとえば"元々この辺りに住んでいる住人"などの、"老いた住人"などは、このような場所を好む傾向にある。

「ぬぅう………」

ベンチに座り、大きく伸びをした人物。
立派に髭を生やした壮年の男性もまた、そうした人々の一人であった。
彼の名を、ヴァシーリー・マーカス。学園都市には不釣り合いな壮年男性、そして外国人。何とも眉唾な話ではあるが──────

しかし元から住んでいるなどとは、かりそめの姿に過ぎない。彼の真の姿は別にある。
彼は能力者の危機を探るため、ある組織から派遣されているエージェント。
以外にもがっしりとした肉体からは、見る者……そう、たとえば同業者などが見れば感じられるだろう。
練度の高い"魔翌力"だ。衰えからか、その量は弱々しい。しかしその中には確かな練気がある。

能力者でもなく、一般人でもない。彼は"魔術師"ヴァシーリー・マーカス。
その正体に、幾らか気付いた者がいるのなら……今まさに休憩中の彼に対し、声を掛けるのもまた、ひとつの選択かもしれない。

//人街です
35 :敦田 熱志 [sage]:2016/03/17(木) 22:43:09.16 ID:Bw7/joFro
>>33
男が声をかけたのは、太い眉に濃い顔立ち、そして腕に『風紀』の腕章を付けた少年であった。その風紀の文字が表している通り、この少年、熱田熱志は風紀委員である。

「むっ、こんばんはっ!ええ!路地裏の巡回も、我ら風紀委員の勤めですから!」

風紀委員の少年は、挨拶をされれば、こちらも路地裏に響き渡る程の大きな声で、挨拶を返す。何故か敬礼付きで。

「確かに路地裏には、危険な者が居ることもあるでしょう!だが!いや、だからこそ!私達、風紀委員が見廻りをする必要があるのですっ!それに、心配は要りませんよ。私にだって、能力がある!」

引き続き、無駄に大声で、自身の正義を語る。その語る内容から、彼は正義感の強い少年だと分かるだろう。
そして、この少年は、自身に能力があるから、心配は要らないと言う。つまり、男が探している能力者だ。
36 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/17(木) 22:55:27.08 ID:SoBWo0mL0
>>35
はてさて、どうしたものかと熱血している風紀委員を眺める。
私は待望の能力者を前にして非常に困っていた。
相手はこの町の実質的な警察だ。治安維持のための最高戦力と言っても過言ではない。
私はあくまで潜入している身なのだ。私と言う存在が風紀委員に注目されるのは喜ばしいことではあるまい。

「そうか、私のような者としては貴方のような存在はとても有難い」

私は潜入をする為に磨いた所謂営業スマイルを浮かべる。本当にどうしたものやら。

「私は無島 勇気と言う者だ。警備ロボットの修理等をしている。
 正義感に溢れている貴方の名前も教えて頂きたいものだな」

うむ、正解はこうだ。このように身文証明の手帳を取り出して自己紹介をするべきだろうな。
私のほうからマークしてしまえばいい。
見回りをしているのなら、能力を使うのを見る機会もあるやもしれぬ。
とりあえず、名前を聞き出すか。
37 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/17(木) 23:00:52.38 ID:3ktGdMqL0
>>34

燦々と日光が照りつける中、そんな場所を好むのはどうやらそれだけでは無いらしい。
今の時期は春休みの最中だろうか、補習をしている学生もいるかもしれないし、自由を満喫しているかもしれない。だがしかし、そのような人々はこのような公園に訪れることはない。日に当たり空を眺め黄昏るのは老人のすることだろう。

「今日はまた一段と暑いのう…しかしこんな暑い日だからこそ一興ということもあるか」

そんな場所に歩いてきたのはこれまた色々と不釣り合いな人物だった。
見た目は子供、それが親も連れずに友人も連れずに、そんな古風な話し方で歩いている。あれくらいの年頃なら友達と楽しく遊んでいてもおかしくない、なのに少女はまるでそれが当たり前かのようにそこを歩いていた。
当然それが目立たないはずがなく、その少女は公園でかなり浮いた存在となっていた。

「―――ん?これは……」

ふと、少女の視線がとある方へと注がれる。その先には、これまた異彩を放っている老練な男性の姿があった。
少女が感じ取ったのはその"魔翌力"。この街の者はそれを持っているものはほとんどおらず、必然その対象は限られてくる。
しかもその男性の持つ魔翌力は明らかに素人やそこらの一般魔術師のそれではない。磨き抜かれたソレは幾多の修羅場を乗り越えてきた証。つまりはかなりの"手練れ"だ。

「――ふむ、これもまた奇縁というモノか」

少女はその男性の元へと歩いて行く。男性の方もその少女が持つ魔翌力を感じることができるだろう。しかし少女の魔翌力は"今"はまだ微弱なモノ。一般の魔術師と同程度だ。

そうしてついに目の前に辿り着くと、少女は「隣に座るぞ」と言うと許可が出るのを待つまでもなく座る。その様子ははたから見れば祖父とその孫のように見えるのかもしれない。

「よう同輩よ、今は休憩の最中かのう?」

男性――ヴァシリー・マーカス、少女は目の前のこの男性こそがカスパールの有名な老兵だとは気付いていない。もし気付いていれば……いや、特に何ら変わらないだろう。
一方、マーカスの方はこの少女こそが《紅竜の落とし子》だと気付くことはあるだろうか。
38 :敦田 熱志 [sage]:2016/03/17(木) 23:14:41.96 ID:Bw7/joFro
>>36
「ああっ!?私としたことが、申し遅れました!風紀委員、熱田敦志と申しますっ!む……警備ロボット?」

警備ロボット……そういえば、この間も破壊されたと報告が来ていたな。確か、あれは倉庫だったか。侵入するも、何も盗らないという不可解な犯行だったが……

「それは、大変ですね。風紀委員にも、この間破壊されたという報告が届きましたよ。」

警備ロボットの破壊の報告を思い出す敦志。まぁ、学園都市ではそこまで珍しいことでも無いのだが。
しかし、その破壊で困る人が居るのも事実。目の前の男もそうだ。破壊される度に、修理を依頼されたりしたら溜まったもんじゃない。敦志にとっては、そんな人を困らせる行為は、許しがたいことだった。

「ですが、安心してください!警備ロボット破壊犯は、我ら風紀委員が全力を持って見つけ出してみせますっ!」

そして、犯人を見つけ出してみせると、宣言する。やはり、犯人を捕まえるときには、能力を使うのだろう。
39 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/17(木) 23:23:18.42 ID:5Q1bVmfG0
>>37
昼の日差しの中、心地よい暖かさの中で、彼は少しばかりまどろんでいた。
だからこそ、先程から公園の中に見えていた少女の姿も、夢のように思えたのかも知れない。

自分の娘と同じぐらいだな、とか、自分の娘の夢だろうか、などと、夢のように考えている節があったらしく。
だがしかし、少女が少しずつ近寄ってくるに連れ、彼の意識は叩き起こされるような刺激を受けた。
彼は瞳を開く。その少女からは"魔翌力"が漂っているのを認識したのだろう。それが彼の意識と融和し、彼を起こすように現実へと引き戻した。

だが、状況があまり飲み込めずにいたのだろう。彼が本格的に意識を取り戻したのは、少女に声を掛けられてからの事だった。

「む……おぬしは……」

彼は少女を視る。……少女ながら古風な喋り方をする人間は、魔術師界隈では珍しい事ではない。熟達した魔女の類などは、自分の身体を遊びで若返らせる事もあるという。
かつて彼はそれで酷い目を見たものだが……それは置いておこう。

「("あのババア"と同じ類か……?だとしたら、この妙に微弱な魔翌力は一体……)」

姿かたちを変化させられるにしては、いささかばかり魔翌力が弱い事を疑問に思いながら。
彼はそんな憶測を前提に、話を進めるだろう。

「ほう、魔術師と見える……」

彼も危機感がにぶったものだ。彼女がもし敵対勢力の人間であったらどうする?
今一度気を引き締めつつ、彼は尋ねる。

「おぬしも、能力者の偵察に来ているのかね?それとも……ほかに理由が?」

彼は彼女が話しかけてきたところから、敵意はない魔術師だ、と判断した。
ならば、その目的ぐらいは訊いておいても良いだろう。

壮年ながら、若々しくギラリとした眼光が彼女を見据える。少女と同じように年季の入った喋りで尋ねるその姿は、どこかどっしりとした、落ち着きある威厳を醸し出しているようにも見えた。


40 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/17(木) 23:34:06.15 ID:SoBWo0mL0
>>38
「貴方は熱田と言うのか。覚えておこう。風紀委員の存在は
 警備ロボットの整備をしている私にとっても無関係ではないからな」

私が警備ロボットの点検、修理をしているのは能力者が能力を使った痕跡を『視る』ことができるからである。
しかしこのような所で役に立つとは私も思わなかった。
人と人との距離感は、初対面で決まる。基本的に人が仲良くなる法則は、心理学的に三つあるらしい。
距離の法則、同類の法則、回数の法則だ。このうちの一つ、同類の法則を適応できたことを私は確信した。

「ふむ、やはり頼もしいな。貴方はいつもこの周辺を見回りしているのか?
 これなら私のような大人も出歩いても安心だな」

お世辞を交えつつも、この少年……熱田敦志という人間の情報収集は止めない。全ては私の主の為だ。
今度は行動パターンの把握をさせてもらうとしよう。
名前が割れたとはいえ、調べてもそう簡単に情報は出てこないだろう。
探られない程度にコネを作るのもアリかもしれない。また夜間に会い回数の法則でも使ってみるか。
41 :敦田 熱志 [sage]:2016/03/17(木) 23:54:13.69 ID:Bw7/joFro
>>40
「いつもという訳では有りませんが、可能な限りは見廻りをしております!」

学園都市は広く、その中には治安の悪い場所も多くある。故に、風紀委員が見廻りをするべき場所は、沢山あるのだ。だから、いつも同じ場所を見廻りという訳にはいかなかったりする。
とは言え、熱志は上から命じられた以上に自主的に見廻りをしたりするので、その頻度はかなり高いと言えるが

「ですから、ご安心を!この学園都市には、我ら風紀委員がついております故!」

情報収集されている事など、一切気付かず、ただ真っ直ぐに言葉を伝える。裏も一切無く、割りと簡単に人を信用する。この少年は、情報収集するには、適していると言えるだろう。
42 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/18(金) 00:10:41.50 ID:nDvDgGcz0
>>39

明らかにこの少女は異質だ。だが逆にそれがこの少女をただの少女ではないと証明する。
基本大きな力を持つ者というのは異質で酷く歪んでいる。それはその大きな力が周りのモノを歪ませていくからだ。性格や生活、時には周りの人ですら歪ませる。
それ故に強力な力を持つ魔術師や能力者には変わり種が多い。彼のような常識を持ち合わせ道を違えない者は逆に珍しい。

「そういうお主こそ、かなりの手練れと見た。
余程の修羅場を乗り越えてきたのじゃろう?」

男のその熟練された魔翌力、それを見ればすぐに分かる。この練度の魔翌力は中々お目にかかれない。だからこそすぐにこの男が腕の立つ魔術師だと判断できる。
一方少女の魔翌力は微弱一般の魔術師――下手をすればそれ以下だ。魔翌力量はそのまま魔術の質にも影響する。それなのにこんなに余裕を保てるこの少女は一体何なのだろうか。

「理由など持ち合わせてはおらん。
それともお主は、ただ息をするのにも理由を求めるのか?」

「だがまぁ―――強いて挙げるなら"暇潰し"かのう」

小馬鹿にしているとも取れる少女の言動。煽っているとも取れるかもしれない。
少女は見た目に似合わない笑みを浮かべ男を見る。それは強者を求める野獣のようにも、新しい玩具を与えられた子供のようにも見える。
明らかにそれだけでこの少女の異質は鑑みれる。この常識とズレているような感覚、少女を相手にしているようでまるで年配を相手にしているようなそれはこの少女を"異常"と決定づけることに繋がるだろう。

男の鋭い双眸に怯むことなく、むしろ向かっていくように少女は男を見据える。そこに男のような威厳は無いがどこか余裕を見せるような、男とは違ったモノがあった。
43 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/18(金) 00:20:52.10 ID:/hC4OXl+0
>>41
「うむ、私も見習いたいものだ。警備ロボットが壊れたらすぐに呼んで欲しい。
 私が何の為にこの職務に就いていたのかを思い出せた」

私は欠片も思ってもいないことを話しながら、思考を巡らせていた。
ふむ、私にとって必要な情報は手に入ったようだ。それも最高の形で。
どうやら私は善良な一般人を装いながら、風紀委員の一人とコネを作ることに成功したらしい。
私はこの少年を通して、他の風紀委員の情報を得たい。
そしてその風紀委員の行動パターンを知る。
これを繰り返せば、いずれは不良や暴走族の鎮圧、凶暴な能力者と風紀委の戦闘を『視る』ことができるかもしれぬ。
しかし今はこれ以上の情報を引き出す時期ではないな。探りを入れるのは程々にしておこう。
眼前の少年は単純そうではあるが、其れゆえに少しでも疑われてはならない。

―――――――この辺りが潮時か。

「失敬、嬉しくて語り込んでしまったな。私も貴方も勤務中だ。
 工場がこの先に密集しているので、私はいつもこの路地裏を使う。また会うこともあるだろう。さらばだ」

私は少年に背を向ける。工場に向かいながら、私は。
ふむ、収穫はあった。しかし能力を見ることができなかったか。こういう演技はどうも肌に合わない。
できれば能力者に襲ってほしかったものだ。本当に強力な相手なら私は死んでも構わん。

私の眼は敬愛する主の為にあるのだから。

/ありがとうございました!
44 :敦田 熱志 [sage]:2016/03/18(金) 00:43:07.61 ID:9h41pwRlo
>>43
「ええ!警備ロボットは、風紀委員から見ても頼れる優れた機械です!ですから、これからもよろしくお願い申し上げます!」

気持ちの良い人だ。きっと、警備ロボットの整備に、誇りを持っているのだろう。私が風紀委員に誇りを持っているように……

一切の疑いも無く、ブギーを信頼できる人間だと思う熱志。この調子では、警備ロボットの性能向上の為に必要とでも言われれば、簡単に風紀委員の情報を話してしまうかもしれない。

「うむ!では、またいずれ会いましょうぞ!」

そして、熱志もまた、見廻りの続きをするべく去っていくのであった。

/お疲れさま&ありがとうございました!
45 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/18(金) 00:44:19.65 ID:4uajRn3M0
>>42
「ふむ、分かるのか……おぬしもまた、よく目が利く様ではないか」

かつての活躍を奢るつもりはないが、それでも褒められるというものは、それだけでよい気分になる物だ。
だからこそ彼はそれを否定せず、彼女の観察眼に対して素直な感心の気持ちをあらわにする。
彼も若い時はかなり暴れ回ったものだが、やはり歳を取れば、性格とはかなり変わるものだ。彼女が全盛期の彼と出会ったならば、やはり力を持った者という感想になったかも知れない。
しかし彼は同時に、過去に固執しないタイプでもある。指摘された過去を懐かしむように、のんきに最後のあくびをしつつ、話しやすいように立ち上がった。

「昔は、"要塞の騎士"だなんだと言われたが……それももう、遠い昔の話よ」

立ち上がった彼の佇まいは、いい歳のわりに大きな背丈に、よい姿勢であった。
全体的にがっしりとした体型は、なるほど要塞のようにも見えるかも知れない。

同時に彼は、目の前の少女に、少しばかり関心が湧きつつあったらしく。
その意外な目的を聞いて、さらにその興味を深める事になる。

「ほう、目的がない、とは──────実に」

組織に属さない、という事か。学園都市に来るようなアクティブな魔術師が、フリーランスとは珍しい。
深窓で研究に没頭しているような性格ならまだしも、彼女はそういう人間には見えない。何より外に出てきている。
それでいて何か訳のありそうな口調。それに加えて、彼の秘めたる実力を知りながら、なお余裕すら感じさせる……そう、まるで自分よりもずっと年配であるかのような振る舞い。

これは、何かありそうだ─────彼の知的好奇心が、久々に刺激された瞬間だった。
彼はこれでもベテランの一人。識らぬ事はないと思い込んでいても、しかし世の中は広い。
時にこういった偶然に出会う事は、彼にとって至上の楽しみにすらなろう。

彼は実に興味深そうに少女の瞳を見て、尋ねるだろう。

「おぬしこそ、ただ者ではないようだな?」

その口元に笑みを浮かべる。それは相手の正体見たり、という成し遂げたような物であったか。もしくは明かされぬ相手の正体への、期待を膨らませたものであったか。
どちらにしろ彼は、実に穏和に語りかけるだろう。目の前の少女が何者なのか、などという事を模索しながら。

……対価を求められたらどうしようか、などと、少しばかり心配にも思いつつ。

//申し訳ない、眠気が……一時停止していただいてもよろしいですか?
//置きレス式になってしまうかと思いますがご容赦を……

46 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/18(金) 00:48:35.49 ID:nDvDgGcz0
>>45
//全然大丈夫ですよ!
ではお休みなさいです
47 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/18(金) 08:37:34.56 ID:nDvDgGcz0
>>45

「かっかっかっ、褒めても何も出はせんぞ?」

褒められて嬉しく無い者はいない、それは彼女にとっても例外では無いようだ。明らかに気分が良くなっているのが見てわかる。
もしも目の前のこの男が全盛期ならば、男のことを彼女も気付いたかもしれない。しかし今の男は全盛期の頃とはあまりにも違う、成長では無いだろう、ただ時間が経つにつれ達観したのか。それ故に気づくことが出来なかった。

「"要塞の騎士"だと?……なるほど、お主がかの……」

その反応、遂に男が誰か気付いたのだろう。確かに全盛期の時の年齢を考えれば今はこれくらいの歳になっているだろう。
カスパール派の組織に属する身であり、絶対的な忠誠を組織に誓いそれに相応しい活躍を見せてきた。ついぞ戦いを交えることはなかったが、その名を知らない者は居ないだろう。
だが今やそんな話も昔話、盛者必衰はこの世の常―――だが、それに当てはまらないものも居るらしいが。

「儂は生きたいように生きる、そこに理由や目的を求めるなど無粋というヤツじゃろう」

それはある意味真理でもあった。やりたいことをする、というのは誰もがしたいことだ。しかし実際そんなことを社会では出来ない。様々なしがらみが精神を縛り、自由を奪う。
ならば社会に生きなければいい。だがそれをするのはかなり難しい。社会に生きないということは、何にも頼らず生きていくということ。たった一人、しかもそれを死ぬまで続けるというのは並大抵のことでは無い。
しかし身体の成長、それが無い彼女ならばむしろ社会に溶け込む方が難しい。だからこそ、彼女にはその生き方しか無かったとも言える。

「ただ者ではない、というのが何を意味しているかは分からんが……
だが確かに儂は、"普通"ではない」

男の笑みは純粋なものだ。人ならば誰にでもある好奇心。
こんな顔をされれば黙っている方が無粋というモノ。折角の出会い、折角の奇縁。それを切るというのは些か勿体無い。期待されているのならそれに応えなければ失礼というものだろう。
だがここで口で説明するのもつまらない、どうせならあっと驚かせたいものだ。

「儂のことが聞きたいのか?いいじゃろういいじゃろう。
教えてやらんでもないがただ、ここでは目立ち過ぎる。少し場所を変えてからというのはどうじゃ?」

この提案、人気の無いところに連れて行くのは戦闘をするための常套手段。人目を避けるために、邪魔が入らないために他の魔術師や能力者がよくすることだ。
果たしてこの男は提案に乗ってくるだろうか。
48 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/03/18(金) 17:15:10.42 ID:ReH39Jfh0
魔術師2人が不穏なる邂逅をしている最中。
学園都市の中枢部、とある商業施設での出来事。
まず大前提として『高天原いずもは超がつくレベルの方向音痴』ということを提示しておく。

「ふんふーん♪ こんなもんで自転車代が浮くってんなら幾らでもやってやるってんだ!」

よくある商業施設の施設内案内掲示板の前。
お互いに密着させてイチャつく男女やら、雑誌モデルの様にスラリとした女性やらの群衆の中、そこにいたのは明らかに異彩を放つ黒の番長服だった。
まるで子供の如く、掲示板に指をなぞらせて自らの目的地を確認している。
時折鼻歌なんて歌いながら。今日の自称番長はどうやら機嫌が良いらしい。目的地を見つけたら満面の笑みを浮かべて、すぐさま駆け出していった。
───これが2時間前の彼女。


「んー…っと?……ここさっき通ったよな?おっかしいな……んー…んー…

……ああ、大丈夫だからな?ちびっ子!
お母さんどっかいるから!オレが見つけるまで探してやっからよ!
任せな!何つってもオレは”番長”だから、できねぇことはねぇんだよっ!」

先ほどの案内板の前にて。
涙目な幼い女の子と手を繋いで案内板とにらめっこする番長の姿がそこにはあった。ちなみに他には何も持っていない。
見た目的にはイケナイ事案的な感じであるが、中身はきちんと女性なのでその心配はない。
───これが1時間前の彼女。


───────────
────────
─────
───






「……………もうしらねぇよ…わっかんねぇよもう………なんだよここ……あしいてぇよ…からだいてぇよぉ………ちくしょう…………!!」

そして現在。先程の案内掲示板…ではなく、その真横にあるベンチに体育座りで構え、泣き言を念仏の様に唱える人物が1人。
名を高天原いずも。学園都市に住まう者でありながら、未だに都市内でも迷う阿呆の権化である。
本日彼女がご来店したのは、『自転車修理代』と引き換えに外出を嫌う、知り合いの修理屋に『諸々の部品となんか色々お使い』を頼まれたから。
先程いた幼い少女はなんとか親元へ返せたらしいが、ここで改めて考えればその少女よりも彼女の方がよっぽど迷子ってた。
というわけで。彼女は到来するかもわからぬ救世主を待つことになるのだった。

//ダレデモドゾー

49 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/18(金) 17:58:50.17 ID:4uajRn3M0
>>47
「……む?かつてのわしを識っているのか……」

だとすれば、相手も相当な年齢であるだろう事を想像する。
先ほど頭の中を巡った疑問に、またひとつ好奇心を揺さぶるものが追加された。
しかし……口調から、相手は女性に違いなかろう。女性にその問題を直接聞くのは、いささか"どうか"。

思いを巡らせる内に、彼女はある事を提案する。"場所を変える"……人目につかない所に移動する、という事か。
確かにそれはもっともだ。おそらく今の姿は、かりそめの物であるのだろう。変身を解くならば、必然的に魔術の秘匿が必要になる。

相手も、それを心得ているのだろうか。そんな事を考えて、彼はそれをすんなりと承諾するだろう。

「あいわかった。この近くにちょうどよく、建物に囲まれた空き地がある。共に行こうではないか」

彼の魔術は戦闘に特化している。治安のよい学園都市においてはあまり魔術を使用する機会はないが、それでも「そういった場所」は事前に抑えておく必要がある。
彼が指し示す場所とは、その知識のうちの一つだったのだろう。

彼は彼女をそこに案内する途中、どこか子供のように浮かれた心持ちだった。
"正体不明"とは魔術師にとって、何より興味をそそるもの。その秘密を生で拝めると言うのだから、気が気でもなくなるだろう。
たいてい正体が分かってしまえば、そこに驚きや新たな発見は無くなってしまうが……それもよい。
この少女は一体、どのような人物が化けたものなのだろうか……などと。少し的外れな、しかしより驚きの源となるような思考を、頭の中で巡らせつつ。

やがて彼らは、彼の言った場所に到着するだろう。
四方をコンクリートの壁に囲まれた広場。開拓のせいか、こういった不自然に使い道のない空間は、この学園都市には多い。
さて、この場所で少女は─────少女の姿をした何かは─────どのような正体を見せてくれるのだろうか。

//返しておきます!
50 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [sage]:2016/03/18(金) 18:33:37.78 ID:hhgqdlTI0
>>48

「〜♪」
暇つぶしに、少し遠い商業施設へ出向いた紗久。何も考えずにウロチョロしウィンドウショッピングを楽しんだ彼女は小休止しようと休めそうなベンチを探していた。
すると案内掲示板の側のベンチが目に入りそこへ向かっていく。
そのベンチにはなにやら、体育座りでブツブツと何かを呟く黒い番長服の人物が座っていた。その雰囲気からしてなにかネガティヴな事象があった事は容易に予想ができた。
そんな異彩で他とは違う雰囲気を放つ彼女に紗久の人より何倍もある好奇心がくすぐられ、話しかけざるおえなーい!と早歩きでシャカシャカ近寄っていく。

「…ねぇねぇねぇっ、そんなに落ち込んじゃって、何かあったのっ?
あっ、大切な物落としちゃったとか?…友達とケンカしちゃったとか?…ケータイの充電なくなったとか?……それとも何か悩み事?私で良ければ話聞くけどっ!」

彼女のすぐそばに座って顔を覗き込みつつ、まるで親しい友人と話すかのように軽々とした口調で大げさな身振り手振りを織り交ぜて話しかけた。
51 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/18(金) 18:46:31.34 ID:nDvDgGcz0
>>49

確かに男の思う通り、目の前の彼女は相当な時間を生きている。しかし一方で思い違いをしている部分もある。
この少女の今の姿は決して仮初めのものではなく、この姿も彼女なのだ。そして更に言えば若返りやそういった類の魔術は何一つ行使していない。そもそもこの姿を維持するための魔術は何一つとして使っていない。
そんなことをする必要など無いのだから当然である。そも彼女は"普通の人間"では無いのだから。

「ほう、ではそこに向かうとしよう」

少女は決してここ学園都市の地理に詳しいわけではない。だから相手からそういった場所に案内してもらえるのは願っても無いことだった。二人はそしてその空き地に迎うのだった。

男が未知の存在に浮かれている中、少女もまた別のモノに浮かれていた。
少女もまた魔術師である前に人間だ。幾ら歳を重ねようとその心は変わらない、いや肉体の変化が訪れないということが心の変化を留めているのかもしれない。とにかく、今彼女は予期せぬ出会いが巻き起こしたこの縁を楽しんでいた。
魔術師の出会いは何も珍しいことではない、だが大物との出会いは中々ある事ではない。しかも相手があのカスパールの老兵だ。
そこらへんのモノとはワケが違う、酒の肴にしては些か豪華過ぎるそれに心が踊らない筈がない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


そこはコンクリートに周りを囲まれた酷く無機質な場所だった。だがだからこそ人目を避けるのには丁度いい。こんな場所に来る人間などまともな人ではない。

「―――ふむ、ただ見せるというのも拍子抜けか」

そう言うと少女は一息ついてまた口を開く。

「そうじゃな……お主は"竜"の存在を信じておるか?」

"竜"
様々な土地、地域で語られる伝説上の生物。幻想の賜物で、かつて存在したとされてはいるが今ではそのような生物は居ないという説が濃厚だ。
伝承では、たった一個体が圧倒的な力を持っているという。魔術師の中ではその竜の存在を解き明かし力を利用しようとしている者も居るようだが上手くいったという報告はない。
そんなおとぎ話のようなことを今なぜこの少女は男に問うたのか。
口元に笑みは浮かべているものも、しかしふざけているようには見えない。何かこれが彼女に対するキーになるのだろうか――――
52 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/18(金) 19:01:44.73 ID:ReH39Jfh0
>>50
「オレはもうこの迷宮からは逃げられないんだ何処を歩いても同じ場所に辿り着くエンドレスな迷路にオレは翻弄されてるんだ
これも魔術師の策略でオレを罠にはめて[ピーーー]気なんだよふざけんなクソ野郎誰でもいいから早くオレを助けてくださいお願いします自転車代払うからとりあえずここから出してくださいお願いします助けて助けて助けて助けて───」

長い思考の果てに彼女が辿り着いたのは、現実逃避の永久迷路らしい。
とりあえず彼女の中で『悪』に近い存在である魔術師(もちろん善人がいる事も認識しているが)
を取り上げては、罪をなすりつけたりと魔術師からすれば完全なとばっちりである。
───しかしながら、救いの手は案外すぐに差し伸べられることになる。

「……へっ!?」

番長の面影すらない素っ頓狂な声を上げて、彼女はその身体を跳ねさせた。
そして目の前の少女からかけられるのは自身を心配しての陽気な言葉だった。
番長少女の目に浮かんでいた涙が、ただただ落ち込んでどうしようもないという徒労の涙から別種のものへと切り替わっていく。

───それは『安堵』。
自らを導いてくれそうな少女の出現に、彼女は涙を流さずにはいられない。

「……あー」

───しかし同時に『苛立ち』もあった。
目の前の少女がやっている事は普段から自分がやっている様な人助けであるはずなのに。

「あー……あーーーーーーー!!!もうっ!!」

軽々しい咲城の言葉や口調、そしてその笑顔が何故か、今の彼女には何処か自分を嘲る様にも感じとれてしまった。

「───わかるか!?オレの気持ちが!!
古くからの知り合いだし、いろいろオレも手伝ってやってたりしたから自転車代まけてくれって言ったら、案の定パシられてッ──!

んで来て見て意気揚々と繰り出して行ったら、
大声で泣いてる幼女がいるわ、迷子センターも機能しねぇわ!肝心な時に風紀委員尋ねてもひとっつも役にたたねぇし!ちきしょー!




───ざっけんなフザケンナふざけんなぁっ!けっきょく全部終わって戻ってきたらまたいつもの場所だしよぉ!
くっそ…クソクソクソォッ!!なぁにが番長だよぉうわぁぁぁぁぁぁんっ!!」

初めこそ掴みかかる様にして涙目で訴えかける彼女であるが、最後の方はまるで懇願するように目の前の少女にしがみつくのであった。
それはまるで、迷子な子供のように。
そんな若干情緒不安定気味な番長に、救世主はどんな気持ちを抱くだろうか。
53 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/18(金) 19:20:07.22 ID:4uajRn3M0
>>51
「む、竜──────とな」

竜。その名を知らぬ魔術師など、いや人間など、いるはずもあるまい。
ただその知識の階梯は、やはり魔術師と常人との間には差がある。

魔術師たる彼が竜について知っているのは、それが実在したらしい生物であるという事だ。
数百年前にはまだ存在していたというが……技術革新などを通じて人間の居住区が広がり過ぎた結果、神秘を糧とする彼らはついぞ滅んでしまったと考察されている。

強大な力を持つ、伝説たる古の魔法生物。それは地球上では、紛れもなく最強の存在と言えただろう。
かく言う彼も、小型の人工的な竜(ワイバーン)程度なら見た事がある。だがそれこそ実際の竜ともなれば、彼は絵画や伝承ぐらいでしか見聞きした事はない。

その存在の深奥については、確かに気になる事柄ではあるが……しかし彼がそれ以上に気になったのは、少女が突然に、脈略のない話を始めた事にあった。
しかし、聞かれたのなら答えるが道理。だが同時に彼は、疑問もあらわにするだろう。

「贋作(ワイバーン)なら見た事はあるが……「本物」が居たかどうかは、やはりうわさ話に過ぎぬな」
「まさかおぬし、それについて何か知っているのかね?」

ドラゴンについて知っているとなれば、魔術界でのそれに対する信憑性は大きくなるだろう。
研究はより進み、歴史に革新が起こる。だが彼女がそんな秘密を明かすのは、今ここで、彼だけであるのだろう。

だからこそ彼は、異なるベクトルで目の前の少女に対して期待を抱く。
男たるもの、"伝説の存在"といった類への興味は尽きぬものだ。ましてやそれが、他に誰も知らぬ事実であるのだったら。

先程から彼は、眼前の少女の真の姿に関しては全くの方向違いの考えを抱いている。
その他のベクトルへの思考は、真実を見たとき─────常より大きな精神的同様を、少女の前で約束しているにも等しかった。
54 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/18(金) 19:27:48.05 ID:hhgqdlTI0
>>52
「ちょっちょっ、落ち着いて落ち着いて!自転車代とか幼女とかよくわかんないって!私こんがらがってきたよ!!やばいよ!!」

紗久の想像では、彼女が悩みを打ち明け、自分の天才的ななぐさめ術によって彼女の悩みはスッキリポッキリまるごと解決……と都合のいいストーリーが展開されていたが、現実ではまったく違う反応が返ってきた。
彼女の言う事の経緯と原因を聞いても、驚いて若干パニック状態な紗久には理解しきれなかったがとにかく彼女は踏んだり蹴ったりな現状ということだけがわかった。

「ど、どうどう!大変だったねっ…分かる分かる……そんなこともあるさ……!人生苦あれば楽ありだから!苦が多すぎただけだから!ねっ?」

迷子の子供のような彼女に対して、しがみつく彼女の頭を母親のように優しく撫でつつ、よく分からないがとりあえず思いつく限りの優しい言葉を語りかける。
55 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/18(金) 20:00:46.29 ID:ReH39Jfh0
>>54
「ああ……あああ…………」

驚愕しつつも施された慰めに、『番長』を奢るその少女はゆっくりと気を落ち着かせる。
ふと自らの顔に触れてみると、涙の滴った後が僅かに湿っていて。
ここで彼女は自身が『番長』を名乗る身であることをようやく思い出し、その羞恥なる顔を隠すために再びベンチに体育座りで腰掛けたのであった。

そしてそれから、顔は膝で覆ったままで、ベンチの自身の右横のスペースを手でポンポンと叩いて示す。
───「座れ。」とでも言いたげな様子。

恐らくその合図に従って腰掛けるであろう咲城に、高天原いずもはこう言葉を切り出した。

「…単刀直入に言うと、迷子になっちまった。」

そして彼女は、隣の咲城に握り締めていた紙切れを開いて見せながら言葉を続けた。
ここで一瞬顔があがるが、すぐに膝にうずめる。

「……コレ。」
「……かくかくしかじかでそのおつかい頼まれて、なんか色々書いてるからとりあえずデッケェここに来たんだけどよ……」

そのメモには汚い書体の黒い字で「豆腐、ネギ、豆板醤、唐辛子、何かしら好きなジュース、ネジ大量ボルト大量、Tシャツ、タオル数枚」と記されている。

「…いろいろあって結局どこ行きゃいいかわかんねぇっつうか…?
オレやっぱり方向音痴だし?多分それ書いたクソ野郎もそれわかって遊んでるんだろうけど…」

「…んで……いろいろ徘徊して、結局まだ…かえてない………。」

ここからも察せる通り、この番長服の少女か少年かもわからない微妙な感じの見た目の人物は極度の方向音痴らしい。
はぁ、と大きな溜息を何度もついている。


56 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/18(金) 20:10:30.73 ID:nDvDgGcz0
>>53

「かっかっ、やはり男はこういった類の話が好きなようじゃな。浪漫に生きるのは漢の使命とも言うしのう」

実際にそう言うのかは不明だが、確かに男子はこういった話を好む傾向がある。だからといってただ場を和ませるためにこんなことを言ったのではない。
あくまで自分に関係があるからこそこの話を振ったのだ。

「そう竜じゃ、かつて地上の食物連鎖の頂点に君臨したであろう最強の生物――が、その存在は今もはっきりとはしていない」

「ただ"知っている"――とは少し違うかのう」

勿体ぶった口調で話しながら少女は男を眺める。
"知っている"とは違うとはどういうことだろうか。しかしそんなことはお構いなしに少女は続ける。

「確かに竜を見た者はもうほとんど存在しない。居るとすれば不老にでもなった大魔術師くらいじゃろう。
だが、もしもそんな竜の存在を決定付ける――――"竜の末裔"が居たとしたら?」

"竜の末裔"
確かにそんなものが居れば竜の存在はより確定的なものになるだろう。しかし現代に竜の存在は今現在一つも報告されていない。
"竜のような姿の人間"を見たという報告はあるが姿をしているだけでは意味がない。物真似ならば誰でも出来る。それにその報告のあった人間も魔翌力で生み出した幻想という評価が下されている。
――――しかし、もしそれが幻想ではなく本物だとしたら。
正しく本物の竜の角、牙、鱗、爪、尻尾ならばそれはつまり竜の存在を決定付けるものにならないだろうか?

「ではもう一つ、お主に問おう――――」

それを告げた刹那、少女の身体が僅かに炎に包まれる。自らを燃やそうとしたわけではない。その証拠に炎に包まれた少女の影に、それまで存在しない別のモノが現れる。
そう、それは正しく伝承の――――

「《紅竜の落とし子》を知っているか?」

可愛らしい体躯に似合わないその姿は、語られる竜の部位そのものだった。まるで漫画染みたその少女、しかしほのかに感じる熱が確かにそれが現実だということを突き付けるのだった。
57 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/18(金) 20:28:16.08 ID:hhgqdlTI0
>>55
なんとか落ち着いた様子の彼女を見てホッとし、促された通り彼女の横に再び座る。

「……ほー、なるほどにゃるほど、そういうことねっ。迷子かぁ…そりゃ大変だぁ」

腕を組んでコクコク頷く紗久に彼女はある紙切れを見せてきた。一瞬上がる顔を見るが表情はうかがえない。
紙切れにはなんとか読める字で箇条書きで食材やら生活用品などなどが書かれていた。所謂おつかいメモ的な物だろう。

「ふむふむ、よし!じゃあ私があなたのおつかいを手伝ってあげよう!
…私もここはよく知らないけどまぁ大丈夫だから!」

大きなため息を何度もつく彼女を見て、紗久はベンチからスクッと立ち上がり、胸に手を当て自信満々に手助けをしようと高らかに宣言。
ドヤっとした顔で彼女を見つめて反応を待つ。
58 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/18(金) 20:44:18.19 ID:ReH39Jfh0
>>57
「……こんなはずじゃあなかったんだ。
このショッピングモールは頭のお堅いオレに、迷路を解けだなんて無理難題を押し付けやがる。」

迷路=ショッピングモール施設内案内掲示板である。
実際に彼女は頭が”堅い”わけではなく、『番長』を目指す前の彼女が成績優秀であったことが示すように、『馬鹿』を演じていたつもりが『馬鹿』が身についたという状態である。
今回このような状況に至った『方向音痴』も、『番長』が生み出した負の遺産とも言えるかもしれない。

「ホ、ホントか!?マジで!!?」

自らの力になってくれる、との事を受けて思わず顔を上げて笑顔を見せる少女。
ガシッと、咲城の肩を力強く鷲掴みして揺らしつつ、喜びを表現した。実に喜怒哀楽が激しく、そしてわかりやすい人物だということが、咲城に理解できるだろう。

「なら……よろしく!!あんがとな!
オレは高天原いずもってんだ。この都市の『番長』だ!!」

自らの胸に手を当てて、そして主張した。
先ほどまでの痴態を晒しておきながらなお、堂々と『番長』を名乗ることができる彼女の図太さは底知れない。
「お前は?」というように、笑顔を浮かべて咲城の自己紹介を促した。
59 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/18(金) 21:06:34.22 ID:4uajRn3M0
>>56
「知っている、とは少し違う……だと?」

彼はその言葉に対して、少しばかり戸惑う。
ただ知識として持っている訳ではない。もしやこの少女は、竜について何らかの関係が──────?

そんな思考も置いて、少女は話し続ける。
如何にも勿体ぶった言葉。何か重大なものを抱えているような口調。
それらの言葉は、その話題がただ、偶然のもとに為された物ではない──────と言う事を、彼に漸く気付かせたらしく。
彼の彼女を見る瞳は、みるみると真剣なものになって行った。

「おぬし──────まさか」

"竜の末裔"。その生き残りか、あるいはその遺志を継ぐ者。……それが未だこの世に、か細くも根付いているとしたら?……そういった証拠はない。
いずれも"あるかもしれない"といった論拠にしかならないが─────だがしかし。
目の前の少女が……少女のような存在がそれを、自分で語ったのならば。

それは彼に、その存在を少しでも勘繰らせる要素にするには、十分足りえるものであった。

「……!」

少女の身体が炎に包まれる。薄暗い空間の中、突如として発せられた燐光に対して、彼は少しばかり目を瞑る。
チカチカとした熱と、閃光が瞼を刺激する。それが過ぎた時、彼が瞳を再び開ければ─────

「ッ!」

正しくそれは、到底信じられぬ光景であった。
歳からの幻覚か。それすら考えたが、眼前から仄かに漂う熱が、その疑惑を焼き尽くす。
しかし目の前に同じ光景が広がっていたとて、果たして余人はそれを信じただろうか。

眼前の少女が──────伝説に伝わる通りの特徴を宿した、まさしく"竜"たるものに変身していたのだとすれば?
伝説を目の前にして、彼は慄いた。久しぶりに垂らす冷や汗に、かつて戦いの中にあった感覚を思い出しながら。

「こ、れは……」

≪紅竜の落とし子≫……その名を聞いて初めて、彼は遠い噂話を思い出す。竜の末裔が、この世にいるという……
若かった彼はそれを聞いても笑って一蹴に。竜だろうと何だろうと、叩き斬ってやるぜと粋がったものだが……
遥かなる時を超え、いざその伝承を目にするとは。人の形を残していようとも、それは竜には違いないのだろう。
若かりし彼であろうとも、勝てたかどうかわからない。それほどまでに眼前の少女だった"竜"は、濃密な魔翌力と、圧倒的な歴史的威厳を醸し出していた。

彼はそれに対してしばらく圧倒されていたが。やがて彼は額の汗を拭い、その姿をまじまじと見るだろう。

「──────ふぅ……。まさか、学園都市に在って竜に出くわすとは……まさしく事実とは、小説よりも奇なるものよ」

学園都市という、人類の最先端たる科学の都市の中。其処において、人類史以前の歴史たる、神秘の産物に邂逅する────
このような奇跡が起こるものだろうか。だからこそ彼はその姿に圧倒されつつも、しかし大きな充足の中にいた。

竜の角、竜の牙。それらは観察すれば魔翌力による作り物であるとは思えない程に、濃密な存在感と魔翌力を放っている。
このような存在が、地球上に存在したとは。その事実を知れた事、そしてそれを間近で見れた事に、彼は何より感慨深い心持ちであった。

しかし竜であっても、その姿は少女には変わりなく。そのギャップがまた、彼女という存在を浮き彫りにするようにも感じられた。
良く観察した外見は何処となく、彼の娘にも似ているような気さえする。
そんな観察を続ける内に、彼にまたさらなる好奇心が湧いてきた。……昔から変わらない、彼の悪癖であっただろうか。

「なあ、おぬし……」
「"竜の力"、是非とも我が身で感じてみたいものだ。……その力、わしに見せてみよ」

それはいかにもおかしな提案であった。しかし彼がそう言うには理由がある。
それは、彼の"要塞の騎士"としての噂を少しでも耳にしているなら分かるだろう。"要塞の騎士"と呼ばれた所以、彼の魔術を。
その力は今や衰えてしまったが……しかし竜の力だろうと、彼は"受け止める"自信があった。

「遠慮せず、全力を振るうがいい。おぬしも大分に、身体が"なまって"おるだろう?」

挑発めいた口調で、全力攻撃をしてこい……そう誘うだろう。

//夕食で遅れました……すみません!
60 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/18(金) 21:10:26.84 ID:hhgqdlTI0
>>58
「わっ!…まじまじ!どうせ暇だし!」

肩をガクガク揺らされながら笑顔の彼女に同じように笑顔を返す。
紗久は感情の線引きがキッチリしてるなぁ、なんて思いつつ先程からの彼女の行動を思い返すとなんだか純粋な人なんだなぁとも思った。

「ん、私は咲城 紗久っていうよ!呼び方はサッキーとかさきりんとか…まぁなんでもいいかなぁっ!
あなたは…いずもっち……?番長さんのがいいかな?」

自己紹介をして、初対面の人には毎回のようにやっているニックネーム決めが始まる。
紗久にとって相手の呼び方というのはとても大切な物らしく、真剣な顔でいずもへ尋ねる。

「よーし、じゃあ行こっか!
まずは最初らへんの食材買いにいこうっ!こっちこっち!」

無事ニックネームが決まれば紗久はおつかいメモ帳を見て早速出発するだろう。
少し過保護かと思われるかもしれないがはぐれないように紗久はいずもの手を掴んで先導していく。
61 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/18(金) 21:38:08.08 ID:ReH39Jfh0
>>60
「サッキー……っはは!!
いいニックネームだな!気に入ったぜ、サッキー。」

今思い返してみれば最近知り合った連中は、こんな軽い呼び方を教えてはくれなかったっけか。
咲城 紗久と名乗った少女はどこか自分に似ているのかも知れない、と高天原いずもは感じた。

陽気で、そして気分屋っぽくて。そんなのが昔にもいたような。いなかったような。
ほんの一瞬だけ『番長』と名乗る前の『少女らしかった』過去の記憶が脳裏を過ぎる。

「…んー…考えた事もねぇなぁ自分のニックネームなんてよ。
大抵こういう時はオレはいつもこう返すんだ。
───『1番呼びやすい呼び方で頼む』、ってなッ!」

都市内での高天原いずもは基本的に”番長”としてのイメージが根強い。
実のところ、彼女の本当の性別が女であると知っているのは、彼女を知る人物の中でもほんの僅かである。
──故にニックネームなんて必要なかった。馬鹿にした評価であっても『番長』と呼ばれる彼女には。

そして、手を引かれていく。見た目的には逆なのだろうが、方向音痴の馬鹿にはどうすることもできまい。
なされるがまま、優しき救いの手に誘われていく。

「…うおっ!?……ははは!よろしく頼むぜサッキー!!」


62 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/18(金) 22:00:34.93 ID:hhgqdlTI0
>>61
「ほうほう、じゃあ、いずもっちで!」

一番呼びやすい呼び方でといずもは言った。
紗久はその通りに一番最初に思いつき、一番呼びやすいニックネーム「いずもっち」に決定した。
『番長』としてのいずもしか知らない者がそのニックネームを聞けば違和感を覚えるかもしれない。しかし『番長』としてのいずもを微塵も知らない紗久にとっては『いずもっち』というニックネームは今一番ぴったりと感じている。

「えへへ、よろしく頼まれたよっ、いずもっちー!」

いずもの手を引き、天井に吊り下がっている矢印で案内してくれる看板を見つつ、食材売り場へと向かって行く。

「よしっ、ここで…えーっと、豆腐とネギと豆板醤、唐辛子、あとは…なにかしら好きなジュース…?何コレ…?」

売り場を歩きながらおつかいメモ帳を見返す。上から確認していく途中で、何を買えばいいのか示されていない曖昧な物が。
好きなジュース。それはおつかいを頼んだその人を知るいずもに聞くしかないので、それについていずもの方を見て首をかしげて尋ねた。
63 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/18(金) 22:32:15.54 ID:/hC4OXl+0
―――――俺は、どうしてこんなことをしてしまったんだろう。

それが、学園都市の路地裏で、追い詰められているみすぼらしい格好の男が後悔していることだった。
嫉妬していた。出来心だった。生きていくための金がなかった。捕まらないと思っていた。
意味もなく湧き上がってくる言い訳が、男の頭を埋め尽くしていく。
人がまばらな所を歩いていた、白い日傘を差し、白いワンピースを着こなし、白いハイヒールを履いている少女。
特別扱いされている能力者が憎かったこともある。なんであいつらだけ。俺が10代だったら。
何より白い少女が常に絶やさぬ笑みが、男の何かを揺さぶった。今思うと、理屈ではなかっただろう。

男は、白い少女が持っている鞄をひったくって逃げ出した。風紀委員に捕まってもかまわなかった。
逃げた先の路地裏で汗を拭うと、少女が持っていた鞄に手を掛け――――

「貴方、薄汚い手で私の鞄に触らないで頂けますか?」

―――――笑顔の白い少女に殴られた。男の体が数メートル飛ばされる。男は痛みに蹲った。
どうして、なんでと思った。見れば、白い少女はハイヒールを白い運動靴に履き替えている。
それにしても大の男が追いつかれるものなのか!?

「貴方は、ゴミではないようですわね。例えるのなら虫でしょうか。
 飛んで火に入る夏の虫。今の貴方の状態を的確に表せていますわね?」

口元に手を当ててくすくす笑いながら白い少女は、蹲る男の傍に歩いてゆく。
少女の靴が地面のコンクリートを叩く音が、男には死神の足音に聞こえた。
目の前に振り下ろされる黒い拳。男の眼前で、コンクリートが罅を作った。男は心中で悲鳴を上げる。
恐怖に怯える男を見て、白い少女の笑みが深くなる。少女はいつの間にやら淫靡な色気を漂わせてていた。

「私は被害者、貴方は加害者。少数ですが貴方が私の鞄を持って逃亡している所を目撃している
 証人も居ます。この状況なら、風紀委員に突き出す前に少しばかり愉しんでもいいですわよね?」

「ふ、ふざけ……」

男の腹が笑顔の少女に蹴り飛ばされる。

「ああ、貴方に答えは伺っていないのです。貴方は只土下座して許しを乞えば良いのですわ。
 大丈夫です、青痣が残る程度に痛めつけることには慣れていますから」

ニコニコ。こんな異常な事を言いながらも白い少女は、片時も笑顔を忘れないままだ。
さて、自業自得なこんな男を助けようと思う人物が居るのだろうか?
64 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/18(金) 22:59:01.43 ID:0cGjJGZs0
>>63
俺は────何をしているんだ。
乾京介は自問する。何故、人の後をつけようなんてしてるのか
息を潜めて、建物の陰からその人を追っていた

ーーーーー。

あの展望台での出会いから数日、俺はあの陽愛白という女生徒を調べていた
もっとも、一介の学生にできる事なんて限られている
凄腕ハッカーでもなく、そんな知り合いもいない
学園都市の学生データベースなんて覗けないが、彼女の苗字がその方面で有名で助かった
お金持ちでいいとこのお嬢様────という事だけを知ることができた

だからなんだ。と金持ちなら学園都市にいくらでもいるだろう
それではあの胸に引っ掛かる感覚も、気のせいだったのだろうか?
それで終われば、この不用意な詮索にもう諦めが付いていた

だが、ほんの数十分前の事
偶然とも言えるだろう。街の雑踏の中で、その白色を見てしまった
間違いない。灰色の背景に映るその白は────。


「...って、何してんだよ...ストーカーか何かか?」

と、自分の行動に舌打ちしてしまう
だが、彼女が移動すれば追いかける────あの時出会った違和感の正体を知るために

「......っ!」

そこで、その引ったくりを見た
彼女の鞄を奪えず、そして見方によっては合理的とも言える暴力
暴力単体なら────やり過ぎであるが行使する理由もわかる

だが、その笑顔は────純粋なその顔は。


「ま、...待てよ! いや、待って...下さい!」

足が動いていた。駆け出して、白の視界に入っていた
気が付いたら体が動いて、彼女の暴力の邪魔をした

「風紀委員を、呼びます。 それ以上は...必要ない」

ポケットから携帯を取り出し、風紀委員の番号を打ち込みながらも
黒髪から覗く緑眼で、白を見つめていた。
いや、まるで動くなと言わんばかりの眼光で────。
65 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/18(金) 23:23:06.99 ID:/hC4OXl+0
>>64
鞄を盗んだ男は、何も言わずに呆けている。腰が抜けたのか、心が折れたのか。
逃げる様子さえなかった。

「ええっと……どなたでしたっけ?」

白い少女は、微笑みを浮かべながら割り込んできた少年について考えている様子だった。
数十秒考えた後に、純白の少女は改めて少年に目を向ける。
あれだけのことをしておきながら道端の蹲っている男に、純白の少女の意識は全く残っていないように思えた。
白は最も染まりやすい色のはずなのに、依然として誰の影響も受けない。

「思い出しましたわ、展望台で会った殿方でしたか。それではお願い致します」

実は、富裕層の人間以外の人間が、白の記憶に僅かでも留まることは殆ど無い。
眼前の少年が純白の少女の記憶に残っていた理由は、その観察能力を白が警戒していたことに他ならなかった。

「分かりました。貴方の愚直さに免じてこれ以上は止めておきましょう。
 私も白い服がこの男の血で汚れるのはごめんですから」

あっさりと白い少女は、少年の行動を肯定した。
相変わらずその笑顔は、何を考えているのか分からない。

「それにしてもタイミングがいいですわね――――貴方、私のことをどう思いますか?」

今度は、純白の少女が少年に向かって尋ねる。一見脈絡のない会話に見える。
白い少女の表情は、基本的に変わらない。しかし笑顔は威圧の裏返しと言う。
観察能力に優れた少年なら雰囲気の変化を感じ取れるかもしれない。
66 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/18(金) 23:49:52.79 ID:0cGjJGZs0
>>65
やはり、彼女は何か違う────。
自分の事も、先程まで痛めつけていた男性でさえも意識していない
それこそ、取るに足らないという事か

「........えぇ、分かりました。」

通話ボタンを押して、事情を話す
引ったくりを現行犯で捕まえた、そちらで処理をしてほしい。と
その間、目線は白の方へ向けていた
何故かと問われれば────正直に言うと目を離すのが怖かったのだ
何をするか分からない。底知れぬ不安感とも言うのだろう

「......正直お答えすると、怖い。ですね
俺は貴女が怖い。あそこまで自然に笑いながら暴力を震える人間を俺は知りません」

通話が終わった携帯をしまいながら答える
初めて会った時、展望台では違和感、不安感程度だった
だが今回の一件で確信した────間違いない。俺は彼女が怖いのだ

その暴力を、重圧を笑顔で隠した白という存在
混濁したその在り方に俺は恐怖した

彼女の笑顔の威圧を、間違いなく感じ取れる
感情が高ぶる。気分が高翌揚しているのか────。
何処かピリピリとした彼女の言葉に不思議とこちらも饒舌になる       

「あぁ...先程まで貴女をつけていた理由が分かった。
俺は知りたいんです。貴女が怖いから、貴女を知りたくなった」

その緑眼が白を見据えていた
彼女の外側ではない。その内面を、その黒を見ようとする

だからこそ、その有り様に興味を覚えた
知りたいと思ったからここまで来た
危険だと分かってなお踏み込む

──────この少年もまた、歪な有り様だろう
67 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 00:10:53.50 ID:dxDrAzy20
>>66
「有難う御座いました」

白い少女は、素直に眼前の少年に向かって礼を言う。
事前の暴力さえ無ければそのお礼の言葉と、微笑みを向けられたい男性は世の6割を超えるのではないだろうか。
そのようなことを思えるかもしれない。

「……怖い、ですか。私も人間ですのよ、そんなにも怖がる必要は在りませんのに。臆病な方ですわね」

純白の少女は、また口元に手を当てて声を出して笑う仕草を取る。
この仕草をしている時は相手を精神的に甚振っていると、観察力の優れた少年なら見当が付く頃合だろう。
色気を感じつつも微笑みを浮かべている少女。

―――――しかしその笑いが、続く少年の言葉によって停止する。

それは宛ら、壊れたオルゴールのように。
不自然な余韻を残して、ぴたっと止まった。

「貴方は、私のことが知りたいのですか?」

純白の少女は、静かに少年に問いかける。仮面のような微笑みは変わらない。
しかし、少女を纏う空気は、雰囲気は。
明らかに変化していた。少女の纏っていた淫靡な雰囲気も、停止しているかのように止まっていた。

「もう一度聞きます。貴方は、私のことが知りたいのですか?
 どんなことをしても?どんな手段を使っても? 知 り た い の で す か ?」

純白の少女は、笑顔のまま少年に問いかける。
行過ぎた白は、行過ぎた黒と、等価である。
そのことを含めて、眼前の少年はどう答えるのだろうか?
68 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/19(土) 00:34:00.88 ID:j6ProrYG0
>>67
壊れたオルゴールの言葉に、驚かなかったと言えば嘘になる
唐突に切り替わる情景、雰囲気に────そうだ。恐怖しなかったと言えば嘘になる
だからこそ、踏み出せる。これでこそ、歩き出せる

「......あぁ、貴女という人を知りたい。
貴女が一体どんなモノで構成(で)きているか知りたい」

彼女の背負う業、宿命
生まれ持った性質、生まれ落ちた星のイミ
それが知りたい。その先が真っ暗な闇と知ってなお歩き続ける

「君の暴力を肯定はしない。君の狂気を肯定しない。
でも、陽愛 白。俺は君を知りたい。」

白の言葉に、ただ変わらぬ声で応えるのだった
彼女の行き過ぎた暴力は悪行だ
それを良しとする彼女の性質は悪性だ
その認識は変わらない。だからこそ、その深淵へ────。

少年の表情は義憤に顔を歪ませるでもなく、その狂気の淵に嗤うでもなく
ただ────ただ無表情とも言えるだろう。その緑眼は相変わらず白を見据えるだけだった

違うのは、初めて会ったあの日に比べてその瞳が輝きを取り戻していた────というところか。
まるで、止まっていた時が動き出したように
69 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 00:59:43.97 ID:dxDrAzy20
>>68
「―――――そう、ですか」

白い少女の時は、動き出したようだった。
これまでと違う、憑き物が晴れたような雰囲気を醸し出しながら。
純白の少女は、微笑んでいた。

「私は、初めて会った時から貴方を評価していました。
 貴方のその観察眼、人を視る力とでも言うのでしょうか。それに引き付けられました」

この傲慢な白い少女は、他人を貶めることはよくあるが褒める事は滅多にしない。
純白の少女が、ついに他の色に染まる時が来たのだろうか?
少年は、そう思えたかもしれない。

「だから私は貴方のことが、出会ったときからずっと―――――――」

純白の少女は、少年の元へと歩き出した。
いつもと変わらぬ笑顔を見せながら。
そう、純白の少女は少年……否、漢の告白を聞いてもいつもと変わらなかった。
観察力が優れた少年なら、気付けたかもしれない。その歪さに。

「――――脅威になると、思っていました。いずれ貴方は、科学の裏にあるものを突き止めるでしょう。
 そう、突き止めてしまうのです。そこで、貴方に選択権を与えます」

二本の指を、少年に突きつける。白い少女は、変わらない。行過ぎた白は、行過ぎた黒と等価だ。

「私の真実を得たいのなら、貴方は私が所属している組織に入りなさい。これは必ずです。脱退は許しませんわ」

これは命令。そう、命令だった。笑顔を浮かべたまま、純白の少女は命令する。

「それ以外なら、死になさい。貴方はどちらを選びたいですか?」

傲慢の白い少女が突きつけたのは、無慈悲な選択だった。
少年は、魔女狩りと言う組織に入ることを、後悔することになるだろう。
70 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/19(土) 01:29:44.75 ID:j6ProrYG0
>>69
「............」

その選択肢に、少年は口を閉じる
彼女の言う組織とは何なのか、この科学の裏にあるものとは────。

底知れぬ闇は更に深さを増した
まるで暗闇の中で先も見えぬ階段を降りる気分だ
一歩降りる事に心を擦り減らし、いつ踏み外すか分からない
終わりがあるのかさえ見えない、先に命を散らす方が早いかもしれない

そんな永遠に続く螺旋階段を、見た気がした

「ここで死ぬつもりはない。貴女の言う組織ってのがどんなものか知らないが────。
貴女は俺を警戒している。俺は貴女を知りたい。そしてその業を認めていない...」

もとより、退く道があるなんて思っていない
この学園都市という巨大な監獄に入れられてから、俺の時間は止まっていた
二度と動けないと思っていた
ただその時間を動かしてくれた貴女を────。

「なら、答えは決まっている。
見せてくれ。何が貴女をそこまで動かしているのか」

俺は堕ちよう。その仄暗い社会の外へ
この身は零と等価値だ。もう何もないのだから
血と狂気、絶望と臓物が振り撒く世界だろうと、突き進もう
この身は、生まれながらにして堕ちるしか出来ないのだから────。

────緑眼の少年は退くことはなく。
白の少女を見据えて、立ち尽くしていた────。
71 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 01:58:05.85 ID:dxDrAzy20
>>70
「―――愚直な男ね」

ぼそり、と独り言のように意図せず漏れた声は、敬語ではなかった。
純白の少女は眼前の愚直な少年を見て、死んだ幼馴染のことを思い出していた。
粗雑で空気の読めない幼馴染だった。この名前も知らない少年とは似ても似つかない。
しかし、愚直さ。少女がこの名も聞いていない少年を罵倒していた理由の一つが
幼馴染と眼前の少年が唯一告示いることだった。

「貴方の名前を教えなさい。どうせ能力者なのでしょう?知らなければ推薦もできませんわ」

純白の少女は笑顔で眼前の少年に命令する。
能力者なのは聞くまでも分かっていた。
富裕層のパーティで培った演技の底を見破られた時点で分かっていたことだ。
そうでなければ、男に暴力を振るうのを止めた時点で魔女狩りによって『神隠し』にでもなってもらっただろう。

「特別に私の奥に在る物を見せてあげましょう。貴方が付いてこられることを期待してますわ。
 ……まあ、最初に私が言った通りのボランティアみたいなものですけれど」

魔女狩りは非公認組織であり、白い少女は歪んでいても善意でやっていることだ。

「魔女狩り、という組織です。基本的に強大な能力者なら誰でも入れますわ。
 ――――ゴミ掃除ができる人間という条件はありますが」

白い少女は、少年を引き連れて歩き出す。
少女は純白のままだ。白は最も変わりやすいのに。他のどの色にも変わりはしない。
これからもそれは変わらないだろう。

――――但し、他人が純白の色に染まることを、白い少女は止めることはない。

行過ぎた白は、行過ぎた黒のように、他の色を染め上げてしまうのだった。

/遅くまでありがとうございました!本当にお疲れ様でした!
72 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 05:11:46.62 ID:/8rlq0pS0
>>62
「ははっ、いつぶりかな…………」

───『そんな風に呼ばれたのは。』
それは”純粋無垢な普通の少女”だった頃の記憶。
兄に焦がれ、そして兄の事故を機に自分が『番長』を引き継ぐと決める…その前の記憶。
今でも、同年代の同性とわいわい騒いでいた”過去の高天原いずも”を羨ましいと思う日がある。
それはやはり年頃の少女が抱くただの願望。
そんな密かな願いに反して、彼女の傍には大抵血に濡れた不良の大男や、ゴミ溜めくらいだった。可愛げのあるものといえばダンボールに入った捨て猫くらいか。

「あっ……ああ!頼むぜサッキー!」

手を引かれて。目の前を行く咲城 紗久という少女に、恐らく自分は”女”として映っているのだろう。
───また、やらかしてしまったな。と思いつつも、彼女は『後悔』はしていなかった。
『番長』へ進む道も。
これまで一度たりとも本気で『後悔』だけはした事はなかった。


◆◇◆◇◆◇


「……あー……うん、それは………?」

食材売り場にて、彼女は咲城の手にあるメモの紙切れを覗き込んでいた。
咲城は自分が何か知っていると思ってこちらを見ているようだが────、

「ああん!?なんだこれ!」

──事実、高天原いずもは何も知らなかった。
しかし、『高天原いずもという馬鹿の昔からの知り合い』で『曖昧なオーダー』と来たならば、このメモの作成者が何を意図しているのかは大体わかる。

「……んー……こりゃ多分適当でいいってことだ。
あいつの好みなんてしらねぇし。
うん……うんうん!ひらめいた!何かクソまずいジュース持ってって後悔させてやろう!!
サッキー!なんかゲテモノジュース的なので心当たりねぇか!?」

そう、これは彼女のことエンターテイメント性が試されているのだ。
曖昧にすることで、この作成者は高天原いずもに挑戦権を与えているのだ!というのが彼女の解釈。
ちなみに実際はそんな事はなく、”お前が好きなジュース適当にとってこい、お駄賃だ”という優しさからのメモなのだが、そんな意図は汚い書体のおかげで相殺されて伝わらないのだろう。
トンデモナイ企みを、咲城へと投げかけた。

73 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/19(土) 07:36:28.70 ID:CadTUYGa0
>>72
「て、適当っ!?あ、この好み知らないんだ…
えぇー……クソまずいゲテモノ系ジュースぅ…?えっと………」

いずもから提案された企みはそれはもうトンデモナく、しかし驚かされた紗久もなんだかんだ乗っかり、買い物カゴを手にとってジュースコーナーへと足を運ぶ。
飲み物がズラーッと大量に陳列された棚。これなら二人の望みのものもありそうだ。

「……あ、このへんヤバそうだよっ、『味噌メロン』…『にぼし100%』……『昆虫大図鑑』……『鶏肉炭酸 コケコーラ』………もうなんかやけくそって感じだね…
い、いずもっちはどれがいいと思う?」

こんなラインナップでどれがいいなんて聞くのもおかしな話だが。まぁ何を選んでも頼んだ相手を後悔させることはできるだろう。
企業の冒険心たっぷりなゲテモノ系ジュースを前に紗久は関心半分に気が滅入りそうになっていた。

「よ、よーし!気を取り直して今度はー…豆腐を探そう!」

無事(?)ゲテモノ系ジュースが決まれば紗久はいずもの手を引くことを忘れず、豆腐がありそうな方へ向かっていくだろう。

74 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 13:29:50.99 ID:/8rlq0pS0
>>73
「あ……。」

遊び半分で「後悔させてやろう」と言った彼女だが、ここで彼女はこの学園都市がどれほど頭のおかしい都市なのかを知ることとなった。
お茶、サイダー、コーラ……ここまではいい。どこのスーパーにもありそうなラインナップだ。
───問題はその後。咲城が口に出したようなゲテモノ系ジュースの数々が並んでいる。
提案した身でありながら、さすがの彼女もコレには口をあんぐりと開けて呆然としている。
暫くして我に返った彼女は傍の咲城へと語りかけた。

「───なあ、サッキー。
学園都市ってさ、頭おかしいの?馬鹿なの?
自分で言っときながら悪ィんだけどこんなジュースどこに需要あんだよ。」

「まあ買うけど。」と『昆虫大図鑑』なるジュースを手にとって、咲城が手に持った買い物カゴをさり気なく受け取りつつ、中に入れた。
何の迷いもなしに『昆虫大図鑑』を手にとったのには、単純明快な理由があった。

「あいつ。虫苦手なんだよ。」


──────────
──────
────
──


「豆腐ねぇ……。
このメモ的にこれ麻婆豆腐でも作る気なのか。」

と、カゴを片手に素朴な疑問を呟いた。
虫が苦手と知りながら『昆虫大図鑑』を躊躇なく入れるあたり、よほどそのメモの書き手に鬱憤が溜まっているらしい。ここでも彼女は悪ふざけに出た。

「豆腐って書いてるだけで何豆腐かは書いてないんだよな…!!」

と、どこかワクワクした様子で隣の咲城を見る。


//遅れました…すみません
いつでもどぞー!

75 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/19(土) 14:31:47.93 ID:CadTUYGa0
>>74
虫の苦手な相手に『昆虫大図鑑』なる飲み物を持っていく。頼んだ側からすればたまったものではないだろう。それだけでも相当な悪業だが、いずもの悪巧みはまだ終わらない。

「えっ……まぁ、種類までは書いてないね…
でもまさか豆腐にまでゲテモノシリーズはないでしょっ…」

まるでイタズラっ子みたいにワクワクした様子のいずも。
そんないずもに苦笑いを返しつつ、少し期待混じりに豆腐が数種類並ぶ棚を見てみると…

「あー……『イチゴ味豆腐』……『にぼし50%豆腐』……『虫蒸し豆腐』……」

もはや普通の豆腐がイレギュラーな存在の気がしてくるほどのラインナップは予想通りと言えば予想通りだ。
製作者たちがお遊び感覚であみだくじかなにかで混ぜるものを決めているとしか思えない。この都市の大人たちの考えることは解らない。

「…『虫蒸し豆腐』にする……?」

紗久は『昆虫大図鑑』の件からいずもが選ぶ物を予想しておぞましいパッケージの『虫蒸し豆腐』を手に取り一応尋ねた。
76 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 15:17:40.02 ID:/8rlq0pS0
>>75
「───いや、あるんかい!
本気でこの都市頭おかしいんじゃねぇーの!?」

ジュースならばまだ『飲み物』って事からして、ゲテモノの類が存在するという事は容認出来なくもない。
見事な前フリを持って豆腐コーナーへと臨んだ彼女らであるが、学園都市はどうやら期待裏切らなかったらしい。
よくよくみれば『にぼし50%…』だとか先程のジュースの流れから見て明らかな確信犯までいるじゃないか。薄めてもにぼしはにぼしだろうが。

ただもう先程で学園都市のぶっ壊れ具合を認識しているからか、高天原いずもは「やっぱり」という感じでむしろ呆れていた。
しかしそれでいて、咲城の問いかけには悪魔の様な微笑みを浮かべて───、

「───────ご名答。
とりあえずあいつの今日の晩御飯は虫づくしよ!
オレに無理難題を押し付けたあいつには裁きが必要なんだ!」

八つ当たりも甚だしいが、とりあえずはそういうことだ。
躊躇いもなく『虫蒸し豆腐』なるゲテモノをカゴの中に投入。
明らかにソレっぽく虫が豆腐の中に浮かんで見え、吐き気がするが、それはそれを見て苦しむメモの依頼主の顔を浮かべることで無理矢理相殺した。

───と、そんな感じで唐辛子やらも集めて、ゲテモノ中心の”食材選び”は終了である。
残るのは『ネジ大量』『ボルト大量』『Tシャツ、タオル数枚』となった。


「えっと……さすがにこの食材コーナーにはこいつらねぇしな?……どこいけばいい?」

と、改めて隣の咲城へと問いかける。
77 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/19(土) 15:54:57.42 ID:CadTUYGa0
>>76
「虫尽くし……うへぇっ……………」

食材は最後の最後までゲテモノで固め、それらを使った料理の並んだ食卓を想像すれば、まぁおぞましい禍々しい。おしゃべりな紗久も流石に虫尽くしについてちょっと話す気にはなれない。

「ネジとボルト…あとタオルかぁ、二階に工具屋があって…その隣に生活用品のお店があるからそこに行こっかっ。こっちこっちっ」

残るおつかいは食材コーナーにはないものとなる。エレベーターの上にある看板を見るとそれらが売っているであろう店の名が。
紗久はいずもに分かるようエレベーターを指差してそちらへ向かった。

「お、すぐ前にあったねっ。いかにも工具屋さんって感じ……っ」

エレベーターで二階に上がるとすぐ目の前に、鉄の匂いが漂ってくる工具屋が見えたのでそのまま入っていく。入った瞬間ツンとした鉄の匂いが二人の鼻腔をくすぐる。

「ネジぃー、ボルトぉー………あ、あったっ」

どデカイ工具や素人には何に使うか検討もつかない工具が並ぶ棚を通り抜け、しばらく探すと、袋詰めされた様々な用途のネジやボルトが引っかかっている棚を見つける。

「……たくさんあるなぁ……一体どれにすれば……いずもっち分かる?」

ネジやボルトと言っても用途不明のデカイネジや極小のネジ、極太なボルト、極細なボルト、と種類が色々ある。
どれを選べばいいのか、一応いずもに尋ねてみる。
78 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 16:20:00.71 ID:/8rlq0pS0
>>77
「すぐ前にあった……うわぁ………うわぁ……」

こんなにいとも簡単に熟されてしまうと、先程まで施設内を駆け回っていた2時間が馬鹿馬鹿しく感じてくる。実際に馬鹿馬鹿しいのは確かだが。
店内に入ると、鉄の独特な匂いが鼻をついた。依頼主の工具場にはこんな感じの匂いが充満しているから、むしろこの匂いは彼女の心を落ち着かせる。

店内の一角、細かい部品が所狭しと並んでいる。
咲城の問いかけに対し、棚に配置されたネジの数々を手で弄びながらこう返した。

「……確かに……やったらあるな。
んーと……確か『ネジもボルトも1番小さいやつでよろしく』とか言ってた気がする。」

目的の品は棚の一番下の段に見当たった。
ネジもボルトも付近にあったことが、頭のカタい彼女にとっては有難い。
彼女はしゃがんで幾つか鷲掴みして、新しく取ったカゴの中に入れた。
まあ、これくらいだろ、というテキトーな量。

「……後は…………」

残すはTシャツとタオル数枚。ネジやボルトの会計を済ませ、店内の外に出てキョロキョロと見渡した。
無論、彼女は1人では動かない。動けない。

これを言うのも段々情けなくなってきた頃だ。

「……案内…よろしく。」


79 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/19(土) 16:44:23.50 ID:CadTUYGa0
>>78
「うんっ、こっちだよっ。すぐ隣っ」

いずもから改めてよろしくされると紗久はこくりと頷いてTシャツとタオルを売っているであろう隣の生活用品の店へと導いていく。
今度は工具屋とは違い、照明も明るめでさっぱりとした清潔感のある店内。
親切に天井に案内看板が吊り下げられていて、タオルコーナーはすぐに発見できた。

「…タオルなんか要望言ってた?ふわもこのがいいとか、大きめのがいいとか…」

タオルはネジやボルト程でもないが大きさや材質が異なっていたりとちょっと種類があるようで。
何か要望があったなら、それらしきタオルをいずもはカゴへ入れるだろう。

「Tシャツは柄とかあるけど……どうしよう?」

お次はTシャツ。タオルコーナーの裏にあり った。形こそあまり変わりはないものの、柄がこれまた豊富だ。
無地のものや、見たことないキモ可愛いキャラクターが描かれたもの、にぼしシリーズを作っている食品会社のロゴ入りのものまで。
頼んだ人物があまりそういうのは気にしない人ならいいのだが、一応再びいずもに選択を任せた。
80 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 17:06:36.86 ID:/8rlq0pS0
>>79
「……初めに言っておくと。タオルとTシャツだけは真面目に選ばなきゃなんねぇんだ。」

隣かよ…と再び自らの無能さに呆れつつ、そしてわずか数秒で生活用品の店へと到着する2人。
店内に入る前に、高天原いずもはそう言った。

「汗を拭き取るタオルは作業の疲労を紛らわす意味で、肌の感触が良い物を。
Tシャツは作業中に一切の雑念が入らない様に無地のものを。
頭がいかれた機械屋なんだけど、こういうところだけはちゃんと考えてる…らしい。」

食べ物に虫が入ってるのは作業に支障はきたさないのか、というごもっともな指摘がとんできそうだが、とりあえずはそういう事らしく。
タオルについては感触の良い、フェイスタオルを数枚カゴの中へと入れた。
Tシャツコーナーへと場所は移る。

「…………………いや。」

当然のごとく、無地のTシャツへと手を伸ばした高天原いずもであるが、すんでのところで手が静止した。
すぐに手を引っ込めて、腕を組んで。
そして、何かを考える様に目を伏せた。

「…………………………。」

────数秒後、カッと目を見開くやいなや、「にぼし」ロゴの刷られたTシャツを素早く手に取り、カゴへと押し込んだ。
隣の咲城を見て、親指を立てた右手を突き出してグッドマーク。
ここまでふざけたなら最後はふざけて終わりたいらしい。
こうして。イカれた学園都市内でのイカれたショッピングは幕を閉じるのであった。

────────────
────────
─────
───


「………というわけで、ありがとなサッキー!
本当に…本当に助かったぜ!!」

ショッピングモールの外。暖かな夕陽が2人を照らし、伸びる影は夜が近い事を示している。
レジ袋を両手に抱えた彼女は、夕陽も相まって、とても眩しい笑顔を咲城に向けるのであった。
81 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/19(土) 17:09:32.15 ID:CYuGewsy0
>>59

竜とは言わば神秘の具現。万人が認める空想の象徴。
存在しないと思ってはいても、一度はその存在を夢見たことがあるだろう。
神秘が薄れてきた今でもこれ程までに影響力があるのだ、魔術師が目を付けるのも頷けるというものだろう。だがその存在を確認できないのであればとんだ無駄足だ、しかし今男の目の前には、その神秘の具現を宿した少女が立っている。

「予想通りの反応よのう。
まぁ無理もない、このような人外の姿を見て驚かないのは中々出来ぬ。儂だって逆の立場なら腰でも抜かしておるだろうよ」

竜という絶対的な力を宿したこの少女、先ほどまでの魔翌力の質とは明らかに違う濃密な魔翌力。そして竜の衣を纏いながらも、その本人の存在感は決して劣らずむしろ増しているようにも見える。
強大な力を手にしていながらも、なおそれに埋まり沈まない強烈な意志力。それがあるからこそこの少女は竜の力を操れるのかもしれない。

だから、その竜の強大な力を知ってなお、男が出した提案に少女は思わず笑ってしまった。

「かか、―――かっはっはっはっ!!お主正気か!!」

余りにも常軌を逸する――――竜の力を正面から受けるとこの男は言ったのだ。
そして少女は直感する。この男は確かに組織の為になら命すら投げ出す男だ。しかしその本質は余りにも純真無垢、自分となんら変わりのない―――

だからこそ少女はもっとこの男のことを知りたくなった。普段ならこんな提案、一笑に蹴飛ばすものだがあえて乗る。男の期待に応えるように。

「良いだろう、幾らか鈍っていようが腐っても竜種。
簡単に屠られぬよう気をつけるが良い!!」

距離を取り向かい合う。いつ振りだろうか、こんなにも胸が躍るのは。
あぁ、この街は長らくの退屈を簡単に消しとばしてくれた。こんな"素敵"な出逢いをくれたのだから。
82 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/19(土) 17:30:45.26 ID:CadTUYGa0
>>80
肌に触れるものはしっかりとしたものであってほしいという要望があったようで、紗久はその頼んだ人物の職人魂を感じて関心した様子で無地のTシャツに手を伸ばすいずもを見る。

「………………」

しかしその人物の職人魂は尊重されず、紗久はいずものなんだか清々しいグッドマークとカゴに入れられる『にぼし』Tシャツを見ることになるのであった。


何はともあれおつかいメモに書いてあった通りにしっかり買い物を済ませることができ、一件落着である。

「どういたしまして、いずもっちっ!
…えへへ、力になれて嬉しいよっ!」

外に出るともう空がオレンジに染まっている。思えばあっという間の時間だった。楽しい時間ほど短く感じるものだ。
いずもの眩しい笑顔を見ると、紗久も自然と笑みがこぼれる。

「今日は楽しかったっ、ありがとね!
じゃあ、気をつけて帰ってね…!"またね"!いずもっち!」

少し名残惜しそうに別れの言葉を口にして、離れていく友達の姿を見送る。
しばらくして紗久も嬉しそうに鼻歌を歌ってスキップしながら帰路に着いた。

/ありがとうございましたぁ!
83 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 17:48:29.43 ID:/8rlq0pS0
>>82
「応ッ!またいつか!!
迷ってた時は今日みたいに頼むぜ!!」

それは、再会を予感させる別れだった。
次に二人が遭遇するのはいつ、どこでだろうか。
今回、咲城 紗久が目に移したのは『番長』よりも『少女』である高天原いずもである。
表の自分を見ていない咲城が、表の『番長』として荒事を荒技で制裁する様子を見て、
果たして今日の様に『いずもっち』などと親しく接し、可愛らしく呼んでくれるのだろうか。
確証はない。──しかし、彼女は確信している。

「………今度はオレがカッコいいところ見せねぇとな……!」

『番長』がどんなものであれ、そして誰であろうとも。……咲城 紗久は紛れもなく高天原いずもの『友達』である、と。

こうして。情けない『番長』の買い物喜劇は幕を閉じる。
──裏で魔術師による、不穏なる邂逅が行われている事など知る由もなく。

//ありがとうございました!






84 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/19(土) 20:02:44.64 ID:j6ProrYG0
>>71
愚直────その通りだろう
俺は愚かである事は間違いない。俺は堕ちていく事を良しとしている

この様な世界でしか生きられないのだ
今まで自分の時間が止まっていたのは、生きる世界が違うから
ただの息苦しさに飲まれる表の世界よりも
日を浴びずとも、息を吸い込めれる裏がいい

不思議と、口角が上がり──笑っていた。

「...乾京介です。仰る通り、能力者ですよ」

乾の前髪から覗く緑眼が、真っ白な闇を見つめていた
その闇が何故生まれたか。その闇がどの様な道を生き続けるのか

そして、その闇がどこまで歩き続けれるのか

あぁ────楽しみだ。
本当に本当に────楽しみだ。

「魔女狩り...ですか?
中世の集団ヒステリーじゃないですよね。 まさか本当に魔女を狩るのですか?」

信じてないのだろうか──。無理もない
この科学の粋が集まるこの街で、ファンタジーじみた物の名前なんて聞かされても首を傾げてしまう
ただ────それが事実か否か関係ない
目の前の、陽愛 白という彼女の有り様は紛れもない真実だ

彼女の白はファンタジーでも何でもない
間違いなく────リアルは今自分の前にいる。
85 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 20:34:09.62 ID:dxDrAzy20
>>84
「乾さんですか。特別に名前を覚えてあげましょう。光栄に思うことですわね」

純白の少女は、微笑みを絶やさないまま歩いていく。その歩調は一切変わることはない。
歩くたびに、乾という少年を闇に近づけていると知りながら。

「詳しくは組織の施設に着いてから説明させて頂きますわ」

――――その方が早いでしょう?白い少女はそう言葉を続ける。

純白の少女は乾という少年を、闇に近づけている。
善良に進めたかもしれない少年を、人殺しの道へ誘う愉しさ。
白い少女はそれを十分に楽しんでいた。

やがて見えてくる一つの建物。一見周りの建築物と変わらないように見える。
大規模ではないが、少年には大きく見えたかも知れない。

「――――――着きましたわ。陽愛白、入団希望者を連れてきましたわ!強力な能力者ですわよ!」

扉を開けると、複数の瞳が少女と少年を出迎えた。
その瞳は、白い少女だけではなく、少年を期待の眼で出迎えた。
能力者主義。能力者がいずれ世界を統べる者になるという考え方。
少年は、魔女狩りに属している能力者を手伝う者たちにとって選ばれた人間だった。

純白の少女は人ごみを掻き分けて、中央に居る無言の人間に報告する。
その人間の顔は黒い仮面に包まれていて分からなかった。

「彼に名前と能力、Levelを話せば魔女狩りには入れますわ」

黒い仮面を被った人物はリーダーへの連絡係だ。
そう、魔女狩りに入るのは能力者なら簡単だった。
しかし退団はできない。

行きはよいよい帰りは怖い。そんな歌が聞こえてくるかのようだった。

「さて、魔女狩りの詳しい説明は……私ですか。仕方ありませんわね」

黒い仮面の人物に指示された白い少女は、渋々少年の説明役を引き受けた。

「この中で話します。この部屋の中は色々なことに使うため、防音となっておりますわ」

微笑みながら部屋の中に入る少女。少年を闇に誘う。
86 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/19(土) 21:04:47.59 ID:j6ProrYG0
>>85
「えぇ、光栄ですよ。 貴女って必要以上の事に脳の容量を割きそうにないですから」

と、白の微笑みに同じく笑って返す
何というか、冗談で言ってるのか本気なのか掴みずらいが
でも、彼女に覚えてもらえるという事は少しだけ
乾にとって、嬉しかったのかもしれない

到着する建物──────ふむ、こうして見ても一見ただの建造物だ
だが、誰も近づかない。私有地だとか、そういう訳ではないだろうに
不思議な威圧感が足を縫いとめる

「..............」

乾は黙って白の付いていく
その先にいるその魔女狩りの面々の視線も合わす事なく
黒い仮面の前に立った

「乾京介。Level3の『機械融合』(メタリックフュージョナー)だ。」

そう言って、パチンと右手の指を鳴らす
瞬間────。一瞬彼の右手が光を放ったと思えば、その右手は異形と化していた

皮膚と融合し、腕の内部から突き出る様にプラスチックの様な物質と
黒く鈍く輝いている金属製の杭────否、アスファルトを砕くドリルか。
SF作品のサイボーグと形容できるだろう
彼の腕が機械と融合した化け物の様に変化していた

「............あぁ、説明頼むよ。白さん」

その腕は彼の意思で稼働できると、誰の目から見ても確信できる
現に、その腕は直ぐにでも対象を砕く準備ができたエンジン音さえ聞こえてくるだろう

────だが、乾はその腕を稼働させる事なく
ただ、腕を振るう事でその機械をその腕の中へと消失させ、白の後ろを付いていくだろう

「......全員学生に見えた。ここにいるのは学園都市の生徒だな
俺や白さんの様な────能力者で構成されているのか」

誘われた闇────その部屋に入りながら、乾は問いかけた
87 :カタチ ◆BDEJby.ma2 :2016/03/19(土) 21:09:44.47 ID:HIXnoDCAO
──中枢学区から暫く離れた学区。
風紀委員という自治組織を有しながらも、栄える場所には必ずしも負の部分は生まれる。
例えば、『”学園都市”に適応できず、しかして”学園都市”に住むことを強いられた者』を例に挙げるとしよう。……答えは単純かつ明快だ。
彼らは風紀委員の自治が行き届かない廃れた地域に、独自の”居場所”を形成する。風紀委員によって取り締まられる悪行、そして鬱憤を、風紀委員の範囲から逃れた地域で発散する。……この学区はそういう場所だった。

だが、愚かなるならず者達よ。知っていたか。
”どうしようもない悪”が生まれ落ちるのも、また必然としてお前達の”居場所”であるという事を。
そしてそれは”居場所”だけでなく、お前達の肉体すらも屠る者である事を。

『”死”とは永遠の平安を意味する概念。
どうして貴方方はそこまで恐怖する?
生きる事を渇望する?』

────そこに、”躊躇”などはない。
無慈悲なる死神は血塗れた死骸を踏み、潰し。
太く頑健な腕が伸びる。…顕になった細い骨を強引にも引きずりだす。生々しい、肉と骨の摩擦音が、血とともに噴き出した。
……たとえ。地面に転がっているそれらが、生きていようと、耐えられぬ激痛に断末魔じみた叫びを上げようと。血の海を征く死神は笑う事すらしない。

『ならば、私が授けましょう。
これこそが我が使命、我が業でありますから。
提供するのは永久に不変なる安寧の地────、』


────そこには、”希望”などはない。
人間すらもわからぬその怪物に追い詰められている、腕章をつけた青年もそろそろ自覚してくる頃だ。
自らの死期がすぐそこに迫っている事を悟るはずだ。
そこには憤怒もあるだろう。

何だってこんな目に。俺は何もやってないのに。
不良達を取り締まろうとしただけなのに。
誰も行かないから”風紀委員”として来てやったのに。

あるいは後悔も生まれるかもしれない。
例えば愛する人の存在を思い出したりもして。

何で来たんだよぉっ……俺は……!
俺は…………っ…!
死にたくない…っ…死にたくない……!…まだ……やり残したことがあるのに…!
あいつにまだ何もしてやれてないのにっ……!
いや…いや……イヤ……来るな!俺はまだ…!


そして懇願する。縋り付いて、泣き喚く。
────そこには、”慈悲”などは無い。



「ぉ…ぉ願いしますっ!何ッでもしますッ!
だから!だから”ぁっッ!いのちだけh───『ええ、ですから。』


『─────”骨”も残さず。
始末して差し上げましょう。 』


────そこには、”死”しかありえない。
貴方は間に合わない。
しかしそれでいて、邂逅してしまう。
西洋の魔術師、過激派思想カスパール。
その中でも最深部の闇の真髄──死の眷属に。


88 :カタチ ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/03/19(土) 21:17:53.41 ID:HIXnoDCAO
──中枢学区から暫く離れた学区。
風紀委員という自治組織を有しながらも、栄える場所には必ずしも負の部分は生まれる。
例えば、『”学園都市”に適応できず、しかして”学園都市”に住むことを強いられた者』を例に挙げるとしよう。……答えは単純かつ明快だ。
彼らは風紀委員の自治が行き届かない廃れた地域に、独自の”居場所”を形成する。風紀委員によって取り締まられる悪行、そして鬱憤を、風紀委員の範囲から逃れた地域で発散する。
この学区はそういう場所だった。


だが、愚かなるならず者達よ。知っていたか。
”どうしようもない悪”が生まれ落ちるのも、また必然としてお前達の”居場所”であるという事を。
そしてそれは”居場所”だけでなく、お前達の肉体すらも屠る者である事を。
今宵の舞台は、その学区の『廃れた倉庫』である。

『”死”とは永遠の平安を意味する概念。
どうして貴方方はそこまで恐怖する?
生きる事を渇望する?』

────そこに、”躊躇”などはない。
無慈悲なる死神は血塗れた死骸を踏み、潰し。
太く頑健な腕が伸びる。…顕になった細い骨を強引にも引きずりだす。生々しい、肉と骨の摩擦音が、血とともに噴き出した。
……たとえ。地面に転がっているそれらが、生きていようと、耐えられぬ激痛に断末魔じみた叫びを上げようと。
血の海を征く死神は笑う事すらしない。

『ならば、私が授けましょう。
これこそが我が使命、我が業でありますから。
提供するのは永久に不変なる安寧の地────、』


────そこには、”希望”などはない。
人間すらもわからぬその怪物に追い詰められている、腕章をつけた青年もそろそろ自覚してくる頃だ。
自らの死期がすぐそこに迫っている事を悟るはずだ。
そこには憤怒もあるだろう。

何だってこんな目に。俺は何もやってないのに。
不良達を取り締まろうとしただけなのに。
誰も行かないから”風紀委員”として来てやったのに。

あるいは後悔も生まれるかもしれない。
例えば愛する人の存在を思い出したりもして。

何で来たんだよぉっ……俺は……!
俺は…………っ…!
死にたくない…っ…死にたくない……!…まだ……やり残したことがあるのに…!
あいつにまだ何もしてやれてないのにっ……!
いや…いや……イヤ……来るな!俺はまだ…!


そして懇願する。縋り付いて、泣き喚く。
────そこには、”慈悲”などは無い。



「ぉ…ぉ願いしますっ!何ッでもしますッ!
だから!だから”ぁっッ!いのちだけh───『ええ、ですから。』


『─────”骨”も残さず。
始末して差し上げましょう。 』


────そこには、”死”しかありえない。
貴方は間に合わない。
しかしそれでいて、貴方は邂逅してしまう。
西洋の魔術師、過激派思想カスパール。
その中でも最深部の闇の真髄──死の眷属に。

//スミマセン場所が入ってなかったので少し訂正…
場所は『風紀委員の管理がうまく行き届いてない不良学区の廃れた倉庫』になります。
89 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 21:20:48.87 ID:dxDrAzy20
>>86
「あら、便利そうな能力ですわ。――――それでこそ、ですわね。私が推薦した甲斐があるというものです」

白い少女はサイボーグのように変化した少年の能力を見て笑顔で頷く。
少年の能力は、白い少女のお気に召したようだった。

「基本的には、学生ですわね。levelが低い人間や無い人間は、『魔女』の情報収集に当たっています」

扉を閉めた少女は少年の問いに答えると、白い少女は机を挟んだ椅子に座る。
電球がぼんやりと灯る薄暗い部屋の中。白と黒が同居しているような不気味な部屋だった。
白い少女と緑眼の少年は、机を挟んで向かい合う。

「さて、単刀直入に言いましょう。魔女――――いいえ、魔術師と呼ばれている存在は此の世に実在します」

白い少女は、微笑みながらもどこか眼光を鋭くして少年に語り始めた。
これは軽い殺気、のようなものなのだろうか。
少年に向けられているものではない。しかし白い少女は微笑みながら、殺意を内に秘めていた。

「信じられないかもしれません。しかしこれは本当のことなのです。
 古代から魔術という超上の力を行使する者達は居ました。最近突然発現した能力者とは間逆の存在ですわね」

白と黒。表と裏。魔術師と能力者とはそのような関係なのですわ、と白い少女は言葉を続ける。

「私達魔女狩りは、学園都市に潜んでいるこの魔術師を駆逐する組織なのです」

白い少女は、そこで言葉を一区切りした。一片に話すのではなく、少しずつ少年に染み込ませる形で話すつもりのようだ。
ここまでで質問はありませんか?と微笑みながら問う白い少女。
少年に疑問が無いようなら魔術師の分類について話し始めるだろう。
90 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/19(土) 21:42:09.27 ID:j6ProrYG0
>>89
「貴女のお眼鏡に叶う様で光栄だよ。
大抵の人はこの腕を見て悲鳴をあげてる」

彼の腕はあまりに異常だ
周囲の機械を吸収するその様子に誰もが恐怖していた
笑ってくれる人がいるのは────素直に嬉しい

そして────向かい合う様に、白と黒が相対して座る。

「魔女...? あの箒乗って杖を振る...ってイメージでいいのか?
そんな奴らがいると...この目で見るまで信じ難いが...」

白の言葉に顎に手を当てて思考する

流石に、「はい。そうですね」と鵜呑みには出来ない
だが、自分達という能力者という科学で研究している異能は存在している
ならば他の理論で他の方法で存在する異能があっても不思議では、ない
それが古来から伝わる魔女────魔法とかという概念なのだろうか

何より、白の目に僅かに篭る殺気が感じ取れる
冗談でもないのだろう────彼女は本気だ

「...一つ、何故駆逐する必要がある?
もし魔法という科学と反する新たな理論が存在するならこの街のお偉いさんは見逃さないだろう?
科学の発展を是とする人には、その魔女とやらは貴重なサンプルじゃないのか...?」

[ピーーー]理由が分からない。という
今まで非科学とも会う事なく、たった今世界の裏側に足を踏み入れた
事情も何も知らないのも仕方ないのだが────。
91 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/19(土) 21:49:49.02 ID:cvmZe3gq0
>>81
「やはりやはり。その濃密な魔力量、紛れもなく竜であろうよ」

彼は少女の姿を見、微笑を浮かべながら頷く。その笑みは、紛れもない純粋な、嬉々としたものに違いない。
だからこそ彼は思う。「この竜の力を試してみたい」と。「防護の魔力」は衰えたが、それでもその質は昔と何ら変わりはしない。

「フフ……歳寄りの頼み、というヤツよ。わしもかつてより衰えたが……竜の魔力であろうと、この身一つで受けてみせようッ!」

彼は、己の力を信じて豪語する。そして少女の未知なる力の前に心踊るように、やがてその場の空気が整えば。

「……女神アテーナーよ、我に祝福を」

己の胸のペンダントを握りしめる。そこに刻まれた魔法陣は、ただのアクセサリーではない事を強調する。
やがて魔法陣が光を帯び、ひときわ鮮烈にそれが輝いた時。

突如そこから、膨大な魔力が噴出した。
そのペンダントの正体は「触媒」。魔術師が魔力を魔法とする時、それを変換するための媒体。
輝きと共に、深い紫色の魔力が、彼の身体をみるみる内に包んで行く。
それは不確定な形から、徐々にはっきりと形あるものとなってゆき─────

やがて其処には、重厚な鎧を全身に纏う、紫の重騎士の姿が在った。
それはまさしく"要塞の騎士"たる姿に相応しい。それは今や途切れそうに弱いが、それでもその姿のどっしりとした重さは変わる事はなく。

その姿のまま、彼は竜たる少女に向けて、号令の合図をするだろう。

「さあ……来いッ!」

全力を放ってこいと激励するように。
彼は両手を大きく開き。その力を肌で感じ、また受け止めるための準備を完了させるだろう。
舞台は整った。竜はどのような力を見せてくれるのだろうか─────

彼の心中は今や、期待に染まるものであった。
92 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 22:07:15.22 ID:dxDrAzy20
>>90
「それでは、私達が魔術師を駆逐する理由を説明いたしましょう。
 そもそも科学と魔術は反発するものだというのも理由ですが一番の理由は別にあります」

白い少女は語り始める。微笑みに殺意を交えながら。

「今までの拷問の結果、魔術師は大きく分類して3つの派閥に分けられることが分かっています」

純白の少女は笑顔を崩さないまま詳しい説明を始める。
その笑みの裏にあるのは怒りなのだろうか。少女はピリピリするプレッシャーを放っていた。
まるでここに居ない魔術師に向け放つかのような物。

「一つ目の派閥カスパール。過激派――――能力者の存在を危険に思い、学園都市に潜入してきた者たちですね」

カスパール……その言葉を口にした瞬間純白の少女の殺意は増大する。
観察力に優れた少年なら、純白の少女がカスパールという存在について強い恨みを持っていることが分かったかもしれない。

「自分達が裏から世界を支配していると勘違いしているどうしようもないゴミですわ。
 学園都市の何の罪も無い人間を、彼らは簡単に殺す。
 魔術師全体にも言えることですが、彼らは自分が世界の中心に居ると勘違いしております。
 これが学園都市に居て、尚且つ放置されている。―――問題でしょう?」

それは能力者主義の魔女狩りにも言えることではないか。
冷静な人間ならそう反論できるかもしれない。
しかし純白の少女は、そう言った人間を許さないだろう。

「魔女狩りの人間には、カスパールの被害にあった者が多いですわ……
何もしていないのに、ただ会ったというだけで恋人が、親友が死んだ。殺された。これが許せることですか!」

バン、と白い少女は机を叩く。それでも少女は笑顔だ。
殺意を放ちながら微笑む白い少女の言葉は、説得力があった。
実際これは嘘偽りの無い本音の殺意だ。憎しみが憎しみを生むと知りつつも、少女はこれからも魔術師を殺し続けるだろう。

「確かにメルキオールという学園都市を観察する中立派、バルタザールという穏健派の魔術師はいます」

それでも魔術師の存在は許せない。

「それでも彼らは学園都市に、蔓延るカスパールを放置している。放置しながら私達に擦り寄ってくる。
 ―――自分達の派閥とは関係が無いから。そういうことなのでしょう。
 魔術師の問題は、魔術師が解決するべきです。過激派を無視して仲良くしようなどと、何とおこがましいことでしょうか」

笑顔を称えながら純白の少女は烈火のごとく怒っていた。

「私達魔女狩りが魔術師を殲滅する理由は、そういうことですわ」
93 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/19(土) 22:21:52.89 ID:pLY6AuPXO
>>88
倉庫の影、一人の白い髪の少年が、スマートフォンを片手に通話をしている。
少年の名は、天地煉夜。父親の命で学園都市の能力者を調査している、メルキオールの魔術師だ。通話の相手は、その父親。彼は、定期的に父親に報告を行っているのだ。盗聴の危険性などを考えて、人気の無い場所まで行かなければならないのが、少し面倒なのだが……

「ええ、依然変わりなく、能力者達を調査中です。はい……はい、ですが、能力者は危険だと思えます。方法を変えるべきでは……いえ、出過ぎた真似をすみません。」

少年は、思い悩むような表情で、通話相手である父親と会話をする。父親曰く、能力者を警戒するのは、まだ早いとのことだ。だが、煉夜は、これに納得いかなかった。能力者は、近い将来、魔術師の立場を脅かすのでは無いかと……
しかし、煉夜の意見は、聞き入れては貰えず。電話は、そのまま切られてしまった。

「……父上は、僕よりもずっと強い。だから、分からないんだ。奴等の危険性を……」

このままでは、いくら強い父とはいえ、足元を掬われる。そうなれば、天地家はおしまいだ。
自分の考えで行動するしかない。煉夜は、そう決意し、倉庫の影から表へと歩きだす。そこで……命を刈り取る死神の姿を目撃してしまう。

(なんだあれは……!?化け物……いや、まさか……)

未知の存在に恐怖を覚えるが、ふと思い出す。父親から、カスパールの死神の話を聞いたことを。そして、その存在に触れてはいけないと忠告されたことを。

(これ程の奴が動いていたとは……だが、彼が動けば、魔術師の未来は安泰か?……いや、父上の話では、魔術師界隈でも危険思想だとされている聞いたな。だが……)

接触するべきか?
そう考える暇は無かった。強大な力に惹かれるかのように、煉夜の足は自然に前へと進んでいた。

「メルキオールの天地煉夜です。貴方を、名の有る魔術師とお見受けし、声をお掛けしました。」

手足が僅かに震える。だが……声をかけずには、いられなかった。
94 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/19(土) 22:45:51.82 ID:j6ProrYG0
>>92
彼女の激昂に、その闇の底を見た気がした
笑顔で塗り潰されながらも滲み出るその怒りが、憎しみが彼女のありのままの姿なのだろう
彼女は恐らく魔術師に親しい人間を殺された

親か...兄弟姉妹、友人か。それとも────。

それ以上の想像はしなかった
乾は彼女の怒りと悲しみをただ黙って聞く

「つまり、カスパールっていう過激派が俺たちを殺しにくる。と」

能力者を狙い、根絶やしにするカスパールという連中に対抗するために戦う
───分かる。自らを守る為にもその闘争は当然の結果だろう

────だが

「白さん。カスパールを[ピーーー]為にカスパールを[ピーーー]なら分かる
だが、それじゃあメルキオールとバルタザールを狩る理由にならないんじゃないか」

それが、その一言が彼女の感情に更に火をつけると覚悟して問う
直接の仇ではない彼らの命を奪う理由には到底足りないと、乾は言ったのだ
それは彼が魔術師も何も知らないのだから言えるセリフ
きっとこの組織内で思考してはならない禁忌の問いなのかもしれない

「"ただ、そこに居るから"....それじゃあ、無関係な人を殺したカスパールと同じ理屈だ。
白さん。俺は貴女を構成しているモノが、見えた
次は、そんな貴女が辿り着く未来が見たい。その為に、貴女の為に魔女狩りだってします

だからこそ何度だって問います
──────貴女の行く道とカスパールの違いとは何ですか? 」

そう緑眼が問い掛ける。その問いが彼女にどう突き刺さるだろうか
その乾の表情は、どう映るだろうか
怒り、哀しみでもない────。

乾は白の熱さとは対極の冷たさで、ただ冷淡に言葉を紡いでいた
95 :カタチ ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/03/19(土) 22:53:57.30 ID:HIXnoDCAO
>>93
漆黒のシルクハットの下から覗くソレは僅かに風化しかけている鳥の頭蓋骨。
目の部分には洞洞とした闇が奥深くまで続く。
そこに明確な意思は見えず、夜闇の虚ろに揺らぐ魔物の頭蓋から感じ取れるモノがあるとすれば、恐らくそれは『空虚』の一言に終始するだろう。
頭蓋は微動だにせず、夜の寒風が吹き抜けるだけであるが、その声は確かに彼から響いてきた。


『────月が綺麗ですね。
この様な夜は”死”を授ける事に向いている。』

問い掛けを無視する様に響いてくるその言葉を受けて夜空を見上げても、
そこにあるのは雲の合間を縫って、数秒に一度下弦の月が覗く位のものである。
日本の”風情ある”という観点から見れば、それはお世辞にも綺麗とは言えないものだ。
むしろ、チラりと覗く下弦の月が何処か『せせら笑い』の様で、気味の悪さを覚えるかも知れない。


『─────メルキオール、中立派。
ええ、知っていますとも。
同じ魔術師でありながら、私達カスパール思想とは紙一重に違う道を進む思想派のことでありましょう?』

途切れ途切れに紡がれる言葉は、低く淀んだ声によって伝わってくる。
無論、この言葉の主の頭部である鳥の頭蓋骨は依然として微動だにしない。変化があったとすれば、掛けられた声に反応してゆっくりと彼が天地の方を振り返ったという事くらいだろうか。
彼は天地の方を空虚なる闇で見据えている。言葉の調子も、どこかしら彼に興味を抱いている様な、それでいて何か探っている様な口ぶりだった。

『名乗られれば、名乗るのが道理。
───私は”カタチ”。
”知っての通り”、過激派思想カスパールに属する魔術師の1人にございます。』

”知っての通り”と彼が言ったのは、別に彼が自己陶酔しているというわけではない。
こういう類を何度も見てきたから。
『魔術師』を名乗る少年の手指の震えは自らの存在を知っているからに間違いない。人はそれを”畏怖”と呼ぶ。
さらに”カタチ”を名乗る魔物の言葉は続く。


『思想派の違う貴方様が、この私めに何の御用でしょうか。
無銘と言われれば嘘にはなりますが、まさかそんな事の有無が私めへの接触の理由の全て、という訳ではないでしょう?』

夜空から下弦の月が覗いた頃、彼はさらに次の様に言葉を付け足して天地の反応を待つことにした。

『”なるべく、穏健に済ませたいものです。”』
96 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/19(土) 22:55:11.18 ID:CYuGewsy0
>>91

「かかっ、まだ年寄りなどという年でも無かろうて」

確かに少女にとってはそうなのだろう。年などとうに忘れてしまった、幾星霜を生きてきたその身としては。
そして今まででこんなことを言う人間には初めて逢った。自分の正体を認知し、その強大さを知りながら尚こんなことを言ってくるのは。こんなもの、興味が湧かないはずがない。

強烈な光が辺りを覆う。そのあまりの眩さに思わず目を細め、しかしその深い紫の魔翌力はしっかりと感じ取る。衰えながらも、しかししっかりとした強さを持つその魔翌力は男の身体を包んでいく。

「ほう…これは……」

そしてそこに現れたのは紫の重騎士だった。先ほどまでとは全く違う。か細いながらもその奥にある強さ、逞しさはまさに"要塞の騎士"を名乗るのに相応しい。
これこそまさに噂に聞いた姿そのもの。カスパールの老兵だ。

「これに応えなければ不遜というもの、儂の全力で応えて見せようぞッッ!!!」

応えよう。示そう。それがこの男に対する礼儀というもの。
彼女の中心に魔翌力が集まる。あまりにも密なそれは、内側から少女の身体を灼いてしまいかねないほど。しかしだからこそそれがこの少女の次の一撃の威力を指し示している。
大きく息を吸い、男を見据える。男をも消すつもりでこれを放つ。圧倒的な力で捻じ伏せる―――!!!

「竜種最大の力をお見せしよう――――!!」

そして放たれる。超高熱、爆炎の如しその息吹が。それは一直線に、目前のものを滅却しただ真っ直ぐに男へと迫っていく!!!
97 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/19(土) 23:18:25.00 ID:dxDrAzy20
>>94
「違い、ですか―――――」

純白の少女の怒りが、緑眼の少年に叩きつけられる。
嗚呼、やはり。この少年は鋭すぎる。
魔術師全員を、カスパールということにしておけばよかった。
白い少女は、そう後悔する。どうしてこんな失敗をしてしまったのだろうか。
私らしくもない、他の人間なら口八百で騙せた。これからも騙せない人間など居ないと思っていた。
そう、私らしくもない。嘘をつかずに、愚直に話してしまった。

「私は……」

純白の少女は、俯いてしまった。
眼前の緑眼の少年はどこまでも愚直だった。まるで死んだ幼馴染のように。
純白の少女は、過去を思い出す。

――――――――――――――――――

『どうして虐めをしたんだ?』

「愉しいからですわ。それ以外の理由はありません。
 まさかその程度の事で私のことが嫌いになるのですか?」

『嫌いにはなれねえな、俺は白のことがずっと好きだ。お前の本当の笑顔が頭から離れん
 ……ただ、白がそういうことをしてるってのは、何か嫌だ』

――――――――――――――――――

なんか、嫌だ。それだけの、理屈にもなっていない愚直な言葉で純白の少女は虐めを止めた。
幼馴染は純白の少女が虐めをしていると知っていても、好きだと言ってくれた。
眼前の緑眼の少年は、人殺しをしてでも私のことを止めようと思ってくれている。
重なる。重なってしまう。幼馴染は死んだのだ、もう居ない。もう居ないのだ。

「カスパールと私の違いなんて、違いなんて――――――」

純白の少女は立ち上がると、机を蹴飛ばして眼前の少年に走り出す。

「ないわよ!」

黒い拳で、腕を振り上げ少年に向かって突き出そうとする白い少女。
純白の少女は殺意を放出し。
いつもと同じように微笑みながら。
ぽろぽろと涙を流していた。
98 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/19(土) 23:19:47.95 ID:pLY6AuPXO
>>95
(カタチ……やはり、父上の言っていた……)

やはり、父の言っていた危険な魔術師のことだったか。
煉夜は、今更ながら何故こんな危険な人物に声を掛けてしまったのだろうと後悔する。
何故?父上の、メルキオールの、やり方に納得出来ないから?だとしても、このような男に声を掛けるなど短絡的過ぎたか?

「争うつもりなど、毛頭ございません。天地家は、メルキオールに所属しますが、メルキオールの思想を持つのは、父のみ。僕自身は、未だ天地家の思想が正しいのか見極めすら出来ていない現状です。」

故に、争うつもりは無いと話す。事実、こんな強大な相手と争うつもりなど、一切無い。能力者がどうなろうと、煉夜には知ったことではないし、仮に争った場合、無事帰れる気がしない。自身の実力が分からない程、煉夜は愚かではないのだ。
それが原因で、彼は父親のやり方に不安を覚えているのだが。とは言え、父親や天地家への敬意が無い訳ではない。むしろ、強い敬意を抱いている。それを誇りに思っている。だからこそ、それを守るためには、今のやり方では駄目なのではないかと、考えたのだ。

「ですから、貴方の魔術師としての誇りを聞かせて欲しい。魔術師としての、心情を教えて欲しいのです。……貴方にとって、魔術師とは何なのですか?」

そして、煉夜はカタチに声を掛けた理由を話し、問う。内心、期待している答えは返って来ないだろうと思いながらも……
99 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/19(土) 23:55:12.13 ID:j6ProrYG0
>>97
「────────。」

蹴り飛ばされた机に一瞬身を潜める
1秒足らず、乾の身体は白の視界から隠れる

そうだ。それでいい────陽愛 白。
君の怒りは当然だろう。その憎しみは君が人である証だ
その感情は否定しない
だから気付いて欲しかった。
君の歪みは、他者を歪ませ終わらない連鎖を生み出すという事を────。

吹き飛ぶ机で一瞬隠れた乾の身体が再び姿を現せば
その右腕に先ほど見せた掘削用のドリル、その黒い金属の杭を具現させていた────。
その杭で彼女のその拳を食い止める────!

「ッッッ!!!! ────アアアッ!!!」

バキィッ!!という嫌な音が響いた
白の拳を受け止めた右腕の杭が砕ける
そして、乾の身体は宙に浮き────後方の壁に叩き付けられた
バァン!!という大きな音が響いて乾は床に転がった

「っ...ハァ...ッ...このまま、じゃあ...貴女は...貴女自身に、殺され...る
怒りを抱いた...カスパールだけじゃない...中立も穏健も関係ない!
その世界に住むにいる貴女に! 同じ境遇の人達に! 殺されるんだ...!!」

激痛が全身を駆け巡るだろうに、乾のセリフは途切れない
起き上がろうとするも、倒れる
だが動けない体で、その眼で白の目を見ている

涙を流す────その瞳を

「貴女が死んだら────きっと俺も、そいつを...[ピーーー]!
救われない────誰も、貴女も...貴女が大切にしたかった人も!! 救われない!」

どんなに笑顔になっても、どんな仮面をかぶっても
その流した涙の温かさに心は宿っている────。

涙を流せる...そんな当たり前の心が宿っているのなら──────。
100 :カタチ ◆BDEJby.ma2 :2016/03/20(日) 00:05:36.28 ID:l3vz6oP6O
>>98
永く魔術師として動いてきたカタチには、先程から何処か頭の奥に引っかかる事があった。
頭蓋の闇が天地の全身を嬲るように観察していく。
当然の如く、彼の頭蓋には目玉などと言う視線を感じさせる目印になるものは存在しないため、自分が観察されているとは余程の洞察力がなければ天地も気づくまい。
ただ、全身に纏わりつくような単純なる気味の悪さであれば、むしろ感じとることは容易かも知れない。
カタチが抱いていた記憶の違和感は、次の天地の言葉によって紐解かれる事となる。

『─────ほう、天地…………成る程。
これは失礼。…先程から私の頭にひっかかることがあったのですよ。
中立派メルキオールの天地家。西洋の魔術師たる私といえどその名は記憶にありますとも。

つまり…………貴方様は現当主……否、天地の銘を継ぐ者にして、その在り方に疑問を持っておられると。』

天地家は魔術の界隈において、特にメルキオールを代表する魔術の家系としても名高い。西洋を主に活動拠点としていた”カタチ”ですらも、名前くらいは耳にしたことがあった。
”カタチ”は西洋の魔術師で、天地が畏怖するように世界でも指折りの実力者でありながら、特に由緒正しき…なんて有名な一族の生まれではない。
この観点では、今現在邂逅しているこの2人は真逆の境遇に置かれているとも言える。
故に”カタチ”にとって天地が抱くような一族への不信なども理解しがたい。先代への敬意?一族の総意?そんな事は孤独な自分にとっては知った事ではない。

続けざまに天地から投げかけられた問いかけは、僅かだが魔物の首を動かすに値した。───魔術師としての誇りを教えて欲しい。
一族を担う天地にとって、強大な魔術師たる”カタチ”のソレを訊く事は重要だ。
しかし、───天地はそれを訊いてはならなかったのかも知れない。それは何故か。



『…………”魔術師”の誇りですか?………ふむ。
天地様、その質問は多分貴方様にとって、私めにはしてはならない質問の筈です。』

……考えてみれば簡単な事だったはずだ。
天地がその眼に焼き付けた血の海に、魔術師としての『誇り』なんてものは存在しうるか?
その残忍なる犯行に、天地が感じ取るような。教訓として得られるような『誇り』は有るのか?

『………天地様。どうも貴方様は私めの事を少し誤解なさっているのかも知れません。』

その答えは、紛れもなく明らかな”否”。
破戒の時は刻一刻と秒針を進めている。


『魔術師である前に』

彼は。

『私は───────、』

自らの肉体を失ってまで、己の道を突き進んだ”カタチ”と呼ばれる化物の本質は。

夜空を見上げると雲は消え失せ、残るは不気味な程に黄色く色づいた下弦の月だけだった。
そしてその下には。これまで見た事もないほどに気色の悪い笑みを浮かべた鳥の頭蓋骨があった。
その先を、言わせてはならない。

”この様な夜は、死を授ける事に向いている。”


『──────────死神なのだから。』

一瞬にして、目の前の怪物の魔翌力が跳ね上がった事を天地は感じ取れるだろうか。
Rank.A。そしてその中でも最高クラスと呼ばれる闇の使い手が────”死”が、天地を名乗る少年へと迫る。
その様はいかにも、突然に訪れる死神を表していた。
101 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/20(日) 00:12:26.42 ID:Cq2HerNl0
>>96
─────来る。収束する魔力は今にも爆発しそうに、目の前の少女の前で形を作る。
3秒、いや4秒か。圧倒的な熱が辺りを包み込み、彼は肌でそれを感じる。
防護のお陰でダメージは防ぐが、それでもその場に漂う熱気は、肌を焼け焦がすかと思うほどに熱く。

さあ、来い────竜よ。我に新たなる智慧を与えてくれ。
そう願いながら彼は、アテーナーの印───昔から変わらぬ、「イージスの守護象徴」を、祈るように握りしめた。


爆炎。轟音が響き渡る。
その莫大な、太陽のごとき光は───かつて見た、どのような炎の魔術よりも雄大で明るく、鮮烈な魔力を含んでいて。
その膨大たるやを認識する以前に────彼の鎧に、その爆炎が到達していた。

「ぬ─────うぉおおおおおおおっ!!」

重圧、爆発。それは正しく大砲のような衝撃だった。
この鎧は、外部ダメージや衝撃を無効化するもの───しかしそれでもなお彼の肉体には、ビリビリと大きな、何か超越的な力が襲いかかり。

ついに男は、後方へ吹き飛ばされる。
鎧姿のままコンクリート壁に打ち付けられ、爆風の煙が辺りに漂い、枯れ木が燃え盛る中で、彼は地面にへたり込んだ。

─────茫然自失としていたのか。時間が経ち、男の魔力をつなぎとめる物が消失してゆく。消えかかる魔力は、男の衰えを示しており。
やがて紫の魔力が四散し、彼の本来の姿がその奥から現れれば、彼はハッと我に帰ったように、ゆっくりと立ち上がった。

足が震える。それは衰えではなく、超越的な力を体感したことへの興奮だろうか。
彼は全身に噴き出す汗を拭うように、額に腕を擦らせれば、ようやくこう発言するだろう

「─────流石は「竜」。人の形をしていたとて、誰がおぬしを偽物と嘲ろうか」
「感謝しよう、竜の娘よ────おぬしに会えたことを」

彼は感慨深そうな口調で、恍惚とした風に言葉を発する。大いにその力を認め、それに対して感動をあらわにした。
全てを受け止め、防御する。「要塞の騎士」ならではの、力の測り方と言うのだろうか。
その経験に、この歳でなお新鮮なものを味わうとは思わなかった。……この出会いは奇跡であったのだろうか、と考えつつ。

彼は先程から、少女のことを"竜"としてしか呼んでいない事に気が付いた。

「そうだな……いつまでも「竜」では他人行儀よ。おぬし、名はあるのか?」

竜が自我を持っているとして、果たして自分に名前をつけるのか。それは疑問なところであるが……
しかし彼はそれでも、名を知りたがる。眼前の竜を、ただ竜としてではなく。個人として、自らの意識の中に置いておきたいという思いだろうか。

「わしの名は……ヴァシーリー・マーカス。今や要塞の騎士などではない、ただの老いぼれだが……」
「それでもわしは、今でもこうして[組織]の為に尽くしておる」

自分から名乗るのは、そういった流儀の問題だ。それは同時に、相手に自然に名乗らせようという誘導の意味もあったが……
少女は果たして、名乗ってくれるだろうか。


102 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/20(日) 00:26:13.69 ID:I3oRB1TjO
>>100
心臓の鼓動が早まる。自分から質問したと言うのに、その答えに耳を塞ぎたくなった。
なんだ……何故だ……僕は、聞いてはいけない事を口にしてしまったのか?
納得のいく答えなど、返ってくるとは思っていない。嫌悪感を抱くような答えも想定していた。だが……

「死神……」

これ程まで恐怖を伴うとは、思っていなかった。
あまりの恐怖に、まるで蛇に睨まれた蛙のように硬直する煉夜。

(この僕が……恐怖で動けないだとっ!?)

自身が臆病者だと思ったことはある。だが、今までの恐怖は乗り越えられるものだった。しかし、今回は違う。絶対に乗り越えることが出来ない、そう思わせる死神の恐怖だった。
だが、煉夜が特別臆病者だという訳ではない。カタチに恐怖するのは、生物として当たり前だろうからだ。死神、即ち死への恐怖は、生きているのなら誰にでも訪れる、避けようの無い恐怖なのだから。
103 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/20(日) 00:29:48.45 ID:/0Da7DJG0
>>99
「煩いですわ……能力者になったところで、私と同格にはなれません!
 庶民は庶民のままなのですわ!金持ちの私の格には及びません」

笑顔の仮面を被って涙を流しながら、白い少女は緑眼の少年に止めをさすために歩き出す。
私と幼馴染は格が違う。それもずっと純白の少女が感じていたことだ。
釣り合わない。私のような選ばれし人間と貧乏な庶民なんて。そう思っていた。

本当は、分かっていたのだ。認めたくなかっただけで。

――――あの幼馴染は、虐めを愉しむ、他人の不幸を蜜の味とするような私とは釣り合わない。

ずっとその気持ちは分かっていた。
傲慢な態度で告白を断り続けてきた。

目の前の緑眼の少年もそうだ。私と釣り合っていない。
私と言う人間と釣り合う人間など居るはずもない。

止めをさそうと拳を今一度振り上げた時、緑眼の少年と眼が合った。少年の必死な言葉が耳に入る。

純白の少女は、ずっと自分がどうして魔女狩りに入ったのか分からなかった。
一度入ってしまうと抜けられない、破滅しか残らない。弱肉強食を掲げる純白の少女が好まないはずの組織。
他に人を甚振る方法なんて、いくらでもあるにも関わらず、危険な組織に入っていた理由が分かってしまった。

「そうですわね……私はきっと、死にたかったのでしょう」

弱者を苛めたかっただけではない。
白い少女は憎しみの連鎖に囚われたかった。
さっさと、死にたかった。恨まれたかった。カスパールの魔術師に惨殺されたかった。
さっさと幼馴染の下へと行きたかった。それだけだった。

純白の少女は、緑眼の少年を殺すことを止める。
何故かと言うなら、そう。

―――――何となく、だった。

「逃げなさい、今ならまだ間に合うかもしれませんわ。これは命令です、私を置いてこの組織から逃げなさい!」 

白い少女は、緑眼の少年に手を差し伸べる。
幼馴染以外の手を握っても良いと思えたのは、初めてだった。
104 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/20(日) 00:47:09.59 ID:51z0tHVK0
>>101

――――終わった。轟音の後には静けさが辺りを包んだ。
少女は暫く起こった出来事を眺め、やがて意識の覚醒と共に男の無事を確認する。

男は完全に防ぎきることはできなかった。だがこの歳で、ただでさえ衰えているであろうその魔翌力で自身の身は防ぎきった。波の魔術師ならば消し炭であろうあれを防いだのだ。
やはり"要塞の騎士"というのは伊達では無いらしい。

その事実に感服していると男は立ち上がり、やっと口を開いた。それは少女に対する賞賛と感謝だった。
最近は人と接することさえ少なくなっていた少女にとって、これはいつ振りのものだろうか。それに応えるように少女も口を開く。

「こちらこそ恐れ入ったぞ、あれは竜種が繰り出す最上級の技。
儂のような型落ちであっても威力は絶大だと自負しておる。それを防ぎおるとはな」
「それはこちらの台詞じゃ、この導きに感謝を」

少女は自分の技を防がれたというのにヤケに満足げな顔をしていた。
それもそのはず、全力を出したのは久方ぶり、それがこんなに素晴らしい相手とならば何の不満があろうか。

と、そこで未だ名を名乗っていないことに漸く気付いた。

「名、か……ふむ、まぁお主にならいいだろう。
儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼじゃ、ソレスで構わん」
「それとこの身体は生まれつきじゃ。これくらいか、名前とこの体質しか特に言うことは無いのう。まったく空虚なものよ」

憶えているのは名前とこの力だけ。この名前が本当に自分の名であるかも確認することはできない。
しかしもうそんなことを気にしていても仕方が無い。今はただ前を向くだけだ。

「ふむ…よし。その名前、しかと刻み込んだ」

そう言って少女は男へと手を伸ばす。握手――だろうか。小さいながらも未だ鱗に覆われたその手で、少女はニコリと笑うのだった。
105 :カタチ ◆BDEJby.ma2 :2016/03/20(日) 01:06:55.08 ID:l3vz6oP6O
>>102
『─────そう、”死神”。
貴方様は興味本意で私めに話しかけたようですが、それは過ちでした。』

”カタチ”という生物は残念ながら”慈悲”をその心に宿してはいなかった。
しかし、その”慈悲”という概念が彼のうちに存在していないが故に、彼は『死神』としての魔術適性を天啓として授かってしまった。
勿論、それは”カタチ”という『人間』が自身の魔術で再現できうる限りの『死神』であり、原典とはかけ離れた偶像の産物であるが。

『”死神”とは誰に対しても等しく存在意義を与え、
そして誰に対しても等しく、その存在を永久のものとして保存する者。
死んでしまえば、その存在は後に誰からも干渉されて汚される事も無く、ありのままの平安を謳歌する事ができるのです。』

『天地様の仰られた”誇り”に準えて言うならば。
その”死を授けること”こそ私めの誇り。
他人に”死”という永久平和の施しができる。……ああ!これ以上の誇りがありましょうか!』

実際のところ、その生物は狂っている。
そのことは死神としての彼ではなく、生物としての彼を見る事ができる冷静な判断力が、今の天地に残っていれば理解できるだろう。
”死は等しく誰に対しても分配される。”
そしてこれは天地 煉夜にとっても例外ではない。魔術師という同胞の立場にはある。
しかし、それ以前に目の前の怪物は『死神』だった。


『天地様、しかし貴方様にはその身体がございましょう。』

その存在に畏怖し、恐怖し。その場に硬直した天地の心情を舐め回す様にしてその言葉は空に響く。

『”必死”にもがくべきではありませんか。

そこに立ち竦むべきでないでしょう?
私という死を打ち負かすべきでしょう?』

生を喰らうその生物は、気色の悪い笑みを保ちつつ言葉を響かせてくる。
味方ではないのは確実だ。だが、その生物は天地を励ます様に言葉を投げかけていく。何故か。

『でなければ───────、

その答えもまた、単純明快なものだった。
カタチは自身の手を虚空へと翳した。彼の周りに沈んだ死骸達の、骨のみが宙に浮き上がる。





───────オマエハキエテナクナルゾ?』

次の瞬間、血に濡れた骨達が勢いよく天地へと投射された。
鋭く尖ったものから、丸みを帯びた様なものまで、凶器となって天地の元へと────迫る。
────動け、戦え。夜空に嗤う下弦の月は、心なしか天地にそう訴えかけている様にも見える。

106 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage]:2016/03/20(日) 01:23:32.74 ID:Cq2HerNl0
>>104
「ソレスか……フハハ、竜にしては、愛い名前をしておるわい」

竜の娘、と言うからには……人間に発音が出来ないとか、長く大仰な名前だとか、そもそも名前が存在しないとか……
未知に対して様々な想起を巡らせるのもつかの間、少女が発した言葉は予想外にも人間らしく。

竜でありながら、しかし人間としての在り方に近いのだろうか。浮世だった動機ではあるものの、通常通りに世になじめている所から、彼は冗談まじりにそんなことを考える。

差し出された手に、彼もまた迷わず握手を返す。
その手は大きくゴツゴツとしていて、それでいて何重にも皺が刻まれたもの。
歳を重ねて衰えた、しかし温かな人間の手がそこにあった。

「わしはまだ此処におる。またいずれ、会う事もあるだろう」

やがて頃合いも良くなれば、彼は腕の時計を覗き見る。
それが不調も起こしていないのは、彼の魔術の質は、未だ健在である事を示していて。
しかしその中に刻まれた時間を見て、彼は少し驚いた。

「おお、もうこんな時間ではないか!つい、話し込んでしまったらしいな」

新鮮で楽しい事の中に在ると、時間が経つのは早いという体験は、誰しもがする事だ。
そういった経験を久しくしていなかった彼は、それに対して少し嬉しそうに反応しつつ。
同時に夜遅くなってしまった事を案じながら、彼の中にひとつ、妙な不安がよぎった。

「そういえば……ソレスよ。おぬし、暮らす場所はあるのか?」

興味を持って学園都市に来る、そこまではいい。
だが学園都市という場所で過ごす以上、定住の地とはどうしても必要になって来る。
不意を突かれて襲われたとしても、彼女なら軽く焼き払えると実感はしていたが……やはり気にはなるものだ。
竜種の生態が分からないため、余り強い事は言えないのだが……それはそれ。

すぐに人への心配ごとが湧いてくるのは、老いて物事を憂うがゆえか。
彼は自分の中に抱く感情に対し、少しばかり思案を巡らせて。やがて、「それもよい」と、悟るように己を認めた。

//度々申し訳ない……もう一度凍結、よろしいでしょうか?遅レスですみません!
107 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/20(日) 01:33:01.18 ID:51z0tHVK0
>>106
//了解しました、全然お構いなく!!
108 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/20(日) 01:33:31.20 ID:I3oRB1TjO
>>105
「…………」

狂人、いや、狂神とでも言うべきその力を目の当たりにし、煉夜は動くことが出来なかった。死に打ち勝つなど、不可能。目の前の魔術師は、もはや死そのものに等しく思え、勝つといったことは思い浮かば無かった。

(くっ……動け……動くんだ僕の体……)

しかし、生を諦めた訳では無い。体は動かなくとも、必死に抗おうと意思を込める。その気持ちが通じたのだろう。煉夜の腕が、前へと動き――

「動けぇっ!!」

腕に巻かれた鎖が伸び、煉夜の周囲の骨を叩き落とした。

「はぁっ……はあっ……」

しかし、追撃までは出来なかった。何故だろうか?一時的とは言え、恐怖に抗えた筈なのに……
答えは、単純な力不足だ。今の一撃に集中し過ぎた為、魔翌力を使いすぎたのだ。
109 :カタチ ◆BDEJby.ma2 :2016/03/20(日) 02:04:15.53 ID:l3vz6oP6O
>>108
『……………………おや…これは……?』

鳥の頭蓋骨を頭部とするその魔術師は、目の前の光景に少し驚く様子を見せた。
───完全に”恐怖”という拘束器具で磔にしていたとばかり思っていたが。
大抵の人間はここで、硬直したままその生を終えるか、死神に何が何でも許しを請う。
その意味合いでは、カタチはこの天地 煉夜という少年を無意識に侮っていたのかも知れない。

彼の心情も、これまでに珍しいタイプのものだった。
死という圧倒的な存在を前に絶望をしながらも、それでいて生きる事に希望を見出している。
いわば、生の可能性と死の可能性のどちらもを受容しているかの様に見えた。

『……………………………。』

───ここで死を与えるには少し惜しい人材ではないか?…と、カタチの中の好奇心が自身の攻撃の手を止めさせる。
天地 煉夜は先程、中立派の思想に対して不安を抱いているのだと中立派の立場に属しながらも語った。
──だから、少しの間試してみよう。

『────天地様、ご安心ください。
私がここで貴方様に死を授ける事はありません。』

『私は先程、自らの誇りを申し上げました。
それが貴方様の目指す魔術師に通じようが通じまいが、少しお聞かせ願いたいのです。

──貴方様が、これから何をしたいのか。
これから、天地というブランドをどの様に背負うおつもりなのかを。』


110 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/20(日) 02:23:54.88 ID:I3oRB1TjO
>>109
「…………」

殺されないと分かり、ほっとしている自分に嫌気が差す。天地の名を継ぐ者として、恥ずべき行為だ。とは言え、助かったのは事実だ。それよりも……

「僕は……」

自分でも、具体的にどうしたいとか、考えたことが無かった。ただ、がむしゃらに、その名を汚さぬようと必死だったからだ。
だが、いずれはきちんと決断しなければならない。それは、今。その決断の時が、来たのだ。

「僕は、天地の名を、高めたい。受け継いだこの名を、魔術師としての誇りを知らしめたい。そして、魔術師こそが、世界において正しい存在だと証明したい。」

そうだ、能力者という紛い物に負けないよう、魔術師という存在の正しさを知らしめるんだ。だからこそ、僕は今、学園都市に潜入しているんだ。
煉夜は、決断をした。その答えは、能力者を敵視するものであった。
111 :カタチ ◆BDEJby.ma2 :2016/03/20(日) 02:49:35.83 ID:l3vz6oP6O
>>110
『───成る程。』

理解こそ出来ないが、その願いの真意は汲み取れた。
由緒ある一族に生まれながらには繁栄させたいと思うのが、やはりその一族の末裔である宿命なのか。
──ありふれた願いではあるが、面白い。
天地 煉夜を生かしておく事に利益はないが、自身の死神としての活動に、少しくらいお遊びがあるのも良いのではいか。
この少年がどの様にその道を進むのか。そしてその道をどの様にして終わるのか。──つまり、死神たる自分との二度目の遭遇をするのは何時なのか。

天地を見逃して生かす、というのは語弊がある。
正解は『希望を抱いたところを喰らう』こと、だろうか。
実際のところ、やはり彼には慈悲の心は存在しなかった。
だがそれでも、天地が救われたことには間違いない。



『ならば私めは一度消えましょう。

希望が膨らんでから”死”を授けるのもまた僥倖。
──勘違いはしてはなりません。”死”とは生と隣り合わせの概念。”生きているから”から”死んでいない”とは必ずしも結びつきません。

では次に私と遭遇したときこそ、貴方様に死を授けるとしましょう。

ですからそれまで────どうか良い余生を。』


怪物の姿が消失する。闇に溶け込む。
最後にその死神は”再会”の可能性を孕んだ言葉とともに、消えていった。

//すみません…強引ですがこれにてしめさせてください!お疲れ様でした!
112 :天地 煉夜 ◆Z9z/nC.5ro [sage]:2016/03/20(日) 03:03:08.39 ID:I3oRB1TjO
>>111
死とは隣り合わせ、魔術師として生きている煉夜にとって、良く分かる言葉ではあった。魔術師をやっていれば、嫌でもそれは分かってしまう。だが、それをここまで強く実感したのは、初めてだった。

「次に、か……」

そして……次に遭遇した時。その言葉を耳にし、背筋を冷やした。
出来れば、そんな瞬間は訪れないで欲しいと願う。それこそ、本当に最後になってしまうと思えたからだ。

だが、その願いが叶うか、それとも再び死神と相見えてしまうかは、まだ誰にも分からない……

/お疲れさまでしたー

113 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/20(日) 05:23:07.08 ID:CJSbtMlL0
>>103
ここで死ぬんじゃないのかと覚悟していた
白の怒りに飲まれて、彼女の至極当然の暴力になす術なく蹂躙されると思ってた
でも、彼女の涙を見て────。

「ふふっ、確かにお金持ちの貴女とは釣り合えませんね...」

それでも────互いに歩み寄れる
立場は違うが、それでも互いに理解しようとする事は出来る
少なくとも、彼女の流した涙はその結果だろうご乾は笑っていた


「──────俺は、貴女の大切な人に会ったことはありません
どんな事を言う人で、どんな考え方かも知りませんが...これだけは断言できます

その人はそれだけは、絶対に望んでいません。」

白が、己の命すら犠牲にしても会いに行きたいと願い
そんな彼女をずっと大切にしてきた"その人"
見たことも、話した事もないだろうが────。

絶対に言える。その人は白の死なんて望んでいない
後を追うように死を選ぶなんて、絶対に


「白さん。俺は貴女がこれからどうやって生きていくのか見たいって────言いましたよね...
貴女を置いて...貴女だけを置いて逃げるなんて...絶対に嫌ですよ。

それに、いてて...貴女のパンチ強烈で身体が痛くて痛くて...」

ゆっくりと起き上がって、壁にもたれかかるように座る
動くたびに身体に激痛が走っていて、笑いながらも喋るのが精一杯だ

差し出された細い手を握って、何とか立ち上がる
その手は────その幼馴染とはやはり違う感触だろう
だが、その温かさは────きっと


「その...こういうセリフって言うの恥ずかしいのだけど...
俺は、貴女を助けたい。涙を流す心がある貴女を────死なせたくない。」

彼女にこの闇は似合わない
たとえ、闇から引き摺り出せなくても
ならば共にその闇に堕ちると────白の命令を無視した。
114 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/20(日) 15:38:51.13 ID:51z0tHVK0
>>106

「う、愛いなどと言うでないっ!そりゃあ儂とて一応人として生きておるのだ、名前が無ければそも今の社会暮らしていけないじゃろう」

少し怒っているような、しかし満更でもない様子。今までで名を名乗ることなど殆ど無かった。それ故に名前を褒められるということに慣れていないことからの反応だろう。
中々に人間らしい彼女の部分の一つ。日頃見られない秘密と言っても良いのだろうか。だとすればまだまだ彼女も可愛らしい"少女"だということだろう。そう思うと彼女の大人びた言動も強がりの一部のようにも感じられてくる。

男が握手に応じると、その年季の入った手の感触が少女に伝わる。その大きな手から感じる温かさを感じて、その手の感触をしっかりと記憶した。

「あぁ、儂もしばらくは此処に居座ることにしておる。どうやらこの地は不思議な出逢いを巡らせてくれるらしいからのう」

そうして男が言うのに気づけば、確かに時間はかなり過ぎていた。出逢ってからこれだけの時が過ぎていたとは、人の体感時間というものは相変わらず不便なものだ。

と、ふと住処のことについて聞かれ、そういえばと思い出す。思えばこうして人の大勢居る場所で過ごすというのは中々無いことだった。
今まではずっと一人で暮らしてこれていたし、文明の力を借りずとも己の力だけでどうにか出来た。しかしここで時を過ごすというのであれば最低でも知識と住まいが必要だ。だが今の自分ではどうしようも無いこと。

「……ま、まぁ無くともなんとかなるじゃろう!人間やる気が大事じゃ!!」

そうだ。今までそれでなんとかしてきた。だからきっと今回もなんとかなるだろう。
一抹の不安を掻き消しながら、少女はそんな根拠の無い自信を浮かべるのだった。
115 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/20(日) 16:56:22.16 ID:Cq2HerNl0
>>114
「カカカ、何……名前というのはおぬしと共にあるものよ。まあ、大事にするがよい」

彼はそんな少女の様子を見て、少しからかうように言う。
彼女は確かに竜であり、強力な力を有している。しかし人としての彼女は、未だ少女らしさを残している、という事か。
少女の正体を理解し、しっかりと認識した今。彼は少女と、人間同士として接する事が出来ていたのだろう。

彼は少女の、住居に関する不安げな返事を聞き、少し訝しそうに見つめる。

「まあ……二進も三進もいかなくなる事があれば、わしの家にでも来るがいい……」

彼は一応に、自らの家の所在を伝えておく。
それは彼が、少女を人間として見れつつあるからの事。どことなく少女の姿を、自らの娘と重ねたような節もあったのかもしれない。
人として信頼を寄せられる存在になったからこそ、彼はこう提案したのだろう。……犯罪には抵触しない筈だと、自分で自分を言い聞かせながら。

「……ではさらばだ、ソレスよ。また会える事を楽しみにしているとしよう……!」

やがて彼は別れを告げる。彼は名残惜しげに踵を返し、一足先に空き地を出てゆくだろう。
最後に妙な不安感は残したものの……それはそれだ。
当然、大丈夫だとは信じている。なるたけ自分の家に竜が転がり込んで来ないようにと案じながら、彼は1人、帰路に着くだろう。

薄暗いその場に残された少女もまた、すぐにその場を去るだろうか。太陽は既に沈み、夜の街の騒音が、辺りから響き渡り始めた。

//この辺で〆でいかがでしょうか?
//何度も凍結してすみません、楽しかったです!


