厨二的な能力授けるからそれ使って戦え

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1 :【描映爆筆】@wiki [sage saga]:2017/07/24(月) 00:02:10.34 ID:Xd64CQVT0
厨二病患者隔離スレへようこそ!
ルールを読んだ後は君の妄想を爆発させてみよう。

【基本ルール】
荒らしは全力で華麗にスルー!
※荒らしに反応した人も荒らしです。

チート無双、無理やりな防御&回避、確定攻撃は禁止!
※1酷い場合は注意しましょう!ただし煽るようなキツい言い方は好ましくないです。
※2たまには攻撃に当たりましょう!いつもと違うスリリングな戦闘をしてみよう!

武器は初期装備していません!欲しい方は能力者に作って貰いましょう!
※1武器を所持している時は名前欄に書きましょう。
※2能力授与時に貰っている場合は例外です。

基本スペックはみんないっしょ!
※能力授与時に体が強いなど言われない場合はみんな常人

老若男女巨乳貧乳に人外キャラまで自由にどうぞ!
※好きなキャラを演じてスレの世界を楽しもう☆
ただし鬼だから怪力、天使だから空を飛ぶ等は勿論なし!

書き込む前に更新すると幸せになれるぞ!!

@wikiURL→http://www26.atwiki.jp/vipdetyuuni/
授与スレ→http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/sports/41685/1419663018/
避難所→http://jbbs.shitaraba.net/sports/41685/
2 :【描映爆筆】@wiki [sage saga]:2017/07/24(月) 00:05:00.95 ID:Xd64CQVT0
【スレの使い方】
>>1の授与スレで能力募集→能力もらう→このスレでLet'sロール!

【ロールってなに?】
厨二能力スレ用語集→https://www26.atwiki.jp/vipdetyuuni/pages/1513.html
なりきりのマナーについて→http://harmit.jp/manner/manner.php

【避難所の使い方】
・パー速が落ちている時
・荒らし出現時
・大規模イベント/クエスト時(イベントスレへ)
・イチャイチャロール時(シャングリラヘ)
・勢力間ロール時(各勢力スレへ)


次スレは>>950が立ててください。
立てられない場合は避難所で連絡を。
>>980を超えても次スレが立たない時は減速しましょう。
3 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/24(月) 00:29:05.10 ID:Ni2gxWNUo
避難所 >>765

今の成瀬を形容するならば、蜘蛛の巣に絡み取られた獲物というべきか。
巧妙に張り詰められた糸に気づかず、自ら蜘蛛の方へ寄っていく。
それに気づかせないというのも、彼女の巧妙なところだろう。

「わざわざありがとうございます」

無事な服と、駄目っぽい服。
わざわざ彼女は分けて袋に入れてくれていたようだ。
小さくお辞儀をしてそれを受け取る。
やはりあれだけの爆発があったのだから、成瀬は服が無事なのか気になっており――――。


「えーっと…………」

袋の中を覗き見ると、やはり無事だった服が二着しっかりと入っていた。
この瞬間に、成瀬の彼女に対する疑いが晴れたのである。
ほら、やっぱり先生は優しい先生だ。酷いことはするはずもない、と。
――その期待が、次に破られることも知らずに。
4 :【栄華之夢】 [sage saga]:2017/07/24(月) 21:08:21.36 ID:TnuJHJsn0
避難所>>747

彼女は河川敷をふらふら歩いていた。
それ自体は別になんでもないだろう。
しかし格好が問題であった。

――何所に和服に扇子の少女がいるだろうか?
まあどこかに居るだろう。どこかに。

とにかく少女は河川敷である人物を見つけた。
それは紺の道着に金髪の少年だった――

「……面白そうね」

彼女の口から本音がこぼれた。

//よろしくお願いします
5 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/24(月) 21:10:42.00 ID:CtYdfpJr0
>>3
自分が入れたとはいえ、気にはなるらしい。
成瀬と共に袋の中身を確認するが――――

「え……なんでこんなものが成瀬さんの袋の中にあるんですか………?」

袋の中にあったものを見て、顔が青ざめる。
万里江を青ざめさせたモノの正体、それは

「あれって、火薬……でしたよね?
私をベンチに座らせようとしたのって、まさか」

成瀬が、自分に対して害意を抱いている。
そう万里江は捉えて後退る。信じられない、信じたくなかった。そんな表情を向けながら。

万里江は「ただの優しい教師」だ。害意を向けられるのにも「慣れていない」。


――――これが、これこそか三つ目の「トリック」だった。
多少杜撰かもしれない。だが――――

信頼、先入観という糸をほぐして真実を見破れるだろうか?


//お待たせしました!今日もよろしくお願いしますー
6 :【飛燕二式】 [sage]:2017/07/24(月) 21:23:29.40 ID:A8P/fYU10
>>4
「!?」

走り抜けてから数秒、先ほど視界に捉えた何かが頭に引っかかる。
少し考えてからその場で足踏みしながら止まる。

「ヤマトナデシコ!」

道場内でも見る事が無くなった。動きやすさよりも美しさ、荘厳さを追求した和服。
それにショーギ師が持っているような立派なジャパニーズファン。
全身ジャパニズムの塊のような少女を前に、思わず声が出た。

「……おっと、失礼」

声が出ていた事に気づいて、軽く会釈をする。

/よろしくお願いします
7 :【栄華之夢】 [sage saga]:2017/07/24(月) 21:39:04.15 ID:TnuJHJsn0
>>6

彼女は彼の第一声を聞いた時「期待通りだ」と感じた。
それは最初の、
――大和撫子
たったこれだけである。
まあ感じただけなので問題はない。

「……いや、大丈夫よ、確かに今の時代珍しいし……」

喜ばれたことにやや喜びつつ応対する。
服装に喜んでいるのに気がついているが普通に嬉しいのは彼女の承認欲求故。

「……ところで、何の修行をしてるのかしら?答えるつもりがないならいいけれど……」

聞くことは聞く。
それが彼女流だった。
8 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/24(月) 21:39:59.34 ID:MSxlqycbo
>>5

――――それは、突然だった。
黒色の火薬が入った小袋がアパレルの袋に入っていたのだ。
遠山先生は此方を青ざめた目で見て、数歩後退った。

私を嵌めるつもりだったのか、というような目で。
成瀬自身もなにが起こったか理解が殆ど追いついていない。
状況を把握しきれないまま、“仕立て上げられていく”。


「えっ、先生、わたしこんなもの入れてない……」

疑念。語尾を濁しつつ、一つの可能性を見出すに至った。
アパレルを出て、ここに来るまではどこにも寄っていない。
それに、成瀬の能力は風を扱う“だけ”。そうなると――。


「……先生。まさかとは思うけど」

だが待て。遠山先生がそんなことをするだろうか。
しかしながら、ここにおいて一連の“犯行”が行えるのは彼女しか居ない筈である。
そこで、曖昧に揺さぶる。この反応次第で、成瀬は次の手を打つだろう。
9 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/07/24(月) 22:15:08.22 ID:A8P/fYU10
>>7
何の修業をしているか。
袴姿から解る通りスポーツマンというより武道家で、トレーニングというより修業、稽古という言い方の方が確かにあっている。

「何の修業…… 見ての通り走り込みなんだが……」

何の為かと言われれば、強くなる為。
だが強くなる為に修業しているという答えは、そのまんま過ぎて答えにならない気がした。
普段は楽天家なのに、剣に関しては真面目に考えてしまうのだった。

「Uh……サムライになるため?」

色々考えた結果、こうなった。
言い方が違うだけだったが、この言い方がしっくりきた。
10 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/24(月) 22:16:17.76 ID:CtYdfpJr0
>>8
ああ、残念。
思ったよりも聡明だったみたい。
だけど、まだ糸は切れてはいない。まだ断ち切られては、いない。

まさかと思うけど、
その言葉を聴いて、瞳に涙が溢れ出す。
心から悲痛な声が、絞り出される。

「成瀬さんは……先生のことが、信じられないんですか……?」

たしかに、遠山万里江は悲しんでいる。
この上なく、涙を流しながら。

たしかに、これも紛れもなく遠山万里江の真実だ。
だが、これもまた遠山万里江であった。

ポケットの中に、拳銃のおもちゃという「トリック」を仕掛ける。
といっても、これは成瀬が「至った」ときのためのトリック。
果たして、必要となるかは今はまだ分からない。
11 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/24(月) 22:27:21.49 ID:MSxlqycbo
>>10

「いっ、いや、そういう訳じゃなくて」

遠山先生の泣く姿を見て、流石に成瀬は動揺を隠せない。
悲痛そうな表情を浮かべ、信じてくれと言わんがばかりに。
――だが、ここで怯んでいていいものだろうか。


「ベンチに座るときに聞こえた水音」
「あれ、センセがやったの?」

口元に笑みを浮かべながら、遠山先生へと尋ねる。
座る直前にアパレルの袋を置いたとき、“水が入ったもの”は辺りになかった。
落ち着いた今は、犯人が誰なのか詰めることができる。

「センセのことは信じてるんだけどね」

いつも国語を教えてくれる教員だ、信じていないはずもない。
だが、それが裏切られたとき。成瀬は一種の寂しさを抱いていた。
まだ遠山先生が犯人と決まった訳ではないが――――。
12 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/24(月) 22:29:00.09 ID:ZTqGow1/o

ある森の中にある果樹園。中心部には泉が湧き、桃と梨、メロンと西瓜などが囲うように栽培されている
その辺りには、宿屋を表すマークと喫茶を表すマーク、『泉水菓子店』と書かれた看板が掲げられた、2階建ての店が建っていた
木と煉瓦で作られた店には煙突があり、ログハウスのようにも見えるだろうか

店の戸の前には「OPEN」の小さな看板。どうやら営業中らしい

「んしょ、ん……ったたぁ……ですよ……」

そして店の中には若草色の髪と目を持つ、くせ毛の少女
パフェグラスを棚に戻していると、包帯と湿布が貼られた身体が痛む

「うぅ、身体中痛いですよ……」

先日、暴漢に襲われたせいで、大怪我こそなかったものの身体中はまだボロボロで
なんとか退院し、こうして店に戻ってきたが、やはり不自由を感じるのは仕方のないことだった
13 :【栄華之夢】 [sage]:2017/07/24(月) 22:33:51.62 ID:TnuJHJsn0
>>9

「……そう、素晴らしいわね」

彼の答えに素直に感心する。
少なくとも確固たる目標がある人間は素晴らしい。
そして彼が少し考えたのは恐らく剣にこだわりがあるためだろう。
少なくとも彼女はそう考えた。

それは静かな恨みに覆われた彼女にとって素晴らしいものに映る。

――少なくともその信念はだが。
そしてある疑問が浮かぶ。

「……じゃあ聞くけど……貴方の愛刀、少なくとも私はそう考えるけどは何所へ……」

そこでハッと気が付きとめる。
根ほり葉ほり聞くのは自分の癖だが悪い癖でもある。
何か別の出来事で失ったのかもしれない。

少なくともそれぐらいは予想できた。

//すみませんが今日はここまでで……本当にすみません
14 :【罪の蜘蛛糸】 [saga]:2017/07/24(月) 22:48:22.52 ID:CtYdfpJr0
>>11
「私は、悲しいです」

全ての言葉を聴き終えて、初めて言った言葉はこれだった。
涙は止まっていない。

「頑張って、私なりに真剣に生徒と接してきて……でも、まだ信頼されていない。
やっぱり私、ダメな先生……ですね」

悲し気に、実際とても悲痛な思いを抱えながら絞り出すように言葉を紡ぐ。

「悲しいですけど……仕方ありません。
特別補習の時間です」

涙を袖口で拭い、左手をポケットの中に入れる。
そして、それを向ける。

「トリック」、おもちゃの拳銃を。

おもちゃとは言え、素人が遠目から見たら本物と見間違える程度の精緻さはある。
涙を流し、悲しみながらに銃を構える万里江。
どちらもまた、「真実」だった。
15 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/07/24(月) 23:05:04.12 ID:A8P/fYU10
>>13

「……サンクス」

褒められるような事はしていない。
自分にとって10年も続けてきた生活の一部でしかなく、侍や最強といった理想像を目指し始めたのも何時からか思い出せない程昔の事だった。
照れるように顔をそらす。

「刀? そりゃあ刀はサムライのタマシイなんだから何時も……ってホワッツ!?」

大切な愛刀が、腰に刷かれていない。
恐らく先ほどまで子供達に剣を教えていた時に危ないので道場に置いた時、そのままにして出てきてしまったのだろう。道理で走りやすいと思った。

「まぁ場所は解ってるし、走るだけなら問題ないか!」

今すぐ戦う訳では無い。楽観的に考えていた。

/わかりました!
16 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/24(月) 23:07:37.57 ID:MSxlqycbo
>>14
「いやっ、信じてないわけじゃなくて!」

命を奪われかけたことに起因する、絶対的な不信感。
それでも、成瀬は遠山先生に対する信頼を完全に失ってはなかった。
何故こんなことをしたのか。それだけを、尋ねたかったのだ。


「特別補講って、遠山センセ……!?」

――特別補講と言い取り出したのは、拳銃。
見た目からして本物だが、彼女はその引き金を引くのだろうか。
成瀬は涙を流し、悲痛な表情をした遠山先生の本心を読もうと必死だった。

引き金を引かれてはなるまいと、成瀬もそれなりに身構える。
二者の間には、見えないからっ風が吹いていた。
17 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/24(月) 23:37:03.17 ID:CtYdfpJr0
>>16
それでも、信じて貰えてはいる。
そのことは確かに嬉しかった。
だから、笑う。

「はい、バーン」

いつもとは違う遠山万里江を見せられている。これは別人だ。
どうとも思うことはできよう。だがしかし、

愉し気に笑みを浮かべ、口から銃を撃つ擬音を発するのもまた遠山万里江だ。

しかし、目から涙を流すのもまた遠山万里江だ。

バーン、と口にした瞬間、引き金が引かれる。
身構えても、何も起きはしない。何も放たれはしない。ただ、おもちゃの銃が投げつけられるだけ。

それを追うように万里江が、先生が後ろに走り出す。
誘うように、追い付かれないように、適度な速度を保ちながら。
遠山万里江が向かう先は、薄暗い裏路地であった。
18 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/24(月) 23:50:26.00 ID:MSxlqycbo
>>17

『バーン』。銃性――それにしては可愛らしいもの――が響く。
一瞬成瀬の身体がビクリと動くが、放たれたのは銃弾ではなく“銃そのもの”。
――またやられた。

「ちょっ、どこ行くんですか遠山センセー!」

こちらに背を向けて走り去っていく遠山先生を追う。
韋駄天と小さくつぶやくと、成瀬にだけ追い風が吹いてくる。
だが距離は詰まらぬまま、やがて成瀬も薄暗い路地裏に踏み込んだ。
19 :【不撓鋼心】 [sage]:2017/07/25(火) 00:07:32.25 ID:Klnw7lyZo
>>12

……あのような怪我を負ってしまった責任の一端は自分にある。
彼女とて一人の武人だ。戦いで負った傷さえすべて己のせいだとするのはむしろ侮辱にあたると思いはするが、しかしもうすこし自分が早く決着を着けられていればと、考えないわけではない。
後遺症が残るか否かは医者ならぬ自分にはわからないが、少なくとも外見上は火傷の跡などが残ってしまうだろう。
そこについては本人も気にしていた。女性であるだけに気落ちするのは無理もない。

ギルドの方も、あちらから言い出さない限りはもう二度と勧誘するつもりはなかった。
あの場ですでにはっきりとした意志が見えていた。であるなら何を言おうと無駄だろうし、無理に入らせるわけにもいかない。
ただそれとは別として、見舞いくらいはしなければと考えていた。これは諸々の責任云々以前に人としての義理と礼儀である。

ゆえに何か、手土産を持っていく必要があり……。
自分でも似つかわしくないと思う場所に、こうして足を運んだのだった。

――――。

……扉を開いて、一人の男が入ってくる。
高い身長は百八十センチ程度だろうか。フォーマルな印象を受ける黒い服に身を包んだ体躯に異様な部分は見当たらないが、強いて言うなら袖口や首筋から白い包帯が覗いている。
金髪に白い肌……一見して北欧人らしき印象を抱かせるものの、そんなものをそこらへんに吹き飛ばすような特徴があった。

眼光が、鋭いのだ。鋼を思わせる青の瞳は猛禽のような光を湛え、眉間には深い皺が刻まれている。
ともすれば睨み付けているのではないかと思わせるような容貌……しかも腰には、一振りの無骨な長剣を吊っていた。
その身に纏う空気とて、一般市民のそれではない。漂う気配は周囲を圧倒するような……これは、俗に言う覇気というやつだろうか。
どう見ても果物屋に姿を現すような人種ではない。
そんなことを言ったって、どういう因果かこうして実際に足を踏み入れているわけであり……。

その男は彼女の姿を認めると、つかつかと靴音を響かせながら近寄ってきた。

「すまない。見舞いの品を見繕っていただきたいのだが」

しかし低い音声が紡いだ言葉は以外にも普通なものだった。
文面以外の意味があるとも思えない。この偉丈夫とも形容すべき男は、どうも見舞いの手土産に果物を求めに来ているようで……。


//よろしくお願いします!
20 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/25(火) 00:26:32.89 ID:DZGOo4H80
>>18
裏路地の奥へ、奥へと成瀬を誘う万里江。
しかし、不意に止まって息を切らす。いいや、息を切らす演技をする。

「ふぅ……流石に、走り続けるのは疲れますね」

薄暗く、死角も多い裏路地の真ん中でにこりと微笑む。
その顔は、まるで授業を始めるときの万里江先生で―――

「じゃあ、改めて特別補習をしましょうか。
 ここだったら、いろいろと用意してあるので楽しめますよ」

言い終えると、辺りの物陰で水音が鳴る。
―――そう、あのベンチを吹き飛ばしたのと同じだ。

だが、何も起きない。身構えても――
ただ、懐に右手を入れた万里江が迫ってくる。
その懐にある、小ぶりなナイフを隠しながら。
21 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/25(火) 00:34:54.76 ID:1gxN4764o
>>20
成瀬は路地裏に踏み込んでしばらくしてからしまったと思った。
遠山先生がトリッキーな攻撃を主体とするなら、ここは“ホームグラウンド”だ。
そう、路地裏の中央辺りまで来てしまったのだから引き返せないだろう。


「――へえ、先生にはちょっとお灸をすえたほうがいいかなッ!?」

楽しめる。生徒の身を危険に晒してまで、自我の欲求を満たそうとするのか。
流石に成瀬も遠山先生に対して戦闘行為に出ようとする。
……が、聞こえたのは水音。脊椎反射のように、身体が後方へと下がる。

身構えるが――、何も起こらないようだった。
こちらに走り寄る遠山先生を見て、成瀬も覚悟した。
今、この時においては教員として接してはならないと。


成瀬も遠山先生の方へ向かって駆ける。
すれ違いざまに上昇気流を生じさせ、身体を浮かせて遠山先生の真上へ飛ぶ。
背後を取ることができたのなら、足元へ突風を浴びせかけるだろうが。
22 : 【唯包効索】=Create Juggler= :2017/07/25(火) 00:46:09.78 ID:3a1Y13WZo
>>19

むぅ。このやり場の無い怒りパワーはどこにぶつければいいですよ!
などと考えていれば、からんからんという扉のベルの音が鳴る
お客の様だ。対応しなければいけない、と痛みを無視して無理やり棚を閉め、店長らしく笑顔を作って扉の方を向き、

「いらっしゃいませですよ、お客さ……ま……」

(やばいですよーっ!!!!!レゥリが生きてたから、始末にきた殺し屋さんですよーーー!???!?!?)

内心びっくびくだが、商売人として笑顔は崩さず
しかし覇気に気圧され、目の端に浮かぶ小さな涙……とは言っても、注視しなければわからない程度だが

勝手に慄いていれば、男が口を開く。どうやら、殺し屋では無いらしい……?
普通に考えれば(前提が普通では無いが)演技と考えるかも知れない。だが、この少女はそこまで器用にものを考えておらず

「分かりましたですよ!どの様なお見舞いか、お相手の事も教えていただいてよろしいです?」

職として求められたなら、全力を尽くす。それがこの少女の在り方であった
早速、果樹園で直接採り行くための籠などを準備しながら

ただ、小さな背に身の丈程の籠を背負う時、一瞬だけ痛みに顔をしかめるだろうか。

/お願いします!
23 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 01:10:21.71 ID:Klnw7lyZo
>>22

見舞う相手は他ならぬお前だ――。

とはならず、至って平常な面持ちで頷く。
おっかながるのも無理はない……が、どっこい本当に果物を買いに来ただけでそれ以外の目的はないのだ、この男は。
だからそれ以上の用件が出てくるはずはなく……。

「あぁ……その人物は重傷を負っていてな。ひどい火傷と複数個所に骨折を負い、動くことは困難だが意識ははっきりしている」

内臓にもさほどダメージを負っていないため、飲食は可能だったと記憶している。
とくに食事の制限もなかったはず……事前に担当医に問い合わせた時点から悪化していなければ、果物くらいは問題なかったはずだ。

と、答える男の方も、実のところ少しばかり驚いていた。
なにせ外見が幼女と少女の中間くらいだ。まさか彼女が経営しているとは思っておらず、おそらく店番か何かだと思っていたのだが……。
どうも店内の様子と人の気配を探ってみるに、目の前の少女以外に人がいるとは感じられず。
ならばもしやこの娘が一人で……? いや単に保護者が留守なだけの可能性のほうが高いのだろうが、それにしても。

「……まさか今から採りに行くのか?」

この店の周囲に森が広がっているのは道中でもちろん把握しているが、本人が採りに行くというような様子を見せれば驚きもする。
自分に怖がって涙を浮かべたときから――外見の厳つさは承知している――、つまり最初から気づいてはいたが、どうも彼女も怪我人のようだ。
今だって大きな籠を背負った際に、微かとはいえ表情が歪んでいたことを彼は見逃さなかった。
24 : 【唯包効索】=Create Juggler= :2017/07/25(火) 01:26:20.54 ID:3a1Y13WZo
>>23

「火傷と骨折ですか……食べられるなら、水分が多くて柔らかい桃が食べ易いですよ。それに、さくらんぼは剥かなくても食べれるので、オススメですよ。あとは……見て決めるですね!メロンも良いのが出来てたと思うですよ?」

ペラペラとセールストーク(?)をしながら準備していると、男が問うて

「そうですよ。やっぱり成ってるものを見るのが一番確実ですよ?冷蔵庫にもあるですが、これはパフェとかで使うです。あとでお出しするので、お楽しみにですよっ!」

んしょ。と背負い終わると、投げられた疑問に答えを返し
男が入ってきた扉から、果樹園に向かおうとするだろうか


良く見れば、男のもう一つの疑問に対する答えはそこらにもあるだろうか。キッチンは2種類の高さがあり、使い込まれているのは少女の背丈のサイズの方で、棚の高さや飾りなども、普通より少し低い


この店の構造としては、入り口から左手にカウンターがあり、その奥がキッチンとなっていて
入り口から右手に4組ほどの椅子とテーブルがある喫茶スペースで、入り口正面側奥には大きめの階段が宿泊スペースである2階に繋がっている

建物のサイズからしても、老夫婦が趣味でやっているような形式だ。しかし、他の人の気配は無く
それどころか、多少ある生活感は、少女自身のものしか感じさせないのだった



25 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 01:54:11.53 ID:Klnw7lyZo
>>24

おそらく店主が別にいるのだろう、そう思っていたが……よくよく観察してみれば、しかし。
どうもキッチンの使い込み具合を見るに、高い方はあまり使われていないようだ。それに棚や飾りなどはまるでこの少女のために誂えらえれたかのように低い。
ならば、まさかとは思うのだが。……この少女が、やはり一人で?

他人の庇護を受けず自立した生活を送っているというのは、確かに立派なことなのだろう。
自分……つまり客に対する応答も違和感はなく、手慣れているのだろうということを予想させられる。
だがやはりこの子のような時分には親の愛情を受けて育ってほしいと考えるのは決して間違ったことではないだろう。
小さいうちからしっかりとした社会生活を身に着けるのは良いことだ、だがしかしこんな少女にまでそれを求めるのはどうなのだ。
子供は遊ぶことが仕事だという言葉がある。自分もその通りだと思う。ましてこの娘の年頃なら、まだまだ遊びたい盛りだろうに……。

「……よければ、だが」

そしてそんな子が怪我を推してまで仕事に取り掛かろうとする姿を見て、黙って見ている選択肢は存在しなかった。
実際のところはこの男、少女よりもよほどひどい傷を負っているのだが、そんな様子は毛ほども見せず。

「その籠は俺が持って歩こう。普段であれば違うのかもしれんが、今の君にとっては背負うだけでも負担なのではないか」

しかし過度な押し付けにならぬよう、彼なりに言葉を選んで慎重に。
世の中には様々な人間がいる。その中には職人気質というか、自分の仕事に誇りを持っている者もとうぜん存在する。
目の前の彼女がそうでないという保証がどこにも無い以上、自分の申し出が余計な世話になってしまう可能性も重々承知していた。

何を分かったような口を、貴様私を舐めているのか――。
そっくりそのままこの通りの言葉が飛んでくるとはさすがに思えないが、気分を害してしまうかもしれないというのは覚悟している。
だがそれでも、何も言わないよりはマシだと思うのだ。たとえ口ぎたなく罵られることになろうとも、それが正しいことだと確信しているから。

……そこに何ら裏はなく、ただ単純な親切心から出た言葉だった。
26 : 【唯包効索】=Create Juggler= :2017/07/25(火) 02:11:52.03 ID:3a1Y13WZo
>>25

実の所、少女はこのような生活はかれこれ半世紀以上していた
母が完全なる人外で、父が職人。男の想像していたような、「口を出すな」な職人であったため、人との交流は少なく。二人が亡くなってから、かなり時間が経つ。それ故に、自己流ではあるが生活の年数を重ね、時折降りる街で得た知識で学習し、体当たりでここまで来た。故に、自立するまで十分な生活を送っており、少女自身に不満は無い。だが、やはり少し世間知らずで、半人外であるが故の成長の遅さのせいで、「年の割にしっかりした子」にしか見えないのも事実。


「うっ……」


つまりは男の提案に怒りはせずとも、若干の情けなさを感じていた
客が手伝うと言うのは、個人として嬉しくとも、店主としては微妙なラインで
しかしこの背負った籠にはさらに果物が入る

絶対身体中痛いですよ…….そのあとが怖いのも確かですよ……それに、ラッピングとかもしないとですし……

少女の天秤は「助けてもらう情けなさ」よりも「店として十分なサービスが出来ない情けなさ」と「この後の怖さ」に傾いた

「お、お願いしますですよ。その代わり、きっちりサービスさせていただきますですよ。ありがとうございますです」

籠を背から外し、ペコペコと何度か頭を下げ、手渡ししようとする
なんと言うか、小動物的な動きだ



27 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 02:38:22.54 ID:Klnw7lyZo
>>26

――まさかこの、言ってしまえばリスかハムスターみたいな少女が自分よりも年上であると一目で見抜けるはずもなく。
まさしくしっかりとした子供としか認識していないが……しかし負い目を感じた様子を見て、それが自分の職務にプライドを持っていることの裏返しだと考える。
甘い仕事はしたくない、そういうことなのだろう。そこに子供だからと手を抜く様子は見受けられなくて……。

立派な子だ。まさにこういった子供こそ、国の宝というものだろう。
きっと彼女は将来、良き人になる。商人としての生き方を続けるにせよ辞めるにせよ、幸せな日々を過ごしてほしいと強く願う。
ゆえに手助けすること、何の異論があろうものか。自分ごときの力で少しでもその一助となれるのならば躊躇いはない。

ただやはり、過度な助けは本人にとっても望むところではないようであるから……。
子供扱いせず、一人の人間として対等に向き合おうと決める。彼女には彼女の仕事のやり方というものがあるだろうから、そこに自分が口出しはすまい。

「構わない。俺にできることがあれば言ってくれ」

そういって籠をうけとり、背負う。
さすがに現段階では重くもなかった。ここに果物が入ることになるから、終始軽いままで終わるとはいかないだろうが……。

ただ、これでも剣士の端くれ。戦いを生業とする人間である。
大したことはないだろうと高を括ったりはしないが、一般人よりかは重量物に耐えられる筋力はあるのだ。
28 : 【唯包効索】=Create Juggler= :2017/07/25(火) 03:00:53.60 ID:3a1Y13WZo
>>27

では、こちらにですよ。と案内するのは、果樹園の中。
この果樹園自体がそこそこ広く、整えられた林のようで、十字で切る形に区画分けされていた。中央の湧き続けている泉が印象的だろうか。水質が良いのを表す完全な透明で

「この水がウチの果物の秘訣なのですよ。お母さんの拘りだったですよ」

ちょっと遠い目で、在りし日の母と水を汲む自分を幻視する
この泉の水は精霊的にも清浄な水で、ウンディーネである母が生活するのに必要なものであった
勿論半ウンディーネである自分にも、必須でこそ無いが体調が良くなるくらいの物だ

「さて、こっちが夏の果物作ってるですよ」

泉の脇の倉庫から梯子を取って、一つの区画の方へ歩いていく
梨、桃、さくらんぼ、メロン、西瓜、梅、ラズベリー、葡萄などの木があり、それぞれの本数は多く無いが、一生懸命手入れしているのが伝わるだろうか
これも年の功と未だ若い身体が有るからこそできることだ

「この桃は外せないですよ?欲しい果物とか、あるですか?」

桃の木に梯子を掛けると、問うだろう
どれを選んでも後悔はさせないと、目が語る
ふんわり甘い香りに包まれているこの場所が、説得力になるだろうか
29 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 03:26:27.17 ID:Klnw7lyZo
>>28

改めて思うが、ここは本当に見事な果樹園である。
差し込む柔らかな日差しを受けてのびのびと枝葉を伸ばす木々は瑞々しい果実をつけていて、一目で高品質な物であろうと分かる。
こんこんと湧き出している泉に目を向ければ、旅の最中でもこれほど美しいものはそうそう見たことがないくらい澄んだ水を湛えている。
この水を詰めて売り出すだけでも十分に商品として通用するのではなかろうか……まぁ、実際に飲んではいないためなんとも言えないが。

これを使用して果物を育てているというのなら、なるほど彼女の自信にも頷ける。
ただそれ以上に、素人である自分にもわかるほど果樹の数々は綺麗に手入れされていた。
同じ環境で自分が営んだとしてもおそらくこうはいくまい。いくら水質が素晴らしくとも、知識と技術が伴わなければ同じ成果が出せるはずもなし。

努力と研鑽を積んできたのだろう……これほどの果樹園を維持しているという事実に、大人も子供も関係なく感心する。

「……いや、とくに要望はない」

だからこそ、どれが欲しいといわれても思い当たるものはなく。

「正直なところ、どれも素晴らしいものに思えてならん。門外漢の俺には何がどう、とは区別がつかんよ」

何をとっても一流、どれを選ぼうが良いものならば自分のいうべきことなど何もなく。
見舞う相手の体調を仔細に把握しているわけではないため、そしてどういった種類が体に良いのかもさほど知識がない。

「ゆえ君に一任したい。玄人の目から、推奨されるものがあればそれを頼む」

であれば自分が口を出すよりも彼女に任せた方がよいだろうと考えた。
身体は小さいが、ここの様子を見れば不安などあるはずもない。
30 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 03:40:27.07 ID:Klnw7lyZo
/すみませんがそろそろ落ちます、いったん乙でしたー
31 : 【唯包効索】=Create Juggler= :2017/07/25(火) 03:46:25.07 ID:3a1Y13WZo
>>29

むふー、と自慢気に無い胸を張って
そこまで褒められて嬉しく無いわけがない。この見た目故、偶然来た客に疑いの目をかけられることにも慣れているが、見た目こそ怖かったが手伝ってくれると言う親切心の持ち主に素晴らしいとまで言われてしまえば、張り切るには十分すぎる理由だった

「では少し待つですよ!お任せですよ!後悔はさせないですよーっ」

それだけ宣言すると、身体の痛みも忘れて梯子に登って、じっと木や葉や果物を観察したり、納得の行く果実を収穫して籠に丁寧に入れるなどちょこまか動き始めるだろうか

「桃、梨は身体を作る栄養を吸収しやすくしてくれるですよ」

「食べ易いのでさくらんぼもイイですよ」

「このメロンは熟したら甘くなるですよ、直ぐは食べないで、先の楽しみにするです。その方が楽しいですよ」

嬉しそうに説明しながら籠の中へ大事に詰めて行く
籠の4分の1程が埋まれば、一先ず収穫を終えるだろうか

柔らかい日差しといえど、動いていれば暑い季節。汗ばんだ少女からは、フルーティな甘い香りと、子供特有の匂いが強くなる
少女はまるで、お転婆娘が遊んだ後のような笑顔で、果物たちを見るのだった

/眠気が来たのでまた明日お返しします……!
32 :【栄華之夢】 [sage]:2017/07/25(火) 16:50:05.76 ID:Fl0J+5ym0
>>15

「……そうね、通り魔的な人物でも現れなければの話だけど……」

ぶっちゃけ彼女も通り魔的存在だが気にしてはいけない。

「……剣士ねぇ」

少し考えるように呟く。

「私の能力との相性はよくわからないわね」

実際彼女のとの相性はよくわからない。
相手が剣豪か集団戦に慣れていたのならば勝ち目は薄いだろう。

そう考える彼女はますます眼前の存在の事を知りたくなっていたのだった。


33 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 18:09:47.01 ID:Klnw7lyZo
>>31

いちいち頷きながら説明を受ける様子は真面目という言葉を人の形にしたような様子だった。
何事も知っておいて損はない。無駄な知識など一つもないのなら日々是精進。
どこかで役に立つかもしれないのでこの機会にできるだけ記憶しておこうと真剣に聞く男には、さぞや話す甲斐があったことだろう。

そうして籠の中に納められた果物の数々、少し大袈裟に言うならまるで宝石のようだった。
日を受けて色とりどりに照り輝く色艶は市場などで見かけるそれとは一線を画している。
意識せずとも漂ってくる香しい芳香……食す前から幸福を予想させる、まさに一級品の証であった。

普段こうしたものを口にしない男であっても、さぞや美味なのだろうと思わせるほどに。
そういえば代表が宴会を企画していたなと思い出し、折を見て話してみるかと考えるほど、この店の評価は彼の中で高かった。

「……言葉もない。やはり任せて正解だったようだ」

言って、置いてあった籠を持つ。
やはりというべきかずしりと重い。これも果肉が平均的なものと比べて詰まっている、よい品である証拠といえるだろうか。
だが苦しさを覚えるほどでもない。中身を傷つけないよう、努めて丁寧に背負った。

さて、これで終わりであれば彼女に従って店内へと戻るだろう。
それとも別な用事があるのなら、それもこの男は手を貸すことを申し出る。もののついでというやつだ。
34 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/25(火) 18:41:38.57 ID:3a1Y13WZo
>>33

男の言葉に、「ありがとうございますですよ!」と嬉しそうにはにかみ笑って
店に戻ろうとするだろう。梯子を戻し、ついでに泉の水をポケットに入れていた大きめの瓶に満たす
助け舟を出そうとしてくれた男に、これくらいはやれるですよ、と言って、気持ちには礼を言うだろう

―――――

店に戻ると、籠はカウンター脇に置いてもらうようお願いして

「本当に助かりましたですよ。良かったら、そちらの席で少々お待ち下さいですよ」

喫茶スペースの方で待っていて貰うよう促すだろうか
少女自身はキッチンの方へ。もし男が喫茶スペースの方へ行くのなら、その辺りには幾つかの魔翌力を帯びた道具が壁に飾ってあることに気付くだろうか
かなり古いものばかりで、子牛の首に掛けるようなベルや、鍛冶用のハンマー、髪飾りなど
新しいものといえば、小綺麗な籠手や、狩猟用の弓なども掛けてある
男がそう言ったものを読み取れるのならば、比較的新しいものからは少女と同じ雰囲気―――魔翌力を感じるはずだ
35 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 19:06:28.18 ID:Klnw7lyZo
>>34

……その後、特に問題もなく店に戻り。
奥の方へ駆けていった少女に短い返事を返して、言われたとおりに喫茶スペースの方へと向かう。
籠はカウンターの脇へ。下した際にもう一度中身を見て、やはり良いものだなと再確認する。

席にかけようとして……しかしそのとき、視界の端に映ったものに気を引かれる。
目を向ければ、そこにはいくつかの道具が。装飾を目的としているのだろうか? 確かにこの、髪飾りなどは分からなくもない。
しかしこの大振りの金槌や篭手、弓などは……自分の美的感覚がおかしいのでなければ、青果店にも喫茶店にも似つかわしくないものだ。
単に彼女のセンスが常人とはズレている、ということなのだろうか……? いや、それにしては何か……。

「……これは、魔力か?」

立って見ているうちに、最初に抱いた違和感めいたものの正体に気付く。
旅の中で何度か目にしたことのある、魔術。あるいは魔法と呼ばれるものを発動させる際に消費し、あるいは直接的に操作を行う非物理的なエネルギー……。
すなわち魔力。マナ、あるいはオドとも呼称されるそれは自身には馴染みのないものゆえ思い出すのに時間がかかった。

聞けばそうした魔力なり魔法なりを封じ込めた、マジックアイテムが存在するらしい。
実際に目にしたことはなかったが……あるとするならば、それはまさしく目の前にあるこれなのではないかと。

状態からして古いものにはもはや宿っていないようだが、新しいものからは感じられる。
もとがマジックアイテムだったと仮定するなら、物質に封じられた魔力とは時間経過で消滅していくのだろうか……。
剣士にすぎない自分には縁遠い世界だが、だからこそ興味深いことだった。

彼女が戻ってくれば、そこには飾ってある道具に手を伸ばしている男の姿が目に映るだろうか。
36 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/25(火) 20:18:34.80 ID:3a1Y13WZo
>>35

少女が盆に、2つのグラスを持って男の元へ歩いて行く
グラスには薄緑と白、桃色と白の組み合わせ。果物とゼリーと生クリーム、スポンジとアイスとフレークで構成された宝石箱
つまりはメロンのパフェと桃のパフェが乗っていた

「お待たせしましたですよ。お好きな方を選んでほしいですよ―――よ?」

テーブルにカタン。とそれらを置くと、男の視線の先、父の作品と自分の作品を見ていることに気付く
男のつぶやき。それが分かるということは、もしかして。

「お客さん、魔翌力が分かるですよ?」

自分に来る依頼―――マジックアイテムの作成の依頼。その主な客である、能力者や魔法使いの類なのかと考えて
ちょっと探るように。とはいえ、依頼を伺うような、疑心からくるようなものではないが
37 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 20:41:30.25 ID:Klnw7lyZo
>>36

咎められなければ篭手を手に取り、しげしげと眺める。
良い出来だ。これにどのような魔術が封入されているかは分からないものの、単純な武具として見ても悪くない品ではなかろうか。
と、考えていたときに、少女が戻ってきたようだ。

「さほど詳しくはないがな」

壁掛け用のフックに戻しつつ答える。

「旅をしていた時期に魔術師のような人種とも出会ったことがある。この品々から、それに近しい空気を感じたという程度だ」

彼自身は単なる無能力者である。しかし、だからといって特異な経験をまったくしないという理屈はない。
むしろ波乱万丈といって差し支えない人生を送っているのが本当のところだ。
戦いの中に身を投じ、生傷の絶えない日々である……もっとも大部分は己の未熟が招いた損傷であるため、改善していかねばならないが。

……しかし、してみればこの少女。
最初に見た時は些細な違和くらいしか感じなかったものの、こうして思い当ってみれば不可思議な気配が目についた。
これは……どこか壁にかかっている品物たちと似たところのある、この雰囲気は。
単なる子供と思っていたが、まさかこの少女は……。

「……もしや、君も?」

ひょっとすると魔術師の類なのだろうかと。
見据える瞳には変わらず底知れない輝きがある。だが少なくとも、敵意のようなものはなかった。
単に疑問を呈しただけなのだろう。それ以上の意味はなく、そうだったとして何をしようという様子も見受けられない。
38 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/07/25(火) 21:28:29.36 ID:uczlAH/O0
真夏に差し掛かる7月のある日の出来事。

「――…あー、暑い。こんな日にスーツなど着るべきじゃないなぁ。」

蒸し暑い夕暮れ時。夕日も沈みかけて夜を迎えようとする時間帯。

「こんなに暑けりゃ気分がハイになって馬鹿共が更に馬鹿になるだろうに。
 馬鹿が馬鹿をやるのは構わんが、もうチョイ場所を選んでくれよな。」

蒸し暑い夕暮れ時。夕日も沈みかけて夜を迎えようとする時間帯。
街から少し離れた公園のような広場では若者達による乱闘騒ぎが起きていた。
が、それは少し前までの出来事だったようで―――

「…あー、暑う。今日の職務はとっくに終わってんのに残業してしまうのは何故かねえ
 職務熱心も程ほどにしておかねばなあ…」

気だるげな言葉を口にして、地べたに一瞥をくれる。
一瞥をくれた先にあったのは、熱気迸る地べたに蹲っている、乱闘騒ぎを起こした若者達。
一瞥をくれているのは、黒を基調とした身なりと、傀儡廻の血縁者であると示唆するような顔立ちが特徴的な男。

この男、これでも正義を謳う組織に所属している者であり。現に法や正義に反しない範囲で職務を行ったのである。
この男の表情は気だるげであり、同時に欲求不満ぎみであった。明らかに正義の輩ではない男の姿を見た第三者は何を思うだろうか。

/置きレスぎみになりますがよろしければ…
39 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/25(火) 21:33:23.91 ID:3a1Y13WZo
>>37

「レゥリは半分ウンディーネなのですよ。お母さんは凄いウンディーネだったです。聖剣を作った一族だったそうなのですよ。だから、レゥリにも少しだけそういうことができるですよ」

混血であるゆえ、作れるアイテムの力をうまく制御出来ておらず
持ち主との相性の問題があるということも、伝えるだろうか

「レゥリの歌は、力のある物の在るべき形に変えることができるですよ」

だから、厳密には作成というより変化を与える魔法である
若草色の瞳の輝きは、奥に魔翌力の渦を感じさせる

「お客さん、旅の方だったのですね」

椅子を引いて、対面の席に座る
ニコニコと。会話をするのも好きなようだ
40 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/07/25(火) 21:58:24.15 ID:hO3YMPxZ0
>>32
リオ=レナードは初対面の相手を勝てるか勝てないかで判断する事はない。
戦闘中に出くわすとか、元々戦闘員だという事前情報が無い限り、一般人を戦いという尺度で見ない、健全な戦士である。

「? それがどうかしたのか?」

物静かで、知的で、奥ゆかしい。
大和撫子というものに対する彼の勝手なイメージで、戦うような姿は想像出来ない。
ましてや通り魔的な存在だとは微塵も思っていない。

「今は刀が無いし…… どうなるか解んねぇな」

負けるとは思っていないが、武器がある時よりも弱いのは確かだ。

41 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 22:02:05.03 ID:Klnw7lyZo
>>39

――何かしら魔に関係する出自だろうとは踏んでいたが。
その言葉が本当だとすると半妖、というやつなのだろうか。人間と魔物のハーフ、様々な伝承で聞かないことはないものの……。
こうして実際に目の当たりにすると、外見上は普通の人と大した違いはないのだなと。
まあそれも、血の割合や混ざっている種族によって違いも出てくるのかもしれなかったが。

改めて引きかけていた椅子に座る。
ニコニコと笑顔の少女に、仏頂面の男が相対する。
なんともシュールというか、少しばかり“危ない”ような絵面ではあるが……。
男の方にその手の人間特有の陰気な気配はないゆえに、“そういう”光景には見えなかった。

「以前の話だ。今はワイルドハントというギルドに腰を落ち着けて賞金稼ぎとして活動している」

何度か雑誌社などの取材を受けたこともあるので、ひょっとしたらどこかで男の顔くらいは目にしたことがあるかもしれない。
まあそれほど有名人というわけではないため、見たことのない可能性の方がよっぽど高いことには違いないが。

「……しかし、そうか。ならばこれらの品々は君が制作したのか」

男の興味は、戦いを生業とする者の習性か武具の方に向いていた。
厳密には武具だけに留まらないのだろうが、ちょっとしたアクセサリーのようなものでも込められている魔法が優秀ならば戦闘において有利な状況を作ることができるのは言うまでもない。
実際、そうした逸話は各地で事欠くことがなく……中には伝説級のアイテムも、どこかに存在しているというような話も珍しくないのだ。
それこそ、少女の話にあった“聖剣”というような。
42 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/25(火) 22:27:08.84 ID:DZGOo4H80
>>21
なるほど、風。
ナイフはまだ懐のままに。自分の一手は隠したまま相手の手を把握する。
少々厄介だけれども、騙してみせよう。

背後を取られ、同時に「トリック」を仕掛け終える。
そして言葉と共に「トリック」を起動させる。

「ああそこ、火炎瓶が仕掛けてあったんです」

ガラスが割れる音。ただの瓶が成瀬の近くの物陰で割れただけだ。
音に気を取られなければ、言葉に騙されなければなんてことはない。足元に風を浴びせられて転倒するのみ。
しかし。騙されたら?

振り向く勢いを載せた万里江の脚が成瀬の足を払うこととなる。

//お返しします、よろしくお願いします!
43 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/25(火) 22:29:20.41 ID:Dwi49EFPo
>>41

あまり街に遊びに出たりせず、山に篭っている事が多い少女。その生活ゆえに世間には疎く
最低限商売人としての知識はあれど、有名人と言われてもピンと来ないことが多く、男に何らかの見覚えがあるという訳ではなかった

「ワイルドハント……名前は知っているのですが、詳しくは知らないです。でも、お客さんは賞金稼ぎって何だか似合うですよ」

少女の元に加工を依頼しに来る客は、そういった者の類であることも少なくなく
その中でも、対面の男からは強く善性を感じる。手伝ってもらったと言うこともあるが、自分のような形の相手にも最初から最後まで誠意じる
それだけでなく、出自が精霊の一瞬でもある故か、オーラのような物を感じても居るのだ。伝えられるほど、はっきりと感じているわけではないが

「幾つかはレゥリが作ったですよ。力のある素材があれば、レゥリが加工できるです。果物程自信はないですが……」

ちょっと苦笑い。血族的な特技ではあるが、自分は完全な精霊でないため、制約や偏りが生じる
それゆえ、この店にあるような完全なモノはつくれないが

「どうぞ食べてくださいですよ。溶けちゃうですよ?」

ずいずい、と自慢のパフェをそちらに促すだろうか
見れば、表面のソフトクリームが少し溶け出して、スプーンで軽く掬える程度になっているはずだ
お礼のつもりでもあるのだから、どうせなら美味しく食べてほしいという少女の気持ちは、見た目相応のせっかちさの現れでも有った
44 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/25(火) 22:40:54.48 ID:1gxN4764o
>>42

「火炎瓶っ!?」

遠山先生がそう言い終えると同時、瓶の割れる音が響く。
そちらの方へ振り向くが、見えたのは“割れた瓶だけ”。
――また、騙された。下唇を噛み、前方を伺ったのなら……。

「うわっ!?」

遠山先生の足払いが、見事に成瀬の足元を掬った。
抵抗する余裕もないままにじめんへ背をつけて倒れる。
――本当は、こうする筈ではなかったのだが。


「センセ。……愉しんでる?」

ニィ、と右の口元を上げてそう声を掛けた。
左腰に提げられた鞘に左手を遣り、鯉口を切る。
そのまま彼女によるなんらかの行動がなければ、立ち上がろうとするだろう。
45 :【栄華之夢】 [sage]:2017/07/25(火) 22:48:55.14 ID:Fl0J+5ym0
>>40

「……安心してくださいね、私は流石に剣のない侍を狙うような卑怯なことはしませんわ」

普段は何かしでかしたあとの人間などのみ狙うが今回は違う。
帝國華族として大和撫子の評判を落とす真似などはしないのだ。

「それが武士道であり騎士道ですもの」

ニコリと笑う彼女。
黙っていれば美しい人間の典型的な例である。

そして彼女は動き出した。

「あら、お茶の時間じゃないの」

そう言う彼女の顔は名残惜しそうだった。

//雑ですがこのあたりで〆と言うことで……すみません……
46 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/25(火) 23:17:37.99 ID:DZGOo4H80
>>44
「先生は……悲しいです
先生は成瀬さんをそういう風に育てちゃったんですか……?」

再び、遠山万里江は涙を流す。
しかし、泣きながらも頭は次の「トリック」を考案する。
音だけのハッタリはしばらくは通じないだろう。なら――

「私だって、本当はこんなことしたくないんですよ……?」

歩みを止め。成瀬の背後に「トラップ」を仕掛ける。
この言葉は真か、それとも偽か。
何故だか、万里江にも分からなかった。

万里江は立ち上がろうと動き出す瞬間を狙って動き出した。
懐に手を入れ、何かを隠しているように装い――しかし、今回は実際にナイフを隠し持っている、成瀬との距離を詰める。
そして、成瀬に十分に接近できたなら。
万里江は隠し持っていた凶刃をやっと曝け出す。

即ち、ナイフによる刺突を繰り出す。

先程も懐に手を入れ、結局何も出さなかった。
先程から万里江は嘘を吐くことが多い。
それらによって植え付けられた先入観を打ち破ることができるのか―――?
47 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/07/25(火) 23:30:33.85 ID:hO3YMPxZ0
>>45
「……次会う時は、刀持ってると思うから相手してやってもいいぜ」

帝國で10年過ごしてきた結果、かなり帝國文化に魅入ってしまったと思う。
しかし華族などの上流階級と関わる事は無かったので、相手の身分までは窺い知る事は出来なかった。
もし相手がやんごとなき身分なら、こんな提案はしなかっただろう。

「おっ! ブシドーか! いいねぇ!」

武士道、自分の征く道。それはある意味正義とも悪とも違う美学であると自分は思っている。
時代錯誤な考えであるため理解してもらえると嬉しいものだ。

「そうだ! コレやるよ」

【巳桐不動流居合術・ワイルドハント リオ=レナード】
彼の所属と名前が描かれた名刺。
自分の戦闘力を測るような言動を見せた彼女は、次に会うとしたら戦士としての自分に会いに来ると思ったから。
一応渡しておく。

/わかりました。絡み乙でした。
48 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/25(火) 23:49:29.05 ID:Klnw7lyZo
>>43

ふむ、と納得するように頷いた。
それだけの力があるならばもっと繁盛していてもおかしくないと思ったのだが、特殊な素材が必要となれば話も違ってくる。
世の中にありふれたものとは違う魔石や霊薬、そうしたものはそもそも入手すること自体が難しい。それに件の相性や制約なども関係もあるのだろう。
ただそれらを考慮しても役立つことは多そうだが、あまり名が広まっても良いことばかりであるとはいえないため、彼女にとっても現状がベストなのかもしれなかった。

「ふむ」

と、そこまで考えたところで目の前にパフェが差し出される。
確かに、この手の菓子は長く置いておけるものではない。この季節ならば尚更である。
味を損なわないうちに食べてしまわねば彼女の好意を無碍にしてしまうことになる。それではあまりに礼を失していようというもの。

であれば早く手を付けようかとスプーンを取りかけ、その前に目の前の少女に目礼し、改めてアイスクリームを掬って食べた。

「……旨いな」

実のところこういった菓子は口にしたことがなかった。
それこそ幼少期から今に至るまで、このように華々しいものは食べたことがない。パフェどころかアイスですら、これが初のことである。
だから比較対象は皆無だったが、この食べ物が極めて美味なるものだということは一口で理解できた。

男の表情は変わらない。
相も変わらず厳めしい顔のままで喜んでいるのかいまいち読み取れない。
そもそもこのような男が可愛らしいパフェを口に運んでいるという絵面がどうにもおかしかった。あらゆる意味で壊滅的に似合っていない。

ただ無言でスプーンを動かす手に澱みはなく、思わずといったふうに呟いた言葉に嘘がないことは理解できるだろう。
49 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/25(火) 23:50:01.97 ID:1gxN4764o
>>46

また、成瀬は口角を上げた。
“先生だって、こんなことはしたくない”――。


「センセ、それ『ウソ』だよね」
「私もそうだよ、何かを壊していったり、詰ましていったりするのは愉しいからね」

今までがハッタリなら、今度こそ仕掛けは“本物”だろう。
何時迄も騙されていてはキリがない。
信頼や教師といった枠を外れ、彼女の“本質”を見極めなければ。

彼女が走り寄ってくるのを伺うと、成瀬は刀の柄に手を掛ける。
そして――――、遠山先生へ向かい刃を振るった。
居合。だが、その刃は遠山先生には届くはずがない。

そう、成瀬はかまいたちを放ったのである。
鋭い刃のように加圧されたそれは、皮膚程度であれば容易に切り裂く。
そして居合の勢いそのままに遠山先生へ背を向け、距離を開けようとする。


「センセ、なんでこんなことをするんです?」

興味本位からの一言。
彼女はそのトリックのすべてを以て、生徒を“殺めようと”している。
それが何故なのか、成瀬は気になって仕方がなかった。
50 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/26(水) 00:32:11.37 ID:gRE0QHQS0
>>49
//さっきのレスで何を仕掛けたか書き忘れたのでトリックは仕掛けなかったということでお願いします

真実であり、嘘である。
先程の言葉には「トリック」が仕掛けられていた。
遠山万里江にとって、“生徒を傷つけたくない”、“もう生徒を――たくない”という感情が、紛れもなく真実であるという「トリック」が。

「いたた………なんで、ですか?
答えはもう出しているじゃないですか」

ナイフを持った右腕の袖が切れている。
ナイフが血に濡れている。右腕から垂れる血が滴っているのだ。

「ふふっ、授業はまだ――終わりませんよ」

「トリック」をしかける。横の建物の「中」に。
金属ナトリウム。最初に用いたものと同じトリックだ。
こちらから仕掛けるのには少し分が悪い。おびき寄せて――
ナイフを構えなおし、成瀬が仕掛けるのを待つ。
51 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/26(水) 00:39:31.53 ID:xrar9+qho
>>50

遠山先生の右腕からは、血が垂れているようだった。
ポタリ、ポタリとナイフの柄を赤く濡らしていく。


「こんな授業――、堪らないほど愉しいねッ!」

授業はまだ終わらない。彼女が倒れぬ限りはそうなのだろう。
成瀬はまた実直に彼女の元へ、刀を下段に構えたまま向かう。
そして辿り着けたのであれば、斬り上げてでもしてやろうか――、と。
52 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 00:48:57.58 ID:KS10yJcfo
>>48

「ふふっ……」

可愛らしいですよ。なんて感想を抱きながら

妻が夫に料理を褒められたように。祖母が孫に好物を喜ばれた時のように、嬉しそうに笑う
見た目とは不相応の、包容力というか、年上の女性が持つ特有の雰囲気だ

事実、男よりも遥かに年上ではあるのだが

「甘い果実の味を活かすために、甘さ控えめのアイスとかにしてるですよ。ゼリーもお手製なのですよ?」

店の自慢の味であり、山奥ゆえ人が来ることは少ないが、このパフェを目当てに来る客はそこそこ多く
ちょっと熟れ気味の果実を使うことで、廃棄する果物も少なくて済む。まあ、パフェにならなければジャムや漬物になるのだが

「これ、泉のお水に檸檬の蜂蜜漬けを入れてるのですよ。甘さよりも酸っぱさのが強いですから、口の中がすっきりするですよ」

そう言ってキッチンから持ってきたのは、ピッチャーに入った透明より少し黄金に近い水と、氷が2つはいったグラス
説明しながら注ぎ、男にサーブする

「じゃあ、果物を包んでくるのでごゆっくりですよ」

ごきげんな様子で鼻歌を歌いながら、キッチンの方へ戻っていく
暖かい日差しと、何故か暑くない室内。それぞれ窓や壁に仕掛けがあり、清浄な空気を保っている
からん。と氷が揺れる音がした
53 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/26(水) 01:30:30.97 ID:mhHKzx+zo
>>52

軽く頭を下げて、再びキッチンへ向かっていく少女の姿を見送る。
……彼女の笑顔には、その幼さに見合わない包容力のようなものを感じた。
まだ少女の年齢なのにも関わらず……いや、そうか。

「ウンディーネ、か」

彼女が魔物と人間の愛の子であるならば、必ずしも外見の実際の年齢が一致しているとは限らないのだろう。
以前に、秘された妖怪の里を訪ねたことがある。そこで出会った、幼女にしか見えない娘の年齢が三桁を越していると聞いて驚愕した覚えがある。確か、座敷童といったか。
その例に倣うなら彼女とて自分よりもはるかに歳を重ねた存在である可能性は高いのだ。

……その姿があまりに人間と変わらないものだから、失念しかけていた。
しかしだからこそ、改めて思うのだ。人間と妖魔にどれほどの違いがあろうかと。

姿が異形だからどうしても恐れられてしまうが、その心根は必ずしも邪悪なものではない。
凶暴な者もいれば、親切な者もいる。心の多様性という点においては人間と何も変わらないではないか。

人にはない力を備えているが、人間とてその気になれば他者をあっさり殺害できる力をすでに手にしているのだ。
それは銃であり、剣であり、言葉であり権力。ともすれば妖魔などよりもよほど性質の悪い使い方を、人間は平気で行ってしまう。
ただ、己の欲望を満たすために。そうした暴力の犠牲になるのはいつだって善良な市民だ。たとえ悪党同士がぶつかり合おうと、その余波を受けて必ず罪なき人々が身を削るようになっている。

当然ここのような、柔らかな善意に満ちている陽だまりも例外なく……。
実にあっさり、哀しいほど簡単に、善は悪の前に蹂躙されてしまう。ただ穏やかな日々を望んでいるだけなのに、闇の毒牙は容赦なく引き裂きにかかる。
彼らの親切心をこうして身に沁みて感じるからこそ……そうした連中を赦せない。この手で報いを受けさせてやろうと固く誓うのだ。
流される涙と奪われる笑顔を少しでも減らせるように。唾棄すべき塵屑どもを一人残らず地獄の底に叩き落したいと思うからこそ……。
男は、一つの決定を下した。

――――――。

しばらくして彼女が戻ってくれば、テーブルの上に綺麗に食べられ空になったパフェの容器と、少しだけ中身の減ったピッチャーがある。グラスはたったいま干された。
テーブルの上に置き、少女の姿を認める。見舞いの果物を受け取ればその代金と、軽食代は幾らかと聞くだろう。
何にせよ払うべきだと思っているのだ。彼女が要らないと答えれば何度かそれでも払おうとした後、最終的に大人しく引き下がる。

ただその後、果物を脇に置く。
持って帰らないのだろうかと疑問に思えば、強い光を放つ碧眼が正面から彼女を見据えていて……。

「レゥリ殿」

厳粛な気配を滲ませて、低い声を放ち。

「加工師としての貴殿に、依頼をさせていただきたい」

この機会を無駄にするわけにはいかないと、力を求める剣士が言葉を紡いでいた。
54 : 【唯包効索】=Create Juggler= [saga]:2017/07/26(水) 02:16:27.52 ID:KS10yJcfo
>>53

果物を手頃なバスケットに詰め、少女は戻って来た
桃やさくらんぼなどの真ん中に鎮座するメロンと、その脇には泉の水を使ってつくった檸檬水と、梅酒が500ml程度の瓶に入って並べられている

空になったパフェグラスを見て、内心ガッツポーズ。男の人にはちょっと辛いかな?とも思わなくはなかったのだ

支払いに関しては、少女はこれらの金額のみを受け取るだろう。手伝って貰った分なのだ、という主張は譲らない



────────────



両親からの愛情をたっぷりと受け、穏やかな陽だまりに暮らす少女とて、悪意と出会うことはある
あまり街に出ないとはいえ、買い出しや果物の販売に行くこともあり、人に出会うことは必ずしも善性の出来事ばかりではない

つい先日のことだ。少女に巻かれた包帯の原因は、街での能力者狩りにであった為。ただ異能を有するという理由で、気絶するまで襲われ続けた。その恐怖がまだ抜けきっていないのは、男が此処に訪れた際の反応が答えである。

でも。

少女は諦めたくないのだ。

縁を繋ぐという事を。人と繋がるという事を。

何処までも愚かであり、何処までも善性であるのは────それが、得難い「普通」であると、少女は理解していた

だからこそ、男の瞳の奥にある、鈍いが力強い輝きを認めて


「分かりましたですよ」


加工屋としての、己のスイッチを入れる
少し待つ様に男に伝えると、一度カウンターの奥に引っ込む

数分。奥から現れたのは
若草色の緩いウェーブのかかった髪。同じ色の瞳。
肩を出したデザインの、何処か民族衣装的な印象を受ける白いドレスを着た女性であった
背は女性にしては高く、曲線が大きな女性的な身体つき
先程まで居た少女の、年の離れた姉と言われても違和感のないくらい、面影を残した女性は

「このレゥリ・テルル・ミルシャ・コピカルデ────ご依頼をお聞きしましょう」

透き通った声で、男に改めて名乗る
己のもう一つの姿────ウンディーネとしての能力を使う時に、変化する姿

本来のウンディーネは、愛されるまで魂を持つことができない。半ウンディーネである少女には魂があるが、その成長が遅い
ゆえに普段は魂の年齢に近しい少女の姿をしていた。だが、ウンディーネとして振る舞う間のみ、こうして「己の一番美しい姿」になるのだった

55 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/26(水) 02:59:21.86 ID:mhHKzx+zo
>>54

――変化したその姿。面影こそ残すものの先と比べれば同一人物であるとは思えない姿を前に、しかし男に動揺はなかった。
鋼の如く、厳と揺るがす不動。その眼差しは一切変わらず、輝くままに彼女の姿を映している。
相手が半妖ならば人間の道理など通じぬこともあるだろう。ならばこの程度、何を驚くことがあると。

慣れた手つきで剣帯を外し、吊り掛けられていた長剣をカウンターの上に置いた。

「加工物品はこの剣。付与していただきたい特性は攻撃性」

それは一見して、変哲もないロングソードだった。
少しばかり刀身は長いがその程度。一般的に定義されるサイズから逸脱してはおらず、鞘にも柄にもこれといった特徴はない。
無論その鋼にも……。磨き抜かれた刃はよく使いこまれていることを覗わせるがそれだけ。どこにでもあるような品である。

「炎であれ、氷であれ、それ以外の何であれ……対敵を撃滅する力を宿らせしめてくれるのならば問題はない」

そして男が語る内容は、その顔つきに相応しく物騒だった。
要するに敵を殺す力が欲しいと言っている。剣という器物の役割を考えればそれも当然のことだが、彼の言葉には妙な迫力があった。

「加工にあたって触媒が必要ならばこれがある。とある能力者がその身に嵌め込んでいたいたものだ。詳細な情報までは解析できていないが、何かしら尋常ならざる力があるのは間違いないだろう」

懐から取り出したのは一対の眼球……否、義眼だった。
自分の見た限りではあるがと前置いて話し出すのは、それを手にしたときの情報。
ウィズと名乗る賞金首、義眼に刻まれた魔法陣を空間に投射して火球を生み出す能力者。そして死亡に際し、溶解する遺体の中でこれだけが残ったことを。

……なお、彼は知る由もないことであるが。
彼の能力者は、この義眼によって火球を生み出していたわけではない。
これはいわば増幅装置のようなもの。能力自体は素から存在したものであり、この義眼の核となるとある物質に反応させることで、能力を強化していたのだ。

その物質とは、オメガニウム――“祖国”で発見され、大きすぎる有用性を危惧した国連によってその存在を封印された禁断の鉱石。
この義眼に埋め込まれている量はごく微量のものであるが、特殊装置を通せば無限増殖を可能とするという性質ゆえに、たとえ小指の爪の先ほどの粒だったとしても血眼に探す人間は多いことだろう。
彼の魔法陣はこの性質を利用して空間にオメガニウムを複製し、魔法陣と成していたのだ。もっとも本来の方法とは違ったゆえにすぐ消えてしまうこととなっていたが……。
更にオメガニウムには揮発性があり、一定量が集まれば莫大なエネルギーへと変換させることから軍事的な価値も相当に高い。

……一言、危険な代物である。
56 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 15:05:55.85 ID:KS10yJcfo
>>55

「剣……ですか」

つい、と表面をなぞる――声が聞こえる
イメージとしてだが、それは強い意志であり、それは信念であり、それは不壊であると

それ故に。

「この剣に加工は出来ません。貴方と繋がっているこの縁は、不変であるべきもの」

きっぱりと、剣に対する変化を断った
しかし、そちらを向いて。瞳を覗き込んで

「―――貴方は、剣と鞘。どちらが大切か、判りますか?」

ある聖剣の主に、ある魔術師がした問い
己の中の血がその問を知っている。そして、男が持っていた双眼を持つだろうか
構築と転写。増殖と変化。そして何かを求めるような、声。そして在るべき姿の幻視。

この問が分かるのならば。

値踏みするような、しかし期待するような。そんな瞳で、男の答えをまつだろうか

/すいませんおくれました………
57 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/26(水) 17:48:24.81 ID:mhHKzx+zo
>>56

己の手の中に納まっているものの正体がなんであるのか。そして重要なのはいったい何か。
それは戦士であるならば、誰しも答えを出しておかねばならない問である。
自身が振るうものを如何様に捉えるのか。それを真に理解しない限り、本当の戦士とは呼ぶべきではない。
そんなものは単なる、刃を手にしたただの人。技体だけでは道は成らず、心が足りずばどこまで行っても三流以下だ。

「刃と鞘が揃ってこその剣だ。その二つは不可分であり、分けて考えるものではない」

だからこそ心身ともに努力をよしとするこの男が、そこについて考えないということはなかった。
遥か昔――彼女にとってはそれほど過去ではないかもしれないが――彼が剣を取ったそのときに、まず何よりも手の中にある力について熟考を必要とした。
わけもわからず、ただ在るだけの刃に振り回されて道を見失わないように。
剣とはあくまで道具であるのだから、その力に溺れるような無様を晒すわけにはいかないために。

「刃がなければ敵を倒せず、鞘がなければ獣の牙と何ら変わらん。剣というものは突き詰めれば単なる力であるがゆえ、最も重視されるべきは持ち手の精神性だが……」

どんな名刀であれ、振るう人間が鈍らであれば脆いもの。
高潔な者がただ才だけに優れた悪人に敗北してしまうのは虚しい現実だが、拮抗した二者が戦ったとき最終的に勝敗を分けるのはやはり心以外にない。

「あえて言うとすれば後者だ。力とは戒めるものがなければ災害に変わる。歯止めの効かない力の辿る末路が暴走であることは、武であれ政であれ同じことだろう」

この世の理を解く賢者のように静かな面持ちで、しかし見返す瞳には静謐な炎を漲らせ。
考え抜いた末に導き出したこの答えに、男は揺らがぬ確信を抱いていた。


//いえいえー
58 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 18:26:13.97 ID:KS10yJcfo
>>57

「ある王はこの問の真意を解らず、果ては何もかもを失くしました」

血に残る遥かな記憶。泉に、遠き我らが故郷に沈んだその聖剣
とある王の物語の終幕であり、正義を信じ正義の刃を振り回したが故の結末で

目の前の男は同じ結末はきっと辿らないのだろう
彼の王が辿り着かなかった答えに辿り着いていて

ならば、新たな物語を紡ぐ男は幸せを掴むことができるのだろう
そしてその手伝いをするのは我らが役目

  遠く在る我らが故郷よ 
「《仮想泉展開 妖精郷接続》」

魔翌力の更に素、流体が部屋に満ちて、女の足元から景色を変えていく
全ては湖上に。果樹園に有った泉が中心点となるように、広がっていて

この世には無い湖。妖精郷への入り口を此処に仮想的に再現する
風は優しく、遠くには炎の山、泉の周囲には磨かれたような土から生える草原

男の剣が、先を湖に向け、浮くだろう
女が両手を器に乗せているのは、男の所持していた義眼

「《我らが役目 我が歌に乗せ》」

湖が、女の足元から波紋を作っていく
穏やかな波が広がって

「《素はあるべき姿を知り》」

義眼が掌の上で、水に変わっていく
まるで氷でできていたかのように。そして、女は両手の間を開いてそれを泉に溶かしていく

剣先がゆっくりと、泉に触れる

「《相応しきものと 出会うこと 祈ろう》」

祝詞を歌のように告げ、子守唄のような、言葉ではない歌を捧ぐ
広がっていた波は反射して、剣先の部分を中心に交差する

歌は数十秒のようにも、十数分にも感じられて
水面下で水が形を得ていく

「――――」

鞘の形。透明なそれは、少しずつ外側から色付いていく
赤で縁取りされた、鈍い銀色の鞘。水が表面を伝うような装飾で

ゆっくりと、泉から浮上して
鞘は剣を収めていくだろう。そして、収めきった時、完全な実体を得るはずだ

「貴方が相応しき使い手であることを、願います」

歌が終わり、女がそちらに手を差し出すと、鞘と剣はそちらに掴まれるのを待つように、浮翌遊して手元までゆくだろうか
使い手として、鞘が選んだのならば、それは持ち主に伝わるであろう
逆に、使い手として選ばれなかったのならば、砕け散ることになるが
59 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 18:35:26.03 ID:KS10yJcfo
>>58
/7でしたので、追記いたします!
/鞘は収めた剣に炎の魔法陣を付与し、任意で着火できる
/炎は3レス間のみ維持され、刃に纏う形で発現する。また、鞘に剣を収め直すことでリチャージ可能
/リチャージする場合、鞘自体が軽いやけどをするくらい発熱する。1レス必要
60 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 18:36:53.53 ID:KS10yJcfo
>>59
/さらに追記
/耐久度は鉄程度です
61 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/26(水) 19:08:49.90 ID:mhHKzx+zo
>>59-60
//ありがとうございます!
//ところで単にビジュアルのことなのですが、魔法陣というよりは刀身の根本から切っ先まで魔法文字てきなものが綴られている感じに
//そして炎の色を金にしてもいいでしょうか
62 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 19:12:24.85 ID:KS10yJcfo
>>61
/ぜんぜんおっけーです!
63 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/26(水) 19:45:04.16 ID:xpaFeQUIo
それは彼女の日常。繰り返される、血濡れの光景。この世に神が存在しない事の証明。
5.45x39mm弾の炸薬が炸裂し、心臓を揺さぶる銃撃音が鳴る度、血は赤に染まり、風は黒に成る。
自動小銃を持った覆面の狂人が弾丸をばら撒く先には、冒涜的な紋章や儀式道具、そして黒いローブを身に包んだ人間たちの群れ。
邪悪な目的を達成しようという集会は、その超越的精神主義は、極めて物質的な方法で粉砕されつつある。
ボルトが後退し、薬莢が排出される事がひたすらに繰り返される。引き金を適切な感覚で引き絞り、一発一発、丁寧に射撃されていく。
血潮が噴出され、暗闇に飛び散り、ずらりと床に並べられた蝋燭の灯を次々と消していった。
悲鳴。この惨状の下手人の鼓膜を引っ掻き、せめても記憶を傷つけんとばかりに、悲鳴が狭い空間に反響した。

救いはない。神はいない。そのはずだ。俺もお前も、惨たらしく死ぬに決まっている。
それが今、お前に来ただけだ。


上空で蠢く黒雲は雷鳴を光らし、轟音を響き渡らせた。邪教の洞窟から外の森へと出てきた奇妙な服装の人物は、またもやずぶ濡れとなる。
外で雨が降っていることを失念していた為、洞窟内で煙草に火を付けてしまい、此れの火も瞬く間に雨に消されてしまった。
頭全体に乱雑に巻かれた黒い包帯に水がずっしりと染み込み、髪の毛の重さと相まって、不愉快に思う。
弾丸を撃ち尽くした自動小銃を脇に投げ捨て、深いため息を吐き出す。早くシャワーを浴びたい気分だった。
返り血が全身にべっとりとへばり付き、これほどの豪雨でさえも、洗い流すのには全く意味が無いことを知っている。

しかしその時、近くの茂みから走り出した何者かの影を捉える。黒いローブを着た人影は、恐らくは偶然外に出かけていた邪教徒だろう。
考えるまでもない。そして45口径のリボルバー拳銃をホルスターから抜いて、引き金を引くまで、何の躊躇いもない。
慌てて逃げ出す黒ローブの足元に着弾すると、それは火炎の玉のように爆発し、右足を吹き飛ばす。人が地面に倒れる音。

「……煙草が吸えて、ないんだ。」

異形の風貌の女(声色から何とかわかるだろうか)は、激痛に悶え苦しむ邪教徒の元へと近づいていく。
胴体に爆発する弾丸を当てれば、それだけで即死させる事も出来ただろう。しかし、そうしなかった。
無論、この悪天候では弾丸で狙いを付ける事は困難を伴う。銃の腕前が達者だろうと、ペナルティは避けられない。
しかし ―― とにかく今は、イライラしていた。少し、付き合ってもらわないと、いけない。


片手で髪の毛を掴み上げ、悲鳴が漏れるのを気にも留めず、ずるりずるりと引き摺る。
邪教徒は近くの街の若い男だ。まだ10代後半と言った金髪の青年で、青い瞳をしている。
恐怖で歪んだ表情からは涙が零れ落ちていたが、この大雨ではどれがどれだか、誰にも分らない。
どうか助けてください、私が間違っていました、彼は言う。命乞いをする。助けてくれ、助けてくれ、まだ僕にはしたいことがたくさんある。

洞窟の入口へと引き摺って行くと、ポケットから取り出したウォッカ入りのスキットルを取り出した。
中身はまだ液体に満ちていて、しっかりとした重さを感じる。そしてそれは、倒れ伏す青年に全てを今掛けたので、軽くなった。

「今お前に出来る事は、ただ一つ。」

アルコール度数の高い酒を全身に浴びた青年を見下ろしながら、彼女は、ライターを取り出す。
親指でホイールを擦りあげると、音を立てて火が灯された。

「黙る事だ。」

彼をわざわざ燃やさなくてはいけない理由とは、何だろうか。いや、理由は、無い。
トレス発散? それも、違う。こんな事をしたところで、ぐしゃぐしゃになった煙草は戻らない。
強いて言うならば、答えは、彼女はそれができるからだ。

彼女は狂っていた。


/置きレス前提になると思います……すみません。
/線より下のどのタイミングで絡んで頂いても、大丈夫です。癖強い待ちなので、気に留まらなかったら全然スルーしてください
/キャラとかシチュ、展開の希望がもしもあったら、お気軽に。
64 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/26(水) 20:35:48.49 ID:mhHKzx+zo
>>58

……祝福はここに。

さながら水辺の精霊によって鍛造された名剣のような佇まいは幻想的な美しさすら纏っている。
それを見つめる双眸に、やはり揺らぎはなく。泉と日の光を受けて煌めく総身、未来を目指す確かな双眸、あらゆるすべてが彼を光の勇者として輝かせていた。
誰もが確信を抱くだろう、この男こそ伝説の担い手と。強きを挫き弱気を助く、物語の主役に相応しき選ばれし者なのだと思わせる。
言葉を発することはなく、やおら剣へと手を伸ばすその光景はまるで御伽噺の一節のようで……。

――その手が鞘を掴んだ瞬間、ほんの微かに軋みをあげた。

一気に剣を抜き放つ様は流麗そのもの。澱みのない軌道を描く刀身は赤の残光を引き連れている。
見ればその根元から切っ先にかけて不可思議な文字が刻まれており、如何なる理屈かそれは発光していた。
加えて鞘を手に取った瞬間に流れ込んできた情報に従って念じれば、その鋼が日の光を思わせる炎を纏う。
成功だ――これにて単なる鞘は、納めた剣に炎を付与するマジックアイテムへと変化した。

……しかしそのとき、異変が生じる。

刻まれた文字が光を強めていく。その光量は際限なく上昇していき、次第に屋内すべてを照らして目を開けていられないほど高まっていった。
……さほど続かず弱まっていく金色の光。その発生源である剣を見れば、先ほどまで確かに綴られている文字であったはずのものは見る影もなく変容していた。
まるでどこまでも突き抜けていく一条の光のように、刀身全体を貫いている一本の線に。

そしてその変化に連なるように更なる変化が巻き起こっていき……今度は赤々と燃えていた炎が、その姿を変えていく。
いいや正確に言うなら形は変わっていない。ただ光り始めた刀身の輝きにつられるように、火の色彩が黄金へと変じた。

その剣の威容たるや、なんと荘厳なことだろう。
夜を照らす光の刃は、闇のすべてを焼き尽くす裁きの炎。あらゆる悪を灰燼に帰すことを予感させるその様は、まさしく勝利を冠する正義の剣だ。

……そこに、どこか温かみのあった日の面影はない。
自身に対して願われた幸福の想いさえ、未来へ進む燃料に変えて突き進むみたいに。
輝かしい光を放つ剣は重く、強く、激しく煌めきひたすら雄々しい。
悪のすべてを討ち滅ぼさんと願う本人の気質に塗り潰されたかのように、仰ぎ見る者の目さえ焼き潰してしまう強すぎる光を放っていた。

「――確認した」

それを持つ男の姿に、しかしそれでも変わりなし。

「注文通りの出来栄えだ。その手腕に敬意と感謝を捧げよう」

さて報酬は幾らだと聞く彼は、まるでこれが当然のことのように受け止めていて。
いや実際、こういうものだと思っているのだろう。なにせ彼女の加工は初見。
一度出来あがった段階から変化したとしても、言われなければ特に違和感を抱くこともないのかもしれない。


//遅れました、それと見た目にもうちょっと変更を加えさせていただきましたー
65 :【携行割金】 [sage saga]:2017/07/26(水) 22:58:58.23 ID:/4on70P90
喧騒止まぬ夜の居酒屋――であったその場所は静寂に制圧されていた。
止まぬのは、血の匂いと殺意と悪意の奔流。止んだのは一つの命。その鼓動。

「おーい、変態野郎さん。頑張ってくださーい。折角小生がこんな時間まで残業してるんだ
 せめてもう一分。いいや、もう二分。もっと生きの良い反応を頼みます、よッと!」

客の居ない居酒屋に居たのは二人の人間と一つの死体。

一人は特別強襲部隊DOTA所属の隊員で、喪服のような黒スーツが特徴的な男。
彼は、もの言わぬ死体に馬乗りになりナイフのような凶器で、死体を励ましながら滅多刺し。

一人はこの居酒屋でバイトをしている大学生ぐらいの茶髪の女性。
殺害現場たるホールの角っこで声を殺しながらガクガク震えることしかできなかった。

一つはこの居酒屋の店長だった男。裏の顔で監禁や誘拐からの殺人を犯していた男。
それはとうに息絶えており、それでも尚刺され続け徐々に原型を崩し始めていた。

黒服の男はDOTAに所属しており犯罪者を殺す事自体咎められることは無いが。
一見すれば、DOTA所属の黒い男が無実の男を滅多刺しにして殺しているとしか見えない。
そしてそれはぶち破られた玄関からは鮮明に見える。この場に来るのは果たして何者か――

/置きレスぎみになりますがよろしければ
66 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/26(水) 23:00:21.33 ID:gRE0QHQS0
>>51
ああ、完全に視野が狭くなっている。――あれでは、探偵ではない。

「――残念です」

コートを翻し、成瀬に背を向ける。
その一瞬後、轟音が響きわたる。
――横合いの壁が炸裂したのだ。
もしも、耳が良ければ或いは聞けたかもしれない。轟音の前に壁の中で反響していた、水音が。

壁は然程厚くはなかったらしく、ナトリウムと水の反応はそこまで万能ではなかったらしく、爆発の規模は小さい。
だが、決して小さくはない瓦礫が散乱する。備えなしに受けるのには、少々堪える程度には。
67 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/26(水) 23:31:44.98 ID:xrar9+qho
>>66

成瀬が遠山先生に迫ったその時だった。
――不意に彼女はこちらに背を向けたのだ。
成瀬は“嫌な予感”がしたからか、向かい風を吹かせ逆噴射を試みるが……


「っがあ……ッ!」

爆風が、壁を破って路地裏へ吹き抜けた。
同時に成瀬は瓦礫の洗礼を浴び、その勢いで対の壁に叩きつけられた。
お陰で包帯を巻いていた右腕の上腕部からは多量の血が流れ出ていた。


「あっはは、センセの方が一枚上手だったね」

壁に持たれながら、遠山先生へ向けて無理に笑顔を作る。
右の腕や大腿からは出血がひどく、体力の低さと相まってヤバい状態である。
だが、魔翌力は幸いにも使い切っていない。

「センセ、これ以上やるんなら私も本気出すしかないよ」

笑みは苦笑へ、冗談味を帯びた言葉は真剣味を帯びた言葉に。
奥義を見せれば、“あの事件”の犯人とバレるかもしれないが――
命を失うことと比べれば、よほどマシな選択だろう。
68 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage]:2017/07/26(水) 23:59:34.66 ID:KS10yJcfo
>>64

男が剣を取ると共に、急速に周囲の風景は女の足元に収束
光になって女を包んだかと思うと―――元の、小さな少女に戻っていた。服がぶかぶかで、ちょっと危ういか

「うーん……」

鞘と男の波長はあまり噛み合っておらず、不和を感じる
これは己の力不足だろう。ちょっと、残念。しかしこれもそういう縁なのだろう

「お代は、そのうち素材を持ってきてくれればいいですよ」

ストックしておいてもいいし、また鞘にチャレンジするのもアリか、と
そういう意味で、お代は金額面ではちゃらにしよう、と考える。会心の出来なら、貰おうと思っていた

「もし壊れたら、また持ってきてくださいですよ」

リベンジですよ。なんて、言いはしなかったが
69 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/27(木) 00:00:38.56 ID:rG7jhY+U0
>>67
やはり、違う。
血にまみれ、しかし立ち上がる成瀬を冷めた目で見る。
やはり、彼女は“探偵”ではない。
求めていた存在とは違う。

「私にはその気はありませんよ。でも――」

振り返りながら、周囲を確認しながら成瀬の傷の具合も確認する。
致命的ではなさそうだが、戦闘力はかなり削げたはずだ。

「それでまだ戦いたいというのなら、お相手しますよ」

――万里江にはもうその気はない。
成瀬が期待していた存在ではなかったから?それだけではない。

なぜなら、万里江は先生だったからだった。
70 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/27(木) 00:13:34.34 ID:KK6fz6FWo
>>69

「あー、もう無理無理。私体弱いからさ」

立ち上がることはできても、左手で右腕を支えなければならない状態。
戦闘を継続したとしても、双方ともに理はないだろう。
……特に、こちら側としては前の傷口が開いてしまっているのであるから。


「あ、センセ。それでさ……」

口元に厭らしい笑みを浮かべ、遠山先生へ近づく。
特に戦う意思がないということは先程告げたので問題はないだろう。
ともかく、今問題なのは――。

「アパレルで買った服、あれ結構したんだからね!?」
「学生にとっては大出費だよー。だから、ね?」

――服が破れたんだから代わりを買ってくれ、と。
一連の戦闘が楽しめたのと、服が破れたのとは別である。
本当に困ったような顔――それも本心で彼女の方を向いた。
71 :【罪の蜘蛛糸】 [sage saga]:2017/07/27(木) 00:32:58.45 ID:rG7jhY+U0
>>70
どうやら、お互いもう戦う気はないようだ。
そう聞けば最後の「トリック」を左手の壁に仕掛ける。

「ふふふっ、今日の授業料と思ったら大出費も安く思えますよ」

ウインクをすれば、壁に足をかけてそのまま壁を走り出す。
――最後の「トリック」は、ワイヤー。壁を垂直に駆けあがる為の仕掛け。

建物の上へと一気に駆け上がり、そのまま犯罪者は消える。
成瀬のお願いは、残念ながら聞き入れられなかった。


――だが、成瀬が家に帰ったらそこには。
玄関前には、アパレルの袋がそっと置かれてるのかもしれない。


//ではこれで〆で!長い間お疲れ様でした!!ありがとうございます!
72 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/07/27(木) 00:38:43.35 ID:gSr67Y8x0
>>65
何も知らない男が一人、来店する。
黒い神父服に赤の混じった黒髪。浅黒い肌。全てが黒く、暗い印象の大男だった。
明るく輝く物があるとすれば、隻腕の金属製の義手くらいなものだった。
店内の惨状を一瞥しただけで、何も無かったかのようにカウンター席に座る。

「黒霧島、それとモツ煮込み」

隅で震えていた店員にオーダーをする。
この惨状をやり込める自身があるのか、既に事切れたかも知れぬ相手に下される一方的なリンチに対しまるで興味が無い様子だ。
店員は当然理解が出来ずに動けないでいたが、催促する訳でもなくじっと座っている。

「……」

ただじっと待っているのはバツが悪いと思ったのか、死体に向かって片方しかない腕で十字を切った。
神父らしい行動をするのは久々だった。

さて、惨劇に目もくれず呑気に食事をしようとしているこの男を、黒服はどう思うだろうか?

