VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:32:06.13 ID:grjzgmM0<>
最初に簡単な注意を


・主人公はとあるミサカと建宮になります

・作者が台本形式を苦手としているため、セリフの前に名前はつきません

・恋愛要素が入ってきます(特定のカップルが苦手な方などはご注意ください)


これらの点を踏まえて、お付き合いしてくださる方はよろしくお願いします

<>とあるミサカと天草式十字凄教 VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:32:40.46 ID:grjzgmM0<>
8月16日、学園都市のとある研究所



2人の研究者が、言い争いをしていた。


「ドクター天井、これは決定事項でス」

「そ、そんな!?それでは、私に入る金が…」

「このままでは、『絶対能力進化計画』そのものが破綻しますヨ」


1人は天井亜雄。かつて『量産型能力者計画』を指揮していた、優秀な科学者である。

だが、その計画は樹形図の設計者の予測演算の結果不可能と判断されたため、凍結されてしまった。

その時負った負債を返済するため、彼はこの『絶対能力進化計画』に参加していた。


「ようやく実験が軌道に乗ったところなんだぞ!」

「それをみすみす外部研究施設へ引き継ぐなど、話にならない!」

「…では、このまま謎の襲撃者が計画を台無しにするのを待ちますカ?」

「クソ…」

「お引き取りを、ドクター天井。借金の返済プランはご自分でお考えくださイ」


結局、失意のうちに天井は研究所を後にした。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:33:43.04 ID:grjzgmM0<>
『絶対能力進化計画』

――超電磁砲こと御坂美琴のクローンを、2万回一方通行に殺させることで、レベル6へ進化させるという狂気のプラン。

その計画を知った御坂美琴が、実験関連施設を無差別に破壊。

すでに残る実験施設がわずか2基となり、実験存続が危ぶまれることになった。

実験責任者は、計画維持のために外部研究施設へ実験を委託することを決定した。

もちろん、そのためには多額の利権を相手に支払う事になる。

つまりそれは、天井に入ってくる報酬が格段に下がることを意味していた。


(…どうすればいいのだ、私は…)

(これというのも、全ては『量産型能力者計画』が中止させられたから…!)

(私なら成功できたかもしれないじゃないか…)

(とにかく金、金が必要だ)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:34:37.40 ID:grjzgmM0<>
(!)

(そうだ、アイツを売ってしまおう。少しは金になるはずだ)


天井はすぐに自宅へ戻ると、その地下室で保存されている『実験動物』に目をやった。

さっと目を通し、異常が無い事を確認。

それを確認すると、学園都市外部の知り合いへ電話をかけた。


(すでに役に立たない『量産型能力者計画』の残骸、検体番号00000号を外部に売ってしまおう)

(欲しがっていた連中なら山ほどいるんだからな)


やがて取引が成立し、すぐに『検体番号00000号(フルチューニング)』を渡すことになった。


(焼け石に水だが、当座の金にはなった。悪く思うなよ)


そして天井は培養器ごと、その中で眠る少女をどこかへ運び出した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:35:24.04 ID:grjzgmM0<>
それから4時間後、学園都市を遠く離れたとある港


フルチューニングを買ったのは、とある魔術結社だった。

彼らは『学園都市に敵対する研究所』の振りをして、天井と取引をした。

謎の多い科学サイドの情報を手に入れるためである。

無事にフルチューニングを受け取った彼ら4人が、彼女を培養器から取り出し、急いで船に積み込もうとした時…


「いかんよなぁ、こんなモノを見ちまったら、助けない訳にはいかないのよ」


フランベルジェが神速で舞い、4人の魔術師を圧倒した。


「…バカな、天草式十字凄教の人間だと…!?」

「おや、知っているのか。我らも有名になったものよな」


フランベルジェを握る男が、この場にそぐわぬ笑顔を見せる。


「…落ち着け、奴は1人だ!あの女教皇(プリエステス)がいないなら、数で倒せる!」

「いやあ、話はちゃんと聞くべきなのよな?…“我ら”って言ったろ?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:35:59.10 ID:grjzgmM0<>
その言葉にギョッとして魔術師が辺りを見まわし、ようやく彼らはその気配を感じ取ることが出来た。

40、いや50人ほどの天草式十字凄教のメンバーが、武器を構えて包囲している事を。


「…何故だ、何故お前らが邪魔をする…?」

「そんなことは“決まっている”のよな」


そして、フランベルジェを軽く振りまわして、男――天草式の教皇代理、建宮斎字は1つだけ尋ねた。


「…我らが女教皇から得た教えは?」


天草式十字凄教が、声を揃えて答えた。


「救われぬ者に救いの手を!!」


それからわずか30秒後。天草式十字凄教は“救われぬ者”だったフルチューニングを救い出し、姿を消した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:36:43.49 ID:grjzgmM0<>
天草式十字凄教のとある拠点


「無事に間に合って、なによりなのよな」

「結構ギリギリでしたけどね」


笑顔の建宮に答えたのは、五和と呼ばれる少女だ。

培養器から取り出されていて、意識の無いフルチューニングを五和が看病していた。


「それにしても、魔術結社が誘拐を企んでいるって教えてくれた“電話の人”は誰なんでしょうね?」

「それが分からんのよ」


五和の問いに、困ったように頭を掻きながら建宮が答える。


「電話の声も、機械で変えてあったみたいだしね」

さらに、実際に連絡を受けた金髪の女性、対馬も2人の会話に加わった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:37:33.45 ID:grjzgmM0<>
「まあ、エグい事で有名なあの魔術結社に連れて行かれずに済んで、結果オーライなのよな」

「それはそうですけど…」


釈然としない様子の五和に、対馬が同意して言った。

「この子の名前や所属すら分からないし、早いとこ目が覚めるといいわね」


その言葉に建宮がイヤ、と反応した。

「所属は予想できる。多分、学園都市の能力者ってヤツなのよな」

「どうして建宮さんはそう思うんです?」

「簡単なことだ、五和。この子が入っていたと思われる培養器が、学園都市製だったのよ」

「あ」


思わず五和は項垂れる。あまりにも簡単なヒントが有ったではないか。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:38:54.25 ID:grjzgmM0<>
「でも、どうしてあいつらはこの子を培養器から取り出したのかしら?」

「多分、学園都市の人間を信用していないからだろう。発信器か何か付けられていると思ったのかもしれん」


対馬の疑問にも、よどみなく建宮が答えた。


「う…あ…」


その時、意識の無いフルチューニングが声を上げた。

慌てて五和が駆け寄って、話しかける。


「大丈夫ですか?ここは天草式の隠れ家で安全です。安心してください」

「…?…状況の把握が…出来ません…」


思わず顔を見合わせる天草式十字凄教のメンバーたち。



『妹達』の試作型が天草式十字凄教と交差するとき、物語は始まる――!
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/30(月) 22:39:26.47 ID:grjzgmM0<>
今回の投下は以上です

どうかこれからお付き合いくだされば幸いです

この話のテーマは、《もしもフルチューニングが天草式に拾われていたら》です


一応予定としては

第1章「天草式十字凄教と発電能力者」

第2章「オルソラ救出編(7巻準拠)」

第3章「ヴェネツィア編(11巻準拠)」

第4章「VSアックア編(16巻準拠)」

のつもりでいます


まったり投下していきますので、よろしくお願いします

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/30(月) 22:43:34.11 ID:xj7/RIDO<>乙なわけよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/30(月) 22:56:24.09 ID:D2NR4.SO<>期待おつ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/30(月) 23:09:17.50 ID:io7G4Dgo<>期待<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/30(月) 23:16:45.21 ID:AcjBYKw0<>ありそうで全然なかったシチュだね〜
期待してます<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/30(月) 23:27:02.26 ID:uimVfbco<>超期待してます<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 00:20:36.66 ID:B2DS3eco<>王女の5章も・・・支援<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 01:17:11.90 ID:O0oArEYo<>期待<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 10:14:10.73 ID:IXBqU4A0<>ここが新スレか
休憩時間短すぎwwwwww
やっぱりアイディア面白そうなので期待
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 10:22:13.49 ID:hfZ.49E0<>乙!!
期待

ぜひ>>16の案を!!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 10:49:44.48 ID:nsp8ChQ0<>何だこれ、面白いぞ
期待<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:51:33.15 ID:7mcGxeQ0<>
沢山のレスありがとうございます

>>16
>>19
もしも時間があれば、書いてみたいです


では投下します



天草式十字凄教のとある拠点


見た目高校生ぐらいの少女が、まるで赤ん坊のようにキョロキョロと辺りを見回す。

意識を取り戻したフルチューニングに、建宮が笑顔で話しかけた。


「まあ、混乱するのも無理は無いのよな。お前さんは誘拐されかかっていたんだぜ?」

「…誘拐?」

「はい。とある魔術結社によって、船で外国まで連れて行かれるところだったんです」


五和も笑顔で説明するが、フルチューニングは意味不明な事を聞いたように困り顔をした。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:52:31.88 ID:7mcGxeQ0<>
「『魔術結社』とやらはよく分かりませんが…ミサカは確か先方に売却されたはずでは?」

「え…」

「すでに代金も受け取っていたという情報も、インプットされています」

「様子を見る限り、あなたたちはその取引先相手ではないのですね。…むしろ誘拐犯は、この場合あなたたち…」

「ちょ、ちょっと待つのよな!」


平然として自分が売られたと語るフルチューニングに、建宮が慌てて詰めよった。


「お前さん、自分から売られたのかよ!?」

「いえ。ミサカを作った研究者、天井が売買契約を結んだという事ですが」

「…作った?どういう意味ですか?あなたは一体…?」


困惑気味に尋ねる五和に、フルチューニングは平然と答えた。


「ミサカは『量産型能力者計画』の試作型クローン、検体番号00000号です」


計画は凍結されているので、符丁(パス)の確認は要りませんね、とフルチューニングは呟いて話し続ける。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:53:21.53 ID:7mcGxeQ0<>
「『量産型能力者計画』のため、試作されたのがこのミサカです」

「ところが『量産型能力者計画』は実現不可能と判断され、ミサカが作られた後中止になりました」

「そのためそれを主導していた天井は金策に困り、廃棄されたこのミサカを売却した」

「だから相手先の指示に従え」

「という情報を、売却前に彼から直接インプットされています」

「ますます意味が分からんな」


難しい顔をして建宮が座り込んだ。


「つまり、その、お前さんは実験の為に作られたクローン…なのよな?」

「はい。ちなみにミサカの素体となったのは、レベル5の第3位『超電磁砲』御坂美琴です」

「なんでその人のクローンを作ったんですか?」

「レベル5を人工的に作り出し、量産するためです。それが計画の目的ですから」

「そりゃまたスゴい話なのよな」

「ですが、試作型のこのミサカが製造された直後、レベル5をクローンから作りだすのは不可能だと分かりました」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:54:08.54 ID:7mcGxeQ0<>
フルチューニングは淡々と話を続ける。

徐々に険しい顔をしていく五和には気づかなかった。


「責任者の天井は、あれこれ弄ってミサカをレベル5にしようとしましたが、結局能力の上昇はレベル4止まりでした」

「実験中止で借金だけが残った天井は、必要無くなったこのミサカを外部の人間に売ってお金にすることに…」

「そんなの、間違ってますよ!」


突然五和が怒って大声をあげたので、フルチューニングはキョトンとして話を止めた。


「例えあなたを作った人だからと言って、勝手に売り払っちゃうなんて酷いです!」

「五和、落ち着け」

「建宮さんは落ち着いていられるんですか!?」


五和の迫力に、思わず建宮が後ずさった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:54:50.90 ID:7mcGxeQ0<>
「何故、あなたは怒っているのですか?」

「どうしてあなたは怒らないんですか!?」


質問を質問で返されて、フルチューニングは無言になった。


「良いですか、あなたはもう少しで非道な魔術結社に連れて行かれるところだったんですよ!?」

「あのままだったら、きっと体をバラバラにされたり、危険な魔術を掛けられたりしていたんです!」

「どうしてもっと自分の身を考えないんですか!?」


ハーハー、と息が荒い五和に、冷静にフルチューニングが答えた。


「ですが、ミサカはただのクローンです」

「!」

「しかもすでに存在意義を無くしている以上、売却されるのは仕方ありません」

「!…そんなこと、言わないで下さい!」


五和は目に涙を浮かべて、その場を走って後にした。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:55:39.75 ID:7mcGxeQ0<>
「やれやれ、こいつはどうにも厄介な話になりそうなのよな」


頭を抱える建宮に対し、今まで無言だった対馬が声をかけた。


「で、結局この子どうするの?」

「取りあえず、我らで保護するしかないのよ」

「?」

「いいかいお前さん」


建宮がフルチューニングにズイ、と顔を近づけた。


「まだ状況が全部分かった訳じゃないが、これだけはハッキリしている」

「我ら天草式十字凄教は、お前さんをあの連中に渡すつもりはないのよのな」

「ついでに言うと、その天井っていう大バカ者の所へ返す気も無い。そんな事をしたらまた売られちまうだろう」

「ですが、ミサカはクローン…」


フルチューニングの言葉を遮って、建宮が稲妻のように断言した。


「これはお前さんがクローンだなんだ、っていう話とは無関係なのよ!」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:56:24.21 ID:7mcGxeQ0<>
「意味が分かりませんが…」

「簡単な話よ。地獄へ行くお前さんを、みすみす見捨てるわけにはいかないっていう意味よな」

「何故ですか?」

「“理由なんてねえのよ”」


その真っ直ぐな意思に、フルチューニングは思わず目を見張る。


「我らは、昔からそうやってきた。その生き方を女教皇様が先頭に立って教えてくれた」

「人はどこまでも強く、優しくなれるとその身をもって示された」

「…だから、我らも救われぬ者に救いの手を差し伸べる」


建宮の語る言葉には、誇りと悲哀が込められていた。

そこに偽りは全く無い。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:57:05.56 ID:7mcGxeQ0<>
(こんな人は、初めて見ました)

(理由もなしに、廃棄されたクローンを助けようとするなんて…)


初めて自分に向けられた『感情』に圧倒され、フルチューニングは返事が出来なかった。

そしてそれ故、建宮の言葉に隠された後悔の念までは感じ取ることは出来なかったのだ。

かつてその女教皇の居場所を、自分たちの未熟さゆえに失ったという懺悔の思いまでは。


「…ミサカは、どう判断していいか分かりません…」

「だって、廃棄されたクローンに居場所などないのですから…」

「お前さんは、五和…さっきの女の子の話を聞いていたのかよ?」

「えっと…」


建宮はフルチューニングの顔を両手でガシッと挟み込み、目を合わせた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:57:50.42 ID:7mcGxeQ0<>
「俺もあいつと同じでな、そのクローンとやらに用は無いのよ」

「…」

「助けたいのは、クローンじゃなくてここにいるお前さんという1人の人間なのよな」

「!」

「安心しろ。ここに居場所を作ってやる」

「あ、え…」


混乱するフルチューニングに、建宮はニッ、と歯を見せて笑いかけた。


「とりあえず、お前さんをみんなに紹介しないとな」

「…紹、介?」

「あ。大事な事を忘れていたのよな」


そう言うと、建宮はフルチューニングに手を差し出した。


「俺の名前は建宮斎字って言うのよ。一応この天草式十字凄教の教皇代理なのよな」


そして返事も聞かずに、他のメンバーのいる場所に手を引っ張って連れていく。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:58:29.67 ID:7mcGxeQ0<>
当然ながら、フルチューニングが一度にこんなに大勢の人間から自己紹介をされたのは初めてだった。


先ほど真剣に怒って泣いてくれた「五和」、

説明を受けるなり、なんてひどい話だ!と歯噛みした初老の「諫早」、

よしよし、と頭を撫でてくれた金髪女性の「対馬」、

既に結婚していて、指輪を自慢げに見せてくる「野母崎」、

大柄な割にとても優しげな笑顔の「牛深」、

小柄な割に生意気そうな少年の「香焼」、


50人以上の紹介が終わるころには、フルチューニングの体調もすっかり回復していた。

そして段々とフルチューニングがその空気に慣れてきたとき、建宮が突然あ!と声を上げた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:59:11.86 ID:7mcGxeQ0<>
「お前さんの名前を、教えてもらわなくちゃいけないのを忘れてた」

「ミサカの名前は、検体番号00000号ですが?」

と言っても、結局ミサカ以外にクローンは作られませんでしたが。という呟きと一緒に当たり前のように返答。

ところが、それを聞いて全員が渋い顔をした。


「そんな長ったらしく呼べるわけないのよな」

「じゃあ、新しく名前を考えましょうか」

「対馬先輩は、センスがないすから辞めた方が…」

「如何にも。ここは俺が…」

「待て待て。貴様らよりもこのわしが…」


途端に賑やかになる天草式のメンバーたち。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 21:59:47.90 ID:7mcGxeQ0<>
「皆さん、私に任せてください!」

その場を静まらせたのは、握りこぶしの五和だった。


「検体番号00000号なら、ゼロちゃんでどうでしょうか!」


全員が「えー、それは無いわー」という感じで黙り、一気にシーンとなった。

フルチューニングも、どう反応していいか分からずにオロオロする。


「五和、ゼロじゃ外国人みたいだろう。――レイ、で良いと思うのよな」

その空気を戻そうとして、建宮がフルチューニングの頭をポンポン、と叩きながら宣言。


(ゼロよりはマシでしょうか)

「分かりました。これからレイでお願いします」

「おう、ヨロシクなのよレイ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 22:00:36.81 ID:7mcGxeQ0<>
名前が決まって再び場が盛り上がり、一気にフルチューニングの歓迎パーティーへとなだれ込むことに。

パーティー用のジュースやお菓子をみんなが用意している間に、フルチューニングはそっと建宮に近づいた。


「…ところで、ミサ…レイは疑問に思っていたのですが」

「疑問?なんなのよ?」

「天草式十字凄教とは、一体何のグループなのですか?」


建宮はなんだそんなことか、と笑って説明。


「ああ、我らは十字教宗教団体の魔術結社なのよ」

「なるほど」


あっさり頷こうとして、フルチューニングはピシリと固まった。


「…十字教?魔術結社?」

「おうよ」

「…良く分かりました。どうやら新興宗教の信徒たちが、このミサ…レイを生贄にしようとしているのですね?」

「何でそうなる!?」

「今時、魔術なんて堂々と言い張るとはナンセンスです」


ジリジリと後ずさりし、逃げようとするフルチューニング。

結局、天草式十字凄教の説明はそれから3時間以上もかかる事になった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/08/31(火) 22:01:07.94 ID:7mcGxeQ0<>
今日の投下は以上です


ここでちょっとフルチューニングについて説明を

外見は番外個体(ミサカワースト)の目つきが普通バージョンを想像してください

他の妹達と目的が違い、レベル5を目指して作成されたため、無理な改造が施されてレベル4になっています

『絶対能力進化計画』の実行前に廃棄されたので、他の妹達や一方通行の存在を知りません

ミサカネットワークについても同様です(接続も不可能ですが、その理由はそのうち本編で)


また明日の夜に投下する予定でいます

では、おやすみさない
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 22:04:30.69 ID:RF.JO2AO<>>>34
超乙かれさまでした!
続き 待ってますよ
(-.-)yおやすみなさい(-.-)zzZ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 22:08:59.98 ID:HKoPLXw0<>>>1ィィィィィィィ乙ゥゥゥゥゥゥゥン<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/08/31(火) 22:21:06.32 ID:fa9rYKwo<>ミサカだけに生贄のミサを行うってか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 00:06:54.31 ID:p1NgfbE0<>乙!
目つき普通の番外個体か
胸が熱くなるな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 01:24:00.83 ID:uWDiKEDO<>おつかれさん<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 11:48:50.98 ID:iwUcq3wo<>面白いな
続きが気になる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 13:05:26.85 ID:XamkD6Mo<>単調な話し方でクローンでレイ………どうしても某チルドレンががががが<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 13:25:01.33 ID:g5bQrxUo<>多分私は……0人目だから……<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 13:35:53.46 ID:anM.91U0<>建宮さんは硬派だから、アニメにうつつを抜かしたりしないのよな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 13:39:12.24 ID:GbsaADA0<>>>41
俺のクローンがいるッ!?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 20:25:58.62 ID:TsRXKvgo<>ああ、南斗水鳥拳使うやつだっけ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 20:51:04.02 ID:OIwRf3g0<>期待の超新星スレはここですか。
きっとどこかで、クローンだから寿命の短いレイを救うオリジナル展開があるんだろうな。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 22:56:50.06 ID:s8nw.Bc0<>
こんばんはー。レスありがとうございます

>>41
>>42
>>44
あえて主張します、偶然です

>>45
私の血の色はクロかもしれません

>>46
期待せずお待ちください


では、投下します
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 22:57:50.03 ID:s8nw.Bc0<>
8月20日、天草式十字凄教のとある拠点


フルチューニングが天草式十字凄教に拾われて4日後。

その日もフルチューニングは、五和に魔術や十字教の知識を教わっていた。


「なるほど。つまり『聖人』と呼ばれる人は、肉体強化レベル4以上の強さを生まれながらに持っているということですか」

「えっと…『肉体強化レベル4』がどれぐらいか私には分かりませんが…」

「聖人であるうちの女教皇は、音速以上で走ったり、100分の1秒の領域に対応する反射神経を持っていますよ」

「どんな化け物ですかソレは…」


フルチューニングはベッタリと机に伏した。

『学習装置(テスタメント)』で入力された常識と、あまりにもかけ離れた魔術という世界。

いい加減カルチャーショックで頭がおかしくなりそうだった。

自分の知る理屈が通用しない『魔術』を初めて見せてもらった時は、衝撃でしばらく動けなかったぐらいだ。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 22:58:59.06 ID:s8nw.Bc0<>
もっとも、それは五和たち天草式十字凄教のメンバーも同じ事であった。

一切の術式や霊装を用いることなく、2億ボルトもの電気を放射された時は腰を抜かした人もいるほどだ。

そんな事を平気な顔して行えるフルチューニングは、五和たち魔術師にとってある意味『化け物』と言える。


((常識が通用しない…))


五和とフルチューニングは同時に溜息をつき、顔を見合わせて苦笑した。


「じゃあ、休憩にしてお茶でも淹れましょうか」


その言葉に、フルチューニングが目を輝かせた。


「ミサ…レイのお茶へのこだわりは、ハンパではありません!」

「分かってますよー。ちゃんと美味しいのを用意しますから。…緑茶で良いですよね?」

「もちろんです。昨日は紅茶でしたし」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 22:59:45.38 ID:s8nw.Bc0<>
一昨日、生まれて(?)初めてお茶を飲んだフルチューニングはその味にいたく感激した。

そのため、天草式十字凄教の中でも最もお茶の淹れ方がうまい五和にとても良く懐いている。


「はい。高いお茶っ葉だからそこまで温度は高くしてませんけど、ゆっくり飲むんですよ?」

「当然です。ミサ…レイはドジっ子キャラではありません」


ズズー…

言葉通りゆっくりと口に含んで味を楽しむフルチューニング。


「ムッ!…この温度は茶葉の渋みを抑え、甘くまろやかな味を楽しむのに最適です。グッジョブです!」

フルチューニングは思わずグッと親指を立てて賞賛する。

その喜びように、思わず五和も笑顔になってフルチューニングの頭をなでた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:00:47.23 ID:s8nw.Bc0<>
「喜んでもらえると嬉しいですねー。あ、お茶菓子もどう?」

「ミサ…レイは甘いものが好きです!このお饅頭を戴きます」

「あーあ。慌てて食べるから、口の周りに餡子が…」


2人が和気あいあいとしていると、建宮がその場に笑顔で現れた。


「おー。美味しそうなもの食べているのよな」

「このお饅頭を狙うとは…ですがもし食べたければ、このミサ…レイを倒してからにしてもらいます!」

「その気はないのよ。ま、何にしろすっかり打ち解けたようで、なによりよな」


そう言って建宮は、お土産のみたらし団子をフルチューニングに渡した。


「おお…これがあのお団子ですか…」

「プ。ホント、レイちゃん見てると飽きませんね」


お団子に目を奪われるフルチューニングを見て、五和がクスクスと楽しそうに笑った。

その態度に若干不満げなフルチューニングだったが、結局お団子の魅力に勝てず笑顔で食べ始めた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:01:42.41 ID:s8nw.Bc0<>
「モグモグ。ところで、建宮さんはどうしてここに?」

「そう言えば、あと2日は帰ってこれないってみんなから聞いてましたけど」

「いや、まだ仕事は途中なんだけどな」

「?」

「レイが遠出するって言うから、ちいと見送りに顔を出したのよ」


思わず団子を食べる口が止まるフルチューニング。

理由は良く分からないが、なんとなく胸が暖かくなって嬉しい気分になった。


「それほど距離はありませんが…」

「それでも、心配はするのよ」

「確かにそうですよね。…やっぱり私も付いて行きましょうか?」

「問題ありません。ちゃんとすぐに戻ってきますから」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:02:12.89 ID:s8nw.Bc0<>
フルチューニングが断言しても、2人はどこか心配そうな顔をしている。

それでも、彼女は自分の意思を変えようとしなかった。


「ミサ…レイはどうしても、確認してみたいのです」

「…分かった。気を付けて行くのよな」

「お守りも用意しましたよ」


五和手作りのお守りをギュッと握りしめ、フルチューニングはその方向へ目を向けた。


――彼女が悩んだ末、明日1人で出かけることにしている場所。

――自らを作りだした場所。世界で唯一『超能力』を開発している、学園都市へと。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:03:06.54 ID:s8nw.Bc0<>

8月21日(午後7時30分)、学園都市第11学区


「流石はミサ…レイですね。難なく侵入に成功しました」


自画自賛しているフルチューニングは、現在輸送用トラックの荷台の中にいた。

荷台の警報機は全て能力で無力化してあるので、のんびりどら焼きを食べている。

ガタガタと揺られながら、フルチューニングはここに来ようと思ったきっかけを思い出していた。


(あれは夢だったのでしょうか…)


天草式に拾われてから、いや、正確には培養器から出て覚醒してからずっと、妙な感覚がしていた。

どこか“チリチリ”とした感覚が、肌や頭を覆うように自分を包んでいる。

徐々にその違和感を無視できなくなり…ついにフルチューニングはある夢を見た。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:03:47.01 ID:s8nw.Bc0<>
(ミサ…レイ以外の“クローンが何者かと戦っている夢”…あれは妙にリアルでした)

(『量産型能力者計画』はすでに凍結されたというのに、この感覚は一体何なのでしょう)


その感覚の正体を確かめるため、フルチューニングは学園都市へ戻ってきたのだった。


やがて第7学区でトラックが止まった隙を見計らって、フルチューニングは荷台から飛び降りた。

そして10分ほど走り、『量産型能力者計画』の研究所跡地に到着。

正面ゲートは太い鎖と錠で完全に封鎖されていたため、裏口の電子ロックを解除して中に侵入する。


(施設は完全に封鎖されたまま…やはり研究は行われていない…)

(……)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:04:22.28 ID:s8nw.Bc0<>
フルチューニングは、そっと近くのコンピュータに触れた。

そして能力を使って起動させると、メモリの中から『量産型能力者計画』について調べ始める。

だが、そのデータは完全消去されていた。


(ここまで完璧に消えているのは妙ですね…)

(失敗した役立たずの実験計画を、ここまで入念に消す理由があるんでしょうか?)


嫌な予感を感じたフルチューニングは、研究所同士のネットワークに侵入してさらに痕跡を探す。

そして、ついに1つのデータを発見した。




「『量産異能者「妹達」の運用における超能力者「一方通行」の絶対能力への進化法』…?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:05:12.39 ID:s8nw.Bc0<>
「…通称『絶対能力進化計画』」

「…学園都市第1位をレベル6へ進化させる方法」

「…超電磁砲を128回殺害することで、レベル6になれる」

「…だが当然128人も用意できないので、代わりに量産計画「妹達」を流用することにした」

「…2万通りの戦場を用意し、2万人の妹達を殺害することで目的は達成される…」


モニターには、妹達の“殺し方”が2万通り表示されていた。

そして一番最後には…



次回の開始時刻:8月21日午後8時30分(日本標準時間)

次回の絶対座標:X228561・Y568714

次回の使用検体:検体番号10032号

次回の状況設定:反射を適用できない戦闘における対処法


現在の進行状況:10031/20000



フルチューニングは、瞬きすら出来ずに画面を凝視していた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/01(水) 23:06:03.28 ID:s8nw.Bc0<>
今日は以上でおしまいです

目指せ連続更新!

ということで、また明日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/01(水) 23:10:51.05 ID:.IkhMQAO<>>>58
こ…ここで終わりだとぅ!(若本ボイス)

超乙かれさまでしたm(_ _)m
おやすみなさい(-.-)zzZ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/02(木) 01:30:45.78 ID:SXBYfm.0<>フルチューニングとミサカネットの関係は
「ネットワークにはつながっているけど、ブラウザやメールソフトが入っていない」
って感じなのだろうか?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/02(木) 02:33:16.36 ID:DSQ0OQEo<>その辺の設定は考えてあるみたいだしのんびり待ちましょうや。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/02(木) 14:36:20.32 ID:dP2NeIM0<>>>1って他に何かSS書いてる?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:16:44.09 ID:8rrSYn.0<>
こんばんはー、レスどうもありがとうです

>>60
おいおい本編で書きますので、期待せずお待ちください

>>62
これが2つ目です


では、投下


8月21日(午後8時00分)、第7学区『量産型能力者計画』研究所跡地


想像もしていなかった事実を知ったフルチューニングは、しばらく呆然としていた。


(クローンが、このミサ…レイ以外に2万体も作られた…)

(『絶対能力進化計画』で殺されるためだけに)


フルチューニングは極めて混乱していたが、やがて研究所を飛び出した。

何故かは自分でも分からない。けれども、その足は次の実験場所へと向かっていた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:17:16.91 ID:8rrSYn.0<>
(行って何をしたいのかも分かりません)

(こんな感覚は初めてです)

(とにかく、その『一方通行』という人と話し合いを…)

(何故)

(何故)

(何故)

(何故、ミサ…レイはこんなに落ち着かないのか、自己分析が出来ません!)


そしてフルチューニングは、実験場所の第17学区操車場へ到着する。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:18:01.69 ID:8rrSYn.0<>
8月21日(午後8時30分)、第17学区操車場


フルチューニングが実験場所へ到着したその時、楽しげな声が聞こえてきた。


「そろそろ死ンじまえよ。出来損ない乱造品」

「――これより第10032次実験を開始します」

(そんな…!)


フルチューニングの前に映るのは、楽しそうに両手を広げる白い『最強』。

そして、自分よりわずかに幼いが同じ顔をした『人形(クローン)』。

どちらもフルチューニングの存在に気づいてはいないようだ。


(実験が、始まった…)


思わず五和から貰ったお守りを握りしめる。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:18:39.58 ID:8rrSYn.0<>

(精神状態に異常発生…状況判断が出来ません…)

(あああああああ!!!)


無計画のまま、2人の前に飛び出そうとして――


「学園都市のIDを持たない侵入者を発見しました、とミサカは報告します」

「『実験』の妨害を看過することはできません、とミサカも攻撃態勢に入ります」


タタタタタ、と足元に銃撃を受けて足止めされた。


(実験前の妹達がここを守っていたのですか…迂闊でした!)


フルチューニングは後悔するが、その間にも妹達が四方を包囲してしまう。

そして月明かりがフルチューニングの姿を照らすと、銃を向けていた4人のミサカが混乱しだした。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:19:26.25 ID:8rrSYn.0<>
「あなたは…『妹達』?とミサカは驚きます」

「いいえ、ミサカネットワークへの接続を確認できません、とミサカは事実を突きつけます」

「可能性があるとすれば、第1次製造計画では?とミサカは推理します」

「ミサカ達が作られることになった最初の理由、『量産型能力者計画』ですね、とミサカは納得します」


4人は無表情ながらも、フルチューニングの正体を予測して頷きあった。


「…あなたたちも、その、御坂美琴のクローンなんですね?」

「その通りです。そして現在このエリアは実験の為使用中です、とミサカは驚きを隠しながら警告します」

「そもそも、どうして廃棄されたはずの試作型がここに居るのですか、とミサカは問いかけます」


容赦なく突き刺さる妹達の言葉が、フルチューニングの思考を促した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:20:03.24 ID:8rrSYn.0<>
(どうして?)

(ミサ…レイは、自分の行動に合理的な理由を見つけられません…)

(この子たちも、今『一方通行』と戦っている子も、全て指示通りの事をしています)

(クローンとして、製造目的通りの事を行っています)

(だと言うのに…)


わずか数日前のフルチューニングなら、この光景を見ても何も感じなかったはずだ。

でも、彼女はたった数日を天草式十字凄教の仲間と過ごしたことで変わってしまっていた。


――そんなの、間違ってますよ!

――どうしてあなたは怒らないんですか!?

――これはお前さんがクローンだなんだ、っていう話とは無関係なのよ!

――助けたいのは、クローンじゃなくてここにいるお前さんという1人の人間なのよな

――レイ、で良いと思うのよな



(どうして、どうしてこんなにもこの実験が“ムカつく”のでしょう)

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:21:20.25 ID:8rrSYn.0<>
「レイがここに居る理由は、自分でもまだ分かりません」

「?」


疑問の表情を浮かべる妹達に、フルチューニングは今までとは明らかに違う表情を見せた。

それはまるで、人間のような――


「ですが、それでもハッキリ分かった事があります」

「今レイがやるべき事は――“救われぬ者に救いの手を差し伸べる”ことです!」


そしてフルチューニングの体から、白く光る電流が迸った。


「そこを通してもらいます!あそこで殺されてしまうミサカを、助けなくてはいけません!」

「…仕方ありません。強制排除を実行します、とミサカは号令をかけます」


その言葉に従って、4人の妹達が一斉に武器を構える。

銃口が向けられても、フルチューニングは目を逸らさずに不敵に告げた。


「…試作型が量産型より強いのは、昔から物語のセオリーです!」

「能力レベルが少し高い程度では、このミサカ達の相手になりません、とミサカは嘲笑します」


フルチューニングが、雷光を纏って突撃するが…それはあまりにも無謀な戦いだった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:22:05.99 ID:8rrSYn.0<>
四方八方から飛んでくる銃弾を避け、避けきれないものは電撃で撃ち落とす。

だが、一瞬目を逸らした隙にミサカの1人がフルチューニングの腹部を蹴り上げる。


「グ…ゴホッ」


思わず咳き込むフルチューニングを、今度は別のミサカが強襲。

避けようとするが、そこにさらに別のミサカが待ち構えていて逃がさない。

ミサカネットワークで完璧な連携を可能にした妹達に、あっという間に体中をボロボロにされる。

なんとか抵抗しようと放電するも、あっさりとかわされて反撃をくらう。

同じ顔をしている4人が、やはり同じ顔をしている1人を叩きのめす光景は、酷く凄惨なものだった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:23:31.48 ID:8rrSYn.0<>
「う…」


5分後には、ボロ雑巾のようになったフルチューニングが倒れていた。

もっとも、この結果は当然のことではある。

フルチューニングは、レベル5を目指して作られたので「能力」は他の妹達よりも高い。

だが、そもそも能力者と言うのは戦闘目的で開発されるものではない。

あくまでその発生原理とメカニズムを探るためのものだ。

言ってしまえば、フルチューニングは戦闘などしたこともない素人の女の子でしかない。

それに引き換え、妹達は初めから『対一方通行用戦闘モデル』として製造されている。

すでに学習装置によって、銃器の扱い方を含む戦闘情報をインストールされている兵士なのだ。

フルチューニングは致命傷こそ無いものの、すでに戦闘続行は不可能なレベルにまで追い込まれている。


「あ…あ…」

「これまでですね、とミサカは状況を確認します」

「う…レイ、は…」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:24:14.28 ID:8rrSYn.0<>
戦闘の余波で吹き飛んだお守りに、フルチューニングが手を伸ばした。


(何故、レイはあの人達のように誰かを救えないのですか…?)

(何が違うと言うのですか…?)


圧倒的な無気力感が、フルチューニングの全身を襲う。


「未熟さというのは辛いのよな」


だが、ぼんやりとした頭に聞きなれた声がかすかに届いた。


「けど、だからこそ助けあえる仲間っつーのがいるのよ」


その言葉に何人かが笑顔で頷く気配。

包みこまれるような感覚を最後に、フルチューニングは意識を失った。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/02(木) 23:25:39.67 ID:8rrSYn.0<>

今日はここまでになります

次の投下で1章が終わる予定です

また明日の夜に投下できるよう頑張ります

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/03(金) 00:29:30.40 ID:ZxwQT4U0<>乙ー
建宮来てんのか
10032号の実験中なら上条さんと御坂もいるだろうし顔合わせはまだかな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/03(金) 00:30:43.08 ID:t0VxTQAO<>自分の名前を間違えなくなったな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/03(金) 10:51:22.30 ID:08aj2LE0<>乙
早くも泣きそうになった

>>75
ホントだスゴイな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/03(金) 15:18:48.64 ID:ho.Y9tk0<>なんだこれおもしれぇ
クワガタがカッコいいのよな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:30:15.40 ID:k8G9S4w0<>
こんばんはー、遅くなりました

レスありがとうございます

では、投下


8月22日(午前2時00分)第7学区のとある病院 とある病室


フルチューニングが意識を取り戻した時、既に時間は深夜を過ぎていた。

痛む体を無理やり起こして辺りを見回す。

そしてどうやらここは病院らしい、と判断を下した時。


「…目が覚めましたね、とミサカは声をかけます」

「!」


唐突に自分と同じ声が聞こえてきたので、フルチューニングはビクリと反応した。

暗くて見えづらいが、足元の方に妹達の1人がいるのが分かった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:31:03.23 ID:k8G9S4w0<>
「殺される前に、1つ聞きたいのですが」

「?」

「レイが意識を失う直前、天草式のみんなの声が聞こえた気がするのです。…見かけませんでしたか?」

「天草式?…ひょっとしてあのクワガタみたいな奇妙な髪色の男と、その仲間達の事ですか、とミサカは確認します」


フルチューニングはコクリと頷いた。


(やっぱり、みんなもここに来ていたのですね)

(なのに、ここに妹達がいると言う事は、もしかして…)

(まさか、まさか、殺され…)


一瞬で、フルチューニングの脳裏に最悪の結末が描かれた。


「彼らなら今廊下で仮眠をとったり、思い思いの事をしていますが、とミサカは率直に告げます」

「…え」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:32:05.22 ID:k8G9S4w0<>
「それと、あなたは何か勘違いをしています、とミサカは溜息をつきます」

「勘違い?」

「ミサカはあなたを殺すつもりはありません、とミサカは少々あきれて誤解を解きます」

「どういう事ですか?」

「…ミサカの検体番号は10032号です。つまり、今日の実験に使われた個体です、とミサカは事実を明らかにします」

「どうしてあなたが…実験の結果殺される予定だったはずでは?」

「その実験が中止になりました、とミサカも未だ信じられない事をお知らせします」


その言葉を聞いて、フルチューニングは思わず力が抜けてしまった。


「中止…何があったのですか?」

「あなたと同じように、実験を止めようとある人が来て…」


そこで一旦言葉を区切る御坂妹。

まるで大切なものを自分の中だけに隠しておきたいような、そんな子供っぽい逡巡をして――


「このミサカの為に、命懸けであの第1位『一方通行』を倒し、計画を中止させました、とミサカは正直に語ります」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:32:51.80 ID:k8G9S4w0<>
「そんなことが…」


信じられない奇跡を目の当たりにしたかのように、2人とも無言になった。

いや、確かにそれは奇跡的とも言っていい出来事である。

なにせあの『最強』は、世界で最も強い超能力者なのだから。


(一体、誰がそんなことを成し遂げたのでしょうか?)

(誰が、救われないはずの妹達を救ってくれたのでしょうか?)


ほんの僅かな時間。

静寂がこの病室を包んでいたが、コンコン、というノックが時間を動かした。


「では、ミサカは研究施設へ一旦戻る事にします、とミサカは空気を読める事を証明します」

「あ、そういえばあなたと戦ったミサカ達から伝言です」

「伝言…なんですか?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:33:50.19 ID:k8G9S4w0<>
「『高レベルとはいえ、廃棄された素人相手に大人げない事をしました。ごめんなさい』」

「な……」


あまりの言葉に、カチンときて無言になるフルチューニング。


「『悔しかったら、またいつでも相手になります。まあ、ミサカ達が負ける事はありえませんが』」

「『ミサカ達にも、死ねない理由が出来ましたから』」

「…」

「と、ミサカは一字一句正確に伝えます」

「…」

「まあ、ただ単に“長女”ともう一度会いたいという意味でしょう、とミサカは事実を暴きます」

「長女…」

「「妹達」最初の個体なのですから、長女で合っていますよね、とミサカは告げて部屋を後にします」


ぎこちない笑顔を浮かべて立ち去る御坂妹と入れ替わるように、建宮と五和が病室に入ってきた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:34:33.94 ID:k8G9S4w0<>
「建宮さん、五和さんも…」

「おー、大事に至らなくて良かったのよなー」

「心配しましたよレイちゃん!」


ヒシ、と抱きついてくる五和の背中に手を回しながら、フルチューニングは質問した。


「レイが気絶した後、何があったのですか?」

「ソレが俺にも良く分からんのよ」

「しばらく私たちとあのクローンの子たちが睨みあっていたんですけど」

「突然『風車を回します!』ってみんないなくなっちゃって…」


どうやら、五和も事情を把握していないらしい。


「で、とりあえずお前さんを病院に連れてきた訳よな」

「その後しばらくしたらさっきの子が来て、『もう戦う事はありません』って」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:35:24.59 ID:k8G9S4w0<>
事情はよく分からないが、どうも天草式と妹達が戦う前に実験が中止に追いやられたらしい。

誰も死ななくて良かった、とフルチューニングは安堵して…重大な疑問に気が付いた。


「ところでどうして、みんながここにいたのですか?」


あー、それは…と言葉を濁しつつ、諦めたように建宮が回答する。


「五和がおまえさんに渡したお守りは、一種の護符になっていたのよ」

「ゴフ?」

「おまえさんが危ない状況になると我らにそれを教えてくれる、発信器のようなものよな」

「結局、レイちゃんが心配だったのでみんなで近くまで来ていたんですよ」


2人の言葉に、フルチューニングは呆気にとられた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:36:09.19 ID:k8G9S4w0<>
(なんだかんだ言って、みんなはずっと傍にいたのですか)

(レイがやられたのを知って、あんなカッコ付けた登場をしたのですね)

(まったく…あれ?)

「…建宮さん、確かあなたはまだお仕事の途中だったのでは?」


ギックウ!と反応する建宮を、ジト目で睨むフルチューニング。

あはははー、と誤魔化し笑いをする教皇代理(今一番偉い人)。

結局、建宮が降参してゴメンナサイすることで、この話題は片づけられた。


「とりあえず、ここのお医者さんは優秀だから、明日には退院できるって話ですよ」

「だから我らも一泊して、明日全員で帰る事にしようと思うのよ。ちょうど新しい拠点に行くころ合いだしな」

「…分かりました」


その後、五和が仮眠をとるため病室を後にし、フルチューニングは建宮と2人きりになった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:36:50.99 ID:k8G9S4w0<>
(何も、聞いてこないのですね)


不思議な事に、建宮は今回の事件について何も聞こうとしなかった。


(レイと同じクローンが他にもいて、しかも戦っていたというのに、どうしてでしょう)


「あの」

「言っておくが、俺から聞く事は何もないのよ」

「…」

「お前さんが、誰かを助けるために手を伸ばした」

「それだけ知っていれば、十分なのよな」


どこまでも優しく、労わるような心地よい空気。

けれども、フルチューニングは自分の手をギュッと握りしめた。


「…ダメなんです」


建宮が、目だけ動かしてその独白に耳を傾ける。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:37:54.49 ID:k8G9S4w0<>
「レイは、何も出来なかったんです」

「あの子を助けたかった、救いたかったのに!」

「レイは、役立たずでしかありません」

「…」


自分を言葉で傷つけるフルチューニングを見て、それでも建宮は返事をしない。


「だから、お願いがあります“教皇代理”」

「!」

「レイに、戦い方を教えてください」

「もう役立たずは嫌です。このまま倒れたままなのは嫌です!」

「レイは、助ける力が欲しいです!」


歯を食いしばり、瞳を揺らして絶叫するフルチューニング。

建宮はしばらく無言だったが、やがて笑顔を浮かべて“あるモノ”をフルチューニングに放り投げた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:38:36.56 ID:k8G9S4w0<>
「これは…?」

「我ら天草式十字凄教が使う、『蜘蛛の糸』と呼ばれる鋼糸なのよな」

「お前さんなら、きっと誰よりもうまく扱えるようになる」

「しかもそれは、“通電性”が高い特別製なのよ」

「あ…」


渡された鋼糸を、フルチューニングは大切そうに抱き込んだ。


(もしかしたら、この人は待っていてくれたのかもしれない)

(無様に負けた自分が、それでも立ち上がろうとするのを)


「とは言え、それ以外にも覚えるべき魔術、戦術は山ほどあるが…」

「レイは優秀ですから、きっちりこなして見せます!」

「…それはそれで、イロイロ問題なのよなー」

「?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:39:56.54 ID:k8G9S4w0<>
天草式十字凄教の中でも、フルチューニングを戦闘に参加させるかどうかは議論されていた。

大能力者(レベル4)が戦力となってくれれば、もちろん嬉しい。

だが、当然ながらこの無垢な女の子を自分たちの都合で戦士にしてしまう訳にはいかない。


みんなが悩んでいる時、建宮は厳然と告げた。

このまま自分たちと一緒に行動すれば、いつかレイを戦いに巻き込むことになる、と。

ならば、レイと別れる覚悟、またはレイを戦わせる覚悟が必要になる、と。

彼らプロの魔術師は知っていたから。

戦場は、戦う意思のない人間が生き残れるほど甘くは無いことを。

自分たちの実力では、レイを守りきることが難しいことを。


当初は、その事実をハッキリ説明してレイ自身にどうするか選ばせようと思っていたのだが…


(まさかレイの方から、戦う事を選ぶとはなー)

(やると決めた以上、本当に戦う術を叩きこむことになる)

(…対馬や諫早あたりが知ったら、やっぱり怒ると思うのよな…)


明日のみんなの反応を考えて、ちょっとだけ憂鬱になる現教皇代理であった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:40:42.73 ID:k8G9S4w0<>
8月22日(午前10時00分)第7学区のとある病院


退院手続きを終了し、ようやく拠点へ向けて出発しようとした天草式は、建宮が来るのを待っていた。

その建宮は、今もカエル顔の医者とレイの体調について話し合っている。


「だから、クローンとはいえ他の「妹達」と違って調整の必要はないね」

「そもそも基本コンセプトが異なっているから、当然と言えば当然なんだけどね」

「…良く分かりませんが、このまま素直に退院ってことで大丈夫なのよな?」

「そういう事だね。ただ、もし何かあったらすぐに僕の所へ連れてきてほしい」

「ちゃんと覚えておくのよな。じゃ、どうもお世話になりました」


笑顔で握手を交わし、走り去る男の姿を見て、カエル顔の医者は表情を曇らせた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:41:22.82 ID:k8G9S4w0<>
(確かに、あの子は「妹達」と違って細胞の成長速度に異常は無い)

(あの子を作った研究者が、出来る限りの対処を施したみたいだね)

(そう…)

(あの子の体が抱える問題は“そんなレベル”じゃない)

(能力補佐の為、体中に得体の知れない部品が取り付けられている)

(しかも脳の中には、僕にも手を出せないマイクロチップが埋め込まれている…)

(間違いなく、アレイスターの仕業だね)

(すでに彼女は、いつ“壊れて”もおかしくはない)


(…それでも、何とかするのが医者(ボク)の仕事なんだ)


カエル顔の医者は、新たな決意を胸に病院へ戻って行った。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:42:17.08 ID:k8G9S4w0<>
同時刻、窓の無いビル


闇に包まれたその空間で、『人間』アレイスターは1人佇んでいた。

彼が見つめる先にはモニターがあり、天草式のメンバーをリアルタイムで映している。


「おい、これで良いんだな?」


突然、案内人のテレポートで出現した土御門元春がアレイスターに詰めよった。


「…ああ、ご苦労だったね」

「一体、どんな理由があったのか教えてもらおうか?」

「ふむ。理由とは?」

「なぜ廃棄処分されたクローンを、天草式とつるませたのかって事だ」


そう。天草式十字凄教にフルチューニングの売買をリークしたのは、土御門であった。


「大したことではないよ」

「では理由を聞かせろ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:43:25.72 ID:k8G9S4w0<>
アレイスターは、何でもない事のように淡々と告げた。


「あの検体番号00000号は、特殊なチップを脳に埋め込んである」

「チップ?なんの?」

「能力者が、魔術を使えるようになるチップだ」

「なんだと!」


土御門は驚いて声を上げた。

彼自身もそうであるように、能力開発を受けた人間は魔術を行使できない。

能力者は『回路』が異なるので、無理に魔術を使うと体が爆砕する危険すらあるのだ。


「とはいえ、検体番号00000号以外には使用できないものだがね」

「どういう意味だ?」

「あのチップを使うには、ミサカネットワークが必要不可欠。この意味が分かるか?」

「…確か同一脳波による並列型ネットワークだったな」

「そうだ。あのチップはそれを利用した変圧器みたいなものでね」

「魔力の流れを、ミサカネットワークを通じて強引に適合させることが出来る代物だ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:44:17.09 ID:k8G9S4w0<>
「しかも各個体が受ける影響は、極めて軽微で無視できるレベルだと予測されている」

「まあ結果、検体番号00000号自身はミサカネットワークに接続できない状態らしいが、大したことではない」


本当にどうでもよさそうに答えるアレイスターに、土御門は嫌悪感を隠そうともしない。


「だから、魔術結社と接触させたかったのか?」

「そんなところだ」

「だが、“何故”天草式を選んだ?」

「一応魔術師とはいえ、本場イギリスの『必要悪の教会』のような連中とは趣が異なるぞ?」

「さて、ね。気になるなら予想してみたまえ」


アレイスターは、土御門の苛立ちをどこか楽しげに眺めつつ呟いた。


「私としては、コレに大して重きは置いていないのだよ。…プランとは関係の無い話だからな」



これにて第1章終わり
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/03(金) 23:45:03.80 ID:k8G9S4w0<>
今日の投下はこれでおしまいです

明日以降は、第2章に入ります

これからも読んで下さると嬉しいです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/03(金) 23:45:58.12 ID:zEboCOs0<>相変わらずツッチーかっけぇな
乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/04(土) 06:46:17.46 ID:Tn84acDO<>乙
おもしろ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/04(土) 07:47:06.83 ID:KlxoB2DO<>おつおつ


チップ以外の要因でレイが壊れるかもしれないって解釈でおk?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/04(土) 21:20:48.86 ID:MsPlZn.o<>乙
ワイヤーと電気で戦うとは黒みたいだな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/04(土) 21:40:13.83 ID:sWiNaOw0<>お疲れー
レイがんばれ!
続きに期待


一方さんが……
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:36:56.09 ID:76XXwRM0<>
こんばんはー、毎度ながらレスありがとうです

>>98
そうですねー、フルチューニングは妹達とは違った意味でボロボロである、と解釈してください
ただ、チップもあのアレイスター製なので…

>>100
この話では、一方通行と絡ませづらいんですよね…


では、投下


9月7日(午前12時00分)、天草式十字凄教のとある拠点


フルチューニングが、正式に天草式十字凄教の一員となって2週間以上が経過した。

その期間には、『御使堕し』、一方通行と打ち止めの出会い、シェリー・クロムウェルの学園都市侵入など

様々な出来事があったのだが、天草式の面々とは基本的に無関係であった為ここでは省略。

そして今、フルチューニングは天草式の少年香焼と模擬戦をしていた。

フルチューニングは鋼糸を巻いた木刀を、香焼は短剣を持って戦っている。

優勢なのは香焼の方だった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:38:01.72 ID:76XXwRM0<>
「く…!」

「簡単に気を取られるようじゃ、まだまだ甘いすよ!」


身軽な香焼が、そのスピードを生かして短剣を振るう。

それだけではない。香焼はわざと数枚の“ポケットティッシュ”を模様を描くように辺りに落とす。

そのティッシュをフルチューニングが踏むと、彼女の足は根が生えたかのように動かなくなった。


「これは!?」

「ふふん。こいつの象徴は“樹木の根”。隠した術式は『大地との一体化』って事すよ!」

まあ数秒しか持たないすけど、と言って香焼は余裕の表情を浮かべるが…


「まだまだ甘いですね」


フルチューニングは一瞬で木刀に巻き付けてあった鋼糸を展開し、“磁力”で操って香焼に襲いかからせる。

ギョッとして逃げようとする香焼だが、鋼糸の方が一瞬早く足を絡め捕り、あえなく全身を縛られてしまった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:39:08.72 ID:76XXwRM0<>
「オリジナル(お姉さま)の様に地面の砂鉄を操る事は難しいですが、鋼糸程度なら問題ありません」

「ズルいすよ!卑怯だ!反則だ!」

「ふふん、負け犬の遠吠えですか」

「ちくしょう…俺の方が勝ってたのに!」


動きを封じられながら、ギャアギャアと抗議する香焼。

素知らぬ顔をするフルチューニングだったが、そこに五和が現れた。


「あ、レイちゃんに香焼君。そろそろお昼にするから、終わりにしてほしいって建宮さんが言ってましたよ」

「そう言えばもうこんな時間でしたね」

「五和ー!レイが卑怯な真似してくるっす!」

「ム!術式を使ってきたのは香焼が先です!」

「まあまあ、2人とも仲良くしてください。…それにしても、鋼糸を触らずに操れるって言うのは凄いですねー」

「そうなんですか?」

「そうですよー。これだけ自在に操れると、立派な主武器(メインウェポン)になるじゃないですか」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:40:01.97 ID:76XXwRM0<>
キョトンとした様子で、フルチューニングがミノムシ状態の香焼に目を向けた。

香焼は大きく頷いて、恨みがましく説明を始める。


「普通、鋼糸って言うのは“あらかじめ”張って用意しておく迎撃型の武器なんすよ」

「または、戦闘中にこっそりと準備していざという時の“補助”として使うのが主流ですね」

五和も楽しそうに説明に参加する。


「なるほど。言われてみれば、鋼糸だけで戦う人は誰もいませんでしたね」

「そもそも鋼糸はトラップ用に作られたものですから…レイちゃんみたいに能力が無いと無理ですよ」

「魔術で操る事は出来ないのですか?」

「うーん、出来なくはないですけど…術式の手間ばかりかかって、割に合わないと思います」

「?」


魔術に関する理解が未だ不十分なフルチューニングは、良く分からない、という感じで首をかしげた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:40:43.11 ID:76XXwRM0<>
だが五和が解説を続ける前に、香焼が拗ねたようにポツリと呟いた。


「…だからと言って、すぐ能力使うのは卑怯者すよ」

「えい」

バリバリバリ!と音を立てた電流が、鋼糸を通じて香焼に流れ込んだ。


「ギャアアア!!!」

「れ、レイちゃーん…?」


恐る恐る五和が、プリプリ怒っているフルチューニングに声を掛ける。

そのフルチューニングは大人しくなった香焼を一瞥し、あっさりと返事した。


「これがレイの編み出した必殺技、『ミノムシ殺し』です」

「絶対今適当に考えたすよね!?」


黒焦げ状態の香焼が思わずつっこむものの、フルチューニングは出来ない口笛を吹いて誤魔化した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:41:32.85 ID:76XXwRM0<>
「お前さんたち、いつまで待たせる気なのよ?」

「あ、建宮さん。今レイは必殺技を編み出したところです」


なかなか来ない3人を、教皇代理の建宮が迎えに来た。

その建宮に、フルチューニングが笑顔で今日の特訓の成果を報告するが…


「ん?レイ、その黒ミノムシは?」

「建宮さん!俺っすよ!」

「…げ、お前さんは香焼!?」

「いいえ建宮さん。レイを卑怯者呼ばわりする負け犬です」

「ちっくしょー!次は絶対勝ってやるからな!っていうか早く外せよー!」

「五和、これは一体何があった…?」

「えーと、その、いつもと同じ喧嘩、ですかね」


その日の午前は、普段と変わらぬ賑やかな特訓の風景だった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:42:19.26 ID:76XXwRM0<>
9月7日(午後2時00分)、とある大通り


建宮とフルチューニングは、仲間の買い出しの為2人で出かけていた。

その帰り道、フルチューニングはローマ正教の教会を発見したので、建宮に質問した。


「そう言えば、天草式十字凄教には教会は無いのですか?」

「ああいう立派な建物は、我らには分不相応っていうヤツなのよ」

「?」

「そもそも、迫害から逃れる隠れキリシタンが我ら天草式の始まりだ」

「その本質は偽装。故に我らは力が無くても生き延びてきたのよな」

「目立つ拠点を持つと、狙われやすいということですか?」

「まあ、そんなとこよなー。元々我らはローマ正教やイギリス清教とは格が違いすぎるのよ」

「そういうものですか」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:43:26.40 ID:76XXwRM0<>
宗教事情については詳しく教えていなかったな、と建宮が考えていると、ある事を思い出した。


「あ、そういや近くの博物館で、ローマ正教が国際展示会を開催していたのよな」

「ああ、確かチラシが入っていましたね。歴史的な美術品なんかも取り寄せた、とか」

「ちょうど良い機会なのよな、勉強にもなるだろうし後で一緒に行くか?」

「はい!」


2人がのんきな会話をしていると、後ろから声を掛けてくるものがいた。


「あの…少しお話を聞いていたのですが…」

「ん?どなたさんなのよ?」

「あなた方は天草式十字凄教の方なのですか?」


修道服を着た外国人の女性が、やけに真剣な表情で話し続ける。

建宮は思わず警戒心を高めて、聞き返した。


「そうだが…それでお前さんは?見たとこローマ正教の修道女さんのようだが…」

「はい。私は、 オルソラ・アクィナスと言います」


そしてオルソラと名乗った女性は、迷いを振り切るようにこう言った。


「お願いでございます――どうか、助けてくださいまし」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/04(土) 23:44:19.75 ID:76XXwRM0<>
今日はここでおしまいです

あまり進まなくて申し訳ないです

また明日の夜に続きを投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 00:16:31.90 ID:OICCCNo0<>乙です。
香焼可愛いなww
大分打ち解けてきたところでオルソラ編か。期待してるぜ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 01:25:41.77 ID:3UehbH.0<>ここでオルソラか
乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 06:52:55.47 ID:yWVJ9/Qo<>フルチューニングの服装が気になるのよな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/05(日) 07:50:10.72 ID:g8JioIDO<>>>112
きっと美鈴さんスタイルに違いない<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 09:41:02.04 ID:vtGgwAAO<>乙

剣と鋼糸……
レイフォンみたいだな
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 21:27:57.76 ID:u9knax.0<>オルソラの苗字がどうしても「アキナス」に聞こえる件<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:21:43.89 ID:s.dRsQQ0<>
こんばんはー、レスしてくれる優しい方ありがとうです


>>112
個人的イメージは、五和を参考にした目立たないパンツルックってトコです


では、投下


9月7日(午後2時30分)、天草式十字凄教のとある拠点


オルソラの言葉に顔色を変えた建宮は、とりあえず拠点に戻って詳しい話を聞くことにした。

ちなみにフルチューニングは、お出かけの約束が中止になったので微妙に不機嫌そうである。


「『法の書』の解読法が分かった、だと…!?」

「はい…」


オルソラの言葉に驚愕する建宮たちであったが、1人フルチューニングだけが理解できずに首を傾げた。


「建宮さん。『法の書』って一体なんですか?」

「恐ろしい力を持つ魔道書の1つで、解読不可能と言われた本のことよな」

「…オルソラさん、解読不可能な本を解読しちゃったんですか?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:22:44.46 ID:s.dRsQQ0<>
フルチューニングが素直に驚くが、オルソラはゆっくり首を振った。


「いえ…解読法が分かっただけで、まだ実際に読んでいないのです」

「モノを読まずに、どうやって解読法を見つけたのよ?」

「私は『法の書』の目次と序文の写本を持っておりまして、そこから導き出したのでございます」

「そんなことが出来るなんて…」


五和も目を大きく開いて驚いている。


「で、お前さんは自分がその事で狙われていると気づいて、この日本に逃げてきた、と」

「かなりマズいんじゃないの、それって…」


対馬が、珍しく冷や汗をかいて怯える素振りを見せた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:23:35.98 ID:s.dRsQQ0<>
事情が分からないフルチューニングが、困惑気味に尋ねる。


「そもそも、どうして解読法を見つけたオルソラさんが仲間に狙われるんですか?」

「その『法の書』の内容が問題なのよな」


建宮が青ざめた表情で説明する。


「『法の書』が読まれた瞬間に、十字教の時代は終わりを告げる」

「?」

「つまりローマ正教にとっては、是が非でも“読まれる訳にはいかない”魔道書なのよ」

「読まれる訳にはいかない…?」

「それこそ、万一解読できる人がいたら殺すぐらいにはな」

「…」

あっさりと不穏な事を口にする建宮に、フルチューニングは無言で固まった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:24:27.17 ID:s.dRsQQ0<>
「私はただ、誰も幸せにしない魔道書を壊したかっただけなのでございます…」

「それを信じてくれるほど、世の中は甘くないってことよな」

ましてあれだけ大きい組織ならなおさらな、と建宮は天を仰いだ。


それから10分。

天草式のメンバーが無言で悩んでいるのを見て、オルソラがそっと立ちあがった。


「申し訳ありません。どうか今までの話は全てお忘れください」

「…どういう意味よ?」

「良く考えれば、いえ考えなくても分かることでありましたが…」

「何の関係も無い皆様を、私の問題に巻き込む訳にはいきません」


諦観して、とつとつと言葉を紡ぐオルソラ。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:25:57.05 ID:s.dRsQQ0<>
「先ほどは混乱していた為か、酔狂にも助けを願い求めてしまいました」

「ですが、ローマ正教のお相手など“誰も”出来るはずはございません」

「ただ…1つ許されるのでしたら、私を見た事を黙っていただければ幸いでございます」


それだけ言って立ち去ろうとするオルソラの背中に、建宮が声をかけた。


「お前さん、何か勘違いしているようなのよな」

「え…?」

「我らが悩んでいるのは、どうやって助けるか、という1点のみよ」


その言葉に、天草式全員が頷いた。

フルチューニングも自然に頷く事が出来た。


「ですが、皆様では、とてもローマ正教と戦う事など…」

「いやいや、戦う必要もないわな」


建宮は静かに断言した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:26:51.82 ID:s.dRsQQ0<>
「オルソラ・アクィナス、お前さんを天草式十字凄教に迎え入れる」

「我らの本拠地は仲間以外には誰も知らないし、『縮図巡礼』っちゅートッテオキもあるからな」

「ほとぼりが冷めるまで、我らが匿う」


――救われぬ者に、救いの手を。

みんなの変わらないその意思の強さに、フルチューニングは嬉しくなる。

だが、フルチューニングと異なりローマ正教で長年を過ごしたオルソラは、戸惑いを隠せない。

端的にいえば、そんな“夢物語”を素直に信じる事は出来なかった。


「あ、え、何故…?」

「“理由なんてねえのよ”」

「そうです。レイも、理由も無いのにみんなに助けてもらいましたから!」

「そうですか…分かりました、ありがとうございます」


オルソラが一瞬浮かべた表情に、天草式は最後まで気づく事が出来なかった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:27:39.89 ID:s.dRsQQ0<>
9月8日(午前8時00分)、天草式十字凄教のとある拠点


翌朝。オルソラが客室でまだ休んでいる中、天草式は会議をしていた。


「昨日の夜も言ったが、やはりここは四国辺りに移った方が良いと思うのよな」

「ですが、2週間単位で拠点を変えるとなると、最初は群馬の方陣起点から始めるべきでは?」


フルチューニングが分かる事は少ないが、それでも大規模な引っ越しをするというのは理解できる。


(流浪の民みたいで、刺激的な感じです)

(レイも運転技術を学ぶべきでしょうか?)


