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HTML化した人:lain.
結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」
1 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:47:21.69 ID:twYxcOcAO
・白井黒子×結標淡希です。

・時系列は一端覧祭後です。

※CAUTION!

・百合要素が多分に含まれております。

・上琴要素が多少なりとも含まれます。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1332658041(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:50:21.30 ID:twYxcOcAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
御坂『私、あいつと付き合う事にしたんだ』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
3 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:50:58.19 ID:twYxcOcAO
〜0〜

白井「がはっ……」

三冬月の夜空より降り注ぐ灰雪、吐き出される白い吐息と赤い吐血、そして外気以上に体温を奪う出血。
ブレザーに仕舞われた近未来的なデザインの携帯電話を食い破って腹腔に突き刺さる鉛玉が銃創を刻む。
ペットボトルのキャップを閉め忘れて倒したかのようにドクドクと流れ出す出血が路地裏に広がって――

白井「はあっ……はあっ……」

白井を中心に生み出された血の海にだけ雪が積もらない。アントン・チェーホフの一節を諳んじるように。
流し過ぎた血は体温を失わせ、手足に寒気とは異なる震えをもたらし、今や白井の生命を奪いつつあった。
常ならばスキルアウトぐらいしか寄り付く事のない、卑猥な落書きだらけの路地裏の壁に身を凭れかけて。

白井「(最後の記憶がお姉様の微笑みなどと……どうやら死に際のようですわね)」

この路地裏で何やら怪しげな取引をしていたと思しき一団を確保せんとし、物影に潜んでいたメンバーから受けた銃撃。
ポケットの携帯電話が盾にならなければ即死していたかも知れない。だが、それすらも時間の問題である事を白井は――

新入生A「お、おいこいつ風紀委員だぞ」

新入生B「ちっ……面倒臭えな。警備員じゃないだけマシだが」

新入生C「さっさと片付けちまおうぜ。どの道見られてんだし」

たった今自分を撃った男が突きつけて来るパームピストルを前に悟る。
射撃の正確さ、反応の速度から見るに彼等は『プロ』である事までも。
常日頃校内で揉め事を起こす能力者(がくせい)とは全く違う犯罪者。
最近こうした『新入生』崩れの暗部、『落第生』とも言うべき者達……
彼等による犯罪の増加が学園都市内でも問題になっていたが時既に遅し

新入生A「悪く思うなよ、風紀委員さん」

奈落を思わせる銃口、血溜まりに沈む自分、激痛のあまり能力を発動させる事さえ覚束無ぬまま白井は想う。
数日前に御坂が浮かべていた微笑み、自分には決して向けられる事のない表情、そしてそれらを前にして――

白井『――……おめでとうございますの!お姉様!!』

色褪せた造花の花束のような笑みで後ろ向きの祝福を捧げ、『お姉様』の知る『白井黒子』の微笑みを演じきった自分の姿を。


――――――時間は数日前に遡る――――――



4 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:52:42.48 ID:twYxcOcAO
〜1〜

御坂『私、あいつと付き合う事にしたんだ』

白井『――あ、あいつとはまさか……あの類人猿ですの!!?』

御坂『う、うん……その類人猿(かみじょうとうま)とだけど』

あれは今から数日前、一端覧祭も終えようやく常盤台中学内の浮き足立った空気も落ち着いて来た頃でしたの。
いつも通りお姉様の入浴中にわたくしがテレポートし、いつも通り電撃を浴び、いつも通り床に就いた所を……
照明も落とされた暗がりの中、寮監の見回りに耳欹てながらひそひそと小さく低い声でお喋りしていた矢先に。

御坂『ゆ、勇気出して告白しようっていつもの公園に呼び出したら、逆に私が告白されちゃって、それで』

白井『お、OKしてしまいましたの!?』

御坂『……――うん』

ふと天使が通り過ぎた後、お姉様が毛布にくるまりながらそう切り出された時、わたくしは驚きましたの。
それは予想外の出来事に面食らったのではなく、思ったより早い想定内の出来事に顔色を失ったんですの。
来るべき時が遂に来てしまったと。出来る事ならばもうしばらく続いて欲しかったモラトリアムの終わり。
……違いますわね。わたくしには猶予期間だけでなく、準備期間もたくさんあったはずなんですの。それを

白井『――……おめでとうございますの!お姉様!!』

御坂『!?』

白井『あの類人猿にお姉様はあまりにも勿体無い……と言いたいところですが――』

御坂『………………』

白井『わたくし、お姉様がロシアに飛び立って行かれた時から、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたんですのよ。本当ですのよ?』

御坂『――黒子』

白井『逆にお姉様がそこまで身体を張ってまで貫かんとした想いを袖にするようならば、わたくしがボコボコにしてやるつもりでしたのよ!!』

ロシアまであの殿方を追い掛けて行き、ハワイまであの殿方について行ったお姉様の横顔を見た時から……
わたくしとて覚悟はしておりましたの。ただこうも想像以上に揺さぶられるとは思っていませんでしたが。

御坂『……――黒子ありがとうー!!!』

涙が女の武器ならば笑顔は女の武装ですの。身に纏う仮面を完璧に、身につけた舞踏を完全に演じるなら

御坂『嗚呼、やっぱり一番最初に報告するのは黒子って決めてて良かったわ。本当にありがとう!!!』

わたくしはクラウン(道化師)にもジェスター(道化師)にもピエロ(道化師)にも成り切れますのよ?

5 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:55:02.35 ID:twYxcOcAO
〜2〜

婚后『御坂さん、最近御機嫌斜めならぬご様子ですわね』

湾内『いつにも増して笑顔が輝いていらっしゃいますね』

泡浮『ええ、何でも素敵な殿方と懇意になさってるとか』

お姉様があの殿方と結ばれた事は、それからほどなくして常盤台中学内でも持ち切りの噂になりましたの。
お姉様も別段隠す素振りもないようでしたし、寧ろ噂される事に少しウキウキされているようでもあり……
今もこうして食堂内でランチを取っている間にも、相席しているわたくしが立ち退かなければならない程に

女生徒A『御坂様、彼氏が出来たって本当なんですか!?』

女生徒B『この間学舎の園でデートなされたとお聞きして』

女生徒C『うえーん!御坂様がさらわれちゃいましたー!』

御坂『ま、待ってよみんな!そんないっぺんに話されても』

白井『………………』

噂を聞いた方々が詰め掛け、目の当たりにした方々が押し寄せ、わたくしはその場からただ離れる事しか出来ませんでしたの。
常ならばシッシッと追い払うなり威嚇などするところですが、この時わたくしにはその気力さえも湧いて来ませんでしたのよ。

婚后『……――さん』

白井『………………』

婚后『白井さん??』

白井『!』

婚后『如何なさいまして?白井さん。あまりお食事が進んでいないようですが……』

なにぶん料理の味さえぼやけて感じられるほど気もそぞろでしたの。やはりお姉様との相席から離れて正解ですの。
婚后さんの指摘に湾内さんは食欲不振を、泡浮さんは体調不良を、それぞれ慮って下さいましたが、わたくしは――

白井『わたくしただいまダイエット中の身なんですの。このところ少しばかり身体が重く感じられまして』

婚后『そうでしょうか?わたくしの目には幾分痩せたようにお見受けされますが……特に頬のあたりから』

白井『それこそダイエットの成果が出て来ている証左ですの!婚后さんこそ食欲の秋のツケがそこもとに』

婚后『わたくし婚后光子、こう見えて節制には気を使っておりましてよ?心配して損をいたしましたわ!』

時に力強く、時に元気良く、時に辛抱強く、時に意地悪く笑顔の仮面を被りますの。


泣きはらした素顔をさらけ出さないための淑女の嗜み(レディライクマナー)として


6 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:56:00.43 ID:twYxcOcAO
〜3〜

食蜂『貴女ぁ』

白井『!!?』

食蜂『――擦り切れた使い古しのボロ雑巾みたいな心情力ねぇ』

お姉様に一礼を、婚后さん達に会釈をして食堂を後にしたわたくしが渡り廊下の半ばで出会したのは――……
目礼でやり過ごすには些か数が多過ぎる常盤台最大派閥の女王、食蜂さんと彼女に付き従う大名行列ですの。
嫌な時に嫌な相手と顔を合わせた事に笑顔の仮面がズレたわたくしを、食蜂さんはマジマジと見下ろして来て

白井『……仰有る意味がわかりかねますの。用がないならばわたくしはここで――』

食蜂『――“お姉様、お姉様、お姉様”』

白井『!?』

食蜂『“どうしてあの類人猿ですの?どうしてもあの殿方ですの?お姉様”って☆』

わたくしが仮面を被り直した側からあの女王は力づくで引き離し、構え直した能面まで引き剥がして……
笑いかけて来ましたの。いえ嗤いかけて来ましたの。わたくしの醜い素顔に負けず劣らぬ歪んだ笑顔で。
その事にわたくしは激しく屈辱と、羞恥と、激情と、そして読まれた心の中と見られた胸の内を――……
認めざるを得ませんでしたの。どうしようもなく下衆なやり方と、どうしようもない愚図な相手を前に。

食蜂『自分的には御坂さんから身を引いて、その男の子に道を譲って、二人を応援する役割力を割り振りたいみたいだけどぉ』

白井『………………』

食蜂『貴女、最初から御坂さん達の相手にすらされてないわよぉ☆蚊帳の外のお邪魔虫以下♪』

白井『!!?』

食蜂『恋路を行く女の子の目って前にしか向いてない事くらい貴女の理解力でもわかるでしょお?
路傍の石の下で冬を越そうとする団子虫をわざわざひっくり返して目を落とすだなんて事しなぁい』

わたくしは一歩も動けないどころか一言も言い返せませんでしたの。
この蜂蜜のように甘ったるい話し方に毒針を潜ませた王蜂に対して。

白井『……お姉様の言う通りですの。実に下衆なお力ですのね』

食蜂『うふふ、そのお姉様に愛想力が尽きたらいらっしゃーい』

辛うじて返す刀で一太刀浴びせようとした舌鋒は、柳を相手にするようにかわされてしまいましたの。
当たり前ですわね。迷いの中で踏み出した足など、砂被りはおろか返り血を浴びる距離さえ届かない。

食蜂『――御坂さんの歪んだ表情(かお)が見れるなら、貴女を寝取る価値力くらいはあるかもねぇ〜☆』

わたくしの手が、二度とお姉様に届かないのと同じように

7 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:58:15.07 ID:twYxcOcAO
〜4〜

佐天『とうとう御坂さんも彼氏持ちかあ……やっぱりクリスマス間近ってそういうムードになっちゃうねー』

初春『さ、佐天さん!白井さんの前でその話題はNGだって口を酸っぱくして言ったじゃないですかー!!』

白井『――良いんですのよ初春。わたくしがいちいちそんな事で取り乱して暴れ出すとでもお思いですの?』

さっそく件の殿方とデートに行かれたお姉様を除いて、わたくしと佐天さんと初春は行き着けのファミレスに集まりましたの。
一人欠けた鼎談、一人足りない空席、その穴を埋めるように佐天さんがお姉様の分まで良く喋りますの。耳が痛いくらいに……

白井『……今でもあの類人猿がお姉様に相応しいなどと思いませんが、わたくしにそれをどうこう言う権利もとやかく言う資格もありませんのよ?初春』

初春『資格とか……権利だなんてそんな』

白井『……まあわたくしに出来る事と言えば、あの類人猿が万が一お姉様を泣かせたりなどしたらば月に代わってお仕置きする程度の事で〜す〜わ〜♪』

本当は、あの殿方の名前を聞く度に耳が、お姉様の笑顔を見る度に心が、痛くて辛くてたまりませんの。
……ですが、わたくしはそれを顔に出しませんの。そのための白井黒子(えがお)の仮面なんですのよ。
道化師のメイクの由来は御存知でして?あれは愛する者を自らからの手で殺めた者の泣き笑いでしてよ。
生憎とわたくしは愛する者を殺めなければ愛情表現出来ないほど歪んでなどおりませんが、ただ一つ……

佐天『ほらね?白井さんはこんな事でヘコんだりメソメソしたりするような人じゃないって言ったでしょ』

初春『………………』

佐天『腫れ物触るみたいに避けて通ったりする方がかえって白井さんに失礼だって。そうだよね白井さん』

白井『そうですわ佐天さん。だいたいそんな事で打ちのめされていては、相部屋のお姉様ののろけ話など』

佐天『聞いてられませんよねー!んでんで、どんな話するんですか?御坂さんの恋バナとか興味ある〜♪』

お姉様が思い、感じ、考えて下さるほどにはわたくしは真っ直ぐでも綺麗でも美しくもございませんの。
歪む愛情、うねる恋情、淀む思慕、捻れる恋慕、お姉様には見せられない、仮面の下のわたくしの素顔。



―――眼球まで涙に溶けた、ドロドロに煮凝った素顔―――



8 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 15:58:42.92 ID:twYxcOcAO
〜5〜

固法『白井さん、今日も当直でいいの?』

白井『ですの。前に初春に代わってもらった事がありますので』

固法『……それは構わないんだけど、今日でもう三連勤になるわ。あまり根を詰めるのも考え物よ?』

それからと言うもの、わたくしは当直の回数を増やしてお姉様から距離を置くようになりましたの。
誰かが言っておりましたが、人間誰しも失恋を経験すると大凡3パターンに分けられるそうですの。
気が済むまで泣き明かすか、気が晴れるまで飲み明かすか、はたまた仕事に打ち込むかの何れかに。
涙に溺れるほど乙女でもなく、お酒に溺れるほど大人でもないわたくしは仕事に逃げ込む質らしく。

固法『んっ……何か怪しい車が集まって来てるわね?』

風紀委員一七七支部のモニターに映し出された白い雪と黒い影に固法先輩が気が付き、わたくしもそちらを覗き込みましたの。

白井『――――ここは…………』

『その場所』はわたくしにとっても些か思い出深い路地裏の出入り口でしたの。
ニガヨモギから蒸留されたアブサンのように、強い苦味を伴った忌々しい記憶。
今思えば、わたくしもこの時アブサンの副作用に当てられていたようですわね。

固法『最近“書庫”にも載っていない犯罪者も増えている事だし……』

白井『………………』

固法『白井さん、念の為に警備員に連絡を入れて――白井さん!!?』

ニガヨモギに含まれる『ツヨン』と言う成分がもたらす副作用。『意思薄弱』『視力低下』、そして『失明』。
盲た眼差しのまま脇目も振らず、遮眼革を取り付けられた暴れ馬のようにわたくしは支部を飛び出しましたの。
外側より呼び掛ける固法先輩の声から、内側より呼び止める自らの声から逃げるように振り切って駆け出して。

白井『がはっ……』

4、5人倒したところでその中の一人が隠し持っていたパームピストルで撃ち抜かれわたくしは倒れましたの。
学園都市の影に住むスキルアウトではまず手に出来ない、学園都市の闇に棲む暗部(なにもの)かの『牙』に。
自分の能力と自身の血潮に溺れ、手中に収まるサイズの暗器を見落としていたわたくしの未熟さが原因ですの。

新入生A『悪く思うなよ、風紀委員さん』



――――この、己さえ見失った愚かなわたくしの――――



9 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:01:07.65 ID:twYxcOcAO
〜6〜

――――そして時は巻き戻され――――

新入生A「ごっ、がああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

白井「!?」

霞のかかった脳裏に、靄のかかった意識、に、霧のかかった感覚に突き刺さる元暗部の末魔が断たれる声。
何と白井の額を射抜かんと狙いをつけていた元暗部の両目から鮮血が噴き出し、抉り出された眼球と共に。

???「――嗚呼、血だまりに雪は積もらないって本当なのね」

コツンと血飛沫が斑を描く雪面に落ちる『ワインのコルク抜き』。その声の主がそれを踏みにじる所が見えた。
涼やかな声音で白井を嘲笑い、冷ややかな笑顔で元暗部をせせら笑い、ザクザクと処女雪を踏め締めながら――

新入生B「お、お前は……ぐああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

???「確かアントン・チェーホフだったかしらね……まあ別に今はそんな事どうだっていいのだけれど」

白井「――……貴女は……――」

その少女が『軍用懐中電灯』のライトを点けると同時に、路地裏に転がっていたビニール傘が元暗部の口内を刺し貫いた。
雪明かりに反射するライトの中、再び血飛沫を巻き上げながら崩れ落ちる影絵を白井の双眸に焼き付けて刻むようにして。

???『……あら、助けて損しちゃった。どうせなら貴女が殺されてから姿を現すべきだったかしら?』

白井「……――貴女の助けなど――……」

新入生C「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

???「……それとも、生き延びたんだか死に損なったんだかわからない貴女にトドメを刺す役回り?」

逃げ出して行く元暗部にも構う事なく、少女は咲き乱れた赤い花を踏み締める。
『霧ヶ丘女学院のブレザー』をはためかせながら、白井をゆっくり見下ろして。
汚れなき雪面に赤い血飛沫を撒き散らし、紅く染まった白井の頬に手指を這わせ、朱い二つ結びを雪風に靡かせながら嗤って。

白井「貴女に助けられるくらいならば……――死んだ方がマシですの!!!!!!」

???「そう、なら貴女のお望み通りにしてあげるわ」

二人が初めて出会った真夏の路地裏より、二人が再び出逢った真冬の路地裏より物語はここに幕を上げる。

10 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:02:10.41 ID:twYxcOcAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――死んだ方がマシなくらい嫌いな私に拾われた命を、せいぜい歯軋りしながら噛み締める事ね――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
11 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:02:52.03 ID:twYxcOcAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A C T . 1 「 白 の 六 花 、 赤 の 徒 花 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
12 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:03:32.75 ID:twYxcOcAO
〜7〜

――――時は再び遡る――――

結標『守りたいよ!』

姫神『この胸を焦がす』

吹寄『何より大切なもの!』

雲川『導かれた』

風斬『世界を照らせる!』

全員『『『『『想いがこの手にあるから!!』』』』』

数時間前、結標淡希は月詠小萌を通して出来た友人達と共にカラオケボックスにてあらん限りの声で歌い上げた。
テーブルの上には空になったシーザーサラダやら、冷めたたこ焼きやらそれぞれの携帯電話やらが散逸している。
ちなみに選曲は学園都市で今最も人気のあるグループ、fripsideの『fortissimo-the ultimate crisis-』である。

点数表『ハチジュウゴテンデス』

結標『うーん……可もなく不可もなくね』

姫神『この点数表の。採点基準は今一つ』

吹寄『(私一人で歌うより高得点……)』

風斬『ああ、何だかスッキリしましたー』

雲川『カシスグレープ二つ頼みたいけど』

吹寄『ちょっ、ちょっと雲川先輩それは』

その傍ら、雲川が受話器をとってアルコールを注文し吹寄が止めに入ろうとするところを姫神が止める。
今夜くらい良いじゃないかと言う雲川と姫神がチラッと風斬と結標へ向き直り、二人は顔を見合わせた。
そう、今夜はただの女子会ではない。より正確に言うなれば『残念会』に近しいものだと知るが故にだ。

結標『別に良いんじゃない?二人揃ってフられた日ぐらい無礼講でも』

姫神『耳と。胸に。グサッと刺さる』

雲川『ゲソの七味が効き過ぎだけど』

風斬『まあまあ二人とも元気出して』

吹寄『(お前のせいだぞ上条当麻)』

そう、今夜は上条に仄かな思いを寄せていた姫神と、淡い想いを抱いていた雲川の二人を慰める失恋記念パーティーなのだ。
上条と御坂がめでたく結ばれ、付き合い始めた事が常盤台のみならず姫神・吹寄・雲川の通う高校まで広まったためである。
一体このグッドニュースと言う名のバットニュースに学園都市並びに全世界の女性達が何人枕を濡らして夜を明かす事かと。

結標『あの時私を助けてくれた男の子がねー……あと十年遅く生まれてくれたなら一口乗ったのだけれど』

残骸(レムナント)の一件にて助けられ、ロシアより学園都市に帰って来た時も顔を合わせた結標はふーん?と独りごちた。

13 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:07:25.29 ID:twYxcOcAO
〜8〜

雲川『人の性的嗜好をとやかく言うつもりはないけど、御稚児趣味(ショタコン)も誉められたものじゃないけど』

結標『ショ、ショタコンって言わないでよ!貴女だって真新しい雪が積もってたら足跡をつけたくなるでしょ!?』

姫神『ショタコンな上に。ドSの気あり。私達も救われないけど。性犯罪者スレスレの貴女の性癖も。救われない』

よくも言ってくれたわねと元霧ヶ丘女学院(こうはい)と姫神の手からカシスグレープをひったくる結標。
とは言え姫神も雲川もここに来るまでに粗方心と気持ちの整理をつけて来たのか泣き出すような事はない。
山盛りポテトに手を伸ばす吹寄が風斬に皿を差し出すも、私食べられないんですよねと苦笑いする中で――

結標『だけどまさかあの御坂美琴がね……何だか奇妙な因縁を感じざるを得ないわ』

雲川『……確かお前は夏の終わりに――』

姫神・吹寄・風斬『『???』』

結標『――ええ、ただの“ケンカ”よ三人とも。少しばかり揉めただけの話だから』

雲川の目配せに口裏を合わせながら結標は残骸に絡んでの御坂美琴との暗闘と白井黒子との死闘を思う。
当然その辺りのいきさつなど知りようもない三人を前に言葉を濁すように笑いかけるが、その内心では。

結標『(うふふ……ねえ白井さん今どんな気持ち?愛しく恋しいお姉様を寝取られてどんな気持ち?)』

風斬『嗚呼……また何かドSな微笑みが』

自分を前にして一歩も引かず一歩も譲らず一歩も寄らず立ち向かって来た白井の顔が浮かび上がって来る。
勝ち気そうな眼差し、負けん気強そうな顔立ち、自分を壊してくれた少女の美貌が泣き濡れるその様を――
カシスグレープの肴に結標は杯を傾ける。悲嘆に暮れ悲愴に揺れ悲恋に歪むだろう白井の表情を思うと――

結標『(私自らの手で貴女をグチャグチャにしてようやくおあいこと言うところだけれど、まあいいわ)』

身体にコルク抜きを突き立てられ血を流しながらも向かって来た白井が……
今や心にコルク抜きを突き刺され涙を流しているかと思うとゾクゾクする。
他人を傷つけて来た過去に悔恨の念あれど白井に対する悔悟の念などありはしない。その逆だ。
半紙に墨汁をぶちまけるような暗い情熱と、新雪を土足で踏みにじるような黒い情念が湧いた。

結標『クス……』

ガリっと糸切り歯で氷を噛み砕き、アルコールに火照る熱い吐息を漏らす渇いた唇を舌舐めずりするほどに。

14 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:07:58.45 ID:twYxcOcAO
〜9〜

雲川『おやすみ』

姫神『お疲れ様』

吹寄『気をつけて帰ってね』

風斬『じゃあ私もここで♪』

結標『それじゃあまたね!』

ふう、カラオケ入る前よりも雪の勢い強くなってるじゃないの。やっぱりアルコール頼んで正解だった。
何て思いながら私は皆に手を振って駅前で別れを告げて踵を返す。真新しい処女雪に足跡をつけながら。
でもどうしようかしら?お酒臭いまま帰ったらまた小萌にお説教くらいそうだし、仲間のところに帰――

結標『……帰る場所と自分の居場所、両方手にしたのよね、私』

そう、暗部が解散して私は晴れて自由の身になった。同時に、私の仲間達も解放されて自由を取り戻したわ。
アレイスターの『プラン』とやらもさっきまで話してた上条当麻、私達の自由を取り返してくれた一方通行。
あと浜面仕上とか言う男の子達の手によって、あの『窓のないビル』ごと打ち砕かれて消えてなくなったわ。
おかげで私は暗部も案内人も廃業になってしまったけれど、女友達と夜遊び出来る自由には代えられないわ。

結標『……これはこれで悪くないかもね』

サクサクと響き、キュッキュッと鳴り、シンシンと積もる雪の音を聞きながら私は駅前広場から裏通りに入る。
姫神さん達には申し訳ないけど、これは私にとっての勝利の美酒と祝杯でもあるの。勝ち目のないゲームのね。

結標『酔い醒ましにちょうど良い寒さねー……ん?あそこって』

夜風には少し冷たい大雪の中私が目にした場所。それは残骸に絡んで白井さんと切り結んだあの路地裏だった。
私の運命が下り坂を転げ落ちるようにして、私の運勢が雪だるま式に不幸へと積み重なっていった始まりの地。
自業自得だと言われてしまえばそれまでだけど、こういう気持ちは11次元の理論値でも割り切れないものよ。

パン!パンパン!!

結標『――銃声……』

今思えば、この時アルコールが入って気が大きくなっていたのがそもそもの間違い。
どこかで謳歌していた自由と青春に浮き足立っていた自分のお尻をひっぱたきたい。

結標『……嗚呼――』

血溜まりに雪は積もらない。そんなロシア文学の一節が頭を過ぎるほど――

結標『………………――――――』

私の脳味噌は平和と平穏と平温に溶けていた。階段の長さを数えもせずに。

15 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:10:18.73 ID:twYxcOcAO
〜10〜

――――そして時は再び巻き戻され――――

固法「白井さん!!!!!!」

記録的な大雪の中、飛び出した白井の後をバイクで突っ走りながら追って現場に急行した固法は眦を決した。
警備員に連絡したその足で向かった路地裏、そこには何人も拘束された犯罪者と担架で運ばれる重傷者達と。

白井「ううっ……」

固法「白井さん!」

同じように担架で救急車に乗せられる血塗れの白井を見つけるなり固法は駆け寄る。目に涙を浮かべて。
怒鳴りつけ叱り飛ばすのは一先ず後回しだ。今や白井の制服は自らの血で真紅に染めるほどなのだから。
しかし白井は辛うじて命を繋ぎ止めたのか、ひどく苦しみ身悶えし呻きながらも意識はまだあった。更に

救急隊員「危ないところだった。あと数分通報が遅ければ、あと数分止血が遅ければ命を落としていたよ」

白井をストレッチャーに乗せ替え緊急輸血を施す救急隊のうち一人が、腕章をつけた固法に話し掛けた。
そこで手渡されたのは銃撃により破損した白井の携帯電話と血染めの腕章である。そこで固法も気付く。
白井はとても救急車を呼べる状態ではなかったし、確保された犯罪者達もそれは同様である。では誰が?
だが件の救急隊員も首を捻るばかりで今一つ要領を得ない。ただ匿名で最優先コードにかかって来たと。
身元を明確にせねば呼べないはずの救急車を、善意の第三者と言うに些か後ろ暗い裏技で呼び出した『誰か』。
そんな人物など固法にも覚えがない。だが似たような事例にいくつか覚えがあった。それは都市伝説めいた――

救急隊員「これが銃創部分にキツく巻かれていたんだ。誰の物かはわからないがね。実に的確な処置だよ」

学園都市暗部なる風紀委員や警備員の間でまことしやかに囁かれていた時期に何度か見知ったケースである。
しかしそこで救急隊員が手にして見せたのは、白井の血に染まって変色してしまった『ピンク色のサラシ』。

固法「(どこかで見たような――……)」

救急隊員「一先ず、君も来てくれないか。後は警備員が処理してくれるそうだから」

固法「は、はい!」

そこで記憶の宮殿に足を踏み入れようとしていた固法の思考が、救急隊員の呼び掛けにより断ち切られた。
慌てて乗り込み、白井に付き添い、雪道を直走る救急車はカエル顔の医者こと冥土帰しの病院へと向かう。



――そして、『悪意』の第三者はと言うと――



16 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:11:33.68 ID:twYxcOcAO
〜11〜

月詠「んまー!結標ちゃんおっぱい丸出しなのですよー!!?」


結標「良いから早く中に入れて小萌!風邪引いちゃうったら!!」


月詠「それに少しお酒臭いのです!ま、まさか結標ちゃんったら不純異性交遊(イケナイコト)を!?」


結標「確かにアルコールはちょっぴり口にはしたけど、いかがわしい事なんて何一つしてないわよ!!」


水煙草を嗜んでいた小萌のアパートのドアを右手でドンドン叩き、左手で胸元を隠してながら玄関先で喚く結標がそこにいた。

カッコ良くキメて登場したのは白井が意識を完全に失うまでで、その後はしっちゃかめっちゃか、這々の体で帰って来たのだ。


結標「寒い、寒い!お風呂入りたい!!」


月詠「この家にお風呂はないのですよ?それより結標ちゃん、一体どこのお店でアルコールなんか――」


結標「(流石に姫神さん達と飲んでたなんて言えないわ)銭湯行きましょう小萌!そこで話すから!!」


月詠「とりあえずおっぱいを早くしまうのですよ!絆創膏持って来てあげるのでそれを貼るのです!!」


結標「プールの授業じゃないんだから!」


――そして二人は急いで車に乗り込んで――


17 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:12:09.25 ID:twYxcOcAO
〜12〜

カポーン

結標「嗚呼……やっぱりお風呂って最高!」

月詠「日本人の原点(こころ)なのです!」

頭にタオルを乗せ、富士山の描かれたタイルを背に濛々たる湯煙立ち込める大浴場に結標と小萌は並んで肩まで浸かっていた。
結標は目尻を下げ、小萌は目を細め、二人揃って頬を緩ませ、乳白色の海に揺蕩うフニャフニャと骨抜きにされた海月の様に。

月詠「こういう時贅沢な悩みが浮かぶのですよ」

結標「どんな悩み?あっ、温泉行きたいとか?」

月詠「お風呂に入りながら冷酒でキューッとやるか、お風呂から上がってビールでキューッとやるかです」

結標「(どんだけお酒好きなのよ……)」

月詠「で・す・が!未成年は酔っ払ってサラシ脱いでどこかに置き忘れるまで飲んじゃダメなのですよー」

結標「わかったわよ、小萌(良かった、何とか上手い具合に誤魔化せたっぽくて)」

立てた人差し指を左右に振りながらメッとする小萌に対し結標は安堵に緩む口元を湯船に浸かって隠した。
姫神達との女子会は友情によるものだが、白井に関する事柄はその対極に位置する。それはとりもなおさず

結標「(――トウモロコシの繊維を切らしてたのがそもそもの間違いだったのよ)」

結標と白井の間に横たわる、彼岸の因縁と此方の遺恨を隔てる血塗られた不帰の河そのものである。
何故白井を見殺しにしなかったかと言えば、姫神達の口から出た上条の名を思い出したからである。
御坂に追い回され白井に追い詰められ一方通行に追い込まれ叩きのめされた自分を助けた上条の顔。
その時の経験が程良くアルコールの回った結標の神経回路に、新入生を相手取るリスクを選ばせた。

結標「(――それに、あの時……)」

結標は血溜まりに沈む白井の顔に見てはならないものを見た気がした。
あの黒い夜の闇と白い雪明かりの狭間で確かに見た『白井黒子』の――

小萌「それにしても結標ちゃん?」

結標「何よ。まだお説教の最中?」

小萌「いえ、また一段とおっぱいが大きくなったように先生には見えるのですよ?」

結標「そんなにジロジロ見ないでよ……」

小萌「女同士減るものじゃないのですー」

と、そこでチャプチャプと波打つ湯船にあってプルプルとハリと弾力に富んだ乳房が小萌の目に止まった。

18 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:14:40.43 ID:twYxcOcAO
〜13〜

小萌「嗚呼、若い娘の肌は吸い付くと言うより弾けるような瑞々しいに満ち充ちているので先生は羨ましい限りなのですよー」

結標「肌だけなら小萌の方がピチピチしてるじゃないのよ……」

小萌「……でも前からちょっと先生は気になっていたのですが」

結標「?」

小萌「――結標ちゃん細かい切り傷とか結構多くありません?」

結標「!」

結標の心に湧き起こった細波に連動するように、乳白色の水面が波打ち結標の鎖骨の窪みに溜まった湯がトロリと落ちた。
だが小萌はまじまじと引き締まった伸びやかな二の腕や、投げ出された脚線美などをフニフニと触診するように触り始め。

結標「ええっとそれはその……これはこの――」

小萌「――喧嘩ばかりしちゃダメなのですよー?結標ちゃんも女の子なのですから」

結標「……うん、そうね!あんまり珠のお肌に傷つけたらお嫁に行けなくなるもの」

それをくすぐったがるフリをしながら結標は笑って誤魔化し、小萌も笑って頬をツンツンつついて来る。
言えない。言えるはずがない。言うつもりもない。自分が誰かの笑顔どころか命まで奪って来たなどと。
結標は思う。果たして自分が歩んで来た過去を小萌が知ったとして尚、彼女は自分に笑顔を向けてくれるだろうか?
泣くだろうか、怒るだろうか、嘆くだろうか、悩むだろうか、苦しむだろうか、はたまたその全てか、それ以外か。

月詠「結婚したら先生も式に呼んで欲しいのですよー。教え子の晴れ姿は教師冥利に尽きるのですよー!」

結標「私の結婚より自分の結婚の心配しなさいよ小萌……そう言えば小萌の好みのタイプってどんな人?」

月詠「んー……先生なら黄泉川先生を男にしたようなタイプですねー!」

結標「先生ならって……じゃあ生徒なら」

月詠「い、いけないのです!教え子をそんな目で見ちゃダメなのです!」

結標「まあまあここだけの話でね?ね?」

月詠「……上条ちゃん?」

結標「どんだけ女殺しなのよ彼は!!?」

結標は小萌の笑顔を見て思う。もし彼女に万が一の事が起きた時、自分は仲間達の時のように命を懸けられると。
だがそれは小萌を『身内』と認めているから出来る事だ。ならば『身内』ですらないもっと漠然とした対象を……

月詠「そういう結標ちゃんは?」

結標「小萌みたいに年を取らない――永遠の少年よ!」

月詠「」

『全て』を守りたいと願う白井とはどういう人間だろうかと。

19 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:15:07.36 ID:twYxcOcAO
〜14〜

白井「うっ……」

冥土帰し「気がついたかい?」

時同じくして白井は冥土帰しの病院にて手術を終え意識を取り戻した。入院着に着せ替えられ、清潔なベッドに横たわる形で。

白井「――……わた、くし、は……――」

冥土帰し「うん、ここは僕の病院だよ?君はここに担ぎ込まれて来たんだよ。幸い、内臓には傷一つなかった。頑張ったね?」

その傍らに佇むはバイタルや事細かなチェックを手にしたリストに書き込んで行く冥土帰し。
白井は未だに切れていない麻酔に茫洋とする意識の中にあって、それを聞くとも無しに聞く。
外は未だ雪が降っているのか、カーテン越しに窓辺に落ちる影からまだ夜である事が伺えた。

冥土帰し「今付き添いの娘を呼んで確認を取らせてもらうよ?楽にしてくれて良い」

そう言い残して席を外し、病室を後にする冥土帰しの後ろ姿を見送りながら白井は思いを巡らせる。
犯人確保は一体どうなったか、自分は何と不甲斐ないか、度し難い失態を演じてしまった事。そして

白井「(付き添いの方とは……まさか)」

視界がホワイトアウトする刹那まで聞いた声音と、世界がブラックアウトする瞬間まで触れた手指、結標淡希。
朧気な感覚の中にあっても白井は微かに感じていた。自分のブレザーから止血剤を漁っていた彼女の手つきを。
朦朧とする意識の中であっても白井は確かに覚えていた。自分に応急処置しながら電話をかける彼女の横顔を。

白井「(……何故、貴女がわたくしを)」

自分と似通った力を持ちながら相容れない存在、白い雪と赤い髪、微かに香るアクア・アレゴリアの匂い。
一つとして纏まらない点、一つとして結ばれない線、一つとして重ならない面、『結標淡希』と言う存在。
ただ一つわかったのは、死んでも助けられたくない相手に命を救われた事に対する、言いようのない感情。

冥土帰し「手短にね?」

固法「はい……白井さん!この馬鹿!!」

白井「(嗚呼)」

そして付き添いの人間と言うのが結標ではなく固法であった事に対し覚える大きな安堵と小さな落胆。
白井は酸素マスク越しに『ごめんなさい』と唇を動かして謝意を示すと、固法がギュッと手を握った。

白井「(貴女ではありませんのね――)」

ここにない御坂の暖かい手ともここにある固法の温かい掌とも違う、細く長く白く冷たい指先の記憶――


20 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:16:41.05 ID:twYxcOcAO
〜15〜

かくして汚れなき白と血塗られた赤はここに交差する。


御坂「うふふ、今年はあいつとクリスマスか♪」


人肌に溶けて、太陽に焼かれ、春に枯れる一片の六花。


御坂「そう言えばあいつと私の実家近いのよね」


人肌を焼き、太陽を拒み、春でさえ溶かせぬ永久凍土。


御坂「も、もし里帰りの時期合わせたりしたら」


花も咲かせず、実も結ばず、種すら残さぬ雪花の物語。


御坂「が、学園都市の外でも会えちゃうかも!」


押し固めたドライアイスのように、露を払う事もなく。


御坂「わーわー!どうしようどうしよう黒子!」


誰に看取られる事もなく、ただ気化して消え行く存在。


御坂「……って風紀委員の泊まりだったっけ?」


やがて形を失うそれを手に留める事は決して出来ない。


御坂「でも良かった……黒子が応援してくれて」


青い『春』の中に、白い『雪』の居場所はないのだから


御坂「黒子は、私の最高のパートナーだもん!」
 
 
 
 
 
――空間移動と座標移動が交差する時、物語は始まる――
 
 
 
 
 
21 :>>1[saga]:2012/03/25(日) 16:17:53.15 ID:twYxcOcAO
初日の投下終了です。よろしくお願いいたします。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)[sage]:2012/03/25(日) 16:23:15.91 ID:u8y7+A71o


最近黒子スレ増えてるなぁ
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/25(日) 16:29:21.17 ID:O6ufQO2IO
幻想ごろしの人ん
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2012/03/25(日) 16:42:25.38 ID:2AcHbSsAO
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2012/03/25(日) 16:43:03.65 ID:2AcHbSsAO
ごめんなさい、下げ忘れてしまいました。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/25(日) 17:47:44.84 ID:72j7qPqvo
これは期待なんだよ!
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)[sage]:2012/03/25(日) 18:10:48.23 ID:6+Ss4A8AO
乙なんだよ
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 18:54:02.08 ID:LZtSUFBy0
期待
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/25(日) 20:44:23.51 ID:lsDkdm2PP
どこかで見たような文体。とりあえず期待
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/25(日) 20:56:12.08 ID:VUbC/GLIO
うは
超期待
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)[sage]:2012/03/25(日) 21:37:09.13 ID:ToftBNrN0
まさか・・・
超期待乙
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/03/25(日) 21:59:11.17 ID:98I8NcQlo
……いやまさかな
期待

33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/25(日) 22:02:20.35 ID:u8y7+A71o
そうだったら嬉しいけどな

さっき書き忘れた → 「期待」
34 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 18:19:00.59 ID:TL+uDUOAO
レスがたくさんついていてびっくりしました。ありがとうございます。
ACT.2「白いマシュマロ、赤いジュレ」は今夜投下させていただきます。


PS.本当にびっくりしました(色んな意味で)
35 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:01:42.85 ID:TL+uDUOAO
〜0〜

月詠「ぷはー!お風呂上がりのビールは最高なのですよー!!」

結標「(嗚呼、坊やのお尻の蒙古斑にかぶりつきたいわ……)」

白井が冥土帰しの病院にて意識を取り戻したのと時同じくして、結標と小萌もまた銭湯から上がった。
バスタオル一枚で腰に手を当ててゴクゴクとプレミアムモルツを飲み干す小萌、そしていま一人は――

小学生「お母さんお母さん!あの人僕と同じ子供なのに“びーる”飲んでるよ??」

月詠「んまー!僕ちゃん?私はこれでも先生で[ズギューン!]歳なのですよー!?」

結標「(うふふ、銭湯ってたまにこういう歓迎すべきアクシデントがあるのよね)」

手首に填めた磁気バンドをさすりつつ文字通り舐め回すような視線で脱衣場の子供を視姦しているショタコン女子高生である。
恐らく学園都市に住まう科学者ないし教師の子供であろう。まだ手放しで男湯に入れるのは不安なのだろうか母親付きである。
前をタオルで隠そうともしない無防備な少年を、車で来たと言うのも忘れて一杯引っ掛けている小萌を止めもせず見入って――

結標「(少年が真新しい雪なら男は溶けたぬかるみよ。青い春を迎えると泥に汚れてしまう雪そのもの)」

ニヤニヤと独自の哲学を、ニヨニヨと独特の美学に則って少年を視姦しながら結標は思う。
今日相手取った一際むさ苦しい新入生達。暗部の瓦解した今も尚闇にしがみついている――
白井をパームピストルにて撃ち抜いたあの集団、『落第生』とも言うべき存在についてだ。

結標「(そういえばこのところ、ああいった連中がのべつまくなし暴れまわってるって雲川さんが嘆いていたかしらね……)」

学園都市上層部のブレーンを務めている雲川は当然結標が暗部に属していた事も知っている。
決して良い顔はしないが、互いに仕事を離れれば気の合う同世代の友人でもある。その彼女が

雲川『近々“忌み枝”を“剪定”したいところだけど良い“庭師”を知らないか?』

結標「(――蛇の道は蛇、ね――)」

結標にそれとなく向けて来た水、その源流を遡る事を結標は考える。
今の河を知りたければ泳ぎ上手に聞くのが最も聡い方法であるとも。

結標「……今日の出来事も踏まえて少し相談してみようかしら」

バスタオル一枚のまま、結標は二つの携帯電話に目を落とした。



その眼差しに、少年を見つめていた笑みは既に欠片もなかった。



36 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:02:15.30 ID:TL+uDUOAO
〜1〜

御坂「はあっ、はあっ、はあっ」

翌日、一人の少女が学舎の園を飛び出して冥土帰しの病院に向けて走り込んでいた。その少女の名は御坂美琴。
件の白井の先輩にしてルームメイトにしてレベル5第三位の座を戴く常盤台のエースが正門を潜り抜けて行く。
真冬の冷え込みに白く染まる息と、初雪の底冷えに赤く染まる頬のまま学校が終わるなり飛び出して来たのだ。

御坂「す、すいません!!ここに入院してる白井黒子って娘は何号室ですか!!?」

受付「え、えっと三階の十一号室ですが」

御坂「ありがとうございます!!!!!」

そして受付に詰め寄り、エレベーターの待ち時間も惜しいとばかりに階段を三段飛ばしで駆け上がる御坂。
白井が風紀委員の活動中に銃撃を受け重傷を負った事は今朝方固法からのメールによって知らされたのだ。
それは奇しくも御坂と上条が翌朝辛くなるとわかっていても数限りなく送り合ったメールの最中にである。

――――――――――――――――――――
12/13 0:07
from:上条当麻
sb:なあ
添付:
本文:
指疲れちまった。電話していいか?
――――――――――――――――――――

御坂「(黒子がいないからって自分からかけてどうすんのよー!?)」

そのメールを見るなり返信するより早く伸びた通話ボタン。自分から十分だけと言いつつ一時間以上も話し込んだ。
白井が学園都市の治安を守るため戦っていたまさにその時である。それを思うと御坂は猛烈な自己嫌悪に襲われた。
その後、御坂より一時限早く終わった初春と佐天からもメールが届いた。自分達もこれからお見舞いに行きますと。
更に固法からかかって来た電話によると白井は何者かの手により救い出されたと言う。それは御坂も知っている――

固法『ピンク色のサラシが残されてたわ。思い出せそうで思い出せないんだけど御坂さん心当たりない?』

御坂「(――――まさか…………)」

御坂の脳裏を過ぎる鮮烈な赤髪、鮮血の記憶、そして奇しくも白井が発見されたのはかの路地裏である。
それを思いながら御坂は一気に三階まで辿り着き、白井の病室のドアに手をかけ、一気に開いて叫んだ。

御坂「黒子!!!!!!」

そして――……

37 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:03:32.51 ID:TL+uDUOAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「三日ぶりのお姉様分ですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
38 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:06:48.11 ID:TL+uDUOAO
〜2〜

御坂「!?」

白井「……と、気持ち三日分のお姉様補給タイムですの!!!」

佐天「あ、御坂さんお疲れ様ですー。マシュマロ食べますか?」

初春「佐天さん!それは白井さんへのお見舞い品ですってば!」

肩で息を切らしながら開け放った病室内には、生肉を放られたサファリパークの肉食獣のように涎を垂らし目を輝かせる白井。
そして売店で買った紅茶を入れる初春と、白井への見舞い品であったギモーブ(生マシュマロ)を頬張る佐天がそこにはいた。

御坂「あ、あれ?あんた鉄砲で撃たれたって固法先輩から聞かされたんだけど……」

白井「うふふ!わたくしの胸を貫けるのはお姉様の彷徨える蒼い弾丸だけですわ!」ジタバタ

佐天「白井さん、あんまり騒いでると傷口に響いちゃいますよ?初春お茶まだー?」

初春「佐天さん!そんなに食べたら白井さんの分がなくなっちゃうじゃないですか」

白井「――嗚呼、わたくしは先程いただきましたのでもうお腹一杯ですのよ。初春」

未だ窓枠のサッシに雪が残る午後の陽射しを浴びるため、ベッドから車椅子に移った白井はやはりいつも通りの白井であった。
より緊迫した状況より切迫した内情を想像していた御坂が思わず入口を閉め忘れるほどに。それは先に到着した二人も同様で。

白井「全く、ここの医者は腕が良いですが包帯を大袈裟に巻きすぎるのが玉に瑕ですの。まあもっとも?」

お姉様が上気した顔色で駆けつけて下さった事を思えばお釣りが来ますの!と白井はニッコリ微笑んだ。
出来る事ならテレポートしてお姉様の胸に飛び込み思いの丈を伝えたい気持ちでいっぱいですのと笑う。
その笑顔を見ると引きつり笑いを浮かべていた御坂も思わずつられて微苦笑を浮かべざるを得なかった。

白井「ご心配おかけいたしましたお姉様。ご覧の通りほんの掠り傷ですの。申し訳ございませんでした」

御坂「良い良い。あんたが思ったより元気そうでいてくれたなら取り越し苦労も心配性も安いもんだわ」

初春「でも白井さん?固法先輩から聞きましたけど今度から無茶しないで下さいね」

佐天「そうそう。初春なんて心配し過ぎてお昼全然食べられなかったんだから!!」

白井を中心にして右側に初春、左側に佐天に分かれ、御坂がポンポンと頭を撫でると

白井「――みなさんすみませんでしたの」

いつも通りの笑みを湛えながら、白井はぺこりと皆に一礼した。

39 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:07:15.11 ID:TL+uDUOAO
〜3〜

御坂「何も覚えてないの?本当に何も?」

白井「ですの。大立ち回りをやらかして何人か拘束したところまでは覚えているのですがそこからは――」

銃弾で負った戦傷など掠った程度のものであったが、殺しきれなかった衝撃により頭を強かに打ちつけたのだと白井は語った。
昨夜は学園都市にあって今年初の大雪であり、それに足を取られた事も己の未熟さ故だと初春の淹れた紅茶に口をつけながら。

御坂「(……あの女じゃないのかしら?)でも犯人グループの顔は見たんでしょう」

初春「すいません御坂さん、それ以上は」

御坂「あっ!ごめん初春さん。ここから先は風紀委員(あなたたち)の領域だもんね。悪いクセだなー」

これじゃあいつ(上条当麻)みたいと御坂は舌をペロッと出して頭を掻き、佐天が桜色のギモーブを口に頬張る。
窓辺より窺える風車から昨夜の名残雪が陽射しを浴びて溶け出し、ポタポタと雫を落として行く様子が見て取れ。

白井「お恥ずかしい限りですの。どうやら一人取り逃がしたようで、それを思うと居ても立っても……」

初春「そっちの方は今、黄泉川先生達が総力を上げて洗い出しをしてくれているみたいです。ですから」

御坂「そうよ黒子。あんた最近ずっと支部に詰めてるんですって?初春さんからメールで聞いたけれど」

佐天「白井さんって生真面目ですもん。ワーカーホリックになる前に一足早い冬休みに入ったと思えば」

休むのも仕事の内ですよ佐天が肩をポンポンと叩くと、白井は曰わく言い難い表情を浮かべて御坂へと向き直り――
何か言いたそうに唇を開き、それを横一文字に結んで飲み込み、それもそうですわねと皆の言葉に首を縦に振った。
そこで初春も白井の手を握り、やや真剣な眼差しで白井を見上げながら言った。昨夜の一件は自分のせいでもあると

初春「昨夜も私の当直を代わってもらった時に起きた出来事なんです。ですから白井さんの抜けた穴は私が埋めますから……」

白井「初春……」

初春「約束して下さい。もう絶対にこんな無茶な真似はしないって。もし破ったら今度からお茶淹れて上げませんからね!!」

思わず水飲み鳥のように頷いてしまうほどの初春の強い言葉に、白井もわかりましたのと首を垂れた。
そこで初春は立ち上がり、では今から出勤して来ますと真面目な顔を作って敬礼して部屋を後にした。

40 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:09:46.24 ID:TL+uDUOAO
〜4〜

佐天「あはは、じゃあ私も帰ろうっかなーお二人さんの邪魔しちゃったら悪いし?」

御坂「も、もう佐天さんったら」

白井「どうもお見舞いありがとうございますの。マシュマロ美味しかったですの!」

佐天「どういたしまして♪じゃあお幸せに……じゃなくて白井さんお大事にー!!」

白井に代わって初春が出勤し、白井に気を利かせて佐天が退室し、部屋には白井と御坂の二人が取り残された。
二人分の洗い立てのカップが雫を落とし、真っ白なギモーブがいくつか残された菓子折りの箱を間に挟む形で。

白井「うふふ!お・姉・様〜?」

御坂「な、何よ黒子その笑いは」

白井「これにて二人きりですの!!!」

御坂「(本当に何も覚えてないの?)」

ここぞとばかりにナース服を着て欲しいだのマシュマロをお口あーんさせて欲しいだのとすり寄る白井。
御坂は真新しい湿布や消毒液の匂いを感じながらしないわよ!と迫る白井の両頬を引っ張って抵抗する。
だが胸中を過ぎる思いは疑念と胸裏に宿る思いは疑心。白井は本当に覚えていないのだろうかと言うそれ

白井「お姉様のマシュマロ!!世界に一つだけのお姉様の二つのマシュマロ!!!」

だが


御坂「止めんかこの馬鹿黒子!打ち所悪くなって余計ひどくなってるじゃない!!」

そこで


ハナテ!ココロニキザンダユメヲ!ミライサエオキザリニシテ!


御坂「あっ、いけない」

鳴り響く着信音。病室内だと言うのに電源を切り忘れた携帯電話。
そこで御坂がじゃれあうのを止めてすぐさまオフにしようとした。
だが折り畳み式の携帯電話を開いた御坂の眼差しは指先よりも早く

『着信:上条当麻』

白井「………………」

御坂「ごめん黒子ちょっと電話出て来る!すぐ戻るからね!!」

画面上に表示された名前と番号と待ち受けに御坂は切る事をせず携帯電話を耳に当てながら飛び出して行く。
よほど慌てていたのか、勢い良く閉めたスライドドアが反動で半ばまで開いてしまったが、白井は動けない。

白井「くっ……」

本来ならば呼吸する度に走る激痛を押し殺し、御坂の様子から察した発信者を思う苦痛を噛み殺した。
脂汗が一気に溢れ出すが、涙が押し寄せるのを跳ねつける強さだけが辛うじて白井を支えていた。そう

白井「……わたくしは本当に馬鹿ですの」


車椅子のホイールに添えられた指先が白くなるほどの力を込めて。



41 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:10:14.51 ID:TL+uDUOAO
〜5〜

……――わたくしは大馬鹿者ですの。

誰に誉められるでもない痩せ我慢を。

自分で誇る事も出来ない自己満足を。

あわや馬脚をあらわすところですの。

白井「うっ……」

麻酔が効いていてこのざまとはとんだお笑い草ですわ。しゃんとなさい白井黒子、しゃきっとなさい白井黒子。
さして大きくもない器ならばせめて頑強に、さして厚くもない器なりにせめて頑丈に己を静めて鎮めて沈めて。
こんな鉛玉一発お腹に食らったところで膨れるほど、こんな銃弾一撃お腹に喰らったところで満たされるほど。

白井「くっ……」

『白井黒子』は弱くなどないはずですの。少なくとも、『御坂美琴の世界』のわたくしはの話ですが。
それをあんなにも幸せそうなお姉様の前で、心配そうな初春の前で、気遣わしそうな佐天さんの前で。
地金を晒してはなりませんの。焼きを入れ熱を上げ、叩かれる度に伸びて強くなる鉄のようになると。
石のように固い意思と石のように堅い意志と石のように硬い意地と石のように難い意地に齧りつくと。

白井「(申し訳ございませんのお姉様。わたくしは二つほど嘘をつきましたのよ)」

痛苦に歪む自分の脆弱さに、惰弱さに、軟弱さに、真実(よわさ)を虚偽(つよさ)に変えるためにも。
固法先輩にも話せず、お姉様にも話せない昨夜の出来事。憎いであろうわたくしを助け出した憎いお方。
お姉様が救おうとした敵、わたくしを救った敵。気紛れか、悪戯か、嫌がらせか、それさえわからずに。

白井「……わたくしは本当に馬鹿ですの」

何のために彼女の名を伏せたんですの?敵に命を助けられた事を恥じて?いえそれは違いますの、きっと。
恥じるべきは敵に命を救われた自分の弱さですの。本来ならばお姉様に心配される価値すらない類の弱さ。
お姉様があの殿方と真剣に交際を結ばれ、親密に関係を紡がれる事に縮乱されるこの胸に秘められた醜さ。

???「――ええ、貴女は本当に馬鹿ね」

……――何故貴女がここにいるんですの。何故貴女が、お姉様が開けっ放しにした入口にさも当然のように。
腕を組んで背を凭れ、目を細めて唇を歪め、髪をかき上げて足を踏み出して来るんですの。どうして――……

???「――私がせっかく拾ってあげた命をむざむざドブに捨てるくらいなら――」

貴  女  が  こ  こ  に  い  る  ん  で  す  の

42 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:11:14.49 ID:TL+uDUOAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「いっそのこと、昨夜のうちに殺してしまえば良かったわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
43 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:11:49.43 ID:TL+uDUOAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 2 「 白 い マ シ ュ マ ロ 、 赤 い フ レ ジ ェ 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
44 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:14:25.86 ID:TL+uDUOAO
〜6〜

――――時は僅かに遡る――――

ショチトル「………………」ジー

結標「(メチャクチャ睨まれてる……)」

トチトリ「………………」ジー

結標「(ムチャクチャ見られてる……)」

海原「すいませんこんなところで。この時間しか空きがなくて」

ショチトル「こんなところとはなんだこんなところは。それに空き時間とは大した言い草だな。
片手間に義務的に来るなら来なければ良い。来てくれと言った覚えもないぞエツァリ。だいたい」

海原「(余計な残留思念を拾ってイライラすると言っていたのに)」

トチトリ「(一日でも来なければ来ないでイライラするくせにな)」

ショチトル「何か言ったか?そこの二人」

海原「いえ」

トチトリ「なにも」

結標「……本題に入らせてもらっても?」

同階にて姦しい歓談が花咲かせる中、昨夜の大雪すら及びもつかないブリザードが病室に吹き荒れていた。
その中心に座わりしまま、結標のお見舞い品兼手土産たるあまおうのフレジェを頬張る冬将軍ショチトル。
それをきな臭い笑顔の土御門とは対照的な胡散臭い笑顔で見やり、結標に向き直るは元同僚たる海原光貴。

海原「ええ。自分に聞きたい事は新入生の残党についてだとお伺いしましたが――」

結標「……貴方平和ボケした?それとも色ボケ?わかっているなら他人に聞かせる類の話でない事くらい」

海原「自分が掴んでいる程度の状況と深度の情報は彼女達も把握しているので大丈夫ですよ。むしろ――」

結標「その娘達が私を監視しているようね。余計な火の粉を持ち込ませないために」

とんだ難物に当たってしまったものだと結標は左手で顔を覆い天井を仰ぐようにして頭(かぶり)を振る。
一応彼女達も暗部抗争から連なる一連の暗闘を潜り抜けて来ている。これ以上の押し問答に意味などない。
そこで結標は気持ちを切り替え、海原に向き直るようにして出されたパイプ椅子に腰掛けて髪をかき上げ。

結標「貴方の腹黒さには負けるけど腹を割って話しましょうか」


結標は海原に問い質した。今この街に巣食っている落第生(あんぶくずれ)について

45 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:14:52.70 ID:TL+uDUOAO
〜7〜

海原「では自分も結論から。新入生なる“忌み枝”はもはや学園都市という“巨木”に対する影響力は限り無く0に近いかと」

結標「……ではそれに根差すものは何?」

海原「枝葉を実らせるだけの資金力(えいようげん)と伸ばすだけの後ろ盾(にっこう)を失ってしまったからですよ。ええ」

結標「アレイスターの遠行と上層部の失脚で首が回らなくなったって事ね。グレムリンも一方通行達が潰してしまった事だし」

海原「はい。早い話が彼等は今や自分達が“剪定”される側に回りました。各地で起きている事件も実にささやかな問題です」

海原は両手で湯呑みを支え持ちながら常と変わらぬ微笑を湛えながら結標に語って聞かせる。
アレイスターという威光を、上層部という寄る辺を失い、黒夜海鳥らという中核など失い――
ほぼ下部組織の寄せ集めのような状態となり、今や明日の我が身も知れぬ状態となっている。

海原「今や彼等に出来るのはその場しのぎの切り捨てとその日暮らしの切り売りです。自分達の身に置き換えて考えたならば」

結標「ゾッとしないわね」

海原「これでおわかりいただけましたか?自分が彼女達を同席させた最たる理由が」

暗部に身を置いていた頃に溜め込んでいた武器や駆動鎧や最先端技術を外部に横流ししようとする者達。
暗部で培った技能で強盗事件を起こすなどスキルアウト並みに程度の低い者もごまんといるらしいのだ。

結標「お金がないんじゃ首がないのと同じ事ね。遅かれ早かれと言ったところだわ」

そもそも新入生とは、一度解散した暗部にわざわざ自分から舞い戻って来た――
言わば抑えの利かない、表の世界に適合出来ない人間達の掃き溜めにも等しい。
その上資金源も失い、スポンサーも失い、地下銀行の資産さえも失ったらしい。
かつ資金を汲み上げる権力(うしろだて)まで失ったとあれば高転びに他ない。

海原「車枝、閂枝、逆枝、交差枝、落ち枝、幹切り枝、立ち枝、胴吹き、従長枝。彼等は“剪定”されるより先に“枯死”するでしょう。春を迎える事なくこの冬にも」

一つの巨大かつ強大な権力機構が瓦解すれば、それらが内包していた闇もまた、野を駆けるよりないのだ。

結標「――親船最中という勝ち馬に乗って結果として正解だった、という事ね……」

そこで結標は話は済んだとばかりに、顔の前で手を振って締め括りとする事にした。

46 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:16:58.37 ID:TL+uDUOAO
〜8〜

結標「(下部組織程度の人員しか残っていないなら、わざわざ現状確認するまでもなかったわね……)」

海原からおおよその事情を聞き出した私はそこで席を立つ事にした。今更旧交を温める中でもないしね。

海原「貴女も“枝打ち”に誘われているのですか?わざわざ自分のところに話を聞きに来たところを察するに」

結標「“貴女も”というからには貴方も水を向けられた口?残念だけれどそれは違うしそのつもりもないわよ」

そして現体制の走狗になるつもりもないわ。ドッグ・イート・ドッグ(同業者同士の潰し合い)に加わるつもりね。
旨味と食いでのある共食いならまだしも、歯応えのない雑魚を食い散らかしたところで喉に小骨が突き刺さるだけ。
私は白井黒子(かのじょ)や御坂美琴(かのじょ)のような正義の味方になんてなれないし、なるつもりもないわ。

結標「一方通行には最終信号が、土御門には義妹が、私には仲間達が、貴方には御坂美琴(かのじょ)が」

海原「………………」

結標「“身内”がいたからこそ私達はあの闇の奥底を這いずり回って来れたんじゃない?それをわざわざ」

海原、耳聡く目聡い貴方ならば既にわかっているでしょう?御坂美琴の世界は今や上条当麻(かれ)のものよ。
貴方が戦う意味も、私が闘う理由も、既に失われてしまった。少なくとも、闇は晴れなくても夜は明けたはず。
取り戻したものを放り出してまで再び剣を取るには、私は些か疲れてしまったのよ。『あの人』との戦いでね。

結標「……どうもに調子が狂うわね。兎に角、貴方が今為すべき事はその“両手に花”を枯らさない事!」

海原「!?」

ショチトル「?!」

結標「断っておくけれど、海原と私は仕事上の付き合いだけで貴女達が考えているような婀娜っぽい事は」

トチトリ「ない、と」

結標「ええ。そいつがあと五歳から十歳若かったら考えないでもないけれど、私の好みから外れてるしね」

だから貴方達も取り戻した平和を謳歌して取り返した日々を満喫なさいな。

結標「忙しいところをわざわざ悪かったわね海原。それからありがとう。このお礼はいずれなんらかの形で返させてもらうわ」

海原「――……いえ、もう頂いてますよ」

結標「?」

海原「これです」

ショチトル「……美味かった。礼を言う」

トチトリ「エツァリより余程気が利くな」

あまおうのフレジェ一つでそんなにニコニコ笑うんじゃないわよ。安い男ね。
47 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:17:32.84 ID:TL+uDUOAO
〜9〜

そして結標は海原・ショチトル・トチトリの病室から渡り廊下へと歩み出し、冬晴れの空を仰ぎ見る。
幸いにしてアレイスターの『プラン』が瓦解した後、彼女達もこの病院で治療に専念する事が出来た。
『グループ』の面々も土御門が渡りをつけ親船という勝ち馬に乗る事が出来た。長い暗闘の終わりだ。

結標「(それでも、こうして話していると暗部に身を置いていた頃の自分が今ひとつ抜けきらないわね)」

誰かに相談したり助け合ったりしてどうにかなる地点の果て、絶対に勝てないゲームの終わり。
自分の目で確かめ手で掴めなければ何も信じられないような日々の向こうに取り戻した日常……
昨夜のように友達と夜遊びに繰り出し、初雪に胸躍らせ、柄でもない助け舟を出した自分自身。

結標「(性分というのは墓場まで持って行くものだけれども、はてさてこれからどうするべきかしらね)」

サラシを巻き直した胸に手を当てながら一つ深呼吸すると、結標の背後でバンと音高くドアが開かれた。

結標「?」

しかし結標が振り返るより早く病室のドアを開け放って飛び出して行った何者かは足音のみ残して去って行った。
何やら話し声が聞こえたような気がするが足音は一つだった。恐らく電話か何かだろうかと結標はあたりをつけ。

結標「あっ……」

白井「くっ……」

結標「(なぜ)」

そこで気付いた。半ばで閉め切らなかったスライドドアの向こう、車椅子に腰掛けながら身体を丸め……
窓辺より降り注ぐ冬晴れの陽射しに透ける白いカーテンの下、脂汗を浮かべ眉を顰める白井黒子の姿に。
思いもよらぬ遭遇に結標は見開いた眼差しを白井から離せない。こんな神の悪戯などあり得るのかと。が

白井「……わたくしは本当に馬鹿ですの」

結標「………………」

白い雪の残る窓辺に置かれた車椅子、白い光射す病室で痛苦に耐える白井黒子。
見るからに痛み止めが切れ息も絶え絶えなその様子に、結標は苛立ちを覚えた。
ナースコールを呼べば良いだろうにと、ベッドに横たわって良いだろうにと――

結標「――ええ、貴女は本当に馬鹿ね」

白井「!?」

結標「――私がせっかく拾ってあげた命をむざむざドブに捨てるくらいなら――」



――何に対して、そんなにも肩震わせて耐える事があるのかと――



48 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:19:32.04 ID:TL+uDUOAO
〜10〜

――――そして時は巻き戻され――――

結標「いっそのこと、昨夜のうちに殺してしまえば良かったわ」

白井「……――何故貴女がここに!!?」

結標「それはこっちのセリフよ白井さん」

射し込む光に包まれた白井、伸びた影に身を置く結標がここに『再会』した。
両者にとって思い掛けず、望ましからざる形で、運命に導かれるようにして。
それに白井は目を見開くもすぐさま見据える形にて結標を睨み付けるように。
対する結標も眦を決するもすぐさま冷笑的な笑みと眼差しを湛えて睥睨する。

結標「貴女馬鹿なの?それともマゾなの?たかが一日で塞がるはずもない傷と痛みに耐えてどうするの?」

白井「そんな事貴女に関係ないですの!」

結標「全くの無関係でもないでしょう?仮にも命の恩人に対してその噛みつきようは人としてどうなの?」

白井「くっ……」

結標「御坂美琴も後輩にどういう教育をしているのかしらね。程度が知れるわよ常盤台(おじょうさま)」

カツカツとリノリウムの床を踏み鳴らして結標が車椅子の白井の前に立ち、露悪的な微笑みと共に見下ろした。
そこで御坂を引き合いに出され吠えかかろうとするも、結標に食ってかかりきれず白井は歯噛して耐え忍んだ。
結標はそんな白井の表情に何かしらの歪んだ満足感と歪な優越感を覚えたのか、ベッド側にあるナースコールへと

結標「……ナースコールを呼んであげる」

白井「や、やめてくださいまし!」

結標「?」

白井「……これしきの掠り傷程度で――」

手を伸ばさんとしたところ、白井が歯を食いしばって車椅子から立ち上がり結標の手を押し留めようとした。
コールなどかければ医者や看護師が駆けつけて来る。そうすればようやく安心させた御坂がまた心配すると。
結標はそんな白井の意固地さに気分を害したように柳眉を顰めた。善意とさえ呼べないそれであろうとも――

白井「ううっ……」

結標「ちょっと!」

だがガバッと立ち上がった事により、今度こそ声を殺し切れず白井が前のめりに倒れ込んで行くところを

白井・結標「「あっ……」」

咄嗟に差し出した結標の両腕が、白井を受け止める形で支え直した。
あの残骸(レムナント)に際して結標が白井を迎え入れようとし……

結標・白井「「………………」」

拒まれた腕の中へ、拒んだ胸の内へ、飛び込むような形で――

49 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:20:50.10 ID:TL+uDUOAO
〜11〜

結標「(軽い)」

白井黒子(かのじょ)を抱き留めた時に私が最初に感じたのは、見た目に違わず軽いその身体だった。

消毒液の匂いが鼻をくすぐって、それでも何故か不快じゃなかった。突き飛ばす事さえ出来なかった。

結標「(……――私は何をしているの)」

昨日彼女の命を助け出したのは、酔いも手伝ったほんの気紛れに過ぎなかったはずだと言うのに。

今日もたまたま通りがかっただけの事だと言うのに、何故私はこんなに柄でもない事をしてまで。

結標「だから貴女は不出来だと言うのよ」

……かつて私の手を払いのけ、腕を振り解き、それどころか挑みかかって来た貴女に助けを呼ぼうとして、あまつさえ受け止める事までしているの。

確かに貴女は私に似ている。けれど貴女は私に似ていない。何故なら私は人を傷つける側の人間で貴女のように人を守る側の人間ではないのだから。

結標「――なんなら、昨夜の続きをここでしてあげましょうか」

私は、昨夜貴女を撃ち抜いた暗部(かれら)と同じ側の人間だった言うのに。

貴女は私の『身内』ではないと言うのに。


――私と貴女は違っているはずなのに――


50 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:21:45.28 ID:TL+uDUOAO
〜12〜

白井「(細い)」

わたくしが結標淡希(かのじょ)に抱き止められた時、最初に感じたのは見た目より細い肢体でしたの。

アクア・アレゴリアの香りが鼻をくすぐって、何故か心安らぎましたの。突き放す事も出来ないほどに。

白井「(わたくしは何をしてるんですの)」

貴女に助け出された事に屈辱さえ、貴女に救い出された自分に恥辱さえ覚えている恩知らずな礼儀知らずだと言うのに。

わかっておりますの。肩肘張れど立てもせぬ自分の未熟さ、片意地張れど支えもせぬ自身の脆弱さをいやと言うほどに。

結標「だから貴女は不出来だと言うのよ」

残骸(レムナント)に絡んで貴女と切り結んだあの夜、わたくしを迎え入れようとした時と同じ両腕ですの。

あれほど嫌みったらしい能書き、あれだけ長ったらしい前書きの果てにわたくしに差し伸べられた細い両腕。

結標「――なんなら、昨夜の続きをここでしてあげましょうか」

お姉様の温かい手とは違う、結標淡希(かのじょ)の冷たい掌。似ても似つかない二人の指先。


早く離れて下さいまし。速く離れなければ。お姉様が戻って来ますの。わたくしが戻れなく――


51 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:22:43.54 ID:TL+uDUOAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
御坂「――あんた達なにしてんのよ!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
52 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:25:57.14 ID:TL+uDUOAO
〜13〜

白井「お姉様!?」

御坂「黒子から離れなさい!!!!!!」

結標「………………」

何がどうなってるの?どうしてあいつからの電話で席を外してる間によりによってこの女がここにいるの。

何でどうしてあんたが黒子を抱き締めてるの。何でこうして黒子があんたに抱きすくめられているのよ!!

結標「……後輩が後輩なら先輩も先輩ね。人の顔を見るなり怒鳴りつけるだなんて貴女親からどういう教育受けてるのかしら」

御坂「黒子から離れなさい!下手な動きをしてみなさい、頭を吹き飛ばすわよ!?」

白井「お、お姉様!これには理由が――」

御坂「黒子は黙ってなさい!!!!!!」

白井「っ」

固法先輩が言ってた『ピンク色のサラシ』ってやっぱり結標淡希(このおんな)の物だったんだわ。

残骸(レムナント)の時、黒子を血溜まりに沈めたこの女が。どうして今になってまた姿を現すの。

御坂「……黒子、あんたさっき言ったわよね?“撃たれた後の事は何も覚えてない”って言ったわよね?」

白井「そ、それは……」

御坂「――これはどういう事?“昨日の続き”って何なの?あんたこの女に何かされたって言うのかしら」

白井「………………、」

御坂「どうして私に黙ってたの。ううん、嘘をついて隠してたの?黙ってないで説明しなさい黒子!!!」

黒子が泣きそうな顔で俯いて、あの女が楽しそうな顔で笑ってる。

あんた達は一体何なの?私の知らないところで何が起こってるの?

教えてよ黒子!答えなさい結標淡希!!あんた達は何なのよ!!?

結標「――言える訳ないわよね白井さん」

白井「!?」

結標「愛しの“お姉様”の前では、ね?」

……――あんた、何を言って――……


53 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:26:51.42 ID:TL+uDUOAO
〜14〜

結標「平和ボケで血の巡りが悪くなるのは構わないけど、色ボケで頭の巡りが悪くなるのは頂けないわね」

うろたえる白井を制し、息巻く御坂を制して結標は艶笑めいた表情で含めるように歌い上げて行く。
燦々と照りつける三冬月の陽射しを背負い、かかる白いカーテンを払いのけて傾げた顔を睨め上げ。

御坂「――どういう意味よ……」

結標「わからない?貴女がヘラヘラ笑いながら男と遊び歩いているそのすぐ側で何が起こっているのかも」

御坂は知らない。この時結標の脳裏を過ぎるは昨日の女子会にて、上条に懸想していた少女達の顔が浮かび上がっている事を。
御坂は知らない。この時結標の目蓋を過ぎるは今日の見舞いにて、御坂に懸想していた元同僚の顔が浮かび上がっている事を。
御坂は知らない。この時結標の胸裡を過ぎるは先程の痛苦に耐え、御坂に懸想している好敵手の顔が浮かび上がっている事を。

結標「言ってごらんなさい白井さん。昨日貴女が私に何をされたか。考えてみなさい御坂美琴。昨夜彼女が私に何をされたか」

御坂「あんた……――」

白井「違いますのお姉様!この方はわたくしを助……きゃっ!」

御坂「黒子!!?」

そこで結標は白井を車椅子へと突き飛ばして歪んだ笑いを浮かべ、御坂へと向き直って歪な嗤いを湛える。
痛苦のあまり呼吸すら詰まり言葉も紡げない白井から目を切り、怒髪から赫亦を散らす御坂を嘲るように。
火花を大輪にまで育て開かせるため、因縁という土壌に激怒という水(ガソリン)をかけて挑発し続ける。

結標「ほら、正義の味方(あなた)が殴りやすいように口実(りゆう)を作ってあげたわよ“超電磁砲”」

そこで結標は呼吸を整えようとする白井をチラッと流し目を向ける。昨夜の血溜まりを見出すようにして。
自分に向かって来る時と、御坂に向ける時の白井の表情の落差にひどく落胆させられて仕方無いのである。
同時に、今し方顔を合わせ言葉を交わした海原はこんな女のために命を懸けたのかと思うとやりきれない。

白井『貴女に助けられるくらいならば……――死んだ方がマシですの!!!!!!』

そんな御坂に対しひた隠され耐え忍ばれる、昨夜目にした白井黒子の涙(みてはならないもの)が――

結標「……そんな風に考えているから、貴女はいつまで経っても誰も守れないのよ」



――――結標をどうしようもなく苛立たせ――――



54 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:27:19.00 ID:TL+uDUOAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――――妹達(あのこたち)も死んで当然ね――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
55 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:28:46.33 ID:TL+uDUOAO
〜15〜

白井「ッッッッッ!」


その瞬間、全てが凍てついた。


御坂「――――――」


時間も、空間も、その全てが。


結標「――怒った?」


結標の笑顔を除く全てが凍る。


御坂「……あんたに」


代わりに咲くは、紫電の火花。


御坂「何がわかるの」


それは言ってはならない禁句。


御坂「――あんたに」


それは触れてはならない領域。


御坂「あんたに……」


陽光に、鈍色の雲がかかり――


御坂「――あんたに私の何がわかるのよオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ー!!!!!!」


プロペラが、風もないのに回り


白井「お姉様!!?」


病室の硝子が割れ落ち砕け散り


結標「――クス……」


その破片に結標の笑みが映った

56 :>>1[saga]:2012/03/27(火) 20:29:58.47 ID:TL+uDUOAO
ACT.2終了です。ありがとうございました〜
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)[sage]:2012/03/27(火) 20:32:26.93 ID:9R0aB6Lw0
おつおつ

初リアルタイム更新!
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/27(火) 20:37:34.89 ID:fvTip5Fdo
乙!
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/27(火) 23:12:54.48 ID:eYBF2wsDO
やべぇ
あわきんマジS
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/28(水) 09:41:51.60 ID:Oy7szrmJ0
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/29(木) 11:48:32.02 ID:kebV9Z1bo
流石に黒子のモノローグにアブサンが出てくるのはなあ
中学生なのに味なんてわからないだろ普通w

比喩の題材的にはちょうどよかったんだろうけど、モノローグならそのキャラの知識レベルに合わせてあげないと
逆に不自然になると思う
62 :>>12012/03/30(金) 17:23:06.70 ID:s92lENdAO
ACT.3「白い傷跡、赤い爪痕」は今夜投下させていただきますね。

PS>>61
確かにその通りですね。ありがとうございます。
63 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:05:58.85 ID:s92lENdAO
〜0〜

結標『死んだ方がマシなくらい嫌いな私に拾われた命を、せいぜい歯軋りしながら噛み締める事ね』

舞い散る粉雪の白、流れ出す鮮血の赤、その狭間にあるピンク色のサラシを彼女に巻き付けながら――
私は闇夜の黒の中にも見て取れた彼女の双眸から溢れ相貌を濡らす透明な雫に見入り魅入られていた。
肩と頬の間に挟んだトバシ用の匿名電話、コード五十二を経由しながら呼び出す救急車を待ちながら。
持ち歩いていたバッグに入ってた予備のサラシや生理用品でも止血が追い付かない。間に合うかしら。

白井『……後悔しますわよ』

結標『もうしてる。銃声なんて気にせず素通りしてしまえば良かったわ。おかげで胸が寒いったらない』

私のコルク抜きで抉られ、拳銃で撃たれて尚涙一つ零さなかった貴女のどこか自暴自棄(なげやり)な物言い。
風紀委員(かたぶつ)として知られる貴女のそんな姿が、仲間を捕らわれ囚われた頃の私に重なって見えたの。
大切なものを奪われ、この冬空の下ささくれ立った唇を噛み締め血を滲ませるような、そんな荒れ模様の貴女。

結標『――……貴女達に追い込まれた後の私も、こうして自分の流した血で濡れた地べたを味わされたの』

白井『………………』

結標『そんな私を助け出して救急車を呼んでくれたのはね、上条当麻という男の子だったのよ?白井さん』

白井『!!!!!!』

結標『貴女から御坂美琴を奪った憎い仇敵が、私を拾った恩人なの。これは言わば恩返しならぬ恩送りよ』

その理由は御坂美琴でしょう?その原因は上条当麻でしょう?と私は自暴自棄になっていた彼女を煽り立てる。
貴女の消えかかる命の灯火に油を注いであげるの。激情という名の、何よりも確かな熱を、冷え切った貴女へ。

結標『最低の相手(わたし)からの施しと最悪の相手(かれ)からの目こぼしの味は如何かしら白井さん』

白井『……やはり貴女は最低の屑ですの』

その事に思い煩い判断力を失い、その事に思い悩み演算力を逸したのでしょう。わかるわよ白井さん。
テレポーターは本来下着一枚にまで気を配り、薄絹一枚にまで気を張らなくてはならない繊細な存在。

結標『――その元気があれば大丈夫ね?』

わかるわよ白井さん。わかるのよ私には。

貴女の痛みも傷みも、手に取るようにね。

だって、私と貴女は似ているのだから――

64 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:06:26.32 ID:s92lENdAO
〜1〜

御坂「結標淡希ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

硝子が砕け散ると同時に結標は座標移動し、白井の病室から影も残さず、御坂の前から姿を消した。
だが御坂は電磁力の吸着力と反発力と空間把握駆使し、窓枠より病院外壁を駆け登り屋上を目指す。
結標は逃げるつもりなどない。御坂も逃がすつもりもない。ただ一人、車椅子に『座らされた』――

白井「お姉様!!!」

白井の呼び声が耳に入らないほど怒り狂った御坂が配水管から屋上の鉄柵へと飛び移って身を踊らせて。

結標「――来たわね、常盤台の超電磁砲(レールガン)」

御坂「……来たわよ。あんただけは絶対に許さない!!」

辿り着いた先は曇天より天使の梯子が差し込む屋上、無数のシートが物干し竿にかかり寒風に揺られている。
結標はそこから一段高い貯水タンクに腰掛け、怒髪天を衝く御坂を冷ややかにせせら笑って見下ろしていた。
対する御坂もまた死んだ妹達や殺されたシスターズを侮辱された事に怒り狂いながらも、その手には――……

御坂「……さっき言った言葉を取り消しなさい。そうすれば怪我で済ませてあげる」

結標「いやよ。私は吐いたツバを飲み込む事もかいた汗を無駄にする事も嫌いなの」

未だに根雪残る屋上のコンクリートより引き出し押し固めた砂鉄の剣、対する結標は軍用懐中電灯を構える。
御坂の怒りに呼応するかのようにブルブルと空気を震わせるそれが、結標の目にも映り込み、そして細められ

結標「――使わないの?レールガンを?」

御坂「………………」

結標「白井さんが言ってたわ。レールガンを撃てば一秒で全てを終わらせられると。それをしないのは」

一際強い風が吹き、立ち上がるとミニスカートが靡き、かきあげると赤い髪が戦ぎ、羽織ったブレザーが翻る。
御坂が許せないと感じた事、それは妹達を侮辱された事。そして妹達をダシに使ってまで自分を煽り立てる――

結標「優しさだと白井さんは言った。でも私の考えは違う。貴女はただ自分の手より綺麗な物を持っていないだけ」

腐りきり、ねじ曲がった、結標の嗜虐性。女ならば誰しも本能的に備えた、精神(こころ)を抉る残酷さ。

結標「自分の手を汚す覚悟も、泥を掴む気概もないくせに、身勝手な正義の元に悪(たにん)に石を投げる貴女を」

そして――

結標「手放しで誉める人間ばかりじゃないって事を思い知らせてあげるわ。御坂美」

65 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:08:32.52 ID:s92lENdAO
〜2〜

御坂「言いたい事はそれだけかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドンッッッッッ!!!!!!と言う音と共に、御坂が砂鉄の剣を携えながら結標目掛けて突っ込んで来る。
その身に迸る紫電を漲らせ、裂帛の勢いを以て風ごと断ち割るように、疾風すら遅きに逸する迅雷が如く。

結標「っ」

筋電微流と生体電流を操作しての御坂の急加速に目を見開いた瞬間、躍り出て振り下ろされる砂鉄の初太刀。
対して軍用懐中電灯を横構えにして受け止め引き剥がさんとする結標、引き離されまいとする御坂が激突し!

結標「言い足りないくらいよ!貴女のような偽善者を見ていると反吐が出るわ!!」

右払いに振り切り弾き返す結標!左回りに回転し一周して振り抜く御坂!!されどそこに結標の姿は既になく!!!

