VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:08:04.47 ID:5z5KLsM0<>朝。

太陽もまだ眠っている。

小鳥が囀るには少し早い時間に、ゆらゆらと揺れる小柄な人影が一つ。

柔らかな曲線はその人影が女性である事を告げている。

上下白の野球のユニフォームに身を包み、肩口まで伸ばしたショートカット。

半袖黒色のアンダーシャツの先はこの世のものとは思えない程に白く透き通った肌。

さらに特筆すべきところは先ほどから移動するのに際し「壁 を す り 抜 け て い る」という点。

目的の部屋の前にしてその人影はニコリと笑いながら、ノックをせずにその部屋のドアをすり抜けていく。

色あせた横浜ベイスターズのポスター、机の上には内野手用なのだろうか土色に染まったグラブが鎮座している。

ベッドの上にはグラブの持ち主らしき寝巻き姿の少年。

フローリングの床、収納棚の横には全身を映すことができる鏡、机の横には金属バットが立てかけられている。

その鏡に映る人影は「地 面 か ら 乖 離 し た 両 の 足」をぴょこぴょこさせ、鏡に向かって笑いかける。

傍から見ていると鏡に映りこんだ少女が一人居るだけなのだが、その空間には「最 初 か ら 誰 も 存 在 し な い」様に見える。

その人影は、ひとしきり自分の姿を堪能したのだろうか、すやすやと寝息を立てる少年の寝顔を覗き込みながら──


『お〜い、遊撃手さ〜ん。野球しましょうよ〜』<>遊撃手「幽霊部員」 VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:09:32.87 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「……んん……、まだ4時半じゃねぇか……あと5分……。Zzz……」

遊撃手と呼ばれた少年が眠い目を擦りながら時計を見やる、カチカチと進む時計の針は今が早朝である事を告げていた。

『も〜、起きてくださいよ〜』

声の主は重力を無視して飛び上がり、ユサユサと少年の肩を揺らす。

遊撃手「Zzz……、ロッテの初芝がベーラン一周する頃には起きる……」

『それって起きないって事ですかーっ?!』

遊撃手「あーもうわかった、起きる、起きるってば」

ふああと伸びを一つ。

少年の目の前には

ふわふわと浮かびながら『やっきゅう♪ やっきゅう♪』と嬉しそうにしている半透明の少女が一人。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:11:39.00 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「え〜っと、お前、誰だっけ」

『幽霊で野球部員、つまり幽霊部員ですっ』

遊撃手「……」

幽霊『お〜い、遊撃手さ〜ん?』

遊撃手「幽霊だけに幽霊部員……、ジョークのつもり……なのか……?」

幽霊『えっへん、夜も寝ないで昼寝して考えたんですよ』

遊撃手「あぁ、そうかい」

幽霊『落合の流し打ちみたくさらっと流さないでください遊撃手さん』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:17:05.63 ID:5z5KLsM0<>遊撃手と呼ばれた少年は改めて目の前の少女を見据えた。

なんですかー、顔に何かついてますかー? と傾げる顔の向こうには、部屋の壁紙が透けて見えていた。

あぁ本当にこいつ幽霊なんだったっけと、いままでに一体何回自分を納得させるように呟いただろうか。

顔を二度三度振り、ベッドから降りると幽霊もそれに付いてくるようにして天上を移動する。


遊撃手「じゃ行くぞ」

幽霊『やったぁ! じゃあ私先に行ってますね!』

遊撃手「ったく。子供みたいなハシャギ方だな」

遊撃手「っていうか幽霊は良いよな〜壁とかすり抜けられて」

幽霊『……』

遊撃手「お、どうした? そうやって上半身だけ壁から出てると本物の幽霊っぽく見えるぞ」

幽霊『本物も何も幽霊なんですって』

遊撃手「はいはい」

幽霊『遊撃手さんも壁、すり抜けてみます?』

遊撃手「まだ人間で居たいんで勘弁してください」

幽霊『あら? プロ野球界には宇宙人が居るって聞きましたよ?』

遊撃手「そいつはメジャーリーガーでムービースターでエンターテイナーだから例外なんだよ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:22:26.51 ID:5z5KLsM0<>薄暗闇の中を5分ほどテクテク歩く。

少年は寝巻きから上下学校指定の赤いジャージに着替えて、靴も野球の練習で使うアップシューズを履いている。

右手に部屋にあった土色のグラブ、左手にはそれよりも一回り小さな赤色のグラブを携えていた。


幽霊『ん〜! 早朝の公園、緑が多くていい空気ですねぇ』

遊撃手「そうだな〜、なんてったってまだ5時ちょい過ぎだからな、散歩してる人も居ないし」

幽霊『太陽もまだ眠い目を擦ってるところですよね』

遊撃手「そうだな、キャンプの早朝練習中にコッソリ寝てる川籐みたいだな」

幽霊『?』

遊撃手「さすがにわからねぇか」


荷物を適当な場所に置いて背中を伸ばしながら少年は呟いた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:24:57.94 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「ま、いいや。とりあえず軽くアップしてからキャッチボールするか」

幽霊『わっかりました』

遊撃手「それじゃー軽くランニングからな」

幽霊「……」

遊撃手「ん、どした?」

少女は地面から乖離した二つの足を見つめ。
それからグっとガッツポーズを作りながら力強く、

幽霊『……桑田ロードを作りましょう、遊撃手さん』

遊撃手「日本シリーズで死球くらった後の片岡みたくなってるけど、ここアスファルトだからな?」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:29:18.56 ID:5z5KLsM0<>幽霊『そこは気合的な何かです、遊撃手さん』

遊撃手「アスファルトのコースにどうやって桑田ロード作るんだよ」

幽霊『大丈夫です! 幽霊的な力を使えばなんとか!』

遊撃手「幽霊的な力って何! というか普通に走るだけだから!」

幽霊『ちえー、遊撃手さんのケチ」

遊撃手「あれ? いつの間にか俺が悪い事になってない?」

幽霊『キノセイデスヨ、アハハ』

遊撃手「気のせいなら仕方ないな」

ぎゃあぎゃあ言いながらもとっとこ走る少年の後ろを少女はスイスイ浮きながら付いてくる。
一応浮かんでいるのだから走っている事にはならないのだが、これでも一定の時間飛んでいると疲れるらしく、
幽霊にウォーミングアップが必要なのかという疑問はこの際隅に置いておいて
少年たちは全行程1キロの公園外周コースを回る。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:30:38.38 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「よーし、アップも終わった、まだ誰も居ないし。キャッチボールするか」

幽霊『やったあ! 私楽しみで楽しみで昨日の夜は眠れなかったんですよっ』 

遊撃手「その分昼寝してたんだろ?」

幽霊『なんで知ってるんですか』

遊撃手「お前さっき言ってたじゃねえか!」

幽霊『あははっ、はやく始めましょうよ〜』

遊撃手「ったく、おらよ」

シュ

パシ

幽霊『ないすぼーる、です』

シュ

パシ

遊撃手「ナイスボール」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/15(日) 19:36:57.00 ID:ZYlloEAO<>甲子園はいいもんだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:38:09.25 ID:5z5KLsM0<>2〜30球投げた後、ふと遊撃手は自分の利き腕である右手をじいっと見つめた。

幽霊『遊撃手さん、どうしたんですか〜?』

はやく投げ返してくださ〜い、と幽霊はぴょんぴょん飛び跳ねる。
器用な事に今は地面に足を付けていた、送球の際の踏ん張りも効くらしい。
壁をすり抜けていたその右手で硬球を掴んで投げている。
傍から見ればグラブとボールが何も無い空間に浮かんで見える。
透明人間が居たらきっとこんな感じになるんだろうなと少年は考えながら、

遊撃手「なんか気のせいかもしれないけどさ」

幽霊『?』

遊撃手「お前に教わった投げ方でやってみてから、なんだか送球が安定した気がするよ」

シュ

パシ

幽霊『さすが遊撃手さんですね〜、教え甲斐があるってもんですよ』

遊撃手「でもまだ足りねぇ。もっともっと上手くなって、もっともっと強くならなきゃいけねーんだ」

幽霊『……そうですね』
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:42:14.36 ID:5z5KLsM0<>少女は受け取ったボールを手に少年から距離を取る。
だいたい50mくらい離れたあたりで振り返ると、いきますよー! と声を張った。

遊撃手「おいこら、そんなに離れて大丈夫か?」

幽霊『えっへん、これくらいの距離を投げれない様では幽霊廃業です!』

遊撃手「廃業って、成仏するつもりかよ」

幽霊『てやー!』

シュ

パシ

コントロールよく、放たれた白球はゆるやかな放物線を描いて少年が構えたグラブの中へと収まった。
両手を腰に当てて勝ち誇る少女。

遊撃手「おお、届いた」

幽霊『えっへん、どうですか?』
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:46:02.03 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「そんじゃお返しだ」

幽霊『あれ、どこまで下がるんですか〜? ……お〜い、遊撃手さ〜ん?』

遊撃手「だいたいこれくらいか」

少年は黙々と歩き、大よそ先程の倍の距離を取る。
改めて回りを見渡す、太陽が先程よりも高い位置まで昇り、朝日が差し込んで緑が反射する。
ぽつりと少女のユニフォームが緑の中に浮かんでいるのが見えた。
なんとも不思議な光景だ。
散歩中のおじいさんが浮かんだグラブを目の当たりにしたら腰を抜かしてしまうかもしれない。
時間的にこれが最後の一球。

遊撃手「幽霊! しっかり捕球しろよ!」

シュ!