…ローマ正教を知らないフルチューニングは、少しばかりのんきに考えていた。

慌てた諫早が、最悪の知らせを持ってくるまでは。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:28:23.18 ID:s.dRsQQ0<>
「建宮、不味い事になったぞ」

「どうしたのよ?」

「ローマ正教が動いた」

「そんな!幾らなんでも、早すぎですよ!」


五和が吃驚して大声を上げるが、建宮は無言で続きを促した。


「タイミングが悪すぎたようじゃ。…今『法の書』は、日本にある」

「なんだと!?」

「『ローマ正教の国際展示会』で展示するため、運搬されていたようでな」

「…『されていた』?」

「左様。非公式ながらもローマ正教は、『法の書』がすでに盗まれたと発表した」

「まさか」

「犯人は『天草式十字凄教』であり、解読の為オルソラまで誘拐したと断定されておる」

「クソったれ!」


建宮が怒りのあまり壁を殴った。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:29:21.05 ID:s.dRsQQ0<>
その様子を見て、フルチューニングも事情を把握する。


(どうやらオルソラを捕まえるため、天草式を悪人にしたらしいですね)

(…なんだかとっても“ムカつきます”)

(今のレイは、天草式十字凄教の一員ですから)


建宮は、全員の顔を見渡して宣言した。


「…女教皇の為にも、我らはオルソラを守りきらなきゃならんのよ」

「そうでなくては、あの方の居場所に相応しくないからな!」


(…!)

(まだ、レイは顔を見たことも無い女教皇…神裂火織…)

(建宮さんは、レイには詳しい事を話しませんでしたが)

(一体、どのような人なのでしょう?)

(こんなに大切に思われているのに、戻ってこないなんて…)

(…あれ?…今、レイは何故不快感を感じたのですか?)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:30:13.82 ID:s.dRsQQ0<>
フルチューニングの軽い混乱をよそに、話は続いて行く。


「どうするよ教皇代理。すでに連中は数百人以上の討伐隊を派遣したそうだが?」

「…仕方ない。今夜中に『縮図巡礼』で飛ぶしかないのよな」

「えー、後16時間もあるすよ?」

「そうする以外ないのよ。『パラレルスウィーツパーク』で準備をするぞ」

「とりあえず、レイはオルソラを呼んできます」


まだ“ねむねむ状態”のオルソラを連れて、天草式が移動を開始する。

彼ら天草式にとって、長い1日の始まりだった。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/05(日) 23:30:42.85 ID:s.dRsQQ0<>
今日はここまでです

オルソラのキャラは難しいですねー

また明日の夜に書くつもりです

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/05(日) 23:31:36.01 ID:iKwSDE.0<>嫁に食わすなってか?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/05(日) 23:51:29.18 ID:H9fIfADO<>乙! 続きに期待

>>127
秋茄子かよww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/06(月) 14:26:07.49 ID:j2DStts0<>乙乙
ねーちんとレイの接触が楽しみだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/06(月) 14:31:45.70 ID:G8n9LOYo<>上条さんとの遭遇が楽しみだ
もしかしたらそのうち美琴とも遭遇したりしてな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/06(月) 17:32:03.91 ID:26xoWTIo<>そうか
16巻で天草式は学園都市に侵入するから
美琴と遭遇する可能性も有りか

でもまずはアニェーゼ+上条さんだな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:15:24.45 ID:6Y9ayY60<>こんばんはー、レスありがとうです

>>129
>>130
>>131
原作キャラとの遭遇イベントも頑張ります


では、投下


9月8日(午後1時00分)、とあるレストラン


天草式のメンバーは現在主に2手に分かれている。

パラレルスウィーツパークで『縮図巡礼』と呼ばれる魔術の準備をする別働隊と、

オルソラと一緒に行動し、追手に備える本隊である。

魔術に詳しくないフルチューニングは、現在建宮と一緒に本隊として行動していた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:16:06.26 ID:6Y9ayY60<>
「それにしても、その移動魔術ってこんなに早くから準備しないと間に合わないんですか?」

「いや、急げば準備自体は2時間程度で完了するのよ」

「じゃあ、どうして今から取り掛かっているんです?」

「相手がいつ来るか分からない以上、あらかじめ準備を終えておくのがベストよな」


『縮図巡礼』自体は、午前0時からわずか5分しか発動しない。

ただ、その為の準備儀礼はあらかじめ終了しておくことが出来る。


「それにローマ正教の連中に、『渦』の場所がバレる訳にはいかないのよな」

「だからゆっくり少人数で行う必要がある。そのため早めに取り掛かっているのよ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:16:40.71 ID:6Y9ayY60<>
いかに隠密性特化型の天草式十字凄教といえども、ローマ正教の大部隊にかかれば姿を発見されてしまう。

それを警戒して、現在儀式に取り掛かっている別働隊はわずか2人だけにしているのだ。

そして当然人数が少なければ、準備に必要な時間は長くなる。

フルチューニングは納得して、デザートのパフェを食べ始めた。


「オルソラさんはデザートいらないんですか?」

「…」

「オルソラさん?」

「あ!…ええ、私は結構ですから、お気になさらず…」

「まあ、緊張するのも無理無いのよな」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:17:27.32 ID:6Y9ayY60<>
建宮が苦笑して声を掛けるが、オルソラは誰にも聞こえないように呟くだけだった。


「…どうして、天草式の皆様はここまで…?」

「ん?何か言ったか?」

「いえいえ。それで、この後はいかがされるおつもりですか?」


オルソラの問いに、建宮は難しそうな顔で答えた。


「そこよ。『縮図巡礼』で飛べればこっちの勝ちだが、多分そう簡単にはいかないわな」

「先ほど聞いた話によると、ローマ正教が派遣したのはアニェーゼ・サンクティス率いる修道女部隊」

「…有名な人なんですか?」

「良くも悪くもローマ正教のお手本のような人間よな」


いい加減慣れてきたのか、建宮はフルチューニングがするこの手の質問に淀みなく回答した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:18:28.84 ID:6Y9ayY60<>
「まだ10代前半の年齢でありながら、250人以上の部下を持つ優秀な人間だ」

「それは…すごいですね」

「頭も切れるし容赦も無い。そんな相手が敵だと、最悪術を使う前に全滅させられかねないってことなのよ」

「だから時間いっぱいまで隠れるしかないのだが…」


建宮の言葉を遮るように、レストランの扉がドガガ!と粉砕された。

そして土煙りの中、件のアニェーゼがゆっくりと姿を現した。


「いやー、やめてくださいよ。あんた方みたいな豚さんに褒められたとこで、気持ち悪いだけじゃないですか」

「ローマ正教…!」

「天草式、でしたっけ?…獣の分際で、十字教を名乗るなんて図々しいとは思いません?」

「さあ、そこのオルソラっていう『神の敵』を引き渡してもらいますよ」

「…悪いが、我らの仲間に『神の敵』なんて人間は誰1人いないのよな!」


教皇代理、建宮の言葉を合図に、レストランにいた天草式のメンバーが逃げ出し始めた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:19:13.35 ID:6Y9ayY60<>
「ち!逃がすと思ってんですか!?」


修道女部隊が周りに散開するも、地の利がある天草式はバラバラになって逃げてゆく。

建宮が通信術式を使って全員に指示を飛ばした。


『今あの連中と戦う意味は無い』

『時間いっぱいまで逃げ切れば勝ちだ』


フルチューニングも、オルソラを連れて急いで逃げだした。

そして途中で牛深にオルソラを預けて、地下水道へ駆け込む。


(あれが、ローマ正教…)

(一番頭のおかしい人種は科学者だと思っていましたが、修道女も負けず劣らずです!)

(…今は私も修道女でしたか?)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:20:06.92 ID:6Y9ayY60<>
9月8日(午後5時30分)、とある地下道


緊急時以外は連絡をしないよう言い渡されていたため、フルチューニングは1人で逃げながら時間を待っていた。

そして途中何度か発見されそうになりながらも、ようやく日暮れまで時間がたった時、牛深から連絡が入ってきた。


『すまん!オルソラをあいつらに攫われた!』

「!」

『ポイントはどこ!?』


対馬が怒鳴りながら場所を訪ねる。


『○○通り2丁目、バスターミナル近くだ!』


そこは、今レイがいる地下道のほぼ真上だった。

反射的にフルチューニングは返事をする。


「レイは今そこの近くにいます!オルソラを取り戻します!」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:20:41.77 ID:6Y9ayY60<>
『そんな、レイちゃん!?』


五和が驚いて止めようとするが、建宮がそれを遮った。


『いや、まだオルソラは敵の本隊に合流していない。今のうちに取り返さないと厄介だ』

『でも…』

『五和、レイも天草式の一員なのよ。…レイ、俺もすぐに行く。やれるな?』

「はい!」

『…分かりました。私もすぐ行くから、それまでレイちゃんお願い!』

「もちろんです!」


仲間の信頼が嬉しくて、フルチューニングの顔にわずかだが笑顔が浮かぶ。

そして、猛スピードで地上へ戻り、アニェーゼ部隊を追いかけた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:21:42.42 ID:6Y9ayY60<>
「天草式!?」

「オルソラさんを返してもらいます!」

「ここで叩いておきましょう」


フルチューニングが見たのは、オルソラを連れて行こうとする4人の修道女だった。

すぐに彼女たちは武器を取り出し、迎撃態勢を取る。


(最優先はオルソラさんを連れて逃げる事です)

(4人を足止めする程度なら、問題ありませ…)


ゴッ!!!!

修道女の1人が取り出した車輪が、突如爆発してフルチューニングに襲いかかった。

咄嗟に電撃を放ち、大きい破片を撃ち落とす。

だが、抑えきれない破片がフルチューニングの腕を幾つも切り刻んだ。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:22:25.89 ID:6Y9ayY60<>
(あれはいったい何ですか!?)

(破片がこっちにだけ飛んでくる…指向性の爆弾…?)


「…罪ある者にこそ罰は下る――あなたに救いはありません」


謳うように修道女が断罪すると、辺りに散らばった破片が元の車輪の形に戻って行く。


(自動修復…ただの木材が形状記憶能力を持つなんて…!)

(やっぱり魔術は常識が通用しませんね)


それでも、フルチューニングは不敵に笑った。


「残念ですが、レイはあなたに救ってもらう気は全くありません」

「すでにレイは、みんなに救ってもらったのですから」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:24:07.33 ID:6Y9ayY60<>
「世迷言を…天草式など、異教徒とさして変わらぬ異端の連中ではないですか」

「そんな判断しか出来ない心の狭い神様なんて、こっちから願い下げです」

「な!神を侮辱するのですか…!?」

「そもそも、レイは神様ではなく“人間”が作りだした試作品ですしね」


その言葉に、修道女――ルチアは怪訝そうな表情を浮かべた。


「あなたは一体何を言っているのです?」

「レイより長生きしているのというのに、あなたはお馬鹿さんですね」

「レイは、救われるためではなく――“救われぬ者に救いの手を差し伸べる”ためにここにいるのです!」


言葉と同時、操られた鋼糸が空中に広がり、4人の修道女に纏わりつく。


「バカな…これは何の術式ですか!?」

「ここで一々解説するのはお馬鹿さんである、と相場が決まっています」


そして、フルチューニングの流した強力な電流が、修道女の意識を刈り取った。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:26:07.50 ID:6Y9ayY60<>
「オルソラさん、大丈夫でしたか?」

「…はい」

「おーおー、エゲツない攻撃をしたものよな」

「建宮さん!不意を突いての攻撃、大成功です」

「だが、喜んでばかりもいられない。本隊がこっちに向かっている。すぐに逃げるべきなのよ」

「分かりました!」


天草式とオルソラは、再び姿を消した。

それから数分後。倒れている4人を見つけたアニェーゼは、1人静かにクツクツと笑った。


「…天草式ね。随分引っかき回してくれるじゃないですか」


「逃げられる訳もねえのに。…このくそったれな世界からは、ね」


ローマ正教と天草式十字凄教の戦いは、未だ幕すら開いていなかった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/06(月) 23:26:49.62 ID:6Y9ayY60<>
今日はこの辺で終了します

なかなか上条さん登場しませんが、しばしお待ちください

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/06(月) 23:31:31.32 ID:WHEUbsAO<>>>144
超乙かれさまでした。
(-.-)ノシおやすみなさい(-.-)zzZ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/07(火) 00:11:26.51 ID:z9cP2IE0<>GJ!!!!!
つづき期待<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/07(火) 07:36:07.02 ID:yI5uHMMo<>面白いなぁ
マジ続きが気になる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/07(火) 10:31:34.94 ID:DBcynrko<>……ということは禁書のキャラはお馬鹿さんばっかry<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/07(火) 10:43:01.76 ID:WuhgZmA0<>>>148
しー!

>神様ではなく“人間”が作りだした試作品
クローンにとって見れば、神様なんか鼻で笑うレベルか…<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/07(火) 12:02:35.20 ID:kPac13.0<>>>149
でもそれあれだよな
試作品程度神様からすれば、気にもかけてないよな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/07(火) 15:25:08.04 ID:Dmgd1PYo<>科学側の知識をいれられてるしな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:51:16.72 ID:YBitc1o0<>
こんばんはー、いつも本当にありがとうございます

遅くなったくせに短いですが、一応投下


9月8日(午後6時00分)、とある地下道


現在天草式は、そのほとんどが地下の下水道に集合していた。

アニェーゼ部隊と何度もオルソラをとり合ううちに、当のオルソラが姿を消してしまったのだ。

そこで建宮は、敵の指揮官アニェーゼに追跡術式を仕掛けて、彼女をこっそり追いかける事にした。

オルソラが捕まった場合、必ず彼女のもとに連れてこられるだろうと予測したからである。

暗い地下に、フルチューニングのささやき声が響く。


「それにしても、どうしてオルソラさんは天草式からも姿を消したんでしょうか?」

「…」


珍しい事に、建宮は返事をしなかった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:52:20.09 ID:YBitc1o0<>
思わぬ反応に、フルチューニングは建宮の弱りきった顔をマジマジと見つめる。

その表情を見て、彼の中で予想は出来ているらしい、と判断してそれ以上は何も聞かなかった。

しばらく黙って追跡を続けると、やがてアニェーゼは誰かと会話を始めた。


『…お宅から『法の書』とオルソラ・アクィナスを拝借したっていう天草式だけど…』

『…数や武装ならこちらが上なんですけどね…』


会話相手である“赤髪の神父”を術式で確認した建宮が、好戦的な笑みを浮かべた。


「イギリス清教の『必要悪の教会』――本物の魔術師サマかよ」

「ねせさりうす?」

「イギリスが誇る、対魔術師用の魔術師集団です。私たちの女教皇も今はそこに所属しています」


五和の答えに、さらにフルチューニングは混乱した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:53:15.16 ID:YBitc1o0<>
「…そのイギリスの魔術師が、何故ローマ正教と一緒にいるんですか?」

「恐らくローマ正教と協力して、『法の書』とオルソラ・アクィナスを取り戻す為に来たのよな」

「じゃあ、あの人も敵ってことですよね…」


新たな強敵の出現に、うんざりとするフルチューニング。

建宮も、頭をガシガシと掻いて一言吐き捨てた。


「まったく、こっちは只でさえ弱い少数勢力だって言うのにな」

「しかも相手は『必要悪の教会』…やる気が出ちまうじゃないの」


その言葉に、フルチューニングはゾクリと背筋を震わせた。

自分たちの教皇代理、建宮の本気を初めて目の当たりにしたからだ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:53:56.33 ID:YBitc1o0<>
「建宮、あれは!」


野母崎が緊張を含んだ声をかけた。

なぜなら、新たな人影――ツンツン頭の少年が現れたからだ。

それもオルソラと一緒に。


「…ドンピシャなのよな」

「こちらに余裕はない。オルソラを奪還したら、一気に離脱する!」


教皇代理の号令に、天草式の全員が応!と武器を構えて返事をした。

それを見届けると、建宮は術式を通じてオルソラたちに話しかけ始める。


「そう簡単に引き渡されては困るよなぁ?」

「オルソラ・アクィナス。それはお前が一番良く分かっているはずよな」

「お前はローマ正教に戻るよりも、我らと共にあった方が有意義な暮らしを送る事ができるとよ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:54:49.24 ID:YBitc1o0<>
アニェーゼたちがその言葉に意識を集中しているその瞬間。

ゾフ!!

建宮たちは、正確にオルソラを囲むように剣を下から突き出した。

そしてオルソラのいる地面を正三角形に切り取って、地下へ落下させる。


「天草式!!」


アニェーゼが慌てて手を伸ばそうとするが、その時には牛深がオルソラを抱えて走り出していた。

建宮は時間稼ぎをするため、さらに語り続ける。


「ローマ正教の指揮官さえ追っていれば、オルソラ・アクィナスはいずれここまで連れて来られると踏んでいたのよ」

「まったく地下を辿って待ち構えていた甲斐があったというものよなぁ!!」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:56:58.78 ID:YBitc1o0<>
「くそ!」


話しながら逃走準備をしていると、先ほどのツンツン頭の少年が悪態をついて地下へ飛び込もうとしてきた。

だが、鍛えられた天草式のメンバーによる殺気が、素人である彼の動きを封じ込める。

プロの魔術師であるステイルだけが、その横で殺気をものともせず行動した。


「我が手には炎、その形は剣、その役は断罪――ッ!」


彼が捨てた煙草の軌道から、紅蓮の炎が出現した。


(なんですかアレ!?炎剣!?)


フルチューニングが驚愕するのと同時、あらかじめ用意しておいた逃走魔術が発動した――。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:57:34.99 ID:YBitc1o0<>
9月8日(午後7時00分)、パラレルスウィーツパーク


『渦』に到着した天草式約50人は、あっという間に一般客に紛れ込んだ。

そしてローマ正教の魔力探査を防ぐため、ゆっくりと何気ない仕草だけで『縮図巡礼』の準備をしている。

その儀式に参加していない建宮とフルチューニングは、現在2人で話し合いをしていた。


「つまりあの炎剣はルーン魔術で作り上げた、と」

「その高熱は3000度を超えるらしい。いやー、恐ろしい術なのよな」

「あと一歩遅ければ、みんな黒焦げになるところじゃないですか…」


フルチューニングが改めて魔術の恐ろしさを実感していると、対馬が建宮に話しかけてきた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:58:29.85 ID:YBitc1o0<>
「建宮。もうすぐ閉園時間よ」

「そんな時間か。仕方ない、一旦姿を隠すぞ。準備の続きは警備の人間が消えた11時から行うべきよな」

「分かった。けど…その間にローマ正教はここに気づくかもしれない」

「…どっちみち、0時までは術の発動は不可能なのよな」


一瞬不安そうな表情を浮かべた対馬に、建宮は肩を叩いて安心させる。


「仮にココに気づかれても、向こうは大部隊。人員の再編成や道具の準備に数時間はかかる」

「しばらくはお前さんも休むと良い」

「…そうね。そうさせてもらうわ」


手をひらひらと振って、対馬はお土産ショップへ姿を消した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/07(火) 23:59:28.17 ID:YBitc1o0<>
「そういえば、オルソラさんは?」

「今は、動かないように捕縛術式を掛けて見張りを付けている」

あんまり得意な術式じゃないけど、この場合仕方ないのよなー、と建宮がぼやいた。


「…説得しないんですか?」

「恐らく、今は言葉では何も伝わらんのよ」

「…」

「ならばこそ、実際に助け出すという行動で示すしかない」

「…」

「せっかくイギリスの人間も来ていることだし、我らが女教皇に見せてやるのよ」

「…」

「天草式十字凄教の今の姿をな」

「…はい」


その会話を最後に、フルチューニングは建宮と別れて姿を隠した。


(…顔も知らない女教皇)

(あなたの生き方は、建宮さんたちが受け継いでいます)

(……)

(どんな人なんでしょうか…レイも一度会ってみたいですね)



そして午後11時27分。

静寂に包まれたパラレルスウィーツパークを、アニェーゼ部隊が強襲した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/09/08(水) 00:00:31.00 ID:MH0WMa60<>
中途半端な上あまり進みませんでしたが、今日はこれで終了です

次回より本格的な戦いが始まります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/08(水) 00:11:52.82 ID:0HtJ.ADO<>乙! こうして天草側から見るとステイルの存在は厄介だな
レイの電撃はシスターの意表を突けるから活躍の芽もありそう。わくてか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/08(水) 09:23:51.99 ID:I0b3f1Y0<>毎日乙
良い感じにレイが質問役をこなしてるから分かりやすい


後よけいなお世話だけど、1はトリ付けないの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/08(水) 18:47:38.13 ID:zTHxHwSO<>追いついた!
天草式の面々かっこよすぎだろ

<> 別人 ◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:40:02.55 ID:MH0WMa60<>
テスト
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:41:48.44 ID:MH0WMa60<>
こんばんはー、レスしてくれる優しい方々に特に感謝!

>>163
トリつけてみました


では、投下


9月8日(午後11時30分)、パラレルスウィーツパーク


『縮図巡礼』のタイムリミットまで残りわずか30分。

ローマ正教が誇るアニェーゼ部隊が、怒涛の勢いで天草式に襲いかかった。


「超怖いですマジやばいですあいつら完全に目がイッちゃってます」

「逃げるな神の敵!」

「修道女のくせに!平和に話し合いとかしないんですか!?」

「異端者は神の名のもとに粛清されるべきです」

「ダメだこいつら話にならない」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:42:35.15 ID:MH0WMa60<>
当然フルチューニングも修道女部隊と戦闘中である。

だが、鋼糸を取り出す間もなく7人の修道女が魔術をバカスカ撃ってくるので、ひたすら逃げ惑うだけだった。


(ここで逃げ回ってるだけでは、やられるのは時間の問題です…!)


追いかけ回されたフルチューニングは、その7人を引き連れて室内アトラクション『巨大迷路』の中へ逃げ込んだ。


(確かこの先に…あ…)

「…行き止まり、ですね」


迷路に入ってすぐ、フルチューニングは行き止まりへ突き当たった。

立ち止まったフルチューニングを見て、7人の修道女は嗜虐的な笑みを浮かべる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:43:20.10 ID:MH0WMa60<>
「さあ、懺悔をなさい」

「あなたが鋼糸を操る前に、体をバラバラにしてあげましょう」

「心安らかに、自分の罪を悔い改めれば…」

「逃亡など無意味でしたね」


次々と修道女が放つ勝利宣言を聞いて、フルチューニングは溜息をついた。


「…逃亡ではありません」

「レイは、計画通り目的地への誘導を達成しました」

「!」


言葉と同時、“あらかじめ”張って用意しておいた鋼糸が蛇のように襲いかかった。

手に持っている霊装ごと縛り上げられた修道女たちは、ほとんど抵抗も出来ないまま悔しそうにしている。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:44:12.99 ID:MH0WMa60<>
「そんな…!」

「卑怯者!」

「どうやって術式を欺いたのですか!?」


混乱している様子を見て、フルチューニングは得意げに告げた。


「そもそも、鋼糸は罠として発明された迎撃用の武器ですよ?」

「ありえない…ただの鋼糸を、私たちが探知出来ないはずはありません!」

「早くシスター・ルチアに連絡を…」

「えい」


バリバリバリ!!

魔術的防御を完全に無視して、フルチューニングの電撃(ノウリョク)が修道女を沈黙させた。

全員が意識を失った事を確認すると、ようやくフルチューニングはほっと一息ついた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:45:49.26 ID:MH0WMa60<>
(ふふん。この鋼糸の張り方が示すのは“蛇の狡猾さ”。隠した術式は『探査術式のかく乱』です)

(魔術に頼らず、しっかりと自分の目で見れば、あるいは気づけたかも知れませんでしたが)

(ともかく、この魔術を対馬さんに教わっておいて正解でした)


7人を念入りに縛りあげて、フルチューニングは仲間の加勢に向かった。


フルチューニングが園内を走っていると、フランベルジェを振りまわす建宮と出会った。


「建宮さん!」

「おお、怪我はしてないな」

「当然です」

「よしよし。俺は今からあのイギリス神父サマとやり合ってくる」

「あの炎剣使いですか…」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:46:34.73 ID:MH0WMa60<>
最初から強烈な印象を残したルーンの魔術師。

彼が操る炎剣は、普通の方法では太刀打ちできない代物だ。

確かに、天草式のメンバーであの魔術師と一対一で勝負できるのは建宮ぐらいだろう。

フルチューニングは、そう言い聞かせて不安がる自分を納得させた。


「レイは浦上たちの援護に向かって欲しいのよ」

「分かりました」

「…いいな、無茶はするなよ」

「建宮さんこそ、気を付けてください」


その言葉を最後に、フルチューニングは迷いを振り切るように駆け出した。

そして、援護に向かった彼女が見たものは――


「遅っせえ!!」


天草式の仲間である浦上が、ツンツン頭の少年によって地面に叩きつけられたシーンだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:48:04.21 ID:MH0WMa60<>
衝撃的な瞬間を目撃し、フルチューニングは頭が真っ白になった。

そして何が起きたかようやく事態を把握すると、怒りのままに突進する。


「あなたは!レイの仲間になにするんですか!」

激怒したフルチューニングが、強力な雷撃の槍を少年に向けて放つ。


「新手かよ!」

だが、少年が咄嗟に右手を伸ばして雷撃に触れると、跡形も無く消滅してしまった。


(…能力の無効化!?)

(なら、これで!)


自分の能力が通用しない事に驚きながらも、フルチューニングは冷静に戦闘を続行する。

手持ちの鋼糸を操って、少年を縛り上げようと目論むが…


「無駄だ!」

「そんな…」


信じられない事に、少年が右手で鋼糸を掴むと、突然操る事が出来なくなった。

鋼糸を通じて電流を流しても、少年にはまるで効果が無い。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:49:03.90 ID:MH0WMa60<>
「それでも…負ける訳にはいきません!」

「まだやるのかよ!」


能力が通用しない以上、フルチューニングは只の女の子と変わらない。

それでも、今は天草式十字凄教の一員。逃げる選択肢など持っていなかった。


(相手は男、肉弾戦では勝ち目なしですが…)

(ここで引き下がるわけにはいかないんです!)


一気に距離を詰め、ハイキックをしようとする――ヒラリ、と簡単に避けられた。

急いでもう一度攻撃しようとするが、その前に少年が体当たりをしてきた為、フルチューニングは地面に倒れ込んだ。


「うう…」

「テメェ、いい加減にしやがれ!」

「ここで諦めるはずがありません!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:49:56.69 ID:MH0WMa60<>
怒鳴りつけてきた少年に、フルチューニングも反射的に怒鳴り返す。

さらに少年が何かを言おうとして…ピタリと固まった。

先ほどまで浮かべていた怒りの表情と違い、戸惑うような顔をしている。


「…お前、御坂!?…いや、ビリビリより背が高い…」


そして少年――上条当麻は、何か信じられないものを見たかのように問いかけた。


「まさか、お前は『妹達』なのか…?」


上条が口にした言葉に、フルチューニングも動きを止める。


「何故、あなたがオリジナルや『妹達』の存在を知っているのですか…?」

「ってことは、やっぱりお前も妹達なんだな?」

「…今は、関係無い話です」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:50:34.75 ID:MH0WMa60<>
動揺を悟られぬよう、フルチューニングは淡白な口調で言い返した。

ところが、上条が続けて吐き捨てた言葉を聞いて、フルチューニングから冷静さは失われることになる。


「なんだって妹達が、あんな連中と一緒に行動してるんだよ!」


(何ですって…!)

「…撤回してください」

「え?」

「レイを救ってくれた仲間を、“あんな連中”呼ばわりした事を撤回しなさい!」


作られて間もない、未熟なフルチューニングの唯一譲れない一線。

それなのに、目の前の男はその一線を土足で踏みにじった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:52:26.37 ID:MH0WMa60<>
「目を覚ませよ!あいつらは、武器を持って女をさらうような凶人達だぞ!」


上条も必死で説得しようとするが、フルチューニングには届かない。


「どこまでもレイの仲間を、天草式を侮辱しますか!」


フルチューニングが、目に涙を浮かべて上条に電撃を放つ。


「くそ!後でお前の事情は聞いてやる。だがな、オルソラを渡す訳にはいかねぇんだ!」


電撃を無効化した右手が、そのままフルチューニングの腹部を強打し…


(あ…レイは…また…助け…られない…?)


強制的に意識を奪われたフルチューニングが、頬を濡らしたまま地面に崩れ落ちた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/08(水) 22:53:20.83 ID:MH0WMa60<>
今日はここまでとなります

なんか上条さんの扱いが酷い事に…

また明日の夜に投下したいと思っています

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/08(水) 22:59:39.35 ID:XcKkTUw0<>上条さんはこんなもんだろww
乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/08(水) 23:25:12.25 ID:nkcj1Wgo<>流石上条さん 揺るぎない鬱陶しさww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 00:11:30.51 ID:V1slpJQo<>おつ
まぁこのときはまだアニェーゼ達に騙されてるから
仕方ないっちゃ仕方ないが
かなりめんどくせぇなww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 00:50:59.80 ID:/bgnIgE0<>そして二期ではほぼしょっぱなからこのウザイ上条さんが見れるという訳か
おそらく1話になるであろう闇咲の話が無かったら致命的だったな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 01:14:55.93 ID:BVogSKAo<>ウザ条さんか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/09(木) 01:35:18.90 ID:oSjtC2DO<>乙! 敵に回すと途端に厄介になる上条さんwwww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 08:02:05.76 ID:CQTsho2o<>流石にちょっと上条さんがかわいそうだw
敵にまわるとウザさ倍増だなww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 09:30:07.92 ID:7enYixs0<>自分の勘違いって分かっても自分が悪くても絶対謝罪しない
そんなウザ条さんだからしょうがない<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 10:16:44.16 ID:WFbJuEUo<>さすがにここまで上条さん叩きのレスが続くと気持ち悪いな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 10:54:04.23 ID:0t5rcIQo<>上条さんウザいと思ったことはあんまりないけど、
確かに敵視点(しかも勘違いだとわかってる)で見るとウザいwwww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 18:37:20.33 ID:Rm50k2AO<>>>186
明確な叩きって>>185くらいだろ
他はネタみたいなもんだし<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 22:18:21.55 ID:Vn10wdQo<>レイが魔術を使っても無事なのは魔翌力を練らなかったから?
何かの伏線だったらすまん<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 22:28:29.66 ID:agDhtoso<>>>189
>>93<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 22:31:51.20 ID:KRJe4UAO<>>>189
書き込む前にちゃんと読めとあれほど<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:54:41.87 ID:nhDUpYY0<>
こんばんはー、沢山のレスに驚いてます

さすがは人気者の上条さん、みんな大好きなんですね

では、投下


9月8日(午後11時45分)、パラレルスウィーツパーク


建宮は、戦いの末傷つきながらも逃走したステイルを追いかけていた。

彼は一緒に居た純白のシスターが大切らしく、自分を盾にしてでも守ろうとしているのが見て取れる。


(そういう戦い方をするヤツは嫌いじゃないが…ローマ正教に味方するなら斬るしかない)


だが、ここが戦場だと理解している建宮は、その弱点を遠慮なく狙って攻撃していた。


(ふん。思った通り、相手が常に移動するよう仕向ければ、ルーン魔術なぞ怖くないのよな)

(ただ、このままだとタイムリミットが来てしまう)

(まったく香焼のやつめ、保護していたオルソラを見失っちまうとは情けないのよな…)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 22:55:02.83 ID:Vn10wdQo<>>>190->>191
正直すまんかった
もう一回最初から読みなおしてくる<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:55:42.18 ID:nhDUpYY0<>
建宮は急いで決着をつけるため、ステイルが逃げ込んだ店舗の壁ごと木っ端微塵に打ち砕いた。


「くっく。なぁにをやっとんのよイギリス清教の神父様」

「おら、英国紳士の誇りはどこ行った? この建宮斎字に見せてみろ」

「いかんよなぁ、そんなんじゃ女の1人も守れんぞ」


挑発に答える事も無く、必死にステイルが立ち上がろうとする。

その横には、何故かオルソラと魔術師ではなさそうな少年――そして意識の無いフルチューニングがいた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:56:24.79 ID:nhDUpYY0<>
(……)

(…レイたちをこいつがやったのか…?)

(随分と真っ直ぐな目をしているじゃないの…こういうのは殺したくないんだがなぁ)

(だが、ここまで体を張ったレイたちの為にも、オルソラを渡す訳にはいかんのよ)


そして、建宮は目の前の少年と幾つか言葉を交わした。


――彼が魔術の素人で、ほとんど丸腰であると言う事

――浦上やレイを倒したのが彼で間違いないという事

――彼が、他の人のために行動できる人間だと言う事


そんな彼が、どうしてローマ正教にオルソラを引き渡そうとしているのかは分からないが…


「けどまぁ、やるってんなら仕方がねえ。今日がお前さんの命日だ」


傷ついた仲間の為、オルソラを救う為、建宮は目の前の少年に斬りかかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:57:16.98 ID:nhDUpYY0<>
奇妙な静寂の中、フルチューニングは朦朧としながら意識を取り戻した。


(…静か…)

(戦闘が終わっている…?)

(天草式は、オルソラさんは?)


状況が分からず戸惑うだけのフルチューニングに、建宮の切り裂くような鋭い声が届いた。


「断言できるなら根拠を言え。できないならば自分の疑念に立ち向かえ!」

「冷静になれば誰でも分かるだろうよ、どちらが本当の敵なのかぐらい!」


霞む目でよく見ると、建宮は体のあちこちにルーンのカードを張られ、拘束されていた。


(まさか、あの建宮さんが負けたのですか!?)

(あの酷い少年が、建宮さんに勝った…!?)

(でもそれなら、今の言葉はどういう意味でしょうか…)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:57:58.38 ID:nhDUpYY0<>
ぼんやりとする頭で2人の会話を聞く限り、どうやらあの少年もオルソラを助けに来たらしい。

天草式に誘拐されたオルソラを、仲間のローマ正教の元へ返すために戦ったという事だ。


(つまり、この馬鹿(現在の友好度:最悪)はアニェーゼに騙されていた、と)

(…えー)


それでもなお、天草式を信じられない少年に、建宮は自分たち天草式の行動理由を語り出す。

それは、フルチューニングも聞いていなかった思い出。

天草式十字凄教の女教皇が、今は共にいない理由そのものだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:59:10.28 ID:nhDUpYY0<>
他人の為にどこまでも優しさを示した女教皇は、その優しさゆえに仲間の死に耐えられなかった。

その仲間の死を全て自分の責任だと思った女教皇は、自らの居場所を捨てて旅立ってしまった。

だが、それに苦しんだのは女教皇だけではない。

他ならぬ天草式十字凄教の仲間こそが、その決断に苦しんだ。

自分たちの未熟さ、弱さ。それこそが女教皇を苦しめた、と自分たちを責めた。

故に彼らは決意した。

誰も傷つかず、誰も悲しまず、誰かの笑顔の為に戦い、その幸せを守るために迷わず全員が立ちあがれる居場所。

自分たちの女教皇が戻るに相応しい、そんな居場所を必ず取り戻して見せると。


(そうだったのですか…だから、レイを助けたときに…)

――だから、我らも救われぬ者に救いの手を差し伸べる

――未熟さというのは辛いのよな

(あの時の顔は、悔しさだったのですか)

(そんな思いをしても、諦めることなくレイやオルソラを救おうとしていたのですね)

(ならば、レイも寝ている訳にはいきません…!)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 22:59:49.91 ID:nhDUpYY0<>
「た、建宮さん…」

「!」


今まで気絶していた少女の突然の呼びかけに、建宮だけでなく上条も驚いた。


「オルソラさんは…今どこですか?」

「すまないなぁレイ。俺たち以外の天草式メンバーと一緒に、ローマ正教の連中に連れて行かれた」

「!…そうですか、なら助けに行かなくてはいけませんね」


そう言って立ちあがるフルチューニングを見て、上条は愕然とした。


「じゃあやっぱり、天草式はオルソラを助けるために行動してたのかよ…」

「……」


上条が事実を知って後悔するのと同時、静かすぎるほど静かだった夜に絶叫が響き渡った。

そしてそれは、オルソラの出したものに違いなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:00:58.52 ID:nhDUpYY0<>
(どんな事をされれば、こんな声を上げるのですか…!)

(早く、助けに行かないと本当に危ない気がします)

(…今動けるのは、何故か拘束されていなかったレイだけです)

(魔術に詳しくないレイでは、建宮さんに張られたルーンを解除できませんし…)

(!)

(どうやら、悠長に待っている時間もなさそうです!)


自分の発した電磁波から、敵の修道女たちが近づいてくるのを察知したフルチューニングは、

痛む体を無視して1人で走り去って行った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:01:53.03 ID:nhDUpYY0<>
9月9日(午前0時30分)、オルソラ教会


フルチューニングは、走りながら電磁性ソナーを発動。

こんな時間に200人以上の人間がいる、この教会が怪しいと判断して踏み込むことにした。

だが、フルチューニングはその扉に『アエギディウスの加護』と呼ばれる結界が用意されているのを知らない。

躊躇せずその扉に触れたフルチューニングに激痛が襲いかかり、彼女は叫び声をあげて倒れた。


「ああああああァァァ!!!」

「おやおや、確か天草式のお仲間じゃないですか」

「あ、ニェー、ぜ…」

「良いザマですねー、こんな結界に引っかかるなんて。流石は聖典も読めない獣、這い蹲る姿がお似合いですよ」

「…オル、ソラさん…は…?」

「ははぁ。罪人同士気が合うんですかね?…良いですよ、見せてあげましょう」


アニェーゼはそう言うと、部下の修道女に命令してフルチューニングを中へ引きずり込んだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:03:20.61 ID:nhDUpYY0<>
その闇の中、教会の大聖堂でフルチューニングが見たものは――狂気そのものだった。

数百人の修道女がオルソラ1人を殴り、蹴り、踏みつけ、笑い、蔑んでいた。

そしてそんな状況で尚、オルソラはフルチューニングを見て弱弱しく謝罪した。


「レイさん…本当に…申し訳…ありません…」

「オルソラさん…!」

「私が…天草式の…方々を…あなたを…信じていれば…こんな事には…」


その姿を見て、フルチューニングは建宮に言われた事を思い出した。


「…建宮さんが…言っていました」

「私たちの…やり方は…言葉では何も…伝わらない、と」

「…実際に…助け出すという…行動で示すしかない、と」

「レイも…天草式の、一員。…待っていて…ください…信じさせて…見せます」

「かつて…レイを実際に…救ってくれた、みんなと同じように!」


そして、互いにボロボロの体でありながら、フルチューニングとオルソラは笑い合った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:04:29.54 ID:nhDUpYY0<>
そんな2人をつまらなさそうに眺めていたアニェーゼが、冷酷に指示を出す。


「オルソラはともかく、こっちの女は生かす理由がありません」

「ただ…めんどいですが、この大聖堂を異教徒の血で汚す訳にはいきませんね」

「奥の倉庫に連れてって、始末しておいてください」

「はい、分かりました」


何のためらいも無く頷いた修道女たちが、フルチューニングを奥の倉庫へ乱暴に連れて行った。

そして倉庫に入った途端、フルチューニングはゴミのように投げ飛ばされる。

続いて中に5人の修道女が入ってくる。最後の1人が、しっかりと扉を閉め鍵まで掛けた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:05:08.56 ID:nhDUpYY0<>
「……」

「……」


もはや侮蔑の言葉すら投げかけることなく、修道女たちは無力なフルチューニングを踏みつけた。

力も入らず、碌に抵抗できないフルチューニングは、ひたすら踏まれ続ける。


「…ッ」

「……」


徐々に体が冷たくなり、フルチューニングが死を意識したその時。

1人の修道女が、フルチューニングの頭を思い切り踏みつけた。

それが、異変の始まり(キッカケ)であった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:05:59.56 ID:nhDUpYY0<>
目から完全に光を無くしたフルチューニングから、突然ハッキリと言葉が紡ぎだされた。


「――魔術変換用チップの重大な損傷を確認」

「――自己修復完了まで残りおよそ400秒」

「――魔術使用モードを強制的に終了します」

「――通常モードでネットワーク再接続開始」

「――成功。当個体の現在状況を送信します」

「――危険度A判定。解決方法を受信します」

「――敵対勢力の無力化を最優先項目に設定」

「――有効な解決法:酸素の電気分解と判断」

「――検体番号10032号のデータを受信」


今までが嘘のようにしっかりとフルチューニングは立ちあがった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:06:42.29 ID:nhDUpYY0<>
そして、彼女の周囲で電気の火花がバチバチと音を立て始める。

だが、修道女たちはそれでも慌てずに構えていた。


「感電攻撃は無意味です」

「すでにシスター・ルチアから、あなたの攻撃方法は電流だと報告を受けています」

「ですから、私たちは電撃を無効化する魔術を構築しています」

「今さら抵抗したところで、あなたに勝ち目など…」


「いいえ。ミサカの勝ちです、とミサカは断言します」


御坂妹が同じ方法を使った時と異なり、ここは狭い密室空間。

しかも今回の使い手は強力なレベル4の発電能力者。

その効果は劇的に現れた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:07:21.55 ID:nhDUpYY0<>
「…がはっ」

「ごえぇ…」


酸素が分解され、有毒なオゾンが大量に発生。

警戒をしていなかった修道女たちは、それを吸い込んで昏倒した。

フルチューニングは呼吸を止め、その様子をじっと冷たく見ている。

そして全員の無力化を確認すると、倉庫の扉を開けて大聖堂へ向かった。


「…オルソラの救出にいかなくては、とミサカは自分を鼓舞します」



その目に、今まで確かにあった美しい光を宿さないままで。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/09(木) 23:08:27.17 ID:nhDUpYY0<>
今日は以上で終了です

このまま連続更新できるように頑張ります

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/09(木) 23:17:21.26 ID:KRJe4UAO<>乙!
何だよワクワクが止まらねぇなこんちくしょう<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/09(木) 23:35:25.44 ID:oSjtC2DO<>乙! アニェーゼちゃんマジ鬼畜!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 00:19:44.59 ID:JyGbTYw0<>ちょっ、オゾンで臓器がボロボロになっちゃう…

まぁ、細かいこたぁ(ry<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 00:54:42.33 ID:liyGO42o<>>>211
イイじゃん、モブだしw<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 10:32:57.06 ID:NPK8pGoo<>ペンデックスを彷彿とさせる凶悪さよのう。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 13:27:15.84 ID:uw0nfw.0<>乙です
禁書はアニメしか見てないけど、天草式かっこいいな
2期で天草式が出るって聞いたし楽しみだ

ところで、原作では上条さんどうやって建宮に勝ったの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 13:55:48.54 ID:pj33Zzw0<>>>214
ステイルの炎剣をおとりにして、対衝撃術式があることで無警戒ところを右手で殴った。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 13:58:40.31 ID:uw0nfw.0<>>>215
ありがとう
やっぱり右手なのかwwww

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 17:51:04.87 ID:lfbvNIAO<>ちなみに原作の方でもやはり天草式に落ち度は0
あるとすればクワガタの顔が悪そうってことぐらい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 18:15:34.82 ID:oTEETXko<>天草式は本当にかっこいいよな
アニメだと3期になるだろう16巻での活躍は痺れる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 20:48:36.51 ID:ogjGzsDO<>オゾンとかえげつねぇwwwwww<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:00:32.41 ID:vzWrSNM0<>
こんばんはー、レスに感謝です!

>>213
お気づきの通り、モデルはペンデックスモードです


では、投下


9月9日(午前1時00分)、オルソラ教会


ボロボロになり、死にかけていたオルソラは、それでも笑っていた。

自分を引き渡した馬鹿どもを恨みながら死ね、とアニェーゼに言われているのに。

なぜなら、彼女は幸せだったから。

天草式やあの少年は、見ず知らずの自分を助けようとしてくれた。

そんな理由も、義務も無かったにも関わらず。

それ以上に素敵な贈り物など、この世界のどこにもないではないか。

だから。

オルソラは朦朧としながらも、アニェーゼの見当違いの言葉に言い返す。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:01:37.05 ID:vzWrSNM0<>
「…こんなにも、素晴らしい贈り物をくださった……方々に…」

「私は…一体、何を恨めば…よいと言うので…ございますか?」


その言葉に答えるように、2億ボルトの電流が周りの修道女たちに襲いかかった。

無警戒のまま強力なエネルギーを受けた修道女が、4,5人ほどまとめて吹っ飛んでいく。


「……」

「はっ、そういう事ですか」


ゆっくりと近づくフルチューニングの姿を見て、アニェーゼは何かを確信したかのように笑った。


「こちらに解析できない“謎の魔術”の正体は…超能力っつー事ですね」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:02:28.06 ID:vzWrSNM0<>
「ですが、そいつは妙な話ですね。能力者に魔術は使えない、って言うのは常識でしょう」

「一体どんな方法で超能力と魔術を両立してるのか、是非とも教えて欲しいもんです」

「それに、何だって学園都市の人間が天草式と一緒に行動しちまってたんですか?」

「……」


フルチューニングは、侮蔑するような態度のアニェーゼに言葉で返答しなかった。

言葉の代わりに、隠し持っていた最後の鋼糸を展開する。それも、アニェーゼを縛るのではなく切り刻むために。


「まだそんだけの事が出来る力があったとは驚きです。…が、無駄ってもんですよ」


アニェーゼは欠片も動じない。

傍に控えていた沢山の修道女たちが、それぞれの魔術で鋼糸を迎撃し、バラバラにしてしまった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:03:02.61 ID:vzWrSNM0<>
「大体ですね、『アエギディウスの加護』の直撃を食らった上に、体中怪我しちまってるじゃないですか」

「そんな動く死体と変わらねえ様な能力者1人、何も出来やしませんよ」

「……」

「大方、ご自慢の能力とやらで無理やり体を動かしてるんでしょうが、無駄なあがきってもんです」

「…それでもミサカは諦めません、とミサカは端的に告げます」

「…? すでに口調もいかれちまいましたか?」

「いかれてるのはテメーの頭だボケナス、とミサカはあなたをバカにします」


フルチューニングの安い挑発に、アニェーゼは溜息をついた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:03:52.51 ID:vzWrSNM0<>
「…もう良いですね。ほら、皆さんさっさとコレを始末してください」

「倉庫は使えねえし…しょうがないから、ここでパパッと終わりにしちまいましょう」

「ああ、なるべく血で汚さねえようにに頼みます、掃除が面倒ですからね」




「もう…止めてください…」

「!」


今にも戦闘が始まろうとしたその時、オルソラのか細い声が全員の注意を引いた。


「…レイさん…もう、私は…十分なのです…」

「何を…言っているのですか、とミサカは…!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:04:50.35 ID:vzWrSNM0<>
「“レイさん”。…あなたたちが、こんな…私の為に…立ちあがってくれた…それで十分です…」

「最期に…あなたたちのような…素敵な方々と…出会えた…それで…満足です…」

「私には…これ以上の…幸せなど…とても…抱えきれませんから…止めてください…」


そう言って美しく微笑むオルソラに、フルチューニングは何も言い返せない。

それでも前に進もうとしたフルチューニングの頭の中で、再び異変が起こる。


「――魔術変換用チップの完全修復を確認」

「――魔術使用モードの再起動を行います」

「――ネットワークの通常接続を強制終了」


400秒経過したことで、チップは修復を完了し、再び魔術を使えるようになる。

だがそれは、もうミサカネットワークへ普通に接続できないという意味でもあった。

フルチューニングは“レイ”を取り戻すと同時、能力の優れた応用法や戦闘知識を参照できなくなる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:06:42.15 ID:vzWrSNM0<>
(一体、レイは体に何をされたのですか…?)

(どうして、レイは妹達と接続できなくなるのですか…!)


フルチューニングが愕然とする中、わずかに繋がっている妹達が、最も親しく知る人物の接近を感知した。


(この気配は…あの時の少年…?)


通常の接続が切れるその瞬間、フルチューニングに妹達から次々に寄せられる声(キオク)が届いた。


『俺は、お前を助けるためにここに立ってんだよ!』

『――お前は、世界でたった一人しかいねえだろうが!』

『――今からお前を助けてやる』


それは紛れもなく、あの日実験を止めたヒーローの話だった。


(そうでしたか…あの時役立たずだったレイの代わりに、妹達を救ってくれたのが…)

(ならば、今こうして“上条当麻”が来ている理由もきっと…)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:07:51.16 ID:vzWrSNM0<>
事情を知ったフルチューニングは、こんな状況なのに思わず笑いたくなる。

しかも、トドメとばかりに最後に届いたのは、元気いっぱいの末っ子からの応援メッセージだった。


『あなたがアマクサシキから教わったように、ミサカも彼から教えてもらったの』

『ミサカ単体の命にも価値があり、その死に涙を流す人がいるんだっていうことを』

『だから“ミサカ”は、これ以上1人だって死んでやる事はできない』

『あなたはレイだけど、あなたもミサカだから、絶対に死ぬ事は許さない!ってミサカはミサカは激励してみる!』


「ふふ…妹の頼みぐらい、しっかり聞かないといけませんね…」


突然笑い出したフルチューニングに、アニェーゼが怪訝な顔で質問する。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:08:59.47 ID:vzWrSNM0<>
「何がおかしくて、笑ってるんですか?」

「…オルソラさん」

「え…?」


完全にアニェーゼを無視して、フルチューニングは誇らしげに宣言した。


「あなたの、そしてレイの幸福は――まだ止まらないみたいですよ?」


次の瞬間。先ほどレイを痛めつけた『アエギディウスの加護』が、完全に消し飛ばされた。

考えられない事態に動揺するアニェーゼ部隊。

急いで敵を探そうとするが、それよりも早く“敵”が中へ踏み込んできた。

250人の相手。恐ろしい魔術を使う修道女部隊のただ中に、たった1人で。

かつて学園都市最強のレベル5と戦って、妹達を救い出した無能力者(ヒーロー)。

――“戦う理由”ではなく、“戦い続けたい理由”で行動できる素人。上条当麻その人が。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:09:40.42 ID:vzWrSNM0<>
「ったく、本当に馬鹿も馬鹿、大馬鹿ですね」

「ほら、これが最後のチャンスです」

「自分が何をすべきかぐらい分かっちまってますよね?」


その上条に、アニェーゼは挑発するように近づいて行く。

250人を相手に戦えるはずが無い。だから何も出来ないと確信して。

胸の悪くなるようなその態度に、フルチューニングの怒りが燃える。


(いくら上条当麻とはいえ、1人で良い格好はさせません…借りは返さなくてはいけませんから)


次に上条がとる行動を“本当に確信した”フルチューニングが、アニェーゼに電撃を放つ。

鬱陶しそうにそれを払いのけるアニェーゼが、次に見たものは――


「何をすべきか、ね」

「確かにこれが最後のチャンスだ。良く分かってるよ」


電撃に反応して、碌にガードも取れない自分の顔を、迷わず右手で殴るド素人の姿だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:10:48.71 ID:vzWrSNM0<>
「き、サマら。何の真似だ、これはァ―――!」

アニェーゼの怒りに、フルチューニングと上条は2人そろって答えた。


「「助けるに決まってんだろうが(るじゃないですか)!!」」

「おもしろいですね…この状況で、たかが2人に何が出来るっていうんですか!」


250人の敵が、たった2人相手に武器を構えたその刹那。


「まったく、勝手に始めないで欲しいね」


爆炎を司るルーンの魔術師、ステイルがその象徴である炎剣と共に現れた。

ステイルの話を聞く限り、彼ら魔術師がこの問題を決着させる予定だったらしい。

にも関わらず、もう関係の無くなった上条が1人でここに来てしまった、ということだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:11:49.48 ID:vzWrSNM0<>
(やっぱり、上条当麻は妹達を助けた時と変わらないのですね)

(誰かの為に、命懸けで戦う事の出来る…天草式のみんなのような人です)

(もっともそのせいで、誤解を受けたレイや建宮さんは酷い目に遭いましたが…)

(…ん?)

(…建宮さん…魔術師が決着…もしかして…?)


フルチューニングがある可能性に気付いた時、アニェーゼが苦々しく吐き捨てた。


「2人が3人に増えたところで、何が…!?」


その言葉に答えたのは、フルチューニングが一番声を聞きたい人だった。


「3人で済むとか思ってんじゃねえのよ」

「建宮さん!」


横合いの壁を吹き飛ばし、捕まっていたはずの天草式メンバー全員と一緒に、教皇代理の建宮が姿を見せる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:12:37.24 ID:vzWrSNM0<>
「待たせてすまんかった、レイ」

「諫早さん」

「ごめんね、レイちゃん」

「…五和さん」

「後はまかせといていいすよ」

「…香焼」

「いやいや。…レイ、お前さんに戦う理由はまだあるか?」


涙で滲みそうになる視界を、ゴシゴシとこすって必死に見つめる。

涙で震えそうになる返事を、出来る限りシャッキリしようとする。

「…はい、教皇代理」


「っ…どいつもこいつも!!」

激昂したアニェーゼがただ一言、殺せ、と250人の部下に命令した。

それに従い飛びかかってくる修道女たち。


「さあさあ、我らがやるべき事はただ一つよな?」


対し、正反対の指示を受けた天草式十字凄教が、果敢に声を上げて迎撃する。


「救われぬ者に救いの手を!!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/10(金) 23:13:28.23 ID:vzWrSNM0<>
今日はここでおしまいです

間もなく2章も終わります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 23:25:11.37 ID:lfbvNIAO<>乙であった!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 23:29:38.12 ID:i4/NMqco<>待ちきれない乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/10(金) 23:32:44.58 ID:u2iJwOM0<>乙!! 本当にこの巻はどいつもこいつも格好良いからこまるぜ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/11(土) 00:10:01.47 ID:ST3MBUDO<>乙ー。教皇代理かっこいい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/11(土) 04:44:16.56 ID:b9Ew.nYo<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/11(土) 17:03:57.64 ID:SGrA2oQ0<>これさえあれば生きていけるぜ<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:17:27.71 ID:HvHF.8c0<>
こんばんはー、変わらぬレスに深く感謝です!