御坂「!?」

結標「――ずっと、貴女が嫌いだったわ」

轟ッッッッッッ!と月面宙返りのように冬空に座標移動しながら、何本もの鉄製の物干し竿を御坂目掛けて放つ。
だが御坂は一本目を砂鉄の剣で切り飛ばし、二本目を横転してかわし、残りを磁力の反発を利用し軌道を逸らす。
それによって御坂の周囲に剣山のように何本もの物干し竿が突き立つ。故に御坂はそれら全てを磁力によって――

御坂「私もあんたみたいなゲス女が前から気にいらなかったのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

結標「貴女みたいに中身の伴わない綺麗事と、中身が空っぽな絵空事ばかり口にする人間だって生臭いものよね!!」

ミサイルのような推進力を以て、宙を舞う結標目掛けて次々と撃ち放たれて行く。
自分自身が軽々とテレポート出来るようになったのは予想外ではあったが想定内。
されど結標も負けじと自分自身をテレポートさせ、鼻先を掠める刹那に回避して。

結標「――誰がそんな貴女の尻拭いをさせられてると思ってるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

目蓋を過ぎ行く海原の笑顔に、姫神達の泣き顔に、白井の横顔に、被さるように乱舞するシーツが座標移動させられる。
一瞬視野を遮られ、視野を覆われ、視線を塞がられる御坂が電撃を放ち、科学繊維で編まれたシーツに引火し炎上して。

結標「っ」

御坂「ッ」

瞬きの炎の中座標移動にて飛び込む結標、シーツを砂鉄の剣で切り裂き開けた視界の中再び鍔競り合い――

66 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:08:59.24 ID:s92lENdAO
〜3〜

御坂「――巫山戯んじゃないわよ!!!」

御坂が結標の二つ結びの左側をひっつかみ、砂鉄の剣を捨てて結標の横っ面を鼻筋ごとひっぱたいた。
更に右から一発、左から一発、往復する平手と反復する殴打が結標の華奢な輪郭を首ごと横倒して――

結標「巫山戯てるのは貴女でしょうが!」

御坂「あがっ!?」

行く最中、蹴り上げた膝頭が御坂の鳩尾に深々と食い込み、くの字に折れる御坂が尚離さない手を――
結標は思いっきり立てた爪で御坂の目元を切り裂くように立て、片目が塞がりかけた御坂へと更に平手を

結標「――クソ忌々しい女!!!!!!」

奥歯も砕けよとばかりに見舞う平手打ちが、鼓膜まで破れよと横殴りに御坂に叩きつけられて行く。
そして倒れ込んだ御坂の顔面を、名残雪に突っ込ませるように踏みつけ踏みにじり踏み潰して行く。

結標「ほらどうかしら常盤台(おじょうさま)!?地べたなんて舐めた事ないでしょう!?ほらっ!!!」

能力によるドッグファイトから暴力によるキャットファイト。数限りなく叩きつけ、後頭部を足蹴にする。
手塩を相手取って制した経験が、御坂の知らぬ結標の地力となって優勢に傾き、趨勢を決して行かんと――

御坂「――調子に乗ってんじゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

結標「ぐがっ!?」

するはずもなく、かつて皮膚を根刮ぎ持って行かれた足首を掴まれ浴びせられる電流に結標が仰向け寝に倒れ込んだ。
そこへ御坂が馬乗りになり平手打ちを叩きつけ、結標が下から軍用懐中電灯で殴り返す。止まりようも止めようもなく

結標「っ」

結標が座標移動で御坂を宙へ投げ出し放り投げ、御坂が猫ひねりで貯水タンクへと着地する。
開け放たれた両者の距離、広がり続ける両者の軋轢、そこで結標は頬を押さえながら立った。

結標「――海原と上条(かれら)に免じて手心を加えてあげないでもなかったけれど、もうやめよ!!」

かつて傷ついた足首は痺れ、切れた内頬から血が滲む。しかしそれ以上に傷つけられたのは女としての矜持だ。
かつて一方通行に強かに殴りつけられた記憶も相俟って蘇り、それが逆毛を立たせるほどの怒りを呼び起こす。

結標「傷物にしてあげるわ!!!!!!」

名残雪を溶かさんばかりの激憤を湛えて、結標は散乱する鉄製の物干し竿に演算を集中させ傾注させ――

67 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:11:25.61 ID:s92lENdAO
〜4〜

御坂「あんたがいるから!!」

結標「貴女さえいなければ!」

座標移動より懐へ飛び込み軍用懐中電灯を縦に振り下ろす結標、横へ振り抜く御坂が競り勝ち弾き飛ばす。
されど結標は後退しつつ、虚空より十数本に渡る物干し竿を巨大な大釘のように御坂に撃つ!放つ!穿つ!
しかし御坂は自身に磁力を集中させ、斥力を発生させ鉄製の物干し竿を次々と押しのけ掻き分け前に出る。
そこで結標は御坂の進行方向を塞ぐように座標移動させた物干し竿をコンクリートに林を植えるようし――
その背後では貯水タンクが座標移動させられた物干し竿が刺さり、破裂するように雪解け水が噴き出して。

結標「―――!!!」

結標が座標移動を連続で繰り返し、御坂を攪乱しながら内一本に両手をかけポールダンスの要領で蹴撃を浴びせる!
だが御坂も寸でのところで同じく宙を舞い物干し竿に膝裏を引っ掛け、車輪のように回転してそれを回避しそこから

御坂「ああああああああああああああああああああ!!!」

一回転して結標の頭上に躍り出て、威力をかなり下げた電撃を放って薙ぎ倒し、御坂が着地する。
それによって結標が背中から屋上の鉄柵に叩きつけられたのと、破裂した貯水タンクの雪解け水が

結標「がはっ……」

御坂「――口ほどにもないわね結標淡希」

スコールのように降り注ぐ中、勝敗は決した。しかしその雨さえ御坂の中に宿る瞋恚の炎を消せはしない。
自分のみならず妹達の事を引き合いに出されての侮辱である。それもよりによって相手は『結標淡希』だ。
かつて残骸(レムナント)を持ち出し、実験を再開させようが構わないと数ヶ月前に事件を起こした相手。

御坂「――三度は言わないわ。あの娘達を侮辱した事を取り消しなさいよ!!!」

結標「……ふふふ」

それに対し結標は曇天より降り注ぐ天使の梯子を見上げながら笑う。まるで鳥籠のような光であると嘲る。

結標「お断りよ!」

御坂「……あんた」

結標「口ほどにもない私だけれど、貴女の思い通りに囀るカナリヤに成り下がるくらいなら舌を噛んで死んだ方がマシよ!!」

ペッ、と血反吐を御坂の顔に吹きかけて。

御坂「――あんたってヤツはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!」


そして御坂が電撃を放たんとして――……


68 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:12:29.46 ID:s92lENdAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「もうお止め下さい二人共!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
69 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:13:03.18 ID:s92lENdAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 3 「 白 い 傷 跡 、 赤 い 爪 痕 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
70 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:13:37.37 ID:s92lENdAO
〜5〜

御坂「……黒子」

白井「もうこれ以上この方を傷つけないで下さいましお姉様!!悪いのはわたくしなんですのよ!!!」

御坂が雷撃の槍をまさに放たんとしたその刹那、鉄柵に寄りかかり崩れ落ちた結標を庇うようにして――
白井は痛苦を押して空間移動で二人の間に割って入った。両手を広げ結標に背を向け御坂に胸を晒して。
それにブレザーまで焼け焦がされた結標が、信じられないものを見るように目を丸くする。それはまるで

結標「(どうして――……)」

白井「この方はわたくしを手当てしてくれて救急車を呼んで、助けが来るまでずっと側にいてくれたんですのよお姉様!!!」

御坂「!?」

白井「さっきだってたまたまなんですの!わたくしとてこの方がいらっしゃるだなんて知らなかったんですのよお姉様!!!」

白い入院着に身を包んだ白井は、さながらこの光の梯子から降りて来た天使のように結標は一瞬錯覚させられた。
対する白井は目に涙を溜めて押し留める。思わず面食らい、虚を突かれたように呆ける御坂(おねえさま)をだ。
そして何より驚いているのは他ならぬ白井自身だ。御坂を止めるのではなく結標を庇った、己自身の在り方にだ。

御坂「……だったら何で黙ってたの!どうして私に嘘をついてまで隠してたの!!」

結標「――飲み込みが悪いわね御坂美琴」

だが、結標は雪解け水が生み出した泥濘に手を突き鉄柵に腕をかけて立ち上がった。
未だ折れそうな足と笑いそうになる膝を、意思と意志と意地で維持し立ち上がった。

結標「……貴女を彼女の立場に置き換えたなら、私に助けられただなんて口が裂けたって言えるはずない」

御坂「………………」

結標「分かり合えて分かち合えて、和解して理解して、歩み寄って肩寄せるだなんて私達にはありえない」

白井「結標さん……」

結標「――そんな価値観(せかい)は貴女達で共有すればいい」

負け犬に許される限りの遠吠えを尽くして結標は御坂をせせら笑う。
柄でもない仏心など出すものではないと、自分自身もせせら笑って。

白井「………………」

結標「っ」

そんな自分に向けられる白井の眼差しが、どんな痛みより堪えた。

71 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:16:15.24 ID:s92lENdAO
〜6〜

結標「……――そのザマでは愛しの彼氏としばらく顔も合わせられないわね。痛み分けにしては上出来よ」

御坂「……――二度と私の前に姿を現さないで!黒子の前にも顔を出さないで!!」

結標が右ポケットから右袖まで焼け焦げたブレザーを脱ぎ捨てると、半ば溶けた携帯電話が割れて落ちた。

二台持っていて良かったとも思わない。御坂が本気を出していたなら自分がこうなっていたと知るが故に。

結標はよろめく足で白井とすれ違い、ふらつく身体で御坂をすり抜け、雪解け水に波紋を描いて去り行く。

結標「――自分の正義(カタ)に嵌らない人間に石をぶつける貴女の生臭さと、私の血腥さも似たものよ」

最後まで挑発し、最期まで面罵しながら。

結標「せいぜい狭い世界(ワク)の中で、泥も掴まないお綺麗な手で、これからも石をぶつければいいわ」

崩れ落ちるより早く、崩れ去るより速く。

結標「……――妹達(あのこ)達の血で濡れた手で、白井(たにん)の涙の上に成り立つ幸せを掴んでね」

ザッ!と雪を蹴散らすようにして結標は座標移動で屋上から、二人の前から、影すら踏ませず消え去った。

72 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:17:18.78 ID:s92lENdAO
〜7〜

御坂「………………」

白井「………………」

突き立った物干し竿から、白旗のようなシーツが寒風に乗せられて病院屋上より学園都市の街並みへと落ちて行った。

御坂は目元から頬にかけて蚯蚓腫れのように引きつる爪痕を一撫でし、結標の残して行った呪いの言葉を噛み締めて。

御坂「――病室に帰るわよ黒子。こんなところにいちゃ傷に響いちゃうもんね……」

白井「……お姉様」

御坂「私なら平気。あーあ、こんなひどい顔じゃしばらくあいつに会えないわねー」

唇を噛み締めて、奥歯を噛み砕かぬように努める。結標の呪いの言葉も負の一面を抜き出せば一つの真実だ。

妹達の死(ぎせい)の上に成り立つ命(みこと)という存在。御坂とてかつては結標と同じ事を思ったのだ。

自分は幸せになってはいけない。この世界に救いなどない。もう二度と笑えないと、あの実験の前後まで――

御坂「………………」

上条当麻(ヒーロー)に救い出されるまで

白井「(お姉様……)」

御坂は魂を、白井は命を、そして結標もまた形は異なれど上条に救われた人間である。だがそれは――

白井「(結標、さん)」


――同一でこそあれど、全一などでは決してない――


73 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:18:05.03 ID:s92lENdAO
〜8〜

海原「(……参りましたね、どうにも)」

そして屋上での騒ぎを聞きつけ駆けつけるは、そこへ連なる階段と鉄扉に身を潜めていた海原(エツァリ)。

処女雪の上に立つ御坂、天使の梯子の下しゃがみ込んだ白井、ボロ雑巾のように敗れ去った結標の三人を……

踏み越えてはならぬ一線を越えれば止めに入るつもりであったが、最悪の局面は何とか避けられたと見届け。

海原「(一方通行といい、彼女といい)」

光溢れる御坂達に背を向け、海原は陽の射さない暗い階段を音立てる事なく苦笑いを浮かべて下って行く。

思う。万が一の時、自分は恐らく御坂を守ろうとしただろう。想う。上条ならば両方止められただろうと。

経緯こそ知り得ぬものの御坂に食ってかかった結標に対し忸怩たる思いがある。だが海原は追い掛けない。

海原「(あまり御坂さんに負担をかけないでいただけませんか)」

自分の尻拭いは自分でというビジネスライクな関係に背もたれなど有り得ない。例えばそれは――……

とぅるるるるるるる♪

海原「――もしもし?」


学園都市(まち)の影より、学園都市(まち)の闇へ連なる道であろうとも――……


74 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:18:33.86 ID:s92lENdAO
〜9〜

――――――――――――――――――――
12/13 16:47
from:美琴
sb:ごめーん!
添付:
本文:
ちょっと三、四日実験で忙しくなりそう!
しばらくあんたなんかに構ってられないけど
メールや電話はOKだから!それからね……
ちゃんと補習はこなす事!わかってる???
クリスマスまで後十日しかないんだからね!
もし約束破ったらあんたを雪だるまにするわ
――――――――――――――――――――

上条「(美琴のヤツは能力実験か……)」

月詠「上条ちゃーん??補習中に携帯いじるとはいい度胸をしてますねー?」

上条「うおっ!?せせせ先生これは違うんだ違えんだ違います三段活用!!」

同時刻、上条は小萌から出された課題の答え合わせの真っ最中にも関わらず御坂からのメールに口元緩ませていた。
見えない角度から携帯電話を開いたつもりが、どうやら知らず知らずの内に笑んでいたところを見咎められたのだ。
メッと指差す小萌の手前返信する事は出来ないが、上条は嫌で嫌でたまらない補習の最中にあっても心持ち――……

上条「(補習も頑張ってこなさねえと、マジでクリスマスにまで食い込んじまうもんな、うん集中集中)」

夕陽と夕闇が交差し、夕月と夕星が交錯しつつある時間帯であろうともひどく晴れ晴れとした気分なのだ。
それは十一日後に控えた二人で迎える最初のクリスマスを前に何としても補習を消化しきるという目標だ。
ならばそもそも補習など受けぬよう勉学に励めば良いのだろうが、足りないのは単位より出席日数である。

月詠「(んまー土御門ちゃんも特別公欠が多いですねー。これではコマが足りてもお勉強に遅れが……)」

そして居残り組が問題を解いている間に出席表をチェックするは小萌。
本来ならば、その中に土御門も含まれていなければいけないのだが――

とぅるるるるるるる♪

月詠「ちょ、ちょっと失礼するのですー」

――――――――――――――――――――
12/13 16:50
from:結標ちゃん
sb:無題.
添付:
本文:
今夜帰らない。ご飯いらない。
――――――――――――――――――――

月詠「んまー!」

授業を終えた事でマナーモードを解除していた携帯電話が鳴り響き、慌てて廊下に出て開かれたメール。
そこには昨夜もどこかでアルコールを口にして帰って来た不良娘からの素っ気ない一文が記されていて。

75 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:20:43.98 ID:s92lENdAO
〜10〜

結標「……こっちの携帯電話も何か調子悪いわね。御坂美琴(あのおんな)の電撃のせいかしらね……」

四回ほどメール送信に失敗したもう一つの携帯電話を折り畳み、結標は風穴の空いたビーカーに凭れかかる。

それはかつて統括理事長ことアレイスター・クロウリーが君臨していた玉座。同時にここはその王城である。

上条・一方通行・浜面達の手により『プラン』ごと打ち砕かれた『窓のないビル』。結標はそこにいたのだ。

結標「………………」

もはや誰も訪れる者のいない墓標とも言うべきビルの内側にて、結標は亀裂から射し込む夕陽を身体に浴びせる。

足首の痺れ、熱を持つ頬、細かい擦過傷、焼け焦げたブレザー、壊れた携帯電話、尻尾を巻いて逃げ出した自分。

小萌『――喧嘩ばかりしちゃダメなのですよー?結標ちゃんも女の子なのですから』

結標「言われた矢先にこのザマじゃ、合わせる顔がないわよ」

たった今メールを送ったばかりの小萌の声が脳裏に蘇る。傷が癒えるまで家には帰れない。

『グループ』時代に使用し今も残されているだろう仮眠室にでも寄ろうかと結標は考えた。

とてもではないが仲間の前に出せる顔でさえないし最低限食べて寝るには困らない場所だ。

76 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:21:09.43 ID:s92lENdAO
〜11〜

白井『もうこれ以上この方を傷つけないで下さいましお姉様!!悪いのはわたくしなんですのよ!!!』

白井さんが私に感謝する必要なんてないけれど、貴女が御坂美琴に謝罪する必要なんてもっとないでしょうに。
別に私は誰かに誉めてもらいたくて貴女を助けたんじゃない。別に自分を褒めたくて貴女を救ったんじゃない。
なのにどうして貴女が彼女に謝る必要があると言うの。好かれてるだなんて思ってなかったけれど、流石に――

御坂『……――二度と私の前に姿を現さないで!黒子の前にも顔を出さないで!!』

あそこまで嫌われるといくら私でも傷つく。それは御坂美琴に罵られた事よりも何よりもずっとずっと。

白井『お、お姉様!これには理由が……』

――ずっとずっと私が傷ついたのは、私が側にいる事であそこまで貴女が狼狽えたと言う現実そのものよ。
まるで愛人との浮気現場を見咎められ修羅場を迎えたようなリアクション。それはとりもなおさず私が――
……まるで汚らしい物のように、穢らわしい者のように扱われたと言う事実が否応無しに私を打ちのめす。

結標「……痛いわ」

昨日小萌が言ったように、私の身体には貴女に刻まれた傷跡がいくつか残っている。うっすらと白くね。
私はその傷を見る度に貴女を思い出した。貴女を忘れる事なんて出来なかった。痛みを伴う記憶は特に。
私が皮膚を根刮ぎ持って行かれた時とも違った意味で、貴女が私の心に立てた赤い爪痕は今も残ってる。

結標「……許さない」

私の手を払い除けた貴女、私の腕に倒れ込んだ貴女。そんな貴女が御坂美琴を見るなり狼狽えた表情を見て……
私は苛ついた。頭に血が昇って、ひどく腹が立った。貴女が涙するほど苦しんでいる側でヘラヘラと笑って――
私の顔を見るなり顔を真っ赤にして石をぶつけて来た彼女に。性善に生まれ偽善を笠に独善をふるうあの女に。

結標「……赦せない」

自分が正しければ、それ以外の人間は全て間違っているとでも言いたいのかしらねあのクソ忌々しい女は。
彼女が妹達とやらのために身体を張り終わった後、人知れず身体を張り続けている一方通行(にんげん)。
貴女が日向で笑う草葉の蔭で、張り付けた笑みで彼女では影しか踏めない闇を行く海原光貴(にんげん)。



――それさえも知らずヘラヘラ笑ってるだけで誰からも無条件に愛されるあの女――


77 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:23:04.51 ID:s92lENdAO
〜12〜

貴女が見てる御坂美琴(げんそう)なんて、妹達(いたいところ)を突かれただけで剥げ落ちる鍍金よ。
貴女が視てる御坂美琴(げんじつ)はどう?男(かれ)が出来てから女(あなた)に注がれる眼差しは?
貴女は御坂美琴(かのじょ)を手に入れられない。貴女は上条当麻(かれ)にはなれないのよ白井さん。

貴女があんな雪降る夜、血に染まりながら学園都市(まち)を守ろうとしているその傍らで――……
あの女はぬくぬくとあたたかい部屋で彼氏と遅くまでメール三昧か長電話でもしていたんでしょう。
愛しい御坂美琴(あいて)を奪った憎い上条当麻(あいて)とのやり取りを、貴女はどう見てたの?


貴女の涙も知らずに笑う、彼女の笑みを。


なのに貴女はまだ彼女に縋ろうと言うの?散歩(あそび)にも連れ出してもらえない鎖に繋がれた犬のように。
雨降りの中、置き去りにされたとも知らずに段ボールの中で主人を健気に待ち続ける悲しい哀しい犬のように。
垂れ流された悪感情(フン)も取ってもらえず、お腹を空かしているのに愛情(エサ)も貰えない犬のように。


――ただ、撫でて欲しいだけなのにね――


寂しいでしょう?苦しいでしょう?辛いでしょう?泣きたいでしょう?愛されたいでしょう?
だのに貴女は救われない。だけど貴女は報われない。だから貴女は忍びない。それ以上に――


御坂『黒子から離れなさい!!!!!!』


――よくも私を壊してくれたわね。

結標「――――――………………」

貴女さえいなければ、私達はどうにでもなったのに。

結標「そうよ」

傷つけられたなら、ズタズタに傷つけ返せばいいの。

結標「私は何も」

壊されたなら、グチャグチャに壊し返したらいいの。

結標「悪くないわ」

真新しい雪に、メチャクチャに足跡をつけるように。

結標「私は悪くない」

ただムチャクチャに踏みにじってしまえばいいのよ。

結標「悪いのは貴女よ」

今まで人を傷つけて来たのと同じようにすればいい。

結標「――私は何も悪くないッッ!!!」

白井黒子(あなた)が思慕し恋慕し愛慕し横恋慕さえ出来ない御坂美琴(げんそう)を引き裂いてあげるわ。
糸より細い絆ごと、針より小さな紲ごと、御坂美琴の名前を思い出す度胸痛ませる傷名(きずな)にしてね。



この血のような赤い夕陽射し込む、亀裂の入ったビルみたいに。



78 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:23:33.46 ID:s92lENdAO
〜13〜

白井「(――……まるであの方の髪色のような夕陽ですの)」

同時刻、御坂の手により病室へと連れ戻された白井はベッドに横たわりながら窓辺より落日を見つめていた。
御坂は結標から負わされた引っ掻き傷の治療と屋上の修繕費を払い終えると帰って行った。その別れ際に――

御坂『――黒子。あの女に何かされた時は必ず私に言うのよ』

眼帯をつけて踵を返した御坂の表情と声音は強張っていた。白井もおおよそは理解している。結標が触れた禁忌(タブー)を。
故に御坂は結標に感謝などしないし謝罪などしない。あのコルク抜きのような舌鋒が、猛毒を孕んだ舌禍となって御坂を苛む。
それを思うと白井は御坂の胸中を慮ると同時に結標の胸裏をも思い煩う。行き違いとすれ違いの果てにぶつかり合った二人を。

白井「(結標さん)」

その白井の膝上には結標が脱ぎ捨てて行ったブレザーと壊れた携帯電話が広げられていた。
アクア・アレゴリアの桜の香りが残るそれらを、御坂が帰った後にこっそり回収したのだ。
このシリーズで桜の香りがするのはただ一種類しかない。故に白井はそのブレザーを抱いて

白井「(……性格の悪さは救いようもありませんが、香水の趣味の良さだけは認めて差し上げますわよ)」

何故、素直に頭を下げる事が出来なかったのだろうか。何故、ただ一言の五文字が口に出来なかったのか。
何故、自分は御坂を止めるのではなく結標を庇ったのか。何故、自分は結標の事ばかり考えているのか――
御坂への崇敬は身動ぎもしない。ある種の信仰ないし忠誠に近いものさえある。それは御坂が白井にとって

白井「(お姉様は強いお方ですの……)」

仰ぎ見るべき存在だからだ。憧憬と呼んで差し支えない。だが結標は違う。彼女は言わば白井の延長線上に佇む存在だからだ。
傷つき、惑い、傷つけ、迷い、強くはあれど逞しくなく、弱さと呼ぶにも脆すぎる。それは生死を賭して戦った白井の実感だ。
そんな彼女は今どうしているだろうかと考えられずにはいられなかった。もう一度会いたい。詫びるべきところは詫びたいと。

白井「貴女(むすじめさん)は――……」

思い返されるは昨夜の記憶、思い起こされるは結標の体温、思い詰めるは自分の雑言、思い出されるは



結標『――――貴女なんて…………』



――月の海に住まう兎と、太陽の黒点に棲まう鴉が巡り会った雪の夜――



79 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:25:31.35 ID:s92lENdAO
〜14〜

結標『――その元気があれば大丈夫ね?』

嗜虐的な眼差しで、自虐的に笑うわたくしを嘲笑うあの方。熱を持った傷口、冷え切った身体、震える手と痺れる足。
あの時のわたくしは血を失い過ぎて寒さとは異なる凍えに見舞われておりましたの。そんなわたくしをあの方はずっと

結標『……こんな事をするのは甚だ不本意なのだけれども――』

雪にまみれウサギのようになっていたわたくしを、あのカラスの羽のようなブレザーで包み込むように……
救急車が来るまで体温が下がらぬよう抱き締めていて下さったんですの。ずっとわたくしに呼びかけ続けて

白井『………………』

言葉を紡ぐ力さえ失われつつあったわたくしをつなぎ止めていて下さったあの方に対して何と言えば良かったんですの?
ありがとうと?ごめんなさいと?かつて切り結んだわたくし達にあって、その言葉を口にする事への怖憚られる思いが。

結標『――勘違いしないでちょうだい白井さん。曲がりなりにも私を追い込んだ人間(あなた)に、こんな安っぽい死に方をされては私のプライドに関わってくるのよ』

そんなわたくしに忖度する事なく、足の間に挟み込み背を抱きながらも路地裏の出入り口を油断なく伺っていたであろう貴女。
迂闊に動かせないほどの死に傷を追い、同じテレポーター同士飛ばす事も出来ないわたくしとまだ見ぬ新手に備えていた貴女。

結標『どうせ死ぬなら憎い私の腕の中で死になさい白井さん。愛しのお姉様じゃなくて残念だったわね?』

白井『……死んでも御免被りますの!!』

そして救急車のサイレンが遠くから聞こえ、先ほどの犯罪者達の増援の危機が去るまでそうしていた貴女。
ブレザーのボタンを留め直して立ち上がり、引き抜いた血染めのビニール傘の下にわたくしを横たえさせ。

白井『………………』

結標『……重ねて言うけれども、勘違いしないでちょうだいね』

真っ暗な夜と路地裏の中、真っ白な雪と月明かりの下、髪をかきあげてわたくしを見下ろして来た貴女。

結標『貴女なんか』

白井『―――ですの』

ホワイトアウトする意識、ブラックアウトする視界、そして。

結標『……初めて気が合ったわね』

――――わたくしが意識を失う寸前に見た貴女の横顔は確かに…………



結標『……私も、貴女なんて嫌いよ……』


80 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:25:59.41 ID:s92lENdAO
〜15〜

御坂「(私はやっぱり幸せになっちゃいけない人間なのかな)」

夕月夜が昇りつつある学舎の園を、御坂は名残雪に足を取られぬようにして左目の眼帯をさすりつつ歩む。
既に店も軒並みシャッターを下ろし始め、生徒達も姿もまばらな様子が片方塞がった視界でも見て取れた。
幸い眼球に傷一つ負う事なく、蚯蚓腫れも数日中に治るだろうとカエル顔の医者に言われた。しかし御坂は

御坂「(何でかな。あの女が私を見る目つき、あいつのところのシスターと同じ目をしてた気がするわ)」

結標が御坂の心に刻み込んで行った呪いの爪に胸押さえながら今日一日の出来事を反芻していた。
妹達を侮辱された真っ白な怒りと、自分に向けて来られた結標の真っ黒な敵意。あの眼差しは――

インデックス『“一人目”のとうまのこと、なんにも知らないくせに!!!!!!』

御坂「(……私が好きになったあいつに一人目も二人目もない。あいつはあいつ、上条当麻ただ一人よ)」

御坂は知っている。あの眼差しに宿る色は『憎悪』だ。御坂は知らない。その眼差しに宿る光は『嫉妬』だと。
皆々の祝福を受けた御坂にあって、結標の呪詛は冷たい声音で火が点いたように叫ぶ修道女と重なって――……

食蜂「みぃーさぁーかぁーさぁーん♪」

御坂「……あんた、なにしてんのよ?」

食蜂「ちっちゃい雪だるま作りよぉ☆」

御坂「……子供じゃああるまいし……」

と、石畳の途中にて出会すは食蜂操祈。珍しく供回りをつけずただ一人で茜色の夕陽射し込む路上で雪だるまを作っている。
たまにこういう童女めいた真似事をするその横顔は、赤いダッフルコートと相俟ってとても『常盤台の女王』とは思えない。

食蜂「どうしたのぉそのお目目。新しいキャラ力作りかしらぁ」

御坂「ただのものもらいよ。用がないなら話し掛けないでよね」

だがとてもそんな難物相手にかかずらっているゆとりは御坂に残されていなかった。


――――しかし――――


食蜂「どうせやるなら第四位の特殊メイクみたいにしなくちゃ」

御坂「!?」

食蜂「浮き足立ったお留守な足元見せてると掬われちゃうゾ☆」

ボトッ、と言う音と共に御坂が振り返ると

御坂「………………」

食蜂は既に影も形もなく姿を消していた。

御坂「……気味悪い」

ハートの女王に刎ねられたような、首無し雪だるまを残して。
81 :>>1[saga]:2012/03/30(金) 20:28:10.26 ID:s92lENdAO
ACT.3しゅーりょー。たくさんのレスありがとうございます。

次回から

A:黒百合ルート
B:鬼百合ルート
C:白百合ルート

いずれかに突入ー
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/30(金) 20:55:25.68 ID:gV9Z5GfMo
おつかれー
鬼と白がわからん
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)[sage]:2012/03/30(金) 21:23:26.13 ID:uaF3Zt6m0
乙です
結標もインさんも、なんというお前が言うな状態
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2012/03/31(土) 01:17:45.53 ID:4CkaX2hWo

どうでもいいがヒステリックグラマーという単語が浮かんできた

本当にどうでもいいが
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/31(土) 09:37:04.00 ID:lS4JCBJM0
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/03/31(土) 09:45:58.21 ID:bGenEFZto
立場逆なら美琴も同じこというだろうよ
世の中そんなもん
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/03/31(土) 12:31:55.16 ID:twEn7HHPo
お互い身勝手と棚上げを自覚しつつ、そんな理性じゃ感情を押し殺せる枷にもならないほど歪な関係ってか
あわきんは美琴がたとえどんな理不尽な物言いだろうとまっすぐ受け止めて真っ向から傷付く性根である事も分かった上でやってるぽいから何とも性質が悪いww
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/03/31(土) 19:59:39.24 ID:hWMCuJev0
なんかエグいな…エグい(褒め言葉)
あわきんも黒子も美琴も幸せになってほしいのに…
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/01(日) 16:16:13.36 ID:mrSc+72to
美琴うぜえ
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)[sage]:2012/04/01(日) 17:28:03.49 ID:IIJqLxwu0
あわきんが悲しすぎる・・・
ハッピーエンド希望
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/01(日) 20:26:09.56 ID:XUt9eKw5o
バッドエンドはやめてほしい
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/02(月) 07:50:23.78 ID:zron/mwzo
オレはバッドエンドも好きだぜ
93 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 18:47:35.65 ID:sm6RtECAO
ACT.4「白い携帯電話、赤いスマートフォン」は今夜投下となりなす。たくさんのレスをありがとうございますー

PS>>84
タイトなのが多いのでヒスグラは買った事がないのですよ
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/02(月) 19:35:41.60 ID:I3kO6gRD0
何というドロドロ感
そういや一応初代上条さんと美琴も面識あったよな
それを含めてもインさんがそれを言っちゃあ…
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/02(月) 19:44:47.32 ID:9gkzXzU1o
>>94
まあ、理性と感情は別だしな
96 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:23:39.88 ID:sm6RtECAO
〜0〜

――――――――――――――――――――
12/17 19:16
from:姫神さん
sb:良かったら。
添付:
本文:
flipsideの。クリスマスライブのチケット。
いる?予定が入ったから。私。行けなくて。
――――――――――――――――――――

結標「(このケータイもそろそろ替え時かしら。もうなんだかずっと調子悪いしね)クリスマスか……」

白井達と物別れに終わって早五日目、結標は仲間が根城にしているマンションの一室にて携帯電話をいじっていた。
御坂との戦闘により電撃を浴びせられた余波か、数日前から送受信やバッテリーの具合が日に日に悪化しつつある。
何せこのメールでさえ四回メールサーバーから呼び出してやっと届いたのだ。やはり明日買い替えに行こうかと――

少女「何?デートのお誘いか何かかな?」

結標「ちょ、ちょっと覗き見しないで!」

結標がソファーにて頭北面西右脇臥で寝そべっていると、仲間の一人である少女がメールを盗み見して来た。
以前にも千円ほどするサラダを肘をつきながら食べている結標を『行儀悪い』とたしなめた同年代の少女だが

少女「だって悩ましそうな顔で“クリスマスか”なんて言いながら携帯いじってたら気になっちゃうわよ」

結標「悩みどころはそこじゃないわよ。友達からいらなくなったクリスマスコンサートのチケットを……」

少女「嗚呼、その娘フられちゃったんだ」

結標「………………」

少女「そんな顔で睨まないで?怖いから」

そういう貴女も行儀悪いでしょうと結標が睨むと少女は背もたれ越しに肩を竦めて怖い怖いと離れて行く。
結標とて言われなくともわかっている。恐らくそのチケットは姫神が上条を誘おうと一世一代の勇気を――

結標「(手元に置いて置きたくないわよね。辛いだけだもの)」

振り絞って購入したものだろう。故に結標はその意を汲んでチケットを譲り受ける胸をメールにしたためる。
五回の送信失敗の後に送り出した電子鳩が中空を飛び立つのを幻視しながら結標は思う。どうするべきかと。

結標「(金券ショップに売り払うのも何だか気が引けるしね)」

最悪、期日までにこの消化試合をこなしてくれる相手が見つからなければ先程の少女でも誘おうかととも思う。
だがその相手を探そうにも携帯電話がなくてはそれも難しそうだと結標は腫れの引いた頬に手を当て息を吐く。

結標「……クリスマスどうしようかしら」
97 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:24:21.82 ID:sm6RtECAO
〜1〜

冥土帰し「お大事にね?」

白井「お騒がせいたしましたの」

12月18日、白井は正午に退院手続きを終え、車椅子を病院玄関口へ横付けされたタクシーに移して乗り込む。

見送りに来てくれた冥土帰しの腕前は大したもので、既に術後の抜糸まで終えているのだから驚異的である。

バタンと閉められたドア越しに会釈すると、すぐさま運転手が行き先を聞いて来る。常盤台中学ですか?と。

白井「いえ、第七学区の地下街までお願いいたしますの」

運転手「かしこまりました」

だが白井は首を横に振って行き先を地下街へと指定した。常盤台中学に戻る前に調達したいものがあるのだ。

白井「(先ずは携帯電話をどうにかしなければなりませんの)」

それはパームピストルの銃撃を受け大きく破損させられた、あのやたらと扱い難い近未来型携帯電話だ。

常盤台中学から風紀委員に至るまで様々な人間の連絡先が入っていたそれを失った痛手はやはり大きい。


そして


白井「………………」



――罅割れた自分の携帯電話と、焼け焦げた結標の携帯電話――



98 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:24:56.69 ID:sm6RtECAO
〜2〜

わたくしの記憶が正しければ、車椅子から臨む高さを100センチの世界と表現したのは外部のテレビドラマでしたの。
大覇星祭の折にも体感した視点・視線・視界。かすかに引きつる銃創を庇いながら回す腕が少しばかり辛く感じますの。
ですがこうして正午に差し掛かった頃合いを見計らって退院したのは、お姉様や初春、佐天さんを心配させたくないと。

佐天『……ひどい!女の子の顔にこんな事するだなんて酷すぎるよ!!』

初春『――また結標さんですか。ですけど白井さんにも問題ありますよ』

御坂『ううん、いいの。向こうから売った喧嘩だし買ったのも私だしね』

……あれからまたお見舞いに来て下さった方々の表情や言葉に、酷く胸を掻き毟られる思いでしたの。
特にお姉様の端正な顔立ちを台無しにする眼帯の下に刻みつけられた爪痕はわたくしのせいですのよ。
お姉様は何でもない風を装っておいででしたが、その内心は計り知れませんの。それと同じくして――

結標『……私も、貴女なんて嫌いよ……』

お姉様を痛ましく思う気持ちに反比例して、わたくしの中にあの方への悪感情をさほど沸き上がって来ませんの。
お姉様を傷つけた手で、わたくしを助けたあの方。そう思うとわたくしは憎んで良いのか慈しんで良いのかさえ。

白井「――確かここでしたわね。お姉様とあの殿方がいらしていたショップは……」

時折向けられる、道行く人々の視線の波を掻き分けて辿り着いた先。
そこは件の殿方とお姉様が共に入った携帯電話のショップでしたの。
今思えばあの時肩寄せあって写メを撮っていたあのお二方は――……
既にわたくしでは影も踏めない世界を共に戦い抜いて来たんですの。

白井「んっ!?この段差厄介ですの!!」

そしてコンビニの半分ほどのスペースのショップの段差を上手く車輪で乗り越えられず、わたくしは悪戦苦闘いたしましたの。
常ならばこれしき苦にもならないというのに、傷口を庇って力が上手く入りませんの。ああ、膝の上に乗せた携帯電話までも!
その上、床面に散らばった携帯電話にさえ手が届きませんの。嗚呼、バリアフリーという言葉の意味が身を以てわたくしに……

???「――何をしているのよ、貴女は」

白井「!」

ウーッと犬のように唸るわたくしの背にかけられた涼やか声音。

白井「……貴女は――」



――――その声の主は――――



99 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:27:23.08 ID:sm6RtECAO
〜3〜

結標「二つとも携帯電話というのも芸がないし、一つは今流行りのスマートフォンにしてみようかしら?」

仲間のいるマンションで昼近くまで眠りこけていた結標はシャワーを浴びるなり街へと繰り出す事にした。
その目的はおよそ二つ。一つは遅めの朝食にして早めの昼食、残るもう一つは携帯電話を買い替えるため。
小萌の買い物に付き合い何度となく足を踏み入れたこの地下街に立ち並ぶ店舗の殆どを結標は知っている。

結標「ケータイショップはあそこね……」

地下街に吹き込むビル風の余波を受けて、焼け焦げたブレザーの代わりに羽織った私服のニットコートが靡く。
黒を基調とし袖口と襟首に白のファーをあしらったニットコートにベルトを交差させ引き締めたミニスカート。
脳裏に過ぎる、私服の方が露出度が低いのってどうなの?と突っ込んで来る少女を無視して向けた眼差しの先。



――――そこには――――



白井「んっ!?この段差厄介ですの!!」

結標「………………」

ショップの入口の段差に足を取られ立ち往生している少女の姿が結標の目に止まる。その名は白井黒子。

結標「(どうして)」

そこで結標も思わずどんな表情(かお)をして良いかわからなくなり、つい足を止めてしまったのである。
一度会えば偶然、二度逢えば必然と誰だったかが口にした星占いの言葉。ならば三度遭えば蓋然だろうか。

結標「(……別のショップにしましょ)」

そこで結標は車椅子の扱いと段差の隔たりに四苦八苦する白井から踵を返し立ち去る事に決めた。
五日前のやり取りで自分が白井に近付いてもロクな事にならないと身体で思い知らされたからだ。
だが結標が背を向けようとしたまさにその時、ガチャンと言う音と共に何かが散らばる気配がして

結標「あれは……」

振り返った結標が目にしたもの。それは転がり落ちたやたら近未来的なデザインの携帯電話と――
五日前御坂に壊され、屋上に捨てて行った自分の携帯電話であった。何故白井があんなものをと。
しかし白井は車椅子に乗りながら身体を折り曲げて床面に落ちたそれらを一生懸命拾い上げんとし

結標「――何をしているのよ、貴女は」


白井「!」

何故自分が捨てた携帯電話をわざわざショップにまで持って来たのかが知りたくて、結標は声をかけた。



三度目の正直だと、囁く内なる声に従って


100 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:27:51.02 ID:sm6RtECAO
〜4〜

白井「……貴女は――」

結標「それ、私のよね」

白井「………………、」

結標「どうしてなの?」

ショップの前で立ち往生する白井に代わって、二つの壊れた携帯電話を拾い上げ仁王立ちとなる結標。
いっそ運命的でさえあるその邂逅に白井は目を瞬かせ、結標は目を逸らすようにした。だが白井は――

白井「……弁償させていただこうかと思って持って参りましたの」

結標「余計なお世話よ。貴女にそんな事をしてもらう義理なんて」

白井「……――あの時は、たいへん申し訳ございませんでしたの」

結標「!」

白井「わたくしのせいでお姉様とあのような事になってしまって」

そこで白井は、うなだれるようにして結標に対し頭を下げた。
その事に対して結標はよりいっそうバツが悪そうに腕組みし。

白井「……あの時、助けていただいたお礼もせずにあんなつっけんどんな物言いさえしなければ今頃は」

結標「――よしてちょうだい。貴女に頭を下げられたところでどうしようもないしどうにもならないわ」

片意地を張り続けた白井、肩肘を張り続ける結標の間にザワザワという行き交う人々の話し声が重なる。
結標とて心の奥底ではわかっているのだ。御坂に対し名付けようのない敵愾心を燃やした事がそもそもの

結標「……貴女に謝られても嬉しくない」

嚆矢となりて御坂に弓を引く切っ掛けになった事ぐらい理性ではわかっている。ただ感情を持て余しているのだ。
自分から謝るなど真っ平御免だと。だが自分が誤っているとわかっていてもどうして良いのかがわからないのだ。

白井「――それでも」

結標「………………」

白井「あの時はありがとうございましたの。“結標淡希”さん」

結標「やめてったら」

中学生を相手にムキになっている高校生という絵面のみっともなさ、狭量さが身に染みてよくわかった。
御坂への敵愾心があまりに上回り、白井への敵対心が相対的に下回っている心の揺れ動きに惑う結標は。

結標「……こんなところで立ち話してたらお店の人に迷惑でしょう」

白井「!」

結標「ほら、こんな段差くらいなんだって言うのよ。こんなもの!」

白井の車椅子のハンドルを握り、前輪を浮かせるようにして乗り上げさせてショップの自動ドアを開いた。



――二人の間に隔たる垣根の一つを乗り越えるように、一歩前へ――



101 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:28:31.22 ID:sm6RtECAO
〜5〜

店員「ふあ……」

あーあ眠いなあ……みんな早いお昼終わって帰ってこないかなー。

私一人店番とかマジ面倒臭いんですけど。まあヒマなんだけどさ。

結標「……貴女、本当に軽いわね。車椅子の方が重いんじゃない?」

白井「……それは、誉め言葉として受け取ってよろしいんですの?」

結標「調子に乗るんじゃないわよ。ちょっと、そこの店員さん??」

店員「は、はい!」

結標「お金もらって働いてるんなら、お店の前くらい気を配ってね」

はわわっ!?お客さん来てんじゃん!!ヤバいいつからいたの?って言うか私いつから居眠りしてた!?

それも車椅子じゃん。前にもあそこの段差を越えるの手伝った事あったっけ……じゃないじゃない!!!

店員「も、申し訳ありませんでした!ほ、本日のご用件は?」

白井「あー……」

結標「えー……」

白井・結標「「機種変更に(ですの)」」

良かったー先輩にどやされる前に目が覚めて……

見た感じ姉妹かな?上手く言えないけど似てるし

店員「かしこまりました!」

今月のノルマ、この二人で達成するぞー!

102 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:30:46.15 ID:sm6RtECAO
〜6〜

白井「(まさかとは思いましたが……)」

結標「この赤いやつ可愛くないかしら?」

白井「(……三度巡り会えるだなんて)」

結標「ねえ、白井さんはどう思う???」

白井「とと、とてもカッコいいかと……」

結標「(この丸っこいデザインが??)」

さして広くないもないショップ、車椅子ではやや狭く感じる通路にあって白井は常より低い位置から結標の横顔を見つめる。
最新鋭のスマートフォンを手に取り眺める結標の初めて目にする私服姿と、珍しく下ろされた薔薇色を思わせる長い赤髪に。
なまじ露出度の高い普段の装いの後に、スタイルのよくわかる張り付くような黒のニットコートを見ると落ち着いて見える。

白井「(……相変わらず寒そうなお足)」

店員に話を聞いたところ、結標のメモリーだけは生きておりデータは全て移し替えられるとの事だ。
だが携帯電話そのものは修理出来る状態ではなく、やはり買い替えるしかないと言われ現在に至る。
そんな中にあって、新たな機種を探し求めんとする眼差しがついついミニスカートから伸びる足に。

白井「(申し訳ありませんお姉様やはりわたくしが原因の喧嘩別れとは言え謝罪の一つもないまま見送るのは人としてのry)」

結標「ねえ」

白井「は、はい!?」

結標「私はこれにしたいのだけれど……」

白井「(うっ、目線の高さが近い……)」

謝罪と賠償を要求された訳ではないがこうして結標と言葉を交わし今もこうして車椅子の視線の高さで見交わしていると――
御坂を裏切って逢い引きしているかのようなえもいわれぬ罪悪感に懊悩とさせられる。だが結標はそんな事はお構い無しで。

結標「……さっきからどうしたのよボーっと人の顔見て。私の顔まだ腫れてる?」

白井「いえ、そんな事はございませんの(お姉様ともまた違う良い匂いが……)」

高さ100センチの世界から見上げ過ぎて首が凝りそうなと白井と同じ高さの目線で話し掛けて来る結標に思うのだ。
残骸(レムナント)の事件の際は一度目は夕闇、二度目は闇夜、そしてこの間は雪明かりの下であった。それ故に――

白井「(いけませんの!痩せても枯れても黒子はお姉様一筋なんですのー!!!)」

結標「撃たれたのお腹よね?頭痛いの?」

改めてまじまじ見る結標の素顔に、白井は抱えた頭をヘッドバンキングしながら悪魔の誘惑を振り払った。

103 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:31:18.71 ID:sm6RtECAO
〜7〜

結標「(それにしても……)」

白井「こ、このデザインなどSFチックでよろしくありません?」

結標「ええ、そうね(スッゴい使い辛そう。それに脆そうだし)」

まじまじと見つめて来る白井の視線が時にこそばく、そして時に外される目線に結標は小首を傾げる。
どうせまた物別れに終わると思っていた相手との思いもよらぬ展開にやや居心地悪さを感じてもいる。
なにぶん御坂から二度と白井に姿を見せるな顔を出すなとまで言われたのだ。にも関わらず白井は――

結標「あら、これ何かも新しいわね」

白井「まあこれもなかなかどうして」

結標・白井「「――あっ……」」

白井・結標「「………………」」

信仰ないし忠誠すら捧げて見える御坂の言葉に反しているとわかっていながら自分に接触して来たのだ。
たった今も同じスマートフォンに白井が右手を伸ばし結標が左手で触れて、両者の手指が重なり合って。

結標「……ご、ごめんなさいお先に……」

白井「……い、いえわたくしの方こそ!」

結標「(手、こんなに小さいんだ……)」

白井「(指、あんなに細いなどと……)」

店員「(姉妹じゃなくて先輩後輩?それとも付き合い始めの女子校カップル??)」

慌てて引っ込めそっぽを向く結標、左手で顔を覆い俯く白井。そんな二人を不思議そうに見やる女性店員。
白井も結標に対する因縁を、結標も白井に対する遺恨を、それぞれ忘れた訳でも水に流した訳でもない。が

結標「(あんなに小さな手で私と戦って、私を御坂美琴から庇おうとしたなんて)」

白井「(こんなに細い指でわたくしと闘って、その命を救おうとしたなどと……)」

結標・白井「「………………」」

白井・結標「「決まりましたの(ったかしら)?」」

結標・白井「「………………」」

白井・結標「「〜〜〜〜〜〜」」

店員「(初々しいなあ、この二人……)」

此岸(むすじめ)と彼岸(しらい)の間に架けられた橋。それは結標が白井を助け白井が結標を守ったという事。
雪の夜を弓矢境として二人は一時張り詰めた弦を緩めているのだ。白井は失恋に、結標は気抜けした現状に対し。

結標「これは仕事用とプライベート用よ」

白井「……これはメインとサブですのよ」

結標・白井「「かぶってるじゃない(ますの)」」

――二人が選んだ最新鋭の機種は、奇しくも白と赤の色違い――

104 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:33:45.37 ID:sm6RtECAO
〜8〜

店員「と言う訳で新ペアプランに加入していただけますとハンディアンテナサービスが――」ペラペラ

白井「(な、何というセールストーク!これは首を縦に振るまで帰すつもりはないようで)」

結標「(さっきまで居眠りしてたくせに何よこの営業トーク!?貴女なんとかしてよ!!)」

店員「(今月分のノルマがかかってんのよハンディアンテナサービス加入率悪いし)以前とは異なりペアプランも男女限定という訳ではなく――」

そして持ち寄った新機種を手にブースに入ったところで二人は女性店員のセールストークに捕まった。
スマートフォンにありがちな回線の不備や男女のペアでなければ加入出来なかったサービス云々など。
口八丁手八丁で丸め込まれ、二人はしぶしぶながらもペアプラン加入と相成ってしまったのである。と

結標「……とりあえずカメラ機能はまだ生きてるから、私のケータイで撮っちゃいましょうか?白井さん」

白井「……そうしましょう。ペアプランの証明写真を撮らない事にはここから出られそうにありませんの」

ノルマのかかっている社会人の、大きなノーを吐き出させ小さなイエスを積み上げて行く話術に敗れた二人。
ブースから少し離れたスペースにて、結標は車椅子の白井に合わせて屈み込み相貌の高さに合わせて構える。

白井「か、可愛く撮って下さいましね?」

結標「……あまり期待しないでもらいたいのだけれど。待って白井さん。このままじゃ見切れちゃうから」

白井「ひゃっ!?」

結標「嗚呼、結構難しいのねカメラって」

あわやフレームアウトしそうな角度を調節すべく、結標が白井と頬が触れ合いそうなほど肩に手を回して。
対する白井は向けられるカメラよりも結標の横顔に目が行って仕方無いのだ。だが結標はお構い無しで――

結標「よっ」パシャッ

白井「――ほっ……」

結標「うん、可愛く撮れ――」

白井「!?」

結標「?!」

撮り終えた後、白井に顔を向けた拍子に結標の唇が頬を掠めて。

結標「……ご、ごめんなさい!」

白井「……い、いいんですの!」

結標・白井「「………………」」

白井・結標「「〜〜〜〜〜〜」」

店員「(可愛いなーあの二人)」

そうこうしているうちにも二人のペアプラン契約は完了し――

105 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:34:43.32 ID:sm6RtECAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 4 「 白 い 携 帯 電 話 、 赤 い ス マ ー ト フ ォ ン 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
106 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:35:18.84 ID:sm6RtECAO
〜9〜

御坂「(黒子どうしてるかしらね……)」

同時刻、御坂は昼食を終えた後図書室へと足を運んでいた。ようやく眼帯が外れ、本を読めそうになったからだ。
たった今も書架を背に凭れて携帯電話をチェックしている。当然、携帯電話が壊れている白井からメールはない。
御坂は冬の陽射し射し込む窓枠が落とす十字架の影に目を落としながら左目をさする。結標に立てられた爪痕を。

御坂「(私が喧嘩したせいで、黒子があの女に付け狙われたり傷つけられたりしないと良いんだけど……)」

ハアと溜め息をついて御坂は凭れ掛かっていた書架に向き直り、背表紙をなぞりながら思案する。
自分が結標から売られた喧嘩を買って、勝ってしまった事を少しばかり後悔しているのだ。それは

御坂「(あの女の意地と根性と性格の悪さを考えたら、それくらい仕掛けて来たって全然不思議じゃない)」

結標が持ち合わせている女としての残酷さに由来する。あの手合いは人の心を抉る術に非常に長けている。
御坂本人だけではなく、御坂に近しい人間に報復し、間接的に抉って来るような気さえしてならないのだ。
それは御坂の左目に刻まれたカラスの爪痕のような引っ掻き傷から漠然と得たイメージ。そう、カラスだ。

御坂「(カラスって石を投げた人間の顔をいつまでも覚えてて、見つけたらまた襲い掛かってくるのよね)」

そんな事を思いながら御坂は指先でなぞる文庫本のコーナーにて、一冊のライトノベルに行き当たる。
常日頃コンビニに立ち寄って漫画の立ち読みなどを良くする御坂ではあるが本に関して比較的雑食だ。
戯れに手に取り、パラパラと斜め読みする。最初の数行からインスピレーションは感じられなかった。

御坂「(何か黒子とかこういうの好きそう。女の子同士の恋愛とかよくわかんないけど、どうなんだろう)」

それは同性でありながら互いに魅せられ、惹かれてしまった三人の少女達による陳腐でチープな物語だ。
横恋慕からの三角関係と少女同士の殺し合い。ほんの少し目を通しただけで暗鬱な気持ちにさせられる。
傷つけあいから生まれる傷の舐め合い。一般的な恋愛観の持ち主である御坂からすれば顔を顰める内容。



そこへ――



食蜂「はぁい御坂さぁん。ご機嫌いかがぁ〜?」

御坂「――たった今最悪の気分にさせられたわ」

姿を現すは、巣穴より出て来た冬蜂(しょくほうみさき)


107 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:38:05.75 ID:sm6RtECAO
〜10〜

食蜂「人の顔見るなりそれは酷くなぁい?礼儀力に欠けるわぁ」

御坂「……あんたこそ取り巻きも連れないで何しに現れたのよ」

食蜂「あの娘達五月蝿いから置いて来ちゃった☆図書室だしぃ」

書架の影に身を置く食蜂と、窓辺の光に身を置く御坂が向かい合う。対する食蜂の手には一冊の古書。
エドガー・アラン・ポーの『大鴉』だ。御坂も詳しくは知らないが、掻い摘んだ内容は理解している。
同時にこうも思う。童女のように雪だるまを作ったり、古書を原文のまま読んだりする食蜂の二面性。
それは一本気な御坂からすれば、ミステリアスというよりもとらえどころのない不気味さが付き纏う。
しかし食蜂は構う事なく距離を詰め、御坂が背にした書架に片手をついて、足の間に膝を入れて来た。

食蜂「それに、あの娘達がいたら御坂さんとお話出来ないしぃ」

御坂「――私はあんたに話す事なんてない。近いから離れてよ」

砂糖をまぶしたような手指で御坂の髪をサラリと撫で、煉乳を溶かしたような笑みで御坂に言い寄り――
蜂蜜のように甘ったるい声音で粘っこい話し方をする食蜂が御坂は嫌いだった。一年生の頃からずっと。
嫌がる御坂にお構い無しに食蜂がグローブに包まれた手指で、今や消え去った左目の爪痕をなぞり行き。

食蜂「――真っ黒な大鴉がとまった真っ白なアテネ像、恋人レノーアを失った名無しの学生♪」

御坂「?」

食蜂「Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)……」

御坂「――何のつもり?あんたに“大鴉”の内容を読み聞かせてもらうつもりなんてないわよ」

意味深に『大鴉』の中で最も有名な一節を諳んじながら食蜂が笑う。
御坂のスカートを持ち上げるようにして折り曲げた膝を立てながら。

御坂「ちょっと!何すんのよあんた!?」

食蜂「あはっ☆彼氏いるのにこういうの免疫力ないのねぇ〜」

御坂「っ」

食蜂「恋人繋ぎで精一杯、キスが関の山って感じかしらねぇ」

反発する御坂からヒョイと離れ、反撃の電撃を撃たせぬよう、反論を許さない断定的な物言いで反駁を封じる。
クスクスと『大鴉』の原書を口元に当てながら御坂の反応を味わうようにし、喉を低く鳴らして嘲笑って行く。

食蜂「――貴女、生殺しを純愛だなんて勘違いしてなぁい?」

他人の不幸という蜜の味を楽しむように。
108 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:38:37.94 ID:sm6RtECAO
〜11〜

バチンッ!とフィラメントが弾け飛ぶより激しい音を立てて食蜂の頬が御坂の平手により打ち据えられた。
しかし食蜂はみるみるうちに赤く染まって行く頬を、アダムとイブを唆す蛇のように舌舐めずりして笑う。
その拍子に食蜂が抱えていた古書がカーペットに落ち、御坂はハアハアと巻く息も荒く震える手を引いた。

食蜂「……ウフフ、アハハ、アハハハ!」

御坂「何がそんなに可笑しいのよ!!?」

巣を駆除しようとして群蜂の羽音を聞いた時のような不吉な予感と予兆と予見を御坂は覚えた。
結標の攻撃性よりもっと得体の知れない気味悪さ、気色悪い、気持ち悪さに身震いさせられる。
皆が優しく慈しみ、皆が祝福してくれる『御坂美琴の世界』にあって、食蜂を含めた三人は……

食蜂「ねぇ?女の子がどうして初めての相手を忘れられないかわかるぅ?」

結標と、食蜂と、インデックスの三人は決してそれを認めない。

御坂「……知らないわよそんなもん!!」

食蜂「――痛いからよぉ」

御坂「!?」

食蜂「人間はねぇ、血を流して痛みを伴った記憶は決して忘れられないものなのぉ。愛情力関係なくねぇ」

御坂「………………」

食蜂「――それが何万人もの心の闇に触れて来た私の結論。だから忘れないわぁ。今貴女に受けた痛みも」

御坂「――――――」

食蜂「“二度とない”青春力(いま)も」

そう言い残し食蜂は『大鴉』を拾い上げて御坂の前から悠然と立ち去って行く。昨日の修道女のように。

インデックス『短髪にだけ教えてあげるんだよ。私ね、イギリスに帰る事にしたんだよ』

女が本来持つ残酷さで抉る結標より、女が生来持つ苛烈さで射抜くインデックスより怖憚られる背中を。

インデックス『短髪ととうまがデートするクリスマスイブの夜に。この意味わかるよね』

無性に上条に会いたくてたまらなかった。抱き締めて、頭を撫でて、話を聞いて欲しくてたまらなくなる。
この場にない腕に代わって自分を抱き締めるようにして耐える御坂の背後、窓辺の下に広がる花壇では――

グワ、グワ!ガア、ガア!

遅く植えられたカサブランカの球根を掘り返し、嘴と爪で引き裂き、食らう大鴉が羽撃きながら啼いた。
昼下がりの陽射しの下、墓穴を掘るようにして花壇を荒らし、羽根を舞い散らせて冬空へと飛び立って。



インデックス『一生“忘れられない”聖なる夜になるね?短髪、メリークリスマス』



109 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:40:57.88 ID:sm6RtECAO
〜12〜

白井「(本当に結標さんのアドレスが入ってますの)また一からアドレスを聞いて回るのが面倒ですの」

結標「(やだ、さっきの写メのデータまで入ってる)いい機会だし人間関係も更新してしまえばどう?」

そしてショップを後にした二人は観葉植物の置かれた地下街の流水階段にて色違いのスマートフォンの動作確認をしていた。
白井も今回の一件を踏まえメインとバックアップの意味も込めて二台持ちにしたものの、今やアドレス帳には結標しかない。
これから常盤台中学や風紀委員絡みの面々のアドレスをまた一から入れ直さなければならないかと思うとひどく面倒臭いが。

白井「その更新手続きは……」

結標「?」

白井「――貴女に対しても有効ですの?」

結標「!」

七変化する証明と噴水の流水階段がもたらすザーザーという飛沫の上がる音を背に佇んでいた結標が白井に向き直った。
対する白井はやや俯き加減でそっぽを向き、流し目を送るようにしながら車椅子の上で足をモジモジさせながら続ける。

白井「か、勘違いなさらないでいただきたいですの!わたくしは何も全てをこの噴水のように水に流せなどと申しませんのよ」

結標「だったらどういう意味かしら?先に断っておくけど、私は貴女に感謝も求めないし御坂美琴に謝罪するつもりもないわ」

白井「――貴女はわたくしに良く似て、肩肘と片意地を張るタイプでしょうからそんな事最初から期待してなどおりませんわ」

結標「………………」

白井「それでもわたくしは、貴女との行き違いと仲違いとすれ違いと掛け違いを、ただそのままにしておきたくないんですの」

ザワザワサワサワと奏でられる音と、水中よりライトアップされ揺蕩う照明を背に、一方の影絵が手を伸ばす。

結標「………………」

相対するもう一方の影絵は下ろされた赤髪より薔薇色に頬を染めてその手を見下ろした。差し伸べられた掌を。

白井「………………」

しかし結標はミニスカートの位置で握った手指を開く事が出来ない。それは罪悪感ともまた異なる類の感情だ。

結標「………………」

だが白井はそんな結標の手を両手でギュッと包み込むようにして握り締めた。卵でもあたためるようにソッと。

白井「………………」

そして結標の手指にすっかり白井の体温が乗り移った頃、結標が根負けしたように手を握り返し、口を開いた。

110 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:43:15.92 ID:sm6RtECAO
〜13〜

結標「……貴女、この後予定とかある?」

白井「いいえ。常盤台に帰るだけですの」

結標「……あのね、もし良かったら――」

結標が何処へと向き直り、白井もまた後に続くように振り返る。
するとそこには一件のカジュアルレストランがオープンして――

結標「……――た、退院祝いにランチでも一緒にどうかしら?」

白井「!」

結標「それに一人でランチ食べに入るのって、なんか嫌で……」

白井「――良くわかりましてよ。わたくしも“女の子”ですの」

結標が白井の手指をソッと握り返して来る。白井はそれより少し強く握り締め、花開いたように微笑んだ。
結標が初めて見せた等身大の人間臭さ、白井が初めて見る年相応の素顔。それが何故だか愛おしく思えて。
結標は一度チラッと白井の微笑みを見て、そこから視線も美貌も身体もプイッと横向けた。手だけ離さず。

白井「わたくしも病院食にちょうど飽き飽きしていたところでしたの。塩気も甘みも些か物足りなくて」

結標「ここ、スイーツも持ち帰り出来るわよ。特にあまおうのフレジェが美味しいのよ。他にはね……」

白井「他には?」

結標「生パスタとサラダが美味しいわよ。あとはコーヒーのバリエーションがすごく多い事かしら……」

白井「……入りません?」

結標「入りましょうか?」

白井「ですの。ただお店に入る前に――」

結標「?」

白井「一度手足を伸ばしたいんですの。座りっ放しですので……良かったら支えていただけませんこと?」

結標「――いいわよ」

そこで白井は引きつる傷跡を庇うようにして車椅子から立ち上がり、結標の身体を支えに凭れかかった。
対する結標もやんわりと白井の身体に両腕を回して驚かされた。片腕で包み込めそうなほど細い腰にだ。

結標「……貴女、本当に小さかったのね」

白井「小さい小さいと仰有らないで下さいません?自分で言ってて腹立たしいですが見ればわかりますの」

結標「――ううん」

対する白井は顔を埋めた結標のファーや赤髪、アクア・アレゴリアの香りにどぎまぎとさせられる。
頭一つ高い結標の位置からは白井は窺えず。頭一つ低い白井の位置からは結標は窺えない。ただ――

結標「こんなに小さかっただなんて、知らなかったのよ――」

宝瓶を抱えた女神像だけが水が奏でるアリアと共に見守っていた。

111 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:45:58.90 ID:sm6RtECAO
〜14〜

本当は、立って歩く事さえそう難しくありませんの。無茶はせずとも無理をすれば。ですが――……

わたくしは今一度確かめたかったんですの。あの雪の降る路地裏から昼下がりの病室での出来事を。

嗚呼、この腕ですの。この手ですの。この指ですの。寸分違わぬ貴女という存在を感じられますの。

白井「(申し訳ございませんのお姉様)」

すみませんお姉様。

ごめんなさいお姉様。

申し訳ございませんお姉様。

黒子は少し疲れてしまいましたの。

すみません結標さん。

ごめんなさい結標さん。

申し訳ございません結標さん。

少しだけ甘えさせて下さいませ。

常盤台で絶えず気を張り風紀委員で背筋を伸ばしお姉様の前で笑う『白井黒子』に少し疲れたんですのよ。

白井「――そうですわね。わたくしは小さい人間ですの……」

結標さん。今の貴女はまるで『魔女の宅急便』に出て来る大鴉のようですの。あの首回りだけ白い大鴉。

結標「……貴女は小さい人間などではないわよ白井さん――」

少しの間だけ、貴女の羽の下で休ませて下さいな。お姉様の前で強く笑える『白井黒子』に戻る前に――


112 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:46:45.90 ID:sm6RtECAO
〜15〜

こうしていると、あの雪の日にも感じられなかった貴女の高めの体温と華奢な身体が手指を通して伝わる。

あの日病室で貴女を受け止めた時に似ている今の状況(シチュエーション)、それでいて全く異なる感想。

白井「――そうですわね。わたくしは小さい人間ですの……」

あの時姿を現した御坂美琴を見て、私は全てがどうでも良くなった。

一つでも上手く行かないのならば、いっそ全て壊れてしまえば良い。

なのに今は貴女が握り締めた手と、差し伸べられた腕を取る事で――

あの時とは違った意味で、全てがどうでも良くなってしまっている。

結標「……貴女は小さい人間などではないわよ白井さん――」

少なくとも、貴女は私の中では取るに足らないほど小さな存在ではないのよ白井さん。

初等部の頃に抱っこした、飼育小屋のウサギみたいな今の貴女を見ていると特に思う。

結標「さあ、お店が混み合う前に入りましょうか。白井さん」



貴女がピーターラビットなら、御坂美琴はベンジャミンバニー?



だったら私はマクレガーさんの畑を見張る猫になりましょうか。



服と靴を取り上げて、檻に閉じ込めて肉のパイにしてあげるわ。



113 :>>1[saga]:2012/04/02(月) 21:48:19.94 ID:sm6RtECAO
ACT.4しゅーりょー!お疲れ様でした。

そして


黒百合ルート→こういう愛し方しか知らないのよ!

鬼百合ルート→可愛い過ぎる貴女がいけないのよ!

白百合ルート→私達お友達でしょう?(キャッキャウフフ)

どれに進むやら
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/02(月) 22:24:43.35 ID:9gkzXzU1o

何故かみさきちが痛々しく見える
why?
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/02(月) 22:27:24.75 ID:oaBmzCfFo
そりゃみさきちは痛々しいからさ!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2012/04/02(月) 22:36:23.84 ID:a1AXnV3AO
みさきちってこんなサイコパスだっけか
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)[sage]:2012/04/02(月) 22:54:15.21 ID:lhGs26Ux0
みさきちがふしぎちゃんに・・・?
おつおつ
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/03(火) 00:36:33.68 ID:Lo59NPUDO
乙乙
鬼百合がいいな!
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/03(火) 00:54:29.50 ID:fRDGCuYWo
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/03(火) 09:21:00.02 ID:frMvK4X60
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/03(火) 13:04:31.14 ID:hn/ebIsAo
ゆるゆりは?
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/03(火) 16:50:04.26 ID:N6KaoWYFo

ヤンデレルートでお願いします
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/05(木) 11:46:41.03 ID:ePnMrbrSO
バッドエンドの予感しかしない
結標はともかく食峰は御坂壊そうとしか考えてないし
124 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 18:13:16.95 ID:mkjI1/vAO
たくさんのレスをありがとうございます。ACT.5「白々しい嘘、真っ赤な嘘」は今夜投下させていただきますねー


PS>>118

黒百合(軍用懐中電灯でトラウマ初体験)
鬼百合(信じてるから痛くても預けられる)
白百合(キスまでに決まってるだろ常識的に考えて)

※イメージです。
125 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:07:04.13 ID:mkjI1/vAO
〜0〜

「あいつはまだ見つからないのか?」

「はっ、依然として行方も知れずに」

結標と白井が影を落とす地下街より、夜より深く闇に近い暗黒街の一室にて幾人かの男達が密議を重ねていた。

皆一様に物々しい出で立ちであり、そこには武器を手離せない人種にありがちな緊張感が口元を力ませている。

銃器を手入れする真新しい油の匂いと、黒装束から立ち上る着古し饐える脂の臭い。そして内面から滲む腐臭。

「まずいぞ、金庫番の足取りが追えないのは実にまずいぞ……」

「逮捕者の中には含まれていないようですが、その後がまずい」

「取るに足らん存在だが、部外者の学生が一枚噛んだと聞くが」

男達は憔悴していた。学園都市暗部が崩壊し学園都市上層部が瓦解した後、地下銀行の口座番号を知る金庫番が……

百桁以上にも登る暗証番号を如何なる媒体にも残さず頭脳の中にだけ記憶した男が12月13日から行方知れずなのだ。

「――状況的に、この少女が最後の目撃者にあたるようですな」

テーブルの上に投げ出された一枚の写真。そこにはレベル4の空間系能力者の少女が映っており――

126 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:07:32.59 ID:mkjI1/vAO
〜1〜

結標「生アボカドとモッツァレラチーズの豆乳アボカドクリーム。リングイネ(細麺)のSサイズで」

白井「カリカリベーコンのローマクリームでお願いしますの。Mサイズで」

結標「けっこう多いわよ?病み上がりでお腹びっくりしても知らないから」

白井「御心配には及びませんの。わたくしこう見えて健啖の質でしてよ?」

流水階段よりカジュアルレストラン『リリー・オブ・ザ・バレー』へと足を運んだ結標と白井。
二人は店内のやや奥まった席にて向かい合いウェイターに向けてそれぞれの注文を告げ終える。
思ったより幅を取る車椅子を人の行き来が多い通路側に置いておけないという事情もあるが――

結標「(――ほ、本当にこの子と食事を共にする日が来るだなんて夢にも思ってみなかったわね……)」

白井「(ま、万が一知り合いに見られたりお姉様に知れたりしたらばと思うとドキドキいたしますの)」

結標「(……こんなリーズナブルなお店連れて来て良かったのかしら。仮にも常盤台のお嬢様なのに)」

白井「(いえいえたかがランチに自意識過剰ですの。ディナーを共にするならばまた違いますが……)」

結標「(あれよね?お嬢様ってサンドイッチをナイフとフォークで切り分けたりするんでしょ?確か)」

白井「(これではまるで隠れて逢い引きでもしているようですの。それもよりにもよってこの方と……)」

結標「(……お店チョイスミスしたかしら。かと言ってフレンチなんて会話が弾まない最たるものだし)」

白井「(初めて見る私服姿と下ろされた髪を見ると、確かに高校生なのだと今更意識させられますわね)」

結標「(そういうところも行き慣れしてるんでしょうね。まだ中学生だけどしっかりしてるみたいだし)」

白井「(こうして黙って座っている分にはとても綺麗なお方ですの。どことなくマニッシュな雰囲気も)」

結標「(……な、なんだかこうして向かい合ってるとあれこれ見ちゃうしいろいろ考えちゃうわね……)」

白井「(どうして黙りこくっていらっしゃいますの?別段エスプリの利いた会話など望んでませんのに)」

結標「え、えっと今日は良い天気ね!?」

白井「地下街ですので空が見えませんの」

結標「(……やっぱり貴女なんて嫌い)」

白井「(……ついやっちまいましたの)」

ウェイター「ご注文の品お持ちしました」

そうこうしている内にメニューが届いた。

127 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:08:00.26 ID:mkjI1/vAO
〜2〜

白井「あら、とっても美味しいですの!」

結標「そう?口に合ったなら良かったわ」

暖色系の間接照明がどことなくモダンな雰囲気を醸し出すレストランにて、飛び石伝いの会話が始まった。
内容らしい内容など双方どちらにもありはしなかった。ただ二人は沈黙という名の天使を恐れていたのだ。
BGMは会話の邪魔にならない程度に低く抑えられたジャズ、そして控え目ながら響く客の話し声である。

白井「……よくこちらでお召し上がりになられますの?結標さん」

結標「週に一回程度、常連って呼べるか呼べないかくらい。ごめんなさいねこんなところしか知らなくて」

白井「いえいえけっこうイケますの。学舎の園にあるお店よりもこちらの方がわたくし性に合ってますの」

結標「まあスプーンやフォーク一本で食べられる分、マナーだなんだかんだ肩が凝らないのは確かかもね」

白井「……それもありますが、味に感動というものを見出しにくいんですの。値段や材料は超一流ですが」

パスタをクルクルと巻いて口に運ぶ白井を見つめながら結標は思う。確かスプーンを使うのは小さい子がするんだっけと。
結標のヘルシーなパスタを見つめながら白井は思う。学舎の園にあるメニューにこういった変わり種はほとんどないなと。

結標「……一口食べる?」

白井「いただきますの!」

その言葉に白井が破顔するのを見て結標は思う。別段思ったよりお高く止まっている訳ではないのだと。
だがその綻ばせた微笑みに対しウズウズと騒ぐ虫に、結標はトロリとしたクリームパスタを巻きつけ――

白井「あー――……」

結標「………………」

ヒョイッ

白井「んっ!」

カッ

白井「………………」

結標「ごめんなさい」

白井「あー――……」

結標「………………」

ヒョイッ

白井「んっ!」

カッ

白井「〜〜〜〜〜〜」

結標「(可愛い……)」

白井が食べようとする寸前で結標がフォークを引き、空振りに終わり拗ねた顔や怒った顔を見て、結標は

白井「(すっかり忘れてましたわ。この方はサディストですの)」

結標「(何だかゾクゾクして来ちゃう)はい、今度こそ、あーん」



自分に妹がいればこんな感じだろうかと、ふと思ったのである。



128 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:10:10.33 ID:mkjI1/vAO
〜3〜

結標「ところで」

白井「何ですの」

結標「貴女達常盤台の子達っていつも制服姿だけれど、あれって校則で決められてたりするのかしら?」

白井「その通りですの。どこへ行くのもあんな感じなので私服がタンスの肥やしになるばかりですのよ」

生パスタの皿が下げられ、代わって白井が頼んだあまおうのフレジュと結標のリモーネ・カプチーノが来る頃に――
白井が目を向けた先、それは結標が椅子にかけた白のファーと黒のニットコートである。そこで結標もまた気づく。
退院日にも関わらず堅苦しいブレザー姿の白井に。そして白井は白井で珍しい結標の休日スタイルとも言うべき姿に。

結標「面倒臭いわね。これで制服が可愛くなかったら軽く拷問よ」

白井「ブレザーにサラシ一枚の格好の方がよほど拷問ですの!!」

結標「あ、あれにはあれで私なりのこだわりが詰まってるの!!」

あら美味しい、とあまおうのフレジュをイチゴを潰さぬよう器用に切り分け綺麗に口に運びながら白井は思う。
常日頃より常盤台に馴染み、また付き合いの長い初春や佐天のような人間と長く接しているとわからなくなる。
身に纏う制服は自分の所属を、腕に巻く腕章は自分の組織を、それぞれ表している。だがそれらを取り去り――

白井「………………」

一切の修飾と装飾と虚飾を取り去った時、果たして自分には何が残りどんな自分が残るだろうかと思い当たる。
初春に指摘された通り仕事に逃げて暴走し、佐天に言った通りワーカーホリックの気があると自覚もしている。
勤める風紀委員、勉める常盤台生、務めるお姉様の露払い、務める『白井黒子』という存在そのものに対し――

結標「でも制服って皆横並び一列になるからこそ、かえって個性が浮き彫りになったりするものなのよね」

白井「あ、あの!」

結標「そこに少しアクセントを加えたり除いたりするだけで変わっちゃうんだからって何よ?どうしたの」

御坂美琴という対象が遠く離れて初めて白井は己に揺らぎを覚えた。御坂は言わば白井にとっての範だった。

白井「――貴女から見て、わたくしはどういう存在(おんなのこ)に見えまして?」

御坂美琴の露払いに相応しくあるようにと

勤めて勉めて務めて努めて来た白井の中の

倦まれて膿まれて埋まれて生まれた綻びを

結標「………………」

結標淡希(オオガラス)は見逃さない――

129 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:11:03.82 ID:mkjI1/vAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――有り得たかも知れない、もう一つ(ひとり)の可能性(わたし)――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
130 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:11:31.26 ID:mkjI1/vAO
〜4〜

白井「………………」

結標「私が貴女の脳天にコルク抜きを撃ち込まなかったのも、血深泥に沈む貴女を見過ごせなかったのも」

白井「――結標さん」

結標「能力(ちから)だけではなく、貴女に対してそれなりにシンパシーを感じる部分があったからなの」

濃いめのエスプレッソに赤砂糖(カソナード)をふるい、バーナーで炙った生クリームを絞りレモンの皮を飾ったそれ。
結標は揺蕩う湯気の彼方に白井を見据えるようにしつつ言葉を紡ぐ。貴女と私は良く似ていると、出会った頃のように。
結標はかつて言った。貴女がどんな風に人を傷つけて来たか、目を閉じれば手に取るように理解し共感し想像出来ると。

白井「………………」

白井は覚えている。かつて結標にそう告げられた時一度は土台を揺さぶられた事を忘れられなどしない。
たった一度だ。だがそのたった一度は微震などでは決してなかった。しかしそれを白井は押さえ込んだ。
意志の固さと意思の強さと意地の悪さでねじ伏せた。御坂美琴という重石が白井の支柱であった。だが。

結標「そう言う訳だから、貴女は私より三つ四つ後輩(としした)ではあっても子供扱いなんてしないわ」

白井「……自分と同一化されても、わたくしに同一視されても迷惑ですの。御存知でして?鏡の反射率は」

結標「決して100%に達しない。知ってるわよ。けれど今私の目の前にいる貴女は鏡像なんかじゃない」

白井「………………」

結標「――ただ、有りの侭の白井黒子(あなた)がここにいるだけで私はとても落ち着くの。まるで……」

真っ直ぐな金属矢で意志を貫く白井、ねじ曲がったコルク抜きで意思を通す結標、同じレベルと似た能力。
常盤台中学のブレザーを纏う白井、霧ヶ丘女学院のブレザーを羽織る結標、似たランクで異なる中高の壁。
腕に巻かれた腕章と腰に巻かれたベルト、法の番人(ふうきいいん)と闇の住人(がくえんとしあんぶ)。
似た髪型でありながら異なる髪色、近似形を描く性質ながら相似形を描かない性格。そう、二人はまるで。

結標「生き別れた双子の片割れのように」

日輪(たいよう)を司る鴉と、幻暈(つき)を司る兎の如く。

結標「姉妹(おともだち)のように、ね」

御坂が持ち歩くコインの表(ひかり)と裏(かげ)のように。


131 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:14:01.18 ID:mkjI1/vAO
〜5〜

結標「ねえ白井さん。ここを出たら少し一緒にお店を回ってみない?服屋さんとか」

御坂美琴という目的地を見失い、自分自身さえ見失って死に傷を負った白井の綻びを結標は優しく繕う。

結標「あまり私服でお洒落出来ないとは言っても、やり方はいくらでもあるものよ」

一度目に出会った時の白井との差異、二度目に出逢った今の白井との差違。その間隙を結標は縫うのだ。

結標「――だって勿体無いじゃない?貴女とて“一人の女の子”なんですもの……」

共に抱き合う、触れ合う、話し合う。一緒に食事を取り、お茶を飲み、買い物に出掛け、糸を紡ぐのだ。

白井「――では、もうしばらくお付き合いしていただけませんこと?結標淡希さん」

人によってはその糸を運命の赤い糸とも、地獄に垂らされた蜘蛛の糸とも錯覚するだろう。だがしかし。

結標「――ええ、行きましょう白井さん」

糸はやがて縄となって自分を縛り付け、網となってウサギとなって捕らえる。命綱には決してならない。



階段の長さを計り間違えた者は、最後の最期になってそれが絞首刑のロープだと知るのだから



132 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:14:59.39 ID:mkjI1/vAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 5 「 白 々 し い 嘘 、 真 っ 赤 な 嘘 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
133 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:15:33.75 ID:mkjI1/vAO
〜6〜

佐天「なかなか決まんないな〜〜皆へのクリスマスプレゼント」

一方、佐天は間近に迫ったクリスマスにあたって何か良いものはないかと地下街を一人うろついていた。
その傍らに初春の姿はない。今現在彼女は療養中の白井に代わって一七七支部に詰めっ放しなのである。
それも手伝ってか、佐天はレストラン街を通り過ぎショップが立ち並ぶエリアを一人気ままに突き進む。

佐天「(御坂さんにはゲコ太グッズ、初春の好みもだいたいわかるけど、問題は白井さんなんだよねー)」

馴染みのない宝石店を過ぎ、馴染みの薄いコスメを過ぎ、馴染みの深いブティックへと冷やかしに入る。
佐天はこの半年間でほぼ完璧に御坂の嗜好を把握し初春の思考を掌握しており二人に関しては問題ない。
ただ、白井だけが今一つわからないのだ。口を開けば御坂美琴(おねえさま)にまつわるものばかりで。

佐天「(でも白井さんも弱り目に祟り目だよね御坂さんに彼氏が出来た直後に自分が大怪我しちゃうし)」

このデニムのコート良いなあなどと手に取るだけ取ってすぐさま戻したりしながら佐天はここ数日の出来事に思いを巡らせる。
白井が大怪我をした入院先にて、御坂が『むすじめあわき』なる少女と一悶着あり、女の命である顔に大きな傷を刻まれた事。
だが佐天は『むすじめあわき』なる少女を知らない。九月にも白井に大怪我をさせ、初春を落ち込ませた要因になった事しか。

佐天「(何だか疫病神みたいその“むすじめあわき”って人。せっかく御坂さんが幸せを掴めたばっかりだって言うのにさ)」

戯れにかけもしないサングラスを付けて、案外悪くないかもなどと悦に入りながら佐天は暗くなった視界で軽く店内を見渡す。
佐天は結標の顔も知らないし字もわからない。ただ霧ヶ丘女学院で白井と同じレベル4といった情報を又聞きしたに過ぎない。
白井を追い込み御坂を傷つけた相手として、何となくスキルアウトのようにガラの悪そうなイメージだけが先行しているのだ。



――――するとそこへ――――



???「あら!似合うじゃないの!!」

???「やめて欲しいんですの!!!」

佐天「!」

聞き慣れた声音と、見慣れぬ後ろ姿に佐天はサングラスを外して目を見開かされた。

134 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:16:02.98 ID:mkjI1/vAO
〜7〜

結標「(この子、髪の毛まとめて帽子かぶらせたら私好みの美少年顔じゃない!)」

白井「いい加減、わたくしを着せ替え人形にするのはやめて頂けませんこと!!?」

同時刻、結標は白井を連れて入ったショップにて警備員が見かけたなら職務質問されそうなほど良い笑顔を浮かべていた。
ちょうど白井に芸能人がお忍びで街を歩く時のような真っ白な帽子をかぶせ、ツインテールをほどき纏めさせているのだ。
そして帽子の中に後ろ髪を送り込んで収められると、そこには結標好みの女顔の美少年、男装の美少女となった白井の姿。

結標「嗚呼、やっぱり中折れが一番可愛くて良く似合ってるわ。キャスケットは地味過ぎるしボルサリーノは派手過ぎるしね」

白井「いい加減にしませんとわたくし帰りますわよ!何が楽しくてこんな一人マネキン5をしなくてはならないんですの!?」

結標「あら、私なりに誉めているのだけれど。案外いそうでいないのよ本当に帽子が似合う男の子と眼鏡が似合う女の子って」

それを目を細めてはニマニマ見つめ、頬を緩ませてはニヤニヤ笑い、唇をつり上げてはニヨニヨする結標。
戯れにかけ、クイッと中指で直される赤いフレームの伊達眼鏡も相俟ってひどく悪戯っぽい雰囲気である。
結標の言う事ももっとももだし、誉められて悪い気はしないが白井の趣味でない以上手放しでは喜べない。

白井「当初の目的をお忘れのようならば、もうわたくし一人で先に帰りますのよ?」

結標「嗚呼、そんなに怒らないでちょうだい。ちゃんと隠れたワンポイントも――」

と、白井が車椅子の肘掛けに頬杖をつきながら不貞腐れ始めたところで結標が下ろされた髪をかきあげた。
するとその手には『ある物』が握られていた。襟首まで隠された冬服ならではの、自分しか知り得ない――

白井「そ、それはちょっとわたくしには大人っぽ過ぎるのでは」

結標「そんな事ないわよ?私の知り合いとちょっとかぶるようだけれど」

白井「(知り合いってどなたですの?)」

結標「ちょっと失礼するわね?貴女首が細いから大丈夫だと思うけども」

白井「ちょちょっと待って下さいまし!」

そのワンポイントをつけるべく、端から見ればまるでキスを迫る色仕掛けのように結標が顔を近づけて。

白井「(こ、こんな首輪のような――)」

結標の細く滑らかな手指が、白井の細く白い首に妖しくかけられて行くそのどこか艶っぽい光景を――


135 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:18:44.63 ID:mkjI1/vAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
佐天「白井さん!!それは浮気ですよ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
136 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:19:58.33 ID:mkjI1/vAO
〜8〜