幽霊『へ?』

幽霊『あ、わわわ』

幽霊『と、ととと』

バシィ!

幽霊『い』

幽霊『いったあああああああああああああああああああああああっ?!』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:52:23.72 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「お、おい。大丈夫か?」

幽霊『……むー』

慌てて少年が駆け寄ると
少女は赤くはれた左手をふーふーと息を吹きかけて冷やしていた。
グラブにはハッキリとボールの縫い目が刻印されている。
グラブの芯で捕らえたボールから、それほどの衝撃が伝わったのだ。

遊撃手「いやまさか、そんなに痛がるとは思わなくて、すまん」

幽霊『……遊撃手さん、肩強くなりましたね』

遊撃手「へ? あ? そうか?」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 19:53:25.69 ID:5z5KLsM0<>幽霊『遊撃手さんは下半身がちょっと弱いから送球の強さに欠けてたんですよ』

遊撃手「あぁ、それはお前に言われてから意識して鍛えてきたよ」

幽霊『だから最初に会った頃は、三遊間の深いとこからの送球、間に合いませんでしたよね』

遊撃手「……う」

幽霊『部内での遠投も下から数えた方が早いくらいだった気が』

遊撃手「……ぐ」

幽霊『投手の私から言わせればそんなショート、安心して背中を任せられないです』

遊撃手「お前は褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:00:20.01 ID:5z5KLsM0<>はぁ、少年からため息一つ。
立てるか? と少女に手を差し伸べたが返事が無かった。
それほど痛かったのだろうか、少年は若干の罪悪感と共に少女を覗き込むと、

幽霊『……私、遊撃手さんが羨ましいんです』

遊撃手「あん?」

幽霊『私はもう死んでるから、遊撃手さんが羨ましいんです』

私はもう死んでいるから。
普段こうやってキャッチボールしたり野球の練習をしたり、
笑ったりバカやったり遊んだりケンカしたりしているので忘れがちだがこの少女は、そう、幽霊なのだ。
この世のものならざる存在。
時間から取り残された存在。
いつ死んだのか、なぜ自分は成仏することなく取り残されているのか一切を切り取られた少女。
どこかの学者によれば「死者は、常に生者を羨む」という類の言葉があるらしい。
この少女も言った。
少年が羨ましいと。

遊撃手「……」

幽霊『生きてる遊撃手さんが、羨ましいんです。私は止まったままで、遊撃手さんは成長していって、どんどん私の知らない遊撃手さんになっていって、だから……その……』

遊撃手「お前……」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:04:29.36 ID:5z5KLsM0<>少年と少女の間に沈黙が流れる。
押し殺そうとしているが少女からは嗚咽が漏れ、少年の心を何かがちくりと刺す。
頬から伝う筋が朝焼けを受けてわずかに光る、とても不謹慎かもしれないけれど、少年はこの時少女の事を「美しい」と感じていた。

幽霊『……ひっく、こんな事言っちゃってごめんなさい……、ひっく』

遊撃手「……なんでお前が謝るんだよ」

幽霊『だって、今だってこんな幽霊の、ひっく、ワガママ、ひっく。聞いてもらってるし……その、申し訳ないな……って』

遊撃手「……」

幽霊『人目につかないように、……ひっく、出かけるのもこんな朝方になっちゃって、その……』

遊撃手「……」

幽霊『やっぱり、ひっく。私、邪魔……ですよね』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:07:56.41 ID:5z5KLsM0<>邪魔、という言葉を少女はハッキリと使った。
比喩表現では無い消えそうな表情を浮かべながら、少女は言った。
恐らくは線引きの為に。
そして恐らくは、

遊撃手「ばーか」

幽霊『?』

遊撃手「生きてる人間が羨ましい? フザケンのも大概にしろよ。俺は生前のお前を知らねぇけどよ、お前にだって在ったんじゃねえか? 友達と遊んだり笑ったりはしゃいだりした時間がよ、覚えてようが覚えていまいがその’在ったかもしれない幸せ’にまで顔背けてんじゃねえよ」

幽霊『ひっく、遊撃手さん……』

遊撃手「それにな」

幽霊『?』

遊撃手「お前には俺のトレーニングに付き合ってもらってるんだから、感謝するのはこっちだ。お前が後ろめたい気持ちになる事はねーんだよ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:12:46.19 ID:5z5KLsM0<>幽霊『遊撃手、さん……』

遊撃手「わかったら、ほら、その、泣くのやめてくれねえか? お前に泣かれるとどうしていいかわからなくなるからさ」

照れ隠しに頬を掻きながら
目線を少女から外して、宙を見遣る。
太陽が眩しかった。
それくらいの感想しか浮かんでこない。
眼前の少女は涙で濡れた顔を少年に向けながら、

幽霊『……はいっ』

生気の宿った目で
力強く返事を返した。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:14:12.60 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「だーもう、顔くしゃくしゃじゃねえか、なんか拭けるもんあったっけか」

幽霊『遊撃手さん』

遊撃手「あん?」

幽霊『遊撃手さんの胸、貸してください』

ちょっと、幽霊さん? 何やってるんですか──、とは言える雰囲気ではなかった。
少女はくしゃくしゃの顔を少年の胸に埋める。
突然カチンと固まってしまった少年は、その頭をフルに使ってぼんやりと今の状況を理解し

遊撃手「ったく、こんなの誰かに見られたら──」

幽霊『私、幽霊だから、大丈夫ですよ』

遊撃手「それもそうか」

幽霊『はいっ』

その手で幽霊の背を優しく包んだ。
無いはずの感覚が二人を繋ぐ、
それはとても優しい感覚だった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:16:54.27 ID:5z5KLsM0<>────────────
────────
────




某市営球場。
1965年に誕生したこの球場は某球団のキャンプ地としても有名だ。
そこで来年の春の甲子園出場を掛けた球児達による熱戦が繰り広げられている。
休日という事もあり、収容人数5000人程度のスタンドは応援に駆けつけた生徒や父兄で6割ほど埋まっていた。
回はどうやら終盤7回まで進み、スコアボードにはたこ焼きの様に0が綺麗に並ぶ投手戦の様相を呈していた、次の1点がどちらに入るかでこの試合の天秤が大きく傾きそうだ。


『ちょっと、そこの遊撃手さん』

「ん?」

『もっと三塁側に寄った方がいいですよ』

遊撃を守る彼がキョロキョロと辺りを見渡す、何も無い。
あるのは土と空と野球場だけだった。

遊撃手「……っかしいな、空耳か?」

守備中だと言うのに少し集中を欠いているのかもしれない。
ブンブンと頭を振り、二回グラブを叩いて大きな声で、

遊撃手「バッター、こーーーーーーーーーーーい!」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:18:40.90 ID:5z5KLsM0<>直後、鈍い金属音と共にコロコロと地面を力なく三遊間目掛けて転がる打球。
投手からすれば完璧に打ち取った打球だが、飛んだ場所が良く三塁手のグラブをすり抜ける。
畜生! という表情で三塁手は遊撃手を見た。
遊撃手はなんとか手を伸ばして逆シングルで捕球、あとは一塁へ向けて内野の一番深い場所からの遠投だ。
が、

遊撃手「……ち」

一塁手が両手を交差させて「間に合わない、投げるな!」
ワンナウトを損して投手はがっくり項垂れる。
そんな事もあるさと二塁手が「どんまいどんまい、次ゲッツーもらおう」投手励ます姿がさすがチームプレーといった所だろうか。