現在12日連続更新、まだまだ頑張ります

では、投下


9月9日(午前1時30分)、とあるビルの屋上


天草式十字凄教の女教皇、神裂火織はその戦いを優しく見つめている。

自分が信じていた通り、天草式は変わらぬ思いを持ち続けていてくれた。

それだけを確認するためイギリスから来ていた神裂は、深い満足感を味わっていた。

神裂にとって唯一残念なのは、横に土御門元春がニヤニヤと笑いながら立っていることだ。


「助けに行かんでいいのかにゃー?」


その問いかけに、神裂は少しだけ寂しそうな顔をして答える。


「私には、彼らの前に立つ資格などありません」

「それに、今の彼らには私の力はもう必要ないでしょう」

「私は自転車の補助輪のようなものなんですよ」


その言葉は、寂しいながらどこか誇らしげであった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:18:14.85 ID:HvHF.8c0<>
「…ところで土御門」

「んー?」

「あなたに聞きたい事があります」

「なにかにゃー?」

「あそこにいる天草式の“新しい一員”である少女についてです」

「…それは…俺に聞かれても困るんだぜい?」

「いいえ。あの子は学園都市の能力者でしょう。ならば、確実にあなたは事情を知っているはずです」


チャキ、と神裂は七天七刀を動かした。


「…名乗らせないで下さい、土御門。私は、もう二度とアレを名乗りたくない」

「ちょっ、ねーちん目がマジなんですけど!?」


その日。

フルチューニングが知らないところで、救われぬ者(ウソツキ)が1人いたのだが、詳しくは割愛。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:20:04.94 ID:HvHF.8c0<>
9月9日(午前1時30分)、オルソラ教会


天草式の面々は、数に勝るアニェーゼ部隊と何とかわたり合っていた。

正確にいえば、真正面から打ち合うのではなく、偽装や隠ぺいを駆使して誤魔化していたというべきか。

その中で、体を満足に動かす事の出来ないフルチューニングも死闘を繰り広げていた。

その場を動かず、電流を放射したり、磁力で操った鉄製品を盾や飛び道具とすることで戦っていたのだ。

幸いにもこの教会は工事中だった為、鉄骨や工具が至る所に散らばっていたのである。


(修道女の何人かは、対電気用の術式を構築しているっていうのが厄介です…)

(ですが、ここをレイが離れる訳には…!)


徐々に修道女に囲まれ、消耗していくフルチューニング。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:21:23.90 ID:HvHF.8c0<>
メキャッ!!

(…ッ!)

盾にしていた鉄骨を粉砕され、破片がフルチューニングに襲いかかる。

何とか避けて直撃は防ぐが、わずかに掠めた破片が額を切り裂き、出血で視界の半分が赤く染まる。

それを見たオルソラと上条が、何故か自分よりも痛そうな顔をしたことにフルチューニングは笑いそうになった。

急いで助けに走ってこようとする上条に、フルチューニングは大声で叫んだ。


「来る必要はありません!」

「馬鹿言うな!」

「大丈夫です。…もう“準備”は整いましたから」


その言葉に、修道女たちが警戒を強めて…ハッと気がついた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:22:32.49 ID:HvHF.8c0<>
自分たちの知らぬ間に、辺り一面に鋼糸が張り巡らされていたのだ。

もちろん、張ったのは動けないフルチューニングではない。

天草式の仲間たちが、戦いながら鋼糸の準備をしてくれていたのである。


(流石に、鮮やかな手並みです!)


かつて五和に教わった事を思い出して、フルチューニングは尊敬の念を抱く。

――または、戦闘中に“こっそりと準備して”いざという時の補助として使うのが主流ですね


(おかげで、まだレイは戦う事が出来ます!)


ちょうどフルチューニングのいる地点を中心にして。

辺りに張り巡らされた鋼糸が、ただの足止め用トラップから高圧電流の流れる凶器へとその姿を変えた。

あるいは、対電気用の術式を構築している修道女には、鋼糸が巻きついて動きを封じて行く。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:24:56.77 ID:HvHF.8c0<>
「全員、避けなさい!」

鋼糸に気づいていなかった、あるいは気づいていても警戒はしていなかった修道女たちが慌てて逃げる。

そして、そのバラバラになった隙を逃がすほど、天草式は甘くない。

一気に攻勢に転じて、次々と修道女の意識を刈り取っていった。


炎剣という圧倒的な武器を使うステイル。

何十人もの修道女を相手に「膠着状態」を作り上げる建宮。

『魔滅の声』と呼ばれる、魔力を使わない魔術を使うインデックス。

そして、超能力と魔術を駆使しつつ、高度な連携を見せる天草式。


(もしかして…このまま勝てる…?)


フルチューニングはそう思えるほど、余裕を取り戻していく。

この場において、素人の上条を除けばフルチューニングだけが知らなかった。

ローマ正教の“狂気”が、この程度で済むはずが無いという事を。

――フルチューニングは、シスター・ルチアの号令を聞いた時、初めてそれを目の当たりにする。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:26:03.31 ID:HvHF.8c0<>
「攻撃を重視、防御を軽視! 玉砕覚悟で我らが主の敵を殲滅せよ!!」

「?」

言葉の意味が分からず、フルチューニングが戸惑っているその時。

インデックスと戦っていた修道女たちは、万年筆を取り出して両手に持ち始める。

そして、迷わず万年筆で両耳の鼓膜を突き破った。


「な、にを…!?」


魔術に詳しくないフルチューニングは、その行為が『魔滅の声』を防ぐためであるという事を知らない。

だが例え知っていても、平然と己の鼓膜を突き刺すという行為を受け入れる事が出来ただろうか。


(これが、ローマ正教のやり方なのですか!)


そして、一気に戦局が塗り替えられる。

今まで敵の修道女たちが冷静であったからこそとれていたバランスが、向こうが全力で攻撃を始めることで崩れたのだ。

こうなると、圧倒的に少ない天草式は、数の暴力で押しつぶされてしまうのは明らかだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:28:03.16 ID:HvHF.8c0<>
特に多数を相手に戦っていたインデックス、ステイル、建宮の3人が追い込まれ、急いで奥の聖堂へ向かっていく。

近くに居たオルソラと上条も一緒に中に入り、5人はその中で立て篭もる事にしたようだ。

その扉を破壊しようと、100人以上の修道女が武器を打ちつけている。

思わず駆け出したくなる気持ちを、フルチューニングは必死で押さえこんだ。


(建宮さんたちを信じる事にします)

(きっと、打開策を見つけてくれるはずです)

(ならば、レイたちは少しでも相手の戦力を減らしておくべきでしょう)

(助ける可能性を、少しでも高めるために)


近くに居る天草式の仲間と頷き合ったフルチューニングは、建宮が来るのを信じて再び戦いを始めた。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:28:43.17 ID:HvHF.8c0<>
「吹っ飛べ!」

「こ、の、ローマ正教でもないくせに!」

「分からず屋!」


血まみれで戦うフルチューニングに、後ろから対馬が声をかけてきた。


「レイ、無茶しちゃダメよ」

「対馬さん…」


対馬がフルチューニングの背中をさすり、回復魔術を施す。


(こんな回復方法が…!?)

(やっぱり魔術ってデタラメですね)

「ありがとうございます!」

「当然のことよ。さあ、もうちょっと頑張りましょう」

「はい!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:30:09.77 ID:HvHF.8c0<>
それから10分後、打ち破られた聖堂から5人が飛び出してきた。


「レイ!」


建宮の鋭い呼び声に、敵に電撃を放っていたフルチューニングが即答した。

「はい、建宮さん!」

「簡潔に言うぞ。この状況を何とかするためには、このルーンのカードを使う必要があるのよな」

「それは、確か炎剣使いの…?」

「そうだ。俺が指示を出すから、レイは鋼糸を使ってこのカードを配置していってくれ」

「分かりました」

「その間、俺や他の仲間が必ずレイを守るから、何も気にせずカードだけに集中するのよな」

「はい!」


返事をしながら、大量のカードに鋼糸を突き刺していく。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:31:04.85 ID:HvHF.8c0<>
その作業中、あの上条当麻が立った1人でアニェーゼのいる場所へ走って行くのが見えた。

きっと妹達を救った時も、同じように立ち向かっていったのだろう。


(そうですよね…誰かを助けたいのなら、出来る事をしなくては)

(レイは、今度こそ信頼に応えなくてはいけません!)


「いつでもいけます!」

「よし、まずは説教壇後方の壁、その中心に40枚!」

「続いて右の壁、こちらから数えて2つ目の窓の上方10センチに28枚!」

「天井の左隅、ピッタリ端から6センチへ53枚!」


流れるような建宮の指示を受けて、次々とフルチューニングの操る鋼糸がカードごと指定の場所へ刺さっていく。

そして、その効果は劇的に現れた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:32:15.32 ID:HvHF.8c0<>
「…なるほど、これが天草式の多重構成魔方陣…なかなかやるじゃないか」


ステイルが、珍しく感嘆したように呟いた。

その背後には彼の誇る炎の魔術、『魔女狩りの王』が顕現している。

しかも、フルチューニングがカードを張って行くごとに、目に見えるほどその炎が強くなっていく。

無謀にも飛びかかった何人もの修道女が、その燃える怪物に薙ぎ払われた。


(これが…本物の魔術…)

(…ルーン、ですか)


眩しげにその様子を見るフルチューニングに、建宮が声をかけた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:34:34.36 ID:HvHF.8c0<>
「良くやったのよ。見ろ、敵さんが突っ込んでこなくなった」


言われてフルチューニングも気が付いた。あれだけ激しい戦闘の音が、今は止んでいる。

仲間があっさりやられたのを見た後では、流石にあの怪物相手に不用意には近づけないのだろう。


「本当ですね…」


フルチューニングから、思わず力が抜けそうになる。

その様子を見て、建宮が笑いながら肩を貸して立たせた。


「じゃあ、決着をつけに行くのよな」

「はい!」


そしてフルチューニングたちは、上条とアニェーゼが戦っているであろう奥の部屋へ歩き出した。

最高のハッピーエンドを迎えるために。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/11(土) 23:35:18.48 ID:HvHF.8c0<>
今日は以上となります

次回の投下で第2章が終了する予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/11(土) 23:38:10.48 ID:8VpI4EDO<>good<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/11(土) 23:39:23.53 ID:s3oVQ9ko<>乙乙

フルチューニングと美琴の共闘がいつか見られるといいな
「お姉ちゃんが電気の使い方を教えてあげる」的な感じで<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/11(土) 23:46:27.66 ID:F7KTAAAo<>>>255
御坂「あんたに本当の電気の使い方を教えてあげる」

どう見ても敵な件<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/12(日) 01:32:52.64 ID:tTsFIkDO<>おつかレイ! ……うん、我ながら無理やりすぎるわww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/12(日) 04:48:33.80 ID:oJVrMkAO<>>>255
なんかエロいな、その台詞<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/12(日) 13:14:32.22 ID:BMlfwg60<>1乙
頑張れ、レイ。と、ミサカは応援します。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/12(日) 19:57:30.90 ID:Nw0baEk0<>しかし、妹達の危機なら、最強が動く可能性も出てきたような……<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:56:21.85 ID:xq2JAtQ0<>
こんばんはー、レスありがとうございます

現在13日連続更新、まだまだ頑張ります

今日で2章はおしまいです

では、投下


9月9日(午前1時50分)、オルソラ教会婚姻聖堂


フルチューニングたちが聖堂へ踏み込んだ時、上条はアニェーゼと対峙しているところだった。

こちらを見て愕然とするアニェーゼに、上条は不敵に告げる。


「言ったろ。作戦があるって」


上条は、フルチューニングを含む天草式の仲間が、必ず作戦を成功させると信じていた。

その絶対の自信に応えられた事に、フルチューニングは笑みを浮かべる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:57:08.80 ID:xq2JAtQ0<>
「ざまあみろ、です」

「仲間どころか、自分自身すら信じられないようなあなた方に、レイたちが負けるはず無いでしょう」

「随分良い気になってんじゃねえですか…さすがは神をも恐れぬ超能力者、ってことですか」

「…」

「ふざけてもらっちゃあ困るんですがね!」

「こちとら、その神様にテメェの想像出来ねえようなどん底から拾い上げてもらったんですよ!」

「そのおかげでこいつらとも出会えたんです…」

「その十字教を台無しにするような裏切り者を、逃がす訳にはいかねえって分かりませんかねぇ!?」

「…なら…」

「あぁ?」


アニェーゼの怒りに、フルチューニングがそれ以上の怒りを滲ませて叫んだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:57:57.29 ID:xq2JAtQ0<>
「その大切な神様を、人を傷つける理由に使うな!」

「なっ」

「レイは能力者として製造されましたが、今は天草式十字凄教の一員です!」

「だから分かるんです…神様を理由にしていいのは、人を救う時だけなんですよ!」

「…人工的に作られたレイに、神様なんていないのかも知れませんが…」

「そんなレイを助けてくれたのは、この天草式十字凄教のみんなです」

「その理由が十字教で、その支えが神様だったから、こんなレイだって神様に祈ろうと思えるんです!」

「今のあなた方を見て、誰が神様に信仰を抱く事が出来るんですか!」


一歩も引かないフルチューニングに、アニェーゼは口を歪ませる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:58:31.12 ID:xq2JAtQ0<>
「ここまで互いに暴力を振るっておいて、自分たちだけは正しいと主張出来るなんざ、大したもんですね」

「それは」

「こっちも引けねえ理由があるんですよ!…暴力の連鎖を、簡単に止められるなんて思わねえ事です!」

「さあ、なにをやっちまってんですか!数の上ならまだ私たちの方が断然多いんです!」

「まとめて潰しにかかりゃあこんなヤツら、取るに足らねえ相手なんですよ!!」


一気にケリをつけようとするアニェーゼが、部下へ指示を飛ばす。

だが――


「何を……!?」


勝てるはずなのに、それでも修道女たちは動かなかった。…いや、動けなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:59:23.63 ID:xq2JAtQ0<>
ようやくアニェーゼは理解する。これは不審だと。

今、修道女たちが数にものを言わせて飛びかかれば間違いなく勝てるはずだ。

だが彼女たちは、それを心の中で信じ切れていないのだ。

ならば、無理やりにでも信じさせればいい。


(司令塔である私が、この男を叩きのめしてやりゃあいいんですよ)

(そうです、あんな素人、一撃で――)

(けど…本当に?)

(確実に勝つには…何をすれば…!?)


アニェーゼの心に、自分に対する疑念が生じる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 22:59:58.84 ID:xq2JAtQ0<>
自分を信じきれないアニェーゼに、上条が近づいて行く。

なぜなら、この場で1人で勝たなくてはいけないのは、上条にとっても同じことだったから。

そして、アニェーゼと違って上条は信じることで行動している。


息が詰まる静寂の中、ジリジリと間合いを狭める2人。

ついに、迷いのない声が上条から発せられる。


「終わりだ、アニェーゼ」

「テメェももう自分で分かってんだろ。テメェの幻想(じしん)は、とっくの昔に殺されてんだよ」


言葉と同時、上条は迷わずアニェーゼに突撃した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:00:51.04 ID:xq2JAtQ0<>
(…あ)

その光景を目にしたフルチューニングが、思わず目を疑った。

上条に殴り飛ばされるアニェーゼが、ほんの一瞬。

あの白い『最強』と重なって見えたからだ。


(…どんな敵でも、どれほどの人数が相手でも、迷わず助けに飛び込める)

(そんなあなた(ヒーロー)だからこそ…妹達も、オルソラも、救う事が出来るのかもしれません…)


ガラン……

自分たちのリーダーを撃破された修道女が、自分の武器を力なく床に落とした。

ゴトン……

その反応は連鎖していき、その場にいたアニェーゼ部隊の修道女が同じように武器を投げだす。

ガラガラガラガラ!

やがてその音は教会中に響き渡り…1つの戦いが終わりを告げた。

その音を、聞いたことも無い子守唄のように感じながら、フルチューニングもゆっくりと意識を手放した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:01:38.32 ID:xq2JAtQ0<>
9月9日(午前2時30分)、オルソラ教会


フルチューニングがふと目を覚ますと、天草式の回復術によって体の痛みが和らいでいた。

隣にはオルソラも居て、安らかな顔で眠っている。

ローマ正教の修道女部隊は、すでに立ち去った後のようだった。


(…良かった)

(本当に良かった)

「レイちゃん、もう起きたんですか?」

「!…五和さん」

「無理しちゃだめですよ、一番重症なんですから」

「大丈夫です。建宮さんは?」

「今、イギリス清教の人たちと打ち合わせ中なんです」

「…イギリス清教と、何を?」

「それは…」


五和が答えるよりも早く、建宮とステイルが揃って現れた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:02:15.26 ID:xq2JAtQ0<>
「話はまとまったよのよな」

「建宮さん…」

「あ、レイ。お前さんも起きたか。ちょうど良かった」


ニコニコと笑顔な建宮のところに、天草式のメンバーが集合していく。

どことなく、フルチューニング以外の人間は建宮の言葉を予想しているようだ。


(何故かみんな、笑いをこらえるような顔をしています)

(…むー)


ちょっぴり疎外感を感じて、ふてくされ気味な顔をするフルチューニング。

そんなフルチューニングの気持ちを、、一瞬で吹き飛ばすほどの発表がされた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:03:07.21 ID:xq2JAtQ0<>
「たった今、この神父様に確認してもらったのよ」

「現時点を持って、オルソラ嬢及び我ら天草式は、イギリス清教の傘下に入る事になった」

「そう言う事だ。最大主教ローラ・スチュアートの許可は取り付けたからね」


ステイルの言葉に、フルチューニング以外の天草式がワァ!と歓声を上げる。


「…どういう事ですか?」


1人事情の分からないフルチューニングの質問に、建宮が笑顔で説明する。


「何しろ、我ら天草式十字凄教はローマ正教相手に喧嘩を売ってしまったわけよ」

「はい」

「それにオルソラ嬢も、いつまた暗殺されるか分からない」

「…」

「相手は我らと比較にならん巨大組織。ならばこそ、イギリス清教の保護を受ける必要があるのよな」

「…確かに」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:03:44.91 ID:xq2JAtQ0<>
教皇代理建宮の言葉に、周りの仲間も嬉しそうに同意する。


「そう、これは当然の成り行きですよね!」

「…五和さん?」

「選択肢が無い以上、仕方ないすよ!」

「…香焼?」

「そうだ、これは決してあの方を追いかける意味は…」

「…諫早さん?」

「全く、みんなガキじゃないんだから…しょうがないわね」

「…何で対馬さんまでそんなに笑顔なんです?」


どうも天草式のみんなは、この発表を予想して喜びを隠していたらしい。

イギリス清教の保護下に入るのが、そんなに嬉しいのだろうか?
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:04:16.46 ID:xq2JAtQ0<>
(…あ!)


そこまで考えて、フルチューニングは初めてステイルを見たときに五和とした会話を思い出した。


――「イギリス清教の『必要悪の教会』――本物の魔術師サマかよ」

――「ねせさりうす?」

――「イギリスが誇る、対魔術師用の魔術師集団です。“私たちの女教皇も今はそこに所属しています”」


そう。イギリス清教には、女教皇が所属しているという話だった。


(もしかして…イギリス清教に属する事じゃなく、女教皇を追いかけられる事が嬉しくて…?)


フルチューニングがその事に気が付くと、途端に天草式のみんなが子供っぽく見えるようになった。

これでは、親離れできない子供みたいではないか。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:05:28.59 ID:xq2JAtQ0<>
「あの、建宮さん…」

「どうしたレイ?」

「ひょっとして、最初から女教皇の後を追うつもりだったんですか?」

「…」


目を逸らす建宮に、ステイルがああ、と気づいた事を口にした。


「そういえば、あなたの服の赤い十字架…イギリス清教のシンボル、聖ジョージの印じゃないか」

「…タテミヤサン、ヨクワカラナイ」


白々しい教皇代理に、フルチューニングが冷たい目を向ける。

だが、一瞬感じた強い気配に思わず後ろを振り返った
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:07:14.29 ID:xq2JAtQ0<>
(今のは…?)

(これほど大きな、人間のエネルギーを初めて感じました)

(持っていたのは、大きな刀のようでしたが…)

(ひょっとすると、あの人が?)

(…間違いなさそうですね)

(まあ、どの道今は追いかけることなんて出来ませんし)

(いつか、ちゃんと挨拶する日が来るのでしょう)

(子離れできない、天草式の女教皇様に)


丁度その時。

魔術で気配を消していたものの、フルチューニングの電磁波で一瞬感知された女教皇が、

包帯を持って急いで立ち去ったのを、天草式のメンバーは誰も知らなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:07:42.68 ID:xq2JAtQ0<>
フルチューニングが追求を止めたことで余裕を取り戻した建宮が、ゴホン、と咳払いして場の空気を元に戻す。

そして全員が注目する前で、堂々と宣言した。


「とにかく、これより我らの拠点は英国ロンドンに移る事になる」

「ろんどん?」

「というわけで…明日より、天草式引っ越し大作戦を実行するのよな!」

「……わあ」



こうして、彼ら天草式の長い1日が終わりを告げた。



これにて第2章終わり
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/12(日) 23:08:36.65 ID:xq2JAtQ0<>
今日はこれにておしまいです

次回より、第3章…の前に、間章「天草式引越し編」を投下します

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/12(日) 23:33:10.89 ID:tTsFIkDO<>乙なんだよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 00:06:42.16 ID:13g1DAs0<>乙です<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/13(月) 00:09:34.74 ID:U0GuQgAO<>超乙です これからも超休まず続けて欲しい所ですが、体調には超気をつけて下さい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 01:07:51.64 ID:MDlF4hYo<>天草式が言う'救われぬ物に救いの手を'って
上条さんのそげぶみたいなもんか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 01:12:19.91 ID:zk4fl9Eo<>ねーちんの魔法名だろう<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 08:22:54.94 ID:6yGub/oo<>アニメで説明ほしかったよね
サルファーレ000とかいっても意味わからんしww
背中刺す刄とかかっこいいのに視聴者には意味伝わらないんだろうな・・・<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 09:23:55.81 ID:YBq5S2AO<>次回予告の代わりに
解説コーナーでも入れてくれればよかっだろうな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/13(月) 09:57:13.69 ID:8qeiF5c0<>乙っす

>その大切な神様を、人を傷つける理由に使うな!
レイかっこいいー

>…タテミヤサン、ヨクワカラナイ
建宮さんかっこわるい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 11:25:03.95 ID:f1CBicAO<>お前ら>>1からずっとsage進行なのに何でageるの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 18:14:48.51 ID:Q322x6Uo<>遅れたけど>>1乙

最近天草式が登場する真面目系SSが多くて嬉しんだよ!!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 20:37:49.75 ID:xt0ISL20<>>>285
>>1自身がageてるからだろ
sageとsagaぐらい見分けてから言おうな
まあ、sage進行には賛成するけど、>>1の投下がすぐ分かるし<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 20:41:52.02 ID:5KwCyQSO<>神裂さんかわえぇなぁ

それにしてもこの更新頻度はかなりありがたい。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 21:42:31.91 ID:jkJ1eMDO<>お疲れ様ー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 23:00:33.63 ID:MDlF4hYo<>普段ならそろそろだけど
今日は二章終わったから一日空くかな?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:21:21.56 ID:sVTcu820<>
こんばんはー、温かいレスが励みになります

どうもありがとうございます

では、投下


9月9日(午後2時00分)、天草式十字凄教のとある拠点


計画通り(?)イギリス清教の傘下に入る事になった天草式の面々は、現在荷造りに励んでいた。

日ごろから比較的頻繁に拠点を変えているとはいえ、本拠地を国外に移すのはさすがに手間がかかる。

そんな中1人荷物の少ないフルチューニングは、早々に支度を終えて退屈そうにしていた。

もちろん他の人の手伝いをしたいのだが、フルチューニングは魔術に詳しくない。

素人が触ると危険な霊装が有ったりするので、手を出し辛いのだ。

しかも天草式の霊装は、傍目にはただの日用品に偽装してある事が多いので、魔術師でも見わけが付きにくい。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:22:06.93 ID:sVTcu820<>
(ゴミだと思って捨てようとした和紙が、間違って濡らした途端に30mの船になるってどういう事ですか!?)


ついでに言うと、昨日の戦いで重傷を負ったフルチューニングをこき使うような人間もいない。

長々説明したが、一言でいえばフルチューニングは暇だった。


(…建宮さんの所へ行こうかな)

(きっと一番荷物が多いはずだし、魔術品以外を運搬する手伝いでもしよう)


そう判断するや否や、フルチューニングは建宮の部屋へ向かって歩き出した。

部屋の扉をノックすると、陽気な声で中へ呼ばれたので、おずおずと中に入る。


「あれ…もう準備終わってるんですか?」


驚いた事に、教皇代理として様々な資料を持つ建宮の荷物は、ほとんど綺麗に纏められていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:23:05.80 ID:sVTcu820<>
「大体のところは終わってるのよな。レイは手伝いに来てくれたのか?」

「はい。…そのつもりだったんですが、流石は教皇代理。すでにここまで纏めてあるなんて…」

「いやー、動かすのに儀式が必要な霊装の類がここにはないからな」

「本や道具を適当に段ボールへしまうだけだから、早いのは当たり前ってわけなのよ」


なるほど言われてみれば、建宮の部屋にある段ボールには、本や手紙、文房具等の小物が多く入っていた。

これでは手伝う意味が無いなあ、とフルチューニングが辺りを見回していると、部屋の隅に目を引くものが有った。


「建宮さん…このフリップボード、建宮さんのですか?」

「お、すまん。危うく入れ忘れるところだったのよな」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:23:43.38 ID:sVTcu820<>
「…何に使うんです?ひょっとしてそれも魔術的な…」

「ん?当然これは字を書いて見せるために使うのよ」

「…そうですか」


何分この世界の常識に疎いと自覚しているフルチューニングは、それ以上突っ込むのをやめた。

そして他の段ボールに目を向けると、何故かサッカーボールが入っている。


「建宮さん、このサッカーボールは?」

「当然蹴るために使うのよな」

(天草式のみんなでサッカーゲームでもする気なんでしょうか?)


他にもよーく見てみると、双眼鏡や望遠鏡を始めとする、今まで使ったのを見た事が無い道具がいくつも存在していた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:24:36.64 ID:sVTcu820<>
フルチューニングはそれらをゆっくり見ていたが、やがて興味は建宮の所持する本へ移った。


(いろんな本が有りますね…『聖人の成り立ち』『確実に当たる競馬予想』『これであなたもマッサージマスター』)

(ジャンルがバラバラ…乱読家なんですかね?)


その様子に気づいた建宮が、フルチューニングに声をかけた。


「そうだレイ。お前さんにもマッサージしてやろうか?」

「え、でも…良いんですか?」

「もちろんよな。俺の荷造りも終わるし、流石に昨日の今日でレイを働かせる訳にはいかないのよ」

「…」

「それに、五和には中々好評だったのよな?」

「じゃあ、お願いしま…」


内心喜んだフルチューニングが、いそいそと横になろうとたその瞬間。

抱えていた本――『聖人の成り立ち』――が落ち、カバーが外れて中身が見えてしまう。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:25:21.07 ID:sVTcu820<>
「…『巨乳と貧乳、正義はどちらに』…?」

「あ、ちょ、レイ!今のは忘れて――」


嫌な予感がしたフルチューニングは、他の真面目そうな本のカバーを次々と外していく。


「『脚線美の魅力に迫る』『今、メイド服がアツイ』『熟女と少女、その美しさ』…なるほど?」


ぶっちゃけて言うと、隠されていたのはエロ本やマニアックなフェチ本だった。


「わわわわ、レイ、そう言うのは男のロマンでな…?」


フルチューニングは、無言のまま笑顔で一旦本を集め始める。

そして顔を青くする建宮の目の前で、能力全開で焼き出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:25:56.69 ID:sVTcu820<>
「ギャー!!」

「安心してください、建宮さん」

「…今から建宮さんにも電気マッサージをしてあげます」

「落ち着け、な!お前さんもいずれは分かるようになるのよ!」

「レイは極めて落ち着いています。これは倫理に基づく適正な判断を行っているに過ぎません」

「いやいや、なんかメッチャ切れてるじゃないの!?」

「…レイが、建宮さんをその下らない煩悩から救ってあげます」


それから数分後。

真っ黒になった教皇代理を、レイがまるで荷物のように引きずって行くのが目撃された。

こうして、天草式の引っ越しは(ごく一部を除き)順調に行われた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:26:52.88 ID:sVTcu820<>
9月9日(午後6時00分)、とある飛行機の中


フルチューニングを含む天草式は、現在ロンドン行きの飛行機に乗っている。

てっきり、魔術で瞬間移動でもするのかとフルチューニングは期待したのだが、そんな事は無かった。

『縮図巡礼』は日本国内しか移動できないし、他の大掛かりな魔術を発動させるよりは飛行機の方が遥かに速い。


(魔術は便利なのか、それとも不便なのかイマイチ判断できませんね)

(デタラメに思える魔術にも、一定の法則は存在するって事は聞きましたが…)

(その法則とやらをレイが実感出来るようになるには、修行が足りないってことでしょう)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:27:56.42 ID:sVTcu820<>
そう思案するフルチューニングの手には、天草式魔術の説明書が握りしめられている。

と言っても、初心者用に分かりやすい表現でまとめられた、五和お手製の薄い本だが。


一日も早く仲間の役に立つために、フルチューニングは魔術を詳しく知ろうと決意していた。

それは単に、天草式の魔術だけではない。


(ロンドンに慣れたら、イギリス清教『必要悪の教会』を訪ねてみたいですね)

(他の天草式のみんなと違って、レイは圧倒的に経験が足りないですから)


天草式十字凄教が誇る魔術の真髄は、何と言ってもその『隠密性』だ。

日常生活の中にわずかに残る魔術的要素を拾い上げ、術式として組み上げていく。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:28:49.59 ID:sVTcu820<>
だが、生まれて日の浅いフルチューニングは、そもそも日常生活そのものにすら慣れていない。

そこからさらに術式を組み上げるには、どう考えても長い鍛錬と慣れが必要になる。

いかに超能力という武器が有っても、このままでは本当の意味では役に立てない。


(あのステイルさんが使ったルーン魔術…ああいう術式を覚える事が出来れば)

(きっとレイも、今以上にみんなをサポートする事が可能なはずです)


だからこその、即効性のある『本物』の魔術。

フルチューニングは、さらなる力を求めていた。

長い道のりの中、結局フルチューニングは一睡もすることが無かった。


やがて。

1人の少女の強い決意を乗せた飛行機が、天草式の新たな舞台、ロンドンへと到着する。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/13(月) 23:29:49.11 ID:sVTcu820<>
少々短いですが、ここでおしまいです

次回で引越し編は終わるつもりでいます

現在14日連続更新、まだまだ頑張ります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/13(月) 23:38:41.55 ID:jkJ1eMDO<>おつかれぇぃゃぁん<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/13(月) 23:47:30.06 ID:JxZ/iMDO<>乙。とうとう連続二週間か!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/14(火) 00:01:06.33 ID:rHuzX2AO<>>>287
マジだ、すまん
ちょっと逆パカしてくる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/14(火) 00:05:01.15 ID:cV7fJUAO<>乙だにゃーん<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/14(火) 10:33:48.42 ID:RIxmuig0<>乙
なんかレイに危険なフラグの予感?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:21:58.34 ID:B5/e8Sg0<>
こんばんはー、レスありがとうございます


>>304
早まらないで…!


では、投下


9月12日(午前10時00分)、ロンドンの日本人街


無事に日本人街に拠点を移し、天草式が落ち着きを取り戻しつつあったその日。

フルチューニングは、久しぶりにご機嫌な様子で歩いていた。

ちなみに機嫌の良い理由は、この辺りでは珍しい、日本茶の茶葉も取り扱うお茶屋さんを見つけたからである。

店主に勧められ、さっそく試飲したフルチューニングはその味をとても気に入った。

そして迷わず1キロもの茶葉を購入し、みんなのところへ帰ろうとしている最中である。


(五和さんに美味しいお茶を淹れてもらいましょう!)

(今日のレイはラッキーですね)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:22:51.10 ID:B5/e8Sg0<>
ドン!

笑顔で考え事をしていたフルチューニングは、曲がり角で1人の女性とぶつかった。

その拍子に、五和の作ってくれた天草式魔術の説明書を落としてしまう。


「すいません…」

「いや、私も前見てなかったから…」


そう言って、金髪で褐色の肌を持つ女性が説明書を拾おうとして――固まった。

より正確に言うと、説明書に描かれていた、天草式だけが持つ特異な術式の図面を見て固まったのだ。


「あの?」

「これは…大地の特性を利用した拘束術式…?」


その女性――シェリー・クロムウェルが思わず漏らした呟きに、今度はフルチューニングが固まる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:24:02.23 ID:B5/e8Sg0<>
(一発で術式に見当を付けるなんて、この人も魔術師なんでしょうか?)


「ひょっとして、あなたは魔術師なんですか?」

「ん?あー、あなたも?」

「いえ、一応勉強中ですが、レイはまだ見習いレベルです」

「…日本人で、魔術師の見習い?」


わずかな時間黙考して。シェリーはああ、と思い当たった事を口にした。


「そういやあ、天草式っていうのがイギリス清教の保護下に入ったっていう話だっけか」

「はい。レイは天草式十字凄教に所属しています」

「ふーん。じゃあこの術式は、その天草式のオリジナル構成ってことよね」

「そうですよ」

「日本なんて、魔術の遅れた科学かぶれの国だと思ってたが、なかなか味のある術式を使うじゃねーの」

「は、はあ…」

「ゴメン、名乗り忘れてたわ。私はシェリー・クロムウェル。シェリーでいい。…あなたはレイ、でいいのよね?」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:24:39.88 ID:B5/e8Sg0<>
フルチューニングは、戸惑いがちに頷いた。

このシェリーと呼ばれる女性は、イマイチ口調が定まらない。

男のような粗雑な口調と、女性の丁寧な口調が混ざり合っているのだ。

ただ、悪い人ではないらしい、とフルチューニングは判断し、恐る恐る質問した。


「シェリーさんは、どこに属する魔術師なのですか?」


その問いに、シェリーはバツが悪そうに頭を掻きながら答えた。


「一応、イギリス清教『必要悪の教会』に所属はしてんだけど…」

「『必要悪の教会』ですか!?」

「そ。ただ、今は謹慎中で…ぶっちゃけ処分待ちってところかな」

「?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:25:43.98 ID:B5/e8Sg0<>
シェリーの言った通り、現在彼女は宗教審議中であった。

去る9月1日のこと。学園都市に攻め込んだ彼女は、上条たちによって敗北しイギリスへ強制送還された。

その為、本来ならば処刑されてもおかしくないはずだった。

ただ、シェリーは極めて優れた暗号解読及び戦闘能力を持っている。

その能力を惜しむ最大主教ローラ・スチュアートが、現在裏で手を回して寛大な処置を下そうとしているのだ。

罪人であるシェリーが、比較的自由に動けるのはそのためである。

そんな事情を知る由も無いフルチューニングは、渡りに船とばかりに飛びついた。


「シェリーさんにお願いが有ります」

「初対面の相手に突然お願いするなんて、意外と図々しいのね」

「まあ、一応聞くだけ聞いてやるけどさ。何?」

「レイに、魔術を教えて欲しいのです!」

「はあ?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:26:31.63 ID:B5/e8Sg0<>
9月12日(午前10時30分)、とある喫茶店


話が長くなりそうだと感じたシェリーは、フルチューニングを連れて贔屓の喫茶店へ入る事にした。

そこでお茶を飲みながら、今までフルチューニングの説明を聞いていたのである。


「はー、つまりメチャクチャ簡単に言うと、お手軽で強い魔術を教えて欲しいと?」

「はい」

「あるわけねーだろ、そんなモン」


にべも無く一刀両断されたフルチューニングが、ガックリとうなだれた。


「大体そんな便利な術が存在したら、魔術師は全員それを使うだろうよ」

「う…確かに」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:27:10.13 ID:B5/e8Sg0<>
「こんだけ魔術が細分化されてんのは、どんな術式にも一長一短有るからなの」

「そりゃあ『聖人』みてーな例外はあるけどさ、そう都合よくはいかねえんだよ」

「…はい、すいません…」

「いや、そんなにガッカリしなくても…」


素直に落ち込むフルチューニングを見て、流石にシェリーも言葉に詰まる。


「っていうか、そもそも何であなたは魔術を使いたい訳?」

「え?」

「魔術師っていうのはな」


一呼吸置いて、シェリーが挑むように話しだした。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:28:37.52 ID:B5/e8Sg0<>
「何が何でも叶えたい願いがあるのに、“普通の方法”じゃ叶わない」

「そうやって世界に裏切られた果て、最後に裏技として魔術にすがるような人間の事を言うんだ」

「その象徴が『魔法名』。自分の願いを名前に示すのさ」

「魔法、名…」


フルチューニングも、漠然と感じる事が出来た。

きっとこのシェリーにも、魔術を求めるに値する願いがあり、それを示す魔法名を持っているのだろうと。

顔つきの変わったフルチューニングを見て、シェリーは励ますように話を続ける。


「力が足りない。仲間の役に立ちたい。その気持ちはもちろん分かるけどさ」

「そんなに急いで魔術を学ぶほど、焦る必要があるのかよ?」


その問いかけが、フルチューニングの奥底まで入り込んできた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:29:48.05 ID:B5/e8Sg0<>
(焦り…これは焦りなのでしょうか?)

(…きっとそうなのでしょう)

(この前のアニェーゼ部隊との戦闘で、レイは確信しました)

(この体は、単にクローンとして製造された訳ではないようです)

(レイの体には、“レイも知らない”改造が施されているのは間違いない)

(もしかしたら、いつ異常が生じても不思議では無いのかもしれません)

(元々レイは生まれるはずの無いクローン、命は惜しくありませんが…)

(天草式のみんなに、恩を返せないままで終わるのは我慢できません!)


自分の中で結論を見つけたフルチューニングは、もう一度シェリーに頭を下げた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:33:47.66 ID:B5/e8Sg0<>
「お願いします、シェリーさん」

「…」

「天草式の魔術は日常動作が基本ですから、レイが習得するには時間がかかります」

「ですがレイには、もう残された時間がありません」

「このまま、レイを助けてくれたみんなのお荷物で終わる訳にはいかないんです!」

「…大したことは、教えられねーんだけど」

「魔術師についてレイに教えてくれた、シェリーさんから学びたいんです」

「…めんどくさい子供に懐かれちゃったなぁ」


その言葉に、フルチューニングが目を輝かせた。


「ありがとうございます!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:35:03.12 ID:B5/e8Sg0<>
「しょうがないわね。ところで、あなたが今使える術式は?ゼロって事は無いでしょ?」

「はい。天草式の魔術を7つほど覚えています!」


そして。次の言葉を聞いた瞬間、シェリーの表情が激変した。


「後は、魔術ではなく“超能力”で2億ボルト程度の発電が出来ますが…」

「“超能力”?…あんた、まさか学園都市の能力者?」

「? はい、そうで…」


言葉が終わる前に、シェリーがフルチューニングを掴み上げた。

フルチューニングがゴホゴホと苦しそうに咳き込むが、シェリーは全く気にしていない。


「どういうことなの…?」

「…な、にが…?」

「なんで、能力者に魔術が使えんのかって聞いてんだよォッ!!!」


そう叫ぶ魔術師の目には、今まで見たことも無い感情が燃えるように浮かびあがっていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/14(火) 23:35:43.03 ID:B5/e8Sg0<>
今日はここで終了です

シェリーも口調が難しいですね

申し訳ないですが、後1回間章が入ります

現在15日連続更新、まだまだ頑張ります

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/14(火) 23:52:35.88 ID:kUYiuUSO<>お疲れ様
お休みなっせ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/15(水) 00:45:54.37 ID:ngUzekwo<>なるほどシェリーか!
めっさ楽しみにしてます乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/15(水) 01:08:51.58 ID:ybRUFADO<>乙! こうくるとは<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします <>sage <>2010/09/15(水) 08:51:01.04 ID:/5t7cnI0<>シェリーってテレスっぽい喋り方だっけ?
なんにせよ乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/15(水) 11:08:17.97 ID:LNajEEgo<>フルチューニングの境遇とシェリーという組み合わせは確かに最高だな……
ほんとスゲェおどろいた<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/15(水) 11:47:35.03 ID:ejsYAB.0<>おおお!乙!
面白いアイディアだなー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/15(水) 15:06:01.44 ID:UZoIgi.o<>シェリーとの絡みは面白そうだ
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/15(水) 22:57:11.52 ID:SgZA91U0<>そろそろ?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:53:12.27 ID:P9vAyLA0<>
こんばんはー、大変遅くなりました

ギリギリセーフでしょうかね?

とりあえず投下



9月12日(午前10時50分)、とある喫茶店



突然胸倉を掴まれたフルチューニングは、咄嗟にシェリーへ電撃を放つ。

バチン!と目の前で火花が飛び散り、シェリーは思わずその手を離した。


「…術も霊装も使ってないどころか、魔力の流れすら感じられない。マジで能力者かよ」

「いきなり何をするんですか!」

「能力者なのは間違いない、か。…あなた、本当に魔術が使えるの?」


フルチューニングの怒りを無視して、シェリーが押し殺したような声で問いかける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:54:11.96 ID:P9vAyLA0<>
「シカトですか!?…魔術なら何度か使用していますけど、それが一体…」

「超能力者に、魔術は使えない」


再度フルチューニングの声を無視して、シェリーは冷たく断言した。


「使えない?…何か罰則規定でもあるんですか?」

「罰則? ハ、とぼけんなよ。魔術師の中じゃ常識じゃねーか」


要領を得ないフルチューニングに、シェリーは顔をズイ、と近づけた。


「もう一度言うが…超能力者は魔術を使わないんじゃねえ、“使えない”んだよ」

「超能力者っていうのは、普通の人間と『回路』が異なっている。つまり…」

「テメェら超能力者が魔術を使えば、その体は破壊されて死んじまうって事なんだけど?」

「そんな、まさか!?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:54:51.67 ID:P9vAyLA0<>
驚くフルチューニングに対し、シェリーは俯きながら首を振った。


「他の誰よりも、私が“一番良くその事を知っている”」

「…どういう事ですか?」


尚も理解できないフルチューニングを見て、シェリーは自嘲しながら全てを話しだす。


「簡単な話さ。20年ほど前、学園都市と協力して試したんだよ。能力者に魔術を使わせてみようってな」

「じゃあ、もしかしてその結果」

「そうさ」


フルチューニングの言葉を遮り、シェリーが苦い過去を口にする。


「私の教えた術式を使った途端、友達のエリスは血まみれになって倒れた!」

「!」

「挙句の果てに、その実験施設を潰しにやってきた『騎士』に殺されたのよ!」

「そんな、事が…?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:55:22.84 ID:P9vAyLA0<>
絶句するフルチューニングに、シェリーは自分の思いを叩きつけた。


「だから科学と魔術は、その領分を守らなくちゃいけねーんだよ!」

「だっていうのに、なんで…」


相当混乱しているのか、シェリーの声は徐々に小さくなり、フルチューニングの耳に届かなくなる。

だが、シェリーは目に浮かんだ涙を拭い、今度はしっかりと声を響かせた。


「さあ、今度こそ質問に答えやがれ。何でテメェは魔術を使えるんだ、ああ!?」

「分かりません」


端的に一言で返され、ポカンとするシェリー。

フルチューニングも軽い混乱状態に陥っていて、目をぐるぐるとさせている。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:56:00.06 ID:P9vAyLA0<>
「そもそも、超能力者に魔術は使えないという事を、今初めて知りました」

「…いやいや、確かにさっきからそんな感じの態度だったけどさ…本当に?」

「はい」

「ちっ、そもそも天草式って言えば、学園都市のある日本が拠点だったはずだろ」

「その科学のお膝元にいた癖に、誰も気にしてなかったのかよ?」

「はい」


困った顔をしながらも、フルチューニングは素直に答えていくしかない。


(そう言えば建宮さんたちは、能力と魔術の関係については何も口出しをしませんでしたね)

(天草式は魔力よりも日用品の霊装を利用した術式がメインですし、みんなも知らなかったんでしょうか?)


黙り込んだフルチューニングに、シェリーは難しそうな顔をして質問をする。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:56:41.38 ID:P9vAyLA0<>
「じゃあ、何の心当たりも無い訳?」

「あります」

「まあ、そりゃあるはず無いわよね…え、は?」

「?」

「心当たりはあんのかよ!?」

「はい」

「何で魔術使えるのか分からねえって、自分で今言ったばかりだろーが!」

「分かりません。が、1つ仮説なら立てられるのです」

「仮説?」


(仕方ありません、ここは全て話しておくべきでしょう)

(それに、これでレイも確信できました)

(やはりレイには、何か特別な処置が施されているのですね)


そしてフルチューニングは、自分の境遇を話し始めた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:57:33.71 ID:P9vAyLA0<>
すなわち、自分がクローンである事。

売り払われたところを、天草式に助けてもらった事。

自分以外にも1万体近くの同型クローンが存在している事。

かつて戦闘中に、そのクローンたちと脳波ネットワークが繋がった事。

普段は、どう頑張ってもそのネットワークに繋がらない事。

そしてネットワークに繋がらない理由と、魔術を使える理由は同じだと思っている事。

シェリーは最後まで黙って聞いていたが、フルチューニングが口を閉じたのを見てようやく口を開いた。


「科学の話は良く分からないけど…つまり、あなたたちクローンは特別なネットワークで繋がっている」

「で、あなただけは何か特殊な繋がり方をしているから、他のクローンとは自由に話も出来ない」

「その特殊な繋がり方っつーのが、自分が魔術を使える秘密かもしれない、と」


それなりに理解してくれたシェリーに、フルチューニングはコクンと頷いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:58:09.37 ID:P9vAyLA0<>
「レイの予想では、能力者の『回路』を、ネットワークを利用して魔術用に書き換えているのだと思います」

「信じらないわ…つくづく科学ってのは狂ってる」

「ただ、具体的にどうやって脳波ネットワークをいじっているのかは、レイにも分かりません」

「もういいわ、それ以上想像したくねえし」


顔色の悪くなったシェリーが、手を振ってフルチューニングの言葉を止めさせた。


「じゃあ、これでレイの話はおしまいです」

「あ?」

「今度は、シェリーさんがレイに魔術を教えてくれる番ですよ?」

「喧嘩売ってんのかよ?」


ガタン!と音を立ててシェリーが立ちあがった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/15(水) 23:59:03.50 ID:P9vAyLA0<>
「話を聞いていなかった?」

「私が教えた術式はなあ、エリスを殺しちまったんだよ!」

「例えあなたが例外的に平気だとしても、超能力者だと分かっているのに魔術を教える訳ないでしょうが!」

「レイは、エリスさんではありません」

「っそういう話をしてんじゃねえんだよ!」

「科学と魔術、その両者は絶対に相容れないんだ!」

「不用意に互いに干渉すれば、また悲劇は起こる…」

「ですが」


今度は、フルチューニングがシェリーの言葉を止める番だった。


「『能力者』であるレイを救ってくれたのは、『魔術師』の天草式のみんなです」

「…」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 00:00:47.28 ID:ldLR1ug0<>
「そしてレイは、あなたのいう絶対に相容れない人たちとすでに一緒に行動しています」

「…」

「レイの居場所は、天草式です。そして、天草式十字凄教は魔術組織なんです」

「だからレイも、魔術師になるんです」


あまりにも子供っぽく、真っ直ぐな主張。

わずかな説得にさえならないような我儘。


「そして、レイにはその為の時間も技術も足りません」

「…」

「ですが、レイは元々実験用のクローン。“実験をされる”のはお手の物です」

「もしレイが壊れても、それはシェリーさんの責任ではありません」

「レイがポンコツなだけです」

「だから、心おきなくレイで実験をしてください。レイに魔術を叩き込んでください」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 00:01:30.58 ID:ldLR1ug0<>
そしてフルチューニングは、子供であると同時に、どこまでいっても試作型(ジッケンドウブツ)だった。

ここに建宮たちがいれば、引っぱたいて怒ってくれたかもしれない。

そんな事の為に助けた訳じゃない、と涙ながらに語ってくれたかもしれない。

でもここにいるのは、たった1つの願いをその名に刻む、不器用な魔術師だけだった。


「壊れてもいい?心おきなく実験?…駄目に決まってんだろ」

「!」

「私は、もう2度とあんな思いをしたくない」


その言葉に、思わず目を伏せるフルチューニング。

だが、俯くフルチューニングに対して、シェリーの話はまだ続いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 00:02:12.82 ID:ldLR1ug0<>
「“だからこそ”、レイ。…鍛えてやるよ」

「え…?」

「言ったろ。もうあんな思いをしたくねーんだ。つまり、もう2度と壊れる超能力者を出す訳にはいかないって事だ」

「は、はい」

「なのにこのままあなたを放っておいたら、どんなバカをしでかすか分かったもんじゃない」

「シェリーさん…」

「死ぬ気で付いてこい。そのどこまでも甘い顔を、グシャグシャの泣き顔に変えてやるから」

「よ、よろしくお願いします、師匠!」


こうして。

僅かに歪みを持ったまま、事態は大きく進んでいく。

新たに生まれた魔術師(ジッケンドウブツ)が、再び無能力者(ヒーロー)と出会うまで。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 00:02:56.14 ID:ldLR1ug0<>
今日はここでおしまいになります

次回の投下より第3章ヴェネツィア編です

現在16日連続更新(ギリギリでしたが)、まだまだ頑張ります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/16(木) 00:05:32.74 ID:ojLoAF2o<>乙
お前さんにいい言葉をやろう
つ「寝るまでが今日」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/16(木) 00:06:13.54 ID:iFLUK.DO<>乙乙!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/16(木) 06:14:24.53 ID:cO/9YoSO<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/16(木) 12:10:26.26 ID:tehT0Is0<>シェリーが師匠とか完全俺得
全力支援<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/16(木) 14:12:09.58 ID:je7UgQAO<>>>340
死ぬまでが明日<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:32:15.43 ID:ldLR1ug0<>
こんばんはー、レスありがとうです

アニメ2期での天草式の活躍が、今から楽しみですね

では、投下


9月25日(午後1時30分)、ロンドンの日本人街(天草式の拠点)


フルチューニングが、シェリー・クロムウェルに弟子入りして2週間近くが経過した。

その期間には、『残骸』を巡る戦い、『大覇星祭』、リドヴィアの使徒十字を使った学園都市攻略未遂など、

様々な出来事があったのだが、天草式の面々とは基本的に無関係であった為ここでは省略。

そして今、フルチューニングは天草式の少年香焼と立ち話をしていた。


「まだお茶っ葉は残っているのに、何でまた新しく買っちゃうんすか!」

「む!…店長が、これは最近仕入れたばかりの特別製だってお勧めしてくれたんです!」

「大して味なんて変わらないすよ!」

「そんなことありません。レイは香焼と違って舌が繊細なんです!」

「嘘だ!だって昨日レイが作ったエビチリ、ぶっちゃけまずい…」

「えい」


バリバリバリ!とすっかりお馴染みの音を立てて、フルチューニングの電流が香焼に直撃した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:33:05.58 ID:ldLR1ug0<>
「だからそれ卑怯…ギャアアア!!!」


ぷしゅー、と空気が抜けたように倒れる香焼。

それでも怒りが収まらないフルチューニングだったが、約束の時間が近い事を思い出して意識を切り替える。


「もうこんな時間ですか。ちょっとレイはお出かけしてきます」

「え!?…ここ最近しょっちゅう出かけてない?」

「ふふん、年頃の女性には色々お付き合いというモノがあるのです」


そう言い残すと、フルチューニングはいそいそと外へ出て行った。


「…」


どことなく香焼がむくれていると、対馬がやってきて彼の頭をポンポン、と慰めるように叩いた。


「何落ち込んでるのよ…最近レイに構ってもらえなくて寂しいんだ?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:34:03.40 ID:ldLR1ug0<>
珍しくニヤリとした笑みを浮かべる対馬に、香焼は必死で反論する。


「違うすよ!別に寂しくないし!」

「ホント?」

「当然じゃないすか!」

「そっか、分かった。あのね、男がツンツンしても意味無いのよ?」

「全然分かって無いじゃん!」


顔を真っ赤にして怒鳴る香焼を見て、対馬は溜息をついた。


(こりゃー苦労しそうね)

(レイからの進展はまず期待できないし…)

(どっちもまだまだお子様っていうのが問題よね)

(まあ、レイをしっかりリードするなんて、期待できるとすれば…)


対馬がチラ、と後ろを見ると、ちょうど建宮がレイを探しに来たところだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:34:46.09 ID:ldLR1ug0<>
「あれー、またレイは外出中なのよな?」

「そうみたいね。…あなたもやっぱり心配?」


対馬が探るように質問すると、建宮はニヤリと笑った。


(お、余裕ね。ちゃんと信頼してるって事かしら?)


心の中で、対馬が珍しく建宮を高く評価をする。

そんな事を知る由もない建宮は、チチチと指を振って答えた。


「確かに危なっかしいところはあるが、それでもレイは馬鹿じゃないのよな」

「まあ、そうよね」

「大体、俺はレイが“いない”事を確かめに来たのよ」

「…へ?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:36:10.57 ID:ldLR1ug0<>
「何せ、アイツは俺の秘蔵本(コレクション)を遠慮なく燃やしちまうからな」

「は?」

「鬼の居ぬ間になんとやら、今のうちに無事な本を隠さないといけないわけで…」


その言葉を聞き終える前に、対馬は教皇代理(今一番偉い人)の股間を蹴り上げた。

ぐおおおお!と悶絶する教皇代理(繰り返すが、今一番偉い人)。


(このバカに期待した私がバカだった!)

(っていうか、リードするどころかこいつが一番ガキじゃない!)


怒り気味に歩いて、対馬はその場を後にする。


今日も天草式は平和だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:36:59.56 ID:ldLR1ug0<>
9月25日(午後2時00分)、ロンドンのとある廃墟


日本人街からやや離れたこの廃墟が、フルチューニングにとっての教室である。

フルチューニングが時間通り到着すると、すでにシェリーがいつもみたいに不機嫌そうな顔で待っていた。

そのシェリーに、笑顔で頭を下げるフルチューニング。


「いつもありがとうございます師匠」

「毎回頭下げなくていいって言ったでしょう」

「でも…」

「それより、『課題』はキッチリこなしてきたんだろうな?」

「成功したのは一回だけでしたが」

「ふん、じゃあとりあえずここで試しにやってみろ」

「はい!」


元気良く返事したフルチューニングが取りだしたのは、シェリーからもらったオイルパステルだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:37:54.18 ID:ldLR1ug0<>
「まずは復習。――浮遊術」

「はい」


フルチューニングが、勢いよくオイルパステルで自分の靴に魔方陣を描く。

5秒ほどで完成した術式は、すぐにその効果を発揮する。

最初は少しふらつきながらも、フルチューニングは地上15センチのところで浮いたまま安定した。


「うん、良い感じね。後は構築スピードを上げる事。何千回と反復しなさい」

「はい!」

「じゃあ本番。――人形作りを始めな」


その言葉に、フルチューニングも緊張する。

この術式は極めて難易度が高く、成功した(ように思えた)のはたった一回だけだからだ。


(落ち着いて、今まで習った事を確認)


それでも、フルチューニングは臆することなくオイルパステルで魔方陣を生成する。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:38:56.34 ID:ldLR1ug0<>
(大事なのは、具体的なイメージの構成と力の流れ!)

(いけえ!)


「おいおい、まさか本当にゴーレムを!?」


誰よりもその難しさを知るシェリーが驚嘆する。


(ありえない…たった2週間程度学んだだけでゴーレムを作り上げるなんて、天才ってレベルじゃねえぞ!?)


慄くシェリーを無視して、フルチューニングは術式の完成を急ぐ。

術式の完成に3分ほどかかりながらも、フルチューニングは遂にゴーレムを出現させた!

言葉を失うシェリー。


「…なに、ソレ?」

「これがレイのゴーレムですが?」

「…」


フルチューニングの足元には、10センチほどの大きさで、一応2足。だが頭部が明らかにカエルっぽいモノがいた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:40:08.40 ID:ldLR1ug0<>
(焦らせやがって…良く見りゃ基礎理論のカバラからしてガタガタじゃねえか)

(人間の複製どころか、これじゃ精々出来の悪いオモチャってとこね)

(まあ、それでも一定の成果が出たのは褒めてやるべきか…?)


安堵するシェリーに、フルチューニングは少しムッとして告げる。


「レイのゲコ太をバカにするのですか?」

「いやいや、まずはここまでやれりゃあ…ゲコ太?」

「はい」

「ゲコ太ってナニ?」

「? 愛らしいカエルのキャラクターですが」


そう言ってレイは、お茶屋の主人から貰ったストラップを取り出した。


「確かに、最初に師匠が見せてくれた『エリス』とは比べ物になりませんが…」

「こっちの方がかわいいですよ?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:41:07.11 ID:ldLR1ug0<>
だが、シェリーはフルチューニングの話を聞いていなかった。

その取り出されたストラップと、ゴーレムを真剣に見比べている。


(…最初から、ゴーレムの造形はあのストラップを目指していた、ということ?)

(私が教えた術式は、あくまで人型を作るための術式)

(どう頑張ってもカエル顔になるわけがねえ)

(それなのに、自分の中のイメージをここまで具現化させるなんて!)

(これが、超能力者の持つ『自分だけの現実』ってやつなのかしら…)


フルチューニングの作ったゴーレムは、大きさも強度も大したことはない。

ましてや、シェリーの『エリス』のように天使をモチーフにすることで強化されている訳でもない。

戦闘力としては0と断言できるレベルだ。

それでも、シェリーはそのゴーレムに恐れを抱いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:42:23.81 ID:ldLR1ug0<>
魔術は学問だ。科学とは違うが、厳密なルールと法則が存在している。

あのゴーレムは、その法則を捻じ曲げなければ作り上げることは出来ない。


(そう、普通の魔術師には曲げる事の出来ないルールがある)

(…私は、あの術式であんなゴーレムは作れない)

(けど、レイは超能力者だ。“普通じゃない”)


そもそも、超能力というものは物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力の事を言う。

だから。

もしも超能力者が魔術を使えるならば――その曲げられない魔術のルールを捻じ曲げる事も出来るのでは?