/今日はこれ以上お返し出来ないと思いますが… よろしいでしょうか?
73 :【紡風慧峯】 [sage]:2017/07/27(木) 00:40:38.24 ID:KK6fz6FWo
>>71

「あっ、ちょっと!センセ待って!」

遠山先生は壁にワイヤーを掛けたかと思えば、一気に屋上まで駆け上がってしまった。
結局お願いは聞き入れてもらえないまま、姿をくらまされた事になる。
成瀬はムスッとした顔を暫くしていたが、仕方なく帰路につくことにした。


「にしても、まさか遠山先生があんなに凶悪だったとはねー」
「普段どんな本読んでたりするんだろ」

国語の教師だしね、と呟いた。
彼女が普段見せない、凶悪な一面を垣間見てしまった。
暫くは、遠山先生のことをただの国語教師と見ることはできないだろう。

――さて、アパートの一室の玄関に成瀬がたどり着いたとき。
一つの袋がそっと置いてあった。恐る恐る開封し、中身を確かめてみれば――。
新品の数着の服だった。何も仕掛けられていないことに安堵感を覚えてしまう事に不安を感じてしまったが。

成瀬は満面の笑みを浮かべ、その袋を持ったまま部屋へと入っていった。
包帯を更に一巻きした腕をそのままに。
74 :【黄金鉄梃】 [sage]:2017/07/27(木) 00:50:15.05 ID:N4wzc6Tl0

月も天井を叩いた頃
町外れの西洋墓地広場にて白人の男が一人。

「……………」

白い司祭服を真っ赤に染めて、手には血染めの白い鉄の棒切れを、黙って言葉も発する事なく振り続ける。

足元の人型に振り下ろし、叩き続ける。

手を足を胴を頭を、ぐしゃり、ぐりゃり、と叩く音が、風一つない墓場に、生々しく、鳴り続けるのであった。

75 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/27(木) 00:51:33.62 ID:C9PWafOlo
>>68

手早く剣帯に鞘を留め直す。普段とは少しばかり違うゆえに少々手間取りはしたが、基本形はそれほど変わらないためそこまで時間はかからない。
黒い服装に装飾性の高い鞘は少し似合っていないようにも見えたが、不思議と違和感は感じない。

「……了解した。そのときはまたよろしく頼む」

彼女がどう思おうと、男にとってこれは良い仕事だった。
だからそれに見合う正当な報酬を支払えないというのは残念だが、少女自身がそういうのならば是非もない。
望んでもいないのに無理やり渡すのは単なる押し付けであり自己満足というものだろう。
それに無報酬というわけではない。また今度、不可思議な素材を入手したならそれをもって支払いとしてほしいと言ったのだ。

ならばそれで構わない。
この働きに報いるためにも、一層の精勤を己に課す。

これにてすべての用事が済んだ。
置いてある果物の包みを手に取り、扉に手を掛けて開きかけた。
そのとき思い出したように振り返って、やはり光を湛えた眼差しで彼女を映し……。

「――メルヴィン・カーツワイル。先ほども言ったが、今はワイルドハントというギルドで働いている」

とある山中に存在する組合の拠点の住所を伝え、何かあれば訪ねてくれと言い残し。
柔らかな日差しの中をまっすぐに歩き、立ち去っていった。


//このあたりがキリよいでしょうか……?
//お疲れ様でした、楽しかったです!
76 : 【唯包効索】=Create Juggler= [saga]:2017/07/27(木) 01:02:18.40 ID:2q+Y/ODeo
>>75
/お疲れ様でした!返しも遅くなってしまい申し訳ありませぬ……
/一描写の表現も濃厚で楽しかったです!ありがとうございました!
77 : 【唯包効索】=Create Juggler= [saga]:2017/07/27(木) 01:13:04.55 ID:2q+Y/ODeo
>>75

男の名を帳簿に記し、ワイルドハントについても記録しておく
日は既に傾き始めていて、街に降りるまでには夕陽に変わるだろうか

片付けを終え、果樹園の世話をし終えた後

「……お客様が来るのはうれしいですが、寂しさもひとしおですよ」

なんて。

夕陽に照らされる横顔は、何処か寂しそうだけど
今日の出来事を日記に書き留めながら、また会う時を思って

「次は上手くできるよう、頑張るですよ」

小さな決意を抱くのだった

/改めてお疲れ様でした!
78 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/07/27(木) 18:35:23.81 ID:J/wmgE8Ro

それは、とても涼しい夜風の吹く晩の事だった。旅人は風に流されるがまま、その丘へとやってきた。
浜辺の傍で控え目な明かりをぽつぽつと宿した町が一望でき、水平線、月の映り込む海が広がっている。
雲が一切ない、夜空には星々と月しか浮かんでいない。
長旅の疲れを癒すにこれほど絶好の場所はないだろうと、旅人は思った。

丘の頂に土煙をあげて座り込み、外套の内から風呂敷を取り出す。
中身は、浜辺の町で購入してきたサンドイッチの入ったバケット。
時刻は既に夕飯時を当に過ぎてはいるものの、お腹が空けば空くほど美味しく食べれるというものだ。

ツナとたまご。
レタスとチーズとハム。

「わは。」

サーモンの挟まったサラダサンドイッチも含まれていた。これは購入した覚えがない。
恐らくはサンドイッチ屋さんのサービスだろう。浜辺の町の自慢の海の幸をめしあがれ、という訳。
思わず声を漏らしてしまった旅人は、嬉しそうな表情で、それを後の楽しみに取っておくことにした。

楽しみは後に取っておくタイプなんだ。今はね、そんな気分。

それは、とても涼しい夜風の吹く晩のこと。


/これと>>63で絡み待ちちゅうですです。気に留まらなければスルーで全然大丈夫です!
79 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 19:14:39.77 ID:M0EfCVhBO
>>63

クスクスクス、と笑い声。
どしゃ降りの天から落ちる無数の線を遮る、一輪の花。
黒紫のこうもり傘の向こうにつり上がる赤い唇。三日月持ち上げた口元の主は、木陰の傍でいつからか――少なくとも編み上げブーツが暗く濡れそぼる位にはそこにいた。
かの銃捌きを、飛び散る四肢と血飛沫を、ライターを傾ける挙動を。一挙手一投足見逃すまいと。思わず前のめりになった顔が雨粒に叩かれる。

「あらっ、――」

襟つきのゴシックファッションはその肌を殆ど覆い隠し、唯一さらけ出された白い頬には朱の花が咲く。
ドミノマスクで面持ちの半分を隠しながらも、その表情は明らかに。渦めいた独特の瞳は、今やまん丸に見開かれている。

「ごきげんよう、能力者様!」

嘲笑でも狂相でもない。
恋人との再開を心待ちにする少女のように、黒とえんじ色に身を包んだ女ははにかむように、心底嬉しそうに頬を染めて笑った。



/新キャラゆえ何かと不安定な状態でありますが……っ、突撃させていただきます
80 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 19:33:40.84 ID:J/wmgE8Ro
>>79

声に反応して視線を向けた先には、面妖な服装の少女がいた(無論、自分の格好を棚に上げるつもりはない)。
雨音の中、いつからそこにいたのか判断は付かない。しかし暫くの間、じっとこちらを観察していたいのではないかという気がした。
そういう手合いに合ったことがない訳ではないからだ。斜に構えた傍観者気取りの異常者など、大勢いる。
異常者故に、わかるのだ、異常者の事など、容易く。常軌を逸する事は、存外容易いのだと。

足元で這いつくばっていた男の顔面を黒いブーツで踏みつけ、洞窟に進水した泥水に顔を半分ほどつけさせた。
どうしたものかと考える時間が必要だ。コイツを焼くのが先か、突然現れた正体不明の素性を暴くのが先か。
煙草があれば一服してゆっくりと、精神を落ち着かせて思考に耽りたい。しかし、無いのだ。

「ご機嫌よう、お嬢ちゃん。」

カチッ、カチッ。ライターを閉めては開き、繰り返し音を立てる。
洞窟の奥まで音が反響した。カチ。カチ。カチ。灯が消え、明かりは失われた。

「どうして笑っているのか、教えてくれ。」

右手に握られたリボルバー拳銃の銃口から、滴が落ちる。運が悪いことに、シリンダーには弾丸が一発のみ。
イライラしていた為か、今日は撃ち過ぎたと虐殺者は思う。冷静さを失うのは、大抵良い結果を招かない事を良く知っていたはずなのに。
しかしこうも考えられる。一発で仕留めれば、いい、だけの、ことだ。

「俺によくわかるように。」


/ばちこいです
81 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 20:05:17.31 ID:hof+1g+EO
>>80

かち、ぱち、かち、ぱち。
ライターの開閉と女の瞬きがシンクロする。奇妙な空間。
異常者――なのだろうか――なりに、辛抱強く次の言葉を待っていた。

「あっ、あらっ。 わたくし笑っておりましたか?」

はしたない……とのイブニンググローブに包まれた手で頬をぐにぐにと。
浮世離れした喋り方ながら、我に返った顔でドレスの裾やマスクの位置を直す。
ごほんごほん、閑話休題。


「こほん、わたくしは貴女をお迎えに来たのですわ!」

他者に意思を伝えるとして、まず目的を話す。そのやり方は悪手とは言い難いだろう。
だが、
割と人の話を聞いていない。のは問題。
やはり狂っている――否定出来ないが、そうでもないのだ。少なくとも女自身はそうとは露ほども思っていない。
だからこそ自信ありげに胸を張っている。傘の柄を肩でとんとんと、相手とは違って機嫌が良さそうだ。
続きを促して欲しそうな瞳を、相手はどう捉えるだろう。
82 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 20:30:48.78 ID:J/wmgE8Ro
>>81

「……そうかい。」

 ―― 考えても無駄だ。
面識はあるか、ノー。目的はわかるか、ノー。所属がわかるか、ノー。
全くの正体不明相手に時間を割くのがバカらしく思った彼女は、ライターに再び小さな灯を灯す。
小さい小さい灯。雨粒のように小さく、ガラスのように脆い火は、足元でうめく男を[ピーーー]のに丁度良い小ささ。
悪人には、身の丈に合った死に方を。

「人の事は言えないが、人生踏み外してるぜ、お前。」

そしてライターを手放した。
最初は宙に浮いたかのように、直ぐに勢いよく落下し、甲高い金属音が鳴り響く。
人を焼く事に音は無い。雨音の方がずっと強いから。
ただし人間には音がある。その喉を震わせて、生命の最後の輝きを振り絞る事ができる。断末魔。

ローブを着た男の叫び声、立ち上る火炎を背後にして、再び少女へと視線を向ける。
爬虫類めいた人外の眼は鋭く、顎から水が滴ったが、それが汗なのか雨粒なのかは、わからないだろう。
正確には両方の混ざったものだ。この服はとても蒸し暑くむれる。

「宗教の勧誘なら、答えはこの通りだ。

 じゃあな。」

少女の脇を通って森の方へと歩き出すだろう。森の入り口にバイクを停めてある。
目下彼女の心配は、この悪天候でタバコ屋が早くしまってしまわないか、という事だったのだから、相手は少し運が悪い。
重度のニコチン中毒者にとって、タールの常飲者にとって、あの有害物質の血中濃度が薄まる事は耐えがたい感覚だ。
83 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 21:05:11.26 ID:hof+1g+EO
>>82

ぽうっ、と洞窟に明かりが指す。
それはまるで二人の関係を祝福する花火のように。
目を見開いた女にはそう映ったに違いない。

「ええ勿論歓迎いたします――――あららっ!?」

差し出された手は空を切り、一秒のちバランスを崩してつんのめる。
ずっこけたということは予想の反応を裏切られたということであり。
えっえっ、と右往左往しているうちに、相手の背は遠くなる。

「ちょっと! お待ちになってくださいまし!」

声を遮る耳障りな叫びの主。祝福どころか縁切りの危機をげしっと踏んでコートの背へ追いすがる。
背の高い相手を横から見上げる形になるだろう。
殆ど駆けるような足取りになっているが、歩幅の差と傘の抵抗でやっと同じくらいの速度。

「宗教なんかじゃありませんわ、わたくし貴女を一目見て、こう……びびっと感じましたの!」

先程の言葉を訂正するのが先か、招待の理由が先か。
この期に及んで見当違いの悩みを抱える頭にぴこんと電球が点る。たたた、と勢いよく躍り出て、両手を横へ。相手の進路を塞ぐ形になるだろう。

「申し遅れました。
倶楽部=ウゴーノの第二会員。
隸属の麗人、ラグーナ・テンペスタとはわたくしの事ですわ!」

ふんす、と鼻息荒く胸に手をあてる。そこにはbellezaとの刻印のエンブレム。美を司る薔薇をあしらったそれが女の所属を示している――――訳でもないのだが。
倶楽部=ウゴーノ。恐らく余程の情報通、それもちんけな噂好きにしかこない逸話。
馬鹿みたいな理由でバカを集める組織が出て来たと。それを体現するのが、目の前の女なのだ。
84 :【創世姫唱】@授与スレ>>562 [sage saga]:2017/07/27(木) 21:09:46.08 ID:JQaYQZa90
まだ六時を回らない早朝だったが、時季が時季ゆえに空は疾うに蒼く染まっていた。
その公園は河川敷沿いに位置しており、近所には小規模な住宅群があった。
然れども近隣の住民も眠りに着いているのか、散歩や出勤で出歩こうとする者は誰一人いない。
郭公の囀りも蝉の鳴き声もなく――――だからこそその音色は、辺り一帯に冴え渡っていた。

「〜〜〜〜〜〜〜♪」

公園のベンチに独り座る少女は、身の丈に似合わぬアコースティックギターを鼻唄交じりで弾いていた。
弦を弾く指使いは非常に拙く、思わず耳を塞いでしまうレベルではないが、世辞にも上手とは云えない演奏である。
けれども彼女が口遊んでいる鼻唄はギターと違って存外上手であり、その所為もあってなのか不思議と様になっていた。

その少女はおよそ十代前半らしき童顔と小柄な体躯で幼げであったが、仕草のひとつひとつが妙に年齢不相応な雰囲気を醸していた。
腰辺りまで伸びるブラウンの頭髪は、徐々にワインレッドで染めていくグラデツートンカラーに仕上げてられている。
身に纏う上下黒のカットソーとショートパンツには、最近流行りはじめたパンクファッションのブランドのロゴが付いている。
両耳に付けた多数のピアス、逆十字のネックレス、金属製の腕輪に指環と―――――どうにも歪な趣味(センス)を全身で表している。
少女がこの時間帯を選ぶ理由のひとつは、こんな風貌ゆえに浴びる機会の多い好奇な視線を、音楽をしている最中に受けたくなかったから。

「……――――――ふむ、ちょっと暑いな」

彼是一時間弱演奏していた手を一旦休め、ベンチに置いていたリュックサックからハンカチとミネラルウォーターを取り出す。
まだ未明とはいえ季節は真夏日に差し掛かっている為に、顔を見せる朝陽は段々と夏の暑さで照りつけはじめていた。


/12時前後で凍結挟む可能性大ですが募集
85 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 21:24:23.24 ID:J/wmgE8Ro
>>83

「意味不明だ。」

相手が横に付いてきながら喋ってくることに、うんざりした様子で悪態をつく。
轟々と音を立てるかの如く降り注ぐ豪雨の中、傘も差さずずぶ濡れになって歩くのも意味不明な行為だが、
これにはこれでちゃんと意味がある。"片手に傘を持っていたら、拳銃を両手で持てないだろう"。

そして、進路を塞がれたら、流石に強情な怪人といえど、一旦は足を止めざるを得ない。

「知らんな。」

両腕を組み、相手を睨み付けるように見下しながら、言い放った。
実際は全く知らない訳でもなかった。名前は聞いたことがある。しかしそれは、副次的に、たまたま小耳に挟んだ程度。
その実態を知る機会は今までなかった。彼女の仕事にも関係がありそうにもないと思った。

「お嬢ちゃん。
 断る理由は、腐るほどある。
 まず、ひとつ言ってやろう。

 殺人鬼を見てびびっと感じる奴がいる組織は、クソだ。

 じゃあな。」

 ―― また歩き出そうとする。
ぬかるんだ道に力を入れて足を叩き付けるものだから、びちゃびちゃと音が鳴る。
何よりもこんな雨の中で押し問答の長話は、幾ら殺人を何度も繰り返した怪人だろうと、不快感を覚えるものだ。
傘を持ってない方も、悪いが。
86 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/07/27(木) 21:43:58.29 ID:jZwSTih50
>>72

ナイフで滅多刺しする事に飽き始めた黒服の男の鼓膜に響く声。
居酒屋という場では真っ当で、殺害現場という場では異質な言葉。

「あー、すいませんねえ。今日で店仕舞いなんですよ。
 というよりココ、現場なんで出来ればお引取り願えませんかね?」

事切れ、息絶えた男にナイフを突き刺したまま。
返り血塗れの黒服の男がゆらりと立ち上がり神父服の男に振り向く。

口から出てきた言葉は丁寧であったものの。
男の態度も言葉と同じく丁寧であったものの。
その実、殺害現場に突如現れた神父を慮っての事では無い。

「それでも飲食したいと言うなら他所でお願いしますよ。
 何せ、ホラ。ここは事件現場ですし、飲み食いはご遠慮頂きたい。」

一般的な人間が考えそうな言葉。模範的な公安組織の人間が言いそうな言葉。
だが、言葉と態度と裏腹に黒服の男はそんな事を露ほど思っていない。

意識はただただ異質な存在である神父の男の挙動に向けられていた。
神父と相対する黒服の男の右手はスラックスのポケットへと伸び、能力を発動させる。

死体に十字を切れど憤慨する事無く、淡々と注文をする異端をどう対処するか
それを判断するためには、先ずは探りを入れる必要があった。

そうしている間に店員の女は這いずり気味に店から逃げようとしていたが、黒服の男は気にも留めない。

/お待たせ致しました
87 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/07/27(木) 21:59:10.26 ID:gSr67Y8x0
>>86
「……俺がメシ食うのを、何でオマエに邪魔されなきゃなんねぇんだ?」

面倒臭そうに、返答する。
確かに自分はお尋ね者だが、食い逃げの類はした事がない。今回もしっかり払うつもりだ。
そしてお尋ね者は、官憲の言う事に素直に従うつもりは無い。

「それに、神父として? 安らかな眠りを祈るくらいはしねぇとな」

詭弁である。そんなつもりは毛頭ない。
なんとなく、従うのが癪だから、此処に居座る。そう態度に現れていた。

「それよりもオマエ、本当にそれでいいのか?」

自分の事を知らないなら、それで構わないのだが。
凶悪な指名手配犯である自分には目もくれず事切れた男を刺し続けるその姿がなんだか、間抜けた様子に見え、つい忠告してしまった。
88 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 22:03:06.43 ID:hof+1g+EO
>>85

「もう、最後まで聞いてくださいまし……」

にべもない否定の連続には流石に面食らって溜め息が漏れるも、折れない。
気が長いと空気を読まないはイコールで繋がるか。
相手がこの問答に付き合うなら、その問いの一端が垣間見れる。

「“急いては事を仕損じる”ですわよ?」

――茶目っ気たっぷりにウインク。
多分新聞のコラムとかに載っていて使いたかっただけだ。
何故なら相手は既に事を成し遂げているのだから。
それでもなお通りすぎようとする相手に、しつこく食い下がる執念は尋常ではない、いや頭がおかしい。

「ウゴーノは強い能力者を求めているのですわ!
確かに今は箸にも棒にもかからない小さな組織ですが、だからこそ貴女を必要としているんですの!
人間への憎しみ、残虐性、完全主義。わたくしはそれらを見てびびっと――」

横から飛んでくる泥はねに構わず、今度はきちんと追い付き並んで言葉を紡ぐ。
柳に風、糠に釘、暖簾に腕押し。それはお互い様だ。相手同様その足は、もとい“手”は既に汚れているのだから。

歩きながら、聞いてますのー!? と相手の左袖を両手で掴んで揺さぶろうとする。そう両手で。
相手が再び歩き出したあとくらいから、傘は二人の頭上でそれこそ蝙蝠の如く独りでに雨を遮っていた。
きちんと並歩できたのもこれが理由だ。
89 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 22:10:44.47 ID:hof+1g+EO
>>85
/流石にしつこい……と思われたらご遠慮なく仰ってください。話変えるなり諦めるなり致しますので
/ワンパターンなのが申し訳なく……
90 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 22:22:01.25 ID:J/wmgE8Ro
>>88

徹底的に無視をするしかこの不毛にも思えるやり取りから逃れられないだろうと、
視線を向ける事すらせず、我が愛車の元へと歩みを進めていった。
しかしいつの間にか雨に濡れていない事に、気が付く。木の密集もそこまででは、なかったはずだと。

左袖を引っ張られた時、反射的にそこを一瞥した。"両手?"

「俺に傘は必要ない。」

人殺しに傘など、似合わない。
傘の方を一応は見上げるが ―― 方法なんてどうでもいい。傘は要らない、と言う。

 ―― そして、森を抜けた所、人気のまったくないアスファルトの大通りへと出る。
森の真ん中を突っ切る通り道の傍らに、この数か月前に新調したばかりのバイクがある。

はずだったが。

「……。」

バイクがない。
鍵をあえて掛けていなかった。万が一には、回すのも面倒だと思っていた。
その考えは改めなければならないようだった。なるほど、なるほど……拳銃をホルスターに収める。

「お前は、どうやってここまできた。歩いてきたのか。」

次の町まで歩くのは当然とても疲れる。何より、タバコを後何時間も吸えないというのは我慢ならない。
背に腹は代えられない ―― 
91 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 22:22:57.17 ID:J/wmgE8Ro
>>89
/いえ!むしろ私も立ち去ろうとしまくりで申し訳ないです……(しつこくしてくれることを期待してます!)
92 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/07/27(木) 22:26:07.77 ID:jZwSTih50
>>87

不思議がる目前の神父。間違いを指摘するかの口調。
何かが引っかかる。どこかで見たことのある顔であった。

ああ、そうだ。指名手配犯だ。殺しても咎めのない人物だ。
どうせ残業ついでだ。犯罪者など何処にでもいるのだから殺しても良いだろう。

「ああ、そうですねえ。質問にはお答えしましょうか
 ひとつ。ここは飲食店じゃあありません。事件現場です。
 故に、貴方の飲食の邪魔をするのは小生にとっては当然の事」

ポケットに突っ込んだ右手に触る冷たい感覚。
それは人一人を殺すのには過ぎたもの。
その武器の名は機関銃であった。人一人を殺すには十分すぎる。

「そして、もう一つ。これで良いワケありませんな。人に言われて気付くとはお恥ずかしい。
 いやはや、壊れた玩具に夢中になって目暗になってしまっていた。―――というワケで。」

―――死んでくださいねえ、犯罪者のクソ神父様―――

玩具で遊ぶ子供のように笑みを零し、悪意をむき出しにした黒服はポケットから機関銃を取り出し。
何の躊躇いも無く、過剰な火力とも言える機関銃を神父に向けて撃ち始めるのであった。
93 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/07/27(木) 23:02:09.09 ID:gSr67Y8x0
>>92
明らかにポケットの許容を越えた物質が出てきたと認識した瞬間、男は椅子を蹴って飛び出していた。
人間一人の寿命よりも長いような戦闘のキャリアが、片腕を失ってから磨きをかけた危機察知能力が、その判断を可能にさせた。

「どういう能力か知らねぇが…… 殴れば解るってな!!」

死体を踏み越え、隻腕で躊躇なく機関銃を殴る。
神父の腕、もとい義肢には、あらゆる物を壊す能力が付与されている。
能力そのものが武器の場合は効果が無いが、能力で作られた武器なら軽く小突いただけで簡単に壊す事が出来る。

銃身は粉砕し、引き金は歪み、弾倉は折れ曲がる。軽く当たっただけで、だ。

「……武器の数がウリなら、俺との相性は最悪だぜ それでもやるかい?」

居酒屋という狭い戦闘領域、出口側に陣取り外には出さない。
こちらは相手の武器を軽々と壊せる。
神父にとってこの上なく戦い安い環境だった。
94 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/27(木) 23:03:01.05 ID:hof+1g+EO
>>90

「ぎくっ。」

然り気無く恩を売る作戦、失敗。袖を掴んだ手がすごすご戻る。
おかしい、シミュレーションでは感銘を受けた相手がそろそろ感涙に咽いでいた筈なのに……
正攻法で落ちない相手に頭を悩ませつつ、暫く気まずい無言のひとときが流れる。
傘はしかしそのまま二人の頭上を守り続けていたが。
やがて森の外で立ち止まる相手につられ、女も足を止めることとなる。

「? どうかしまして?」

じろり睨まれ、ぱちくりと瞬き。
道端の空白。意味深な無言の間、唐突な質問。
――もう一度ぴこんときた。

「わ、わたくしじゃありませんわよ!?
わたくし空を飛べますもの!」

今度は正解。言い訳が言い訳になっていないが。
忙しなく両手を振る仕草はいかにも怪しいが。
能力を使って浮遊させた物体に乗る――雨にも負けず風にもマケズ、今だ宙を漂う傘を思い出せば誰でも推察出来ることだ。
それを使ってバイクを独りで高飛びさせる――という推論だって簡単だ。10mという能力射程圏を知らねば誰だって思い付く。
ホールドアップは無実の釈明。しかしそれが何になろう。寒々しい空気が流れる。


>>91
/その反応が普通なのでそれこそお気になさらずです……!(断られ続けるのが楽しくもあります)
95 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/27(木) 23:32:10.05 ID:J/wmgE8Ro
>>94

「そうかい。」

八つ当たりにこの少女を問い詰めるのも悪くはない発想だったが、
それがこの口寂しさをどう紛らわしてくれようか。
幸いにも少女のお陰で雨に濡れないで済んでいる。傘は要らないが、あって困る事もない。
あの洞窟まで自動小銃と大量の5.45mm弾を運ぶのは大変だったが、帰り道は荷物が無い分、楽になると思っていた。
仕方がない。仕方がない、歩くしかない。

顔覆い隠すように巻いている黒い包帯の切れ端を掴み引っ張ると、綺麗に一本の帯になった。
毎日毎日着け外しする為に、簡単に取り外せる巻き方というのも覚えるものだ。
雨に濡れた短い金髪が、道路に点在する街灯の明かりを浴びる。
頬や額、首筋には、黒く濁った色の爬虫類の鱗がぽつぽつと歪に生え、奇病の罹患者のいぼのように。

「バイクの事は、もういい。
 知らない悪ガキに盗まれたにせよ、お前に一杯食わされたにせよ、俺がドジを踏んだのには変わりない。」

再び歩き出した。今度はアスファルトの道路を辿り、街へと向かう。遠い遠い道のりになる。
今度からは煙草をビニール袋にでも入れておいた方がいいか、とまで考える。

「タバコがないからイライラしてるんだ。
 おまけに小さな少女に訳の分からん事を吹き込んでいる胡散臭い組織が実在している事がわかって、
 余計にイライラが、むかつきがな、収まらない。」

クソッ、クソッ。歩きながら、ぼやくように吐き捨てる。
96 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/07/27(木) 23:39:09.31 ID:jZwSTih50
>>93

「…!」

能力の相性は最悪。彼我の位置取りも最悪。機関銃はすぐさま塵と消えた。
明らかであること。戦闘の玄人と躊躇の無い程度の素人では相手にならないと言う事。
武器も無しに素手の人間が獰猛な生き物相手に勝つ事は至難の技である。

「……ああ、これは少々拙い。確かに相性も最悪だ。
 だが、どうだろう。武器の代わりなんて幾らでもあるのだから。
 
後方へと大きく飛び退き距離を離しながら,左手をポケットに突っ込み能力を発動させる。
何が出るかによって今後の展開が大きく変わる故に。

望ましいのは爆風で相手を巻き込める武器であろう。望ましくないのは打撃武器の類であろう。

「それに、ですよ。小生は、仮にも警察組織に所属する身。犯罪者如きに背を向ける事はない。
 加えて、貴方の口調。まるで命だけは見逃してやるという傲慢が滲み出てて不愉快だ。
 直ぐにでも立場を逆転してあげますよ。何せ、小生は奪う側の人間ですから。」

殺せなければ警察組織に居る意味は無いという嘲りを態度に滲ませ不敵に笑う。
そして、その態度と言葉は相手を煽り挑発しているようでもあった。

//すみません。今日はここで凍結をおねがいします。
97 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/28(金) 00:18:44.65 ID:LuoCijWpO
>>95

「まあ!」


取り払われ露になった表情に息を呑む。
差別? 畏怖? そのような人並みの――凡庸な感情などあろうものか。
能力至上主義。女からすれば、肌に並ぶ鱗は、黒真珠のように妖しく輝いて見えていた。

るんるんと、ついていくすがら一、二度スキップを踏む。
ストレスからの解放或いはただ濡れた包帯が煩わしかっただけにせよ、女の方は、布一枚分だけ距離が縮まったと感じた。
概してこの手の人種は何かと都合のいいように解釈するものだ。
くすくすと機嫌良さげに意味もなく笑っていたりしたが。

「おねえさま、わたくしそんなに子供じゃありませんわ。」

呼び方を一段親しいものに変え(声質で見当はついていたがそれまで確信はなかった)、そういって頬を膨らませる子供っぽさよ。
しかし顔は仮面で判然としないものの、ドレスの下の女性らしい膨らみは、相手との隔たりはそう無いように見える。尤も相手からすればその身長差があれば皆子供に見えても仕方ないのかもしれない。
しかし組織についてとやかく言われる謂れはないと、訳のわからんことという言い種はまるで、自分か世間知らずのお人好しか馬鹿みたいではないか。どちらにも当てはまらぬと断固抗議の姿勢。にこりと微笑んで。

「ですから、ほら。
このようなものも嗜んでおりますのよ?」

ベルトポーチから出したのは、装飾用の金具に彩られた掌より大きめの木箱。
ぱかり、勿体振って開けば、その空間に異国の情緒が漂う。
葉巻が3本とシガーカッター。それぞれ南国や中東など産地の異なる葉を使ったり、銀に輝くブランドのロゴだったり。コルクのケースに行儀よく収まっている。
シンプルながら、明らかに常用には適さない。つまりは外交用。こんなこともあろうかと! 持たせて貰ったのだ。
召し上がれ、と差し出す。勢いよすぎて葉巻が雨滴に濡れそうになり、慌てて少し引っ込めた。
98 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/28(金) 00:54:26.49 ID:jTtH/Y4+o
>>97

「ふざけた呼び方は止めろ。」

あまりにも呼び慣れない呼ばれ方に、背筋にぞわぞわとしたものが込み上げる。
人生で初めてだ。人生と言っても人間の観点からすれば気が遠くなるような時間の中で、初めてだ。お姉さま、などと。
それで子供ではありませんなどと。

イライラ。
イライラ。

しかしその感情を露骨に漂わせているのも、少しは考え物になる事態となった。
葉巻 ―― 人差し指がひくりと動いてしまった。葉巻は趣味じゃないが、この際、何でもいい。
用済みになったライターは捨ててきてしまったが、大方、火を付ける道具のひとつでも持っているだろうと思う。

「……。」

頭を片手でかきながら、葉巻から視線を逸らす。明らかに懐柔しようという意思が垣間見える。
葉巻を貰ったからといって恩返しをする義理は無い。
だが相手はそうは思わないだろう。にこにこと喜んで葉巻を差し出し、
分厚い煙が己の肺に満ちた時の感覚に浸る瞬間の表情を見て、また喜ぶだろう。

屈辱的だ。

誰かの思惑通りというのは、それだけで気分が悪い。
それがどんな相手だろうと、どんな事だろうと。

しかし、しかし、口の、舌の根の、頬の裏の渇きを耐えられようか。

「……ひとつ、くれ。」

依存症というのはそういう問題を優に超越する。当然だ。当然。それがないとダメなのだ。
99 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/07/28(金) 01:34:39.09 ID:GngyJ1LHo
夜も更け、街中の家々からは灯りが失われていた時。
白いポロシャツにチェック柄のスカートという、「学園」の制服を羽織った生徒が出歩いていた。
それも場所は路地裏、彼女の足元には数人の男女が一様にして伏せていた。


「は、あ……。いい加減話を聞けと言ったんだがな」

右腕は鋭い鋼の刃と化し、血に濡れて紅い光を反射していた。
金を寄越せとせびられて無いと答えれば、まさか掴みかかられるとは。
流石に予想外だったのか急いで薬物を飲み込み、能力を使ってしまった結果がこの惨状である。


「こんなところ見られたら不味いな、さっさと撤収したほうがいいか」

右腕の刃は何事もなかったかのように普通の腕へ。見た感じ普通の学生だ。
だが、気になるのはポロシャツに染み付いた数滴の血液。見つかれば言い訳できないだろう。
それに、明らかな過剰防衛である。もう少し手加減すれば良かったが、軽く理性を失った脳は言うことを聞かない。

『ひっ、ひいっ!?』

伏せていたうちの一人が、ふと目を醒ました。
周りの景色、むせるような血の臭い。何より眼前に佇む刃の少女。
後ずさりしようとすると、得物を見つけたような目で少女は男の方へ歩いて行く。

動いた、まだ生きている。殺さなければ、そう脳は命令を下す。
理性を働かせぬまま右腕の刃を振り上げ、男の首元へゆっくりと振り下ろさんとした。
――学園裏の実験体は、今日も人を殺めずにはいられないか。
100 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/28(金) 01:38:37.64 ID:LuoCijWpO
>>98

「だってお名前、教えてくださらないんですもの。」

にこにこと、木箱を手に微笑む顔はクリスマスに箱を渡す母親のそれだ。
酒は頭を快活に巡らせ、煙草は舌を滑らかに回す。
かつて地上のあらゆる贅沢を極めた貴人が述べた至言。それはきっと正しい。
ただ惜しむとすれば彼は能力者ではなかった。故に滅びた。
だから、今この快楽は相手のものだ。彼女だけのものだ。

「ええ勿論ですわ、おねえさま」

理性を欲求で塗り潰す様が、不貞腐れた餓鬼大将のようで(口が裂けても言えないが)。どちらが年上か分からない、なんて。
口元の表情筋を動員し、そんなことはおくびにも出さずに歌うような口調。どうぞ、そのために差し出したのだ。

お勧めはこちら、南米産の葉がパンパンに詰まったとびきりヘビーでキツくて苦い。病人も死人も飛び起きる一品。
ギロチンカッターで吸い口を落とす。文字通り、処刑のような勢いが肝心だ。
他人が吸うのだから味に関わる点は注意を払う。
準備が出来たらカットした面を、相手に向けて手渡す。
木箱の代わりに取り出したるはマッチケース。
し、しゅ、と二度目の接触で、緑みを帯びた炎が女の仮面を明るくした。
既に前の工程で足を止めていたが、そこで一歩近付いて、その熱源と彩りを差し伸べるだろう。
雨風で火が消えないよう左手で風上を抑える、それは傘の下の情景をランタンのようにまあるく照らす。

「……、これで落ち着かれまして?」



/すみません、そろそろ落ちてしまうので、凍結か〆をお願いします……
101 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/28(金) 01:43:21.35 ID:jTtH/Y4+o
>>100
/では凍結でッ。この後お返ししますので、ご都合のよいときにお返事いただければと思います。
/夜も遅いので先にこちらをお返事します。一先ず、本日はお疲れ様ですっ
102 :【錬基昇創】 [sage saga]:2017/07/28(金) 02:29:34.48 ID:pxHdluvxO
>>99

刃が落とされようとするのとほぼ同時、その変化は唐突に生じた。
地面を覆うコンクリートの舗装が波打ち、形状を変化させていく。ただの舗装に過ぎなかったものから、堅牢で分厚い壁へと。
その壁は二人の間に生じ、落とされた刃が命を絶つことを阻害する。壁には斬撃の衝撃で亀裂が走るが、最低限凶器を押し留めるだけの役目は果たすのだった。

誰がこの現象を引き起こしたのか。今にも殺されようとしていたこの男か。
いや違う。彼は彼で何が起きたのか理解できないといった様子で混乱するばかり。
そしてすぐに暗がりの中から、答えを告げるかのように一人の少女が姿を現した。


「……やめておけ、後片付けだってタダじゃないんだ
 時間外労働に駆り出されるスタッフの身にもなってみろ、まあ私には関係ない話だが」


”学園”の制服の上から白衣を羽織り、更には真っ白な三角帽子を被るという奇妙な風貌。
それは彼女が一学生であると同時に一研究者であるという彼女の特異な立場に拠るものであり、つまりは彼女が学園に所属する研究員であることの証に他ならない。

……ただ、彼女がここに出会したのは偶然に過ぎない。偶々、路地裏を歩いていたらこの現場に遭遇してしまっただけである。
そして相手が学園の者であると服装によって理解はしつつも実際に面識はないのだが、ここまで見届けて止めずに放置という訳にもいかないが故のインターセプト。
心労による溜息を微かに零したなら、血のように紅い眼で相手を睨む。お前のせいで、また仕事が増えてしまったじゃないかと。
103 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/07/28(金) 02:41:31.03 ID:GngyJ1LHo
>>102

突如道路の舗装が波打ったと思えば――、分厚い壁へと形状を変化させた。
男の首を落とすためだけにゆっくりと振られたためか、亀裂が入る程度で刃は止まった。
尚も脳回路はショート寸前と言ったところだが、まだ理性はある。深呼吸をして、身体を落ち着ける。

大体は能力者による干渉といったところだろう。
どこの誰かは知らぬが、戦闘データはできるだけほしいと考えていたのだが。


「……すまない、ついついな」

右腕の刃を収めることなく、彼女の方を向いた。
研究所にて数度見かけたことのある姿だったためか、攻撃は仕掛けない。
流石にクスリで理性が多少イカれているとはいえ、分別はまだつくようだ。


「やれやれ、今日もやりすぎてしまった」
「一回タガが外れると、ここまでやってしまうからな……」

まだ一粒の服用だと言うのに、ここまで惨劇を作り出せるものかと。
まあ相手が一般人故に、それは当然のことであろうが。
理性の調節はこの能力を行使する上で不可欠である。右腕で頭を掻き、申し訳なさそうにしていた。
104 :【龍神変化】 [sage]:2017/07/28(金) 02:42:33.17 ID:jTtH/Y4+o
>>100

葉巻に灯が。鼻孔に香りが。肺に分厚い煙。肺胞に吸収されていく。
顔を近づけたから、仮面の向こう側からこちらを覗いている女の瞳を見つけた。
誰かとマトモに会話をするのも、実に久しぶりの事。それに葉巻の香りも悪くない。
一体全体この奇妙な状況は何なんだろうと、先程から思っていた。俺も一体どうしてしまったのかと。

皮肉にも、一服付けたことによって思考が纏まり、とても単純な事に気が付けた。
その真意、魂胆、思惑までは知らねど、このようにもてなしをされたのは数年も前の事だからだ。
相手が表情に出さず、言葉に出さずとも、彼女には分かっている。今の自分の姿は、滑稽だ。
吐き気がする。おぞましいさすら覚える。己の弱さを垣間見た、いや、暴露された。

「ありがとう、これは最悪の辱めだ。」

雨音に溶け込むような小さな声で、彼女は応えた。それはわずかに震えていた。
暗黒の果てまで街灯は幾つも並び、雨は降り続け、仮面の女の傘に弾かれる。
葉巻の香りが思考を燻ぶらせる。心地よい気分だ。満たされていく感覚。
傘。葉巻。お姉さま。
夜。雨。

……。

口に咥えていた葉巻を左手でジャケットのポケットに突っ込み、右手はホルスターから45口径のリボルバー拳銃を抜いた。
そして、金髪の女はコウモリ傘の外へ歩み出す。照星が相手の眉間に据えられ、銃口が睨み付ける。
大雨に濡れ、瞬く間にずぶ濡れになり、殺意に満ちた眼は、威嚇する蜥蜴のように大きく見開く。

かつて、未来のクリスマスの亡霊だと名乗った事があった。だが、実際は少し違う。
過去のクリスマスの亡霊なのだ。あの日、あの晩、死んだ女の、悪霊だ。そして墓を掘る者ではない、墓に入る者。

「お前を見くびっていた。
 少なくとも俺にとって、油断ならない相手だ。俺のような、持たざるもの、飢えた奴には。」

あくまで落ち着いた口調、平静を保つように努めた調子で、喋り始めた。
乾いた死体に水を流し込めば、主の為に働くゾンビになる。

どこまで故意的か、悪意があるのか、彼女は当然わからない。
だが、とにかく嫌悪するだけだ、それだけだ。怪物を、資本家を、お前を、俺を。

「俺の事は好きに呼べ。どうせ名前などない。」

怪物狩りの決死の眼を差し向ける。怪人に冗談は通用しない。ジョークでしたでは、許されない。
その45口径弾を放つ武器の引き金は針金のように軽く、放たれた凶弾の破壊力は地獄の業火のように熱い。

「聞いてやる。
 お前の組織、お前の目的、俺の何が必要なのか。

 そして答えよう。それでこのふざけた夜は終わりだ。」

これが彼女の一人踊りならば、それはそれで滑稽で結構。
狂っているのだから。
105 :【錬基昇創】 [sage saga]:2017/07/28(金) 03:11:57.84 ID:pxHdluvxO

>>103

「ああ、けれども最低限の分別だけは保っているようで何より
 もしこれで見境なく暴れるようならまた仕事が一つ増えるところだった」


不機嫌極まりないといった仏頂面で、少女は相手を尚も睨む。
最もこの少女にとって仏頂面というのはデフォルトの表情であり、それ以外の感情の機微を露わにすることなど滅多になかった。

研究者というのは、基本的に誰も彼も内向的で自分勝手な生き物だ。
そしてこの少女は、ヘレナ・フラヌスという錬金術士もまた、その例に漏れることはない。
この介入にしたって、一般人を助けるのが目的だった訳でない。それは飽くまで副次的な結果に過ぎない。
現にヘレナが見ているのはただ一人、目の前で理性を保とうと苦悩している”実験体”の姿。向ける好奇の視線。


「完成するのが先か、身が滅ぶのが先か
 随分と難儀な能力のようだな。まあ私とは関係のない研究なんだろうけど」


そう呟くヘレナの後ろで、ごそごそと動く影がある。
さっきの男だった。この隙に何とか逃げ出そうと、怪我を抑えて立ち上がった所だった。

しかし彼女はやはり反応すら見せない。関心のないものに対してはとことん無視を決め込む。
いや、そもそも見えていない。彼女が見ようとしているものは、何時だって自らの好奇心を唆られるものだけだから。
その視線がとても危ういものであることは、勘の鋭い者にとっては明白なものだろう。
106 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/07/28(金) 03:32:39.12 ID:GngyJ1LHo
>>105

理性を失わせ、一時的な覚醒作用を齎すクスリ。
少女はこれを服用することで、破壊力と機動力を得る代わりに理性を徐々に失っていく。
一瞬でも気を抜けば、本能に理性が侵される。ここがやはり悩みどころだった。


「……薬物を服用しなければ理性は保てるんだがな」
「服用しなければ破壊力も機動力も得られない。トレードオフだ」

彼女からすれば、格好の観察対象となるものだろう。
無論、落ち着いていさえすれば理性も働く。だが殺人という“快楽”に本能が抗えない。
覚醒はもたらされるが、其の犠牲に自らは狂える獣となってしまうのだ。


「――ッ!!」

彼女の背後に、一つ影が蠢く。
先程の男のものであり、隙を伺って逃げようとでもしているのだろう。
背を向けられると、“殺したくなる”。怯えがあるからこその、動物の本能的な行動。

咄嗟に少女は右ポケットに手を突っ込み、小さなガラス瓶を取り出す。
中には四錠の青色をした薬物が入っており、其のうちの一錠を取り出して飲み込む。
すると、目眩でも起こしたかのように少女は地面へ倒れ込んだ。そして、むくりと起き上がると――。


「……おなか、すいた」

やる気のない言葉で、そう呟いていた。
少女は、薬物の摂取による覚醒作用で“人格が入れ替わる”。それが実験で得られたデータだった。
107 :【錬基昇創】 [sage saga]:2017/07/28(金) 04:08:30.37 ID:pxHdluvxO
>>106

「トレードオフ、か。決して等価交換ではなさそうだけどな
 その薬品の開発者の顔が見たくなった。会えた時には心の底から嘲笑してやろう」


人の研究体に干渉するつもりはない。そうされることの忌避感は、ヘレナ自身がよく理解しているから。
しかし手を出さないからと言って、口を閉ざす訳でもない。思う存分に言葉を吐く。

嗤う理由は、それが余りにも彼女の目には未完成なものに見えたから
しかし彼女にとってその行為は侮蔑ではない。寧ろ喜ばしいものに他ならない。
未完成ということは、これから更なる進歩が待っているということ。その歩みこそヘレナが愛して止まないもの。
つまり、勝手に観察して、勝手に結論を出して、勝手に嗤っているだけ。彼女はそういう人間だった。


「……言っておくが私は食べられないからな?」


人格の変容、その概要の全てを一目見て理解出来る訳ではないが、かといって何も洞察できないほど馬鹿でもない。
理性を削ぐような薬物がどのような影響を及ぼすかなんて、彼女には計り知れないのだから。だから予備知識として経過を観察する。
白衣が風に靡いた。側にあった空き箱の上に腰を下ろす。その体躯は彼女が研究者とは想像できないほどに未成熟なものだった。

座りながら、ふと思う。そういえばこの研究体、名前はなんというのだろう。
一々名前に意味はないと少女は知っていたが。数字の連番が記されたタグの方が、管理という点においては優れていることも。


「なあ、お前の名前はなんだ?聞いておかないと呼び辛いんだが
 あと、それともう一つ、お前が目指しているのは……なんだ?自分が実験体になっている研究の完成か?」


自分の非検体には抱かないような疑問を抱いてのは、彼女が飽くまで他人の非検体だからだろう。
紅い瞳に篭るのは純粋な好奇心。しかし年相応の、と形容するには少しばかり闇が深い。
108 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/28(金) 19:26:25.04 ID:rr/4n3LhO
undefined
109 :【隸属兇鞭】 [sage saga]:2017/07/28(金) 19:59:35.40 ID:ISdGodalO
/>>108の文が表示されないようなので、取り合えず同じ内容のを避難所へ落としてみます
/次のレスも表示されない場合は、お手数ですが避難所は移行してもらう形になるかもしれません、申し訳ないです
110 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/28(金) 20:10:25.53 ID:zj43v3al0
廃墟街。灯りは無く月光のみが夜闇を照らす。

男が一人。

後は足元に転がる死体のみ。

「一つ、二つ、三つか。まあまあだな。」

面白げも無く、呟く。

数えていたのは死体の数だろうか、丁度三つある。

奇妙な点は二つ。

死体はどれも斬り傷、刺し傷、打撲痕と様々な方法で傷付けられているが、
周囲に一滴たりとも血痕が存在しないこと。

そして其れ等を作った筈の凶器を男は手にしていない事。

後者は召喚系統の能力者の存在を考えればそう不自然ではないか。

血染めの様な紅のアロハを纏った強面の男は、
さも退屈そうな様相で死体に囲まれ佇む。

足りない。届かない。
もっと贄を。もっと魂を。

目指すは地獄。―――そしてその先。

その為には只管に器を満たす魂(ち)が必要だ。
111 :【暗厄毒蟲】 [sage]:2017/07/28(金) 20:38:54.74 ID:rzQON29bo
>>110

彼の背後のビル、その屋上に少女は居た

「ふぅん……強そうな雄ね」

棒付きのキャンディを噛み砕き
音もなく、そちらの背後に飛び降りる―――と言っても糸を使って飛び降りただけだが―――だろう

「ねえ」

そして、後ろから声を掛けるだろう

「お兄さん、強いのね。私、強い男の人、大好きなの」

掛ける声は甘く甘く只管に、甘い
ねっとりとした声色―――雄に媚びる雌の声、視線、仕草で

「私を……買わない?」

ぺろり、と紅い舌を一瞬、出して
義務教育も終わっていないような見た目の少女は、男を誘う
足元の惨状には何ら気にせず、靴を紅く汚しながら
112 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/28(金) 20:51:06.62 ID:zj43v3al0
>>111
声が掛かる直前程に気配を察し振り返る。

だいぶ幼い容姿の子供(がき)が居た。

見た目が子供だろうと録でも無い奴なんざこの街にはごまんといる。
そう云う奴には遭った事がある。

そしてその餓鬼が娼婦の真似事の様に誘ってくるときやがる。

「買う、か。」
「手前ェもこいつ等みてェになりたいのか?」

甘言には無関心とばかりに睨み返す。

殺気は無い。
殺すまでも無いと思っている。

逃げ出すならそれまでで、
この場に残って目障りならばその時に殺す。

そう云う思考に至ったまでだ。
113 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/07/28(金) 20:58:38.88 ID:qddp0Xnv0
>>96
(さて、コイツの能力はどういった類かな…)

明らかに容積を上回る武器を出すポケット。すぐに思いつくのは四次元ポケットの類。
強力な能力に違いないが何か制限が必要な程協力かと言われればそうでもない。
特筆すべきは中身。機関銃にナイフ。もっと中身を見れば解るかもしれない。

強力な能力に感けてこういう考察を怠らない事も、神父の強さの一つだった。

(…なんにせよ、俺の能力で壊せる事は証明済 バズーカだろうとミサイルだろうと俺に壊せねぇ物はねぇ!)

片手でなければ先ほど機関銃と同時に身体をへし折って終わっていた勝負。
こうして相手の前で余裕をかますのも、生殺与奪の権利を持つこの場の強者の特権。

「態度じゃなくて言葉にしようか? 命だけは見逃してやる」

挑発を返す。ミサイルだとうと何だろうと壊せる事を証明して敗北を認めさせてみようか。
それもこれも、この場において自分が強者であるという自信から来る戯れ。
追撃をしないこの余裕も、相手からすれば不愉快の極みであろう。
114 :【創世姫唱】 [sage]:2017/07/28(金) 21:02:26.70 ID:TMYcC46g0
/>>84で再募集します
115 :【暗厄毒蟲】 [sage]:2017/07/28(金) 21:02:56.97 ID:rzQON29bo
>>112

「そう邪険にしないでよ……後悔させないし、安くするわ」

ピチャピチャという音を立てながら、歩いてそちらに寄っていくだろう
足取りは軽く。それは本当に、少女のままに

「お試しと思って……ね?」

そちらの眼前に立ったなら、ちょうどそちらの胸板より少し低い位置に、しなだれ掛かるだろう
もし避けられたのなら、やはり流し目で見ながら通り過ぎて
避けられなかったのなら、ちろり、と臍の脇を舐めるだろうか

計算された動き。雄の本能を刺激するように教え込まれた少女は、遺憾無くその知識を発揮する

116 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/28(金) 21:13:31.45 ID:zj43v3al0
>>115
近づく少女に関心を寄せるでもなく、男は佇む。

身体を舐められたが、表情一つ変わらずに睥睨は続く。

「そう云う趣味じゃア無ェからな。」

口調は冷淡に。言葉は冷酷に。

「退け。最後通告だ。」

これ以上巫山戯た誘惑を続けるなら、容赦は無しだと。

「それしか用が無ェんならオレは帰るぞ。」

ひらひらと手を払ってみせる。
117 :【暗厄毒蟲】 [sage]:2017/07/28(金) 21:39:27.41 ID:rzQON29bo
>>116

「なんだぁ、けーちっ!」

落差でわざと幼い演技。興味を失くしたように、死体から追い剥ぎするように漁り始めるだろう
帰るぞという男を引き止めない。蜘蛛の狩りは何も追うことが流儀ではない

「気が向いたら何時でも誘ってよね♪」

それだけ言うと、一つの死体から財布を抜き出して、中身を確認する
スラムの子供のように、男に媚を売り、漁れる物は漁る。廃墟街に相応しい振る舞いだろうか

ともあれ。顔の向きは変えども、消して視線は男から外さない。髪で目の当たりを隠してはいるが
ああ、この男はそこそこ金を持っていた。もらっておこう、とポケットに無造作に現金を差し込んでおく

まだ、まだなのだ。タイミングは訪れていない
118 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/07/28(金) 21:51:41.11 ID:GngyJ1LHo
>>107

決して等価交換ではない、という彼女の言に小さく微笑む。
この薬物を服用することは、理性を代償に身体能力を強化する以外にも一つだけ目的がある。
その目的とは、■■した少女が■■に近づいていくというものだった。


「それくらい、みればわかる」

くゎ、と小さな声と共に欠伸をした。
理性は無いとはいえども、彼女が敵ではないというのは“共通認識”だ。
先程の人格のときと同じく、彼女を襲うような真似は一切しない。


「なまえ、か。わたしのなまえは白形三月だよ」

ふだんは0021-3とよばれている、と付け足すように。
其の名前から分かるだろうか、彼女の名前は“ナンバリングされている”。
他の人格にも尋ねなければ分からぬだろうが――、とにかく人間的な名前のつけられかたではなかった。

「わたしがめざしているものは、もちろん姉上」
「きれいでせいかくもよくて、それにのうりょくも“つかえる”ものだったしね」

彼女の純粋な好奇心に応えるかのように、三月はそう答えた。
“姉上”。容姿端麗で気配り上手、そして何より“能力が使えた”。
なぜそれだけで尊敬の対象になるかまでは言ってないが――、聞かれれば言うつもりだ。
119 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/07/28(金) 22:39:03.00 ID:Jmr9yDqMo
>>84

ぱちぱち、と一人分の拍手の響きが公園に広がる。
出処を探ることは造作もないだろう。園内の遊具、赤いブランコの手前のひとつに座った、若い女性だ。
膝を伸ばして鎖をきいきいと軋ませる彼女の姿は、少女が演奏を始めた時には影かたちもなかったはずだ。
それが今、いかにも少女の拙き演戯を聞いたふうにして、大手を叩いてにこにことしている。
そして“魔女”は、赤や緑の咲き乱れるワンピースの裾を揺らして立ち上がる。

「素敵さね、おじょうちゃん。歌も、あなたも」

危険防止の柵に立てかけられていた杖の頭を人差し指で軽く押さえながら、少女に語り掛ける。
その軽やかな声には、柔らかい表情の老婆と話すような、そんな不思議な年輪を感じるかもしれない。


>>114
//もしまだいらっしゃいましたら
120 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/28(金) 22:41:24.73 ID:zj43v3al0
>>117
死体を漁り始めた少女を見て。

「随分と死体に慣れてるじゃねェか。」

少しだけ興味を持つ。

「おい、餓鬼。」
「お前ェは人を殺せるか?」

牙を剥きだす様な不吉な笑み。

深紅の双眸の奥に灯るのは血の海の熱。

肉欲に釣られる様な事は無いが。
或いは使えるかもしれないという嗤い。
121 :【暗厄毒蟲】 [sage]:2017/07/28(金) 22:58:16.13 ID:rzQON29bo
>>120

「見ての通り。こんな風に男の人を誘うんだから、育ちも分かるでしょ?」

嘘はいっていない。ともすれば自身が[ピーーー]ことも在る
何をするにも金は必要であり、拝借するために……というのもしないではない

「[ピーーー]ことは――どうでしょうね。その時による、としか言えないわ」

ポケットから苺の棒付きのキャンディを取り出して、口に放り込む

絞り続けられそうなら絞り続ける。そうでなければ、自分の足がつかないようにするために[ピーーー]
そういうこともあるが、問の真意がわからない。そのため、曖昧に答えることにした

122 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/28(金) 23:00:59.27 ID:rzQON29bo
>>121
/ピーー は 殺す です
123 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/28(金) 23:14:11.49 ID:zj43v3al0
>>121

「そりゃア、上々。」

少女の応えに興が乗り始める。

「買いはしねェが、飼ってはやらんでもねえ。」

男の足元から滾々と湧き出る様に血の海が広がり始める。

数秒も立たずに周囲半径30mは血潮で覆われるだろう。

「オレと来るか? 地獄を見せてやるぜ。」

男の真意はこうだ。
録でなし同士手を組まないかと。
124 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/28(金) 23:38:22.16 ID:rzQON29bo
>>123

「へえ―――そういう趣味?」

悪どい笑い顔。身体が疼く。心が躍る。そういうふうに作られた、己の身体と、作られた心が。
展開される血潮。驚いて、飛び下がる。しかしこちらの手の内はまだ、見せてはいけない

「ご飯と、種をくれるなら。愛してくれるならそれも良さそうね」

下腹に右手を当てながら、言う
手を組むというのがどういう形かわからないが、それも良いだろう
協力関係は、手の後ろに刃を隠しながら結ぶのが吉だ

自分を庇護してくれるならそれはそれで得だし、つまらなさそうなら寝込みを襲うのもありだろうと。
125 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/29(土) 00:10:48.62 ID:SprdOFCy0
>>124
//すみません、今日は凍結をお願いします
126 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/29(土) 00:15:20.41 ID:ZUh4cyHAo
>>125
/はーい!おやすみなさい!
127 :【黄金鉄梃】 :2017/07/29(土) 00:16:14.69 ID:BrKt5ZOmO
>>74
/これで再度募集を
128 :【創世姫唱】 [sage]:2017/07/29(土) 00:17:13.42 ID:ol/ePkX00
>>119



「…………ん」

頬を滴り落ちる汗をハンカチで拭う手と、水を呷ろうとボトルを傾ける手が止まる。
俯瞰気味になった視線の先に女性の姿を捉えると、暑さを和らげる為の道具一式を一旦リュックに仕舞いはじめる。
よもや人に出逢うとは――――それも若い女性に出逢うとは思ってもいなかったので、ちょっと梃子摺る。
微妙にぎこちない手付きで仕舞い終えると正面に振り返り、再度ギターを両手で持ち構える。
くつくつと意図的につくった意味ありげな笑い方をして、おもむろに脚を伸ばして組んでみせた。


「ほう……?わかるのかい、私の放つ波動(アゥラ)が……――――――だとしたら、キミは私に近いモノを持っているのかも知れないね」
「――――――ああ、皆まで云わなくてもわかるさ。キミから感じ取れるソレは、私が音(コレ)に込めるモノと非なるけども似通っている、ふふっ……」

まるで芝居宛らの気取った声色かつ口振りで話し、口元に微笑を浮かべる。
―――と同時に、左手を顔の前に翳しながら右手も構え、ベンチに座ったまま突然のポージングを取る。
身の丈に似合わぬギターは膝の上に置いて、重かったのでポージングをすぐさま解いて再び両手で持ち上げる。

「ステキ―――と云えば正にキミもそうだよ。こんな時間に出歩いて、こんな私に声をかけるだなんて、ね―――」

言葉とは反して、感じ取る技能なんて実際には持ち合わせてはいなかったが、微かな違和感は抱いていた。
目の前にいる彼女からは外見相応の姦しさは見受けられず、どこか老婆染みた心地好さがあった。
その所以の正体なんて、初対面であり特別強い洞察力を有している訳でもない―――ただの少女には知る由もない。
知る由もなかったのだが――――妙に快い気分であったので、話し掛けられる前同様に今度は鼻唄なしでギターを弾きはじめる。
勿論だからと云って急に上達はせず相変わらず稚拙な音色であったが、演奏する少女は先程よりも柔らかな雰囲気であった。


/いきなり遅れた上に、本日は当レスで落ちさせて頂きます…
/もし其方が不都合でしたら、忌憚なく切ってください
129 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/07/29(土) 01:14:40.32 ID:fJcvy05Wo
>>128

魔女は舌を巻いた。そして瞠目のまま、少女の手間取る所作を眺めた。
何故か。決まっている。――――すっごい、オモシロイ娘を引き当てちゃったから、に他ならない。
なんと言えば良いのだろう。人間にタグ付けするような真似が許される身ではないが、どうにも形容したい。
しっくりとはいかないが、ここでは『頑張り屋さん』と呼ぶことにしよう。

「――――ああ、そうだね。
 あなたの放つ波動(アゥラ)の喚び声(シニュム)があたしの琴線(アニマ)をまさしく捉えたのさ。
 あなたのその旋律(シンフォニヤ)こそ、あたしの探し求めていた物に違いないさね」

大根役者は自覚している。が、無理でも声を作って張らねば示すことができない。
弄んでいた杖を握り、相手に呼応して迎え撃つようにポージングを決める。
顔を隠している左手の指の隙間から、それはそれは愉悦そうな双眸と薄く引かれた唇が、怪しく光り出す。
ただ、――少々、異邦の語を交ぜ過ぎた感がある。引かれたらどうしようか。

と悔やむ間に、少女の演奏は再開する。
もちろん、これを止めさせるのは魔女の本意ではない。
少女が拒む姿勢をとらないなら、彼女はゆったりとした足取りでもって、先ほどまでリュックの中身が出ていたベンチの端を陣取る。
そして少女の演奏に合わせ、ハミングで和音を縁取り始める。

//了解しました。不都合ございませんので、よろしくお付き合い願います。
130 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/29(土) 16:56:42.62 ID:SprdOFCy0
>>124

「オレがお前ェに任せるのは魂の蒐集。」
「要は人間狩り、だ。」

「必要なのは魂だけだからその他は好きにしろ。」

見下ろす瞳は紅く、邪気を帯びる。

「それが出来るンなら、利用(あい)してやるよ。」

男は利用できるものは利用すると云うスタンス。
其れは相手に対してもそうであり。
協力と云うよりは利害の一致と云う在り方を望むだろう。

故に裏切りですら、究極的には受け入れる。

集めるのだ、悪性を、悪意を。
束ね、喰い合い、更なる悪へ。

これは其の為の一歩である。

地獄の悪鬼の差し出した手を取るかどうかは少女次第だが。
131 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/29(土) 17:55:09.39 ID:q/aWW79mo
>>130

「人間狩り、ねえ。魂なんて、どうやって収集するのかしら」

己はあくまで物理的な存在である。非物理的存在である魂に対して、干渉手段を持っていない
人間を狩ることは不可能ではないが、死体から取れるものと言えば身分の証や金品、情報程度だ

「ただ殺せばいいって話なら、できるけど」

ニィ、と笑って見せる
正直。少女が理解する悪意と言うのは、悪性とは違う、生/性本能からくる衝動を抑えない意思
つまり、「害しよう」とするのではなく、「結果的に害である行動」をする悪意の理解しか持ち得ていない

ゆえに。男のある種蠱毒的な考え方を真に理解しているかは微妙である。ただ社会的規範を犯すというだけならば、間違っていないのだろうが
善人に非ず。鬼に非ず。ただ人でも非ず―――蜘蛛である
男はその歪みに気づくだろうか。利用価値を認めるだろうか。邪気を帯びたという事実すら認識できぬ、ある意味純粋な瞳で、見返す
132 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/29(土) 18:27:37.61 ID:SprdOFCy0
>>131

「それこそ昔はちゃんとした"器"が在ったがな。」

魂をどの様に集めるのかと云う問いへの返答。

嘗て男は一人の王を蘇らせる為に魂を集める悪党達に名を連ねた。
と云っても実際に団員として活動することは無かったが。
其処には魂の入れ物があり、それを以て団員達は殺戮を行った。

「今はコイツに血液毎喰わせて集めている。」

そう言い、足元を浸す血の海を指し示す。
足元数センチを揺蕩う海面から除く血海の底は深く昏く果てしない。

「だからそうだな……」
「飲め。」

海面から小さな蛇の様な血潮の龍が飛び上がり、
とぐろを巻く様に男の手元で一つの血塊となる。

「この血杯を以て手を組む証とする。」

これを体内へ取り込めば男の血海地獄とのパスが繋がるだろう。
さすれば彼女が人を殺せばその魂は血海へと誘われる。

男は少女との認識のずれには気付かない。
いや、多少の差異など些末な事でしかないと考えている。

本人の認識を問わず、結果として悪を成すのであれば。
彼の呈する悪意の煉獄の一員には相応しい。


//パスを繋げるとかそういうのは能力原文には無いのですけど
//なんとなくの雰囲気というかフレーバーといいますか
//問題発生する様なら書き直します
133 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/29(土) 19:00:56.52 ID:q/aWW79mo
>>132

「その方法しかないなら遠慮するわ。身体の中に入れるには……ちょっと不気味すぎよ」

危険性、それが毒物であったり、己の命を掌握しかねない物であると、認識する
冗談じゃない。寝首を掻く瞬間に身体の内側から壊されてしまっては本末転倒だ

「もっと簡単な物にできない?例えば、そうね。コレに入れておくとかじゃダメなの?」

己の抑制剤、その空になったアンプルをそちらに放るだろう
無針注射器に装填するためのもので、使い回しが出来るはずだ

/見たところ、召喚系の能力のようなのでこのような落とし所にしたほうが無難かと……!
/死亡後の身体にしか作用せず、アンプルに血液の吸収としてストックする形ならば、トラブルが無いかと思いますが、どうでしょう!
134 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/29(土) 19:17:55.33 ID:SprdOFCy0
>>133

「賢明な判断だ。」

にやりと不気味に嗤う。

恐らくは鮮血を喰わせるに越したことは無いのだろう。
しかし実験として試す価値はある。

これは詰まり他者を魂の媒介者とできるかの試しだ。

「いいだろう。試す価値はありそうだ。」

男の手元からは蛇がずり落ちる様に血塊が海面下へ去っていく。

「オレの隠れ家の一つを教えてやる。」
「其処を落ち合う場所とするが良いか?」

男が示すは廃墟街の一角、潰れたBARだった建物だ。
外観は襤褸襤褸だが、内部は整えられ居住可能なスペースになっている。

男は他にも人目に付かない拠点を持つ為、
必ず其処に居る訳ではないだろうが。
135 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/29(土) 19:52:05.57 ID:q/aWW79mo
>>134

「ありがと。ま、取れたら持ってくるわ」

胡散臭いというのはあるが、それ以上にこの場から離れなくてはいけないという警鐘が脳裏で鳴っていた
あの血の海はヤバい。本能的に、それを悟る

「そっちも約束、忘れないでよ?」

しかし忌避感はおくびにも出さず
内心、その恐怖感をオスとしての好意に変化している蜘蛛がいた
正体不明でありながら、少なくともこの惨状を作り上げられる力を持っている―――それだけで、強い子孫を残す理由には十分なのだ

「じゃ、早速見繕ってくるわね」

そういって去ろうとするだろうか
良き雄を探しながら、更に報酬までついてくる。そう考えてみれば、少しは足取りが軽くなるものだ
カリ、と咥えた苺のキャンディに、罅を入れる
136 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/07/29(土) 20:19:14.36 ID:SprdOFCy0
>>135

「約束、か。」
「良いだろう。ちゃんと "取ってこい"が出来たなら。」
「種でもなんでも呉れてやる。」

利用できるものは利用する。
寝首を掻きに来るのであらば諸共喰らう。

月光を揺らめかせながら地を満たす血の海は、脈動する如くに波打つ。

「それなら、また遭おう。」

去りゆく少女を見届け、男もまたその場を後にする。

それを追いかける様に血海は深く昏い地の底へと染み入り沈んでいった。

男は踏み出す。
あの情景を、あの状刑を、再現する為に。

この世には刺激が必要だ。

それが人間の為であり、世界の為だ。

歪んだ思想を抱きながらその一歩を踏み締めた。


/それではこれで〆とさせて頂きます
/お相手ありがとうございました
137 :【暗厄毒蟲】 [sage saga]:2017/07/29(土) 20:26:02.76 ID:q/aWW79mo
>>136

/ありがとうございました!!
138 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/07/29(土) 21:33:35.89 ID:ol/ePkX00
>>129


「……――――――――!!」

女性の返答を聞いた途端、少女はその小柄な肢体を震え上がらせる。
つまり所謂鳥肌が立ったという現象であるが――――これは彼女の危惧とは正反対の意味である。
好んで異国語を交えて話す痛々しい少女が引いている筈もなく、むしろ逆の心情を湧き上がらせていた。
口元がピクピクと小刻みに揺れており、弦を弾く指遣いも調子好くなっていた。
もちろんこれらは、先程の彼女による想定外かつ想定以上の『カッコいいワードの羅列』による影響。
声や表情で明確に表現こそしないが、少女は静かながらも確かにテンションを高まらせていた。



「くっ……やはり地を這い蹲る私如きの五指では、天上の旋律(メロディーア)は奏でられないか……」

よく知っているとある一曲を最後まで弾き終えると、ギターから手を離して浅い溜息をつく。
やれやれどうにも、なかなかどうして思い通りには弾けず、唇を噛んで眉間に皺を寄せる。
ただ猛禽の爪のように象った右手を掲げ、その手首を左手で忌々しげに押さえつけていたり――――。
横文字の羅列に対抗してか独特の口調で話し続けたりと、どうも本気で悩んでいる様子には見られない。

「フッ……まぁそんなことは良しとして、こんな音色(モノ)を聴き続けていられるなんて物好きなヤツだな、キミは」
「――――一体全体、私の音(コレ)のどういうトコロが君の琴線(アニマ)に触れたんだい?」

ちらりと流し目で真横へと視線を送る。
尤も真剣に相手の真意を確かめんとする意欲はなく、既に半分得意げな期待混じりの表情をしていた。
139 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/29(土) 21:33:47.44 ID:CF9GHXw8O

街の大病院。
院内吹き抜けの中庭にて、陽光の下の木陰。一人の女が運動に励んでいた。
運動といっても一見では分かりづらい緩慢な其れは、いわゆる拳法の型打ちと呼ばれるもの。
それをなす当人――肌艶は病気とは無縁のようだが、病衣の下に垣間見える包帯は健康とは言い難く。
ショートカットに包帯を巻く頭も、もとはそのような髪型ではなかったらしく、あまり似合ってはいなかった。

(501回目……。まだ軸が歪んでる)

眠気を堪えるような表情に浮かぶ汗。
少し前からこの動作を繰り返しているのは明白であり、近くのベンチにはお茶と御菓子。
本日の女の行動を遡れば、それは日の出にまで辿り着く。

入院費により財布が心もとなくなったため、一度家に帰りお金をせびりに行ったのが午前中。
それくらい電話しろと呆れられ、外で朝食兼昼食を取ったのが大分前。
物足りない病院食に備えて、コンビニでスナック等を買い込み店員に引かれたのが少し前。
検診をサボって抜け出したのがバレて、担当医に叱られたのがついさっき。
そして食後の運動に精を出しているのが現在である。

ちなみにここまで全て、病衣にビニルスリッパという出で立ちであった。
街中でいかに浮いていたか誰の目にも明らかだろうものだ。

二週間前肋を骨折した患者にふさわしからぬ動きぶり。しかしいつまでも病室で臥せりきりという選択肢はない。
友人の少ない女に、家族以外の見舞いのあてはなく。その家族である父と祖父も、昼を境に家へ戻ってしまった。
通りすがりの看護師に止められるまで其れは続くのだろう。

/どの段階でも、病院の内外どちらにいる時点で接触してもらって大丈夫です
140 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/07/29(土) 22:41:34.73 ID:ZfXXx4xSo
>>118
//すいません、三月のところを四織と読み替えてい頂きたいです
//あと、番号のところも0021-2と読み替えておいてもらえれば、申し訳ないです……
141 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/07/29(土) 22:53:45.13 ID:fJcvy05Wo
>>138

――――好、感、触。
ストロークのより弾むギターの音に、魔女は静かにほくそ笑む。
昔取った杵柄は、まだ朽ちていなかったらしい。
“奇跡”を得た若年の自分を思い返すと、その『頑張り屋さん』ぶりにほれぼれする。なんなら顔だって火照りそうだ。
子どもが手にするには早過ぎた玩具だったし、と誤魔化したい気持ちを隠しながら、また彼女は口ずさみ始める。



右手の制御に心血を注ぐような形相の彼女に、『いや、多分弦を押さえる左手の方が』とか。
はたまた『あれ、旋律(シンフォニヤ)ダメ? 旋律(メロディーア)の方が良い?』とか。
擦れた大人は鼠すら齧らない下種なことばかり頭に浮かんでしまう。
だから、少女の言葉に返すのには、少々手間取って。

「うーん、まあれんしゅ……錬成(クーラ)?が足りてないんじゃないかね」

さも平然と指摘しそうになり、慌てて記憶の底からサルベージ。疑問符を挟んでしまい、声の調子は少し狂っている。
それを誤魔化す為、魔女は杖つき腰を上げて、横目の視線を正面に向けるよう少女に相対する。
身体を傾け、地を刺す杖に重心を預けて、独擅場とばかりに胸を張る。

「ああ、もちろん物好きさね。なんたってあたしは“魔女”だからね。
 魔女が面白い子に会うのに、不思議なことなんてないだろう?」

したり顔の横で右の人差し指をくるりと回すと、その軌跡をなぞるように翡翠色の燐光が巡る。
その淡い光は、有機物か無機物かといった現界の理を逸れた異界のかぐわしさを催すものであった。
142 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 01:17:16.69 ID:kTea1aqfo
>>139
その近くに現れたのは、齢10を越した所という見た目の少女
若草色の目と髪が草原を思い浮かばせる、少しおっとりしたような印象をあたえるだろう

背には身の丈ほどの蓋付きの籠を負い、トストスと歩いてくる

「ふー、あいたたた……ですよ」

大病院。先日の大怪我から通院しているが、未だにこの空気になれない
身体の節々に湿布と包帯がまだ少し残っていて、本業である果樹園の世話も少し難儀しているのが現状だ
とはいえ、大分日にちが経ってきたからマシにはなったのだが

それを医者に示す為に(?)、今日は果物を背の籠に載せて持ってきた。もうこれくらいなら持てる、というちょっとズレた経過のアピールだ
しかしまだ降ろす時と持ち上げる時に痛むのも事実。というわけで、湿布を処方されたわけだが

「さて、ですよ。」

ぼん、と言う音と共にそちらより少し離れた場所に籠を下ろす
ちょうど人混みが別れてるですよ、ラッキーですよ。などと―――まあ、女の武練のために空間ができているだけなのだが

「美味しい果物、ですよ〜!如何ですよ〜!今日の梨は水いっぱいで美味しいですよ〜!!!」

青いピクニックシートを引き、脇に座る
「梨 桃 150円 スイカ 500円 メロン 550円」と明らかに手書きで作られた看板を置いて、少女は客引きを始めた

/よろしければ!
143 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 02:22:34.01 ID:gU+8PU96O
>>142

視界の端に籠を背負った子供が歩いている。
何処とからともなく漂う甘い香り。腹ごしらえの済んだ女でさえも心揺らぐ魅惑の気配。
いかんいかん、まだノルマが終わっていないのに。入院生活で歪み切った体軸の乱れを調整せねば。
くしゃりと額を撫でて、型打ちを再会しようとするが。そこに止めの一言が飛んでくる。

「果物屋さん……。だと……」

何を隠そうこの女、果物に目がない。
病院の薄い味付けに飽きた所に、コンビニでは買えずスーパーにも寄れず、むしゃくしゃしていたのに――――
ああもう、軸の歪みとかどうでもいい。ぐるんと首を回し、ただちに型打ち中断、ざざざっとシート前に滑り込む。
普段ぼけっとしているくせに、こういうときは無駄に素早い。


「……ぅぐう」

――とはいえまだ無茶出来る体調ではなかった。ゆっくりとはいえ練功は出来ていたからすっかり失念していたが、自分は重傷人なのだった。
シート前の芝生に背をつけ、脇腹おさえ押し殺した声で悶える女が一人。
開店早々、かなりの営業妨害である。


/すみません、気付くの遅れました……っ
144 : 【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 03:47:11.87 ID:9hCwKhZFo
>>143

突然現れた(?)女にビクッ!と背筋が伸びる
小動物のような驚き方。こいつぁやべぇですよ……などと一瞬、脳裏をよぎるが
先ずは声を掛けてみる事にした。

「い、いらっしゃいですよ。大丈夫ですよ?」

上から被さるように、恐る恐る覗き込んで、問う
そちらに当たるか当たらないか程度の長さの癖毛は、光に透けると木漏れ日のようにも見えるだろう
心配と警戒と強がりを混ぜ合わせたような戸惑いの表情は、見た目の年齢からしても幼さを感じる表情で

左手には試食用に剥こうとしていた梨。中世の町娘然とした格好の少女が持つ割には、和梨であった

/いえいえ!
145 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 05:47:39.44 ID:gU+8PU96O
>>144

見た目一回りくらい小さな少女に心配(警戒)される女。
この世界こんな奴ばっかりか。

「も。無問題……」

うつ伏せになり、四肢を芝生につき、なるべく胴体に負担を与えないようのろのろと起きてくる。序でに震え声でサムズアップ。
余計な事をしたせいで、病衣は乱れ、脇腹のコルセットや全身の火傷を隠した包帯が所々見えている。
清潔な布で覆われているにもかかわらず、焦げ臭さを幻臭出来そうな程。
ああ、自分って重体なんだな……と今更ながら実感。そんな身体で平然と外を歩いていた朝が信じられない。

「梨……」

だが、今はそんなこと関係ない。
起き上がれば、起き上がりさえすれば、目の前に楽園が広がっているのだ。
涙の滲みかけた視界に入る、彼女の手の中の其れ。黒曜石のごとき瞳に力が戻る。

「梨!」

ずびしぃ! と膝立ちのまま鋭い中段突き――ではなく掌が、少女の眼前に突き出される。
掌の向きは上。その手には硬貨ひとつ握られていない。
つまりはお頂戴――――取り合えず試食(く)わせろ、と。言いたいらしいが。
勢いよすぎてまた暫く痛みに悶えているけど、もう突っ込まなくていいと思う。
146 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 06:05:25.87 ID:gU+8PU96O
/何度もすみません、夜まで置き気味になると思います……
147 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 11:51:41.11 ID:YcXeEFm9o
>>145

梨のコールと共に差し出された鋭い掌。正直、一瞬引いた。
だが、見ると女は病衣であり、包帯と薬品の匂いを纏う、立派な重傷人のようである。

「剥いてあげるから待つですよ、こっち来るですよ」

兎に角。
行き倒れチックになっている女を、シートの方へ誘って、座るよう促すだろう

相手が座るにせよ断るにせよ、籠から果物ナイフと皿を取り出して、シャリシャリと手早く梨の皮を剥き、8分の1にカットするだろう
そして、爪楊枝を一つ挿して、皿ごと女に差し出すはずだ

/分かりましたー!
148 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 12:12:39.20 ID:eEaw4dSLO
>>147

誘いを断る理由はない。寧ろ向こうが断る理由は山ほどあるが。
優しい店主を前に、借りてきた猫のように正座する――が、やはり脇腹が痛むのですぐ胡座に組み替えた。
その間にも少女は手際よく準備を進めていく。

「皮。剥いちゃダメ」

一つだけ、ぼそっと不満を漏らす。そう、皮ごと食べたい派なのだ。理想は丸かじり。
もてなされているのに図々しいことこの上ない。
言ったはいいが結局丸裸の果実が出てくる予感に、落ちつか無げに胡座を揺すって待つ。

「さんくす」

そして受け取るが早いか、頂きますと呟いて口の中に放り込んだ。爪楊枝ごと食べかねない勢い。
マナーもなにもあったものじゃない。

「〜〜〜〜ッ、」


目をぎゅっと閉じて膝をぽんぽん叩く。これこれ、コレが食べたかった。
顔には出にくいぶん態度にすぐ出るらしい。瑞々しいのに濃厚。美味しい。

「ごちそうさま。……幸せ」

果実は一瞬で胃に収まり、ほうと溜め息をつく。
朝もいっぱい食べたが、今も正直全然足りない。
にもかかわらず眼尻が下がるのは、紛れもなく好物を食べられた幸福感からだろう。

入院は大変だが、こういう楽しみがあるなら乗り切れる気がする。
そう思えば自然と、右手は財布を求めてポケットを探っていた。
149 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 12:23:07.95 ID:YcXeEFm9o
>>148

途中まで皮を剥いてから女の言葉を聞いたため、「そういう趣味もあるですね」なんて内心思いつつ
此処まで剥いてしまったから、と言いながら剥ききった

女が嬉しそうに梨を頬張る。自分なら二片程度を食べる間に完食した相手は、きっと果物が余程好きなのだろう、と感じ
果物好きに自分の成果物を満足そうに食べてもらえたという、何にも代えがたい嬉しさがこちらにもこみ上げてきて
財布を探る女の前に

「……ですよ?」

籠から、よいしょ、と。バレーボール程の大きさの西瓜を両手で取り出して、小首をかしげる。ニュアンスで「食べる?」というのが伝わるだろう
元より今回の露店(もどき)も主な目的は、医者に治ってきたアピールをするために持ってきたこれらを捌くことだ
きちんと生活のための資金は稼げているし、医者にも籠半分くらいの果物を押しつ―――お礼に渡してきた

それに。
この食べっぷりなら、レゥリじゃできない西瓜半分器食いを見られるかもですよ……!
という個人的好奇心も在るのだった
150 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 12:40:57.13 ID:eEaw4dSLO
>>149

籠から出てきたのはとびきりの誘惑球体。なんかもう、その青さとまん丸さだけで全て許せる気がする。これに抗うとか無理じゃない?
こくこくこく、とぜんまいの玩具みたいな首肯。
瞬く間に餌付けされたがしかし、肝心の財布がない。そもそもこの病衣、ポケットなんか付いてなかった。
ぽくぽくぽく、ちーん。

「ちと。タンマ」

最後に置いた場所を思い出し、小走りでベンチまで取りに行く。
大分目を離していたが、無事だったらしい。
目と鼻の先だけにすぐ戻ってくるだろう。
再びシートに座れば、序でに外で買ってきたお茶や御菓子、雑誌等が袋から転がる。

「ん――――、」

がま口財布の中身を見とめて、その瞳が少し曇る。
しかし青ざめる程ではないので、一つも買えないような文無し、という訳でもなさそうだが――――


そのわけは、財布と果物、そして脇に置かれた自分の荷物にある。
せわしなくそれらを往き来する視線に注意すれば、その出所は容易く判明する。

迷っている。グータラな己は多分今日を逃したら次はない気がするし。
ならば余計自分だけでなく、“彼”にも食べさせてあげたいのだ。
今や時の人となった、厳めしい金髪碧眼の武人――――雑誌の表紙から此方を見上げる、メルヴィン・カーツワイルその人に。
151 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 13:27:49.59 ID:YcXeEFm9o
>>150

財布を見てどこか気落ちした様子の相手。ふむ、と少し考える
病衣ということは入院患者だろう。そして手元に広げた雑誌やお菓子を見るに、やはり入院生活は暇なものだ
かく言う自分も数日だけとはいえ入院するハメになったから、その気持は痛いほど分かる。

そっと手書きの看板を仕舞う。そして、苦笑のような笑顔を浮かべながら、

「お代は今度でいいですよ。入院中なら物入りですよ」

取り敢えず心配するな。そう言いたいのだ。
詐欺師の常套手段に近いかもしれないが、少女の様子からして、その線は薄いだろう
端的に言えば騙すより騙される側の雰囲気であるということだ

「お金じゃなくても、不思議な素材(モノ)とかでもいいですよ。趣味で集めてるです」

異能の素材を加工する己の能力。その触媒は中々手に入らず、僅かな機会のきっかけになりそうならば、こうしてお願いするのも一つの手
そう考えて提案した。どちらにせよ、直ぐというのはあまり期待していない

と、話していると

「……あ!メルヴィンさんですよ!」

傍らに転がった雑誌、その表紙を見る
それに写っていた人物は、以前自分の店に見舞いの果物を買いに来た男であった
思わず声を上げ、有名人さんだったですよ……などとちょっとびっくり
152 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 13:45:57.59 ID:eEaw4dSLO
>>151

少女の提案を聞いても女の顔はいまいち浮かない。
不思議なモノ、という言葉の意味を判じかねたのもあったが、他にも一つ。
入院前の女ならばこれ幸いとツケといてもらい、あまつさえ踏み倒しかねなかったが、今は違う。
どこへ行くにもまずは財布を持っていくようになった(常人なら当たり前のことだが)。
勿論きっかけというのはあって、最近金銭関係で迷惑をかけて怒られそうになった事がそれ。
何を隠そう、その相手というのも他ならぬ……


――――あ!メルヴィンさんですよ!――――


……え。

「めるびん。知ってるの?」

言ってから、馬鹿な事を訊いたと眉をひそめる。
テロリストを仕留めた功績は大きいようで、彼は今や雑誌だけでなくテレビにも引っ張りだこと聞く。そんな有名人を指して、知ってるの、とは。
まあ自分も顔見知り程度の仲なのだが――なんて、自分の思考に凹まされ少し眉根が垂れる。これで友人だとか聞いたら大分――少しショックだったろうが。

「――、」

すっと目が細められる。少女が彼の名前を呼んだときのニュアンスは、単なるミーハー的な色とは少し異なる気配がして。
普段は持ち主と同じく怠惰なくせに、何故かこういうときだけ女の勘というものは仕事をするようだった。
153 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 16:48:54.36 ID:YcXeEFm9o
>>152

女の表情の、或いは声色の変化か。この少女も「女」である―――それも、長寿の。
内心。ニヤリと。

「知ってるですよ、親切で素敵な方ですよ」

キラキラ乙女オーラを放出(非物理)しつつ、彼を語る
ぐふふですよ、他人の色恋は乙女心の食料ですよ!!!!