116 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/20(日) 18:42:17.43 ID:/0Da7DJG0
>>113
純白の少女の涙は、いつの間にやら止まっていた。
笑顔の仮面を被りながら、瞳には何か決意の光を点しているようであった。

「私は違いますわね。もし私が殺されたのなら、死ぬ瞬間に
 後を追って死んで欲しいと思ってしまうでしょう……死んだ後も一緒に居たいのです」

純白の少女は、強い意志で緑眼の少年に反論する。
それは、傲慢な白い少女だからこそなのかもしれない。
死んだ幼馴染は確かに、白い少女が後を追うことを望んでいなかった。
しかし白い少女はそれを知らない。死人に口は無いのだ。

「私の大切な人の復讐なんて、魔女狩りに入る前にとっくに済ませていました」

弱者を甚振るために魔女狩りに入ったのではない。復讐の為に入ったのでもない。
憎しみの連鎖の中で、自身が死ぬために白い少女は魔女狩りに入った。
しかしそれが分かった以上、もう魔女狩りに所属する訳にはいかない。

―――――自分が死ぬために虐め殺す。なんと浅ましい。自分の始末は自分で付けるべきですわ。

白い少女は、内心でそう思っていた。虐めたいから虐める、殺したいから殺す。それならまだ良かったのだ。
少女の傲慢なプライドは緩慢な自殺を他人……それも憎んでいるカスパールの魔術師に任せてしまったこと。
それがどうしても許せなかった。

――――――――――少女は、静かに自殺することを決意してしまった。

その前に目の前の緑眼の少年を逃がさなければならない。
少女は笑顔のまま、緑眼の少年に魔女狩りの真実を語り始める。

「魔女狩りは、容赦という物を知らない組織です。拷問をし、吐いた魔術師を殺す。
 その魔術師に大切な家族や親友、恋人が居たら見せしめのためにそれも皆殺しですわ」

少女は微笑みながら、淡々と恐ろしい真実を口にする。
まるで、展望台で初めて緑眼の少年と会った時のように。
純白の少女は微笑みを崩さずに、少年に語りかけた。

「中立派、穏健派だろうとおかまいなしに、泣き叫び救いを求める手を捥ぎ取り
 あるときは燃やし、あるときは水に沈め、ある時は鳥に食べさせ。魔術に関わる者はすべて異端であるが如く。
 ……私達は、ずっとそうしてきました。私も愉しんで、やっていたことですわ」

まるで懺悔するかのような告白の中、白い少女は、微笑を崩さない。
何を考えているのか、普通の人間には分からないだろう。

「魔女狩りに所属するとは……闇に堕ちるとはそういうことですわ。
 愚直すぎる貴方に、そんなことができるとは思えませんね」

そう、この少年は愚直で優しすぎる。純白の少女とは釣り合っていないだろう。
だから、逃げて欲しかった。地獄に落ちるであろう自分を引っ張り上げることを止めて軽蔑して欲しかった。
117 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/20(日) 20:56:00.74 ID:51z0tHVK0
>>115

「まったく…見た目が幼いからといってからかいおって……」

少女は、時々自分が何者か分からなくなることが昔は多々あった。
自分は竜なのか、それとも人なのか。結局今もそれは分からないままだが、それで悩むことはなくなった。
自分は自分だ、それが分かっていればいいじゃないか。
しかし、やはり人が彼女を見る目は違う。だがそれを仕方がないと今まで割り切っていた。
人扱いなどいつ振りだろうか、自分を知る者はすべからず不穏分子として始末しようとするのがほとんど。だから人とはあまり接することはなくなった。
それが今日、こんな気まぐれで話しかけ、更にこんなことになるとは夢にも思わなかった。

「ば、馬鹿にするでない。これくらいの窮地、容易に跳ね飛ばしてみせようぞ」

今まであんなに偉そうなことを言っておいてここで頼るのはあまりに格好が立たない。
こうなるのならここ学園都市の様々なものについてもっと学んでおくべきだったと今更後悔する。なんたって今まで自販機すらも使ったことがないのだから。
だがそういった苦労話はまた別の話。

「あぁマーカスよ、儂も次会うときを心待ちにしておこう」

男がその場を去れば、少女も竜化を解き帰路に着くだろう。この出逢いがこれからの生活を楽しくしてくれるものと信じて――――

//いいと思います、ロールありがとうございました!!とても楽しかったです!!
118 :ヴァシーリー・マーカス [アーマード・メイル Rank.C] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/20(日) 21:26:17.34 ID:Cq2HerNl0
>>117
「やれやれ。……どうにも、気になるわい」

胸に何か引っ掛かりを残したまま、彼は今度こそ自分の仮住居に帰って行く。
何だかんだと言って、彼女の事は信頼している。大丈夫だろうと信じてはいるものの、やはり何か気になる。

靄のかかったような感情を抱えながらも、彼は1人、繁華街を歩いて行く。
この夢のような出会いを思い出し、その恍惚とした余韻に浸りながら。

━━━━
━━━
━━

本日:能力者及び魔術師との接触無し。

現在
学園都市の孕む危険性:低
魔術師への影響:低

引き続き"能力者"危険性調査を続行。
同時に魔術師との接触も図る。
━━━━━━━━━━━━━━━報告終了

ヴァシーリー・マーカス

//お疲れ様でした!



119 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/21(月) 16:47:42.89 ID:zAPO43iEO
>>116
「────貴女は、死ぬつもりですか。」

痛みで折れてしまいそうな身体を無理やり奮い立たせて、白の瞳を見る
この人はきっと何処までいってもワガママで他人よりも自分が大事で命の価値を低く見て────。

────そして誰よりも寂しがりやだ。

死んでしまったその大切な人の温もりを得たいが為に、その人の元へ行こうとする
今までのやり取りで、確信こそ持てなくとも分かった

「..............」

本当にこの人は────。と心の中で笑う
いや、きっと表情にも出ていただろう。
だからこそ、これは伝えなければならない

「出来ません。貴女は生きなければならない────。
貴女が置いていったその人の分まで生きて生きて生き抜かないとダメです。
これは責務です。義務です。責任です。

ここで逃げたら、貴女は救われません。死の先にあるのはいつだって無です。
だからその人にも 絶 対 に会う事は叶いません。」

自分でも、何を口走ってるのだと思う
興味から始まった出会い
初めはこの人を構成するものが見たかった
そして、その人が歩く先の未来が見てみたいと望んだ

────その次は、その未来を変えたいと願った

悲劇から始まった物語を止めたいと
決して善性ではない彼女を、決して素敵な王子様に救われるお姫様でなく当たり前の罪で罰せられる一人の少女だとしても
救いたい────彼女を助けたいと思えた

でないと、きっとこの様子をお空の上から見ている"彼"に怒られてしまう

そう、天井に阻まれて見えない空を見上げた

そして、深呼吸。
再び白を見つめ返した

「軽蔑だってします。貴女が望むのなら蔑みだってしましょう
でも決して、見捨てない...いや、逃がしません。
貴女がその義務を果たすまで俺は────────。」

見れば、先程機械を砕かれた右腕には薄く血が流れていた
ポツポツと悪よ
その緑眼も一歩たりとも退くことはなかった
120 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/21(月) 16:49:33.95 ID:zAPO43iEO
>>119
/最後から2行目
「ポツポツと落ちる血が、彼の誓いの様だった」
/です。すみませんっ!!
121 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/21(月) 20:36:09.57 ID:Kfg4yn0I0
>>119
「……私の考えは変わりませんわ。あの世がどうなっているのかなど、誰にも分からないことです」

傲慢な白い少女は、緑眼の少年を否定する。
幼馴染の少年は死んでしまった。死人に口は無い。
死んだ人間の気持ちは分からないし、死んだ人間に勝つことはできない。

―――――しかし目の前の緑眼の少年には、口がある。それは、死んだ幼馴染に決して無い物だった。

純白の少女は、笑顔のまま大きく溜息を付いたようだった。

「分かりました、今の言葉は私の大切な人間が言った。そういうことにしてあげましょう」

一度幼馴染と緑眼の少年を重ねてしまったせいもある。
引き際の知らない愚直な少年に、白い少女は折れたようだった。

「しかし私が死んでしまったら、貴方も死んで下さいませんか?私の下僕は多い方がよいので」

くすくすと口に手を当てて笑いながら、傲慢な少女は冗談のように言う、しかし眼は笑っていない。
この点では、純白の少女と緑眼の少年は分かり合えないようだった。

「……それで、どうします?魔女狩りに所属している限り、貴方の言う憎しみの連鎖は続くことになりますが」

緑眼の少年に、新たな問いが投げかけられる。
純白の少女は、もう魔女狩りから抜けたいと思っている。これは緑眼の少年を試すための確認の言葉だ。

―――貴方は私の望む答えを当てられますか?当てられないようならここに放置します。

傲慢な白い少女は、笑顔の裏でそう思っているようだった。
122 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/21(月) 21:19:30.42 ID:P6G91TwN0
>>121

「────俺は、」

これが、きっと最後の問答だ
彼女の望む、陽愛 白が望む真の答えが
きっと二人が出会う事になった理由なのだろう

あの展望台の出会いの意味が──────きっと。

「退屈で、平凡な...何処にでもありながら忘れてしまっている日常
...カスパールも魔女狩りも能力者も魔術師も関係ない────。
貴女の平穏を取り戻します。その為に、俺は貴女の下僕になろう」

それは遠く置いてきた風景
何処かも覚えていない幼い頃の思い出
顔も声も、淡い色彩さえ思い出せずとも────確かにあった望郷
そんな当たり前を、彼女に見せたかった

贖罪もしてもらう、負ってきた責任を抱きかかえて
それでもその憎しみを超えた先にある希望を────共に見よう

「貴女を魔女狩り(ここ)から連れ出します。
そして貴女がその新しい世界で生きる為に────俺は、貴女を守ります」



その言葉が彼の、乾京介の望むただ一つの解答だであり問答の答えだった──────。



そう言って血で汚れていない左手を差し出した
この手が、彼の言う平穏への片道切符
もう二度とこの深き闇へと落ちないように差し出された唯一の階段
その先にあるのは、希望だけではないだろう
もしかせずとも命を狙われ、いつ死んでしまうか分からない

だが、彼は守ると言った
その憎しみの連鎖から解き放たれた世界を共に見るまで

少年は黒い前髪から覗く緑眼で、確かに微笑んでいてくれた────。
123 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/21(月) 22:07:24.87 ID:Kfg4yn0I0
>>122
白い少女は微笑んだまま、軽く縦に頷く。
この少年は鋭すぎる。愚直すぎる。そして白い少女を盲信せず、意思を持って反論することができている。
それは幼馴染とよく似ていて、それでも少し違う所もあって……

「まあ私の第二の下僕として、合格点をあげてもいいですわ」

その緑の色に染まるのも悪くは無い、と。そう思えてしまった。

これは恋ではない。そう、恋ではないと自身に言い聞かせる白い少女。
自身とこの愚直な緑眼の少年は釣り合わない。そう思う。

その様子は、少女の半生を知っている者からすると、死んだ幼馴染と共に居る時と変わらなく思えただろう。

白い少女は、緑眼の少女の左手を、右手で優しく、それでもしっかりと掴んだ。
恋人とは言えず、それでも親友よりも近い、そんな関係。
この二人はこれからもそんな関係で居続けるのかもしれない。

白い少女は、緑眼の少年の手をにぎったまま、微笑みすら忘れてしばらくぼんやりしていた。
そして、頭を下げて何やら考えているようだった。

「ええと……あの……」

数秒の後にばっと顔を上げて、緑眼の少年を見つめる少女。その瞳には今までとは別種類の決意があった。
傲慢な少女らしからぬ動作に、緑眼の少年は驚いたかもしれない。


「私のことをこんなに思ってくれてありがとう、乾」


その笑顔は、その笑みは。
社長令嬢の少女がいつもしている、美しい仮面のような笑みではなかった。

頬を僅かに紅潮させて、照れたように、はにかむような。

そんな、一人の少女としての可愛らしい笑顔だった。

「さて、行きますわよ。とりあえずは自然にここを出てから考えましょう。
 私が新人を虐めることはよくあることですわ。貴方が負傷していても怪しまれないでしょう」

そんな笑顔の後、眼を緑眼の少年から離してぱっと手を離す少女。照れたからではない、と自身に言い訳をする。
外には大量の構成員が居る。流石に手を繋いだまま外に出る訳にはいかないのである。

「幸いにも魔女狩りは非公認の組織です。まずは足を殺ぎますわ。
 私たちに構っていられないような状況に追い込みます」

魔女狩りの存在を誘拐組織として、風紀委員や魔術師に明かす。
表では魔女なんてオカルト染みたものを信じている単なるイカレタ組織。そう、それがいい。

「貴方―――乾に頼むのは恨みに任せて私たちを狙ってくる残党の処理ですわ。お願いしますわよ」

傲慢な少女はいつもの笑顔を浮かべながらそう言うと、颯爽と歩き出す。
緑眼の少年が、よろけながら付いて来ることに僅かな罪悪感を抱きながら。

ほんの少しだが。純白の少女は、緑に染まったようであった。


//長い間本当にお疲れ様でした&ありがとうございました!
124 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/21(月) 22:34:23.88 ID:P6G91TwN0
>>123
「あ────あぁ。」

彼女のその僅かに紅潮した顔にこちらは少し緊張する
なんというか、今まで被っていた笑顔の仮面とは違う

彼女の口調が、その触れた柔らかい手が、その表情が────なんと言うのだろう

言葉に起こしにくいのだが、凄く好ましいものだった
脳裏に刻まれるような彼女の笑顔。その瞬間感じた動悸は何だったのか
乾もその感情を理解しきれていなかった、ただ凄く良い顔をしていた、と
それだけは────よく分かった
そしてその笑顔をまた見たいと、確信した


彼女に続いて部屋を出る
白の言う通り身体の負傷に誰も口を挟まない
誰もが哀れみの目でこちら腕を見ていた────。


「分かりました。 白さん。全力で貴女を守る盾になる────だから...」

生きて欲しい、そう言葉にする

そして負傷した右腕を見た
────このドリルは使えないだろう。捨てて新しい武器がいる
身を守る盾代わりと、必要以上に傷付けない武器だ
これから必要になる...集めなければ

右腕を振るう。そうすれば腕から壊れた掘削ドリルが出現した
それは道端のゴミ箱に捨てられ、その役目を終えた

彼の目は、出会った時とは違う
明確な意思があって、生きる目的がある

先を歩く白い少女を見て────少しだけ笑ったのだった

/長い間ロール本当にありがとうございましたー!!
125 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage]:2016/03/22(火) 20:12:55.44 ID:Z1sZA5y2o
「───例えばだ」

切れ掛けた街灯の光が点滅するのを見上げながら、紫煙を燻らせて黒繩揚羽は一人語る。
モールス信号のようでいて、その実意味のない光の瞬き、そう思うと何か皮肉のようにも思える光に何となく視線を向けながら、足元に転がる魔術師の頭を踏み躙った。

「ドブネズミが人の捨てた生ゴミを食ってたとして、それだけで何の害も無いとして、でもいざ目の前をウロチョロされたらウゼェだろ?」
「噛み付いてこなくても触ってこなくても、食いカスを落とすのを目の前で待ち侘びられたら気に障るだろ?」

「そう言う事だよ、テメェらは、学園都市(ここ)にいるってだけで駆除対象なんだって事」

甘い香りの紫煙を出す、黒い巻紙の煙草を足元に捨てると、倒れた魔術師の頭と自分の靴裏とで挟み、踏み潰した。
こんな事をしたって意味はない、魔術師に恨みがあるのでもないし、理由を語ったってもう聞こえてはいない、ただ踏み躙り辱めるという以外に中身の無い行為。
ただ、何処に向ければ良いかわからない胸の苛立ちを僅かばかり解消出来るという点については実益のある行為だった、人を踏み付けるのは気持ちが良い。

「…ケッ、数だけは本当にドブネズミ並だぜ、テメェらは」
「こっちもヒマしなくて助かるけど…なっ!」

足元の魔術師を蹴り飛ばすと、綺麗にごろりと寝返りを打った、やはりそうする行為に自分の趣味嗜好以外の意味はないが、なんとなくそうしたかった。
他の魔術師の居場所を明かさず、助けを呼ぶ叫び声すら上げない立派な魔術師だった、でもこうなれば全て終わりだ、等しく肉の塊でしかない。
いくら相手が立派な人間であったとしても、実の所消化不良感は否めないのが事実、口寂しさを誤魔化す為に飴を舐めるのと同じく、死体に鞭打つ彼の行為は暫く終わりそうにはない。
126 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/22(火) 21:12:50.32 ID:MTJbtze50
>>125
「ふむ、君はそういう考えをしているのか」

私は所謂、見てはいけない物を見てしまったらしい。
26にして、学園都市に無島勇気の名前で潜入している男。
―――ブギーヴァイアスという名の魔術師は、穏やかに殺人を犯している少年に語りかけた。

「たしかに鼠というのは古くから害獣として忌み嫌われた存在だ、魔術師もそれに近い。君の考えは正しいよ」

そう、魔術師は鼠であり、私も鼠だろう。
この学園都市という場所は私にとっては生ゴミの山であり、天国だ。

「うむ、君が態々私達を掃除している理由は何なのか、是非教えていただきたいものだな。
 君が古代で言う所の蛇――――掃除屋として働く必要はあるのかね?」

ふむ、我ながら会心の相手を苛立たせるような笑いができたな。
挑発はこんな感じで良いだろうか。私は能力者の能力が見たい。
眼前の少年は私と言う魔術師を駆除したい。両者の考えは一致していると言えよう。
良い塩梅だ。私は鼠として、蛇に食べられることを考えておこう。
127 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage]:2016/03/22(火) 21:43:49.52 ID:Z1sZA5y2o
>>126
「…………」

黒繩は、彼方より聞こえた声の方向にゆるりと視線を向けた、『蛇』とは言い得て妙、被っているフードの目玉模様がそれ宛らに男を睨み付け、紅い前髪の隙間から鋭い視線を突き刺した。
闇に紛れるような見え難い色の服を着た男、話しかけてきたのは間違いなくコイツだと、黒繩は理解する。
つまらない皮肉を言っているつもりか?いや、それはどうでも良い、その男にこの行為を見られたというのは確かであるし、それに対する行動を取るべきだ。
いやいや、そうではない、見られた見られないはやはりどうでも良い、聞き間違いや勘違いでなければ、男の言動をそのまま受け取れば───。

「飛んで火にいる何とやら、だぜ…!」

この男は、魔術師───駆逐すべきと命を受けている存在であって、胸の中渦巻く苛立ちを解消させるのに相応しい相手だ。
ああもうそれだけで十分だ、言葉を交わすのに意味はなさない、この男を痛めつけて痛めつけて虐め抜いてブチ[ピーーー]、今から自分がやる事はそれだけ。
ニヤリと口角の上がった口から凶暴な歯並びが覗く、野生動物のような雰囲気を携えた殺気の塊と化した黒繩は、真黒な泥のような思念体を両手の中に生み出した。

「理由?必要?あぁンなもんどうでもいいんだよ、そんなもん俺が知ったこっちゃねェ…!」
「『ブチ殺してもいいよ』って許可出されたンなら、そりゃ喜んでブチ[ピーーー]わなァ!!」

魔術師を[ピーーー]理由、それを黒繩個人に問えばまともな返答は無い、彼個人として魔術師を[ピーーー]理由なんて物は無いのだから。
もし彼が魔術師側であったとして、カスパール派にいたとしたなら逆の立場で同じ事をしていただろう、自分の為に。
組織の中にいて、それを目的とされている、そんなものは組織としての理由だ、自分の理由なんてものはない、殺せるのなら魔術師でなくたっていい。
それこそ殺気が服を着たような人種、それが黒繩揚羽という少年だ。
128 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/22(火) 22:01:00.52 ID:MTJbtze50
>>127
「夏の虫、だよ。しかし虫が火に飛び込むというのは当然だと思わないかね?」

ふむ、いい具合に挑発ができている。しかしいきなり攻撃を仕掛けてはこないか。
私としては意外だ。嬉々として攻撃をして欲しいのに――――

私はとにかく、早く能力者の能力が視たい。主の為でもある。しかし私自身も今となっては同じこと。
行過ぎた科学は魔法と同一であるのなら、能力者と言う存在は間違いなく魔術を発展させる物だ。
早く私に能力で攻撃をしてくれ!私は一つでも多くの能力が視たいのだから。

「人類が他の生物と違い地球を支配するまでに至ったのは、火を使うことを覚えたからだ。私達魔術師も必死なのだよ」

太陽に近づこうとした鳥が、炎に焼かれて落ちる。
空を飛ぼうとした人が、崖から落ちて死ぬ。私もそうなりたい。少しでも私たちの母―――魔術の発展になるのなら。

「例え炎に焼かれようとも、私の眼は全ての祖たる母の為に――――Hachasiah」

私は、軽く伊達眼鏡を軽く2回、コンコンと叩く。
瞳から魔術礼装である伊達眼鏡を通し、増幅された魔力が私の足に伝わっていく。
観察準備は完了した。
129 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/22(火) 22:18:13.83 ID:Z1sZA5y2o
>>128
「…あーそうかい…そんじゃァ……」

苛立ち半分、狂喜半分、今は男の言葉が一々気に障るから苛立ちの方が比率が高くなってきた頃だろうか。
どうしてこうも魔術師という奴は───いや、もうどうでもいい、『そういうもの』なのだからどうでもいい。
さっさとブチ殺す、想いを固めた黒繩の両手に泡を立てていた思念体が固まり、漆黒のナイフとなってそれぞれの手に握られる。

「虫らしく燃え尽きて死んどけやァ!!」

これは黒繩の能力による物、そこにあるように見えるのに、実際には存在しない、しかし本当にあるのと同じように扱われる、人の視界の中でだけ発言する刃。
無論刺さるし斬れる、しかしその刃では幾らやっても傷一つ作れず、血の一滴すらも流せない。
そんな貧弱な刃が、しかしそれでも人の肉体を斬り裂いた時、傷の代わりに残すのは激痛の錯覚だ、精神から伝わる逃れられぬ催眠能力、それが彼の異能。

黒繩はまず、様子見とばかりに左手に持った漆黒のナイフを男に投げ付けた、回転しながら飛ぶそれは、見事なコントロールで胸に向かって行く。
それ以上の追撃はせず、男の対応を待つ、言葉や態度とは裏腹にしっかりと作戦を練るつもりだ、戦いに於いての強かさと狡猾さは、潜ってきた修羅場の数だけ強くなる。
130 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/22(火) 22:47:48.60 ID:WD2HTqLl0
陽は既に落ち、辺りには夜の帳が下り始める。
――ここ学園都市では、基本深夜に出歩く人は滅多にいない。血気盛んな能力者に襲われたり、今話題の魔術師に襲われるなどといった噂が街全体に広まっているからだ。
ただ、その他にも理由がある。例えば、今まさに旬の噂、街に潜むシリアルキラーなんて。

「……この人の"中身"も、他の人と変わんないなぁ…」

場所は路地裏。街の喧騒を遠くに響かせ、しかしそこにあるのは静けさと異常なほどの冷たさだった。
人影はおおよそ二つ。一つは何やらレインコートに身を包んだ小柄なもの。そしてもう一つは、地面に横たわり無惨にも腹部を裂かれた女性の遺体だった。
現場は凄惨さを極め、辺りには血と生臭さが未だ漂い、ぐちゃり、ぐちゃりと肉をかき混ぜるかの様な音が響く。もはや原型すら留めていないその遺体に伸ばされていた幼い手は、そこまでしてやっと女性が死んでいることに気づく。

「あれ?…あぁ、死んじゃった……結局今回も分からなかったなぁ……」

しかし特にそれを気に留めることもなく、少女はぼそりと呟く。こうも冷静で居られるのは、幼さゆえの道徳心の無さ故なのか。
よく子供は虫などを残酷な方法でいとも容易く殺してしまう。それは子供の精神が発展途上でなおかつ道徳というものが分かっていないためにしてしまうのだという。この少女にとって、今自分がやっていることはつまりその延長戦でしかないのだろう。子供が虫を[ピーーー]延長戦でしか――――

「つまんないの…こんなにすぐ壊れちゃうんじゃ見られないよ……」

そう落胆の声を漏らし、少女は立ち上がる。レインコートは血を弾き、少女が血に濡れているところといえばフードに覆われている顔くらいか。それも少し被っているだけでほとんど血は付いていない。
あまりに非業な女性は、その悲運によって命を絶たれた。女性は何も悪くはなかった。ただ、"運"が悪かっただけ、ただそれだけだ。
無感情な殺人鬼に出会ってしまった、その運の悪さが命取りだった―――――
131 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/22(火) 22:48:00.99 ID:MTJbtze50
>>129
「燃え尽きる時、虫は満足するのだよ。これが私の生まれた意味であるのだと」

相手の少年はいい感じに激昂している様だ、さて観察に移るとしよう。
少年の両手に思念体となって造られたナイフに、私は歓喜した。
――――そうだ、能力者というのはこんなに簡単に超絶の能力を操ることができる。
古代の神秘を一切纏わずに、我々と同じような現象をあっさり起こして見せるのだ!
嗚呼、堪らない。これだけの能力を魅せてくれた眼前の少年には、私もそれなりの対価を支払わざるを得ない!

私は胸に向かって放物線を描いてくるナイフを目にして、一切避けることをしなかった。
ただ、利き腕となる左腕を持ち上げ、そこに刺さるようにするだけ。
左腕に、突き刺さることを覚悟して。しかし血は噴出さず―――――

私の左腕に奔ったのは、痛みであった。単なる痛みではない。覚悟していた痛み以上の、文字通りの激痛。

――――成る程、これは素晴らしい能力だ。

私は恍惚としながら思う。肉体に直接突き刺さるのなら、それを快楽へ変換することができる人種は存在する。
しかし形の無い激痛を、快楽へと変換することはできない。痛みが肉体を解さない、直接的な物だからだ。

「いい感じに、私の左腕は焦げたようだ。この左腕の痛み、これは素晴らしい能力を魅せてくれた君に対する対価だよ」

さて、私も反撃をするべきだろうか。
コツコツ、と私はコンクリートの地面を二回叩いた。
その瞬間私は眼にも止まらぬような高速で眼前の少年に接近する。
妨害がなければ一気に距離を詰め、こちらは実物のナイフでこの少年の左腕に裂傷を与えよう。
私はこのような素晴らしい能力者に致命傷を与える訳にはいかないが、四肢を奪うぐらいは我慢してもらおうか。
132 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/22(火) 23:11:36.68 ID:Z1sZA5y2o
>>131
願った通り、漆黒のナイフは男に突き刺さった、胸に刺さらなくとも刺されば良いのだ。
傷は付かない、出血も望めない、しかし刺されば悍ましい激痛が襲い、痛みは恐怖となって心にへばり付く。
その涼しい表情も何時まで続くか見ものだ、どうせ其の内命乞いを始めるのだから。

「ヒャハハハハハ!我慢しなくていいんだぜェ!?」
「どうせ今から嫌って程痛めつけられるんだからよォ!!」

腕だけでは済まさない、足も腹も頸も全て痛めつけ、逃れられぬ苦痛の沼へと引きずり込もう。
瞳孔が開きかかった目をひん剥いて叫び、しかし冷静に、コンクリートを叩いた男の動きを見逃さんと構える。
早い───最初に感じたのはその単語だった、恐ろしいスピードで迫って来る男を、前蹴りで迎撃しようとも思ったが間に合わないと考えてやめる。
後ろに下がる事を選択した頃には、もう懐に入られていた。

「チィッ!!」

狙いは左腕か、意趣返しのつもりかは知らないが、まともに受けると最悪左腕が使えなく───ああもうどうでもいい。

「───ッぜェんだよタコ!!」

そんなもん知るか、わざわざあっちから来たのなら望むところだろうが。
左腕が深く切り裂かれる、肉が断たれ、筋肉が引き裂かれる痛みを感じる。
だが、黒繩は引く事無く、それに同時に被せるように、右手に持った漆黒のナイフを男の脇腹に突き刺しにかかった、内臓まで刃が達すればその痛みは筆舌に尽くしがたい筈だ。
133 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/22(火) 23:40:23.56 ID:MTJbtze50
>>132
「我慢……?何のことかね。私は君の能力を視ることができて、大いに嬉しいよ」

ふむ、確かに私の左腕は悲鳴を上げているだろう。痛い。これ以上こんな痛みを受けたくないとも思う。
肉体を支配するのは精神であるが、精神は肉体の奴隷である。
流石にこのような痛みを連続して受ければ私とて悲鳴を上げるかもしれない、体内の機能も停止しよう。
しかし恐怖は微塵もない。周囲からは私が既に狂っているとはよく聞くが、知ったことか!
私の骨は、肉は、血は魔術の発展の為にこそある。その為に能力を視たい。視たい、視たいのだ!
私の体など、どうなっても良い。我が主の為ならば。既に一度死んだ身だ。今更命など惜しくない。

しかし内臓へ刺したようなを受けたら、私はショック死してしまうかもしれない。
臓器の一つが潰れただけで、普通の人間はショックで死ぬ。それは良くない事だ。

右手のナイフが内臓へと至り切る前に、私は靴で2回地面を叩いて少年から離れる。
カウンターを決める際の僅かなタイムラグが、結果的に私の身を救うことになった。
内臓スレスレまで肉が抉られる痛みに耐えながら、私は少年から距離を取る。
Gに悩まされはするが、負傷していても勝手に高速移動してくれるのがこの魔術の長所だ。

「……ぐ、虫から蛸に昇格したか。いや、陸上から海上への軟体動物は退化か?」

流石に呻き声を上げてしまう。耐えることは難しい。
痛い。しかしもっと能力は視たい。私に痛みはあれど恐怖はない!
私の眼は爛々と輝いていた。

「……うぐ、痛いな。素晴らしい能力だ。本当に素晴らしい!」

私の生存本能より鋭いナニカは、まだ眼前の少年の能力を視たい、続けたいと喚いている。
しかしそろそろ私の身体は悲鳴を上げているようだ。
流石に内臓深くまで抉られたことはある。
あと一撃喰らえば、私の手は地に着くやもしれん。ふむ、我が主のために能力はできるだけ多く視なければなるまい。
そろそろ撤退も視野に入れよう。痛みを堪えながら、私はそう考えていた。
134 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/23(水) 00:09:15.26 ID:Rg7GQq/Io
>>133
どうやら、僅かに出だしが遅れていたらしい、完璧に合わせたと思った反撃からは逃れられてしまった。
これに成功していれば殆ど戦いを終わらせられていたと自負する程の攻撃、これを躱されたのは非常に痛手だ。
仕留めきれなかった獲物は警戒心を増す、まず同じ手はくわないだろう。

「チィ…ちょこまかしやがって、ウゼェな…!」

左腕が動かない、動かそうとしても、上手く動作が出来ないのだ、刃が入った所がマズかったか、腱を斬られたらしい。
あの一撃で決めるつもりだった故に、腕の犠牲が無駄になった、これから先は片腕で戦わなくてはならない事実を痛感する。
だが、収穫もないわけではない、相手の能力が瞬間移動若しくは高速移動に近い物であると、簡単に予測はついた。
わざわざ接近してくるという事は、遠距離攻撃となる能力は無いだろう、つまり捕まえる事さえ出来れば勝機はある。

「逃げてんじゃねェよチキってんのかァあぁん!?」
「そんなに人の能力が見たけりゃ見せてやるよ!好きなだけ堪能しやがれ!!」

その言葉は、挑発というには余りにも幼稚だった、殊更ブギーの発言と比べれば小鳥の囀りに近いくらいにひ弱。
黒繩が右足を振り上げ、ダンと地面を踏み鳴らす、するとブギーの立っている場所のコンクリートに変化が起きる。
ズズズ…と僅かながら生えてきたそれは───ブギーの立つ位置の極僅かな範囲のみだが───漆黒の剣先のように見えた、剣山のように幾つもの剣先が頭を出している。
それに勘付き、次に何が起こるか、予想は簡単だろう、そして予想出来たならすぐにその場を移動するべきだ、幸いながら範囲は狭い。
頭を出す剣先のスピードが遅いのは、先端まで、ある程度姿を現し終えた漆黒の剣は、ポンプに押し出される空気のように、一瞬にして突き出る。
ブギーが呑気にその場に立ったままでいたなら、確実に串刺しにされてしまうだろう。
135 :ブギー ヴァイアス ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 00:41:45.81 ID:NtuNJoqL0
>>134
「うむ……私は君の言葉で言う、『ウザイ』人間に入るのだろうな」

私の瞳は爛々と輝いていた。もっと能力を視たい。視たい。その為なら幾らでも体を傷つけよう。

この魂にまで、能力という物を染み込ませよう。

それは私個人の純粋なる欲望であり、私……ブギーが中立派のメルキオールに入っている理由でもある。
基本的にカスタール以外の魔術師は害が無くとも鼠のようにちょろちょろと、学園都市を彷徨う存在。
学園都市の住人からしてみたら、私達の存在は確かに迷惑だろう。駆除したいだろう。

―――――――しかし、鼠には鼠の誇りがある。

こそこそと隠れながら学園都市を這いずる魔術師は
皆それでも科学の町に入る理由確固たる信念―――目標があるのだ。

「私たち、普通の魔術師は臆病な鼠だよ。自らのエゴの為に、私たちは害獣となってこの科学の町を歩くだろう。しかし――――」

私は地面から出てくる黒い剣に気づく。
しかし私は新たな少年の能力に魅入られていた。
靴を二回叩いて完全に避けることはできた。しかし私はそうしなかった。

いや、そうできなかったのだ。この少年の能力を、瞳と共にこの体に焼き付けておきたかった。

後方に跳躍するも、剣が顔を抉る。
脳は貫通していないものの、新たな凄まじい痛みが私を襲った。
私に負傷した後悔はない。恐怖も無い。素晴らしい能力だと思う。
もっと視てみたかった。私が思ったのは、それだけだった。

「それが―――――――その臆病な鼠の精神が、私という魔術師にとっては誇りだ」

私は膝を付きそうな痛みに耐えながら地面を二回叩くと、凄まじいスピードで少年から離れる。
曲がり角に突き当たるとまた二回叩き、凄まじいGに耐えながら方向転換する。
私の魔術が私の内臓をシェイクすることを、私は忌々しく思った。
魔術にではなく純粋に能力のみが、私を傷つけて欲しかった。そう思う。

打ち合わせの場所で倒れている私は、魔術師の手によって回収された。
能力とGでボロボロになり気絶していながらも、その私の表情は笑顔だった。

//ありがとうございました!
136 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/23(水) 01:08:10.70 ID:Rg7GQq/Io
>>135
「───チィッ!」

逃してしまった、黒繩が感じた感情はそれだけだ。
追いかけようにもあの素早さではもうどこに行ったかもわからないだろう、苛立ちが募り、持ったままだった妄想の刃を投げ捨てた。
ガラスのように砕けて消えた漆黒の刀剣が跡形も無く視界から無くなると、夜の静寂が辺りを包む。

切れ掛けていた街灯は一瞬の瞬きすら灯さ無くなり、荒げた息を鎮めると、頭を片手で掻き毟り、その場から歩いていく。
その途中、ポケットで鳴った電話を取り、耳に当てながら。
悪態を吐く不機嫌そうな声は、夜の街に溶けていった。

「…あァ、始末しといたよ、死体も置いといた」
「あぁ、あァ……ッせーなもう帰って寝んだよ!」

/お疲れ様でした!
137 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 21:00:31.36 ID:NtuNJoqL0
>>130
今日も今日とて、風船のような少年……大木陸は歩いていた。
夜の学園都市が物騒なのにも関わらず、この少年は外出することをやめない。
それは好奇心……臆病ながらも大木陸が常に持ち合わせている性格であるからだ。

夜中に出会ったのが尊敬できる少女に、親友になれそうな少女。いずれも好ましい人間だった。
そのことで、夜に外出することに恐怖を感じなかったことも在っただろう。

運が悪かったのかもしれない。

――――この日、大木が出会ったのは、殺人鬼。

人殺しの、鬼だ。

「うっ……」

噎せ返るような血の匂い。光を失った瞳。大きく内臓を抉られた女。
それは妄想とは、あまりにも違っていて――――

大木が吐かなかったのは、奇跡と言えるだろう。
もし女が死ぬ前なら、助けることを考えたかもしれない。
しかし明らかに女が死んでいる以上、大木は犯人にしか見えない目の前の血にぬれた少女に
俺を殺すな、と頼まなければならない。

「えっと……こんばんわ。見てしまってごめんなさい」

その言葉は、あまりにも稚拙と言えるだろう。
相手が正常な思考能力を持って居るのか怪しい。
しかしとりあえず謝ってみる。それぐらいしか思い浮かばないのも事実であった。

「殺さないで下さい。俺は言いません」

慣れない敬語を使う。しょうがない。俺は死にたくない。
大木は、そう考えていた。
138 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/23(水) 21:37:59.29 ID:IcjUxD250
>>137

女性も死んだ、もうここに用は無い。ならば今日のところはもう帰るのが良いだろう。
そう判断し、少女が路地裏から出ようとした瞬間それは現れた。

「……?」

現れたのは人間、それも男だ。見た目は学生だろう、しかし何もしてくる様子は無い。血の惨状、あまりに酷いそその現場は誰が見てもこの少女が犯人だということは一目でわかるだろう。
少女はそんな中、平気な顔で少年を見つめる。その瞳はとても不思議なものを見る目をしていて、その好奇心に少年は救われたのかもしれない。

「…こんばんは、お兄ちゃん」

挨拶をされたら返さなければ失礼だ。これは両親からの教えで両親の教えはしっかり守らないといけない。
しかしそれは余りにもこの場では場違いで、それが少女の狂気性と猟奇性を高めていた。

その少女が人に与える印象は恐怖。底を見せない、どんなものか分からないモノが与える正体不明のモノに対する人が生まれながらにして持つ原初のモノ。

「えっと…謝る必要は無いと思う。
それに、あなたの"中身"には興味が湧かないの」

この少年の取る行為は今までに何度も見たことがある。それにもう一度こういった人の"中身"はもう既に見た。
男がもし、今まで見たことが無い行動をしたのだとしたら少年は少女が"中身"を知る対象に入っただろうが……
とにかく少年は一命を取り留めた。

「お兄ちゃんはなんでこんなところに居るの?お散歩?」

少女はタッタッタッ、と少年に近寄っていくと、あまりにも純粋な子供の顔で質問をする。普通ならばごく一般的な質問だが今は違う。
この状態で、しかもごく普通にそんなことを聞くのは普通じゃ無い。それだけでやはりこの少女がおかしいのだと分かってしまうのだった。
139 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 21:53:00.14 ID:NtuNJoqL0
>>138
麻痺したように、頭が動かない。
燃費の悪い少年自身の能力を活用するために、今までグロテスクな画像や動画を見続けてきた。
しかしこのような、鉄がさびたような『匂い』を伴う死体を見るのは初めてだ。
後数分もすれば、死体に蝿が集り始めるだろう。

「そ、そうか。俺の中身には興味が沸かないのか。……良かった」

呂律が回らない舌で、鸚鵡返しに答える大木。しかし彼の内心は全く安定していない。
……こういう、明らかに理性で動いてない人間は、何がスイッチになるか分からない。
店の中で強引に文句をいい暴れるクレーマーに、正義感で注意する恐怖と似ているかもしれない。

勿論眼前の少女はそんな可愛らしいものではなく、格が違う程の鬼であるのだが。
元々臆病だった少年は、完全に震え上がっていた。

「うん、散歩。俺、迷子になってしまって」

又しても鸚鵡返し。大木は、能力者になっても臆病な一般人と思考は変わらない。
下手に会話をすると何かが琴線に触れて殺されるかもしれない、それは避けたい。
大木は、自分から決して話題を振らなかった。普通の少女が相手なら、きみも迷子?とでも返すのだが。
目の前の『中身』を見たい少女からは、さぞかしつまらない人間に見えることだろう。
140 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/23(水) 22:10:47.51 ID:IcjUxD250
>>139

「へぇ…お兄ちゃんなのに迷子なんだ」

不思議そうに首を傾げ、少女は言う。それだけならただの可愛らしい少女なのだが状況がそれを変えている。
傍目から見れば可愛らしい少女でも、彼女は紛うことなり殺人鬼。人殺しなのだ。

少女は少年の周りゆっくり一周し、マジマジと少年を見る。まるでその様子は正体がわからないものを観察する猫の様にも見えなくはなかった。
一周を終えると、少女は少し考えると何か思いついたのか頭のフードを取る。

「ごめんなさい、これを被ったままは失礼だよね」

どうやらそれを気にしていたらしい。教養はある――と言って良いのだろうか。
少なくとも少女が少年に見せる行動は、利口な子供の姿にしか見えない。そう言って頭をさげる少女は、頭を上げるとその灰色の瞳で男を見据える。

「私ね、この辺りには詳しいの。
だから迷子のお兄ちゃんがもし良かったらだけど、私が案内してあげようか?」

それは少女なりの気遣いだった。今の少年は少女の対象ではない。ならば普通に接するだけだ。
少女はその異常なところだけを除けば普通の少女。つまり今は少年に危険はない。ただ、少年が少しでも少女に興味を持たせる行動を取ってしまったら――――

「迷子のお兄ちゃん、どうかな?」

そのとき、少女は恐ろしい殺人鬼へと姿を変えるだろう。
141 :イリヤー・ミハイロヴィチ[Стихия:Lv.4] ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/23(水) 22:16:20.43 ID:r1Jlt8/y0
「…………」

─────風紀委員とは、存外暇なものだ。
生徒自治である以上穴は生まれ、ゆえに街に犯罪は蔓延る。しかしながら、人々の根底には善がある。
中国の古い偉人は、性善説という物をとなえたと聞く。そういった性善が人の内にあるからこそ、こうした「平和な時間」というものこそ、必然的に生まれ出でるものと言えるだろう。

彼は、名をイリヤー・ミハイロヴィチと言う。それは学園都市には珍しい、能力者の留学生だ。
緑の瞳が輝く顔立ちは、日本人のものとは懸け離れている。巨大な身体をのらりくらりと揺らして、何処へともなく彷徨う姿は、まるで熊を彷彿とさせるようだ。
外国人というのは、やはり他とはちがった風に見られるもの。その巨体と、腕に嵌った風紀委員の腕章を見た人々は、好奇の視線と共に道を開ける。

他人から好奇に見られることは、能力を得た時から既に慣れたものだ。だが、この場において他人とは何か「浮いている」感じがする事は、彼自身も認識している。
彼は孤独にさまよう熊のように、学園都市を歩き行く。暇そうに大きなあくびなどを一つして、彼は空を見上げた。

「─────ああ、平和だなァ」

彼の姓、ドブロリューボフ(平和を愛する)に示されるように、こうした暇な時間とは、彼にとって至福の時でもあった。
何をするでもなく、何に邪魔されるでもなく。平和とはすべからくそうあるべきだと、彼はそう信じ、また愛している。

しかし彼は同時に「風紀委員」なのだ。彼の近くで何かが起こったのなら、すぐさまに牙をむく準備は出来ている。
そんな在り方もまた、まるで熊のようで。彼に対して直接に何かが起こらなければ、彼は巨体を移動させながら、学園都市を歩くだけの、ただ平和を謳歌する存在である事だろう。

一部の者に、その姿が噂となっている事も知らずに。
142 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 22:28:18.95 ID:NtuNJoqL0
>>140
「うん、俺はお兄ちゃんなのに迷子だ」

下手なことは言わないつもりでいたが、この歳で迷子なのは変である。
興味を持たせてしまったらしい。大木は汗を噴出していた。
純粋な眼前の少女は、何をするか分からない。大木の周りを回る
動作だけは可愛らしい少女が、大木には船の周りを旋回する鮫に見えた。

「まあ、そんなに気にしなくていいと思うよ」

覗き込まれる灰色の瞳。
こんなに可愛らしい少女なのに、どうしてこんなにも怖いのだろう。
普段大人しい人間であるほど、切れた時は怖いと言う。
実際に眼前の可愛らしい少女は、大木にとって恐怖の塊だった。

「ええと……それじゃあお願いしようかな。人気がある所まで」

それは普段から能力者に媚を売り続けていた大木ならではの、失敗だった。
ほんの少し、麻痺から思考が戻ってきつつあるのも原因の一つかもしれない。
普通の人間なら、ここらへんで悲鳴をあげて逃げ出すかもしれない。
しかし、大木は眼前の少女のスイッチを知らないのだ。故に、媚を売ってしまう。

この異常事態の中で殺人鬼相手に、普通の人間相手に語りかけるような気安さで、話しかけてしまった。

大木も何だかんだで能力者なのである。そして臆病でも好奇心という本質からは逃げられない。
大木は、まだ自身の失態を気づいていなかった。

143 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/23(水) 22:44:48.71 ID:IcjUxD250
>>142

普通、この現場を見た人間は悲鳴を上げで逃げ出すか、正義感に駆られて少女を捕まえようとするか、はたまた少女が偶然通りかかった少女かと思うかのどれかだった。
しかしこの少年は少女に何故か謝り、しかも迷子などと言っている。まだ"中身"を見たいという段階ではない。だから少女は普通に接する。

「はぁい!じゃあ私についてきて?」

無邪気な声とともに少女は少年の手を取ろうとする。しかし自らの手が先ほど死体に触れていたことを思い出し、レインコートの奥の制服の中にあるハンカチを取り出し手をひとまず拭く。
こういうところは普通の子供よりも気配りが効く。そこがさらに不気味なのだが。
とにかく拭いて手を綺麗にすると、改めて少女は少年の手を取り路地裏を後にする。路地裏を出れば、少女は少年が言った通り人気が多い場所へ続く道を指差すだろう。

「あっちだよ、迷子のお兄ちゃん」

そう言って少年を連れて行こうとするだろう。まるでどっちが年下かわからなくなるような状況。傍から見れば微笑ましい光景なのだろうが本人にとってはおぞましいものでしかないだろう。
そして、そんな奇妙な道案内が始まったのだった。
144 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 23:04:01.23 ID:NtuNJoqL0
>>143
「分かった。付いて行くよ」

すぐ壊れちゃうという少女の発言を聞いてしまっているからこそ
恐怖している大木だが、眼前の少女は大木が聞いたという事実に気が付いていない。
片言とオウム返しに喋る大木と、殺人鬼の少女は、噛み合って居なかった。

大木は油の切れかけたブリキのように、ゆっくりと動いて少女の手を取る。
この厳しい世の中、普通の人間なら手を差し伸べてまで高校生の少年を助けようとする少女は居ない。
同年代の人間、思春期なら特にそうだろう。……普通とは、何なのか。大木の中で、その疑問が膨れてきた。

「ありがとう。………どうして」

語尾は、漏れるような単なる呟きだった。
どうしてこんなに優しい少女が、女の人を殺したのだろう。
分からない。大木は、分からないまま少女に手を引かれ、案内されるがままだった。

「優しいんだな」

大木は初めて自分から、少女に話しかけた。
行動だけなら、今まで出会った学園都市の二人の少女とさほど変わらない。
この女の子も可愛らしくて、優しい少女だと思う。
あの死体と少女の言葉は見間違いだったのかそれとも、妄想だったのではないか?
能力の影響もあってか、そんなことまで大木は考えてしまった。

しかし現実逃避のようなことを考えても、『匂い』が付いた死体は残ったままなのだ。
そのことは、大木も心の中で分かっていた。
145 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/23(水) 23:05:03.70 ID:Rg7GQq/Io
>>141
『痛ぇな、何処に目付けて歩いてやがる!』

そんな声がイリヤーの耳に届くだろう、テンプレートな喧嘩の開始文句だ。
どうやら、言葉通り通行人同士がぶつかったらしい、ガラの悪い二人組の男に睨まれている少年の姿がある。
少年の顔は深く被ったフードによって隠れ、イリヤーの位置からは上手く伺えない、辛うじて赤い髪の毛と口元がはみ出しているのだけは伺える。
少年は背が高いが痩せっぽちだ、殴られれば骨が折れてしまいそうな程ひ弱な体に見え、二人組の文句にも黙っている。

だが、次の瞬間、二人組と少年の表情がガラリと変わった。
少年がニヤリと口角を吊り上げた、かと思えば、二人組の男の片方が驚愕に目を見開く。

───その男の側頭部には、少年の手によって握られた漆黒のナイフが、深々と突き刺さっているように見えた。

『……あ……ギャアアアアアアアアアアアアア!!!?』

「……ケッ」

夜の街に響き渡る、男の悲痛な叫び声、他の通行人は一部始終を見ていなかったのか、何が起きたのかわかっていない。
その叫び声を作り出した本人である少年は、何事も無かったかのようにその場を歩き去ろうとし始めた、今の所追う人間は、いない。
146 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/23(水) 23:26:07.22 ID:IcjUxD250
>>144

少女の手は暖かい。少なくとも今は冷血や冷酷といったものでは少女はない。むしろ比較的心優しい部類に入るだろう。

少女は少年が自分を恐れているなどとはまったく思っていない。少女は少年の心など知ることはなく、ただ自分がやらなければいけない行動を取ったまで。
まぁもしも少年が少女を怖がっていると知っても、同じ行動に少女は出ただろうが。

「優しい…?
……お母さんが、困っている人には優しくしろって言ってたから」

少年の声に少女はそう答える。
母や父が言っていることは間違っていない。そう信じている少女には、両親の言葉というのは絶対的な意味がある。
もしも少女の両親が殺されず、少女が真っ当に生きていたらこんな化け物が生まれることはなかったのかもしれない。しっかりと常識を学び、ちゃんとした優しい少女になれていたのかもしれない。
だがそれは今となっては無理なことで叶うことのない妄想だ。

「そういえば名前、まだ言ってなかったね。
お母さんがまずは自分から名前を名乗るのが普通って言ってたから……
私は逢坂胡桃っていうの、あなたは何て言うの?」

たどたどしく幼い口調で少女は自分の名を告げる。その名前は昔ニュースで少し流れたこともあるが、たった少しの間の出来事。覚えている人の方が少ないだろう。
しかしネットで調べれば、すぐに出てくる。"幼くして両親を失った可哀想な少女"と。

「迷子のお兄ちゃんは、何て言うの?」

少年を見上げ、少女は純粋な眼差しで少年を見つめる。
子供というのは厄介なもので、こういう純粋な目で見られれば大抵は反対などできない。
だが、この少女は些か子供から逸脱し過ぎている。そんな少女に少年は名前を明かすのだろうか――――
147 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/23(水) 23:46:05.12 ID:NtuNJoqL0
>>146
冷たい手の持ち主は、心が温かいという言葉を、大木は思い出していた。
しかしだからと言って暖かい手の人間は、心が冷たいという訳でもないだろう。
冷え性の人間は多くない。血の暖かさは、人の暖かさで、心の温かさだった。

「そうだよな。俺も、困ってる人には優しくしたい。学園都市に入って、そう思えるようになったよ」

最初の番町と名乗る少女との邂逅が、大木の人格に多大なる影響を及ぼしていた。
この世が冷たくとも人に優しい人間になりたい、人に優しい大人になれるようになりたい。
それが、風船のような気ままな大木の現在の夢だった。

「うん、お母さんの意見は正しい」

今までの話し相手は皆少女ということもあって、大木から名乗っていた。
しかし今回は、思考が麻痺していることもあって少女に名乗らせてしまった。
こうなってしまったら素直に自分から名乗るべきだった、そう大木は思う。

「俺の名前は大木陸。高校一年生だ。好きなように呼んでくれていいよ。
 こっちは……逢坂さん、とかでいい?」

可愛らしい少女の純粋な瞳を見つめ返して、大木ははっきりと名乗った。
純粋に人として名乗り返さないのは失礼だろうという判断だ。
こういう教養、考えは一致してるのになあ、仲良くなれそうなのにと大木は悲しい気持ちになってくる。
苗字でさんずけしたのは、未だに少女を警戒しているからだった。

もう少し大木に勇気があれば、どうして人を殺したの?と直接少女に問うたかもしれない。
しかし大木は臆病だから、そんなことはしなかった。そしてその自身の臆病さが、大木は嫌いではなかった。

「プリッツ、食べるかい?」

大木は、少女に繋いでいないほうの手で、鞄を漁り出す。
少女に拒否されなければ、お菓子の袋を差し出すだろう。
148 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/23(水) 23:46:15.32 ID:r1Jlt8/y0
>>145
─────荒々しげな声が聞こえた。
彼はチラリと其方へ目をやる。幾ら灯りの多い繁華街とは言え、今は夜。
やがて、声の主を視認する。遠くだからか良く見えないが……彼はよくある揉め事だと考えて、彼はやがてそこから目を離す。

しかし。

「……!」

次の瞬間にその方角から響くは、先程の声の主のものだ。しかしそれは、余りにも異様で、大きな叫び声────異常の発生を告げる警鐘が、辺りに鳴り響く。
その瞬間に、彼の目付きは一変する。彼の直感は半ば無意識的に、彼の肉体をその方向へと走らせていた。
その目に、頭にナイフが刺さった男を視認した瞬間、彼の身体を、本格的な緊張が襲い掛かった。
叫び声を放った男は、その場に倒れ込む。彼はすぐさまに駆け寄り、男の容態を見た。

「ッ!Все в порядке(大丈夫か)!?……ああ、良かった」

呻き声を上げている以上、命は助かっているらしい。彼はひとまず安堵する……脳を刺されて血も出ていない事に、若干の怪しさを感じながら。
彼が駆け寄った事で、周囲の人々は騒ぎをようやく認知したのか、大きく動揺し、どよめく様子を見せた。

しかし彼はその騒ぎの中でも慎重に、男の頭に刺さったナイフを抜き取る。……だが、其処で起こった現象は、まさしく不可解なものだった。

「……傷が……ない?」

試しに頭を撫でてみる。何処にも、傷や窪みらしきものが発見できないのだ。それどころか、血すら滲んでいない。
転げた時に擦ったらしい男の膝小僧の方が、余程に赤く感じられる程に。

だが。

『ぅ……い、いてえ……いてえよォ……』

男は未だ、頭に強烈な痛みを訴えている。この街で起こる不可解な現象……それは"能力"しかありえないと、以前までの彼ならばそう断言できただろう。
しかし、彼は既に、それとは異なる力の存在を知っていた。

"魔術"。彼の頭の中に、その存在が過る。彼は以前に遭遇した存在を思い出す。圧倒的な力を有した、能力とは異なるモノ。

まさか、と思いつつ、彼は周囲を見回す。先程チラリと見えた、フードの青年────揉め事の反対側にいた人間。
アレは……まさか。彼はそう考え、すぐさまにそれを探し……

そして、見つけた。増え続ける人混みの隙間から、今まさに角を曲がろうとする男の姿を。
彼は介抱を他の人間に任せて、その瞳と右腕に、怒りたる能力を滾らせる。

─────平和を乱す者。人を傷付ける者────彼はそんな存在を許せない人間だ。
彼の中に、正義感たる炎が滾る。そして"それは"能力"という形で、その肉体に現れる。

輝ける紫の光───それは"土"。大地を揺るがす力を有したまま、彼は男へと、一直線に駆け出す─────!

「ПОДОЖДИТЕ(待てッ)!!」

彼が男の付近まで接近する事が叶ったのなら───彼はすぐさま、能力を発動させる。

それは『土』。大自然の、地の底の歪みの再現。彼の周囲を大きく振動させ、範囲内の動的物体の移動を阻害する─────
それは身構えていなければ、期せずして宙に浮かされる程の地震。
この不意打ちらしき、振り下ろされようとする最初の鉄槌。それは、男へ有効な手であっただろうか─────

彼はあまりに愚直な怒りと共に、能力で以って、その存在へと迫った。
同時に……頭の中に、先程に見た能力……及び、"魔術"の存在を思い浮かべながら。

/遅れて申し訳ない……





149 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 00:03:55.26 ID:CvRoqAFso
>>148
少年───黒繩揚羽という名の彼は、些か上機嫌であった。
普段ならああいった輩は能力を使わずボコボコにブン殴った挙句に唾を吐き掛けるくらいはしただろうが、機嫌が良い故に一発で済ませてやったのだ。
鼻唄の一つでも歌いたい気分だ、叫び声のBGMが心地良い。

そんな彼が丁度路地の角を曲がった頃だろうか、聞き慣れない言葉を何か叫ばれた気がして、ピタリと立ち止まり振り返る。

「あん?」

怪訝そうに顰めた眉と、威嚇するように剥いた歯並びは、その言葉を自分に言ったのかという疑問と、何て言ったのかという疑問が含まれていた。
そこにいたのは、やたらとガタイの良い男…と、そこまで認識した瞬間、黒繩は足元に強い揺れを感じる。
地震というどころではない、自分の足元で大波が立ったかのような激しい揺れが不意に襲い、思いもよらぬ攻撃に黒繩の体は浮かび上がり、無様に尻餅をついてしまう。

地面に落ちた黒繩の表情に現れたのは、突如として襲った揺れへの驚愕ではなく、いきなり目の前に現れたイリヤーへの疑問ではなく。

「───あァ!?」

イリヤーを睨み付ける、純粋な怒りの表情だった。
150 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/24(木) 00:14:45.84 ID:1DznOUxS0
>>147

「えへへ、迷子のお兄ちゃんも私と一緒だね」

その笑顔はとても眩い。可愛らしく、年相応の笑顔だ。
「私と一緒」
そう言われたことを喜んでいいのだろうか。そもそもこの少年は間違っている。今もし急に全速力で走り出せば、少女は咄嗟に反応できず逃げ出すこともできるだろう。少女はそれを追いはしない。
それは今までの人たちと同じ反応で、少女はもう知っていた。だから[ピーーー]必要などない。しかし今の少年の行動は少女にとってまったく未知なことだ。
普通の域を出ていない今こそ、逃げ時だというのに。

「おおき…りく……高校生なの?
じゃありくは大人だね。うん、私は好きに呼んでいいよ」

少女はいきなり陸と呼び捨てにする。無礼といえば無礼だが、そこまで少女は親に教えてもらってはいなかったのだろう。教えてもらっていないことは出来ない、それが少女だ。
しかし少女にとって高校生は立派な大人、雲の上の存在だ。そこら辺の認識は他の子供と同じらしい。

「え!?食べていいのっ!やったー!」

少女は少年が渡したお菓子を嬉しそうに貰うと、レインコートの中のポケットへと仕舞う。歩きながら食べるのは行儀が悪い、そう思っての判断だろう。
子供を得付けるのは簡単だ、それはこの少女も例外ではなくかなり少年のことを気に入っているらしい。行動は常軌を逸していてもやはり子供ということだろうか。

そうこうしているうちに、遠くから街の喧騒が微かながらに響いてくる。灯りもだんだんと多くなり、どうやら目的地はもう少しのようだ。

「りく、あそこまで行けばいいの?」

今の少女の格好は人に見られたら少しまずい。幸いレインコートのおかげで大きくは血に濡れていないが、顔には僅かだが血は付いているし、血の匂いも僅かに漂っている。
しかし少年には別に関係はない、むしろ殺人鬼を逮捕させる絶好のチャンスだ。彼女をあそこまで連れて行けば嫌でも取り締まらなければならないだろう。そうすれば自然と彼女と連続殺人の犯人の照合は取れ、晴れて少女は御用となる。
その行為は間違っていない、むしろ正しいものだ。少なくとも"世間"にとっては――――
151 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/24(木) 00:21:57.33 ID:n8Flbyo70
>>149
彼は足元に倒れ伏した男の怒れる視線に対して、彼もまた同じくにらみを効かせる。
彼の瞳と右手に光る紫の光が、赤いソレへと変わってゆく。それらは魔術によるものではなく、能力による産物であった。

彼は大きな身体で男を見下ろす。しかし巨体による威圧は少しばかり、効果が薄いだろうか。
しかし、それでも構わない。彼は己の怒りを誇示すると共に、腕に付けられた風紀委員としての腕章を輝かせた。

「お前だろう、あの男性を痛めつけたのは─────」

其処で初めて見えた、男の顔をジロリと睨む。自分と同じくらいの少年か────
目の前の男と、先程の男性ふたりとの相対の構図はハッキリと見えていたし、揉め事が起こるのも見えていた。

確かに揉めれば、怒る事もあるだろう。だが────
だからと言って、無実の人をあそこまで痛め付け、苦しめる理由にはならぬ。

「"黒いナイフ"の能力──────それか、あるいは……"魔術"」
「そう、"魔術"……この言葉を聞いた事はあるか?」

魔術。それを相手の男が知っていようがいるまいが、それは関係ない。
魔術という存在。それは一体、如何なるものであるのか─────
この言葉に相手が少しでも反応を見せるのなら、それについて知っているという事。
もし知っているのなら、それは後で聞き出すとして────

「どんな理由でも、人を痛めつけたのは事実。……大人しく付いて来て……というのは、無理か……」

相手の中で滾る怒りを見れば、自ずとわかる。大人しく付いて来るようには見えない。
彼は手元に赤の光を宿したまま、相手の反応を見る。

魔術。このフレーズに対して、少しでも手掛かりらしき何かを、この男が有していればよいのだが……



152 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 00:46:10.30 ID:CvRoqAFso
>>151
体制を大きく崩したが、それに対する追撃は来ない、脅しのつもりかもしくは余裕でも有るのだろうか?自分で考えておいて、その舐めた態度にまたムカっ腹が立つ。
ここで再びイリヤーの姿を観察した、見間違いでなくかなりの良い体格をしていて、目と右手の光を見るに異能を持つ人間だ、そして顔付きからするに日本の人間ではない。
それと、腕に嵌められた風紀委員の腕章が目に付く、成る程つまりそういう事か、厄介なのに目を付けられたものだ。

「あァン?……ああ、さっきのアレか…ありゃ俺は悪くねェだろ、あのままじゃあ俺が殴られてたぜ?」
「正当防衛だろうが、安心しろよ、死にゃしねーよ」

イリヤーの問い掛けをあっさりと認め、埃を払いながら立ち上がる、その態度に反省は無い。

「…で、だ」
「何でテメェは魔術の存在を知っている?」

魔術、その言葉をイリヤーが吐いた事で、黒繩の態度は少し変わる、ただ気に入らない相手に怒りをぶつけるような先程までとは違うもの。
学園都市において秘匿され、極一部の者しか知り得ない筈のその知識を知っている、それだけで黒繩にとってイリヤーは危険視するに値する存在となった。

そこで少し考え───合点がいった、イリヤーが何故魔術の存在を知っているのか。
魔術師の殆どは、この学園都市の外部から…もっと言えば、国外から潜入していると聞く。
この男も見るところ外国人、恐らく学園都市に潜入し、風紀委員として活動する傍ら暗躍する魔術師、といった所だろう。

「……あァそうか、テメェも魔術師か…そうかよ…」

「最ッ高の日だな今日は全くよォ!!」

魔術師ならば、心置きなく痛め付け、ぶっ殺せる、好きなだけ刃を突き刺し、抉り倒せる。
最高のストレス解消方だ、自分にそれが許されているのだから、嬉々としてそれをして何を文句を言われる筋合いがあるというのだろうか?いや無い。
三日月の様に口角を上げ、広げた両手の中に漆黒のナイフが3つずつ生成される、闇が凝縮したような禍々しい妄想の刃だ。
それを一斉にイリヤーに向けて投擲する、その効果は先程彼が見た通り、刺さっても傷は出来ないし血は一滴も流れない。
だが、それに傷付けられてこそその刃の真実を知る、激しい苦痛を生み出す激痛の妄想が、刃から受け渡されるのを。
153 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/24(木) 00:46:14.53 ID:CDyyfEnY0
>>150
「そうだな……同じ人間だよ。俺も君も変わらない」

大木は、純粋に悲しかった。今となっては恐怖よりも悲しみが勝っていた。
どうしてこんなに優しい子が人殺しをするんだ、同じ人間で普段の考え方がこんなにも近いのに。
殺人を犯している者と犯していない者。唯それだけなのにその一点だけで、俺とこの子は分かり合える気がしない。
殺されてもいい、とは思えない。しかし―――――

―――――――今、大木の隣に居るのは、迷子の自分を助けてくれた優しい少女だった。

例え人殺しでも、その事実は変わらない。大木は、だからこそ悲しかったのだ。

「じゃあ逢坂さんって呼ぶよ。うん」

何というか、今までであった人間の中で一番幼い子相手に一番距離を取る呼び方をしている。
もう少し大木に余裕があれば、その事実に微笑んでいたかもしれない。

少女がプリッツを受け取り、ポケットに収めている所を大木は眺める。
何というか、逢坂という少女は、普段は今まで出会った中で一番しっかりしている人物かもしれない。
下手な高校生より、よっぽど大人である。下手すれば俺よりもかもな、と大木は思った。

そのことが、尚更悲しかった。仲良くしたい。
しかし大木の普通の人間としての臆病さは、それを許さないのだ。
大木の普通の倫理観は、この少女と仲良くなることを拒否していた。
二度と会いたくない、そう思ってしまう。だからせめて、離れる時までは、優しくしようと思った。

それが偽善や自己満足と言われ様とも構わなかった。世間から罵られようとも構わなかった。

これから隣の少女が殺す相手は、警察に突き出さなかった俺を恨むかもしれない。
それでも……それでも。

「いや、ここまででいいよ。逢坂さん、ありがとう」

大木は、逢坂という少女の手を離した。大きな人通りに向けて、歩き出す。
大木は、くるりと何度も振り返り、少女にバイバイ、と手を振る。そう、殺されないために。

別れるときまで警戒をしなかったのが、大木は辛かった。

大木は殺人鬼の少女に襲われて血を流すことはなかったが、それでも――――


――――――――強くかみ締めた唇から、血が滴り落ちていた。


//ありがとうございました!
154 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/24(木) 01:13:15.88 ID:1DznOUxS0
>>153

少年の悲しみは、しかし少女には届かない。少年の嘆きは少女には届かない。
少女の精神は既に形成されていて、それが崩れることはまず無いだろう。人殺しが定着し、染み込んだその精神は常人のものとはやはり掛け離れている。例え今は普通に見えても、その根底は殺人鬼。
それは紛れも無い事実であり、それが逢坂胡桃という少女なのだ。
どんなに優しく、どんなに人間らしかろうと、どうしようもなく人殺し。それがこの少女だ。

人を[ピーーー]ことは許されない。それが一般の論理観であり、この世界の人にとってのルール。犯してはならない禁忌。
それに触れるものは誰であろうと大罪人。人が犯してはならない禁忌に触れるということはそういうことだ。

「ここまででいいの?…うん、分かった」

「ばいばい、りく!またいつか会おうね!」

素直に頷くと、少女は繋いだ手を解く。一瞬の空虚を手に感じるも、少女は去っていく背中を見送る。
一方的な再会の誓いは、おそらく果たされることは無いだろう。それを知らず、少女はただ純粋に少年に別れを告げる。

「…りく、なんだか悲しそうだったなぁ……」

――――少女の殺人は終わらない。少女が人の"中身"を知れるそのときまで。
それはきっと間違いで、それはきっと狂っている。しかし少女にはそれしかない。信じるものはそれしかない。
少女はそれが間違いだと気付かぬまま、また罪を重ねていく。いつか下るだろう、裁きの時まで――――

//お疲れ様でした!!
155 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/24(木) 01:17:16.98 ID:n8Flbyo70
>>152
「……何?」

男の論は、彼の理解の範疇よりもずっと速く、その頭の内で完結してしまったようだ。
問い詰めたがしかし、彼は多くを知らぬ者。その飛躍した結論に対し、彼はさらに問い詰めようと迫ろうとした、その時……

「ッ!」

男の手の中に、突如として禍々しい刃が握られた。やはりあのナイフは、能力による精製物か。……襲って来るのなら、迎撃するのが道理。
彼は迎え撃つように男に向けて右腕を向ける。それは、"炎"の力。熱く燃え盛るような熱と光が、彼の腕に収束していき……

「Прамя(プラーミャ)!」

放たれるは熱線。暗闇を照らすような、明るく熱い光の線が、男の身を焦がさんと迫る。
しかし迎撃に要した時間を、回避に充てきる事は難しく。投擲されたその内の一本が、彼の頬をかすめた。

「……うっ!?」

瞬間。頬の奥まで浸透し、果ては脳まで届くような激痛が、彼を襲った。
痛い、痛い、痛い。精神を占めるその感情は、彼の精神を少しばかり他の場所へ持って行く程のものだった。

激痛に顔を歪めながら、彼は考える。視認したのは、確かに"ナイフ"。しかし、この痛みは一体……
恐る恐る、傷口に触れてみる。其処からは先程見たように、血の一滴も流れてはいなかった。

"巨大な痛みだけを与える刃"……そういう事かと彼は納得し、同時に脅威を感じる。
これは、刃物では到底考えられない痛みだ。おそらく相手の攻撃は手数型。幾つも食らえば、下手をすればショックで死ぬ事もあるやも知れぬ。

……だが、彼は目の前の男が、大きな誤解をしているように思えた。

「待て、私は魔術師ではない!」

その声は、彼に届くだろうか。

「魔術について……チッ、知っているのか!?……教えろ、詳しくだ!」

……嘘と決め付けられてしまえば、それまでだ。だが彼は、知らなければならぬ。
学園都市を脅かす存在。脅かし得る存在。魔術を行使する存在と、魔術の真の姿について。
正義の心があるからこそ、彼はそれを見過ごせない。目の前の男は、明らかな殺意を抱いているが……

その殺意には、理由あっての事だろう。だからこそ、彼はそれについて、危険を冒してでも聞く必要があった。
……"魔術師がしらばっくれている"と認識されたのなら……戦う他にあるまいが。

彼の右目の光は熱線を放った事で、燻んだ色に変化してしまった。ある程度の"冷却"が必要となる。
彼は次なる攻撃が来る事を警戒し、それに対して身構える。
炎、そして土。自然を扱うその力は、さながら魔術のようにすら思えるが……
果たして目の前の男は、彼をどう解釈するだろうか。

//申し訳ない、眠気が……凍結でも宜しいでしょうか?
//昼〜夕方頃には返せるかと思います


156 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 01:22:57.47 ID:CvRoqAFso
>>155
/はい、大丈夫ですよ
/自分も夕方くらいから返せると思います、本格的に再開出来るのは夜になりそうですが…
157 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 01:50:13.62 ID:CvRoqAFso
>>155
「チッ!」

イリヤーが光を蓄えた手を此方に向けたのが見えた、此方への反撃かナイフの迎撃の合図だろう。
だがもうナイフは投擲した後だ、さっきのように地面を揺らされようとナイフを止めようは無い、一応また転ば無いように気を張るが…
それは予想だにしていない輝き、暗い路地裏を俄かに明るく照らす熱の光が、投擲したナイフを溶かしながら此方へと照射された。
不意の熱戦に面食らった黒繩だが、素早い判断で身を翻し直撃を逃れる、髪の毛の先と左手が熱に焦がされたが、丸焼けになるよりは遥かにマシだろう。

「テメェ……舐めた真似しやがって…!」

続いて黒繩は、まるで左掌を鞘に見立てたような動作で、右手に漆黒の節くれだった刀を作り出す、見た目からして凶悪なそれがわざわざ手持ちの武器の形を取るのは、その実威嚇以外に意味の無い事だ。
その刀剣は妄想の産物、そこにある様で実際は存在しないのだから、いくら巨大な物を創り出そうと防御には使えないし、物理的な威力は無い。
ただ、あからさまに武器を持っているという警戒心を相手に持たせる事で、恐怖の念を与えられる、それだけで十分だ。

「あァん?此の期に及んで何言ってんだテメェ、テメェのそれが魔術でなくて何なんだよ?」
「地面を揺らすのと発火現象(パイロキネシス)を同時に扱う能力なんて、聞いた事が無ェ」

誤解を解こうと声を張り上げるイリヤーだが、それをすぐに信じて誤解を解くほど聞き分けの良い人間ではない。
漆黒の刀を突き付けながらイリヤーを睨み付け、嘘をつくなと一蹴する。

「大体なァ……テメェが魔術師でないとして、だ」
「能力者である俺が魔術について詳しく知ってる訳ねェだろうがタコ!!」

例え誤解が解けたとしても、黒繩に魔術の知識なんてものは全くと言って良い程に持ち得ていない。ただ単に自分の所属している暗部組織が『学園都市の魔術師を抹殺する』という信念を元に行動しているから魔術師を狙う、そんな理由で行動している。
魔術師とは何者か、魔術とは何なのか、そんなものは知らないし興味も無い、調査だの研究だの宣って人の領域に踏み込んできた愚か者に制裁と言う名の私刑を趣味で下しているだけの男だ。
そんな男が、『もしかしたら魔術師ではないのかもしれない』というだけで一度抜いた刃を納める事はしない、襲った相手が能力者だったとしても彼にとってはそこに何の問題も無いのだから。

一気にイリヤーへと駆け寄った黒繩は、接近が成功したならば、右手の刀を真横に振るう、しかしその太刀筋はイリヤーに先端を掠める程に浅い、囮の攻撃だ。
本命は、その一撃を振り終えてから、素早く更に一歩踏み込みながら行われる返しの一閃、イリヤーの右太腿を断ち切る様に振り下ろされる。
158 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 ◆3XNDKmtsbA [sage saga]:2016/03/24(木) 18:25:22.87 ID:n8Flbyo70
「!」

どうやら、迎撃は外れたらしい。……初見でアレを回避するとは、戦い慣れした人物である事を予測する。
場数を踏んでいる、という事だろうか……あの洗練された殺意もまた、そうした経験の賜物と思えば納得できる。
彼は思わぬ難敵である事を察し、先よりも気を引き締めた。

次に視界に入ったのは……日本の剣。外国であっても、KATANAとは有名なものだ。
おそるべき斬れ味に、手数を重視した武器……彼はそれぐらいしか知らないが、あからさまな刃物の出現に対し、彼はよりいっそう身構える。

……この場の状況は今……男:無傷。自分:頰に鈍痛。道端にナイフが数本、といったところか。
あの刃に当たれば、すぐさま激痛が襲いかかる。……厄介なものだ

「……何?」

彼は再び、もろに不可解と言った風な表情をする。それは彼の言い分を、男が信じなかった事ではない。……元より、あまり期待はしていなかった。
それ以上に、彼が真に疑問に思った事は……

「……魔術を知らないのに、怒るのか?」

彼の疑問は、その点に集約されていた。
そも、怒りとは、状況を理解し、それに対する正当な自己感情によって発生するものだ。てっきり彼は、男が魔術、ないし魔術師にうらみがあるのかと考えていたが……
しかし男は、その詳細を知らずに、ただ憎しみだけを抱いていると言うのだ。その点ばかりが、彼はただ不可解だった。

しかしながら、今この場でそれを深く尋ねる事は難しいだろう。……いくら弁明した所で、この男の思い違いは変わらないように思えた。
襲って来るのならば、あくまで鎮圧する。それにより風紀委員としての責務を果たし、同時にあわよくば"魔術"に近付ければ……
彼はそう判断する。迫り来る男に対して身構えるのは、彼の戦闘続行の意思を克明に示していた。

「!─────」

当然だが、彼が刀剣を相手にした事はない。そのリーチが分からず、思い切り後ろに飛び退く事で、一太刀目は回避した。

「何!」

しかし─────男は甘くない。男はそのまま踏み込み、背後に飛び退き体勢の崩れた、自分の脚に狙いを付けた。
それに気付いた瞬間に、彼は驚きの声を上げる。……だがそれは、食らってしまうという諦めにはならなかった。

「……Вода(ヴォーダ)ッ!」

彼の平常だった右目が、突然に煌々とした青色に変化する。荘厳な深みを含んだソレは、海を表すがごとき鮮々としたものだ。
即座に彼は、能力を発動する。"土""火"その次に、彼が表装させるのは………

「──────ハァッ!!」

瞬間、体勢が崩れた彼の身体から、高圧の"水"が噴射される。
迎撃のようなタイミングで繰り出されたそれは、直接的なダメージこそ存在しない。しかしまともな迎撃が叶えば、その水圧は相手の体勢を崩すか、あるいは吹き飛ばす事が可能。

もし迎撃に成功しようがしまいが、彼は男と距離を取ろうと試みる。仕切り直しと同時に、策を練るためだ。
あの激痛を生み出す刃に当たってはならぬ。……何か、よい手はないだろうか。

/お返ししておきます





159 :イリヤー・ミハイロヴィチ [sage]:2016/03/24(木) 18:25:57.13 ID:n8Flbyo70
//>>157宛てです!すみません
160 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/24(木) 18:36:49.26 ID:AMET3PPu0
手頃な武器が必要だった
明日にでも狙われるかもしれない身となって、手ぶらで戦えないでは話にならない
数日前まで右腕にあったあのドリルも捨ててしまった今、自分はまさに丸腰状態なのだ
守る為に────武器がいる

「......ダメだ。デカすぎる...車サイズだと吸収できないか...」

誰のかも分からない路上に乗り捨てられた車に触れながら、少年は呟く

長めの前髪で右目を隠した髪型
制服の紺色ブレザーに黒のスラックスを着用
髪から覗く宝石の様な緑眼が特徴の少年

彼の能力【機械融合】は彼の腕と機械を文字どおり融合させる能力だ
複雑でなく、ある程度のサイズなら吸収し武器にもなるのだが...
乗用車サイズともなると難しいようで、吸収しようとすると拒絶するように頭痛がする

「......手頃なサイズ...せめてバイクぐらいならいけるか?」

だが生憎、周囲にそんな武器に使えそうな機械類は無い
それならば仕方ない────場所を移すか。と

彼は学園都市でも治安がよろしくないと言われるエリアへ足を運ぶ
普段あまり近づかない場所だが、ここには学園都市でも珍しい再利用もされず捨てられるゴミの廃棄場

ここには学園都市中のそういったゴミが集まっている
高く積み上げられたゴミの山に圧倒されながらも
山と山の間にできた車が通るほどの道を歩く
ここなら何か良さげなものが見つかるだろう────。


だが、ここは治安の悪い地域
こんな場所をウロつく少年は、格好の餌だが────?
161 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 20:45:09.09 ID:CvRoqAFso
>>158
一太刀目、これが回避されるのは予測済みだ、寧ろ回避されてこそ追撃が活きるというもの。
返す刀がイリヤーの右足を狙う、ぶった斬れば足が切断された以上の痛みを与え、大きく体制を崩せる。

「死ねやオラァ!!」

雄叫びと共に振り下ろした漆黒の刀、それがイリヤーの足を捉える瞬間、イリヤーの目が輝き、放出された水流が黒繩の腹に突き刺さる。
刀がイリヤーの足に到達するよりも早く、黒繩の体は水圧によって吹き飛ばされ、大きく距離を開ける事になる。

「ッ……ゲホッ…ァあ…!クソが……!」

腹部に高水圧をぶつけられるのは、殴られるのと同じだ、強い衝撃を受けた事で悶えながら、しかし強い闘志が立ち上がらせる。
悪態を付きながら立ち上がり、未だイリヤーを睨み付ける、それは確かに怒りが大きいが、何処か楽しむ様に嗤っているようにも見えた。

「ァア…?別に魔術にキレてる訳じゃあねェよ、憎む理由がねェだろうが……」
「俺がムカついてんのはテメェ個人にだよ、痛ェだろうがハゲ…!」

立ち上る炎のようにゆらりと一度空を見上げ立ち上がった黒繩は、苛立ち混じりの声でイリヤーの疑問に答えた。
魔術に対して怒りがある訳ではない、彼が怒るのは…まあ、癖のようなものだ、兎に角何かに対して怒るのだ。

「逆に、テメェは魔術の何を知りてェんだって話だよ」
「テメェも魔術師をぶっ殺してェのか?あ?」

162 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/24(木) 21:41:23.42 ID:1DznOUxS0
>>160

ゴミの廃棄場、そこは比較的目につきにくくそういった場所として使われることが多い。
そういった、とはつまり喧嘩や殺し合いというそういったものだ。人目につく場所ではやりにくい、そういったことを堂々とできる。
そういう場所は比較的トラブルに巻き込まれやすく、滅多なことがなければ一般人は近づかない。自ら身の危険を冒すほどの馬鹿は居ないだろう。


キュルルルル〜……


ふと、そんな音がどこかから聞こえてきた。音の出所は少年が歩むその先、ゴミがまるで山のように積まれたその頂上。
その音の正体は少女――――しかしそのシルエットはどこかおかしかった。
何やら眠っているらしい少女は、尻尾…のようなものを枕代わりにし、スヤスヤと眠っていた。その顔はとても幸せそうで、口からはヨダレが垂れている。付け足すならテンプレートな寝言でも呟いていそうな雰囲気だ。
どうやらさきほど聞こえた音はこの少女の腹の音だったらしい。
しかし、尻尾や角、更には背中に小さな翼まで生えている。事情を知らない者からすればコスプレのようにしか見えないだろう。
だがコスプレにしては妙に出来すぎている。そもそもこんな少女がここにいること自体が不自然だ。

こんな見るからに怪しい少女を少年は果たしてどう思うだろうか。
163 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/24(木) 21:54:48.62 ID:AMET3PPu0
>>162
「...むむ...ただの鉄パイプじゃ融合する意味が...」

時折ゴミの山にあるめぼしい様な機械に触れるがどれも微妙な物ばかり
かれこれ数十分歩き回っていて、諦めようかと思った矢先────。



その腹の声が聞こえてきたのだ
一応、場所が場所なので周りに警戒してたが...どうにも気の抜ける音だ
周囲を見回して音の発信源を探す
横方向からじゃない。少し高い位置から聞こえてくる

少年は近くのゴミ山の頂上に目星をつけて登ろうとするだろう
尖った金属片やヌメッとしてそうな油があって少々苦労したが、その頂上に辿り着いて────己の目を疑った

「────女の...子?」

ゴミ山の頂上で眠っている少女に出会った
こんな場所で安眠しているという事実が既におかしいが何より────。

「なんだこれ...尻尾に、角? 翼まである...」

その異様な容姿が何よりの驚愕だった
コスプレというのものにしては────少々リアル過ぎる
手作りの小道具でなく、まるで生きている様な

「...って、もしもし? 君、大丈夫か?」

何はともあれまず起こさなければ、と少女に声をかけてみた
トントンと軽く肩を叩いて眠りから覚まさせようとするだろう
とにかくこの場所は治安も良くない。女の子を一人寝かせる様な場所ではない────。
164 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/24(木) 22:26:43.67 ID:1DznOUxS0
>>163

「んぅ……はっ!?ビフテキっ!?!?」

……そんな声とともに少女は目を覚ました。どうやら本当にテンプレな夢を見ていたようで、まだヨダレを垂らして目が覚めていない。

「……………」

少年を見つめること数秒。その間に徐々に思考能力が戻ってきて、漸く今の状況を理解する。
そう、寝顔を見られた上に角や尻尾まで見られてしまった。その事実と状況が余りに理解できなくて――――

「なんじゃあぁあああっ!?!?」

そう叫び声を上げ少年と咄嗟に距離を取る。普段そんな声を上げることは滅多にない。
これは就寝中を襲われたことと空腹が相まって一種のパニック状態に陥っているのだろう。目を白黒させて冷静さを失くし少年を睨む。
尻尾や角をしまう様子は無く、尻尾をくねらせながら少年を指差す。

「き、き貴様!何をしておるッ!!儂を襲いに来たのか!?!?」

その姿は普通の人の姿ではないが、見た目は少女。そんな少女がおかしな話し方で妙なことを言ってくる。どこか頭のおかしな子なのか、それともこういう年頃なのか。
あまりに全てが不釣り合いすぎて逆にそれが合っているのだろうか、少女の放つソレは何か特別なモノが感じられた。
165 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 [sage saga]:2016/03/24(木) 22:38:46.92 ID:+eDia5Z3O
>>161
「ふゥ……」

水による迎撃は、思いの外大きな戦果を挙げたようだ。水圧は彼我の距離を大きく突き放し、再び対峙の形をとる。

「私はハゲではない、この通りフサフサだ。……ああ、ますます理解に苦しむ」

彼は少しズレた返しをする。「ハゲ」が罵倒であると気が付いていないらしく、言語の壁が克明に伺えるだろう。
彼は、男の受け応えに先程から手ごたえを感じられなかった。魔術師に対して怒っている、と言うよりも……単に目の前の物体に対して怒っている、と言うのか……
逆に自分が、魔術を知ろうとする理由を問われる。……聞く者の理由を問うのは当然だが、どこか納得がいかない。
しかし彼は、それでも答えるだろう。それが、彼の求める答えへの、少しでも近道となるならば。

「……かつて私は、この街で、"鬼"を名乗る魔術師に出会った」
「それは強大だった。あまりにも手に負えず、二人掛かりでも取り逃がした」

彼は戦闘を中断し、己が魔術を知った切っ掛けを語る。
それは体験談。淡々と語られるそれはしかし、その語調によって、それが嘘ではないと証明する。
……目の前の男がその言い分を、信じるかどうかは別としてだ。

「……それは、人を殺そうとしていた。……だからこそ、私は知りたい」
「魔術とは何なのか?魔術師とは善なのか?悪なのか?この学園都市に、何をもたらす存在なのか?」

「……そういう事だ。何か知っているなら、教えろ。そうでなければ……まあ、どうする?」

簡潔に説明を終える。何か知っているなら情報をくれと言う一方で、彼は男が、何も知らない場合の事を考えていた。

これ以上続けるのか?という疑問を、ジェスチャーで伝えようとする。
魔術について何も知らないのなら、ねじ伏せてまで聞く必要はない。
先の男性も無事だったとはいえ、この癇癪持ちは後々危険になるが……
まあ、注意だけでも見逃せる案件である事に違いない。

「何度も言うが、私は能力者だ」

それでも、構えは解かない。突然襲い掛かってきた場合を考慮しての事だ。
男は彼の答えに、いかなる行動を示すのだろうか……

//うおおおお遅れて申し訳ない!!返します!
166 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/24(木) 22:42:03.84 ID:AMET3PPu0
>>164
「........う、うわああああっ!!」

少女の叫び声に対して少年も声を荒げた
ゴミ山の上で倒れそうになるのを必死にこらえて、バランスを取る
いきなり悲鳴なんてあげられたらビックリして当然

改めて少女の姿をその緑眼で見据えた
パッと見れば普通の女の子だが、やはり相違点が目に付く

その動く尻尾が間違いなく生物のソレだと確信させるだろう
作り物ではない本物だ────ならば、この子は何者なのか

人と動物の合体...? 学園都市の科学が発達してるとはいえ
こんな倫理観もない実験を、その結果を外に放置するとは思えない

だとすれば、非科学────この間聞いたばかりの魔術の世界の存在か
それでも確証はないのだが────。

「...えっと、ゴメンね? 驚かせるつもりはないんだ。
ただ、こんなトコで寝てたら危ないよ? 」

とりあえず、今はこんなゴミ山から降りようと思う
自分もそうだが一歩踏み間違えれば鉄筋や尖った金属片とぶつかって大怪我しそうだ
少女の警戒心を解く様に、少年は出来るだけ笑顔と優しそうな声で手を差し伸べてみるのだった────。
167 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/24(木) 23:16:09.10 ID:1DznOUxS0
>>166

「住む場所が無く、こんなゴミ山で過ごしていればこの始末よ…こうなれば素直にマーカスのところに行っていおくべきじゃったか……」

少女の元からまた何かおかしな言葉が飛び出す。気が動転している証拠だろう。普段の彼女ならばこんな独り言で誰かの名前を出したりはしない。
下手をすればその名前を出したその人物に何かしら危険が及びかねない。そんなへまを犯すような愚か者ではない。
ただことがことだ。確かに無防備だったことは認めよう。しかしあまりにもいきなり過ぎるだろう。
だいたいこんな姿の少女に普通声をかけるだろうか――いやかける人も普通にいるだろうが。

「……まぁ貴様の言い分は最もじゃ。
良かろう、一先ずはここを降りようじゃないか」

そう言って手を取り立ち上がると、少女はゴミ山を降りていく。それは少女の姿をしていながらも優雅に降りる。更にその角や尻尾のせいか人から離れたその姿が更に少女のその優雅さを引き立てているようにも感じる。

「―――で?貴様は一体何者じゃ!」

地面に降りると、少女はまた少年を睨む。
未だ少女は少年を信用していない。それは少女の雰囲気から分かるだろう。
明らかに少年を警戒している。尻尾を立てて、まさに動物が威嚇するかのような様子。今にも「シャー!!」などと言った声をあげそうだ。こんなあまりにも扱い辛い少女を少年はどうするのか。
168 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/24(木) 23:17:51.17 ID:CvRoqAFso
>>165
「そーいう事を言ってンじゃねーんだよ!真面目かテメェは!」

罵詈雑言に天然で返されては、言ったこっちが恥ずかしくなる、口から唾を飛ばしながらそうではないと吠えた。
そして語られるイリヤーの体験、魔術を追い求める理由を聞くと、自分で聞いておきながら面倒そうな表情をした。
答えるのが面倒だ、というのもあるが、こういった正義感に燃える人間は苦手だ、本気で嫌いまである。
面倒だから知らないフリして戦闘を再開しようとも考えたが、そういえば機嫌が良かったのを思い出したので思い出しついでに答えてやる事にする。

「『鬼』ねェ……聞き覚えがねェな、忘れてるだけかもしんねーけど」
「そいつの事は知らねェが、人を殺そうとしてたら悪人だろ、いい奴は人を殺そうとなんかしねェしな」

「いいか?魔術師ってのはな…この学園都市に調査だの研究だの能力者は危険だの勝手に宣って土足で歩き回るゴキブリみてェなクソ共だ」
「テメェ、自分の部屋を他人に歩き回られて、挙げ句の果てベッドの下やら本棚の裏やら掘り返されて我慢出来るか?俺はできねェ」
「そんな礼儀知らず共だよ、魔術師って奴は」

魔術師について知っている事を語るが、それは善悪とかそういったものでは無く、そういうものであるという個人的な認識に近い。
有用に成り得るのは、魔術師が学園都市に訪れる理由だろうか、研究や調査、もしくは能力者を危険視してこの学園都市に魔術師は訪れている。

「……ケッ、萎えたぜ、クソが」

最後に、そんな事を呟くと、黒繩は漆黒の刀剣をガラスのように砕いて消した。
169 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/25(金) 00:01:15.86 ID:QeqBo0XB0
>>167
「えっと...乾。 乾京介って言います...」

ついつい疑問系で答えてしまうが、いざ何者かと問われて即答できる人間なんて少ない
そもそも尻尾に角が生えてる人間に何者だ。と問われてもこっちのセリフだと言いたくなる
少女の問いに、少年は自分の名を伝えたのだった

乾と名乗った少年はその宝石の様な緑眼で少女を見た

「......とにかく、警戒するのは結構だけど。
この辺は治安が悪い。君みたいな子が一人でいたら怪我してしまうよ?」

ごほん、と咳払い
当初の目的である武器集めも重要だが、この少女をこんな場所に放置はできないなと思う
この場所が誰の縄張りか分からないけれど、さっきの自分とこの子の叫び声で誰か来るかもしれない

それに、やはりその尻尾と角は異常すぎる
非科学領域に存在する────どちらかというと魔術側なのであろうと関係ない

シャーっと警戒するネコを抑えるに噛まれる覚悟がいる
今もそんな感じだろう。警戒を解いてもらうに噛み付かれる覚悟ということらしい
なんとか笑顔で、少女に警戒を解いてもらおうとする────。
170 :イリヤー・ミハイロヴィチ『стихия』level.4 [sage saga]:2016/03/25(金) 00:24:48.20 ID:ZcEjbj6h0
>>168
「!」

何処かおかしな彼の言い分の中に、彼はようやく重大な情報を発見した。
"学園都市に、能力を危険視して潜入している者達"の事を指し示すという事か。……であれば、彼の忌々しげな言い分にも少し納得できる。

「……なるほど、言い分は理解した」

先に戦った者は力こそ強力であったが……それでも、魔術と能力には何ひとつ大差はないように感じられた。
だと言うのに、やれ危険だと認定され踏み入られては、確かに鬱陶しくなる気持ちも理解できる。

だが、此処まで嫌悪するものだろうか?……彼はそれを考えて、やがて男に関しての、あるひとつの結論に達した。

「つまり貴方は……愛しているんだな、この学園都市を」

恐らく的外れな事を、しかし至極真面目な表情で言う。貴方と言ってはいるが、それは敬いから来るものではない。単純に"敵にはお前""そうでなければ貴方"と使い分けている、それだけの日本語への認識の差異だ。
魔術師は、彼の言い分では……能力を探りに、この場所に潜入している者たちを指すという。なるほど愛する学園都市に潜入されては、目の敵にするのも当然の事だ。
……だが、目の前の男はまともな愛を持っているのだろうか?それを考えて、彼は再び考え込んでしまった。

「……謎が多い人物だな、貴方は」

そうこうしていれば、男は刀剣を武装解除した。戦闘の意がない事を確認し、彼もようやく緊張を解く。
本来なら無為に人を傷つけた事は、懲罰にも値するのだが……

「……まあ、有益な情報をくれたお礼だ。今日の所は、見過ごそう」

魔術師。それに関する断片が手に入っただけでも僥倖だ。これ以上、彼と争う理由は存在しない。
ならば、必然的にこのまま別れるのが道理であって。何方かが踵を返しかけた頃、彼は思い出したように男の方を向く。

「……そうだ。名前を聞かせて貰えるか?」
「私はイリヤー。イリヤー・ヴァシーリエヴィチ。……忘れたいなら、忘れても構わない」

折角だから、名前を聞こう、と。
結局の所腐れ縁に違いはないが、それでも出会いは出会いだ。一期一会を大切にする彼にとって、たとえ数分前に戦っていた相手だろうと、それは聞くべきものだった。

……無論。恐らくかなり頭に来ているであろう男が、素直に返してくれるだろうか。……そんな保証は、何ひとつ無かった訳だが。


やがて男と別れるならば、彼は再び歩き出す。
何時もの調子で、また熊のように。通りの騒動が消えている所を見るに、男性は助かった様だ。
彼は安堵と共に歩き出す。……まだ見ぬ"魔術師"という存在に対しての、一抹の不安を抱えながら。

//この辺で〆で如何でしょう。二日間ありがとうございました!
//お待たせして済みません……


171 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/25(金) 00:43:22.95 ID:PCrBIgM5o
>>170
「───何言ってんだ、テメェ」

何をいきなり言い出すんだこの男は、やはり斬り捨てるべきだろうか?
自分がこの学園都市を愛しているだなんて、何処をどう履き違えればそう思えるのかわからない、外人というのは考え方が全く違うらしい。
面食らった表情で、鼻で笑いながら「アホか」と返した黒繩は、しかし自分でも気付いていないのかもしれないが、否定まではしていなかった。

「ハン、そいつァどーも、風紀委員サン」
「そンじゃァこっちも今日の所は見逃しておいてやるよ…明日以降は知らねェけど、夜道には気を付けて歩くんだな」

イリヤーが見逃したとしてもこちらが見逃すとも限らない、今日の所はと言っているが、何処までが本当なのやら。
何より、服を焦がされ濡らされ、それ以前に盛大にすっ転ばされたのだ、些細な事でも根に持つ恨みは恐ろしい。

「あっそ、そんじゃすぐ忘れるわ」
「俺は黒繩揚羽……覚えなくてもいーよ、その方が都合がいい」

不機嫌そうに踵を返した所、その背中に声が掛けられ名を問われる、闇に生きる彼だからこそあまり風紀委員に名前を覚えられるのは避けたいのだが…
魔術師を探しているというのであれば、今後有益にもなるかもしれないだろう、一応名前を答えておく。

「……忠告しておくぜ、イリヤー」
「テメェは風紀委員…表に立って働く人間だ、そして、この学園都市(まち)で魔術ってのは間違いなく裏にあるべき存在だ」
「表の人間が余り裏の事情に首突っ込もうとすンじゃねェ、まともに生きたいなら尚更な」

最後に告げた忠告は、ちょっとした気紛れの親切心から。
学園都市の裏に生きる黒繩だからこそ、こうして言える学園都市の闇、表立って活動する人間には荷が重いぞと。
それを言い残すと、黒繩の姿は路地裏の闇に消えていった。

/お疲れ様でした!
172 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/25(金) 18:35:02.49 ID:x4r6sTh90
月明かりさえ届かない路地裏。ところどころ何かによって赤く染まった壁に設置された、切れかけの蛍光灯。それだけが路地裏の黒く冷たく乾いた空気に光を与える。
その点滅を繰り返す弱々しい光が、褐色の少女を一瞬照らした。
少女の側にはいかにも不良そうな容貌をした一人の男性が頭から血を流し、気を失って倒れている。

「んー……やっぱ夜中に近道探しは危ないなぁ……
怖い人とかいるし、ていうかこの場所が怖いしっ……壁に血ぃとかついちゃってるもん…!
無理に近道しない方がいいのかなー、急がば回れ的なぁ…?」

倒れている男性の手元には小さな折りたたみナイフ、足元には大量の砂があった。

「はぁ……ごめんなさい、不良さん。お金欲しいならお仕事しようねっ…」

一人で歩いているところ、出くわした不良がナイフで脅して金を要求してきたため、正当防衛として砂で男性の足を取り転ばせ、男性は地面に思い切り頭を打ち気絶した。ということが数分前に起きた出来事。
どこかに忍び込んだり、裏道を歩くのが好きな少女。こういう風に襲われることは少なくないのだ。
誰かに見られたら何かと面倒なので不自然じゃないところに寝かしておこうと、少女は掌から小さな砂の手を造り、それで男性の腕を掴んでズリ…ズリ…と引きずっていく。
蛍光灯の点滅によるジジッという耳障りな音に混じり、人間を引きずる音が路地裏に響く。
ここのところ何かと物騒な学園都市。傍から見れば、死体を運ぶ殺人者にでも見えてしまうかもしれない。
173 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/25(金) 20:17:38.57 ID:tgI482YA0
>>172
携帯電話というものは、傍受される可能性が高い。
それがスマートフォンになっても、変わることはなかった。
直接裏と手続きを取るために、人気のない路地裏に入ることも良くある。
幸いにも、まだ尾行されている様子はない。純白の少女は、来たるべき決戦に向けて準備をしていた。

「あら……?」

路地裏の角を曲がり、白い少女がばったり出くわしたのは
砂の手で男性を引っ張っていく猫のような少女。

「これは……私は見なかったことにした方が良いでしょうか?」

相手もこちらも互いの顔を視認している以上、無視はできない。相手が能力者なら尚更だった。
白い少女は微笑みながら、猫のような少女に問いかける。
案の定、殺人者だと誤解しているようだ。
174 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ [saga]:2016/03/25(金) 20:46:53.62 ID:x4r6sTh90
>>173
「……うぇっ……」

男性を運び出してさっさとここを後にしようと気持ち急ぎめに引きずる紗久。
ふと前に目をやると、そこには『純白』を具象化したような少女が微笑んで立っていた。
まさかの事態に紗久はまともに声も出ず、大きな音にビックリした猫のようにしばらくフリーズする。
男性の腕を取る砂の手はその形を崩し、サラサラと地面に落ちた。

「……あ、見なかったことにしてくらはい…」

こんな路地裏で頭から血を流す人間を引きずっているヤツなんていたら、声を上げて逃げ出したり、風紀委員等に通報するのが殆どだ。
しかし目の前の純白の少女は騒ぎ立てるどころか静かに微笑んで、見なかったことにしてくれるというのだ。
フリーズの解けた紗久は少女の言葉にコクコク頷いた。

「………言っとくけど、こ、殺してないよ…?転ばしただけ…!
襲われたから、せいとうぼうえい?ってやつだからっ…!」

色々想像される面倒事は避けられたが、紗久は今の自分の姿を客観視して、少女になにか勘違いされているような気がした。
頭から血を流し、ピクリとも動かない男性を指差して微笑む少女へあまり信憑性のない弁解をし始める。
175 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/25(金) 21:02:04.51 ID:tgI482YA0
>>174
「あら……あらあら」

純白の少女は、口元に手を当ててくすくすと笑う。
白い少女は、仮面のような美しい笑顔を崩さない。
その内心は、普通の人間なら何を考えているのか全く読み取れないだろう。

「分かりましたわ。見なかったことに致します。その方が都合が良いのでしょう?」

コクコクと頭を上下に揺らす猫のような少女と対照的に、白い少女は微動だにしていない。
まるで、こういった事態に慣れているかのようだった。

「まあその殿方が死んでいても、死んでおらずとも……私としてはどちらでも良いのですが。
 一応それも分かりました。正当防衛なら仕方がありませんわね」

動かない男性の方を見向きもしない純白の少女。
本当に死んでいようが居まいが興味が無いように、純白の少女は微笑みを絶やさない。
慌てている猫のような少女と、動じない笑顔の少女の構図は機から見るとコントにでも見えるかもしれない。
しかし当事者たちはそうでもないだろう。眼前の猫のような少女は、良いところのお嬢様にしか見えないにも関わらず
この状況に全く動じている様子が無い純白の少女をどう思うだろうか?
176 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/25(金) 21:24:43.56 ID:x4r6sTh90
>>175
「そうっ、仕方ないのよっ。ここ最近はなんか物騒だからね!こんな輩がわんさかわんさか!」

面倒事は起きそうになく、勘違いも解けた。というよりは目撃者である少女は始めから倒れている男性のことも、その男性の生死もまったく興味がなかったようだが。

「……そういえば、さっきの状況見て驚かないって、すごいねっ。誰か呼ばれちゃうかと思ったよ…っ」

紗久は砂の手で男性の脇を少し持ち上げて道の端へと移動させつつ、純白の少女へ語りかける。

「……まさかこういうの、見慣れてたり…?…なんちゃってっ……」

自分とはまったく関わることのなさそうな育ちの良いお嬢様にみえる少女が、血を流し倒れる人間を見ても、驚くどころか動ぜず微笑みさえ浮かべるなんて。
紗久は不思議に思い、ニヘッと緩い笑みを見せながら冗談めかして尋ねた。
177 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/25(金) 21:37:16.36 ID:tgI482YA0
>>176
「そうですわね……最近は殺人や、誘拐事件の話をよく聞くようになりました。
 貴方も気をつけた方がいいですわね」

元気な猫のような少女と、微動だにしない純白の少女の会話は続く。

「まあ、私も誰かを呼びたくない事情があるので」

純白の少女は、笑顔のまま立ち振る舞いを崩す様子は無い。
この白い少女はどんな恐ろしい言葉も笑顔で言えてしまうのではないか。
どんな恐ろしい行動も笑顔で実行に移すのではないか。
そんな考えすら沸いて来るかもしれない。

「さあ、どうでしょう?もしかすると私は死体を見慣れてたりするのやも……?」

口元に手を当てて、うふふと笑い声を出す白い少女。
実際の所騒ぎを起こすのは、白い少女にとっても本位ではないのだが……
どうやら眼前の猫のような可愛らしい少女がビクビクする様子を見たい、という嗜虐心に負けてしまったらしい。
純白の少女の下僕がこの様子を見たら、悪い癖が始まったと額を押さえて溜息を付くかもしれなかった。
178 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/25(金) 22:04:27.33 ID:x4r6sTh90
>>177
「…ひえぇ……そんな怖いこと言うのやめてよっ……
夜しか眠れなくなっちゃうよう……」

自分のしょうもない冗談で場が和むとでも思っていた紗久。
予想外の返答が返ってきて、アホみたいな笑顔は固まり、そのあとすぐ純白の少女の思惑通りのビクビク怯えたような表情へと変わる。

「そ、そんなわけないよねっ?見慣れてなんかないよねっ?ねっ?
良いとこのお嬢様みたいだもんっ、そんなわけないないっ」

両手を胸の前にして少女の嗜虐心をさらに煽るようにオドオドした様子で微笑む少女の目を見つめて何度もたずねる。
こんなにニコニコ微笑む綺麗な純白の少女が死体を見慣れてるなんて……ともう半ば現実逃避気味の紗久。
179 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/25(金) 22:27:52.52 ID:tgI482YA0
>>178
「夜に眠れるのなら、十分でしょう?」

純白の少女は、笑顔のままだ。いつの間にやら、淫靡な色気が出ている。
ツッコミも遊びや容赦が無いのが、この白い少女らしかった。

「いえいえ違いますわ……私は死体を見慣れて居ます――――」

白い少女は顔をぐいっと近づけて、猫のような少女の瞳を覗き込む。
香水の匂いが嗅げるような近さで、数秒間白い少女は猫のような少女の怯えを愉しみ……

「―――なんて、冗談ですわ。本気にしましたか?」

あっさりと言葉を翻し、また声をクスクスと出して笑う白い少女。怯えを愉しみはするが
これ以上は本気にされると思ったからだ。普通の人間なら既に手遅れな気がしないでもないが
この少女相手なら大丈夫だろう、という判断もあった。

「それではごきげんよう、愉しい時間でしたわ。その男のことは誰にも喋りませんから安心して下さいまし」

純白の少女は、興味が無いのか名前も名乗らずに猫のような少女の前から去って行く。
その微笑みは、あいも変わらず最後まで崩れなかった。

例え己を諌めてくれる下僕が出来た所で、白い少女の本質は変わらない。
純白の少女は、猫のような少女の前で結局自分のやりたいことしかせず、傲慢なままだった。

/ありがとうございました!
180 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/25(金) 22:51:53.56 ID:x4r6sTh90
>>179
純白の少女が顔を近づけたと思えば、紗久にとって超衝撃の言葉を発する。
紗久の言葉にならない驚きと怯えはその表情に出た。
目の前の純白の少女が自分のこの様子を愉しんでいるなんて微塵も思わず、ただただ青ざめて、疑心暗鬼になりかけている。

「………はぇ…?…………も、もぉぉお!やめてよぉ!!本気にしたよー!あー!ビックリしたー!」

そんな様子の紗久にあっさりと言葉を翻した。
紗久はマヌケな鳴き声を上げて、しばらくしたあと、緊張の緩んだ表情をしてやり場のない安堵を身体を小さくピョンピョンさせて発散させた。

「ご、ごきげんよーっ…!ありがとうっ、私もさっさと帰るよっ」

少女が去ったあとすぐに紗久も踵を返して帰路につく。
最後の最後まで微笑んでいた不思議な雰囲気を纏う純白の少女。
なんだかつかめない、不思議な人だったなぁ、と紗久は夜空を見上げながら思った。

/ありがとうございましたっ
181 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/25(金) 23:50:36.90 ID:keJwq/g90
>>169

「……乾京介…」

少年が名乗った名前を復唱する。どうやら今まで何もしてこない様子から、こちらに危害を加えようという気はないらしい。
第一危害を加えようとしているのならば先ほど眠っている間に出来るだろう。いや、そもそもその前に敵意に自分が気付くはずだ。寝ぼけていたとしても、これは少し失礼なことをしたかもしれない。

一つ深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、再び口を開く。

「心配は無用じゃ、儂とてそれくらいは分かっておる。
撃退する力を持っていなければそもこのような地に赴いてはおらぬわ」

腕を組み、先ほどとは違った落ち着いた口調でそう口にする。つまりは能力者を撃退する力は持っているようだ。
じゃなければこんなところで寝るなどといった自殺行為はしないだろう。それほど彼女が自分の力に自信を持っているということだ。

それにしてもこの少女、見た目に反してどこか年寄りのような風格を思わせる。古風――――と言うのだろうか。話し方も独特で異質めいている。
あまりに様々なモノがアンバランスのようであり、しかしそれがしっかり収まっているように見える。

「……もう見られたから言っておくが、この尻尾やらは本物じゃ。
して、お主は"どちら側"じゃ?」

どちら側――とは恐らく魔術師か能力者かということだろう。
そんなことを聞くということは少女は魔術師の存在を知っている、いや下手したら魔術師側の人間である可能性もある。
明らかに怪しい、その尻尾は今もくねり本物であることを示している。人間かすらも分からないこの少女、少年は彼女をどう判断し、どう思うのだろうか。
182 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/26(土) 04:41:59.00 ID:Bl3XcM4n0
>>181
自分の身は自分で守るという
こんな場所で睡眠をとるというからにはそれぐらいの自信があるという
その見た目に反した古風な喋り方がまるでそういった荒事に関しての経験者を思わせた

「............。」

そして投げられた一つの問い
どちら側という、二者択一の簡単な問いだ
少し前の自分なら意味もわかっていないだろうが、今なら分かる
そして、今の立ち位置とはすごく曖昧なもので

「......僕は能力者────科学側の人間だよ。でも魔術師の敵とも言い難いんだ」

確かに彼は科学側であり、学園都市の住むごく一般的な能力者
しかし彼はほんの数日前に、魔術師を狩る能力者組織に反旗を翻したのだ
────たった一人の少女を救う為に。

今こそその組織の一員と思われているが、いずれはその組織とも敵対するのだろう
そういった経緯を少女に伝えるのだった

「......なんというか、その組織から助けたい人がいてさ。そのお陰で今はどっちとも言えないかなって
魔術師でもないし、能力者にもケンカ売る所っていうね

────って君はどっちだい? もしかして魔術師?」

ハハハ、と苦笑いする少年
そう気軽に語るのだがその現実は決して軽い物ではないだろう
双方に敵を持ち、いつ襲われるか分からないという恐怖は────それだけで心を削るというのに
この少年はそれでも笑っていた
自分の選択は間違っていないと、その救いたい少女への思いは正しいという自信の表れか
183 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/26(土) 16:07:08.29 ID:viFXmkNaO
>>182

「な、なんとお主……」

少年の話を聞き絶句する。このようなまだ人生の半分も生きていない少年が、そのような佳境、窮地に陥っていることに。
基本少女の方は自分のやりたいことをやるよう生きてきた、しかしそれはそのせいで死んでも仕方がないという一種の達観があるからこそ思えることだ。この少年が自分と同じであるとは思えない。
なのに少年はそれでもまだ生気を失っていない―――

「なんというのかのう…お主のような者を世間一般で馬鹿と呼ぶのじゃろうな……」

「じゃが、そういうのは嫌いではない。
儂はまぁ、魔術師側と言えばそうじゃがちと違う、まぁお主と同じようなものよ」

つまりは魔術師とも敵対関係を築いているということ。
その理由に少年のような立派なものは無いが、自分で選んだ道であることは確かだ。そういうところを見ればこの二人は案外似た者同士であるのかもしれない。

「境遇は違えど立場は同じ。
これも何かの縁じゃ、一応魔術師の中では古株でのう、聞きたいことがあれば言うがいい。答えられる範囲ならば答えてやろう」

少女はそんな少年にどこかシンパシーを感じたのだろうか。
近くにあった丁度座れるくらいの廃棄ゴミの上に座りら胡座をかく。見た目とは反したあまりに少女らしくない行動、見た目は少女なのだからせめてもう少し座り方は考えて欲しい。
いや、彼女にそんなものを求めるのがそもそも間違っているのだろう。彼女は人である前に竜のそれが混じっている。人という常識から外れたものは、それはもう人とは呼べないだろう。それは人の形を成したナニカだ。だからこそ彼女も割り切ることができるのかもしれない。
自分は周りとは違うのだと――――
184 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/26(土) 16:26:48.76 ID:kudREFdKO
>>183

馬鹿者────その通りだろう
わざわざ平穏な道を切り捨てて選んだ危険な道
目を瞑っていれば血も痛みからもかけ離れた人生を歩めていた筈だ
少女の言葉は正しい

それでも後悔はしていなかった
間違っているかもしれない。道理から離れた行為だったかもしれない
それでも、少年は笑っていた

「────それなら教えて下さい。
彼ら...カスパール派と呼ばれる人達の事です」

少年も手頃な鉄のゴミの上の埃を払って座る
少女と正反対でわりと丁寧な姿勢だ

能力者を狙う過激な一派と聞く
魔術師を狩る組織に敵対しても、カスパールの味方という訳ではない
彼らは彼らの理由で能力者を狩るだろう
憎しみの連鎖を断ち切る為にも、彼らと刃を交える機会がある

「......数も多いでしょうが、その中でも要注意の人物を教えて頂きたい
写真とかは無理でも、名前や風貌...とにかく魔術師側の情報を何でもいいです」

能力者側────魔女狩りに関しては問題ない
その界隈で詳しい人物がいる
ならば、情報がたりない魔術師側の情報
人物、武具、拠点...何でもいい
とにかく...まだ何も知らない自分達の敵を知りたい
185 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/26(土) 17:28:55.94 ID:3p+di/Ix0
>>184

少年の瞳、それは決して後悔はしていない決心を決めている瞳だった。
こういう眼をした者には何度か会ったことがある。皆一様に自分の中に確固たる意志を持っていた。
―――しかしそういう者らは総じてすぐに死んでいった。
この者はどうなるか、先人と同じように死に絶えるか、それとも―――

「ふむ、確かに生き残るために情報は必要不可欠じゃな。
ふむ、カスパールやらのことは知っておるのか」

過激派のカスパールのことを知ろうとするのは正しい。他の一派はまだ様子見と言った様子、であるのならばカスパールのことを知っほうが身の安全を守るために的確だ。
現段階、最も交戦する可能性が一番高いのがカスパールだ。その情報を知れれば、今後の行動にかなりのアドバンテージとなるだろう。

頭の中のカスパールの情報、その中から有益な情報のみを抜き取り少年に伝える。大体の危険な魔術師の情報は伝えた。
それと、もう一人。

「あとは噂で聞いた程度だが…"カタチ"という魔術師には気を付けろ、此奴は危険じゃ」

「虚無の骸(アストラル)…他にも呼び名はあるが、此奴に葬られた者は魔術師にも居る。人に死を与えることを悦に感じる狂人じゃ」

あくまで噂程度、だがその噂があまりに恐ろしい。魔術師にも能力者にも等しく死を与える狂人。
その戦闘能力も高く、だからこそ少女も警戒していた。少年がそいつに会わないとも限らない、用心に越したことはないだろう。

「知っているのはこれだけかのう。
どうじゃ?役には立ったか?」

後に知っていることはもう無い。「他に聞きたいことはあるか?」と少女は少年に聞こうとしたその刹那―――


ぎゅるるるる……


……恥ずかしそうに顔を目を逸らす少女。

「……で?他にはもう無いか?」

しかしすぐに仕切り直し聞き返す。平然とはしているが、明らかに気付いていないふり、逆にそれが気にしていると言っているようなもの。
だが少女は気にしていない体で話を再開するのだった。
186 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/26(土) 18:20:28.62 ID:jSBs2cMp0
「…………」

今日も今日とて、第一学園の放課後の時間を使って、制服を着ながら
ふらふらと風船のようにあちこちを歩いている少年が居た。
大木陸……第一学園の一年生である。

いつも目を細めている大木は、いつにも増してぼんやりとしながら路地裏を彷徨っていた。
困っている人を助けられる人間になりたい……それが、この大木という少年の夢だった。
今でもそれは変わっていない。能力者で在りながら大木陸はどこまでも人に感化されやすい
普通で平凡を体現するかのような少年で――――

―――その平凡さが、大木という少年を傷つけていた。

「俺は逢坂に何もできなかった……」

あの少女のためを思うのなら、危険を犯して説教をしてでも殺人を止めさせるべきだった。
世の中のためを思うのなら、あのまま警察に突き出すことは簡単にできた。
大木の中途半端な正義感。中途半端な臆病さ。それがどちらの選択も選ぶことができなかった理由だ。

それだけならまだ良い。己の行動の結果は変えようがないことだ。後悔しても仕方がないし終わった事である。
しかし大木は、こう思ってしまうのだ。

―――――今度あの少女が人を殺そうとしている時、俺は止めることができるのだろうか?いや、止めるべきなのだろうか?