そこまで思い至って、シェリーはごくりと唾を飲み込んだ。


(あるいは)

(レイに魔術を使えるようにした誰かさんは…)

(それこそが目的だったのかもしれないな)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:43:44.94 ID:ldLR1ug0<>
シェリーがそこまで考えているとは知らないフルチューニングは、見つめられてもキョトンとしている。


「…やっぱり、全然ダメでしょうか…?」

「いやあ…」

「次は50センチ以上を目標に頑張りますから!」

「…そうだな」


ようやくほっとしたフルチューニングは、さらにシェリーに問いかけた。


「何か造形のコツがあれば、詳しく教えて欲しいのですが」

「…うーん…」


返答に悩んだシェリーは、結局こう答えた。


「とりあえず、レイの場合は…完成形を強くイメージするのが効果的だと思う」

「はい」

「ただ、なぜゴーレムが出来んのか、その理論体系もちゃんと頭の中に入れておけ」

「分かりました」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:44:21.63 ID:ldLR1ug0<>
その時、フルチューニングの携帯に着信が入る。

シェリーが無言で出ても良いと促すと、フルチューニングは頭を下げて通話を始めた。


「はい」

「…いつですか?」

「…分かりました」

「はい、では」


20秒足らずの会話を終えると、フルチューニングはもう一度頭を下げた。


「すいません、もう帰らないといけなくなりました」

「別に構わねえけど、何かあったのか?」

「明日、天草式のみんなでイタリアへ行く事になりました」

「イタリアに…何で?」


フルチューニングは、少し嬉しそうに笑った。


「オルソラさんの、お引越しのお手伝いです」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/16(木) 23:45:59.38 ID:ldLR1ug0<>
今日はこのへんで終了となります

結構独自解釈が含まれているので、あまり突っ込まないでくれると嬉しいです

現在17日連続更新、まだまだ頑張ります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/16(木) 23:55:21.61 ID:ok.0oIUo<>ゴーレム大地に乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 00:03:51.02 ID:VnzYOVoo<>乙

魔方陣を書くものを金属製にしたら完璧じゃね?
電気でちゃちゃちゃっと書けそう<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 00:05:04.95 ID:BoG6NIAO<>ゲコ太、死す乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 00:40:50.74 ID:uKUMZMDO<>砂鉄振り撒いて魔方陣貼り付ければおk<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 00:46:34.45 ID:IgbGHfs0<>ゴーレム砂鉄ver.なら魔術無しでいけるんじゃない?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 00:51:03.29 ID:BPG2Z8so<>お姉様は磁力で鉄骨を連結して巨大な手みたいなものを作ったりしてたし、砂鉄鉄骨ゴーレムは十分アリだな

いざとなればワーストみたいな加速砲の弾にもできる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 01:12:11.46 ID:pFSHIBw0<>誰も突っ込まないけど「魔法陣」ね。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 02:10:35.99 ID:3FDswN.0<>方形の陣なら魔方陣でおk
と、自己解釈していた俺。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 02:17:49.49 ID:BoG6NIAO<>つかレイは砂鉄操れないんだろ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 07:03:20.50 ID:0J3afjE0<>魔方陣も魔法の護符に使われたりするから
苦しいがおかしくはない<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/17(金) 09:14:07.61 ID:0MIWNxQ0<>あらやだ、香焼くんってかわいいのね
…私もあんな変態組織やめて天草式に入ろうかしら<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 09:29:35.75 ID:NDt5Y6Yo<>>>369
むすじめさン何やってんですかァ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 11:05:22.77 ID:BoG6NIAO<>>>370
お前もだにゃーロリコン<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 11:26:19.63 ID:bU/weIEo<>>>371
あなたもね。シスコン軍曹<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 13:53:09.75 ID:3FDswN.0<>>>372
もう少しエツァリおにいちゃんぽく言ってくれれば、私も何か言えたのに。
……おにいちゃんの、ばか。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/17(金) 19:01:03.60 ID:XAmvq2AO<>超乙です<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:25:39.21 ID:x4DVE8c0<>
こんばんはー、沢山のレスに感謝です(グループの皆さんにも感謝!)

>>365
ミスの指摘ありがとうございます。以後気をつけます

あと>>367の言うとおり、レイは砂鉄を美琴のようには操れません
なにせ能力が美琴の5分の1以下なので、砂鉄を武器に出来るほど大量に扱えない、という設定です

では、投下


9月27日(午前11時00分)、イタリアのキオッジア


キオッジアでは珍しく、うだるような暑さを感じるほど気温の高いその日。

天草式のメンバーは、元ローマ正教(現イギリス清教)の修道女オルソラの引越しの手伝いをしていた。

当然フルチューニングも、汗を流して部屋の片づけに参加している。


「オルソラさん、この台所用品はもう箱詰めしますか?」

「あ、それはまだ置きっぱなしで大丈夫でございますよ。後でお昼ご飯を作る必要もありますし」

「そうですか。ではこっちの衣類を纏めておきますね」

「あ、レイちゃん。それ埃がすごいから、おしぼり使って?」

「ありがとうございます。…ところで五和さんは幾つおしぼりを持っているんですか?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:26:41.98 ID:x4DVE8c0<>
ただし、今この場で引っ越し作業をしているのはフルチューニングや五和を含む5人だけであった。

他のメンバーは、建宮と共にどこかへ出かけてしまっている。


(建宮さんは、『気になる事があるからちょっと調べてくるのよな』って言っていましたけど…)

(いつものふざけた感じで話していましたが、やけに目が真剣だったのが気になります)


少し不安げな顔をするフルチューニングだが、そこにオルソラがいつもの笑顔で話しかけてきた。


「あらあら、レイさんはちょっとお疲れですか?」

「違いますよー」

「では、一緒に買い出しに行きましょう」

「…この場合話は繋がっていると判断するべきでしょうか…?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:27:56.13 ID:x4DVE8c0<>
マイペースなオルソラのおかげで、とりあえずフルチューニングは不安を一旦脇に置いておくことが出来た。

それにどうやら、オルソラは天草式のみんなに必要な日用品を買いに行くつもりらしい。

みんなに必要なものを聞いて回っている。


「分かりました、ご一緒します」

「さあさあ、外は良い天気でございますわよ」

「だから行くって言ってるのに、何でレイを引きずって行くのですか!?」


ズルズルと首根っこを掴まれながら、フルチューニングは買い物に出発した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:28:39.06 ID:x4DVE8c0<>
必要なものを購入し、オルソラの家へ2人が向かおうとした時のこと。


「あれ?」


フルチューニングの視界に、見た事のある純白のシスターが映り込んできた。

しかも、何故かジェラート専門店のウィンドウに張り付いている。


「…オルソラさん、あの子はもしかして…?」

「まあ、イギリス清教のインデックスさんでしょうか」


フルチューニングの声かけで気づいたオルソラも、はんなりと驚いた様に声を上げた。

とりあえず、2人はインデックスに話しかけてみる事にした。


「あれ?オルソラ、久しぶりだね!」

「お久しぶりでございます、インデックスさん」

「ねえねえ、オルソラ。これが本場のイカスミジェラートかな!?」

「そんなことより」


話が進みそうになかったので、フルチューニングが強引に割って入った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:29:46.88 ID:x4DVE8c0<>
「どうしてあなたがイタリアにいるのですか?」

「あれ?あなたは一緒にオルソラを助けてくれた…」

「レイです。で、何でイタリアに?」

「とうまと旅行に来たんだよ!」

「それは楽しそうでございますねえ」

「…で、その『とうま』は今どこですか?」


フルチューニングが呆れながら尋ねると、インデックスは顔を青くした。


「ああ!とうまが迷子になった!?」

「って言うか、あなたが勝手にはぐれたのでは?」

「違うもん!」


フルチューニングの辛辣な突っ込みに、インデックスが今度は顔を赤くした。


「どうしよう、とうまはイタリア語を喋れないんだよ!」


とりあえず、このままオルソラとインデックスを連れて人を探すのは遠慮したい。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:30:25.17 ID:x4DVE8c0<>
ついでに引越しの人手も足りないから、インデックスと上条当麻にも協力してもらおう。

そう考えたフルチューニングは、インデックスとオルソラを先に家に帰し、自分で上条当麻を探すことにした。


「…オルソラさん、インデックスさんを連れて先に家に帰っていてください」

「あら?」

「レイが上条さんを探して、一緒に帰りますから」

「でも、とうまはこれから観光とか食事をするって…」


少し渋るインデックスを、オルソラが魔法の言葉で説得する。


「私がこれからお昼を作りますので、ご一緒されるのはどうですか?」

「行く!」

「…極めて簡単に説得できましたね…とにかく、レイは付近を探してみます」

「分かりました、気を付けるのでございますよ?」

「…はい」


そっちこそ気を付けて欲しい、と口に出せないフルチューニングは、とりあえず返事をして走り出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:31:11.21 ID:x4DVE8c0<>
9月27日(午前11時30分)、キオッジアのとある大通り


フルチューニングが上条当麻を見つけた時、予想通り彼は弱りきった顔をしていた。


「…こんにちは、久しぶりですね」

「あああ、インデックスはいねーし、言葉は分からねーし、マジどうすればいいんだよ!」

「あの」

「ちっくしょう、この異国の地で天涯孤独になるなんて、なんて不幸なんだー!」

「話聞けよ」


バリバリバリ!とフルチューニングが電撃を放つ。

右手にスーツケースを持っていた上条は、何の防御も出来ずに直撃を食らった。


「オアアアアア!?」

「ようやく気付いてくれましたか…でも、何故能力の無効化をしなかったのでしょう…?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:32:20.38 ID:x4DVE8c0<>
「な、なんでビリビリがイタリアに…って、あれ?」

「残念ですが、レイはオリジナルではありません」

「お前、確か天草式と一緒にいた妹達…」

「はい。名前はレイと言います。」

「レイ?」


何故か不思議そうな顔をする上条に、フルチューニングは堂々と説明した。


「妹達の試作型、検体番号00000号という最初の名前を元に、天草式のみんなが名付けてくれました」

「試作型…一番最初に作られたって事か?」

「はい」

「だって、その、妹達っていうのは、実験で殺される為に…」

「いいえ。妹達を作る最初の目的は、レベル5を人工的に作り出す事でした」

「試作型としてレイが作られた後、それが不可能と分かり実験は凍結。その後妹達はレベル6を作る実験に流用されたのです」

「そうか…で、なんでレイは天草式と一緒にいるんだ?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:32:59.11 ID:x4DVE8c0<>
「実験が凍結され廃棄されたレイを、製造者が金策の為売り払おうとしたのです」

「なんだって!?」

「ところが、その取引現場にいた天草式のみなさんが、レイを助けてくれました」

「そしてここにいろ、と居場所を作ってくれたんです」

「そっか…良かった…」


ほっとする上条に、フルチューニングは冷たい目で糾弾した。


「それなのに、あなたは天草式のみんなのことを、『あんな連中』だの『凶人』だのと…」

「う!」

「しかもレイや建宮さんを、思いっきり殴ったりするなんて…」


すいませんでしたー、と上条が土下座ダイヴを披露。

やたらと土下座に慣れた様子を見て、フルチューニングは彼の日常生活が気になった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:34:02.93 ID:x4DVE8c0<>
「もういいですよ」

「え?」

「あなたは、妹達をあの実験から救ってくれましたから」

「それでチャラにして上げます」


ポカンとしている上条に、レイは笑顔を向けた。


「それよりも、さっきインデックスさんを見かけましたが」

「ああ、そうだインデックス!」

「今は、オルソラさんと一緒に彼女の家へ向かっているところです」

「オルソラ?…オルソラはイギリス清教に入ったから、ロンドンにいるはずだぞ」

「オルソラさんは元々ここに住んでいて、まだ家財道具なんかが残っているんです」

「レイたち天草式は、その荷物をロンドンへ運ぶお手伝いに来ているんですよ」

「はー、なるほど。それでインデックスは…」

「たまたま買い出し中に、インデックスさんがジェラート専門店のウィンドウに張り付いているのを見つけました」

「あの馬鹿!」

「大丈夫ですよ。お昼を御馳走すると言ったら、喜んでオルソラさんに付いて行きましたから」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:34:50.31 ID:x4DVE8c0<>
「ちっとも大丈夫じゃねえー!何だよアイツ、俺を置いて食べ物の事ばかり!」


今日はこっちが噛み付いてやる!と怒る上条だが、レイはそれを無視して会話を続行。


「とりあえず、オルソラさんの家に案内します。あなたの分のお昼もオルソラさんが用意してくれますよ」

「でも、それは悪いよ。それに俺たちこれから観光もするし…」

「ぶっちゃけますと、引越しの人出が足りないんです。黙って付いてきてください」

「ひど!?それが本音かよ!」

「じゃあ、このままイタリアで孤独に彷徨うといいでしょう」

「ちくしょう、拒否権がねえ!」


ガックリと項垂れながら、上条はフルチューニングと一緒に歩き出した。


「あれ、レイはイタリア語喋れるの?」

「当然です。学習装置によって、主要20カ国の言語をマスターしています」

「何かそれズルイだろ!?」



イタリアを舞台にした陰謀劇は、賑やかな2人の預かり知らぬところで密かに進行していた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/17(金) 23:35:33.13 ID:x4DVE8c0<>
今日はこれにておしまいですが、一つお知らせを

明日は確実に投下できません…連続更新記録はここで終了となります

明日の文化祭に全力を注ぐので、間違いなく余力が残らないからです

自分みたいな馬鹿が多いせいか、うちの学校は中学校のくせにやたらとこういう行事が盛り上がる…

まあ、そんなこんなで土曜(もしかしたら日曜も)はこれません

期待してくれている人がいたら申し訳ないです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 23:45:40.39 ID:BPG2Z8so<>中学生だと……?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/17(金) 23:54:04.22 ID:BoG6NIAO<>ショタだと…?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/18(土) 00:02:55.87 ID:EKp1y6DO<>乙! テスタメントマジ便利<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 00:08:23.29 ID:rWZ6LBoo<>あわきんがアップを始めました<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 00:12:35.14 ID:dOLnHkAO<>テスタメントと聞くとTES.と返事をしたくなりますね、とミサカは某ラノベの八号さんの真似をうわなにをするやめ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 01:05:15.87 ID:AupuBjQo<>結標 「中学生ですって(ガタタッ」<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 01:23:16.90 ID:5Pgg5gYo<>中学生はねぇじじいなのよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 06:28:27.63 ID:XNxBQ2SO<>中学10年生とか20年生とかだろ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 11:19:02.91 ID:h180jcAO<>お前ら中学校の美人女教師という考えは無いのかよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 14:08:58.64 ID:dOLnHkAO<>>>395
その幻想はぶち壊す!

中学生男子な肉付きの甘い体…ふぅ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/18(土) 14:23:09.71 ID:/XT9PT6o<>まさかマジで香焼が書いていたとは…
いや常盤台の生徒かも知れんな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/19(日) 20:42:43.89 ID:YXVMrwAO<>>>397
つまり心理掌握か<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:19:50.66 ID:Qy4KV7U0<>
こんばんはー、なんとなくお久しぶりです

思いっきり個人情報漏らしたのは忘れてください

では、投下


9月27日(午後3時00分)、オルソラのアパート


上条がオルソラのアパートに到着し、インデックスと合流してからおよそ3時間。

ジェラートを頬張るインデックスに脱力したり、何故か自分を見て怯える天草式に突っ込みを入れたり、

五和と呼ばれる少女からおしぼりを貰ったり、オルソラの作った絶品パスタに感動したり、

1品だけ美味しくないラザニアに顔をしかめたら、何故かフルチューニングから電撃を食らったり。

賑やかに過ごしながら、上条とインデックスも引越しの手伝いをしていた。


「なあ、なんでお前が怒ってるんだよ…?」

「別にレイは怒ってなどいませんが?」


嘘だよ、絶対キレてるよ!とは言いだせず、上条はピリピリしているフルチューニングと一緒に箱詰めをしている。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:20:33.64 ID:Qy4KV7U0<>
お昼を食べ終えてからもう2時間以上もずっとこんな調子なので、そろそろ上条の心も折れそうだった。


「…まだレイは経験が浅いから…!」

「いつか必ず…」

「それともオリジナルのセンスの所為で…?」


フルチューニングが、まるで呪詛のようにブツブツと独り言をいっていると、埃まみれのインデックスが現れた。


「うあー。とうま、何だか修道服のあちこちが汚れてきたかも」

「あのな。引越しの作業をしてんだから少しぐらい汚れるのは当然だろうが」

「それはそうですが、確かにこの汚れはレイも気になりますね」


上条が、ようやく呪詛を終えたフルチューニングに目を向けると、確かに彼女は人一倍埃まみれだった。

フルチューニングはずっとイライラしていた為、わずかに電撃が漏れていたらしい。

その電撃がまるで静電気のように埃を吸い集めた結果、フルチューニングの全身に埃が集まっていたのだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:21:27.66 ID:Qy4KV7U0<>
「まあまあ。では、お二人は先にシャワーを浴びるといいのでございますよ」

「…良いんですか?」


レイの問いかけに、オルソラは笑顔で頷いた。


「はい。まだ箱詰めされていないのは食器ぐらいですし、先にシャワーを済まされた方が時間を短縮できますでしょう?」

「じゃあ、そうさせてもらうんだよ!」

「ありがとうございます、オルソラさん」


そしてオルソラは、2人をシャワー室へ案内するため出て行った。


それから15分後。包装用新聞紙が足りなくなった上条は、新聞紙を探していた。

一応置き場所は聞いたのだが、オルソラに言われた場所は只の廊下で、その廊下には2つのドアが並んでいる。

どちらの部屋かオルソラに聞こうにも、彼女は今外にいるトラック運転手と打ち合わせ中だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:22:22.07 ID:Qy4KV7U0<>
(しょうがない、片っぱしから入って見るか…)


上条が大して考えずに左のドアを開けようとすると、中からインデックスの気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてきた。

しかもご丁寧に、水音…シャワーの音までセットで。


(うお!…これはお風呂場という名の罠か!)

(危うくボコボコにされるところだった…)


上条は慌てて手を離し、ホッとしながらもう一つのドアを開け放った。


「…何をしているのですか?」


その上条の眼前。溢れる湯気と共に、タオルすら纏っていないフルチューニングが無表情で立っていた。


「うぎゃああ!!え、あれ!?…こっちも風呂!?」

「…そう言えば、建宮さんが言っていました。あなたは夏の終わりに、女教皇の裸身も目撃していた、と」

「ひょっとして…そう言う趣味ですか?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:23:08.46 ID:Qy4KV7U0<>
淡々と質問するフルチューニング。何分羞恥心が薄いので、誰かさんのように慌てることも無く冷たい目で見つめてくる。


「ち、違う!俺はただ新聞紙を探しに来ただけで…!」

「新聞紙?…廊下の奥に纏めてありますが」

「マジか!…っていうか、シャワー室は隣じゃねえのかよ!?」

「ここは“2部屋共”シャワー室ですが?」

「そんなのありかよ!?どっちを選んでも地獄しかねえじゃねえか!」

「…あなたには、ノックをするという概念が無いのですか?」

「あ」


その言葉を最後に、上条はフルチューニングによって蹴り飛ばされた。

さらにタイミングの悪い事に、その直後。

ドライヤーに驚いて飛び出したインデックスと遭遇した上条は、いつも以上に噛み付かれることになった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:24:38.83 ID:Qy4KV7U0<>
9月27日(午後5時30分)、オルソラのアパート前


いつもどおりのお色気&暴力イベントが有ったものの、それ以外は順調に作業は進行した。

そして日が暮れた頃、ようやく引越し作業は終了となった。

荷物を積んだトラックが走り去るの確認したフルチューニングは、建宮に渡された通信術式でその報告をしている。


「こちらは無事に終わりましたよ」

『ご苦労さんなのよな。人手を送れずに悪かったなあ』

「それは構いませんが、一体建宮さんたちは何をしているんです?」

『あー…実はこの辺りで、不穏な魔術の動きがあってな』

「不穏な魔術?」

『そう、それも恐らくはローマ正教の術式と見て間違いない』

「まさか、オルソラさんを狙って?」

『“違う”。少しばかり連中を掻きまわしてみて分かったが…かなりの大規模魔術なのは間違いないのよな』

「?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:25:39.45 ID:Qy4KV7U0<>
『要するに、オルソラ嬢1人を狙う術式にしては、どう考えても釣り合わんのよ』

「詳しい事は分かりませんが、とりあえずオルソラさんは心配ないのでしょうか?」

『・・・多分、としか言えないが。とりあえずお前さんたちもこっちに合流してほしいのよな』

「分かりました、どこに行けば?」

『ああいや、今から30分後に迎えに行く。何せ今我らは海の中なのよな』

「海の中?」

『そう、お前さんに携帯ではなく通信術式で連絡を取らせたのもそれが理由だ』

「電波が届かないからですか…」

『そう言う事よな。天草式の上下艦で海の中に逃げ込んで、連中から隠れたってわけよ』

「また危ない事を…!」

『ちなみにこの上下艦っちゅーのは、引越しの時レイが間違って濡らして大慌てしたあの霊装なのよ』


そう言って、建宮がクスクスと笑った。

もちろんこれは、心配したフルチューニングの意識を逸らすための誤魔化しである。

だが、そうとは気づかないフルチューニングは顔を真っ赤にして怒った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:26:36.45 ID:Qy4KV7U0<>
「あ、あれは建宮さんたちがちゃんと説明してくれないから…!」


その時。

フルチューニングの耳に、インデックスの緊迫した声が届いた。


「みんな伏せて!」

「狙いを右へ(AATR)!!」


咄嗟にフルチューニングが振り返ると、オルソラが持っていた鞄が横に飛ばされるのが見えた。


「とうま、そこから離れて!!」

「狙撃!?オルソラ!!」


インデックスの声に反応し、上条がオルソラを押し倒して狙撃から守る。

その上条を、運河から伸びた手が海へ引きずり落とした。


(まさか、襲撃!?)


入れ替わるように這い上がってきた襲撃者に、フルチューニングが駆け寄った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:27:24.76 ID:Qy4KV7U0<>
襲撃者は小柄な男で、柄の短い槍をオルソラに突き刺そうとしている。


「させません!」

フルチューニングがそう叫ぶよりも早く、彼女の鋼糸が襲撃者の腕に絡みつく。

そして、強力な電流がその腕を完全にマヒさせた。


「オルソラさん、大丈夫でしたか?」

「は、はい。私はなんともございませんが…」


フルチューニングが襲撃者を拘束するのと同時、上条も海から上がってきた。

さらに狙撃手の方は、インデックスが対処したらしい。

ほっとするフルチューニングに、焦る建宮の声が届いた。


『レイ、何があった!?』

「…オルソラさんを狙った魔術師の攻撃がありました」

『なんだと…』

「しかも服装は、ローマ正教のものだと思います」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:29:24.83 ID:Qy4KV7U0<>
『なんてこった…!』

「ですが、とりあえず全員の無力化に成功していますし…」


フルチューニングが言い終える前に。


「今すぐここで撤退の船を出せ!あの女は船の上で殺してやる!」


報告の途中で、狙撃手がイタリア語で怒鳴りながら海へ逃げようと走り出した。


「逃がしませんよ!」


そうはさせない、とフルチューニングが追いかけようとするが――

ドパァ!!という轟音と共に撒き散らされた海水が、その足を止める。


「なんですかコレは…!?」


驚愕するフルチューニングを威圧するように、運河に巨大な帆船が現れた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:30:34.70 ID:Qy4KV7U0<>
(目測で40m以上…この運河のどこにも、この大きさの船を隠せる場所は無かったはず。すると…)

(この常識外れな現象…タイミング的にも間違いない…)

(これが、建宮さんたちが気にしていた『魔術』ってことですか!)

(…!)


その時、フルチューニングがある事に気づく。

急いで鋼糸を近くの家の屋上へ結びつけると、その鋼糸に巻きついた自分ごと磁力で引き寄せた。


(鋼糸を利用した高速移動、何とかうまくいきましたね)


そしてその屋上から下を見つめて、フルチューニングはやっぱり、と呟いた。


(あの溢れた海水ごと、魔術船を構築しているのですね)

(今もあの場に留まっていれば、レイも船に攫われるところでした)


思わず座り込みそうになるフルチューニングに、掠れた建宮の声が聞こえてきた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:32:08.75 ID:Qy4KV7U0<>
『レイ…大丈…なのか…』

(術式の調子がおかしい見たいですね…この魔術の所為でしょうか?)

「建宮さん?」

『異常…術式を…感知…イは…で待機…』

「待機?」


思わずムッとするフルチューニング。

その彼女の目に、上条たち3人が船の上で降りられなくなっている様子が飛び込んできた。


「あれは…マズイですね、あの先にはヴィーゴ橋があります。きっと砕いて進む気です!」


フルチューニングは完全に沈黙した通信術式を投げ捨てると、鋼糸を操って船の後端に結ばせた。

そして先ほど屋上へ移動した時と同様に、自分ごと引き寄せて船へと移動する。


(また誰かを傷つけるつもりなのですか…ローマ正教は!)


その目に怒りを宿して、フルチューニングは事件の中心へ飛び込んだ。

この事件が、彼女に今までを遥かに超える絶望を与える事になるとは、微塵も知らないまま。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/20(月) 23:32:52.91 ID:Qy4KV7U0<>
今日はこの辺でおしまいです

次回更新は水曜日の夜になります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/21(火) 00:10:25.23 ID:FmGJlqg0<>レイの裸見るとか上条さん死刑だな
乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/21(火) 00:12:53.75 ID:57CoBoIo<>あれ?3人?
インさんも船に乗っちゃったの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/21(火) 09:26:28.82 ID:UcakwIg0<>乙乙
ぶっちゃけ、11巻は敵が小物だから盛り上がらないかもしれない
と思ったけどそんなことは無いようで楽しみだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/22(水) 09:57:07.41 ID:eb3Z44s0<>毎日更新やめちゃったのか…<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:48:54.93 ID:Fzhqos60<>
こんばんはー、レスありがとうございます

>>413
この後の展開の為、乗っける事にしました(大したことではないのですが)

>>415
すいません、隔日更新になります

では、投下


9月27日(午後5時45分)、女王艦隊の一隻


フルチューニングが船に乗り移った直後、凄まじい破壊音と共にヴィーゴ橋が破壊された。

それでもこの船は、わずかに速度を落とす事も無く海へ向かって進んでいく。


「うわあ、とうまー!」

「きゃあああ!」

「っ危ない!」


その衝撃で外に吹き飛ばされそうになるインデックスとオルソラを、フルチューニングの鋼糸が絡めとる。

ギリギリ間に合ったことにホッとしながら、フルチューニングは2人を甲板へ降ろした。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:49:49.37 ID:Fzhqos60<>
「ありがとうございます、レイさん」

「た、助かったんだよ…」


お礼を言う2人の後ろから、上条が咳き込みながら現れた。


「マジでありがとうな…にしても、この船は一体どこに向かう気だ?」


その問いに答えたのは、バタバタという複数の人間の足音だった。


「探せ。奴らはこの中に乗っているはずだ!」


それに続くように響く男の怒鳴り声を聞いて、フルチューニングは焦り出す。


「マズイですね。レイたちを捕まえようとして、大勢の人間が探し回ってます」

「くそ…こうも暗いと、飛び込む訳にはいかねえし…」


上条が周りを見回しながら、困ったように呟いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:50:28.92 ID:Fzhqos60<>
(…建宮さんたちが来るまで、後15分以上…)

(幸い、この船はバカでかいですし…オルソラさんたちはどこかに隠れるべきでしょう)


そうフルチューニングが結論するよりも早く。

上条がインデックスとオルソラの手を引っ張って、走り出した。


「船の中に行くしかねえな。ここにいたら間違いなく見つかっちまう。隠れてチャンスを窺おう」

「では、ここでレイは別行動をとります」

「え?」


その言葉を聞いて、上条が思わず立ち止まる。

心配そうに見つめてくる3人に、フルチューニングはあえて明るく言った。


「流石に4人で行動すれば目立ちますから」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:51:20.40 ID:Fzhqos60<>
「でもよ…」

「大丈夫です、レイには能力も鋼糸もあります」

「それに、議論している暇は無さそうですよ?」


徐々に近づいてくる敵の足音が、上条の迷いを断ち切らせた。


「分かった、うまく逃げろよ!」

「それはこちらのセリフです」


その言葉を最後に、フルチューニングは鋼糸を使った高速移動を開始する。




上条がこの判断を後悔するのは、それからしばらく後のことだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:52:16.16 ID:Fzhqos60<>
9月27日(午後5時50分)、旗艦『アドリア海の女王』


フルチューニングが隠れながら情報収集を開始してわずか5分。

危険を冒して『アドリア海の女王』まで来たためか、あっという間に情報は集まった。


(まさかここで、アニェーゼ部隊の修道女たちが働かされていたなんて…)

(しかもここにいる連中の話を聞く限り、どうもアニェーゼさんは魔術の“検体”として使われるみたいです)

(脳を破壊され、ただ心臓を動かすだけの廃人にされる…)


その趣味の悪さに、フルチューニングが笑みを浮かべる。


(…良い勝負ですね)

(2万体のクローンを簡単に殺す『科学者』と、人を平気で廃人にする『魔術師』)

(本当にどっちも救われない!!)

(ですが、アニェーゼさんがその犠牲になるというのなら、レイはそれを助けなくてはいけません)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:53:04.88 ID:Fzhqos60<>
そう決意するフルチューニングの背後で、パキパキという奇妙な音が聞こえてきた。

振り返って良く見てみると、アーチ状の氷の橋がこの旗艦と護衛艦を繋げたらしい。


「アニェーゼ…!?」

「あの時の能力者じゃないですか…まあ、天草式のあなたならオルソラと一緒に居てもちっともおかしくありませんがね」

「そんな事より!早くここから逃げないといけません!」

「…何だ、あなたは知っちまったんですか?『刻限のロザリオ』のことを」


平然と言い放つアニェーゼに、フルチューニングが詰め寄った。


「それが分かっているなら、どうしてここに来たんですか!」

「それが分かっているからですよ」


尚も表情を変えないアニェーゼ。

黙り込むフルチューニングに、追い打ちをかけるように説明する。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:54:03.24 ID:Fzhqos60<>
「ついさっき、オルソラたちには頼み事をしましてね」

「頼み事?」

「脱獄して捕まった、シスター・ルチアとアンジェレネの救出ですよ」

「……」

「それをやりやすくするために、陽動しなくちゃならねえからここまで来たんです」

「そんな!…聞いた限り、あの術式は」

「廃人になる、ですか。十分承知ですよ、んなこたぁ」


アニェーゼが、何でも無いかのように語る。


「ですが、その術式に適合しているのは私だけなんでね」

「私が逃げたら、すぐにバレちまうんですよ。…だから私だけは、逃げる訳にはいかねえんです」


(自分が廃人になるのを覚悟で、陽動に…!?)

(どうしてそこまで…)


慄然とするフルチューニングの脳裏に、あの日対峙した記憶が蘇る。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:55:43.78 ID:Fzhqos60<>
――「こちとら、その神様にテメェの想像出来ねえようなどん底から拾い上げてもらったんですよ!」

――「そのおかげで“こいつら”とも出会えたんです…」

――「その十字教を台無しにするような裏切り者を、逃がす訳にはいかねえって分かりませんかねぇ!?」


(そうか、この人にも…)

(何が何でも守りたい、大切な仲間が…)

(それが分かった以上…)


「アニェーゼさん」

「まだ何か?」

「“救われぬ者に救いの手を”…今、レイには戦う理由が出来ました」

「はぁ!?正気ですか!」

「もちろんです」

「以前私が、あなたたちに何をしたのか忘れちまったとでも?」

「今は関係ありません。前回助けたかったのはオルソラさんで、今回助けたいのはアニェーゼさんです」

「…そりゃー無理ってもんです」


「その通りだ、シスター・アニェーゼ」

「!?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:56:27.34 ID:Fzhqos60<>
突然。2人の会話に割って入るように、重たそうな法衣を着た男が姿を見せた。


「ビショップ・ビアージオ…!」


その姿を見て、アニェーゼが苦い声で呻く。

対し、フルチューニングは動揺を見せずに向き合った。


「あなたがここの責任者ですか」

「…ふん。報告は聞いている。忌々しい能力者め」

「しかも神を否定する身でありながら、魔術を扱う事が出来るらしいな?」

「レイ自身は神様を否定した事などありませんが?」

「何も分かっておらぬな。その存在自体が神への冒涜なのだよ」


いささかの揺らぎも見せずに答えるビアージオに、フルチューニングは溜息を洩らす。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:58:21.58 ID:Fzhqos60<>
「どうしてこういう人種は話し合いが出来ないんでしょうかね」

「所詮猿に、我ら人の真似ごとは出来ないという事だな」


そして、ビアージオは首にかけていた十字架を取り出した。


「まあいい。何故君が魔術を使えるのかは、ゆっくりと調べさせてもらおう」

「!」


フルチューニングが反応するよりも早く。


「――十字架は悪性の拒絶を示す」


ゴッ!!と膨張した十字架が、フルチューニングの体に直撃し、一瞬でその意識を奪い取った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/22(水) 23:59:07.74 ID:Fzhqos60<>
同時刻、女王艦隊の一隻


侵入者を迎撃するための氷の鎧。

それは船の一部がその形を変えた、極めて高い破壊能力を持つ番人だ。

その無敵の番人が、ここでは悉く沈黙している。

理由は1つ。その鎧にオイルパステルで描かれた魔法陣だった。


「くだらない」

「こうも簡単に“接続”を分断できるなんてな…」

「さて、と」


金髪で褐色の肌。着古したようなゴスロリドレスを纏う魔術師。

シェリー・クロムウェルは退屈そうに首をコキリと回した。


「あの馬鹿はどこかしらね?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/23(木) 00:00:02.27 ID:3s4ZZSQ0<>
今日はここまでです

また金曜日の夜に投下する予定です

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/23(木) 00:51:50.67 ID:bV6ompY0<>乙!
シェリーさんかっこいい!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/24(金) 08:37:38.44 ID:qVShgBk0<>ただでさえ駄文なのに、更新が遅くなるとか…もうやめちゃえば?
誰も見ねーだろwwwwww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/24(金) 09:19:14.83 ID:kfYCrgAO<>おおアンチが湧くの初めて見た
よかったな>>1!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/24(金) 09:27:52.57 ID:uEE5KMk0<>>>429
ただでさえニートなのに、頭おかしくなるとか…人生やめちゃえば?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:45:23.48 ID:WVC/BGM0<>
こんばんはー、短いですが投下します

※暴力描写に注意


9月27日(午後6時00分)、旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


フルチューニングが目を覚ましたその場所は、ひどく静かだった。

その静寂の中で、フルチューニングは仰向けに寝かされている。


(ここは…?)

(痛っ)

(硬いベッドの上でしょうか?)


状況を把握するため、起き上ろうとするフルチューニング。

だが、上体をわずかに浮かせたところで両腕に激痛が走る。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:46:21.91 ID:WVC/BGM0<>
(うああ!…レイの腕が…)

(いえ、腕だけでなく足も…!)


フルチューニングの四肢が、氷のベッドに半分以上埋まっていたからだ。

そこから無理やり抜こうとしても、たったの1ミリも動かす事は出来なかった。


(最悪ですね)

(レイは、あの男に捕まったって事ですか)

(…近くに鋼糸は見当たらないですし、電撃で破壊を…)


自分が感電する事も恐れず、フルチューニングは能力を使おうとする。

だが…


「発動しない!?」


何故か、一向に電撃は発生しなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:47:08.04 ID:WVC/BGM0<>
思わぬ事態に混乱するフルチューニングに、男の笑い声が届く。


「無駄な事は止めたまえよ。その寝台は特殊でね、雷を無効化させる」


いつの間に部屋に入ってきたのか、ビアージオが嘲るように断言した。


「聞いても分からぬだろうが、教えてやろう」

「その寝台には、聖ニコラオスの伝承に則った術式が組み込んである」

「?」

「聖ニコラオスは、エルサレムへ行く途中で恐ろしい雷雨を鎮めてみせた」

「つまり神に逆らう雷は、この術式の前では全てその力を失うという訳だよ」

「そんな、レイの電撃は魔術ではないのに…!」

「“同じ事”だ、罪人」

「この術式が無効化するのは、『電気の流れ』そのものなのだから」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:47:57.58 ID:WVC/BGM0<>
その言葉に、フルチューニングは愕然とする。

つまり今、自分に武器は一つも無いという事ではないか。


(何という失態…!)


この場における優位性を自覚しているビアージオが、ゆっくりとフルチューニングに近づく。

そして一言の警告も無く、フルチューニングの右腕を叩き折った。


「あああああァ――――!?」


フルチューニングの二の腕が、それを見た人間に寒気を与えるほどグシャリと歪んだ。

その光景を見て、それでもビアージオは表情を一切変えることなく淡々と告げる。


「喚くな、耳障りだ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:48:32.83 ID:WVC/BGM0<>
「グ…あああああ…」

「大体、貴様がこれから受ける苦しみは、この比では無いというのに」


その言葉と同時、数人の『職制者』と呼ばれるビアージオの部下が部屋に入ってきた。

彼ら職制者が、痛みに呻くフルチューニングを無視して魔術の準備に取り掛かる。


「殺しても構わん」

「この罪人が魔術を使える理由を、明らかにさえすればな」


そう言って立ち去ろうとするビアージオだが、小さな声がその足を止めた。


「それ、が…あなたの、やり方…ですか…!」

「違うな。少しは聖書から学べ」

「敵対する者を苛烈に裁くのは、我が主の御業だ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:49:18.66 ID:WVC/BGM0<>
「いいえ…」

「なに?」

「これは、単に…あなたが、リョナ趣味に…走る、変態だと…言う事、です」

「…喚くな、と言ったはずだが?」


ビアージオが完全に無表情になり、首にかかっているネックレスを弄る。

するとフルチューニングを拘束していた寝台が、両足をさらに強く締め付けた。

その痛みでもはや言葉も発する事が出来ないフルチューニングから、コヒュー、と息だけが漏れる。

そして―――彼女の絶望はまだ終わらなかった。


『報告します。侵入者の乗っていた三七番艦を撃沈しました』


ビアージオの持つ十字架から、信じられないような報告の声が聞こえてくる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:49:57.47 ID:WVC/BGM0<>
僅かな力を振り絞り、フルチューニングが問いかけた。


「ま、さか…?」

「ふん。君と一緒に入り込んだネズミ共は、全員船ごと海へ沈んだようだな」

「嘘…」


完全にフルチューニングへ興味を無くしたビアージオが、無慈悲に指示を飛ばす。


「念のため、砲撃はまだ続けろ」

『了解』

「全く、下らないな。…わたしはシスター・アニェーゼの所へ行く」


その言葉を残して、ビアージオは部屋を後にする。

部屋に残った職制者が、フルチューニングの知らない魔術儀式の準備を始めた。


「よし、使徒トマスの術式『聖痕の確認』を開始する」

「こいつの体を、バラバラに引き裂くぞ」


狂気の時間は、始まったばかりだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:50:41.21 ID:WVC/BGM0<>
同時刻、天草式の上下艦


海へ投げ出された修道女やオルソラ、ルチア、アンジェレネ、インデックス、そして上条当麻。

彼らを海中から拾い上げた天草式十字凄教の教皇代理、建宮斎字は全員が目を覚ますのを待っていた。

その隣では、五和が心配そうに看病をしている。

建宮が五和の肩をポン、と叩いた。


「落ち着け五和、もうすぐ目を覚ますだろうよ」

「はい…」


その言葉通り、インデックスと上条がゆっくりと目を開ける。


「た、建宮、斎字か?」


上条の声に、インデックスも頷いた。


「天草式の教皇代理さんなんだよ…」

「その通りだ。今は手前にイギリス清教所属ってつくけどよ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:51:55.28 ID:WVC/BGM0<>
上条が安堵して、周りをキョロキョロと見まわした。


「そうか、天草式がオルソラの引越しの手伝いに来ていたっけか…」

「そうだ、オルソラ達は!?」

「海に落ちた人間は、一応全員拾っておいたのよ。身元が分かっているのはオルソラ、ルチア、アンジェレネ。他にローマ正教の修道女も」

「そうか、良かった」


ところが、その言葉を聞いてインデックスが声を上げた。


「…ねえ、レイは?」

「あれ?…そういや、レイはどこだよ?」


上条の何気ない質問に、天草式の全員がザワリ、と雰囲気を変える。

戸惑う上条に、建宮が詰め寄った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:53:38.50 ID:WVC/BGM0<>
「どういう事だ?」

「へ?」

「レイは、イギリス清教との連絡役として、拠点で待機するよう伝えているのよな」

「何言ってんだ?レイは俺たちと一緒にあの船にいたんだけど…」


五和が驚いて大声を上げる。


「じゃあ、まさかレイちゃんは!?」


上条の答えに、顔を青ざめていた建宮が静かに呟いた。


「まさか、今もあの船の中にいるってことか…!?」


建宮がその事実を知った時、事態はすでに最悪の展開を迎えていた。<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/24(金) 23:56:19.20 ID:WVC/BGM0<>
今日はここまでとさせて下さい

文の構成などで、突っ込みや改善点なども教えてくれると嬉しいです

次は日曜日の夜に投下する予定です

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/25(土) 00:56:14.82 ID:8U35cJko<>欝展開ktkr…<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/25(土) 02:17:59.35 ID:u/iG4oAO<>>>1は氏賀Y太だったのか…
乙。レイが無事であることを祈って寝る。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/25(土) 09:12:09.14 ID:mDafBz60<>>使徒トマスの術式『聖痕の確認』
トマスをググったら嫌な予感しかしないんだが

シェリーでも建宮でもいいから、早く来てくれ!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/25(土) 19:55:11.36 ID:jtCOgwc0<>乙
ちょっとビアージオ砂にしてくる<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:19:37.23 ID:12vNR7A0<>
こんばんはー、レスに感謝です

>>444
ググったら大変なことになりました…凄い世界があるものですね


では、投下

※残酷描写に注意(本当に注意)


9月27日(午後6時30分)、キオッジアのソット・マリーナ


海に落ちた全員が意識を取り戻したので、天草式は一旦上陸して夕食をとる事になった。

慌ててフルチューニングを助けに行こうとするみんなを、建宮が止めたからである。

それは上条にとって意外な事に思えた。この中で建宮こそが、一番彼女の身を心配しているように見受けられたからだ。


「なあ、本当にすぐ行かなくていいのかよ?」

「…」

「アイツが捕まったかどうか分からねーけど、一刻も早く行ってやった方が良いんじゃねーか?」

「今すぐ行っても無駄なのよ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:20:29.59 ID:12vNR7A0<>
上条の訴えを、建宮は一言で切り捨てた。


「我らがさんざんかき回した後なのよな。警戒態勢を解くために、時間を置かなくちゃならねえ」

「でもよ…」

「今行ったところで、ガッチリ待ち構えた敵さんに全員殺されるのがオチよな」

「そうなれば、誰がレイを助けられるのよ?」


沈黙する上条を、イタリアの海風が包む。まるでその熱を冷ましてくれるかのように。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:21:09.78 ID:12vNR7A0<>
「それに、ああ見えてレイは優秀だ。…きっと大丈夫に決まっている」


そう言われて、上条は今度こそ言い返すのを止めた。

建宮の必死な言葉に説得されたからではない。

そう告げる建宮が、思いつめた表情で拳を握っているのに気づいたからである。


(そうか、本当は…)

(建宮こそが、今すぐに助けに行ってやりたいんだ…)

(なのに、確実にアイツを助けるために、あんな顔をして耐えている)


上条は、その事に気づかなかった自分を責める。

その様子を見て、建宮が困ったようにヘラリと笑った。


「さあさあ、食事の準備も出来たし、食べながら打ち合わせをするのよな」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:21:58.33 ID:12vNR7A0<>
建宮たちが、食事をしながら情報整理と作戦会議を始めた頃。

1つの人影が、こっそりとその場を抜け出した。

そして女王艦隊へ向かって走り出そうとして――


「どこへ行くのかしら?」


別の人影に、その動きを止められた。


「…邪魔をする気すか?」

「あなた1人が突っ込んで、何か解決出来るの?…香焼」


香焼と呼ばれた少年が、ギリ、と歯噛みして振り返る。


「お節介は要らないすよ、対馬先輩」

「…馬鹿ね、そのお節介が私たちの生き方じゃないの」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:22:35.29 ID:12vNR7A0<>
女性らしく柔らかな仕草で、対馬が香焼の頭を撫でた。

その思わぬ反応に、香焼は動きをピタリと止める。

そして目を潤ませると、対馬にギュッとしがみ付いた。


「どうしよう…レイが、レイが…!」

「落ち着きなさい」

「けど、レイは今もあの船に!…きっと、捕まって…」

「教皇代理も言っていたでしょう。今行っても殺されるだけだわ」

「ヒック…そんな…でも、早く助けなきゃ…グス…」

「あの子を助けたいのは、みんな一緒よ」

「ううう…」


対馬が優しく説得するが、香焼は涙を拭うと怒りの表情を見せた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:23:08.95 ID:12vNR7A0<>
「だったら、何でもっと早く…!」

「だからそれは…」

「結局、教皇代理は臆病ってことじゃないすか!」

「…何ですって?」

「だから、レイをすぐに助けないんだ!」


香焼の言葉に、対馬は彼以上の怒りを露わにした。


「もう一回言ってみなさい!!」


対馬が、先ほどとは打って変わって荒々しく香焼を突き飛ばし、彼の顔に平手打ちを喰らわした。


「つ、しま先輩…」


ジンジンと痛む左頬を、香焼が呆然とさする。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:23:59.29 ID:12vNR7A0<>
「香焼、あなたは教皇代理の顔をちゃんと見たの!?」

「え…」

「あんなに悔しそうな、辛そうな表情をしていたじゃない!」


そう叫ぶ対馬に、香焼が目を見開いた。

叫んで落ち着くことが出来たのか、静かに対馬が語る。


「助けたいから、すぐに危険へ飛び込む。それは確かに勇気がいるけど、ある意味楽な事なのよ」

「…っ」

「だって、自分の気持ちに正直に動くことほど、簡単な事は無いんだから」


そして対馬は、どこか遠くを見つめるように暗い空を見上げる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:24:29.97 ID:12vNR7A0<>
「ねえ香焼。どうして今みんなで策を練っていると思うの?」

「そ、れは…」

「今救出のために突撃したら、レイを助ける前に殺される。そうしたらレイも死ぬの」

「!」

「教皇代理は、何が何でもレイを助けたいと思ってる」

「その為に歯を食いしばって耐えるあの人を、臆病呼ばわりなんて許さないわよ?」


それだけ言うと、対馬は自分の席へ戻って行った。

やがて香焼も、その後を追いかけるために走り出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:25:41.42 ID:12vNR7A0<>
同時刻、旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


使徒トマスの術式『聖痕の確認』の開始から30分ほど立った今、フルチューニングは無言だった。

ただしそれは、彼女が無事だからではない。

今まで叫びすぎて、既に喉が潰れていたからであった。


「……!」

「次、お前は右腕を」

「了解した」


フルチューニングを囲む職制者が、淡々と“作業”を続ける。

その作業とは、自らの手を直接フルチューニングの体内に貫通させ、魔術の痕跡を探るというものだった。

今フルチューニングの右腕と、左の脇腹には彼らの腕が埋まってゴソゴソと蠢いている。

この貫通を可能にする、同化術式こそが『聖痕の確認』であった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:26:31.00 ID:12vNR7A0<>
フルチューニングが知らない事だが(知りたくもないだろうが)、

かつて使徒トマスがキリストの復活を信じるために、キリストの脇腹の傷口に自分の手を差し込んだという伝承を元にしている。

この術式で、フルチューニングは職制者の手が体内に入ってきても無事でいられる。

ただし、この術式は痛みは欠片も消さない。

体に異物が入るその激痛を、抵抗せずに受け入れるしかないフルチューニングは、すでに精神状態が危険な域に達していた。


「また有った。これだから科学は…」


そう吐き捨てて、職制者がフルチューニングの右腕から取り出した謎のパーツを引きちぎって取り出した。

レベル5を目指すため、天井亜雄が取り付けた能力強化用部品である。

職制者は『魔術師』であって『科学者』ではない。

その部品の意味を理解することも無く、ひたすらに見つけては引きちぎって取り出すのを繰り返す。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:27:36.16 ID:12vNR7A0<>
(あ、るいは…)

(レイが…魔術を使える、理由なんて…)

(…本当は、どうでも…良いのかも、しれません)


また一つ、レイから無造作に部品が投げ捨てられる。


(…五和さん…香焼…対馬さん…上条当麻…師匠…)

(それに…)

(建宮さん…助けてください…会いたいです)


そう願うフルチューニングの耳に、幻聴が聞こえてきた。


――我らが女教皇から得た教えは?

――救われぬ者に救いの手を!!!


その幻聴に、フルチューニングは力無く微笑んだ。

思わず動きを止める職制者たち。


(そう言えば、元々レイは魔術結社に売られて、こうされる運命でしたね)

(あの時。天草式のみなさんに助けてもらった時は、どうして五和さんが怒るのか理解できませんでした)

(…その理由が分かる今になって、こんな状況になるなんて…これが皮肉というものでしょうか)


フルチューニングも、職制者も気づかなかった。

ちょうどまさに同じタイミングで、天草式が同じ言葉を大声で宣言している事を。

自分の足元で、ゴーレム・エリスの目が睨みつけるように職制者を見ている事も。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/26(日) 23:28:36.04 ID:12vNR7A0<>
今日はここでおしまいです

痛いのが嫌な方、申し訳ありません

続きをまた明日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/26(日) 23:31:24.34 ID:mTweG2Qo<>うわああああ
腹膜炎の手術中に三回麻酔が切れたの思い出した!!

腹の中をゴリゴリ何かがこそいでるんだよぉぉ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/26(日) 23:32:32.38 ID:gxWQsxs0<>レ、レイ?!
>>446のビアージオ砂化に加勢します。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/26(日) 23:41:36.72 ID:209wowko<>オーケー
俺はその砂を猫のトイレに使ってやる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/27(月) 03:38:10.95 ID:Camf7YAO<>今日のターヘルアナトミアスレはここか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/27(月) 04:57:36.87 ID:qFPIbbco<>あれ? 部品とっちゃっていいのあれ?
ちょっと冥土帰し早く来て下さい!!!!11<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/27(月) 12:12:47.14 ID:7YlI4RM0<>乙…
ある意味で、これほどしたくない乙も珍しいな<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:09:46.06 ID:IdgmZmk0<>
こんばんはー、レスどうもありがとうです

遅くなって申し訳ないですが、投下します


9月27日(午後7時00分)、天草式の上下艦


建宮は、180センチもあるフランベルジェを片手で軽々と引っ提げて甲板に立っていた。

その見つめる先には、女王艦隊の大軍勢が君臨している。


(…ちくしょう…)

(レイが指示通り拠点に向かったか、あの時ちゃんと確認さえしていれば…)

(そんな当たり前の事も忘れちまうとは…この建宮斎字は何を府抜けてんのよ!?)

(全く、こんなんで教皇代理って言うんだから笑わせるのよな…)


そう自嘲する建宮の目は、恐ろしいほど剣呑に光っている。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:10:44.24 ID:IdgmZmk0<>
(もうこれ以上、ミスは許されねえ)

(待っていろ、レイ。今迎えに行くから)


全員の準備が出来た事を確認すると、建宮は紙束を海へ投げ込んだ。

水を吸った紙が、瞬く間に帆船になる。その数は50ほどだろうか。


「こっちも大艦隊かよ。これなら女王艦隊にだって、正面からぶつかれんじゃねえのか?」


呆れながら話す上条に、建宮は首を横に振った。


「それは買い被り過ぎってヤツよ。これは女王艦隊と違って軍艦じゃないからな」

「…そんなモンを用意してどうするんだ?」


建宮は不敵に笑って告げた。


「海で戦うのは軍艦だけじゃねえのよ」

「?」


こうして、天草式十字凄教が最も得意とする『海戦』が始まった。

かつて敵対したアニェーゼを、そして大切な仲間を助けるために。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:11:41.08 ID:IdgmZmk0<>
同時刻、旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


大量に用意した帆船を、女王艦隊に接近させ『火船』として自爆させる。

海中には、無人の上下艦を囮として配置しておく。

さらに『火船』の振りをした一隻に天草式の本隊が隠れて、一気に女王艦隊へ飛び移る。

天草式の用意した、大胆な囮作戦は成功した。


「何だ、この音は…?」

「敵襲か!?」


部屋の中まで響く戦闘音に、職制者たちが警戒をする。


(…?)

(な、にが…)


意識が朦朧としているフルチューニングも、その振動を感じ取った。

だが、すでに目を開ける事も出来ない彼女は、再び何も考えられなくなっていく。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:12:32.61 ID:IdgmZmk0<>
天草式の戦闘員は50人余。その中で、香焼は最も年齢の若いグループの1人だ。

日々の鍛錬をこなしているとはいえ、その戦闘力は建宮などに比べるとはるかに劣る。

だが、只一つ。

香焼は、天草式の中で自分が一番だというモノを持っていた。

それはスピードである。

小柄な体格に、武器は小さな短剣。

破壊力を犠牲にした結果、彼は誰よりも早く動く事ができる。

だからこそ、偶然とはいえ香焼は一番に到着出来たのかも知れない。

フルチューニングが捕まっている部屋に。


(ここにも魔術の痕跡…)

(もしかしたら、レイはここに?)


アニェーゼのいる隣の部屋と違い、防御術式の施されていない扉を強引に開ける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:13:16.59 ID:IdgmZmk0<>
そこで香焼が見たものは、氷の寝台に拘束され、意識の無いフルチューニングだった。

しかもフルチューニングの周りには、彼女から摘出したらしき血塗れの物体が散乱している。


「て、メェ…!」


香焼の体全体が、感じた事の無い怒りで染まる。


「ここにまで侵入者が来たか」

「迎撃しろ、殺すのだ」


慌てもしない職制者に、我を忘れた香焼が襲いかかった。


「レイに何してるんすか!!!!!」


けれども、その刃は職制者まで届かない。

突如出現した2体の守護氷像が、その攻撃を阻んだからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:14:13.78 ID:IdgmZmk0<>
「邪魔する気すか!?」


それでも香焼は短剣を振りまわすが、氷像を砕くにはあまりに非力だった。


「クソ…」


徐々に追い詰められ、ついに香焼は膝をつく。

それでも、燃えるような目で氷像を睨みつけた。


「異端者が…そこで死ぬと良い!」


職制者の言葉に反応し、氷像が棍棒を香焼へ振り下ろす。


(ちくしょう、レイ…!)





「――心の底からつっまんねえモンをこの俺に見せんじゃねえのよ!!」


その棍棒が直撃する刹那。建宮の振るうフランベルジェが、棍棒を氷像の腕ごと粉砕した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:15:31.38 ID:IdgmZmk0<>
「レイ!助けに来たぞ!」

「教皇代理…どうしてここにいるんすか…?」


敵の修道女部隊をこの旗艦から引き離すため、現在天草式の主力は護衛艦を移動しながら時間を稼いでいるはずである。

当然建宮も、主力の1人としてそうしているはずだった。


「対馬と五和に、とっととレイを助けろと背中を押されてな」

「あの2人が…」


建宮がその場からいなくなれば、当然五和たちの負担は激増する。

それでも、2人は笑って建宮を送り出した。

ならば。

その思いに応える事ができなければ、今度こそ教皇代理失格だ。


「…で、これは一体どういう事なのよ?」


仲間の後押しを受けた建宮が、低い声で職制者に問う。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:16:19.57 ID:IdgmZmk0<>
グッタリとしたフルチューニングから目を一時も離さず、建宮は脇に居たもう一体の氷像を破壊する。

一歩一歩職制者に近づく建宮の姿に、香焼は安堵と無力感を感じていた。


(やっぱり、まだまだ“遠い”って事すかね)

(…悔しいなあ)


だが、近づく建宮を見て、職制者たちはそれでも余裕だった。


「異端者に対し、『聖痕の確認』を執り行っただけだ」

「お前たちを排除した後、さらにコイツを詳しく調べる必要があるがな」


その嘲るような言葉に、建宮と香焼が顔色を変える。


「そんな事を、この俺が許すと本当に思うのか?」

「レイをこんな目にあわせて…絶対許さないからな!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:16:59.39 ID:IdgmZmk0<>

立ちあがって短剣を握り締める香焼と、フランベルジェを構えた建宮。

その2人を見て、職制者たちは尚も慌てない。


「潰せ」


その号令に応じて、今度は10体以上の氷像が部屋に現れた。

しかもそのうちの一体は、剣をフルチューニングの頭の真上にかざしている。


「抵抗すれば、もちろんコイツの命は無い」

「素直に降伏し、神の審判を待て」


人質を取られ、天草式の2人は身動きが取れなくなった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:17:52.93 ID:IdgmZmk0<>
揺らぐ意識の中、フルチューニングは確かに聞きたかった声を聞いた。


――レイ!助けに来たぞ!


(…建宮さんの声)

(レイを、助けに…?)


自分の目で姿を確認する事は出来ないが、確かに建宮の声だった。


(それに、香焼も一緒…)

(天草式のみんなが女王艦隊へ乗り込んできたのでしょうか…)

(アニェーゼさんは、まだ無事ですか…?)


助けに来てくれた事にホッとするフルチューニングだったが、そこへ恐ろしい宣告が聞こえてきた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:18:53.65 ID:IdgmZmk0<>
(まさか、レイを人質に…!?)

(ダメですダメです、絶対ダメです!)

(建宮さんや香焼が、レイの所為で死ぬなんて、絶対許される事ではありません!!)

(早く2人は逃げてください!)

(みんなに恩返しできないまま死ぬのは嫌ですが、レイなんかの為に2人が死ぬのはもっと嫌です!)