「この間、ウチ(店)に来て色々お手伝いしてもらったですよ」

両手を祈るように組んで、見た目の年齢通りのような、恋する乙女(というには幼いか)の仕草
にこっ、と笑うのも忘れずに。この娘、煽りおる。
154 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 17:27:26.67 ID:zbssAbtUO
>>153

にわかに輝きだした少女の瞳にうっと圧倒される。
これはアレだ、ヤバい。慣れない戦いに身を投じる悪寒に手足が冷えていく感覚に陥る。
その後に続く戯れ言を、へえと受け流すには、女には対人経験があまりにも不足していた。


「え゛……。どゆこと」

親切なのは分かる。世のため人のためを地でいく男だ。
ある意味いま女が生きているのも男の優しさの恩恵とも言えよう。
素敵かどうかは知らん。知らんったら知らない。

しかしだ。

「、
いろ。いろ――。」

家(うち)って何。色々ってどんな。
桃色の想像が頭を貫き。例のテロリストに良い打撃を喰らった時のように、ぐらりと視界が傾く。
前に手をついた事で、自分が本当に倒れかけていたのに気が付いて。

暗い眼差しは恐らく相手と同じ高さの目線になるだろう。おのずと距離が近くなり、最初に相手が此方を見下ろしたくらいまで詰め寄ろうとする。
普段は磨かれた黒曜石のような瞳も、やや陰りを帯びて相手の顔が映るかもしれない。
どころか相手の両肩を掴んで揺さぶりかねない勢い。
尤も脇腹の傷のみならず、左手は筋断裂に風穴まで開いているため、その力は平常とは比べるべくもない。少女の腕でも容易く振りほどけるだろうが。

「めるびんのこと。知ってるん……だね」

最初とは似て非なる二度目の問い掛け。
見た目姉妹以上に離れている少女に真剣に迫る女。情けないを通り越して醜いの領域である。
冷静に考えれば相手は(外見は)子供、そんな可能性は限りなく低いとは少しでも彼を知れば誰でも分かることなのに。
ただひとつ、少女は煽る相手を間違えた感は大いに否めない。悪い意味で。
掴もうとした手が力なく芝生に落ちる。
155 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 17:38:44.40 ID:YcXeEFm9o
>>154

やっべですよ。これはあかんですよ。
冷や汗がどっと出てくる。こちらを見据える瞳は黒曜石からブラックホールへ。ひええ。

「お、お客様ですよ。お怪我したご友人にお見舞いの品を――――あ」

そこまで零して、もしやと悟る。
目の前の女と彼は縁があるらしい→目の前の女は怪我している+彼は火傷をした友人にお見舞いの品を買いに来た=あっ……
そんな方程式が頭をよぎり、そして

――――言えないですよーッ!!!!!っていうかこれ逃げ道ないですよ!?

「そ、その、えと、あのあのあのあう……」

どうしたものか、と。病院送りになった一件とは別の恐怖・焦燥感が少女を襲う
その運命や、如何に。
156 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 17:52:33.02 ID:zbssAbtUO
>>155

彼の事を考えると、修業で研ぎ澄ましたはずの精神が鈍らみたいに柔らかくなる。


少女があわてている。なにか言っているがよく聞こえない。集中すると耳が回りの音を遮断してしまう悪い癖。
彼女は余計な事を言ったと思っているのかもしれない。それは違う。
彼女の言葉で自分は現実に帰ってきただけだ。
そりゃそうだ。彼は誰にでも優しいのだし。自分が特別仲良くなった訳でもない。
最後に別れるときも喧嘩別れみたいな形だったし。
そのあとも雑誌でいつも特集記事見ていたから忘れてたけど、そもそもまともに会ったのだってあの一回きりだった。


「なんか。悪いことしちゃった」


それは彼と少女、どちらに向けた言葉だったか。
はー、と肺の空気を絞り出す。そのぶんだけ胸の奥に詰まった重石が取れるような気がして、漸く顔を上げることができた。
その頃にはもう、瞳の色は元の無機質な黒曜石に戻っているだろう。

「も一回。タンマいい」

問い掛けのような断定を放り捨て。スリッパを突っ掛けてすたすたと何処かへ歩いていく。
中庭を抜けてそのまま立ち去るのかと思われたが、そんなことはなく。
手近なナースステーション横の公衆電話を借りただけで、直ぐに戻ってくるだろう。

その後は膝を抱えた三角座りで、少女の脇で彫像のように転がっているだろう。
二人の間に流れるのは沈黙。

女には別に彼女を拘束する謂れはない。用件が無いならどちらかが立ち去ってもいいようなものだが。
しかし、時おり流し目だけを送る無言の圧力は、逃亡を許す者の其れではなく。
暫くして、一人の看護師が紙包みをもってその場の二人――正確には女を呼ぶまで、その空気は続くだろう。
157 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 18:40:53.76 ID:YcXeEFm9o
>>156

「ええと」

ちょっとやり過ぎたっていうよりは、相手が悪かったのか、内容が悪かったのか
どうやら女は凹んでしまったらしい

「……あの、メルヴィンさんとは、お客様と店員という関係なだけなのですよ」

申し訳無さげに、メロンを差し出しながら言う
半分に切って、スプーンを挿した状態。カップ状のメロンを半分ママにたべるのはやはり贅沢だ

「レゥリは、メルヴィンさんの剣の、鞘を作るようにお願いされたのですよ。」

その礼に、収穫を手伝ってもらったのだと伝える。
すっかり反省した少女は真摯な様子。女に伝わるだろうか

「あなたが、その、メルヴィンさんに凄く反応したので、ちょっとからかったですよ。ごめんなさい、です」

頭を下げる。正直に言うことが、物事の解決には吉だと少女は知っている
それがどうこんがらかったとしても、基本的には、それが一番なのだと

そして、そうこうしているうちに、看護師が女を呼ぶだろうか
158 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 19:00:38.51 ID:zbssAbtUO
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159 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 19:03:26.03 ID:zbssAbtUO
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160 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/07/30(日) 19:05:13.92 ID:zbssAbtUO
>>157
/すみません、書き込みが繁栄されないので、続きは避難所でお願いします
161 :【唯包効索】=Create Juggler= [sage saga]:2017/07/30(日) 19:46:05.15 ID:YcXeEFm9o
>>160
/分かりました!
162 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/07/30(日) 21:17:16.80 ID:ek3/Aldz0
>>141


「ほう……」

彼女の指先を通して虚空に灯る翠に、感嘆の声を上げる。
ちょっとの驚嘆から言葉に詰まり、間もなくして小さな含み笑いをしはじめる。

「なるほどなるほど魔女≠ニきたか!どうやら面白い出逢いをしてしまったようだな、私は」

愉快そうに先程までよりも一層声の調子を上げて、再三度軽く弾いてみせる。
特定の曲ではなく、ただ適当に弦を爪弾いているだけに過ぎない。
言葉では上手く云い表せない感情を弦に乗せたいが為の、取るに足らない小夜曲(セレナーデ)。
その指が止まると、またも彼女に対して先程見せた半分得意げそうな顔を向ける。

「だが――――、その光だけではキミをホンモノの魔女と断定できないな」
「是非ともこの私にでも理解できるような、魔女らしい魔術≠ニやらを、お見せして頂きたいものだが」

生憎と魔術に関する造詣は深くない身であるので、燐光から魔力を感じ取る才能もない。
光を放出する異能なら幾らでも前例があり、小さな光の円環だけで魔女とは呼びがたい。
何しも本心から疑っている訳ではなく、ただ本物の魔女であるならもっと凄い芸当をして見せてくれる筈―――――と。
そんな好奇心にきっと応えてくれるだろうと、此れまでの『魔女』の言動からみた薄い根拠を元に問い掛けていた。
163 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/07/30(日) 22:47:23.40 ID:YvHaavfao
>>162

「ほう」

魔女が見せた顔は、驚嘆だった。
余剰した魔翌力を漏らそうともこの少女は驚かない。
むしろもっともっととおはなしの続きを強請る子のように、魔の光に目を輝かせてくる。
この反応からすれば、彼女も“チカラ”の持ち主だろうか。

ふむ、と顎を擦る。どうしたものか。
ご高説を垂らしたものの、魔女はアドリブが得意ではない。
彼女の最近の日課である『その魅せられたものに応じて、人の望みを叶えること』からもよくわかる。
人が願う形でしか、魔女はその奇跡を造ることができないのである。

「魔女らしい、か」

やがて小さな声で反芻して、ぴんと人差し指を立てる。

「分かった」

地に杖をかんと鳴らす。
武骨な輪郭が翡翠の色に包まれていくと、その形は縦に長く伸びてゆき。
――――一本の草箒に変わった。
魔女が手を離すと、草箒は倒れながらヘリウムの抜けかけた風船のようにゆっくりと浮かび始める。
腰かけて脚を組むと、少女に物言い顔でちょいちょいと指を動かす。

「おいで。ちょっと長めにしたから、二人でも問題ないさ」
164 :【騎士三誓】 [sage saga]:2017/07/30(日) 22:53:22.23 ID:cxwmxq2Ro
とある海岸で、人を襲撃する何らかの生物が居ると報告があった。
形状も生態も不明だったが、確かに行方不明者は出ていたのである。
夕刻、その海岸に艶のあるブロンドヘアーを腰まで伸ばした、茶眼の女騎士が調査に向かった。


「ッ、何ですかこの泡……!」

向かった海岸には一匹の巨大な蟹が波打ち際に鎮座していた。
生物の形状は蟹に近く、人ほどの大きさであり鋏は特に大きい。
何より厄介なのは、口から放たれる泡であった。脚を取られる上、塔楯は少しずつ“溶けていっている”気がする。
おそらくあれで食物を消化しているのであろうが――、ということを考えている場合ではない。

大剣を上段に構え、蟹に向かい突撃していく。
頭を質量のある刃で叩き、意識を砕くという手筈だった。
眼前に迫り、騎士は地面を思いっきり蹴って跳躍しようとするが――。


「うわぁッ!?」

地面の泡で足を滑らせ、そのまま蟹の方へと一直線に近づいていく。
咄嗟に塔楯を前方に構えるが、胴を巨大な鋏に挟まれて投げ飛ばされてしまった。


「流石に身体が堪えますね……。」

衝撃を殺し切ることが出来ず、背中から地面へ衝突する。
一度離脱しても良さそうだが、任務はしっかりとこなさなければならない。
犠牲になっている民が居るのだから、余計にその気持ちは強かった。
165 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/30(日) 23:38:36.12 ID:Ezy15GOHo
>>164

――事情は、彼の女騎士と似たようなものだった。
人を襲う何らかの生物の目撃例。行方不明者が存在しているという実害。
それは民衆の不安と恐怖を煽るには十分すぎる事態であり、公的機関でなくとも頼れるものがあるのならそれに縋ろうとするのは力なき者からすれば当たり前だ。
ましてそれが、行方不明となってしまった者の家族などであるのなら……。

……だからこそ、彼の組合に依頼が届けられる。
その件を調査してほしいと。そして叶うのなら、あの人たちを取り戻してほしいと。
愛する者や親しい者を奪われた人々の嘆きと悲しみは深く……ゆえに、その男が動かぬ理由はどこにもなかった。

「――やんごとなき御身分とお見受けする」

倒れた彼女の背後から、足音と共に確かな声色が聞こえた。
低い声は決して大きなものではなかったが、まるで心に直接響いてくるように不思議とよく通る。
天に燦然と輝く太陽を誰も無視することができないように。その場の注意をいやがうえにも引き付ける、威圧感にも似た力が存在した。

「当方ギルド“ワイルドハント”所属、賞金稼ぎメルヴィン・カーツワイル。近隣住民の依頼を受けて推参した」

振り返ればそこには一人の男。
黒い服装、金髪碧眼、腰には見事な装飾の入った鞘に収まる一振りの長剣を吊っている。

本人は賞金稼ぎを名乗ったが、それに関して疑問に思うかもしれない。
なぜなら一心に蟹の形をした怪物を睨み付ける眼差しには強い光が宿っている。
それは紛れもなく善性を尊ぶ光。陽だまりにて和む無辜の人々を愛する正義の光。それを害する悪党怪物を決して許さないと奮起する高潔な人間にしか存在しえない光だ。
金目当ての俗人たちの瞳にあって然るべき汚れくすみがまったくない。さながら燃え盛る希望が炎の形を取って現れているかのような、烈々たる輝きを放射している。

「目的が同じであるのなら助力を願いたい。これ以上の犠牲は断じて容認できん」

徐に抜き放つ鋼の剣の樋(フラー)から刃先まで矢のように伸びる金色の線が走っていた。
刃を片手に仁王立つその姿はどこまでも力強く、人々の平穏を脅かす怪物と対峙している。


//よろしくお願いします!
166 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/07/30(日) 23:44:27.75 ID:ek3/Aldz0
>>163


「―――――――!」

彼女が魔女―――魔術師であるなら何が起ころうとも、不思議ではないと思っていた。
魔術という力は、一般的に浸透している異能とは一線を画す代物であると聞き及んでいたからだ。
しかし小規模とはいえ実際にそれを目にした途端に、思わず息を飲んだ。

「お、驚いたな……、確かに魔女らしいといえば魔女らしい…………」

浮遊する草箒。箒に跨って空を飛ぶ三角帽子といえば、童話で読んだ典型的な魔女である。
その上に腰掛ける彼女の招きに、慎重な足取りで立ち上がり、震える身体を収めようとする。
隠す余地もない程度に口元は緩みきっており、元々鞏固だったわけでもない気取った仮面が目に見えて崩れていた。

「この近くを飛ぶだけかな?もし遠くまで往くなら、相棒(コイツ)を連れていきたいが――――重量制限は如何程だい?」

此れまでの流れから察せられるかも知れないが、相棒とは片手で押さえベンチに立て掛けているアコースティックギターの事である。
演奏音痴とはいえ当人にとっては仮にも大事な商売道具であるので、成るべく手元から離したくはない。
もっとも然して固執するべき事柄ではなく、どんな返答をされようと誘いを蹴るつもりはない。
此れはスタジオのあるビルの一階で何となく買った市販品だからである。じゃあ相棒って何なんだ。
そして何よりも、本物の魔女の箒に乗せてもらえる絶好の機会を前にした好奇心には、敵うはずもない。
167 :【騎士三誓】 [sage]:2017/07/30(日) 23:54:53.71 ID:cxwmxq2Ro
>>165

「ッ、何方ですか!」

背後から聞こえた男の声に、驚いた顔をして振り向く。
強大な威圧感、そして強堅な身体から見て取れる熟練した戦士。
女騎士は立ち上がり、蟹の方へ身体を向けながら彼の話を聞いた。


「――ギルドの方が、なぜここにいらっしゃったのかは知りませんが」
「協力、していただけるのですよね?私の名はアネット・ロワイエ――」
「“鉄十字騎士団”に所属している者です」

彼は賞金稼ぎだと自らの身分を紹介した。だが、其の目は“金に縋る者の目ではない”。
それどころか、誉れ高き信条をどこか感じる。アネットは賞金稼ぎを信じない故、その点は非常に不思議であった。
――そして、アネットは自らの所属を明かす。鉄十字騎士団と呼ばれる民を救う騎士団に、所属していることを。


「……それでは参りましょうか」
「一つ、私は貴殿の攻撃を一切避けぬ。
 二つ、私は貴殿へ嘘をつかぬ。
 三つ、私は貴殿への不意打ちを禁ず。
                       我が身に救いあれ
 以上を以て、騎士の宣誓とする。“Non est in me salus”」

騎士の宣誓。それは自らの矜持を述べることであり、そしてそれを裏切らないということの宣誓。
これらのことを尊守する代償として、身体能力を向上させることができるのである。
――取り敢えず、彼の行動を見つつ援護に回ることにした。蟹の背後へ位置し、意識を此方に集中させる。

再び蟹の眼前へと駆けていくが、今度は跳躍をしない。
蟹が吐いた泡を逆に利用し、砂浜を滑っていく。そして蟹の右側へと抜け出ていった。
大蟹はその巨体をゆっくりと動かしながら、アネットに鋏を振り上げようとしている。隙は、十分にあるだろう。
168 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/07/30(日) 23:56:27.73 ID:PP+iRiwkO
生きる価値のない人間など存在するのだろうか。
いや、ない。全ての人間は此の世に生まれ落ちた瞬間に、何らかの意味を伴って存在を確立するのだから。
例え救いようのない極悪人であろうとも、例え性根の腐った外道であろうとも、命の価値は等しく尊いもの。

───────そう思えてしまうのは、中途半端に殺し切れない良心の呵責なのか。
ならばその思いはxU擇濟Δ修ΑB兇譴枠狃・砲箸辰董・膺C魍「濟Δ垢茲Δ亡蔽韻覆海箸世辰拭
そして何時ものように、淡々と指揮をふるう。喚き散らす命乞いを聞き流し、感情の籠らぬ冷ややかな瞳で駒を進め、そして。
断末魔の叫びと、ぐちゃりという肉が潰れる音を以って、路地裏に再び静寂が訪れた。全てを見届けたのは、雲の隙間から覗く三日月のみ。


「……────はあ、これで終わりましたわ。後片付けは宜しく頼みますわよ」

「後、入金も指定の口座にお忘れなきように。もし反故にするのであれば、今度は貴方の首を頂きますわよ?」

スマートフォン越しの依頼人との通話を終え、少女は疲労感から溜息を零す。
路地裏には似つかわしくない、黒のドレスに身を包んだ可憐な少女。彼女は所謂殺し屋でありだった今宵も一仕事終えたばかりだった。
たった今、彼女に"処分"されたばかりの男の亡骸は、無残に破壊された状態で無造作に放置されていた。
斬り裂かれ、貫かれ、押し潰され、まるで数人がかりで暴行されたような酷い有様。然しこのように凄惨な光景は少女にとって慣れたものだった。

少女は殺し屋だった。誰かを殺して、その命を踏み躙って、金という生きる糧にするロクデナシ。
彼女はまだ若く、殺し屋としての経歴も浅い────にも関わらず、既にそのロクデナシな在り方に順応していた。


「……さて、早い所私も退散してしまいましょう」

「この血の匂いに引き寄せられて、ハイエナが姿を現す前に」

死体の臭いは防げない。幾ら此処が死角の多い路地裏であったとしても、決して誰も辿り着けないという訳ではない。
偶然か、必然か、引き寄せられる者は存在する。其れが正義か、或いは悪かなんて些細な問題に過ぎず。
けれども────時として、出逢いは必然的に生じる。果たして其れが、望んだものであるかどうかは不明だが。

踵を返し、この場から立ち去ろうとする少女の姿は丁度月の光に照らし出されて。


//置きになりますが、絡み待ちです…
169 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/31(月) 00:19:59.25 ID:JRh6IPq0o
>>167

騎士の言葉に頷きを返し、動きに合わせて男も足を踏み出した。
その速度は決して早くない。遅いというほどでもないが、強いて言うなら常人並だ。
瞬く間に蟹の背後へ回ってみせた彼女とは比べるまでもない。が、その双眸は怯むことなく巨体を見据えたままで……。

動きの違いから予測できる戦闘力は圧倒的に女騎士が上回っている。
それは素人目にはとか、戦闘に慣れていない者だからとかそういうことではなく、純粋に力量の有無が分かりやすく表れている光景だった。
仮にこの場に第三者がいたとして、そしてその人物が武道を極めた達人であったとしても、戦えばどちらが勝つかと聞かれれば彼女の側を指すだろう。

だからこそ、そうした分かりやすい脅威度は人の道理を介さぬ怪物でさえ理解する。
あるいは厳然たる自然界を生き抜いてきた洞察力ゆえか。誰が見ても分かるレベル差に従って、狙いをつけたのは側面だった。
それはすなわち騎士の方。先に対処すべきはこちらの方だという認識に間違いはないだろうし、後に続くもう一人にも今なら十分対処可能。
なぜなら未だ、剣士の間合いには入っておらず。あのスピードならば女を吹き飛ばした後でも迎撃はできると予測できている。
こいつさえ始末してしまえば、残っているのは雑魚一人。容易く喰らって仕舞いであると、巨大な鋏を振り上げて……。

「――シッ」

その瞬間、突如として加速した男が蟹の関節目がけて剣を振り下ろした。

明らかに走る速度が違っていた。ならば手を抜いていたのか、いいやそうは見えなかった。
考えられるのは彼女と同じく、身体強化系の能力者であるということ。不可解なこの動きに理屈をつけるなら、考えられるのはそれしかない。

そうして放たれた一刀は関節から入り込み肉を斬り裂きみごと鋏を落とすのだろうか――。
仮にそこまで至らなかったとしても食い込んだ箇所には少なからぬダメージが入るだろう。これを続けていけばいずれは切断もできるだろうし……。

……そして、剣が蟹の肉体を裂いたのなら。
輝く刀身から立ち昇る黄金の炎が、その身を焼き焦がすだろう。
170 :【騎士三誓】 [sage]:2017/07/31(月) 00:40:52.71 ID:iRTjXYaYo
>>169

――大蟹の意識を此方に向けることはできた。
“今の身体能力であれば”蟹の鋏くらい受け止められるだろうと考えたゆえの行動。
塔楯を頭と身体を護るように斜めに突き出した、その刹那だった。

「メルヴィンさん、上手いですねッ!」

彼は一瞬にして大蟹の鋏を間合いに入れ、そして関節へ一撃を叩き込む。
大蟹の関節は甲殻に大きな罅が入り、倒れはしないもののバランスを崩し一瞬の怯みが生まれる。
其の怯みを見逃すまいとアネットは地面を蹴り、空中で一回転しながら彼の刃が食い込んだ箇所に刃をかませる。


彼の剣が大蟹の肉体を裂いた、その時であったか。
刀身が輝いたかと思えば黄金の炎が立ち昇り、大蟹の身を焼き尽くさんとした。
其の様子に一瞬目を奪われるが、すぐに彼の方へ駆けて向かう。

「さて、今からどう調理しましょうか」

……正直、美味しそうな匂いが漂っている。
右鋏を失い、灼熱の炎渦に包まれた大蟹は殆ど絶命している状態に近いはずである。
あとはどうやって切り落としていくか――。アネットはそれを彼に尋ねた。
171 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/31(月) 01:13:11.35 ID:JRh6IPq0o
>>170

炸裂――二人の繰り出した刃が巨大な甲殻を二つに分ける。
重々しい音を立てながら地へ落ちる彼の怪物の主兵装。加えて全身炎に包まれ身悶えする様は、もはや決着がついていると言っても過言ではなかろう。
実際、見る間にその動きは弱弱しくなっていき……もはや足のもがきもなくなった頃合いを見て、男は剣を鞘へと納めた。

終わりと見たか。しかし鷹のような眼光は油断なく終わりを迎えようとする巨体を見据えている。
最期の力を振り絞り、死に際の一撃を見舞ってくる……そんな可能性もないわけではないために、いつでも抜けるように剣の柄に手を掛けて。
外見上の変化はないため分かりにくいが、鞘は高熱を発していた。それこそ触れば火傷してしまうほど、如何なる理屈かその温度は上昇している。

……鼻腔をくすぐる芳醇な香り。
ここまで成長した蟹である。間違いなく規格外の栄養と旨みを持っている。
その身にかぶりつけばさぞかし美味なのだろう。動いている間は恐ろしいモンスターだが、死んでしまえば単なる食材に変わるのだ。
こんな蟹は滅多にお目にかかれまい……普通に生きているだけでは、一生のうちに出会うことすらないだろう。

しかし男の険しい表情に変わりは一切見られない。
その目は相変らず、死にゆく蟹の動向をつぶさに観察しており……そこに何かを見出そうとしているような様子が感じられるだろうか。

「このまま燃え尽きて終わるのならばそれでいい。ただ、巣穴のようなものはあったか? こちらの方では確認できなかったが」

そう、見極めようとしているのはまさしくこの怪物の住処。
どこを塒としているのか、表情もへったくれもない蟹の様子からは読み取れる率などごく低いだろうが、それでも何らかの手がかりを掴もうとしている。

「……可能性は僅かだが、生存者がいるとすればそこしかない。手遅れだったとしても、せめて遺品くらいは届けねばならん」

真摯に紡いだ言葉に嘘はなかった。
決して報酬のためとか、心付けを狙っているわけではない。
この怪物の手にかかってしまった人々を心の底から悼んでいると、誰が見てもよく分かる。
……むろんその間にも、眼前の蟹への警戒は解いていないが。
172 :【騎士三誓】 [sage]:2017/07/31(月) 01:25:55.27 ID:iRTjXYaYo
>>171

大蟹はもがきながらも浜の方へ脚を進めようとしているようである。
巣がないとは限らないものの、水中装備が無い現時点で巣を見つけるのは非常に難しいだろう。
確かに彼の言うように遺品等が見つかれば良いわけだが、現実的ではないとアネットは踏んだ。

「メルヴィンさんの気持ち、痛いほどわかります」
「ですが……。大蟹の巣があるとしても、おそらくは水中でしょう。遺品も、すべて飲み込まれたかと」

大蟹が、浜に向かって斜めに進んでいるということは見れば分かる。
だが、その直線上に果たして巣があるだろうか。狩り続けていてはきりがないが、この状況ではこれが限界だろう。
彼の気持ちを卑下にする訳ではないのだが、アネットはそう彼に伝える。


「遺品ですか。どこかこの辺りにでも転がって……、ってあれ」

砂浜を見渡してみれば、斜陽に照らされて光るものが一つ。
アネットは慎重に近づいていき、それを取り上げてみれば――、指輪だった。
リングの内側にイニシャルが二つほってあるのが見て取れる。恐らく結婚指輪だろう。

これ以外にも何か無いか、アネットは辺りを少し散策している。
特にこれといったものが見つからなければそのまま彼の元へと戻るだろう。


――結局、大蟹はもがきはしたもののそのまま力尽きてしまったようである。
彼の火焔のお陰で、かなり効率よく大蟹を狩ることが出来た。幸いなことだ。
173 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/31(月) 01:44:10.50 ID:JRh6IPq0o
>>172

「……そうだな」

彼とて、分かってはいたのだ。
このように規格外のデカブツではあるが、この生物は蟹である。
不明ではあるものの生態もそれに準じるというならば、当たり前だが水棲であり……。
順当に考えるなら被害者は水中に引きずり込まれたか。あるいは陸で食われたとしても、遺品などとっくに波に攫われ海の底だろう。

生存者は望めない……残された彼らの痕跡の回収もできない。
奇跡など起こりはしないのだ。無情すぎるこの現実世界は誰もに救いがもたらされるほど都合よくはできていない。
ならばたった一つ、結婚指輪が見つかっただけでも僥倖というもの。苦い思いを飲み下し、男は水平線を睨んだ。

――――――。

「改めて感謝する、ロワイエ殿」

巨蟹が完全に絶命したことを確認したあと、騎士に向き直った彼は軽く頭を下げつつ感謝を述べた。

「おそらく俺だけではこうも手早く決着をつけることはできなかっただろう。恥を晒すようだが、未だ未熟な身だ」

語る言葉は事実であろう。彼の動きを完全に見切ることができるほど長い戦闘時間ではなかったが、垣間見えた力量は常人と大して変わらないもの。
その状態から急激な変化を見せたために彼の蟹は対応できず直撃を食らったわけだが、彼女の目から見てもこの男が最初は加減していたという風には見えなかったはず。
なぜなら本当に全力だったのだから。そうすると本気を本気が上回ったという事態になるわけだが、強化系だとすればそれにも説明がつく。

ともかく、基本の力はそれほど高くないことに間違いはないわけで……。
瞬間的に強化を施しつつ戦ったとしても、どこかで綻びが生じれば一気に逆転される目もあっただろう。
どこか他を圧倒するような空気を放つ外見のイメージとは合わないものの、彼が決して強者と呼ばれる部類でないということは確かなことだった。
174 :【騎士三誓】 [sage]:2017/07/31(月) 01:56:03.95 ID:iRTjXYaYo
>>173

結局、十数分散策したがあの指輪以外は見つからなかった。
すでに水底に沈んでいるのであろう。仕方なく彼の方へと向かった。


「いえいえ、私もメルヴィンさんがいらっしゃらなかったらどうなっていたことか……」

最初の時点では“全力は出していなかった”。
実際、あの程度で狩れると見くびっていた自分もいた。反省しなければ。
彼は初っ端から全力を出し尽くしたのか、それとも瞬間の強化系なのか。それはわからなかった。


――さて、アネットには一つ彼に聞いてみたいことがあった。
彼は賞金狩りのギルドである「ワイルドハント」に入っていると聞いたのだが――

「あの、メルヴィンさん。一つお伺いしたいことがあります」
「なぜ貴方ほどの“正義感”を持っておられる方が賞金稼ぎをしてらっしゃるのですか」

あの時感じた、強大な正義感と威圧感。
其の中にカネを稼いでやろうという“汚らしい”ものは全く感じなかった。
なのに、なぜ彼はギルドに入っているのだろうか。似合わないとすらアネットは思った。
175 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/07/31(月) 15:57:31.79 ID:GvOY75ab0
>>168

「やあやあ!ハイエナ様の参上だ!」

気楽な声が路地裏に響き渡る。
その方向を見れば、電照灯に照らされた女性の姿。
白のシャツに黒のパンツスーツ、ジャケットは少し長くしつらえてあり、
肩に掛けたそれが、夜風にはためく。

「なんてことだ。私の取引相手は切り刻まれる運命にあるのだろうか!」

芝居がかったようなセリフを重ねて、目の前のドレスを見定める。

汚れのない衣服と、凄惨な光景を見て口調は変わる。
「そう、もしかすると同類かもだ。あまり意味ないけど」


手元から用意した駒は騎士。左に提げたジュラルミンのトランクの反対側に控えさせる。

「新参者には、礼儀を仕込む義務があるってもんだ。
 先達としては」

彼女は、作り物の光の下で不敵に笑う。

//今日はこれ以上返せませんが、よろしければ。
176 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/07/31(月) 18:04:50.54 ID:JRh6IPq0o
>>174

その質問は彼にとって珍しい部類のものではなかった。
とある賞金首を討ち獲って後、折につけ雑誌の取材などで聞かれる話である。

「正義感、というほどのものではないのだがな」

おそらく彼女もそうであるように、賞金稼ぎという言葉の響きは世間一般においてよいイメージを持たれていない。
それも当然だろう。事実、そのような職業にある者は、人によっては食い詰めたごろつきとなんら変わりないのだから。
義理も情も知ったことじゃない。重視するのはただ金銭。少しでも支払いの良い方に飛びつき、命が危うくなればその契約すら簡単に放棄してとっとと逃げ出す。
何事も命あっての物種だからあながち間違っているとも言い切れないが、雇った側からすれば冗談じゃない話だ。いい感情を抱かれるはずもなし。

ゆえにこのような、いかにも高潔そうな男がそんな職に就いていることに対して疑問を呈されない方がむしろ稀。
まるで大鷲が溝を歩き回っているようだと、違和感塗れの有様をそう喩えられたこともあったが……。

「元々、各地を旅して回っていた。賞金稼ぎを名乗り始めたのはつい最近の事だ」

そうして語りだすのは旅人だったころの来歴。
この世に厄介事は山積していて尽きることがない。
畑を荒らす害獣や悪質な犯罪被害など……理不尽な問題に苦しむ人々は多く、そうしたものを解決することで少しの路銀を得ていた。
ただ報酬を求めたことは一度もない。自分が勝手にやったことなのだから気にしなくていいといつも言っていたのだが、多くの場合は感謝を示すためと何らかの形で礼を渡してくれたのだ。
そのような人の温かさに触れて奮起せずにおれようか? 自分のような根無し草にさえ善意をもって接してくれる善良なる人々、命をかけて護らねばならないことにまったくもって異論はなかった。

「そんな折、賞金稼ぎの集会所を作ろうとしている男に出会ってな。人が集まればそれだけ情報も集積される。今まで誰に助けを求めることもできなかった民の叫びを聞き届けられる組織になるかもしれんと判断した」

そうした活動は一人ではどうしても限界があるゆえに、より多くの救いを齎さんとするなら多人数の力は非常に効果的だ。
何よりその男に悪意はないと見た。ただ金を稼ぎたいため、効率だけを求めたゆえの設立ではないと思った。

「ゆえに開設に協力し、今に至るというわけだ。組織としては未だ幼年期、為すべきことは数多い。一度手を貸すことを決めたのならば全力を尽くすべきだろう」

何も戦いに限ったことではない。
各地の組織や団体への連絡協力、運営に関する種々様々、広報活動から拠点の補修に至るまで……実際の依頼が少ないうちは事務仕事の方が多いくらいだ。
むろん代表は自分ではないからすべての仕事を引き受けるというわけにはいかないが、それでもやれることはある。
だからこそ手を抜かず当たるのみ、途中で投げ出すなど不誠実。決めたのならばやり通す、当たり前のことだと考えているため気後れも躊躇いもなかった。
177 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/07/31(月) 20:47:00.74 ID:zRtFpG44O
>>175

こんな場所には似つかわしくない、巫山戯たように気楽な声に、少女はピクリと眉を顰める。
出逢いは往々にして突然に。例え其れが望まない出逢いであろうとも関わらずに。

手に握り締めるはポーンの駒、白の兵が二つに黒の兵が一つ。
そして其れらは手元から離れると同時、等身大の兵士となって少女を守るような陣形を組んで顕現する。
二色の兵隊を従えるその姿は、宛ら盤上に君臨する姫君の如く。


「……あら。ハイエナが礼儀を語るなんて、可笑しな話があったものですわ」

少女は不遜に笑いながら、凛と言い放つ。その台詞を要約するなら、邪魔だそこどけ。
この世界で信じられるのは自分だけ。唐突に現れて先輩風を吹かす輩など、碌でもないに決まっている。


「では、礼節を弁えないハイエナさん。一体どのような御用件でしょうか?」

「返答の内容よっては、其処に転がる殿方と同じ目に合って貰うことになるでしょうが」

望まぬ称号であるとはいえ、これでも高額賞金首。同業者から命を狙われた回数は一度限りではない。
基本的に敵ばかり。身を守る為には敵を先んじて潰しに向かう位の心意気でなければ、生きていくことさえ難しい。
ブロンドヘアが夜風に靡く。少女は敢然とした態度のまま、然し動こうとはしない。汗水流して働くのは兵士の役目だから。

//こちらこそ、よろしくお願いします
178 :【騎士三誓】 [sage]:2017/07/31(月) 21:36:41.61 ID:iRTjXYaYo
>>176

――アネットは、彼の話を黙して聞いていた。
民に救いを齎すために、彼の其の力は大いに役立つはずであろう。
だが、なぜ。金を稼ぐためでないのであれば、“わざわざ”賞金稼ぎになる必要はないだろうに。


「あの、メルヴィンさん。私は正直言って賞金稼ぎの方々を信用していません」
「というのも、彼らは金の為に仕事をします。私とは毛色が違いますから」

アネットは主に騎士として民に“奉仕すること”が仕事である。
他方、賞金稼ぎの仕事は“自らの金のため”であろう。そうに違いないと思っていた。
彼はそうではない気がした。金に興味がなさそうだとも感じた。


「賞金稼ぎが民を叫びを聞き届けるというのは“虚偽”にしか思えないんです……」

戦闘前の宣誓を聞いていたであろうか、あれは戦闘後においても効力を残す。
故に、嘘がつけない。自らの思うがままを、そのまま口にしてしまう。
言い終えた後、ハッとした顔で口を抑えた。言ってはいけないことを言ってしまった、と。

「すみません、軽率な発言をしてしまって」

申し訳なさそうに、彼に頭を下げた。
だが、その言葉は本心から出た言葉に変わりはない。彼がどう思うかも、アネットには関係なかった。
179 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/07/31(月) 21:52:27.07 ID:jz5yYHoi0
>>113

「おやおや…自信過剰に過ぎる。
 ならば小生も――いや、同じことは言えないか」

正義感から来る義憤では無く。傲岸不遜な態度に起因する怒りから。
口元を歪ませ、目は黒くぎらつく光を帯び始める。

「――殺します。一切合財の躊躇無く。」

何せ、君ら悪人は殺してもいいゴミ屑なのだから。

彼我の対峙。不利なのは目に見えているが慇懃無礼な態度は崩さない。
右手をズボンのポケットに突っ込んだ先にある感覚は鉄の様に冷たかった。
その冷たさと形の正体は、制圧能力に富んだ発煙弾だった。

右手から発煙弾を取り出しピンを抜いた後、ゆっくりと床に転がした。
勢いよく投げつけては眼前の敵に破壊される恐れがあるためである。

そしてその間にズボンのポケットに左手を突っ込んだまま、
右手で椅子の足を掴み、神父服の男へと投げつけた。
絡め手である発煙弾を破壊されぬための苦し紛れの一手。果たして効を奏すのか?

//レスが遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。
180 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/07/31(月) 23:15:31.52 ID:9rEnnmQs0
>>179
「誰にだってこんな余裕かませる訳じゃないぜ これでも昔と比べて相当弱くなってるからな」

この能力の神髄はあらゆる物の破壊。
彼が知る由も無いがそれは物体の性質を問わない。視認できる物であれば、炎だろうと煙だろうと破壊する事が出来る。能力以外は。
故に、能力者以外に圧倒的優位に立てるのがこの能力者の強み。能力によって凡百の武器を量産するだけではこの優位性は覆らない。

「だがお前は、致命的に俺との相性が悪い」

煙を壊す。具体的には霧散させようと、煙を殴るような所作をするため拳を引いた瞬間。カウンターの椅子が飛んでくる。能力のみならず本人も柔より剛を良しとした物、脚で払うような柔軟性はない。
椅子と煙、破壊の力も片腕ではどちらか片方しか対処できない。

……とでも考えたのだろうか。

「腕にしか使えねぇ能力だと思ったか!? 甘ぇんだよ!!」

椅子を破壊する為に、拳の向きを椅子に変え、突く。それと同時に、周囲の煙も霧散する。
煙を攻撃したのは腕ではない。突きの際に踏み込んだ足が、腕同様に赤く光る義足が、煙を攻撃する暴力となった。
元より軽く撫ぜただけであらゆる物を破壊する力。踏み込む程度の力で破壊に足りる。

椅子を壊したその腕で、そのまま相手に殴りかかる。
181 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/01(火) 00:02:08.93 ID:BE4WwKOno
>>178

謝罪の言葉を厳粛に受け止める表情に不快感や怒りは毛ほどもなかった。

「構わない、貴殿の言うことはもっともだ。その疑いは理解できるとも」

賞金稼ぎとはその名が示す通り、“賞金”を“稼ぐ”人種だ。
つまり何をどう言い繕おうと金銭を得るために動くという一点に誤りはなく、その意味で彼女の言うことに間違いは一つもない。
職業の性質と言動の不一致。まるで鳶が鷹を騙っているかのような違和感を感じるのは無理もないことだ。それが当然なのだから。

「警官然り、軍人然り、騎士然り……誰かを助けたいと思うのならばそれに見合った生き方がある。そちらに進めばよいという意見は実に自然なことだ」

あえて賞金稼ぎを選ぶ意味がない。
彼の言葉をそのまま受け止めるなら、適した職業を蹴ってまでその道に進む理由が見つからないのだ。
世のため人のためというのならどこぞの公的機関に所属したほうがよほど合っているだろうに……。

それを確と分かったうえで、だがなと男は言葉を続けた。

「俺はこう思うのだ――職業の性質で人の善悪が決まるわけではない、とな」

それは決して虚ろな空論ではなく、確かな実感が込められた声色。
旅人として世界の各地をその目で見、確かめざるを得なかった虚しい現実を語り始める。

政治家や官僚とは本来、国民に奉仕すべき立場にある。しかし彼らの内に真に清廉な者を見たことがあるか? 多くは醜くも既得権益を貪り、己が利権のために下らぬ政治闘争に腐心するばかりではないだろうか。
軍人とは戦時においては祖国を勝利へ導くために身を粉にして働くべき存在である。
ここで戦争自体の是非は問わないが、国のために一致団結して動かねばならない非常時にも関わらず、やっているのは足の引っ張り合い。
陸海空と分かれる複数軍の間は言うまでもなく、同じ軍の中でさえ派閥争いを繰り広げる。なんのためにあるのか分からないではないか。
警官とは市民を守護する最も身近な盾である。その役割に則るならば彼らはみな正義のために動くべきであるというのに、なぜか警官の立場を利用した犯罪などが起きてしまう始末。

そしてこれらに共通するのは、組織の規範を示すべき上層部に位置する人間ほど巧妙に自分の罪を覆い隠すということ。
社会に役立つために立場と権力を与えられたはずなのに、なぜか上に登るほど腐ってしまう。

「無論、すべてが己の利得だけを考えているわけではない。高邁な理想を胸に抱き、与えられた役目に殉じようとする者も当然いる。……ゆえに、逆についても同じことが言えるのだ」

つまり一般的には蔑まれる職にある者だとしても、人々のためになろうとする高潔な心がけの人間は存在するのだということ。

風俗業にある人々のすべてが金だけを搾り取ってやろうと考えているわけではない。
マスコミ記者はみんながみんな情報の真偽など関係なく騒ぎ立てられればいいと考えているわけではない。

賞金稼ぎ全員が、ただ金を得るためだけに動いているわけではないのだ。それは彼以外にも、たとえばギルドを立ち上げた代表たる男もそう。

「重要なのは何を成すか。世の姿を見つめ、その全容を余さず把握したうえで、俺は真に果たすべき目標を見出したいと考えている」

旅をしていたのも、もともとそれが目的だった。
世界は広く、そのなんたるかも分からない状況で、目指すべき地点を把握できるはずもない。

「そのための生き方の延長線上にあったゆえ、賞金稼ぎを名乗っているというだけのこと。肩書など無意味とまでは言わんが、それに惑わされて在り方を曲げてしまっては本末転倒というものだろう」

ワイルドハントが善良な人々の助けになれているのなら、抜ける必要などどこにもない。
そう、少なくとも今は。賞金稼ぎを名乗りつつも誰かのために奔走する彼の在り方は、以前とまったく変わりないものだから。
182 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/01(火) 01:17:47.09 ID:adgiX60Vo
>>181

彼の言ったことに、アネットは頷いて同意を示す。
正義を志す者には、様々な道があるだろう。彼の言うとおりである。
――だが、それでもアネットは違和感を覚えていた。そしてこう口を開く。

「私が見てきた賞金稼ぎは、皆ひどい人ばかりでした」
「彼らは悪人と“呼ばれる”人々を、さも正義を振りかざすように[ピーーー]のですから」

アネットが覚えていた違和感の正体はこれだった。
悪人の所業は確かに悪である。だが、これを倒す彼らはどうなのだろう。
彼らは正義という盾を構えた人殺しには全く変わりはないのだから。


「――いくら高潔な心掛けを持っていても、いくら高い理想を抱いていても」
「その理想に、心掛けに叶うことが出来なければ意味は無いと思います」

そして、遂にアネットは彼へ反論をした。
いくら理想を、心掛けを持っていてもそれに叶うことをしなければ意味はないと。
それは、其の逆の者が居るからこそ余計に。そのままアネットは言を続けた。

「私は騎士という肩書に憧れて、今まで鍛錬を積んできました」
「民を戦禍から救い遠ざけるための、そして目の前の迷える民を導く存在」
「其の民の思想がたとえ悪であったとしても――、私は……」

彼らは、彼は善良な人々を助ける為にギルドを設けたのであろう。
だが、この女騎士は邪悪な人々をも助けたい。その一心で動いていた。
彼にその理想を語ろうとした。だが、アネットの口は最後の言葉を紡ぐところで止まる。

――“助けたい”。アネットはその言葉を『紡げなかった』。
崇高な理想であることに間違いない。だが、その前に彼に講釈を垂れたのだ。
現実にそぐわないこの理想に、少女は矛盾を感じて仕方がなかった。
183 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/01(火) 02:07:11.00 ID:BE4WwKOno
>>182

彼女が紡ぎ出した言葉を、ゆっくりと噛みしめるように反芻する。
閉じた瞼の裏側に何を見ているのか。あるいはそれは、今まで自分が斬り捨ててきた数多の人間の姿だったのかもしれず。
徐に開いた双眸、女騎士を映す蒼い瞳には……偽りない敬意の念が宿っていた。

「――すべての民を救いたい。その心を、俺は本当に尊いものだと思う」

悪を嫌い善を重んじるカーツワイルだからこそ、彼女の理想を寿ぐ心に嘘はなく。
それがたとえ甘いと一蹴されてしまうようなものだったとしてもそれが一体どうしたというのか。
心に定めた理想を描き、それに向かって前進することは何も間違ったことではない。

「そして同時に否定はしない、俺は単なる殺戮者だ。殺すのが悪党であれば正義になるなどと、ふざけたことを吐かすつもりはない」

どのような理屈を並べ立てようと、殺人は殺人。
相手の性質がどうであれば免罪符になるなどとは思っていない。どんな事情があろうとも殺すことは罪であり、罪を犯した者は裁かれるべきなのだ。

「人は善を形にしながら悪を備える生き物だ。たとえどれほど高潔な人間であれ悪性から逃れられん宿業を背負っているが、逆に悪しか持たない人間もまた存在しない」

どんなに極悪な人間でも、それを殺したことで産まれる涙は存在する。
それはその人物が生前よくしていた部下であったり、妻であったり、子供であったり……。
妻子の前で良き父親であったのなら言うに及ばず、仮に己の悪徳を隠すことなくさらけ出していたとしてもそれを慕っていた人間が居れば嘆きが発生するだろう。

「誰もが傷つかず笑って暮らせる世界が来るのなら、それが一番の理想だよ。貴殿の言う通り、たとえ相手が悪人であったとしても、本当は殺すことなど間違っているのだから」

そしてそんな世の中が実現したのなら、その時こそ自分という殺戮者が死ぬべき時だと確信している。
自覚している、平和な世界に己の居場所など存在しないのだと。しょせん悪を斬ることしか能のない殺人者など、穏やかな世の中において火種以外の何にもなるまい。
最も断罪されるべきはこの自分。真に醜怪なる邪悪もこの自分。殺すことしかできない男だ、塵屑でなければなんだという。
184 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/01(火) 12:10:28.02 ID:0FQ2afPRo
>>166

目をしばたかせる少女が節くれだったその柄に腰を下ろすと、大きなゼリーの縁にでも腰かけたかのようにぽよんと弾む。
よくよく見やれば、草箒の先がふさふさと微動しているのが判るかもしれない。
「若い女の子を乗せるとすぐこれだ」と呆れたように笑う魔女は、その見目に則したうら若き乙女ではないように振る舞う。
少女の身震いする姿を、眉を八の字にして眺めていると、質問が飛んでくる。

「ああ、そうか」

彼女の友達のことを忘れていた。
重量制限は“こいつ”の機嫌次第なところはあるが、助平心が揺り動いている今ならば問題ないだろうと思う。
いや、むしろそれが問題なのかもしれないけども。
まあ、だからといってちょっかいを出すような奴でもないか。

「持って行っても大丈夫、そう遠くまではいかないさ。
 あまり上に行っても気持ちいいって訳じゃないさね」

箒による空中遊泳は、一見お気楽で楽しそうに見えるかもしれない(尤も見た人間の方が少ないか)。
ただその実、生身で風を切って自由自在に飛ぶなんて機能は、ヒトの自律神経にまったくもって適していない。
憧れだけでやってはみたものの、という若き日の自分を思い返すと、未だ軽くグロッキーになる。
分かってるだろうね、と股下の柄を指で弾くと、先の方がうにょんうにょんと柔らかいエンピツみたいに蠢いて気色悪い。

「さて。じゃあ、しっかり握ってておくれ」

魔女がそう言うと、草箒は歩くようなスピードで前進しながら徐々に高度を上げる。
185 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/08/01(火) 18:04:44.45 ID:O4pDg/Ip0
魂を蝕む呪いからは解放されたものの。
先天性のこっちの"呪い"は相変わらずの様で。

「迷った……」

ここは……樹海? だろうか。
四方を生い茂る樹木が遮っている。

何時もの感覚なら日が暮れる前には出られる筈、多分。
重力崩壊を使って樹々を薙ぎ倒して行けば大分早いのだろうけど。

「流石にシラフで環境破壊はなぁ。」

"あっち"の自分ではやってた気がするが、それはそれ。
樹海とはいえ管理人さんとかいたら悪いから。

日の向きからして今は丁度昼頃。

「さて、じゃあひと迷いしますか。」


/日付変わるくらいまで居ます、以降は置きになりそうです
186 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/01(火) 21:02:23.63 ID:ur1sf7D00
>>177


「ハイエナにも守るべき道理の1つや2つ、あるもんで。
 それこそ、世間知らずの箱入り娘には思いもよらないしきたりが、ね」

生来の高貴さに相対するように、相手を見定める。
自分より展開する数が多い。どこぞの第一法則の時点でのっけから不利という塩梅。
それでも、食い下がれる場所を探して、能力の観察を続ける。

「目的、目的か。そうだね。目的もなしにこんなバカはできないや。
 それにたぶん、答えたらきっとそっちが駒損するけど……」

一拍おいて、不遜な笑みを鋭く。

「私のお得意様が2回も挽肉になって、黙っていられるほど、私は恥知らずじゃあないんだ。
 だから君に、伝言をお願いしようと思ったわけで。
 ……言い忘れてたけど、言伝じゃあ弱いだろうから」

深い呼吸を伴い、最後の言葉が叩き付けられる。

「腕の1本でも、置いて行ってもらいたいんだ」

言い終わるが早く、右手から兵士の黒駒を支度し、
それを囲いに守られた姫君に投げつける。

駒は投げられた運動エネルギーを保持しながら人間大まで巨大化。
回転を伴った質量兵器として、狭い路地裏を直進する。
まともに当たれば、態勢が崩れるなり、吹き飛ばされるなりのダメージは避けられない。
187 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/08/01(火) 21:56:22.95 ID:ZLmeYnHcO
>>186

「防御陣形」

白の兵二騎が後衛、黒の兵一騎が前衛。君主を守るが如く、三騎が少女の盾となる陣形。
一騎では凌げない衝撃であろうとも、後衛二騎が支えになることで踏み止まることを可能とする。

そして黒の兵は望んだ通りの役目を果たす。衝撃に蹌踉めき、傷を負いながらも少女の盾となって敵兵を弾き返した。
そして、黒の歩兵は主を守る為に傷ついた。即ち、誉れである。その所業に勲章を授けるのは主の役目。
少女は不遜な笑みを崩さない。奇しくも似通った異能同士、路地裏という閉鎖空間を盤上とする対局、ならばとても"やり易い"。

黒の歩兵が凄まじい勢いで前へと撃ち出される。二騎の白兵との間に生じた斥力による単騎前進。
そして同時に黒の歩兵は、誉れによって昇格する。一歩兵に過ぎないポーンから、より上位の優れたる駒へと。


「────"Promotion" "Knight"」

黒の歩兵は、黒の騎兵へと。馬に跨り、剣と槍を携える重装兵は、斥力によって齎された勢いのままに前進、そして跳躍。
上空から相手の脳天に目がけて長槍による刺突が襲いかかる。其れは初速の勢いも相俟って、人間一人を貫くには充分過ぎる速度と威力を発揮する。


「貴女の面子一つ程度で、私の躰と釣り合うと思っているのなら、失笑せざるを得ませんわ」

「目的の為なら、面子なんてかなぐり捨てられる。貴女、そういう人種でしょう?」

更に駒を握る。盤面が限られているならば、先に制圧してしまえば勝利は確実。
敵の駒を観察しながら次の一手を用意する。こういう戦いは、嫌いじゃない。
188 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/01(火) 23:16:16.25 ID:adgiX60Vo
>>183

――彼の言葉に、アネットは心底安心した。
罵声を浴びせることもなく、アネットの考えをなじるわけでもなく。
彼がただ金欲しさに賞金稼ぎをしているわけではない、それがわかっただけでも十分だ。


「私はこの世にいるすべての人が正義を持っていると思います」
「相反する正義はいずれ衝突を生み、最後には双方ともに倒れてしまいます。だから――」

善良な人間も、邪悪な人間も心に誓う正義の元で動いているのだろう。
双方ともに折れることが許されないそれは、火種を生む元になるのは間違いない。
……それは、彼らの“ワイルドハント”も例外ではない。そして、続けてこう話した。

「私たちは世界の“バランサー”でありたいと願っています」
「それがいずれ滅びゆく世界を救うための、唯一の方法ですから」

笑顔とともに、アネットは彼へそう言ってみせた。
――だが、それは遠回しに彼への牽制の意も込めているのである。
もし、彼が悪を斬り続けたのであれば。彼は次の悪へと変貌してしまうのであろう。
だから、やりすぎるなと。アネットは彼へそう伝えたかったのだが、伝わっただろうか。


「さて、この大蟹はどうしましょうか」

切り分けたほうがいいなら切り分けますよ、と声をかける。
これほどに美味しそうな蟹にありつけたことは嘗て無いはずだ。
辺りに腹の減る匂いを振りまくそれを見ながら、彼の返答を待った。
189 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/01(火) 23:58:45.79 ID:BE4WwKOno
>>188

……そう、分かっている。
分かっているのだ、そんなことは。いかなる理由があろうと殺人は絶対に許されないのだと。
誰もが笑って暮らせること。たとえぶつかり合うことがあっても血を流さずに解決できる未来が訪れること。
それを望み願っているのは紛れもない本心だ。どんな形であっても、悲劇は繰り返されるべきではない。

だが――それでも、彼は“悪”を許せない。
認められないのだ、罪なき民が傷つけられることを。暖かき心を踏み躙り、人々の笑顔を食い物にして蜜を貪り嘲笑う、その醜悪さが。
涙を流すのはいつだって善良な人々で、なぜだか悪党ばかりがいい思いをする。なぜだ、どうしてそんな理不尽が罷り通る。彼らが身を削らねばならない理由がどこにあるというのだ。
ふざけるな、貴様が死ねよ糞袋。己の罪を噛みしめろ。苦痛と苦悶に塗れながら地獄の底へ堕ちるがいい。

……たとえそれが間違った考えであるのだとしても。
それでも彼は止まらない。心に抱いた悪への怒りをそのままに、あらゆる闇を焼き尽くすためにひた走る。
なぜならもはや決めたから。背負うものがあるからこそ、止まるわけには断じていかない。
すべての犠牲をこの身に背負い、いつか光をもたらすために。この手で奪ったもの以上を返さねばならないと思うからこそ、どこまでもどこまでも歩いてゆく。

その先にあるのが己の破滅であったとしても……。
すべてを承知で、しかし絶対に止まらない。男の異常な精神力が何が何でも停止を選ばせない。

彼女の忠告、確と了解した。その意見はまったく正しい。
しかし何があっても足を止めることはしないと言わんばかりに一切の揺らぎを見せない、その瞳の輝きは……。
自分の間違いを認めつつ、その身のすべてを未来へ捧げ、それでも誰かのために進み続ける……まさしく光の勇者(きょうじん)と呼ぶに相応しいものだった。

――――――。

「そうだな。食料にするにしても、二人ではとうてい消費しきれん量だ」

少なくともこの場で食べきることは不可能だろう。可食部分だけ考えても明らかに胃袋に収まらない。
とりあえず妥当なのは切り分けて持ち帰るといったところだろうか。冷凍すれば問題もなかろう。

「荷物を減らす意味でもここで可能な限り腹に納めておこうと思うが、どうか」

ただそれは今ここでまったく食べないという理由にはならないのだ。
持ち帰るにしてもこの大きさだと重すぎる。微々たる量かもしれないが、食べれば少しは減るだろう。
それにせっかくなのだから焼きたてのうちに食するというのが、蟹への供養にもなるのではなかろうか?
190 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/02(水) 00:11:05.43 ID:TsSFv9pCo
>>189

彼が何を思っているのか。なぜ善良であることに彼が拘るのか。
それをアネットが知る由もないし、知る気もない。他人の掲げる正義を深掘りして何になる。
ただ一つ言えるとすれば、彼は本気なのだろう。邪悪な存在を、打ち砕くことに。


「分かりました、じゃあ私はこの腕をいただきますね」

甲羅だけでも重量は凄まじいだろうが、肉を含めれば尚更だろう。
食べても重量の変化は微々たるものだろうが、彼の提案を受け入れた。
そして、右腕の真ん中あたりの足の関節に思い切り大剣を叩きつける。

バキリ、と地割れでも起こしたかのような音が響く。
すると、きれいに腕が一本だけもげた。其の殻を割るために、アネットは位置を調整する。
そして、ある一点でたちどまったならば。またアネットは腕へ向けて大剣を振るった。


「わあ、身がすごいつやつやしてますね」

ヒビが入った殻から伺えるのは、白く輝く蟹の身。
この大きさに成長するまで、何年何十年と生きてきたのであろう。
身はずっしりと重く、またしっかりと張りがあった。露出した身を大剣で削ぎ、口にする。


「うわぁ、口の中で蕩けますよぉ」

蟹の身は舌の上で蕩け、甘い味がじんわりと舌を包んでいく。
なるほど、美味しい蟹はそのまま食べると甘いのだろうか。
とにかく、アネットは少しずつ腕の身を削いで食べていっている。――一向にその量は減らない。
191 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/02(水) 00:35:53.50 ID:v4tnwLPzo
>>190

彼女が叩き割った脚から身を取り、口に運ぶ。
予想通り蟹は旨かった。長い年月を生きてきたその肉体に蓄えた栄養が凝縮し、深い滋味となって舌の上で溶けだしていく。
蟹といえば塩ゆでを想像する人も多いだろうが、何の味付けもなされていないただ焼いただけでもこれほどの旨みがあるのかと驚愕する。

ただ……これまた予想したその通り。

「減らんな」

量が……量が一向に減少していると思えなかった。
確実に体積は減っているはず。現にこうして、今も次々食べている。
両者ともに戦う者。一日に消費するカロリー量は常人に比べて多く、そのぶん摂取するエネルギーも人より高い。

だから通常、胃袋も大きい。まあ彼の場合は食事する時間も惜しいと、市販の栄養食を口に運びつつ鍛錬しているのだが……。
しかし気合で押し込んでいる。なので現時点でも相当胃の中に落とし込んだはずなのだが、未だ足の一本分すら完食できないとはいったいどういうことなのか。

「ところで甲羅はどうする? 足は取り分けることもできるが……」

剣はあるから強引に二つに割ることができなくもないだろうが……。
そうするとミソがこぼれてしまうだろう。ああ、となれば先にそちらを食べてしまった方がよかったか。
192 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/02(水) 02:07:05.40 ID:rSHYYOWI0
>>187

「“成れ”るのも一緒か。やんなっちゃう」

上空の槍もレンジの長短くらいしか彼女の予想を外れたに過ぎない。
彼女を串刺しにしかねない槍に向けて、控えていた騎士の剣を叩き付け軌道をずらす。
さらに降ってきた体は騎士の盾でもって受け流す態勢を整える。

「いやだなあ、私をそんな薄情者みたいに」

ゆったりと姫君との距離を詰める。

「今は面子が必要なんだから、そういうこと言わない」

相手が見抜いた部分をやんわりと肯定しつつ、
今度は王の駒を前面に展開。

「わかってるなら、その見解を手土産にするといいかも。
 痛い目みるまえにさ」

敵軍の騎士に構わず巨体が距離を詰め始める、
狭い路地の戦線を押し上げる壁のごとく。

「プライド以外にもう少し賢かったら……いや、これはいいや」

何か言いかけ、そして改めて相手を眺めた。
193 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/08/02(水) 03:07:40.63 ID:eBuNvtiQO
>>192

「あら、まるで痛い目を見る前に帰してくださるのかのような口ぶり」

「そもそも先に矛を向けたのは貴女でしょうに。実際、薄情者である自覚、誰よりもおありでしょう?」

二騎の白の歩兵は盾を真正面に構え、姫君を守る壁となる。恐れを知らぬ、忠実なる騎士の駒達。
彼等は"守れ"と下された命令を、与えられた仮初の命を賭して果たそうとする。
二騎は敵のキングから少女を護ろうとして、そして次の瞬間には押し潰されることだろう。
けれども相手が今しがた理解した通り、少女の駒は主を守り傷つくことで"成る"。

たん、たん、と少女は後ろに退いた。そして命を果たした白の歩兵達に勲章を。二騎に与える役は"戦車"。
進軍を勧める王の足元で、二騎が装甲車へと昇格した。其れは動く防壁と呼ぶに等しい、巨大な鋼鉄の箱。
その出現は路地裏という狭い空間の一点で、敵の王を呑み込むように。質量の暴力。
本来ならば一騎でもギリギリ収まるかどうかという空間で、壁を破砕しながら無理やり顕現する戦車二騎は、そのまま敵の王も呑み込み押し潰そうとする。


「……廃車確定ですわね。ルーク二騎でキング一騎と考えれば、安いものでしょうけれども」

「それから、スキュアは継続中ですわ。"騎兵は敵将の首を断て"───"Check"」

姿勢を立て直した騎兵は真っ直ぐに相手の背中を追いかける。
姫君の命の元に再び槍を真っ直ぐに構え、突進の勢いのままに其の心臓を一突きにせんと。

同時に手にしたのは黒のポーンと白のポーン、そして黒のキングに白のナイト。
前衛に歩兵と騎兵の駒を、そして王の駒は自身の後方に展開。ミドルゲームには少し早いか。


「箱入り娘は箱入り娘なりに、知見がありましてよ。それこそ、ハイエナさんには思いも寄らないようなものが」

悪戯ぽく微笑んで意趣返し。
戦車が作り出した瓦礫のお陰で、表情なんて伝わらないのだが。
194 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/02(水) 09:38:24.95 ID:rSHYYOWI0
>>193


しぶとい。まだ騎兵が飽きもせずこちらを狙ってくる。
面の細さで何とか凌いでいるけれど、広かったら目も当てられない。

「え?なんだって?私の仕事をふいにしてる時点で
手袋投げたのはそっちじゃない?」

呆れかえるような口ぶりを投げつけて、明確に怒りを顕にする。
神聖な商取引の場に介入しようとは、とんだ悪党もいたものである。

合図もなく、こちら側の騎兵が槍の受けに回る。

「やってるゲームが違う」

短く吐き捨て、同じことを繰り返させる。
つまり、盾で受け流し、剣で逆襲する。
空中の敵にできたことが地上でできないわけがないと高をくくってみたものの、

結果は槍が盾を上滑りし、駒の顔面に突き刺さった。
怪我の功名として、ほとんど同時に敵の騎兵の首元に剣の一撃が向かう。

次に用意した駒は僧正。今しがたの手負いを僧正で癒させる。槍を顔に受けようが、
首が吹き飛ぼうが、消える前に直してしまえば、何とでもなってしまう。

「鴻鵠の志かな?そんなこと言ってるから、元箱入り娘になってたか。
 そしたら、ハイエナ仲間だ……話の前提が狂っちゃったな」

首をかしげて、矛盾に頭を悩ませるジェスチャー。

そうこうしているうちに、戦車2台に戦線が押され始める。
ダメージよりも、こちら側の領域が狭くなるのが悩ましい。
王の巨体であれば、今しばらくは時があるだろうが、さて……
195 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/02(水) 13:44:25.38 ID:pikDAYrVo
とある大病院。白を基調とした清潔感漂う建物の横に、自然色を取り入れたテラス付きの大きなカフェが並んでいる。
ガラス張りで外から様子をうかがえば
中にはいくつものテーブルにカウンター、そして本棚。まるでカフェと本屋を混ぜたような。併設というより二つが混在しているようでもある。
単に客寄せのみならず、来院者、入院患者のストレスを緩和するための憩いの場としても、それは立派に機能しているようだった。
――――――――

数日寝起きしたら頭のなかを大分整理することができた。元々思考回路を切り替える訓練は積んでいたが、この前は妙に冷静さを欠いていた。というより深く考え過ぎだったのだ。
彼女には悪いが、他人の言葉を鵜呑みにせずしっかり調べた上でその人物像を判断するべきであったのに。疲れから一晩ぐっすり寝たおかげか、目覚めたときやけに前向きに考えることが出来た。
そんなわけでカフェの中央付近のインターネットコーナー。ショートヘアに病衣、全身包帯にコルセット、左手にギプスを巻いた女は、朝から画面とにらめっこしていた。

今調べているのは賞金稼ぎのギルドであるワイルドハントという組織について。ここ最近のめざましい活躍によりメディア露出が著しいのはメルヴィン・カーツワイルという青年。
世間では彼がワイルドハントの顔役のように扱われているが。インターネットで色々調べた所、どうも組織の発起人ならびに代表は別に存在するらしい。
それ以上踏み込もうとすると途端に情報が少なくなるので姿なりは分からない。表に出るのを避けているのか、単に自分の調べかたが悪いのか。
メルヴィンという男を惹き付けた程の人物、是非この目で見てみたかった――――いや他意はないけれど。

「……にが。」

コーヒーを一口含み。プラスティックのコップを振り顔をしかめる。女の性格からして日頃こんな雰囲気の店に来ることはない。
空気に呑まれたとはいえ、気取って普段飲まないコーヒーにチャレンジなんてするんじゃなかった。

椅子を回して周囲を見ると、お昼前に差し掛かり入店時に比べ人波が増えてきた。
もうすぐ昼御飯、あと少ししたら病室に戻ろう。でももう薄い病院食はやだな……
そんな風に考えていると不意に、背に衝撃を覚える。
誰と確認するまでもない、通りすがりの人の足だ。混雑する店内、不完全な身体、油断もあった。
つるり滑った右手のコップは指を離れ、磨かれた床へと落ちていく――――――――

/置き気味になると思います。それでも宜しければ何でもどうぞ
196 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/08/02(水) 14:47:30.95 ID:29XgJOpgO
>>194

「私のような殺し屋が出向く必要があった時点で、そんな主張は罷り通りませんことよ」

「敢えて面子の話をするならば、私の雇主も何処かで貴女方に手袋を投げつけられていたのでしょうが。恐らくは」

報酬を対価に仕事を熟すだけの少女に、裏側の事情にまで踏み入る必要も、興味もなかったが。
怨嗟も復讐も、巡り巡って。人を呪わば穴二つ。言い出したらならキリがない。クレームは雇主に直接お願いしたい。


「如何に自分のゲームに相手を巻き込むか。お互いそういう能力でしょう───"Castling""戦車よ、進軍せよ"」

騎兵の喉元に敵駒の剣が突き刺さる。名誉の戦死。
同時にぴん、と指で弾いて空中に投げるは黒のルーク、そのまま鉄戦車が上空に顕現し。
次の瞬間、王の力に依って騎兵と黒の戦車が入れ替わる。路地裏にギリギリ収まるサイズの鋼鉄の箱はすぐさま前進を開始する。
敵の騎兵も僧侶も纏めて轢き倒そうとする質量の暴力。その先には当然の彼女の姿もある。

白の戦車二騎と、黒の戦車一騎による挟撃。
しかし路地裏という閉鎖空間では、何よりも敵の退路を絶ったという優位が輝く。


「サレンダーはいつでも受け容れますわ。尤も、謝罪と誠意はお忘れなきよう」

前門の戦車、後門の戦車。相手が次の駒を何方に差し向けるかによって、戦略も変わってくる。
ここまでは順調、次の一手を練りながら少女は不遜な笑みを崩さない。冷静たれ、悠然たれ。
197 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/03(木) 00:42:46.57 ID:nJduu1kz0
>>196

最初から分かっていたことではある。
投射できる戦闘力に差がある以上、同条件下では“数が多い”方が勝つ。
で、兵隊の質としては「兵士」以外はこちらが上。
そして、「兵士」の差があんまりにもキツイ。
最低辺で定義される戦力の差で有利が掻き消える。

「八つ当たりだって?最初から知ってる」

退路が消えてなお、笑みは消えない。
これくらいの山なら、手が何枚あっても数え切れない。
そんでもって、退路はまだ残っている。

「そっちが駒で交換ができるなら……」

今まで、状況把握のため立ち尽くしていた状態から、僅かに前傾。
そして、全力で駆け出す。目標は戦線を支えていた王の駒。

「こっちは物理でやってやらぁ!」

怒号のようにわめき散らしながら、戦車を抑えていた王の左手を彼女の足元へ。
手の平はカタパルトのように彼女を跳ね上げ、戦場を放物線に沿って砲弾よろしく飛翔する。

右手に取っ手とともに用意した戦車の駒に、左手はトランクをしっかりとつかみ。
離陸の瞬間に抑えの王を消去。見立てが正しければ戦車が遊ぶ羽目になる。

走馬燈も見せそうな風切り音の中、着地の瞬間を見据える。
198 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/03(木) 00:54:46.25 ID:hF2QMxS1o
>>191

――確かにアネットは大食いである。
好き嫌いもなく何でも食べ、そして其のエネルギーは鍛錬や戦闘で消費される。
とはいえ、さすがにこれだけの量を食べきることは出来ない。まさか足一本も食せないとは。


「……減りませんね」

無心で次から次に蟹の身を削いでいく。
其のペースも予想通りどんどんと落ちていき、終いにアネットは白砂に座り込んだ。
さすがに満腹である。だが足すらも食べ切れていない。やっぱり多すぎた。

「あ、甲羅なら私が持って帰りましょうか?」
「“今なら”多分持ち上げられますよ、多分ですけど」

今でなら、何の恩恵かは分からぬが超人的な力がある。
それを使えば甲羅程度持ち上げることができるだろう……。
と思ったが、正直これほどの重さがある甲羅は持てるだろうか。
199 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/03(木) 01:13:01.20 ID:3v2Mjdj1o
>>198

――さすがにここらで止めておこう。食べ過ぎで体調を崩して鍛錬の時間を削るなど馬鹿々々しいことがあってはならない。
顔色一つ変えないものの、彼女と同じく限界だ。これ以上詰め込んでは身に異常をきたしかねない。
なのに未だ残存している蟹の肉。脚の一本もなくなっていない。おそらく半分、食べられたかどうか。

どちらともなく食べる手を止めた、その判断は賢明であろう。

「……ふむ」

そして移る話題は今しがた自分が提起した甲羅の問題。
正直なところもう入らない。いいやいざとなれば限界を超えて見せるがそんな必要がどこにある。
肉に比べればミソの量も少ないだろうが、このデカブツのことだ。それでも二人じゃ食べきれないことは目に見えている。

……実のところ、彼女が有する異能のほどを男は目にしていない。
先の戦闘においても見えたのは関節に喰らわせた即席の連携程度のもの。
それだけでも同じ剣士だ、相当の腕を有しているだろうことくらいは分かるが……さすがにその高を正確に予想することはできず。

「迷惑でなければ俺も手伝おう。これほどの巨体を持っていくのは、さすがに手間ではないのか」

先ほど見せた瞬間的なパワー、急加速したその動きから予想すればそこまで無茶な提案ではないと思える。
実のところは、普段は常人並の力しかないのだが……。しかも強化を成す異能を有しているわけでもないからそこを理由にしているわけじゃない。
そこは本人も自覚するところだが、だったらなぜこんなことを言い出したかというと単なる善意と言うしかない。
乗り掛かった舟というのもある、途中で一抜けはどうなのだ。むろん言ったからにはやり遂げると目が語っていた。
200 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/08/03(木) 01:38:23.94 ID:jDJt4iINO
>>192

自壊する二騎の戦車の内、一つを駒に戻して道を開ける。これ以上は駒として使えず、障害物としても機能しないが故の判断。
細かな質は違えども同系統の異能、戦術的に考える内容は必然と似通ってくる。

元から詰めの一手として少女が考えていたことだった。
上空に配置した駒を地上の戦車と入れ替え、大質量を相手の脳天に直接叩き落とすという、優雅とは言い難いが確実な痛手を与える奥の手。
私が空に飛んだならその手に限る。ならば相手も戦意が喪われてない間は、きっと似たようなことを企んでいるだろうから。


「──"騎士は得物を空に手放し"」

騎士は命に従って、得物である槍を空中に向けて投げ放つ。
投擲は飛来する相手に命中するような精度ではなく、少女もまたそれを期待していた訳ではない。
同時に手にするのは黒のクイーン。漆黒の女王が顕現し、同時に夜空へと飛翔する。


「"女王は槍を手に、小鳥を狩れ"」

女王は空中に投げ出された槍を掴み、その先端を相手に向けたならば一直線に加速運動を開始する。
着地なんて許しない。此方の領域に到達するよりも先に、一手を打たれるよりも先に、女王の一閃を以って撃ち落とす。
空中ならば、碌に身動きはとれないだろうから────その回避か防御に手を回すしかないと考えて。

着地と同時にチェックメイトをかける算段を整えながら、少女は静かに相手を見据える。
死に物狂いの八ツ当り、そんな理由で殺される道理もなく、相手にしてもそうである筈だと思いつつ。


「予想が的中すればツーク・ツワンク。そうでなければ、その時はその時」

「単騎の質で劣るのであるならば、手数と戦法が私の取り柄……そろそろエンドゲームといった頃合いでしょうか」

騎兵、戦車。新たな駒を掌に握り、念には念をと備えながら。
ここまで似通った能力同士、このような出逢いでなければ、別の邂逅の形もあったのではないかと思案するのだった。
最近はチェスの相手もいなかったせいか、ついついこの戦いを愉しんでいる一面があることは、最初の一手から理解していた。
201 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/03(木) 05:39:04.88 ID:nJduu1kz0
>>200

忸怩たる思いがはらわたを駆け巡る。
技巧を凝らして、押し負ける。手数で差し負ける。
一騎当千の兵に負けるなら、よき戦いであったと称える択もある。

だからこそ。だから―
そのような維持で煮えたぎる思考は、槍が頬を撫でることによる鋭い現実により引き戻される。
そしてもう一つ。命令文は”終わっていない”。

仕掛けてくる。槍と同じ軌道で何かが通る。
手元のケースを槍のありそうな方に掲げ、金属がこすれる嫌な音。
身体にかかるはずの慣性が、別の方向からの衝撃に掻き消える。

先の動作で手から離れた戦車は彼女の真下に顕現してしまっている。
ただし、自由落下しながらではあるが。
そこに槍で押されている分早く落ちているのだから畢竟距離が詰まる。槍がケースに突き刺さったまま、
左手を戦車の御者へ。

「なむさん!」左手が力任せに引かれ、着地の衝撃が多少やわらぎはしたものの、叩き付けられる。
痛みはアドレナリンに引き受けさせ、数回バウンドしながら、戦車を全力で走らせる。
目指すは、敵の本陣。

まともに当たるには、馬体という質量兵器は生易しいものではない。
槍の刺さったケースは、まだ右手で捉えたまま。
先端が硬質ではなく湿った光を反射する理由を今は考えない。

1手動かなかったことに感謝しつつとっておきの女王を左手に用意する。
退くにせよ、攻めるにせよ、これ以上は身体が許してくれなさそうである。
202 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/03(木) 20:41:07.72 ID:zAFrF5fnO
>>195
/これで再募集してみます
203 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/04(金) 00:44:40.75 ID:Ipb0LiJz0
>>201
依頼人が指定したのは、病院の横の本屋だった。
依頼人はどうやら医療関係の人間で偶々この病院に用事があるとの事。
用事が終わり次第本屋で合流する手筈になっているが用事にかかる時間は速いかもしれないし遅いかもしれない。そう聞いている。
だから退屈凌ぎにコミックや雑誌を買って時間を潰そうと思っていた。

普段本屋に寄り付く事はあまりない。雑誌で気になる特集を組んでいるとか特別な場合を除いて書籍はコンビニで買える程度の物以外欲しいと思わなかったから。
だから最近の本屋が買った本をそのまま持ち込んで読めるカフェテリアを併設している事が多いなんて知らなかった。
文房具の類も豊富だし本のみでは稼げない時代が来たのかもしれない。
そんな事を考えながら席を探していると――

「……お」

見ようとした訳ではないが、つい目に入ってしまった。ワイルドハントの文字が。
ホームページの類は作っていないので公になっているのはメルヴィンの取材くらいだろう。
だから自分の存在はあまり知られていないだろう。
別に有名になるのが目的ではないし、疑似能力の露呈も困るので何とも思わないが。

取り合えず空いている席が無かったので、向かいに座る事にする。

/まだよろしいでしょうか?
204 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/04(金) 01:40:29.53 ID:QMHVdkm1O
>>203

こん――……。コップの底がギプスに触れる。
間一髪差し出した左手は、絶妙なバランスで床とコップの隙間に差し込まれて水平へと均衡を保った。
無様な失態を犯さずに済んだのは日頃の鍛練による反射のお陰といえようが、なにぶん今は背凭れを右手でつかみ、腰を半分浮かせて捻った無理な姿勢。
あばらを痛めた怪我人にはやや難易度高めだったらしく、ずきずきと痛む脇腹に涙目ながら、視界に無事な床を認めて
ふう、と安堵の吐息が漏れる。


だが安心したのも束の間、
ぶちまけこそしなかったものの、落下の衝撃を完全に緩和しきる事は出来なかったようで。
波打った水面からちゃぷ、と茶色の滴が数滴弾け飛ぶ。
それの飛来した先はよりによって、一番近い真向かいの席。
さぁ、と一息に顔色へ影が差す。

「あ。ごめ……」

ご免なさいと言い掛けた声が途切れ何処かへ消えていく。
下から見上げるような形となった相手の姿を見た瞬間
既視感を覚える顔立ちに、やや瞠目し、動きを止める女であった。


/私宛……ですよ、ね? ありがとうございます、大丈夫です
/ただ次のお返しは明日の晩になってしまうと思います、すみません
205 :【白黒戦争】 [sage saga]:2017/08/04(金) 19:51:40.30 ID:LVQgioGDO
>>201

着地からの突撃に少しだけ目を丸くする。女王の一閃は奇しくも紙一重で届かない。
驚きつつも、笑みは崩れない。勝負というのは、こうでなくては。最後の一指しまで手は緩められない、緊張の連続。
すう、と息を吸う。そして姫君は忠実なる駒達へと命令を下す。


「"黒の歩兵は我が近衛に""王も我が盾に""戦車は敵に突貫""白の歩兵は騎兵に随伴し""騎兵達は戦車に続き敵を制圧せよ"」

先陣を突っ切るは戦車の駒、敵の戦車に対して真正面から衝突してこれを抑えようとする。大質量対大質量の闘い。
加えてその後に続くは騎兵隊───と言っても白と黒の騎兵二騎だが。駆る騎馬は戦車を踏み台に跳び、二つの槍が同じタイミングで敵大将に突き放たれる。
白の歩兵は騎士に続いて追撃に向かい、黒の歩兵と王だけは護衛として待機させる。これがこの対局最後の布陣。

ここまで稼いだアドバンテージ、その全ての清算どころ。行動可能な全ての自駒の一斉運用。
もし届いたならばチェックメイト。女王を墜とすことでこのゲームは少女の勝利に終わる。
適当にやり過ごす算段だったのが、気がつけば興じてしまって────やはり、こういうのは愉しまなくては。


「これが最後の攻防でしょう。さあ、攻め落として差し上げますわ」

指で指し示すは戦車を走らせる敵の大将。その顔をまっすぐに見据えて、少女は不敵な笑みを溢す。
無策の突貫であるはずがない。ならば此方も全力で迎え撃つだけ。
206 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/04(金) 21:45:13.07 ID:Ipb0LiJz0
>>204
「お、すげ」

自分に数滴かかったが、気にするような事ではない。
それよりも椅子に手をかけ身体を捻った姿勢に、戸惑いというか驚きというか、珍しい物を見たという顔をしている。

予期せぬファンブルに瞬時に反応し、損害を最小に留めた。
普通なら身に起きた出来事を把握する間に全て終わってしまう状況。それだけでこのチャイニーズ?ガールが只者でない事は想像できた。

だが、いくら自分が刀を佩いていようとも今は組織の名を背負って仕事を請ける直前。遊びたいという気持ちは殺さねばならない。
それ以上のリアクションはしなかった。

「……俺の顔 どうかしたか?」

ただ、相手が自分の顔を見て、一瞬止まったのが気になったが、ワイルドハントをインターネットで調べたら自分の顔が出るのか?
写真を撮られた覚えはないので思い当たる節を考えながら席につく。
207 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/04(金) 22:10:51.37 ID:GP6ewQ9ao
>>206

その感嘆の声は騒がしい中でもきちんと女の所に届いた。
騒がしい、そうここは店内――誉められたのは嬉しいが場違いな事をしているのに気付いて少し耳を赤くする。
そもそも今はその反応は間違いだ。

「でも。染みになっちゃう」

鷹揚な雰囲気で許すような態度だが、女の顔は晴れない。
立ち上がり、傷の少ない方の右手で相手の袖にでも触れようとするだろう。
こういうときやたらに拭ったら駄目だと聞いたような覚えがある。
逆らわなければ、机を挟んでテーブルナプキンをそっと押し当てる形になるだろう。
距離が縮めることで男を見上げる形で相対するかもしれない。
女の黒曜石に似た瞳が男の顔をじっと覗き込む。

「知り合いに。似てる気がして」

少し納得したような、していないような。曖昧な半呼吸分の溜め息を唇から漏らす。
その際ちらり泳がせた視線の先にはパソコンの画面、厳めしい顔つきのメルヴィン・カーツワイルその人の画像が。
種族のサラダボウルのようなこの街とはいえ、腰に獲物を帯びた金髪碧眼の青年というのはそうそう出会えるものではない。
他人の空似と言われればそれまでだが。
年の頃や醸し出す雰囲気まで何処か似ている彼へ、爪先から天辺までためつすがめつ目をやる。
結局女に出来たのは、首を5度ほど横に傾けることだけであった。
208 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/04(金) 23:52:12.19 ID:Ipb0LiJz0
>>207
恥ずかしいように赤い顔をするが、それが何故かは解らない。
あれほど優れた技量は素直に凄いと思う。恥じる必要は無いのだ。

「別にこれくらい構わねぇって」

ワイルドハントの本拠地に行くとき、愛車を使うと山道でもっと汚れる事もある。
それ以前に仕事中は汚れなんて気にする余裕はない。

近づかれ、まじまじと顔を見られると見つめ返すのも違うような気がして何かを諦めたように天井を見上げる。
されるがままに上着を拭かれている。

「知り合い、ねぇ……」

ベタな言い訳にも思えたが、彼女が先ほどまで見ていたサイトの事を思い出す。
彼女はワイルドハントの事を調べていた。となればメルヴィンの顔は知っているだろう。
確かにパーツの一つ一つを見れば似ているかもしれない。
年齢は自分より下だが、身長や体格など彼の方が全体的にやや大柄だ。
彼がどんな格好で写っているかは知らないが、彼は両刃の馬上剣で自分の得物は日本刀だ。
このように違いは多々あるが、人種が違うと顔の判別が難しかったりするアレだろうか。

「コイツ?」

彼女のパソコンに移っている、メルヴィン=カーツワイルの文字を指さす。
209 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/05(土) 00:17:29.28 ID:80JJ49pF0
>>205

大立ち回りを演じさせられた身としては実に口惜しい話である。
生物としてのスペックは、こちらの方が上であることは間違いがない。

肉薄までできれば、トランクの角で終わりであることは結果が見えている。
それができれば世話はないのであり、こちらとしても、次善の策をとるしかない。
現に、目の前には1手では越えられない駒の差がある。
幸いにして、このゲームはチェスではない。
玉を下げることも可能な対戦である。やりたくなかっただけで。

ただ一つ、こちらが得られる優位は、“駒は音声入力での命令を要する”という1点。
指揮者が早口言葉に秀でていればまた違ったのであろうが、気位の高いお嬢様であれば、
望むべくもないか。
音声はこちらにも届く。思った通り、壁で受けて逆襲する。教科書のような1手。

小指と薬指で仕立てた戦車の駒を挟み、女王の駒を馬車の部分に置く。
その瞬間はやってくる。
もう一つの戦車を後ろに放り投げ、古式ゆかしき戦車を後ろに展開。
突撃に宛てた戦車は、2台に止められ、衝撃に襲われる。
台車部分が移動して衝撃をある程度吸ったため、何とか態勢を崩さずに動ける。

停止させられた戦車の上に、大砲を持った女王が膨れ上がる。
大理石を想起させる艶やかな光が、表情もなく脇に大砲を構え、指揮官の足元に大砲を放つ。
当たった時は、言うまでもなく、当たらずともロクな命令を出せる状態ではなくなる。たぶん。

女王の砲撃と同時に、騎兵の槍が突き出される槍が、石を砕く音が、破片があちこちに散らばる音で、状況は理解する。
されど振り向くこと無く反対側の戦車へ駆け出し、結果を検めることもなく戦場を離れようとする。

逃げ方が、相手より上手であることを信じて。
210 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 00:21:03.58 ID:JvqX0KFOO
>>208