遊撃手「内野中間守備! ゲッツー取るぞ!」

遊撃手の指示で一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手が普段のポジションよりも幾分打者よりに構える。
その分だけ打球を早く処理し、効率的にアウトカウントを稼ぐ算段だ。
もちろん野手の間を抜かれるリスクは上がるのだが。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:19:22.39 ID:5z5KLsM0<>『ねえ、遊撃手さん』

遊撃手「ピッチャー楽にいけよ!」

『一塁ランナー。さっきの回よりリードが半歩大きいですよ、何か仕掛けてくるのかも』

遊撃手「さー! ショートこーーーーい!」

打たせろ、ゴロを転がせ、甘い球を見逃すな、シャープにいけ。
遊撃手はその他にも何か声が聞こえた気がしたが、誰かが言った事として聞き流していた。
それに加えてスタンドからの声援だ、敵味方の声を判別する事は骨が折れる。
様々な声がグラウンドで交わり、染み渡っていく。
マウンドの投手は打者を見据え、セットポジションからの第一球、
バントの構えを見せた打者に反応して一塁手と三塁手がチャージをかける。
あわよくばセカンドゲッツーを狙い、二人はホームベース目掛けて走る走る。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:20:12.37 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「(バントだ!)」

遊撃手は二塁手に目線を投げる。

二塁手「(わーってるよ!)」

心の中で言いながら二塁手は駆け出していた。
お互いに目線だけで合図し、遊撃手と二塁手はそれぞれ次に取るべき動作に移る。
二塁手は一塁に、遊撃手は二塁にカバーリングだ。
さあアウトもらおうぜ! 内野に緊張が走る

──しかし、打者は水平に構えたバットを「ひょい」と軽く引いた。
審判が腕を上げる、ストライク。
なんでもない、真ん中やや内よりのストレート。
投手がわざわざバントしやすいように投げたカウントを稼ぐ球を見逃したのだ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:21:53.67 ID:5z5KLsM0<>『遊撃手さん、遊撃手さんったら』

遊撃手「ち」

『あのバッター、やけにあっさり引いたと思わないですか?』

遊撃手「下手糞が、バントするなら一球目でしろよな」

全力でセカンドベースまで走った遊撃手は悪態をつきながらも定位置まで歩いて戻る。
バッターボックスでは打者が監督のサインを確認していた。
キュッと帽子のつばを掴みサインの交換が終わった様だ、
対戦するチームの前情報が無くても終盤までゲームが進めば感覚で「いちいち細かいサインを出すチームだ」という事くらいはつかめる。
役に立つか立たないかは別として。

遊撃手「サード! ファースト! もう一球あるよ!」

遊撃手は両手でバント警戒の仕草をしながら考える。
おー! と応える声が二つ。
点差、ゲームの流れ。
先頭打者が出たのはこれで3回目、前の2回は2回とも送りバント。
まぁ、ここもバントだろ。
こうして相手の思考を読むのも、野球の試合には大切な事だ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:24:08.49 ID:5z5KLsM0<>投手はサイン交換に頷き、もう一度直球を選択した様だ。
アウトカウント優先のリードというわけだろうか、捕手は先ほどよりもやや低めを要求する。
ふうと息を吐いて、マウンドから二度三度ランナーをチラチラと目で牽制する。
左足を軽く上げ、第二球──

「ランナー逃げた!」

遊撃手の耳に四方から大きな声が聞こえる。
目で確認するより先に体が動く、スチールだ!
しかしスタートが悪い。
今日は3回表に盗塁を刺している、捕手の肩も悪くない、このタイミングならアウトにできる!
「次もバントがくるだろう」と確信めいた自信をもって「あらかじめ二塁よりに構えていた遊撃手」はセカンドベースをまたぎ、捕手からの返球を待った。
だが──

『遊撃手さん、だめっ!』

遊撃手「あん?」

一瞬、打者と目線が合った気がした。
その口角は上がり、たしかにニヤリと笑っていた。
まるで狩人が罠に掛かった獲物を追い詰めるように。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:24:56.20 ID:5z5KLsM0<>すると、打者はニヤリと笑って水平に構えたバットを引いて、ボールを引き付ける。
左足を擦って踏み出しながら広く開いた三遊間目掛けてフルスイング!

『「バスターエンドランっ!?」』

通常のポジションに構えていたのならばなんでもない打球が、
しかしこの時だけは広く開いた三遊間を鋭利に切り裂いていった。

遊撃手「く……っそ!」

スタートを切っていたランナーは打球が抜ける事を確認するとセカンドベースの内側を左足で蹴って加速加速。
レフトが打球を処理する間に一気に三塁を陥れる事に成功した。
相手アルプススタンドは狂喜乱舞、ブラスバンドの応援が通常より2割り増しとばかりに空に響く。
攻撃側のベンチからも歓声が沸き、心踊り、活気に満ち溢れている。
ラッキーセブンに訪れた契機を逃すまいと息巻いている様だ。
対象的に、ここから相手のクリーンナップを迎える守備側にとっては、重く、長いイニングになっていく事だろう。
これはたまらないとばかりに守備側がタイムを取り、ベンチから伝令が送られる。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:26:02.63 ID:5z5KLsM0<>伝令を伝えるためベンチから勢いよく飛び出した選手はラインの手前で主審に一礼し、マウンドに出来た野手陣の輪に加わった。
投手、捕手、一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手。
皆それぞれに表情は硬く、緊張の色が見て取れる。

遊撃手「……すまねぇ、アウト焦って早めに動いちまった」

遊撃手がシュンとした声で下を見ながら呟く。

捕手「良いって気にすんな、あんなサインプレーやられちゃしょうがない。それより次抑えよう」

捕手が肩を二度三度叩いて緊張を解くように促す。
その声も普段と比べると随分浮ついているのだが。
無理もないだろう。
7回まで0−0のゼロゲーム、ここまで無失点で切り抜けてきた事が逆に野手の緊張を招いてしまっている。
ピンチらしいピンチはこれがこのゲーム最初だ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:27:58.11 ID:5z5KLsM0<>二塁手「打たれたのは気にするな。それより守備どうするよ、一点やってもいいんかいな?」

主将の二塁手が切り出す。
守備陣形、無失点で切り抜けるのか、三塁ランナーは無視してセカンドゲッツーを狙うのか。

三塁手「監督は何て?」

伝令「無失点で切り抜けてこいって」

三塁手「そりゃそう出来たら最高だけどさ……」

遊撃手「ったくあの監督、少しはまともな指示寄越しやがれってんだ」

遊撃手はバンバンとグラブを叩きながら悪態をつく。

伝令「す、すみません」

二塁手「こらこら、伝令を責めてもどうしようもないだろう」

遊撃手「そりゃそうだけどよ!」

二塁手「落ち着け」

遊撃手「っ」

二塁手「監督が無失点で乗り切れって言ってる以上、俺らはそうするしかない」

遊撃手「……」

二塁手「そゆことだ、オーケー?」

二塁手に窘められて遊撃手は「わかったよ」頷いた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:29:00.27 ID:5z5KLsM0<>ラッキーセブン。

クリーンアップ。

投手の疲労。

ランナー1・3塁。

これを無失点で切り抜けられたら、このゲームの流れは大きく守備側に傾くだろう。

それは逆に一点でも与えると向こうに流れを渡すことを意味している。

二塁手「無失点ってことはホーム優先な、牽制して三塁ランナーが自重したら後は近い塁でアウトを獲る。セカンドショートは前進すっからなるべくゴロで頼む」

主将の指示にバッテリーが頷く。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:30:02.74 ID:5z5KLsM0<>捕手「スクイズもあるかもしれねぇ。投手、頭いれとけよ」

投手「うん、わかった」

コクリと頷く背番号1、チームのエース。
茹だる様な暑さの中120を超える球数に加えて試合間隔が短い中での連投。
できることならなるべく早くベンチで休ませてあげたい。
それは守っている野手の共通意識でもあった。

審判「タイム長いよ! 急いで!」

主審が早く守備位置に戻るように急かす。
試合のスピードアップは高校野球の基本方針だ。

「っしゃ! 抑えるぞ!」

おお! と咆哮一つ。

やることは決まった。
あとは凌ぐだけ!
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:31:43.12 ID:5z5KLsM0<>◇ ◇ ◇ ◇


試合は最終回に突入していた。
7回に失った一点は重く、勝負の天秤はずっと片方に振り切れたままだ。
たった一点、されど一点。
どれだけホームランにホームランを重ねて大量得点したとしても、相手がそれを上回ればそれまで。
勝敗を決する上でこの一点というのは重い。
バッターボックスでは味方打者の懸命のスイングも空しく捕手のミットに白球が収まり空振り三振。
マウンド上で汗を拭くプロ注目の右腕が奪った三振はこれで16。