そう叫びたくなるフルチューニングだが、今の彼女は喉が潰れ声など出るはずもない。

どうにもならない状況に彼女が絶望したその時。


「――Intimus115(わが身の全ては亡き友のために)!」


この場にいる人間では、フルチューニングだけが知っている魔術師の声が響いた。

そして溶けた天井からこの部屋に降り立ったシェリーが、フルチューニングを狙う氷像へ稲妻のように魔法陣を書き込んだ。


「これで今からアンタはエリス。…さあ、存分に破壊しな!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:19:50.48 ID:IdgmZmk0<>
ゴォォォン!と唸りをあげて、ゴーレム・エリスとなった氷像が周りの氷像を粉砕して回る。

その破片を吸収し同化して、あっという間に巨大な氷のゴーレムが誕生した。


「馬鹿な!?」

「何故守護氷像を操れる!?」


初めて動揺を見せる職制者に、シェリーは何でもないかの様に告げた。


「護衛艦の一隻に籠って、2時間も術式の分析をした結果よ」

「すでにこの魔法陣の刻まれた所は、その属性を『水』から『地』へと書き換えてあるのさ」


誰1人気づかなかったが、フルチューニングがいるこの部屋は、すでに“外側”からシェリーの魔法陣が刻まれていた。


「そして地は私の味方。しからば地に囲われし闇の底は我が領域」


歌うように告げるシェリーの目には、建宮たちに勝るとも劣らない怒りが宿っていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 00:21:00.66 ID:IdgmZmk0<>
今日はここでおしまいです

そろそろこの章も終わりが近い感じです

次回の投下は水曜日の夜の予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/28(火) 01:28:02.86 ID:qquOC.wo<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/28(火) 01:45:39.59 ID:0wxCIM6o<>シェリーかっこよすぎわらた<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/28(火) 09:00:24.35 ID:nL6C9xk0<>香焼も建宮もかっこいいなあと思っていたら
最後にシェリーがかっさらっていったでござる<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:41:44.08 ID:IdgmZmk0<>
こんばんはー、ちょっと時間が空いたので少し投下します。


旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


突如現れて状況を覆したシェリーに対し、建宮が静かに問いかける。


「お前さんは、一体…?」

「フン。あなたたちの女教皇と同じ、『必要悪の教会』所属の魔術師よ」

「…まあ、謹慎処分を食らってる私の顔は、知る訳もねえか」


建宮に答えたというよりも、むしろ独り言を洩らすかのようにシェリーが呟いた。


「…確かに『必要悪の教会』の魔術師を呼びはしたが、幾らなんでも来るのが早すぎるのよな」

「それに…イギリス清教の魔術師が、こうもハッキリとローマ正教と戦闘行為をするのはマズイはず」


警戒を解かず疑問を口にする建宮を、シェリーは鼻で笑った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:42:59.63 ID:IdgmZmk0<>
「私がここにいるのは、依頼を受けたからじゃないのよ」

「?」

「言ったろ?私は謹慎処分を食らってるって」


シェリーの持つオイルパステルが、流れるように紋様を描く。


「――つまり私が暴れても、イギリス清教は全く関係ねえって事なんだよォ!!」


呆然とする職制者たちを、エリスの巨大な腕が文字通り叩き潰した。

壁の染みとなった彼らを一瞥もせず、シェリーは氷の寝台を眺めてチェックする。


(これは…聖ブラシウスの氷拘束術式の応用)

(聖ニコラオスの抗電術式、十字架の特性を利用した拷問術式…ちくしょうキリがねえぞ)


天草式の2人を無視しながら分析作業を続けるが、背中に刺さる視線に耐えられなくなったシェリーは、溜息と共に告げた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:44:28.28 ID:IdgmZmk0<>
「そんなに私がいる理由が気になるのかよ…」

「私が戦う理由は、そこで捕まってる馬鹿にお説教するため。もういいわね?」

「じゃ、じゃあ…あなたはレイの事を知ってるって事すよね?」


おずおずと尋ねる香焼だが、シェリーはそれ以上詳しい事は喋らない。

やがてシェリーは舌打ちをすると、踵を返して部屋から出て行こうとする。


「どこへ行く気なのよ?」

「…レイを拘束しているこの寝台は、術式を全て解除するのにえらく時間がかかる」

「さっきの天井みたいに、魔法陣で溶かす事は出来ないすか?」

「無理ね。こいつは大量の術式を複合させた力技で、解除術式を迎撃してくるから」

「これが暗号による隠蔽術だって言うなら、私が解読してやるんだけどな」

「だから、こういう事に打ってつけの“専門家”を呼んでくる」


それだけ言い残すと、シェリーはエリスを連れて今度こそ部屋を後にした。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:45:37.74 ID:IdgmZmk0<>
旗艦『アドリア海の女王』船底のとある小道


その時インデックスは、自分を容赦なく狙う氷像や大砲から逃げ回っていた。

オルソラがアニェーゼの部屋へ入れるように、その場にあった防衛機能を引きつけたからである。

大量の敵に襲われながらも、『強制詠唱』を使う事でなんとかうまく立ち回っていたが…。


「こ、これ以上は厳しいかも…」


体力が限界に近くなり、足がもつれてくる。

その隙に自分を囲んだ氷像へ、インデックスが『強制詠唱』を唱えようとして――その必要は無くなった。


「全部ぶっ壊しちまいな、エリス」


恐ろしい速度で突進してきた氷のゴーレムが、周りの氷像へ体当たりしたからだ。

そして後ろにいたシェリーが、オイルパステルを一閃して“場”を整える。

砕いた氷像を吸収して、より巨大なゴーレムが誕生。

まるで産声をあげるかのように、おぞましい咆哮が辺りに轟いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:46:37.95 ID:IdgmZmk0<>
突然の出来事にポカンとするインデックス。

尤も、それも当然のことと言える。

かつて学園都市で自分を襲ったゴーレム使いが、何故かこの場に現れたからだ。


「…どうして、あなたがここにいるの?」

「説明は後。それよりもあなたの助けが必要だから、とっとと行って頂戴」

「え、え?」

「いいから。見りゃあ分かるからさ」


一方的に会話を切り上げると、シェリーは再びオイルパステルを振るう。

途端にゴーレムがインデックスを掴み上げ、フルチューニングのいる部屋へ進んでいった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:47:58.50 ID:IdgmZmk0<>
(…もう、私が行く必要は無いな)


ほんの一瞬だけ、シェリーは不出来な弟子のいる方へ目を向けた。


(……)


それでも、彼女の歩みは止まらない。

以前インデックスを襲った時と全く逆の理由が、彼女の足を推し進めたからだ。

――すなわち、戦争を起こさせないこと。ただその一点のため。


「…しまった、先にオルソラがいる場所を聞いとくべきだったわね」


そう独り言を漏らして、かつて戦争の火種を求めた魔術師は船内を走り出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:49:01.44 ID:IdgmZmk0<>
旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


建宮たちがフルチューニングへ回復術式を施していると、ゴーレムに掴まれたインデックスがやってきた。

事態が把握できずインデックスは混乱していたが、部屋にいるフルチューニングを見て慌てて駆け寄る。


「酷い…!しっかりしてレイ!」

「そうか、あの魔術師はお前さんを呼びに行ったのか!」


その事に気付いた建宮が、インデックスに頭を下げる。


「頼む、この拘束術式を解除して欲しいのよ!」

「分かってる」


インデックスが、氷の寝台を睨みつけたまま頷いた。


「絶対に助けるから!」


微塵の迷いも無い断言。

建宮には、その言葉を聞いたフルチューニングが微かに笑みを浮かべたように見えた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/28(火) 23:49:44.48 ID:IdgmZmk0<>
今日はここで切り上げさせてもらいます

もしかしたら明日は投下できないかもしれません(投下するつもりではいます)

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/28(火) 23:54:16.05 ID:huzazfMo<>今一番期待の乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/29(水) 01:14:04.01 ID:tyFUVMAO<>レイが捕まった頃から「スネェェェェェェェェェク!!!」って叫ぶの我慢してる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/29(水) 12:10:21.81 ID:MRGP0N60<>シェリ−どころか、インデックスまでもかっこいい…だと…?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:09:49.42 ID:EVTSCkg0<>
こんばんはー、最近投下量が少なくて申し訳ないです

一応投下します


旗艦『アドリア海の女王』最下層の部屋


未だ無事な姿のアニェーゼを見つけて、それでもオルソラは絶望を感じていた。

理由は1つ。その場に現れたビアージオが告げた、この計画の真の目的。

対ヴェネツィア用大規模攻撃術式『アドリア海の女王』。

アニェーゼを犠牲にして、その術式の照準制限を解除する。

その標的は、学園都市。――いや、科学サイドそのものだった。


「始めるぞ。喜べシスター・アニェーゼ」

「君は十字教の歴史上、最も多くの敵を葬った名誉を得る!」


狂気の笑い声が部屋に響き渡る。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:10:52.34 ID:EVTSCkg0<>
それでも。

すでにビアージオに叩きのめされ、満足に動けないはずのオルソラが立ちはだかった。

かつて自分を殺そうとした、アニェーゼを守るために。


「私は、そんなつまらない事を実現するために、アニェーゼさんが使い潰されるのが納得できないと言っているのでございます!」

「それによって多くの人が傷つくのが耐えられないのだという事が、何故信じられないのでございますか!!」


オルソラの放つ魂の叫びは、しかしビアージオには届かない。


「終わりだ、シスター・オルソラ」


迷いなき宣言と共に、ビアージオの十字架がオルソラを襲う。


「笑えシスター・アニェーゼ。君の夢が砕ける様を眺めて!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:11:58.69 ID:EVTSCkg0<>
こんな自分を助けに来てくれた、オルソラが抵抗も出来ずに殺される。

ビアージオの嘲笑に、アニェーゼの意識が爆発した瞬間。

その場の全てを蔑むような冷笑が聞こえてきた。


「醜いわね。…“砕く”ってのはこうやるのよ」


巨大化して飛んでくる十字架を、壁から出現した腕がゴギュリ、と握り潰す。


「ふん、随分酷い格好してんじゃねーかオルソラ」

「シェリーさん…」


予想だにしない人物の登場に、オルソラもアニェーゼも呆然とする。

只1人ビアージオだけが、さして驚いた様子も無くシェリーを睨みつけた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:12:58.33 ID:EVTSCkg0<>
「また邪魔者か、面倒臭い。わたしは面倒臭いのは大嫌いなんだ」

「だから…全員まとめて潰す事にしよう」


ゴーレム・エリスがビアージオを襲うよりも早く。


「――シモンは『神の子』の十字架を背負うッ!!」


その場にいた3人が床へ崩れ落ちた。

さらにゴーレム・エリスまでもが倒れ伏し、再び船と一体化して消滅していく。


「クソ…この術式は…!?」


オイルパステルを動かす事も出来ず、シェリーが悔しげに呻く。

オルソラやアニェーゼも同様に全く動けない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:13:38.50 ID:EVTSCkg0<>
しかも諦めずに何とか起き上ろうとするアニェーゼの顎を、悠然と歩くビアージオが思い切り蹴り上げた。


「どこぞの魔術師が侵入している事ぐらい、最初からお見通しだよ」


今度はシェリーに近づいて、オイルパステルを握ったままの左手を踏み砕く。


「ガ、ア…テメェ…!」

「邪魔者は全て消す。己の無力さを知ると良い」


自らの勝利を疑わず、ひたすら殺戮という悲劇へ向けて進むビアージオ。

だが、その悲劇を破壊するヒーローが近づく足音に、彼は気づいていない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:14:29.65 ID:EVTSCkg0<>
旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


インデックスが、フルチューニングを助けるための作業を始めて5分。

この部屋で再び異変が始まった。

先ほど戦ったのと全く同じ氷像が、続々と復活してきたのだ。

その氷像が狙うのは、作業中で動けないインデックス。

咄嗟に構えたフランベルジェで氷像を砕きながら、建宮は質問した。


「作業終了まで、あとどれぐらいかかるのよ!?」

「…後10分は欲しいかも」


冷たい汗を流しながら、インデックスはそう言った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:15:29.24 ID:EVTSCkg0<>
その言葉を受けて、建宮と香焼は互いに目を合わせる。


「分かった。必ずここは守るから、お前さんは作業に集中してくれ」

「教皇代理だけに、良い格好はさせないすよ…!」


天草式の真骨頂はその支え合いだ。

仲間と戦う事で、その戦力を何倍にも引き出せる。

ましてや、戦う理由がフルチューニングという大切な仲間を救うためなら尚のこと。

何十体もの氷像に囲まれて、それでも2人は迷わずに突撃した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:16:34.89 ID:EVTSCkg0<>
同時刻、窓の無いビル


いつもと同じく、闇に包まれたその空間。

『人間』アレイスターは、送られてくる情報を吟味していた。

情報の送り主は、意識の無いフルチューニング…の脳内チップである。

だが、アレイスターは『アドリア海の女王』による攻撃を警戒している訳ではない。

そんな事は“最初から”眼中にないかのように、別の事に集中している。


(ふむ、検体番号00000号の損害領域が87%を超えたか…)

(だが3時間以内に死亡する可能性は、“たった”65%でしかない)

(学園都市への輸送時間を考慮しても…『彼』ならまず救命できる)

(まあ仮に死んだところで、肉体を第三次製造計画(サードシーズン) へ流用してしまえばいい)


アレイスターの口元に、誰もその意味を窺い知ることが出来ない笑みが浮かぶ。


(それにしても、計画以上の働きだ)

(天草式十字凄教、予想を超えて役に立つ)

(あるいは、このまま検体番号00000号をプランへ組み込めるかもしれんな…)


常人には計り知れない思惑が、遠い異国のフルチューニングを狙っていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/09/30(木) 00:18:15.79 ID:EVTSCkg0<>
今日はここまでとなります

次の投下は金曜日の夜です

多分後2回ほどでこの章はおしまいです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/30(木) 01:29:04.75 ID:uJL2MISO<>乙

期待してます。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/30(木) 09:27:21.74 ID:LhNCquw0<>シェリーの手も砕くとか…ビアージオは血液逆流して死ぬべき

>肉体を第三次製造計画(サードシーズン) へ流用
まさか、ワーストの正体はひょっとして…?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/09/30(木) 11:59:48.16 ID:.C15TAAO<>>>502
予想いくない
つかそれだとホントに切ないからやめろ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/09/30(木) 12:35:43.77 ID:OwGrlEDO<>>>502
うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
それはやめれ!!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/01(金) 10:55:42.76 ID:618t8vA0<>>>502
絶対に許さない。絶対にだ
>>1はドSだが、そんなことはしない

…よね?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/01(金) 18:00:57.02 ID:OnyOzQso<>そのネタはやめろ
繰り返す
そのネタはやめろ<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:21:41.01 ID:9BcwVaI0<>
こんばんはー、そしてごめんなさい

ちょっと急ぎの用事が出来て、今日は投下できません

明日の夜には、投下できるよう頑張ります


代わりにもなりませんが、以前作った次回作の予告編らしきものを投下します

原作21巻までのネタバレが平気な方は、「下らねー…」と思いながら見てください

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:22:39.40 ID:9BcwVaI0<>
第3次世界大戦、勃発――。

未曾有の混乱が地球規模で起こる中、3人のヒーローがロシアへ集う。

だが、その特異点に集まったのは、ヒーローだけではない。



一方通行は逃げていた。

自らの支えを根幹から破壊する存在、『番外個体』から。

彼女は笑う。

「あなたはネットワークに繋がったあらゆるミサカから『人間らしく』恨みを抱かれ命を狙われる!!」

「それが成功して命を落とすか、失敗してあなたが全てのミサカを殺すか」

「いずれにしても、あなたの思い描く都合の良い未来はやっては来ない!!」


「そんな事はありませんよ?」

嘲笑しつつ一方通行を攻撃するミサカワーストに、大量の鋼糸が絡みついた。

全く同じ顔の少女が、振り返って自分を睨みつける。

が、それを“彼女”は楽しげに受け止めた。

「レイが“長女”として、暴れん坊な末っ子に教育的指導をしてあげましょう」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:23:21.15 ID:9BcwVaI0<>
浜面仕上は戦慄していた。

学園都市の闇を象徴する怪物、『麦野沈利』に。

彼女は笑う。

「ひっさしぶりだねえ、はーまづらぁあああああああああああああああああああーっ!!」

だが、彼女に対峙しているのは彼1人では無かった。


「何を超ぼんやりしてるんですか浜面は?」

「結局、私たちが麦野を止めるしかないわけよ!」

「一応、私はこれでも元アイテム指示役だし。…あの盗人から帝督を取り戻すまで、負けられないわよね」


立ちふさがる少女3人へ、第4位は気負いも無く宣告する。


「全員まとめて…ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

「麦野。…元アイテムの仲間として、あなたを超助けて見せます!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:24:00.51 ID:9BcwVaI0<>
戦場に集ったのは、それだけではない。


「情けない顔しないでよ、御坂」

「な、何でアンタがここにいるのよ…!?」


御坂美琴の問いかけに、“彼女”は答えなかった。


「常盤台の名を背負う以上、無様に諦めるなんて許されないのよ?」

「答えになってないわよ…『心理掌握』!!」


御坂の怒声を無視して、常盤台の女王は静かに君臨する。

“御坂の心に浮かぶ、焦りと疑問を余すことなく感じ取りながら”


「あなたの能力が必要なのよ『超電磁砲』。…安心しなさい、この私がサポートしてあげるから」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:25:05.42 ID:9BcwVaI0<>
そして。

フィアンマの用意した『ベツレヘムの星』にいる上条当麻の隣には。

ある意味で、世界で最もイレギュラーな男が笑みを浮かべていた。


「スゲェな……。俺以上にメルヘンチックな野郎がいたとはな」

「…お前は誰だ? 俺様にとって必要な人間のリストに、お前の名は載っていないはずだが」


その右肩に『第三の腕』を出現させながら、フィアンマは退屈そうに尋ねる。


「垣根帝督。…悪いがすでに“ここはテメェの知る場所じゃねえんだよ”」


史上最大級の魔術要塞に、最も似合わないモノ――超能力。

そのなかでも際立って異質で強力なチカラ。『未元物質』で構成された白い翼が世界を塗りつぶしていく。


「よお、確かテメェは神の位置を目指してるっつったよな」

「神様気取りたいんなら、まずは一回死んでみろコラ」


その胸に願いを持つヒーローが集い合うとき、物語は始まる――!
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/01(金) 20:25:38.23 ID:9BcwVaI0<>
本編の投下が出来ず、申し訳ありません

この『とあるミサカと心理掌握』は

・とある暗部と心理掌握

・とあるミサカと天草式十字凄教

の共通続編であると同時に、完結編でもあります

原作準拠シリーズは、この3作目で終了です

そもそも今投下中の話の終わりがだいぶ先の話なので、完全にこれ以降は未定となっています

最後まで見てくれる奇特な方がいたら、幸せです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/01(金) 20:42:19.10 ID:HCHVPrco<>おやすみノシ
楽しみに待ってる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/01(金) 22:42:00.54 ID:MNBa0/60<>もうめっちゃ楽しみにしてる!
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/02(土) 14:26:20.59 ID:.ULHr2AO<>つか暗部の人だったのか
心理掌握よく分かんないから読んでなかったけど読んでみるかな<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:36:45.45 ID:EKzO3Og0<>
こんばんはー、レス感謝です

では、投下


旗艦『アドリア海の女王』最下層の部屋


シェリー・クロムウェルは、目を見張った。

絶対的に優位だったはずのビアージオが、一撃で倒されたからだ。

それをしたのは、かつて学園都市で自分を同じように殴り飛ばした少年。


「テメェが思ってるより、俺の右手は甘くなんかねえんだよ!!」


その右手に『幻想殺し』を持つ無能力者、上条当麻だった。

上条はオルソラとアニェーゼに声をかけた後、シェリーにも手を差し出した。


「…何してんのよ?」

「ありがとうな。お前が、オルソラたちを守ってくれたんだろ?」

「チッ!」


上条の手を振り払って、シェリーは1人で起き上がる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:37:50.03 ID:EKzO3Og0<>
「相変わらず、気持ち悪い育ち方してるのね」

「ひでえ言い草だなオイ!」


ショックを受ける上条を無視して、シェリーは無事な右手でオイルパステルを握りしめた。


「…レイの所へ行く前に、こっちを片付けた方がいいのかしらね」

「え?」


シェリーの呟きに、上条がキョトンとした。

思わぬ2人の繋がりに驚いたからだ。

だが、そんな事はお構いなしにシェリーが話を続ける。


「とっととこの『アドリア海の女王』を破壊しちまった方が良い。放っておくのは目覚めが悪いでしょう?」

「ああ。アニェーゼを二度と利用させないために、完全に破壊しよう。でも、そうするにはどこを壊せばいい?」


上条の問いかけに、アニェーゼが静かに返答した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:38:43.58 ID:EKzO3Og0<>
「私たちがいるこの部屋だけは、替えが利かねえそうです。現在の技術ではもう作れないそうなので」

「なら、この部屋を片っぱしからぶっ壊そう」


船を海水に戻して、後は天草式のみんなに引き上げてもらおうと考えた上条が、右手を構える。

オルソラが、アニェーゼ部隊250人のこれからを心配して独り言を漏らした。


「船から降りた後どうするか、それぞれご自分でお考えにならないと…」


その言葉が終わる前に、アニェーゼが崩れ落ちた。


「い、ぎ。がァァあああああああああアアアアアアアアアアアアア!!」


そして苦痛に満ちた表情で、絶叫する。

理由は1つ。

先ほど敗北したビアージオが、強引に『刻限のロザリオ』を発動させたからだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:39:32.33 ID:EKzO3Og0<>
その目的は、自爆。

自分1人が負けるぐらいなら、全てを巻き込んでやろう。

恐ろしくねじ曲がった執念が、ここにいる全ての人間に悲劇をもたらそうとしている。

そんなことを、許すわけにはいかない。

上条は迷うことなく叫んだ。


「オルソラ、アニェーゼを連れて先に甲板へ出ろ!」

「シェリーも、レイの所へ行きたいんだろ!? 早く行ってやってくれよ!」

「…本気かよ。あれか、左手潰れた私は戦力にならねえとか思ってんのか?」


右手でもゴーレム・エリスは作り出せる。

単純な事実として、この場において最も戦力となるのはシェリーだ。

その自分を頼ろうとしない上条に、シェリーが詰め寄ったが…


「違う!」


上条は力強く断言した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:40:26.75 ID:EKzO3Og0<>
「一度命懸けで戦ってんだ、お前の強さは身に沁みてる」

「アイツは、俺1人で十分なんだよ!」

「…な、に?」

「まだ近くには、レイに天草式のみんな、修道女部隊の人間がいるんだ。そいつらを助けてやってくれ」

「それは…俺には出来ないことだから」


議論は、そこで終わった。

アニェーゼを抱えたオルソラと一緒に、シェリーもその部屋を後にする。


(どこまで馬鹿なヤツなんだよ…)

(…くそ、ちくしょう)

(あんな根拠のない戯言に、この私が乗せられちまうなんて…)

(いや、そういうのも私らしいのかもな)


シェリーは一瞬だけ笑うと、フルチューニングの待つ部屋へ向かった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:41:37.46 ID:EKzO3Og0<>
同時刻、旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


全ての術式を無効化し、フルチューニングが寝台から解放された。

だが、それで全てが解決したわけではない。

幾らでも復活してくる氷像との戦いは、未だに終わっていないからだ。

フランベルジェを振りまわしながら、忌々しそうに建宮が言う。


「ようやくレイを取り出せたっていうのに、このまま釘づけにされたら意味が無いのよな!」

「倒しても倒してもキリが無いし、どうするんすか教皇代理!?」


建宮がチラリとフルチューニングに目を向けた。

すでに彼女の呼吸音は、ほとんど聞こえない。

得体の知れない方法で体から数十もの部品を奪われた彼女は、傍目から見ても危険な状態だと分かる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:42:42.16 ID:EKzO3Og0<>
(クソ、こんな結末を認めてたまるかっていうのよ!)

(どうやってここを切り抜ける?)

(…助けを呼んで、助けが来るはずもない)

(当然よな…そもそも我らが助けに来たというのに、そこから助けを求めるようでは本末転倒だ)


氷像は砕いてもすぐに修復される。

だが、体力に限りのある建宮たちはどんどん消耗していく。

確実に敗北が待っている悪夢のような戦場。

その中で、建宮たちはあるはずのない助けが差し伸べられたのを感じ取った。


「…イの…間に、手を…な…!」


この場で戦うのは、どんな状況でも救いの手を差し伸べる天草式の人間。

その“3人目”が、動かせない体でズルリと立ち上がる。

すでに声が出ないはずのフルチューニングから、音無き叫びが放たれた。


「レイの仲間に、手を出すな!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/02(土) 23:43:47.60 ID:EKzO3Og0<>
ごめんなさい、短いですが今日はここでおしまいです

次回でヴェネツィア編は完結する予定です

明日の夜に投下できたら良いな…

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/03(日) 01:39:09.16 ID:i5QAw5Qo<>乙です! 次回も期待!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/03(日) 18:33:35.89 ID:j.BUk42o<>まだかなまだかな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/03(日) 21:36:21.33 ID:zcllJqE0<>そろそろ来るかな?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:30:29.91 ID:SkcNnqE0<>
こんばんはー、レスありがとうです

ちなみに当初の予定では、フルチューニング=ミサカワーストを本気で考えていました

ただ、それだとあまりに…ゴニョゴニョだったので、変更しました

(なので、最初の頃の投下には、それらしき伏線が有ったり無かったり…)


では、投下


旗艦『アドリア海の女王』船底のとある一室


唖然とするインデックスを庇うように、フルチューニングが前に出る。


(レイは、レイは、レイは……!)

(建宮さんたちを、助けたい!)


体中に走る痛みを無視して、フルチューニングがオイルパステルを構える。


「無茶だレイ、ちょっと待っていろ!」

「必ず助けて見せるから!」


建宮の懇願も、朦朧としているフルチューニングには届かない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:31:42.16 ID:SkcNnqE0<>
そして。

これ以上は無いと思われた悲劇が、さらに続く。


(……、…)


フルチューニングが、近くにあった氷像へオイルパステルを走らせた。

だが、もはや意識のはっきりしないフルチューニングが、適切な魔法陣を描けるはずはない。


(レ…イ…う…あ…?)

(ああああアア…!?)

(――ふむ、土より出でる人の虚像、か)


それなのに、フルチューニングの魔法陣は極めて正確に氷像を支配した。

何故ならば、その魔法陣を描いたのは彼女ではなく――。


(幸い、既にこの“場”は魔術師シェリー・クロムウェルが属性を書き換えた異空間)

(検体番号00000号に残るわずかな魔力でも、接続を断ち切ることは可能だ)


脳内チップを使って彼女の体を操った、歴史上最大の魔術師。


(どうせ死ぬかもしれない体なら、少しばかり“使って”将来の予測に役立てる事にしよう)


アレイスター・クロウリーその人だったからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:32:50.21 ID:SkcNnqE0<>
途中見かけた人たちを、片っぱしから船の外へ放り出す。

シェリーがその作業をしながら、ようやくフルチューニングのいる部屋にたどり着いた時。

信じられない光景に彼女は絶句した。


(何だよ、これは!?)


氷の部屋の至る所に正確な魔法陣が浮かびあがり、氷像の動きが止まっていく。

満身創痍のはずのフルチューニングが、シェリー以上の正確さと速度でそれを行っていた。


「どういう事だ!?」

「俺が聞きたいのよ!」


シェリーの怒声に、建宮がそれ以上の大声で怒鳴り返した。


「今のレイは明らかに普通じゃないのよな! 一体何が…!?」

「…シェリーが教えたんじゃないの…?」


建宮の言葉を遮って、インデックスが静かにシェリーに尋ねる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:33:45.02 ID:SkcNnqE0<>
「ここまで正確なカバラの魔法陣を描けるのは、私の知る限りあなたぐらいだもん」

「確かに術式だけなら教えたけど、この子がここまで出来るはずない!」

「でも…」

「ハッキリ言うが、この魔法陣は私以上の使い手が描いたとしか思えねえんだよ!」

「クソ!」


疑問が解決されない事に業を煮やした建宮が、フルチューニングを背後から抱きしめて動きを止めた。


「おい、しっかりしろレイ!」

「…みや、さん…?」

「レイ!?」


建宮の体に、完全に意識を失ったフルチューニングが倒れこむ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:35:02.18 ID:SkcNnqE0<>
「教皇代理、今は早くここを逃げるべきすよ!」

「…ああ。全員でこの場を離れるぞ!」


とりあえず疑問を脇に置いた建宮が、フルチューニングを抱っこして走り出した。



その時遠く離れた学園都市で、魔法陣を描いた人物がどこか楽しそうな表情をしていた事を誰も知らないまま。


(わずか5分も操れないとはな…)

(最後の最後で、意識を取り戻されてしまった)

(ふふ…だが収穫は有ったし、良しとしよう)

(『科学』と『魔術』の融合…第三次製造計画(サードシーズン) に大きく利用できる)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:36:44.09 ID:SkcNnqE0<>
旗艦『アドリア海の女王』


「テメェらがまたアニェーゼを達を狙うってんなら、俺は何度でも歯向かってやる」


上条の一撃が、ビアージオの持つ十字架を粉砕した。

それと同時に、旗艦が音を立てて崩れていく。

甲板に出た建宮たちも、それを察知して慌てだした。


「術式が崩壊していく…?」


建宮の言葉に、シェリーが呆れたように吐き捨てた。


「あの気持ち悪い馬鹿が、『アドリア海の女王』の自爆を止める為に術式ごと破壊したみたいね」

「ま、まずいんだよ! このままだと船が海水に戻って沈んじゃうんだから!」

「んなこた分かってんだよ!」


わたわたと動くインデックスに、シェリーが怒鳴る。


「けどな、幾らなんでも只の海水を、人形として使役出来るはず無いでしょう!?」

「じゃあ、このまま沈むしかないのかも…」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:37:28.60 ID:SkcNnqE0<>
「心配しなくて良いのよな」


そう言い放つと同時に、建宮が和紙を海水にばら撒いた。

和紙はあっという間に木製の浮き輪となって、辺りに浮かぶ。


「それに捕まっていれば、溺れる事は無いのよ」

「わ、分かった!」


インデックスと香焼が、躊躇い無く海へ飛び込んだ。


「お前さんも早く行け。他の人間も、我ら天草式の仲間が救助を始めている」

「…分かった。“その馬鹿”を放すんじゃねーぞ?」


それだけ言い残すと、シェリーも船から身を躍らせた。

この場に残った建宮が、フルチューニングを抱える腕に力を込める。


(放す訳、ないのよ)

(…絶対にな!)


ドボンッ!

氷の船が崩壊する直前、最後の2人が脱出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:38:15.51 ID:SkcNnqE0<>
キオッジアの、とある沿岸


意識の無いフルチューニングを連れて、何とか建宮が陸地にたどり着いた。

背負っていた彼女を地面に降ろすと、急いで呼吸の確認をする。


(…クソ、止まってやがる!)


フルチューニングの呼吸は、完全に停止していた。


(死なせてたまるか…お前さんを死なせてたまるか!)


建宮は急いでフルチューニングの気道を確保すると、迷わず人工呼吸を始めた。


(悪く思うなよ、レイ)


幾度となくそれを繰り返す。

だがフルチューニングからは体温も感じられず、まるで本当に人形のようだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:39:10.21 ID:SkcNnqE0<>
「ゴフッ」

「!」

「ガバ…ッ!」

「レイ!」


ようやく呼吸が戻り、フルチューニングは海水を吐き出した。


「良かった、本当に良かったのよな!」

「…ごめん、なさ…い……ニ…ーゼさ…」

「大丈夫だ、さっき連絡を受けた。アニェーゼも他のみんなも、全員無事に引き上げた!」

「…良かった…」

「……です」


フルチューニングが最後に言った言葉は、誰にも聞こえないまま。

ゆっくりと彼女は意識を失った。

さらに、体力の限界に達していた建宮も。


(やばいな…俺の意識も持たないか…!)

(救援信号を…)


フルチューニングが蘇生したことで安堵した所為か、その意識が漆黒の闇に沈んでいった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:40:25.39 ID:SkcNnqE0<>
「やれやれ、えらい事になったもんだにゃー」


こうして倒れ伏した2人へ、1人の魔術師が近づいてきた。

一見すると、能天気な足取りにしか見えない様子で。


「とりあえず面倒くさいことに、こっちのクローンは回収しないといけないんだぜい?」


「それとも、俺とやり合う気か?…シェリー・クロムウェル」

「回収してどうする気なのか、によるけどね」


近づいてきた魔術師――土御門元春に、ボロボロのシェリーがオイルパステルを向けた。


「そーんなマジな顔しないで欲しいにゃー」

「……」

「このクローンの体は、学園都市じゃないと助ける事は出来ないって分かるだろう?」

「……」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:41:24.15 ID:SkcNnqE0<>
それでも厳しい顔をするシェリーに、土御門はへらへらと笑った。


「安心するにゃー。“都合良く”1時間で学園都市に到着する飛行機がイタリアに来てる」

「こういう事にピッタリの凄腕の医者が待機してるから、こっちに任せて欲しいんだけどにゃー」


そう言うと、土御門はシェリーの返答を待たずにフルチューニングを担いで歩きだした。


「…ちくしょう…」

「ちくしょう!!!」


結局、そこで戦闘は起こることなく。

イタリアを舞台にした1つの戦いは幕を閉じた。

癒える事の無い、傷跡を残して。



これにて第3章終わり
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/03(日) 22:42:05.10 ID:SkcNnqE0<>
今日はここで終了となります

次回より、間章「フルチューニング入院編」を投下します

明日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/03(日) 23:06:11.95 ID:j.BUk42o<>建宮さんフラグ……なのか?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/03(日) 23:30:03.79 ID:xCkAv4Qo<>おつおつ
部品戻して貰わないと電力落ちちゃう!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/04(月) 01:38:38.37 ID:FXFaEdEo<>乙乙乙乙乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/04(月) 08:49:57.58 ID:CXGih7k0<>乙
アレイスターが魔術を使うSSは初めて見た
次回も期待<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/04(月) 09:38:57.21 ID:bYHX/Cs0<>おつ! <> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:40:17.06 ID:Fo/HT5E0<>
こんばんはー、レスしてくれた方は取り分け感謝です

では、投下


第7学区のとある病院 とある病室


その病室にベッドは存在しない。

代わりに、巨大な培養器が部屋の中央で稼働している。

その中で死んだように眠るフルチューニングを、シェリーが無言で見つめていた。


「……」


やがて培養器の中のフルチューニングが、ゆっくりと目を開けた。


「やっと起きたか。この装置やら何やらは良く分からないけど、私の声は聞こえてるのよね?」

「…?」


自分の状況すら把握できないフルチューニングは混乱するが、とりあえずシェリーの声は聞こえるので頷いた。

その頷きを見てとると、シェリーはゆっくりと説明を始めた。

――フルチューニングの置かれた状況と、これからの事を。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:41:24.02 ID:Fo/HT5E0<>
第7学区のとある病院 待合室


「ハッキリ言おう。もうあの子に能力を使わせてはいけないね」


カエル顔の医者の言葉に、建宮は呼吸すら出来なくなる。

あの時海辺で気絶した建宮は、シェリーと一緒にこの学園都市まで連れてこられていた。

そしてようやく意識を取り戻した時には、すでにフルチューニングが培養器で治療中だったのだ。

だから慌ててフルチューニングの容体を確認すると、突然こんな事を言われた。


「どういう意味…なのよな?」


建宮は混乱するばかりである。

だが、そんな建宮にカエル顔の医者は冷静に説明した。


「あの子が試作型クローンだと言うのはもう知っているね?」

「あ、ああ。…本人から聞いた」

「その製造目的は、人工的にレベル5と呼ばれる超能力者を作り出すことだ」

「……」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:42:52.86 ID:Fo/HT5E0<>
「ところが、試作されたあの子は精々レベル3程度の能力しか持っていなかった」

「……」

「どうにか能力を強化しようとして、研究者はあの子に能力補佐用の部品をあちこちに取り付けたらしい」

「……クッ」

「その甲斐あって、あの子の能力はレベル4まで上昇…」

「が、あまりに不自然な強化は当然あの子の体をズタズタにした」

「……そんな、ことが…!」

「あの子には、検体番号00000号というナンバー以外にも、『フルチューニング』というコードネームが存在している」

「文字通り、『フルチューニング(限界まで改造)』されたという意味を持つ、悪趣味な名前がね」


カエル顔の医者の言葉に、建宮はギリギリと歯を食いしばる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:44:57.08 ID:Fo/HT5E0<>
「そんな綱渡りをしていたあの子から、強引に部品を奪ったらどうなるか予測が付くだろう?」

「…ギリギリ保っていたバランスを大きく崩し、機能停止するのは時間の問題だ」

「しかも、その製造者である科学者は行方不明だ」

「結論を言えば、これ以上能力を使うならあの子は後3日も生きられない」

「…!」

「このまま大人しく培養器で調整を続けるなら、半年は持たせられる」

「半年!?」


次々に語られる衝撃的な言葉に、遂に建宮はカエル顔の医者へ掴みかかった。


「レイの自由を奪っても、それでも半年後には死ぬって言う事か!?」

「そうだ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:45:51.91 ID:Fo/HT5E0<>
「……レイ…」


建宮の全身から力が抜けて、その場にへなへなと座り込む。


「話は終わっていないよ。何のために僕ら医者がいると思っているんだい?」


その言葉に、建宮が思わず上を向いた。


「その半年以内に、必ず延命方法を見つけ出してみせる」

「あの子は僕の患者だ。見捨てはしない」


その言葉は希望と決意に満ちていた。


――あるいは。

このままフルチューニングが半年間調整を受けたのなら。

もしかしたら彼女は、カエル顔の医者の手で完璧に治療を施されて延命できたかもしれない。

だが、そうはならなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:46:28.68 ID:Fo/HT5E0<>
第7学区のとある病院 とある病室


建宮が受けた説明と全く同じ事を、フルチューニングはシェリーから説明された。


「…つまり、今後レイはみんなと一緒に過ごす事は出来ないのですか?」

「医者の話だと、大体半年はな。…当然魔術の使用も禁止って事になるわね」

「そうですか」

「…オイ、何で“笑って”るんだよ?」


シェリーが訝しげに疑問を口にする。

それに対し、フルチューニングは笑みを浮かべたまま答えた。


「初めて師匠に会った時にも言いましたが、レイは元々実験用のクローンです」

「そもそも存在しないはずのこの命を、惜しいと思った事は一度もありません」

「それなのに、たった半年我慢すればレイは生きてまだみんなの役に立てる」

「これほど嬉しい事はありません」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:47:22.77 ID:Fo/HT5E0<>
その言葉に、シェリーは目を丸くした。

それから自分の頭をガシガシと掻きむしり…やがてフッと吹き出した。


「妙なところでポジティブだな、この馬鹿」

「ムッ…何故レイは馬鹿にされたのですか?」


あーあー、もう良い。とシェリーは手を振って一方的に話を終わらせた。


「とりあえず、私は英国へ戻る。いつまでも学園都市にはいられないしね」

「そうですか」

「また半年後に、魔術の講義はしてやるよ」

「よろしくお願いします…あ」


そこでフルチューニングは、ふと気付いたお願いを口にする。


「でも師匠の使う術式の、理論体系ぐらいは半年の間に覚えきりたいので、教本だけはください」

「意外なところでちゃっかりしてるのね」


かつてシェリーが使っていた、もうボロボロのカバラ魔術の理論書だけは部屋に置いて行ってもらう事にした。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:48:10.47 ID:Fo/HT5E0<>
こうして、“2人”の魔術師は互いに分かれた。

シェリーが退室し完全に無音になった部屋で、フルチューニングは1人で笑う。

ただしその笑みは、今まで彼女が浮かべた笑みとは全く異なるものだった。


(…嘘と言うのは、思ったよりも簡単なのですね)

(ごめんなさい、師匠)

(レイの命を惜しいと思った事は、たったの一度もありません)

(…だからこそ、役立たずのまま半年も待つ事は我慢できそうにないんです)

(いざとなれば、いつでも戦えるようにしなければ…!)

(あのローマ正教が、これで引き下がるとは思えませんから)


その通りだった。

目まぐるしく進む事態は、フルチューニングを再び戦場へと駆り立てる。

この決意のわずか2日後、9月30日。

ローマ正教の最暗部『神の右席』の1人、前方のヴェントが学園都市へ侵入。

全面的な攻撃を開始することになる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:49:22.80 ID:Fo/HT5E0<>
9月29日、第7学区のとある病院 とある病室


その前方のヴェントが来襲する日の前日。

培養器で調整されながらも魔術理論を覚えていたフルチューニングに、珍しい人物がお見舞いにやってくる。

シェリー以外では建宮がお見舞いに来ただけであったので、フルチューニングは驚いた。


「あー、ようやく会えたねーってミサカはミサカは感動して走り寄ってみたり!」

「病院で走るンじゃねェよ、クソガキ」

「あなたたちは…!」


いや、そうでなくてもフルチューニングが絶句するのは仕方のない事かもしれない。

なぜなら、そこに現れた見舞客は――。


元気いっぱいに培養器に飛びついた打ち止めと、それを煩わしそうに注意する一方通行の2人だったからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/04(月) 23:50:06.40 ID:Fo/HT5E0<>
今日はこの辺でおしまいにさせてください

次回で入院編は終了する予定です

ちなみに水曜日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/04(月) 23:54:25.97 ID:V8fUxpEo<>おつおつ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/04(月) 23:57:47.85 ID:XuqH6Igo<>フルチューニングの今後の運命を思うと背筋がゾワッとするな・・・
切ない<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/04(月) 23:58:16.23 ID:FXFaEdEo<>やべぇ、激面白い乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/05(火) 01:01:32.96 ID:mDc0cn.o<>ドキドキするけどもうBADな展開しか思いつかない…orz

フルチューニングが救われることを期待…!
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/05(火) 05:55:59.10 ID:i81Fb2AO<>引き込まれるね<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/05(火) 10:25:06.18 ID:uj6WHtk0<>一方通行さんキター!!<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:16:03.64 ID:n6aG/7U0<>
こんばんはー、レスありがとうございます

22巻の影響で頭パーン状態ですが、投下します



第7学区のとある病院 とある病室


目の前で騒ぐ打ち止めに、フルチューニングはため息交じりに声をかけた。


「…初めまして、ですね」

「そうだねー!ってミサカはミサカは初めて会ったあなたに手を振ってみる!」

「……」


会話終了。

フルチューニングは打ち止めをマジマジと見つめなおした。


(あの時、教会で私に話しかけてきたのは間違いなくこの子でしょうが…)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:16:51.45 ID:n6aG/7U0<>
そもそも同じタイプのクローンが量産されたはずなのに、何故この子は他の『妹達』より幼いのだろう。

疑問を口にすると、一方通行が説明してくれた。

曰く、打ち止めは『妹達』の上位個体である。

研究者が反乱防止用に特別に造り、いざという時にはミサカネットワークを通じて他のクローン全てを掌握する事が出来る…らしい。

その生きたキーボードを管理しやすいように、あえて彼女は幼く未成熟な状態にされているとの事だった。


「つかよォ、このガキが行きたいって言うからこンなトコまで付いてきたが…お前は一体何なンだ?」

「…この子から聞いていないのですか?」

「聞いてねェンだ。はぐらかされたからな」


今度はフルチューニングが説明する番。

一方通行と打ち止めは、最後まで黙って耳を傾ける。

ただしフルチューニングは、天草式十字凄教を含む魔術関係の出来事については詳細を語らなかった。

説明するのが大変だし、多分理解してもらえないと思ったからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:18:28.93 ID:n6aG/7U0<>
おまけにあの時フルチューニングと繋がったはずの打ち止めは、何故かすでに天草式の事だけは忘れている。


(まあ、それならそれで好都合なのですが…)

(記憶封鎖…何者かによって“調整”されたのでしょうかね?)

(この子に魔術の事を知られると、マズイ人間…)

(レイが魔術を使えるようにした張本人と、そいつが同一人物かもしれない…と言うのは、考えすぎでしょうか)


そうフルチューニングが考えていると、今まで黙っていた一方通行が話しかけてきた。


「『絶対能力進化計画』じゃなく、『量産型能力者計画』の試作型…ね」

「1万人もぶっ殺した俺が言うのもなンだがよォ、全くもって数奇な人生歩ンでンじゃねェかオイ」


自嘲気味に呟く一方通行。


「挙句天井に捨てられて、たまたま拾ってくれた善人の連中と一緒に暮らしてたら、外国の戦闘に巻き込まれて大怪我とはなァ」

「確かに結構壮絶かも…ってミサカはミサカはあなたに同意してみる!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:19:38.18 ID:n6aG/7U0<>
ここにきてようやく、フルチューニングは最も重大な疑問に気が付いた。


殺される者と殺す者。

実験が中止になったとはいえ、何故標的と狩人が一緒にいるのだろうか?

この質問には、打ち止めがキラキラとした笑顔で答えてくれた。

打ち止めが興奮気味に、一方通行がウイルスから助けてくれた時の事を説明する。


(まさか一方通行が、命懸けであの子を救ってくれたなんて…!)

(しかもその所為で失った演算能力を失い、ミサカネットワークで補助しているとは)


何となく照れ臭いのか、一方通行は打ち止めに背を向けて関係無いかのように装っている。


(一方通行もまた、救われぬ者に救いの手を差し出した人間)

(打ち止めの保護者として、これ以上適切な人はいないのでしょう)


フルチューニングは“長女”として、この“末っ子”を任せられる人がいる事に嬉しくなった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:20:27.57 ID:n6aG/7U0<>
(彼女はミサカネットワークの管理者として、狙われるかもしれませんしね)

(…ミサカネットワーク…)

(……ネットワーク?)


心残りも無くなり、喜んでいたフルチューニングの胸に一つの違和感が訪れた。

彼女はポツリと一方通行に問いかける。


「便利ですよね…ミサカネットワークは」

「…あン?」

「1万人の能力者を自由に管理し、学園都市第一位のあなたの演算能力すら補えるネットワーク」

(それに…恐らくはレイが魔術を使えるのも、そのネットワークのおかげ)

「しかもそのアンテナたる『妹達』は、世界中に拡散されました」

「何が言いてェンだ?」

「このネットワーク…あまりにも優秀すぎませんか?」

「なに…」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:22:51.43 ID:n6aG/7U0<>
「これでは、ミサカネットワークの構築を目的にして『妹達』が造られたと言われても、なんら不思議ではありません…!」

「おい少し落ち着けよ。そンな言い方だと、まるで…」

「はい。根拠も理屈も有りませんが」


フルチューニングが、培養器越しに一方通行の目をしっかりと見て言い放った。


「レイが造られた後凍結された『妹達』が、再び製造されたのは“一方通行をレベル6にする”為では無く…」

「世界中で繋がった『ミサカネットワーク』を手に入れる為かもしれねェって事か」

「そうです。馬鹿げた理論の飛躍だと言う事は承知していますが…」

「確かにあまりにも吹っ飛ンだ話だなァ」


そう言う一方通行の目は、言葉と裏腹にひどく真剣な色を帯びていた。


「打ち止めを、守ってください」

「え、え?ってミサカはミサカは軽く混乱中…」

「いずれにせよ、ネットワークを唯一管理出来るこの子は、これからも確実に狙われることになるはずです」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:23:28.81 ID:n6aG/7U0<>
その時、面会時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。


「……チッ」


その音に軽く舌打ちをすると、一方通行は打ち止めを引っ掴んで歩き出す。

一方通行がこの部屋を出る直前、フルチューニングの耳に一言だけ声が届いた。


「言われるまでもねえンだよ」

「――このガキは、必ず守って見せる」


この言葉を最後に、一方通行は2度と這い上がれない闇の底へ落ちる事になる。

何故ならば。

フルチューニングの願いも空しく、翌日打ち止めは木原数多率いる『猟犬部隊』に狙われたからだ。

そして彼女を守るため、一方通行は死闘を繰り広げ――深く傷つきながらも勝利する。

だがその代償は、あまりにも大きかった。

学園都市の暗部組織『グループ』の一員として、上層部の首輪に繋がれたのだ。

それでも一方通行は闇の象徴『グループ』で戦い続ける。

その胸に自らが抱いた決意を、必ず守るために。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/07(木) 00:25:07.11 ID:n6aG/7U0<>
今日はここで終了です

短い上にグチャグチャで申し訳ないです

次回からはVSアックア編なのですが…

最初は原作12,13巻の部分から投下する事になります

次の投下は金曜日の夜の予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 03:12:56.84 ID:LZqjqBco<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 03:17:31.12 ID:aH8.BDU0<>別人 ◆Q7pSHpMk.kさんって>>1なんだよな。
名前が別人だから乗っ取りかと思ったけど。
あれか、ミサカの飼ってる猫の名前がいぬなのと同じような理由か。と勝手に自己完結してみる。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 09:09:14.30 ID:li3bh.AO<>マジレスすると最初の心理掌握スレが乗っ取りだったから<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 11:01:25.63 ID:/xQXTBg0<>乙
レイ以外と頭が良いな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 11:02:46.36 ID:/xQXTBg0<>「意外」だったゴメンよレイ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/07(木) 19:48:42.11 ID:9S8.Vf20<>乙です<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/08(金) 10:45:50.34 ID:rYPhLsgo<>乙〜
色々書きたいことはあるが展開予想とかになると嫌だから自重してしまう。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/08(金) 23:37:20.29 ID:UHls43Uo<>我慢しとくんだ。
おれも色々妄想してモキュモキュしながら待ってるぜ楽しい<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:37:44.75 ID:UHvrTOs0<>
こんばんはー、レスしてくれた皆さんに特に感謝!

>>569
570さんが説明してくれたとおり、自分がSSを書く切っ掛けが乗っ取りだったからです

>>574
むしろ展開予想を聞いてみたかったりもします

では、投下


9月30日、第7学区のとある病院 とある病室


すっかり日が沈み、夕食の時間も終わった頃。

培養器の中で魔術理論を復習しているフルチューニングのもとに、『妹達』の1人、検体番号10032号が現れた。

通称『御坂妹』とも呼ばれる彼女は、少しばかり焦った雰囲気で唐突に告げた。


「緊急事態です。病院内で起きたテロ行為により火災が発生しました、とミサカは落ち着いて言います」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:40:56.00 ID:UHvrTOs0<>「…え?」

「まだ煙が出ていますし、患者全員を避難させる事にしました、とミサカは報告を続けます」

「…レイが培養器から出ても良いのですか?」

「いいえ。あなたは培養器ごと病院車に収容されることになります」

「その輸送の為に来ました、とミサカは説明が面倒になったので有無を言わさず移動を開始します」


それだけ言うと、御坂妹はテキパキと培養器の連結を解除。

移動用の車輪を取り付けて、ベビーカーのようにフルチューニングを運び出した。


「ちくしょう、まだあのクソガキを捕まえていなかったのに…」

「ちょ、もう少し丁寧にレイを運んでください!…っていうか話を聞けよ!?」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:41:51.27 ID:UHvrTOs0<>
それからしばらく経って。

培養器を載せた病院車は、第七学区の立体駐車場で待機している。

事態が全く把握できないフルチューニングは、何も出来ない事を悔しく感じていた。


(一体何が起こったのでしょうか…?)

(まだ調整中の『妹達』を武装させているなんて、ただ事ではありません)

(…いざとなれば、強引に培養器から出なくては)


もちろん今のフルチューニングが培養器から出ても、戦力と呼べるほどの力は無い。

今の彼女は、能力を使えば死ぬ可能性があるからだ。

しかもイタリアで監禁された際に、彼女は能力強化用の部品を多数失っている。

そんな状態で全力を出したところで、彼女の出力はレベル3を超える事は無い。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:42:48.43 ID:UHvrTOs0<>
(レイに残された武器は、師匠から教わった『ゴーレム術式』と鋼糸のみ)

(ですがゴーレムは完成に程遠く、鋼糸も以前ほど自由に扱えない)

(このボロボロの体では、格闘術を学ぶことすら儘ならない…なんてレイは無価値なんでしょう)


だが、誰かを救いたいのならそれでも前へ進むしかない。

フルチューニングが中から培養器を睨みつけていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「だから、“ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー”が必要なんだって言ってるんだよ!?」

(あれは…インデックスの声…?)


それはつい最近イタリアで再会した、イギリス清教の腹ペコ修道女の声だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:43:28.93 ID:UHvrTOs0<>
インデックスの焦り交じりの訴えに、御坂妹が話を聞こうと近づいて――

瞬間。

その場でピシリと硬直した。

否、御坂妹だけではなくフルチューニング以外の全ての『妹達』が同時に動きを止めた。

理由は1つ。

打ち止めから送られた緊急コードが、脳の稼働領域の大半を奪い取ったからだ。

木原数多によって入力されたウイルスが、ミサカネットワークを通じて一気に拡大していく。


「しっかりしてください!」


もはや今の御坂妹には、フルチューニングの言葉に反応する余裕すらない。

そして、それだけでは終わらなかった。


(……ぐ、う!?)

(この感覚は…あの時の…!?)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:44:09.68 ID:UHvrTOs0<>
フルチューニングの脳内に埋め込まれたチップが、無慈悲にシステムを稼働させる。

次にフルチューニングが目を開けた時、すでに彼女は別人だった。



「――特別コード『エンジェル』の受信を確認」

「――虚数学区の展開を補助……正常に終了」

「――AIM拡散力場の“魔術的”誘導を開始」

「――『ヒューズ・カザキリ』の出現を確認」



世界と切り離された培養器の中。

誰も気づくことのないまま。

フルチューニングの頬に、一筋の涙が儚く流れてすぐ消えた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:45:26.56 ID:UHvrTOs0<>
同時刻、窓の無いビル


全てを管理していたアレイスターは、ゆったりと微笑んだ。


(虚数学区・五行機関の展開に成功したか)

(出力の低下は避けられなかったが…うまい具合にアレが役に立ったな)

(――“能力者”は“魔術”を使えない)

(その概念を捻じ曲げたミサカネットワークは、“魔術とAIM拡散力場の相互干渉”を可能にする)

(科学と魔術の融合攻撃…能力者にも、魔術師にも効果的な『自爆誘導術式』が出来あがると言う訳だ)

(廃棄された試作型では、ここまでの強度を得られるとは思っていなかったが…)

(流石は『天草式十字凄教』に鍛えられた事はある)

(多角宗教融合型十字教天草式…“十字教でありながら、天使への攻撃を可能にする唯一の流派”)

(その魔術の流れを体で覚えたアレは、いずれは天使の加護を受けた魔術師でも無力化できるようになる)

(喜ばしいイレギュラーも有ったものだ)


この瞬間より、フルチューニングは正式にアレイスターのプランへ組み込まれることになった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:47:32.59 ID:UHvrTOs0<>
――フルチューニングが意識を取り戻した時、事態は大きく進展していた。


<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/08(金) 23:48:59.85 ID:UHvrTOs0<>
最近ずっと謝ってばかりですが…短くてすいません

今日はこれまでです

次回より16巻に入ります

また明日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/09(土) 00:19:43.10 ID:FZa7lY6o<>長い短いなんて些細なことなんだよ
一番大事なのは内容なんだよスッゲー面白い乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/09(土) 15:46:47.66 ID:.3jQZlco<>乙!
短いとはいっても投下スピード早いから問題ない。
なにより面白いし。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/09(土) 22:30:08.55 ID:ihy0Gm.0<>乙なんだよ!
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:15:32.37 ID:rbcpf9I0<>
こんばんはー、心優しいレス本当にありがとうです

では、投下


第7学区のとある病院 とある病室


フルチューニングが培養器の中で意識を取り戻した時、すでに2週間近くが経過していた。

その期間には、『前方のヴェント』及び『左方のテッラ』との戦い、学園都市の暗部の抗争など、

様々な出来事があったのだが、その間フルチューニングは意識を奪われていた為ここでは省略。

そして今、フルチューニングはお見舞いに来た天草式の少年香焼と話をしていた。


「…だからまあ、結局はあの上条さんがまた全部解決してくれたって事すよ」

「流石ですね…そのテッラという魔術師も相当強いはずですが」

「ま、実際にテッラと戦ったのは俺らの中じゃ五和だけだったんすけどね」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:16:27.08 ID:rbcpf9I0<>
ローマ正教の中でも、絶大な力を持つ『神の右席』との戦い。

フルチューニングが意識を取り戻した時、最初に建宮から聞かされたのはその事だった。


(レイが意識を失ったあの日、ローマ正教はヴェントという刺客を送ってきていた)

(その標的は、上条当麻及び右手の『幻想殺し』)

(結局ヴェントは上条当麻に敗れ、事なきを得た)


だがフルチューニングは、ヴェントを弱体化させた自爆誘導結界の要が自分と打ち止めである事は知らない。

尤もそれを知っているのは、世界でただ1人なのだから当然ではある。


(その後上条当麻は、世界を混乱させたテッラをフランスで撃破)

(しかも天草式のみんなもフランスに一緒に行っていた、とは)


培養器の中で、フルチューニングは自分の拳を強く握り締めた。

香焼はその事に気づかない様子で話を続ける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:17:18.22 ID:rbcpf9I0<>
「そんな感じで過ごしてたらようやくレイが起きたって言うんで、みんなでお見舞いに来たんすよ」

「…良く分かりました、とにかく香焼も無事で本当に良かったです」

「へ…あ、え!?」

「…何ですか…?」

「いや、レイが素直にそういう事を言うと、ちょっと気持ち悪いっていうか…」

「ム!…レイが回復した時に、香焼には今日の分もまとめて電撃をお見舞いしてあげますから!」


「さあ、そろそろレイを休憩させてやらんといかないのよな」


久しぶりの口喧嘩が始まりそうになったその時、建宮が割り込んでそれを止めた。


「香焼は先に戻って食事の用意を手伝え。そろそろ対馬が怒ってるかもしれん」

「ゲ、そうだった…」


急いで病室を後にする香焼。

だが、最後に振り返ってフルチューニングに手を振った。


「じゃあ、また来るから…大人しくしてなきゃダメっすよ!」

「それぐらい分かっています…!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:18:10.57 ID:rbcpf9I0<>
タタタ、と軽快な音で香焼が走り去り、フルチューニングは建宮と2人きりになる。

なんとなく互いに黙り、どこか心地よい静寂が満ちる。

その静けさを破ったのは、フルチューニングの方だった。


「…建宮さん」

「んー?」

「本当の理由を教えてください」

「……」

「どうして天草式の戦闘部隊50余名全員が、この学園都市に来ているのですか?」

「意外と忘れがちな事ですが、この学園都市は基本的に外部の人間が入る事は出来ません」


それなのにたかがお見舞いで全員が来るのはおかしい、とフルチューニングは問いだたした。

誤魔化しきれないと思ったのか、建宮はフー、と溜息をつく。


「やれやれ香焼のヤツめ、喋り過ぎなのよ。…その所為で予想は付いているんだろう?」

「はい。十中八九上条当麻に関係があると思います」

「レイは良く分かりませんが、ローマ正教にとって『神の右席』というのは最高戦力なのでしょう?」

「そのメンバーをすでに2人も倒している上条当麻を、このまま放っておくはずがありません」


レイがそう断言すると、建宮は深刻そうな顔で頷いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:19:28.31 ID:rbcpf9I0<>
「大当たりなのよな。我らは上条当麻の護衛に来た」

「それも…敵は『神の右席』の1人、『後方のアックア』と呼ばれる魔術師だ」

「…後方のアックア…何故その人物が来ると?」

「それがなあ、ご丁寧に奴さんは“上条当麻を殺しにいくぞ”と果たし状まで送りつけてきたのよ」

「果たし状…!」

「その為イギリス清教は、我ら天草式を派遣したという訳よな」


最悪の予想が的中した事に、フルチューニングは愕然とした。

今まで戦ったローマ正教の魔術師は、どれもレイに圧倒的な強さを見せつけてきた。

アニェーゼ部隊やビアージオは、まさに悪夢としか言いようのない傷をフルチューニングに与えている。

だが今度の敵は、それら魔術師の遥か上を行く。

――後方のアックア。

ローマ正教でもトップクラスの力を持つという魔術師相手に、天草式は勝てるのだろうか。

今まで共に過ごしてきたからこそ、フルチューニングは分かる。

建宮たちはどんな敵が相手でも絶対に逃げないし、諦めない。

……きっとその身が滅ぶまで。


(嫌だ…)

(またみんなが傷つく事になる)

(……ではどうするべき?)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:20:20.93 ID:rbcpf9I0<>
「あれ、まだお見舞いの人がいたようだね?」


唐突に第3者から声を掛けられる。

フルチューニングが思考を中断して病室の入り口を見ると、そこにカエル顔の医者が立っていた。


「ようやく意識を取り戻したみたいばかりだと言うのに、無理はしてないだろうね?」

「大丈夫です」

「じゃあ、お見舞い中に悪いんだけど検診を始めても良いかい?」

「構わないのよな、俺もそろそろ帰らないと…」

「ああ、そう言えば」


邪魔にならないように帰ろうとする建宮だが、医者がのんびりと告げた一言がその動きを止めた。


「昨日教えてもらったけれど、イタリアでこの子に心肺蘇生を施してくれたのは君だったそうだね?」

「…?」


首を傾げるフルチューニングに対し、建宮は言葉を詰まらせて呻いた。

ちなみに、リークしたのは土御門元春であるのは言うまでも無い。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:22:10.28 ID:rbcpf9I0<>
「いくら僕でも、死んだ患者を蘇らせる事は出来ないからね」

「是非ともお礼を言いたいと思っていたんだよ」

「…スマン!」


何故か突然建宮はその場で土下座した。


「どうして建宮さんは土下座しているのですか?」

「本当だねえ、彼は海で溺れた君の事を人工呼吸して助けてくれたというのに」

「そんな事があったのですか…」


医者の説明を受けたフルチューニングに、建宮は頭を下げながら力説した。


「謝っても済まないのは承知だ…」

「だがな、俺が言っても慰めにならないだろうが…アレはノーカンなのよ!」

「は?」

「あれはあくまでも人命救助、だからレイは何も気にしなくても…」

「建宮さん、話の意味が分からないのですが」


焦って弁解めいた事を語る建宮に、フルチューニングが訝しげに質問する。


「何故命を助けてもらったレイが、まるで取り返しのつかない事をされたかのような扱いを受けるのですか?」

「というより何が“ノーカン”で何が“気にしなくても良い”のでしょう?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:24:24.23 ID:rbcpf9I0<>
テスタメントは恋愛感情の入力はしていないし、おませなミサカネットワークとも繋がっていないから当然なのだが。

そこまで言われて、ようやく建宮はフルチューニングに“そっちの知識”があまりない事を知った。


(やばい、これは墓穴を掘ったことに…!?)