言ってから相手に遅れて、女も気付く。
距離感の計り方は不得手だったが、これではまるで下手な誘い文句のようではないかと。
対人経験の浅い割には余計な、しかも前時代的な知識を持っているらしく。
男の袖口を握り締めてやや硬直する。
そこに投げ掛けられる、救いとも思える訪ね口。

こくこく、と焦ったように首肯。どうやら誤解はされなかったようでほっとする。
力が抜けたついでに袖口もそろそろいいだろうと手を離し。
何もなければ、二人対面で座して再会するだろう。その中で今の言葉を反芻する。
こいつ、という言葉に険や悪意は感じなかった。
寧ろ親しみを込めた呼び方だったように思える。
知ってるの? と聞こうとして喉元まで上ってきていた言葉を飲み込む。
今までの少ない会話で結果を推測すると――――
常識的な人間なら誰もが備える感性を、遅ればせながら女も身に付けつつあって。
思案顔から腕を組み暫くして、納得の表情で掌を打つ。


「……めるびんの。兄弟?」

雰囲気からして彼が弟かな、なんて。
女の観察眼もまだまだようだった。
211 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 01:07:37.67 ID:dP0Bq3Eq0
>>210
「Brother? 違う違う」

見た目だけなら彼の方が兄に見えるのだろうか。
仕事のパートナーとしては信頼のおける性格だが兄や弟として持つには少々聖人過ぎる。

しかし、どういう関係かと聞かれれば、意外と答えは多そうで少ない。
友達なのかと聞かれればそういう事をした訳ではない。日曜大工と熊狩り、それと楽しくない事務をこなしたくらいだ。
上司と部下でもない。ワイルドハントの立場は皆平等だ。

「……シショ―、アイツの」

シショー、師匠。
彼の必殺技「リミッター外し」中のみ使える秘蔵中の秘蔵の技、縮地。
それを彼に教えたのは他でもない自分だ。

「それよりも、メルヴィンの…… ダチか?」

人の事を言えた義理では無いが、存外アイツも浮いた話を聞かない奴だ。もっとも彼の場合は、あちこちで候補がいそうだが。
例え一人でも世界中の罪なき人全てを守ろうと本気で考えていそうな彼にワイルドハント以外に仕事の協力者がいるとも思えなかった。
だから友達だと予測したのだが… 当たっていただろうか?
212 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 10:26:59.84 ID:7ST2evVIO
>>211

カーツワイル弟(仮)への予想は彼からの返答で瞬時に砕かれ、肩透かしを食らったかのように脱力する。
気落ちというマイナスの意味ではない。自分に対する落胆の要素こそあるが。
人を見る目がないのはやはり女の欠点。自分の言葉がどのような働きを為すのか考えないのも同様であった。

それよりも。という言葉に背筋が伸びる。目を閉じ、机上のコーヒーで唇を湿らせた。
苦手な苦味も、思考を澄ませるという役目においては今は有効。
ダチ。友達。
皆無でこそないが友人と呼べる人が極端に少ないがため、声高に呼称するのは何となく憚られる。
女の中に友人の定義がないではないが、メルヴィン・カーツワイルがそこに属するのかと問われれば判断に悩むところだった。
逡巡した思考の川から、掬い取った数少ない言葉を放流する。


「ううん。ただの知り合い」

この短い否定だけでも言いにくそうな口振りになってしまうが。
それは良心の呵責の為ということにしておこう。
凪いでいた思考にさざ波がたつ。
それに気付かない振りをして、二度瞬きをして頭を切り替えた。

「師匠。
じゃあ。強いんだ……?」

そろりと、舌先で押し出すような声を漏らす。
まるで何でもないかのような言葉は、普段より幾分重みを増して。
メルヴィン・カーツワイルの強さは知っている。
しかも間接的にではあるが、自分を負かした相手。
手合わせや戦闘場面の目撃こそないが、だからこそ気になる対象と言えるのかもしれない。
ましてその師匠とは。否が応にも心惹かれる存在ではないか。

無機質に近かった眼差しに別の色が宿る。それは相手への興味。
心の奥底に仕舞い込んだ感情に起因する思考であった。
213 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 10:29:59.77 ID:7ST2evVIO
/遅くなりすみません、今日はコンスタントにお返しできると思います
214 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 13:04:05.81 ID:dP0Bq3Eq0
>>212
「そ…… ま、アイツはダチとかそんな感じじゃないか」

遊びを知れ。かつて彼に言った事があるが聞き入って貰える感じはしなかった。
人を守る正義の象徴のような彼だが、彼もその守られるべき人であるに違いない。
それを棚に上げているうちは… 彼にとって真に対等な人間などいるのか解らない。
メルヴィンより強く技の師である自分すら、彼にとっては守るべき対象かもしれないのだから。
良くも悪くも真面目。それが彼に対するイメージだった。

彼女にとってのメルヴィンの印象も知らずに出過ぎた発言だったろうか。
顔色を伺おうと彼女の方を向く。
直後『じゃあ。強いんだ……?』

「なるほど…… そういう知り合いね」

共闘したか敵対したか。どちらにせよ彼のように枝を伸ばして生きていれば何処かでぶつかるのは道理。
そのうちの一人か。彼の性格ならこういう人は多そうだ。

「少なくともアイツよりは強いぜ」

誇張は一切ない。少なくとも今のメルヴィンに負ける要素は一切ないと自負している。

215 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 14:07:40.58 ID:HQYqmFY2O
>>214

相手の知ったような空気に少しだけ眉をひそめる。
否定したのは他ならぬ自分にしても、他人からあっさり認められると何処か気にくわない。
矛盾に満ちた最近の心。

だが。それを自覚した上で、今は不思議と心は凪に戻りつつある。
それとも――穏やかな水面下でも、深部にはそれ以上の大きなうねりを秘めているのか。
メルヴィンという男を理由――いや切っ掛けにしたのは事実だが。
今や女の胸の内を占めるのは別の想い。
それは考えるまでもなく、目の前で己が問いを肯定する男を原因とするに違いない。

音もなく立ち上がる。相手が座ったままなら見下ろす形になるだろう。
掲げるのは右拳。
握られたそれは、蝶よ花よと育てられたたおやかなそれではなく、意外なほど節くれだった武骨なもの。

「――――なら。
私とやらない?」

身勝手で暴力的。飄々とした仮面で取り繕うとしても、これが女の本性。
常識で鑑みれば馬鹿げた提案である。
二人は出会ったばかり、共通の知人が居るだけでまだ互いの名も知らない。
おまけに自分の方は怪我人なのは一目瞭然。
にもかかわらず熱のこもった、人見知りらしからぬ眼差しで、真っ直ぐ男を見つめるのだ。

そこには狂気的な色こそ無いものの、相手より一回り小さい身体から発する気配はともすれば狂(ソレ)に近いとすらいえる。
了承されれば(それ自体まずあり得ないにしても)今この場で、と言い出しかねないような雰囲気さえあった。
216 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 17:15:19.28 ID:dP0Bq3Eq0
>>215
女性であるから戦わない。これは非常に失礼な事である。
愛娘を溺愛する師範から、そして同じく剣の道に入った師範の娘本人から非常に厳しく言われていた。
故にそこに問題はない。怪我人相手でも、挑んでこられた以上全力を出す事こそが礼儀と教えられてきた。
何より、少女の鍛えられた拳から放たれる技には大いに興味がある。しかし…

「見ての通り俺は刀だから、当たったら大事だ」
「最悪の場合、残りの人生一生片腕なんて事もある でもって俺のスタイルの性質上、峰打ちは出来ない」
「ヤバイと思ったらギブアップしてくれ」

刀とは本来戦いの道具ではなく、人を殺す道具。故に扱う者は妄りにそれを抜かない人格が求められる。
可能ならば刀を抜かずにその場を納める事こそが、居合の神髄である。これも師範の教えだ。
だがそのためには「戦った所で勝てない」と相手に思わせる根拠になる強さが不可欠であり、自分は強くなりたい。
そのために必要な実戦の相手は刀を抜かずには止められないような、斬っても問題ないような悪人である事が望ましい。

これこそが彼が賞金稼ぎを始めた理由。強くなるという目標の為に、賞金首を刈るという手段をこなす。メルヴィン=カーツワイルとは完全に真逆の発想。
故に、結局は彼と同じで理由なく人に手をかける事に抵抗がある。
なまじ彼よりも腕が立つ自覚があるため、そのスタンスは彼よりもやや不遜である。

「途中で俺が止めるかもしれねぇが、それは止めなきゃ殺してたって意味の裏返しだから恨まねぇで欲しい」

しかし、未知の相手への興味を殺しきれるリオ=レナードではない。全力を出す事を前提に、殺さないように途中で抑えようとする。
自分が負ける事を考えていない訳ではなく。純粋に相手への配慮なのだがこれがなかなか、相手のプライドを逆撫でしてしまう。
何か良い言い方は無いだろうか、困ったような顔でそう告げた。

そう言うと、相手に背を向け、店の外へ出るだろう。
背後からの奇襲を考えていない訳ではなく、店内で被害を出すのは止めようと暗黙に彼女に告げる為の行動であった。
217 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 18:06:42.81 ID:HQYqmFY2O
>>216

口を酸っぱくして説明する男からは、メルヴィンとは別種の真面目さが窺える。
それともこれは、ストイックと呼称する方が相応しいか。
求道――――公平さと強さへの欲求を滲ませる口調は、女にとって好ましいものだった。
同時にむらむらと対抗心が沸き上がる。彼に敗れて以降、傷付いた身体に溜め込んだ余りある負けず嫌いの精神は、溢れ返る一歩手前まで来ていた。
二重の感情は普段仕事をしない表情筋へ効果的に作用し、口元にうっすら笑みが宿る。

「言われるまでも。ないよ。
そっちこそ、私が拳を止めても。恨みっこなしだから」

女の肩書き――――基本的に無職であるが――――敢えて名前をつけるとすればそれは武術家、である。
武人、兵と違うのは、生き延びるために武術を嗜むところ。
また先祖から伝わる武そのものを大切にするところだろうか。
ともかく、彼の心配は杞憂。気遣いを委細承知と頷く女は、はなから死ぬ気はない。
死ぬ気で闘うのは“そういう”場面と決めているだけに、これが試し合い――模擬戦に近いことは察して余りある。
相手と自分、どちらの武が上か。ただそれを確かめたい。それは殺意とイコールにならない。
異なる感情に起因するそれらは、共に全力の量は同じでも、質が違うのだ。

歩き出して彼が店を出た辺りで、その背に続いた女が声をかける。


「近くに。道場あるから」

歩いて数分の所にみえる、ひなびた門構えの建物。
そこは女の生家であり、同時に拳法の道場でもある。
彼に異論不服がなければ、二人は店を出た足でそこの門を潜るだろう。
そうなれば敷地内には男女二人。歓迎の茶席もなく庭先に相対するはずである。
218 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 18:53:21.05 ID:dP0Bq3Eq0
>>217
「ま、お互い怪我だけは無くしようって事で」

了承が取れたなら、途端に気の抜けたように笑みを浮かべる。
遺恨が残るような戦いは好きではない。勝っても負けても恨みっこなしな事が事前に分かれば後は自分が殺さないようにするだけで他に憂いはないのだから。
この気の抜き方、戦闘前にリラックスする方法を心得ているのが、弟子との最大の違いだと思っていた。

案内された道場に行くと、辺りをキョロキョロ見回す。
先ほど見た拳の様子から能力中心ではなく、鍛えた身体+能力というタイプである事は想像していたが、ジムのような場所をイメージしていた。

(天井は…… よし、これならカラタケでも引っかからないけど…… 立体的に動かれたら面倒だな)

屋内戦闘は居合の得意とする所だが、これでは広すぎる。
茶室のような全体に刃が届き、且つ引っかからない都合のいい狭さでの戦闘なんてそうそう起こりえない。
靴と靴下を脱ぎ、軽く屈伸をしたら刀を抜かず、鞘に軽く手を乗せる。

「先に来いよ、俺の方が早いから」

先に攻撃をさせ、見た上での勝利。居合とは自身の出身地で行われていた古のルール「先に銃を抜いた者が悪」を体現しているように思っていた。
だから仕事以外の闘争では先手を譲る。これが彼のポリシーだった。
219 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 20:26:09.55 ID:67J3xdToO
>>218

彼を先に試合場に案内しておいてから、女は手早く身仕度を整えることにした。
ここまで来てきた病衣とサンダルを衝立に隠れて手早く脱ぐ。
脇の壁に掛けていた胴衣に袖を通すと、石鹸の香りがした。
自分のいない間も父親が手入れしてくれていたのを感じ、少し口元が緩む。
しかしすぐさま表情を引き締めて。壁際から離れ、準備運動を始めた。

最も気になっていたのは骨折していた左手。
前方へ腕を伸ばし、耐えられる痛みぎりぎりを見極めながらギプスの中で五指を曲げていく。
ぐ、ぐ、ぐ、目に見えぬ力が篭り――。一瞬のち内部からの圧に耐えかねたギプスは、紙粘土のように崩れ落ちた。
久方ぶりに露になった手をぎこちなく開閉する。
掌と甲には痛々しい縫合痕。痺れが残っているが、力を込められない程ではない。
汚れを持参したタオルで拭い、自由になった両手で続いて脇腹のコルセットを外し、入院生活で強ばった背骨と関節をゆっくり解していく。
今のところ痛みはない。激しく動けばどうなるか分からないが―…体感で全快時の6から7割動ければ良い方だろうか。
勿論それを勝敗の言い訳に使ったりはしない。常在戦場という言葉に則るなら、本番の闘いにおいては常に五体満足であるとは限らないのだから。
思考はここまで。待たせていたなら、底で漸く相手へ向き直るだろう。

「泊流無差別格闘術、泊梁山。
――参る」

右拳を左掌でそっと包み込む。顔の前へ掲げるそれは、文字通り包拳礼といわれる武術家の礼儀作法。言葉少なな礼を数秒見せた女はおよそ数週間ぶりに戦闘へ突入した。
基本的な左構えをとった手足は、武州式のそれ。
前後左右無理の無い足幅に開かれ、気持ち重心を後ろに膝を緩く曲げる。
右手を腰の辺りに、左手を顔の前に掲げる脇を閉める、手は何れも開掌、空間から何かを掴み取ろうとでもするかのように。
自衛の面もあるだけあって防御に優れた構えであるのは、武の心得があるものなら一目瞭然。だが安定感のあるそれは一瞬のち――――爪先が曲げられた瞬間、男の視界から沈むだろう。

タックル――――――――そう形容されそうな程、真っ直ぐすっ飛んでいくその姿は低い。もう少し顔を下げれば、床に激突しそうなくらいに。
剣を持つ相手に組技はあるいは有効かもしれないが。しかし組技(それ)が狙いではなく。
床面と水平に近い身体の下から、這い出るように白いものが伸びてくる。
それは女の右手。
背筋を起こす力と、床から延び上がる脚力。それらを合わせ、たわめた発条が加速度を増していく。
拳闘界では離陸する飛行機になぞらえてジェットアッパーと呼ばれるその技は、急角度で男の顎へ飛んでいった。
220 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 21:19:21.71 ID:dP0Bq3Eq0
>>219
(カラテ? カンフー? まずは見ねぇとな…)

剣同士の戦いなら、互いの剣での間合いの測り方というのが存在するが、相手が無手ならそれもやるとデメリットが多そうだ。
正眼構えのようにどの動きにでも対応できる構えではなく、構えない事が本当に潰しがきくという事を経験から学んでいた。
そして後の先を貫く為に必要な事は―――

「っと…… やっぱ下が木だと動きやすいなー」

遠山の目付。遠くの山を見るように相手の背後に焦点を合わせる事で戦場全体を把握する眼の使い方。
これにより相手の動きを見逃さない。後の先の実践に大事なのは、動体視力や周辺視野という眼の能力だ。
そして、捕捉できたならあとは縮地による退避と居合が選択できる。
今回はいつもの胴打ちを潜るような低い姿勢に面食らったので縮地で後ろに通り抜ける事にする。
相手からすれば、アッパーの際に見上げた先に男がいない。突然消えたように見えるだろう。

「タックル……成程、バーリトゥードか……」
「こういうのあんまりやった事ないからつい忘れちまうんだけど……俺も名乗っておくか」
「巳桐不動流居合術リオ=レナード、雅号は『神風』 そろそろ抜かせて貰うぜ!!」

再度、躱す際に見せた移動法。一息に10歩の間を詰める縮地で接近。
眼前に現れると既に柄に手はかけられており、抜くと同時に袈裟掛けに振るうだろう。
221 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 22:01:20.40 ID:67J3xdToO
>>220

握った拳はひゅん、と大気を裂いて文字通り空を切る。
流石にフェイントもなく体も崩さず打ち込める相手ではなかった。
掠りすらしなかった事実が、相手が武の強者たる証明として、女に喜びをもたらす。
たたらを踏むことなく、伸びきった膝を戻し、再び構えることとなった。

レナードの思考は正解である。
女の現す運足や拳の握りはカンフーに通ずる所があるが、彼の推測した通り本質は『なんでもあり』。
剣や銃弾、果ては能力の飛び交う戦場(まち)で生き延びるために改良されてきた、誤解を恐れずいうなら喧嘩殺法に近い。
形意拳という武州拳法を下地に、親子三代で試行錯誤しながら練り上げた武技は女の唯一の拠り所だ。


「居合い……。」

何かと常識に欠ける言動が多いものの、武術に関する知識は一級品。
居合い――帝国の武芸が一つだと認識している。
確か極意は手の内、鞘の内にあり――――その結論に達した時には、既に体は剣の間合いに没入していた。
瞬時に十を零にするその走力、驚愕よりも先に危険を促す警報が脳を揺らす。
煌めく白刃。命の危機に瀕したときは直感(それ)に従い――――。同時に、恐怖に逆らう訓練を積んできた。


(間合いの――――外側ッ!)


だんっ! と床板が割れそうな程左足を大きく踏み込む。その音は、恐怖を捩じ伏せた胆力、ひいては齎された危険の度合いに比例する。
顔と右肩の横を、寒気のする速度で白刃が通過していった。
怪我する以前の髪型だったなら、房束の一つ、二つは持っていかれたことだろう。
間合いの外側、それは彼の右半身に繋がる空間である。
剣を降る側の側面に体を置くことで、男の意識をより外へ外へと追わせる事になるはず。
剣が通過した後の空間を、逆交差するかのように右足が跳ね上がる。
すれ違うような姿勢からの中段回し蹴り。
なにもしなければ男の胃へ、中足を返した足――固く鍛えられた親指の付け根が突き刺さる事になりかねない。
本来蹴りの間合いではない不自然な空間に攻撃を挟み込めたのは生来のそして努力した柔軟性の賜物であったが、その距離間のぎこちなさそして男の戦闘経験があれば付け入る隙はまたまだあるだろう。
222 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/05(土) 23:02:36.60 ID:dP0Bq3Eq0
>>221
(いつもよりは呼吸も保ちそうだけど… 何処までいけるか!)

居合は能動的に攻撃を仕掛ける技術ではない。
東洋におけるもう一つの剣の極みである縮地との邂逅によって一定の攻撃性を持つに至ったが両方の技の性質は反対である。
故に縮地直後に最大威力の居合は出せないし高威力の居合の為に剣に気を込めているうちは縮地が出来ない。
避けられるのも無理ないと納得する。

しかし仰け反って回避させる事は出来た、全く通用しない訳ではないらしい。
相手の悪手や疲労など何かしらで当たる可能性はあるしこちらも連続攻撃が出来ない訳ではない。
二の太刀を入れようと刀を返すその直後

「…ッ!! 壱式『隼』!!」

そこは退いて仕切り直しがセオリーだろう。そういう距離で強引に蹴りに以降する相手。
呼吸を消費する縮地の連続はなるべく避けたい。蹴りよりも早く納刀し、左脇腹に足背と指が刺さりながらも横跳びで威力を殺し、両手で足を掴む。
喧嘩なら致命的な体勢。それに持ち込んだ。

「口閉じな! 舌噛むぜ!」

相手の足を抱え込んだまま、縮地で壁に押し込もうとする。当然速度は遅くなるが剣士の突然のグラップルは意表を突くには十分な技だろう。
223 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/05(土) 23:56:07.37 ID:67J3xdToO
>>222

女にとって最も恐ろしいのは、攻撃を刃で受け止められることだ。
自身の威力で自滅しない程度に拳足は鍛え込んであるが。どれだけ苛めようとも大前提として、生身の人体は鋼鉄の刃物と鍔競り合いをするようには出来てない。
にもかかわらず、彼が取った手段は納刀。居合い使いの矜持か、或いは試合前に述べた配慮か。
毒にも薬にもならない思考が一瞬の内に駆け巡る。

打撃系武術の威力の最大点はごくごく短い。
捕即投の組技や、掴即極の関節技に比べ、インパクトの瞬間打点をほんの数センチずらされるだけで、望む効果の凡そ半分は奪われてしまう。
それを知っているだろう男はヒット&ウェイに長けるのみならず打点をずらす技術も巧緻であった。
ぐ、と悔しさから歯を噛む。身を捩って抜け出すより早く、軸足を浮かされ、視界がぶれる。
男女の腕力差。それもあろうが、普段から鉄の棒を片手で振り回す男の膂力というのは中々侮れない。

「が、ぁは……ッ!」


脇腹に痛み。試合前から傷めていた肋に、太い針を差し込まれたような気分。なにせ自分と相手の二人分の体重が壁と肉体の板挟みで胴体に掛かっている。得意の高速移動は、攻撃に転用するとかなり凶悪な威力になるようだ。

痛みで目の奥がチカチカ明滅する。足に力が入らない。
亀裂の入った羽目板を背で伝い、戦況はそのまま寝技に移行する。
互いに寝技の知識がある前提であるならば、余程の技術差がない限り、通常グラウンドの攻防においては上を取った方が有利であろう。この場合は仕掛けたレナードがそれにあたる。

不利なのは女。基本的に一対多を想定する事が多い無差別格闘において、一対一の寝技は余り重要視してこなかったが故に。
殿中――所謂室内格闘においての制圧技として相手が居合いと併伝してそれを学んでいたなら更なる不利は免れまい。
折るか絞めるか、頸を断つか。
このまま一本を取る形に入られる前にと、掴まれていない左足が弧を描く。
背中側の脇の隙間を通す意識で、尻と背の骨の間辺りをがむしゃらに蹴りあげてやろうと。上手く行けば自分がぶつかったように、相手の顔面を羽目板へ押し退ける事が出来るかもしれないが。
だがそれは万全の体勢での話、床に背をつけた状態では勁もろくに通らない。せいぜい体勢を崩せるがどうかが関の山かもしれないが、それすら許されるかどうか。
接近戦や超近接戦の経験は言うに及ばずだが、まさか拳士が己の得意分野で剣士に先手を打たれようとは。
歯を食いしばるむ女の目には、少なからず動揺と焦りの色が見え隠れしていた。
224 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/06(日) 01:01:14.14 ID:6lMAE4eX0
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225 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2017/08/06(日) 01:13:16.11 ID:6lMAE4eX0
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226 :【飛燕二式】 [sage saga]:2017/08/06(日) 01:15:40.79 ID:6lMAE4eX0
なぜか反映されないので避難所のほうに投下しました
そちらの方をみてくれるとありがたいです
227 :【形意神拳】 [sage saga]:2017/08/06(日) 01:19:12.81 ID:s/meILtmO
>>226
/了解です、少々お待ちください……
228 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/06(日) 11:30:40.72 ID:SvKom9J0o
>>78
/これで絡み待ちです。まんいちキャラやシチュの希望あればお一声ください
229 :【射轍弾弓】 [sage saga]:2017/08/06(日) 21:33:59.24 ID:o4iLJNoMO
>>78


「う・み・やーーーーっ!」『『だーーーーっ!!』』


同時刻、騒がしい3人組が浜辺に現れる。
大人と子供の組み合わせ。大きいのが一人と小さいのが二人。
脇には乗ってきた軽自動車の轍(わだち)。
海のさざ波に向かって威勢良く吠えていた。

女はジーパンにTシャツといった身軽な軽装。
子供らは7〜8歳の女の子と4〜5歳の男の子。
親子連れは、意気揚々と夜の海を蹂躙し出す。
夜でも海風は何処か暑かったり涼しかったりする夏の海。
天気は快晴、景色は最高。にもかかわらず女の顔が少し浮かないのは、闇の帳が辺りを包んでいるためか。

「すまんのう、すまんのう。
私の連休が取れんばかりに、こんな時間の外出で……」『ババァーうみ! およいでいい?』
「誰がババアじゃ! 暗くて危ないからアカンで!」『えー』

日々の仕事に忙殺され磨耗する精神。
楽しい時間のはずなのに思わず謝ってしまうくらいにはナーバスになりかけていた。
けれどそんな思いも知らずはしゃぐ子供たちを見ていると、憂鬱なんかすぐどこかへ吹き飛んでしまう。
般若の笑顔を貼り付けて、浜辺についた小さな足跡を追いかけ戯れること暫し。いつの間にか3人の足元は砂地から小高い丘に変わっていた。

『ババアだれかいるー』『だれー?』
「コラ! すみませーん」

子供らが自分達以外の姿を認め、無遠慮に走り寄る。
それを声で制しながら、糸目のおかっぱ女もまた、困った顔でライト片手にそちらへ近付くだろう。

/まだ宜しければ……
/連続は無理! という事でしたらスルーしてください
230 :【黄金鉄梃】 [sage]:2017/08/06(日) 21:50:57.47 ID:Ype7M3jxO


ぎぃイ……ずざリ

人の肌を優しく撫でる夜の風に混じり、妙に耳に不愉快な音が入り混じる。

それは、木が軋む音、
それは、重い物を引きずる音、

旅人が、その音の方向へ視線を送るのであれば、彼女の目に映るのは丘の下。
白人男性が、黒いジャージを着た、服装に似合わず整った容姿の男性がいた。

ぎぃイ……ずざリ

彼が鎖で引きずるのは、白い棺桶。それが恐らく、この風に混じる遺物だろうか。
それは丘の上をゆっくりと登ると、旅人の横を通り過ぎるとき、困ったような顔で会釈をするだろうか。

ちなみに、彼の進行方向のまだかなり遠い場所であるが、墓地のようなものがある

/まだ大丈夫でしょうか…?
231 :【射轍弾弓】 [sage saga]:2017/08/06(日) 21:51:55.42 ID:o4iLJNoMO
/>>229取り消しで!
232 :【黄金鉄梃】 [sage]:2017/08/06(日) 21:52:51.04 ID:Ype7M3jxO
>>230
>>78

この文宛でしたが、先に人がいらっしゃったので、取り消しで…ッ
233 :【射轍弾弓】 [sage saga]:2017/08/06(日) 21:54:12.10 ID:o4iLJNoMO
>>232
/私が先に取り消したので、お構い無くです
234 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/06(日) 22:36:16.54 ID:SvKom9J0o
>>230

夜と棺桶、そして墓地。ああ、不吉な響き。
会釈というものを知らない彼女は、不躾にも、じぃっと、目を細めて、相手を見つめていた。
何処から来たのか、何者なのか、何処へ行くというのか。それを思案するように。

夜風と共に彼が横を通り過ぎたあとも、地面に寝そべり、その背後へ視線を注ぐ。
エメラルドのように輝く緑色の瞳の光を、大事そうに、細い隙間から零れさせて。

そして相手が数メートルほど離れた時、サンドイッチ入りのバスケットを地面に置いて彼女は立ち上がり、
黄色い月を背後にして大きく口を開いた。

「こんな夜、こんな月の日に、墓守でもなさそうな人が棺桶を引っ張っている。
 私の気分が落ち着く理由を、聞かせてほしい。」

墓場へと続く道を歩く男の背中へ、問いかけた。
235 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/06(日) 22:40:48.82 ID:m00CAFEYo
>>166【創世姫唱】様
>>184でご返信させていただいております
ロール継続のご意思がございましたら次の火曜日までにお知らせください
ご返信がなければ失礼ではありますが今回は撤廃させて頂きます。ご了承ください
236 :【白黒戦争】 [sage]:2017/08/06(日) 23:38:32.19 ID:Y3ybP0GZO
>>209

こうも敵味方が密集しているなら、後は駒数の差によってすり潰せる。
展開速度は此方が上という確信を得た少女にとって、己の勝利は最早揺るがぬ事実として、その不遜な笑みの理由となる。

それでもチェックメイトをかけるその瞬間まで、緊張の糸を解くことはない。逆転の芽というのは何時生じるか解らないもの。
そしてその警戒が、結果として功を奏した。敵の新たな駒が膨れ上がるその姿を、少女は見逃すことはなかった。
そしてその駒、女王が抱えているものの正体を直感的に理解した。チェスの駒にしては無粋かつ現代的なその兵器は、端的に言って"不味い"。


「"Castling"!!!!」

王の駒の能力に依って、眼前の兵士の駒と再奥に存在する戦車の駒を入れ替える。
そしてその直後に砲撃が戦車に炸裂し、爆発による轟音と衝撃、熱風が路地裏を満たすことになる。

陣形は乱れ、チェックメイトどころの話ではない。砲弾が直撃した戦車は半壊し、こんな盤上ではゲームなんて続けられやしない。
そして爆発の衝撃によって少女も後方へと吹き飛ばされていた。後方に待機させていた王の駒に受け止めらたことで、大怪我こそ負わなかったが。
服は煤で汚れ、飛んできた破片によって頰にはかすり傷。王に支えられながら立ち上がれば、粉塵の立ち込める路地裏をじっと睨み。


「…………………な、な、な」


「は、反則ですわ───!!!あんなの知りません、私全く知りませんわ!!!!」
「そもそも────バズーカなんて不粋な現代武器を女王が振り翳すチェスなんて、聞いたことがありません!!!ズル!!ズルですわ───!!!」

顔を真っ赤にして、涙を浮かべながら敵へと向けて喚いた言葉は、果たして届いたのだろうか。
恐らくは言葉が届くよりも先に、相手は逃げ果せてしまったことだろう。少女の魂の叫びは路地裏の闇に溶けて消えていく。

暫くして、駒の散乱する戦場を確認したなら、再度状況を認識する。
敵はとっくに逃走を果たした訳で、言うなればドローゲーム。


「────け、けれども!!決着は着きませんでしたが背中を向けたのは貴女!!」

「つまり────実質わたくしの勝ちに違いありませんわ!!!ええ、それなら仕方ないですわね!!ふふん!!」

そんな都合の良い自己解釈を済ませたなら、少女を鼻を鳴らして胸を張る。
そして全ての駒を元に戻したなら、軽やかな足取りで路地裏を後にするのだった。
余談だが、この戦いのきっかけである男の亡骸は、瓦礫に潰されて跡形もない状態であったらしい。


//遅くなりましたが、これで〆でよろしいでしょうか。絡み乙でした
237 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/06(日) 23:46:20.43 ID:jEjiyE+Zo
>>199

「それじゃ、私がこの蟹を背負いますから後ろから支えてもらっても良いですか?」

――なんと、この大蟹を背負うとアネットは言った。
大蟹の脚を両腕に一本ずつつかむと、徐々に其の巨体を宙に浮かせていく。
そして、背へ蟹の腹の方を当てて持っている脚を前方へと引き出した。


「さて、どこまで持っていけば良いんですかね」
「私は騎士団の配給がありますから食事には困っていませんし……」

正直、これだけ大きい蟹の扱いにかなり困っている。
売りさばくのも、はたまた何処かへ持っていくのもありだろう。
しかしながらどこへ持っていっても邪魔になりそうな気がする。やがてアネットは口を開き。

「そうだ、メルヴィンさん。ワイルドハントのところまで持っていきましょう」

一時的に、置き場所がほしい。それだけのことだった。
取り敢えずとばかり彼に提案するが、返答はいかなるものか。
238 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/07(月) 00:09:53.72 ID:ntNEgzr+o
>>237

――目を疑うような光景である。
彼女は強いのだろう。特別な装備などなくともその佇まいを見れば、少しでも武道を齧っている人間であればかなりの熟練者であることは想像に難くない。
ならば相応に膂力が強いことも。一般人とは比べられない、そこには鍛錬によって男女の筋力差を埋めるパワーが宿っている。

しかし。しかしだ、それでも……誰もここまでとは思わないだろう。
このような巨大蟹を一人で、何の道具も使わず己が身だけを駆使して負ぶってしまうとは。
背に負うというのは確かに持ち運ぶのに適した姿勢なのかもしれないがそれも常識的な範疇の重量であればの話である。
たとえば途方もない金属の塊など背負ってしまえば、あっけなく重さに負けて立てなくなってしまうだろう。

だというのに彼女は……。
その光景に驚きをあらわにこそしないが、男も内心で感心を禁じ得なかった。素晴らしい膂力であると。
たださほど目立つ反応を見せないあたり、彼もどこかずれているのだろうが。

「承知した」

指示された通りに後ろから支えにかかる。
正直なところ、こうして手で押さえているだけでも相当の重量を感じる。
そんなものをいくら自分も手を貸しているとはいえ、ほぼ一人で保持しつづけるとは……いったいどれほどの重さに耐えられるというのか。

「ただワイルドハントの拠点は山の中だ。開けた道がないではないが、傾斜だけはどうにもならん」

必然的に登り道を行くことになるが、それでも構わないかと問いかける。
距離自体はそう遠くはないものの、かなりのスタミナ消耗が危惧された。
239 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/08/07(月) 00:54:45.95 ID:NMRcOCK/0
>>184

「そうかい……なら、安心だ。」

納得してギターを肩から提げた状態で、跨らずに片側から両脚を垂らす形で腰を下ろす。
先端部が蠢動していて臀部に痒みを感じたが、魔力を送り込まれた物質はこういう物だろうと割り切った。
先述の通り少女には魔術に関する知識は皆無なので、よもや箒に感情が宿っているだなんて発想には辿り着けない。

「お、おお…………浮いて………………」

魔女の号令に呼応し、ふたりを乗せる魔法の草箒は徐々に徐々にと浮上していく。
つい先程まで地に着けていた筈の足が浮いて、重力の感覚が消え失せていく。

「―――――――――――…………」

因みにこの時点で既に、もう目をほぼ閉じているといっても過言でないくらい細めている。
声には出さず震えたりもしないので、幸いにも魔女にも伝わり辛いくらい些細な範囲で留めている。
その実、高所恐怖症かつ乗り物酔いのひどい体質であり、観覧車もロープウェーも苦手だったりする。
如何に好奇心に突き動かされたとはいえ、好奇心だけで自分を誤魔化し切れるよう都合よくはいかない。
けれども中断されるよりはマシなので、せめて操縦者たる彼女には何とか誤魔化そうとしている。


>>235
/大変申し訳ございません。諸々の私事により、長らく返信できない状況に在りました。
/おそらく明日以降は通常通り返せると思いますが、ご迷惑でしたならいつでも破棄して下さい
240 :【黄金鉄梃】 [sage]:2017/08/07(月) 00:56:11.63 ID:C/uroKgeO
>>234

─────男が、立ち止まって振り向いた。

「失礼、誰も通らぬ夜分を選んだつもりでしたが……」

男は申し訳なさそうに頭を下げた。丁寧な言葉使いと聞き心地の良いバリトンボイス。
人に良い印象を与えるものだ。天然、では無くその手の職業が技術を磨いたものであった。

「私は司祭、アルフレートと申します。墓守、ではありませんね」

「この棺桶に眠っている者は少し特殊で……これを直接持っていくのが私の仕事の一つ、でして」

彼は鎖を地面において、開いた手で胸元を少し開けば
首にかかっている銀の十字架が、天の光に輝いて、きらきらと存在を示していた。
241 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/07(月) 14:39:04.07 ID:REyCTHwIo
>>238

やけ日射しの強い朝。
職業柄といっていいものか、季節には疎い。
現世では夏本番を迎えようとしているらしかった。
陽に近づくにつれて、じりじりと肌が焼けそうなきらいすらある。

――焼け爛れた翼は元に戻りはしないだろうが、既に焦がした後なら問題もあるまい。
自嘲気味に魔女は笑うと、背後の存在に気を払うのを思い出す。

忘れていたのも仕方がない。
公園を発ってからというものの、少女はどうも言葉少なになってしまった。
自分を握る力が強くて興奮する、といった報告も草箒から聞こえる。
そいつを雑巾を絞るように握りしめ、跨る魔女は、存在感を消している少女に向かずも呼びかける。

「不安だったら私の背を掴むと良いよ」

眼下の町よりも雲に近いところを、二人は飛んでいる。


/ご返信ありがとうございます。
/楽しませていただいていますから、双方とも余裕のあるペースで進行できればと思います。
/改めてよろしくお願いします。
242 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/07(月) 14:39:50.57 ID:REyCTHwIo
>>239宛のレスです。失礼しました
243 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/07(月) 22:24:38.27 ID:4AiMdMZTo
>>240

長いポニーテールがふらりと揺れて、夏の夜風にけせらせら。
細めていた瞳を徐々に見開いてゆくと、少女の透き通った瞳が相手を見つめる。
風が木の葉に擦れる心地よい音色だけが響き渡っている。

「司祭さん、誰もいない夜なんて、何処にも無いよ。」

片手を胸に当て、心を込めて、彼女はそう言った。
思いつくままに、胸から湧いた言葉をあなたに。
ここは人知れずの丘の上。しかし確かに、2人がいる夜がある。

「その棺桶の主に、冥福を祈ろう。
 誰かが亡くなるのは、とてもとても寂しい。」

2人と1体の暗い暗い夜の話になるだろう。
誰かが死んでしまったならば、それは必ず、胸が締め付けられるような話になってしまう。
少なくとも、この乾燥した心に、時折潤いが与えられている限りは。

「変な人と疑って、ごめんね。
 棺桶の傍に寄っても、いいかな?」

様子を伺うような上目遣いで司祭の男を見つめる。
244 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/08/08(火) 00:34:58.04 ID:JzyaS+re0
>>236
//こちらこそ、長期にわたる絡みにおつきあいいただき、感謝します。
245 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/08/08(火) 01:10:57.99 ID:mCW1IjQF0
>>241


「ふっ、ふふふ、ンふッふふふ…………なな、なぁに……し、心配は要らないさ」

つい何か返事をしなければと、震えの表れた声を絞りだす。
心成しか、飛びはじめてから一度も静止する事なく上昇し続けている気がする。
もし変わらず一定速度で昇り続けていたなら、相当な高度に到達しているのではと勘繰ってしまう。
ずっと目を瞑っているので体感に過ぎず、けれど今から目を開けて確かめる度胸もない。
ただ頬をチリチリと焼きつける熱が、瞼の向こう側に広がっているはずの光景をリアルに想像させた。

「で、でででででもまぁ、キミがそういうなら…………んっ、うん……その方がいいか、な……?」

下手に動いたら体勢を崩す予感もするので、片手だけで彼女の服の背をぎゅっと掴む。
もう片方の手では、空に浮く身を支えてくれている草箒をより一層強く握り締める。
所詮自分の腕力なので物理的には心許ないが、それでも気持ちは幾分か楽になった感じはする。
本物の魔女の背中を頼りにしているが故の、ただの錯覚なのかも知れない。


「……――――――ふぅ……、ははっ、思ったより簡単に大空に届くものだね」

まだ僅かに声は震え気味であるが、地上同様の調子づいたテンションが戻ってきたらしい。
もっとも目を開ける度胸が沸いた訳でもなく、眉間に皺が寄るほどに瞼を瞑っていた。
246 :【頽廃魔女】 [saga sage]:2017/08/08(火) 22:00:19.82 ID:WnNCIRJn0
>>245

強がりは虞を知る者の特権だ。

彼らは虞を制する為に、敢えて強い言葉で身を奮い立たせる。
そのことを、人は弱い者のする事だと鼻で笑うかもしれない。
だが虞を知らぬ者は、それを知る者より遥かに弱い。
虞は知らない事物に対して生まれる。
それを知らないともなれば、其奴は自ら、無知の知までもかなぐり捨てることになるのだから。

万物を知った顔で歩く魔女は、自分が万物より弱い事を知り、惧れている。
だから彼女は、信じる事が苦手なのだ。
信じる事は、虞をそうと分かった上で。
強がりもせずにただじっと、それを見つめ続けることだから。


「難しいことを簡単に見せるのが魔法さね」

魔女は少女優しい声音で語りかけると、うねる草箒から降りる。

降りる?

そう。
彼女は空に、降り立っている。

魔女の靴のつま先とヒールから、ここでなく水面に広がる筈だろう波紋が、幾波も重なって生まれ続けている。

「これなら落ちる心配もないかと思うんだ。
 どうだい?」

半身で振り返った後、細めた目線と並行に手を差し伸べる。
少女に無理をさせたい訳ではない。
ただ、きっとしてしまうと思っている。
自分の見立てが正しいなら、おそらく少女は好奇の心で自分の虞を征してしまえるだろうから。
247 :【黄金鉄梃】 :2017/08/09(水) 17:53:20.41 ID:YknUXwrnO
>>243

「……………」

彼女の目に浮かぶ優しさに答える様に、彼は唇に微笑を灯すが、その目はやはり僅かに困った色が残るか。
側に寄ろうとする少女に、スッと自身のマメだらけの掌を向けた。近づいてはいけない、言わんばかりに。

「いけません。貴方の言葉と気持ちはとても有り難く、眠る彼の癒しとなるでしょうが」

「…………彼は……先の墓場に眠る彼らは特別に危険です。近づいては貴方の身が危ない」

牧師の視線が棺桶に向けられる。

────ふとその視線に答える様に、棺桶がガタガタと音を立てた。
それは、風では無い。中にいる”何か”が身を捩らせ、蓋を内側から叩き、出せと騒いでいる様であった。

/風邪を引いておりました。返信が遅くなり申し訳ないです。
248 :【携行賦金】 [sage saga]:2017/08/09(水) 22:03:42.56 ID:0OODvySC0
>>180

相性が致命的に悪い。その言葉通りに事は進んでいく。
煙は霧散し、机は跡形も無く破壊された。

(…言葉通り、か。分が悪い)

ポケットに突っ込んだ左手の感触を確かめる間もなく
椅子を破壊した神父の拳が、腹部に深く減り込んだ。

「がはぁッ……!!」

身体は大きく後方へと吹き飛び、意識は遠のいていく。
そして後方の壁に背中を強く叩きつけられた後、前のめりに倒れた。

(―――胴体、か。頭部か。眼前の男を殺すにはそれしかない)

思考は答えへと至るが、身体は答えに至るには不十分に過ぎる。
それに、万全の状態でも分が悪すぎる事には変わりない。
だが、神父が優位に立っているという心理的余裕に付け入る隙がある筈とも考える。

//リアルの事情で長らく返せずすみません。
249 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/09(水) 23:54:22.13 ID:+iW8e/i+o
>>238

何からか加護を受けているのだろうか、あの宣誓をすれば身体能力が格段に上がる。
かつて宣誓に背いたことがないため、背いたときのデメリットは知り得ないが――。
兎も角、厳しい鍛錬を積んだ者よりも強大な力を行使できるのは確かだ。


「取り敢えず登ってみない限りはわからないですね」

背負った大蟹の腕を引っ張り、背中に蟹の腹をしっかりとフィットさせる。
彼の言うワイルドハントの拠点までの山道の傾斜は想像もつかない。
故に、実際に行ってみるまで。無理なら引き摺るように進めばいいだろう。

「それでは、行ってみましょう」

ブロンドの髪を振るい、通りの方へと身体を向ける。
彼のナビゲートに従うようにして、ワイルドハントの拠点まで足を進めていくだろう。
山道までは平坦な道が続くであろうから、スタミナが切れることはないだろう。
250 :【殴蹴壊則】 [sage saga]:2017/08/10(木) 00:50:23.43 ID:5TA9SFD10
>>248
物を壊す。という事に抵抗は無いが、生命を壊す事には抵抗がある。
抵抗というよりは、誓い。もう二度と会えない人に誓った不殺。これこそが、今の自分に残された全て。
暴力を肯定し、目的の為に手段を選ばない。無法を征く者が唯一守る美学であった。

「……自分が死んでまで、貫く必要があるってか?」
「ケツの青いガキにゃあまだ解らねぇのも無理ねぇが、退くのも勇気だぜ」

崩れた相手の背に座り、煙草を取り出す。
義肢の指先がピンという音を立てて間接と反対方向に折れると、そこからライターのような小さな火が出る。
破壊兵器を自身の知識で可能な範囲で改造したライターの機構だった。

「組織ってのは志を持った奴が目的の為に活動する場だ、一人で出来ねぇ事やって死ぬのは馬鹿のする事だ」

自分から見て彼は、組織を隠れ蓑に残虐行為に及ぶ子悪党。だが強敵に無鉄砲に挑む姿は過去の自分を見ているようでもあった。
負けるとは思わない。戦力差、相性の優位は明白。それでも、自決さえ辞さない作戦に出るかもしれない。追い詰められた相手というのが戦場では一番恐ろしい。
相手の肩に手を乗せる。

「お前がポケットから何か出すと同時にアイアンクローで肩を潰す」
「ポケットから何も出さずに手を抜き、両腕を上げたまま店を出ろ」

余裕と油断。慢心と自信は、似て非なる物。熟練の戦闘経験は、不落の精神性を男に与えていた。
それでも、殺さないという誓いは一番恐ろしい「追い詰められた相手」を作ってしまう。それが問題だ。
251 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/10(木) 02:21:58.11 ID:ZWYCWGqRo
>>249
//以降はワイルドハントスレにお返ししたほうがよろしいでしょうか?
252 :【騎士三誓】 [sage]:2017/08/10(木) 12:22:23.60 ID:bCXlZzMuo
>>251
//そうですね、ではそれでお願いします
253 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/08/10(木) 17:22:05.18 ID:/OOMhoB10
/>>185で再度絡み街ます。キャラ、シチュに希望があればご相談下さい
254 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/08/10(木) 22:53:11.34 ID:g9JNC5qM0
>>246


たとえ相手が理の外にある存在だとしても、やはり数分の出来事だけに未だ実感を持てない。
なので彼女が極々自然に箒から降りた際には、つい声が喉まで出かかった。
握り締めていたモノが突如消え去ってしまったので、瞼を見開かなくとも箒上の状態はわかっていた。
一体何処へ往ってしまったのか。恐る恐る重い瞼を開き、眼前に広がる蒼と、その中心にある答えを視界に捉えた。

目を丸くした。何故なら、魔女は何事も起こらなかったかの如く平然と空に佇んでいたのだから。
こうも連続だと最初ほど驚きは無かったが、少しだけ呆気に取られて頭の中の時間が止まった。
漸く時間が動きだすと、外見だけなら不敵そうな笑みを浮かべる。


「いいね、凄く好い。フッ、なかなか蠱惑的(ロマンチック)じゃないか」

差し出された手を取り、成るべく魔女の足下付近へと足を踏み入れる。
魔術の及ぶ空域が何処から何処までなのか分からないが、まず彼女の近くなら問題ないはず。
空への―――高所への恐怖感は拭い切れてこそいないが、それよりも今はこの魔術を体感していたい。
未だ体験した事のない奇跡のような現象を前に、恐怖感は麻痺してしまったのかも知れない。
255 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/11(金) 14:13:59.06 ID:ftYFqFhVo
>>247

棺桶が震え出すのを聞き受けた直後 ―― 外套の内側から軽量アルミの銀色で輝く弓を取り出す。
折り畳まれているそれのスイッチを親指で押し、音を立てて大きな弓の形に広がった。
矢を番え、その鋭利な先端を相手へと向ける。

「暴力は嫌いなんだ。本当に、嫌いなんだ。」

両目を見開いて標的を見据える様子は、正しく狩人の眼差しだろう。
一点の曇りもない、慈悲もない、疑念もない、とても機械的な、弓を絞り矢を放つための照星そのもの。

「中に生きている何かが入っている。
 納得のいく説明をもう一度して。


/こちらも遅くなりましたっ…。お返ししておきます
256 :【黄金鉄梃】 :2017/08/12(土) 00:27:42.61 ID:7JWxW7bgO
>>255

ふと、弓が構えられた。鋭い鏃の切っ先が男の心臓を狙い定め、冷え切った殺意が男を包み込むんだ。
だが、男は顔色を……いや、瞬きすらもしない。切れ味をもつ空気を受けで動じぬ様子は歴史ある大木の様、か

「……………」

男は困った様にその眉を八の字に寄せた。口は音色を紡がず、僅かな沈黙がその場を支配する。
……やがて、目の前の少女が、”本当に[ピーーー]気である”と理解すれば僅かな、疲れた様な溜息と共に言うだろう。

「獣病……と、私は呼んでいます。それは死者に稀に見られる生命稼働の復活を起因とする病です」
「蘇った者は……いや、獣と呼ぶべきでしょう。理性を失い、人々に襲いかかるのですから」

がたりがたりと、棺桶の更に震える。凶暴な何かがここから出せと唸り吠える。蓋の杭が僅かに浮いた。
男は動かない、否動けない。相変わらずその矢先は彼を狙い定め、僅かな挙動すら許されない為だ。

「そして一番恐ろしいのは”心臓を潰された程度では死なない”事です。……死をもたらすのは特別な施設を必要とします」

言葉には僅かな焦りが混ざるが、堂々と述べられる説明にはごく僅かな後ろめたさも無く。最後に男は言葉を加えた。

「………釘を締めてもよろしいですか?」
257 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/12(土) 01:08:56.42 ID://IljgHEo
>>256

到底尋常ではない話を聞かされても旅人は、いや、狩人は、視線を僅かにも逸らしはしなかった。
獲物から決して目を離してはいけないというのは、狩りのとても基本的な事である故に、体に染みついている。
弓矢を地に水平に構え姿は凛々しく、しかし少女の細き体躯故に、恐ろしさは幾らか穏やか。
徒然なるままに喋り動く少女の雰囲気とは打って変わった、冷たき視線、冷たき切っ先。

話を聞き終え暫し沈黙があった。一見してはとても大人びているように見えるかもしれないが、それでも彼女は少女。
良いも悪いも分からぬ年頃であるには変わらない。他の女の子よりも悪いものを多く見てきただけ。
男が言っている事が嘘か真か判断付かず、矢を撃ち放つことはおろか、矢を降ろす事も、ましてや喋る事もままならなかった。

相手の胸元に据えた視線の焦点が逸れる事は無かったが、瞳は微かに揺れ動く。
そして数秒の静寂の後、意を決したように口を開く。

「信じる。」

矢を番えたまま弓を降ろした。

「ここで君を信じなかったら、今の言葉が嘘だったとしても、私は後で後悔するから、とにかく信じる。」

しかし狩人の鋭き眼は変わらないままだった。
それは獲物の急所を覚えていて、今もそこを見据えている。

「こういうピリっとした空気、嫌いだ。
 それが君の仕事だというなら、それが終わったならまたこの丘に来てほしい。

 私は答えが知りたい。私の信じた事が、正しかったのか間違っていたのか。
 君がもう一度ここへ来てくれる物好きなら…… ―― 」

口元にだけ柔い笑みを作る。

「私は救われる、というわけだよ。夜が明けまで待ってる。」
258 :【黄金鉄梃】 [sage]:2017/08/12(土) 21:50:35.31 ID:zHpbUewEO
>>257
────その言葉に答えるように、釘をしかりと締め直してから、男は再び鎖を手に取り

「……ありがとうございます」 零したのほっとした笑みであった。


ずず……ずずずぅ…

彼は、一度彼女に軽く頭を下げてから、彼の行く道へ戻り進んでいった。
変わらぬ歩幅、一定の間隔で歩み、引きずる音は次第に遠くなっていく。男も夜の闇に消えていく。

そして時間が経った。

星は空を巡り、月は微睡む様に傾いていく。虫達は生命を謳いあげそして死んでいくだろう。
朝に近づくにつれ次第に闇には白い靄が混ざり始め、世界は再生を始める。そして、それは鳥達が歌い始めた頃だった。

「…………」

零れる陽光の欠片の中で、尚染まらぬ、一つの闇が、待っているであろう彼女の側へ歩んでいく。
それは先程の男であった。やや憔悴した面持ちで、また着込む黒いジャージには、紅い液体が飛び散っていた。

「お待たせしました」
259 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/12(土) 22:00:53.31 ID://IljgHEo
>>258

丘の上で彼女は待ち続けた。星空が移り行き、月が地平線に近付きつつあるのを眺めていた。
膝を抱えて港町を見下ろしながら、バスケットの中身は空になっていった。
当然、期待していた、相手が戻ってくる事を。同時に、戻ってこないかもしれない不安も。
虫の鳴き声が止むにつれて不安は大きくなっていった。
そうして独りで時間が経っていた。全ての理が全身に伸し掛かってくるような時間を感じた。

そして、朝日が近づくように、それは訪れる。
背後から投げかけられた声に反応して振り返る。

「随分な恰好。」

緑色の宝石のようにきらきらと光り輝く瞳と柔らかに緩めた口元の表情で相手を迎える。
とんとんと手の平で自分の横の地面を叩いた。
260 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/12(土) 22:01:14.54 ID://IljgHEo
>>259
/途中送信です…すみません、もう少しお待ちください
261 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/12(土) 22:05:38.39 ID://IljgHEo
>>258

丘の上で彼女は待ち続けた。星空が移り行き、月が地平線に近付きつつあるのを眺めていた。
膝を抱えて港町を見下ろしながら、バスケットの中身は空になっていった。
当然、期待していた、相手が戻ってくる事を。同時に、戻ってこないかもしれない不安も。
虫の鳴き声が止むにつれて不安は大きくなっていった。
そうして独りで時間が経っていた。全ての理が全身に伸し掛かってくるような時間を感じた。

そして、朝日が近づくように、それは訪れる。
背後から投げかけられた声に反応して振り返る。

「随分な恰好。」

緑色の宝石のようにきらきらと光り輝く瞳と柔らかに緩めた口元の表情で相手を迎える。
とんとんと手の平で自分の横の地面を叩いた。"ここに座って"

相手が促されるままに座ろうと座らなかろうと、彼女はこうも喋るだろう。

「助かったよ、ありがとう。
 実はサンドイッチがひとつ余ってるんだけど、お腹空いてないかな?」

相手の姿見はどうでもいいと彼女は思った。ここに戻ってきたのだから、それだけが現実だ。
その紅い液体が何で、どのようにして付いたのかはわからない。
しかしそんな事に想像力を働かせても、リアリティは伴わない。

丘にいる私とあなた、光り輝く港町と海、そして最後のハムとレタスのサンドイッチ。
これがこの場所の現実だと彼女は感じた。

262 :【黄金鉄梃】 :2017/08/15(火) 01:00:53.19 ID:WO1SvLtbO
>>261
男はドサリと、やや無遠慮にも彼女の隣に座り込んだ。僅か数時間の間で多少こけた頬と目の隈、酷く酷く
疲れた様子であり、無遠慮と言うよりかは配慮をする余裕が無い程疲労していると言っても良い。

「えぇ……ありがたく、お腹がひどく空いているので、助かりました」

彼女のアメジストの様に輝く瞳に、返すのは小さな笑顔だ。僅かに震える手で受け取れば彼は、それに口を付けるだろう。
警戒する様子は無い。警戒する気力は無い。まるで子供の様に無警戒に。もしかしたら毒があるかもしれないが……
まぁ、それを考えたらそれを考える事もなく食べるのは、この男がなんだかんだで人を信じる質だからであった

「……あぁ、神と自然に、そして貴方に愛と感謝を。そして────戴きます。」



/申し訳ございません。コミケとお盆で忙しく返信出来ませんでした。これからは定期的に返信できるとも思います。
263 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/15(火) 11:14:36.98 ID:kTHgjkjPo
>>262

このような晩。少女は何が面白かったのか、くすりと笑い、けれども視線は海へと向けられている。
呪いと海に底は無く、故に全てを受け入れる。棺桶に閉じ込められた闇ですらも、そうなのだろうと彼女は思った。
酷く疲れ切った男の汚れた手が、そして人の良さを見て、彼女は救われたのを確信する。

「はぁー、もう、ドキドキしたよ。」

抱えた膝に顎を乗せて、頬を膨らませる。

「今は胸の鼓動がすっと落ち着いて、いっそ清々しい気持ちだけどね。」

うと、うと… ―― 瞼が半分ほど落ちかけ、とてもゆっくりと喋った。
数時間同じ場所で待ち続けるというのは、けっこう疲れてしまうもの。
もちろん相手の疲労とは比べるまでもないだろうが、それでも、まどろんでしまうのだから。

「良いひとでよかった。」


/お気になさらず!
264 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/15(火) 14:02:40.89 ID:tih4dmyCo
>>254

少女の靴先が見えない床をこつんと鳴らすと、やはり白い波紋が広がる。魔女のヒールにぶつかると、溶けるように波は消え行く。
かかとを鳴らせばそこから広がるし、なんなら魔女が靴をその場からずらすだけで波紋は生まれる。
氷上に張られた薄い水の膜のように、空は陽の光を反射していた。

ここにはない言語で名を呼び、暇を出すと、草箒は鷹か鷲かという速さでどこかへ飛んでいく。
女の子よりも飛ぶことが好きな辺りは、まだ可愛げがあると思う。

少女の感想を聞くと、魔女は頬を緩ませる。

「魔女は夢を吸ってロマンを吐く生き物だよ」

上空に風や寒さはない。きっと魔女の施しだろう。
きらめく雲海の水平線は硬くへんてこで無機質なオブジェのように見えるし、もしかしたらここは全て、彼女の見せる夢なのかもしれない。
航空機の窓からも、高山の頂上からも、衛星写真にだって写らない空が、彼女らの足元にはあった。


――しばらくそんな夢を見た後、郷愁的な微笑は途端に変貌する。

「さて、じゃあ“さっさと”帰ろうか」

悪い笑みを浮かべた魔女が呟くと、『床が抜ける』。
彼女達を支えていた空であり地であった筈のものは、そんなものまやかしだと言う風にすかすかで。
足元から延々と出ていた波紋なんてものはなくて、――というか、それを確認する余裕は少女にはないだろう。
ともかく結果として、彼女たちは羽も箒もなく、空を飛ぶことになってしまったのである。

/お待たせしてすみません。
265 :【黄金鉄梃】 :2017/08/15(火) 23:55:28.45 ID:9PrRyIeuO
>>263
”善い人”と言われ、男はその顔更に柔らかあものとした。内面、別の事を思ったとしても、それを出す程子供でもない。

彼が良い人であれば、この少女をここまで待たす事無く相手をしただろう。彼が善い人ならばそもそも待たす事無く去った筈だ。
どちらにせよどっち付かずの宙ぶらりん、良いと善いの間。甘っちょろいと言われ結局の所治らない。自分の欠点を恥じていた。

「……………えぇ、ありがとうございます」

かえしの言葉に、貴方こと良き人だと。紡ごうとした唇は、彼女の真昼の猫のような気だるさに止まった。うつら、うつら、と
船をこぐ、微睡み、意識が何処かへ沈んでいく……そんな彼女を見て、男は己れが出来ること……つまりは”待った”

「……危なくなったら起こしましょう。まぁ、ここは穏やかな場所ですから、そういったことも無いでしょうが」

所謂反対の事だ。彼女を待たせたから彼女を待つ。空を見るに今日は穏やかな天気。草原で少し寝るには悪く無い。
次第に呟くような、眠気がある独特の話し方に合わせ、ゆっくりと囁くように、話し掛けながら、彼は小さく微笑んだ。

「お話は、その後でも出来ますから」
266 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 02:40:50.06 ID:HjslE8LYo

信仰の形は種々様々である。
しょせんこの世は胡蝶の夢のようなもの。人は何かを基としなければ自立ができないというならば、心に打ち立てる柱の在り様は他人にこれと強制されるものではない。
その考え方は未だ世界全体に浸透しているとは残念ながら言い難い。しかしその信念を全うし、自分以外の誰かに対しても己を偽ることなく生きてほしいと活動する人々は賞賛されて然るべきだろう。

しかし……その信仰が著しく反社会的な実態を有しているとなれば、それすら尊重されるべきなのだろうか。

「…………」

答えは否である。
そう、はっきりと断言する感性を持っている人間であればこそ。
ましてやそれによって罪なき民に被害が出たとなれば……この男が動かないわけがなかった。

――賞金稼ぎギルド、ワイルドハント。
無頼漢、落伍者、破落戸……そんなものしかなかった賞金稼ぎという人種のイメージをゆっくりと変えつつあるその団体に、一軒の依頼が舞い込んだ。

依頼者はとある中流家庭の家族。曰く娘がとある宗教の人間に誘拐されてしまったので、なんとしても連れ帰ってほしいとのこと。
明らかに警察機関に任せるべき案件であるのだが、その宗教相手に警察が動けない“理由”があるらしく。
捜索自体は行われているものの、肝心の団体にはまったく手を触れない状況。これでは解決など到底できないと、藁にも縋る思いで依頼した。
心の底から悲しみに暮れる父母兄弟から話を聞いて、メルヴィン・カーツワイルはその日のうちに行動を開始する。

それから五日後のことである。
調査途中、何度も彼の宗教のメンバーと思しき人間の妨害を受けつつも……。
とうとう本拠地を突き止めた彼は現在、変哲もない住宅街の一角に位置するこれまた他と何の違いもない――外観は――家を睨みつけている。

時刻は夕暮れ。辺りに人気は少ない。
夕陽を反射する金髪、街を照らす茜色にも染まらぬ碧眼。長身を包むのはフォーマルな印象の服装、腰には剣を吊っている。鞘は装飾性の高いものだった。
年の頃は……外見から察するに二十代の前半くらいだろうか? 顰められた眉、鋭い眼光、顔のパーツは若いものだが全体を見れば妙な迫力に満ちている。

男は剣の柄に手を掛けて……そのまま決然と一歩を踏み出そうとした。


//人待ちですー
267 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/18(金) 03:20:28.14 ID:FP6zu297O
>>266

「すいません、邪魔です」

男の背後からそんな遠慮のない声が聞こえてくる。もし振り向いたならば、そこには一人の少女の姿があるだろう。
艶やかな銀髪に真紅の瞳、ショートパンツにパーカというラフなスタイルに身を包んだ彼女の両腰には、鞘に収められた剣の姿もあった。
当然ながら、このような物騒な得物をぶらさげた人間が通りすがりの一般人である訳がない。彼女もまた彼と同じように、ある目的の為にこの家屋に用があった。

宗教家というものは多方面から恨みを買うらしい。特に裏の顔が存在するような、真っ黒な部類であれば特に。
少女はフリーの仕事屋だった。そして彼女の元に舞い込んだ依頼というのが、その宗教を”叩き潰してほしい”という非常にシンプルかつ暴力的な内容だった。
その宗教自体に関心はなかった。関心があったのは提示された多額の報酬であり、アタッシュケースに詰まった前金を確認した時点で、彼女にとってその宗教は滅ぼすべき敵と認定された。
そして本拠地と思しき場所に辿り着いたのがたった今なのだが――流石に先客がいるとまでは彼女も想像していなかったらしい。

「今からこの建物に用があるので、できれば退いてくれると嬉しいのですが
 流石に、あなたがここの関係者という訳でもなさそうですので」

例え、相手が見知った相手であろうとも、そのように告げる少女の口調は淡々としたものだろう。
伝いたいことは単純明快だった――私の仕事の邪魔をするな、余計なことをされたら報酬が減る。
彼とは違って誰かを助ける為だなんて高尚な目的など存在しない。そもそも彼女はそういう人間なのだから。

腰に下げた剣の柄に、既に右手は添えてある。


268 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 03:43:28.38 ID:HjslE8LYo
>>267

……無遠慮な背後からの声に反応し、足を止める。
振り返り、少女を見据える瞳には苛烈な光が宿っていた。彼女の熱のない目とは正逆の様相を見せているが、少なくとも現段階では敵意はなかった。

「俺とてここに用事がある。はいそうですかと引き下がるわけにはいかん」

だがむろんのこと言うまでもなく、彼にも同じく事情がある。
一度依頼を受けて着手した以上、軽々に放り出せるはずがない。信用問題ももちろんあるが、それ以上に彼自身がこの件から退きたくないというのが大きな理由だった。

……例の宗教団体の概要は以下の通り。
設立された時期は判然としない。少なくとも十年前には既に存在していたとのことだが、それ以前のことを語る者はいなかった。
加入しているのは地域住民が大半を占めているため土着信仰にも似ているが、それにしては古い資料にその姿どころか気配も一切みせないため古来からのものとは考えにくい。
加えてこれは例の“理由”だが、中には警察をはじめとした公的機関の高官、民間企業の幹部、そうした表社会で立場のある人間もいるようだ。

そして教義は他の宗教と同じく複雑なものだが、要約すれば“悪霊からの救済”という一言にまとめられる。
人々を亡霊から助けるために活動していると主張しているのだ。しかし問題なのはその手段。
暴力によって肉体から追い出せ、というのだ。それもちょっと顔を叩くというような生易しいものじゃない。

逃げられないよう拘束し、手足などを思い切り殴りつけ踏みつけるのは当たり前。
凶器を持ち出すことすら珍しくない。それも一人に対して複数人で、笑いながら頭をバールで殴り四肢をチェーンソーで切断し……。
当然ながら“除霊”を受けて生きて帰れる人間なんていやしない。この情報は小規模ながらも存在した「支部」に乗り込んで直接得たものだ。
それでも彼らは器は滅んでしまっても魂は救済されたから善きところへ行けると言って、その結果を是とする。悪いことではないのだから何度も同じことを繰り返す。

――ゆえに、ここで根から絶っておかねばならないと考えていた。
こんなものの存在を許すわけにはいかない。放っておけば以降も際限なく悲劇と涙を生み出す絶望の根源、どうして見過ごすことができようか。
必ず滅ぼす。絶対に逃がさない。その罪業を残らず日の元に曝け出そう。報いを受ける時がきた。

その目的達成にあたり、眼前の少女が障害になるのかといえば……それは疑問を呈さざるを得ない。
なぜなら生来の洞察力ゆえか、独特の空気感を感じ取っていたのだ。それは自分を含む賞金稼ぎたちにどこか似た臭い。
金と引き換えに依頼を受け、それを遂行する者たち。であれば道は敵対には限らないと予測を立て、口を開いた。

「――こちらの目的は被害者の救出、そしてこの建造物を根城とする団体の撲滅。そちらは?」

可能性は半々……直感ではまだ戦闘発生の率は低いと思っているが、勘だけで決めつけるわけにはいかない。
柄にかけた右手に、力を込める。場合によってはここで斬り合うことになるかもしれないと判断せざるを得ないために……。
269 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/18(金) 04:18:21.19 ID:FP6zu297O
>>268

「この新興宗教団体の撲滅、というよりも殲滅ですかね。クライアントの意向を汲むなら」

目を細めて、相手の一挙一動に神経を研ぎ澄ませる。もしも刀を抜いてこちらに向けてきた場合には、即座に迎撃できるように。
現段階で彼が必ずしも敵ではないということは理解できた。しかし前提として共闘の可能性を少女は持ち合わせていなかった。
目的が合致するというだけで、背中を見ず知らずの他人に預けるなど、考えただけで寒気が走る。雛月紫苑という少女はどこまでも個人主義者だった。

この宗教団体に対する思惑も、彼のように確固たる意志がある訳でもない。邪悪な団体を許さないと義憤に駆られるなど以ての外。
ただ、報酬があるから仕事をこなすだけ。それは賞金稼ぎのように金で動く人間としては至極当然の考え方だろう。それが果たして善か悪かなんて、今は意味を成さない。

「……さて、どうしたものでしょうか
 個人的にはこんな悪徳団体相手、わざわざ表から乗り込むつもりもなかったのですが」

そう呟きながら紫苑は剣を鞘から抜く。聖剣の称号を冠する純白の剣が夕日を反射して煌めいた。
その剣を無造作に片手で携えながら、男性と家屋を交互に一瞥する。そして小さくため息を零す。

その聖剣には攻撃的な異能が備わっていた。そしてその異能とは純粋火力という点に関しては特に抜きん出ていた。
その力を利用して、この案件も早々に片付けてしまうつもりだったのだが、だからこそ彼の存在と彼の言った言葉が、紫苑にとっては障害となる。
彼は目的の一つに被害者の救出と言っていたが、それが問題だった。何故なら紫苑の考えていた策というのが。

「今から一撃でこの家屋を半壊させて、それから残りを虱潰しに片付けるつもりだったのですが
 その方が敵の本拠地に自分から乗り込むよりも確実だと思うのですが、いいアイデアだと思いませんか」

生き残り、要救助者の生存の可能性なんて初めからとても低いものだろう。この宗教団体は、そういう危険な組織なのだから。
手段は選ばず、最善の策だけ行う。そうすれば少なくとも敵の壊滅という目的だけは確実に達成できるだろうから。
真紅の瞳で相手を静かに見据える。相手の瞳に宿る熱意や意志というものは、自分のものとはまるで正反対で、紫苑にとっては苦手と言っても良いものだった。

270 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 04:44:47.62 ID:HjslE8LYo
>>269

半分は合致、といったところか。
直感はともかく理屈の上では彼女を警戒せざるを得ない状況にあったが、ここで目的が競合しないとはっきりさせられたことは喜ばしいことだ。
なぜならこの娘、かなりできると踏んでいたから。腰の二刀は決して飾りではない。やり合うことになれば凄惨な事態が待っていただろう。

ただ彼女が発した提案には首を横に振った。
それは被害者救出という意味も当然あるが、それ以外の理由が大きかった。

「やめておいた方がいい、外見上の建物など入り口にすぎん」

二人が前にしている家は他と比べて何の違和感もない。
そう、まったくおかしなところがないのだ。知らなければそのまま通り過ぎてしまいかねないこの家は、つまりたいして大きくもないということ。
せいぜいが四十坪くらいの平屋は大人数が集まるにはまったく適してはいない。ましてやその中で多数の人間を監禁しておくなどかなり難しい。
いや閉じ込めておくくらいなら十人くらいは可能かもしれないが、暴行を働けば……そして死人が出るならば、どうしたって隠し通せるものではない。
たとえこの辺り一帯がグルだったとしても、外部の人間が絶対に通らないということはあり得ないのだ。この建物の中で彼らの教義を遂行すれいつか絶対にバレてしまう。

ならば、どうする?
彼らの本拠地は間違いなくここだ。であるからには大人数が集まるだろう。“除霊”のための機材道具も保管しておかねばならないだろう。監禁しておく人数だって多いはずだ。
この宅地の中において、どこにそんなスペースを確保するか。なおかつ外にその様子がまったく漏れることなく、今日まで活動を続けるためにどうすればよかったのか。

答えはひとつ――そう、下だ。

「連中の本拠地は地下にある。入り口を潰してしまっては、そこへ至るための道を見つけ出すのは困難になるだろう」

何あろう「支部」も同じような造りだったために、未だ中には踏み込んでいないものの半ば確信に近いものがある。
もちろん“入り口”にまったく人がいないとは限らない。メンバーの数人も待機しているかもしれないが、本当に潰すべきはそこじゃない。
事を円滑に進めるためには彼女が提示した方針は得策とは言えない……これは感情ではなく理の問題であった。
271 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/18(金) 05:17:12.06 ID:FP6zu297O
>>266

「なるほど、地下ですか。確かにそれなら力尽くは愚策ですね」

あっさりと納得したなら、剣を鞘に収める。相手を味方ではないと思いつつも、敵ではないとも認識していた。
相手の言葉に理があるなら信用はする。地下がある可能性を考慮するなら、大火力による先制攻撃は賢いとは言えない。

なら――乗り込むしかないだろう。穴倉に引き篭もっているというのなら、自ら出向くしか方法はない。
実際には他にも方法はあるのかもしれない。だが紫苑は策を弄するよりも直感を信じて行動するタイプの人間だった。
即座に依頼を片付ける為の策を一つは用意していたものの、それが使えないと解ったのなら後はいつも通りに仕事を片付けるだけ。

もう一つの鞘から、もう一つの剣を抜き放つ。先ほどの聖剣とは対照的な、漆黒の刀身を有する禍々しい邪気を孕んだ剣。
聖剣ではなく魔剣、どうしてそんな大層なものを二つも有している理由は兎も角、それが少女にとっての自信の根拠であった。

「……後、もう一度だけお願いしますが、やはりここは私に任せてくれませんか
 こう、こっちのクライアントとの契約の関係上、第三者の介入は割と困るのですが」

淡々と告げるわりに切実な懇願であった。個人で活動しているのは自ら望んだことであったが、こういう場面で思わぬ弊害も生じる。
そもそも紫苑は誰かに助けを請うことも、その逆も決して行わないつもりだったが――どんな仕事も今まで一人で事足りたのだから、今回もそれで十分だろう。

家屋の扉の前に立つ。一旦目を閉じて呼吸を整えれば、次の瞬間に躊躇いなく一閃を放つ。
それがただの扉であるなら、或いはそうでなくとも、それは達人の域にまで研ぎ澄まされた斬撃。切り崩すには充分な威力を発揮する。
そして道が切り開かれたのなら、紫苑は躊躇わずに瘴気の如き気配が渦巻く家屋の中へと足を踏み入れていくだろうが。



272 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 05:48:49.47 ID:HjslE8LYo
>>271

……彼女の方も、薄々気づいているかもしれないが。

「それはできん。事情もあるのだろうが、それはこちらも同じことだ」

彼は頑固な男である。一度“こう”と決めたらなにがどうあれそれを貫き通すような、強い意志を有している。
いや強すぎるというべきか。ともかくなまじ世間的に正しくて褒められるような行動を取っているから、道を外れることがない。
たとえそれが自分では間違っていると思いつつも、だからこそ人々に報いるためにと止まらない。歩みを遅くする気さえまったくないのだ。

徐に剣を抜く。その刀身、切っ先付近まで続く樋には黄金のラインが走っている。
感知する能力があればの話だが、彼女が備える二振りの剣と同じく――強度や格では及ばないものの――魔力めいた気配を見て取ることもできるだろう。
ただその源は剣というよりむしろ鞘の方にあるようだが……ともかく単なる剣ではないというのは、見る者が見れば分かること。

「問題があるようなら後日そちらのクライアントと直接話そう。だが今は介入させてもらう」

鋼を思わせる声色で告げて、彼女に続き屋内に足を踏み入れた。

……内装は一般的なそれ。リビングがあり、廊下があり、キッチンがありトイレがある。
特に不可思議な汚れや何やらがあるわけではない。異臭も異物も存在しない。一見して、本当にただの一軒家のようだ。
ただ家具一式に使用した形跡はあまりなく、ここが偽装のために誂えられたものだということは異常な生活感の無さから読み取れるだろう。

人の気配はなかった。どこかに隠れ潜んでいるような様子もない。
そう、少なくともこの一面には。階下には無数の畜生どもが蠢いていることは間違いないが、床越しに音や気配も感じ取れないので相当に深い場所にあるのだろう。
あるていど薄ければ彼女の剣が備える異能でぶち破ることも容易かったろうが、こうなると分からない。
まったく不可能だ、というほどではないだろうが……確実に破壊できる保証もない。いや、もとより屋内で放つ類のものではないか。

言葉を交わさないまま、男はリビングから続くキッチンの方へ向かっていった。
一本の廊下から枝分かれするように仕切られている部屋、彼が足を運んだ場所を除けば目ぼしい個所はトイレに風呂場、それに寝室といったところか。
273 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/18(金) 06:26:54.84 ID:FP6zu297O
>>272

「……はあ、やり辛いですね、これ」

地下にいるという確証があるのなら、聖剣を床に突き立て強引に地の底へと続く大穴を開けるという手段もある。
尤も一度屋内に入ってしまった以上、聖剣の馬鹿げた火力に頼るのは避けたいという思いもあった。狂信者達は兎も角、自分も生き埋めになってしまっては意味がない。
ならば地道に地下への道を見つけるしかない。このような探索は苦手分野ではあったが文句を垂れたところで向こうからやってくる訳でもない。

「というか、確実に向こうもわたし達に気づいてますよね
 そもそも、本拠地の頭の上が死角になっている筈がありませんし」

隠しカメラか、魔術的機構か、何かしらの手段によって侵入者がいることは敵も既に知っている筈だ。
ならば敵からのアクションが起こるまで待つか。それともリスクを承知の上で地下へと続く道を探し続けるか。

雛月紫苑という少女は面倒を嫌う。ここで彼女がとった行動は、うまくいけばこの状況を一撃で打破し得るものだった。
魔剣を全力で足元へと叩きつけ、床を叩き割る。もし地下が本当に存在し、そこに続く通路の類があるのなら、直接その構造を確かめた方が早いに決まっている。
そう考えて彼女がとった行動は――床下に潜り込んで地下への通路の有無を確かめるという非常にシンプルなものだった。

「ちょっと、潜ってみますので。何かあったら大声を出してくださいな
 気が向いたら、助けてあげるかもしれませんので」

床下のスペースなんて這ってやっと進める程度のものでしかない。加えて非常に暗く、そして薄汚い。
魔剣を収めた代わりに聖剣を再び握れば、その力を非常に弱めて発動。魔力を光に変えて放出するという力は、弱めれば懐中電灯の代わりにもなる。
聖剣の無駄使いと言ってしまえばそれまでだが、自分の武器の使い方は自分で決めるもの。明かりを頼りに何かめぼしいものはないかと、狭く息苦しい空間を這って進んでいく。





ぞわり。

ぞわり。


そんな気配がしたのは、果たして気の所為だっただろうか。

虫が飛んでいるような、風が通り過ぎていくような、あまりにも些細な、違和感のような存在感。
それを紫苑は微かに感じるのがやっとだった。そしてその気配は、一階にいるであろう彼の元にも訪れるだろうが。
振り返っても、室内を見渡しても、自分以外にいるものは何もない。やはり気の所為としか思えないそれは、ぞわりとした感覚だけを残していく。

274 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 07:16:51.28 ID:HjslE8LYo
>>273

手間を惜しまず、近道をせず、愚直とも言える素直さでひたすら進む。
弛みない努力をこそ信条とする彼の行動パターンは、そういう意味でも彼女とは反対なのだろう。
取った手段は非常にシンプルで地道なもの……そこらじゅうの戸棚や扉の隙間などを虱潰しに探している。
足跡などが残っていれば話はもう少し簡単だったのだろうがそれについても巧妙に消されているから辿りようがない。
隠し扉を疑ってみても、それを隠せるような大型家具の頻繁に動かしている床の傷も見当たらないし……いよいよ見つからなければ床板の一枚一枚を探ってみるしかないか。

「了解した」

そう考えれば彼女の行動はあながち理に叶っていないこともなく。
むしろ合理的な一手であることは認めるところだった。床下に怪物が潜んでいるなど、三文小説のような展開はそうそうあるまい。
もっとも完全に無いとも言い切れないのが、社会と常識から外れた組織の常ではあるが……。

こちらはこちらで捜索を続けよう。
別に競っているわけではないのだ、見つけたなら……おそらくではあるが、知らせてくれるだろう。
だからといって気を抜くつもりはこれっぽっちもないが、と……再度リビング全体を見渡してみようかと考えた、その瞬間。

ぞわり。

……首筋から脊髄を伝って全身へ伝播した言いしれぬ悪寒。
風か――? いいや違う、入る前に家の周りを調査したときには開け放たれている窓は一つもなかった。
虫……? 否……蚊や蠅ならば、そのような羽音が聞こえるはずだ。

「……なんだ?」

振り返るが、やはりというべきか何もいない。
気配もない……この場に自分と彼女以外の人間など存在しない。

気のせいかと、切り捨てることもできなかった。なぜならこの類の直感は、理屈を超えて幾度も我が身を救ってきた。
勘よりも理を重んじる性格であることは確かだ。しかし本能の警告をまったく無視しては、今日まで生き延びることはできなかっただろうと確信している。

ゆえにその場に留まり、虚空を睨み……全神経を集中させる。
見えぬ何者かの姿を割り出すために。透明な悪意、あまりにか細いその兆しを手繰り寄せるようにして探り始めた。
275 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/18(金) 22:04:42.22 ID:3cqQR22mO
>>274

張り詰めた緊張を一瞬でも緩めてしまえば、違和感と認識することさえ難しい僅かな気配。
しかし認識したのであれば、その気配はただの一つの根拠さえないにも関わらず、本能の警鐘を鳴らすには充分な悪寒を伴う。

床下で這いながら捜索中の紫苑もその気配に進行を止めた。周囲を見渡したかったが、この閉鎖空間では首を回すことさえ難しい。
なのであくまで警戒を怠らず、聖剣を握る手に力を込めて探索を続行する。この気配の正体がなんであれ、この状況では動きを止めることが致命的と判断したからだ。
何かが存在するということは、直感が告げている。この家屋の中に潜む自分たち二人以外の何かは、少なくとも味方でないことだけは確かだろう。

「……鬼が出るか、蛇が出るか。ですね、まさしく」

もしも、ここが邪悪な宗教の温床であるならば、非業の死を遂げた人々も数多くいたことだろう。
ならば、この悪寒の正体は彼等の無念なのだろうか。この地に魂を縛られ、今も尚苦悶に喘ぎ続ける悪霊の存在が気配として伝わっているのだろうか。
ぞわり、ぞわり、ぞわり。何もいない筈なのに、確実にそれは存在している。この空間に、この家屋に潜むモノは、悍ましい悪意によって蠢いている。


「――――――」


「――――――――――――」






「――――――――――――――――――――――――――――――kt」



その声は、二人の背後から同時に、唐突に聞こえてきた。それは背中に寄り添うにようにして、凍てついた声を発した。
振り向いたなら、そこに存在するのは黒い影。人の形をした、けれども決して人ではないなにものか。
ぽっかりと空いた眼孔には、深淵の如き闇を讃えて、それらはそれぞれ目の前の相手へと両手を伸ばしてくるだろう。

触れてはならない――そう本能が警鐘を鳴らす。あの手に触れてしまったなら、きっと、命や魂といった大切ななにかを奪われる。
同時に廊下の床が吹き飛び、床下から紫苑が飛び出した。迎撃の為に聖剣の砲撃を放ち、強引に影を攻撃しつつ床の上へと戻ったのである。
不機嫌そうに表情をしかめながら、同伴者がどこにいるか周囲を見渡す――因みにどうやかこの影、こちらの攻撃は通るようで倒すことも可能なようだが。


276 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/18(金) 23:48:15.01 ID:HjslE8LYo
>>275

じり、と爪先を動かす。
最大限の力をもってその存在を見極めんとするものの、未だ正体は掴めない。
だが間違いない……ここには自分と彼女以外の何者かが確実にいる。
暗がりに隠れ、あるいは白日の下に堂々と姿をさらしながら、今この時も我々を覗き込んでいるのだ。

一瞬ながらも確かに感じたのは異形の瘴気にも似たその気配。魔物とも妖とも違う、ましてや人間のそれとはかけ離れている。
生きているものが発する空気ではない何かを間違いなく肌で感じ取った。その感覚は決して勘違いなどではありえない。

どこだ……必ず見つけ出すと眼差しを眇めた、その時。

「――――!」

背後に響いた魔性の声――思考が対処を弾きだす前に判断を下した本能に従って、前方に飛び出しつつ振り向きざまに剣を振り抜いた。
人であって、人でないような。生き物であって、死んでいるような。
相反する矛盾した性質を併せ持つような、歪んだ気配をねじくれながら発散させる異形の影法師を刃が斬り裂いた。
手ごたえは――あるようで、ないような。まるで映写機に投影された光の影でありながらも質量めいたものが伴っているという不可思議極まりない感触は今までに経験がなかった。
しかしダメージは通っていた。二つに分かたれた影の人型は、その輪郭を滲ませつつ歪みながら消滅していく。
後には何も残らない。まるで最初から存在しなかったとでもいうように、僅かな痕跡すら残っていないその様は確かにそこにいたという事実を霧のようにぼやけさせてしまう。

彼女がぶち抜いた床はリビングの位置。
カーツワイルがいま立っているキッチンとは仕切りもなくつながっていて、互いの姿が確認できる。

「……魔術、いやこれは呪いだな。番犬代わり、とでも言うつもりか」

いっそう厳しく顔を顰め、吐き捨てるように呟く言葉には怒りが籠っていた。
自分が襲われたからではない。あの影の核となっているのは死んだ人間の憎悪や悲哀、総じて怨念と呼ぶべきモノであることを感じ取っていたから。
それはつまり被害者たちの魂が、死してなお辱められているということに他ならず……ゆえに男は背後にいる奴らに対して憤怒を募らせている。

「ふざけたことを。いったいどこまで罪なき民を弄べば気が済む」

憤りは表にこそさして出ていないものの、その内心では噴火する火山の如くに激情が爆轟している。
やはり鬼畜、許し難い外道の群れである。ここで必ず討ち滅ぼすと改めて誓うからこそ……。

彼らの犠牲を無駄にはしないとばかりに歩き出す。
辿るのは悪意の残滓……生まれてから今より培ってきた悪への嗅覚は、知らぬ間に第六感じみた感知能力へと昇華していたのか。