遊撃手「9回裏、ツーアウトランナー無し、バッター俺ってか」

最悪の展開だな。
遊撃を守っていた背番号6の彼は悪態をつきながらも僅かな希望に掛けてバッターボックスへと向かう。
フォークにスライダーにシンカー。
多彩な変化球を軸に16個もの三振の山を築いた相手投手が今日はこれでまだ本調子でないというのだから、全くふざけた話だと思う。
それでも、

遊撃手「繋げばまだ目はある、野球は9回ツーアウトからだ」

『遊撃手さん、その意気だよ』

遊撃手「おうよ」

『うんうん、がんばって』

遊撃手「……あん?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:32:27.01 ID:5z5KLsM0<>まただ。
また、何か聞こえた気がする。
それもスタンドからではない、わりと自分の耳に近い位置で。
何だったんだろう、足場をならしながら適当に考える、まあどうせ空耳だろう。

さて。

バッターボックスに入ったら打つことが自分の仕事だ。
背番号6の彼は踏み荒らされて曖昧になったラインの一番前に立つ。
これまで3打席とも変化球に詰まらされて打ち取られてきた。
あのやっかいな変化球さえなんとかなれば。あるいは、甘く入ってきた直球を。
第一球。
これが100球以上投げた後のストレートかと思うくらいに素晴らしいボールがミットを鳴らした。

遊撃手「……く」

良いボールだ。
来年のドラフト候補というのも頷ける。
だからと言って指を咥えて黙っているというわけにもいかない。
さあ来い! 大きな声を一つ出して投手と向き合う。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:33:36.70 ID:5z5KLsM0<>対するマウンドの彼はニコリと笑う。
そこには皮肉も何も籠められていない、ただ純粋に投球を楽しんでいるのだろう。
最後の獲物をどうして仕留めてやるか、プレートを踏みながらその一点に意識が収束されていく。
コクリと頷きサインの交換が終わる。
狩りを終わらせる最後の一球になるか、それとも。


センターバックスクリーンのスコアボードから投手へと視点を戻しながら、打席の中で考えることは一つ。
自分はこんなところで負けてられない。
甲子園に行くんだろう。
きっと全国大会にはこんな「呼吸をするのと同じ感覚で三振を奪う投手」が山ほど居るのだろう。
逃げていてはいけない、向かっていかなくてはいけない。

遊撃手「(好球必打っ!)」

小さな決意とともに転がった打球の行方は──。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:34:44.90 ID:5z5KLsM0<>マウンドの手前で大きく跳ねた打球は精一杯ジャンプした投手のグラブを掠めてセンター方向に向かっていった。

遊撃手「(しめた!)」

背番号6の彼は心の中でガッツボーズをしながら快足を飛ばす。
あの位置なら守備は追いつけないだろう。
追いつけたとしてもこれだけ打球が跳ねればその分だけ打球を処理するまでの時間を稼ぐ事ができる!
できることならば最後のバッターになるのは御免被りたい。
涼しい顔して投げる相手投手に一泡拭かせてやりたい。
が。
一塁ベースを見据えて走る彼からは見えないが、捕球しようとジャンプして打球を振り返りながら着地した投手は特に慌てるでもなくただ淡々と

ピッチャー「セカンド追いつける、ショートカバー」

指示を出していた。
その声に応えるようにセカンドはセンター前に抜けようとする打球に横っ飛び!
ここまでのプレーは高校生のそれだった。
センター前に抜ける打球を内野で止める、それでオッケー、普通なら合格点だ。
が。
守備の流れはそれだけで終わらなかった。
セカンドはグラブに入ったボールをそのままカバーリングにきていたショートにグラブトスの要領で渡す。
利き腕で捕球したショートはその体勢のまま一塁目掛けて送球。
一塁目掛けて走る背番号6の目に映ったのは、
いつだったかテレビで中日ドラゴンズの二遊間が見せたあのプレーだった。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:35:54.73 ID:5z5KLsM0<>口の中に土の味が広がる。
ヘッドスライディングをしたおかげで審判のコールが聞こえなかったが確認しなくてもわかる、この歓声を聞けば。

「やった! 勝った! 勝ったぁ!」
「これで決勝進出だ!」

女子生徒たちは甲高い声を上げ、ベンチに漏れた部員の野太い声が響く。
背番号6の彼は地面に這い蹲ったまましばらく動けないでいた。
アウトになった事、負けた事よりも今のプレーによる衝撃が彼の中で膨らんでいく。
とんでもない。
全国レベルってのは、どこまで行けば追いつけるんだ。
ただ突きつけられた事実の重さで彼は地面から起き上がることができなかった。
悲鳴と歓声が木霊する球場の中でひとつだけ

『遊撃手さん……』

確かにその声だけ切り取った様に、はっきりと背番号6の彼の耳に届いていた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:36:38.06 ID:5z5KLsM0<>◇ ◇ ◇ ◇


相手高校の校歌を聞きながら思うことはそんなに多くはない。
種類としては二つ程、多くの場合悔しさと嫉妬だ。
スポーツマンシップに則り、勝った相手を称えるのはもう少し後の話。
そんなに簡単に気持ちを切り替えて「次も勝てよ」と笑顔を作る事が出来ないのは背番号6の彼が不器用だからだろうか。
テープレコーダから流れる校歌が終わり、球場はパチパチパチと拍手の波に包まれる。

「よくやった!」
「次もがんばれ!」

そんな声が混じる。
羨望の眼差しで相手高校のユニフォームを眼の裏に焼き付ける。
それから自分達を応援してくれたアルプススタンドに向かって小走りで駆けて行く。

二塁手「応援ありがとうございましたっ」

一列に整列した選手達はスタンドに向かってぺこりと頭を垂れる。
先ほどまでため息に包まれたスタンドが今は拍手が鳴らされている。
清清しい光景だと思うのは外野の特権というもので、当の選手達からすれば悔しさの塊だろう。
新チームになって日が浅く、まだ実戦経験が浅いということもあるがそれは相手も同じ。
「たら」「れば」を言い出せばキリがないが相手も同じ高校生なのだ。
選手達は数多くの宿題と共に、これから春そして来るべき夏を目指して長く険しい冬を迎える事になる。
敗者というレッテルを貼られた彼ら、ベンチの荷物を片す動作にも若干重さが感じられる。
スポーツバッグに荷物を詰め込み、裏の通路を通る。そこでは勝ったチームのエースを中心に取材の輪が出来ていた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:37:58.48 ID:5z5KLsM0<>──投手戦になったけれど粘り強い投球でしたね。
──「ええ、味方を信じて「いつか点を取ってくれる」と思って投げきりました」

──最速148キロ、三振16。百点満点の投球だと思うけれど感想は?
──「今日は50点くらいです、変化球が抜ける場面が多くて、でも相手が見逃してくれたから助かりました」

──向こうのチームはどうだった?
──「すごく良いチームで、勢いがあって抑えるのが大変でした」

──最後は味方のビッグプレーが飛び出しましたね。
──「絶対アウトにできると信じていました」

──これで来年の春の甲子園決まりだね。甲子園に向けての意気込みを聞かせてもらえるかな?
──「まだ決まったわけじゃありません、気を抜かずに練習していきます」

──、
──「──」


「くっそ……次は負けねえからな……」

輪の中で屈託無く笑うエースに向けて負け犬の遠吠えが一つ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:40:56.79 ID:5z5KLsM0<>グラウンドに併設されている駐車場でダウンを済ませて、わらわらと同じ帽子が集まる。
監督らしき人物を中心に半円が出来上がる。
負けたとは言え、結果はベスト4だ。
選考次第では来春の甲子園に呼ばれてもおかしくない位置なのだが。

監督「……チ、俺の顔に泥を塗りやがって」

監督の言葉に選手達の顔が曇る。

監督「……俺は帰る、テメーらは勝手に反省会でもやってろ」

労いの言葉は一切無い。
怒気を含んだ声はチクチクと選手達の心を刺した。

遊撃手「ちょっと、監督」
監督「なんだぁ?!」

その態度はあんまりじゃないか、俺たちだって全力を尽くしたんだ
お前は選手がピンチに陥ってもまともな指示一つ寄越さないでベンチでふんぞり返っていただけだろうコノヤロウが! 
と、言おうとした遊撃の彼を二塁手が留める。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:41:26.43 ID:5z5KLsM0<>二塁手「なんでもないです、俺ら反省会やってから学校戻りますんで」