(考えてみれば、ファーストキスだのなんだのをレイが知ってるはずもないのよな…!)

(かと言って、ここで俺が説明するのも妙な話だし…)


「もういいですよ」


少し怒り気味のフルチューニングの声が聞こえたときには、すでに遅かった。


「後で五和や対馬さんに聞いてみます」

(ノー!?それだけはやーめーてー!)


当然心の中の絶叫は、フルチューニングに届く訳も無く。

結局建宮は、自分の口で全てを説明する事になった。

ちなみにカエル顔の医者は「検診は後回しで構わないからね」と言い残して姿を消している。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:25:19.92 ID:rbcpf9I0<>
「はあ…好きな人と最初に交わす口づけをファーストキスと言うのですか」

「ううう、死にたいのよな…」

「で、何故建宮さんはレイとのそれをノーカンだと主張したのですか?」

「ええ!?」

「確かに救命措置としての人工呼吸と、口づけは意味合いが違うようではありますが」

「レイは建宮さんが好きですし、それがファーストキスでも全然構いませんよ?」

「ああ、いや、その…“好き”には色々な種類があるのよな」


何でこんなベタな少女漫画みたいな状況になっているんだ!?という心境を隠して、建宮は質問に答えなければならず。

それから30分ほど経ってようやく解放された建宮は、ぐったりと疲れ果てて病院を後にすることになった。



それから検診が始まっても、フルチューニングはモヤモヤと悩んでいた。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:25:57.40 ID:rbcpf9I0<>
(…“好き”の種類、ですか)

(美味しいお茶が好き)

(甘いお菓子が好き)

(優しい五和が好き)

(面倒見のいい対馬さんが好き)

(楽しい香焼が好き)

(そう言えば、五和は…)

(あの上条当麻が好き、とみんなに言われて大変な事になっていましたが…)

(五和のあの“好き”は、確かに他とは違う感じでした)

(…好き?)

(あれ?…建宮さんは、どうして好き?)

(あれ?)

(あれ?)


悩み事が増えたフルチューニングは、培養器の中で難しい顔をする。

だがそれも、再びカエル顔の医者が唐突に遮った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:26:58.13 ID:rbcpf9I0<>
「じゃあ、これで検診は終了だ」

「…まだレイは退院できないのですか?」

「そりゃあまあ、1日2日なら何とかなるかもしれないけれど…正直止めた方がいいね?」

「お願いします、レイはどうしても外に行きたいのです!」

「何か大事な用事でもあるのかい?」


用事はある。

が、戦う為だと言えば絶対に退院の許可は下りないだろう。

それでも、何故だかフルチューニングはこれまで以上に焦りを感じていた。


(このままでは、天草式のみんなが殺されてしまうかもしれない)

(それだけは、認める訳にはいかない…!)

(あの建宮さんが死ぬなんて、絶対に!)


僅かに変化したその感情の揺れに、フルチューニングは気がつかない。

それでも必死に訴えるフルチューニングに、カエル顔の医者は渋々了承した。


「明日と明後日の2日間だけは、退院を許可しよう」

「ただし、その前にやっておく事があるね?」


そう言うと、カエル顔の医者は携帯で誰かに連絡を取り始めた。

それから10分後、呼び出しを受けて現れたのは…


「『妹達』に関する用事ってのは、一体なンだよ?」


学園都市最強の能力者、『一方通行』だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/10(日) 00:28:00.79 ID:rbcpf9I0<>
今日はこの辺でおしまいです

徐々に原作からズレていきます

次の投下は月曜日の夜を予定してます

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/10(日) 00:51:15.75 ID:4u1qHDko<>ついに一通さんが物語に絡んでくるのかうはぁぁああああ乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/10(日) 04:17:46.31 ID:Gy4ZvsAO<>一方さんきた!これで勝つる!
乙なんだぜ!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/11(月) 00:44:40.91 ID:wxrUjz20<>気持ち悪いとか香焼酷過ぎだろww
乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/11(月) 10:59:58.24 ID:t1V/CyE0<>乙!建宮ルートか!本来からかう側の人間だから新鮮だねぇ

つーかそろそろねーちんとも絡むかな?wwktk<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/11(月) 23:07:32.82 ID:t1V/CyE0<>今日は来ないかな?
そろそろねーちんとの絡みがあるんじゃないかと期待してるんだが<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:40:53.79 ID:H.qw8pE0<>
こんばんはー、レスしてくれた方ありがとうです

>>603
>>604
ねーちんとは絡みます!…が、今しばしお待ちくださいorz


では、投下


第7学区のとある病院 とある病室


いら立ちを隠そうともせず、白い『最強』がカエル顔の医者を睨みつけた。


「なんだかんだ言っても来てくれる辺り、キミも相当甘いね?」

「うるせェよ。…こっちの事情は知ってンだろうが。手短に話せ」

「やれやれ、じゃあ単刀直入に言おう」


カエル顔の医者は一瞬だけフルチューニングを見ると、きっぱりと告げた。


「そこにいる試作型妹達……いや、レイの肉体を元の状態に戻す。その手助けをしてほしい」

「…なンだと?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:44:32.20 ID:H.qw8pE0<>カエル顔の医者はこう説明する。


「彼女の体は無理な改造でボロボロだった」

「それでも、これまでの調整で2日程度なら問題なく体は動かせるまでに回復させた」

「残る問題は脳だ」


カエル顔の医者が流れるように説明を続けた。


「彼女の脳は、得体のしれないノイズで極めて危険な状態になっている」

「万全を期す為に、キミの能力でそれを整えて欲しいんだ」

「…おい、いきなり無茶を言うンじゃねェよ」


黙って話を聞いていた一方通行が、思わず口をはさんだ。


「テメェは、俺が打ち止めから『ウイルスコード』を除去したっていう事実に期待しているみてェだが」

「……そう簡単にいく訳ねェンだよ」


だが、カエル顔の医者は自信ありげに答える。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:45:48.24 ID:H.qw8pE0<>
「安心すると良い、手伝ってくれるのはキミだけじゃないからね」

「あァ?」

「キミの演算能力をサポートしている1万人の『妹達』が、レイの為に協力してくれる」

「……」

「やり方はこうだ」

「まず『妹達』が、レイの正しい脳波パターンをキミの脳に直接教える」

「その情報を基に、キミが能力を使ってノイズを整えるという作戦だ」

「待て待て、そンな事したらコイツの記憶は全て吹っ飛ぶぞ」

「あのガキと違って、コイツは『量産型能力者計画』の試作型。ミサカネットワークに繋がって無いンだろうが!」

「記憶をネットワークに保管しないまま脳波を戻したら、2度と戻らねェンだぞ」


掴みかかりそうな勢いで否定する一方通行に、カエル顔の医者はやれやれと首を振った。


「大丈夫だ。何しろこの事例はウイルスコードとは違う」

「僕がお願いしたのは、確認されたノイズを“整える”ことであって除去する事じゃない」

(そう、レイの頭にチップがある以上、ノイズの完全な除去は不可能なのだから)

「ノイズが脳の活動を邪魔しない程度に抑え込むだけで良いんだ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:46:55.07 ID:H.qw8pE0<>
わずか2日間の退院。

一方通行が依頼されたのは、その期間中フルチューニングが問題無く動けるための一時的な処置だった。


「…解せなェな」

「完全な治療を信条とするくせに、今回はえらく無様な妥協をしてンじゃねェかよ」


まるで咎めるような一方通行のセリフに、横からフルチューニングが弁明した。


「それは彼の責任ではありません。無理に退院を願ったレイの所為です」

「本来ならば後半年は調整が必要なはずなのに、今すぐ退院したいと我儘を言いました」


フルチューニングからの思わぬ言葉に、一方通行は彼女へと振りかえった。

その紅い目から一瞬も視線を外さず、フルチューニングは懇願する。


「お願いします、一方通行。レイに2日間だけ動ける時間を下さい」

「…チッ」


結局一方通行は、…本気でどうなっても知らねェぞ、と呟いて了承した。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:48:11.01 ID:H.qw8pE0<>
午後5時00分、第7学区のとある大通り


一方通行とフルチューニングは、日の沈みかけた道を並んで歩いていた。

一方通行が一緒に居るのは、“治療”を終えたフルチューニングに異常が無いか確認するためである。

そのフルチューニングは、笑みを浮かべて軽快に歩く。

杖をついた一方通行を置き去りにする勢いで。


「かなりイイ調子です。この感じなら走ることも出来ますよ」

「止めろバカ」

「ム…ただの冗談です」

「テメェらの冗談は、ちっとも冗談に聞こえねェのが難点だなァ」


何か心当たりでもあるのか、げんなりとした様子で一方通行が吐き捨てた。

やがて2人は、天草式が学園都市で滞在している場所の近くへ到着する。


「ここまでで結構です、本当にありがとうございました」

「……」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:49:19.02 ID:H.qw8pE0<>
「あの、一方通行?」

「1つ聞きてェンだが」

「はい?」

「…お前、死ぬ気か?」


すでに人通りも無くなった小道で、2人の能力者は無言で向き合った。


「どういう意味ですか?」

「そのまンまだよ、ここまでして退院したのは死ぬ為かって聞いてンだ」

「…いいえ」

「そうかァ、ならハッキリ教えてやる」

「テメェのノイズも、ミサカネットワークに接続出来ない理由も、全て原因は頭のチップだ」

「…チップ?」

「ああ、間違いねェ。脳波を弄った時に確認した」


この時になって初めて、フルチューニングは自分の頭にチップが埋め込まれている事を知った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:51:11.65 ID:H.qw8pE0<>
(つまり、レイが他の『妹達』と異なっている理由はそのチップ…!?)

(オルソラ教会や培養器の中で、意識を失った理由も…)

(レイが能力者なのに魔術を使える理由も全て…!)


「本当に死にたくないって言うンなら、病院に戻ってそのチップを取り除くべきだな」

「そ、れは…」

「そのチップが動けば、今度こそ脳がイカレルかもしれないンだぜ?」


一方通行の脅かすような言葉に、フルチューニングは黙りこくった。

とは言え、それは病院へ戻るか迷ったからではない。


(このチップが、レイを殺すかもしれない…それはどうでもいい事です)

(能力の低下したレイが天草式のみんなの役に立つには、このチップ…魔術が必要)

(ましてや、アックアという最強の魔術師相手ならば絶対に!)

(そもそも天草式のみんなを、建宮さんを助ける事が出来るのなら、この体がどうなろうと構わない)

(問題は、ただ1つ)


目の前に居る『最強』をどう誤魔化すか、と言う事に悩んだからだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:52:12.29 ID:H.qw8pE0<>
「…レイは、死ぬつもりはありません」

「約束します」

「……」

「2日後までには、“必ず”あの病院へ戻りますから!」


その拙い説得に、一方通行はこう問い返した。


「…そこまでする理由はあンのか?」

「はい!…どうしても会いたい人たちがいます」

「どうしても助けたい人たちがいます」

「どうしても守りたい人たちがいます」

「…どうしても、失いたくない人がいます」


そこまで言って、フルチューニングはハッと気づく。


(これでは、レイが危ない事をしにいくと言ってるようなものでは…!)


恐る恐る相手の様子を窺うが、一方通行の表情は読み取れない。

そして一方通行は、そのままゆっくりと来た道を戻っていく。

だが去り際に、一方通行の言葉がフルチューニングへ届いた。


「…お前にも、自分の事を『1人の人間』として認めてくれた人間がいるンなら…」

「そいつのためにも、死ぬ事は許されねェって事を胸に刻ンでおけ」


その言葉の残滓が残っているうちに。

かつて孤独だった『最強』は夜の闇へ姿を消した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/11(月) 23:53:02.93 ID:H.qw8pE0<>
今日はここまでです

これからしばらくはシリアスが薄くなるハズです

次は水曜日の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/12(火) 00:19:19.70 ID:uEiQRuwo<>乙乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/12(火) 00:33:31.48 ID:jud5UBUo<>(*∀*)ウヒョータマラン乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/12(火) 09:29:22.99 ID:4WVRaOE0<>相変わらずのクオリティ乙
>「…どうしても、失いたくない人がいます」
ここだけ「人たち」じゃないあたりウマイなあ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/12(火) 16:26:28.79 ID:IYcLcNs0<>>>603
>>604 あbbbb・・・なんで2回も書き込みがorz 一応確認したんだが、申し訳ない。

乙でした!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/12(火) 18:43:45.29 ID:aitjLkAO<>今更だが、培養機に入ってる妹達って全裸じゃなかった?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/12(火) 19:58:42.98 ID:qq/bNADO<>実は俺も気になってた<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/12(火) 20:29:19.22 ID:XJbLlaMo<>だよねー
よく建宮さんとか普通にしてられたなって思ったww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/13(水) 11:43:42.77 ID:vUVIP7E0<>全くお前らは…

ところでレイが氷のベッドで拘束されてたときって全裸?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/13(水) 19:55:35.33 ID:EiBQwKgo<>古今東西、捕虜を辱めるために着衣をはぎ取るのは常套手段だからなあ。<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:13:10.48 ID:wD5hzE60<>
こんばんはー、レスに感謝です

>>618-622
その幻想をぶち殺す!
描写してませんが、一応アレイスターのように手術着を着ている設定です(8巻無視でスイマセン)
捕まった時も下着は残っているよ!ってことでお願いします

では、遅くなりましたが投下


第7学区、とある天草式の隠れ家


後方のアックアから、上条当麻を守れ。

天草式のメンバーは、その極めて難しい指示を果たすため現在打ち合わせをしている。

だがこの場に居る彼らの表情は、どことなくぼんやりとしたものだった。

その理由は1つ。

仲間になってわずかに2か月ほどの、とある少女を気にしているからだ。


「レイが戻るまで半年、か…やれやれ」

「…お見舞いには行けるけど、結構キツイわね」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:14:13.40 ID:wD5hzE60<>
教皇代理建宮の呟きに、対馬が寂しげな笑みを浮かべて同意する。

天草式の誰もが、今ではすっかり家族の一員のように感じていた。

――極めて特殊な出会い方をしたあの少女の事を。


「アックアとの戦いに集中しよう。…こんな我らの姿を、レイに見せる訳にはいかないのよな」

「それは、分かるんすけど…」

「香焼、しっかりしなきゃ駄目です。レイちゃんに笑われちゃいますよ」


あの海戦以降、傍目に分かるほど落ち込んでいる香焼を五和が励ます。

その優しさで、香焼が立ち直るよりも早く。


「――では、期待通り笑ってあげます」


無表情を装いながらも、その声に隠しきれない喜びを含んで。

件の少女、フルチューニングがその場に現れた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:15:17.41 ID:wD5hzE60<>
突然姿を見せたフルチューニングに、建宮たちは当然驚いた。


「レイ! どうしてお前さんがここにいるのよ!?」

「そ、そうっすよ!入院はどうなったんすか!」


一体どこで覚えたのか、フォッフォッフォッフォッフォ…と手をチョキにして笑う(?)フルチューニングに、2人が詰め寄る。


「退院した訳じゃありません、これは一時帰宅です」

「一時帰宅? 認められたの?」


疑わしい、という目で見てくる対馬に、フルチューニングは帰宅許可証を差し出す。

それをゆっくりと確認すると、対馬はホッと安堵しながら頷いた。


「確かに、お医者さんの許可は貰ってる…」

「当然です」

「本当に良かったねレイちゃん。それで、どれぐらい外泊できるの?」

「ちょっと待ってね五和。…この書類を見ると、明後日までは大丈夫みたいよ」


対馬の答えにみんなが喜ぶ中で、1人だけ難しい顔をしている人物がいた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:16:14.78 ID:wD5hzE60<>
「レイ、まさか今回の作戦に参加するつもりじゃないだろうな?」

「!」


今この学園都市に天草式が滞在している理由を、誰よりも理解している建宮斎字である。


「分かっちゃいると思うが…重症のお前さんを、戦わせるつもりはないのよ」

「建宮さん…」

「レイ、これだけは“絶対”だ」

「言われなくても、当然レイは分かっています」


フルチューニングの思いがけない言葉に、建宮が沈黙した。


「そもそも能力が使えないレイでは、戦っても足手纏いになるだけです」

「ですが、せめて連絡役ぐらいはさせて下さい」


周りにいる仲間たちが、建宮の判断を無言で待つ。

10秒ほど黙考した後、建宮は特大の溜息をついた。


「絶対に能力は使うな。それだけは守ってほしいのよな」

「…はい!」


こうして、およそ2週間ぶりに天草式十字凄教は全員揃うことになった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:18:10.43 ID:wD5hzE60<>
翌日の夕方、第7学区のとある映画館近く


久しぶりに布団で眠ったり、五和たちとお喋りを楽しんだり。

フルチューニングが天草式とのコミュニケーションを楽しんだ日の夕方の事。


――ちなみに建宮は、対馬たちから「アックアのことをばらしたのはお前か!」ときつい折檻を受けた。


現在彼女は建宮の隣に立っていた。

その建宮は、物陰から護衛対象である上条当麻…ではなく五和を観察している。

学校帰りの上条当麻と、直接の護衛を担当する五和が話しているところだ。

その様子を見ている建宮は、いつかの引越しの時に発見した、双眼鏡まで持ち出していた。


「…つまらんのよ」

「何がですか?」


渋い顔をする建宮に、フルチューニングが理由を問い尋ねる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:18:48.20 ID:wD5hzE60<>
「五和のアピールの話よな」

「あぴいる?」

「わざわざ上条当麻にゼロ距離攻撃できるチャンスを与えてやったというのに…」

「?」

「あいつは自分の武器にも気づいていないと見えるのよ」

「五和さんの武器?『海軍用船上槍(フリウリスピア)』がどうかしましたか?」


見当違いの武器を思い浮かべるフルチューニングを無視して、香焼が続けて質問する。


「で、なんすか五和の武器って?」


その言葉を受けて、建宮はとあるものを取り出した。

やはりあの引越しの時に見つけたモノ…フリップボードである。

そして流れるようにマジックを走らせると、建宮は堂々と宣言した。


「――そう、それは『五和隠れ巨乳説』ッッッ!!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:20:17.12 ID:wD5hzE60<>
食いつきの良い男性陣に対し、教皇代理(今一番偉い人)が声高らかに自説を披露する。

対馬とフルチューニングは、そんな彼らをジト目で睨んだ。


「くだらないわね」

「…胸がそんなに大事なのですか…すると、オリジナルを素体にしたレイに可能性は…?」


そんな女性陣へ、容赦ない“口撃”が開始された。


「対馬先輩って、どっちつかずで需要が少なそうすよね」

「なっ!?」


香焼に続いて、貧乳好きの野母崎(既婚)がフルチューニングへそっと一言。


「あ、俺的にはレイぐらいのサイズが一番好みだよ」

「ううう…」


いろんな意味でショックを受ける2人に、建宮がすかさず助太刀(?)をした。

新たなフリップボードを取り出すと、再びマジックを走らせる。


「お前さんたちにはこれが分からんのよ」

「――『対馬・レイ脚線美説』!!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:21:02.60 ID:wD5hzE60<>
直後にその2人が、建宮の股間を蹴り上げて強制的に黙らせたのは言うまでも無い。


「で、結局五和の奥手をどうしたものか…」


諫早の言葉に反応したのは、涙目となった建宮だった。


「ふっ、心配はいらないのよな。ここに秘策を用意したってのよ」


そうして建宮がいそいそとバックから取り出したのは。


「あれ?…あの時のサッカーボールじゃないですか」

「その通りなのよレイ…フッフッフ」

「…何だか不安なのですが」

「このフィールドの狙撃手・建宮斎字がフリーキック大作戦を提案するのよな」


ちなみに。

このフリーキック大作戦が、フルチューニングにとって大きな出会いの切っ掛けになる事を、今は誰も知らなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/14(木) 00:21:45.30 ID:wD5hzE60<>
今日はここでおしまいです

次回はあのキャラとついに遭遇します

次の投下は金曜日の夜を予定してます

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/14(木) 00:25:16.29 ID:dgm/sqko<>ついに美琴との邂逅か<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/14(木) 00:32:37.41 ID:7ZbI6.6o<>乙オヤスーノシ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/20(水) 17:48:57.19 ID:sxAyPRso<>あら復活してる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/20(水) 20:50:34.33 ID:eJu6gRgo<>復活したし、早く続き!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/20(水) 22:32:50.59 ID:XiQFckoo<>お、復活してる。1は気づくかな<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/20(水) 23:59:08.03 ID:JfJTA120<>
こんばんはー、お久しぶりです

無事に復活して良かったです

では、投下


第7学区のとある映画館近く


事態は流れるように進行した。

建宮は地面にサッカーボールを置くと、周りの男性陣と頷き合う。

そしてポカンとするフルチューニングの横合いから、軽く助走を付けてボールを蹴り上げた。

上手く横回転が掛かったボールは、ギュルギュルと音を立てて標的である上条当麻の頭部に直撃する。

当然、一撃を喰らった上条は正面に居た五和の胸に倒れ込む事になった。


「いえーい!」


見事に目的を達成した建宮は、牛深や香焼とハイタッチして喜びを分かち合う。

…喜びもつかの間、突如雷撃の槍が自分たちに降り注ぐまでは。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:01:01.08 ID:cKwh/gs0<>
御坂美琴は悩んでいた。

1週間ほど前、とある人物が『記憶喪失』である事を偶然知ってしまったからだ。

しかもその人物が、最近いろんな意味で気になっている上条当麻なのだからなおさらである。

それがいつからなのか、適切な治療を受けているのか、…自分との思い出の事はどうなっているのか。


(…“あいつ”に相談するっていう手もあるにはあるんだけど…)

(どうも最近おかしな行動が目立つし、何か私に隠し事をしているカンジがするのよねぇ)


御坂は、この類の問題で最も頼りになる能力者の顔を思い浮かべて、すぐに否定した。

――常盤台中学で女王として君臨している、精神系能力者としては史上最強の『心理掌握』。

元々ウマの合わない2人だったが、常盤台校舎の改築工事以後特にそれが顕著になった。

何しろ、今まではすれ違った時に挨拶ぐらいはしていたのに、最近は一言も話しかけてこなくなっている。


(あの時期の記憶って、ボンヤリしてる部分もあるし…まさか、私に能力を使った訳じゃないでしょうけど)

(とにかくあいつを信用できない以上、相談は止めておいた方が良さそうね)


だが、他に具体的な解決策をすぐに思いつく事など出来るはずも無く。

思わず御坂が重い溜息を吐いたその瞬間。


「……?」


何故か街中で、サッカーボールをセットしている一団が目に飛び込んできた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:02:23.25 ID:cKwh/gs0<>
誰かが止める間もなく、その中心に居るクワガタみたいな髪色をした男が勢いよくフリーキック。

そのボールがバゴン!!と音を立てて上条当麻の側頭部に直撃し、彼は隣にいた少女へ倒れ込む。

いや、より正確に言えば…少女の胸の谷間へ顔を埋め込ませたというべきか。


(……)


さらに。

どことなく気持ちよさそうに気を失っている上条を、少女が心配そうに撫でている。

錯覚だとは思うが、まるで上条の頭を自分の胸に押しつけているように見えた。


(…………)


「いえーい!」


こんな事態の原因となったクワガタたちが、歓声を上げてハイタッチをする。

その楽しげな声が、只でさえ混乱中の御坂を爆発させた。


「人が色々抱えて困ってるってのに…変なモンを追加でゴロゴロ押し付けてんじゃないわよアンタらーっ!!」


御坂が、怒りのまま雷撃の槍を連続射出する。

そして――。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:03:22.71 ID:cKwh/gs0<>
突然降り注いだ雷撃の槍に、建宮たちは慌てて逃走を開始する。

彼らが機敏に反応出来たのは、フルチューニングを通じて発電能力を身近に知っていたからだった。

天草式はあっという間に人混みに紛れ込み、自分たちの存在を消してしまう。

だが、当のフルチューニング自身は驚きのあまり動けなくなっていた。


(どうしてオリジナルがここに!?)

(み、見つかるのはマズイです)


気持ちは焦るものの、フルチューニングの体は1歩たりとも逃げられない。

今にも噛み付きそうな表情を浮かべた御坂が、ついに目の前に来た。


「一体、どういう…つもり…で……?」

「あ、あの」

「…どういうこと?」

「えっと、その」

「…答えなさい。アンタも『妹達』なわけ?」


中学生という容姿からは、想像も出来ないほど厳しい詰問。

これが、オリジナルとの最初の会話だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:04:23.73 ID:cKwh/gs0<>
「…『量産型能力者計画』の試作型?」

「はい。実験が失敗し不要になったレイは、研究者によって売却されるところでした」

「全く…人のDNAマップを騙し取ったくせに、ホント研究者は碌な事をしないわね!」

「ですが引き渡し直後に、レイは助けてもらいました」

「さっき一緒に居たアイツらが、助けてくれたって事?」

「はい。今は彼らと一緒にイギリスで生活しています」

「じゃあ、何で今アンタは学園都市にいるのよ?」

「身体管理の為、学園都市の病院による検査を受けに来ました」


真実ではないが、全くの嘘でもない。

そのあまりに滑らかな回答を、御坂は疑いもしなかった。


「ああ、なるほどね」


納得したように頷く御坂が、重要な点に気が付いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:05:15.49 ID:cKwh/gs0<>
「そう言えば私のクローンのはずなのに、どうしてアンタ…レイだっけ?…は私より成長している訳?」

「身体年齢を上げることで、計画の目的であるレベル5へ近づけると判断されたからです」

「…けど、レベル5には届かなかった」

「はい。他にも様々な調整を施されましたが…オリジナルの言う通り、レイは頑張ってもレベル4が精々、と言ったトコロでしょうか」

「……」


何でもない事であるかのように、フルチューニングが淡々と答えた。

それに引き換え御坂の方は、まるで物理的な重さがある言葉を投げつけられたかのように苦しげな顔をする。

一方通行に虐殺される為の『妹達』だけではない。

自分が生み出してしまったクローンが他にも存在するという事実は、御坂に衝撃を与えていた。


「もしかして、レイの事を気にしているのですか?」

「当然でしょ…」


さっきまでとは違い、弱々しい声で御坂が肯定した。

他の『妹達』を相手にする時のような、軽口交じりの雰囲気はどこにもない。

むしろ、あの非道な実験を初めて知ったころに逆戻りしたかのようだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:06:43.54 ID:cKwh/gs0<>
「私が騙されなければ、こんな計画は存在しなかった!」

「だから、私はいくら恨まれても……!」

「いいえ、それは違います」


御坂の言葉を遮り、フルチューニングがきっぱりと断言した。


「…え?」

「あなたのおかげで、レイはこうして存在しています」

「しかも、こんなレイを気遣ってくれる仲間まで出来ました」

「建宮さんたちと出会えた事に、レイはとっても感謝しています」

「……」

「その全ては、あなたがいてくれたからこそなんです」


そう言って、フルチューニングは御坂の手を握りしめた。

その感触が御坂の悪夢を打ち消していく。


「正直な話、レイはあなたと会うつもりはありませんでした」

「……」

「あなたの重荷になりたくは無かったからです」

「ですが…今日こうしてあなたにお礼が言えた事は、勝手ながら嬉しく思っています」


その言葉を受けて、御坂はようやくフルチューニングの手を握り返した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:08:34.04 ID:cKwh/gs0<>
「あ、ははは…まさか私の方が励まされるなんて、思ってなかったわ…」

「私こそ、ありがとう。レイのおかげで、少しは自分を許せそうよ」


ようやく安堵した御坂が、ふと辺りをキョロキョロと見回す。


「っていうか、あの馬鹿どこ行ったのよ!?」

「?」


2人が話をしている間に、上条と五和はすでにその場を後にしていた。


「しょうがないわね…一旦寮に戻ろうかしら」


その時、悔しげに呟いた御坂のはるか後方で。


「お姉さまー!」

「!!」


今一番会ってはいけない後輩が、自分を探す声が聞こえてきた。


「ヤバイ黒子だわ!」

「クロコ?」

「ルームメイトの後輩よ!あんたが見つかったら面倒なことになるわ!…どっかに隠れて!」

「わ、分かりました」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:10:28.71 ID:cKwh/gs0<>
フルチューニングは、急いで映画館の中に逃げ込んだ。

扉の向こうから、賑やかな声が聞こえてくる。


「お姉さまー!こんなところにお出ででしたのねー!」

「だー!ひっつくな!」

「…はて…変ですわね…やけにお姉さまの気配が強いですわ」

「は?」

「まるでお姉さまが2人いらっしゃったかのような…」

「ば、馬鹿なこと言ってないで帰るわよ!」


その後何かをズルズルと引きずるような音がして、ようやく周りが静かになった。


(レイの気配まで感じとるとは、只者ではなさそうですね…)


後輩のクロコという人物には警戒しなければいけない、とフルチューニングが冷や汗を流す。

しばらくここで時間を潰そう、とフルチューニングが映画館の奥へ入ろうとして。


「…は、初めまして」


何故か自分以上に冷や汗を流している、巨大な日本刀を持った女性と目があった。


「神裂火織…と申します」

「えっと、レイと言います…ひょっとしてあなたは…?」


こっそりと映画館の中から天草式の様子を窺っていた元女教皇。

世界に20人といない本物の『聖人』神裂火織と、科学の申し子フルチューニングが初めて言葉を交わした瞬間だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/21(木) 00:11:12.19 ID:cKwh/gs0<>
今日はここまでです

美琴はまたすぐに登場する予定です

次回投下は金曜日の夜のつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/21(木) 00:55:24.81 ID:FTcIl0Io<>オヤスミ乙
ついにカオリン登場か!ウヒャヒャ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/21(木) 10:14:49.89 ID:s.roDMo0<>乙!

( ゚∀゚)o彡゜ねーちん!ねーちん!

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/22(金) 13:39:46.14 ID:rPz5mxU0<>ねーちん映画館からこっそり監視してたのかwwww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/22(金) 19:11:55.45 ID:2GyRT2Mo<>わく・・・てか・・・<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:53:01.36 ID:29G0DI20<>
こんばんはー、レスありがとうございます

すっかり遅くなりましたが投下します


第7学区のとある映画館


神裂と名乗った女性(少女…?)は、極めて特徴的な格好をしていた。

大きな胸を強調したTシャツに、片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ。

おまけに腰のベルトには巨大な刀を携えている。

だがそれ以上にフルチューニングが驚いたのは、その格好にどこか天草式の“匂い”を感じた事だ。


(それに加えてこの気配は…オルソラ教会で感じた…)

「…ひょっとしてあなたは、建宮さんたちが言っていた天草式の女教皇さんですか?」


フルチューニングの躊躇ない質問に、神裂は一瞬たじろぐ。

それでも動揺を完璧に隠すと、やがて寂しげな笑顔で肯定した。


「正確に言えば……“元”女教皇です。今の私は、天草式の人間ではありません」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:53:48.01 ID:29G0DI20<>
「確か…今の所属は『ねせさりうす』だって五和さんから聞きました」

「ええ、その通りですよ。だから私は…」

「その“天草式と関係ない”神裂さんは、一体どうして学園都市にいるのですか?」


基本的に無表情のフルチューニングが、今は憤りの色を浮かべている。

その思わぬ鋭い切り返しに、今度こそ神裂は動揺を露わにした。


「…それは…」

「建宮さんから、あなたが天草式を離れた理由を聞きました」

「なのに何故、今さら!」


フルチューニングは、鮮明に覚えている。

かつてパラレルスウィーツパークで建宮が語った、天草式の苦い思い出を。


――自分たちの未熟さ、弱さ。それこそが女教皇を苦しめた、と自分たちを責めた。

――故に彼らは決意した。

――誰も傷つかず、誰も悲しまず、誰かの笑顔の為に戦い、その幸せを守るために迷わず全員が立ちあがれる居場所。

――自分たちの女教皇が戻るに相応しい、そんな居場所を必ず取り戻して見せると。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:54:44.51 ID:29G0DI20<>
「建宮は教えたのですか…」

「かつて私の力が足りなかったが故に、天草式の仲間を傷つけ、失わせてしまった事を」


その悔いるような言い方が、フルチューニングの心をより一層苛立たせた。


「……レイは、天草式十字凄教の一員です」

「?…ええ、聞いています」

「では、そのレイが今あなたに“ムカついてる”事は気づいていますか?」

「もちろん、それは当然でしょう」

「……」

「私の所為で、かつて天草式は傷ついたのです。あなたが怒るのも――」

「分かってませんね」


神裂の言葉を、フルチューニングが遮った。


「過去の天草式について、レイが何か言えるはずもありません」

「レイがムカついているのはもっとシンプルな理由です」

「?」

「建宮さんがこの事を話してくれた時、とても悔しそうな表情をしていました」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:56:00.40 ID:29G0DI20<>
「自分たちが弱いから、あなたを苦しめたと」

「自分たちが未熟だから、あなたの居場所を奪ったと」

「……そ、んな」

「それでも…いずれあなたを再び迎え入れる為に、みんなは戦っています」

「あなたに相応しい場所である為に!…レイを救い、オルソラを助け、アニェーゼを守りました!」

「そのみんなを、あなたは侮辱したんです!」


――私の力が足りなかった

――私の所為で、かつて天草式は傷ついた


この元女教皇は、一体何様なのだろう。

天草式を離れたのは、全て自分が彼らを守れなかったから。


(つまり簡単に言えば、天草式のみんなは弱くて危ないから付いてくるなという意味では無いですか!)

(一生懸命にあなたを迎えようとしているみんなの努力を、ちっとも期待してないという事ですか!)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:56:54.07 ID:29G0DI20<>
フルチューニングの怒声に、神裂は困惑して宥めようとした。


「私は、決して彼らを侮辱など…」

「もう結構です!」

「無関係のあなたがここにいるのは、天草式のみんなを信頼していないからですね」


神裂は答えなかった。


「私はもう…これ以上仲間を失いたくはありません」

「…今度の敵であるアックアは、ローマ正教が誇る最強の魔術師で、しかも聖人です」


だが、それこそが何よりもハッキリとした答えになる。


「そうですか」


たった一言だけそう言い残すと、フルチューニングは映画館を飛び出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:57:56.48 ID:29G0DI20<>
通りを歩きながら、フルチューニングは自己嫌悪に陥っていた。


(…あの人が女教皇…)

(圧倒的な力を持つ聖人…確かに凄まじい力を感じました)

(そんなすごい人が、みんなを助けに来てくれたというのに…)

(あんな言い方で責め立てるなんて…レイこそ一体何様なのでしょうね…?)


建宮たちの努力を欠片も当てにしていない態度に、フルチューニングは激怒してしまった。

だが、そもそも役立たずの自分が彼女を責めるのはお門違いである。


(ですが、ここで女教皇が全てを解決しまったら、みんなは…)

(もう二度と、建宮さんのあんな顔は見たくないのに)


ならば、取るべき道は決まっている。

フルチューニングは、オイルパステルをしっかりと握りしめて駆け出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/23(土) 00:58:53.61 ID:29G0DI20<>
今日はこの辺りでおしまいです

最近進み方が遅くて申し訳ないです

次の投下は日曜日の夜の予定です

では、おやすみなさい

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/23(土) 02:06:20.56 ID:0ov8egAO<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/23(土) 03:51:13.60 ID:kMaQsKco<>楽しみだ(≡゚∀゚≡)イイニャン乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/23(土) 11:27:01.96 ID:YdmmyT20<>申し訳ないが馬鹿な俺に教えてくれ
どうしてフルチューニングは神裂にキレたんだ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/23(土) 11:42:17.50 ID:HzReqUYo<>16巻をよめば分かる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/23(土) 12:20:49.43 ID:T.qRDxso<>しっかり読み返すんだ。
答えは全部文章内にあるぞ。
持つ者から見れば盲点、持たざる者から見れば傲慢ってやつだ。<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:50:44.16 ID:ryhZaxM0<>
こんばんはー、遅くなって申し訳ないです

では、投下



第22学区のとある鉄橋


駆け出したは良いものの、すぐに体力が無くなったフルチューニングは、結局タクシーで移動した。


「たった5分も走れないとは…本当にポンコツじゃないですか」


彼女は自嘲気味にそう言うと、手にしたオイルパステルを一閃する。

傍目には気づかれないが、この付近には巨大な魔法陣が形成されつつあった。

目的は1つ。

あらかじめゴーレムを造りやすくするためだ。

師であるシェリーと違い、フルチューニングは未だ術式に不慣れである。

そんな彼女が強力なゴーレムを扱うには、こうした事前準備が必要不可欠だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:51:38.27 ID:ryhZaxM0<>
(タクシーから連絡した時、五和さんは言っていました)

(この学区のスパリゾートに、上条当麻と一緒に来る予定だと)

(彼が一緒ならば、もしかするとここがアックアとの戦場になるかもしれない)

(……“ここ”ならばレイも戦える)


どこかぎこちないながらも、天草式から教わった“目立たない仕草”で術式を構成していくフルチューニング。

だが、そんな彼女に背後から声を掛ける者がいた。


「あなたは、一体何をしようと言うのですか…?」

「!」


タクシーの速度に易々と追いついていた『聖人』神裂火織が、気遣うようにそこに立っている。


「…どうしてここに?」

「あなたの様子が気になったので、少し後を付けさせてもらいました」

「…レイはタクシーで移動したのですが…」

「? あの程度のスピードなら、追いつくのは造作もありませんよ」

「ちくしょう」


あっさりと力の差を思い知らされて、フルチューニングは軽く落ち込んだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:52:45.14 ID:ryhZaxM0<>
「それで、あなたはここで一体何をしているのですか?」

「念の為の準備です。…ここがアックアと戦う場所になるかもしれないので」

「ついでに言うならここは地下市街。レイの使える術式が最も効果的な区画なんです」


その言葉を聞いた神裂が、注意深く辺りを観察し…一拍置いて驚いた。


「準備…これは、カバラの魔法陣?…まさか、ゴーレム術式!?」


用意していた術式を正確に当てられた事に、今度はフルチューニングが驚いた。


「この大きさの陣を、良く読み解けますね」

「たまたまですよ。私の知り合いに、この術式を得意とする魔術師がいるので」

「そうか、師匠も『ねせさりうす』でした」

「『必要悪の教会』? まさか、この術式を教えたのはシェリーですか?」

「はい。シェリーさんは私の師匠です」


とんでもないことを宣言された神裂は、動揺して口をパクパクと動かしている。

それで彼女は謹慎中にも関わらず女王艦隊へ乗り込んでいたのですか!とか、

土御門はどうしてこういう大事な事を報告しないのですか!とか、

建宮たちはこの事を知っているのですか!?とか。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:53:41.64 ID:ryhZaxM0<>
が、やがて大事なのはそんなことではないと気が付くと、再びフルチューニングに質問した。


「シェリーについては今は置いておきましょう。…それよりも、何故あなたが戦う準備を?」

「……」

「土御門からの報告によれば、あなたは半年ほどの入院が必要なはずです」

「(土御門?)……それは…」

「そのあなたが、アックアと戦う気でいるのですか?」

「幾らなんでも、建宮がそんな事を認めるとは思えませんが」


確かに神裂の言う通り、フルチューニングは作戦への参加を認められていない。


「確かに、レイは戦うなと言われました」

「では」

「ですが…それが何だというのでしょう」


平坦な口調なのに、しかし反論を許さないような強さがその言葉には含まれていた。

唖然とする神裂に対し、フルチューニングは自分の頭をトントンと指で叩いた。


「すでにレイの体は、いつ停止してもおかしくありません」

「何しろこの体は、実験に失敗した試作品ですから」


絶句する神裂を無視して、フルチューニングは自分の思いを打ち明ける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:55:26.26 ID:ryhZaxM0<>
「名前すら存在しない検体番号00000号を、レイと名付けてくれたのは天草式のみんなです」

「本来廃棄されるはずだったレイがまだ動いているのは、天草式のみんなのおかげです」

「何の目的も無かったレイに、生きる理由をくれたのは天草式のみんなです」

「その天草式のみんなが強大な敵と戦うというのに、何故レイ1人が戦わないでいられると思うのですか!?」

「このまま安静にしていれば、レイは延命が出来るかもしれませんが…」

「それはもう、天草式のレイではありません」

「無様に呼吸するだけのガラクタです」


そこまで言って、ようやくフルチューニングは目の前にいる元女教皇の顔を見た。


(……?)


意外な事に、神裂は優しげな表情を浮かべている。

それだけではない。そっとフルチューニングに近づくと、彼女の頭を撫で始めた。


「それが、あなたの生き方だというのなら…私に止める権利はありません」

「ただ…1つだけ言わせてください」

「え?」

「あなたはきっと、自分の命は大して価値が無いと思っているのでしょう」

「それは間違いです」

「ですが、そもそもレイはクローンで…」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:56:56.67 ID:ryhZaxM0<>
「そんな事を言ったら、きっと彼らは悲しみますよ」

「少なくとも私の知る天草式十字凄教の仲間たちは、あなたをクローンではなく1人の人間として大切に思っているはずです」


神裂の優しい一言が、フルチューニングの過去の記憶を呼び起こした。

そう。確かあの時も、同じ事を言ったはずだ。

自分は存在意義の無いクローンだ、居場所など無いと。


――「助けたいのは、クローンじゃなくてここにいるお前さんという1人の人間なのよな」


そう言ってくれたのは誰か。

売却される寸前の自分を救いだし、オルソラ教会や女王艦隊で命懸けで助けてくれたのは誰だったか。


今までフルチューニングは、彼を助けるため自分の命を亡くすことを当然のように受け入れていた。

それなのに。

今は彼の顔を思い出すと、急に怖くなった。

これからも一緒にいたい。

――死にたくない。


(あ、れ?)

(――どうして?)


思いがそこに至った瞬間、フルチューニングから涙が流れた。

自分に起きた現象を把握できないまま。

涙は止まらずに溢れだす。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:58:28.16 ID:ryhZaxM0<>
「ヒック……、うあああああぁぁぁぁぁ!」

「良かった。あなたはこんなにも、素直に泣けるじゃないですか」


どこかホッとしたようにそう言うと、神裂はフルチューニングを強く抱きしめた。

その腕の中で、フルチューニングはしゃくり上げながら訴える。


「…みんなを…建宮さんを、失いたくないんです!」

「はい」

「なのに、レイは…突然恐ろしくなりました」

「はい」

「明日をも知らぬこの身で、それでも諦めたくない…死にたくない…!」

「当然です」

「い、いつからレイは…こんな我儘になったのでしょうか」

「“人間”ならば、我儘なのは仕方ない事ですよ」

「レイは、これからも天草式のみんなと一緒にいたいです!」


ここにきてようやく、フルチューニングは他の『妹達』と同じ思いを手に入れた。

すなわち。


「こんな風に思った以上、レイはもはや簡単には死ねなくなりました」

「そうです。アックアがどれだけ強かろうと、誰1人として死ぬのはまっぴらです!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 00:59:34.97 ID:ryhZaxM0<>
(認めましょう、レイはとっても我儘になりました)

(戦わずにいるのはイヤ、戦って負けるのもイヤです)

(ならば、戦ってその上で勝つしかありません)


今までの明日を捨てた覚悟ではない。

明日を望むからこその覚悟。

それを見てとった神裂は、フルチューニングの涙をそっと拭ってこう尋ねた。


「もう、大丈夫ですね?」

「はい」

「では、私は行くことにします。…その所為でしばらくは動けそうにありませんが…」


『聖人』はその力故に、自由な行動をとる事は出来ない。否、許されていない。

これから神裂は、上からの指示に従って幾つもの任務をこなさなければならなかった。

それが、彼女が今学園都市への滞在を許されている理由なのだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:00:16.11 ID:ryhZaxM0<>
「…女教皇、あなたの仲間を信じてください」

「そうですね。ちなみに…“元”女教皇です」


その会話を最後に、神裂はその場を後にした。


(…あの様子では、信用はしても信頼はしていないってところでしょうか)

(実際に力が遠く及ばない以上、仕方ないのかもしれませんが…)

(このままでは、いつまでも建宮さんたちとすれ違ったままです)

(女教皇がレイに大事な事を気づかせてくれたように、あの方にもそんな人がいれば良いのですが)


きっとそれは、無力な自分では無理な事だから。

フルチューニングはそう誰かに祈るしかなかった。


「…今は自分の事に集中しましょう」


それから1時間ほどかけて“場”を整えたフルチューニングは、天草式のみんなの元へ向かった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:01:09.16 ID:ryhZaxM0<>
第22学区のとあるカラオケボックス近く


フルチューニングが建宮を見つけた時、たまたま彼は1人だった。

正確には周りにちらほら仲間がいるが、並んで歩く人はいなかった。


「…レイ?」

「お願いがあります、建宮さん」


あまりに唐突な出来事に、建宮は目を丸くする。

ただそれも、フルチューニングの言葉を聞くまでだった。


「レイを上条当麻の護衛に参加させてください」

「…何だと…!」


厳しい顔で睨む建宮に、フルチューニングは怯まずに続けてこう述べた。


「レイはダメと言われても絶対に参加します」

「レイ!」

「正直に言うと、レイは建宮さんたちの為に死んでも構いませんでした」

「…それは何となく気が付いていたのよな」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:02:08.68 ID:ryhZaxM0<>
「そうなんですか?」

「だからお前さんを、“絶対”に戦わせる訳にはいかねえって言ったのよ」

「少しばかり特殊な境遇で生まれたお前さんは、あまりにも自分を大切にし無さ過ぎる」

「…はい」

「それぐらい仲間を大切に思っているのは悪い事じゃない」

「だがな。そんな一方的な思いで救われた方は、堪ったもんじゃねえのよ」

「救った相手の重荷になるような真似を、我らは決して良しとしないのよな」

「…はいっ」


建宮にとって、予想できない返事。

良く見ると、フルチューニングは潤んだ目でしっかりとこちらを見つめていた。

その泣き顔に建宮が反応する前に。


「レイはある人のおかげで気づきました」

「?」

「レイはとっても我儘です」

「このまま何もしないなんて、レイは絶対我慢できません」

「ですが、戦って死ぬのも絶対に嫌です」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:02:55.93 ID:ryhZaxM0<>
「だからみんなでアックアに勝ちます。こんな下らない戦いで、誰1人死なせません」

「もう一度お願いします。その為に、レイを上条当麻の護衛に参加させてください」


そう一気に言うと、フルチューニングは頭を下げた。

そして。


「――くっ」


建宮から、笑いを含んだ声が漏れた。

フルチューニングがちらりと目を向けると、建宮が目を覆って笑っている。


「やれやれ、全く困ったものよなあ!」

「…建宮さん?」

「そんなふうに言われちゃあ、嫌とは言えないだろうよ?」

「じゃあ…!」

「一緒に戦うぞレイ」

「はい!」


ひときわ嬉しそうな笑顔を浮かべて、フルチューニングが喜んだ。

その顔を見て、建宮の呼吸が一瞬止まった事に彼女は気づかない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:07:21.51 ID:ryhZaxM0<>
「では色々作業をして汚れたので、五和さんのいる銭湯に行ってきます」

「おう。…自分が万全ではない事を忘れるなよ?」

「分かりました!」


スキップしそうな勢いで、フルチューニングは近くのビル『スパリゾート安泰泉』へ入って行く。

それを姿が消えるまで見送った建宮は、やがてヘナヘナと地面に座り込んだ。


「…あれは反則だろうよ」


僅かに赤い顔で、それだけ言うのが精一杯。


(あの泣き顔もヤバかったが、最後の笑顔は強烈過ぎる)

(大体、あんなに懐かれたらそりゃあ悪い気するはずがねえのよな)

(…どうするんだ俺?)

(とりあえずは、まあ…)

(この戦いを乗り切らない事には始まらねえ)

(気合を入れろ建宮斎字)

(本来戦えるはずのないレイを、参加させると決めた以上…全ての責任は俺にある)

(惚れた女の1人ぐらい、守って見せなければ男が廃るってもんよ!)


内心カッコイイ決意をしている教皇代理のすぐそばで。

対馬たち女性陣が「オちた!?」「わお!」「でもこれって年齢的に良いんでしょうか…?」と盛り上がっていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/25(月) 01:08:31.68 ID:ryhZaxM0<>
今日はここで終了となります

えー、これからは糖分がそれなりに増えることが予想されます

次は明日の夜に投下しようと思っています

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 01:15:11.64 ID:.wKflgAO<>糖分?蜂蜜くらいまでなら構わん!

乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 01:16:22.67 ID:92d2Toso<>外見年齢16歳か
大丈夫、法的には問題ないのよな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 01:23:05.07 ID:vqqz2KEo<>レイの死亡フラグ回避が他でもないねーちんによってもたらされたってのが心憎い
泣きそうになったよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/25(月) 01:25:20.86 ID:q6r19sAO<>建宮いくつ何だろうな?アニメだと鳥海さんだから若く感じる。同じTOVのレイブンの人の方がキャラ的にも年齢的にも合ってると思う。鳥海さんも好きだけど<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 01:28:05.16 ID:C8v2xoAO<>レイブンと同じ年齢だと思うな
あれ…「レイブン」「レイヴン」どっちだ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 03:01:10.32 ID:jdAZdVAo<>>>679
禿げ上がって最早パイパン状態な程に同意
この先楽しみスグル乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/25(月) 11:21:38.12 ID:RtuHs8Q0<>乙乙
まさかねーちんをこう使ってくるとは…俺も涙腺がヤバイ
天草式のみんなに幸あれ!

ただし建宮はもげろ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/25(月) 17:10:00.92 ID:ehSo.uQ0<>糖分が増えると言う事は………

コーヒーも苦瓜も生で平気と言うことだな!
とにかくwktk
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/26(火) 00:03:53.09 ID:Aq4fN6DO<>これが中学生の文章力とか日本の未来は明るいな<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:03:41.74 ID:N7RDqEI0<>
こんばんはー、いつもレスありがとうございます

最近投下時刻が遅くて申し訳ないです

では、投下


第22学区の『スパリゾート安泰泉』


様々な種類のお風呂がある中で、フルチューニングは学園都市特製の入浴剤を使ったお風呂を選択した。

選んだ理由は『ただいま“試作品”のアンケート中なう』の看板があったからである。

フルチューニングが髪と体を洗い、どの浴槽に入ろうかと辺りを見回した時。

見覚えのある人影を見つけたので、彼女はその人物へ近付いた。


「…奇遇ですね、オリジナル」

「へ!?……あ、レイ」


微妙に疲れ気味の顔をした、御坂美琴がそこにいた。

ちなみにお疲れの理由は、溺れたと勘違いされてさっきまで女医の診察を受けていた為である。

だがフルチューニングの格好を見た御坂は、疲れも忘れて絶叫した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:04:37.71 ID:N7RDqEI0<>
「ちょ、アンタ!少しは隠しなさいよ!歩く時ぐらいタオルを使えー!」

「?」


フルチューニングが、文字通り何1つ隠すことなく堂々と立っていたからだ。


「ア、ア、アンタの体は私の体でもあるんだから、気を使いなさいよね!?」

「言ってる意味がよく分かりませんが、結局レイはどうしたら良いのでしょうか?」

「とりあえず早く湯船に入れ!体を隠しなさい!!」


このままだとお風呂が電気風呂になりそうな雰囲気だったので、とりあえずフルチューニングはその指示に従う。


「少しぬるい気がします…」

「ええ?これぐらいがちょうど良いでしょーが!」

「…何というお子様体質」

「なにおう!?」


喧嘩売ってるのかコラァ!と御坂が怒鳴ろうとするが、そこでようやく周りの冷たい目線に気が付いた。

慌てて自分の口を塞ぐと、彼女は小声でブツブツと文句を言い始める。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:05:25.54 ID:N7RDqEI0<>
「っていうか、何でアンタがここにいるのよ?」

「当然、お風呂に入るためですが」

「…もういいわ」


これ以上悩み事を増やしたくないし、と御坂は追及を諦めた。

上条当麻の記憶喪失や、突如現れた隠れ巨乳の女の子のことなどで、すでに頭は一杯一杯である。

この上クローンの事で悩むのは流石にうんざりだった。


(隠れ巨乳…クローン……クローン?)


ふと大事な事に気が付いた御坂は、さきほどの光景を思い描く。


(レイは私の身体年齢を上げたクローン)

(…つまり私の数年後の状態と一緒…)

(お、思ったよりも成長していない…!)

(い、いやいや…これから…きっと大器晩成型なのよ!)


乙女心に傷が付いたものの、必死に自分で慰める御坂。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:06:22.43 ID:N7RDqEI0<>
「それに、あ、あいつがおっぱい好きとは限らないじゃない」

「あいつとは誰ですか?」

「ひにゃあ!?」


心の内を声に出していた事に気づいていなかった御坂は、フルチューニングの質問に劇的な反応を示した。


「大丈夫ですかオリジナル?」

「あはははは!当たり前でしょ!全然問題ないわ!」

「…そうでしょうか」

「そうよ!」

「分かりました。では、1つレイからアドバイスを」

「なによ?」

「おっぱいが嫌いな男の人はいないそうです」


悪意のない一言に、今度こそ御坂は撃沈した。


「な、な、何を言ってるのか意味が分からないんですけど!?」

「…これはとある筋からの確かな情報です」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:07:50.24 ID:N7RDqEI0<>
ちなみに。

情報源は天草式の男性陣とカエル顔の医者である。


「ただしおっぱいの大きさの好みは、人によって様々だ、とも聞きました」

「アンタは一体何を教わってんのよ!」

「世の中には貧乳好きも存在しているのです」

「だからレイは。…オリジナルのDNAマジで役立たずだなオイ、とか決して思っていません」

「ぐはぁ」

「可能性はごくわずかですが、これからの成長に期待だって…」

「もうやめて!すごく悲しくなるから!」


その後の2人は、二度とこの話題に触れようとしなかった。


(全然関係ないけど…あ、あいつはどうなのかしら…?)

(そういえば、建宮さんはどうなのでしょう…?)


決して答えの出ない問いを残して、同じDNA(運命)を持つ者同士の邂逅は終わりを告げた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:09:25.86 ID:N7RDqEI0<>
第22学区のとある通り


一足先に風呂を出ている上条と五和を、建宮たちは気づかれぬように護衛している。

そんな中。

作戦を指揮している建宮は、異様な雰囲気を感じ取っていた。

しかもそれは外部からもたらされるモノではない。

――今まで生死を共にしてきた天草式の仲間たち。

他ならぬ彼らからこそ、異様な重圧感を感じていたのだ。


(…何だ? この妙なプレッシャーは…?)


教皇代理(今一番偉い人)の建宮は知らなかった。

例のシーンを女性陣に一部始終目撃されており、すでに全天草式構成員に情報が伝達されている事を。

建宮は、五和の事から分かるように基本的には“おちょくる側”の人間だ。

今まで浮いた噂――つまりは格好のネタ――も無かったので、自分が標的になることは無かった。

だが今は。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:10:22.90 ID:N7RDqEI0<>
(ついに教皇代理をからかうチャンス…もとい応援する時が!)と野母崎。

(レイを嫁がせても良いかは、しかとこの目で判断させてもらうぞ!)と諫早。

(まさか教皇代理に春が!ちっとも予想していなかったのに!)と牛深。

(さあ、これからが男を見せる時!あの子を泣かせたら殺すわよ!)と対馬。

(嘘だ…何で教皇代理が…レイなんかのどこが良いんだよ…!)と香焼。


今回初めて美味しいネタを提供した建宮は、すでに全員からマークされている。


「教皇代理」

「ん、どうしたのよ?」


全員が注目している中、野母崎が声をかけた。


「レイちゃんって、法律上は何歳だと思いますか?」

「は?」

「いやホラ、考えようによってはあの子0歳ですよ」

「……?」

「やっぱ手ぇ出したら犯罪だと思いませんか?」

「ブフォ!?」


予想外の口撃に、建宮は飲んでいたシェイクを噴き出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:11:39.28 ID:N7RDqEI0<>
「野母崎!一体お前さんは何を言っている!?」

「…えー。まさか結構マジでその気…?」

「馬鹿な事を言うんじゃないってのよ!」

「けど、噂によると既にキスまで…」

「あれは違う!…じゃなくて誰がそんな事を!?」

「レイちゃんが対馬にメール相談したそうですが?」

「ノー!!!」


結局相談したのかよ!と建宮が嘆く。

しかも悲劇はそれだけでは終わらなかった。


「それにカラオケボックス近くで、教皇代理が『…あれは反則だろうよ』って顔を赤くして呟いていたって」

「だから誰がそんな情報を!?」

「対馬が目撃しました」

「またか!」

「『人を散々からかった罰。甘んじて受け入れなさいよ』という伝言を預かっています」

「あいつ昼間の美脚説をまだ根に持っているのよな!?」

「あ、後『レイを泣かせたら本気で後悔させるから』とも言ってました」


次々に悪化していく状況に、ついに建宮は頭を抱えた。


(この妙な感覚はそれか!)