白井「佐天さん!?」

佐天「(しまった)」

結標「………………」

と、そこで期せずして居合わせてしまった佐天の口から思わずついて出た短い叫びに店内が一時静まり返る。

佐天「し、白井さんもう退院したんですか?し、したんなら言って下さいよびっくりするじゃないですか」

白井「(これはまずいですの二重の意味合いで)おほほ!佐天さん奇遇ですわね驚かせてしまいましたの」

そこで気まずい空気を払拭するかのよう佐天が明るく振る舞いつつ白井の側に駆け寄り肩を叩いて笑う。
対する白井もわざとらしく口に手を当てて婚后の真似をするかのように笑い、その場を取り繕った。だが

佐天「えっ、えっとそちらの方は???」

白井「(不味い拙いマズいまずい!!)」

店内の耳目を逸らすべく佐天が飛び石伝いにさせた話題が結標に向かって飛び火し、白井の顔から冷や汗と脂汗が吹き出した。
よりにもよって佐天に結標といるところを見られたのだ。しかも端から見れば白井にキスを迫るような白井から強請るような。
そんなシーンを顔を知らないとは言え仇敵とも言うべき結標と演じてしまったシーンがもし御坂に伝わってしまったらと思うと

御坂『二度と私の前に姿を現さないで!黒子の前にも顔を出さないで!!』

佐天『……ひどい!女の子の顔にこんな事するだなんて酷すぎるよ!!』

初春『――また結標さんですか。ですけど白井さんにも問題ありますよ』

自分が原因とは言え、佐天達からすれば結標は仇敵だ。彼女等から見ればこれは白井による明確な裏切り。
もし結標が名乗りを上げれば、佐天が結標の顔を知らないとは言え流石にわかってしまうだろう。だが――

結標「――はじめまして。“黒子”の姉、白井灰音(はいね)です」

白井「!!!!!!」

佐天「お姉さんって……白井さんお姉さんなんていたんですか!?」

結標は白のファーをあしらった黒のニットコートの長裾を翻して佐天へと振り返って微笑みかけたのだ。
御坂に投げつけられた石(ことば)も、白井が抱えた石(じじょう)も、共に知るが故に結標は微笑む。

結標「いつも“黒子”がお世話になってるみたいでありがとう」



嵌った底無し沼にロープを投げるように。



――――サーカスの綱渡りのように――――



137 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:20:28.81 ID:mkjI1/vAO
〜9〜

佐天「へえ〜白井さんこんなに美人なお姉さんいたんだあ……」

結標「うふふ、ありがとう。あんまり似てないでしょう?私達」

白井「………………」

それからなし崩し的に会計を終え、三人はショップより出て地下街から上がろうとモールを歩いて行く。
『白』井『黒』子の姉、白井『灰』音を名乗る結標が車椅子を押し、その横で佐天がしげしげと見やる。
咄嗟の機転と言えば機転だが、白井は更なる泥濘に足を踏み入れてしまった気がする。今訂正すれば――

結標「……どうしたのかしら“黒子”?まだ怪我が痛むの?」

白井「い、いえ」

佐天「あはっ♪何か白井さんいつもと印象違いますねなんか」

白井「そ、そんな事ございませんの!!」

佐天「またまた〜お姉ちゃんっ子な白井さん可愛いのう……」

結標は事の起こりから全て洗いざらいぶちまけるような気がしてならないのだ。
だが結標はそんな白井の不安を絶えず煽るように、過剰なアピールを繰り返す。

結標「この子ったら昔から私にべったりでちょっと困ってるのよ。“お姉様”とお揃いじゃなきゃ嫌って」

佐天「おおー!スマホがおそろの色違いじゃん!しかもお姉さんとイチャイチャツーショット写メまで!」

白井「(わたくしは何と言う恐ろしい悪魔と契約を結んでしまったんですの……)」

ついさっき買った同機種にして色違いのスマートフォン、ペアであると言う証明写メまで佐天に見せて。
もうここまでくれば嫌でも姉妹だと信じさせれるし、違うとくれば誰でも白井の裏切りだと思うだろう。
結標を侮る油断や軽んじる過信はなかった。ただ結標の女としての残酷(こわ)さを知らなかったのだ。

結標「うふふ、この子見ての通り意地っ張りで見栄っ張りだから、“出来るだけ”秘密にしてあげてね?」

佐天「はーい!うちの弟も私にそんな感じですから(嗚呼、御坂さんの事もシスコンだったからなんだ)」

そして三人が地上に出、タクシープールに辿り着いた頃には辺りは既に夕陽が沈み行く時間帯であった。

佐天「じゃあ白井さん、灰音さん、私ここで失礼しますね。姉妹水入らずを邪魔しちゃ悪いですからねー」

白井「さ、佐天さん!」

佐天「みんなには内緒にしてあげますから安心して下さい白井さん!それじゃあお二人ともさようなら♪」



――古人はそれを『逢魔が時』と呼ぶ――



138 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:22:33.96 ID:mkjI1/vAO
〜10〜

結標「――これで貴女も私の共犯者(おともだち)ね白井さん。我ながら人が良いんだか悪いんだか……」

白井「っ」

結標「あら、私は嘘の一つもつけない誠実(ふでき)な貴女に代わって助け舟を出してあげたつもり――」

白井「どうしてあんな嘘を吐いたんですの!!!!!!」

運転手「!?」

佐天と別れた後、車椅子をトランクに積んでもらい学舎の園に向かうタクシー内にて白井が大爆発した。
後部座席から上がった怒声に運転手が驚いた様子がルームミラー越しに見えたが、結標は軽く受け流して

結標「だったら何と言えば良かったの教えてもらいたいわね?」

白井「風紀委員の先輩でもなんでも他にあったでしょう!!?」

白井のがなり声に右耳を押さえながら、結標は夕暮れ時で混み合うハイウェイより流れる景色を見やる。
その茜色に染まる落日の照り返しを受ける窓ガラス越しに怒り狂う白井を時折観察するようにしながら。

結標「……そんなに」

白井「何ですの!?」

結標「――そんなに私が貴女の側にいるのはいけない事なの?」

白井「……それ、は」

結標「貴女も御坂美琴と同じように、私に石をぶつけるのね?」

白井「……それは違いますの。わたくしそんなつもりでは――」

結標が声音のトーンを落とすと、白井もまた声色のテンションを下げて眉を八の字にして俯いてしまう。
白井も実のところ、怒りを露わにし続けられるほど、結標に対して正当性を発揮出来る立場になどない。
自分でもそれが理性では分かっていて、それでいて感情から分かつ事が出来ないからこそ爆発したのだ。

結標「……私、さっきレストランで言ったわよね。貴女を生き別れた双子みたいに感じているって……」

白井「確かにそう仰有ってましたの……」

結標「だからついあんな言葉が口から出たの。貴女と本当のお友達みたいに仲良くなれた気がして……」

白井「結標さん――」

結標「謝らないで。私が悪かったの……」

そう言ったきり、結標は白井と顔を合わさぬよう、目を見ぬよう、言葉を交わさぬよう沈黙を守り続けた。
それに対し白井は何も言えなくなってしまったのだ。また自分を助けてくれた結標を傷つけてしまったと。



――白井は、あまりに優し過ぎたのだ――



139 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:23:40.83 ID:mkjI1/vAO
〜11〜

結標「……今日は楽しかったわ白井さん」

白井「………………」

結標「――さっき買ってあげたお近付きの印、捨ててしまっても構わないから受け取ってほしいの……」

タクシーから下車し、学舎の園の前にていざ分かれ目の時を迎えた二人に三冬月の落日が降り注いで行く。
ゲート前にて、車椅子の高さから、100センチの世界から白井が見上げた結標は逆光の中微笑んでいた。
寂しげに寒風の中に佇み、下ろされた赤髪を左手で押さえながら消え入るような声で白井に別れを告げて。

白井「――……む、」

結標「――さような」

白井「結標さん!!」

――去り行く結標の背中、それが白井には耐えられなかった。踵を返す結標の足取り、それが白井には堪らなかったのである。
思わずその細く白い手首を掴んで引き止めさせるほど。結標の背中が心寂しそうで、結標の横顔が物悲しそうに見えたからだ。

結標「白井さん……」

白井「………………」

結標「……どうして」

白井「……わかりませんの。わたくしにもわかりませんの……」

結標の手首を掴みながら白井は首を横に振る。どうしたら良いのかがわからない。結標の事がわからない。
この胸の痛みは罪悪感(うしろめたさ)の裏返しのはずだ。そうでなくてはいけないと思い込もうとした。
ならばこの罪悪感は誰に対するものだろうか。それは去り行く結標の背中か、過ぎ行く御坂の背中なのか。

白井「……ただ、さようならだなんて仰有らないで下さいませ」

結標「………………」

白井「――“またね”、と仰有って下さいまし、結標淡希さん」

青の噴水広場にて交わした抱擁から赤の改札口にて交わす握手へ。雪夜の路地裏から夕日の学舎の園へと。
そのまま白井は手指が汗ばむほど長く結標の手首を握り締めた。振り解かれてしまったらどうしようかと。



――――だがしかし――――



結標「……そんな顔しないで?白井さん」

白井「ですが……」

寒風の調べに乗せ枯れ葉がラストワルツを踊る中、学舎の園へ連なる改札口の壁を前に二人は手を繋ぐ。

結標「――“また”会えるんでしょう?」

壁の花へとダンスを申し込み、その手を取るように恭しく。結標と言う荊棘に触れぬように、そっと……

140 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:25:38.33 ID:mkjI1/vAO
〜12〜

結標「……でも貴女の御坂美琴(おねえさま)が、それを許しはしないでしょうね」

白井「今お姉様は関係ありませんの!!これはわたくしと貴女の問題ですの!!!」

結標「ちょ、ちょっと白井さん声が……」

白井「もっ、申し訳ございませんの……」

しかしそっと触れようとすると、結標は身を引かんとする。だが白井はそれを追い掛け捕まえたくなる。
期せずして白井の口からついて出た言葉と声量に、改札口より出入りする幾人かの子女等が振り向いた。
あまり長く引き留めるには目立ち過ぎるし、話し込むには些か時間帯が悪かった。故に結標は微笑んで。

結標「……ありがとう」

白井「い、いえそんな」

結標「――なら代わりと言ってはなんだけれど、後でメールしても構わないかしら」

白井に語り掛ける。大っぴらに顔を合わせるには、自分達の事情は些か込み入り過ぎているであろうと。
白井も首肯する。自分は御坂とルームメイトでもあるので通話よりメールの方がお互いにとって良いと。
図らずもペア契約を結び、互いにアドレスを知り、お揃いのスマートフォンを手にしている今ならばと。

白井「わかりましたの。あと、これはメールではなく、直接お伝えしたいのですが」

結標「何かしら?」

白井「――今日はわたくしと遊んで下さってありがとうございますの。とっても楽しかったんですの!」

結標「……私もとっても楽しかったわよ白井さん。怪我が良くなったら、また一緒に遊びましょうね?」

白井「!!!!!!」

そこで結標は車椅子に座る白井の頭を胸に寄せ抱き締める。次第に勢いと強さと冷たさを増して行く寒風から守るようにして。
白井は真っ赤にした顔を隠すようにして結標の胸にしがみつき、アクア・アレゴリア(水の寓話)の香りにクラクラさせられ。

結標「……良かったら、さっきプレゼントしたお近付きの印を付けてるところも送って見せて欲しいわ」

白井「……かなり恥ずかしいですの……」

結標「うふふ。そんな事ないわよ?だって貴女の首ってすごく細くて白いんですもの。きっと似合うわ」

――胸元に鼻先を埋める白井には見えない。楽しげに軽やかに弾むように歌うように語る結標の表情が……

結標「だから、私に“だけ”見せてちょうだいね?白井さん」

悪女のように、毒婦のように、魔魅のように、御坂が目にすれば殺す気でレールガンを撃ち込むほどの――

141 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:26:04.45 ID:mkjI1/vAO
〜13〜

御坂「へー、黒子もスマホ買ったんだ?」

白井「ですの!これでお姉様と二倍繋がれますのォォォォ!!」

結標と別れた後、白井は車椅子を空間移動させつつ御坂の待つ常盤台中学女子寮の部屋まで舞い戻った。
そこで退院おめでとう!もっと早く言ってよねと言う御坂に飛びついてお約束の電撃を食らった後に――
御坂が気づいたのである。こんがり焼き上がった白井の手から落ちたケータイとスマートフォンに。更に

御坂「もう十分間に合ってるっての!こうやって毎日顔合わせてるんだから。ねえ黒子、その紙袋は?」

白井「!!? こ、これはその……――」

御坂「何よー……あー!私わかっちゃった!それクリスマスプレゼントでしょ?そうなんでしょ黒子ー」

白井「は、は、はあ、まあ、は、はい!」

御坂が目ざとく見つけ出し指差す先。それは佐天が現れた事により結標からなし崩し的に手渡された……
お近付きの印である。如何なる時も制服着用を義務付けられ、着崩す事も許されない白井に贈られた――
結標をして『お洒落は見えないところから』『ワンポイントでも気持ちは変わる』と言われた贈り物だ。

御坂「うふふ、ありがとう!クリスマス楽しみにしてるから」

白井「わ、わたくしも楽しみにしておりますわ、おほほ……」


――――するとそこへ――――

『逃げられない運命(さだめ)だから、せめて優しい夢を見せて』

白井「!?」

御坂「あんたのスマホメール来てるわよ」

鳴り響くはfripSideの『Red-reduction division-』。このスマートフォンの初期設定の着信音らしい。
それを白井が慌てて取るのと、御坂が立ち上がるのが同時であった。だが御坂は特に気に留める事なく。

御坂「じゃあ私先にお風呂入るからね!」

白井「ご、ごゆっくりどうぞですの!?」

御坂「(あれ?こういう時入浴介助とか言って飛びついて来るのに大人しいわね)」

ベッドの上に置かれていた替えの衣服や下着を手に取りながら、メールに目を通している白井を横切ってバスルームへ向かう。
そこで御坂は鼻をクンクンとひくつかせて一度だけ白井を見やる。プルースト効果に導かれるよう、甘い香りに誘われるよう。

御坂「(この香り、最近どこかで??)」

それが結標のアクア・アレゴリアの移り香とも知らぬままに――

142 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:28:10.54 ID:mkjI1/vAO
〜14〜

――――――――――――――――――――
12/18 18:19
from:灰音
sb:結標淡希です。登録お願いします。
添付:
本文:
>>機種変更しま

初メールになるわね。ちゃんと送れてる?
――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――
12/18 18:28
to:灰音
sb:初メールですの
添付:
本文:
届いておりましてよ。
――――――――――――――――――――

白井「(二台持ち、偽名……まるで不倫か浮気か愛人ですの)」

御坂がバスルームのドアを締め切った音を確認してから白井はメールボックスを開いて結標に返信する。
スカートが皺になるのも気を回さぬまま車椅子からベッドに寝転がり、何度となくメールを読み返して。
相手も自分もたかだか数行のメール。それも結標に至っては自分以外の誰かに送ったメールの焼き直し。

白井「(――あまり早く返してヒマそうに見られるのも……)」

何という不精者かと白井は呆れてしまう。自分はたかだか一行のメールを何回も書き直したと言うのにと。
だが結標がそんな事に忖度するはずもないと白井は次の返信が来るまでに紙袋の中身を確かめる事にした。
御坂がバスルームに入っている今だからこそ開けられ、今しか身に付けるチャンスがないであろうそれを。

白井「(……こんなものを贈られるのも、身に付けるのも生まれて初めてですの)」

寝そべりながら部屋の照明に翳すようにして手にするそれ。これならば確かに体育の時間以外は人目につかないだろう。
中学生と高校生の感性の違いかも知れないが、こういったものは普通『恋人』に贈るものではないか白井も考えたが――

白井「……いけないお方ですのね……」

胸元のリボンを取り外し、ブラウスのボタンを三つまで寛げ衣擦れの音と微かに漏れた溜め息が部屋に響く。
白井の白磁の肌が朱に交わった事でほのかな赤みが差し、それは露わになった細い鎖骨にまで広がるようで。

白井「……何だか、いやらしいですの」

ツインテールの後れ毛に挟まぬようにしてうなじまで回し、首輪のようなそれをピッタリと合わせていった。
ひんやりとするシルバーの冷たさが、利かせ過ぎた『暖房のせい』で火照った肌に染み込んで行く感覚に――

白井「………………」

――白井は姿見の前へ立ち、顔が映り込まぬように気を使いながらカメラを起動させた鏡撮りにて――
143 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:32:56.35 ID:mkjI1/vAO
〜15〜

『今私を切り裂いてく痛みの中に潜む影。弱い自分を隠す為、愛する人を傷つけた』

何度目になるかわからないfripSideの『Red-reduction division-』の着信音、返って来た誰かのメール。
私はそれを開きながら小萌のアパートまでの家路を歩いてる。とっぷりと日も暮れた冬の夜道をただ一人。
何となくだけれど、私にはその相手が誰だかわかった気がする。非科学(オカルト)な言い方をすれば――

結標「……まるでペットか」

――――――――――――――――――――
12/18 20:49
from:白井黒子
sb:恥ずかしいですの……
添付:(84KB)20XX1218_1837.02jpg
本文:
……誰にも見せないで下さいまし。
見たら早く消して欲しいんですの。
――――――――――――――――――――

結標「――奴隷みたいよ」

霊的直感とでも言うのかしら。わかるわよ白井さん。わかるのよ私には。貴女には黒が良く似合うって。
どうかしら?私の贈ってあげた真っ黒なチョーカーは?逆十字架のシルバーがまるで鈴のようでしょう?
一方通行が巻いてるような太くて厳ついそれとは違う、胸元を肌蹴ない限り人目につかないチョーカー。

結標「私は悪くない」

女の子の心は水のようなものよ。その時々と場所と相手によっていくらでも質量と性質を変えて行く水。
中でも貴女は限り無く透明度の高い純水。厳しい現実(さむさ)がいや増すほどに強く凍てつく氷中花。
知っているでしょう?氷の分子結合力は極まれば鋼の数倍にも及ぶのよ。けどそれも不純物が混じれば。

結標「悪いのは――」

それだけ罅が入りやすくなって、そして一度入った罅は氷そのものが割れてしまうまで広がり続けるのよ。
私というアイスピックでは丸く削るどころか歯も立たない氷中花(あなた)から、百合の花を取り出すの。

偽物の温もりと紛い物の暖かさで、迷いと言う不純物と惑いと言う夾雑物の混じった氷中花(あなた)を溶かしてあげる。
私をゴミ漁りするカラスに石を投げるように扱った彼女から、本物のカラスのように白井黒子(ひかりもの)を奪ってね。

貴女達を繋ぐ絆(レール)とやらに置き石を仕掛けて壊してあげるの。貴女達が私を壊したのと同じように。

結標「恨むなら、御坂美琴を怨みなさい」


なのに、貴女(むね)に罪悪感(いたみ)を覚えるのは何故?



一番悪いのは誰?
144 :>>1[saga]:2012/04/05(木) 20:34:35.90 ID:mkjI1/vAO
ACT.5しゅーりょー

黒子の写メは心眼でごらん下さい
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/05(木) 21:21:08.83 ID:z0cesdzr0


でもちょっと(  )がくどい
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/05(木) 21:35:55.19 ID:gGJVm4Zko
できれば黒百合以外がいいな
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/04/06(金) 11:19:43.03 ID:PMwWDH1c0
弱った所を助ける、負い目を持たせる、贈り物やご飯で油断させ、秘密を共有して既成事実を作る…あわきんの手口マジヤクザwwww

でもこれ、御坂があわきんを傷つけなかったらこんなひどいことになってないよね…
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/06(金) 16:07:45.70 ID:jfMIrmtv0

149 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 17:57:48.08 ID:PTLNAAKAO
>>1です。ACT.5.5「白の修道女、赤の案内人」と
ACT.6「白いマフラー、赤いコート」は今夜投下させていただきます。

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/08(日) 21:59:21.53 ID:j9yIk0Oso
あわきんまじきもいな

151 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:10:13.98 ID:PTLNAAKAO
〜00〜

インデックス『短髪にだけ教えてあげるんだよ。私ね、イギリスに帰る事にしたんだよ』

昼休みから頭にのぼった血を冷やすように私はシャワーを冷水にする。
氷柱のように鋭く凍てついたあのシスターの眼差しと言葉を反芻して。

インデックス『短髪ととうまがデートするクリスマスイブの夜に。この意味わかるよね』

何度噛み砕いても、知覚過敏みたいに走るノイズが頭から離れない。あのシスターの言葉がこびりつく。
今までもレベル5第三位って言う肩書きから負の感情が宿った眼差しを向けられて来た事は何度もある。

インデックス『一生“忘れられない”聖なる夜になるね?短髪、メリークリスマス』

それでもあんなドライアイスみたいな目で、低温火傷しそうな視線を向けられた事なんて一度もなかった。
正直言って怖かった。あのシスターが恐かった。あいつが戻って来たらまたいつも通り笑ってるところも。

御坂「……私は悪くない」

シャワーの水滴を浴びた鏡に映り込む自分の顔、まるで泣いてるみたいに見える。でも私は泣かない。
私が泣かなくちゃいけない理由なんてどこにもない。だって私が悪いなんて思って泣いたりしたら――

上条『あー……美琴?その、何て言うか……次のクリスマスさ』

あいつが心配する。あいつが好きだって言う私の気持ちが間違いだって事になる。それだけは嫌だった。
自分の気持ちに嘘を吐きたくない。曲げたくないし、譲りたくない。私にだって大切なものがあるのよ。

御坂「……――当麻――……」

あのシスターが言いたい事くらいわかってる。将棋で言うなら私は王手飛車取りを仕掛けられたに等しい。
私がイギリス行きを伝えればあいつは何に置いてもあのシスターを引き止めようとする。伝えなければ――
伝えなければ、私はあいつと引き換えにシスターを追い出した罪悪感をずっと引きずる事になる。そして。

御坂「……私どうしたらいいのかな……」

そんな卑怯な自分を嫌いになる。そんな狡猾な自分を好きでいてくれるあいつに後ろめたさを感じ続ける。

結標『分かり合えて分かち合えて、和解して理解して、歩み寄って肩寄せるだなんて私達にはありえない』

あの女の言葉が、耳に痛い。

結標『せいぜい狭い世界(ワク)の中で、泥も掴まないお綺麗な手で、これからも石をぶつければいいわ』

内なる私の声に、胸が痛い。

152 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:10:45.77 ID:PTLNAAKAO
〜0〜

結標「そう言えば、小萌の家に帰るのもなんだか久しぶりかも」

白井とメールをやり取りしながら辿り着いた先、そこは御坂と一戦交えてより長らく空けていた小萌の家。
夜の帳がかかってさえおんぼろかつ安普請なそのアパートを見上げて、結標は白い吐息と共に独りごちた。
お腹が空いた時と、寝に帰る時だけ寄り付く自分は野良猫のようだ。そう思いながら合い鍵を取り出すと

結標「……ん?」

???「コリコリして美味しいんだよ!」

月詠「んまー!シスターちゃんそれは先生の砂肝なのですよー」

姫神「軍鶏鍋なんて。ずいぶん久しぶり」

結標「……何だか良い匂いがするわ……」

扉越しにも聞こえて来るどんちゃん騒ぎと鼻腔をくすぐる馥郁たる香り。そこで結標が鍵穴を回すと――

結標「ただい……」

月詠「結標ちゃんおかえりなさいなのですよー」

姫神「おかえりなさい。先輩(むすじめさん)」

???「ムシャムシャバリバリバキバキゴクン」

そこには軍鶏鍋から立ち上る濛々たる白煙、そして灰皿から立ち上る朦々たる紫煙が部屋中に広がっていた。
古めかしい卓袱台炬燵の上に置かれたホットプレート。食卓を囲み鼎談に花咲かせる三者三様の姦しい声音。
一人は家主たる小萌、一人は先住民にして後輩にあたる姫神。そして残る一人は白銀の法衣を纏った修道女。

結標「ただいま。寒かった寒かった中入れてー……よいしょ!」

???「にゃっ!!?」

結標「わわわ!なになに!?今なんかブニョッとしたのが!?」

???「私の猫なんだよ。おこたで丸くなって寝てたのかも!」

結標「びっくりしたー……この猫ちゃんお名前なんて言うの?」

その修道女の隣り合わせに炬燵に入るべく冷えた足を入れたところ、蹴飛ばしてしまった一匹の三毛猫。
その三毛猫が迷惑そうにもそもそと這い出し、件の修道女の膝上に香箱を組んで結標をじろりと睨んだ。
ごめんね猫ちゃんと人差し指でその狭い額をカリカリと掻くと、修道女も箸を持つ手とは逆の手で撫で。

???「スフィンクス、って言うんだよ」

結標「ふーん。そういう貴女はどなた?」

???「あれ?前に会った事あるかも!」

結標「ごめんなさい、十一月に上条君の家で見た覚えはあるのだけど聞きそびれて」

もう一人の『白』が、『赤』へと向き直る


153 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:11:39.81 ID:PTLNAAKAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
インデックス「――私の名前はインデックスって言うんだよ?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
154 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:12:12.47 ID:PTLNAAKAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 5 . 5 「 白 の 修 道 女 、 赤 の 案 内 人 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
155 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:14:21.39 ID:PTLNAAKAO
〜1〜

グツグツと薄く削がれたゴボウと軍鶏(しゃも)のモツが煮え、結標は背肉に塩を降って舌鼓を打っていた。
隣り合わせのインデックスは三杯目はそっとと言う暗黙の了解など何のその、もりもりと頬張るようにし――
姫神は割り下に酒と味醂と醤油を継ぎ足し、山椒と唐辛子を多目に入れ、小萌はプレミアムモルツを煽って。

結標「ふーん……上条君が出掛けちゃって手持ち無沙汰になって」

姫神「ついでに小腹も空いて。先生の家にご飯をたかりに来たと」

インデックス「し、仕方無いんだよ!とうまがもやし炒めしか作ってくれないから」

結標「えっ、それって虐待?もやし炒めしか食べられないなんて」

姫神「上条君の名誉のために言うなら。彼はもやし炒めさえ。時に事欠くありさま」

月詠「今日も青髪ちゃんの売れ残りのパンの耳をもらっていたのが見えてなんだか悲しくなったのですー」

結標「(何故かしら塩以外にしょっぱい物が目から出て来たわ)」

そこで交わされた会話の中で結標が知り得た事はおよそ二つ。
一つはインデックスの名前。一つは上条家の逼迫した家計だ。
特別奨学金制度のある霧ヶ丘女学院に籍を置き、案内人としても稼ぎ、暗部の頃にも相当溜め込んだ結標からすれば――
上条の奨学金が低過ぎるのか、或いはインデックスのエンゲル係数が高過ぎるのか、何れにせよ同情の念を禁じ得ない。

インデックス「……ご飯がなくっても、とうまがいてくれたらそれでいいのに……」

姫神「?」

インデックス「何でもないんだよ!そろそろ雑炊食べたいかも。ご飯まだある??」

月詠「もうないのですよー。ご飯というより、お米がもう……」

空になったお櫃の前でシクシクと悲しい酒に浸る小萌を尻目に、結標は改めてインデックスを見やった。
上条の同居人という立ち位置はわかった。わからないのは一人の少女としてのインデックスの立ち位置。
御坂美琴という恋人が上条に出来た以上、その心中に渦巻くものは余人には理解し得ぬものであろうと。

結標「(それに何か聞こえちゃったし)」

煮詰まり過ぎてふきこぼれた軍鶏鍋と、先程ほど姫神が聞き逃した修道女の発露とが、重なって見えた。

156 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:14:47.35 ID:PTLNAAKAO
〜2〜

姫神「ケータイ。二つも買い替えたんだ」

結標「ええ。少しトラブったから二台持ちにしようかなってね」

姫神「二台持ちの人は。遊び人が多いって吹寄さんが言ってた」

結標「見た目ほど遊んでないわよ。今日はこんな格好だけれど」

姫神「ううん。今日に限らず。いつもの格好からしてそう思う」

結標「どうしてみんな私の制服姿をそんなに貶すのよー!!?」

結局米櫃が尽きたところで小萌が冷凍うどんを取り出し軍鶏鍋にぶち込み、インデックスがペロリとそれを平らげた後――
姫神は勝手知ったる他人の家とばかりに食器洗いや後片付けに台所へと立ち、結標は飲み物を取るべく冷蔵庫の扉を開け。

結標「もういいわよ、姫神さんなんて知らないっ」

姫神「あっ。へそ曲げた。怒らないで。“先輩”」

結標「……その“先輩”って言うのはよしてよー」

霧ヶ丘女学院(がっこう)では顔を合わせた事ないんだから、と結標はリプトンのレモンティーを注ぐ。
濡れ羽色の黒髪(ひめがみ)、薄紅色の赤髪(むすじめ)はそれぞれ学内で顔を合わせた事がないのだ。
結標は特別公欠を繰り返して殆ど登校せずとも良かったし、姫神は夏休み中に放校処分を受けたためだ。
また学年も一つ違いであるため、小萌がいなければ互いに言葉を交わす機会さえなかったかも知れない。

姫神「そんな。ご機嫌斜めな先輩に。クリスマス。プレゼント」

結標「あっ……持って来てくれたんだ!」

姫神「もともと。そのつもりで来たら軍鶏鍋にお呼ばれされて」

結標「姫神さん大好き!ありがとう!!」

姫神「、」

そんな先輩(むすじめ)が感極まって、ペアチケットを差し出す後輩(ひめがみ)に抱きつき頬擦りした。
昨夜メールしていて話題になった、結標がカラオケで十八番にしているfripsideのライブチケットである。

結標「ありがとう姫神さん……クリスマスプレゼント奮発するから今はこれで我慢してちょうだいねー?」

姫神「(良い匂いで。変な気持ちになるから。離れて欲しい)」

月詠「んまー!?じ、女生徒同士で禁断の恋はダメなのです!」

結標「仲良しなだけよ。姫神さんといると前世では恋人だったんじゃないかって思うくらい相性良いし」

白井が目にしたらば目を疑うほど、含みも何もない満面の笑顔で結標はギュウギュウと姫神を抱き続け。



――――そして――――



157 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:17:00.31 ID:PTLNAAKAO
〜3〜

月詠「では先生は姫神ちゃんを送って行くのですよー」

結標「ええ。後からいつもの銭湯で合流しましょうか」

姫神「二人とも。おやすみなさい」

インデックス「あいさ!こもえ!おやすみなさいなんだよ!」

軍鶏鍋がお開きになった後、夜道と言う事もあって小萌が姫神を女子寮まで。
結標はインデックスを男子寮まで、それぞれ少女達を送る事にしたのである。
夜空にはようやく暗雲を脱して顔を覗かせた月がかかり、夜道を照らし出す。

インデックス「……バイバイ、だね……」

結標「(……この子何でこんな寂しそうな顔してるのかしら)」

インデックスは去り行く二人の背中に名残を惜しむような笑みを浮かべ、月明かりを見上げながら歩く。
結標も出来るだけ歩幅を合わせながら、夜風を受けて回る風力発電機が遊歩道に落とす影を目で追った。
結標はインデックスの事をあまり知らないし、そして何より彼女が上条や御坂に対して抱えた思いも……
当然知る由もない。今夜は彼女なりの小萌達への別れの挨拶だった事も。そして小萌に付き添われたなら

インデックス「ごめんなさいなんだよ。ほとんど初対面なのに送ってもらっちゃったりなんかして……」

結標「いいのいいの(上条君?女の子のお迎えに来ないだなんて男の子としてどうかと私は思うわよ)」

別れの言葉が漏れ出してしまうかも知れない。別れの涙が溢れ出してしまうかも知れないと思ったからだ。
その点結標とはあまり関わりがないし、この肌寒くも心地良い夜風のような人柄の方がかえって良かった。

結標「それに何だか、貴女が少し寂しそうに見えたから……」

インデックス「………………」

結標「――お鍋の時も、ちょっと聞こえて気になっていたの」

黒い夜風に散らばる赤髪と、白い月光を照り返す銀髪が、一瞬毛先を触れ合わせた。

インデックス「……よく見てるんだね?」

結標「たまたまよ。立ち入った事を聞いてしまって悪かったわ。インデックスさん」

インデックス「ううん。ありがとうなんだよ。でもあいさには内緒にして欲しいな」

されどその毛先は絡まる事も縺れる事も結ばれる事もなく、再び吹き抜ける夜風に裂かれるように分かれ。

インデックス「……ちょっとだけ独り言言ってもいいかな?」

結標「うん。お月様しか聞こえてないから良いんじゃない?」

インデックスが、訥々と語り出した。

158 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:17:33.27 ID:PTLNAAKAO
〜4〜

インデックスは語る。上条との出会いを、御坂との出逢いを、二人が結ばれるに至った馴れ初めから経緯までも。
それはいっそ淡々とした声音で、いっそ滔々とした口調で、時に遊歩道を闊歩する三毛猫を目で追いながら語る。
結標はそれをただ黙って聞いている。時折捕まる信号機の明かり、直走る車の音、二人の歩幅に気を配りながら。

インデックス「最近ね?とうまがすごく幸せそうに笑うんだよ。私と二人暮らしだった時よりずっとかも」

結標「(……何でかしら、御坂美琴にイラつく以上に上条君に対して怒りが湧いて来るのだけれど……)」

インデックス「本当は、私がとうまを幸せに笑わせてあげたかった。二人で幸せに笑っていたかったかも」

次第に男子寮が見え始め、インデックスが指差した。あそこが私ととうまのお家なんだよと微笑みながら。
だが結標は指差す先もインデックスの笑顔もまともに見れなかった。その部屋の窓には明かりがなかった。
ただただ残酷なまでに優しい月明かりだけがインデックスの微笑みを照らし、結標は何故だか込み上げた。

インデックス「本当はわかってるんだよ。私じゃ短髪にかなわないって頭ではとっくに結論が出てるかも」

結標「………………」

インデックス「でも私はもう短髪の笑顔が見たくないの。とうまが好きになった、とうまを奪った笑顔が」

それは悲痛なまでの女の意地だった。敗れ去るなら一矢報いて血に伏したいという救い難いエゴイズム。
一太刀のもとに切り捨てられるならば、せめて相手にも返り血を浴びせたいという度し難いヒロイズム。

インデックス「とうまが二度と私を“忘れない”ように、私の事を思い出す時少しでも胸が痛むように」

結標「………………」

インデックス「私はとうまを想っていっぱい胸が痛くなった。だからもしとうまが少しでも私と同じに」

結標「………………」

インデックス「感じてくれたらって……私は、私はね……!!」

そこでインデックスは少しの間だけ結標の胸を借りて泣き、少ししてから再び笑顔を取り戻して離れた。

結標「………………」

月明かりの下真っ暗な部屋に一人帰って行った修道女を、案内人はただ黙って見送るより他はなかった。

上条「――あれ?」

結標「……貴方は」



――上条当麻が帰宅するその時までは――



159 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:19:32.61 ID:PTLNAAKAO
〜5〜

――――――時は僅かに遡る――――――

御坂「(……ちゃんと湯船であったまって来たら良かったな)」

上条「み、美琴さん?なんかいつもより近くないでせうか??」

御坂「う、うるさいわね!寒いんだから仕方ないじゃない!!」

シャワーを浴びて夕食をとった後、私はやっぱりこいつに会いたくなって女子寮を抜け出してやって来た。
私は今、こいつの二千円札を飲み込んだ自販機のある夜の公園に来ている。わざわざメールで呼び出して。
何か夕飯の途中みたいで悪いかなって思ったけどどうしても電話の声やメールの文字じゃ我慢出来なくて。

上条「五日ぶりに会えたってのに何そんなビリビリしてんだよ。俺と会わない間になんかあったのか?」

御坂「馬鹿じゃないの?何かなくちゃあんたに会っちゃいけないの?何かあったら言わなきゃダメ!?」

上条「………………」

御坂「ごめん、当麻」

でも同じくらい優しくする余裕もなくて、可愛く振る舞えるゆとりもない私はこいつの肩に預けてた頭を離す。
だけど繋いだ手だけは離さない。甘え下手っちゃ甘え下手なんだけど、こういう女の子って本当面倒臭いよね。
みんなはどうやって甘えたりするんだろう。頼ったり出来るんだろう。上手く付き合っていけるんだろうな……

御坂「……ちょっと学校とか実験でいやな事が重なっちゃってさ。もしかしなくても持て余してるのかも」

送り出してくれた黒子に申し訳ないな。病み上がりの身体でわざわざテレポートで飛ばしてくれたのに。

白井『良いですかお姉様?何となく良い雰囲気になっても絶対絶体ゼーッタイ流されてはいけませんの!』

御坂『ないないない!ないないない!!黒子が思ってたり考えたりしてるような事ありえないから!!!』

白井『……わたくしにもそう考えていた時期がありますのよ』

御坂『何でそんな遠い目して話すの黒子?こっち向きなさい』

ごめん黒子。何か全然そういう雰囲気にならないっぽい。あんたの取り越し苦労で終わりそうな気がする。
でも何であんたがそんな事知ってるのか、そっちの方も気になる。あんた男の子に興味なかったよね確か。

上条「はー……」

って思ってたらあいつが私から離れてベンチから立ち上がった。うう、雰囲気悪くしてんの私の方だ……

160 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:19:58.27 ID:PTLNAAKAO
〜6〜

上条「ほれ」ポイッ

御坂「わわっ!?」

何て一人で怒って独りで凹んでる私をよそに、あいつは例の自動販売機に小銭を入れて飲み物を買ってた。
ガコン、ガコン、って二つ落ちる音がしたかと思ったら、そのうち一つが私に投げられた。ミルクティー?

上条「いっぺん言ってみたかったんだよな。俺のおごりだって」

御坂「!?」

上条「飲めって。人間さ、寒い・ひもじい・もう死にたいの順番で気分が落ち込んでくんだよ。これがさ」

御坂「……私そんな死にそうな顔してたかな。って言うか午後ティーひとつで“俺のおごり”だって……」

上条「んなっ!?」

御坂「あははははは!ありがとうありがとう、万年金欠病のあんたからって思うと何か喜びもひとしおよ」

あんた漫画の読み過ぎ!私が立ち読みしてるホスト部のオレンジ投げて寄越すキャラそっくりだったわ。
こんなので笑えて来て落ち込んでたテンション上がるとか、私どんだけ安い女なのって話じゃないのー。
でもまあいいか。こういうのって何をもらったかって言うより、誰からもらったかってのが大事だもん。

御坂「……ありがとう。やっぱりこういうのって何かいいわね」

上条「ちくしょうこれでまた明日も昼飯抜きか……なんだよ?」

御坂「――色々あったけど、何かこういうやり取り良いなって」

開けるプルタブ、フワッと広がる安っぽくて甘ったるい湯気。手のひらと胸に広がって行くあったかさ。
結標淡希の事とか、食蜂操祈の事とか、あのシスターの事とか、一瞬忘れられた気がした。あんたの……


上条「……付き合ってからわかり始めて来たけど、お前って結構変なヤツだよな?」

あんたの、おかげで


御坂「その変なヤツにこの公園で告白して来たヤツはどこの誰だったっけ?んー?」

ごめんねシスター。私、やっぱりこいつを譲れない。やっぱりあんたに渡せない。どんな事をしてでも。
きっとクリスマスの夜、こいつがあんたのいない部屋に帰ったなら、きっとそこで全てを知る事になる。
こいつはあんたを連れ戻しに英国にまで追い掛けるでしょう。こいつは馬鹿がつくくらい優しいからさ。

御坂「……なんてね!私もあんたの事、だ、大大好きだから!」


だから居候(あんた)には出来ない、彼女(わたし)にしか出来ない、たった一つの最低なやり方で――



記憶を失い続けたあんたの何度目かの“初恋”を殺そうと思う。



161 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:22:07.68 ID:PTLNAAKAO
〜7〜

――――そして時は巻戻る――――

結標「………………」ジー

上条「こ、こんばんは。どうしたんでせうかこんなところで」

結標「(……このリアクションから見て、私が御坂美琴の顔に爪を立てた事を知らないのかしらね?)」

インデックスを送り届けた後、結標は踵を返さんとした自転車置き場にて上条と向かい合う事となった。
思わぬ深夜の来訪者に驚いたのか、上条はやや目を丸くしたが結標は対照的に目を細くして笑いかける。

結標「こんばんは!ちょっと曲がり角を間違えてしまって。貴方こそこんな時間にどうしたのかしら?」

上条「ああ、上条さんはちょっとばかり飲み物を買いにコンビニに。そうか、道に迷ったってなら――」

結標「見送りなら結構よ。だって御坂さんに悪いもん、ね?」

上条「!?」

結標「姫神さんから聞いちゃったし有名だもの。私から言うのもおかしな話だけれど、おめでとう上条君」

厚い面の皮と猫を被った結標が、午後の紅茶・ストレートティーを持つ上条に握手を求めて腕を差し出す。
それに対して上条も照れながら握手を交わし、結標もまた絵に描いたような『年上のお姉さん』の笑顔で。

結標「うふふ……」

上条「?」

結標「隠さなくてもいいのよ。御坂さんと逢い引きしてたんでしょう?顔に書いてるわ“幸せ”だって」

上条「おおー……何かすげーお見通しって感じで恥ずかしいけど実はそうなんだ。ははっ、格好悪いな」

だが結標は思う。御坂美琴への負の感情に則って行動するならば上条にちょっかいの一つや二つはかければ良いだろう。
だのにまるでその気が起きないのだ。上条に助けられた恩を度外視するなら、それが最も効率的な有効打だと言うのに。

結標「うふふ。貴方は格好良いわよ?さて、私ももう行くわね」

上条「ああ、結標さんも夜道気をつけてな。女の子なんだから」

結標「ありがとう。でもそんな風に誰にでも優しくしちゃダメ」

上条「?」

結標「――女の子は誰だって自分一人にだけ優しくされたいものなのだから。おやすみなさい、上条君」

上条を残して自転車置き場から座標移動で姿を消した結標にはわからない。御坂が憎い事に変わりはない。
だのに上条に唾をつける訳でもなく、白井ただ一人に粉をかけるのかという行動原理の源流がわからない。



それが『嫉妬』という感情である事も――



162 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:22:36.32 ID:PTLNAAKAO
〜8〜

白井「――――――お姉様………………」

一方、御坂が上条への逢瀬に向かった後部屋にただ一人取り残された白井は窓辺にて月光浴を嗜んでいた。
光源は天上の名月と、膝掛けに置かれた携帯電話とスマートフォン。いずれも新着メッセージの類はない。
寮監の巡回時間までまだまだ余裕はあるが、白井の気持ちにあまりゆとりはない。何故なら疲れたからだ。

白井「(これもお姉様の倖せのためですの。お姉様の曇りなき笑顔こそがわたくしの幸せなんですのよ)」

車椅子の肘掛けに置かれた手指を広げ、届かざる月に向けて伸ばす腕が、見上げる視界が滲む涙に暈ける。
白井からすれば数日ぶりの御坂の顔合わせだが、御坂からすれば数日ぶりの上条との顔合わせになるのだ。
だが白井は疲れたのだ。上条にしか見せない相貌と、白井には見せない双眸を向ける御坂に対して――……

白井「(わたくしはお姉様の露払いなんですの。わたくしはお姉様のパートナーなんですのよ白井黒子)」

笑顔で頷き、笑顔で耳を傾け、笑顔で接し、笑顔で相槌を打つ事に白井は疲れ切ってしまっていたのだ。
そればかりか、恋敵のもとへ行く御坂を空間移動で後押しさえしている。自分で自分の首を絞めている。
嫌なら止めれば良い。嫌なら目を瞑れば良い。嫌なら耳を塞げば良い。だのにそれをしないのは――……

白井「………………」

単に懸想する相手の恋路を応援する白井黒子(こうはい)というポジションに固執しているに過ぎないと白井は諧謔する。
かつて結標に檄を発した言葉がそのまま自分自身に跳ね返って来る。誰しもが必死で自分の居場所を作り、守っていると。
御坂のために笑顔を作り、御坂のために涙を零すまいと。それさえ自分自身のために他ならないと白井は自嘲させられる。

結標『――だって勿体無いじゃない?貴女とて“一人の女の子”なんですもの……』

御坂が思うほど自分は綺麗などではないと。初春が思うほど自分は高潔などではないと。佐天が思うほど

白井「……――わたくしは、強くなどありませんのよ……――」



――月明かりが、白井を狂わせて行く――



163 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:24:31.40 ID:PTLNAAKAO
〜9〜

月詠「ああっ!そこはダメ!そんなところダメなのですよー!」

結標「ああんっ、スゴい!こんなの初めてよ……ああ、イヤ!」

小学生「お母さーん!あのお姉ちゃん達、お母さんとお父さんのプロレスごっこの時みたいな声し(ry」

保護者「だから見ちゃいけません!!それからお外でそういう事を言うのはよしなさい帰るわよ!!!」

同時刻、銭湯にて合流しムームー姿で電動マッサージチェアによって悩ましい声を上げる結標と小萌の姿。
小萌はアルコールで、結標は長湯で、それぞれ両隣で、ほんのり上気した表情で電動マッサージに喘いで。

結標「(いいのよ坊や!ちょっとくらい早い性の目覚めをお姉さんで迎えてしまってもいいのよ!!)」

小萌「あうあうー……肩凝りにものすごく効くのですよー。あれ?結標ちゃんバイブしてませんかー?」

結標「バ、バイブ!?こ、小萌の部屋には置いてないわよ?!」

月詠「何のお話ですかー?結標ちゃんのスマホなのですよー!」

と、少年の動物園の檻を覗き込むような眼差しに押してはいけないやる気スイッチが入った結標の膝上。
そこには電動マッサージチェアの振動に紛れて震えるスマートフォンがバイブレーションしていたのだ。
当人でさえ気付き得ぬ振動音を看破した小萌の異能ぶりにやや驚きながらも、結標はそれを手に取った。

結標「(電話?)もしもし、白井さん?」

白井『――こんばんはですの、結標さん』

月詠「あうあうあ〜〜なのですよー!!」

隣席にて身悶えする小萌を無視して結標はその第一声に耳を澄ませる。その表情に先程までの喜色はない。
姫神に抱きついて頬擦りしたり、インデックスの身の上話を聞いたり、たった今まで小萌といた時のような

結標「――こんばんは。どうしたのかしら?貴女の方からかけて来るだなんて……」

自然体な結標でも等身大の自分でもない、上条に握手を求めた時のような完璧に計算された笑顔を浮かべる。
同時に御坂の目を憚ってメールして来る白井が電話をかけて来た意味を、上条を通して結標は理解している。

結標「――私の声が聞きたくなったの?」

白井『自惚れも大概にして欲しいですの』

結標「手厳しいわね。それで、用件は?」

白井が望む形で『白井黒子』を理解してやるという重要性を。

164 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:24:57.86 ID:PTLNAAKAO
〜10〜

白井「あの、先程送った写メールのチョーカーについてですの」

結標『とっても可愛らしかったわよ白井さん。よく似合ってた』

白井「……ありがとうございますの。つきましては、その事で」

今も首に巻かれた黒いチョーカーを指先でなぞりながら、わたくしは結標さんとお話しておりますのよ。
肌に触れる逆さ十字架のシルバーが、まるでわたくしの喉元に突きつけられた剣の鋒のように感じられて

白井「……あの、あのもし良かったら、わたくしからも何か貴女にお返しさせていただきたいんですの」

結標『あら、いいのに』

白井「貴女が良くてもわたくしの気が済みませんの!押し売りのようではなはだ迷惑かとは思いますが」

電話越しに聞こえて来る、鼻から抜けるような鼻で笑うような声。かち割り氷のような心地良い冷たさ。
電話越しでつくづく良かったと思いますの。今わたくしがどんな表情で話しているのか見えませんので。

結標『お返し物なら結構よ。たかだか2、3万円の安物だしね』

白井「そ、そういう問題ではありませんのよ!わたくしは――」

結標『だったら、物ではなく身体で返して欲しいのだけれど?』

白井「なっ……!?」

結標『勘違いしないでちょうだい。ただちょっと困っている事があるのよ白井さん』

そこで結標さんが提示した条件。それはご友人から譲られたfripsideのペアチケットについてでしたの。
このスマートフォンの初期着信音にされているくらい、学園都市ではメジャーなアーティストのライブ。

結標『もし良かったら、私と一緒にライブに行ってくれない?』

白井「えっ……」

結標『貴女の誠意が上辺だけのものでないなら、の話だけどね』

御坂「黒子ただいまー!いやー参った参った、聞いて聞いてー」

わっ、わわっ、わわわお姉様!?このタイミングでご帰宅ですの?!ああ電話、この電話をどうにか――

結標『行くの?行かないの?さーん……』

御坂「黒子ー?もう寝ちゃったー???」

白井「ま、待っ……」

結標『にー……』

御坂「黒子ってばー!」

結標『いーち……』

白井「い、いま行きますのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!」

結標『そう?じゃあ今人といるからまた後でメールするわねー』

プッ……ツー、ツー

き、切れてしまいましたの……

165 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:27:00.17 ID:PTLNAAKAO
〜11〜

結標「(――だから貴女は不出来だと言うのよ、白井さん)」

電話越しに御坂の声を聞き取るなり賭けに打って出た結標の目論見はまんまと功を奏する形と相成った。
結標は用済みとばかりに通話を終了させ改めてマッサージチェアに身を凭れかけさせ悪魔的に微笑んだ。
御坂の不在は上条を通して知っていたが、まさかこうも自分が思い描く絵図通り事が運ぶなどと思わず。

結標「(歯応えが足りな過ぎて、かえって苛々してくるわ)」

月詠「あうー……結標ちゃん、お電話は終わりましたかー?」

結標「うん。ちょっと知り合いからね。よっこらしょっ、と」

時同じくして結標の通話と小萌のマッサージが終わり、結標はチェアから身体を起こして髪をかきあげる。
程良く長湯の火照りも引き、今日一日の疲れが抜けて行くようである。だが傍らの小萌はそんな結標の――

月詠「もしかして、結標ちゃんの好きな人からのラブコールなのですかー?」

結標「!?」

月詠「お電話の間中も、のぼせたみたいにお耳を真っ赤にしてましたよー?」

赤らんだほっぺたをツンツンとつつきながら小萌がニコッと頬を綻ばせ、結標がビクッと頬を引きつらせる。
自分が白井と通話している間頬を赤らめていた?何を馬鹿な事をと結標は突きつけられた指から顔を背けて。

結標「ゆ、湯当たりしただけよ!そんな相手じゃないし、むしろ大嫌いで顔も見たくないくらいよ!!」

バサッとタオルを投げつけて結標は顔と話題を逸らそうと必死になる。大好きな相手?そんな馬鹿なと。
しかし小萌は被せられたタオルを返し、些か人の悪い笑みを浮かべている。全てお見通しとばかりにだ。

月詠「ふっふっふ、伊達に結標ちゃんの倍近くも歳をとっていないのです!まるで先生の若い頃を……」

結標「そ、そういう小萌こそどうなのよ?ほらクリスマスイブとかクリスマスとか聖なる夜の予定とか」

月詠「――もちろん、先生にも予定や相手はあるのですよー?」

結標「え゛」

その思わぬ一言に結標は返されたタオルを取り落とし、月詠は24、25日は家を空けると続けて来た。
確かに5日前、この銭湯にて異性のタイプについて軽く話はした。だがまさかと思わざるを得なかった。

月詠「結標ちゃんも、素敵な恋愛をたくさんして下さいねー?」

――そう締め括った小萌の微笑みは、確かに結標の倍近くある年嵩を経た『大人の女性』のそれであった。

166 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:27:32.27 ID:PTLNAAKAO
〜12〜

御坂「あ、黒子。ごめん、何か途中から話し声聞こえたけど電話中だったかな??」

白井「え、ええ少しばかり……思ったよりも遅いおかえりでしたが大丈夫ですの?」

御坂「うん、あいつと別れた後街のツリー作り見てたら海原さんと出会しちゃって」

白井「海原光貴さん?」

御坂「うん。ちょっと話し込んじゃって、長くなりそうだなーって思ってたら何か電話入ったっぽかった」

おかげで助かっちゃったと御坂は微苦笑を浮かべながらスクールコートを脱いでハンガーにかけて行く。
その様子からして通話の内容や相手までは知られなかった事に、安堵感に撫で下ろす胸が罪悪感に痛む。
しかし御坂はそんな白井の胸の内など知るはずもなく、むしろ上条と会えた事によりすいた胸の内を――

御坂「まだわかんないけど、私多分24日は朝からいないと思うんだ。あ、あいつと……で、デートで!」

白井「っ」

秘めた決意を明かす事なく白井に打ち明ける。白井の胸に空いた穴を穿つように、広がる虚を抉るように。

白井「………………」

御坂「黒子?」

窓辺に置かれた車椅子に腰掛ける白井に、月明かりが落とす枠の影が十字架の形を描いてかかって行く。
後に御坂は振り返る。思えばこの時から何かが壊れ始めたのかも知れないと。或いはそれより前からと。
後に白井は思い返す。この時もし溢れる胸の内を吐露したならば、あんな結末を迎えずとも済んだかと。

白井「……あんの類人猿んんんんん!よくもわたくしとお姉様の記念すべき初めてのクリスマスをー!!」

御坂「!?」

白井「……と、言いたいところですがわたくしも24日に少しばかり野暮用がございますの!おほほほ♪」

自分に入った罅と、御坂の抱えた亀裂が埋められない溝という形でさえ重ならなければと言うIF(もし)

御坂「や、やだなー黒子脅かさないでよ!って言うか野暮用ってなになに?佐天さんと初春さんとか??」

白井「……それはお姉様にも秘密ですの!まあお姉様とあの殿方ほど色っぽい話ではない事は確かですが」

御坂はただ幸せになりたかった。白井はただ幸せになれなかった。たったそれだけ、ただそれだけの事だ。

白井「――良いクリスマスを♪お姉様☆」



―――誰も、悪くなどなかったのだ―――



167 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:29:43.10 ID:PTLNAAKAO
〜13〜

初春「22・23の当直を、ですか??」

白井「ですの。その翌日に少々外せない用事が出来たもので」

佐天「おおー!し、白井さんにもついが春がやって来た!?」

白井「違いますの!ただ単にライブを観に行くだけですの!」

その翌日、白井は風紀委員一七七支部にて初春にシフトチェンジを申し出、遊びに来ていた佐天が混ぜっ返して茶化して来た。
このタイミングで24日に休みを入れたいともなれば、佐天でなくとも勘ぐりたくなるであろう。しかし白井は取り合わない。
誰が言えようか。誰に言えようか。失恋の傷と喪失の痛みが癒える間もなく血と涙を流し続けるこの現状に疲れ果てたなどと。

佐天「ええーつまんない……でもライブって言ったらfripsideですもん仕方無いですよねー。あのチケットプレミア付きだし」

佐天の笑みが痛い。

初春「まあ、私も固法先輩も他の委員も融通利きますから大丈夫です!ただ、まだ病み上がりなので無茶しないで下さいね?」

初春の笑みが痛い。

白井「ありがとう初春。恩に着ますわよ」

そして何より、笑い続けなければいけない自分自身の痛々しさに白井はもう向き合っていられなかった。
かつてあれだけ白井に戦う強さを、進む強さを、折れぬ強さを与えてくれた御坂の笑みが何よりも痛い。
ルームメイトという近過ぎる距離に磨り減り、反比例して遠すぎる御坂との距離に打ちのめされて行く。

佐天「(ねえねえ、白井さん白井さん)」

白井「(何ですの佐天さん?チケットならば譲れませんの!)」

佐天「(ううん、ライブってやっぱ灰音お姉さんと行くの?)」

シフト表を直しに席を離れ、ホワイトボードに書き込んで行く初春に聞こえぬように佐天が耳打ちして来る。
灰音。それは赤髪を下ろし私服に身を包んだ結標が名乗る偽名。そして白井が佐天についた嘘でもあるのだ。

佐天「(最初は、白井さんの“彼女”かって思ったんですよ)」

白井「………………」

佐天「(全然似てなくて。でもどっか白井さんに似てて……)」

だが白井は微笑みながらかぶりを振る。氷に入った罅割れを覆うように雪(うそ)をまぶした微笑みで。

白井「――あれは、わたくしの生き別れた姉妹ですのよ――」

ありえたかも知れないもう一人の自分のように、白井は笑う。

168 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:30:12.32 ID:PTLNAAKAO
〜14〜

白井「(あれも何か違いますの。これも気に入りませんの)」

更に翌日、白井は学舎の園にあるショップにて余所行き用の服を買い求めて悪戦苦闘していた。
それはとりもなおさず24日に出掛けるためのものである。流石にライブ会場に常盤台の制服は

白井「(嗚呼、制服に慣れ親しみ過ぎて勘が戻りませんの)」

悪目立ち過ぎるし、そして何より数日前に佐天に出会してしまった時の教訓を生かしての事でもあった。
出来る事ならば知り合いでも目を凝らさねば白井とわからないくらいがちょうど良い、そう思いながら。

白井「(あら、これ可愛いですの!!)」

手にしたのは漆黒を基調としたリボンタイのワンピース。肩ベルト付きコルセットで引き締めるタイプ。
私服でも白桃色のワンピースを持ってはいるが、こういったシックな装いに手を伸ばした事はなかった。
すると今度はワンピースに合わせたコーディネートが気になり、ハットへと手を伸ばした時に不意に――

結標『嗚呼、やっぱり中折れが一番可愛くて良く似合ってるわ。キャスケットは地味過ぎるしボルサリーノは派手過ぎるしね』

白井「………………」

結標『あら、私なりに誉めているのだけれど。案外いそうでいないのよ本当に帽子が似合う男の子と眼鏡が似合う女の子って』

白井「すいませんが、そのリムレスの眼鏡いただけません?」

店員「かしこまりました」

ツインテールをほどいて下ろした髪にハットを乗せ、店員に伊達眼鏡を持って来させてかけてみる。
するとどうだろうか。そこには白井であって『白井黒子』でない、誰も知らない白井が立っていた。

白井「……――こちらに決めましたの!」

店員「お買い上げありがとうございます」

白井はそれらを買い上げ店を後にし、学舎の園の石畳に車椅子ではなく自分の足で軽やかに降り立った。
久方振りの買い物、新しい自分の発見、ライブへの期待が綯い交ぜとなる。しかしその一方では――……

白井「……わたくし、どうかしてますの」

校則違反・友人への虚偽・御坂への罪悪感が入り混じり、白井は浮かれて躍る胸に手を当てて自省する。
自分は何をしているのか。これでは間近に迫るデートに浮つく『年頃の女の子』そのものではないかと。

白井「何を、一人で浮かれてるんですの」


朱に交われば『赤く』なるとはこの事かと、白井は自嘲した。



169 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:32:17.01 ID:PTLNAAKAO
〜15〜

―――そして来たる12月24日―――


結標「リモーネ・カプチーノをひとつね」

店員「かしこまりました」

結標は地下街にあるカジュアルレストラン『リリー・オブ・ザ・バレー』の奥まった席に腰掛けていた。
真紅のファー付きロングニットコートを脱ぎ、道中ちらつき始めた灰雪に悴んだ手指をこすり合わせて。
待ち人はまだ来ていない。この雪で道が混み合っているのだろうかとも思ったが、すぐさま考え直した。

結標「(貴女がその気になれば、渋滞だの混雑だの意味をなさないはずよ。いやしくも私と同系統の能力者なのだから……)」

もしかすると迷っているのかも知れない。ただしそれは道にではなく自分と会う事に対してだろうと――
結標は待ち人の心理を我が身に置き換えてトレースして行く。彼女の事なら我が事のように理解出来る。
近しい感覚を上げるならば、伴侶を裏切って密通を働き懊悩する妻のような心持ちであろうとも。しかし

結標「(貴女は必ず来るわ。何故なら、貴女は私から背を向けて逃げる事をよしとしない性格ですもの)」

店員「お待たせいたしました。御注文のお品物になります」

結標「ありがとう」

真紅のコートからスマートフォンを取り出していると、ウェイターがリモーネ・カプチーノを運んで来た。
結標はそれらを口に運びながら、ようやく使い慣れて来た画面を軽妙なタッチで叩いて行く先を検索する。
クリスマスイブに女二人と言うのもさまにならないが、男二人よりかは絵になるかと胸中にて独り言ちて。



そこへ



「遅れて申し訳ございませんでしたの!」

ドアベルが鳴り響き、ウェイターが案内するより早く、ブーツのヒールを鳴らして表す小さな待ち人……
初めて見る少女の私服姿は結標の予想を覆して黒を基調とし、肩口に灰雪が乗っているの様子が伺えた。
見違えたな、と結標は微笑んだ。口を開き声を発するまでその少女が自分の待ち人かどうか迷うほどに。

結標「いいえ、私もちょうど今来たところなの。気にしないで」

いそいそと真っ白なロングマフラーを畳んで席に着かんと前屈みになった時、微かに覗けたチョーカー。
白には『貴方色に染まります』という意味合いがあるのはよく知られた話だが、黒はその真逆に当たる。
『何者にも染まらない』。故に罪と罰を司る裁判官は黒衣を纏う。だが、結標から言わせれば少女は既に

「……赤いコート?」

少女は半ば、染まっている
170 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:33:14.63 ID:PTLNAAKAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「サンタみたいでしょう?メリークリスマス、白井さん♪」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
171 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:33:42.18 ID:PTLNAAKAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T .6 「 白 い マ フ ラ ー 、 赤 い コ ー ト 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
172 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:34:47.20 ID:PTLNAAKAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
手 に し た 傷 は 決 し て 癒 え る こ と は な い 。


信 じ て さ え い れ ば 報 わ れ る と 私 は 思 っ て い た 。


『 戦 場 の メ リ ー ク リ ス マ ス 』 よ り
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
173 :>>1[saga]:2012/04/08(日) 22:36:22.75 ID:PTLNAAKAO
ACT.6おわりー!

そして次回から『あわくろメリー苦しみマス』編突入

プラス、ルート確定です

たくさんのレスありがとうございましたー!
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/04/08(日) 23:27:32.78 ID:5EmfOujk0

次も楽しみにしてる
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/08(日) 23:36:24.56 ID:0T3aZ2joo
IDすげえな
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/08(日) 23:43:28.14 ID:zwS4U3rDo
乙〜
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/09(月) 17:47:46.79 ID:/9TvddWm0

178 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 18:05:48.59 ID:iu7JAZgAO
>>1です。ACT.7「白い仮面、赤い横顔」は今夜投下させていただきますー
179 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:53:52.46 ID:iu7JAZgAO
〜0〜

――――時は遡る事12月18日――――

海原「参りましたね、どうにも――……」

海原光貴ことエツァリは来たるクリスマスに向けイルミネーションの施された並木道にて白い溜め息をついていた。
ツリーの頂点にベツレヘムの星とクリスマスエンジェルが輝き、スノーフレークやキャンディケイムが色を添える。
そんな煌びやかな彩りの中爽やかなれど晴れぬ微苦笑を浮かべる理由はただ一つ、ミッションが芳しくないためだ。

海原「(木を隠すには森の中と言ったものですが、自分にとって些か不得手な場所になりますね……)」

そのミッションとは先日結標に話した忌み枝の剪定、平たく言うなら学園都市暗部の残党狩りである。
そこへ加わっている海原に下された新たな指令。それは『地下銀行の金庫番を確保せよ』というもの。
百桁にも及ぶ暗証番号を口伝にのみよって記憶した暗部の金庫番は今現在身を潜めているらしいのだが

海原「(帝都ドームなどと)」

その金庫番が暗部組織と接触すると言う情報が入ったのである。その場所は第七学区にある帝都ドーム。
旧電波塔『帝都タワー』の付近にあり、スポーツやコンサートなどに用いられる一種の複合施設である。
来たる12月24日、fripsideのクリスマスライブで数万人の来場が見込まれる衆人環視の中だと言う。

海原「(全てに目を配るのも難しいですし、人員の配置も厄介極まりますね。困ったものです、本当に)」

そう海原がツリーの電飾を仰ぎ見ながらポリポリと頭を掻くと

御坂「げっ」

海原「おや、御坂さんじゃありませんか」

そこに現れるは上条と別れ帰路へ着いていた御坂である。それにより少年の顔に刻まれた微苦笑がより強くなる。
対する御坂も先程上条に向けていた微笑みとは異なる引きつった苦笑いを浮かべ、両者の間に何とも言えない――

海原「こんばんは、御坂さんも月光浴ですか?」

御坂「あ、ああ!うんうん、そんなところかな」

空気が夜の霧をかけるより早く、海原は常なる爽やかな笑みを浮かべながら何気ない世間話をし始めた。
海原は知っている。御坂と上条が晴れて恋仲となった事を。海原は戦っている。今なお御坂美琴の世界を

海原「ふふふ、奇遇ですね。実は自分も」

御坂「(うわー何か長くなりそう……)」


彼女が笑って過ごせるハッピーエンド(世界)を守るために。



180 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:54:23.65 ID:iu7JAZgAO
〜1〜

そして来たる12月月24日、結標と白井は地下街のカジュアルレストランにて落ち合う事となった。
白井も雪道の中駆けつけるなり結標と同じリモーネ・カプチーノを注文し、暖を取って人心地ついた。
対する結標はテーブルのに肘をつき手指を組ませて顎を乗せ、白井のコーディネートを見やりつつ――

結標「うふふ、そんなに慌てないでいいのよ白井さん。コンサートまであと二時間はあるのだから……」

白井「寒かったんですの!年も越さない内からもう二度も雪が降るなんて今年の冬はどうかしてますの」

結標「あたためあげましょうか?」

白井「冷たくなりたいんですの?」

利かん気の強そうな顔立ち、負けん気の強そうな眼差しを向けて来る白井をからかう。
フーフーとカプチーノの上に乗った生クリームが白井の吐息に合わせて揺蕩い揺れる。
結標は確かな手応えを感じていた。内心はどうあれ白井は自分のもとまでやって来た。

白井「ところで二時間もどうやって過ごすんですの?このレストランで粘り続ける心積もりでしたらばわたくし帰りますのよ」

結標「冷たい子ね。そんな貴女をこれからより冷たいところへ招待してあげるわ。その内身体もあったまって来るでしょうし」

白井「?」

御坂には当然話を通していないだろうし明かす事など有り得ない。これは言わば密通に等しい逢瀬である。
自責、自涜、自虐、自暴に等しい勢いで来たのであろう。その言葉の端々に含まれたトゲが物語っている。
結標の思い通りに懐柔などされまい、取り込まれ服従させられてはならないと気を張り詰めている様子が。

結標「ひとまずそれを飲んでからでましょうか。舌を火傷しないようにゆっくりで」

白井「ズズー!プハー!!」

結標「……どれだけ負けず嫌いなのよ貴女は。そんなに私の風下に立つのがイヤ?」

白井「熱っ……ええ、舌を火傷する方が、舌を噛み切る方がマシなくらいですの!」

湯気も引き切らぬ内に一気飲みしソーサーに戻す様子からも見て取れた。故に結標もカップの取っ手を――
チン!と人差し指で鳴らして微笑み、真紅のファー付きニットコートと伝票を手に取り席を立ち上がった。

結標「……では行きましょうか白井さん。“帝都ドーム”まで」

まるで果たし合いにでも赴くような二人の向かう先には――

181 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:56:19.88 ID:iu7JAZgAO
〜2〜

白井「スケートリンクですの!!?」

結標「あら、こういうのはお嫌い?」

なんとスケートリンクである。帝都ドーム内にはいくつか娯楽施設もあり、結標はその中からここを選んだ。
そして突っ込む白井をよそにシューズを借り、トントンと銀盤にエッジを噛ませて氷の具合を確かめていた。
そんな結標の場慣れした様子に白井はやや気後れする。こんな事ならもっと別のコーデにするべきだったと。

白井「身体を動かすのは嫌いではありませんが、なにぶん入門者ですの。それにこんな格好ですし……」

結標「大丈夫よ。私がリードしてあげるわ。手取り足取りね。転ばせたりしないわ」

白井「(精神面が脆弱なくせにこういう時だけ上から目線なのがムカつきますの)」

ジト目で口を尖らせる白井より一足早く氷上に降り立ち、ターンブレーキ&ドヤ顔で手を差し伸べて来る。
そんな結標の余裕綽々っぷりを腹立たしく思いながらも、手すりに掴まるのがやっとの白井が睨み付ける。

結標「はい、まずは爪先を90度くらいにゆっくり広げて立ってみて」

白井「ぐぬぬぬ……た、たかがこれしきどうと言う事はありませんの」

結標「そう、なら次はペンギン歩きにチャレンジしてみましょうか?」

結標が手を取り、白井は支えられながらカツンカツンと氷上を踏み鳴らしてペンギン歩きをし始めた。
思わぬ形で再び手繋ぎする事となり、白井はややもするとかじかみそうな指先に熱が籠もるを感じる。
間近にある結標の赤い髪とコートとが白銀の世界に映え、ともすれば足元が留守になりそうなほど――

結標「上手上手。確かに身体を動かす事に関しては飲み込みが早いのね?貴女って」

白井「(また人をおちょくって!)今のでコツは掴みましたわ!もう貴女の手など借りずともわわ!?」

結標「白井さん!」

ペンギン歩きから左足で氷を蹴り出し、右足で滑り出す事を覚えた白井がキャンキャンと噛み付いて来る。
そんな小型犬めいた白井が勢いに乗って滑らんとしたまさにその矢先に、コントロールを失ったのである。
結標はそんな真っ正面から白井を抱き止め、T字ブレーキから教えるべきだったかしらと髪を撫でて行き。

結標「ほら、言わんこっちゃないわ。いい?ブレーキは……」

白井「(は、恥ずかしいです、の……)」

白井はそんな結標の赤いコートに顔を埋めたまま上げられなくなってしまった。否、離れ難かったのだ。

182 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:56:47.84 ID:iu7JAZgAO
〜3〜

白井「い、意外と足が疲れましたの……」

結標「慣れていないとそんなものよ。でももう一人で滑れるようになったじゃない。貴女は教え甲斐のある良い生徒だったわ」

白井「……悔しいですが教え方がわかりやすかったんですの」

結標「素直でよろしい。じゃあそんな貴女に何か飲み物を買って来てあげましょう」

それより十数分後、白井はぎこちなくも何とか手を引かれずとも滑れるようになり、結標は結標で――
スイスイと手を後ろ手に組んだままバックでフィギュアスケーターのように滑りつつ白井の先を行く。
その事に対し、白井は上達した事を手放しで喜べなかった。結標の手が離れていってしまった事にだ。

白井「(わたくしは何を考えているんですの。よりによって)」

手摺りに掴まり一息入れた白井は、回遊魚のようにスケートを楽しむ人々の中売店へ向かう結標を……
サンタクロースのような赤いコートを目で追っていた。嘗て切り結んだあの細く小さな背中をである。

白井「(――ロミオとジュリエットでもありませんのに……)」

自分を一回殺しかけ、自身を一度救い出した敵の後ろ姿を――

〜3.5〜

結標「(あんなにムキになって。でも初めて見たかも知れないわ。貴女の中学生らしい表情だなんてね)」

白井の視線を受けながらリンク内にある売店にて色ばかり濃いホットティーを二つ注文しながら結標は思う。
白井が浮かべた年相応の表情、自分の手のひらで転がる姿に果たして自分が中学生だった頃どうだったかと。

結標「(……昔の私を見ているみたい)」

フッと鼻から抜けるような笑みと共に結標はその詮無い感傷から目を切り白井の元へ戻ろうとした。だが

???「――結標さんですか」

結標「……その声、まさか?」

海原「――はい、自分ですよ」

両手に紙コップを抱えた結標が外周部より迂回しようとした矢先に声掛けして来たのは、一見軽そうな金髪の優男。
だが結標にはその声音の主とその能力を知っている。このナンパを装って話し掛けて来た少年は海原に違いないと。

結標「何で貴方がこんなところにいるのよ?クリスマスのお相手ならよそ当たって」

海原「貴女こそ“枝打ち”に加わったのではないのですか?このドームにいるなら」

結標「……どういう事か詳しく聞かせて」

そしてパッと見遊び人な男と女が向かい合って話す様子を――

183 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:58:47.36 ID:iu7JAZgAO
〜4〜

白井「(な、何をわたくしを放っておいてあんなチャラい男のナンパに付き合ってるんですのー!!?)」

白井は数分間に渡ってジト目もとい放送コードに引っ掛かりそうな眼差しで二人のやり取りを睨み付ける。
パッと見如何にもな男が携帯を取り出し、結標と何やらアドレス交換らしきものをしている様子が窺える。
それが何とも無しに白井には気に入らないのだ。嫌がっているならばまだ助け舟の出しようもあるのだが。

結標「……も……わ。自分の……で拭く」

???「では……したなら……引き渡し」

白井「(リンクの向こう側で全然聞こえやしませんの!!!)」

そこで白井は覚えたての滑り出しで氷上をカツカツと移動し対岸の結標へと詰め寄るように肩を怒らせる。
自分を放り出しているのが気に入らない。それ以上にあんなチャラい男と話しむ姿が気に食わないのだと。
そんな訳もわからぬ感情とも衝動ともつかぬ何かに突き動かされる自分に腹を立てながら白井は結標の――

白井「結標さん!そろそろ会場入りの時間になりますの!」

腕を強引に絡め取るようにしてチャラいナンパから引き離す。

〜4.5〜

白井「結標さん!そろそろ会場入りの時間になりますの!!」

結標「わわっ!?(ごめん海原!後で必ず合流するから!)」

海原「おお!そっちの彼女も可愛うぃ〜ねー!(了解です)」

だなんて話し込んでたら白井さんに引っ張られてしまったわ。ああもう最悪!よりにもよってこんな時に

新入生C『ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?』

あの時私が見逃してしまった男が暗部組織の金庫番で、その取引場所がこのドーム内だなんて最悪だわ。
枝打ちなんて興味はないけど、居合わせてしまった上に海原から顔写真まで見せられてしまってわね……
『自分の尻は自分で拭く』。これは私達(グループ)の戒律でもあり、私自身が定めた流儀でもあるわ。

白井「大きなお世話ですの!結標さんもそんな短いスカート履いて誘うみたいに尻を振って歩くから安く見られるんですの!」

結標「わ、わかったわよ……」

……でもこの子何でこんなにムキになって怒ってるのかしら?もしかして私の事を心配してくれてるの?

184 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 20:59:16.08 ID:iu7JAZgAO
〜5〜

係員「列を乱さぬようお願いいたします」

結標「し、白井さん?あんまりくっつかれると歩きにくいわ(中抜けし辛いわね)」

白井「勘違いなさらないで下さいまし。混み合っているのではぐれないためですの」

嗚呼、やっとチケットのもぎりにまで辿り着けましたの。それにしても佐天さんの言う通り満員御礼ですの。
このドーム内から溢れ出しそうなくらいですわ。今は亡きキング・オブ・ポップの講演並みの出入りですの。

結標「えーと私達はAブロックの12、13ね……あっ、白井さんごめんなさい!私ちょっとお手洗い!」

白井「むっ、仕方ありませんわね……早めに戻って来て下さいまし。開演まで時間が押しておりますのよ」

そんな大群衆の中ただ一人逆走して行く彼女。白い袋を持たないミニスカサンタ。実に不埒ですの。よ?

新入生C「………………」

今通り過ぎて行ったあの男、わたくしが取り逃がしたあのパームピストル男ですの!何故こんな所に!?

白井「……最早、是非もありませんわね」

結標さん誠に申し訳ございませんの。わたくし、やられっ放しは性に合いませんの!

〜5.5〜

結標「で、その金庫番とやらは確実にこのドーム内にいるの?」

海原「ええ、それは間違いないんですが問題が一つありまして」

結標「何?」

海原「外部のアーティストを招いての衆人環視(こうえん)の最中に、大捕り物や流血沙汰は少しばかり」

結標「上手くない手ね。だからこそゲートで止めずに泳がせているんでしょう?接触して来る下部組織も」

海原「ええ、一網打尽にします。ただし金庫番には傷を付けないで下さい。資金が回収出来なくなります」

結標「クリスマスデートだって言うのにとんだサービス残業ね。まあ私の撒いた種だから仕方無いけれど」

そして白井が泳がされている金庫番を尾行する中、結標と警備員に成りすました海原がセットの裏側へと移動する。
スタッフ以外通れない運搬用の地下通路。その上にて煌びやかなライブが行われるドームとは対照的にどこまでも

海原「……デート?」

結標「そう、デート」

どこまでもどこまでも、深く暗く冷たく閉ざされた闇の奥底。

結標「楽しい愉しいクリスマスデートよ」

かつて二人が駆け抜けて来た、懐かしい腐臭の漂う闇の中――

185 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:01:15.09 ID:iu7JAZgAO
〜6〜

新入生C「お、おい!約束通り俺の身の安全は保証してくれるんだろうな!?」

暗部A「そういう手筈になっている。そのためにはお前が記憶している百桁の」

新入生C「地下銀行の暗証番号だろう?わ、わかっているさ命は惜しいからな」

ごった返すコンサートの観客に紛れて帝都ドームへ姿を現した新入生(あんぶ)の顔色はひどく悪かった。
それもそうであろう。彼は去る12月13日の取引を白井らに妨害されて失敗し下部組織を追われている。
その顔色は十日あまりの潜伏期間により、この薄暗い地下道にあってさえもこの真冬の寒空よりも青白い。
だがその顔色よりも更に白いのが掛け合いに立ち会う暗部の男である。それは蒼白という意味合いではなく

暗部A「それはこちらもだよ。正確にはお前の生命ではなく記憶なのだが、いずれにせよ入れ物は同じだ」

男が身に着けた無機質ながらも艶めかしい『仮面』が燐光のように放つ白さだ。どうやらこの男は――
出迎え役と百桁にも及ぶ地下銀行の暗証番号を記憶した自分への護衛なのだろうと新入生は思い当たる


――だがしかし――


???「――風紀委員(ジャッジメント)ですの!!!!!!」

新入生C「お前、あの時のガキか!!?」

暗部A「………………」

〜6.5〜

白井「――風紀委員(ジャッジメント)ですの!!!!!!」

白井はコンサート会場の群集に上手く気配を潜り込ませ、あの雪の日の夜に取り逃がした犯罪者を……
パームピストルで白井を始末せんとした男をステージの骨組みセットを運び込む地下道まで尾行した。
その結果、白井は物陰に身を隠しながら怪しげな取引現場を押さえんとしたのである。だがしかし――

暗部A「なるほど、風紀委員だったのか」

白井「今すぐ手を頭の上で組んで床に這いつくばって下さいな。さもなくば乗せる頭が吹き飛びましてよ」

暗部A「――良かったよ、風紀委員でね」

白井「!?」

明滅する照明にぶち当たり転げ落ちる蛾、仄暗い地下道にて白井は暗部の男の背中を取り金属矢を構える。
その肩越しに酷く狼狽した様子の新入生の顔色が見て取れるが、それは白井の登場に対してなどではなく。

暗部A「――ドッグ・イート・ドッグ(同業者同士の共食い)は旨味が減るからな」

白井「……!!?」

振り返った暗部の男が纏う仮面に浮かぶ『Equ.DarkMatter』の文字が、死を宿した燐光を発したからだ。

186 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:01:59.98 ID:iu7JAZgAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 7 「 白 い 仮 面 、 赤 い 横 顔 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
187 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:02:30.93 ID:iu7JAZgAO
〜7〜

次の瞬間、『Equ.DarkMatter』と刻印された仮面より牙を剥く三対六枚の穢翼が白井目掛けて肉薄する!
それはまさに瞬く間に空気を切り裂き裂帛の勢いで殺到し、白井の眼球に映り込むほど早く速く逸く――

白井「ッ」

演算より早く判断する本能と、演算より速く反射する神経が白井を屈み込ませて初太刀をかいくぐらせた。
それによって白井が買ったばかりのボーラーハットが地下道に舞い、それが落ちるより早く天井を貫いた。
白井はそこで引く事をせず空間移動し、続く死の連弾をかわしながら地下道の天井を蹴るより飛び出し――

白井「(――致し方ありませんの!!)」

暗部A「!」

天井が崩れ落ち瓦礫が降り注ぐより早く、ワンピースの裾を捲り上げて十指に挟んだ金属矢を投擲し貫く。
金属矢が次々と仮面の男の肘関節及び膝関節を穿ち抜き、文字通り四肢を足止めする白井。だがしかし――

暗部A「片腹痛いぞ風紀委員!その程度で“歯車”は止められはせんのだよ!!!」

白井「(効いておりませんの!!?)」

仮面の男は金属矢を突き刺されたまま、数メートルもの距離を一瞬で詰める超加速にて白井に迫り来る。
それにさしものの白井も驚愕させられる。何故ならば金属矢が引き裂いたスーツから覗けたその四肢――
それは白井が好む近未来的でありながら歪な形で完成された、『サイボーグ』の手足そのものだったのだ

白井「――!!!」

仮面の男と激突する刹那に空間移動にてすれ違い、向けた背中へ更に迫る穢翼をバック転でかいくぐる!
だが尚も迫る穢翼の穂先が鼻先を掠め、それによってちょこんと乗せたリムレスの眼鏡が床面に落ち――
白井は横転して回避し、よけた先で地下通路の壁面に大穴が空き、白井はそこへ飛び込んで続く破壊音は

司会「カウント10秒前ー!!!!!!」

観客「うおおおおおおおー!!!!!!」

上層部のライブ会場のアナウンスと歓声に掻き消され、白井と仮面の男は地下道より運搬口へ縺れ込む。
ステージの足場作りと骨組みに使われ余った鉄骨が束ねて纏められた、機材置き場とも言うべき場所にて

白井「――!!!」

暗部A「死ね!!」

仮初めの淑女と、仮面の紳士のラストワルツがここに始まる。

188 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:04:57.01 ID:iu7JAZgAO
〜8〜

――――――“10”――――――

白井「ならば教えて差し上げますわ!その痛みを感じぬ身体(サイボーグ)に――」

白井が駆け出し、仮面の男が飛び出し、穢翼が羽撃き三度切り裂かんとするのを白井が空間移動しつつ

――――――“9”――――――

暗部A「チッ!」

轟ッッ!と唐竹割りに振り下ろす穢翼を白井が月面宙返りから回避し、背後の鉄骨が袈裟懸け斬りに!