根拠はない。だが確信を得たように向かう先は風呂場。バスタブをひっくり返すようにしてどけたなら……そこには本当に、不自然すぎる鉄扉が隠匿されていた。
277 :【羽衣が微笑む穹天の斜陽】 - Lever du Soleil - [sage]:2017/08/18(金) 23:48:45.39 ID:zkUXashbo
>>265

コクン。彼の許しがあったからかどうかは、本人にもわからないが、彼女の意識は眠りへと落ちた。
顎を膝に落とす様子は頷きのようにも見えるかもしれない。
初対面の人間の隣で直ぐに眠りに落ちてしまう彼女も、警戒心のなさでは大概だ。
旅人の気持ちに鍵は掛けられない。

せめて日が昇るまでは ――― 。


―――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――


パチりと、突然瞼が開いた。いつの間にか意識を落としてしまった事に気が付いた。
目じりにたまった水滴を人差し指で払いながら、顔を出しつつある朝日を視た。
そこから健やかな風が吹いてきているのを感じる。潮の匂いが混じっている。

「わ、寝ちゃったっ。」

折角の話し相手がいなくなってしまったかもと心配になって、慌てて横へ視線を向ける ――― 。



/遅くなってずびばぜん……。お返しします。
278 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/19(土) 01:28:17.83 ID:p12ltiEWO
>>276

服の裾についた埃を払い、改めて周囲を一瞥する。既に影の気配は霧散し、しかしこれで危機が去った訳でもない。
影の正体がここで亡くなった悪霊であるならば、たった二体だけと考える方がおかしい。すぐにでも第二波、第三波が襲いかかってくることだろう。
ならば、それよりも早くに本拠地を叩くのが条理というもの。露わになった鉄扉を前にして、紫苑は億劫そうに溜息を零した。

紫苑は彼とは違って、この悪行を目の当たりにしたところで義憤に駆られるようなことはない。少なくとも彼女自身はそう認識している。
例え救われない哀れな魂が相手であっても、襲ってくる以上は敵に過ぎない。淡々と迎撃するだけで仕事には事足りるというのなら、典型的な魔術師か死霊術士である可能性が否めない。そしてそういう輩は己の工房に引き篭もってる時にこそ最大の力を発揮する。
虎穴に入らずんば虎子を得ずとはいうものの、相手が難敵でありこの仕事が面倒なことに違いはなかった。やはり予め地形を少し変えてから突撃する方が良かったか。

「確かに、番犬としては優秀ですね。きっとストックは限りなくあることでしょうし
 しかしこの様子だと、捕らえられた人がいたとして、果たして生きているかどうかも怪しい」

剣をふるい、光熱を斬撃と共に放つ。そうして鉄扉を切断、というよりも溶断したなら、その先に覗く地下へと続く階段に足を踏み入れる。
ここまできて協力するなんて考えは微塵もない。飽くまでこれは自分一人の仕事であり、余計な第三者の手を借りるまでもないことだと暗に告げる。
もし、それを直接言ったところで彼は引き下がらないだろうから、態度で示すだけ。一歩目を踏み出した時、思い出したように後ろを振り向く。

「それから、人助けよりも自分の命の心配をした方がいいですよ。ここ、相当嫌な空気がしますし
 後、予め言っておきますが、何があっても貴方を助けるつもりは毛頭ありませんから、どうかそのつもりで」

彼の言っていた被害者の救出について、紫苑はそれは既に不可能だろうと判断していた。
ここは死の臭いが強過ぎる。此処に囚われたものが居たとして、それが唯の一般人でありながら今の今まで生き永らえるというのは奇跡のようなものだ。
だからこそ、希望的観測について考慮などせず、そんな余裕があるなら自分の身の安全の確保に努める方が有意義だろうと――それは彼女なりの善意だった。
相手からすれば、お節介を通り越して挑発にも等しい言葉に違いないだろうが、警戒の糸は背後にも張り巡らしているのが彼女の答えでもある。結局、彼女は心を許してない。

そして階段を下りていく。底の見えぬ、まるで地の底に続いているかのように錯覚してしまうほどの闇の中。
聖剣から溢れる光を頼りに、足音を反響させながら淀んだ空気の中を進んでいく。降りていく。警戒を怠ることなく、それでも自然体のまま。
一歩降りるたびに瘴気が濃くなる。並の理性であればいるだけでも正気が削られるような領域であるが、ここにいる二人であるならその影響自体は問題ないだろう。
寧ろ、瘴気の存在が告げる敵の気配こそが問題だった――果たして降りた先に何があるのか、それとも降りきるよりも先に敵が姿を現わすのか。

279 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/19(土) 02:31:39.03 ID:METAiT22o
>>278

メルヴィン・カーツワイルは光に属する人間である。
他者を尊重し、努力を良しとして、人の心の力というものを最大限評価している。

……だが、同時に都合のよい夢想じみた展開を妄信するほどおめでたい頭はしていなかった。
むしろどちらかと言えば現実寄りの考えを持っている。誰もが危機的状況に陥ろうともそれを跳ね除けられるわけではないと、確かに認識しているのだ。
ゆえに生存者の存在に対する見解は彼女と同じ……もはやこの有様では、救出できる可能性などごく僅かであろうと。
仮に命があったとしても、それが良いことであるとは言い切れない。死んだほうがマシな状態になってしまっていることだって、彼の教団の実態を鑑みれば十分にあり得ることだ。

むろん少しでも可能性があるなら、助けるための労力は惜しまない。
しかしこれでは、そんな微かな望みすらないのかもしれないと……絶望的な観測ばかりが濃かったから。

「構わん。互いの邪魔にならなければ、それでいい」

短く返した言葉に敵意や悪意などマイナスの感情はなかったが、同時に友誼を結ぼうという様子もない。
彼女のような態度は取り立てて珍しいものでもないというのが経験に基づく見識だった。
賞金稼ぎとは報酬を目当てに行動するもの。仕事の障害になるようであれば躊躇なく排除に動くが、そうでなければ大して興味も抱かない。
ワイルドハントに属して以降、そしてその前の旅人であった時期に何度か賞金稼ぎたちと仕事に当たることがあったが、だいたいこんな風だったように思う。

ならば言葉通りだ、それで構わない。
妨害などを行ってこない限りは、双方手を出す理由もないのだから。出会った人たち全員と仲良くなれるなど、それこそ都合のいい展開というものだろう。

……言葉もなく、闇の帳を下ろす階段を下ってゆく。
踏み込んだ直後は感じなかったが、足を進めるにつれて変化していった空気は……一言、異様だった。
日常生活で嗅ぐような臭いじゃない。鼻をつくのは強烈な生臭さ、そこに混じる鉄と薬品の刺激臭。
それは蒸気にも似たような。肌に纏わりつくような滑りけを感じさせる粘ついた異臭と熱気、これが地獄の瘴気と言われれば納得してしまいそうな悍ましさがある。

濃くなっていく異界の圧力。数分か、それとも数十分か、歩いた後に薄暗い光が差し、開けた場所に辿り着く。

……第一印象は古びた病院。
むき出しになったコンクリートの床と壁は上とは比較にならないほど人間の使用した形跡が残されている。
それも一人や二人じゃない。おそらくここが設立された時期から逆算して、少人数の出入りでは考えられないほど床がすり減り、欠けていた。
空間自体は大きかった。縦に続く一本道、横幅は五人は余裕で通れるくらいの広さがある。ただ当然だが窓はない。
通りに沿うようにして幾つもの扉がある。それらはみな不自然に赤錆びているが、探る限りその向こうに人の気配はなかった。

……そして“出迎え”がある様子も。
だが確実に……この一帯には人がいる。多い。明らかに大きな集団が奥に存在することは確かだった。
280 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/19(土) 03:33:54.79 ID:p12ltiEWO
>>279

吐き気さえ催すような異臭が、この空間がどのような場所であるかを克明に告げている。
それは死の臭いに他ならない。ここが地獄と言われば納得してしまうほどに、死が限りなく近くに存在している。
そう、抱いた感想は直感によるものに過ぎない。しかし幾つもの死地を経験した末に養われた直感だからこそ、それが真実であると確信できる。

地下空間であるのが忌々しい。このような悍ましい施設、地上にあれば一撃で消し飛ばしていたものを。
胸のうちに渦巻いた感情は、唯の不快感だけではないだろう。けれどもそれがなんなのか、今は理解する必要もない。
兎も角、手早く終わらせるに限る。こんな環境に長居しては、肉体にも精神にもどのような支障をきたすか知れたものではないのだから。

「手厚い歓迎を期待していたのですが、拍子抜けですね
 何処かで歓迎の準備を進めているのか、それともその必要さえないのか」

右手に聖剣を携えれば、左手に魔剣を握る。二刀流、それが紫苑にとって最も馴染んだ戦い方。
ここまでたどり着いたなら後は見敵必殺。遭遇するものは全てこちらの命を狙っていると考えた方がいい。

気配を探りながら、薄汚れた廊下を歩き出す。何処かに誰かがいることだけは確かに伝わるが、廊下に隣接する部屋に人の気配は存在しない。
元からこの区画は利用されてないのか、それとも二人の襲来によって退避を終えた後なのか。
もし後者であるなら、退避した理由はなんだ。もし侵入者を迎撃するなら、このタイミングこそが敵にとっては好機である筈。
それなのに歓迎はなかった。それが意味するものを廊下を探索しながらも考え続けていると――――ほんの微かに、死臭に混じって甘い香りがした。

「………………チッ、毒ガスなんて古典的な手に」

それが敵の目的だった。舌打ちして息を止めれば、全力で廊下を駆け出す。既に気だるさが全身を襲いつつあったが、毒が回って動けなくなる前に気づけたのは不幸中の幸いか。
ガスは遅効性の麻痺毒のようだった。吸い続けてしまったならば、やがて全身を動かすことさえ困難になりかねない、まるで生け捕りを目的とするかのような代物。
事実、それが目的なのだろう。ただ殺してしまう方よりも、捕まえた上で儀式なり実験なりに利用する方が、ここの連中にとっても都合がいいのだろうから。

男に忠告する暇はなかった。注意していれば同じタイミングで気付いている筈だろうし、何より声を出すことで更に毒ガスを吸うのだけは御免だった。

そして走り続ければ、廊下の先に一つ半開きの扉を見つめる。迷わずその扉を蹴り開けたなら、室内へと転がり込んだ上でドアを閉じるだろう。
勿論、彼が付いてきているなら彼が部屋に入ったのを確認した上で。その扉の上には掠れた文字で「礼拝堂」と書かれていたが、部屋の中は薄暗くよく見えない。
281 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/19(土) 04:27:06.44 ID:METAiT22o
>>280

肺に吸い込む空気に混じる違和感……ほの甘いその味を、彼女と同じく見逃さなかった。
もとよりこんなものは常套手段である。毒ガスによる確保を狙うのならば迎撃がないことも頷ける。
だが分かっているからといって耐性なんてものは人並み程度にしか備えていない。長居してよいことは一つもなかった。

ゆえに彼女に続いて走り抜ける。今もって気合と根性で身体能力の低下は避けているが、これが続けばどうなるかは分からない。
行うべきは短期決戦。少なくとも今後もこのガスが続くのならば長期戦に持ち込めばこちらが不利になるだけだ。

そうして突入した一室……照明も多くはなく、薄暗い室内の端まで見渡すことはできない。
ただその中に蠢く何かの気配は感じ取れた。一つではない。複数の存在が動く様子が、姿は見えずとも空気の流れで察知できる。

――それは彼の教団の信者たち。
手には鉄パイプや包丁、チェーンソー。狂気を宿して凶器を携え、不用心にも入ってきた両者を取り囲んでいた。
彼らの顔に侵入者への敵意はない。……笑っている。
やがて誰ともなく、陰鬱な、しかし高らかな声を上げて叫んだ。

浄霊を。

救済を。

祓い給え清め給え。

楽しそうな笑顔を不気味に貼り付けながら、各々の武器を手に二人に襲い掛かってきた。
一人一人の戦闘能力は大したことはない。二、三十人の中に一人でも武術の心得があるわけでもなく、ただ単純に突撃してくるだけの姿は素人そのものだ。
本来戦うような人間ではないのだろう。服装も普通のそれ、街中を歩いている人々と同じようなものだ。特別な意匠が施してあるわけでもない。
普段は変哲もない一般人に擬態していることが予想された。おそらく誰もと同じく、家庭があり、立場がある一市民なのだろう……。

「――死ね」

だが一切の躊躇なく、迎え撃つ断罪の刃が閃いた。
胸に裂いた血液の華。切断された頭部が赤色の噴水と化す。
今こそ罪を清算せよとばかりに、鋼の剣が黄金の光を放ちながら次々と命を奪っていく。
しかし彼らに怯みはない。すぐ隣に立っていた人間が次の瞬間に絶命しようとも、変わらず笑い声をあげながら殺到してくる。
282 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/19(土) 05:08:19.91 ID:p12ltiEWO
>>281

毒のお陰で身体は十全には動かない。しかし十全でなくとも素人を圧倒するには充分な実力を紫苑は有していた。
最小限の動作で突撃を躱しては、すれ違い様に剣戟を叩き込む。ただ突進してくるだけならば、数が多くとも容易に対処していける。

その風貌はどれも一般人に違いないもの。果たして彼等が誰かの手によって狂わされたのか、それとも自ら進んで狂ったのかは定かではない。
そして今重要なのは、彼等は明確な殺意をこちらに向けているということ。ならばこちらも、後腐れなく彼等を斬ることができる。
純白の聖剣と漆黒の魔剣が踊る。二つの剣閃は軽やかに軌跡を描き、舞い散る鮮血さえも演武の華に変えていく。

「……剣に錆びにすることさえ煩わしい連中ですね
 まあ、私の剣はどちらもそもそも錆びませんが」

この信徒は言うなれば有象無象、倒したところで根本的解決には至らない。
必ずいる筈なのだ。地上の家屋にて悪霊を差し向け、地下の廊下にて毒ガスを仕掛けてきた敵が。
それは恐らくこの組織の頭か、それに等しい存在だろう。つまり最優先に斬るべきは、信者の群れではなくその上に立つ何者か。

もう一度、礼拝度内を見渡す。薄暗い室内であっても、目が闇に慣れたことで今は多少なら内装を窺い知ることが可能だった。
構造は一般的な礼拝堂、聖堂となんら変わりない。幾つもの長椅子が並び、その先には祭壇らしきものがステンドガラスに彩られている。
もし、信徒を従える者がいるならどこに立つか。ここが教会であるならその答えは一つ――――目を凝らしたなら、祭壇に立つ一人の人間の姿があった。


「――――とった」

聖剣の切っ先を躊躇わず祭壇に向けて柄を経由して魔力を注ぐ。そして次の瞬間にはその刀身から強烈な閃光が迸る。
その最大火力には及ばずとも、人間一人を消し飛ばすには未だに充分な熱量を誇る、それは聖剣の力によって束ねられし光の奔流。
即ち超高熱量のビームとなって、閃光は立ち塞がる信徒をも飲み込みながら、首領であろう人間を祭壇ごと焼却せんと突き進んでいくが――――

本来ならば、会費も防御も困難極まる聖剣の極光。
しかしここは敵の本拠地、そして敵は死霊を従える程度には実力のある能力者、或いは魔術師であることに間違いはなく。
次の瞬間、聖剣から迸る光が霧散した。まるで目に見えない壁にぶつかって、その進行を阻害されたかのように。
僅かに目を丸くし、そして不機嫌そうな表情を浮かべる紫苑に対して、祭壇の上に立つ人物は何を思うか、静かに笑みを浮かべるのだった。


283 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/19(土) 18:24:41.01 ID:METAiT22o
>>282

胴を薙ぐ。頭部を割る。腕を切り落とし、脛骨を砕き、喉笛を串刺しにする。
振り向きざまの一刀が首を刎ねた。背後から迫っていた一人を見ないままに脇下から突き出した刃にて心臓を穿つ。
袈裟に振り下ろした剣で主要臓器を根こそぎ破壊。手首を返した一文字斬りで脚の腱を切断、行動不能に陥らせてから止めを刺す。
長椅子を蹴り飛ばして数人まとめて転倒させた。苦し紛れに振るわれる武器を容易く払い、一撃で確実に急所を抉ってゆく。

ばらばらと、はらはらと、散華していく命の花弁。
闇に閉ざされた世界に夜明けを告げるように、曙光にも似た金色の光にて照らしながら泥に蠢く悪鬼どもを次から次へと屠っていく。
正しき怒りをその身に宿し、悪の一切を焼き払わんと猛るのは英雄(ぎゃくさつしゃ)の本分だ。
彼は決して悪党を許さない。力なき人々を毒牙にかける塵屑どもに対してやるべきことなど決まりきっている。
判決は確定済。残らず地獄に堕ちるがいいとばかりに乱舞を演じ、“正しい裁き”を下していくその姿はまさしく正義の体現者。

斬り倒されてゆく信者たちにしかし、苦悶の表情はない。
誰もがみな、笑いながら死んでゆく。痛覚が存在しないのか、あるいはやはり、狂気ゆえか。
刻一刻と減っていく残敵の総数。ここにいるのですべてというわけではないだろうが、少なくともここに布かれていた待ち伏せの布陣は功を奏さず正面突破される。
そして両名によって大方が掃討され、終わりを告げるように放たれた光の砲撃は残る信者を滅却しながら首魁と思しき人間へと突き進んでいったが……。

如何なる手管か、防御困難の閃光は直撃する前に霧散する。
傍目から見ても相当に威力のある攻撃だったように思う。それを欠片も通さず防ぎきるということはかなりの実力者なのか。
防御系の異能力者……あるいは腕に覚えの魔術師。先の死霊を考えれば可能性が高いのは後者だろう。
魔術を扱う人間にとって、自己の拠点とは己にとって最強であれる領域だ。
様々な罠を張り巡らすのは言うまでもなく、施し構築した術式よって本来よりも高められた力は程度の差こそあれ達人と呼ぶに値する武芸者をして脅威とさせるくらいには強大。
それを相手取ろうと思うのなら少なくとも小隊規模の人員と相応の武装が必須。性質によってはそれを利用されるということもあるが、ともあれ大抵の場合において少人数では太刀打ちできない。
ましてやそれが達人ですらない力量程度の剣士であるならば……たとえ横に練達の士がいようと死の危険性など今さら論ずるまでもなく高すぎる。

「――――」

しかしそれがどうしたと、静かに剣を構え直す金色の男。
恐怖、気後れ、ともに無し。血と臓物が占有する生き地獄の中においても輝きを失わない無敵の気概が炎を燃やす。
対する首魁の男は微笑んだまま。慈悲すらうかがえる黒い目に両名を映していて……。

「祓い給い、清め給え」

優しく囁かれた呪言が現実世界に浸蝕する力をもって異形の奇跡を発現させる。
現れたのは上階にも出現した魔性の影。この地に堆積した怨念が凝縮された呪いの塊となって再び襲い掛かる。
五体、十体、二十、三十……まだまだ、まだまだ、どれだけ斬り捨てようと際限なく湧き出る無念の亡霊は、この地で産みだされた絶望の程を如実に語っていた。
触れれば“何か”を奪われるその危険性は当然健在。加えて蔓延するガスはいまこの時にも意識を奪おうとする形なき攻撃となって機能している。
消耗戦では分が悪すぎる。一刻も早く術者本体を討たねばならないが、それを成すにはこの包囲網を突破した上で先ほどの防御壁を貫通させる必要があった。
284 :【帰還剣】 [sage]:2017/08/19(土) 20:41:33.42 ID:fBqkNkDGo
夜の街ーーー

「すっかり遅くなっちゃったわね……」

黒のスーツをビシッと着こなし、肩にはこれまた黒いカバン。もう片方の手には、白いビニール袋。
会社帰りのやり手のOLといった雰囲気の装いだが、そんな落ち着いた服装の中で一際映えるショートの白い髪。
ただのOLで片づけるには少し……いや、かなり目立つ彼女は、腕時計で現在時刻を確認して物憂げに呟いた。

「この分だと、色々テキパキ済まさないと明日に響くわね。後回しできることは週末に回さないと」

口振りもただのOLそのもの。普通の人が見たら髪色だけが妙な一般女性としか思わないだろうが……見る人が見れば、その一挙手一投足の隙の無さがわかるかもしれない。

普通の街であればそんなことに気づくような猛者などそういるものではないが、この街は違う。
帰路を急ぎ、少し早足な彼女。その帰り道を邪魔するものが現れるのか……現時点でその答えは神にしかわかりえないだろうが、近いうちにわかるだろう。

//初めてですが、よろしくお願いします。
285 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/08/22(火) 14:57:19.20 ID:2AsY46ur0
>>264


「何?………………ぁっ」

余りにも突然すぎる出来事には、人間叫び声も上がらないらしい。
地上同様に立っていた筈の足場は、突如空中としての本来の性質を取り戻す。
必然的に重力が躰全身にはたらきかけ、その肢体は地面へと落ちていく事になる。
されども恐怖を表現する暇もなかったからか、或いは恐怖ですらなかったからなのか。
自身の置かれた状況を認識した途端に口から零れ落ちたのは、絶叫ではなく小さな歌だった。



「Ты лети с дороги, птица,Зверь, с дороги уходи!」


「Видишь, облако клубится,Кони мчатся впереди!」


「И с налета, с поворота,По цепи врагов густой」


「Застрочит из пулемета Пулеметчик молодой.」


戦闘が習慣として身に付いてない一般人であっても、覚醒めた異能との波長次第で経験足らずでも扱えるケースはある。
そして一般人であるからこそ不測の事態に関しては臆病であり、だからこそそういう事態に置かれた際の対策は脳裏に染み込んでいる。
ひとつの例外を除き日常的に異能を用いる機会のないが故に、空を飛ぶという非日常に対し最低限の用心はしていた。

少女の口唇は宛らにして呟くかの如く囁くかの如く、極々小さな歌声で速やかに細やかに唱えていた。
その行為自体は幾千と繰り返してきた為に、歌声の音量ならびに唇の動きは極小であり、なので魔女の耳朶にも届かないかも知れない。
もしも魔女による何かしらの魔術によって落下が止まったなら詠唱は破棄され、少女は何事もしなかったかの振る舞いを取るだろう。
異能の行使なんて、不必要なら滅多にする事柄でもない。そういう思想を弱者なりの主義として有していたからであった。


/何度も何度も申し訳御座いません。置かせて頂きます
286 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/23(水) 23:53:19.90 ID:WXPAkDwKo
>>285

魔女は落ちながらにして手で顎を擦り、自分の第六感の鋭さに再度舌を巻いていた。
彼女が何も理由なくして、会った人間に悪戯を敢行する例は――数えればいくらかはあるものの――多くない。
この街で自分の気に触れた人間をみつけるということは、即ちそういうことでしかない。そう魔女は信じていたから。

少女の唇が微かに動いたとみると、魔女は目を瞑って耳をそばだてさせる。
そうすれば、風を切る音はしんと止み、その旋律どころか息遣いすら、耳元でささやかれるように聞こえる。

音を操る魔法は空間を操る魔法である。
となれば、魔女にほど近い少女の耳を荒らしていた音も止んでしまうことになる。
少女は歌を止め、戸惑うことになるやもしれない。
そうなれば、魔女は飴を欲しがる幼子のように眉を曲げるだろう。

「いいから、続けて」
287 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/24(木) 01:38:38.14 ID:L9oanuy9O
>>283

聖剣の極光を阻んだのは、果たして純粋な防壁によるものか。否、ならば光は霧散するような消失を遂げるはずもなく、何より物理的な防御であれば容易く突破するだけの火力をこの聖剣は秘めていた。
ならば敵の守りの正体は物理的な現象ではなく、呪術めいた何かに違いない。幸いにも遠距離からの砲撃が通じないからといって、近距離から斬ることまでが封じられた訳でもない。

間合いを詰めて、敵を斬る。やるべきことは至って単純だったが、問題なのはどのように間合いを詰めたものか。
湧き立つは影の軍勢。一つ一つは脆弱で容易く屠れるだけの存在に過ぎなくとも、こうも徒党を組んで攻められては防戦一方、流石に攻めあぐねる。
加えて毒も体に回りつつあった。鈍くなりつつある感覚は肉体に刻み込まれた経験則のみで補ってはいるものの、毒そのものが消える訳でもなく長続きはしない。
結局、状況を覆す方法は一つしかなく、数の差が致命的なものになる前に速攻で畳み掛けるのが、この場に置いては単純かつ明快な打開策に他ならない。


聖剣と魔剣、その両方を構える。方や清浄なる輝きを灯し、方や邪悪なる穢れを纏い、二つの聖遺物がその鎌首を擡げる。
其れは彼女の奥義、聖剣と魔剣という対極の存在を一つに束ね上げ、それらの力を同時に行使するという本来ならば前提からして不可能な術。
陰と陽、光と闇、相反する力を強引に自らの元へと収束させ、矛盾さえも捻じ曲げて単一の力として発現させる――――故に、その名は。

「“相克”」

純白の刀身より閃光が炸裂し、無数の光弾となって影の軍勢に向けて放たれる。宛ら光の雨の如く、聖光の裁きは異形の存在を尽く薙ぎはらうことで道を切り開く。
そして次の瞬間には、彼女の姿はその場所からかき消えていた。それは魔剣の力によって齎される力、肉体の制約さえも無視した超人の域にも達する限界駆動。
湧きあがろうとする影の群れの中を掻い潜り、その先にある聖壇へと達するまでに、一秒という時間さえも必要とはしなかった。電光石火、刹那の進軍、その果てに到達した場所は。


首魁の男の、その背後。


気配も音も齎すより疾く、放たれるのは魔剣の刃がその首を、聖剣の刃がその心臓を、切り裂かんとする致死の連続剣戟。
達人の域に達する技量と、人間の域さえ凌駕する膂力によって齎される二太刀は、認識と反応さえも許しはしない、極限にまで研ぎ澄まされた業。
如何に強力な守りの術を有する術師であろうとも、その術を発動するよりも先に斬られてしまえば――――果たしてどうだろうか?


……聖剣の砲撃は礼拝堂の壁の一部をも崩し、その壁の向こう側にある空間を僅かに覗かせていた。
そこは礼拝堂とは全く違う部屋のようだった。暗闇の中でも辛うじで認識できるのは、幾つにも並んでいる鉄格子の嵌められた扉の存在。
それは独房のような場所だった。捉えた人間を必要とするまで閉じ込めて置く為に用いられた、死と血の臭いが充満する小さな空間だった。
けれども、それらの部屋がその用途通りに使われているのだとしたら――――彼の探し人はその近くにいるのかもしれない。


/間隔が空いてしまい申し訳ありません
ご都合が悪ければ、いつでも破棄してくださっても構いません…
288 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/25(金) 17:37:12.13 ID:0zkswCx/o
>>287

数を増大させ続ける魔影の群れを討伐しながら、達した結論は同じものだった。
このままではキリがない。未だ対抗できてはいるがこのままではジリ貧だ、いずれ数の暴力が対処できない領域まで至るだろう。
ならばその前に術者本人を討つ。強力な召喚術を有する魔術師に対しては有効な戦法であり、これまでも何度か同じ手段で戦ったことがある。

ゆえに判断は早かった、目標は一人。頭目までの道筋を拓き、首代を挙げることだけを考える。
光砲を防いだ防御壁が再び展開されるだろうが突破するのみ。取れる方法がそれしかないのならば、鋼の決意で押し進む。

今までよりも更に回転率を上げて悪霊の影法師を葬り始めたその直後――光の弾丸、いいや砲弾が遍く闇を殲滅した。

着弾と同時に抵抗さえ許されず、この地に縛り付けられた怨念の塊たちが浄滅していく。
瞬きの間に十、二十……再出現より圧倒的に早いスピードで駆逐していく撃破速度に供給がとうてい追いつかない。
結果として一瞬のもとに拓かれる道。彼らの間が一本の線で結ばれた、そう思った瞬間に首魁の首が刎ね飛ばされていた。
同時に斬り裂かれた心臓が全身に巡る血流の動きを止め、生命活動は完全に停止する。今ここに間違いなく絶命した。

「――救いあれ」

なのに――礼拝堂に響いた声は、その男本人のもの。
斬り飛ばされたその首が変わらぬ微笑みを浮かべたまま、飛頭蛮さながらに浮遊しながら穏やかに言葉を紡いでいる。
直後、むくりと起き上るように湧き出た黒い怨霊の群れ。この期に及んでまだ死なない有様は、本当の意味でただの人間を辞めていたということの証左であり……。

――その妄執ごと断ち切るように、振り下ろされた光の刃が今度こそすべての命を終わらせた。
頭蓋骨から縦に両断され、脳漿を撒き散らしながら血に墜落する生首が炎上する。
黄金の炎が闇の穢れを焼き払う。醜悪なる者の存在を許さないように骨まで焼き尽くす火勢は完全に炭化させるまで消えはしない。

金色の焔と聖剣の光。すべてを照らし出すその威光に逃げ場を失ったように、人型の影は溶けるように消滅していった。
セオリーどうり、なのだろう。未だこの地に溜まった呪いと穢れは存在しつづけているものの、それをこのように顕在化させた核は首魁の手によって創造されたものだった。
術者が死滅し、連鎖的にそれが失われたのならもう、“人為的に作られた悪霊”は生み出されることはないだろう。

炎を纏う剣を鞘に納める。無言のうちに、剣士が足を踏み出した。
向かう先は先の砲撃によって崩れた壁のその先。こんな施設にある部屋だ、言うまでもなく碌な用途に使われているなんてことはなく……。

……どんな偶然か、彼女はそこにいた。

眼球を抉りだされ――。
両手を引き千切られ――。
両足は歪な方向にねじ曲がり――。
股間から大量の血が流れた跡がある――。

……懐から取り出した一枚の写真。そこに映っている可愛らしい少女の面影は、もう既にない。
しかし長い栗色の髪が。鼻梁の整った顔の輪郭が。この人物が、紛れもなく探し人であるのだということを残酷なまでに証明していた。
息は、ある。しかし動きも何もなく、外界というものを認識できているかも怪しい彼女は微かに呼吸の上下を見せるだけ。
こんな姿になってしまって……果たして素直に生きていることを喜べるのだろうか。少なくとも本人にとっては、きっと……。

「…………」

それを見下ろす金髪の剣士は何も言わず。しかし心の底から悼むように、しばしの間、瞑目する。
そうして開かれた瞼の奥には、いっそう強く光を放つ眼があった。この悲劇を引き起こした人畜どもを絶滅させると満天下に宣言するかのように。

小部屋に備え付けられた扉の鍵を破壊して、廊下の向こうでけたけたと笑いながら全裸の男を金属バットで殴りつけていた女を斬り捨てた。
同時に事切れ崩れ落ちた被害者にも振り返らず進み、行く先々で惨劇の元凶を殺していく。

……全滅させるまで時間はかからないだろう。蔓延していたガスもどうやら魔術の属性を帯びていたようで彼の男を討ち取った後は限りなく薄まっていた。
どだいもはや頭目を失った烏合の衆、半端に数を揃えようが二人の前では脅威にもなりはしない。ただ刈り取られる雑草も同じ、実に容易く滅ぼされることとなる。


//いえいえ、こちらも気づくのが遅れてすみません!
289 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/25(金) 18:45:22.96 ID:Cosv8Sh20
満月が紅く輝く夜。
繁華街から外れた場所の人気の無い裏路地。
道を照らす蛍光灯は切れ掛けで、定期的に明滅を繰り返している。

その灯りが照らし出すのは惨たらしい殺戮現場。
男が一人と既に事切れた死体が四つ。

死体は身なりから判別するに筋者と言われる者の類か。
とは言っても木っ端の使い走りの様な風体だが。

対する男は血染めの様な紅のアロハを纏った厳つい顔立ち。
全体的に海を連想させる様な格好をしている。
一見陽気にも取れるそんな姿は現状の凄惨さとは全く場違いで不気味ささえ醸し出す。

そして最も異常な事に、現場一帯は踝まで浸かる程の血溜まりが。
いや、漣を立てる"血の海"が覆い尽くしていた。

男はさもつまらなさげに月を見ながら呟く。

「足りねえな。」
「この程度の悪性なら仲間にも要らねえし。」
「地獄にくべる贄にしたって下等も良い所。」

「オレが求めンのはもっとイカれた野郎だ。」

更なる贄を。更なる悪を。
男は喰らう。やがて至るべき地獄、そしてその先の為に。


/ひとまちです
290 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/25(金) 20:12:27.11 ID:0zkswCx/o
>>289

――古人に曰く、類は友を呼ぶ。
たとえばオカルト愛好家たちが大学サークルを作るように、何かを好む人間はそのジャンルごとに仲間を見つけ出して集い、楽しみを深めていく。
このさい気が合うか合わないかはさほど問題にならない、重要なのは気質が共通しているか。
たとえお互いを蛇蝎の如く嫌っていても、思考回路が似通っていれば自然と一か所に集まることとなる。

その際たる例がこの街の裏側に堂々と存在している闇社会であることは間違いないだろう。
自分の利益のためだけに他人を騙し、気に入らないやつがいるから陥れ、頭に来れば口より先にぶん殴る。
各々好む手段は様々であるものの、本質にあるのは自分のためなら他人など食い物にして当然という悪の理屈だ。
この街に集うのは碌でもない輩だけ。まっとうな人間はこんなところに出てこない。なぜなら来てしまった瞬間に手酷い目に逢され、社会的に、あるいは物理的に二度と日の目を見られない体にされてしまうから。

弱肉強食、排斥擠陥。隙を見せた奴から殺される。危険極まりない暗黒の法則は当然ながら“こちら側”の住人にも適用されるのだ。
ゆえにこの一帯で人死には珍しくもない。裏社会に棲まうものどもからすれば日常茶飯事の出来事で、人間の死体なんぞ轢かれた動物くらいの感慨しか抱かない。

……しかしそんな連中からしても、この一件は些か妙と言わざるを得なかった。
物理的に血の海ができることはたまにあることだが、何せ規模が違う。性質が違う。
これほど大量の血溜りが形成されるなら、少なくとも数十人単位で人が死んでいなくてはおかしいというもの。四人が死んだ程度でこうはならない。

そしてその中心に立つ男……闇の住人たる嗅覚がその脅威を嗅ぎ分けたのか、周辺には人がよりついていなかった。
遠巻きに眺めている人間すら皆無。まるでそこだけ見えない壁でもあるように、周辺十数メートルに渡り空白地帯が出来あがっている。

「――ほう、随分とまあ派手にやらかしたもんだ」

その緊張を意にも介さず歩み出る男が一人。
でかい。体格自体は大したものではないものの、百九十を越す長身は雑踏の中でも頭一つ抜けている。
紫のシャツにノーネクタイ。着崩したスーツは一見して筋者のそれだ。
ただ目立つのは白い蓬髪に真っ赤な両目。愉快気に吊り上がった口角は笑顔を形作っているが、それが有する“本来の意味”を連想させるくらいには凶相と言って差し支えなかった。

「そいつらの“童貞卒業”記念に呑む予定だったんだがねぇ。いやはや残念無念、人生ってのは何が起こるか分からねぇなぁ!」

けらけらと笑う姿、口調に敵意はない。ただ純粋にこの状況を面白がっている。
そう、楽しんでいるのだ。言葉が事実だとすれば親交のあった四人を殺されて、その死体を前にしているというのに、恐れも怒りも微塵もない。
大抵が屑というべき暗黒街の人間としても異質な……理解できない思考回路がそこにある。


//よろしくお願いします!
291 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/25(金) 20:54:19.37 ID:Cosv8Sh20
>>290
そしてこの街に於いてこう云った血生臭い現場というものは。
ある種の撒き得として機能する。

それは殺人者を見過ごせぬ正義面の輩か。
――或いは同類か。
兎に角闘いに飢えた人種を誘き寄せる種となる。

「一人増えたな。」

笑み。歯を見せる行為は本質的には威嚇から派生したものである。
――故に。男もまた口角を吊り上げる。

「じゃア、手前はコイツ等のお仲間ってことか。」

相対すスーツの男は自らを超す巨躯の持ち主。
そしてこのような現場に居合わせて尚"笑う"様な録でなし。
恐らくは能力者かそれに相当する何かを持つ様な人物だろう。

「そりゃあ悪いことをした。」
「で、どうする?」

口調は全く悪びれもせず、寧ろ挑発的でさえあり。

けらけらと嗤うスーツの男へ向けるのは。敵意、害意ではなく純粋な興味。
仲間だったであろう者達を殺されてなお悦楽の様相を見せる相手への。

「まァ尤も、現場見られた以上は只ででは帰す訳にはいかねェがな。」

アロハの男はまだ戦闘態勢をとっていない。
この言葉の裏返しはこの場を去ろうとするなら敵対するという意味だ。


/こちらこそ宜しくお願いします!
292 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/25(金) 21:43:55.29 ID:0zkswCx/o
>>291

――こういう現場を押さえられたやつは大抵、平静ではいられない。
当然だ、半ば黙認されているとはいえ殺人は殺人。ことによっては大事になりかねないし、脅迫できる弱みにも成り得る。
そして動揺が無かったとしても、あるのは静謐な殺意の類。見られたからにはそいつも殺すという玄人の考え。
ともあれ殺す、黙らせる、口封じに始末する。そういう手段に出ざるを得ないから、どうでもこちらに襲い掛かってくるのがよくある次の展開なのだが……。

しかし、こいつはそうじゃなかった。
ただでは返せないと言っているしその言葉は狂言などではあるまいが、あって然るべき殺意というものが現状表出していない。
こんな街で暮らす以上、害意の類には敏感だ。それでも巧妙に隠しているとか、そういう気配すら見えない。

であるなら自分と同じ類の奴か? それとも見られていようが関係ない、四人や五人の殺人など簡単に揉み消せるどこぞの組織の重鎮であるのか。
いずれにせよ只者ではないなと判断する。こんな輩はここでもそうは多くない。

――面白い。

「そうさな、こっちとしちゃあ“どっちでも”構わねぇ。何にせよ楽しくなるとは思うが……」

となれば次はどうしようかと考える。
きっとどうあれ愉快になれるだろうと思っているのは言葉の通り。
普通じゃないやつはどう足掻いても他と違うから、なかなかやれない面白さがあると確信している。

だから巡らせるのはどうするのが一番いいかと勘定する思考だ。
どうせならより楽しい方がいいに決まっている。十の楽しみより百の楽しみだ、大きければ大きいほど満足できる。
さてそういう具合に転がすにはいったいどうするのが正解なのだろうか。観察しても外見から窺えることなどたかが知れている。
人間、最も愉快なのはその内面である。裡に抱えた情動が巨大であれば、比例するように他者を巻き込んで愉快な宴を巻き起こせると相場は決まっていたから……。

やおら手に持っていた何かを、男の方へ放り投げる。

「――とりあえず呑みに行こうぜ。これも何かの縁だろう、“卒業祝い”はくれてやるよ」

それは酒瓶。見た限り爆発物の類などは仕掛けられていない。結構いいやつなんだぜと笑う顔に罠に嵌めてやろうという陰謀めいた気配はなかった。
……あまりにおかしな対応だ。曲がりなりにも仲間であった人間を殺した相手と呑みに行こうとするなど考えられることではない。
しかも相手の実力を見抜いて殺されないために媚びておこうとか、ついていけばおこぼれにあずかれるかもしれないからゴマを摺っておこうとか、そういう諂うような感情はまったくない。
まさしく道端で友人に出くわしただけのような。どこまでも気軽に誘う男は、一目で分かるほど人間として破綻していた。
293 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/25(金) 22:10:44.04 ID:Cosv8Sh20
>>292
この男が殺害の現場を押さえられて尚平然としているのは。
四人や五人の殺人を揉み消せる組織のものだからではなく。
四人や五人など既に数えるまでも無く殺してきたが故。

そして更に云えば、表立って動くつもりはまだ無いが。
漏れ伝わって仲間が報復に来る様ならばそれごと喰らう積もりでいる為である。

男には今の所は組織だった後ろ盾など無い。
それは此れから創り上げるものだ。
尤も男の構想にある其れは組織などとは呼べるものでは無いのだろうが。

投げられた酒瓶を受け取り。
地表を満たしていた血溜まりは一滴残さず地へと染み消え去る。

異様だった光景にもこれで合点がいくだろう。
詰まりはこの男の異能の力だったのだ。辺りを覆い尽くしていた血の海は。

「仲間を殺されておいて飲みに誘うなんざァ、イカれてるな手前。」
「良い。その誘いに乗ってやろう。」

其れは威嚇としてか只の笑いか凶暴そうに牙を剥く。

「だが"表の"酒場には行かんぞ。これでも潜伏中の身だ。」

下手に着いて行って察に押さえられてはたまらない。
最悪その場合はその酒場が文字通り血の海に沈むことになるのだが。

「ちょうどオレの隠れ家の一つに酒場だった場所がある。」
「少し行った廃墟街になるがそこでどうだ?」

男の真意は、どうなのだろう。
仮にもアジトの一つを見知らぬ男。しかも先程殺した者の仲間に教えるなど。
或いはそこで口を封じるつもりなのやもしれぬと思われるかもしれない。

其れに対する反応も含めてのこの提案だった。
294 :【創世姫唱】 [sage saga]:2017/08/25(金) 22:18:56.83 ID:WpD5kz7i0
>>286

高所からパラシュートもなしに落下するのだから、凄まじい風切り音が鼓膜を揺さぶり続けるのは必然であった。
本来なら自らの発声すらも耳では認識できないその大騒音は、未だ空中にいるにも関わらず消失する。
原因が何なのかはすぐに理解った。そもそもの空を飛んでいるという異常を為した彼女を見据え、半ば呆れ気味の視線を送る。


「Эх, тачанка-ростовчанка,Наша гордость и краса,」


「Приазовская тачанка,Все четыре колеса!」


それらの異常を把握してもなお、歌うのを止めたりはしなかった。
たとえ魔女が何かしら話しかけていたとしても、その総てを聴いた上で反応は一切しない。
こと音に於ける集中力には自信があった。彼女にとって、自分の声を自分の声と認識するくらい造作もない。
魔術の干渉前から自分の歌声と周囲の轟音との聞き分け程度は出来ており、話し掛けられた言葉を理解した上で途切れずに歌い続けられる。
もっとも一度歌うのを止めたりなんてしたら、こうして冷静を保てている狂気的な正気を失ってしまう自信もあった。


「Yetzirah――――тачанка外法蹴散らす気高き虐輪(タチャンカ)=v


その号令を皮切りに、少女ならびに魔女の足下に硬質な床が発現し、ふたりはそれ以降の落下はしないだろう。
ふたりを乗せていたのは、云うならばチャリオットとでも形容すべき巨躯なる無蓋馬車であった。
喧しい雄叫びを上げながら先頭を奔る二頭の巨馬が、後方の車体を引っ張りながら駆け下りていく。
魔女の箒よりもだいぶ乗り心地の荒れる馬車の手綱を握り、歌の紡ぎ手は綱の代わりに音を疾走させる。


「Ты лети с дороги, птица,Зверь, с дороги уходи!」


幾度も幾度も繰り返し繰り返し――――――その音に呼応し、巨馬は蹄を空気音で打ち鳴らしながら地上へと向かう。
馬車を操っている最中の少女は、一度とて瞬きはせず、一滴とて汗も垂らしはせず、そして一瞥とて魔女に視線はくれてやらなかった。
そのまま何事も起こらなかったなら、地面寸前で馬車に唐突な浮遊感が訪れ、やたら緩慢な動作で降り立つ事になるはず。
295 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/26(土) 03:48:29.41 ID:otss4MSFO
>>288

鳴り響いたのは実に不快な声だった。耳が腐ると思うほどに。
その存在が消え尽きるまで極光を叩き込もうとするものの、それよりも先に男の剣が叩き込まれたことで紫苑は魔力を消耗せずに済むことになった。

そして彼女は男に追随して奥の小部屋へと足を踏み入れる。
そこに居た者の姿を確認しても、彼女の表情は変わらない。ただ、ぽつりと呟いただけ。

「……救いなんて、ありはしない」

結局のところ救いと呼べるものは最初から存在しておらず、彼女はそれを承知の上でこの仕事を引き受けたのだから、怒りや嘆きと呼べるような感情の発露を見せる筈もない。
或いはただ噛み殺しているだけなのかも知れないが、幸いにもここは薄暗い血の底に広がる空間、ほんの些細な表情の変化など、他者に見られる可能性など皆無に等しい。

だから彼女は淡々と剣をふるう。軽やかに踊るように、残された敵を次々と一刀にて斬り伏せていく。
残されたのが烏合の衆であるならば、この二人が遅れをとる道理などありはしない。殲滅に要した時間は計るまでもない一瞬のことだった。
死の臭いと血の臭いでこの空間が満ち溢れる。それは古いものから真新しいものまで、この地下で失われた数多くの命の怨嗟に他ならない。
当然、その中には二人の剣士によってたった今断たれた命もある。最も、紫苑は飽くまで恨まれようが呪われようが、自分が斬った相手の怨嗟など歯牙にもかけないだろうが。

血糊を払い、両剣を鞘に収める。魔力は大方消耗し、魔剣の代償による苦痛も決して無視できないものであったが、一通りの動作に関して支障をきたす程でもなかった。
そして、これにて依頼は完了。邪悪な宗教組織は致命的な損害を被り、首魁となる人間も討ち果たしたことによってこれからはその機能を停止せざるを得ないだろう。
よって紫苑がこれからすべきことといえば、依頼完了の連絡と口座への入金確認のみであり、これ以上このように陰鬱な空間へ長居する理由など存在しなかったが。

結局、未だ息のある被害者は少女一人だけだった。
他の小部屋に囚われていたものは全て、言葉にすることさえ憚れる程に凄惨な末路を遂げていた。
最初からこの結末を予想はしていた。だから彼女の目的には生存者の救出という項目がなかった。
それでも、たった一つだけ溢れなかった命の灯火はあった。立ち去るという選択肢もあった筈だが、紫苑はその娘の側で歩みを止めていた。

「貴方の目的の内一つは果たせましたが、もう一つはこの顛末
 予想できた事とはいえ、まあ、慣れませんね……慣れてしまえば、それこそ終わりでしょうが」

両眼を抉られ、四肢を割かれ、奪われ嬲られ続けた果てに辛うじで生き永らえた命。
けれども、それは“救えた”と表現してもいいのだろうか。紫苑には解らないだろうし、これからもきっと解らないのだろう。
ただ、救いたいものを救えなかった時に抱く、あの暗く淀んだ痛みだけは、今も胸の中に残り続けていた。割り切らなければ、押し潰される痛み。

「……貴方はこれから、この娘をどうしますか?」

三つの命だけが残された暗闇の中、少女は男を見据えて尋ねる。
その表情は闇に隠されて、決して見えることはない。
296 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/26(土) 18:53:38.19 ID:g5Yl/r9mo
>>293

……足元を浸蝕していた血の海は、如何なる理屈か残らず地面に沈んでいくように消え去った。
それを前にしてほお、と声を漏らす男。なるほどこれは、いわゆる異能力者というやつかと。

魔術、呪術、あるいはそういった体系化されていない異質なチカラ。
先天的に宿している場合もあるし、後天的に得たケースも実在する。
科学者と呼ばれる人種からすれば噴飯物の概念なのだろうが、各地でいくつも観測されている証拠があるとなれば認めるほかはない。
未だその実態は解明されておらず、日夜研究者たちが正気も狂気も問わずに学究の道を邁進している。

まあ――他はどうかは知らないが、この街においてはさほど珍しいというわけでもない。
この地にどんな因果が渦巻いているのか、世界各国各地域に比べれば異常なほどに異能力者と呼称される存在の密度が多いのだ。
犬も歩けば異能力者にあたる……なんてほどじゃないが、十人並べれば確実に一人はそういうチカラを有していると言わしめるほどの人口密度。
その事実を隠匿している者もいれば、詳らかに公表して思うがままに振る舞っている人間もまた。

……どうあれ。そういう連中が普通と違うのは、言うまでもなく誰でも分かることであり。
ゆえに悦楽を求める男は喜んだ。只者じゃないと思ってはいたが、いいぞこれは面白いと。

「あァ構わんぜ。どうにもむさくるしい限りだが、たまには男二人の酒宴も悪くなかろうよ」

危険な誘いに躊躇いなくこちらも乗った。

今さら何をと思うかもしれないが、常識的にはありえない。
そして俄かには信じがたいことだがこの男、これでも理屈に沿って物事を考える頭はある。

罠かもしれない――。
待ち伏せを食らうかもしれない――。
隙を見つけて寝首を掻かれるかもしれない――。

そうだろうな、ああそれで?
これがトラップである危険性など無論のこと承知している。酒を呑んで語り合えば人類皆兄弟――などと、そこまでお花畑の奴はとっくに死んでいる。
脅威、暗雲、余さず納得。行く先にほの見える黒い結末を確かに見据えて、それでも面白いからと一顧だにせず突撃するのがこいつだ。

……一見すれば無警戒にも思える奔放さを見せながら、アジトへ向かう男についていくだろう。
297 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/26(土) 19:58:17.94 ID:Vb3nDAcr0
>>296
相手の反応は、一切の躊躇なし。
考え無しの阿呆と云うには少々纏う雰囲気が違う。
これはリスクを承知の上で躊躇いなく足を踏み入れるそう云う手合いだ。

「むさくるしい……か。」

スーツの男の発言を聞き、くくと嗤うアロハの男。

「オレはちょっとしたライフワークの一環で気に入った悪党共に声を掛けてんだが。」
「ついこの間、娼婦の真似事なんかしてやがるガキにも其処を教えてやったのさ。」

アジトへと向かう道すがらそんなことを話した。

街の灯りからは次第に遠ざかり。
視界に映る建物から生活の色が褪せていく。
割れた窓ガラス、罅入ったコンクリート、切れた街灯。

廃墟の街の一角にその建物は在った。

シャッターが降ろされ外観は凡そ昔に打ち捨てられたであろうBARの様だ。

裏に回り隠し戸を潜り内部へ入れば、
思ったよりも整頓された酒場が姿を現すだろう。

灯りは外へ漏れ出さぬ様に最低限。
テーブルも椅子もそれなりに奇麗な状態の物が置いてあり、
壁にはダーツの標的なんかも掛けられている。
戸棚には数種類の酒瓶なんかも確認できるだろう。

このアジトは特にいずれ同類などと落ち合う場所として確保した根城だ。

「さて、場所は用意してやったぞ。」
「まさか手前も只飲みに誘っただけなんてことは無ェだろう?」

カウンターからグラスを二つ持ってきてテーブルに置く。

「オレの名はガグエル。ガグエル=フォーランドだ。」
「先ずは名を聞こうじゃねェか。」
298 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/26(土) 20:00:56.66 ID:g5Yl/r9mo
>>295

断罪の刃が闇のすべてを斬り裂いていく。
逃げようとする者はいなかった。誰しもがみな各々の武器を手に携え、救済を叫びながら笑って死地に飛び込んでゆく。
そうして当たり前に潰えていく数多の命。彼らに逃げるつもりがなく、そしてこちらも逃がす気がない以上、結末は一つしかありえなかった。

変哲もない青年を――痩せた妙齢の女を――恰幅のいい中年男性を――身なりの整った美女を――。
斬って、斬って、斬り捨てる。徹底的な殺戮はもはや戦いと呼べるものではない蹂躙だ。
例外はない。慈悲もない。生命を奪う重さを確と認識しながら、それでも躊躇いなく殺して殺して殺し続ける。
罪ある者を赦さないと叫ぶかのように。静謐な面持ちの奥に極大の憤怒を秘め、弾劾する怒声の代わりに鋼の剣を唸らせた。

――――――。

……糜爛した熱を血の雨が冷却する。

掃討はつつがなく完了した。悪夢の住人たちは一掃され、残っているのは彼らと「彼女」の三人だけだ。
これにて悪鬼の宴は終焉を告げる。首魁が死に、構成員のほとんどを失った今、教団に大したことを為せる力は残っていない。
むろんすべてのメンバーが一堂に会していたわけではない。その中には警察上層部に名を連ねる人間もいるが、拠点に保管されていた資料からもはや素性は割れている。
直接的な刃の報いを逃れた者たちは、これより正当な手続きを踏んだうえで地獄に堕ちてもらう。そうとも絶対に逃さない。

だが……。

「…………」

目玉を抉られ、四肢を砕かれ、人間としての尊厳すべてを踏み躙られて。
それでも生き残った――“生き延びてしまった”少女にとって、そんなものが何の救いになろうか。

仇は討った? 報いは下った? 君をこんな風にした悪人どもは全員死んだ――だから?
履き違えてはいけない、もはやこの娘は“失った”のだ。砕かれた心と身体は何をどうやっても元には戻らない。
災いの元を絶てば誰もが救われ大団円、というふうにはこの世界はできていない。深く傷けられた人々は大半が二度と立てないままに終わってしまうのが虚しいこの世の現実だ。

「……やるべきことは決まっている。この娘を家族の下に帰す」

これは断じて、彼らが望んだ結果ではないだろう。
頼れるものはなにもなく、唯一の希望を賞金稼ぎに託して待つしかできない歯がゆさ。
心から涙を流し、愛する我が子や姉を想う善良な人々に対して……もたらせる結末は、こんなもの。

せめてあと二日、いいや一日でも早く本拠地を発見できていれば、これほどひどい状態にはなっていなかったのかもしれない。
彼女を指して命があるから救えたなどと、口が裂けても言えるものか。どうしようもなく力の無い自分自身が殺してやりたくなるほど憎い。

皮膚を突き破らんばかりに強く、拳を握りしめる。

「彼女は生きているのだ。姿かたちがどうなろうが家族の愛情は変わらないと信じるくらいには、偽善をやらせてもらう」

もしかしたら――もしかしたら、いっそここで命を絶ち切ってやることこそが、彼女にとっての救いとなるのかもしれない。
これから先、生きるのならばとてつもない苦難が待ち受けている。それは本人にとっては言うに及ばず、彼女の側にいる人たちにとっても同じ。
まともに動くことすらできない身体。完全に破壊され、外界を受け入れることのできなくなった精神。
向けられる世間の目は辛いものとなるだろう。それが同情であれ侮蔑であれ、もう絶対に元の平穏な暮らしには戻れない。

だが、それでも……彼女を愛してやってほしいと思うから。
罵倒も呪いも受け止めよう。すべては自分の不徳の為すところだ。返す言葉は持っていない。
しかしだからこそ足を止めずに前へ進むことが報いとなるのだと信じている。ぽっかりと空いた眼窩を見つめる双眸には彼女を悼む色と、それを上回る決意の光が宿っていた。
299 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/26(土) 20:31:29.10 ID:g5Yl/r9mo
>>297

「ほうほう、それはそれは!」

そいつはなんとも楽しそうな趣味をしてやがるじゃないかと笑い返す。
別に乳臭い子供を抱く性癖なんぞありはしないが、彼が付き合う人種の中にはその手の趣味のヤツもごまんといる。
そういう連中は大抵、上手い具合に隠しているものの地金が露出すればまあ面白いものだ。それまで溜まってきたコンプレックスが一度に噴出して、もうそれはそれは楽しいことになる。

獣と化した二十そこらの男と、そいつに喰われる餓鬼の悲鳴。どちらも大好物だ、酒が進む。
まともな倫理観など暗黒街では塵と同義だ。そういう道徳心みたいなものを持っているやつは速攻で死ぬ。
たまに迷い込んでくる善人どもをうまいこと誘導して破滅していくのを見るのもなかなか面白いのだが――ああいかんいかん、ここらへんでやめておこう。

……不健康なネオンが占有する繁華街、裏社会の区画を過ぎて、うらぶれた廃墟の街に差し掛かる。
一歩すぎれば別世界みたいなもので、こっちとあっちでは様子がまるで違う。住人どころか乞食すら存在しない様相はスラムというにも不十分だ。

さてこの辺りはどうしてこんなになってしまったのか。確か以前に虐殺やらがあったんだったか、いやどうだったかなと朧な記憶を探る……。
途中に、目的地にたどり着いた。どう見ても機能していないそれは一見してこの街に間違いなく溶け込んでおり、よく観察しなければ一抹の違和感すら抱かない。
しかし中に入ってみればなかなかどうして。てっきり荒れ果てたそのままに使っているかと思いきや、割合きれいに整頓されている。
表社会のそれに比べれば確かに衛生の面では劣るのだろうがそんなものは裏の酒場では当たり前だ。いちいち埃がどうだのガラスがどうだのほざくやつは銃で撃たれて死ぬ。

どっかりと椅子に腰を下ろし、適当な酒瓶を持ってきてグラスに注ぎながら名乗りを返した。

「ゲアハルト・グラオザーム。いや、ただ呑みに誘っただけだぜ」

度数の強い酒を一息に煽りながら、吐き出したのは否定の言葉。
本当にただ呑もうと思ったというその言に嘘はない。何か特別な話があるというふうでもなさそうだ。

「まぁ強いていうならあんたの腹の中をお聞かせ願いたい、ってところかねぇ。本音をぶちまけるのに酒は必要だろう?」

早々に干した杯に再度アルコールを入れながら、何とはなしに言葉を流す。
そしてまたちびりと傾けつつ目を向けた。

「――それに、殺り合うのは一杯やってからでもできるしな」

血のように紅い双眸には無邪気なまでの暴力性が宿っていた。
それはさながら少年が戯れに蟻の足を引き千切るような。罪悪感もなしに気まぐれに他者を害する、最も悍ましい悪性の形がそこにある。
300 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/26(土) 21:08:46.90 ID:Vb3nDAcr0
>>299
こちらも酒をグラスへと注ぎ、一杯煽る。

「腹の中か。ゲアハルト、手前はさっきオレが殺した連中の仲間だそうだな。」
「それをどう思ってる?」

少なくとも先刻の反応を見るに復讐に燃えているなんて訳ではなさそうだが。
だがそれでも争いの火種になり得るのは事実。

「少なくともオレは必要だから殺した。」
「尤も、連中じゃなければならなかったって訳でも無ェ。」

暴力的な灯を宿す紅い双眸を見やりながら男は続ける。

「嘗て【聖王の騎士団】と云う悪党共の集いがあった。」
「今はもう幹部連中も構成員も皆姿をくらましちまって動いていないがな。」

「オレも一時期其処に所属したことがある。」
「連中は"地獄"をこの世に顕現させようとしていた。」
「その為に人間の魂を蒐集していたのさ、殺すことでな。」
「其処に惹かれてオレの方から参入した。」

「手前もさっき見ただろうが、俺の能力は血の海を。」
「血海地獄の片鱗を此方へ召喚するものだ。」

「詰まりはだな、オレは地獄を創りてェのさ。この世界に。」

語りを進める内に男の深紅の瞳の奥にも熱が宿る。
煮え立つようで底の無い地の獄の血海をそのまま顕したかの様な熱意。

「つう訳でだ。アンタのお仲間には地獄を呼ぶための贄になって貰った。」
「オレからは特に釈明なんぞ無ェがどうする、殺り合うか?」

ガグエルは飽く迄冷静な口調でそう告げた。
もし相手がそれに応じる様ならそのまま戦闘に入るだろうし、
そうでないならこの物騒な晩酌を続けるだろう。

この男の悪性は歪んではいるがある種の理屈の上に存在するものだ。
個人的嗜好で興が乗った時などは別として、殺しにも一定のルールを定めている。
301 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/26(土) 22:12:20.21 ID:g5Yl/r9mo
>>300

双眸に垣間見えるのは混じりけのないチカラの気配。闇を住処とする人面の獣に相応しい、碌でもない人種特有の空気が滲み出す。
……しかしそんなものはこの男の常である。周囲を威圧するような雰囲気も、それでいて集団の中に“するり”と入っていける社交性も、すべてが素であり不自然に作っているものはない。
仮にそんなものがあったとしたらたちまち見抜かれてしまっていることだろう。必要とあらば演技もするが、さして得意分野でもないのだ。

ゆえに今のところ、そのような空気感はあるものの敵意も悪意も持ってはいなかった。
二杯目のダブルを飲み干し、顔色一つ変えずにもう一杯と注ぎながら興味深げに耳を傾ける様子には好奇心以外はないように見える。
誰かの話を聞くのは嫌いじゃない。別に行儀のよいお勉強が好きなわけじゃないが、人間が観測できるのは己というフィルターを通した景色だけだからそれ以外の物語は面白い。
人に歴史ありだ。鮮烈に輝く人間の人生ほど極上の肴はない。そりゃあ呑むペースも早まろうというもの。

そうしてひとしきり話を聞いて、投げられた問いに口元を歪めつつ、透明なグラスの中で揺れる琥珀の液体を照明に透かして眺めた。

「そうさな、確かにあいつらは仲間だったよ。それなりに楽しくやってたさ」

どうしようもない連中だったがなと笑い、また一口飲んだ。
強い酒精が喉を通ってゆく感覚を味わいつつ、彼らと過ごした日々を回顧する。
ああそうだ……確かに仲間だった。友人だった。どいつもみみっちい小物だったがなんとなくダラダラと愉快な奴らだったのだ。
十把一絡げ、どこにでもいる小悪党の類だった。それでも彼なりに好ましく思っていたし、そのうち別れることになるだろうがそれまでは面白おかしくやっていこうかと思っていた。

「――だがまあいいんじゃねぇか? あいつらが死んでくれたおかげで、お前さんみたいなのに会えたわけだしなァ」

友情を感じていたのも本当。好意があったのも本当。もし彼らが眼前の男に絡まれていたら助けに入ってやろうとしたくらいには、心情は彼らに傾いていた。
なのに死んでしまったら仕方ないと即座に切り替え次の楽しみを探す、その在り方……単に薄情というには違う異様さが垣間見える。
確かに死んだ人間のことをいつまでも引きずっていてもしょうがないのかもしれない。しかしこうまであっさり切り替える性格には、ある種の執着の無さが窺える。
まるで遊び終わったゲームをおもちゃ箱に仕舞ったまま思い出しもしない子供のような……人間が人間と付き合う精神状態とは絶対的に何かが違っていた。

「俺はさっきも言った通りさ、どっちでも構わんぜ。お互い人死になんぞ気にする性格でもなかろうよ」

今は友好的に話しているが、そうと決まれば即座に躊躇なく殺しにかかるのだろう。
二面性がどうとか、裏に抱えた思惑があるとか、そういうことでは一切ない。
この男はあるがまま、素のままに“こう”なのだ。まったく平常な状態で、笑い合った者たちを気分や流れで血祭りにあげる危険性を有している。
302 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/26(土) 22:28:12.69 ID:vHddHPRXo
――月が夜空に躍り出ても、蒸し暑さは消えずに残っている。
ブロンドヘアを方の辺りまで伸ばし、カーキのトレンチコートを羽織った女が広場に一人。
右手にビール缶を持ち、左腰に提げられたナイフは月光を反射していた。

「……一人で呑むのも気楽でいいな」

グビ、グビと喉をビールが下っていく。
ほろ苦い風味が口の中に広がり、ビール缶から口を離すとぷは、息を吐く。
酒が入った女の頬は、薄らながら紅に染まっていた。


「そういえば、アイツはどうしてるんだろうか」

メルヴィン・カーツワイル。ワイルドハントのメンバーの一人だ。
未だに彼から依頼の一報は届かぬままで、結局あげた名刺も無駄になっているが。
彼も闘いに身を投じている人間だ。何時急に死ぬのかなど分からない。


――さて、広場に来たものが居れば気づくだろうか。
ナイフには微かに血がこびり付いている。それも、まだ黒ずんでいない。
先程依頼を終わらせ、現場を離れて酒を嗜んでいるという訳なのだが。
303 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/26(土) 23:13:39.59 ID:flyoapT90
>>302
「今日は色々買って貰っちゃた〜 ありがとう! オジサマ!」
『すくねちゃんの為ならこれくらいお安い御用だよ』

ベンチでは一組の男女が楽しく談笑していた。
男は老年に足を踏み入れかけた中肉中背で、高そうなスーツと悪趣味な金色の指輪が金満さを物語っている。
女の方は黒のショートカットで10代半ば。ロングサイズな上にワンサイズ大きいパーカーを羽織っているが華奢なのが良くわかる。片方の耳にはピアスを複数付け、爪には赤と黒のグラデーションのネイルアートを施して、全体的にバンギャルというような雰囲気を放っている。
そんな二人の関係は、端から見てわかるように援助交際か娼婦を買ったか、それに近い物であった。

「じゃあね! 今度休みが出来たら連絡するから! 楽しみにしててね!」

耳に息が当るくらい顔を近づけ、解れの挨拶をした。
第三者が見れば明らかに脈が無い関係なのだが、男の方は完全に虜のようで暫く手を振ってからタクシーで何処か向かった。
それを見計らって、鞄の中から古臭い本を取り出す。男と一緒に行った美術商から持ち出してきたある芸術家としても高い評価を得ているナイフ職人のレゾネだ。

「East Nornシリーズねぇ…… あの男から毟れる金じゃまともに買えそうにないな……」

噴水の淵に腰を落とし、本を読んでいると目線の先に、本に載っている物と同じナイフを見つけた。
そしてこんな熱い時期には似合わない恰好をした女性……もしかしたら……
わざと遠回りをして近づく。

「暑いー… 隣、失礼するよ」

遠回りついでに買ったラムネを持って、有無を言わさず隣に座る。

「素敵なナイフですね?」
304 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/26(土) 23:28:06.22 ID:vHddHPRXo
>>303

近くのベンチで、一組の男女が談笑しているようだ。
話している内容を聞けば、女の方は娼婦かそれに近いもののようで。
ビール缶を持った右腕をまた動かし、ちびちびとまた呑んだ。

やれやれ、彼女も自らも闇社会の一員だ。
そうでもしなければ生きていけない。この女も例外ではなかった。
置かれた立場に文句はないが、それでも一般社会から見れば排除されるべき存在なのだろう。


――ふと視線を外した隙に、隣に彼女が座ろうとしていた。
別に嫌な気はしなかったし、得物もきっちりとホルスターに収めている。
当人は酔っているものの、ナイフを振るうとなれば酔いも覚めるだろうと。

「んぁ?このナイフか」

腰のホルスターに収まっているナイフ、“East Norn mod.14”を取り出す。
使い古されているように見えるが、グリップも刃もしっかりと整備されたそれ。
それを掌の上に乗せるようにして彼女の方へ見せた。

「なんだ、ナイフに興味でもあるのか」
305 :【帰還短剣】 [sage]:2017/08/26(土) 23:50:42.21 ID:7+znn4wro
夜の街ーーー

「すっかり遅くなっちゃったわね……」

黒のスーツをビシッと着こなし、肩にはこれまた黒いカバン。もう片方の手には、白いビニール袋。
会社帰りのやり手のOLといった雰囲気の装いだが、そんな落ち着いた服装の中で一際映えるショートの白い髪。
ただのOLで片づけるには少し……いや、かなり目立つ彼女は、腕時計で現在時刻を確認して物憂げに呟いた。

「この分だと、色々テキパキ済まさないと明日に響くわね。後回しできることは週末に回さないと」

口振りもただのOLそのもの。普通の人が見たら髪色だけが妙な一般女性としか思わないだろうが……見る人が見れば、その一挙手一投足の隙の無さがわかるかもしれない。

普通の街であればそんなことに気づくような猛者などそういるものではないが、この街は違う。
帰路を急ぎ、少し早足な彼女。その帰り道を邪魔するものが現れるのか……現時点でその答えは神にしかわかりえないだろうが、近いうちにわかるだろう。

//流れちゃったので再掲……書き直した方が良ければ直します
//初めてですが、よろしくお願いします。
306 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/27(日) 00:00:55.04 ID:XmHni1ly0
>>304
「んーと…… とゆーか、芸術品全般?」

全くの出鱈目だった。美術品を愛でる趣味は無いし、更に言えばこのシリーズのナイフさえ欲しいとは思っていない。
欲しくは無いが、集める気でいた。組織を抜けたが刺激的な出会いや体験は無く、退屈凌ぎになればいいと考えていた。

「East Nornの…… 10番台だよね? どうやってソレを?」

「てか、なんで血ぃ付いてるの?」

かなり高い物だったと思う。少なくとも今日一日付き合った男の懐具合ではねだれる代物ではない。
やはり裏稼業の人間。自分の勘は大体当たっているだろう。

「僕ね、そのナイフを作った人を探しているんだ… おねぇさん知らない?」

話ながら、ゆっくりそのナイフに触ろうと手を伸ばす。
307 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/27(日) 00:22:14.61 ID:lqmNLybfo
>>306

「がらくた市で見つけたものだ」

彼女がEast Nornを知っていることは置いておいて、女の得物はがらくた市で見つけたものだという。
というのも、刻された証拠もなく贋作であると見られていたためだ。
普通グリップの底部には作者の名前が彫られる。だが、mod.14にはそれがない。


「私は作ったやつが誰かは知らんな」

彼女が手を触れようと手を伸ばすので、女は仕方なしに触らせてやるだろう。
だが、盗られてはこまるとグリップは握っておく。もしもの際に中に忍び込めばいい。
触るくらいなら容認してもいいだろう。彼女が盗る気でないのなら。
308 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/27(日) 00:42:46.69 ID:XmHni1ly0
>>307
「ふーん… おねぇさん運がいいね」

刃で指を切らないように気を付けながらも、つつーと指で刃をなぞる。
何か警戒されてるような気がするくらい、不自然に力強く握っているのが気がかり。というか危機管理がしっかりしていると感心する。
簡単に心を開かない人間は中身のある人間だ。少なくとも、今まで殺してきたような人間よりは。

「じゃあさ… これと交換しない?」

そういって彼女が取り出したのは、East Norn Mod. 7。同系列のナイフの型番違いだった。
かなり手入れがされているのか、グリップに使用痕が残っているが刃自体は新品同様に綺麗だった。

「それが嫌なら……、コッチもあるよ」

一度7番を懐にしまうと、今度はEast Nornの6番を取り出す。
こちらは使った痕跡が一切見当たらない、本当にコレクターズアイテムとして大切に管理されていた事が伺える状態だった。
ニコニコしながら、相手の出方を伺う。
309 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/27(日) 01:21:13.31 ID:lqmNLybfo
>>308

「……バカ言え、自分の得物を他人に渡すバカがどこにいるか」

彼女のその提案を聞くやいなや、女は怪訝な目をして彼女の方を向いた。
――怒っているのだ。彼女は自らの大切にしてきた得物を交換しろと言っているのだ。
数年間、暗殺という死線に常に触れるような仕事を共に行ってきた“相棒”を軽い理由で取られたくはない。


「私のナイフを見ろ。何年間も使ってきた跡があるだろ」
「これは私の歴史の証明だ。こいつは相棒で、私の仕事を常に支えてきた」

歴史の証明。女はそういい切った。
如何に凄まじい死地を乗り越えてきたか、そして生き延びてきたか。
女の生き様が現れているような。其のようにも伺えるだろう。
310 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/27(日) 05:25:06.92 ID:IGJve8MVO
>>298

彼の答えを聞くと、紫苑は瞼を閉じてほんの僅かな間のみ思案する。
しかしすぐに結論は出たのか、瞼を開くと同時に微かな溜息を零したなら、そのまま微かに息をする少女の元に近寄った。

その無残な風貌を視界で捉える。近くで確かめたなら、それは余りにも悲惨で壮絶な有様だった。
自分よりも幾つか年が下といった程度の、けれども自分とは違って本来ならばこんな場所に関わることさえない筈の、唯の少女。
その子の胸に、そっと自分の手を乗せたなら、紫苑は穏やかな、柔らかな声で彼女に向けて話しかける。


「……もうすぐ、帰れます。手足だって、眼だって、必ず治ります」

嘘だ。

「貴方は、一生分以上の不幸を経験した。だからこそ、これから貴方を待っているのはその不幸に見合うだけの幸福」

嘘だ。

「だから、今は休んでください。きっと、次に貴方が目覚めた時に」

「……そこに、貴方にとっての救いがありますように」

嘘で塗り固められた慰めだった。けれども、現実が余りにも残酷過ぎるのなら、嘘の一つや二つは必要だろうと思っていた。
その真意は、果たして伝わったのか。そもそも、この言葉が届いているかどうかさえ解らない。
けれども、もし伝わったのであるならば――――――せめて、安らかに。



――――音もなく、予兆もなく、一刀は紡がれた。
放たれたそれは殺人剣に他ならない。ただ、敵を殺める為の業ではなく、如何に安らかに命を終わらせるかを求めた一太刀。
苦痛も、恐怖も、一片たりとも一瞬たりとも与えはしない。阻むものがなければ白剣は刹那にて彼女の首を断ち、その命に幕を降ろす。

それを“救い”とは言うまい。
けれども、死よりも残酷な“生き地獄”がこの世には存在すると知っているから。
ただ、見過ごすには偲びないと思っただけだ。

「……これだけ辛い経験をしたんです。もう十分でしょう
 それでも生き続けろというのなら、貴方の偽善は独善が過ぎる」

刃が通ろうが、阻まれようが、次に紫苑は男に向けて静かに言葉を零すだろう。
同じ職業である以上、多少は性格が似通っている面もあるだろう。それでも、恐らく彼とは根幹の部分で致命的に相容れない。そんな気がした。

昔、まだ雛月紫苑と名乗る前。あの頃に抱いていた正義感は、果たしてどんなものだっただろうか。
ほんの少しだけ、追億に思いを馳せる。無意味な事だと、すぐに中断して暗闇の中で彼を見据える。
紫苑の、真紅の双眸に宿る筈の輝きは、やはり闇に隠されたまま。あるいは、自ら隠しているかのように。
311 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/27(日) 11:09:38.45 ID:XmHni1ly0
>>309
「えー… どうせ拾い物だろー」
「それは『摩耗』って言うんだぜー」

戦わずに結果を得る事が暗殺術の原点。
自分のように絡め手を使うにしても、姿を見せず仕留めるにしても、方法よりも結果で勝負する世界。
打ち合いで付いた戦闘痕など暗殺に失敗した数と何も変わらない。
その世界でナイフに付いた傷を誇る等彼には理解できない考え。寧ろ暗殺者にとって恥ずべき事だと思う。
数多の包囲網を破り、音も無く近寄り、影のように消える。その恍惚をしらない彼らしい見解でもある。

「へぇ……やっぱり仕事道具か、誰を殺したの?」

……とは言え、交換しないという選択は結果的には正しい。
彼女に見せたナイフは、本物ではなく能力者が化けた偽物。
遠回りした際に、見えない所で能力を使い自分の得物を自身の分身に変化させ、入れ替わる。
ナイフを二つ同時に見せなかったのも、懐の中で変化し直していたから。
交換に応じていたら3ナイフを受け取り、姿を消した所でナイフ化を解除して逃走。結果的に3本とも自分の物にする作戦であった。

自分は休業中だが同業者の動向は把握しておきたい。組織への手土産にもなる。
トレンチコートガールの仕事の請け方。仲介屋がいるならソイツを仕留めればそれだけ組織に仕事が流れる。
ナイフは持ち帰れなかったがそれならこの街での事業拡大の為、シマの拡大にでも強力すれば帰りやすいと思った。


/すいません遅くなりました
312 :【龍神変化】 [sage]:2017/08/27(日) 11:38:14.16 ID:EtCB5rKzo
月下、この街の空気は淀み切り、人は家屋に閉じこもり、烏は我が世界と言わんばかりに喚き散らす。
曇った空にも関わらず月の光はそのような光景を照らし出し、暴露し、人間に見せつける。
どこからふらりと迷い込んだ夜鷹が現れ、烏の群れに飛び掛かると、不思議な事に狩人となったのは夜鷹の方。
ビルの屋上で暴れる不吉の先触れは、烏の舌を引き抜き、垂れた赤い滴が一滴、滴り落ちる。


ピチョン。女の頬に赤い斑点がひとつ付いた。それはまるで病気のいぼのようにも一瞬見える。
煩わしそうに手の甲で拭うと、彼女は再び夜の街を走り出す。青いジャージ姿で金髪を上下に揺らす。
今日は珍しく彼女の"奇病"が収まっている日だった為、体力を維持のジョギングをしている。
自分の泊っている安い宿からスタートし、ゴミが幾つか不法投棄された公園を抜け、街をぐるりと周るコース。

数十分もすると額に汗を滲ませ、荒い呼吸で自動販売機の前で足を止めた。
フーフーと息をしながら小銭を自動販売機に入れると、ガコン、と休憩の道具が転がり落ちる。
彼女は煙草を拾いあげると、直ぐに一本を取り出して口に咥え、銀色のライターで火を付ける。
眉間にしわを寄せながら目いっぱいに吸い込む。

「ゲホッ、おえっ、ゲホゲホッ……。」

当然酷くむせて咳き込むが、自分の苦しさなどお構いなしに煙草を吸い続けた。


/絡み街です。明日以降にまでのびてしまったときは、置きになるかとおもいます、すみません。
313 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/27(日) 12:03:27.03 ID:lqmNLybfo
>>311

「お前から見れば唯の摩耗だろうよ」

トレンチコートの胸ポケットから煙草の箱を取り出すと、一本口に咥える。
手に持ったオイルライターを点火し、煙草の先へ近づけ火をつける。
くすぶる煙草の煙を吸い込むと、白煙を口から吐き出した。


「誰も彼もあるか、言うバカは居ねえよ」

自らの得物を馬鹿にされたのもあるのか、女は明らかに不機嫌であった。
おまけに誰を殺したかなど言うはずもないのに聞くあたり、訳がわからないと。
また煙草の煙で肺を満たし、煙を吐き出す。
314 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/27(日) 13:13:13.57 ID:XmHni1ly0
>>313
「えー お願―い 僕も探してる人が一杯いるからさー」
「別に死んじゃってても構わないんだけどもういない人を探して回るのは無駄足じゃーん」

簡単には聞き出せない。依頼人でもないのだから終わった仕事の標的くらい聞き出せると思ったが、どうやら交換の件で相当不審に思われたようだ。

「僕は言えるけどね」
「今日一杯買い物に付き合ってくれたオジサン あれ二週間後の予定」

標的と友好的関係を築き、油断した所を狙うのが彼のスタイル。
時間はかかるが慣れれば労せず安全かつ確実に仕事が遂行できる。
彼ほどの巧者になれば殺す予定の人間から貢がせる余裕さえある。

「同業者同士、仲良くやろうよ」
315 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/27(日) 19:38:00.48 ID:gbHPAC5po
>>310

予想は、していたのだろう。
なぜなら彼自身、間違っていることだとは思っていなかったから。
未来。希望。努力。理想。人間の正しさ、善なる輝きを愛し、それに邁進することを良しとする。それが本当に正当な、人の歩んでいくべき規範であると、彼は心から信じている。

だが、同時に理解してもいるのだ。
人は皆、誰もが“正しさ”に耐えられるようにはできていないのだということを。

きっと自分は彼女のような状況に置かれても耐えられるのだろう。肉体がどんな惨状に陥ろうと、不屈の信念で立ちあがり再び歩み出すに違いない。
実際、そうだったから。身体の損傷はこれほど酷くなかったとしても、客観的に見れば心折れ二度と立ち直れない悪夢的な絶望の中でも、自分は折れるどころか摩耗すらしなかった。
どんな状況にあっても……そう、たとえ大切な人々を皆殺しにしてもなお欠けず弛まず、未来を目指して突き進んできた結果が今の自分。

……そんな自分自身こそ、何よりも悍ましい特級の異常者だ。
誰かのために。希望のために。奪ってしまった命に報いるために、必ずそれ以上のものにして返してみせる――。
そのような言葉を吐きながら何があっても進み続ける破綻者。自分のような光しか持たない勇者(ばけもの)こそ、真っ先に裁かれるべき大罪人だろう。

「知っているとも、その通りだ。俺こそが絶対に正しいなどと言うつもりはない」

振るわれた静謐な白剣を防いだのは熱く煌めく鋼の刃。
至近距離にてぶつかり合う視線と視線。まるで柳のような彼女の佇まいとは正逆に、その双眸には強く真っ直ぐな光があった。
そう、どこまでも強すぎるほどに……。

「だが重ねて言うぞ、彼女は生きている。ならば我らに、どんな理由があろうとその命を奪っていい権利などありはしない」

……目の前で火花を散らす殺人道具にも、もはや彼女は反応しない。
視界など言うに及ばず、もはや聴覚も失っているのかもしれない。いいやもしも機能していたとして、それを認識できるだけの心の器がもうないのだ。
彼女という無辜の人が有する精神は砕け散ってしまった。覆水は盆に返らない――割れた卵は二度と元には戻らない。
たとえ万全の環境を整えてカウンセリングを施し続けたとしても、回復する見込みは薄いと言わざるを得ないだろう。
もしも奇跡が起きて精神が復調したとしても、ずたずたに引き裂かれた自分の身体は簡単に受け入れられるものではない。
思い通りに身体を動かすことさえできない生活、フラッシュバックする悲惨なトラウマ……まさしく生き地獄だ、今後の人生で幸せになれることなど果たしてあるのだろうか。

「共に生きるのも、あるいは命を絶つことも……決めるのは彼女を真に大切に想う人々であるべきだろう。所詮は部外者にすぎん我々の一存で終わらせるなど、それこそ勝手がすぎるというものではないのか」

だから断言しよう。優しいのは、彼女の方だ。
本人だけでなく周りの人間をも不幸にしてしまうくらいならいっそここでと思う気持ちは、男が憎む悪性では決してない。
救いがある可能性など針の先ほどに極小なのだから。常識的に物事を考えるなら、この娘が味わうのは地獄に見合う幸福などではないことは誰でも判断できること。
それが間違っていることだとしても……彼女は死んでしまったと、自分たちがそういえば済むことなのだ。きっと彼女の家族は悲しみにくれながらもいつか前を向いて歩き出すだろう。

――それでも否を唱える男の姿には、正しさはあっても優しさはなかった。
316 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/27(日) 21:08:20.69 ID:lqmNLybfo
>>314

「うるせえ」

ただそう一言、彼女に向かい吐き捨てた。
依頼した人間、殺害した者の名前は絶対に言ってはいけない。
それが契約というものであり、そして絶対の信頼を生むものであるから。


「お前の[ピーーー]相手には興味がない」

先程彼女と共に居たあの男が、彼女の標的だという。
だが、そんなことには興味は微塵もない。俄然苛立ってきたのか、二本目の煙草を取り出す。
火を近づけると切っ先から白い煙が上がる。女はまたその煙で肺を満たした。


「お前とは気が合わなさそうだ」

右手に持っていたビール缶も空になったようで、近くにあったゴミ箱に放り投げた。
以前、二人組の殺人者と会った。同業者は相互不干渉が原則であると言っていたか。
……其のとおりだ。まさか、こんなところでそれを痛感するとは。彼女らには申し訳のないことをした。
317 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/27(日) 21:16:06.05 ID:KwSfCZJd0
>>301

「なら今は止めておこう。」
「此処は飽く迄酒の席。そっちに殺る理由が無ェならそれまでだ。」

目の前の男――ゲアハルトからは気まぐれに"その"理由を作り上げそうな雰囲気も感じるが。
少なくとも今回、相手からは呑みの席にと誘われて此処へ来た。
そしてガグエル自身、今は戦いよりも優先すべき事項があった。

「見るにアンタも筋金入りで録でも無い野郎の様だ。」
「オレと同じでな。」

くつくつと嗤う顔に浮かぶは獄鬼の如くの悪辣な笑み。

「地獄を創りたいとは話したか。」
「このオレの能力で召喚する血海地獄を完全顕現させる為のプランは在る。」
「だが其れはオレ自身の個人的な指標に過ぎん。」

眼の底の血海の熱は煌々と。
しかし其れは敵意ではなく寧ろ逆。

「【騎士団】の瓦解を聞いてオレは思った。」
「頭一人に方向性を依存した悪党の集団では駄目なのだと。」

「頭に成る輩は多い方が良い。」
「幾度頭を潰されようと代えが利く位が悪性の掃き溜めには丁度いいと。」

「――例えるなら、彼の神話に出ずるの多頭の毒龍の如くに。」

深紅の瞳は邪悪な熱意を帯びながら目の前の男の双眸を捉える。

「手を組まないか? ゲアハルト。」
「気まぐれだろうが利害の一致だろうが構わねえ。」
「寧ろ仲間同士で喰らい合うくらいの方が良い。」

「軈て地獄へと至る煉獄。人間の悪性に依る蠱毒。」
「そんな地獄(そしき)を創りたいとオレは考えている。」

血獄の悪鬼から齎されたのはそんな提案だった。


/置いておきます!
318 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/27(日) 21:21:36.21 ID:P0QWC4ZqO
>>315

白刃に力が加えられ、阻む刃を横に弾く。魔力はまだ残存しており、肉体の疲労も許容範囲内、戦うことは充分に可能だった。
前提として両者の間にあった暗黙の了解は、お互いの邪魔をしない限りは敵対しないというもの……少なくともその前提は今破られたことになる。
視線を男に戻す。そして彼女が溢した言葉は、紛れもない彼女の本心と呼べるもの。