監督「……フン」

不穏な空気を察した選手達が何だ何だと騒ぎ始めた。
監督が完全に視界から消えたのを確認してから二塁手は、

二塁手「はぁ……、もうハラハラするから辞めてくれよ」

遊撃手「だってさ」

二塁手「あ〜も〜、はいはい。とりあえず監督は放っとけ」

遊撃手「なんであんなヤツが監督やってんだよ」

二塁手「副主将、こいつ宥めてくるから先に反省会やっといてくれるか?」

捕手「お安い御用ですぜ」

副主将の捕手は試合さながらに大きく頷いた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:43:28.82 ID:5z5KLsM0<>遊撃手の首根っこを掴んで木陰までつれてきた主将は、
背番号6の彼をどかっとベンチに無理矢理座らせつつ、

二塁手「その1、落ち着け」

遊撃手「落ち着いてるよ」


二塁手「その2、落ち着け」

遊撃手「だから落ち着いてるって!」


二塁手「3.4がなくても5で落ち着け」

遊撃手「……わかったよ」


二塁手「素直でよろしい」

さすが野球部主将、あっぱれ心理掌握である。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:45:01.68 ID:5z5KLsM0<>二塁手「俺も監督にはあんまり良い思いは無い、試合中まともな指示一つ寄越さない監督だからな」

お前の言いたい事もわかる、
ぽんと背番号6の彼の肩に手を置く。

二塁手「でもよ、今チームがバラバラになるのは不味い、指導者が居なくなっちまったら練習どころじゃねえだろ」

遊撃手「……」

二塁手「悔しいのは解る、俺だって悔しい。でも今それをぶつける相手は監督じゃない、わかるな?」

遊撃手「……おう」

二塁手「お前の理解が早くて助かるよ」

大げさに両手でバンザイのポーズをとって主将は笑う。
遊撃手は一度大きく深呼吸をした後、
最後のひっかかりを思いっきり吐き出した。

遊撃手「理事長の息子か何か知らんけど、こっちは道楽でやってんじゃねえんだよ」

二塁手「ほら言ってるそばから愚痴こぼさない」

遊撃手「へいへい、わかったよ」

二塁手「お前の理解が早くてほんっとうに助かるよ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:46:57.48 ID:5z5KLsM0<>
捕手「──というわけで、試合の感想ある人」

「……」

捕手「なんだ誰も無しか」

中堅手「じゃあ、いいか?」

捕手「どーぞ」

中堅手「打線は抑えられてたけど、こっちも抑えてたんだ。負けたのが不思議ってのが今日の素直な感想だよ」

左翼手「たしかに……つーか外野に飛んできたのってゴロとフライの2つだけだろ、後はなんだかんだ打たせて取ってたじゃんよ」

捕手「まー、うちのピッチャーの出来は100点通り越して150点だったからな今日」

投手「……」

捕手「べ……、別に褒めてなんかないんだからね! その、ちょっと、打線が援護できなかったから申し訳ないっていうか……」

右翼手「あーはいはい、夫婦漫才は他所でやってろ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:48:42.78 ID:5z5KLsM0<>二塁手「ただいま」

捕手「おう、主将に遊撃手、おかえりさん」

二塁手「話進んだ?」

右翼手「バッテリーの夫婦漫才が始まったとこだよ」

二塁手「全然進んでない、か」

三塁手「ま、そゆこと」


──ああでもないこうでもない。
こうしようああしよう──。
──守備がこうだ、
──打撃がこうだ。

相手の投手は凄かった、いやうちの投手の方がもっと凄かった。
夫婦漫才は他所でやってろ。
なんだと、そもそも打線が援護してりゃもっと楽な試合展開に持ち込めたんだぞ。
こらこら、喧嘩するとこじゃないだろう落ち着け。
確かに相手投手凄かったね──
いや、うちの守備がもっと────
だったら打撃で援護してあげてたら────────<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:50:29.26 ID:5z5KLsM0<>◇ ◇ ◇ ◇


夕暮れ。
スポーツバッグを左肩に引っさげた背番号6の彼は家路を急ぐ。
日も傾く時間だというのに陽炎が手招きするアスファルトの並木道には彼意外の人間は居なかった。
・・
人間は。

遊撃手「畜生、今日は完璧に負けた」

思い出す、守備。

遊撃手「あのバスターエンドランは完璧に裏をかかれた」

思い出す、打撃。

遊撃手「あの投手に完璧に押さえ込まれた」

思い出す、相手の華麗な守備。

遊撃手「あの二遊間、完璧……だったな」

がっくりうなだれる影が一つ。
差は果てしない。
自分が今地面に立っているとしたら上にいる連中はどこまで高くに居るのだろう。

『そんなに落ち込まないでも大丈夫だよ、遊撃手さん』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 20:52:12.17 ID:5z5KLsM0<>……まただ。
また聞こえる。
一体何なのだろう。
振り返る。
誰も居ない。
また聞こえる。

『元気だしてよ、ね? 遊撃手さん』

女性の声らしきものが聞こえてくるのだけれども、
どこにも影も形も見当たらない。

遊撃手「……ま、疲れてるんだろ。……試合にも負けたし」

『そうだね、疲れてる時は帰って寝る、これに限るね』

遊撃手「そうだな、帰って寝れば疲れも……っ?!」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:07:43.52 ID:5z5KLsM0<>……ちょっと待て。
自分は今、誰に相槌を打った?
もう一度振り返る。
そしてもう一度見る。
先ほどまで誰も居なかった場所に、ゆらゆらと揺れる小柄な人影が一つ。
その柔らかなシルエットは人影が女性である事を告げていた。
上下白の野球のユニフォームに身を包み、肩口まで伸ばしたショートカット。
半袖黒色のアンダーシャツの先はこの世のものとは思えない程に白く透き通った肌。
両の足が浮いていて、半透明になった少女。
そしてそれらの事実が少年の脳みそを金属バットで殴りつけたかのようにグラグラ揺らした。

遊撃手「ゆ……う、れい?」

口をついて出た言葉が幽霊を疑うものだったのは、もちろん否定の言葉で返して欲しいが為のものだった。
超常現象はプロ野球選手が投げる変化球や速球だけで充分だ。
それだって科学的な要素に基づいて投げられている。
しかし、今眼前に居る存在は、

『えっへん、私は本物の幽霊なのですよ』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:08:50.31 ID:5z5KLsM0<>胸を張る少女。
これだけ堂々としているのは、むしろ幽霊としてどうなのだろうと普段なら背番号6の彼も疑問に思っただろうが。
はたして彼に今それだけの余裕があるかどうか。

遊撃手「……」

幽霊『どうしたんですか? 遊撃手さん?』

遊撃手「……ク」

幽霊『ク?』

遊撃手「クックック……アッハッハッハッハ! あー、そうか。幽霊か、幽霊ときたか」

幽霊『えぇ、あ。はい。幽霊です』

遊撃手「いくら敗戦のショックとは言え……こんな現実逃避をしちまうとは……」

幽霊『いやだから逃避も何も現実なんですって』

幽霊にこれは現実だと諭される野球部員16歳。
なんとも滑稽な図ではないだろうか。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:09:56.23 ID:5z5KLsM0<>ひとしきり笑い終わった後で背番号6の彼は、

遊撃手「夢だろ」

幽霊『はい?』

遊撃手「そうだ、おかしいと思ったんだ。今日は悪い事が起こりすぎてる、チープな夢オチっていうアレだろ。な、そうなんだろ?」

幽霊『な、なんの事を言っているのでしょう……?』

遊撃手「待て、今証明してやる。古今東西あらゆる先人がやってきたネタだ、解除の方法くらいは心得ている」

そう言うと背番号6の彼はすっと手を夕陽に翳して頬を親指と人差し指で摘む。

遊撃手「ほら痛くな───、いっ?!」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:11:15.63 ID:5z5KLsM0<>──結論から言うとここは現実だった。

幽霊『何かわからないけれど、とりあえず落ち着きました?』

遊撃手「……、そんなバカな……ついに俺の脳みそは夏の暑さにやられて溶けちまったってのか……」

幽霊『もしもーし、遊撃手さん? 戻ってきてくださーい』

心配そうに背番号6の彼を覗き込む幽霊。

遊撃手「……その声、聞き覚えがある」

幽霊『あ、そうですか? ずっと試合中遊撃手さんのそばに居たんですよー?』

そばに居たんですよ? と首を傾げられても困る。
でも、確かに。
この声が聞こえていた気がする。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:13:24.89 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「……、7回の守備で失点に繋がったの直前のプレーは?」