内臓を抉られた、リアルな女の死体。その女を殺した少女は、大木の迷子を助けてくれた。
そう。困っていた大木は、殺人鬼の少女に、助けられてしまった。
人を助けるって、どういうことなんだろう?何が、人を助ける事になるのだろうか。
勿論世界の全てを救いたいというほどの傲慢さを、大木は持ち合わせていない。しかし、大木が自分の夢を疑問視するには十分だ。

これが純白の少女や魔術師なら此れほど悩むことはない。
しかし大木にとっては、殺人鬼の少女との出合いは忘れられない大きな事件だった。

そんな事もあってか、路地裏でぼうっとしながらふらふらと彷徨った結果……
貴方の前で小さな石に躓いて、盛大に転んでしまうのであった。
187 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/26(土) 21:49:35.25 ID:Dtme9dBao
>>186
放課後、自分しかいない家に荷物を置いてちょっと散歩をしてみた
別に何をしたいわけでもない。ただ、そんな気分であった

学校というのも疲れるものだ
きっと関係はないのだろうが、私から親を奪ったこの牢獄の支配にもろに晒されるストレスは案外多い
だから――きっとこんな独りの自由を求めてしまうのだ
自分が、自分であるためにも

特に為すこともなくフラフラと歩いていたら、同志を見つけた
いや――違う、あれは危うい
歩き方、その纏う雰囲気、そこから彼が折れそうだなんて感じた
まあ、だからなんだ
彼は私の人生には、私の復讐には関係ない。赤の他人なのだから―――――
なんて思ってたら、目の前で転んでいた
派手に、ギャグのように
思わず目を見開いてしまった私は、ちょっと駆け寄ってしまった
目の前で転んだ他人を放置できるほど冷たくはなかったらしい

「えっと、その―――大丈夫か?」

少し前かがみになりながら、手を差し伸べる
まったく、何をやっているんだか
なんて誰に対してでもなく独りで勝手に思いながらに

申し遅れたが、私は五十森伽耶
―――両親を奪った、この牢獄に仇なす者だ

//よろしくお願いします!
188 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/26(土) 22:06:06.38 ID:jSBs2cMp0
>>187
地面に激突する瞬間に大木が妄想したのは、頭を激しく打って、血を出し倒れる自分の姿だった。
しかし咄嗟に手を付き、現実はそうならなかった。
結果として、手と足を軽く擦り剥いた大木が残ることとなる。能力は不発に終わったが……

あぶない。思考が、物騒になっている。そう大木は思った。
仕方がない、あんな死体を見てしまっては、妄想してしまうのは仕方がない。そう大木は思う。
大木はそう納得するも、能力を発動してもいないのに胸の内には死の影が囁いているようだった。

俺は、困っている人を助けられる人間になれるのだろうか。

ぼんやり、そのまま呆けていると……放って置いても良いだろうに
わざわざ優しい少女が、手を差し伸べてくれた。
その瞬間ぼんやりしていた世界が、はっきりしてきた。
つまらない妄想に囚われていた自分が恥かしく思えてくる。

「有難う。助かるよ」

大木は、笑顔で少女の手を取った。この町には優しい少女が多いようだ。

「ええっと、俺……ぼんやりしてたみたいだ。おかしなこと、してないかな」

少女の前で変なことしてなかったかな、と慌てながらぽりぽり頬をかく大木。
少し危ない人物だったのが、いつもの臆病だが好奇心が強い少年に戻ったようである。
189 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/26(土) 22:17:22.71 ID:Dtme9dBao
>>188
目の前の青年は、なんとか手をついて最悪は回避したようだ
よかった、目の前で大けがでもされたらあまりにも面倒だった
しかし、あまりにもぼんやりとしすぎている
なんなのだ、彼は。何かあったのだろうか
――――人の死でも、見たのだろうか

「全く……気をつけろよな」

手をつかまれ、彼を立たせるために手を引く
しかしまあ、普通の手だ
どこにでもいる、量産型
なのに―――なぜ

私の細めの手は、血に濡れている
別にさっき誰かを殺したわけではない。だが――誰かの命を摘んだ手だ
だが、それがどうしたというのだ
今更――引き返す気もない

「おかしなことはしていないが――
 何かあったのか?まったく、目の前でいきなり転ばれて肝が冷えたぞ」

溜息でうっかり言葉も抜け出てしまったらしい
どうやら、私の中のお人好しらしい部分が問いを投げてしまったようだ
まったく―――別にここで別れてよかったのに
何を、やってるんだか
190 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/26(土) 22:35:50.99 ID:jSBs2cMp0
>>189
大木は、自分が狂っていないことを確認する。確認して分かる問題でもないのだが。
番町を名乗る少女に貰った心の火は消えてはいない。燃えていた。
それでいて少年は臆病なままだ。目の前の気の強そうな
少女の機嫌を損ねないように気をつけることにしよう、そう思う。

「俺も不注意だったと思うよ。いつもは無意識でも転ぶことはないんだけど、今日は違ったみたいだ」

そう、ぼんやりしながらふらふら歩き、面白そうな所に入っていき、迷子になる。
大木の行動パターンはこんな感じだった。学習することをしらないように、同じ行動を取ってしまう。
常道行動……ストレスが溜まると、人間は同じ行動を繰り返すという。

「そうだね……この学園都市は、楽しいだけの所じゃないって、そう思い知っただけだよ」

最後の言葉を口から吐き出す時、目線は少女から逸らしていた。
流石に死体を見て、殺人をする少女に会ったとは言えず、茶を濁すかのような言葉になってしまう。

「考えてみれば当たり前のことだったんだ。能力を持った人間は、みんなその力を使ってしまうんだから」

力を持てば使いたくなる、それが人間の心理だ。大木のように自身の能力を嫌っている者は多くない。
流石に地獄……とまでは思っていないようだが、ここは単なるお人よしが集まる場所ではない、そう大木は認識しつつあった。

今まで放課後、人気のない路地裏を徘徊していたのだ。
むしろ今まで出会った能力者達が大木に対して親切すぎたのかもしれない。
191 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/26(土) 22:53:12.35 ID:Dtme9dBao
>>190
目の前のこいつは間違いなく自分とは違う
違う側に立って普通に笑う人間
――なんて、思ってた

「今日は?」

いつもこうしているが、今日は違う
ならば、その今日には何があったのだろう
人並みに強い好奇心を持っていることを再確認しながら、話を聞く

「―――なるほど、な」

なるほど、彼は知ってしまったのだ
この都市のある側面を
人ならざる力を手にした人間。その末路が集う場所が、此処であるのだと

「私はな、ここを牢獄だと思ってる」

不意に、言葉が漏れる
自分でも意外だ、だがしかし
もう、彼は他人ではない

「わけのわからない力を持った人だったものを隔離する牢獄
 能力なんていう人間に元はなかった機能を持ってしまったら――その人間が歪むのなんか当然なんだ」

ああ、当然だ
こんな学園都市なんていう住み心地のいいだけの牢獄が生まれたのも、きっとそのせいだから
エラー(能力)が発生した人間を隔離して、安全を保つための場所
そして、その運営には人死にができるほどに歪んでいる
こんなもの――絶対に、間違っている
そんな確信を抱きながら、気付けば話していた
192 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/26(土) 23:15:57.63 ID:jSBs2cMp0
>>191
「まあ今日の話じゃないじゃないんだけどさ、間違いなく動揺はしてたと思う」

大木が歩いて迷子になるのは趣味であり、癖であり……ストレス解消の手段である。
能力を有効活用するために、死体の画像や映像等を鑑賞して頭に叩き込まなくてはならない大木は
危険と分かっていても放課後、町を彷徨うしかないのだ。

「牢獄……か、新しい考えだね。連帯責任というのは、軍隊や刑務所で人権を侵害するために用いられるものだ。
 確かにこの学園都市の考え……能力者を一ヶ所に集めてしまうというのは、それに近いものかもしれない」

大木は最もらしいことを言うがこれはいつもの、強者に媚を売っている感覚に近い。
目の前の少女は何か危険そうだし怖い、逆らわないことに越したことはないと
いういつもの警戒心と臆病さが招いた行動である。しかし、少しだが……確かに共感が混じっており、説得力はあった。

なるほど、確かに大木のような人間ばかりが集められているのなら話は分かる。
嬉しくもない能力、発動のリスクとして常に大木は狂気と戦わねばならない。
しかし今まで見てきた人間の中に、能力を持つことを後悔する人間は居なかった。
それが賛成しきれない理由なのだが……大木は基本的に、人と敵対することを恐れている。
なるべく能力を使いたくはないし、level3以上の能力者には勝てる気がしないのもある。

「えっと……自己紹介でもしようか。俺の名前は大木陸。好きに呼んでいいよ。君の名前は?」

少し露骨かもしれないが、名前を聞いて話を逸らす。しかしこの大木という少年は染まりやすい。
しかも数少ない、能力に苦しめられている人間であることもまた事実だ。
この大木という少年は利用できると、そう眼前の少女は思うかもしれない。
193 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/26(土) 23:32:12.82 ID:Dtme9dBao
>>192
動揺はしていた
一体、何にであろうか
この牢獄で、風紀の名のもとに表はきれいに整った牢獄で何を見たのだろう
―― そこに、地獄はあるのだろうか

しかし、少し苛立った
怯え、警戒、いつもこうだ
こうして少し自分を見せてやると危険というレッテルを貼って恐怖という布を守って自己防衛をしだす
そこからは、拒絶しかないことなど――学習済みだ
だが、牢獄でただただ笑っているだけの有象無象とは若干違う反応であった
共感、なのだろうか
ならば―――或は

「名前か?私は五十森伽耶だ
 陸――か、覚えたぞ」

会話をそらすために、自己防衛のために、自己紹介をされた
まあ、応じない理由もないのでこちらも名乗り返す

「ちょっと、私の話をする」

話してみても、いいかもしれない
だから、切り出してみる

「私の父と母は、この牢獄で能力者を研究していた
 だが――殺されたよ、牢獄の支配権をめぐる争いに巻き込まれてな」

いったい、どんな反応をするのか
私はまだ大木陸を知らない
彼が何を見たか
彼が能力をどう思うか
彼が、この牢獄に不満を抱いているのか

「そこで私は気付いたよ、この学園都市という牢獄が歪みに歪んだ場所なのだと
 "人間"のために"能力者"を隔離する牢獄。その支配のためになぜか血が流れる不安定な支配」

言葉をいったん切る、反応を見る
あとは、一言だ

「だから私は――
      この牢獄の在り方を、壊して正しく直したいのだ」
194 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/27(日) 00:00:00.93 ID:6D86iS/r0
>>193
「うん、五十森伽耶さん……こっちも覚えたよ。五十森さん、って呼ばせてもらうね」

大木は、こくんと頷く。今度は先に名乗ることができた。
大木は、素直にそう安堵していた。

「うん、何かな?」

慎重に相手の出方を伺う。まさか初対面の人間相手に
大した話も振るまい、と思いながら聞くが……

続く少女の言葉に、脳が一瞬フリーズする。

―――この少女は、初対面の人物相手に何と言うことをこちらに明かしてくるのだろう。

それが、大木が思ったことだった。
この少女は、確実にこちらの退路を潰しに掛かっている。
大木が染まりやすいと言っても、それには限度がある。
例えばこんなに単刀直入に話さずに、仲が深まった後に涙ながらに話す。
もしくは言葉を匂わす程度のことができれば、大木は賛同したかもしれない。

誰だって、仲良くなった相手の言葉には弱い。
確かに両親が学園都市に殺された。それは同情できる話だからだ。
しかし眼前の少女は出会ったばかりの大木に逃げ場を断たせ、洗脳しているかのように大木は感じた。

私に賛同するのか、しないのか、どっちだと言う無言の視線を大木は感じていた。

――――本当に両親が死んだのかも、分かったもんじゃない。

少女の告白は、大木の警戒心を高めるだけの結果に終わってしまう。
皮肉なことに大木は正に現在進行形で、牢獄に居る気分を味わっていた。看守は目の前の少女である。

「それは可哀想だね、俺も同情するよ。五十森さんはその話を聞かせて、俺をどうしたいのかな?」

口から放たれるのは、大木が予想していた声よりも冷たい、乾いた声。
少年が媚を売るというのも限界があった。
それに、本当に眼前の少女が大木の退路を潰しに掛かっているのなら。

大木は、死ぬ覚悟をする必要が在った。
195 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/27(日) 00:10:31.75 ID:gaGpQLLDo
>>194
見れば、警戒をされていた
やはり、そうか
まあ――構わない
彼に感じたものは、間違いだったのだろう
誰も―――私のことを理解る者はいなかったのだろう

初めから、初めからそんなことは分かっていた――はずなのに

「どうする気もないさ」

失望、というのだろうか
この胸に去来した感情の名前は
彼も、所詮は一般人だった――それだけなのに

「ただまあ――知ってもらいたかっただけなのかもしれないな」

きっと、気紛れで散歩に出たのもそのためなのだろう
誰かとかかわりたかった、それでたまたま関われた。
その人がたまたまちょっとだけ期待できた。だから少し踏み込んだ。
たった、それだけだ。なんて馬鹿らしいことだ
きっと、今の私は自分を笑っている
196 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/27(日) 00:32:18.54 ID:6D86iS/r0
>>195
大木は、拍子抜けした。
少し、過敏に反応しすぎたのかもしれない。
眼前の少女には、圧力が在るかと思ったのだが……
こちらの見当違いだったらしい。

「ごめん、素直に謝るよ。信じてなかったけど、
 五十森さんが言ったことに嘘は無かったみたいだ」

大木は、素直に謝った。
こういう態度を取る人間に、大木は弱い。
普段強い能力者相手に、媚を売っている影響もあった。

「悪いけど、五十森さんに賛成はできない」

大木は罪悪感はあったが、それでも自分を曲げることはなかった。
止めを刺すような行為かもしれないが、それでも眼前の少女に向けて言葉を紡ぐ。

「この学園都市には尊敬できる人と、親友になれそうな人と、殺人鬼だけど死んでほしくない女の子が居る」

大木は、言葉を続ける。
単に親切にされたか、されてないか。それだけかもしれない。
でも一つ一つの思い出は、大木にとって大切なものだった。

「その人達は、この学園都市が無くなるのは困ると思う。
 誰一人としてここを牢獄だと思う人間は居なかった。みんな楽しんで生活してたよ……ここが牢獄だとしても」

学園都市全体に洗脳されているのかもしれない。
それでも、この胸の中の火は、ここで出会った少女から貰ったものだ。

「五十森さんの両親や、五十森さんに同情はするし、この学園都市は確かに異常があるということは、よく分かったよ。
 それでも、ここが無くなるのは嫌だ」

敵から逃げるのは良かった、しかし自分からは逃げたくない。
強い意志で、大木は言い切った。

「……本当にごめん、このことは誰にも言わないでおくよ」

最後は、締まらない臆病な言葉が付いていたが。
197 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/27(日) 00:47:02.65 ID:gaGpQLLDo
>>196
「いや、いいさ
 ――慣れてはいるつもりだ」

今回は、なぜか刺さったがこの反応自体には慣れている
別に、どうということはない――はずだ

「そう、か―――」

だから、この答えにも慣れていた
そもそも、考え方が違ったらしい
彼は変革など望んでいなかった――いや、彼の知る者たちには、か
地獄があっても、殺人という歪みがあっても、だからといって枠を壊そうとは思っていなかったのだ
――が、一つだけ訂正してほしい考えがあった

「だが、これだけは言わせてくれ
 私は、ここをなくす気はないさ」

そう。学園都市がなくなることは本望ではない
学園都市は、あってもいい。歪みのない、闇のないものであるならば
ただ――変えたいのだ、この異常を正したいのだ
それこそが、私の復讐になるのであろうから―――――

「変えたいだけなんだ、この歪んで腐りきった牢獄を
 皆が本当の意味で幸せに人間らしく過ごせる都市に

  それが、私の両親を殺した学園都市への復讐だ
         それが、私の望みなんだ」
198 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/27(日) 01:34:28.25 ID:6D86iS/r0
>>197
「ごめん、勘違いしていた。結局のところ俺は、この学園都市が変わることが怖いだけかもしれないな」

大木は、言葉を紡いでいく。実際、彼は非常に苦い顔をしていた。
言葉の端々に、罪悪感があった。

「皆が本当の意味で、幸せに、人間らしく過ごせる都市……そうだね。五十森さんの言葉は間違っていないと思うよ」

そう言葉に出してみると、とても素晴らしいことのように大木は感じられた。
大木は何度も確かめるように頷く。
この少年、下手に出られるのにはとことん弱かった。

「きっと、俺が臆病なだけなんだ。変わらない物なんて、ないはずなのにな。俺が間違っていた」

大木は臆病な普通の一般人だった。
だから大木は、罪悪感に支配されていた。俺は疑って、その挙句に見当はずれなことを言ってしまったと反省する。

「五十森さんの夢――――皆が本当の意味で、幸せに人間らしく過ごせる都市。俺にできることなら協力する」

大木は、眼前の少女の夢に、強く頷いてしまった。

――――復讐心のままに学園都市を破壊して、再生する。その言葉の困難を知らないまま。

「ありがとう、元気が出てきた。また会おうね五十森さん」

目標ができたと喜ぶと、大木は少女の前から去って行く。
大木という少年は、臆病だが優しくて、単純で……非常に染まりやすい。
それは変わることがなかったのだった。

/本当に遅くなってごめんなさい、お疲れ様でした!
199 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/27(日) 01:47:37.91 ID:gaGpQLLDo
>>198
変化への恐怖――当然のことだ
誰だって、今が安定しているなら今を変えたくはないのだ
だが―― それを超えてくれた
勘違いへの罪悪感、それはあったのだろう
が、何故だかそれが少し嬉しい

「ありがとう―――そのときがきたら、よろしく頼むよ」

頷いてくれた、肯定してくれた、協力すると言ってくれた
今はそれがただただ嬉しい
それが、励みになる
そして、よりいっそう成し遂げねばならないと感じた
今、この瞬間からただの復讐はわたしだけのものではなくなってしまったのだから

学園都市を破壊して、作り変える
それがどれだけ困難なことかなど、承知している
だが――成し遂げる
絶対に

「ああ、またいつか会おう――陸」

手をひらひら振って別れる同志を見送って自分も家の方角へと歩き出す
気付けばもうかなり暗い、早く帰らねば

しかしまあ―――理解ってもらえるというのも、悪くはない
これから、少し同じ志を持つ者を募ってみようか
そうすれば――――必ず―――――――――



//いえいえ、大丈夫でしたよ!ありがとうございました!
200 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/27(日) 03:18:03.09 ID:7wJK6bhuO
>>185

息を飲んで、少女の情報を聞く
数日前まで別世界と思っていたファンタジーがある事も
そのファンタジーが自分たちに牙を抜こうとしている事実も飲み込んで

あらゆる魔術師の話を聞いて────最後の一人

「...カタチ。」

その名を口にして
真っ先な感想は────不気味だった
その名もその在り方も不気味だった
自分達がいずれ立ち向かう名状しがたい存在が何より怖いと感じた

その少年の緑眼に一瞬、迷いとも言える動きが見えた
だがそれでも少年の目に再び火が灯る
辛く苦しいであろう現実を見てそれでもなお前に進む覚悟が見えて────。

「...ありがとう。参考にな────」

参考になったよ、と言おうとして
張り詰めた場の空気を緩ませる少女の腹の音が響いた
なんともコメントできない空気だったが

「...えっと、近くのラーメン屋なら知ってるけど...
うん、俺の探し物....武器探しが終わってから良かったら食べるかい?」

無視するも心に来る
自分もどちらかといえば空腹なので誘ってしまおう
当初の目的、両腕に飲み込む二つの武器探しを終えたら行こうと少女に伝えた
201 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/27(日) 17:14:21.02 ID:fHdEet3/0
>>200

やはりこの少年の強さは本物だ。もしかすればこの少年ならば、変えられるかも知れない。
自身の信じる道へひたすらと突き進む、どんな障害が来ても決して逃げない。こんな少年こそ先を進むのに相応しい。
それは既に諦めてしまった自分の――――

「まぁ精々死なぬようにうまく立ち回るんじゃな、その辺の魔術師や能力者に殺されれば笑い者じゃ」

そんな冗談なのかじゃないのか分からないことを言って少女は笑う。少年の途方もない道を想像し、しかしこの少年ならばと思った自分に対する呆れからか。
どうやら自分は、自分が思っている以上に人を信じることが好きらしい。
しかしこの少年には人を信じさせる、信用させてしまう力がある。この少年のこの瞳を見れば、信じないほうがおかしい。たった今会ったばかりの少年にこんなことを思うのもおかしいが、この少年はきっと"何か"を変える、変えてくれる。

「らぁめん?東洋の食べ物か……うむ良かろう!その厚意、受け取っておくぞ。
そうと決まればさっさと探すのじゃ」

目を輝かせ如何にも喜んでいる様子だが、口ぶりだけは偉そうである。
待っている間、ラーメンという謎の料理に想いを馳せる少女であった。
202 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/27(日) 18:19:28.22 ID:3/71Ys2vO
>>201

「それじゃあ手伝ってくれないか?
...手頃な武器、これだけのゴミ山の中なら見つかるだろう?」

そう言って、座った鉄くずの近くから何かを引き抜いた
それは壊れかけた電動ノコギリ、チェーンソーだった
錆びれた部品や削れた取っ手が目立つがギリギリ動きそうな物だ

「...ほら、こういうのが欲しい。
今丸腰だから、あと一つぐらいなんか使えそうな武器がいるんだ」

少年がそう言ってそのチェーンソーを握ると目映く輝いて消えていく
その消えて粒子となったチェーンソーは少年の右腕の中へ溶けていった気がした
彼の腕に溶けていくような感覚
機械と一体になる能力────それが彼のチカラらしい

腕に飲み込んだ機械が使えると確信したのか
右手を開いて閉じて、少しだけ微笑んだ
右手に取り込んだのなら後は左手、左手に飲み込む武器が欲しいらしい

「見つけてくれたら、値を張るラーメン奢ってやるよ」

そう言って、少女に向かって意地悪そうに微笑んだ
物で釣ろうとしてるあたり、まるで年下の子を相手に遊んでいるように
203 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/27(日) 18:43:16.39 ID:fHdEet3/0
>>202

「はぁ?なぜ儂がお主のゴミ拾いなんぞに……」

と、そこまで言ったところで次の少年の言葉を聞き少女は気付く。

自分は今、舐められていると。

「――いいじゃろう、とっておきのお主に合った武器を見繕ってやる」

そう言うと早速少女は取り掛かる。まずはさきほど自分が眠っていたゴミ山の方へ。ゴミ山の前まで行くと、鱗に覆われた腕を振りかぶる。腕は炎で覆われ、まるで腕そのものが炎になったよう。

そして振るわれる炎。それはそのゴミ山をあっという間に焼き尽くし、埋もれていた別のゴミを露わにする。そこには幾らか武器に使えそうなものもちらほらと。
少女は得意げな表情をしてそこへ歩いていく。まだ熱気が吹き、金属も熱いが少女には関係ない、熱や炎は彼女の支配下なのだから。

「儂は機械などといったモノはよく分からん。
場所は作った、だから後はお主が探してくれ」

そう言うと少女はまた近くの手頃なゴミに座る。
しかし少年が出した提案は"見つけてくれたら"だ。だが少女はそんなこともうとっくに忘れたようで、鼻唄を歌いながら少年が武器になるものを探すのを待っているのだった。
204 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/27(日) 19:11:43.16 ID:3/71Ys2vO
>>203
「うわっ! 炎...!?」

少女が振るった腕から振るわれる豪炎
それは瞬く間にゴミ山を焼き尽くし────その山を平地に変えた
そうか。ここ数日で魔術師とかの現実離れと思っていた事象を受けいて感覚が麻痺していた
少女の小さな翼に尻尾────どう見ても竜のそれに見える
ならば炎の一つや二つ扱えて当然なのだろう

学園都市の能力者でも炎使いはいるがここまでの火力は中々出ない
凄いな、と思わず呟いていた

「ありがとう。これなら良いものが少しは...」

アチチと、その平らになったゴミの上を歩く
熱を発している金属の中で良い物を見つけたのか。少年はしゃがんで何かを引き抜いた

それは少々大型のライトだろうか
鉄製のフレームの先に括り付けられた球場に設置してあるようなライトみたいだ
薄汚れてケーブルも千切れているが、電球は生きているみたいだ
暗闇を照らす強力な照明にもなり得る
突然照らせば目眩しにもなりうるかもしれない

少年はそれを先ほどの同じ手順で左手で吸収する
短期間に吸収するのは辛いのか分解されたライトが飲み込まれる間少しだけ苦しそうな顔をして

「......っ......ふう、ありがとう。お陰で良いものが見つかった
これじゃあ、お財布が空になる勢いで食べられそうだ」

そう再び悪戯っぽく笑いながら少女の元へ向かう

「それじゃあ、お礼だな。 俺は乾京介。えっと...」

足を滑らせぬよう、汚れぬように少女に手を差し伸べた
そういえば、まだ互いの名前も知らなかったなと
少年は自身の名前を口にした
205 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/28(月) 00:38:35.63 ID:iz0Hi6t30
>>204

少年が武器となるものを探している間、少女は少年をずっと見ていた。
あれが能力、魔術とは違った科学の賜物。実際に目にしたのは初めてだが、なるほどこれは自分たちとは異なる。
魔術を道具だと捉えれば、能力はその人自身が持ついわば才能。魔術とは根本的に違うものだ。

少年が伸ばした手を見て、少女は少し笑うとその手を取る。それからは優しさを感じられた。
さきほどと同じように少女は少年の手を取る。少年が告げたのは己の名、ならばこちらも名乗らなければ失礼だ。
少女は微笑みながら、自身のその名を口にする。

「お礼はうんと弾ませておくんじゃぞ?
儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼだ、よく覚えておくんじゃな」

では早速向かうとしよう。そのらぁめんというのがどんなものか分からないが、東洋の食べ物はみな珍妙で美味しいと聞く。
こっちはしばらくほとんどまともな食事をしていない。これに関してはろくな準備をしていなかったのと、変なプライドからマーカスの家に行かなかった自分が悪いのだが。

まぁ今はそんなことはどうでもいい。食事にありつけたのだ、今はそれを味わうことに集中しよう。
206 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/28(月) 01:02:33.59 ID:dyha+cVl0
>>205
「ソレス...ロウ...メルトリーゼ? うん、よろしく。ソレス」

疑問符付きだったのは長い名前に慣れてないからなのだろう
この国の人間はミドルネームといった文化の馴染みは無い
長い名前を覚えるので精一杯の様だ
何度か口の中で覚えるように呟いたが結局、ソレスで落ち着いた様だ

こけることの無い様に手を握ったままゴミ山から地面まで降りていく
足元が汚れたり、尖った金属で怪我しない様様に慎重に降りていくのだった

「...ラーメン食べたこと無いんだよね?
それじゃあ、どの味が良いかとか分からないか...えっと、俺のおすすめは──────。」

山から降りれば、手を離して
例のラーメン屋へと歩いて行く
初めて食べるそのラーメンという食べ物に目を輝かせている少女を見て
乾もまた、良かった。と笑った

竜の少女がに振る舞ったその東洋の味が気に入ったかどうかは、またいずれ語られるのだろう────。


/そしたらこの辺りで〆という事で...
/長い間ロールありがとうございましたー!!
207 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/28(月) 22:14:05.02 ID:bCorvfBQ0
純白の少女は、白い日傘をさしながら寂れた公園のベンチに座っていた。
二人で魔女狩りの支部の中、魔女狩り脱退の決意を決めた後から数日後、陽愛白は下僕となった少年と待ち合わせをしていた。
互いの成果を確認する待ち合わせ場所として白が指定した場所がここであった。
普通に路地裏で話すべきかもしれないが、開けた場所なら盗聴もされずらい。それに―――――

「〜♪」

白い少女はいつもと同じく笑顔のままだが、鼻歌を歌いながらベンチに座って足をバタつかせていた。
全身真っ白の同じ服装でいつも濃い目の化粧をしている少女だが、今回はさらに気合が入っているように見受けられる。
待ち合わせ前の30分前からこんな様子だ。それだけ、下僕の少年との逢瀬を楽しみにしている様子だった。

―――――誰かとの待ち合わせがこれほど楽しみなのは、久しぶりですわね。

いつ魔女狩りの尾行が後を着けてくるか分からない状況は
この純白の少女にとっても、本人が気づかぬうちに大きなプレッシャーになっていた。
魔女狩りという組織に詳しい分、そのプレッシャーは

下僕の少年の接近に気が付いたのなら、コホンと咳をしていつもの仮面の笑顔で出迎えるだろう。

「乾、無事でしたか。まあ私の下僕となったからにはそうでなければ困ります」

しかし会話内容は、相変わらず尊大で傲慢なままであった。
無駄を嫌う純白の少女らしいものだ。

「腕も治ったようで何よりですわ。……魔女狩りからは、まだ疑われていませんわよね?」

最初に聞くのは、一番の心配事だった。
208 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/28(月) 22:31:06.27 ID:dyha+cVl0
>>207
約束の時間には間に合う様に走っていた
魔女狩りとの敵対し、互いの現状報告をする為に約束の場所へ向かう
あの人の性格だ。きっと1分1秒遅れてきたらきっと何か言われるだろう
そういう彼女の反応も気になるが、今は急ごう

長めの前髪で右目を隠した髪型
白のシャツに黒を基調にした薄いコート
鈍い赤色に近いカラーデニムといった私服姿

...まぁ、せっかく休日に会うのだから最低限のお洒落でもしようという彼の心掛けの表れだった

「......あ、もう居るのか。 悪い────待た...せた...な」

公園に見えたその少女の服装に言葉が詰まった
その、心の何処かで期待してたけど────。

遠くから見て────白の容姿が綺麗だ、と思う
セリフが途中で途切れそうになりながら

「...あ、あぁ...まだそれらしい人とは、会ってない。
そっちは大丈夫か? 彼奴らの動きとか────。」

いつも通りの彼女の言動で我に返って、現状報告
とりあえずは無事だ。あれから敵襲らしい敵襲も何も無い
白の方は大丈夫かとかまだ相手には気付かれていないか、とか
気になることは幾らでもある────。
209 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/28(月) 22:51:39.43 ID:bCorvfBQ0
>>208
「本当ですわ、殿方が女を待たせるものではありませんわよ?」

――――私はずっと待っていても、よかったのですが。

と本来なら言うべきなのだろうが。
白い少女の口から出るのはいつもの容赦の無い言葉である。30分前から来ているのに、無理難題も甚だしい。
純白の少女はいつもとは違って毒舌を放つ度に、愉しむ代わりに自分で自分の心がキリキリする感覚を味わっていた。

「そうですか。今の所は大丈夫のようですわね」

とは言え、乾という少年が魔女狩りの尾行に気づけるかは分からない。
訓練された彼らの隠密はプロのそれに近い。
尾行される可能性があると伝えてしまった時点で、眼前の少年は今より更に神経をすり減らすことになるだろう。
だからあえて、疑われていないかなどと曖昧な言葉を使ったのだ。

「こちらも、まだ襲撃されてはいませんわね。……朗報です。魔女狩りの首領の正体が割れました」

淡々と、いつもの仮面の笑顔を浮かべながら純白の少女は話し出す。

「あとは彼らの拠点を制圧するだけですわ」

純白の少女は、魔女狩りのリーダーが自らの弟だと話すべきか迷っていた。
いずれは分かることであり、リスクを負うだけなので話しておくべきだと冷静に理性が主張する。
反対しているのは家族を殺すと宣言する時に、眼前の優しくて愚直な下僕が反対するのでないかと想像してしまうからだ。

――――この世の他の全ての人物に嫌われようとも、この下僕の少年には嫌われたくない。

純白の少女は、仮面の笑顔の裏でそう思っていた。この少女、生まれやこんな性格も合って実は同性の親友すら居なかったりする。
210 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/28(月) 23:01:08.63 ID:V/PZkMsTo
学園都市には、闇がある───。
光があれば影が出来るのが必然なように、表があれば裏があるのが必然なように、華々しい超能力開発の都には深淵のように暗い闇が存在する。
当然、闇の中でこそ活きていられるものも、深く暗い影に紛れていてこそ生を実感出来る、それこそが暗部の存在だ。

「あァ……ッたくよォ、面倒臭ェんだよテメェら毎度毎度俺を呼び出しやがって」
「あン?ンなもんあいつに頼めや……とにかく俺はもう聞かねェぞ」

昼間でも薄暗い路地裏は、夜になると街灯の人工的な明かりに照らされ、光の届かない部分が余計に際立つ別の暗さがある。
ゴミの山に放り込まれた人間を足蹴にしながら、電話を耳に当て不機嫌そうに話す少年、彼は名を黒繩揚羽と言った。

「知らねーよ、管理委員だかなんだか知らねェが俺は俺のやりたいようにやる、テメェが責任取りたくねェならテメェでなんとかしろ」
「……だからやんねーって、食い物じゃ釣られねェぞ、それで前にどうなったか…」

随分と機嫌が悪いのか、語気を強めて怒っている、意図せず声は大きくなり恐らくは他人に聞かれてはマズイだろう会話が垂れ流しだ。
野生動物のような目は、耳に当てた電話の方を睨んでいる、周囲に対する警戒は浅そうだが…。
211 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/28(月) 23:07:11.21 ID:dyha+cVl0
>>209
「正体が分かったのか!? 凄いな...!」

内情が殆ど分かっていないブラックボックス
魔女狩りという組織はそういった存在だとしか分かっていない
構成員の数や各人間の能力すらも分かっていない中で、白はその首領の正体に辿り着いていた

乾は素直に凄いと、思わず声をあげていた
自分は自分の身の回りのことで精一杯だというのに

「......あぁ、白さん。君を自由にする為にも行動は早い方がいい
向こうが手を出してくる前に行動した方がいいだろう...」

乾は腕を組んで思考を走らせる
こちらは2人に対して向こうは未知数
能力も割れてるのなら、向こうは対策を立てやすいだろう
先手を打てるのなら打った方がいい
兎にも角にも、彼女を救う為に魔女狩りを────。

「......それじゃあ、そのリーダーって誰なんだ?
その、能力とか..... 名 前 とか」

そして乾は、その問いを投げてしまう
聞くことは決しておかしく無い。互いの情報共有は必要だ
だが、白にとって答えることが残酷なその問いに彼女はどう答えるのか────。
212 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/28(月) 23:10:14.25 ID:Jhy2Xozuo
>>210
こんな路地裏にこんな夜に立ち寄ったのも気紛れだった
明るい闇、その矛盾こそこの学園都市から排除されねばならない闇だ
今日は、その見学でもできればいいか――なんて思っていた

(電話――?こんなところで、誰が―――)

決して意図はしていない、だが聞いてしまった
こんなところで、いやこんなところだからこそか
闇の一部であることを主張する電話、そんなものを聞いてしまった
無意識のうちに帯に隠した短剣に手が伸びる――大丈夫だ、いつでもやれる
ステータスを、今のうちに変えておく――短剣を扱いやすいように、何にも対応できるように
【ステータス変動 敏捷3耐久3筋力3精密3技巧3→敏捷5耐久1筋力1精密4技巧4】

(管理委員――!)

そして、息をひそめながらに敵の名前を聞く
間違いない、あの電話の先には―――
斃すべき、復讐の相手がいる

本来なら、気配を抑えきれていた
が、敵の存在を感じて興奮してしまった
だから――伽耶は、殺気が漏れていることに気付かない
213 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/28(月) 23:24:31.45 ID:V/PZkMsTo
>>212
「あ?え、おいそれってあの駅前の…ってそんなんじゃ釣られねーッつってんだろ殺すぞ!」

近くを通った少女の気配にも気付かず、電話相手に声を張り上げる黒繩、きっと少女がそのまま歩いて行ったなら、このまま何も起きなかっただろう。
少女が短剣に手を伸ばし、息を潜めた瞬間、黒繩の纏う空気がガラリと変わった、荒々しい怒気よりも、静かで冷たい殺気に。

「───おい、電話切るぞ、話は終わりだ」
「……ッせーな、わかったよ、それでいいから切るからな」

言葉の音量は小さくなり、落ち着いた声で電話を締めくくると、通話をオフにし携帯をポケットに仕舞おうとする。
その動作の中で、滑らかに空いていた左手を上げ、少女の方に向けて振るう、その手の中より投擲されたのは闇に紛れて尚黒いナイフだ。
ノールックにも関わらず少女の胸へと投げられたそのナイフ、刺さった所で傷は一切出来ず、抜けば無傷で済むだろう、しかしそれはそんなに生易しいものではない。
妄想により作られた漆黒のナイフは、痛みという概念を鍛造したかの如く、傷付けたものに激しい痛みを与える、傷を作らず、苦痛だけを。

「……盗み聞きはよくないなァ?」

少女にナイフを投げ付けてから、黒繩は少女の方を見てニヤリと口角を上げる。
ギザギザした鋭い歯並びと、恐ろしくギラついた瞳が、野獣のように少女を見ていた。
214 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/28(月) 23:33:01.63 ID:Jhy2Xozuo
>>213
(勘付かれた――!)

雰囲気が変わり、電話が終わる
それだけを見てもわかる――気付かれたのだと
短剣を手に持つ、警戒レベルは最高―――
だからこそ、そのナイフに対応できた
カキン、金属同士の衝突音
今は俊敏な伽耶は、ナイフを短剣で弾き返して見せたのだ

「――こんなところで、堂々と話しているお前が悪いんだよ」

青年の正面に歩み出る
短い丈の和装、銀髪、そして――短剣
その切っ先は、他でもない青年に向けられていた
鋭利な、殺意と共に
215 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/28(月) 23:40:27.57 ID:bCorvfBQ0
>>211
「まあ無駄に苦戦されられましたが、私に適うものではありませんでしたわね」

――――どうやら、私の嘘は以前より上手になっているようですわね。

純白の少女は笑顔の仮面を崩さないが、間違いなく普通の人間ならドヤ顔をしているであろう。
今までは、眼前の鋭い緑眼の少年に内心を見破られていたのだが
今回はそのような感覚はないようだ。秘密が多いほど女は美しくなると言いますが……私は元々美しいので関係ないですわね。
純白の少女は傲慢に、そんなことを思っていた。

「能力は学園都市に提出しているものでは無いらしいですが……間違いなく捏造されて居ますわね。
 私生活を調べても出てきませんでしたが――――」

ここで純白の少女は、一呼吸空ける。まだ確信が在る訳ではありませんが、と前置きをして。

「私は人の心を読む類の能力だと思っていますわ。
 どれぐらいの精度かは不明ですが、魔女狩りという宗教染みた組織のリーダーとしては最高で最悪の能力でしょうね」

これは魔女狩りのリーダーが自身の弟であると確信した決定的な理由でもある。
一見すると地味で、直接的に他人を害する物ではない能力に聞こえるだろう。
だが敵にするには紛れも無く脅威な能力であることには違いない。メンバーを洗脳するにはうってつけでもある。
組織のリーダーというものは、敵を直接殺害するような強力な能力がなくても良い。
組織運営に当たって必要なのは慎重さと計算高い行動力とカリスマ……所謂頭脳であり、強力な能力などでは決してない。
これはこの純白の少女にも言えることである。陽愛白の能力は、極論を言うと殴り殺すことしかできない。

その頭脳を補佐できる人心把握能力。地味に見えて、間違いなく強力だった。

「名前は……陽愛 黒。私の弟です。私達は、彼を排除する必要が在りますわ」

純白の少女は、笑顔のまま話し出す。まるで、何事も無いかのように。
効率と女心なら、基本的に効率を取る。リスクは排除する、それが陽愛白の在り方だ。
死んだ幼馴染の前でもそうだった。ほんの少し緑に染まったとは言え、その在り方は変わらない。

「歴史的にも、身内同士の権力争いは珍しいことでは在りません。私と黒……勝利した人間が陽愛を継ぐことになるでしょうね」

普通は男の長子が継ぐものだが、弟の黒は大きなミスをしたために白に権力が回ってくることになった。
それを白のミスで帳消しにした。つまり二人はこれでイーブンなのだ。プライドに掛けても決着を付ける必要がある。
216 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/28(月) 23:52:00.35 ID:V/PZkMsTo
>>214
所詮当てる気は無かった、というよりも当たるとは思ってもいない。
ナイフを弾く音が響いて、やはりそこに何者かがいることを再確認する。

「…はァ?」

目の前に現れた伽耶の姿を見て、黒繩はまずその険しかった表情を呆れさせた。
短い和装に銀髪で短剣を所持、和装が珍しいとは言わないが、今日日こんな街中で私服として着て歩く者が果たしているだろうか?
素っ頓狂な見た目に抱いた呆れは、いつしか笑いへと変わり、それが彼の人の感情を考えないある意味素直な性格と重なり、爆笑を生む。

「……く、ひひ…ヒャーッハッハッハッハッハッハ!!おいおいなんだよその格好!夏祭りには気が早いんじゃねェの!?」
「え?何それ私服!?やべェマジウケんだけど!」

余りにも見慣れぬ格好の人間がいきなり目の前に出て来た事で、伽耶を指差し大笑いを始める。
それが煽りになる事は承知の上だろう、しかしそれでも笑わずにはいられなかった、ひたすら笑う。嘲笑う。
217 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/29(火) 00:02:43.53 ID:4PfXdNT40
>>215
「心を読む能力...か」

間違いなく厄介だ。精度や同時に読める人数にもよるが
その手の能力は普通に殴りあう事さえ難しくなる
こちらの一挙手一投足まで読まれたら何も出来なくなる
どうすればいい────その能力で確定した訳では無いが、それでも対策が無ければ

思考しても答えが見えてこない
戦闘中に心を読まれては思考することすら────。

「.......って、弟...?
白さん。...何を言って────」

そして、その名を聞いた
聞き間違いとも思えてしまうぐらい、自然に口にされたその名を
その苗字に目の前の少女に対を成したその名前を聞いた

陽愛 黒。

それが、相手の────倒すべき敵の名前だと彼女は言った
少しの間、乾は目を伏せた
それがどういうことかはわからない。ただ、再び顔を上げて問いかけた

「...弟さん、その人を...貴女は[ピーーー]んですか」

再び、前髪から覗く彼の緑眼が白を見ている
この目はあの日と同じ────彼女に深層を覗く瞳だ
彼女に問い、彼女に選ばせ、そして寄り添う人の目をしている
どんなに取り繕うと、白の顔に張り付いた笑顔の仮面の奥
──────その震える表情を見ている。

乾はベンチで座る白の前にしゃがんで、見上げるように白の顔を見た
悲しいような、怒っているのか────そんな曖昧な表情を浮かべて
白を見つめていた────。
218 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/29(火) 00:03:06.51 ID:LD0kDOo/o
>>216
「ああ、私服さ
 おかしいか、まあいいさ」

すさまじく低温な声
静かに、哄笑を受け入れている――のではない
静かに、キレていた

縮地――そうとすら思える速度で青年へと急接近する
圧倒的な敏捷さ――筋力と耐久を捨てた境地にあったもの
それを、十二分に生かして

「だが笑われる筋合いはないな
 こんな牢獄の中で囚人服のような制服を着る人の気の方が――知れなくてね」

伽耶としては、制服などを私服にするのは絶対にあり得ない
なぜなら、自らを学園都市という牢獄の囚人であると認めることになるから
叛逆者は――それを認めない
―――まあ、この私服は純粋な好みなのだが
言葉を並べても、歪まない事実がある
それは――速度をもって短剣が振るわれていること
その狙いが、胸部のあたりを薄く切り裂くことであること
219 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/29(火) 00:26:13.19 ID:jM2niEMCo
>>218
「えぇ?ちょ、マジで私服!?やべーよお前ン家どんなだよマジ笑うわー!!」

伽耶の怒りも知らずに嗤いは止まない、寧ろ怒っている分だけ面白そうだ。
だが、そんな風に笑っていながらも目の前の相手が自分に殺気を向けていたのは忘れはしない。
伽耶が動き出す刹那にその開幕を読み取り、表情は幾らか引き締まった。

「───チッ」

しかし、その瞬間には伽耶の体が自分の懐に飛び込んでいる、速いなどと言う問題ではなく、気付いた時にはもう相手の射程距離だ。
咄嗟に背後に跳ぶ事で、反撃を犠牲に深手を避ける、結果的に元より浅く狙われていた事もあって無傷で回避が出来たが。

「そいつァ同感だ、あの制服だっせェもんな、俺も頼まれたって着ねぇわあんなモン」
「そんで、テメェ何処まで聞いた?場合によっちゃ忘れるまで痛めつける程度で済ませてやるよ」

体制を立て直しながら、伽耶があの電話を何処まで聞いていたかを問う、余り重要な事は言っていないが、場合によっては自分が危険だ。
両手に一振りずつ、漆黒のナイフを作り出しながら、ゆらりと立つ、脱力したかのような構えは独特のものだ。
220 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/29(火) 00:29:48.42 ID:7BIeSkiW0
>>217
「私が襲撃の為に雇うのは、戦闘に慣れているものばかりです。大丈夫ですわ」

戦いに慣れている人間ならば対処することができると、純白の少女は笑顔の仮面を崩さない。
確証が無いために雇う人間たちには伝えていないし、それで良いでしょうと白い少女は話す。
未知の敵の能力について余計な先入観を持てば、待っているのは死だろう。
しかも考えないと思えば思うほど人間は考えてしまう物だ。
自身の弟なら、逆にそれを考えて自身の能力を分かりやすく簡単にバレるよう明かしそうなものだった。

「ええ、私は弟を殺します」

純白の少女は、緑眼の少年の瞳を強い意志で見つめ返す。
この決意を変えるつもりはない様子だった。
例え眼前の下僕が悲しんだとしても、引けぬことはある。

「まあ雇う人間には、捕縛でも可能とはしておりますが……
 憂いを絶つために、弟は刑務所の中で謎の死を迎えることになるでしょうね」

純白の少女は、笑顔のまま淡々と話す。
人の心が読める能力、生かしておくには危険すぎる。
実際に弟は罪を犯して一度警察に捕えられた後、刑期が異様に短くなり刑務所から出てきている。
それが人の心を読めるのではないか?と思った理由の一つであった。
生かしておくにはあまりにも危険すぎる。

「まさかこのぐらいのことで、貴方は私のことを嫌いになりますか?」

純白の少女は微笑みながら、口元に手をあてクスクスと声を出した。

―――――このような問いを、過去にも幼馴染にしましたっけ。

純白の少女は、ぼんやりと考えていた。
そう、女子高で虐めがバレた時のことである。
何となく嫌だ、あの時はそう返された。眼前の緑眼の少年は、私にどう言葉を返すのでしょう?
そんな、未知の期待もあった。
221 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/29(火) 00:59:30.55 ID:4PfXdNT40
>>220
「................」

乾は答えない
自らを守る為に敵である弟を殺してしまうと口にした白を、ただ見つめていた
────目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ
彼の目は、口を開かずとも彼の真意を如実に伝えてくる

────それでいいのか?

そう問いかけるように、彼の瞳は語っていた

「────嫌いになんかならないよ。
...自分でも分からないけど、俺は貴女を助けたい。

その為に...貴女の為になるのなら...ずっと、力になりたい」

その感情が何なのかは分からない
ただ歪んでしまった彼女が、その全ての罪を償って
何処か記憶の外へ置いてきた丘の向こうで

いつか本当に笑えるように────。

そんな彼女が見たくて、彼女を救いたいと思った
ただその道のりで、弟を殺してしまったらどうなるのだろう

────その彼女の罪は、赦されるのだろうか。
彼女が、その罪を赦すのだろうか────。

「......白さん。貴女の本当の顔が見たい。貴女の本当の声が聞きたい...
────だから教えてください。」

本当に手を掛けるのですか、と
そっと白の細い手に触れて、しゃがんだ姿勢のまま彼女の顔を見上げて

その目は否定はしない。肯定もしない
乾は彼女の決断をきっと聞くのだろう────。
ただその悲しそうな顔は、彼女の仮面の奥の言葉を望んでいた

222 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/29(火) 01:34:37.60 ID:7BIeSkiW0
>>221
「そうですか、ならば分かるはずです。殺したほうが良いでしょう?」

嫌いにならないという緑眼の少年の答えを聞いて、純白の少女は頷いた。


――――どうして私は、乾とこんなに物騒な話をしているのでしょう。

純白の少女は、笑顔の裏で悲しんでいた。
本当なら、もっと楽しい話をしたかった。
二人で笑えあえるような、そんな話。
しかし自身の冷静な思考は、それを許さない。


弟を殺すこと。そのことに対する罪悪感は全く無い。
陽愛白は、弟にむしろ憎しみすら抱いていた。

殺人を犯した、それは大したことではない。
人を殺すことはどうでもいい、しかし証拠を残してしまうのは無能以外の何者でも無かった。
しかも能力という己の頭脳ではない力に頼り脱出した。
本当に無能以外の何者でもない。陽愛を継ぐに値しない。それが白の考えだ。


純白の少女と緑眼の少年の思考は、実は噛み合ってはいない部分がある。
魔女狩りで人を殺したこと、実はそのこと自体をそれ程後悔している訳ではなかったりする。
あの時一番許せなかったことは、魔女狩りという組織を緩慢な自殺として利用してしまったこと。
憎しみの連鎖を自らが生み出し、憎んでいるカスパールに任せてしまったこと。それが一番許せない内容なのだ。
確かに罪は罪で在るという認識はしている。嫌われるために拷問の内容も話した。
しかし全ては愉しんでやっていたことであることもまた事実。
もしこれが唯単純に愉しんで人を甚振り、愉しんで殺すのなら良かった。そう思っている。


――――――陽愛白は、人を甚振ることや殺人すること自体に拒否反応を起こしていないのだ。


殺人をしない理由は眼前の乾という少年が、嫌だと言っているから。それだけだ。
弱肉強食が陽愛白の原点であり、この純白の少女はどうしようもない外道であることには変わりないのである。
眼前の緑眼の少年は、それに気付いているのであろうか。

「まあ貴方がどうしても嫌なら、やめておきますわ。無力化する方法も考えておきます」

そう、はっきりと自分の意思でやめるわけではない。
乾という幼馴染に似た少年を気に入り、下僕として好意を抱いた。それだけ。

純白の少女は、少し緑に染まった所で未だに過ぎた白のままであり、過ぎた黒と等価のままだった。
223 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/03/29(火) 06:30:43.09 ID:4PfXdNT40
>>222
「............」

殺してしまう方が良い
確かにそうかもしれない───それじゃあいつまで経ってもその方法で終わらせてしまう
困難な壁とぶつかった時、最終的に殺人で落ち着いてしまうことだけはあってはならない

白はきっと殺人を行う事は決して苦ではないのだろう
その手段を選ぶ事にそれほど抵抗がない
人の命を奪い、その血を浴びてなお殺し続けれる

それが彼女の歪みだと、乾は知っている

だが、それではいつまで経っても────彼女の陰には赤い血痕が付き纏う

「...あぁ...ありがとう」

無力化するという。彼女の言葉に僅かながら安堵しながらも
乾は自分の右手に視線を落とす
その手に仕込んだ武器は、人の命だって奪えれる代物だ

主人に返り血が付かないようにするのは下僕の役目だろう?
覚悟を決めろ──────俺。
誰にも聞こえないだろうが、そう心の中で呟いた



「────────あ」

思考を落ち着かせて今更気付く
白の細い手に触れていた自分の手だ
彼女の語りかける時に自然と触れていたのだろう
覆うように触れた手からでも、彼の動悸が聞こえたかもしれない

なにしてるんだとと、いきなり冷静なって自分の行動を恥じてきたのだろう
乾は思わず手を離そうとする──────。
224 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/29(火) 08:15:43.69 ID:7BIeSkiW0
>>223
「とはいえ、方法を考える必要はありますわね……まあどうしてもという下僕の頼みですし、無碍にするつもりはありませんわ」

しかし数回頼まれたら折れてしまうあたり、それでもしっかり緑には染まっていたりするのかもしれない。
実は純白だと思っているのは、白本人だけなのだろうか?それは誰にも分からないことであった。

「しかし下僕のくせに生意気な口を利きますわね。泣いて私に感謝するぐらいのことはしても良いのではありませんか?」

身内の争いを諌めてもらったと言うのに純白の少女は、いつものような嗜虐心を覗かせる。
これはもはや癖であり、簡単に治る物ではない。
その言葉の刃は、やはり口に出した本人を貫いていた。
純白の少女は罵倒を浴びせながら、笑顔を僅かに歪ませている。
勿論、純白の少女は自分の心を自分で切り裂いて喜ぶような人間ではない。喜ぶのはあくまで他人の苦痛である。

純白の少女は、咄嗟に下僕が自らの手首に触れていたことは分かっていた。
真剣な話をしていたためであり、女心と理性なら、理性の方を取るから意識していなかっただけで……
緑眼の少年の動悸は、しっかりと手から伝わってくる。純白の少女は、仮面のような微笑を深くした。

「本当に仕置きが必要みたいですわね……主人の手を許可無く触るとは許せませんわ!」

罰を与えなければいけませんわね、と微笑を深くして言う純白の少女。笑顔は怒りや威圧の裏返しと言う。
その様子は、緑眼の少年からすると怒っている様に見えたかもしれない。

そうですわ。これでは主人の威厳というものがありません、眼の前の厭らしい下僕に罰を与えなくては。

陽愛白は、ピシャリと下僕の少年の手を撥ね付け―――

「これが貴方への仕置きですわ、覚悟して受け取りなさい」

―――――純白の少女の方から、細い手を伸ばして下僕の少年の手を握った。

「暫く私の手を温めていなさい。それが貴方に対する罰ですわ」

純白の少女はまた頬を僅かに染め、女の子らしい、可愛らしい幸せそうな笑顔を浮かべていた。
仮面の美しい笑顔とは違いその自然な笑顔の中には、傲慢な少女らしいしてやったという満足も溢れている。
どうやら先に主導権を握られることが不本意だったようだ。
しかし傲慢な少女はその負けん気を発揮し、結果として白い少女は素直になれた。

「…………」

純白の少女は何も言わない。ただ少女の手は、しっかりと下僕の少年の手を握って離さなかった。
下僕に仕置きをしている間、純白の少女は久しぶりに至福の一時を過ごすことができた。

――――乾との逢瀬を楽しみにしていた甲斐がありました。

そう思いながら純白の少女は自身が気が済むまでの間、下僕の少年と手を繋ぎ続けていた。

/有難うございました&お疲れ様でした!
225 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/29(火) 18:13:22.14 ID:4PfXdNT40
>>224
「.........。」

泣いて感謝しろと言われて本当に泣く人がいるのだろうか
白の言葉に首を傾げつつ、そんな事を言う彼女の性格に乾は迷った後に微笑みで答えた
そんな彼女の性格は好きだ。何故かは分からないけど、そんな白の言動が
なんというか、────心地が良い気がする

「わ、悪気は無かったんだ! 謝るよ!」

そしてその触れた手に、きっと白は怒ったのだろうか
彼女の笑顔は相変わらず綺麗だけど──────うん、怒ってるよこれ!

手を払い除けられ、キツい一撃が来るかと
思わず目を閉じ──────。

「──────え?」

────痛みではない。
不器用ながら優しさのある柔らかい感覚

これは、握手なのだろうか────いや、これはもっと違う意味の。

その握られた手を、思わず二度見していた
彼女の細い指で握られた...その手を
白の言葉で顔を上げて、その表情を見る

その僅かに紅潮している笑顔に──────。

ドクンドクンドクン、と再び動悸が始まった気がした
彼女の負けず嫌いな性格とその卑怯な表情とか
その細い指から感じられる彼女の熱とか
そういう感覚を乾もまた感じながら

「────うん、良いよ」

と、そう微笑んで応えたのだった────。

/ロールありがとうございましたー!!
226 :咲城 紗久 ◆SX5Zm0pQFQ :2016/03/30(水) 18:52:06.36 ID:FctD+vDw0
太陽は沈み、空には月が昇り星がきらめく。
街外れの大きな公園。様々な遊具や樹々が公園を取り囲む街灯の光を受けて淋しげな雰囲気を醸し出す。
人気のないはずの真夜中の公園だが原色で塗られた石に囲われた砂場には、とても楽しそうに鼻唄を奏でる褐色の少女が一人。

「〜♪」

砂場には少女が作り上げたであろう彼女の身長以上の高さがある西洋風の砂の城が堂々と佇んでいた。
その作品は少女の努力と能力の結晶であり、細部までこだわったリアリティのあるディテールに、公園の砂場という場所にシンクロする荘厳すぎないちょうどいい外見、プロも納得のクオリティを誇っている。…と少女は思う。

「むふふふ、我ながらすごいのが出来ちゃったぞっ
制作時間1時間半……!暇を持て余した能力者の遊び……っ
どうせ壊れちゃうだろうから写真でも撮っとこう…!」

自分のお城を恍惚な表情を浮かべて見つめ、満足げな少女は携帯のカメラでフラッシュバシバシ炊いて撮影し始める。
夜中に一人、公園ではしゃぐ。平和ボケしたその不審者はなんとも異質で滑稽だ。
227 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 18:53:26.82 ID:WvsJOiuz0
今日も制服のまま、風船のように学園都市を彷徨う大木陸。
常に目を細めているため一見分かりずらいが、その内心は複雑であった。

「学園都市の闇か……能力を持つものは自身の狂気と闘わなければならない。この環境で殺人が起こるというのは当たり前なのか?」

女を殺す幼い少女。学園都市の経営者に両親を殺された少女。
そんなことを聞かされた大木は、今日も悩み続ける。
この監獄の中で人を助けるとはどういうことになるのか、その答えを捜し求めて。
物騒な現実を嘆きつつもその思考が徐々に一般人の枠から歪んでいることに、大木本人は気付いていない。

「俺は、困っている人を助けたい。その為に何をすべきなんだろう。そもそも俺は、誰を助けたいんだ?」

悩みつつも徘徊はやめない。風の向くまま、気の向くままに学園都市を彷徨う存在。
風は無色透明で、この大木陸という少年もそうだった。他の色に染まりやすい。
高校生らしいと言うべきなのだろうか、可能性の塊であった。
ふらふらと彷徨いながら、大木は自身を変えてくれるような、誰かとの出会いを求める。
その内心では学園都市の番町を名乗る少女から受け取った、困っている人を助けたいという心の火を灯しつつも―――

――――――また匂いのする死体を見ることができるかな、という物騒な考えが。

ほんの少しだが、確かに大木の心の中には在った。
228 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/30(水) 19:41:14.66 ID:eSWYuOth0
>>227
「ん、どしたん、そこのおにーちゃん?」

赤い眼鏡とカーディガンを身に着けた、話し方に訛りのある少女が、透明な少年の元へと歩みを進める。
買い物帰りにたまたま通りかかったのだろうか、赤い少女の両手には食材が入ったレジ袋が握られていた。

「ふらふら歩きよるようやけど、もしかして道に迷ったん?」
「……まー、迷ったんは地理的な事だけやないかもしれんけど」

センセー曰く学生の間は人生の道に迷いやすいんやってー、と少女は無邪気に笑う。

「ていうか、その制服見たことある思ったら、うちとおんなじ学校のやん!」

少年の服装を足先から頭頂部まで確認した少女は、揺れる犬の尻尾が付いているように見えるくらいに、少年へ心を許したことが見て取れる。
この広く学生が多い学園都市内で、同じ学び舎で勉学に励む人間に出会えたことが嬉しいようだ。

「そういうことで、うちの心には今、仲間意識が芽生えましたー!」
「うちは伊那坂こはる!キミの先輩か後輩か同級生や!よろしくな!」

赤い少女は賑やかに、自分勝手に自己紹介を続けていく。


「んで、君は何に迷っとん?」
「自分で解決できんようやったらー……」

赤い少女は自らの胸を力強く叩き、

「うち、伊那坂こはるが、今の君の道標となってあげようやないか!」

何か面白いことが無いかと言わんばかりの、好奇心をむき出しにした瞳で、透明な少年の瞳を覗き込む。
229 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/30(水) 20:44:52.19 ID:He1NMKS+o
>>219
「家?――両親なんか、とうに殺されていてな!」

怒りの方向性が、変わる
目の前の青年を通り越して――過去、それも強大な過去のなにかへの怒りに変わる
家、それを構成する単位の呼び名の一つである――親に反応して

「聞いたところ?そうだな―――
 管理委員、って奴らが私の敵であるってことはよくわかったぜ」

自身が設定できる最大限の速度は回避された
どうやら――場数は踏んでいるらしい
制服についての反応、そこから少しだけ考え直して追撃はしない
独特な構えに対して、こちらはまた短剣の切っ先を向けるだけ――
とりあえず、反応を待つ
そして――場合によっては、

//お待たせしました…!返せるようになったので置いときますね
230 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 21:06:06.03 ID:WvsJOiuz0
>>228
「えっと、ありがとう。ぼうっとしていたみたいだ」

どうやら、また物騒な考えをしてしまっていたらしい。
夢遊病のように彷徨いながら、危険思考。単なる危険人物である。
傍から見てみれば、心配されてしまうのも当然だ。しっかりしないと。
大木は、自分の行動を戒めつつも眼前の少女に笑顔で礼を言った。

「道の迷子で人生の迷子だったのかもな。まあ人間なら悩みがあるのは当然だけどさ」

訛の付いた少女の言葉に一瞬困惑するも
学園都市だし全国、下手すれば海外から人間が集められているのは当然か、と考え直す。
それよりも迷子と言うその、今の大木を示す的確な言葉に、大木は強く頷いた。

「うん、第一学園で……俺は一年生だから、君は先輩さんかな?」

口ぶりからして眼前の少女が二年生であることが分かる。
眼前の親しみやすそうな言葉遣いで話す少女は頼れる少女に見えた。
クラスメイトのお母さんとか、そう言った立場の人間に見える。
少なくともしっかり地に足が着いている人間、という印象がある。大木にとっては、羨ましいことだった。

「俺は大木陸。よろしくねこはるさん」

臆病な大木にとってはずけずけと人の心に入ってきそうな人間は、苦手なはずなのだが……
眼前の少女からは、嫌味のようなものが全く感じられなかった。
それは親しみやすさや愛嬌のおかげでもあるのだろう。このこはると名乗る少女は学園でも人気者な気がした。

だから大木は、あっさりと警戒心を解いた。
眼前の赤い服を着た少女に媚を売る必要性を感じない。
眼前の少女が、大木の憧れている番長を名乗る少女に雰囲気が似てるのも理由の一つだった。

「困ってる人を助けるってどういうことかなあ、って考えてたんだけどさ」

力強く胸を叩き、瞳を覗き込んでくる少女にあっさりと悩みを打ち明ける大木。

「今のこはるさんがやってることを、きっと俺はしたいんだと思う。……こはるさんはすごいな」

圧倒的な包容力、とでもいうのか。気が付けば、大木の口からは素直な感嘆が出てきた。
すごい、羨ましい。そんな稚拙な言葉が、大木の頭を覆っていた。
231 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/30(水) 21:33:43.25 ID:8fY8TLwfo
>>229
「…あー、やっちまったな……もっと周りを警戒しときゃよかったぜ」

管理委員会と繋がっている所まで聞かれたか、自らが暗部の存在である以上、外部の人間にそれを悟られるのは非常に不味い。
表向きは学園都市を運営している管理委員会が、こんなチンピラ紛いの男を使って魔術師を狩っているなどと噂でも流れてはいけない。
判断は早かった、そこまで聞かれているなら、消すしかないだろう。

「よーし、そんな親なき子のテメェに吉報をくれてやるぜ」
「テメェを両親と合わせてやるよ、久々の一家団欒でも楽しみな」

「───あの世でなァ!!」

黒繩が心無い言葉を叫びながら、手に持っていた漆黒のナイフを伽耶に向けて投擲する、右と左の一つずつをタイミングをずらして。
しかしこれは囮だ、黒繩はナイフを投擲してから素早く伽耶に向けて駆けていく、その途中で右手に漆黒のナイフを逆手に作り出しながら。
接近が叶えば、伽耶の首を切り裂こうとするだろう、傷は出来ないので致命傷にはどうあっても至らないが、激しい痛みで喉を潰すつもりだ。
232 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/30(水) 21:46:27.30 ID:RJjCK5HAO
>>230

「あ、キミ後輩さんやったん!?」
「やった、うち先輩や!嬉しーわー」

何が面白かったのかよく分からないが、ケタケタと笑い始める。
どうやら、少女は同学年以外とあまり関係を持っていないようだ。
よって、少年の存在は“異学年の人”という特別なフォルダへと入れられることになる。

「うん、よろしく!りく、くん……言いにくいわ!」
「ええわ、うちはキミの事りっくん呼びするけん!」

楽しそうに大木の呼び方を決める少女。
名前を変えて呼ぶのも呼ばれるのもあまり好かない彼女だが、
自分と違う落ち着いた雰囲気を放つ大木が、よほど気に入ったようだ。
ただ言いにくいのが嫌、という気持ちも二割は占めているだろう。


大木の話に大きく頷き、相槌を打ちながら聞く少女だが、次第に首の動きも声も小さくなっていき、

「な、な、何言いよん、りっくんは!?」
「い、いきなり褒められても、照れるだけなんやけど……」

かつては上に兄、下に妹がいて、大人の目が付きにくい立ち位置にいた少女。
加えて最近は一人暮らしで家事はやって当たり前、となっているため、
褒められるのに慣れていないようだ。

「……ま、まあ、ありがとね。そういう風に思ってくれて嬉しーわ」

少し頬を赤く染め、いつものとは違う、落ち着いた笑みを見せる。


「……こ、困っとるって言っても、一口では言えんよね」
「今のりっくんみたいな人もおるし、学園都市ならではやけど、能力関係で困っとるのもおるし?」

「うちみたいな事っていうのが、ちょっと良くわからんけど……」

話題の路線を変えようとして出た言葉。
透明な少年の脳内を一つの色で染めたくないゆえに選んだ内容である。

そして、照れの色と心からの疑問の色が混ざった言葉。
少女が自分のやりたいように動いた結果なので、大木の言葉の本意が分からない。

「んー……りっくんの得意不得意から考えてみるんも一つの手やない?」
「例えば運動できるとか、人の気持ちが理解できるとか」
「学園都市におるんやけん、能力面から考えるんもええとうちは思う!」
233 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/30(水) 21:48:32.27 ID:He1NMKS+o
>>231
彼が何をしているか、そんなことは知ったことではない
[ピーーー]だけだ
殺意を向けてくるなら、奴らと繋がっているなら―――
復讐の、対象だ

「それはできないな、」

先に飛んできたナイフを素早くはじく、
しかし、彼女の技術はそれでとどまらない
はじいたナイフは、後から飛んだナイフに命中して二つは共に明後日の方角へと弾け飛んだのだ
もう少し、精密さをあげていれば――それをそのまま攻撃に生かせたと、感じていた

「私は復讐をしなければならないからな!
 私から親を奪った管理委員は――皆殺しだ!」

気付けば、そこに接近してきた青年がいた
バックステップ、迫る一撃は"回避"する
今の自分に、あの一撃を受け止めて崩すだけの"筋力"も、"耐久"もない
あるのは――速さ
ただ、稲妻のように真っ直ぐに短剣を突き出すのみ
バックステップが速すぎて、移動距離が長すぎて、その狙いは――浅め
234 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 21:57:42.00 ID:WvsJOiuz0
>>232
「うん、俺は後輩さんだよ。宜しく先輩さん」

カラッとした性格の少女と会話が噛み合う心地よい感覚。
性格が正反対だからこそ、憧れる。だからこそ噛み合うのが大木にとっては嬉しかった。
ケタケタ笑う少女に、大木も釣られ笑いをしてしまった。

「りっくん呼ばわりされたのは二回目だな、好きに呼んでいいよ」

大木は、いつの間にやら微笑を浮かべている。
機嫌が非常に良い。リラックスして話ができる。楽しそうに話す少女と、楽しそうに会話する大木。
相手を気に入ったのは大木もお互い様のようだ。

「褒めたというよりかは、純粋な感想なんだけどな」





235 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/30(水) 22:03:56.46 ID:8fY8TLwfo
>>233
伽耶の素早い動きを捉えきれない、自分もスピードには自信はある方だが、それを遥かに上回る程に伽耶は早かった。

(チィ……単純に捕まえんのは無理だな…)

こういう場合、往々にして策に嵌めるのが手段ではあるが、黒繩の考える策は殆どが同じ事だ。
肉を切らせて骨を断つ、自分を使ったハイリスクハイリターンの捨身攻撃。

後ろに下がりながら伽耶が突き出す短刀に怯む事なく、更に一歩踏み込んでいく、浅くなる筈だった短刀は、脇腹を深く抉って。
それでも追撃の意志は緩めない、空いている左手に更に漆黒の刀剣を作り出す、今度はナイフなんてものではなく、大きく長い刀の形に。
それを、伽耶の胴体を両断せしめんとばかりに振るう、さっきのナイフよりも遥かにリーチは長くなり、同じように飛び退こうとすれば逃げ切れないだろう。
236 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 22:12:50.56 ID:WvsJOiuz0
「うん、俺は後輩さんだよ。宜しく先輩さん」

カラッとした性格の少女と会話が噛み合う心地よい感覚。
性格が正反対だからこそ、憧れる。だからこそ噛み合うのが大木にとっては嬉しかった。
ケタケタ笑う少女に、大木も釣られ笑いをしてしまった。

「りっくん呼ばわりされたのは二回目だな、好きに呼んでいいよ」

大木は、いつの間にやら微笑を浮かべている。
機嫌が非常に良い。リラックスして話ができる。楽しそうに話す少女と、楽しそうに会話する大木。
相手を気に入ったのは大木もお互い様のようだ。

「褒めたというよりかは、純粋な感想なんだけどな」

そう、この大木という少年は媚を売らず相手を警戒しない限りは基本素直なのだ。
だから率直な言葉が口から溢れたのだが……
可愛らしい所もあるなあ、と思う。

「そんなに喜ばれるとこっちも嬉しいな。どういたしまして。お礼を言われるっていいもんだね」

大木は久しぶりに会話を楽しんでいた。

「青春の悩みに精神の悩み、能力の悩み……結構あるよね」

人の数だけ悩みがあるという。困っている内容も多岐に渡るだろう。

「この人なら頼れる、この人なら悩みを打ち明けることができる。
 そう相手に思ってもらうことが大事だって、こはるさんのおかげで気づけた」

困っている人は、まずそのことを打ち明ける必要がある。
頼りになる人間、それを目指してみるべきだと思った。
番町を名乗る少女も、眼前のこはるという少女もそうだった。

「こはるさんみたいな頼れる人間になれば、悩みを打ち明けてくれる人も多いだろうし」

なんだかんだで、この少年の考えは変わりたい、なのである。



237 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/30(水) 22:16:50.57 ID:He1NMKS+o
>>235
「――――ッ!!」

脇腹を一撃は深く抉った
だが――長刀が、横から迫っていた
避けられはしないだろう、ならば受けるほかない
突き出し伸ばした右手の下をくぐって左手を右に伸ばす
そして――親指の付け根のあたりで挟み込むように一刀を受ける
――痛い
劇痛がする、だが不思議なことに衝撃はない
しかし、そんなことはどうでもいい。ひたすらに痛むことには変わりない
顔は歪んでいるだろう、だが――右手は無事だ
左手も、切断はされていない
激しく噛み締めた奥歯が軋むのを感じながらに、右手を動かす
短剣で、傷をえぐるように
238 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 22:18:42.08 ID:WvsJOiuz0
>>232
「うん、俺は後輩さんだよ。宜しく先輩さん」

カラッとした性格の少女と会話が噛み合う心地よい感覚。
性格が正反対だからこそ、憧れる。だからこそ噛み合うのが大木にとっては嬉しかった。
ケタケタ笑う少女に、大木も釣られ笑いをしてしまった。

「りっくん呼ばわりされたのは二回目だな、好きに呼んでいいよ」

大木は、いつの間にやら微笑を浮かべている。
機嫌が非常に良い。リラックスして話ができる。楽しそうに話す少女と、楽しそうに会話する大木。
相手を気に入ったのは大木もお互い様のようだ。

「褒めたというよりかは、純粋な感想なんだけどな」

そう、この大木という少年は媚を売らず相手を警戒しない限りは基本素直なのだ。
だから率直な言葉が口から溢れたのだが……
可愛らしい所もあるなあ、と思う。

「そんなに喜ばれるとこっちも嬉しいな。どういたしまして。お礼を言われるっていいもんだね」

大木は久しぶりに会話を楽しんでいた。

「青春の悩みに精神の悩み、能力の悩み……結構あるよね」

人の数だけ悩みがあるという。困っている内容も多岐に渡るだろう。

「この人なら頼れる、この人なら悩みを打ち明けることができる。
 そう相手に思ってもらうことが大事だって、こはるさんのおかげで気づけた」

困っている人は、まずそのことを打ち明ける必要がある。
頼りになる人間、それを目指してみるべきだと思った。
番町を名乗る少女も、眼前のこはるという少女もそうだった。

「こはるさんみたいな頼れる人間になれば、悩みを打ち明けてくれる人も多いだろうし」

なんだかんだで、この少年の考えは変わりたい、なのである。
自分のよさを受け入れることが、この大木という少年にはできていない。
逃げることも勇気だとは分かっていても、能力が嫌いなことも理由の一つだった。

「俺の得意なことか……これとかかな?」

悪戯っぽい子供のような表情を浮かべると食べる?と問うと、
眼前の少女にプリッツを差し出す。尊敬する少女から教わった親愛の証である。

「俺は自分の能力、嫌いなんだよね」

どうするべきかなあ、と首を傾げて包み隠さず話す大木。
媚を売っていない分表情は豊かで、コロコロと変わる。大木は素の状態だった。
239 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/30(水) 22:43:07.64 ID:eSWYuOth0
>>236

“褒めたというよりかは、純粋な感想なんだけどな”

下心の無いことが分かる大木の発言により、少女の頬はますます紅くなる。

(なんや、りっくん追い打ちかけてくるなー……)
(もしかして天然なん?)

大木の顔を覗きつつ、そんな事を思う。


(……違うんやで、りっくん)
(心を開けんことには、相手を信用出来んことには━━)

口をついて出そうになった物を全て飲み込む。
開かせる側に問題がなくても、開く側に問題があれば、鍵は解けることはない。

(私は、嘘に嘘を重ねて出来ている存在━━)

今までの経験を回想し、少し、悲しげな表情。


透明な少年に言うべきことではないだろう。
少女はそう判断し、

「なんやなんや、自己解決しそーやん!」
「これ、うちの出番いらんかったなー」

何事もなかったかのように明るく振る舞う。

「でも、無理に変わる必要はないと思うよ?」
「今のりっくんには今のりっくんの良い所があるんやけん!」

変わって欲しくない。
強がって生きる人間になって欲しくない。
仮面を付けた存在になって欲しくない。

今の無色透明な、純粋なままのキミでいて欲しい。


相対する2つの願い。

(まぁ、うちが決める事じゃないんやけど)

心の中で苦笑い。
240 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/30(水) 22:43:56.55 ID:8fY8TLwfo
>>237
まだだ、まだ足りない、体が動けなくなるまでの苦痛を与えなくては、この女は止まらない。

「ハッ───」

復讐、と言っていたか───何があったか知らないが、たかだか親の復讐の為によくぞここまで出来るものだ、完全にこちらを殺すつもりではないか。
傷口に押し当てられ、肉を割けていく短剣の刃が、冷たく神経を刺激する、体から熱を奪うような真っ青な冷気。
殺気の塊のような、復讐鬼を目の前にして、黒繩は笑わずにはいられなかった、純粋な狂気に答えられるのはこういう輩でなくてはいけない。

「その歳してパパママってかァ!?可愛いねェお嬢ちゃん!!」
「その程度で復讐なんて笑わせんじゃねェよ!」

このままではいつ短刀が体の内部を貫き内臓を抉るかわからない、だがこうしている間は確実に伽耶を捕まえていられる。
チキンレースだ、どちらかが耐え兼ねて離れるまで痛めつけ合う。
更に右手のナイフを振り、伽耶の脇腹に突き刺そうとする、いくらでも付き合おうではないか、好きなだけその殺気を向けろと笑いながら。
241 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/30(水) 22:52:51.56 ID:eSWYuOth0
>>238
“褒めたというよりかは、純粋な感想なんだけどな”

下心の無いことが分かる大木の発言により、少女の頬はますます紅くなる。

(なんや、りっくん追い打ちかけてくるなー……)
(もしかして天然なん?)

大木の顔を覗きつつ、そんな事を思う。


(……違うんやで、りっくん)
(心を開けんことには、相手を信用出来んことには━━)

口をついて出そうになった物を全て飲み込む。
開かせる側に問題がなくても、開く側に問題があれば、鍵は解けることはない。

(私は、嘘に嘘を重ねて出来ている存在━━)

今までの経験を回想し、少し、悲しげな表情。


透明な少年に言うべきことではないだろう。
少女はそう判断し、

「なんやなんや、自己解決しそーやん!」
「これ、うちの出番いらんかったなー」

何事もなかったかのように明るく振る舞う。

「でも、無理に変わる必要はないと思うよ?」
「今のりっくんには今のりっくんの良い所があるんやけん!」

変わって欲しくない。
強がって生きる人間になって欲しくない。
仮面を付けた存在になって欲しくない。

今の無色透明な、純粋なままのキミでいて欲しい。


相対する2つの願い。

(まぁ、うちが決める事じゃないんやけど)

心の中で苦笑い。


「ん?餌付けすることが特技なん?」
「まぁええわ、ありがたくいただきまーす!」

特に警戒する様子も見せず、差し出されたプリッツへと手を伸ばす。

「ええやん、能力なんか持ってるだけで儲けモンやで!」

少女は大木の顔から目を離さない。
移り変わる表情を見ることが面白いようだ。
ぼーっとした表情から、気が抜けるような優しい笑顔へ。
悪戯っぽい表情から、何か考えるような表情へ。
眺めていて飽きず、他にどんなカオをするのだろうと気になる物である。
242 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/30(水) 23:31:13.63 ID:WvsJOiuz0
>>241
「……?」

ますます頬を紅くする少女に、そんなに照れることかなあ、と疑問を浮かべている大木。
人に媚を売ることが多い大木だからこそ、さらりと本音が言える。
しかし照れていることは分かっても、余計に顔を紅くする理由は分からない様子だった。
しかし逆の立場なら、大木はこの人天然じゃないのかと思うだろう。つまり、大木は間違いなく天然だった。

大木が尊敬している少女も、実の所は頼れる部分が本音ではない。その内側は別だ。
世の中には完璧な人間など居ないことに、大木は気づいていなかった。
しかも大木が目指している姿は、今の自分と正反対のものである。
だからこそ憧れるのかもしれないが……。

「いや、間違いなくこはるさんのお陰だよ。こはるさんが悩みを聞いてくれなかったら……」

物憂げな表情をする大木。そこから先の言葉は、出なかった。
狂気に飲み込まれていたかもしれない、などとは。

「俺の良い所って、臆病なぐらいだからな……こはるさんから見て俺の良い所って、他にあるか?」

特技はない、しかし臆病さを、あえて良い所として上げる大木。
出会ったばかりの人間に、何を言ってるんだろと苦笑いを浮かべる大木。
そんなもの出てくるはずがないのに期待してしまうのは、こはるから放たれる包容力のせいかつい、期待してしまう。
甘えてしまったと反省する。やはり変わりたい、と。羨ましい、と。
憧れる少女やこはるのように頼れる存在になりたい、と。大木はそう思ってしまうのだ。

「いや、能力なんて要らないよ。確かにそのお陰で命は助かったかもしれないけどさ」

疲れたように、言葉を漏らす大木。能力発動の度に妄想が現実を侵食する感覚。
リアルすぎる妄想、迫る死。能力を発動する度に、攻撃を回避できているのに痛みすら感じる。
完璧な未来予測をしても、回避にしか使えない。
大木は妄想で跳躍する度に、死に近づいている気がしてならなかった。

「こんな能力、捨てられる物なら捨てたいよ」

顔を歪め、吐き捨てるように話す大木。

―――ここまで話してしまった。

遅れて大木は後悔する。初対面の人間に、話すことではない。
それだけこはるという少女に、大木は短時間で心を許していた。
これも尊敬する人物と姿が重なったせいかもしれない。
媚を売らず嘘偽りのない、素顔の人間の姿がここにはあった。
243 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/30(水) 23:36:29.23 ID:He1NMKS+o
>>240
「可愛いだろ?だが喪ってみて初めてその重みが分かるってものでな――ッ!」

硬直、動くことはできない
詰み、ともいえる――動けば左の刀に引き裂かれるのだから
だが、まだ一手だけ残っている―――この短剣で、奴の体を蹂躙するという選択肢だけが
右手をスライドさせる。そのはらわたを蹂躙するために
脇腹にナイフが突き立てられる
痛い、たまらなく痛い――奥歯が砕けそうだ
だが、まだ踏みとどまれる――まだ、殺せる
気を抜けば、すぐにでも意識を手放しそうになる劇痛――ああ、流石に耐えられない
堪らず意識を手放してしまった―――短剣が手を離れ、地面に叩きつけられて意識が戻る
さて――短剣は、内臓を抉れたのか?
あの劇痛の中、無我夢中で動かそうとしたから手ごたえなんか――分からなかった
244 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/30(水) 23:58:39.54 ID:8fY8TLwfo
>>243
「……はァ…ッ……!」

切れ切れの大きな息を一つ吐き出した、痛みによる悲鳴の代わりになる、精神を落ち着かせる為の所作だ。
伽耶の脇腹に突き刺したナイフを、抉るように捻り、肉を掻き分けていく、実際に肉が切れているのではないがそれ同等以上の痛みを与えている。
眼は見開かれ、牙を剥いた口を開く、獣がお互いに首元を噛み付き合っているかのようにも感じられる痛めつけあいは、伽耶が地面に倒れて終焉を迎えた。

伽耶が気を取り戻すと、目の前に伽耶の短刀が落ちて来たのにまず気がつくだろう、べっとりと血と肉に濡れている。
次いで、ぼたぼたと垂れる粘り気のある血液、かなり深く抉られた脇腹を、黒繩は片手で抑えている。

「……何が復讐だ……バカバカしい……」
「寝言は寝て言えってンだよ……」

その傷は余りにも深く、無理を強いていた体から気が抜け、黒繩は膝から崩れ落ちる。
しかしそれでも、目付きは緩む事はなく、伽耶をバカにするように、怒るように、睨み付けていた。
245 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/31(木) 00:07:28.49 ID:CGtJKtSMo
>>244
――殺せはしなかったが、相討ちといったところか
目の前に短剣が落ちた音で完全に覚醒した意識で伽耶は自分がつけた傷を見ていた
真っ赤な血が、落ちている
自分からは落ちてはいないもの――しかし、代わりに痛みだけがあった
なんて、平和な能力
そんなことを、場違いだが思っていた

「そういえば――言い忘れていたことがある」
「私の復讐の先には――大きな変革がある」

敵ではある、がこいつは確かに認めた相手だ
語っても、許されるだろう

「変えるんだよ、お前や私の両親を殺した闇がない――本当の意味での学園都市にな」
246 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/31(木) 00:29:12.19 ID:gzURy6/8o
>>245
「……ケッ」

学園都市を変える、闇の無い真っさらな物にする、そんなのはそれこそ夢物語で、復讐なんかよりもよっぽどバカらしい。
笑える話じゃあないか、英雄を夢見るのは勝手だが、目の前で語られると冗談のようにしか思えない。

「ヒヒヒハハハハ!!やっぱり馬鹿野郎だなテメェは!必殺仕事人にでもなったつもりか?」

ボロボロの体を無理矢理動かし、立ち上がろうとするも足に力が入らない、半ばまで立ち上がったものの、再び壁に手をつく様にして崩れ落ち、背中を預けるようにして座り込む。

「知らねェってのはいい事だよなァ…!テメェは何も知らねェ……この学園都市の闇の深さを知らねェからシラフでそんな事が言えんだよ…!」
「さっさと諦めろよ…そうした方が楽だぜ……殺して殺して殺し続けて、それでも終わらない殺しに心が折れちまうよりはなァ!!」
「ヒヒッ……ヒヒヒヒ!!あァ断言してやる、テメェには無理だ、ここで意地はって進んでも、死ぬ程後悔して死ぬのがオチだよ!!」

247 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/31(木) 00:35:52.50 ID:CGtJKtSMo
>>246
「だと思うだろ?だがな!」

ニヤリと笑って見せる
こうしている間にも劇痛は体を苛んでいる――痛い、痛い
だが、上半身を起こして見せる
痛い――だが、それだけならば――――

「それを成してこその復讐だ!
 この牢獄の闇の深さ?知ったことではないな!
 おまえみたいにただただシステムの一部に成り下がった奴らに一泡吹かせて、それでやっと私の復讐なんだ!!
 だから私はやるぞ――やってみせてやるッ!!」
248 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/31(木) 00:45:46.08 ID:gzURy6/8o
>>247
「……───」

バカだ、この女はとんでもなく、どこまでいっても、理解のし難いバカだ。
こんな奴はきっと、その内放っておいても死ぬだろう、この女が相手にしようとしているのは、自分個人とは全く桁外れなのだから。

「じゃあ、ヤれよ」
「今目の前に、復讐相手が虫の息で転がってるぜ、心臓にその刀を突き刺しゃ終わる、それだけだ」
「だがなァ……その足りない脳味噌でよく反芻して覚えとけ…!俺一人ブッ殺した所で何も変わらねェし、上にゃ何の痛みもねェ…!」
「ヒヒッ…!自分で言いたかねェが…俺なんざこの学園都市の闇の中じゃあ浅い所もいいところだからなァ!ヒャハハハハハ!!」

ならば、征くがいい、自分を踏み越え、この学園都市の闇の中を進んで行け、そしてそこで絶望しろ。
目の前の人間一人殺せない人間にこの先は進めるとは思えない、トドメをさせと進めるのは、せめてもの後押しだ。
249 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/31(木) 00:55:24.41 ID:CGtJKtSMo
>>248
「ならば遠慮なく――憎悪のままに―――」

武器はそこにある
自分は動けない、奴を直接刺す力はない
しかし、拾い上げる
そして――構える

「だが、強者への敬意をもって―――」

嗚呼、しかし強かった
どこまでも平和な力、だが強かった
敬意は、たしかにあった
だからこそ――――

「お前を、[ピーーー]」

その短剣を、投げつけた
剣先は、狙い違わずその胸元へと飛翔する
何事もなければ、刺さる
だが――もう一言だけ、告げた

「私は、五十森伽耶だ
 ――お前を殺し、大いなる復讐を成す者だ」
250 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [saga sage]:2016/03/31(木) 00:56:06.28 ID:CGtJKtSMo
>>248
「ならば遠慮なく――憎悪のままに―――」

武器はそこにある
自分は動けない、奴を直接刺す力はない
しかし、拾い上げる
そして――構える

「だが、強者への敬意をもって―――」

嗚呼、しかし強かった
どこまでも平和な力、だが強かった
敬意は、たしかにあった
だからこそ――――

「お前を、[ピーーー]」

その短剣を、投げつけた
剣先は、狙い違わずその胸元へと飛翔する
何事もなければ、刺さる
だが――もう一言だけ、告げた

「私は、五十森伽耶だ
 ――お前を殺し、大いなる復讐を成す者だ」


//saga忘れ……
251 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage saga]:2016/03/31(木) 00:56:59.39 ID:CGtJKtSMo
>>248
「ならば遠慮なく――憎悪のままに―――」

武器はそこにある
自分は動けない、奴を直接刺す力はない
しかし、拾い上げる
そして――構える

「だが、強者への敬意をもって―――」

嗚呼、しかし強かった
どこまでも平和な力、だが強かった
敬意は、たしかにあった
だからこそ――――

「お前を、殺す」

その短剣を、投げつけた
剣先は、狙い違わずその胸元へと飛翔する
何事もなければ、刺さる
だが――もう一言だけ、告げた

「私は、五十森伽耶だ
 ――お前を殺し、大いなる復讐を成す者だ」

//何度も何度もすみません…これでいいはずです……
252 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/03/31(木) 01:09:51.53 ID:gzURy6/8o
>>251
「…………」

言葉は無かった、顔を俯かせ、それを静かに待つように黙り込む。
表情は見せない、この学園都市そのものに復讐を誓う大バカ者が、自分を越えて修羅を行こうとしているのだ。
こっちは殺す気だったのに、未だに敬意だなんだと甘ったるい事を言っている、そんなもの───

「───笑っちまうぜ!甘ちゃんがよォ!!」

わざわざ言った、心臓を狙えと、殺すだけなら実際の所首でも頭でも腹でも突けば終わるのだ、それをわかりやすくやりやすく、心臓を狙えと言ってやった。
案の定狙ってくれたから、だからこそ反応が何よりも早く行える、最初から狙いが分かっているのならこれ程やりやすい物はないだろう。

黒繩は満面の笑みを浮かべ、転がるように横に体を回避させ、短刀を躱すと、へたり込む事で回復させた体力をフルに使い立ち上がって、伽耶に向かって行く。

「……黒繩揚羽、教えといてやるぜ、テメェがこの名前に恐怖するようになァ」

伽耶とのすれ違い様、耳元で囁くように言い残しながら、右手に作り出した漆黒のナイフを伽耶の腹に突き刺そうとする。
その攻撃が成功するにしろしないにしろ、黒繩はそのまま伽耶の脇をすり抜け走り去って行くだろう。
こんな所で潔く終わる程、この男は往生際が良くはない、泥を啜り踏み付けられても、最後に首をかき切れば勝ちとなるのだから。
闇の末端に生きる者は、最後まで油断を許さない。
今は逃げようと、この怨みを溜め込んで、いつしか最大の毒として突き返す、それまで精々足掻いていろ───

/お疲れ様でしたー!
253 :五十森伽耶  ◆Rt19cNL5hg [sage]:2016/03/31(木) 01:17:24.59 ID:CGtJKtSMo
>>252
殺し損ねたか
たったそれだけの感想だ
最後の一撃は、横にずれて何とか避けた
――もっとも、若干かすったようで少し痛むが

短剣を拾い上げ、血を払って立ち上がる
嗚呼、痛い
だが立ち上がれたから立ち上がる
そして――歩き出す
あのような雑兵、生きていてもいなくても構わない
再び壁となるなら―――そのときに殺せばいい

五十森伽耶は、修羅となるつもりはない
人として、人のまま復讐を成し遂げてこその勝利だ
この牢獄と同じ、人ならざる者になど―――――絶対に、なりはしない

復讐は―――始まったばかりだ

//お疲れ様でした!
254 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/31(木) 20:07:28.80 ID:nunS/Hi50
>>242
「たら……?」

大木の仮定文の続きが気になる。
しかし、表情の変化に気付き、ハッとする。

「や、ごめん、何でもないわ。気にせんといてー」

聞くべき内容ではない。頭の中で警鐘が微かに音を立てた。


「素直さ」

大木の問いかけに、即座にハッキリと答える。

「出会って数分のうちが言えることやないかもしれんけど……」

そう、まだ話し始めてあまり時間は経っていない。
でも、だからこそ言えることがある。

「ちょっとの間に良い所が見つけれたんやったら、
いっぱい一緒におるうちに見つけれる良い所は何倍にも、何十倍にも増えると思わん?」

少女は、目の前の少年を励ますようにニッコリ笑う。


「……!」

少年の唇から漏れ出た本音。
なんて声をかけてあげたらいいのだろう。
その迷いは、表情に現れるほどだった。
今まで見ていた能力者たちは、各々の力を自慢に思っていた。
だが、この少年は違う。
唯一の、イレギュラーな存在。

少女は俯く。

━━分からない。
答えのない答えが、脳内を埋め尽くす。

「……ごめん、何て返したらいいか、分からん、わ」

ふいに、少女の瞳から一筋の雫がこぼれ落ちる。

違う、この少年はこんな答えを求めているわけではない。
自分の非力さ故に、助けを求めている人を見捨てる事が悔しい。
だめだ、ちゃんとその人が望んでいる人間にならないと。

様々な考えが頭に浮かび、解けない糸のように絡まる。
少女は完全に、混乱状態に陥っていた。
255 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/31(木) 20:18:33.74 ID:CZy0f0ep0
ぽつ、ぽつと窓に雫が落ちてくる
昼前から空を覆い出した黒い雲に悲しいことでもあったのでしょうか
天気予報は外れて雨模様になって来ました

「...あらあら。大雨かしら」

雨粒は大きくてだんだん増えてきます
お洗濯物は干していないので助かりましたが、こういうお天気は困りますね
お天気が悪いと人の心も沈みがち
私の心も少し寂しくなってしまいます

────雨模様の学園都市。
その年の一角にその教会はあった
曇りなき白い壁で無駄な装飾もない小さな教会
科学と化学が闊歩するこの学園都市では少々異質な
そういう学問が専門の学校もなくはないが、それでもどこか馴染めないような教会が佇んでいる

1人のシスターが切り盛りしていると、近所では話題になるが
この学園都市では宗教の類とは縁のない人が多く、毎週通う信者さんはいないという
それでも教会の外には手作りの看板が壁に掛けられている
可愛らしく装飾されて「open」と書かれた。さながら喫茶店のような看板


そんな中に、この大雨
天気予報も外れて傘を持っている人も少ないだろう
立ち入り禁止の私有地も多く、この辺りでは雨宿りも難しい
ただ、寂しいながらも来客を待つ教会だけが雨除けになりそうな場所であった
256 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/31(木) 20:49:10.36 ID:98D9kCbx0
>>254
「うん、悪いけど気にしないでくれたら助かる……かな」

心底申し訳ない、という表情が浮かぶ大木。この少年は素の時にはやはり素直であった。
殺人という学園都市の闇というものを知って、持て余しているのもある。
目の前の少女は何も知らずにこのまま優しい少女で居て欲しい、そう大木の方も考えていた。

「それは間違いないかな。俺は、自分が臆病なのも悪いこととは思ってないからね」

隠し事ができない、とも言うけどねと苦笑いを浮かべつつも、大木は嬉しそうだった。
臆病、というのは何も卑下して言った訳ではない。
大木は自身の臆病さを誇りにしていた。好奇心のせいで打ち消されてしまってはいるものの
大事な防衛本能である。強者に媚を売ったとしても構わない。全ては能力を使いたくないからだ。

「やっぱり、こはるさんは優しいな。有り難う」

にっこり笑い返す大木。本当に包容力のがある少女だと、大木は思う。
今まで気を張り詰めていたのもあって、とにかく楽しい。

「こはるさんと話してると元気が出てくるし、心が温かくなる気がする。俺は今楽しいよ。こんなの久しぶりだ」

憧れの存在と重ねているだけかもしれないが。
大木はとてもリラックスしていた。いつもこんな精神状態で居られたら、どれだけ楽だろうなあと思う。

「え……」

だから、眼前の頼りになると思った少女が泣き出したのは衝撃で。
慌てて大木はハンカチを取り出して手渡した。

「大丈夫、大丈夫!能力を研究している学園都市なら俺の能力も制御できるようになるかもしれないし!」

この眼前の少女は安っぽい気休めなど言わず、唯大木のために悲しんでくれた。
それは、ある意味で大木にとって一番嬉しかったことで、欲していたことなのかもしれない。
こにかく自分の能力の為に泣いてくれる優しい少女を、このままにしておく訳にはいけないと強く思った。

「ほら、笑おう!にこっ」

両手で口元の左右に手を当てて、上にあげる動作をする。
混乱しているのもお互い様のようだった。
257 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/31(木) 21:33:37.33 ID:F23fqkzaO
>>256
手渡されたハンカチをギュッと握りしめ、明るく振る舞う大木の言葉に耳を傾ける。

「……ぷっ」
「あははははは!りっくん、最初の時と全然キャラ違うやん!」

頼り、励まされる立場だった大木が、今度は励ます立場になっている。
ぼーっとしていた大木が、慌ててハンカチを差し出し、笑わせようとしている。
人間の変わり具合が面白くて、つい、吹き出してしまったのだ。

「やー、ごめんな!ちょっと疲れて情緒不安定みたいやったわ」

笑いを収めると共に涙を拭い、笑顔を見せる。

「やけど、もう大丈夫!りっくんの笑顔見たら元気でたわー」
258 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/31(木) 21:44:33.85 ID:98D9kCbx0
>>257
「だって見てられないからな……こはるさんが俺の能力の為に泣いてくれたことが嬉しかったんだよ」

よかった、元気になったみたいだと安心する大木。
そうか、こはるさんが俺を助けようとしたのも、こんな理由なのかもしれないと大木は思った。
完璧な人間など居ない。便りになると思った眼前の少女にも、悩みはある。

「情緒不安定なのは、お互い様だな。本当に大丈夫?」

確かに立場が逆転している。大木はおかしくてくすりと笑った。

「悩みがあるなら、俺が道標になってやろうやないか……何て、ね」

軽くモノマネする余裕すらあった。
慌てている時に、自分より慌てている人を見ると安心するという。
大木は、今そんな気分だった。

259 :伊那坂こはる ◆cLAc5rAVRA [sage]:2016/03/31(木) 22:08:52.08 ID:nunS/Hi50
>>258
「大丈夫、大丈夫!もう気にせん、はいおしまい!」

そう言い切ると、空気を変えるように手をパンと叩く。

「うわー、それ、どっかで聞いたことあるセリフやなー……って、うちのやないかーい!」


やっぱり、頼り頼られる一方的な関係より、対等な立場の方が心地良い。
心底楽しそうな笑顔の裏で、少女はそんな事を思い始めていた。

(━━たまには、弱味を見せるのも、良いのかもね)


明るい空気の中で、一匹の虫が大きな声で鳴いた。
その音の出処は、少女のお腹の中からだった。

「そういえば、お腹減ったなー……って、もうこんな時間!?」
「ごめん、そろそろ帰るわ!」

恥ずかしさで少し頬を赤らめつつ、一旦の別れを告げる。

「ハンカチは汚してしまったけん、洗って返すわ!」
「じゃ、気ぃつけてな!もう迷子になったらいかんでー!」

食材が入ったレジ袋を片手に持ち、もう片方の手で大木に向かって大きく手を振る。
家を目指し、歩くにつれて大木の姿は小さくなり、やがて見えなくなった。


透明な少年は、赤い少女の心に大きな軌跡を残した。
その跡に色は無いにしろ、ハッキリと感じ取れる、そんな軌跡。

ハンカチを返す口実で、大木のクラスに押しかけるのもいいだろう。
だって、私と大木は、同じ学園の、先輩と後輩なのだから。


夜空を見上ると、真っ暗なキャンバスの中に、一つだけ明るく光る星があった。


//ここらで〆、ですね!
//お疲れ様でしたー!
260 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/03/31(木) 22:30:40.13 ID:OXFz9I0n0
>>255

「くぅっ…!こんな雨聞いておらんぞ…!!」

そんな文句を言いながら一人の少女が雨の中を走っていた。傘は持っておらず、どうやら雨から避難できる場所を探しているらしい。
こんなことならば、無駄なプライドなんて捨てておけば良かったと心底思う。だがそんなものは後の祭り。今はこの降りしきる雨からどう免れるかだ。

しばらく走っていると、何やら教会が目に入る。だが教会といえば魔術師が居てもおかしくない。見られれば自分の正体を勘ぐられてしまうかもしれないが――――
よく思えばそんなもの今更だ。というわけで少女は急いで教会の扉を開けるのだった。

「ふぅ…お主がここのシスターか?雨が止むまで雨宿りをさせてほしいのじゃが……」

びしょ濡れのままの少女はシスターらしき人物に尋ねる。
中には誰も人は居ない。やはりこの学園都市では神秘が薄い、それ故に信仰も少なくなっているのだろう。
信者が居ない教会、ここでの邂逅は二人にどのようなナニカを齎すのだろうか。
261 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/03/31(木) 22:33:50.65 ID:98D9kCbx0
>>259
「あれ、こはるさんのだったかな?」

笑いながらも茶目っ気を出したのは、失敗だったかなと大木は反省する。
けっこう本気で心配していたのだが、真面目に聞いて泣かれるのも怖いという理由もあった。
しかし、純粋に似合っていない。どうやら、大木は眼前の少女のようにはなれないらしい。

お腹を鳴らす少女を見て、やっぱり可愛らしい所もあるなあと思う大木だった。

「うん、またね。ハンカチは急がないからいつでもいいよ」

つい話し込んでしまったと大木は、反省する。時が経つのを忘れるとはこのことだろうか。
それほどまでに、大木にとっては楽しくて大切な時間だった。

「二度と迷子にならないようにするよ!ありがとう!」

大木も笑顔で大きく手を振り返した。赤い少女が見えなくなるまで。
もう、狂わないように。狂気に飲み込まれないように。
二重の意味で迷子にならないように、気を付けなければ。大木はそう思う。


変わらなくても自分にできることがあったという自信が、大木にはついていた。
まあこはるという少女を泣かせたのは……自分なのだが。
小さくても困っている人間を助けることができたと。そう思えた。

こはるさんとは今度は普通の話がしたいな。普通の友達みたいな、と思いつつも――――――


――――大木は帰る途中で、今度は物理的に迷子になってしまうのだった。


/2日間有り難う御座いました、お疲れ様でした!
262 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/03/31(木) 22:53:11.91 ID:IB/B1pJU0
>>255>>260
ギィィ…―――

少女とシスターの邂逅から間もなく、教会に響く聴き慣れた音に続きコツ、という音が鳴る。
それは革靴と床が擦り合う音、というのが的確だろうか。
二度、三度とその音が鳴ったかと思えば、淡い照明に照らし出されたのは清楚な雰囲気を纏う青年。
少なくとも教会へ足を踏み入れる”信徒”の出で立ちではないことが伺えるだろう。

「――やはり、天気予報は当てになりませんね……
 っと、失礼しました……私、第一学園在校の小柳=アレクサンドル・龍太と申します」

控えめな声量で紡がれる気取ったような言葉。
僅か申し訳なさそうに肩を竦めては、直様一礼を向けた。

水を吸い重量を変えた制服を見るに、どうやら彼も少女と同様通り雨という災難に襲われた迷える子羊のようだ。
神や悪魔、宗教――学園都市においてはあまりにも馴染みの浅い存在。
そんな中で同時にバラバラな三人が集ったのは、果たして偶然だろうか。
263 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/03/31(木) 22:57:45.50 ID:CZy0f0ep0
>>262>>260
「...あらあら。お客様なんて初めてかしら?」

教会の扉の先は礼拝堂だった
奥に大きな十字架にステンドグラス
それらに向かい合う様に並べられた椅子と隅にオルガンと暖炉があって
少女はオルガン近くの椅子から立ち上がって初めてのお客様に駆け寄っていく

「それもお二人なんて...! お二人ともびしょ濡れですね
ちょっと待ってて下さいな? すぐにタオルをご用意いたしますね!」

絢爛でありながら月の様に落ち着いた金髪のセミロング
日の下で輝く浅い海を思わせる碧い瞳
そして首元には純銀のロザリオを掛けている
服の上からでも分かる胸はふくよかで腰は引き締まっている起伏に富んだ身体
それを黒と白で統一されたシスター服で覆った修道女だ
浮世離れしたどこかふわふわした少女────という印象

少女は雨で濡れた二人の様子を見てすぐにUターンし、駆け足でタオルを取りに行くだろう
シスター服...ロングスカートでは走るのに向いてないうえに本人も走るのは苦手なのか
あまりスピードのでない駆け足だった

「はい。遠慮なさらずどうぞお使い下さい」

数分後持ってきたバスタオル数枚を抱え、その内の一枚を二人に手渡しながら微笑む

彼女が取りに行く間は特に物音ひとつしなかった
他には誰も住んでいないのだろう
噂通り、この教会は彼女一人で切り盛りしてるらしい
信者もいない地で熱心に布教活動でもしているのだろうか、熱心な事だ
264 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/03/31(木) 23:14:03.03 ID:OXFz9I0n0
>>262>>263

「ふむ、儂と同じことを考えた者が他にも居たか」

後から来た青年も自分同様ずぶ濡れで、どうやら雨に打たれたらしい。
男が名乗った名前、それから察するに恐らくハーフなのだろう。礼儀正しいその様子を一瞥し、少女はシスター服の少女の方を見る。
見た目はかなり印象に残る。その起伏に富んだ身体に整った顔立ちは恐らく美人という括りに入るだろう。成長が無い自分にとっては少し羨ましくも思ったりしてしまう。

「あ、お、おい。別に儂はそこまでしてもわらなくてもだな……」

言い終わる前にシスターはなんだか慌ただしい様子で何かを取りに行ってしまう。この教会の様子を見るに人はほとんど訪れず、また教会に居るのも彼女一人か。
ならば恐らく自分たちは久々の来客なのだろう。それにしてもあの歳で教会を受け持っているとは一体彼女はどんな人物なのだろうか。
このシスターの噂を知らない少女には、そう想像を巡らすことしかできなかった。

「……まぁ、折角の親切を無下には出来ぬか」

そう言ってバスタオルを受け取ると、髪や肌を拭いていく。服は濡れたままだが髪などを拭けるだけありがたい。
そして一通り拭き終わると、ふと名を名乗るべきかと思案する。隣の青年は名乗ったのに自分が名乗らないのは失礼だ。しかし雨宿りしに来て名を名乗るのもおかしいだろうか――――

「…儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼじゃ、この度は感謝する」

考えた末、少女は名を名乗るという結論に至った。別に名乗って不利になるわけでもない。しかも名乗らなければここまでしてくれたこのシスターに失礼だ。

名乗った後に、少し少女は教会を見回す。人の気配が無い、言って見れば神秘に満ちた空間なのだろうか。

「お主は一人でここにおるのか?ここを一人で受け持つのは中々大変だと思うのじゃが……」

分からなければ聞けばいい。少女はその疑問をシスターへとぶつけることにしたのだった。
265 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/03/31(木) 23:35:53.79 ID:IB/B1pJU0
>>263
「あぁ、これはどうもご親切に……」

此方の言い分を聞く様子もなく、慌ただしくもタオルを取りに駆ける少女に再度ぺこりと一礼を贈る。
しかしそれはどうやら届いていないようで、顔を上げた時には既にシスターの姿は消えていた。
元気な方だ、そんな感想を抱く最中、不意に学園でも噂になっていた教会の事を思い返す。

――たった一人のシスターが切り盛りしている教会。
恐らく学園の生徒ならば大半が耳にしているであろうその噂。
ここがあの教会なのか、そんな疑問を遮るように手渡されるバスタオルを受け取ってはそっと微笑みかけた。

「ありがとうございます。
 …見たところ他に人がいらっしゃらないようですが――」

ここは貴女が一人で経営しているのですか?
その質問は隣の少女が代弁した。

>>264
「……ソレスさん、いいお名前ですね。
 どうやら貴方も日本人…と言うわけではない様子」

逡巡の末に紡がれたその名前を反芻するように、ソレスと名乗る少女へそう返す。
日本人ではない、それは見た目通りだが国籍が不明だったために紡いだ質問。

――ソレスさんは何処の国のお方ですか?

そんな暗に隠された問いかけに、青年は嫌に瞳を輝かせ返答を待った。
266 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 :2016/04/01(金) 05:22:01.91 ID:SpDOQ6iL0
>>264
>>265

「えぇ、これも修行の一環みたいなものですから」

見れば掃除も行き届き、埃という埃の全てが掃除し尽くされている様子
今日は生憎の雨なのであまり見れていないが、教会前の庭も手入れが行き届いている
一人で誰もこない教会で生活するというのは難しい
怠惰に過ごしても注意する人間がいない中でこれだ
彼女の信心深さが伺える

「私はエリーゼ・アレストリア。 生まれはアイルランド
日本には...元々も興味があったので、日本語勉強して来ました」

えっへん、立派な胸を張って答えるシスター・エリーゼ
流暢な日本語も勉強の成果なのだろう
────ただ、「日本には...」と答えた後に少々間が空いていたことに気付くだろうか
少し何を答えるか迷う様な────。

「そうです。 ソレスちゃんはどこの出身なんです?」

ちゃん付けで呼んでソレスの方を向いた
その目は何故か輝いている──────分かる人には分かるだろう
きっと彼女は年下(に見える)女の子が好きなのだと
こう...ぎゅーってしたくなる様な欲求にかられるみたいだ
その殺気じみた彼女の視線に気付くだろうか...?
267 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/01(金) 10:00:36.56 ID:ymwU2xdV0
>>265>>266

青年の問い、これに少女はどう答えようものかと悩んだ。そういえば自らの国籍なんて考えたこともなかった。気づいたときには両親も居らず、ずっとただ一人暮らしてきたそんな自分。自分は一体どこで生まれたのか。
しかしかといって分かりませんなどと答えようものなら疑われること間違いなしだ。そうなれば少しこれからの生活に支障を来すかもしれない。だからここは嘘でも何か言わなければ――――

「あ、あれじゃ、西洋の生まれじゃよ」

咄嗟に出てきた言葉がそれだった。西洋といってもあまりに範囲が広すぎる。相手は国を聞いたのに地域を言うなどとんだ見当違いだ。

そして少女は、ある大事なことを思い出してしまう。自分の身体は端から見れば子供そのもの、それがこんな喋り方で居ては更に疑われる。前までは魔術師としか接点がなかったためそういうところが抜けてしまっていた。
今から軌道修正する方法を考えなければ。さっきまで普通に話していた自分を殴ってやりたい。

「あ、え、えと……どうじゃこの喋り方は!かっこいいじゃろう!!」

………ダメな気しかしないが、とりあえずこれで乗り切ろう。狙いは「カッコつけたいヤンチャな子供」だ。とにかく今は無理にでもこれを通すしかない。

3人が名前を名乗り、お互いがそれぞれを認知できるようになった。不思議なことに、今この場には純粋な日本人は居ない。
これも何かの因果なのだろうか、だとすればこの出会いにも何か意味があるのかもしれない。

このエリーゼと名乗った少女、彼女の日本に興味があったという言葉。それはどうにもおかしく感じられる。
いくら日本に興味があってもこのような教会一つを彼女の歳で持つことは難しい。それに教会といえば魔術師が必ずと言っていいほど絡んでくる。
つまり、少女の憶測だがこのシスターは――――

しかし先ほどからのシスターの少女の視線が若干怖いような気がする。もしや狙われているのかもしれない、こんなのんびりとした雰囲気を出して油断をさせる算段か。
……いや、流石にそれは無いだろう。考えすぎだ。

「それにしてもいきなり雨が降ってきたのう…お陰でこうもずぶ濡れになる始末じゃ」

誰もいなければ炎で乾かすのだが、状況が状況だ。こんな人前で魔術や竜化をするわけにはいかない。
濡れた服の気持ち悪さに堪えながら窓から外を見る。雨が止む気配は無さそうだ。暫くここに厄介になると思うと、少し気の遠くなる少女だった。
268 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/04/01(金) 13:13:18.30 ID:ChXS2tks0
>>266>>267
「……ほう…西洋の、……なるほど」

ソレスからの返答、それは別の意味で予想だにしないものだった。
西洋という括りは決して小さいとは言えず、一つの国を特定することは難しい。
その後の彼女の振る舞いを見ても、どうも怪しいというべきかおかしいというべきか。
とは言え年頃の女性には色々とある、隠し事の一つや二つはしたいものなのだろう。
妙な納得を覚えてしまえばうんうんと頷いて、二人の顔を見回した。

「……エリーゼさん、そしてソレスさん……
 ふむ、この場には純日本人はいない様子…かくいう私も、日本とフランスのハーフでして」

この日本という場所にまるで引き寄せられたかのように集う自分たち。
普段経験することのないそんな状況に惹かれてか、何処からかメモ帳とペンを取り出した。
そしてソレスとエリーゼの会話を真剣な表情で聞き入っては、当然の如くその内容をメモに写す。
日頃の探偵業の癖か、その行為はお世辞にも褒められたものではないだろう。

「ええ、通り雨というべきでしょうか……
 科学が万能と言われた学園都市でも、天候は予期できないという事ですね」

メモから目を離さずソレスの言葉に同調するようにしては、ふとエリーゼから漂う謎の殺気じみた雰囲気に肩を震わせる。
殺気といっても邪悪なものではない、いや、殺気に邪悪もなにもあったものではないだろうが。
とにかく狙いが自分ではないことを確認すればほっと溜息を吐き、再びメモと向き合った。
269 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/01(金) 13:48:06.93 ID:SpDOQ6iL0
>>267
>>268
「まぁ! 皆様外国の方なのね!」

そう小柳の言葉にエリーゼはニコッと笑った
この海外で自分の同じ様な地域に生まれた人と一緒になれた事が嬉しかったのだろう
周りが日本人ばかりでは金髪碧眼の少女は浮いていたのかもしれない
そういった共通点が嬉しい様で

「通り雨ならすぐに止むますね。 ...皆様寒いでしょう? 今暖炉に火を付けますね」

そういってエリーゼはまたパタパタと駆け足でない駆け足で礼拝堂の隅にある煉瓦作りの暖炉へ駆け寄る
中は使われていないのか煤も綺麗に掃除されている様子
そんな綺麗な暖炉に木々と小枝組んで、近くにある蝋燭を火種に新聞紙を燃やす

パチパチと音を立てて少しずつ火は強くなって灯される
元々明かりも少なく、天気も悪いので陽の光も弱い
少々暗い雰囲気の礼拝堂に少し火の色が広がる

「皆様こちらへどうぞー! 暖かいですよー!」

そういって手を振って二人を呼ぶだろう
初めての来客に少々テンションが上がってるのだろう
近付けば、彼女の言う通り暖かく
服の乾きも早まるかもしれない
270 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/01(金) 15:33:11.84 ID:ymwU2xdV0
>>268>>269

なんとかやり過ごせた…?一番信じられないのは自分だが、相手は特に追求はしてこない。今は上手くいったと考えるべきだろう。

「そのようじゃな、不思議なこともあるものじゃ」

これも何かの導きなのだろうか。純粋な日本人は居らず、いわばここに居るのはみなイレギュラー。それがこうも集まるというのは。

しかしこの青年、先ほどからここでの会話をメモに取っているようだ。普段ならば注意をするところだが、今は場合が場合、少なくとも今の自分は子供なのだからそういう目敏いことをするわけにはいかない。今はただ警戒しておくだけでいいだろう。

シスターの少女は相変わらずのんびりとしていて、特に警戒することもないだろう。青年の言葉を聞き嬉しそうに笑うと、暖炉をつけると言って暖炉へと駆けていく。手際よく木々を組み火をつけるとたちまち教会内が明かりに包まれる。
シスターの少女は元気よくこちらに手を振って呼んでいる。来客がよほど嬉しかったのだろうか。少女もここまでして貰えるとは思っておらず、少し驚いているような呆れているような顔をみせる。

「くしゅんっ!…では、お言葉に甘えるかのう」

そう言って少女も暖炉へと向かい歩いていく。確かに少女の言う通り暖かく、濡れたままの服を着るより、ここで少しでも乾かしておく方が無難だろう。

「ここまでしてくれるとはなんだか悪いのう……
そうじゃ、何か儂に頼みたいことがあれば言うがいい、できる範囲のことならばなんでも引き受けようぞ」

やられてばかりというのも悪い。ならばこちらも何か彼女にしてやろうという考えだろう。しかし見た目子供な少女にそんなことを言われてもというものなのだがそこまでは頭が回らなかったらしい。
271 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/04/01(金) 16:00:58.32 ID:ChXS2tks0
>>269>>270
「おや……貴方のような可憐なお嬢様に饗されるだけでも十分だというのに、
 暖炉まで……これは無碍にするわけには行きませんね…」

最早癖になってしまった冗長な口調でありながらも、炎の灯る暖炉とそれに続くソレスを見やれば自身も温もりを求め側に寄る。
外の気温と比べれば大分暖かなそれは冷え切った体を暖めて、ふっと笑顔を零した。

「ここまで親切にして下さるとなると、学園の噂にはこう付け足した方がいいですね。
 ”街の一角に佇む教会、其処には春の暖かさと華の如き美しさを兼ね備えたシスターが居る”……と」

言葉だけを聞けば冗談とも取れるかもしれないが、生憎この青年は本当にその噂を流すつもりでいるらしい。
彼のペンは先程からメモの上を滑り止まることを知らず、その内容は全てこの教会に関わることだった。
その噂ならばきっと、ここの教会に訪れる人も増えますよ――最後にそう付け加えて。

(…………)

続いて自身と同じく暖をとっているソレスの方を向けば、感心するように頷いた。
自分が世話になったのならば世話で返す、そういった心構えを垣間見れる瞬間。
子供の割にはしっかりしているな――今はまだその程度の関心でしかないが、行動次第によってはより関心を深めてくるだろう。
272 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/01(金) 16:58:05.89 ID:SpDOQ6iL0
>>270
>>271

暖かな光が、指先から失われつつあった温度を取り戻す
じんわりと濡れた服も、少しずつ熱を持って乾いていく
暖炉の中で燃えていく薪を眺めながら、3人は身体を温めるだろう

「そ、そんな...小柳さん。恥ずかしいですよ...当然の事をしただけで...」

なんて、本人は予想外に褒められて
恥ずかしくなったのか熱くなった両頬に手を当てて、少しだけ笑顔だが困った顔をした
他人にこうやって褒められる事が嬉しくいのだが
学園内にそうやって広まる事が恥ずかしいみたいだ
そんな仕草が既に噂通りというか、可愛らしいものなのだろうが

「あら、ソレスちゃんお手伝いしてくれるの?
良い子ね〜? でも、今日のお掃除も殆ど終わってるし...」

エリーゼの言う通り、掃除をする場所も殆どない
強いて言えば外の庭だろうが、わざわざそんな場所に客人を出すわけにもいかない

「あ、そうだ! 一つまだ掃除してない場所がある!
離れにある書斎────殆ど倉庫みたいな場所ですけど、そこならまだ...」

パン、と手を叩いてエリーゼ立ち上がって応えた
書斎兼倉庫部屋、エリーゼのすむこの教会は「礼拝堂」「生活スペース」に分けられる
その部屋は生活スペースにあり、彼女がこの教会で暮らす際に
世話してくれた神父様が送った品々が置いてあるらしい
あまり使い方も分からない物が多いらしく、掃除も月一ぐらいの頻度らしい
そこの掃除ならまだ────。
273 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/01(金) 18:08:01.44 ID:ymwU2xdV0
>>271>>272

隣の青年は記者か何かなのだろうか。それならばあのメモも辻褄が合う。しかし噂を流すとは一体……
その青年の言葉を聞いて恥ずかしがるシスター。それを見ていると何故だか安心するような心持ちになる。案外青年の言ったことは当たっているようだ。

「ま、まぁそんなところじゃな……」

確かに今の少女の姿は子供だ、しかしこの子供扱いに少女は多少の屈辱感を覚える。
しかしこれは仕方がないこと、耐え忍ぶしか道はない。ちゃん付けというのも普通ならば当たり前のことなのだ。
本当にこの身体は煩わしいことこの上ない。せめてもうちょっと成長した身体ならば……いや考えても仕方がない。どうせ現実は変わらないのだ、ならばもっとポジティブに考えよう。

「あい分かった、その書斎の掃除をすれば良いのじゃな?」

整理整頓は苦手だが、今までの恩を返さないわけにはいかない。それにその書斎というところにも興味がある。もしかすれば貴重な書物などもあるかもしれない。

「よし、ならばその書斎とやらに案内してほしい」

そうと決まれば話は早い。少女は暖炉の前から立ち上がり、早速掃除をするために向かおうとするのだった。
274 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/04/01(金) 19:03:57.93 ID:ChXS2tks0
>>272>>273
「ふぅむ……とはいえこのまま何も出来ないのは私も悔しいですね」

やはり噂を流されるという事に対して羞恥心を捨てられないのか、はにかむように笑うエリーゼ。
その姿を見ては残念そうに顎に手を添えて、なにか出来る事はないかと探っていた最中。
不意に隣のソレスから挙がる提案と、それに対するエリーゼの返答に瞳を輝かせながら顔を上げた。

「ほぉ……書斎!是非私もご一緒させて頂けませんか?」

書斎、即ちそれは青年にとっては宝物庫と変わりはない。
本は知識、知識は宝、あくまで恩返しの掃除がメインだが、ちゃっかり本を読み漁りたいのも事実。
素早くメモをしまい何処からか取り出した眼鏡を装着しては、ソレスに続いて立ち上がった。
暖炉の傍にいたこともあり、随分と服も熱を持ち行動には支障がない程になっているのが目に見てわかるだろう。
275 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/01(金) 19:25:09.62 ID:SpDOQ6iL0
>>273>>274

「はいっ! こちらです!」

パタパタと嬉しそうに二人を先導して歩き出すエリーゼ
礼拝堂の奥の扉、所謂生活スペースのある建物へ行く扉だろう
扉の先は静かながらも厳かで趣のあった礼拝堂とは違い
簡素ではあるが、人が生活している温かみがある廊下だった
左右と奥の方に扉
左右の扉はエリーゼの私室か何かだろう
「見ないでくださいね!」と通り際に恥ずかしそうに二人に言った

例の書斎は奥の扉だった
ポケットから取り出した重そうな銀色の鍵を鍵穴に入れて扉を開く

「こちらですね....うわ埃が凄い...」

その奥は言葉通りの書斎だった
広くはないが所狭しと置かれた本棚に詰められた本に奥には時代錯誤な蝋燭の灯りで本を読む机といった場所

「掃除道具は...っと、これですね! 箒にちりとり! 後雑巾も!」

彼女の言う通り、埃も凄いが────感じる人は感じるだろう
魔翌力...だろうか、高濃度で感じ取れる
この密閉された部屋に溜まっていたのだろうか、何処から発生している────?

それらは、全て本棚にある本達から発生している
見ればかなり古い本ばかりだ。200年近く前の品から物によってはまるで血のようなインクの文字が書かれた羊皮紙の巻物
現存していない古代文字みたいな物が刻まれた石版まで

オカルト趣味────にしては本格的すぎる
しかも意識し続ければ気分を害するレベルで溢れ出る魔翌力
どれも国宝レベルで間違いなく本物だ
そんなものが────何故?

「どっち使います? 雑巾は手が汚れるから私がしましょーか?」

当の本人の表情は変わらない
譲り受けたこの品々の意味を気付いていないのだろうか?
276 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/01(金) 20:06:19.10 ID:ymwU2xdV0
>>274>>275

どうやら隣の青年も乗り気のようだ。掃除ならば人出が多いに越したことはない。

そうして一行は書斎がある部屋へと歩いていく。途中の部屋で、見ないでくださいと言われた部屋も気になるが、プライベートに踏み込むわけにもいかない。
そしてやっと書斎の扉へと辿り着くと、シスターの少女は銀色の鍵で扉を開ける。
ギィ…という音とともに扉は開き、そこにあったのは昔懐かしい古めかしい書斎。いかにも本を読む場所と言ったそこを見た瞬間、少女の顔には驚きが浮かんだ。

「こ、れは……!?」

目を疑った。密度の魔翌力が密閉された部屋に、それこそ害を与えかねないほどに充満していた。シスターの少女が掃除道具を探しているときに、少女はそのうち一冊の本を手に取る。
どうやらこの本にはルーン魔術のことに関して書かれているらしい。隣の本に手をかければそれにはヒエログリフを使った魔術が。
どうやらここには様々な魔術系統についての本があり、初歩的なものから禁術や禁呪級のものも多々ある。なぜそれほどのものがこんなところに――――

「お主…!これほどのものを一体どこから…!!」

こんなものをここに放置しているなんて信じられない。しかも隣にいるこの青年は恐らく一般人。魔導書の中には読んだだけでその者の精神を崩壊させるほどのものもある。そんな危険なものをこんなに簡単に他人に見せるなんて――――

「いや、そもそもお主はこれがどんなものか分かっておるのか…!?」

だとすればこのシスターの少女がこれらの本などの意味などを分かっていない可能性が高い。ならばこの危険性を教えなければこの少女が危険だ。
驚きと困惑の表情で、少女はシスターへと問うのだった。
277 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage]:2016/04/01(金) 20:37:58.11 ID:ChXS2tks0
>>275>>276
ガチャリ、銀製の鍵が自らの役目を果たす音。
続けざまに開かれる扉に好奇心に瞳を輝かせては、エリーゼとソレスに続き足を踏み入れた。
――途端、青年の瞳孔は大きく開き、

「……っ…!」

書斎に密閉された魔翌力は、魔術師でない龍太でも十分すぎる程にその異常さを感じ取れた。
肌を灼くような得体の知れぬ”ナニカ”、科学の生き方を主にしていた事もありその正体までは掴めない。
ただそれ以上に青年を驚愕させたのは、他ならぬこの書斎に保管されている数々の品々だ。
見たこともないような古代文字の施された本や、俗に言う魔本と称されるもの。
それが全て偽物だと、その疑いを許さないとばかりに痛いほどの魔翌力が体に突き刺さる。
本来ならば今すぐにでも全ての本を読み漁りたいところだが、今はそうもいかない。

「……ソレスさん、教えていただけませんか。
 この本の数々は…伝承に伝えられる魔本というものに限りなく近い。
 貴方ならば……分かるのでしょう?」

”子供”という立場をかなぐり捨ててエリーゼへと言葉をぶつけるソレスに、余裕のない表情で尋ねる。
この場にて唯一の能力者という存在、だからこそ魔術という概念に疎くその存在を信じきれていない。
故に、解明したかった――――好奇心は猫を[ピーーー]、その猫とは間違いなく自分の事を指すだろう。
278 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/01(金) 20:40:19.98 ID:ChXS2tks0
//うわぁsaga忘れ…脳内補完お願いします
279 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/01(金) 21:14:42.85 ID:SpDOQ6iL0
>>276>>277

えっ?えっ?と二人の表情に困惑するエリーゼ
何かいけない事をしてしまっただろうか、と表情が暗くなる
この書斎に他の人を入れるのは初めてだが、そんなにダメだっただろうか

「えっ...この部屋のものは...出立の際に全部神父様から頂いだものです...
"お前の身を守る大切な物だ、大事に持っておけ"と...
あんまりにも多いのでこの書斎にしまったのですが...」

どの本も手順を間違えば危険な物ばかりだ
物によれば、本自身が内容を守る為に読者を文字通り喰らい尽くす物
宗教国家バチカンでも発禁処分が下され、焼却された筈の呪いの本の初版本まで
国宝級であると同時に、とにかく危険だ────。

机の上にはそんな危険物がまるで読みかけのように置いてあったりする
放置された"世界終焉への階段"と書かれた本に翻訳するための辞典だろう
結局読み飽きたのか放置されているらしいが
まるで海外の小説でも読んでいるかのような気軽さで放置されている

そういった物品を処分する魔術師がこの部屋を見たのなら
全力を持って学園都市のこの教会がある区を消し去るだろうと確信さえできる
そんな呼吸さえもしてはならないと錯覚する程に危険な部屋で

「.....えっと、どうかしたのですか...?」

エリーゼはその碧眼を震わせて
ただただ二人の反応に困惑しているだけだった
280 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/01(金) 22:03:55.16 ID:ymwU2xdV0
>>277>>279

「………っ」

普通一般人に魔術のことは秘匿の対象だ。それは今現在も変わらない。
しかし場合が場合だ、時には人命を優先しなければならない。無闇に人が死ぬのは良くない、もしこれで死んだとしたらあまりにも無意味だ。

「……仕方がない、本来これは秘匿すべきものじゃが、まぁ無所属の儂に関係あるまい。
どれ、掃除の前に少し授業といこう」

そう言って少女は近くにあった椅子に腰掛ける。そこにはさきほどまでの少女とは違い、威厳のようなものを放っている。言わばオフをオンに切り替えた状態、今二人の目の前に居るのは正真正銘"魔術師"だ。
どこから取り出したのか眼鏡を掛けると、少女は話し始めた。

「魔術というのはまぁ想像で大体理解できるじゃろう、不可能を可能にする――とまでは行かんが、およそ非科学的な方法でことを実現する技術じゃ。
そして儂がなぜここの本が危険だと言ったかじゃが、そもそも魔術と能力というのは根本が違う、全くの別物じゃ。
能力者が魔術を行使しようとすれば最悪の場合――――死に至る」

「ここにある本は魔術を伝授するための本もある。しかもここにあるモノの中には、それこそ大量の人間を[ピーーー]ためだけに編み出された禁術や禁呪が載っているものもある。
それがもしも"悪い魔術師"の手に渡ったらどうなると思う?」

少女の言っていることは、およそ現実味がない話だった。しかしそれが嘘だとはとても思えない。
真剣な表情で語る少女、その口ぶりから少女がふざけておらず本当のことを言っているということがわかる。
少女は眼鏡を指で上げ、シスターの方を見る。それは緊迫さを感じさせた。

「エリーゼよ、お主はこの危険性が判るか?
その神父様とやら、なぜお主にこのようなものを託したのじゃ…身を守るものどころでは無くなるぞ……」

頭を抱え、はぁとため息を吐く少女。この処理に困っているのだろう。
それはそうだ、この中には少女でさえお目にかかったことがない魔導書も沢山ある。そんなものが流出すれば一大事だ。
その危険はシスターの少女にも青年にも判るだろう。果たしてこれからこれをどうするか、それが一番重要だろう。
捨てることもできないこれらを一体どうするか――――
281 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/01(金) 22:26:44.16 ID:ChXS2tks0
>>279>>280
「……魔術……」

唐突にも始まるソレス曰く”授業”、それを食い入るように頷いてはメモへペンを走らせる。
魔術、所属、禁術――普段生活していて耳にすることはないであろうそんな単語を使い、当然の如く会話を重ねる。
妄想や架空を語る表情はないことは容易に察することができる、ならばこれは紛れもない事実ということ。
威圧さえも感じる少女の雰囲気に促されるように、何枚ものメモを文字で埋め尽くした頃。
ふと、禁術とされる魔本が丁寧に本棚に並べられているのに目がいった。

「…………」

ソレスがエリーゼへと問いを投げかけた一瞬、その一瞬に青年は惹かれるように魔本を手にする。
実際に触れるのと見るのでは感じる魔力が格段に異なる、掌が焼け爛れるほどの力が溢れているのを感じた。
決して慣れる事のないその感覚に顔を歪めながらも、探偵としての好奇心は止まることを知らない。
濡れた学生鞄に魔本を放り込めば、とても大切そうに鞄を撫でては再びエリーゼ達を見やる。
緊迫した状況に紛れて二人を見定めるように注ぐ視線は、紛れもなく探偵のものだった。
282 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/01(金) 22:51:03.78 ID:SpDOQ6iL0
>>280>>281

この部屋にあるものが、確かに普通なものではないとは感じていた
この部屋で長時間本を読めば頭痛になるし、そもそも息苦しささえ感じる
────それに、自分の生きる世界が日常とはかけ離れているという事も

「...その、神父様には話すなと仰せつかったのですけど...もうお二人には話します...」

お説教の気配を感じたのか、床に正座するエリーゼ
その表情は誰に対してだろうか、申し訳なさや悲しさで溢れていた

「私...この学園都市の監視...? に来たんです...
その、能力者さんの危険な動きを察知してしらせろーっていう...一応、魔術師って奴なんです...」

時折つく疑問系や自信なさげな声
彼女の自分が魔術師という言葉も、この部屋を見なければ到底信じられなかっただろう
だが、この本が禁呪で埋め尽くされてその一つ一つが危険物なのは事実だ

「その...神父様にこれで身を守れと...沢山頂いたものなのです...」

ふと、一つの本を手に取った
こんな少女を敵地に送る際に渡した武器というかお守りの類だろうか
にしては過保護というか、やり過ぎな辺り神父様の人間性が伺える気がする
だが、ソレスの言葉に項垂れてしまい
すっかり反省でもしたのか顔がすっかり泣き顔になりつつあった

「も、燃やしますううう!! こんな物があったら危険なら...いっその事ー!!」

なんて立ち上がって言いだす始末
丁度礼拝堂にはまだ元気よく燃える暖炉があるだろう
彼女にこれらの歴史的価値なんて分からない
本来なら、大勢の人を[ピーーー]危険性を鑑みてもなお保存すべきだろう品々を彼女は抱えて走り出そうとする

なんというか、魔術師らしからぬ少女だ
283 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/01(金) 23:45:23.48 ID:ymwU2xdV0
>>281>>282

「おい小僧、儂が見逃すと思うてか」

刹那、少女の手が変貌を遂げる。手は紅い甲殻に覆われ、その頭には今までそこには無かった"角"が生えていた。尻尾まであり、その姿が魔術という存在をまさに肯定していた。
まさしくそれは竜。さきほどまでとは違う、はっきりとした威圧感。人外だからこそ感じる、人ならざるそれは、青年の鞄をその爪で指差す。

「それは貴様には過ぎたものじゃ、もみろん此処で見聞きしたことも他言無用。分かっておろうな」

「余計な好奇心は止めておけよ?死にたくなければな」

睨みつけるその瞳は、本気の目だ。人をいとも簡単に仕留める、残酷無比、躊躇も躊躇いも無い。
これが外に漏れれば間違いなくまずいことになる。それを防ぐためには、この青年を[ピーーー]ことも厭わないだろう。さきほどは確かにこの青年が魔導書によって事故を起こすことを防ぐために言った。だがそれをわかっていながら持ち出そうとするのならば遠慮はいらない。

「まぁだろうとは思ってはいたが、お主の神父も過保護なものじゃ……」

やれやれといった様子で周りを見回す。一面のこの魔導書を渡してまでとはあまりに過保護過ぎだろう。
しかも本人には何も教えていないのだからなおタチが悪い。

「おい燃やすのは待たんか!これを燃やすなどありえん選択じゃぞ!?!?」

慌てて少女を引き留める。これを燃やすなんてあり得ない。
確かにこれは危険だ、だがそれ以上に価値がある。そらを燃やされたら堪らないと少女は必死に説得するのだった。
284 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/02(土) 00:09:05.26 ID:5xLP+B2l0
>>282>>283
「……っ…!」

刹那、自身に襲いかかるとめどない程の殺気。
人間が為せる物ではないような、全身をビリビリと刺激するそれに思わずたじろいだ。
ふと視界に入ったのは先程まで華奢で今にも折れてしまいそうだった手が、紅の甲殻に覆われ己の命を脅かしている光景。
これが魔術か――殺気を向けられている人間にしては場違いな、そんな感想を抱いた。

「……ソレスさん、こんな言葉をご存知ですか?
 ”人間だけが、無駄な知識を溜めこんでは悦に入る生き物なのだ”――
 ……私は紛れもない人間です、故に…知識を求めるのは、必然と言えましょう。
 無論、この事は他に漏らす気は毛頭ありませんが……」

眼光だけで人を殺せそうな、そんな睥睨を受けても尚龍太は鞄を手放すことはしない。
本能に体を震わせても尚ソレスを見つめ続けるその瞳はまるで、死を恐れない語るが如く。

そんな緊迫した状況を打ち破るように、涙ながらに本を抱え暖炉へと走り去るエリーゼ。
学園都市の監視――といったか、それにしては余りにも今の彼女は適任とは思えない。
それを燃やされてしまったら、自身の持ち前の探究心を潰されてしまうようなもの。
故に青年は宥めるように語りかけた。

「エリーゼさん、その本は燃やさないでください…
 ソレスさんの言うように、それらの本は炭にするのは惜しい価値かと……」

魔術師でない青年から見れば魔導書の価値の基準はよくわからない。
だが、素人でも感じる大幅な魔力はそれだけでも世界を唸らせる程のものだと理解できた。
285 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 00:30:11.86 ID:3kBn2trD0
>>283>>284
小柳とソレスの僅かな殺気のぶつかり合いにも意を返さない程にエリーゼは困惑していた

「こんなっ...危ないものー!!」

今まで自分が何気なく放置していた物品が危険極まりなく
それでいて、その事実を知りもしなかった自分を恥じてエリーゼは暖炉の前まで走っていた
...もっとも、例によって足が遅いので普通に二人は追いつけただろうが

「で、でも...こんな危ないものがあったら...この教会はどうすればいいんですか...?」

ソレス、小柳の説得でなんとか暖炉の前で踏みとどまって
本を抱えたまま、ぺたりと座り込んでしまった
何気なくページめくったり、気まぐれで読んでみたり
たまに紅茶のシミをつけてしまったりしたこの本をどうすればいいのだろうかと

普通の魔術師なら泣いて喜び、どんなに危険でもこの本に記された深淵の知識を読み解こうとするだろう
だが彼女に魔術師としての誇りなんてない
ただただ普通に生きて、たまたま魔術師になった自分にはこの本が危ないものとしか──────。

「この街の人も...お二人にも...皆さんに迷惑かけたくないです...
この本がこれからも危険でないように管理する自信がないんです...」

気が付けば、雨は過ぎ去って雲間から日が覗く
日の光は礼拝堂のステンドグラスを投下して、地面に座り込んだエリーゼを照らしていた
月の様な金髪に僅かながら涙を浮かべた碧眼が光る──────。
286 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/02(土) 00:46:31.35 ID:+WPlP7MB0
>>284

鞄を離さないどころか、むしろ反論をしてくる青年を見て少女は少し感心する。普通の人間ならこの一発で大抵は驚き返すものだ。
しかしこの少年はそれでも諦めはしなかった。それほどにこの青年は知識に飢えているのだ。


「ほう、小僧なかなか言うではないか。だがその魔導書は持ち出すにはちと危険すぎる」

そう言うと少女は立ち上がり、本棚から比較的安全な、読者に呪い等を振りまかない物を手に取る。

「この本ならば比較的安全じゃが……」

座り込んでしまった少女を見て、悪いことをしてしまったかもしれないと思う。しかし仕方がないことなのだ。
もしもあのまま忠告をしていなければどうなっていたか分からない。少し可哀想だとは思うが必要なことなのだ。
この少女にこれらを悪用するような考えは無い。出来ればこのまま放っておきたいのだが――――

「そんなことを言われてもじゃなぁ…ここはお主の教会なんじゃぞ?
うぅむ…小僧、何かいい案は浮かばんか?此奴でも安全に管理する方法は」

頭を使う作業は苦手だ。ここは恐らくこの中で一番頭が良いであろう青年に託すしかない。困った様子で青年に言えば、泣き出す少女をあやすために少女はしゃがみ込み「泣くでない、お主ももういい歳じゃろう!」となんとか泣きやませようとするのだった。
287 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/02(土) 01:14:54.07 ID:5xLP+B2l0
>>285>>286
「……それは、光栄ですね…っと…
 …ふむ、先程と比べては”魔力”というものは薄いようですね…有り難くいただきましょう」

返答を終える前にソレスに手渡されたそれをマジマジと見つめては、先程の禁術のものと見比べる。
やはり禁術のものの方が当然だが魔力は多く、知識を満たしてくれる内容であろう。
だが確実に得られる情報の方が大切、満足げに頷いては了承し禁術とされる魔導書を本棚へと戻した。
ソレスから預かった魔導書をうっとりとした視線で眺めては、鞄へと仕舞う。
なんにせよ得られた情報は大きい、彼の命を張った好奇心は無駄ではなかったということだ。

と、不意に困惑したように投げかけられるソレスの問い。
此処でも安全に管理する方法……ふむ、と少し考え込むような動作を行えば、座り込むエリーゼへと視線を向ける。
彼女自身は本当にこの本の事は知らず、ただ人々の為にこの教会に勤めていたのだろう。
ならば出来るだけ危険がなく、人々の目に移らない場所がいいが――

「そうですね、一番は私に全ての魔導書を預けるのが理想……ですが、そうもいかない様子。
 エリーゼさんは人々の為にシスターとして働き、しかし教会にはこれだけの危険な代物……
 ……ならば危険な魔導書のみを箱に入れ、教会の裏の土の中に隠すというのはどうでしょう?」

数瞬後、彼の口から提示される提案はそんな内容のものだった。
土の中ならば人の目に付くことはないし比較的安全に管理できるだろう、といった思考の末。
288 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 01:38:49.54 ID:3kBn2trD0
>>286>>287

ソレスに慰められながら、なんとか泣き止むエリーゼ
これで18歳である。なんというかある意味ソレスよりも子供っぽい
だが、それも自分も身近にあった危険物の存在故だ。仕方ないのだろう

「土の...中? うん...そこなら見られないし...
うん...うん。うん! それだ! それでいこう!」

と、先程までの泣き顔は何処へやら
エリーゼは笑顔で立ち上がって再び書斎へと向かうだろう
一応本が濡れない様にビニールで包んで木箱に詰めて埋めるつもりの様だ

書斎の本を大きなビニール袋に詰めて木箱へ入れる
国宝級の本をまるでゴミに出す様なシュールさだが、一応品質保持の為だ
嘆く様な声を上げる本や、表紙に怒りの眼を写す本を次々と容赦なく放り込む
羊皮紙の巻物も石版も引っくるめて木箱へ突っ込んだ

「やった! 外晴れてます! 裏庭なら人目につかないんでそこに埋めましょう!」

そう言ってエリーゼはあらゆる呪詛を発して高濃度の魔翌力が噴き出す木箱を普通に持って裏庭へ向かうだろう

塀に覆われて教会の外からはこちらの様子もよく見えない
エリーゼの言う通り人目につかないいい場所だ
ご丁寧に1本のシャベルを用意して、「さぁ掘ってください!」と二人に視線を向けた
289 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/02(土) 12:01:04.56 ID:+WPlP7MB0
>>287>>288

やっとのこと泣き止んだシスター、それを見て少女は胸を撫で下ろす。こんな少女が今までこの教会を任されていたのだと思うとよく問題が起こらなかったものだと感心する。
こんな性格の彼女が切り盛りしていたら何か問題の一つや二つ起きそうなものだが。

「阿呆、まだそんなことを言っておるのか、そんなことをするくらいなら燃やした方がマシじゃて」

冗談だろうが、もし本当にそう考えているのならそれも致し方ない。一般人にあれが渡るよりは処分した方が世のためだろう。あれは然るべきときに然るべき人物が使うべきだ。

「ふむ…埋める、か…確かにそれが一番無難かもしれんのう」

確かに埋めるのならば今できる中で最善と言っていいだろう。他に処分方法も思いつかずその方法でやることにした。
そうと決まれば話は早い。シスターの少女は早速本をビニール袋に詰め始める。あまりに乱暴過ぎて貴重な書物が痛まないか心配になるような入れ方だが、この際文句は言えない。
書物類を全て入れ終わると、丁度空も晴れていた。これなら外に出ても問題無いだろう。

「裏庭じゃな……へ?儂らも向かうのか?」


裏庭に向かうと、そこは塀に囲まれた確かに人目につかない埋めるのにはピッタリな場所だ、が。

「………それ、もしや儂がやるのか…?」

少女が手にするシャベルを見て、顔を引きつらせる。このまま自分は帰るつもりだったのにまさかなことになってしまった。
なぜ、雨宿りをしにきただけなのにこんなことをしなければならなくなったのか………
290 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/02(土) 15:39:52.52 ID:5xLP+B2l0
>>288>>289
「ええ、我ながら名案だと思います」

自身の提示した案に対し二人が見せる反応に満足気に肯けば、ぱっぱとビニールに本を詰めていく様を見詰める。
仮にも危険な代物への扱いにしては余りにぞんざいだが、能力者である自分が知らないだけであれが正しいのかもしれない。
やがて書物を全て片付け終わり、窓から差し込む僅かな陽光を見てはどうやら晴れているようだ。
エリーゼとソレスに続き、終始興味深そうな表情で裏庭へと向かう。


そしてたどり着いたのならば、突然手渡される一本のシャベル。
やはりこうなるのか、どこか予感はしていたが――思わず苦笑いを溢す。

「……まぁ、雨宿りのお礼だと思えば……」

何しろ自分たちは仮にもエリーゼに救われた身である。
満面の笑顔で掘ってください!などと言われて断るのはとてもではないが出来ることじゃない。
故に僅かな逡巡もなくシャベルを受け取れば、素早く土を掘り始めるだろう。
291 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 18:08:44.92 ID:3kBn2trD0
>>289>>290

運良く雨上がりということもあって地面は掘りやすかった
木箱が入る程度の穴が掘れるまでそんなに時間もかからなかっただろう
小柳の手際よく掘る様を見てエリーゼは「おおー! 流石男の子!」
なんて言って笑っている。働け

「それじゃあここに入れて...っと、本当なら神父様から頂いたものだし...
ずっと大切にしたいけど────ごめんなさい」

埋める直前、汚れるだろうに地面に膝を付けて手を合わせる
埋められる本達に捧げる祈りだろうか────。
危険だからという自分達のエゴで埋められる本達だからだろう
せめてもの思いを伝えて────。

「.......はい。埋めましょう。 きっと彼らも許してくれます」

人でなく危険物、たとえそれが呪われた本でも、彼女は祈りを捧げた
博愛────とも言い難い。彼女の優しさというか未熟さというか
それでも、彼女がシスターという身分だと再確認させられるだろう

バッサバッサと土をかけられ木箱は土の下
かくして危険物はこの中に封印されたのだった

「...えっと、ありがとうございました。 せっかく休まれるところをお手を煩わせてしまって...」

エリーゼはぺこりと、二人に一礼
せっかくもてなすつもりが知らぬ間にこんな事になるとは
なんだか可笑しくって、少しだけ笑って
292 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/02(土) 20:34:30.33 ID:HiFeijrDO
>>290>>291

地面を掘り終わるのにはそれほど時間はかからなかった。掘り終われば、後は本を埋めるだけだ。
本を埋める直前、シスターの少女が両膝を付き、自身が汚れるというのにも顧みず、両手を合わし祈りを告げる。
その様子は先ほどの彼女とは違う、確かにそれは神に仕えるシスターだった。

「―――終わったか」

沈黙。土を被せられる本たちへの祈りは終わった。供養、と言うのだろうか。そういえばこの日本という国には、「物には魂が宿っている」という考えがあるという。それならば確かに、こうやって祈りを捧げるのは当然か。
国が違えば風習も違う。郷に入っては郷に従え、という言葉もこの国にはあったか。今回はそれに従おう、自分も出来れば祟られたくない。

「それにしてもこんなところにあのようなものが大量に放置されていたとはのう…」

問題はそれだ。この少女の言う神父とは一体何者なのだろう。これほどのモノを大量に所持し、それをこんな少女に預けるなど有り得ない。
余程のコレクターなのか、それとも何か"裏"に通じる人物なのだろうか。どちらにしろ彼女の神父が只者では無いということは確かだ。まぁ少女のことを心配して渡したというのだから危険人物では無いのかもしれないが――――

「空もすっかりと日が顔を出しておる。
さてと、では儂はそろころお暇しようかのう。エリーゼ、お主気をつけるんじゃぞ、お主は危うい」

最後にそう忠告を残し、少女は出口の方へ歩みを進める。もしも引き留められることがなければ、少女はそのまま教会を後にすることだろう。
293 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/02(土) 20:55:18.69 ID:5xLP+B2l0
>>291>>292
地面を掘り終えればふぅ、と一息吐き、あとはエリーゼが本を埋めるのを見守るだけ。
そして彼女はこれから埋めるであろう本の詰まった箱へ向けて、自身の衣服が汚れる事も構わず祈りを捧げていた。
龍太は決して無神論者ではないし、むしろ科学で証明できないことを好む。
だからこそ、こんな自分でも出来ることといえば――

「エリーゼさん…いえ、シスター・エリーゼ。
 貴方の祈りはきっと、この本たちに届きましたよ」

――そう、言葉を投げかけることだ。


程なくして土をかけ終え、魔術師界を揺るがすほどの危険物はこうして封印された。
そんな光景を少しだけ残念そうに見つめて、しかしエリーゼという少女が救われた事に笑顔を溢し。
最後に鞄の中に眠る魔導書の感触を確かめては、そっと微笑みかけた。

「いえいえ、私としても魔術という興味深いものを教えていただいたのですから……
 もしよければ、これからもここに通わせていただいてもよろしいでしょうか?」

エリーゼにとっては恐らく初めてであろうそんな何気ない問いかけ。
出口へと向かっていくソレスを見ては、自分もそろそろ引き上げようと、そう考えたのだろう。
294 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 21:19:34.36 ID:3kBn2trD0
>>292>>293

「えへへ...よく神父様からも"お前は気楽過ぎる"言われてました」

照れる様に笑ってエリーゼは答える
その神父さんの言う通りで確かに気楽というかなんというか
まだまだ修行中なのだ、彼女の成長に期待しよう
きっと遠くで見守ってる神父さんとやらもそれを望んでいる

「はい! いつでもいらして下さい! 待ってます!」

喜んでいるのだろうか、手を叩いて喜んでいる
教会にかけられた「open」の看板が揺れる
信者様ではないが、それでもお客さん
ずっと一人だったのだ、誰かが来てくれるだけで嬉しい
初めて来てくれた二人のお客さんがまた来てくれる事を望んでいる
そのエリーゼの明るい笑顔はソレスと小柳に────。
その、気が早いかもしれないがこの国に来て初めての友人に向けられていた


雲間から覗いた日の光が3人を照らしていた────。

/ではではこの辺りで〆ということで..
/長い間ロールありがとうございましたー!!
295 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 21:20:00.98 ID:3kBn2trD0
>>292>>293

「えへへ...よく神父様からも"お前は気楽過ぎる"言われてました」

照れる様に笑ってエリーゼは答える
その神父さんの言う通りで確かに気楽というかなんというか
まだまだ修行中なのだ、彼女の成長に期待しよう
きっと遠くで見守ってる神父さんとやらもそれを望んでいる

「はい! いつでもいらして下さい! 待ってます!」

喜んでいるのだろうか、手を叩いて喜んでいる
教会にかけられた「open」の看板が揺れる
信者様ではないが、それでもお客さん
ずっと一人だったのだ、誰かが来てくれるだけで嬉しい
初めて来てくれた二人のお客さんがまた来てくれる事を望んでいる
そのエリーゼの明るい笑顔はソレスと小柳に────。
その、気が早いかもしれないがこの国に来て初めての友人に向けられていた


雲間から覗いた日の光が3人を照らしていた────。

/ではではこの辺りで〆ということで..
/長い間ロールありがとうございましたー!!
296 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 21:20:19.27 ID:3kBn2trD0
>>292>>293

「えへへ...よく神父様からも"お前は気楽過ぎる"言われてました」

照れる様に笑ってエリーゼは答える
その神父さんの言う通りで確かに気楽というかなんというか
まだまだ修行中なのだ、彼女の成長に期待しよう
きっと遠くで見守ってる神父さんとやらもそれを望んでいる

「はい! いつでもいらして下さい! 待ってます!」

喜んでいるのだろうか、手を叩いて喜んでいる
教会にかけられた「open」の看板が揺れる
信者様ではないが、それでもお客さん
ずっと一人だったのだ、誰かが来てくれるだけで嬉しい
初めて来てくれた二人のお客さんがまた来てくれる事を望んでいる
そのエリーゼの明るい笑顔はソレスと小柳に────。
その、気が早いかもしれないがこの国に来て初めての友人に向けられていた


雲間から覗いた日の光が3人を照らしていた────。

/ではではこの辺りで〆ということで..
/長い間ロールありがとうございましたー!!
297 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/02(土) 21:20:56.56 ID:3kBn2trD0
/連投してしまった...すみませぬ...
298 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/05(火) 20:19:15.55 ID:54jQEdwY0
あの日以来、自然と周囲への警戒が強くなった
曲がり角で立っている人、喫茶店からこちらを見る人の影
何気ない通学の生徒、教師に至るまで
その一人一人が怪しさを感じずにはいられない

誰が自分たちの命を狙っているのか
何処から自分たちを見ているのか
その疑念が晴れることはない────。

それでも、自然と足は危険な場所へと赴いていた
路地裏、放棄される工事現場、地下鉄
自分の体は人目に付かない場所へと自然と向かっていた
────この現象が何なのか自分にも分からなかった


──────。

『グハッ...ク...ソッ....』
「...なんだ、本当にただのカツアゲか...」

路地裏に複数人に男性が転がり、その中で一人だけ立ち尽くしていた
転がっているその全員が身体の何処かに怪我を負っていて
服装から何処にでもいる街に不良だと分かる

そして立ち尽くす少年
夜の様に黒く長めの前髪で右目を隠して
宝石の様な緑色の瞳の目立ちはしないがそれでも整った端正な顔立ち
白のシャツに黒を基調にした薄いコート
赤色に近いカラーデニムといった私服姿

おそらく、カツアゲか何かあった後の正当防衛だろうか
この街では珍しくはない光景だ
ただ────少しだけやり過ぎる気がする
不良達の怪我にしても病院を数日世話になるレベルで
アスファルトや周囲の壁にも何か金属で削った様な傷跡がある

悶え苦しむ不良達を見下ろして
楽しそうでもなく、嬉しそうでもない
ただ、残念そうな顔の少年がそこにいた
299 : ◆BDEJby.ma2 :2016/04/06(水) 08:41:42.39 ID:aNwdvTur0
>>298
────以前、乾京介は”百舌”を名乗る少女と邂逅を果たしていた。今思えば前もこんな路地裏だったか。

その時は偶然通りかかった”百舌”が能力を以て不良を制していたが、今回は違う。
それを客観的に見れば、否、”百舌”がそれを見れば確実に彼を『成長した』と賞賛するのだろう。

────だが、そしてまたこれも今回は違う。
同じ声に同じ顔……でもそれでいて以前の様いかにも『少女』な風貌ではなくて。

「ええっと………お〜〜〜い!」


────それは、同じでもある。
路地裏の出口。
眩いばかりの夕陽を背後に添えて、乾京介の目の前に現れたのは。


「だーいじょうぶかー?────”少年”!」


『高天原いずも』という、学園都市の番長を謳う人物だった。
二度目の邂逅にして初めての邂逅。
奇妙な再会を前に少年が彼女に対して何を思うか。────全ては少年次第であるが、はたして。

//今更ながら絡ませていただきました…
いつでもおーけーです!
300 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/06(水) 19:05:25.50 ID:r5i5nyvN0
>>299
背後からの声に不意を突かれたのかと
なんの変哲もない"様に見える"右手を構えて、素早く振り返る
背後に立っていた、少女────いや、番長の姿に少しだけ驚いた表情を見せる

「えっと...俺は大丈夫です。この人たちも、見た目以上には軽傷です」
『クソが...!! 覚えてろ.....!!』

その言葉は真実だったのだろう
転がっていた不良らは次々と立ち上がる────が、抵抗しない
傷口を押さえながら捨て台詞を置いて逃げていくだろう

そんな少年らを一瞥し、乾は目の前の番長の姿の人物に目をやる
────何処かで会っただろうか?