――――――“8”――――――

白井「“敗北”の二文字を、ヘシ折る心の芯にまで刻んで差し上げますわー!!!」

中空でバラけた鋭利な鉄骨に次々触れながら空間移動させて白井は仮面の男の四肢を再び狙い撃って行く。
サイボーグの手足ならば簡単な事である。例え『生身の身体』なら命に関わるような攻撃であろうとも――

暗部A「!?」

――――――“7”――――――

袈裟懸け斬りにされ鋭く尖った鉄骨が、仮面の男の両手を肘から貫きコンクリートに磔にして身動きを奪う。
それに加えて白井は中空より着地し、ガランガランと跳ね回る鉄パイプを更に空間移動させ、その狙いを――

――――――“6”――――――

残る機械化された両足にまで、蝶の翅に留め針を刺し標本にするようにコンクリートに縫い付けて行く!
だが仮面の男は仮面から伸びる穢翼を鞭のように振るい、四肢の自由を奪う鉄パイプを切り裂かんと――

バチ、バチバチ!

――――――“5”――――――

暗部A「なっ!?」

白井「ご安心をば」

した矢先に気づく。仮面の男が文字通り足掻いている間に、白井が機材から引っ張り出して来たもの……
それはステージに電力を送る巨大かつ高出力のドラムロール。その紫電の火花迸る電気コードの先端部を

――――――“4”――――――

白井「――死にはしませんので、安心して失神して下さいまし」

暗部A「や、やめ」

――――――“3”――――――

パワーの落ちた原子崩しさえ防ぐ『Equ.DarkMatter』の仮面でさえ、機械化された剥き出しの部分に――

白井「ああ」

――――――“2”――――――

空間移動させられ、赤いドラムロールから放たれる高圧電力を前に防ぎ切れるか否かを判断する早く――

――――――“1”――――――

観客「うおおおおー!!?」

白井「……五月蝿くて聞こえませんの♪」

――――――“0”――――――

仮面の男の意識は閃光と共に闇に沈んだ。
189 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:05:26.22 ID:iu7JAZgAO
〜9〜

新入生C「た、助けて!命だけは!!!」

白井「???」

そして白井が仮面の男を下し、残るもう一人を捕獲せんと地下道へと舞い戻ったその時には既に――……

白井「これは――……」

警備員?「君、怪我はないか!?」

白井「え、ええわたくしは大丈夫ですの」

警備員?「そうか、無事で良かった……」

男は手足に『コルク抜き』を突き刺され、血を流しながらコンクリートに縫い付けられ咽び泣いている。
先程白井が狙い撃ったように血の流れぬサイボーグの身体でない男は、涙を溢れさせて命乞いしていた。
そしてそれを取り巻くような形でうつ伏せ寝の男に向かって銃口を突きつけるは『警備員』達であった。

白井「……わたくし風紀委員一七七支部の白井黒子と申しますの。これは一体全体どういう事ですの?」

警備員?「この男はテロリストだ。この帝都ドームに爆破予告を送った男でね。そこで我々が張り込ん」

暗部A「違う!お前らはあん、ぶっ!?」

警備員?「動くなと言っただろうこの馬鹿者めが!協力に感謝する。ここは我々に任せてくれないか?」

白井「ええ、それではお願いいたしますわ。ああ、それから向こうにももう一人転がっておりますので」

白井はその警備員達の徽章が『本物』である事を確認すると、銃底で殴りつけられ気を失った男から目を切る。
代わって風穴の空いた壁面の彼方にて、スポンジを頭に乗せ忘れたまま電気椅子に座らされた死刑囚が如く――
こんがりと焼き上がっているものの、一命は取り留められた『仮面を引き剥がされた男』をピシッと指差して。

警備員?「……了解した。今も目下極秘捜査中なのだ。この件については他言無用を願いたいのだが――」

白井「……外部からのアーティストを招いての中での爆弾騒ぎなど、あまり大っぴらには出来ませんわね」

警備員?「そういう事だ。警備員(こちら)で内々の内に処理させてもらたいのだ。理解が早くて助かる」

そして『警備員』らが風穴に突入して行く傍ら、白井はハットと伊達眼鏡を拾い上げつつ擦れ違って行く。


そこで――


チャラ男『おお!そっちの彼女も可愛うぃ〜ねー!』

白井「……まさか」

地下道を後にしようとした白井が先程の妙に爽やかな声の『警備員』を探そうとした時には、既にその姿は見当たらなかった。
190 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:07:24.66 ID:iu7JAZgAO
〜10〜

結標「遅かったじゃない白井さん。もうオープニングナンバー終わっちゃったわよ」

白井「トイレが混み合っていてなかなか進めませんでしたの。口惜しい限りですが」

結標「そう」

白井が地下道から抜け出し、後事を警備員に託してライブ会場に舞い戻るなり結標は呆れ顔で出迎えた。
真紅のコートの腰元に手を当て、やや斜に構えたように小首を傾げて白井に向けて来るその眼差しは――

白井「………………」

結標「……何かしら?私の顔に見蕩れられても困るのだけれど」

露悪的に細められ、挑発的な光を宿した涼しげな双眸。それは白井が知るいつも通りの『結標淡希』だ。
その佇まいに、白井は秘かに回収し小型化された『Equ.DarkMatter』の仮面を隠す胸を締め付けられる。
薄暗い会場の目映いばかりの照明と、地鳴りのような歓声のただ中にあって、白井はステージではなく。

白井「……ありがとう、ございましたの」

結標「何の事かしら?それよりもほら!Red-reduction division-始まるわよ!嗚呼、まさかこれが生で聞けるだなんて!!」

白井「え、えと、これすごいんですの?」

結標「だから貴女は不出来だと言うのよ!いい!?これは初代ボーカルnaoの持ち歌で、今歌ってるのは二代目なのよ!!!」

白井「えっ、あっ、いやわたくしは……」

結標「脱退した1期ボーカルの持ち歌を、2期ボーカルが歌うのよ!?こんな素晴らしい掟破り(サプライズ)を貴女は(ry」

白井「(だってわたくしfripsideに一期や二期があった事さえ初耳なんですもの)」

歌い上げるアーティストでもなく、ただ結標だけを見つめていたのだ。
たった今も、いつの間にか手にしていた団扇を振ってはしゃぐ結標を。
本当にファンなのだろう。その横顔から『いつもの』表情は窺えない。

白井「(本当に貴女というお方は……)」

結標「キャー!このイントロmemory of snowじゃない!私この曲が一番好きなの!」

白井「……つかぬ事をお聞きしますが、一番嫌いなナンバーは」

結標「only my railgunよ。何て言うかもう曲名からして訳もなくイラッとするの」

白井「(……どんだけレールガンが嫌いなんですの。貴女は)」

御坂との決闘騒ぎ以来、白井に向けられる仮面のように計算され尽くし完成され切った笑顔ではない――

191 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:08:06.52 ID:iu7JAZgAO
〜11〜

『果てしなく、雪は降り続けてた』

あの雪の日に貴女と再び巡り合って僅か十日余りで、今こうして共にライブを観て聖夜を過ごすなど……
わたくしは予想だにも想像だにも夢想だにもしませんでしたの。あまりに現実感が希薄過ぎて、まるで。

『君と僕を、離す壁のように』

まるで幻想(ゆめ)の中を一人歩きしているように、わたくしは浮き足立っているんですのよ結標さん。
あの日踏み締めた雪のように覚束ず、今日滑り出した氷のように頼り無い、ペンギンの雛の歩みが如く。

白井「……――結標さんは」

結標「何かしら?白井さん」

白井「この歌のどんなところが好きなんですの?」

結標「……一人きりの足跡を雪道に刻むところよ」

意地の悪い自己分析をするならば、今のわたくしは失恋(おねえさま)に腰を据えて向き合う事もせず……
ただただこの方と遊び(にげ)回っているだけですの。いいえ、お姉様に限らず初春からも佐天さんからも

結標「雪って可哀想だと思わない?足蹴にされる度に汚されて、お日様にドロドロに溶かされていって……」

白井「………………」

結標「草木も動物も人間も皆が歓迎する春のただ中、雪だけがその輪に加われずに消え去ってしまうのよ?」

自分からさえ、わたくしは逃げ回っておりますの。中途半端にありもしない希望にすがるようにしてまで。
一体いつからですの?初春の気遣いに、佐天さんの言葉に、お姉様の笑顔に、胸が痛むようになったのは。

白井「誰かが笑えば誰かが泣く。雪に限らず誰しもそうですわ」

結標「………………」

白井「……それでもわたくしは、それを見守る人間になり――」

結標「嘘、ね」

白井「!!!」

暖かい言葉に、温かい空気に、触れる度に心の雪が溶けて泥濘のように赤茶けた泥土を晒して行くんですの。
咲きもしない種を蒔いて、芽吹きもしない春を待って、結ぶ事もしない実(おもい)を埋葬しようとしても。
雪化粧で取り繕おうと、永久凍土を装おうとも、身近にある太陽のようなあの方々がそれを許しませんのよ。

結標「人間はそんなに強くもないし、貴女という人間がそんなに強いだなんて私にはとても思えないのよ」

わたくし(白井黒子)が白井黒子(わたくし)である事から。

結標「貴女、あの日泣いてたでしょう?」



――――この方を、除いては――――



192 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:10:51.35 ID:iu7JAZgAO
〜12〜

結標「貴女、あの日泣いてたでしょう?」

『――涙零れだすその瞬間に君の腕に抱かれた気がした――』

蛍火のように揺蕩うペンライト。静かに歌い上げられる別れの曲。その全てが白井の中で色を失って行く。
結標は紡ぐ言葉の糸を手繰り損ねた白井を一度だけ見やると、勝ち誇るでも憐れみ蔑むでもなく向き直る。
白井はそんな結標という鏡を通して十日余り前の出来事を想起する。あの灰雪舞い散る路地裏での再会を。

白井「………………」

白井はその後に続く二の句を継げなかった。返答に窮してしまったのである。あまりに的を射過ぎていて。
結標だけが知っている。初春も佐天も、そして御坂でさえ知らない白井のもう一つの側面を、結標だけが。

結標「――貴女、知り合いに対してほど大事な事を言わなかったり涙を見せたがらないタイプでしょう?」

皆が客席より立ち上がって次曲のイントロに歓声を上げる中、結標の手がひっそりと白井の手を握った。
女同士で手を繋ぐという、少しばかり耳目を引く違和感と行為を喧騒の中に紛れ込ませるようにしてだ。
白井は結標の手を振り解く事が、払いのける事が、跳ねつける事が出来ない。それが間違っていると――

白井「……ですわね。だからこそこうして貴女と顔を合わせていられるんですの。何故ならわたくし達は」

結標「“お友達”でも何でもない敵同士なんですもの。相手に対して気遣う意味も責任も負う必要がない」

違うと言いたいのに言葉に表せない。態度に現せない。白井が結標から逃げられないのは負い目からだ。
あの日自分を救い出した手、自分のせいで御坂と切り結んだ手、先程も自分に助け船を出してくれた手。

結標「……気楽な間柄で、気軽な関係でしょう?いざとなれば相手が悪いの一言で責任転嫁出来る身軽さ」

まるで砂糖で作られた蟻地獄のようだと白井は思わざるを得ない。もがくほど足掻くほど嵌り込んで行く。
御坂が上条が結ばれた事による傷心、らしくもないミスで負った傷身、塞がりかける度に剥がされる瘡蓋。
結標は誘う。弱くてもいい、強がらなくてもいい、醜くてもいい、綺麗じゃなくてもいいのだと繰り返す。

結標「――貴女が望んだ事よ。白井さん」

逆説的な意味で、ありのままの貴女で良いのだと囁きかける。

結標「――私達、共犯者(おともだち)でしょう?」

ラストナンバーは、耳に入って来なかった

193 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:11:31.99 ID:iu7JAZgAO
〜13〜

結標「――嗚呼、やっぱりライブは良いわね!この空気だけはDVDやブルーレイでも味わえないものね」

ライブは盛況の内に幕を下ろし、その熱狂の余熱とも言うべき残滓に酔い痴れた人波がごった返す中……
グッズを買い漁った結標と白井もまた帝都ドームから出、深々と降り注ぐ粉雪舞い散る夜空を仰ぎ見る。
その彼方には近々取り壊されるという旧電波塔、帝都タワーが赤いキャンドルのように皓々と輝いて――

白井「……まあ、わたくしもライブなるものは初めての経験でしたが」

結標「?」

白井「――中々良いものですわね。こういうクリスマスの過ごし方も」

結標「でしょう?」

桜の花片のようにチラチラと、鳥の羽毛のようにハラハラと夜の帳に舞い散る灰雪。彼方に輝くネオン達。
寒い寒いと身震いする結標を余所に白井は感じる。今日ここに来て良かったと思っている自分がいる事に。

これがもし常盤台女子寮にて過ごしたならば一晩中でも御坂から惚気話を聞かされ神経を磨耗させたろう。
さりとて初春や佐天と過ごしたとしても、やはり話題は御坂と上条のデートについて花咲かせたであろう。

聖なる夜にあって、御坂の前で笑顔を取り繕う事に耐えられる気がしなかった。
クリスマスにあって、初春達の前で強気を装う事に堪えられる気がしなかった。
そして何よりも、未だ立ち直らず立ち戻れず立ち枯れた心根に向き合う事が……

結標「ううっ、寒い寒い!白井さんマフラー半分ちょうだい?」

白井「ちょっと、何するんですの!!?」

結標「少しくらい良いじゃない女同士減るもんじゃあるまいし」

と、帝都ドームから繁華街へと下る人波を泳ぐ中で結標が白井のロングマフラーを勝手に解いたのである。
あまつさえ分け前を寄越せとばかりに自分の首元に巻いてしまったのだ。世に言うふたりマフラー状態で。

白井「くっ、ならばこちらからもお裾分けして差し上げますわ」

結標「ひゃあっ!?」

白井「あら、手はあったかいクセして寒がりなんですのねー?」

そこで白井がお返しとばかりに結標の赤コートのポケットに冷え切った手を突っ込んで悲鳴を上げさせる。
未だ煌びやかな繁華街のイルミネーションの中を、二人は雪ごと互いの臑を蹴飛ばし合いながら進み行く。

194 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:13:56.01 ID:iu7JAZgAO
〜14〜

結標「ううっ、何だかお腹も空いて来たし寒いし、どっか寄って食べていかない?」

白井「それは構いませんがどこに入るつもりですの?どこも満杯のようでしてよ?」

結標「去年までなら帝都タワーにある天空レストランが美味しくて穴場だったんだけど、今年はもう……」

白井「取り壊しが決定してからテナントが撤退してしまいましたの。あの帝国タワーが出来上がってから」

最終下校時間が過ぎた後も繁華街の人波は引きも切らず溢れ出し、二人はその中を一葉の小舟のように漂流していた。
辺りも大人向けのお店やらビジネスホテルがチラホラと見えるエリアに差し掛かりどうしたものかと考えあぐねて――

結標「……そうね。仕方無い、ちょっと待って。こんな時こそスマホの出番だわ!」

結標が凍てつき動きの鈍くなった風車の支柱に寄りかかりながら白井とお揃いのスマートフォンを手繰る。
どこか良い店はないかと検索している画面が、ふたりマフラーの関係上白井の目にも見て取る事が出来た。
ああでもないこうでもないとブツブツと文句を言う白井より一段高い目線にある結標の横顔が窺える。だが

白井「(あの夜と同じ、雪の日ですの)」

白井の眼差しはスマートフォンの画面ではなく結標の相貌に。思考は行く先ではなく十日前の記憶へと。
同じ場所に寄り添う二人、同じ一つのマフラーを分け合う互い、何れも見据える先は決して重ならない。
だが白井は問い掛けずにはいられなかった。それはあの日と同じような、雪降る夜がそうさせたのか――

白井「結標さん」

結標「何?最悪居酒屋でも我慢してよね。こんな寒空の下女二人でうろつくみっともなさよりまだマシよ」

白井「違いますの……」

二人の間に垂れ下がるマフラーをいじりながら白井が言い淀み、結標はスマートフォンを弄る手を止める。
その声音から何かしら察したのだろう、結標は白井と向かい合うようにして立ち怪訝そうな表情を浮かべて

白井「一つだけ、教えて下さいまし……」

結標「………………」

白井「貴女は何故

そこで白井の双眸は凍てついてしまった。

白井「

そこで白井の相貌は凍りついてしまった。

結標「!?」

そこで結標もまた弾かれたように振り返り、白井が肩越しに見据えたものに自分も背中越しに見開いた。



――――――そこには――――――



195 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:14:44.31 ID:iu7JAZgAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
上条「――は、入るぞ?“美琴”――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
196 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:15:49.46 ID:iu7JAZgAO
〜15〜

それは、二人が立ち尽くしていた繁華街のファッションホテルに入って行く上条と御坂の横顔であった。
結標は風車の支柱越しに、白井は更にその背中越しから全てを見てしまった。それは、白井がかつて見た

白井『だってお姉様が、今まで見た事のない表情(かお)をなさってたから……』

鉄橋の上にて、上条に手作りクッキーを手渡して別れた後に浮かべていたのとそっくりそのままの横顔。

白井「――――――………………」

そんな御坂を見た瞬間、白井は膝から雪面へと崩れ落ち、結標と繋がっていたロングマフラーが汚れて行く。
ドサッと雪だるまの首が落ちるような音、その傍らに佇むは赤いコートの結標、御坂と食蜂の再現のように。

御坂「?」

白井「………………」

上条「ど、どうした美琴?やっぱり今日は止めとくか……??」

白井「………………」

御坂「――ううん♪別に何でもないわよ」

白井「!!!!!!」

御坂「……入ろう?」

上条「お、おうよ!」

その白井が崩れ落ちた物音に御坂が一瞥をくれるも、その眼差しはすぐさま『人違い』だと打ち切られた。
それもそのはずである。ボーラーハットと伊達眼鏡と漆黒のワンピースに身を包んで『変装』していた……
知り合いに見咎められても遠目ならまず看破されぬほど『別人』になりすました白井だとわかる訳がない。


―――全ては、白井が望んだ結末(けっか)通りなのだ―――


白井「……――お、姉、さ、ま……――」

上条の右手を握り締めながらファッションホテルに入って行く御坂の横顔は正しく『女』の顔をしていた。
それに白井は打ちのめされた。崩れ落ちる雪に汚れるワンピースも、雪に濡れるロングマフラーも最早……

結標「……白井さん」

白井をあたためてなどくれない。代わって、結標の冷たい両腕だけが白井を優しく抱き締めたのである。
白井はもう一人の力で立ち上がる事が出来なかった。それどころか折れた心が二度と立ち直る事さえ……

結標「――私だけは、貴女の味方よ……」

そんな白井を胸に抱き寄せ、腕で抱き締める結標の表情は、口元は、正視に耐えないほど歪み切っていた。

結標「――私だけは貴女を裏切らないわ」

うなだれた白井には決して見えない角度で


結標「――貴女は何も悪くないのよ――」


雪が、全てを白く塗り潰して行く――

197 :>>1[saga]:2012/04/11(水) 21:16:44.67 ID:iu7JAZgAO
ACT.7しゅーりょー!

次回へ続く!
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/11(水) 21:18:32.12 ID:nJLdorsQ0


これって何百合なの?
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/12(木) 00:43:18.23 ID:M7mum7b9o

どのルート?
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2012/04/12(木) 01:17:22.96 ID:RJVZFygqo
黒百合っぽいなあ
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/12(木) 01:33:44.11 ID:sxP+60KUo
おつ

個人的には白百合希望
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/12(木) 11:31:37.37 ID:JkdnCGNDO
クリスマスの夜ならカップル的にホテル行きは十分有り得る事だし
結標さんがニアミス狙いで意図的にそのエリアに踏み留まったのか、たまたまだったのか…

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/12(木) 17:22:20.86 ID:69SO2rga0
204 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 13:36:05.35 ID:TVBMuDGAO
>>1です。ACT.8「白い×××、赤い××」は今夜投下させていただきますねー

(R18指定です。ご注意下さい)

PS
投下後にルート発表いたします。ではまた後ほどー
205 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:01:29.83 ID:TVBMuDGAO
〜0〜

上条「さ、先にシャワー浴びて来いよ」

御坂「う、うん。じゃあ、お先に……」

思ったよりこざっぱりした部屋、って言うのが私の第一印象だった。何だか普通のホテルみたいで――

御坂「(ちょ、ガラス透け透けじゃないのよこれー!!?)」

そんな私の認識はお風呂場を前にしてすぐさま改められた。ドアガラスが透けてて何か鏡張りになってる。
それに何か絵だけやたら可愛いくていやらしいピンク色のマットも置いてるし。って問題はそこじゃない。

御坂「(わ、私本当に今日ここで……)」

そう思うとこの寒空の下歩いて来たって言うのに汗びっしょりになってしまった。本当にどうしよう……
覚悟はしてた、準備もしてた。なのに今更震えが来る、怯えが来る、恐れが来る。そしてこのドキドキ。

御坂「(……あいつと、結ばれて……)」

洗面台の前で衣服を脱ぎながら思う。あいつから見てもこんな風に見えるのか。どっか変じゃないかな?
あいつと出会って早半年近く、付き合ってからひと月足らず、あいつは高一私は中二、これって早いの?
誰にも聞けなかったし誰にも言えなかった。佐天さんは面白がるし初春さんは恥ずかしがるし婚后さんは

婚后『こ、婚前交渉などふしだらですわよ御坂さん!!!』

貞操観念強いだろうし。かと言って流石に黒子には聞けないしなー、何て思いながら替えの下着チェック!
うう、長風呂したら待たせちゃうしのぼせちゃうし早上がりしたらそれはそれで何か女の子として嫌だし。
部屋入るなりさっきまで話してた内容飛んじゃって会話が続かないし、テレビつけたら雰囲気壊れそう……

食蜂『――貴女、生殺しを純愛だなんて勘違いしてなぁい?』

意を決してお風呂場に入ってシャワーを出しながら思う。あの女の言葉が引き金だったかも知れないと。

インデックス『短髪にだけ教えてあげるんだよ。私ね、イギリスに帰る事にしたんだよ』

御坂「……一番悪いのは、私の方ね――」

インデックス『短髪ととうまがデートするクリスマスイブの夜に。この意味わかるよね』

――あいつを、あのシスターのいなくなった部屋に帰さないためにはもうこうする以外に方法がなかった。

食蜂『Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)、Nevermore(二度とない)……』

二度とないあいつとの今を失いたくないがために、身体で繋ぎ止めようだなんて考える私が一番悪い子だ。
206 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:01:55.75 ID:TVBMuDGAO
〜1〜

結標「上がって。散らかってるけれど」

白井「……お邪魔、いたしますの――」

御坂達の逢瀬を目の当たりにし、立ち上がる事も出来ないほど崩れ落ちた白井を結標が連れ帰った場所。
それは小萌のボロアパートである。当初はホテルも考えたのだが、白井の焦燥ぶりから鑑みて却下した。
さりとて仲間を捕まえた白井を隠れ家に連れ込む訳にも暗部の仮眠室に雪崩れ込む訳にも行かなかった。

白井「……本当に、よろしいんですの?」

結標「こっちこそ本当にこんなところでいいの?って聞きたいくらいよ。でもまあ」

白井「………………」

結標「風紀委員なら警備員を通じて知っているでしょう?クリスマスは自殺率がとても高くなるくらい」

結標が部屋の電気をあちこち点けて尚暗い白井の表情。暖房器具を点けて尚白井の唇は酷く血色が悪い。
御坂と上条が結ばれた事により、長らく霜枯れ寸前であった白井という百合の花はつい先程蹂躙された。
流石に自殺するようなタイプには程遠いものの、御坂のいないであろう女子寮の部屋で過ごすには余りに

白井「死にたいなどとは申しませんが死に体ですの。ぶっちゃけて言うなれば死にそうなくらいですわよ」

結標「……とりあえず、落ち着くまでは貴女ここにいなさいな」

白井「そうさせて下さいまし。門限はとっくに過ぎてますし、今から寮監に折檻されたらばもうわたくし」

結標「余計な事言わなくていいし考えなくていいから。貴女はただ黙って私の側にいればそれでいいのよ」

余りに忍びなかったため、結標は白井を連れ帰ったのである。そして結標は帰り掛けに立ち寄った――
白井がコインロッカーに預けて来た制服の入ったバックを受け取りずぶ濡れのマフラーを鴨居に干す。
校則を遵守するため学舎の園を出るまでは制服姿で、トイレかどこかで私服に着替えたのであろうと。

白井「貴女の側に?」

結標「……貴女そんな酷い顔も見せられない友達“しか”いないんでしょう?だから私の側にいなさい」

白井「――男前ですわね。貴女がもし異性でしたらば今のは少しドキッとさせられてしまいそうですの」

結標「……馬鹿な事言ってないでこれでも着て待ってなさいな」

そう言って結標が白井に投げ渡したのは、洗濯し終えた小萌の着ぐるみパジャマ、うさぎタイプだった。

207 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:03:58.76 ID:TVBMuDGAO
〜2〜

白井「(……ここが結標さんのお部屋ですのね。アクア・アレゴリアの甘い香水の匂いがいたしますの)」

結標「嗚呼、ドミノピザさん?すいませんクリスマスディナーセットのL一つお願いします。場所は……」

もう立ち上がる気力さえ失い、足が言う事を聞かなくなるほど打ちのめされたわたくしを引きずり上げてくれた結標さん。
そんな彼女がスマートフォン片手にピザをデリバリーしている横顔を見つめながらわたくしは思いますの。どうして?と。

白井「(何故こんなボロアパートに住んでますの?そして何故わたくしを連れ帰ってくれたんですの?)」

目に焼き付き、心に刻み込まれ、脳に刷り込まれたお姉様の横顔から目を逸らすようにわたくしは――
結標さんの横顔ばかり眺めておりますの。もう何も考えずとも良いと、もう何も感じずとも良いと……

結標「白井さん、貴女ティラミスロールケーキとか食べれる?」

白井「わ、わたくしですの?え、ええ大丈夫ですのお構いなく」

結標「じゃあお構いなく注文するわね?あとティラミスロールケーキ1つとオリジナルアイスティー1つ」

白井「(……何だか不思議なお方……)」

――今もわたくしの肩を抱き締めながら、冷え切った身体をさするようにしてくれる残酷で優しい貴女。
止めて下さいまし。こんな時にそんなに優しくされたらわたくし泣いてしまいそうじゃありませんの……
わたくしからすれば羨ましい限りのサラサラストレートの赤髪が変にくすぐったくて、でも嫌じゃなくて

結標「じゃあお願いします……ふう、雪道で混み合ってて40分後になるって。参っちゃうわね本当に」

白井「………………」

結標「何かしら?宅配ピザでも我慢してね。ここは常盤台(おじょうさまがっこう)じゃないんだから」

白井「いえ、ありがとうございますの。わたくしのためにピザまで取っていただいて。あの、結標さん」

わたくしはその手にほんの少し指先を置いてみますの。拒まれたり驚かれたりされたら離れるつもりで。
ですが結標さんはキョトンとしたお顔で小首を傾げられましたが、気持ち悪がったりしませんでしたの。

白井「……貴女って、横顔が男らしい方でしたのね……」

結標「それ、私が女らしくないって言いたいのかしら?」

馬鹿ですわね貴女は。それはがさつだとか粗野だとかそういう話ではありませんの。


カッコいい、という意味合いでしてよ――


208 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:04:54.02 ID:TVBMuDGAO
〜3〜

「シズクー!」

「セイジー!」

白井「」

結標「(空気読みなさいよ金曜ロードショー!クリスマスにこんなもの流してるんじゃないわよ!!)」

40分後、届けられたクリスマス限定ピザを受け取りいざ晩餐と相成った段にて悲劇は起きてしまった。
何と、回したチャンネルが『耳を澄ませば』にぶち当たってしまったのである。これには結標も苦笑い。
だがクワトロプレステージのシーフードピザをモグモグと咥えながら白井は虚ろで渇いた笑みを零した。

白井「……ふふふ別に良いんですの。わたくしもかつてお姉様の借りた本をストーキングした事が(ry」

結標「突っ込まないわよ白井さん。それにしてもこれイケメンでかつ好きな相手だから許せるレベルね」

対する結標もやたらと長大なコタツ布団付き卓袱台に肘をつきソルト&ペッパーチキンサラダをつつく。
こんな時間に家にいてこんなアニメを見ているような人種にこんな甘酸っぱい恋愛が出来るだろうかと。
それもよりによってクリスマスイブに流すなど先程語った自殺率の底上げにしかなるまいと結標は思う。

白井「……ですが、今はこの聖司さんなるイケメンまで憎くくてたまりませんの。いえ殿方そのものが」

結標「(あんなシーンを見せつけられたら男嫌いにもなるでしょうね。私だったら泣き崩れてるかも)」

クリスマス・ローストチキンをまるで山賊の首領か海賊の船長のようにムシャムシャと食い千切る白井。
それを見ながら結標は思う。もし自分が失恋したら食事が喉を通らなくなるかも知れないが白井は違う。
どうやらやけ食いに走るだろうという結標の見立ては結果として間違っていなかった。だがもっとも――

結標「白井さん、ほっぺにタレついてる」スッ

白井「んっ!?」

結標「(やけ食い出来る内が華ね……)」ペロ

白井「………………」

結標「どうして睨むの?チキンなら二つとも貴女にあげるわよ」

白井「……女誑し」ボソッ

結標「?」

「セイジー!」

「シズクー!」

白井「嗚呼もう五月蝿えーですの!!!」

頬についたチキンのタレを結標が小指でヒョイとすくってペロリと舐め、それに対して白井がボヤいた。
しかしそんな白井の胸中まで推し量れるはずもないままに、結標はスマイルポテトをパクッと頬張った。


209 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:07:05.51 ID:TVBMuDGAO
〜4〜

結標「さて、アイスティーあっためて来ましょうか。白井さんはティラミスロールケーキ切り分けといて」

女二人では手に余るかと思われた四種類のピザとサイドメニューまで平らげた後、結標がキッチンに立つ。
オリジナルアイスティー1Lをカップに注ぎ、電子レンジにかけて暖め直す。それはこのやや心寂しい――

結標「ねえ、白井さん」

白井「はい何ですの?」

結標「貴女、今日はもうここに泊まっていったらどうかしら?」

白井「えっ……」

結標「――部屋にかえってメソメソ泣きたいなら別に良いけど」

クリスマスケーキも買えなかった二人のささやかで慎ましい晩餐の終わりを意味していた。
それは同時に白井の帰宅を意味する。そう、帰らねばならいのだ。御坂のいない部屋に……

白井「――――――んじゃありませんの」

結標「?」

白井「――結標さんが自分の側にいなさいとわたくしに仰有ったじゃありませんの」

だがコタツに入ったままティラミスロールケーキを切り分けていた白井は、背を向けたままそう答えた。
対する結標もまた、キッチンに立ち白井に背を向けたまま白井の言葉を受け止める。振り返りもせずに。

結標「……そうだったかも知れないわね」

白井「それに今から帰って寮監の仕置きを受けるなど泣きっ面に蜂、今夜くらい悪い子になりますのよ」

結標「悪い子にはサンタが来ないわよ?」

白井「――サンタならもうおりますわよ」

それは二人の心の距離そのものだったのかも知れない。同じ場に背中合わせに居ながら見据える先は逆。
テレビから流れる、結局通しで観てしまった『耳を澄ませば』のカントリーロードをバックにしながら。

白井「――ドSがミニスカを履いているようなサンタガールが」

結標「不出来なトナカイを寒空に放り出すほどドSじゃないわ」

カタン、とナイフが置かれる音とチン!とレンジがなる音が重なる。
ミシッと古めかしい床板が軋む音と、ギュッと鳴る衣擦れの音が――

結標「――メリークリスマス、白井さん」

――そうして結標はもう一度暖め直すまで好きなようにさせていた。振り払うでも抱き締めるでもなく。

白井「メリークリスマス、結標さん……」

窓辺の雪だけが、二人を見下ろしていた。

210 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:07:56.81 ID:TVBMuDGAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 8 「 白 い シ ー ツ 、 赤 い 血 痕 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
211 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:09:33.46 ID:TVBMuDGAO
〜5〜

白井「銭湯なんて生まれて初めてですの」

結標「私も小萌の家に来るまでそうだったわよ。今時風呂無しアパートだなんて信じられなかったもの」

ささやかな晩餐と慎ましい祝杯を上げた後、二人が向かった先はアパートからやや離れた銭湯であった。
白井は風紀委員の泊まり込み道具一式を取り揃えていたため衣類に不自由はないが、驚かされたのは――

結標「よっこらしょ、っと」ヌギヌギ

白井「た、タオルくらい巻いてから脱いで下さいまし!人に見られたらどうするつもりなんですの!?」

脱衣場にて白井がキョロキョロと周囲を見渡す傍らでサクサクと衣服を脱ぎ捨てて行く結標に対してだ。
如何に白井が女子校慣れしているとは言え、全くのアウェーで流石に気が引けるものがある。だがしかし

結標「嗚呼、慣れっこだったからついいつもの調子でやってしまったわ。でも私は不出来な貴女と違って」

白井「………………」

結標「――人に見られて恥ずかしいスタイルではないし、そもそも人に見られる事に慣れっこだから、よ」

白井「(よくも言ってくれやがりますの。コンチクショウが)」

はいはいと言うながらカバーに入る白井を余所にタオルを巻き下ろしていた髪をまとめながら結標が嗤う。
確かに白井(どうせい)の目から見てすら、結標のプロポーションはなかなかのものであった。それは――

白井「(色、艶、形、どれをとってもわたくしとの戦力差はレベル0とレベル4ほど開きがありますの)」

結標「白井さん?」

白井「(さっき見た限りでも、屈んでも座っても出なさそうなお腹とくびれたウエスト!そしてお尻!)」

結標「白井さんってば」

白井「(髪はサラサラストレート、手足は伸びやかながら引き締まり、そして高過ぎず低過ぎない身長)」

結標「ねえってばー」

白井「(クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)はい、何ですの結標さん??」

白井が結標の年齢に達せども高く聳える胸囲(やま)があり、自分の前には胸囲(かべ)が立ちはだかる。

結標「……最近の中学生ってみんなそんなエグい下着なの?」

白井「貴女こそなんなんですのあのビッチ丸出しの下着姿は」

結標「誰がビッチよ。レズの貴女に言われたくないっての!」

そんな中指を立てた白井と親指を下向けた結標の二人は――

212 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:11:50.06 ID:TVBMuDGAO
〜6〜

カポーン

結標「う〜〜あったまるーー……」

白井「おっさん臭い唸り声と溜め息ですわね」

結標「だってこうして肩までつかってると凝りまでほぐれて行くみたいなんですもの」

白井「はいはい御立派なお胸が元で肩凝りがお辛いんですわね富める者の悩みですの」

結標「何ふてくされてるの。私だって貴女くらいの年の頃は似たようなものだったわ」

白井「本当ですの!?」ザバッ

結標「――って言っても貴女が私くらいの歳の頃にこうなってるとは限らないけれど」

白井「」イラッ

聖夜にも関わらず常とさほど変わらぬ程度に賑わう女湯にて、二人は富士山の書き割りを背に湯に浸かる。
結標も白井も長い髪を湯船につからせぬようにまとめ上げてながら天井を仰ぎ見て詮無い戯れ言を交わす。
だが結標は鼻歌混じりでいつも通りの調子ではあるが白井は違った。どこに視線を向けたて良いのかが――
わからないのだ。それはともすれば結標の後れ毛のほつれさえないうなじや、深い鎖骨に目が向きそうで。

白井「(……わたくしは何を馬鹿な事を考えているんですの)」

並んで湯に浸かる結標の珠のような汗が流れ落ちる白く細い首筋であったり、目尻の下がった横顔であったり。
御坂の事を考えまい考えまいと思考を切り替えようと、別の何かに視線を向けようとする毎に結標にぶつかる。

白井「(あれだけ近かったお姉様が遠く離れ、これだけ遠かった結標さんを近くに感じるだなんて……)」

結標「……最初の頃はね」

白井「な、なんですの?」

結標「あまり銭湯って好きじゃなかった。細かい傷跡まで人目に晒されるみたいで」

そこに感じる御坂への罪悪感と自分への嫌悪感に白井が顔にパシャッと両手で湯を浴びせると――
結標がタイルに後頭部をもたせかけるようにして、チャプッと手のひらから溢れる湯が腕を伝う。

結標「――そこには貴女につけられた傷跡も含まれてるのよ」

白井「……それはお互い様ですわ。わたくしも同じですのよ」

だが二人の間に隔たる遺恨や分かつ因縁はこのお湯のように流す事など出来ないと言外に告げられた気がした。
それはかの地下街にある流水階段の噴水にて結標が濁した答えでもある。だが結標はそこで唇をつり上げて――

結標「そうね――」

言った。

213 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:12:39.32 ID:TVBMuDGAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「手垢のついた“絆”なんて繋がりより、お揃いの“傷”の結びつきの方がわかりやすくて良いわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
214 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:13:07.05 ID:TVBMuDGAO
〜7〜

結標の言葉に、白井の薄い胸が湯船に細波を立てるのではないかと錯覚してしまうほど大きく高鳴った。
傷、疵、キス、絆、紲、傷名(きずな)。コルク抜きのような言葉が、白井の罅割れた心の臓をえぐる。
お揃いの傷跡。そこに覚える歪な親近感(シンパシー)が、ペアリングより深い結び付きに思えたのだ。
涙を流す心が、血を流す身体が、揺らいで、ブレて、傾いで、震えて、戦慄いて行く。共鳴するように。

結標「――なんてね!お互いに恋人でも出来たなら、その時なんて言い訳するかを考える方がまだしも」

白井「――いりませんわ恋人だなんて!」

結標「……ごっ、ごめんなさい白井さん」

白井「ち、違いますの結標さん!わたくしそんなつもりでは」

白井が立てる内なる細波が、結標が爪立てる事で荒波へと変わる。
ザワザワと騒がしい女湯にあって白井の叫びは短いものだったが。

白井「……ごめんなさい。結標さん……」

常ならば氷山が如く揺るぎない白井の在り方は、今や風に波立つ水面に揺蕩う笹舟へと有り様を変える。
ズルズルと結標に引きずられてしまう。ヌルヌルと泥濘に足を取られてしまう。それを表すかのように。

白井「……お腹いっぱい食べさせてもらって、あったかいお風呂に入れさせてもらって、つい気が緩んでしまいましたの……」

結標「……良いのよ白井さん。言ったでしょう?私と貴女は良く似ているわ。だから私は貴女の痛みも悲しみもよくわかるの」

こてんと合わせる顔もなく顔を上げる事も出来ずに結標の細い肩に顔を埋める白井とてわかってはいる。

結標「裸の付き合いまでならこんな貴女の姿も知らないお友達にあるでしょうけど」

わかっていて抗えない。わかっていて逆らえない。わかっていて足掻けない。まるで『魔性の女』だと。

結標「殺し合いまでした私なら、そんな貴女の素顔だって受け止めてあげられるわ」

耳元で囁く声がティラミスロールケーキより甘く、この乳白色の湯よりもあたたかく白井を蝕んで行く。

結標「綺麗な“白井黒子”でなくたって良いのよ。汚れているのは私も一緒だから」

傷ついた身体を支え、傷んだ心を慰め、温かい食事で飢えを満たし、温かい湯で情けを充たして行くのだ。


人を傷つけて生きて来た人間は、人の痛みをどう利用出来るかを生まれながらにして知っているのだから。

215 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:15:33.04 ID:TVBMuDGAO
〜8〜

小学生「お母さーんフルーツ牛乳買ってー!!」プルプル

保護者「こら!ちゃんと服を着なさいまったく」

結標「(うふふ、可愛らしいぞうさんね坊や)」ニヤニヤ

白井「風紀委員(ジャッジメント)ですの!!」ガッガッ

結標「何よ!ノータッチだからギリギリセーフよ!!」

白井「わたくしのシマ(管轄)ではノーカンですの!」

それから数十分後、湯船より上がり脱衣場にて髪の毛の水気をタオルで切っていた結標のにやけ顔を――
ローキックで蹴りつけるは白井である。それは保護者同伴の男子小学生を視姦する結標への制裁である。
だが白井が突っ込んだ職務質問レベルの結標のゲス顔より放送禁止レベルの瘴気を漂わせた表情の少女は

白井「(……何を考えておりますのわたくしは。あんな小さい男の子にまで憎悪を向けるようにして)」

結標「………………」

白井「(……あの男の子には何の罪もないのに、お姉様を奪った類人猿と同じ殿方かと思うだけでも)」

意味有り気な流し目を送って来る結標に気づかぬまま、白井は着替えながら激しい自責の念に駆られた。
無邪気な男子小学生の股間にあって邪気に飲まれかけている自分にないものを目の当たりにしてである。

結標「……クスッ」

自分が男性だったならば御坂は振り向いてくれただろうかと言う禁治産的な思考が脳裏に渦巻き胸裡に逆巻く。
別段白井は男性になりたい訳でも何でもない。仮に男性に生まれついたとしても御坂は振り向いてはくれない。
だが脳裏に過ぎるは、御坂に『女』の表情をさせ、初夜を迎えているであろう上条と『男』全体の憎悪である。

結標「白井さん?」

白井「……はい」

結標「私があげたチョーカー、今日確かつけて来てたわね?」

白井「ええ、それはそうですがそれがどうかいたしまして?」

結標「――私の手で、貴女に付けさせてくれないかしら……」

白井「………………」

結標「――いいわね」

白井「――はい……」

着替え終わりつつあった白井に『いい?』ではなく結標『いいわね』と言い切る形でチョーカーを巻く。
その気になれば折れそうなほど細い首に、喉元に鋒を突きつけようなシルバーの逆十字架付きのそれを。

白井「んっ……!」

結標「可愛いわよ」


――――神に背きし逆十字架による洗礼を授けるように――――


216 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:15:59.80 ID:TVBMuDGAO
〜9〜

結標「お風呂上がりと言ったらお酒よね」

白井「わたくし達未成年ですのよ!!?」

結標「ちょっとだけちょっとだけ。クリスマスくらい固い事は言いっこなしよ風紀委員(しらい)さん」

銭湯から引き上げ小萌のボロアパートに戻るなり、結標は明石家サンタにチャンネルを回しつつ――
家主秘蔵の白かびチーズ『ブリー』と、赤ワイン『バローロ』を引っ張り出しコタツの上に置いた。
それに白井が待ったをかけるも、結標も初犯ではないらしく慣れた手つきでグラスに注いで行った。

白井「本当に貴女という方は。まさかロハでわたくしの口を塞げるとでもお思いですの?」

結標「……話がわかるじゃない白井さん。じゃあこれは賄賂ではなく友情の証としてね?」

白井「……メリー!」

結標「クリスマス!」

そして二つのグラスが一つの音を立てて鳴り響くと、二人のささやかな酒宴が行われる事となった。
カマンベールより濃厚な味わいのチーズと、渋みさえ感じるほど力強い赤ワイン片手に二人は笑う。
これでまた共犯者ねと結標がせせら笑い、先に誘ったのは貴女ですのと白井が責任逃れしまた笑う。

白井「嗚呼、これはかなり回って来ますわねー……流石は赤ワインの王様ですの!うへへへへへ!!!」

結標とてわかっている。常なる白井ならばこんな悪乗りなどまかり間違ってもしないであろうとも思う。
だが飲まずにはいられないのだろう。酔わずにはいられないのだろう。乱れずにはいられないのだろう。
継粉結びの思考から逃避し、雁字搦めの感情を鈍麻させ、自縄自縛の軛(くびき)から開放されたいと。

白井「嗚呼、おこたが暑いんですの。身体が熱いんですのよ〜」

結標「あーあ、こんなに空けてこんなに酔っ払っちゃってもう」

白井「今夜は無礼講ですの〜ほら結標さんも飲んで飲んで〜!」

いつの間にか対面から真横に寄り添って来た白井を見つめながら結標は思う。やはり自分達は似ていると。
法の番人(ふうきいいん)、闇の住人(あんぶ)という隔たりこそあるものの、本質的には相似形を描く。

それは何かを傷つける力が『自分』に向かう白井か、『他人』に向かう結標かの違いしかありはしない。

だからこそ

白井「嗚呼……」

その一言を

白井「もう……」

結標は待っていた。
217 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:16:57.19 ID:TVBMuDGAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「――もう、なにもかもめちゃくちゃにこわれてしまえばいいんですの――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
218 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:20:09.27 ID:TVBMuDGAO
〜10〜

次の瞬間、ブリーチーズの油分を受けて艶めかしく輝く白井の唇にバローロの赤ワインに濡れた結標の唇が重なった。

白井「!!?」

結標「――だから貴女は不出来だと言うのよ」

それにより酩酊の最中にあって泣き濡れた白井の双眸がカッと見開かれ、酒精に溺れた相貌がカッと火照る。
されどそれを見下ろす結標の表情はさながら丸く削り出されたロックアイスのように冷ややかなそれだった。

白井「いっ、いやっ……」

結標「貴女がいけないのよ!!そんな誘うみたいな無防備な表情(かお)で私を見て来る貴女が!!!」

そこで白井の潤んだ眼差しが閉ざされ顔を背けようとしたところを、結標がコタツ布団を下敷きに覆い被さって来る。
対する白井は矢で射抜かれたウサギのように身を震わせるばかりで後ずさる事さえ出来ない。足が言う事を聞かない。
アルコールに弱い質である事さえ今し方知ったような白井の酔いは全身に行き渡り、麻酔のように四肢を痺れさせる。

白井「やめて!やめてください結標さん!わたくしこんなのいやですの!」

結標「誰がやめるものですか!傷ついて弱ったウサギを見逃すカラスなんてどこにもいやしないわ!!」

白井「い、や!怖いですの!怖いですの!!怖いんですの!!!」

だが結標は両手首を掴んで白井の頭の上で繋ぎ止めると、再び唇を奪うようにして重ね、貪るように舌を絡める。
歯列をなぞり、おとがいを開かせ、逃げようとする舌先に歯を立て、これ以上拒むなら絡めた舌ごと噛み切ると。
白井は苦痛と紙一重の快感を感じつつ、舌腹に絡みつき吸い立てて来る柔らかな感触を怯えながらも受け入れる。

白井「んむっ……んんっ、ん、はあ……」

結標「は、んっ、んっ、んん、ううん!」

結標の手が胸元に伸び、白井の腕が結標の背に回る。だがそれは受け入れたという意味ではなく――
ただ結標の身体にしがみついて耐え忍び、縋りついているだけだ。白井はもう逃げる事が出来ない。

白井「痛くしないで!痛くしないで!!」

結標「………………」

白井「お願い、ですの……」

結標「っ」

白井「いやあ!!」

引き裂かれたブラウスから、ボタンが弾け飛んで音高く落ちて墜ちて堕ちて行く。

219 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:20:53.81 ID:TVBMuDGAO
〜11〜

結標「……お風呂場でも見たけど、ぺったんこで貧相な胸だこと。あんなブラジャーつけてるクセして随分可愛らしいわね?」

白井「うっ、うっ……いやあ……いやあ」

結標「――嫌だったら抵抗しなさいよ!」

白井「あうっ!」

肌蹴られ、力任せに引き上げられたブラジャーが擦れて赤くなった部分に舌を這わせられ、爪を立てるように鷲掴みにされる。
乳首に触れた事ではなく、無理矢理手指の形に合わせて歪ませられる事に対して精神的に跳ね上がる感度が苦痛を塗り潰した。
立てるだけでばたつかせる事すら出来ない両足の間に割り入れられた結標の膝頭が、捲れ上がったスカートに押し入って来る。

結標「ねえ、女の子ってレイプされる時自衛本能で濡れるなんて言う眉唾話があるけど本当かしらねえ?」

白井「ひぐっ、ひっく、いやですの……」

結標「ほら、貴女の身体で実験させてよ。証明してみせてよ。散々御坂美琴でオナニーしてたんでしょ?」

白井「あっ!あふっ、んっ、ぁぁ、やっぁっぁっあっああん!」

形良い耳殻に甘く噛むように立てた歯から、熱っぽく、赤く、長く、そして卑しく伸ばされた舌が白井に這い回る。
浅い耳の溝をなぞり、小さな耳の穴を滑り、チョーカーの巻かれた首筋に透けて見える青く細い血管まで舐るよう。
その間にも手のひらは白井の脹ら脛の側面より太股の内側を逆撫でするように這い上り、ショーツへと行き当たる。
そこから黒鍵を押すような手つきで布地の上からさすり、白鍵を撫でるようにゆっくりと細かな動きで苛んで行く。
白井は自分の上げる声など聞きたくなかった。結標の呪詛に耳朶を犯される方がまだしもマシであった。しかし――

結標「ほら、御坂美琴だけだなんて言いながらこんなに濡らして。貴女、本当は誰だっていいんでしょ!?」

白井「んはっ、ああっ!ぉ、ねぇ!さ、ま、ぁぁぁぁぁあん!」

結標「優しくしてくれるなら誰だって良いんでしょう!?私でも、私じゃなくたっていいんでしょう?!」

白井「ちが、ぅ、ぁっん!あああっ、あっあっ、はぁん……!」

結標「何なら今から御坂美琴に電話して貴女のあられもない声を聞かせてあげましょうか?あはははは!」

白井「ぃやっ!いやぁっ!そ、れぇっだ、け、ああぁぁぁ!!」

哀願の声音は、懇願の言葉は、冷たい指先を飲み込む熱い泥濘から奏でられる内なる音と高い嬌声に――

220 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:23:28.99 ID:TVBMuDGAO
〜12〜

結標「犯罪者(わたし)の指でも濡らすクセして何が風紀委員(ジャッジメント)よ?笑わせてくれるわ」

白井「ああっ……はぁぁ……結標……さんっ……もう、やめて」

結標「ほら、そのお高く止まった澄まし顔上げなさいよ!写メに撮ってあげるわ!!笑いなさいよ!!!」

居間からベッドへと投げ出され、組み敷かれ後ろ手に回されサラシで縛り上げられ手首が痺れるほどに。
感覚がなくなるまでそうされた。もう何枚も写メールで撮影され、その度突きつけられ見せつけられる。
乳首に立てられた歯形とそこから湧き出して来る疼き、泣き声に枯れ鳴き声に涸れ啼き声に嗄れた喉首。

白井「……どうして、こんなひどいこと……するんですの……」

結標「………………」

白井「どうして!?」

その中で白井が涎の乾いた口元と涎の渇いた口唇を開いて泣き叫んだ。何故こんな無体を働くのかと。
だが結標はそんな白井があられもなくへたり込む足の間に膝をつき、ソッと白井の頬に這わせた手で。

パシッ

白井「っ」

結標「恨むなら御坂美琴を怨みなさいよ!私に石を投げつけて、今も男とお楽しみ中お姉様をねえ!!」

白井「――――――………………」

結標「どうして?ねえどうしてなの……」

白井を打ち据えながら結標は涙を零し、溢れさせ、流しながら血を吐くような声を絞り出してうなだれた。
その姿に白井は一瞬怒りも憎しみも見失ってしまった。細い肩を震わせ狭い背中を戦慄かせる泣き顔にだ。

結標「私はただ貴女を助けただけなのに、どうしてあんな風に石をぶつけられなくてはいけなかったの」

白井「………………」

結標「――最初に貴女を助けたのは私なのに!どうして!!どうしてあの女がさも当然みたいに!!!」

白井「結標、さん」

結標「保護者面して貴女の側にいるの!正義面して私を裁くの!!ねえ私何か間違ったことした!!?」

その悲痛な涙に、悲壮な表情に、悲嘆な思いに、白井は言葉を失った。言ってやれば良かったのである。
『最初に残骸を持ち出したのは貴女だ』と。『疑われるような立場に身を置いたのは貴女だ』と言えば。

結標「……だから貴女を壊してあげるのよ白井さん!私は悪くない!!私は何も悪くなんてない!!!」



――言えば、もう二度と結標を救えない――



結標「……傷物にしてあげるわ!!!」

221 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:24:08.65 ID:TVBMuDGAO
〜13〜

そこから先は、舐め合う事さえ出来ない傷のつけ合いであった。

結標「ほら!貴女みたいなレズってこうされるのが良いんでしょ!?何とか言いなさいよ懐中電灯突っ込むわよ?!」

白井「ああっ、んっ、んぅん!あふっ、ああっ、あっ、ひっ、いやぁぁ、む、す、じめ、さぁ、ぁぁん!い、っ!!」

結標「こんな乱暴されて濡らすようなレズでマゾな変態(あなた)を見たら御坂美琴は何て思うかしらね?“黒子”」

黒子「あふんっ、あぁん!な……まぇ、な、名前……ぁ!ぅぅうっ、呼ばないでっ、呼ばない下さいの、ぁあっ!!」

サラシはほどかれ、ブラウスは引き裂かれたまま投げ出され、グラスに残ったバローロがひっくり返る。
白い布地に血が染み込むように染まり、グチャグチャと粘着質な水音が雫を推して部屋に響き渡って――
窓辺に降り積もる雪華のような白井の肌に刻まれる徒花のようなキスマークが、鎖骨に花片のようにして

結標「名前呼ばれただけで締め付けて来るくせに良く言うわね!指が折れそうなくらいよ?“黒子”!!」

白井「あは、ぁぁあっ!ん、んあぅっ!ひっ、ひぐっ、おねえ……さ、ま、あ、ぁあぁ、ふあ、いぃの!」

結標「――“お姉様”だなんて呼ばないで!御坂美琴はもういないの!!私の事をちゃんと見てよ!!!」

長めの爪に、ふやけそうな中指に、指の股に、掌紋に伝う生温さに、結標が再び白井の胸に噛み付いた。
凝る先端を責め立ててなどやらず、固く尖らせた舌先で唾液をまぶして濡らし、吐息を吹いた唇で吸う。
それによって走る冷たさとすぐさまかぶさる熱さに白井が結標の頭を抱き、結標が歯を立て食んで行く。

白井「「あ、はぁぁぁっ、むす……!じ、め、さ、ぁぁあ!!あ、あっ、ぁぁぁ……あわ、き、淡希さぁん!」

結標「……――イッちゃいなさいよ!何本目の指で貴女が恥をさらすか見ものだわ!壊れちゃいなさいよ!!」

甘ったるい吐息が、鼻にかかった甘え声が、中指で慰撫し人差し指で愛撫する結標の内股を摺り合わせる。
下着が冷たいくらいビショビショに濡れているのに、その深奥に息づく本能が熱を感じるほど求めていた。

結標「――私と、私と一緒に壊れてしまえばいいのよ“黒子”!」

白井「あぁぁぁぁぁっ!あわ、あああああああぁぁぁぁぁっ!!」

たった今、自分の腕の中で手折られ踏みにじられた雪の華を。

222 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:26:14.74 ID:TVBMuDGAO
〜14〜

結標「ふっ、ふふっ……」

白井「ひっ、ひっく……」

結標「――ブザマね……」

全てが終わった後、結標は汗だくの額に張り付く前髪をかきあげ、虚無的な響きを漂わせた笑いを浮かべていた。
その対象は罠とも知らずに狩り場に飛び込み餌食となったウサギか、カラスどころかハゲタカ以下の自分自身か。

結標「――イブにお姉様を男に寝取られた上に、女にレイプされて傷物にされるだなんて一生ものの記念日(トラウマ)よね」

自分の腕の中で泣きじゃくる白井の背中を左手で慈しむように撫でながら、髪を右手で優しく梳いて行く。
だが白井はその手を払い除けられない。直ぐさま殺してやりたいほど手酷い裏切りを働いた結標に対して。

結標「――まさか私が貴女を好きだからレイプしたなんて、そんな少女漫画みたいなくだらないオチなんてないわよ白井さん」

白井「………………」

結標「……そのケがある貴女を身も心もズタズタに引き裂いてやるにはこうするのが一番だからよ。どう?私が憎いでしょう」

白井「………………」

結標「――何とか言いなさいよ!!!」

結標に対して、白井は反抗も反攻も反撃も反論も反駁もなさなかった。それが殊更に結標を苛立たせる。
引き裂かれたブラウスを引っ掛けただけの肩を白井を揺さぶり、頤に手指をかけて泣き顔を上向かせる。
冷めて行く狂気の火照りが、醒めて行くアルコールの後押しが、褪めて行くドス黒い情念が、全てが――

結標「私が憎いでしょう?殺してやりたいでしょう!?私が貴女なら貴女は私を殺したいはずよ!!?」

結標の手が、白井の掌にかかり自らの首筋に押し当てられる。白井に負けず劣らぬ細くて白い首筋へと。
締める事も落とす事も折る事縊る事も思いのままだ。体力を使い果たした今の結標ならばそれは容易い。
否、そんな事をせずとも空間移動で体内に金属矢の一つでもねじ込めばそれで決着(カタ)はつくのだ。

白井「うっ……」

そこで白井の恐怖に惑い苦痛に怯えて震える手指と戦慄く両腕が結標の首筋へとゆっくりと伸びて行く。
白井は泣いていた。結標も泣いていた。加害者と被害者の境目までも涙に暈けて滲む視界の中にあって。

結標『……私も、貴女なんて嫌いよ……』



――白井の双眸に、あの雪の日の結標の相貌が重なった――



223 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:27:11.25 ID:TVBMuDGAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――私(わたくし)を、孤独(ひとり)にしないで――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
224 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:28:19.88 ID:TVBMuDGAO
〜15〜

結標の首を縊り殺さんと伸びた白井の腕が、嬰児が縋るようにして回され弱々しく巻き付けられて行く。
結標の唇がみるみるうちに歪んで行く。御坂の横顔に打ちのめされた白井を抱き寄せた時のように歪む。

結標「うっ、ぅぅぅく、くふ、うっ……」

それは『笑み』の形につり上がる上弦の月ではなく、『泣き』を食いしばる下弦の月の形を為していた。
そう、結標が正視に耐えないほど表情を歪ませていたのは白井を抱いた事ではなく、御坂への嫉妬心だ。
白井を助けたのにも関わらず自分に石をぶつけ、横顔一つで白井の心を折る御坂という存在に対しての。

結標「――私は、私はこういうやり方しか知らないのよ!!!」

白井「……いいん、ですのよ、淡希さん」

いつしか目に耳にも入らなかったテレビから流れて来る『戦場のメリークリスマス』に混じる結標の嗚咽。
腕を回してしがみついて来る白井を檻に囲おうとするように結標が抱き返す。白井が鼻先をこすりつける。
結標への憎悪と嫌悪と好悪に震える指先を恐る恐る伸ばす。触れれば血を流す荊荊の薔薇に触れるように。

白井「もう、いいんですのよ、結標さん……うぅっ、あんん!」

一羽の白いウサギが、一羽の黒いカラスに寄り添うように、白井は乾く事無く泣き濡れる結標に頬寄せる。
だが結標はそんな白い背中に赤い爪痕を刻みつけて行く。白井もまた声と涙と痛みを押し殺して耐え忍ぶ。
素手で砕け散った硝子の破片を一つずつ拾い上げるように苦痛と流血を伴う行為に、白井は下唇を噛んで。

白井「……泣きたいくらい、痛いですの」

結標「………………」

白井「でも、貴女にならば全てを預けられる気がしますの……」

微笑みかけたのだ。必死に歯を食いしばり、真一文字に結ばれていた口元を震わせながら口づけて行って。

白井「……もう一つくらい貴女からつけられた傷が増えたって」

結標「……――っっ!!」

再び押し倒され、手折られ、散らされ、踏みにじられ、白井は赤いシミのついた白いシーツを握り締めて耐える。
許しを乞う声音も、赦しを請う言葉もなく、揺るしを恋うように、白井は何度となく結標の手で凌辱され続けた。
白い首元に巻かれた逆十字架の黒いチョーカーが、赤く擦れた細い手首が、まるで奴隷のようだと白井は思った。



いつしか雪が雨へと変わった、夜更け過ぎの空を結標の腕の中から見上げながら――



225 :>>1[saga]:2012/04/14(土) 22:30:09.00 ID:TVBMuDGAO
ACT.8おわりー

そして


黒百合(ぐう畜あわきん)

鬼百合(おにちくあわきん)←

白百合(ちくまきあわきん)

鬼百合ルート確定
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/14(土) 22:31:13.23 ID:ooYG1w1P0

まさかの鬼だった
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/15(日) 00:48:56.78 ID:2dEcdcZuo

鬼は予想外
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/15(日) 01:04:38.49 ID:KryoGVU2o
8を読んでてなぜかミスチルの掌が脳内再生された
てか良いね、面白い
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/15(日) 09:26:55.30 ID:chwK0PWS0
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/15(日) 15:50:10.11 ID:q4/NIeKDO
乙乙
ひゃっほい鬼だー
231 :>>12012/04/18(水) 17:52:48.69 ID:YAhfA5YAO
お、復活してますね。ACT.9&あわくろメリー苦しみます編ラストは今夜投下しますー

>>228
聞いて見て雰囲気良かったのでちょっとイメージ膨らませられました。ありがとうございますー
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/04/18(水) 18:09:48.19 ID:iN2lRCRAO
ヒャハ! 全裸待機だぁ!!
233 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:00:01.05 ID:YAhfA5YAO
〜0〜

上条「本当に送って行かなくて良いのか?」

御坂「平気平気!って言うか朝帰りすんのに男の子と一緒じゃ色々マズいでしょ?」

薄墨を流したかのような朝曇りの空の下、少年少女はファッションホテルをチェックアウトし外に出る。
未だ目覚めきらぬ繁華街の歩行者天国、白墨を削り落としたかのような名残雪、まばらに降り注ぐ氷雨。
その中にあって二人は手を繋ぎながら、横断歩道よりそれぞれの家路へと向かう分かれ道に差し掛かる。
上条はインデックスの『いなくなった』男子寮、御坂は白井の『いない』女子寮へと歩みを進めて行く。

上条「それもそうだよな。無断外泊ってだけでもマズいってのに、こんなところ入ったのがバレたら……」

御坂「まあお嬢様学校に限らずどこもそんなもんだって。あーあ、こういう時本当に常盤台って面倒臭い」

コンクリートジャングルに横たわるゼブラを踏み締め、けぶる水煙と白い吐息が混ざり合う前に溶け行く。
時折横切って行く車が跳ね上げる水飛沫を、御坂を内側に置いて歩道の外側を歩み行く上条がカバーする。
二人で入るには些かこぢんまりとした折り畳み傘にあって、御坂はそんな些細な事にさえ口元を綻ばせる。
だがそれも三叉路に差し掛かったところまでだ。ここから先は各々が所属する学生寮へ戻らねばならない。

上条「じゃあここでお別れだな。美琴、お前もゆっくり休めよ」

御坂「へ、変な事言わないでよね!ね、ねえ、あ、あんた、さ」

上条「?」

御坂「……――これからも、私の事ずっと好きでいてくれる?」

三叉路の道路標識を前に、御坂は折り畳み傘を持つ左手とは逆の右手で上条の袖口を引っ張りながら言う。
それに対し上条は肩を竦めて呆れたように笑い当たり前だろと左手で御坂の頭を撫でながら鷹揚に頷いた。
それは端から見ればこの雨晒しの雪のように名残を惜しむ少女のいじらしさに見えただろう。しかし御坂は

御坂「約束だからね?どんな事があっても一緒だって、どんなに離れてても二人だって、約束してよね!」

上条「お、おい美琴?」

御坂「――……じゃあ私もう行くから!その傘貸して上げるからちゃんと次のデートで返してよねー!!」

いつも通りの笑顔で、いつも通りの手振りで、上条に折り畳み傘を預け雨空の下、雪上を駆け抜けて行く。


―――涙雨を振り切るように、上条へ振り返らぬよう―――


234 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:00:30.74 ID:YAhfA5YAO
〜1〜

――――時は遡る――――

白井「……ごほっ、ごほっ」

一日の中で最も暗いとされる夜明け前、白井は剥き出しの背中に覚えた肌寒さに咳込みつつ身体を起こす。

白井「………………」

最初に覚えたのは見知らぬ天井と見慣れぬ木目と、裸同然の姿で眠り込んでしまった事による悪寒と微熱。
更には痛む下腹部と傷む下半身、乳房に刻まれたキスマーク、脇腹に刻まれた歯形、背中に刻まれた爪痕。
縛り上げられ痣のようになった手首、ひっぱたかれて腫れた頬、擦り切れたように赤くなった首筋。そして

白井「……結標さん?」

泣き過ぎて充血した目で探し、啼き過ぎて嗄れた声で呼ぶは、蛻の殻となった布団に残された人肌の主。
結標淡希。白井を夜更けから夜明けに至るまで慰み者にし、傷物にした憎むべき相手が傍らになかった。
白井が何回抵抗してもその都度犯し、何度哀願してもその都度辱め続けた結標の姿がそこにない事を――

白井「……何だか、焦げ臭いがしますの」

安堵するより先に不安に思った後、白井の鼻腔をくすぐるというより突き刺すような焦臭い匂いがした。


――――――それもそのはず――――――


結標「熱っ熱っ!熱ちゃ熱ちゃ熱ちゃ!」

白井「!?」

結標「ごほごほ、げほげほ、嗚呼、どうしようどうしよう!?」

白井が傷だらけの身体を筋肉痛に耐えながら寝床より起こすと、そこには台所に立って悪戦苦闘している――
結標の姿があった。引き過ぎた油と強すぎる火でフレンチトーストが炎上し黒い煙に咳き込んでオロオロと。
どうしようどうしようと狼狽え、ガスにさえ近づけず涙目になっている結標の横顔に、白井は立ち上がり――

白井「何をやってるんですの貴女は!?ごほっ、ごほっ(咳の原因はこれ!!?)」

結標「し、白井さん!?」

白井「何をテンパってるんですの!早く火の元を止めて窓を開けて下さいまし!!」

結標「だ、だって火がボーボー燃えてて油がバチバチしてて怖くて近づけないのよ」

白井「嗚呼もう、この家事無能力者!!」

その弱りきった姿に、白井は昨夜の出来事も忘れて結標を庇うように左腕でガードしながら元栓を閉める。
それによって気が抜けたのか、結標はへなへなと女の子座りでへたり込んでしまい、白井は窓を開けながら

白井「(――怒鳴るタイミングを逃してしまいましたの!!)」

降りしきる雨に、一日の始まりを予感した

235 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:03:02.85 ID:YAhfA5YAO
〜2〜

白井「……つまり、貴女は野菜炒めも満足に作れないお百姓さん泣かせの家事無能力者の分際で無謀にも」

結標「………………」

白井「“今日は何となく上手く出来そう”などと非科学的な霊感のみでフレンチトーストを作ろうとして」

結標「………………」

白井「あわやこのボロアパートに小火を出しかけ、今わたくし手ずからの朝食を振る舞われているという」

結標「悪かったわね料理下手で。ええそうよ美味しいわよ貴女のこんがりキツネ色のフレンチトースト!」

小火騒ぎを消し止めた後、結標は白井に台所から追い出され卓袱台にてフレンチトーストを頬張っていた。
不満たらたらのジト目で不貞腐れながらも、眼差しの向かう先は台所に立つ白井の後ろ姿。それは世に言う

結標「……何よ、その裸エプロン姿は?」

白井「“誰かさん”がわたくしのブラウスをダメにしやがりやがったせいでこうするより他ありませんの」

剥き出しの肩と背中に幾筋もの爪痕も痛々しい。スカートとブラジャーのみの背中にエプロン姿だった。
それに対して結標は何も言い返せない。だが白井はぶっきらぼうに帰る時はブレザーを羽織れば良いと。

白井「……とってもとっても痛かったんですのよこのクズ野郎。こうして貴女の顔を見ているだけで――」

結標「………………」

白井「わたくし、生まれて初めて殺人者の気持ちがわかりましたの。貴女ならば喜んで殺せそうなくらい」

ぷいと顔を背け、二枚目のフレンチトーストを乗せた皿をダン!と叩きつけるようにして白井が席に着く。
だが結標も頭を下げる事なく声を発する事なく黙々と雨音をBGMにトーストにかじりついて行く。しかし

結標「――そう言う強がりは手の震えを隠しながら言いなさい」

白井「っ」

結標は見逃さない。白井の怯え惑う手指の震えと揺れ動く眼差しを。涙ぐましいまでに張り続ける虚勢を。
白井は思わずフレンチトーストごと受け皿を投げつけ、なりふり構わず面罵してやりたい衝動に駆られた。

結標「……美味しいわ。貴女の焼いてくれたフレンチトースト」

だが出来なかった。結標を殺してやりたいほど憎んでいるというのに、理性を上回る感情が本能に屈する。

白井「ごほっ……」

痛めつけられる度に声を上げ、首を反らし、達して果て、あられもない姿をさらけ出してしまった相手に。

236 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:03:38.45 ID:YAhfA5YAO
〜3〜

白井「……では、お邪魔いたしましたの」

結標「ええ、また遊びにいらっしゃいな」

白井「――巫山戯んじゃありませんの!」

朝食後、いそいそと荷物を取り纏めて部屋を出ようとする背後よりかけられた声音に対し白井は激昂した。
朝曇りの空より凍えそうな氷雨降りしきる玄関先にて、白井は見送りに来た結標へ振り返って睨みつける。
今も肌寒さ以外の要素に四肢震わせる白井に対し、何一つ悪びれた風もない結標が腹立たしく感じられて。

白井「自分が何をしたかわかってるんですの!?わたくしに何をしたか本当にわかってるんですの!!?」

結標「ええ。貴女がどんな声を上げてイッただとか、どんな顔して私にキスをねだって来たかまで全てね」

白井「――!!!」

思わずカッとなって振り上げた手を、結標はかわそうとも防ごうともせずにただ静かに見やっていた。
それによって白井の手は空を切る前に彷徨い、ついぞ振り下ろす事がどうしても出来ぬまま終わった。
結標が憎い。しかしそれと同じだけ自分が恨めしい。最悪の相手の手でもたらされた最低の初体験に。

結標「……あんなにトロトロにしといてよく言うわね?随分と気持ち良そうな顔してたように見えたけど」

白井「――貴女なんて死んでしまえば良いんですの!!貴女の顔なんて二度と見たくありませんの!!!」

白井が覚えたのは結標に対してではなく自分に対する畏怖、苦痛に対してではなく快楽に対する恐怖だ。
今もこうして上がり框で結標と向かい合っていると恐ろしくてたまらない。怖くてたまらないのである。

結標「――いいえ、貴女は必ず私の許へ帰って来るわ。自分の足で、自分の意思で、必ず戻って来るわよ」

白井「――貴女なんて大嫌いですの!!」

そう吐き捨てるなり踵を返し、白井はボロアパートから雨降りの中常盤台中学女子寮を目指して直走る。
白井は怯えていた。あんな強姦まがいの遣り口でも、どこかでそれが行き過ぎた愛情の発露であると……
刻まれたキスマーク、歯形、爪痕を優しく撫で口づけて来た結標の恐ろしさに惹かれ始めている自分に。

白井「ごほっ……」

空間移動に必要な十一次元の演算式さえ組み立てられぬまま、混乱しきったかぶりを振って白井は走る。

汚されたとは思わなかった。

裏切られたとは想えなかった。

そんな自分が、白井は怖かった。

237 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:04:18.67 ID:YAhfA5YAO
〜4〜

白井「はあっ、はあっ」

駆け込むようにして女子寮の部屋に辿り着いた白井は、汗か涙か雨かさえもわからぬまま鍵を締める。
黒のワンピースと白の仮面が入ったバックを投げ出し、携帯電話とスマートフォンを放り出して行く。
幸か不幸か、御坂はまだ帰って来ておらず寮監に見咎められる事もなかった。その理由を考えるよりも

白井「うっ……」

先に漏れ出して来たのは嗚咽だった。込み上げて来たのは震撼だった。今更のように現実が追い付いて来る。
理性を犯された。精神を壊された。本能を狂わされた。至る所ににつけられた痕跡がそれを如実に指し示す。
それは御坂のいない空っぽの部屋ではなく、結標から離れた事によって齎された遅効性の毒が回ったように。

白井「……お風呂に、入らなければ――」

痛む爪痕が熱を持ち、思考のまとまらぬ頭が茹だる感覚を洗い流すべく、白井はブレザーを脱ぎ捨てて行く。
今必要な事は可能な限り痕跡を洗い流す事、今大切な事は可能な限り自分を立て直す事にあると知るが故に。

白井「ごほっ……」

引き裂かれたブラウスを脱ぐ寸暇さえ惜しむように白井は浴室へ入り、温まり切らぬままシャワーを捻る。
温水に変わる前の冷水であろうとこの際構わなかった。茹だる頭と火照る身体を鎮める事が出来たならば。

白井「うう、ううう、ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

そこで白井の理性を引き止めていた千丈の堤に蟻穴が空いた。胸に押し止めていた感情に風穴が空いた。
水滴に濡れた浴室の姿見に映り込む自分さえ許せなかった。白井は這い蹲りながらタイルを叩き続ける。
こんなはずではなかった、こんなつもりではなかったと堰を切る濁流のような悪感情に押し流されて――

白井「何で!どうしてなんですの!!わたくし、わたくしは、わたくしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

『白井黒子』という何度となく組み上げて来たカラーのジグソーパズルが無地のミルクパズルに取って代わる。
どこにどのパズルを合わせて良いかさえわからない。白井の『自分だけの現実』を組み直す事が出来ない。更に

御坂「……黒子!?」

白井「!!!!!!」



――――――時は巻き戻る――――――



238 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:06:29.37 ID:YAhfA5YAO
〜5〜

御坂「――あんた、その格好は何よ!?」

白井「――――――………………」

御坂「黒子!!!!!!」

あいつと別れた後、私は雨の中で散々泣いて帰って来てずぶ濡れになった身体を温めようと女子寮に戻った。
すると鍵を開けるなり浴室から黒子の泣き叫ぶ声が部屋中に響き渡ったのが耳に入って私は血の気が引いた。
最初は発狂したような絶叫に、次にボロボロに引き裂かれたブラウスのままシャワーを浴びる黒子の――……
水に濡れてお湯に透けた身体のあちこちに見てわかるくらい、数え切れないほどのキスマーク、歯形、爪痕。
何よこれ、何よこれ。何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ何よこれ!!?

御坂「どうしたのその格好は!?誰かに、何かされたの!!?」

白井「………………」

御坂「黒子!!!!!!」

有り得ない。考えたくない。風紀委員の黒子がまさかこんなって、出したくない結論が頭から離れない。
この子に恋人なんていなかったはず。ましてや、こんな乱暴なセックスを許すような子じゃ決してない。
黒子は確かに私の下着に悪戯したり盗撮しようとしたりするけど、最低限の貞操観念は持ち合わせてる。
こんなの絶対合意の上での事や相手じゃ決してない。言いたくないけど、考えたくないけど、黒子は――

白井「……さいの」

御坂「……黒子?」

きっと強姦されたんだ。乱暴されたんだ。レイプされたんだ。だからこんな格好であんな声で叫んだんだ。
私は聞きつけるなり押し入って開けっ放しにした浴室の扉の外にまで飛び散るシャワーの飛沫にも――……
構う事なく黒子の両肩に手を置いて目線を合わせる。すると首元に私の知らない真っ黒なチョーカーが見え

白井「……触らないで下さいの」

御坂「違う、違うよ!黒子!!」

私はそこから目を切って黒子を見つめ直しながら言う。でも黒子の目は前髪が水に濡れて被さって見えない。
でも違うよ黒子。あんたは汚れてなんてない。穢されてなんてない。怪我はあるけどそれだって癒えるはず。
だから黒子落ち着いて。泣いても良いから私の目を見て話して。大丈夫、大丈夫だから。私があんたを必ず。

白井「触らないで下さいの、“お姉様”」

あんたを必ず――……

239 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:07:22.03 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「――あの類人猿(サル)に抱かれた腕でわたくしに触んじゃねえですのォォォォォー!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
240 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:07:50.59 ID:YAhfA5YAO
〜6〜

御坂「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

白井「――ごめんあそばせ、“お姉様”」

悪魔憑きが如く狂気に煮え滾る双眸が、浴室に飛び込んで来た御坂の心臓をぶち抜くように突き刺さった。
一瞬、白井が何を言ったか理解出来なかった。刹那、それを言ったのが白井だと認識出来ないほどの衝撃。
思わず御坂が後ずさるほどの鬼気を湛えた底知れぬ暗黒面が、その暗い縁と昏い奈落を伺わせるに足りた。

白井「あらあら、愛しく恋しい殿方との逢瀬の朝帰りに、わたくしのような傷物に勿体無きお言葉の数々」

御坂「黒、子」

白井「わたくしを“黒子”と呼ぶんじゃねえですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!」

御坂の膝が折れ、腰が抜け、歯が鳴る。目の前のこの少女は白井黒子ではないのかと目と耳と正気を疑う。
聞くだけで呪われそうな雄叫び。白井は今明らかに精神に変調を来していると断じるに足る変わりようだ。
だが白井は濡れた前髪をかきあげると、そんな御坂の狼狽えぶりを冷ややかに、嘲るようにせせら笑った。

白井「わたくし見ましたのよ?昨夜、あの殿方とラブホテルに入って行くお姉様を。目が合いましたのに」

御坂「――――――」

白井「お姉様ったらちっとも気づいて下さらないんですもの。わたくし悲しくて哀しくてかなしくて――」

パシッ

白井「っ」

御坂「――あんた私を尾行してたの!?」

そこで御坂も聞き捨てならじと雨の音とシャワーの音の中にも乾いた音を立てて白井の頬を平手打ちした。
それは口にしてはならない言葉だった。白井は知らない。御坂が上条を伴ってホテルに入ったのは――……
愛情の発露以上に、上条に去り行くインデックスの影を追わせぬため、純潔を代償に捧げた時間稼ぎだと。
だが白井は今更傷が一つ増えようが、痛みが増そうがお構い無しだった。白井は完全に自暴自棄に陥って。

白井「たまたまですわ。今となってはそれさえも疑わしく思えますがもうそんな事どーだっていいですの」

愛しかったはずの御坂が一瞬なりとも憎くくなり、憎かったはずの結標が一夜とは言え愛しく思えた自分。

白井「……ただ一つだけ確かな事は――」


この瞬間、白井は結標(やみ)に堕ちた。

241 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:08:27.63 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「お姉様があの殿方と愛を交わされている間中、わたくしは一晩中レイプされ続けただけの事ですわ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
242 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:13:27.82 ID:YAhfA5YAO
〜7〜

御坂「――――――」

白井「お姉様があの殿方の×××を突っ込まれて喘いでいる間中、わたくしは何度も名前を呼びましたのよ、“お姉様”って」

御坂「……やめなさい」

白井「お姉様がいない時はこのお部屋で、いる時は学校のトイレでいっぱいいっぱい名前を呼びながらオナニーしましたのに」

御坂「やめなさい!!」

白井「わたくしってば背中が感じる質らしいのも今朝知りましたのよ?自分で慰めるだけでは手の届かない世界もある事など」

御坂「やめろって言ってんのがわかんないの黒子ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォー!!!」

掴みかかる御坂を、白井が突き飛ばした。白井とてわかっている。御坂は御坂の幸福を追い求めただけだ。
ただその幸福(はる)の中に、白井黒子という自分(ゆき)は入れなかった。たったそれだけの事だった。
だのに自分を犯した結標より、助けられるはずもないとわかっているのに助けてくれなかった御坂が憎い。
あんなに泣き叫んだのに、御坂を呼ぶ涙声が結標を求める嬌声に変わる前に助けて欲しかっただけなのに。



ただ、孤独になりたくなかっただけなのに



白井「……出て行きますわ。今はお姉様の顔も見たくありませんし、もう合わせる顔もございませんのよ」

御坂「待ちなさい黒子!!!今のあんたは自分を見失ってるだけなの!!目を覚ましてお願い黒子!!!」

白井「――昨夜の事が全部幻想(あくむ)だったなら目なんてとっくに覚めてますのよォォォォォ!!!」

そして白井は御坂の制止を振り切るようにして、見るも無残な着の身着のまま空間移動で姿を消し去った。

御坂「黒子!!!!!!」

御坂もすぐさま追い掛けんとする。あれが白井であるはずがないと、そう御坂が浴室から飛び出した所で。

ハナテ!ココロニキザンダユメヲ

御坂「……!!!」

鳴り響く、ある少年にのみ個別設定している携帯電話の着信音が鳴り響き、反射的に通話ボタンを押す。

上条『――美琴か!?』

御坂「ちょ、待っ……」

上条『――インデックスがいなくなった』

雨靄に曇る窓辺を叩く雨垂れの音と、受話器越しにも切羽詰まった上条の声が、御坂の足を止めさせた。

243 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:13:55.70 ID:YAhfA5YAO
〜8〜

白井「ごほっ……」

ボロボロの精神、クタクタの身体、ズブズブのブラウス。学舎の園を抜ける頃には白井の身心は限界に達していた。
今朝方、結標が出した小火騒ぎによって痛めたと思った喉から発する熱の正体を今更ながら白井は思い知らされる。
超過勤務、入院生活、例年にない厳冬、結標による凌辱、御坂への爆発、身心を摩耗させる要因全てが溢れ出して。

白井「もういやですの……」

雨降りの繁華街を横切り、濡れそぼるセブンスミストを尻目にバッファローの群れのような車道を突っ切る。
嘶きのように鳴らされるクラクションも耳に入らない、スクランブル交差点の信号機の指示も目に入らない。
茹だる頭、纏まらぬ思考、組み上がらぬ演算、火照る身体、震える四肢を引きずって白井はよすがを求める。

白井「ごほっ……」

いつまで経っても追って来ない御坂への大いなる安堵と微かなる落胆を覚えつつ、白井は身の振り方を考える。
常盤台中学には戻れない。風紀委員一七七支部にも行けない。初春や佐天達の下へ身を寄せる事さえ出来ない。
固法や婚后を頼る事など考えられない。何故ならば全員御坂と繋がっているからだ。まるで蜘蛛の糸のように。

白井「………………」

誰とでも繋がる蜘蛛の糸にも似た網目のような『絆』、地獄に垂らされた蜘蛛の糸にも似た救いたる『紲』。
だがそれは裏返せば粘着質を帯びて絡め取る蜘蛛の糸にも成り得る事を白井は氷雨にうたれながら思い知る。
誰の目にも明らかな、この無惨な体たらくをどうして同じ『風紀委員』たる初春や固法達に見せられようか。
『犯罪者』たる結標に身を委ね、身も心も凌辱されたなどと口が裂けても言えはしない。それは他の二人……

白井「嗚呼……」

貞操観念の固い婚后や仲間意識の強い佐天も同じだ。前者は白井を詰り、結標の下へ殴り込みに行くだろう。
後者は白井を裏切り者として責め、御坂を嗾けて結標の許へ乗り込むだろう。結果は火を見るより明らかだ。

白井「………………」

一時間ほど彷徨い続けた後、歩き疲れた白井は公園のブランコに腰を下ろした。
それは白井が初めて御坂と立ち話する上条を目の当たりした件の公園でもある。



そこで――



「ニャー」

白井「………………」

――1匹の三毛猫が、白井の足元に喉を鳴らして擦り寄って――

244 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:14:46.77 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
上条「――白井!お前何やってんだ!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
245 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:17:03.45 ID:YAhfA5YAO
〜9〜

白井「――貴方は」

上条「何なんだよそのボロボロの格好……つーか風邪引くぞ!?」

ブランコに腰掛けながら雨に打たれていた白井のもとへ姿を現すは、インデックスを探しに来た上条当麻。
ザクザクとスープを吸いすぎてふやけたリゾットのような地面を水溜まりごと踏み締めて白井に歩み寄る。
その声音には紛う事無き真摯な響きが伴われ、その立ち振る舞いはまず紳士と呼んで良いものではあった。

白井「何故、貴方がこんなところに――」

上条「インデックスを探しに……って今はんな事どうだっていいだろ!ちょっと待ってろ今美琴に電話し」

――――“この時”でさえなければ――――

バキッ!