(すでに全員に情報が行き渡っているとみて間違いないのよな)

(状況はほとんど詰んでいる……マジでどうするんだ俺?)


今度ばかりは気合が入らない教皇代理であった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/26(火) 01:12:31.26 ID:N7RDqEI0<>
今日はこれにておしまいです

そろそろシリアス一辺倒になります

次の投下は水曜日の夜の予定です

ではおやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/26(火) 01:26:35.98 ID:p3ZKxJUo<>乙オヤスーノシ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/26(火) 10:04:39.13 ID:uBdYn9go<>こwwwwwwwwwwwwwwうwwwwwwwwwwやwwwwwwwwwwwwwwwwwwきwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ここの香焼はアッーーーーー!だったのか……ゴクリ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/26(火) 10:18:09.13 ID:7h3b2TU0<>糖分増量なのにシリアスとは楽しみだ

>>696
お前は何を言ってるんだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/27(水) 11:38:03.20 ID:oJXRe460<>>レイなんかのどこが良いんだよ
これは香焼が素直になれないからこう思ってるだけじゃないの?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:03:50.79 ID:RZr/eL.0<>
こんばんはー、毎度遅くなってスイマセン…

では、投下


第22学区のとある鉄橋


お風呂上がりのフルチューニングが、上条と五和を探し始めて10分ほど。

2人を発見したその時、ちょうど上条が五和に質問をしているのが聞こえてくる。


「そういや、他の天草式の連中は?」

「ええとですね」

「…とりあえずここに1人」


フルチューニングが背後から解答すると、2人は面白いように飛び上がった。


「おわあ!? …ってレイじゃねえか!」

「ど、どうしてレイちゃんがここに…?」


顔色を変えて心配する2人に、一時帰宅の許可を受けた事を説明する。

ちなみに五和だけは“教皇代理ニ春到来ス”の情報を受け取っていない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:05:09.43 ID:RZr/eL.0<>
「…だから建宮さんの許可も得ていますし、作戦に合流する事にしました」

「そっか……でも絶対にムリしちゃダメですよ!」


五和は心配しながらも、フルチューニングを追い返すようなことはしなかった。


「大丈夫です。全員揃って帰る為にも、こんなところで無茶したりしません」


彼女の表情が、今までと異なっているのが見て取れたから。

今まで感じていた、殉職者のような“諦め”の雰囲気が消えている。


「…そうですよね。レイちゃん、一緒に頑張りましょう!」

「おー!」


護衛対象を置き去りにして盛り上がる2人に、上条が突っ込みを入れようとしたその瞬間。


「――“頑張る”か。……のんきなものである」

「――が、宣告は与えた」


前方に広がる闇から、フルチューニングが今まで一度も感じた事のない圧倒的な力を感じ取った。

あの最強と謳われた『一方通行』や、天草式の女教皇にして聖人の『神裂火織』よりも、なお強く。


「――率直に言おう。もう少しまともな選択はなかったのかね」


そう嗤う声と同時に、後方のアックアが姿を見せる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:06:14.35 ID:RZr/eL.0<>
(これが、『後方のアックア』…!)

(戦う前から、戦意を根こそぎ奪われそうです)


そして戦慄するフルチューニングを無視して、標的である上条当麻に端的に告げた。


「――その右腕を差し出せ。そいつをここで切断するなら、命だけは助けてやる」

「テメェ…!」


睨みあう両者の隣で、五和が小さな声で確認する。


「天草式の本隊は……」

「無駄である」


だが合図を送っても、援護が来る様子は無い。

最悪の可能性を思い浮かべたフルチューニングが、アックアに噛みついた。


「レイの仲間に、何をしたのですか!?」

「殺してはいない」

「…死ななきゃいいって訳じゃないんですよ。ナメてんですか?」


フルチューニングの心が怒りで染まり――。

直後、戦闘が始まった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:08:11.15 ID:RZr/eL.0<>
相手は聖人。当然、3人は最大限の警戒をしていたはずだった。

だが。

人の判断力を遥かに超える速度で移動したアックアに、付いていくことなど不可能である。


「ッ!?」


“姿が消えた”と思った時には、すでに五和は攻撃を受けた後で。

まるで冗談のように、彼女の姿が車道まで吹っ飛んでいった。


「この…!」

「遅い」


ましてや、走ることすら不可能なフルチューニングが反応できるはずも無く。

何一つ攻撃しないまま、肘打ちを喰らって倒れ伏した。


「五和!? レイ!?」


あまりの光景に上条が叫ぶ。

だが、それを遮ってアックアが冷たく警告した。


「人の心配をしている場合であるか」


ここにきて、ようやくアックアは自身の武器を取り出した。

全長5メートルの金属棍棒(メイス)。その用途は撲殺。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:09:40.46 ID:RZr/eL.0<>
「行くぞ。わが標的」


上条が逃げようとするよりも早く、メイスが振り下ろされる。

だが、その攻撃が当たる事は無かった。

視界の外から飛んできた五和のバッグが、ぶつかった彼の体を予想外の方向へ飛ばし。

馬鹿げた質量のメイスは、突如浮き上がったアスファルトが激突することでさらに方向を狂わされた。

それでも鉄橋に叩きつけられたメイスの威力は凄まじく、橋のあちこちで鉄骨を留めるボルトが破断する音が響く。

隕石のような一撃の余波に、上条は何メートルも転がった。


(これは…?)


今起きた現象に、アックアが怪訝な顔をする。

だが彼は、分析を中断せざるを得なかった。

五和がゆっくりと起き上がり、海軍用船上槍の切っ先を向けていたからである。


(まだ立ち上がるのであるか)


尤も、彼女を脅威に感じている訳ではない。

すでに深刻なダメージを受けていた五和は、満足に武器を構えることすら出来ていないのだ。


「一組織の全体が束になっても敵わなかった相手に、その一員が挑んで勝てるとでも思っているのであるか」

「……私にも……意地があります」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:10:58.74 ID:RZr/eL.0<>
その答えに込められた、強い感情と決意をアックアはしっかりと感じていた。

それでも。


「そうか」


ここが戦場である以上、アックアが手を止める理由は無い。

再び一瞬で距離を詰めると、巨大なメイスの一撃を五和に叩きこもうとする。


――ズリュ…


「!」


だがアックアは、残り一歩の地点を“踏んだ瞬間”に違和感に気が付いた。


(なんだこれは……“地面が腐っている?”)


彼は、そのまま体重を掛けるのは危険だと判断して慌てて下がる。

その異様な地面を見て、攻撃を受ける直前だった五和も驚愕の表情を浮かべた。


(様子からすると、この少女による術式ではない?)

(では、誰が…)


アックアがこの場で打ち倒した護衛は2人。

槍を構える五和と、今も倒れているフルチューニングだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:12:09.61 ID:RZr/eL.0<>
(待て)

(あの倒れている少女が“手に持っているモノ”は何だ?)


これ以上はごまかせないと気づいたのか、気絶したふりをしていたフルチューニングが悔しそうに声を上げた。


「まさか…一度は踏んだにも関わらず、あの罠を回避できるなんて…反則です」

「やはり、オイルパステルか」

「今のレイには、これ以外出来ませんから」


その言葉通り、フルチューニングの今の体では、発電能力はおろか天草式の戦闘体術すら扱えない。


(複数のゴーレム術式の同時発動による崩壊術は失敗)

(それならば、もうこれしかありません)


正真正銘、唯一の戦闘手段。


「だから、これで片を付けます」

「なに…!?」


起き上がったフルチューニングが、その手をパン!と打ち鳴らす。

崩壊した鉄橋が轟音と共に集結し、瞬く間に巨大なゴーレムへと変貌した。


「今度はこちらが、叩き潰す番です!」

「天草式の人間に、ゴーレム使いがいたとは……面白い、相手になるのである!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:13:46.66 ID:RZr/eL.0<>
フルチューニングの指示を受けた巨大ゴーレムが、聖人アックアに襲いかかる。

完全に予想外の状況に、上条が信じられねえ…と漏らした。


「アレは、シェリーが使ってたゴーレムじゃねえか!」

「…残念ですが、師匠のゴーレムとはモノが違います」


悔しそうに言うフルチューニングだが、それに五和は気づかなかった。


「そっか、建宮さんが女王艦隊で見た術式って…レイちゃん…いつの間にあんな魔術を?」

「今は説明している暇がありません。早く、今のうちに逃げないと!」


その言葉は真実だった。

アックアの前では虚勢を張っていたが、あのゴーレムに勝ち目はない。

そもそもゴーレム術式を学んで日が浅いフルチューニングが、シェリーと同じように出来るはずがないのだ。

現在ゴーレムを行使出来ているのは、

ここが大地の力を利用しやすい地下市街だという事

あらかじめ、付近に魔法陣を構築していた事

記憶には無くとも、歴史上最大の魔術師が同じ魔法陣を描いた時の事を体が覚えていた事

そういった様々な“幸運”による、まぐれでしかない。

しかもシェリーのエリスと異なり、四大天使を模していない為パワー不足だ。

辛うじて修復・再生能力は備えているものの、これでアックアを倒せるとは思えなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:16:39.58 ID:RZr/eL.0<>
(…本当にここで戦う事になるとはラッキーです)

(戦力が無い今は、何としても逃げなければ…!)


ゴーレムがアックアを抑え込んでいるうちに、3人で逃走する。

それがフルチューニングが今出来る、最善の策だった。

だが――。


「こんなものか」

「そ、んな」


抑え込んでいたはずのゴーレムが、気づけば完全に崩壊していた。

そう。アックアは、逃走すら許さなかった。

再生していくゴーレムの肉体の90%を、2秒以内に吹き飛ばす。

それがゴーレムの無力化法である。

つまり。およそ常人には不可能な方法で、フルチューニングの術式は叩きのめされたのだ。


(……これほどまでに、差が…!)

(もう、レイには他に手がありません)


慄く3人に、アックアは一言告げた。


「右腕だ。差し出せば、命の方は見逃すのである」

「「嫌です!」」


五和とフルチューニングが、声を張り上げる。


「そうか。それならば、もう少し現実を知ってもらうのである」


そして――無慈悲な一撃が、フルチューニングに振り下ろされた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/28(木) 01:17:24.60 ID:RZr/eL.0<>
今日はここまでです

次は金曜の夜に投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/28(木) 13:19:42.54 ID:QcfMW1I0<>乙なのよな
分かっていたとはいえ、ゴーレムじゃ勝てなかったか
もちろんゴーレム作れるだけでも凄いんだろうけど
取りあえず次も楽しみにしてます
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/29(金) 09:12:02.14 ID:tia8ae60<>アックアVSゴーレムか
シェリーのなら勝てたのかな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/29(金) 13:59:02.31 ID:AxPWIYko<>>>710
無理だろう<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/29(金) 23:52:01.36 ID:QmmhmFc0<>
ごめんなさい今日は投下できません

多分明日か日曜日の夜になります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/30(土) 00:43:38.98 ID:Fj9c46AO<>待ってるよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/30(土) 19:59:11.10 ID:30RsiVc0<>亀だが俺も香焼がアッーーー!だと思った<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/10/30(土) 23:38:06.61 ID:Fj9c46AO<>アニメで香焼でてきたな〜 まあ次の登場は本当にアックア戦かな<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:31:14.44 ID:OtxnUys0<>
こんばんはー、昨日は投下できずすいませんでした

では、投下


第22学区のとある救命救急病院


夜の暗さに包まれた病院の廊下で、フルチューニングは周りの仲間と一緒に意気消沈していた。


(結局、アックアには相手にもされませんでした)

(…フフ、考えてみればレイは負けてばっかりですね)


そう自分を嘲るフルチューニングに、目立った外傷はない。

彼女が受けた攻撃は、肘打ちとメイスの振り下ろしの2回。

どちらも躊躇ない一撃だったが、十二分に手加減をされていた。

しかも一撃で気絶した為に、それ以上の打撃を受けずに済んだのだ。

だがそれは、代わりに他の人間がその分の攻撃を受けたという意味でもある。

――廊下の奥で蹲っている五和と、集中治療室で眠っている上条当麻。

守りたかったはずの2人に守られて、フルチューニングは今も無事だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:32:05.82 ID:OtxnUys0<>
(しかも五和さんの話によれば、一日以内に再びアックアの襲撃がある)

(ですが、今のレイに何が出来るのでしょう…)


唯一の武器であるゴーレムは、簡単に粉砕された。

今からわずか一日で、シェリーのように強い術式を扱えるようにはならない。

自身の発電能力が急成長し、オリジナルのように超電磁砲を撃てるようにもならない。

体調が回復し、仲間と同じように連携のとれた体術を扱う事すらも。


(結局、唯一の可能性はコレだけですか)


アックアの前では、もろい壁も同然のゴーレム術式。

あまりにも頼りない武器を思い浮かべつつ、フルチューニングはオイルパステルを握りしめた。


「私…何の役にも、立たなかったのに…ありがとうって、言ってくれて……」


五和の嗚咽交じりの言葉が聞こえたのは、その時だ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:32:58.86 ID:OtxnUys0<>
(五和さんと、建宮さん…?)


疑問符を浮かべるフルチューニングなど目に入らない五和は、目の前の建宮にこう続けた。


「あの人は、どんな防御術式に頼る事もできない。どれだけの回復魔術があっても、掠り傷一つも治せない」

「本当に、体一つで戦っていただけなのに……」

「五和……」

「私、そんな人を見殺しにしたんですよ」


その一言が、フルチューニングの胸に突き刺さった。

五和の話では、2人がやられた後に上条当麻がアックアに単身立ち向かったという。

その理由は明白だった。

他ならぬ五和を、そしてフルチューニングを救うため。

結果彼は、瀕死の重傷を負っている。


「そんな人間が、何で一人だけのうのうと生きているんですか。こんなのはおかしいんです。私の方が…」

「それはレイも同じ事です」


我慢できなくなったフルチューニングが、割り込んで立ち上がった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:34:18.54 ID:OtxnUys0<>
「むしろ、最後まで戦えなかった分五和さんよりもはるかに情けない」

「違う、違うよレイちゃん…」

「それに思いおこせば、レイは今まで負け続けです」

「まず妹達に負け、アニェーゼ部隊に負け、ビアージオに負けました」


今までの戦いで、フルチューニングは確かに負け通しだった。

それでも『妹達』を、『オルソラ』を、『アニェーゼ』を救えたのは何故か。


「ですが、いつもレイは1人ではありませんでした」

「いつだって天草式のみんなが一緒に戦ってくれたから。だから何とかなったんです」

「……レイ、ちゃん」

「今もそうです。私たち全員が上条当麻を守りたいと思っています」

「なのに五和さんだけがこの敗北を背負うなんて…」

「違うのっ!」


今回遮られたのは、フルチューニングの方だった。

目に涙を浮かべた五和が、投げかけられた言葉をすべて否定する。


「あの人の代わりに、私がやられていれば全て解決していたはずなんです!!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:35:24.83 ID:OtxnUys0<>
フルチューニングの言いたい事が、分からない五和ではない。

だがそれでも。

彼女は自分を責めたくてたまらない。

心の底から守りたかった人を守れなかったという事実は、彼女の精神をボロボロにしていた。

そんな五和に、フルチューニングは何も言えなくなってしまう。

代わりに言葉を発したのは、黙って話を聞いていた建宮だった。


「立つ気はないのか」

「……」

「お前さん、一体そこで何をやってんのよ?」


それだけではない。

建宮はそのまま五和の胸倉を片手で掴み上げると、近くの壁にズドン!と叩きつけた。

フルチューニングを含むみんなが呆気にとられる中、五和が建宮を睨み返す。


「…建宮さんだって、負けたじゃないですか」


その言葉にフルチューニングが言い返すよりも早く。


「こんな女を助けるために、あいつは体を張ったのか?」


建宮から、信じられないような発言が飛び出した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:36:52.13 ID:OtxnUys0<>
イギリス、王立芸術院


その日、講義があるはずのシェリーは教壇に立っていなかった。

1人で資料室に籠り、難しい顔をしている。

学園都市でフルチューニングと別れてから、薄々感じていた予感がついに的中したからだ。


(あの馬鹿、入院中のはずなのにゴーレム術式を使いやがった)

(現在学園都市には、後方のアックアから幻想殺しを守るため天草式が派遣されている)

(どう考えても、これはあの馬鹿がアックアと一戦やらかしたってことよね)


培養器越しに分かれた時、フルチューニングはカバラの教本を欲しがった。

おまけに自分の命など惜しくないとまで言い切る始末。

わずかに懸念を感じたシェリーは、渡した教本に仕掛けを施していた。

すなわち、学園都市でゴーレム術式が発動するとこちらにそれが伝わる感知術を掛けてあったのだ。

学園都市は能力者の街で、魔術師はいない。

ましてや『必要悪の教会』流にアレンジしたゴーレム術式を扱う人間など、フルチューニング以外には有り得ない。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:38:17.71 ID:OtxnUys0<>
(仮にも師である私を、騙したつもりなのか。あの馬鹿は)

(…あなたにも意地があるんでしょうが、それはこちらも同じ事)

(すでに私は魔法名にかけて誓った。…もう2度と、壊れる超能力者を出す訳にはいかないってな)


そしてシェリーは資料室の電話を手に取ると、とある番号をコールした。


『――こーんな夜遅くに、一体何の用なのかにゃー?』

「分かってるくせに聞いてくるんじゃねえよ……土御門。頼みがある」

『こう見えて、俺ってば結構忙しいんだぜい?』

「この状況で頼めるのは、あなたぐらいなのよ」

『やれやれ。で、何を頼みたい?』

「――――――、――――――」

『……は?』


シェリーがした頼みごとに、土御門は素っ頓狂な声を上げた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:39:39.40 ID:OtxnUys0<>
「出来るか?」

『1つ目は何とかなるだろうけど、2つ目は正直厳しいぜい』

「私はこっちでやらなきゃいけないことがある。学園都市でそれが可能なのは――」

『分かった分かった。確かに俺以外に適任な魔術師はいない…借りもあるし、何とかしてやるにゃー』

「借り? ああ、あのふざけたメイド服のこと?」

『そうそう。流石は天才シェリー・クロムウェル。あれならねーちんも喜ぶ事間違いなしってもんだ』

「あいつの趣味じゃねえと思うがな…」

『大事なのは見る人の趣味に合っているか、ってことなんだぜい?』

「?」

『まあ、とにかくこっちは俺がなんとかしてみるにゃー』

「…ありがとう」


シェリーが通話を終了した直後、今度は電話がかかってきた。


「はい」

『あらあら。そちらはシェリーさんでよろしいのでございましょうか』

「……やっぱりテメェかオルソラ」


学園都市から遠く離れた英国の地で、魔術師シェリー・クロムウェルの戦いが始まる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 00:40:47.09 ID:OtxnUys0<>
今日はここで終了です

明日の夜に続きを投下する予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/31(日) 00:52:30.52 ID:gKsqkwgo<>乙ヤスミー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/10/31(日) 13:12:11.57 ID:VP0ZvFEo<>wktk<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:37:58.85 ID:OtxnUys0<>
こんばんはー、最近アニメで天草式が登場しているので嬉しいですね

建宮さんたちに声がつくとイメージが膨らむので楽しいです

では、投下


第7学区のとある病院


仲間のいる第22学区を離れて、フルチューニングは1人病院へ戻ってきていた。

もちろん、戦場から逃げてきた訳ではない。

今の自分に出来る事をするためである。


(ぐだぐたと“出来ない事”を考える暇はありません)

(術式の強化? 超電磁砲? 体調の回復?)

(いずれも今のレイには不可能。ならば、これしか方法はありません)


フルチューニングは、つい先ほどの会話を思い出して決意を新たにする。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:38:36.10 ID:OtxnUys0<>
あの時、建宮は嘲笑した。

ボロボロになった恩人を前に動こうともしない、そんな女のために命を投げ出したあいつは犬死にだ、と。

当然激怒する五和に、あるいはそれ以上の怒りをもって建宮は咆哮する。

絶望し立ち上がることすらできない五和に、彼は再び戦う力を与えたのだ。


『――後方のアックアは、必ず来る』


目を背けたい現実を指摘して。

それでもなお、希望はあると言いきった。

救える可能性はある、と。


『まだ可能性は残っているのに、たとえどれだけ少なくても確実に残っているのに、そいつをつまんねえ後悔や罪悪感で全部捨てちまうのか!?』

『笑顔を守りたければ立ち上がれ。自分の都合で他人の人生を投げ捨てるんじゃないってのよ!!』
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:40:02.23 ID:OtxnUys0<>
あまりにも強大な敵、後方のアックアが上条の右手を狙っている。

それなのに、今彼を守れるのは――。


『今ここで戦えるのは俺達だけだ!!』

『惨めだろうが何だろうが、今ここにいる俺達が動かなかったら、今も麻酔で眠らされているあいつは一体誰に守ってもらうのよ!!』


女教皇も、増援も来ない。立ち向かえるのは自分たち天草式しかいないのだ。

それならば、もう一度立ち上がる他にない。

大切なものを守るために。

だから建宮はこう言った。


『お前さんが最高に良い女であることを証明して、こんなヤツのために命を張って良かったって思わせてやれ』

『墓前で懺悔をしたくなけりゃ、俺達は戦うしかねえのよ』


そう言われて、五和は、いや天草式全員が戦う覚悟を無言で示す。

決意は固まった。天草式十字凄教50余名全員が、再び戦場へ舞い戻る。


「あの」

「どうしたレイ?」


フルチューニングが建宮に待ったをかけたのは、その時だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:41:11.62 ID:OtxnUys0<>
「今すぐアックアと再戦するつもりではないですよね?」

「…ああ。ふざけた事に、こっちには一日の猶予を与えられている」

「利用できるものはこの際何でも利用するべきだ。それが時間でもな」

「悔しいが戦力差は絶望的。然るべき準備を整えなければ、また同じ事の繰り返しなのよな」

「そうですか。それを聞いて安心しました」


意味深なフルチューニングの言い方に、天草式全員が注意を向けた。


「次は全員で戦うつもりですよね」

「…もちろんだ。それがどうしたのよ?」

「それなら、レイの“戦力”について知っておいてもらいたいのですが」

「待て、今のお前さんに能力は……」


諫早が思わず疑問を口にする。


「分かっています。…キオッジアで部品を奪われた上、今の体調の良くない状態では能力は使えません」

「仮に使えても、レベル3程度が限界である以上アックアへの有効な攻撃手段にはならないですし」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:42:17.05 ID:OtxnUys0<>
そこまで言うと、フルチューニングは握っていたオイルパステルを見せた。


「五和さんは、先ほど見ましたよね?」

「レイちゃんの、ゴーレム術式……」


五和の返事に、みんなが驚きの声を上げる。

只1人、建宮だけは静かに溜息をついた。


「あの女王艦隊での戦いが終わってから、俺はシェリー・クロムウェルという女魔術師を訪ねたのよ」

「レイを助けにわざわざ女王艦隊まで乗り込んできたからには、何らかのつながりがあるのは明らかだったからな」

「我らに内緒で他の魔術師に弟子入りするとは、隠し事が上手くなったものよなあレイ?」

「…ば、ばれてましたか」


いきなり出鼻をくじかれて、フルチューニングは怯えたように体を小さくする。


(っていうか、師匠は女王艦隊へ乗り込んでいたのですか…!)

(あの時の事はぼんやりとしていて思い出せませんが、せめて一言教えてくれても良かったのに)

(どうして師匠は、変なところで恥ずかしがり屋なんでしょう)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:46:29.42 ID:OtxnUys0<>
「で、そのゴーレム術式とやらはどれぐらいの戦力になるんだい?」


黙ってしまったフルチューニングに、牛深が優しく問いかけた。

それでようやく気を取り直した彼女は、簡単にスペックを説明していく。


「――ですから、一時的とはいえ力で拮抗することなら可能です。尤も、かく乱用に使うのがベストでしょうが」

「まあ、おおよそは理解できたのよな」


教皇代理である建宮が、今回の作戦を再び練り直す。

天草式の真髄が高度な連携にある以上、今のフルチューニング及びゴーレムを主軸に据えることは不可能だ。

むしろ、唯一単体で力勝負が出来るゴーレムを囮や陽動にして、アックアの隙を生み出すという使い方をするべきだろう。


(本音を言えば、あの化け物相手にレイを戦わせたくはないが…)

(いかんよなあ…この俺が私情を挟みたくなるとはよ)

(――死なせやしない、絶対に)


「より詳細な手順は、イギリスからの情報を待ってから詰める事にするが――」


建宮の作戦案に全員が耳を傾け、やがて同意した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:47:17.17 ID:OtxnUys0<>
そして今、フルチューニングは自分が入院していた病院の臨床研究エリアに来ていた。

あの救急救命病院とは違って、ライトの明かりが眩しい小さな待合所でようやく彼女は発見する。


(やはり、ここにいましたか!)


もう夜遅いにも関わらず、目的の人物がそこにいたことに安堵して彼女は近づいた。

だが話しかけようとするよりも早く、逆に相手から言葉が発せられる。


「こんな時間に、一体何の用なのですか?とミサカは問いただします」

「お願いがあってきました。今病院にいる『妹達』を全員呼び出してもらえますか」

「……」


突然の願い事に対し、目的の人物――御坂妹は無表情でコクリと頷いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:48:03.77 ID:OtxnUys0<>
わずか2分足らずで病院にいた『妹達』が全員集合し、フルチューニングのお願い事を聞いた。


「…用意は可能ですが、それを一体何に使うのですか?とミサカ10039号は訝しみます」

「下手すれば大事になります、とミサカ19090号も懸念を表明します」

「そもそも持ち出す理由を教えないとはどういうつもりですか、とミサカ13577号は呆れます」


無茶な事を頼んでいるという自覚があったので、フルチューニングは言い返せない。

それに、この問題に他の妹達を巻き込む訳にもいかなかった。


「お願いします、今のレイにはどうしても必要なのです!」

「――分かりました、言う通りにしましょう、とミサカ10032号は長女に従います」


頭を下げたフルチューニングに、御坂妹がついに折れて承諾した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:49:06.76 ID:OtxnUys0<>
「どう見ても諦めない様子なのですから、ここで問答するのは時間の無駄です、とミサカ10032号は事実を告げます」

「ですが、後々怒られのはミサカ達ですよ?とミサカ13577号は不満を述べます」

「仕方ありません。これであの実験の時の借りを返せると思えば安いものです、とミサカ10039号は投げやりに答えます」

「そうですね、ちゃんと返してくれるなら…とミサカ19090号も10032号と10039号に同意します」


結局、フルチューニングはそれをきっかけに渋々ではあるが全員の承諾を取り付けた。

そして目的のものを預かると、天草式が待つ戦場へ出発した。


ちなみに。

そこで恋する乙女五和が、石油化学コンビナートに大引火状態になっている事、

アックアの情報を伝えたシェリーが、フルチューニングに何かあったらただじゃおかないと建宮を脅しつけている事、

土御門元春と言う魔術師が陰で色々と暗躍している事、

それらを彼女は知らないままである。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/10/31(日) 23:49:46.11 ID:OtxnUys0<>
今日はこの辺でおしまいです

気づけばアックア編もそろそろ終わりが近づいてきました

明日の夜に続きを投下するつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/01(月) 00:27:01.64 ID:8kYtWHMo<>乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/01(月) 01:25:23.91 ID:899H0xEo<>待ち遠しい乙( *゚д゚)<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/01(月) 11:02:53.80 ID:cYM1JV20<>ここにきて妹達…だと…?
どうなるか楽しみだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/01(月) 12:06:28.88 ID:4GyEwvIo<>乙〜
まいど楽しみだぜ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/01(月) 18:16:26.09 ID:N5ub9mQ0<>乙!
妹達に借りる…?もしや使用済みの縞p…<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/01(月) 23:58:26.72 ID:dNnV1ME0<>
こんばんはー、レスありがとうございます

少し短いですが、投下します


第22学区のとある鉄橋


天草式と合流したフルチューニングは、何故かガタガタと震えている建宮を疑問に思いながらも、用意が整った事を報告した。


「もうすこし有れば良かったのですが…」

「いやいや、用意できただけ上出来よな」

「ところで、どうして先ほどから建宮さんは震えているのですか?」

「へあ!? そ、そう。武者震いってヤツなのよ!」

「…?」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/01(月) 23:59:08.99 ID:dNnV1ME0<>
つい先ほどまで建宮は、マジギレした五和に怯え、

シェリーの“あの馬鹿に何かあったらテメェの肉塊でゴーレム作るからな?”という一言に怯え、

仲間からの“この大馬鹿野郎!またお前だけレイの秘密(シェリーに弟子入り)を知っていたのか!”という冷たい視線に怯えていた。

ぶっちゃけアックアと対峙するよりも恐怖を感じていたかもしれない。


「ま、おふざけはここまで」


だが、ここにきて空気が変わる。


「ここから先は――戦場だ」


天草式十字凄教の矜持を掛けた、絶望的な戦いが幕を開ける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:00:13.09 ID:aPCB2Qw0<>
深い闇の中、それでもアックアは“敵”の存在を感知した。

それでも欠片も動じることなく、淡々と言葉を放つ。


「準備はもう済んだのか?」


その言葉に応じるかのように、天草式のメンバーがその足音を響かせた。

誰もが武器を握るその姿は、まるで豪華なパレードのようだ。

剣、槍、斧、弓、鞭、鎖鎌、十手、鉄の笛。

様々な武器が鈍く光るその中で。

たった一人丸腰で立つ少女が、アックアにはやけに目立って感じられた。


(最初に戦った時は失念していたが、彼女が報告にあった魔術を使う能力者であるか)

(まさかゴーレム術式を行使するとは思わなかったが、あの拙さでは話になるまい)


そんなアックアの視線から彼女を庇うように、建宮が1歩前に出た。

それだけで、交渉の結果は火を見るより明らかだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:03:34.70 ID:aPCB2Qw0<>
「交渉は決裂、という訳であるか」

「それ以外に何があるってのよ」

「別に。困るのは貴様達の方である。……唯一生き残る可能性のある選択肢を、自らの手で放棄したというのだから」

「どうやら、あなたは少し視野が狭いようです」


アックアの押しつぶすような気配を切り裂いて、丸腰の少女――フルチューニングが言葉を挟んだ。


「あなたに上条当麻の右腕を差し出さずとも、私たち全員が生き残る方法があるんですよ」

「ほう。一応その方法を聞いておこうか?」

「決まっています。あなたをここでボコボコにすればそれでOKです」

「…下らんな。私は聖人であり、『神の右席』としての力も有している」

「……」

「それを正しく理解した上で、なお守るべき者のために命を賭して戦うと言うのならば、私は期待するのである。人の持つ可能性とやらに」

「ならば、期待に応えなくてはいけませんね」


不敵に笑うフルチューニングに、アックアが笑い返す。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:04:26.46 ID:aPCB2Qw0<>
「その大言が寝言でない事を期待しよう」

「その上で、勝つ」


そしてアックアは、メイスを構えるために半歩動く。

文字通り天草式を粉砕するつもりだ。


「勝負とは善悪ではなく強弱によって決定するものだという事を、私は証明するのである」

「…まるで、自分が悪だと認めているかのようなセリフですね?」

「所詮善悪など、価値観の違いに過ぎない」

「分からないのか? 力無き善は、時として悪よりも性質が悪いのであ――」


アックアの話はそこで終わりを告げる。

痺れを切らした五和が、ドバン!!と全力で海軍用船上槍を放ち――アックアを巻き込んで起爆させたからだ。


「…五和さん?」

「いっ、五和……ちゃーん?」


ポカーンと驚く2人を無視するどころか、五和は悔しそうに舌打ちまでした。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:05:09.85 ID:aPCB2Qw0<>
無傷で現れたアックアが、呆れたように語る。


「人の話は最後まで聞くものではないかね?」

「……話なら、後で聞いてあげますよ」


フルチューニングと建宮を押しのけて、五和が前に出てきて宣言した。


「さんざんさんざんさんざんさんざんグチャグチャのグチャにブチのめした後に!」

「まだ顎が砕けていなかったらの話ですけどね!!」


事情を知る天草式の面々が、ことごとく目を逸らす。

唯一理解できないフルチューニングが、建宮に詰め寄った。


「(一体五和さんはどうしたのですか?)」

「(大丈夫よレイ。あれが恋する女って事。神様でも敵に回せるんだから)」


傍に寄り添う対馬が、妙に冷静にフルチューニングを諭す。

直接の原因となった建宮が呆然としている中で。

五和とアックアが、轟音と共に激突した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:05:59.08 ID:aPCB2Qw0<>
普通の人間であるはずの五和が、聖人であるアックアと渡り合う。

その理由は共に戦う天草式だ。

互いに動体視力や運動能力を補強し、増強して。1つの生き物として戦場を移動する。


(だが、あの少女だけは“動いていない”)

(女王艦隊における戦いで、致命的なダメージを受けているという話だが…)

(そんな弱点をみすみすさらして、この私に勝とうと考えているのであるか)


アックアの感じたとおり、フルチューニングがこの輪に入る事は出来ない。

それはあまりにも明確な標的だった。


「せめて、ゴーレム術式ぐらいは構築しておくべきであったな」


アックアが、メイスを振り下ろしながら彼女に言い放つ。そこには失望があった。

だがしかし。





「――当然、すでに完成済みですが?」

「なに…?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:07:06.26 ID:aPCB2Qw0<>
気が付けば、他の天草式が距離をとっている。

悪寒を感じたアックアがメイスで防御を取るのと同時。

バババババババババババババババババババババ!!!!!

対戦車用ライフルのフルオート――秒間12発の遠距離狙撃がなんと10丁分。

凄まじい爆音を引きつれて、辺り一帯を粉にする勢いで射出された。


「……これは」

「安心しました。あなたが防御を取ったという事は、“当たれば死ぬ”ということですね?」

「まさか、狙撃兵を雇ったのであるか?」

「いいえ。これがレイのゴーレムです」


フルチューニングがオイルパステルを横に振るう。


「さあ、いきましょう《ゴーレム・フルチューニング》!」


再びライフルによる掃射が始まり、アックアが銃弾を叩き落としながら後ろへ下がった。

その間に、ズゥゥン!という音を立てて上の階層から着地した巨大ゴーレムが、“体に備え付いてある20の銃口”をアックアに向ける。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:08:20.93 ID:aPCB2Qw0<>
「本当は、マシンガンやガトリングガンを付ける事が出来れば良かったのですが」

「れっ、レイ…ちゃーん? あんな威力があるとは聞いていないのよな…?」

「たまたま手に入った武装がこれだったんです」


今のフルチューニングが頼れるのは、どこまでいってもゴーレム術式だけ。

その術式を強化する事が出来ない以上、ゴーレムの“材料”を強化するしかない。

そう思い至った彼女が思い出したのは、初めての敗北だった。

負けっぱなしのフルチューニングが、最初に負けた『妹達』――あの時彼女達は銃を持っていた。

それだけではない。病院車の警護の時にも、彼女達は銃を携えていた。

フルチューニングが病院へ戻ったのは、銃器を借りるためである。


(無理を言って借りた鋼鉄破り(メタルイーターMX)10丁と、オモチャの兵隊(トイソルジャー) 10丁を武装として組み込みました )

(術式は師匠に遠く及びませんが、戦力の観点から見れば引けを取りません)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:09:36.84 ID:aPCB2Qw0<>
50口径の対戦車砲ライフルと、5.6ミリ弾のアサルトライフル。

メタルイーターの暴力的な反動も、重く巨大なゴーレムなら全て受け止める事が出来る。

魔術に科学を取り入れた、フルチューニングならではの作戦だった。


「まさか、魔術人形に銃器で武装させるとはな」


土煙りの中、未だ傷の無いアックアが感心したように呟いた。

対しフルチューニングも、オイルパステルを彼に向けて静かに宣戦布告する。


「レイには、何が何でも叶えたい願いがありますから」

「詳しい“魔法名”の儀式なんて知りませんし、認められるかどうかも分かりません」

「…ふん」

「ですが、この魔法名は譲れません。今こそレイは宣言しましょう」








「――Crastinum000(届かぬ明日を掴む者)!!」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/02(火) 00:10:26.52 ID:aPCB2Qw0<>
今日はここで終わりです

次は水曜日の夜に投下する予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/02(火) 00:15:14.29 ID:BaRT6kAO<>>>752
おい!何を我慢してる!
お前は今眠っ…てたか。

乙! 続き待ってます<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/02(火) 00:26:42.64 ID:SdsHd9co<>魔法名かっけえええええええええええ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/11/02(火) 00:28:51.48 ID:irnSlkAO<>レイの魔法名が素晴らしいな 言葉に出来ないけど、凄い色々感じたよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/02(火) 00:31:52.96 ID:ZugR.yso<>乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙乙!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/11/02(火) 06:30:25.98 ID:hO.LgDw0<>乙!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/02(火) 07:24:06.10 ID:BaRT6kAO<>>>757
sage を入力してくれたまえ…<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:17:32.15 ID:IubelpQ0<>
こんばんはー、いつもレスに感謝です

時間が出来たのでちょっと投下します



第22学区のとある鉄橋


フルチューニングの名乗りに、アックアが薄く笑みを浮かべる。

圧倒的な攻撃力を持つゴーレムを前にして、なお彼は余裕を崩さない。


「覚悟は見せてみらった。魔法名を名乗られた以上、本気で相手をしなくては失礼なのである」


そして巨大なメイスを振りかざすと、恐るべき速度でフルチューニングへ突進した。


「こうなった以上、貴様の願い――“明日”は来ないと知れ!」

「レイは諦めません!この手で掴んで見せます!」


ズドンッ!!!!!

アックアの振るうメイスより二回りもでかいゴーレム・フルチューニングが、破滅的な一撃を受け止める。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:19:37.83 ID:IubelpQ0<>
(何故だ…明らかに以前よりも強度が増している…?)

(まるで潤沢な“地”の加護を受けているみたいではないか)

(いかにここが地下空間とはいえ、我が一撃をこうもたやすく受け止めるなど…)

(魔術師になって日が浅いはずのこの少女、一体何をしたのであるか!)


それだけではない。組み合ったアックアに、ここぞとばかりに無数の弾丸が撃ち込まれた。

いかに聖人のアックアと言えど、肉体が人間である以上対戦車ライフルの弾が当たれば致命傷になる。


(まさか、この弾丸は…!)


弾丸を全て避け、弾きながらアックアはさらに驚愕した。

彼は、武器が銃弾である以上、このペースで撃ち続ければ数分で残弾が尽きると思っていた――が。


(間違いない、あのゴーレムは“自らの体を弾丸として射出している”…!)

(つまり自己修復機能がある以上、周りのモノ全てが無くなるまで無限に撃てるということである)

(…だがゴーレム術式に、このような変異式は存在しない)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:21:57.54 ID:IubelpQ0<>
ゴーレムはあくまでも人の形を模した土人形であり、術式の目的からしてこの現象は有り得ない。

ただし、それは普通の魔術師ならばの話だ。

その事に気付いたアックアが、魔法名を名乗った目の前の少女を本気で敵として認識した。


(超能力――物理法則を捻じ曲げて超常現象を起こす力。それを司る世界唯一の魔術師、か)

(…確かに強敵だ。ならばこそ、最初に片をつけねばなるまい!)


最初に戦った時と同様、一瞬でゴーレムを破壊すれば脅威は無くなる。

基本的に戦場においてまず優先するべきは、脅威となるものの排除だ。

その事を熟知しているアックアが、標的のゴーレムに意識を集中する。

だが、この戦いは初戦と大きく異なる点があった。


「我らの事を忘れてもらっちゃあ困るのよな!」

「!」


彼女の周りには、天草式という頼りになる仲間がいる事だ。

フルチューニングがアックアと対峙している時間は、天草式が理想的な戦力展開(バトルフォーメーション)を出来る時間でもある。

全てが天草式の目論見通り。ゴーレムという圧倒的な戦力は、アックアの注意を奪うのに十分だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:23:37.14 ID:IubelpQ0<>
「レイ(フルチューニング)という弱点も、ゴーレム(フルチューニング)という力も、全て単なる囮です」

「……」

「まだまだ未熟とはいえ、レイも天草式十字凄教の一員と言う事を忘れてはいませんか?」

「……見事である」


かつてフルチューニングが主武器にしていた、トラップ用の武器。

すなわち鋼糸。

天草式50人の指先から、それぞれ7本ずつの鋼糸がアックアへ向けて放たれていた。


「だが、それで勝てるとは少々甘い算段ではないかね?」


350本の“凶器”を、アックアは避ける事さえしない。


「ふん」


ただ純粋に、力技でその全てを引き千切った。

しかも、それだけでは終わらない。

鋼糸を破壊した者に襲いかかる、天草式の奥義――『殺人に対する罰』すら、アックアは無効化して見せた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:24:57.12 ID:IubelpQ0<>
「我が特性は罰を打ち消す『聖母の慈悲』。『神の罪』すら打ち消すこの私に、そんなものが通じるとでもおもったのであるか」

「これでもダメでしたか…潮時、ですね」


仲間のとっておきの術式で、ダメージが与えられない事をフルチューニングが嘆く。

同時にオイルパステルを一閃。指示を受けたゴーレムが全ての銃口から弾丸を掃射した。

凄まじい爆発音が響き、舞いあがった粉塵がアックアから視界を奪う。

その隙に天草式の全員(フルチューニングは建宮が抱きかかえた)は、この場から逃走した。

さらにゴーレムまでもが、その巨体を飛び上がらせて姿を消している。

一人鉄橋に残されたアックアは、それでも悠然と笑う。


「まあ、追う楽しみは増えたのであるが」

「それにしても…」

「あのゴーレム、術式の解除をするのではなく、わざわざ形を残したまま回収した」

「となると狙いは逃走経路のかく乱か、あるいは――」




「――すでに術師には、ゴーレムを再構成するだけの力が残っていないということであるな」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:26:39.37 ID:IubelpQ0<>
同時刻、聖ピエトロ大聖堂の『奥』


ローマ正教にとって、最高の価値を持つこの場所で。

そのトップ、ローマ教皇ですら立ち入る事を恐れるこの場所で。

緊張感の欠片も含まない、ひどく俗な声が木霊していた。


「おいおい、そう怯えるなよ。せっかくこの俺様が、有意義な情報を提供してやろうというのに」


その声とは対照的に、相手の声には余裕が全く無い。

まるで化物と対話しているかのようである。


『あ、あ、だが…』

「さっきも言ったが、お前たちが手に入れるはずだった“実験品”を横取りした連中」

「――そう、天草式は今頃壊滅状態と見て間違いない」

『な、なぜ、そんなことを教えるのだ…!?』

「善意からさ」

『……』

「取り戻すチャンスは、今を置いて他にないだろう?」

『しかし…』
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:28:15.27 ID:IubelpQ0<>
渋る相手に対し、彼は甘い毒をさらに会話に含ませる。


「俺様は知っているぞ。今、お前たちの組織が存続の危機に陥っているという事ぐらいはな」

『う…』

「“科学結社”を隠れ蓑にして、あの実験品やら残骸(レムナント)を手に入れようとしたが悉く失敗」

「なあ、おい。復讐したくはないのか?」


そして。

相手はその誘いに堕ちた。


『…今ならば、天草式からアレを取り戻せるというのは本当だな?』

「もちろんだ。何しろ『後方のアックア』が殲滅に赴いているのだからな」

『わ、分かった。我らが復讐、ここに果たそう』


その言葉を最後に、神聖なこの場所に静けさが戻った。

通信術式を切断した彼――『右方のフィアンマ』は、満足そうにクツクツと喉を鳴らす。


(あのアックアが、そうそう後れをとるとも思えんが……)

(何事にも、保険は必要だからな)

(特にあの実験品は、もしかすると俺様の計画に影響を与えるかもしれん)

(なにしろ前方のヴェントを追い込んだ、『自爆誘導術式』の要なのだから)

(魔術を扱う事の出来る、超能力者)

(しかも所属は、十字教で唯一天使への攻撃術式を持つ天草式ときたもんだ)

(……危険な芽は、早めに摘んでおくに限る)


フィアンマに唆されたとある魔術結社が、再びフルチューニングの身柄を狙う。

襲撃は、速やかに行われた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/03(水) 00:28:57.67 ID:IubelpQ0<>

今日はここでおしまいです

都合が整えば明日の夜に続きを投下します

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/03(水) 00:40:30.10 ID:2GmCWeoo<>フィアンマキターーー
今日も乙です<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:24:13.53 ID:oWxhxRA0<>
こんばんはー、こんな時間になって申し訳ないです

では投下


第22学区のとある広場


戦場となった鉄橋から、300mほど離れた広場にて。

フルチューニングを下に降ろした建宮は、ようやく溜息をつく事を許された。

額の汗を拭う彼に対し、フルチューニングが悔しそうに質問する。


「あの術式でも歯が立たないなんて…建宮さん、どうしますか?」

「…ま、そう簡単にはいかないのよ」

「ごまかしにも限界があります、ね」


今までアックアと渡り合っていた五和が、辛そうに息を荒げてそう言った。

仲間同士で連携し互いに運動能力を高め合う事で、聖人であるアックアについていった天草式ではあったが、それにも限界はある。

もともと、只の人間が聖人と互角に戦える方がおかしいのだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:25:53.73 ID:oWxhxRA0<>
「一つ確認だレイ。…お前さんのゴーレムはどうなんだ?」

「このままの戦闘を続ければ、もって後10分が限界でしょうか。何故か術式の調子は良いのですが…」

「…正直なところ、ゴーレムよりもレイの体の方が厳しいです」


ゴーレムの行動は、全てフルチューニングが遠隔操作している。

習いたての彼女では、シェリーのように自動制御に切り替える事は出来ないのだ。


(10分…それぐらいは耐えてみせなくては!)


一方通行が“治療”したはずのノイズが、再び彼女の脳を痛めつける。

連続しての魔術使用は、確実にフルチューニングを死へと近づけていた。


「それに、あれだけの銃撃を受けても無傷のアックアが相手では、破壊されるのも時間の問題かと」

「となると、こっちも『本命』を出すしかないってのよ。…覚悟を決めるぞ」


天草式の作戦の『本命』――そのカギを握る五和が、海軍用船上槍を握ったまま小さく頷いた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:26:50.72 ID:oWxhxRA0<>
その時。

巨大な気配を持つ何かが、天草式のいるこの場所へ接近してきた。


「アックアです!」


フルチューニングが叫ぶよりも早く、全員が態勢を立て直すために撤退する。

第4階層まで逃げようとする天草式に、アックアの声が届いた。


「良いものを見せてもらったのである。こちらも返礼をしよう」


ドガガガガガガッ!!!

地下空間を行き巡る水道管が、次々と爆発して天草式に襲いかかる。


「ッ!?…レイ!!」


建宮がフルチューニングを咄嗟に庇い、飛んできた破片をフランベルジェで弾き飛ばした。

だが大量の破片全てを迎撃することは不可能であり、その幾つかは建宮の体や頭に直撃してしまう。


「ぐ、ちっくしょう!」

「建宮さん…そんな…ごめんなさい! レイが役立たずで…」

「これぐらい、大したことじゃないのよな」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:28:23.97 ID:oWxhxRA0<>
頭部からの出血が、建宮の顔を半分ほど赤く染め上げる。

それでも彼は、いつもと同じ笑顔でこう告げた。


「…お前さんは、絶対にこの俺が守る」

「た、建宮さん?」

「悪いな、こういう時にちゃんと格好つけた言葉の1つも出てこないとはよ」

「いえ……そのう、十分に格好良いです」

「そうか、そいつは嬉しいなあ。じゃあ後は、この口から吐いた言葉を本当にするだけよな」


聖人の力。

神の右席の力。

さらには通常の魔術。

アックアの持つ聖母崇拝の術式は、それら全ての行使を可能にする。

そんな次元の違う怪物を前にして、それでも天草式は諦めない。


「ただし、私一人とは限りませんけど」


アックアと向き合う五和のその言葉に応えるように、建宮を始めとした天草式がアックアに飛びかかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:29:30.25 ID:oWxhxRA0<>
天草式50人の攻撃を、アックアは全て薙ぎ払う。

その様子を見て、フルチューニングはギリリ、と歯を食いしばった。


(このままでは、五和さんたちの“準備”が整う前に全滅してしまいます)

(…これが最後。存分に暴れなさいゴーレム・フルチューニング!)


巨大なメイスで五和を叩き潰そうとしたアックアはしかし、その手を振り下ろす事はなかった。

嫌と言うほど経験した、最大の脅威を上空から感じ取ったからである。


「ようやくのお出ましであるか!」


上の階層から飛び降りたゴーレムの一撃は、その重量だけで立派な武器と言える。

ただし、相手がアックアでなければ。

自分より何倍も大きいはずのゴーレムを、彼はしっかりとメイスで受け止めてみせた。


「このゴーレム、武装が銃である故に仲間と連携できないのは致命的であるな」


その上、作戦におけるゴーレムの欠点も見抜いていた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:30:38.09 ID:oWxhxRA0<>
術式の拙さを補うためのライフルは、“仲間に当たる可能性”がある。

しかもその威力が高すぎるため、万が一が無いように注意深く運用しなくてはならない。

つまりは。


「ゴーレムの攻撃が来る前に、必ずお前たちはその場から離れる」

「いかに強力な攻撃とはいえ、事前に来ると分かっている以上対処は容易い」


それともまた通用しない鋼糸を使うのであるか、とアックアが嘲笑する。

彼の誇る実力の前では、対戦車ライフルを備えたゴーレムとて通用しない。

フルチューニングは、それでも無言でオイルパステルを構えなおした。


「……」

「これならばいっその事、ゴーレム単独の力押しの方がまだマシだったのではないかね?」

「……」

「それにどうやら、この術式もそろそろ限界の様であるが」

「その通り、もう長く持ちません。結局このゴーレムではあなたを倒すことなど不可能でした」


言葉は明快なのに、アックアはフルチューニングの言葉を理解出来なかった。

負けを認めるセリフを口にしながら、彼女が微笑んだからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:31:50.48 ID:oWxhxRA0<>
「ですが、最初からゴーレムであなたを倒す気などありませんでしたので」


フルチューニングがしれっと答えるのと同時。

巨大なゴーレムはアックアに覆いかぶさり、文字通り彼を抑え込んだ。


「無駄なあがきを…!」


アックアがゴーレムを破壊するのにかかる時間はわずか2秒。

そしてそれは――『本命』を準備するのに、十分すぎる時間だった。

彼がその事に気づいた時。

バラバラに砕け散ったゴーレムの向こうで、五和が槍の穂先をアックアへ突きつけていた。


「くっ!?」


咄嗟にゴーレムの残骸を踏みつけて上へ逃げるアックア。

だが、そのまま逃がすような真似を天草式はしない。


「――建宮さん。それにみんなも!!」

「今こそ『本命』を!!」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:33:27.08 ID:oWxhxRA0<>
五和を中心に、天草式が特殊な陣形を組む。


(こ、れは――!?)


アックアが疑問を口にするよりも速く、五和がゴバッ!!という爆音と共に彼へ迫った。


「喰らいなさい」


天草式全員が一体となって発動した、『本命』がアックアに牙をむく。


単純な戦闘力では随一のゴーレムを、戦いの主軸に据えなかった真の理由。

かつて天草式が失った、誰よりも優しい聖人――彼女と共に歩むための強さ。

彼女を支え、理解し、壁を超え。彼女が脅威と思うような問題にさえ立ち向かう為の力。

この世界でただ1つ、天草式十字凄教だけが編み出す事に成功した『聖人を倒すためだけに存在する』専用特殊攻撃術式。


「――聖人崩し!!」


この術式によって雷光となった五和の槍は、アックアの聖人としてのバランスを崩し、莫大な魔力を体内で暴走させる。

天草式の奥の手が、アックアへ容赦なく突き刺さった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/04(木) 01:34:22.56 ID:oWxhxRA0<>
今日はここで終了となります

次の投下は金曜日の夜のつもりです

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/04(木) 01:41:18.18 ID:.zO5mMAO<>超乙です。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/04(木) 01:48:46.69 ID:9OGi4oIo<>まったくもう乙ビクビク<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/04(木) 10:05:06.99 ID:7Uy38Cgo<>かっけえよ。乙<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:30:07.24 ID:DEQUW1M0<>
こんばんはー、レスに感謝です

ちょっと短いですが、投下


第22学区のとある広場


全力を掛けた一撃。

その確かな手応えを感じた五和は――


「良い術式である」


その表情を凍りつかせた。

目の前にいるのは、聖人崩しの術式を解除され、“ただの槍”となった海軍用船上槍を掴むアックア。


「私がただの聖人なら、ここでやられていたかもしれないな」

「だが惜しい」


片手で槍を掴んだまま、アックアがメイスを五和へ振るう。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:31:04.59 ID:DEQUW1M0<>
「五和さん!」


近くにいたフルチューニングが、彼女を庇おうと前に出る。

が、すでに彼女の唯一の武器(ゴーレム)は存在しない。


「――私は聖人であると同時に、『神の右席』でもあるのだよ!!」


ドッパァ!!という凄まじい音が響く。

華奢なフルチューニングの体は、盾になることすら出来ずに吹っ飛ばされた。

彼女だけではない。

周りで防御術式を組んだ天草式の全員を巻き込んで、辺り一帯がミサイル攻撃を受けたかのように爆砕する。


「ぐ……!」


粉塵の中、“頭部への一撃”を喰らったフルチューニングが、よろよろと立ち上がった。

その時。

辛うじて意識の残る彼女は、自らの異常を感じ取って戦慄する。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:32:18.94 ID:DEQUW1M0<>
ズキリ、ズキリ。


(……この感覚は……!?)

(あの時、オルソラ教会で感じた…)


徐々に彼女の目から光が消えるのと同時、それに比例して意識も消えていった。


「――魔術変換用チップの重大な損傷を確n」

「ぎ、あああああ!!!」


だが、すでにチップの存在を自覚していたフルチューニングは、ギリギリのところで自分(レイ)を取り戻す事に成功する。


(は、初めて会えましたね。あなたがもう一人の私(ミサカ)ですか)

(――自己修復完了まで残りおよそ3000秒)

(つまり50分も、レイは魔術を使えない?)

(――魔術使用モードを強制的に終了します)

(――通常モードでネットワーク再接続開始)

(チップが壊れたおかげで、ミサカネットワークに…?)

(――失敗。脳波の乱れが激しく、接続は拒否されました)


どこまでも運のない自分に、思わずフルチューニングは舌打ちする。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:33:25.37 ID:DEQUW1M0<>
(この“ノイズ”とやらの所為ですか…!)

(――チップをある程度修復することで、ネットワーク接続の補助が可能)

(――その為の所要時間はおよそ1000秒)

(それでは、全然間に合いませんね)

(つまり今のレイには、攻撃手段は皆無という事に……)


自分の状況を吟味して、絶望的になるフルチューニング。

そんな彼女に、アックアの最後通牒が突き付けられた。


「選択を与えよう。あの少年の右腕を差し出すか、ここで路上の染みとなるか」

「……何度、聞いても…同じ、ですよ」

「強がりはよせ。すでに貴様は、ゴーレムを新たに作り上げる事は出来ない」


そんな事は、他ならぬ自分が一番良く理解している。

それでも。

ここで諦めるという選択肢は、天草式の誰にとってもありえない。

その覚悟を感じ取ったアックアは、静かにメイスを掲げた。

この一撃で、フルチューニングの命を刈り取る為に。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:34:12.25 ID:DEQUW1M0<>
「死を望むなら、波間に消えると良いのである」

「そんなことを、許して堪るかってのよ!!」


満身創痍の建宮が、彼女を庇って立ちふさがる。

アックアが2人まとめて葬ろうとして――その手を止めた。

理由は殺気。

しかもこの場にいる人間のモノではない。

ここにいる天草式の誰よりも強く、明確なそれに、アックアは反応せざるを得なかった。


「……なるほど」


彼が浮かべるのは笑み。

強敵を前にした時の、獰猛な表情だ。


「命拾いしたのであるな。貴様らの主に感謝しろ」


その言葉の意味を、フルチューニングが理解するよりも速く。

バン!!という爆音を残して、アックアは姿を消していた。


「……どういう、ことよな…?」

「もしかして、“あの人”が?」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:35:29.90 ID:DEQUW1M0<>
激戦地から、200mほど離れた展望台で。

世界に20人といない聖人。そのうちの2人が、静寂の中対峙していた。


「私の『仲間』達が、世話になりましたね」


そう冷たく告げるのは、天草式十字凄教の元女教皇、神裂火織だ。

本来任務で忙殺されているはずの彼女がここにいるのは、とある“嘘つき”のおかげだった。

彼がシェリー・クロムウェルから受けた、頼みごとの1つ目。

――神裂火織の任務を、アックア戦に間に合うように調整してほしい。

その為には上層部を誤魔化す必要があったのだが、彼にとっては大した問題ではなかった。

神裂は心の中で彼に感謝しながら、目の前のアックアに刀を向ける。


「どうやら私は自分で考えていたよりも、ずっと幼稚な人間だったようです」

「彼らが蹴散らされる様子をまざまざと見せつけられたせいでしょうか」

「いけませんね、こんな魔法名を背負っているのに。『怒り』は七つの罪の一つだと、そう教えられたはずなのに」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:36:09.20 ID:DEQUW1M0<>
彼女の心に浮かぶのは、かつて共に歩んだ天草式の仲間の顔。

そして、誰よりも不器用で素直なとある少女の顔だった。


(あの子の流した涙を、無駄にする事は出来ません)

(ならば――)


「ぐだぐだと悩むのは止めましょう。彼女たちの決意を無駄にはしない。それだけで十分です」


あの少女が。天草式が。その身に抱く願いを、このまま踏みにじらせる訳にはいかない。

世界が破裂する音を道ずれに、2人の聖人が激突した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:37:08.95 ID:DEQUW1M0<>
呆然。

唖然。

あるいは愕然か。

フルチューニング以外の天草式は、そんな感情を持って聖人同士の戦いを見ていた。

すでに2人は大地を破壊し、第5階層へ降り立って激戦を繰り広げている。

今までの天草式の戦いなど、遊戯にもならないような死闘。


周りの反応に気がつかないフルチューニングは、戦いの行方を1人真剣に観察していた。


(これは…スケールが違いすぎます)

(ですが、見た限りでは女教皇が劣勢…)

(何か手助けをしなくては)


ガシャン。

彼女の思考を遮ったのは、悲しい響きを持つ音。

五和の海軍用船上槍が、力なく地面に落ちる音だ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:38:03.82 ID:DEQUW1M0<>
「何を…?」


慌てて槍を拾おうとするフルチューニングだが、音はそれだけでは無かった。

他にも何人もの仲間たちが、自分の武器を落としたり膝をついたりしている。

彼らの顔に浮かぶのは、圧倒的な無気力感。

フルチューニングは、初めて女教皇と交わした会話を思い出した。


――「建宮は教えたのですか…」

――「かつて私の力が足りなかったが故に、天草式の仲間を傷つけ、失わせてしまった事を」

――「私の所為で、かつて天草式は傷ついたのです」


そしてその時、自分が感じた懸念も。


――(つまり簡単に言えば、天草式のみんなは弱くて危ないから付いてくるなという意味では無いですか!)