真っ先に浮かんだのはそんな印象
ただ、こんな時代錯誤もいいとこな人物を見た事があればすぐに覚える
ただ、この姿...と言うか格好の人物は見た事がない
ならどこで引っかかっているんだ────?


そうだ、声だ
この声には聞き覚えがある
あの時は明るい女性的な雰囲気で今は────。
うん、まぁ真反対だが間違いない

「────なんでそんな格好してるんですか? 百舌さん」

そういえば久し振り、なんて思いつつ
乾は百舌と名乗ったその少女にそう笑って問い掛けた
301 : ◆BDEJby.ma2 :2016/04/06(水) 19:53:41.33 ID:aNwdvTur0
>>300
「おう!……なら良しだ!!」

────実は、声を掛けるか戸惑った。
何時もの様に争いが起こっている様子の路地裏。
既に乱闘は収まっていたが、其処に立っていたのは見覚えのある……乾 京介という少年だったから。
───”百舌”は言うなれば対魔術師用。
番長として印象がつきすぎた”高天原いずも”としての性質を逆手に取った、隠密活動時の服装───別人格に等しいものでもあった。

まあでも、ばれたのならば仕方ない。
何も知らないんだし、別に1人程度なら。

……乾 京介が”魔術”との邂逅をしてるとも知らぬ彼女は、楽観的な考えに至っていた。

「あーははは…………やっぱバレちまうよなぁ。
実はさ、オレ──────」


────いや待て。
しかしここで彼女は正気に戻った。

このまま正体をただ単に明かしてしまうだけだったら色々と誤解生みそうな気がする。
ただでさえ最近は『男』と偽ってきたのが『女』と周囲にバレつつあるのだ。──この少年にその危険性があるとは考えにくいが、なるべく可能性は排除すべきなんだろう。
───ええっと?どうすれば良いんだっけ??

「えっと……んーと!………」

「その…………??」

「………………。」

結局、脳筋な彼女に打開策は咄嗟には浮かばない。
ならばとりあえず────”百舌”は口を開く。


「……よし!───こっからは国家機密です。
キョースケ、とりあえずオレについてきて貰えますか!?」

乾が何もしなければ彼女は、強引にでも彼の手を掴み、路地裏の奥の方へと進んでいくだろう。
最近の自身の現実を改めて振り返ってみて、”高天原いずも”は割と焦っていた。



302 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/06(水) 20:17:32.88 ID:r5i5nyvN0
>>301
久々に再会した人物に思わず乾の口元が綻びる
ここ最近、助けようと誓ったとある白い少女以外に警戒心が張り詰めていた
周囲の人間皆が敵に見える感覚というのは、別に不快ではないが休めれない
その反動だろうか、さっきの不良達にもやり過ぎてしまった

そんな中で久々に出会った百舌には少しだけ緊張も解けていく

「バレるよ。 なんというか、百舌さんの雰囲気分かるし」

彼女の番長スタイルを見ずとも分かる
乾自身の他者への観察能力の高さ故だろう。きっと普通の人は中々気付けないんじゃないかと思う
そんな真反対の姿二つをなぜ持っているんだろう?

なんて素朴な疑問を浮かべつつ、百舌の話に耳を傾けていたが

「────え? 国家機密...? ちょ、何を...!?」

その百舌の行動には反応すら出来なかった
乾は手を取られ、路地裏の奥へと
特に抵抗もしないのだろうが、そのまま連れて行かれる
303 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/06(水) 20:38:52.80 ID:aNwdvTur0
>>302
路地裏は良くも悪くも高天原いずもという番長の”庭”とも呼べる場所だった。
不良が湧き出ると言えば路地裏、そしてその餌食となる者の悲鳴が響いてくるとすれば路地裏。
自慢にはならないが、”鉄拳制裁”を主とする番長少女にとって其処は自分自身の聖地だ。
────話すにはうってつけの場所がある。
手をひきながら、彼女は狭い路地を突き進む。

「───雰囲気ってなんですか!?
オレやっぱそういうの苦手なのかな!変装とかぁぁ!」

────疾走、疾走。
途中で倒れ伏していた不良を踏んづけた気がするが、気には止めない。


「………着いた!!」

暫く入り組んだ路地裏を突き進んで行くと、目的地に着いたらしく高天原いずもは急に立ち止まる。
目の前には古ぼけたドアに埃被ったカフェの看板らしき表示。
勢い良く開けると、整ったアンティーク調のカフェ空間が広がっていた。──無人なのが気味悪いが。

「えっと………とりあえずはそこに座っててください。
んでもって、しばしお待ちを。
キョースケからしたらオレは”百舌”の方が話しやすいでしょうし。」

と言いつつ、彼女はその無人のカフェ空間の奥へと自らの鞄を持って入っていった。
304 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/06(水) 20:40:35.76 ID:aNwdvTur0
>>302
路地裏は良くも悪くも高天原いずもという番長の”庭”とも呼べる場所だった。
不良が湧き出ると言えば路地裏、そしてその餌食となる者の悲鳴が響いてくるとすれば路地裏。
自慢にはならないが、”鉄拳制裁”を主とする番長少女にとって其処は自分自身の聖地だ。
────話すにはうってつけの場所がある。
手をひきながら、彼女は狭い路地を突き進む。

「───雰囲気ってなんですか!?
オレやっぱそういうの苦手なのかな!変装とかぁぁ!」

────疾走、疾走。
途中で倒れ伏していた不良を踏んづけた気がするが、気には止めない。


「………着いた!!」

暫く入り組んだ路地裏を突き進んで行くと、目的地に着いたらしく高天原いずもは急に立ち止まる。
目の前には古ぼけたドアに埃被ったカフェの看板らしき表示。
勢い良く開けると、整ったアンティーク調のカフェ空間が広がっていた。──無人なのが気味悪いが。

「えっと………とりあえずはそこに座っててください。
んでもって、しばしお待ちを。
キョースケからしたらオレは”百舌”の方が話しやすいでしょうし。」

そんなことを言いつつ、彼女は空いている一席を指で示して着席を促した。
そして、彼女はというと、その無人のカフェ空間の奥へと自らの鞄を持って入っていった。

//すみません少し訂正です
305 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/06(水) 20:56:44.74 ID:r5i5nyvN0
>>304

「...カフェ? こんな場所に...?」

百舌に連れて行かれた先にあったのは一軒のカフェ
だが、こんな路地裏を進んだ場所にあるなんて店として機能しているのだろうか
とても客が来るとは思えない────いても、先程のような不良ばかりだろう

百舌の後ろからおそるおそるついて行ってそのてんばいへ
ぐるっと見回しても普通のカフェだ
店員も、他の客もいないのが不気味だが

「...店じゃない、ね。 収益があるとはとても思えないし
それじゃあ店じゃないとしたら────。」

店が機能していない。店員も見当たらないが
おそらくこのあたり一帯の都市開発で置いてきぼりになった店か何かだろう
こんな立地だ。買い手もいないだろうし、放置されている

そんな場所を百舌さんが利用している
まぁ、可能性から考えて2択

「...なんらかのアジト的なものか、それか百舌さんの家代わりか何かかな...?」

おそらく前者、なんて合っていても外れても問題ない考察をしつつ
百舌に勧められた席に座って、周囲のアンティークを一望
──────なんとも、こういう待ち時間とは落ち着かないな、なんて呟いて
306 :百舌-モズ- ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/04/06(水) 22:06:30.50 ID:aNwdvTur0
>>305
「────お待たせお待たせ!
まずは、お久しぶりですキョースケ!!」

彼女はヘソ出しタンクトップに、ジーンズという打って変わって涼しげな服装で再登場した。
服装的な意味で面影があるとすれば、髪を束ねている赤い鉢巻だろうか。
額に巻かれていた番長のシンボルたるそれは、髪を束ねるリボンとなって女子っぽさを演出していた。
────これより”高天原いずも”は”百舌”と成る。

そこらへんに手に持っていた鞄を投げ捨て、コーヒーカップを二杯乗せたお盆を運んでくる。
乾の分と自分の分、それぞれ置いて彼女も腰掛ける。

「─────ここは、隠れ家です。
何に使うかは追々話していくとして、とりあえずはオレが何故あんな格好をしていたのか。

…………それから話すとしましょうか。」


コーヒーカップを口元へ運び、口づけして。
薫りを鼻腔で味わいつつ、ゆっくりとコースターへと置いた。────ふう、と改る。

─────乾 京介。
以前出会った時とは明らかに変貌している、と路地裏疾走中に”百舌”は違和感に似た何かを感じ取っていた。
声を掛けるのに戸惑い、暫し様子を見ていたあの僅かな刹那の中───。
──あの日のあの時とは違う。
以前の乾 京介の弱さなんて微塵も感じさせないあの覚悟に満ち溢れた緑の瞳は何だ。
そして先程から、的を正確に射抜く”探る言動”は何処で身につけた物だ?

はじめは自身の誤解を周りに露見させる可能性を潰す為のつもりだった。

───でも、少し試してみたいことがある。
どうかはわからないが新たに浮上してきた可能性を。

もし彼が知らないなら『”魔術”というオカルト都市伝説を信じているアホの娘』としてでも通せばいい。
もし彼が知っているのだとしたら───,
彼はそれ相応の反応を見せてくれるのではないか?
───”魔術”という語句に対して。



「───”百舌”というのはですね………!!


─────オレの対”魔術”用偵察形態なのでありますよーー!!!」


彼女は遂に陽気な声で言い放つ。
大丈夫、この言い方なら『アホの娘』としても通すことは出来るし。……イケるし!
片目ウインクにピースなんて添えて。


307 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/06(水) 22:29:22.45 ID:r5i5nyvN0
>>306
かつて見た百舌の思わせる彼女を見て、少しだけ安心する
この初めて来た場所に取り残される疎外感というのは中々にツラい
周囲のアンティークに泳がせていた目が百舌の姿を捉えた時
その安心感を笑顔で表現していた

「隠れ家...か、やっぱりあると便利なのかな...?」

なんて、まるで乾に必要なものであるかのように呟いて
やはり前に会った時と違う────少なくとも何か大きな出来事があったのは確かだ
弱々しいだけの彼が、変わる何かがあったと感じられるだろう

一方乾はコーヒーを飲みながら
まぁ百舌さんの性格だし隠れ家の一つや二つ持ってみたくなるのは分かる
自分も男の子だし、昔そういう場所に憧れていた...なんて
そんな心中で割と軽く考えていた──────その単語を聞くまでは


「ダメです」


『魔術』────今、最も警戒すべき単語に反応してしまった
彼女が、百舌が追いかける魔術がただのオカルトであっても
もしそれが本当に正真正銘の魔術だとしたら絶対に────。

「ダメです────危険だ。 貴女は...何を...!」

ガタン、と乾は立ち上がり机が揺れた
コースターに置かれたコーヒーに波紋が起きる
まるで何かに焦るかの如く
危険を察知したのか、声が幾分低く感じる

その反応は百舌から見ても分かる
乾京介は魔術を知っている。それが危険なものだと認識している

308 :百舌-モズ- ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/04/06(水) 22:52:04.62 ID:aNwdvTur0
>>307
────────やっぱりな、と。
刹那、”百舌”を名乗る少女の目が細まった。それは今僅かに乾 京介が発した言葉の表現に対してである。

───『あると便利なのかな…?』
……まさかまさか。こんな”隠れ家”なんて物は”余程のナニカを抱えた人間”でないならば必要なんてない。
そしてこの一言は彼女が抱いていた”可能性”を100%たらしめるのに充分なものだった。
でも──────まだだ。

「……………キョースケ、”魔術”を知っているのですか??」

1度目の『ダメです』に対して。
彼女は反応を見せた乾に対してそんな言葉を投げ掛ける。
まるで自分は無知なオカルトマニアであるかの様に。
まるで何かを知っている様な乾から何かを聞き出そうと興味深々な純粋無垢たる少女の様に。

───そこからは早い。
募っていく”魔術”への意識に耐えられず、乾 京介は思わず立ち上がった。
流石の彼女もこれほどまでに彼がその存在を認知しているとは、と驚いて目を丸くするがすぐに平静を取り戻した。

「…………………………………………………。」


───そして訪れるのは静寂。
少女は腕を組み、背凭れへと体を預けて目を瞑った。
間があって、そして口を開いたのは”百舌”である。

「………………………………………そうだなぁ…」

───否、少女の名は”高天原いずも”。
この学園都市の番を司る一人の守護者である。

もう引き返せはしないぞ。
それは彼女とて彼とて、理解しているはずだ。

「…………………単刀直入に聞きます、キョースケ。

これはオレにとっても、キョースケにとっても……………大事な再会になると思います。
だから正直に、答えてくれると有難いです。
では初めに───────────、




────”お前は何処まで知っている?”」





309 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/06(水) 23:52:52.37 ID:r5i5nyvN0
>>308
自分が魔術というモノを知っていると、相手にバレてしまってもかまわない
魔術という奇跡が多くの人の目に触れる前に隠さなければならない
そう、乾は願っていた
目の前の人物が、そんな闇へと向かうのを防ぐ事も────。

だが、目の前の人物────百舌もまた、魔術という存在を探る身だ
乾とは少し違うが、それでも認識はほぼ同じかもしれない

「俺もそこまで詳しい訳じゃないが...」

深呼吸して落ち着こう
こんな場所で魔術の事を聞いた事で焦ったのだろう
動悸が激しい────。一度落ち着いて
そしてもう一度百舌の瞳を見る

彼が話すのは、魔術、魔術師について
彼らの大きく分ける三つの分類、穏健派中立派過激派
そして要注意すべき魔術師についてまで
何も知らない人が聞けば、まるで本格ファンタジーと思われそうな
だが、全て事実でファンタジーでなくリアルのものだ

「......そして、そういう魔術師がこの学園都市に侵入してる
──────こんな所でいいか?」

魔術、魔術師の存在について
基本的なことは全て知っているようだった
だがそれは逆に言えばそれだけその世界に踏み込んでいるという意味
見ないほうが長生きできるこの街の闇を凝視してる証拠だろう
310 :高天原 いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/07(木) 00:19:35.99 ID:sWazP9u80
>>309
────ああ、知っているとも。

恐らくは乾 京介という少年が知っているよりも奥深く、”百舌”こと”高天原いずも”は魔術という概念を理解している。
共に闘った事もあれば、脅威としてその拳を振るった事も昔にはあった。
だからこそ、乾の離す『魔術』についての理解は容易い。
その殆どは彼女にとっては既知の情報であったが、今回この場において重要なのは其処ではないだろう。

───”乾 京介”という学園都市の能力者が”魔術”を知っている。それだけで充分な話である。

「……………なるほど、わかった。十分すぎる

ならばオレも………話すべきだ。
ちょっとは話さないと等価交換とはいかねぇしな。」

「────オレの本当の名前は”高天原出雲”!学園都市の番長になる漢、だ。

────もちろんキョースケ。
……お前が知ってる通り、オレが使うのは魔術なんかじゃない、れっきとした”爆破豪掌”っていう能力だから安心してくれ。」

「───何故、あんな番長服だったか。
簡単な話で、あれがオレの本来の姿で、”百舌”としてのオレは”魔術師”の目を欺くための変装ってわけ。」


───と、羽織っている番長服を指差して示しながらの一言。彼女の言葉は全て事実、恐らく乾の興味を引く物には違いないだろう。
───少女の言葉は続く。それは疑問だった。



「──なあキョースケ、何があった??
二回目だからと早とちりなんかも知れんが、お前の眼には何か、決意が居座ってるのがわかる。

────”魔術”にでも出くわしたか?」




311 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/07(木) 00:50:30.23 ID:6h5E50mr0
>>310
「高天原...出雲...」

偽名なんだろうなとは薄々分かっていた
それでも、こうやって本当の名前を知ることが出来たのは嬉しいと思う
その本当の姿を見せてくれた事が、なんとなく嬉しかった

「はい、百舌さ.....いや、出雲さん
直接魔術師と対面したわけじゃないですが...」

そう、まだ乾は魔術師と面と向かったわけではない
乾はその魔術師と敵対した組織と接触した
一瞬目を伏せて、その緑眼を出雲へと向けた

「...『魔女狩り』という組織をご存知ですか? 非公式の魔術師討伐組織です。
魔術師を人として見ないでその一切を殺し尽くす。裏切り者を許さない暗部組織です」

その名はかなり秘匿されてきたものだ
出雲が知っているか分からないが、魔術師との抗争が陰で行われている以上
そういった組織の存在は決して不自然ではない。


「その組織に縛られた人がいるんです────。
人を[ピーーー]事だって躊躇わない。悪の道を堕ちてしまった一人の女の子なんですけど...
俺はその人を助ける為に『魔女狩り』と敵対しているんです」

何故かはわからない。彼女が悪人である事は確かだった
人殺しに悦を感じる人間だと彼女自身も理解していた
過去に置いてきた思い出に会いに行く為に自殺しようとしていた
そして自分はそんな一人ぼっちの少女を助けたいと願った──────。

その緑眼を濁らせる事なく乾は語る
助けたい人が悪人であると、それを分かった上で助けたいんだと
恥じる事はない。臆する事はない。
迷う事などない────。

守りたい人が出来た。と
そんな出来事があったのだと出雲に伝える

魔術師の味方ではない。そして能力者さえ敵に回している
危険な道だと分かっている。それでもなお突き進むと
乾の瞳に宿る覚悟はその意志なのだろう
312 :高天原 いずも ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/04/07(木) 08:35:43.76 ID:sWazP9u80
>>311
「──ははは、言いにくけりゃあ”百舌”でいいぜ?
割とオレも”百舌”ってのは気に入っててな!
あ、口調もあれなら戻してやってもいいぜ。」

わざわざ言い換えた乾の様子を見て、彼女は気遣うようにそう言った。
因みに後半部分はまるっきり事実で、”百舌”というのは彼女の渾身の自信作であったりする。

緑の瞳が捉えると、彼女も逃さない。日本人らしい透き通った黒の眼が乾を反映する。
────”魔女狩り”。
これについても高天原いずもは認知していた。
”番長”としての高天原いずもと、ある因縁を持つ能力者”黒縄揚羽”の思想が正しく”魔女狩り”だ。


「────知ってるよ、”魔女狩り”。
オレの知り合いが正しくその一員………多分な。」


─────”魔術”は絶対的な悪。魔女。
わざわざ能力者の本懐に臨んできたならば、秘密裏に殺せば何の問題もない。
魔術としてもまだ、その存在を世間一般に知らせたくはないだろう。
そして彼ら両方共知っている。善良な魔術師でさえもその組織は容赦なく虐殺の限りを尽くす、と。


「───────なるほどな。
そしてそいつのお陰であれ程張り詰めてた、と。」

片目を瞑って。
高天原いずもは”誰か”の味方であったことはない。
”番長”を謳う彼女は”誰しも”の味方であらねばならないからだ。
───それを前提として、彼女は語り始める。


「───京介、”魔女狩り”は生半可な覚悟と力で潰せるようなもんじゃない。

1つの思想に力が大量に集まってるってのは、組織の大元を潰そうとその思想が潰れるわけじゃないから、いづれ再生することだってあり得る。
それくらいはわかってるんだよな?

少なくともあの組織は───、
オレの予測ではあるが”学園都市管理委員会”から加護を受けた──非公式でありながら”公認”された立派な裏組織だぞ。」


「────でもだからって、止めはしない。
それがお前さんの信じた道なんなら進めばいいってもんだ。
……ってか、止めても止まらねぇんだろ?
そんな感じの気持ちいい眼してやがるからな!」


───その緑眼は何処か、過去の自分の様で。
それを端的に表すとすれば────『覚悟』に終始するのだろう。


「────そしてオレは、味方ってわけじゃあない。

多分、その闘争には”[ピーーー]”ことは必要不可欠だと思う。
そしてそれを行うなら──────お前らがそれこそ”殺して”でも潰そうとするのなら、オレは間違いなくお前らの敵として立ちはだかるよ。
学園都市の番長”高天原いずも”として当然の事、だからな。

お前の見知った”百舌”っていう少女は”敵”だ。
それでも──────お前は突き進めるか?」

簡単な話だった。
高天原いずもは”学園都市”の味方であって、”陽愛 白”という少女一人の味方ではない。
[ピーーー]という手段をとって。
どんな人間であろうとも、その未来を奪おうものなら、彼女は確実に世間一般的な”正義の味方”として彼らの前に君臨する。
────────それが”番長”なのだから。
313 :高天原 いずも ◆BDEJby.ma2 [saga]:2016/04/07(木) 08:47:23.41 ID:sWazP9u80
>>311
「──ははは、言いにくけりゃあ”百舌”でいいぜ?
割とオレも”百舌”ってのは気に入っててな!
あ、口調もあれなら戻してやってもいいぜ。」

わざわざ言い換えた乾の様子を見て、彼女は気遣うようにそう言った。
因みに後半部分はまるっきり事実で、”百舌”というのは彼女の渾身の自信作であったりする。

緑の瞳が捉えると、彼女も逃さない。日本人らしい透き通った黒の眼が乾を反映する。
────”魔女狩り”。
これについても高天原いずもは認知していた。
”百舌”での活動中、その存在を知った。
そしてまた”番長”としての高天原いずもと、ある因縁を持つ能力者”黒縄揚羽”の思想が正しく”魔女狩り”だ。──実際は組織としては違うのだが。

「────知ってるよ、”魔女狩り”。
オレの知り合いが正しくその一員………?…あれはよくわからんからなぁ。」

─────”魔術”は絶対的な悪。魔女。
わざわざ能力者の本懐に臨んできたならば、秘密裏に殺せば何の問題もない。
魔術としてもまだ、その存在を世間一般に知らせたくはないだろう。
そして彼ら両方共知っている。善良な魔術師でさえもその組織は容赦なく虐殺の限りを尽くす、と。


「───────なるほどな。
そしてそいつのお陰であれ程張り詰めてた、と。」

片目を瞑って。
高天原いずもは”誰か”の味方であったことはない。
”番長”を謳う彼女は”誰しも”の味方であらねばならないからだ。
───それを前提として、彼女は語り始める。


「───京介、”魔女狩り”は生半可な覚悟と力で潰せるようなもんじゃない。

1つの思想に力が大量に集まってるってのは、組織の大元を潰そうとその思想が潰れるわけじゃないから、いづれ再生することだってあり得る。
それくらいはわかってるんだよな?

少なくともあの組織は───、
オレの予測ではあるが”学園都市管理委員会”から加護を受けた──非公式でありながら”公認”された立派な裏組織だぞ。」


「────でもだからって、止めはしない。
それがお前さんの信じた道なんなら進めばいいってもんだ。
……ってか、止めても止まらねぇんだろ?
そんな感じの気持ちいい眼してやがるからな!」


───その緑眼は何処か、過去の自分の様で。
それを端的に表すとすれば────『覚悟』に終始するのだろう。


「────そしてオレは、味方ってわけじゃあない。

多分、その闘争には”殺す”ことは必要不可欠だと思う。
そしてそれを行うなら──────お前らがそれこそ”殺して”でも潰そうとするのなら、オレは間違いなくお前らの敵として立ちはだかるよ。
学園都市の番長”高天原いずも”として当然の事、だからな。

お前の見知った”百舌”っていう少女は”敵”だ。
それでも──────お前は突き進めるか?」

簡単な話だった。
高天原いずもは”学園都市”の味方であって、”陽愛 白”という少女一人の味方ではない。
[ピーーー]という手段をとって。
どんな人間であろうとも、その未来を奪おうものなら、彼女は確実に世間一般的な”正義の味方”として彼らの前に君臨する。
────────それが”番長”なのだから。

//すみません…また訂正…
314 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/07(木) 19:39:52.36 ID:6h5E50mr0
>>313
目の前の少女────出雲を、百舌をその緑眼で捉える
そうだ。自分が突き進む道は常道ではない
人として許されざる悪の道

そこに正義の味方が現れるのは自明の理だ

「────────。」

あの時、あの展望台で自分は歪んだ少女を見た
今まで自分が見てきた誰とも違う。真っ白な闇の少女を
────その少女を知りたくなった。
だから、近づこうとした
危険だと知ってその歪みの理由を、少女を構成するモノが知りたくなった
────そして知った。後に彼女が歩く破滅の道

その深い闇に沈む少女を助けたいと思った
偽善だろうか、きっと独善だろう
理由はない。ただその目の前で緩やかに死のうとする少女を救いたかった

その白い闇に自らも沈んで、彼女の手を取ろう
──────そう誓ったその心は真実だ。

「わかってます。殺人という行為があってはならないと
────それでも、俺はその人を救う為なら幾らでも血を被ります」

陽愛 白という、少女を救う為に自分が何度でも血を浴びよう
その目は揺るがない。たとえ目の前の少女が敵となって対峙しても

──────その信念は揺るがない。
315 :高天原 いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/07(木) 20:35:22.19 ID:sWazP9u80
>>314
「───っはは、どうしたもんかこりゃあ。
オレは……キョースケ、お前のことをちょっと甘く見過ぎてたみてぇだ。

”番長”としての殴り合いなら負ける気はしねぇが、今のお前には勝てる気もしねぇや。」


真剣な表情が少し綻んで、彼女は爽やかな笑みを覗かせる。緊張感を解す清涼剤のような笑顔だった。

────護る者の為、闇に堕ちる事を渇望するか。
高天原いずもはそれを羨ましくも感じた。
”番長”という立場上、誰か一人を優先させるなんてことは出来ない。
大勢の『善』を担っているという”責任”ならある。
でもそれが高天原いずもという少女が人々を救う”理由”なのかと問われれば、明確な答えは用意できない。
だからこそ、護る者────”理由”を持つ彼を心のどこかでひっそりと羨んだ。


「……お前らが進むなら、オレはお前らを全力で阻止しよう。知り合いであろうと何だろうと関係ねえ。

────オレは”番長”として。
────オレは”正義の味方”として。

”絶対的な『正義』”としてお前らの道をぶち壊す。
全力の覚悟でお前ら”二人の『正義』”を待ち構えてやる。」


────相反する2つの正義。
一つは、不特定多数の”誰か”たる存在を手当たり次第に救うという”絶対的な善の概念”。
もう一つは、個人の願いである”陽愛 白の救済”の為に、阻む者を[ピーーー]という”独創的な善の概念”。

同じ”善”であれど確実に異なる二つの思想。今回の邂逅でそれが激突する事は不可避であると、両者共覚悟したはずだ。


「─────まあ、頑張れよっ!
”番長”としては敵だけど、”オレ”としてはそんな誰かたった一人の為にヒーローになるっていう、そんな考えは大好きだっ!!

んっと………えっと……そうだな───、」

喉のあたりを抑えて唸ったりして、そして僅かに頬を紅潮させて彼女は口を開く。
正直”番長”モード見せてからこいつに切り替えるのは恥ずかしすぎて燃えそうになるんだが。

シンボルたる右拳を、乾の前に突き出して。


「──キョースケ!!─その時は”[ピーーー]つもり”でオレにかかってきてくださいねっ!」




316 :高天原 いずも ◆BDEJby.ma2 [saga]:2016/04/07(木) 20:36:54.06 ID:sWazP9u80
>>314
「───っはは、どうしたもんかこりゃあ。
オレは……キョースケ、お前のことをちょっと甘く見過ぎてたみてぇだ。

”番長”としての殴り合いなら負ける気はしねぇが、今のお前には勝てる気もしねぇや。」


真剣な表情が少し綻んで、彼女は爽やかな笑みを覗かせる。緊張感を解す清涼剤のような笑顔だった。

────護る者の為、闇に堕ちる事を渇望するか。
高天原いずもはそれを羨ましくも感じた。
”番長”という立場上、誰か一人を優先させるなんてことは出来ない。
大勢の『善』を担っているという”責任”ならある。
でもそれが高天原いずもという少女が人々を救う”理由”なのかと問われれば、明確な答えは用意できない。
だからこそ、護る者────”理由”を持つ彼を心のどこかでひっそりと羨んだ。


「……お前らが進むなら、オレはお前らを全力で阻止しよう。知り合いであろうと何だろうと関係ねえ。

────オレは”番長”として。
────オレは”正義の味方”として。

”絶対的な『正義』”としてお前らの道をぶち壊す。
全力の覚悟でお前ら”二人の『正義』”を待ち構えてやる。」


────相反する2つの正義。
一つは、不特定多数の”誰か”たる存在を手当たり次第に救うという”絶対的な善の概念”。
もう一つは、個人の願いである”陽愛 白の救済”の為に、阻む者を殺すという”独創的な善の概念”。

同じ”善”であれど確実に異なる二つの思想。今回の邂逅でそれが激突する事は不可避であると、両者共覚悟したはずだ。


「─────まあ、頑張れよっ!
”番長”としては敵だけど、”オレ”としてはそんな誰かたった一人の為にヒーローになるっていう、そんな考えは大好きだっ!!

んっと………えっと……そうだな───、」

喉のあたりを抑えて唸ったりして、そして僅かに頬を紅潮させて彼女は口を開く。
正直”番長”モード見せてからこいつに切り替えるのは恥ずかしすぎて燃えそうになるんだが。

シンボルたる右拳を、乾の前に突き出して。


「──キョースケ!!─その時は”殺すつもり”でオレにかかってきてくださいねっ!」
317 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/07(木) 20:55:32.26 ID:6h5E50mr0
>>316
「ふふっ、それって誉めてるんですか?」

張り詰めていた乾の表情も緩む
思わず笑みを浮かべていつもの彼に戻るだろう

────乾の瞳に映る出雲の姿は輝いて見える
彼女の姿は、誰もが等しく夢見る『正義の味方』だ
皆がこれまでの道のりの何処かで置いてきてしまった希望の象徴
今の自分とは真逆かもしれない彼女の姿はとても気高いと思った

「────ああ、その『正義』に真っ向から立ち向かうよ

────陽愛 白。 俺の主である彼女を守る一人の剣として盾として...。
百舌さん。貴女の『正義』を乗り越えてみせます」

あの真っ白な少女を守る一人の下僕として
目の前の『正義の味方』を打倒しよう
そう、俺が彼女を救う上で越えねばならない壁が目の前の少女だ
────越えよう。...いや、越えてみせる。

「────全力で相手するよ。貴女を倒すには骨が折れそうだ」

そう笑って、突き出された拳に自分も右手を差し出して
コツンと、まるで友人との挨拶のように小突いたのだった
318 : ◆BDEJby.ma2 :2016/04/07(木) 21:47:39.27 ID:sWazP9u80
>>317
「───ははっ、それでよし!!」

────突き合わされた両者の拳。
いつその拳が本当の意味で交わるのか、なんて事は当然ながら今現在では知る由も無い事だ。
しかし番長を名乗る少女は、それがとても近い将来であると心のどこかで予感していた。

そして清々しいほどの正義に塗り固められた笑顔の中、同時に彼女は危機感すらも抱く。

─────”学園都市の魔術情勢が大きく揺れ動く”。

今回の魔女狩りの打倒にしても。
少なからず”魔術”側からして学園都市侵攻の大きな障害であった組織の一つが崩壊するならば、”好機”だ。
現在でも強力な魔術師の存在は確認されているというのに、そうなれば彼らはどう動くのか。

───オレがやるべき事はまだたくさんある。

目の前の少年は覚悟を持って救済を叶えようと突き進んでいる。ならオレも番長らしいところ見せないと。
………どうやら彼女にも、ぐうたらな番長生活に”終焉”を授ける時が来てしまったらしい。


────────────
────────
────
──








例えば、その”終焉”が明確なカタチを取った時。
───学園都市には何が訪れるのか。

この先、何が起こるか。訪れるか。
───────愚かなる能力者よ、衝撃に備えろ。






319 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/07(木) 22:30:14.85 ID:JdP83ngp0
―――――――それは、彼が飼いならすことに成功している臆病さが齎したことだろうか。

それとも、番町という少女と同じくこの少年も臆病ながら心に炎を灯し、学園都市を愛しているからだろうか。
それともそれとも、彼自身が能力発動の旅に『死』に慣れているからだろうか。
魔術師すら知らない大木陸という平凡な少年が、学園都市を歩きながら一瞬覚えたのは背筋を這う何とも形容し難いおぞ気だった。

臆病な鼠は、地震や津波が起こる数日前に群れを成して飛び出し住処から移動するという。

「風邪でも引いたのかな……って、間違いなくこれのせいだよな」

とはいえ予知能力を持っていない大木は、そのおぞ気の正体に気づかない。

不良相手にそれらしい迫力を出すためとはいえ、ナイフを握り締めたせいで右手が大きく切り裂かれ非常に痛い。
ハンカチで押さえたものの、こんなことはするべきでなかったなと思いながら大木は彷徨っていた。

そう、迷子である。不良から颯爽と逃げ去った大木は病院へ行く道が分からずに、早速路地裏で迷子になっていた。
殺人という学園都市の闇を受け入れ精神的に成長できたものの、この少年は格好つけることが似合っていないらしい。
それもまた、この大木少年の天然という魅力なのかもしれないが……

「病院まで誰か案内してもらえないかな……」

貴方を見つけた大木は、助けて下さいと泣きつくことだろう。
自身が尊敬する番長を名乗る少女を含めて他の人間がそれぞれ戦う覚悟を決める中、相変わらずこの少年はブレず情けないままだった。
320 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/08(金) 21:33:52.56 ID:N79NWUYn0
>>319
その日は天気も良く、ずっと教会でいるのは勿体無いと思ったのが朝方
あまり出掛けたことはない街中へ足を運ぼうと思ったのが数時間前
街中にいる迷える子羊の相談に乗ったり、妙に遊びに誘ってくる殿方から逃げたのがおよそ1時間前

────そして、今

「ここは...一体何処ですか〜...!」

女の子がお下品な大声あげるものじゃないと母親に言われて育ったので控えめな叫び声
遊びに誘う殿方から逃げた結果、こんな路地裏まで来てしまったシスターが1人

絢爛でありながら月の様に落ち着いた金髪のセミロング
日の下で輝く浅い海を思わせる碧い瞳
そして首元には純銀のロザリオを掛けている
服の上からでも分かる胸はふくよかで腰は引き締まっている起伏に富んだ身体
それを黒と白で統一されたシスター服で覆った修道女

「...えっと...こっちから来たはずだから────あら?」

辺りをキョロキョロ、オロオロしながら周囲を見回すと、そこに見えた少年に気が付いた
正に渡りにフネ!、棚からボタモチ!と覚えたての日本語を思い浮かべつつ
意気揚々とその少年へと駆け寄って行くだろう
────相手も迷子なんて事情を知らないで

「あ、あのー! もしもしー!
すみません道を教えて頂け......わあ! すごい傷! どうしたんですか!?」

話しかけた途端に少年の右手の傷に気付く
ついでに、道を教えて貰おうという当初の目的も頭から飛んで行くだろう
あまり血だとか傷とかには慣れていないのだろう、少し恐怖を浮かべたような表情で
321 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/08(金) 21:47:02.16 ID:/akqOnAG0
>>320
眼前に現れたのは優しそうなシスターさんであった。
しかし困ったものである、迷子が二人に増えてしまった。
三人寄れば文殊の知恵とは言うが、迷子が二人や三人に増えた所で待っているのは迷子だけである。
渡ろうとした船は乗ると沈む泥舟でしかなく、棚から落ちた牡丹餅は腐っていて食べられるものではない。
これは眼前のエリーゼに言えることであり、大木にも言えることだ

「残念ながら道は俺にも分からないんだ……」

答える大木の表情に表れるのは圧倒的な悲壮感。媚を売る余裕すらない。
恐怖を覚えている眼前のシスターさんに右手の裂傷をどう説明したものか。
大木は迷いつつも少しの間考えて答えた。

「不良に襲われました……この傷のことなら心配しないで、大丈夫だから」

この大木という少年は素直であった。それは美徳かもしれないが、眼前のシスターはどう思うだろうか?
322 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/09(土) 00:01:42.95 ID:isk+wC1l0
>>321
「そ、そんな...! あなたも迷子さんなんですね...!」

エリーゼの後ろで雷が落ちるエフェクトがピッタリと言えるくらい
ショックを受けた────悲壮感一杯な表情
なんと、この状況を打破するための救いに手かと思ったのに主はさらに試練を与えるか
うぅ...と項垂れそうになるが、今目の前に見えるのは少年の怪我だ

「大丈夫じゃないです! 我慢なんかしたって傷口は消えません!」

と、エリーゼはきっぱり少年の言葉を否定した
どんなに痩せ我慢したって消えるのは痛みぐらいなもの
傷口はそのまま残るし、放置してそこから化膿したら目も当てられない

「とにかくしっかり止血ですっ! 見せて下さい!」

そう言って少年の手を取って傷口を押さえているハンカチを一度の取る
血に汚れてしまって時間が経てば不衛生だと感じたのだろう
今度はポケットから自分の白いハンカチを取り出す
そんな綺麗なハンカチが血に染まるだろうが気にしない様子

手首のあたりで巻いて、手のひらを覆ってまた手首へ
先程のハンカチで押さえるだけとは止血するだけでなく、傷口を固定できる
ハンカチをきつく結びながら、「これで大丈夫ですか?」とエリーゼは問い掛けた
323 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/09(土) 00:50:57.06 ID:J/dQlAii0
>>322
「そうだね、迷子らしい……どうするべきか」

悲壮感たっぷりの大木は項垂れていたが
眼前の少女が自分以上に慌てているのを見て少しずつ落ち着いていく。
困っている人間を助けなければいけない。自分が困っている場合ではない、と大木は強く自分を諌める。
遭難用にプリッツという非常食まで持っている大木である。その上に夢遊病に近い放浪癖を抱えている。
この状況を打破するためにどうするべきか、大木は必死で考えた。

「そうだね――――傷口は消えない。その通りだ」

大木が考えているのは体の傷ではなく心の傷口である。
能力発動の度のリアルな妄想による跳躍回避は痛覚すら伴うものであり、大木は痛みには慣れていた。
しかし心の傷は消えないのだ。どうしようもない。だから大木は、その傷も背負って生きていくことに決めた。
自分の能力の為に泣いてくれる少女が居たというだけのことで、大木陸という人間の精神は大きな成長を遂げていた。

手を差し出すと、そこに押さえられる新たなハンカチ。汚れることすら躊躇わずに自身の白いハンカチを差し出すシスターに
大木の目頭は自然と熱くなっていった。涙さえ流さないものの、胸には熱い物が流れてくる。その燃料は自身の心の炎に直結していた。
眼前の少女は不良に絡まれるような、普通の人間なら関わる事すら嫌かもしれない自分を助けてくれた。

―――――――最近、こんなのばっかりだな。この学園都市に来てからずっと、俺は優しい女の子に助けられてばかりだ。

だから大木は、感謝をしていた。この学園都市という存在に。
そして困っている自分を助けてくれた少女達に。

――――――恩返しをしなければならない。困っている人間は助けるべきだ、情けは人の為ならず。そうだろう?

「大丈夫だよ、ありがとう。そして申し訳がないな。このハンカチは必ず弁償させて貰うよ」

大木はハンカチを返すと、優しいシスターに笑顔を送る。
いつの間にやら臆病な少年の表情には、何やら強い決意が宿っていた。

「今度はこっちの番だな。二人とも迷子だけど、この状況はどうにかできるはずだ。俺に着いてきてくれないか?」

処置が終わると同時に転々と付いている己の血に気づいた大木は、少女の道案内を始める。
意識は無いものの不良達に連れ込まれたのは確か路地裏の中でも浅い方だったはずだ。
能力者の存在を疎ましく思うような思慮が浅い連中のことである。我慢と言う物を知らない。
だから襲われた地点を辿れば、人通りが多い場所は近いはず。

いつもより頭が冴えている大木はそう推測すると、優しいシスターの少女を連れて歩き始めた。
324 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/09(土) 06:04:44.08 ID:isk+wC1l0
>>323
「これで良し...と。 あんまり動かさないようにしてくださいね?
傷口が出来るだけ開かない様に!」

まるで看護師さんみたいだ。とエリーゼは微笑みながら
母国にいた頃には教会で遊ぶ子供も多くて、こういう技術も自然と身についたものだ

「気にしなくていいですよ。 他人の痛みに勝る大切なものなんて、中々ありませんから」

そうニコッと笑っていうが、このハンカチはそんな使い捨てする様な安物には見えない
自分の血で赤く染まってはいるが、純白で良質そうな生地
高級品っぽい気がするだろう
そして今は結んだ状態なので見えないが、ハンカチの隅には彼女のイニシャルが縫ってある
それでもやはり大切なものなのだろう────。

「道が分かるんですか! 凄い! 行きましょうっ!」

田舎育ちの彼女には学園都市の乱立するビルが故郷の森以上に迷路に見える
正直路地裏に入る前にも若干迷い気味だったのだ
路地裏なんて迷宮そのものだ
そんな場所で少年の言葉に目を輝かせつつ、後ろんkついて行くのだった────。
325 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/09(土) 21:19:16.09 ID:J/dQlAii0
>>324
「分かった、激しい運動は控えるようにするよ」

シスターさんの怪我の止血処置はかなり手際が良く、ハンカチを押し当てただけの大木とは比べ物にならない。
怪我人が身近によくいたのか、それとも元々医療機関に居たのだろうかと大木は考える。
金髪のシスターさんは外国人に見えるとはいえ、彼女の身近によく怪我をする能力者が居たから慣れている可能性もある。

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、申し訳ないな。良いって言うのなら無理には言わないけど」

大木はどうしようかと考える。
本当は弁償したい所だが、あまり押し付けがましくなりたくもない。
思い出等のお金で買えない物もある、日頃から身に着けている貴重品などには愛着も抱くだろう。
イニシャル入りのハンカチなんかは正にそうだろう、ならば別のことで恩を返すべきかもなと大木は思った。

「俺が間違えているかもしれないけど、シスターさんは最近ここにできた教会の人なのかな?」

化学の街であるここに、最近教会ができたという噂は大木も聞いていた。
好奇心旺盛な大木も、物珍しさも手伝って一時は一度行ってみようかなあと考えていたのだが
大木の臆病さが災いして、結局断念した記憶がある。

「元々興味あったし、そうだったら会いに行くよ。困っていることがあったら何でも言ってほしいな」

まあ今は迷子を抜け出すのが先だけど、と言葉を付け足しながら大木は苦笑した。
外国から新しい土地に移り住むのは大変だ。環境も変わり困っていることも多いだろう。
入信者の関係で困っているのなら、よほど怪しげでもない限りは入信してもいいかなとさえ大木は思っていた。
それぐらいのことをしなければ気が済まない。

「迷子は大丈夫……」

だと思う、と喉まで出掛かった言葉を大木は飲み込む。
実の所はっきりとした確証が在る訳ではない。大木は血痕を辿って案内しながら、不安げな表情を隠していたのだが……
徐々に道が太くなっているのがはっきりと分かり、心中で安堵した。
326 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/09(土) 23:18:08.67 ID:1jViNWzRO
>>325
「そうなんですよ〜! この修行中の身ですが、この街に来させて頂いています!

......全然来てくださる人もいないんですけどね〜...」

噂で聞いた例にシスターさんで正しかったようだ
台詞の前半は「私有名人なのかしら!」と上がり調子だったが
後半になるにつれて「でも信者様は誰も...」と一気に表情が暗くなる
分かりやすい性格の人だ
それだけ嘘もつけない誠実な人という証拠かもしれない

「うぅ...やっぱりこの街じゃあ私みたいな人はのけ者なんでしょうか...
みなさん誰も来てくれな..........えっ 来てくれるんですか!!
本当ですか! やったーっ!! お茶とお菓子と...えっとえっと...とにかくいっぱいご用意します! 」

来てくれるかもしれないというだけでぱぁっと明るく笑う
何せ今まで来てくれた人は二人だけなのだ
信者さんでなくても大歓迎で嬉しい
彼女の明るい性格で一人ぼっちは確かに寂しいだろう
またいつか顔を見せてあげたらいいかもしれない

「...あ! でも道が広くなってますよ!
人の声も聞こえますし、きっとこっちです!」

耳を澄ませば確かに人の雑踏らしき声が聞こえなくもない
網の目のように広がった路地裏も集束する毎に少しずつ道が広がっていく
その様子を察知したのか、エリーゼは
ぴょんぴょん跳ねるように歩いて出口があろう方向指差している
327 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/10(日) 01:03:25.48 ID:/QbZsXmG0
>>326
「そうなんだ、意外だなあ……話題にはなってるんだけどね」

大木は考えた。
そう、話題にはなっている。それなのに人が来ないのは大木にとっては意外だった。
人間は好奇心に勝てないものだと大木は思っているし、実際その通りだ。
2人しか教会に来たことがないという。誰かが訪れていいはずなのに……?

「……?」

大木は、顔を曇らせる。困っている人を助けられる絶好の機会のはずだ。
感情では行きたいはずなのに、そんな自分を止めるもう一人の自分が居るような錯覚に大木は陥っていた。

――――――――気持ち悪い。

罪を犯すつもりもないのに禁忌を犯すような、妙な感覚を無理やり大木は払い除けようとする。
最近学園都市が失踪騒ぎで物騒だからといって、過敏になりすぎているのかもしれない。
あるいは、みんなそう思っていて。それが原因で教会を訪れる人が少ないのかもしれない。
だとしたらそれを解決したい、このシスターの助けになりたい。
大木は、無理やり笑顔を作った。

「有難う、楽しみにしてるよ。教会って行ったことないけれど、どんな感じかワクワクしてる」

話しながらも脳内には警鐘が鳴り響いている。大木は内から湧き出てくる謎の恐怖、異物感の正体が分からなかった。
大木の一番の美点は臆病な点である。しかし大木の一番の欠点も、臆病な点であった。

――――――学園都市の一番の闇は、殺人などではない。深淵に潜むのは、能力者にとっての最大の異物。魔術なのだ。

話している間に、人の往来が激しい大通りに着いた。ここまでこれば大丈夫だと大木は安堵する。
脳内の謎の警鐘を、大木は無視することにした。
以前の大木なら、相手が恩人でも教会に向かうことを拒否したかもしれない。
しかし教会にいけば、この誠実で優しいシスターの話し相手になれる。その為に大木は禁忌感を振り払った。

「ここまでくれば大丈夫かな。俺の名前は大木陸。シスターさんの名前は?」

食べるかい、とシスターにプリッツを差し出しながら自己紹介をする大木。
その表情からは険が取れ、彼本来の素朴で温和な笑みが残っていた。
怪我が治ったら教会の場所に行こう、このシスターと仲良くなる為に。
今は心からそう思えた。これも大木が成長した証なのかもしれない。
328 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/10(日) 16:51:23.60 ID:B89MxplZO
>>327
「私のいる教会なんて大したことないですよー?
ちょっと大きなステンドグラスのある礼拝堂ってだけなんですよ?」

彼女の住む教会はさほど大きいものではない
小さな礼拝堂に彼女の生活スペース
敷地のサイズにしたら少々大きな一戸建て程度だ
「あっ! でも神父様の持ってる教会は凄いんですよ!
お弟子さんがずらーって並んで凄い大きいんです!」と、両手を使って話したり
神父様というのはおそらく彼女の先生みたいな人だろうか
両手を大きく広げる様子から本当に立派な教会なのだろう

────この時点ではお互いに知りようもない
大木にも、当のエリーゼにも知らない事だ
その神父様という人物が大のカスパール派であり
"千鬼夜行"、"断頭神父"の異名を持つ化け物と呼ばれる男だという事を
大木の予感はある意味的中しており
エリーゼはあまりに無知だという事なのだ


「私の名前はエリーゼ。エリーゼ・アレストリアと申します。
こちらこそ、よろしくお願いしますね」

そう太陽のよう────という表現が似合う笑顔だった
そして「いただきます!」と差し出されたプリッツをパクッと直接咥えて
咥えた後にえへへと恥ずかしそうにまた笑って────。

「えへへ...あっ、お、おおー! この道なら見た事あります!
大木さん! 分かりますよ! この道なら見た事があります!」

恥ずかしさを払拭するような震え声を発しつつ
目にした大通りに覚えがあるのか、とととっと小走りで道に出る
辺りをぐるっと見て見覚えがあるのか、大木に向けて手を振って応えた
329 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/10(日) 17:49:31.80 ID:/QbZsXmG0
>>328
「ああ、じゃあそっちに人は流れてるのかな。噂もそれかもしれない」

人が多い教会は大木にとって怖いものだ。
宗教というものは最初に親しい人間から他の人間に興味を持たせ、大勢で囲んで内側に取り込む。
この手口はどんな人物にも有効で、そうやって合法的でない組織も拡大していく。
だから大木は、神父とやらがいる教会には行かないでおこうと密かに心に決めることにした。
エリーゼの寂れた教会には2人しか人が来ていないらしい、それなら大丈夫だろう。

「よろしくエリーゼさん!」

大木は感情表現豊かなエリーゼに向けて、こちらも笑顔を送る。流石に太陽のようにとはいかない。
スタイルが良い金髪の巨乳で美人な、少し天然が入った優しいシスターの女の子。
大木の目から見て、エリーゼという女の子はある意味で完璧な存在に見える。
しかも相手は外国人だし能力者ではない……という意味で是非とも健全な男としては付き合いたい対象になるはずなのだが。

なんでそう言った対象に見る気が起きないのかな、と大木は心中で首を傾げた。
能力者以外の異能を持つ存在を、大木はまだ知らない。

「良かった」

エリーゼの知る道に出ることができたらしい。この心優しい助けになれて本当に良かった、と大木は万感の思いだった。
大木が心からの暖かい笑顔が浮かべられたのは自己紹介ではなく、その時だった。
それにしても自分が迷子を案内する日がくるなんて、大木は思わなかった。

逆に道を案内してもらった時の記憶は、よく覚えている。
トラウマとして悩み、まともに夜も眠れない程に。
右手の治る傷ではない、決して消えない心の傷――――

―――――逢坂胡桃、という殺人鬼の少女につけられたものだ。

「最後に少しだけ聞いてもいいかな?エリーゼさん、まだこの学園都市に来て間もないと思うけど……この学園都市という町のこと、どう思う?」

住んでいて楽しいかな、ずっと居たいと思えるかなと大木は思わずエリーゼという少女に真剣な表情で問いを投げかけていた。
他人の痛みに勝る大切な物なんてないと。大木もそう思っているからだろうか。
330 :エリーゼ ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/10(日) 18:43:08.81 ID:IwMoJIa00
>>329
「〜〜〜っ!」

ついつい口で彼のプリッツを咥えたが、その後に襲った謎の感情
真っ赤になったと思う顔を必死に冷やすために手を仰ぐ
なんでこんな恥ずかしいのだろうと自分でも分からなかったり
そもそも男性との距離感自体曖昧なのが原因なのだ

子供の頃なんて男女差を気にせず遊んでたけど
その後気にし出すであろう時期を修道院で過ごして周り女性しかいなかった
他にいた男性も神父様とそのお弟子さんぐらい
とても友達と呼べるような年代の男性と過ごした時期がすっぽり抜けてるのだ

そんなおかげで、彼相手にもそんな子供っぽい接し方になる
なんでこんなに恥ずかしいのか、今の彼女には分からないのだ...


「この街が...どう思うか...ですか?」

最後に問われたその質問にエリーゼは足を止めて大木の方を向いた
その質問がどういう意味を持つのだろう
彼女にはこの街が、他の場所とは違うのは分かる
自分の育った教会も歪ではあったが、この街も別の法則で歪んでいると
そんな場所に生きる自分は他社とは違うんだなとも分かる
それが能力者と魔術師の差だというのはまだ確信は持っていないが────────。

「────楽しいですよ。 少し変わった街ですけど...
──────とっても楽しいです!」

それは事実だ
まだよく分からない街だけど、毎日が楽しい
自信を持った笑顔で応えた
331 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/10(日) 19:29:58.63 ID:/QbZsXmG0
>>330
「……」

お互い思春期であるということを考えても、エリーゼという少女の反応はとても自然な物だった。
スタイルが良くて可愛らしいエリーゼという少女相手に赤面すらしない自分の方が男としてどうかしてるんじゃないのか?
俺、もしかして枯れてるんじゃないかと大木は自分に問いかけてみる。
とは言え意識していないがほんの少し大木の頬は紅潮しているのだが、そこに気づかない辺りはやはり彼が天然だからであろうか。
恋愛感情というよりは生理的な反射行動に近いものだが、大木の枯れているとんじゃないかという懸念は間違っている。

大木は知らないことだが、原因はやはりエリーゼという少女が魔術師であることだろう。

「そうだね、俺もエリーゼさんと同じ気持ちだ。この街に来て良かった、そう思ってるよ」

大木は、力強く答えた。内心で決意を固めながら。

「次の休日にでも、エリーゼさんの教会に向かわせて貰うよ……約束だ。また会おうね、エリーゼさん」

大木はエリーゼが住んでいる教会の場所を教えてもらうと
優しいシスターの少女に笑顔で大きく手を振る。
エリーゼの花の咲いたような可愛らしい笑顔に感化されたのかその笑顔は、大木らしい素朴な微笑みだった。

またこの優しい少女を助けることができたらいいな、と。
大木はエリーゼの視界から消えるまで、そう思い続けていた。


エリーゼという優しい少女から離れた大木の目に、街中に大きく張り出された液晶画面からニュースが飛び込んできた。
最近急増しているらしい失踪事件を皮切りに暗いニュースばかりである。
その中で大木が注目したのは、夜狂の悪鬼という人を解体している身元不明の連続殺人のニュースだった。
大木は内心の決意を覚悟に固める。この殺人鬼が今も活動している理由は、大木自身にあった。
この学園都市という街には、助けられてばかりだ。だから恩返しをしなければならない。

大木が回想するのは、倒れている女だった。
あれは人事ではない。大木を助けてくれた少女達が、ああならない根拠はない。
そうなれば大木は一生後悔するだろう。

―――――――他人の痛みより勝る大切な物はない。

そう、大切な守りたいものが多くなりすぎた。

「悪いけど逢坂さん、俺は君にだけは恩を仇で返すことになる」

大木が連絡するのは風紀委員だ。逢坂胡桃という少女についての話をする。
名前、推測できる年齢や着ていた洋服など。

これで捕まらなかったら、と大木は考える。大木は臆病だ。自分から殺人鬼を探す勇気はない。
しかしまたばったり出会ってしまうことはあるかもしれない。その時は。

変わらないものなどない。大木という平凡だった少年もそれは同じだ。
学園都市の急激な変化に合わせるように、風船のようだった少年も変わっていくのだった。

//三日間お疲れ様でした&有難うございました!
332 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/12(火) 20:29:09.52 ID:T2TX66zx0
即に太陽は落ち、夜に包まれた夜の学園都市。未だ活気に満ち、煌びやかな明かりが照らす場所もあるが、光が途絶え眠りについた場所もある。

少女が居たのはそのどちらでもない、曖昧に光が灯ったとある広場だった。街灯が僅かにそこを照らし、そこは微睡みに堕ちる寸前。
特に理由があるわけでもない、そもそも彼女の行動原理はとても曖昧なものだ。気分で世界を生きる彼女にとって理由など無いに等しい。

「この街は、歪んでおるな」

ベンチに腰掛け、そう呟くと空を眺める。すっかり暗くなってしまった空には月が雲間から月光を地上に届かせている。
月には人を惑わせるという。狂の象徴とでも言うべきか、人を狂わせ惑わせ、その歯車を狂わせる。
この街にはあの月に狂わされた人間がどれだけ居るのだろう。

「――いかんな、儂らしくない。こういうのはどうも苦手じゃ」

こんな変な感傷に浸るなど本当に自分らしくない。
少女は立ち上がると、その僅かな光を頼りに歩き出す。
向かう先には何があるのだろう。
なんでもいい、何か今の自分を変えてくれるものがあれば。
変化を。何か変化をもたらしてくれたらそれでいい。
333 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/12(火) 20:49:07.13 ID:egdzBM7a0
>>332
「ソレスさん、ですわよね。御機嫌よう」

歩き出す魔術師の前に現れたのは、全身を純白に着飾った少女。
その白い少女は仮面のような微笑を浮かべながら、月光を浴びて濃い影を作る。
人が眠りに就く暗い時間帯であり、だからこそ陽愛白という白い洋服を着た少女はその純白の濃さを増すように思えた。

「学園都市は歪んでいる―――――ええ。その印象は、間違っておりませんわね」

白い少女は、ワンピースのスカートを軽く持ち上げて一礼する。
叩き込まれた礼儀作法を活用しながら、白い少女は仮面のような笑みを浮かべ続ける。

「私の名前は陽愛白と申します、今日は変化を求めている貴方にとって耳寄りな話をしに来たのですが」

白い少女は余裕の態度を崩さないが、内心では少し焦っていた。
これは困りましたわね、と呟いて。

「先に私の下僕である、乾さんの武器を見つけて下さったお礼をしたほうが良いでしょうか?」

両方の用件を話すのもいいかもしれない。お礼と、魔女狩りの依頼である。
334 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/12(火) 21:19:38.35 ID:T2TX66zx0
>>333

現れたのは純白の少女。この暗闇と相対するその白さは、ここではやや異彩を放っていた。
その白さは少女の正体を覆い隠し、その深層が覗けない。しかし敵意を持っていないことは確かだった。

「なぜ、儂の名を知っている。生憎と貴様のような正体の分からん奴に名を明かした記憶は無いぞ」

その礼儀は正しいが、明らかにただの一般人ではない。こうして自分に接してきたということは魔術師か、魔術師に関係のある何者か。
どちらにしても、この少女はなんだか"いけ好かない"
そんな一方的な感情を抱きながら、その後の少女の言葉を聞いて納得する。
"乾"とは先日出会った少年のことだ。なるほど、あれの知り合いか。しかし――――

「下僕とはのう。かかっ、なんじゃあやつはお主の僕であったか。それは気安くあやつに近づいたことを詫びなければならぬかのう?」

なかなかに興味深い。なるほど、あの少年とこの少女は何か繋がりがあるらしい。
しかし下僕とは、あれも女の尻に敷かれるタイプであったということか。

「お礼など別によい、儂は儂のしたいことをしただけじゃ。
それで、耳寄りな話とはなんじゃ、言っておくがくだらんことに儂を付き合わせるなよ?」

そう言ってまたベンチに腰掛ける。立ち話もなんだ、少女は自身の横を示し、座れということを伝えるだろう。
335 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/12(火) 21:50:25.49 ID:egdzBM7a0
>>334
「私に詫びる必要は全くありませんわ。私よりも参っているのは私の下僕のほうでしょうから」

下僕本人の前では間違いなく言えないことであった。
本人に直接言うことは白い少女のプライドもあり、できないことである。だからこそ話せることもあった。
ほんの少し前まで、魔術を知らない一般人だった愚直な己の下僕を思い出す。
荒事に慣れている白い少女とは違い、彼の精神は磨耗が激しいだろう。
だからこのタイミングで、話ができる魔術師と親しくなれたのは有り難かった。

「貴方本人に、私はむしろ感謝しているつもりです。嫉妬をする気にはなりませんわね」

これでも私、それなりに器は広いつもりですのよ?と変化しない微笑を浮かべながら言う。
欠片も嫉妬する様子はなく、自身の下僕に対する信頼感がはっきり見て取れた。
下僕には甘い、それも相俟って下僕の友人に厳しく当たるつもりはない。
武器を探して貰い、一緒にラーメンを食べにいったのなら立派な友人と言ってよいだろう。

「しっかり食事に連れて行くという対価は払ったみたいですし、そう致しますわ」

ベンチに白い布を敷き、その上に座る白い少女。赤い少女と白い少女は並んで座る。

「短刀直入に用件だけ言いましょう――――貴方は魔女狩りという、魔術師を誘拐、そして殺害している組織の存在をご存知ですか?」

無駄を嫌う白い少女らしく、話は一番重要なことから。
しかし笑顔の奥底にあるのは、下僕の友人を巻き込むことに対する僅かな罪悪感である。

「最近ニュース等でも騒がれていて、表でも問題になっております。
私はこの組織の首領が隠れ住む住居を突き止めたので、襲撃するための人員を探しているのです」

最近急増している失踪事件。そう、誘拐が一般人にも分かるように明らかに急増している。
表の人間も厄介に思っているだろう。しかし未だに魔女狩りが活動しているのは、学園都市管理運営者の意向を逸脱していないからだ。
急増する理由は、白い少女は分かっている。一見デメリットにしか見えない、非合理的な行動。

「この組織を潰せば、この街は大きく変化するでしょう。魔術師も格段に活動しやすくなるはずです。興味はありませんか?」

白い少女は、問いかけた。これだけで頷くとは思わない。デメリットが多すぎる。
だから次に白い少女が脳裏で考えるのは、拒否された時の対応である。
336 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/12(火) 22:26:57.88 ID:T2TX66zx0
>>335

どうやらあの少年はこの少女によっぽど気に入られているようだ。
この出会いで少年に対する少女の評価が一段階下がった、今度会ったときにでもからかってでもやろうか。

「お主の僕に対する信頼は厚いのじゃのう」

変化しない少女の微笑、しかしやっとその奥が見えてきた。
彼女の中にあるものはその僕への想い。それだけならばまだ微笑ましいものだが……恐らくはまだ何か。
そんな少女の口から出てきた言葉。
魔女狩り。耳にしたことがある程度だが、少女の言う通り魔術師を目の敵しに次々と殺していっているという。
だがそれが今回の"耳寄りな話"に何の関係があるのだろう。

「――――ふむ」

なるほど話が見えてきた。確かに自分は魔術師だ、ならば自分にもいずれ被害が出るかもしれない。
そしてそんな自分にこの話をしてくるのならばそれはつまり。

「儂に、それを潰す手助けをしろと、な」

「――――断る」

一言、そう言い放った。

「儂にメリットが無さ過ぎる。
儂はな、魔術師にちっとばかし目を付けられておるのじゃよ。
それに、人は死ぬときは死ぬ。儂がそやつらに捕まるのであれば、それまでだったということじゃよ」

当然だろう、少女にしてみればメリットはほぼ皆無。力を貸してやる義理も無い。
それ故にその解答だった………だが。

「ということじゃ、もしもそれでもと言うのなら………儂を認めさせてみよ」

元からこれが狙いだったのだろう。ニヤリと口角を上げ、意地悪い顔で少女を見たのだった。
337 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/12(火) 22:50:32.97 ID:egdzBM7a0
>>336
「厚いですわね……共依存の状態にならないように私も気をつけておりますわ」

だから、貴方――――ソレスさんが乾の友人であるのならどうか彼を頼みますと。
白い少女は頭を下げた。この白い少女は、やはり下僕の少年にはかなり甘い。
下僕に対する評価が下がったことは皮肉でもあったが。

「金銭は勿論払いますし、偽造戸籍や住居などの要望はある程度までは叶えられますわ」

それでも少女……少女でないかもしれないソレスという魔術師は、頷かないという確信が白い少女の中に生まれつつあった。
ある程度の実力者ともなれば、人の下に一時的とは言え就くことはない。
それ相応の覚悟を示す必要がある。そしてソレスという魔術師はその覚悟を示すに値する戦力の持ち主だ。
喉から手が出るほど欲しい人材。

白い少女は、ベンチから立ち上がると白い布切れを取り去った。

「単なる私の欲望に付き合わせる訳ですから――――――相応の覚悟はできているつもりですわ。場所はここで良いのですか?」

公園から移りますか、と笑顔を崩さぬまま提案する。
ソレスという人物が何を言いたいのかは把握できていた。
しょうがないという気持ちが強いが、想定の範囲内であることも事実。

こんな所で躓く訳にはいかない。自らの欲望の為、そして乾という下僕の為に。
純白の少女は笑顔を消し、覚悟を決める。
338 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/12(火) 23:16:49.12 ID:T2TX66zx0
>>337

「共依存のう……」

もう既に成りかけているということは言うべきでは無いか。少年にしてもこの少女にしても、やはりまだ経験が浅すぎる、人との経験が。
それ故に危うい、この二人の関係は。

やはり思惑通り乗ってきた、これでこの少女を見極めなければならない。この笑顔の裏を見なければならない。
手を貸すべき者なのか、それとも。

「ほう、覚悟は出来ていると?それは見ものじゃのう。
場所は別にここで良かろう、どうせ何か壊してもすぐに改修が入るはずじゃ」

その他人任せな考えを披露して少女も立ち上がる。そこに居るのは少女ではない。
一人の魔術師だ。

久しぶりだ、まさかこうも心躍るとは。
逸る気持ちを抑えながら少女と向かい合う。向こうもやる気は十分、存分に戦える。

「先手はお主からで良い、さぁ来るがいい」

しかし、なぜか少女はその"本性"を現さない。
まずは様子見に徹する、ということだろうか。口元には余裕の笑みを浮かべたまま。
覚悟の証明、果たしてその結末は――――
339 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/12(火) 23:39:31.05 ID:egdzBM7a0
>>338
「彼我の戦力差は理解していますが胸を借りる気持ちでは参りません。気絶して頂きます」

白い少女は、笑顔を完全に消している。その笑顔の仮面の奥に在ったのは、完全な無表情。
相手が強敵であり愉しむべき存在でないと分かっている。それに強い覚悟がある今慢心はない。
だから微笑まない。白い少女は、外からは更に人形らしさを深めたように思えるかもしれない。
これでは見極めることは難しい。

この少女の内心を探るために必要なのは言葉か、身の危険が必要だ

「それでは失礼します」

無表情のまま、言葉を紡ぐ。最低限だけ唇は動くが、人形のように表情は変わらない。
白い少女の左手の先が、黒く硬化してゆく。白い洋服に姿を染めているだけあって、その左手の黒さは目立っていた。
下僕の友達と戦うことによる罪悪感も見えない、そんな思いを抱いて勝てる相手ではない。

一気にソレスの元に踏み込む。至近距離でなければ勝ち目が薄い。
先手は譲られた、ならばその言葉を違えることはないだろう。
溜め攻撃は隙が大きいため使わない、白い少女が攻撃したのは態と警戒させる為に見せ付けていた左手ではなく……右手。
踏み込んだ際に黒く硬化されていた右手で、ジャブのように右腕をソレスの腹に向け鋭く放った。

素早く隙が少ない攻撃だが単純に威力を上げる硬化手砕の能力で、威力は高い。
普通の人間がまともに当たればベンチを巻き込んで吹き飛ばされるだろう。
340 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/13(水) 18:46:47.86 ID:uylNeO870
>>339

さきほどまでの少女とは違う、その表情"は無"。あれがこの少女の本性か。
いや、違う。まだあれでは本性とは程遠い。だが本気だということは分かる、これは少々こちらにも覚悟が必要なようだ。

「あぁ、では尋常に……!」

例えるならば人形、だろうか。整った顔立ちからよりそれが濃く感じられる。この人形から真意を確かめるのはかなり骨が折れそうだ。

黒く染め上げられる少女の左手。まるで白い紙に黒の絵の具が広がっていくかのようだ。
なるほどあれが彼女の能力か、見た目から察するに強化か硬化といったところか。どちらにしても近接格闘、大抵の魔術師が苦手とするところだが――――

「ぬっ…!?」

意表を突かれた、なるほどあぁも見せつけていたのはこういうことだったのか。まんまと釣られてしまった。
だがまともに食らう気はこちらにはない。両手を前でクロスさせ、ボディへの直撃を回避、さらにバックステップをしてダメージの減衰。
しかしそれらを差し引いても、少女の身体は軽く吹っ飛びベンチごと飛ばされ、土煙を上げそのまま木へと激突する。煙で何も見えない、一体あの中は―――

My flame burns hot,one is burned.
「我が炎は燃え滾り、己すらも焦がし尽くす」


A flame of a dragon eats everything.I swallow and return to origin.
「竜の焔は全を燃やし、全を呑み込む。侵食し、全ては原初へと還り尽きる」

聞こえてきたのは詠唱、紡がれるそれは直接心に訴えるもの。

Burn up,Burn up,Burn up.
「焼き尽くせ、焼き尽くせ、焼き尽くせ」

It's my flame to burn up,it's the ground to burn out.
「滅却させしは我が業火、焼却されしは其の大地」

その意味が分かったところで、もう遅い。既に詠唱は終盤、詞の一つ一つが力強く、公園は熱気に包まれる。

A flame shows,"DraconicSyndrome"
「炎の権化は今ここに、紅蓮の赤に染まり行こう―――!!」

瞬間、土煙はたちまち退き、そこに立っていたのは"竜"だった。
紅鱗が覆い、その気迫は此の世のどれにも当たらないもの。今は亡き種族のその姿、それは形を変え再び此の世に現れた。
口元から垂れる血を手で拭い、少女とは対照的な笑みを浮かべる。

見極めるなどそんなことを考える必要はない、全力を出して戦えばいい。ただそれだけのことなのに一体自分は何を考えているのだろう。
地面を蹴る。妙なことなど考えない、ただぶつかるのみ―――!!!

そこから竜はさきほどのお返しとばかりにその右腕で乱暴な一撃を放つ。単純だが、それ故にその一撃は凄まじい。まともに当たればただでは済まないだろう。
341 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/13(水) 19:59:38.17 ID:o9qEUDta0
>>340
「殺すつもりはありませんが容赦はしませんわ。貴方もする必要はありません」

仮面のような表情の下にあるのは濃密な計算だ。
先手を譲って貰った以上、不意を撃っても相手に攻撃を与える必要がある。
それに加えて陽愛白の手札となる攻撃は少ない。黒い両手による殴打しかないのだ。
だから初撃で相手の慢心を減らし、手札を晒させる必要があった。
正確には蹴りという選択肢もあるのだが態々蹴るよりも、素早く隙が少ない上に威力が加算される拳で殴る方が良い。

白い少女の能力は手だけを硬化、強化し殴ることしかできない、汎用性が低いレベル3相応の能力だが―――――

―――――――単純故に、純粋な破壊力ではレベル4に相当していた。

確かに当たった、そう確信するも油断は全くない。
遠距離から魔術による焔の攻撃をされるだけで、こちらの身は危うくなる。
ソレス=ロウ=メルトリーゼが龍の血族で在る事は調べてあったが……

「――――――圧巻、ですわね」

少女の姿が唱える魔術と共に、竜の姿へと変貌していくのを眺める少女。
土煙で姿は見えないが、内部で何が起きているのかは想像できた。
圧巻と言いながらも無表情の仮面は崩さない。眺めながらも白い少女は、静かに黒くなった右手に力を溜めていた。

土煙の内側で、竜の少女の濃密な魔力が渦を成す。
土煙の外側で、白い少女の黒い右手に力があふれ出す。

「私の武器はこの黒い両手のみです。―――――だからこそ、貴方を正面から殴り倒させて頂きますわ」

魔術を唱えるソレスに対して真実を口に出して言うものの、この白い少女は無表情の仮面を崩さない。
最初の攻撃が不意打ちでありその言葉に確証はない。この宣言が、ソレスに対してどう映るのか。
元来白い少女は騎士のように名乗りを上げるタイプではないのだが、覚悟を見せるとはそういうことだと白い少女は思っていた。
ブラフに近いが宣言に嘘はなく正々堂々とした戦い。ソレスと白い少女の闘志が高まっていき、圧縮し……爆発する。

土煙が晴れると同時に、白い少女は右腕を振りかぶりながら土を蹴っていた。
竜も、同じく土を蹴ってこちらに右腕を振りかぶってくる。
脚部分の身体能力の差か、流石に白い少女のほうが動きは遅い。
しかし先に動いたのは白い少女の方であり、両者が接近した時にはまるで鏡合わせのような構図になっていた。

―――――――ええ、そうでなければ困りますわ。純粋な力比べで私が負けるわけにはいきませんわね。

変身したソレスの右手と、力を込めた白い少女の右手は正面で衝突した。

魔術と能力が正面からぶつかりあい、空間が悲鳴をあげる。
暫く硬直状態だったものの白い少女は、その運動エネルギーに耐え切れず吹き飛ばされた。
竜の少女と違って全身強化されていない分、このような衝撃には弱い。部分強化の欠点だ。

すぐに立ち上がり、体勢を立て直そうとする。
しかし右腕の肘間接が痛みを訴える。右腕の攻撃が厳しくなってしまった、これはあまりにも痛い。
342 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/13(水) 21:12:43.63 ID:uylNeO870
>>341

実を言えばもう少し様子を見てどのような戦い方をするのか見ていたかった。あの能力の詳細も未だはっきりは分かっていない。
だがもうこうなっては仕方がない、ただひたすらぶつかり合うだけだ。世の中には拳で芽生える友情というやつもあるという、ならきっとこれでも良いだろう。

拳と拳がぶつかり合う。辺りには風が舞い上がり、その風圧で物が飛ぶ。
こちらは吹き飛ばされはしなかったものも、その衝撃はあまりに大きく、しかしそれを表に出すわけにはいかない。こちらのダメージを見せては相手がそこに漬け入ってくる、そうなれば戦いは険しいものとなるだろう。

体勢を立て直し少女を見る。どうやら向こうもダメージは受けているようだ。力は五分五分、ならば勝負を決めるのはその根性か。

「そのようなこと、言われぬでも分かっておるわ。
お主こそ、[ピーーー]気で来なければまずいやも知れぬぞ?」

余裕振ってはいるが、さきほどのダメージは未だ残っている。
右腕を動かせば痛みが走り、あまりに酷使し続ければ最悪使い物にならなくなるかもしれない。だから――――

A stupid sinner. Fall to a hell, and be baked by a flame.
「不遜なる炎よ。聖ペテロの名の下に、己の罪ごと劫火に灼かれよ」

ウィル・オ・ザ・ウィスプ
「彷徨い拐かす鬼火!!」

ならば魔術で対抗すればいい。相手はおそらく近接格闘を得意とするタイプ、ならば魔術で翻弄すればいいだけだ。

刹那、白い少女の目の前に手のひら大の灯火が浮かび上がる。
それが急に収束し、瞬間急速に膨張し破裂する。爆風の範囲は狭いものも、威力は中々のもの。
しかし詠唱が短い下級魔術、炎が破裂するまでの時間、その短い範囲と簡単に避けられるタイプだ。だがその詠唱の短さは強み、短い間に使えるものは牽制としてもかなり有用。
下級魔術と言っても侮れないものも多い、これを少女はどう対処するか。
343 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/13(水) 21:50:40.88 ID:o9qEUDta0
>>342
白い少女は仮面のような無表情を保っているが、内心は必死だった。
RankAの魔術師は、レベル4の能力者に匹敵するとは聞いていたが、此れほどまでとは。
恐るべきは古の竜の血族、ソレス=ロウ=メルトリーゼ。魔女狩りすら手を出せない魔術師の筆頭か。

白い少女は勝機を探る。無表情のままだが闘志は衰えない。
相手の能力は実質こちらの上位互換のようなものだ。
脚部の身体能力の強化は、そのまま拳の威力の強化に直結する。

――――これがレベル4相当の魔術師とレベル3の能力者の差ですか。しかし諦めません。私の行動は決まっています。

「分かりました。それでは死ぬ気で、殺す気持ちで参りますわ」

死力を尽くさなければ認めてもらえないだろう。いや、それ以前に勝ちたいという欲求が白い少女の中に芽生えつつある。
普段は効率を重視する白い少女も流石に熱気に当てられたようだ。そもそも純粋な力負けをしたままではプライドが許さない。
脚は動く。左腕も動く。ならば何の問題もない。
白い少女がとれる選択肢は近づいて殴るのみ、そしてその為に脚は成人男性に追いつくほどに鍛えてある。
竜に向けて走り出す白い少女の眼前に、浮かび上がる炎の灯火。

魔力の収束に伴う破裂に対して白い少女は脚を止めなかった。
この魔術に対して脚を止める訳にはいかない。脚を止めた所で別の魔術に翻弄されるだけ。
元より遠距離戦に勝機はない、ならば宣言どおり突っ込む!

無表情の少女だが、闘志は変わらず内に激しく秘めていた。

咄嗟に灯火の右斜め前に強く跳躍すると、爆発が背中の肉を抉るのを感じる。
痛みを堪えつつも、黒い左手に力を込める。最初からこの少女は、何があっても足を止めないと決めていた。
竜の姿だからこそ、できないことがある。
人の体と違い、竜の体は衝撃を受け止めることはできても受け流すことは難しい。
身につけた武術は役に立たない。ならば隙が強い溜め攻撃を使っても問題はない。

白い少女は、躊躇いなく黒い左手に力を込めることができた。
背後の爆風の勢いすらも利用し、加速する。少しでも威力を上げるために、竜の鱗を砕く為に。
この攻撃の威力は、結果として先ほどまでより強いものとなった。
そのまま、左腕を竜の胸部に向けて振るう。
344 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/13(水) 22:19:11.07 ID:uylNeO870
>>343

正直ここまで自分が夢中になるとは思わなかった。いわゆる力試し、少しやり合った後に適当に切り上げる予定だった。
それがどうだ、自分はこの戦いに楽しみを覚えている。まだ戦いたい、まだやり合っていたい。そんな気持ちが少女の中を支配する。
いつ振りだろうか、こんなに心躍る戦いは。やはりここに来たのは正解だった――!!

相手も必死、こちらもこの勝負を投げ出す気はない。彼女のどこが人形だ。正真正銘、血の通った人間だ。それもこんなにも熱い心を持った。

「なっ…!?無茶苦茶な…!!」

だがそれは正しい判断だ。あのままあそこで手をこまねいていれば間違いなくこちらのペースへと嵌められていた。
あの歳でこんなに大胆な判断ができ、それを実行する度胸もある。まさに逸材、こんなものが今まで埋もれていたなんて。

ここから先は小細工無用、全力であの拳に応えよう。振るわれるは黒鎧の拳、恐らく威力はさきほどと段違い。まともに応えればこちらの腕が壊れてしまう。

「ならば…!」

少女も駈け出す。少しでもあの拳に打ち勝つために、勝つために。
拳を振るう瞬間、少女の腕を炎が包む。それはブースターの役割を果たし、拳の威力が爆発的に上昇する。

接敵まで後数秒、いやもう秒もない。この僅かな時間で勝負は決まる。
決して逃げない少女へと敬意を払い、全力で。
力と力が交差するその刹那、それで恐らく勝負は決まる――――
345 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/13(水) 22:56:45.30 ID:o9qEUDta0
>>344
一歩も引かない能力者の白い少女と、魔術師の竜。どちらも相当な猛者に違いない。
互いの左腕は空気の唸りを伴いながらも激突する。
再び、能力と魔術は力を伴って正面からぶつかった。
死力を尽くした結果だろうか、その衝突は先ほどよりも激しいものとなった。

公園周辺の街灯は大気の振動で割れ、辺りは暗闇となる。
それほど激しい、目が眩むような『力』のぶつかり合い。
意地と意地。能力者と魔術師。能力者と魔術師が相対する以上、このような結果になるのは当然なのかもしれない。

――――――拳がぶつかり合う中、白い少女は竜の鱗を砕けないことを悟った。

脚と腰の強化は、そのまま威力の増大に直結する。
白い少女は、踏ん張って衝撃に耐えようとする。
不利なのは間違いなく白い少女のほうだ。

しかし、白い少女には意地がある。
他の能力ならいいとまではいけないが、敗北することは許容できる。

しかし単純な力のぶつけ合いでは負けたくなかった、殴り合いでは負けたくなかった。
白い少女の表情からは、ついに仮面が外れた。本人も意識していないが、その怒りの眼光は鋭く、追い詰められた獣を思わせる。

白い少女の本音の表情を引き出すことに成功した存在は、幼馴染と下僕の少年に続いて三人目だった。

「私は―――――――力比べにだけは負ける訳にはいきません!」

白い少女は脚を踏ん張り両者の左手が激突する中、ゆっくりと黒い右手を動かす。
衝撃の中心は魔術のと科学の『力』で充満しており、右腕を近づけることすら危険だった。
右腕が使えなくなる可能性がある、それでも引けない。力だけは誰にも負けたくない、強い覚悟。

トン、と軽い音がして。黒い右手は左手の威力を強める。
部分的な身体強化の強み。当てるだけで、威力は少しだが確かに増加した。

「私の手よ、竜の鱗を砕きなさい。命令ですわ!」

他人にも自分にも厳しい少女は必死の形相で自身に命令する。
こんな時にも関わらず白い少女の奥底にあるのはプライドと傲慢の塊であった。
人は笑うかもしれないが、だからこそ陽愛白。権力者として相応しいエゴを、白い少女は押し通す。

脚と腰が限界を超えながらも少女は両腕に力を込め続け――――

――――――また、吹き飛ばされた。ゴロゴロと少女は転がり止る。

今度は立ち上がることすら時間がかかる。
両腕に力も入らない。相手が戦闘可能なら、この状況は敗北だろう。

さて竜の鎧は、砕けただろうか?
346 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/13(水) 23:43:10.37 ID:uylNeO870
>>345

引く気など毛頭無い。ここでこの対決に白黒付ける。
空間が悲鳴を上げ、空気を揺らす。
どちらにも軍配は上がらない、拮抗した状態でまた再び力の押し合いが始まる。それはさきほどのものなど比ではない。

辺りが闇に覆われる、だが大した問題ではない。必要なのはこの身体だけ、それだけで十分。
これほどの純粋な戦いは、もしかすれば初めてかもしれない。

このまま行けば押し勝てる、やはり元のスペックが違うのか。こちらは竜の力を持っている、つまりは人外で元々の力が違う。
むしろそれと互角に戦っている彼女の方が凄いのだ、それも力勝負でだ。普通ならば有り得ない。
がそれもここまで、次で終わらせ――――

「……!!」

白の少女の顔には、先のような仮面ではない言わば獣を感じさせる表情となっていた。
油断をすれば"喰われる"
そんな気迫さえ感じさせる少女、まだ何かするつもりだ。

瞬間、我の目を疑った。なんと少女は、その右手を動かし左手の威力を高めるといった危険行為に出たのだ。
下手をすれば右手を失いかねない危険な行為、このエネルギーの奔流に飲まれれば確実に使い物にならなくなる。それでもこの少女は勝ちを選んだ、負けたくないと思ったのだ。

少女のそんな命令、それは勝ちたいという意思の表れ。プライドと傲慢さで塗り固められた彼女らしさ。
それはとても彼女らしく、素晴らしいものだった。

「くあッ…!!!」

少女と同時に吹き飛ばされる。そして同時に限界を迎えた、身体の竜化は完全に解け元の小さな女の子の姿へと戻っていく。
身体を起き上がらせることができない。それほど激しいダメージを負ったということか。
竜の鎧を砕くという神話染みた言葉ではあるが、それはきっちり達成されたようだ。
347 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/14(木) 00:05:51.38 ID:2fDX6wo40
>>346
白い少女は、立ちあがることを数瞬躊躇うも、時間を掛けてゆっくりと立ち上がる。
ここで立ち上がらないのは、単なる侮辱でしかないだろう。
人が龍を倒すという神話の再現とも言える光景。

しかし陽愛白という少女の中では達成感と共に、複雑な感情が渦巻いている。
本来ならいつものように仮面の笑顔で勝利の高笑いでもあげるかもしれない。
しかし仮面を捨て去った少女のその表情に表れたのは、達成感とソレスという少女に対する敬意だった。

勝者が敗者に掛ける言葉などない、と思いつつも。気が付けば言葉が口から出てくる。

「ありがとうございました」

どうして礼なんて言うのだろう?白い少女はそれが分からなかった。いつもの嗜虐心が欠片も浮かばない。
言葉にできない様々な熱い思いが胸に込み上げて来る。白い少女は自身の感情が理解できない。
そこらへんの感情表現の不足さはソレス曰くまだまだ子供、なのだろう。

ただ一つ分かることは、白い少女にとってはとても大切な、己の下僕と過ごすような時間だったということ。
魔術師そのものが本来憎んでいた相手のはずなのに。我慢して交渉の場に赴いたはずなのに。
陽愛白の心の中に、ソレスという魔術師の名前は確かに刻まれた。

そして礼を言った白い少女も、また静かに倒れる。

お互いが改めて魔女狩りについて話すことができたのは、数時間後の話だった。

//戦闘ロール有難う御座いました!二日間お疲れ様でした!
348 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/14(木) 20:12:00.01 ID:G2f43tZB0
>>347

身体の奥が妙な達成感に満たされる、そうだ忘れていた。
この胸の鼓動を、高鳴りを。今までの自分にはまるで牙が欠けていた。いつから抜け落ちたのだろう、どうして今まで気が付かなかったのだろう。

「かっかっかっ!!そうさなぁ…!やはりこうでないとのう!」

今までの自分の愚かさに思わず笑ってしまう。原点回帰だ、まずはやりたいことをやろう。
今やりたいこと、そんなものもう分かっている。

"この少女への協力"

魔女狩りという組織の壊滅だ、魔術師が動きやすくなるといったものには興味はない。
ただこの少女が言うのならば協力しよう、この竜の力を存分に振るい、それらを力で蹂躙しよう。死ぬつもりなど毛頭無い。
何が[ピーーー]ばそれまでだ、最後まで意地汚く生き残ってやる。

だがその前に――――

「少し……眠りにつこう………」

流石に体力が尽きた、身体がまるで動かない。
瞼が重くなり、勝手に降りて意識が落ちる。この話は次目が覚めたときでもいいだろう――――

今はただ眠りたい、あぁ何時ぞやのラーメンが恋しい……
そこでふと、今までの自分の生活を振り返りホロリと涙を流す少女なのであった。

//戦闘ロール楽しかったです!お付き合い頂きありがとうございました!!
349 :緒里谷依織 箕輪宙 ◆oEVkC4b3dI :2016/04/16(土) 18:47:08.97 ID:wfRSZWF60

夜の学園都市、日が沈んで尚眠りには程遠い街は、若い学生たちの熱気で春の風を滾らせる。
繁華街にほど近い通り、モールのそびえる馬鹿でかいネオン。色とりどりの広告が彩るその上、時事ニュースを載せる一端へ赤い電光文字が流れ出た。

“引ったくり事件発生 付近の風紀委員は警戒体制に移行せよ”

それを人々が見上げるよりも早く、バンッ と戸が開き、とある駐在所から影が飛び出してくる。
数は二つ、風紀委員のバッジを襟に付けた正規の、正義の所属者たち。

片や上から下まで学ランに身を包んだ少女、片やセミフォーマルなスーツを着こなすやや大人びた少女。
発する雰囲気こそ異なるものの、共通して背伸びした感のある恰好、そして険のある鋭い目付きとつば付きの帽子。それらを互いにがつがつと突き合わせて並走する。
普段人が通らない、未舗装の凸凹したアスファルト。餓狼のような二人は肩を並べて走り抜ける――――端々に言葉を並べながら。

「こっちから行った方が早いでしょう」 「いや、絶対こっちだね」
「そんなオカルティックな検索法は当てになりません」 「依織だってこないだ地図アプリ逆に見てたじゃん」

手にしているのはそれぞれスマートフォンとシティマップ雑誌。普段から持ち歩いていると見え、使い込まれた地区長を其処此処に散見させながら。
反対の手にも各々自信のある探索グッズを握りしめ、序でに指差す方向は見事に真逆を示している。

「じゃあ」 「じゃあ」

お互いよく知っている事だが、こうなってしまうと両者一歩も退く事はない。
プライドや手段の問題ではない。お互いの本質に関わる琴線。故に、両者は佇んで凛とその眼を睥睨する。


「「私は(ぼくは)こっちから(行きます)」」

学ラン少女――――緒里谷依織は右の暗い道を。
スーツ姿の――――箕輪宙は左の明るい街道を。
お互いそっぽを向きながらも、その背に一つ親指を立てて。青臭い祈念はいつもの遣り取り。
携帯無線の電源をオンにしながら、それぞれの道を走り始める。明と暗、一度別れども、いずれも正面を見据えて、付近に気を配る余裕はなかった。


/2キャラ出ていますが、どちらに絡んでもらっても大丈夫です
/両方御所望であれば一応それも対応可能です
350 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/16(土) 21:01:29.96 ID:Jfde9RQK0
>>349
今日もふらふら制服で街を歩く少年が一人。彼の細い瞳はどこを見ているのか分からない。
彼は相変わらず迷子になりかけていた。
ひったくり犯に注意という文字も当然見ておらず、彼の意識はどこにあるのかも知れない。
人や障害物等は体が勝手に避けてくれるし、信号は守っているのだが……

勿論呆けているために走ってくる人間に対応できるものではない。
明るくない道だということもあっただろう。

緒里谷依織が走る線上に直線上にふらふらと入り。
その結果、衝突してしまうのであった。
転んだ大木は、慌てて立ち上がってぶつかった相手の様子を確認する。
困っている人間を助けたいと思っているのに、自らがその原因となっては元も子がない。

「ごめんなさい、大丈夫?」

勿論相手が風紀委員だと知れば、大木はさらに萎縮する様子を見せることだろう。
風紀委員は学園都市を守る存在であり、学園都市に恩返しをしたい大木にとっての憧れなのだ。
351 :緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/16(土) 21:31:14.27 ID:wfRSZWF60
>>350

画面と前を交互に確かめる依織に、周囲への気配りは些か欠ける。
普段から他者への配慮があるとは言い難いものの、それでも誰かと肩をぶつける様な粗雑まではないのだが――――

「あぁっ!」

不意に左胸辺りに強い衝撃を受けて、背中から地に倒れ込む。体格で劣る依織に他者の道を阻む力など有る訳がない。
走ってきた勢いのまま、こけるばかりかころりと転がって帽子を落とす。序でに両手の中の物体たちも飛んでいった。

「いえ、こちらこそ不注意で……」

仕事中と言えど、自らに落ち度がない訳ではない。勝気な依織には珍しく転がったまま頭を下げる。目を白黒させ、乱れた髪を掻き上げる様は、その時だけは高校に上がったばかりの年相応な姿であろう。
膝を着きながら、スマホを手探りで探す。画面の明かりを頼りに求めようとするが、思ったより足元は見え辛い。
それもそのはず女の臀部の下――正確にはその辺りに付けていたホルダーの下敷きとなって、大事な携帯は敢え無く骸となった。
それにまだ気づかないまま、もう一つの落とし物――――銀に輝く野球大の鉄球は、相手の足元近くに転がっていた。
352 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/16(土) 21:35:27.92 ID:B+ppKwMEo
「………チッ」

暗い路地裏は冷たい闇の静寂に包まれ、真黒な空気に静かな舌打ちが染み渡る。
忌々しげに彼が睨んだのは建物に囲まれた狭い空、檻の様に窮屈な路地から見た夜空は、街の光に飲まれて鈍く光る星が輝いていた。
こんな空を見て何を思うと言うのだろうか、少なくとも彼は何も思わないし、こんな星を見て綺麗だの何だのと言う人間がいるという事実すら気に食わなかった。

苛立ちに理由は無く、己の胸の奥からふつふつと湧き出る海底火山のガスの様にとめど無く溢れ出す。
何か、誰かが眼に着けば即座に因縁を付けて噛み付きたい、善人だろうと悪人だろうと、滅茶苦茶にぶち壊してやりたい、そんな気分だ。

「…クソが……あーイラつくぜ…!」

口に咥えた煙草から幾らニコチンを摂取しても焼け石に水、甘ったるい香りの煙を燻らせながら、地面に八つ当たりするように足踏みをした。
こんなに自分がイラついているのに、こんなき不幸せな気分なのに、きっと今この瞬間も幸せを感じている人間がいる、それは何とも不公平ではないか、そんな不公平は許されていいものか。
だとすればこの怒りは正当だ、次に目の前に出て来た奴をブン殴ってもいいだろう?
353 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/16(土) 21:53:09.62 ID:Jfde9RQK0
>>351
大木には転んだ少女……髪型からは判別がつかないがたぶん少女だ、に対する罪悪感しかない。
普段でもそうなのに、相手が風紀委員の腕章を付けていることに気づいたのだから当然だろう。

「本当にすみません、これを使います!」

自然と言葉遣いも敬語となる。真っ青な大木だが、ここで慌てた所で二次災害を引き起こすだけだと自分に言い聞かせた。
彼のバッグには遭難用の道具が色々あるのだ。大木はその中の一つ、小型の懐中電灯を取り出した。
懐中電灯で照らされた大木の足元には、少女のものであろう鉄球が転がっている。
大木はそれを少女に差し出した。

「あなたのですよね、それでは両方悪いってことで……!?」

少女の足元を照らし、大木が見つけたのは壊れたスマホ。
風紀委員のスマホをぶち壊した少年ということで、この時点で大木の罪悪感は益々募っていく。
とは言え両方悪い、ということは大木が口にしたばかりである。ここでもう一度謝るべきかどうか。

「ええと、風紀委員さんにはいつも助けられていて感謝してます、頑張って下さい」

正直引ったくり犯ぐらいなら追いかけたいという気持ちはある。
しかし風紀委員は警察に相当する治安組織であり、大木が能力者とはいえ協力したところで
本職を邪魔するだけになる可能性が高い。飛び道具を持っているなら尚更だろう。大木の能力は避けることしかできない。
だから大木は、真剣に感謝の言葉だけを伝えた。これ以上風紀委員という尊敬している存在を邪魔しないように。
354 :緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/16(土) 22:43:48.73 ID:wfRSZWF60
>>353

パッと点る灯りに闇に慣れた少女の眼は細められる。
眩んだ視界を手で翳し、尻で後ずさると手に当たる感触。男の焦る眼差しを頼りに、目線を向けると、そこには件の探し物“だった”其れ。
ふっと依織の表情が消える。無言で立ち上がったその手に、鉄球が男の手を離れて宙を飛び、持ち主の手中へ戻った。

「…………では、協力を」


「これの分だけ、向こう町の表通りまで。 なるべく最短距離をお願いします」

風紀委員ながら依織自身は街の機微に聡くない。なればこそ機器に頼り近道を探していたのだが、その手段はたった今断たれた。
この男は今しがた向こうから歩いてきたはず。ならば自分よりは道筋に通じているはずだと。
壊れて転がる携帯を示し、磁力操作を用いて取り戻した掌で道の向こう指しながら、傲岸に男の上背を見上げる。
355 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/16(土) 23:08:07.41 ID:Jfde9RQK0
>>354
「分かりました、できることをします。スマホの分は体で払いますよ」

大木自身は迷惑になると考えてしまったようだが、風紀委員の少女が道に疎いのなら是非もない。
というよりも、実はこの言葉が一番大木にとって嬉しいことなのだ。
風紀委員の役に立てるのならば学園都市の役に立つということ。それは大木にとっては二重の意味で美味しい。
大木が臆病故に自分が迷惑になると考えてしまったのも原因の一つなだけで、大木は不謹慎だが少し口角を上げる。

「最短距離ですね、ここらへんは詳しいので分かりますよ――――走りましょう」

大木は一度大きく頷くと、先導するように走り出した。
方向音痴な大木だが、最近それが解消されつつある。
最大の要因は路地裏でわざと不良に追い掛け回されていることであり。
殺人鬼の少女を風紀委員の所に連れてこなければならない、という強迫観念のようなものが在る為である。
他にも教会に行かなければならないという用事ができた。最低限その為に、地理に強くならなければならない。

「逃げる人間の心理は、よく分かっています。お役には立てるでしょう」

先導して走りながら、大木はよくないと思いつつも気分が高揚していた。
臆病だからこそ、分かることがある。人を助けるというのは本当に良いことだ。

さて引ったくり犯は見つかるだろうか、大木は走りながら風紀委員の少女と共に細い目を鋭くする。
356 :緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/16(土) 23:38:04.89 ID:wfRSZWF60
>>355

頼みを渋るようなら勝手にするまでだったが、快諾されれば是非もない。そのうえ言い出すまでも無く歩みを急かす辺り、こちらの事情にも通じている。
どうも一般より詳しいというか。初めは多少の苛立ち混じりもあったが、思ったより優秀な人材なのかもしれない。

言われるがまま男の背を追い始める。普段から訓練しているが、歩幅の差で少し離されがちの距離。
片手に抱えていてはバランスがとりにくい。持っていた鉄球をホルダーに戻そうとして。
それまでは男の自信ありげな言葉を半分流していたが――――最後の其れは聞き咎めざるを得ない。

「それは自白ですか?」

逃げる心理が分かるという言い分がどこまでの意味か、ぼそりと呟いた声はワントーン低い。
背を睨むのは冗談のようで本気の眼である。尤も元々目付きだけでは判断されにくいのだが。
少しでも言葉を違えば対象とみなしてしまう。仕舞い掛けた鉄球をそっと掲げる。後ろめたい事があるなら引ったくりとは別件で問い詰めるのも吝かではなかった。
357 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/16(土) 23:59:13.24 ID:Jfde9RQK0
>>356
目的地までの最短距離ははっきり分かる。
人を助けることができるという高揚感はあるが、それは引ったくり犯に近づくということである。
大木は臆病故に、段々落ちついてゆく。逮捕は背後の風紀委員に任せればよい。元々大木は攻撃的な性格でもない。
犯罪者に恨まれるようなリスクは避けるべきだ、自分は協力者でよいと考え直す。
この少年は自分の保身に関しては、驚くほど敏感だった。

だからこそ、背後の殺気には敏感だった。敬語も忘れて慌てて言葉を返す。

「自分の能力とか、狂気からとかから逃げ続けただけだよ。俺は大木陸、能力登録してるデータベースを見たら納得してくれると思う」

大木陸、で検索すれば分かるはずである。大木の能力が狂気と隣り合わせのことが。
逃避したくなるのも仕方ない、それが大木の能力。しかし犯罪は犯していない。
わざと不良に追い掛け回されているとはいえ被害者である。
こほん、と大木は咳を出す。これじゃ余計に怪しい。

「人を解体している殺人鬼、夜狂の悪鬼の正体については数日前風紀委員には話しました。お咎めはなかったと思いますが」

たしか散々事情聴取に付き合わされ疲れた記憶がある。
殺されたくなかったと言って納得してもらったはず。実際殺人を手伝ってもいない。彼女に殺されたくないから媚を売っただけ。
罪悪感はあるが早く逮捕してほしいと思うのは大木も同じである。彼女は小学生ぐらいで、情状酌量の余地はある。
358 :緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/17(日) 00:41:34.61 ID:1+88Kfwc0
>>357

「あぁ、その事件の関係者だったのですね。 失念していました」

男の懸命な言葉を聞いて、少女の緊張は少しだけ収まったようだった。
何を隠そう、異常な殺人鬼の容姿や性質を一緒に特定した案件としてその界隈では話題となっている。
依織も同僚の友人と共にその内容を幾度か目を通したものだ。ただ、その情報の提供者の特徴までは頭に入れていなかった。
前半の良い訳だけなら眉を顰めていたが、夜狂の悪鬼の名を耳にして、漸く警戒の手を降ろす。

「よく機転を利かせましたね」

大木陸、とその名を検索しようとして、端末はスマホごと御釈迦になったのを思い出す。
とはいえ一般の彼が異常者と相対して生き延びただけでなく、こうして今なお風紀委員に協力までしている。
運は悪いが内には秘めた芯の強さがあるのだろう。それを察して少女には珍しく、不器用ながら労りの響きがその言葉にあった。

――――と、通りの向こうで女性の声と野太い罵声が響く。
十中八九、件の犯人が関係しているのだろう。唇を引き締め、眦をきりりと持ち上げる。
走るのを止めれば男の前に出て、後ろ手に動きを制するだろう。犯人がどうなるにせよ、一般人がいる以上すぐに終わらせる。
359 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/17(日) 01:07:10.69 ID:rTT5gqN10
>>358
「まあ、警戒してるのは多めに見て下さいよ。私も被害者の死体を目にして参ってるので……現実逃避したくもなります」

風紀委員が彼女を逮捕してくれれば大木も苦しむ必要はない。
いや、苦しむだろう。彼女は大木の迷子を救った恩人でもあるのだから。
しかし守りたいものが多すぎるのだ。殺人鬼が今も裏で暗躍しているのは大木のせいだと、そう思っている。
あの少女が大木を案内したまま血まみれで人通りに出た可能性。
実際の所はどうだったのだろう。子供は悪意に敏感だ、大木の悪意を見抜いて逃げたかもしれない。

―――――いや、これは逃げだ。あの少女は大木が無駄な罪悪感を発揮しなければ捕まっていた。被害者も増えることはなかった。

これは確信があった。そうだろう、だからこそ大木は今も苦しんでいるのだ。
大木は敵からは逃げても自分の感情からは逃げない。それは良い事だが、同時に悪いことでもある。

「死ななかっただけでよし、と思っていますよ」

口ではそう言いつつも大木は風紀委員が捕まえることができなければ、あの殺人鬼の少女をどうにかするのは自分だと思っていた。
最悪彼女に自分を解体するように仕向け、つかず離れずで風紀委員のもとに連れて行く覚悟。

眼前の風紀委員の少女はそれを見抜けるだろうか。大木の芯にある内に秘めた危うさに。
少なくとも、これは大木のような正義感の強いだけの、荒事に慣れていない一般人がやることでは決してないだろう。
よく見ると大木の肌には所々包帯が巻かれている。殺人鬼の少女に刃物で攻撃されたとき、能力精度を上げるためのものだ。
わざと不良に襲わせている原因。彼の覚悟は相当のものだ。

「後は頼みます、恨みを買いたくありませんから。スマホの分はこれでいいですか?……無理でしたら少しなら弁償します」

大木は後退した。荒事は基本的にごめんである。人の恨みの怖さを、大木はよく知っている。
間違いなく借りは果たしただろう。
360 :緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/17(日) 01:41:30.96 ID:1+88Kfwc0
>>359

「ええ十分――――」

後ずさる彼に頷く。今までで一番近い距離。
肩越しに見上げた際、絡んだ視線が一瞬揺らぎを見せた。

「……いえ、あと少しですかね」

――結局、女の手の中の鉄球はその真価を発揮する事は無かった。
見上げた先には、街灯へ宙吊りにされる小柄な男の姿。胸の無線からは「確保完了ー」、と仕事の終わりを告げる同僚の声がする。
男に背を向けたまま、鉄球を後ろ手に放った。

「今度、私の支部に顔を出してください。 話は、またいずれ」

礼を言わぬは不遜であったが、依織の眼も全くの節穴ではない。警戒していると嘯く人間が、身体にあれだけの傷を作るだろうか。彼の包帯姿は嫌でもその懸念を抱かせるのは十分だった。
図らずも今回は巻き込む形となってしまったが、彼がこれ以上“異常”に関わらないに越したことはない。その為にも一度大木陸という人間を見極める必要があると。
携帯の番号でも交換しようかと思ったが、肝心のスマホは来た道でガラクタと化している。彼が風紀委員に特別な想いを抱くというなら、より確実な方法を狙って。
『ORIGAYA』とご丁寧に刻印された銀色の球は手錠代わりの楔。ふわふわと中空を彷徨った後、再度男の手に戻るだろう。無論、捨てるも拾うも相手の自由だが。
最後に自分の部署の場所を告げ、今度こそ依織は帽子も取らず会釈混じりに離れ。
大通りの向こう側で得意げに手を振る同僚に、彼女にだけ分かるうんざり顔で足を進めるのであった。


/この辺りで〆でしょうか、お疲れ様でした!
/遅レスで申し訳ありません、またお相手下されば幸いです
361 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/17(日) 02:39:16.95 ID:rTT5gqN10
>>360
「貴方が逮捕することはできませんでしたか、残念です」

結局、眼前の風紀委員の少女という困っている人を助けることはできなかったようだ。
それどころかスマホを壊す始末。本当に残念である。大木は心から悲しんでいた。
自分の行動が役に立たなかったことばかりでなく、マイナスになってしまったことが一番悲しい。
大木にぶつからなければこの少女が逮捕できたかもしれないのに。
とはいえ学園都市を愛している大木にとっては引ったくりが捕まったことは嬉しい。
大木は善良な少年である。ここは素直に喜ぼうと前向きだった。

「えっと、自己紹介ですか。緒里谷さんですね。今度伺いますね!」

銀色の球を受け取ると、大木は笑顔でぺこりと礼をして溜息をつく。お礼ぐらい言ってもいいのにとも思うが
風紀委員という物騒な仕事をしている以上仕方がないだろう。気が立っているのかもしれない。
しかもスマホという思い出代わりのものを壊したのは自分である。そりゃこんな態度も取られるなあ、と大木はとぼとぼと歩く。
その背中には哀愁が漂っていた。

「緒里谷さんの支部……行ってみよう。何か分かるかもしれない。自然に他の風紀委員の様子も観察できるかもしれないし」

問いただされた所で問題はない。大木は誰かを傷つけていない。これから傷つけるつもりはない。殺人鬼の少女も、不良もだ。
第一の策は以前と同じように、血まみれとまではいかずとも証拠を残したまま逢坂胡桃を公の場に連れ出す。
第二の策は逢坂胡桃に大木自身を解体させるぐらい興味を持たせ、能力を駆使して避けながら風紀委員の場所に連れて行くもの。
大木が今している覚悟は戦う覚悟とは正反対のもの、逃げる覚悟である。
炎の種類はいずもという番町の少女と同じもの。学園都市を守りたいという意思。
違うのは、彼女は殴り倒して治安を維持するが大木は逃げてその先の治安組織にどうにかしてもらう、ということ。

――――――――つまり、この大木という少年は逮捕されることがない。

そう、罪をこれから犯すわけでもないのだから止めようがない。
治安組織は誰かの殺害や傷害は止める権利がある。
しかし誰かが自殺する権利や自傷する権利は止めようがない。この少年の行動を止める方法は緒里谷には、風紀委員にはない。

「風紀委員の見回りの巡回路、緒里谷さんはスマホに頼っていた。やはり順路はある程度決まってる。他の風紀委員の見回り場所は……」

地図を片手にぶつぶつと独り言で考え出す大木。地図には細かく線があり
何時に風紀委員の見回りはここらへん、何時にここらへんと時間が書かれている。
大木は放課後学園都市のあちこちを彷徨っている分、風紀委員の夜間の見回りに出くわすことが多い。
誘拐事件や殺人事件など最近は物騒であるためか、浅く広く風紀委員の見回りはある程度のパターンで行われている。
歩いて地道に確かめた結果は無駄ではない。完全に同じなわけではないが
ここに行けば出会える可能性が高いという場所は、大木の脳内で絞られつつあった。彼の計画は順調なようである。

//ありがとうございました!風紀委員さんとロールできて良かったです!
362 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/17(日) 20:17:35.24 ID:1+88Kfwc0

学園都市にも春が来る。各校の入学式も一頻り滞りなく執り行われ、新入生らを歓迎していた桜たちもおおよそ地面の絨毯と散った。
ぽかぽかと温かい晴れやかな一日も終わりに近づき、西日が地平線を跨ぎ始める頃。
学校管轄ながら、市民も利用可能のオープンな雰囲気のとある体育館。普段は中高生が部活に勤しむ其処は、新年度の入れ替わりの隙を突いたかの如くしんと静寂に包まれている。
何時もより広く感じられる中央付近には、現在二人の少女がいた。

「昨日はお手柄でしたね」 「まあね。 犯人、かなり目立ってたし」  

年齢は高校生辺りか、中肉中背で服装は学校指定のジャージとバッシュ。
眼鏡に髪を御団子に結った方の少女は、裾からシャツを出し、上着の前を開いて開放的に。
対してボブカットをヘアピンで留めただけの少女は、首元まできっちり留めて極端に露出が少ない。
それぞれ胸元には“箕輪”、“緒里谷”と刺繍されていた。

「そういや依織は何してたの?」 「……ちょっと、迷子の案内を」

弾みがちなのを抑えて囁くような声でも、体育館にはよく会話が響く。
雑談混じりの二人が何をしているのかというと、背中合わせに腕を絡めたまま相手の背に体重を預けたり、前屈の姿勢で後ろからゆっくり押してもらったり、両手を繋いだままお互い同じ方向を向いてぐーっ と引っ張り合ったり。
いわゆる二人組のストレッチをしているのだ。

「ではそろそろ」 「やりますか」

身体解しも一段落し、最後に屈伸して離れ、バスケットコートの中央で対峙する両者。彼我の距離はおよそ2m。
宙はにこにこと真正面に、依織はむっつりと伏し目がちに一礼。しかしどちらも右足を引いての構えは同じ。前の左手は開掌のまま顔の前に、右手は緩く握って腰溜めに落ち着ける。
しぃん――と無音。どちらも口を開かぬまま眼差しだけが徐々に鋭さを増していく。やがて、摺り足で同時に一歩――――

「「ッ、」」

ピリリリリ――――。緊張を破る、無機質な着信音。
風紀委員会支給のプリペイド式携帯の初期設定のままの其れは、几帳面に畳まれ、コートの端に置かれた依織の学ランからであった。
機先を逃した宙は勿論、依織も珍しく目を丸くしている。

「他の仕事は片づけてきた筈なんですが……」

気を取り直して、訝しそうに、鳴り続ける着信を取りに行く依織。ポケットから取り出し二言三言応答、そのままの足で体育館の入口まで歩いていく。
恐らく警邏などの通常業務とは別の案件なのだろう。となると暫くは待たされるかもしれない。はぁ、と独り溜息をつく宙。バスケットゴールにぶら下がり、洗濯物の真似をしてみる。

二人の風紀委員が鍵を借りて貸し切った体育館。外に通じる共通玄関は、依織が出て行ったまま解放されている。
夕風と共に時折聞こえてくる通話の端々。それを聞きながら手持無沙汰手に足をぶらつかせる宙は、そのまま行けば別の意味で一服しかねない勢いだった。


/2キャラ出ていますが、どちらに絡んでもらっても大丈夫です
/両方御所望であれば一応それも対応可能です
363 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/18(月) 21:09:17.28 ID:DUzUCyaF0
/>>362でまだ募集しています
/絡みにくいとか、シチュエーションの要望等あれば遠慮なくどうぞです
364 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/04/18(月) 22:00:34.46 ID:GYCanblQ0
>>362
「─────はっはっは!!
なぁんか面白そうなことやってんじゃん?」

学園都市に風紀委員という公式な役職が存在するならば、風紀を壊す存在もまた必然として存在する。
箕輪や緒里谷の様に、その少女は胸元に刺繍がある訳でもない。───否、”必要がない”。
特に風紀委員である箕輪と緒里谷の場合にはこれが十分に当てはまるのである。
貸し切られた体育館にずかずかと入り込み、風紀委員のプライベート風紀でさえもぶち壊す学ラン番長。
洗濯物の如くぶら下がる箕輪の前に立ったのはそんな少女だった。

───名を、高天原いずも。
風紀委員の要注意監視対象にして、無邪気なる器物損壊の申し子である。

「はっは!はろー!風紀委員サマ!!
オレの事ぁご存知だよな?宙ぶらりんのソラちゃんよぉ!!」

人差し指と中指を立てた右手を、挨拶の合図として自らの額に持ってきた。
ちなみにすれ違いだったのか、通話中のもう一人の風紀委員の存在にはまだ気づいていない様子。

//曖昧に知り合ってる感じにさせていただきました…!
どれくらい知ってるか、お二方がこいつをどんなふうに捉えてるかはお任せ致します!!