「ああ確かに貴方の主張には理があるのでしょう。正しさという観点で言えば筋だけは通っている
 ……けれども、その正しさの為だけにこの娘をこれ以上の生き地獄に突き落とすことを良しとするなら、それは人の心のない者の選択でしょう!?」

今や真紅の双眸には、暗闇でも尚隠し切れない感情の光があった。それは嘆きであり、諦めであり、明確な怒りの発露でもあった。
詰まる所、これが雛月 紫苑という少女の本心であった。自分の為にと言いながらも、結局は半端な優しさを手放すことができない、英雄の成り損ないが彼女だった。

少しだけ思い出した。嘗てこの胸に抱いていた、正義と呼べそうな志を。
ただ、大切な人々を守りたい、救いたいという初志だった。唯の少女でしかなかった自分は、それでも一つでも多くのものを掬い上げたい一心で二つの剣に全てを捧げた。
その初志は今や粉々に砕かれ、英雄には遠く及ばない流浪の身になってしまったとしても。残り香のような優しさは、甘さはまだ何処かに残っていたらしい。

「この娘を助けたとして、それで守られるのは貴方にとっての正しさ、主義主張だけでしょう!?結局、この娘のことなんて何一つ考えていない!!
 自分の手を間違ったことで汚したくないから、この娘にはこれからも地獄を味わってもらう――それこそ唯の傲慢じゃないんですか!!」

聖剣の極光が雷光の如き矢となって迸る。それは男の隣を掠めて奥の壁へと直撃し、その一面を粉々に撃ち崩す。
その光、音、衝撃が間近で伝わっている筈なのに、この娘は僅かな反応も示さなかった。それはつまり、彼女の肉体も精神もとうの昔に壊れ果てていることの証明に他ならない。

流浪の身であるからこそ、法の外に身を置く者であるからこそ、正しさだけで世界が綺麗に回る訳がないと知っている。それはきっと、彼も同じことだろう。
ただ、傭兵紛いなこの在り方を正義と主張する気はない。報酬という対価を求めている時点で、それは正義としては失格も甚だしいに違いないのだから。
それでも、紫苑の初志は人を救いたいという願いだったから、彼女は飽くまで理よりも情を優先する。例えその救いが“死”という名の最後の救いであっても。

「……命を奪うことが正しいだなんて言いはしません。例え斬る相手が善人だろうが悪人だろうが、それは忌むべき行為に変わりないでしょうから
 けれども、情けは必要な筈です。理を優先して情を捨てた正義に、価値なんてあるんですか?」

聖剣は淡い光を刃に灯し、その切っ先が男に向けられる。その問いかけは彼という男の本心を知る為に投げかけたもの。
そもそも間違っているのは紫苑であり、その自覚も当然ながら彼女にはある。命を奪うという行為は、何時の時代であっても正当化されはしないのだから。
けれども、この娘を生き地獄に堕とすことが正しいことだなんて言える筈もなく、結局は何が正解で何が間違いなのかも解らない。ならせめてこの直情は誤魔化したくなかった。
命を守ろうとしている者と、命を奪おうとしている者、構図だけ見るなら悪人は紫苑で間違いないだろうが、幸いにも彼女は正義であることを自ら辞めた類の人間だった。
319 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/27(日) 21:33:34.21 ID:XmHni1ly0
>>316
「奇遇だね、僕もそう思った所」

冷酷、無情、判で押したような殺し屋像を持つ彼女は人間の多様性を道具とする自分とは正反対だった。
組織にもこのような真面目なタイプは多くいたが、付き合うのは正直苦手だった。
仲間意識も無い彼女ならなおのこと。

「だからさ、この街一帯僕らの餌場にするから……仕事は畳んでくれるかな?」

そういうと立ち上がる。数歩前に出るとくるっと後ろを向き、指を一本空に突き立てる。

パシャリ

彼女の真横から、カメラのフラッシュとシャッターを切る音が聞こえるだろう。
そちらを向けば、目の前の少女と同じ顔をした人間が携帯電話のカメラを構えている。

「ケータイ持ってないって言ったらオジサンが契約してくれたんだー」
「これ、名前付きで広まったらお仕事できないね♪」

ここにきてようやく、明確な敵意を見せる。
320 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/27(日) 22:29:18.41 ID:gbHPAC5po
>>317

複数のトップを有する集団。
それは絶対的な統制こそ難しくなるものの、組織全体の生存力という観点から見ればなるほど確かに悪くない。
一人の大幹部を潰したところでそれが他にいるのなら、そいつの派閥の規模にもよるが致命的な損害は避けられよう。
情報を入り乱らせて錯綜させてやれば、通常のそれより警察機関を混乱させることだって簡単だ。
てっきり幹部だと思っていたやつが、実はたいしたことない木端だった……なんてことにもなるかもしれない。

むろんデメリットはある。先に挙げた一例、組織というものは一種の縦割り社会だから頭目の意思がどうしても必要だ。
仮にでもいいから頂点を一人置いておかねば、それぞれの幹部が要する派閥が個々独立した別組織になりかねない危険性を孕んでいる。
上手くいって組織の体を成したとしても、彼の言う通り隙あらば他を喰ってやろうと画策する内ゲバが常態化するだろう。
互いに足を引っ張り合い、最悪の場合は集団としてまともに機能しないということにもなりかねず……。

「面白ェな、それは」

だからこそ普通じゃないことに爛々と目を輝かせて飛びつくようなこの男が乗らないはずがなかった。
狂気の沙汰こそ面白い。正気の輩に為せることに大したことなどあるまいよ。人間、狂ってるくらいがちょうどいい。
刺激的に、面白く。ひたすら愉快なことに身を投じようと嗤い続ける彼は、とうに狂気に陥っている。

「俺も見た目ほど若くはないが、そんなものを作ろうとしてる人間はさすがに初だぜ。なんとも愉快なことを考えるじゃねぇか」

より一層に深まる弧月の凶相。吊り上がってゆく口角が描く顔貌は常人が前にすれば卒倒しかねないほど恐ろしいが、彼にしてみれば同類のそれにすぎないだろう。
人は、笑顔という表情でここまで恐怖を与えられるものなのかと。猛獣と相対していると評してもまだ足りない。
見たことも、想像したことすらない怪物が眼前にいるかのような。人の形をした人外化生、人間界にいるべきでない魔性がここにある。

「――いいぜ、その話、乗った。力を貸そう、いいや是非とも一枚噛ませてくれよフォーランド! よくぞ話してくれたなァ!」

地獄の悪鬼に、人造の魔獣が呼応する。

実に嬉しそうに笑いつつガグエルのグラスに勢いよく酒を注ぎ、自分のそれにも注ぎ足してまた煽った。
こんなに楽しそうなことはそうそうない。ゆえにいやが上にも期待は高まり、比例して今の気分もよくなっていく。
その様は外見こそ恐ろしげであるものの、どうも愉快で気のいい男に見える……。
それこそがこいつの悪質なところなのだと、もういちいち言わずとも分かることだろう。
321 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/27(日) 23:46:46.22 ID:gbHPAC5po
>>318

頬を掠めていった光の一撃、だが男は女剣士から視線を外さなかった。
叩きつけられる言葉には冷静さなどない。その感情は紛れもなく本心なのだろう。
彼女がいま抱いている怒りが、その理由が、自身も分かるからこそ……男は不動。二人の性質が入れ替わってしまったかのように、今度は彼が静かな面持ちを向けていた。

「ない。情を欠いた正しさなど機械に打ち込まれたプログラムと変わらん。そんなものはただ聞こえがよいだけの醜悪な張りぼてだ」
返したのは肯定。その憤懣は人として正しく、責められる謂れなど何処にもないから否定などあるわけもなかった。

「そして認めるとも、貴殿の言葉は間違ってはいない。人はどんな傷を負っても立ちあがれるほど、強くできてはいないのだろう」

弱さを抱えるからこその人間。だから誰もが支え合って生きていて、様々な人生模様を描きながら一生を過ごしていく。
もし誰の支えも必要としない超人が人類のスタンダードになってしまったら、その瞬間から滅亡のカウントダウンが始まることだろう。
正義の反対は悪ではなく、また別の正義である。己が正しいと思うことへ一直線に邁進しすぎるから、やがて全世界を巻き込んで闘争を勃発させ、世界を削り取っていく。
それはまさしく輝かしい地獄だ。物事を何があっても絶対に諦めないから人として超えてはならない一線すら容易く突破して、結果世界は滅んでゆく。

だから、これでよいのだろう。いいや……仕方がない、というべきか。
人は弱い生き物だ。だからいつの時代も悲劇は絶えず、無力の民は嘆き苦しみながら生き、あるいは死んでゆく。
それはただの厳然たる事実で、是非を問うべきことじゃない。ハッピーエンドなどむしろ少数、大半は理不尽な不幸に晒されて終わってしまう。

だがな――と射抜く瞳には、やはり強い光を湛えていて。

「すべての人がみな、二度と歩き出せないほど弱いわけでもないのだ。彼女を愛する人々によって再び幸福を掴める未来は小さいながらも必ずある。その可能性を端から放棄して前途を閉ざしてしまうなど、独り善がりと何が違う」

ただ弱いだけが人間じゃないというのもまた、男が見出した真実だった。

彼は知っているのだ、生まれながらに障害を抱えつつも前を向いて生きている人々を。
確かに見たのだ、自分の身を擲ってでも我が子に満足な食事を与えようとする母の姿を。
出会ったことがあるのだ、自分を殺そうとした相手の命をも救おうとする武人の高潔な心に。

みな、誰もが尊かった。人間として尊敬すべき輝きを放っていた。自分のような屑とは比べるまでもないほど清く、正しく……そして強かった。
そういう人々のためにこそ、闇を斬り裂く刃にならんと誓ったのだから。彼らを薄汚い毒牙にかける奴ばらを断じて許すまいと決意したのだ。

「無論、それは彼女たち次第だ。もしもこの娘の家族が我が子の悲惨な姿を見たくないと、これ以上苦しませたくないと願うのならば――構わない」

そうした強さを持てない人々も、やはり守るべき対象なのだ。
夕暮れに揺蕩う者。この世は善と悪では分けられない。むしろ分かりやすい善人や悪人の方が少数派である以上、多くの人間はその両方を備えているのが当然である。
それを責めることはできないだろう。強くなれと叱咤することすら傲慢だ。先も述べたように、全人類が強くなればいいことばかりが起きるわけではないのだから。

「俺がこの手で始末をつける。嘆き、絶望、余さず全て受け止めよう。助けられなかった責任は、俺にある」

だからこそ必要とあらば躊躇いなく泥を被ろうと宣する両眼には壮絶な覚悟があった。
それが最も残酷なことであると承知している。一度生存している姿を見せておいて殺してくれと頼むなど、家族にとって何よりも辛い決断だと分からないはずがない。

……それを心から悼みつつ、しかし躊躇なく実行すると言っているこの男は。
人間として大切な何かが欠落している……紛れもない破綻者であると、言わざるを得ないだろう。
322 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/27(日) 23:49:34.22 ID:lqmNLybfo
>>319

――向けられたのは、明確な敵意。
閃光が焚かれた方向を見れば、もう一人“同じ”彼女の姿があった。
恐らく顔を撮られたのだろう。名前付きで広がってしまえば、彼女の言うとおり仕事は来ないだろう。


「嘗めた真似しやがって」

舌打ちを一つして、ベンチから立ち上がる。
腰のホルスターに提げた“女神”には手を触れることなく、彼女を睨みつけるのみ。
攻撃をする気はない、否、してはいけないと本能が警告を発していた。


「――生憎様、私の名前は知れているものでね」

次の瞬間には、表情はそっけないものに戻っていた。一瞬で冷静さを取り戻す辺り、慣れている。
別に街一帯を彼女らの餌場にしたとしても、殺しの“品質”なら負けない自信はあった。
それに、今までの実績が女にはある。仕事は減っても、なくなりはしないだろう。

「私はこの街で“営業”はしない、そしてお前たちの仕事は奪わない」
「これでいいだろう、納得出来ないのなら顔写真でも何でもばら撒け」

提示したのは、この街において自らの営業をせず彼女らの仕事も奪わないということ。
標的以外を[ピーーー]ような無駄な戦闘はしたくない為に、若干譲歩したものだが。
彼女は納得するだろうか、それとも。
323 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/28(月) 00:27:29.28 ID:hT+z7NRf0
>>322
「どこまでも余裕なんだから、つまんないの」

組織にはあらゆる暗殺のエキスパートがいる。
スニーキング、狙撃、毒殺、そして自分の得意とする謀殺。
自分が組織に戻れば自分が得た上流階級とのコネクションを利用したちまち組織は台頭するだろう。
だが、それはまだ先の話。今はまだ組織に帰るつもりは無い。

「それじゃー遠慮なく写真はクラウドに転送してっと……」
「あ、いいよーそんな事しなくて、仕事しなくなったらここでビール飲んでるおねぇさんに絡めなくなっちゃうじゃん」

合理的でない事を言う。とてもそうには見えないが、彼は同業者である女と接近したいのだ。
逆に、仕事ならいつでも奪える。自分はそれだけ優秀な暗殺者だという自負と余裕の表れでもあった。

「じゃ! 明日も予定があるからお家帰るね!」
「次からは例え仕事終わりでも簡単に背後が取れる場所でアルコール飲んじゃダメだからね!」

そういって分身の元へと歩き、意味も無くハイタッチしてから何処かへ去っていく。
このままにすると、翌週には顔と全体像と「トレンチコート・ガール」のネーム付きで最新の手配書が完成する。

/すいません今日はここまでになります
324 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/28(月) 00:44:01.12 ID:dQhL0VdTo
>>323

彼女が組織ぐるみであるということは言いぶりから何となく推察できる。
勿論此方としても仕事がなくなってしまえば困るのだが、心配せずとも無くなることはないだろう。

「――一つ忠告をしておく、私には同業相手がいてね」

メルヴィン・カーツワイル、もといワイルドハント。
女が金を出しさえすれば、彼らは仕事をきっちりとしてくれるであろう。
だが、あくまで“同業”だ。善悪のベクトルで言えば正反対な関係であるし、何時崩壊してもおかしくはないか。
居ないよりはマシ、と言った感覚で両者ともに繋がっているわけであるから。


「あまりはしゃぎすぎるな、思い上がれば死ぬぞ」

最後に、そう忠告だけして裏路地の方へと歩きだす。
別に彼女が後をつけてきても構わない。行き先は屋根のないところなのだから。
手配書が出回った所で、またいつものことだ。警察は自らを追い、女は闇夜に紛れる。それだけのこと。

飄々とした風にコートの裾を靡かせながら歩みを進めていく。
胸ポケットから煙草を一本取り出すと、また煙をくゆらせた。
同業者には、できるだけ会いたくないものだ。色んな意味で、だが。


――女の本名は、未だ嘗て彼にしか明かしていない。
その名をたどれば、一人の“死亡扱い”の人物に行き着くであろうから。
過去は、すでに切り捨てたもの。ヨハンナは、嘗てティードリンテだったのだから。
325 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/28(月) 01:22:48.79 ID:V4iqIJxYO
>>321

――――何かが弾けたような気がした。
それは辛うじて抑えられなければ、今すぐにでも聖剣の力を解き放っていたであろう衝動だった。

「貴方は……何を見ているんですか?この娘の状態が、どれだけ残酷なものか解らないんですか!?」

人の強さは立ち塞がる障害を打破し得る可能性を秘めている。
弱さだけが人間の本質でないことはそんなことは百も承知だった。それでも。

見れば解ることだった。彼女が負わされた傷の全ては、そのような精神論で解決可能な範疇を逸脱している。
再起の理想を語るには、彼女が経験した悪意は余りにも過酷が過ぎた。それはもはや唯の怪我や不幸と同列に語れるような次元の話ではない。
待っているのは、言った通りの生き地獄だろう。それを理解しておきながら、尚もまだ幸福な未来を掴む可能性があると無責任に言えるのは。

「……強者の理論を押し付けて、その方がよほど残酷な独り善がりでしょうが」

雛月紫苑は単純な力で測れば、確実に強者の範疇に足を踏み入れる類の人間だろう。
しかし、それは飽くまで武力のみを見た話。その内面は未だ中途半端であり、時折垣間見せる揺らぎには明確に弱さと呼べるものさえ存在する。
ただ、力を得ただけの少女なのだ。だからこそ彼女はどうしようもなく弱くて、一度は大切なものを全て喪い、決して忘れられない挫折を経験した。

その過去から未だ立ち直れた訳じゃない。ただ、諦めて考えないようにしているだけ。
矮小な人間であると自覚している。その精神性は目の前の彼とは対極であり、だからこそ決して互いを理解し得ないだろうと確信する。


――聖剣を鞘に収める。これ以上剣を手にしていたなら、それこそ戦闘に成り兼ねない。
そして、再び地面に寝かされた娘に向き直る。視覚と聴覚で、彼女の容体が最底辺でとはいえ安定しているのを確認したなら、片膝をついて彼女を優しく抱き上げるだろう。

断じて彼の主張を認めた訳ではない。寧ろ巫山戯るなと未だ真正面から罵ってやりたい位であった。
ただ、合理的に考えただけの話。彼女の命を終わらせることを彼が妨害してくるなら、自分が納得可能な次善の行動に出るしかない。
正しく治る保証なんてまず在りはしなくても、それでもこのまま彼女が帰されるよりは幾らかマシな顛末を迎えるだろうと信じて。

「少しでも治せそうなツテを当たります
 完全な治療なんて不可能でしょうが、黙って貴方に任せるよりはよっぽ納得が行きますから」

そして紫苑は地上へと続く階段に向けて歩き出す。ツテがどのようなものかは、仮に問われても決して答えないだろう。
当然だった。紫苑が頼ろうとしているのは、社会的には悪人と認定されている者なのだから。今それを明かしたなら、確実にここで彼と戦うことになるだろうから。

それ以上、彼女はここを脱出するまで言葉を交わそうとはしないだろう。
ただ、最大限の敵意と警戒を以って、何時でも戦闘に以降できるようにしながら。
紫苑自身、人のことは余り言えないものの……この男が“壊れている”部類の人間であるという確信は充分に抱いたのだから。
326 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/28(月) 02:58:36.42 ID:1kidottJo
>>325

……去ってゆくその背を眺めたまま、以外にも男は行動を起こさなかった。
それは彼女が少しでもと、治療のできる機関に連れて行こうとしているからというのもあったが。
むろん彼とてこのままの状態で連れ帰るつもりなど毛頭なかった。知る限り最高の病院にまず入院させ、しかる後家族に連絡するという手法を取るつもりではあった……。

だがおそらく彼女に任せた方がよりよい治療を受けられるだろうと口ぶりから察した。
いわゆる裏社会に棲む者のすべてを毛嫌いし、折に触れ撃滅してきた彼はそちらの方面でまったく評判がよくない。
探せばいるのかもしれないが、腕は良いが正式な医師免許を所持していない闇医者の類も心当たりがなかったのだ。

「……理論の押しつけ、か」

だがそれ以上に、だろうか……投げつけられた言葉に、思うところがあったのか。
瞑目し、咀嚼する。己へ向けられた非難をただ一蹴することなく、間違いがあったのならそれを認めて改善する。
なぜならそれが“正しい”ことだから。……この場で結論が出ることはない。
しかし少なくとも、ここで行っておくべきことはまだ残っていた。

鋼の剣を納刀する。
去っていこうとする彼女を見やり、何処かの住所と電話番号を口にした。

「家族の方々の連絡先だ。もし容体が戻ることがあれば、報せてやってくれ。……それまで彼女の生存は伏せておくことにしよう」

始めから死んだものと伝えていれば、受ける傷も少ないだろうから。男とて罪なき人々に涙を流させたいわけではないのだ。
生きられるかもしれないと思ったのに死んでしまうよりかは、死んだものと思っていた人が生きていた方がよいだろう。
……結局のところ、これが最良の方法だったのかもしれない。最初に気付けなかった己の未熟を噛みしめ、だからこそ弛まず進もうとやはり決意の光をその目に宿す。

「そして彼女が目を覚した場に居合わせたのなら……すまなかった、そう愚かな男が言っていたと伝えてくれると助かる」

それだけ言って、男もまた歩み去る。その方向とは彼女とは逆、つまり施設の深部へ向けて。
ここにいないメンバーの犯した罪状を洗いざらいぶちまけるために。紙媒体、記録媒体、音声、写真、ここにあるすべての情報を浚いにいく。

手向けにはなるまい。報いにはなるまい。
だがそれでも罪には罰を下そう。このような悲劇を二度と生まないためにも、徹底的に苦しんでもらう。
それこそが、憐れな被害者に対して……間に合わなかった自分ができる、唯一のことだと信じるからこそ……。

歩みを進めるその背中には、翳りも衒いも何もなく。
威風堂々、光だけを体現させながら、正義の進軍を続ける雄々しい(くるった)姿は、やはり――。
327 :【双刻天剣】 [sage saga]:2017/08/28(月) 04:01:26.72 ID:V4iqIJxYO
>>326

「それくらい、自分の口で伝えてください。当事者は貴方でしょうが」

そう、この教団に関しては兎も角、この助け出された娘に関しては少なくとも紫苑は本来関係のない人間だった。
偶然にもこの現場にて鉢合わせ、利害の一致による一時的な共闘をしただけの、敵ではないが味方でもない関係。
名前も素性も告げることなく、これで終わり。それ位で丁度いい……何より彼の在り方は、紫苑にとってはあまりにも“気にくわない”。

人を救うというのは難しい。ただ命を守れただけで全てを救えたことになるなら、英雄の敷居はもう少し低いものだっただろうか。
余計なことは一切しないつもりだったのに、気がつけばこれだった。中途半端な甘さだけ残っているから、こうしてエゴのままに人を助けようとしている。

「……なんでしたっけ。地獄への道を舗装しているものって
 結局、正義も悪も結果として齎すものは似たり寄ったりなんでしょうね」

結局、今回も胸の中に残ったのは形容しがたい陰鬱な感情だけで、この感情に耐えられなかったから色んなものを自ら諦めてしまったことを今更ながら思い出す。
微かに溢した溜息は、自虐の意味に他ならない。関わるべきではなかったのだろう。けれどもこの娘を見つけて、彼の意思を聞いて、関わらずにはいられなかった。
そしてあれだけ啖呵を切っておきながら、自分はこの娘を彼がそうしようとしていたのと同じように、生き地獄に向けて蹴り落とそうとしているのだから。

……何故、こんなことをしているのだろう。
その理由なんて言葉では説明できないし、そんな感情に従っている時点で自分はまだまだ未熟なのだろう。
けれども、正義も悪も知ったことではないけれども、やはりここで何もしなかったのなら……それこそ自分を裏切ることになるだろうから。
介錯人を止めたのなら、他の手は尽くすだけ尽くしたかった。何せ、幸福が待っていると吐いた台詞が全部嘘では、彼女があまりにも救われない。

「……お陰で大赤字……まあ、いいか」

紫苑がこれから頼ろうとしていたのは医者ではなく“錬金術師”。
それは碌でもない人間であることには違いなく、それでも頼るだけの力はあるから。
溜息を、もう一つ零す……今回の仕事で得た報酬は、彼女の医療費で消し飛ぶことだけは確かで。

正義であることを、英雄を目指すことを諦めた少女は、それでもお人好しであることは止められなかった。
聖剣も魔剣も、善も悪も、清濁併呑。今だから見えるものは、きっと確かにあるのだろう。
328 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/08/28(月) 20:26:28.78 ID:hT+z7NRf0
>>324
「へぇ、殺し屋が殺し屋を雇うんだ」

自身がどれだけ恨まれているか、自身の死に幾らの額が付くかも解らないのにそれをやるのはリスキーだと思う。
余程信頼のおける人間なのだろうか。そういうのが居ない自分には少々羨ましくもある。

だが、ワイルドハントの情報網で彼を捕まえるのは不可能だろう。
彼は殺し以上に、見つからない事以上に「疑われない事」のプロフェッショナルだ。
今のように初めからナイフや餌場を奪う為に遠回りをせずに行動しない限り、殺し屋だと疑惑を持たれる事さえ殆どあり得ない。
次の仕事を最後に、組織を抜ける前に受けた依頼も全て完了して本格的な休業に入る。

リオ=レナードという男に頼まれた人探しも期間が決まっていないので適当にこなせばいいだろう。


後日。
本名を知るには至らなかったが、写真と「トレンチコート・ガール」の最新かつ鮮明な写真によって手配書が更新された。
顔や背格好などが特定された事で今までの特徴の箇条書きだった手配書よりも多くの人に認知されるようになったので、彼女は少し生きづらくなる事が予想される。

そして、ワイルドハントの資料部屋に新しい手配書が一枚追加される事になる。


/これで〆でよろしいでしょうか?
/返信遅くなったりして申し訳ありません……
329 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/28(月) 21:05:37.71 ID:L7789qFi0
>>320

「良ィ。なら今宵の酒は祝盃だ。」

再び酒の注がれたグラスを乾盃すべく目の前へ持ち上げる。

「まァ、組織を名乗るにしては頭数が足りねェがな。」

「オレは見込みのある悪党を見かけたらこの酒場の場所を教えておく。」
「この場をオレ達の集会所としようじゃねェか。」

そして悪鬼は酒を一気に飲乾す。

「まだ道のりは遠いが、来るべき地獄(せかい)へ向けての一歩としよう。」
「歓迎するぜ、ゲアハルト・グラオザーム。」

かくして血獄の悪鬼と人造の魔獣は手を組むに至る。

世界を蝕む悪意の種火は此処に一つ。

未だ眠れる毒蛇の龍は求める。
より多くの魂を。より多くの悪性を。
330 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/08/29(火) 00:48:36.10 ID:pRHF0Tlco
>>327

……その後の顛末を語ろう。

――某宗教団体の壊滅。
巧妙に自らの存在を隠蔽していた彼の組織の実態を知る人間は限りなく少数だったが、とある賞金稼ぎの手によって持ち込まれた内部資料によってその性質は詳らかにされることとなる。
除霊の名を借りた暴行、監禁、殺人行為。人の尊厳というものを踏み躙る悪魔の所業が明らかになるにつれ、世間はその暴虐に恐怖するとともに怒りを抱いた。

そして市井の民よりも何よりも、震えあがったのは運よく刃の報いを逃れた構成員たち。
未だ残党は存在すると日夜報じながら無数の警察の手が入る本拠地を見て、もはや自分たちは捕捉されていると悟る。
組織の規模はそう大きなものではなかったのだ。規模に見合わない異様な力を持ってはいたが、数が少ないだけに所属する人間の詳細はそれこそ末端の一人に至るまで残されている。

ゆえに彼らの行動は早かった。
早々に身辺を整理し、遥か遠方の街へと消える者。自身が存在した痕跡を消し去り、暗黒街へと溶け込む者。
公共機関の重責を担う者はその立場を利用して罪を揉み消しにかかった。以前から万が一のために準備していた備えを開帳した追及逃れは捜査を難航させるはずだったが……。

――それらの目論見ことごとく、秘密裏に編成されていた“外部協力者”主導による捜査隊によって潰えることとなる。
信じられないスピードで次々と居場所を特定、拘束されてゆく容疑者たち。捜査開始から十日と経たず、宗教団体の中核を担っていた警視正の男も含めて全員が検挙される運びとなった。

そうして法の庭に引きずりだされた彼らに、もはや状況打開の術はなく。
拠点に残されていた数々の記録映像、被害者たちの身体から検出されたメンバーのDNA、書類に捺印された実印、追加調査によってなされた裏取り、さらにさらに……。
あらゆる証拠が彼らを許し難き罪人であると証明していた。一切の言い訳が跳ね除けられ、例外なく全員が重い刑を科される。特に罪が重いと判断された者はその死をもって処されることとなった。
一連の裁判にかかったひと月程度という時間は事件の規模からすれば異例とも言えるほど早い。その背景には逮捕後も物的・人的証拠を揃えるために奔走した、一人の男の尽力があった。

組織殲滅、残党検挙、裁判終息に至るまで……事件を完全解決に導いた立役者というべき彼の名は、メルヴィン・カーツワイル。
未だ年若いながらもこれまで何度か雑誌社などの取材を受けた経験を持っていたが、今回の一件はより大々的に取り上げられることとなる。
数々のメディアに嫌な顔ひとつ見せず誠実に対応し、自身の手柄を誇ることなく心から犠牲者たちを悼む姿は絶大な支持をもって受け入れられた。

……当然、賞金稼ぎごときが何をと誹る声もあった。彼がいわゆる傭兵に分類される職業にある人間なのは紛れもない事実である。
そういう職は概して良いイメージを持たれていないことは当たり前とも言える。なにせほとんど無法者みたいなものだ。彼のように正義を目指す賞金稼ぎの方が、全体としては異端。
単なる報酬目当てのくせになにを正義漢ぶっているのか。だったらなぜ警察官にならなかったのか。そんな態度は欺瞞ではないのか。
――その類の悪意的な質問に対しても一つ一つ丁寧に答えていったからこそ、彼の評価は劇的に高まったのだ。

名声は高まり、勇名が響き渡る。光を現す男はまた一つ、喝采と共に新たな栄光を手にした。
……その陰に無数の犠牲を積み上げながら。流された嘆きの涙があればこそ、遍く闇を斬り払わんと、顧みることなく突き進み続けるのだ。
331 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/08/29(火) 01:16:27.79 ID:pRHF0Tlco
>>329

牙を剥きだすように笑い、がちんとグラスを打ち鳴らす。
それは新たな邪悪の産声か。光が輝きを増すほどに、同じだけ影も濃くなるように。
世界を欲望の業火で焼き尽くさんとする悪鬼の集いが今ここに誕生してしまった。これより彼らは無数の贄を求めながら血塗れた修羅道をひた走ることになる。

「おォよ、これから楽しくなりそうだなァ――!」

悪意の担い手たる人造魔獣は笑うばかり。
悲哀を、歓喜を、絶望を、希望を……あらゆるものを飲み下して、すべてを愉しみ呵々大笑する様はまさしく人でなし。
誰が死のうが、苦しもうが、あらゆる一切の道徳は彼を阻む障害にすらなりはしない。そんなものは喜悦の大火にくべられる薪と同義である。

……世界に悪の萌芽は無くならない。
きっと彼らでなくても、また別の者たちが悪徳だけを唸らせて闇に潜み牙を研ぎ、新たな脅威ができてしまうのだろう。
それは自分のために。他者のことなど微塵も考えずに、自己の利益を優先するがゆえ。
人間だれしも己の身が一番だという。否定するものも多かろうが、きっとそれは真理なのだろう。
そうでなければどうして悲劇が起き続ける? 中には誰が望んだわけでもない偶然によって生まれてしまった涙もあるのかもしれないが、大半は誰かの悪意が引き起すものだ。

そんなものを成して我が身の所業を顧みない者はいつだって笑っている――このように。
善意も、好意も、すべては己を富ませるための食い物にすぎない。彼らはいっそ清々しいほど堂々と悪行を積み重ねていく。
いつか終わりが訪れるまで。悪を斬り裂く正義によって、あるいは自らを上回る巨悪によって……砕かれ、食らわれ、無残な死骸を晒すまで。

……悪鬼たちの夜は更けていく。
血塗れの企みを嬉々として語り合いながら、碌でもない未来図を虎視眈々と描くのだ。


//これで〆、でしょうか?
332 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/08/29(火) 16:25:35.25 ID:LDLSLxtg0
>>331
/はい、ではこれで〆ましょう
/お相手ありがとうございました&お疲れさまでした
333 :【頽廃魔女】 [sage]:2017/08/30(水) 23:00:50.19 ID:JOLGJCbwo
>>294

「素敵だ」

声に出そうとせずに、声に出した。
これほどたくさんの物を造り出し、制御しているということへの驚きもあった。
確かにこれは、自分の“奇跡”を以てしても創ることのできる光景ではない。そう理解できた。

だが、彼女はそんな無粋な評価がしたい訳ではないのだ。
彼女はただ、空を舞台とした歌劇の背景でいたいだけだった。
臀部から伝わる振動すら心地よく感じて、魔女は馬車のへりに頬杖を突いて眼を閉じる。
そして、心地よい疲労感を覚えながら少し、まどろんだ。



「あっはっはっは!
 やばい、すんっごい、ブラボー!」

陽が頂点へと達しそうな先時の公園。
そこで頬を紅潮させて高笑いする魔女。
罪悪感とかは、特にないらしかった。

/大変お待たせしました。
334 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/08/31(木) 20:26:01.12 ID:rzaX3Y2co
>>326

当然、脅しにもならないだろう。予想はしていたことだ。
あの男も、こいつが殺し屋だということに気づいていない。
信じ込ませるのが上手い、というところだろうか。自分とは仕事の過程が違う。


――さて、数日後。特徴が詳細になった手配書が貼られているのに気づいた。
ふむ、有る事無い事書いてあると思ったらそうでもないようで。顔と背格好は明確に写っていた。
だが、“トレンチコート・ガール”は生きづらくなる様子も見せず。

一般人は暗殺者と知っていれば、手は出してこないだろう。
警察でも自警団でも来ればいい。何時でも、また逃げおおせてやると。
335 :【魔虹最符】 [sage]:2017/08/31(木) 21:20:25.14 ID:mDCMD47eo
街のど真ん中、せわしなく人が行きかう夜の街に出来た人のいない空間
それはとある少女を中心として出来上がっていた。

「メイドさんの!お前たちに対する!素敵な施しはいかがですかー!何でも500円!!」

背中には身の丈ほどあるモップを背負い。
両手に掲げた、「何でもするから500円ください☆」と大きく描いた段ボール片をぶんぶんと皆に見えるように振り回しながら闊歩する少女
そりゃ民衆からドン引かれるはずである。

「でもこれをすれば…お金は貰えるって言ってました!!」

事の発端は端折るが、とにかく衣食住の付く主人をこの街で探して、この街に居る間限定で雇ってもらおうと言う魂胆である
要は今まで色々して来たアホな作戦も万策尽きて、働こうと決心したらしい。
一応お金のために自分の得意な事をしようとしているらしいが、その方法がアホだった。

「なーんーでーもー!しーまーすーよ!!」

彼女に入れ知恵したのはこの街で知り合った如何にも頭の悪そうなチンピラ、とうのチンピラは冗談半分で言ったらしいが、彼女にとっては素敵なアイデアマン
そしてこのような奇行に至っている。

「…ううっ」

遠巻きに写真を撮られても、なんかやばいと言う視線を向けられても、彼女の行進は止まらない。
というよりそもそも、「なんでもする」という言葉自体が危険だと言う事に気づいていない
彼女の中では「炊事選択家事全般なんでもします」のなんでものつもりなのだが

「もう!!くそ庶民!!バーカバーカ!!庭の噴水が爆発して家水浸しになっちゃえばいいんです!!」

長い民衆の列を抜けて静かで人の少ない場所に出た、もう3回目だ。
人が見つかるまで何往復もしようと決めている、そしてここにたどり着くたびに悪態をついている

「…よし!もう一回はりきっていきましょー!なーんーでーもー!!」

賑やかな通りの外れからまた賑やかな場所へ戻ろうとする少女。
今夜中に何らかのお声がかかればいいのだが…

/よろしくお願いします
336 :【執事無敗】 [sage saga]:2017/08/31(木) 21:37:57.57 ID:OI3dJMWK0
>>335

「……さて、これで概ね大丈夫でしょう……」

夜の街、主人のお使いを済ませついでに色々――勿論健全だが――が入った紙袋を持った執事。
身なりが完全に執事そのものだがそれに驚く人は居ない。
少なくとも街では普通の事であるからだ。

そんな訳で図らずも人ごみの中に混じるいや、正確には周りから避けられているメイドに気が付いた。

「……え?……恐らく幻覚ではないでしょう、明らかに他の人物にも見えていますので」

一瞬驚くもすぐさま考察をし出す。
結論はすぐ出た。

――話しかけるほかあるまい

そして彼は話しかける。

「……とりあえずそれを下して私に話を聞かせてください、500円だろうと5000円だろうと払いますので……」

誰かがあの文言を知っていたらすぐ『そうする』だろうと考えながら彼は財布を取り出しつつ話しかけた――

//こちらこそよろしくお願いします
337 :【魔虹最符】 [sage]:2017/08/31(木) 21:51:49.75 ID:mDCMD47eo
>>336

「!!!!」

声をかけられて、振り向いて、莫大な金銭を難癖付けて要求しようと思って彼女は固まった
だってそこに居るのは、あからさまな同業者、しかも同じ屋敷の者ではない

となるとここでへまをすると、自分の屋敷の品位が下がる!そうおもったのか

「あら、こんばんは、そうね、こんなものはここに置いておきましょう、うふふ」

取りあえず、普段より気を使ってお上品にふるまってみる。段ボールも物凄い丁寧に置いた
物凄い大根役者っぷりを発揮しているのには当然気づいていない

「説明…説明…。って5000円!?!??!何でも説明しますよ!!!!」

哀れ、5000円で化けの皮が剥がれるメイド。

「いやぁ、あの…行方不明のご主人様を探してこの街に来たんです、単独で」

「それで、一日目はラーメン屋巡りをして、スイーツを食べ漁って、あとはー…あ。なんか世界で凄い価値のある石を買って」

「二日目は…お昼はちょっとお高めのランチを食べて、夜はカッコいい殿方に壺を買ってって言われて、そのあとお酒を飲んで」

「三日目は朝起きたらゴミ箱で、お金全部落としちゃってて…。で、買いたいものも出来たので、この街に居る間何か働かないとなって思って!今です!」

このメイド、初日から主を探してなんて居なかった、というよりほとんど食べ歩き紀行である。しかも合間合間にカモにされていた
でもそれらを物凄い屈託のない悪気のない笑みで話すメイド、ある程度の頭がある人物なら多分分かると思うが「アホ」だ。

「話しました!50000円ください!早くください!契約不履行でメイド神拳が炸裂してなんかすごい事になっちゃいますよ!」

さらっと増額、アホなだけではなく図太さも兼ね合わせていた
因みに出鱈目な蛇のモノマネみたいな動きから分かると思うが、メイド神拳なんて存在しない
338 :【執事無敗】 [sage saga]:2017/08/31(木) 22:15:35.66 ID:OI3dJMWK0
>>337

「……」

絶句。言葉も出ない。
普通わかっていようと押し切られるケースもありうる押し売り商法。
それに立て続けに引っかかるとはどうなのかとか顔写真付きで名簿が出回っておりそれに引っかかったのではとか組織ぐるみの犯行ではないかなどと考えるもこれでは聞いても無駄であろう。
なんか桁盛ったし。

そして重要なワードは『ご主人様』。
少なくともその名前と顔が分かれば概ね十分。後は適当に理由を付けて零号機関所属の知り合いやら主人を脅迫してその権限で探させるだけである。
……まあそんな荒っぽいことは極力避けたいしそもそも顔が分かる物を彼女が持っている可能性は低い。

――となると当然名前頼りである。
だが物は試し。聞けるだけ聞くのもやってみようではないか。

「……では更に増額しますのでその『ご主人様』について覚えていることをお教えいただけませんか?」

50000円耳を揃えて差し出すと彼はそう言った――
339 :【魔虹最符】 [sage]:2017/08/31(木) 22:28:36.69 ID:mDCMD47eo
>>338

「ご主人様…の事ですか?」

五万円を出されてまず行ったのは正座、まるで調教を施された犬のようである
口調こそは淡々としているが、目は爛々と輝いていた

「えっと…イケメンでー、あ、後私に喋って動くゴミって名前まで付けてくれて―、あ。悲しい事があると皮の鞭で叩かれて―」

「嬉しい事があると踏んでくれて―、時々美味しいクッキーをくれます!あ!あと私を側近にしてくれました!凄く良い主様です!」

イケメンであることと見事な性格な悪さを伝えるメイド
だがその顔は輝くような笑顔を浮かべていた

「後は…あ!これを言うのを忘れてましたね!かの有名な■■家の御頭首様なんです!」

最後に口からこぼれた言葉も今までと同じ調子の物、けど。内容が内容だった
目の前の執事が知っているかは分からないが、■■家とは、ある筋ではかなり悪名高い家である
少数精鋭の犯罪者集団と言った所だろうか

「で、これが似顔絵ですね!」

幼稚園児が描いたかのような似顔絵を執事に提示する。
しかも過多な装飾が加えられており、背中からは翼まで生えている始末

「ふふん!貴方がどこの執事かは知りませんが、私たちのご主人様は最強で最高なんですよ!!」

そして更に取りようによっては人様の主人を馬鹿にするような発言
バカはどこまで言ってもバカだった
340 :【執事無敗】 [sage saga]:2017/08/31(木) 22:50:32.51 ID:OI3dJMWK0
>>339

「……そうですか……まさかあの■■家とは……そういった行動すべてで何かしらそういう家柄なのはわかっていましたが……」

■■家。
【帝國】でも少しばかし噂を聞く家系で概ね悪いものしか聞かぬなど評判は悪いことお墨付きの家である。
とはいえこれはいい仕事をしている。まあそれが普通なのは彼の趣味ではないが。

「これは厄介なことになりましたね……深入りし過ぎた私の責任ですが……」

少なくとも捜し様のない人物であるのは明らか。
そして捜したところでそれが荊木家や帝國を揺るがす事件になれば死を免れることはないだろう。

「……探すのは無理でしょう」

そう言った後どこからか銀食器を取り出し首元に突きつける。

「……あとはっきり言いましょう、私を侮辱するのはまだしもありえないぐらいの方向音痴なお嬢様やフィギュアを壊したことをバラされそうになる程度であっけなく従う旦那様を侮辱するのは帝國華族荊木家の者として許せませんね……」

その顔は相変わらず平常であったが声は明らかに怒りが篭った物であった――
341 :【魔虹最符】 [sage]:2017/08/31(木) 23:00:17.11 ID:mDCMD47eo
>>340

「……」

探すのは無理か、まあけど自分がいっぱい頑張ればいい話と謎のポジティブを発揮していた
そんな時の事だった、自分の首元に全神経が集中したのは

「…あ…あれ…えっと、失礼な事言っちゃいましたっけ?えっと…えっと…」

相手が怒っている、それは何となく分かる。
いつも罵られることには慣れているが、怒気を向けられるのは別。
人のそう言う殺気だった場面は過去を思い出すから、メイドにとっては致命的な精神的弱点だ

「あ…あの…ごめんなさい?で…いいんですよね。何か言っちゃってごめんなさい」

だからとにかく謝った。
けど何がどう悪かったのかはいまいち理解していない

「……」

相手の様子をうかがいながら、可能であればばれない様に片手をモップに伸ばすだろう
こういう時はどうするか、それくらいは躾けられているし覚えている

もしこれ以上何かがあればきっとモップを相手に向ける、メイドはそのつもりだ
342 :【執事無敗】 [sage saga]:2017/08/31(木) 23:19:26.36 ID:OI3dJMWK0
>>341

……どうにか謝罪はさせた。そう思いながら突きつけた食器を下す。
だがこれで問題点がまた一つ出現したことになる。

「……メイドとしての知識の不足……」

少なくともメイドとしての言って良いこと悪いことを理解していない。
他の行動を含めると更に酷い、まさしく良いか悪いかの悪い部類になる恐れすらある。
というかもうすでに十分悪い部類である。完全にこちらに非があるが。

「……本当によければですが荊木家で一時的に働きませんか?勿論給料は良いですが」

それは本物のダメイドを見た故の不安であり執事として彼女を一人前にしたいと言う意識。
一応謝罪はしているのだからこれ以上咎めるつもりもない。

「……あと人様の家柄がどんなに悪かろうとその家を貶す発言は最悪己の仕える家を滅ぼしかねないのでやめましょう」

最後にはっきりと怒る理由を説明。
どうなろうと自分の言いたいことは言えたのですべてよしである。

//落ちます
343 :【魔虹最符】 [sage]:2017/08/31(木) 23:30:33.86 ID:mDCMD47eo
>>342

「…荊木?荊木様ああああああ!?」

食器が下りた、それと同時に物凄いものも落ちた。
執事が口にした名前、聞いたことがある。内容は忘れた

けどメイドが人の名前を覚えているということは、それ即ち凄いと言う事。
それでメイドは即座に判断した。

「な…何でもします!!廊下を雑巾代わりに舐めて回ります!!」

余程、いや。メイドにとっては紙からの授け物ともいえる程の職場
断る理由もない。メイドは思いっきり土下座をした

「えっと…改めまして喋って息の出来るゴミです!ゴミ子と呼んでくださぁい!!」

勿論、本名ではない。
まあ、彼女にとっては本名よりいいなれた名前だが


「……以後気を付けます!婦長様!あ…男の人だから師長様?」

それからしばらくはベラベラといろんなことを喋りながら執事…いや。上司に付きまとうだろう
勿論自分の能力の事もビックリするくらいに話たおした。

新たな街で、主が見つかるまでの荊木家でのメイド生活が、いや。メイド修行が始まる
…メイドはどのように変化していくのだろうか

//お付き合い本当にありがとうございました!!
//文書にも上げましたが、この子の能力の事は把握して下さって全然OKです
344 :【執事無敗】 [sage saga]:2017/09/01(金) 12:21:39.85 ID:KfMzUqBV0
>>343
//了解です
//こちらこそ本当にありがとうございました
345 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/01(金) 22:48:04.94 ID:1yw7X1Vfo
「メイドさんのお仕事ですか?そりゃあもう多忙ですよ!た・ぼ・う!!」

「まあ私くらいになるハイパースーパーウルトラ級のメイドになると、そんなのは全く気にならないんですけどね!」

町はずれの公園で一人で演説を続けているのは得意げな顔のメイド
そして、観客は猫一匹。

「まあ、私の上司に当たる人も仕事の神とも言える私に感激して、日々勉強になっている事でしょう」

嘘である、どこからそんな出鱈目が出てくるのか。だいたい仕事の神はどっちかというと上司の方で、このメイドは仕事と称してドジを巻き起こし迷惑をかけている方だ
今も、勝手に作って承認もされていない休み時間とやらを使い猫にこう話しかけている。

因みに猫に話しかけているのは、この街は能力者が多く、人外と言われる半人半獣の能力者もいると聞いての奇行。
どう曲解したのか、この街に居る獣は全て獣に化けているだけだと思っているらしい
更に今日の日中買い出しと称して勝手に映画を見に行き、その内容が猫が紳士になって恩返しに来ると言う物だったので、それをかなり期待している
アホである、しかもその後それがバレて怒られている。

「あ、ジョセフィーヌ!どこ行くんですか!!まだ話は―――」

ジョセフィーヌ(野良猫)はとうとう愛想を尽かしたのか、メイドの前から走り去った
そしてそれをろくに前も見ずに追いかけるメイド、人が居たらぶつかってしまうかもしれない
346 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/01(金) 23:58:54.97 ID:/3aZI32To
>>345

差し込む日差しも麗らかな、ある日の昼下がり。
閑静な郊外は出歩く人気こそ少ないものの、人通りのない場所特有のどこか陰気な雰囲気というものがなかった。
受ける印象は森の中。柔らかな静寂が心身を癒していく、都会の喧騒から距離を置いた小さな幸せがそこにある。

ここにいる住民たちも、おそらくそれを気に入っているのだろう。
特に避暑地などどして有名になっていない一帯はまさしく住宅地の穴場ともいうべき土地で、この静寂を乱したくないから誰もがそっと口を閉ざす。
ゆえに住民たちの気質の大半は温厚そのもの。人生の浮き沈みを厭い、過度な幸福も絶望もなく、ただ平穏を願って暮らしているから過度に他人に干渉することもない。
きっと彼らはこんな日、各々の思うように過ごしているのだろう。ある人は紅茶を嗜みながら書を読み、ある人はベランダで風に撫でられながら眠るというように。

ここはまさしく一種の理想であった。エネルギーに満ちあふれた若者であるならともかく、老境に差し掛かった人々なら、誰もがこういう生活を送ってみたいと思うほど。

「ほー、それは大したもんだなァ」

――そんなところに、どうしてこんな輩がいるのだろうか。

どしん、と軽い衝撃。視線を挙げればそこには一人の男が立っている。
紫のシャツ、ノーネクタイ。着崩したスーツで包む肉体は特別がっしりした骨格ではないが、その身長は百九十センチを越していた。
服装からして“ヤ”のつく彼らだが、真っ白な蓬髪と血のように紅い双眸、微笑を浮かべた凶相があからさまにヤバげな空気に拍車をかけている。

猫は男の足元を通り抜けて去っていった。
振り返りもしない。たったか走る小さな姿はあっという間に消えてしまう。

「そんな仕事の神サマにひとつ頼みがあるんだが、どうだい聞いちゃくれねえか? 報酬は弾むぜ」

観客は可愛らしい猫からおっそろしい男に入れ替わった。
それ以外にも違うところと言えば、猫は喋れないので口をはさむこともなかったがこの彼は自由勝手に喋りまくるということである。


//よろしくお願いしますー
347 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 00:11:53.68 ID:GUA4VGppo
>>346

メイドに伝わる衝撃、視界が男の体に塞がれて一瞬見えなくなる
とりあえず一歩引いて、文句の一つでも言ってやろうと思ったメイドだが――――

「…ジョセフィーヌ。紳士じゃなくて、マフィアだったんですね」

走り去る猫が見えなかった、そしてメイドにとっては突然現れた男
何だかとんでもない勘違いをしているようだ。
そしてその勘違いで目を輝かせる彼女

「ま…まあ、私の想像していた紳士とは違いますけど!仕事ならしてあげます!感謝してください!」

あれほど軽い口を叩くなと言われていたのに、早速軽すぎる言葉を投げかける。
相手のヤッバイ雰囲気なんて気にも留めていない、というより、勝手な勘違いで元は猫だと思い込んでるので立場は自分の方が上だと思っているらしい
どこまで行ってもアホはアホだ。

「あ!でも仕事を達成したからには。してもらいますから!お・ん・が・え・し!!」

「何でもしてもらいますからね!一生メイドの召使いとして雑用とか雑用とか雑用してもらいますからね!!」

アホは何よりも強いのかもしれない、こんなヤバそうな人にこんな馬鹿な事を言えるなんて
頭の中お花畑というよりもう何も詰まっていない。

「それにしても可愛くない猫ですね…。ぶさかわって言うんですか?雰囲気的にはヤバかわ…あ。ヤバくて可愛いの略の事です」

「…というより、なんか…ヤバい?ヤバヤバ?」

やっと気づいたメイド、そう。かなりヤバいぞ
相手がメイドの勘違いに気付いても気づかなくてもヤバさには変わりない
348 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 00:28:51.41 ID:gaGnlFMPo
>>347

実はこの男、見た目に反して善い人間で。
日々こつこつと働いてまっとうにお金を稼ぎ、やることといえば貯金か親孝行。酒も煙草もやらずに真面目一徹。
その実直さは近所の人たちにも評判で、外見はアレだがけっこう好意的に受け入れられている――。

「おーそうかいそうかい、そいつは何よりだ!」

なんてことは当然あるわけがない。
彼がどんな人間か? 問われれば答えは簡単、見た目通りの輩である。
暴力を飯の種にして、罪なき人を食い物にし、埃と汚れと何やらよくわからぬ悪臭立ち込める裏社会を住処とする生粋の溝鼠。

ヤバいとも。ヤバヤバだとも。
人は見かけによらない? 馬鹿を言うなよ第一印象こそすべてだろうと言わんばかりに、この男はヤバい奴だ。
お天道様に顔向けできない類の人間……こんなところにいるのがめちゃくちゃな違和感しかない。

当たり前というべきか、そんなことはこいつとて自覚している。
なので逃げられるだろうと事前に予測し、首根っこ捕まえてやろうと密かに支度をしていたのだが……。
蓋を開ければ予想外。緊張感に欠けるにもほどがある受け答え……なんだかよくわからないこの違和感、まさかこいつ、自分をさっきの猫と勘違いしているのか? いやまさかなと思った、しかし彼の勘は的中している。
無いとは思うがだとすれば……ああ、猫に話しかけている時点でだいぶ頭がアレなんだろうとは思っていたが、この娘はかなりの花畑。

こいつはいいやと思いつつ、ぶら提げていた大きめのボストンバッグを開けた。勘違いしているようなら気の済むまでさせてやろう。

「クヒ、雑用は残念ながらしてやれねぇが……どうだい、こいつに興味はないか?」

言って、バッグに突っ込んだ手につかんできたのは――札束。
きっちり帯封も切られていないぴかぴかのそれが、合計五つ。
無造作にも男の大きな手に収まっているそれをメイドの前まで持ってきてゆらゆら動かした。
349 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 00:39:36.63 ID:GUA4VGppo
>>348

「!!!!!????」

目の前に飛び込んできた札束。かなりの大金
これを持って帰れば、この街で仕えている家の方々に褒められるのではないだろうか
そしてこれがあれば買いたいものも買えるし、イケメンだらけの酒場に隠れて行って飲み倒せるし
なによりこんなお金があれば物凄い偉くなった気分になるじゃないか

「あ…おお…おー…」

アホみたいな声をだしてアホみたいな顔で、札束に合わせて頭に揺らすメイド。

「そ…それで何をするんでしょうか!」

目の中に浮かんでいるのはお金のマーク。それを男に向ける

「部屋のお掃除ですか?溜まりに溜まったお洗濯ですか?あ!手作りのお料理ですか!?」

メイドの思いつく限りの仕事を羅列する、けどきっとそのどれも違うだろう
でもそんな事このメイドは知らない、そして多分この様子じゃ一生気づけない

「そ…その…特別サービスで、耳掃除とか…」

ポッと顔を赤らめて、恥ずかしげにつぶやくメイド
でも違う、そこに恥じらいを持つな、危機感の無さとアホさ加減に恥じらいを持てと言いたい

「とにかくなんでも!何でもします!!!」

ビシッと姿勢を正して男の目をまっすぐに見つめるアホメイド。

はたして仕事の内容とは何だろうか…
350 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 01:04:58.82 ID:gaGnlFMPo
>>349

釣れた――釣れてしまった。金に困った学生よりも簡単に。それこそ鯛で海老を釣る如く。
あまりにあっさりいきすぎて不安すら覚えかねないこの具合はいったいどうしたことか。

……男は稼業の柄、多くはないが上流階級の人間とも付き合いを持っている。
そしてたまーにたまーに、ごく稀に招かれてその豪奢な邸宅に入ることも、また。
そこに仕える家令やメイドというものは大抵、その家柄を汚さぬ程度の教育を受けているもの。当然だ、泥まみれの壺を置いておけば持ち主の恥になる。
その理屈に則ればこの娘も一見アレだが実は賢いのだろうと思っていた。そう、思っていたのだ。今までは。

だがこうも簡単に金に釣られるところを見るに、正規のメイドではないのだろうかと。
暇人がまったく職務に関係ない自分の趣味としてメイドを模した服装を着ることがある。いわゆるそういうコスプレの類だろうかと、思わないわけにはいかなかった。

なかなか面白い……あまり見ない人種ではある。

「クックック! いやなに簡単なことさ。時間もそれほどかからんよ」

笑みを深め、片手に札束を保持したまま腕にバッグを引っかけ、もう一方の手で中身を漁る。
取り出したるは三十センチ四方の箱。と、思しき形の物体を派手すぎず品よく包装してあるもの。
それを持ったまま、器用に指さした方向にあるのは他の住宅よりも少々背の高い建物。

「これをあの屋敷まで届けてほしいのさ。たぶんお前さんと同じようなメイドや執事が出てくるだろうから、そこで渡せば終了だ」

聞こえのいい、実に簡単そうなお仕事。
件の屋敷までの距離もそう遠くはない。せいぜい歩いて十分程度といったところだろうか。

「さるお方――まあベルマイヤー家ってところからの荷物なんだが、いやはや人選って言葉を知ってるのかねぇ。俺なんぞが行ったところで無用に警戒されるだけだろうに」

その点あんたなら大丈夫だ――どこからどう見ても立派な一流、世に恥じないプロの家人だと誉めそやすその様子……怪しさ満点。
告げられた仕事の内容だって人並みに考える頭があればすぐにわかるほどヤバい類のものだ。
明らかに運び人。そうでなければ鉄砲玉。この娘を無自覚なテロ犯に仕立て上げようとする臭いがプンプン漂っているし……。
――実際その通りなのだから言い訳もできない。これは気付く。誰でも分かる、逃げねばならぬと。……普通の危機感を、持ってさえいれば。
351 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 01:22:11.85 ID:GUA4VGppo
>>350

「簡単な事ですか?簡単なら何でもします!!」

この街に来てからまだ四日ほど、この街でさるお屋敷にお仕えしてからまだ1日
だからか、この街の危険性にまだそこまで気づいていない

「ほうほう、その箱のお届けですか。もう!バカにしないでください!!それくらいメイド歴14年の私に出来ないと思ってるんですか!」

出てきた箱を見てホッと一息、こんなのは訓練された猿にでもできる。
だが最初に言っておこう、このメイドの知能は賢い犬以下、仕事をする能力はまだペットで飼われている犬の方が高い
そう、残念なのは頭だけではない、何もかもが残念なのだ。

「ベルマイヤー家…あの…お屋敷…」

ハッと思い出した、御屋敷の仕事以外でメイド服を着て人のお宅に極力行ってはならないと言われていたことを
そんなことお金の魔翌力に魅せられてすぐに忘れた

「師長さまとお嬢様には内緒ですよ?…怒られちゃいます」

完全にメイドとして、いや、もう人としてどうなのだろうか。
ここまで来たら、アホというより脳が無いのかもしれない

「じゃあ早速!いってきまーす!!」

箱を手に取って向かうは言われたお屋敷。のはずだった

「ぶえっくしょん!!!」

箱を持ったままメイドは豪快なくしゃみをした。それだけならいい
その反動で思いっきり手に持っていた箱を地面に叩き付けてしまった。
前述したとおり、言われた仕事を遂行させるならまだ猿の方が出来る。それを体現した


「うわあああああああ!!!!ごめんなさい!!!私ってば!!!」

箱の方はまだ見ていない、だって壊れてたら怖いから。それに人に謝る時は人の目をきっちり見ないといけない

はたしてこのドジはメイドにとって吉と出るか凶と出るか…
352 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/02(土) 11:51:34.44 ID:4t+1lwvMo
>>312
/これで改めて待ちですです。キャラやシチュの相談など大丈夫です。
/人付き合い悪いやつらばかりなので気に留まらなかったらスルーでも全然大丈夫ですッ
353 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 19:52:56.44 ID:wMUuk935o
>>351

いやはや恐れ入った、こいつは筋金入りのアレだ。馬鹿だ。
自分とて他人の事を言えた義理じゃないが、馬鹿は土壇場で思わぬことをやらかすものだ。
道理に則って動く常人ではとうてい思いもつかないことを平気でやらかしてくれるから面白いったらありゃしない。

「頼もしい限りだなァ、宜しく頼んだぜ一流メイドさんよォ――」

ゆえにきっと、こいつもそうなるだろう。
愉快なことを巻き起こす、そのような確信じみた予感がある。この手の勘には自信があるのだ。

見逃さない手はない。裏の筋から仕事を頼まれたことは確かに事実だが、それ以上に彼は己の欲望をこそ優先する。
鉄砲玉を用意したならさっさとその場から離れるのが筋合いだ。
踵を返した背中はその通り、ここではないどこかへ去ろうとしていたが、目指すのはどこぞのアジトではなく丁度いい具合に良く見える場所。
これから開催されるであろう喜劇、あるいは滑稽劇を鑑賞するために。無駄に高性能な双眼鏡の感触をバッグの中で確かめつつ、その光景を思い描きながら足を進めようとした。

「――は?」

その瞬間に背後で聞こえたくしゃみと異音。
“がしゃん”と、硬質の物が破砕する音の発生源は言うまでもなく固いコンクリに叩きつけられた“贈り物”から。
必死の形相で謝る彼女をとりあえず捨て置いて、地面に放られた箱を拾い上げ耳にあてた。

――種明かし、というか普通の人間なら勘づいていて然るべきだが、これは要するに遠隔起動式の爆弾である。
三十センチ四方の箱型の内部には数十種類にも及ぶ爆薬の類が調合されており、それを爆破するための起爆装置は限界まで面積を減らしてある。
そうであるからには当然だが精密機械であり、概してそういったものは衝撃に弱い。
さすがにちょっと落としたくらいでは壊れないものの、勢いよく硬い地面にぶつければ無事でいられる確率は高くなく……。

ゆえにかすかに聞こえたのだ。丁寧な外装の奥に敷き詰められた悪意の塊が誤作動を起こしたした声を。
そう、じり、じりり、と。

「あ、こりゃやべえわ」

言うが早いか振りかぶり、メジャーリーガーも真っ青な球威をもって“それ”をぶん投げた。
最後のあがきとばかりに当初の目標であった屋敷目がけてすっとんでいく爆弾……しかし願い届かず。

爆発――屋敷どころか他の一軒家にも被害を及ぼさない中空にて暴発する。
震撼する大気。耳を聾する轟音。宙に散華した赤とオレンジの色彩を、男は打ち上げ損ねた花火を見るような目で眺めていた。

「……ク、ヒヒ、ハハハ、ハーッハッハッハッハッハ!」

しかし堪えきれぬとばかりに噴出し、堰を切ったように笑いだす。
おそらく彼の目的は失敗したはず。受けた依頼を遂行できなかったのは紛れもない事実だろうに、なにがそんなに面白いのだろうか?
だがとにかく腹を抱えて笑い転げるその姿は、心の底から愉快げであった。
354 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 20:10:45.46 ID:GUA4VGppo
>>353

…なんか割れた。ヤバい。メイドの頭はそんな思いでたくさんになった
だって明らかに何かが破砕した音が聞こえたから
でもメイドは謝りながらも、頭の中で考えていた。空耳でありますようにと

「…???」

謝る自分を捨て置いて箱に耳を当てている男、このメイドでも察した。
中に入っているのはなんか音の出る物、高めの目覚まし時計か何かだろうと
察しは見事に外れている。やっぱりアホだった。でも取りあえず時計は機械、機械は高い、そして壊れやすい
完全にやってしまった、そんな世界の終わりのような顔で男を見つめる
弁償ともなれば今のお屋敷からも元のお屋敷からも離れ異国情緒あふれる所に出稼ぎに行かないといけないかもしれない

「…やば…い?やっぱり壊れちゃってるんですかっ??」

「あ…どうしよう。私ってば…――――」

また謝ろうとしているメイドは途中で言葉を止めて、顎が外れそうな形相で飛んでいくそれを見送った
男の言葉の意味、そして飛んでいくソレ、メイドの貧相すぎる頭では点と点が線で結ばれない。

「ひいやあああああっ!!!」

そしてそれらの思考をすべてかき消すかのような轟音。体に伝わる震撼
そこで気づいた、箱が爆発したと。

「あ…あの…」

目の前で拭き出した男を見て、メイドはヒヤッとした冷たい表情で言葉を紡ぎ出す
流石にここまで来たら気づいたのだろう。



「……助けてくれたんですか?」

前言撤回、気づいてなかった。因みにメイドの思考回路はこうだ。

箱を落とした、中に入っている物が壊れてないか男がチェックする、男が爆弾は入っている事に気付く、安全のために投げる、助かる。
だからこんなにも笑っているのだと
355 :【一刃潜瞬】 [sage]:2017/09/02(土) 20:27:20.34 ID:BBQmxkzCo
>>352
//絡ませていただいてもよろしいでしょうか……!
356 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 20:36:17.36 ID:wMUuk935o
>>354

こいつはいったい何を言っているんだ――。

「ヒヒヒヒ、ヒャハハハハァ――ッ」

とんちんかんにもほどがある彼女の言葉にまたも笑いを誘発された。
極上のギャグをぶちかまされた観客のように、近場にあったコンクリート壁をバンバンと叩いている。

これは駄目だ耐えられん、この女は全体どういうことなのだ……こんな奴はそうそうお目にはかかれんぞと。
これほど間抜けな奴は見たことがない。いいや単に間抜けで済ませていいのか? この察しの悪さは明らかに異常だ、その頭に詰まっているのは餡子か何かなのか。

しかし――彼女は幸運であったと言えるだろう。

「助けた? ああ、そんなつもりはなかったが結果的にはそうなったんだろうな。それは綺麗な花火が咲く予定だったんだがねぇ」

……言葉通りの意味(はなび)であるはずもなく。
彼はこの娘の安全を毛ほども考えていなかった。遠くからその様子を観察して、頃合いを計って起動してやるつもりだったのだ。
その頃合いとはもちろん、彼女が屋敷に到達したその瞬間。もっとタイミングを計るなら受け取りに来たやつの手元で着火するくらいか。
いずれにせよ彼女は至近距離で大爆発に巻き込まれる形になる。そうなれば当然、生きていられるはずもなし。

そこに至るまでの珍道中やら到着してからのひと悶着やらを楽しもうと企んではいたが、どだい他人の命を大事がるほど殊勝な人間ではないのだ。
すべては自分が楽しむために在る……ならば一山いくらの人間、何を惜しむことがあろうかと。
死んでしまえばそこで人生は終わりだ。その先はどう足掻いても自分を楽しませることができない以上、積極的に命を奪うつもりもないが必要とあらば大量虐殺すら笑いながらやってのける。
無駄に生きながらえたところで仕方がなかろう。だったらいっそ華々しく散らせてやろうと、自分にしか通用しない思考をこれ見よがしに曝け出して……。

向き直った男の顔には、深い笑みがたたえられていた。

「残念無念、だがまあやっちまったもんはしょうがねぇよなぁ! なに頼んだのは俺だ、くよくよすんなよ飯でもいこうぜ!」

とりあえず後のことは後に回して、今はこいつでもう少し楽しみたいと思ったからこそ付き合いに誘う。
日常であれ鉄火場であれ、きっとこいつは見ていて愉快な事態を起こす。
ならば荒くれどもが集う酒場なんぞに放り込んでみたらどんな反応が起こるのだろうかと、楽しみながら期待していた。
357 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 20:59:30.73 ID:GUA4VGppo
>>356

頭に餡子が詰まっているを通り越して、頭に多分何も詰まってないメイド
多分頭部は髪の毛をはやすためだけに存在しているこのメイド
世の中は良い人ばかりいて、悪い人は自分の前に姿を現さないとでも思っているのだろうか

「綺麗な花火?」

その言葉には一瞬首をかしげたメイドだったかが、それをかき消したのは助けたと言う事を曲がりなりにも肯定した男の言葉だった

「命の恩人様なんですね!!…あの箱が爆発するから助けてくれたんですね!!」

どこまで言ってもお花畑はお花畑、完全に男を善人か何かだと信じ込んでしまったこのアホ(メイド)
しかも助けてもらったことに対して、変な仲間意識を燃やし始めた為、頭の中での男の役割が書き変わった
今までは仕事をくれた気前のいいクライアント、だったのが。命を助けてくれた素敵なご友人くらいになっている

友達は選んだ方がいいと言う言葉はきっとこのメイドには通用しない

更に最初の方の元はネコという勝手な勘違いもあり、この男は自分の話をよく聞いて、しかも姿まで見せてくれていた
メイドにとっては至れり尽くせり、男にとってはかなり面倒なことになるだろうが、メイドにとっては運命ともいえる出会い

「…ご飯!?行きます!行きましょう!!もっと仲良くしましょう!私!仲良くなりたいです!!」

メイドの中での男の株価が急上昇、男は失敗した自分を慰めてくれた上にご飯にまで誘ってくれた
こんな聖人君子みたいな人がこの世界に居るなんて…。もうメイドには男に後光が差して見えているレベルである
こう言うのが誰も引っかからなさそうな詐欺にあうのだろう。

因みにこのメイド、酒場には時折出没するが、比較的安全でよくカモにされているイケメンだらけの酒場と、本業のメイド技を披露しに行った
という体でお店に損害を与えて出禁にされたメイドだらけの酒場しか言ったことがない。
つまり荒くれだらけの酒場なんてアンダーグラウンドなんて物は未経験である

「あ…ずっと私が付けていたジョセフィーヌって名前…ほんとの名前じゃないですよね?良かったらお名前聞かせてください!」

「私はこの街に来る前のお屋敷では喋って息の出来るゴミって言う名前で、この街に来て臨時で雇っていただいてるお屋敷では本名で働いてます」

「本名は、ユルル=ミンスフィーって言います。お好きなように呼んでください」

うふふと深い笑みを浮かべて心底嬉しそうな顔のメイド、バカはこの世で一番幸せな生き物だ、この嬉しそうな顔が物語っている
しかもあろうことか握手まで求めている。
358 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/02(土) 21:05:09.91 ID:4t+1lwvMo
>>355
/もちろん大丈夫です!!よろしくお願いします。
359 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 21:31:52.17 ID:wMUuk935o
>>357

ジョセフィーヌ……? 何のことかと一瞬考えて、思い出したのは彼女を見つけたときのこと。
何やらメイドが野良猫相手に熱弁を振るっていた、その瞬間。どうもおかしなやつがいるもんだと近づいていったその耳に入ってきた単語の一つを掘り当てる。
ああそうかこの女……まさかとは思ったが、本当に自分をあの猫が化けた姿だと思っているのか。
絶望的に頭の中がスカスカすぎる……あんまりにもひどいお花畑というものだ。よくここまで生きてこれたもんだと場違いにも思える感心を浮かべた。

「嬉しいねぇ。昨今の人間も、もう少しあんたみたいに人を信じるってことを覚えなくちゃなァ」

しかしまぁ対応は変わらない。
そう思いたければ思っていればよい、馬鹿々々しくて結構なことだ。
こういう直接的な阿呆がいるから世の中は面白い。趣向を凝らさずまっすぐストレートに愉快なものは、誰が見ても愉快なのだ。

求められた握手に応じつつ、男もまた名乗りを返した。

「ゲアハルト・グラオザーム――さて、それじゃあこちらの世界にご招待といこうか」

――――――。

――――。

――。

……裏の社会とは、案外すぐ近くに潜んでいるものだ。
なぜなら彼らは一様に、“表”の住人を食い物にする獣どもだから。
その動向をいつでも察知できるよう、また、あちら側から闇に住まう影を発見されないよう、巧妙に姿を隠蔽して狙っている。
世界が地続きである以上、物理的に境界線を引くわけにもいかず。両者の間には目に見えない薄皮一枚ほどの壁のみが存在するばかりである。
その動向をいつでも察知できるよう、また、あちら側から闇に住まう影を発見されないよう、巧妙に姿を隠蔽して狙っている。

ここはその一角――閑静な住宅街を路地一本行った先にある、一見して変哲もないビルの一部。
看板もなにも掲げられていないそこはしかし、中に入ってみれば明らかに酒場であった。
乱雑に並べられたテーブルと椅子、席の間に碌な仕切りもなく、ぎらついた照明には煙草の煙が影を作り、空気にはアルコールと思しき臭いが漂っている。

絵に描いたようなアンダーグラウンド……そこに足を踏み入れた一組の男女に鋭い視線が飛ぶ。
着崩したスーツの長身はよく見る男だった。しかし一緒にいる女は見かけない顔。
何よりなんだあの格好は……メイド? なぜここに。“彼”を深く知る者はまたきまぐれを起こしたかと早々に興味を失い、そうでない連中は隠し切れない下卑な目で見た。

「おう、適当になんか頼むわ」

縄張りを回遊する魚のようにすいすいと人の間を縫って、男が進んでいったのは奥の席。
どかりと椅子に腰かけて、彼女にこっちだと手招きした。
360 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 21:51:25.01 ID:GUA4VGppo
>>359

「そうですそうです!もっと人を信じなきゃいけないんですよ!」

とは言った物の、このメイドが今まで関わってきた人間は殆どいない。
正式な所属である屋敷の主人、この街に来てからは一週間も経っていない、この街で臨時メイドをさせてくれている屋敷の人達、そしてこの男
なんと20年ぽっちの人生の中で両手で収まりきる様な交流しかない。

だからメイドは他人との付き合い方をよく知らないが、男がそう言うならそうなのだろう。
何も考えずに同意して囃し立てた。

「ゲアハルトさんですね!覚えました!忘れません」

握手をしてくれるなんてやっぱりいい人だ、なんてのうのうと考えている

「…こちらの世界?」

そう聞いてメイドが頭に思い浮かべたのは人外ばかりのファンシーな情景
この街でチラッと耳にした事がある、人外ばかりが集まる所があると、またもやメイドは完全に勘違いしている
頭の中に浮かぶのは可愛い人外ばかりのファンシーな世界。
胸を躍らせてピョコピョコと男の後に付いて行った

――――――――――
――――――
――――

……メイドの頭の中に浮かんだ言葉。それはただ一言「なんかちがう」
ここは酒場だし、なんか時折じろじろ見られている気がするし
けどメイドは自分にこう言い聞かせた、「人や場所を見かけや雰囲気で判断してはいけない」と
お酒の臭いは自分も酒場に行くから慣れているし、たばこの煙も元居た屋敷では他の使用人が吸っていたから慣れている

「あ…そうそう、大事なこと忘れてた…」

そう言いながら、胸元のリボンを外し、エプロンを脱いでたたみ、お団子にしていた髪の毛を降ろす
酒場でメイドが居たら浮くのは分かっている、だからメイドなりに学習して酒場に来るときはいつもこの格好になるようにしている

「今行きまーす!」

解いたセミロングの髪を靡かせながら、男の元へ小走りで向かうメイド。

「何食べましょっか?」

着席早々男にそう問いかけるメイド、いや、今はメイドというよりはフォーマルな装いの女性と言った方がいいだろうか

それはともかく背中に背負っているモップのせいでちょっと座りづらいらしく、体を細かく動かして位置を調整していた。
361 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 22:26:34.70 ID:wMUuk935o
>>360

化けたな。いや馬子にも衣装というべきか?
甚だしくこの場にそぐわないメイド服を脱いだとたん、娘は“女性”に変貌した。
顔つきやらなにやら……ここに合っているとはまだまだ言えはしないが、なんとか外見は見れるふうにはなったようだ。
女ってのは怖いねぇ。そら、珍獣を見るような具合だった男どもが目つきを変えたぞ。これは面白いことになる。

そんなことを考えながら椅子に深く背を凭れさせ、悠然と足を組む男の姿は紛うことなき闇の住人。
全身から滲み出る不穏な気配はこの薄暗がりの溜り場に何の違和感もなく溶け込んでいた。

それもそのはず、彼は普通にこっち側の人間だ。あんな善男善女が好みそうな住宅街なんぞに出向いていたことの方が稀な事態というもの。
ここに屯する者たちも、彼女はともかくゲアハルトは同類であると認めていた。信頼するべきではない、しかし金で繋がっている限り信用には値する者であると。
仲間意識など皆無。そんな隙を見せる奴はいいように喰われて無残な最期を遂げることになるのだ。

「そうさな、まあここにはメニューなんぞありゃしないが……」

テーブルの上には飲食店には必要不可欠な品目一覧が置いてはいなかった。
もちろん食器、おしぼり、各種調味料やアンケート用紙なんてものも。酒やら煙草の灰やら、あと何かよくわからぬ液体が染み込んだテーブルの上には何もない。
それはこの席に限ったことではなく、他のすべてがそうだった。見ればそもそも料理を食べている人間が少ない。大抵は口にしているのは酒である。

「ここのマスター、実は腕がいいんだよ。言えば大抵の品は出てくるだろうさ。勿体ないことにここの連中はさして頼みもしないがな」

それでも少数ながらも何か食べている人間がいるということは、言う通り頼めば出てくるのだろう。
見た感じ、美味しそうな。ごく簡単な軽食が大半だが、よく見渡せば小洒落たレストランで出てきそうな雰囲気の料理もある。
そうしているうちにウェイターが酒とグラスを運んできた。度数の強いバーボン、琥珀色の液体が重厚なガラスの中で揺れる。
開封して注ぎ、一口含み。あんたも呑むかいとグラスを差し向けた。
362 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 22:46:30.02 ID:GUA4VGppo
>>361

「あはは。何だか変に緊張です。こういうの初めてなんで…」

いつもは酒場に来る時も一人、人に誘われるなんて事もない、人前でメイド姿を崩したのも初めて
要は何もかもが初めてで、ユルルはかなり不思議な感覚に襲われている。
けどまあ目の前の友人が連れてきてくれた場所だ、精一杯楽しまないとダメだ。

それよりも先ほどから気になる周りの視線。
いや、確かにここに来た時はメイド服だったし、現に今も軽く装飾を取っただけで、場に馴染めてないのは何となく分かる
それにモップを背負っているからかもしれない。なんて思っていたのはさっきまでの話

今はなんかこう、貧相なボキャブラリーからは捻り出せないけど、なんか変わった
視線の具合がなんか変だ。初めて向けられるこの感覚…なんだろう
居心地が悪いわけではないけど、なんか、何とも言えない。
そんなユルルに天啓が下った、あ。そっか、人間が珍しいんだと

メイドはメイドじゃなくなっても、アホだった

成程、友達になりたいのか…。うんうん、と勝手に納得して勝手に頷いている
人見知りなんだなー、後で一人一人声をかけて行ってやろうかなんて事までも考えていた

「おお…初めてです!あれですね!会員制っていうかシェフの気まぐれって言うか、なんかこう―――凄いです!!」

勝手に納得して勝手に感動して、辺りをグルんと見回す
新鮮な景色に新たな新鮮さが加わって、なんだかまるでとても楽しい場所に居るみたいな顔をしながら目を輝かせている
最中にこっちを見てる荒くれと目が合ったので取りあえず微笑んで手を振っておく、やっぱりアホだ。

「料理…料理は…んー…やめておきます!私も料理は得意ですし、見たところここは酒場の様なのでお酒を飲みます!」

因みにメイドが作る料理は全て炭になる、どこから得意という言葉が出てきたのだろうか…。
それにもしここでご飯を食べて、屋敷でのご飯が食べれなくなったら、勤務中にこんな事をしているのがばれる、そして怒られる
アホはアホなりの浅知恵を働かせた。

「わー…ふふん。こう見えてお酒にはめっぽう強いんですよ」

男から差し出されたグラスに口を付けて少量口に運ぶ。お酒に強いと言うのはかなり盛っているが、人並みくらいにお酒は飲める方だ
ユルルが人並みにできるごく僅かな特技と言ってもいいだろう

「じゃあ、私は、―――を貰えますか?」

ユルルが口にしたのは比較的安価なウイスキーの名前。度数は男のと比べると低いが、お酒にしてはまあまあ高い方。
前に居た屋敷の主人がこれをよく飲んでいたので、ユルルもそれを覚えていたし、時々一緒に飲ませてもらっていた
そしてユルルが知っている唯一のお酒でもあった。
363 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/02(土) 23:12:58.52 ID:BBQmxkzCo
>>312

秋の訪れを告げるかのように、肌に触れる風は幾段と涼し気なものになった。
だが、相変わらず空気は淀んだままだ。一種の暗さを孕んだそれは、不気味さを与えるであろうか。
その上烏が喚き散らしている様も合わさって余計に不気味に感じるだろう。

そんな混沌とした空気の中を、一人の少女がよろめきながら歩いていた。
荒い呼吸に額を滴る大量の汗、そして何より右腕がすげ変わったかのような刃。
顔色は青ざめているかのようで、羽織っている制服のカラーは朱に染まっていた。


意識も朦朧としているのか、時々自らの足に躓きそうになりながら。
歪んだ視界に見えたのは、一つの光源。その正体が自動販売機だと気づくまで暫く掛かった。
耳で微かに捉えたのは、咳き込むような音。人が居るとは分かったが、それどころではない。

――中毒“様”症状。それが少女の身体を蝕んでいる正体である。
普段の服用では問題が見つからないのだが、稀に「薬」の副作用として引き起こる。
喉が渇き、視界が歪み、幻視と幻聴に苛まれる……、等の症状が重なって起こるのだ。


「す、みませ……、み、ずを゛くださ……」

地面に這いつくばるようにして、先程の咳き込む声の主へ向かって言う。
水を浴びる、これが一番効果があると主治医には言われた。
冷水を浴びれば、身体が戻るなど信じがたい話だが――。今は、そうするしかなかった。
364 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/02(土) 23:25:58.02 ID:wMUuk935o
>>362

退廃と悪徳の吹き溜まりを、こうもキラキラ眺めまわす女も珍しい。
やはりこいつは珍獣だ。呑気に寝転んで笹を毟っているパンダとそう変わるまい。
ただ違うのは、彼女が寛いでいる場所が安全な動物園の檻ではなくハイエナやらオオカミやらの集会所だということ。
こんなところに連れ込まれてなお危機感もなにもなく、物珍しげに目を輝かせる娘の滑稽さよ。ここを動物たちのワンダーランドとでも思っているのだろうか?