上条「!!?」

畜生さっきの今で気まずいな、と上条が携帯電話を取り出し御坂に連絡を取ろうとしたその矢先に――
突き刺さったのだ。白井が空間移動で投擲した金属矢が、耳に当てようとした携帯電話を真っ二つに。

白井「………………」

上条「し、白井!?」

スフィンクス「ニャー!?」

打ち砕かれた携帯電話が泥土に落ち、罅割れたディスプレイにノイズが走り、その機能を停止させる。
突然の事に一種の思考停止状態に陥った上条と、一瞬のうちに毛を逆立てて逃げ出したスフィンクス。
一人と一匹の視線の先、雨降りの視界の中、定まらぬ視点を漂わせる白井がブランコから立ち上がる。

白井「――わたくしは何を何処から間違ってしまったんですの?」

何処からともなく氷雨を横薙がせる寒風が吹き荒んで行く中、白井が幽鬼が如く表情で虚ろに自問した。
物事を正数の1+1で積み重ねて来た白井にとって、負数の−×−で+に向かわせる受け入れ難い等式。

上条「しっかりしやがれ白井!お前どうしちまったんだよ!?」

そこでようやく危機感を覚え駆け出す上条にはわからない。白井に決定打を与えたのは他ならぬ自分だと。
御坂が上条との事を笑って話す度に、不満げに話す度に、誇らしげに話す度に、愛おしそうに話す度に――
擦り傷が増え、掠り傷が深まり、幾多の罅割れが走り、数多の亀裂が広がり、今この瞬間、致命傷を負った

白井「嗚呼、悪かったのは――」

本来テレポーターとは柏手一つで飛べなくなる、硝子細工のように繊細な存在である。それは白井もまた

白井「一番、悪かったのは――」

例外では、ない。
246 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:18:03.39 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「―――一番悪かったのは、わたくしでしたのね――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
247 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:18:32.33 ID:YAhfA5YAO
〜10〜

白井「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

次の瞬間、白井の周囲に降り注いでいた雨粒が転移するほどの暴走が引き起こされ渦巻き逆巻く嵐となる。
ブランコが、ゴミ箱が、自販機が、ベンチが、最大重量も射程距離も無視して白井を中心にして荒れ狂う。
ハインリッヒ・ハイネの『ローレライ』が如く、心の叫びを上げる人魚の魔歌(まがうた)に合わせて――

上条「白井ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

上条が『幻想殺し』の右手を伸ばして引きずり上げようとして、飛来して来たベンチに吹き飛ばされる。
白井の周囲だけ切り取られたように雨霰が消失し、齎される破壊の全てが自分に向かうように集束する。
『人を傷つける能力(チカラ)』が他者に向かうのが結標淡希なら、自身に向かうのが白井黒子だった。

白井「――もうイヤですの!もうイヤですのォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

幾何級数的に壊れて行く『自分だけの現実』にあって白井は思った。自分は何処で何を間違えてたのか。
結標に助け出された時、片意地を張らずに素直に、肩肘を張らずに率直に『ありがとう』と言えたなら。
結標はあんな風に壊れなかったかも知れない。泣きながら自分を抱くまでに狂わなかったかも知れない。
そうすればあの時、御坂と結標が白井を仲立ちにして言葉や視線や笑顔や友誼を結び得たかも知れない。
風紀委員でありながら犯罪者である結標と誼を結んだ事を初春に偽り、佐天を騙し、御坂に黙す罪悪感。
それ以前から先輩(みさか)の恋路を応援する後輩(しらい)と言うポジションを失いたくないが為――
白井は取り繕った笑顔(かめん)を被り、その下にある醜い嫉妬(すがお)から目を逸らし続けて来た。
自己欺瞞、自己嫌悪、自己暗示という幻想全てが、姫(みさか)を奪った王子(かみじょう)を前にして

???「――だから貴女は不出来だと言うのよ白井さん」

上条「!?」

???「ごめんなさいね上条君。ちょっと代わって頂戴」

嵐を呼ぶローレライの魔歌を歌い唄い唱い謡い詠い謳い上げる人魚(しらい)を前に現れるは――……

???「引き取りに来たわ」

もう一人の灰音(ハイネ)――

248 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:18:59.93 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――黒子(こわれもの)をね――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
249 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:19:30.89 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 9 「 白 い 雨 靄 、 赤 い 電 波 塔 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
250 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:21:35.29 ID:YAhfA5YAO
〜11〜

上条「結標さん!?」

結標「……――黒子」

暴走した空間移動の狂風の坩堝の中、姿を現した結標に上条は眦を決した。何故彼女がここにいるのかと。
しかし結標はもはや上条に目をくれるでなく、何かを静かに受け入れるような眼差しで白井へと歩み寄る。

結標「――本当に、貴女は私の望むがままに、汚れて堕ちてくれたわね?“黒子”」

上条「結標さん!近づいたらヤベえ!!」

ベンチの下敷きにされた上条が制止するより早く、飛来した硝子の破片が結標の胸元のサラシを――……
ザクッ!と首の薄皮一枚を巻き込んで切り裂き、更に赤いニットコートのファーが散らされ雨空に舞う。
されど結標は歩みを止めない。その左足に再び飛来した金属矢がズガッ!と突き刺さり顔を歪めれども。

結標「っ」

同じテレポーターであるが故に壁に埋め込まれる事こそないものの、現出した掃除ロボットに横殴りにされる。
側頭部から鮮血が流れ出し、頬を垂れて首筋まで伝うも結標に揺らぎはない。痛みも、傷も、まだ足りない。

結標「……私、あの女に嫉妬してた。最初に助けたのは私なのに、手柄を横取りされたみたいな気がして」

上条「結標さん!!」

砲弾のように放たれたコンクリートが鎖骨に罅が入りそうな勢いで激突し、思わず結標は膝をつかされる。
台風の目である白井まで残り数メートル。だが二人の一度は重なり、再び開いた心の距離を埋めるには――

結標「私と似ているのに美しくて、私と同じなのに汚れていない、もう一人の私とも言うべき貴女の事が」

足を伸ばす。まだ足りない。

結標「……――ねえ、知らなかったでしょう?私は初めから貴女をこんな風に壊すために近づいたのよ?」

腕を伸ばす。まだ足りない。

結標「貴女の無邪気な笑顔を!無防備な横顔を!!こんな風に残骸(がらくた)にするためだけに!!!」

抱き寄せる。まだ足りない。

結標「貴女が見ていた“結標淡希”なんて、最初から全部幻想(うそ)だったのよ“黒子”!!!!!!」

――――罪(きず)も、罰(いたみ)も、まだ足りない――――

251 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:22:27.37 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「――そんな事、最初から全部知っておりましたのよ――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
252 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:23:30.68 ID:YAhfA5YAO
〜12〜

結標「――――――………………」

轟ッッと運命の輪のように回り、時計の針のように廻り、ひしと抱き合う二人を舞わる空間移動の大嵐。
耳朶を震わせる風切りの音が吹き荒れる中、白井は両目一杯の涙を流し、泡となる人魚のように笑んだ。
そう、結標が白井に素顔で接したのは雪の日の別れ際、クリスマスライブ、そして白井を押し倒した時。

白井「わたくしと貴女は、鏡に映ったもう一人の自分のように良く似てますのよ…」

白井は最初から知っていた。あの『結標淡希』はこんなにも優しく笑う人間などではないと、本人以上に。
そして、結標が白井と御坂の中を引き裂かんとしていた事を知った昨夜のやり取りにて確信へと変わった。



――何故ならば、上条と御坂の仲が壊れてしまえば良いのにと、白井もまた同じ事を思ったからである。



白井「わたくしは貴女が思うより未熟(バカ)なんですのよ?」

それが同一でありながら白井と結標が全一ではない決定的な証左。白井は考えるに留め、結標は実行した。
白井と結標の唯一の差違、結標と白井の無二の差異は『人を傷つける能力』が自分に向くか他人に向くか。

白井「車椅子を押してくれた事、チョーカーを下さった事、一緒にクリスマスを過ごした事もみんな――」

まやかしの温もりだとしても、嘘の笑顔だとしても、偽りの優しさだとしても、白井は結標に身を委ねた。
生まれた心の隙間に入り込もうとする結標を、心の隙間を埋める『何か』にしたかったのだ。だからこそ。

白井「……幻想(うそ)だとわかっていても、わたくし都合の良い記憶(こと)しか覚えてられませんの」

――だからこそ白井は結標を受け入れた。アルコールに弱い質とは言え、演算が乱されるほど弱くはない。
その気になれば風紀委員で培った体力で、能力以外に寄る辺を持たない結標をはねのける事だって出来た。
白井が崩壊を迎えたのは、結標が白井を飲み込もうとしてその実、自分が結標を呑み込もうとした醜さ故。

白井「――嗚呼、でも、もうわたくし達」

自らの業の深さと、結標との劫の果てに、嵐が轟と吹き荒れた。

白井「おしまい、ですのね――……」

次の瞬間

結標「っ」

結標が

結標「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

吠えた。

253 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:26:00.19 ID:YAhfA5YAO
〜13〜

上条「……何だ、これ」

雨水を、雨滴を、雨靄を、雨霰を、雨雲を、雨風を、雨空をも分かつように白井が巻き起こす大嵐に――
『座標移動』の制御を意図的に放棄し、恣意的に暴走させた結標が巻き上げる大嵐が加わり荒れ狂った。
思わず上条が息を止め足を止め手を止めるほどに、嵐の中互いを抱き合う二人は双子のように似ていた。
姉妹が嵐の中引き離されまいとするように、『自分だけの現実』が『二人だけの世界』にとってかわる。

白井「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

結標「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

白井が飛ばす清掃ロボットを、結標が飛ばす自販機が潰す。白井が飛ばす金属矢を、結標のコルク抜きが砕く。
自壊の坩堝を生み出すのが白井ならば破壊の螺旋を描き出すは白井。相反しながら相剋する二人が重なり合う。
暴走を止める暴走、暴威を鎮める暴威、暴発を防ぐ暴発、心の臓を射抜く弓矢境には息の根を止める返し矢を。

上条「……!!!」

上条や御坂のように互いを包み込み慈しむような愛情には有り得ない、互いを傷つけ合い愛しむような恋情。
触れようとして傷つける、抱こうとして壊す、口づけようとして噛みつく、身を寄せ合うほど血を流す山嵐。
白井という光が近づくほど影を濃くする結標、結標というコインの裏側を分かてぬ白井というコインの表側。

白井「………………」

結標「――――――」

そして、ついに白井が先に力尽き結標の腕の中で崩れ落ちた。同時に精魂使い果たした結標の膝が折れた。
支えるでもなく、受け止めるでもなく、互いの肩にもたれるようにして少女は身を預け、委ね、横たえる。
過ぎ去りし大嵐、巻き上げた雨粒、思い出したように降り注ぎ、雪を溶かし、花を散らし、頬を濡らした。
春の陽射しではなく、冬の涙雨が二人の凍てついた雪を溶かして行く。歩み寄れてもわかり合えぬ二人を。
倫理に抗おうとも、遺伝子に逆らおうとも、実を結ぶ事もなく散り行く六花に降り注ぐ三冬月の雨の下で。

結標「……なんて」

『一つ』になどなれないと知りながらも結標が手指を伸ばし。

白井「……いですの」

『独り』になどなりたくないと白井がその手指を握り返して。

上条「――――――」



――『二人』になろうと、結び合った――



254 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:26:49.15 ID:YAhfA5YAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「貴女なんて」白井「大嫌いですの」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
255 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:27:17.79 ID:YAhfA5YAO
〜14〜

上条「――だ、大丈夫か!!?二人とも」

白井「来ないで下さいまし!!!!!!」

上条「?!」

枝葉を絡め合うようにして手繋ぎし、土砂降りの雨の下共倒れになったまま白井が上条に寸鉄を刺した。
己の恥部も暗部も全部さらけ出した事を悔いているのか嘆いているのか、結標の胸に顔を埋めて叫んだ。
結局白井は、上条も傷つけられず結標も壊せなかった。荒れ狂う奔流の中にあってさえ一線を越えじと。

白井「……お見苦しいところを晒してしまい申し訳ございませんの。お姉様には言わないで欲しいですの」

上条「白井……」

白井「……行って下さいな。あの修道女さんをお探しなのでしょう?わたくしもお姉様には言いませんわ」

雨以外の滴に濡れた頬を隠すように、寒さ以上に震える声を絞り出し、白井は上条を後押しする。しかし

結標「――本当に行ってしまったのね。インデックスさん……」

上条「インデックスを知ってるのか!?」

結標「……ええ。貴女とあの晩出会う前、私と彼女は小萌の家で軍鶏鍋をつついていたの。聞いてない?」

上条「………………」

結標「その道すがら、彼女から色々と打ち明けられたわ。貴女と御坂美琴の馴れ初めから何から何までね」

そこで結標が剥き出しの胸に感じる白井の発熱と荒い吐息に察する。同時に、血の気が引いたように――
顔面蒼白で立ち尽くす姿に結標も思い出す。一週間前インデックスを送り届ける道程が交わした言葉を。

結標「……貴方と会ったあの晩に言ったわね?“女の子は誰だって自分一人にだけ優しくされたい”って」

上条「……ああ、そうだったな」

インデックス『とうまが二度と私を“忘れない”ように、私の事を思い出す時少しでも胸が痛むように』

結標「――私は知ってるわよ上条君。彼女がどこへ行ったかを」

上条「……何だって!!?」

インデックス『私はとうまを想っていっぱい胸が痛くなった。だからもしとうまが少しでも私と同じに』

結標「……あの日貴方に助けてもらった借り、ここで返させてもらうわね。一日遅れのプレゼントとして」

インデックス『感じてくれたらって……私は、私はね……!!』

涙ながらにインデックスが語った、最初で最後の女の意地を――

結標「彼女(インデックス)は――……」

256 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:28:49.51 ID:YAhfA5YAO
〜15〜

かくして聖餐の夜が明け、凄惨な朝を迎え、清算の雨が降る。

雲川「ほう?枝打ちに興味はないとか良いながら結構やるけど」

第八学区のマンションより、窓のブラインドを上げるは雲川。

婚后「御坂さんと白井さんが破局したという噂は本当ですの?」

学舎の園のカフェより、磨り硝子越しに彼方を見やるは婚后。

初春「こんな雨だと遊びに出るのはよした方がいいんじゃ……」

佐天「うわーん!せっかくのホワイトクリスマスだったのに!」

棚柵中学女子寮より、パソコンの画面を見やるは初春と佐天。

姫神「ここから見える夜景。とても綺麗なのに。もう見れない」

吹寄「今年中に取り壊しですものね。でも私新しいヤツの方が」

巡回バスに乗り込み、大桟橋より上を見上げるは姫神と吹寄。

風斬「ふわー……やっぱりここまで昇ると高いんですねえ……」

雲川が、婚后が、初春が、佐天が、姫神が吹寄が見上げた先。

御坂「電話に出て当麻!こんな時にどこで何やってんのよ!?」

御坂が手にしたケータイのアンテナサービスと共に役目を終え

上条「………………」

二十三学区へ向かうモノレールの中、上条の視界から遠ざかり

運転手「お客さん、どちらまで?」

白む雨靄の中にも皓々と赤く輝く『タワー』を見やりながら――

結標『去年までなら帝都タワーにある天空レストランが美味しくて穴場だったんだけど、今年はもう……』

白井『取り壊しが決定してからテナントが撤退してしまいましたの。あの帝国タワーが出来上がってから』

白井を膝枕しながら結標がタクシー運転手に告げた行き先は

結標「……“帝都タワー”までお願いするわ、運転手さん――」



――――旧電波塔、『帝都タワー』――――



257 :>>1[saga]:2012/04/18(水) 21:31:11.85 ID:YAhfA5YAO
ACT.9しゅーりょー!

次回から



帝都タワー〜あわきとくろこと時々みこと〜編始まるよ!



258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/18(水) 22:17:36.82 ID:i4Hh/JfIO


>>253
>自壊の坩堝を生み出すのが白井ならば破壊の螺旋を描き出すは白井。相反しながら相剋する二人が重なり合う。

ってなってるけど破壊の螺旋の方は結標?
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/04/19(木) 09:19:48.33 ID:Nr3bG2rw0
乙。何がすごいってこれだけ百合でやっちゃいけないこと(暴力、足の引っ張り合い、レイープ、激欝)をやってて王道から外れてないのがすごい。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/19(木) 17:34:11.64 ID:1g9x7jYb0
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/19(木) 22:55:01.36 ID:2gj12wk80


今回の投下滾ったわ
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/04/20(金) 20:43:07.25 ID:pCogL/Gzo
>>156
このあわきんと姫神が主役だったSSのタイトルが思い出せない
誰か教えてくれ
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/20(金) 22:57:41.44 ID:UNr5fDaQ0
>>262
それかはわからんけど、とある夏雲の座標殺し(ブルーブラッド)か?

帝国タワーと帝都タワーの絡みのモトネタは嘘喰いかね?
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/04/20(金) 23:46:06.97 ID:pCogL/Gzo
>>263
前世なのかは知らんが探してたのはこれだわ
あんがと
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/21(土) 09:29:21.93 ID:sSpbiUMxo
>>259
いやいや、殺し愛ってジャンルがあってだな(ry
266 :>>1[saga]:2012/04/21(土) 10:56:03.28 ID:YCL0GKuAO
>>1です

すまぬ

帝都タワー編が難産過ぎて投下は早くて明日なんだ

すまぬ

帝都タワーの元ネタがキマシタワーからなんて今更言える空気じゃないんだ

すまぬ

起:結標「屋上に行きましょう……久しぶりにキレちまったわ」編(1〜3話)

承:最初で最後のキャッキャウフフ地下街デート編(4〜6話)

転:恋するあわきんはせつなくて、黒子を想うとすぐレイプしちゃうの編(7〜9話)

結:←今ここ(10〜12話)

帝都タワー編で最終章なんだ

すまぬ

たくさんのレスありがとうございます
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/21(土) 20:24:31.98 ID:da3CqtvFo
完結乙!
268 :>>12012/04/22(日) 17:03:41.60 ID:LKh6w/XAO
>>1です。ACT.10は今夜投下いたしますー

>>267
もうちょっとだけ続くんじゃ
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/22(日) 19:05:46.97 ID:riPOSNCIO
面白かった
無事千秋楽おつ
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/22(日) 20:32:55.93 ID:k+qmVANBo
待ってる
271 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:22:34.42 ID:LKh6w/XAO
〜0〜

海原「――この国は決して嫌いではありませんが、冬と雨の肌寒さばかりはどうにも馴染めませんね……」

水煙が立ちのぼるほどいや増す雨脚に辟易しながら、海原は冥土帰しの病院を目指し遊歩道を闊歩する。
右手にビニール傘、左手に以前結標がショチトルらを見舞ってくれた時のあまおうのフレジェを携えて。
海原も含めてショチトルにもトチトリにも十字教の聖誕祭を祝う概念はないが、それはそれこれはこれ。
長らく娯楽に乏しく甘味に飢えている彼女達にとって海原の差し入れは一服の清涼剤となっているのだ。
クリスマスケーキ代わりにはなるだろうかなど思いつつ、海原は遊歩道の水溜まりの一つを踏み締め――

ドンッ

海原「わっ?!」

御坂「きゃっ!?」

めんとしたその曲がり角にて駆け込んで来た御坂と正面衝突し、フレジェこそ庇えたが傘を取り落とした。
対して、ぶつかった拍子水溜まりに尻餅をついた御坂がふるふるかぶりを振る。その手には傘がなかった。

海原「大丈夫ですか御坂さん?手を……」

御坂「う、うん。ありがとうね海原さん」

海原は嫌みさえ感じさせないほどごく自然に手を差し伸べ、御坂を起き上がらせる。か細く小さな手だと。
そんな感慨を覚える海原をよそに、御坂は立ち上がるなり問うた。上条ないし白井を見かけなかったかと。

海原「いえ、自分は見かけませんでしたね。彼も、白井さんも」

御坂「……そっか」

海原「……ええ、お役に立てなくて申し訳ありません御坂さん」

車道の飛沫を巻き上げて直走るトラックのテールランプに照らされる御坂の顔色と声音から海原は察する。
傘も持たずこの雨の中を駆けずり回るなどただ事ではないだろうと。だが海原は、いや『エツァリ』は――

海原「――こんな安物でよろしければ、お使い下さい御坂さん」

御坂「ええっ!?でも傘なくなっちゃったら海原さん濡れちゃ」

海原「いえ自分はそこの病院の見舞いですから。では御坂さん」

御坂「あ!」

決して主人公(かみじょうとうま)になれない海原は御坂にビニール傘を手渡し、颯爽と病院へと入った。

海原「……おや?」

だが受付を通り抜け、乗り込んだエレベーターにて携帯電話の電源を落とそうとした時、海原は気づいた。

海原「――やれやれ、こんな時に……」


『着信:結標淡希』という表示に――

272 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:23:57.46 ID:LKh6w/XAO
〜1〜

白井「うっ……」

夕間暮れ、白井は帝都タワーに程近い帝都ホテルのプレステージルームのベッドにて寝汗と共に目覚めた。
最初に覚えたのは寝汗の不快さ、剥き出しの双肩を震わせる肌寒さ、そして身体と頭の芯を茹だらせる熱。
白む雨と黒い雲、明るい電波塔と暗い室内、時を刻む針と雨垂れの音が耳につき神経をささくれ立たせて。

結標「お目覚めかしら?白井さん」

白井「………………」

爪を立てるように冷ややかな声音と涼しげな眼差しが窓際に置かれたチェアーより投げ掛けられて来る。
それは発熱と疲労で倒れ込んだ白井をここまで運び込み、ずっと付き添っていた結標淡希その人である。
彼女もまた白井を看病する傍ら、首筋や左足、右鎖骨に負わされた傷をアルコールで消毒していたのだ。

白井「……わたくしの服をどこにやったんですの?」

結標「捨てたわ。とても着れたものではなかったし」

白井「嘘を仰有いな。わたくしを裸にして外に出られなくなさったんじゃありませんの?何せ貴女は――」

結標「“筋金入りのサディスト”とでも言いたげね」

他にも血染めのサラシがゴミ箱からはみ出しており、消毒に用いたウォッカのフレーバーが鼻についた。
そして自分が今、生まれたままの姿で毛布にくるまれている事について白井は今更ながら気づかされる。
白井は自分の身体を抱き締めるように胸元まで毛布を引き上げ、手指の震えを隠しながら結標を睨んだ。

結標「安心なさいな。服なら帝都ホテルアーケードでもプラザでも買えるから。それまでバスローブでも」

白井「冗談じゃありませんわ!わたくしは貴女(ネコ)に嬲られる獲物(ネズミ)になったつもりなどは」

結標「――いいえ、貴女はウサギよ。私がつけてあげた首輪をご覧なさい。それだけは外させなかったの」

白井「っ」

毛を逆立てて威嚇する白井を指差す結標は笑っていた。生まれたままの姿にチョーカーだけ巻いた首元を。
それに白井が発熱以外にカッと赤みの差した顔を歪め、結標はホテルアーケードで購入した風邪薬を手に。

結標「さあ、お薬の時間よ?」

白井「……来な、いで!!!」

結標「……私を拒絶するの?」

ベッドへと片膝を乗せ、後ずさる白井を追い詰め、垂らした舌の上にカプセルを乗せるとにじり寄って――

白井「んっ……」

無理矢理に唇を重ねた。否、奪ったのだ。

273 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:24:24.68 ID:LKh6w/XAO
〜2〜

結標「――舌を出しなさい“黒子”。噛んだら目を潰すわよ?」

白井「っ」

触れ合わせる唇の感触を楽しむように数秒、白井の頬に添えた手から伸びる中指の爪が目元に当てられる。
白井が薄目で盗み見る眼差しと、結標の細められた目が合う。キスをする時目を閉じない女は性格が悪い。
などとキスなどした事もない佐天らとの眉唾話が真実である事を証明するように結標の舌が唇を割り開く。

白井「んっ、んっ、んんっ、はっ、あん」

結標「は、あっ……黒子、“私の黒子”」

白井「!?」

歯列をなぞるというより、上顎まで舐め回すように柔らかく長くいやらしく伸びる舌が舐め回して来る。
ピチャピチャとミルクを舐める猫のように、治療に使ったアルコールの味と甘ったるい唾液を流し込む。
苦いはずのカプセルがトロトロと甘い唾液と共に口内に糸を引いて流し込まれ、白井は驚きながらも――
コクン、コクンと喉を鳴らして嚥下して行き、唇の端から零れた唾液が逆十字架のシルバーを濡らした。

白井「んっ、ふっ!?(今、私のって)」

結標「んっ、んふっ、ふん、う、うんっ」

トロンと蕩けた白井の眼差しとは対照的な、ドロリと濁った結標の眼差しがその様子を満足げに見やる。
風邪により高まった白井の体温に、木天蓼を与えられた猫のように甘ったるく鼻を鳴らして覆い被さる。
脱力させ柔らかくした舌腹を、白井が驚いて逃げる度追い掛けては絡め、舌先を舌裏にそよがせて啜る。
ジュルッ、チュルッ、ズルッと、耳から犯すような音を立てて白井を貪る舌使いはいっそ暴力的だった。

白井「(頭が、ボーっとしますの……)」

相手を思いやる気持ちも何もなく、生肉を放られた獣のように貪られる感覚。誰かに求められるという事。
長時間雨に当たり続けて青白くなった肌にはほんのり赤みが差し、濡れたように潤んでは揺れる白井の瞳。
微かに荒げていた熱っぽい息遣いが次第に大きくなるにつれ結標の目が細く、垂れ、笑みの形に変わり――

結標「っ」

我に返ったように眦を決した後、結標が白井との唇の間にかかった銀の橋を舌舐めずりするようにして

結標「……ペッ!」

白井「っ」

汚らわしいものを吐き捨てるようにするのを見て、白井はひどく傷つけられた。この上なく胸が痛んだ。

結標「……馬鹿じゃないの?」

そんな白井の頬を、結標が添えた手指を離しながら鼻で笑った。

274 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:26:41.56 ID:LKh6w/XAO
〜3〜

結標「嫌がらせでやっているのに気分出してるんじゃないわよ」

白井「………………」

結標「大嫌いなはずの私にこんな事されて感じるだなんて、貴女って根っからのマゾか、ただのビッチね」

今にも泣き出しそうなのをこらえる白井を組み敷きながら、結標が真一文字に結ばれた唇を指先でなぞる。
そして人差し指を白井の唇にこじ入れるようにし、イヤイヤと背けようとする口元へと強引に咥えさせた。
白井がキッと指先を齧る。甘噛みなどというレベルではない力強さで。だが結標もその痛みに耐えつつ――

結標「……女同士なんて気持ち悪くて反吐どころか戻しそうなくらいだわ。吐き気を堪えるのが精一杯よ」

白井「うっ、うっ……」

結標「手を繋いだくらいでドキッとする?キスしたくらいで永遠が手に入る?馬鹿馬鹿しいったらないわ」

白井「うう、うっう」

結標「たかが一、二度不完全なセックスの真似事をしたくらいで思い違いをしているなら正してあげるわ」

白井「ひっく、ひっ」

結標「私は貴女なんて好きでもなんでもない。だからこんな真似が出来るの。誰も貴女なんて愛してない」

泣きじゃくる白井を見下ろしていた。白井は勝ち誇る結標を見上げていた。どうしようもなく苦しかった。
激しく爪を立てられ、流れた血を優しく舐められ、貼られたかさぶたを笑いながら引き剥がすような結標。
『私の黒子』と言ったのと同じ口で『誰も貴女なんて愛してない』と拒絶し、指一本触れさせてくれない。

結標「本当に貴女を愛してくれてる人がいるならば、近いうちに囚われた貴女を迎えに来てくれるはずよ」

白井「………………」

結標「――それまでは私の側にいなさい」

白井「……では」

チュッ、チュッ、と白井が泣き濡れた眼差しで結標の手を握り締め、舌を這わせる音が雨垂れに混じる。
白井は知らない。ピチャクチャと自分が舌を這わせる毎に結標のショーツがじっとりと濡れている事に。

白井「――もし誰も迎えに来てくれなかったらわたくしは一体どうなるんですの?」

結標「………………」

白井「淡希さん……」

結標「……シャワー浴びるわよ。寝汗でぶり返されて、貴女に風邪を移されるだなんて真っ平御免なの」

『出て行く』という選択肢が頭を過ぎりもしない自分の変化に。

275 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:27:07.95 ID:LKh6w/XAO
〜4〜

初春「白井さんがいなくなった!!?」

佐天「そ、それってどういう事なの?」

御坂「私にもわからない。でも、ただの喧嘩とか家出とかそういうんじゃない……」

婚后「……俄かに信じがたい思いですわ」

固法「――ここ最近様子がおかしいとは思っていたけれど、まさこんな思い切った」

上条探索を一時切り上げ、白井捜索に一度切り替えた御坂は主だった面々をファミレスに召集していた。
御坂から見て白井が強姦された事実のみ伏せ、早急に保護が必要な状況下に置かれている事を説明して。
ガヤガヤと冬休みに入り常より賑わう店内にあって、御坂が喪主、皆が弔問客のように沈み込んでいる。

御坂「……とりあえず、黒子を見かけたり訪ねて来られたりしたらすぐ私に連絡して。このままじゃ……」

初春「――でも参りましたね。ケータイもスマホも置いて飛び出したとなるとGPSによる追跡も不可能」

固法「でも財布もカード類もみんな残ってたんでしょう?それならば、そう遠くまではいけないはずよね」

佐天「……御坂さん顔真っ青ですよ?大丈夫ですって。白井さんは絶対に帰って来ますから。私達の下へ」

皆が意見を出し合う最中にあって、佐天が憔悴しきった御坂を気遣って肩を叩いた。だが当の本人は――

御坂「……うん」

連絡のつかなくなった上条が事の真相に気づきイギリスに渡ったのではないかと気が気でなかった。
それに加えての白井の豹変、そして失踪である。だが御坂と恋人とパートナーを天秤にかけた上で。

御坂「……ただの杞憂なら良いんだけど」

婚后「誰か身近な人間を頼っているかも知れませんわ。でもわたくし達でないとするならば一体他に誰が」

佐天「……あっ!!」

御坂「佐天さん??」

佐天「もしかして白井さん、灰音お姉さんのところにいるのかも」

初春「……ハイネ?」

御坂「……詩人の?」

その時である。佐天が左手を右手の握り拳でポンと叩き、頭に豆電球を浮かび上がらせ思い当たったのは。

佐天「あれ、やっぱりみんな知らなかったんだ?白井さんに血の繋がった生き別れのお姉さんがいるって話」

初春が固法を見、固法が首を傾げ、婚后が振り返り、御坂が目を見開き、佐天へ向き直って問い掛けた。

御坂「……どんな人?」

パンドラの匣を開く、最後の鍵(マスターピース)の在処を――

276 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:27:58.13 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
佐天「真っ赤なサラサラストレートロングの美人さんでしたよ?それもスッゴいスタイル良いクール系の」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
277 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:30:40.20 ID:LKh6w/XAO
〜5〜

結標「すー……すー……」

白井「(お疲れと言ったご様子ですの)」

同時刻、白井はうたた寝する結標の腕に抱かれながら、広々としたローズバスに身を揺蕩たわせていた。
湯船を埋め尽くす赤い薔薇に取り囲まれ、窓から彼方に光り輝く旧電波塔、帝都タワーを一望しながら。
されど白井の眼差しは自分を背中から抱き足の間に挟むようにして船を漕ぐ結標の寝顔に注がれていた。
眠りを妨げぬよう首だけ振り向く。目を凝らせば色濃く浮かぶ隈と心無しかやつれて見えるその寝顔を。

白井「………………」

その寝顔に白井は思う。何故自分は愛する御坂に背いて憎い結標に身を委ねているのか。そして何故――
結標は壊したいほど憎み、狂うほど犯した自分を腕に抱いて眠っているのだろうと考えずにいられない。
寝首を掻かれるとは思わないのか、掻かれても良いと思っているのか、白井にはそれさえもわからない。

白井「(……薔薇が敷き詰められ過ぎていて、まるで血の海に浮かんでいるような気さえいたしますの)」

一面に揺蕩いむせかえるような馥郁たる薔薇の湯殿にのぼせたように、白井は回された手を握り返した。
この手指が自分を散々に犯したかと思うと、あたたかな湯の中にあって寒さとは異なる震えがぶり返す。
結標が怖くないと言えば嘘になる。本心を明かすならば間違いなく恐い。喰い殺されるかと思うほどだ。

白井「(……貴女の髪の色も、血のように見えますのよ……)」

だが白井は結標の寝顔を見つめながら考える。それほどまでに自分が憎いのならば、何故彼女はこうも……
自分が眠りこけている間に出来もしないフレンチトーストを焼き、自滅しかかっていた白井を救ったのか。
今だってそうだ。わざわざこんな高い部屋を取り、看病までし、自分を抱きながら眠り込んでいるのかが。


何故、白井を辱める時には決まってアルコールを煽るのかが――


結標「う、ん……」

白井「!」

結標「……寝てた?」

白井「え、ええ……」

結標「……そう……」

そう白井が思い煩っている間に、浅い眠りから目を覚ましたような表情で結標が白井を見下ろして来た。

278 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:31:11.16 ID:LKh6w/XAO
〜6〜

結標「……体調はどう?」

白井「それなり、ですわ」

カンニングを見咎められた生徒のように白井は顔を背け、結標はうなだれるように肩に顔を埋めて来た。
白井はそれに対しどうすれば良いのかがわからない。身を強張らせるべきか委ねるべきかの二択さえも。
気分的にはヒョウの檻に放り込まれたウサギの心持ちであった。だがそんな白井の懊悩をよそに結標は。

結標「……あそこの展望台から見える夜景結構好きだったのに」

白井「帝都タワー、ですの?」

結標「ええ。高さやデザインだけなら新しく出来た方の……」

白井「帝国タワー、ですわね」

バスルームの窓より一望出来る帝都タワーをぼんやりと見つめながら、訥々と寝ぼけ眼のまま語り始めた。

結標「新しい方はあんまり好きになれないわ。何だか地面に大きなガラスペンが突き刺さってるみたいで」

白井「帝都タワー、お好きなんですの?」

結標「――子供の頃ね、読んでた少女漫画のオープニングが決まって外部の東京タワーだったの。それで」

白井「……想像出来ませんわ。貴女が幼かった頃の話など……」

薔薇が離れ、鏡のような水面(みなも)を取り戻した湯船に映る結標の表情を白井は身動ぎせずに盗み見る。
僅かにでも身を強張らせ微かにでも身を揺るがせたなら、この凪のような一時はたちまち波立ち歪むだろう。
故に白井はゆっくりと凭れていた背を離し、胸を預けるようにした。すると結標も髪を優しく撫でてくれた。

白井「(あっ……)」

結標「どこにでもいる少し勝ち気な女の子だったと思うわ。中学生くらいの時なら貴女に似てたかもね」

その事に対して白井は大きな戸惑いと小さな安らぎを覚えた。同時に結標という人間の本質の一端を捉えた。
石を投げれば波紋を生み、風が吹けば揺らぎ、水温が下がれば凍てつき、雨が降れば泥が舞い上り石が覗く。

白井「(もしかしてこの方って物凄く)」

結標「……こんな自分語りはつまらないかしら」

白井「――いいえ、もっと聞かせて下さいまし」

その代わり魚(みうち)と認めれば自分という水中を好きなように泳ぎ回らせる。それは白井が知らぬ――
小萌・姫神・吹寄・風斬・雲川・そして結標が暗部(やみ)に身を落としてまで救い出そうとした仲間達。

白井「(……もしかして、この方はわたくしが思っている以上にか弱くか細い方ではございませんの?)」

279 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:31:43.78 ID:LKh6w/XAO
〜7〜

それから結標はゆっくりと幼かった時分の自分の事を語り始めた。
小学生の頃は男子と取っ組み合いも辞さないほど勝ち気だった事。
中学生の頃は負けず嫌いが過ぎ後輩には好かれ先輩に嫌われた事。
少人数で固まるのは好きだが大人数に縛られるのは嫌だと言う事。
まるで自分の幼年期の生き写しのようにさえ思えてならなかった。

白井「………………」

結標が話し終えるまで白井は目を閉じて心臓に耳を当てていた。ゆっくりとしゆったりとした鼓動だった。
結標もまた時折揺蕩う薔薇を手ですくいあげたり、どこかしら茫洋とした眼差しでタワーを見つめていた。
そこで白井は傷つけぬように手指を伸ばし、結標に絡めるようにして呟いた。もし風邪が直ったならばと。

白井「……お嫌でなければ、明日にでもあのタワーに昇って学園都市(まち)の夜景でも見ませんこと?」

結標「テナントも殆ど撤退してて廃墟と変わらないわよ?(それに、帝都タワーは今夜にだって――)」

白井「お店なんてどうでもいいですの。お土産なんていりませんの。ただわたくしは見たいんですのよ」

結標「………………」

白井「――わたくしと良く似ているという貴女から見た世界(やけい)を、二人占めさせて下さいませ」

一生ものの初体験(トラウマ)を植え付けた責任を、一生を共にして償えなどとは白井は言わなかった。
一夜を共に出来るだけで良かった。一人になりたくなかった。二人はただ互いの体温に逃げ込んでいた。
これからの事も、この先の事も、この後の事も、何も考えられなかった。もうどうなっても構わないと。

結標「……それなら湯当たりして体調を崩す前に上がりましょうか。後は何か軽い物でも食べて寝ましょう」

白井「……三ツ星ホテルですのにルームサービスのみとは実に口惜しい限りですわね。まあ、もっとも――」

結標「?」

白井「――発ガン性物質で構成されている貴女のフレンチトーストに比べれば、食べられるだけマシですの」

結標「うるさいわね。そんなにえらそうに人を小馬鹿にするなら貴女が教えてよ」

白井「えっ……」

結標「野菜炒めでもフレンチトーストでも良いから、何か私でも作れそうな料理」

血の海のようなローズバスから身体を起こし、白井から身体を離した結標が手を差し伸べながら言った。

結標「……スケート、教えてあげたでしょ?」

もう、手は震えなかった。

280 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:34:30.21 ID:LKh6w/XAO
〜8〜

初春「佐天さん、この高校生で間違いはありませんか?」

佐天「う、うん(とんでもない事になっちゃった……)」

御坂「……これ、結標淡希(あのおんな)じゃない!!」

同時刻、御坂達はファミレスから佐天の証言の裏を取るべく風紀委員一七七支部へと場を移していた。
たった今も初春が立ち上げ書庫(バンク)から引っ張り出して来たデータを皆で囲んで閲覧している。
だが佐天は後悔していた。白井の身を案じるあまり口をついて出た言葉に、怒り心頭に発した――……

御坂「なんでこの女と黒子が一緒に居たってのよ!!!」

佐天「わ、私にもわかりませんって(どうしよう!?)」

婚后「こちらの女性が“結標淡希”さんで宜しいので?」

固法「私も残念だけれど、限りなく黒に近い灰色ね……」

初春「ちょっと“目を瞑ってて”下さいね……当たりですね。白井さんとペアプラン契約も結んでますよ」

御坂「……初春さん。結標淡希の携帯電話のGPS機能から逆探知出来ない?違法捜査なら私がやるから」

御坂の逆立てた柳眉に佐天は自分の発言が如何に重い意味を持つかを今更ながら思い知らされていた。
まさかあの日車椅子を押していた優しげな女性が『結標淡希』だったなどと、想像さえ出来なかった。
だが得心も行った。御坂らのリアクションを見れば白井が結標との関係を黙っていた事も理解出来る。

婚后「何故そんな相手と白井さんが繋がっていらっしゃるのでしょうか?わたくし理解に苦しみますわ」

固法「プライベートにまで立ち入るような真似はしたくないけれど、笑って見過ごせる話ではないわね」

佐天「(みんなおかしくない?って言うかおかしいって思ってる私の方がおかしいの?わかんないよ)」

しかし理解は出来ても共感出来ないのは、自分を除く皆の反応である。
初春や固法は風紀委員であるし、御坂や婚后はもともと正義感が強い。
だが佐天はあくまで普通の感性と普遍の観念を持ち合わせた普通人だ。
これでは非科学(オカルト)で伝え聞く魔女狩りと同じではないかと。


――――さらに――――

学生「あのー落とし物なんですけど……」

御坂「!?」

学生「そこの公園に落ちてて……」

そこに白井の金属矢が突き刺さった上条の携帯電話が届けられ。

佐天「嗚呼……」

状況は最悪だった。

281 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:38:09.54 ID:LKh6w/XAO
〜9〜

白井「とっても美味しいですの……」

結標「良かったわね」

湯浴みを終えた後、二人はルームサービスにてロイヤルフルーツサンドとマスクメロンサンドを注文した。
外は何時の間にか雨雲が晴れ上がり、皓々と夜空に三日月が架かっていた。そんな中にあって白井と結標は

結標「……良くなれば、下のレストランで食べられるようになるから。それまではこれで我慢して頂戴ね」

白井「他にも氷の彫刻展など見に行きたいんですの。それからホテルウェディングの写真館にも是非……」

結標「貴女結婚でもするの?やっぱりお嬢様とかって小さい頃から婚約者とかいたりするものなのかしら」

白井「いえ、別段そういう訳ではございませんが学生結婚のウェディングドレスの試着サービスがあって」

結標「男の子を連れて来れば良いじゃないの。女の私と行っても二人してウェディングドレスでしょう?」

白井「(女誑しのくせに乙女心のわからないお方ですの……)」

広々とした室内、長大なソファーにあって肩寄せ合うようにしてクリームサンドを摘むなどしていた。
口にこそ出さないものの、二人は肌身に感じていた。その約束が果たされる事は恐らくないだろうと。
これなら作れるかも知れないと言ったフルーツサンドも、着てみたいと言ったウェディングドレスも。

結標「――綺麗にして」

白井「……はいですの」

クリームのついた手指を差し出し、白井が恭しく両手で捧げ持ち、聖餅に口づけるように舌を這わせる。
どちらともなく理解していた。煌びやかなだけで中身の伴わない約束などツリーの飾り付けと同じだと。
一夜明け、クリスマスが終われば片付けられてしまう約束。吊り橋効果の延長上にある崖っぷちの関係。
白井はありもしない明日の約束(きぼう)に縋り、結標は明日どころか朝日が昇る事さえ望まなかった。

白井「……で、デザートは如何ですの?」

結標「……悪くないわね?」

白井「(また、お酒の力を借りても構いませんから)」

結標「――いいわ」

結標の手指から銀の架け橋を途切れさせると、白井が両腕を伸ばして笑む。風邪など治らなくても良いと。
自分達は救いようがないほど病んでしまった。最早一緒に逃げようと言う考えさえも浮かんで来なかった。

結標「私の腕の中で、優しく殺してあげる」



一緒に堕ちようと白井が祈りを捧げるように首を差し出し、結標が逆十字架のシルバーに口づけて――



282 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:38:55.36 ID:LKh6w/XAO
〜10〜

白井「ん……あっ、あはっ……あああ……あああああ!あっ、ダメ!ダメ!そんなところいけませんの!」

結標「ぴちゃ……ちゅ……いやらしい味、ぴちゃ……ちゅる……こく……はあっ、ドロドロじゃないのよ」

バスローブを解かれ、ソファーの下に跪いて両足の付け根に顔を埋める結標の赤髪に指先を埋めて白井は泣いた。
もう帰る場所も行く宛もなかった。天上に浮かぶ三日月が奈落の底から見上げたように目映く、そして遠かった。
そして結標が手にした軍用懐中電灯に舌をそよがせて行くのを目にし、白井は首に抱き付くようにして耐え忍び。

白井「ううっ、あくっ!あああ!痛い!痛いですの!うわあああああああん!痛いっ!痛ひいいいい!」

結標「黒子、頑張って」

白井「ぬ、抜い……抜いて!あわっ、、淡希さん!壊れちゃいますの!黒子壊れちゃいますのおおお!」

結標「私の肩を噛んでも良いから。もう少しよ?もう少しで、黒子のこと壊してあげられるからね……」

白井「あううっ、んああっ、ひいっ、怖いですの、ゴリゴリ動いて……んはあああああ!淡希さん!!」

結標「黒子!」

白井「動いてますの……わたくしの中で、こすれて動いてますの、うあああっ!キスして淡希さん!!」

結標「っ」

白井「止めないで!キスして殺して!わたくしを一人にしないで!もうどうなってもいいんですの!!」

台尻の先端しか埋まり切らぬ中にあって苛まれる激痛に、白井は結標の右肩から血が流れるほど強く噛んで堪える。
いつ止むかわからない痛みの終わりが二人の終わり。涙を流してしがみつく白井と血を流して歯を食いしばる結標。
傷つける事しか出来ない結標が、壊れて行く白井の口を吸い舌を絡め、白井が左胸に結標の手を導いて泣き叫んだ。

白井「握り潰して!心臓を止めて!!グチャグチャにして欲しいんですの!二度と立ち上がれなくなっても良いんですの!!」

結標「泣きながら腰使ってんじゃないわよ!御坂美琴もこうやって抱かれたんじゃない?“お揃い”になれて良かったわね!」

白井「あくっ、はあああ!イっちゃう!イキますのおっ!あううっ!お姉様!、お姉様!ごめんなざい!黒子イキますのお!」

首を絞める力も残らないまでに抱き合い、手を繋ぎ指を重ねて白井は狂ったように結標の下で泣き続けた。



逃げるように眠りに堕ちるまで



283 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:41:15.26 ID:LKh6w/XAO
〜11〜

結標「………………」

白井「スー……スー……」

散々イキ疲れて眠っちゃったみたい。風邪薬のせいもあるんでしょうけど、もうボロボロなのよねこの娘。
でも私は謝らない。どれだけ選択肢(みち)を誤ろうとも謝らない。これは私の居直りで開き直りだから。

結標「……寝てる?」

白井「スー……スー……」

小学校で、種を蒔いて水を撒いて育て上げた花壇を踏み荒らした時芽生えた最初の罪悪感(かいかん)。
飼育係になって、初めてウサギを抱き上げた時もこんな気持ちだった。貴女の寝顔を見てるとそう思う。
ずっと眺めていたいような、つついて起こしたくなるような。他人に話した事はないけれどそう感じる。

結標「……私ね」

白井「スー……スー……」

中指が折れそう。首も疲れた。そして何より私も脳が焼けるようにイって下着がもうビショビショなの。
貴女が部屋を出て行った後、シーツを抱き締いて泣きながら一人遊びする程度に私は貴女に執着してる。
私は本当に嫌いな人間は鼻にも引っ掛けないし目もくれない。優し過ぎる貴女とは違って性格悪いのよ。

結標「本当は……」

ヴヴヴヴヴ!ヴヴヴヴヴ!

そう思っていたら、充電器に差しっぱなしにしてた携帯電話とスマートフォンの内どちらかが震えてる。
新しく買ったスマートフォンの方だった。見知らぬ番号、見慣れぬ相手、こういう時は決まって――……

結標「……もしもし?」

???「………………」

悪い報せ、招かれざる客。電話越しの沈黙でさえ隠しようもない敵意に当てられて私の殺意が高ぶった。
話し声で黒子を起こしたくないからベッドから下りて私は窓辺に歩み寄る。するとどうだろうか――……

結標「……嗚呼」

今年中に取り壊される帝都タワーを除く周囲一帯のビル群の電灯が一斉に消失し、少しずつ明滅して行く。
小萌が見てた再放送のトレンディードラマみたいに、照明が次々と幾何学模様から文字へと連なって行く。

結標「――最高のクリスマスプレゼントをありがとう――」

受けてあげるわ。夢見がちな貴女からの気障ったらしいプロポーズを。
こういうのは嫌いじゃないわ。むしろ唯一貴女に好感を持てたかもね。

結標「――帝都タワーまでいらっしゃい」

ビル群の電灯と明滅を利用したそのメッセージは、生温くて甘ったるい貴女にしては良い出来映えよ――

284 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:42:06.67 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
デ■■■テ■■■コ■■■イ■■■ム■■■ス■■■ジ■■■メ■■■ア■■■ワ■■■キ■■■
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
285 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:43:21.62 ID:LKh6w/XAO
〜12〜

御坂「――――――………………」

佐天「(こんなに怒ってる御坂さんなんて初めて見たよ……)」

同時刻、御坂らは雨上がりの夜空に浮かぶ三日月を背に帝都タワー正門前にて結標の来訪を待ち受けた。
傍らでは、ノートパソコンにて結標の携帯電話及びスマートフォンのGPS機能を逆探知し続ける初春。
既に二人の潜伏先を帝都ホテルだと割り出した後、婚后や固法も一戦交える事も辞さない構えであった。
そんな中にあって御坂は腕組みしながら時折紫電の火花を散らし闇夜の彼方を見据えていた。そして――

結標「……お揃いね」

婚后「来ましたわ!」

固法「(白井さんの姿は見えない……)」

御坂「……結標、淡希」

佐天「……本当に……」

結標「お久しぶりね、佐天涙子さん……」

ビル風吹き荒ぶ帝都タワー正門前に座標移動にて姿を表すなり、結標は待ち受けていた面々を見渡し苦笑した。
皆一様に敵意を剥き出しにした眼差しの一つ一つ値踏みするように見定めるように。そしてその中から――……

結標「はい」

佐天「!?」

結標「プレステージルームのカードキーよ。係員に言えば専用エレベーターを開けてくれるはずだから」

御坂「………………」

佐天「……は、灰音お姉さん。い、いえ、結標、淡希、さん」

結標「……あの娘の事、よろしくお願いするわね。佐天さん」

初春「!?」

結標「風邪を引いてるから、連れ出す時は暖かくしてあげて」

婚后「(……罠ではございませんの?)」

佐天「――わかりました!」

結標「ありがとう」

固法「み、御坂さん」

御坂「……行って下さい。巻き込まない自信、ありませんから」

そして結標は佐天に座標移動でカードキーを投げ渡し、皆の毒気が抜かれ見間違いかと思うほどに――
月光を宿したかのような微笑を湛えて白井を頼むと告げたのだ。勇み足を二の足に変えさせるように。
だが少女達が白井救出に向かうべく帝都ホテルへ駆け出す足音が遠ざかり、御坂と二人きりになると。

結標「――ひどい顔してるわね御坂美琴」

御坂「あんた……!!!」

夜空に浮かび上がり二人を見下ろす三日月のように唇を吊り上げ顔を歪め、嘲るようにして嗤ったのだ。




結標「――まるでヤリ捨てされた女みたい――」





286 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:46:17.93 ID:LKh6w/XAO
〜13〜

御坂「……あんた」

結標「そう。貴女の愛しの上条君(かれ)は今頃イギリス行きの飛行機の中よ。残念だったわね御坂美琴」

その時、三日月に雲がかかり御坂が握り締めていた上条の携帯電話が軋みを上げ、結標が喉を鳴らして嗤う。
御坂は思う。何故上条の事を知っているのか、何故インデックスのイギリス行きの事まで知っているのかと。
しかしそこで結標も御坂が上条の携帯電話を、白井の金属矢に貫かれたそれを持っている事に気づき嘲笑う。

結標「これは“黒子”も知っている事なのよ?その携帯電話がどう壊されたか少し考えればわかるわよね」

御坂「……嘘よ」

結標「嘘じゃないわ。あの娘はもう私無しでは生きられない身体なの。こういうの何て言うか知ってる?」

顔面蒼白の怒りに満ち充ちて行く御坂の絶望に染まった表情を舌舐めずりして見やりながら結標は突きつける。
それは白井とお揃いで買った赤いスマートフォン。その中からフォルダーを開き、見せ付けたファイルには――

白井『お姉様!お姉様助けて下さい!!』

御坂「!!!!!!」

白井『いやあ!撮らないで!!結標さんこんなの嫌ですの!!!』

結標「“共依存”って言うの」

白井『ああ、ぁぁ、結標さん、結標さん、気持ち良いですの……』

御坂「やめて……」

白井『もっと、もっとして!もっとキスして下さい淡希さん!!』

御坂「やめて!」

白井『淡希さんのエッチな味がいたしますのよ……こうですの?』

御坂「やめてよ!!」

白井『お姉様!お姉様!ごめんなざい!黒子イキますのお!!!』

御坂「もうやめてよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」

そこには目を背けたくなるほど淫靡な表情で結標に犯され、抱かれ、狂わされ、壊されて行く白井の媚態。
処女を散らされ咽び泣く表情、次第に飼い慣らされ赤く染まる白い肢体、結標に奉仕する媚びた上目使い。
口に丸めたショーツを噛まされ、軍用懐中電灯をねじ込まれ、涎と涙を垂れ流しながら腰を使う動画まで。

結標「同じ日に、“お揃い”で処女喪失出来て良かったじゃない」

その後に続く結標の言葉が

結標「初めてだったけれど、私に自信を持たせてくれるぐらい感度のいい身体をしてたわよ?なにせ――」

御坂の心を完全に殺した。

287 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:47:10.78 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――貴女を壊すためだけに、黒子を犯したのだから――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
288 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:51:04.41 ID:LKh6w/XAO
〜14〜

結標「私も途中から興奮し過ぎて何度か脳が焼けてしまったわ。もう二枚ほど下着が駄目になっちゃった」

赤々と灯る帝都タワーの下、御坂を絶望させるは結標の闇より深く黒より暗い月の魔魅を思わせる微笑み。

結標「どれだけ痛めつけても、少し優しくキスするだけで何でも許してくれる、寂しがり屋のマゾヒスト」

これまで御坂の十四年の人生の中にあって、食蜂の妄執よりインデックスの情念より根深い根刮ぎの絶望。

結標「壊れて味がなくなったら吐き捨てるわ。あの子は安っぽいチューインガム、貴女はそれを包む銀紙」

結標が言外に告げた行間を読むならばそれは『白井を助けた善意を踏みにじられた』の一語に集約される。

結標「ああ、けれどそれまでおままごと遊びするのも悪くないわね。セックスフレンドの延長だけれども」

結標を『悪』と断じた御坂の『正義』が白井を殺したのだと結標は嗤った。貴女のせいよと嘲笑ったのだ。

結標「昨日の“戦場のメリークリスマス”は観た?私達はお互いに夢中で殆ど入って来なかったのだけど」

上条にインデックスの事を告げたのは借りを返したいという善性からであるが、それすらも御坂にとっては

結標「ラストシーンとBGMだけは印象的だったから覚えてるわ。お正月休みにでも黒子と見るつもりよ」

罪悪にして最悪にして災厄。帝都タワーのライトアップに照らし出された結標の横顔は妖艶そのものだった。

結標「年越しして、セックスして、お参り行って、セックスして、少し眠って、起きて、あの娘に舐めさせながら鑑賞するわ」

御坂は無意識下にてポケットの中のコインを握り締めていた。御坂には最早結標が人間にさえ見えなかった。

結標「知ってた?あの娘背中舐められながらクリトリスを軽く指で押し潰されるのが好きとか、もう良いって言うまで一時間でも二時間でも舌を使う従順なところとか」

魔物にしか考えられない。魔女にしか思えない。魔魅にしか感じられない。同じ女とさえ思えない『魔性』。

結標「別に構わないでしょう?御坂美琴」

最早この学園都市(せかい)に幻想殺し(ヒーロー)は存在しない。いるのは一羽の大鴉(ばけもの)のみ。

結標「貴女を“お姉様”と呼ぶ人間が一人くらい減ったとして」

結標は白井のトレードマークのリボンをゴミでも放るように投げ捨て、御坂の前で笑いながら踏みにじる。

289 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:51:53.80 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――嗚呼、ごめんなさい。もう一万人“しか”残ってなかったわね。御坂美琴(おねえさま)――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
290 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:53:59.40 ID:LKh6w/XAO
〜15〜

ズドオオオオオン!という大地を揺るがすような轟音と、ドアが開くのと、白井が目覚めるのが同時だった。

白井「!?」

佐天「白井さん!!!!!!」

婚后「大丈夫ですか!?」

固法「怪我はない!!?」

初春「……白井さん!!」

白井「な、何ですの!?」

毛布にくるまり胸の辺りを隠しながら白井が目を瞬かせると、そこには二日ぶりに顔を合わせる仲間がいた。
中でも初春は泣きながら抱きつき頬寄せて来る。白井も思わず慌てふためき皆を見渡す。その時気づかされた

白井「……淡希さんは?」

固法「もういいのよ。あの人はいないの。貴女は自由なのよ?」

白井「……違いますの!」

断続的に彼方より響き渡る爆音。あれは聞き慣れた御坂のレールガンの音ではないかと。そして――……
眠るまでずっと添い寝し、手を繋いでいてくれた結標(ぬくもり)が消えている事に今更ながら気づく。
ハッと振り返った先には帝都タワー、そこで散発的に火花を散らす紫電に白井は全てを悟ってしまった。

白井「あの方は、淡希さんは悪くないんですの!あの方はあんなにいっぱい傷ついてそれでもわたくしを」

婚后「白井さん!そんな身体でどこに行くおつもりでして!?」

白井「離して!行かせて下さいまし!わたくしが守って差し上げないとあの方は壊れてしまうんですの!」

初春「白井さん目を覚まして!白井さんは騙されてるんです!」

いやいやと身を捩らせるも、固法に押さえつけられ初春にしがみつかれ、白井は身動きが取れなかった。


――――しかしそこへ――――


ピッ

佐天「!?」

白井「?!」

次の瞬間、佐天と白井を除く全員が気絶し

???「あれ?やっぱり電波塔付近は改竄力乱れてるのかしらぁ。まあ一人くらい別に良いかしらねえ☆」

白井「――貴女は!?」

崩れ落ちた皆の上に放り投げられるは、白井が常盤台女子寮に置いて来た泊まり込み用のボストンバッグ。
はみ出す喪服のようなコルセット付きの漆黒のワンピースに、白銀の『Equ.DarkMatter』の仮面が覗いた。

???「うふふ、早くお着替えしないと間に合わなくなってぇ」

佐天「――嘘」

暗がりから姿を現す純白のグローブを纏った少女の姿が、二発目のレールガンの雷光に照らし出された。

291 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:54:56.49 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「――――この中の誰かが死んじゃうかも、ね?――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
292 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:55:31.51 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 1 0 「 白 い グ ロ ー ブ 、 赤 い リ ボ ン 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
293 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:56:08.66 ID:LKh6w/XAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
御坂「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

雷鳥が哭き、大鴉が羽撃き、軍鶏(シャモ)の如く喰らい合う。

結標「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
294 :>>1[saga]:2012/04/22(日) 22:57:25.88 ID:LKh6w/XAO
ACT.10しゅーりょー!

そして次回予告



白井「やめて!わたくしのために争わないで!!」

御坂「同じ女としてムカつくのよ!!」

結標「すいません、カメラ止めてもらっていいですか?」

この後、帝都タワーでとんでもない修羅場が!

食蜂「ガチンコ!鬼百合道始まり始まりぃ〜☆」

一 体 ど う な っ て し ま う の か ! ?




難産だから少し時間かかるけど許してくだしあ

じゃあの
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/22(日) 23:03:38.93 ID:JKUBzhdLo
乙!
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/23(月) 00:20:36.76 ID:mU9XpZDDO
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/04/23(月) 03:39:22.21 ID:5GkBJkjYo
おつおつ
面白いしお話の都合に合わせたデフォルメなんだろーけど
この話の御坂さんアニメ超電磁砲版以上にお馬鹿で短絡で短気で理性の欠片もなくて笑えてくる・・・ww
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/23(月) 17:49:35.33 ID:wc6AUGTu0
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/23(月) 22:02:12.55 ID:Bbxz0gY20
デフォルメされてんのはどう見ても御坂だけじゃないだろw
にしてもどのキャラも人のせいにしまくっててアレだな…救いはあるのか?
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)[sage]:2012/04/24(火) 01:13:55.79 ID:dXGPXtp3o
まだ中学生なんだし自分勝手なのは仕方ない
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/04/24(火) 22:13:47.37 ID:aEC9lXPfo
原作8巻の御坂さんだと他人の悪事も他人の暴走も全部自分のせい、全員自分が責任とって止める事で責任取る、
みたいな無茶苦茶な男前思考だからここと真逆よなww
同じように黒子も、暗部堕ち後の気張ってるあわきんもかまちー節だと無駄に男前方面行ってるし、要するにかまちーが書くとそうなる宿命
それ自体は嫌いじゃないけど話の幅という観点からするとこのスレみたいな話は絶対に作れない程度には狭いので色々と仕方ないよ
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/25(水) 09:03:05.24 ID:LEnZwZe1o
うん、そんだな
黙って読むのやめろww
303 :>>1[saga]:2012/04/25(水) 18:21:51.48 ID:sLzg7+LAO
>>1です。帝都タワー編クライマックスは明日の夜投下します

血みどろ、暴力、地獄絵図、BLOOD ON FIRE

東京タワー好きの人ごめんなさい

私は東京タワー大好きです

じゃあの
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/25(水) 18:23:23.26 ID:PixFUlODO
乙の
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/04/26(木) 00:15:40.74 ID:CLPZX8QZ0
了解
頑張れ!
306 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:02:14.73 ID:ex8EjrVAO
〜00〜

淡希『黒子』

黒子『んっ……』

目蓋の裏まで照らすような夏の陽射しと、頬にかかる真紅の髪。
そして後頭部に感じる柔らかな膝に、わたくしは目覚めますの。
前髪をさらって行く心地良い涼風を受けてプロペラが回って――
翻るカーテン、真っ白なベッド、窓辺からは青空が見えますの。
お城みたいな入道雲に空を渡る飛行船も。嗚呼そうでしたわね。

黒子『申し訳ございませんの。淡希さんのお膝があまりにも気持ち良くって、つい』

淡希『黒子の甘えん坊は今に始まった事じゃないものね。ただ、足が痺れちゃって』

黒子『………………』

淡希『ふふふ、そんな顔しないの。こっちいらっしゃい黒子?ギュッてしてあげる』

もう夏休みに入って、昨日から淡希さんの部屋にお邪魔してますの。
そんな当たり前を今更思い出すだなんてかなり寝ぼけてますわね……
なんて事を考えながら、わたくしは淡希さんの胸元に抱かれますの。
買う時に少し恥ずかしかった、お揃いの真っ白なワンピースですの。
今更双子も流行りませんが部屋着にするとまるで姉妹みたいですの。

淡希『それにしても、ちょっと“遊んで”あげただけで疲れて寝ちゃうだなんてね』

黒子『“遊んで”の上に“もて”が抜けてますわよ?それにわたくしは嫌だと――』

淡希『黒子が可愛過ぎるのがいけないのよ。そんな口答えする悪い子のお口は……』

黒子『きゃっ』

淡希『どうやって塞いでしまおうかしら』

隣の部屋からの風鈴、木々に止まる蝉の声、通り抜ける車の音、笑いながらわたくしを抱き締める淡希さん。
嗚呼、また昼下がりですのになし崩しに弄ばれてしまいそうですの。いつもこうして流されてしまいますの。
そんな疚しい事を考えていると、淡希さんがわたくしの頬を撫でながら吸い込まれそうな眼差しを向けて――

淡希『黒子……』

黒子『何ですの?淡希さん』

淡希『さっきまでどんな夢を見てたの?』

こんな時無意識に口を半開きにしてしまったり、くったり力を抜いたり、少し腰を浮かすわたくしは……
淫らですの。乱れてますの。爛れてますの。貴女がわたくしをこんな風に染めてしまったんですのよ――

黒子『覚えてませんの。魘されてまして?』

淡希『……知ってるわよ』

嗚呼、淡希さんの双眸(ひとみ)にわたくしの相貌(かお)が。

淡希さんが撫でてくれた頬に、涙が伝い落ちた跡が見えますの。

307 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:03:05.83 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――――不出来な貴女の素顔(なみだ)くらい――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
308 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:03:33.56 ID:ex8EjrVAO
〜0〜

御坂「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

結標「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!」

御坂の放った全身全霊全力全開のレールガンが帝都タワーチケット売り場を直撃し、入場券が宙を舞う。
一歩先んじて座標移動にて水族館口へとテレポートした結標が哄笑を上げ、御坂がそれに追いすがった。
乱舞する入場券は御坂に触れるより早く迸る紫電を受けて焼け落ち、火の手が上がって二人を照らした。
殺意に染まり切った学園都市広告塔(みさか)と、憎悪に歪み切った学園都市元暗部(むすじめ)らを。

御坂「あんただけは――」

結標「ふっ……」

御坂「――あんただけは絶対に許さない!!!!!!」

ドン!と再び放たれたレールガンを、結標は怒り狂い我を忘れた御坂の思考さえ読み取って座標移動する。
それによってサンプルケースの陳列棚のように並ぶ生け簀が残らず木っ端微塵となり海水が噴き出して――
御坂は一階全てを浸水させる海水に右手をついて電撃を浴びせ、水槽の魚全てを焼き殺し結標を狙い撃つ!
しかし結標は電撃使い相手に水場に立つ愚行を犯す事をよしとせず、帝都タワー二階部分へ座標移動し……

結標「いらっしゃい御坂美琴!最初で最後の殺し合い(デート)よ!たっぷり殺(あい)し合いましょ?」

御坂「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!」

御坂は三発目のレールガンを放って帝都タワー全体を揺るがせ、ぶち抜いた風穴から二階へと躍り出る。
これほどまでの殺意を抱いたのは一方通行をおいて他ないまでだった。そんな御坂が二階へ飛び出すと。

ザクッ

御坂「!?」

心臓スレスレの左肩を、帝都タワーのミニチュア模型が貫いた。

309 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:06:06.09 ID:ex8EjrVAO
〜1〜

結標「正直者は馬鹿を見るわよ?」

御坂「!?」

結標「――貴女に石を投げられた私のようにねええええええええええええええええええええ!!!!!!」

御坂が見開いた目に飛び込んで来るは、マクドナルド帝都タワー支店に置かれた椅子、机、ドナルド。
風穴から飛び出して来るのを先読みされ殺到するそれらを、御坂は筋電微流と電気信号を操作して――
机を潜り抜け、椅子を蹴って加速し、ドナルドを踏み台に、カウンターに腰掛けた結標へと加速する!

結標「!?」

御坂「だったら……」

結標「しまっ……」

御坂「――何で黒子に手を出したあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

そこから繰り出される紫電を纏った右ストレートが弾丸のように結標へと突き刺さり、ガラスが割れる。
文字通り鼻っ柱を折られ吹き飛ばされた結標は似顔絵コーナーまでノーバウンドで叩きつけられて行く。
バラバラと展示されていたイラストや色紙が雪崩のように落ち、仰向け寝に横倒された結標に被さった。

結標「がはっ……」

御坂「私もこの学園都市(まち)で、この世界で、色んなやつを見て来たわ……」

結標「……よくも」

御坂「……けどね、あんたよりクズな女なんてお目にかかった事ないわよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」

結標「よくも私の顔を殴ったわねええええええええええええええええええええ!!」

結標が軍用懐中電灯を振るい、御坂が超加速で駆け抜けた同時に頬がざっくりと座標移動された色紙で裂ける。
されど御坂は苦痛すら意に介さず結標へと飛びかかり、馬乗りになると裂けた頬から流れ出す血を右手で拭って

御坂「そんなに顔を殴られたくなきゃ!」

結標「がっ!?」

御坂「――しばらく表に顔も出せなくしてやるわ!!」

流血ごと握り締めた右拳で、鼻血を垂れ流す結標の鼻っ柱を殴る!殴る!!殴る殴る殴る殴る殴る!!!

結標「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!?」

対する結標も破れかぶれで下から振り上げた軍用懐中電灯で御坂の左目を潰さんばかりに突き上げて行く。
眼球破裂や失明こそ免れたものの、片目の視界が完全に塞がれ血涙を流して絶叫する御坂の下から――……

結標「くっ」

結標が座標移動で三階へ逃げ出したのだ。
310 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:06:33.29 ID:ex8EjrVAO
〜2〜

結標「(来なさい、御坂美琴)」

御坂が身悶えしている間に、結標は三階にある蝋人形館より座標移動にてドールを至る所に配置し備える。
片目を潰し損ねたのは口惜しかったが、視界の片側を塞いだアドバンテージは大きい。故に結標は構える。
この3Dアトラクション『スペースワックス』の暗がりに身を潜め、止まらない鼻血を押さえて息を殺す。
口呼吸しか出来ずとも、御坂の身体にコルク抜きを突き立てる様を思えば息巻く猛々しさとて抑えられる。

結標「(私は貴女を許さない)」

もしあの病院にて行き違いがなければ、二人は白井が間に立って手を取り持つ未来があったかも知れない。
もし三人にすれ違いがなくば、誰の血や涙も流れない、最高のハッピーエンドを迎えられたかも知れない。
だがそうはならなかった。過去にIF(もし)はなく、もし(IF)は未来にしかない。そして現在も――

コツッ、コツッ、バリッ!

結標「(馬鹿ね!!)」

暗闇の中にあって爛々と赫亦を宿した結標が眦を決した先には御坂美琴。
それもダミーの蝋人形に向かって電撃を放った直後の、がら空きの背中!
迸る紫電に浮かび上がった後ろ姿へ向かい、結標がコルク抜きを放ち――

カランッ

結標「!?」

そのコルク抜きは御坂の体内に深々と突き刺さったにも関わらず、乾いた音を立てて床面に落下して行く。
すると御坂の後ろ姿がこの暗闇にあって幽霊のようにすうっと掻き消え、結標が決した眦を見開いた直後に

御坂「――あんたに出来る事なんて――」

結標「?!」

御坂「闇討ち紛いの騙し討ちでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

結標「がああああああああああ!!!!!!」

暗闇を塗り潰すような閃光と共に、結標は背後から軍用懐中電灯を振るった右腕に電流を流され絶叫する。
そう、御坂は潰された片側の視界を捨て、電磁波で空間把握してスペースワックスへと潜入していたのだ。
それもスペースワックスのアトラクションを利用した立体映像で結標をおびき寄せ、生じた間隙を縫って。

結標「御坂美琴ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

御坂「結標淡希ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

右腕が使い物にならないほどの電撃を浴びせられて尚、結標は死力を尽くして座標移動にて再び遁走する。

四階のゲームコーナーを横切り

五階のラジオ発信所を突っ切り

屋上遊園地へ直走って行き――

311 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:07:03.28 ID:ex8EjrVAO
〜3〜

結標「貴女がいるから!!!!!」

御坂「あんたさえいなければ!!」

結標・御坂「「黒子は私(あんた)のものにならない(させない)!!!!!!」」

ゴーカートを座標移動させてぶつけんとする結標、ジェットコースターを無理矢理電撃で起動させる御坂。
レールごと吹き飛ばすように転移させる物体を、疾走するジェットコースターに立ちながらかわす御坂。
砕け散る機関車とゾウのゴーカートの部品が舞い、御坂がジェットコースターの頂点から飛び降りて――

御坂「あんたなんて死ねばいい!!!!」

結標「貴女だけは殺す!!!!!!!!」

御坂・御坂「「黒子は私が取り返す(奪い取る)!!!!!!」」

御坂が空中から飛び蹴りを喰らわせ、結標が吹き飛ばされながらシマウマのオブジェを横殴りにぶつける。
結標が血と共に砕けた奥歯を吐き出し、御坂が横合いからの衝撃でファーストフードのテントに突っ込む。
だが結標は座標移動が転移出来る最大重量の物質を呼び出し、御坂も最大火力のレールガンを呼び起こす!

結標・御坂「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」」

屋上遊園地の地面がレールガンで吹き飛ばされ、ガラスの広場の硝子が座標移動で砕け散り、衝撃が吹き荒れる。
帝都タワー全域が怖憚り戦慄くように身震いし、白煙が立ち上り、月光が射し込む中にあって勝敗が分かたれる。

結標「ぐっ……」

結標が限界に達し膝から崩れ落ちて前のめりに倒れ込んだのである。如何にして搦め手を用いようと――

御坂「――――――」

レベル4とレベル5の自力の差は天地より厚く高い紙一重であった。しかし御坂の怒りはおさまらない。

御坂「まだ殺されないとかタカくくってる?」

愛する後輩(しらい)を破壊され、恋する英雄(かみじょう)を喪失させられ、それを行った結標を……
その罪を許せるはずもなく、その罰を赦せようはずがない。結標が現れてから御坂の世界は狂わされた。
大事な白井が、大切な上条が、結標の魔性に引きずり込まれたかのようにしか思えないのだ。そしてまた

結標「――いいえ、腹をくくったわ」

御坂「!?」

結標も――
312 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:09:14.63 ID:ex8EjrVAO
〜4〜

その一瞬の間隙を、刹那の座標移動(はり)が縫って御坂の左足首から下が屋上遊園地の地面に埋没した。

御坂「なっ!?」

結標「殺し合いの最中にズレた能書き垂れてんじゃないわよ!」

ひび割れた地面から足を抜かんとし、ベリベリゾルゾルブチブチと皮膚が根刮ぎ引き千切れる音と共に

結標「――晩ご飯、何食べた?」

へたり込んで身を捩る御坂の腹腔に、結標の爪先が突き刺さる。

御坂「がはっ!!?」

結標「私“達”はね……マスクメロンサンドよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

二度、三度、四度五度六度七度七度七度七度七度、結標の蹴り上げが腹腔を穿って御坂が激しく嘔吐する。
ファミレスで頼んだBLTサンドのパンの残骸ごと結標が踏みつけ、吐瀉物に血が混じるまで踏み潰し――
吐く胃液がなくなるまで、上げる悲鳴すら枯れるまで、サディスティックな哄笑と共に御坂を踏み殺さんと

御坂「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

結標「ぐぼっ!?」

振り上げた足を引きずり込むようにして電撃を流し、結標が昏倒し御坂が血塗れの足を引きずって――

御坂「――これ、効くわよ」

結標の上に馬乗りになり、喉を潰すように首を折るように絞めながらバリバリバリ!と電撃を流して行く。

結標「うぐ、あっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

内臓に傷がつくまでの蹴撃を浴び続け威力こそ下がったものの、人体を破壊するには十分過ぎる電撃が――
結標の全身を走り四肢を蝕み、痙攣のようにびくつき、口から血の混じった泡を吹き、白眼を剥いて叫ぶ。
バチバチと弾ける火花に合わせて白く剥かれた左目が内出血し、ジョロジョロとミニスカートが濡れ出す。
失禁し、尿にまみれバタつかせる足が伸び、震え、五指が内側に巻くようになり失神しつつある意識が――

御坂「……黒子を壊したのはこの指かあああああああああああああああああああああああああー!!!」

結標「ぎいやあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

ブラックアウトしホワイトアウトする中、立ち上がった御坂が結標の右手人差し指と中指をヘシ折った。
ベキバキビキと尺骨まで踏み抜く勢いで靴底を食らわせ、泣き叫ぶ結標が自分の漏らした尿の中崩れ落ち

御坂「!?」

たその瞬間

313 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:10:57.99 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 御 坂 の 頭 上 に タ ン ク ロ ー リ ー が 降 っ て 来 た 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
314 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:11:23.86 ID:ex8EjrVAO
〜5〜

御坂「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

御坂はほとんど条件反射でコインを握り、脊髄反射でレールガンを放ってタンクローリーを撃ち抜いた。
同時に内部の石油に引火し、空中で爆発し、四散したパーツと飛散した火の玉が屋上遊園地に降り注ぐ。

御坂「なっ……」

???「ファインプレーねぇ?みぃーさぁーかぁーさぁーん」

そこへ轟ッッ!と帝都タワー下方より船影を描き低空飛行から炎の上昇気流を受けて浮上する『飛行船』。
火の海と化した屋上遊園地にて立ち尽くす御坂を見下ろし、飛行船のブリッジから嘲笑うその声の主は――

御坂「食蜂操祈!?それに……」

佐天「御坂さん!逃げて!!」

御坂「佐天さん!!!!!!!」

レベル5第五位にして常盤台の女王、心理掌握(メンタルアウト)と後ろ手に縛られ甲板に跪かされた佐天。
如何なる演算より複雑なと事態の混迷さに御坂の思考が追いつかない。しかし食蜂はお構い無しにリモコンの

食蜂「もう良いわよぉ?上がって来てぇ」

婚后「承リマシタ」

固法「承リマシタ」

御坂「!?」

ボタンを押すと、飛行船から固法が飛び降り、地上からは『空力使い』でタンクローリーを飛ばした婚后が。
それぞれ着地し飛翔し、燃え上がる帝都タワーと火の海と化した屋上遊園地にて御坂へ遠巻きににじり寄る。
この時、御坂の思考は混乱を極め理性は混沌の直中に叩き込まれた。何故二人が大覇星祭の時をなぞるように

食蜂「嗚呼、あのフラワーロック頭の娘は管制室よぉ。ウィザード級ハッカーにしか出来ない事あるしぃ」

御坂「どう……いう」

食蜂「――いらっしゃぁい」

それに加え、食蜂が指をパチンと鳴らすと

白井「承リマシタ」

御坂「――黒子」

食蜂「――うん、やっぱりねぇ♪ずっと前から思ってたんだぁ」

御坂が見た事のない喪服のように黒いコルセット付きワンピースを身に纏い、髪を下ろした白井が――

食蜂「んっ……」

御坂「ああ……」

食蜂にせがまれるままキスし、それを御坂に見せつけるように

食蜂「――貴女には“黒”が似合うって」

食蜂が向き直り、混乱と絶望の最中にいる御坂へと微笑んで

食蜂「……メリークリスマス」

白井が『Equ.DarkMatter』の仮面を被った

315 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:11:52.93 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「メリークリスマス、ミスターローレンス」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
316 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:12:28.62 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T . 1 1 「 白 き 聖 痕 、 赤 き 血 痕 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
317 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:14:51.58 ID:ex8EjrVAO
〜6〜

御坂目掛けて『Equ.DarkMatter』の仮面を被った白井が飛び出し、固法が駆け出し、婚后が撃ち出し――
食蜂が高笑いを、佐天が悲鳴を上げるのが同時だった。この瞬間をもって、帝都タワーは戦場と化した。
燃え盛る遊園地、燃え上がる旧電波塔、夜の帳を焼き尽くす火蓋が切って落とされ、食蜂が手を翳した。
歌劇を歌い上げるように、楽団を指揮するように、女王が命を下すように采配(リモコン)を振るった。

佐天「やめて!どうして、どうしてこんな事が出来るの!!?」

食蜂「――“クリスマスプレゼント”を横取りされたからよぉ」

佐天「!?」

後ろ手に手錠をかけられ甲板に転げる佐天に小首を傾げ、食蜂はキョトンと目を丸くする。まるで――……

食蜂「昨夜ねぇ?あの案内人と風紀委員がサンタとトナカイからプレゼントを奪ったのぉ。だ・か・らぁ」

佐天「――――――」

食蜂「それを取り戻すには御坂さんかあの花飾りの子みたいな“ウィザード級ハッカー”の力が必要なの」

佐天「………………」

食蜂「地下銀行に眠る“負の遺産”を手に入れるための、百桁以上のパスワード力を解読するのにねぇ?」

自室に一人でいる時の人間と、何一つ変わらない表情(かお)で食蜂は語る。この場に姿を現した理由を。
それは海原が追い続け、結標も協力し、白井が昨夜帝都ドームで取り押さえた金庫番のみが知る暗証番号。
昨日の今日の出来事の上、白井の件に絡んで初春は御坂の側からつかず離れず、タイムリミットも迫り――
業を煮やした食蜂自ら戦場に赴いたのだ。この帝都タワーで起こり得る全てを『掌握』した上で奪うために

食蜂「私の縄張り(テリトリー)を土足で踏み荒らしたあの二人と御坂さんが潰し合う事で生まれた隙に」

クリスマスキャンドルみたいと、燃え盛る帝都タワーを舌舐めずりしながら食蜂は自らの右胸を慰める。

食蜂「金庫破りのハッカーも手に入って、クリスマスプレゼントも取り返せてぇ、鬱憤晴らしも出来てぇ」

結標の愛憎、御坂の絶望、リモコン一つで狂わされる仲間との絆、壊れていく御坂の思い描く世界を――

食蜂「嗚呼☆さっきのキスで子宮がズキズキ疼いて、もう下着ビショビショ乳首コリコリして来ちゃう♪」

食蜂はアリを踏み潰す時の子供と同じ眼差しで見下ろしていた。

318 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:15:39.98 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

食蜂「――本当は御坂さんが良かったんだけど、たまには他の女の匂いがする娘ってのも悪くないわねぇ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
319 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:16:06.19 ID:ex8EjrVAO
〜7〜

初春『大展望フットタウン、ルート66通過シマシタ』

婚后「了解」

固法「了解」

白井「了解」

御坂「(振り切れない!監視システムまで乗っ取られてる!)」

屋上遊園地より大展望フットタウンへ駆け上がる御坂を、洗脳された初春のナビを受けて三人が追跡する。
御坂は生き残った左目で監視カメラを確認するが、それを壊して回る暇さえ与えられない。何故ならば――

婚后「捕捉シマシタ」

御坂「っ」

轟ッッ!とフットタウンカフェに置かれた椅子、テーブル、棚の全てが『空力使い』で飛来して来るのだ。
誘導ミサイルのように放たれたそれを御坂は電撃によって振り向きざまに撃墜し、爆ぜて焼け落ちる中――

固法「捕捉」

白井「捕捉」

巻き起こる白煙を突っ切り、白井の空間移動を受けてテレポートした固法が御坂の前へ躍り出て――
途中の土産物屋で手にした木刀を、最も回避し辛い横薙ぎに振るい、振り向き晒した横腹目掛けて。

ゴキャッ!