365 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/18(月) 22:46:56.32 ID:DUzUCyaF0
>>364

日中の陽気が夕風と混ざって心地よく髪を撫でる。ふわ と漏れかけた欠伸を解放しようとした時、不意をつかれて咽かけた。
半目になっていた目で片手を放せば、180°旋転した視界には大胆に前開きの学ラン。
じわじわと熱を持ち始めたを反対の手を放すと、爪先がとんとコートに着いた。

「やっほ、番長さん。 そりゃまあ、いろいろ有名だからね」

曰く、歩く器物損壊だとか、学ランを着た台風だとか、ロケット娘だとか。
直接関わった事こそ少ないものの、風紀委員の中では彼女に関わる案件では枚挙に暇がない。
支部の同僚たちがご厄介になった話の端々を聞けば、番長の業績も想像がつく。にも関わらず、ゴールの下で宙はふりふりと気前よく掌であいさつした。

貸切と言えど、なにもお金を払って体育館を使っている訳ではない。他の人が入ってくれば相方はともかく自分は快くコートを譲るつもりではあったが。
ただこういうタイプが此処に押し入ってまで風紀委員(じぶん)に話し掛けてくるとは思わなかった。
まあいい、気にしないという風にポケットからライターを取り出し、シガレットに火をつける。寧ろ気にすべきは自分の方だろうに。
366 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/04/18(月) 23:16:34.48 ID:GYCanblQ0
>>365
「いやぁ……オレも悪い意味で有名になるつもりはねぇんだけどよ?
能力が能力だからな!しょーがねぇ!うはは!」

右手を開いて、そして閉じる。簡単な動作ではあるがそれだけで彼女の右拳からは弾ける様な音がした。
触れた対象との間に爆発を起こす能力。自制もあまり上手くいかない不器用な馬鹿力な異能である。
つまり、言い分としては「だいたい能力が悪い。」

箕輪がどう感じているかは別として、この少女に関しては”風紀委員”には敵対心は抱いていない。
迷惑をかけて申し訳ない、と思いつつも、むしろその迷惑かけるのを楽しんでいる節もある。

そして次にいずもは箕輪の行動に目を丸くすることとなった。───いや、なんとなく知ってはいたのだが。

「えっと………いちおう聞いとくんだけど…?
────ソラちゃん、お前何歳だっけ?」

しかもお前は風紀委員だろ、という言葉はまず一旦抑えて追撃に使うために温存するとして。
聞いても無駄であろう質問を、それこそ一応問いかけた。
367 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/18(月) 23:36:50.27 ID:DUzUCyaF0
>>366

宙に一般常識が欠けている訳ではない。幼少期の悪ふざけが斯うした歪みとして、今もニコチン依存症の形で続いているだけだ。
それでもやめようとしないところも風紀委員という組織からすれば模範生とは言い難いが、そんな生徒で受け入れるあたり学園都市は懐が広いというべきか。
破裂音に無言の同意と肩を竦める。口先に点った灯りが、少し輝きを増して驚きを表し、そして唇から離れた。

「ふぅん、番長さんそんなの気にするタイプなんだ。 意外と小心者?」

彼女の豪快磊落な性格や取り巻きから推察して、今更未成年云々を気にするタイプには見えなかったが。
宙からすれば、そも不良とはアウトローをひた走る集団という前提があるために質問自体が意外だったと言えよう。
因みに15だよ、と呟きつつ指で挟んだ携帯灰皿に火の粉を落として――――と、丸くしていた目が入口の方へ揺れる。電話を終えた依織が帰ってきたのだ。
しかし、どういう訳か下駄箱を過ぎた辺りで、足を止めこちらを窺っている。――――まあ、相方の性質からして、凡その察しはつくが。
とはいえ割って入る程でもないという判断か、呼ばれもしない限りそれ以上行く気配はない。腕を組んで無言で扉に凭れ。顰め面で首を振っているのは、どちらかと言えば宙の行為の方へ、であろう。
368 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/19(火) 00:01:19.03 ID:aGhiELp60
>>367

「バっ……バカいえっ!!
ぉ……オレだって煙草くらい吸うってんだ!」

───勿論、その言葉は虚偽である。
確かにその少女は『番長』を成しているといえど、その本質はやはりただの少女であったりする。
豪快さは磨いたし、性格も無理矢理にでも捻じ曲げた。……だが、やはり勇気は伴わなかったか。
番長として、割と痛いところを箕輪につかれた彼女はバツが悪そうに視線をそらして頭を掻いた。
彼女の年齢に対しては「オレより下かよ…」とどこか自身に呆れる様とも、箕輪を呆れるともとれる様な呟きを見せた。

暫くそうして、やがて視線を戻すと、自身に向いていた筈の箕輪の視線が僅かに逸れている。
オレの───後ろ?と、振り返る。

「誰かいるんだろうとは思ったけど…あれ依織ちゃん……か??」

箕輪 宙と同様に風紀委員にして『執行狂』。
学園都市の風紀の為にその身の全てを捧ぐ、まさしく『正義』を体現する少女。
その性質上、強引過ぎる『正義』を体現する高天原いずもと緒里谷 依織は何度かの邂逅を繰り返している。
別にいずもは例によって敵対心を抱きはしないが…より正義感の強い緒里谷はどうだろうか。

「おぉ〜〜い?こっちこいよぉ!てかこのスモーカー止めなくていいのかお前さん!!」
369 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/19(火) 00:24:57.75 ID:2ysMD6eV0
>>368

遠慮のないいずもの呼び声に、肩を竦めて宙もちょいちょいと指を動かす。
はぁ、と一つ溜息をついて、それらを無感動に見たもう一人が動き出した。

「どうも高天原さん、今日も威勢がよろしいですね」

挨拶と云うよりは痛そうに首を曲げたようなだけの依織は、もご と呟いてすぐに宙の方へ向き直る。
真面目というよりかは――堅物。元来とっつきにくい性格をしているが、今はそれを取り繕う装いすらない。
コートの中が二人から三人となり、トライアングルに対峙する。しかし、依織は足を停めず、そのまますぐに宙の横に歩み寄った。

「まったく、いつもいつも……」

右手を掲げると、宙のポケットからジッポが勝手に飛び出し、依織の手中に収まる。
あっ、と元の持ち主が声を上げるも既に遅し。ジッポは金属製である。これ以上喫わないようにと、依織の磁力操作で火種だけ取り上げられてしまう。

「え〜、人前でそういうの、やり方ズルいんじゃない」 「どうせ口で言っても聞かないでしょう、貴女」

不服に口を尖らせる相方をぴしゃりと窘める依織。
目を三角にして怒ってもどこか剽軽な宙に対し、依織は苛立ちだけはすぐに顔に出る。何度したか分からない遣り取りにがしがしと頭を掻いて。


「――体育館内は、禁煙ですので」

番長だろうが自分がいる以上喫煙はさせない、と釘を刺す。てっきり火を借りようと来たのかと勝手な勘違い。どのみちいらぬ心配であったが。
いずもの方を振り向いて、わざわざジッポの蓋を開けて、閉めてみせるのが厭味ったらしい。
370 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/04/19(火) 00:38:53.49 ID:2ysMD6eV0
>>368
/すみません、眠気が迫ってきたので凍結をお願いしてもよろしいでしょうか
/ご都合が悪ければ適当に〆て頂いて大丈夫ですので……
371 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/19(火) 00:45:27.39 ID:aGhiELp60
>>369
「ははは!!番長に威勢がなくてどうするよー!」

そんな堅物さを見せつけられても、やはり高天原いずもという少女はそのままだった。
無表情……いや、何処か怒りの感情を含む緒里谷に対して、少女はやたら賑やかに声を上げる。

────堅物風紀委員と陽気番長。
空気が噛み合ってないのは言うまでもないだろう。

(便利だなー……)


と至極単純なる感想を、二人の喧嘩を見て思い浮かべる番長少女。どちらかというと緒里谷へ、か。
壊すしか能のない番長からすれば、応用力と器用さに長けた彼女の能力はちょっぴり羨ましい。
ポケットに手を突っ込み、近くの壁に背中を委ねつつ微笑ましそうに風紀委員に喧嘩を眺めていた。
─────と、自身に見せつける様にライターを閉める緒里谷が目に映る。
成り行きから大抵の事を察したこの少女は、緒里谷の側で抗議する箕輪に一瞬ジトーっとした視線を送りつつ。

「えっと…依織ちゃん。
オレそこのヘヴィスモーカー風紀委員ほどじゃねぇからな!?
むしろノースモークバンチョーなんだけど!!」
372 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/04/19(火) 00:46:15.77 ID:aGhiELp60
>>370
では一旦凍結でよろしいでしょうか…!返すの遅くて申し訳ないです!
いつでもどうぞー!ひとまずありがとうございました。
373 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/21(木) 20:52:39.80 ID:Upe+4fzF0
>>352

そんな理不尽な怒りが撒き散らされるそこにその少女は辿り着いた。
今日もお母さんの言いつけを守らないと、お母さんが言っていた意味を分からないと。
その檻のような路地にはその少女はあまりに不釣り合いだろう。雨合羽を見にまといその全容は明かされない。だがその背丈は小さく、とても大人や高校生と言った立場とは思えない。

「―――ねぇ、怖いお兄ちゃん。
お兄ちゃんはどうしてそんなに怒ってるの?」

それから発せられたのはまだたどたどしい幼い声。何者にも染まっていない純真無垢な子供。
こんな時間にこんな子供が出歩くとは危険極まりない。なんたってこの街には、殺人鬼が潜んでいるのだから。
だが少女はそれに対する恐怖など微塵もない。殺されるなんて思っていない。だってこの少女がその"殺人鬼"なのだから。

「ねぇねぇ怖いお兄ちゃん、お兄ちゃんはここで何をしてるの?」

その言葉には悪意は微塵も無く、本当にただ疑問に思って聞いているようだった。
しかし、それは少年にとっては一体どう映るだろうか。
374 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/21(木) 21:10:36.10 ID:5DyW/y3xo
>>373
「───あァ?」

声がした、それがどんな声だったとしてもきっと彼は同じ反応を最初に返しただろう、理不尽な怒りの矛先を突き付けるような苛立ち混じりの声で。
しかし、そんな声を待ち侘びていたのも事実、矛先を向ける為の相手が来てくれるのを待っていた、あからさまに危険な人物に接触したのはそっちなのだから自己責任だ、何をされても文句は言えないだろう。

だが、振り向き少女の姿を認めた黒繩は一瞬固まった、目の前にいたのは年端もいかぬ幼い少女だったのだから。
驚いたと言えば驚いた、こんな路地裏に少女がいるなんて、こんな奴に話し掛けてくるなんて、更に言えば───『予想とは違っていた』から。
無垢に思えるその声の中に、確かに暗いものを感じた、この路地裏の闇より真っ暗で深い何かを感じ取れた、そんなものの持ち主と予想していた姿とは、少女の姿は全く違っていたからだ。

「…何もしてねェ……いや、何かしようとしてた」

だが考え違いではない、彼にはわかった、この幼い少女が何を抱いているのかが、真黒なモノをその胸に抱いていると。
どうせロクな奴ではない───そう感じ取った黒繩は、すぐにこうとも思った。

(いいだけヤってんだ、覚悟が無いとは言わせねェぞ)

ニヤリとギザついた歯並びを見せて邪悪に笑った黒繩は、目の前にいる仔猫の皮を被った何者かを見ながら、続けた。

「今から目の前に出て来た奴を、どんなでもいいからブッ殺そうと思ってたンだよ」
375 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/21(木) 21:45:18.68 ID:Upe+4fzF0
>>374

少女の抱くその狂気。きっとそれは収まることはないだろう。それこそ両親と同じくらい大切な人が少女に現れない限り。
しかしそんなことは起こり得ない、人を殺めるという禁忌を犯したその少女に差し伸べられる手などある筈がない。

男を見ても少女は動じる様子はない。むしろさらに興味を示したようにも見える。
普通の人間はこんな見るからに危険な少年に話しかけたりはしない。しかし少女は平然と話しかけてきた。
それがどれだけおかしなことなのか少年は分からない筈がない。
少年の感じたそれは間違いなく正しく、事実この少女の抱えているものは単純な闇。普通の人が持つ筈がない深淵。

「ぶっ殺そう…じゃあ怖いお兄ちゃんは、出会ってすぐに私を殺そうとするの?」

その言葉を聞いた瞬間、雨合羽のフードで隠された暗闇に紅が灯る。
それはどこまでも紅く、そしてどこまでも暗い。

「お兄ちゃんみたいな人、初めて……
私、お兄ちゃんのこと知りたいな、ねぇいいでしょ?」

刹那、少女の身体が地を駆ける。その動きは明らかに子供のそれではなく、一般人が動ける行動を超えている。
能力の補助によって駆け出す少女、その左手にはいつの間にかナイフが逆手に握られていて、それを少年に突き立てようと―――
376 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/21(木) 22:02:17.91 ID:5DyW/y3xo
>>375
「……ハッ」

こんな場所に単身現れた上にこれだけ脅しても怯えすらしない、やはりこの少女は異常者だ。
そう、同じだ、同じじゃないか、同種を殺めるという事に不快感を示さないという異常、真っ当な理由無しの獣よりも劣る殺人思考。

地を滑る様に迫り来る少女が、その左手に手慣れた手つきでナイフを握るのを見ると確信する、いい相手だと。
彼の中に元からそんなものは存在しないが、これなら良心は全く痛まない、そっちから仕掛けてきたのだから受けて立つだけの事、棚から落ちて来た牡丹餅を口でキャッチするみたいに。

「やってみろよクソガキ!出来るもんならなァ!」

突き立てられんとするナイフから身を躱し、捻りを加えて横へ回って、少女の体をすれ違うようにすり抜ける。
その途中、黒繩の右手には闇が凝縮したような漆黒のナイフが握られて、すれ違い様に少女の腹を斬り裂こうとした。
その刃は、少女の腹を裂いても傷を作らない、血の一滴も流さず、ただ擦り抜けて、途轍もない激痛だけを残して行く。
377 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/21(木) 22:38:24.19 ID:Upe+4fzF0
>>376

こちらのナイフは避けられた。あの身のこなし、今までのように簡単に"知る"ことは出来なさそうだ。

少年の手に握られた漆黒の刃、あれは能力で編み出したものだろう。
すかさず少女は空いている右手で腰からナイフをまた一本取り出しその刃を防ごうとする―――が。

「……え?」

漆黒の刃はまるでそこに存在していないかのようにナイフをすり抜け、そして自身の身体さえもすり抜けていった。
残ったのは、腹部の激しい痛み―――普通の子供ならば、一般人ならば泣き喚いてもおかしくはない。だが少女は至って冷静だった。
いや冷静とは違う、少女は狂っているのだから。

「これ…痛い……
分からない…なら、知らないと」

立ち尽くし自身の腹部を確認する。やはり傷一つない。レインコートも破れておらず、ナイフに触れた痕跡も無し。
今の状態では能力の詳細はほとんど分からない、だがやることは一つだけ。

少女は再び走り出す。今度は両手にナイフを持ち、少年の刃をしっかりと見定めてその動きにも注意する。
その走り出す少女の背後、そこには一本のナイフが少年からは見えない位置で少女へとついていく。
少女が先ほどと同じく突きたてようしたその後に、背後のナイフが少年へと飛び掛る。それは少年の油断を狙った行動で、もしも少年が先ほどと同じ動きだと侮ればそのナイフが牙を剥く。

早くあのお兄ちゃんのことを知りたい、その一心で少女は少年を殺しにかかる。
378 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/21(木) 23:01:47.17 ID:5DyW/y3xo
>>377
少女を擦り抜け、いくらかそのまま走って距離を開けた後、くるりと戯けるように振り向き、様子を観察する。
手応えは確かにあったが、思ったよりも痛がっていない、こういう子供なら尚更痛みにのたうち回ったりしそうだが。

「……テメェ、本当にガキかよ?」

彼女より歳のいった相手でも、これ程までに冷静にいられる人間は少なかった、それが幼い少女のした反応である事が異様さを感じさせる。
驚愕と狂喜の入り混じった笑みを浮かべ、空いた左手にも同じ漆黒のナイフを握る、一度で効かないのなら何度も何度も痛み付けるまで、シンプルな答えだ。
再び突進してくる少女を、バカの一つ覚えかとバカにしながら、ナイフが突き出されたその瞬間にバックステップで回避する。
最小限の動きで回避し、反撃を確実に入れる───そう考えていたのが命取りだった。

「……ッッ!!」

躱したと思った少女のナイフが、右二の腕に突き刺さっていた、目を見開き少女の手を見るが、しかしそこにナイフは握られたままだ。
自分と同じように、幻覚を見せているようでもない、正真正銘本物の実態を持つナイフが突き刺さり、刃を鮮血が伝っていた。

「…ンの……クソガキがァ!!」

だが、ただでは済まさないのがこの男、直ぐに右脚を振り上げて蹴り出し、少女を蹴り飛ばして距離を開こうとする。
例えそれが幼い子供であったとしても、刃を向ける相手であるなら容赦や躊躇いは無い、ある意味これは礼儀でもあったのかもしれない。
379 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/04/22(金) 23:21:46.27 ID:XP8uYPGW0
>>378

少年の黒い刃が効かなかったわけではない。しっかりと少女には痛みが伝わり、少年の能力も通じている。
ただ少女は知らないのだ。
両親の前では泣きもせず、大きな怪我もしない真面目な子供。だからこそ少女は知らなかった。
痛みの訴え方を、伝え方を。
だから痛みを表に出せない、それ故に他人からはあまり痛くないように見えるのだ。

狙い通り少年は油断し、あまりにも隙だらけの回避を見せる。そこが狙い目。
ナイフは刺さった、作戦は無事成功。後はこのまま離脱を――――

「くっ……」

ナイフが刺さっても物怖じせず、むしろこちらに一撃を入れようと蹴りを放った。
この状態では避けれない。まともにその蹴りを喰らい吹っ飛ばされる。そのまま路地の壁に背中をぶつけてしまう。
口からは血を吐き、しかしなおも苦悶の表情一つ見せずに少年を見つめ返す。その瞳はなおも澄んでいる。

「見ないと…分からない、から……!」

そう言うと少女は手に持った二本のナイフを少年に向かって投げる。見た目はただの悪足搔き、狙いもまったくの的外れ。だがそのナイフはある程度の距離を飛んだ瞬間、角度を変え少年へと飛んでいく。角度の調整程度なら二本同時でも造作はない。
そしてそれと同時に少女も走り出す。最初は壁へ、そして壁を蹴り空中へ。
その際に両腕のホルダーからナイフを取り出し、少年へと飛び掛る。
地上と空中からの攻撃、少年はどう対処するか。
380 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/23(土) 20:41:45.28 ID:t7FGQerEo
>>379
「チッ……!」

突き刺さっているナイフを憎々しげに睨み付け、少女に視線を戻す。彼女が能力者であるという可能性はあったが、それを考慮せず動いた自分のミスだ。
後ろに一歩下がり、苛立ち混じりに舌を打ち鳴らす。血を吐きながらも澄んだ瞳でこちらを見返す少女と目が合った。
とても純粋な瞳だ、子供の無垢な感情で殺しを疑いもしない狂人の目をしている、それを悪と知りながらも溺れるよりも更に深く。

「…ヒヒッ!いいじゃあねェか……上等だよクソガキィ!テメェは最悪にお利口さんだァ!!」
「このクソッタレな街にゃあお似合いだぜ!!」

投擲されたナイフの軌道が変わる前に、左手に持った漆黒のナイフを投げ捨てて、二の腕から乱暴に引き抜いたナイフを投げ付け、一方を叩き落とした。
だが、残るもう一つのナイフが、回避行動にサイドステップした黒繩を追う、黒繩は『やはり』という表情をすると、一瞬だけ上空の少女を見た。
伊達に戦闘に身を投じている訳ではない、一度見て、二度見て疑問を考察に変ずれば大体の能力の辺りはつく。
手に持たぬナイフの攻撃と、投げたナイフの軌道変更、恐らく磁力か、念動力に類する能力だと判断した。

「テメェもいっぺん『死ぬ程の痛み』を味わってみろよ!そうすりゃもっと楽しめるぜ!!」

そういった相手に対して具体的にどう対応するというプランはないが、往々にして厄介なのは接近を許されない事だ。
だが、その懸念を無しにして、相手から近付いてくれるのなら好都合、お利口な少女にはプレゼントを贈ろう。
腕を交差させ、前に出した右手に投擲されたナイフが突き刺さる、それを追撃するように少女が迫る、しかし黒繩は口角をこれでもかと吊り上げた。
次の瞬間、少女が今にも斬りかからんとした刹那に、黒繩はその体を痛みの塊とした。

黒繩の体の内部から突き出る様に、体から突き立ち生える、漆黒の刃の群れ、身体中から無数に生えた痛みの刃が、少女を迎え撃った。
勿論、体から突き出ているのだから黒繩自身にもその痛みは襲い掛かる、内部からめちゃくちゃに神経を掻き乱す激痛が、脳を痺れさせる程の苦痛が思考を覆う。
意識を手放す事を脳が要求するが、闘争本能がそれを許さない、自身すらをも何とも思わぬ非情なる反撃。
381 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/23(土) 22:43:05.08 ID:TocVH/KI0
学園都市の中でも店が立ち並び、人通りの往来が激しい商店街。
そんな場所で足取りも軽やかにスキップしているのは黒いドレス――――正確には喪服を着用している少女であった。
背が低く少女は激しくスキップしたりくるくる回ってみたり。とにかく落ち着きがない印象がある。
一応観光という名目で正規の手続きをして学園都市にきたものの彼女の立場上、組織からの尾行が着いて来ているのは仕方ない。

「人が少ない場所には行かない、すぐに帰る。余計なことを言わない。だっけ?」

あと他に注意されたことあったっけ?と黒い少女は首を傾げる。そのうちに自分で手を使って頭を軽くぽこぽこと叩き始めた。
刺激することで思い出そうとしているのだろうか。その仕草はこのドレスの少女の頭の悪さを物語っていた。

「えっと、思い出した!良かったねわたし。よかったよー」

数十秒頭を叩き続け、首を傾げていた少女に花が咲いたような笑顔が浮かぶ。
そういえば神様を降臨させないというのもあった、残念だけどそうするしかない。
黒いドレスの少女は参杯をするために学園都市に来たのである。ここは神様が大量に降臨する予定地なのだ。
だから事前に祈っておくべきだと思った。黒い少女は自分が何のためにここにきたのかを忘れていたのであった。

「お祈り場所を見つけよう、そうしよう!」

黒いドレスの少女のスキップは激しくなった。飛跳ねる黒い少女に格好も相俟って周辺の人々の奇異の視線が集まる。当然ながら目立っていた。
人目につきすぎである、組織から尾行している連中はさぞかし頭を抱えていることだろう。
しかし彼女が所属している組織は己の我欲のままに動く連中ばかりなので、仕方がない部分もあった。
ドレスの少女は機からは観光客に見えるし確かにそれは真実だ。神様を降臨させないという言いつけも守るだろう。
さて彼女に好奇心で話しかける人間は居るだろうか。
382 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/24(日) 17:26:10.34 ID:Ce/LxW7z0
「───Hello!! How are you??」

路地裏といえば争いの火種である。この事実は基本的に何処の地にても云える事だが、”能力の強度に関する階級”───所謂『LEVEL』が存在するこの学園都市に於いてはそれが顕著だ。
問いに返事はない。空虚な時間が過ぎる。
さてさて、気を取り直してもう一度。

「……は、はろー!はーわーゆー??」

社会的に虐げられた輩は、暗闇の中で欲を滾らせながら獲物を待つ。
例えば、それが金髪の綺麗な少女だったら最高だ。流暢な英語で挨拶をするその少女は正に、その状況下にある。

『………………………………』

やはりその問いかけに彼らが応える筈もなく、その眼に映るのは豊満かつ、そして滑らかでしなやかな少女の肉体でしかない。
肉欲の軍勢は、じりじりと彼女との距離を詰める。

「ええっと…あれあれ??
ワタシがいない間に愛すべきJapanese達は質問に応える事も出来なくなっちゃった?」

『……なっかなかの上玉だなぁ…!!しっかも、見た感じは無能力!!
よぉし!!お久しぶりの獲物だァぁぁぁぁぁぁ!!』

「────へぇ………なるほど………ならOK!!」

男達が飛びかかる。──細い少女だ、力で押さえつけてしまえば簡単に言いなりにさせる事ができる。
対して金髪カウガールスタイルな少女は舌をぺろりとちらつかせた。
腰にある拳銃に両手がのびる。勢い良くその武器を抜き、眼前に迫る男に向かって銃口を向けての一言。

「問答無用で──────BUTTOBASU!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ノーダメ、ってわけにもいかないか……イテテ。
まあしかし、随分間抜けになっちゃったね不良ボーイズ?」

数分後、そこには服や身体の一部をナイフで壁に留められている男の集団があった。
中央には自慢の拳銃をくるくると手で弄ぶ金髪カウガール。肉体が織りなす、愉快で奇妙な空間絵画である。

しかし、これほど大騒ぎすれば誰かしらを引き寄せてしまってもおかしくない。この争いはただの火種なのかも知れない。
例えば────今この情景を目にしているあなたは、どうだろうか。


//遅めでも良い方でお願いしたいです…申し訳ありません
383 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/24(日) 19:34:42.62 ID:X+cCTUuoo
>>382
少女は気付くだろうか。不良たちを刺しとめた壁の先、丁度四つ辻になっている場所から今しがた、ひょっこりと斜めに生えた少年の上半身に。

グレーのハンチング帽が何故だかよく似合う煎茶色の髪はその顔の上半分を見事に覆い隠し、傾いて尚鉄壁さながらのガード力でその顔の全体を視認する事はできない。
よれよれで着古した服と合わさって、さながらストリートチルドレンを見た目そのまま成長させたらこんな感じだろうか?と思わせるような風体となっている。
様子を伺っているのかはたまた状況把握のためか、少年は何度か少女と不良それぞれ交互に顔を向けて。

「あー……ハロウ?いや、こんにちは?かな?」

にへら、と情けない笑顔を口元に浮かべ、気まずそうに片手を軽くあげてどうやら挨拶を試みたようだ。––––––降参を申し出た様子に見えなくもないが、それは置いておくとして。
生えていた壁の陰からやっと全身を現して、身体の下半分も確認できるのだがそれでもやはり、路地裏の住人に相応しい見た目。

「騒ぎを聞きつけて来たは良いけど、終わっちゃったみたいだねぇ」

拳銃を弄ぶ少女に対して、情けない笑みのまま歩み寄る。その途中、不良たちの横を通り過ぎる際にはそれらを見て「なんだか昆虫標本みたいだねぇ」と、なんとも間の抜けた感想を添える。
見た目が不審者な少年はそれから少女に顔を向け、口を開いて、

「えーっと……あ、そうそう、大丈夫?見た感じだとひどい怪我はなさそうだけど、病院行く?」

……そこから出てきた気遣いの言葉は、一応真っ当な考えのできる人間であると、少しは感じられるだろうもの。
いや、そもそも意思の疎通が可能そうな段階で、少なくとも不良どもよりはマシな存在に思えるかもしれない。


//遅めでも良い……というか多分遅めでしか無理ですよろしくお願いします
384 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/24(日) 20:00:07.74 ID:Ce/LxW7z0
>>383
そして、案の定現れる来訪者。
路地裏の角から生える少年の身体の上半身。自らよりは一回り大きめくらいだろうか。髪で顔を覆ったその風貌は、第一印象としてやはり『不良』という印象を金髪のカウガールに与えた。
故に、まず最初に彼女がとったのは”銃口を向ける”という至極単純な威嚇の態度であった。

「………………………………ッ!!」

近づいてくる男に対して、彼女の眼はその大きな図体を撃ち抜かんと、まるで”狼を狩る狩猟者”の如く鋭利に煌めいた。
──が、次第にその碧眼は穏やかになっていく。その眼に映る彼には『不良』と呼ぶほどの獰猛さがない。
やがて、拳銃すらも下ろして。


「えっと……ワタシは大丈夫かな?
そこにはりついてる人達はどうかわかんないけどネ!HAHAHA!!」

不良どもに対してではなく、その言葉は自らに向けられたものだった。若干の警戒は残るが、自分の目に狂いはない───善良な少年だ。
「ところで、」と、少年の問いを返して直ぐに、彼女もまた問いかけた。

「Who are you??」

あなたはだあれ、と。とてもシンプルな疑問を一言。




385 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/24(日) 20:51:30.71 ID:X+cCTUuoo
>>384
間髪入れず返された問いかけに、言いかけた「それなら良かった」という言葉は発せられないまま喉奥に飲み込まれた。
ああ、そう言えば。といわんばかりに口だけで器用に表情を浮かべ、今更ながら、名乗る。

「ごめんごめん、僕は渡 慈鳥って言うんだ。えーっと………あったあった。一応、こういう者です」

言葉を発しながらゴソゴソとズボンのポケットを漁り、中から発掘された目当ての物はどうやら風紀委員の証のように見える。
少年の見た目だけを考えれば随分とちぐはぐな物に思えるだろうそれを、両手で持ってよく見えるよう少女に向けてみせた。

「よく言われるんだけど、ニセモノじゃないから安心してね。逃げなくても大丈夫だからね」

以前逃げられた事でもあるのだろうか、少年は念を押すように苦笑しながら少女の出方を待つように突っ立っている。
先ほどから笑みを絶やさないのは、相手を安心させる為もあるのかもしれない。逆効果のような気がしなくもないが、少年はそれには気づいていないらしく。

「それにしても、どうしてこんな所に?危ないからあんまり路地裏は入らない方が良いよ」

そう口にしながらしかし、「撃退できるみたいだから平気かもしれないけど」と一瞬の間を置いて続ける。

この、一連のいい加減な対応や、服装や物事に頓着していない様子から、あれ?こいつかなり適当じゃね?と思えるかもしれない。
386 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/24(日) 21:08:18.54 ID:Ce/LxW7z0
>>385
「……………ン。」

ワタリ=ジチョー??
マリアは幼い頃から日本とは親交があるものの、やはり日本テイストな物で難解な物は多い。
特に人の名前だとかはそれが顕著で、風紀委員を示すそれを見ても、名前を聞いても頭上にはてなマークを浮かべるのだった。
……とは言っても名を聞いたからには自分も名乗るべきだ。
拳銃を自らの前に構えて銃口を彼に向け、「バン☆」と言って撃つ仕草の後───、

「ワタシはマリア・D・シュペリュール。
マリア、シュペリュール、どんなでもいいけどマリーとかだと可愛げがあっていいよね!」

銃口に息を吹きかけて吹き消すような仕草も追加して、自らの名を名乗った。後半の方は呼び方についての事だろう。
───『入らない方がいいよ』
────『撃退ができるなら平気かもだけど』

「Youってば少し珍しいタイプ??
風紀委員ならキッツイお叱りがあるものだと勝手にシンキングしてたんだけど。
──例えば、この銃とか取り上げたり、とかネ?」

更にそこに追撃として、心に風穴をあけるが如く彼女は言葉を放つ。別に悪気は無い。


「あ、あとワタシは大丈夫だけど、その無限に続きそうな笑みは辞めたほうがいいかもネ!
その姿でそんな笑われながら近づかれちゃあ、クレイジーでデンジャラスな人間としか思われないよ!HAHAHAHA───!!」

387 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/24(日) 21:30:28.44 ID:zuQBnVzBO
>>380

「……すごい、お兄ちゃんみたいな人初めて見た」

少女はそう感嘆の声を上げる。今までの人とは違う。
強い精神力、明確な意思力、強靭な身体。そのどれも今まで少女が見たことが無い。
だからこそ、その中身をもっと知りたくなった。この人のことを知れば――――

しかし、それはきっと叶わない。少女のやり方では人の本質を見抜くことはできやしない。
出来るとすれば、ただ悲しみを生み出すだけ。少女は決して報われず、救われない。

「っ…!!」

片方のナイフは弾かれた、だがもう片方は腕へと刺さった。
いける。
どういうわけか少年は動かない、このままいけば確実。動かない的に当てるのなどあまりにも簡単だ。
しかし、少女は甘かった。それが人生の未熟さからか、ただ単に油断からだったのか。
とにかく少女は、詰めが甘かった。

「……ぁ………!?」

身体中に痛みが走る、一瞬頭の中で何かが切れたような音さえした。
しかし少女は叫ばない、痛みを訴えない。
だってやり方を知らないから。

そのまま少女は地面へと堕ちる。手に持ったナイフも落ち、完全に戦闘不能。
気絶し倒れた少女の見た目はやはり子供、とても人を[ピーーー]ようには見えない。しかし一度目を開ければその瞳には純粋な狂気が見え隠れする。この少女はやはり、狂っているのだ。

少女は気を失い今ならたとえ無能力者だって彼女を[ピーーー]ことができるだろう。この少女の始末を少年はどうするのか。
388 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/24(日) 21:52:26.93 ID:X+cCTUuoo
>>386
流石に、発砲のフリには驚いたようで、直立のまま地面から数cm飛び上がる様はまるでアニメーションのよう。
誤魔化すように頬を掻きながら、少女の言葉を聞き、

「そう、ワタリ ジチョーだよ。変な名前だけど、好きな呼び方してね、マリーちゃん」

理解できているか不安になるマリアの様子を見て、自身の発言のフォローを試みたらしい。
ついでのように「マリーちゃん」呼ばわりするあたりも、やはり物事に頓着しない様子が表れているようで。

「確かに、他の人よりはゆるーくやってるかな?別に、取り上げても良いんだけどね。
……自分を守る為のものを取り上げられたら困るし、嫌だろう?取り上げてこういう危ない場所を避けるようになるなら、アリなのかもしれないけどねぇ」

そういうこの少年のスタンスは、勤勉で真面目一直線な者が多い風紀委員の中では確かに珍しいものなのかもしれない。
そしてこう答えた矢先、少女の無邪気な一言に渡はやや苦虫を噛み潰したような口になる。やはり思わぬ言葉だったらしく、猫背な身体を更に縮こまらせて、苦々しく口を開く。

「……いやぁ……だって、この見た目で無表情だったりしたら、余計に逃げられそうでさぁ。でも、そうかぁ……やっぱり変に思われるかぁ」

……どうやら、見た目を改善する気は無いようだった。
389 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/24(日) 22:14:58.31 ID:XusEkWLDo
>>387
───痛みだけで人は死ねる、傷一つ無くともそれこそ機械が高負荷に耐え切れずショートするみたいに脳が焼き切れれば死んでしまう。
内臓をハンドミキサーでくまなく攪拌され、皮膚を満遍なくフォークで抉られ、筋肉を余すところなく裁断される痛み、それらが襲い掛かってきても気絶すら許されない。
否、許してはならない、一度でも気を失えばそのまま帰ってこれない奈落へと引き込まれてしまう、目の血管が膨張してはち切れ眼球が真っ赤に染まり、食いしばった歯の圧力で口の中が切れようと意識だけは保つ。

「───ヒ……ヒヒ……ヒャハハハハハハハヒャヒャァァ!!!」

痛みに叫ぶよりも前に、狂気が脳を満たして行く、溢れ出そうになる程の覚醒物質が並々と精神を溺れさせ、笑いとして吐き出させる。
身体中から飛び出した漆黒の刃が消えて行き、少女が崩れ落ちたのを赤く染まった視界で見ると、ぐらりと崩れ落ちそうなのを踏みとどまりながら少女に歩み寄った。

「ヒヒ……オイ……おいコラクソガキィ…!起きろよ……もうお寝んねの時間かァ…!?」
「起きろっつってんだろ……!こっからが本番だろうがよォ……なァオイ!」

声を掛けても少女が起きなければ、髪を乱暴に掴んで引き上げようとする、これ以上戦闘を続ければ倒れるのは確実に此方の方なのだが、それがどうしたというのか。
死が目前だから闘争を辞める理由にはならない、こんなに愉しくいられる時間を止めたくはない。
使命だ仕事だ正義だ悪だ、つまらない理由のない欲望のぶつけ合い、嗚呼この殺し殺される狂った時間こそ自分のいるべき時間なのだから。

「起きねェなら……ブッ殺すぞオイ…!!」
390 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/24(日) 22:27:29.65 ID:Ce/LxW7z0
>>388
「ジチョー、というよりはワタリ、の方がカッコいいかなぁ。
Yeah!───Nice to meet you ”Watari”!!」

腰に提げたガンベルトに銃身を納め、代わりに流暢な英語と笑顔と共に差し出したのは右手。
よろしく、という握手の意だった。こういう気さくで陽気なところはアメリカン特有の人格だろうか。
マリーちゃん、という呼称にも難色を示すどころかむしろ喜んでいる様子である。
ともかく、こんな感じで彼女の警戒はようやく解けたらしい。

「へえ、なかなかワタシ達よりな考えなのねアナタ。風紀委員ってのはみんな頭がカッチカチだと思ってたけど、”一概には言えない”ってヤツかな?」

「特にワタシは”ノーアビリティ”だし、これ取り上げられると、男達相手じゃどうしようもないね!
かといって取り上げられても好奇心でデンジャラスな場所に行かない保証はないし、色々やられてメンタルブレイク!なんてのもあるかも!?HAHAHA!!」

やたら早口な金髪カウガール。普段から英語も多用するからか、日本語であっても滑らかで調子良く読み上げられていく。
最後には勝手に一人で言いつつ、一人で頭を掻きながら笑うという身勝手様であった。
因みにさらっと”無能力者”であることも明かしていたりする。

「えっと────”噛み合ってない”ってヤツかもね?
猫背だし。話してみても怖そうに見えて実は優しかったりって感じで……うーん…Sorry、なんて言えば良いかわかんない。

そうね……その前髪上げるっていう考えは??
or カットするとか、どう?」

と自らの髪をあげたり、指でハサミを形作って切る仕草をするなどで示してみる少女。
391 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/24(日) 23:06:21.56 ID:X+cCTUuoo
>>390
少女に応えるようにこちらも右手を差し出して。柔和な笑みでヨロシクねと言うと、ようやく警戒の解けたらしいマリアに向けて、こちらも返すように穏やかな笑みを浮かべる。
この辺りは最早癖のようなものだろう、指摘されてもなかなかすぐには改善される様子はない。

「無能力者かぁ……それなら尚更、取り上げたりなんかできないよ。ただ、他の風紀委員は取り上げちゃうかもしれないから、あまり見せびらかさないようにね?」

それにその様子じゃあ、本当に備えがなくても危険地帯に踏み入ってしまいそうだから……とまでは、流石に言わずにおいた。

続けてマリアの提案を聞き、なんとも言えない口元になると、言葉を濁しながらこう続ける。

「えーっと……それは嫌かなぁ……なんて」

あはは、と頬を掻きながら気まずさを誤魔化すように笑うが、誤魔化される筈もなく。
折角の提案を理由も伝えずに無下にしてしまっているという居心地の悪さはなかなかのもので、やや時間をかけて何度か躊躇ってから、おずおずと、

「……えーっと、その、顔だけ見て寄ってくる人が嫌でさ。だから、あんまり見せたくないというか……」

……と言いながら、左側の前髪だけちらりと上げて、陰ってはいるがほぼ素顔を見せる形になる。
誤魔化し笑いをしている口も、前髪の間に通っていた鼻筋も、今まで隠れていた–––かといって現在も陰って見えにくいのだが–––目元も、それぞれバランスのとれた、世間一般で言う所のイケメンというもののように思えるだろう。
ただし本人は、あまりこの顔を好いてはいないようだが。
392 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/24(日) 23:30:29.43 ID:Ce/LxW7z0
>>391
「まあ、簡単にワタシも取り上げられたりするつもりはないんだけどねー。
ご覧の通り、ノーアビでも並の能力者程度なら相手にもなんないサ!ふふーん♪」

問題はそこじゃない、というツッコミを入れたくなるところだがこの外人少女にそのツッコミが無意味である事は恐らく、渡が一番理解できるだろう。
得意げにまたも拳銃をクルクルと弄び始めるマリア。
陽気であると同時に、お調子者、という言葉がぴったりな少女である。

嫌かなぁ、という少年の意外な言葉に目を丸くすると同時にその回転は終結した。
そして間髪入れずに「Why?」という問いかけ。その後に少年は解答する。

「───────Oh....なるほど……えっ…と……。
ソーリーソーリー、こりゃあ見事なイメージブレイカーねぇ。」

イメージと違った。全然。
顔を隠しているならばやはり自分の顔に自信が無いとか、そしてそれに見合うような顔立ちなのかと推測していたところだった。──普通にcoolな部類じゃん。

「詳しくはわかんないけど、その顔がなんか問題でも起こしたわけ?
どこから見てもノープロブレムな顔立ちに思えるんだけど……JAPANってやっぱ分かんないなぁ〜。」





393 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/25(月) 00:02:16.79 ID:VTGCiNKRo
>>392
「あー……うん、ごもっともな反応です……」

何ともはや、素顔を見せられ戸惑う少女に申し訳なさすら感じる始末。少女の考えがなんとなく分かってしまったからこそ、その申し訳なさは更に大きくなる。
最早苦笑を浮かべて場の空気を誤魔化す事すら難しく感じてしまい、しかし結局苦笑することしかできず。

「ただ眺められてるだけだったら、別に良いんだけどねぇ。変にルールを作ったり僕と仲良くしたからっていじめたりとかは……流石に、ね」

我慢できないから。とやはり苦笑しながら言う。
つまり、最初から顔など見せなければそういう事も未然に防げるから、という理由でこの少年は顔をワザと隠しているのだ、と。
他の対策はしたのかしていないのか、そこまでは語っていないので少女には伝わらないだろうが。
もししていたとして、結局少年が現在こういう格好を取っているという事はつまり、そういう事なのである。

「……ま、まぁ、こんな髪型でも意外と困らないからさ。前は見えるの?とかたまに聞かれるけど、意外と見えるんだよコレ」

場の空気を変えなければいけない。このままの空気では少女に更に気を遣わせてしまう可能性もある。
初対面の、しかも遠路はるばる外国から来ただろう少女に何を言っているのだろう、と自分に呆れてしまう程なのだから。その表情を隠すようにあげていた左の前髪をおろし、鉄壁のガードが再来する。
……もしかすると、自分が逃げたいだけなのかもしれない。そんな思いには、また気づかぬフリをしてしまった。
394 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/25(月) 00:47:29.67 ID:9gKCnDyS0
>>393
「あ………なるほどネ。やっと理解できた。
いやそのガール達の感情じゃなくて、ワタリがそうなるに至った事を、ね。」

基本的に自由奔放で、周りの価値観に左右される事のないアメリカンカウガールことマリアにはやはりその状況は理解しがたいところがある。
でもやはりこういう問題は日本特有というものでもなく、世界全体に見られる”恋の問題”というヤツだ。
だから流石にどんなものかという事の全容は大体想像して理解できる。
ヒトの醜く淀んだ黒の感情が織りなす負の連鎖、────この少年は何処かで責任を感じているのか。
そしてそんな話をしたことでワタシが気を遣ってしまうという事まで危惧している。それはオカシイ。───だから。

「……一応言っとくけどワタリ、Don't worry.
ワタシは別にこんな話で落ち込んだりするような輩じゃないし、同時に同情してやれるほどデキた女じゃないのよ??」

「ただ。ワタシが今の話で理解したのはアナタが優しいっていう一点くらいかな?
───HAHAHA!!そして、訂正すべきね。」

と言いつつ、彼女は右手の人差し指と親指を立てて銃を彷彿とさせる形を作る。
それを自らの豊満な胸に当てがうようにして、こう言った。

「アナタの親切心、なかなかに良い弾だった!

訂正!前が見えようが見えまいが関係ナッシング。
─────その髪型、最高にグレートね!!」



395 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/25(月) 01:36:20.32 ID:VTGCiNKRo
>>394
「え?……えーっと……ありがとう?」

褒められた、と捉えて良いのだろうか。まさか優しいと言われるとは思っていなかったので、予想外の方向から殴られたような感覚だ。
上手く返す言葉が見つからず、礼を言うので精一杯だった。その礼すらも、戸惑い気味で疑問形のようになってしまう。

相も変わらず溌剌と言葉を続ける少女を眩しく思う。出会ってまだ間もないが、この少女はきっと自分の立場になっても自分とは違う結末を導きだせるのだろうなと、そう思えたのだ。
そして、2度目の褒め言葉だろうものには、身振りも合わさってなんだか面白おかしく感じてしまい、思わず笑みが零れる。

「はははっ……うん、ありがとう。問題解決はできてないけど、そう言われると気分も楽になるよ」

喉奥で笑いを堪えながら、言葉を続ける。その口元は、今までよりもよっぽど自然な笑顔を連想させるものに感じられる筈だ。
そして、続けられた言葉は忘れかけていた……いや、もしくは完全に忘れていたかもしれない存在を思い出させるだろう。

「––––––そろそろこの人たちも動かしたいし、お話しはここまでかな。……マリーちゃんはどうする?もし不安なら、路地から出られるまで付いて行こうか?」

そう、そう言えば、ここにはマリアの手によって壁に固定された哀れな姿の不良たちが居たのだった。
ワタリは風紀委員である。勿論、彼らを連行して反省文を書かせたり、その他諸々の事務処理をする仕事がこの後待ち受けているのだ。
しかしまた、少女が安全な場所に行けるよう付き添うのも、彼の仕事の一環なのであった。
396 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/25(月) 20:35:48.36 ID:9gKCnDyS0
>>395
ニコニコ、と相手が笑いを堪えているなどとは思いもせずに笑みを浮かべるマリア。個人的にはこのポーズがお気に入りらしく、終わってなお自信有り気。

「ノンノン、ノープロブレムよワタリ。
ワタシ、こう見えて18でね?
なんとなくYOUよりは高いんじゃないかな!HAHAHA!」

と壁に貼り付けられた男達の近くに寄って、その男達を貼り付けていた枷───ナイフを引き抜いて回収していく。
無能力者たる彼女の戦闘力を倍増させる2丁拳銃。
投射されるのは鉛玉ではなく、対象を穿ち留める鋭い刃。殺傷能力、応用性ともにピカイチではあるが、その弾の特異性故にいちいち回収が必要なのが玉に瑕だ。
どこかズレた返答だが、要約すると「年下に心配されるほど馬鹿ではない」と言ったところか。
そして。


「───むしろワタシはYOUが心配ネ!
こいつらが逃げ出さないように連れて行けるの?
多分、YOUも能力者なんだろうけど……。ワタシがいなくてもダイジョーブ?OK??」

397 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/25(月) 22:28:42.14 ID:VTGCiNKRo
>>396
「……なら、大丈夫かな?この人たちを撃退する位はできるみたいだし……本当は、付いていくべきなんだろうけどねぇ」

少女の手によって留め具を外され、ドサリと落下する不良たちを眺めながら、後頭部を掻く。
これだけの数を一度に相手取る事が出来るのだ、分かってはいるがやはり実力は充分、心配など無用だった。

「んー、逃げられずにってのは難しいかなぁ……この人数だし。縄とか手錠とかあったら、できるだろうけど僕今日は持ってないからなぁ」

ものの見事に、こちらの方が心配される側である。まあ、頼りない年下だという事実からは逃れようがない訳で、そうなると心配されるのは当たり前だと言える。
捕縛道具を持っていない為に、少女が弾を回収する間、完全に手持ち無沙汰となってしまう。風紀委員としてなんと情けない事だろう。
挙句、安心させる言葉すら出てこないのだ。何とか少しでも安心させられないものか。

「あー……でも、逃げられても捕まえる自信はあるからね、心配しなくても良いよ。
僕はヒトより鼻がきくからね、追いかけるくらい訳ないさ」

そう、逃げられはするかもしれないが、追跡には自信がある。魔術を使えば難なく痕跡を辿ることができるのだから。
ツンツンと自信の鼻をつついてアピールしてみせる。逃げられる事に変わりはないのだから、安心させるにはやや不安が残るが、フォローとしてはこれくらいしか思い浮かばなかった。
398 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/26(火) 18:57:03.01 ID:dKc5Acas0
>>397
「─────………ふぅ………終了終了っと。

ならワタシもついていってあげよっか?
このスペシャルなテッポーがあればこいつらも牽制出来るかもしれないし。」

回収したナイフを弾倉に押し込みつつ、それを自らのガンベルトに装着、携帯する。
何処か上機嫌なのか、またも二丁の拳銃をクルクルと回して遊び始めた。

「───へぇ。
アナタ、そんな感じの能力…ってことね?いいなぁ。
なるほどなるほど!
まあそもそも風紀委員だし、ワタシが心配するところじゃないかな。」

確かによく考えれば自分が口を出すべきではない、と金髪カウガールは漸く思い至った。
目の前の少年が自分を安心させようと気遣っているのも、何処か感じ取れた。ならこういうのは風紀委員たる彼に任せるべきだ。
それに───自分と違って、能力者なのだし。


しかし。やはり。
彼女もまたお節介な人間であるようで。




「………でも、本当に大丈夫?」
399 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/26(火) 20:44:13.23 ID:Q2IIGwspo
>>398
「その拳銃なら、確かに牽制はバッチリそうだねぇ。助かるのは助かるけど……お手伝いして貰うのは流石に申し訳ないかなぁ」

手際よく後始末をしていく様子を見ながら、改めて少女の得物を観察する。とても特殊なものだろう事は、知識の少ない自分でもわかる。
そもそも、刃を射出する拳銃など聞いた事が無かった。特注の類なのだろうか?少女の手に馴染む様からもそれらしく思えるが……。

「うん、詳しく言えばもっと色々あるけど、この仕事で一番使うのはそれかなぁ」

便利だよ、とにっこり笑ってみせる。
実際、仕事上で鼻を頼る事は多々あった。この魔術がなければおそらく風紀委員などとてもではないがやって来られなかっただろう。
少女の言葉を聞いて、やっと安心させられたかな?と思った矢先、

「……あー……じゃあ、お願いしようかなぁ……?」

どうやら、彼女もそれなりに世話焼きな人間らしい。
ならば、甘えるのもアリかな?と考えた。実際、自分は大人数を捕縛道具無しで移動させるのに向いていないのだから。
しかし、申し訳ないのは先に口に出した通りなのだ。猫背な身体を更に縮こまらせて、苦笑を浮かべる。
手伝って貰うにしろ貰わないにしろ、不良たちを起こさなければ何も始まらない。緩慢な足取りで地面に落ちている不良の一人へと向かった。

それにしても、性格や年齢など理由はあるのだろうが、先ほどから何かとリードしてもらっている感じが拭えないのだった。
400 :逢坂 胡桃 ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/26(火) 20:50:34.67 ID:3cG8nyhx0
>>389

身体が動かない、微かに何者かの嗤い声が聞こえる。そんな朧な意識の中、少女の中にある記憶が蘇った。

『胡桃、あなたはとっても良い子よ。お母さんの自慢の娘だわ』

『まったく母さんは胡桃にぞっこんだなぁ』

それは何気ない日常の記憶、まだ両親が生きていた、暖かい家庭の記憶。

『いい胡桃?人を見た目で判断したらだめよ?ちゃんとその人の中身で判断しなさい?』

今の少女を創り出した元凶。それは本当ならば他人を想える人になりなさいという母の願い。しかしそれは屈折し、曲解され、やがて化け物を生み出した。
いや、化け物は既に生まれていた。ただきっかけが無かっただけ。
皮肉にも娘を想う母の気持ちがそのきっかけを与えてしまった。ただそれだけのことだ。

「お、かあ…さん……」

言いつけを守らなければ。ここでは[ピーーー]ない、死ぬわけにはいかない。
かろうじて残っていた意識を振り絞り、母への想いだけで少女は動く。それはやはり歪で狂気染みたものだったが、その根底にあるものはただ一途な"母への愛"

少年の手を振り払い、残りの体力を振り絞り全力で距離を取る。もう戦えるだけの体力は残っていない。それほどまでにあの一撃は強烈だった。

「私、もう…無理だから……今度は、お兄ちゃんの中身…教えて、ね……?」

そう言うと、少女は残りの体力を使い壁を駆け上がり屋上へ。初の逃亡、初の敗北。
どれも今までにないことで、やはりこの少年は今までの誰にも該当しない。見たい、一体どんな風なんだろう、どんな音がするんだろう、どんな臭いがするんだろう。

次会うときは、必ず――――


その日から暫くの間、《夜狂の悪鬼》の犯行は収まったがまた少しすればその兇行は再開された。
未だ逮捕の気配は見せず、学園都市では殺人鬼への恐怖が膨れ上がるのだった――――


//長い間拘束してしまい申し訳ありません……
ここで〆させてもらいますね、ロールありがとうございました
401 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/26(火) 21:19:52.50 ID:8Iw/dZRmo
>>400
少女の髪を掴んだ手を振り払われる、まだ彼女が動けるのだと分かると、黒繩はニヤリと笑った。
次は何で来る、何処を狙って来る?まだやれる、まだまだ限界は見えていないのだから、墓穴に片脚を突っ込むまで付き合ってもらう。
血を吐き目が眩み耳が聞こえなくなっても、脳が叫び体が動くのならまだ戦える、それこそが求めていた愉悦。

だが、黒繩の考えと違って少女はその場から離れて行き、戦闘から離脱する旨を見せる。
───ああ、そうか、クソが。

「……ああいいぜ…また来いよ……クソガキィ…!」

去り行く少女にギザついた歯並びの笑顔を見せながら、仰向けに倒れた黒繩。
視界に広がるのは、檻に閉じ込められたような狭い空と、ごみ溜めの臭いだった。

/お疲れ様でしたー
402 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/26(火) 22:29:33.45 ID:dKc5Acas0
>>399
「よしよし、オーキードーキー!まっかせて!!」

執着するような世話焼きに渋々の承諾、依頼。
まるで彼女は彼のその言葉を待っていたかの様に目を輝かせてその依頼に了解の意を示した。
片方の拳銃の銃口でカウガールハットをクイっと上に上げると、その笑顔がより明確に路地裏に映える。
整い揃った白い歯に、目の前の彼の姿を見事に反射する透き通るような碧眼。
僅かに照らし始める黄昏時の陽光が、路地裏の闇と対照的にその存在を煌めかせる。


「んじゃあ───ちゃっちゃと終わらせよう!
─────Stand up!──n...Hurry up!!!」

男は総勢五人といったところか。うち三人ほどに、奥で刃物が光る銃口を見せつけ、流暢な英語で彼らにそう警告した。
正直、こういう役職に憧れていたりする。法に縛られない無法者のカウガールというのも良いが、逆に武器を駆使して無法者を取り締まるってのも格好いい。
厳しい口調で彼らに叫び命令する彼女だが、それ故にその表情は嬉々としていた。

「抵抗したらコイツがまたYou達の身体に風穴あけちまうぜ!?

────ヒュー!こういうのいいね、うん!グレェイト!!」
403 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/26(火) 23:09:26.42 ID:Q2IIGwspo
>>402
途端、快活に行動を始めた少女の動きを追いながら、風紀委員の証をポケットにしまいこむ。動くのに余計なものは、仕舞っておいた方がいい。
一度叩きのめされてはいるが、不良とは諦めの悪いもの。自分だけならまだしも、少女もいるのだから即座に動けるに越したことはないのだ。

「"それ"構えながら動くなら、できるだけ人目につかない方が良いよね。ちょっと待ってね……っと」

幾つか咳払いをして、喉の調子を整える。
人気のない場所といえば、まさに今いる路地裏なのだが、他にも不良がウロついている可能性は高い。ならば、それらを少しでも散らしておけばある程度の安全は確保できる筈。
大声で叫ぶ時のように口に手をあて、一瞬の間を置いてから。

ォオオォォォ–––––––––………………ン

その喉から発せられた音は、聞き間違えようがない、獣の遠吠え。
アメリカで過ごしていたのならば、もしかしたら、"これ"を聞いたことがあるかも知れない。己の存在を知らせる獣の……狼の遠吠えを。

「……うん、これで少しは路地裏も通りやすくなったかな?少なくとも、僕のこの声知ってる不良は逃げてくだろうから」

満足気に残った息を吐いて、少女たちへ笑顔で向き直る。口から出た声色は既に元の少年のものだ。
少女が退治した不良たちの中にも、この遠吠えに聞き覚えのある者が居るかもしれない。彼らの反応は見ていなかったので、少年には分からないが。

「––––––さ、行こっか」

そう言って、先導しようと歩き始めた先は、路地裏の暗がりだ。
大仰に存在を示してはみたが、所詮少年の独断で行った行為。少女が望めば恐らくは、少年も少女の望む方向へ向かう事だろう。
404 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/26(火) 23:50:25.80 ID:dKc5Acas0
>>403
「え?…何を────────!?」

確かにこんな物騒な銃……しかも他にも類を見ないような特殊な武具を街行く人々に見せつけるのは社会的に不味い。
傍の少年が風紀委員であるといえど、噂というのは怖いもので下手すれば、二人組の犯罪者で身代金要求だとか変な噂にもなりかねない。
流石にそこまではないが、念には念をの事だ。
───と思っていた矢先の少年の挙動である。

「──ひゃぁっ!?」

響く遠吠えに、思わず肩が震えた。弱気だと思っていた少年と逞しく荒々しい雄叫びの差に驚きを隠せずにはいられない。
思わずに両手の拳銃が地面に落ちる。空になった手は腕をクロスさせる形で自らの両肩をがっしりと掴んでいた。
見れば自らが補導していた不良らもその遠吠えに目を丸くしている。
────その後の言葉で漸く我に返った。

「……………………へ?あ………えっと……そ、そーね!!今のはちょっとサプライズだったわ!!

──き、気を取り直して行きましょう!ほら!」

僅かに自らの失態に頬を赤らめつつ、急いで取り繕うように拳銃を拾い上げる少女。眼は何処かそっぽを向いて少年と合わせないように、かつ不良たちを強引に押していく。
ここは彼に従ったほうがいい。少女は狼の雄叫びをあげた少年の後をついていく。


「その叫びは……狼(ウルフ)…かしら?
驚いたわ。そんな感じの能力もあるのねー」
405 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/27(水) 00:28:36.45 ID:sgFYmhbao
>>404
「さっきはごめん、びっくりしたよね。……その、いつもは一人だから、声の大きさは調節した事なくて」

数秒前の遠吠えの雄々しさは何処へやら、今少女の目前を進むのは、先ほどまでと全く変わらないへにゃっとした弱そうな少年である。
効果があったのか否か、今のところ、スイスイと迷いなく進んでいく少年の前に人が現れる気配はない。

「そうそう、僕は身体の一部を狼に変えられるんだ。まだ全然扱いきれてないんだけどねぇ、さっきのは、喉だけ変えたんだよ」

少女の言葉を聞き留めて、後ろを振り返りとんとんと指で喉元を叩いてみせる。
髪で隠れて表情こそ見えないが、声色からして、さぞ自慢気な表情をしている事だろう。
少女の様子に気づかない辺りは適当すぎるとしか言いようがないが、人の感情の機微への疎さは、敢えて人を避けているのだと知った少女ならば、仕方ないと感じられるものかも知れない。
それにしても、もう少し何かかける言葉はあるだろうが。

「ここからだと……あと10分もしないで着くかな?」

どうやら路地裏を通る事によって、時間もやや短縮できたようだ。
今のところ、人目を避けた連行に問題は発生していないが、果たして無事に終える事ができるのか––––––
406 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/27(水) 18:03:43.57 ID:iEouFieW0
>>405
「────なるほどネ。なかなかクールな能力だと思うわ!……ギャップ凄いけど。」

「……それにワタリ、アナタ相当な手練れね?でなければ威嚇一つで路地裏安全歩行が可能なんて…あり得ない。」

相手が自分の喉を何処か自慢気に示すと、何故か彼女までも首に手を当ててそう言った。
叫び声のボリュームはそれこそ彼女が飛び跳ねて驚愕する程の凄まじいものだった。──でも、真に注目すべきは、彼女の後半の言葉にあった。
こういう叫び声になら、通常の不良であれば『好奇心』でむしろ近寄ってくるはずだ。然し、普段から不良で蔓延っている筈の路地裏には影も形もない。

マリア・D・シュペリュールの口元がニヤリと歪むが、刹那のうちに元の彼女の顔へと戻る。

そんなこんなで渡による威嚇でここまで無事に来ている風紀委員+カウガール+不良集団のご一行。
ただ、やはり平和に終わる筈もなく、前方からはそれこそ”狼の雄叫び”を知らない『好奇心』を抱いた不良がゆっくりと歩み寄ってくる。
呼応するように、まず金髪の少女が前に出た。

新たに登場した障害───”狼”に挑む野良犬。



「…………………………………ちょいと眠ってて貰うわ。じゃあ─────────ねぇッ!!」

不良は二人、まずは滑り込みで両方の足を払う。
次に体勢を崩した両者を回し蹴りで壁に吹っ飛ばし、二丁の銃によるナイフの発射で彼らの服を貼り付ける。



──────そして。
新たに登場した障害を簡単に蹴散らしたその金髪カウガールは振り返って。


「………………………………………。」

あろう事か、その銃口を───、
他でも無い『渡 慈鳥』という一匹狼に向けるのだった。
後ろに誰かがいるわけでもなく、その透き通った碧眼は正しく彼を凝視している。
407 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/27(水) 20:36:58.34 ID:qJpt/ier0
>>381

そんな人の波の中を少女ソレスは歩いていく。その顔はげっそりしていていつもの彼女らしくない。

「はぁ…そろそろ金の調達をしなければならんのじゃが……」

今までは昔調達した金で生計を保っていたが、それももう限界。バイトをしようにも見た目のせいで断られ、川などから魚を捕って食べるしかないという悲しい実情。
今日も自分に出来そうなバイトを探したが無く、今の住処へと帰る途中だった。

「………なんじゃあの小童は…」

目の前に珍妙な動きをして周りの目を引く少女が一人。服装と言動、全てがとにかく目立ち、子持ちの親なら見てはいけませんと子供の目を隠すであろう程の珍妙さ。
相変わらずこの街にはおかしな人間が多いとしばらく見ているセレス、そこに少女の「お祈りをする場所」という言葉を聞き、少女に話しかけるかどうかを考えてしまう。
確かに"お祈り"をする場所なら知っている。確かこの国ではあそこで祈りを上げているはずだ。
だがあれに話しかけるのはどうだろうか――――

「おいそこの陽気な小僧、祈る場所を探しておるそうじゃな」

まぁ困っているのなら放っておくわけにはいくまい。ただの道案内、それにそこに居着くというわけでもないだろう。
帰りがてら案内すればそれでいい、あんな少女を放置しておけばどんな問題を起こすか分かったものではない。

「そういう場所ならば一応知ってはおる、儂で良ければ案内するがどうじゃ?」
408 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/27(水) 21:04:03.56 ID:sgFYmhbao
>>406
「んー……僕を怖がる人、結構多くってねぇ。見つかったら絶対に逃げられないだとか、そんな感じで……あ、そんな事ないんだけどね?」

不思議だよねぇと少年は言うが、少女には分かるだろう。
先程の少年の言葉通りだとするのなら、逃亡者の捕縛を得意としているのだ、不良たちの間でそういう噂がたってもおかしくはない。

……そして、やはりどうしても邪魔者を排除しきる事は難しいようで。

「他にも変な事言われたりするけど………っと?」

目前に現れた新たな不良に対応しようとして、少女の勢いに出鼻をくじかれた。やけにやる気だなぁと思いながら、入れ替わりに少女から解放された不良5人へと視線を向ける。
どうやらすぐに逃げる様子はない。ひとまずは大丈夫かなと視線を戻して––––––

「………えーっと……マリーちゃん?僕、何か嫌なこと言っちゃったりしたかな」

––––––そろり、と両手をあげる。正真正銘、敵意がないと伝えるポーズだ。
口元には、相変わらずへにゃりとした情けない笑みを浮かべて、前髪の隙間から伺うように、視線が少女へ向かう。
わからなかった。先程までは友好的だった筈なのに何故こちらに銃口を向けるのか?
すぐ近くの不良に向けてかとも思ったが、やはり視線は正しくこちらへ向かってきている。

「それ、結構怖いから、できれば僕に向けないで欲しいなぁ……?」

もし、自分の勘違いでなく本当に己へ銃口を向けているのならば。そしてもし、先程不良たちに向けたのと同様に弾を飛ばしてきたのならば。
……そうなれば、少女も取り押さえなければならない。誠に不本意ではあるが、仕方ない。
409 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/27(水) 21:10:39.59 ID:QXYEXcNH0
>>407
黒いドレスの少女の快活な動きがぴたりと止まると、ゆっくりと呼びかけられた方へ振り向く。
背は小さく、豊満な胸が目立っていた。彼女は声を掛けた魔術師を見て目を瞬かせていた。
瞬きを何度もする。洞察力が鋭い人物なら気づくだろうか―――


――――――黒い喪服で装飾された顔、その瞳はどうしようもなく乾いていた。


「えっとえっと、キミがわたしを案内してくれるのかな?うれしいなあ、うれしいよー!」

ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回る。しかし彼女の瞳は乾いていた、凡そ生物が持ちえるはずの
感動といったものが感じられない死んだような瞳。彼女は大げさにオーバーリアクションするものの、相手に対する興味はない。
キミ、と。黒いドレスを着た少女は生きた人間のことをそう呼ぶ。彼女は生物――正確には生きた生命を愛することができないからだ。

「じゃあわたしは親切なキミにお願いしちゃおうかな、えへへ」

頭に手を当てたまま照れたようにはにかむドレスの少女。
彼女の瞳には間違いなく魔術師が写っているのだが、彼女からはコンクリートの人型の壁のようなものが喋っているような感覚だ。
嫌悪感があるわけではない。グロテスクに見える訳でもない。ただ興味が持てない。
実際は違ってもドレスの少女にはそう感じられる。そして彼女は普通の人と同じく、生命感がない壁を愛せるほど『狂っていない』
彼女に話しかけている人が能力者だろうが、魔術師だろうが子供だろうがそうである。壁が少し変わるだけ。

「ここは広いから、わたしはきっと迷子になるところだったんだ、これでお祈りができる!よかったーよかったよ」

テンション高く喜ぶ少女。機から見れば黒いドレスの少女は可愛らしい元気な女の子なのだが、彼女の価値観は普通とは違う。
コンクリートの壁だろうと、合金の壁だろうと、レンガの壁だろうと愛する対象ではない。そして人間はそれ以外にはならない。
それだけのことである。ドレスの少女が愛せるのは屍だけで、彼女にとってはそれが普通だった。

多くの人間を見ている人物なら、彼女が狂っていると分かるかもしれない。
410 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/27(水) 21:32:57.96 ID:iEouFieW0
>>408
────違和感があったとすれば。
何故にマリア・D・シュペリュールは渡の「何故こんな所にいるのか」という旨の質問を曖昧に受け流したのか。
忘れていたという訳ではない。寧ろ意図的に、かつ自然にそれを受け流しただけだ。
銃口は下がらない。そして、理由は至極単純。

”語る必要もない程、くだらない解答だから。”

「もっちろん、アナタは何もしていないわ?ワタリ。」

バシュン!バシュン!!と、渡へ向けられた銃とは別の方の銃が連続して唸りを上げる。
ナイフが深々と、一番最初の五人の不良の制服を巻き込んで地面に突き刺さった。
彼らには小さな声で「無駄な抵抗はよしなさい?」と軽くウインクしつつ言うのだった。
そして直ぐに渡へと視線は戻る。

「ええ──────そうね。
まず一番最初のYour Questionに答えてあげるわ!

ワタシがこんな路地裏にいた理由、それはただワタシの”好奇心”がワタシを突き動かした、それだけなのよ。」

「For example、例えば。
今ワタシが倒したこの子達はアナタの雄叫びに”好奇心”を示した。───それと同じようなものよ。」

ニシシッと笑いながら。
もし彼が焦っていたとしても、彼女は違う。
あくまでこれは彼女の好奇心の延長線上───カテゴリに分けるならば我欲による『遊戯』である。

「そして、ワタシもまた、その一人という事。別に殺し合いをするわけじゃない。
単なるじゃれあいと思ってくれると嬉しいな。
─────ね?簡単なことでしょ!?」

「ワタシが狼を狩る狩猟者となるか、それともアナタが弱者を屠る獣となるか。
ヒューーー!我ながらパーフェクトね!!はぁい拍手!!」

その銃口は下りず。──尚も笑って少女は宣戦布告をする。



「───どう?受けてくれるかしら?」




411 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/27(水) 21:36:00.43 ID:qJpt/ier0
>>409

ソレスの少女に感じた印象は"渇き"だった。こちらを本当の意味で見ていない、まるで別のものと話しているかのよう。
楽しそうに語っていてもその根底ではまるでこちらに興味を示していない。こういう人間は見たことがある。人というものに興味を持てない、そもそも興味が無い、もしくはそれ以外を愛しすぎている。

しかしそんなことは今のところは気にするところではない。ただ道案内をするだけなのだから気にすることでもないだろう。
それはこの少女との接点が"これで終わり"ならの話だが。

「あぁ、ついてくるがいい」

そうしてソレスは少女の背後に一瞬目をやる。
尾行―――この少女は何か追われているのか?少なくとも自分の尾行している様子はない。がやはり気分が良いものではないだろう。

「………そこの角を曲がった瞬間に走る、しっかりとついてくるんじゃぞ」

小さく少女にしか聞こえないような声で呟くとソレスは歩き出す。
そして角を曲がった瞬間走り出すだろう。そしてソレスが向かうのは鬱蒼とした森の中。そこを進むと開けた場所があり、そこには寂れた神社がある。
そここそが現在ソレスが住処としている、まさに竜の根城というわけだ。
412 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/27(水) 21:52:15.45 ID:QXYEXcNH0
>>411
「走ってついていけばいいんだね、わかった!わかったよー」

黒いドレスの少女は人間についていった。足取りも軽やかにスキップし、その度に彼女の豊満な胸が揺れる。
前を歩く少女はドレスの少女にとって生命感がなく、それが黒いドレスの少女にとって残念だった。
どうして神様にならないのか不思議でならない。ドレスの少女のように神様を降臨させることのできる存在はあまりいないらしい。
普通の人間は神様を降臨させてはならない。それが不思議だった。みんなわたしのようにもっと親切にならなきゃ、神様をいっぱい降臨させるために。

「じんじゃってきいたことないなあ、神様が居るの?わたしがお祈りしてた場所には居たよ?」

走りながら息を荒げ、首を傾げて魔術師に問いかける少女。
日本に来て日が浅い少女は元々キリスト教の教会を住処にしており、そこには神様が沢山居た。
愛おしい神様達は、いつも黒いドレスの少女を優しく見守ってくれている。

背後の追跡者はしばらく追跡していたがやがて追うのを諦めた。ソレスという魔術師が有名だったことも理由の一つだろう。

「キミたちさよなら〜!」

ドレスのしょうじょは大きく手を振りさよなら、と別れの挨拶をした。
そして神社へと向かってゆく。
413 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/27(水) 22:06:36.85 ID:sgFYmhbao
>>410
連続する発射音に一瞬、びくりと身体が反応する。
銃は獣を狩る道具としてよく用いられるものだ。狩られるものには勿論狼も含まれている。
いつだったか母親から、人狼伝説に則って銀の弾丸に撃ち抜かれた祖先の話を聞いたことがあった。今自分に向いている銃口から射出されるのは"それ"ではないし、そもそも殺意は向けられていないが、しかし。

「じゃれあい、ねぇ……うん。オーケーOK、受けてあげる」

しかし、やはり己に向けられると心の奥底で微かに感じてしまった。先祖や同胞を屠ったこの道具が恐ろしいと。
ぞわりと背筋を走る何かの感覚に、強がりでニィと笑ってみせる。大丈夫、殺し合いではないのだから死ぬ事はない……殺す必要も、ない。

みしり、みしみしと小さな音が鳴る。骨格が変化する音––––––渡が、戦闘態勢を整える音だ。

「一応、気をつけるからさ……もし怪我しちゃっても、怒らないでね?」

靴も靴下も脱いで、隅へ置く。キャスケット帽を変化していく手で取り、それも隅へ。
邪魔、という事だろう。完全に変化し終えた手足を見れば判る、その強靭な四肢に平等についている、鋭い爪を。
––––––そして、"獣人間"は動かない。まるで「お先にどうぞ」とばかりに、無言で少女へ視線を向けた。
414 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/27(水) 22:17:22.98 ID:qJpt/ier0
>>412

とりあえず追っ手は引けたようで、神社の賽銭箱の上に座り一息つく。もう神主さえも居なくなった神社だが、まぁそれでも神社だ。
この国には八百万の神が居ると聞く、ならまだ神の一柱くらい居るだろう。

「なに?…あぁ、ならば教会か……エリーゼの居るあそこへ連れて行った方が良かったかもしれんのう……
まぁここも一応神を祀っていた場所じゃ、別にどちらも一緒じゃろ」

あまりに適当である。そもそもキリストと日本の多神教はかなり違う。
だがそこら辺を気にするソレスでも無く、賽銭箱の上に座るほどなのだから神についてもあまり深くは考えていないのだろう。もし考えていたとしてもソレスが神に祈るとは思えないが。
神という概念は元々は人が安心を求めるために作られた偶像、本当に存在したかしていないかは関係ない、その概念自体が大事なのだ。

「それにしてもお主、見るからにこの国の人間では無いようじゃが……何故にこの国に来たのじゃ」

あの追っ手、あれは恐らく魔術師だ。魔術師に尾行されているなど普通の人間ではあり得ない。
能力者だとしても、あぁも尾行されることは無い。されるとしたら魔術師相手に喧嘩を売った馬鹿者―――そう、ちょうど最近聞いた"魔女狩り"といった集団くらいだ。

とにかくこの少女は普通ではない、やはり厄介ごとに巻き込まれたかと頭を抱え少女に問うのだった。
415 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/27(水) 22:28:51.52 ID:iEouFieW0
>>413
「─────ふふ、OK!!
怪我?ジョートージョートー!!HAHAHA!!」

無能力者といえど、相手が何らかの能力を持っていることを認知した上で挑む以上、侮れないのは相手方の渡にも十分理解できるだろう。
愉快で痛快な笑い声をあげ、風で飛ばないように片方の銃を持った腕で帽子も押さえながら後退した。

渡 慈鳥という獣にとってこの路地裏が狩場なのであれば、マリア・D・シュペリュールにとって路地裏は秘密基地の様な物だ。
まるで子供の様に、自らがその土地を形成したかの様に。ここら辺の路地は全て彼女の脳の中にある。
─────余韻を残しつつ、そのままの勢いで彼女は曲がり角を曲がって姿を消した。

右か。左か。
後ろか。前か、────────否!!


「──────じゃあ始めるわ!!
ワタリ、死なない程度に風穴ぶち抜いてあげる!!」

右斜め後ろの壁…”頭上”である。───建物の壁の出っ張りを掴み、張り付いていた。
重い金属音と共に弾き出される刃の弾丸。総数は3発。
弾丸よりは速度も遅く、空気抵抗が大きい分威力も相対的に遅くなる。───渡にも反応できない速度ではないだろう。
だがしかし、それは鉛の弾丸と違って掠っただけで大きなダメージを引き起こす。
───1発目と2発目は右足と左足。そして最後は牽制のためにかなり後方への発射。


生を賭けたただのじゃれあいが、今、幕をあける。
416 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/27(水) 22:36:23.71 ID:QXYEXcNH0
>>414
黒いドレスの少女も、階段に座り息を整える。
賽銭箱の上に座るソレスを止める者は居ない。黒いドレスの少女自体が日本の文化を知らないため当然であった。

「ひっひっふー、ひっひっふー……いい汗かいたね!」

寄生を出して息を整えながら満面の笑顔で親指をぐっと魔術師の少女に突き出す。
彼女の瞳は乾いており、単なる擬態だがその仕草だけは可愛らしい。
ラマーズ方のような息の出し方は出産する時の為にする呼吸法で、全く意味がないものだが。
立ち上がると神様は居るかな〜と探検を始める。見つからなくてしょんぼりしたが
ここにはお祈りに来たことを思い出してすぐに立ち上がった。

「やっぱり神様は居ないみたい、でもありがとうだよ、ありがとうだね!」

ここに神様を祭ればドレスの少女にとって何の問題もない。黒い少女はそうしようと内心で決意した。
向日葵を連想させる純粋な笑顔で笑いかける。少女の言う神様とは屍のことだがそんなことは分からないだろう。
幼い少女は幽霊や神様などを信じやすい。精神的に幼いから、ここにはいなくてキリスト教にはあるように錯覚している。
他の人からはそう映る。少女の擬態は成功しているのだ。

「えっとねー、神様関係のことは喋ったらいけないんだって。だからだめなんだって、私も残念なんだよー」

ドレスの少女は豊満な胸の前に両腕で大きく罰印をする。会話になっていない。
このドレスの少女はなんだかんだで学園都市に来た理由を簡単に明かすことはない、と信頼されている。
彼女は基本的にアホで頭が足りてないが肝心な機密は漏らさない。
だから尾行している魔術師達は引いたのだ。
417 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/27(水) 23:00:43.08 ID:qJpt/ier0
>>416

「まぁ宗派の違いというやつかのうぉ…」

神は居ないなんていうのはこの都市ではもはや常識になりつつある。それこそがここの神秘性の欠如の証をよく示していると言えるだろう。
そんな幻想こそが神秘なのであり、魔術師はその幻想を解き明かし、世界の真実を知ろうとしないがために魔術を続けている者がほとんど。
むしろソレスのような者は例外だ。

「ふむ…ならば仕方がない、禁止されているのなら儂も無理に聞き出そうとはせんよ」

神様関係、何か聖遺物でも隠し持っているのだろうか。しかしそれにしては無防備過ぎる。いや、強力な力を持っているからこそこうして振る舞えるのだろうか。
とにかく、やはりこの少女には何かある。面倒なものがまたこの学園都市に現れてしまった、つくづくこの都市は運が悪い。こうも厄介ごとを見舞われるなんて早々ない。

しかしこの少女、やはり魔術師という線が濃厚か。こうも神様という言葉を使う者は能力者にはまず居ない、そもそも能力者は神を信じていないのだから。科学を一心に信仰する、言わば神を機械に置き換えた宗教。
それにしてはこの少女は神を本当に信じている。その神がどんなものであれそれに信仰心を持っている。それが今回の判断材料だ。

「……まぁ、せっかく巡り合ったのだ
お互いの名を知っていても良いじゃろう、お主名を何という」

普通こういうのは自分から名乗るのが礼儀というものだが、生憎ソレスにそんなものはない。
相変わらず賽銭箱にふんぞり返ってソレスは名を訪ねた。
418 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/27(水) 23:20:11.57 ID:sgFYmhbao
>>415
少女が動く。こちらに銃口を向けていたのだから1発は撃ち出すかと思っていたが、どうやらこの読みは外れていたらしい。
見失ってはいけない。四肢を変えている間は匂いを辿る事も、聴覚で周囲を探る事もできないのだ。
不意打ちをされては堪らない、ただでさえ遠距離相手で不利な対面なのだ。

追いかけ、角を曲がる。いない?そんな筈は––––––

「……っ!」

後方上から声が降ってきた時、咄嗟に前に避けたのはいい判断だっただろう。足元を狙ったものは空を切り裂くのみにとどまり、後方を狙ったものも同様に、渡には届かない。
なるほど、どうやら以前からこの辺りに出入りしていたらしい。付近の地形把握では勝てないか。
……だが、負ける事も、ない。

「……言葉も狙い方も、エゲツナイなぁ……」

この辺りは己の狩場。遠吠えだけである程度の不良が逃げ出すほど入り浸った、馴染みの……把握していない筈がなかった。
振り返り、力を込めて地を蹴る。獣の四肢のバネは素晴らしいものだ、只人では到底ひと蹴りで辿り着けない高さまで、跳べる。
向かう先は勿論少女の方へ、だ。間合いを詰めなければ相手に良いようにされるだけで終わってしまう。それは避けたい。

地を蹴り壁を蹴り、勢いを殺さぬまま、上へと。
手を伸ばし、狙うのは少女の得物だ。恐ろしいならば片方でも奪えば、少女の攻撃力は半減するだろうから。
傷つけない努力はしなければならない。少女の柔肌は爪で簡単に切り裂けるだろうし、牙を突き立てれば簡単に食い破れるだろうが、それは避けるべき事なのだ。
419 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/27(水) 23:25:12.85 ID:QXYEXcNH0
>>417

「でも多分そんなに変わらないんじゃないかなあ、わたしは神様が居ないだけなんだと思うよ」

噛み合ってるようで噛み合ってない会話を繰り広げる二人。
このままでは神社に屍が送られることになるだろう。それも沢山。
黒いドレスの少女は、組織において切り込み役となることが多い。
魂を抜き取るという所見殺しに近い魔術であり、殺害率は高いものとなっている。歴戦の猛者で無い限りは殺される。

「Notre Père qui es aux cieux〜

祭壇に向けて、フランス語で天にまします我らの父を、と祈りをする黒い少女。
途端に彼女から厳かで荘厳な気配が流れ出し、彼女は一心不乱に祈り始めた。
元気な少女の姿はそこにはなく、宗教の使徒としての姿。

――――そこにあるのは、神に助けられた少女としての真摯な祈りであった。

「mais délivre-nous du mal」

我らを悪よりお救い下さい、と。その言葉で締めくくられる。
黒いドレスの少女に悪感情は無い。悪いことをしているとも思っていない。
しかし皮肉にも、この黒い喪服の少女は学園都市に地獄を齎す運命にあった。
一息つくと、少女は元気な好奇心旺盛そうな少女に戻っていく。

「ありがたいよ、ありがたいね!貴方も神様に恵まれますように」

人間一人一人が神様に至る可能性を持っている、黒いドレスの少女はそう聞いた
だからこそ多くの人間を神様にすることが使命だと思っていた。
ソレスが詳しく聞かないことは、黒いドレスの少女にとってとても有難い。
神様のことを詳しく言うと怒られるのは黒い少女である。
どうして話したらいけないのかは、この少女には分からないのだが。

「えっと、わたしはドライ、ドライだよ」

下の名前は忘れちゃった、えへへと。
その名の通り乾いた瞳で黒い喪服の少女は、ふんぞりかえるソレスに向けて笑う。
笑い声も、いつのまにやら乾いた響きを伴っていた。
420 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/28(木) 21:26:35.16 ID:vT24dLDs0
>>419

「分からんなぁ、宗教というものは」

少女の言葉を聞き、出てきたのはそんな言葉だった。
興味を示していないというわけではない、ただやはり少女の言うことはどこか宗教じみているというか独善的なものを感じる。
だからそれに賛同するもなく否定もしない。理解は出来ないが人には人それぞれの考えがある、そう考えればいいだろう。

少女の祈りが終わるまでの間、ソレスは終始無言を貫いた。話してはならないという雰囲気が周りに漂い、あたりは厳かな雰囲気に包まれる。
見た目はただ一心な信徒だ、だが一体何に祈りを捧げているのやら。もしかすればそれは神ではなく、悪魔なのかもしれない。だがソレスにそれを確かめる術は無いし、確かめる気もない。他人にあまり干渉しすぎるとろくなことにならないと過去に学んでいる。こういう輩は特にだ。

「神様に恵まれる、のう…」

笑わせてくれる。
本来竜とは、龍とは神を食らい、神に退治される定め。そこに神の慈悲など届くはずがないだろうに。
あるのは生か死の二択のみ、元から彼女に救いなどありはしない。

「ドライ…下の名を忘れたとな、自身の名を忘れるなど初耳じゃぞ……」

もしもここで少女――ドライが下の名を答えればその身元をソレスは知っていたかもしれない。そして必然的にそこから思い当たる少女の正体にも。
しかしそれは結局叶わない、今はそれで正解なのかもしれない。

「…お主にだけ名乗らせるというのも気が引けな。
儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼ、どう呼んでも構わん」

そう名乗るとソレスはまたふんぞり返り普段の調子へと戻る。

場所も割れてしまった、もうこの神社は使えないだろう。またどこか別の野宿場所を探さなければ―――
421 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/28(木) 21:54:25.11 ID:dsAoUhgi0
>>420

「えっとね、わたしは神様に救われたから尽くしてるだけなんだよ!だからキミも恵まれる日が来るかも」

えへん、と胸を張る黒いドレスの少女。話し相手は分からないと言っているのになにやら誇らしげな様子だ。
この少女の考え方は独善的である。世界の見方は人によって違うがルールはある。
彼女にとっての善行は間違いなく他の人間にとっては悪行である。しかし黒いドレスの少女にはどうでもいいのだ。
たとえそれが幻覚だとしても、ドレスの少女はそこに神を見た。そして救われてしまった、愛する存在を知ってしまった。

「きっと名前を分からないのは仕方ないんだよ、わたしは神様じゃないから」

また頭を両手でぽこぽこ叩き、む〜っと考え込むドレスの少女。
どうしても自分の名前が思い出せないようだ。しかし彼女の言うとおり仕方がないのかもしれない。
彼女が愛するのは屍だけ、生きている生物を愛することはできない。

―――――つまり生きているドライ自らもその一人。黒いドレスの少女が一番興味がないのは、実は彼女自身だった。

「それすだね、覚えたよ!でもわたしは人の名前を覚えるのが苦手なんだ。忘れちゃったらごめんね、ごめんだよ」

乾いた瞳から無理やり涙を流す。しょぼくれた涙目の上目ずかいで、ふんぞり返るソレスの瞳を覗き込む。
こんなことをしているがこれも演技である。擬態方法だけには気を使っていた、幼いころからの処世術。
正確には覚える気がない、であった。黒いドレスの少女にとっての無機物の名前を覚えることはできない。
彼女は人を愛せない体質なのだ。
422 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/04/28(木) 22:34:43.52 ID:vT24dLDs0
>>421

何が善行で何が悪行か、その判断は恐らく誰にもできないだろう。
人によってその線引きは異なり、悪と善の境界線は曖昧となる。だがしかしだからこそ人はそれぞれの境界線を確認しそれぞれの団体としての線引きをする。
しかしこの少女は、境界線の共有をせず自分の中に閉じこもる。言わばただの引きこもりだ。
そんな人間は他人のことなど考えず、ただ自分のために独走する。特に厄介な人種だ。

それにしてもこの少女、動きの一挙一動に生気が感じられない。
まるで人形が動いているかのように感情が篭っていない。まるで空虚染みている、これが生きている人間なのか。

「……別に覚えんでもよい、忘れるならば儂はそれまでの存在だったということじゃ」

それに出来れば忘れてもらったほうがいい。きっとこのドライという少女とはまた会う気がする。
嫌な因縁を感じる、と言ったところだろうか。とにかく今後良からぬことに巻き込まれる予感がビンビンするのだ。
ならばここでの妙な関係など忘れてもらったほうがその時にはやりやすい。

「では、儂はここまでとしよう、次の住処探しと食料探しもしないといけないからのう」

そう言うとソレスは賽銭箱から立ち上がり歩き出す。その口から出たソレスの生活事情はかなり世知辛い……
もしもドライがそのまま何も行動を起こさないのならばソレスはそのままその場を後にするだろう。
今度ここに戻ってくることは恐らくない。
423 :ドライ・アデュン ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/28(木) 22:55:01.24 ID:dsAoUhgi0
>>422

「うん、分かったよ!キミには助けてもらったから感謝してる!」

黒いドレスの彼女は嬉しそうに飛び跳ねる。他人に自らは喜んでいるように見せかける。
そう、黒いドレスの少女の中身は空っぽだった。それがおそらくソレスという人生経験豊富な魔術師にはよく分かったのだろう。
そのことも黒いドレスの少女にとってはどうでも良かった。だって相手は彼女にとっての単なる無機物なのだから。
元々人の欲望や我欲のままに動くのが、彼女の所属している組織である。ドライ・アデュンを構成しているのは負の固まり。

ドライ・アデュンの存在は、間違いなく人の罪の結晶。その在り方は『屍愛』の裁定者に相応しい。

「adieu!」

フランス語でアデューと。英語とは違い永遠の別れを告げる言葉を口にして大きく手を振る。
そしてドライ・アデュンはソレス=ロウ=メルトリーゼという魔術師から離れていく。
彼女の頭には、ほんの数秒後にはソレスという名前も。親切に神社へと案内してくれたことも。
全ては消えうせていた。覚える価値が彼女の中でなかったのである。

「お祈りができて、よかったーよかったよー!」

そして黒いドレスの少女は、屍―――神様の待つ住居へと帰っていく。
屍だけが彼女にとって畏敬の存在であり。愛することができる存在であるから。
彼女はそこで、待っている。

―――――――魔女狩り、自分たちが神様を学園都市に降臨させるのに邪魔な組織が崩壊することを。


//ロールありがとうございました!はっきりドライちゃんを拒絶してくれて嬉しかったです!
424 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/29(金) 09:55:27.64 ID:gXkhcdcQ0

「……なるほど」

燦然と輝く陽光の下、ひとり納得したように肯く探偵服の青年に擦り寄るのは茶色と白の毛並みを持つ猫。
ボサボサのなった毛並みから一見野良猫のようにも見えるが、それを否定するように桃色の首輪からは鈴の音がチリンチリンと響く。
にゃーにゃー、チリンチリン――比較的静かであるはずの街の一角に響く愉快な音は、和やかさを演出させた。

「私がペット探しを依頼されるのは……動物に懐かれるから、でしょうか…」

ぽつりと溢された言葉に伴い、青年は溜息混じりに肩を落とす。
焦げ茶の探偵服に瑠璃色の眼鏡――知っている人は知っているであろう、小柳=アレクサンドル・龍太の仕事衣装。
その類に知識がないものであっても”探偵”だという印象を与えるその姿からは、状況も相まって一層奇妙さを醸し出す。
にゃあにゃあと鳴く足元の猫をひょい、と抱えてはズレた眼鏡を修正しつつ空を仰いだ。

「しかし、探偵業というのは……なんとも辛いものです」

はぁ、とこぼれ落ちる再三の溜息。
くどいかもしれないが、哀愁漂う彼の容姿はどこからどう見ても探偵のそれだ。
彼を知るもの、或いは探偵に用事があるもの――そんな”例外”が、彼の元へ訪れるかも知れない。
425 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 12:06:46.20 ID:e7eN2F2s0
>>424

太陽の日差しが燦燦と輝き眩しい絶好の洗濯日和。
敏腕として名が知れた探偵に近づくのは社長令嬢でありお嬢様。白いワンピースを着用し白いハイヒールを履いた少女。
陽愛白であった。彼女はお肌の天敵である紫外線から身を守るため日傘を差していた。その日傘の色も白かった。

「ごきげんよう。可愛らしい猫ですわね―――大した腕ですわ」

白い少女は依頼されて発見したであろう猫を一瞥し仮面のような笑顔で賞賛を贈る。彼女の賛辞は心からのものであった。
学園都市は広く路地裏も多い。ましてや猫は気まぐれな生物。ペット探しは地道に住民に聞くより他にないだろう。
下手をすれば身元調査より根気が要る作業である。白い少女の賞賛の理由はそこにあった。

「私、こういう者ですわ。今日は探偵の中でも敏腕と評判の貴方に依頼することがあって参りました」

白い少女は、担当直入に用件を話すために財布から名刺を取り出して探偵に手渡す。
その名刺には彼女の父親が勤める会社名と共に陽愛白という白い少女の名前が踊っていた。
陽愛社長が統べる会社は子会社も多く、その社長令嬢ともなれば相当の資産家である。
彼女自身もすでに経営で利潤を齎す成功を収めており話題になっている以上、探偵が陽愛白の名前を知っていてもおかしくない。

「高天原いずも。学園都市の番町と名高い彼女の身辺調査をお願いできないでしょうか?」

探偵の主な仕事は事件解決ではなく身辺調査である。それはプライバシーの侵害に近いものとなる。
法律的にはグレーと言った所だが、全身を白く着飾った少女は少しでも学園都市の守護者である番町に関しての情報を求めていた。
426 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/29(金) 13:02:10.22 ID:gXkhcdcQ0
>>425
「……! ……ええ、ご機嫌よう麗しいお嬢様」

唐突にも耳を叩く賞賛の声に一度肩を震わせて、しかしにこりと柔らかなスマイルを返す探偵。
彼の腕に眠る猫は人の気配を感じ取ったのか、ハッと目を開けて純白の少女を警戒の眼差しで見つめていた。
彼女の持つ通常とは一線を越した雰囲気の影響か、猫だけではなく青年にも僅かに緊張の面持ちが見られる。
一体何故声をかけられたのか、思案する最中少女の名刺を見てようやくその意図を掴んだ。

「…陽愛白様、お父様のお噂はかねがね聞かせていただいております。
 ……貴方程のご令嬢が、身辺調査……ですか……」

手渡された名刺を受け取り、執筆された内容に驚きと興味が入り混じった表情を浮かべる探偵。
彼自身陽愛社の噂は耳にしている。――というよりも、探偵という職業故に耳にしていなければならないといったところか。
目の前の少女は自分が手の届かないところに居る存在だ、探偵は静かに息を呑む。
一つ一つ、言葉を選ばなければいけないような張り詰めた空気を打ち破るように、青年は口を開いた。

「探偵という職業柄、理由は伺いません。
 しかし、私が言うのもなんですが……陽愛の権力ならば、探偵に頼らずとも身辺調査は可能なのでは?」

そう、彼が気になったのは何故陽愛白ほどの人物が”探偵”という職業を必要としているのか。
その気になれば人間一人ぐらいの身辺など簡単に調べ尽くせるだろうし、権力の嵐に埋める事もできる。
故に、この問いかけは二つの確認の意味も兼ねていた。

――一つ目は無論、何故陽愛の権力を使用しないのか。
――二つ目は”高天原いずも”という存在は、陽愛が探偵を頼るほどの力の持ち主なのか。

探偵という職業柄、依頼人に理由を訪ねるのはグレー…ブラックにも近いだろう。
それ故に言葉を濁し誘導するのだ、依頼人自身に疑問点を喋らせるように。
427 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 13:32:34.68 ID:e7eN2F2s0
>>426
「あら、お上手なことを。有難うございます。貴方も格好良いですわよ」

仮面の笑顔のまま口元に手を当ててくすくすと笑いながら言葉を返す白い少女。こちらの言葉にもお世辞は入っていた。
これぐらいは社交辞令である。しかし探偵としての格好は様になっており本音は混じっている。
白い少女を見て緊張する姿は実に探偵らしく、そこが白い少女の琴線に触れたのかもしれない。
彼女は有能な人材を好むのだ。

「……」

探偵が名刺を手にし、息を呑む姿をじっと無言で観察する。探偵と白い少女との間に流れる空気。
なんとも言えないひりつくような緊張感を白い少女は楽しんでいた。
ここから先は一流の探偵との交渉の時間である。暗部の能力者としての姿ではなく社長令嬢としての分野。陽愛白のもう一つの姿。

「勿論ですわ。陽愛なら人一人の調査をすることなど訳もありません―――本来なら」

そこで白い少女は言葉を切る。そう、本来ならば。
調査相手が唯人であるならば白い少女もわざわざ敏腕の探偵を雇うことはなかったであろう。
しかし白い少女が身元を調べたい相手、高天原いずもは常人ではない。

「しかし、相手が強大な力を保有する能力者なら話は変わってきますわ。しかも荒事に慣れている様子。並の尾行では気づかれます。
 能力を持たない大人では役者不足という所でしょう」

高天原いずもは強力な能力者であり、荒事に慣れている。優秀な探偵でない限りは気づかれる。
しかも複数の隠れ家があちこちに点在しているために彼女の身辺調査は並の探偵には困難であった。
つまり彼女の住居や隠れ家を特定することは能力を持たない大人にはできない。しかし敏腕で結果を出している能力者の探偵であれば話は別である。
白い少女が小柳という探偵に依頼したのはそんな理由があった。
428 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/29(金) 13:52:19.26 ID:gXkhcdcQ0
>>427
「……なるほど、どうやら私はとても名誉ある調査を依頼されたようだ…」

陽愛の権力を使用できない理由は至極単純、”高天原いずも”という存在が権力ではどうしようもない相手だから。
二つの疑問点が一気に解決したのを確認すれば、皮肉交じりの呟きを残し眼鏡を直す。
権力というのは偉大だ。その中でも、世界に名高い陽愛のものならば格別とも言えるだろう。
しかしそれさえも通用しない次元の相手――間違いなく、今までの依頼の中でも最高難易度のもの。

「貴方のお話を聞く限り、この依頼は別格ランク……
 ……心配無用かとは思いますが、高くつきますよ?」

警告、宣言、確認――様々な意を込めた言葉を、底冷えするような低い声色で紡ぐ。
探偵という職業は絶対ではない。神の域にも達してはいないし、絶対に失敗しないとは声を大にして言えない。
いくら並の探偵とは一線を越す実力とは言え、その成功率が100パーセントという訳ではないのだ。
探偵は満身はしません、そう言葉を言い添えてはジッと少女の双眸を見据える。

「…………」

探偵の返事にNoはない、故にあとは純白の少女が肯くだけ。
ここが街路ではなく探偵室などならばお茶の一つでも出しただろうが、生憎今はそんな状況ではない。
科学や魔術が交じり合うこの街にて交わされる一つの”依頼”。それは恐らく、一世一代の賭けとも言える。
429 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 14:21:56.27 ID:e7eN2F2s0
>>428
「とても貴方にとって楽しそうな依頼でしょう?納得して頂けたなら、何よりですわ」

敬語も忘れて呟く探偵に対し、白い少女は仮面のような笑みを崩さない。しかし彼女にも余裕はない。
軽いジョークで返答するが白い少女の瞳は真剣なものだった。大人の探偵では不可能だった依頼。
成功することができるとしたら眼前の眼鏡をかけた敏腕能力者だけだろう。だから彼に縋るしかない。

「勿論ですわ、私は貴方の探偵としての腕を買っています。貴方なら対象に悟られることなく尾行できると、私は期待していますわ」

底冷えするような声に返答するのは同じく冷えた声色。貴方に期待している。何と重い言葉だろうか。
白い少女は笑顔を崩さないが、そこには確かな威厳と威圧がある。言葉を添える探偵に正面から向き直り、僅かに頬に汗を垂らしながら瞳を覗き込む。
分かっています、貴方が失敗したら換わりはいませんわ。探れるだけでかまいません。そう重々しく呟いて。
白い少女と探偵の視線の先にあるのは互いの瞳のみ。どちらの視線もとても鋭いものであった。
暫くそうした後に、白い少女は懐から小切手を取り出す。

「前金として、謝礼の2割は先払いしておきます。――――それではお願い致します、ミスター小柳」

白い少女は笑顔のまま、しかし真剣に重々しく頷き肯定した。賽は投げられた。後に必要なのは結果である。
一世一代の賭けなのは白い少女も同じであった。これに失敗すれば白い少女は高天原いずもを襲撃できない。
それは彼女の計画においては最大のイレギュラーとなり得ることを意味する。探偵の失敗は許されない。
430 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/04/29(金) 14:51:29.55 ID:gXkhcdcQ0
>>429
「……ご期待に添えられるよう、全力を尽くします」

期待している――その言葉を、これほどまでに重く感じたことはあっただろうか。
陽愛白という人物の大きさは知っている。そして、それに伴う力の強さも。
だからこそ失敗のリスクも大きい。下手をすれば、文字通り自分の首が飛びかねない程のものだ。
睨み合いにも近い互いの視線は縫い止められてしまったように動かない。
探偵の頬を伝う冷や汗が、緊迫した状況をこれ以上ないほどに物語っていた。

「…っと……2割でこれとは、大したものですね……
 ええ、お願いされましたよ……陽愛”お嬢様”」

前金として渡される小切手に刻まれた莫大な金額を目にして、思わず呆れにも似た苦笑いを見せる探偵。
その金額は決して遊びで出せるものではなく、陽愛白の本気というものを垣間見せられたような感覚を感じる。
双眸は鋭く、重く――探偵が最も緊張する瞬間というのは、この事を指すのかもしれない。
緊迫した面持ちは憑き物が取れたように晴れ晴れしい笑顔に変わり、こくりと小さく頷いた。

「では、その依頼確かに承りました。
 ……これが私の連絡先です、…報告をお待ちください」

醸し出していた緊張感を拭い、ポケットから差し出したのは小柳探偵の名刺。
連絡先や広告などの最低限の情報だけが記されたそれを受け取れば、正真正銘残るのは”結果”のみ。
決して失敗が許されない一世一代の賭博の火蓋は切って落とされ、物語の歯車は正しく回りだした。

//キリがいいのでこの辺で〆で!!
//ロールと依頼ありがとうございました…っ!またよろしくお願いします!
431 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/29(金) 16:10:31.25 ID:Wl1pOtFQ0
>>418
「───なるほどね。
さすがに能力者アンド風紀委員。こんな子供騙しではどうしようもない……か。」

これは嘘偽りのない真実、だった。
能力者でもなく魔術師でもない『無能』なマリア・D・シュペリュールの全力は2丁拳銃の射撃ただ一つ。
それが簡単に対処されてしまうのであれば、間違いなく”太刀打ちできない”のである。
ただ、金髪のカウガールがそこらの不良共と同一視されない理由はそこにある。

───ええ、知ってるわ。自分自身の弱さは。

この武器は相手にとってはただの子供騙し。
相手は”不良”に関しては恐らくかなりの手練れ。無闇矢鱈に撃つだけでは当たることはまず無い。
”下手な鉄砲も数撃ちゃあたる”、などと言う楽観的な思考も、あの獣には通じない。

───────でも。

「………でも。ワタシはこんな子供騙しでしか闘えないからネ!HAHAHA!!

────いいわ!子供なら子供らしく無邪気な”フェイク”を見せたげるッ!!」

無能たる自分から『子供騙し』を取り去ってしまったら、何になるというのだ。
結局のところ現実は変わらない。
すぐそこに獣の手が伸びている。
でも、逆に言えば彼女はそれを理解している。ならば………………無邪気に騙してやれる。

────ワタシが”遠距離”だけのただのカウガールかとお思いかな??

「But、────”変体銃刀(チェンジ)!”」

そして彼女の愛用武具であるこの銃は、それに足る要素を隠していた。叫び声に呼応した彼女の親指が銃身の突起を弾くと、グリップの部分が”回転ズレ”した。
簡単に言えば、真っ直ぐ───”剣”のように。その先からは銃形態では発射されるはずのナイフがヒョッコリと顔を出す。そしてそれが二本───二刀流だ。

その両方を逆手に持って、彼女は”跳んだ”。


「─────でぇぇやァッ!!!」

下から迫る獣に、上からの必殺の刃を。
こちらに向かう相手に刃を突き刺すように、その身を空中に投げ出した。
勿論決まれば無能力者なりの全力の攻撃──無事ではないすまないだろう。
ただこの攻撃には問題点が一つだけある。

───その真剣さから察するに、彼女は躱された際の事を何も考えてはいない。そこに、気付けるか否か。


432 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 16:34:32.80 ID:e7eN2F2s0
これは陽愛白が探偵に頼んでからほんの少し後のことであった。
白い少女が下僕の少年との待ち合わせに選んだのは、学園都市を一望できる展望台。白い少女は興奮せず眼下を見下ろしていた。
そう、白い少女と下僕の少年が初めて出会った場所だ。陽愛白が生を望むきっかけとなった場所でもある。

「……」

決戦の時が近いということで、白い少女は下僕の少年と待ち合わせをしているにも関わらず表情が硬い。
ここ数日で、笑顔の裏の精神が磨り減った気がする。自分を救ってくれた優しい少年も、暗部ではない分精神が参っているかもしれない。
助けてくれた友人と敵同士になるのだから尚更だろう。だから駆け寄ってくる下僕に対しての第一声は、こうであった。

「乾、ごきげんよう。会いたかったですわ―――この数日間はご苦労様でした」

白い少女の微笑みは相変わらず仮面のようで。出会ったときと何も変わらないように見えるかもしれない。
しかし彼女の仮面のような笑顔の奥は、確かに変わっていた。そこには自殺願望はなく、生きようとする意志があった。

「魔術師の中にも良い方はいますわね」

これに気づけたのも貴方のお蔭でしょうか、と仮面の笑みを浮かべながら少女は優しく問いかけた。
それは魔術師と魔女狩り襲撃の交渉をする中で芽生えたもの。ソレスとの殴り合いで芽生えたもの。
今まで自らが殺してきた魔術師がゴミではないということに気づけた。
弱肉強食の理念は変わらないものの。殺されるほうが悪いという理念は変わらないものの。
罪を償うという言葉が胸を過ぎるようになった。これも少女が変化した証だろう。

単刀直入に話をすることもない、全ては乾への気遣いであった。
乾が大丈夫なようなら、高天原いずもの話に移ることを考える。
433 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/29(金) 17:07:54.69 ID:dtren8P00
>>432
彼女からの呼び出しも決して少なくない
この先にある決戦を前にして、白も思う所があるのだろう
打ち合わせというよりも、話し合いでもない...相談というか
互いに張り詰めた緊張を払う目的が大きいと、乾は考えていた

「──────、白さんの為になる事で、俺にできることなら...」

そう言いながら、白の隣へ行く
ガラスの先に広がった風景を俯瞰しつつ、チラリと白の表情を一瞥した
相変わらずの笑顔────自分の様に少々他人への観察が多いと違和感を感じる表情
それも、彼女と顔を合わせてきたからか違いが分かる

言葉の節々、声色、僅かな仕草
────何処か、彼女が柔らかいものになっているのではないかと
そんな事を思って僅かに微笑んで風景を眺める

そんな変化に気付けるほど、彼女を見ているという事実に気付かずに────。

「うん、そうだね。 貴女がそう思えるのなら...」

...良かった。と乾は手すりに体重を預けて笑う

彼女がそう口にした事が、何より嬉しかった
魔術師に対する深い憎悪...それ以外のものに触れた事があったのなら
それは、大きな第一歩だ。 彼女が────陽愛 白にとって重要な第一歩

「うん、それじゃあ本題に行こうか────」

そうポツリと呟いた
今日二人で話す本題────とある少女との敵対について
434 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 17:37:20.62 ID:e7eN2F2s0
>>433
「ソレスさんは貴方の友人ということもあって素晴らしい方でしたわ、機会があれば三人でラーメンを食べに行くことを考えておきましょう」

竜の吐息が一番の武器である彼女がわざわざ殴りあいに付き合ってくれたことは薄々感ずいていた。
戦えば殴りあいが一番の武器ではないと分かる。意地の張り合いは今でも白の脳裏に残っていた。
そんな他愛無い話をしながら乾は大丈夫そうですわね、と白い少女は安心する。

「さて貴方の言うとおり無駄話はここまでにして、本題に移ります。愚直な貴方でも理解できると良いのですが」

途端に彼女の表情は鋭くなる。そうであろう。下僕に気を使うここまでの会話は、非常に陽愛白らしくなかった。
仮面のような笑顔を深める少女はいきなり下僕の少年を言葉で虐めにかかった。この性癖は簡単に直るものでもない。
虐めの結果やはり言葉が突き刺さるのは自分であり、白い少女は愉しめず内心でじたばたしているのだが。
白い少女も乾と話せて内心はとても嬉しいのだが、彼女は感情と効率なら効率を優先する。
そもそも傲慢でない人間は陽愛白ではない。こんなのでは乾を心配させるばかりだ。

――――――白い少女も精神が参っていて、下僕の少年に甘えたかった結果が最初のやりとりだったのは内緒である。


「私たちは百舌さん――――つまり高天原いずもを倒す、最低でも身動きができない状況に追い込む必要があります」

魔女狩りを壊滅させるのは魔術師である。以前言った通り白い少女が乾に任せるのは露払いだ。
乾という少年が高天原いずもに頼るのは仕方がない。一度助けてもらった身でその件については白い少女も感謝している。

「彼女は下手な暗部の人間より強いですわ。風紀委員と魔術師を両方相手にして今まで無事。
 今の私達よりさらに厳しい状況で彼女は生き延びてきたと言えば分かりやすいでしょうか。敵として見れば紛れもない強敵です」

そう、強敵だ。下僕の少年のせいもあるが流石にそのことは言及しない。

「高天原いずもの居場所は探偵に探らせております。住居もしくは隠れ家が分かったら私と乾で乗り込みますわ」

ここまでで質問はありませんか、と白い少女が下僕の少年に問いかける。
435 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 :2016/04/29(金) 17:57:44.57 ID:dtren8P00
>>434
高天原いずも────自分にとっては百舌、という名前がしっくり来る
正義の味方である彼女にとって、自分たちは少なからず都市の平和を乱す悪だ
彼女との対立は、もう分かっている

「──────。」

返す言葉はない。彼女の掲げる正義と相反する以上、
この二人の対立は必定だ

その熱い背中と、優しい眼差しに助けられた事がある
救われたとも言っていいかもしれない
それでも────自分には、今横にいるこの人を守りたい
心から救いたいと願った人がいる────だから

その目は遠くを見る緑の瞳に動きはない
ギュッっと知らず知らずに手すりを握る手に力が篭る事に────白は気付くだろうか

「──────ありません。続けて」

声も────震えているのだろうか
聞き逃してもおかしくはないレベルだが...いつもよりも重い、気がするだろう
436 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 18:22:40.90 ID:e7eN2F2s0
>>435
「とりあえず、ここではっきりしておきましょうか」

白い少女は、落ち込んでいる下僕を見てはあと溜息をつく。この下僕の気持ちは、陽愛白には分からない。
ただ自分にとっての乾がどういう存在か考えたとき、おのずと答えは出ていた。
今から口にする言葉は、逆に下僕を傷つけることになるかもしれない。それでも。

「この戦いに、正義はありませんわ。私と乾は勿論客観的に見てそうですし……私にとっては高天原いずも、も単なる悪人です」

百舌は確かに乾を助けてくれた恩人である。しかし、彼女は高天原いずもとして陽愛白と乾を見捨てて学園都市を守ることを選択した。
暗部として見れば高天原いずもの行動は白い少女にとって理解できる。決して間違えていない。陽愛白が反対の立場なら間違いなくそうする。
人が2人死ぬことで学園都市の平和が保たれるのなら安いもの。むしろ喜んで敵2人を駆除するだろう。

「高天原いずもの考えは正しいものです。しかし彼女は乾を見捨てた。そのことは私が許せないことですわ」

陽愛白一人が危険ならばまだ分かるのだが、危険なのは―――魔女狩りに粛清を狙われているのは二人。
この状況で一番危険なのは荒事に慣れている陽愛白ではない、まだ闇に落ちて浅い乾 京介である。
つまり彼女は番町として、友人である乾を見捨てたのだ。少なくとも白い少女からはそうとしか映らない。
彼女の中では葛藤があっただろう。裏に魔術師の影が見え隠れしていることも分かっている。
魔女狩り頭首が誘拐を激しくしたのは恐らく魔術師に対する警告である。どんな魔術師への何の警告かまでは分からないが。
それでも許せないことがある。

手すりを握る乾の手に、白い少女は自らの手を重ね合わせる。優しく、丁寧に。

「しっかりしなさい、貴方は私の下僕なのですから。一緒に地獄から脱出するのでしょう?」

白い少女の下僕に向けられる声、眼差し、笑顔は、力強いものであった。
437 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/29(金) 18:32:51.96 ID:pkVBifdlo
>>431
少女の構える銃身が、思わぬ変形を見せる。遠距離特化かと思ったが、近距離もカバーできるかなり有用な武器だったのか。
驚愕し、素っ頓狂な声が漏れる。小さな焦りが積み重なった大きな隙を突かれてしまって。

「んなっ?!」

しまった。そう思うも時既に遅し、獣は既に最後の蹴り上がりを終え宙に浮いている。回避など不可能。
更には何を思ったか、少女が此方へナイフを向けたまま飛び込んできた。このままでは伸ばした手がモロに当たってしまう、それはまずい––––––

––––––というか、そもそも、少女はこの一撃後どうするのか?
反撃への対応は?落下した際の受け身は?……どちらもあまり、考えてあるような行動には思えない。

身を捩り、伸ばしていた手を手前へ引き戻し、致命的な一撃は回避を狙う。この際、多少の傷は覚悟の上で動かなければ。
そして、

「––––––っ!!」

変化していた両手を、人間のものに戻す。大きな隙を突かれた時点で、ほぼ負けたも同然なのだ。
ならばせめて、少女が怪我を負わないように徹したいのだ。
少しでも衝撃を殺せるように、両足だけは獣のままで。

少女が何もしないままであれば、少年はこのままマリアを受け止め、落下しなんとか着地を試みるだろう。
438 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/29(金) 19:33:44.00 ID:dtren8P00
>>436
正義の反対はもう一つの正義なんて話もある
だが、所詮は哲学の一片の様なもの
世界は数によって善悪が決定する
そうであるなら、自分達は確実に悪なのだろう

たった二人の正義は、大勢にとってただの脆弱な悪に過ぎない
その悪に対する高天原いずもの選択肢は正しい
自分達を罰する為に立ち向かう事に、乾は納得しているつもりだった

つもり────だけなのだろう
何処かで、自分はその事実に迷ってしまった
答えを出す事を、考えていなかったのか

その事実と、想像の差異がこの震えだった
怖かったのだ────行く道を阻む壁が

「──────え?」

その震えていた手に、白の手が重なった
彼女の温かさがその手に、指に伝わって感じ取れる

「あぁ────そうですね。 そうだった...
俺は、貴女を救いたいんだ。その為にここまで来た」

その決断に迷いはない。その行動に狂いはない
陽愛 白という少女を助けたいと願って、彼女と共にあろうとした

そうだ。忘れるな────俺の全ては、この人の為に

自然と、乾の手が動く
重ねられた手を握り返す様に指を絡ませた
いつぞやの手を握ったあの日の様に、
439 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/29(金) 20:00:17.72 ID:Wl1pOtFQ0
>>437
「───よぉし!!これでワタシの勝ちよ!
ゲコクジョーって奴ね!ブシドー最高!!」

強引な一撃をと、双刃を従えて空中に身を投げ出した金髪カウガールことマリア・D・シュペリュール。
渡の察する通り、実はこの後の策は何一つ存在しない。
この刃だって彼の眼前で止めて、驚く顔を見てから得意な顔をしてやろうという算段である。
──空中に身を投げ、下に見える渡に快活に勝利宣言をする少女。だが、間も無くしてあることに気づく。

───どうして獣化解除してるんデスカ?

───あれ?このあと、どうなるの?ええ?

「────マジかぁぁぁあぁぁあぁぁぁあああああ!!」

落下が始まる。身体にここまで身に染みて浮翌遊感と重力を味わったのはこれが初めてかも知れない。
二つの武器は既に彼女の手から落ちて落下し、そしてそんな彼女は思わず目の前の渡に飛びついた。
女性特有の、身体の所々の突き出た部位が、強引に渡に押し付けられる。───彼女の方は気づいていない、いや、気づいていてもアメリカ式だとかで何とも無いのだろうが。

「ごっめんワタリ!!どうにかして早くヘルプヘルプヘルプうううううううう!!」

自身が巻き込んでおいてこの他力本願。ただもう既に落下は始まっている。
ならばどうしようもない。─────渡 慈鳥の風紀委員としての腕前にお任せするとしよう。

440 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 20:43:37.51 ID:e7eN2F2s0
>>438
「やっと立ち直りましたか、それでこそ乾。私の誇りとする愚直な下僕です」

白い少女は安堵する。白い少女と下僕の進む道。それは他の人間から褒められる道ではない。
魔女狩りを滅ぼした先には間違いなく何かがある。高天原いずもが友人である乾を裏切るほどの、学園都市を揺るがす何か。
それを齎そうとしている自分たちは悪に他ならないだろう。

「世間から見て間違いなく私たちは正義ではありません。偽善者でもなく、独善者ですらないでしょう。高天原いずもとは大違いですわね」

白い少女はくすくす、と口元に手を当てながら笑う。なぜか可笑しかった。状況が絶望的なのに全然怖くない。
白い少女と下僕の少年の手が絡まった指先は、温かい。手の暖かさは心の温かさであった。
陽愛白は頬を僅かに染めながら思う。これが生きるということなのだと。
彼女はそんな、論理性がまったくないことを暫く手を繋ぎながら考えていた。

高天原いずもは正しい、彼女は番長であり正義の象徴である。
事情を知れば学園都市の住民もほぼ全員が陽愛白と乾京介を非難する。
だが陽愛白は元々悪人である。そして彼女には乾という誰よりも信頼できる下僕がいた。

「しかし、それならば簡単です。私達は悪人として、正義の味方である学園都市の番町を打ち砕きます。乾も着いてきなさい、命令ですわ!」

白い少女は、あの日のように手を繋ぎながら下僕の少年を巻き込むように宣言する。
それは有権者らしい傲慢さであった。弱肉強食が彼女の理念である以上答えは簡単だったのかもしれない。
441 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/29(金) 21:10:41.65 ID:dtren8P00
>>440
そうだ────俺にはこの人がいる
この人がいるから、今の俺がここにいる
この人を救いたいという願いで自分はここまで歩んでこれたんだ
彼女をその仄暗い闇の底から引き上げると誓った

その決意をその手の温もりと共に思い出す
絡ませた指を、そしてその少女を見つめる
緑眼に映る彼女の顔が僅かに紅潮しているのに気付いて笑った

「────その通り。俺たちは義賊はおろか、正義の味方ですらない。
世界は君と俺を非難するでしょう。 ...それでも突き進むんです」

自らに誓った、たった一つの願いの為に
この身は黒き悪逆の中へ、正義の味方へ歯向かうんだ

「俺たちの道を塞ぐのならば、もう覚悟は出来ています
百舌さん────いや、高天原いずもを倒しましょう。あれは越えるべき壁です」

立ち止まらない。迷わない。目を逸らさない
たとえ立ち塞がるのが友であっても、信念を貫き通す
俺が守ると誓った。たった一人の少女の為に

乾の表情は緊張も抜けて、楽になっている
傲慢とも受け取れる白の言葉を傲慢とは思わない
俺が下僕であの人は主人だ。

絶対に守る。
互いに絡ませた指の温かさに、そう囁いたのだった
442 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/29(金) 21:33:40.85 ID:e7eN2F2s0
>>441
そのまま手を繋ぎ続ける白い少女と下僕の少年。
白い少女は、下僕の少年の体温を。温かみを感じ続ける。
守る、という下僕の独白を聞きながら頬を薄紅色に染める。そして大きく息を吸って吐く。
美しい仮面のような笑顔は既に外れている。こんなとき、白い少女の表情は面白いように変化する。下僕の前では、いつもこうであった。
やがてぽつりと。笑顔の仮面を外して可愛らしい笑顔を向けながら。陽愛白は下僕の少年に呟くように、しかしはっきりと言う。

「安心して下さいまし。たとえどんなに世間が私たちを悪逆非道と罵っても――――私にとっての正義の味方は乾だけですわ」

乾が居たから陽愛白は生きることを誓えた。
死の誘惑から抗って、罪を引きずりつつ。償いの方法を模索する。白い少女がそう決意できたのは乾京介が居たからであり。
他の人間が真似できるものではない。学園都市の守護者であってもそうである。
私と乾が居れば、できないことなどない、と。陽愛白は下僕の少年と手を繋ぎながら、暫くそう思い続けていたのだった。

//ありがとうございました!
443 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/29(金) 21:47:02.52 ID:pkVBifdlo
>>439
「ちょ、ちょっと危な………うわわっ!」

ぎゅうと押し付けられた柔らかさに若干気恥ずかしさを覚えながら、落ちる。
幸い、高所からの落下……というか、降下は慣れている。人一人分が増えた程度ならば足に軽くダメージが残る程度だろうか。
念には念を入れて、少女の手を離れた得物たちを目で追う。落下先であれに襲われては堪らない。
大丈夫そうだ、これなら––––––

「––––––はい、よっと!……っとっと」

両足で着地し、バネを最大限利用して衝撃を和らげる。相殺しきれなかった分は後ろにヨロケてなんとか誤魔化せた。
足の骨が軋む音はごくごく小さかったし、取り乱した少女にはきっと聞こえなかった、筈。

「……えーっと……大丈夫?どこも痛くない?」

こう問えたのは、自身のダメージが少なかったからこそだろう。
実際、少女が早々に得物を手放してくれたおかげで足以外に痛みはなく、見た目は至って健常なままだ。
予想以上に必死にしがみついてきた少女に苦笑いを浮かべながら、様子を伺うように覗き込んだ。
444 :乾 京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/29(金) 21:53:27.10 ID:dtren8P00
>>442
「──────っ!」

笑顔の仮面が外れた白の表情を見て、思わず視線をそらせた
普段の仮面の笑顔も、綺麗ではあるが見慣れているのか大丈夫なのだが
その素の表情はその────卑怯だ

なんというか、────直視できない気がする
凄く動悸がして、顔が熱くなる

赤くなった顔を隠す様に視線を泳がせたが、
互いに握った手のお陰で隠れれないと思ったのだろう
やがて諦めたのか、染まった顔のまま笑って応えたのだった

「ありがとう。白さん...僕も────」

その手に感じる熱を守るんだ
彼女に抱くこの感情の答えもいずれ分かるのだろう
きっとこの気持ちは大切な感情なのだ

手を握った二人はその動悸に笑って、共に展望台で過ごしたのだった────。
──────いずれ来る、決戦に向けて。

/ロールありがとうございましたー!
445 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/30(土) 00:17:26.10 ID:12cv93xr0
>>443
少女の方は、勿論身体的には何も問題はない。
ただし、精神的に見事なダメージを負ったのは間違いない事実だった。
それもそのはず、自分から格好つけて宣戦布告をし、果てにこんな結末が待とうとは。
故にその金髪少女は渡に助けてもらった直後、その場に体育座りをしているのだった。
表情は脚のガードに阻まれて見えないが、恥じ、そして落ち込んでいるのはその様子から明白だった。

「………………………………ごめんなさぁい…」

暫くの時間経過の後に、元気のない調子で声があった。見れば、少しだけ顔が上がっており腕の上から、上目で様子を伺う碧眼が見返してくることだろう。

「……さすがにハリキリ過ぎたというか……ワタシ、能力者と戦うといっつもこうなるんだ……。
─────────I'm sorry.…!!」

パン!!と両手を顔の前に勢い良く合わせて謝罪の英語を述べるのだった。先ほどまでの得意ぶりと比べてみれば、実に滑稽な光景だろう。
446 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/30(土) 00:54:38.48 ID:5WOqKVR3o
>>445
正直、ほっとした。幾ら仕掛けたのが少女とはいえ、それを受けたのは自分だ。何かあったらどうしようという小さな不安は、一応、解消された。
ただ、外傷こそ無いが確実にショックは受けているようで。なんとかフォローせねばと言葉を選ぶ。

「いいよ、良いよ、僕も悪いんだし気にしないで。お互いに怪我は無いみたいだし、それに、終わり良ければ全て良しって言うでしょ?」

挑み、つい張り切りすぎたマリアは悪いのかもしれないが、挑戦を受けた渡も同様に責められるべきなのだ。なにも少女ばかりが気負う必要はない。
未だ獣の骨格のままな膝に手をあて中腰になり、マリアへ向けてへにゃりと笑ってみせた。
若干ずきりと足が痛んだが、病院で処置が必要な程ではないと思える程度におさまっている。

「ごめんって思ったところは、次から直していけば良いんだよ。だからホラ、元気出して?」

ね?と呼びかけ、首を傾げながら片手を差し伸べる。精一杯の励ましの言葉、少女に届くかどうかは分からないが。
一応、すぐにできるフォローはしたつもりだ。これ以上は、今まで人間との関わりをあまり密接に持ったことのない渡には思いつかない。
少女の反応を待ちながら、傾いた前髪の奥に見える瞳には少なくとも、負の感情は一つも宿っていなかった。
447 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/30(土) 06:47:38.62 ID:12cv93xr0
>>446
「!………………………………………。」

怒られて然るべきだと思っていた。その行動が好奇心から来るものだとしても──やはり迷惑をかけたのには変わりはないのだから。
中腰になり、わずかに上にある彼の顔。それを驚いた様子で、目を見開くようにしてみていた。
そして直ぐに何かに納得したように、その目はいつも通りの目に戻る。
───なるほど、見当違いだった。
気弱な少年なんかじゃない……ただ、優しくて強い少年じゃないか。

「ふふっ……」

そして、クスリと笑う。さりげないフォローの言葉を彼なりに探してくれた事についての微笑みだ。

その小さな笑いは、直ぐに「HAHAHA!!」と大きな笑いへと変わっていった。
笑いながら、少女は差し伸べられた手に反応して、それを支えにゆっくりと立ち上がる。
ちなみに、彼の脚の異音については彼女は一切気づいていない。

「────アナタのコト、良くわかった気がするわ!ありがとう、ワタリ!!

──でぇも!ワタシは多分こういうのやめないからネ!
もし風紀委員会の支部にでも顔だしたらよろしくよろしく〜♪」

最後の言葉は、いかにもマリアらしい軽々とした冗談で締めくくられたのだった。
怒るにしても自由であるが、この一点の軽々しさだけは恐らく何があろうと変わらないのだろう。
そもそも、この軽々しさこそがマリア・D・シュペリュールを象徴しているような気さえする。
448 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/30(土) 11:34:24.64 ID:5WOqKVR3o
>>447
どうやら、なんとかフォローできたらしい。元どおりの明るさを取り戻し、しかし反省はあまりしていない様子の少女を見て。

「……うんうん、なんだかその方が、マリーちゃんらしいと思うなぁ」

本当に、そう思えた。今日会ったばかりの、まだ友人とも言えないような関係だが、確かに。
路地裏に、少女の明るい声は朗々とよく通る。笑い声など、こちらがついつられそうになる程溌剌としていて、何故だか不快感を覚えない。
性格も、行動も、なんだかんだで"憎めない"のだ。

「もし面倒そうな人に当たっちゃったら、僕の名前を出すと良いよ。担当代わって貰えるかもしれないからねぇ」

そうすれば、実に少年らしく適当に処理してくれることだろう。
風紀委員の中でも変わり者だろう少年だが、一応、不良を補導するなどしている。実績と信頼がない訳ではないのだから。

「––––––さて、それじゃあ、お仕事再開しようか?」

忘れてはいけない。すぐそこの角を曲がった先に不良を7人も放置しているのだ。
若干2名程連行するには理由が甘そうな者も居るが、それでも詰所に連れて行かなければ、渡の仕事は終わらない。
マリアが得物を回収し終えれば、渡はすぐにでも不良たちの元へ向かうだろう。事前に逃げないよう脅しかけ動きを封じたとはいえ、目を離した隙に逃げられていないとも限らないのだから。
449 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/30(土) 16:09:09.50 ID:s2WXGwXbO
>>448
「おおっと!それは最高にグレートな話ね!!
ワタリ=ジチョー!しっかり覚えてるわ!!」

───と、反省の色は其処に一切なく、寧ろ彼の好意を利用しようとしている始末である。
ニッコリと軽快な笑みを浮かべ、親指を立てた右手を渡に示した。……グッジョブと。

「……あ!そうね!さっさと連れていかないと逃げ出されちゃうわ!!

確かにナイフで固定し、脅しもかけたといえど相手は不良──何をしでかすかはわからない。
回収すべき2丁拳銃は思ったより近くに落ちていた。よいしょ、といいつつその二つを回収し、渡の後をついていく。
先程とは違って、彼女が後ろで渡が前。それはマリア・D・シュペリュールが、きちんと渡という風紀委員を認めている証である。


「逃げてるかなー?エスケープかなぁ?」


と、どうも不吉な現実を予感させる彼女の言葉。
そしてその言葉が的中している事を彼らが確認するのは、それから間もなくの事で─────。
450 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/30(土) 17:10:33.52 ID:5WOqKVR3o
>>449
「––––––ああ、やっぱり逃げちゃったかぁ。……うーん、じゃあ、そうだなぁ」

曲がり角の先で、嫌な予感が見事にあたった光景を見て、苦笑いを浮かべる。放置してしまったのだから仕方がない、追いかけなければ。
少女とは、ここで別れることになるだろう。流石に追跡まで手伝わせる訳にはいかない。

「……うん、じゃあ、僕はあの人たちを追いかけるから、マリーちゃんはナイフを回収しておいて。一応、全部揃ってるか確認してね?」

もし数が揃わないならば、得物を奪っていった不良を優先的に追わなければいけない。
端に寄せておいた靴と靴下を壁に背凭れながら履いていく。どうやら足も元に戻したらしく、人間のものはするすると履物に収まっていった。
全て履き終わり帽子も被れば、ヨシ、と掛け声のように小さく言って。みしりと骨格が変わる音がすると同時に、みるみるうちに少年の頭部は形を変貌させていく。
頭髪をそっくりそのまま残しながら、鼻筋が伸び、顎が伸び、体毛も生えてまるで本物の狼のように。
しかしどうやら、喉までは変えていないらしい。獣の口から器用に発せられた声は、変わらず少年のままで。

「……あ、それからついでになんだけど、場所が分かるなら風紀委員の詰所に行って、応援を呼んで欲しいかな。流石に7人も追いかけるのは、大変そうだしねぇ」

……少女が何も引き留めなければ、少年はこのまま不良たちの追跡に取り掛かるだろう。
451 :マリア・D・シュペリュール ◆BDEJby.ma2 :2016/04/30(土) 17:34:45.57 ID:s2WXGwXbO
>>450
「OK!All right─────了解よ。
多分、直接手伝うって言っても其処はさすがに”一般人”の踏み込む領域ではないものね?…それにまたワタシがボーソーしちゃってもあれだし!HAHAHA!!」

ナイフの数は如何やら最初に所持していた本数と変わりは無いようだ。とりあえず逃げるという一点に囚われたからかナイフを盗むという思考は、不良共には存在しなかったらしい。
───所詮は不良。”無能”である事を自覚し、そしてそれを繕う能力を自力で備えたマリアとはかけ離れた”無能”である。
遺されたナイフを、半ば彼らを嘲笑いながら拾っていった。
回収し終えたマリアは今一度、狼と化した渡 慈鳥へと向き直る。

「ナイフは全部揃ってる、凶器の心配は無さそうね!」

「そして─────サンキュー、ワタリ。
久しぶりに愉快な日常を過ごせたわ!ええ本当に───とても楽しかった!!」

幸運を祈るわ、とウインクとわずかに頬を紅潮させた投げキッスを一つ。
そして最後には笑顔で。夕陽に照らされた少女の満面の笑みは、如何しようも無いほどに眩しかった。
最後の言葉も彼女らしく、流暢で陽気な英語で締めよう。






「────Good bye!See you again!!」

452 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/04/30(土) 18:54:02.99 ID:5WOqKVR3o
>>451
マリアの報告を聞いて、ふぅと大きく息を吐く。
不良が"無能"で良かった。特殊な弾を盗まれては、少女も堪ったものではなかっただろうから。

「そっか。全部あるなら、僕も君も安心だねぇ」

それにそう、躍起になって取り返す為について来る……なんて心配も、少女の言葉のおかげでせずに済みそうだ。
素直に別れの挨拶を口にした少女に対して、ヒラヒラと手を振り、口角を上げる。

「……うん。またね、マリーちゃん」

ニィと笑ったらしい獣の口は、人間の顔だった時の情けない笑みとは随分と違ったものに見えるが。
それもまた少年の笑顔なのである。野性味の多い中でも、確かに柔らかさが感じられる事だろう。

そうして渡は、不良が居た場所で深呼吸のように大きく息を吸う。
ただし鼻で、だ。不良の臭いをしっかりと感じ取る為に、何度かこの動作を繰り返してから。
もう一度だけ少女をふり返って小さく手を振り、今度こそ駈け出すのだった。

//これにて〆でしょうか、ありがとうございました!
453 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/30(土) 18:54:22.49 ID:k+OEY4lU0
今日もふらふらと風船のように大木陸は放課後の学園都市を制服を着たまま彷徨っていた。
彼の細い瞳はいつの間にやら緩くなり、表情から険が取れていた。足取りも不確かなものに戻っている。

「ここ数日は俺らしくなかったなあ、緒里谷さんには謝らないと」

喉元過ぎれば熱さを忘れるという。
殺人鬼の被害が一時的に途絶えたおかげで、大木は自らの臆病さを取り戻していた。
大木の計画は明らかに自らを省みない狂気の沙汰であったし、そのせいで風紀委員の少女に迷惑を掛けてしまったのだ。
殺人現場を見たことで軽いPTSDになっていたのは大木の小さい性根を考えると無理もないかもしれない、しかし。

「勝手な計画に緒里谷さんを利用することを考えたから失敗したんだよな。俺は純粋に他人を助けることを考えよう」

少なくとも学園都市に来たばかりの大木は、人を利用することなど考えなかった。
大木は臆病だが優しい少年だったはずであり。あんな様子では人を助けられる訳もない。
俺は俺にできることをやろうと。冷静になったことで自己分析ができしっかりと反省できたのは、大木にとって幸いだった。

そう新たに決意してして風紀委員の詰所に徒歩で向かおうとした大木であったが。

「……あれえ?」

1時間後。
えっと、ここはどこだ?ときょろきょろ周りを見渡す大木。
気が抜けてしまったのか、彼は久しぶりに迷子になっていた。
地図を何度も確認する。場所は分からない。大木の顔面は蒼白であり、額にはぽつぽつと汗が出始める。

さて困っている人間を助けようとするはずの大木が困っているが、彼を助けようとする人間は現れるだろうか?
454 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/30(土) 20:17:28.09 ID:miKAOZVpo
>>453
道に迷う大木の元に、荒い息遣いと足音が近づいて来た、ハァハァと息を切らす声を鳴らして誰かが走っている。
それは若い女性のようだった、特に特徴的な服装をしているでもない女性が、長い髪を振り乱しながら、何かから逃げるように背後を確認しながら。
彼女はそこにいた大木に気付くと、一瞬驚いた顔をしてから、すぐに脇をすり抜け走って行く、どうやら相当に急いでいるようだ。

そんな事があってから少し経って、女性の姿が見えなくなってからもう一人の人物が訪れた、こちらは打って変わって落ち着いた足取りで、チョコレートのような甘ったるい匂いを漂わせながら。
それはもう見るからに危険な人物だ、真っ赤な髪の上にパーカーのフードを被り、黒い巻き髪の煙草を口に咥えてハンドポケットで歩いている。
ギラついた目は何かを探すように周りに視線を配り、煙草からは甘い匂いの紫煙が燻らされていたが、全体的に見ると彼の年頃は大木と同じくらいの少年のようであった。

少年は、辺りを探す視線をそこにいた大木に止めると、ゆっくりと近付き、睨むような冷たい視線を送る。

「……なァ、テメェ…ちょっと聞きてェんだけどよ」
「ここに女が走って来なかったか?髪の長ェ女だ、どっちに行ったか知ってるか?」

ただ、そう聞いただけ、明確に大木に対してどうとか感情を抱いているわけでも無い、のに。
まるで火を目の前にして熱気を感じるように、その少年から溢れ出す殺気が大木に感じ取れるだろう。
455 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/30(土) 20:45:11.34 ID:k+OEY4lU0
>>454
大木の脇を通り過ぎる女性。彼女は明らかに困っていた。急いでいるというよりは何かに追われているように見える。
地図を眺めて途方に暮れていた表情が変わる。困っているのなら大木が助けるべき対象だ。
大木は人を助けることを目標としており、それはあの学園都市の番町から貰った自らに宿る炎である。

「あの……」

女に声を掛け様とするが彼女は走り去ってしまう。大木は何なんだろうと思った。
そして気づく。彼女が本当に誰かに追われているのなら、もしかして―――――
背筋が凍る。何とも言えない嫌な予感がした。大木は自らの危機には敏感だ。その自らの予想は信じたくない。

しかし世の中は残酷である。大木の眼前に現れたのは、明らかに危険そうな少年だ。
その少年は今まで大木が追っ払ってきた不良とは明らかに違う『ナニカ』を秘めていた。
噂に聞いた学園都市の闇。それが襲いかかろうとしている。

少年と大木の視線が交錯する。大木は自らの奥歯がかたかたと鳴る音を聞いた。怖い、怖い、怖い!