……しかし、やはり妙である。この女は本当に、何も感じていないのか?
人間には危機察知能力というものが備わっている。それは安全が保障された行動文明化社会の中において、野生の獣と比べれば著しくお粗末なレベルまで退化してしまった。
だが未だ、石器時代の本能は人間の中に根差しているのだ。生物として最低限なければならない第六感未満の感覚、それがなぜこいつには存在しないのだ。
ここに入ったとき、一瞬だけ何か感情を浮かべていた。しかしそれは恐怖ではなく純粋な困惑に見えたし、己の観察眼が判断する限り今の彼女にそれはない。

生き物としての歪さ――それを男は、この能天気な人物に感じていた。
単に頭が悪いというのもあるのだろう。だがそれだけとは思えない。きっとこの娘の奥底には、それ以上の何かが眠っているに違いないと……。
期待するから、それを引き出そうと行動を起こす。穏当なやり方も嫌いじゃないが、せっかくだから“こっち”の方法を使わせてもらおう。

店内を見まわす……ユルルのその目を盗み、今しがた彼女と目が合った男の方に視線を向ける。
片方の口角を吊り上げた。そこに含んだ意図を読み取ったのか、男もまたにやりと顔を歪めた。

「そうかい、まあ好きに呑んだらいいだろうさ。だがつまみくらいはいるだろう?」

そう言うとマスター――と呼ぶには些か以上に風貌が荒々しいが――に注文を伝える。
ほどなくして運ばれてきたのはナッツの類か。そいつにはこれがよく合うんだよと一粒二粒つまみ、口に放り込んでまた酒を呑む。
ユルルが頼んだものにもよくあうことだろう……ウイスキーの味をナッツが引き出す。舌の上から鼻に抜けていく香りをよく感じられた。

駆けつけ三杯ではないが、強い酒にも関わらず一気に煽り、二杯目を注ぎながら微笑みとともに言葉を紡ぐ。

「ただ一等酒にあうのは愉快な話だと俺は思っていてな。ご期待に沿うかは分からんが、試しにご拝聴願おうか」

そうして語りだすのは異国の物語。
ここではないどこか、遠く海を隔てた世界の果てまで。
中心となるのはこの年頃の女が好みそうな人間模様、とりわけ恋愛に焦点を当てたもの。
話す口調は朗々、感情の熱を上手く操りながら、紡ぎ出される話のすべては単なる伝聞ではなく彼の目から見た確かな事実として語られていたから自然と聞き入る詩(うた)になる。
まるで一流の吟遊詩人がそうするように……人の心へするりと入り込み、巧みに感情を操る手管は詐欺師に必須の技能である。

誰でも夢中になれる夢のような蠱惑があった……そう、時間の流れも忘れ去り、いつのまにか度数の高い酒を一本空けてしまうくらいには。
あまり陽の差し込まない店内に、見えにくい時計もそれに拍車をかけていた。この店には正常な判断を失わせる材料が揃っている――。


//あちらにも書きましたがこちらでも一応、店内の人たちとかは自由に動かしていただいて大丈夫です!
365 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/02(土) 23:36:10.54 ID:4t+1lwvMo
>>363

足音には気が付いていた。だから見知らぬ少女が千鳥足めいてふらりふらりと寄ってくる様子を、黙って眺めた。
干渉することなく、警戒するまでもなく、ましてや心配をするように眉間にしわを寄せる事もなかった。
爬虫類めいた奇怪な瞳をするりと細め、無味乾燥な面持ちでぼけっと見つめるだけ。

遂には少女が足元で這いつくばり、地獄でもがき苦しむ亡者がカンダタの蜘蛛の糸を求めるような表情を浮かべても、
中指と薬指の間に挟んだ煙草の尾を親指でトンと叩いて、少女から離れた地面に灰を落とす事を、まず、した。

相手の必死な様子を気にも留めず、周囲に視線をやって、他に人の気配が無いことを確かめた。

「……。」

 ―― ガタン。自動販売機から冷えたミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
街路の灯の明かりに照らされ、黄ばんだ光を拡散するような輝きを放っている。
よく冷えたペットボトルの周りには直ぐに水滴が浮かび上がり始めて、女の掌をしっとりと濡らしていく。

その場にしゃがみ込み、相手の目の前にミネラルウォーターを差し出す。

フー。そっぽを向きながら白い煙を吐き出した。とても苦い香りのする煙草だった。
366 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/02(土) 23:52:11.87 ID:GUA4VGppo
>>364

ユルルの周りに居るのは狼?ハイエナ?違う、そんなんじゃない
周りに居るのは、うさぎとかリスとかフェレットで、宛ら小動物ふれあいコーナーに来たかのよう
危機感の欠如している、いや、そもそも持ち合わせていないユルルにとってはそれくらいの認識だ。
だから皆は優しいし、皆は自分を襲ったりなんてしない

それに、ここに来る前の屋敷ではトゲの付いた鞭で三日三晩折檻されたり、自分の過去のトラウマを身動きもできない状態にされ淡々と上映されたこともある
6歳からそんな生活を続けているユルルにとってはそれが日常であり、普通。
だからこの街に来てから楽しくて仕方がない、昔童話で聞いた夢の国みたいだ。
正直この街でずっと暮らすのも悪くないかななんて思わせる。でもそんな事をすればきっと酷く怒られてしまう

ユルルにもちょっとは考えている事があったのだった。

「わあ。おつまみもあるんですねぇ、うふふ、美味しい〜」

真昼の公園でピクニックをしているような笑顔を浮かべ、ナッツのおかげもあって、お酒がぐんぐん進む
お酒は人並みに飲める、だけどユルルは自分の限界なんて物は知らない。そこまで考えてない

「お話し?…面白そうです!!聞かせてください!!」

ふんふんと頷きながら話に耳を傾けるユルル、最初はBGMのようなつもりだったが、だんだんとそれが変わってくる
男の話が、男の声が、ユルル自身も分からないうちに心をがっちりと掴んだのだ。
次第に真剣に話を聞き入り、それとともにお酒も進み。

話し終わる頃には完全に酔っ払い、心地の良さと睡魔がピークに達していた。

それを見計らったのか先ほど手を振った男が近寄って来て、最初は品定めするようにユルルの体を見ていた。
次第に良い加減を確かめるかのように、気づかれない程度に触っていくが、それでも尚フラフラとしているユルル
ついには触り方も荒く色んな箇所を触られ、普通の女性ならばまず大声で悲鳴を上げて助けを呼ぶころになっても体を任せていたが


「…それには触らないでくれますか」

男の手が背負っているモップに伸びようとした瞬間、今までには無い機敏さで一声出した。
あのふわふわとした喋り方ではない、静かだがかなり怒気の籠る声で。
そして一瞬だけユルルから漏れたのはこの酒場の雰囲気にぴったりなドス黒い感情、いや、瞬間的にこの酒場内の雰囲気を超えたかもしれない

「あはは〜…酔っぱらっちゃってますね。ごめんなさい。それはとても大事な物なのであんまり触られちゃうと困るんです〜」

場を誤魔化すように、今までより剽軽に滑稽に、そして何より明るく振舞った。
気圧されたのか興ざめしたのかその男もずかずかと元居た席へと戻っていく

「えへへ、おかわり…あ。もうおかわりがないです…いつの間にっ!?…話しについ夢中になっちゃって…あはは」

先ほどまで何をされても気づいていなかったユルルが驚異的な速さで気を貼り直し、人と会話できるくらいに回復した
因みにユルルは気づいていない、自分が発した怒気の籠る言葉も、ドス黒過ぎた感情にも


/では、お言葉に甘えさせてもらいます!
367 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/03(日) 00:24:48.97 ID:/5cPlllVo
>>365

人の姿は、歪みに歪んでいる。顔も、その身体さえも見えない。
音も烏の甲高い喚き声以外は、聞こえない。聞こえるのは自らを貶める幻聴だけ。
だが、それでも彼女が何かを買ったということは自販機から響いた音で分かった。


「あ、あ゛りがと、ござ……す」

人がしゃがんだのを、砂嵐のような視界の中に見る。
渡されたと思われるペットボトルを数秒間虚空に腕を動かして探し、掴んだ。
キャップの位置を確認すると、中身が何なのかを考えることもなく力任せにひねる。

バキ、と乾いた音が響く。キャップは少女の掌でグシャグシャにされてしまった。
飲みくちを自らの頭の上方十数センチに位置させ、一気に水を下に落とす。
小さな滝が少女の頭目掛けて襲いかかり、一気に頭を冷却していく。


あっという間に一本の水を頭に掛けてしまうと、少女は肩で息をして居た。
暫くすると、歪んでいた視界が徐々にその歪みを戻していき、耳で囁く奴らも何処かへ行ってしまった。
そして、恩人の姿が目に入る。制服姿の少女はよろめきながら立ち上がると、彼女に礼を述べた。

「お見苦しいところを助けて頂き、本当にありがとうございました」

未だに息は少し荒いが、会話ができる程度に意識は戻ってきた。
だが、果たして“中身”はどうだろうか。あんな姿を他人に晒すのだから少なくとも常人ではない。
それに、のたうち回っていたからかオレンジ色のプラスチックケースが地面に落ちていた。
その中身はまごうことなく、少女を進化に導く“疑似覚醒剤”である。
368 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/03(日) 00:32:25.35 ID:T1kh/xQqo
>>366

――嵌った。

話術の糸が警戒心のない彼女の心をいともたやすく絡めとる。
話していくうちに順調に減っていくボトルの中身……比例して赤みを増していく頬。
半ばを過ぎるころにはろくろく体幹も定まらなくなってきたのだろう、座ったままでも頭頂部がふらついている。
これが演技でないのなら、彼女は完全にろくでなしどもの術中に嵌ってしまった。あとは彼らの目論み通りに、事は進んでいくことだろう……。

物語が終わりを迎え、口を湿らせるためにアルコールを含む。
静かにテーブルへ置いたグラスの音を合図に先の男が立ちあがり、接近して、欲望を発散させるべく彼女の身体をまさぐり始める。
それを眺めるゲアハルトは止めも勧めもしない。とりあえずの舞台は整えてやった、さてどうなるかと笑みを浮かべながらグラスを傾けている。

……仮に目の前の男がユルルを犯し始めようが、彼は静観するばかりだ。
彼女がどうなろうが構わないのだ、この男は。その過程を経て面白くなるなら見せてくれ、つまらないままならそのまま終わればいい。
勝手に納得して、勝手に期待して、己の欲を満たすためだけに他人を平気で犠牲にする……ゲアハルト・グラオザームは、そういう人面の畜生だ。
そしてそれはこの店にいる人間たちも同じこと。自らに火の粉が及ばない限り我関せず、素知らぬ顔で各々酒を呑み続けるだろう。

さて、かなり際どいところまできたぞ。
お前は自分の身に明確な悪意が向けられてもそのままでいるのか? それとも“何か”を見せてくれるのか?
彼の期待は――瞬間的ながらも悪鬼の巣窟を凍り付かせたどす黒い冷気のような情の発露によって結実する。

一斉に意識を臨戦態勢に引き上げた腕に覚えの荒くれども。表立って彼女に殺気をぶつけるような人間は皆無だが、先ほどまでとは向ける感情の種類が明確に違っていた。
食らうべきか弱い子羊から、油断ならない同類のそれに向けるものとして。あるいは正体不明の未確認生物のように。
各々違っているが共通しているのはそれぞれが彼女を警戒し始めたということ。もはやユルルを迷い込んだ餌として見る人間はひとりもいない。

その中に会って、ここに連れてきた張本人は愉快愉快と言わんばかりに口角を吊り上げていた。
ビンゴ――そらみろ大当たり。やはりこの女、何か持っている。ただの馬鹿じゃないことを、たったいまこの眼で確認した。
そして彼の洞察は“あの”気配を発させた原因と思しきものを見逃さず捉えている。

それはモップ……妙だとは思っていたが、やはりそれが鍵か。
……仕込み武器か? 暗殺者然り、自身の仕事道具に触れられることを嫌う人間は多い。
それなら理屈も通るだろうが、さて。果たしてそんな単純な話だろうか? 男の直感はそれだけではないと告げている。

「クヒヒ、いやいや気にすることはないだろう? 呑んでいるんだ、酔わなくちゃ意味がなかろうよ。どうだいもう一杯、奢るぜ」

言って、マスターの方へ向けて手をかざした。
それはもう一本という注文の合図に見えたが、そこには巧妙に隠された別の意図も混じっている。
ここにいる子飼いの連中数名へ向けた秘密の指令――すなわち頃合いを見計らって、あのモップに手を出してみろと。
369 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/03(日) 00:43:48.32 ID:TBy/a08So
>>367

渡したペットボトルの中身を、唐突に頭から被る光景には、流石に目を丸くした。
髪の毛がぐっしょりと濡れ、制服までびしょびしょになってしまうのだから、先日雨に打たれた夜の事を想起してしまう。
しかしその僅かな共感は、煙草の苦い味に溶けて直ぐに消えてしまった。

「気にするな。」

煙草を口に咥えたままジャージを脱ぐと、黒いシャツ一枚の姿を見せ、じろりとまた視線を向けた。

「事情は知らないが、これでも着ておけ。」

この夏場にはやや暑いだろうが ―― そうとも付け加えた。

月すらない真っ暗な夜には、街灯のおぼろげな明かりだけがそこにあった。
照らされているのは金髪の女と、制服の少女。ああ、忘れていたが、自動販売機と。
オレンジ色のケースが地面に転がり落ちた事に女は気づいたが、深くは気にもしなかった。其れの意味を知る由もない。

相手がジャージを受け取るにしろ、断るにしろ、女はそれを拾い上げようとするだろう。
拾えたなら少女に向かって無言で差し出すだろう ―― そっぽを向いて、白い煙を吐きながら。

「詮索はしない。秘密にしておきたい事は誰にでもある。」
370 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/03(日) 01:16:24.99 ID:nrgH3wdyo
>>368

あ。なんかまた雰囲気が変わった。とユルルは思った。
でも何だかこの雰囲気は苦手た、何かこう身を刺すものがある
正直居心地がいいとは言えない、けど目の前の男が不快に思ってないなら何も言わない

まあ、男はそれを楽しんでいる、そんなこと毛ほども思いついていない
あくまで彼は命の恩人であり、大切な友人なのだから。

「うふふー、ですね!飲んじゃう!飲んじゃいましょう!!」

この嫌な雰囲気から逃げるため、初めてできた友人と楽しむため、ユルルはお酒を飲んだ

「ゲアハルトさんとお酒を飲むのとっても楽しいです!やっぱり一人で飲むより友達と飲んだ方が楽しいですねー」

勧められるがままにお酒をぐびぐびと飲んでいく。
一度泥酔したのだから酔うのも早い、早すぎた

顔は真っ赤に染まり、目の焦点も定まってない、体もゆらゆらと揺れている

完全に目の前の男を信用しきっているのだろう、男の魂胆も知らず
そしてユルルが完全に机に突っ伏した瞬間、男の傘くしていたことが動き出した

数人の男がユルルを取り囲む、それにも気が付いていない。もう眠っていると言っても過言でもない
次はきっと上手く行く、きっと男たちはそう思ったことだろう

「あ。妖精さん…うふふ…うふ〜」

だってユルルは幸せな夢の中、寝言まで漏らしているのだから

そして数名の男達の一人がモップに手を伸ばそうとした瞬間の事
ほんとうに一瞬だった

「―――――――」

ユルルは机に突っ伏したまま、背負っていたモップを凄い速さで手に取り、モップに触ろうとした男の喉元に柄を突き付けた
今まで寝ていたのが嘘のように完全に目を覚ましている。
そしてあろうことか手足を振るうかの速さでモップを男に向けたのだ

そして何より男達を見ないで突っ伏したままで突きつけたモップ、そして無言のユルル。
今までのお花畑加減が嘘の様に消え去り、さっきは一瞬だったドス黒い感情が嵐のような激しさで男達に向けられた
371 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/03(日) 01:38:29.57 ID:/5cPlllVo
>>369

「お気遣い頂き、ありがとうございます」

軽く一礼してから、彼女の視線に応える。
ジャージを受け取るとそれを軽く羽織り、身体の熱を下げないようにした。


ふと、彼女が此方へ歩み寄ったかとおもえば――。
手にしていたのは、オレンジ色のドラッグケース。一瞬で少女の顔が険しくなる。
理性が蒸発している今の状況で、少しでも刺激を受けると攻撃的になってしまうのであるが。

「えっ、ええ……。ありがとうございます」

呆然とした顔で、冷然とこちらへドラッグケースを寄越した彼女を見る。
“普通”の人間なら、それを見れば気味悪がるか貶すかをする訳だ。
だが、彼女は違う。他の人間とは全く違うものだった。なぜ、なぜなのか。


右上の刃から、朱色の雫がぽたりと垂れる。
それは先程の水で薄まったからか、それとも鮮血のまま刃に付いていたのか。
それはわからない。ただ、少女はいま彼女について考えるばかりであった。
372 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/03(日) 02:05:44.33 ID:TBy/a08So
>>371

 ―― 今目の前にいる存在に対して、疑問を覚えているのは、女もまた同様。
しかしその感情を露骨には露わにしないし、ましてや露骨な態度を見せてしまって全てが台無しになってしまうのは考え物。
"一流のハンターは獲物に殺意を感じさせないものだ。しかし一度牙を見せれば、猛然と虎のように襲い掛かる"。
相手が人間であるか、それとも血に飢えた獣であるかを見極めない内には、ジャージのポケットに忍ばせた拳銃を取り出す訳にはいかない。

だから彼女は幾らか落ち着きを取り戻した相手の直ぐ、鼻先にいる。
相手の刃の届く範囲、そして、己のギラついた牙の届く範囲。

「特異な体質は、辛いな。制御が利かない事もあると、聞いてる。」

相手を能力者だと決め付けた言葉を言った。 ―― 誘導尋問のつもり。
ある女との約束によって、彼女は能力者を殺さないゲームに乗った。しかし怪物は駆除しなければ、ならない。
故に、この発言に対して特に目立った反応を示さなければ、"能力を持つわけではなく、生物的に体が異質"という解釈をするだろう。

もしそうなら、為すべきことを為すだけ。

「その血の事も聞く気はない、安心しろ。
 まだ顔色が悪そうだな?

 そこのベンチに、一旦、座るといい。安静にしろ。」

相手の肩に腕を回そうとする。回せたならば、ベンチの方へと導こうとするだろう。
もう片手をジャージのポケットに入れて、拳銃のグリップを握り締め、ながら。

彼女の疑問はただ一つ。
"お前は人間の血の臭いを知っているのか?"
373 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/03(日) 03:25:59.79 ID:TBy/a08So
>>371
/一応念の為…。お返事は明日以降に書きますので、ご都合のよい時にお願いします。
374 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/03(日) 20:34:13.69 ID:T1kh/xQqo
>>370

――叩きつけられる漆黒の颶風。
不可視であるにも関わらず、その実存を錯覚させられるほど凄まじい感情の嵐は紛れもなく先ほどのアレに相違ない。
その正体は殺意か、怒りか。その両方、あるいはまったく別のもの?
さながら燃えている氷のような。熱波と冷気を同時に感じる魔性の気配、暗黒の世界にて場数を踏んだ猛者ですら怯ませるに足るものだった。

……そんなものを直接向けられた男、しかもこちら側に足を踏み入れてから日の浅い人間であるなら動じずにいられるはずもなく。
手を伸ばした姿勢のまま固まる全身。蛇に睨まれた蛙のように、見えないロープで拘束されているかのようにぴたりと止まって動かない。
見開いた目、滂沱と流れる脂汗、おそらく呼吸すら止まっている。この日、彼らは殺意だけでショック死しかねない事態が実在することを思い知った。

その中でも比較的落ち着いた様子の――それでも一筋の冷や汗を流してはいるが――男がゲアハルトに指示を請うように視線を向けた。
しかし返答はなし、黙して語らず。男の方を見もせずに、委細変わらぬ様子でにやにやと突っ伏したままのユルルを眺めている。
それはつまり待機という意味を含有している。すなわちこんなものを向けられたままその場に立っていろということに他ならず、彼らは心中で天を仰ぐ。

「ようミンスフィー。そいつがそんなに大事かい?」

そんな指令を出した当の本人に、しかし別段深い考えがあるわけではなかった。

待機を言い渡したのは、やってもらうべきことが今のところ特になくなったため。
用が済んだのならあえて使う理由もない。ならば今度は自分から聞いてみようかと思い至ったゆえ、ただ単純にそれを実行する。

「教えてくれよ、お前さんにとってそれがどういうものなのか。なぜ、そこまで拘る必要があるのか」

かのモップに触れようとした瞬間の豹変ぶりは見ての通り尋常の領域を超えている。
ここまで物に執着を見せる人間は、いないことはないが相当に珍しい。
ただそいつらはだいたい、普段から周囲に変人として認識されている輩ばかりだ。他人にその思考が理解できないコレクターの類が、そういった人種の大半を占めている。

もう一つ例を挙げるとしたなら、その者にとってよほど大切な人間――たとえば死んだ恋人なり家族なりに渡された最後の形見など、といった場合である。
前述の蒐集家には彼女がまったく見えない以上、どちらかというなら濃い線はこちらだろう。
……しかしそれは、こうまで変貌する理由にはまったくなっていない。大切なものに触られて、激怒するくらいなら理解できるがこれはそんなレベルで表せやしない。
これではまるで別人だ――外見こそ変わらないものの、発散する空気が先ほどまでと違いすぎる。
多重人格と言われてもするりと納得できてしまいそうなほどに、がらりと入れ替わる気配は常識の秤を超えている。

面白い。
やはり俺の見立てに間違いはなかった……こんなものを聞かずしてどうしようか。
藪の先に待ち受けているかもしれない大蛇の危険性を十分に認識しつつ、しかし男は躊躇いなく地雷原へと足を踏み入れていった。
375 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/03(日) 21:00:21.15 ID:nrgH3wdyo
>>374

さすがに空気が凍ったのが分かった、その原因が自分であることも。
けど、けど、それでもどうしてこんなことになっているのか理由が分からない。
自分からそんなどす黒いものが溢れているなんて夢にも思ってない

けれども急に酔いから引き戻される意識。何故か手に持っているモップ
そしてそのモップの先が向いているのは―――

「…あ。ごめんなさい!!、私ったら、かなり酔ってしまったみたいですね、えへへ」

スッとモップをおろし、大事そうに膝に挟み込み、ユルルは後ろの男に謝った
バツが悪そうに笑っているユルルに先ほどの様子はみじんも感じられない

「このモップがどういう物か…ですか?」

どうしてそんな質問をするのだろうと小首を傾げる。
これはただの掃除道具で、いつでも扱えるように背負っているだけ、仕事道具だから大切なんです

―――そんな男にとっては面白みもない普通ともいえる回答が出てくるはずはない

「ご主人様と私なんです、今喋ってる私は私じゃなくて、あ。でも私であることには変わりないんですけど、けどこのモップも私なんです」

「ああ…ややこしいからちょっと言い間違えてしまいました、私とご主人様なんです、だからとっても大切なんです。ううん、そんなんじゃなくて」

「これは初めてご主人様に頂いた物で、私に私をくださったものなんです」

普通に回答しているユルルだったが、内容は至って普通な物ではなかった。
執着?いや、ここまで来たら偏愛と言ってもいいかもしれない、ユルルはこのモップを自分だとそして主人だと口にした
いや、その言い方だと話が変わってくる、このモップは言葉通り「私とご主人様」なのだ。

「だから毎日お手入れをして、毎日ずっと一緒に居るんです、うふふ。ちょっと変ですか?…変ですよね」

簡単に、本当に簡単に要約するなら、このモップは言葉通りユルル自身であり思考であり体の一部であり心理でありアイデンティなのだ
アホなメイドはアホなだけではなく、かなり歪んでいた。歪んでいるなんて生易しいかもしれない。
これが自分にとっての普通だと思っているのだ、だからこんなにニコニコと抜けた調子で楽しそうに語れるのだ

「…というより、あの…えっと、お友達になりたいんですか?だったら皆さんもこちらの席に来てくださいよっ、多い方が楽しいです」

「ねっ?ゲアハルトさん??」

そして自分の周りで待機しているなんて知らない男達に、そう一声かける。
きっと仲良くしたいがために近寄ってきたのだ、そんなバカみたいな勘違いを抱いているのだろう
376 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/03(日) 21:21:16.72 ID:/5cPlllVo
>>372

「貴方が拾った、あの薬物の影響もあるんですけどね」

先程の厳しい表情がウソのような微笑みを浮かべながら、そう応える。
だが、果たしてその薬物だけなのだろうか。否、少女はそうではなかった。
人間の手により創造された、ホムンクルス。少女の身体は、いかにもプログラムされた物だった。
見た目に限っては至って人間のものであるが、中身は違う。薬物に対して特異的な反応をしめす“体質”なのだ。


「ええ、配慮いただきありがとうございます」

思考能力の欠如、短絡的思考の成れの果て。
それが今の少女であり、彼女の行動の理由の一切を考えていない。
結果的に彼女の片手がポケットに入っているなど気づかないし、増して拳銃を握っているなど気づくはずもない。
彼女の好意に従い、彼女の腕に肩を支えてもらいながら安静にすることにした。


さて、少女の右腕の上腕部には斬疵が一つある。
深さで言えば結構深いもので、普通の人間なら止血まで暫くかかるだろう。
――不思議なことに、血液は出ているようだがもう止血しているようだ。
それに、舐めれば分かるだろう。それは血液ではない、ということも。
377 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/03(日) 22:03:45.27 ID:T1kh/xQqo
>>375

黙って話を聞くうちに、男の喉が震えはじめる。
それは哄笑の予兆……内から内から湧きあがって止まらない悦の感情をとうてい抑えきれる気がしなかった。

なんて素晴らしい――掘り出し物だ、ものの見事に壊れてやがる。
ああ確かに物品を己の一部として扱う人種は存在する。だがただそういった連中はなべて希少種、滅多にお目にはかかれないうえにその性質も個人で違いがある。
しかもこいつはそれだけじゃなかった。このモップなんぞに自分だけでなく、ご主人様とやらまで重ねて見ている。
依存というやつだ。執着、偏愛、男が愛する激しい人間の感情がこれでもかと詰まっている。
それは先ほど彼女に持って行かせようとした爆弾にも似たような。しかし爆轟の暁にもたらされるものは、単なる爆裂現象なんかでは及びもつかない災禍であることが予見された。

「ク、ク、ク」

ついに漏れ出る悦楽の現出……ゲアハルトはただ笑う。
ただ愉快、痛快、爽快であると。何がどうなろうとも結局最後は自分が勝つからどうでも面白いという、自身を大物として見ている人間特有の傲慢に基づくもの……ではない。

我が身を焼き焦がすだろう脅威が面白い。それを激しく矛を交える未来予想図が愉快でならない。最後に立っている者がどちらか考えるだけで腹の底からおかしくてたまらないのだ。
男もまた、誰に恥じることもなく狂人であった。自身がどうなろうと“面白い”のならそれで是とする精神性、常人には理解不能な思考回路は人間のそれを逸脱している。

「クヒヒ、ヒヒヒヒ、ヒャーッハハハハハァ――!」

だから楽しくて楽しくて仕方がないのだ。
ああ面白い――人生とはすばらしい刺激に満ちている。こんな世の中を放り出して自殺なんぞやらかす連中の気が知れない。
気兼ねなく爆笑する男に怪物を見る目を向けるのは彼に従う男たち。
出会ってしまった二体のモンスターに、悪党なれども心身ともに単なる人間にすぎない彼らは心の底から恐怖を抱いた。

「いやはやまったくそのとおり、人類みな兄弟ってなァ! だが残念だな、どうもこいつら酔っぱらいすぎちまったみたいだ。立っているのも辛いとよ」

なぁ? と問いかけた言葉に頷きを返し、無言のまま元いた席へと戻っていく。
それを一瞥することもなく、爛々と輝く双眸はユルルに固定されたまま。
あなたに興味がありますよ――そんな好奇心をまったく隠さずむき出しにして、またまた酒を頼んで聞いた。

「しかしそこまで想われるなら冥利に尽きるってもんだろうなぁ、幸せ者だぜあんたのご主人様は!」

参考までにどんなお人か聞かせてはくれないかと、運ばれてきた酒を彼女のグラスに注ぎながら問いかける。

見ればこの女、自分がどうなっていたかの自覚もないようだ。
そんな面白い壊し方をしたやつがどんな人間か、まあ碌なヤツじゃあないことは分かっているが興味は尽きない。
あるいは元から“こう”なのかもしれないが……いずれにせよこんなものを飼っている輩だ、只者ではないと確信する。
ひょっとすると裏側に名の知れた“あいつ”や“こいつ”なのかもしれず……そうなるとまた違った味わいを楽しめるだろうと。
378 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/03(日) 22:23:17.48 ID:nrgH3wdyo
>>377

「…ふぇ?」

男から漏れ出る声、ああ。笑っているんだなと認識したユルル。
けど、何に対して、何が面白くて、何が楽しいのかが全く理解できない

だからユルルは少し考えた。もしかしたら何か相手が笑う何かがあるのかもしれないと
口元をぬぐってみても何もついていないし、服にも何もついていない、モップにも何もついていない
…そんな時、さっきの自分の発言を思い出した。

「あ…ああ…うふふ。面白いですよね、やっぱりちょっとおかしいんですかね」

モップと常に一緒、それがおかしいんだと。ユルルはそう解釈した
やっぱり自分は抜けていると言うかちょっと天然なのかな?なんて軽すぎる事を想い
目の前に居るこの街の友人と一緒に笑った。

やっぱり、自分の狂気には一切気づいていない。そっちの方が幸せなのだろう

「あー…あ。行っちゃった…。でも、またここで会ったらお話ししましょうねー。あ、また連れてきてくださいね?うふふ」

席に帰っていく男達を少し残念そうに見送って、軽く手を振った。
そしてユルルは男にあろうことかまたここに連れて来いと言う
やっぱり気づいていない、ここの異様な雰囲気、ここが危険な場所なのだと言う事に

「あ、どうもどうも、人にお酒を入れてもらうなんて初めてです。嬉しい」

グラスに注がれたお酒に口を付けて、小さく一息つく。
本当に楽しそうに微笑む姿に嘘偽りはないのだろう

「ここに来る前、このモップをくれたご主人様は■■家のご党首様なんです、この街に来て初めて、ちょっと悪い事をしてたって話を聞いたのでびっくりしました」

男が知っているかどうかは別として、■■家とはかなり悪名高い家柄である、数こそは少ないものの屋敷に居るのはほぼ何らかの犯罪のエキスパート。
それか完全に狂っている人物だけ、屋敷のある地域では名前を出すのもタブー扱いされているそんな所だった。
まずユルルみたいなのは屋敷の門をくぐる前に見るも無残に殺されるか拷問されるかのどちらかなのだが、彼女は何故か生きている

「こう見えてもご主人様側近の偉いメイドの一人だったんですよ!一緒にお酒を飲んだことだってあります、凄いでしょー」

そんな家柄の事を全く知らなかった、知ってもちょっと悪いくらいの認識しか持っていないと言うのは、幸せなのか不幸せなのか
379 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/03(日) 22:26:05.70 ID:TBy/a08So
>>376

相手と共にベンチへ腰を下ろした。至って平静を装い、落ち着いた声色を意識し、金髪は夜の涼しい風に揺れる。
しかし幾ら慣れた事と言えども、生死を賭けたやり取りというのは、僅かにでも緊張を感じてしまうものだった。
うなじに薄っすら汗を浮かばせて、それはジョギングによって生まれたものか見分けが付きにくいが、とてもじっとりとしたもの。
動悸も多少は早くなってしまうものだが、それでも彼女は理性を失う訳もない。理性は感情に勝る。

故に拳銃の引き金をまだ引く事もなく、再び口を開く。

「薬のせいなのか。
 ……その薬のせいで誰かを傷つけてしまう事もあるのか?」

傍で話しかける女の歯が、人並外れて鋭利に尖り、というより人間の常識で想像するよりもずっと歯の数が多いことに気が付くかもしれない。
爬虫類めいた眼は、相手を慈しむ様にするりと細められた瞳は、実際には獲物を品定めする蛇や蜥蜴のそれと同じ。
獲物の前でも極めて冷静に、ゆっくりと、確実に。機会が来たれば、胴を伸ばし、舌を伸ばし、牙を剥く。
目の前の少女が人外である事を訝しむ人外には、純粋な感情が湧き上がっている。

「いや、詮索は無しだった。
 少しだけ気になってしまった。」

 ―― 質問はわざとした。意図した訂正。その方が印象が悪くならないだろうと思った。

「傷の手当てをしよう。まずは、よく見せてくれ。
 昔、応急手当の訓練を受けた事がある。」

"訓練"という言い方をしたのは少し変な言い方だったかと直ぐに後悔したが、とはいえ大きな失言でもないだろうと直ぐに忘れた。
相手の右側に座っている女は、右手を相手の右肩に当てて、軽く押す。街灯の光がそれをよく照らしてくれるだろう。
ポケットの中で拳銃を握る左手は、その銃口を相手の胸に向けている。

相手の肩を軽く押したのは、その方が射撃しやすいからだ。

何故なら、先程の質問にもしも相手が無理して答えたら、引き金を引かなくてはいけない。念には念を、念には念を。
380 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/03(日) 22:48:33.14 ID:/5cPlllVo
>>379

「――」

その質問に、少女は狼狽えた。
彼女の顔を見たままおろおろとしていると、彼女の歯が異様であることに気がつく。
人間の歯にしては、やけに尖ったものだ。それに、瞳も爬虫類めいている。
結局、少女はその質問に答えることはできなかった。それは罪悪感を感じているからだろうか、少女自身にも分からないことだった。


「応急手当、ですか」
「お気になさらず、拠点に帰りましたら“修復”して頂けますから」

また、微笑みを湛えた顔を彼女に向けた。
返答の仕方自体は無理やりではないし、受け答えも普通に見えるだろう。
だが、少女は確かに“修復”といった。傷の修復とも言うかもしれないが、一般の人間であれば使わないだろう。
自ら覚え知らぬ間に、彼女の殺意を感じ取ることができないまま正体を露呈していく。


「――ところで、応急手当の訓練っておっしゃいましたけど」
「昔軍隊が何かに入っておられたのですか?」

気になったのはそこで、純粋な好奇心から質問をした。
軍人さんならすごいものだと、そう少女は思っていたのであるが。
381 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/03(日) 22:56:21.23 ID:T1kh/xQqo
>>378

彼女の口から出た家名に、驚きつつも深く納得した。

「なるほど彼の家か、そりゃあ大したもんだ! “立派”な主人に仕えられてお前さんもさぞ鼻が高かろう!」

ユルルが口にした名前は表社会よりも、むしろ裏でこそ非常に強い力を持っている。
一族ほぼすべてが超一級の犯罪者。警察なんぞでは廃絶叶わぬ猛悪の集団、その名は闇に畏怖と共に轟いていた。
アウトローな人種ですら近づいてはならぬ忌まわしき存在……実際、密かに聞き耳を立てていた数人が探る気配を更に先鋭化させた。もっともそうした者らはみな手練れも手練れ、容易にそれを気付かせはしないだろうが。

しかしいずれにせよ、少しでも裏の事情を知っている者なら誰しも感知しているその名前。
ならばゲアハルトが知らないわけもなく、その悪名と所業の悪鬼ぶりは聞き及んでいる。
それに対して嫌悪感を抱くほど人間ができていないのはこちら側なら誰でもそうだが、積極的に関わりたいと思うほど好感やらを抱くやつがいないことも確かだった。
当然だろう、そんなことをすれば我が身に危険が降りかかるのだから。
彼らが常日頃から考えているのはどうやってリスクを少なく甘い汁を吸えるかであって、たとえ明確なリターンがあったとしても死の危険性が見えてなお突っ込むような人間は長生きできないと知っているのだ。

だがこの男は例外である。
ハイリスク、ハイリターン、大いに結構。それこそまさしく刺激というものだ。
予定調和の利益など御免被る……心を奮わせる危険やスリルがあってこそ我が道よ。躊躇う感性を彼は持ち合わせていない。

「機会があれば是非ともお目通り願いたいもんだが、立場ってものがあるからなァ。いや羨ましいぜミンスフィー」

吐いた言葉ももちろん、本心から。
どれだけ驚異的なものであろうと面白そうなら嬉々として近づいていく有様は悪童にも似たもので、しかしながら有する暴力の桁がそんなものでは収まらないから性質が悪い。

「しかし、ということは件のご主人様はこの街に居を構えているのかい? それとも今は別荘か何かに来てらっしゃるのかねぇ」

ただ不思議だったのはこの街でそういう噂をまったく聞いた覚えがなかったこと。
これでも裏社会に精通しているつもりだ。情報網は人並み以上に広く、ならば例の一族がここに居るという話が耳に入って然るべきのはず。
それに風の噂程度ではあるが、確か住んでいるのは別の街ではなかったかと思い至り……直前まで探ろうという意図などまったくなかったゲアハルトの質問に、酒場内の何人かが耳をそばだてた。
382 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/03(日) 23:20:59.89 ID:nrgH3wdyo
>>381

「ああ!ご存じなんですね。でしょ?とっても立派なんです!」

男が知っている事を聞いて、嬉しそうに笑みを漏らすユルル
けど、実際自分の慕えているお屋敷がどんなことをしているのかよく知らないのも事実
まあこの街で聞いた噂が本当ならば、ちょっと悪いんだな、ご主人様に説教しないとなんてことをのほほんと考えている
このアホ一人で何とかできる問題では到底ないのだが

「ちょっと乱暴なのが玉に瑕なんですけど、それを差し引いても優しい方々ばかりです」

ちょっと乱暴、という言葉をもう一度調べなおせと言いたい。
それがちょっとならば大量殺人を犯したサイコパスもちょっと個性の強いちょっと悪い人になってしまうから。

けどやっぱりユルルは根本的な部分で何か認識をはき違えているらしく、自分の口にした言葉が正しいと思ってやまない

「お屋敷に入るくらいなら招待状は書けますけど…ご主人様に会うのは無理ですね」

このアホが書いた招待状に何の意味もないと思うかもしれないが、一応側近メイドなのでそれなりに効力はある
なのでそれさえ見せればそこそこの待遇を受けて、そこそこもてなしてもらえるのだろう。
ただし、屋敷を出て帰る道中何が起こるか分からないが

「分かんないんです。それが、一人で勝手に姿を消したんです。それで今私も今ここでの主様に仕えながら探しているんですけど」

この街に居るのは確かな様なのだが、メイドもどこにいるかさえも知れないし、何も痕跡がない。
そもそも屋敷でのご主人様しか知らないため、行きそうな場所も見当がつかない

「それでメイド長様から、この街に居るらしいから行って来なさいと言われて…」

何の悪行にも手を染めてないコイツなら、この街に来ても目立つことは無いし、あの屋敷の者と気づかれる心配はないという考えの元なのだろう。
まあ、その考えも虚しく、屋敷の名前をペラペラと口にしているのだから。

けど、これが一大事な事だと言う事にユルルは気づいていない、ただ連れ戻すだけなら有能な者がドンパチやって引きずり出せばいいだけの話
それをこの仕事の出来ないユルル単独に行かせるしかないとなれば、屋敷で起こっている事も自ずと見えてくるだろう
主人単独でこの街で何かを企み潜伏しているのか、それとも何者かにさらわれて命の危機という所までに来ているか、最も他の可能性もあるが

前者ならば、屋敷としても当然避けたい、この街は能力者が多すぎて騒ぎを起こしたりしたら、屋敷で働く裏方の仕事は過労死レベルになるし、繋がっている組織にも多大な迷惑がかかる
だからこそ、お気に入りの側近で懐柔しようとしているのだろう。
後者ならば、屋敷の者が来たと知れれば、当然さらった側は警戒を強めるし、最悪殺されるかもしれない。

だからこそこのどん底のアホメイドを送り込んだと考えるのが妥当なのだが、当然そんな事気付いてもいないし、本人はこの街で新しい屋敷で新しい主の元、平和な臨時メイド生活を送っていた
383 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/03(日) 23:28:18.54 ID:TBy/a08So
>>380
/些細なことですが、左手をそちらの右肩に当てて、右手をポケットに入れてる事にしてください……。
/間接的に確定ロルになるかもしれないので、念のため先々の事を言ってしまいますが、今のところはハグした後に拳銃で撃つ気なので、
/まずければハグを拒むなり、ハグした後に反撃するなり、お願いします……。


「……昔な。」

そう答えたが、我ながら変な話だと思った。見かけ20半ばの女が、昔軍隊に入っていたなどと。
思えば"昔"という単語も変だ。 ―― アア、クソ、会話は苦手だ。隠し事も。
しかし訂正するのは余計に変だと思った彼女は、相手の瞳をじっと捉えたまま、喋り続けた。
余計な所を見られないようにする為に、相手の視線を自分の視線で捕まえようとする。

相手の言葉を受けて添えていた左手を下ろす。修復という言葉に対しては、あえて特別な反応を示さない。
しかしその言葉で女は確信した。作り物の人間、鋭利な刃の腕、 ―― "お前は、兵器だな。"

「そういえばジョギングの最中だった。」

左腕を広げる。

「これも何かの縁、お別れのハグだ。」

少女は気が付けるだろうか。きゅうと細長くなった瞳孔が、殺意を固めたものの瞳だという事に。
口元に浮かべた薄い笑み、その笑みというものがこの女にとって、とてもとても久しぶりのモノだという事に。笑うという感情を忘れた、この女にとって。
384 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/03(日) 23:53:34.66 ID:T1kh/xQqo
>>382

それはつまり行方不明ということか――。
その言葉を耳にした男たちが目の色を変えた。無理もない、この情報はとんでもなく重大な事実である。
悪名高き犯罪一家、その当主が謎の失踪を遂げたこと。それは獰猛なる人獣どもをまとめ上げる首魁を、いま彼の一族は欠いているということに他ならない。

いかなる組織であれ頭目を失ってしまえば統率力は乱れるもの。もちろん行方不明となってから日が経っているなら代理の指導者は立てられているだろうが……。
それになにより組織的な性質が少数精鋭であるならば一人の抜けが大きな戦力喪失に直結する。
もちろん物理的な戦いが闘争のすべてではない。しかし力づくで叩き潰せるならばそうする者が出てきてもおかしくないくらいには、彼の一家は名が売れすぎていた。
とうぜん個人的に戦いを仕掛けるほど無謀な人間などいないが、酒場に来ている者のなかには組織人もいた。
仕掛けるならばまたとない好機である――これより裏社会に跋扈する大小様々な組織が、名を呼ぶことすら憚られる彼の一家を排除あるいは手中に収めんと動き出す。

それを一家と、背後にいる組織が跳ね除けるか。あるいは敗北し屍を晒すかは、また別の話であるが……。
少なくともこの瞬間、敵味方を問わず大量の流血を強いる暗闘の引き金は引かれてしまったに違いない。

……その致命的な大失態も、ユルルは悲しいかな全く気付いていないのだろう。
哀れである。もしくはひょっとしたら、彼女のような人種こそいちばん幸せなのかもしれないが。

「そうかいそうかい、そいつは心配だな」

それら一切承知のうえで、男はただ面白がって笑うばかり。
この娘とんでもないことをやらかすもんだ、やはり連れてきて正解だったと……黒と黒の大戦争を思い描いて嬉しげに微笑む。

しかしちょっとばかり気になることを口走っていた。ここでの主とはどういうことだ……?
まぁ昔の騎士やら武士と違って忠臣二君にまみえずなんてことは昨今のメイドや執事は考えないだろうが、それはあくまで通常のそれとして考えた話。
主人に異常な執着を持つこのメイドの性格を考えると些か以上に奇妙な話だったが、臨時ということで別の家に仕えているという認識で合っているのだろうか?

それも後で聞いてみよう。しかしそれより関心事があると口を開いた。

「……そうだな、なら良ければ手伝わせてくれよ。“友人”が困っているのを見過ごすのは忍びないからなァ?」

嘘だ、彼はユルルを友だちなどとはまったく思っていない。
そもそも本当の意味で友人と呼べるものなどこの男は一人も持ってはいないが、個人的には彼女に対して好感を抱いていた。
ゆえに手を貸すことがやぶさかではないというのは本当……も、あるのだがそれ以上に面白そうだから首を突っ込みたいだけ。

「だが顔も知らなけりゃ探せる人も探せんな、写真か何か持ってるかい」

情報が漏れることを危ぶんだ他の家人らが取り上げていてもおかしくはない、というか普通はそうする。
しかし他の誰でもないこの女だ、姿を確認できるものの一つや二つは隠し持っていると踏んでいた。
385 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/04(月) 00:04:42.89 ID:Aavm8qMDo
>>383

「へえ、すごいですね!」

軍人さんに憧れているんです、と少女は続けた。
ふと、小さな疑問が浮かんだ。彼女の外見は若く見える。
なぜ昔と言ったのか。彼女はもしかしたら老けるのが遅いのかもしれない。
そんな些細なことなどどうでもいいとばかりに、彼女の顔を見た。


「――目が、怖いです」
「それに、あれだけ表情を変えなかったのに笑っているのも――」

恐怖感。少女はまず、それを抱いた。
なぜ彼女は、別れの際に笑みを浮かべるのだろうか。
なぜ彼女は、怖い目をしているのか。なぜ、なぜ、なぜ……。

そのまま、少女は固まったまま彼女の顔を見つめる。
震える仕草一つ見せずに、じっと彼女の顔を―特に瞳を―覗いていた。
ポケットに入った右手に拳銃を持っているなど、考えても居ないのである。
ただ、少女も右手をポケットへと入れた。中身は、ドラッグケース。
386 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 00:15:26.59 ID:d2TDe/qoo
>>384

「まあ、ご主人様はとっても強いので襲われるとかそんな心配はないんですけど…」

まあ確かにユルルの正規の主人はかなり強い…らしい。
ユルル自体主人が戦っているところも見たことないし、怒っているところも見たことない
それでも確信なくそう言う事を言い切る当たり、やはりアホだ。

けどまあそれも推測に基づいての物。
先ほど話に出てきたメイド長が一度戦っているところを見たところがあるのだが、ビックリするほど強かった
だからそれを仕えさせている主人はもっと強いのだろうと言う短絡的な推測だ

「でもまあ、きっと見つかると思います!色んな人に聞いてますから!」

勿論このユルルが人を選んで名前を聞いているはずもない。
そりゃもう明らかに悪人と思しき人物にも何人か聞いている、思いっきり名前付きで。
完全に無意識だが、ユルルはこの街に来て火種をまき散らしている、屋敷もこれは流石に大誤算だろう
一人のアホのせいで今あの大きな屋敷は崩壊を迎えるかもしれないのだ

「ゲアハルトさんはやっぱりとってもいい人です!!私ここまで親切にしてもらうのは初めてかも知れません!」

初めてである、今まではカモにされたりとかで散々だった。といっても本人は指摘されるまで気づいていなかったが
けど、この男は自分の事を友人と認め手伝ってくれるとまで言っている、裏の思惑なんて露知れず、ユルルは多大な信頼と親愛を覚えた
この人は天使か何かかもしれないと思っている。

「写真も何もないんです。この街に来て、今働いてるお屋敷の執事、いや、上司様にも効かれたんですけど、無くて…」

「あ、でも荊木家のお屋敷で働かせてもらって、お金もちょっとできたので、似顔絵屋さんに絵を描いてもらったんです」

さらっと今働いているところを口にした事にも気づいていない、アホは迷惑を巻き起こす生き物なのだろうか
ともあれ、ユルルはポケットから一枚の紙を取り出した。

「えっと、これなんです…見たことないですか?」

似顔絵に書かれているのは一人の男だった、それも整った顔立ちをしている
下にはユルルが書いたのだろう、汚い字でご主人様、加えてハートまで書いてある始末

「一応お店でコピーは取ってもらったので、何枚かあるんですけど…」

そう言って何枚か取り出そうとした瞬間にミスは起こる

「あああああ!!!ごめんなさいいいいい!!」

ばら撒いた、あろうことか似顔絵の書かれた紙を床に落としてぶちまけてしまった。
何をやらせてもドジなのだが、ここまで来たらもう最悪だ。
387 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/04(月) 00:45:41.14 ID:BTjt9KfFo
>>386

もしやとは思ったがやはりか、今は別の屋敷に仕えているらしい。いや、この場合は働いているといったほうがいいか?
荊木家……ゲアハルト自身に心当たりはなかったが、聞いているうちの何人かは知っていたようで、表情にこそ出さないが脳内でその情報を列挙し確認する。
……とくに高度な話術を用いているわけではない。世間話めいて簡単な問答をしているだけにも関わらす、なぜか重要な情報がぽこぽこ出てくる。
彼の一族に敵対的な人間からすれば夢のような状況。しかし彼女の使える家からすれば悪夢に違いない。ここまでポンコツだったとは予想していなかったのだろうか。

まあ……こちらからすれば構わない。むしろ歓迎すべき事態である。
そのまま続けて知る限りのすべてを吐き出してくれと幾人もの悪党が密かに考えていた。

――しかし立て続けに起こった事件は、さしもの彼らとて度肝を抜かれざるを得なかった。

「すげぇなこいつ」

ぼそりと、自分にしか聞こえない声量でゲアハルトがつぶやいた。
ぶちまけられる当主の似顔絵。店内に散らばってゆく紙の形を取った値千金の重大情報。
この、一見どうでもいいような絵を巡ってどれだけの血が流れるか分からない。
何しろ音に聞こえた犯罪一家の頭目、その顔が内部の人間の言葉に基づいて描かれているのだ。巧妙に隠匿されていただろう当主の顔、その情報価値は計り知れない。

ここまでくると、もはや認めざるを得ないだろう。ユルル・ミンスフィーは、こういう不思議な生物(ナマモノ)だ。
あっちに居てくれてよかったと戦慄する者多数。もしもこいつが味方側に居たらと思うと震えが止まらない。

わたわたと慌てるメイドをよそに、渡された紙を四つ折りにして懐にしまい込み立ちあがる。
そのまま床に散乱した似顔絵を拾い集めていく――フリをして、組織の人間の一人が座っているテーブルの陰に向け、手品のように素早く一枚を弾き飛ばす。
そして素早く視線をやる。そいつ一人にだけでなく、ここにいる組織人全員に向けて。彼らは互いに目配せし、小さく頷いた。
――合意がなされたのだ、ここは一時休戦と。全員に渡してしまえばいくらなんでもあのメイドとて気付くだろう、しかし一枚くらいならきっと彼女は分かりはしない。
その一枚を巡って更なる争いが起きるのは目に見えていた。……ゆえにゲアハルトは彼らが動き出す前に手を打ったのだ、おまえらあとでコピー取れよと。

首魁の顔という情報を得、優位に立ちたいのはどの組織とて同じこと。
しかし無用な損害を出すのも馬鹿らしかろう、後には大物が控えている。だったら今はとりあえず騒ぎを起こすなよと。
――無論、それで仲良く一致協力するほど悪党どもは甘くない。味方のふりをして背後から斬りかかるなど彼らにとっては日常茶飯事だ。
ゆえに今後、おそらく大小揺らぎはあれど組織間の抗争が起きるのだろうが……それはそれ、今は気にしても仕方がない。

「ほれ、いちおう大事なものだろう? 気を付けろよ」

ユルルの目線を自らの長身で上手い具合に遮りつつ、その一人が自然な動きで足元の似顔絵を拾い上げて隠したことを確認してから……集めた紙を彼女に渡した。
388 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/04(月) 00:59:18.26 ID:KLe6FWtto
>>385

「…………。」

其処に沈黙があった。底に沈黙が渦巻いた。薄ら寒い笑みは消失、空には夜の帳、瞳には明白な殺意。
静寂だけが鼓膜を刺激し、虫の鳴き声すらないのがかえって不気味、街灯の黄色の外の世界は終末に満たされたよう。
口に咥えていた煙草の火はいつの間にか消え、ぽとりと唇から零れ落ちると、女の黒いシャツが灰で汚れた。
つまり黙示録の終末のラッパが鳴り響いていたのだが、偽善に塗れた騎士を気取る訳ではない彼女は、引き金をまだ引き絞らない。
己の頭が先に言った"昔"にネジが外れてしまったのは自覚している。だがそれでも、外れたのは1本だ。いや、2本か、まあ、どうでもいい。

視線が相手の右手が入っているだろうポケットに降りる。警戒をして何かを握ったのを、察した。
先程のドラッグケースが入っているポケットなのは、記憶の通り。なるほど、なるほど、目には目を、力には力を。
彼女は自分が失敗した事を悟る。もうおしまいだ。この茶番は、やはり、自分の不得意な分野だった。女は少しだけ後悔する。

視線を相手の眼へと差し向け直したの同時に、ため息を吐く。

「知らない人に近づくなと、親に教わらなかったのか?」

拳銃を握り締めた右手をポケットから抜き出して、腰の位置で構えたまま、相手の顔に銃口を向ける。
ぎらりと輝く銀色の光は、女の凶暴な牙よりも鋭い輝き。

「お前を作った奴の居場所を教えろ。断れば、お前の体に穴を6つ空ける。」

ベンチに並んで座った2人の光景にしては、とてもとても物騒な言葉だろう。
しかし仕方がない。あなたを守ってくれる世界は、暗闇に包まれてしまった。
狂人と密室に2人きりになってしまったならば、それなりの覚悟を求められるものだろうか。

「どうして自分がこんな目に遭うのか分からないだろうが、運が悪いだけだ。
 落ち着いて、喋るんだ。俺にわかるように、ゆっくりと。」

 ―― 当然、素直に答えた所で見逃すという保証は彼女にはない。嘘を吐く人間は、何度も嘘を吐く。平気で人を騙す。
右手に持ったそれは鋭利なナイフと同じ。そして彼女が吐く言葉も、鋭利なナイフと同じだ。
人殺し。そして、怪物殺し。人外狩り。理由は単純だ、女にとってそれらは、とてもとても憎いからだ。
彼女はキレている。ずっとキレ続けて、体の病気も悪化して、おかしくなってしまった。まともじゃなくなった。

「夜が明けるまで、まだ時間はある。」



/本日はここで一旦落ちます…ッ
389 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 01:06:07.76 ID:d2TDe/qoo
>>387

「ふえええええ…ごめんなさああああい!!」

もう大参事である、不幸を運ぶメイドとはこの事だろう。
他方の屋敷に多大なる、迷惑を、いや。人災を引き起こしている
そしてその事に関しては全く自覚がない。

今もそうだ、自分の職場をばらした上に、前の主の似顔絵を素敵にぶちまけた
いつもちょっとしたドジだとそれくらいに考えているのだろう

「私っていっつもこうで、いつもメイド長様に怒られてたんです。」

「あ、メイド長様って言うのはね――――で。――――なんですけど」

やらかした、このドジを起こした雰囲気に耐えれずにユルルは雑談したつもりだった
けど内容が内容。メイドの戦っていた時に起きた現象、つまりそのメイド長は能力者であることが内容から容易に推測できるだろう
しかもあろうことか、名前まできっちり口にしてしまった

「皆さんお騒がせしてごめんなさい!!」

そしてまた謝りながら似顔絵を拾い集めている

「あ。すいません。ドジの尻拭いさせちゃって…ううっ」

もう男の優しさと自分の情けなさで今にも泣きそうになっている。
男の企みなんて気づくはずがない

「ここまで親切にしてもらって、申し訳ないです…」

ちょっと涙が零れ落ちるがそんなの気にしない。

メイドはポケットを漁って、比較的真新しい携帯を取り出した

「改めて今度お礼をするので、連絡先を教えてくれませんか?」

勿論この携帯、ユルルが買ったものではない。元居た■■家から支給された物
つまりは連絡用の携帯であり、■■家の電話番号、指令のメール、連絡のメール、つまり内部情報の塊である
どこまで情報が入っているのかは分からないが、ここの男達にとってはとんでもないレアものだろう
390 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/04(月) 20:08:22.50 ID:BTjt9KfFo
>>389

「気にすんなよ、失敗なんぞ誰にでもあることさ」

ほうほう、メイド長は能力者。
それも特異な現象を起こすタイプとなれば、おそらく純能力型の異能力者か。
一口に能力者と呼んでもいろいろな種類がある。中には表には見えない形で発現する能力もある。この男――ゲアハルトもそうだが、強化型がそれに分類される。

逆に明らかに分かりやすい……仮に魔法型としよう、そういったものは大抵が能力以外は平凡なものである。むろん例外は存在するが。
そういった能力詳細、相手の手の内を分かっていれば対策が取りやすいのは何も対異能力者に限ったことではない。
ゆえできる限りは秘匿するというのが、戦闘を生業とする能力者たちの常識と言っても過言ではないだろう。

よしよしなんともありがたい……棚から牡丹餅どころの話じゃない。
もし抗争を仕掛けるのならばこれは得難い情報だ。容易には手に入らない貴重な黄金、喉から手が出るほど欲しいもの。
そして名前まで入手できた。顔までは分からないため完全に身元を割り出すことなどできないが、これは弱みを掴むなりといった汚い手段の足掛かりと成り得る。

もはや彼らは彼女に慣れた――いやそういうと語弊があるかもしれないが、ともかくこのユルルという女はそういう人間であると認識した。
放っておけばどこまでも口を滑らせ手を滑らせ、信じられない大ポカをやらかし続ける疫病神。
だがそれは彼女が属する集団にしてみればの話である、こちらにとっては無条件で利益をもたらす女神に等しい。
劇物であるのは違いないが……適切な扱いをすればその恩恵は計り知れない、今この状況がそうであるように。

「礼なんざ気にする必要はないんだが、構わんぜ。ただすまんが俺のはだいぶ前の型でなぁ」

そしてまた取り出された最重要機密の塊に、悟られぬよう刃物のような眼光を向けた。
以前から、つまり彼女が彼の屋敷に居た頃から使っているものかは現状わからない。
ふつう彼女の立場を考えればこの街に来てから新しく調達するのが当然だが、ヤツはふつうじゃない。
可能性は十分にある――なんとしても欲しい。動くか……? いや、待て。

「赤外線だったか? それを使って手軽に交換できないのさ。しかも番号はともかくアドレスはやたら長くしちまってなぁ」

取り出した自分の携帯端末は……確かに相当古いようだ。いまどきは使用者も少なくなってきた二つ折りのタイプ、外装をみるにかなり使い込んでいる。
どうやらあの男、上手いことやろうとしているようだ。
であればいったん様子見。行動を起こすか否かは結果を見てからでも構うまい。

「口頭で伝えながら入力するのも面倒だろう、俺が直接打ち込んでやるよ」

ほれ、と携帯を開きつつ、空いている片手を差し出した。
ちょっと貸してみろというような態度は気軽そのもの。これから何か重大なことをしてやろうという気配は微塵も感じられない――。
だが断言しよう、彼女の端末を受け取ったが最後、こいつは重要と思われる情報を根こそぎ抜き出して記録、あるいは記憶する。
そうした後に素知らぬ顔で返すのだろう。さも互いの連絡先を交換しただけと言わんばかりの涼しい様子で。
391 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 20:55:50.98 ID:8pHRDllho
>>390

「私も実は機械音痴でよく分からないんです。メールアドレス?もよく分かっていませんし…」

実は機械音痴?今までの行いを見るにあからさまに機械音痴だろう。何を見るより明白である
そして目の前の男が口に出した「赤外線」という言葉、ユルルには全く訳が分からない
となればユルルの頭の方程式はこうなってくる、男は自分の知らない言葉を知っている。そう言うことは自分より詳しい
ならば失敗しないために相手に任せようと

携帯の中に詰まっているのはこの街に来てからの、屋敷の情報
つまりは主人のいる可能性の高い場所や、ちょっとした内部情報、それらが数日分揃っている

余談ではあるが、ユルルの送ったメールは全て届いていない。
アドレスの欄に内容を書き込んでいるから、当然と言えば当然だ

「あ、ほんとですか?でもこれ難しいですよ?」

大丈夫、目の前の男はユルルと違って「d」と「b」の区別が未だに曖昧と言うことは断じてない

そして男に前面の信頼と信用の元、ユルルは携帯を差し出した。
別に個人のしょうもないプライベートが乗っているのならばまだしも、中にあるのは内部情報の塊
彼女の実績などを考える当たり、そんなに重要な物は入っていないと思われるが、それでも元居た屋敷にはそれなりの打撃
それを笑顔で無意識に行える当たり、さすがは■■家の出身と言えるのだろうか…

「…ゲアハルトさん。この街って、私みたいに不思議な能力が使える人が多いって本当ですか?」

ふと、思い出したかのように口にした言葉。
この街はあり得ないほど能力者が多い、風の噂程度に聞いていたその話。
けど実際能力者という能力者に出会ったこともなく、だったら直接聞いてみようと思ったのだ

実際この街に来てから能力という能力を見たことがない。
確かに目の前に居る男は元猫で、他にも何人か能力を持っていると言うのは聞いたことはあるが…
それでもやっぱりこの街に来たばかりのユルルには信じがたい事なのだろう

「…でも、割と来てみたら普通の街で…話に聞いてたほど危険じゃないから…ちょっと気になって」

ユルルはこの街を結構賑やかな都会だと思っている、だって実際この街に来てから事件という事件にも見舞われていないし。
なによりもここに来る前に聞いていたのとは違う平和さ。もっと世紀末の様なのをイメージしていたから拍子抜けだ
娯楽も職もなにもかもに満たされているこの街は危険なのか?とユルルは疑問に思っていた
392 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/04(月) 21:27:43.77 ID:BTjt9KfFo
>>391

「俺も新しい型のヤツには不慣れでな。少し時間がかかるかもしれんが、気にしないでくれよ」

手間をかけることが不自然に思われぬよう、そう前置いてから形態を受け取り操作を始める。
そうしたら出るわ出るわ、内部に居なければ入手は極端に難しい内部情報がわんさかと。

ただ屋敷側も、よりによってこの娘に最も掴まれてはならない情報を渡しておくほど馬鹿じゃない。
入っているものに決定的なものは致命的なものはない……が、そのいずれも、中にいる者なればこそ知らされているものばかりである。
用意にスパイなどを送ればどうなるか、その末路など決まり切っているからさして重要じゃない情報すら手に入れるのが困難であるなら、これとて十分すぎる収穫といえるだろう。

片手はフリック操作、もう片方では素早くキーを打ちながら、片っ端から詰まっている情報をぶっこ抜いていく。
その最中、彼女の言葉に視線を上げず、入力を続けながら答えた。

「ああ本当さ。この街には能力者ってやつが信じられんほど多い」

犬も歩けば能力者に当たる――というほどではないが、比率からすれば驚異的な人口の割合を誇っている。
それでもいわゆる一般人と比べればどうしても少なくなるため、運が悪ければ――あるいは良ければ、出会わずに過ごすということもあるだろう。まして彼女のように、ここに来て日が浅い人間であればなおさらだ。

「俺もいろいろ渡り歩いてきたが、ここほど密集してる場所もないだろうぜ。見た目は普通だから一見しただけじゃ分からんがな」

彼らは大抵の場合、能力以外は普通の人とまったく同じ。外見に分かりやすい特徴があるわけでもないのだから、知らずすれ違っていたという可能性だってあるだろう。
……そう、まさしくそれこそが最大の利点なのだ。ナイフや銃を持っていればその脅威性は誰でも一目で分かるが、異能力者はそうじゃない。
その身に備えた奇々怪々な力を発現させるまでは市井の民と変わらない……それはつまり、直前まではターゲットに対して無警戒なまま接近させることができるということに他ならないのだから。
要人暗殺、重要施設の破壊。能力の種類によっては機密書類の奪取とて簡単だろう。
ゆえに能力者の需要は著しく高い。一般市民として何変わらない生活を送っている者などごく少数だ。大半はその力を用いて欲望を満たすために、あるいは正義を行うために何らかの組織に属することとなる。

「……しかし、そうするとあんたも能力者なのかい?」

そして彼女はまたもや気になることを口走っていた。
“私みたいに”――すなわち彼女もまた、そうした異能を備えた能力者であると言っているようなものだったから。
393 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 21:42:23.48 ID:8pHRDllho
>>392

「へぇ…そんなに多いんですか…。私には皆普通の人に見えちゃいます」

街を歩いていても目に付くのは普通の人ばかり、怪しい人なんてどこにも居ない。
制服の学生だったり、若いお姉さんだったり、格好もこのメイドとは違ってみんな普通。
逆にメイド自身が、この奇怪な格好のせいで、私は少し変ですよとアピールしてしまっているくらいに、周りが普通だ

「そ…そんなに多いんですかぁ…。私は元居た町とここの町しか知らないからよく分かんないですけど…」

男の言っていた通りだった、本当にこの街の人物は普通すぎる、格好が異常ならまだ警戒することもできるのに
といっても、ユルルはアホみたいにひょこひよこ付いて行くだろうが。
だがそれを差し置いても、噂で聞いた能力者の街にしては普通すぎる。一般的な街にしか見えない
もう少しこの街で暮らせばそんな認識も変わってくるのかもしれないが、今は元居たところよりも平和という認識を拭えないでいる

「…あ」

男にそう聞かれて、やってしまった、という顔になるユルル。
むやみやたらに人に能力があることを言ってはいけないと、ここに来る前にきつく言われていたからだ。
だからユルルが能力者なのは、この街でも、今仕えている屋敷の者しか知らない・

「え…えー…えーっと…うふふ」

とりあえず笑って誤魔化してみるが、誤魔化しきれない。
誤魔化しきれてない上に、嘘が圧倒的に下手なのでむしろ肯定しているようにしか見えない

「……」

そして考えに考え抜いて出した言葉

「ちょ…ちょっとだけ能力者です!ほんとちょっとだけ!もうぜんっぜん、むしろ一般人です!!」

ちょっとだけ能力者。意味が分からない言葉を作り出した
何がちょっとなのか、何を基準にしてのちょっとなのか、全く持って訳が分からない

でも本人は上手くできた、そんな爽やかなやり切った顔をしている

このアホはどうやら周りにだけではなく、自分にも刃先を向けてしまうタイプのドジらしい
394 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/04(月) 22:10:29.44 ID:BTjt9KfFo
>>393

「ほーう」

図星か。
しかもどうやら知られたくない事実のようだった。
場合によっては能力の詳細を知られてしまうというのは致命的な事態を招くことであるため一般的には隠すことだが、たぶんユルルにそういうことを思いつく頭はないだろう。
なので十中八九は屋敷の者の入れ知恵だろうが、その言いつけは今あっさりと破られた。憐れなことである。

「なんにせよ巻き込まれんように気を付けることだなァ。怖いのは何も能力者だけってわけじゃないが、なにぶん血気盛んな連中も多い」

詳細について追及してみようかとも思ったが、なんとなく気が向かないから後でよかろうとスルーした。
どうもこの女、自分を完全に信用してしまっているようだから。今後連絡を取り合っていればそのうち伝えてくることもあろうと考える。
そうじゃなくても勝手にぽろっとこぼす公算も、まあ高いが。いずれにせよ今のうちに聞きださねばならないことでもあるまい。

……それからしばらくは単なる世間話に興じるだろう。
しばらくといっても数分に満たない短い間。そうしている間にもデータの移行作業は順調に進んでいる、あまり時間をかけてはいられない。
ひょっとしたら話してさえいれば五分や十分は何も言ってこないかもしれないが、用心に越したことはない。なるべく手早く済ませるべきである。

だからほどなくして、大事な情報を移しおわった彼は彼女の手元に携帯を返した。
その画面にはゲアハルトの連絡先がある。映し出されている電話番号とメールアドレスは紛れもなく、彼自身のもの。

「これで終わりだ、まあいつでも連絡してくれよ。困ったことがあったら相談に乗るぜ」

そう言って浮かべる笑顔は明らかに不穏な気配が漂っていたが、きっとユルルには素晴らしく頼もしい笑みに見えるのだろう。
とんでもない男に出会ってしまったことに微塵も気づかず、おそらくこれからもほんわかふわふわ過ごしていく彼女……。
その在り方を不幸と憐れむか幸福と羨むかは、人次第。
395 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/04(月) 22:13:35.15 ID:Aavm8qMDo
>>388

――少女は、可憐で素朴だった。
故にその銃口が向けられた時、再び顔は青ざめたものになった。
動悸がしてきて息が荒くなり、何より恐怖で四肢が戦慄くように震えていた。


「やっ、止めてください!そんなこと……」

彼女は狂っている、突然自らに銃口を向けるなんて。
右腕の刃に滴る血液が赤黒い光を反射する中、少女はそう思った。
何より、“作った”とは何事か。少女自身は自らを人間であると思い込んでいるのだから。


「えっと、えっと……」

そう口ごもってばかりで、答える素振りを見せていない。
否、わからないのだ。自らがいつも帰るのは学園の地下である。
だが、一体どこで“作られたのか”。どこで、ドコデ何処でどこでどこで……。


「あの、私『二菜、もう代われ』」

居場所を口にしようとした時、意識せぬ内に口が動いた。
そこを、代われと。気づいていたのだろう、“もう一人”の人格は。
故に、震える右手は瞬時にドラッグケースを取り出させ、そして薬を口に含ませようとした。
396 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 22:25:31.11 ID:8pHRDllho
>>394

「巻き込まれる…ですか。ふえ…怖いです…」

能力者同士の荒事に巻き込まれるなんて御免だ。というよりそうなったらきっと勝ち目はない
ユルルはそう自覚している。だって自分はドジで弱いから
だけどご主人さまを見つけ出すまでは[ピーーー]ない、なるべく巻き込まれないように気を付けよう

…なんて思うはずもなく

「けど私なら平気ですね!こう見えて結構強いんです!うふふ、一流のメイドはご主人様を守らないといけないんですよっ」

一度も戦闘したことのないのに、どこからこんな自信が湧き上がってくるのか。
やった事と言えば、元居た屋敷で、能力が暴発して30人近くの使用人を感電させて気絶させたこと
多分それが変に無駄な自信をつけているのだろうか。

まあ何故かモップの扱いが上手くて、そこそこの棒術みたいなことは出来るのだが、それだけじゃ到底通用しないだろう

「わあっ!!初めてです!この街…ううん!生まれて初めて友達の連絡先を頂けました」

凄く嬉しそうである。もう嬉しいを通り越して感動しているのか目を潤ませている
それだけならまだ可愛いものの、ユルルはある意味飛んでも発言を口からこぼした

「これから毎日連絡しますね!メールって言うのが使えるんですよね」

「あ、お電話とかでもいいですよ!いっぱいしますね!」

どんなコンピューターウイルスよりもある意味タチの悪い、ユルルの連絡。
そりゃあもう言葉通りに毎日毎日、どうでもいいような話がわんさかわんさか男に届く事だろう
頭がお花畑のユルルの事だ、一般人ならとんでもないストレスになるかもしれない

「この街でこれからもとっても楽しく暮らせる気がします…」

「じゃなくて、この街でとっても楽しくご主人様を探せそうな気がします!!」

そうしてこの街にズブズブと飲み込まれていくメイド。
とんでもない疫病神が一匹、この能力者の街に舞い降りた
397 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/04(月) 22:54:11.29 ID:KLe6FWtto
>>395

「落ち着けと言っても、まあ、無駄か。」

再び煩わしそうに溜め息を吐いた。おろおろと狼狽える様子は、まるで本当に人間の少女のようだと女は思った。
元々大しては期待していない。銃口を目前にして、落ち着いて喋れる人間の方がずっと少ない。
自分だってそうだ ―― 銃口を向けられたならば、それに噛み付こうとする衝動を抑えきれないだろう。

「怪物を生み出して悦に浸っているクソ野郎の居場所を早く教えろと、言っているんだ。
 そいつに後悔をさせてやらないとなら ――― 」

その時、少女の口が、まるで別の人間が喋っているかのように動いたのを、怪物狩りは見逃さなかった。
躊躇なくドラッグケースを取り出した右手を左手で掴もうとし、もしも掴めたならば、
ベンチから立ち上がり相手の手を頭上へ捻り上げようとするだろう。

------------------------------------------------------------------------------------------------

「それで、お前は"何"だ。簡潔に、わかりやすく教えてくれ。
 少しは胆力のありそうな奴が出てきてくれて、話が早そうだ。」

もしも全てが上手くいったならば、拳銃を顎先に突き付けて、問いかける ――― 。
398 :【尽臓機鬼】 [sage saga]:2017/09/04(月) 23:07:47.12 ID:BTjt9KfFo
>>396

なるほど、お前は強いのか。
現段階ではどこまでいっても自称であるため大して信用ならないが、ユルルが強者であるかもしれないということは記憶しておこう。
さてどんな能力なのだろうか。強化型? 魔法型? さっきのアレを見るに、かのモップを武器とする確率は高かろう。
であれば得物を使う形の力か? しかしあれくらいの動きならば、やれる人間はこの街であれば少なくない。

――まあいい、そんなことは実際にこの眼で見れば分かること。
そのうち必ず機会が巡ってくるだろう……来ないのならばこの手で作りだしてやるまで。
異能者であるという事実など些細なこと、こいつは面白い人間だ。観察していれば必ずや自分好みの光景がみられるだろう。
重要なのは力の多寡ではなくそいつの性質。その観点から言えば、ユルルは間違いなくゲアハルトの眼鏡にかなったのだ。

「おう遠慮するなよ、存分に交友を深めようじゃねぇか! ただこれでも忙しい身でな、毎日きっちり返し切れるとは限らんがそこは勘弁してくれや」

ならばくだらない話にも付き合ってやろうじゃないか。
こいつなら本当に毎日毎日送ってくるかもしれないと思いつつも、なるようになるだろうとあまり深くは考えない。
実際のところその通りになるだろうが、相手がゲアハルトでよかったと言える唯一の事態だ。まず本当に大量に送信されてくる連絡量に爆笑し、以降も彼にしかわからない何らかの楽しみを見出しつつ対応するに違いない。

「俺は応援してるぜミンスフィー、思うがままに進んでみろよ。きっとその先には素晴らしい結果が待っているだろうさ――」

それが誰にとっての最善であるかは明言しないまま。
自分にとってはその道程すらも愉悦の種になるのだと笑いながら、心の底から彼女のことを応援した。

――――――。

やがて彼女は酒場を去るだろう。
その時間がいつになるかは分からない。夕方かもしれないし、もしかしたら予想外に居座りすぎてとっぷり日が暮れてしまっているかもしれない。
だが時刻は問題じゃない。あのメイドが今の雇い主にこっぴどく叱られるかもしれないなどということは、それこそまったくどうでもいい。
ここに屯する畜生どもにとって、何より大事なのは己の利益。我が身こそが最も可愛いと、誰も彼もが隠す気なし。
下手に取り繕っている輩など彼らの目にかかれば一目で見抜ける小細工だ。いかに巧妙に取り繕おうとも、皮を剥いだ奥から漂うドブの臭いまでは誤魔化せない。

ゆえにこの場で注目すべき事柄は間抜けな情報提供者兼監視者がいなくなったということだけ。
もはやこの小さな沼の底に部外者はいない。存在するのは闇の中を這いずりまわる薄汚い獣たちのみ。

扉が開く……集中した視線の先に立っているのは蓬髪の悪鬼。
白い髪を揺らめかせ、悦楽に表情を歪めながら、申し訳程度に善人の皮を被りながらメイドを騙していた男が彼女の見送りから帰還する。
曲がりなりにも善と呼べる娘を騙くらかしておきながら一切の罪悪感を見せないゲアハルトは、まるで指揮者のように仰々しく両腕を広げて一同を見据えた。

「――さてご同輩がた。悪だくみの時間だ」

……悪党たちの夜は更けていく。
これより生まれる地獄の坩堝を更に拡大させるべく知恵を絞り、策を講じる。
どちらが勝とうが構わない、求めているのは愉快な混沌。自身を渦中に投じることすら厭わずに、災禍の導き手は心の底から楽しそうに笑うのだった。


//これで〆、でしょうか?
399 :【魔虹最符】 [sage]:2017/09/04(月) 23:27:19.87 ID:8pHRDllho
>>398

「大丈夫です!一杯送って、返ってくるまでずっと待ってますから」

多分このメイドは本当にそうする。そして、本当に待ち続ける。
それが彼女にとっての普通の事で、一般的な常識なのだから

けど、送る内容は本当にどうでもいい物なのも確かだ。
朝ごはんは何を食べたとか、今日は街でこんなものを見つけたとか
きっと本当に平和でのほほんとした気の抜けたアホみたいなメールを送り続ける

「頑張って写真とかもつけちゃいますね!」

写真の付け方とかは分からないけど、また詳しい人に聞こう。
そうすればもっと男と仲良くなれるはずだから

「はい!もっとお仕えして、もっと頑張って、今のお屋敷でいろんな仕事を覚えて」

「ご主人様に頼られる素敵なメイドになって見せます!」

彼女にとって一番大切なのはこの街に居る今のご主人様とお屋敷の人々。
そして次点で友達、まあ。友達と言っても一人しかいない、そう目の前の男
彼がどんな悪人かは知らない、彼の思惑も分かっていない。
分かった所で曲解して、自分の都合のいいように自分の現実を捻じ曲げる、ゆっくりと。でも着実に
それがユルルの生きていくために必要な技だから

「じゃあ、もっと仲良くなるためにもっとたくさん飲んで、もっとたくさんお話ししましょう!!」

ユルルは楽しそうに酒を飲んで楽しそうに話を続けている。
昨日見た夢の話とか、今いるお屋敷で怒られた話とか、そんなどうでもいい話を

本当にいい友達が出来て良かった。ユルルは心の底からそう思った

―――――――――――

帰路。それはそれはもうメイドとは言えない姿のユルル
髪は解いている、襟元のリボンは無い、エプロンもつけていない

そして何よりグテグテに酔っ払って、ビックリするほどに酒臭い

まだ夕飯時、仕事は山ほど残っていると言うのに

「猫…おっかないな」

もっとかわいい姿の人間だと思ったら、結構いかつかった。今日一番の衝撃だった
いや、二番だ。一番目は自分に命の危機が迫ったこと、そして助けてもらったこと


「…気分悪い……うえっ」

そしてメイドは屋敷の中へと入っていく、吐き気とふらつきに襲われながらも、バレないと思っている

アホだ。やっぱりアホだ。こんなの一目見て外で何をして来たか分かる
そしてこの後の仕事も出来ない。怒られる

「……――――」

誰も見ていないことを確認して、自分の部屋にコソコソと戻っていくメイド
勿論それが誰にも見られていないと言うことは無く、しかも道中にエプロン、髪留め、リボン、それを道しるべの様に落としている
どこぞのヘンゼルトグレーテルもびっくりだ。


勿論。この後彼女は、ビックリするほど怒られた。

//乙でした!!お付き合いありがとうございました!
400 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/04(月) 23:53:11.99 ID:Aavm8qMDo
>>397

ドラッグケースを取り出した右手は彼女にあっさり掴まれた。
頭上に捻り上げられて本来なら痛覚を感じるはずだが、それがない。
――薬物摂取による痛覚の麻痺。痛みを訴えることなく少女は彼女の目を見つめる。


『まあ落ち着いてって、私はこの身体の“主”だよ』
『私はその薬物を摂取しなきゃ現界できなくてね。薬を飲ませて欲しいな』

襲う気がないのは本心である。理性が皆無になるが、腕をもとに戻しておく。
右腕は元へと戻り、綺麗な少女の腕をしていた。赤黒い血が乾いて斑のように張り付いてはいるが。
顎先に突きつけられた拳銃を物ともせず、落ち着いてそう要求した。


『襲うことがないことは確約するよ、襲ったら心臓をぶち抜いても構わない』

表情は短気な彼女に対して呆れているかのようになり。
要求が通れば、このまま“身体の主”は現界できるのであろう。
もし彼女が要求を通さなければ、先程の少女に戻る。それだけのことだ。
401 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/05(火) 00:35:21.69 ID:ls4O7dlYo
>>400

 ―― 銃口を相手に向けたまま相手を解放し、一歩だけ後ろへ下がった。
暗闇の中で浮き上がる黄色いスポットライトには、少女と女。しかし人外と人外。
片や怪物が憎い怪物と来ているのだが、それでは相手は何だというのだろうか。

「そうかい。」

一先ずは、そう一言だけ、返事をした。
リボルバー拳銃の撃鉄を親指で引き倒すと、金属の擦れる音、撃鉄が留め具にはまる音が鳴る。
引き金は先程よりも手前の方へ下がって、間違えて誰かに肩を叩かれただけでも、それは完全に引き絞られてしまうようにすら思える。
とてもとても軽い引き金。

「その方が話しやすいなら、そうしろ。
 あの小娘じゃ、いつまで経っても本題に入れそうにない。

 見ての通り、我慢強いタイプじゃ、ないんでね。」

銀色にギラリと輝いたその引き金のように。



/一旦ここで今日は落ちます…ッ。
402 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/05(火) 22:12:55.70 ID:JezMWZJVo
>>401

『りょーかい、ちょっと待っててね』

彼女が顎先から銃口を外したのを確認すると、一つため息をついた。
全く、短気すぎやしないか。まあ様々な性格があるから気には留めないが。
震える腕でオレンジのドラッグケースをつかみ、中身の錠剤を口に含み飲み込んだ。

ふらり、ふらりと目眩を起こしたかのように体が揺れる。
暫くすると、ベンチに横たわってしまた。だが、眠ったわけではない。
ムクリと身体が起き、ぱちぱちと二度瞬きをする。ふむ、自分の身体だ。


「や、おまたせしたね」

口元には笑みを浮かべ、彼女の手に握られた拳銃をまじまじとみる。
本物には違いないようで、下手したら撃ち殺されるかもしれないだろう。
おーこわ、と一言言うと、少女はまた彼女の方へ向き直した。


「それで、話ってなにかな。言ってくれないとわかんないや」

相変わらず口元に笑みを浮かべたまま彼女へと聞いた。
“話”とはなにか。彼女の返答を、暫く待つことにした。
403 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/05(火) 23:14:27.70 ID:ls4O7dlYo
>>402

相手が起き上がるまでの様子を、女は瞬きひとつせずに観察した。
注意深く視線を浴びせ続け、銃口が睨みを利かす。
一挙手一投足に少しでも違和感があれば、再び組み付いてしまう事もあったかもしれなかった。
しかし女の警戒は、一先ずは杞憂に終わった。

話を促す相手を鼻で笑って、喋り始める。

「単刀直入に聞く ―― お前は作られた怪物だろう?」

2人の傍に一匹の夜鷹が舞い降りて、地面で這いつくばっていた蚯蚓を啄む。
酷く汚れた獣。不吉の先触れなどと称されて、忌み嫌われた哀れな獣。

「怪しい臭いが鼻について仕方ない。なら、その元を根絶しなければならない。
 お前には理解できないだろうが、俺はそうしなければならない。
 人間ではないものを作り出す邪悪な輩は、何人たりとも生かしてはおけない。

 お前は俺を信用する必要も無い。俺は俺のエゴの為に、お前の創造主を粉砕する。」

拳銃を両手で構え、利き目の左目で獲物を見据える。

「込み入った事情は、どうでもいい。お前を作った奴の正体、居場所を教えろ。
 この質問は2回目だ。同じ質問を何度もするのは、かなり頭にクる。わかるか?」
404 :聖閃白剣 [sage]:2017/09/12(火) 14:53:15.92 ID:n34VTj/UO
北に位置する街の外れにて

黄土色のフード付きローブを目深に被り、早足に歩く人影があった
身長は170に満たない程度で、フードから覗く唇は乾き、頰は痩けている
その足取りは何かに急かされているようでも、イラついているようでもある

―――おい!立てやゴルァ!!
「………!」

路地からの平和でない喧騒に対して足を止め、視線を遣る。男が三人、一人は地面に倒れ伏し顔を覆い、もう二人はそれぞれ鉄パイプと角材を持って一人を囲っている
聖閃白剣は纏っているローブを乱暴に投げ捨て、胸元に下がる十字架のペンダントを握りしめる

「―――正義、執行…!」

聖閃白剣の掠れた呟きに呼応してペンダントが光を放ち、宙空で巨大化
聖閃白剣がその一端を握った瞬間、白い光を纏った両手剣が現れる
十字架をモチーフとした剣を持った聖閃白剣は、その亜麻色の長髪を翻しながら駆け足で路地へ向かった

このまま何もなければ、聖閃白剣は路地にて恫喝を行う二人組の両手首を器用に切り裂き、無力化しようとするだろう
405 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/09/12(火) 23:36:16.66 ID:Pkf+Fj26o
>>404

それはおそらく、変哲もないささいな諍い。
強い者、卑怯な人間、後ろ暗い稼業に身を窶す人種が搾取の対象にするのはいつだって自分たちより弱い人間だ。
自然界に適用される厳然たるそれとは趣を異にはしているが、これも一種の弱肉強食。

力がなく、運も乏しいのなら、社会の裏に隠れ潜む捕食者たちに貪られるのは世の常である。
規模に違いこそあれ、こんなものはどの街でも見られるような光景だ。煌びやかで華々しい大通りを一歩踏み外せばそこには薄汚い世界が広がっている。
誰もがそれを分かっている。未だ夢見る子供ならいざ知らず、この世の現実を思い知らされた大人なら誰もがそれを承知して、その上で見ないふりをしているのだ。

それを責めることはできないだろう……なぜなら誰だって、いちばん大事なのは我が身なのだから。
あるいは守りたい家族や友人など、事が起きれば自分の身だけで済まされないかもしれないからこそ、常識のある人間なら降りかかりかねない火の粉は出来る限り避けるのが当たり前。

だからこそ……それを推してまで介入するような人間は、よほど奇特な人種なのだろう。

突然の闖入者。蹲る一人を甚振っていた男たちは突発的な事態に対処できなかった。
手首を斬り裂かれ、得物を取り落とす。流れ出る血と痛みに耐えきれず、傷口を必死に抑えて今度は自分たちが地に這いつくばることとなった。

路地裏に響く絶叫……それに気づいたか、少し距離の離れた場所に一人の男が飛び出てきた。
見張り役だったのだろう。眼前の状況を把握したその男は、舌打ちしながら素早く懐に手を入れる。

取り出したのは黒光りする鋼鉄の銃(さつい)。
携帯性と取り回しに優れ、大型拳銃ほどの殺傷力こそないものの弾丸を食らった生身の人間がどうなるかなど想像に難くない。
慣れた手つき、人に銃口を向けることに些かも躊躇いがない。照準を定める時間すら短く、今まさに引き金が引かれようとした。

「――何をしている」

その瞬間に、背後から轟いた低い声。
決して大きな声量ではなかった。しかしその声は異様な熱気と迫力をもって、その動きを硬直させる。
振り向かんとした男の頭部が掴まれた。次の瞬間には手加減抜きの力で顔面を壁に叩きつけられる。鼻梁がへし折れ、鼻血を流しながら意識を失い崩れ落ちた。

それを成したのは、一人の男。
百八十を越す長身を、黒を基調としたフォーマルな印象を受ける衣服で包んでいる。
腰には一振りの長剣が。柄は無骨そのものながら、反対に鞘は装飾的な美しい衣装を施されていた。
金髪と色素の薄い肌色からして、推測できるのは彼が北欧系の人種であるということ。底知れない光を湛えた青鋼色の双眸が、両手剣を携えた彼女の姿を映していた。


//よろしくお願いします!
406 :【覚醒狂獣】 [sage]:2017/09/13(水) 00:31:37.70 ID:YgCzcZzVo
>>403

相変わらず銃口はこっちを向いたままのようだ。少女は苦笑した。
少しでも怪しいと見られる動きをすればどうなるかわかったものじゃない。
仕方ないと少女は両手を上げたままベンチに腰掛け、彼女の方へ目をやった。


「――そうだよ、それ以外に言い表し方ないしね」

羽音が下かと思えば、舞い降りたのは先程の“死神”だった。
やれやれ、全く不吉なことだ。本当に死んでしまったらどうすればいいのか。

「ふーん、そりゃなかなかのエゴだ」
「お前さんも怪しい気がするけどなあ、見た目は若いのに“昔”とかな」

彼女のエゴは受け入れがたいとばかりに呆れたな顔をしてみせる。
それに、怪しいといえば彼女もそうだ。見た目の年齢と、話しぶりが一致していない。
この点において、彼女は本当に幼いときから軍属だったのか、それとも“時が進まないのか”。


「あー、そりゃー……」

無理、だとは言えない。言ってしまえば彼女がどう動くかわかったものじゃない。
両手の人差し指がしっかりとかかったトリガーを引かれたらズドン、だ。
しかし嘘を言って乗り越えようにも彼女の疑いようはすごい。結局、少女は――

「無理、だね」
「私はあくまでプロダクト、作った側のことは守秘しなくちゃならないしね」

――恐らく、彼女は夜鷹なのだろう。私は烏だと。
結局創造主の名前さえ口にすることはなかった。知られてはならないがために。
407 :【聖閃白剣】 :2017/09/13(水) 00:59:54.39 ID:kYZRvGNgo
>>405
十字の両手剣が閃き、得物を持つ男たちの手首を裂いて無力化
数瞬前まで一方的に暴力を振るう側であった彼らは、たった2度の斬撃で完全に弱者の側となった
唐突に変化した状況と絶叫と鮮血の匂いに呆然としていた男は、聖閃白剣の後方で黒の塊を構える男に気がつき、声にならない悲鳴をあげる
聖閃白剣も異変に気がつき慌てて振り返るが―――すでに構えは完了され、引き金にも指がかけられている

無力化はおろか、回避すら間に合わない絶望的な距離とタイミングであったが
―――突如現れた巨躯の男が彼を壁に叩きつけ、ついに弾丸が放たれることはなかった
持ち主が崩れ落ちると同時に拳銃も落下し、乱暴な金属音が響く
一瞬の静寂ののち、共々弱者となった3人の男はそれぞれ恐怖の言葉を吐きながら慌てて立ち去っていく。拳銃を持っていた男も、じきに目を覚ましすぐさま逃げ出すのだろう

「――いや、驚いた」
「まさか、見知らぬ他人に助けられるとは・・・ありがとう」

「冷たい」という印象を与える男の視線であったが、彼に敵意がないのは間違いないだろうとみて構えを解く
すると、女の手の内にある両手剣が再び光に包まれ、急速に縮小。元の手のひらサイズにまで縮んだかと思えば、すでにペンダントとしての形を取り戻していた
彼女はそれを首にかけると、男に頭を下げながら礼を言った

「嬉しいねぇ・・・誰かに助けられるってのは、やっぱりいいもんだ」
「君も能力者かい?」

女は先ほどまで剣を振るい銃を向けられていたとは思えないほど穏やかな笑顔で男に問いかけた

//遅くなってしまい申し訳ない・・・!
//よろしくお願いします!返信はいつでも大丈夫です!