御坂「……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

防ごうとした右腕をヘシ折り、肋骨に罅が入り、木刀が木っ端微塵に砕け散り御坂が末魔を断たれた。
ウィザード級ハッカーたる初春、近接戦闘のみなら御坂すら上回る固法、そして白井の風紀委員三人。
加えて雷神と呼ばれる自分に対し風神と謳われる婚后の四人を相手取るにはあまりに余りに分が悪く。

御坂「(みんなを傷つける事なんて)」

婚后「捕捉」

御坂「(出来ないわよ!!!!!!)」

よろめく御坂が苦痛以外に流す涙さえ忖度する事なく、婚后は特設ステージに並べられた椅子全てを――
轟ッッと『空力使い』で更に矢継ぎ早に放ち釣瓶撃ちで御坂を狙い、残った左腕から電撃を放たんと……

御坂「うああああああああああああああああああああ!!!」

白井「!」

下界を見下ろせる足元のルックダウンウィンドウへ雷撃の槍を放ち、強化硝子の床面を砕いて落下し――
すぐさま磁力の吸着力と反発力を利用し御坂は帝都タワー鉄骨部を蜘蛛のように飛び跳ねて更に上階へ。

固法「――初春サン」

初春「承リマシタ」

そして四人もまた御坂への追跡を続行する

320 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:18:46.96 ID:ex8EjrVAO
〜8〜

御坂「ここも塞がれてる……」

一階分の電磁力しか維持出来ないほどのダメージを負わされた御坂は、逃げ込もうとした帝都タワー神宮前にて……
管制室の初春が封鎖したであろう防火扉とシャッターに立ち往生させられ愕然とした。しかしそれはとりもなおさず

御坂「(……どうしてこんな事に……)」

鉄扉を打ち破るべくレールガンを放たんとする御坂を打ちのめすは、志を同じくした仲間に追われるという絶望。
御坂以上に仲間のスペックと帝都タワーのシステムを把握し、悪魔的な戦術眼で追い詰めて来る食蜂の妄執にだ。
第四位でも第五位でも、御坂の『敵』では勝てぬならば『味方』に殺させようと言う発想そのものが狂っている。


だが


固法「発見」

白井「捕捉」

御坂「――!!?」

御坂のレールガンが神宮の社ごと鉄扉をぶち抜いた矢先、空間移動で追って来た固法と白井が襲い掛かる。
右から固法の裏拳が、左から白井の肘鉄が御坂の顔面を挟撃し血飛沫が舞う。脱出口を手にした矢先にだ。

固法「捕獲」

御坂「ぐっ」

白井「捕獲」

御坂「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」

神宮を抜けさせまじと固法が御坂の首を裸締めにし、白井が折れた右腕を更に逆方向に捻り捕縛する。
気が狂いそうな御坂の首をヘシ折らんとする固法、取り押さえんとする白井、洗脳されて尚あまりにも

御坂「……ごめん!!!!!!」

固法「!?」

風紀委員の組み手に則った動きに御坂は塞がった視界から血涙を流し、二人に電撃を放って吹き飛ばす!
されど気絶したのは固法のみであり、『Equ.DarkMatter』の仮面で電撃を防ぎ切った白井が再び構えた。
傷心の中、元気一杯という笑顔の『仮面』を被り続け健気に振る舞って来た白井が今、御坂に向かって。

御坂「やめてよ……」

白井「オネエサマ」

御坂「……もうやめてよォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

デスマスクのような仮面を被り、葬列を率いる寡婦の喪服を思わせるワンピースに身を包んで襲い掛かる。
御坂という『光』を求めるように、結標の搦め手で繭にくるまれ、食蜂の魔手で羽化を迎えた白井は今――
『Equ.DarkMatter』の穢翼を広げ禍々しくも不吉な髑髏の紋様を背負う骸骨蛾(メンガタスズメ)となる。

婚后「ミサカサン」

御坂「――――――」

婚后「オトモダチニナリマショウ」

更に――
321 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:19:13.64 ID:ex8EjrVAO
〜9〜

白井「オネエサマ」

婚后「オトモダチニナリマショウ」

ゴバァッ!と特別展望台への階段を駆け上がる御坂を、婚后は整備用のクレーンを『空力使い』で狙う。
御坂の後塵に拝する階段が次々崩れ落ち、御坂は涙を振り切るように折られた右腕を庇いながら考える。
もうこれ以上身体が持たない、精神が保たないと帝都タワーに上がる火の手から皆を救い出すにはと――

佐天「御坂さん!!」

御坂「佐天さん!!」

御坂が目をつけた先、それは皆を操っている食蜂、人質に取られている佐天がいる眼下の飛行船である。
そこで御坂は粉微塵になった鉄製の階段から舞い上がる破片と砂鉄を電磁力で操作し、下階から狙い撃つ

御坂「……ごめん婚后さん!!!」

婚后「!」

婚后の頭部を除いた全身を石膏のように固めて封殺する。固法を気絶させるに留めた電撃すら使いたくなかった。
そして御坂は特別展望台の頂上より崩れ落ちるクレーンの先端から飛び降り、飛行船の屋根へと転げながら着地し

白井「オネエサマ」

御坂「……黒、子」

白井「オネエサマ。オネエサマ。ワタクシヲヒトリニシナイデ」

白井もまた炎上する帝都タワーから空間移動で旋回する飛行船に飛び移り、二人は三日月の下再会した。
御坂はもはや滂沱の涙を留める事が出来ない。数日で狂わされた白井との絆、数分で壊された皆との紲。
結標に石を投げた事により生まれた愛憎か、食蜂を打った事により強まった妄執か、あるいは御坂自身の

御坂「ごめんね……」

白井「オネエサマ」

御坂「今、助けてあげるからね……」

誰かを守りたいという願い、救いたいという祈り、仲間との絆、揺るがぬ正義こそが御坂を殺すのだと。
食蜂の嘲笑う声が遠くに聞こえるようだった。リモコン一つで、ボタン一つで歪む陳腐でチープな絆と。
結標の愛憎も、御坂の正義も、白井の思慕も、皆の絆も、食蜂の妄執が全てを呑み込み喰らい尽くし――

白井「――オネエサマア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ー!!!!!!」

御坂「……黒子オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!」

白井が飛びかかり、御坂が生き残った左手に紫電を纏わせ貫手を放つのと同時に――

初春「承リマシタ」

食蜂に操られるまま、初春が管制室にて帝都タワー放送電波を介して飛行船を操作する周波数を変えた。

322 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:20:16.14 ID:ex8EjrVAO
〜10〜

白井「!」

御坂「(仮面が邪魔して電撃が通らない!?)」

気絶させる程度の出力では『Equ.DarkMatter』の防壁を破る事は出来ぬまでも、御坂の貫手を受けて白井が吹き飛ばされたが

シュンッ

御坂「!!?」

白井「ワタクシヲアイシテ」

ドゴォォォォォ!と空間移動で懐までテレポートした白井の靴底が御坂の顎先を砕く勢いで放たれた。
たまらず蹈鞴を踏みよろめくも、飛行船上に吹く気流が追い風となり御坂は辛うじて落下を免れるも。

白井「ワタクシヲヒトリニシナイデ」

御坂「黒」

ザクッ!と空中からの金属矢が御坂の左鎖骨を穿ち抜き、更に踵落としでねじ込まれて開放骨折し――
舞い散る血飛沫が落ちるより早く、白井が御坂の顔面を掴んで屋根に穴を空ける勢いで叩きつけて行き

御坂「うわああああああああああああああああああああ!!」

佐天「御坂さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

風穴の空いた飛行船の屋根から突き落とされ、御坂は拘束された佐天の直ぐ側へと叩き付けられて行った。
食蜂の姿は既に消え、御坂は激痛に金切り声を上げてのたうち回り、佐天が泣き喚き、白井が着地して――

白井「タスケテ」

バサッと『Equ.DarkMatter』の穢翼を広げ、血を流す御坂と涙を流す佐天へとにじりよって行く。
佐天は知っている。既に食蜂はパラシュートで脱出している事を。御坂は知らない。この飛行船が

白井「タスケテ」

御坂「黒……子」

帝都タワーに激突するよう、管制室にて初春が周波数を変えて自動操縦のコースを変更している事が。
白井にはわからない。目の前の御坂が大切なお姉様だと。目の前の佐天が大事な仲間だとわからない。

白井「――ワタクシヲヒトリニシナイデ」

振り上げる『Equ.DarkMatter』の穢翼が断頭台の刃が如く迫り

佐天「――!!!」

佐天が身をよじって御坂を庇おうと飛び出したその先にて――

ザクッ

御坂「――――――」

上がる血飛沫が禍々しいまでに無垢な穢翼を血に染めた先……

「……がはっ」

御坂を庇うのではなく『白井に御坂を』殺させないために両腕を広げて胴を刺し貫かれた『少女』が

「――そんな仮面を被らなくったって」

血塗れの左手を伸ばし『座標移動』で『Equ.DarkMatter』を引き剥がすのと同時に

「……知ってるわよ」

飛行船が帝都タワーに激突した
323 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:22:53.98 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――――不出来な貴女の素顔(なみだ)くらい――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
324 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:23:54.38 ID:ex8EjrVAO
〜11〜

夜の帳が爆発炎上する飛行船によって火蓋を切って落とされ、天地を揺り動かす激震が帝都タワーに走る。
同時に閃光が迸り、甲板から投げ出された佐天の左鼓膜が爆音により破裂し、御坂が背中から落下して――
結標が衝撃により気絶した白井を左腕で抱きかかえながら飛び出した鉄骨に御坂に焼かれた右腕で掴まる。
帝都タワー半ばまで突き刺さった飛行船によって、内部が崩落を始め、外部から炎上し、倒壊寸前に陥る。

御坂「ううっ……」

結標「がはっ……」

御坂「黒子……佐天、さん……」

佐天「え……?え……?」

阿鼻叫喚の地獄絵図と化した帝都タワーの赤と白に塗装された外壁部へと御坂が左腕一本で這いずって行く。
腕に硝子や破片を食い込ませ、腕一本で鉄骨に掴まり、腹部から夥しい出血を流しながらも白井を抱える――
結標の元へと。そして結標もまた、同じテレポーター同士転移さえ出来ない白井を死に物狂いで押し上げる。

御坂「黒、子……」

結標「っ」

佐天「ああ、ああ」

踏み潰された芋虫のように這う御坂が腕を伸ばし、佐天も手を伸ばして結標が押し上げる白井を引き上げる。
結標は口から吐き出し損ねた血を垂れ流しながら白井を引き渡すと、そこで御坂に焼かれた右腕の限界が――

御坂「あんたも……」

結標「ご、ぼっ……」

御坂「掴まって!!」

佐天「結標さん!!」

訪れる刹那、御坂の左腕が結標の右胸を掴む。しかし開放骨折した左鎖骨から激痛が走り力が入らない。
固法の木刀で折られた右腕では使い物にならない。そして白井を抱えた佐天が叫ぶのと同時に結標は――

ザクッ

御坂「!?」

結標「――貴女の助けを借りるくらいなら、死んだ方がマシよ」

最後の力を振り絞った座標移動で御坂の左手に聖痕を刻むようにコルク抜きを突き立てた。それと同時に――
御坂と結標の引き離された手と手の間に燃え盛る鉄骨が降り注ぎ、結標が掴まっていた鉄骨がバランスを崩し

御坂「待っ……」

結標「ここは貴女の思い描く身勝手な世界の終わり」

佐天「あっ――」

結標「ここが私の生きてきた血深泥の世界の果てよ」

白井「――――――」

結標「正義の名の下に人を傷つける貴女だって、所詮は私と同じ側の人間よ」

翼をもがれた大鴉のように

結標「―――貴女なんかに私の世界は“救わせない”――――」

結標が煉獄へと堕ちて行く

325 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:24:20.43 ID:ex8EjrVAO
〜12〜

彼方に見えるクリスマスツリーのネオンが窺え、学園都市の夜景が一望出来る帝都タワーから――
結標は重力の虹に引きずり込まれるように火の海と夜の闇の中へと勝ち誇ったように堕ちて行く。
見る見るうちに泣き叫ぶ御坂の表情も悲鳴も遠ざかる中、結標は最後の最期までただ一人の少女を

結標「――解き放ってあげるわ“黒子”」
御坂へ歩み寄る事も、話し合う事も、分かり合う事も、結標は何一つ望まない。代わりに想う事は――
逃れようもない終わりと避けようのない死の中、結標は自分の腹部を抉った白井を思い浮かべていた。
佐天、初春、固法、婚后とたくさんの人々が迎えに来るほど皆に愛される白井(もうひとりのじぶん)。
自分という檻に囲おうとしてもただ白井を傷つけ壊すだけだと。そして何より結標にとって白井は余りに

白井『もうこれ以上この方を傷つけないで下さいましお姉様!!悪いのはわたくしなんですのよ!!!』

眩しかった

白井『……ただ、さようならだなんて仰有らないで下さいませ。“またね”、と仰有って下さいまし』

優しかった

白井『あら、手はあったかいクセして寒がりなんですのねー?』

あたたかかった

白井『……もう一つくらい貴女からつけられた傷が増えたって』

美しかった

結標「……ねえ」

そう、白井が結標に依存していたのではない。結標こそが白井に依存していたのだ。離れがたいまでに。
そう、結標が白井を捕らえていたのではない。結標こそが白井に囚われていたのだ。分かち難いまでに。

白井『――そんな事、最初から全部知っておりましたのよ――』

結標「……そんな貴女でも、これだけは知らなかったでしょ?」

帝都タワー上空から滑降して来るヘリを見上げ、数秒後に恋獄に灼かれた結標を焼く煉獄を見下ろした。
血の赤、炎の紅、髪の朱を広げながら、結標は愛おしそうに夜空に浮かぶ三日月へと両腕を伸ばして――

結標「――……って」

涙に彩られた笑みを浮かべながら、三日月に住まうと言われるウサギを抱くように結標は堕ちて行く。

結ばれぬと相手だとわかっていて

標に導かれるようにして再会した

淡い恋心を抱いた少女の微笑みを

希わずにいられないほど、結標は

326 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:24:48.06 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「私が、貴女のこと好きだったって」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
327 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:27:13.01 ID:ex8EjrVAO
〜13〜

御坂「………………」

佐天「御坂、ひゃん……」

御坂「――――――」

佐天「御坂さん、ひっかりしてえ!!!」

結標の最後の言葉に完全に、最期の微笑に完璧に、御坂の心は芯からヘシ折られた。その傍らで――
左鼓膜が破れ、声量と呂律の利かない佐天が白井を負ぶりながら、へたり込む御坂の手を引いても。

佐天「まだ固法さんが!初はふが!!婚后ざんが!!!」

御坂「……私のせいだ」

佐天「みらかさん!!」

御坂は立ち上がれない。自分の世界が、自身の正義が、この惨状を引き起こしたのだと笑う結標に。
御坂は立ち直れない。上条を失い、仲間に殺されかけ仲間が死にそうな地獄を作り出し嗤う食蜂に。



――――だがしかし――――



ショチトル「もっとだ!もっと寄せるんだ!!エツァリ!!!」

佐天「あらたは!?」

ショチトル「!!?」

海原「御坂さん!!皆さん、早く!!!」

御坂「……――海原光貴!!?」

トチトリ「とんだリハビリだ。フレジェ一つが実に高くついた」

火の手に囲まれ特別展望台に取り残された三人の頭上に、海原の操縦するヘリが突如として舞い降りた。
その中には意識を失った婚后、固法、そしてノートパソコンを失った初春が放り込まれて転がっている。
それにより佐天の目に見る見るうちに涙が溢れ出し、下ろされた縄梯子からショチトルが手を伸ばした。

御坂「どう、して……」

海原「詳しい話は後回しです!ショチトル!!トチトリ!!!」

ショチトル「私に命令するな!!」

トチトリ「(御坂美琴がいるからってあまりピリピリするな)」

ショチトルがまず白井を受け取ってトチトリに渡し、次いで佐天を抱き上げてヘリへと乗せて行く。
そして何故か御坂だけ乱暴にヘリに投げ込み、操縦桿を握る海原が焼け落ちる帝都タワーから離れんと

御坂「待って!結標淡希が!あの女がタワーから落ちたのよ!」

海原「……離陸、します!」

御坂「海原さん!!!!!!」

したところを御坂が食い下がるが、海原は苦渋に満ちた表情で歯を食いしばって離陸を強行する。そして

海原「彼女の意思を、意志を、遺志を汲んであげて下さい……」

御坂「えっ……」

海原「――御坂さん達を救うように自分に頼んだのは彼女です」

御坂「――――――」

帝都タワーが倒壊した。

328 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:27:45.71 ID:ex8EjrVAO
〜14〜

白井「んっ……」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!とヘリが離陸した直後に帝都タワーが倒壊し――
白井はその轟音の中で意識を取り戻した。ヘリの振動とタワーの激震に、たった今の今まで見ていた

白井「……あれ?」

佐天「気がつひましらは?」

白井「佐天さん!?それに……」

御坂「……黒子!?」

白井「お姉様!?皆様も何故ここに?!」

佐天「ごめんなはい、聞こえません……」

誰かに優しく抱かれて眠る幸せな夢から覚めた白井は御坂の膝から頭を起こすなりヘリ内を見渡し戦慄する。
自分達はホテルにいたのではなかったのか。何故ヘリで学園都市上空を飛んでいるのか理解が追いつかない。
ただわかる事は左耳から血を流し白井の言葉も上手く聞き取れない佐天、気絶している固法と婚后と初春……
加えて左目、左鎖骨から血を流し、右腕が不自然にぶら下がり、まとめて折られた肋骨を庇う御坂の惨状だ。

白井「一体何が……」

御坂「黒子」

白井「一体何が起こってるんですの!?」

御坂「落ち着いて黒子!もう、もう……」

白井「お姉様……」

ショチトル「――寝ていろ。お前も頭を強く打っているようだ」

トチトリ「(エツァリ、そっちは……)」

海原「――このまま冥土返しの病院に飛びます。白井さん……」

白井「!?」

海原「――お返しします」

その程度で済んだのは……と続く言葉をショチトルは寸でのところで飲み込んだ。何の慰めにもならないと。
だがそこで白井は気づく。海原がコード五十二に向けてかけていた白い携帯電話。その自分とお揃いの機種は

海原「……帝都タワーが引き起こした電波障害で自分の携帯が使えなくなりまして」

白井の心音が耳鳴りを引き起こすほど高鳴って行く。それは予兆であり予感であり、絶望への警鐘だった。

海原「彼女からお借りしました。ハンディアンテナサービスという物らしいですね」

そう、白井は気づいてしまったのだ。この場にいない携帯電話の持ち主に。そして見てしまったのである。

海原「……失礼ですが、待ち受け画面に彼女と、貴女が映っていたものでして……」

ペア契約の際、親友のように、姉妹のように、恋人のようにツーショットで結標と写った待ち受け画面に。

御坂「………………――――――」

御坂は結標の無言の愛情を感じ取った。

329 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:28:19.62 ID:ex8EjrVAO
〜15〜

ガチャン!

月詠「あっ、結標ちゃんの香水の瓶が!」

同時刻、月詠家に遊びに来ていた姫神は帝都タワー炎上のニュース速報から小萌の悲鳴へと振り返った。
そこには結標が纏うGUERLAINのアクア・アレゴリアの香水瓶が、倒壊の余波で棚から落ちて割れたのだ。
帝都タワーのある第七学区では衝撃が地震と誤認されるほど激しく、それは姫神達もまた同じであった。

月詠「あうー……何だかとっても不吉なのですよー。夜中にお茶碗が割れたり鏡が割れたりするの……」

姫神「非科学的。と言い切れないのが怖いところ。それより甘い匂いがすごい。窓開けないと。あれ?」

割れた香水瓶を片付ける小萌の傍ら、姫神が透明感が高くも甘ったるい香りを追い出すべく窓を開けた。
表の風車が何かを巻き込んで動作不良を起こしていた。それがパラシュートである事を姫神は知らない。

姫神「(風車までおかしくなってる)寒いけど。玄関を開ける。ちょっと空気を入れ換えないと酔いそう」

玄関を開け、姫神は外へ出る。帝都タワー方面の夜空は赤々と染まり、夕焼け空と見紛うほどであった。
姫神はその色合いに自分の事を『前世では恋人だったかも』とまで言ってくれた結標の髪色を思い出す。

姫神「雪?ううん。これは」

月詠「灰なのですよ。多分帝都タワーから飛んで来たのですー」

そして外に出た姫神が上向けた手のひらに、別れを告げに来たかのような雪を思わせる灰が一片落ちて来た。
同じく破片を拾い集めていた小萌も、一緒に落ちて来た香水の空箱を手にしていた。その表面に描かれた――
アクア・アレゴリア(水の寓話)シリーズのシンボルとも言うべき『蜂』の描かれた箱を。それはまるで……

姫神「何でだろう。もう。先輩に。会えないような予感がする」

最初からこの筋書きを暗示していたかのように、タロットカードの塔(タワー)が司る運命そのままに。
塔(タワー)、それは『アクシデント』『誤解』『緊迫』『災厄』『崩壊』『悲劇』を意味するカード。

『アクシデント』から始まった結標と白井の再会に

『誤解』した結標と御坂が啀み合い

『緊迫』する三者三様の祈念の果てに

『災厄』のように食蜂が全てを簒奪し

『崩壊』を迎えた帝都タワーにて

『悲劇』の聖夜が幕を下ろす――
330 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:30:01.34 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
食蜂「また遊びましょうねぇ?みぃーさぁーかぁーさぁーん☆」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
331 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:30:31.87 ID:ex8EjrVAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
同日、超音速旅客機により英国に発ったのを最後に上条当麻の足取りは完全に途絶える事となる――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
332 :>>1[saga]:2012/04/26(木) 20:31:28.90 ID:ex8EjrVAO
ACT.11しゅーりょー!


そして


次回で終わりー


どうしよっか?


じゃあの
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/26(木) 21:46:41.20 ID:GJfvN0bDO
幸福への道筋を見いだすことの出来る登場人物がひとりもいないっていう
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/26(木) 22:08:57.15 ID:GikmLi1Uo

みさきちマジ小悪魔…っていうか超ヤンデレww
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/26(木) 22:23:06.02 ID:9qlamf7Do
あわきんと佐天さんが幸せならそれでいい
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2012/04/26(木) 22:24:54.04 ID:RQXIHcXwo

黒子→←淡希
(?)↓

食蜂→御坂→上条→←禁書目録

エツァリ

ショチトル


……人間関係って難しい
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/26(木) 22:43:52.69 ID:5BaNw3zDO
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/04/26(木) 22:57:31.28 ID:Xi+7couj0
>>336
上条と禁書を両想いってのがしっくりこないんだが
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/04/27(金) 08:04:11.18 ID:rYsEQsGeo
それは個々人で違うし、あくまで336個人の見解でそ
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/04/27(金) 13:53:37.87 ID:FmqRiAXW0
あわきんには幸せになってもらいたい
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/04/27(金) 21:25:21.03 ID:dcAWgusao
上条さんヤリ逃げ?
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/28(土) 02:45:20.19 ID:8tsAWjDG0
まさかのあわきん死亡エンド?
ハッピーエンドはないだろうと読んでたけど、死亡エンドだとしたら、それはそれで予想外だったな。
完結間近っぽいし、とりあえず完結期待乙を>>1に。
343 :>>1[saga]:2012/04/28(土) 10:49:35.66 ID:J8VL3o1AO
>>1です。頑張って30日には投下出来るようにしますー(今日明日お出掛けなので)

タイトルだけ先に


ACT.12「白い弔花、赤いチョーカー」


じゃあの
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/28(土) 11:08:36.05 ID:dJRWW1pDO
気を付けて行ってらー
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/04/29(日) 04:59:13.00 ID:NBJuT5lA0
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/04/29(日) 13:56:31.02 ID:XRGw7Tlf0
続き楽しみにしてます
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 00:39:49.60 ID:q6sW2AFM0
乙。弔花ってことは結標は死亡確定かな?
どんなラストを>>1が描くのか、待ってるぜ。
348 :>>12012/04/30(月) 18:46:26.63 ID:pHlzW6yAO
>>1です。今夜に最終回投下しますー
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 20:54:47.14 ID:nVI/nQCIO
舞ってる
350 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:07:44.88 ID:pHlzW6yAO
〜1〜

結標『上条君、イギリスに行くそうよ?』

海原『………………』

結標『込み入った事情はわからないけど、随分と張り詰めてたわよ。御坂美琴と一緒にいる時よりずっと』

海原『何を仰有りたいんですか結標さん』

12月25日、帝都タワーへと向かう車中にて結標はウィンドウを滴り落ちる雨粒をなぞりながら――
ダウンした白井を膝枕しながら電話をかけていた。結標が上条と別れ、海原が御坂と出会した直後に。
しかし海原は電話越しに見て取れるほど、憮然とした表情を浮かべているのが見て取れた。それは……

海原『生憎ですが自分は彼に取って代わるつもりもありませんし、むしろ今彼に怒りさえ覚えていますよ』

結標『……わからないわね男の子って。まあ女の子みたいに面倒臭くない分まだマシかしらね。そうそう』

どういう事情があれ自分との約定を反故にした上条への、同じ女を愛した男としての失望と怒りであった。
結標もそれを感じ取り、前置きを打ち切るとすぐさまビジネスライクな口調に戻って帝都ドームの件を――

結標『貴方ももう知っているでしょうけど、今回の件の黒幕は心理掌握よ。金庫番が命欲しさに吐いたわ』

海原『存じていますが、生憎と金庫番は既に自分の手から離れていますよ。上層部のブレーンが預かると』

結標『雲川さんね。さっきもお褒めの言葉と報酬が振り込まれて来たわ。いらないって言ってるのに……』

白井が交戦している間に全てを吐かせた結標は考える。食蜂が何故数百億もの資金をかき集めているかと。
海原は答える。恐らくはアレイスター亡き後の上層部の暗闘に加わるためであろうと。その最終目的は――

海原『ふふ、何なら自分にも何かお礼をさせて下さい。これからの事もありますし、長いお付き合いをと』

結標『私は私の尻を拭っただけ。だいたい土御門といい貴方といい、腹を割っても真っ黒じゃないの……』

御坂を手に入れるためだと海原は睨んでいた。それも大覇星祭の時のような『ごっこ遊び』ではなく……
謀略渦巻き暴力逆巻く血深泥の世界へ引きずり込むためだろうと。それが何に起因するかはわからないが

結標『まあ良いわ。私が何か困った時にでも手を組んでくれたら。もちろん、利害関係が一致した時ね?』

その底知れぬ妄執と計り知れぬ奈落を、二人同時に振り仰いだ帝都タワーにて数時間後に思い知らされた。

351 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:08:39.45 ID:pHlzW6yAO
〜2〜

御坂「………………」

白井「………………」

海原「(約束は果たしましたよ。最低最悪のタイミングで)」

12月25日深夜、帝都タワーからの脱出行により生還を果たした面々は当然ながら入院を余儀無くされた。
特に左目、左鎖骨、左足、右腕、右肋骨に多大なダメージを受けた御坂は絶対安静状態であった。それに加え

初春「シュー……シュー……」

佐天「初春……」

ショチトル「私が見ていてやるから少し休め。お前まで倒れる」

中でも初春は洗脳されていたため逃げ遅れ、一酸化炭素中毒に陥り、一度は目覚めたが再び昏睡に陥った。
ハッカーとしての手腕を悪用され、数百億円にも上る『負の遺産』を食蜂に手に渡してしまった事から……
風紀委員として治安を守るために手にした力でタワーを、飛行船を破壊させられ心が完璧に折られたのだ。

固法・婚后「「………………」」

固法もまた洗脳されていた時の記憶があるのか、その自責の念たるや今にも死を選びかねないほど深かった。
御坂の右腕と右肋骨を風紀委員の捕縛術で粉砕した事、皆を守れなかった事、その全てが重くのしかかった。
婚后もまた御坂を傷つけた時の記憶が蘇り、常盤台で初めて誼を結んだ御坂への慚愧の念に満ち充ちていた。

白井「……佐天さん、婚后さん。ここはわたくしが看ておきますので一度お帰りになって休んで下さいな」

佐天「え?」

婚后「白井さんこそ横になられた方がよろしいですわ。ここはわたくし婚后光子に……お、任、せを……」

佐天もまた左鼓膜が破裂し耳が遠くなり、固法は電撃により一時的な四肢麻痺。無事なのは婚后のみだ。
白井とて未だ熱が引かず、加えて御坂の重体と結標の死を受け精神は既にズタズタに引き裂かれていた。
声を震わせて涙を流し白井の手を握ったまま膝から崩れ落ちる婚后を背に、海原は先に病室を後にした。

海原「……頼みますよ、本当に……」

全ての隠蔽工作は雲川がやり終えてくれており、海原は皆が詰めている病室から遠く離れた棟にて――
壁を殴る。思いっきり殴る。血が出るまで殴る。拳が壊れようとも構わないと殴って殴って殴り続け。

海原「何をやってるんですか、上条当麻」

ただ一度だけ、海原光貴ではなくただ一人のエツァリとして。

海原「――今ここにいて良いのは“俺”じゃねえだろうが!!」

素顔(ほんね)をさらけ出した。

352 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:09:08.83 ID:pHlzW6yAO
〜3〜

土御門「そうか、やはりそうなるか……」

ステイル『“一人目”の、僕や神裂を向こうに回した“上条当麻”は彼女を見捨てられなかったようだね』

土御門「……インデックスは何だって?」

ステイル『“私を孤独(ひとり)にしないで”、だそうだ。彼が学園都市に戻る事は二度とないだろうさ』

土御門「………………」

ステイル『上条当麻なら今口がきけないよ。あの神裂が珍しく激怒してる。理由は言わなくてもわかるね』

一方通行「………………」

同時刻、土御門と一方通行は倒壊した帝都タワーと程近くにある帝都ドームとを結ぶ地下道を歩いていた。
そこは白井が暗部と会敵した場所から一本外れた地点にある、帝都タワーの電気通信ケーブル保守地下道。
有事の際は学園都市上層部が避難経路としても使う広大な通路の中、土御門が携帯電話の通話を打ち切る。

一方通行「……聞くつもりはなかったが」

土御門「………………」

一方通行「オマエがここンとこ雲隠れしてた理由はそれか?」

土御門「そう言う事だ。学校には特別公欠で通しているがな」

一方通行「………………」

土御門「何か伝えたい事でもあったか?一言くらいなら――」

一方通行「ねェよ」

土御門「………………」

一方通行「大の男が全部投げ捨てて出てったンだ。それを外野が今更どうこう言うのは筋違いだろうが」

一方通行の杖が鳴らす音と土御門の靴音のみが響き渡る暗く冷たい地下道。白井が影だけ踏んだ闇の深奥。
一方通行とて知っている。上条と御坂が付き合っていた事を。だがそれがどうしたとばかりに切り捨てた。
例え土御門がイギリス清教側の利のためにインデックスを利用し上条を囲い込んだとしても驚きはしない。


だが、そこで


土御門「!?」

薄暗い地下道にあって更に暗色を極めたサングラス越しでも目の色を変えて見開く土御門が身構え――

一方通行「?!」

学園都市の、世界の闇さえ見飽き果てた一方通行が即座に電極スイッチを押して臨戦態勢に入るほどの

一方通行「……なンで“アイツ”がここにいる?」

土御門「――お前にも見えたか一方通行。今のは」

一方通行「あァ」

『最高の科学者』の、『最悪の魔術師』の、『最低の人間』の白影が二人を導くように姿を現して――

353 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:11:54.13 ID:pHlzW6yAO
〜4〜

白井「……お姉様」

御坂「………………」

それより数時間後、白井は個室に移され眠りに就いた御坂のベッド側に椅子を置いてその寝顔を見つめる。
その膝の上には電源の落とされた結標の携帯電話(かたみ)。二人一緒に映った写メールの待ち受け画面。
たった五日前の出来事だと言うのに随分と昔のように感じられた。この一日二日がまるで十年のようだと。

白井「……淡希さん」

白井が食蜂の働き蜂として御坂に刃を向けた記憶が、結標を貫いた感触がまざまざと蘇り、白井は――
苦悶し、煩悶し、苦悩し、懊悩とさせられた。最早涙も枯れ果てた。喪失感さえ湧いて来ない絶望感。
人は余りにも深い奈落と暗い虚を胸に穿たれた時、こんな気持ちになるのかと白井は打ちのめされた。

佐天『むふ標さんは、白井はんを、みらかさんを守ったんれす』

佐天の口から聞かされた事実。御坂と結標が帝都タワーで白井を巡って骨肉相食んだという事。そして――
御坂を殺そうとした自分を、結標が身を挺して阻止し、白井を佐天と御坂にタワーから落ちたという事や。

佐天『落ひてきた鉄骨から、御しゃかさんを突き飛ばして……』

あわや道連れになりかけた御坂の手を払いのけてまで、死に様を通して生き様を貫いた結標が残したもの。
それは今白井の目の前に横たわる御坂。白井が最も愛し、結標が最も憎んだ『お姉様』という残酷な結末に

佐天『……すごく優ひい笑らおで言ってくれたんれす。“白ひさんをお願い”って、すごく綺麗な笑顔れ』

白井「……貴女は馬鹿ですの。本当は誰より心の弱いお方ですのに、最後の最期まで片意地と肩肘張って」

白井の枯れたはずの涙がボロボロと、御坂の掛け布団にポロポロと雪解け水のように零れ落ちて染み込む。
誰よりも残酷で優しく、自分よりも綺麗で醜かった結標。入り混じった愛と綯い交ぜとなった憎悪の果て。
白井が身に纏う漆黒のコルセット付きワンピースも、まるで結標という半身を失った黒衣の寡婦を思わせ。

白井「……どうして、どうして憎いはずのわたくしに優しくしたんですの。どうしてわたくしを一緒に」

連れて逝ってくれなかったのかと、思っても口に出していけない言葉を嗚咽と共に吐き出そうとした時。

御坂「馬鹿言ってんじゃないわよ……」

白井「……お姉様」

御坂「――あんたを本当に愛してたからに決まってるでしょう」

御坂が目を覚ました。

354 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:12:24.68 ID:pHlzW6yAO
〜5〜

白井「お姉様……」

御坂「死んだ人間を悪く言うのは何だけど、あの女は正真正銘のクズだった。私は今でも心底そう思うわ」

白井「………………」

御坂「――あんたを命懸けで、死を賭して救いさえしなければ、不謹慎だけど笑ってやりたいくらいにね」

生き残った左手で、白井が眠るまでずっとに結標が握っていた右手に触れる。白井の右手は震えていた。
反対に半死半生ながらも御坂の声音に惑いはなく目に迷いはなかった。冥土帰しの麻酔は特別製なのだ。
されど白井の右手が震えていた理由は御坂が目覚めた事による歓喜以上に、御坂に対する罪悪感だった。

白井「……お姉様、わたくしお姉様に謝らなくてはいけない事がたくさんあるんですの」

御坂「……言ってごらん?」

白井「……まず、あの殿方がイギリスに渡る事を知っていながら、お止めするどころか」

御坂「……うん、知ってる」

そんな白井の手を御坂は優しく指先で撫でながら告げる。
金属矢に刺し貫かれた携帯電話が一七七支部に届いたと。
それにまつわるやり取りの全てを結標から明かされたと。

御坂「……それは謝らなくていい。仮にあんたがあいつを止めようとしても、多分無駄足だったろうから」

白井「お姉様……」

御坂「それに私も悪かったんだ。間違ったやり方であいつを縛り付けようとしたの。馬鹿よね、本当にさ」

白井が罪を一つ打ち明けた事により、御坂もまた一つ打ち明けた。インデックスがイギリスに帰る事も。
それを上条が知れば放っておけるはずもない事。故に御坂は上条を身体で繋ぎ止めようとした事も全て。

御坂「……幻滅したでしょ?ぶっちゃけ女子寮で黒子に怒鳴られた時、その事を責められるみたいだった」

白井「……それだけではありませんの。わたくしは、あの殿方が憎く、そんな自分まで憎かったんですの」

御坂「……何で?」

白井「――わたくしも、お姉様をお慕いしていたんですの。だからあの殿方に嫉妬させられたんですのよ」

御坂が打ち明け、白井も打ち明ける。上条への憎悪、御坂への好悪、自身への嫌悪、その全てを吐露する。
御坂が上条の話をする度、街で連れ立って歩く姿を目にする度に、胸が締め付けられ息も出来なかったと。

御坂「――ありがとう、でもごめんね?」

白井「………………」

御坂「私は、結標淡希みたいにはあんたを愛せそうにない……」

そして
355 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:12:55.08 ID:pHlzW6yAO
〜6〜

白井「良いんですの……お姉様が生きていて下さっただけで、お姉様が皆を守ってくれたおかげで……!」

御坂「私もよ黒子。あんたともあの女ともあいつとも本当に色々あったけど、それでもやっぱり私は――」

白井「………………」

御坂「――それでも私は、きっとあんたに生きて欲しいんだと思う」

白井は知らない。その言葉はかつて御坂が最愛の存在(かみじょう)に向かって告げられた言葉であると。
御坂は知っている。今際の際、結標が自らの命と引き換えにしてまで白井を救いたいと願った思いもまた。

御坂「だからあんたは、食蜂操祈に手を出さないで。あんたの目を見ればわかる。あんたこのままじゃあ」

白井「……お察しの通りですわ。わたくし、今きっと彼女を目の当たりにしたならば生まれて初めて――」

御坂「………………」

白井「喜んで、人を殺せるとさえ思えるわたくしもおりますの」

結標もまた復讐など望まないであろうことは、決して穏やかならざる関係ながらも刃を交えたからこそわかる。
あのツーショット写メールを見て初めて理解し得た結標の無言の愛情。恐らくは白井は結標にとっての――……
御坂における上条のような存在だったのだと。そして再び刃を交えたからこそわかる。食蜂の悪魔的な妄執も。

御坂「……それだけはさせないわ。結標淡希の死が無駄になる」

白井「……はい」

御坂「――あの女は私が止める。きっと私にしか止められない」

白井が再び寡婦の黒衣に身を包み、髑髏の仮面を被った骸骨蛾(メンガタスズメ)となれば恐らく食蜂は――
蜜蝋を食い破る骸骨蛾の習性そのままに復讐は果たされるだろう。だが御坂は白井の手を汚させたくないと。
それは死に際に御坂を偽善と嘲り独善と罵った決して相容れない結標との、唯一にして無二の合意点だろう。

白井「でも……」

御坂「?」

白井「あの殿方、上条さんの事は、どう」

御坂「――今回の件で、もう色々と思い知らされちゃったのよ」

白井「………………」

御坂「能力者としてじゃなくて、女として私はあの三人に負けたんだって。こうでなきゃ泣きたいくらい」

インデックスの情念に、結標の愛憎に、食蜂の妄執に。しかし

白井「――お姉様……いいえ、“美琴”」

御坂「!?」

白井は

356 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:15:27.24 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「――お行きなさいイギリスへと。そして美琴を捨てた類人猿をぶっ飛ばして差し上げなさい!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
357 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:16:02.37 ID:pHlzW6yAO
〜7〜

御坂「」

白井「巫山戯んじゃありませんの!それでは美琴はヤリ逃げされたばかりか泣き寝入りで終わりますの!」

御坂「」

白井「むしろ美琴が行かないのならわたくしがあの女をボコボコにして淡希さんのお墓の前で土下座させ」

御坂「く、黒子?いえ、し、白井さん?」

白井「ブタ箱にぶち込んだ後その足でイギリスに乗り込みあの類人猿をロンドン橋からフルチンで吊(ry」

御坂「く、黒子ってば」

白井「――わたくしは!もう一番ぶっ飛ばしてやりたい格好つけのサディスト女を今夜失いましたの!!」

御坂「!!!!!!」

白井「……あの殿方はまだ生きていらっしゃいますの。美琴、いえお姉様も生きていらっしゃいますの」

御坂「………………」

白井「あの殿方の事を引きずったままあの“女王”に本当に勝てるとお思いでして?違いますわね……」

御坂「わ」

白井「わたくしが惚れ込んだ“わたくしだけの超電磁砲”は、そんなに弱い女じゃありませんの!!!」

世界で最も美しいと言われる『稲妻』の字を冠するアグリアスのもげた片翼を、メンガタスズメが補う。
否、自ら作り上げた虫籠に閉じ込もろうとする蝶を解き放つように、白井は喝を入れ檄を飛ばしたのだ。
そう、上条は結標と違って生きている。御坂は白井と違って最愛の存在の死を迎えていない。そう、まだ

白井「泣いて縋るも良し、縒りを戻すも良し、落とし前をつけるなりヤキを入れるなりなんなりと――」

御坂「(……嗚呼、そうだったんだね)」

白井「煮るなり焼くなりすれば良いんですの。食蜂操祈の事はわたくし“共”にお任せ下さいませお姉様」

御坂「(なんで結標淡希が、この子に命懸けで恋したのかが)」

白井「あんなクソ野郎にブッ壊されなきゃいけないほど、わたくし達の絆(せかい)は弱くありませんわ」

御坂「(今、やっとわかった気がする)」

やり直せるのだと、取り戻せるのだと、白井は御坂の背中を押すどころか力いっぱい蹴り飛ばしたのである。
自分の方こそ背中で泣いているにも関わらずにだ。この時御坂は、結標が何故白井に魅せられたかを理解し。

海原「……おほん」

御坂「海原さん!」

海原「お話は聞かせていただきましたよ」

そして海原もまた。

358 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:17:33.18 ID:pHlzW6yAO
〜8〜

海原「結論から申し上げます。“蜂の巣駆除”は“専門家”にお任せ下さい。むしろ、貴女にいられると」

御坂「……それって、あんなヘリやこんな病室がすぐ用意出来るような世界に、私みたいな素人がいたら」

海原「………………」

白井「昨夜の帝都ドームの時のように?」

御坂「?」

海原「お気づきでしたか」

白井「今、声を聞いて」

スライドドアに凭れながら語る海原の声音に、やはり聞き間違えではなかったかと白井は確信を深めた。
海原もやれやれと肩を竦めて見返す。一方は怪訝そうな眼差しの御坂、一方は得心のいった様子の白井。
白井も昨日今日の事件がなければ、海原に向けられる目は穏やかならざるものであったろう。だがしかし

白井「声を聞いて、顔を見て、話をして、自分の目で確かめて」

海原「………………」

白井「わたくし、貴方を信頼しますわよ」

御坂「黒子!?」

海原「“信用”ではなく“信頼”ですか」

その言葉に御坂が見開き、海原が見張り、白井が見返す。それは以前までの白井ならば考えられない――
変化ないし成長だった。法の番人として闇の住人と手を組むなど、白井は最も程遠い存在だったはずだ。
それは傍らで見つめ続けて来た御坂と、遠くから見守り続けて来た海原の、数少ない共通する価値観だ。

海原「……自分の知る貴女なら、自分のような人種は蛇蝎の如く忌み嫌われるものと思っていましたよ」

白井「――わたくしもそう思っておりましたのよ。ですが背景はどうあれ貴方はわたくし達を救い出し」

海原「………………」

白井「“彼女”が今際に助け舟を求め、後事を託すに値する人間というだけでわたくしには十分ですの」

御坂「(“結標淡希”)」

同時に白井は海原の中に結標を見出し、海原もまた白井の中に結標を見出している事が御坂にも伺えた。
海原もまた結標の死を境に一皮剥けんと、清濁併せ呑まんとする白井の胸に、まだ結標が生きている事を

海原「……では、今しばらく身体を癒やす事に専念して下さい。後の事は自分に預けて下さい。お二方」

白井「こちらこそ、お願いいたしますの」

何故あの結標が我が身と引き換えにしてまで白井を救おうとしたのか、海原にもわかったような気がした。

海原「(――少しばかり落とした肩に力が戻って来ましたよ)」

そこで病室から廊下に出る海原には、結標と白井の横顔とどこか重なって見えて――

359 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:20:35.87 ID:pHlzW6yAO
〜9〜

佐天「白井さん、立ひ直ったのから……」

ショチトル「(持ち直しただけだろう)」

一方、初春に付き添っていた佐天と、それを見守るショチトルの二人の耳にも隣室の会話が入って来た。
取り付けられた酸素マスクに白露が浮かんで消え、心電図が規則正しく波形を描く様子を時折確認して。
ショチトルはそんな初春の寝顔を見守る佐天の横顔、再生治療を終えた形良い左耳へと視線を走らせる。

ショチトル「本当に休まなくて良いのか」

佐天「うん。初春が起ひるまで寝らいよ」

ショチトル「………………」

佐天「わたひもね、幻想御手のとひ、こんな風に寝ててれ……」

ショチトル「(レベルアッパー???)」

佐天「……うひ春もほんな風に、こんな気持ひで、るっと私の事見てたのかなって思ったら眠れなひんだ」

破裂した鼓膜は冥土帰しの手により残り少ない年内には再生出来ると言う。しかしショチトルが真に案ずるは――
テロや戦争に巻き込まれたに等しい佐天の精神面にである。彼女は風紀委員でも暗部でもない一般人に過ぎない。
ショチトルとて暗部に身を置いていた人間であるが故に綺麗事は言わない。だが、その病み上がりの身体に沸々と

佐天「今まれ、初春はずっと街のみんらのほとも、私の事も、ずっとずっと守って来てくれひゃんだよね」

ショチトル「………………」

佐天「今日も、御坂さんがひんなの事助けてくれた。あのむふじめさんって人が、白井さん助けてくれた」

ショチトル「………………」

佐天「だはら、これからは私が初春の事、守るからね?初はふの事、ずっとるっと、守ってあげるから!」

初春の手を握り締めながら背中と声音を震わせて祈るように語り掛け続ける佐天の肩にショチトルが手を置く。
言葉はいらない。言葉にならない。病み上がりの身体に灯り、熾き、燃え上がる炎に、名前などつけられない。

ショチトル「(――潰す)」

その足で廊下に出てショチトルは決めた。卒業生は個々の裁量で新入生を剪定しており海原もそうである。
結標は行き掛かり上であったし、一方通行や土御門と連絡を取ったり情報を共有している様子もなかったと

白井「これ、お返しいたしますわ」

海原「本当によろしいんですか?」

紡いでいた思考の糸を、廊下の海原と白井の話し声が断ち切った。

360 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:21:04.41 ID:pHlzW6yAO
〜10〜

白井「結構ですの。貴方が受け取って下さらないのならば、わたくし自ら彼女の保護者の方の下へ届けに」

海原「いえ、それには及びません。ですが彼女の最後の形見になるかも知れないんですよ?良いんですか」

御坂の病室から出た海原を白井が後追いし、初春の病室から出たショチトルが物陰から成り行きを見守る。
リノリウムの床面に差し向かいで立つ二人の内、白井が海原に結標の携帯電話を手渡しているのが窺えた。
緑色の非常灯に照らされたその横顔が、白井の黒衣と相俟って未亡人のようにショチトルには感じられて。

白井「もうあの方からは、とても大切な物を頂いておりますの」

白井が指先で示す、首に巻かれている逆十字架のシルバーがついたチョーカーが如実にそれを表していた。
それに対し、ショチトルは女の勘とも言うべき直感で本質を捉えた。あれは所有の証(プレゼント)だと。
海原もまた、結標が白井を命懸けで救い出した事や、今指し示されたチョーカーを見るなり大凡を察して。

海原「……自分は、仕事上での付き合いしか彼女を知りません」

白井「………………」

海原「ですから、こういう聞き方はどうかと思うんですが……」

ショチトル「………………」

海原「……彼女はどうでしたか?貴女と一緒にいる時の彼女は」

白井「こういう言い方はどうかと思いますが、どうしようもないクズで、最低最悪のサディストでしたわ」

海原「………………」

白井「ですが、わたくしにとって最高の好敵手であり最愛の友人でしたの。なので海原さん。いつか……」

海原「はい」

白井「――お話出来る範囲で構いませんの。わたくしの知らない彼女のお話を、いつか聞かせて下さいな」

海原「……お約束します。今回の件が全てが終わった後、必ず」

深々と一礼し、白井もまた微笑み返し、今度は陰にこもっている固法と婚后を見舞う為に別室へと向かう。
その足取りに海原は力強さを感じ、ショチトルは危うさを覚え、二人は互いに異なる角度から見送って――

海原「ショチトル」

ショチトル「(ギクッ)」

海原「覗き見は感心しませんよ?」

ショチトル「………………」ムスッ

海原「(何故むくれてるんでしょうか。あれ?トチトリは?)」

示し合わせるようにして、同時に顔を見合わせる事と相成った。
361 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:21:32.53 ID:pHlzW6yAO
〜11〜

ショチトル「お前にはデリカシーが欠けている。もっと気遣え」

海原「すいません。他に良い言い方が思い浮かびませんで……」

ショチトル「だからお前はダメと言うんだ。ほら、手を出せ!」

海原「!」

ショチトル「お前の如才無さは上っ面だけだ。自分でどう思ってるか知らんが、本当のお前はもっと……」

海原「………………」

ショチトル「馬鹿だ」

薄暗い廊下の中にあってさえ、ショチトルは目敏く海原の傷ついた右手を取りハンカチを巻いていった。
ここは病院何ですから医者に看てもらえばと海原は言い、つねられながら固く巻かれ短く悲鳴を上げた。
だからお前はデリカシーがないんだとショチトルが愚痴り、こんなになるまで壁を殴るなと小言を言い。

ショチトル「――今回のミッションには私も加わらせてもらう」

海原「……暗部にいた頃に比べれば、実入りは少ないですよ?」

ショチトル「……あまおうのフレジュ」

海原「?」

ショチトル「あの二つ結びの女が見舞いに持って来たヤツでいい。それもこんな陰気臭い病院じゃなくて」

海原「………………」

ショチトル「地下街のお店まで食べに行こう?“お兄ちゃん”」

海原「――お安いご用ですとも」

――この後、数日間の入院生活を経て初春もまた健康を取り戻して御坂と共に無事退院する事と相成った。

佐天の左鼓膜の再生治療も終わり、白井の叱咤激励を受けて固法も初春も再び風紀委員活動へと復帰した。

婚后もまた御坂のリハビリを通して蟠りを解消し、御坂が渡英する折は婚后航空をとおどけてみせてみた。

そして件の食蜂操祈に関しては、数日後海原からのメールで、『全て終わりました』とだけ書かれていた。

白井『――これにてお姉様も晴れてイギリス行きですの!!!』

そう白井が後押しする頃には御坂の身体も全快を迎えていたが、当の本人はそれ以上に気掛かりな事が……

御坂『(黒子やみんなはああ言ってくれてるけど、私、本当にこのまま行っちゃって良いのかしら……)』

結標を失った後も、それをおくびにも感じさせない白井の闊達さが御坂にとって懸念材料あり、そして――

御坂『黒子』

御坂が上条への思いと白井への想いの狭間で揺れる中、出発を明日に控えた朝に御坂が切り出したのは……

御坂『お墓参りしに行こうか』

結標と白井の最初で最後のデート、その足跡を辿る事である。

362 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:24:03.17 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
A C T .1 2 「 白 い 弔 花 、 赤 い チ ョ ー カ ー 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
363 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:24:36.50 ID:pHlzW6yAO
〜12〜

アナウンサー『三日前第七学区で起きた“帝都ゲートブリッジ”封鎖事件についての続報が入りました』

御坂「結局、第十学区に問い合わせても」

白井「――そういう事ですの。あの帝都タワー事件で、公式には死傷者0という事になっておりますの」

そして二人は灰雪降りしきる帝都タワー跡地へと赴き、白井は墓標のような瓦礫の山々に向かって――
カサブランカの花束を手向けていた。同時に、背後から御坂が傘をさし白井が雪で濡れぬようにする。
そんな二人の頭上を今日のニュースを伝える飛行船が横切り、白い期待より黒い巨影を落として行く。

白井「事実、結標さんを除いて死傷者0というのはある種の奇跡ですの。わたくしはそれで良しと……」

御坂「………………」

白井「――そう思いたいところですのよ」

深々と降り注ぐ灰雪、白墨のような冬空を仰ぎ見ながら、白井は微かに笑んで静かに手を合わせている。
帝都タワーに関しては元々取り壊し予定の無人の場所という事もあり、公式には人的被害は0とされた。
海原もまた明言こそしないものの、二人とて理解出来得る。隠蔽工作及び情報操作によるものだろうと。

白井「あの時もこんな雪の日でしたの。ここから見える帝都ドームへライブを観にいった時もそう……」

御坂「fripsideのクリスマスコンサートだったんだよね?確か」

白井「ですの。結局なんやかんやありましてオープニングは見逃してしまいましたが、わたくしは……」

煤汚れ歪んだ鉄骨、薄汚れ割れた瓦礫をも白く染め行き覆い隠して行く雪化粧の中、振り返るは帝都ドーム。
皮肉にも結標が好きだと言っていた『memory of snow』の歌詞そのままになってしまったと皮肉っぽく笑う。

白井「今思えば、歌や場所なんてどうでも良かったんですわね。あの方を肌身に感じられさえしたならば」

御坂「そういう気持ち、わかるわよ黒子」

白井「ありがとうございますの。お姉様」

吹き抜けて行く雪風がカサブランカを揺らし、白井の胸に空いた風穴を物悲しく響かせて行き、そして。

風斬「あれ?」

――それを遠巻きに見やるは電影少女――

364 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:25:04.20 ID:pHlzW6yAO
〜13〜

白井「それではお茶でも飲んであたたまって行きませんこと?」

御坂「うん。特にお腹は空いてないからロビーでもいいわよね」

帝都タワー跡地へ弔花を手向けた後、二人が足を運ぶは程近くにあり、白井も結標と逗留した帝都ホテル。
それなりに格式あるホテルではあるが、場慣れしている二人は気後れする事もなく、ロビーに腰を下ろす。
御坂が白井の分のお茶を頼む傍ら、当の白井が見やる先。そこはロビーに展示された氷の女神像であった。

白井「――レノーアの氷像ですわね……」

御坂「レノーアって、“大鴉”のあれ?」

白井「ですの。恋人と永遠の別れを迎えた名無しの学生と、女神像にとまった大鴉のお話ですわね……」

カップを手に暖を取る二人の視線の行く先には、女神像にとまり翼を休める大鴉の氷で出来た彫刻である。
氷の彫刻展。それは白井が結標といつか見に来ようと約束した場所。大鴉。それは食蜂が駆り出した詩文。
大鴉のラストは、名無しの学生が死に別れた恋人と生きてもう一度会いたいと人語を解する大鴉に呟き――
件の大鴉が『Nevermore(二度とない)』と返す寓意に満ちた結びである事を二人は教養から知っていた。
まるで今現在の白井の置かれた境遇を、そうとは知らぬ早い段階から暗示していたかのようですらあった。

白井「……あの方と、ここのホテルウェディングを覗いてみたりしたいなどと話し合った事もありますの」

御坂「(あの女と黒子がそんな事まで)」

白井「今になって振り返れば、女二人揃ってウェディングドレスの試着など冷やかし以外のなにものでも」

御坂「――ううん。私は黒子の花嫁衣装、見てみたいかな……」

白井「ありがとうございますの。ですが、わたくしよりお姉様の方がまだ望みは厚いですわよ?もっとも」

あの類人猿(ryとこの場にいない上条の悪口を御坂の前で言う程度に白井はつとめて明るく振る舞った。
それはかつて御坂に対して被った笑顔の仮面とは似て非なる、自分自身に対して纏う仮面でもあるのだ。

御坂「……そうよねー!でもそれに袖を通す前にふん捕まえてボッコボコにしてやるわあんなヤツ!!!」

カラカラと快活に、されど空々とどこか中身の伴わない笑い声を上げて御坂も応じる。そのすぐ側で――

雲川「しばらく泳がせておけばいいけど、くれぐれも注意しろ」

椅子に腰掛けつつ電話をかけるは天才少女

365 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:27:39.71 ID:pHlzW6yAO
〜14〜

御坂「何かこの地下街に来るのも久しぶりかも知れないわねー」

白井「わたくしもですわ。実際は一月も経ってませんのに……」

帝都ホテルを出た後、二人は常盤台に戻る道すがら地下街に立ち寄りブラブラと手足を投げ出して歩く。
たった今も御坂は上条と、白井は結標と訪れたケータイショップを横切り、流水階段の噴水を抜けて――
白井が結標と食事を共にし待ち合わせに使ったリリー・オブ・ザ・バレー(谷間の百合)を過ぎて行く。
御坂は思う。見慣れるどころか見飽きた感さえあるこの地下街でさえ懐かしく思える今の自分の心境は。

白井「ここのお店であの方にこのチョーカーをプレゼントしていただきましたの。ですが今思えば……」

御坂「?」

白井「わたくしとあの方は、傷とケータイ以外何一つお揃いのものがありませんでしたの。それが少し」

御坂「……心残りよね、そう言うのって」

白井「その無念さも含めてわたくしも今更のようにあの方が愛おしく感じられますわ。出来る事ならば」

結標と訪れたショップに入り、冷やかし気味に自分と色違いの赤いチョーカーを手にとって白井は眺める。
逆十字架のついた黒色のチョーカー。まるで喉元に突きつけられた剣のようだと贈られた時は感じたが――
今ではその鋒が、叶うなら一緒に逝ってしまいたかったと思う白井に『生きろ』と突きつけて来るようで。

御坂「……ねえ、それ買っちゃおうよ!」

白井「!」

御坂「今はまだお墓はないみたいだけど、いつか供えに行こう」

白井「お姉様……」

御坂「こういうのって、きっと大切にしなきゃいけないと思う」

手中にて自分とは色違いの赤いチョーカーを転がす白井に、御坂が手を重ねて力強く首肯して来たのだ。
論理的に考えるならばそれ自体に何の意味があるのかと首を傾げるであろう。だが時には理屈ではなく。

白井「……かないませんわねお姉様には」

御坂「それじゃあ即断即決!すいません」

演算以外の頭の巡りに身を任せるのも良いであろうと御坂は店員を呼び止めて赤いチョーカーを買い上げ

姫神「ふふふ。女の子同士の買い物は。時間や気を使わなくて良いから好き。男の子と。来た事ないけど」

吹寄「(上条当麻め。新学期も始まってるって言うのにどこをほっつき歩いてるの。)私だって同じよ?」

その隣で服を買い漁るは、制服と巫女服に身を包んだ少女達。

366 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:28:19.71 ID:pHlzW6yAO
〜15〜

白井「わたくし、二度ともここで彼女と会いましたの。一度目は夏の終わりに、二度目は冬の始まりに」

御坂「この路地裏ね」

白井「そうですのよ」

地下街より上がり、行き着いた先は二人の始まりの場所。かの時をなぞるように舞い散る灰雪の路地裏。
誰一人訪れる者のいない雪面を、御坂の差す傘から抜け出て白井は一人きりの足跡を刻みながら見渡す。
感傷に耽るように、感慨に浸るように、どこか寂しげな横顔から紛れもない涙を一筋を零しながら歩む。

白井「わたくしとあの方の始まりの場所」

御坂「……黒子」

白井「……本当に馬鹿ですのねわたくし」

茜色の空から降り注ぐ灰雪を両手に掴もうとするようにする白井の背中に、御坂は改めて思いを強くする。
やはり行けない。どれだけ気丈に振る舞おうとも、今にもこの雪にさらわれてしまいそうなほど儚い白井を

御坂「黒子……」

白井「――――――………………」

置き去りにして、自分の幸福だけを追求するなど御坂には考えられなかった。どれだけ白井の後押しが

御坂「私……」

白井「お姉様」

御坂「やっぱり私」

あろうとも行けない。そう御坂が白井に駆け寄ろうとした――



まさにその時であった。



「いくら人目につかないからって、私の前でイチャつかないで」

御坂「!?」

白井「?!」

「――ムカムカするのよ。私の所有物(もの)に触らないでよ」

御坂「――嘘」

白井「……嘘」

「手垢がつくから早く離れて。病み上がりで気が立ってるのよ」

雪に足跡を残す事なく舞い降りた、大鴉を思わせる濡れ羽色のブレザーに袖を通した少女が呼び掛ける。
まだ白井に負わされたが傷口が癒えきっていないのか、初めて見る霧ヶ丘女学院の冬服で露出を抑えて。
されどトレードマークである金属ベルトと軍用懐中電灯はそのままに、特徴的な二つ結びをかきあげた。

白井「貴女は――」

「残念だったわね白井さん。ご覧の通り足も二本ついてるわよ」

御坂「なんで……」

「言ったでしょう御坂美琴。貴女に私に世界は救わせないって」

御坂「――――――」

「あら?」

茫然自失とする二人の呻きを断ち切るようにして鳴り響く着信音。
それは白井がライブで聞き逃したfripsideのオープニングナンバー

「ちょっと待って」

その曲名は――

367 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:28:45.89 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

結標「――電話よ。ちょっと静かにして」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
368 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:29:14.45 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A C T . 0 「 L E V E L 5 ― j u d g e l i g h t ― 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
369 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:31:17.45 ID:pHlzW6yAO
〜01〜

結標『取り込み中よ。後でかけ直すから』ブチッ

海原「………………」ツー、ツー

土御門「結標は何だって?」

海原「手が離せないようで」

一方通行「豚骨ラーメン。全部乗せだァ」

店主「あいよ」

同時刻、ゲートブリッジを封鎖しての大規模なミッションを終えた元『グループ』の面々はと言うと――

土御門「病み上がりの身体で忙しい奴だ。おっちゃん、俺は羽根付き餃子定食ニンニク抜きで頼むにゃー」

仕事上がりに第七学区にある定食屋にて卓を囲みながら早めの夕食を取っていた。その話題の中心は――
用事があるからと解散するなり飛び出して行った結標についてであり、一方的に電話を切られた海原も。

海原「全くです。ついこの間まで死にかけていたとは思えませんよ。それもあの高さから、あの致命傷で」

当初土御門から知らせを受けた時は驚かされたのである。帝都タワー電気通信ケーブル保守地下道より――
半死半生で生き長らえた結標が発見された時は。それも薄暗い共同溝にて一方通行が目にしたもの。それは

土御門「俺だって自分の目で見なけりゃとても信じられなかったさ。まさか死んだはずのアレイスターが」

一方通行「……化けて結標ンとこまでオレらを導いたなンて眉唾話、他人に話せば笑われンのがオチだろ」

一ヶ月前に死んだはずのアレイスターの白影が、血溜まりに沈んだ結標の下まで二人を導いたと言うのだ。
当の結標自体は帝都ドームの一件にて地下道がある事を知っていたため、一か八かで座標移動したらしい。
当の結標は殆ど覚えていないが、時折一人になりたい時は『窓のないビル』跡地に足を運んでいたと言う。
御坂に病院屋上での戦いに敗れた時もそうであり、もしかするとそれが関係しているかも知れないのだと。

海原「本当の所は誰にもわかりませんよ。死中に活を見出したのは、あくまで彼女自身の生きる意思です」

そこで話を締めくくり、海原はメニューを広げて店主に注文する。
電話の内容そのものは結標のギャラの配分についてだったのだが。

海原「ああ、今日は自分のおごりです。たまに良いでしょう」

土御門「やったんだぜいー!」

一方通行「半ライス追加だァ」

それどころではない理由を察し、海原は何となく気分が良かった。

370 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:31:49.04 ID:pHlzW6yAO
〜02〜

御坂「あんた生きてたの!!?」

結標「死んでいて欲しかった?」

白井「………………」

結標「――残念だったわね。墜落死する前に、座標移動で電気通信ケーブル保守地下道に逃げ込んだのよ」

御坂「だって!あれから海原さん一言も」

結標「海原が知ったのは三日前だし私が口止めしたわ。生きてるとわかって下手に動かれると厄介なの」

そう、幻想(ゆめ)でも何でもなく、憮然とした表情を湛えたまま結標が生きて再び姿を現したのである。
同時に御坂にも結標の心根が少しわかるような気がした。恐らくは白井を巻き込まないためであろうとも。
どういった経緯で生還を果たしたかはわからないが、当人の様子を見る限りある程度は察する事が出来た。

結標「――わかったらさっさと消えて。貴女の顔見てるだけで折られた指が疼いて殺意が湧いて来るのよ」

御坂「初めて気が合ったわね。私もあんたの顔見てたら根刮ぎ持って行かれた左足首が痛んで苛々するの」

加えて、沸々と湧き上がるはいずれも水入りないし横槍が入って着かなかった二人の決着についてである。
御坂が歩み寄ろうと結標は分かり合おうとはしないし、御坂が和解しようとも結標が理解を示す筈がない。



だがしかし――



御坂「黒子の顔を立てて」

結標「白井さんに免じて」

御坂「一度しか言えない」

結標「一回しか言わない」

御坂「――ごめんなさい」

結標「……ありがとうね」

白井「!」

御坂「黒子、私先帰ってるからね!あと」

結標「何?」

御坂「黒子の事大事にしなかったら私今度こそあんたを許さないから。絶対に泣かせるんじゃないわよ!」

結標「貴女にとやかく言われる筋合いはないわ。そういう訳知り顔で仕切って来る所が気に入らないのよ」

すれ違い様に肩をぶつけるに留めて御坂は二人を残し路地裏を後にする。ここから先は当人達の問題だ。
互いにとってこの雪化粧以上に積もる話があるであろうと身を引いたのである。それからほどなくして。

結標「――白井さん」

白井「結標さん!!」

白井が雪を蹴り上げながら結標へと駆けて行く。それはさながら美しい映画のラストシーンのように――

371 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:32:41.56 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井は、思い切り結標の顔面にドロップキックをお見舞いした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
372 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:35:10.52 ID:pHlzW6yAO
〜03〜

結標「ぶふぇ!!?」

白井「生きてるなら生きてると電話の一つも寄越しやがれってんですのコンチクショウがぁぁぁぁぁ!!」

微笑を湛えた結標を綺麗に両足を揃えたドロップキックで宙に舞わせ、雪面に叩きつけて白井は激怒した。
それに文字通り面食らったのは不細工に鼻血を流して狼狽える結標である。何故こうなってしまったのか?
更に仰向け寝に倒れ込んだ結標に跨り、ポカポカと胸元を叩きつつ白井は涙を零していた。激怒しながら。

結標「ちょ、ちょっと待って白井さん!」

白井「文字通り死ぬほど待つつもりでしたわよ!最低でも五十年ほど!!あの世で貴女に会うまで!!!」

結標「――――――」

白井「どうせ影から貴女の死に思い煩うわたくしを肴にお酒でも飲んでらしたんでしょうこの性悪女!!」

結標「ち、違う……」

白井「――お酒の力を借りなきゃわたくしを襲う事も出来ないヘタレの分際で!どうしてあんな、あんな」

結標「………………」

白井「あんな死ぬような真似までしてわたくしを助けたんですの!本当はわたくしよりも弱いクセに!!」

結標「白、井、さん」

白井の零す涙が雪に混じって結標の頬に落ちて濡らして行く。その涙が結標にはあたたかく感じられた。
12月13日から12月25日までの12日間の間に、白井は何度このサディストに泣かされたろうと。

白井「……どうして、こんな最低最悪のサディスト女なんかに」

結標「………………」

白井「――どうしてわたくしはこんなクズを愛してしまったんですの!どうして、どうしてこんなに!!」

結標「……ごめんなさい」

白井「……どうしてこんなに、生きて再び、貴女にもう一度会えた事がこんなに嬉しくてたまりませんの」

この先、どれだけ泣かされようとも、白井はたった今背中に回された腕から逃れられる気がしなかった。
チョーカー(首輪)などなくとも、見えざる檻に囲われて触れざる鎖に繋がれているようでさえあった。
運命の赤い糸より太く、強く、輝く銀の鎖。空間移動という最も自由な能力を持つ白井を縛り付ける鎖。

結標「……私も、本当に死にかけたの。死ぬつもりだった。死んでも仕方無いと思った。けれど私も――」

降りしきる雪が檻のように、伸びる腕が鎖のように白井へと――

373 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:36:00.80 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「生きて、もう一度貴女をこの腕に抱き締めたかったのよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
374 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:36:31.25 ID:pHlzW6yAO
〜04〜

真っ黒なカラスさえも真っ白に染め上げて行くような雪の下、二人は初めて口づけらしい口づけを交わした。
一度目の出会いも、二度目の出逢いもこの路地裏からであった、ならば三度目となるこの時はどうだろうか?
そう、二人は始まりの場所から足跡を付けて行くのだ。この白雪(しろ)舞い散る茜空(あか)より今一度。

白井「わたくしも同じ気持ちですのよ結標さん。もう離しませんの。もう二度と離れたくありませんのよ」

結標「……どうかしら?不出来な貴女に、私を縛り付けておく事が出来るだなんて本当に思っているの?」

白井「――では、今この時より貴女の風切り羽を奪わせていただきますの。この夕焼け空に帰らぬように」

そこで白井が取り出したのは、先程買い上げた、自分の逆十字架とは色違いの赤いチョーカー(首輪)
敵としては傷跡が、友人としては携帯電話がお揃いであった。ならばこれからお揃いとなるものは――

白井「その健やかなる時も」

結標「病める時も」

十字架。それは仰げば神の祝福、立てれば道標、裏返せば剣、翼を広げた鳥が地に落とす影の形に似て。

白井「喜びの時も」

結標「悲しみの時も」

磔、墓標、処刑、罪罰を司るそれは十字教にあって『死を討ち滅ぼしし矛』と『復活』を意味するもの。

白井「富める時も」

結標「貧しい時も」

結標の首に逆十字架が巻かれ、白井の左手が取られ、結標がその薬指を導き歯を立てて刻まれる赤い指輪。

白井「これを愛し」

結標「これを敬い」

鋭く走る痛みと、鈍く滴る血に誓う永遠。時計の長針と短針が交わるようにしてぶつかり合って来た二人。

白井「これを慰め」

結標「これを助け」

1から12までの文字盤を巡り巡って0に戻るように、長すぎたプロローグの果てに物語は始まって行く。

白井「その命ある限り」

結標「真心を尽くすことを誓いますか?」

この白無垢にも似た雪化粧が、さながら二人を包むウェディングドレスのように、全てを白く染めて行く。

白井「永久(とわ)に」

結標「共に」

白井・結標「「死が二人を分かつまで」」

白紙のような雪に、二人の足跡(ストーリー)を描きながら――

375 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:39:58.47 ID:pHlzW6yAO
〜05〜

御坂「さて、とりあえずもう心配事の種はなくなった訳だし、私もそろそろ自分の事に手つけなくちゃ」

深々と降り注ぎ、降りしきり、降り積もる雪の下歩き出す者。

佐天「初春!寒いからお茶して帰ろう?」

初春「仕方無いですねー佐天さんは……」

白い吐息を漏らしながら、肩寄せ合い手を携えて走り出す者。

婚后「オ父様?実ハワタクシノ友人ガイギリス二行キタイト」

固法「(眼鏡が曇って前が見えない。買い替えようかしら)」

携帯電話片手に雪空を仰ぐ者、眼鏡を外して雪道を見やる者。

海原「あ、あのーそろそろ出ませんか?」

土御門「おっちゃん、ビール追加ー!!」

一方通行「払いはオマエ持ちなンだろ?」

空になった器とジョッキ、空になって行く財布に頭痛める者。

ショチトル「うう、この国の冬は堪える」

トチトリ「エツァリにあたためてもらえ」

毛布にくるまりながら帰りを待つ者、ストーブに手を翳す者。

風斬「て、帝都タワーがなくなってます」

雲川「ゲートブリッジも落ちたんだけど」

下着姿でこたつに寝そべる者、窓に張り付いて外を眺める者。

姫神「小萌先生からメール。結標さん帰って来たから。焼き肉」

吹寄「帰って来たんだ?じゃあ私もちょっとだけ顔出そうかな」

家路につく道すがらにて、思わぬサプライズに胸踊らせる者。

小萌「いらっしゃいなのですよー!んまー!結標ちゃんの新しいお友達ですかー?」

――――春の訪れを望まぬ花などないのだから――――

376 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:42:18.03 ID:pHlzW6yAO
〜THE LAST WALTZ〜

結標「ちょっと!それは私のお肉よ!?」

白井「これは失礼いたしましたの。ですがそんなに大切なお肉でしたらば名前でもお書きになられては?」

結標「(イラッ)」ヒュンッ

白井「嗚呼!わたくしのタン塩カルビ!」

結標「あらごめんなさい座標移動の演算を間違えてしまったわ。不出来な貴女と違って触れなくても(ry」

白井「(ムカッ)」ガッガッ

結標「スタイルや能力で私に勝てないからって足蹴らないでよ!嗚呼ごめんなさい、ついでに口もね!!」

白井「どちらもそのうち勝ってやりますの!大人気ないのはそれに中身の伴わない貴女の方ですのよ!!」

月詠「お、お肉はまだたくさんあるので二人とも喧嘩しちゃダメなのですよー!?」

吹寄「(と、友達じゃないのこの二人?嗚呼、お箸でチャンバラ始めたわよ!?)」

姫神「(何でだろう。私には。この二人がいちゃついているようにしか見えない)」

路地裏から出た二人が向かった先。それは久方振りとなる小萌と結標が住まうオンボロアパートだった。
結標としては夕食でも一緒にどうか?序でに小萌にも紹介しようと思ったのだが、ご覧の有り様である。
最初にどちらかがどちらかの肉に誤って箸をつけてしまい、どちらも謝る事なくこじれてしまったのだ。
結標が肉を座標移動させて食べる陰険な手口を、白井がこたつの中で蹴りを食らわす陰湿なやり口で――
負けず嫌いな結標と勝ち気な白井による一枚の特上カルビを間に挟んで箸と箸による一騎打ちとなって。

結標「たかだか肉一切れにみっともないわよお嬢様!」

白井「たかが肉一枚にムキになる高校生もでしてよ!」

吹寄「……結標さんって普段もっとクールな人だったわよね?」

姫神「喧嘩するほど仲が良いって事で。ワカメスープおかわり」

後に、御坂は白井を除く面々に対し二人を指してこう評する。

御坂『嗚呼、あの二人ね?能力以外でもレベルが同じだからよ』

私もあれくらいインデックスと喧嘩してればこんなややこしい事にならずに済んだわ、と述懐しながら。

白井・結標「「あっ」」

両者の箸で摘まれたカルビがブチっと切れたのと同時に、白井は堪忍袋が、結標は青筋が一緒に切れた。

結標「〜〜やっぱり!」

白井「〜〜やはり!!」

されど断ち切れないのは

結標「貴女なんて!!」

白井「大嫌いですの!」

この先も続く二人の――

377 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:42:47.74 ID:pHlzW6yAO
〜ONE MORE FINAL〜

御坂「はあー……」

翌日、御坂は皆に見送られ第二十三学区よりイギリスへと飛び立った超音速旅客機のシートに凭れていた。
帝都タワー事件のささやかなお詫びという事で、婚后が婚后航空のファーストクラスを取ってくれたのだ。
御坂はいいと言ったのだが、義理堅い婚后が首を縦に振ってくれなかったのである。だがそこで気付いた。

御坂「(いくらファーストクラスだって、私一人しかいないっておかしくない?もしかして貸し切り?)」

見る見るうちに小さくなって行く雪化粧を施された学園都市を見下ろしながら御坂は小首を傾げて自問する。
さっきからキャビンアテンダントの一人すら見かけないのだ。これは一体どういう事かと思いあぐねると――

「サロンは如何ですかぁ?」

御坂「あ、私未成年なんで」

「そう、じゃあ私が貰っちゃおうかなぁ」

御坂「!?」

いつの間にやら御坂の傍らにシャンパンを携えてたCAが控えており、ややほっとしたのも束の間……
御坂はすぐさま気付いた。そのCAの声音、顔立ち、そして『蜘蛛の巣』を意匠にした白いグローブ。

御坂「食蜂操祈!?何で、何であんたがここにいるのよ!!?」

食蜂「んー?相乗りぃ☆ちょっとはしゃぎ過ぎちゃってぇ。まあ、早い話が長めの冬休みってカンジぃ?」

そこには御坂の隣のシートに身を横たえ、グラスに注がれたシャンパンに優雅に口をつける食蜂の姿。
何でも帝都ゲートブリッジで一悶着あり、その熱りを冷ますために学園都市を離れるのだと言う。だが

御坂「あんた!自分が何したかわかって」

食蜂「暴れないの。貴女の電磁力で運航に支障が出たり、窓一つ割れただけで二人とも天国行きよぉ?」

御坂「あんたなんて地獄に堕ちろ!!!」

食蜂「これからイギリス清教に殴り込みに行くんでしょ?それなら貴女の方が地獄に近いと思うけどぉ」

御坂「(何でそんな事まで知ってんの)」

そんな切迫感など微塵も感じさせずに食蜂は御坂にグラスを手渡す。この旅路の果てに待ち受けるものに

食蜂「まぁ、旅は道連れ世は情けって☆」

御坂「……勘違いしないでよ。イギリスにつくまでだからね!」

食蜂「それはこっちのセリフよぉ。だって私ぃ、御坂さんの事」

乾杯とでも言いたげにグラスを鳴らし、ムキになった御坂が飲み干し、食蜂がクスクスと軽やかに笑った

378 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:43:14.09 ID:pHlzW6yAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」―――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――――――――――THE・END―――――――――――

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
379 :>>1[saga]:2012/04/30(月) 22:44:32.32 ID:pHlzW6yAO
終わりだよん

やり残した事はいっぱいあるけど

思い残す事はないから

じゃあの
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/04/30(月) 22:45:08.82 ID:lMizKC0j0
ハッピーエンドをありがとう
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 22:49:31.01 ID:cqSJyptDO
乙でした
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 22:58:02.87 ID:st9ZTFD0o
あわきんを助けてくれてありがとう
乙でした
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/04/30(月) 22:59:40.74 ID:KonHbEil0
乙 素晴らしかった

是非ともまた書いて貰いたいです

384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 23:12:00.81 ID:Wdnzc8rKo
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 23:28:28.51 ID:nVI/nQCIO
乙乙
非常に素晴らしかった
毎回すごく楽しみにしてた
またなんか書いてくれ
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/04/30(月) 23:41:05.17 ID:hnfqmOlEo
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/01(火) 00:10:27.35 ID:rRTYr45IO
御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」
ってスレが立つことを期待してる

乙!
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/05/01(火) 02:07:22.27 ID:fX5oqa660
おつ!!
次回作楽しみにしてる!
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/01(火) 02:40:26.94 ID:o5++QRie0
ラストも含めてめちゃくちゃ好みの作品をありがとう。
ただ>>1乙、と言わせていただきたい。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/05/01(火) 03:08:19.33 ID:/kiEjVMAO
なんか清々しい気持ちだ
まじで次回作楽しみにしてる
乙!
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/05/01(火) 06:56:03.91 ID:eSdkZv7io

超蚊帳の外の風斬ワラタ
つか、みさきち怖ええ
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/01(火) 17:41:36.03 ID:wjgEX0+q0
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/01(火) 21:15:02.07 ID:a6jG5YJPo
初春「シュー……シュー……」

で笑ってしまった
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/05/01(火) 21:31:17.04 ID:h82mM7c3o
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/02(水) 02:03:56.53 ID:AVT1qmZDO
乙乙
素晴らしい鬼百合でした
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/02(水) 12:26:18.55 ID:3attbN0IO
超面白かったです乙
座標カップル末永く幸せになれ
上条はマジもげてなくなれ
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/06(日) 16:19:18.48 ID:pnw3177Uo
初春「チャー……シュー……」
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/05/07(月) 04:01:51.27 ID:zZsoeElAO
インさんのクズっぷりがヤバい
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/05/07(月) 12:23:53.89 ID:Ez/5SGIco
クズなのは彼女放置でおっかけてく上条だろ
400 :>>1[saga]:2012/05/07(月) 18:03:24.76 ID:VOWkHcrAO
>>1です。すまん、>>379は嘘だった

ピクシブのはいむら氏の私服テレポーターコンビを見て種が弾けたので

その後のあわくろ二人


イチャイチャ夏休み編



ACT.XX「白いワンピース、赤いあんず飴」

近々投下


多分修羅場や暴力はないよ



ソフトSMなのは仕様だよ



じゃあの
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/07(月) 18:19:29.17 ID:zwi3Ly7ao
ヒャッホーーーーーイ
待ってた!!!!
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/05/07(月) 18:33:36.53 ID:4Vb+L5hh0
イエス!やったぜ!
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/07(月) 18:48:44.00 ID:lodsvmtIO
NTRれた美琴のその後も気になるところ
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/05/07(月) 21:29:50.06 ID:kzrYUcGD0
キマシタワーーーー(ノ∀`)
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/09(水) 10:15:25.85 ID:BGnm+7yIO
舞ってる
406 :>>1[saga]:2012/05/09(水) 23:22:51.12 ID:1b2DxcLAO
>>1です。中間報告までに

あれもやりたいこれも書きたいとわがままにやりまくってたら最短で日曜日の投下になりそうです。

欲張りでごめんね。

じゃあの。

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/10(木) 01:48:06.68 ID:oOhPCvA90
>>1
いや、全然大丈夫、寧ろご褒美。気長に待ってるぜ。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/10(木) 03:45:15.63 ID:DdRhWdvIO
欲をかくほど伸びてしまうならむしろもっと遅くても全然待てます
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/12(土) 11:45:06.12 ID:wpPKZPOXo
こんな良スレをまとめサイトからしか見れない人間は憐れだな
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/05/12(土) 15:01:26.07 ID:6fCjRZKAO
>>1、あんた最高やで
過去作読みながら待ってる甲斐があったわ
411 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 17:02:05.68 ID:K5Vb1iRAO
>>1です

ACT.XX「白いワンピース、赤い千本鳥居」は今夜22時過ぎに投下するでよ

じゃあの
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/13(日) 17:43:47.09 ID:MP92ENK9o
読み直してくる。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/13(日) 21:29:11.05 ID:mA4tMOgQ0
全裸待機完了。
414 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:00:29.78 ID:K5Vb1iRAO
〜00〜

「……さん」

ずっと長い間、幻想(ゆめ)に微睡んでいたような気がする。

「……希さん」

悲しくて、切なくて、寂しくて、懐かしくて、愛おしくて――

「……淡希さん」

ずっと見ていたいような早く目覚めたいような、そんな幻想を

白井「〜〜いい加減起きやがれってんですのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!!!!」

結標「わっ!?」

白井「もうお昼ですの!いくら夏休みとは言え貴女という方は」

結標「えっ、えっ?」

白井「……何を寝ぼけていらっしゃいますの?根性のみならず目玉と脳味噌まで腐ってしまわれたので?」

失敗したテーブルクロス引きみたいにシーツを引っ剥がしてぶち殺してくれたのは遊びに来ていた黒子。
一瞬パニクっちゃって自分の寝床がわからなくなってしまったわ。自分の部屋なのかホテルなのかって。
とりあえず合い鍵渡してるんだからちゃんと使いなさい。テレポートで入って来られたらわからないわ。

結標「ふあー……おはよう黒子。ところで何か用事かしら?」

白井「何って、“今日は花火大会があるから見に行かない?”仰有っていたのはどこのどなたですの!」

結標「あ」

白井「自分から誘っておいてこれですの?さあとっとシャワーと歯磨きと着替えを済ませて下さいまし」

とか何とか言って、私の手を引いて背中に腕を回して起こしてくれる辺りこの娘って本当に優しい娘ね。
お小言は多いし大喧嘩もしょっちゅうだけど、私がだらしない姿を見せるのはそんな貴女だからなのよ。
あん、意外と力強いのよねこの娘。前に腕相撲したらあっさり負けちゃった。流石は風紀委員さまさま。