幽霊『バスターエンドラン、ですよね』

遊撃手「相手投手の特徴と俺が立てた対策」

幽霊『組み立ては変化球主体だけど、力のあるストレートも忘れられないですね。だからバッターボックスの前に立つくらいじゃだめです』

遊撃手「今日の最後の打者は?」

幽霊『遊撃手さん』

遊撃手「……」

幽霊『?』

合ってますか?
と首を傾ける幽霊。

遊撃手「……、なんなんだ、お前」

幽霊『えっと、幽霊です?』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:14:38.13 ID:5z5KLsM0<>小首を傾げる幽霊を名乗る少女。
幽霊と言うからには幽霊なのだろう。
はいそうですかわかりましたとは問屋が卸さないが。

遊撃手「たしかに、お前は幽霊なんだろう。なんか浮いてるし、半透明だし、壁とかもすり抜けられそうだし」

幽霊『ふふ、わかっていただけました?』

遊撃手「理解はできる」

幽霊『よかった……』

ほっと胸を撫で下ろした幽霊に向かって、
少年は大きな声で、

遊撃手「だけど、納得できるかーっ!」

うがーと帽子を夕陽に向かって投げる野球部員16歳、
いっそこのままあの大きな夕陽に向かって走り出したい衝動に駆られる。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:16:43.07 ID:5z5KLsM0<>幽霊『うーん……どうしましょう。あ、そうだ。遊撃手さん』

遊撃手「あん?」

幽霊『私に触れてみてください』

遊撃手「はい?」

今なんと?

幽霊『だから、私に触れてみてください』

高校生とえば多感な時期だ。
例え幽霊からとは言え、こんな台詞を言われてしまった場合どうなるだろうか。
頭のネジが一本くらい飛んでしまっても不思議ではないかもしれない。
というか、もうすでに色々と飛んでしまっている気がしないでもないけれど。

遊撃手「い、いいのかよ?」

幽霊『ふふん、いいですよ。私の身体は色んなものをすり抜ける事ができるんです。幽霊ですからね』

なるほど。
ということは背番号6の彼はこの幽霊に触れる事ができないというわけだ。
触れる事ができなければ、晴れてこの少女が幽霊だという事が証明されるという構図だ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:18:11.07 ID:5z5KLsM0<>遊撃手「……」

ごくり。
唾を一つ飲む。
目の前には女の子(幽霊)
肌が白いのは幽霊だからだろうか、元々がこういう色なのだろうか。
よく見てみるとショートカットに切られた髪はなんだかサラサラで、夕陽を受けてキラキラと輝いている。
ぱっちりと開かれたくりくりの目は今にも背番号6の彼を飲み込んでしまいそうで、ぷいと目線を下に向ける。
浮いている。
浮翌遊している。
地面から乖離している。
だらりと垂れた足には野球部員御用達の白いアップシューズ。
本当に? 幽霊? 夢じゃない? 現実?
目の前の女の子(幽霊)は「ふふん」とやけに自信満々な様子だった。
ああもう考えるのがめんどくさい。楽になろう、楽になってしまおう。

遊撃手『遊撃手さん。はやく』

誘っているのだろうか、この幽霊は。
いや、幽霊に欲情するってそれ人間としてどうなのよ?
とかく急かされ、少年は手を伸ばす。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:20:27.01 ID:5z5KLsM0<>幽霊『ほら、はやく』

幽霊『怖がらないでいいですよ、遊撃手さん』

あと10センチ、あと7センチ、あと5センチ、
頭の中でさっきから同じ言葉がリフレインする。
あと3センチ、あと2センチ、あと──

幽霊『ちゃんとすり抜け────』

むに。

『すり抜け────て────』

「むに?」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/15(日) 21:21:59.40 ID:5z5KLsM0<>何かわからないが、
とてもやわらかいものが手に当たった感触だけは解った。
おそるおそる顔をあげると、
少年の手は少女のユニフォームの胸にある二つの起伏の一つに、たしかに触れていた。
触れていたのだ。

幽霊『き』

遊撃手「き?」

幽霊『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ?!』

ああ、もう幽霊だとか夢とか現実だとかどうでも良い。
いっそこのまま倒れてしまいたい。
これが背番号6の彼と幽霊の邂逅だった。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 17:52:13.08 ID:5iMvNn.0<>野球と幸薄少女が大好物だから何という俺得
支援するじぇ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/16(月) 22:22:44.56 ID:dbfr/lI0<>◇ ◇ ◇ ◇


背番号6の彼が周囲から「野球を始めた理由は?」と尋ねられると決まって
「おとーさんがかっこよかったから」と返答する。
試合を見たのはただ一度きり、
マスクやレガースといった防具で身を包みチームを影から支える捕手というポジションに座る父の背。
試合後、父は花束を片手にたくさんの人から祝福されていた。
まだ小さかった背番号6の彼を肩に乗せて、誇らしげな表情の父。

それが父の引退試合だったという事を知ったのは、もっとずっと後になってからわかった事だ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:24:28.49 ID:dbfr/lI0<>その後──、

小学校低学年でリトルリーグに入団した彼は一塁、三塁、二塁、遊撃と内野のポジションを転々とし、
最後には「なんとなく守備範囲が広いから気に入った」と遊撃手になることを選択した。

本当は父を追い捕手になりたかったのだが当時「体が小さいから危ない」という理由でマスクを被らせてもらえないでいたのは、未だに悔しい思い出の一つである。
それでも、それ以上に遊撃というポジションは彼にとって魅力的だった。

試合中は内外野にサインを送り休む暇もなく動き回るし、アウトカウントや打球の方向で変わるカバーリングの動きも複雑だ。
しかも守備ばかり考えていられない、打席に立てば「足が速いから」と据えられたトップバッターとしての役割をこなさなければならない。

練習試合では「可能な限り色々なポジションを経験させよう」というチーム方針の下、投手としてマウンドに上がる事もあった。
カーブのサインに頷いて投げたつもりなのだが全く曲がらず、ただ重力に従って落ちるだけのボールを「しょんべんカーブ」と揶揄されたけれども、
「いいんだ、自分の本職は投手じゃないんだから」と意に介さなかった。
この時から同じチームだった二塁手兼野球部主将には未だにこの話題でからかわれる事もあるが……。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:26:25.36 ID:dbfr/lI0<>父はプロ野球選手を引退し、知り合いの会社に入社。平日は忙しく、彼が眠りについてから帰宅することもしばしばあったが、休日はたまに彼のキャッチボールの相手になってくれる。
母はそんな父を支え、野球にまったく興味の無い姉は「も〜、あんた今日もそんな汚してきたの? 誰が洗濯すると思ってんのよ」とぷりぷり言いながらもひっそりと試合を見に来てくれている事を彼は知っている。
去年生まれたばかりの妹を初めて見たときはしわしわで宇宙人みたいだった、
その宇宙人は最近「あー」とか「うー」とか「ぱんぱ」とか「まんま」とか言葉を話すようになってきたけれど。
近頃は父から「お前ももうお兄ちゃんなんだぞー」と言われた実感がやっとこさ沸いてきた具合だ。
学校に行けば「昨日の横浜の試合みた? むっちゃ強いよなあ」と談笑し、放課後はユニフォームを着てドロドロになるまで白球を追いかける。
休日はバスで隣県まで試合に遠征、大会とあれば家族総出で応援に駆けつける。

そうして、なんだかんだで彼の生活は野球一色に染まっていった……。



「────────────Zzz」

「────────Zzz」

「────Zzz」

「──むにゃ?」 <> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:29:02.23 ID:dbfr/lI0<>眠い目を開ければ木目の天井が飛び込んできた。
そこで、背番号6の彼は自分が今まで夢を見ていた事に気がついた。
色あせた横浜ベイスターズのポスターが先ほどまでの景色との違いを示している。
いつの間にここで寝ていたのだろうか、前後の記憶が曖昧だ。
今は何時だろうか、時計を確認すると6を指していた。

遊撃手「ふあぁああ……」

うーん、と両手をあげ伸びを一つ。
血が巡っていく、まどろみながら小鳥の囀りで今が朝方だという事をぼんやりと考えていた。
欠伸をしながらベッドから抜け出る。
部屋のカレンダーには昨日の日付に秋季大会、準決勝! と大きな文字が書かれてあった。