「……髪の長い女ですか」

自然と敬語になる。大木の臆病な本能が囁く。言ってしまえ。こんな所で偽善を発揮して何になる?
女とはたかが他人。ここで話さなければお前が死ぬかもしれないんだぞ?
大木は暫く震えていたが。覚悟して眼前の少年に向き直る。大木の選択は――――

「知りません……俺は女なんて知らない。ここを通りかからなかったんじゃないですか?」

ここで困っている人を保身で売ってしまえば、一生後悔すると。自分の臆病さを誇ることができなくなると何となく思えたから。
大木は嘘をついた。覚悟をした彼の震えは、いつのまにやら止まっていた。
456 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/04/30(土) 20:50:34.53 ID:Whg9sj450
『ゲホッ...ゲホッ...殺さないで...くれ...』
「あ? 何言ってんだお前?」

じっとりと頬を濡らす冷たい空気が満ちている
時間が止まった様に静まりかえった路地裏に僅かな男の声が反響した
数は4人、1人は立ち尽くして残りの3人は地面に伏して呻いている

倒れた連中は見るからな不良だった。何処にでもいる酒とタバコを携えてそうな未成年
そして、立ち尽くしている少年の出で立ちは少々珍しいものだった

毛先に癖のある黒髪を後ろで結び
色素が薄い白い肌と血を思わせる赤い瞳の三白眼の少年
黒を基調にした神父服を少々着崩して身に纏っている
首に掛けた銀の十字架のネックレスが揺れている
細身ながらも無駄のない筋肉質で鍛え上げられてると分かるだろう


「別に殺さねェよ。 ただここで女ァ攫おうとしてたのはテメェ等だろうが
被害者ヅラが気にいらねェんの?...分かってンのか?」
『ひ、ヒィッ!! す、すいませんッ!!! もう売りに出すのは足洗うんで!!』
「...ッ」

神父服の少年が、倒れていた少年の一人の胸ぐらを掴んで問いただす

時刻を5分ほど戻して状況を説明する
要するに、この路地裏で不良少年等による身寄りの無い少女の誘拐が行われていたのだ
この街で頼るあても無い捨て子の様な子は少なく無い
そういった特に少女を扱ったビジネスがなくも無いのだ
そこの現場に神父服の少年が現れ、止めに入った


もうターゲットの少女も逃げて、あとは男同士のケンカだったが
不良も泣きそうな顔で言葉を紡ぐ様子では、どちらが不良か分からない
不良の声は路地裏にも響くだろう。きっと誰かが駆けつけるかもしれない
そんな人物が、この様子を見たのなら────どう思うのだろうか
457 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/30(土) 20:59:52.92 ID:miKAOZVpo
>>455
「……ふーん」

大木よりも10cm余りも高い背丈から、大木を冷たい眼差しで見下ろす少年───黒繩揚羽。
黒繩は何とも言えない反応を返すと、甘い紫煙を吐き出して、視線を大木の奥へと───女性が走って行った先へと向けた。

「ま、知ってんだけどな、本当は」

大木をバカにしたような口調でそう言うと、ニヤリと口角を三日月のように上げて、ギザギザの歯並びを見せる。
それから、煙草を咥えたままで顔をグイと大木に近付け、無理矢理目を合わせるようにして大木の眼を見詰めた、紫煙の燻る煙草の先が大木の顔の寸前でチリチリと燃える。

「なァ、オイ」
「何で嘘ついた?テメェあいつの知り合いか?俺に嘘吐いて隠し通せると思ったのかよ?」

何をして来るかわからない、今にも何かをしでかしそうな殺気、それ自体が牙を剥いて大木に突き立たんとする。
だが、実際黒繩は大木の嘘を見抜いた訳ではなかった、勿論女性が行った方向を知っている訳も無い。
ただの脅しだ、『もしかしたら』というだけの何の確証もない事で、大木にカマをかけている。
458 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/30(土) 21:30:01.67 ID:k+OEY4lU0
>>457
「……え!?」

本当は知っている、という危険そうな少年の言葉に。大木の表情があからさまに変わる。
元々大木は純粋であり。嘘が付けない少年である。カマの掛け合いなどに付き合えない。彼は素直すぎた。
近づく危険な少年の顔は。眼光や口元は凶暴な獣を連想させる。

「……っ」

煙草の紫煙に大木は顔を顰めた。視線を逸らそうとするが、できない。
しかし大木は震えなかった。覚悟を決めた大木は、自身が驚くほど内心で冷静に考えていた。このままではバレる。嘘がつけない。
俺は明らかに一般人。実際にそうだ俺は学園都市の闇とは関係ない。先ほどまでびくびく震えていたような男だ。
能力者であることもばれてない。欠片も危険な人間とは思われてないだろう。

つまり。

――――――――――不意を打つなら今しかない

大木は右足で、危険な少年の腹を蹴ろうとする。放課後ずっと学園都市を彷徨い続けた大木の足は鍛えてあり太い。
蹴りだけなら暗部の攻撃にも劣らないだろう。しかし大木の攻撃には闘志があったものの殺気がなかった。
殺すつもりがなく、身動きを封じるための攻撃。攻撃が成功すれば良し。失敗しても素人に不意を付かれたなら動きは止まるかもしれない。
大木はその隙に危険な少年と距離を取る。

「知り合いじゃない、嘘をつくべきだと思っただけだ。君に隠しとおせるとは思わない!」

眼光鋭く危険な少年を睨み付けながら大木は考える。相手を倒すことを考えるな、勝てるはずもない。
俺はここであの女性が逃げる時間を稼げ、それだけを考えろ、それだけでいい!
459 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/30(土) 22:02:55.51 ID:miKAOZVpo
>>458
カマをかけた時の大木の反応、これは知らない人間のするような反応ではないと黒繩は直ぐに見抜いた。
つまり、やはりコイツは嘘をついていた、ああそうか、コイツは嘘でやり過ごそうとしていたんだな。

「……随分とナメたことしてくれるじゃねェか…!」

大木が女性を匿おうとしていた事よりも、自分に嘘をつこうとしていた事それ自体が許せない。
そんな簡単にバレる嘘でやり過ごせると一瞬でも思われたのが、自分を見くびられたようで気に食わないのだ。

「テメェ…何を知って───ガファッ!?」

更に問い詰めようと、大木の胸倉に掴みかかろうとした瞬間、黒繩は腹部に重い衝撃を感じ、後ろに吹き飛んでいた。
大木の蹴りが腹部に突き刺さり、肺の空気が押し出されながらアスファルトに体を擦る、背中を打った黒繩はそのまま仰向けに倒れた。
いくら戦いに慣れた人間でも、不意打ちで攻撃を食らえばひとたまりもない、倒れた黒繩は起き上がる事もなくピクリとも動かない。

「……ひ、ひひ……」

「ヒヒヒヒヒ!ヒャハハハハハハハハハハ!!」
「ヒャッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハァ!!!」

言葉を発するより、動き出すより、まず彼からは狂気的な笑いが溢れ出す、背を反らし胸を張って体を揺らす。
とても愉快そうなのに、寧ろその笑いに相対する者に伝わってくるのはどうしようもない怒りと狂気、狂犬の尻尾を踏んでしまった時のような焦燥感すら感じ取れるかもしれない。

「───あー……テメェアレか、自殺志願者か」
「死にてェのかそうなのかそうなんだろオイ!!…いや、つーか殺すわ、テメェマジぶっ殺す」

軽やかに跳ね起き、大木を睨み付けた黒繩の眼には、明らかに大木に向けられた殺意が宿っていた。
ビキビキと青筋をこめかみに立て、その両手に漆黒のナイフがいつの間にか握られている、素早く腕を振るいそれを大木に向けて投げつけると、鋭い先端を向けたナイフが二本大木に襲いかかる。
空を切るその漆黒の刃が突き刺さっても傷は一つ足りとも出来ない、但し、同じ刃渡のただのナイフが突き刺さるよりも遥かに激しい痛みが、大木の神経を掻き乱すだろう。
460 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/30(土) 22:38:26.04 ID:k+OEY4lU0
>>459
大木は、危険そうな少年が吹き飛び、動き出すぎりぎりまで距離を取っていた。いつでも逃げられるようにするためだ。
臆病な大木は、まず退路を考える。人間を攻撃したのに、不思議とこの行動に罪悪感はなかった。迷わない。
あのままでは間違いなく大木が殺されるか、逃げた女性が殺されるかだっただろう。躊躇いはない。ここでこいつを食い止める!
そんな大木の考えを後押しするかのように、危険な少年が立ち上がる。

「……っ」

大木に襲い掛かる狂気、悪意、焦燥。
普通の一般人なら、ここで足を止めている。そして黒いナイフに貫かれ、そのショックだけで意識が飛ぶだろう。
しかしこんな狂気は、幼い殺人鬼で味わっている。そして大木も知らないことだがその幼い少女の殺人鬼は、黒繩と戦っている。
そう、一度通った道であった。偶然にも、ここには大木にとって幸運な要素が揃っていたのである。

「俺は死にたくない!あの女性も殺させない!」

そしてお前も殺さない、と心内で続けた。大木の生存本能が。困っている人を助けるという気持ちが燃え上がる。
それは一般人らしく甘い考え。大木はしかし、そんな甘い自分が嫌いではない。
大木はダーツを右手に持ちながら危険な少年の両腕に生成されたナイフを見る。これなら己の能力で回避できる。
そう思いつつ自分に襲い掛かるナイフが体を貫く妄想をし――――――

―――――大木の妄想跳躍は、なぜか発動しなかった。

「ぐああああ!」

大木の両肩にナイフが突き刺さると、大木は悲鳴をあげる。血は流れないかわりに痛みが襲った。回避ができない。
もう一度言うが、普通の人間ならここでショック死または気絶していてもおかしくない。
しかし大木は痛みに呻きながら右手のダーツを投擲した。恐ろしいことにこの攻撃にも全く殺気はない。
攻撃は危険な少年の右腕を襲う。少しでも相手の攻撃の手を遅くするために。

「この痛みなら、慣れてる。何回も死んでるんだよ俺は!」

狂ったようにしか聞こえない大木の台詞には理由があった。大木は妄想の中でバットで頭をかち割られ、ナイフで串刺しにされて何度も死んでいる。
そんな経験をするたびに大木はそれと似た擬似的な痛みを体験し、血を流してきたのだ。
同じ妄想系の能力だったことも大きい。大木が反撃すらできたのはそんな理由があるのだが相手の危険な少年は困惑するかもしれない。
大木は明らかに表の世界の人間だ。裏の気配を全く感じず攻撃にも殺気がない。普通なら反撃なんてできるはずがないのだから。
461 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/04/30(土) 23:00:26.14 ID:/9daN1Wt0
>>456

「あのー、……」

静まり返った空気、響く声。暗い路地裏の光景に恐る恐る割り込んだのは赤髪の少年だ。
彼は落ち着きない足取りで路地の隅からあらわれると倒れ伏した男を順にみやり、やがて神父服の少年に目を止めるとおもむろに声をかけた。

「いじめというか、犯罪行為は、よくないですよ。――警察とか、呼びましたし」

「たぶん」

嘘だった。警察なんて呼んでもいないし、呼ぶ手段もない。
彼は事情をうまく飲み込めていなかった。
とりあえず可哀想な人たちを助けてあげようと飛び出してみたはいいものの、いかにも怖そうな少年を前に立ち塞がってみせるような度胸もない。
場当たり的な行動はすぐに壁にいきあたり、そうして彼はいかにも世間知らずといった間の抜けた雰囲気をまとってその場に立ち尽くしていた。

/まだ平気でしたら……。
462 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/04/30(土) 23:05:47.22 ID:miKAOZVpo
>>460
いい悲鳴だ、とてもいいではないか、やはりこうでなくてはならない。
痛みを耐えて声を圧し殺すのも良いが、シンプルに痛みに喘ぐのは見ていて気持ちが良い、痛め付ける甲斐があるという物だ。
黒繩は興奮を隠し切れずにいた、それは怒りもあれば歓びもあり、自分でも正確にこの感情を表す言葉が思い付かない程に昂ぶっている。
痛め付けて痛め付けて、それでも殺さずのまま、自ら死を懇願しても生かしたまま、苦しめて苦しめて苦しめ抜く、それから絶望に沈んだ顔を眺めながら殺す、一番好きなやり方だ、コイツもそうしてやろう。

「───あ″……?」

だが、そう思う黒繩は一つだけ予想を怠っていた、大木が反撃をしてくるなどとは考えすらしていなかった。
右腕に突き刺さったダーツの痛みを感じてから、漸く大木が反撃したのだと理解する、全く反応出来なかった。
だって、おかしいだろう?反撃しているのに、まったくその気配を感じなかった、攻撃すれば絶対誰もが放つ筈の殺気が、全く感じ取れなかったからだ。
少し前、殺人を悪と思わぬ少女と刃を交えた時ですら、悪意は無くとも殺気は感じられた、純粋な殺気と言うのだろうか。とにかく、生物が他の物を攻撃すると思った時に感じ取れる筈の物が、この大木という少年からは全く感じ取れなかったのだ。

「……何だテメェ?ゾンビとでも言うつもりかよ、それとも幽霊か?そーゆーのもう勘弁なんだわ俺」
「死んでンなら、黙って墓穴に埋まっとけや」

何か、違う───少なくとも唯の一般人ではないと大木に感じた黒繩は、瞬時にスイッチが切り替わる。
警戒心という物が加わった黒繩は、今までよりも更に狡猾に、そして要領を良く、大木を殺す算段に入る。
左手には漆黒の刃を、片刃の剣のような形状の『痛み』を握り、右腕をブランと垂れたまま、大木に向かって駆け出した。
接近が出来たなら、左手に持った剣を袈裟懸けに振るい、大木を斜めに斬り裂こうとするだろう、だがその動きは遥かに予想し易く、躱しやすい。
本命は別にあった、左手の剣が振るわれてから間髪入れず、黒繩の背後から漆黒のナイフが飛び出し大木の頭部を狙って飛んで来る、大振りな攻撃を囮にした攻撃だ。
もし最初の剣の攻撃が妨害され行動しなくても、やはりその瞬間から、同じように黒繩の背後から漆黒のナイフが大木に襲いかかってくるだろう。
463 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/04/30(土) 23:46:49.60 ID:k+OEY4lU0
>>462
両肩の痛みを堪えながら大木は眼前の少年を睨み付ける。大木は危険な少年を殺すつもりが全くない。
普通の人間だとしても攻撃された時に反射的に反撃する時には間違いなく殺意が篭るはず。
大木が自らの殺意を完璧にコントロールできているのは偏に大木のような強大な精神力の賜物であった。
それは絶対に殺さないという強い意志。何度も死んだような痛みを味わっている分大木は命の尊さをよく分かっていた。
命の重さを大切にできるのは、裏の者では決して持ち得ない大木の優しさ。甘さであった。その甘さは確かに武器となっていた。

「……こい!」

向かってくる危険な少年に向けて、大木はあえて動かず何もしなかった。向こうと違いこちらは能力で武器を作れない。
実在するダーツを使うわけで武器には限りがある。有限な武器で確実に相手の動きを鈍らせる必要があった。
大木は距離を取っている分相手が接近してくれる分時間を稼げる。つまりあの女性が逃げる時間を稼ぐことができる。
そうであるなら攻撃するメリットは全くない。大木は新たなダーツを両手に持つもののただ単に待つだけだった。

「ゾンビじゃないな。生憎何回も死んでるけど、俺は生きてるんでね」

大木は狂ったように嘯くが真実を語っている。危険な少年からには『妄想』に見えるかもしれない。
大木が『痛み』に慣れているのはショック死を武器とする黒繩にとって相性が悪いと言えるだろう。
危険な少年の漆黒の刃が生成されるのを大木はただたちつ大木が痛みに慣れていると言っても限度がある。
続けて食らえば意識を奪われ大木は死ぬだろう。だから大木は能力を使った。

危険な少年の刃が振り抜かれる寸前。大木は斜めから妄想の刃で切り裂かれ痛みを覚える自分の姿を妄想した。
今度の大木の妄想は、先ほどのものと違って血が混じったものではない。つまり大木の妄想は正確であり能力は発動した。

―――――大木が妄想の刃に貫かれる、という現実が妄想となり世界が書き換わる。

「ぐううう!」

全身が切り裂かれたような痛みを堪える。流石に直接攻撃されるよりはましな痛みだがリスクも大きい。
大木の大木は黒繩の真横に立っていた。大木が右に跳躍するか左に跳躍するかは自身にも分からない。素早く確認する。
今回は危険な少年の右に出現したようだ。つまり危険な少年は大木の左に位置する。
大木の頭があった場所を不意打ちのナイフが通りすぎていく。大木はぞっとした。
戦闘に慣れてない分大木が能力を発動させなかったら間違いなくショック死していただろう。

大木は即座に左手のダーツを黒繩の左足に投擲した。少しでも相手の動きを鈍らせるために。
464 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 00:08:54.99 ID:asP+jCFc0
>>461
「ん...? そうその通り...犯罪行為は──────」

これだけの騒ぎを起こしたのだ
誰か声につられてやって来るかもしれないとは分かっていた
それで構わない。
人身売買といった反社会的なビジネスが公になれば、そういった犯罪も減るだろう

やってきた少年を一瞥して、うんうんと頷くが...なにかおかしい
やってきた少年のセリフに違和感を感じる
まるでニュアンス的にこれでは、自分が犯罪者みたいな────。

「────って、俺ェ!? 違う違う!! 俺はただこいつ等を懲らしめただけで!」

ようやく己を客観的に見てどうなのか気付いたのだろう
伏した少年等の胸ぐらを掴む暴力神父...みたいな
そんな状態を見られて誤解されてると気付く

手をパッと離して首を横に振って否定するが、時すでに遅し
胸ぐらを掴まれた不良少年は手を離されたお陰で再び地面に倒れこむ
気を失ったのか、黙り込んでしまった

「─────ゴホン。待ってくれ。その誤解しないでくれ
とにかく、警察はダメなんだ...信じてくれないか...?」

若干顔を青くしながらも、目撃者の少年に歩み寄っていく
だが、これではまるで目撃者を消さんばかりの不気味さで────。

/すみません! 遅くなりましたー!

465 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/01(日) 00:18:25.03 ID:eTcR9oNDo
>>463
「あァ……?」

振り下ろす刃、体を真っ二つにする痛みを与えられれば流石に我慢出来まい。
それを躱しても、次は脳天を抉られる痛みを与えるナイフが襲いかかる、二段構えの攻撃は、しかし当然の如く回避される───予想だにしない方法で。
目の前から大木の姿が消えた、一瞬にして消えた大木が今までいた虚空を刃が切り裂く、代わりにすぐ横から大木の叫び声が聞こえ、視線を移した。

何故そんな所にいる?それを考察する前に、大木がダーツを投げるのが見えた、大木の視線から狙いが足だとわかると、黒繩は右脚を軸に回転し、左脚をズラしてダーツを回避、そのまま回転行動を続け、遠心力を伸ばした左脚の先に乗せた。
回し蹴りのような状態で振られる左脚の先に、鎌のような形状の漆黒の刃が形どられる、それが大木を斬り裂く事に成功しようがしまいが、黒繩は行動後に素早く跳んで大木から距離を置くだろう。

「……ンだテメェ、瞬間移動者(テレポーター)か?それとも高速移動か…いや、ンなこたどうでもいいわ」
「さっきから聞いてりゃ、何だよその思わせ振りなセリフはよ、ゲームの主人公気取りか?あァ?」
「死んでも生きてる人間がいる訳ねェだろ、現実にザオリクもフェニックスの尾も無ェんだよ、そういうのは幼稚園で卒業しとけや」

大木のセリフが気にかかる、何度も死んでいるのに生きている?妄想か何かにしか思えない戯言を、よくこうも自信満々に格好付けて言える物だと感心すら覚える。
もしかして自分は嘗められているのだろうか、この状況で尚馬鹿にされていると?そうだとしたら尚更許せない。

「そういやテメェ、あの女の知り合いでもねェのに匿おうとしてやがったな、あー思い出したわ」
「何で俺があの女を追ってるかも知らずに、どっちが正しいかも考えずに、取り敢えず俺が悪そうだから蹴り入れたって?つまりそういう事か?……ヒャハハ」
「───そーいうバカが正義感出すみてーなの、一番見てて腹立つんだわ、それが褒められんのは風紀委員の前だけだっつーの」

そう思っていると、色々思い出してきた、大木が行ってきた言動が蒸し返される、結果的には失敗ではないのだが、先に手を出したのは実際には大木の方だ。
だからって良心につけ込もうというつもりではない、ただ単純にムカつくから口撃するだけで、それ以上の理由は無い。

「テメェの自己満足で人の仕事の邪魔すンなや、マジで殺すぞ」

466 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 00:39:24.29 ID:JOVbIVAl0
>>464
三白眼の少年は何かに気づいたといった様子で声を荒げる。
その若干予想と食い違った反応に目を白黒させながら、しかし彼の疑念は確信へと姿を変えてゆく
不良の操る「懲らしめる」というワードが、後ろ暗い行為を冗談めかして伝えるためのものであることは、
社会経験の少ない彼もしっかりと把握していたのである。
たとえばいじめを教師に見とがめられた番長が、へらへらと口走るような言葉であると。

「俺がバカっぽいからって、見くびらないでください。魂胆はわかってますから」

倒れ伏した三人の少年が正当な被害者であると思いつつある彼は、琥珀色の眼にきっと怒りの色を宿して、
神父服の少年を責めた。
だんだんとその立ち振る舞いにも使命感からくる力強さが宿り始める。
彼は思い込みの激しい質だった。そしてそれを、本人は自覚していない。

「信じてくれ、って……。あなたのどこを信用したらいいんですか」

夜闇に紛れる黒っぽい服装、見るもあやしい赤い瞳。
聖職者らしからぬ筋肉質な身体に、そして死屍累々。
これらの要素を総合してなお少年を信じるという選択肢はどこにもありはしなかった。
少年が歩み寄るのに合わせてじりじりと後ずさりして距離をとる。――相手は[ピーーー]気だ。
そう思った。――正確には、思い込んでしまった。

「そっ、それ以上は近づかないで、ください」

背中を壁にぶつけ、追い詰められた彼はさながら窮鼠といった様子で少年を睨む。
もしも少年がそのまま歩み続けていたのなら、平坦であったはずの道に突然出現した突起によって足がもつれ、盛大に転んでしまうことになりかもしれない。
一方で不穏な気配を事前に察知することができたなら、少年は目撃することができるだろう。
足元のコンクリートから生えた、うねうねとした触手のようなものを。
それこそが彼の能力――トカゲの尾を召喚――なのだった。
467 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 00:53:06.69 ID:qGTXuFZn0
>>465
「ぎゃああああああああああ!!!」

さて、大木の一番の弱点はなんだろうか、正解は不意打ちであり、もう一つは跳躍した後の攻撃。連撃だ。これは回避できない。
妄想で回避はできるものの痛みは残り、次の攻撃は妄想できないため隙は生じる。
腹を切り裂かれ膝をつきそうになる大木。気絶しないのが奇跡と言えた。
悲しいことに、彼は戦闘に慣れていない。いや慣れていたとしても彼の能力はリスクが多い。
飛行機のジェットでマッチをつけるようなものであるからだ。無駄が多すぎる。彼の精神はボロボロだった。

大木の能力を警戒して黒繩が離れてくれたのは幸運以外の何者でもなかった。
そもそも一般人が暗部の人間に立ち向かうなんてできない。

「そうだね……現実は命は一つだし、変わりはない。それは謝る。悪かったよ。俺が一番知ってることのはずなんだけどな。ごめんなさい」

大木は苦痛を覚えながら話しかける。そしてあろうことか愚直にも謝りはじめた。
彼は甘い。まず人を殺さずに止めようとしている時点でその甘さが伺える。
そして自分が悪かったと思ったら相手が誰であっても謝罪する。両親の呵責に弱すぎた。
大木が軽口を叩いたのは自らが狂わないようにするためもあったし相手の攻撃を大降りにするためもあった。
しかし自分が相手を傷つけたという事実は、大木に精神的ダメージを齎していた。大木にとって一番聞くのは実はこれなのである。

「……君はあの人を殺そうとしていたと思ったんだけど勘違いだった?」

女性の助けを求めるような怯えた視線を大木は思い出す。その後の不良の少年の脅すような殺気も。
大木は女が魔術師であることを知らない。そもそも魔術師の存在を知らない。
だから大木にとって黒繩は悪人でしかないのだが―――――学園都市の住人にとっては大木が悪人かもしれない。無知は罪であった。

「俺が偽善者であることは否定しないよ。俺は困っている人を助けたかっただけだ。
 でも単なる遊びで追いかけてた訳じゃなかったんだな。もしかしてあの女の方が悪人だったのか?」

大木は風紀委員という言葉を聞いて頭を抱える。もしかして、眼前の少年が似たような立場なのかという気持ち。
この少年は純粋であり、人が良い。簡単にだまされてしまう。

「そうだとしたら悪かった。もう邪魔はしない。ごめんなさい」

とはいえ時間は稼いでしまった。どうしようと歯噛みする大木
468 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 01:05:06.76 ID:asP+jCFc0
>>466
少年の敵意に似た感情に神父服の少年は顔を顰める
その不快な感情は目撃者ではなく、自分に向けたものだが
こういう時に、自分の顔が気に入らない
自分の目つきとか、言葉の節々がどうにも他人に警戒されやすいものだという事を自分でよく知っている

「ち、違うんだ! そんなつもりじゃ...!」

神父服の少年が誤解を解こうとするが、近付くなと言われ
その歩み寄るために進む足すらも止まる

それに、今警察はマズい
自分はこの学園都市に表向きは留学生で通っている
だがここで警察の世話になれば、問題が起きる
魔術────この街であってはいけない異物だと露見してしまう

「──────。 俺から君に危害を加えるつもりはない
...だから、話を聞いてくれないか?」

両手を上げて、無抵抗のつもりだろうか
比較的穏やか声でありながら、その三白眼で少年を見据えている
足元で蠢くトカゲの影にもだ
あれが何であれこちらに敵意を向けて発現させた能力なのだろう
近付くのはマズい。と直感で感じ、一歩後ずさるように────。

そして、両手首の袖の下に己に得物を隠すように出現させる
だが、これは最後の手段だ
己の武器は最悪の事態に陥った場合のみ────。
469 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/01(日) 01:24:48.28 ID:eTcR9oNDo
>>467
「…………」

何なんだコイツは、と黒繩は思った。自分が悪いと思えば謝るという事は推奨される事だ、子供が物心付いた時からそう言い聞かされる、綺麗事である。
そう、そんな事は綺麗事、言うは易しとはよく言った物で、本当にそれを実行出来る人間は果たしてどれだけいるのだろうか?それを悪いとは言わない、結局の所間違いでも己の間違いを認めたく無いのが人間なのだから。
それ故に、大木がとった行動は黒繩を困惑させた、いくら先に攻撃したとして、これだけ痛めつけられておいて素直に間違いを認めて謝るなど、気持ち悪いくらいに出来すぎている。
それが作戦か、とも思ったが、どうやら違うようだ、これは素でやっていると感じ取ると、尚更不快感をあらわにした。

「……テメェ、いい加減に……いや、いいわ」
「教えてやるよ、俺はあの女を殺す、脅しじゃねェ、ああブッ殺すよ、痛め付けてからな」
「勘違いじゃねェし、テメェが今俺をぶっ倒せば確かに困った人間を助けられる、偽善だろうがなんだろうが、そりゃ確かだ」

雲の間から、大きな満月が顔を出して輝いた、明るい月光が黒繩を背後から照らし、影に染まった中でギラついた目が大木を睨んでいる。
挑発するような眼差しと口元、事実と真実を言って、大木を揺さぶる。

「あの女は悪人じゃねェ、俺の知る情報が確かならな、つまりテメェは悪人の片棒を担ぐ事もねェだろうさ」
「だが、あの女の存在は『学園都市そのもの』にとっちゃ良くない存在だ、だから俺があいつを殺す、それが俺だからな」
「…それで?テメェはどうすんだよ、このまま俺を尊重して、ワビ入れて消えるか。それともテメェのそのクソッタレな正義感を燃やすか?」

逃げてきた女性は、学園都市に潜入していた魔術師であった、しかし学園都市に明確な被害をもたらすような行動はせず、ただ中立的な調査の為に潜入していただけ。
ともすれば、魔術側との和平の一歩にもなり得たかもしれない可能性のあった者だが、しかし魔術師であるという時点で学園都市にとっては邪魔者でしかない。
だから、黒繩のような存在が駆り出され、魔術師を狩る、そこには正義も悪も存在せず、メリットとデメリットが代等していた。

「俺はテメェみたいな正義の味方ぶる奴は嫌いだ、だがな」

黒繩揚羽という男は、サークルという暗部組織は、そんな学園都市のシステムに組み込まれた歯車に過ぎない、少しガタの来た代わりのきく部品。
しかし、そんな小さな部品でも、誇りもあれば矜持もある、ただ命じられた事をするだけの機械では決してないのだ。

「もっと嫌いなのは」

黒繩の左手に持った剣が、刺々しく節くれ立つ、見るからに痛みを引き立たせる部位が追加され、その特性を更に際立たせて。
それを片手に構えた黒繩は、大木に向かって駆け出し、剣を振り被った。

「一度決めた自分(てめえ)の考えを貫けねェ腑抜け野郎なんだよォ!!」

大振りな袈裟懸けの一閃が、大木に振り下ろされる、肉をズタズタに引き裂いて断ち切る痛みが、体を真っ二つにせんとする。
己が一度燃やした正義感を燃やすか、それとも正論だけを見て己を抑えるか、大木は判断しなくてはならない。
それの如何によって、黒繩という男はどうにでも態度を変えるだろう、彼は気紛れだ。
470 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 01:27:12.18 ID:JOVbIVAl0
>>468
神父服の少年の表情が険しく変わる。敵愾心を向ければ帰ってくるのは当然のことだが、
自身に向け敵意が向けられているという状態はなんにせよ恐ろしい。――最も、勘違いなのだが

「……」

彼の仕掛けた罠は不発に終わった。相手は追い詰めることを止め、そして両手を挙げて説得を試みてきたのだ。
それは意外だった。あまりにも意外だった。
説得というのは不利な状況の場合になされるもので、三人の男をすでに仕留めた少年が1対1の状況で試みるような類のものではない。
赤髪の少年はその場に硬直したまま考えを巡らせる。
なぜ目の前の少年は、そのようなことをするのだろう。――。

「そうやって警戒心を削いで、俺のことをどうするつもりですか」

その台詞の内容と裏腹に声音はとても平板だ。猜疑心はあっても力の抜けた声である。
結局彼は、見ず知らずの他人を助けるために飛び出すようなお人よしの類だった。
それゆえ無抵抗の人間に話をしようと言われては、一方的に攻撃するようなことは出来ない。
きっと彼は、これが命を狙うものの罠だったとしても同じようにしていただろう。
その声は自信なさげで小さかった。

「……それとも俺、間違えてましたか」

伏し目がちに少年をみやり、訊ねる。
気が付けば彼の能力の賜物をはどこにもなく、道はどこまでもまっすぐで平らだった。
471 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 01:53:13.12 ID:qGTXuFZn0
>>469
「そうか、俺は間違ってなんかいなかったんだな。俺の行動は偽善でも間違っていなかった。それだけで安心できたよ」

眼前の少年―――――黒繩が悪人だと確認できた。
困っている人間を助けようとする気持ちは間違っていないものである。たとえ彼の独善であったとしてもそれだけは間違っていないと。
そう大木は信じていた。それが大木の芯にあるものだからだ。
大木は眼前の敵が悪人だと確認できた。大木の心にはメラメラとした炎が再臨する。正義感が齎す謎の気力が溢れて来る。
彼は心のどこかで諦めていなかっただろうか。俺は逃げることしかできないと。
眼前の少年には立ち向かえないと。時間を稼ぐだけでいいと。

―――――勝てないと。倒すことができないと。

「ゲームの主人公みたいだと笑うなら笑えよ。お前が学園都市の何の罪もない人間を殺すと言うのなら、俺はそれを許すわけにはいかない!」

剣を振りかぶる黒繩揚羽に対して。大木は能力を発動させることはしない。
なんとなく、逃げてはいけない気がしたのだ。
学園都市を守りたいと。困っている人を助けたいと。そんな偽善の思いを拳にこめる。
相手は剣であっても幻、妄想だ。大木は相手を倒せないという自らの妄想を否定した。剣に対抗するようにして大木は右腕を振りかぶる。
大木の体に黒繩の剣が叩き込まれる。

「ぎゃあああああ―――――」

大木は悲鳴を上げている。何がなんだか分からない、お世辞にもかっこいいものではない。
しかし、剣が大木の意識を絶つ前に、それに合わせるように大木の拳は確かに黒繩揚羽の顔に吸い込まれていった。
その拳には、相手を倒すという。あの女性を守るという強い信念が。

――――――そして確かな殺気が込められていた。

拳は命中しただろうか。黒繩揚羽を止めることができただろうか。大木はそれすらも分からない。
彼の意識は闇に落ちていく。

心なしか、彼の気絶した顔はやり遂げた、という顔で。とても満足そうに見えた。

/大木くんはここで〆です、戦闘ロールありがとうございました、楽しかったです!
472 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 01:56:14.42 ID:asP+jCFc0
>>470
「──────ッ」

ここでこれ以上の荒事を起こしてはいけない
この地面に伏した不良少年共を見かけた時は、つい義憤に駆られたが
自分は学園都市に潜入中の身
ただでさえ目立ってしまってはいけないのだ

自分の失敗は仲間の失敗でもある
自分が捕まって仲間たちに迷惑をかけたくはない

それに、無関係であり悪行に手を染めていない人物を傷つける気など毛頭ない
この目撃者の少年は、きっと正義感あふれる人物なのだろう
自分のような怪しい人物を見てこの警戒は、その意思の表れなのだ

だから、この場は穏便に済ませたい────そう思っていたが


「...そう! 俺はここで悪事働いてた少年等にお仕置きしてただけなんだ!」

ようやく話を聞いてくれそうな気配に希望が持てたのか
僅かに笑顔が戻って声が明るくなっている気がするだろう
両手を上げたままだが、少年の目を見て己の無実を訴える
確かに、倒れている少年等は街の影で群れる不良グループの人間であろう
それは服装や容姿から容易に想像できる

そんな彼らとのケンカの末にこの現場
事実────だろうか。決して不自然ではない説明だが、果たして
473 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 02:09:41.60 ID:JOVbIVAl0
>>472
相手の表情がにわかに明るくなる。騙し討ちという可能性も一応考えてはいたが、どうやらそれは杞憂と考えてよさそうだ。
懲らしめる、という表現がお仕置きに代わっていた。けれどもやはり、真実かは判然としない。
少年はにわかに眉をひそめて、被害者たちを一瞥する。その恰好から考えてみると、冷静になってみれば
そう不自然でもないように思える。
ただ募る不信を一息に取り払ってくれるほど説得力に満ちているわけでもない。

「……それなら、」

逡巡のすえ、彼は口をひらいた。
警戒はまだ解いてはいなかったが、そこまで露骨でもない。
むしろ誤解していた時のことを考え、弱気になり始めていた。前髪を払い、上目づかいに少年を見やり、問いかける。

「あなたのことを教えてください。名前とか、所属とか、あとは……能力とか。そしたら俺も、判断できますから」

多対一の戦闘を傷一つなく終息させた背景にはきっと、何らかの能力があるのだろう。
彼はそんな風に推測していた。
そしてこれだけ聞くことが出来れば自分の過ちを認めることも出来る。その場合、なんといって謝るべきだろうか。
そして少年は、これらの問いかけに応えてくれるのだろうか。
474 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/01(日) 02:13:34.72 ID:eTcR9oNDo
>>471
そうだよ、それでいい、せめて気に入らないなら気に入らないなりに、貫いて貰わなくては困るのだ。
偽善だと自覚しながらも奮い立つ大木の叫びを聞きながら、及第点をくれてやる、それなりに楽しい奴だと認識してやる。

「青臭ェ事恥ずかしげもなく叫んでんじゃねェよタコ!!」

ぶった切る、ただそれだけだが、少し愉しくなった、自分が悪人なら相手は正義の味方くらいは気取って貰わなくては愉しくない。
血で血を洗う殺し合い(じゃれあい)も、正義と悪を気取った戦いも、それはそれでどちらも楽しい物だ。
ただ、逃げる相手を追い掛けて処理するよりは、よっぽど。

「ブゲ……ッ!」

剣を振り下ろした所に、カウンターの顔面パンチが入る、鼻から血を噴き出しながら仰け反った黒繩は、そのまま仰向けに倒れた。

「……チッ」

この野郎、痛いじゃねえか、人の仕事の邪魔しやがって、本気でぶっ殺してやろうか。
そう思ったが、やめておこう、生かしておけばもっと愉快な奴になりそうだから、この場は纏めて見逃してやる事にした。
何よりやる気が失せた、逃げた女性を今すぐ追い掛けても最早見つかりはしないだろう、面倒だが後にする。

「満足そうなツラしてんじゃねェよ、クソが……」

フラリと立ち上がり、気絶した大木の表情に悪態を吐くと、体をフラフラ揺らしながらその場から歩いて去って行く。
面倒になったから、今日はもう帰って寝る事にした。

/お疲れ様でしたー
475 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 02:32:18.50 ID:asP+jCFc0
>>473
「────────。」

その問いに少年の表情が硬くなったのに気付くだろうか
名前、ぐらいならいいだろう。有名人でもなんでもないから
だが他はどうだろう。所属...バチカンの教皇直属の異端狩り機関なんてとても口にできない
能力なんてものもない────少なくとも、自分たちには魔術というものしかない

あまりに地雷が多過ぎる
自分が何をするためにこの街にきたのか知ってしまったら、再び警戒されるだろう
...自分に、その気が無かったとしても

「────ウィリアム・アーレス。歳は18。
...イギリス出身で、バチカン...いや、ほぼイタリア育ちだな。この街には留学生で来たんだ」

虚構に真実を織り交ぜて答える
こういった事態を想定はしていたが、なにぶん嘘をつくのは苦手だ
他人に対しても、自分に対しても
僅かに泳ぐ視線に沈む声

バチカンというとこの街では馴染みの薄い宗教国家だ
だとすれば、その神父服の様な格好もあながち不自然でもない

「能力は────うん、 モノを創り出せるんだ。 こうやって...」

そう言って手を差し出すと、手のひらの上で何やら歪で尖った物質が作り出される
赤黒いガラスの様な材質の────歪で細く尖った物質を
何もない場所から、その物質を少年は創造した

一見、ただの物質創造系の能力に見えるだろう
この物質を使って、彼はケンカしたのだろうか?
...まぁ体は鍛え上げられている様だし、普通にケンカしただけなら強いのだろうか...?

「────こんなところだよ。信じてもらえるか?」

そう言って腕を振るって創造した物質を消失させて、少年に問う
これが魔術だとバレたら面倒になる。能力だと言い張って確認される前に消失させたのだ

僅かに頬を伝う冷や汗が、彼の焦っている内心を静かに表している
476 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 02:51:08.32 ID:JOVbIVAl0
>>475
人の表情を伺うのは得意だったから、少年の表情が微風を受ける水面のように揺らいだのが分かった。
ただ矢継ぎ早に質問を続けられれば動揺もするだろうと思い、そこまで真剣には考えない。
少年は口を閉じ、黙って返答に耳を傾ける。

「……」

問いに答える少年の様子はいままでと明らかに違っていた。
潔白を主張していたときの一本筋の通った感じがどことなく希薄だ。
それに気づくと、暗い感情が鎌首をもたげたのがわかった。
しかし少年は紛れもなく物質を無から創造していたし、あながちすべてが嘘というわけでもないだろう。
そこに嘘が含まれていたとしても、信じてもらうためにひとつひとつの答えを返す誠実な態度のすべてを否定することは、彼にはできなかった。

「よくわかったよ。……疑って、というかひどいこと言って、ごめん」

少年は頬をぽりぽりと掻くと、頭を下げて謝った。相手の胡乱な態度にはあえては触れないことにする。
隠したいことは誰にでもある。それは彼にもよくわかっている。問題は信用できるかどうかで、隠し事の有無ではないのだ。

「俺は信用するよ、あなたの言ってたことを」

こういう時にどんな風に振る舞ったらいいのか、よくわからない。
ひとまず彼は握手を求めることにして、聖職者の少年と対象的にほっそりとした腕を差し出した。
477 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 03:06:03.30 ID:asP+jCFc0
>>476
「い、いや...俺も悪かったよ...勘違いされるような事して...」

頭を下げられてこちらも反射的に下げる
三白眼のせいか厳つく見える顔だが、性格はそうでもないらしい
数で劣っても不良に立ち向かってるあたり、正義感もある
きっと似た様なことも過去にあったかもしれない
苦労人気質とでも言おうか

「...ありがとう。信じてくれて」

胸が、痛んだ気がした
嘘をついた事に僅かに心の何処かで引っかかるものがある
嘘だとバレていたのなら尚更だ。とても申し訳ない気持ちで満ちていく
いつか、本当の事を言える様になるだろうか────。

そんな日が来るのだろうか
そう思いつつ、差し出された手を握り返した

「...そうだ。名前を教えてくれよ。
俺、こっちに来て日が浅くて...知り合いが欲しくてさ」

と、口走っていた
────いや、知り合いが欲しいのは事実だ
もともと人といるのは嫌いじゃない気質だが
それでもこの酷い目付きとかで人は離れる一方だった過去がある
だから、この学園都市という新しい環境で出会った人には──────。

なんて、淡い希望を抱いていた
478 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 03:33:50.53 ID:JOVbIVAl0
>>477
こちらも誤解をもとに少年を責めたのだから、きっと責められるだろうと覚悟していた彼は
下げられた頭を前にして眼をしばたたかせた。
初めてこの場に遭遇したとき、三白眼の少年を加害者であり柄の悪い人間だと思い込んでいた。
しかしどうやら前者ばかりでなく後者も思い違いだったのかもしれない。
自分のとった間違っていて無愛想な反応を思い出し、彼は苦々しい気分だった。

「もし君が悪人だったら俺は今頃無事じゃないだろうからね」

彼は冗談めかしてそう言って、控えめに笑みを浮かべた。笑うのはずいぶんと久しぶりな気がした。

「あ、ごめん。――和泉、和泉 秋介。俺もここには来たばかりなんだ」

人に聞いておいて名乗らないのは不誠実だろう。それに彼としても知り合いは欲しかった。
だから名前を伝えることに躊躇いはなかった。
ついでに此処に来たいきさつを――自分の生家のことを話そうかと考えてはみたものの、魔術の話を部外者に口外することはタブー視されている。
何の思い入れもない家だったが、流石にそんな話をするのは気が引けた。

「最初はあんなだったけど……仲良くしてもらえると嬉しい」

結局彼にできるのは、青臭い台詞に若干の躊躇いを覚えながら声をかけるのがせいぜいだった。
容姿に対する偏見はない。彼もまた自分の赤髪を嫌っていたから、もとより外見はそこまで重要視しないのだ。
479 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/01(日) 06:04:03.57 ID:asP+jCFc0
>>478
「和泉...秋介...? うん、日本の知り合いは初めてだな...」

握手をして、笑顔で答える
手を握り返したこと、名前を教えてくれたこと
それだけでも、ウィリアムにとっては嬉しい事だった
誤解されがちな容姿でも────その笑顔は、年相応の少年のものだ

「もちろん!! 俺なんかで良かったら!」

握手した手に重ねる様に更に手を乗せてブンブン振る
よほど嬉しいのだろう。
そんな事言ってくれる人なんて今までいなかったのだから

能力者についての監視や能力者狩り────乗り気でないから忘れてしまったが
そういった存在が嬉しかった

「...それじゃあ、俺そろそろ帰らなきゃ。
じゃあな! 和泉! また会おう!!」

見れば時間も結構経っており、遠くでサイレンの音が聞こえてくる
ただでさえ暴れていたのだ。現場を見ずとも通報する人間もいたのだろう

彼らが来たら面倒な事になる
ウィリアムは手を振って走り去ってしまう
路地裏のさらに奥、闇の中へ溶けていくだろう

/すみません...最後遅れました....
/ではこの辺りで! ロールありがとうございましたー!
480 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 15:27:28.14 ID:qGTXuFZn0
第一学園の制服を着込み、あいも変わらず風船のように路地裏を彷徨う彷徨う少年が居る。
困っている人を助けたいという思いを強く持つ少年、大木陸だ。
いつもと大きく違うのは、彼の雰囲気だろう。彼の表情はこれまで学園都市に居た中で一番充実感に満ち溢れ溌剌としている。
己が目指す最大目標―――――困っている女の命を一人救えたのだから当然か。しかしただ単に喜んでいる訳でもなさそうである。

「あいつは俺の助けた女が学園都市にとって害を与える存在だと言った。それに明らかに人を殺し慣れていた。
 俺と似たような年なのに、あいつは人殺しを仕事にしてるんだ」

大木は歩きながら考え込んでいる。思い出したのは自らが命を張って助けた女が学園都市に害を与える存在だと言うこと。
彼女は罪を犯してない、とも黒繩は言っていた。どういうことだろう?

「何となくだけど、俺にはあいつが狂ってるとも思えないんだよな。あいつにはあの時点の俺では何をやっても相打ちにもならない」

黒繩は明らかに大木より戦い慣れていた。足に影を纏わせる能力の活用。攻撃を目立たせておいての不意打ち。
あの戦い方は同じ能力を持っていたとしてもあの時の大木には不可能だ。それに加えて濃密な殺気、狂気。
少なくとも確固たる実力差があったように大木には感じられる。戦いの素人でも分かる言葉に言い表せない凄みがあった。
大木の推測は正しい。殺気すら出さないような甘ちゃんの一般人が初めてまともに戦った。
殺しの達人である暗部の少年にかなうはずもない。大木はまだまだ戦いに慣れていない。困った人を助けるためにこれから強くなる必要がある。

「つまり本当に学園都市には罪を犯してないのに学園都市そのものに害を与えるような存在が居るんだ。気になるな」

矛盾しているような謎かけみたいな言葉。どういう意味なのだろう?
しかし大木の学園都市に恩返しをする、困った人を助けるという信念において何となくこれは大事なことのような気がするのだ。

大木は考え込みながら歩き独り言をしているため周りを見ていない。こんな大木の裏を知っているかのような発言を魔術師が聞くかもしれない。
もしくは、ただ単に歩いている人間にぶつかることも考えられる。
481 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/01(日) 17:22:19.84 ID:HGQGYwev0
>>480

罪が無いのに害をもたらす、そんな前例は何個もあるだろう。
端的に、極端に言えば人は生きているだけで周りに害をもたらす。きっとそれは避けられることではなく、全人類に共通のことだ。

「悩んでおるのか、そこの少年。
若人がそんな張り詰めた顔をして歩いておるなどこの街の未来が心配じゃわい」

そんな少年の前に現れたのは少女だった。いや、幼女と呼んでも差し支えないだろう。明らかに大木よりも年下のそんな少女が語りかけてきた。
しかし見た目に反し、その態度、口調、雰囲気その全てが明らかに一般人のそれとは違った。
言うなれば年月を積み重ねた大樹、どこか人を外れたそんな風に感じさせた。

「罪を犯す犯さない、そんなものは建前に過ぎぬよ。
必要なのはその末に何を成したかということじゃ、その道程にたまたま罪を犯さなければならなかった、それだけじゃろう」

「罪を犯していないのに都市そのものに害を与える?それを言うならばこの都市の人間にこの都市に害を与えぬ人間なんぞ居らぬよ。誰しも人は咎人に成り得る」

少女が座っていたのはゴミ箱の上、丁度少年と目線が同じになっている。
その目で少年を見据え、思い悩む少年を笑うように口角を上げていた。それは凡そその見た目の年がする表情ではなく、邪悪ささえ秘めているようも見えるのだった。
482 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 17:41:48.77 ID:qGTXuFZn0
>>481
大木の眼前に現れたのは幼い少女であった。少なくとも大木の目からは幼く見える。
彼女が偉そうに話しかけてくるのだが、その幼い見た目にも関わらず偉そうな口調は様になっていた。
いや、本当に偉いのかもしれない。何とも言えない風格があるそう見えた大木は緊張した表情で少女を見る。いつのまにか汗をかいていた。

「悩んでいる、ってほどじゃないな。むしろこれからのことを考えてて困ってる」

しかし頬をぽりぽり掻きながら大木は普段どおりの口調で話す。
相手が強大な能力者なのかもしれないのに媚を売らず敬語を使わないのは大木が一皮向けた証だろう。
かと言って自身に慢心があるわけでもない。大木は自分の能力が絶対的な物であると思っていないからだ。
邪悪そうに笑う少女相手に内心いつでも動き出せる準備はしている。

「人間は社会的生物でなければならないって言葉は聞いたことがある」

眼前の少女は世間一般的に悪い人間、この場合は犯罪者なんだろうか。
流石に初対面でそこまで思うのは失礼だと頭をぶんぶん振って思考を取り消す。俺は最低だ。
大木には少女のことは分からない。ただ、見た目どおりの姿だと思わない方がいいことだけは何となく分かった。

「人間だからこそ、社会で生活してるその過程で人を傷つけることもあるってことかな?それとも大罪の方?」

人間が持つ大罪についての記述は大木も知っている。
483 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/01(日) 18:21:47.42 ID:HGQGYwev0
>>482

「ほう、これからとな。
つまりは未来を見据えていると?」

大木の反応を見て、少女はどうもしない。元より敬語を使わない程度で怒るほど器が小さい少女ではない。
むしろタメ上等、生意気上等だ。その方が少女にとっても話しやすい。
それに少女はさして偉いというわけでもない、むしろその逆だ。少女は下手をすれば追われる立場にある、自由奔放に振る舞うその生き様から恨みを買うこともしばしばあった。偉いなどとはこよ少女からは一番程遠い言葉かもしれない。

「そう身構えるでない、何も食ってかかろうというわけじゃない。
暇を持て余していたら丁度通りかかったのでな、ただの暇潰しとでも考えるとよかろう」

いつでも戦闘を行えるようにしている少年に対して少女は戦う意思はないという趣旨のことを話す。その証拠に少女からは殺気や闘志がまるで感じられない、いやただ隠しているだけかもしれないが。
とにかく今の少女は戦うようなことはしないことは明確だ。

「まぁ儂が言っていることは前者じゃ。後者はほれ、儂が宗教に精通しているように見えるか?」

大罪と言えば、七つの大罪のことだろう。人を罪人へと至らしめる罪源。

「暴食」「色欲」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「傲慢」

キリストではこれをそれぞれ悪魔や動物と紐付けていたという。
つくづく人間というものの凄さが分かる。このようなことを考えるなどそうそう出来ず、さらにそれを宗教へと発展させ人々を戒めその道を説いときた。
今でこそ信仰心というものは薄れてしまったが、その考え自体は今もこの世界に存在している。

「まぁ儂が言いたいことは、そんなことで思い悩むなということじゃよ。
見たところお主はまだ若い、まだ罪や何やと悩む年頃ではなかろう。お主に何があったかは知らぬが、もっと気楽に生きてみよ」

少女の言う"気楽に生きる"ということ。
簡単に言うがそれは果てしなく難しい、そもそも気楽と言っても人はつい何かを考え、そして悩んでしまう。悩むということは決して悪いことではない、だが悩みすぎては周りが見えなくなりいずれ自滅してしまう。
だから人は娯楽を見出し、悩みを一時的に放棄する。誰でも楽しいことがあれば悩みなど吹っ飛ぶだろう、そこが人の賢いところだ。
悩みを抱えている時こそ別のことをしてみる、そうすればちょっとした拍子にその悩みが解決してしまうこともあるのだから。
484 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 18:50:41.16 ID:qGTXuFZn0
>>487
「過去を引きずりながらきちんと未来を見てるつもりだな。人間はそうだと思うし特に『若者』ならそうあるべきじゃないか?」

大木は殺人鬼の少女について引きずっていた時もあった。ニュースで人が死ぬたびに大木は涙を流した。
自分のせいで人が死ぬことが耐えられなかった。自分のせいだと大木は思ってしまった。
罪の意識のまま動き、その結果他人を利用している自分に気づき。
大木はやっとそんなのはまた会った時に考える、信念通り人を助けることを第一にと思えたのだ。

「最近ちょっと物騒なことに巻き込まれてね。分かった、俺もそう考えとく」

少女はどうやらそんなに物騒な人物という訳ではないようで。犯罪者にも見えない。大木は大きく息を吐いた。
流石にあんなことがあった直後で冷静では居られない。大木が多少物騒な思考になるのも無理はないだろう。
すぐにはできないが切り替えようと思った。引きずりすぎると良くない。

「少なくとも俺よりかは博識に見えるから、知っててもおかしくないと思っただけだな」

大人びて見える少女は、何でも知っているように思えた。
大木はまだ普通の高校一年生である。少女の物言いが知恵者に見えたのだろう。

「俺は今、自分の将来と困ってる人を助けることだけを考えてる。偽善と言われるかもしれないけどけっこうこれが楽しいからさ。俺は大丈夫だよ」

罪を人は助け合って生きている。これも間違っていない。生きている限り社会の歯車となるのは避けられないからだ。
大木は別に強迫観念に囚われている訳ではない。まあその割には必死に見えるのだが。
楽しんでやっていることだ。助けられた人の笑顔とは良いものである。
相手も自分も楽しめる会話だって立派に人を助けることになる。だから大木は何者かも分からぬ少女との会話を楽しんでいた。
485 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/01(日) 19:39:35.88 ID:HGQGYwev0
>>484

「それは言えているな、ただあまり引き摺りすぎるのも良くない。
その点お主は優秀のようじゃな」

しっかりと振り返るべき過去は振り返り、しかしそこまで執着することはない。
だが、どこかこの少年には危うさを感じてしまう。周りに感化されやすい少年にそう感じてしまうのは仕方がないのかもしれない。

「まぁ確かに知識は人並み以上はあるのう。
ただそんなもの例え話でしか出さぬし、別に儂は宗教に興味も無い。
興味が無いことには基本首を突っ込まない主義でのう、それ故にそちらの知識はあってもそれだけになることが多いのじゃ」

実際少年の見解は正しい。大人びている、ではなく少女は実際には大人、いやそれ以上だ。
なのにこのような見た目をしている以上、少年が思っている風に勘違いをしてしまう。まぁ初めて少女に合う人間は誰しもそうなのだから流石に一々の訂正も面倒臭くなったらしくそこら辺の説明はあちらから問われなければどうもしないと少女は決めている。

「………人を助けるのは勝手じゃ、ただそれだけに固執しすぎるなよ?
人を助けるだけの人生なんぞ、それは偽善以下のものじゃ」

やはりこういうところに危うさを見出してしまう。人の平和を望み自分は何も望まない、そんなものはもはや偽善ですら無い。
そんなことを続けていれば後に残るのは"無"だ。
486 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 20:12:44.92 ID:qGTXuFZn0
>>485
「まあ人間らしく反省した結果だけどな。そこそこ苦労したし回り道もした」

何やら遠い目になる大木。学園都市に来てからの生活密度だけは、普通の人間のより明らかに濃いものだった。波乱の連続。
基本彼は臆病であるのだが、死に急いでいた時もあった。黒歴史というつもりはない。これも青春。
大木は物騒な人間相手の時以外は基本的には思春期の少年らしい、高校一年らしい少年であった。
能力を発現している人間としては珍しいかもしれない。

「大丈夫。勉強もしてるし俺は将来ちゃんと就職して、いい奥さんと結婚して幸せに暮らすつもりだよ。
 たぶん人を助けるのは今だけだと思う。でも俺はその今を生きたい」

未だに能力のメカニズムについては分かっていない。十代中心に発現するということぐらいである。
大木は世界改変に近い、リスクが高いくせに無駄にスケールだけは大きい自らの能力が嫌いだが、無くなれば寂しく思うだろう。
いずれ学園都市の守護者に憧れなくなる時もくるかもしれない。炎はいずれ燃え尽きる。炎が無くなった時が大木の偽善の終わりだ。
大木は能力を持ちつつも、きちんと将来のことまで考えていた。

「……あんた、いい人だな。最初に警戒して悪かったよ」

暇つぶしのための話し相手になると言いながら、大木は大人相手に相談相手になってもらっているような感覚だった。
学校の先生でもこんなに大木の相手をしてくれたことはない。彼らは大木の能力を怖がるばかりだったからだ。
大木は自然と、久しぶりに荷物の中からプリッツの箱を取り出していた。封を空け箱から袋を取り出す。

「食べるか?いらないならそれでもいいけど」

警戒して受け取らないならそれでも良い。大木は何となく、感謝の気持ちを表したかった。
相手の少女が了承したなら、お菓子の袋を少女に差し出すだろう。
487 :和泉 秋介 ◆y7QHc6jCko :2016/05/01(日) 20:34:54.77 ID:JOVbIVAl0
>>479
勢いよく上下に振れる自分の腕を見ながら、彼もまた心を和ませる。
望外に親し気な少年の態度に自分も応えよう。そんな心持で、おずおずと笑い返す。
少年がどんな格好でどんな秘密を持っていても、今は気にならなかった。

「うん。――また」

また、と再会の約束を口に出来ることが嬉しく、しかしそんな感情に浸っている場合でもない。
サイレンの音は彼の耳にも届いていた。
控えめに手を挙げて別れの挨拶を交わすと、走り去る背中を見届ける。
そこは路地のさらに奥だが、目指すべき場所がそこにあるのだろうか。
そんなことを不思議に思いながら、彼もまた、軽い足取りで家を目指した。

/こちらも遅れました……!
/ありがとうございました。楽しかったです。
488 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/01(日) 20:47:08.88 ID:HGQGYwev0
>>486

人は逆境の中でこそ成長するという。ならばこの少年はそれから何を学んだのだろう。
思えばこのようなタイプの人間には、ここ学園都市では初めて会ったかもしれない。普通だからこそ珍しい、この街では普通であることの方が難しいのだから。

「ほう、人生設計は完璧じゃな。そのまま理想だけで終わるんじゃ無いぞ?」

かっかっかっ、とからかうように笑う少女。
こんな会話は久しぶりだ、最近は何かと物騒なことが多かった。だからこそ新鮮に感じるのかもしれない。
将来のことを語る少年がとても眩しく感じられる。時々、思うこともあるのだ。もし自分が普通に生きて、普通の人生を歩むことができたら、と。
だがそれは無理な話だ。それは誰よりも本人が分かっている。

「良い人?かかっ、儂はただ思ったことを言っただけじゃよ。
それに儂は良い人などとは程遠いさ」

少女は自分が"良い人"では無いと言う。しかし少年にとっては少女の行いは良いことで、その少女のことを知らないのだからそう言うのだろう。
少女のことを知れば、少年は一体どう思うだろうか。

「おぉ!それは菓子か!?
もちろん食べるとも!ささ、早く寄越すがいい!!」

どうやらお菓子は好きらしい。子供のように目を輝かせながらお菓子の袋を受け取ると早速開封を始める。
その姿はまさに子供だった。
489 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 21:09:44.02 ID:qGTXuFZn0
>>488
「分かってる、困っている人を助けることとは別。俺の将来だからな」

大木も笑っていた。温和で人の良さそうな、大木らしい朗らかな笑顔。
彼の心の内に炎は燃え盛っているが、その火はいつか消える。これが彼の若さなのだろう。大木はそのことも分かっていた。
学園都市の番町に憧れるのは大木の人生のほんの一瞬である。

「人はみんな罪を抱えてる。必要なのはその末に何を成したかだって、俺はさっき聞いたからさ。
 あんたがどこの何者かは知らないけど、俺にとっては俺の人生相談相手になってくれた間違いなくいい人だよ」

おそらく眼前の少女の幼さは偽装だと。本当はもっと年を取っていると大木は薄々感ずいていた。
これだけ話せば誰にでも分かることである。ここで十代にしか能力が発現しないということと矛盾するのだが……
大木はその先のことを考えなかった。そんなことはどうでもいい。眼前の少し大人びている少女が大木の相談相手になってくれた。
大木にとってはそれで十分だ。

「そんなに喜んでくれるとは思わなかった、あげた甲斐があったよ」

目を輝かせてお菓子を取る少女を大木は微笑ましそうに見つめる。
なんだ、この子にもちゃんと可愛らしいところがあるじゃないか。
人間は、どこかで幼い所を残している。大人になったとしても子供のように趣味に目を輝かせる者も多い。それはきっと、良いことなのだろう。

「流石にあんた、とはもう呼びたくないな。俺の名前は大木陸。君の名前は?」

大木は自己紹介をする。竜の少女は追われている身である。自己紹介を渋るだろうか。
490 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/01(日) 21:47:32.44 ID:HGQGYwev0
>>489

この少年は根本から真面目なのだろう。この少年は厄介ごとに巻き込まれて、人生を狂わされるなどということはないだろう。
たとえ魔術と触れたとしても、この少年ならば上手く付き合っていける、そう思えた。
消えない炎は無いと言う、ならばどれだけ激しく、どれだけ猛々しく燃えられたか、それが問題なのだろう。結果が同じならば、変えられるのは過程だけだ。

「かかっ、人生相談か。
まぁ結局は自分の人生じゃ、他人にできることなど限られておる。最後は自分の力で為さなければならぬからのう」

そう、他人に干渉できる程度などたかが知れている。
最後に決めるのは本人だ、間違っても他人ではない。だからこそ自分を見つめ、しっかりと知ることが大切なのだ。

……がそんなこともお菓子を頬張りながら言っていたら決まりがつかないのだが。

「うむ、菓子は基本的に好きじゃ。それに甘いものも好きじゃぞ?
……お主、今儂のことを子供っぽいと思ったじゃろう」

頬を膨らませて不満があるというように訴える少女。やはりどこかこういうところが抜けている、だがそれがこの少女の人間らしさなのだろうか。
人間として暮らせない少女の唯一の。

「それもそうじゃな…ふむ、おおきりく……では、これからは陸と呼ばせて貰うぞ。
儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼ、好きに呼んで構わん」

「っと、そろそろ去るとするかのう。この街は夜は危険じゃ、陸もこんなところでの垂れ死なんように気をつけい。
あんな人生設計をしておいて若くして死んでは全て水泡と化してしまうからのう」

どうせ暫くはこの街に居座るのだ、人間関係を築いておくのは悪手ではないだろう。
そして少女改めソレスはゴミ箱から立ち上がる。気づけばもうこんな時間だ、会話をして時間を忘れてしまったらしい。
時刻はとっくに深夜、いつまでもこんな少年を拘束しているのは忍びない。そうして何も言われなければソレスはその路地裏を後にするだろう。
今回の出会いが、少年にとって益あるものだと信じて。

//こんなところでしょうか?ロールありがとうございました!!
491 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/01(日) 22:10:03.22 ID:qGTXuFZn0
>>490
「きっかけをもらうだけでいいと思う。俺が変われたのはこの学園都市に住んでる人たちのおかげだし」

大木は元々他の色に染まりやすい少年だった。彼は元来もっと風船の不安定なはずだった少年なのだ。
大木は学園都市の色んな人たちに助けてもらった。だから炎が燃えつづけている間は恩返しをしたい。
情けは人の為ならずである。その言葉を大木は心に刻み付けた。大陸に根を張る『大木』となるために。
彼の人生の中では、人助けに費やした時間も決して無駄ではないだろう。

「……そんなことないよ、あはは」

大木は目を逸らす。彼が嘘を付いているのはバレバレだった。
大木は素直で嘘の付けない少年である。だからこそ、平然と恥かしいことを平然と言えるのかもしれない。
それは良い所でもあり、悪い所でもある。

「じゃあソレスさんって呼ばせてもらう」

目上の人間にはさんを付ける。相手は少女であるが、大木にとっては人生の先輩だ。

「またねソレスさん!」

大木は手を振って大木はソレスを見送った。
竜の少女と大木は単なる偶然の出会いであったが、大木の心の中にはソレスの名前や言葉はしっかりと残っている。
不思議な少女だったと思う。また会えたら、今度もプリッツをあげようと思いながら。
大木はソレスの姿が見えなくなるまで手を振り続けていたのであった。

/ありがとうございました!
492 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 17:26:00.15 ID:eEqFvX4b0
「殿方が寄って集って淑女一人を取り囲むとは。どういうつもりでしょうか?」

高級そうな白いワンピースを着用し白いハイヒールを履き白い鞄を提げた、全身真っ白な陽愛白は、路地裏で立ち止まっていた。
彼女の周りには耳にリングのピアスを着け、茶髪でパンク染みた洋服の柄の悪い男達が
取り囲むようにして少しずつ包囲網を狭めている。そんな己の危機に対して、白い少女は美しい仮面のような笑みを崩さない。
その理由は簡単、彼女がこの程度のことを危機として認識していないからである。

「お姉ちゃんを、天国へご招待しちゃおうかと思ってなあ」

獣のような下卑た下品な笑顔を浮かべて白い少女に迫る男たち。
彼らからしてみれば白い少女の存在は鴨が葱をしょってきた、という所だろう。
スタイルがよくいかにもお嬢様と言った風貌の白い少女は、男達にとって女の体と金という
両方の欲望を叶えるのに丁度良い存在だった。

「……はて、私には誰のための天国か分かりかねますわね。まあ貴方達にこれから待ち受けているのが地獄なのは保障して差し上げますわ」

白い少女の美しい仮面のような笑みは深さを増す。
不良達は白い少女の言葉や様子を妄言と切って捨て無視して飛び掛り――――

―――――――数秒後、白い少女の拳によって全員が地に伏せていた。腹を抑え、呻き声を上げる男達。

「さて、正当防衛ということで私も久しぶりに愉しんでいいですわね。大丈夫ですわ、私は貴方方を殺すつもりはありません」

白い少女は倒れている男の一人の背中を蹴り始める。男の呻き声に悲鳴が加わった。
男が悲鳴を上げる度に白い少女の笑顔は陰惨さを増していく。彼女の頬は僅かに上気しており、頬には一筋の汗が流れていた。
いつの間にやら淫靡な雰囲気が白い少女から流れ出している。彼女は人を甚振って興奮していた。

「唯、貴方達は私を二度と襲う気がしないような、一生心に消えない精神疾患……トラウマを味わうだけですわ」

白い少女は恐ろしい言葉を吐きつつも美しい笑顔のままであった。蹴られている男の悲鳴に絶望が加わり悲鳴の声色が高くなる。
その男の絶望の声こそが、白い少女の愉しみの元となる甘露に他ならない。

正当防衛を通り越して過剰防衛かもしれない白い少女の行為、しかし男たちの自業自得でもある。彼らを助けようとする人物は居るだろうか。
493 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 18:21:29.73 ID:B37xGQcZ0
>>492
────運命は神の悪戯に。
黒い学ランを纏うその少女は数週間程前に、確固たる決意を有した緑眼の少年にとある宣言をした。
───『オレは”絶対的な正義”を以て、お前たちの正義の前に立ちはだかる』と。
学園都市の味方───”番長”。
多くの者を背負うからこそ到達が出来なかった”特定の誰かの味方”になるという行為。同じ正義でありながら、対極にある正義を否定する、と。

高天原いずもは林立する建物の上から飛躍───固いコンクリートをその足でしっかりと踏みしめる。

「………よっ…と。今日も賑やかなこったな。」

乾 京介という少年が護りたいと願う少女。その存在があるという事は番長たる少女も認知していた。
ただただ誤算があるとすれば。高天原いずもは陽愛 白という人物を知らず、陽愛 白は高天原いずもを明確に敵視しているという現実がある事だろう。

この運命もまた必然。純粋無垢たる正義の味方は、今日もいつも通りにその座に君臨する。

「───おいおい嬢ちゃん、そこまではちとやり過ぎだぜ??
多分この大馬鹿どもがアホやらかしたんだろうが、見ての通り、とっくに恐れ慄いてんだろ。

嬢ちゃんの気持ちはわかる、でも其処までにしとかねぇと───オレの拳が唸るかもしんねぇよ?」

その白の少女が、敵対する事になる少女とは知ることも無く、学園都市の番長は肩を後ろからトントンと叩いて陽気に笑顔で話しかける。
こうして、番長と”魔女狩り”潰しは、思ったよりも自然な形で邂逅を果たす事になった。
神の悪戯が吉と出るか凶と出るか───、
それは他ならぬ陽愛 白次第である。

494 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 18:45:42.40 ID:eEqFvX4b0
>>493
「折角愉しんでいると言うのに。私の邪魔をするのはどなたでしょうか……!?」

白い少女は、振り向いて制止する存在を睨み付けようとするも息を呑む。命を運ぶ、と書いて運命。世間は狭いという。
白い少女は、眼前の少女に見覚えがあった。乾という下僕から聞かされた少女。
高天原いずもが、そこには居た。備考は探偵に頼んでいるが流石に写真で顔ぐらいは知っている。

「いや、失礼いたしましたわ。もういたしません」

意外にも、傲慢な白い少女は仮面のような笑みを浮かべてスカートを軽く持ち上げ頭を下げる。何とらしくもなく仇敵に謝罪した。
2対1で不意をうち襲撃できる機会がある、相手は白い少女を陽愛白だと知らないのだろう。
ならば戦うのは今ではないと考えた。相手に笑顔を向けたままの謝罪

「……」

戦うのは今ではない、と考えてはいるが白い少女の中には複雑な敬意と憎悪が渦巻いていた。
相手は自らの下僕、乾を救った存在であり見捨てた存在。実際の所は白い少女を守ると言う乾に敬意を示したのかもしれないが
白い少女にしてみれば許せない。少なくとも乾が落ち込んで一時期腑抜けていたのは眼前の少女のせいだ。
しかし暗部の人間としては個人を犠牲にして大勢を救うのは痛いほど理解できるので、白い少女の心中が複雑なのも当然。
仮面の笑顔を浮かべているが、壊れないのはこの少女が感情より効率を優先するからであろう。
495 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 19:00:00.29 ID:B37xGQcZ0
>>494
「え、あ、うん……わかればいいんだ!実際悪いのはこのバカタレ達だしな!!」

「いやっはっは!それにしてもお前さんも災難なこったな!
路地裏にゃあ無尽蔵にこんな奴らが湧きやがるんだ。」

陽愛 白が複雑な心境にいる事など、無知なる番長こと高天原いずもは知る由も無い。
彼女が話しかける事によって生まれた”隙”。その隙を上手く利用して白に絡んだ不良達は霧散していった。
「もうやめとけよー!」と軽々しく、走り去っていく彼らに向かって手をメガホンのごとく口に当てて呼びかけるのだった。──もうこんな事も日課になって来ている気さえする。

「おいおーい?どうかしたか?
もしかして奴らになんか盗られたり??」


そして尚も陽気に高天原いずもは彼女に語り掛ける。
突然沈黙を始めた彼女を、気遣うように覗き込んで。

496 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 19:09:05.78 ID:eEqFvX4b0
>>495
「貴方は……!」

馴れ馴れしく話しかけてくる仇敵。先程襲ってきた連中のことは白い少女の頭には既にない。
白い少女が感情より理性を優先すると言っても限度がある。
白い少女が自らの下僕を愛する心は本心であり。そのことになると白い少女は我を忘れることも多い。

「貴方にとって、番町とは何でしょうか?友人とは何でしょうか?」

白い少女は、ばっと顔を上げる。笑顔は崩さないものの。彼女の口角はぴくぴくと痙攣しており。
白い少女は怒りに身を任せて相手に問いかけていた。
ここで、致命的なミスを犯す。相手は番町だという立場を名乗っていない。白い少女の痛恨のミス。
そもそも交渉というのは冷静でいられなかった時が終わりだ。
497 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 19:30:17.86 ID:B37xGQcZ0
>>496
「─────なんだ?突然。」

ここで高天原いずもはとある違和感を白の少女から感じ取る事となった。その殆どはポーカーフェイスで封殺出来ているものの、やはり抑制できない怒りは必ず何処かで滲み出る。
そしてそれが”怒り”である事に勘づくのは間も無くの事だった。特別彼女が、怒りの矛先を向けられる事が多いというのもそれを手助けする。

何処かで会った事があるか?
それとも魔術師か?
いや、まさかこの少女は────?

僅か数秒間で、彼女は時を駆け、記憶を遡る。
いや───この少女に見覚えはない…はずだ。

しかしここで陽愛 白にとっては朗報がある。彼女が犯した痛恨のミス───だが高天原いずもは思考しているお陰でそれに気付いてすらいなかった。

「オレにとって番長………って言われても、そのまんまの言葉としか言えねぇな。
学園都市の味方───正義の味方ってところか?
この都市で何かが乱れればそいつを正す、誰かによって危機が訪れればそいつをぶっ飛ばす。

オレの生き甲斐にして、使命………だな。」

「んじゃ、二つ目…だっけ…?

友人とは…………難しい事を聞いてくるもんだな。
自分を支えてくれる人間にして、同時にオレも支えなければいけない人間?……わいわいして楽しい人間??
──はっは!!そんな真面目に聞かれたことなんてねぇからよ!つまんねぇ解答だったとしたら、質問した自分自身を怨んでくれたまえー!」

そんな事を考えた事なんていままでに無かった。言葉遣いはぎこちなく──。えーっと…だとかを度々挟んで漸く捻り出した答えがこれだ。
今は普段通りの日常であるからか、心に響くような気の利いた言葉なんて咄嗟には出てこない。

「────んで、何だ?
何でんなことオレに聞いたんだ?いまいち……理由を理解しかねるっつーか…なんつーか…。」
498 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(神奈川県) :2016/05/03(火) 19:56:42.19 ID:eEqFvX4b0
>>497
「番町は学園都市の味方、危機が訪れるようならそいつを倒すと。分かりました。使命――――重い言葉ですわね」

抑止力としては百点満点の答えだ。白い少女が魔女狩りで既に通っている道。
魔術師というゴミから、白く美しい学園都市を守りたい。白い少女は破滅願望に気づかずそう思い込んでいた。
それがこんなにも腹が立つのはどうしてなのだろうか。同属嫌悪?いや、違う気がする。

「友人は、わいわいして楽しむ人間、と。そうですわね。貴方にとって、普通の人間にとってはその程度の価値なのでしょう。
 正しいですわ。文句もありません」

正しい。彼女の答えは白い少女の価値観に間違っていない。一般的な模範解答であり。ものすごく正しいと言えた。
なのに。なぜか腹が立つのだ。どうしようもなく。なぜなんだろうか。

「貴方の考えを知りたかっただけですわ。そして私も今理解しました――――悪いと思ってはいますが、私は貴方とは分かり合えません」

やっと、理解する。白い少女にとって、学園都市は素晴らしい町である。
しかしそれより大切なものができてしまった。
流石に学園都市全てを壊そうとは思わないが、魔女狩りが運営に公認されている以上。
自らの下僕を救うためにそれを壊すということは学園都市の解体に近いということであり。
白い少女は自らが今から行う罪と、決意を固めた。

「私は貴方が眩しいですわ。昔の私は、貴方と同じ決意を抱いていたものです。しかしそれも、もう終わりですわ」

怒りはある、しかしそれ以上に敬意を持った。高天原いずもの高潔さに、その上で。
自らは学園都市の巨悪となって、正義を打ち倒そうと。そう思えた。
白い少女は、再び仮面のような笑みを取り戻しているが、眼前の少女は白い少女の言葉の意味を分からないだろう。
白い少女の言葉に高天原いずもはどう思うだろうか。
499 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 20:24:25.42 ID:B37xGQcZ0
>>498

────返る。
──────────逆流する。
────遡る。
──────────記憶を辿る。

何かが矢張り、心の何処かに引っかかるのだ。高天原いずも───つまりオレはこの少女との記憶どころか心当たりすらない。
でも眼前に立つ白い少女───、自らに対して嫌悪感に似た怒りさえも示すこの存在を蔑ろにしてはいけない気がした。

そして”番長”をする上でこの少女に似た存在を、彼女は知っている気がした。嘗て、廃れた倉庫街で対峙した『正義を名乗る者』。
高天原いずもはこの少女を救おうとした。しかし学園都市を護る正義である以上、それに反する正義…つまり悪は妥当せねばならなかった。
────そしてそれに執着したからか、彼女はその少女の生命に間に合わなかった。

「ああ………。」

嘗て自らの前に立ちはだかった少女程の狂気は感じない、しかし同時にそれは同種のものであると感じる。
───相容れない”正義”への憎悪、嫌悪、憤怒。
ここで高天原いずもの記憶のピースがはまった。合点したような嘆息の声を漏らす。

「…………………………………………。」

偽りの仮面を再び被る白の少女。その様子はいかにも道化師の様であったが、その言葉と作り物の笑顔を受けつつ彼女はある事実を思い出していた。

……ああ、居たじゃないか。
────結構前に路地裏で出会った”友人”が。
────つい最近、敵対した緑眼の”友人”が。

───そして、その”友人”が”番長”を倒してでも護りたいと覚悟を決めた……その”要因たる少女”が。

「……………………………………………。」

静寂、平静。
当然、現在の”番長たる少女”には彼女の言葉は理解しかねる。その立場が、それを理解する事を阻む、認めない。
遥か遠い、”特定の誰かの為の英雄になりたいと願った高天原いずも”はもう存在しない。
故に───彼女は静寂の末、とある問いを白に投げかけた。まるで何かを見透かしたかの如く。


「───なあ白き少女よ。
失礼を承知で言うんだがよ………いやなに、簡単な事だ。


────お前、”笑ってないよな”?」
500 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 21:28:07.89 ID:eEqFvX4b0
>>499
「ええ、可笑しいとは全く思っていませんわ。私の決意は笑い事ではありません。そう、誰にも笑って良いものではない」

白い少女の仮面のような笑顔は偽りの物だ。その裏にあるのは大きな尊敬と、大きな憎悪。
笑顔の少女の裏にあるのは下僕の少年への愛おしさと、そのためなら学園都市の一部を破壊する決意。
白い少女もここまで喋れば流石に自らの正体を悟られたと、そう思った。
いや悟られたことに気がつけた。眼前の少女の眼は、敵を見るものだ。
それでもよかった。彼女ほどの人間には、先に正面から悪である自らの立場を名乗るのが相応しい。
高天原いずもへの敬意と憎しみを込めて、白い少女は決断する。

「どうやら気がついたようですわね。私の名前は、陽愛白―――――この学園都市のシステムを破壊する巨悪。
 そう、学園都市の番町である貴方の敵ですわ!」

相手が推理を終えるのを待つつもりは一切ない。静かに仮面のような美しい笑顔の口角を吊り上げながら。
白い少女は傲慢に、高らかに名乗りを上げ自らの立場を明かした。
『絶対的な正義』高天原いずも に相対するのは、『誇り高き悪』陽愛白である。
彼女は内心を見透かされるも無表情ではない。ただただ絶対的な悪である白い少女は。
学園都市の番町である高天原いずもを見つけて、眼光鋭く、凶悪な人間だと自らを示すように哂っていた。

「それで学園都市にとっての悪である私の立場を知った貴方はどうしますか?……正義の味方、番町さん?」

白い少女はハイヒールを運動靴に履き替えて、高天原いずもに挑発的な言葉を投げかける。
正義と悪が相対する。その結果は、言うまでもない。
501 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 22:02:43.33 ID:B37xGQcZ0
>>500
────────なるほど、”怒り”の正体は。
学園都市にとっての巨悪……自らをそう呼称する陽愛 白の様子を見て、彼女の中でもう一つ別のピースがピタリとはまっていった。

何故彼女が突拍子もなく”番長”と”友人”、二つのワードについて高天原いずもの個人的見解を訊いたのか。
間違いなくそれは彼女を護る正義の味方──乾 京介という少年の存在が影響しているのだろう。
親密な関係を築いている陽愛 白と乾 京介。
学園都市における『絶対的正義』の称号”番長”を冠する高天原いずもにとっての”乾 京介”は何者か。

それは彼との2度目の邂逅で答えを示した。
自らの正義に仇なす───もう一つの正義=悪だと。
そしてこれが同時に意味するのは、陽愛 白と乾 京介という正義を理解せずに『絶対的』の圧力で切り捨てたという事実のみ。
なれば、友人の期待を裏切った”高天原いずも”は『絶対的悪』として陽愛 白の心に君臨する──。

「…………キョースケは元気か。」

それは問いかけのような、それでいて溜息の様に自然に吐き出された独り言だった。
そんな独り言の後、彼女はこう述べる───、

「勿論、その答えはお前が靴を履き替えてる時点でお前にも理解できてるんだろ?──白。」

少女は偽りの笑みに対して、何処かで何かを期待する様な不敵な笑いを顔に浮かべた。

「でもな、多分ここで激突してもオレはまだ今のお前には負けねぇよ。───99.9%な。
笑っていても、自慢げな言葉で悪を示しても、まだそれは偽りなんじゃねぇか??ははは!」

バシッ!!と開いた左手と握った右拳を自らの前で合わせて──そしてそのまま右拳を前に突き出した。
路地裏に一陣の風が吹き込み、彼女のシンボルたる赤いハチマキを揺らした。やはりそこには不敵でどこか見透かした笑みがある。

「それでもどうしても今やりたいんなら───引き金として問いを用意してやらぁ。

……………オレの名前は高天原いずも────、陽愛 白と乾 京介という二つの『誇り高き正義』を否定する『絶対的な悪』だ!!
そんな許されざる悪を目の前に、陽愛 白はどうする?


───こいよ正義の味方。
妥協は無し、最強の正義で途中採点してやるよ。」

背負うものが大きいだけに、高天原いずもに妥協は許されない。そんな覚悟があるからこそ、高天原いずもはその悪を前にして笑みを浮かべることができた。

502 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 22:27:41.81 ID:eEqFvX4b0
>>501
「乾なら元気ですわ。貴方のせいで少しやつれましたが」

白い少女はその時だけ美しい仮面に陰りが見えるように苦笑する。
悪人としての仮面は学園都市全体から見てのものだ。そして白い少女は、自らのことを悪人だと思っていた。
しかし眼前の番町の見解は、違うらしい。

「見抜かれていましたか……全て」

流石に眼前の番町の考えは鋭い。そして圧倒的な強さを感じた。
乾と二人で挑もうとしただけのことがある。人を助けようとすることが、善であるとするならば。
好きな人を助けたいという白い少女の考えも、悪ではなく善ではないのだろうか。
きっと、眼前の番町はそういうことを言っているのだろう。実際、白い少女の愛する人の気持ちは本物であり、だから怒っているのだ。

白い少女は、自らの感情を吐き出した。そうしなければ挑む価値がないと思ったのである。

「うっとおしいんですよ貴方は。私と乾を亡き者にしようとしている。そう乾という友達を犠牲にして、学園都市を守ろうとしている」

白い少女の怒りが吐き出される。憎悪が流れ出していく。
白い少女は仮面を外し怒りを解禁していた。鬼のような形相で高天原いずもを見つめる。

「貴方は世間から見たら善人ですが、私から見たら悪人です。学園都市のことなど知りませんわ。
 乾のために私の拳で消えうせなさい、高天原いずも!」

白い少女は傲慢にも宣言する。乾という少年を救うためには手段を選ばない。何をしても助ける。
それもまた一つの『善』なのかもしれない。
膳の裏側は悪。悪の裏側は善。どちらも間違っていないのだろう。

白い少女は右手を硬化させ、鋭いジャブのように殴りかかった。
隙がある溜め攻撃は使わない。それでも能力で十分な威力が出る。これが白い少女の攻撃であり本気だ。
503 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 22:57:35.33 ID:B37xGQcZ0
>>502
晒け出される陽愛 白の負の全て。偽りの仮面を取り去り、そして『絶対的な正義』を奢る高天原いずもに対して露わにする憎悪、憤怒、苛立ち。

ただ高天原いずもという少女が彼らと違うのは実はこの時点で浮き彫りになっている。
番長はその怒りを咎める事もせず、ただただ真剣に耳を傾けるのだった。その負の感情しか存在しえない言葉を、彼女は受け入れようとする。
実現できるかできないかは別として、やはり彼らの訴えもまた学園都市を構築する一部であるから。───否、高天原いずもという少女の人格が、それを受け入れることを責務としているのかも知れない。

「そうだ……オレは乾 京介を裏切った”悪者”だ!!

それでも、こんな悪者が”正義”を奢るためにはお前らの憎しみ、悲しみ、苛立ち、全てオレが背負い、そして裏切るしかねぇんだ。」

それはとても悲しいことだ。
自分が万能であれば彼らも救えた。そんな平和な情景──夢を見なかった事などない。むしろ今でもそうあって欲しいと無理難題な希望を切望する時だってある。
しかし同時に現実も受け止めている。オレは万能ではなくただのlevel3の能力者だと。
正義でありながら取捨選択をする。オレはいずれかの大きい方をとった卑怯者の番長だと。

────でも、これが今のオレにできる最大限の『番長』としての在り方なのだ。

「残念だけどオレは消えねぇよ!陽愛 白ッ!!
この都市がある限り、そしてオレの拳がある限り!

オレは幾度となくお前らの行く手を阻む!!
例えそれがお前らにとって悪だとしても──なぁ!!」

高天原いずもは限界まで動かない。相手が迫ってくるならばギリギリまで力を溜め、そしてそれを前に突き出してしまえば良い。右拳を力強く握りしめた。
堅牢なる拳と爆撃を齎す拳。
絶対的な正義と個人的な正義。
圧倒的な悪と誇り高き悪。

眼前にまで迫る陽愛 白、高天原いずもはその拳を瞬時に前へと突き出した。
ついにその一撃は交差する─────!!


504 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 23:04:10.51 ID:eEqFvX4b0
>>503
「貴方にも正義があることは認めますわ!その大きさも。しかし私の覚悟を背負いきれることは決してありません!」

陽愛白の正義と高天原いずもの正義は全く違うものである。
505 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/03(火) 23:29:42.65 ID:eEqFvX4b0
>>504
「貴方にも正義があることは認めますわ!その大きさも。しかし私の覚悟を背負いきれることは決してありません!
 そもそも受け入れようとすることが傲慢だと、なぜ気づかないのですか!」

陽愛白の正義と高天原いずもの正義は全く違うものである。
そしてその内容は相反するものでしかない。
私たちの思いは致命的に分かり得ないと白い少女は考える。だから白い少女は相手の正義を受け入れない。
これが大きな両者の違いであろう。

「ならば私は、高天原いずも。何度でも貴方を殴り倒します!貴方が立ち上がるのを諦めるまで!」

高天原いずもと陽愛白の能力は似ている。そう、殴り合って最後まで立っていたほうが勝つというもの。
しかし相反する部分もある。
頑強な盾の拳と爆発的な矛の拳。
リスクがあるが強力な能力。リスクなしだが汎用性が低い能力。

そして相反する思い。
個人的な正義と社会的な正義。
許容しない陽愛白、許容する高天原いずも。
走って勢いをつけ殴ろうとする少女。構えて力をこめ殴ろうとする少女。

その結果は、激突の瞬間に現れた。足を踏ん張った上での互いの拳の激突。それは雷が落ちたような轟音が伴うものであった。
二つの拳の僅かな隙間で渦が巻き、二つの拳の周りの大気はそれだけで震え振動している
これがまだ全力ではない殴り合いなのだろうか、他の能力者からはとてもそうは見えないだろう。
そして両者は互角……ではない。

「私が押し負ける……!?」

汎用性が高い能力ということは、それだけ威力が下がるということ。
リスクがある能力なぶん破壊力なら高天原いずもの方が上である。爆発に巻き込まれ少し吹き飛ばされる陽愛白。
彼女はすぐに立ち上がると、汚れた白い服や爆発によって生じた全身の怪我を無視して再び高天原いずもに向かって走り初めた。

「次はそうはいきませんわよ!」

押し負けた自分や相手に怒りながら、白い少女は再び拳に力をこめる。
さきほどより強い攻撃だが十分に溜めず、攻撃の内容を意識する。
右の腕は爆発によって少しの間痺れているため次の攻撃は左の拳だ。
ボクシングのフックのように折り曲がる拳。しかし相手は殴り合いに慣れている人物である。動体視力が良ければ捕らえられるだろう。
506 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/03(火) 23:52:33.43 ID:B37xGQcZ0
>>505
二つの拳が激突し、そしてそこに巻き起こるのは轟音と爆風───意識が飛ばないようにしっかりと前を見据える。砕け散る瓦礫がいくつか頬を切り裂いたがそんな事は気にしない。
見るべきは眼前の”悪”のみ。

「────!………硬ェ………な。」

殴った刹那に拳に電撃の如く流れた違和感。あの拳の外見、そして今の刹那の接触から鑑みるに陽愛 白の能力は間違いなく『硬化』の能力だ。
言うなれば矛盾の戦いであるが、その汎用性では高天原いずもの拳は大きく劣っている。
攻撃と防御を兼ねることが出来る陽愛 白の拳に対して高天原いずもの拳は攻撃することしか能がない。
ステータスで分配するとすれば10の基本ステータスを全て攻撃につぎ込んだ攻撃10防御0という極端なステータスとなることだろう。

故にステータスを防御と攻撃の両方に振り分けた陽愛 白の初撃には威力で勝る事ができた。──2度目がこうとは限らない。
まずは距離をおき、そして高天原いずもは返答しつつ次の一撃に備えることにした。

「ああ、ちっとも傲慢だとは思わねぇなぁ!!

むしろ自分の正義を成して、その為に消えてしまった……救えなかった奴らを!──何も思わずして切り捨てるなんてそれこそただの暴君だ!!」

またも攻撃をしかける陽愛 白に対して高天原いずもは両方の腕を同時に振りかぶった。───狙うのは”地面”。

「オレの”番長”の称号────てめぇはただ眩しくて傲慢な英雄の称号とばかり思ってるようだがよぉ!!

同時にお前らを裏切った罪の称号だ。
ならその罪を反省せずして……番長は名乗れねぇ!」

「そしてその上でオレはお前の正義を否定する!

打ち破れるなら破って見やがれよ?ヒーロー。
悪ィけどよ……今日のオレは、今日のお前には絶対に負けねぇええええええええ──────!!」

両拳を硬いコンクリートの地面へと叩きつけた。
生じるのは爆発───攻撃10を以ってして行われる爆撃はその地面を決壊させる。
決壊した地面……瓦礫、爆風。その全てが陽愛 白が高天原いずもへと至るまでの障壁と化す──。


507 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/04(水) 00:20:07.36 ID:md+7NgDk0
>>504
轟音と爆風、どちらの威力が高いのかは明白だった。
白い少女は憎悪を込めて相手を睨み付ける。
憎しみに満ちた形相は深いものである。
真正面からの殴り合いだけで勝てるとは思っていなかった、それ故の折れ曲がる攻撃。
しかしそれは阻まれる。白い少女は自らの闘志を奮い立たせた。

「ならば私は暴君で構いませんわ!私はたった一人を救いたい。その為なら私は鬼にも悪魔にもなります!魂すら売りましょう」

陽愛白の正義は高天原いずも とは正反対のもの。たった一人のために
学園都市を崩壊させようとしている本人である以上、そこに犠牲者を心配する権利はない。
地獄を生み出したのは自らであるためだ。

「貴方が番町として学園都市を守ることは認めても、私は必要なら友を裏切る貴方の正義を絶対に肯定しません。
そんなことをするのなら、貴方はそもそも友を作るべきではありませんわ!」

「負けられないのは私も同じなんですのよヒーロー!食らいなさい!」

白い少女へと降りかかってくる瓦礫の山と爆風を前にして、白い少女は力をこめた左拳を使い
ボクシングのジャブのようにラッシュする。危険な瓦礫のみを打ち、高天原いずもに瓦礫の砲弾を跳ね返した。
硬化した拳をし盾で防御できることでの強み。しかし間違いなく、拳で殴ることによって力を発揮する。
しかし全てを捌くのは難しく爆風はどうしようもならない。爆風で白い服は汚れていき灰色となる。
コンクリートの欠片が白い少女を傷つける。しかし陽愛白はひるまなかった。邪魔がなければ今度こそ左手でフックを振るうだろう。
力が無いぶん威力は先ほどよりも下がっているが、折り曲がる攻撃は慣れて居なければ脅威である。
508 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/04(水) 00:51:31.92 ID:KSSSstp50
>>507
「───ははははは!!んな事が許されると思ってんのか馬鹿野郎がッ!!
オレは”番長”なんだ!ダチぐらいいるのが当たり前だろうがよ!!」

勿論、陽愛 白からすればその訴えは冗談などではなく──友達を作るなという警告も正しく番長に対しての敵対心から成る憎悪の具現だろう。
しかしそれに対してはごく普通の”高天原いずも”らしい返答を返した。
友達も居ないのに正義として君臨する?そんなものはただの独裁者だ。
オレはそんな悲しいものを欲してるんじゃない。

「─────別に肯定せずとも構わねぇさ。
オレは別に他人に褒められたくてやってんじゃあねぇし、ただオレがこうでありたいと願ったからこその”到達点”なんだ。
犠牲もある、批判もあるだろう───でもこれこそが『番長』としてオレが成し得る究極の極地!!」

やはりこの障壁程度ならいとも簡単に跳ね返してしまうか。堅牢なる肉体、決して侮れるものではない。
そして迫る正義のヒーロー。
硬質化によって生まれた一撃は、それを迎え撃たんと前に出された下腕部に刺さる。悲痛な声と骨の悲鳴が聞こえるようだったが、実はこの瞬間、極小規模の爆発を起こすことで一定の緩和を行っていた。
僅かに爆風と砂塵が巻き起こる。

「…………まだ……折れねぇ……!!たりねぇ!!」

─────痛みはある、でもこれくらいなら……最悪骨くらいなら吹き飛んでも妥協できる。

目には血が滲み、そして歯を食いしばり。攻撃10のこの能力は同時に彼女の身体にも負担をかける諸刃の剣でもある。
近づいてくれたなら───、反撃の機会だ。
ダン!!と足をコンクリートに叩きつけ、足場を崩す。すでに決壊しかけであることもあり、簡単に地面が崩れた。
そして────眼前の彼女を目に映し、大袈裟ともとれるほどに右腕を振りかぶって曰く。



「オレは負けねぇ……負けられねぇ!!

数えきれないくらいでっけぇもんを背負ってんだ!!喜び、憎しみ、悲しみ、すべて了解してこそオレの番長としての覇道─────!
お前が背負うものは何だ?その重さはどれくらいだ?

まさかとは思うが、乾 京介ただ一人の事だけを考えてるんじゃねぇだろうなぁ!!───だとしたら尚更オレは認めねぇ!!!
それによって救われる魔術師、救われない魔術師、そして切り捨てられる能力者ッ!!
そいつらがお前らの正義でどうなるか!お前らはそれを見たことが───考えたことがあるか!!

………少なくとも、たった一人の友人しか見えていねぇ今のお前に負けるほど、高天原いずもはヤワじゃねぇぞ。」

大きく振りかぶって、『総てを背負う正義』はその右拳を彼女の土手っ腹めがけて振るう。
自分の正義はここに在ると、目の前の正義に今一度知らしめるように彼女は雄叫びをあげる。

「これがオレの”番長(せいぎ)”だぁぁあぁぁあッ!!」
509 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/04(水) 01:26:08.32 ID:md+7NgDk0
>>508
「何を言っているのですか?そもそも強者に友達など不要ですわ。
少なくとも私には必要ありません!貴方は乾とは友達になるべきではなかった、だから彼を悲しませた!」

白い少女は友達がいない、そして傲慢だ。他人の苦しみに幸福を感じるような人間なのだ。
しかしそれは間違いなく『正義』ではない。悪の行いだ。
そもそも白い少女は有権者であり、友達の存在を必要だと思わないような寂しい少女だ。
だから致命的に分かっていない点がある。人は助け合って生きているということ。
ソレスも友達ではなく尊敬対象である。白い少女が友達を作らない以上、高天原いずものその壁は越えられない。

「っく……!」

足場が崩れバランスを崩す白い少女。彼女の足場が崩れていく。
今まで積み上げてきた陽愛白としての全て。それは何のためにあるのだろうか。

「私が背負うのはたった一人ですわ、私はそれで十分です!」

そう反論するも彼女の声はどこか力強さがない。どこか高天原いずもの言葉より重みが欠けていた。
罪を償う、という乾の教え。白い少女にはそれが分からない。ただ盲目的に分かりましたと返しただけ。
頭をよぎるので反省の余地はあるものの、自らの弱肉強食の理念が邪魔をする。
そもそも魔女狩りで魔術師を虐殺したことをまだ反省していない。
彼女はまだ悪人なのだ。弱い者は強い者に踏み潰されるためにあるというのが彼女の理念。
今の白い少女は中途半端な存在である。改善される目処が立っているがしかしまだまだ青い。

白い少女は高天原いずもに反撃しない。いや体がそれを拒否しているかのように動けなくて反撃できない。
それは白い少女の良心―――罪悪感が齎しているものだ。償うという言葉の意味を考えて動けなくなる。
それが皮肉にも白い少女の足かせとなった。白い少女は、向かってくる拳に向けて呟く。

「乾―――――ごめんなさい。貴方だけは生きて下さい」

白い少女が残虐に殺してきた魔術師たちのように、白い少女の腹にめり込んだ拳。
陽愛白は吹き飛んでいく。
倒れた陽愛白は最後までうわごとのように誰かにごめんなさい、ごめんなさいと呟いて。

そのまま陽愛白は気絶した。今なら誰でも簡単に殺せるだろう。高天原いずもがどうするかは分からない。

//戦闘ありがとうございました、楽しかったです!今の白さんではやっぱり勝てませんでした。
510 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/05/04(水) 02:21:15.14 ID:KSSSstp50
>>509
「なるべきではなかった…………か。」

拳を振るった後───吹き飛んでから意識を喪失したもう一つの正義の担い手を目に映して、溜息のように自然にその言葉は吐き出された。
───確かにそうかも知れない。もし自身の存在が彼を悲しませたというのなら、”友人”の高天原いずももとい百舌はそうすべきでは無かったのだろう。そもそも根源であるその関係自体無かったことにできれば、どれだけ楽なのだろうか。
ただ、これは必然だった。目の前で苦しんでいる人間がいる限りは助けるのが彼女──そして巡り合ったからには知り合うのは当然。
そして彼女が”番長”を奢る以上、彼の期待を裏切り、彼を悲しませる事もまた必然だった。

──でも、そこはやはり受容せねばならない苦しみの一つである。そう捉えなければ、壊れてしまう。


「何の為に───”魔女狩り”を潰すんだ。

乾の為……それも良いかもしれねぇ。ただその革命が誰に何を齎すのか……今一度考えて見ろよ白。

お前は暴君にでも鬼にでも…なるべきじゃあねぇ。自分の行いによる影響を理解した上で、お前は、”正義の味方”になれる。
いや─────乾 京介の”親友”に、かな?」

彼女達が成そうとしているには”番長”には辿り着けなかったもう一つの極地。”番長”が大きい正義を取ったとするならば、彼らは圧倒的少数の正義を取ったこととなる。
少数であるが故に覆すのは生半可な覚悟と自覚では不可能。少なくとも、自身の行いの罪を明確に理解できていない現在の陽愛 白には───、

「すべてを理解したならそん時は、もう一度オレに挑んでぶっとばせ。
────楽しみにしてるぜヒーロー。
そろそろもう一方のも着く頃だし、安心しな。」

現代にはメールという便利な連絡手段がある。
彼女はその手段を用いて、乾 京介にとりあえずは彼女の容態と状況を報告していた。ついでに『お前が迎えに来い』と強めの文を3回ほど付けて。
その少年の姿が見えるや否や、高天原いずもは血を拭いつつ、ゆっくりとその路地裏から去っていった。

──────最後に、激励とも取れるような”少女”の言葉を遺して。





「…………少なくとも、昔の”私”は……君たちの様になってみたかったですよ。
”私”にもう一度………夢を見せてくれますか。」


//ありがとうございました!!後でボコボコにされたいです!
511 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys :2016/05/04(水) 12:05:13.58 ID:GO1xi93To
「ふふっ……今日も可愛いですねぇ」
「いえいえ……私の方こそ」
仲睦まじそうにしている二人の人間。
デートと言うやつだろうか。恋人繋ぎをして、お互いに微笑みあいながら歩いている。

変わったことと言えば、一人は眼鏡のロング、もう一人は裸眼のツインテール。
……どちらも女性だという点か。

「あら? みんながこちらを見ていますよ」
「私達はとっても可愛いので仕方がないですね!」
「そうですね! 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花!」
「卵に目鼻、眉目秀麗!」
「いやいや『眉目秀麗』は男性に使う言葉ですよ私」
「あら……ごめんなさい私。私ったら可愛いだけじゃなく格好よさもあるからつい……」
「まぁ……私ったら……うふふっ」

このカップルらしき二人組を近くで見る者が居るかもしれない。そして、違和感を覚えるかもしれない。
髪型が違い、眼鏡と裸眼で異なるものの……ペアルックどころではない同じ服装。
髪色も背丈も同じで……顔の形も同じような気がする……そんな風に思うかもしれない。

そうでなくとも、この褒め合う態度の時点で違和感を覚えるかもしれない。
いちいち聞いていない可能性もあるが。
512 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 12:46:19.91 ID:Qw5/tkpFO
>>551

あぁいう人種を見れば人はどう思うだろうか、普通は奇異の目で見るだろう。
その会話もさることながら、一番に目を引くのはその容姿だろう。髪型や眼鏡という違いはあるが、その声音や背丈、髪色や身長までもが瓜ふたつ。しかも顔のパーツも似ている。

ドッペルゲンガーという話がある。この世には同じ顔の人間がもう一人いて、それと出会ってしまえば二人のどちらかが三日以内に死ぬという………

だがこの二人はどうなのだろうか、ドッペルゲンガーとは何か違う気がする。
ドッペルゲンガーはいわばゴーストであり霊体、人の心から生じたものでありそれはつまり神秘の賜物。故にこの地にそれが生まれることはなく、必然的にあれは魔術か能力を使い生み出したコピーということになる。
だがもしそうだとすれば、その力の保持者は一体どう思っているのだろうか。
自分と全く同じものを造り出せる、そんなことが出来れば個への執着は生まれないのではないだろうか。

「もしもそんなことがあれば、自身を個ではなく群体と捉えておるのかも知れぬのう」

試してみるか。もしもあれが個ではなく群体としての存在であれば、そのリアクションや心情は全く同じとなるはずだ。
丁度セレスは二人の前を歩いている。動機はちょっとした好奇心、むしろセレスはそれでしか動かない。
自分のしたいことしかしない、興味がないことはやらない。例えそれが自身の寿命を縮めることだとしてもセレスはそれはそれで良しとする。それがセレスの生き方だ。

The flame rise――
「立ち昇れ、炎天よ―――」

僅かな詠唱、その声と共に魔翌力が動く。
その刹那、二人の眼前に小さな火柱が舞い上がる。しかしそれは一瞬、それに二人がその熱で火傷をするような距離でもない。
だが突然目の前で火柱が上がれば驚かない人間はいないだろう。これでこの二人の反応を見る。

だが、セレスは二人の前で魔術の詠唱を口にした。もしかすればその詠唱は二人の少女たちの耳にも届いているかもしれない。
513 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys :2016/05/04(水) 13:28:37.17 ID:GO1xi93To
>>512

「……! 危ないです私!」
突如眼前に舞い上がる火柱。それを見て、ツインテールの方が眼鏡の方を庇うように立つ。
立ちつつ自分を創りだす。
……そういえば、ツインテールの方が僅かに前に居たと、火柱を起こした犯人は思い至るかもしれない。

「ありがとうございます私……な、何ですか一体いくら私たちが可愛すぎて妬ましいからって!」
と言いつつ、庇われた方……眼鏡は自分を創り出した。
「そこの人が何か言っていましたね……フレイムがどうとか」
「『発火能力者(パイロキネシスト)』でしょうか……」
「幸いにも当たりませんでした。当てるつもりがなかったような……悪戯でしょうか?」
ツインテールが言う。

「いくら私たちが可愛らしすぎるからって急に火を出すなんてひどいですよ!」
「私達の可愛い顔をよく見たくて照らしたくなる気持ちも分かりますけど……」
「可愛すぎて焼いて食べたくなるってのも分からないでもないですけど……」
「嫉妬のあまりついイジワルしたくなる気持ちもまぁわかりますけど……」
筍たちは魔術のことを知らない。それゆえ、セレスが魔術師で、魔術を使ったという考えには至らない。
しかし、目の前で何かを言って火が出たのだからその人物が出したのだろう……と判断し、抗議する。
違ってたらその時はその時だ。
……さて、筍らの反応は彼女の予想通りだったろうか? それとも予想外だったろうか?
火を出した甲斐は、果たしてあっただろうか?
514 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 13:49:00.02 ID:Qw5/tkpFO
>>513

二人の少女の行動はソレスにとって予想外のものだった。
片方が片方を庇うように前に出る。それはつまりこの少女たちには少なくとも個性が割り振られているということだ。群体ではない、この少女たちは明らかに個だ。

だがそれにしても――――

「……いや、そこまで思ってはおらぬのじゃが…」

その個性があまりにも強すぎて思わず後退りしてしまう。
なんなのだ、少なくともソレスには理解できない。矢継ぎ早に問われ少し先ほどの行動を後悔する、こいつらはきっとめんどうな人種だ。
だが逃げることは出来ない、自分から仕掛けたのだ。ここで逃げてはあまりに失礼というもの。

「お主らが群体か、それとも個々の存在なのか試したかっただけじゃよ。
結果は見ての通り、お主らは個々の存在のようじゃがな。まぁいきなりやったことは謝ろう」

ソレスはそう言うが、初めての初対面の人間にこんなことを言われて理解できるだろうか。普通ならおかしな人だと失笑か怪しまれるだろうがこの少女たちはどうだろう。
明らかに見た目子供にこんな意味不明なことを言われて一体どう返すのだろうか。
515 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys :2016/05/04(水) 14:23:03.80 ID:GO1xi93To
>>514

「あぁ――なぁんだ。つまり私達で実験がしたかったんですね!
それならそうと言ってくれれば協力しましたのに!」
「私達はいくらでも居るんですから、一人や二人くらい実験台にするのも吝かではないんですよ?」
「いやいや私。この方は私達が個か群か……反応を試したかったっておっしゃってるんですよ?
そういうのは不意打ちじゃないと実験になりませんよぉ」
「ああ! 確かにそうですわ!」
筍たちは口々に答える。
試したかった……というセレスの言葉を嗤うことはなかったが、その反応はどこかマッドサイエンティックなものを感じられる。

「群体なのか個々なのか……つまり、せーの」
「こんな風に私たちが全く同時に同じことを言うかそうでないかってことですか?」
「こうやって鏡みたいに一斉に喋って動くかどうかってことですか?」
「こーんな感じで動きも言葉も完全にシンクロするかそうでないかみたいな感じです?」
「このようにみんな揃って一寸違わず同じ動きをするか否かって話ですか?」

「……ぐっだぐだじゃないですか! 合わせてくださいよ私!」
「だったら打ち合わせしてくださいよ! むしろ私が私に合わせるべきですよ私!」
「せーのって言ったじゃないですか私!」
「タイミングだけ合わせてどうするんですか私!」
同時にバラバラのことを言う筍たち。
息があっているのかあっていないのか……しかし少なくとも、テレパシーのようなもので繋がっているわけではない、
ということには感づくだろう。
516 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 14:36:45.21 ID:Qw5/tkpFO
>>515

「あぁそうじゃ……
お主らはどうやら、個への執着はあまり無いようじゃな。それも能力の弊害というべきか……」

個性はある、他者を認識する能力もある。だが個への執着は明らかに薄い。
もし今隣の片方がいきなり[ピーーー]ば一体どんな反応をするだろうか。きっと驚きはするだろう、だがその後に一体どうする?
自分の一人や二人を実験に差し出すのを良しとするそれは恐らく、ただ驚くだけだろう。それは何というか、機械的な恐ろしさを含んでいる。
無論ソレスがそんなことで恐怖を覚えるわけもなし、湧いたのは純然たる好奇心からのものだ。

「……まぁそんなところじゃ、見た目ほど中身は合っていないようじゃがの」

二人を見ていると漫才を見せられているような気分になる、それもかなり雑な。
本人たちにわざとやっているような様子も無し、繋がりは恐らくただクローンというだけなのだろう。それ以外に明確な関係は感じられない。
ただ先ほどの手繋ぎのことはどうも分からない。あれは俗に言う恋人繋ぎという奴だろう。なぜそれを同じ自分同士で……

「あぁそれと一つ聞きたいことがある。
お主らはあれか?自分大好きとかそういう類の人間なのかのう?」

と素朴な疑問をぶつけるのだった。
517 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 14:55:42.21 ID:GO1xi93To
>>516

「そうですねぇ……この『私』が死んだとしても、どこかにいる他の『私』が一人でも生き残れば私は存続できますからね」
「……なーんて言って油断してると痛い目をみるのは明らかなので、死んだりするのに慣れちゃわないように気を付けているんですけど……なかなか難しいですよね」
「そのあたりは能力の弊害でもあり利点でもあり、ですねぇ」
個への執着が薄い――自分自身を消耗品のように考えているというのは、まさしくその通りだ。
蟻や蜂のような社会性昆虫は仲間を生存させるために容易く自己を犠牲にする。
いくらでも増えられる彼女らがそのような考えに至るのは、合理的と言えるかもしれない。

「え? 私達が自分大好きか、ですって?
あはは、当たり前ですよぉ! こーんなに可愛くて可愛くて可愛くてその上可愛い娘を好きにならない方が無理ってものですよ!」
「見た目がいいだけでなく気立ても良いんですよ! 健全なる肉体に健全なる精神は宿るってことですね!」
「しかもカラダも最高なんですよ! この前なんて……」
「ちょっと私! はしたないですよ!」
「ごめんなさい私……」

素朴な疑問に答える筍たち。
ナルシシズムとかそんなレベルの話ではないようだ。
……あるいはナルシストに分身能力を与えた結果がこれだよ、みたいな話か?
518 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 15:19:12.83 ID:Qw5/tkpFO
>>517

「油断していたら全滅、というのもあり得るからのう。
そこら辺は気をつけておかないとあっさり死にかねん。お主らが自分をどう思うかは勝手じゃが肝に銘じておくんじゃぞ」

自意識の低下はそのまま死へと直結しかねない。自己の理解は同時に自身の現状、状態を知るということでもある。
それは生存率を高めることになるのだから必然的に行わなければならない。しかし個への執着が薄ければ自己への認識は甘くなり、盲目的となってしまう。

だがそれは逆に自分のことを考えなくてもいいということでもある。幾らでも無茶ができるという点はなかなか便利でそれが利点とも言える。

「そ、そうか…よっぽどなのじゃな……
…あまりそういうのを人前で語るのは、どうかと思うぞ……」

聞いている側が恥ずかしいと感じるほどの溺愛っぷり。その証拠にソレスも顔を紅く紅潮させている。
最後の方を聞いたときなどまるで林檎のようだった。
元々ソレスはそういう色恋沙汰というものに慣れていない。まぁこんな見た目ならそれも納得で、そんな機会が一つもなかったソレスに今の話は刺激的すぎた。
幾ら精神は年を取っているとしても、身体の方が追い付いていないのだからそれも当然か。
魂は肉体に左右されるという、つまりはソレスは不老を手にしているのだから幾らでも心を若いまま保てるということだ。本人はたまったものでは無いだろうが。
519 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 15:47:14.31 ID:GO1xi93To
>>518

「ですねぇ。不死者を殺すのはいつだって油断ですもの」
死を恐れなくなったとき人は死ぬ。
これは筍が常に肝に銘じ、心に誓っていることだ。
自分を消耗品として有効活用はする。しかし油断して自分を切らしたりはしない。
……あるいはそれゆえの、異常なまでの自己愛なのかもしれない。

「全くですよね……ええ、本当『私』がすみません。まったくカラダがどうとか人前で言うものじゃあないですよね……ほら私も謝って!」
「ご、ごめんなさい御嬢さん……」
「うふふ……赤くなっちゃって可愛いですねぇ。私ほどではないですけど!」
「は? 浮気ですか私? 私というものがありながら?」
1人が1人を窘める横で、一人がソレスを可愛がり、もう一人が嫉妬(?)を見せる。
4人がそれぞれ振舞いも異なるようだ。
……あるいは、同じ人間であっても時と場合によって振舞いは変わってくる。いつだって同じ人間など存在しない――
それを体現した存在、ということだろうか。
520 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 16:11:38.45 ID:Qw5/tkpFO
>>519

「あぁ、死は常に身近にある。それを常々忘れぬことじゃ」

ソレス自身、常に死と生の境界線に生きる者。だからこそ目の前の少女はより特異に見える。
魔術師ならばこの能力はきっと喉から手が出るほど欲しいものだろう。自身が編み出した魔術を子孫代々ではなく自身で完結させられる。それが出来れば更に深く魔術の世界へ没頭できる。
これ以上に便利な能力は無いだろう。

「あぁもうっ!一度に話すでないっ!!
頭がクラクラしてくるぞ!?」

こう何人もの人が一度に話せば理解できる話も理解できない。
顔の赤みを未だ残しながらソレスはそう抗議する。はたから見ればかなりシュールだろう。

それにしても本当にそれぞれが違う言動を取っている。完全なコピーなのだろうが、やはりそれでもこうしてズレが生じてしまうのだろう。過ごし方によって人は何通りにも変化する。これはそれを身を以て再現している。
これならば確かに自分を見失うことは無いだろう。

「本当に厄介な連中じゃのう……
とにかくお主ら一旦落ち着くのじゃ…お願いだから……」

だが、ソレスはこれは些か個性が強すぎると思うのだった。
521 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 16:44:20.11 ID:GO1xi93To
>>520
「『汝死を想え』でしたっけ?」
「『死は一切の人を平等にする』ですね?」
「『好奇心猫をも殺す』かしら?」
まぁ、大体あっているだろう。
寿命が異常に長く、老いることのない肉体を持つ者。
自分自身を生み出す能力により、無限の残機を持つに等しい者。
お互いにアプローチは違えど、人類の夢たる不老不死を得ていると言えるかもしれない。

「「「「あら……ごめんなさい、そうですね、順番に話します」」」」
声をそろえて言う4人。

「あっ……やっと合いましたね!」
「流石私です!」
「やりましたよ私!」
またもやざわめき始める。聖徳太子は10人の言葉を聞き分けたと言うが、
聖徳太子でもない普通の人間たる我々からすれば4人同時でもキツイ。

「す、すみません。ええ、落ち着きますわ。ほら、私も」
「ええ……」

「ごめんなさいね、これからは一人ずつ話しますよ、私から時計回りで、どうぞ」
「横並びですから時計回りっていうのもおかしな気がしますけどね……どうぞ」
「もしあれでしたら何人か消しましょうか? どうぞ」
「最高でも二人までで許してほしいですけどね……この眼鏡結構高かったんですから、どうぞ」
「厄介というのはその通りですね……私自身、私を敵に回したらと思うと冷や冷やしますよ」
今度はかわりばんこに話す4人。
打ち合わせさえすれば息を合わせられるようだ。曲がりなりにも自分なのだからそれはそうか。
522 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/05/04(水) 17:13:35.66 ID:Qw5/tkpFO
>>521

少女たちが言ったそのどれも的を得ている。
能力という特異なものを持っている以上、様々な場合を想定しなければならない。
"死は常に身近にある"
それは言わば自分への忠告でもあった。ソレス自身、自分の危うさには気付いている。この好奇心で今までも様々な危険に巡り合ってきた。死にたいとは思っていない、ただ死を恐れないのだ。
それが長い年月を経たことによる弊害だろうか。

「……あれか、お主らは話していないと死ぬ病気にでも掛かっておるのか」

一度は静かになったものもまたもやざわめき始めてしまう。もはやわざとやっているとしか思えない。

「別によいそのままで…そう軽々しく消すなどと言うでない」

「まぁ確かに、倒しても倒しても減らない敵というものは体力以上に精神が削られる。そういう意味ではお主らは優秀じゃろうよ」

倒しても倒してもまた現れる、それはまさにゾンビだ。
終わりがあるのならまだ立ち上がれる。しかしそれに終わりが見えなければその精神の磨耗は相当なものになるだろう。それは恐怖でしかないのだから。

「それにしても、本当にまるっきりとは言わんが同じじゃのう……」

全員の顔を端から順に見て改めて感想を口にする。それがこの能力の恐ろしさでもあり強さなのだろう。
まるきり同じ人間ならば、それが自分であればなおさらそれを利用するのに多少の気持ち悪さはあっても罪悪感なんてものは感じないだろう。その気持ち悪さも慣れれば次第に薄れていく。
見方によればこの能力は最強格と言ってもいいかもしれない。
523 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 17:51:43.14 ID:GO1xi93To
>>522

「女三人よれば……と言いますしねぇ。5人も集まればそれは騒騒しくもなりますよねぇ、どうぞ」
「いやいや私……そのうち4人が私じゃないですか。私達が姦しくて騒がしいんですよ私」

「ん、そうですか、よかった。
……まぁ、増えすぎた私を消すのも必要なことなんですけどね。ドラえもんの栗饅頭事件の例もありますし」
自分自身を回復するのではなく、新しく自分を創りだす。
だからこそこの能力の弱点は、自分を増やし過ぎてしまうこと――なのかもしれない。

「そうなんですよねぇ。私達、元々戦うのは嫌いですけど……私と戦えと言われたら憂鬱になりますよ」
局面で勝利することはできても、おおよそ駆逐することのできない能力。
倍々で増え続けられる能力――『烏合の筍』。筍のように生える烏合の衆。
「ゴールが見えないというのは最大限の苦痛ですものね……穴を掘って埋める仕事、賽の河原の石積みですね」
個々は無敵ではない……だからこそ、やっていられない。泥仕合必至の能力。

「ええ、眼鏡と髪型は家で変えてきたので違いますけど、それ以外は全く同一ですよ、どうぞ」
「肉体構成も原子レベルまで同一ですよぉ、どうぞ」
「遺伝子だって完全に一致するんですよ! どうぞ」
「記憶も……創った時までのものなら一緒なんですよ。それ以降は行動によります――当然ですが。どうぞ」
「魂も同じみたいですよ。……肝心の魂は未だ見たことがありませんけどねぇ。私が死ぬ瞬間を見ても確認できませんでしたし……魂って実際何なんですかね?」

自分がいくつも存在する――この自分は、もしかしたら創られた自分かもしれない。
自分は偽物かもしれない――この能力は強力だが、常人はその事実に耐えられないだろう。
しかし彼女は常軌を逸した自己愛者。愛しくて可愛い自分が沢山居るのは望むところだ。
――この能力の真の恐ろしさは、能力そのものよりも使い手の精神性にこそあるのかもしれない。
524 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/05/04(水) 18:30:31.52 ID:JpCXdAEG0
>>523

「まぁ確かにあまりに増えすぎるのも考えものじゃのう。
天然記念物といえども増え過ぎれば駆除の対象となると一緒じゃな、要はバランスが大事なんじゃ」

どんなに貴重なものでも増え過ぎればその価値は無くなる。
それに強大な力を持てばそれも排斥の原因ともなる。生き過ぎたものは身を滅ぼす、それは歴史が証明している。
この少女たちももしこの能力の存在が魔術師側に知られればまず確実に狙われることになるだろう。下手をすれば捕まりホルマリン漬けなんてことにも成りかねない。

「賽の河原……確か仏教での地獄に存在する子供が堕ちる地獄じゃったか。
かかっ、確かに言えているな」

確かにこの少女たちと戦えばそれは文字通り地獄だろう。
永遠に尽きない敵など地獄と言わずに何というか。

「魂、のう……それは誰にもわからんだろうさ。ある者は心だと言い、ある者は心臓だと言い、ある者は脳だと言い、ある者はそも存在しないと言う。
人は眼に見えぬものを暴くことはできぬ、もしも魂が何か解るときは魂が物質化されたときじゃろうな」

魂、よく言われるがそれは一体何なのだろうか。人の中には魂があるという。だがそれを見たものは聞いたことがない。
本当に存在するかも不明、そんなものは果たしてあると言えるのだろうか。
525 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 19:06:48.29 ID:GO1xi93To
>>524

「私としては魂は存在すると思うんですよねぇ……そうでなきゃ、ただの有機物のスープから生命が生まれるだなんて考えられませんし。どうぞ」
「生命活動は生体電気によるものですけれど、死体に電気を流せば復活するというわけでもありませんしねぇ。どうぞ」
「……物質化、ですか。魂の物質化――うふふ、いつかやってみたいですね!」
筍は――筍たちは目を輝かせる。
研究者気質のようだ。それ故に自分を使い捨てられるのだろうか。

「あっ、そういえば賽の河原で思い出したんですけれど、自己紹介がまだでしたね。
私達の名前は分倍河原筍。タケノコと書いてタカナです。よろしくお願いしますね」
河原が一致するとはいえ、賽の河原で思い出すなという話ではあるが、
筍は自己紹介を済ませていないことを思い出したらしい。
526 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ [sage]:2016/05/04(水) 19:29:17.96 ID:JpCXdAEG0
>>325

「まぁ、魂云々はそれ専門に研究しているやつに任せるとするさ。
儂はあまりそういう研究云々はしないからのう、魂の物質化なんぞ今から後何年かかることやら」

いや、もしかすればそれは可能かもしれない。だがその技術を、魔術を生み出すのには一体何代続かなければならないのだろうか。
しかしもしかすればその術を編み出した魔術師も居るかもしれない―――いや、その域に達すればそれはもはや魔術ではない、魔法だ。人の手を離れた異業、そんなものは魔術とは呼べない。

「そんなことで思い出すでない…縁起でもない……」

「分倍河原筍、うむしかと覚えた、名乗られればこちらも名乗らなければな。
儂の名はソレス=ロウ=メルトリーゼ。どう呼んでも構わん、好きに呼べ」

その名前からソレスはこの国のものではないことは明らか、まぁ見た目からも薄々気づいていたのかもしれないが。
527 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 19:39:53.75 ID:9IUu4UlQo
「…………」

公園のベンチでタバコを吹かす、甘ったるい匂いの紫煙が街灯に照らされて踊り、散って行くのを眺めながら、短くなったタバコを地面に捨てて踏み消した。

───最近魔女狩りがヤンチャし過ぎてな、堪え兼ねた魔術師が対抗勢力を集めとるっちゅう噂や。

今日の昼頃、同じ組織のメンバーからそんな話を聞いた、学園都市の闇の中で自分達と違う暗部が蠢いているらしい。
それを聞いたからってどうする事はないが、愉しそうだと感じたのは事実、黒繩はどうするかと考えていた。
とはいえ今のスタンスは何方でも無い、もし魔女狩りの連中が『助けてください』と頭でも下げてくれば手を貸してやる、程度だ。

「……どデカい花火でも上げるってんならいいんだがな」

刺激が欲しい、今が退屈だと言うわけではないが、どうせやるなら激しい方が楽しめる。
あの殺人鬼の少女とか、薄っぺらい正義感の男とか、番長とか名乗る女とか、学園都市を嫌う女とか、そういった奴等を相手にしてるような愉しさが欲しい。
平和なんて糞食らえだ、どいつもこいつもが腹の中に蓄えてる欲望が破裂して地獄絵図になった方がこの都市には相応しい。

そんな事を考えていたら、どうにも体が疼いてきて、大きな溜息を吐いて黒繩は立ち上がる。

「あーだりぃ……ゲーセンでも行くか?」
「こいつら金持ってっかな…」

ベンチから立ち上がった黒繩は、少し前からずっと近くにあった───自分がやったのだが───倒れた不良少年達のポケットを漁る。
躊躇いもせず彼等のポケットから財布を取り出すと、金を抜いては空の財布をポイ捨てする。夜の公園は、必ずしも昼と同じような平和な空間ではないらしい。
528 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 20:03:08.07 ID:GO1xi93To
>>526
「やっぱりそういうのが専門の方もいるんですねぇ。
この場合は……霊魂学? 生物学? 超自然学? んー、まぁいいか。ともかく、私達も負けていられませんね!」
やはり魔術という発想には至らない。知らないのだから仕方ない、とも言えるが。
……だがあるいは、魔術のことを知っている『筍』も居るかもしれない。

「ソレス=ロウ=メルトリーゼ……ソレスちゃんですね。うふふ、いい名前です。よろしくお願いしますね」
「外国の名前には詳しくないですけれど……響きがいいですよね」
ソレスちゃん、と呼ぶことにしたらしい。見た目ではロリだからだろうか。
……そうでなくともちゃん付けするような人間かもしれないが。
529 :ソレス=ロウ=メルトリーゼ ◆yd4GcNX4hQ :2016/05/04(水) 20:57:23.33 ID:JpCXdAEG0
>>528

「負けていられないってお主…止めておけ止めておけ、そんなもの一代で成し遂げられるものでは……
そうか、お主は一代ではないのじゃったな」

確かに、彼女ならばより効率的に研究が出来るだろう。つくづく魔術師にとって便利な体だ、もしこんな魔術があれば―――いや、そんなものあるはずがないか。
クローンなどは作れない、作れるとしたらホムンクルスなどといった人工の人間だ。決してこんなに完璧なコピーは作れない。いや、作れたとしてもそれをバックアップとして使うなどということ自体があり得ない。
自分は自分、それはコピーであったとしても自分ではないのだ。

「……まぁ別に良いか。
…ん?気付けばもうこのような時間か、時が過ぎるのは相変わらず早いものじゃな。そろそろお暇といこうかのう」

気付けばもう夜の帳が降り、あたりはとっくに真っ暗になっていた。
流石にこれ以上彼女を拘束するわけにもいかないだろう。

「ではな、筍よ。
今一度言うが、常々死を忘れるなよ?」

そう言うとソレスは歩いていく。もしもこのまま声も掛けられなければ、ソレスはその場を立ち去ることだろう。
530 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 21:09:56.61 ID:3iEOKbo8o
>>527

//まだいらっしゃいますか・・・?
531 :分倍河原筍 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/04(水) 21:13:07.86 ID:GO1xi93To
>>529

「うふふ……いくらでも人手と実験台とバックアップを補充できますからねぇ。そういう時便利です」
もしもこの能力が他人にも作用するものであったら――多くの人間から付け狙われただろう。
研究者に限らず、『自分がもう一人いたら』なんてifは誰もが一度は考えるそれなのだから。
自分自身とその所持品にしか作用しなかったのは幸運と言えよう。

「あら本当。もうこんな時間ですわ」
と、筍もあたりの様子を見て言う。

「ええ、もちろん。恐れを忘れたとき人は死ぬ。楽しいひと時でした。
どうかお元気で、ソレスちゃん」

「次もこの私に会えるといいですね!」

「もしも他の私に会っても、気安く話しかけていいですからね!」

「私も私に会ったらソレスちゃんのことを紹介しておきますよ!」

4人がかわりばんこに別れを告げる。

「んー、デートはここまでですね、私」
「そうですね私。そろそろ帰りましょう」
「楽しかったですね私」
「急に火が出たときはびっくりしましたけど、いい子でしたね私」
彼女らもまた、踵を返した。

//長い間ありがとうございました!
532 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 21:19:58.91 ID:9IUu4UlQo
>>530
/いますよー
533 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/05/04(水) 21:21:40.66 ID:1p9xwpRW0
>>527
闇夜に浮かぶ小さな公園は、決して人が集まると言える場所ではない。
それは所謂世間からの鼻つまみ者である不良たちが拠点にしている事と、極端に治安が悪いことも含めての意味合いだ。
図に乗った不良たちは夜中の公園をステージに騒ぎ立てる。そして、今宵もそうなるはずだった。
だが、上には上が居る――不良達はこの学園都市という場所の異常さを、改めて実感することとなっただろう。
憐れ一文無しとなった不良少年たちは明日からの生活に頭を抱えることとなる。

「……夜分遅くにすみません、一つお尋ねしたいことが」

しかし――何事にも”イレギュラー”というものは存在するのだ。
澄んだ声色で一切物怖じせずに語りかける男は、焦茶色の探偵服を羽織い眼鏡を掛けた如何にもといった格好の者。
それは何処の組織にもつかない、暗部でも魔術師でもない学園都市にとって中立的な存在。


「――高天原いずもという名前に、心当たりは?」


橙色の街灯に照らされるその男は――紛れもなく”探偵”だった。
少年が望むような刺激を与えてくれるかどうか、それは自ずと分かることとなるだろう。

//もしまだいらっしゃったらお願いします!
534 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/05/04(水) 21:23:11.74 ID:1p9xwpRW0
//被ってしまった……
//こちらの絡みは無視していただいて結構です!!
535 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 21:31:24.34 ID:3iEOKbo8o
>>532
//では絡ませて頂きたく・・・!