結標「うん、今日何着て行こうかしらね。黒子はどう思う?」

白井「陽射しが強いのであまり肌を見せない方が宜しいかと」

結標「えー……それだったら余計に暑苦しいじゃないのよー」

白井「……せんの」

結標「?」

白井「貴女の柔肌が人目に晒されるのがわたくしには我慢なりませんの!言わせないで下さいまし!!」

あと意外に嫉妬深いのよね。前に海原が話し掛けて来た時もキャンキャン噛みついて来たし。それに――

結標「じゃあ貴女が着せてよ黒子」

白井「!?」

結標「私は脱がせるの専門だから」

何て言うか、この娘以外に言われたりされたら鬱陶しい事まで嬉しいなんて私も色々と末期なのかもね。

415 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:00:59.58 ID:K5Vb1iRAO
〜01〜

結標「ねー黒子上がったから髪拭いてー」

白井「年上の威厳も年長者の貫禄もへったくれもありませんの」

結標「その分、貴女がしっかりしてくれてるから差し引き0よ」

ほとんど下着姿のままお風呂場から出て、私は四角く切り取られた額縁のような窓から青空を仰ぎ見る。
そこには姫神さんから京都のお土産にって貰ったガラス風鈴がぶら下がって、涼しげな音を立てている。
私は扇風機の前に座って、黒子に髪を拭いてもらいながら目を細める。気持ち良くてまた寝ちゃいそう。

白井「月詠先生の仰有る通り、全く困った方ですのね。わたくしがいないと何にも出来ないんですから」

結標「小萌にもこんな風に甘えた事ないわよ?貴女だけよ黒子。こんな私を知っているのは貴女だけよ」

白井「はいはい、身に余る光栄のあまり溜め息しか出て来ませんわ。この手の掛かるわたくしの恋人は」

嗚呼やだ。また小萌が何かこの娘に入れ知恵したんだわ。ある時なんて夕食が私の好物ばっかりだった。
あと私の好きな映画のDVDとかドンぴしゃで借りてきたり、絶対この二人裏で繋がってるに違いない。
きっと私のいないところで愚痴や悪口を言い合ってるに違いないわ。だらしのない自覚くらいあるもの。

白井「………………んっ」ゴシゴシ

結標「黒子?うなじ見過ぎだから」

白井「!」

結標「知ってた?私って背中にも目がついてるの。貴女限定で」

白井「〜〜はい、終わりましたわよ!あと手をお出し下さいな」

結標「?」

白井「爪が伸びていらっしゃるようですので柔らかいうちにと」

でもね、それにはこの娘も責任の半分はあると思うのよ。面倒見が良いって言うよりも世話焼きだし。
今もこうやってパチンパチンって爪切ってもらうだなんて、母親にしてもらった記憶さえ朧気だもの。
妹みたいに思ってたけど、母親みたいな面もあって、昔みたいに気負ったり気張ったりしなくなった。

結標「……何て言うか、こういうのって」

白井「動くと深爪しますわよ?何ですの」

結標「……お嬢様とメイドみたいねって」

白井「ご主人様と奴隷の間違いでは?この腐れサディスト!!」

結標「何だって良いのよ。貴女を好きな事に変わりはないから」

そう、ちゃんと綺麗に切って整えてね?私の手先が荒れていて、痛い思いをするのは貴女なのだから――

416 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:01:44.37 ID:K5Vb1iRAO
〜02〜

それから私達は一緒に部屋を出て、手を繋ぎながら駅前へ向かった。暑いし汗ばむから腕を組むのは無し。
それに何よりそこまですると目立って仕方無いもの。冬じゃあるまいし。知り合いもまあ、大体の所は――
私達の関係は知られてる。暗黙の了解みたいなもの。肯定されたい訳でもなし否定するでもなし。ただ……

白井『わたくしは一向に構いませんが貴女は平気なんですの?』

結標『貴女が大丈夫なのに何で私がおたつかなきゃいけないの』

一回だけ黒子が私を慮った事はあったけれど、そんな話はその一度きりで終わらせた。だって不毛だもの。
言葉は悪いけれど、私達は『殺し合い』って言う、ある種人間関係の破局点からスタートした間柄だから。
思いを告げたのも一つにしたのも、奪うように口づけて犯すように身体を重ねたその後の事だったから寧ろ

結標『私はブレないし揺れない。貴女が迷ったり惑ったりしないのと同じようにね。何か文句でもある?』

白井『異論はございませんわ。わたくしが心配だったのは貴女のその人一倍打たれ弱いメンタルでしたの』

もう怖いものなんてないって言うか、失うものもないって言うか、居直りか開き直りに近いものだった。
遺伝子や倫理観や世間体とかそういうものに逆らっている私達は可哀想だとか格好良いとさえ思わない。
だって私達の中で自己完結している事に今更自己嫌悪も自己主張も自己保存も何もあったものじゃない。

結標『舐められたものね?あれだけお互いの醜い素顔をぶつけあって今更取り繕う事も何もないでしょ』

白井『お姉様に対してネチネチ言ったりわたくしに対してメソメソする割にサバサバしておりますわね』

付け加えるなら、私は未だに御坂美琴が大嫌いだし向こうもそう。黒子の前では喧嘩しないってだけで。
だってお互いに殺し合いまでやってのけて今更シェイクハンドだなんて悪い冗談、どんな茶番って話よ。
それなら私と黒子はどうなのかって?決まってるわ。欲しいから。独り占めしたいから。好きだからよ。

結標「あっ、モノレール来たわね」

白井「混み合っているようですの」

甘酸っぱい経過を経ずして結論を出して、甘ったるい過程を踏まえず結果は出てる。苦々しいくらいに。
砂糖やミルクを入れなきゃ飲めないくらいなら、最初からコーヒーなんて飲むなって理屈に似てるわね。


これだけ甘い生活に浸ってるんだから、ちょうどいいくらい。

417 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:04:35.29 ID:K5Vb1iRAO
〜03〜

そう、ちょうど良いくらいだわ。この娘のお尻のサイズと形。

白井「(貴女どこ触ってるんですの!電車内ですわよ!?)」

結標「(可愛すぎる貴女がいけないのよ。声出しちゃダメ)」

白井「(あんっ……)」

結標「(バレるわよ)」

クーラーが効いてるんだか効いてないんだかもわからないくらい混み合ってて汗臭いモノレール内で――
私は身を捩らせる隙間も、私の手から逃れる場所もない黒子に面白半分で痴漢行為を働いてみたりする。
勿論ワンピース越しにね。ほら、耳まで真っ赤にしている貴女がよく見えるわよ黒子。とっても素敵ね。

白井「(降りたら覚えてやがれですの……あっ、あ、や!)」

結標「(ほら、私を逮捕してご覧なさいよ風紀委員さん?)」

風紀委員なのに犯罪者の私に辱められてそれでも耐え忍ぶ貴女はとっても素敵。食べちゃいたいくらい。
本当に嫌なら手で払いのけるか押さえつけるくらいは出来るくせしてそれさえしない。いいえ出来ない。
というよりさせない。貴女が暴れて良いのは、私の腕の中という限られた自由(オリ)の中だけなのよ。

結標「(ねえ、わかる?私の胸もスッゴくドキドキしてるの)」

白井「(……わかりますの。わかりましたから。だから……)」

結標「(やめてほしい?ちゃんとしてほしい?どっちかしら)」

白井「………………」

結標「(そうやって大事な時に黙り込んで、表情と雰囲気だけで伝えようとするのは悪いクセよ、黒子)」

背中に胸を押し付けてみる。モノレールの振動と相俟ってなんだか変な気分になって来ちゃいそうだわ。
背中越しにも手に取るように表情(あなた)がわかるわ。肩越しに送って来る濡れたような流し目もね。
あらあら意地悪し過ぎちゃったかしら。そろそろフォローしてあげないと後が怖いしね。ああ、けれど。

結標「(ごめんなさい)」

白井「………………」

結標「(貴女を可愛く感じるほど、貴女を好きと思うほど、意地悪してしまうのが私の悪いクセね……)」

白井「(……ちゃんと、もっと、ギュッと、して下さいませ)」

結標「!」

白井「(――罰として、駅に着くまでそうしていて下さいな)」

この娘を檻に囲っているようでいて、鎖で繋がれているのはきっと私の方かも知れないわね。だって……

結標「……ええ、いいわ」

こんなにも、私は貴女から離れられない。

418 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:05:06.82 ID:K5Vb1iRAO
〜04〜

アナウンス「第二一学区自然公園、お降りの際は足元に――」

結標「到着、ね」

白井「ですわね」

結標の両腕が離れるのが先か、白井の手指が離れるのが先か、モノレールは第二一学区へと滑り込んだ。
学園都市にあって唯一山岳地帯を有する自然公園であり、同時に街中の水源を一手に担う学区でもある。
さながら避暑地に赴いた令嬢をエスコートする紳士のように手を携え、結標が白井を乗車口から降ろす。
背後の自動扉が閉まると同時にホームを闊歩していた鳩達が飛びさり、舞い散る羽根が入道雲に重なる。
結標はその様子を眩しそうに見上げ、柳眉の当たりに翳した手で消え行く飛行機雲を見送る。だがそこで

結標「……何だか、ここだけ空気が美味しい気がするのは――」

白井「気のせいですわね」

結標「………………」

白井「気のせいですわよ」

結標「何で二回言うの?」

白井「大事な事ですので」

実は期せずして右斜め四十五度の結標の横顔に魅入ってしまったなどと素直に口に出したならば――
また調子に乗っておちょくって来る事うけあいなので白井は敢えてそっぽを向く。だがその側から。

結標「まあいくら美味しくても空気じゃお腹は膨らまないし、とりあえず出店のある会場に行きましょ」

白井「あんっ、もうっ」

白井のか細い手首を振り回すように階段を駆け下り、二つ結びを揺らしてグイグイ引っ張って行く結標。
そのくせ歩く時だけ歩幅を合わせたり、通路側を歩いたりと、そんな結標が白井はどこか憎めなかった。
揺れ動く二つ結びがご機嫌な猫の尻尾のようで、お揃いの逆十字架のチョーカーは鈴のように感じられ。

白井「全く、子供のような方ですの――」

Suicaを使って改札をくぐると、既に駅前には屋台の仕込みやらテントの組み立てが終わりつつあった。
自然公園、人工湖、天文台行きのバスロータリーは何れも長蛇の列が並んでおり、中々の賑わいである。
しかしそこはテレポーター同士、行く先さえ決まっていれば下手なタクシーなどより余程早い。そこで。

結標「競争しましょうか黒子。ゴールは人工湖の大橋までよ!」

白井「受けて立ちますわ!負けた方が何か奢るという事で――」

結標「」←もういない

白井「いきなり抜け駆け!?」

カラスとウサギの追い掛けっこの行方は――

419 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:05:38.79 ID:K5Vb1iRAO
〜05〜

結標「orz」

白井「いつまで打ち拉がれていらっしゃるんですの。とりあえずフランクフルトでも食べて元気を(ry」

結標「ズルして負けた上に施しを受けるなんて、そんなみっともない真似私のプライドが許さ――」グー

白井「プライドでお腹は膨れませんの。これで貸し一つですわ。いつか取り立てさせていただきますの」

結論から言って、結標は白井に遅れる事約十分後に大桟へと辿り着いた。完膚無きまでに敗北を喫して。
堕落論を地で行く、朝方までの夜更かしと昼過ぎから夕方にかけて寝起きする生活が基礎体力に表れた。
今二人は大橋に並んで腰掛け、花火大会に訪れた黒山の人集りと、賑わい始めた出店を見下ろしている。
アーチから臨む人工湖に映し出されるもう一つの太陽とプロペラを吹き流す涼風に前髪を揺らしながら。

結標「随分高いものについたわ。ありがとう、朝昼食べてなかったからスッゴく美味しく感じられるわ」

待ちくたびれている間に白井が出店で買ったフランクフルトを頬張りながら、結標が流し目を送った。
常盤台中学(おじょうさまがっこう)に身を置いているのに、屋台のフランクフルトを堂々と食べる。
私服のワンピースを見るに、黙ってさえいればどこに出しても恥ずかしくないご令嬢だと言うのに――

白井「大きくて、お口に入りませんの」

結標「………………」

白井「あっ、垂れてしまいますの……」

結標「(……わざとやってない??)」

白井「どうかなさいまして?淡希さん」

結標「う、ううん!可愛いワンピースだから、ソースが零れたらどうしようってハラハラ見てただけ!」

白井「……わたくしが可愛いのはこのワンピースだけですの?」

結標「もちろん、黒子が一番可愛いわよ(これは嘘じゃないわ。ちょっと拗ねた顔も可愛いのだけれど)」

白井「♪」

結標「(――貴女が一番可愛いのは笑顔よ。二番目は泣き顔)」

結標が些か邪な気持ちを抱きながら見つめていた白井の口元が、花開くように綻んだまさにその時だった。

白井「あっ……」ポタッ

結標「どうしたの?まさか泣くくらい感激したなんて事は――」

白井「――違いますの」

結標「?」

白井「夕立ですの!!」

結標「!」

白井の目元から流れた針のような一滴の雫が降り注ぐ槍襖となる。俗に言う狐の嫁入り、天気雨であった。

420 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:07:48.33 ID:K5Vb1iRAO
〜06〜

白井「淡希さん早く!」

結標「まっ、待って!」

堆く聳え立つ入道雲から降り注ぐ通り雨は、さながら嫁入りする娘を思う父の涙のように激しさを増す。
二人は遮るもののないアーチから、蜘蛛の子を散らすように天気雨から逃げ惑う群集を尻目に転移する。
瞬く間に出店は雨宿りの場となり、二人は逃げ場を失い近くに見えた千本鳥居のある稲荷神社を目指す。

結標「(本当にツリーダイヤグラムがなくなってから天気予報が当たらないわ)びしょびしょじゃない」

白井「まさに一瞬の出来事ですの。嗚呼、せっかく貴女にお褒めいただいたワンピースでしたのに……」

雨宿りで軒先まで溢れかえっている茶屋を尻目に二人は石段をテレポートして古びた社まで辿り着いた。
だがデニムを一枚羽織っていた結標は兎も角、白桃色のワンピースを着ていた白井は見るも無残だった。
石畳を穿ち、水煙に白む程の豪雨を浴びて、下着まで濡れ鼠になってしまったのだ。更に付け加えるなら

白井「……こんな格好では表も歩けませんの。つくづく神様とやらは意地悪な仕打ちをなさりますのね」

結標「………………」

白井「………………」

駆け抜ける内にリボンが片一方どこかに落としてしまい、文字通り水を差されたて白井は意気消沈した。
社の周りに咲き誇る紫陽花が雫に濡れ、朝顔が露に塗れ、恵みの雨に顔を上げる中白井は俯いてしまう。
のそのそと葉の下に雨宿りしようとするカタツムリのように膝を抱えて角も出さない。そんな白井を――

結標「……馬鹿ねえ」

白井「………………」

結標「風邪引くわよ」

結標がぴったりと背中から抱き締め白井の肩に顔を寄せて囁きかけた。花火大会など半ばどうでも良い。
それより大切なのは、今自分の腕の中にある白井。しっとりと香って来る雨の匂いすら褪せるような――

結標「とりあえず社の中にお邪魔して服を乾かしましょう?水気を切るだけでも随分違ってくるはずよ」

白井「………………」

結標「それにそんな濡れ濡れ透け透けの貴女を見てたら、意地悪な神様に見せつけてやりたくなるもの」

肩越しに振り返った白井のほどけた髪に口付けながら結標は笑う。あまり萎れてると襲っちゃうわよと。

白井「では、意地悪な神様のお家にお邪魔させて頂きますの!」

二人は揃って社の中へとテレポートした。だがその一方で――

ザッ

玉砂利を踏み締める足音が雨音に混じって

421 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:08:16.80 ID:K5Vb1iRAO
〜07〜

白井「白布が転がっておりましたの。これをキトンにしますの」

結標「キトン?」

白井「古代ギリシャの服ですの。“大鴉”のアテネ像に近いと」

結標「(ええと、テルマエ・ロマエみたいな感じかしら??)」

社の中は暗く湿っぽく埃っぽく、格子窓から覗く雨模様の方が遥かに明るく見えるほどであった。
そこで結標が軍用懐中電灯で内部を照らしてみた所、神式で用いられる白布が転がっていたのだ。
その白布を身体に巻けるように大きく引き裂き、次いで帯紐代わりに細く糸切り歯で切り裂いて。
結標は格子窓から笹の下でゲコゲコと鳴く雨蛙から目を切り、濡れた衣服を雑巾絞りしながら――

結標「貴女って何でも知ってるし何でも出来るのね。嫌味じゃなくて、尊敬というか感心させられるわ」

白井「おばあちゃんの豆知識の延長のようなものですの。こういうシチュエーションでもなければ一生」

こんな物を作る機会などありませんでしたわと白井が結標の脇の下から白布を通し、肩紐に結びつける。
料理は勿論の事、裁縫の心得などない結標からすれば白井の引き出しはまるでマジシャンの帽子だった。
そこで結標は何とはなしに万能選手たる白井に何か苦手なものはないのかと思いつき、選んだ話題は――

結標「そうそう、こういうシチュエーションって言えば――」

白井「?」

結標「このお社、今にも何か出て来そうな感じとかしない?」

白井「いたしませんの。そんな非科学的な事有り得ませんの」

結標「(もう、怖がったりしたらギュッてしてあげたのに)」

在り来たりではあるが、怪談や幽霊と言った類の非科学(オカルト)に水を向けてはみたものの――
白井の平然とした様子に、望んだ反応を得られず結標は憮然とした。筋金入りのいじめっ子である。



  だ  が  し  か  し  



ガタガタ

白井「……何か物音がいたしません?」

結標「あ、ああ雨風のせいでしょう?」

ヒタヒタ

白井「……何か足音がいたしません?」

結標「か、かカエルじゃないかしら?」

ズリズリ

白井「……何か近づいてませんこと?」

結標「ちょちょ、ちょっとやめてよ!」

私を担ごうとしてと結標が恐る恐る背後を振り返るも、そこにあるのは格子窓と雨風に揺られる笹のみ。

結標「ほら、何もいないじゃない――」

と、結標が白井に向き直った次の瞬間――

422 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:09:08.79 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
姫  神  「  お  稲  荷  様  が  見  て  る  」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
423 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:11:55.97 ID:K5Vb1iRAO
〜08〜

結標「……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

白井「」

結標「さ、貞子ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」

姫神「せっかく助けに来たのに。人を貞子呼ばわりするなんて」ズリズリ

結標「こ、来ないでェェェェェェェェェェェェェェェー!!!」

白井「」

結標「す、3Dィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」

姫神「(面白いから。腹癒せにもう少し。やり返しておこう)」ズリズリ

と、キトン姿で互いに抱き締め合いテレポートを思わせる速度で後退って逃げ出す二人の悲鳴と共に――
カッと稲光りが起き、照らし出されるは顔を濡れ羽色の黒髪で覆われた巫女服の少女もとい姫神である。
社の下、石段の側にある茶屋にて臨時のアルバイトしていてたまたま休憩中に二人を見かけたのだが――

結標「ひっ、ひっ、姫神、さん、なの?」

姫神「呼ばれて。飛び出て。ジャジ(ry」

結標「――呼んでないわよ!!!!!!」

白井「」

すぐさま二人に声をかければ良かったのだが、ついつい好奇心が先立ち覗き見してしまっていたのである。
だがこれではいけないと蛇の目傘を畳み、いざ社に入ろうとして蜘蛛の巣に引っ掛かり雨に当たりetc.……
テレポーターでない身で、やっとの事で内部に入り込めた時には立派な貞子の出来上がりだったのである。
中途までは不可抗力ではあったが、途中からは確信犯的に貞子ごっこを楽しみ二人を脅かしていたのだが。

姫神「ひどい言い種。あんまりな物言い。うちの茶屋の事務所に。雨宿りさせてあげようと思ったのに」

結標「えっ、姫神さんこんなところでアルバイトしてたの?」

姫神「霧ヶ丘女学院を追い出されてから。懐が寂しくて――」

幽霊の正体見たり枯れ尾花の例えではないが、結標もそこでようやく平常心を取り戻す事が出来たのだ。
だがそれ故に気づいてしまったのである。今、雨宿りに選んだはずの、雨の降り込まない社の中にあって

ピチョン……

姫神「あ」

白井「」

結標の足元を濡らす雨音とは異なる水音の正体。そして先程から黙り込んだまま微動だにしない白井の。

結標「……姫神さん?」

姫神「………………、」

結標「後で話があるわ」

姫神「」

――もはや何も言うまい。一人の少女の名誉のためにも――

424 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:12:25.94 ID:K5Vb1iRAO
〜09〜

白井「わたくしもうお嫁に行けませんの……」シクシク

結標「いざとなったら私が貰ってあげるわよ」ナデナデ

白井「えっ……」ドキッ

姫神「そこの二人。ここは。陰間茶屋じゃないんだから。あまりイチャイチャしないで欲しい」ヒリヒリ

吹寄「(ずいぶんとおっきなたんこぶをこさえて来たものね……)はい、あたたまるもの持って来たわ」

結標「陰間茶屋って男の子同士じゃなかったっけ?ありがとう吹寄さん。お代は後でちゃんと払うから」

その後、頭にたんこぶを作った姫神の手引きにより二人は社から茶屋のスタッフルームへと通された。
白井と結標はそこでシャワーを借り、ずぶ濡れになった衣服を干し、一つのシーツに身を寄せている。
そこへ更に生クリームを乗せたドライフルーツ入り羊羹と緑茶を乗せたお盆を手に、吹寄が姿を現す。
結標はそれらを受け取り一口含むとようやく人心地がついた。何でもこの茶屋は昨年の夏、姫神が――

姫神『霧ヶ丘女学院を追い出されてから。懐が寂しくて。小萌先生に拾われるまで。ここで働いていた』

結標「(この娘も何気に苦労人というか、結構幸薄い人生送って来てるのよね)ありがとうね姫神さん」

姫神「お礼よりお代が欲しい。この間の帰省で。生活費も厄い」

結標「――そうね。お墓参り、やっと行けたんですものね……」

白井「(わたくしにはわからないお話をされてますの)」ムスッ

少しの間住み込みで働いていたらしく、何かと融通が利くらしく、それが縁で吹寄も誘ったとの事だった。
だが姫神の過去を知る結標が向ける眼差しを、知らない白井はややジト目で見つめるより他なかった。だが

吹寄「(………………)そうそう、女将さんに話してみたら“服が乾くまでの間浴衣でもどう?”って」

結標「ゆ、浴衣?」

姫神「うん。いつまでも。シーツおばけのままじゃいられないでしょう?そういう訳で。二人とも連行」

白井「お、お待ち下さい浴衣くらい一人で着付けられますの!」

姫神「私はこの娘。吹寄さんは。結標さんの方を。お願いする」

白井「あ、淡希さん」

結標「く、黒子ー!」

そして二人はくるまっていたシーツから引き剥がされ、互いから引き離され、それぞれ奥座敷へと――

425 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:12:52.94 ID:K5Vb1iRAO
〜10〜

白井「あ、あの、その、つかぬ事をお伺いいたしますが――」

姫神「?」

白井「淡希さ、いえ、結標さんとのお付き合いは長いので?」

姫神「それなりの長さだけど。貴女よりは。深くないと思う」

白井「??」

姫神「強いて言うなら。前世の恋人。みたいな感じ。うふふ」

白井「!!?」

姫神「ふふふ。冗談。それくらい気が合う。友達ってだけで」

白井「………………」

姫神「貴女が心配してるような事は。何もないから安心して」

奥座敷の姿見の前にて、白井は姫神に羽織らされた浴衣が手慣れた様子で着付けられて行く様子より――
鏡越しに伺える姫神の美貌と、隣室にて同じく着付けられているであろう結標との関係にやきもきする。
結標が生きて帰って来た日に開いた焼き肉で一度顔を合わせているが、こうして二人きりで話す機会など

白井「申し訳ございませんの。下衆の勘ぐりも甚だしいですの」

姫神「いい。あっ。背中の線がちょっとズレた。動かないでね」

白井「(……馬鹿ですわねわたくし。ご友人にまで焼き餅を焼くだなんていよいよ焼きが回ってますの)」

姫神「それに」

白井「えっ?」

姫神「貴女の前では違うかも知れないけど。私達や。風斬さんや。雲川さんの前では。すごくクールな人」

白井「………………」

姫神「そんなあの人を。焼肉の時みたいにムキにさせたり。さっきみたいに引き離されるのを嫌がったり」

今まで一度もなかった。だが姫神は白井の腰で交差させた帯を前に回して、着崩れぬよう強めに締める。
流れるような手付きと裏腹に変化に乏しい美貌が、鏡越しに姫神を盗み見ていた白井の視線とぶつかる。

姫神「そんな風に結標さんを変えてくれたのは貴女。あの人は甘えられる人にしかわがまま言わないから」

白井「姫神さん……」

黒曜石を思わせる眼差しが細められ、艶めかしい唇が弧を描き、白井の頭上に姫神の黒髪が流れ落ちて。

姫神「結標さんの事。お願いね。あの人。きっと自分が思っている以上に。か弱くて。寂しがり屋だから」

その時白井は思った。黒髪を表す濡れ羽色とは雨に濡れたカラスの羽の色であると。そして姫神は――

白井「――この身に、代えましても――」

大鴉のような結標と対となる、有り得たかも知れないもう一羽の小烏なのだと、白井には感じられた。

426 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:15:37.16 ID:K5Vb1iRAO
〜11〜

結標「ふ、吹寄さん。これ、キツく締め過ぎじゃないかしら?」

吹寄「伊達巻きが合わないなら、マジックテープか腰紐なんか」

結標「(ちょっと待って。この流れだと私が太ったみたいに)」

吹寄「でもまああまりキツく締め上げたら具合が悪くなったり」

結標「や、やっぱり緩いわ!もっと締め付けてちょうだい!!」

同時刻、隣室にて吹寄に着付けて貰っていた結標もまた、慣れぬ浴衣と違う勝手にやや戸惑いながら――
姿見に映った己の立ち姿に、悪くないわねと満更でもなさそうにし、悦に入ったどや顔でにやけていた。
精神統一が肝要なテレポーターという事もあり、こうしたヒラヒラした服を着る機会があまりないのだ。
そんな結標のにやけ顔を知ってか知らずか、吹寄は着付けのみならず結い上げまで手伝ってくれると――

結標「ありがとう吹寄さん。でも何だか同じ女としてちょっと」

吹寄「何ですか?」

結標「負けてるような気がする。貴女も姫神さんも黒子も、みんなこういう女の子らしい事が出来るのに」

一番年上なのに一番女の子らしくないと、は背後の吹寄に向かって首を後ろに倒して結標は微苦笑する。
料理は相変わらず下手だし、裁縫など家庭科以外では針に触れた事さえないの、と諧謔するかのように。
一つ年下でも同じ高校生の貴女達にならともかく、四つ年下の中学生(くろこ)にも敵わないなんてと。

結標「……黒子はどんな浴衣なのかしら」

吹寄「――やっぱり、気になりますか?」

結標「ええ。もしかしたら自分の浴衣を見てもらうよりもドキドキするかも知れないわ。楽しみで――」

そんな結標の後ろ髪を櫛削りながら吹寄は思う。今まで自分達には向けられた事のない含羞んだ笑みに。
思わず同性でありながらドキッとさせられるような微笑みと、ゾクッとする流し目。それに対して吹寄は

吹寄「私もよく、上条当麻やクラスの男子達に女の子らしくないと言われますし自分でもそう思いますが」

結標「?」

吹寄「私が女の子らしくないって言うのと結標さんの女の子らしくないって言うのは違っていると思うわ」

着付け終えたが赤くした耳ごと顔を伏せて押しやり、結標が羊羹を頬張りつつ茶を啜り待つ事五分――

427 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:16:18.83 ID:K5Vb1iRAO
〜12〜

白井「お、お待たせいたしましたの……」

結標「!!!!!!」

吹寄「……可愛い!」

姫神「会心の。出来」

奥座敷へ通された白井の出で立ちに、結標は行儀悪く肩肘を突いてつついていた羊羹を小盆に落とした。
そこにはピンク色をした大輪の百合を意匠にあしらった白い浴衣姿に、髪をアップにまとめ上げた白井。
シュシュや簪、帯やコサージュも百合を象られたその立ち姿に、結標は息を呑んだまま吐く事を忘れた。

結標「………………」

白井「……あ、淡希さ」

結標「――姫神さん?」

姫神「何?」

結標「――良い仕事よ。脱がせるのが惜しくなるほど可憐だわ」

白井「!!?」

結標「と、いう訳で。少し襖を閉めて席を外してくれると私としてはとても嬉しいのだけど。うふふ!」

白井「は、離して下さいまし!浴衣がシワになりますのー!!」

姫神「陰間茶屋での本番行為は厳禁。さっきの話はなかった事にして白井さん。この人はただのスケベ」

吹寄「(私の中の結標さんのクールなイメージが崩壊してく)」

息をするのを忘れた次は、ここが茶屋である事も忘れて結標は白井を抱きすくめて鼻息を荒くしていた。
ワンピース姿がお嬢様なら浴衣姿はお姫様であろうか。ハアハアと首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。
姫神や吹寄の目がなければ、今ここで帯を解いて“あーれー!”でもしかねないハイテンションぶりで。
そんな結標の魔手から逃れんとジタバタする白井が、何とか注意を逸らそうと肩越しに見やった先は――

白井「淡希さん!そこのお盆にある色紙はもしや短冊では??」

結標「先っぽだけだから!先っぽだけだから!って、ええー?」

吹寄「そ、そうよ!今日は8月7日の七夕祭りでしょ?お店のちょっとした遊び心みたいなもので――」

姫神「希望者は。お店の側にある笹に吊す事も出来る。願い事が叶うって。結構。評判いいみたいだし」

結標「それはそうだけど、あんな土砂降りの雨じゃ七夕祭りどころか花火大会だって延期になるんじゃ」

姫神「大丈夫」

お盆に置かれた短冊の色紙に目を止めた白井を吹寄が両手を突き出してフォローし、姫神が指差す先。
いつしか降り止んでいた空模様を指し示すように、開かれた障子から夕晴れに照らされた庭園が見え。

姫神「貴女達がイチャつきぶりに。夕立も呆れて止んだみたい」

祭囃しが聞こえて来た。

428 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:16:48.91 ID:K5Vb1iRAO
〜13〜

結標「それじゃお邪魔しました」

白井「お世話になりましたの!」

吹寄「雨上がりだから足元に気をつけて下さいね。草履も履き慣れていないと疲れるし転ぶ原因になるし」

姫神「……結標先輩」タッタッタ

白井「!」

姫神「ありがたくちょうだいいたします」

白井「?」

結標「――何の事かしら?それよりも、“先輩”はよしてよー」

それから二人は羊羹を頬張りお茶を啜り、短冊に願い事を書いて笹に吊し、茶屋から立ち去って行った。
夕映えの赤光の下、千本鳥居の下を手繋ぎで歩んで行く二人を、吹寄と姫神は眩しそうに見送っていた。
雨上がり特有の水気を含んだ涼風が、プロペラに滴る雨露を吹き飛ばして、金木犀の香りを運んで来る。

吹寄「行っちゃったわね」

姫神「うん」

靡く吹寄の、戦ぐ姫神の黒髪が吹き抜ける風に翻って重なり、重力に引き裂かれて肩にフワッと落ちる。
結局二人の私服は茶屋を出る頃には乾いたのだが、浴衣は結標が買い上げて行った。記念にと言う事で。
それに袖を通してしまった事だし、何より後輩の好意に甘えっ放しでは先輩の沽券に関わると。更に――

姫神「チップまで貰っちゃったね。白井さんを泣かせたお詫びのつもりだったのに。何だか悪い事した」

吹寄「……お盆の下に敷いて行くあたりが心憎いわね。今日一日のアルバイト代より高い臨時収入だわ」

吹寄が見送りに出、姫神が片付けに回ると、お盆の下から苦み走った福沢諭吉が二人顔を覗かせていた。
座標移動で置いて行ったのだろう。姫神の里帰りとアルバイトの経緯を知り、着付け料兼迷惑料として。

吹寄「良い先輩よね」

姫神「私もそう思う」

アルバイト上がったら一緒に夜店を見て回らない?と誘われたが姫神は白井に遠慮して辞去する事にした。
着付けの間中、白井はやれだらしないだのいやらしいだの結標に関する愚痴に見せ掛け散々惚気ていた。と

姫神「(いけない。私。あの二人に。あそこの稲荷神社の事で伝えなくちゃいけない事があったのに)」

吹寄「あれは?」

姫神「……傘?」

雨上がりの夕焼け空の下、やや泥濘んだ地面に女物の傘が落ちているのを見かけ、姫神らが拾い上げる。

姫神「――うん」

その光景に、姫神は僅か一、二時間に過ぎない夕立にあって――

姫神「もう。雨は。上がったから」

長い間降り続けていた雨が上がったように、晴れ晴れと微笑んで

429 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:19:41.20 ID:K5Vb1iRAO
〜14〜

結標「ねえ、短冊にどんな願い事した?」

白井「それは乙女の秘密ですのよ♪」

結標「えー、教えなさいよ!それに何だか姫神さんと仲良さ気になってたし、二人きりで何話してたの?」

白井「女の子同士の内緒話ですの♪」

結標「どうせ私の悪口で盛り上がってたんでしょ?あーやだやだ。黒子はいつから私に隠し事するような」

焼きそばのソースが、トウモロコシの醤油が、ベビーカステラの焦げる香りと焼ける匂いが煙に乗り――
輪投げに一喜する男の子、金魚すくいに一憂する女の子を尻目に二人は夜店の縦列と人波の横列を行く。
会場となる人口湖は長大であり、河川敷は広大であり、至る所でシートで場所取りする学生らが見える。
その直中にあって、白地に百合の浴衣姿で髪を上げた白井と黒字に蝶の浴衣姿で髪を下ろした結標に――

???「うほっ、いい女……」

???「……はまづら、どこ見てるの……?」

???「バニーガールどころか浴衣まで範囲内とか浜面超節操無しですね」

???「フレンダの精霊流しの前に土左衛門になりたい?はーまづらー?」

???「なあなあ、お二人さん!僕とひと夏の思い出作りせーへんかー?」

彼女持ちでありながら振り返る者、彼女無しであるが故に声をかける者、その中にあって当の二人は。

結標「(でもこの娘の浴衣姿本当に可愛いのよね。私なんかより全然似合ってるし、男の子も見てるし)」

白井「(下ろした髪と相俟ってとっても色っぽく見えますの。わたくしよりもずっとサマになっていて)」

結標「(シッシッ、黒子は私の所有物よ。貴女もそういう憂いを帯びた表情を私以外に向けないでよね)」

白井「(やはり子供っぽいわたくしでは、淡希さんと並んで歩くのは不釣り合いですの。嗚呼、何だか)」

結標「(悩ましげな溜め息なんてついて。もしかして振り回し過ぎて疲れさせてしまったのかしら……)」

白井「(はしゃいでいるのはわたくしだけ?わたくしに合わせていて、つまらなくはございませんの?)」

結標「ねえ」白井「あの」

白井「……」結標「……」

結標「お、」白井「先に」

結標・白井「「………」」

白井・結標「「〜〜〜」」

するとそこへ――

佐天「お二人さーん!!」

結標・白井「「!」」

思わぬ――
430 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:20:46.34 ID:K5Vb1iRAO
〜15〜

白井「佐天さん!!?」

佐天「えへへ、おめかししてたから遠目にわかんなかったけど、やっぱり白井さんだ♪(可愛いのう)」

結標「こ、こんにちは」

むーちゃん「あれ、ルイコの友達??」

マコちん「ほら、初春と同じ風紀委員」

アケミ「ああ、あの人が白井さんかー」

結標「(な、何か女の子がたくさん)」

と、二人があんず飴のさされた切り出された氷に足を止めたところで、佐天とその友人らに出くわした。
初春は遅れて合流するなどと佐天と話し込む白井にあって、結標はやや所在無げにするより他なかった。
もし御坂がいれば喧嘩を売るなり買うなりするが、敵味方でない限り中学生とどう関われば良いのかと。

佐天「皆に紹介するね!この人が初春の同僚の白井黒子さん!」

白井「お初にお目にかかりますの。白井黒子、と申しますの!」

佐天「で、こちらは――」

結標「(私もなの!?)」

佐天「――白井さんの“お姉さん”の“白井灰音”さんだよ!」

結標「(よりによって一番思い出したくない黒歴史を!!?)」

白井「(狼狽えるんじゃありませんの!もとを辿れば貴女が撒いた種ですの!ご自分でどうにかなさい)」

計算され尽くした営業スマイルを浮かべようとした矢先に、佐天から嘗ての意趣返しを受け面食らった。
行列を避けあんず飴の出店の側に移動し、可愛い可愛いと白井の浴衣を誉める傍らで、佐天はずっと――

佐天「ねえねえ、あんず飴って言っても色んな種類あるよねー」

むーちゃん「うん、ミカンにパイナップルにイチゴにブドウに」

マコちん「チョコもあるね。色付きのはメロン味とコーラ味?」

アケミ「どれも一通り試してみたいけど今月ヤバいんだよねー」

佐天「だよねー」チラッ

結標「(こ、この娘)」

佐天「年に一度のお祭りだし来年までお預けかな」チラッチラッ

結標「(私を強請ってる!?ちょ、ちょっと黒子貴女も何か)」

白井「――“灰音お姉様”」

結標「(貴女まで!!?)」

白井「先程の負け分を、今ここで取り立てさせてもらっても?」

結標「」

小悪魔めいたウインクで結標を揺さぶり、無邪気な三人が相乗りし、白井も悪い笑顔で結標にしなだれ。

結標「……おじさんこの氷に刺さってるの全部ちょうだい!!」

おじさん「ええ!?」

先程姫神達に弾んだチップと相俟って、財布がまた一つ軽く――

431 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:21:21.33 ID:K5Vb1iRAO
〜16〜

店主「か、勘弁してくれよお姉さん!店が潰れちまうよー!!」

結標「このっこのっこのっこのっこのっこのっ」バンバンバン!

観客「シモ・ヘイヘみたいな女がいるぞ!こっち来いって!!」

結標「誰が“白い死神”よ!ほら、お次はPSP行くわよ!!」

佐天「灰音さん3DS取れます?初春のお土産にしたいんだー」

むーちゃん「うわっ、すごっ!ゴルゴかランボーみたいだねー」

マコちん「射的のライフルなのに、マシンガンに見えて来たよ」

アケミ「白井さんのお姉さんすごくない?何の能力者なの??」

白井「わたくしと同じ空間系能力者ですの。その気になれば距離、風向きを含めた弾道計算も朝飯前かと」

アケミ「うーん、私にはよくわかんないけどそれって空間把握を射撃に応用してるって事で良いのかな?」

白井「そんなところですのよ(わたくしをほったらかして、佐天さんとばっかりお話してますの)」ムスッ

わんさとあんず飴を抱えたむーちゃん、綿菓子を舐めるマコちん、たこ焼きを頬張るアケミが長椅子に。
白井はその横に腰掛け、御坂へのお土産に買ったゲコ太のお面を側頭部に付けて結標と佐天を見つめる。
鬱憤晴らしに挑んだ射的で、店主が悲鳴を、ギャラリーが歓声を上げるほどの戦利品を勝ち得る結標達。
しかし白井は焼きそばを手繰りながらも何となく面白くない。佐天に結標を取られたような気がして。が

アケミ「………………」

白井「如何なさいまして?ソースでも顔についてましたの?(青海苔は抜いてもらったはずですの)」

アケミ「ううん、ソースはついてないけど顔には出てるかな?」

白井「?」

アケミ「ごめんね。ルイコが白井さんのお姉さん取っちゃって」

白井「!」

アケミ「後で叱っとくから許してあげてね?でも白井さんって初春やルイコから聞いたイメージと――」

白井「………………」

アケミ「うん、いい意味で違ってて良かった。どんな堅物さんかと思ってたけど、そんな顔もするんだ」

風紀委員、常盤台中学生と言うどこかお堅いイメージがつきまとっていた自分に寄せられた言葉に――
一番驚かされたのは他ならぬ白井自身であった。同時にかつて悩んだそれらの軛から解かれた自分を。

白井「……だって同い年ですもの。たこ焼き一つ頂けません?」

ルイコ「うん、いいよいいよー」

そんな白井を――

432 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:24:12.10 ID:K5Vb1iRAO
〜17〜

結標「(そうそう、いつもそれくらい自然体でいて良いのよ)今日はこれくらいで勘弁してあげるわ!」

店主「うう、足りねえ分は福引き券でこらえてつかぁさい!!」

佐天「やったやった♪ありがとうございます!“灰音さん”?」

結標「(その呼び方はもうやめてってば佐天さん!)」ボソボソ

いつしか少女達とメールアドレスの交換に夢中になっている白井を尻目に、結標は花火が上がる前に――
射的場の店主が店仕舞いを考えるほどの戦利品を佐天に、不足分を補う福引き券の束を手にして離れた。
そこで抱えきれないほどの戦利品を手にしホクホクする佐天が気づいた。結標が白井に向ける眼差しに。

佐天「………………」

結標淡希。御坂と白井を巡って啀み合い自分に嘘をついた相手。同時に帝都タワーでの一件において――
白井の凶行を止め、御坂を生き延びさせ、その前後自分にカードキーを渡し白井を託した相手でもある。
未だ御坂と結標の間に雪解けが訪れたという話は聞かないし、白井も御坂に結標の事は話さないと言う。

結標「どうかしたの佐天さん?ボーっとしてたら流されるわよ」

佐天「いやー、これが噂の白井さんの彼女かと思ったら、つい」

結標「どうせ悪い噂でしょ。あの娘にも苦労かけてると思うわ」

佐天「苦労って、そんな事ないと思いますけどね。だって……」

結標「ううん。大っぴらに出来る関係ではないし、それに何より私は高校生でも貴女達は中学生だもの」

佐天「――――――」

結標「子供扱いする訳じゃないけど、あの娘が私にしか向けない表情があるように、貴女達の年の頃の」

佐天「結標さん……」

結標「同世代の子にしか見せない素顔もあると思うの。私はそれをもっと大切にして欲しいと思ってる」

今まで散々大人気ない事して今更年上ぶれる立場じゃないけどねと結標は微苦笑を浮かべ、佐天もまた。

佐天「……何だか」

結標「何かしら?」

佐天「私が弟を見てる時とか、今の結標さんみたいなのかなーって、ちょっと親近感湧いちゃいました♪」

結標「?」

佐天「さあ、そろそろ移動しましょうか。今からじゃ立ち見しかないけど、出来るだけいい場所に――」

結標「もし良かったら、穴場まで案内してあげましょうか?あそこにいる貴女のお連れさんも一緒にね」

佐天「私達まで良いんですか!?」

結標「だって黒子の友達ですもの」

そして――

433 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:24:45.31 ID:K5Vb1iRAO
〜18〜

結標「じゃあ危ないから一人ずつ上げて行くわよ。黒子、貴女はてっぺんで受け手に回ってちょうだいな」

白井「わかりましたの。ではまず佐天さんから。次にむーちゃんさん、マコちんさん、アケミさんの順で」

むーちゃん・マコちん・アケミ「「「お願いしまーす♪」」」

屋台村を後にし一行が向かった先。それは花火を今か今かと待ちわびる人々が犇めき合う人工湖の――
そのまた上にかかる大橋であった。そこすらも今や歩行者天国化し、欄干に腰掛ける者達もいる中で。

白井「よっ、ほっ」ピョン

結標「行くわよー」ブンッ

佐天「はわわ!?」ビュン

ガヤガヤと混み合う人混みの中、まず白井が空間移動で大橋の頂上へとアクロバットにテレポートする。
そして結標が軍用懐中電灯を振るって佐天を白井の元へ送り、白井が転移させられた佐天を受け止めた。
そこは花火を見るにあたってまたとない特等席であると、佐天も転移させられるまで思っていた。しかし

佐天「(た、高い……)」

結標「次、行くわよー!」

白井「OKですのー!!」

むーちゃん「ひゃっ!?」

大橋の頂上に立った佐天は瞠目させられる。眼下の人波が文字通り細波にしか見えないほどの高低差に。
更に髪が、裾が、手にした駄菓子や景品の詰まった紙袋が唸りを上げうねりを描く強風に浚われそうで。
同時に、茜色に染まる入道雲やその彼方に瞬く夕星にまで手が届きそうなほどの絶景は言葉を失うほど。
それは佐天の横に転移されたむーちゃんも同様で、言われなくとも立っていられないほどの高所だった。

むーちゃん「すごい……」

佐天「すごい眺めだねー!こんな高さ、飛行船とかじゃない限り鳥でもなきゃ見れない景色って言うか」

むーちゃん「ううん、そうじゃなくてさ」

佐天「?」

むーちゃん「これがあの二人が当たり前みたいに見てる世界なんだって思うと。何か言葉にならないよ」

人集りのいくつかが自分達を見て驚嘆の声を上げているのがわかったが、怖憚り見下ろす事さえ叶わない。
周囲に聳え立つ風車は緩やかに回っているのに、頂上に立つ少女達には絶え間ない突風に感じられる高所。

マコちん「わ、私ちょっと怖いからアケミと一緒がいいです!」

結標「ええ、いいわよ。黒子ー!今度は二人飛ばすわよー!!」

これが彼女達の見ている、自分だけの現実の延長線上かと――

434 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:25:16.90 ID:K5Vb1iRAO
〜19〜

マコちん「」ガクガクブルブル

アケミ「マコちんが固まった」

佐天「HAHAHAHAHA!!ヒトガゴミノヨウダー!!!」

むーちゃん「ルイコが壊れた」

回る風車、沈む夕陽、人工湖に浮かぶもやい船、ガヤガヤという喧騒、ザワザワという話し声、そして。

結標「よっこらせっと」

白井「お疲れ様ですの」

結標「貴女もね。って私達はともかくこの娘達大丈夫かしら?」

白井「わたくしがついておりますわ。しかし“灰音お姉様”?」

結標「何よ」

白井「――なかなかどうして捨てたものではございませんでしょう?貴女が忌み嫌っていた“能力”も」

結標「……“自分ならその力を橋渡しに使う”って貴女が私に啖呵を切ってから、もう一年になるのね」

白井「あらまあ?自分に都合の悪い事はなかった事にしてしまう貴女にしては大した記憶力ですわね?」

結標「貴女が忘れてくれないからよ。ねえそのメロン味のあんず飴、私にもちょっとよこしなさいよー」

白井「よろしいですの。では“灰音お姉様”のりんご飴も一口下さいません事?はい、あーんですの♪」

大橋のアーチへと転移し降り立った結標がりんご飴を、白井があんず飴を交互に差し出して舐めている。
二人揃ってこの突風に浴衣の衿や裾すら乱す事なく、互いに見つめ合って笑っているのをアケミが眺め。

アケミ「ルイコー」

佐天「な、何?(ヤバい、何かトイレ行きたくなって来たよ)」

アケミ「あの二人が姉妹だなんて、本当は嘘なんじゃないの?」

佐天「え、ええ!?(ヤバい、アケミって結構鋭いんだよね)」

アケミ「だって二人お揃いのチョーカー付けてるしさ。それに」

互いにりんご飴やあんず飴を舐め終わった後、白井は金属矢をアーチに空間移動で突き立てて行き――
四人が突風の中でも引きずられぬよう取っ掛かりにして行き、腰掛けてこちらを見やり小首を傾げた。
その一方で結標も浴衣がシワにならぬように気を使いながら足組みして白井の背に自分の背を預ける。

佐天「それに?」

太陽を司るカラス、月に住まうウサギが、夕星の下背中合わせに同じ空を見上げたまさにその時である。

ヒュウウウウウゥゥゥゥゥ

むーちゃん「あ」

マコちん「わあ」

花火が上がった。

435 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:27:52.50 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
アケミ「あの二人、花火よりお互いの事ばかり見てるんだもん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
436 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:28:27.42 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

A C T . X X 「 白 い ワ ン ピ ー ス 、 赤 い 千 本 鳥 居 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
437 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:29:03.39 ID:K5Vb1iRAO
〜20〜

ドンドン!と打ち上げられ夜空に花開く大輪の牡丹、菊。次いで弾け飛ぶ星が、蜂が乱れ飛び華を添える。
虹のように赤、橙、黄、緑、青、藍、紫を描き、紫陽花のように最初は白く、加えて青く、最後は赤く――
銀を紡ぎ、金を結び、黒に沈み、湖面に映え、天上に散り、高らかな音を上げ、消え口の名残を惜しんで。

白井「……綺麗ですわね」

結標「ええ、とってもね」

背中合わせの二人が密かに繋いだ手指が、火の手が上がるごとに照らされ、見上げた横顔が影絵となる。
天に瞬く夕星が褪せるほど、地より咲く花は輝かしかった。夜空の星も地上の星もくすんで陰るほどに。
乱玉を裂き、三国が咲き、流星を避け大輪が鳳仙花が種子を飛ばすようにし、更に車花火が巻き起こる。

白井「……わたくしの身体がくっついて、暑くございません?」

結標「暑いって言ったら、私から離れられるとでも思ってる?」

白井「……相変わらず意地悪なお方ですこと。そんなに自信たっぷりに質問を質問で返されてしまっては」

結標「答えなんて最初から決まってるわ。何度も言ってるでしょう?貴女は黙って私の側に居ればいいの」

眼下には精霊流しの灯籠から成る灯火、屋台村に掲げられた篝火、そして背中越しの白井と肩越しの結標。
佐天とその友人等が花火を指差し立ち上がり、いつしか高所への恐怖も忘れ玉屋鍵屋と叫ぶ中にあって――
吹き抜ける突風が火薬の匂いを運び、吹き荒ぶ強風が湖面に浮かぶ灯籠を運ぶ。だが繋いだ手は離さない。
赤い風車(かざぐるま)が回り、白い風車(プロペラ)が廻る。だが絡めた指は解かない。何故ならば……

結標「私ね、短冊に書いたの。“また来年も貴女と花火を見に行きたい”って。笑っちゃうでしょう?」

白井「………………」

結標「だけどこの花火を見てたら思うのよ。本当にそうなればいいって。非科学的(オカルト)よね?」

そう、結標は願った。祈った。望んだ。姫神達が働いていた茶屋の側にある笹に短冊を吊したのである。
最先端技術の結晶たるこの科学万能の学園都市(まち)にあって願い事などと言う非科学(オカルト)を

白井「確かに笑えて来ますの。ちゃんちゃらおかしいですわね」

結標「………………」

白井は――

438 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:29:39.74 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「わたくしなど、“一生(ずっと)貴女の側に居られますように”とお願いいたしましたのに――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
439 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:30:22.70 ID:K5Vb1iRAO
〜21〜

結標「………………」

白井「――秘め事はしつこいくらいですのに、願い事はあっさりしておられますのね?貴女らしくもない」

結標「……黒子」

白井「わたくしは貴女が思っているよりも貪欲なんですのよ?わがままで、欲しがりで、甘えたがりで」

結標「……焼き餅やきで、泣き虫で、構ってちゃんで、イジメられたがりで、そのくせ私よりも強くて」

白井「サディストなのに打たれ弱く、気紛れなのに寂しがりな貴女に付き合える人間が他にいまして?」

結標「何よそれ!他人が聞いたら誤解するじゃない!!私が“面倒臭くて重い女”みたいだって!!!」

白井「みたいじゃなくてそのままですの。だいたいそんな事はわたくしだけが知ってればいいんですの」

結標「っ」

白井「貴女の醜さ、重さ、淫らさ、汚らしさ、全てひっくるめて“わたくしの所有物(もの)”ですわ」

結標「……私の檻(うで)の中で暴れるだけだった奴隷(うさぎ)が、まあ可愛げのなくなったことね」

白井「だって、貴女と来たらわたくしを檻に閉じ込めても鍵をかけないんですもの。昔からそうですわ」

いつしか向き直る形となり、白井の両腕が結標の小さな背中から細い肩にかけて回され抱き締められる。
チュッと後ろから髪に、耳に、頬に寄せられる唇が囁きかける。そんな貴女の事が大好きですわよ、と。
肉体的な主導権が結標、精神的な支配権が白井。檻に閉じ込めるのが結標、鎖に繋ぎ止めるのが白井――

白井「わたくしはもっともっとこの夏休みを満喫したいんですの。花火大会だけではなくプールや海も」

結標「でもこの辺りの山は嫌よ。今日だって暑くて熱中症になるかと思ったし、蚊も多くて刺されるし」

白井「それでは街中などいかが?新作映画もございますし、何なら学舎の園へと御招待も出来ましてよ」

結標「それも悪くないわね。嗚呼そうそう。貴女、里帰りだとかご両親だとか面会に来たりとかする?」

白井「あら、わたくしの両親に挨拶でもなさって下さりますの?だとするなら今日のような私服の方が」

結標「えっ?ちょっと待ってちょっと待ってそれ本気なの?私達の関係(こと)どう説明すればいいの」

白井「何をいきなりビビってるんですのこの根性無し!意気地無し!甲斐性無し!ついでにヘタレ虫!」

そんな二人を見やるは
440 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:33:24.13 ID:K5Vb1iRAO
〜22〜

アケミ「ほら、私達どころか花火すら見てないっぽいじゃない」

佐天「(ごめん白井さんいくら何でもフォロー出来ないわー)」

むーちゃん「あれナイアガラの滝?うわーキタキタキター!!」

マコちん「キマシタワー!……じゃなくて、キター!キター!」

2キロにも及ぶ速火線を走り抜け、焔管を駆け抜けて天よりナイアガラの滝の花火が湖面を染め上げ――
同時に湖面に浮かべられたボートから花火が上がり、ナイトパレードに匹敵する光量が夜空を照らした。
その中にあって結標を後ろから抱く白井の横顔を見、佐天が頬を掻きアケミが暑い暑いと団扇であおぐ。
むーちゃんとマコちんは最初から最後まで気づいていないが、初春がこの場にいれば目を疑うほどに――

アケミ「結局初春来なかったね。ルイコふられたんじゃない?」

佐天「な、何をー!私と初春の友情は永遠だよ!あとアケミも」

アケミ「ついで見たく言われても嬉しくないって。仕事かなー」

佐天「白井さん曰わく、今日は何も事件がなかったらしいけど」

アケミ「あれじゃない?御坂さんって人と一緒にいるだとかさ」

佐天「どうだろ?二人して電話通じないんだよねー婚后さんも」

実はこの時、初春・婚后・御坂ともう一人がとある事件を解決すべく、今現在奮闘中なのはまた別の話。
打ち上げられた花火に携帯電話のカメラを向けパシャパシャと撮影する佐天も都合が悪かったかと思い。

佐天「はっ!?まさか初春私というものがありながら浮気を」

アケミ「いやいや。あんた達はそういうんじゃないんでしょ」

佐天「わかんないよ?何せ敵同士だったあの二人がくっついたくらいだもん。世の中何が起こるか――」

アケミ「それって白井さん達の事?それとも“別の誰か”?」

佐天「……ピピルピルピ〜♪」

アケミ「ルイコって嘘と口笛下手だよね。やっぱりそれって」

だがアケミの続く言葉は、太陽がもう一度登ったのかと思われるほどの大玉の爆音によって遮られ――

結標「はいみんな、終わったみたいだから下まで降りるわよー」

むーちゃん・マコちん・アケミ「「「わっかりましたー!」」」

佐天「あっ、灰音さーん!」

結標「(偽名で呼ぶのは止めて恥ずかしいから!)なーにー?」

佐天「福引き!福引き!!」

白井「え?」

そして――

441 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:34:01.36 ID:K5Vb1iRAO
〜23〜

店主「はい、また赤玉!残念賞にはポケットティッシュだよ!」

結標「ちょっと!これ絶対当たりなんて入ってないでしょ!?」

白井「落ち着いて下さいませ。子供じゃありませんの」ガラガラ

店主「はい、またまた赤玉!いやあお嬢ちゃん達ついてないね」

白井「――もう29回目ですのよこのド腐れがァァァァァー!」

佐天「(嗚呼、やっぱりこの二人って似た者同士なんだなー)」

花火大会を終え、大橋から降り、帰り支度を整えんとした矢先に佐天の頭に降って湧いたとあるビジョン。
それは先の射的場にて束で寄越された福引き券であり、それをやり終えてから帰ろうと言う事なったのだが

店主「馬鹿言っちゃいけねえなお嬢ちゃん。当たりは入ってるんだ。出ないだけでな!」マサニゲドウ!

『お前らにはやんねー!クソして寝ろ!』と言わんばかりにガラガラを指差すは、件の射的場の店主。
どうやら抽選会の係員もやっているらしく、店仕舞いに追い込まれた事をまだ根に持っているらしい。
同じくむーちゃん・マコちん・アケミもポケットティッシュを一人五個ずつ持たされウンザリ気味で。

むーちゃん「(絶対に嫌がらせされてるよね、これってばさ)」

マコちん「(一等賞はこの近くにある温泉宿の招待券、だね)」

アケミ「(二人にはお世話になったから当たって欲しいけど)」

結標「黒子!こうなったら二人で回すわよ(パワー勝負よ!)」

白井「がってん承知ですの!(わたくし達の愛のパワーで!)」

佐天「(結婚式のケーキ入刀みたいになってるよ二人共!もう隠す気0じゃん!!丸出しじゃん!!!)」

対照的に結標の背からは蒼い炎が、白井の目には紅い焔が噴き出しており、二人揃ってハンドルを握る。
どちらともなく目配せし息を合わせてガラガラを回し固唾を飲む。これが私達のLast_Fightとばかりに。

店主「(とんがれ!とんがれ!!)」

結標「(吠え面かかせてやるわ!)」

白井「(ジャッジメントですの!)」

そして、決は出た。

佐天「きっ、金玉!金玉出た!」

店主「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ー!!!」ぐにゃあ〜

結標「勝ったわ!(でも……)」

白井「ですの!!(き、きん)」

むーちゃん・マコちん・アケミ「「「(金玉はないわー)」」」

一等賞、二泊三日の温泉宿のペアチケット

442 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:34:38.46 ID:K5Vb1iRAO
〜24〜

結標「それで」

白井「はいな」

結標「(は、初めての)」

白井「(お泊まり!!)」

花火大会が終わり、屋台村が片付けられ、店主が崩れ落ちた後、二人が練り歩くは夕方通った千本鳥居。
結標の右手には精霊流しに使われた灯籠。左腕には白井がしがみつき、ゆっくりと石段を上がって行く。
佐天達の姿は既になく二人きりでこの温泉宿、百合閣(びゃくごうかく)へと向かっている。その理由は

佐天『ふっふっふ、後は若い二人に任せて帰ろうか皆の衆ー!』

むーちゃん『うん!白井さんのお姉さん、ご馳走様でしたー!』

マコちん『お二人ともありがとうございました!お幸せにー!』

アケミ『お世話になりました!(後でメールしてね白井さん)』

結標「……まさかその温泉宿が、同じ山間にあるなんてね……」

白井「地域振興と利益還元、早い話が儲けの盥回しですの……」

言わずもがなである。その上招待券の有効期限がお盆までというあこぎっぷりにもはや溜め息しか出ない。
千本鳥居を抜け、石段を登り、社を過ぎたところで沢のせせらぎが聞こえ、そして宿の明かりが見えて――

女将「いらっしゃいませお客様……あら、あらあら、まあまあ」

結標「こんばんは(えっ、なになに?)」

白井「(わたくし達の浴衣を見て??)」

女将「お客様でしたのね。姫神さんが浴衣を持って行ったのは」

結標「えっ、って言う事は、もしかして」

白井「下の茶屋“姫小百合”というのは」

女将「はい。手前どもの商っている茶屋でございます。おほほ」

出迎えた妙齢の女将が口元に手を当てて目を細めるは、結標達が姫神達から買い上げた件の浴衣であった。
花火大会に訪れたらしい他の客などが宿に入って行くのを尻目に二人は何故かドッと疲れが出る思いで――

女将「えー、失礼ですがお二人の間柄は」

結標「……はあ」

白井「……ふう」

もうどうにでもなれ、と結標は手にした灯籠を女将に渡しながら深く溜め息をつき、白井も星空を仰ぐ。

結標「白井灰音」

白井「白井黒子」

結標・白井「「――見ての通り、姉妹よ(ですの)――」」

兎に角、温泉でも何でも漬かって一晩休もうと決めたのである。

443 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:37:32.26 ID:K5Vb1iRAO
〜25〜

白井「あら美味しいですわね金目鯛のお吸い物。わたくし煮付けが好きなんですがこれもなかなか――」

二人が通されたのは、沢に程近い純和風の数寄屋造りの部屋であった。耳をそばだてればせせらぎが。
書院造りにも似た丸窓から目を凝らせば、営々と連なる温泉街の灯りや精霊流しの灯籠が見て取れた。
その中にあって二人は食膳を囲み舌鼓を打っている。それは先程手にした金縁の招待状も然る事ながら

結標「(姫神さん、小萌に拾われるよりここに住み込みを続けてた方が良かったんじゃないかしら?)」

姫神の知人という事も手伝ってか、飛び込みにも関わらず下にもおかぬもてなしで歓待してくれたのだ。
旅支度など何一つしていなかったのだが、下着から化粧品からアメニティグッズから大概売店で賄えた。
同時に暗部に所属していた頃幾つか所有していた成人用ID(偽造)で通ったためアルコールも飲める。
更に宿の台帳には表向き白井灰音(二十歳)、白井黒子(十四歳)という身分でまかり通ってしまった。

結標「(う、上手く行き過ぎて何だか怖くなって来ちゃった)」

白井「淡希さん、淡希さん」

結標「ひゃっ、ひゃい!?」

白井「(?)残されているホタテのお刺身、頂けませんこと?」

結標「え、ええ良いわよ。貝類少し苦手なのよ。お味噌汁以外」

ここまでなら帝都ホテルに泊まった時と差して変わらないが、あの時と異なっているのは二人の関係性。
お刺身に端をつけながら挙動不審な自分を見やる白井に、結標は黒毛和牛の鉄板焼きより顔を赤くした。
しかし当の白井は慣れない草履に少し疲れたのか、二人きりという事もあって女の子座りで足を崩して。

白井「うふふ、ドラマでプロポーズの言葉に“毎朝俺のために味噌汁を作ってくれ”などと申しますが」

結標「う、うんうん」

白井「――何だかこうしていると新婚旅行に来ているようですの。あら、牛刺しもなかなかイケますの」

結い上げた髪から解れる後れ毛を直し、笑みながら八穀米を口に運ぶ白井に、結標は悶々とさせられた。
もうデザートまで待てない。いやデザートなどいらない。いやいやデザートは白井だと過ちを犯す直前に

仲居「――お風呂のご用意が出来ました」

結標「〜〜〜〜〜〜」

計ったようなタイミングで仲居が現れ――
444 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:38:04.12 ID:K5Vb1iRAO
〜26〜

白井「淡希さん、お銚子を露天風呂に持ち込むのは如何なものかと思いますの。まだ未成年でしょうに」

結標「前に小萌と温泉の事話してていっぺんやってみたかったの。今日くらい見逃してよ風紀委員さん」

白井「全く困ったお方ですの。へべれけになられて溺れたり、お湯にあたって逆上せても知りませんの」

遅めの夕食後、二人は満天の星空を臨める露天風呂にて岩に寄りかかり肩寄せ合いながら温泉に浸かる。
濛々と湯気が立ち込める中、お盆に乗せた日本酒『美少年』を升酒で飲みながらしっぽりと言った体で。
乳白色の湯に揺蕩い、結標の肩に寄り添いながら鎖骨をツツーと白井が人差し指でなぞりながら言った。
いくら貸し切り状態でも貴女は酒癖が悪いんですからほどほどにして下さいましと。だが当の結標は――

結標「あら、もうかなり回っちゃってるわよ。残念だけれども」

白井「ほら言わんこっちゃないですの。だいたい貴女はいつも」

結標「――酔ってるのは雰囲気、溺れているのは貴女だけどね」

白井「!」

結標「何だかこうしていると、新妻でも娶ったような気分だわ」

チャプンとお盆に戻されたお銚子が倒れ、白井がそちらへと向けた眼差しを遮った上で覗き込むように。
酒精に潤む瞳と濡れた唇が間近に迫って来るのを目の当たりにして白井は見入られた。否、魅入られた。

白井「困りますの!こんなところで何て誰かに見られたら……」

結標「良いじゃないの見せつけてやれば。どうせ誰も来やしないし、お月様とお星様と私しか見てないわ」

白井「い、いやですの。淡希さんは酔っていらっしゃいますの」

結標「どうせいつもみたいに、すぐに何もかもどうでも良くなって来るわよ。いいえ、させてあげるわ……」

囁く耳元に、寄せた頬に、火照った首筋に、華奢な肩に、伸びやかな腕に、濡れた髪に、小さな背中に。
細い鎖骨に、可愛らしいお臍に、真っ白な手の甲に、薄く残る傷跡に、苛むように白井にキスを落とす。
強く吸わないで白井が拒めば、蚊に刺された事にすれば良いと結標が悪魔的な笑いを浮かべて見下ろす。
下半身が浸かるお湯とは異なる熱を孕み、上半身に当たる夜風とは違う鳥肌が立ち、白井が喉をさらすと

絹旗「超広いです!貸し切り状態ですね」

滝壺「むぎの、義手とかはお湯大丈夫?」

麦野「大丈夫よ。これ、特別製だからね」

結標・白井「「!?」」

そこへ――

445 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:38:38.58 ID:K5Vb1iRAO
〜27〜

結標「(あれアイテムの連中じゃない!どうしてここに!?)」

白井「(おっぱいが!おっぱいで息が出来ませんのよ!!?)」

絹旗「でもレベル5さまさまです。飛び込みでこんな超良い感じの宿泊まれるとか思ってませんでした」

麦野「ぶっちゃけ歩き詰めで疲れたんだよね。あと私からのちょっとした保養と慰安みたいなもんかな」

滝壺「私、温泉なんて生まれて初めてだからすごく嬉しい。はまづらも“ありがてえありがてえ”って」

麦野「テメエの彼女くらい温泉旅行連れてってやれよあの甲斐性無し。って言うかぶっちゃけあんたら」

滝壺「何?」

麦野「……実際のところどうなんだよ?どこまで行っちまったんだ?いや別にどうでも良いんだけどね」

絹旗「嗚呼、でも私もそこのところ超気になります。あんな根性無しでも一応男ですからね。やっぱり」

滝壺「A」

麦野「!?」

絹旗「いやいや、私流石にAカップ以上はありますよ?今は夏バテでちょっと痩せちゃってますけども」

滝壺「……たまにB?」

麦野「――ちょっと待てちょっと待て!もしかしてもしかしなくてもあんたらってまさかまさかの――」

滝壺「私、女の子として魅力ないのかな。むぎのみたいにスタイル良くないし、きぬはたみたいに下着」

絹旗「見えそうで見えないって言うのがコツです。じゃなくてそれは浜面が超意気地無しなだけです!」

麦野「(何でだろうね?滝壺が可哀想なような、ちょっと嬉しいようなこの気持ちはァァァァァ!!)」

絹旗「麦野!これは部屋割りを見直す必要性が超あると思いま……って何顔真っ赤にしてるんですか?」

白井「ぷはっ!」ガチャン

麦野「(何かが割れる音?)おいそこの岩影誰か居るのか!」

結標「(お銚子引っくり返したわね!こら一人で転移しな)」

滝壺「……岩影から信号が来てる。二つ?ううん、一つかな」

絹旗「きっと浜面です超覗いてやがったに違いありません!」

麦野「はーまづらァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

ズギューンズギューン!

結標「(黒子の裏切り者ォォォォォォォォォォォォォォ!)」

花火大会の折ニアミスした両陣営が岩影一枚間に挟んで再び相見えるも、顔合わせには至らなかった。

浜面「ここの温泉ぬるくね?つうか何か寒気がして来たんだが」

――男湯でブルッと謎の悪寒に身体を震わせる浜面も、また――

446 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:41:46.78 ID:K5Vb1iRAO
〜28〜

結標「よくも私を放り出して自分一人だけ逃げてくれたわね!」

白井「あそこで見つかれば何をしていたか一目瞭然ですの!!」

麦野の原子崩しから座標移動で逃げ延び、浴衣を引っ掛けて命辛々脱衣所から抜け出した結標は――
同様に卓球台にて青息吐息でうなだれていた白井を見るなりキャンキャン噛みつき、キーキー喚く。
対する白井も思わぬ野外露出羞恥プレイに湯当たり以上に顔を赤くし指を突きつけ一歩も譲らない。
ソフトSMとは時と場合と相手との信頼関係によるのである。そこで二人がとった解決方法とは――

結標「ピンポンで白黒つけましょう。勝てる自信がないなら今すぐ謝罪なさい。そうすればお仕置きは」

白井「考えてあげるとでも仰有るつもりで?残念ですわね。首輪をつけられた犬とて主を噛みますの!」

古式に則った卓球である。何せ口喧嘩では結標が、殴り合いでは白井が勝つので中々決着がつかない。
そこでラケット(ペン)を構えた結標が先攻を取り、卓球台を挟んで睨み合う両者の内、白井は思う。

白井「(お馬鹿さんですわね。自覚症状は無さそうですが、お銚子をお調子に乗って傾けていた貴女は)」

知らず知らずの内に足元がふらついている結標にまともにピンポンが出来るはずがない。そう白井が――

ガッ!

白井「……痛〜〜」

結標「1対0よ!」

高を括っていたところ、結標が座標移動でピンポン玉を白井の額目掛けてぶつけて来たのだ。しかし。

結標「ふふふ、身体に当たってもポイントになるのよ?今なら跪いて私の足を舐めながら許しをブ!?」

目には目を歯には歯を。おでこにぶつけられたピンポン玉を、白井がサーブで結標の鼻先にぶつけ――

結標「――この負けず嫌い!」

白井「――この分からず屋!」

そこから先は相手からポイントを奪う戦いより、ヒットポイントを削る闘いへと移り変わって行った。
両者互いに譲らず、親の仇のように相手の顔面ばかり狙い続け、周囲にギャラリーが出来る頃には――

結標「ぶふぇっ!?」

白井「淡希さん?!」

手に汗握る白井の手からラケット(シェークハンド)が滑り、結標は顔面直撃の末ノックアウトした。

白井「だ、誰がこんな非道い事をー!!」

ギャラリー「(お前だよ!!!!!!)」

そして結標が再び意識を覚ます頃には――

447 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:42:18.95 ID:K5Vb1iRAO
〜29〜

結標「……あれ?」

白井「気がつきまして?」

結標「私は、今まで何を」

白井「(打ち所が悪かったようですの。良い具合に記憶が飛んでますの)淡希さんがお風呂で逆上せて」

結標「そうだったかしら?何か途中でピンポンしていたような」

白井「はて、夢でも見ていらしてたんではございませんこと?」

結標は白井の膝枕に上にて目を覚ました。数寄屋造りの離れ、蚊取り線香を焚いた沢を臨める縁側にて。
頭上では髪を下ろした白井が団扇を仰ぎ、結標の髪を撫でながらふんわりと(悪い)笑顔を向けて来た。
気絶していた時間は三十分に満たないが、アルコールも手伝ってかこの一時間ほどの記憶が抜けている。
そのせいか結標の眼差しは寝起きも相俟って険が取れ、目覚めた時すぐ白井がいた事に安心したように。

結標「……そうね。夢でも見てたのかも知れない。だって今も、夢の中にいるんじゃないかってくらい」

白井「………………」

結標「幸せなのよ?黒子と居て、黒子が居て、黒子の居る事が」

同一人物と思えないほどあどけない笑顔で、無防備なまでに身を委ね頬に触れんと伸ばされる結標の手。
白井はその指先を触れるがままに好きにさせて目を閉じ、一身に二人を照らす月明かりを浴びて微笑む。
狂暴で、凶悪で、強敵で、それでいて硝子細工のように脆く儚く美しい、自分の分身にして最愛の半身。

白井「わたくしもですの淡希さん。貴女さえいれば何もいらないと思うほど、もっともっとと想うほど」

白井が結標は死したものと痛んで傷んで悼んでいた間、彼女が何を思い何を考え何をしていたか知らない。
前後からして帝都ゲートブリッジが封鎖され、食蜂操祈が高飛びした時期に何かあった事は間違いないが。

結標「――私は欲張り、貴女は欲しがり。二人して寂しがり屋」

白井「わたくしをウサギと呼んだのは貴女ですし、またその通りですわ。寂しいと死んでしまいますの」

結標「寂しがらせたりなんかしないわよ。貴女がうんざりして離れてって暴れるまで可愛がってあげる」

その空白期間に何かしらの形で自分の気持ちに向き合い、整理し、ケリをつけたのだろうと察している。
昇華されたような晴れがましい微笑みと、浄化されたようにたおやかな物腰を見るに。するとそこで――

フワッ

結標「……え」

白井「これは」

結標・白井「「……ホタル……」」

沢より夜光が来たりて――
448 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:42:47.57 ID:K5Vb1iRAO
〜30〜

結標「……本物の蛍だなんて」

白井「……初めて見ましたわ」

結標「……私もだわ。それに」

白井「……こんなにたくさん」

谿流のせせらぎに耳そばだてていた二人が目の当たりにしたもの。それは先程までの精霊流しを思わせる――
否、それ以上に美しい夜光を引き連れてやって来た源氏蛍の群れだった。暫し言葉を忘れて見蕩れるほどに。
夜空に咲く花火より、見上げた満天の星々より、流れ行く精霊流しよりも、幻想的なライムグリーンの燐光。

結標「蝉にせよ蛍にせよ蜉蝣にせよひと夏も生きられないのに」

白井「………………」

結標「何故、命短い生き物はこうも見る者の胸を打つのかしら」

膝の上から身体を起こし、触れる事すら怖憚られる夜光に照らされた結標の横顔に白井は暫し見とれた。
夜風に引き裂かれぬよう、夜光に引き剥がされぬよう、夜陰に引き離されぬよう、夜曲の弾き手のように

結標「……部屋に戻りましょう?あまり話し込んでいると湯冷めしてしまうし、彼等の邪魔になるもの」

白井「ですわね。貴女が目覚める前まで鳴いていた鈴虫も今では泣き止んでおりますの。さあ、お手を」

結標「ええ、あっ」

白井「淡希さん!」

白井の重ねた手を取り立ち上がろうとした時、結標の足が縺れ込む。かなり酒精が回っているようだ。
言う事を聞かない足のせいにし結標は白井に寄りかかった。否、凭れかかると言うより撓垂れかって。

白井「……大分酔っていらっしゃいますのね?この大きな蛍は」

結標「甘い水に誘われたの。生憎とお尻は光ったりしないけど」

白井「――ところで貴女が眠りこけている間に布団の用意がなされていたのですが、そこでですの――」

白井が右手で結標を抱き止め、左手で障子を開くと、何故か其処にはぴったり合わさった布団が二組み。

結標「!?」

白井「YES・NO枕まで用意されておりましたの。もちろん、お嫌とは仰有りませんわね?何せ――」

昼日中からの電車での痴漢行為、先程までの執拗なくちづけに当てられてしまいましたのと押し倒し――

結標「ま、待って!私酔っ払い過ぎて上手く出来そうにも……」

白井「ご心配なさらず♪今夜はわたくしより、愛を込めて――」

結標「やっ、んっ……」

障子が閉ざされる間際に一匹の蛍が迷い込んで来たが、一、二度恥ずかしそうに明滅した後静かになり。



そして夜が明け――



449 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:45:31.54 ID:K5Vb1iRAO
〜31〜

白井「おかわりをいただけませんこと?」ツヤツヤ

仲居「あらあら、妹様はご健啖ですわね」ニコニコ

結標「(……腰がまだ痺れてるみたい)」ジンジン

白井「あら?“灰音お姉様”はあまり食が進んでいないようで」

結標「……“二日酔い”のせいよ。それもかなり質の悪いやつ」

白井「ええその通りですの。かなり質(タチ)の悪い」ニヤニヤ

結標「(私、もうお嫁にいけない……)」ジワッ

白井「(もらって差し上げますわよ?)」ニヤッ

翌朝、やたら肌理と血色の良くなった白井が朝食を運んで来た仲居に茶碗を差し出し二杯目を頼み――
対する結標はそんな白井が温漬けをもりもり食べる様子を、やや拗ねたようなジト目で見つめていた。
というより温かとろろ冷や麦を半ば涙目で手繰る様子から、如何に手込めにされたかお察し頂きたい。

仲居「泣き腫らしたような隈も出来てますわね。枕が変わると寝付きが悪くなるお客様もおられますが」

白井「それに何やら盛りを迎えた猫の鳴き声が聞こえて参りましてなかなか寝付けなかったようですの」

結標「!?」

仲居「あらあらこんな山奥に猫だなんて。狐はたまに出ますが」

白井「ええ、春でもございませんのに、実にやかましい寝子(ネコ)がいたようで困りましたの」チラッ

結標「(〜〜誰がそんな声上げさせたのよ!)」

今にも火曜サスペンスばりの湯煙り殺人を決行しそうな怨み節で突っ伏し、耳まで真っ赤にする結標。
その傍らでは運ばれて来た白葡萄の皮を剥きながら仲居に良い朝の散策コースはないかと尋ねる白井。
下山したら覚えてなさいよ、と結標もパイナップルの角切りに手を伸ばし、丸窓より夏の朝の光が――

仲居「ええ。稲荷神社にある千本鳥居を降りて、人口湖に出れば遊覧船が出ておりますが……あらら?」

結標「?」

仲居「虫さされにも悩まされたようですね?首筋が赤くなって」

結標「〜〜蛍を見ていて蚊に刺されたからです!」

白井「(ふふん、してやったりですの)」ドヤッ☆

仲居「では、ご出発前には当旅館自慢の一品、いなり寿司弁当などをご用意させていただきますわね?」

いっそキスマークを首輪のように繋げてやれば良かったかという、小悪魔めいた白井の艶笑を照らして。

450 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:46:02.97 ID:K5Vb1iRAO
〜32〜

白井「それでは、散策に繰り出すといたしましょうか淡希さん」

結標「待って!売店で日焼け止め買うから少し時間ちょうだい」

白井「よろしいですの。わたくしも今の内にお土産物でも――」

朝食後、二人は昨日下の茶屋で洗濯された私服に着替え数寄屋より本館へ連なる回廊を渡り売店へ向かう。
昨夜は遅くの到着になったためゆとりがなかったが、庭園は枯山水、本館は吹き抜けの作りになっている。
大抵のコスメやアメニティは手に入れられたが、野外に出るとなると日焼け止めが欲しかった。そこで――

白井「お姉様にはこのご当地ゲコ太饅頭にいたしましょう。初春には湯の花、佐天さんには温泉黒玉子」

結標「支払いはカードでお願いします(お土産ね。小萌にはお酒、姫神さん達や雲川さんや氷華には)」

白井が目をつけた土産物の数々を吟味しつつ、また夜にでもゆっくり見て回ろうという様子を尻目に――
結標もマネーカードで日焼け止めを買い上げつつ思う。小萌達にはどんな土産物が喜ばれるだろうかと。
何分、ほぼ手ぶらで来たため衣類を含めた一切合切を郵送せねばならないため非常に面倒臭いのである。

結標「(さあお部屋に戻って日焼け止め塗り塗り、お洋服脱ぎ脱ぎしましょう私の可愛い新妻さん?)」

そこで結標が思い当る。日焼け止めは二人で塗れば良いのだが、白井のワンピース姿を見て閃いたのだ。

結標「すいません、そこの麦わら帽子取ってもらえないかしら」

店員「はい」

白井「ぐぬぬぬ、固法先輩や婚后さんには何を送って良いやら」

結標「ねえ黒子ー!」

白井「(アケミさん達には佐天さんからお願いいたしますの)」

結標「黒子ってばー」

白井「何ですのー?」

結標「こっちこっち」

白井「あら、それは」

結標「ええ、麦わら帽子。そのワンピースに合って見えたから」

そして白井を手招きし、鍔広い麦わら帽子をかぶせてまじまじと見やる。やっぱりモデルが良いわねと。
白井もまた恥ずかしそうにキュッと麦わら帽子を深く被り直す。またわたくしを着せ替え人形にしてと。

白井「全く困ったものですわね。わたくしの“旦那様”は……」

対する結標もまた、似合わない子の見立てなんてしないわよと笑いつつ麦わら帽子を買い上げて行き……


そして


451 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:46:35.48 ID:K5Vb1iRAO
〜33〜

白井「はー……」

結標「こんな風になっていたのねここの温泉街。昼は山間だから来なかったし、夜は暗かったから……」

白井「わたくしも、こんな機会が無ければ、この山岳地帯から温泉が出る事さえ知りませんでしたのよ」

互いに服を脱がせあい、日焼け止めクリームを塗りあい、弁当を受け取って宿を後にし見据えた先に――
軒を連ねる温泉街と、立ち上る湯煙と、光り輝く人口湖とが、長い石段と千本鳥居の上から一望出来た。
結標は白井の手をお姫様のように引きつつ、お稲荷さんに見送られ、仲居に勧められた人口湖を目指す。
山岳地帯というだけあって、この二一学区は地質調査や森林保護に力を入れているらしい事もわかった。
そうで無ければ派生した渓流に蛍は住めないであろうと。そんな事を思いながら歩みを進めて行く内に。

トン、カン、トン、カン

白井「昨日の花火大会の後片付けのようですわね。何だか、お祭りの後というのは少しばかり感傷的で」

結標「ええ、よくわかるわ。楽しかった分だけなおのことね。また来ましょうね。来年も。今度は――」

白井「しっかりと旅支度をしてからですわね。取るものも取らずに来たものですから気分的にはまるで」

結標「駆け落ちみたいよね?クリスマスの時みたくお互いに切羽詰まってはないのだけれど、不思議ね」

白井「――今でこそ笑って話せますが、あの時わたくしは貴女と心中する事さえ考えてたんですのよ?」

結標「……貴女も?実は私もだったのよ。昨日みたいに来年どころか、明日の事さえ考えられなかった」

二人が辿り着いた先。そこは堆く聳える入道雲と消え行く飛行機雲が天地で二重写しになる人口湖の畔。
クリアブルーの水と、スカイブルーの空。彼方には天文台行きの遊覧船が見え、蝉時雨が聞こえて来る。
昨夜行われた精霊流しの灯籠が岸辺に所々打ち上げられ、ボートを操る船乗りが回収する様子も伺えて。

結標「――ねえ、黒子」

白井「はい、淡希さん」

結標「貴女、遊覧船って乗った事ある?」

白井「いいえ。一度もございませんのよ」

二人の足元をそよ風が生み出した細波が寄せては返して砂利を攫い、灯籠が波打ち際へと漂着して――

結標「――行きましょう」

白井「――どこまででも」

その灯籠には、『フレンダ=セイヴェルン』と刻まれていて――

452 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:49:49.33 ID:K5Vb1iRAO
〜34〜

ガイド「二十分ほどで向こう岸に着くよ」

結標「ありがとうございます。けっこう距離があるんですね?」

ガイド「まあ、何せ学園都市で唯一にして最大の人口湖だから」

白井「………………」

結標「どうしたのよ黒子?もしかして船酔いでもしたのかしら」

白井「いえ、あまりにもゆったりとしていてボーっとしまして」

結標「そう?なら良かったわ。お魚さんに餌やりせずに済んで」

白井「(……湖底へと突き落とされたいんですの?)」ニコニコ

結標「(よして!私自慢じゃないけど泳げないんだから!!)」

白井「(あらあら、シーツの海で泳ぐのはお手の物ですのに)」

結標「(泳いでるんじゃなくて溺れ……って何言わせるの!)」

温泉街より遠ざかり蝉時雨つんざく山々に取り囲まれた人口湖を、二人は遊覧船に揺られて進んで行く。
件の結標は船首に程近い位置にて、白井を背中から抱き締めてタイタニックごっこしながら囁きかける。
彼方より枝葉がそよ風に揺られてさざめく音が聞こえ、寝不足気味の眼に朝の光が眩しくてたまらない。

白井「何でしたらば泳ぎでもお教えいたしましょうか?貴女にはスケートを教えていただいた事ですし」

結標「今のシーズンどこに行ってもプールは芋洗い状態に決まってるわ。また来年にしましょう?ね?」

白井「逃げるんじゃありませんの!それにプールでなくとも泳げる場所が、学園都市にもございますの」

結標「どこなのそれ?」

白井「――“軍艦島”」

その時、空と雲とを二重写しにするほど澄み切った水面より、魚が尾鰭を翻して飛び出し、波打たせる。
軍艦島。それは神奈川県にまで跨る学園都市にあって、三十年前に開発途上で放棄された幻の海上学区。
風紀委員として街の治安を、案内人として街の裏側を守る二人は地図から消されたそれを知っている。が

結標「……いいえ。私はやっぱりいいわ。だって」

白井「?」

結標「だって、私の人魚姫はここにいるんだから」

満ち足りた微笑みを浮かべて白井を抱き締める結標が囁き、ゆったりと身を委ね背を預ける白井が頷く。

白井「かなづちのくせにこんな時だけ打てば響きますのね。キザで女誑しなわたくしだけの王子様――」

泳ぎが上手くなるより、互いの胸に溺れている方が幸せだと――

453 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:50:18.60 ID:K5Vb1iRAO
〜35〜

ガイド「足元に気をつけて下さいね。可愛いらしいお嬢さん方」

結標「ええ。けっこう揺れるからしっかり掴まっていてね黒子」

人口湖の船着場にて結標は白井の手を引きながら先に降り立ち、両手を広げて飛び移る際抱き止め――
二人は真夏の陽射しを浴びて煌々と照り返す水面から、青々とした若木生い茂る照葉樹林を見上げる。
そこは天文台へ連なる道筋であり、秋冬にはアトリが数多く渡ってくる森であった。そこで結標は――

結標「ありがとうございました。帰りの便はいつ出るのかしら」

ガイド「小一時間ってところさ。それまではここに停まってる」

些かやる気のないガイドから帰りのチケットを今の内に買っておき、二人は天文台を目指す事にした。
盂蘭盆が近い事もあって、非科学的だとわかっていても何故かそうした方が良いような心持ちがした。
花火も元を辿れば鎮魂、精霊流しは言わずもがな、蛍は霊魂、遊覧船は三途の川の渡し船であろうか。
ならば白井のワンピースは白装束が当てはまるかとあらぬ考えを振り切って、結標が見渡した先に――

結標「(何を考えているのかしらね私は。そんな非科学的な事あるはずないのに)ねえ、そこの僕達?」

少年A「何?」

結標「(うふふ、少年よ少年がいるわ!)お姉ちゃん達、この山頂にある天文台に行きたいのだけれど」

白井「(また小さな男の子にデレデレしてますの!)そこに行くのはここからの山道でよろしいので?」

少年B「うんそうだよ。でも俺達はそんなルート通らないぜ!」

少年A「とっておきの道教えてやるからついてきなよ姉ちゃん」

結標「ええ、お願いするわ」デレデレ

白井「(この方と来たら!)」ムスー

船着場で冷やしていたのか、発泡スチロールに氷水と共に漬けられていたラムネと網に縛られたスイカ。
捕まえたアブラゼミやカブトムシの入った虫籠を首から下げ虫取り網を持った少年達に話し掛けたのだ。
その背後にて放送コードに引っ掛かりそうな表情とジト目で見やる白井にも気付かず、結標が振り返り。

結標「さあ、行きましょう黒子?」ニヤニヤ

白井「(面白くありませんの!)」ギリギリ

結標「痛い痛い!何で抓るの!?」ヒリヒリ

差し出された手をつねって鬱憤を晴らし、一行はアトリの森へ。

454 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:50:47.94 ID:K5Vb1iRAO
〜36〜

結標「ねえ、ねえねえ黒子ってば……」

白井「どうかなさいまして?結標さん」

結標「……この道何かおかしくない?」

白井「――と、仰有られますと?」

結標「蝉の声が全然しないの……」

白井「……言われてみれば確かに」

少年A「お姉ちゃん達こっちこっち」

少年B「早くおいでよ!早くー!!」

少年A・B「「置いてっちゃうぜ!」」

二人の少女は二人の少年に導かれながらアトリの森をおっかなびっくりついて行く。というよりも――
先程までの若気はどこへやら、結標が何かに怯えるようにして白井の手を汗ばむほど強く握っていた。
白井も結標が何かを感じ取っている様子が肌身を通して伝わる。更に付け加えるならば前方を行く――
二人の少年に何故か追いつけないのだ。結標ならば一回り、白井でも倍は年下の子供の歩幅に対して。
時にテレポートを交えながら距離を詰めても、気がつけば引き離されている。まるで陽炎のようにだ。

結標「どうしよう、もう来た道さえも見えなくなってしまったわ。これじゃあヘンゼルとグレーテルよ」

白井「ご安心を。貴女はわたくしがこの身に代えてもお守りしますの。そう姫神さんと約束しましたの」

蝉時雨さえ聞こえて来ない午後の死が訪れたアトリの森にて、二人の足音だけがサクサクと響き渡る。
鬱蒼と生い茂る枝葉の隙間から木漏れ日が降り注いで生まれる道標を頼りに、抜け出した森の出口に。

結標「……これ、レール?」

白井「廃線となった線路のようですわね。架線柱や送電線もですわ。これは学園都市が風力発電に――」

結標「切り替わる前、つまり三十年くらい前のものじゃない。どうしてこんなものが今も残っているの」

白井「わかりませんわ。ただ一つ言える事は、わたくし達は――」

ビュウッ

結標「(すごい風!目が開けていられな――)……黒子、黒子?」

広がる焼けた線路、錆び付いた架線柱、傾ぐ送電線、蜃気楼のように揺蕩う廃線、吹き抜ける風の中。

結標「黒子!黒子!!黒子!!!」

あれほど固く握り強く繋いだ白井の手が突如吹き抜けた風に結標が目を瞑り、目を開けた時に既に――

結標「黒子、返事して!!応えてよ!!」

一人きりの影法師を残して、夏の空に広がる雲の峰に吸い込まれるようにして消え去ってしまったのだ。

結標「黒子ー!!!」

結標ただ一人を残し、風に浚われたように

455 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:53:10.23 ID:K5Vb1iRAO
〜37〜

結標「黒子!!!!!!」

ずっと長い間、幻想(ゆめ)に微睡んでいたような気がする。

結標「どこにいるの!?」

悲しくて、切なくて、寂しくて、恋しくて、愛おしい貴女を。

結標「私を置いて行かないで黒子!!!」

ずっと見ていたいような、もっと触れていたいような貴女を。

結標「っ」

こんな形でなんて失いたくない。だから私は走る。この廃線を走って、座標移動して、また走り出す。
連れ去らないで。取り上げないで。置いて行かないで。私の大切な白井さんを、私の大事な黒子を――
私の分身(もの)を、私の半身(もの)を、私の所有物(もの)を、私の宝物(もの)を返しなさい!