――(一生懸命にあなたを迎えようとしているみんなの努力を、ちっとも期待してないという事ですか!)

――(…あの様子では、信用はしても信頼はしていないってところでしょうか)

――(実際に力が遠く及ばない以上、仕方ないのかもしれませんが…)

――(このままでは、いつまでも建宮さんたちとすれ違ったままです)


今の状況は、まさにそれではないか。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:39:41.16 ID:DEQUW1M0<>
あまりにも強い力は、時として残酷なほどに人を打ちのめす。

物理的な意味では無い。

力の差が、圧倒的な“無気力感”となって人の心を抉り取るのだ。


「しっかりしてください!」

「……レイ…」


あの建宮でさえ、力なく項垂れている。


(あなたのそんな表情を、仲間のそんな光景を、レイは絶対に見たくないのに!)


だから彼女は、建宮に掴みかかった。

もはや0に等しい力を振り絞り、彼を怒鳴りつけた。


「何をしているんですか!?」

「『今ここで戦えるのは俺達だけだ!!』、建宮さんはそう言いました!」

「……ああ。だが今は……」

「女教皇が来たから、もうレイたちは必要ないって言いたいのですか!」

「……」

「まだ死んでないレイたちが、いつ戦えなくなったのですか!」

「確かに女教皇の強さは、レイたちの比ではありません」

「ですが、それが何だというのですか!」


一拍置いて。

フルチューニングは渾身の叫びを放った。




「――あの時、レイを助けてくれたのは、女教皇ではありません!」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:40:37.62 ID:DEQUW1M0<>
「!!」

「魔術組織に売却されるはずのレイに手を差し伸べたのは、女教皇でしたか!?」

「『妹達』に射殺される寸前のレイを助けたのは、女教皇でしたか!?」

「アニェーゼ部隊の暴力からレイを守ったのは、女教皇でしたか!?」

「女王艦隊で死にかけたレイを命懸けで救ったのは、女教皇でしたか!?」

「……レイ」

「レイに名前と居場所をくれたのは、女教皇でしたか!?」

「全部全部、ここにいる天草式のみんながしてくれた事です…!」

「生きる意味すらないこの失敗した試作品に、これだけの事をしてくれたんですよ!」

「なのに、どうして女教皇と比較して恥じるんですか!」


ふいにガクリ、とフルチューニングから力が抜ける。

限界に達した体は、意思に反して動かない。


(こんな、ところで――!)

(レイは散々自らに失望しました)

(これ以上、挫折を味わいたくはないのに……)


聖人の声が届いたのは、その瞬間だった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/06(土) 00:41:25.39 ID:DEQUW1M0<>
今日はここまでです

予定が合えば明日の夜に続きを投下します

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/06(土) 00:46:57.90 ID:82IrPMAO<>超乙ゥァァァ!
アドレナリンが大量にでてきた<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/06(土) 20:12:17.54 ID:Czf8LVQo<>熱い展開だ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/06(土) 20:17:52.04 ID:XHV.QNwo<>待ってるぜー<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 00:56:17.18 ID:NnVkY/g0<>
こんばんはー、毎度遅くてすいません

では、投下


第22学区、第5階層


同じ聖人でありながら、アックアは神裂を圧倒した。

神裂は、『唯閃』と呼ばれる特別な術式によって聖人としての力を制御している。

一撃必殺の抜刀術という形でなければ、自分に宿った力が自らを破壊してしまうからだ。

だが、アックアは違う。

神裂以上の聖人としての力と、神の右席としての力を平然と両立して振るってくる。


(……聖人と、『神の右席』……)

(……その双方の力を共存させるための術式が、必ずどこかに存在する……ッ!!)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 00:57:30.39 ID:NnVkY/g0<>
その秘密を分析しようと試みる神裂だが、全てを粉砕するアックアのメイスが余裕を与えない。

ガッギィィ!!という強烈な一撃を刀で防御するも、体ごと吹き飛ばされそうになる。

それでもアックアは容赦しなかった。

すでに半分以上の力を失った神裂に対し、巨大なメイスを叩きつけようとして――

彼女の七天七刀がぶつかり、鍔迫り合いになる。


「その憤り……圧倒的に実力の違う一般人や天草式の人間を、聖人の戦いに巻き込むなと言いたいのか?」


アックアは容赦なく告げた。


「だがこれが戦場である。同じ条件、対等な環境で戦うスポーツとは違うのだ」

「それが嫌ならば、初めから『ここ』に立とうとするな」


完全に押し負けた神裂が、刀を引いて崩れ落ちそうになる。


「力なき者に戦わせる理由など、どこにもない」

「刃を交えるのは、真の兵隊だけであれば良いのである」


そう語るのは、神裂と同じ聖人。

彼女には、力持つ者アックアの姿が、どこか過去の自分と重なって見えた。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 00:58:21.50 ID:NnVkY/g0<>
(私はかつて、彼と同じように感じていました)

(私の力が足りなかったが故に、天草式の仲間を傷つけ、失わせてしまったと)

(私が守ってあげられなかったから、彼らが死んだのだと)

(なんて……)

(なんていう傲慢な考え方でしょう)

(あの時、あの子が教えてくれたではないですか……!)


――「それでも…いずれあなたを再び迎え入れる為に、みんなは戦っています」

――「あなたに相応しい場所である為に!…レイを救い、オルソラを助け、アニェーゼを守りました!」

――「そのみんなを、あなたは侮辱したんです!」


(なるほど確かに、これは彼らへの侮辱でした)

(彼らの今までの努力を、その力を)

(私は欠片も当てにしていなかった)

(あの子に怒られるのも、当然じゃないですか)


ならば。

自分が取るべき道は何か。

今の神裂には、その答えが分かっている。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 00:59:22.15 ID:NnVkY/g0<>
崩れ落ちたフルチューニングは。

いや、そこにいた全ての天草式の面々は。

聖人の声を確かに聞いた。


「――、……を」

(今のは……)


フルチューニングが、注意を促すまでも無い。


「力を貸してください、あなた達の力を!!」


彼らに届いたのは、他の何よりも待ちわびた1つの声。

絶対に届かないはずの神裂火織が、自分たちに協力を求める声だった。


「―――あ」




あの女教皇様が認めてくれた。

単なる重荷としての仲間ではなく、共に肩を並べる戦力と言う意味での仲間として。





それからの光景を、生涯フルチューニングは忘れなかった。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 01:00:37.48 ID:NnVkY/g0<>
彼女の眼に映るのは、


――武器を拾い上げる者


――雄叫びをあげて戦意を奮い立たせる者


――世界で最も明るい涙をこぼす者


――ただ静かに、幸福を噛み締める者


――再び自分の足で立ち上がる者


そんな光り輝く天草式の姿だ。


(この天草式の一員である事を、今日ほど誇りに思った事はありません)

(……救われぬ者に救いの手を)

(そこに助けたい人がいる以上、レイだって立ちあがらなくては!)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 01:02:03.73 ID:NnVkY/g0<>
崩れ落ちたはずのフルチューニングに、これまでにない力が満ちる。

その時。

ゆっくりと立ち上がろうとする彼女に、手を差し出す者がいた。


「……レイ。目を覚まさせてくれて、ありがとうなのよ」

「建宮さん……」

「お前さんにも、戦う理由はまだあるな?」


天草式教皇『代理』、建宮斎字だ。


「……はい、教皇代理」


何時かと同じ、フルチューニングの返事を耳にして。

建宮は仮の指導者として、最後の指示を出した。


「……行くぞ」


もう一度。


「行くぞ! 我ら天草式十字凄教のあるべき場所へ!!」


叫び声と共に、その場にいた全員が我先にと戦場へ突き進んだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 01:03:18.77 ID:NnVkY/g0<>
神裂を守るように現れた天草式を見て、アックアは険しい顔をする。


「弱者に救いを求めるだと……。それほどまでに、命が惜しいのであるか」


対し神裂は、笑みを浮かべて否定した。

かつて天草式に起きた悲劇を、再び見つめなおしながら。


仲間を『弱い』と断じ、背中を預ける事さえできなかった。

たった1人で戦う事で、敵に大きな隙を見せてしまった。


「この傲慢が、『守ってやる』という優越感が、全ての悲劇の元凶だったんですよ!!」

「だから私は克服します」


言葉を受けて、天草式が武器を構える。


「彼らを信じ、背中を預け、互いが互いの力を最大限に発揮する事で、私は私の天草式十字凄教を取り戻してみせます!!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 01:04:29.64 ID:NnVkY/g0<>
天草式など、只の背景と変わらない。

そう思ってメイスを振るうアックアに、神裂が拮抗してみせた。

他ならぬ天草式による、防護術式の加護を受けて。

それだけではない。

聖人以上の力を扱うアックアの、その秘密までも暴いたのだ。

すなわち、神の子と聖母の両者の特徴を持つ二重聖人。

その弱点は――。


「――『聖人崩し』です!!」


聖人以上の力を宿すアックアが、その力を体内で暴走されたらどうなるか。

その高い力が翻って彼に牙をむき、彼自身を起爆させるのは明らかだった。

それを聞いたフルチューニングが、しっかりとアックアを見据える。


(今ここに策は定まりました)

(残る問題は、どうやって『聖人崩し』をアックアに当てるか)

(――術式に参加できないレイが、やるしかありません)

(この手で、明日を掴むためにも)


バチリ。

以前とは比較にならないほど弱い電流。

かつて2億ボルトの電撃を撃ちだせた時と違って、今は5万ボルトが限界だ。


(ですが……今のレイには、これで十分です!)


魔術を使えない魔術師が、最後の攻撃を開始した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 01:05:45.11 ID:NnVkY/g0<>
今日はここでおしまいになります

間もなく物語もエンディングです

次は明日の夜に投下するよう頑張ります

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/07(日) 01:31:11.11 ID:9YXYmSUo<>乙!もうクライマックスなのね<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/07(日) 01:33:52.14 ID:Z0Parcoo<>乙やすみ〜<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/07(日) 13:56:25.08 ID:sGg.zkAO<>あちこちに不吉な単語が散らされてるのが怖い<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/11/07(日) 19:14:46.08 ID:Eo9Nh6DO<>>>806
どんな?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/07(日) 21:21:42.29 ID:UxvIvZco<>泣けるな。<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:32:57.15 ID:NnVkY/g0<>
こんばんはー、とりあえずクライマックス!な感じです

では、投下


第22学区、第5階層


弱点を見破られても、アックアから余裕が失われる事はなかった。

それほどまでの、絶対的な力の差。


(この中で私と打ち合う事が出来る人間は、神裂火織ただ1人である)


ならば、まず彼女を打ちのめしてしまえばそれでケリがつく。

そう判断したアックアが、狙いを絞りメイスを振りまわす。

だがそれを、再び神裂が七天七刀で受け止める。

ギリギリと両者の武器が火花を散らす中、この場において最も無力なはずの人間がアックアに近づいた。


(もはや動くことすらままならない弱者が、わざわざ死にに来たのであるか)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:33:57.85 ID:NnVkY/g0<>
攻撃などしなくても、勝手に衝撃波に巻き込まれて倒れそうな少女。

今彼女に注意を向ければ、その隙をついて目の前の聖人(ツワモノ)が一撃を叩きこもうとするだろう。


(この少女は、絶対にゴーレム術式を使えない)

(たかが意地でこの戦いに参加したところで、何の成果も残せはしないのである)


だからこそ、アックアはフルチューニングを相手にしなかった。

戦場における脅威は、誰がどう見ても彼女ではなく神裂火織の方だったから。


だが次の瞬間。

彼は驚愕する事になる。

歩くことすら覚束ない無力な魔術師が、一瞬でその姿を消して見せたからだ。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:34:59.68 ID:NnVkY/g0<>
(――チップの通信基盤の修復を、完了しました)

(――通常モードでネットワーク接続、成功)

(……結局、魔術を使う事は出来ませんでしたが、かえって良かったかもしれません)

(もう、迷う必要はないという事ですから)


自分の体内に電気を流し、筋肉を収縮させることによる一時的な身体能力強化。

それまでとは明らかに違う速度に、一瞬アックアはフルチューニングの姿を見失った。

神裂と刃をぶつけている以上、半分死んでいるかのようなフルチューニングに注意を向けてはいられなかった為でもある。


(あなたが司る属性は『水』)

(先ほど水道管を破壊してくれたおかげで、ずいぶんと“濡れています”ね?)


背後に回ったフルチューニングが、アックアの背中に手を置いて呟いた。


「レイだって、戦える」

「キサマ……そうか能力を!?」

「レイだって、みんなの力になれる!!」


直後、彼女の能力――5万ボルトの電撃が、アックアの体に迸った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:35:52.64 ID:NnVkY/g0<>
聖人はその体に凄まじい力を秘めているが、その肉体は人間である。

その中身は骨であり、血であり、皮であり、脂肪であり、そして筋肉であるという事に変わりはない。

濡れている人体が5万ボルトもの電撃を受けたのなら、普通は間違いなく絶命する。


(まあ、この化物じみた敵が相手では、気絶すら望めませんが)


「グ……」


それでもフルチューニングの流した電撃は、無警戒だったアックアの筋肉を強制的に硬直させた。

そして――そのチャンスを、神裂たちは見逃さない。


「槍を持つ者よ、今こそ『処刑』の儀の最後の鍵を!!」

「ッ!!」


その言葉を受けて、五和が海軍用船上槍を用意する。

これでチェックメイト――のはずだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:36:57.83 ID:NnVkY/g0<>
不意にアックアから、動けないはずの彼から力が漏れる。

いや、それは爆発すると言った方が適切かもしれなかった。


「……面白い」

「天草式十字凄教であるか。その名は我が胸に刻むに値するものとする!!」


天草式の準備が終わるよりも速く、アックアは止めを刺す為に飛び上がった。

如何なる術式を用いたのか、彼は自分の体を魔術でコントロールしている。

その跳躍の高さは、第4階層にまで達した。


(この手を、離す訳にはいかない……!)

(レイたちの明日を、諦めて堪るものですか!)


それでもフルチューニングは、しがみついた両手を決して離さない。

しかし、アックアの攻撃は止まらなかった。


「聖母の慈悲は厳罰を和らげる」

「ダメ!」

「時に、神に直訴するこの力。慈悲に包まれ天へと昇れ!!」


下にいる天草式の仲間が、この攻撃を喰らえばどうなるか。

未だ術式が完了してない以上、待っているのは死のみだ。

恐るべき速度で落下する彼の一撃が、全ての希望を消滅させてしまう。

あえてもう一度、同じ言葉を使うならば。


これでチェックメイト――のはずだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:38:10.92 ID:NnVkY/g0<>
そこに絶望は生じていない。

フルチューニングが恐る恐る目を開いた時、そこには“何も起きていなかった”のだ。

何故ならば、そこにいたツンツン頭の少年が。

フルチューニング以上にボロボロのはずの無能力者が。

かつて『妹達』をフルチューニングの代わりに救ってくれた少年が。

その右手で、アックアのメイスを正面から掴んでいたからだ。


今の彼の攻撃は、その全てが魔術によるものである。

フルチューニングの電撃により、筋肉は硬直しマヒしているのだから。

だからこそ。

上条の右手『幻想殺し』は、その全てを容赦なく無効化させる。


「貴様ら!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:39:19.20 ID:NnVkY/g0<>
腕力をフルチューニングの電撃が。

魔力を上条当麻の幻想殺しが。

アックアという強者の力を、2人が完全に抑え込んだ。


「二人とも!」


それだけではない。

傷ついて倒れ込みそうな2人の弱者を、聖人である神裂が支えに走る。

今ここに、全ての準備(カクゴ)は整った。

その場にいる仲間の気持ちを、五和が1つにまとめて光の一撃とする。


「任せておいてください……」

「――必ず当てます!!」


走る五和を前にして、アックアはそれでも雄叫びをあげる。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


『聖人崩し』


一撃を受けたアックアは湖へ吹き飛ばされ――轟音と共に起爆した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:40:30.84 ID:NnVkY/g0<>





だが、戦いはまだ終わらない。






<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:41:43.28 ID:NnVkY/g0<>
(……ここは……?)


フルチューニングが意識を取り戻した時、最初に感じたのは温かさだった。


(最後の一撃の直前、レイは吹き飛ばされたはずですが、一体どうなったのでしょう?)


「良かった、目を覚ましたか」

「!」


感じていた温かさの正体は、建宮の手だ。

彼が膝枕をして、自分の頭を優しく撫でている。


「やっぱり、お前さんは無茶をすると思ったのよな」

「こ、れぐらいは…平気です」

「心配させやがって」

「……ごめんなさい。あれ? 他の、みんなは……?」

「今連絡をする。お前さんは1人上の階層まで飛ばされたから、探すのに手間取ったのよ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:42:50.43 ID:NnVkY/g0<>
そう言って携帯電話を取り出した建宮だったが。


「悪いが、そうはいかない」


突然銃弾が飛んできて、携帯電話を破壊される。

しかも辺りを30人ほどの黒ずくめに囲まれた。

フルチューニングをそっと地面に寝かすと、建宮は警戒しながら尋ねる。


「何者だ、お前さん方は?」

「……分からないのか」


“敵”の言葉を聞いた建宮は、フランベルジェを握りしめ、冷たい口調で告げる。


「悪いが、そんな趣味の悪い衣装に身おぼえなんぞありゃあせんのよ」

「クック……そうか」


リーダーらしき男が前に出て、自分の覆面を取る。

その顔を見て、建宮は驚愕した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:45:21.90 ID:NnVkY/g0<>
「まさか、あの時港で戦った……」

「そうだ!!」


男の顔が、嗜虐的な色に染まる。


「そこで転がっている実験品の取引を、お前に妨害された人間だよ!」


まるで建宮を追い詰めるのが楽しくてしょうがない、といった感じで。


「あの方から聞いた通り、確かに天草式は今戦闘力を失っている」

「テメェ!」

「復讐だ! 我々が受けた屈辱を、この場で晴らすのだ!」


男の声を合図に、30人が武器を構える。

彼らが持つのは、ただのテロリストが使うような重火器だ。

魔術師として侵入すれば、イギリス清教を敵に回す事になる。

そのための隠ぺい工作だった。

かつて“科学結社”と取引をしていた彼らにとって、通常の兵器を用意するのは難しい事ではない。

そして圧倒的な武装を見せつけると、男はフルチューニングを指し示した。


「そこのクローンは生け捕りだ、分かっているな?」

「は!」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:47:03.97 ID:NnVkY/g0<>
その言葉を聞いて、フルチューニングは愕然とする。


(レイを回収するために、これだけの兵力を……?)

(あれだけの戦いの後で、建宮さんが動けるはず無いのに!)


だが、選択の余地はなかった。


(こんなところで、みんなと別れるなんて嫌です!)

(ですが、建宮さんを失うよりは、ここでレイが素直に付いて行った方が……)


チップは破壊され、魔術は使えない。

30人を相手に、能力で戦えるはずもない。

――だが、フルチューニングは1つ忘れていた。

チップを破壊されて、さきほどから彼女はミサカネットワークに接続できているという事を。

そしてネットワークに繋がっているという事は。


「は、良い度胸じゃねェか。この俺の前で、そンな3流のセリフを吐くなンてよォ?」


妹達の守護者である『最強』に、その叫びが届くという事だ。


「面白ェ。この地下市街に、愉快なオブジェにして飾ってやンよ」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/07(日) 23:48:13.97 ID:NnVkY/g0<>
今日はここで終了となります

一応明日の夜の投下を目指します

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 00:20:42.64 ID:HxbHcADO<>乙です。
最強キター
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 01:08:39.35 ID:lh.kOgAO<>超乙です
わふぅーーーーっ!一方さん来た!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 04:35:43.70 ID:z7tNhm2o<>最強の守護者キター!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 08:54:44.63 ID:iv1jskQo<>一方さん、まってたぜェェェェェ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 12:27:54.13 ID:Roza84so<>まあ、ご愁傷様でww<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 15:59:43.42 ID:2V1GPSI0<>人間の筋肉ってどれぐらいの電気で動かなくなるんだっけ?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/08(月) 21:26:00.65 ID:NEAn0Mco<>アックア「電撃で動かなくなった身体を魔術で動かしたら酷い筋肉痛である」<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:35:23.99 ID:F/7on5.0<>
こんばんはー、レスありがとうございます

では、投下


第22学区、第5階層


目まぐるしく変わる展開に、フルチューニングはまともに反応する事が出来なかった。


「どうして、あなたがここにいるのですか……?」


只一言、そう問いかけるのが精一杯。

それに対し『最強』は、


「うるせェな、大人しく寝てろ」


そう答えるだけ。

だが、それだけで十分だった。


(そうか、きっとあの子が……)

(感謝しなくてはいけませんね。あの末っ子と、その最強の保護者に)

(もう……大丈夫……)


絶対的な安堵の感覚を最後に、フルチューニングは意識を手放した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:36:25.27 ID:F/7on5.0<>
「我々の邪魔をする気か、貴様は!」


謎の闖入者に激昂した男が、持っていた銃を『最強』に向ける。

それでも。

自分の方を向いた銃口を見て、『最強』……一方通行は歪んだ笑みを見せた。


「そォだよ、最初からそうしてりゃ良かったンだ」

「だってのに、よりにもよってアイツに銃を向けちまうから、こういう事になる」


『最強』が胸に宿す一つの誓い。

たとえ何があったとしても、『妹達』を守る。

哀れな敵対者は、その生命線に汚い手で触れた。


「さァて、ショウタイムの時間だ」

「――喜べよ、ソコは特等席なンだぜ?」


始まったのは蹂躙。勝敗など、語るまでも無い。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:38:03.17 ID:F/7on5.0<>
“全て”を片付けた一方通行は、意識の無いフルチューニングに目を向けると、チッと舌打ちした。


「相当面倒なことになってやがるな。あンだけ言い聞かせたっていうのによォ」


そして携帯電話を取り出すと、最も信頼する医者へ連絡を取った。


「……ああ、準備は出来てンだろォな?」

『大丈夫。問題無いね』

「じゃあ今から運ぶ。芳川にも連絡を取れ」

『すでにここに来ているよ? 本人は自信が無いと言っているけどね?』

「知った事かよ。天井以外で、このガキに詳しいのはあいつしかいねェンだ」

『分かった分かった。僕も彼女も全力を尽くすよ』


通話を終えた一方通行に、今まで黙っていた建宮が声をかけた。


「お前さん、一体何者なのよ?」

「あ?……聞いてどォするンだ」

「そうよな、質問を間違った」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:39:28.19 ID:F/7on5.0<>
「……」

「お前さん、レイにとって何者だ?」

「……ハ!」


からかうような一方通行の笑い声に、建宮は怯まないで続けた。


「もちろん、助けてくれた事には礼を言う。本当にありがとうなのよ」

「だが男として、惚れた女を連れてく人間を、このまま放っておく訳にもいかんよなあ?」

「下らねェ」

「な……に?」

「何を有り得ねェ心配してやがる。今からこいつを入院先の病院へ戻すだけだ」

「……そうか」

「ついでに教えといてやる。テメェは俺が“何者”かって聞いたな?」


その一瞬。

建宮は、目の前の白い『最強』が漆黒に染まったかのような印象を受けた。


「――悪党だ。クソったれの悪党だよ」


それは、まだ一方通行の翼(ココロ)が。

闇色を纏っていた時のお話。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:41:01.84 ID:F/7on5.0<>
第7学区のとある病院


緊急処置を終えたフルチューニングは、培養器の中でぷかぷかと浮いていた。


※手術着を着ているから、お色気イベントは発生しないよ!


彼女が目を覚ました時には、すでにある程度の治療が済んだ後。

体力の回復にはしばらくかかるが、さしあたっての問題は回避されていた。

とは言え、彼女の脳にあるチップを摘出できた訳ではない。


(あのゲコ太先生が言うには、チップを外そうとすると脳ごと融解してしまうとか)

(摘出方法を開発するのに、時間がかかるのは当然のことです。しかし……)


代わりにフルチューニングに施された処置は。


(このセンスのない“チョーカー”はどうにかならないのですか!)


真っ白なチョーカーを、首に付けるというものだった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:42:12.46 ID:F/7on5.0<>
カエル顔の医者と芳川が共同で発明したこのチョーカーは、チップの働きを阻害する効果を持つ。

これを付けている限り、フルチューニングはノイズに悩まされる事はない。

しかも。


(まあ、“スイッチ”を切り替える事で『魔術の行使』と『ミサカネットワーク接続』を選べるというのは嬉しいですけど)


チョーカーのスイッチを切れば、チップは動き魔術を扱う事が出来る。――もちろんノイズを覚悟しなければならないが。

芳川という研究者が言うには、如何なる方法で天井がフルチューニングの能力を強化したのかは不明らしい。

あの女王艦隊で失ったパーツを、復元するのは絶望的という意味だ。

それはつまり、彼女が二度とレベル4の発電能力を取り戻せないという意味でもある。


(ですが、レイは諦めません)

(考えてみれば、オリジナルは部品無しにレベル5の力を扱っているのですから)

(重要なのは、『自分だけの現実』の強化)

(いずれ魔術を使えなくなる以上、天草式の“魔術師”として戦う為には能力が必要です)


魔術を使える超能力者から、超能力を使う魔術師へ。

フルチューニングは、真っ直ぐに明日を見つめていた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/09(火) 00:43:01.94 ID:F8XZTcAO<>チッ 無いのかっ…ないのかorz<> 22巻ネタバレ注意
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:43:47.89 ID:F/7on5.0<>
これから先、遠くない未来で。

フルチューニングは『素養格付(パラメータリスト)』と呼ばれる存在を知る。

それは彼女の希望を確信へと変えさせた。

妹達のオリジナルである御坂美琴は、かつてそのデータに基づいてDNAマップを狙われた。

研究者たちは、彼女が将来レベル5に到達することが分かっていたので、あらかじめ小さな時にDNAマップを提供させたのだ。

と言う事は。

裏を返せば、能力の強さはDNAとは“無関係”という事を意味している。

DNAマップを提供する“前”に、彼女がレベル5になるという結果が分かっていたのだから。

つまりDNA以外の“何か”が、あらかじめ能力を決めているのだ。

ならば何故『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム) 』は。

クローン体から超能力者を発生させることは不可能だと予言したのか。

その秘密を、フルチューニング“達”は学園都市を遠く離れた異国の地において知ることになる。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:44:58.55 ID:F/7on5.0<>
そんなことを知る由も無いフルチューニングは、培養器の中でウトウトしていたが。


「お邪魔しますにゃー」

「?」


彼女の病室に、見慣れないサングラスの男が入ってきた。


「あなたは誰ですか?」

「おっと。そういやあ、こうして会話するのは初めてだったもんなあ」

「は?」

「んじゃあ、改めまして。『必要悪の教会』所属、土御門元春っていうんだぜい」

「……あなたも魔術師なのですか」

「そうそう。こう見えて神裂ねーちんやシェリーとは同僚になるんだにゃー」

「それはスゴいですね……!」

「おおう、新鮮な反応。で、だ。ここに来たのは“種明かし”をするためで」

「種明かし?」

「そう。今日起きた出来事の、解説の時間だぜい」


そう言って、フルチューニングの“先達”である嘘つきは楽しそうにニヤリと笑った。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/09(火) 00:45:37.16 ID:F/7on5.0<>
今日はこれにてお開きです

多分後1,2回でこの話はおしまいになります

次は水曜日の夜の予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/09(火) 01:00:36.00 ID:KscOuh6o<>乙だにゃー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/09(火) 01:23:22.33 ID:F8XZTcAO<>超乙です
最終回が近づいてきたか…<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/11/09(火) 09:48:57.96 ID:8vvwxik0<>ここにきて土御門とはwwktk

確かに『素養格付』って何のデータを元にしてるんだろう?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/09(火) 15:10:23.08 ID:Z2rJJOUo<>スレ的にもいい頃合いだな。
誰もが幸せなハッピーエンドかデッドエンドか……<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/10(水) 12:11:09.03 ID:P6nRoN.0<>言われてみればこのスレも終盤か
良スレは終わるのが早いぜ<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:09:01.16 ID:oG4eSp.0<>
こんばんはー、いつもレス感謝です

では、投下


第7学区のとある病院


「……解説とは?」


土御門の胡散臭そうな笑みを前にしたフルチューニングが、訝しげに呟く。

その反応を一向に気にしないで、彼は得意げに胸を張った。


「お前さんのお師匠サマから頼まれた、ひっじょーに面倒な仕事の話ぜよ」


ここで愚痴らないと、正直やってらんないにゃーと彼は嘯く。


「依頼で忙しいはずの神裂ねーちんが、どうして都合良くアックア戦に間に合ったと思う?」

「もしかして、あなたが女教皇のスケジュールを調整してくれたのですか!」

「うーん、素直に感心してくれるとオレも解説のし甲斐があるってモンだぜい」

「でもまあ、調整って言ってもちょろっと上の連中を誤魔化す程度だから、大したことないんだけどにゃー」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:09:48.82 ID:oG4eSp.0<>
そう土御門は言うが、自分が想像するより遥かに難しい綱渡りだったのだろう、とフルチューニングは直感した。

しかもそれをあのシェリーが頼んでいたというのだから、驚きだ。


「むしろ本当に骨が折れたのは、別の頼みごとの方ぜよ」

「他にも何か?」


だがここで、フルチューニングはさらに驚く事になる。


「お前さんの扱ったゴーレム術式に、違和感は無かったか?」

「違和感……」


彼女が思い出したのは、アックアとの二度目の戦いの時の自分のセリフ。


――「このままの戦闘を続ければ、もって後15分が限界でしょうか。“何故か術式の調子は良い”のですが…」


「まさか、あのゴーレムの強さは……」

「気づいてくれて嬉しいぜい」

「最初に言われた時は本気で焦ったんだからにゃー。“第22学区全体に、『地属性』の強化術式を施せ”なんて」

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:11:13.92 ID:oG4eSp.0<>
「で、ですが、一体どうやって!? 近くに魔法陣など存在しませんでしたよ」

「ふっふっふ、秘密はこれぜよ」


そう言って土御門が取りだしたのは、折り紙でできた鶴だった。


「オレの専門は陰陽、もっと言うと風水だ」

「こいつを式神に見立てて、風水的に重要なポイントに設置することで一時的な“守護”の効果を得られる」

「ですが、レイのゴーレム術式はカバラです。全くの別モノでは?」

「いやいや。五大元素を表す記号、各属性の振り分け、陣の張り方に至るまで、両者には共通点が多いんだぜい」

「?」

「あー、……まあそっちはいいか。要はこいつが魔法陣代わりになると理解してもらえれば十分だにゃー」

「分かりました」


アックアがあの時、疑問を感じたのは当然だった。


――(何故だ…明らかに以前よりも強度が増している…?)

――(まるで潤沢な“地”の加護を受けているみたいではないか)


そもそも“土地の力を利用する”事において、風水の右に出るものは存在しない。

かつて天才風水師と謳われた土御門が守護術式を配置した以上、その効果は十分に発揮される。

見えないところで色々な人から支えられていた事に、フルチューニングは深く感謝した。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:12:22.86 ID:oG4eSp.0<>
「ただ第22学区全体をカバーする為に、ざっと1万近い“式神”を用意するはめになったのは辛かったぜよ」

「……本当にありがとうございました。そして師匠が無理言ってすいません」


それは流石に愚痴りたくもなりますね、とフルチューニングは同情しながら頭を下げる。


「まあ、式神の配置だけだから魔力を練る必要は無かったし、シェリーからはちゃんと報酬を受け取っているんだけどにゃー」

「お金ですか?」

「そーんな無粋なものじゃあ無いぜい」

「では、何を?」

「ふふん、それは言えないにゃー」

「むー」


その報酬が、シェリーお手製の『堕天使エロメイドセット』だとは想像できないフルチューニングであった。

ましてやあの女教皇がそれを着て大騒動を引き起こし、その事を切っ掛けに天草式でメイド戦争が起こることなど知る由も無い。


「お楽しみは後でねーちんに渡すとして……そろそろ本題に移っても良いかにゃ?」

「頭を下げた身で言うのもなんですが、本題があるなら最初から言ってほしいです」

「いやあ、これ聞くとテンションガタ落ち間違いなしだからな」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:13:22.22 ID:oG4eSp.0<>
土御門の口調が少し変わるのと同時に、病室に流れる空気が一変した。

培養器越しに寒気を感じたフルチューニングが、思わず身震いするほどだ。


「今回の事件、これで全て解決って訳にはいかないのは分かるか?」

「土、御門……さん?」

「オレ自身もそうだが、“能力者に魔術は使えない”って言うのは常識だ」

「! あなたも能力者なのですか……!?」

「そうだ。残念ながら能力ランクはレベル0だがな」

「……」

「話を戻そう。レイ、お前はその常識を覆した」


土御門の言葉には、一切の感情が込められていない。

フルチューニングよりもよほど機械的な喋り方で、淡々と事実を告げる。


「今まで魔術と科学を隔ててきた『壁』を、あっさりと破壊してしまったんだ」

「この結果を知った魔術サイド……特にローマ正教が、これを黙って見過ごすと思うか?」


言われるまでも無く、とてもそうは思えなかった。
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:14:23.50 ID:oG4eSp.0<>
自分たちの立場を守るためにオルソラを狙い、アニェーゼを廃人にしようとし、上条当麻を殺そうとしたローマ正教が。

『神の右席』と呼ばれる最大戦力を撃退されたローマ正教が。

このまま引き下がることなど、考えられるだろうか。


「分かっているようだな。ハッキリ言うが、あまり時間は無いぞ」

「……はい」

「恐らくこのままでは、お前も、お前を匿う天草式十字凄教も、全て殲滅されるだろう」

「!?」

「それほどまでに“魔術を使える能力者”と言うのは異端なんだ」

「ましてや、『神の右席』を倒すほどの力を持つとなれば尚の事な」


これは一体、何の冗談だろう。

仲間の助け無しには、誰1人救えないようなこの無力な試作品が。


「連中が何よりも危惧するのは、“お前のような魔術師の量産化”だ」

「そんな存在を科学サイドが兵士として投入したら、一気に魔術サイドは追い込まれてしまう」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:15:07.33 ID:oG4eSp.0<>
笑うしかない。

自分が言った言葉だ。

――すでに『妹達』は世界中に拡散されました。

今の所、魔術を使うクローンは自分しかいない。

だが、もしも自分の頭にあるチップが量産されたら。

『妹達の魔術師化計画』が行われたら。


「そうなる前に、何としても主の敵を殺す必要がある――と連中は判断を下したらしい」

「神の右席最後の1人、右方のフィアンマはすでに指示を出した」

「神を冒涜した存在だというレッテルが張られた以上、お前は世界中から狙われる」


世界中が、敵。

こんな何時死ぬかも分からない出来損ないを相手に、随分と大事じゃないかとフルチューニングは思う。


(レイの人生は皮肉で出来ているのでしょうね)

(これまでの戦いで、散々無力感を味わったというのに)

(今度は力を手に入れようとすればするほど狙われる)

(届かぬ明日どころか、“届いてはならない”明日とは)

(所詮、偶然生き長らえた実験品の末路はこんなものなのでしょう)
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:15:59.81 ID:oG4eSp.0<>
そう、フルチューニングは心で理解して。


「……泣いているのか?」

「そういう時は……ッ……気を利かせて、気づかないふりを……するものでは?」


だけど流れる涙は止まらなかった。


「そんなクソったれな言い分、ちっとも納得できません!」

「このレイが量産されたら恐ろしい? 知った事か!」

「能力者は魔術を使えない? だからなんです!?」

「そんな下らない理由で殺されるなんて、レイは絶対嫌です!」






そう息を荒げて叫ぶフルチューニングに、土御門は――静かに銃を向けた。




<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:17:08.83 ID:oG4eSp.0<>
「悪いが、諦めてくれ」

「なにを……」

「お前と言う“戦争の種”を、このまま放置するわけにはいかない」

「……それが、ここに来た本当の理由ですか。確かにテンションガタ落ちです」

「ついでに言おう。治療中の天草式、それに……『一方通行』は来ない」

「!」

「何の因果か、アイツはオレと同じ組織に所属していてな、隙をつかせてもらった。今は少々眠っているだろう」

「……絶体絶命、ですか」

「ああ。悪いがオレにも守るべきものがある」


土御門の声に、揺れは無い。


「尤も、少々気が重いがな。この後天草式、シェリー、一方通行、上やんたちの追及を誤魔化さないといけない」

「……銃など使わず、事故死に見せかければいいじゃないですか」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:20:13.14 ID:oG4eSp.0<>
「このタイミングでの事故死や自然死では、ローマ正教は納得しないだろう。神の敵は“処刑”されなければならないからな」

「それにどうせ遺体を向こうへ送る以上、みんなはお前が殺されたことに気づく」

「だから事故死にする意味が無い。むしろ替え玉を疑われても困る」

「なるほど? それであなたは誰を犯人に仕立て上げるつもりなのでしょう?」

「……この銃は天井亜雄の物だ」


それが答えだった。

恐らく、彼はすでに全ての工作を終えているのだろう。

行方不明の製造責任者が実験品を持ち出して、何らかの理由で殺したというストーリーが完成しているに違いない。

そして天草式、シェリー、一方通行の誰にしたところで、復讐相手を見つける事は出来ない。

用意周到な彼の事だから、天井の死体も準備しているかもしれなかった。

自棄になって自殺した研究者とその実験品。ローマ正教は敵の死体を確認してご満悦。

それでこの馬鹿げたお話は完結。


「じゃあ、お別れだ」



――僅かに響く銃声は、この夜1つの物語を終わらせた。

<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/11(木) 01:21:13.91 ID:oG4eSp.0<>
今日はこの辺で終了です

次回がラストになります

金曜日の夜に投下予定です

では、おやすみなさい
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/11(木) 01:23:21.97 ID:MnxFbPIo<>つっちー・・・<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/11(木) 01:31:53.55 ID:ay4HSrs0<>>>1乙!
彼がウソつきである事を切に願う<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/11(木) 01:43:29.97 ID:IEucSJgo<>お前ら、とりあえず落ち着いて>>507あたりを見るんだ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/11(木) 08:59:40.01 ID:AOEumnI0<>>>857
そりゃ>>836とか見てるから、ここでレイが殺されると思うヤツは居ないだろうけどさあ……
この話でも前の話でも、1は結構落とすときは落とすから怖いぜ


<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/11(木) 13:57:24.83 ID:9JSkUDso<>土御門ならなんとかしてくれる。俺は信じてるぜ。>>1乙<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2010/11/12(金) 11:15:51.06 ID:2qJolXw0<>魅惑の裏切りタイムを超期待します!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/12(金) 18:23:16.98 ID://aV/fUo<>いよいよ今夜がフィナーレか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:21:31.48 ID:qHNKl7k0<>
こんばんはー、遅くなりましたが最後の投下です

では、さっそく


第7学区、窓の無いビル


いつもと同じはずの、闇に包まれたその空間。

『人間』アレイスターは、予想外の事態が発生したのを確認した。

普段彼は『滞空回線』を使って、学園都市のあらゆる情報を入手している。

だが今は、後方のアックアが起こした大爆発によりそのネットワークは事実上損壊し、復旧には数時間が必要だ。

そのイレギュラーな状況下においても、彼が知り得た情報とは。


(検体番号00000号の生命反応が消失した……?)

(チップとの交信が途絶えたのは、医者である“彼”が何らかの対策を講じた為だと思っていたが)

(……ここにきて、心臓の拍動までも停止したとはどういうことだ?)


自分のプランに組み込んだフルチューニングが、突然死んだらしいという事だった。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:22:04.85 ID:qHNKl7k0<>
(あれの心臓には、超小型の拍動測定器が取り付けてある)

(そこからの受信データを見る限り、検体番号00000号は死亡したとしか考えられん)

(……衛星情報によって、あの病院近くに土御門がいたのを確認した。となると、彼の仕業か?)


そこまで考えが到達すると、アレイスターは楽しそうな笑みを口元に浮かべた。


(ローマ正教の敵となったあれを殺すことで、戦争を回避しようとしたのか)

(それとも……?)


当然アレイスターは、土御門がフルチューニングを殺した“ふり”をした可能性を考慮に入れた。

そしてその場合、きっと彼女を学園都市から脱出させてしまうだろうということも。

それを防ぐために、追手を差し向けるべきか。


(いや、そうはいくまい)


ここで問題なのは、土御門が本当にフルチューニングを殺していた場合だ。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:22:49.68 ID:qHNKl7k0<>
もしもここで、学園都市の追跡部隊が彼を追い詰めればどうなるか。

目的通りローマ正教に遺体を届けられないと分かった時点で、彼はフルチューニング殺害の罪を追跡部隊に擦り付けようとするに違いない。

何故ならば、彼はスパイとしてイギリス清教に所属し続けなくてはならないからだ。

そうなるとイギリス清教は当然、面子の為にも所属魔術師の言葉を信じるだろう。

そして天草式十字凄教、つまりはイギリス清教の加護の下にある少女を、学園都市の部隊が殺したとなれば。

又は土御門というイギリス清教の魔術師を殺した場合でも。

学園都市はローマ正教、ロシア成教だけでなく、唯一の味方だったイギリス清教をも敵に回す事になる。

それに学園都市が“神の敵”を殺したからといって、ローマ正教の態度が軟化する事は無いだろう。

むしろ重要な機密を殺して奪ったかもしれない、などと疑心暗鬼を深めるだけだ。


(ロシアが不穏な動きを見せている現段階で、あの最大主教に“弱み”を見せるのは賢いやり方とは言えないな)


リスクとリターンの観点から見ても、学園都市の人間を派遣する訳にはいかない。

だがアレイスターには、現状学園都市の人間以外の手駒はないのだ。


(ふむ。問題は彼が――いざという時殺すことを躊躇わない人種だという事だ)

(どちらの選択もあり得る以上、ここは確定した情報が来るまで動けんな)

(こういう時、単純な善人あるいは悪人ではない人間は判断が難しい)

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:23:54.97 ID:qHNKl7k0<>
『滞空回線』が封じられている以上、アレイスターはしばらく事実を確認できない。

そして、情報も無しにあの土御門の行動を完璧に予測出来ると思うほど、彼は人間を侮っていなかった。


(仕方あるまい。こうなった以上、どちらにしてもあれを『プラン』から外す必要がある)

(……“代替品”の製造を、少しばかり急がせるか)

(ローマ正教や土御門は、あの試作品こそが重要なファクターだと勘違いしているようだが……)

(実に愚かしい)

(――真に重要なのはあれ自身ではなく、その戦闘経験と『………』だというのに)


さらに言うなら。

アレイスターが静観を決めたのは、自分の計画はこの程度では微塵も揺らがないという確信があったからでもある。


(すでに最低限必要なデータは収集されている。完成まで2週間とかからん)

(フフ……第三次製造計画(サードシーズン)を、これより始めるとしよう)

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:24:46.72 ID:qHNKl7k0<>
学園都市の外、とある隠れ家


学園都市近郊にある、土御門のセーフハウスの1つ。

安全を確保するために存在する場所で、彼は追い詰められていた。


「……」

「……あのー」

「死んでください」

「ちょ、話を聞いて欲しいにゃー!」

「くたばってください」

「だからー!」

「速やかに血反吐をぶちまけて地獄へ落ちてください」

「段々辛辣になってる気がするぜよ!?」


未だに自分の意思で体を動かす事の出来ないフルチューニングが、目を覚ましたと同時に暴言を浴びせてきたからだ。

言うまでも無い事だが、彼女は生きている。

培養器の中で今にも暴れ出しそうなほどには元気だ。


(……人の涙を返せ嘘つき!)

(理由を聞いても納得できませんよ!)
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:25:27.79 ID:qHNKl7k0<>
あの時土御門が発砲したのは、カエル顔の医者が開発した特殊な麻酔弾。

人体を仮死状態に陥らせるその弾丸は、10分間ほどフルチューニングの心臓を停止させた。

その僅かな時間で、カエル顔の医者は彼女の心臓から拍動測定器を摘出する事に成功する。

そして縫合した後、療養のため培養器ごと学園都市から土御門が運び出した。

土御門がああも凝った演技をした理由は、当然アレイスターを警戒してのことだ。

アックアの所為で『滞空回線』が不調だという情報は仕入れていたが、それがどの程度の損害なのか彼には知る術がない。

いや、正確には一つだけあったのだがそれは使えなかった。

だからアレイスターが追手を使えないようにするには、こうするしか方法は無かったのだ。

……とは何度も説明したのだが。


「だからって、遠慮なく女性の胸を撃つってどうなんですか!」

「心停止を誘発するためにはしょうがなかったって言ってるだろう!」

「ぐぬぬ……」

「それに万が一空撮されていた場合、“銃で撃たれて心停止した”事が重要になる」

「単に麻酔で昏睡しましたじゃ、アレイスターを誤魔化せないだろうが」


げんなりした感じで、土御門が3度目の説明をする。

とその時、遠慮なしにセーフハウスのドアが開けられた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:26:08.26 ID:qHNKl7k0<>
「まァだこいつはグダグダ言ってンのかよ?」

「一方通行……そうですよね、あなたも一枚噛んでなきゃおかしいですよね」


入ってきたのは、『妹達』の守護者である一方通行だ。


「人聞きが悪ィな。大体この俺がシスコンサングラス如きに不覚をとる訳ねェだろ」

「……どーいう意味ぜよ?」

「言葉通りに決まってンだろうが。つーかあンな行き当たりばったりな作戦を聞かせるンじゃねェよ」


何故一方通行が今ここにいるのか。

土御門は、彼が“お掃除”を終えた直後に、フルチューニングを学園都市から脱出させるつもりだと伝えた。

アレイスターの目である『滞空回線』がダメージを受けた、今しかチャンスは無いと言って。

ただしその作戦は、アレイスターの状況が不確定なまま行われる事になる。

そこまで聞いた一方通行は、フルチューニングのために土御門に協力することにした。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:26:47.52 ID:qHNKl7k0<>
先ほど述べたとおり、土御門たちには『滞空回線』の情報を知る術が1つだけあった。

それが『ピンセット』――超微粒物体干渉用吸着式マニピュレータだ。

この装置で『滞空回線』を直接掴み取れば、アレイスターの動向をある程度把握できる。

だがその肝心の『滞空回線』がエラーを起こしていたので、互いに情報を手に入れる事が出来なかった。

故に土御門は、それを使う事は早々に諦めていたのだが。

一方通行は、風流操作で片っぱしからナノデバイスをかき集めて、それを逐一観察し被害の程度を逆算する事にしたのだ。

それはまさに、学園都市最高の演算力を持つ彼だからこそ出来る、想定外の裏ワザだった。

彼は『滞空回線』が数時間は使い物にならないと判断した為、学園都市を出てここにきたのである。


「じゃあノイズの治療を始めンぞ。……チップを阻害するチョーカーがある以上、これを最後にしてェもンだな」

「その為にわざわざ来てくれたのですか」

「……テメェを絶対助けろって、あのクソガキが喧しいからなァ」

「もしかして彼は照れ屋さんなのでしょうか?」

「間違いなく照れ屋さんだにゃー。今時ツンデレは流行らないぜい?」

「……脳内電流をグシャグシャにされたくねェなら、その馬鹿な口を閉じておけよ」

「怖!」

「ついでに言っておくが、テメェは口を閉じてても死刑決定だ土御門」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:27:47.23 ID:qHNKl7k0<>
それから1時間ほどして。

2度目の、そして恐らくは最後の治療を終えた一方通行は、土御門と一緒に学園都市へ戻った。

別れ際でも、特別な会話は無いまま。

だが、それこそが何よりも彼の気持ちを表していた。


(彼は信じてくれたのですね、これでさようならではない。また会える日が来ると)

(このレイにも、明日が来るのだと……!)

(ならば、世界中が敵に回っても恐れる事はありません)


それを思うと、あの時感じた絶望感が嘘のように吹き飛ぶ。


(そういえば結局、土御門さんはどうしてレイを助けたのでしょう)

(“次”に会った時、それも聞いてみる事にしますか)


部屋を見回すと、土御門が準備した偽造パスポートやら個人IDやらが目に付いた。

彼が言うには、ここで一旦体調を回復させた後、これらを使って別人としてイギリスへ戻れと言う話だ。

天草式のみんなやシェリーには、彼が後で事情を説明するらしい。

フルチューニングが科学者と一緒に行方不明となれば、いかにローマ正教といえども天草式やイギリス清教と強引に戦おうとは思わない。

その誤魔化しがいつまで通るのかは分からないが、要は『右方のフィアンマ』を倒すまで逃げ切ればそれでいいとも彼は言っていた。

もう1つの懸念であるアレイスター(フルチューニングは、ここで初めてチップを造ったのが統括理事長だと知った)に関しては。

学園都市を離れた以上その影響力は激減するし、一度プランを離れた人間に執着するとは思えない、との事だ。


(ローマ正教の所為で事態がやばくなったと思ったら、知らぬ間に助けてもらいました)

(……一体レイは幸運なのか、それとも不運なのか)

(決まってますよね)


そしてフルチューニングは、ゆっくりと意識を手放した。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:28:39.37 ID:qHNKl7k0<>
――嬉しい事と言うのは、続くらしい。


30分後。

フルチューニングが目を覚ました時、驚くべき事に、一番会いたかった人がそこにいた。


「建宮さん!」

「あ、起こしてしまったか……?」


体のあちこちが包帯で巻かれているものの、それでも建宮斎字は普段と変わらない。

ヘラリ、といつもの柔らかな笑顔をフルチューニングに向けている。


「起きたのはたまたまです。それより、どうしてここに?」

「『必要悪の教会』の陰陽師から話を聞いてな。一通り治療を終えたし、急いで駆け付けたのよ」

「……?」


事情を呑み込めないフルチューニングに、建宮は静かに報告した。


「俺を含む天草式は、明日にはイギリスへ帰る事になった」

「!」

「どうやらフランスとイギリスが、戦争を起こしそうなほど関係を悪化させているらしいのよな」

「思ったよりも、早いですね……」

「全くなあ。いくら女教皇がお戻りになられたとはいえ、これでは休む暇も無いってもんよ」

「……建宮さん」

「ん?」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:31:10.82 ID:qHNKl7k0<>
それまで目を伏せていたフルチューニングが、大声でこう言った。


「が、頑張れ!」


全く想像していなかった激励に、建宮は目を白黒させた。


「……レイ……」

「みんなにもそう伝えてください。レイはしばらく一緒にいけませんが、必ず追いつきますって」

「それまで、絶対に負けないで頑張れって!」

「これは参った―――ああ、しっかりと伝えておく」


何かが胸に来たのか、建宮は言葉を詰まらせながら頷いた。

そして部屋をグルリと見回すと、ポツリと言葉を漏らす。


「……そう言えば、ローマ正教を欺くために、今後別人に成り済ますって話よな?」

「はい。ご丁寧にウィッグやカラーコンタクトまで用意してくれたみたいです」


こういうのもイメチェンですかね?とフルチューニングは少し楽しそうに笑った。


「じゃあ、今のお前さんの姿はこれでしばらく見おさめってことになるな?」

「? そうですね」

(やっぱり、今のレイに言っておくべきよな)

「……建宮さん? さっきから様子が……」


フルチューニングが、心配そうに建宮を見つめる。

それを建宮はしっかりと見つめ返して。





「ハッキリ言う。お前さんが好きだ」
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 01:32:03.64 ID:rmSr786o<>エンダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:32:54.96 ID:qHNKl7k0<>その一瞬、世界が動きを止めた。

再び動かしたのは、フルチューニングの言葉。


「……はい、もちろんレイも建宮さんが大好きですよ?」

「あー、ううん、そうじゃないのよ……」

「?」

「悪い、ちょいと気が急いてたな。考えてみれば当然の事か」


何やら1人で反省して自己完結した建宮が、再びフルチューニングの目を見ながらこう言った。


「……レイ。また相応しい時がきたら、もう一度言う。それまで待ってて欲しい」

「とりあえず……レイは待っていれば良いのですね?」

「ああ。コイツはその約束の証だ」


そう言うと、建宮は“小さな銀色の輪”を取り出した。


「お前さんのチョーカーにでも通せば、多少はおしゃれなアクセサリーに見えるのよな」

「良いんですか……?」

「もちろん。ちゃんと着けてくれるととっても嬉しいのよ」


ちなみにセーフハウスの外では。

(えー!? ここまできてそれはないでしょう建宮さん!)

(でもレイちゃんのあの態度ではしょうがないかと……)

(馬鹿め。タイミングを見極めないとこうなると、しっかり言っておいたのに)

(ま、まだレイが誰かと……こ、こ、恋人になるとか早いっすよ!)

(馬鹿ね、年齢なんて関係ないの。女の子は生まれた時から女の子なんだから)

(対馬、それって深いんだか浅いんだか良く分からないよ)


お馴染みの天草式メンバーが、楽しそうに見届けていた。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>saga<>2010/11/13(土) 01:57:02.07 ID:qHNKl7k0<>
気配に気づいた建宮が、赤い顔をして天草式を追いかけたりしてるうちに時間は瞬く間に過ぎて。

明るい雰囲気のまま、かけがえのない仲間たちはイギリスへ帰る事になった。

フルチューニングが“レイ”になっておよそ2ヶ月。

次に彼らと会うとき、彼女はもうその名前では呼ばれない。

それでも、きっと。

フルチューニングは天草式のレイとして、彼らに笑顔でただいまと言うのだ。

そして彼らも、天草式のレイにお帰りなさいと言ってくれる。


(きっとその日は、とても素敵な日になります)


そんな明日を約束して、仲間との楽しい時間は終了した。
<> トリ忘れてました
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/13(土) 01:58:21.55 ID:qHNKl7k0<>
(それにしても……)

(やっぱりレイは嘘をつくのが上手いですね)

(ふふふ)

(――「また相応しい時がきたら、もう一度言う。それまで待ってて欲しい」……ですか)

(気づかないふりをした甲斐があるというモノです)

(こんなに嬉しくて、特別な“好き”は他にありません)

(それを一度で終わらせるのは、少しもったいないですからね)


そんな事を思いながら、チョーカーで輝くプレゼントを指でチョン、とつついた。


(次にくれる時は、指にはめるリングをお願いします)

(じゃなきゃレイは、頷きませんよ)

(……まあ)

(レイは“建宮さんが大好き”ですから、自信は無いのですが)



とあるミサカと天草式十字凄教 終わり
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/13(土) 01:59:27.56 ID:qHNKl7k0<>
そして、物語は交差する――。



「初めまして。あなたがが噂の試作品クローン?」

「あなたたちは……?」



「今、世界は大きく揺れ動いてる。お前も来い……ロシアに」

「天草式は、一体どうなったのですか!?」



「ふふん。これぐらい超余裕ですよ」

「うう……レイは負けません!」



アレイスターの手を逃れたフルチューニングに接触したのは、イレギュラーな5人組。

彼らに誘われるまま、フルチューニングは再び戦場へ踏み出す事になる。




「さあ、始めましょう」

「まずは――私とレイちゃんの能力を取り戻すところから、ね」
<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/13(土) 02:00:23.77 ID:qHNKl7k0<>
これでとあるミサカと天草式十字凄教は一旦おしまいとなります

今まで見てくれた方、本当にありがとうございました

とりわけ、レスをしてくれた方には本当に深い感謝でいっぱいです



ちなみに、また別の話を現在考え中です

今度は主軸を科学へ戻して、というより科学者に焦点を当てたものを予定しています

やっぱりシリアス系、それもダークヒーローモノになりますが、またそちらも見てくれると嬉しいです

では、またいつの日か


『とある魔術と木原数多』


でお会いできる日を楽しみにしています


最後がグタグダですいませんでした
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 02:04:45.48 ID:2arqTZU0<>ホントに乙なんだよ.
心理掌握かと思ってたけど、次は木原くンか…

次の話は>>1の前作と前々作とリンクするのかな?
無理してリンクしなくていいと思うケド…
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 02:07:42.04 ID:cYthz6AO<>乙でした!!

最高におもしろかったです!

次の話も楽しみです!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 02:09:23.45 ID:nJyQrXwo<>乙カレー
終わり…だと…?
次は木原くン…だと…?<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/13(土) 02:10:00.68 ID:qHNKl7k0<>
>>879
言い忘れてましたごめんなさい

次の話は今までとは全く無関係です

原作準拠もしません

ではでは、おやすみなさい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 03:11:00.49 ID:vrqi5xso<>おつおつおやすみ
>>873のヤローめ…<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 03:22:16.72 ID:rmSr786o<>ごめんね
迸る熱いパトスで思い出を裏切れなくてごめんね<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 03:40:28.32 ID:LCGStoDO<>乙!すんばらしい作品だった!
もうレイは新しい名前に建宮の姓を使えば良いんじゃないかな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 13:29:39.44 ID:EiHTrPoo<>おつおつー!
( ;∀;) イイハナシダナー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 19:16:35.45 ID:xHR3mOg0<>乙!
気が向いたら建宮×レイのらぶらぶちゅっちゅでも書いてくれ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2010/11/13(土) 19:50:18.76 ID:GH/8dEEo<>ー乙
レイと建宮とのイチャイチャももっと見たかったが兎も角乙
>>1愛してる!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/14(日) 13:08:51.63 ID:pS5nH1Eo<>>>870
マジでこれ同人小説とかで発売してくれないかな?>>1の作品他も読んだんだが、マジでおもしろくて、大好きだ。だから部屋の禁書棚に並べたくてな。<> 別人
◆Q7pSHpMk.k<>saga<>2010/11/14(日) 23:24:52.93 ID:LMfoLk.0<>
こんばんはー、最後まで温かいレスありがとうございます

次の話ができたので、最後に誘導させて下さい



とある魔術と木原数多
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1289743774/



このスレはHTML化依頼を出します

本当にありがとうございました
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/14(日) 23:35:15.91 ID:cOeOgtUo<>乙!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/15(月) 00:34:57.88 ID:19bq41Eo<>おつ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/15(月) 02:37:08.57 ID:wfeeTmYo<>乙でした!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/16(火) 02:43:53.18 ID:nMnrP62o<>面白かったよ<>