408 :【不撓鋼心】 [sage saga]:2017/09/13(水) 20:18:19.86 ID:oSD++0Zeo
>>407

男が取り落とした拳銃を油断なく拾い上げ、マガジンを抜き、コッキングして薬室に装填されていた弾丸を排出する。
万が一目を覚まして再び銃を撃とうとしても、こうされては一発たりとも射撃できやしない。これにて完全に無力化した。
倒れ伏す悪漢の様子に変わりがないことを確認してから銃本体を物陰に放り投げつつ、少しばかり離れた場所に立つ女の方へと歩いていった。

「礼には及ばん。何も特別なことをしたわけではない」

近づいたことでよりはっきり見えるようになった男の顔は、一言厳めしかった。
眉間に刻まれた深い皺。眇められた双眸に宿る鋭い眼光、強く引き結ばれた口。
纏う気配は金属を思わせた。硬質に張りつめた空気に緩みというものは欠片もない。鋼の男、という表現がぴたりと当てはまる。

厳しい表情――しかし彼女の見立て通り、敵意や悪意はない。
知る由もないだろうがこの顔は彼という人間の常である。ただ普通にしているだけにもかかわらず、相手を委縮させてしまうことも少なくはなかった。

「そして質問に答えるならば否だ。俺は単に、未熟な武芸者にすぎんよ」

それを頭から信じるには男の放つ雰囲気が些か以上に一般人のそれとはかけ離れている。
だがそれでも嘘偽りはないのではないかと思わせるくらいには、その言葉には重みがあった。
少なくとも腰に吊った剣を見るに、彼が本人の言う通り武芸者であるということは間違いないだろう。おそらく剣士だと予想される。

つまりは振るう刃の大きさこそ違えど、用いる得物は彼女と同じ剣である。
してみれば納得できる部分もあった。歩き方から窺える呼吸のリズム、剣士特有の視線の飛ばし方、そして何より利き手に浮き出ている無数の剣胼胝……。
少し見ただけでもすぐに分かる夥しい鍛錬の痕跡。剣を扱う人間であれば、見抜くことなど容易いだろう。

「詮索するつもりはないが、横槍だったか?」

君も……ということは、彼女は異能力者なのだろう。
であれは拳銃に対しても何らかの対応が取れたのかもしれない。危機的状況と見て手を出したが、余計な世話の可能性が考えられた。
間違ったことをしたつもりはないが、第三者に介入されたことを不愉快に思う人種がいることは承知している。
409 :【龍神変化】 [sage]:2017/09/13(水) 22:10:54.81 ID:sm7wwHXgo
>>406

物語というものには主役が付きもの。彼女らにとってもそれは間違いない。
それは若き日に誰もが夢見るお伽噺、そんなお伽噺に歪んだ解釈を持ち込んで、冊子を引き裂いて現れたのがこの闇の騎士。
しかしそれはつまり、所詮はただの脇役に過ぎないことを意味する。
街灯のスポットライトは、あなたを照らす。下手から銃を向ける女は、銃を向ける役割。

「そうかい。」

45口径の銃口を目前にして冷静さを保つ相手の様子を見て、彼女は胸中、脅すのを諦めた。
拳銃をジャージのポケットに再び入れる。
……いつの間にか煙草はとても短くなっていた。古い煙草を地面に吐き捨て、新たに煙草のケースを取り出す。

「もっとキツいヤツを持ってくれば良かった。
 金が無いからと言って安物を買うと、こういう目に遭う。」

先程まで一触即発の状況を強引に作り出していた当人が、今度は呑気に2本目の煙草に火を付ける。
ライターの銀色のケースに淡い焔が灯って、めらめらとおぼろげに色が揺らいだ。
この苦いタールとニコチンの味だけが彼女を落ち着かせる ――― 。

「ご明察の通り、俺も怪物さ。」

煙草を指で摘まんで口から離し、舌を出す。
蛇か蜥蜴のように細長い舌が顎下程までねろりと垂れた。
直ぐに煙草を咥えて、煙を吸った。

「フー…。
 自分の命よりも秘密の方が大事という、その殊勝さには感心する。
 そのせいで俺はお手上げだ。」

携帯灰皿を取り出し、煙草の灰を落とす。

「もう一服したら消えてやる。それでこの夜はお終いだ。」
410 :【竜ノ魔女】 [sage saga]:2017/10/10(火) 22:07:52.07 ID:30gpwGX6O
暗闇を照らし出すのは煉獄の如き業火、炎熱は息吹となって対象を焼き尽くす。
そして熱量の奔流が収まった時、後に残されたのは幾つもの黒い残骸ーーー炭化した人間の成れの果てだけ。

その一方的な暴力を成し遂げたのは魔女を名乗る少女。惨劇の渦中に君臨し、長槍を片手に携えた彼女は億劫気な溜息を零した。
その理由はただ単にこの蹂躙が彼女にとって本意ではなく、そのような行動に至るまでの経緯も至って本意でなかったことに尽きる。


「ああ、本当に鬱陶しい」


深夜の路地裏を彼女は歩いていた。その理由は特になかった。
そうしていると路地裏に屯している不良に遭遇した。彼等の主張曰くここは彼等のテリトリーらしい。
然し知ったことではないので彼女は丁寧に『どけ』とお願いしたのだ。すると彼等は逆上し襲い掛かってきた。

なので仕方なく、こうして焼き払った。正当防衛だから仕方ないとはいえ、”この臭い”は好きではなく、だから顔を顰めていた。
そもそも、退けといったのに退かなかった彼等が悪いのだから、心を痛める道理もない。彼女はそういう魔女であった。


「……さっさと往くとしよう。この臭いが服に着いたらたまったものじゃない」


路地裏にて発生した一方的な蹂躙は、悲鳴も、恐怖も、怨嗟も残さず。
燻る焼け痕だけ残して魔女は何事もなかったかのように再び歩き出す。
その光景を見届けたのは、闇夜に浮かぶ星々のみかーーーそれとも。

411 :【錬基昇創】 [sage]:2017/10/14(土) 05:54:48.96 ID:/cQNwD/SO
完全なるモノへの昇華、それこそが錬金術の目指すべき到達点。
そして彼女の行使する錬金術は、既に理想とすべき形に限りなく近い状態にまで研ぎ澄まされていた。

物質をより上位の存在へと昇華する。それこそが彼女の唯一にして絶対なる術式。
もしも術式を幾度にも渡って重ね合わせたならば、果ては地上に存在しない筈の形質さえも創り出せる────だが、それでも、まだ足りないと彼女は言う。
何故ならば、錬金術の到達点が"完全"への到達で在るならば、彼女が目指すべき到達点はあくまでその先にあるのだから。


「…………さて」


錬金術士とは己が理想に殉ずる者のこと。目的と為にならば、如何なる犠牲をも厭わない。
例え其れが己が命であろうとも、他者の命であろうとも、喪失の果てに得られるモノが存在するのなら────其の手を幾度も血に染める。


「さて、どうしたものかしら」


ある街が存在した。 精々、平和なことだけが特徴の小さな街だった。そしてその街に存在する命の総てを、彼女は己が術に利用した。
幾つもの命を基盤として束ね上げ、より強大な完全な一基の生命へと昇華する────其れこそ彼女が計画した今回の実験内容。
その街の、五百人にも満たない人口はたった一夜で、たった一瞬で消え去った。そして総ての消えたものを糧にして、一つの生命が空っぽになった街に産み落とされた。
然し、完全なる存在として産み落とされた筈のその存在は────余りにも不完全で、歪な代物だった。端的に言うなら、其の実験は失敗だった。



『────────◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!!』


獣の如き咆哮が街に響き渡る。其れは言ってしまうならば"怪物"、輪郭こそ人の形をしているものの、その爪も、その牙も、その巨躯も、その紅い瞳も、まるで人を喰らう魔獣のようだった。
幸いにも住民は残らず其の怪物の糧となって消え去った跡の街、この怪物が如何に暴れようが、最低でも今宵の間くらいは騒ぎが起こることもあるまいが。

怪物は広場の中心に君臨し、飢えた獣のように咆哮を放つ────その一挙一動総てを、彼女は付近にある教会の屋上から観察していた。
研究者然とした装いに身を包んだ、幼い少女の風貌をした彼女こそが、この街の全住人の命を使って怪物を産み出した張本人に他ならない。
彼女は────錬金術師ルミナ・フラヌスは実験結果とその経過を観察しながら思考する。果たして"アレ"はどこまで利用できるのだろうか、と。
このまま立ち去るか、或いはもう暫く見届けるか、其れとも────如何にせよ、この街にいる人間は既に自分一人だけだから、邪魔が入ることはないだろうという算段はあるものの。

その算段が崩れ去り、もしこの街に他の人間がいるならば、その者の眼にこの異常はどのように映るのだろう。
総ての住民が喪失し、代わりに一つの怪物が君臨する夜の街。営みの途絶えた静寂の中に、時折獣の如き咆哮が響き渡る──────もし現れる者がいるとすれば、それは果たして。
412 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/18(水) 16:15:38.07 ID:oQLSsRY+0
>>410

「随分と、派手にやるじゃねェか。」

どうやら観ていたのは瞬く星々だけでは無かったらしい。

残骸転がる路地裏の暗い通路の奥から、
肉食獣をも連想させる凶暴な笑みを浮かべ傲然と現れるのは血染めのアロハを纏った男。

彼女が炭に変えた破落戸共の仲間だろうか?

しかし纏う空気はこの街で人気の無い場所に行けば巨万といる様な連中の其れでなく。
もっと非人間的な悪のものである。

もし彼女が直感に優れているのなら、
男の背後に積み重なる骸の山を幻視するかもしれない。

其れこそ、男が目的の為に何百という人間を殺してきたという事の証左である。

「こうも消炭にされちゃア、回収もできねェな。」

"回収"。恐らくは何のことを指しているかは少女には解らないだろう。

くつくつと嗤いつつ、ゆっくりと少女へ近づいていく。
男は丸腰であり、かつ先刻の虐殺劇を見ていたにも拘わらずである。

悪意ばかりで出来上がったような男だが、今の所は敵意は感じられないだろう。

【さて、魔女はどう動くだろうか】
413 :【龍ノ魔女】 :2017/10/18(水) 21:35:04.83 ID:2ITf45+UO
>>421

例えばの話だが、道征く龍が居たとして、其れが果たして足元に態々気を遣うだろうか。
己が巨躯によって蟲を踏み潰してしまわないように、細心の注意を払ってまで忍び歩くかだろうか────当然、否である。

故にこの少女もまた、他者の存在など歯牙にも掛けない。敵意や悪意といった負の感情に至るまでもなく、そもそもの前提として他者への関心を懐かない。
そしてその前提が覆される場合というのは、関心を懐かざるをえない場合が殆どであり────それは即ち。
僅かにでも彼女の気を害した瞬間に、其の無関心は劫火の如き敵意に切り替わるに違いない。そして、其の条件もまた至って簡潔であり。
"ただ、歩行の邪魔である"。この閉鎖空間ですれ違おうとするならば、当然ながら彼女の歩みは阻まれる。そして其れは彼女が気を害するに充分な条件に他ならない。


彼女は道を歩き続ける。目の前に立つ男の存在など知ったことでなく。
彼の言葉など意にも介さず、そもそも彼の姿が眼中に在らず、傲慢なまでに悠然と前進を続ける。
そして彼との距離が縮まっていく。歩みを全く止めないのだから、其の時間もまた一瞬だった。十歩、五歩、三歩────残り一歩。

そうして、 淀みなく歩みを進めば、次には両者がぶつかるといった距離、その間合いに到達したならば。
その瞬間に、それはまるで目の前の羽虫を払うように、極めて自然に行われる。



「邪魔」


即ち、首断つ一薙。
絶命せしめるには充分な斬味、速度、そして殺意をもって鋼槍は躊躇いなく振るわれた。
414 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/19(木) 15:39:49.10 ID:Q8kZXvL50
>>413
残り五歩。男の足取りに変化はない。
三歩。少女から微かに殺意、敵意を感じ取る。
そして一歩。男は少女の間合いに入る。

首断つ一薙の数瞬前。周囲半径30メートルに亘って足元を浸す血の海が出現。
そして其処から男の手元へ跳ね上がった飛沫は細長く形を変え。
血潮で形作られた三又槍と成り、男の首の手前で鋼槍を受け止める。
高く硬い衝突音が響いた。

「良ィ。見込んだ通りだ、手前ェは人を殺すのに何の躊躇いも持たない類の人種だ。」
「丁度そう云う鬼畜生共を探していた所だ。」

凶貌から漂う邪気。
眼前の此れは蟻ではなく鬼だ。悪鬼だ。鬼畜生だ。

さて、この言葉が少女へ届いているかは定かでないが。
今はまだ男は交渉の余地を残している。

言葉には言葉を、殺意には殺意を以て応えることだろう。


龍よ。足元に気を遣わぬのは構わぬが、気付けば其処は血の沼であるぞ。
415 :【竜ノ魔女】 [sage]:2017/10/19(木) 21:06:46.90 ID:law5Nm65O
>>414


────果たして、其の逆鱗に触れたものは何だったのか。
致死の一撃を凌いだ傲慢か、未だ崩れぬ不遜な態度か。否、其の理由と呼べるものは至極単純なものである。

ぴちゃり、びちゃりと不快な水音。目の前の男が喚び起こした血膿が、噎せ返る程の臭気を伴って路地裏に蔓延する。
そうなれば当然、足が汚れる。臭いがこびりつく。其れらは実に原始的で、それ故に明快な不快感を観る者に喚起する。
結局、少女の憤る理由は────只、己が衣服を汚されたから。そのように彼女は実に明快な理由を以って、"自然体"の殺意と供に報復を解き放つ。


「邪魔だって、二度も言わせないで?」


その掌から爆炎が炸裂する。地面に向かって放たれたのは竜の吐息が如き炎熱の奔流。
紅蓮の灼熱は血溜まりを瞬く間に蒸発させながら、怒涛の勢いを以って男に迫る。
先程一撃にて人間数名を炭化せしめた炎熱。其の火力は生身の人間が耐えることを決して許さず、直撃したならば骨の髄まで焼き焦がされるのみ。

例え鬼畜生呼ばわりさせようが、彼女は何かしらの感慨を懐くこともなく、そもそも前提として"どうでもいい"。
其れは歯止めの効かない暴力装置である。其れは呼吸をするように殺戮を行う狂龍である。其れに相対しておきながら、交渉の余地を残そうという行為そのものが間違いだ。


一目散にでも後退しなければ、竜の吐息に焼き尽くされるだろう。星の光も届かぬ闇の中を業火が暴き立て、そして焦がす。
そうしている間にも少女は決して歩みを止めない───此の期に及んで彼女は只、己にとっての障害物を払っているだけに過ぎないのだから。
416 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/20(金) 17:34:31.11 ID:23GM9heY0
>>415
少女の掌から放たれた爆炎。竜の吐息の如き業火。
先刻数人を消炭へ変えたのはしかと目撃済みだ。

では何故、男は歩みも止めずに近づいたのかと云えば。

其れに対抗する術を持っているからである。

男と少女の丁度中間辺りの血の海面が隆起する様に波濤を上げる。
正しく炎を遮る壁の様に。

どれ程蒸発させようと滾々と湧き出し続ける血の飛沫。
地面を覆う海面も火焔に飲まれ消えた端から元通りの水位に戻る。

其れも当然。今、目に見えている水面は地獄の血海のほんの表層に過ぎず。
底なしの血潮を湛えた血海地獄を蒸発させきるなど地獄の業火を以てしても成し得なかった事だ。
其れがどうして一匹の竜に出来ようものか。

火焔を撒き散らしながら尚も進行しようとする少女の姿と、
二度に亘って繰り返されたシンプルな返答。

嗚呼。此れは人の話を聞かない人種だと察する。
土台、悪党を一ヶ所に集めようなどという事自体が無謀なのだ。
こう云う時も儘あるだろう。

彼女の目的は依然としてこの場の通行にある様子。
譲ってやればこの場は丸く収まるやもしれない。

――しかし、相対するこの男も本質から言えば殺戮者。
人を害する理由なぞ、只"気に食わなかった"というだけで十分。

「如何にもオレなんざ眼中に無ェって態度だな。」
「気に食わねェ、小娘が。」

男の背後より海面から延び上がる二つの影。
業火の灯によって浮かび上がる其の姿は海蛇やウツボにも似た醜悪な水龍。
龍と云えども西洋のものよりは東洋の其れに近く。
より其の姿を例えるならば"おろち"と云うのが正確だろう。

其れ等は大型ポンプの放水並みの威力で、少女を飲み込みそのまま壁や地面へ叩き付けんと蛇行する。
宛ら其れは生ける濁流と云って差し支え無い。

躱さず生身で受けたなら全身骨折、最悪死にすら到るだろう。
417 :【竜ノ魔女】 [sage saga]:2017/10/22(日) 03:23:42.73 ID:juodbGqlO
>>416


波飛沫が炎熱を塞き止めることを可能とするなら、当然ながらその逆もまた然り。
紅蓮の灼熱が少女の掌より再び炸裂し、竜を模した血流を真っ向から呑み込んだならば────その高熱を以って"おろち"を先端から蒸発霧散させてゆく。
単純な総量にて測るならば、確かに彼女の異能は満ち溢れる血海には及ぶまい。然し其の竜炎は一点に於ける極端な火力によって拮抗以上を成し遂げる。

紅い蒸気が視界を遮る。噎せ返るような熱気と臭気が路地裏に立罩める。
然し少女が立ち停まる理由にはならない。一歩進む度に水音を響かせながら、その前進は悠然と行なわれる。


「なんで、態々眼中に止める必要がある?」

「血糊を垂れ流すだけの五月蝿い木偶、壊すのに躊躇する理由があるとでも?」


彼女が携える得物は鋼鉄製の長槍、其れを握り締める掌からは竜の業火が絶えず溢れ続ける。
そしてその高熱を直に浴び続けた長槍は、今や不気味なまでに紅い、赤熱に染まっていた。
その穂先が水面に触れる度に蒸気が迸る。"切断"を目的とする刃が防がれるならば、"溶断"を以って敵を斬り落とす。
流水であるならば、蒸散させてしまえば防げまいと、其れは明快な殺意。そして紅蓮に染まる刃が火花と共に、放たれようとした刹那。



──────────急襲。

其れは男の足元から、より正確には血の海に沈み精製自体が隠匿された魔法陣から。
前触れなく出現したのは一体の翼竜(ワイバーン)。其の個体は全身を血に汚しながら、正しく獣の如く暴れ狂う。
そして其の爪は、其の牙は、何れも男に向けて放たれる。異能力者であるならば、その襲撃を防ぐことは可能だろうが。

その出現に意識を割かずにはいられないだろう。否、戦い慣れた者であるからこそ、必ずや翼竜に反応してみせるだろう。
そして、其処に生じる必然的な隙を狙い澄ますかのように────────その翼竜"ごと"男の心臓を貫かんとする、超高熱を帯びた矛先が一直線に放たれた。
418 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/22(日) 16:43:14.48 ID:ia56K3Jf0
>>417

「相当に傲慢な奴に声を掛けちまッたか?」
「まあ、オレも人様の事ァ言えんわな。」

くつくつと嗤っていると少女は掌から迸る火焔で鋼鉄の槍を赤熱させる。

なる程アレで此方の防御を突破しようという訳だ。

刹那。海面から自らの律する水龍以外の異物が飛び出す。
体長1メートル程の翼竜種と思しき獣。

無論直後に其れに対応すべく血潮の三又槍を振りかざす。
達人には及ばぬものの其の一歩手前くらいには達する腕で翼竜を正確に穿つだろう。

では、その瞬間に隙が出来ただろうか。

確かに男の意識は突如現れた翼竜の方へと向いた。
しかし、その直前。男もまた少女へ奇襲を仕掛けていた。

先刻の水龍は火焔に撒かれ蒸発してしまった。
ならば更に大きく、長く。
10メートルは在ろうかと云う大水龍が少女の真横の海面から飛び出し突撃する。

その大質量と勢いには先程の様に火焔で蒸発させると云う手段は通じない。
赤熱させた槍も此れを両断せしめるには至るまい。

其れは少女が退かぬのならば怒涛の様に飲み込み側面の壁へと叩き付けるだろう。

「叩き潰すのに理由が要らないのはお互い様ッてな。」
419 :【竜ノ魔女】 [sage saga]:2017/10/22(日) 18:25:14.94 ID:Q3JXQ+zIO
>>418

嗚呼、確かに其の大質量は回避も防御も許さないのだろう。
其れが底尽かぬ源から生じる水流であるからこそ、純粋にぶつかり合うのでは競り負けるに違いない。

男の視界の中で少女は血流に呑み込まれる。ならばその結末は激流に押し潰されての圧死、唯それだけのことだろう。
だが、何時まで経とうとも少女の躰が流される気配はなく────其れどこか別の異常が生じていることに、果たして気付くだろうか。
何時の間にか、凍えるような冷気が路地裏に立罩める。そして水流もまた停滞し、其れは在ろうことか"凍結"していた。


「────理由なら、最初から言ってるでしょう?」

「その声も、その姿も、その泥水も。いい加減、邪魔も過ぎる」


少女の左手、槍を携え劫火を纏う右手とは反対側、その掌より生じるのは極寒の冷気────否、これもまた龍の吐息、その形の一つ。
其の氷点下の息吹によって血水の贋龍は芯まで凍結し、その源である血溜りもまた、凍てつく冷気によって瞬く間に流体から個体へと形質を変化させていく。

そして、未だ立会いの間合い。
少女は立ち停まることはあっても、一度足りとも後方へ退いてはいないの────即ち、未だに矛先は当てられる。ならば首を斬り落とせる。
血流は直ぐには起こせまい。少なくとも付近の範囲であれば血の海ごと凍結させたのだから。
例え凍結の及ばぬ範囲から呼び寄せようが、其れよりも先に槍を届けられる。確実に斬り伏せられる。殺せる。只、それだけの話。


彼女は確実に、相手の命を奪おうと行動する。行動原理としては稚拙でありながら、その手段は堅実かつ冷酷に。
其の殺意の理由は至って単純でありながら、常識で語るならば殺人に至るには余りに"軽過ぎる"もの。
……だが、だから、それがどうした。只、邪魔だから片付ける、それだけのことの一体何が非難される?


「お陰で臭いも汚れも染み付いた。"片付け"のついでに、詫びの一つでも言ったらどう?」


そして、今度こそ赤熱を帯びた矛先が放たれる。
凍てついた血流を、翼竜の亡骸をも、灼熱を以って貫き────その先端は、男の眼前へと、そして其の先へと。
420 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/23(月) 17:03:48.77 ID:LwOj8XKD0
>>419

「詫びだ? 無ェよンなもん。」

灼熱の槍を持って眼前へと迫る少女へ向け一切悪びれもせずに応える。
そして在ろうことか血潮の三又槍を捨て迎える様に灼槍を受け入れた。

貫通。確実に心の臓を貫いた。間違いなく即死だろう。

――否。灼けた鋼槍を握り返し、口から血反吐を垂らしながら。
最期で最後の一言を返す。

「ここまでだ。いづれ地獄(むこう)でまた遭おう。」

『大海龍、リヴァイアサン』

直後大きな揺れが起きる。地震だろうか?

違う。揺れているのは血の海面だけだ。
海の下から何か巨大な物が這い出ようとしているのだ。

【地獄の瘴気を解放】

揺れが更に強まるにつれ、溶け落ちる様に凍結した血の海が崩れる。
いや、血の海そのものが沸き立つ様に高熱を帯び始めたのだ。

恐らくはもう絶命した男の背後から延び上がるのは。
幻想種を除いた世界最大の生物、シロナガスクジラにも似た姿。
鱗を持つ鯨。大牙持つ海蛇。30メートルはあろうという巨体。
血海地獄の主たる大海龍。その写し身だった。

其れは煮えたぎる溶岩の如き灼熱を纏い。
大型トラックをもぺしゃんこに圧し潰す程の大質量を以て高く飛び上がり。

そして、"男の亡骸"目掛けて大口を開けて落ちてくる。

もし一歩も退かぬのであればこの男と心中する羽目になるだろう。

結果どうなったかは知る由もなく。
圧倒的質量は男の残骸を欠片も残さず圧し潰した。

そして其れを終わりの合図として一帯に流された全ての血を引き連れて。
血海地獄は地の遥か底へと還って行く。

臭いも汚れも、男の痕跡さえも一切残さずに。


心残りが無いと云えばそれは嘘だ。
だが抑も悪党を集めて其の頭をやるような器では無かったのだ。

それに以前盃を交わしたあの男。
ゲアハルトはこの男が居ようと居まいと上手くやることだろう。

所詮、悪党外道の最期なぞ。こうも呆気ないものだ。

しかし最期に嗚呼。あの光景を奴等に見せてやれなかったのは残念だ。
421 :【血海戦染】 [sage saga]:2017/10/23(月) 17:04:31.52 ID:LwOj8XKD0



ある日、男は死の淵に地獄を垣間見た。
煮えたぎる血の海を亡者達が溺れもがき。
灼熱の海面を醜悪な水龍達が跳ねまわっていた。
空も海も果てなく紅く、真黒な太陽が一つ大孔の如く輝いていた。

それは嘗てない程刺激的な光景だった。

此れを世界に顕現させて、老若男女全てを抛り込めば。
きっと"ヒトは更なる高次の存在に昇華できる"と、そう思った。

それが、それっぽちが男を地獄の悪鬼へ変えた"目的"だった。



【血海戦染】――――死亡
422 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/10/31(火) 21:25:44.88 ID:qeF94zvg0
>>411

「この分野、門外漢なんだけど」

――質問いいかな?

破壊の宴を眼下に見下ろす屋根の上へ、冷涼な声が突き刺さる。

「今回の実験の目的は何だったのかな?懐古主義者さん。
 あれは人間で構成された生物ぽいけど、捕食をしているようには見えないですね。
 錬金術の秘奥で作られたからわかりませんと言われれば、それまでだけど」

パンツスーツの上下で揃えた彼女の口からは、学術的な論戦のためのそれ。
目の前の結果を冷徹に分析する口ぶりには、この修羅場への感情が見えない。

「あれが、生命の創造であれば、部分的な成功と思われますが、
 生命の特徴の1つである恒常性の維持が行われない以上、
 風船を膨らませてしぼむに任せるようなものではないでしょうか」

 言いながらよいしょと屋根の頂点に腰掛ける。
 
「ああ、でも。
 生物を”効率よく消費する”戦術兵器としてなら、最高の品ですね。
 何せ、”全部”使えますし、完成品が勝手に焦土化までしてくれる。
 素晴らしい商品です」


今度は、少しだけ皮肉めいた口調も利かせて、目の前の存在を語る。
どちらにせよ、情めいたものはみじんもない、ただの語り。


「作り方、教えていただけません?
 もちろん謝礼は致しますから」

そして無造作に、癇に障りそうなことをのたまう。
423 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/01(水) 23:12:19.08 ID:JEEhc4yF0
この街で、1、2を争う高層ビル。
かつては絢爛を極めたといわれるこの場所も、今では寂れ、
低層に貧困者向けの飲食店がかろうじて青い息。

「そして私も懐古主義なわけだ」

通話を掛けたスマホからは、なしのつぶてが返り、深く吐いた息がにわかに白く染まる。

白のシャツの胸元に朱のスカーフ。
黒のスーツに低めのヒール。

その上を深い茶のトレンチコートと黒の髪が覆う。

彼女――墨宮雪華はそのビルの屋上から寂れ気味の繁華街を見下ろす。

「懲りもせずに、こんなところに戻ってくるんだから」

自嘲の笑みを浮かべ、夜の帳に身を沈める。

//絡み待ってます。
424 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/02(木) 19:58:46.30 ID:CUaY599lo
>>423

適度に少ない出入りがあり、中層以上は常駐警備員すら雇われもせず、半ば廃ビルと呼んで差支えない建造物。
入って行っても不自然でなく、そもそも見咎める人間が皆無に多くはない場所……つまりろくでなしどもの温床である。
犯罪者たちが使う格好の取引場所――ではない。こういうものは有名になってしまってはまずいだろう。そんなことではいつ大捕り物があるか分からない。
条件としてここより優れた物件はいくらでもあるが、だからこそ巧妙に警察の目を誤魔化せる場所として、このビルは実に都合が良かったのだ。

――僅かな窓から差し込む明かりと、緑色をした誘導灯の光だけが照らす薄闇の中、慣れた様子で階段を登る男がいる。
この者、名を藤田。むろんのこと偽名であるが、本名よりもこちらを名乗っている時間が多く、こちらの方が通りがよりとなれば、いったいどちらが本当の名であるかは曖昧だ。

彼がこの場所を取引に使うのはこれが初めてではない。回数を数えるならそろそろ両の指では足りなくなってきた頃合い、手慣れたものだ。
ゆえにもうじき替え時であると考えていた。同じ場所を何度も使えばそれだけバレる率が高くなる。それでヘマをやらかした間抜けたちを何人も知っている以上、手間ではあるが怠るわけにはいかなかった。
常に用心を欠かさない。こうしていざという時のために用心棒も雇ってある。これこそ成功者たる男の姿である……と。
些か以上に自己陶酔するこの藤田という男もやはり頭がいいとは言えない部類の人間であり、遠からず足元を掬われるだろうと件の“用心棒”は思っていた。
それが外部の人間によるものか、はたまた身内に嵌められるかまでは分からないが。いずれにせよ人が転落する様は面白いものなので、その時まではついていってみようと、にやけた笑みを隠さないまま後ろを歩いている。

……そうして屋上の扉が開かれた。

薄暗い中から這い出てきた者どもは二人。片や白いスーツをきめた優男風。整った外見だが、しかし両眼の奥に潜む下卑た野望を隠し切れてはいない。
もう片方は……前者もなかなかの身長だったが、それ以上に大きかった。体格自体はそうでもないが、とにかくデカい。百九十センチを越す長身はなかなか見ないものだろう。
長躯を包むのはこちらもスーツ。だがもう一人とは違って黒く、紫のシャツはノーネクタイ。一目で分かるくらいに着崩している。
白い蓬髪は些か異様ではあるが……その身に纏った暴力的な気配、双眸を隠すサングラス、そしてなによりにやついた笑み。
“いかにも”な風貌であった。これを指して善良な一市民などと誰が言えよう、あからさまなほど“あちら側”の人間である。

前を歩いていたのは白いスーツの優男。それに追随する形で黒スーツ。
先客の存在は想定外だったのか、眉をひそめた優男が背後の男をちらりと振り向く。人にいい印象を与えない微笑を浮かべたまま、問われた方は首を横に振った。
面倒な、とでも言わんばかりに舌打ちを一つ。まるで携帯電話を取り出すかのように何気なく、白スーツは懐に手を突っ込んで……。

取り出したサプレッサー付きの自動拳銃を、偶然そこに居合わせただけなのだろう女に向けて躊躇いなく発砲した。


//よろしくお願いしますー
425 :【超域越覧】 [sage saga]:2017/11/02(木) 20:58:06.18 ID:AN3oL7220
黄昏時。逢魔ヶ時。
夕闇に染まりゆく街並み。

帰路に就く人混みに紛れ込む様に、いつの間にか少女は居た。
比較的整った顔立ちではあるが、ぱっと見印象に残り難い。
『学園』の制服を纏った少女は一人、夕空を眺めていた。

「歴史は繰り返す……かな?」

少女はぽつりと呟いた。

【僕の能力を以てくらいでしか知り様は無いのだけれど】
【過去にも何度か似たような衰退現象が見られるね】

【その点で言えば僕もまた"懐古主義者"の一人だと言えるだろう】

【尤も記録も残っていない"いにしえ"の時代から実際に其れ等を体験してきたであろう"彼女"とは違って】
【僕は飽く迄、能力の産物として其れを認識しているに過ぎないけどね】

【そうそう、この括弧で括ってある文章は僕が心の中で呟いてることだから】
【実際に口に出して喋っている訳では無いのでご留意を】

少女が眺めているのは夕空の向こう側。
時間も場所も別ではあるが、それでいて同じ時間軸である場所。

夜のビルの屋上での一幕をこっそりと覗き見ながら少女は黄昏路を歩む。
嗚呼。若しくは此処にも懐古主義の誰かが訪れるだろうか。

【それにしても】

世界が終ってしまってから動き始めるだなんて、私はなんて間が悪いのだろうか。


/始動ロール&絡み待ちです
426 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/03(金) 09:02:34.44 ID:IVguAEBd0
>>424

ビル風は、耳を痛めるほどに吹き付ける。
だが、僅かにさび付いた扉といくつかの足音を認めると、

「待ち人来たれり、かな?」

一切のよどみない手つきで、右手に黒のキング。
その相手も見ないで、後方に放り投げる。

駒は放物線の頂点で巨大化し、両の足でどっかと着地する。
着地と同時に硬質な音が数度。

ただ、1発だけ。
方向は変わったものの、弾丸が彼女の頬に線を刻む。
思ったより鋭い痛みと、温かなものが肌を通る感覚が結果を示している。

ハンカチで、傷を押さえて向き直る。
駒の後ろに見えるのは、いかにもな連れ合い。
白黒と、こっちの領分を思いっきり取っている。気に入らない。

さて、これで相手がどう出るかが見物である。

「で、どちらさま?」

ゆるりと問いかける、その姿はたおやかさそのもの。

//失礼。遅くなりました。
427 :【竜ノ魔女】 [sage]:2017/11/03(金) 14:22:16.45 ID:/JPPuF02O
>>420

其れを逃れられる筈がない。視界に迫りくる煮え滾った真紅を、少女の眼は淡々と見据え、そして。
その姿は激流の中に呑み込まれた。即ちその躰は跡形もなく圧砕されしまったということに他ならない。
その躰は打ち砕かれ、その魂は地獄へと引き摺り込まれ────────だが。

例え、その奔流に人の躰が耐えられなかったとしても。
もしも、人ならざる姿であるなら。それが堅牢な龍鱗を纏いし幻想種の頂点であるならば。





「────────────」


────────血海の底より翔び立つものがあった。
地を揺るがす程の咆哮を鳴らし、天へと駆け上る漆黒の巨躯が。それは正しく。

其れは彼女の真の姿、或は最も忌むべき姿。竜の魔女という異能の象徴足る───龍に他ならない。
結果として、其の龍鱗は灼熱さえも耐えて見せた。其の巨躯は大質量さえも耐えて見せた。
だが、其れは決して必然ではなく、死と隣合わせの紙一重。偶々、龍は地獄に引き摺り込まれなかっただけの話。


幸運か、それとも悪運か。命の価値を正しく認識できない者に、その判別が出来るはずもない。
一つだけ正確に認識できるものがあるとすれば、其れは未だに全身に残る、尋常ならざる熱量に灼かれる感覚。
其れが地獄に於ける攻め苦であると言うならば確かに頷ける……だが、血海地獄に身を堕とす時は少なくとも今宵ではなかったらしい。



────嗚呼、確かに汚れも臭いも、総ては何処かに消え去った。
けれども、其れで腹の虫が納まる筈がない。この灼けるような痛みを残して、勝手に還るだなんて。
痛い。痛い。熱い。痛い。熱い。嗚呼────邪魔だ、何もかも。煩わしいから、壊れてしまえと、龍は呪い、そして。


『───────◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎ッッ!!!!!』


そうして、矛先を喪った暴虐は暫く続いた。
既に跡形もなく壊された一帯を、更に徹底的に壊し尽くすように。
結局、言葉にできるような意味なんて────やはり、初めからなかったのだろう。



//間隔が随分と空いてしまい申し訳ないです。絡みありがとうございました。

428 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/03(金) 19:41:26.18 ID:wxnyP2tvo
>>426

立ちはだかった黒いチェス駒――太陽を遮る威容は城壁のごとし。
アレの材質が何であるかは計り知れないが、少なくとも口径の小さい拳銃弾で突破できるほどヤワな代物ではなかった。
多少は抉れ、砕けたものの与えた損傷はその程度で破壊にはとうてい至らない。

そしてそんなものを持ち出してきた張本人……涼しげに頬を押さえるあの女がどういう人種なのであるか、想像に難いことではなかった。
あれなるは異能力者――世の如何なる研究機関をもってしても完全解析には至らない、ブラックボックスの塊たる超常の力の振るい手だ。
世界の総人口に比べればごく少数である“はず”の超がつく希少種。通常出会う機会すら稀だが、彼の街に本拠を構える組織人としては知らないはずはない。
この世が広しといえどもあの街ほど異能力者が存在する地は他にないだろうと言えるほど、能力者が屯する街。
彼らがなぜその場所に集まるのかは未だ解明されていないが、そういう特殊な土地は大きな利益を挙げやすい場所柄だ。

能力者は、その多くが発動させるまでは普通の人間と見分けがつかない。
つまりは銃火器をはじめとした武器を持つ必要がないゆえに直前までまったくの一般人でいられる便利な“兵器”である。
そんな都合のいい代物を放っておく組織はない。だから何らかの集団に属しているケースが大半で、力を隠してまで日常生活を謳歌している者は少ない。

「おい」

ゆえに藤田は再度確認した――本当にそのような連絡は来ていないんだなと、用心棒という立場ながらもそれなりの情報を与えている男に対して。

「ああ勿論、間違いなく」

雇い主に対して敬語も使わぬ不遜ながらも飄々とした白髪の男が頷いた。
そのような態度は常の事であるのだろう。今さら怒る気も起きぬとばかりに鼻を鳴らして、再度視線を女にやる。

「聞いておいてやる。貴様、どこの人間だ?」

滲み出る傲岸さを隠そうともしない。
同時に彼女の問いに答える気すらさらさらないと言外に告げながら、こちらの質問にだけ回答すればいいと危険な光を放つ双眸が語っていた。

……仮にもし、彼女が藤田の組織よりも大きな後ろ盾を有してるのなら、場合によっては彼の立場が危ぶまれる。
そのことは無論というべきか承知していたが……自分の力をもってすれば何とでもなると軽く考えていたのだ。
それが透けて見えるからこそ、やはり根本のところで甘いと用心棒の男は内心で笑っていた。


//いえいえー
429 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/04(土) 01:03:14.14 ID:d+E17hHg0
>>428

舐められてるなあ、と。
彼女は嘆息する。

最近は能力もちばかりに突っかかってたせいで、
ああいうまともな返しを聞いていなかったなあとか、
その他もろもろの感情が折々に積み重なった、とても深い深いため息。

でも、返し方はあくまでさっぱりと。

「どこってねえ」

嘲りの笑みを薄くまとい、右手から白の女王を零す。

女王は着地するまでに大砲を出入り口に向けて流れるように向けて放つ。
特段の事象がなければ、出入り口の扉に着弾。
盛大にコンクリートの散弾をまき散らすことになる。

彼女自身は前方のキングに守らせているので、至って平和なものではあるが。

その結果いかんにかかわらず、爆発が収まってからか何かしらの異能の結果によらず
彼女はようやっと名乗る。

「私は、ただの院付きだよ。今日は肩慣らしをお願いしようと思ってきたんだ」

あったことを並べるように、平坦な感情を投げつける。

でもまあ、これで死んだら世話ないか、とこちらもこちらで舐め切っていた。
相手は銃という危険極まりないものを持っているにも関わらず。
430 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/04(土) 16:56:13.06 ID:TB0hDqcHo
>>429

「なんだと――」

「へえ」

彼女の態度がよほど気に入らなかったのだろう。
返ってきた答えに片眉を吊り上げ、語気を荒げると同時に、威嚇目的か再び銃の引き金を引こうとした。

しかし次の瞬間には目を剥くこととなる。
なぜなら無造作に放られた白い女王の駒から、有り得てはならないものが出現したから。
それはすなわちミサイル弾――どこから取り出したとか、そんな当然の疑問は能力者の前では意味を為さない。
そう、これが異能力者の最も恐ろしいところだ。彼らは能力を発動するまでその力の全貌が不明。外見が一般人と変わらないなら予測することすら至難の業である。

ゆえに藤田とて、彼なりに警戒はしていたつもりだが……さすがにミサイル発射は予想外だったのだろう。
放たれた爆発する殺意の姿を捉えるくらいの動体視力は持ち合わせていたが、視認したからといって対応できるかまでは別問題。
よしんば動けたとしても広範囲を捉える爆風と破片に、スーツ以外の装備を持たない人間が抗しうるはずもなく……。

着弾、爆発。
金属製の扉は吹き飛び、入り口付近のコンクリートごと木っ端微塵に吹き飛んだ。
巻き上げられた土煙で両者の姿は見えない。見えないが彼らに避ける手段も防ぐ術もない以上、無事ではいられないことが予想された。

だが……。

「クヒヒ、いやいやこいつは大したもんだ。えらい力を備えているじゃねえかよ」

砂塵の奥から聞こえてきたのは用心棒の男の声。
一陣の風が煙幕を吹き払い、見えたのは塔屋に着地したと思しき長身の姿。
首根っこを掴まれた格好の藤田は怒りに顔を歪めながらも冷や汗をかいている。

「どうする大将、あんたを守りながらってのはちょいとばかりキツいぜこりゃあ。尻尾巻いて逃げるかい?」

「馬鹿を吐かすな……!」

言って、取り出したのは携帯電話。
手早く操作をして何処かにかけたかと思えば、すぐに出たのだろう相手口に向かって怒鳴り声をあげた。

「俺だ、至急応援を寄越せ! “特機”だ、後始末なんぞお前に関係あるか愚図が! いいからさっさと準備しろ!」

誰に喧嘩を売ったのか思い知らせてやる――そう言い捨てて通話を終えた藤田は、彼女を睨みつけながら用心棒に命令する。

「ここで女を止めておけゲアハルト、絶対に逃がすな! 高い金を払っているんだ、こんなときくらい役に立って見せろ根無し草が!」

塔屋から飛び降り、半ば崩壊寸前の体といった屋上入り口の間を縫って素早い逃げ足を発揮し階段を駆け下りていく。
追撃は可能――しかし瞬間、その背を庇うかのように立ち塞がった用心棒……ゲアハルトと呼ばれた男が、口角を吊り上げながらサングラスを外した。

「そういうわけなんでな、肩慣らしなら俺がお相手仕るぜ嬢ちゃん。一緒に楽しく踊るとしようや」

剥きだしになった血のように紅い双眸には愉悦の光が宿っている。
纏う気配は猛獣のそれによく似ていた……男が能力者だとするなら彼女と同じく全貌は不明だが、ただ言えるのはこいつが見た目通りに危険極まりない性質を備えているだというということだった。
431 :【双刻天剣】 [sage]:2017/11/04(土) 20:46:28.18 ID:pmKOKv9zO
>>411
//置きで再募
432 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/05(日) 08:12:23.96 ID:D3aJp4xB0
>>430

「喜んでもらって大変結構」

にまりと笑い。驚きの表情を摂取する。
どうやら肝が据わっているのは、黒い方だったらしい。

白い方はどうやら丸投げして逃げるらしい。
面倒が増える前に始末をつけた方がいいか。

「私が正面切ってやるわけじゃなあないけれど。
 獣を調伏するのは、人の仕事なわけだ」

獣のような振る舞いには、人の理で叩き潰すほかない。
控えさせたキングで前線を押しあげようとしても、遮られる。
なるほど、よくできた兵である。

「じゃあ、狩りを始めよう。
 駒遊びでは、私に勝てる指し手はあんまりいないからね」

次に用意した駒は黒の騎士。
剣と盾に武装された兵士。

1歩1歩を刻むそれは、剣が黒のスーツを切り裂くまで十分な距離を詰め
剣を振りおろさんとする。
433 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/05(日) 17:10:46.60 ID:MYCxM3+wo
>>432

手の内から魔法のように出現した兵士は刃と盾を携えた剣士。
いいや、模した遊戯になぞらえるならナイトと呼ぶのが妥当だろう。

「駒遊びか、そいつは俺も嫌いじゃないぜ。それに付き合えるような駒を持っちゃいないのが残念だ」

盾に加えて鎧まで纏った姿はまさしく主を護る守護の騎士。
差し手の前に立ちふさがるキングの巨体と比較すれば防御面積は少ないが、単純な堅牢さでは遜色あるまい。

そして振り下ろした刃には確かな技巧が載っている。
ただ案山子が武器と防具を装備しただけではない。しょせんは意志の宿らぬ木偶であると馬鹿にはできない技の冴えがそこにある。
動き自体も鈍重とは言えない。全身鎧を装備していることを考えれば驚くべきスピードで接近する戦闘能力は、間違いなく凡百のそれを上回っていた。

「だが狩りときたか、いいぞ面白い上等だ! 冷たい家来を引き連れて、みごと獲物をしとめてみせるがいいさァ!」

――だが、避けられる。
ミサイルの一件で予想は出来ただろうが、男の身体能力は高かった。
スウェーバックは危なげなく、紙一重で躱してみせたのは余裕の表れか。
先の爆撃を回避してみせたのが種も仕掛けもなく、ただ見てから上方に跳躍して避けたというだけならば、少なくともナイトによる正面からの単騎攻撃では彼に命中させることは難しいことが考えられた。

バネ仕掛けのように上体を前方に弾けさせ、反撃するのは至近距離にある騎士――。
ではなく、その後方に位置する白の女王に向けて。長躯を豹のようにしならせ、一陣の風と化して接近する。

「――ハッハァッ」

繰り出した攻撃は速度と勢いを乗せた回し蹴り。
秘めた暴力は掛け値なしの本物だ。……しかし技術は存在しない。外れないよう確かな狙いはつけているが、喧嘩殺法の域を出てはいなかった。
衝突する革靴も仕込みもない普通のそれ。ゆえに駒の硬度次第ではあるが、直撃したとて破壊はかなわないだろう。

……が、吹き飛ばすだけの衝撃は間違いなく与える。そしてその先に待ち受けるのは空中――屋上から墜落するという未来である。
434 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/06(月) 08:06:47.64 ID:KTwSI79a0
>>433

白の女王は、蹴とばされた。
結構なサイズの駒だったのだが、蹴り一つで地面へフリーフォール。
アイサツ位で動じないのだから、これくらいのスペックはあって当然か。

「いやあ、すっごいなあ。あんなんで蹴られたらどうにもならないなあ」

へらへらとした口調で、感想を述べる。
予測されていない事象ではあったが、修正は効く。

「駒1つで足りないなら、駒2つで行ってみましょうか」

右手を振り払うしぐさで、黒の騎士をさらに展開。
仕損じた騎士は男の後方、配置した騎士は前方。
ちょこまか逃げるのを追いかけるのは、なかなかに面倒。

地面にぶつかる前に、女王は消去して証拠隠滅。

騎士は前後から剣を構えてにじり寄る。
相手の出方を待ってから、手をつぶしに行く。

「センスじゃ勝てる気しないし、安全第一で」

真っ当にぶつかれば危うい。
なれば手数で圧し潰す。
払った手のひらをポケットの中で温めつつ、次の手を思考する。
435 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/06(月) 18:25:38.21 ID:VsW1zEExo
>>434

手近にいた騎士ではなく女王を狙いに行ったのは決して本能的な理由からではない。
獣のような気配と暴力的な笑顔を撒き散らす姿からは戦術的な意思をそう多くは感じ取れないし、実際多くを占めているわけではないが、だからといって考える頭がないかといえばそうではないのだ。

わざわざ距離のある方に攻撃を仕掛けた理由……それは極めてまっとうかつ常識的な戦況判断から。
つまり、撃たれたらまずいのだ。攻防備えた騎士よりも、巨体をもって城塞と化す王よりも、広範囲かつ高威力の一撃を見舞ってくる女王こそが、男にとっては最も脅威度が高かった。

人間はミサイルを食らったら死ぬ。当たり前の理屈だ。そしてその当たり前はこの男にも適用される。
耐えきることなど絶対不可能。仮に盾を持っていたとしてそれごと吹っ飛ばされて終わりだろう。人が人を殺戮するために生み出した兵器はそうは簡単に攻略できない。
先ほど回避できたのも、実を言えば運が良かったから。あともう少しでも判断が遅れれば木っ端微塵にされて終わっていたことだろう。
そしてそこには無論、自分の動きを妨げる障害物がなかったことも大きい。人ひとり抱え上げるくらいは軽いものだが、その運動能力も十全に発揮できなければ無意味だ。

つまりは今この状況のように、こちらの回避を妨害してくる手勢がいる場合、躱し切るのは非常に難しくなってくる。
もしもついさっき、斬りかかってくると同時にミサイルを放たれていたのなら……呆気なくも血と肉片となってこの空の下にばら撒かれていた可能性が高かった。
ゆえにのっぴきならない危機的状況にあったのだ。いつ死んでもおかしくない地雷原、その危険性はまさしく戦場と呼んで差支えないだろう。
そして今このときもその状態は続いている。なぜならまたいつあの女王を出してくるかも分からない、そこに差し手が存在している以上、一瞬で身体も心も消し飛びかねない死線は依然変わらず継続中。

――それを余さず理解してなお愉快げに笑い続ける以外を見せない様子からは、そんなことはまったく感じ取れないが。
少なくとも今の動きから、男の耐久力および防御力がさほどでないことは予想がつくだろう。

「まずは一騎」

ならば次こそ狙うは騎士か、それとも王か。
新たに出現した黒騎士によって挟み撃ちの格好となった。すぐに斬りかからず、じりじりと距離を詰めてくるゆえ己が突ける隙はない。
うかつに殴りかかれば返しの刃で致命的な損傷を被りかねない以上、無策突撃は悪手も悪手。
あの盾と鎧ごと一撃の下に砕くことができるのなら話はまた別だろうが、自分には“今のところ”それは不可能と思われる。
であればキングも無理だろう。防御力自体は騎士の方に軍配が上がるのかもしれないが、なにしろあの巨体だ。ちょっとやそっと抉られ砕けたくらいでは倒れまい。

「だったら――」

行動は早かった。そして動きも、また速い。
前後にじり寄る騎士を無視する形で真横に跳躍。体勢を低くしたままミサイルによって砕けた瓦礫を拾い上げ、王の後ろに位置する差し手を目がけて投げ放った。
単なる石つぶてと馬鹿にすることはできない、風を斬り裂いて飛んでいく拳大のコンクリ塊はまさしく剛速球。
メジャーリーガーも真っ青の球威をもってすれば当たり所が悪ければそのまま死ぬし、そうでなくともまともに食らえば深刻なダメージを与えることだろう。
もっとも彼にとってもこの程度は牽制のようなもの……普通のやつならまあ反応できんだろうが、これくらい防いでもらわなければ困ると期待しながら全力込めて投げつけただけである。


//キングの横幅はそれほど大きくないと思ったのでこの攻撃にしましたが、大丈夫でしょうか?
//斜めからの射線が通らないくらいの幅ということであれば修正しますー
436 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/08(水) 04:20:35.67 ID:PHsyBgXo0
>>435

前後では詰め切れない。そのような結論が試行の結果。
相手の身体能力は、こちらの駒で追いきれないくらいの俊敏性。

人間なんだから、斬れば部品は落ちるだろうし動きも鈍くなるだろうけど。
それができればこんなに頭をひねることも無いわけで。

護衛のキングを前に少し出させようかとして、盤面を詰め切ろうと護衛の駒を割く。
大量の駒の暴力で相手の手を奪う。相手の手の可能性を削り、詰める。
肉体の出来が良くない分、相手が持っている優位を消耗させる手法。

さて次の駒でもと、ポーンを右手に軽く握る
そこで、男が軽い包囲を抜いて瓦礫を手に取った。

次の動作を見る前に彼女は手にした駒を投げ……遅い。
上に放り上げる。

ゴリアテになりたいと思えるほど、人生には飽きていない。
半端な実体化でも、瓦礫の直撃よりかは幾分かマシ。

手を打ったと少しだけ安心した瞬間に幾分かマシな衝撃が当たる。
損傷が生じるほどではないが、しりもちを付くまでにとどめるには、
全身に無茶をさせるほどは要している。

戦場がわずかでも見えなくなったことは、指し手にとっては致命以外の何物でもない。
戦場の霧の濃度が高まることは、自身の敗北に直結する。

立ち上がりよりも、見えていた一瞬の位置関係から相手が距離を詰める手を止めに行く。
前後を抑えた騎士をキングの左右に歩かせ防衛線に変える。
どちらからでも2体で対応させて、見えた後を楽にさせる。

人間の盾になったポーンは視界の邪魔なので、駒損覚悟で消去。
貫通は防いでくれた分、役には立った。
437 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/08(水) 19:00:36.63 ID:crExh3kdo
>>436

命中――ただし差し手本人ではなく、彼女を守るためその身を盾にしたポーンに。
衝撃を殺す類の力を備えてはいなかったのだろう。直撃こそ避けはしたものの、巻き込まれる形で体勢を崩した姿を確認。
好機到来、今こそ突撃を敢行しようとした……その思考を見抜いたかのように再度両翼に立ちふさがる黒の騎士。

出足を挫かれたが苛立ちはない。
やるやる、そうでなくては。少なくとも棋士として三流じゃないことが分かっただけでも、より楽しめそうだから僥倖というもの。
あっさり決着がついてしまっては面白くない……然らばこちらはどう手を打つか、刹那の思考に入り込む。

中央には鉄壁の王、左右に分かれて主を守る騎士。
少なくともこちらに正面からキングを突破する手段はない。ゆえ狙うならナイトの方だろうが、当たり前だが容易く抜ける相手じゃない。
一体だけならどうにかなるかもしれないが布陣が問題だ。片割れとの距離はそう遠いわけではないため、片方を攻撃すれば必然的にもう片方も応じるだろう。
加えてキングの脅威もある。あの巨体でどれほど動けるかは現状分かってはいないが、巨大な質量が攻撃してくるというその事実だけで、無視するわけには絶対にいかない。

彼方がどれか一体を攻撃に運用するというなら攻略法も出てくるだろうが、守りに徹している以上は膠着状態に入ったと言っていい。
そう考えた視界の中で、飛礫を食らったポーンが消滅するのが映る。
はて、ダメージはあったが全損というほどではないように見えたが。一定の損傷を受けると消える仕組みか?
それとも彼らの指揮官たる彼女が、その姿のせいで戦場を見渡せなくなるからか。

単純に考えるならそれで数は減少したが、それもおそらく一瞬のことだ。これまでの行動を鑑みるに、次の瞬間には新たな駒を生み出して攻撃を仕掛けてくるだろう。
あるいはさらに守りを固めるかもしれないが、どちらにせよこちらにとっては非常によろしくない。
時間経過に比例して戦力が上昇していく――“それはこちらも同じことだが”、なるほどこれは厄介だ。

「いやはやこれは参ったぜ、つけ入る隙があんまり無ェ。慣れているな、素人じゃない」

彼女の異能は確かに強力だ。我が身を守る盾も敵手を滅ぼす強力な矛も揃っていて、おそらくこれまで見せた駒がすべてじゃないだろう。
王に、女王に、騎士に兵士……元の遊戯になぞらえるなら少なくともあと二種類はあるはずで、兵士に至ってはそもそもどのような能力なのかが判明していない。

――しかしそのような異能も、使いこなせなければ何の意味もないのだ。
仮にこの力を、今まで普通の一般人として生きてきた人間にある日突然与えたとしよう。
そうして自分と戦ったのなら、間違いなくあっさりやられている。眼前に迫る殺意と闘志を前にパニック状態に陥って、正常な判断もできないまま手もなく蹂躙されて終わると断言できる。
運用にあたって思考を必要とする類の能力であるからなおさらのこと。前提として駒の性質を熟知していなければ十全の力は振るえないし、できたとしてもそこから戦術を練って、実行に移す必要がある。
それができる人間などそう多くはないだろう。まずある程度の資質がなければならないし、こうまで怯まないともなれば相当の場数を踏まなければならない。

「お前さん、実際のところどこの所属なんだ? まさか本当に市井の人間ってわけでもないんだろう」

ここまで高水準で攻防揃った異能力者の話を聞かないのは珍しい。
生身でミサイルの火力を撃てるというだけで戦略的価値は相当に高いはずだが、ならば噂すら聞こえてこないのは不思議でしょうがなかった。
考えられる理由としては人の口に戸を立てられるほど巨大な組織が背後にいるというくらいだが……何にしても、一般市民だなんてことはないだろうと思っていた。
438 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/09(木) 17:57:32.30 ID:JMREqd6q0
黄昏はまだ続く。
昼と夜との境であるこの時間は、
この街に於いて日常と非日常とを分ける境界線でもある。
日向を歩む者達は急ぎ足に帰路に就き、
夜闇に紛れる者達はひっそりと動き始める。

そしてその少女は絶賛道に迷い中であった。
夕陽の射す人気の無い路地をとぼとぼ歩く。

彼女は嘗て夜闇を生きた者。
而して一人の青年に助けられ再び日向を歩む者。

基本的に目的地の無い流浪の身なので門限なんかは無いのだが。
それでもまだ街の中なだけマシか。
森とか山よりは全然良い。

「はあ、早い所宿とかに辿り着けると良いんだけど。」

溜息混じりに飲み干したミックスジュースの空き缶を軽く殴る。
少し間を置いてその周囲の空間が捻じ曲がり空き缶は消滅した。

「ゴミの処分に困らないのは良いけどなあ。」

もうこの技を誰か人に向けて放つ事は無いだろう。そう信じたかった。


/絡み街です。暫くは置き進行になってしまいますが宜しければ
439 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/10(金) 01:36:50.18 ID:CwjlCFxN0
>>438

楽しいデートを終えた少女は、男に手を引かれるように半歩後ろを歩く。

「ありがとうおにーさん! また遊んでね!」

そう言いながら、少女は完全に油断した相手の喉元にナイフを突き刺し、ドアノブを捻るように手首を返す。
殺す間際の口上は、あたかもこの後も会話が続くようにするのが個人的に無駄が無くて好ましく思っている。
例えば「もうお終いなの」とでも言いながら刃を立てようものなら万が一相手が生きていた場合状況を即座に理解され抵抗される可能性がある。相手が理解する前に終わらせる事は暗殺の鉄則である。
喉を狙うのも助けを呼ばれるのを防ぐ為だ。
何にでもなれる暗殺者とは即ち何者でも無い暗殺者だから、仕事は合理性だけを尊重し感情や趣向を出さない。

油断させるため、1か月前から男に気がある振りをして、男にデートに誘わせて、暗殺しやすいデートコースを相手が選ぶように仕向けた。相手は今日のイニシアチブを自分が保持していると思ったまま、目の前の相手が暗殺者だと知る前に絶命する。

「ふぅ…… 帰りにご飯買って帰ろ」

仕事が終わっただけ。何事も無いかのように振舞うのは、何事も起きていないから。
リサーチして知った男だった肉塊が好む黒のワンピースにアフガンストールを合わせた装いには血の一滴も付いていない。
24時間営業のコンビニで夜食を買い、名前の無い暗殺者は夜の道を歩く。
組織ではなく個人用の口座に振り込まれた金額は贅沢しなければホテル泊を続けられるだけの余裕がある。駅近くのビジネスホテルへの帰途、少し年上の少女に出会い、軽く挨拶をする。

「こんにちは」

/置いておきます!!
440 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/10(金) 10:53:10.15 ID:h/t0EEd80
>>437

戦線を引き直せた。それがどれだけの価値を持つかはあちらもどうやら理解しているらしく。
うかつに前に出るような真似はしてこない。それで前に出てきてくれたらどれほど仕事が楽になったろうか。
ともあれ、自分が立ち上がって体制を整えるまでの時間は十分に稼げた。
……イライラが過ぎたとは言え、投石の弾を与える真似は控えた方がよさそうである。

「よっと、それで、私がどこのだれかって?最初に言ったんだけどなあ。
 “学園”の、院付きだって。学園だとこういうことはよくあることだからね」

間違ったことは言っていない。在籍の記録もある。そちらが本命とは思われるが。
ただ、学園がここまで殺伐とした場所であるかどうかについてはあまり考えたくはない。

そんでもって、こっちの氏素性を気にしてくるということについてだが……
なんかあったかそこまで気にする理由が、と思いつつ。
彼女に関わって、その次まで考えられてると見れるのだろうか。

「そっちこそ……聞くならさっき逃げた方に訊いた方がいいかな?」

問いとともに、状況を考える。
手元には兵士。下手な駒よかよほど役に立ってくれる。
体術に優れた相手は、何が起きるかわからない。実に面倒な事である。
441 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/10(金) 18:36:42.20 ID:9QaMDReI0
>>439
彷徨い歩き気付けば夜。
この街の夜間は何かと物騒な事は今更どの身がと言った具合。

そんな最中少し年下くらいの黒いワンピースの少女とすれ違い挨拶を受ける。

「こんにちは。」

時間的にはこんばんはだったかなと思いつつもそれを返し。

「……不躾にすみません。」

一瞬逡巡したものの完全にすれ違ってしまう前に声を掛けなおす。
ようやく人に出会ったのだ。逃せば更に迷う羽目になる。

「アタシちょっと道に迷ってまして。」
「この辺に寝泊り出来る所って分かりませんか?」

家を飛び出してきたとは云え、親との仲が険悪な訳では無く。
一応外泊を続けられるだけの路銀は毎月振り込まれている。

……後、その辺でストリートファイトをして手に入れた物も少々。

差し当たっては今夜安全に眠れる場所を見つけたい。
見ず知らずで通りすがりの人に聞くのもアレかなと考えながらも問うてみる。


/宜しくお願いします
442 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/10(金) 19:11:35.94 ID:yJ/o651Do
>>440

学園、その名前は知っていた。
国家の最高学府やらとはまた別の認知のされ方をしているが知名度はそれらと遜色ない。
一般的な学校とは少々趣を異にする、異能力者のために設立されたという学びの庭はそちらの方面に縁のない彼でも耳に入るくらいには有名であり……。

それにまつわる黒い噂も、無論と言うべきか承知していた。
しかしそれはあくまで噂の域を出ない。嘘か真か定かならぬ都市伝説の類であるから、信じる人間もやはりごく少数。
裏社会に身を置く男ですらそんな程度の情報しか得られていないのだから、“表”において周知されているかは推して知るべしだろう。

「ほう、そりゃまたなんとも……」

それに関して、信じていなかった……わけではない。
そもそも考えてすらいなかった、というのが正確なところだ。小耳に挟みはしたものの、特に気にする必要性もない与太話未満。
仮に本当であったとしても現状自分に関わりのない話であるなら意識を割く必要がどこにあろうかと。
目の前にあるチンピラ同士の喧嘩鉄火場殺し合いを眺めていた方が何倍も面白いと、刹那の楽を何より重視するのが男の性なのだ。

「こっちに関しちゃあ、クヒヒ、見れば大体分かるだろう? 要するにヤクザだよ。少しばかり大きめのな」

そして自分はそこの雇われだと、隠すこともなく身分を明かした。
先ほどの白スーツ……藤田に個人的なツテで声を掛けられ、特に用事もなかったのでしばらく行動を共にすることにしたのだと。
何やら近々、大きなことをやらかすらしく……面白ければそれで構わないというような性格ゆえに躊躇う理由もなかった。

断言するが、そこに深い理由は一切ない。
ただ楽しそうだったから、面白そうだったから。それ以外の行動理由など一つもなく、この問いかけにも大した意味などありはしない。
真実、ただ気が向いたから……藤田は女の背後にあるものを探り、そこから考えていたこともあったのだろうが、こいつはその点まったくゼロ。
前述の通り考える頭がないではないが、それらをおおよそ投げ捨てて、心の向くまま赴くままに生きているだけなのだ。万事を愉しむ人生哲学はストレスなんてものを生み出さない。

だから彼女の回答によって、男にとっての事情が少々変わっていた。

「まあそんなことはいいじゃねえか、どこにでも転がってるような話さ。それよりそっちのことを詳しく聞かせてくれよ、奢るぜ。イケる口かい?」

それとも飯の方が好みかねと気楽に問いかける様子には……驚くべきことに、肌に突き刺さる錯覚を覚えるほど高まっていた殺気や闘気が綺麗になくなっていた。
とてもじゃないがつい今しがた殺し合っていた相手に対する態度ではない。
これは油断を誘って隙を突こうとする巧妙な演技か――いいや否。もしこれが見せかけだったとしたらそれこそ何かの能力だと思えるくらいに、まったくもって違和感がなかった。
そもそもこの男にそのような繊細な芸当ができるとは思えず……ならば、もしや本気で言っているのだろうか?

……仮に彼女の所属する組織がどこぞのマフィアや軍関係であったなら、彼はここまで興味を示さなかったことだろう。
学園という、表向き荒事とは縁のない平和そうな場所。そんなところに属する人間が明らかに戦い慣れているという、その矛盾……。
そこに享楽の臭いを嗅ぎ取った。首を突っ込めばとても愉快なことになるだろうと、男の直感が告げたのだ。
443 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/12(日) 02:44:46.26 ID:s5oUONce0
>>441

相手は自分の事を女だと思っている。恰好から当然なのだが瞬時に判断する。
別にだからどうだという話ではない。女なら女、男なら男のように振舞うだけなのだから。

「さぁ……どうでしょう? 私もここの街はまだ来たばかりで、駅のビジネスホテルに泊まっているので」

泊める事は出来ないが、お金があるなかそこに泊まればいいのでは、そう伝えたつもりだった。
自分の向かう方向なので彼女の来た道と反対方向になる。

「もしよければ、せめて人のいる所までご案内しましょうか?」

第一印象を決めるのは最初の数秒。心理学を専攻しなくても聞いた事があるであろう初頭効果と呼ばれる常識。
先の一言「こんにちは」だけから相手がイメージするであろう柔和、低姿勢、親切といった人物像を完全に演じる。
演じるというより本当にそのような人格になっていると言った方が正しい。

「実は私も、デートで遅くなって一人の夜道が不安だったので」

足音は敢えて消さずに、歩み寄る。
百辻に所属する者は無意識に足音を消す訓練をするのだが自分の場合は逆に「暗殺者と思わせない為」に意図的に消さない訓練をしている。
444 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/12(日) 16:15:49.96 ID:P/QLizMA0
>>443

――ご案内しましょうか?

「重ね重ね申し訳ありません。」
「アタシ極度の方向音痴なので方角とか聞いただけだと辿り着けないんです。」

「なので案内して貰えるのなら助かります。」

相手方の印象操作は覿面の様子。
キョウコは彼女を親切な少女であると認識している。

「確かにこの街の夜を一人出歩くのは危ないですからね。」
「任せてください、これでもそれなりに闘えますので。」

夜道が不安との発言にそう答える。

戦闘時には使える様にバッグの直ぐ取り出せる所に震月は入れてある。
武器を持っていなくとも鍛えているであろう事、
その動きから流派までとはいかなくとも何らかの武術を身に着けている事までは見抜けるだろうか。

そも彼女の武道に流派は無いが。
総合的な格闘術を全般的に修め、
闘った相手から得られるものを己が能力を駆使して積極的に真似する。
というのがキョウコのスタイルだからだ。

歩み寄る少女には特に警戒を抱かずに接近を許すだろう。
445 :【白黒聖戦】チェス駒の女王様  ◆rpJigmhfjQ [sage saga]:2017/11/12(日) 23:16:36.89 ID:dPi6/CHO0
>>442

世を忍ぶ仮の姿でとりあえずは納得してくれたらしい。
それだけ学園が与太話に彩られている証左ともいえるのは、良くも悪くもあるわけで。

しかし、目の前の御仁が忠実な駒でないことはますますもって明らかになる。
なにより、享楽の獣の瞳を見せたことは、彼女にとって口角を上げる材料。

つまり、肉を追っていたのだ。自分のはらわたを満たすに足る肉を。
先刻までは逃げた男がそれを与えていた。そして次は彼女を肉とみた。
私を享楽を満たすモノと見たわけで、荒事以外にも価値を見出した。
悪い気持ちはしないのだ。少なくとも命の危険は消え去った。たぶん。

「ああ、そういうのがわかる人か。それはいいね。嫌いじゃないよ。やくざさん?」

左手を後ろに下げるように振るう。
それだけで、王と騎士は役目を終え下がる。

さて、食事の誘いを受けて、さらに彼女の口角は上がり、笑い声に変わる。
食事も享楽なれば、笑いもしてしまう。その点では一貫しているのだろう。
武人なのだろう。そのあたりの胆が据わっているらしい。

「わらっちゃった。悪い悪い。それでどこにする?
 サングリアのおいしいバルを知ってるんだけど」

けったいな誘いをする男も男であるが、受ける女も大概である。
享楽を愛するのは、両者の共通点と見える。加えて自身の武を曇りなく信ずるが故。

「行こうか。夜は短いからね」

もう一度キングの駒を用意して、吹き飛ばした扉へ投げる。
キングは瓦礫をどかして、夜の続きへの道を作る。

//お待たせしました。
446 :【尽臓鬼機】 [sage saga]:2017/11/13(月) 19:11:57.53 ID:dy3kmlzPo
>>445

「洒落てるな、まあ異存はない。任せるぜ」

男の様子に変わりはなく。
だが正直な内心を述べるなら、少々驚いたというのが本音だった。

なぜと問うまでもあるまい、このような誘いに乗る方がおかしかろうというもの。
つい先ほどまで遠慮なしに戦っていた相手が、終わってからであればともかく――それすら理解しがたいが――戦闘の真っ最中に酒に誘ってくるなど。
罠であるにしても些か以上に異端がすぎ、ゆえ何を考えているのか不明であるため、このようにすんなり受けいれるなど考えられない対応だ。

そこについては酒席を提案した張本人たるこの男でも知っている。
そういった常識的な判断を弁えつつ、ときにぶん投げてやりたいように突っ走るのが揺るがぬ性格。
自分のように無軌道な生き方の人間などそうはいないことも自覚しているため、まあ断られて戦闘再開になるだろうと思っていたのだ。
目の前の女は己と同じタイプじゃないように見えたから……どちらかといえば理性的な手合いだろうと踏んでいた、だがしかしどうだ。

「スコッチやらコニャックやらは好みかい? 良い店を知っているんだよ、気が向いたらそっちにも足を伸ばしてみようや」

予想は外れて答えは快諾。
常識に囚われた考え方では到底できない決定を簡単に下したことに、彼の笑みがさらに深まる。

いやはやまったくこの女、もしや見た目に反して楽しいことが大好きなのかと……。
大人しそうな娘がその実アレやコレに手を出しまくりなど繁華街あたりを歩けばいくらでも聞く話だが、そういう手合いは空気で分かる。
己の利に聡い悪党連中なら誰でも備えて当たり前のスキルだが、そういう気配に人一倍敏感な彼が見逃すわけはない。

そして今もって、その印象に変わりはない。路地裏に屯する一山いくらの売春婦どもとは明らかに違う。
であれば、さていったいこいつはどういう女だ? 見た目より享楽的なのには違いなかろうが、それだけじゃ説明がつかない。
自分以上にずば抜けた観察眼、意味不明な提案にも嘘はないと見抜いたのか。そうして“戦闘”という明確なリスクを回避しようとしたのか……。
あるいは卓越した計算能力、自分の提案に乗った先に彼女にとって都合のいい展望が見えているのか。
またはそれこそ超絶演技、逆にこっちを罠に嵌めようとしている可能性。上がった口角は阿呆な輩を見下す嘲笑であるのか。

こちらの言い出したこととはいえ、すぐさま乗ったその事実は些か以上に不気味である。
まっとうに考える頭があるなら最大限の警戒をもってあたるべきことだが……。

「なあに心配ないともまだまだ宵の口さ、そうだろう? この街の夜は長い、楽しむとしようじゃねぇか――」

それら一切、気にしないし深く考えない。
どうなろうがきっと面白くなるだろう、だったらそれでいいとリスクを全無視して行動する。
その結果に何が待ち受けていようとも――たとえそれが身の破滅であろうとも、きっとこの男は笑っているだろう。

黒い王が作った道を、享楽の獣が進んでいく。
見つけた新たな楽しみを味わうことだけ考えて、夜の街へと繰り出すのだった。
447 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/14(火) 00:51:43.51 ID:c263xQe30
>>444

近づく事に他意はない。無用な殺人はしない。
それは警備の増加や民衆の意識の変化など仕事の暗殺にとって不利益に働くから。
人物像は演じ続けるとやがて自己暗示じみた物にかわる。今の自分からは殺人はおろか戦闘さえとても結びつかないだろう。
弱弱しいともとれる大人しい少女の完成である。

(軍事訓練や傭兵としてのキャリアーじゃないな。重心位置がソルジャーではなくアスリートのそれだ…… 拳ダコの痕跡も見えるし恐らく一対一想定の格闘技の現役選手)

目に見えるような癖は全て消す事が出来るし、人格も別人のように作り替える事が出来る。
だが、それでも培った技術は消せないし思考パターンの傾向という物はどうしても隠しきれるものではない。
戦う気が無くても、それでも、優秀な暗殺者として培った観察眼は意味も無く作動し続ける。
全体的な筋肉の付き方や風体から相手をプロファイリングする。
具体的には「万が一、別の機会に交戦した場合。殺せるか否か」。それを無意識に割り出そうとする。

(これで戦闘向き能力者なら形式的な試合や正面戦闘ではでは間違いなくやられるが、ここで知り合った情報を相手が持っている前提なら油断を取れる。暗殺難度は低。)

「助かります、私も能力者なんですけどハッキリ言って全然戦闘向きではないので……」

優れた暗殺者としての推察能力を持ちながら、知りえた情報を全く使わないただの少女という殻に閉じこもる。
事情を知る組織の人間から見ればハッキング用の高性能コンピューターをSNSや日常的なメールのやりとりに使うような行為である。

中心街はこっちです。と彼女をつれて歩き始める。
448 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/14(火) 11:53:31.66 ID:5Dx367gI0
>>447

「貴方も能力者なんですね。」
「この街じゃあそう珍しいって訳でもないですけど。」
「能力って言っても色々とありますからね。」

相手の心中など知らずにそんな会話をしつつ路地を進んでいくと。

「女が二人で歩いてやがる。」
「こっちは数でも上だ。」
「やっちまうぞ!」

ナイフが一人、鉄パイプが二人。
正面に鉢合わせた武装した破落戸三人が此方へと近づいてくる。
明らかに敵対的、恐らくは金銭目的の与太者達だろう。

「下がっていてください。」
「このくらいの人数ならアタシ一人で倒せます。」

案内してくれている少女へそう促し。
半月状の刀が付いた拳鍔を取り出して右手に嵌め、構える。

【少女はどう動くだろうか】
449 :【錬基昇創】 [sage saga]:2017/11/15(水) 21:25:51.64 ID:9hmofHSlO
冷たい風に思わずふるりと肌を震わせる。
枯並木の夜道を行く一人の少女は、季節の移ろいを身を以て実感しながら、落ち葉を踏み締めながら歩みを進めていく。

穏やかな静けさが包み込む中、周囲に人の気配はない。ただ、少女の足音と息遣いだけが、小さく鳴り響いては、溶けるように消えていく。
平穏な街も、その殆どが寝静まった頃。こんな夜更けに出歩く者がいるとするならば、それはきっと碌でもない者に違いない。
彼女自身もそういった、碌でもない人間であるという自覚はあった。だからといって、その在り方を正す気などは欠片もないが。


「────あら」


風に吹かれて、目の前に一枚の枯葉が舞う。何かを思うまでもなく、掌を差し出してそれを受け止めたなら。
瞳を閉じて、力を込める。小さな黄金の輝きが彼女の掌を、その中にある枯葉を優しく包み込んだ。

そして光が収まった時、そこには緑の葉があった。生命の息吹の喪われた枯葉は、嘗ての生い茂る新緑の頃の姿に回帰していて。
自己満足の微笑みと共に緑の葉を風に流せば、少女は再び歩みを再開する。闇の中へと、気の向くままに。

//絡み待ち
450 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/16(木) 12:27:21.05 ID:rWiFFc+C0
>>448
「………」

動揺している様子は無く、寧ろひどく落ち着いた目で辺りを見ていた。
固まって動けなくなってしまったと誤認した相手は更に調子づく。

限りなく常人に近づく為の訓練をしている自分は、結構簡単にこういう連中に目をつけられる。
事実、「強さ」で言えば自分を上回る人間も多く。自分を含む暗殺者の本領は「生殺与奪の権限を掌握する」ことなので組織の人間たちの間ではあるあるみたいになっている。

そういう輩は普段無視したりするのだが、相方が実力行使で追い払う方針のようだ。
彼女がどこまでやるつもりか知れないが、痛めつけるだけでは禍根を生むというのは職業的によく知っている。
それに自分は客観的に見て端正な顔立ちをしている。寧ろそれを最大の個性であり武器とする生き方をしてきているのだから。
だからナイフのように自分の容姿に影響を与えるような対象を容認しない。

ゆえに報復されるのも面倒なので、殺す前提で行動する。

「おい」

少女が構え、皆の視線が少女に誘導される。その一瞬でナイフを持った男一人の背後に立ち、首を締め上げる、力こそ決して強くは無いが手に握りしめたナイフを相手の首筋に充てる。
厳密には袖の中に仕込んでいたナイフを落として手でキャッチし、それを手首のスナップで投げて能力を連続発動して投げたナイフと自分が入れ替わったようにして疑似瞬間移動を再現しただけに過ぎない。

「抵抗したら殺す。外野が一歩でも動いたら殺す。俺の指示に従わなければ殺す。指示してから3秒以内に実行しなければ殺す。まずは全員武器を置け」

戦闘時は無意識に男の人格にシフトする為、一人称も変わっている。
男でも女でも無い暗殺者は、男とも女ともとれる声でそう言った。
451 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/16(木) 17:27:02.17 ID:/elQ9+Or0
>>450
突如として豹変する少女、いや少年だろうか?

一瞬の出来事であったがキョウコはある程度状況を把握した。
近接主体の能力であり、且つ武術も修めている為動体視力はそこそこ良い。

瞬間移動、或いはナイフとの互換移動か。
能力の本質には辿り着かないまでもある程度の推測を立てる。


首筋にナイフを突きつけられた男は何が起こったのかも理解しきらず、
その恐怖から得物を落とした。

その左右に陣取っていた二人も呆気にとられ、がらんと鉄パイプを捨てた。

皆が凍り付くその場で発言をする者が一人。

「その全員の中にアタシは入ってるのかな?」

拳鍔を仕舞いながらキョウコは暗殺者へと問い掛ける。

「幾らなんでも殺すのはやりすぎだと思うけど。」

過去の自分の所業を棚に上げるつもりは無い。
寧ろだからこそ自分はこの場で止めなければならない。
452 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/16(木) 21:19:32.61 ID:rWiFFc+C0
>>451
「んー…… 今日の事を誰にも言わないならいいよ。ただ一応武器を仕舞って少し離れてくれる?」

近接格技術に長けた武器を使う能力者。それだけなら顔を見られても問題ない。
そもそも変装の妙手という程ではないが演技等による欺瞞の腕は一流。顔や能力を知られた程度で困るような潜入(ハニートラップ)を仕掛ける三流ではない。

『武器は置いたぞ! だからもう……』 
「はい残念でしたー! どっちみち殺しまーす!」

ナイフで首筋を斬ると、そのままナイフを手から離し滑るように投げる。
男が落とした足元のナイフを同じ方向に蹴る。この二つの動作がどちらも同時に行われた「首を斬る」という動作にかきけされ、視線を男に誘導させる。

次の瞬間。男の首を抑えていた暗殺者の姿が消え、また別の男の腹部を刺していた。

『あ……!?』
「殺す程じゃないって……アンタ変な事言うんだな。生きて返す理由が無いが無いじゃん」

殺す事が基本という認識のズレ。それを理解していない訳ではない。他者と自分の間に溝がある事を知りながら、合理的に判断して自分の考えの方が上策だと考えているのだ。

「報復されても多分殺り返せるどうって事ないんだけどさー、顔に傷とかついたら困るし家で超怒られるんだよねー」
「そもそも俺一人だったら無視して逃げてるのにオマエが戦おうとしたからなんだぜ? 俺は見捨てて置いて行ったら迷子のオマエが困るからオマエの為にやったんだし、感謝されてもいいくらいなんだけど?」

友達を作る為の家出中の自分は、同じく一人夜を彷徨っていた彼女にシンパシーを感じて無視せず案内を買って出たのだ。
今ここで男を殺害したのは自分の顔を守る為でもあるが、見捨てて逃げる事も何せずに頼る事もしなかったのは彼女と友になれるかもという淡い期待を込めていたからだ。
453 :【重震偏異】 [sage saga]:2017/11/17(金) 09:59:54.90 ID:HfV696hJ0
>>452
キョウコは目の前で起きる殺戮劇を目を逸らすでもなく見つめる。

――生きて返す理由が無い。

「そう……ですね。アタシ一人ならまだしも。」
「少なくともあの時点では"戦えない"と言っていた人と一緒に居た以上。」
「逃げる方が良かったんでしょう。」
「だからこれはアタシの所為だ。」

暗殺者にも自分にも言い聞かせる様にそう答える。
直後、キョウコの纏う雰囲気に変化が起きる。

目つきだとか仕草だとかが、まるで別人の様に変わる。

「あっちが襲い掛かって来たんだし向こうの自業自得だってーの。」
「表(アンタ)が助けたいのはこう云う屑共な訳?」
「違うでしょ? だったら諦めな。こんなのはこの街じゃ日常茶飯事だ。」
「それは痛いくらいに知ってるでしょ。」
「それともまた"アタイ"と入れ替わりたい?」

どうにも暗殺者へ向けて話している様子では無い。
まるで自分自身と対話しているかの様な。

人格を丸ごと演じ分けている暗殺者になら解るかもしれない。
――そう、彼女は多重人格者だ。

「悪かったね話に水を差して。どうでもいいことで気に病んでるから喝を入れてやった。」
「表は喜ばないと思うけど"アタイ"からは礼を言っておくよ。」
「それじゃ、また表に戻るから。」

それからにやりと笑い。

「それともまだ"アタイ"と話を続けたいかい?」

もう一人のキョウコは酷薄な笑みを湛えたまま暗殺者へ問い掛ける。


/すみません。明日から1〜3日ほどお返しできなくなってしまいます
454 :【短刀分製】 [sage saga]:2017/11/18(土) 00:11:00.22 ID:dPtI6byW0
>>453

「うんうん、そう。 この人の自業自得なんだけど、無視して帰ればそれが一番良かった」
「その方が俺も目立たないで済んだし」

組織を抜けた自分が組織の機密を漏らさないように、仲間が何人か見張っている。
もし組織の機密が漏洩したり、暗殺対象になり得るような立場の人間に能力と顔が知られる事になれば自分を消そうと動くだろう。
だから目立つ事は極力しない。戦闘をするなら誰にも見られない所で、或いは相手が死ぬまで。

ここに転がっている男たちは鉄パイプ等で武装している事から突発的犯行ではない。計画的だとすれば仲間が他にもいるかもしれない。不良集団の末端かもしれない。
愚連隊同士の抗争などが起きればリーダーを暗殺するよう頼まれる事もある。その時に能力を対策されては不都合なのだ。

「お……そういうのもあるのか、二重人格じゃなくて正式には『イマジナリーフレンド』って言った方が近いのかな? 身内以外で初めて見た」

自分の人格変換は思考や主張まで変わる訳ではない。どの人格の時も自分であり常に一つである為対立意見などは発生しない。

「えーと…… 裏?のアンタの方が話は通じそうだけど俺が引き受けたのは表の道案内なんだよねー、ごめんねー」

ナイフを拾い集める。男の得物のナイフを拾い上げじっと見つめた後、何処かへと投げ捨てる。

「じゃあ、行こうか」
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