遊撃手「あぁ、そういえば昨日負けたんだっけ……」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:30:17.05 ID:dbfr/lI0<>頭を掻きながら思い出す。
昨日あれだけ悔しかったはずなのに一夜立ってみればこの様子だ。
まだ、甲子園出場の道が絶たれたわけじゃない。
春はもう厳しいが、まだ夏のチャンスが残っている。
そのために守備・打撃・走塁、まだまだやらなきゃいけない事がたくさんある。

遊撃手「っしゃ、そんじゃあボチボチ頑張っていきましょうかね」

ぽん、と。
両手で頬を叩く。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:33:46.82 ID:dbfr/lI0<>チカチカと光る携帯電話を開けるとクラス委員から
「金曜日のクラス会で文化祭の出し物お化け屋敷に決まったから、よろしくお願いします」とメールが入っていた。
そういえば金曜日は試合に備えて午後から授業抜けて練習してたんだっけ。
クラスの出し物が決まったというのに少年はあまり興味なさげに欠伸を一つ。

『あ、遊撃手さん。おはようございます』

遊撃手「おう、おはよ」

爽やかな朝は爽やかな挨拶から。
彼は条件反射で挨拶を返す。
挨拶というのは良いものだ、儒教には「礼に始まり礼に終わる」という言葉があるが、
彼が好きな言葉の一つだった。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:34:44.73 ID:dbfr/lI0<>『元気ですね遊撃手さん、何か良い事あったんですか?』

遊撃手「ん? まだまだやらなきゃいけない事がたくさんあるなーって燃えてたとこだよ」

『へ〜、それは良い事ですね』

遊撃手「だろ?」

『はいっ』



遊撃手「…………?」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:38:22.83 ID:dbfr/lI0<>そこで彼はある一つの、とても単純な疑問にたどり着く。
自分は今、
一体誰と話しているのかと。

『どうしたんですか遊撃手さん?』

遊撃手「お、おおおおおおおまお、おま、お前、なんでここに?!」

『なんでって、幽霊ですから?』

幽霊ですから? と小首を傾げる少女が一人宙にくるりと浮かんでいる。
その足は地面から乖離し、重力に逆らいながらフワフワしている。
相変わらず肩口までのショートカットに野球のユニフォーム姿だ。
背丈は少年より二周り程小さく、その柔らかい曲線が幽霊の性別を知らせていた。


遊撃手「幽霊ですから? って疑問形で返されてもこっちが困るわい」

幽霊『いいじゃないですか、私行くとこ無いんです。お邪魔させてください』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:41:47.09 ID:dbfr/lI0<>お邪魔させてください。
両手を組み、どかりと畳の上に座り込む幽霊。
盗人猛々しいという言葉はこの場合当てはまるのだろうか?

遊撃手「いや、だってお前幽霊なんだろ?」

ベットから起き上がり、呆れつつ彼は続ける。

幽霊『そうですよ?』

遊撃手「だったらどこにでも好きな所に行きたいとこに行けば良いじゃないか、壁とかもすり抜けられるんだろ? 浮いてどこまでも行けるんだろ?」

幽霊『……』

遊撃手「な、なんだよ」

幽霊『やっと、……やっと話が通じる人がみつかったんです』

遊撃手「いや、そりゃお前の都合だろう」

幽霊『みんな私が話しかけても無視するし……私……、私、とっても、さみしかったんですよ……?」

遊撃手「……」

幽霊『遊撃手さんは私の声も聞こえるし姿も見えるんですよねっ?!』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:48:59.26 ID:dbfr/lI0<>幽霊『……ここで遊撃手さんとバイバイしちゃうと、また私、一人です……』

遊撃手「……他を当たってくれ」

幽霊『ずっと、暗くて、消えてしまいそうで、苦しくて、寂しくて、でも消えたくても消えることができなくて』

遊撃手「……」

幽霊『……』

遊撃手「……、お前、幽霊なんだろ?」

半透明、浮いた足。
今にも消え入りそうな存在が揺れる。
なぜこの少女は今こうして自分の目の前に居るのだろうか。
なぜ自分にだけ姿が見えて、なぜ自分にだけ声が聞こえるのだろうか。
なぜ、どうして。
誰の陰謀だ、首謀者が居たら今すぐ出てこい、説明しやがれ。
そして、

遊撃手「……、俺に……どうしろってんだよ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:52:05.20 ID:dbfr/lI0<>幽霊『私はっ……』

遊撃手「……」

幽霊『……わかりました』

遊撃手「あん?」

幽霊『幽霊が出すぎた真似をして申し訳ありません』

遊撃手「お、おい?」

幽霊『そうですよね、迷惑ですよね。お邪魔しちゃってごめんなさい、……さよなら、遊撃手さん』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:54:40.63 ID:dbfr/lI0<>「さよなら」を告げた少女は音も無く立ち上がると少年の部屋のドアをすり抜け、そして消えて行った。
その先にあるのは光か闇か、少年には木目のドアしか見ることができなかった。
部屋に取り残された遊撃手が一人。

静けさが包む。

チクタク進む時計の針だけがやけに鼓膜に響いてくる。
……いや、ちょっと待て。
あいつここからどこかに行く宛はあるのか?
幽霊とは言え女の子……なんだぞ。
わけもわからず霊体(?)になって、誰からも相手にされずに、
やっと見つけた話し相手から追い出されるように去っていく。
そんなのって、


……もし自分がそんな立場だったら?


寝起きの頭が段々と覚醒していくごとに胸をちくりちくりと何かが刺す。

遊撃手「……ちっ」

彼はある決意を胸に幽霊が通り抜けたドアを開ける。
ドタドタと階段を下りリビングを目指すそこには、<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:55:42.62 ID:dbfr/lI0<>「はい、幽霊ちゃん。あーん」


幽霊『うーん、妹ちゃん。このリンゴとっても美味しいですー』

妹「でしょー? たくさんあるからいっぱい食べてねー幽霊ちゃん」

幽霊『はいですっ』


幽霊に餌付けする妹が一人。
背番号6の彼が階段から転げ落ちる様にずっこけたのは言うまでもない。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 22:56:55.87 ID:dbfr/lI0<>遊撃手「おォォォォォい、幽霊ィィィィィィィ!」

不屈の闘志で起き上がった彼は、
ずかずかと大またで歩いてリビングの幽霊との距離を詰める。

幽霊『はいっ?』

遊撃手「ちょっとこっち来い」

手を掴んでリンゴを食べながらまったりよろしくやっていた幽霊を立たせる。
はむはむ、ともう片方の手でリンゴを頬張りながら幸せそうな顔をしているのはなんとも滑稽だった。

幽霊『あぁーれぇー、たすけてぇー』

江戸時代のアレかお前はと突っ込みを入れながら階段を上ろうとしたその瞬間、

妹「おにいちゃん、幽霊ちゃんどこにつれてくのー?」

後ろから、まさに背後霊の如く妹の声が飛び込んできた。
つーか「幽霊ちゃん」って何なわけ? 
いつの間にそこまで仲良くなったの? 
さっきどこにも行くところないって行ってなかったっけ?
色々な意味をこめて幽霊に目線を150キロで投げると幽霊はリンゴを頬張りながらえへへと笑っていた。
だめだこいつ……。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:01:28.20 ID:dbfr/lI0<>遊撃手「すまんな、これ幽霊じゃなくて学校の友達なんだ、本物みたいだろ?」

妹「えぇっ? そうなのー?」

遊撃手「すごいだろ? 今度の学園祭の出し物はずばり「お化け屋敷」だ、メイクとか色々練習してたんだよ」

妹「おにいちゃんたちすごいねぇー、こんな朝から練習してるんだねぇー」

遊撃手「当たり前だ」

妹「?」

遊撃手「やるからにはなんでも一番を目指す、それがここの家訓だからな」

妹「かくんってなーに?」

遊撃手「妹よ、あとで教えてあげるからお弁当つくっててくれないか」

妹「はーい」

嘘は2割程度の真実を混ぜると真実味が増すという話をどこかで聞いたのを思い出しながら
背番号6の彼は足りない頭をフル稼働して「文化祭の特殊メイクの練習中」という考えられる中で最高に有り得そうで真っ当な言い訳をさも当たり前のようにスラスラと言い放った。
それプラスして家訓という妹が知らない単語を使うことで妹の意識をぼかすことにも成功した二重のトリックだ。
何かもう色々と矛盾めいているのはこの際気にしないで置こう。
とにもかくにも妹は「ふんふーん」と鼻歌まじりでキッチンへと向かっていった。
ハンバーグが得意料理という妹はまだ小学3年生だというのに料理の一回り年上の姉を差し置いて、母にも迫ろうかという按配であった。
父と母が出張で姉が修学旅行中な今、この家の台所の支配者は他ならぬ妹だ。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:02:58.09 ID:dbfr/lI0<>遊撃手「で」