>>527

軍服の少女は、月あかりの下今日も各所の巡視にあたっていた。
腕に付けられた茜色の腕章、『風紀委員会』の腕章はその証である。
巡視とはいえ、普段なら簡単な仕事だ。ちょっと公園見てすぐに終わる仕事だった。
――普段、なら。

「およ、何方かいらっしゃるようで。」

ガサリガサリと公園に踏み入っていく。
甘ったるい匂いが辺りに立ち込めていた。多分煙草の匂いだろう。
自分も煙草を吸っているがゆえ、人の文句なんかは言えない立場だが。

「あー・・・、其処の人、ちょっと待つでありますよ。流石に財布から金を抜き取るのは・・・」

居た。予想通り、人は居た。
ただ、勘からも、見た感じからも普通の人間ではなかった。
どうやら、倒れた不良少年達のポケットから財布を抜き出し、其処から金を抜き出しているのだ。

「まあ、特段戒めはせぬでありますが・・・。」

とは言え、面倒くさいのだ。いちいちこんなことで対処していたら気が気でない。
軍服の少女は胸ポケットから煙草を取り出し、ライターで火をつけた。
乾いた紫煙が辺りに吐き出される。"安月給"な故、安い煙草しか吸えないのだ。

「さて、取り敢えずは仕事故、所属先の学校と氏名年齢だけ教えてもらってよろしいでありますか?」

めんどくさい、で済ませられぬ仕事なのだ。一応仕事は仕事。
ポケットからメモ帳とボールペンを取り出してノックする。名前とかをメモするようだ。
怪しい人物の目星を付けたがっているのか、こんなことまでさせられるのは嫌な仕事だが。
536 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 21:42:14.95 ID:9IUu4UlQo
>>534>>535
/こちらとしては複数ロールでも良いのですが、お二方はどうでしょうか?
537 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 21:42:55.28 ID:3iEOKbo8o
>>536

//当方は大丈夫でありますよ〜
538 :小柳=アレクサンドル・龍太 ◆NYzTZnBoCI [sage saga]:2016/05/04(水) 21:44:54.36 ID:1p9xwpRW0
>>536
//複数は捌ける自信がないので今回は引かせていただきます…!
//提案ありがとうございました、また機会があればっ!
539 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 21:55:26.35 ID:9IUu4UlQo
>>535
「……あン?」

三人目の財布を抜き取った辺りで、変な喋り方で声をかけられた気がして、不満そうにそちらを振り向いた。
なんか軍服の少女が立っている、黒繩は一瞬目を丸くしてから、うぇぇ、という表情をした。

「…ンだテメェ、軍隊ごっこなら他でやれよ、サバゲーチームとかのノリを一般人に持ち出すんじゃねェ」

服装だけで『こいつは変な奴だ』と判断した黒繩は、野良犬でもあしらうかのようにしっしっと手を振って、財布から金を抜き取った。
これで全員分、少女は惜しくもこの少年の非行を止める事が出来なかったが。

「テメェに個人情報を教えてやる義理はねェよ、黙秘権を行使する」

空になった財布をポイと投げ捨て、少女の足元へと転がす。
こんなコスプレじみた格好をした奴に、そうでなくとも風紀委員に語ってやる情報は例え今日の昼飯だろうと言うつもりは無い。
どう見たって不良な少年は、国家権力に無駄な反骨精神を抱いていた。

>>538
/わかりました、またの機会によろしくお願いします。
540 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 22:02:31.86 ID:3iEOKbo8o
>>539

「何を、軍隊ごっこではないでありますよ!これでも立派な学生であります。」

まあこの服装を普段この学園都市で見かけることは少ないであろう。
基本的に『士官学校』の生徒は狭い敷地内に閉じ込められているのであるから。
ただ、風紀委員だけは特別らしく、巡視の時のみ外へと出してもらえる訳だが。

「ははあ、それなら致し方ないでありますね。」

メモ帳には何も書くことなく、諦めの表情を浮かべた少女はそれらをポケットの中へ戻す。
黙秘権を行使されれば、此方としては諦めざるを得ないところが無きにしもあらず。
国家権力に対していかにも反骨精神を抱いていそうな少年だった。

「ところで、その金は一体何に使うでありますか?学生であれば使いみちも少ないでありましょうに。」

ゲーセンに行くとしても1プレイ100円程度のものだ。
数千、数万単位の金を抜き取ったとして、一体其れを何に用いるのか?
少女は其れが単純な疑問として頭に浮かんできたのだ。
541 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 22:25:55.11 ID:9IUu4UlQo
>>540
「どこの学生だよ……っと、そういやそんな制服の学校あったな、刑務所だか駐屯地だか学校だかわかんねー所」
「俺の記憶が確かならあそこは脱走禁止だったはずだぜ?テメェ風紀委員の癖に脱走かァ?」

そんな制服の学校があるかよ、と言いかけて、そういえばあった事を思い出した、初めて知った時も信じられないと呟いたのを覚えている。
学園都市の暗部で動く故に、学園都市の諸々については広く浅く聞いている、士官学校については『そんな学校がある』と言う程度の認識だ。

「素直か、つか真面目か、もっと食いかかれよ」
「黙秘権って言われてすぐに事情聴取やめる奴が何処にいるんだよアホ」

いくら黙秘権を行使したとして、風紀委員たる者が怪しい人物から事情聴取を取りやめるのはいかがな者だろうか───自分が言える立場では無いが。
こんな如何にもな奴の言葉を真に受けて食い下がるなよと、呆れ顔で言った。

「……まあいいや、テメェみたいな真面目ちゃんにはわからない使い方をすンだよ」
「夜遊びは俺みたいな不良のすることだ、テメェは教官に見つかって罰を受ける前にさっさと帰んな」

不良から金を盗んではいたが、別に金欠だと言うわけではない、多くはないが使える金ならあるのだ。
それでもわざわざこんな事をするのは、喧嘩の報酬というかそんな感覚、金は沢山ある方がいいし、持ち金によって遊び方も変わる。
取り敢えずこれだけあれば、ゲーセンと言わずギャンブルやその他の夜遊びにも行けるだろう、暇潰しには丁度いい。
542 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 22:38:34.01 ID:3iEOKbo8o
>>541

「嗚呼、一般の生徒の方々にはそう認知されているのでありますか・・・。」
「そこは心配なさらず、風紀委員は特別活動を許可されておりますし、不許可でも鉄柵を"溶かせば"良いのでありますから。」

――どうやら、意外と真面目でもないみたいだ。
風紀委員は特別活動と題した"屋外での自由行動"を許可されている故、こんなに自由な身なのだ。
ただ、治安の意地には貢献せねばならないという最低限の条件は付与されるが。

「いえ、何せ面倒でありますし・・・。如何にも、という人物は顔でわかるでありませんか?」

如何にも奇しい、という人物は顔とか、行動言動でわかる。
此処でひねろうが抓ろうがこんな輩が絶えることなど学園都市にはありもしないことなのだ。
少女は其れを理解しているが故に、面倒くさいの一言で仕事を済ませた。

「へえ、例えば"春を買った"り、"賽遊び"に使うわけでありますね?
なに、教官にお叱りを喰らうのは毎日のことでありますし、もう気にしないでありますよ。」

売春だとか、賭博だとかは夜の遊びだと有名なものだ。
例の学校内でも、深夜になれば学生たちがコソコソと賭博をしている。
金は有って困るものでもない。自分も乾いた煙草ばかり吸うのは飽きた。

「それなら、自分と賭けをしませぬか?貴方の持ち金と、貴方が望む物で良いでありますが?」

此の少女だって例外ではないのである。
乾いた安物の煙草を今も吸っている通り、煙草を吸うという規律違反を犯している訳だ。
軍帽のピンバッジをばちん、と取り外して地面に置く。

「――どうするでありますか?」

まるで誘うかのような目線で男を見る。
相手は金を出せばいいが、此方は相手の望むものを出さなければならない。
そんな面白い賭けを、少女はやりたかったのだ。
543 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 23:10:06.40 ID:9IUu4UlQo
>>542
「───へェ」

少女の言動を見て、黒繩はニヤリと口角を上げた、お堅い学校の真面目な風紀委員かと思えば、中々どうして面白そうではないか。
普段ならこんな生意気な奴は『ムカつく』の一言でブン殴ってる所だが、そうするには惜しいと思うような雰囲気がある。
少女の言うような遊びをするより楽しいかどうかはこの先次第だが、少なくとも今の時点では乗ってやるのが楽しそうだ。

「……いいぜ、遊んでやるよ」
「つっても、テメェが賭けるモン次第だがな」

そう、賭けにはお互いが担保として差し出す物が必要だ、少女の言う通りこちらは今持つ有金でいいのだが、黒繩が少女に望む物といっても特に思い付かない。
それに、賭けと言ってもどんなルールで賭けをするのかが、少女の置いたピンバッチだけではわからない。

「とりあえず、テメェが出せるモンをまず教えろや、望む物ったって何があるかわからなきゃ話にならねェ」
「……それとも、体でも賭けるか?あァん?」

ゲスい笑みを浮かべながら、少女を探るように揺さ振りをかける言葉を紡ぐ。
体を賭けるなんて、ありがちで在り来たりな悪役のセリフみたいだが、まあそれくらい悪役を気取るくらいが楽しいだろう?
544 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 23:26:56.51 ID:3iEOKbo8o
>>543

「ふふ、ノリ気のようでありますな。」
「それではルール説明でありますよ、此のピンバッジの出目が裏か表か、それだけであります。」

男が乗り気のようであることを確認して、少女は手にピンバッジを握る。
其れをピン、と弾きあげるとともにルールを説明し終えた。
くるくると宙を回るピンバッジは再び少女の手中に収められた。

「ふむ、私の賭けるもの、でありますか・・・。
服でも下着でも、何でも良いでありますよ?勿論、貴方の望まれるものであれば。
此の身は既に"汚れた"ものであります故。」

少女は賭けるものはなんでも良い、貴方のお好きなままにと伝えた。
流石に命までは取りもしないだろう、唯の現金の賭けでしかないのだから。
少女は軍帽の鍔を親指と人差し指の間に挟んで脱ぎ取り、地面に置いた。

少女は正座をして男の返答を待つ。
久々の賭けを、少女はスリルを持って楽しみたかったのだ―
545 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/04(水) 23:49:00.42 ID:9IUu4UlQo
>>544
「はん、要はただのコイントスだろうが、簡単じゃねェか」

少女の前に向き合うように、片膝を立てて地べたに座る、ルールは単純明快、裏か表の二択を当てるだけだ。
ただの大きな確率の話、子供でも五分だとわかるやり方、それに使用する物が少女の持ち物だと言うのが気にかかるが…。

「あァ、一つ言っておくが…」
「もしイカサマしたらブチ殺すからな?しねェと信じてるけどな?……なァ?」

敢えて確認はしない、イカサマでもなんでもできるもんならしてみろという自信を見せ付ける、もしそれがバレたらどうなるかも添えて。
脅しだが、ただの脅しではない、もしイカサマがバレれば本当にそうしてしまうというような雰囲気を讃えた笑みが、少女に向けられる。

「ンだよテメェ、もうちょっと嫌がれやつまんねェな…」
「……ンじゃ、パンツでも賭けて貰うか、丁度いい金額だろ」

操を賭ける、と言って、嫌がるなら少しはその気になっていたのだが、思ったより反応が薄くて少し落胆した。
いや別に、綺麗な体が欲しかったとかそういう訳ではないが、ようは気分と雰囲気の問題だ、嫌がらせにならないなら無難な所で落としておく。
さっき財布から抜き取ったばかりの金を全て地面に置いて、賭けに出した事を示す、後は少女が条件を呑めば開始だ。
546 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/04(水) 23:59:03.04 ID:3iEOKbo8o
>>545

「ええ、唯のコイントスでありますよ。」

表面には校章が彫られ、裏面は何も彫られていない無地。
そのピンバッジの裏表を当てるだけ、確率は五分五分。簡単な話だ。

「イカサマなどできないでありますよ。これは唯のピンバッジであります。」
「貴方も私が軍帽から此れを外すのは見ていたでありますよね?」

イカサマなどしない、と如何にも真面目に答えてみせる。
無論そんな能力を持ちあわせても居ないし、イカサマ等する気もない。
唯の賭け。少女にとっては面白い賭けとしか思っていなかった。

「嫌がるも何も、私は貴方が望むものを賭ける、と言いました故。」
「ふふっ、私のパンツでありますね・・・?分かりました、乗るでありますよ。」
「ただ、脱ぐのはあとにして欲しいであります。」

男が抜き取った金を地面に置いたのを見て、少女も条件を呑む。
さあ、勝負は一瞬で決まる。どちらの運が強いか、それだけを決める賭け。
少女はピンバッチをピンッ、と空高く弾きあげて――

「裏か表かッ!?」

手中にスルリとピンバッチは収められる。
握った指が見えるように男へと握った手を向けた。
さて、男は表と裏、どちらを予想するか、そしてピンバッチはどちらを向いているか――
547 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 00:27:14.86 ID:SQcSVwoho
>>546
空中に跳ね上げられたピンバッチの動きを視線で追う、あわよくば掴まれる瞬間が見えれば良かったが、街灯の光くらいしかない夜の公園ではそれは難しい。
結局の所、裏か表か勘で当てるしかないようだ、こんな物は変に悩むよりは直感でさっさと決めてしまう方がいいのだが。

「───お前、本当に風紀委員かよ?」

立てた片膝の上に更に肘を立て、頬杖を付いた黒繩は、少女を嫌らしく見詰めながら呟いた。
確かに少女は風紀委員の証である腕章を付けている、しかしそれにしては嫌に『らしくない』というか、相応しくないようではないか。
何方かというと彼女は『こっち』に近い人間なのではないか、何にせよ風紀委員というには疑わしいように見える。

「その腕章、本当は奪った物とかなんじゃねーの?どう見たってお前は風紀委員に見えねェよ、やっぱり」
「お前どっちかっつーと俺みたいなのに近い人間だろ?風紀とか秩序とか、どうでもいいんだろ?」

もうピンバッチは少女の手の中だ、今更揺さ振りをかけた所でなんにもならないのはわかっている、ただ、言うならこのタイミングだと何となく思っただけだ。
目の前の少女は、風紀委員らしく秩序を守る事よりも、明らかにその時点での愉悦を欲しがっているように見える、刹那的な快楽を求める、自分と同じだ。
殺しや暴力にそれを感じないなら、まだまともな方か、もしくは実はそうなのかもしれないが───少なくとも、黒繩の考える風紀委員という奴は、そんな事はしないクソ真面目な連中だ。

「……ま、今はそんな事どうでもいいか?」
「裏だ、俺は裏に賭けるぜ」

548 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 00:44:58.94 ID:n3H1tdC3o
>>547

「ええ、私は確かに風紀委員でありますよ。」
「ただ、過去がどうであれ、今現在は風紀委員である、ということでありますけど。」

風紀委員の証は確かに付けられている。唯、『らしくない』。
らしくなければ、其れでも良いのだ。現に少女は風紀委員としての役目を与えられ、其れを果たしている。
時には、踏み外したい時だってあるのだ。"過去に酔いしれたい"時もあるのだ。

「いえいえ、奪ったなんてとんでもないであります。そんなことすれば教官殿に怒られるどころでは済まないでありますよ。」
「確かに今は快感に酔いしれているでありますよ。唯、いつもはきちんと仕事をしているのでありますよ?」
「殺すのも、人を傷つけるのも、風紀を正すためには快感と考えるのが一番と考えているでありますから。」

茜色の腕章には、確かに少女の通う『士官学校』の校章が刷られていた。
それが偽装されでもしたら一大事であるし、もし其れがバレたとしたら退学以上に厳しい懲罰を与えられかねないのだ。
さて、此の少女は、いつからかすべてを快楽として捉えるようになってしまった。
人を傷つけるのも殺すのも快楽であるし、逆に傷つけられるのも殺されるのも快楽である。サディストでもあり、究極のマゾヒストでもある。
―――刹那的な快楽、其れは少女を動かす唯一の原動なのかもしれない。

「ふむ、裏でありますね――・・・・・・」

握った手から、徐々に指を離してから開いていく。
薄らと見えたのは―――――――校章の彫られていない、無地の面。
――つまり、裏面だった。男の賭けは的中し、無論少女は負け、ということになる。

「ふふ、お強いでありますな。全く叶わないでありますよ。」

諦めたような、艶めかしそうな顔をして、軍帽にピンバッジをはめ直す。
そして其れを被り、立ち上がって男の方へと向き直った。
549 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 01:02:44.11 ID:SQcSVwoho
>>548
「……ヒヒッ」

ああ、やはりこの女は思った通りだ、狂っている、素晴らしいじゃないか。
何となく感じていた親近感、遊びに付き合ってやろうと思えたのは、これを無意識に感じ取っていたからかもしれない、類は友を呼ぶという奴だ。

「いいな、お前超いいよ、好きだぜそういう奴はさ」
「あークソ、失敗したわ、もっといいモン賭けりゃ良かった」

その瞬間瞬間の快楽を求める、単純で本能的な行動原理、自分に正直なそれを黒繩は悪いとは思わない。
寧ろそういう人間は大好きだ、自分の事しか考えず他人を利用し貶め無視するような人間は、自分もそうであるからこそ、矛盾するようだが大好きだった。

「こんなの、50/50の二択だろうが、試行回数一回で強い弱いもねェよ」
「でも、賭けは賭け、そうだろ?お前も愉しんだんだから、出すモンは出してもらうぜ」

「……それとも、ゲームで負けたからって盤面を蹴ってひっくり返すか?」

こんな賭けはただの遊びだ、その遊びが愉しいのだが、実際の所何を賭けるかなんてどうでもいい。
重要なのは、その結果の先───大人しく賭けた物を出してもいいし、物理的に抵抗したって構わない。
黒繩は立ち上がらず座ったまま、三日月のように曲げた口からギザギザの歯並びを見せて、少女を見詰める。
550 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 01:21:37.09 ID:n3H1tdC3o
>>549

「ふふっ。」

少女も同じく、男に親近感を覚えていた。
だからなんとなく彼を見逃したのか、それとも、無意識的なものか。

「賭け事が終わったあとからは変えられないでありますからね?」

単純な思考は複雑な思考よりも己を助ける。
瞬間の快楽を求める、単純で本能的な思考は全くラグが出ずに命令が伝達されるものだ。
だから、少女は生まれてから其れを教えこまれ、今もこうして、そうして生きているのだ。

「ふふ、一回しかない賭けを成功させるのは逆に凄いことと思うでありますよ?」
「此処に来て盤面をひっくり返すなんてことはしないでありますよ・・・、自分も期待しているでありますから。」

少女は彼の目線に応えるようにして、また彼を見つめる。
一度きりのチャンスを見事に掴んだ彼は運が強いといえるだろう。
少女も、楽しんでいるのだ。この"頭の狂ったおかしい賭け"を面白いと感じ、そして愉しんだ。

「さて、約束、でありましたな。私の・・・、パンツをあげる約束・・・・・・」

流石にこれは恥ずかしかったか、少女は赤面する。
そして濃緑色のスカートの中に手を突っ込む。少々もぞもぞと手を動かした後。
するり、するりと大腿部、脹脛を通って出てきたのは白と黒のストライプの、所謂"縞パン"。

其れをすべて脱ぎきると、軍靴まで下がったパンツを拾うようにして手に取り。
彼へと、其れを手渡しするかのようにして差し出したのだった。

「此れが約束の、私のパンツでありますよ・・・・・・?」

少女は赤面しつつも艶めかしい表情を浮かべる。
手渡されたパンツを受け取るかどうかは、おそらく彼次第だろう。
551 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 01:40:45.63 ID:SQcSVwoho
>>550
あ、普通に渡すんだ、そうなんだ、そうなんですね…そんな表情になって、赤面する少女を眺めていた。
なんと言うべきだろうか、こう言ったらきっと彼女は怒るだろうか、興奮も何もない冷めた顔で、黒繩はこう考えていた。

(……冷静に考えるとどうすんだよこんなモン)

ちょっと弄ってやろうかなーとかそんな事を考えていたが、いざ目の前で脱がれたパンツを渡されても、なんというかこう、処遇に困る。
でも賭けろと言ったのは自分だし、受け取らない受け取るで変な押し付け合いになると尚痛々しい事になるのは明白だ、マジでいらねェ。
ポケットに女のパンツ入れて歩くとか正気の沙汰じゃない事は絶対したくないとか考えつつ、取り敢えず差し出されたパンツを貰った。

「…………」

敢えて感想は言わない、というか今ですらギリギリなのに下手な事言うと人間性がぶれかねない。
取り敢えず黒繩は立ち上がって、処遇困ったこの布をどうしようかと考えて、一つ妙案を思いついた。

「……もうこれは俺の物なんだから、どう使ってもいいよなァ?」

そう言ってから、向かう先は倒れている不良の集団、哀れにも財布から金を抜き取られた奴らの一人の頭に、おもむろに勝ち取ったパンツを被せた。
これで良し、これで自分は女のパンツを持ち歩く変態という汚名を回避出来たし、中々上手い使い方をしたと思う。

「…俺の名前は黒繩 揚羽だ、お前の度胸に免じて名前くらいは教えてやるよ」

倒れた男にパンツを被せて、何かやり切った気分になってタバコに火を点ける、黒い巻紙から甘ったるい紫煙が立ち上った。
552 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 01:49:36.94 ID:n3H1tdC3o
>>551

さて、渡したは良いが、大問題があることに少女は気づいていなかった。
男が其れを持って歩く、ということは彼が変態に見られかねないということだった。
だが、彼は其れを賭けとして提示したのだから、受け取る義務はあるだろうて。

「・・・・・・・・・」

何か、すごく微妙な空気になってしまった。
彼は何かに悩んでいるようだし、自分はもう賭けたものを渡したはずだが――

「ええ、其れは別に構わないでありますが。」

すると、彼は突然倒れている男にパンツをかぶせた。
なるほど、そういう手筈もあったのか、と納得したかのような表情になる。
――納得してもいけない気がするのだが。

「黒繩揚羽さんですか、私の名前は綾切 楓でありますよ。」

もう賭け事は終わり、切り替えて胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
乾いた両切りの安っぽい煙草も同じく紫煙を立ち昇らせた。
時々夜風が楓のスカートを靡かせてはいるが、本人は意識すらしていないのだろう。
553 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 02:11:40.39 ID:SQcSVwoho
>>552
「綾切ィ……もしテメェが風紀委員会を持て余されて、それでも愉しい事がしてェなら…」
「そン時ゃ俺に言いな、今よりも少しは愉しい事を教えてやる」

風に紫煙を攫わせながら、邪悪な笑みをニヤリと浮かべた黒繩は、綾切に誘いのような言葉をかける。
相手がまだ風紀委員である以上は、暗部組織である事やその目的を語る訳にはいかない、しかし彼女はこちらに来る素質は充分にあると見抜いてこそそう言った。

「そンじゃ、俺はもう行くわ、まあまあ愉しめたぜ」

「じゃあな」と告げて、咥えタバコで歩いて行く黒繩の背中は、幾らか上機嫌であるようであった。
ウザったいだけだと思っていた風紀委員会にも、中々愉快な奴がいるようだ、それを知っただけで今日はいい夜だ。

/お疲れ様でしたー!
554 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 02:18:04.01 ID:n3H1tdC3o
>>553

「ええ、持て余されましたら是非お願いしたいでありますよ。」

風紀委員に何故なったのかさえ覚えていなかった。
そういえば、なぜ私は風紀委員になったのであろうか?
その謎が解けた時には、また彼に愉しいことを教えてもらおうと思った。

「ええ、それでは。私も愉しかったでありますよ・・・?」
「あ、くわえタバコはダメであります」

彼の背中は初めに比べていくらか上機嫌なようであった。
無論、少女も愉しかった。今日だけでどれだけの面白い体験をしたか。
――最後の最後だけ、風紀委員らしい仕事をして。

さて、帰り道の事だった。
パンツを穿いていない楓は、結局そのまま校舎へと戻ったのであった。
が、学校には『パンツを穿かない痴女の亡霊が出る』という怪談になってしまったそうな・・・

//ありがとうございました、お疲れ様でしたー!
555 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 11:56:52.58 ID:7nu2Sf/So
「〜〜♪〜♪」

鼻歌で楽しげな旋律を奏でながらベンチに腰掛けた少女が一人。
白い半袖Tシャツに青いジーンズ生地の大きめなオーバーオール。頭には蛍光イエローでUSAとプリントされた黒いキャップを被り、今にも落ちそうな危うい角度で黒い太縁眼鏡を掛け、その奥の眼の下には隈が色濃く浮き出ている。
真新しい白いスニーカーを履いた両足は適当に前へ投げ出しただけのように見え、少なくとも女の子らしい座り方ではない。
正午に近い時間帯の為か、休日の昼間にも関わらず公園に人気は少なく、遠く疎らに見えるだけ。
この少女も遠目に見るだけであれば、何処にでもいるひとりの一般人だろう。だが確定的に"そうではない"と思える点があるのだ。

近づいてみれば分かる。その手の内にある……いや、居るのは一羽の雀。
逃げようともがいているが、その身体は片手でしっかりと握られ、片方の翼を指で無理矢理に摘まれ広げさせられている。
そして、もう片方の手には果物ナイフが収まっていた。血液こそ付着していないが、刃を向けている先は明らかにもう片手に握られた雀。

良く見れば、少女の足下には細かいパン屑が散らばっている。ベンチに腰掛けた傍らのビニール袋には恐らく、パン粉でも入っているのだろう。
明らかに"異常者"。通常の観念が欠如しているらしい少女は、手中の雀に向けてこう言うのだ。

「ちょ〜っとだけ、我慢してくださいねぇ……動いたら余計ひどいケガになっちゃいますから、動かないでくださいよぉ」

果たして、こんな頭のオカシイ人間に声をかける存在があるのか。
そして、今まさに、雀へと鋭い刃が近づいていき–––––––––
556 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 12:54:51.17 ID:bqESfKJ40
>>555

第一学園には、実は決められた制服はない。細い目で学園都市を徘徊し風船のように足取りはふらつかせている少年
大木陸がいつも学ランを着用しているのは唯のルーティンである。

「……!」

そんな彼が雀を解剖しようとしている少女を見つけたのは偶然である。
大木はどうするか考える必要があった。彼は困っている人を助けたいという気持ちを持つ。
しかし博愛主義者ではない。動物は大木の助ける範囲には入らない。
彼の感性は普通だ。普通の人が綺麗な物は大木も綺麗だと思い、普通の人が見たいと思えるものは見たくない。
今から大木が起こす行動は眼前の少女を困らせるかもしれない。しかし心優しい大木は、雀が解体されるのを見ていられなかった。

「えっと、できればその雀を見逃してあげてくれないかな」

大木は自らの臆病さが手伝い暫く躊躇っていたが、おずおずと気弱そうに少女に声をかけた。
557 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 13:30:45.12 ID:7nu2Sf/So
>>556
直前。まさしく危機一髪という状態でナイフはぴたりと止まる。
キャップの鍔の下から、見上げるように上目遣いでそちらを見やる。楽しげだった口元から笑みは消え去り、変わって真一文字に結ばれたそれは何の感情も浮かべず、本当にただ"見上げているだけ"で。
10秒ほどだろうか。無言の圧を掛けたのち、やっと口を開いて無表情のまま一言。

「…………なんでですかぁ?」

至極単純故に、改めて異常性が浮き彫りになる。
ねっとりと嫌に間延びした言葉を投げかけ返答を待つ少女に、可哀想だからやめるなどという通常の発想は無いらしい。
だが一応、人の言葉を無視して好き勝手する程頭のネジが落ちている訳ではないらしい。現に今、大木の言葉で動きを止め理由を問うているのだから。

そして、大木のおかげで一つの小さな存在は逃げ果せることができたようだ。

「……あ」

大木に意識を向けた為であろう。緩んだ指の間からもがき這い出し、雀は空へ羽ばたいた。咄嗟のことに少女は反応もできず、ただ飛んでいく雀を目で追うだけ。
雀の口から、感謝の言葉など勿論ない。ただ周囲の仲間に警戒を促すヂヂヂという鳴き声をあげ飛び去るのみ。それを大木がどう感じるのかまでは分からないが。
少なくとも楽しみを奪われてしまった少女が再び大木に向けた視線には、多少なりとも恨みの感情が宿っていた。
558 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 13:43:49.30 ID:bqESfKJ40
>>557
「ひっ……」

大木は少女の圧力が怖い。内心でなんでこんなことをしたのだろうかと後悔しそうになる。
大木が女の命を、人間を一度救った一般人だということには変わりない。

しかし大木は少女に向き直る。瞳を強い意志で見つめ返す。分かっていたことじゃないか。
眼前の少女が『危険』だって言う事は。このような経験は名も知らないあいつで既に通った道だ。
自身の行動に後悔はしたくない。大木は少女の圧力に屈せず言い返した。
あいつとは黒縄のことだ。実際大木の推測は正しい。
眼前の少女は暗部のメンバーであるからだ。

「きっと、単なるエゴだな。俺は動物が好きな訳じゃない。ただ解体されるのを見たくなかっただけだ」

そう、単なるエゴ。これは大木の信念である、困っている人を助けるということとは関係ない。偽善でもなく独善でもない。

「俺のエゴであんたの行動を止めてしまった。悪かったと思ってる」

けど後悔はしない。そう大木は付け加えた。
動物が好きではないが雀が飛び立ち逃げた今、大木は自分の行動を後悔しなかった。
559 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 14:16:38.75 ID:7nu2Sf/So
>>558
「…………ふぅん」

心底興味がなさそうに、少女は大木の言葉を聞く。楽しみを奪われてすっかり暇になってしまったが、目前の少年を襲うのはまだ惜しいように思う。
少年の返答は一応、少女の行動を止めることができたようだ。ナイフはしまっていないが、かと言って「雀の代わりにお前を解体してやんよ!」というように飛びかかる事もなく。
しかし、もしも心底ツマラナイ言葉を吐いて来たら、速攻で少女の脳内嫌いな奴リストの上位にランクインすることだろう。
未だ危ないラインのすれすれを大木が歩いていることに変わりはない。

「……まぁ、俺っちのアレもエゴっちゃぁエゴですしねぇ。いいですよ、一応あんたの前ではやらないでおきましょう」

はぁ、と大袈裟にため息をついて。ただし言葉を鵜呑みにするならば大木の前でなければ構わず先ほどの行為を行うつもりらしい。この辺りは揺らがないようだ。
手持ち無沙汰に片手の果物ナイフをくるくるを回す。変わらずベンチに腰掛けたまま、不遜な態度で大木へ視線を向ける様はいかにも不良といった風。
納得と言っていいのか分からない言葉を連ねつつ、未だ嫌な視線を向けるのには訳があるらしく。

「ただ、一つ訂正させてもらいたいんですよぉ。解体まではしないで最後には治してあげる気でしたし、キミの早とちりってヤツですねぇ」

そう、少なくとも轟に雀を"解体"するつもりはなかった。
最後には、多少リスクが伴うものの治してあげるつもりがあるという心優しさが自分にはあるのだ。そこらの"普通の異常者"と一緒に扱われるのはひどく不愉快だった。
560 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 14:35:27.81 ID:bqESfKJ40
>>559
「分かった、ありがとう。そうしてもらえると助かる。俺はあんたの行動自体を縛って困らせたいとは思わないから」

大木はナイフを持っている少女に向かって額に汗をかき緊張感を持ちながら答えた。
悪いと思ったらしっかり謝り礼を言う。これは男らしくはないが大木の美徳ではある。

眼前の少女は爆弾ではある。しかし自分の行動を邪魔されて怒らない人間は居ない。
非は大木にあるため雀を助けたことに関しては偉そうな様子を見せることもなかった。
彼は困っている人を助けることが一番の信念であり、大木が困らせる訳にはいかない。

「俺の勘違いか、尚更悪かったよ。早合点してしまった」

大木に後悔はないし胸を張っているが、少女は雀を治すつもりなら悪かったのはさらに悪かったのは大木の方である。
大木は自らの非を認め、同時にその言葉に1テンポ遅れて目を見張った。

「……って傷を治せるのか!すごいな」

大木は治療系の能力者を見たことがない。少女の能力に興味はある。
かと言って見世物ではない。そして能力について触れられるのを怖がる人間は知っている。
だから大木は深入りせず感嘆という感動表現を示すだけだった。
561 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 15:06:13.25 ID:7nu2Sf/So
>>560
「好きなことの邪魔されるのってほんっとーにムカつきますからぁ。もう邪魔しないでくださいねぇ」

もしそうなったら、少女の次の標的はまず間違いなく大木となるだろう。
轟の所属する組織は確かに事を荒立てる事を好まないが、それは暗部組織間だけのこと。一般人との軋轢を避ける必要などないのだ。
少女が先ほどから相手を威圧するようにねっとりと話しているのは、自分がいつでも目前の少年を襲えるという、圧倒的優位に立っている事を示すため。所謂マウンティング行為の一環なのである。

「そうですよぉ、俺っちはすごーく頼りになる存在なんですから」

少年の考えはどうやら杞憂におわったらしい。目前の異常者は「凄い」という言葉を受け、素直に誇らしげに口角をあげてみせる。
自身の能力に自信を持っているのだ。それだけ実力があるということなのか、心なしか大木を見上げる瞳にも強気で自慢げな光が宿っていて。
しかし、それらもすぐに消える。少年との会話はツマラナイものではないが、楽しいと言えるものでもない。
だから、こう切り出した。

「……で、他に言いたいことあるんですかぁ?無いなら、はやくどっかいってほしいですねぇ」

無表情とまではいかないが、かなり表情の乏しい顔。こちらは兎に角暇なのだ、少年が去れば新しい暇つぶしでも探しに行こうではないか。
ただし、この少年が新しい"楽しみ"を提示してくれたならば、付き合うことも吝かではないのだが。
562 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 15:21:32.87 ID:bqESfKJ40
>>561
「分かった、邪魔しない。むしろ……」

大木は何やら考え込んでいる様子。大木は一般人らしいことしか基本しない。
そして大木のせいで眼前の少女は困ってしまった。
これは大木の責任である。大木の困った人を助けたいという思いは炎が燃え盛っている。
しかもこの少女が困ったのは大木のせいである、ならば自分がどうにかしたい。
大木は決意した。これは普通の一般人ではできない、痛みに慣れている大木にしかできないこと。

「あんたは自分の能力に誇りを持ってるんだな。そうやら能力を試したがっているみたいだし」

大木は頷く。能力を試したい。それは人間の好奇心が齎す物だ。大木は彼女のその様子が好ましく写った。
大木はリスクが高い能力を持っている。だから共感できたのかもしれない。大木は大きく息を吸うと吐いた。

「そこで提案なんだけど―――――俺を傷つけて治してみる気はないかな?後遺症が残らないなら深くてもいい」

その提案は、一見すると狂気の沙汰に見えるかもしれない。
しかし大木は殺意には敏感であり。回避能力も持っている。死に急いでる訳ではない。
治癒能力に対する好奇心もある。何より自分の失態を挽回したい。
563 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 15:50:03.03 ID:7nu2Sf/So
>>562
提案を受けて、訝しげに眉間にシワを寄せる。こんな事を言い出す人間は初めてだった。思わず、素直な感想が口から零れる。

「…………あんた、マゾなんですかぁ?キモチワルイ」

くるくると回し続けていたナイフをぱしりと順手で持つ。確かに少年の提案は、少なくとも轟にとっては悪いものではなかった。
元々したかった"実験"とはまた違うが、とりあえず能力を使いたい欲求さえおさまればそれで良いという思いも確かにある。
ただ、それを自分で試せと身を差し出してくるその不可思議な自己犠牲の姿勢に、なんともいえない嫌悪感を覚えてしまった。もしかしたら肌に鳥肌がたっているのではと感じてしまうほどに。

「俺っち的には問題ないですけどねぇ……後遺症も残さない自信ありますし。ただ、かなーり痛いと思いますよぉ?」

念の為、確認を入れておく。いざ切り刻み初めてからやめてくれなどと言われたら、それこそ本当に楽しくなって止まらなくなる可能性があるのだ。
この人間は拷問の対象でなければ、嫌いな相手でもない。むしろ自分から実験体になってくれる好ましい存在と言えるだろう。気持ち悪いのは気持ち悪いのだが。
一応、まだ友好的に接していられる方なのだ、自分の手違いで殺してしまうなど勿体無いにも程がある。
だから、再び念を押す。

「……やめるなら、今のうちですよぉ?」

何も自分を差し出さなくても良いのだ、と言外に示すように、念入りに。
初めてへの対処とは難しいものだ。柄にもなく、親切になってしまったかもしれない。
564 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 16:09:05.18 ID:bqESfKJ40
>>563
「マゾじゃない、俺はノーマルだ。ただ俺のせいであんたは実験対象を失った。
 その責任は俺にあるんじゃないのか?ならそれについての責任を取るべきだと俺は思う」

大木という少年はマゾではない。強い痛みには悲鳴をあげる少年だ。
自己犠牲するつもりはない、大木は普通の人と結婚して、就職し安定感がある生活を送りたいのである。
しかし今は自らの困った人を助けたいという信念の炎が燃え盛っている。
大木の信念において、ここで引き下がる訳にはいかない。

「死ぬより痛いような痛みには、一度あったことがある。そしてその時俺は狂っていない。
 大丈夫だよ。……これもエゴかもしれないな」

大木は時にはわざと不良に襲わせ、死ぬような痛みに耐えながら自分の能力を試した。能力への好奇心は能力が嫌いだからこそ強いもの。
しかも黒縄という能力者によって全身が切断され粉みじんになるような痛みを受けた。
彼の能力は実際に攻撃されるより痛い。そして大木はその攻撃でも気絶せずショック死しなかった。彼の耐久力は異様に強い。

「自分の能力を信じてるんだろ?……やってくれ。
俺は回避能力があるから間違いなく死ぬようなのは避ける」

困った人を助けたいという自己満足。それで相手に嫌悪感を持たれても大木は気にしない。
大木は死ぬような体験を何度もしているため間違いなく即死するようなナイフの攻撃なら何となく分かるのだ。
それ以外なら受け入れようと思う。
自分の信念を貫きとおせない人間はクソ野郎と、あの少年も言っていた。
言葉を違えることはない。
565 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 16:39:55.16 ID:n3H1tdC3o
暮れ方の公園。軍服然の少女が一人、煙草を吸っていた。
乾いた紫煙は空中へと立ち上り、風により何処かへ流されていく。
一本の煙草を吸い終えると、少女はどっかと公園のベンチに構えて。

「はあ、もう連休も終わりでありますか・・・。」

今日で実質の連休は終わり。
明日がすぎればまた休みじゃないかと言われればそうだが、なんとなく鬱だ。
昨日は風が強く、雲の後ろだった太陽も今日は元気に顔を出していた。

「それにしても、平和な時間っていうのはなんとなく暇でありますな。」

此の平和で暇な時間は確かに有意義な時間なのかもしれない。
唯、此の軍服然の少女にとっては暇以外の何物でもなかった。
言い方は悪いであろうが、なにか起こることを期待してやまなかったのである。

―――その内。少女はベンチに横たわってすうすうと寝息を立てて寝る。
別に犯罪被害に会う気はないと思っていたのもあるし、こういう黄昏時には眠たくなるものだ。
『風紀委員会』と刷られた茜色の腕章が、少女の身に付けるものの中で異質なものといえようか。
566 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 16:59:02.02 ID:7nu2Sf/So
>>564
「……ふぅん。俺っちは一応止めましたからねぇ、やめてくれー!なんて情けない声、絶対に出さないでくださいよぉ」

別に身を差し出してまで取る責任でもないような気もする、今は古い時代の切腹のような、身を切って詫びる行為などかなり廃れているのだ。が、当人は至って本気のよう。
ならば、最早確認する必要はない。押し問答を続けるよりもさっさと始めた方が建設的。
互いに同意の上とはいえ、やることは単なる傷害行為。万が一にも人が寄ってこないよう、声を上げるなよと忠告して。
初めて、少女はベンチから立ち上がる。立ってみれば、大木よりも身長がやや低い程度。相変わらず見上げる形にはなるが顔が近付いた分、その表情の機微もよく読み取れるだろう。
そこにあるのは大木に対する嫌悪感と、予想外の展開への若干の戸惑い。そしてそれを上回る、欲望を満たせる事への歓喜だ。

左手で順手に持ったままの果物ナイフの刃先を、無言のまま大木の右上腕へと近づける。痛みで引かないようにとその手首を掴んだ少女の力は、恐らく見た目よりは幾分か強いものに感じられるだろう。
そして一切の躊躇いなく、また、予告もないままに、手首近くまで縦に刃をはしらせる。太い血管を切断してしまわないように腕の外側を這うようにつぅと移動させ、それから、相手の反応を確かめるようにキャップの下から大木の顔へと視線を向ける。
これは軽いお試し、序の口なのだろう。血が出てはいるが傷口はとても浅く、皮膚下数ミリ程度を
少女の顔には嬉しそうな表情はまだ浮かんでいない。しかし、続ければ徐々に気分が高揚していくだろうことは明白だ。

「……どんな感じに痛いですかぁ?説明してくれた方が、俺っち的にはありがたいんですけどぉ」

なぜなら、こう問いかける声が、先ほどよりやや上ずったように聞こえるのだから。
567 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 17:22:56.42 ID:bqESfKJ40
>>565
「ここで止める気はないよ。それによく考えると実は俺の能力にとってもメリットあるんだよな。
俺は間違いなく責任感じてやってることだけど、そう思えば俺も我慢できる。分かった声はできるだけ抑える」

凶器によるリアルな『痛み』を覚えていたほうが、大木の能力精度は高くなる。
だから大木にとってもメリットが全くない訳でもない。実は今までそこまで考えてはいなかったが
大木に回避能力がなければ別の方法を考えていたかもしれない。
眼前の少女に命を奪われる可能性もあるのだから。大木は体を傷つけても死ぬつもりは全くない。

近づいてくる少女に対し緊張する。僅かに大木より身長が低い少女。自分より年上だろうか。
大木はそんなどうでも良いことを考えて。大木は右腕が引っ張られるのを感じた。
ナイフが右腕を裂くのに身を任せる。瞳を覗き込む少女に、大木は痛がる表情を僅かに見せる。
しかしこれは生理的な反応にすぎない。このぐらい大したことはない。
むしろ大木の表情にあったのは恐怖。しかし決意はそれよりも多く大木の表情から伺えるだろう。

「裂く痛みは一瞬かな。その分痛みはそこそこ鋭い。俺がよくする擦り剥くような痛みじゃないな」

大木は淡々と答える。擦り傷と切り傷への医療方法は全く違う。刺し傷と切り傷もそうだ。
一般的に染みるような痛みがあるのが擦り傷、ちくっとした痛みが奔るのが切り傷。
毛細血管の破壊のされかたで変わる。
568 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 17:49:53.20 ID:7nu2Sf/So
>>567
「…………わかりましたぁ」

なるほど、と思った。確かに、痛みには強いらしい。
ただの人間であれば、単純に切りつける直前で矢張り怖気付くか、切りつけた後に痛みで恐れが上回るだろう。だが少年にはそれがない。
これは少し期待できるかもしれない。そう思ったがしかし、これ以上は控えるべきだと考えた。
堪えられるうちにやめておくに限る、折角の上玉なのだから、また別の機会に弄り回すのも悪くはないだろう。
少年の言葉を信じるならば、互いの利害は一致しているのだ。誘えば受けてくれるかもしれないし、そうでなくても勝手に弄ればいいだけの話。

「じゃあ、これはどんな感覚です?」

痛みで身体を引かない事が分かったので、手首を離す。そのまま傷口に両手をあてて、わざと広げてみせる。
傷口が開くことで、どくどくと血が流れ出すだろう。だが少女はやはり躊躇わず、開いた傷口の状態を確かめるように、視線を落としてじぃっとそこを見つめ始める。

これで最後だ、この答えさえ聞けば今日はもうお終いにしよう。
好物は後にとっておいた方が、きっと美味しいだろうから。
569 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 18:10:11.61 ID:bqESfKJ40
>>568
「そっちの能力にとっても痛みの状態を知っていた方が都合が良いのか?」

大木は痛みに顔を顰めながら問う。初めて医療系の能力者と出会ったが
強力な能力にはやはり詳細に何かを知らなければいけないのかもしれないとぼんやり思った。なるほど流石に傷を回復できることはある。
強力な能力には、それ相応の対価が伴うのだ。

「……っぐ」

呻き声。声を抑えているが普通の人間ならここで叫び出すだろうか。大木にとっては予想外の痛みだ。
大木の顔は大きく歪む。内側から傷が開かれた経験は大木にはあまりない。
刺す攻撃がくると思っていたので意外だった。無警戒だった。
流れ出す血の量はそこそこ多い。
大木の焦りの表情は濃くなる。しかしこれぐらいなら許容範囲だろう。
これを繰り返して少女が出血死を望むようなら話は別だが。

「……内側から傷が開かれるってのはおぞましいな……さっきの痛みの2乗のようだよ。
下手な刺し傷よりも痛い……軽い吐き気を感じる」

内側から筋肉の一部を引き裂かれたようなもので痛いというより熱い。
深い刺し傷と似たような感覚で、大木の声はもっと途切れ途切れになっていた。
予想外の痛みは大木にとって堪えたのだろう。
しかし彼の中に表情に現れる決意はそのままである。恐怖はあるものの身を引くことはなかった。勿論顔は顰めているが。
570 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 18:31:04.35 ID:7nu2Sf/So
>>569
「どんな痛みか分かってる方が、想像しやすいでしょ?…………はい、終わりぃ」

反応を聞き、傷の状態を確かめた。もう充分だ、これ以上手酷くする必要はない。……そもそも、治すだけならば痛みの状態など聞かずともいいのだから。
開けた傷口を閉じ合わせるように両手でおさえてから、ぱ、と手を離す。
もしかしたら大木は拍子抜けするだろうか。
だが少女としては一区切りついて多少は満足できたらしい。それ以上どこかを傷つけたりする事はなく。

「じゃあ、治しますねぇ。ちょーっと時間はかかりますけど、きちんと戻るハズですよぉ」

そう言ったかと思うと、傷口が若干熱を帯び始めるだろう。無理矢理に代謝を高め治癒を早めている副作用のようなものだ。
そのまま、とん、とんと2歩後ろに下がる。ベンチすれすれまで後退し、大木の全体像を眺めまわすようにじろじろと観察して。

「……また今度、やっても良いですかぁ?今度はきちんと、人間を痛めつける準備しておきますよぉ」

どうやら、人相と体格は憶えたぞ、という事らしい。しかも、次は今回よりも痛くすると宣言までしている。受けるも断るも少年の自由だが。

「……まぁ、嫌って言っても勝手にやりますけどね?」

それでも一応、少年の意思を問うだけマシだろう。何も言わず攫って遊ぶ事も不可能ではないのに、それを敢えてしなかったのだ。
571 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 18:56:39.51 ID:bqESfKJ40
>>570
「成る程、俺の能力もそんな感じだからな」

大木の能力はリアルに想像することでできている。
眼前の少女の能力もそうなのかと大木は心中で勝手に納得した。この少年は優しく素直で騙され易い。だから簡単に騙される。

「回復力を増して完治させるのか。能力も万能じゃないな」

下がっていく少女の姿を見て大木は拍子抜けというよりも安堵した。思ったより短い。
何とも言えない気だるい感覚と共に感覚が遅れて襲ってくる。能力の副作用だろうか?

「じゃあ断っておくよ。俺は嫌だ。あんたがここで納得した以上雀の借りは返しただろ?」

大木は自分が少女にとって都合の良い存在とでも思われているのかと思った。
大木に嗜虐癖はない。大木は普通の人間だ。
だから何も考えずに自分を実験材料のように言っている眼前の少女に怒りが沸いていく。
嫌だといっても勝手にやる、なんて少女が言わなければ、大木も怒らなかっただろう。考えておくと返したはずだ。
しかし彼女の言葉には誠意というものはない。大木の優しさは、都合の良い人間になるということでは決してない。

「あんた、人の都合のことを全く考えないんだな」

大木は履き捨てるように言葉を言った、人形扱いされているようで気分が悪い。
眼前の少女とこれ以上話をする気にならなかった。
眼前の少女が大木に攻撃しなければ、大木はそのまま名前も名乗らずに少女の前から立ち去るだろう。
少女は攻撃してくるだろうか。
572 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/05(木) 19:28:05.57 ID:7nu2Sf/So
>>571
大木が断った瞬間、少女の表情から、ほんの僅かにあった相手への優しさが消える。必要がなくなったのだ。

「……ふぅん、まぁ良いですよぉ。確かに今日は満足できましたしぃ」

どうやら敵意を抱かれたらしい。だが、少女にとってそれは些細な事だった。
出会ってすぐに言ったように、誰かを実験台にするのは少女のエゴイズム、つまりは我儘なのだ。誰に何と言われようが、自身の欲望こそが本来一番優先されるべきで。
ならば別に、誰に何を言われようと躊躇う理由はない。
少年に諌められて動きが止まったのは、先に問うた通り。単に、少年が諌めてきた理由が気になったからなのだ。

「そもそも考える必要ないでしょ?俺っちは俺っちが満足できれば、他はどうだって良いですからぁ」

また会えると良いですねぇ、と勝手に別れの挨拶をして。
目の笑っていない笑顔を見せて、少年がその場を去るまでもなく轟はふらりと歩き出す。
襲わない理由は無いが、襲う理由も特に思い付かない。特徴は憶えたのだから、どうせ後で襲えるという思いも少女がその場を立ち去る手助けをして。

マイペースに歩いていくその後ろ姿は無防備で、まるで少年が襲ってこないと信じきっているようにさえ思えることだろう。
573 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/05(木) 19:50:33.87 ID:bqESfKJ40
>>572
大木は怒っていた、しかし彼女を襲うことはない。元々大木は好戦的な人間ではない、むしろ臆病な人間である。
彼が戦うのは己の危機と、困っている人が居るときだけ。
大木は困っている人間を助けたいという偽善者だ。だからこそ人には優しい。
しかし彼は同時に結婚して幸せに暮らしたいという普通の願望を持っているのだ。彼女に壊されるわけにはいかない。

「俺を無理やり攫おうとするようなら、容赦しないからな――――俺は、お前の人形じゃない」

そう宣言して、大木は彼女の前から立ち去っていく。
大木は、唇を強く噛み締めた。そして覚悟した。

――――彼女と再び会った時の激闘を。

/ロールありがとうございました!
574 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/05(木) 20:55:49.88 ID:n3H1tdC3o
//>>565を再掲します〜
575 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/05(木) 21:25:44.76 ID:W+zd1+ZzO
>>565
「この国では君ぐらいの歳で煙草が吸えるのかい?」

不意に少女の視界の外から声が聞こえる
低い、男の声だった

視線を向ければ、一人の少年が立っているだろう
毛先に癖のある黒髪を後ろで結び
色素が薄い白い肌と血を思わせる赤い瞳の三白眼の少年
黒を基調にした神父服を少々着崩して身に纏っている
首に掛けた銀の十字架のネックレスが揺れている
細身ながらも無駄のない筋肉質で鍛え上げられてると分かる

「いや、俺もかなり昔に手を出していてな
お師匠様に止められていたが、懐かしい匂いについ声をかけてしまったんだ」

ただでさえ学園都市では浮いておる神父姿
ついでに元喫煙者か、随分な不良神父だ
三白眼で目付きも悪いなんとも怪しそうな人物────という印象

「ウィリアム・アーレス。 留学生みたいな者だ
風紀委員のお嬢さん。もしよろしければ1本頂けないかな? 必要ならお代は払おう」

と言ってポケットから500円玉を取り出し、指で弾いてキャッチし、笑う
彼も相手が未成年喫煙者でありながら風紀委員である彼女のアンバランスさに笑ったようだった

そしてその煙草の値段は分からないが、1本に対して500円なら十分な対価だろう
576 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 21:26:21.77 ID:SQcSVwoho
>>565
なんか、鬱々しい気分だ。
連休が終わるからだろうか、いや、学校に行っていないし碌に拘束時間のある仕事じゃないから関係ないのだが。
そういう空気が街に漂っているからか、それが感染しているのか、溜息でも出そうになる。

「なんかねェかな、こう……何でもいいけど」

そんな気分を吹き飛ばそうと、公園に来ていた屋台のクレープを食べながらぼんやりと歩いていた。
ホイップクリームとたっぷりのイチゴソース、甘い味覚のコンボが舌を包み込み、イチゴの酸味が隙間を縫ってアクセントを加える。
こんな可愛らしい物を好んで食べているなんて、知り合いなんかに見られてみろ、どう弄られるかわかった物ではない。

そんな事を考えながら、座るのに丁度いいベンチを探していると、目の前に一つのベンチを見つけた、丁度良く辺りに人もいないしと近づいて行くと、誰かが横たわって寝ているのに気付く。

「…………」

ま  た  お  ま  え  か。
こいつは公園以外に行く場所が無いのだろうか?いや自分が言えた事ではないか?いやいやそういう話ではない。
こいつは確か風紀委員であるという立場だからこそ外出が許されているはず、それなのにこんな所で寝こけて何をやっているのだ、職務怠慢もいい所だ。
そんな事を考えていると、なんかちょっとだけイラっときた、ベンチの椅子を蹴りつけて揺らす。

「おいコラ、起きろコラ、サボってんじゃねェぞ風紀委員コラ」

/昨日絡んだばかりですが宜しければ…
577 :黒繩 揚羽 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 21:27:34.84 ID:SQcSVwoho
/おおっと、こちらは昨日綾切さんとはロールしたばかりなので引きますね。
578 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/05(木) 22:17:06.60 ID:n3H1tdC3o
>>575

「およ、何方かいらっしゃったようで。」

視界外から掛けられた声に動揺することもなく反応する。
煙草の火を消してから振り返る辺り、そこら辺のマナーは弁えているか。

「いえいえ、此の地域のみならず、此の国では犯罪でありますよ?」

とまあ、此の地域の治安を管轄する風紀委員が言うのだ。
矛盾を感じるどころか可笑しいとさえ感じるかもしれないが、此れでも立派な風紀委員。
風紀とか秩序を蔑ろにしていると叱られるかもしれないが、喫煙行為は黙認されている。

「へえ、止められるほどにお吸いになられていたのか、それとも、"お仕事"からか・・・。
いずれにせよ謎でありますな、はい、一本差し上げるでありますよ、安物の両切りでありますが。」

少年の服装は協会の神父のようであった。
喫煙を止められたというのなら、彼が吸い過ぎていたのか、其れ共、仕事の都合上か。
自分も喫煙者である少女は、人に対する文句など言える権利は持っていなかった。

さて、少女が彼に渡した煙草だが、まずフィルターがついていない。
其程の安物煙草なのだ。"屑煙草"を集めて作っているという噂が立つほどの安物。
フィルターを介さずに喉へ突き刺さる煙は、噎せ返り、時には吐く人物もいるほどだが・・・

「ウィリアム・アーレスさんでありますか。自分は綾切 楓と申す者であります。
見てくれとか行動は可笑しいかもしれませぬが、此れでも風紀委員でありますよ。」

如何にもアルビノ、と言ったような彼の体つきをじっと眺める。
別に如何わしい何かを感じているわけではない。ただ、留学生というのは珍しいのだ。
留学生といえば、偵察に度々訪れる"魔術師"が自称するものであろうか、なんて考えるが、すぐに其れを放棄する。

アンバランスさは昨日黒縄さんに指摘された通り、『らしくない』ようだ。
きちんと仕事をこなすときはこなしている為、問題はないかなと個人的には思っているようだが。

//すいません、気づくの遅れました…
579 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/05(木) 22:48:28.62 ID:W+zd1+ZzO
>>578
「『神に仕える身なら禁煙しろ』って...まぁ、当時は子供だったから...
煙草吸ってる聖職者ってのも不細工だろ?」

ふむ、どうやら年季の入った喫煙者だったのか
話を聞く限り不良少年がどういう訳か、神父の道を歩んでいるらしい
口ぶりからして、ずっと禁煙中でもあったらしい
そのお師匠様とやらの指導がしっかりしていたのか

「ん...すまないな。じゃあ遠慮なく...」

そう言って、1本だけ受け取って咥える
懐から取り出したジッポライターで慣れた手つきで火を付ける
フィルターもない安物煙草をむせる事なく吸う
数年振りの味に懐かしさを覚えて煙を吐いた

「綾切...さんだね。良いタバコありがとう
4、5年ぶりの懐かしい味だよ」

空気に紛れて掻き消える煙を眺めながら、ウィリアムは煙草の灰を振るって応えた

留学生────学園都市では宗教関係の学校はなくはない
だが、科学に特出したこの街でその手の学校は少ない
そんな中で留学生とは..彼女の危惧もあながち間違っていないのだが...

そんな綾切の思考はウィリアムにも僅かに伝わる
ウィリアム自身も、風紀委員という存在が自分達の敵だと知っているからだ
自分が少し怪しまれているぐらい、わかる

「────確かに...留学生なんて珍しくかな。 隣いいかい?」

魔術師であり自分にとって、きっと彼女は敵なのだろう
でも、ウィリアム自身は能力者も魔術師も違いなんて────。


不思議な笑みを浮かべつつそう言って、綾切の隣を指差した
立ち話もなんだから────という事だろう
580 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/05(木) 23:12:02.75 ID:SQcSVwoho
「はー……死にたい」
「死にたいわー……ホンマに死にたい…空から隕石でも降ってけぇへんかな」
「それか可愛い女の子に優しく殺されたいなぁ、出来るだけ痛くない方法で」

路地裏の闇に目立つ、光を反射する白いジャージを着たサンダル履きの少年は、大きな溜息と共にそう呟いた。
頭をポリポリ掻いて、また大きな溜息を漏らす、連休の終わりが近付くとこうなるのは全人類共通なのだろうか、今までと同じ日常が帰ってくるだけだと言うのに、どうしてこうも心が落ちるのだろうか。

「…あ、死にたいとか不謹慎か?せやろか?せやなあ…」
「死に掛けてる奴の前でそんな事言っとったらアカンか、いや悪いなあ」

少年が視線を落とすと、そこには胸を押さえて激しく悶える男が地面を転がっていた、顔には苦悶の表情を浮かべ、声だか息だかわからない音を口から出している。
少年はジャージのポケットからタバコの箱を取り出すと、慣れた手付きでタバコを咥えて火を点ける、細長く白い筒から紫煙が上がった。

「いやでもしゃーないやろ、ワイかて人間やしそーゆー気分になるんや」
「別に明日から学校行ったり会社行ったりするワケやない、でも『今日で休みは終わりだ』って気分はあるやろ?」
「…何とか言えや、何時までも死に掛けの蚊みたいな声出してても何にも変わらんで」

苦しむ男を冷たく見下ろしながら、嘲笑うかのようなニヤついた笑みを浮かべ、少年は背中を壁に預けて紫煙を燻らす。
男の息は段々と弱々しくなり、次第に消え入りそうな程に衰弱していく、不思議な事に辺りには血や争った形跡はなかった。

/すぐに凍結になるかもしれませんが…
581 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/05(木) 23:25:10.03 ID:n3H1tdC3o
>>579

「そうでありますな、煙草を吸っている神父など想像もつかないでありますよ。
ただ、煙草は吸ってもいいのでありませぬか?いくら宗教だからってそこ迄縛ることは無かろうでありますし。」

見た目は不良少年ではあるが、立派に神父への道を進んでいる。
いや、立派なことだろう。煙草を我慢できる時点で普通の人間ではない。
師匠とやらの指導が良かったのだろうか。

「いえ、湿気た煙草を気に入って頂いて有り難いでありますよ。」

彼は両切りの煙草を噎せることなく旨そうに吸う。
結構久々の喫煙だったのか、眼前の少年は満足そうだ。

綾切は風紀委員でありながら、独特の思考をもっていた。
其れは能力者側にも魔術師側にも付かぬ、常にニュートラルな立ち位置を取ること。
其れは単なる日和見主義とは異なり、『いつでもどの派閥でも殺せる』ようにしておくということだ。
即ち、彼が魔術師だろうが綾切にとっては何ら影響も関係もないことだった。

「ああ、どうぞどうぞ。暇を持て余しておりましたゆえ、話し相手がいるのは嬉しいであります。」

どうせ一日中暇だったのだ、立ち話も何だからと座るように諭す。
気になるのは彼の逞しいその体型…ではなく、魔術師に関連する事柄であるが。
582 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/05(木) 23:53:51.33 ID:73V9acNi0
>>581
「生真面目な人だったからなー...尊敬できる人だったけど」

そのお師匠様を思い出すように空を見上げる
かつて中々に問題児だった自分を見捨てず育ててくれた尊敬できる人、だそうだ
きっと、彼に言う通り厳格でありながら優しいお師匠さんだったのだろう
心から尊敬してなければ、出会ったばかりの人に話したりしない

「それじゃあ、失礼するよ」

了承を得たのなら、ウィリアムは綾切の隣に座って脚を組んだ
煙草をもう一度深く吸う
うん、やっぱり美味いと笑ってふと綾切の顔を見た
何か顔についているのだろうかってぐらい、じーっとしばらく見続けて

「...その目、怪我? それに軍服っぽいけど...軍人さんなのかい?」

そう首を傾げて問い掛けた
なんとなく他の学生とは違う様式の服だとは思っていたが
その眼帯や何処か真面目そうな言葉遣い含めて、軍人じゃないかなんて思ったのだ
ただ、自分と同じか若いぐらいの少女が軍人なのかと疑問に思ったらしい

それとも、自分と同じ戦う人────なのだろうか?
583 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/05/06(金) 00:07:38.01 ID:EvCc7G0xo
>>582

「ふむ、いいお師匠さんだったのでありましょうな。」

自分を剣の道へと誘ってくれた師匠がいた。
…あれ?師匠はなぜ死んでしまったんだっけ?思い出せない。
うむむ、と唸ったのち、諦めて彼の方へ向き直る。

顔を見つめられて綾切はキョトンとしていた。
何か顔にでも付いているであろうか、なんて考えていると。

「ああ、この眼帯でありますか。目は怪我して見えないのでありますよ。
ただ、自分でもなぜ失明したのか思い出せないのであります。」

眼帯を外して彼に目を見せる。
刀で一閃された跡は確かに残っており、目を開くことは出来ない。
ただ、綾切はなぜ失明したか自分で分かっていなかったのだ。

「ええ、自分は軍人の家系でありますので。
能力が発現して以降、此の学園都市にある『士官学校』にお世話になっているのでありますよ。」

軍人を育てるための士官学校に通う綾切。
軍人の家系で生まれ育ち、能力が発現したのを境に世話になることになったのだ。
軍服はそこの制服であると理解してもらえるであろうか。

「留学生とおっしゃっていましたが、何処からいらっしゃったのでありますか?
ほら、留学といえども単純に外国だとか、それとも…」

これ以降は口を噤んだ。
最近能力者と魔術師の間がきな臭いものになっていたのは把握していた。
無駄な口を挟まぬほうがよっぽど身の為だろう。
ただ、勘が良ければ話の続きは自ずと分かるだろう。
584 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/06(金) 00:40:09.61 ID:ICWkSbGC0
>>583
「うわ...そりゃ痛そうだ...大丈夫なのかそれ...」

眼帯の下にある痛々しい傷に顔を顰める
刃物にやられた傷だろう。いったい何があったのか気になったが
やはり、自分が生きている様な非日常の出来事なのだろう
あまり詮索はしないほうがいいか、と

「あぁ...士官学校か。なんというか俺と違って言葉遣いが良いと思ったよ」

ハハハと笑って、吸いきった煙草の火を指で消した
自分が元々不良の様な身分だった故に真反対だと笑った
それでも、何故か嫌いとは思わない
きっと真面目そうな雰囲気がお師匠様と被るからだろうか

「......最近、治安が悪いからな。 流石に怪しいといえば怪しい...か」

何処か遠くを見る目で、呟いた
能力者と魔術師の闘争の話はよく聞く

留学生なんて嘘をついてこの街に
自分の同僚が既に戦っているという話も聞いている
神の教えに背く『能力者』という存在
それらを全て我々が神に代わって裁くのだ

そう教えられて、此処に来た

「......俺には、君達能力者を敵だとも憎いとも思わないんだけどね...」

そう、目を伏せて呟いた
まるで自分が正しいのか分からない。迷う様な
そして、その呟きが彼の身分『魔術師』の証明にも聞こえるだろう
585 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 15:24:25.39 ID:EWRB8mzS0
>>580
学ランを着用し目は細く足取り不確かな少年、大木陸。
彼は一見直に己の意見を変え謝る弱い人間に見える。
しかし大木の困っている人間を助けたいという思いは強い。

「……この感覚は、もしかして」

彼は自身にとって危険な相手、危険な雰囲気というものが何となく分かる。
落ちてゆく感覚というものを、感じた人間は居ないだろうか?
一度闇に引き摺りこまれてしまったら戻ってくるのは難しい。
『知る』ということは人類にとっての禁断の果実。エデンの林檎。
一度知ってしまえばもう戻れない。負の連鎖。

―――――――学園都市にはどろどろとした闇がある。そこでは人が簡単に死ぬ。

大木が見つけたのは、倒れて苦しんでいる男と、それを見下ろす少年。
その男の瞳からは生命が、魂が流れ出ている気がして。
その少年の、死に掛けの人を甚振るようなニヤニヤ笑いが気に食わなくて。

大木は自らの意思で彼らの前へ躍り出た。震えてもいない。
大木も流石に慣れた、何よりぼやぼやしていれば弱っている男が死ぬ。

「お前……その男から、離れろ。死に掛けてる!」

大木は眼光鋭く少年を睨み付ける。攻撃的に喧嘩を売ることを選んだ。
彼の内側では炎が燃え盛っている。今度は途中で迷ったりしない。自分の信念を貫き通せないのはクソ以下だ。
586 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 18:24:14.41 ID:YKdSqe6Xo
>>585
「おん?」

不意に声がした、まあこんな事をしていればボチボチ誰か来るかと思っていたが、それが風紀委員でも何でもない奴が声をかけてきたのは意外だ。
よくもまあ、こんな状況に自ら飛び込む物だと感心すら覚える、夏の虫はこういう気分で火に飛び込むのだろうか。

「なんやそれ、小学生並の感想かい」
「死に掛けとるのなんか見りゃわかるわ、まあお前が離れろ言うんなら離れたるけど」

キョトンとした表情をして、珍獣を見るような目で大木を見ると、言われた通り二歩三歩と後退りをして男から離れる。
男は未だに、胸を抑えて苦しんでいるだけ、助けが来た事にすら気付く暇がないようだった。

「そんで?言われた通りにしたったけど、そっからお前どうするん?」
「言っとっけど、救急車も担いでも病院は間に合わんで」

大木をおちょくるように、眉を上げて笑いながら、次の動きを待ち侘びる。
どうやら男の容態にこの少年が関わっているのは確かなようだ、なんとか出来るもんならしてみろと、挑発するように笑っている。

/今帰宅しました、よろしくお願いします。
587 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 19:01:48.14 ID:EWRB8mzS0
>>586
「言葉なんかどうでもいい」

大木は自らの炎に焼かれている。しかしそれは好き好んでやっていることだ。
困っている人を助けたいという偽善。大木本人にとっては何の役にも立たないそれ。
大木の行動理由はそこにある。

「変わらないのか!?」

離れていく少年に大木は安堵しない。むしろ素直すぎると警戒する。
大木が様子を確認するのは倒れている男だ。
しかし外からでは倒れている男が苦しんでいる原因が分からない。
能力を使っているとすれば何らかのアクションを起こしてもいいはず。
しかし少年が離れても男は苦しんだままだ。
まさか見えない何かを操る能力なのか、と大木は考える。これではどうしようもない。

大木は男から離れた少年に向き直る。時間がない。大木は焦っていた。
人の苦しみを楽しんでいるかのような男に大木の苛立ちが募る。
そうだろう、眼前の少年にとってはもう単なる人事なのだ。
少年の笑みが腹立たしい。にらみ付けながら大木の瞼は怒りでピクピクと痙攣していた。

「この男が苦しんでいる原因は、お前だな?治せって言って言うことを聞くか?」

もし聞かないなら無理やり治させるまでだぞと言いつつ大木は身構える。
原因が眼前の少年である以上、大木の言うことを聞く可能性は零に近い。
命を掛けて戦う覚悟はできていた。
588 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 19:27:03.01 ID:YKdSqe6Xo
>>587
「せやで、何も変わらん」
「何でワイが見ず知らずのお前の言う事聞いてやらなあかんねん、一回はサービスで聞いてやったがそれっきりや」

どうでもよさそうに壁に背中を預け、紫煙を吐く、確かに男を苦しめる理由を作ったのはこの少年に他ならないが、離れたとしてどうにもならない。
そうこうしている間にも、男は苦しみ、呼吸は弱く、動きは弱くなっていく…いや、もう既に限界のようだ。
男は一度ビクンと体を大きく震わせると、それっきりまったく動かなくなる、それを見た少年は溜息を吐いた。

「あ〜……アカン、やってもうたわ…タイミングみて『取って』やろう思うてたのにな〜…」
「いやせやかてしょうがないやん?なんか面白い奴来よったし、気を引かれるのはしゃーないやん、うん、しゃーない」

頭をポリポリ掻いて、動かなくなった男を眺める少年、嘘か本当か殺す気まではなかったと胡散臭い態度で呟き、こうなった理由が大木にあるとも呟いた。
責めるような言い方でないのがまた神経を逆撫でするだろう、生死なんて至極どうでもいいというような言い方だ。

「何も出来んかったなあお前、まあドンマイやドンマイ、失敗は次に生かそうや」
「今回の反省はアレやな……『人命救助は優先順位』って所やな、うん」

そして、更には大木を慰めるような言葉を送る、その表情は嫌味なにやけヅラのままで、その言葉に本当に同情の意志なんて欠片もない。
ただバカにして面白がっているだけだ、今にも怒りそうなのすら面白いと。
589 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 19:57:57.32 ID:EWRB8mzS0
>>588
「理由なんてあるか!助けてや――――――」

大木は、眼前で末期の息を吐き事切れる男の姿を目にすることとなる。
気絶してるだけだろうかという一瞬頭の中に沸いた逃避を。自らの願望を、大木は否定した。
どうしようもない。死んだ命が戻ることはない。だがしかし。許せないことがある。
困っている人を助ける、という目的は消え去ったが大木の心の中には別の炎が燃えていた。

「嘘をつくな、最初から助けるつもりなんかなかったくせに!」

大木の中にあるのは、どす黒い怒りの炎だ。笑いながら男を甚振り殺した少年に。
人事のように大木に責任を押し付けるその姿に大木の怒りのボルテージが上がっていく。
大木の体の血管が、上昇した血圧で収縮する。

「なんでお前は、人の命をそんなに軽く扱えるんだ。許さない、許す訳にはいかない!」

震えながら大木は、両手を腰に当ててダーツに手を伸ばす。
次の瞬間、大木の両手から魚を採る川蝉のような勢いで、ダーツが少年に放たれた。
大木のその攻撃には確かな殺気があった。相手を傷つけないなんて考えは消えていた。
590 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 20:15:09.32 ID:YKdSqe6Xo
>>589
「嘘やない、嘘やないて、ワイよく偏見されるけどこー見えて正直者なんやて、本当」
「何をそう怒っとるんや、ワイの調べじゃこの男にお前みたいな知り合いはおらんかったはずやけどなあ」

勝手に悪人にされては心外だ、と首を振る、真実味の無い表情をしてはいるが。
それにどうしてこんなに大木が怒っているのか理解出来ない、知り合いでもない奴が死んだくらいで何故こんなに怒るのか。

「おいおい、言うやないか」

大木の怒りに震える手が、腰のダーツに伸びるのがよく見える、よっこいしょと壁から背中を離し、動きやすい体制をとった。
次の瞬間、投擲された二つのダーツを、視線から方向を察知して体を捻り回避する、その中で一つのダーツを右手で素早くキャッチした。

「お前人のこと言えへんやろ、こんなんでも刺さりゃあ痛いし当たりどころによっちゃ死ねるで」
「それとも何か?ワイは人には見えないってか?そんな悪いツラしてるとは思えへんけどなあワイ」

掴んだダーツを手の中で弄びながら、反撃の所作を見せずに挑発するように尚も語る。
ダーツの先端を軽く自分の額に刺すような動作をして、勢い余って本当に針の先端が刺さって「いててて」と声を漏らした。
591 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 20:38:32.30 ID:EWRB8mzS0
>>590
「正直?お前の殺人を人のせいにするのが正直だって?
 俺の前で無残に人が死んだ、普通の人間がこれで怒らない訳がないだろ?」

そもそも殺人をした時点で大木にとっては許せる人間ではない。
人の命を軽く見るどころか、他人事のように殺してみせる少年。
その少年に正義感の強い大木には耐えられるわけもない。

「ああ、こんなのは俺のエゴだ、偽善だ。分かってるよ。
 殺すつもりはない、お前を気絶させて風紀委員に連れて行く」

大木は殺意が抑えられない自分が腹立たしい。
殺気を操れゼロにするのが大木の長所だというのにそれが使えないのだ。
大木の怒りがそれを許さない。

「抵抗しないのか?でも俺は容赦するつもりはないぞ」

大木はユーモラスなことを言う相手を無視して近づこうとする。
邪魔が入らなければ、そのまま右手で殴りかかるだろう。
592 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 20:59:37.66 ID:YKdSqe6Xo
>>591
「おいおい、勝手に自分語るなや」
「誰もお前が偽善者やなんて言っとらんで、まあその内ワイが言っとったやろうけど、先に自分で言うなや」
「なんやお前、酔っとんのか?」

額から僅かに流れる血を拭いながら、自分の正義を語る大木を、その正義感自体を嘲笑う。
嘲笑うと言えば語弊があるか、わかりやすく嫌悪しているという訳ではないが、笑える物を見ているという感じだ。

「そんなに人が死ぬのが嫌なら紛争地帯にでも行って来いや、好きなだけ偽善を叫べるで、糞の役にも立たんけどな」

拳を握り迫ってくる大木、ここまで来て尚無抵抗でいられる程余裕綽々ではいない、咥えていたタバコを迫ってくる大木に目掛けて吐き捨てると、同時に横に跳んだ。
跳んだ先は先程まで寄り掛かっていた壁がある、素人目に見てもこの勢いでは壁に激突するとわかるだろう、しかし…
少年の体は壁に激突する事はなかった、その上その姿が消える、まるで壁の中に吸い込まれ、擦り抜けるように。

壁に触ってみたとしても、何の変哲もない壁だ、コンクリート造りのビルの側面、おかしな所は何もない。
そして、数秒して大木が困惑したであろうタイミングを見計らって、彼は帰ってくる。

「おーこわ、こわいわー、容赦してくれんと困るわワイ、喧嘩は苦手なんよ」

すぅ、と同じ壁からまたも擦り抜けるように飛び出してきた少年は、その勢いのまま大木にタックルを仕掛けた。
不意打ちの突撃で大木を吹き飛ばし、かつ、先程キャッチしたダーツを密かに突き刺してやろうと構えてもいる。
593 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/06(金) 21:17:57.19 ID:EvCc7G0xo
>>584

「ええ、さほど生活には支障がないでありますよ。」

痛々しい傷があり、片目が盲目である。
其れであろうと、通常生活には支障がない程度である。
風紀委員としての活動には確かに支障が出るかもしれないが、まあいいだろう。

「いえいえ、士官学校にも柄の悪い輩は多く居るものでありますから…」

士官学校にも柄の悪い生徒は多く存在する。
家系の影響もあるし、能力者同士というのもあるか…
ただ、綾切は彼が笑った理由がよく分かっていなかったし、内心謎であった。

「ええ。正直に申し上げますと…、その言動と言い振りは怪しいでありますよ。」

能力者と魔術者の闘争は既に始まっていた。
というのも、『魔女狩り』という学園裏の組織と魔術師は激突を始めていた。
もう、大戦争と化すのは時間の問題であろうとまで綾切は考えていたのだ。

「ええ、私も貴方方を敵と見做したことは一度もないでありますよ。」
「飽くまで風紀を正すためには中立でなければならない、そうでありましょう?」

彼が魔術師であることは、彼の言動で証明された。
だが、其れは綾切が仕事をするに足りない"状況証拠"なのである。
相手が魔術師と判ったところで殴るというのは風紀を正す風紀委員らしからぬものだ。

飽くまで中立、と言うのは単なる日和見主義ではない。
『何時でもどの派閥の人間でも殺すことのできる』用意をして置かなければならない。
そのためには、躊躇など無用なのである。其れでこそ、風紀委員だと信じていたのもあるが。

「ふふ、どうやら貴方様は迷われておられるようですね…?」
「貴方は魔術師として能力者に対する何らかの任務を持っておられる、そうでありましょう?」

彼の言動と表情、行動は迷っている人間のようであった。
多分、彼の中で揺れているのだ。能力者は悪くないが、魔術師としての任もある、と。

「貴方が決めれば良いのでありますよ。簡単な話…、とは行かないでありましょうが。」
「ほら、貴方の眼の前に能力者は確かにいるでありましょう?貴方が任を熟すというのなら、まず手始めに殺せば良いのでありますよ。」

答えをすぐに考えつく、というほど人間は単純にできていない。
其れは綾切も例外ではなく、勿論ウィリアムだってそうなのだろう。でなければ悩む理由がない。

なら、彼に解決方法の提案をすればいいのである。至って単純な解だ。
彼の、魔術者としての任を熟すのであれば、まず手始めに自分を殺せばいいと綾切は言う。
その顔は微笑み、献身的な少女そのものであった。腰の柄に手をあてがうこともなく、静かに少女は決断を迫った。
594 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 21:26:13.73 ID:EWRB8mzS0
>>592
「偽善なんてのは多少自分に酔わなきゃやってられない、それにお前の言いそうなことは大体分かってきたからな、先に言ってやっただけだ」

大木をあざ笑う少年からは以前戦った妄想の刃を生み出した少年と似たようなものを感じた、それもある。
偽善者をあざ笑う殺人者の姿。大木が苦手な人間だ。
勝手に面白く思ってろ、俺は全く面白くないと大木は呟いた。
笑われるのも結構、嫌われるのも結構だがそんな態度で消えるほど彼の中にある炎の勢いは弱くない。

「戦争や紛争は国の問題だ、街中で楽しんで人殺しをするお前と徴兵されて好きでもなく戦う人々を一緒にするな!」

大木の叫びは心からのものだ、やはり眼前の少年からは命の重さを分かっている気がしない。
人殺しをしていても反省しているのならまだ同情の余地はある。罪を憎んで人を憎まずという言葉があるくらいだ。
しかし眼前の少年は全く反省していない。それが大木を苛立たせる。彼の正義感を燃え上がらせる。

殴りかかる大木の拳は突如消えた少年によって居場所を失った。

「テレポーターか?」

大木は訝しげに呟くとコンクリートの壁を触る。何も起こらない。
大木は数秒間そうしてみて逃げられたか、と思う。息を吐き、弔いすらできず救えなかったと肩を落として……

大木の体がコンクリートから出てきた少年によって突き飛ばされた。
一人分の運動エネルギーが襲い掛かり、大木は腹部を圧迫され肺から空気を奪われた。

「……っつ」

それに加えダーツの先端が胸に刺さり苦悶の声を上げる大木。大木は絶体絶命のそんな中咄嗟に少年を右足で蹴り飛ばそうとする。
大木の脚撃は威力があり、暗部の攻撃と比べても遜色ない。
咄嗟に反撃できたのは彼の成長した戦闘センスの表れだろう。黒縄との戦闘で一度死闘を経験していることはある。
595 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/06(金) 21:40:15.99 ID:ICWkSbGC0
>>593
「あぁ、バチカン教皇直属異端狩り機関の魔術師────なんて、微妙な肩書きだけどね」

魔術師だと見通されてもさして焦る様子も見せなかった
学園都市という場において、魔術師というのは存在するだけで罰せられる異物だ
本来隠れ潜む筈なのに、隠す事なく口を開く

その行動が、彼の心の迷いの表れだった
魔術師として生きることを決められ、駆逐すべき障害を教え込まれながらも
自分には、障害とは思えなかった
そんなズレが彼の迷いなのだろう

だから、綾切の提案も──────。

「嫌だよ。人殺しなんて」

キッパリと、ウィリアムは言い切った
目の前の少女は自分達にとって異端狩りの対象だろう
神の名において、能力者への粛清は許されると教えられている

やり方だって教えてもらってるから簡単だ
首をどういう角度に曲げるとか、効率の良い心臓の穿ち方とか
きっと自分には人殺しが可能だろう
それだけの知識と技量のある自信がある

「いつ如何なる時も人の命は軽くない。
君を[ピーーー]大義名分を背負わされてるけど、そんなものに興味はない」

────そうだ。人の命は秤にかけられる様な代物ではない
相容れぬ存在を捻り潰して良いとは思わない
少なくとも、ウィリアムには自分の隣に座る少女が教義に反する化け物とは思えない

「俺にはアンタが能力者っていうより...
そうだな...良いタバコを教えてくれた恩人...ってトコだな」

そういって、少しだけ離れた位置にある吸い殻入れにタバコを投げた
タバコは弧を描いて綺麗に吸い殻入れに収まる
その様子を僅かにガッツポーズし眺めつつ、綾切と目があって少しだけ笑った
596 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 21:42:55.76 ID:YKdSqe6Xo
>>594
「おっと」

この能力はその真髄を見られる前の不意打ちが肝要だ、それに全てが掛かっているといってもいい。
能力の情報が全く無い相手は初撃を見切られまいという自信がある、故にこれで決めるべきなのだが。
少し見くびりすぎたか、ただ正義感が無駄に強いだけの奴ならこれでビビって逃げ出す物が、まさか反撃までして来るとは思わなかった。
蹴り飛ばされ、跳ね返された勢いを、壁に受身を取って殺す、直接戦闘に向かない能力故に身体は鍛えておいて損はないと、今この瞬間も噛み締めた。

「な?ほら痛いやろ?だからそんなもん人に向けて投げるもんやないって」
「わかったらさっさと病院にでも行けや、そんで今日の事は忘れとけ」
「偽善だなんだ言うのは勝手やがな、ワイらの業界じゃそいつは犬も喰わんのよ」

邪魔をされたからって、攻撃を仕掛けられたからって、殺すつもりも戦うつもりも無い、事実あからさまな殺気はこの少年からは無かった。
例えるなら、猫が鼠に戯れて遊ぶような物、絶対的な強さの自信と慢心が、遊んでいるかのような態度を見せている。

「何も心に入ってけぇへんわお前の言葉は、ステレオタイプ過ぎてなぁ、そーゆーの聞き飽きてるわ」
「もうちょっとヒネてる正義の味方の方が今は人気らしいで?そーゆーアニメとか漫画最近多いやろ?」

そう言いながら、少年はジャージの中からバタフライナイフを取り出すと、右手で器用にナイフアクションをしてみせる。
カチャカチャと小気味いい音を立ててナイフを踊らせると、「見せただけ〜」と笑いながら再びナイフをしまう、バカにしているようで、武器をしっかり持っているぞとアピールする理由もあった。
597 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 22:07:20.02 ID:EWRB8mzS0
>>596
大木は咳き込んだ、ダーツよりも一人の体重というものはかなり重い。
倒れそうになるも踏ん張って堪える。相手の少年に向けられている怒りの殺気は衰えない。
気絶させようという思いも変わらなかった。

「脅したあとは宥めすかすか、ヤクザの手口だな」

悪人らしいやり方だ、脅しが効かないと見れば宥めてくる。
押してだめなら引いてみろということか、そんなもの炎が大木には意味がない。
そもそも大木は眼前の相手を見逃すつもりは全くない。

「俺もお前みたいな人間以外には投げるつもりはない。これは立派な凶器だ。
それにお前の忠告を聞くつもりはない」

大木は自分が舐められていると感じた。確かに相手は暗部、こちらは一度戦ったとはいえまだ素人だ
実力差はあるだろう。だからどうしたって言うんだと大木は思う。
大木は一歩も引かない。大木の脳裏にあの言葉が蘇ってくる。

「これはエゴだ、エゴなら貫き通す。お前みたいな奴が言ってたよ、自分の信念を貫き通せない奴はクソ以下だそうだ」

大木はあの少年が嫌いだ、もう一度会ってもまた戦うことになるかもしれない。
しかしあの言葉だけは、大木の心に残っている。その言葉を大木は忘れない。
もう二度と躊躇わない。逃げたりしない。

「いくぞ!」

大木はナイフにも屈せず声を張り上げながら少年に向かって右腕を振り上げながら突っ込んでいく。
妨害がなければ大振りで拳を振り上げる。その姿は大木が自分に酔っていると相手の少年は思うかもしれない。
しかし大木は冷静だった。大木の回避能力はまだ使われていない。
大木の能力も所見殺しの能力、しかもリスクが高く連発できない。
だから使うのは一回だけにしようと思っていた。二回目は対応してくるだろう。
598 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/06(金) 22:21:53.02 ID:EvCc7G0xo
>>595

「バチカン教皇直属でありますか…ッ!?」

バチカン教皇、魔術師の長たる人物ともいえる。
その直属ともなれば、相当な魔術を持っている人物とも考えられる。
異端狩り機関――、その異端とは、恐らく我々能力者の事なのだろう。

「ふふふ、良い判断でありますな…」

異端狩りの対象ともいえる自分を殺さなかったのは彼の決断故だろう。
人の命は天秤にかけられる代物ではない。彼はそう考えていた。
赦され、任された任を蹴るのはなかなかに覚悟がいる、そう考えていた。

「へえ、あんな安物の煙草、気に入られたのでありますか?」

ウィリアムと目があって、綾切も微笑む。
吸殻入れに吸い込まれるようにして入った吸い殻を見て、パチパチと拍手をする。
それ以前に、あのような安物煙草を気に入ってもらえるとは思っていなかったが。

「貴方も、大変なのでありますね。」

唯、それだけしか言うことができなかった。
綾切は唯の風紀委員であり、秩序を保ち、風紀を乱さぬようにするのが仕事。
だが、潜入などの仕事はなく、誰かに殺される心配はあまりない仕事だったから。
599 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 22:22:59.60 ID:YKdSqe6Xo
>>597
「ワイみたいな奴?そんなイケメンこの学園都市におったかな…?」
「…って違うか!ハッハッハ!」

恐らく大木が今思い浮かべた人間、彼ならば、今の大木の行動はバカにはすれど賞賛もしただろう、己の欲望に正直な人間は好きだと言っただろう。
だが、この少年は違う、矜持や正直などなんの意味も見出せない、それで飯が食えるのか?それで楽に生きられるのか?そうでないなら必要ない。
よくそんな事を恥ずかしげもなく言えるバカがいた物だとも思う、そういうのって普通人に言って聞かせるもんじゃないじゃん、言ってた奴は相当な格好付けだな。

「アホか、いくぞっつって来る奴が何処にいんねん」

あからさまに振り上げた右腕、何かを狙っているとしか思えない真っ直ぐな攻撃に、いい加減飽きてきた少年は、右手にナイフを持って対応する。
こちらも対するように突っ込み、ナイフを持つ手を突き出して迎え撃つ、狙いは大木の腹、ナイフのリーチの分だけこちらの方が先に攻撃が到達するだろう。


……と、予想するのは簡単だ、何しろこっちもわかりやすい動作、態とらしいくらいに動作だけなら読みやすい。
だが、実際はその行動に攻撃の意志すらない、突っ込んだ少年は、そのまま大木が身をかわしたりしなければ真っ直ぐ大木の身体をすり抜けて行くだろう、持っているナイフもまた同じ、傷一つ付けずに擦り抜ける。
お互いがすり抜ければ、ダメージ一つなく位置が変わるだけ、コンクリートを透過出来て人体が出来ぬ道理はない。

600 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 22:38:48.96 ID:EWRB8mzS0
>>599
「まあ、俺はアホだな。だけどそれは分かってる」

大木は眼をぎらつかせ歯をむき出し強い形相で闘志を剥き出しにする。相手を気絶させるために。
チャンスは恐らく一回のみ、肋骨が痛み体は悲鳴を上げている。能力発動も一回か。
ナイフを持って突っ込む相手に対し、大木は能力を発動させようとする。
しかし発動しない。当然だろう、大木の能力は未来を正確に妄想しなければ発動しない。
前回の戦いで最初妄想の刃が回避できなかったのも同じ理由だ。ナイフに衝かれ血を噴出す自分の姿を妄想してしまったことが原因。

「……!?」

しかし大木はこの展開を予想できていない、大木は理解できない事象に目を丸くし体が固まる。
能力戦に慣れていない、暗部の人間との逃れられない経験の差。
これは相手の少年にとっての不意打ちのチャンスだ、そして大木の能力は不意打ちに弱い。
601 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/06(金) 22:40:47.06 ID:i24FTCWjo
路地裏に、何やら人の気配が二つあった。

「キミ、馬鹿ですよねぇ。ほんのちょっとの"普通の人間"である確率に賭けて、よりにもよって俺っちに声かけちゃうんですもん。」
「俺っちからしたらまさにカモネギですよぉ。自分でも認めたらどうですかぁ?『僕は馬鹿でマヌケな男です』って、ホラ、言ってみてくださいよぉ」

声が、片方にそう投げかける。返事は、無い。
当然だ、もう片方である男性は口を布できつく覆われ、更には中まで同じものがぎっしりと詰め込まれている。声をあげたいのに、言葉を発して助けを呼びたいのに、その口から出せるのはくぐもった唸り声だけ。
彼の両手足は結束バンドでがっちりと巻かれ、身体はごろりとまるで丸太材のように地面へ転がされている。ガタガタと震え、涙を流し、背中に腰掛け優越感に浸る少女に対して怯えているのは明らかだ。

対照的に少女は、気持ちの悪い笑みを顔に貼り付けていたが、男性が呻きすら洩らさず只管怯え、涙目で"声など出せない"と無言で訴えかけてくるのを見ると、途端にすぅっと無表情になる。
後ろに回してきつく縛り、鬱血すらし始めている男の両手を持ち上げて何をするかと思えば。
手にしたペンチで爪を剥がしていく。丁寧に丁寧に、出来るだけ多くの苦痛を男が味わえるように、ゆっくりと小指から順番に。


–––––––––––––––––––––––––––


数分後、痛みで気絶してしまった男性を尻目に、その上に腰掛けたままの少女はスマホでカタカタと文字入力音を奏でてていた。

「『今からパーティ開きますよ:D』っと……まったく、この程度でトんじゃうなんて軟弱な奴ですよ」

まるでつまらない、という風にため息を吐く。まだたったの3枚しか剥がしていないというのにこのザマ、成人男性の癖に情けない野郎だ。
その口調に、先ほどまでのいやったらしい間延び感はない。
よっこいせ、と古臭い掛け声と共に少女は立ち上がる。そして男の服の襟首を掴み、ずるりずるりと引きずり始めた。

「……あ、もう既読ついてるじゃないですか。誰がくるのか楽しみですね」


/絡みにくいかもですが……
602 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 22:56:04.95 ID:YKdSqe6Xo
>>600
「ほい残念」

擦り抜けた瞬間、振り向く前に腕を後ろに振り、ノールックでナイフを投げる、それは大木の右足に先端を向けて風切り音を鳴らしながら飛んだ。
それが当たろうが当たるまいが、少年は両手をジャージのポケットに突っ込んで。

「真正面から戦うとか余程身体に自信あるか、身体強化系の能力でもなきゃ無謀やろ、アホちゃうお前」
「それとも何か?なんか作戦でもあったか?この程度で破れるのは作戦とは呼ばんで?」

少年は大木の能力を知らない、知らずに取った行動が、大木の能力を封ずる結果になったのは、単に運が良かったからだろうか。
メガネをくいと上げ、首だけを振り向いて大木を見る、その表情は笑いすらしていない無表情、冷たい仕事人の顔だった。

「こういうと俺TUEEEEEEEEEEEEみたいでいやなんやけどな」
「今お前をすり抜けた時、何ならその腹ん中にナイフを『置き忘れて』きても良かったんやで?」

少年の能力は、壁や物等を自由に擦り抜ける事が可能な能力、自分だけでなく、自分の触れている物も効果範囲に入る。
なら、大木の身体をすり抜けている最中に、タイミングを合わせて持っていたナイフを手放せばどうなっていただろう、体内で直接実体化した刃物はどんな影響を及ぼすか、説明するまでもない。
わざわざそれが出来たのにやらなかったのは手加減だ、とでも言うかのように、少年の雰囲気はガラリと変わっていた。
603 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/06(金) 22:58:33.37 ID:ICWkSbGC0
>>598
「あぁ...何が正しいのか分かんねえ...」

散々人殺しを教え込まれて、神の意志とやらを教えられて
その為に生きてきたが、その果てにこの少女を見た
今この場で風紀委員を殺したとしたら、自分は仲間たちから賞賛されるだろう

────ただの、自分と何も変わらない人間を殺して?

「................」

僅かに無言の間が周囲を包む
ウィリアムの目は遠い空を見上げて息を吐く
遠く故郷で見上げた空と同じ────少し淡い色の空に

「...悪いな。こんな下らない話聞かせてしまって...他でもない風紀委員のアンタに
通報とか必要ならしてくれて構わないよ。 俺達はいつだって逃げ隠れしてるからな」

ベンチから立ち上がってぐいっと伸びをする
煙の匂いにつられたのだが、随分話し込んでしまったようだ

魔術師として生きる彼らは闇に潜む存在
そんな自分がこうやって外に出てあろう事か風紀委員に正体まで明かしているのだ
彼女にも彼女の仕事があるだろう
見逃す必要はない。そう笑って応えたのだった
604 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/06(金) 23:06:40.98 ID:EvCc7G0xo
>>603

「…、真理などわからなくて当然でありますよ。真理を追い求めるのが人生でありましょう?」

神の意志とやら、バチカン教皇やら、詳しい事情は知り得ない。
唯、彼の人生における真理は彼が追い求めた後だけに知り得るものであろう。
今は正しくない道を歩いても、後に正しくなる時もあるでありますよ、と付け加えて。

「………」

少女も黙り込んで空を見上げる。
もう夕暮れ時は過ぎ、月が顔を出していた。
綾切は胸ポケットから煙草を一本取り出し、再び火をつけた。

「いえ、くだらない話ではないでありますよ。人生の話は楽しい物であります。」
「ふふふ、貴方は知らないでしょうな、風紀委員は文書さえ偽装すれば怪しい人物など見つからないのでありますよ?」

にやりとしたり顔をしてウィリアムの顔を覗き込む。
文書偽装は其れこそ懲罰ものだが、其れに気づく人物は少ない。
特に、真面目でもない風紀委員の綾切は文書偽装など何回も熟してきたのだ。

「さて、私は此処で御暇させていただくでありますよ。」
「次会った時は敵かも知れぬでありますな、お体に気をつけてお過ごし下され。」

煙草を咥えたまま、綾切は公園を後にしようとする。
人の人生というのは不思議なものだ、何があるかわからない。
――此の魔術師との邂逅も、いつかの日に結末として表れるだろうか。
605 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 23:13:47.40 ID:EWRB8mzS0
>>602

「……っ!」

大木は右足を切り裂かれる。膝をついた。出血が酷く立ち上がれない。
大木は能力を見せなかったことで自分のほうが有利だと思い込んでいた、彼の敗因はそれだろう。
もう一つは相手の能力が何であるかを推測しなかったことだ。コンクリートの壁の件で推測できたはず。
そうすれば展開はがらっと変わっていたかもしれない。

「作戦はあった……作戦に溺れた……ちくしょう!」

大木は自身の慢心に怒りが沸いた。唇を強く噛み、血が流れ出す。眼前の少年への怒りにも決して劣らない。
人を甚振り殺すような相手に負けたこと、弔いができなかったこともさらに怒りを募らせる。
そしてその直後の、彼の本気の殺気と言葉に息を呑む。勝てないと感じる。

―――――――――完璧な、敗北だった。

「もう俺はお前を捕まえることができない、だから教えてくれ。お前は………お前たちは何者なんだ。
なんでこんなにも戦い慣れている!?なんでこんなにも殺し慣れている!?」

それは、大木の疑問だった、どうしてこんな連中が学園都市にいるのか。
大木が以前戦った少年にしても、眼前の少年にしても強すぎる。
大木と似たような年なのに戦ってみて格が違った。能力の使い方も一枚も二枚も上である。
606 :ウィリアム・アーレス ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/06(金) 23:31:04.46 ID:ICWkSbGC0
>>604
真理か、いつか自分にも見つかるのだろうか
ふと懐にしまった聖書に触れる
お師匠様に拾われてから此処にある文章が世界の全てだった
その世界に今は疑問しか浮かばない

ただ綾切の言う通り、正しいかどうかは追い求めた先にある
今は、心に従って己の行くべき道を行くのみだ

「...それで良いのか? 風紀委員。
でも...ありがとう。走って無駄に体力使う必要がなくて助かった」

生真面目そうな気がしたが、そういえば未成年喫煙者の時点で真面目ではなかったな。と
文書偽装なんて下手したら捕まると思うのだが、と思いながら
覗き込んできた綾切の顔を見て笑ったのだった

「あぁ、また何処かで会おう
...良いタバコをありがとう。できれば今度も血を流さない様な場所で」

そう言って、ウィリアムもまた軽く手を振って綾切の背中を見送った
本来なら、教えに従うのなら斬り刻む必要のある背中に触れる事さえしなかった

────そうだ。傷つけたくなかったんだ
あの痛々しい目をした彼女をこれ以上────。

そう、闇夜から吹く風に押されながら考えていたのだった


/それではここら辺で...ロールありがとうございましたー!
/ちょくちょく返信遅れて申し訳なかったです...!
607 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/06(金) 23:36:52.53 ID:YKdSqe6Xo
>>605
「あ、そう?てゆーか君ワイを捕まえる気だったん?あぁ…そう」

諦め───大木からその念を感じ取ると、今までのようなふざけたにやけヅラを顔に取り戻して、振り向いた。
タバコを取り出すと、火を点けて紫煙を吐く、運動後の一服は格別だ。

「何者かって言われてもなあ…それに『お前ら』って君が誰とワイを一括りにしてるのかも知らんし……」
「…まま、ええわ!しゃーないから特別サービスで教えたろ!結構惜しい所まで来てたしな!」

大木の疑問に答える事は、基本的には出来ない、暗部組織はあくまで暗部、学園都市の表にいる者においそれと存在を知られてはならないからだ。
だが、このような奴がそれを知ったとして何の問題があるのだろうか?下手に正義感を燃やして闇に葬られるのがオチだろう。
まあいいか、そんな気分で、気紛れに答えてやる事にした。

「この学園都市にゃあな…普通の人間が知っちゃいけない闇があるのよ」
「折角の超能力なんやから有効に活かさなアカンやろ?やから能力者を秘密裏に集めて、大っぴらに処理出来ない問題を処理する……それが暗部組織っちゅう奴や」
「んで、ワイはその暗部組織の一つ、《サークル》の鉢頭摩 影郎……鉢植えの鉢に頭、摩擦の摩って書いて鉢頭摩で、人の影に太郎とかの郎で影郎な?よろしゅうに」

「…で?こんだけ聞けば満足かいな?君の自由やけど、あんまり首突っ込まないほうが身の為やで」
608 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/06(金) 23:55:26.97 ID:EWRB8mzS0
>>607
「暗部組織、《サークル》か」

大木は右足から血を流しながら、その言葉を心に刻みつける。
刻み付けてどうするのかは分からない、敵として見るのはあまりにも大きい。
大人と赤子の差、と言えばよいだろうか。そんな差を感じるには十分だった。
それに学園都市に認められている仕事なら、大木が口を出すことはできないものなのかもしれない。
殺し屋にも彼らなりの道理というものがある、大木が正義感を燃やしたところで死ぬだけだ。

「ああ、満足だよ。鉢頭摩がそんな存在だってことは良く分かった。
 学園都市非公認の殺し屋の邪魔を、今まで俺はしてきたんだな」

今まで自分がしてきたことを思い出してぞっとする大木。
勝てないはずである。初めから大木のような一般人の適う相手ではなかったのだ、大木はそう思った。

「もういい、後は放っておいてくれ。サークルには二度と関わらない。
俺の大木陸という名前も覚える必要はない」

大木はどこか目が空ろだった。圧倒的な差を見せ付けられて心が折れたのかもしれない。
大木の幸せに暮らしたいという平凡な思いを両立する炎とはスケールが違いすぎる。
素人一人の炎など、多数の殺し屋の前には容易く掻き消える。

「ちくしょう、ちくしょう!」

大木は自分のちっぽけさが悔しく拳を叩き付け、涙を流していた。
鉢頭摩が大木の言葉に頷いて消えるなら、大木はそのままだろう、彼はどうするか。
609 :鉢頭摩 影郎 ◆5QE4wOW7sQ [sage saga]:2016/05/07(土) 00:04:42.07 ID:+rwDemrjo
>>608
「おう、それがええそれがええ、ワイらの為にも君の為にもな」
「ただ一つ言うなら、ワイらサークルだけやなく、暗部全て……ちゅーか面倒ごとに一々首突っ込まないようにしときや、人間平穏な一番やでホンマ」

例え冗談でも、慰めの言葉はかけてはやらない、大木の心にヒビが入ったのはわかるが、それをどうにかしてやる気はない。
どうでもいいのだ、結局は。邪魔をしないなら放っておく、道端に落ちてある石と同じ。

「そんじゃ、ワイはやる事がまだあるから帰らせてもらうわ」
「おおきになあ……大木だけに」

もうこちらに大木が向かってくる事はない、どうもしたくないなら好きにしろと言わんばかりに、鉢頭摩はその場を去って行く。
残ったのは、微かなタバコの匂いとサンダルの足跡だけだった。
お疲れ様でしたー
610 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/07(土) 10:47:52.09 ID:vwP6n9S/o
>>601
「あら? 何やら痛くて苦しい気配を感じると思って来てみれば……ふふ、ビンゴでしたぁ」

ビンゴって何なんでしょうね――と呟きつつ、そこにやってきたのは少女の予想とは裏腹に、メッセージを読んだ者ではなかっただろう。
やってきたのは全身包帯塗れの少女。スタイルは良いのかもしれないが、全身包帯のミイラかゾンビルックとあってはそんなプラスも打ち消されるように思える。

「ああ、そちらの方ですね……。気絶していますね。痛かったですよね苦しかったですよね怖かったですよね――ええ、ええ、分かりますよぉ。
あなたの気持ちは痛いほどよく分かります。でも私が来たからにはもう大丈夫……」

その少女は真っ直ぐ近づき、あなたを無視して気絶した男に近づいていき、あろうことか話しかけた。
当然、男からは何の返事もない。

「今すぐ取り除いてあげますねぇ……『供犠漬け』」
少女が男に手をかざし、何かを呟いたと思うと――なんということだろう。
剥がれたはずの男の爪は元に戻り、鬱血して青ざめていた両手は綺麗な肌色になり、恐怖に歪み怯えているような表情は自宅の布団の中にいるかのような安らかなそれに変わっていた。

「……この程度で気絶していたんですか。情けない方ですけれど、そういうのも嫌いじゃあありませんよぉ。
ギャップ萌えって言うんでしたっけ? いやいや、別にあなたに萌え要素なんか感じませんけどね――」
ところで萌えってどういう意味? と言いながら、少女は笑顔を浮かべている。
……もしこの時あなたが少女の左腕を見たのなら気づくだろう。少女の爪がいつの間にか3枚剥がれており、心なしか手が少し青くなっている気がすることに。

//まだ大丈夫ですかね……?
611 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/07(土) 12:21:20.28 ID:vNKBN0O4o
>>610
なんだコイツ。
それが轟の素直な感想だった、突然現れたかと思えばズケズケと人の獲物に手出ししてきたのだ、しかも気絶したままの男につらつらと語りかけ、その"所有者"である自分には一切断りもない。
だが、その考えは途中で吹き飛んだ。それよりももっと意識の向く出来事が起こったのだ。

「お?おおお?」

目前のミイラ擬きが何やら能力を使ったのだろう、自分の"所有物"に変化があった。表情は安らぎ、傷は消え失せ、まるで自分と出会う前のような。
思わず、それを凝視する。なんと興味深いのだろう。
自分の能力はどうしても2択を迫られるものだ。傷つけるならば傷つける、治すならば治す。中途半端に方向転換することは難しく、だからこそ贄川の能力にとても惹かれてしまった。

「……すっっっごいですね、アナタ!ヒトのケガ完っ璧に元どおりにできちゃうんですか!」
「それ、アナタの能力なんです?他にも何かできたりします?ちょっと"コイツ"で、試してみせてくれませんかぁ?」

嬉々として話しかける少女。贄川の手の変化など気付いても気に留める事はなく。たった今初めて見た相手の変化、それも恐らく能力のデメリットであろうものなど、轟にとってはどうでもいい事でしかないのだ。
轟にとって一番好奇心をそそられるのは、傷ついた箇所を綺麗さっぱり元どおりにする、ただ一点それだけ。他にも何か出来るのかと聞いたのは、もしかすると他にも便利そうな使い方ができるのかもしれないと考えたから。

その行動は純粋な好奇心によるもので、贄川に対しての警戒などする事すら忘れて無防備な状態。
もし贄川が、少女に対して敵意を抱いているのだとしたら、絶好の攻撃チャンスと言えるだろう。

/気づくの遅れました、全然大丈夫ですよろしくお願いします!
612 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/07(土) 14:12:47.52 ID:vwP6n9S/o
>>611
目の前の少女が目を輝かせて話しかけてくる。褒められるのは悪い気分じゃない。
「ええ、そうですねぇ……。怪我はもちろん、火傷病気ストレストラウマ頭痛腹痛、空腹寝不足喉の渇き罪悪感、機械の故障その他諸々まで……
『苦しい』とか『痛い』に関することなら何でも取り除いてあげますよぉ。あなたもどこか悪いところがあるのかしら?」
さっきは一瞬轟から僅かなムッとした気分の悪さを感じ取ったものの、今では既にその反応も消えている。
だから、鞄から小さめの包帯を取り出し、自身の爪が剥がれた指を適切に処置しつつ、贄川は言う。もしかしたら痛みが既に引いているタイプの怪我をしている可能性もあるのだ。

「ん? 試す? 何を試したいのかしら? この状況でその男の人を使うんだと怪我をさせて取り除くくらいしかできませんよぉ。
気絶してたらストレスも何もあったものじゃありませんしねぇ」

無防備というなら贄川の方も同様だった。大の男を引きずる少女に近づいた揚句、明らかに人為的な傷を負っている男を直し(肩代わりしただけだが)、
明らかにその犯人である少女には目もくれず、話しかけられたら自分にできることをすらすら喋ってしまう。
その少女が折角壊した男を治されたことに対して憤慨し、襲い掛かってきてもおかしくなかったというのに。
しかも男の怪我を治して――引き受けておきながら、轟がその男をオモチャのように扱おうと言っていることに対しても何の言及もない。

……つまり奇しくもこの場には何かが欠けた、しかもデメリット付きの傷に関わる能力を持つ少女が二人集まったことになるのだが、
しかしこの場に彼女らの異常性を指摘する者はいない。

//よろしくお願いします!
613 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/07(土) 14:55:18.23 ID:vNKBN0O4o
>>612
異常者どうしの、まさに夢のような邂逅。ただし、一般人にとってそれは決して良い夢などではないのだが。

「ほうほうナルホド……ん?俺っちですか?俺っちはどっこも悪くないですよぉ、むしろ今すっごい楽しいんですから!」

問いかけに、轟は満面の笑みで答える。事実、その心中に嫌な気分は欠片もなく、その身体には傷一つなく、健康体そのもの。
贄川の言葉を聞いた事で、次に取る行動は決まった。なるほど分かりやすい、つまりは人体への悪影響を取り除けるのか。
パッと手を離し、男性は地面にどさりと横倒しになる。それだけでは目覚めなかったが意識はかなり浮上したのだろう、続けてぺちぺちと頬を叩けば顔を顰めてううんと唸り、ゆっくりと瞼が持ち上がる。

「……あ、起きましたぁ?今からですねぇ、キミを使って実験するので、よろしくですよぉ」

男からしたら意味不明だろう。先ほどまで痛かった筈の手にはなにも異常を感じられず、そればかりか、恐れていた筈の人物を見ても恐怖を感じない。
更には気を失っている間に人が増えていて、その人物は轟と敵対していないのだ。つまりそれは、男性にとって自分を甚振る存在が増えたに等しい事で。
状況に理解が追いつかず混乱している最中の男に対して、轟は無慈悲に行動を開始する。まずは爪。先ほど贄川が引き受けたばかりの傷を再び作り出す。
しかし今度の目的は痛めつける事ではない。乱雑に無理やりにめくり千切られた爪には若干肉片が付いているようにも見受けられた。
1枚、2枚、3枚。何の躊躇もなく1分も経たないうちに出来上がった作品、それを轟はじぃっと見つめて。

「じゃあちょっと質問なんですけどぉ。コレ、片方だけ治せたりします?」

次の瞬間、片手のみだった惨状は両手へと広がった。男性はまたも痛みで涙をぼろぼろと零し、額には大粒の脂汗が幾つも現れ今にも再び気を失いそうな。
しかしそんな男性には目もくれず、轟は贄川へと好奇心に染まった瞳を向ける。隈を従えた大きな瞳は、キラキラと輝きまるで子供のようだった。
614 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/07(土) 17:14:01.83 ID:vwP6n9S/o
>>613

「そうなんですか! 健康体そのものなら私にできることは何もありませんねぇ……」
精神的な異常ですら肩代わりする贄川の『供犠漬け』だが、それが本人にとってダメージとなっていないのなら手の施しようがない。
……もしかしたら轟の歪みすら肩代わりできるのかもしれないが、当の贄川にその発想がない以上そのもしもは起こらない。

「ああ、ああ、おはようございます。今からこの子があなたに痛いことをするみたいですよぉ。
でも大丈夫。あなたの痛みも苦しみも、ぜーんぶ私が引き受けてあげますから!」
目をさまし、混乱する男に対し言葉を投げかける。
自分を甚振っていた少女は自分を使って実験すると言い、いつの間にか増えていた敵対していない少女は苦痛を引き受けるという。
男の混乱はますます加速するだろう――そんな男の爪を、無慈悲にも――今度は両手とも轟は乱暴に剥がした。

「ああ、ああ、ああ――痛いですよね辛いですよね苦しいですよね……今すぐ私が全部――え? 片方だけ?
片方だけでいいんですか? それはまた変わった注文ですねぇ……でもできますよぉ」
片方だけ治せるか、という質問に対し戸惑うものの、できると肯定し、

「ごめんなさいねぇ……この子がそういうから傷を引き受けるのは片方だけにしますねぇ……。
あ、でも痛みと恐怖は全部引き受けてあげますよぉ。……いいですよね?」

いいですよね、というのは男と少女両方に聞いている。
痛みだけは引き受けるから片方だけ傷を残すけどいいですよね、という質問と、
傷だけは残すから痛みは全部取り除いちゃっていいですよね、という質問を同時に行っているわけだ。
……その答えがYESだろうがNOだろうが関係なく、片手だけを残して傷と痛みを肩代わりする。

「『供犠漬け』――」
贄川の左手は残りの爪も剥がれ、先ほど処置した包帯からも血が滲む。
外からでは分からないが、轟が男の爪を剥がしたのと同じ分だけ、中の指肉が剥がれている――抉れていることだろう。

例によって肩代わりした指を処置しつつ、
「しかしあなたも変わっていますねぇ。大抵の人は他人にこういうことすると多少なりとも『心が痛む』か、そうでなくとも何らかのストレスを感じるものなんですけれど……
あなたからはそういう痛みを全く感じません。……んー、不思議ですね」

と、少女を諌めるでも恐れるでもなく、今日はいい天気ですね、と世間話でもするかのようにそんなことを言う。
人を傷付けようとする人は――あるいは自分にダメージを引き受けてもらおうとする人は、一人残らず罪悪感を――心に痛みを感じていた。
……だからこそ一気に『返した』ことで彼らの心は折れたのだが、肩代わりするまでもなく心が痛まない人間を見るのは贄川にとって初めてのことだった。

//遅れてすみません!
615 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/07(土) 18:10:42.35 ID:vNKBN0O4o
>>614
「片方だけ残しておいてくれるなら、それ以外は全然好きにしちゃって良いですよぉ。俺っちが気になったのはそれだけですし」

轟は平然とそう答え、わくわくとしながら実験結果を待ちわびる。結果はすぐに現れて、その口からは歓喜の声が飛び出した。

「わお!すっっっっごいです!アナタがいれば俺っちの能力、自由自在ですよ!相性ぴったしなんじゃないですか、俺っちたち!」

興奮し、頬が上気して仄かに染まる。それほどまでに、轟にとって贄川は"便利な道具"となり得る存在なのだ。
轟の能力は性質上、複製した傷を癒す事は出来ない。それは治癒の仕組みが"通常の状態"を複製するものだからであり、対称な位置が何方も同じ傷つき方をしていると、何方を複製しても"治す"という結果に繋がらないためである。
よって轟は自身の能力によって後々の選択肢を狭める事に陥りがちで、それを補う為にほぼ必ずと言って良いほど、相手と完全に敵対するまでは戦闘に於いても能力の使用を避ける傾向にあった。
これまでは所属する組織の方針にも沿えていたため、別に良いかと考えていたが。
しかし、この"包帯塗れ"が居ればそんな事は起こりえない。もし傷を複製した後でも、その力を持ってすればまた再び「片方だけ」に戻せるのだから。

先ほどまでよりも一層目を輝かせて、今にもぴょんぴょんとはしゃぎだすんじゃないかという程に轟は喜んで。その様子には確かに、罪悪感という名の"心の痛み"など見受けられず。

そう、言ってしまえばこの少女からは"共感する"という社会性を持つ生き物にとって重要な部分が欠けていた。あくまでも自分本意に、その結果誰がどうなろうと知ったこっちゃないのだ。
それゆえか、もう一つ、贄川の言う"心の痛み"というものもこの少女には無縁のもので。だからこそ嬉しそうに楽しそうに他者を虐げる事が可能だった。
そして、轟は言う。新しい玩具を欲しがる子供のように、獲物を狙う獣のように、我儘を押し通そうと笑顔で。

「アナタ、俺っちのいる組織に入りませんか?俺っちよく仕事で拷問するんですけど、アナタが居たらもっと幅広い甚振り方出来ると思うんですよねぇ」
616 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/07(土) 19:50:10.09 ID:vwP6n9S/o
>>615

「えへへ……能力? あなたも私みたいに不思議な力が使えるんですかぁ?
わぁ、気になります! どんなことができちゃうんです? 見てみたいなぁ!」
この街に保護された際、ここには自分と同じように不思議な力――超能力が使える人間がいる、ということは聞いていた。
しかし実際に出会うのは初めてのことで、初めての自分以外の能力者がどんな力を使うのか非常に気になるらしい。
目を輝かせながらそんなことを尋ねる。
普通、警戒心の強い能力者は能力のことを聞かれたって答えないし見せもしないが、この少女は普通でもなければ警戒心も皆無だった。

人を甚振ることに何の疑問も抱かない轟と、人のダメージを引き受けることに何の疑問も抱かない贄川。
人を自分の玩具にすることに何の罪悪感も覚えない轟と、人の身代わり人形、生贄になることに何の感傷も抱かない贄川。
“共感”の欠如した轟と、ずば抜けた“共感”能力を持つ贄川。
同じように常人から見れば異常な彼女らだが、その中身はまさに対極だった。

一致する点と言えば、どちらも『誰がどうなろうと知ったこっちゃない』と思っているところか。
断っておくと、贄川は他人が傷つくことに対し、能力を抜きにしても同情心を覚える。気の毒に、可哀想に、といった感傷を感じる。
――だが、感じるだけなのだ。日常的に他人の苦痛を享受する彼女にとって、その程度の感傷はあくまでその程度でしかない。
痛みは痛いほど理解できるが、その程度の痛みに耐えられない人の気持ちが分からない。

「組織? 何ですそれ?」
贄川身供は世間知らずだ。しかしそれを抜きにしたって、暗部組織を知る者は多くないだろう。贄川は率直に尋ねる。

「えー……拷問ですかぁ? 誰が誰を拷問しようと私の知ったことじゃありませんし、見つけたら見つけ次第直しますけど――
私の能力を人を傷付けるために使うっていうのはちょっと違う気がするんですけどぉ。ほら、私って人を治すために――人の痛みを引き受けるために生まれてきたわけですし?」
自分の能力を他人を傷つける――痛めつける前提で、痛めつけるために使われることに対し、あまり気が進まない様子の贄川。
その思考回路にはやはり異常性が垣間見える。

「『ついやりすぎちゃったから助けてください身供様』ならもちろん引き受けますけどねぇ」
身供様、というのは故郷で呼ばれていた名だ。今は滅びたものの、それまでは誰もが彼女を痛みを引き受けてくれる神様のような存在として崇め、祀っていた。
滅ぼしたのは他でもない贄川本人なのだが。

//すみませんご飯食べてました
617 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/07(土) 20:28:43.55 ID:tPPApJeI0
月明かりと息絶える間際の街灯だけが視界を照らしていた
日が延びたとはいえ、周囲は薄暗く出歩く人は少しずつ減っていく

「ハァっ...ハァっ.......」

昼間の喧騒とは打って変わって静まり返った公園にその人物はいた

夜の様に黒く長めの前髪で右目を隠して
宝石の様な緑色の瞳の目立ちはしないがそれでも整った端正な顔立ち
半袖の汗を吸収しやすい白のシャツ
黒色のジャージといった普段の彼では珍しい運動服姿だった


荒れる吐息が、遠くからでも聞き取れる
見ればトレーニング...だろうか
腕立て伏せやスクワットにランニング、遊具を使っての懸垂

ただの筋力トレーニング...ではない事に気付くだろうか
何処か、殺気を感じるというのだろうか
彼の眼は何を見ている。何に殺気を向けている

まるで自分で自分を壊す様に────。

細めの身体にムチを打つ様な激しい運動をしている───といった風に見受けられるだろう

「っ...ハァっ...ッ...まだ...まだ...────あ、れ....?」

酷使されている様に見える自分の肉体を更に痛めつける
迷いなく、自分の肉体を削ぎ落とす様な決意は彼を更に鍛え上げようとするだろう
悲鳴をあげる筋繊維の声を聞きながら、僅かに小休止
数秒後に次のトレーニングに移行しようとしたのだが


ただ、彼の意志に肉体が付いていけなかったのだろう
酷使された肉体は限界を迎えてしまい
少年は公園の只中でバタン、と膝から仰向けに倒れこんでしまったのだった────。
618 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/07(土) 21:56:32.14 ID:HrmcqRnno
>>617

月が路地を照らし始めた頃。
人々は自らの家に帰り、学生たちも一部を除いては素直に帰宅していた。
そんな時に、巡視をしていた一人の少女がいたのだ。

「やれやれ、最近は何かと可笑しい事件が頻発するでありますからな…」

少女は『士官学校』の制服である濃緑色の軍服を身に纏っていた。
胸元には綾切と刺繍があり、右目には眼帯が当てられている。
何より特徴的なのは、上腕部の袖に付けられた茜色の『風紀委員』と刷られた腕章だ。

「およ、物音がするでありますね、失礼するでありますよ?」

夜の公園内で物音がするとは碌な事が起きていない証拠である。
あるときは殺人であったり、ある時は淫行であったり。ともかく裏側とつながりが深い。
左腰の刀の鯉口を切り、公園内に進入する。辺りをキョロキョロと見回しつつ、音源を探す。

すると、荒い息を吐きながらトレーニングをする一人の男子生徒の姿があった。
他に人影は…、見当たらないようだ。ただ、男子生徒がしていたのはただのトレーニングでないように見受けられる。
――どこか、殺気を感じるのだ。彼の身体に鞭打つかのように必死にトレーニングをしている。

「精が出るでありますな?」

と声をかけたその時であった。
男子生徒は肉体に限界を迎えたのか、バタリと膝から仰向けに倒れこんでしまった。
これは緊急事態だ。眼前で人が倒れるのは度々見たことがあるが、今回は"生きている"のでまだいいか。

「だっ、大丈夫でありますかッ!?今水をお持ちいたすであります。」

近くの水道の蛇口を捻り、水をジャーと掌の中に入れる。
器のような形になった掌に入れられた水は冷たく、ヒヤリとした感覚を少女に与えた。

「お聞きするでありますが、水はぬるいほうがお好きでありますか?」

などと倒れている彼に問うのだ。
どことなく、この少女は感覚がずれているように見受けられるだろうが…

//まだいらっしゃいましたら・・・
619 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/07(土) 22:33:37.23 ID:tPPApJeI0
>>618
意識を失う────程では無かったが、頭の中が朦朧していた
血の流れが悪くなったというか、きっと顔色が悪くなっていると思う
貧血に近い症状だろうか、普段の運動不足が祟ったらしい

「........ッ、ぁ....」

運良く倒れた地面が柔らかい場所だった事
そして、視界の端に偶然通りかかった人がいた事
頭を強く打つ事も、意識朦朧のまま放置されなかっただけ幸運だったのだろう
その視界の端で少女の声が聞こえる気がした

「......ぁ、 それで... 良い.....です」

口元から微かな声が漏れる様に
起き上がろうと四肢に力を込めると、まだ起き上がれそうにない
体を起こそうとして、手足が震えてまた倒れる

ダメだ。うまく力が入らない
身体に無茶をさせたせいのだろうか、筋肉に激痛も走っている
動こうとするたびに、顔を顰める
そして、意識の端で自分に声をかけた少女に

「(....誰だろう?)」

────そう視線を向けたのだった。

/すみませんっ! 遅れましたー!
620 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/07(土) 22:43:58.75 ID:HrmcqRnno
>>619

膝から仰向けに倒れたからか頭を強打することはなかったようだ。
意識は有るようだし、恐らく死ぬということはないと判断して。

「はい、了解でありますよ。」

器のように整えた手を彼の口許までもっていく。
水が手の中でチャプリチャプリと暴れ、少しだけこぼれてしまった。
それでも手の中にはコップ一杯程度の量の水が入っており、其れを飲ませようと口内へ流し込む。

―――そして、彼の様態が安定したのであれば。
ほっとした顔つきで少女は地面に正座し、腰に提げられて居た黒塗りの鞘を脇に置く。

「やれやれ、其れにしても無理をし過ぎでありますな。」
「……、おっと、自己紹介を忘れておりました。風紀委員の綾切楓と申す者であります。」

彼は無理が祟って倒れたのであろう。
筋肉がつったか、其れ共筋断裂か、はたまた筋肉疲労か。
ともかく、歩けぬのであれば重傷で有ることには違いなかった。

「所で、殺気を感じるほどに凄まじい気迫でありましたが…、何かあったのでありますか?」

少女も普段筋力トレーニングをしてはいるが、あのような気迫を感じたことはない。
その上、その気迫が殺気じみたものときた。彼はもしかしたら何か此の街に起きている事柄に絡んでいるのかもしれない。
そんな期待と、心配とともに彼へと問う。"何をしようとしているのか"、と。
621 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/07(土) 23:04:45.23 ID:tPPApJeI0
>>620
「ん...っ...ゲホッゲホッ...」

口に含んだ水を飲もうとして噎せてしまった
水分補給は怠ってしまったせいだろうか、彼女の用意した水は喉を潤していく
だがそれでも時間が経てば息は整ってきて、意識も少しずつ取り戻してくる
立ち上がるとは言わずとも、上体を起こすぐらいはできる様にはなった

「...えっと...乾、京介...その...ありがとうございます...」

ぺこりと、頭を下げて礼を言う
見ず知らずの人物に介抱してもらって申し訳ない
水まで用意してもらって────やはり無茶な筋トレだった様だ

自分の脚に触れる。少々熱を持った自分の脚
疲労が溜まったらしい、断裂とかはないだろう

「...その...ちょっと、運動不足で...」

と、あははと無茶して笑って応えた
彼がその問いの答えを誤魔化しているのは明らかだろう
視線が彼女の持つ腕章の『風紀委員』の文字を見ているという事
だがその嘘が読まれる事を乾自身も気付いたようで

「.......いや、その...俺、強くなりたくて...」

頭を掻きながら、視線を外して自分の本心を応えた

強くなりたい、一介の学生が抱く目標にしては随分曖昧だ
それでも、あの眼は本物だった
強くなるために、自分を[ピーーー]様な勢いでのトレーニング

その結果がこのオーバーワークでは話にならないだろうが
622 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/07(土) 23:41:59.95 ID:HrmcqRnno
>>621

彼は口に含まれた水を飲もうとして噎せたようだ
ただ、水は彼の喉を潤していったようで彼の息は整い意識もはっきりしてきた。
彼は上体を起こせる程に回復をしたようだった。ほっとひと安心して。

「乾京介さんでありますね、どういたしましてであります。」

無茶な筋トレをしてしまったのが祟ったが、彼は今無事だ。
なんとか居合わせることが出来てよかった、此の場に居なければ彼はどうなっていたろうか。
筋断裂とも思えぬ動きから、恐らく筋肉疲労であろうと判断し、此れ以降の心配はあまりしないでよかろうと思った。

「…、嘘はつかないほうが良いでありますよ?」

彼の眼は、確実に上腕の腕章にいっていた。
怪しい人物はみなこうするのだ。風紀委員と分かると焦るように話し始める。
少しだけ、彼の発言に対し懐疑的になってしまって。

「ほう、強くなりたくて、でありますか。何故であります?」

此のようにオーバーワークでは意味をなさぬであろう筋トレ。
ただ、筋肉疲労を自覚しないほどに彼は殺気を放ちつつ筋トレをしていたのだ。
何故か、其れを知りたかった。彼が強くなりたい理由を、聞く権利はないかもしれないが。

//遅くなりました・・・!
623 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/07(土) 23:43:05.18 ID:vNKBN0O4o
>>616
「俺っちもぜひ教えたいんですけどねぇ……俺っちの能力、キギョーヒミツって奴でして。仲間以外には全部教えるなーってよく怒られるんですよぉ」

目前の少女に向けて、困ったように眉を寄せてみせる。しかし実際は全くもって困っていない。
何故ならば轟は既に一度"見せて"いるのだ、贄川が気付いていないようなので、わざわざ教える事もないかと素知らぬフリをしているだけで。
だが、不用意に教えて怒られるのは事実。仲間のひとりにはよく、頭にゲンコツを喰らわされたものだった。毎回痛みで涙目になるだけで、轟は反省ひとつしていないのだが。

「組織の事も、あんまし詳しくは教えちゃいけないらしくってですねぇ。俺っちが言えるとすれば、学園都市の"お掃除"屋さん……って感じのトコですよーって事くらいですかね?」

かなりマイルドで雑破な表現になってしまったが、轟がそれ以前に言っていた言葉から推測すれば簡単に辿り着くだろう。
つまりは学園都市にとって邪魔な、人間という名のゴミを"掃除"する組織という事で。

贄川の言葉を受けて、轟は心底残念そうに肩を落とす。しかしこれまた、轟は欠片も残念に思っていなかった。
先日出会った"自己犠牲マゾ"と同じように、どうしても必要ならば攫ってしまう事もできるのだから。それに少なくとも、大木と違って贄川はまだ協力を拒絶していない。
詰まるところ、残念に思う理由がないのだ。

「……それでですね?どうしても知りたいなら、俺っちの仲間になるのが手っ取り早いと思うんですよぉ。どうです?仲間になりません?」

それでも食いさがるのは、もしくは条件次第では釣れるのだろうか、と思いついたから。
勿論、贄川が提示した言葉を唱える事などない。自分本意で生きる轟にとって、誰かに謙るなんて面倒な事は何があろうと御免被りたいもの。
そんなふてぶてしい態度で贄川に受け入れられるかどうかなど、考え及んですらいなかった。

/お待たせしました……
624 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 00:32:28.86 ID:S994usyFo
>>623

「キギョーヒミツ……? んー、内緒ってことですかぁ。残念です……」

と言いつつ、しばらく考え込み……

「そういえばスルーしてましたけどぉ、さっき何もしてないのに片手だけの怪我が両手に増えてましたねぇ……怪我を増やす能力?
……私のと相性良いんですかねぇそれ……。んー、ちょっと借りますねぇ」
と言うと、男に残した片手の怪我が消えて――贄川の右手の爪が剥がれた。

「んー、んー……反対側の手と大体同じ? ってことはぁ……んー、怪我をコピーして貼り付けるってことかしらぁ?
怪我の判子……ますますどこが私と相性良いんですかねぇ」
轟の能力を推測し、
怪我を増やすだけなら轟のそれだけで十分で、怪我を治すだけなら贄川のそれだけで十分なのではないか――と考える贄川。
贄川には人を痛めつける――甚振るという発想がない。ゆえに轟の思考回路にはたどり着けないのだ。
結果的に人を破滅させることならあるが。

「お掃除屋さん? お掃除は私の仕事じゃないですねぇ。お父さんやお母さんが――あっ、ああ、ああ……
ゴミ拾いや水拭きをする方の掃除じゃないってことですね……そういう風に人をどうこうするってことですか……」
と、途中まではお掃除ボランティア組織かぁ……みたいな風に思うものの、何となく今までの会話から察する身供。
世間知らずだが、愚かではないらしい。

「んー、んー……そうですねぇ。知りたいは知りたいですけどぉ、どうしてもってほどでもないですしぃ……。
私は人の痛みを引き受けるために生まれましたから、そこを曲げてまで知りたいかって言われると……そうでもないんですよねぇ」

と、贄川は自然な調子で断った。
今まで祀られるだけだった贄川にとって、『助けてください』とお願いされないということは本気じゃないということに等しく、
轟も『どうしてもってほどじゃないけど仲間になってくれたらいいなー』と思っている……ものだと思っている。

「電話か何かで読んでくれればどんな怪我でも直しますけどねぇ。……近くに居ればの話ですけどぉ」

と、代替案を出す――などという交渉術のようなことは思っておらず、ただ出来ることを言っているだけだ。
ここに来て二人の異常な少女の違いが浮き彫りになってきた形だ。
自分本位なサディストと、自己犠牲のマゾヒスト(ただし後先考えない)。
傷付けることを得意とする拷問家と、傷を癒すことを専門とする人柱。
根本的に相容れることがないのかもしれない。
625 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 00:36:07.83 ID:S994usyFo
>>624
//訂正

「じゃあ『返し』ますねぇ」
というと、先ほど消えたはずの男の片手の怪我は元に戻り――つまり再び爪が剥がれ、
今度は贄川の右手が元通り綺麗に回復していた。

//の一文を 「お掃除屋さん? の前行に追加。
626 :轟 喜一 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/08(日) 01:22:23.47 ID:yYHeImRyo
>>624
>>625

「うーん……残念ですけど、仕方ないですねぇ」

贄川の能力のもう一つの特性を見た上で、意外にもあっさりと、轟は引き下がった。大木の時もそうだが、この少女は何かしら物事を後回し後回しにしてしまうきらいがあるようで。
それに加えて、先に述べた能力の弊害である。嫌いでない人間を確実な必要性もなく攻撃する理由はない、轟はサディストであるが狂犬ではないのだ。
情報もまだ怒られる程漏らしてはいないのだし、誘えないならば今は用無しも同然である。さっさと別れるに限るか。

「……あ。そういえば、皆を待たせちゃってましたっけ」

そこまで思考して思い出した、そう言えば贄川と出会う直前に仲間たちへパーティ開催のメッセージを出したのだ。きっと何人かは、既に集まって"主役"を待ちわびている事だろう。
ならば尚更、ここに留まり続ける意味は無くなった。早く皆のもとへ向かわなければ、それこそまたゲンコツを喰らってしまうかもしれない。

「それじゃ、俺っちはもう行きますよ。またどっかで会えると良いですねぇ」

結局気絶してしまっていた男性を元どおり引きずりながら、そそくさと移動を始めたのは贄川におかしいと思われるだろうか。
最早轟の中では、贄川に対する興味よりも怒られる事への面倒臭さの方が勝っていた。脳内は"ゲンコツは嫌だ"で一杯なのである。
ニコニコしながら贄川へと手を振って、何も無ければそのまま路地裏の暗がりに、今度こそ消えてしまうだろう。
結局、この少女はその場その場の感情が最優先なのだった。
627 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/08(日) 03:06:15.77 ID:dfrG4qZJ0
>>622
風紀委員、学園都市の治安維持の人間
この街の平和を守るために戦闘も行う...らしい
知人に風紀委員の人間はいないのでよく分からないが
つまり、自分のよく知る『正義の味方』の様のようなものだろう

つまり、敵となる存在かもしれない

「......守りたい人がいるんです。強くて、綺麗で...遠くにいる人」

そうであっても、自然と口が開いていた
何故口が開いたのかは分からない────だが、それが正しいと思った
自分の目的が、間違いじゃないと信じている
歩む道が間違ってないと分かっているから────。


「おいて行かれないように...ずっと隣にいたいから...
その人を守りたいから────変かな?」

台詞の最後になるにつれて少しずつ声のトーンが落ちていく
話してる内に気恥ずかしいからだろうか、目を伏せて応えたのだった


守りたい人がいる
誰なのかは分からない────だが、彼の声はホンモノだった

守りたい人の為にここまで己の肉体を酷使できるだろうか
その人物への想いや、彼の意思の硬さが伺える
────何であれ誰かを守りたいと思う心は尊いものだ

/すいません...遅くなりました...!
628 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 09:35:20.96 ID:S994usyFo
>>626

物事を後回しにする性質によってあっさりと引き下がった轟だが、その反応でますます『そこまで本気じゃなかった』と確信する。
だから、

「次の子は誘えるといいですねぇ」

と、軽い反応をするのであった。

「みんなを? もしかして私割り込んじゃってましたぁ? それはそれは……」
気の毒ですね――と贄川。“待たされた”ストレスを引き受けてあげたい気もするが、今仲間になることを断った以上ついていくのもどうだろう。

「ええ、また明日とか……っと、ちょっと待ってくださいねぇ。最後に“それ”を取り除いてあげちゃいますよぉ」
と言うと……次の瞬間。
轟の心から――頭の中から、憂鬱……『ゲンコツは嫌だ』というストレスが綺麗さっぱり消え去った。
“面倒臭さ”程度のストレスでも『ダメージ』と認識されるらしい。

「それじゃあさようなら。また偶然にも再開しましょうね〜」
と、追いかける様子もなくこちらもその場を引き返していく。

「あ、そうそう――そろそろ我慢できなくなったのでぇ、そちらも“取り除い”ちゃいましたよぉ」
と呟く声は、果たして轟に届いただろうか。
彼女が引きずる気絶した男は、既に全てのダメージを取り除かれ――先ほど残した片手も――安らかな表情に変わっていた。

//遅れてすみません。ありがとうございました
629 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 14:19:16.52 ID:2nUuIj4j0
薄暗い夕暮れ時、公園のベンチで一人腰掛けている少女が一人。
白いワンピース、白い靴、白いバッグ。全身を白く染める少女、陽愛白である。
彼女は美しい笑顔の仮面を外し、顔を顰めて眉間に皺を寄せ辛そうな表情をしている。
白い少女の美しい仮面は、最近脆くなり壊れ始めている。
しかし状況で時には笑い、時には悲しむ。それが、人間というものなのかもしれない。

「自らの行動を心から後悔することなんて、私にはありえないと思っていたのですが」

白い少女は自らが殺した人間達の遺族の元に行きその人間達の生前の話を聞いた。全員が最初に訪れた父親のように優しかった訳ではない。
遺族達には不審がられ、怒られ、殴られる。彼らにとっては白い少女は行方不明の親しい人間を探りにくる怪しい人物でしかない。
それでも白い少女は今まで愉しんで殺害してきた人間の思いを、一人一人受け止めた。その中で気づいたことがある。

「当然ですが―――――死んだ人間は、生き返りません」

誰でも判ることではある。しかしその言葉の重みを真に知っている人間は限られる。
死は万人に訪れるというのに、どこか他人事のように見てしまうものだ。
少なくとも弱肉強食が理念だった少女は今までそれを理解せずに愉しみ蹂躙するのみだった。
白い少女の涙腺が感情により刺激されていく。彼女はハンカチを目頭に当てた。

公園で声を押し殺し涙を流す、白い少女の姿は美貌と相俟って絵になっている。声を掛ける人間は現れるだろうか。
630 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 14:45:51.82 ID:S994usyFo
>>629

「ああ――感じます。罪悪感、自責の念。後悔――心がズキズキと痛むのを……。こちらの方向ですね……」

と、涙を流す白い少女の元に現れたのは、これまた全身が白い少女だった。
……ただし、美しき白、といった風ではない。白くくすんだ髪に、全身にまかれた包帯――
『痛々しい』という表現が似合う出で立ちだった。

「ああ、やっぱり……あなたから心の痛みを感じます。辛かったですよね、苦しかったですよね――ええ、分かりますよ。
あなたの気持ちは痛いほどよく分かります……」

と、少女は言う。白に話しかけているのだろうか。
話しかけるというより、単に言葉を投げかけているといった方が正しいようにも思えるが……。

「けれど安心してください。あなたはもう辛い思いをすることはありません。あなたの痛みは……私が引き受けましょう」

と、その包帯少女が言ったかと思うと……白は気づくはずだ。
今まで心の中にあった後悔、悲しみ――そういった『辛い』という気持ちが、何かに吸われるようにスーッと引いていくことに。

……あなたはこのまま『心の痛み』が引いていくことに身を委ねてもいいし、
抵抗しようとしてもいい。
631 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 15:07:58.81 ID:2nUuIj4j0
>>630
怪我をしている白い少女。全身を美しく着飾った白とは別種の痛みを感じられるもの。
しかしそれも立派な『白』であることに変わりない。
濃色は、他の色を塗り替えてしまうという。
過ぎた白色は、黒さえも魔法のように純白に塗り替える。

「気持ち悪いですわね」

覚悟して己の背負った辛さが取り除かれていくことに、白い少女は安心を感じない。
勝手に心を書き換えられるような気がした。
傲慢な純白の少女が、それに耐えられる訳もない。
辛辣な一言が、眼前の少女に向けて飛び出していた。

「貴方が私の痛みを理解できると。苦しみから解き放って救いを与えると。そういうことですか」

純白の少女は、ベンチからさっと立ち上がった。もう一人の白い少女に向けられるのは怒気だ。
笑顔の仮面を付けることもない、彼女を睨み付けている。

「ではお聞きします、貴方に私がこれまで行ってきたことの何が分かるというのですか?」

何が分かる、という言葉はよく悲劇のヒロインが言うようなマイナスの言葉として使われることが多いだろう。
しかし白い少女の言葉は、そんなネガティブな意味合いを持っていない。
単純に、私が今まで人を殺してきて。それを反省する気持ちの何が分かるのかと。
白い少女はそう聞いているのだ。
632 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/08(日) 15:28:06.64 ID:c7fOawU6o
>>627

風紀委員は治安維持のために尽くす人間である。
その為に殺人や傷害などに対し躊躇などなく、それらも罪に問われない。
真に『正義の味方』かと問われれば、そうでもないかもしれない。

「ふむ、守りたい人でありますか。」

此の学園都市内では治安は少なからずとも保証され、一般の生徒に危害が与えられることは極稀。
何故此の中で守ろうという決意があるか。
――もしや、と綾切は考えた。まさか、なんて思ったけど。

「もしや…、守りたい方と言うのは魔術師の方ではありませぬか?」

以前、魔術師に会った。自分たちは危害を与える存在だと語っていた。
なら、守りたい人物というのは魔術師なのではないか。
いずれの考えも少女の勝手であるし、彼が何を思っているかを考えて居なかった。

「いえいえ、全く変ではないでありますよ。」
「守りたい人を守るのは至極当たり前のことでありますし。」

恥ずかしいと感じている彼に対し、エール的なものを送る。
守りたい人物を守るというのは自分たちも使命にしているため、至極当たり前のように思えるのだ。
間違っては居ない。彼の考えは芯が通った、素敵なものであるように思えて。

「守りたい人の為にその身体を酷使なさるのは何故でありますか?」
「その守りたい方は学園都市で何かしようとしておられるのでありますか?」

此れが本題と言わんがばかりに彼に問いかける。
此処で何をしようとしているのか。情報蒐集の為に彼へと問いかけた。
最近の魔術師と能力者のきな臭い関係に対し、何か一つでも情報がつかめれば。
633 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 15:57:55.87 ID:S994usyFo
>>631

「気持ち悪い――ですか。ふふ、よく言われます」
と、包帯少女は罵倒されても気にした様子もなく。むしろ薄ら笑いすら浮かべている。

「ええ……私はあなたからあらゆる痛みを取り除きましょう。
……救い? さぁ? 与えるのは私の管轄外ですねぇ。でも、苦痛がなくなったらみんな幸せなんじゃないですかぁ?」

と、睨み付ける白の少女とは対照的に、包帯少女はにやにやと笑顔を浮かべている。
その言葉はどこか他人事で、無責任だ。
「こういうタイプも初めてですねぇ。痛みも辛さも人に押し付けて忘れちゃえばいいのに――痛みを抜かれて怒るだなんて」
とも呟く。

「これまでに行ってきたこと……? ああ、ああ! そうか、そうですね、私としたことがうっかりしていました。
あなたのこの『痛み』は一過性のものじゃなく、思い出に根差す傷だったんですね……ああ、ごめんなさい。
こういうのを河童の皮算用って言うんでしたね……安心してください。あなたの痛みは痛いほどわかります。
“それ”ごと取り除いてあげますから……ああ、怒りも心の毒。そちらも一緒に引き取りますね――」

間違ったことわざを使いつつ、包帯少女は言う。すると、
あなたの心の中の後悔が、今度は誰かを殺してしまったという思い出ごと……あるいは、そういう気持ちを抱くようになったきっかけごと、薄れていくのを感じるはずだ。

「ふぅ〜ん。人を甚振って、殺して……それを後悔してると。んー、別に普通のダメージのようにも思えますけどぉ……。
あー、でも確かに数が多いような気はしますねぇ。今までは一人殺しただけでもこの数倍は恐慌して錯乱するほどのダメージを負った人が多かったんですけどぉ」

と、純白の少女から肩代わりする思い出(ダメージ)を感じながら、包帯少女は呟く。
……あなたは、辛い思い出だけでなくこの少女に抱いていたはずの怒りまで薄れていくのを感じるはずだ。

『ストレス』が『何かに吸われるかのように薄れていく』。
それを『心地よい』と感じるか、『気持ち悪い』と感じるか。
今までの様子からすれば、純白の少女は後者だろうか。

痛みを抜かれて怒るだなんて――つまり、後悔の念を取り除こうとしたことで純白の少女が怒りを感じている、ということを分かっていながら。
包帯の少女はダメージを肩代わりしようとすることをやめない。……破綻している。

……実際には、『やめて』とでもお願いすれば、今までみんなからお願いされるばかりの人生だった包帯少女はすんなりとやめるわけだが、
果たして傲慢な純白の少女はその発想に行きつくのだろうか。
すなわち、気持ち悪くて、人の心を勝手に吸い取る、見るからに弱そうな存在に――『お願い』をしようだなんて、そんなことを考えるのだろうか?