色あせた横浜ベイスターズのポスターが飾ってある部屋で正座する幽霊が一人。

遊撃手「なに人の妹に餌付けられてんだよ」

幽霊『だって食べていいって言うから……、つい……』

遊撃手「ついじゃねえよ、ついじゃ」

幽霊『女の子はおいしいものと可愛いものには無力なのです……』

しゅんと項垂れる幽霊。
存在感とも相俟って本当にこのまま消えてしまいそうだった。
というか食い意地張った幽霊ってどうなのよと感想を一つ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:04:18.88 ID:dbfr/lI0<>遊撃手「ったくよーお前さ、本当に幽霊なわけ? 俺も妹も普通に見えるし話せるんだろ?」

幽霊『そうでした、遊撃手さんだけでなく妹ちゃんも! びっくりです!』

グっと右手でガッツポーズを作り、とにかくびっくりです! 
と、幽霊は力説する。

遊撃手「いやそんなガッツポーズされても、こっちがびっくりだよ」

幽霊『遊撃手さん一家はエスパーか何かの一族なのでしょうか?』

遊撃手「人の一族を勝手にオカルトマニアにしないでもらえるか……」

幽霊『ふふっ、冗談ですよっ』

遊撃手「……幽霊でも冗談とか言うんだな」

幽霊『さあ、他の幽霊を見たことありませんから?』

見たことありませんから? と小首を傾げる幽霊。
ショートカットの髪が揺れる。
はぁ、とため息が一つ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:05:45.65 ID:dbfr/lI0<>遊撃手「……いいよ」

幽霊『え?』

遊撃手「どこにも行くところないんだったら俺の傍に居ろよ」

幽霊『ほんとですか?』

ぱあああああああ。
と、幽霊の表情がにわかに明るくなる。

遊撃手「ただし」

幽霊『?』

遊撃手「妹には見つかるなよ、さっきは上手く誤魔化せたけど、お前の存在が明るみになってTV局とかマスコミが押しかけられても困るからな」

幽霊『うふふっ、私は幽霊ですよ? 簡単には見つかりませんよっ』


妹「おにーちゃーん、朝ごはんできたよー」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:07:10.42 ID:dbfr/lI0<>どたどたと階段を駆け上がってくる音が聞こえる。
ウサギがプリントされたエプロンをつけた妹がまさに今、
彼の部屋に上陸しようとしていた。

遊撃手「やべっ、あいつこの部屋入ってくるぞっ、どっか隠れてろ」

幽霊『へ? え?』

遊撃手「いいから早くっ」

むに。

そこのタンスを指そうとして伸ばした右手が柔らかい何かに当たる。

遊撃手「むに?」

幽霊『……』

遊撃手「……むに?」

幽霊『……』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:08:30.12 ID:dbfr/lI0<>────────────
────
────────
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:09:19.97 ID:dbfr/lI0<>幽霊『……』

幽霊『き』

遊撃手「……いや、悪かった、俺が悪かった、全面的に俺が悪かった。だから、その、ええと。何だ、」

幽霊『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

妹「おにーちゃーん? なんの声ー?」

遊撃手「なんでもねぇ、なんでもねぇ!」

妹「おにーちゃーん? 開けてよー?」

遊撃手「ああもう! クソッタレ!」

こうして、
彼と幽霊との奇妙な共同生活が始まった。


────
────────
────────────<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/16(月) 23:11:35.14 ID:dbfr/lI0<>>>76
なんか間違って投稿しちゃいましたorz


>>56
ありがとうございます
ここに投下するの初めてだからテンションが掴めないけれどマイペースでやっていきます<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/17(火) 08:36:00.28 ID:DBKgkQIo<>よくわからんけどスクロールしたら妹が出てたので読みますがんばって
あと製作速報はメ欄に「saga」って打つと[ピーーー]とか[ピーーー]とかが解禁されるよ
「サゲ」じゃないよ「サガ」だよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 19:17:52.56 ID:RBWu8mA0<>>>79
そうなんですか、
教えてくれてありがとうございます。
ピーって何の言葉が制限されてるんでしょうね?
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 19:19:08.72 ID:RBWu8mA0<>幽霊『──────』


幽霊『──────』


幽霊『──、という二人の出会いだったのです』

遊撃手「さっきから誰に向かって話してんだよ」

幽霊『画面の前の皆さんに決まってるじゃないですか』

遊撃手「画面の前の皆さんになら仕方ない」

幽霊『でしょ』

遊撃手「だな」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 19:33:45.89 ID:RBWu8mA0<>遊撃手「っと、もうこんな時間か」

幽霊『学校の時間ですね♪』

遊撃手「お前、やけに楽しそうだな」

幽霊『だって学校ですよ? あー、もう。ワクワクしちゃうなあ』

遊撃手「何がそんなに楽しいやら、というかこの間も言ったけどよ授業中教室でフワフワ浮かんで飛び回るの禁止な」

幽霊『えぇっ?! 何でですか!』

遊撃手「霊感あるやつとか居たら見つかってメンドクサイだろうが」

幽霊『う〜ん……、じゃあ大人しくしときます』<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 19:42:20.09 ID:RBWu8mA0<>シュンと項垂れる少女をよそに
チクタクチクタク、時計の針が進む。
長針が8にさしかかろうとしていた。

妹「おにーちゃーん、学校いくよー」

遊撃手「今行くから待ってろ」

妹「はーやーくー、遅刻しちゃうよー?」

玄関から聞こえる妹の声に適当に返事を返しながら身支度を整える。
浮かんでいる少女を見遣ると目をウルウルさせて「私もいきますうぅ」というオーラが滲み出ていた。
あ、これが呪いかとか言うと冗談にも聞こえないので辞めておいた。
はぁ、とため息ひとつ。

遊撃手「ほら、付いてきてもいいけど妹には見つからない様に隠れてろよ?」

幽霊『はいっ』

ぱあああああ、と少女の顔が一気に明るくなる。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 20:14:18.66 ID:TMncUhU0<>遊撃手「忘れ物は無いな?」

妹「うんっ」

妹の小学校は歩いて5分程の場所に位置している。
その先の並木道を南に500m程テクテク歩いていけば少年の通う○×高校の正門にぶち当たる。
あまり大きい町では無いので、自然にこうやって学校が集まる区画というのが出来上がったのだ。
近々どこかの大学のキャンパスを招聘するらしく、町では忙しく建築材料を満載したトラックが忙しく走り回っていた。

妹「それでねっ、きのうのテストは90点だったの!」

遊撃手「おー、そうかそうか。お前は頭が良いなぁ」

えへへ、褒めてもらった。と笑う妹の笑顔はどこか少年のそれに似ていた。
適当に話しながら国道沿いを歩く二人と幽霊。
幽霊は電柱一本くらいの間をあけて二人の後ろをゆらゆら浮きながら追っていた。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/17(火) 20:18:36.29 ID:TMncUhU0<>幽霊『うーん、仲の良い兄妹ですねえ』

言いながら少女は欠けた記憶に想いを馳せる。
生前自分はどういった人間だったのか、どんな友達が居て、どんな家族が居て。
まだ、たぶん。
自分には未練があるのだろう。
遣り残した事があるのだろう。

幽霊『私にもお兄ちゃんとか弟とか、お姉ちゃんとか妹とか、家族は居たんでしょうか。幸せだったんでしょうか、最期はどんなだったんでしょうか』

それを見つけるために、
今自分はここに居るのだろう。
もし全てを思い出す事が出来たなら、その時はきっと──。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/08/31(火) 09:20:21.53 ID:uE3NfnYo<>そして2週間がたった…<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/02(木) 22:09:06.57 ID:O6BRCS.o<>え?マジでもう終わりなの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/24(金) 10:04:03.66 ID:aP9VpGIo<>おいおいもう一か月たったけどあきらめたの?html化依頼とか出してもいいの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/20(水) 19:44:42.95 ID:h6h4wx20<>つづきー!<> lain. ★<>sage<>2011/02/19(土) 01:08:03.96 ID:???<> SSスレッドは、SS速報VIP【http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/】へ移転することになりました。
それに伴いこちらのスレッドをHTML化させて頂きます。
スレッドを立て直す際はSS速報VIPへお願いします。 <>