あなたは考えてもいいし――考えなくてもいい。
考えた上で実行してもいいし――しなくてもいい。
もちろん他のことをしてもいい。次の瞬間いきなり家に帰って録画しておいたアニメやドラマを見に行っても、それはあなたの自由だ。
634 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 16:27:22.34 ID:2nUuIj4j0
>>633
「そうですか、貴方は私から人生の痛みを取り払おうというのですね。
私の人生そのものを、肩代わりしようというのですか」

純白の少女の怒気はますます濃くなる。彼女は自分の感情が操作されていると悟る。自らに眠る辛さが抜け落ちていくのを感じる。
リスクを負ってまで自らの殺した人間の、遺族の話を聞いてきた。
その苦しみを、悲しみを背負って生きていくことを白い少女は覚悟していたのだ。
それを勝手に奪われて、純白の少女が平気でいられる訳もない。
今までの遺族たちの苦しみが、悲しみが。それが純白の少女から抜け落ちる。

純白の少女の怒気はますます濃くなり、その怒りさえも吸い取られていく。
生きているように思えない仮面のような笑顔が戻りつつある。

「私の生きてきた負の感情を全部吸い取ろうなどと。貴方は盗賊以外の何者でもありませんわ。何て浅ましい!」

純白の少女は、眼前の少女の言葉をまともに聞き会話する余裕はない。
このままでは前と同じ、人を殺すことを何とも思わない殺人鬼に戻ってしまう。
このまま罪悪感や後悔、自責の念が無くなれば、そこにあるのは以前と同じ愉しんで拷問し人を甚振り殺す陽愛白しか残らない。

白い少女がそうなってしまえば、自らに失われた辛さを追い求めようともしなくなるだろう。
よくやりました、と眼前の少女を撫でる自らの姿が脳裏に浮かび白い少女の背筋に悪寒が奔る。

「いますぐ能力を停止させなさい、そして私が背負ってきた負の感情を返しなさい。命令ですわ!
 私の人殺しの人生は、誰かに肩代わりされていいものでは決してありません!」

白い少女は新たに沸いてきた怒りを頼りに、命令した。
この傲慢な少女がお願いすることはまずない。あるのは命令である。
命令を聞かなければ、白い少女は包帯を巻く少女に走り出し拳を振るうことも厭わない。
635 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/08(日) 16:48:34.77 ID:nC7oNIfPO
>>632
「魔術師...ですか...? そんな事は...」

でも、無関係ではない
"あの人"の生きてきた人生は魔術師との因果が切っても切れない
ただ、自分はあくまでも表向きは『学園都市在籍の学生』である
裏切ったとはいえ魔女狩りに所属していた経歴なんて秘匿されねばならない
特に、目の前の風紀委員の少女には────。

だから、乾は一見して疑問符を浮かべるような表情をした
魔術師とは、なんですか? ゲームか何かですか?
といった風な表情見せたのだった

もっとも、僅かな口調の変化や呼吸、視線といった差異に気付けば
綾切にも嘘をついているという確信でなくとも、違和感ぐらいは感じ取れるかもしれないが


「そ、そうですか!? ははは...なら、良かった...です」

なんというか、不器用な癖に張り切りすぎたのではないかと思っていたのだ
この筋トレだって、今までした事なかったのに急に初めてこのザマだった
心の何処かで、これで良いのかと迷いもしたと思う
そんな自分が正しいと、言ってもらえて嬉しかったのか、乾の顔が僅かに紅潮して目線をそらした

「──────何もしません。」

キッパリと、その質問の問いを言い切った

「俺には幸せになって欲しい人がいて、
その為に自分を磨いているんです。 その人の為に────。」

脚の痛みは引いていた
僅かに震えはするが大丈夫。身体を起こして立ち上がった
綾切を見下ろす様に、その視線を下に向けた

その視線は先程の迷いなんてない
その緑眼は強い、意志を映し出す鏡の様だ

「俺は、止まりません。学園都市が...世界が"あの人"の幸福を否定するなら
たとえ、他の何を犠牲にしても──────!」

それは、怒りに近いのか
彼の想い人はそこまでして幸福を否定されたのか
この街に、学園都市に、世界にさえも

事実、彼女は悪人で今生きる事実さえあってはならない
それでも、乾はその人の幸福を願った

何故かはわからない
初めて会ったときからだ。何故か彼女を知りたかった
ただ、たとえ理由(げんいん)が分からずともこの感情(けっか)はホンモノだ

「────。すいません...熱くなってしまいました...」

その言葉と同時にフラリと、乾は脚取りを近くの水道へと向けた
蛇口を捻り頭から水を流して気持ちを整える

水の滴る髪を振って、綾切の方を振り返った
その緑眼に宿る今なお熱い意志をヒシヒシと感じ取れるだろう
636 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 17:29:02.94 ID:S994usyFo
>>634

「そうですよぉ。みんなの“辛い”は私がぜーんぶ引き受けますから。
あなたもみんなも、“幸い”だけを感じていればいーんですよぉ」

今ちょっと上手いこと言えちゃったかも――と包帯の少女。
純白の少女の苦痛を肩代わりしながら、溢れる怒りを吸い上げながら、なおも笑顔を絶やさない。

「盗賊? それを言うなら掃除係ですよぉ。私はただ、『いらないもの』を回収してるだけなんですからぁ。
“辛い”を取ってあげた人はみーんな幸せそうな表情(かお)をしてましたよぉ。お父さんもお母さんもみんなも、誰に憚ることなく『苦痛』のない生活を謳歌してましたぁ」

『盗賊』、と罵倒されても気にすることはないが、同時に包帯少女にはその言葉の意味が理解できない。
その為だけに生まれてきた――と、思っているからだ。
『自分の人生は自分のもの』という当たり前を――人々の人柱として生きてきた、
祀られてきた彼女には理解できるはずもない。

「……命令?」

と、その純白少女の言葉を聞き。

「命令ってつまりお願いで、お祈りですよねぇ。弱りましたねぇ。私、お願いされたら断れないんですよぉ……」

と、意外にもあっさりと、拍子抜けするくらいあっさりと、能力の使用――つまり、肩代わりをやめた。
どうやらこの少女には『命令』と『お願い』の区別がつかないらしい。

「それにしても変わっていますねぇ……全部私に押し付けちゃえば楽になれますよ?
重い荷物を下ろしたみたいに――まぁ、お願いされたなら『返す』しかないんですけどねぇ」

次の瞬間、あなたの心には一気に『人を殺した思い出』『それによる後悔、罪悪感、辛い気持ち』『この少女に対する怒り』――
が、押し寄せてくることだろう。

「はい、これで全部です――『やっぱり取って』って言っても、もちろん引き受けますよぉ」

それとも全部一気に引き取っちゃえばよかったかしら。
どうせ全部忘れるし――とも、考える。しかし『お願いを断る』という発想は、基本的に包帯少女にはない。

//遅れてすみません
637 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 18:07:37.43 ID:2nUuIj4j0
>>636
「掃除屋、ですか……貴方は、私の過去を覗いてつらいと思わないようですわね」

白い少女は様々な相当酷い拷問をやってきたつもりだ、しかしそれを眼前の少女は何とも思わないらしい。
純白の少女にとっては腑に落ちないことどころではない。
普通の人間なら白い少女の拷問と殺人の記憶、それだけで気が狂ってもおかしくないだろう。
純白の少女の美しい仮面のような笑顔と似たようなものを、包帯を巻いた少女の笑顔から感じられた。感情が無い乾いた笑顔。

「罪悪感やその記憶を忘れたら、我欲のままに動く人間しか残らなくなるのではないのですか?」

簡潔に表すと、金の為に殺人を犯したとする。殺した後の記憶と罪悪感が消え、金だけが残る。
そんなことばかりが起こるのではないだろうかとぞっとした。
すぐにそんなことを思いつくのは、陽愛白として人を踏みつけて生きてきた証。
紛れもなく罪悪感が齎すものの一つ。

「もしかして、実は貴方には自分の意思というものがないので―――」

言葉の途中で返される記憶。
炎で燃やした、四肢を捥いだ、水で、薬で、ギロチンで。熱せられた鉄で。
その他にも様々な方法で白い少女は哂いながら、愉しみながら魔術師を、魔術に関わった恋人を、親友を殺していった。
その記憶がはっきりとした実感となって返ってくる。

その次に、そのことに対する罪悪感。切欠となった番町との決闘。
被害者の遺族に謝りにいきそこで感じた優しさ、悪意、蔑みの目。
白い少女が苦痛に感じてきた全てが返ってくる。

眼前の包帯少女への怒りなど、その二つに比べたら大したことはない。
こんなものが一編に襲い掛かったら、普通の人間なら発狂して首をつるかもしれない。
ショック死するかもしれない、少なくとも重度の欝状態にはなる。


―――――しかし白い少女は、どこまでも傲慢だった。


彼女は日本の大企業の社長令嬢だ。彼女は罪を背負いつつも学園都市を壊そうとしている。
彼女のメンタルは強い。今からも人は殺さなければいけない、そしてその被害者達の遺族の思いも背負っていく。
全ては組織からの粛清を防ぐために、大事な下僕を救うために。
白い少女には、それだけの覚悟があった。故に、怒りよりも先に、涙を流しながら少女は微笑み頭を下げる。彼女の精神力は常人のものではない。

「貴方のおかげで改めて、自らの行いを、罪を振り返ることができましたわ。
 少なくとも私にとっての救いはこれだけなのです、有難うございました」

命を奪う、ということ。その重さを、自らの罪深さを。そしてこれから行う行動の罪を。
改めて知ることができた。白い少女が怒りを殺して頭を下げた理由はそうであった。
638 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/08(日) 18:53:59.30 ID:c7fOawU6o
>>635

「ふむ、関係はないようでありますね。詮索して申し訳ないであります。」

彼の言動にどことなく違和感を覚える。
視線が何となく定まらぬようで、口調も辿々しい。わざとらしいような表情も含めて。
だが、敢えて其処は深入りせぬことにした。"一応程度の目星はついた"のだから。

「ええ、そうでありますよ?守り切るという覚悟が大切であります。」

迷いを断ち切り自らの道を進む人物は好きだ。
彼もそうなるのだろう。守りたい人物がいるからこそ自らの道を作り進まねばならない。

「――――本当に、そうでありますか?」

彼の言い切る様子に、遂に耐え切れなくなった綾切は突っ込む。
顔は如何にも不満そうな顔を浮かべて。

だが、彼の意見というか言い分は最後まで聴き通さねばならぬ。
彼の意見こそが、彼の発言こそが自らの刑罰の裁量を揺るがしかねんものとなる。
怒りに近い感情を彼は露わにする。本当に守りたい人がいるのだろう。

―――ただ、此の学園都市の平和は乱されてはならぬ。
魔術師が存在しようが、彼らがひと騒ぎでも起こさぬ限り攻め立てたりはせぬ。
それほどに綾切は常に中立で、争いごとを極力減らしてきたつもりだった。

「ほう、何かに熱くなられるのは素敵なことでありますな。」
「――ただ、一人のために学園都市が犠牲になるのは許されないことでありますよ?」

黒塗りの鞘が腰に提げられる。
綾切は立ち上がり、見下されるかのような視線に対して見返す。
そうか、最近きな臭くなっていたのは此の人"たち"が関与しているのではないか――

「…詳しくお話を伺いたいでありますよ。」

鯉口を切る。その行動の意味は―、すぐさま斬ることのできるように。
右腕は腹の前で待たせ、すぐにでも柄を掴めるような体勢にして腰を低く。
その眼は乾を射抜かんかのように鋭く細められて。

「貴方方はきな臭い何かに関与しているように思われます故…」
「風紀委員として貴方に問うでありますよ、"誰何<すいか>"?」

名前は聞いた、身分は恐らく一般生徒。
唯、彼はこの学園都市で起きている何かに関与している。一種の確信。
故に、風紀委員の権限を行使して彼に問うた。"何をしているのか"、と。
639 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/08(日) 19:25:58.18 ID:dfrG4qZJ0
>>638
「そうかな────? 彼女のような人を生み出しておいて救わない
終わらない怨嗟に耳と目を閉じるこの街も...世界だって、きっと許されない」

冷たい風が濡れた頬を冷やす
周囲には2人以外の人影なども見えない
無音、月明かりと街灯だけの公園を包んで、切り裂く様な殺気が2人を繋ぐ

その行動の意味を、乾は理解する
ここで言う訳にはいかない。自分達がするのは学園都市への反逆である
風紀委員の彼女に知られたら、全てが終わりだ

あの人と────白さんと過ごす日々が。

「────乾京介。あの人に仕えるただの下僕だよ」

何者か、その問いにはこう答えよう

既に体力は戻っている。少々キツい準備運動のせいだろうか
身体はいつも以上に温まって動きやすい
距離を測る────目測だがおよそ10メートル強。互いに駆け出せば数歩で縮まる距離だ
左脚を一歩引いて、脚に力を込める────いつでも駆け出せるように

「俺が願うのはたった1人の笑顔だけだ
その人の為なら俺は...血を浴びる覚悟だって...ある」

引き締まった右腕を前に出す
指先を伸ばした手刀の様な構え────何かの武道の構えだろうか
左脚を引いた結果、自然と相手に見せる面積を狭めている
だが、徒手空拳。素手では日本刀には抗えない

彼に素手で挑む程の技量があるというのか、それとも策が────。


血を浴びる覚悟があると、彼は言った
その真偽を確かめるか────否か?
640 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 19:45:35.70 ID:S994usyFo
>>637

「いえいえ――辛いとは思っていますよぉ。ただ、『この程度』の痛みは慣れっこってだけですぅ」

何とも思わない――というと少々語弊がある。
拷問と殺人の記憶――それは包帯少女にとっても苦痛に感じる。
――ただ、感じるというだけなのだ。

少女は生まれてから人のダメージを肩代わりし続けてきた。
傷も、痛みも、空腹も、罪悪感も、後悔も、絶望も、喪失感も、
眠気も、病気も、怒りも、恨みも、嫉妬も、劣等感も、欠損も、トラウマも、ストレスも、
恋煩いも、憂鬱も、プレッシャーも、不快感も。
一度に返せば町の人間全員が自ら命を絶つほどの罪を――その小さな肉体に背負ってきた。

ゆえに、たった一人の人間の痛みなど、『その程度』――かすり傷でしかない。

「そうですねぇ。罪悪感がなければその人は好き勝手動くでしょう。他の人を踏みにじって生きるかもしれません。
……でも、それの何が問題なんです? 踏みにじられた他の人の痛みも――ダメージも、全部私が引き受ければいい。
加害者に罪悪感や後悔が湧いても、私が全部取り除けばいい。
……ほら、これでみんなから『辛い』がなくなる。みんなが幸せで、平和な世の中になるでしょう?
実際、それで私の故郷もみーんな幸せに暮らしてたそうですし」

にっこりと、そんなことを言う。
自分を度外視している――そして、それによって他人が歪むどころではないということも、やはり度外視している。
『みんなの人生から不幸を取り除けば、幸せだけが残る』――そんなことを、本気で信じている。
善意というには悍ましすぎて、悪意というには自己犠牲的すぎる。
純粋というには濁りすぎていて、歪んでるというには真っ直ぐすぎる。

「んー、やっぱりあなたから辛さやら何やらがものすごく伝わってくるんですけど――それがあなたの幸せで、救いなんですねぇ。
痛くて幸せだなんて――こういうのをなんていうんでしたっけ? ま……まど……まず……まずい人?」

マゾヒスト、と言いたいのだろう。

「まずい人が人を甚振ろうとする、なんてこともよく聞きますしねぇ。『自分がされて嬉しいことをしろ』でしたっけ?
……まぁ、でもお礼を言われて悪い気はしませんね。どういたしまして」

と、少女は嬉しそうに――さっきからそうだったが――答える。
しかし、やはり少女は腑に落ちない。
罪を振り返ることができたなら――ますますそれを手放したいと思うのではないのか?
人を殺した事実は消えなくとも、それを忘れてしまえば――それはもう、何もなかったのと同じではないのか?
辛い思い出なんかその辺の私に押し付けて、のうのうと幸せに暮らしてしまえばいいんじゃないか――と、そんな風に思っている。

「そういえば、さっき何かを言いかけていましたねぇ」

と、包帯は思い出す。

「『貴方には自分の意思というものがないので―――』……私に自分の意思がない、ってことです?
あはは! それは丸っきり勘違いですよぉ!」

「だって私は自分が何のために生まれてきたかまで分かっちゃってるんですから!」

と、少女は笑う。

「私はみんなの不幸を全部引き受けてみんなを幸せにするために生まれてきました。
私の名前は贄川身供。生贄になるために生まれた、生来の人身御供です♪」

私だけが不幸になる――ということを言っているのに、楽しそうで。
自分のことを生贄と、人身御供と呼んでいるのに、嬉しそうで。
へらへら笑うその姿は、どこまでもどこかがずれていた―――

なるほど、確かにこの少女には自分の意思がないのかもしれない。
641 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 20:45:57.30 ID:2nUuIj4j0
>>640
「この程度、ですか。貴方からしてみたらそうなのでしょうね」

純白の少女は納得する。体験したことを肩代わりできるなら
白い少女より悲惨な人間の記憶を肩代わりできてもおかしくない。
少なくとも自分が一番この世で不幸だとは、全く白い少女は思っていない。
純白の少女は涙が止まり、再び仮面のような美しい笑顔が浮かんでいた。

「まあ、貴方の存在によって救われている人間がいるのなら私が止めることはありませんわ。私にとっても良い機会でした。
ただし了承も得ず精神を侵すのはやめたほうがよいかもしれませんわね。私のように感じる人間も世の中には居ますから」

純白の少女は微笑みながら話す。人の悪意というものは恐ろしいが、人の善意というものも十分に恐ろしい。
少なくとも精神を侵されたら白い少女の計画は完全崩壊だった。独善というものだろう。
相手の行動は否定せず嗜める。こういう言い方を白い少女は好む。

「貴方は知りませんが私はサディストですわ。人を甚振って愉しみはしますが自分の心の痛みに興奮するような変態ではありません」

白い少女は自分を棚に上げて話す。これは他人の痛みや不幸が蜜の味な変態が言うことではないだろう。
この程度のことで怒らないのは少女の器が広いためだ。感謝の気持ちもある。
そもそも誰かと話をして気持ちに整理を付けようとしていた所、純白の少女にとっては収穫である。

「人身御供ですか。貴方、私よりずっとかわいそうですわね。私の名前は陽愛白。私が所属していた組織、学園都市の魔女狩りを壊す者ですわ」

白い少女は笑顔を深め、既に名は知られているかもしれないが自己紹介をする。
白い少女の罪悪感の記憶を覗いているなら魔女狩りは知っているはず。
彼女は何の躊躇いも無く秘密を暴露した。

「私は貴方の精神を蔑む気にもなりませんし正す気にもなりません。
 ただ貴方は魔女狩りについて口外してはいけませんわ、『お願い致します』私が困りますから」

残念ながら、同情はしてもここで間違っていると正義感に燃えるほど白い少女は善人ではない。
そして彼女に手を差し伸べる気にもならない。
白い少女が考えるのは、自らの計画が崩壊しないことだ。
そして眼前の少女の性質は分かっている。白い少女は美しい仮面のような笑顔の口角を吊り上げ笑っていた。
殺すつもりはないが、話す気がしないように脅す手間が省けてありがたい。
642 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/08(日) 21:44:48.28 ID:c7fOawU6o
>>639

「それでも良いのでありますよ。今回っているのはこの世界。」
「其れを壊そうというのなら立派な行使事由になり得るでありますな・・・」

彼女のような人、とは一体どのような人だろうか。
分からない。だが、彼も必死だ。彼女のことを庇おうとしているのだろう。
だが、其れは立派な権力の行使事由になり得る。風紀委員の権力の。

「ほう、下僕でありますか――」
「―――――なら、洗いざらい吐いてもらうであります。」

殺気が公園内に溢れんばかりに張り詰める。
彼が彼女の下僕というのなら、すべてを知っているはずだ。
否、知っていなければ可笑しい。でなければ自らの身体を自らで壊そうとする必要もない。

「血を浴びる覚悟があるのなら、そうさせていただくで―――ッアア゛ッ!?」

刀を抜いた。綾切は刀を抜いたのだ。
黒い鋼の塊の其れを、刃が黒く光を撥ねさせる其れを。
その途端、彼女は苦しみだし、呻きだし地に背を預けてしまった。

暫くしてムクリとその身体が起き上がる。
刀を杖にするようにして、「よっこらせ」なんて古ぼけた言葉とともに立ち上がり。

「うーん、此の身体は久しぶりねぇ・・・。」
「あら、貴方が"あの子"の相手?意思は強そうな子ね、うふふふ・・・」

突然、人が変わったようになってしまったのだ。
綾切は所謂"多重人格者"というもので、彼女の"負"の側面が今の人格。
自分の身を守るために、敢えて此のようにして精神の崩壊を防いでいた"過去"があったのだ。

「其れじゃあ、行くわよ?」

突如、綾切は自らの手首を斬る。
赤黒いがぼたぼたと地面に落ちる。刀にその血を這わせて。
すると刀が熱を持つ。地面に落ちた血も同じく熱を帯びて。

「そうね、貴方の言った通りにしてあげるわ。」

と、十分な程度の量の血が刀から水滴状になり彼へ襲いかかる。
相当な熱を帯びた其れは彼の服を、身体を灼こうとする。
綾切も跳ねる水滴に続き、刀片手に彼へと疾走った。
643 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 21:46:34.57 ID:S994usyFo
>>641

「あー……そういえばそうですねぇ。
今までは私のところに人が来て、『治してください』――ってお願いされてきたから、辛そうな人を見かけたら即座に全部引き取っていたけれど……
そっか、私の方から出向くとなると、勝手が違ってきますよね――反省です。次から心の痛みを取る時は気を付けないといけませんね……」

と、純白少女の言葉を受けて反省する。
包帯の少女は外見も白いが――あるいは、中身も白紙なのかもしれなかった。
……純白少女のそれを『その程度』と言ってのけるほどの傷を背負ったものを『白紙』と呼べるなら――の話だが。

「サディスト……人を甚振るのが好き? んー、でしたらますますどうして……?
『自分の苦しみが消えて』『他人を苦しめられる』……だなんてまさにいっせき……一朝一夕?
あー、一粒で二度おいしい、みたいな感じなんじゃないんです?」

純白少女の説明でサディストの意味を理解するが、それによってますます分からなくなる。
辛い気持ちが心地よいわけでもない。むしろ他人の苦痛が愉しい。
だったら尚更私に痛みを押し付けない理由が分からない。

「かわいそう? あー、たまにそういうことを言いに来る方もいらっしゃいましたねぇ。
……治してあげたらケロッとした顔で帰って行ったので、一時の気の迷いだと思うんですけどねぇ」

可哀想――『同情』ですら、この少女はダメージとして肩代わりしてきた。
だから誰もが躊躇なく少女にダメージを押し付ける――悪循環。

「よろしくお願いします陽愛白さん。魔女狩りを壊す、ですか。頑張ってくださいねぇ。
折角壊したそれを私が治しちゃってたら残念だったと思ってください。……その時は相談にも乗りますよぉ」

包帯少女に善悪の区別はない。
相手が正義の味方だろうと、悪の大魔王だろうと――傷ついていたならそれを肩代わりする。
それだけだ。

「……? それはそうでしょう。私の精神には蔑むところも正すところもありませんよぉ?」

と、きょとんとした顔で言う。
悪意ならば正しようがある。間違った善意でもまだ大丈夫だろう。
だが、習慣を――『当たり前』を正すのは容易ではない。

「……ええ、分かりましたぁ。うふふ、早速弱点を突いてきますねぇ。
そういうの大好きですよぉ。その願い聞き届けました――決して誰にも言いません」

お願いされない限りは――と、包帯少女。
包帯少女も笑顔だが――営業スマイルではなく、にやついているといった風だ。
……思えば、最初から純白少女の『笑顔の仮面』とは違った種類の、
『気味の悪い笑み』だったようにも思える。
644 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/08(日) 22:27:24.40 ID:2nUuIj4j0
>>643
「ええ、それなら問題なく大丈夫です。望む人間には歓迎されるでしょうね」

純白の少女は大きく頷き内心でうまくいったと思う。これで学園都市を無気力な人間が徘徊することはなくなる。
人にはそれぞれ信念がある。そこを否定せずにうまく誘導するのは大事だ。
これ以上の譲歩は難しい上にリスクが高いからしない。心の痛みを望む人間が居るならそれは弱い人間であり自業自得と言わざるをえない。

「一石二鳥ですわね。私の心理は理解しなくて良いですわ。私も貴方の心理は理解できませんし、人間とはそのようなものです」

白い髪を指先でくるくる回しながら、包帯少女に正しい四字熟語を教える。
他人の考えをを理解できないが外見、仕草や話し方で行動パターンを推測はでき、白い少女はそれを得意としていた。
伊達に色々な人間を見ているだけのことはある。

「贄川さんこれから宜しくですわ。争いは恐らく貴方の知らないところで終わっているかと。
しかしその後の争いでは活躍できるかもしれませんね。その時心の傷を治したい方が居れば相談しますわ」

魔女狩り壊滅は魔術師の手によって行われる。
しかし魔術師の様子がおかしいのも事実、魔女狩りを滅ぼした先には間違いなく何かがある。学園都市全体を脅かすような何か。
そこなら包帯少女も活躍できると白い少女は思った。まあそのような地獄を白い少女は防ぎたいと思っているのだが。

「私と貴方はビジネスライク―――――持ちつ持たれつな良い関係を築きたいですわね。貴方の能力は有用ですわ。
 私は有能な人材が好きです。死んだほうが良いという悩みを抱える人間は確かに居ますから」

その時お金を要求するなら払いますわよ、と白い少女はあくどいことを言い始める。
気味の悪い笑みも、社長令嬢であるため見慣れている。相手が有能ならば何の問題もない。
金なんていらないという返事が安易に想像できるが、念のためだ。白い少女は彼女の能力が解けるということを知らないが
辛い過去で自殺しそうな人間が居て死ぬくらいなら吸い取ってもらったほうが良いだろう。死ねば全て終わりだ。

「再度礼を言いますが己の罪と向き合えたのは貴方のお陰です。今日は有難うございました。存外に楽しい時間でしたわ、御機嫌よう」

白い少女はワンピースのスカートを両手で持つと優雅に一礼し、身を翻して公園を後にした。

良い人脈が作れた、と内心で思いながら、白い少女は離れていく、そして数時間後。

「ぐすん。流石にこの私も狂うかと思いました……」

十分に包帯少女と離れた所で、一気に襲い掛かってきた魔術師を拷問した自らの罪にまた涙を流すのだった。
白い少女、陽愛白はメンタルは強いものの――――


――――――弱い面を他人に見せないだけで人間らしい感情を持つ少女だった。


/面白いロール有難うございました!
645 :贄川身供 ◆KbIx8a9Zys [saga]:2016/05/08(日) 23:40:04.29 ID:S994usyFo
>>644

「一石二鳥――ええ、覚えました!
んー、それもそうですねぇ。私は人の痛みは痛いほどわかりますけど、痛み以外は分かりませんし……そういうものですか」

純白の少女と対照的に、他人の痛みを肩代わりすることによる優れた共感能力を持つ包帯少女だが、
痛みは痛いほど分かっても、その痛みが相手にとってどういうものかは理解できなかった。
色々な人間を見てはきたが――その人間性の形成に不可欠な『ストレス』は、みんな余さず吸い上げてしまった。

「よろしくおねがいしますぅ。私戦ったりはできませんからねぇ。
戦士の傷を癒すのは私の出番ですね、お任せください!」

魔女狩りが壊されれば、関係者は恨むだろう。
争いの中で、多くの人間が傷つくだろう。
あるいは無関係な民間人すら巻き込むかもしれない。
勝者すら、あるいは喪失感のようなダメージを負うかもしれない。

――そんな痛みを、全部引き受けてあげたいと、そう思った。

「びじねす? よく分かりませんけど、ライクってことは好きってことですね?」

この場合のライクは『好き』ではなく『〜のような』である。
世間知らずここに極まれり、といったところか。

「そうですねぇ。良い関係を築くのは良いことですよねぇ。
もちろん、『死にたい』だって――何だったら既に実行しちゃって『死にそう』だって引き受けますよぉ」

今回は見せていないが、この口ぶりだと肉体的なダメージも肩代わりできるのだろう。
……全身が包帯なのはそれゆえか。

「お金? ああ、お賽銭のことです? 別に払いたいというなら断りませんよぉ。
――あ、でもそういうお金はお父さんやお母さんが回収するんですよねぇ。でもその肝心のお父さんもお母さんももういませんしぃ……
じゃあお賽銭を払ってもらっても意味はないかも?」

と、神社の神様のようなことを言う包帯少女。
実際に神様扱いされていたのだからこの反応も無理はない。

――神様は神様でも厄雛のような、人々の苦を押し付けるために祭り上げられた存在だが。

「いえいえ、どういたしまして――それにしても、強い方ですねぇ。ええ、ごきげんよう」

他人にとっての痛みの重みは分からずとも、その単純な大きさは分かる。
感情を押し殺し、我慢しようとする反応もストレス――即ちダメージだ。
『お願い』されたので肩代わりしたりはしないものの――そんな感情を感じ取り、思わずそう呟いた。

ついでにごきげんようという挨拶も覚えた。

「そーいえば……」

白い少女と別れた後で、ふと、贄川は考える。

「私の能力――生物からも無生物からも、如何なるダメージでも吸い上げられますけど……
でしたら、『生物の死体』からダメージを肩代わりしたらどうなるのかしら?」
「即死――『死』っていうのは、もちろん言うまでもなくダメージです……では、『それ』をもし私が肩代わりしたなら?
んー、どうなるのか気になりますねぇ……」

純白少女の大量殺人の記憶から、そんなことを想う。
死んだ人間がお祈りに来ることなどなかったので、今までそんな発想には行き付かなかったが――もしも、『供犠漬け』が人の死すら背負える力だったらどうだろう。
純白少女との出会いは、贄川身供に生贄としての新たな道を拓かせるきっかけになりそうだった。

//ありがとうございました!
646 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/05/09(月) 02:55:25.43 ID:C8N2pDk/0
>>371>>372

ぴょんぴょんと眼鏡を外した宙が何度もコートの上で跳ねる。差し伸べた手の僅か上を、揄うようにライターが浮遊する。
それを操るのは、腕組みした依織の指先。依織も宙も同程度の体格であるので、それ以上の高さに持ち上げてしまえば文字通り手が出せない。
意地悪のようだが、どちらも本気ではないのは傍目にも分かり易いだろう。
依織がその気なら見えないところに隠せるし、宙の片手の煙草から灰すら落ちない程度の動きからも其れは明白。

「……まあ、健康に気を遣っているのは結構な事ですね」「長生きに関しては僕はまぁ諦めてるかな」


自他ともに認める、人好きのしない性格の依織からすれば、皮肉も説教も効き難い相手というのは至極厄介なものである。
どうせならその視線を先程から向けている方に絡んでくれれば良いのにと思わなくもない。
その願いが通じたのか、結局諦めたのか、跳ねていた割には額に汗をかいた程度で、息も乱さず口を挟んでくる相方のおでこをこつんと指で弾く。
あうぅ、と額を押さえる宙が、ふと思い出したように番長に向き直った。

「で、番長さんは何か用? 僕ら今から訓練するところだけど」

携帯灰皿に吸い終わった一本を捩じ込み、話の本筋を強引に引き戻す。この手の会話は見た目の割に宙の方が向いている。
眼鏡を外して屈託ない笑顔を向けるプライベートの姿は、同じ風紀委員たちでも普段あまり見かけないものだ。
質問については依織も同じく思うようで、腕を組んで壁に背を預ける、興味がない風を装いながらも耳だけはしっかり二人の方に向けているのだった。


/連絡も無くとんでもなく遅くなって、申し訳ありませんでした……
/一応お返ししておきます、勿論切ってくださって構いませんので……
647 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/09(月) 06:59:40.41 ID:+olTR9D90
>>642
「────────。」

変化する言動、まるで人が変わった様な
演技────ではない。 する意味がない
だとすれば、多重人格か。先程までの人格と戦闘用の人格を使い分けているのか

彼女の滴り落ちる血液が熱を帯びて火を発している
血液を媒介とする能力か

血を消費する以上、時間が経てばこちらが有利になる

「────来いッ!」

綾切が駆ける、乾はその場で動かず迎え撃つ
その素手のままである右腕を────その日本刀へと伸ばした
受け流し、と言うほど上手なものではない。ただ弾こうとする
刃がある、触れれば切断され、皮膚を焼く炎の刀へと臆さずに

──────だが、切断されなかった
ガキィンッ!! とまるで金属同士が叩きつけられた様な打撃音
その異常な感触は刃から綾切の手にまで響くだろう
刃は弾かれていた────何か硬いもので防がれた

「刃こぼれ...っていうのかな? その刀、いつまで耐えられる?」

それは、乾の右腕の皮膚を内側から食い破る様に存在していた
手の甲から生える様に刃があり、肩のあたりには脈動する機関部
────チェーンソー。人体と融合して、原型をとどめてないが分かる
乾の右腕に鋼の自動式鋸が内蔵されている────!

まるで不気味なサイボーグだ。人どころか化け物の様な
ドッドッドッ、と乾の肩辺りに見える機関部が再び音と煙を吹く
同時に、チェーンが音を上げて回転を始める────!

「──────ッ!」

乾もその機械の様な右腕を突き出して迎え撃つ
狙うは彼女の日本刀────!

目測では誤差はあれど互いのリーチはほぼ同じ
日本刀と、チェーンソーの異色な勝負なんて見たことないが...

相手の力量はきっとこちらを上回るだろう
経験の差で負けていても、武器を破壊できれば、こちらにも勝機がある────!

/遅れてしまって申し訳ないです...!
648 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/09(月) 18:56:45.03 ID:q3LYcMpq0
風船のように学園都市を彷徨う少年、大木陸。
彼はいつものように学ランを着たままストレス発散のために同じ行為を続ける。
商店街、公園のような人が多い場所も、路地裏のような人が少ない場所も。
どんな場所もふらふらと、足取りは風船のように不安定のまま彷徨っていた。
彼の表情は暗い。彼の心の中は今まさに風船のように不安定だった。

「……俺は、どうすればいいんだ?」

学園都市の闇。暗部。サークル。そして人殺し。
大木は暗部の能力者に2度負けて、圧倒的な実力差を見せ付けられた。
何より大木の心に影を落としているのはサークルの鉢頭摩の言葉だ。

「学園都市の殺し屋。邪魔な存在を殺す、か」

大木は困っている人を助けることが1番の信念である。
しかしそれと同じぐらい、大木を変えてくれた学園都市に感謝をしていた。恩返しをしようとしていた。
しかし暗部という組織が学園都市に半ば公認されているシステムだったのなら話が変わってくる。
大木本人は学園都市の平和を守っていたつもりだったがそんな訳ではなかった。やはり何の罪もない人間を助けた訳ではなかった。
むしろ邪魔をしていた、そのことが一番ショックだった。黒縄の言葉が思い出される。

「一度決めたことを貫き通せない奴は、だっけ。俺には何が正しいのかもう分からないよ」

大木は路地裏で、コンクリートを背にして凭れ掛かる。少し歩きすぎた。疲れた。
しかし彼の嘆きはいずれぶち当たることだ。
困っている人を助ける、その結果学園都市が危機に陥ることはあるかもしれない。この二つはまるで別のものだ。
実際大木の助けたい存在には、彼も正体を知らないがエリーゼやソレスという魔術師が入っている。

「また奴らの邪魔をするのか?学園都市にとって有害な存在を庇って。
俺の偽善に巻きこんで半公認の存在の邪魔をするのか?そんなことなら確かに最初から関わらないほうがいいじゃないか!」

路地裏で、大木は叫ぶ。どうすればいいのか分からない。
そうだ、全てを忘れて幸せに暮らそう。自らの心の中の炎なんか忘れて。
困っている人を助けるなんて信念を忘れて一般人に戻ろう、大木はそう思う。

――-――――――大木の心の中の炎は、消えかけていた。
649 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/09(月) 19:59:47.87 ID:FKSI1A9no
>>647

此の能力の最大の欠点は血を触媒とすること其の物。
血を消費することにより酸欠や失血その他諸々の弊害が起こる。
だから、血の消費は慎重に、時に大胆にせねばならなかった。

「ええ、言われなくても?」

刃は熱を帯び、遂には赤黒く変色を始めていた。
本来であれば融点を超えているはずの刃はなぜか形を保つ。
―――此の刀は特殊なのだ。綾切の血の力である"侵食"を物ともしない。

その刃を振るう。彼の右腕に向けて。
振り下ろされた刃は軽々と彼の腕を灼き、溶かす―――筈だった。

「――――――ッ!?」

金属同士が高速で衝突したかのような音が響く。
腕に響く激突の感触は腕にまで響き、筋肉は痛みを訴えた。
弾かれた刃は勿論撥ね上げられ、身体は後ろへと下げられる。

「ふふっ、なかなかおもしろい能力じゃないの。」
「私の刀は刃こぼれなんかしないわ、何せ黒鉄で作られたんですもの―――!」

彼の手の甲から刃が生え、肩には駆動部が伺える。
機会にあまり長けていない綾切は其れを不思議な能力としてとらえた。

此方の得物を狙い、チェンソーを振り回す彼。
――敢えて、乗ってやることにするか。

「――――ふふっ」

刀の刃がチェーンに触れる。
鋭い金属音が辺りにバラ撒かれ、火花を上げる。

だが、綾切の得物は其れに屈することはない。
未だ刃は強度をそのままのものとし、生じる熱に刃は負ける気配すら見せない。
―――それどころか、チェーンに刃の表面に垂れる血が付着している。

彼は其れに気づいているだろうか。
チェーンが回転する中、綾切は能力を解放する。
チェーンの表面から火が上がり、彼の手を焼かんとする。
650 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/09(月) 20:33:17.69 ID:+olTR9D90
>>649

「────ッ 思ったより、硬い!!」

互いに弾かれる武器に、乾は舌打ちをする
武器を潰す魂胆は難しいようだ
駆動するチェーンと日本刀の鍔迫り合いに飛び散る火花が、周囲を照らす

技術も経験も劣る自分では、勝ち目は薄い
この能力だって、積極的に使ってきた訳ではないのだ
どうしても、相手との実力差で押し負ける

その焦りのような思考か原因だろう
鍔迫り合っている際に自身のチェーンに彼女の血が付着する事には気付かなかった
────だが、彼女の能力がチェーンソーを火で包もうとしてようやく気付く

「────なっ...クソッ!」

火が、腕に────。
彼女の赤い血が、赤い炎がチェーンを伝って自分の体に────。

そう認識した瞬間に乾は鍔迫り合いをしている綾切を突き飛ばすように力尽くで押す形で
鍔迫り合いを解き、後方へと駆けようとするだろう

血が、炎が....熱い。消さなければ────。

走る先に見えるのは、先程乾が使用した水道だ
火を消し切れるか分からないが、この燃える血を洗い流せば────と、考えているようだ

2人の距離は数メートル、追いつけない距離ではない
だが、乾もそれに気付いているだろう
これは逃げ切って水場へ辿り着く賭けなのか────それとも。
651 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/09(月) 21:04:06.99 ID:+50KDnJdo
>>648
「えーっと、さっきこっちの方から……あ、いたいた」

1分も経たない内にひょっこりと現れたのは、大木よりも少し身長の高い少年。ニコニコとしながら近づいてくる彼は、長い前髪で顔の上半分が隠れており、口元でしか表情を窺えない。
更に服は上下共に使い古されよれよれ状態で、そのはっきりとわかる見窄らしさのせいでまるっきり不審者の様相。
しかし、不審者じゃ無いのでは?と勘繰る要素がひとつある。それは少年の腕にある腕章、皺だらけで如何にも手入れされていない風だが、確かにそれは風紀委員のもので。

「叫んでたみたいですけど、何かありました?誰かに何かされたなら僕、今からでもその人追いかけましょうか?」

大木に向けてかけられた声もまた、風紀委員に相応しい台詞だろう。
まるで無警戒な足取りで歩いて近寄ると、覗き込むようにヒョイと上半身を傾ける。前髪の鉄壁ガードで変わらず目元は窺い知れないが、その声音には明らかに心配そうなものが混じっている。
恐らくこの少年は、大木が襲われたなり引ったくりなり何なりの被害に遭って叫んだのだと思っているのだろう。実際、路地裏で叫ぶ者はそういった被害に遭った人が大半なのである。

「……それとも、他の何かだったり?もしそうなら道案内でも探し物でも、風紀委員の規則から外れない程度になら何だって協力しますよ」

今のところ、この少年の口から敵対的な言葉は一切出てきていない。
それは少年が風紀委員であるという裏付けには足りないかもしれないが、少なくとも周辺を屯する不良などのような悪どい存在では無いと思わせるには充分だろう。
笑顔で語りかけるこの少年に、大木はどう反応するだろうか?

/よろしくお願いします!
652 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/09(月) 21:24:25.69 ID:q3LYcMpq0
>>651
「……っひ!」

路地裏に現れた人物相手に、大木は震えて膝を抱えて小さくなりそうになった。
彼の心の中には恐怖があった。その恐怖に貪り食われそうだ。
自らが変貌していくかもしれない恐怖。そう自分からは逃げたくない。
しかも大木は目の前で男が苦しみ死ぬのを見ている。心優しい彼が心を痛めるのも仕方ない。
大木が勇気を出して顔を上げると、そこに居たのは風紀委員の紋章をした人物。
大木のことを心配げに覗き込んでくれている。

「風紀委員の方ですか、ありがとうございます」

ほっとして心の重たいものが取れた気がした大木。風紀委員という憧れの存在に敬語を使うが大木は笑顔だった。
相手の少年は暗部と違って正式に認められている治安維持組織だ。
大木にとっては正に正義の象徴、彼が安堵する理由は簡単だろう。

「えっと、あの……」

しかし己に起きた事を言うべきなのだろうか、と考えて大木の言葉が止まる。
風紀委員に余計なことを口に出したら彼も自分も暗部の殺し屋に殺されてしまうのではないか、そういう心理が働いたのだ。
大木が口ごもるのも無理はない。

大木は目の下に隈を作りひどい顔をしていた。
風紀委員の少年の観察眼が鋭ければ、大木が犯罪に巻き込まれたかもしれないことが分かるかもしれない。
653 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/09(月) 22:10:58.46 ID:+50KDnJdo
>>652
一度悲鳴じみた声を大木があげたため、一歩下がって、安心して話せるように距離をとる。暴行の被害にあったばかりの者などはこういった反応をとりがちで、大木も"それ"かと一瞬考えて。
しかし違うと気づく。何故ならやつれた表情と目元の酷い隈、数日かけて出来上がっただろうそれらは明らかに、被害に遭いたての者とはかけ離れている。
……これは、「不良相手に手酷く痛めつけられた」程度では無いだろう。

「……あぁ、あぁ、大丈夫です、安心してください。こんなですけど僕、口かたいですから」

言い淀み、躊躇う大木を安心させる為に極力優しい声を出す。
察しの悪い渡は、何故口ごもるのか明確な理由まで思い至らない。しかし、何やら此方を心配しているような、そんな雰囲気は感じ取る事ができた。
別に、そんな心配などしなくても良いのだ。一般人相手にならいざ知らず、風紀委員にまで心配の矛先を向ける必要はない。
何故なら、風紀委員とは本来市民から頼られるべき存在であり、市民から心配される存在ではないのだから。だがきっと、この少年はそんな存在ですら心配してしまうのだろう。
ならば、少年が自分を頼ってくれるよう差し向けるのが、今自分がするべきことでは無いだろうか。

「何かあったんでしょう?遠慮なんてせず話してみてください。さっきも言いましたけど、僕なんかで良ければ何だってお手伝いしますから」

市民の手助けこそ、風紀委員の本業ですよ?そういって笑う少年。
頼りなさげな笑顔だが、言葉だけは一丁前に頼り甲斐のある人物のそれだった。
654 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/09(月) 22:31:48.75 ID:q3LYcMpq0
>>653
「有り難うございます、分かりましたお話します。俺の言った事は口外しないで頂けると助かります」

大木は自分の身に起きた事件を話すことを決意した。ここで出会ったというのも何かの縁だろう。
少なくとも風紀委員全体に広まらないのなら、大木が殺されることを心配する必要がない。
独自にこっそり調べてくれるだろうか、そんなことを大木は考えた。
証拠がなく信じてくれるだろうか、大木が考えるのはそれだった。

「男の人が、能力で殺されるのを見ました。苦しんで、俺の目の前で命が失われていったんです……」

大木は自分が体験したことを語り始めた。警察と被害者のような構図、どちらにとっても他人事ではない。

「犯人の顔は見ました、にやついた顔で笑いながら俺を甚振って来て、俺のせいで死んだなんて責めて来て」

苦しみを少しでも吐き出そうと吐露していく、涙と嗚咽が大木にはあった。
彼のお前のせいで死んだという言葉を大木は気にしていないように見えて、はっきり気にしていた。
心優しい大木が心を痛めた原因の一つ。

「俺が怒って能力で捕まえようとしたんですが、手も足も出ませんでした。彼は鉢頭摩影郎
と名乗り、サークルという暗部組織で学園都市にとって害がある人間を殺していると」

その時の怪我がこれです、と大木はナイフに抉られた右足を差し出す。彼の傷は痛々しい。
大木という一般人が立ち向かったのは無謀であり風紀委員に怒られても仕方がない。
しかし大木は嘘をつかなかった。優しい風紀委員に対し誠実に答えた。

「彼の言葉がどこまで本当なのか分かりません、しかし俺に名前を明かし殺さなかったのはそういうことなんだと思っています」

名前を明かしても構わない、なぜなら学園都市の上層部が握り潰すから。
風紀委員に知られても構わない、そういうことだろう。
655 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/09(月) 23:23:17.68 ID:+50KDnJdo
>>654
「鉢頭摩影郎、サークル……暗部組織、ね」

重要な項目を頭に刻み込んでいく。
暗部組織については、噂程度に聞き及んだ事があった。学園都市にとっての害悪を、密かに消す何かしらの組織があるらしい、と。
この少年が話す事が真実だとしたら、それは、大変な事では無いだろうか……それこそ、自分には扱いきれないレベルの。
しかし、少年が誰にも言ってくれるなと前置きした。ならば誰か他の人に頼るという行為は、風紀委員として自分を信じ頼ってくれた彼を裏切る行為に他ならない。

「……君はきっと、目の前で誰かが傷つくのを見ていられないような、優しくて勇敢な人なんだろうね。それは素晴らしい事だよ、だけど、次からは––––––」

痛々しく、生々しい少年の足の怪我を見て思う。出来ることならば、風紀委員でないだろう彼に無謀な行動は控えて欲しい。
よくない考えなのだろうが、一般人である以上、知らぬ存ぜぬを通して無視してしまっても良いのだ。だがきっと、目前のこの少年にはそんな言葉は通じない。

「–––––––––次からは、そうだなぁ。"それらしい場面"を見かけたら、声をかける前に僕に連絡してくれると嬉しいかな?」

少年の正義感による行動は、結果がどうであれ悪いものではないのだから。悪くないのに叱るというのは、子育てにおいても人間関係においても、悪手の場合が殆どなのだから。
渡は決して怒らない。ポケットからスマホを取り出して微笑みながら、"これに連絡してね"とばかりに振ってみせるだけ。

「––––––それから、そのとき亡くなった人だけど。僕は君のせいじゃないと思うなぁ」
「だってホラ、鉢頭摩って奴は害がある人間を『殺している』って言ったんでしょ?最初から殺すつもりだったんだ。君はただ、タイミング悪くその場に居合わせちゃっただけだよ」

渡の声には、大木を非難する感情は一切込められていない。あるのはただ、真摯に人の話をきく姿勢の表れである真面目さと、中々上手い言葉をかけられない自分に対する自己嫌悪。
こんな事ならば、もっと人間関係をしっかりと持つべきだった。ふらふらと根無し草を続けてきた過去の自分を責めながら、渡は大木から告げられた"自分では到底抱えきれない問題"を自分だけでどう対応しようか頭を抱えたい気分だった。
656 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/09(月) 23:41:54.77 ID:FKSI1A9no
>>650

「ええ、何せ特注品ですからぁ・・・」

此の特注の刀は折れる気がしない。
それだけ硬いのだ。黒鉄の硬さは只者ではないと改めて確信する。

「あららぁ、戦っている間はいろんな事に眼を向けなきゃダメよぉ?」

力尽くで突き飛ばされた綾切は姿勢を修正して地に両足をつける。
刀の表面はぬらぬらと血がたれており、その血を綾切は一舐めする。
ぺろりと舌なめずりをして、彼の方へ向き直ると。

「うーん、気が変わったわぁ。」
「今日はうんと鍛えることにしましょうかぁ。予想以上にやわでしたからねぇ。」

と、刃の背を肩に当てて彼が水場へ行くのを待つ。
本来なら殺す気でいたのだが、彼は案外やわであるし、戦闘に"落ち着きが無い"。
だから、死なないように鍛錬してやると見下すように彼へ言うのだ。

「まずはその火を消してからねぇ。それから考えましょお?」

水場で彼がチェーンの火を消すのを待つ。
血から発せられる炎は簡単に消えるだろう、滑る血を如何に落とすかだ。

//遅れました…
657 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/09(月) 23:54:37.98 ID:q3LYcMpq0
>>655
「えっと、そんなことを言われると思いませんでした。俺、嬉しいです」

何というか、あけすけに優しくて勇敢なんて言われると照れるものがある。稚拙な言葉を大木は返していた。
大木は特に自らの行いに見返りを求めない。それが偽善であり大木の身勝手であると知っているからだ。
単なる自己満足。だからこのように褒められるのは新鮮だった。ただただ嬉しい。

「分かりました、次からは犯罪を見かけたら先にあなたに必ず連絡します。今後暗部の方から接触してくる可能性もありますし」

大木は大きく頷き約束しながらスマホを取り出し連絡先の交換をした。
自分の偽善がはっきり褒められたのは初めてかもしれない。
大木は自らの困っている人に優しくしたいという思いが再び燃え上がるのを感じる。
大木は純粋だった。褒められるという単純なこと、それだけで大木は立ち直る。
単純だが誰かに自らの行いを肯定して貰える、それだけで良かったのだと大木は思えた。

「確かにそういうことですね!気づきませんでした」

大木は弱弱しいながらも、ようやく彼本来の持ち味である素朴な笑みを浮かべることができた。
大木は純粋な少年で騙され易い。だから悪人相手でも簡単に騙される。
人の悪意に気づくという特技さえなければ詐欺に合いやすい人間だろう。

「俺からするとあなたは街の平和を守る風紀委員の鏡だと思います。あなたに事件を話して良かった」

大木は風紀委員に対しては尊敬しているが良いイメージばかりではない。
警察に近い恐れも抱いていた。しかし眼前の少年は大木のことを心から労わる気持ちが良く伝わってくる。
何かがあったらすぐ疑って掛かる訳でもない。犯人逮捕に目の色を変える訳でもない。
被害者のことを一番に考える。これは治安維持組織し属していながらも難しいことだ。大木はそう思う。

「俺はあなたによって救われました、あなたが事件を聞いてくれなければどうにかなってたと思います。ありがとうございました」

大木は深々と頭を下げる。大木が今まで出会ってきた学園都市の優しい人物に劣らないと大木は思った。
こういうことを真顔で言ってしまうのが大木の美徳であるのかもしれない。
658 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/10(火) 00:39:51.59 ID:GziAguSMo
>>657
連絡先を交換して。これで取り敢えず、少年が一人で突っ走るという事は防げる筈だ。
まだ不安は大きいが、一応、多少なりとも安全性は高まっただろう。

「いいよ、いいよ、お礼なんて。僕は僕が思った事を言っただけなんだから」

深く頭をさげる大木に対して、はにかみ、体の前で両手を遠慮気味に振る。
渡としては、風紀委員として当然の事をしたまでであって、褒められたり頭を下げられたりというのは、とてもむず痒い感覚だった。
特に、この少年から向けられた感謝の念は色んな意味で強烈だった。自分はいつも通りに路地裏を歩いて困っている人に声をかけただけなのに、ここまで大袈裟に感謝されてしまうと、どうも調子が狂ってしまう。

「それで、他には何かあったりするかな?さっき言った通り僕は口がかたいからね、何でも話してくれて大丈夫だよ」

そう問いかけたのは、何時もの調子を取り戻すためだった。このままではあの時の少女のように、ペースを乱されっぱなしになってしまいそうだと感じたのだ。
それに、ここまで聞いたのだ、いっそとことん聞いてやろうじゃないかという考えもある。
抱え込まれて重症化した後で言われるくらいなら、今のうちに聞き出した方が対処もしやすいというもの。
今回が上手くいっただけで、上手く対応できず相手に負担を強いてしまう可能性だってあるのだから。

この風紀委員の少年が、自分の負担など考えもしていない事に、大木は気づけるだろうか。
……別に、気付けなかったとしても、問題など何一つとしてないのだが。
659 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/10(火) 00:54:13.59 ID:Cv2KegCQ0
>>658
「はい、分かりました!」

大木はしかし感謝の念を忘れない、この少年は優しく純粋だ。しかしそれは悪いことでもある。
困っている人を助けるためなら突っ走ってしまう傾向があるのだ。それに八方美人である。
彼の言葉を『薄っぺらい』と言った暗部の少年の言葉は間違っていない。この少年も間違いなく歪みを抱えている。
そうでなければ困っている人を、命を懸けて助けようとは思わないからだ。

「えっと……暗部のことだけです。ありがとうございました!」

普通なら、大木を拷問しようとしている少女のことも話すのかもしれない。
しかし大木はそうしなかった。眼前の優しい少年をこれ以上困らせたくない。
大木はそう思ったからだ。風紀委員相手に遠慮する、これ以上自らの行いで困った人を生み出す訳にはいかないという脅迫観念。
……もう手遅れなのだが。これも自己犠牲なのかもしれなかった。
案外悪人のほうが彼の性格を分かっているのかもしれない。自分の負担を考えないのは眼前の風紀委員の少年だけではない。

「そう言えば、あなたの名前を聞いていませんでしたね、俺の名前は大木陸って言います」

優しいあなたの名前は何ですか?と首を傾げて聞く大木。
660 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/10(火) 01:17:58.84 ID:GziAguSMo
>>659
大木が歪んでいるという事に、渡は気付けない。人間の感情や行動の機微に疎いという事実は、こういった時にその弊害を最大限生ずるもので。
暗部の事だけ。そう言い切った大木に、風紀委員の少年はそれ以上追求をしなかった。優しく素直な大木がそう言うのだ、ならば他には何もないのだろうと、そう思ってしまったのだ。

「……あ、そう言えば言ってなかったねぇ。僕は渡 慈鳥。本当はもうちょっと長い名前なんだけど、面倒だからこう名乗ってるんだ」

よろしく、と握手を求めて右手を差し出す。
一方的な協力関係ではあるが、仲間は仲間。ならば自分は風紀委員として、また仲間として、大木のサポートをするまで。
重要連絡先にしておかないとなぁ、そう思いながら、渡の頭の中からは暫し"抱えきれない問題"への悩みは形を潜めた。
何故なら、今一番重要なのは、

「えーっと、それでこれからなんだけど……どうする?一応君はケガ人なんだし、路地裏から出るまでくらいは、送っていこうか?」

そう、この少年は普段とは少し違った風ではあったが、自分の"仕事相手"なのだ。
困っているのなら話を聞く、襲われているのなら助ける、怪我をしているなら、安全な場所まで送る。……最早ルーティンと化してきている行動パターンではあるが、渡にとってこれらは全て重要な事柄なのであった。
661 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/10(火) 01:34:26.11 ID:Cv2KegCQ0
>>660
「宜しくお願いします渡さん!」

大木も右手を差し出し、しっかりと握手した。これから暗部の情報を共有する仲間と言って良いかもしれない。
学園都市に来たが、男の人間と仲良くなったのは何気にこれが初めて。
大木は渡という名前をしっかり脳裏に刻み付けた。

「えっと、そうですね。結構ここまで歩いてきたので大丈夫だと思いますけれど、お願いしていいですか?」

大木は拒否しなかった、大木を助けることが渡にとって大事な仕事だと思い拒否したくない。
拒否する方が逆に困らせることになる、大木はそう思ったためである。

大木はもう自らの心の傷についての話はもうしないだろう。事件についての話もしない、世間話だけだ。
ついさっきまで困っている人を助けるという炎が消えかけていたのにも関わらず。
大木の心には再び偽善という燃え盛る荒々しい、自らを省みない危険な炎が宿っていたのであった。
662 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/10(火) 07:23:24.64 ID:HjR6x3Ua0
>>656
「ハァ...ハァ.......クソッ!」

なんとか水場まで辿り着いたが、相手のあの余裕の表情に思わず顔を顰める
蛇口をチェーンソーで叩き割り、亀裂を入れる
一度亀裂を入れたなら、そこから水圧に押され勢い良く水が噴き出すだろう

この勢いの水なら、火も消すことが出来て血も洗い落とせる

「...............」

鍛える? ────どうやらかなり舐められているらしい
確かに、技術的にも経験もこちらは未熟だ
だが、相手に情けをかけられるのを良しとするなんてできない

────勝つ。この人に

水に濡れたチェーンソーを構える
その切っ先を綾切へと向けて、その緑眼で見据えた
相手は風紀委員。自分達とは相容れぬ敵となるであろう人だ
超えなくちゃいけない。絶対に

「ウオオオオオオオオッッ!!」

叫び声と共に乾は駆け出した
そのチェーンソーを構え、狙うは武器だろうか
体を狙わない辺りに、僅かな迷いが見える

それに直線的な攻撃だ。受け流すなり、避けるなりは容易い
────その異様な形状のせいで目立つ右腕の陰で、彼の左手に変化に気付くだろうか

「────喰らえ...!」

彼の左手に内蔵されているのは、屋外で使用される強力なライトだ
強力な閃光で、相手の視界を奪うつもりか
夜間、目が慣れたこの状況で使用されれば...目が眩むのは必至だが────果たして
663 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/10(火) 22:50:05.59 ID:jG+tiJdxo
>>662

彼は水場に辿り着き、勢い良く水を噴き出させる。
チェーンに付着した血は洗い落とされ、綾切の発した血の力も消える。

「なんかわからない、って顔ねぇ?」
「鍛えてあげるって言ってるのよぉ。殺すのには弱すぎて勿体無いでしょお?」

敢えて、彼を煽る。
先ほどの傾向から彼は一つのことに集中し過ぎてしまうようだ。
彼の頭のなかをとある一つの事柄に集中させると、彼の他への集中は確実に乱れる。

「あらぁ、そんなに直線的な攻撃じゃあ当たりませんよぉ?」

彼の直線的な攻撃を身を躱し避ける。
彼は恐らくその後の勢いで走り過ぎるはずだと思って。
彼の走っていく方向へと"血の斬撃"をお見舞いする。彼を斬ることは出来ないが、彼の服へ血を付着させることが目的。

――綾切も、他のことへの集中は乱れていた。
彼の左腕の変化に気づくことが出来ず、そのまま継戦の姿勢をとる。

「ッグゥ、眩しいィィッ!!」

夜の暗さに目が慣れた状態での強烈な閃光。
無防備だった綾切はその閃光を諸に喰らい、眼が眩んだ。
眩暈がする程の光、綾切は目を抑えてなんとか適応しようとしていた。
664 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/11(水) 06:50:47.20 ID:zcjEOMQZ0
>>663
「────ッ!」

彼女の血が付着する、この量を避けるのは不可能だ
もとより、躱せるような技術なんて持ち得ない

服に大量に付着した彼女の血は、強力な液化爆薬と同義だ
それだけで、死に近付く

「────来いッ!」

────つまり、彼女が能力を発現させるまでに決着をつける!
血の斬撃を浴びて、さらに前へ駈け出す
左腕に融合しているのは屋外での強力なライト
一瞬、だが目を眩ませれば十分だ

駆ける。駆ける。駆ける。

あと一歩。左手で彼女の胸ぐらへと手を伸ばし、チェーンソーを構えようとする
だが、そこで終わりだろう────。だが一歩足りなかった

もし、その位置まで行けたとしても胸ぐらを掴まれたのなら目の眩んだ彼女にも状況が分かる
つまり、能力発動させる事で乾を潰せる
そんな事は乾にも分かっていた
分かるからこその接近────だとすれば、乾の攻撃は自爆覚悟の特攻なのか

能力発動で乾を潰せる綾切と
あと一振りで綾切に重傷を負わせれる乾

──────膠着状態。という状況になるのだろうか
665 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs :2016/05/11(水) 20:21:14.44 ID:9knEGvU+0
人通りが少なく太陽の日差しさえ飲み込むような暗い学園都市の路地裏を歩く白い影、陽愛白。
彼女は自信を取り戻し、再び仮面のような美しい笑みを浮かべている。
不良が蔓延るような学園都市の深淵に近い路地裏であろうとも、白い少女は不敵な微笑を崩さない。
彼女は一見単なる世間知らずなお嬢様に見えるが彼女に襲い掛かる不良は今存在しない。
彼女の白い服は目立つ、ここ最近白い少女は路地裏を歩いている。そして白い少女は実力者。
学園都市が学生の住まう情報の街である以上、噂が広まるのも早い。

「……高天原いずもが見つかるまで平穏、ですわね。まあ束の間の休息でしかないでしょう」

私が平穏を壊すのですから、と内心で続ける。白い少女は口に手を当て欠伸をした。
騒乱を巻き起こす本人であっても気を張り詰めすぎていたら壊れる、そのことを彼女はよく分かっていた。

魔女狩りは誘拐を激しくし、魔術師は何かを起こそうとしている。
白い少女は魔術師のことを探ってみたが、魔女狩りが崩壊すると学園都市にとってよくないことが起こるというその程度しか分からない、しかし。

「学園都市の住民なら誰にでも、私を止める権利はありますわ」

白い少女は哂いながら呟く。そう平穏を望む人間なら、誰にでも。魔術師と仲がよい人間でない限り魔女狩りは無害。
陽愛白を殺してでも平穏を壊したくない人間は幾らでも居ると言えた。
そしてその人間が白い少女に立ち向うのなら、学園都市の一部を壊す悪人として応戦するのみ。

純白の少女、彼女の姿は暗い路地裏であるからこそ非常に目立っている。
彼女の前に現れるのは無防備で路地裏に佇む白い少女を心配する者であろうか。
それとも……?
666 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/11(水) 23:29:31.26 ID:IyuCXYs2o
>>664

綾切の血は彼の衣服に付着した。
此れで"恐怖"を与える段階は完了。相手はいつ燃えるか分からないという恐怖を抱くはず。
故に、此方には余裕が出る―――と、高をくくっていたのだ。

「ぐああっ!」

眩しい、相当の光量を誇る其れは綾切の目に突き刺さる。
目が眩んだ綾切は一瞬怯み、動きを止めるはめになってしまった。
彼の疾走る足音が耳に入る。不味い、斬られるかも知れない。

視界が戻りつつあるとき、彼に胸ぐらを掴まれる感覚。
彼は服を焼かれるのを承知で来たのであろうか。とんだ特攻野郎だ。
―――だが、綾切はこんな膠着状態、好きではなかった。

「――――誰が、私の武器が血だけって言ったかしらぁ?」

高熱の、鉄を溶かすほどの熱量を持つ刃、其れを彼の脇腹に押し当てる。
赤黒く変色した其れは、彼が避けさえしないかぎり服を溶かして密着し、彼へ膨大な熱量を与え続ける。
――しかも、斬るのなら斬れよ、といった表情さえ浮かべているが。
667 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/12(木) 06:52:41.83 ID:9TepxE110
>>666
迫ってくる刃、赤黒いそれは膨大な熱量を持つと見るだけで分かる
触れてしまえば服を溶かし皮膚を焼くだろう

「────本気か!? もう止めろ! これ以上意味ないだろう!?」

この人は、自分も危険な状況だというのにまだ戦う気なのか
彼女の目の前には不気味に稼働し続ける乾のチェーンソーがあるというのに
ふとした拍子に触れて仕舞えば皮膚を抉るのだ
チェーンソーが皮膚を抉るよりも早くその刃が乾を完全に殺しきる保障はないのだ
そんな状況でなお、止まろうとしない綾切に言い放つ

「...諦めろ。俺も貴女を見逃す...あとで通報でも何でも好きにしろ
必要以上に殺しあう必要なんてない────!」

学園都市に歯向いながら、その治安維持部隊の風紀委員を見逃すというのか
必要以上に殺しあう必要はないという言葉は本心だろうかe

──そういえば、最初もそのチェーンソーという獲物で
相手の人体に重大なダメージを与えれる武器というのに
武器破壊を狙うという...確かに甘い戦い方だった

反旗を翻しておいて、やはり甘い男だ
668 : ◆BDEJby.ma2 :2016/05/13(金) 19:19:17.38 ID:U0Ae3GGS0
>>646
「用………………なんてもんはねぇな!
学園都市の番長は気まぐれに動くんだよこれが!!」

流離の漢──なんていうカッコいいモンではない。
気まぐれに善行を行うという趣旨の言葉が彼女の口から吐き出されるが、あくまでそれは都合の良い解釈である。
暇だから。そこら辺をうろちょろと徘徊しているだけ。
んでもって面白そうなものが───興味を引くようなものがあれば片っ端から顔を突っ込んでいく。
そしてこの風紀委員二人の様子は、彼女の眼には”興味”の対象として映えたらしい。

「訓練………………ねぇ…!」


─────'訓練'や'稽古'。
それは”番長”を名乗る高天原にとっては気持ちの良い単語だった。
───漢として身を磨く。あくまで彼女の感性であるがその言葉たちからはそのニュアンスが伝わる。
そして彼女の戦闘狂たる血を滾らせるのだ。
何処か挑戦的に。高天原いずもは目の前の風紀委員にこう言い放った。自らの胸を右手の親指で示して。


「────なら、ここに素晴らしい訓練相手がいるんじゃねぇか?」
「さすがに二人相手ならコテンパンにやられる気しかしねぇけど、少なくともお前ら二人でやるよりは刺激的なナニカがあるだろ!!」

669 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/05/13(金) 20:17:44.31 ID:JXbyIWg70
>>668


「……そんなことだろうと思っていました、えぇ」

困ったように頭を掻く宙に代わり、依織が盛大な溜息をついて嘆く。
番長の暇潰しの玩具としてお眼鏡に適った事に喜ぶべきかと複雑な顔をするは一応真面目代表の二人である。
しかし続く提案には今度は依織が眉根を顰める番だった。

「あまりお勧めはしませんね。部外者に手加減できるほど場慣れてはいませんので」

親切半分迷惑半分で反論しようとする依織をまあまあと押し留めるのは勿論相方のほう。
なんだかんだ宙の方は番長に対して蟠りはないらしい。そして好奇心も旺盛なようで、その提案には少なからず目を輝かせている。

「ま、訓練って言っても格技の実戦組手だからさ。そんなに危ない事はやらないよ」
「……私たちは其処に、能力を組み合わせるのを旨とします。 これは緊急時、如何に平静な能力行使と戦術を瞬時に編成できるかという――」

自分らの分野につい饒舌になりかけた依織の口が再び打ち切られる。
ぱんと打ち合わせたその両手の十指からは極細の糸が、不満げな顔の依織の周囲にはぐるぐると浮遊、旋回する3つの金属球が。
云わずと知れた、各々の能力紹介であろう。不意討ちを嫌う正統派を仄めかす作法に、計らった様なタイミングで二人もお互い肩を竦め、宙が向き直る。

「流石に二人掛かりはねぇ。 番長さんはどっちとしたい?」

670 : ◆BDEJby.ma2 [sage]:2016/05/13(金) 20:53:42.05 ID:U0Ae3GGS0
>>669
「…………───随分と。」
「嘗められたもんだなぁ、番長って奴も。」

確かに”都市を防衛する”事を『役職』とする風紀委員、そしてその構成員たる二人の力を侮ってなどはいない。二人を相手にすればコテンパンにされるという先程の言葉は紛れもない真実である。
しかしながら、この番長という生き物もそれなりの”誇り”を有している。
相手は都市の平穏を表立って護ってきた張本人達。でも思い返せば、それらの悩みの種となっている者達の中に”高天原いずも”の名前が存在するのも紛れもない真実だろう。─────故の『自信』。


「部外者───かも知れねぇけど、オレは大前提としてお前らを悩ませてきた”番長”だぜ?」
「その意味がわからねぇこたぁねぇよな??」

右拳を握り締めて、そしてそれを自らの顔前に翳して言う。”高天原いずも”らしい不敵なる微笑──しかしそこに不快を感じさせる要素はなく、むしろ爽快感さえ覚える気持ちの良い笑みであった。
どちらが良いか?という質問に対しては少し考えるふりをしてから───、

「───────依織ちゃん一択、だな。」
「だって今日逃したらオレが変な事件でも起こさねぇ限りは手合わせどころか話してもくれねぇだろ!ははは!!」
671 :箕輪宙&緒里谷依織 ◆oEVkC4b3dI [sage saga]:2016/05/13(金) 21:35:25.08 ID:JXbyIWg70
>>670

嘗めている、とは確かに紛れもない感覚であろう。

「確かに、調書の取り調べ以外で貴方と会話する意義は、未来永劫ないでしょうね」

「あーぁ、フラれちゃった。じゃ僕、審判しておこうかな」

冗談ともつかぬ相手の笑いににこりともせず嫌味を返す依織。浮遊していた鉄球が一つを掌に残し、一列にぽすぽすと腰のホルダーに収まっていく。
それを見るのは既に平静の顔になっているが、手の内の鉄球はぷるぷると小刻みに震えている。内心めらめらと闘志を燃やしているのは明白だ。
それを横目に見せられては宙も、残念そうな顔ながらもすごすごと脇に下がらざるを得ない。


「打撃あり、関節あり、目潰しなし、能力の使用あり、武器は刃物以外はあり。 時間無制限、ダウン後は5カウント以内で復帰、ギブアップか気絶か3ダウン目で負けね」

コートの中央、両者の間で指折りルールを一つ一つ確認していく宙。5秒とダウン数を数えるのも彼女の役目である。
まるでプロレスと総合格闘技を合わせたような珍妙なルールだが、二人なりに考えて路上の闘争に極限まで近づけた結論である。
刃物は危険すぎるので無理だが、それ以外の得物は所持品から周囲の物品まで利用可能。明言化しなかったが、まさか番長とて銃器の類までは所持していないだろう。
長くなってしまったが、要するに好きに暴れて構わないという事だ。

「この際です、先手は譲りますよ」

3m程間を開けて、傲岸に顎を持ち上げる依織。その身体は宙と対峙した時とうって変わって直立不動、腕を組んで指でジャージの袖を弄ぶ。
依織は番長の能力を知らぬ。というより最初から記憶を探る素振りすらなかった。冷たい眼差しは番長の爪先から天辺に及び、死線を交差させぬままふん、と。
鼻で嗤う音が聞こえただろうか、ともあれ僅かに――痒そうに首を傾げただけだが――会釈をする。同時に宙が何気なく一度手を叩く。それが開始の合図だった。
672 : ◆BDEJby.ma2 :2016/05/13(金) 22:21:59.68 ID:U0Ae3GGS0
>>671


その震えは緊張か。否───それは『闘志』である。
掌中に在る鉄球は煌煌と滾る焔の如く、そしてまたその焔は対峙する番長の闘志をも同調させた。既にこの時点で箕輪の言葉は彼女の耳には届かなくなる。
─────────彼女とて知らない訳がない。
緒里谷依織は生半可な戦法で勝てる程ヤワな相手ではない。彼女は正義を司り悪を屠る、それを正確に転写したような善の具現である。
番長はそんな風紀委員に、挑戦的な眼差しを向ける。

「なら少しでも興味が出るように、また話し掛けて貰えるようにオレも頑張るとするぜ?

風紀委員サマに”番長”ってもんを……いや、高天原いずもを今一度示してやんよ。」


実に痛快で愉快そうに、少女は咲う。
眼には一人の風紀委員、何時もの様に相手取っている雑魚とは格が違う。
恐らく体術、戦法においては役職上形式的に身につけている緒里谷には及ばないだろう。
だから。

「─────了解ィ……それでは」

まずは。───ポケットに備えていたビー玉を3個程、空中に放り投げる。

「始めるとするか──────────!!」

”番長”らしからぬ器用さで、意表を突いてみる事にした。────まずは小手調べだ。

放り投げたビー玉を右手の人差し指の先で静かに触れる様にして、その重みを感じた後に指をしならせる───そして次の瞬間にはガラス細工の美玉が勢い良く緒里谷へと弾き飛ばされた。これが合計3発。

どちらにしろこの距離から爆撃での瞬歩を利用したとしても熟練の風紀委員にはその速度は裁かれる。
相手のダウンを決定づける火力ならばこの拳の中に───されどそれは裁かれれば一転して窮地に陥る危険性のある選択肢である。
ならばと編み出した今回の────遠距離攻撃。
僅かな爆発を生じさせて織り成される超スピードと威力、脚にでも命中すれば穿つまでいかぬが動きを鈍らせる事なら容易だ。

───番長は吠える、そしてそれは決戦の空気を激震する咆哮の如く。

「さァて─────!」
「風紀委員の力を見せてくれよ……依織ィ!!」





673 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/05/14(土) 20:14:32.71 ID:7HS3DmkHo
>>667

「―――そうねぇ、それじゃあ今日はここまでにしましょうかぁ。」

特に殺す気も失せたし、相手から殺気が感じられないなら面白くない。
殺し合ってこそ面白い殺陣に、殺す気のない"大根役者"はいらないのだ。
今日のところは引き上げますかね、と刀を鞘に納めた。

「通報?するわけがないでしょぉ、私は通報できませんからねぇ?」

実際に仕事をするのは"楓"であり、この女ではない。
狂気すら感じられる歪んだ笑みをニイィ、と浮かべて話す。

「そうですねぇ、私から助言をあげましょうかぁ。」
「―――武器を壊して人を殺さないっていうのは甘えですからねぇ?」

彼に殺気が感じられなかったのを確実に言い当てる。
初めの時なんて、黒鉄の刃に唯のチェーンでは向かうのだから無理だと伝えたのに。
馬鹿ね、なんて愚痴をこぼして彼への助言を終える。

「其れじゃ引き上げますよぉ、また、いつか会うかもしれませんねぇ?」

うふふふふという怪しい笑い声とともに、彼に背を向けて去ろうとする。
ずっと、ずっと不気味な笑い声は女が公園の外に出るまで聞こえるだろう。

公園から出る際、綾切は指を鳴らして去ったことに気づいただろうか。
―――最後の置き土産、と彼の服に付着する血を、発火させていった。

追いかける時間はあるし、女の歩調はゆっくりとしたものだったが。
674 :乾京介 ◆EGvqRSQad2 [sage]:2016/05/15(日) 16:45:41.21 ID:Xp6Ck4If0
>>673
「──────ッ」

甘え────そうだろう
綾切の言う通りだ。もう自分は人の生き死にを選べるような綺麗事では済まされない場所にいる
敵なら、敵であるのなら────それ相応の戦いをしなければ

彼女の言葉に反論もできず、去ろうとする背中を見て武器を腕の中へと戻す
腕は元どおりの人の腕になっているだろう

「..........」

見逃された。と、分かった
余りに自分が弱すぎるから、相手にすらならないと
今自分が立っている、社会の裏側────今その戸口に自分はいる
だが、この奥へと行くのなら────自分は今のままではダメだ

より狂気に堕ちるか────それとも

「次は──────なッ」

逃がさない。そう言葉だけでも投げかけようとして
遠くでその指を鳴らす音が聞こえた
その瞬間、衣服が高熱を発するのを感じ取り───思い切る脱ぎ捨てた

運動しやすいようにゆったりとした服だったのが良かっただろう
脱ぎ捨てたTシャツは炎を発して燃えだした

「────クソッ!」

赤く燃える服が、あと一歩で自分の命を奪い得るということに、僅かな震えがきた
結局のところ、自分はあの女性に勝てなかったのだ
燃える衣服を尻目に、綾切の去っていく闇の中を

乾はただ睨みつけるしか出来なかった


/ここらへんで〆という事で...ロールありがとうございましたー!!
/返信が遅すぎて申し訳無かったです...
675 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 18:23:21.63 ID:s75WoXRJO
>>665
「んー……こっちの方から声が聞こえたような……おぉ?」

キョロキョロと周囲を見回しながら、現れたのは一人の少年だった。白い少女は少年からすると予想外な存在だったようで、素っ頓狂な声が漏れる。
ぽかんとしたその姿は、少女から考えればきっとみずぼらしいとすら感じるだろう。あまりにも着古しすぎて色落ちし始め、ヨレヨレになった服が何故だか馴染むその容姿。
目が完全に隠れる程伸びた前髪と反り気味でややボサっとした頭髪、それらを上からおさえつけるハンチング帽。更には猫背が目立ち、高貴な身分である少女とはある意味正反対な存在のようで。
しかしその腕には、風紀委員の証である腕章が確かに付けられている。
つまりこの少年は、見た目からすると想像し辛いかもしれないが、れっきとした風紀委員なのである。

「……そうそう、ええーっと、こんな所でどうしました?迷子とか人探しとか、僕に手伝える事でしたら何でも手伝いますよ」

思い出したように掛けられる言葉もしっかりと風紀委員のもの。
果たして、この野暮ったい魔術師であり風紀委員でもある少年との邂逅は、少女に何か影響を及すのだろうか?

//かなり短くなってしまいましたが……よろしくお願いします
676 :陽愛白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 18:39:29.06 ID:7MnGovYl0
>>675
「ご機嫌よう……あらあら、貴方は風紀委員の方でしょうか?」

みすぼらしい格好をした風紀委員の少年を前にして、白い少女は一瞬目を瞬かせると仮面のような微笑を深くして一礼。
殺人鬼の白い少女と風紀委員の少年、この二人は追う関係と追われる関係であり本来相容れない存在だ。
白い少女にとってはこの状況で避けるべき人物のはずだが、何を思ってか追い払うことはなかった。
変わりに少しだけ顎に手をやり考える仕草を取り。

「そうですわね、私としたことが迷子になってしまったようで……申し訳ありませんができれば道案内をして頂けませんか?」

白い少女は微笑を崩さず当然のように嘘をつく。傲慢なこの少女らしからぬ態度には理由があった。
ここは路地裏の中でも深く表通りに出るまで時間がかかるため会話する時間はたっぷりあると言える。
どこかうさんくさい態度の白い少女の言葉に風紀委員の少年は頷くだろうか。
677 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 19:11:29.74 ID:s75WoXRJO
>>676
「はい、はい、良いですよ。それじゃあ、ここから一番近い大通りは……こっちですねぇ」

慣れた様子でニコニコと、少女へ顔を向けながら進む路を指差す。ここと変わらず薄暗く、人気のない路。
行きましょうか、と声を掛けて歩き出す。ついて来ているか確認するようにチラチラと細かく振り返り、歩くペースも出来る限り少女に合わせて。
取り敢えずは、大通りに出る事が目的。もしこの白い少女の向かう先がそこから遠ければ、更に案内を続ける事も視野に入れておく。

「それにしても、どうしてこんな所に?ここ、結構奥の方ですから、滅多に迷い込む人は居ないんですけどね」

この言葉も最早、自分のルーチンと化していた。だが最近は少々発言の意図が変わってきている。
以前までは、単純に話題作りのみが目的だった。長い道中、沈黙で気まずくなってしまわないようにと、少年なりの気遣いだったのだが。
現在は違う。含まれているのはそれだけでなく、本当に言葉通り"何故だ"と問うている。風紀委員による詰問の影すら、人によっては感じ取れるかもしれない。
そう、不良か風紀委員か––––––或いは、先日存在を確信した暗部組織か。そういった存在以外は、出来るだけ路地を通らないのが常。
ならば、この少女ももしくはそういった存在なのか?それとも、もしかすると本当に迷っただけなのか。
普段からよく仕事で徘徊する場所であるが、最近はもっぱらこういった猜疑の気持ちに駆られてしまい、自分に嫌気が差しそうだった。
だが、だからこそ、尋ねるのだ。目前の存在への疑心が杞憂に終わりますように、と、そう思いながら。
678 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 19:35:31.78 ID:7MnGovYl0
>>677
「ありがとうございます、風紀委員の方だけあると言った所でしょうか。私も紳士な方と出会えて嬉しく思いますわ」

にこにこと笑いながら賞賛する白い少女。風紀委員の少年の後ろに付いて歩き出す。
もし紳士ではない人間、例えば悪漢に襲われていたらどうするつもりだったのだろうか?
そんな疑問を風紀委員の少年に抱かせるには十分かもしれない。
その後の迷子になった少女を気遣うような型がはまったような風紀委員の少年の仕草を、白い少女は歓迎しているようだった。

「単純に歩くことが好きなだけですわ。自分の足で大地を踏みしめるというのは大事なことです。
このような技術が発達している科学の街であるからこそ、こんな移動方法も良いものでしょう?」

ですが自家用車に頼りきりでいざ徒歩で目的地に向かい迷子になっていたら世話がありませんわね、と呟くように。
しかし風紀委員の少年に聞こえるように話す白い少女。無論嘘であるが白い少女が路地裏にいつも居る理由はこんな感じだ。
笑いのツボに入ったのか、暫く口内で笑いを噛み殺す。

「さて、貴方の質問には答えましたので、私も質問しても宜しいでしょうか?」

この流れならある程度のことは聞けるだろう、白い少女はそう思い内心哂いながら目的のことについて話す。
白い少女には聞き出さなければいけないことがある、

「私、貴方が風紀委員という危険な職務に就いている理由について興味がありますわ。
私のような困った人間を助けたいという理由でしょうか?」

あるいはこの学園都市そのものを守りたいという理由ですか、と問いかける白い少女。
彼女は美しい仮面のような笑みを崩さないが目は笑っていない。
どこか詰問調に聞こえるような白い少女らしい傲慢さ、強引さが在った。
白い少女はそれほどまでに眼前の風紀委員の少年について興味があるらしい。
否、正確に興味があるのは『風紀委員』そのものなのかもしれない。
679 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 20:21:36.84 ID:s75WoXRJO
>>678
「なるほどねぇ。僕もよく歩きますよ、特にこういった細かい路なんかは、ゆっくり歩きながら頭の中に地図を作っていくのが楽しくって……」

などと、相槌だか共感だかよくわからないまま話しつつ、少年の足は尚緩むことなく。
しかし、少女の問いかけを聞き止めると、その歩みは遅れがちになる。びっくりしたように言葉は止まり、しばしの無言。

「……僕の事きくなんて、変わってますねぇ。あんまり、今まで訊かれたことなかったんですけどね」

漸く言葉が出ると同時、その口には苦笑が浮かんで。少女と横並びにならない程度に位置取り、歩くペースは元に戻る。
長く話すには、この方が楽だろうと思ってのこと。勿論、少女の純白の衣装が間違っても汚れないよう、狭くない間隔は開けたままだが。
少女の方を見、ポリポリと頬を掻きながら、恥ずかしそうに語る。

「えーっと……自分語りになっちゃうんですけどね?僕、暫く前まで一人旅してたんです。
その時、行く先々で色んな人に優しくされて……この街に住むようになってから、考えたんですよ。」

あ、ここを右に曲がります。と、途中で一度語りは途切れる。あくまで語りは"道中のお供"なのだろう、この少年にとって、仕事中ならばそれ以上に優先されるものはない。

「それでですね……この街って、結構遠くから来たりする人多いでしょう?だから僕も、昔助けてくれた人みたいに、優しい人になれたら……まぁつまり、人助けできたらなぁって……考えちゃったんですよねぇ」

恥ずかしい話しでしょう?と、少年は情けない笑顔で少女に言葉を投げかける。
道案内を始めた時より、幾らか明るくなってきたように感じる路地裏。段々と、大通りに近づいてきているという事だろうか。
680 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 20:55:37.32 ID:7MnGovYl0
>>679
「私が自分語りをして下さいと貴方に問いかけたのですから、気にする必要はありませんわ」

白い少女は歩きながらも必死に、聞き逃さないように風紀委員の少年についての話を心に刻み付ける。
一字一句を決して聞き逃さないように。途中の道で風紀委員の少年が止まると白い少女の足も止まる。
そう、白い少女は知りたかった。眼前の物腰が柔らかそうな、白い少女を助けようとした風紀委員の少年の考えを。

「全く恥ずかしくありませんわ。むしろ貴方はそんな自らを誇りに思うべきです。その純粋に他人を助けたいという気持ちは尊いものですわ」

風紀委員の少年の話が終わった途端白い少女の圧迫感は無くなる。
白い少女は美しい仮面のような笑顔を外していた。彼女の仮面は外れやすいものになっている。
どこか寂しそうな、笑っているはずなのに哀しみを連想させる別種の笑顔を浮かべた白い少女。

「おそらく貴方のような人間こそ、今の学園都市に必要な人間なのでしょうね」

人助けの為に風紀委員になれる少年を見て。陽愛白は未だに悪人で、だからこそ眼前の少年のようにはなれないと分かってしまう。
白い少女は他者をこれから殺す。自らの欲望のために善良な人間を巻き込みかねない方法で学園都市の一部を壊す。
それはとても罪深いことだと。人を助けるなどということとは正反対のことなのだと。
白い少女は再度自らの罪深さを受け止めた。

「……私には貴方のような人間が羨ましいですわ」

大きく溜息をつく白い少女。羨ましがる権利なんてないと思いつつも
いつの間にやら白い少女は風紀委員の少年にそう零していた。そう、他人の為に頑張れる優しい少年に。
陽愛白は、今は他人の痛みが理解できる人間になっている。
だからこそ過去に犯した自らの罪が許せなくて、罪悪感が地獄の炎のように白い少女を焦がすのだ。
いっそ両手を出して捕まえて下さいと言えればどれだけいいだろうか。
そのような考えもちらつくがそれはできない。それは自らの下僕への裏切り行為だ。単なる『逃げ』でしかない。
しかし眼前の風紀委員の少年にはその葛藤はない。白い少女にはそれが羨ましかったのかもしれない。
681 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 21:24:34.88 ID:aZxIGeldo
>>680
少女の寂しげな笑みを見て、その言葉を聞いて、もしかすると、と思った。もしかすると、この少女は学園都市の昏い部分について、何かしら事情を把握しているのではないか。
だが、それを正直に口にする事はできなかった。
貴重な情報源かもしれないのにも関わらず、結局この少年は、陽愛の表情を見て良心に行動を諌められてしまったのだ。
だから、この言葉は、良心に諌められない程度の、表面にギリギリ触れない程度のもの。

「……僕は、みんなにずっと嘘をつき続けてますから。羨ましがられる資格なんてないですし……きっと学園都市にも必要となんて、されないでしょう」

変わらず、情けない笑みのまま、少年は少女の言葉をそう否定する。
これで、気付くだろうか。きっと自分以外にもこの街には大勢の魔術師が紛れ込んでいて、異端者である故にきっと、学園都市に歓迎されていないだろう。
自分の周りではまだ"そういった事"が起こっていないために、確実にそうだとは言い切れないが。暗部について知っていると思しきこの少女ならば、もしかすると言い切る事ができるのかもしれない。

「それに、僕のは自分がやりたいだけですから、偽善って言われても仕方ない事なんですよね。風紀委員だからそれを押し付けやすいっていうだけなんです、結局」

相変わらずの事だが、なんとも、言葉の加減というものは難しいものだ。
もし少女に何かしら嫌な感情を与えてしまったらどうしようと、緊張しながら相手の返答を待つ羽目になるのだから。
682 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 21:56:06.11 ID:7MnGovYl0
>>681
白い少女は風紀委員の少年を見つめ続けている。その内に、その表情に、言い方にピンとくるものがあることに白い少女は気づいた。
先ほどの白い少女の言葉でピンとくる人間は殆どいないだろう。
単に人助けの為に風紀委員になれる少年の正義感が羨ましいだけだと普通の人間なら思う。
しかし眼前の正義感が強い風紀委員の少年なら、どうだろうか?白い少女の行いで学園都市の住人が困るということ。
それを少年が第六感で感づいているとしたら。

――-―そうでなくてはいけませんわね。

白い少女は再び美しい仮面のような笑顔を浮かべた。そうであろう。
そうでなければ困る。白い少女は自らを止めることができる存在を心のどこかで探していたのだ。
それを自らの拳で打ち破らなければ、開き直れない。
こんなあやふやな気持ちで学園都市を崩壊させる訳にはいけない。

「学園都市にとって必要ではない人間は、学園都市に危害を加える人間だけですわ。
そしてそんな人間は、世の中に沢山居ます。そう沢山居ますわ」

白い少女の仮面のような笑みは徐々に深くなる。彼女の言葉はとても分かり易かった。
そういえば、最初からこの白い少女の言葉は自らに不信感を抱かせるものだったのではないか。
まるで白い少女本人を疑ってくれと言わんばかりではないか。

「偽善でも、それによって助けられる人間が居るのならば立派な善行ですわ。
逆にそれが人を助けるようなものであっても、それで多数の人間が犠牲になるのならやはり悪行ですわ」

罪悪感がある白い少女にとって、それが自らの下僕を助けるためであっても
複数の人間を巻き込む自らの行いは正義の行いではない、悪行なのだろう。
風紀委員全体に目をつけられるのはまずい、だからこうしてもったいぶった言い方となる。
証拠を残すことは白い少女が嫌うことだ。

「どうして私が深い路地裏に居たのかと、貴方は問いかけましたわね。私、本当は―――――

白い少女は美しい、内面を隠す仮面のような笑顔をを保ちつつ口角を吊り上げ哂う、哂う、哂う。

―――――――貴方のような正義馬鹿を求めて彷徨っていたのです」

正に悪人らしく白い少女は、高らかに少年を蔑みながら名乗りを上げた。
学園都市の人々を救いたい人間なら、白い少女を止める権利はある。そう、誰にでも。
そしてその誰かが陽愛白を悪人だと理解して止めようとするなら、己の拳で打ち砕くのみ!

しかし最終的に選ぶのは眼前の風紀委員の少年である。
白い少女の言葉には彼女を止める権利を持つ証拠はない、どうするかは自由だ。
683 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 22:28:55.13 ID:aZxIGeldo
>>682
「––––––…………」

少年は、しかし動かない。いや、動けなかった。
愕然とした。少女の言葉の中に、身に覚えのあるものがあったのだ。人を助けても、多数が犠牲になるならば悪なのだと。
数日前の大木少年とのやり取りを思い出す。学園都市にとって害ある存在を殺すという暗部組織組織、そしてその邪魔をした大木の手助けをすると約束した自分。
……まさに、"それ"ではないか。学園都市にとって害ある人間を助けるという事は、つまり、学園都市に害を及ぼす事を止めないという事なのだから。
ならば自分も大木も悪なのか?しかしそんな事はない筈だ、自分は確かにあの時"正しい事をしている"という感覚を覚えていた。
ごちゃごちゃと乱れる頭で考える。考えて、考えて、考えて、考えて––––––

「––––––正義って、きっと、そんな狭い言葉じゃないと思うんです。幾ら大勢の人が不幸な目に遭ったとしても、少しでも幸せになれたなら、その人達にとって救ってくれた人は正義の味方じゃないでしょうか?」

––––––導き出した、この結論。もしかすると、悪人と認められたい陽愛にとっては、嫌悪すら覚えるものかもしれない。
つまりは、少数を選んだとしても、誰かに正義だと思われているならばそれは悪ではないのだと。
大勢に悪人だと誹られようとも、少数にしか好かれなくとも、貫き通せばそれはまさしく誰かにとっての正義なのだと。

明らかに敵対しようとする少女に対して、へにゃっと笑うこの少年は、優しくて、甘ったれで、お人好しで。
……そしてどうしようもなく、"理想"の中に生きていた。
684 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 22:53:41.83 ID:7MnGovYl0
>>683
「……そういうことですか」

白い少女もまた、思い出していた。それは下僕の少年のことだ。
彼は命を掛けて、死のうとする白い少女を止めてくれた。
だから白い少女は彼の力になろうと思ったのだ。彼だけを助ける少女になろうと思えたのだ。
その気持ちは間違っていない、改めてそう思えた。

「貴方、最低の正義馬鹿ですわね。前言撤回です、貴方は学園都市に相応しくないと思いますわ」

白い少女からは仮面を外れている。彼女は唖然としていた。自らの行いを肯定される日がくるとは思わなかった。
そんなことを言うのはあの学園都市の守護者だけだと、そう思っていたのだ。
それにしても、どこの世界にこんな風紀委員がいるのか。
白い少女が間接的に悪行をバラしたと言うのに、捕まえる気配すら見せない。
とんだ馬鹿だ。風紀委員に相応しいものか疑問しかない。

「ですが私、貴方のような馬鹿は嫌いではありませんわ。有難うございます」

白い少女は、礼を言うとぺこりと頭を下げる。一瞬だけ可愛らしい笑顔を浮かべた。
彼女は拳を振るう代わりに、眼前の馬鹿な風紀委員に向かって言い放つ。

「もう私を捕まえようとしても遅いですわよ、私の行いは『正義』です、否定はさせませんわ!」

理想の中に生きる優しい少年の姿はやはり眩しくて。白い少女は決意する。
損得勘定抜きに誰かと仲良くなるのも、たまには悪くない。そう尊敬できる人物ならば。

「私の名前は陽愛白です――――貴方、私の友達になるつもりはありませんか?」

その言葉は、何か妙だった。普通友達というものは確認するものではない。
自然になるものだというのに。その理由は明白、白い少女には友達が居ないのだ。
下僕の少年に対するものと違って恋愛感情はないものの、別の種類の恥ずかしさがある。
白い少女は眼前の少年から目を逸らして話をしていた。
685 :渡 R 慈鳥 ◆Kcx.2qec1DTX [sage saga]:2016/05/15(日) 23:23:28.70 ID:aZxIGeldo
>>684
"学園都市に相応しくない"という一言。分かっていてもやはり、人に言われるとずしりとくるものがある。その重みを受けてしかし、それで良いと思った。
そもそも自分は異端者なのだから。風紀委員をしている方がおかしかったのだ、ちぐはぐだったのだ。
様子の変わった少女を見て、少なくとも戦闘は避けられたなと安堵した。その後の、友人にならないかという言葉にはなんとか耐えたのだが。

「……いいですよ。友達、なりましょうか」

この一言が自分の口からするりと出たことには、流石に少し、面食らった。
今まで、明確に親密な関係になることは避けてきたのだが、この街に来て多少は自分も変わったという事だろうか。
自分でも正直訳がわからなかったが、ここ最近は人間関係を学ぶべきだったと後悔する事が多々あった。だから、悪くないかもしれないな、と思えたのだろう。
少女に友達がいないように、少年にも友人だと断言できる存在はいなかったのだ。

「僕は、渡 慈鳥っていいます。好きに呼んでくださいね」

へにゃへにゃと笑みながら、小恥ずかしい感覚に頬を掻く。その様は、まさに友達初心者のようだった。
686 :陽愛 白 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/15(日) 23:55:38.70 ID:7MnGovYl0
>>685
「それでは渡さんと呼ばせて頂きますわ。私のことも好きに呼んで頂いて結構です。
これから時間を掛けて貴方のその考え方を学ばせて頂きますわ!」

白い少女は貪欲だ、そして対人関係はそれほど深くない。だから口ではそう言いつつも内心はガッツポーズをしている。
弱みを人に見せない白い少女らしく表には出さないが本当は友人ができたのが嬉しかった。
友人というのは恋人と違うベクトルで大切なものだと今知った。
やっと友達ができましたわよ。思いのほか良いものですわねと、白い少女は自分に言ってみた。
ほんの数日前強者には友達など不要と思っていたのが嘘のように喜んで同様している自分が居る。
仮面の笑顔の下には感情がある。白い少女は人間らしい少女であった。

「渡さん、もう道案内は結構です。最初から道なんて分かっていましたから」

白い少女はそう言うと、暫く初めての友達との会話を楽しんでいた。
渡さんも友達はそんなにいないようですわ、ならばこれから主導権を握るのは私がいいですわねと。
そう思いつつ白い少女は友達と共に大通りに出た。

「渡さん有難う御座いました、今度会ったときは私が守りたい人間を紹介します」

白い少女はスマホを取り出すと、風紀委員の少年に拒否されない限り連絡先を交換するだろう。

「それでは御機嫌よう。楽しい時間でしたわ」

それが済むと白い少女はワンピースのスカートを両手で持ち優雅に一礼する。そして風紀委員の少年の視界から消えていった。
彼の視界から消えた瞬間白い少女はスキップを始める。下僕の少年に説明する時が楽しみだと思いつつも。


―――――初めてできた渡さんという友達の存在に、陽愛白はご機嫌であった。


/ロール有難うございました!
687 :大木 陸 ◆ptlrdCRQLs [saga]:2016/05/21(土) 17:57:06.33 ID:mfsvh9AQ0
風船のように彷徨う人を助けるという信念の炎を持つ少年、大木陸。
彼は歩き疲れた後、立ち寄った公園で水を飲んでいた。喉から入った水分が大木の喉を通って体を潤す。
大木は一息付く。水分補給をしながら自身のこれからを彼は考えた。

「渡さんという友達……いや仲間ができた。これは嬉しいな」

呟く大木。一人では暗部に立ち向かうことは難しい。
しかしこちらには風紀委員の後ろ盾ができた、公にはできないもののこれは大きい。
唯でさえ拷問狂の人を治せる少女、轟に大木は狙われている。
彼女からは何か危ないと思える物がある。学園都市の闇と似たような何か。
渡という風紀委員の存在は大木にとって都合が良いものであるがしかし。

「あんまり俺はこういう損得勘定で動きたくはないんだよな」

仲間はできたものの、依存するつもりも利用するつもりもない。
以前風紀委員の少女を利用してしまった負い目もある。大木は反省しており、彼を呼び出さないに越したことはないと思っていた。

「俺も原点に戻ろう。困っている人がいるのなら何も考えず助ける、それでいいと思う」

汗を拭った大木は、ベンチに向かいながら閑散とした公園を見渡す。
赤錆が付いた鉄棒が目に入る。この公園には人の気配は殆どない。
大木と貴方しか居ない或いはこれから公園に訪れる貴方と大木しか居ないというところか。
何れにせよ貴方の行動は大木以外の人間に聞かれることも邪魔されることはないだろう。
688 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/06/06(月) 20:49:55.47 ID:y3fLgDPBo
――路地裏で、断末魔と思わしき悲鳴と、狂った笑い声が響いていた。
路地裏にいる3人は共に制服を羽織り、地面には2人伏せていた。
立っている少女の左手には刀が握られ、刃先からは血が地面に向け滴っていた。

「うふふふ…、あっははははは!!愉快だわ、とーっても愉快っ!!」

今しがた殺戮のダンスを終えた少女は再び狂気を帯びた笑い声を上げる。
まるで殺しを遊びのように、楽しむかのように、簡単に成した。
笑い終える頃には息を多少荒げ、未だに笑い続けて。

「他には居ないかしらねぇー…、もっと楽しみたいのだけれど。」

と、刀を地面に引きずって、路地裏を歩く。
特に行き先などは定めず、ひたすら歩き続けるだけ。
ザリザリという刃先を引きずる音だけが、今度は路地裏に響いた。

少女の制服は、かの監獄と呼ばれる"士官学校"の制服。
右目には眼帯があてられ、色白な肌は表路地から漏れる光でより白く見える。
何よりも特徴的なのは――右腕にある、茜色の風紀委員の腕章だろう。

少女は新たな標的を求め、歩き続ける。
初めの断末魔と狂気に満ちた笑い、そして刀を引きずる音は路地裏に響いていたであろう。
何者か、引き寄せられる者は居ないだろうか。少女は期待していた。
689 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/07/30(土) 19:44:13.64 ID:0po8KKeF0
>>688
───その空気は、”淀んで”いた。

学園都市の名を冠する最先端地区の汚泥。何か一つ秀でたものを、と洗練した先に副産物と成り果てたのは”秀でたもの”に切り捨てられた者達の憎悪や鬱憤の塊であった。──故、そんな彼らが形成する居場所、この都市における路地裏は常に闇が闊歩していた。

その女も、謂わば”闇”の一つであろう。その薄汚れた路地裏は銘々の快楽を求める場所としても機能する。
悦楽の舞踏、狂気の嘲笑──されど何より印象的なのは右腕に携える”風紀委員の腕章”であった。
この都市においてそれは絶対的な正義を示し、その”闇”には相反する性質を有するが故。しかしながらその正義はその路地裏に在るどの闇よりも深かった。
其処へ──────1人の探訪者が現れる。



「お、おいッ───!? 」
「大丈夫か!?──おおい!しっかりしろぉ!!」

その光景を目にした彼女は急いで倒れた数人の元へと駆け寄り、順に肩に手を当てて揺さぶった。

しかし果たして──その声に応答は無い。その代わりに、コンクリート越しに伝わる甲高い擦過音。
明らかに異質なその存在を、彼女の眼差しが射抜くのは至極当然の事であり、そして間もなく訪れる。
先ず目に留まったのは───”風紀委員の腕章”であった。
日頃から「器物損壊の申し子」として忌み嫌われる少女には嫌という程理解できる。何度彼らにお説教をガミガミと口煩く言われたことか、と。

「………………お前、」

「…………………”風紀委員”、なのか……ッ!?」

でも、その存在を彼女は憎んだことは無かった。
それこそが彼らの役目であり、”番長”として活動する彼女の届かない範疇まで担う「正義」。寧ろ、その組織に彼女は感謝や尊敬すら抱いている。
だからこそ目の前の情景が理解できない。そこにどのような理由があったかは定かではない、しかしながら其処に強者による弱者の”蹂躙”があったのは、刀を滴る鮮血を映せば明確であった。

「……………………………………………。」

差し込む光が──スポットライトの様に足元からその存在を照らし出す。眼帯に加えて特徴のある制服は──”軍服”をも思わせ、そしてそれは強ち間違いでもない。
そして最後に彼女の目、そして差し込む光が映したのは余りにも狂気じみた笑みだった。
刹那、驚愕に目を見開くも、その目は直ぐに鋭く細められる。

──────わかりやすく、その少女は”激昂”していた。

「──────おい。お前さん。」

「オレにもわかるように20秒程度で説明してみろ。……風紀委員サマなら”ならず者”への説明は慣れてるだろ?」


その少女は、高天原出雲。この都市において──”自称番長”を奢る”ならず者”の1人である。
ゆっくりと立ち上がり────拳を前に突きつけた。



「────ただし。オレが納得できなかったら、」
「─────5秒足らずでお前をぶっとばしてやる。」

番長服たる学ランと額に宿した燃ゆる紅の鉢巻が、路地裏に吹き込む一陣の風に、揺れた。
690 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/07/30(土) 22:00:43.30 ID:B5f8JdZ4o
>>689

刀を引きずり、次の標的を求めていたその時だった。
声が聞こえる。さっきの、男を刺したところから。的だ、的が来た。
藁と同等の的が来た、来た!!それだけで、少女の行動条件は満たされたようなものだった。

「うん…?残念だけど、”私”は風紀委員じゃないわよ?」

目の前に居る、女。彼女は私に、風紀委員かと問うた。
それは当然だろう、風紀委員であるならば、眼前に広がる光景の原因になるはずもない。
だが、右腕の腕章に反して、少女は”自らが”風紀委員であることを否定した。

「ええ…?私にこの状況の説明をしろ、と?」
―――私が殺したかったから殺したの。これでいいかしら?」

「これならおバカさんでもわかるでしょう?」と多少相手を嘗めているかのように。
彼女は、自称「番長」として広く名を知られている人物だった。
それ故に、監獄に住まう少女であろうとも、その人格や性格、戦闘についての云々は知っていた。

「でも、納得しないでしょうねえ。だって貴女は番長、なんでしょう?
なら、掛かっていらっしゃい?私の刀の錆にしてあげるわよ?」

挑発に次ぐ、挑発。相手は街で知られる強豪なのだから、手合わせしてみたかった。
激高しているのだから、この程度の煽りで簡単に乗ってくれるだろう。
少女は先手を彼女へ譲った。先に殴られてでもしなければ、能力を発動する機会もなかろうから。

//お待たせしました、よろしくお願いしますっ
691 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/07/30(土) 23:10:05.38 ID:0po8KKeF0
>>690


「………ああ、上等なクソ野郎だ。」
「全く納得行かねぇし──────んでもって。」

確かに、高天原出雲は顔を顰め、声は震えて低調に。正に激昂という二文字が為す憤怒を体現していた。
───けれども、其処には常に”冷静さ”というものが鎮座している。湧き起こる憤りに身を委ねながらも、決してその意思は流される事なく自身に有って、故に番長のその様子は綾切が期待した”激昂”とはまた異なる物となっているであろう。

嘗て、ただ単純な激昂で”間に合わなかった”命があった。
嘗て、冷静を欠いたが為に”及ばなかった”敵があった。
そして今此処に至るのはそれら全てを経験し、そしてその都度において”後悔”と”学習”を重ねた”高天原出雲”であるから。


後悔はもう要らぬと、彼女は大きく、
そして。素早くその右足を地面に叩きつける─────!!!


「 「 ” 爆 ぜ ろ ” 」 」

冷たいコンクリートの地面が爆音と膨大な熱量、そして衝撃と共に瓦解し。そして次には────「爆ぜろ」と囁いた彼女は既に、自身の拳のリーチまでに距離を詰めている。
勿論の事、綾切が何も行動を起こさなかったら──の前提であるが、この間合いの詰めは瞬間移動的に後退したなどで無ければ、彼女の正面の何処に綾切が後退したとしても通用するものである。
しかしながら逆をいえば、その正面さえ逃れればその爆発を帯びる鉄拳を避けるのは容易、かつ隙を狙えるという最適解も存在する。

明暗を分けるのは一瞬の判断力────。勿論その拳を真正面から受けるもあり。
しかしこれも一瞬の判断力があれば明確。大きく振りかぶった拳は彼女の宣言通り「5秒足らず」で終結させられる程の”全力”を込めた一振り。──攻撃に特化した能力を、さらに精鋭化した”全力最強の拳”が齎すのは間違いなく甚大な破壊であろう。

そして彼女は躊躇なく、初っ端からそれを振るう。
激昂はしていても思考は冷静沈着──けれども一撃には”激昂”が顕著に現れる矛盾の全力。


「オレは最初から全力だぜ───────」

「この拳に誓って”番長”は」「──────微塵の妥協すらも許さねえ。」


───爆ぜる拳が綾切の眼前へと迫る。迫る。
果たして綾切は、どう対応する──────!?
692 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/07/30(土) 23:38:36.12 ID:B5f8JdZ4o
>>691

「あらあら、ただの一辺倒のおバカさんじゃない、ってところかしら。」

期待したとおりの激高、というわけではなかった。
そもそも、語り口からして冷静さが感じられるほど。憤怒に身体を任せ、それでも意思は冷静に、ということだろうか。

彼女は大きく、右足を地面に叩きつけた。
夜風に冷まされたコンクリートの地面が膨大な熱を帯び、爆音とともに瓦解した。
次の瞬間には、彼女は眼前へと迫ってきていた。うむ、彼女は一発屋の人間だろうか。

「ふうん、武器は拳、属性は炎、一発型かしら…?」

相手の能力の特徴を分析していく。それを瞬時に行えるだけの判断力は備え持っている。
この間合いなら、少し足を後ろに下げるだけでも彼女の一撃は避けられるだろう。
―――ならあえて、自身の血でお迎えをしてやることとしよう。

「うっふふ、手首を斬るのって、ぞくぞくしない?」

刹那、構えた刀で手首を斬りつけた。
走る動脈は斬りつけられ、其処から鮮血を吹き出させる。
痛みからか、少女は恍惚とした顔をしていた。相手からすれば気狂いな人間だろう。

「じゃあその全力、見せてもらうわよ?」

彼女の鉄拳を見切る。その鉄拳へ、血塗れの刀身で斬りつける。
自身の手首から垂れる血は刀身を確かに濡らし、ぬらぬらと照らしていた。
がきり、と腕へ、脚へ衝撃が走る。さすがは全力を賭した一撃、重い。重すぎる。

故に少女は、あくまで威力として能力を使うことに決めた。
少女の顔がにやけた刹那、刀身に纏わりついた少女の血は燃える、燃える――!!
血は熱となって彼女の拳を焼き、刀身は熱せられ、彼女の拳を断たんとした。
693 : ◆BDEJby.ma2 :2016/07/31(日) 00:22:14.18 ID:FbmBn1gN0
>>692



爆速から繰り出される正義の鉄槌は、しかして綾切 楓という狂人には通用せず。否──この場合において、血塗れの刃を恍惚とした表情で振るうその少女は、まさに”狂刃”と呼ぶ方が相応しいか。
血肉に溺れた刀の担い手は、その表情のままにこちらを嘲笑し、当然の様にその鋭利な刃は拳へと吸い込まれる。
自らの血を削り───そして振るう諸刃の剣。
そういえば”魔術”についての手掛かりを調査していた際、それに似た性質を持つ神話上の剣を見た気がする。
───生き血を吸い、そしてそれを吸い取るまでは決して鞘に収まらぬ”狂刃”。北欧の血に語り継がれるその魔剣───名を「Dainsleif」と言った。

ああ───正に、自身が相手取っているのは紛れもなく”生命”を刈り取る魔剣であると。その刃が拳に触れた瞬間にその身に、彼女は”生”を失う事に対しての動騒が沸き起こったのを感じ取った。
だがしかし、傍らの刀を無視して彼女は無闇矢鱈にぶん殴りに来たわけではない。”冷静な思考”──がそこに存在しているならば。

”刀がその拳に振るわれることも前提にした超火力”。

元々────能力者”高天原出雲”の鉄拳はそういう性質のものであった。
綾切の読みは”熱”という事であったが、それだけであれば地面が割れるほどの衝撃は説明しようがない。否、其処に生じていたのは”熱”と共に生じる”爆発”という事象。───────能力名:《爆破剛掌》。

「おい?…………オレはぶっ飛べとも吹き飛べ、とも言ってねぇぞ風紀委員もどき。」

ここで番長たる所以───超火力しか取り柄のないその”能力”が発動する!
回避行動すらも大袈裟なアクションが伴い、防御体制は存在すらしない超攻撃型能力。しかし、そんな能力は”近づけば近づくほど”に真価を発揮する。
もたらされるのは「触れたものとの間に”爆発”を生じる能力」という付加価値。

当然─────────導き出されるのは。


「オレはな??───────”爆ぜろ”ッ!!つったんだ!!!」

拳から血が吹き出る───しかしそんな事は最早気にならない。既にその拳には彼女の全力の”能力”が発動せんとしている。

空気が一瞬で収縮し───────解放される。刃と拳の間──超至近距離の間合いで2人の間に生じたのは特大クラスの”爆発”であった。
勿論の事───この至近距離での超爆発ならば彼女にもダメージが及ぶ。能力によってある程度の緩和が見られるものの確実に障害となり得るほどの威力だ。
痛みはある─────けれどそんなものは気合だけで押し殺した。


「そしてぇ!!!ここで!!吹きとべェエエエエッ!!!─────────」

694 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/07/31(日) 13:48:13.01 ID:acmz5Yixo
>>693

自らの血を捧ぐことによって発動する、諸刃の能力。
この刀は、金属を侵食し、融解させる自らの血に唯一耐えることのできる。
それ故に、熱せられた刀を振り回すことができるのだ。

生身の拳に対して、金属の刀が負けるはずもない。
だが、油断はできなかった。相手は何をしでかすかわかったものじゃない。
自らの得物は刀しかないのだ。只々たたっ斬る、それだけだった。

「ん…?何を言っているのかしら、頭のネジでも外れちゃったのかしらね。」

不意に、彼女は何かをつぶやいたのだ。
刀身を彼女の拳へぶつけながら、其のような愚痴をこぼした。
――現時点で、少女は相手の能力の本質が”爆発”であると見いだせていなかった。

「爆ぜろ、ってそんな馬鹿な…ッ!?」

刀身の鋒と、彼女の拳との間の空気が収縮する。
この時、少女は悟った。彼女の能力の本質を、見誤っていたのだ、と。
それでも少女は、彼女の身体にもダメージはある。ならば、爆発は小さいはず――、と高をくくっていたのだ。

「っぐあぁぁあああっ!?」

超爆発。もはや、ダメージ云々を考えない、馬鹿な一撃。
少女の躰は、爆風で空気に押し付けられ、軋むような痛みを全身に与える。
それだけじゃない、吹き飛んだのだ。着地に失敗すれば、骨折か、それとも死か――

絶体絶命に見えるが、まだ手はあった。
―――体内での、能力発動。酸素の供給量を上げ、熱を生じさせ筋肉を稼働させる。
カッ、と目を見開く。アドレナリンの影響か、痛みは知らぬ間に感じなくなっていた。

ざすり、と地面に膝を付けて着地する。
刀を左に構えて、キッと相手を睨みつける。相手もおそらく吹き飛んだであろうが…

//すいません、昨日は値落ちしとりました…
695 : ◆BDEJby.ma2 :2016/07/31(日) 14:25:10.74 ID:FbmBn1gN0
>>694




「───────んぐゥッ!!!」

血に塗れたその刃が諸刃と云うならば。高天原出雲の振るう鉄拳もまた───”諸刃”であった。
”爆発”という現象は無差別理不尽に後先考えず顕現するが故に、爆発の担い手である彼女にも其れ相応の損傷がある。
ある程度の緩和はあるといえど、そこに生じる膨大な熱が自身の血肉を焦がしるのを──臭い、そして痛み、あるいはその目でしかと受け入れた。
歯を食いしばれ───と、吹き荒れる幾つかの瓦礫が唇の右端を掠めたのを感じた。唾液に特有の鉄の味が入り混じる。

「………っテェなァ…………………………」

砂嵐が舞い、視界を阻害するも、次の瞬間にはその粉塵は内部から解き放たれた新たな爆風によって霧散した。砂塵から姿を現したのは拳と拳を付き合わせ、そこから湯気を帯びる”番長少女”である。
先程突き出した右手からは滑らかに鮮血が流れ出ていて。懐から包帯を取り出すや否や、右の拳にそれを巻き始めた。───しかしそれでいて、警戒は揺るがずに。その相手に向かって言葉を投げる。

「………あの全力くらってまだ立ち上がんのかよ。」
「根性は一級品───、最上格ってか。」
「でも───いいのか?」「今はカラダ動かしてるから大して痛みもねぇかもしれねぇけど、後々響いてきちまうぜ??」

その痛みは、自分自身が一番よく経験していた。爆発を振るいながらも爆発という現象に最も近い少女。
無理な行使による捻挫なんて日常茶飯事、骨が無茶苦茶に弾けとぶなんてこともあった。───其処は、学園都市やその中に住む能力者達による能力の治療によって嘘のように今の今まで”死ぬことなく”生きれているものの。
適当にぐるぐると包帯を巻きつけ、応急的な処置を終えた。手慣れている───その様子からは”戦闘経験の豊富さ”を感じ得るかも知れない。


「また衝突になるかも知れねぇ───だから今のうちに聞いとくぜ?」
「お前さん、一体何者?? そんな腕章つけといて、さすがに”風紀委員と無関係”なんてこたァ、───ありえないだろ?」

しかしながら”戦闘経験の豊富さ”という意味では、高天原出雲が先程の激突で綾切から感じたものの方がずっと大きいように思う。
あの超速の拳に当然のごとく反応し、もし爆発がなかったならばこの右腕は完全に”斬り落とされて”いただろう。
間合いの測り方────それが難しい刀という武器を使う上でこの反応を見せたこの女は、戦闘”技術”という一点においては確実に自らの上を行っている。

そんな劣等感───は微塵も表に出してはならない。故に少女は迫るような強い声色で解答を促した。


「────────拒否権はねぇ、答えろ。」

696 : ◆BDEJby.ma2 :2016/07/31(日) 14:28:56.03 ID:FbmBn1gN0
//寝落ちはしても値落ちはしないでください笑
時間のある時で大丈夫ですよー!私もそうなりますし!
697 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/07/31(日) 18:46:25.38 ID:acmz5Yixo
>>695

無論、あの爆発現象を引き起こした彼女もまた、吹き飛ばされていた。
全くもって、理不尽に、無差別に襲い来る爆発というのは凄まじいものだ。
彼女はなぜ、自分の身体を傷めてまで、善として尽くそうとするのか――

砂嵐の中から、彼女の姿が現れた。彼女は膝をついていない。
右手からは鮮血が流れていた。彼女は慣れている、といったように包帯を巻きつけていた。
果たして、彼女にとっては日常茶飯事のことなのだろうか、ならば彼女の戦闘経験は防府なのであろう。

「―――ええ。」

ただそれだけを返す。眼の色は変えず彼女を睨み続けて。
身体は熱に耐性を持つため、熱のダメージはそれほど受けていない。肌の色からわかるだろうか。
だが、今はアドレナリンが出ているために感じないが、絶対的な痛みがあるのは明らかだった。

「そうねえ……、”私は”風紀委員じゃないわ?さっきから言ってるでしょう?」
「強く出るってことは、それだけ劣等に感じてるってことじゃないの?」

彼女はまた、此方に問うてきたのだ。”風紀委員と関係はあるか”と――
だが、少女は本当にわからないのだ。右腕の、茜の腕章に反して。
其の上で、少女は彼女を煽る。分からないものはわからないのだ。

『……全く、まーたそんなことをしてるでありますか、”姉さま”?』
「ッ!?ちょっと楓、今は起きてこないで!!」

突如、同じ口が、違う声色で声を発した。
―――彼女にも、わかるだろう。少女の躰には、二人の人格が存在するのを。
そしてそのまま、少女の躰は糸が切れたかのように倒れこんだ。呼吸はある。
698 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/08/04(木) 19:47:34.69 ID:/8HoVHQp0
>>697

果たして。


「───────ああン?」

それは一つの”異変”であった。
1人の少女でありながら─────、確かに其処には二つの人物の影が同時に存在している様に見えた。ふと訝しげに声を上げてから彼女を見れば地面から伸びる影は二つに分かれている。
無論、其れは彼女の視界の中での出来事であるが、その現象が確かに映ったことで、相容れない二つのピースが一つに重なった気がした。
────風紀委員でありながらの猟奇的行為。絶対に交わり得ない其れらが交わるなれば、その理由はごく一部に絞られる。
例えば、其れを”人々は二重人格”、と言った。


「おいおい、馬鹿なオレにわかりやすいようにって言ったのに………」
「いやまぁ…………………確かにわかりやすいけどよ?」

現在、戦闘の続行は不可能だろうと判断したからか、腕を組んで壁に背中を委ねた。
やれやれ、と頭を一度かいて、もう一度綾切の方を見る。
しかしながらこの混沌とした空間に合う言葉が見当たらず、何度も目を反らすことを数回。
最後に見たときにはあろうことか綾切の体は固いコンクリートの地面へと打ち付けられていた。
自身の意識の喪失───”気絶”からのものである。

番長を名乗る少女の眼が大きく見開き、そしてその身体は跳ねて綾切の元へと向かった。

「いやいや!!もっとわかりにくく面倒にするのやめてくれよォ!!」
「おい?おいちょっと!!大丈夫か!!」

半ば焦燥に駆られた様子で、倒れた綾切を軽く抱き、大きく肩を揺さぶった。

699 :綾切 楓 ◆JdUbMChjVk [sage]:2016/08/04(木) 20:51:28.14 ID:fSSEf8QBo
>>698

少女は、気絶してから少し経って目を覚ました。
彼女が大きく肩を揺すぶったからか、明らかに不機嫌そうな顔で彼女を見る。
全身に痛みを感じているためか、よろよろと立ち上がり、胸ポケットから「金鵄」という煙草を取り出して。

「……姉がご迷惑をお掛けしたであります。」
「改めて、私の名は綾切楓、学園都市士官学校の風紀委員であります。」

と、煙草を一本取り出すと、マッチで火をつける。……ライターのガスがなかったのだ。
ふぅ、と紫煙を立ち上らせながら、体中にタールとニコチンが広がっていくのを感じて。
「一本どうでありますか?」と、彼女へパッケージの空いた方を向けた。

「いやー、本当に申し訳ないでありますよ。」
「姉を抑えるとは、さすがの”番長”でありますな。大抵だれでも斬り殺してしまうものでありますが……。」

意識が戻った頃には、大抵刀やら制服に血がべったり付いているものであるが。
今日はそれほどついていないか。いや、刀にはべったりと付着しているのであるが。
……そういえば、手首が斬れているのを今更ながらに思い出した。

「それにしても、番長殿は夜間のパトロールでありますか?」

器用に、煙草を咥えながら左手で、右腕の手首へ包帯を巻きつける。
「姉は妹の苦悩を知らないでありますよ…」と文句を言いながら、であるが。
ふとここで思ったことを彼女へと聞いてみる。煙草が切れたらしく、せわしなく二本目を取り出していた。
700 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/08/04(木) 21:51:49.41 ID:/8HoVHQp0
>>699

「姉………ってのがどうにも引っかかるんだが……?」
「あ、いやオレは煙草は吸わねぇからいいさ。──てか風紀委員なのに吸って大丈夫なのか?」

姉。てっきり”二重人格”と考えていた彼女からすれば、綾切が自身の身に宿るもう1人の自分を”姉”と呼称する事が理解できなかった。
ただ単に別人格を姉と呼んでいるだけなのか、それとも実の姉であるのか。先程の一悶着を見るにどちらともとれるが、やはり前者が正しいのだろうか。
───煙草に対しては断った。以前にも彼女とは別にヘビースモーカーの風紀委員と出会った事があるが、その事を加味しても”風紀委員”って規則とかねぇのか、と思い浮かぶ。
その際は傍のもう1人の風紀委員が叱っていたが、それほど強くでもなく、むしろ自分が”案外煙草やらないんですね”と皮肉られたことに少しだけカチンときた記憶がある。
オレはココアシガレットだけでいいんだ─────!

「───そりゃあ何たって”番長”だからな!」
「たださっきの一撃で決まらなければオレはやられてたろうさ。
爆速の初撃から見切って斬ってきやがるんだぞ?───お前の姉。」

さすが番長、という賞賛に対してはわかりやすくニッと歯を見せて笑顔を浮かべた。
次に自らの包帯に巻かれた手の甲を翳せば、白かった筈のそれは既に血の赤に染まっていた。高天原いずもの戦法にはこれといった変化はない、能力がそれを阻む。───故に、初撃こそが彼女にとっての最重要の一撃であり、それが勝敗を左右するといっても過言ではなかった。

「────パトロール……も兼ねての散歩さ。」
「あれだ。気を晴らしたいときは、だいたい外に出ての散歩が一番だろ?」
701 :綾切楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/08/04(木) 23:05:32.15 ID:fSSEf8QBo
>>700

「・・・・・・ふむ、姉のことが引っかかるのでありますか。」
「私の身体に、私のもともとの人格と、姉の人格が含まれているそうなのでありますが。」
「番長たる貴女が、煙草をお吸いにならないとは・・・・・・、驚きであります。」

二重人格なのは正しい。あっているのだ。
だが、もう一人の人格がそうなのではなく、実際にもう一人の姉が存在する。
そして、何故か今はその二人の人格が、一人の身体に宿っている、というだけなのだ。
煙草に関しては、素直に驚いた。番長たる人間なら、てっきり吸っているものだと思ったのだ。
故に、驚いた表情で彼女の目を見ながら、煙草のパッケージを胸ポケットにしまった。

「ええ、姉は剣術の達人でしたしね、それ故に、人を殺したがるそうですが・・・」

人間で試し切りをしたい、この刀を試したい・・・、と言っていた姉の顔を思い浮かべる。
狂気に満ちた笑顔をしていた。今となっては自分の身体となってしまったが、未だにそんな考えがあるのだろう。
相手はその刀をも退けた、猛者なのかもしれない。ふむ、と彼女の顔をじっと見ていた。

「ふうむ、気晴らしでありますか。」
「それじゃ一つ、風紀委員としての仕事を果たさせてもらうでありますよ。」

「――――”番長”殿、この街の魔術師の活動について、ご存知でありますか?」

気晴らしに、街を歩いているという。
気晴らし・・・・・・、なんの気晴らしか?ストレスが溜まりうる原因、いろんな人と接点のある・・・・・・。
とならば、裏で暗躍する、魔術師の活動についても存じているはずだな、とふと思ったのだ。
魔術師に関する情報を集めることも、風紀委員の仕事だ、答えてもらわねば――
702 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/08/05(金) 21:53:18.42 ID:G6Kv2S4h0
>>701

「───なるほど。ほんと、この学園都市にゃあ色んな奴がいるもんだなぁ……」
「……健康第一、なんでな!!よく言われるけどよっ」

超常的な現象が数多にも折り重なっているせいか、その稀有さにも大して驚きを示さなくなってしまった自分が居た。
”能力”という概念が存在するのであれば。と考えれば、全てがその能力の存在に比べると”当然”のようにも思えてくる。
しかしながら、そんな世界観下に存在してなお、うまくその存在を肯定しきれない存在があった。




「────────”魔術”、か。」
「───やっぱり、風紀委員の中でもそいつぁ話題に上がるもんなのか??」


問いかけに問いかけで返す形にはなってしまったが、それは彼女の問いに対する”イエス”を示す。
────魔術。それこそが”能力”を扱う彼らにとっては上手く存在を肯定しきれない概念であり、そして似ていながら非なる力。
高天原出雲という少女はその”番長”という立場、否、その彼女の性質上──様々な厄介ごとに巻き込まれることが少なくなかった。勿論の事、綾切の察しの通りにその中には”魔術”が絡む物も多い。
恐らく、ではあるが。風紀委員や元からその”魔術”を知っていた学園都市の人間を除けば、彼女は一、二を争うほどに多くの魔術師との邂逅を果たしているであろう人間であった。


「……………逆に質問する形、というかお前さんたちの認識を確認する上での問いかけにはなるんだが──」
「────お前さんたち”風紀委員”はどこまでその”魔術”についてをつかんでいるんだ??」

「まずはそこから、程度が分かった方がオレも話しやすいからよ。」



//遅れましたすみません!イツデモドゾー

703 :綾切楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/08/05(金) 22:24:50.73 ID:7CJJHc6eo
>>702

「・・・・・・、ええ。我々の間でも、度々話題に上がるものでありますよ。」
「魔術師は危険分子が多いと言われております。故に、監視を続けなければならないのであります。」

彼女の答え方からすると、おそらく肯定を示すものなのだろう。
魔術師は危険分子である――、との考えから、常に行動の監視だけは行ってきた。
ただ、それほど過激なものではない。有事には対応を検討する、程度のものだ。

「魔術、についてでありますか・・・・・・。」
「我々は、言ってもそれほど詳しくはないものであります。知っているのは所属の分類程度でありまして。」
「強いて言うなら、魔術師を狩る組織が存在するというのを存じている程度で。」

風紀委員と言っても、新参者の綾切は魔術について多くを知らない。
ただ、能力者を狩るらしい組織についてなんとなく知っている程度だ。
ぜひ、ご教授頂きたいものだが・・・・・・。
704 :高天原いずも ◆BDEJby.ma2 :2016/08/05(金) 22:56:22.91 ID:G6Kv2S4h0
>>703

「──────成る程、な。」
「ただ其処については初めに謝っとく、オレも”魔術側”の組織についてはあまり明るくない。」

魔術師と同盟を組んだ事も嘗てはあった。一時は彼女に信頼を委ねたものであったが、いつの間にかその同盟相手の女は自らの前から失踪していて、今現在もその行方は掴めてはいない。
しかしながら、思えばその同盟を組んだ時が一番”魔術”についての知識を得られた時間だったであろう。
心の底で彼女が高天原出雲をどう思っていたかは知る由もないが、ある一定の信頼を持ち、そしてある程度の知識を授けられたという事実は、今この番長のちっぽけな頭に記録されている。

「オレが聞いた話によれば、魔術師……の組織には大きく分けて”穏健”、”中立”、そして”過激”の三つの思考派があるらしい。」

「多分、だけど風紀委員が最近慌ただしくなってきてるのはこの”過激”思考の組織達が問題になってきてるからだ。」



よいしょ……と、近くにあったゴミ箱の上に腰をかけ、身振りで示しながらも説明を開始した。

「”過激”思考の根本には、”異能力”は世界に二つも必要がない…だとかそんなんがあるんだとよ。」「────全くもってオレには理解できないけど。」

「学園都市の”管理委員会”がどんな風にこの事態を考えてるのかは全くわかんねぇが、”過激”思考の組織は軒並み”強い”ってのがマズイ。」
「何度かは相手取ったけど、あれ。……level4相当はあるんじゃねぇか??───魔術師であれ、相当の戦力があって、勝てる確信があるからこその侵略行為なんだろうよ。」


どうしたものかねぇ……と最後に嘆息するように言って、その説明は一旦幕を閉じた。
705 :綾切楓 ◆JdUbMChjVk [sage saga]:2016/08/08(月) 20:30:49.13 ID:sI7QGO7Vo
>>704

「ふむう・・・・・・、情報と知識がないと、どうしようもないでありますな・・・・・・。」

人との関わりが多そうな番長ですら、魔術側の組織を詳しく知らないらしい。
そもそも、ほとんどの能力者が関わることのない魔術者のことだから、知らないのが当たり前、か。
だが、学園都市の風紀を正すものとしては、どうしても情報が欲しいものだった。

「ええ、そうであります。過激思想を持つ者たちが、妙な行動を起こしていると・・・」

胸ポケットから、再び煙草のパッケージを取り出す。
そして、一本煙草を抜くと、それにマッチを近づけ、火をつけた。
マッチの燃え殻は適当に地面に放って、煙草を吸い始める。

「ふむ、そうなのでありますか・・・・・・。確かに、魔術も能力も、異能でありますからな。」

「そうなのでありますか、故に彼は悩んでいたのでありますな。」
「ところで、魔術師を狩る、というのを目標とした組織の存在をご存知でありますか?」

level4にも相当する魔術の持ち主だという。
だからか、だから以前にあった彼は苦悩していたのだろうか・・・・・・?
そこで、番長たる彼女にも聞いてみた。魔術師を狩る組織を、知っているかと――
706 :高天原出雲 ◆BDEJby.ma2 :2016/08/17(水) 10:20:03.66 ID:8SFXLgA70
>>705


「魔術師を狩る……………………」

━━━知らない筈が、無かった。
学園都市の自治の為、などと美化されているものの、その実態は”魔術師を[ピーーー]”組織。
ただ然しながら、その行為があるからこそ、魔術師と学園都市サイドの均衡が取れているという皮肉な現実があった。
そして。たった一人の少女の為に。或いは完全なる我欲の為に、その組織に反旗を翻した小さな英雄を知っている。━━━その覚悟を、彼女は知っている。
”魔術師を殺し”て均衡を保とうというのであれば、それが血に身を穢す道だとしても、その均衡をぶち壊す道を選ぶと。


「………………”魔女狩り”だな。」
「この学園都市にとって、”魔術師”は異分子。であれば、表ではなく裏の舞台で”排除する”』

『その行為自体は許されるもんじゃあねぇが、そいつらのおかげで”平穏”が保たれていると言っても過言ではないのが非情なもんさ」

「……………………………ああ、本当に。」


如何にそれが歪んだ形であろうと、”番長”という一人の人間がどうしても叶えられない大衆の願いをそれは実現していた。たった一人の番長だけでは手の届かない、”学園都市の平穏”である。
━━━だから。”番長”を名乗る少女は”魔女狩り”を擁護する立場にあった。
皮肉ながらも、それが一番”学園都市の”番長である彼女の役目を果たせる最適の行為であるがゆえ。
もし”魔女狩り”が崩壊したのであれば、”魔術師”の侵略行為は加速してしまう。

━━━━━━”魔女狩り”に反旗を翻した少年少女。
既に彼女たちには”学園都市の番長”はお前たちの”敵”になると宣言してある。
大勢を救う正義と、たった一人の少女を救う正義。それは相容れず━━━━そしてお互いにとって、その対極にある存在は、”敵”であった。


「正確には”level4”相当がうじゃうじゃといる、ってのが…………”彼”?の理由だろううよ。」
「あれ……?━━━━━━”彼”って……?」
707 :高天原出雲 ◆BDEJby.ma2 :2016/08/17(水) 10:20:50.95 ID:8SFXLgA70
//すみませんやっと返せました………気の赴く時、なんなら切ってくださっても構わないです……申し訳ありません
1008.93 KB   

スポンサードリンク


Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)