結標「こんなの幻想(うそ)よ!こんなの悪夢(ゆめ)に決まってる!!でなかったら、そうでなきゃ」

入道雲が高過ぎて、飛行機雲が遠過ぎて、空が広過ぎて、それなのにこの世界のどこにも貴女がいない。
昨日もあんなにたくさんキスしたのに、昨夜もあんなにいっぱい抱き合ったのに、貴女だけがいないの。
私はここにいるのに?ううん違う!私だけここにいたって意味ない!!貴女がいなきゃダメなのよ!!!

結標「私をからかってるんでしょう?私がいつも貴女を苛めるから、仕返しに意地悪してるんでしょう?」

貴女だってもう隠れん坊する年じゃあないし、私だって鬼ごっこする歳じゃあないでしょう?だって……
だって私達はいつも禁じられた遊びをしているでしょう?気持ち良くって痛くて楽しくていやらしい事。
目だけじゃなくて手で覚えてる。脳だけじゃなくて心に刻まれてる。貴女の匂いだってぬくもりだって。
貴女の親だって、友達だって、御坂美琴(おねえさま)だって、貴女自身が知らない隅々まで何だって!

結標「もうぶったり縛ったりしないから、嫌がる事や恥ずかしい事もさせないから、料理も覚えるから」

線路の終わりに真っ暗なトンネルが見える。向こう側は見えない。光も射さない。だけど構うもんですか。
見つけ出す、取り戻す、奪い返す、私の光、花火よりも、灯籠よりも、蛍よりも眩しい私の光を返してよ。
空に太陽が一つしかないように、私のたった一つの光を返して!私だけの白井黒子(ひかり)を返して!!

結標「……お願いよ。私、貴女がいないと駄目なの!黒子がいないと生きていけないの!!だから――」

前が見えない。先が視えない。トンネルが真っ暗でもうなにも

456 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:54:04.22 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「―――――私を、孤独(ひとり)にしないで―――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
457 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:54:33.70 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
白井「本当に貴女という方は、厄介以上に憎らしいお方ですの」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/13(日) 22:54:34.97 ID:OlRYMFq40
縺縺
459 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:55:11.31 ID:K5Vb1iRAO
〜38〜

次の瞬間、結標はトンネルを抜け出した。

結標「――――――」

白井「案内人のくせして何を迷子のような顔をされてますの?」

長い永いトンネルの向こう側、光の下咲き乱れる向日葵畑と風の中ワンピースの裾を翻しながら佇んで。
空になってしまったランチバスケットを右手に持ち、鍔広の麦わら帽子を左手で押さえて呆れたように。
東を向いて咲く背高のっぽの向日葵と、天上の王城を思わせる入道雲を背に立つ白井を前に膝を突く――
道に迷い、親兄弟とはぐれ、途方に暮れ打ち拉がれたような結標へと小鳥を誘い乗せようとするように。

白井「狐に化かされたようなお顔をされて。わたくしとはぐれてうら寂しいお気持ちになられまして?」

白いワンピースを纏った立ち姿までもが、涙に滲んで暈けた結標の目には背負った後光と相俟って――
まるで舞い降りた天使のように思え、言葉に出来ず声にならず、ただ唇を戦慄かせる事しか出来ない。

白井「本当に打たれ弱いというか涙脆いというか、手がかかるというか手が焼けると申しますか――」

だが、結標は本能的に悟っていた。ゴールはここだと。それは長く苦しい道のりの果てに待っていた――
死から脱し生を掴んだ時のような、運命の赤い糸という絞首刑のロープへ連なる階段へ誘う教誨師の手を

白井「……もう大丈夫ですわよ淡希さん。わたくしはここにおりますの。貴女もここにおられますのよ」

結標「黒子!!!」

押しのけるように若草を、払いのけるように向日葵を、掻き分け、潜り抜け、駆け出し、抱き締め合う。
触れられる。感じられる。伝えられる。引き離された伴侶を、引き剥がされた半身を取り戻したように。
ランチバスケットが地に転がり落ち、麦わら帽子が天に吸い込まれ、二人の影が一つに重なって行った。
白昼夢のように朧げで、蜃気楼のように儚げで、陽炎のように危うげな幻想(めいろ)の果てに待つ――

白井「……鬼の目にも涙、ですわね……」

結標「うるさいわね!貴女のせいよ!!」

白井「――貴女の涙、しょっぱいですの」

結標「甘かったらおかしいでしょう!!」

アトリの止まり木のような風車の下、二人はここに再会した――

460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/13(日) 22:56:10.11 ID:OlRYMFq40
縺ゅ◆縺溘◆
461 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 22:58:08.10 ID:K5Vb1iRAO
〜39〜

結標「狐に化かされた!?」

白井「非科学的ですがそうとしか考えられませんのよ。気がついたらこの向日葵畑に立っておりましたの」

再会した後、向日葵に凭れかかりながら肩寄せ合い、聳え立つ入道雲と並び立つ風車を仰ぎ見ながら――
二人はいつの間にやら空になっていたランチバスケットのいなり寿司弁当を広げながら座り込んでいた。
宿を出る前に手渡されてから一度も開けていないのに、先程の少年達のように影も形もなくなっていて。

結標「そんなのありえないわ。だって私達別に何も悪い事――」

白井「心当たりがなくもないんですの。わたくし達、狐の嫁入りの時に千本鳥居を跨いで横切りましたの」

結標「あっ……」

そこで結標も思い当たる。確かに自分達は狐の嫁入りから雨宿りするためにテレポートで鳥居を跨いだ。
更に付け加えるならば、稲荷が祀られていた社に無断で入り込んだ上に白布を失敬して柔肌まで晒した。
二人が茶屋を後にする際、姫神が伝え忘れたこの事である。朝食の時も仲居が言っていたではないかと。

仲居『あらあらこんな山奥に猫だなんて。狐はたまに出ますが』

結標「でもこうしてまた巡り合えたって言う事は、私達きっと」

白井「いなり寿司弁当で許してもらえたのかも知れませんわね」

結標「……宿に戻る時、社でもう一度手を合わせて行きましょ」

白井「非科学的ですがそうした方がよろしいですわね。なにせ」

結標「?」

白井「少しはぐれたくらいでまた貴女にオロオロ狼狽えられては、わたくしも気が気でありませんのよ♪」

結標「う、うるさいわね!あれはあまり蒸し暑かったから目に汗が入ったの!!もうその話は無し!!!」

それらが夢か幻か、はたまた現か、正誤を問い是非を答える者はこの場にいない。ただ一つ言える事は。

結標「……貴女が帰って来てくれたなら、もうそれだけで十分」

白井「素直にわたくしが帰って来て嬉しいと仰有って下さってもよろしいんですわよ?減るものじゃなし」

結標「〜〜私は怒ってるのよ!今度置いてけぼりにしたら――」

白井「ええい、口喧しいお方ですわね?こうしてやりますの!」

結標「!」

面を上げる向日葵が、顔を赤らめるほど恥ずかしい口止めのぬくもりは幻想などではないと言う事――

462 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 23:00:27.99 ID:K5Vb1iRAO
〜40〜

結標「――――――………………」

白井「――ごちそうさまでしたの」

紡がんとした言の葉は連なる銀の架け橋に絡め取られて露と消え、結標は唇を指先でなぞりながら――
呆気に取られた。否、一本取られた。何時の間に自分を黙らせるほど巧みなキスを身につけたのかと。
だが対する白井は麦わら帽子の下、唇に人差し指を当て小悪魔めいたウインクを飛ばして立ち上がり。

白井「悔しかったら取り返してみなさいな。受けて立ちますの」

結標「――いいわよ。今日のところは私の一人負けって事でね」

白井「あら、淡希さんらしくもないしおらしい態度ですわね?」

結標「奪われてしまったのは唇だけじゃないって事。さあ――」

結標が手を伸ばし、白井が引き上げ、二人は入道雲広がる青空の下、そよ風に靡く向日葵畑の彼方……
天文台と船着場を行き来するバス停へ向き直る。進むか戻るか、行き先は気の向くまま足の向くまま。
吹き抜けて行く大南風が結標の前髪を靡かせ、白井の後ろ髪を戦がせ、聳える風車の羽を回して行く。

結標「遊覧船まで戻りましょうか。もうそろそろ帰らないとね。宿に着いたら一風呂浴びて、汗を流して」

白井「それもそうですの。お昼ご飯も狐に取られてしまいましたし。その後は食べ歩きに出掛けましょう」

結標「私としては、その前に黒子を食べてしまいたいんだけど」

白井「汗を流すのにまた汗をかくような事を。まあわたくしも」

結標「嫌いじゃないでしょ?私と付き合えるくらいなんだから」

白井「おかげさまで貴女に会えない日は身体が夜泣きしますの」

その背後、向日葵畑に残された二匹の足跡といなり寿司の欠片にも気付かず、滑り込んで来るバスへと。

結標「後でしっかり寝かしつけてあげるから今は走るわよ?次のバスいつ来るからわからないんだから!」

白井「あっ、待って下さいな淡希さん!」

結標がバス停へと走り、白井が畦道を駆ける。右手で繋ぎ、左足で乗り込み、運転手が振り返って――

運転手「――第二一学区、天文台行きバス、発車いたしますー」

白井「げげっ、これ反対方向ですの!」

結標「ああっ!まあ、別に良いかしら」

無人のバス停に土煙だけが残り、終わらない8月32日(なつやすみ)を求めて少女達は手を伸ばす。

???『結局、これでめでたしめでたしって訳よ!』

一人の少女の幻影が見送る、向日葵畑にて
463 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 23:01:21.26 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
結標「――私達の夏休みは、まだまだこれからなのだから――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
464 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 23:01:51.61 ID:K5Vb1iRAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
――――夏への扉を開くように、手のひらをたいようへ――――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
465 :>>1[saga]:2012/05/13(日) 23:02:45.50 ID:K5Vb1iRAO
DVD映像特典おしまい!

じゃあの
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/13(日) 23:06:26.82 ID:mA4tMOgQ0
急に甘々やないですかー!?もうキマシタワー状態。
全裸待機していたかいがありました。
>>1乙!
特典第2弾がいつか投下される事を期待しつつ、またスレをのぞきにきます。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/05/13(日) 23:08:27.20 ID:O/LQHrcf0
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/05/13(日) 23:10:08.14 ID:O/LQHrcf0
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)[sage]:2012/05/13(日) 23:31:24.85 ID:seJCBITx0
乙!
しかし今回の裏で御坂達が戦ってたとか本気で
御坂「あんたなんて」食蜂「大嫌いよぉ」
が新スレとして立ちそうでオラなんだかワクワクしてきたぞ
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/05/13(日) 23:49:05.70 ID:UczIvgAs0
ラブラブ最高♪
美琴&初春の絡みもみたいっす。

そして、乙でした
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/05/13(日) 23:59:04.83 ID:p8MXD4MAO
次の投下はいつかな♪
まだ500もあるからねぇ

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/14(月) 00:30:48.54 ID:4JpSlgeIO
伏線張りっぱなしで終わりとかないでしょー
てわけで御坂達が関わっていた事件についても期待してます
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/14(月) 00:37:05.12 ID:uABtw8/No
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/14(月) 01:44:31.68 ID:f6Ebz2QIO
次の得点に期待
475 :>>1[saga]:2012/05/19(土) 23:48:21.97 ID:GT8CrBPAO
>>1です

来週辺りに

夏の風物詩シリーズ第二弾

御坂スピンオフやります

あわくろがイチャイチャしていた裏側で起きた事件簿ですー

今半分くらいまで書き溜め中

じゃあの
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/19(土) 23:55:06.32 ID:G88EoSKio
蛇足でもいいじゃない

にんげんだもの
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/19(土) 23:56:00.41 ID:9KpBNPyBo
待ってるよ
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/21(月) 12:54:18.87 ID:UZlbW3A8o
まじか超期待
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/21(月) 23:31:35.14 ID:UXnV3YbDO
ブクマ消さなくて良かった
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/22(火) 02:20:00.66 ID:NUFKGH2F0
とりあえず全裸待機しようとして、まだ早いな、と思い服を着た。
またのぞきに来るぜ。
481 :>>1です[saga]:2012/05/22(火) 02:51:17.82 ID:M19ePSAAO
>>1です。寝る前にー

最短で水曜日の夜に投下ー


タイトルは


「白いルーズソックス、赤い糸」


見ててくれている皆さん、いつもありがとう

じゃあの
482 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 21:01:10.03 ID:+v3Iu8kAO
22時過ぎに投下しまうー
483 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:02:23.85 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

上条「俺は、インデックスとここに残る」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
484 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:02:50.63 ID:+v3Iu8kAO
〜00〜

CA「アペタイザー(前菜)ハ如何ナサイマスカ?」

食蜂「キャビア☆サロンじゃなくてストリチナヤで」

旅は道連れは世は情けだなんて言うけど、神も居なけりゃ仏も居ない。事実は無情で現実は非情だった。
それもそうね。何てったって私は神の家に殴り込みに行って神に仕える修道女に喧嘩を売ったんだから。

食蜂「あとはぁ、フォアグラフォンダンのミニエクレアもねぇ」

CA「承リマシタ」

御坂「当たり前みたいにアルコール頼んでんじゃないわよ。前にも聞いたけど、アンタ本当に中学生?」

食蜂「そんなのこの騙し絵みたいに、私の改竄力でどうとでも誤認識させられるものねぇ。食べるぅ?」

御坂「いらない。テリーヌってあんまり好きじゃないし、そんな気分じゃないからもう放っておいてよ」

挙げ句の果てに、噛ませ犬から負け犬にまで成り下がった私の側には旬の野菜のテリーヌを切り分け――
香草サワークリームを乗せて美味しそうに舌鼓を打ちながら、エッシャーの画集を手繰ってる食蜂操祈。
相変わらずとびっきりの下衆い能力でまた何かしら小細工したんでしょう。私を先回りして待ち受けて。
そうでなきゃ、私が乗り込んだファーストクラスを全席買い占めるだなんて芸当(まね)出来っこない。

食蜂「そぉ?このフォアグラフォンダンも中々悪くないわよぉ」

向こうでも何くれにつけて色々と引っ掻き回してくれたわ。学園都市とイギリス清教と、私とあいつ――
インデックスの記憶を弄くって『自動書記』とやらを暴走させたり、記憶喪失前のあいつを知ってたり。
地下銀行から1500億円を回収していたりだとか色々あったけど、もうそんな事どうだって良かった。

御坂「あんたみたいな人間に、私の気持ちなんてわからないわ」

だって、もう私の物語(こい)は終わってしまったから。ううん、始まってすらいなかったんだって……
この高度一万メートル上空にある牢獄の中で私は下された死刑判決を反芻していた。私の傍らに侍る――

御坂「人の心は読めても、人の痛みがわからないあんたにはね」

大食らいで大酒飲みの教誨師と共に私は日付変更線を越える。もうあいつとの間に起こった事は全て――

昨日の事なんだって。

今日からどうするか。

明日が見えて来ない。

485 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:03:16.44 ID:+v3Iu8kAO
〜01〜

御坂「(なんて思い詰めたのよね。今思えば笑っちゃうけど)」

あれから半年経って、三年生に進級して、私は中学校生活最後の夏休みを常盤台(ここ)で過ごしてる。
あれほどあいつが居なきゃ生きていけない、あいつの為なら死ねるだなんて格好良い事思ってた私は――

婚后「御坂さん、お行儀が悪いですわよ」

御坂「だって、テリーヌ嫌いなんだもん」

今、食堂で婚后さんと差し向かいになりながら罪のないテリーヌをフォークでツンツン突き刺している。
湾内さんと泡浮さんは帰省中らしいし、黒子は多分あの女の所に行ってるでしょうから自然とそうなる。
足掛け三年ともなると、寮生活に潤いやら感動やら発見やらを見出す事も少ない。ここの食事だとかね。
そう、楽しい事も苦しい事も、人はいつか慣れるんだわ。それをきっと成長って呼ぶんでしょうけど――
私の場合は成長というより倦怠、受容というより停滞に近い。張りを失ってないのは肌くらいのものね。

女生徒A「ねえ、聞いた?次は霧ヶ丘女学院で起きたんだって」

女生徒B「例の噂?やだ、やめてよ私そういうの弱いんだから」

女生徒C「あの、先輩方?それってどういうお話なんでしょう」

女生徒A「うん、最近噂になっているんだけど、ここのところ」

女生徒B「神隠しが起きてるらしいよ。何故か学校内に限って」

その反面、私達の隣席で噂話に花を咲かせている二年生と一年生はまだまだ好奇心旺盛で楽しそうね。
噂話で盛り上がるなんて去年の私達みたい。まあ高々一年でそんなに大きく変わったりはしないけど。

婚后「しゃきっとなさい御坂さんしゃきっと。これよりわたくし達は常盤台を背負って行くのですから」

御坂「背負うったって、たかがオープンキャンパス行くくらいでそんなに気負う事もないんじゃない?」

婚后「まったく貴女と来たら!去年までの貴女の方がまだしも見れたものですわよ?大体ですわね……」

御坂「(うーん、婚后さん、お小言長いのが玉に瑕よねえ)わかったわかった。それより時間大丈夫?」

婚后「――嗚呼、いけませんわ!それでは出発の準備が整い次第エントランスホールに集合という事で」

一年も付き合ってればその人の人となりやあしらい方もわかって来る。きっと周りは何も変わってない。



――きっと、変わってしまったのは、私の方なんでしょうね――



486 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:05:39.22 ID:+v3Iu8kAO
〜02〜

御坂「えーと、何持って行かなきゃいけないんだったっけ……」

婚后さんと別れた後、私は食事を半分以上残して黒子のいない相部屋に戻って机の上をガサガサと漁る。
結局、あれからも私は黒子とルームメイトをしている。確かに去年色々あったっちゃあったんだけども。

御坂「(あいつと終わってから黒子によく慰めてもらったわ。あれがなかったら立ち直るのがもっと)」

あいつを追い掛ける前までは黒子にかかりっきりだったし、イギリスから帰って来てからは黒子が――
付きっきりで泣き言や恨み辛みを垂れ流す私を慰めてくれた。結標淡希に対して申し訳なく思うほど。
だけど黒子は私の前であの女の話題や名前を出した事がない。時折過ぎる影や素振りでわかるけれど。

御坂「(――もっと時間がかかったかも知れない。実際春休みぐらいまでずっと引きずってたもんね)」

あの女と付き合い始めてから黒子は大化けした。スキンシップをしなくなり、代わりに物凄く落ち着いた。
ちょっと言い方がいやらしく聞こえるかも知れないけど、体つきだとかふとした仕草まで色っぽくなった。
偶々見掛けたんだけど、一年生に告白されてる所に出会した時なんて、物陰に引っ込んで見守っちゃった。

白井『貴女のお気持ちは嬉しいのですがわたくしにはもう――』

付き合ってる人がいる、って言ったら何故か私が黒子の恋人だと間違われて一年生に詰め寄られたりとか。
あの時は流石に苦笑いというか引きつり引きつり笑いというか乾いた笑いというか、兎に角大変だったわ。

御坂「(その結標淡希の通う学校が第一志望になっちゃったんだから、我ながら皮肉な巡り合わせよね)」

私と黒子が未だにルームメイトだって事さえ苦々しく思ってるあの女が、そんな事許すはずないのにね。
たまに街中でデート中の二人に出会ったり、逆に私と黒子の二人が連れ立って歩いてる所に出会すと――
もう左目に敵対心、右目に敵愾心がありありと浮かんで透けて見えるくらい。それでも黒子が宥めると。

結標『……あまりいい気にならない事ね』

渋々矛をおさめる。上辺だけ見ればあの女が黒子をリードしてるように見えるけど、根っこは多分逆ね。
黒子があの女の手綱を捌いて握ってる。あんな暴れ馬を乗りこなせるような子、黒子以外に有り得ない。

487 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:06:06.30 ID:+v3Iu8kAO
〜03〜

アナウンス「このバスは第一八学区、霧ヶ丘女学院へ参ります」

婚后「相変わらずこの学区は四角四面で面白味に欠けますわ。まるで碁盤の目のような街並みですこと」

御坂「黒子が“監獄”って言ったものも頷けるわ。学舎の園とは違った意味で生活感が全然ないもんね」

そして私は準備万端整えて、婚后さんと一緒にスクールバスに乗り込んでオープンキャンパスへ向かう。
今ちょうど帝都ゲートブリッジに差し掛かって、遠目にも定規で計ったように区切られた街並みを望む。
あんまりにも見るべきものがなくて、座席に寄りかかりながら右側を向くと、帝都タワー跡地が伺えた。
旧電波塔帝都タワー。私と結標淡希の最終決戦の地。そして食蜂操祈の手で打ち倒された場所でもある。
あまりどころかまったくと言って良いほど良い思い出のない因縁の地から目を切り、次に私が見たのは。

御坂「かと言ってあんなガラスペンが地面に突き刺さったような観光スポットがあっても仕方無いけど」

大電波塔帝国タワー。『都』から『国』に変わっただけあって、帝都タワーの更に倍くらいある電波塔。
今私達の乗ってるバスが走ってる帝都ゲートブリッジからだと帝都タワーよりもずっと近くにあって――
後々になって伝え聞いたんだけど、食蜂操祈の真の狙いはあの帝国タワーを占拠する事にあったみたい。
『地下銀行の1500億円』『大電波塔帝国タワー』そして『超電磁砲』。つまり私も必要だったって。
それで食蜂操祈が何をしようとしていたか、何を手にしようとしていたかまではわからない。だけど――

食蜂『統括理事長がいなくなったこのタイミング力しかなかったんだけど、中々上手く行かないわねぇ』

私だけじゃない。あいつの『幻想殺し』も必要だったんだって暗にほのめかされた。もう一つ加えるなら

食蜂『――貴女が結標淡希をしっかり押さえててくれたら、ジグゾーパズルの完成力が高まったのにぃ』

黒子ないし結標淡希並の空間系能力者も必要だったみたい。けれど、食蜂操祈の計画は失敗に終わった。
私じゃあ影しか踏めない闇の深奥で決着はついたんだって海原光貴から聞かされた。結局の所、私は――

御坂「(最初から最後まで、蚊帳の外)」

1500億、電波塔、超電磁砲、幻想殺し、空間系能力者。私の知らない所でまた私の世界は守られた。



上条当麻不在の世界で。



488 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:06:32.06 ID:+v3Iu8kAO
〜04〜

婚后「やっと着きましたわね!ですが、それにつけても――」

御坂「……誰も出て来ないわ。オープンキャンパス中よね?」

婚后「全く、霧ヶ丘と来たら見学に出迎えはおろか案内の一つも寄越しませんの?常識を疑いますわ!」

御坂「まあまあ婚后さんそうカリカリしないで。もしかしたら連絡が遅れてるのかも知れないしさ……」

スクールバスより降り立ち、学院前にて待てど暮らせど教師はおろか守衛さえ影も形も見当たらなかった。
その中にあって婚后は扇子で暑気を追い払い涼を取ろうとするも、苛立ちが募って熱くなる一方であった。
御坂もまた碁盤の目のような街並みから目を切り、硝子張りの校舎と鏡張りの研究棟より照り返す陽射しに

御坂「でもこんなところボーっと突っ立ってたら熱中症になっちゃうわ。中入っちゃいましょ婚后さん」

翳して遮った手で首筋は胸元を仰ぎ、額に滲む汗をハンカチではたきながら御坂は校舎に入る事にした。
綿辺より磯塩なる教諭に申し伝えは行っているという話だし、何より次のバスが来るまで一時間はある。

御坂「とりあえず、職員室探しに行きましょう。怒られちゃったら怒られちゃったで仕方無い事だしさ」

婚后「怒られたらわたくしが怒り返して差し上げますわ。この炎天下の中三十分もですわ三・十・分!」

御坂「文句の一つや二つ言いたくもなるけどさ、私達の第一志望ここだしなるべく穏便にね?婚后さん」

婚后「……それもそうですわね。常盤台に転入して来た時の紆余曲折を思えば何という事はありま――」

「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

御坂「えっ!?」

婚后「この声は」

そして碁盤のような街並みからチェス盤のような黒白の市松模様のタイルが敷き詰められた校舎の――
そのまた廊下を並んで歩く二人の前方より上がった悲鳴に御坂が目を見開き、婚后が口元を力ませる。

婚后「今のお声、もしかして初春さんではありませんか!?」

あの飴玉を転がすような甘い声と、佐天にスカートを捲られる時に上げる悲鳴とが婚后の中で合致し。

婚后「何れにせよただ事ではありませんわ。参りましょう!」

考えるより先に婚后が疾風が如く動き出し、御坂が迅雷のように後追いし二人は黒白の盤面を駆ける。


かくして

劫の碁盤のような学区で

業深き女王の待ち受ける

轟と吹き荒れる波乱へと

后の字を持つ少女は行く

GOの号砲を背に負って

489 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:09:12.99 ID:+v3Iu8kAO
〜05〜

――――――――時は遡る――――――――

固法『この辺りだって言う話だけれども』

三十分前、固法と初春は霧ヶ丘女学院へ臨場し捜査に当たっていた。その二人を悩ませる案件と言とは――
今朝方、常盤台中学の食堂でも噂話にのぼっていた『神隠し』についてである。順を追って説明するならば

初春『……正面玄関、向かって右側の踊場、大鏡。ここです固法先輩。通報にあった消失地点と言うのは』

固法『これがそうね。ぱっと見たところ何の変哲もない姿見にしか思えないけど、念の為透視してみるわ』

八月に入って同学区の長点上機学園で二件、霧ヶ丘付属で一件、学内で行方不明者が出る事件が発生した。
何れも衆人環視の真っ只中にあってまるで陽炎のように生徒が消失したと言う通報が寄せられたのである。
先の三件は警備員が出動し、原因究明に乗り出したが何れも空振りに終わった。しかし不可思議な事に――
行方不明となった生徒達が、事件の翌日には第二一学区にて記憶を失った状態で発見されているのである。
当人達も次元の狭間に吸い込まれている間、どこへ連れ去られ、何をし、何を見たかを一切覚えていない。

初春『(うう、私こういうオカルトってちょっと苦手なんですよね。好奇心旺盛な佐天さんと違って)』

傍らでiPadを操作しつつそれらの事件概要を紐解き打ち込んで行く初春は内心気が気ではなかった。
夏休みに入り、風紀委員の面々が帰省し、人手が足りなくなり、他支部のヘルプを受けた矢先の出来事。
学校側もオープンキャンパス中に物々しい警備員を彷徨かせたくないのか、校内と言う事情も手伝い――
ヘルプを受け出向した二人に白羽の矢が立ったのである。常なら同学年の白井とコンビを組むのだが……
白井が昨晩から当直に入り、正午前に上がったためだ。何でも外出許可証を取って帰省するのだと言う。

初春『(結構多いんですよね休みに入ると帰省するって申請出して恋人と過ごす人。白井さんも……)』

何といっても年若く、青春真っ只中にある学生が人口の八割を占める学園都市では間々ある事由であると

カランッ

iPadに目を落としていた僅か数秒の間に、事件は起こった。

初春『えっ……』

初春に背を向けていた固法が、忽然と消え去ってしまった後――

初春『キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

――――――そして時は巻き戻る――――――

490 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:09:39.04 ID:+v3Iu8kAO
〜06〜

いつしか硝子張りの校舎にいくつもの雨露が降り注いでは点を描き、線が結ばれ、面に二人が写り込む。
時同じくして白井と結標に襲い掛かったのと同じゲリラ豪雨であるが、二人は最早それどころではない。
駆け上がった階段の踊場。そこには初春のトレードマークとも言うべき花飾りが落ちていたのだから……

御坂「――これ、初春さんのだ」

婚后「何という事でしょう……」

思わず拾い上げたそれに目を疑う御坂、信じられないと言った様子で頭を振る婚后らが目にしたもの。
それは踊場に設えられた姿見と、壁掛けられ7時16分で止まったままの時計、そして狐の嫁入り――

御坂「(これが噂されてた神隠し!?)黒子に電話してみる!」

婚后「わたくしは固法先輩に電話いたしますわ!いえ警備員に」

そこで二人が取り得た手段と方法は平時、否、危急時にあって最善のものであっただろう。だがしかし。

グニャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

婚后「!?」

御坂「鏡が」

大海の淀みを描くように鏡面が歪みを生み出し、カッと彼方の夕立に遠雷が落ちるのと同時に発光し――

〜06・5〜

御坂「うっ……」

気がつくと、御坂は踊場にて突っ伏し気を失っていた意識を取り戻さんと常より高い声で呻きを上げた。

御坂「あれ?私」

一体何が起こったのかと、御坂は微かに痛む頭をさすりながら身体を起こして辺りを見渡した。すると。

???「お父様ー!お父様ー!!どこですかー!!!」

御坂「!?」

御坂と共にいたはずの婚后の姿がなく、代わって着物姿に簪を差した少女が涙を零して父親を呼んでいる。
しかし御坂にはその少女に見覚えがないにも関わらず、何故か既視感を覚えずにはいられなかった。そして

婚后「光子はここですー!お父様ー!!」

御坂「……婚后さん!?」ガシッ

婚后「気安く触らないで下さい!わたくし婚后光子、貴女のような無礼なお友達を持った覚えなど――」

気づく

御坂「(あれ?私より小さいはずなのに私よりも大きい!?)」

一つ目には、窓辺に降り注いでいた夕立が、最初から存在しなかったかのように雨露一つ残っていない事。

御坂「(……嘘)」

二つ目には、鏡に映っていた7時16分と言う時計の針が反転して4時44分になっている事。そして……

御坂「(小さくなってる!?)」

御坂も、また。

491 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:10:05.37 ID:+v3Iu8kAO
〜07〜

御坂「(……落ち着きなさい私、冷静になりなさい御坂美琴)」

婚后「お父様ー……、お父様ー……」

御坂「ほら、婚后さんも落ち着いて」ナデナデ

婚后「さっきから何なんですか貴女は!わたくしより年少なのに、気安く頭を撫でないで下さらない!?」

御坂「同い年でしょ!そりゃあこんな見た目じゃ説得力ないけど!!って言うか何なのよこの展開!!?」

私の読んでる漫画じゃないんだから!とDNAマップを提供した年頃にまで遡ってしまった御坂は――
髪の毛をグシャグシャと掻き乱しながらも、何とか取り乱すまいと踊場の手摺と同じ目線を走らせる。
まず優先順位をつけるならば原因究明よりも現状把握であり、第一に自分達を吸い込んだ姿見を前に。

御坂「………………」

何も変化らしい変化は起きず、冷たい感触だけが残る手のひらから有りっ丈の電撃を放たんとしても。

御坂「(……やっぱり、能力もレベル1にまで戻ってる……)」バチバチ

婚后「あ、貴女は電撃使いですのね?わたくし婚后光子は――」メラメラ

御坂「レベル4、空力使い(エアロシューター)、でしょう?」

婚后「……恥ずかしながらレベル1ですわ。しかし行く行くは」

御坂「(光子さんもレベル1、その上私の能力も忘れてる?)」

出せるのは、初めて能力が発現し一晩中火花を散らしていた頃と同程度の威力が関の山であった。
それは同じく姿見の前、御坂の後に立つ婚后も同様らしかったが同一ではない。彼女は御坂の事を

御坂「(……違うわ。婚后さんは私の事を何も知らないんだ)」

婚后「それより貴女。さっきからわたくしの名前を呼んでおられますが、どこでわたくしをお知りに?」

御坂「どこでって……」

婚后「わたくしは貴女の名前を知らないのに、貴女だけわたくしの能力まで知っているなんて変ですわ」

御坂「(何て言って説明すればわかってくれるのよー!!?)」

名前すら知らない。そこから導き出される答えはおおよそ二つ。

一つ目は若返った事により能力がレベルダウンしてしまった事。

二つ目にはそれに引きずられ記憶が失われてしまった事。そして

初春「う゛わ゛〜ん!!」

婚后「誰か泣いてますわ」

御坂「(やっぱり……)」

そして――

492 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:12:25.33 ID:+v3Iu8kAO
〜08〜

初春「ひっく、ひっく、ここどこですか」ブワッ

婚后「ううっ、お父様……、お父様……」ジワッ

御坂「(嗚呼、何で子供って一人泣くと連鎖反応すんの!?)」

そして二人の喚き声や話し声を聞きつけて来たのは、まだ風紀委員としても未だ駆け出しであった頃の――
太眉の初春が落とした花飾りを拾いに舞い戻ったのであるが、やはり自分達に関する記憶は失われている。
御坂はこの中で一番幼い頃にまで戻されてしまったにも関わらず、結局まとめ役のようになってしまった。

御坂「(泣きたいのは私もよ……)二人共に携帯は持ってる?」

婚后「圏外ですわ。お父様にも繋がりませんし、お家にも……」

初春「お友達にも、白井さんにも、何度かけてもダメです……」

御坂「(私のハンディアンテナサービスのケータイすら通じないなんて、一体どうなってんのよ……)」

変わらず在り続ける姿見を前に御坂は背筋に嫌な汗が流れるのを感じつつ、初春が持ち歩いていた――
iPadを起動させ日誌を紐解く。これを見る限り自分達は四件目となる神隠しの当事者と相成った。
備考欄にあった『記憶の混濁ないし喪失』と言う一文に目を落とすと得心も行く。まさに今この時だ。

御坂「……とりあえずここから出ましょう!このまま一塊になってても状況は良くならないと思うから」

初春「は、はい!」

婚后「むっ。どうして貴女がさも当たり前のように仕切って」

御坂「まあまあ(婚后さん子供の頃から勝ち気だったのね)」

外部への連絡手段はなく、頼みの綱の能力は大きく損なわれ、それどころかフィジカルまでも失われた。
今とて階段の段差が踏み外しそうなほど高く感じられ、ジリジリとこもる暑気に体力を奪われて行き――
対人関係に至ってはリセットされたも同然である。果たしてこの先どうすれば、誰を頼れば良いかさえ。

御坂「とりあえず、正面玄関から表に出ないと」チョコチョコ

わからぬまま打ち止めを思わせる足取りで手摺に掴まりながら御坂は階段を降り、市松模様の廊下を――

御坂「帝国タワー、か」

歩み出したところで窓辺より差し込む夕日に目を細め、見やった先は来る途中にも目にした帝国タワー。

御坂「ん?」

そこで御坂は首を傾げる。既視感ないし共感覚に近い『何か』に。以前にもどこかで肌身を通じて――

493 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:12:52.77 ID:+v3Iu8kAO
〜09〜

バタン!

御坂「!?」

と、御坂が大電波塔『帝国タワー』に注意を向けた一瞬の内に、正面玄関口の硝子扉が音を立てて閉まる。
慌てて婚后(低学年)と初春(高学年)も駆け付けるが時既に遅し。硝子扉はうんともすんとも言わない。

御坂「(くっ、電子ロックなら簡単に開けられるのに)みんなどいてて!割ってでも表に出るわよ!!」

初春「お、おチビちゃん?そんなモップ振り回して何する――」

御坂「えーいっ!!」ゴンッ!

ドンッ!

初春「きゃあっ!?」

婚后「な、何て野蛮な事をなさるんですの貴女と言うお方は!」

そこで御坂は、玄関先に立て掛けられていたモップを振り上げ、打ち破らんと唐竹割りに切りかかった。
だが案の定、強化ガラスは子供の腕力ではどうにもならず、それどころか御坂は振り回したモップに――

御坂「あうっ」ペタン

初春「おチビちゃん!大丈夫ですか!?」

婚后「語るに落ちますわね!ここはわたくしにお任せあれ!!」

初春「き、着物ちゃん!それ消火器!?」

かえって振り回されて尻餅をつき、婚后が消火器を頭の上に抱えHsLH-02(電磁力式ハンマー)のように

婚后「てやーっ!」ゴンッ!

御坂「(私よりもよっぽど野蛮じゃないの!って言うか……)」

婚后「きゃあ!?」ベチャ!

御坂「(こうなるわよね、やっぱり……)婚后さん、大丈夫?」

婚后「わ、わたくしは大丈夫ですわ!ただ扉が開かないのでは」

振り上げて扉を破ろうとして当然のように弾き返され、それどころか消火器の重量さえ支え切れずに――
御坂に並ぶ形で尻餅をつく。皆一様に小学生にまで身体能力が落ちているのだから無理からぬ話である。
付け加えるなら能力はおろか体力、精神力、判断力までもが子供返りしているのだから始末に負えない。

御坂「(駄目だわ、この身体じゃ制限が多すぎる)仕方無いわね、どっか別のルートを探して外に――」

初春「ふ、二人とも」カタカタ

婚后「何ですか貴女は!人を指差してお化けでも見るような顔をして!!わたくしを婚后光子と知って」

初春「う、後ろ……」ワナワナ

そう、正誤や是非や分別もつかぬ子供にまで逆行してしまった初春が指差し、婚后が振り返った先――

御坂「またまた〜〜初春さんって子供の頃の方が茶目っ気――」

それは、白井と結標が千本鳥居の社で上げた悲鳴と重なるように

494 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:13:45.00 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

風斬「あのー……貴女達はこんなところで何をしてるのかな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
495 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:16:14.04 ID:+v3Iu8kAO
〜10〜

婚后「ひゃあああああああああ!お化けですわぁぁぁぁぁ!!」ザッ

初春「ま、待って下さいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」ザッ

風斬「は、話を聞いて!逃げないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」バッ

婚后「来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」ダッ

初春「ひ、一人になったらはぐれちゃいますよぉぉぉぉぉ!?」ダッ

御坂「」

すると、閉ざされた出入り口よりスッと立体映像のようにすり抜け姿を現した風斬を前に婚后が遁走した。
初春がそれを追い掛けて連れ戻さんとし、御坂は尻餅をついたまま身動きが取れず見上げるばかりだった。
ファミレスにて、『0930』ヴェント襲来にて、『妹達』のネットワークにて、或いは都市伝説にて――

風斬「ふえぇ……」

御坂「(まさか)」

風斬「ううっ、ここのところ皆とずっと一緒にいたせいか……」

御坂「!?」

風斬「ゴーストとして扱われると、やっぱり傷つきますね……」

御坂「ちょっと待って!」

風斬「!」

伝聞にしか存在しない虚数学区の鍵を握る少女を前に、御坂は跳ね起きるようにして居住まいを正し。

〜10・5〜

御坂「ここが、虚数学区(プライマリー・ノーリッジ)!!?」

風斬「――貴女達はこの“陽炎の街”に迷い込んでしまったんです。いえ、貴女達だけじゃありません」

御坂「――もしかして巷で噂にも事件にもなってる神隠しって」

風斬「……貴女達と同じように、この人工的な異界に足を踏み入れてしまった人達が他にもいるんです」

互いに自己紹介を済ませたところで、二人は逃げ出した初春と飛び出した婚后の足取りを探りつつ――
御坂は外部の、風斬は内部の情報を持ち寄り考察する。何故このような不可思議な現象が起きたかを。

御坂「けど、捜査記録には全員無事生還って書いてたわよ。これって貴女が皆を連れ出してあげたの?」

風斬「最初に彷徨っていた人達は私が送り返して上げたんです。ただ、残り二件はまた別の人達の手で」

御坂「その時はどうやってその人達を帰してあげたの?例えば、どこかに脱出口が隠されてるとか――」

風斬「まっ、待って下さい!さっきのおチビちゃん達を探す道すがら、順を追って説明しますから――」

アレイスター・クロウリー亡き後、何故『虚数学区・五行機関』がスタンドアローン化しているのか――

496 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:16:48.95 ID:+v3Iu8kAO
〜11〜

風斬によれば、この虚数学区・五行機関に生者が迷い込むようになったのは八月に入ってからだと言う。
御坂自身もフォークロアマニアの佐天から聞かされているように『何の変哲もない学校に偽装され』――
『特殊な能力で空間のズレた場所に隠されている』という伝聞そのままに。しかし風斬は首を横に振る。

風斬「誰かに話し掛ければその役割に応じた姿に変化して行く陽炎の街、そう私も思ってたんですけど」

統括理事長の遠行と共に、虚数学区の全てを知り得た風斬ですら、この異変には説明がつかないと言う。
魔術的法則を書き換えるAIM拡散力場の集合体であるこの場にあって能力者に齎される影響は皆無だと。
だが現に御坂は肉体的幼児退行を引き起こし、御坂を除く全員がレベルダウンし記憶喪失に陥っている。
これでは魔術師に不利を齎す前提はおろか、能力者を有利に導く根底すら揺らいでいる。それに加え――
統括理事長以外制御出来ないシステムが改悪され、一人歩きしている現状そのものが異常事態なのだと。

御坂「……何だかよくわかんないけど、私達一先ずここを出たいの。こんな身体じゃ何にも出来ないし」

風斬「はい。その脱出口の一つが例の大鏡なんです。そこから三つの世界の内二つ目の世界に渡ります」

御坂「(……三つの世界?まるでエッシャーの騙し絵みたい)」

ただ脱出する手立てが無くも無いらしい。その内の一つが、御坂達が吸い込まれてしまった大鏡である。
何でも表の世界で7時16分で止まっていた時計が裏の世界で4時44分に反転してしまってるなら――
裏の世界で7時16分に針を戻し、更に別の世界へと通じる門への飛び石にしなければならないと言う。
風斬も最初の遭難者に乞われ、正体不明で窓や扉を蹴破ろうとしたがうんともすんとも言わなかったと。

御坂「だけどおかげで糸口は掴めたわ。後は二人を連れ戻して、向こうの世界に帰ってから考える!!」

風斬「は、はい!微力ながらお手伝いさせていただきます!!」

もしこの時結標淡希が居合わせたなら話を聞いて思い当たってあろう。まるで窓のないビルのようだと。


だがしかし――


婚后「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

御坂「婚后さんの声よ!」

風斬「急ぎましょう!!」

何はともあれ、今は仲間を取り戻すのが最優先事項であった――

497 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:17:14.16 ID:+v3Iu8kAO
〜12〜

婚后「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

同時刻、婚后(低学年)は風斬から逃れんと飛び込んだ家庭科調理室にて身動きが取れなくなっていた。
調理場の窪みにて、低くして抱えた頭の上を包丁をはじめとする器具が飛び交っているのである。しかし

婚后「あ、あれは!?」

幼児退行を引き起こし縮んだ身長で低い姿勢をとっていたため見出した突破口。それはどの教室にも――

婚后「うんしょ!よいしょ!」

必ず一つはある足元の小さく狭い引き戸。出入口や窓を除けば唯一廊下側に通じるその小窓に向かい――
婚后は小袖が汚れるのも構わずズリズリと匍匐前進し、引き戸を開けて辛々脱出を果たしたのも束の間。

ヒタヒタヒタヒタ

婚后「ひいっ!?」

背後から生暖かい風と共に忍び寄る足音に、婚后は本能的に振り返ってはならじと理科室へと逃げ込み。

婚后「はあっ、はあっ、これで、入って来れませんことよ!おーっほっほっほ、おーっほっほっほ!!」

ガチャンと鍵をかけ錠を下ろし、通り過ぎて行く足音に向け右手を口に添え左手を腰に当てての高笑い。
もし御坂がこの時の婚后の勝利宣言を見たならば、昔からそういうキャラだったのねと苦笑いしたろう。


――しかし、驕れる平家は久しからず――

ピチャッ

婚后「?」

その時、婚后の背後で何やら閉め忘れた蛇口から水漏れが滴り落ちるような音と鼻につく刺激臭がして。

ガタンッ

婚后「!?」

何かが動くような音と、蠢くような影が過ぎるのを、婚后の強張った顔の直ぐ側、目端が捉えた先に――

人体模型「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

標本の蛙「エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛」

婚后「」

生身の肉体を手にした人体模型と、目の中に線虫を泳ぎ回らせるホルマリン漬けのカエルの標本がいた。
婚后は慌てて理科室から逃げようとして引き戸に手をかけるも、自分で施錠してしまった事さえ失念し。

婚后「だ、誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

恐慌状態でガタガタと引き戸を叩き続け、助けを呼んで――

御坂「風斬さん!蹴破って!!」

風斬「は、はい!ええーい!!」

バコッ!

婚后「!」

そこへ、正体不明(カウンターストップ)で蹴破った引き戸で人体模型を薙ぎ倒す風斬と、婚后の――

御坂「婚后さん!こっち!!」

手を引き、連れ出す御坂が駆け付けて――

498 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:19:25.10 ID:+v3Iu8kAO
〜13〜

初春「ふえぇ……見失っちゃいま――ひいっ!?あ、影だ……」

同時刻、逃げだした婚后(低学年)を連れ戻さんと追い掛けた初春(高学年)も校内を彷徨っていた。
この時、訓練生であった頃にまで逆行していたとは言え、風紀委員を志しただけの事はあり芯は強い。
市松模様の黒白に伸びる自分の影にまで怯えつつ、おっかなびっくり初春は婚后とはぐれた廊下を――

〜〜〜〜〜〜♪♪♪〜〜〜〜〜〜

初春「“エリーゼのため”に?何方かいらっしゃいませんか?」

行く内に音楽室へ差し掛かり、中途半端締め切られた引き戸の隙間より初春は室内を恐る恐る覗き込む。
すると内部から『エリーゼのため』が聞こえ、初春は人っ子一人見当たらない校内にて初めて誰かに――

ベートーベン「………………」ジロリ

初春「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?」

出会したかと思えば、誰もいないのにひとりでに演奏されるピアノとそれを見下ろすベートーベンの姿。
正確には肖像画なのだが、その厳めしい顔立ちが演奏を邪魔されより険しくなって睨み付けられると――
初春は慌てて引き戸を締め切り、元来た道へ踵を返し、常ならば周回遅れの鈍足を必死に回して駆ける。



――――するとそこへ――――



ドンッ

初春「痛っ」

固法「ご、ごめんなさい!」

初春「いたた……(あれ?この人は確か、訓練所で見掛けた)」

固法「だ、大丈夫?(何でこんなところに小学生なんかが?)」

初春「へ、平気です!あの、貴女は確か白井さんと一緒にいた風紀委員の方ですよね?そうですよね!?」

固法「風紀委員?貴女何を言っているの?そんなんじゃないわ」

初春「えっ……」

固法「……どっちかって言うと風紀委員の敵よ。スキルアウト」

初春「えー!?」

直走る初春がぶつかったのは、同じく心身ともに逆行し、スキルアウトに所属していた頃の固法だった。
彼女もまたレベル3から、ビッグスパイダーに身を置いていた要因ともなったレベル2にまでダウンし。

御坂「いたいた!初春さん探し……って固法先輩までいる!?」

固法「えっ?えっ?私、貴女達みたいな小学生知らないわよ?」

御坂「(嗚呼、もうー!)」

婚后「お知り合いでして?」

風斬「ま、待ってえー……」

ここに、全ての役者が出揃った。

499 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:20:12.00 ID:+v3Iu8kAO
〜14〜

御坂「つ・ま・り!ここは鏡の国のアリスみたいなところで、私達はここから出なきゃいけないの!!」

固法「最近の小学生の間ではそういうごっこ遊びが流行っているの?悪いけれど付き合ってられないわ」

御坂「(スキルアウトだった頃まで逆戻りしてるから何だか刺々しいなー全然信用されてないし……)」

初春「――このタイプのタブレットはまだ見た事ないです……」

御坂「(そりゃ初春さんからすれば二年後のモデルだもんね)」

初春「でもほら見て下さい!捜査記録に貴女の名前だって!!」

固法「だから私は風紀委員じゃない!何度も言わせないで!!」

初春「(ジワッ)」

婚后「居丈高な物言いで年少者を威圧なさるのが年長者のする事でして?所詮負け犬は負け犬ですわね」

固法「何ですって」

御坂「だからもう喧嘩は止めて!みんなそれどころじゃないんだってさっきから言ってるじゃない!!」

一堂が会したエントランスホールにて、それぞれ名前と所属とレベルを明かした所でまたしても一悶着。
皆一様に記憶とそれに伴う対人関係が齟齬をきたし、話し合い一つまとまらない。以前、大覇星祭にて。

御坂「(食蜂操祈に皆の記憶をいじくられた時と同じくらい厄介ね。嗚呼もうどうしたらいいの!?)」

食蜂の能力で皆から自分に関する記憶の一切を奪われた時を御坂は思い起こされた。だがそれ以上に――
身体が縮み、能力が落ち、今までにない弱体化を強いられた現状の方が遥かに質が悪かった。もしここで

風斬「皆さん喧嘩しないで!仲良くしましょう?ねっ、ねっ?」

御坂「(こんな馬鹿げた異空間を作り上げた奴に狙われたらもう一溜まりもないわ。確実に全滅する)」

そう危惧した御坂が一度冷静になろうと、手摺りまでしか届かない目線をエントランスから校庭へ向け。

御坂「!?」

固法「やってられないわ!私もう帰るから!!そこを退き――」

婚后「逃げるんですの!?お待ちなさいまだ話は終わって――」

そこに至り、ようやく全員が認識を一つにする事由が起こった。

初春「ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

皆が向けた目線の先。そこには既に日の落ちた校庭にあって――



   妹   達   「   お   姉   様   」   



500 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:22:38.11 ID:+v3Iu8kAO
〜15〜

鮮血のように赤く、業火のように紅く、徒花のように朱く染まる校庭に聳え立つ一万三十一本の十字架。
その下より這い出る身体、湧き出る人影、それは絶対能力進化計画からなる『実験』の犠牲となった――
窒息死により青ざめた妹、圧迫死によりひしゃげた妹、四肢を切断された妹、高所より落下し潰れた妹。
熱した鉄を浴び右半身の溶けた妹、蜂の巣のように銃弾を浴びた妹、ショック死の痙攣に未だ震える妹。
強烈な力を加えられ頭部を割られた妹、生きながらにして内臓まで解体された妹、劇薬を浴び爛れた妹。
ガソリンを頭から被り焼け焦げた妹、頭皮を根刮ぎ持っていかれた妹、硝子と金属片が突き刺さった妹。
液体窒素により凍てつき皮膚細胞が死に絶えた妹、溺死により緊満ガスで見る影もなく膨れ上がった妹。
妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹!

御坂「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

風斬「こっ、こっちに向かってきます!」

固法「――貴女は着物の子!!私はこの子を背負うから!!!」

初春「!?」

固法「走るのよ!!!!!!」

これまでの異常事態が吹き飛ぶほどの非常事態に、固法がついに気を失った御坂を背負って駆け出した。
その檄に強張っていた身体に喝を入れられ、初春が婚后の手を引き、風斬が弾かれたように踵を返し――
それと同時に閉ざされていた正面玄関から一万三十一人もの妹達が雪崩れ込み、一行が駆け出して行く。

妹達「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

初春「あっ!」

婚后「きゃああああああああああああああああああああ!!?」

固法「っ」

だが子供の脚力で振り切れる速度ではなく、パニックから足がもつれ初春がつんのめり、婚后が転んだ。
気絶した御坂を負ぶった固法が身を翻し左脇に抱え直し、二人に襲い掛かる妹達を前に立ちはだかり――
先程婚后が振りかぶるも投げ出されてしまった消火器を瞬時に拾い上げ、ノズルを開き、噴き出させる!

ブシュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!

妹達「!」

固法「そこの工作室に逃げ込んで!早くしなさい!!!!!!」

初春「は、はい!!」

白煙を巻き上げつつ妹達を引きつけながら婚后と初春が工作室に逃げ込むまで時間を稼ぎ、自分もまた。

501 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:23:06.08 ID:+v3Iu8kAO
〜16〜

固法「机を有りっ丈積み上げるわよ!バリケードを組むの!!」

初春「わっ、わかりました!」

風斬「まっ、任せて下さい!」

固法「着物の子は武器になるような物を探して!工作室だから鉄パイプとかバールとかあるはずよ!!」

婚后「はっ、はいですわ!!」

間一髪工作室に逃げ込み施錠し、窓ガラスに血糊に濡れた手の平から生気を失った顔が張り付くのを――
固法と風斬と初春が机や椅子を片っ端から積み上げ、気絶した御坂を横たえつつ婚后が準備室へと入る。
内外がらガンガンドンドンと押し合いへし合いしながら、固法と風斬が突破されぬよう押さえつけつつ。

婚后「――ございました!バールと、釘打ち機が二つほど!!」

固法「連結釘もあるだけ持って来て!あと花飾りの子もよ!!」

初春「な、なんでしょうか!?」

固法「さっき拾ったタブレットで校内の見取り図出して!あの捜査資料とやらに書いてるんでしょ!?」

風斬「私のカウンターストップで食い止めてる間に!早く!!」

風紀委員でなくともスキルアウトに属していた経験からか、固法はこの修羅場にあって的確に指示した。
婚后にバールを持たせて御坂の側に置き、初春も二年後のモデルではあるが持ち前の情報処理能力を――
遺憾なく発揮し、見取り図を画面上に表示させ、固法が連結釘をガスコンクリート釘打ち機に装填する。

初春「出ました!この工作室のある一階中程にある階段から上って、二階の渡り廊下から行けます!!」

婚后「まっ、またあの“ぞんび”の群れに飛び込みますの!?」

妹達「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」ドンドン!

婚后「ひいっ!?」

風斬「も、もう保たない!!私じゃなくて扉が保たないの!!」

固法「打って出るわよ!風斬さんはスカートの子、初春さんは着物の子、あの同じ顔した連中は私が!!」

皮肉にも異常事態にあって歩み寄る余地を持たなかった四人が非常事態にあって肩寄せ合う事となった。

初春「……わかりました!」

固法は風紀委員としての記憶を失っているが、初春は思う。やはり固法は根っからの風紀委員なのだと。

婚后「借りは返しますわ!」

婚后は御坂に関する記憶を失っているが、それでも思った。先程御坂に助け出され、今度は自分の番と。

固法「GOよ!」

そして、地獄の扉が開かれた。

502 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:23:34.62 ID:+v3Iu8kAO
〜17〜

底の抜けた魔女の大釜、雪崩れ込む妹達を前に固法は二丁のガスコンクリート釘打ち機を携え身構える。
左手を突き出し、右手を引きつつ、正中線を取らせぬ半身構えで腰を落とし、大振りの攻撃に備える型。
後に風紀委員として幾多の能力者を制圧する体術の源流、古武道の『型』にも通じる佇まいから放たれる

妹達「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛」

固法「立ち止まらず!振り返らず!!突っ切りなさい!!!」

全員「はい!!!!!!」

ガンガンガンガンガン!と二丁拳銃の釘打ち機の連結釘が次々と生ける屍と化した妹達を釘付けにする。
右手の釘打ち機をハンマーのように横殴りに振るい、手の甲で裏拳を叩き込みながら一発二発三発四発!
返す刀で背後より迫り来る妹の一体に回し蹴りを食らわせ、生まれた活路を皆を突っ走らせ、その殿――
最後尾を死守しながら五発六発七発八発と、妹達の肉から骨から神経まで剥き出しの身体を穿って走る。
風斬に抱えられた御坂、初春に手を引かれた婚后が階段を駆け上がらんとするのを尻目に、固法が右手の

固法「はあっ!」

妹達「オ゛ネ゛エ゛ザマ゛ァァァァァァァァァァァァァァァ!」

釘打ち機の残り二発を妹達の足を縫い付けるように放ち、十発の装填数を使い切ると宙に向かって放る。
その間に素早く空いた右手で左手の釘打ち機に新たな連結釘を再装填し、その間両手を伸ばして来る――
妹の魔手を上体をバレエのように反らしてかわし、バレリーナのように妹の手首を蹴り上げ引き剥がす。
その間にも落下して来たもう一丁の釘打ち機を宙返りで受け取り、空中から猫捻りの姿勢から乱射する。
その様子が踊場より新たに階段を駆け上る初春の目にも映り、心胆寒からしめると同じくして畏敬へと。

初春「(スゴい!)」

婚后「(“ぞんび”よりあの方の方が遥かに恐ろしいですわ)」

徹底的に妹達の死角に回り込み、殺傷領域を確保しつつ近接戦闘からの釣瓶撃ちという懸絶した射撃術。
そしてそれを可能とするのは芸術的なまでの格闘術。後に、白井はおろか御坂でさえも叶わないと評する

固法「グズグズしないで!早く、速く!!もっと急いで!!!」

―――風紀委員、固法美偉のスキルアウト時代の姿である―――

503 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:25:57.70 ID:+v3Iu8kAO
〜18〜

『なるほど』

『お姉様が原因だったのですね』

『ミサカが造られたのも』

『ミサカが殺されるのも』

『全部――』

御坂「う……」

ドンドン!というガスコンクリート釘打ち機の発射音と、いや増す激しい怒号と絶叫と悲鳴の最中――
御坂は風斬に抱えられた腕の中でようやく精神的衝撃から我に返りハッと眦を決して周囲を見渡した。
そこは自分達が吸い込まれ、放り出された姿見と、4時44分で針を止めてしまった時計のある踊場。

御坂「みんな!!?」

婚后「しっ、しっ!」

固法「弾切れ!!?」

初春「――届かない」

風斬「も、もう……」

御坂「それに――」

妹達「オ゛ネ゛エ゛ザマ゛ァァァァァァァァァァァァァァァ!」

地獄のような悪夢の終わりは悪夢のような地獄の始まり。既に原形すら留めていない妹達の葬列が――
地の底から這いずるように上り階段から、存在しない四階の十三階段からそれぞれ湧き出し襲い来る。
婚后がバールを振り回し、固法が釘打ち機を投げ捨て、初春がサッシをよじ登って時計に手を伸ばす。
風斬は御坂を守るので精一杯であり、御坂は妹達に一抹の痛みと傷みと悼みを覚えたが、時既に遅し。

御坂「ごめんね……」

妹達「オ゛ネ゛エ゛ザマ゛ァァァァァァァァァァァァァァァ!」

御坂「――ごめん!」

風斬「御坂さん!?」

御坂は風斬の腕から飛び降り、意を決した。これが自分一人に齎される罪と罰なら甘んじて裁かれよう。
何故、皆が記憶を白紙に戻し時計の針を逆戻しするかのような事態に陥ったのかはわからない。だが――

御坂「――婚后さん、空力使いを私に!」

婚后「えっ!?」

御坂「(レベル4で10トントラックまで飛ばせるなら)私を飛ばして!あの壁掛け時計に届くまで!!」

婚后「で、でも」

御坂「(レベル1でも子供サイズの私ならいけるはず)私は婚后さんを信じてる!だから私を信じて!!」

ただ一つわかる事は、皆が現在に連なる道筋の、その分かれ目にまで戻った事は決して偶然ではないと。
婚后なら『友人』とは何たるかを、初春なら『正義』とは何たるかを、固法なら『守る』とは何たるかを

婚后「なんで、わたくしのために、そこまで……」

御坂「――友達だからに決まってるじゃない!!」

婚后「!」

御坂「友達を信じるのに理由なんていらない!!」

そして御坂は、妹達に心の中で涙を流した詫びながら、腕を――

504 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:26:25.21 ID:+v3Iu8kAO
〜19〜

婚后「――はい!!!!!!」

伸ばされたか弱い御坂の腕を、か細い婚后の手が確かに捉えられ同時にレベル1の空力使いが発動する。
それによって三十キロに満たない御坂の身体は見る見るうちに天井近くにまで達し、壁掛け時計へと――

御坂「だああああああああああああああああああああ!!!」

初春「おチビちゃん!」

婚后「うっ……」

伸ばした手が文字盤に届いた同時に空力使いの能力が切れ、サッシによじ登っていた初春が御坂を――
肩車のようにして支え、両肩を足場にさせ、御坂が文字盤を4時44分から7時16分に戻さんと……
必死に長針を回し、短針を動かして一周。その間に固法が妹達を階下へと蹴落とし、食い止めて行く。

御坂「(ごめん!ごめん!!ごめん!!!ごめん!!!!!)」

変わり果てた妹達に涙を流しながら針を回して二週。御坂一人ならば、死んで妹達に詫びれたであろう。
だがここには御坂に下される裁きに、求められる償いに何の関係もない仲間達がいる。だから出来ない。
何故ならば皆には未来の記憶を持った御坂も知る『明日』があるのだ。帰るべき場所と、愛する者達が。

固法「まだなの!?」

御坂「――これで、ラストォォォォォォォォォォォォォォォ!」

ガチャン

次の瞬間、姿見が目映いばかりに光り輝き、鏡面が歪曲して――

固法「わっ!?」

風斬「きゃあ!」

奮戦していた固法が、応戦していた風斬が姿見に吸い込まれて。

初春「はわわっ」

婚后「みさ――」

サッシから落ちた初春が、力尽きうずくまっていた婚后が続く。

御坂「――――――」

妹達「オ゛ネ゛エ゛ザマ゛」

しかし彼女達が脱出を果たすより早く、妹達の血塗られた腕と腐れ落ちた手が御坂の足を捕らえていた。
だが御坂はそれに嫌悪感を覚えなかった。ただ仲間を助け出せた達成感と、奇妙な安堵感が胸に広がる。

御坂「妹だから。あんた達は私の妹だから。ただ、それだけよ」


その瞬間、目映いばかりの光芒を放つ姿見の中から手が伸び――

御坂「!?」

刹那、御坂はその大鏡に映り込んだ姿を己と見紛った。何故ならそこには常盤台中学の夏服を着た――

「そんなに妹と妹と言うなら、パチモンの見分け方ぐらい――」

――ゲコ太のバッチをつけた、もう一人の『御坂美琴』――

505 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:27:25.15 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

御坂9982号「つけてもらいたいものですねと、ミサカはお姉様を地獄の底から引きずり上げます――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
506 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:27:55.94 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

SPIN‐OFF‐STORY「白いルーズソックス、赤い糸」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
507 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:30:30.17 ID:+v3Iu8kAO
〜20〜

御坂「あんたは!?」

御坂9982号「人様をお化けに出くわしたような目で見ないで下さい、とミサカは力の限りこのチビ姉を」

御坂「きゃあっ?!」

御坂9982号「大岡裁きなど糞食らえとばかりに引き上げます!」

次の瞬間、御坂は御坂9982号の手により姿見の内部へ引きずり込まれ、冷たい床面へ投げ出されて――

フレンダ「げっ!?ちょっと、ちょっと待っ……ぶふぇ!!?」

御坂9982号「ナイスキャッチです、とミサカは高校球児ばりのファインプレーを見せる貴女を褒めます」

フレンダ「実の姉だってなら投げ捨てんなっつの!嗚呼、死んだ後までこんな役回りとか、結局私って」

垣根「諦めろ。とどのつまりはそういう役回りって事だろうよ」

駒場「……最近はとかく来客が多いな。招かれざる客だが……」

御坂「えっ?えっ!?」

強かに打ちつける直前、滑り込んで来たフレンダ=セイヴェルンがお腹で御坂を受け止め悶絶している。
同様に投げ出された婚后と固法を駒場利徳が両脇に抱え、初春を垣根帝督がおぶって喉を鳴らして笑う。
ここに来て御坂の混乱と当惑と恐慌は頂点に達した。何故ならここはもと居た霧ヶ丘女学院でもなく――
そこで御坂達に救いの手を差し伸べてくれた面々は、現実世界では死して久しい者達ばかりなのだから。
キョロキョロと周囲を見渡し、自分を引きずり上げ放り投げた御坂9982号を御坂は呆けたように見上げ。

御坂「……本物?」

御坂9982号「お化けみたいなものですが、足も二本ついてますよ、とミサカは放心状態のお姉様を――」

御坂「――ああ!」

御坂9982号「――ギュッと抱き締めて、言葉より雄弁な体温と共に伝えます。妹(ほんもの)ですよと」

御坂9982号がまるで上位個体のようですねと抱き締めた途端に

御坂「……うああああああああああああああああああああ!」

御坂は全てから解き放たれたように、火が点いたように涙して

フレンダ「……フレメアもそうだったけど、結局、子供が泣くのって多かれ少なかれ似通って来る訳よ」

駒場「……確かに」

垣根「違いねえや」

皆がそれを静かに見下ろしていた。

508 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:30:59.61 ID:+v3Iu8kAO
〜21〜

御坂「帝国タワー!?」

御坂9982号「より正確には大電波塔帝国タワー天望回廊です、とミサカはガイドばりに解説いたします」

そして御坂が一頻り涙し泣き止んだところで御坂9982号が説明した。ここは帝国タワーの天望回廊だと。
あの姿見が異世界への通路となり、更に位相のズレたこの場所へ御坂達は飛ばされて来たのだと説いて。
御坂もまた得心が入った。確かに学園都市の夜景が一望出来る高さだと。それと同時に霧ヶ丘女学院で。

御坂「閉じ込められる前に私が感じたデジャヴは、あんたの電磁波だったのね。確か前にも似たような」

御坂9982号「それはこちらも同じですよ、とミサカは青っ鼻を垂らしたお姉様にハンカチを手渡します」

御坂「チーン!じゃ、じゃあさっきまで私達が見たあんた達は」

御坂9982号「――あれはお姉様の内罰的な側面が齎す罪悪感が呼び覚ましたものです。とミサカは……」

感じた既視感の理由はわかった。わからないのはこの状況下であると、御坂がハンカチを鼻から離して。

垣根「この世界はな、学園都市であって学園都市じゃねえんだ」

御坂「?」

気絶した初春にジャケットをかけながら、垣根が話し始めた。

〜21・5〜

垣根「一番近いイメージで言えば死後の世界に近い。ここは死者のAIM拡散力場の坩堝の直中なんだよ」

垣根曰く、先程まで御坂達がいた世界が生者のAIM拡散力場が生み出した虚数学区であり、ここは――
死者のAIM拡散力場が造り出した虚数学区なのだと言う。風斬のように生きる意思を与えられた存在が

垣根「風斬が意思を与えられて顕現した存在なら、俺達は遺志によって発現した存在って言う理屈だな」

御坂「つまりは風斬さんみたいに現実の世界には干渉出来ない、虚数学区にしか存在出来ないお化け?」

垣根「ムカついた。よほど死にてえと見える。まあ常識の通じねえ俺の更に上を行く非常識な眉唾話だ」

だいたい死んでねえ俺が放り込まれてる時点でおかしな話だと垣根は両手を広げて肩をすくめ頭を振る。

垣根「おかげでテメエらみたいな連中がこれで四件目だ。一件目は風斬、二件目は俺達、三件目は――」

言われなければ生者にしか見えない垣根のリアクションと言葉に御坂は考え込む。心当たりがあるのだ。

御坂「(まさか)」



ぐううううう〜〜

509 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:31:29.29 ID:+v3Iu8kAO
〜22〜

婚后「……んっ?」

初春「……ふえ?」

固法「……うん?」

風斬「……ほえ?」

御坂「(ま、真面目な話してるって言うのにー!!!!!!)」

そこで鳴り響くはカエルの大合唱、御坂の腹の虫である。それも寝た子を起こすほどのボリュームでだ。
思えば朝食を半分残し、昼食前に事件に巻き込まれ、散々駆けずり回った上に子供の肉体に戻っている。
その燃費の悪さたるやとても気合いでどうにかなるものではなく、それを目の当たりにした死者の面々も

フレンダ「にゃっはっはっはっはっ!あんだけ私を追い込んだ超電磁砲も、結局、人の子って訳よ!!」

駒場「……笑い過ぎだぞ舶来の姉。だが、腹の減る事のない俺達からすれば、ぐふっ、羨ましい限りだ」

垣根「お前だって半笑いじゃねえかよ。フランケンみたいな顔で笑いこらえてると、ガキ共が泣くぜ?」

御坂9982号「あまり妹に恥をかかせないで下さいお姉様、とミサカはこのまま立ち話もなんなので――」

御坂「/////」

皆一様に笑い、婚后達は寝起きでキョトンとし、御坂は穴があったら入りたいほどかしこまり、そして。

〜22・5〜

初春「む、無賃乗車はダメですよ!!?」

垣根「(この花飾り、やっぱあん時のガキだよなあ)仕方無えだろ。駅員どころか人間いねえんだから」

婚后「モノレールなどと言った下々の乗り物は初めてですわ!」

フレンダ「モノレールが初めてとか結局どんだけ箱入りな訳?」

固法「貴方確か第七学区の駒場さんですよね?私、黒妻さんの所のビッグスパイダーのメンバーなんです」

駒場「(……俺の悪名は死んだ後まで語り継がれているのか)」

風斬「御坂さん、マシュマロがありましたけども食べますか?」

御坂「ありがとう風斬さん!けど、電気もガスも水道も食料もあるとか本当に私の読んでる漫画みたい」

御坂9982号「漫画の新刊やお菓子の新商品も何時の間にか揃ってます、とミサカはバナナを手にします」

天望シャトルで地上へ降り、向かう先は大電波塔帝国タワー駅。
そこからモノレールに乗り込み、第三の門たる人口湖を目指す。
そこで各々の因縁が、記憶の逆行に伴って乗り越えられて行く。
初春は垣根との、スキルアウト時代の固法は駒場との、そして。

フレンダ「でもあんたとこんな形で会うと思わなかったわ」

御坂「それはこっちのセリフ!」

二人も、また。

510 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:34:14.62 ID:+v3Iu8kAO
〜23〜

御坂「(まさか、あの実験に関わってたあの女まで来てただなんて思わなかったわ。それってつまり)」

初春「す、すごいです!誰もいないのにモノレールが一人でに」

固法「まるでオカルトに出て来る幽霊列車か偽汽車そのものね」

婚后「……でも誰もいない夜の街とは空恐ろしいものですわね」

売店で食料品を手にした一行は、風斬達の導きにより幽霊列車、もといモノレールへ乗り込んでいた。
第一の門は大鏡、第二の門は帝国タワー、第三の門は人口湖であり、そこへ向かい直走る車窓より――
左右反転した街並みと猫の子一匹いない学園都市を婚后と初春が恐々見下ろし、固法が吊革に掴まる。
その中にあって、座椅子から足もつかないほど幼くなってしまった御坂は思案する。この世界の事を。
そして志半ばにて若い命を散らし、この幻想的な夜光に彩られた無人の学園都市に住まう彼等の事を。

御坂「(風斬さんは別として、あの人達はどんな心残りがあってこの世界に留まり続けてるのかな)」

足をブランコのように投げ出しつつ御坂は見やる。まるで遠足に行く子供のような自分達を見守る――

〜23・5〜

垣根「――子供返りしたからって緊張感無さ過ぎだろアイツら」

フレンダ「結局、下手に警戒されるより手間が省けるって訳よ」

駒場「……垣根の言う事も一理あるがな。舶来もそうだったが」

御坂9982号「強面な癖して子供受けしそうなタイプですもんね貴方は、とミサカは欠伸を噛み殺します」

風斬「もし良かったらお膝貸しましょうか?乗り換え地点まで」

ナイトブルーに彩られた無人の学園都市を、まるで物見遊山のようにはしゃいで見下ろす子供達を――
殆ど保護者のように腕組みしたり足組みしたりうつらうつらと船を漕ぎつつ見守る四人の死者と風斬。

御坂9982号「ではお言葉に甘えて、とミサカは膝枕されます」

フレンダ「私もー、って言うか今更考えてみれば私達ってさ」

垣根「何だよ」

フレンダ「結局さ、四人中三人も一方通行に殺されてる訳よ」

垣根「五月蝿え俺はまだ死んでねえ。身体が戻んねーだけだ」

駒場「……そういう状態を死んでいると世間一般では言うが」

フレンダ「私は私でそこのチャラ男のせいで死んだ訳だし?」

垣根「そういうお前らはフレメアって奴への未練で残ってんだろうが。まあ、アイツらを見てたら――」

511 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:34:41.18 ID:+v3Iu8kAO
〜24〜

色々思い出すんだろ、と垣根は初めてモノレールに乗る小袖の婚后や足をプラプラ投げ出す御坂や――
左右反転した中吊り広告を観察する初春を見つつ言う。彼等には多かれ少なかれ未練や祈念があった。
垣根は未だ再生し切らぬ肉体と一方通行への復讐心から。駒場とフレンダはフレメアに対してである。

フレンダ「そこんとこは結局否定し切れない訳だけど、まあ麦野と浜面が必死こいて守ってくれてるし」

駒場「………………」

フレンダ「結局、皮肉な巡り合わせだとは思う訳なんだけどね」

フレメアを助けた駒場の死からフレメアを浜面が守り、自分を殺した麦野がフレメアを護ると言う皮肉。
自分が死ぬ要因ともなった垣根まで肉体的は死んだも同然なのだから、これまた皮肉な話だと諧謔する。
何分、当たり前だが死人は二度殺せないので、今更復讐も何もないのである。だが、そこで風斬が言う。

風斬「確かにままならない事ばっかりですけど、それでも私は」

フレンダ「?」

風斬「ここにいる皆さんのお陰で、結構楽しかったりしますよ?前みたいに一人ぼっちじゃないですし」

御坂9982号「恥ずかしい台詞禁止です、とミサカは最近見つけた新しい漫画の名台詞を引用してみます」

垣根「……まあ、死んだら地獄行き間違い無しだと思ってたから今の暮らしもそう悪いもんじゃねえが」

駒場「……垣根。お前、本当は風斬が羨ましいんじゃないか?」

フレンダ「そうそう。結局風斬だけあっちの世界行ったりこっちの世界行ったりフリーパスって訳よ!」

御坂9982号「貴女が降霊したら絶対に悪さしますね、とミサカは膝枕の領土を広げるべく頭突きします」

フレンダ「痛い!これでも遠慮してるんだから少し譲って!」

垣根「女って何でこうも恥ずかしげもなくイチャつけんだ?」

駒場「……それを俺に聞くのか?答えようがないだろう……」

自分一人しかいなかった陽炎の街、蜃気楼の都に、虚数学区に、今もポツリポツリと住人は増えている。
それが喜ばしいとは言えない、嘆かわしい事かも知れないが、それでも風斬は寂しさが薄れた気がした。


そんな五人を見て


御坂「……何かさ」

風斬「何でしょう」

御坂「――案外、仲良く楽しくやれてそうでホッとしちゃった」

風斬「――はい!」

御坂9982号・フレンダ・垣根・駒場「「「「ねーよ!!」」」」

そして、モノレールは第二一学区へと――
512 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:35:10.36 ID:+v3Iu8kAO
〜25〜

風斬「それじゃあ、夜明けまでこの人口湖で待ちましょうね」

固法「ここが私達が元居た世界に帰れる最後の門なんですね」

御坂「でも、その門ってどういう法則性で成り立ってるの?」

御坂9982号「ミサカにも詳しい事はわかりませんが・大鏡・帝国タワー・人口湖にはある共通点があります。それは何でしょう?とミサカは勿体ぶった謎かけをします」

婚后「ええと、わかりましたわ!答えは“自分の姿が映る場所”に相違ありませんわ!!如何でして?」

御坂9982号「そのものズバリですがそこは一回ボケるところでしょう、とミサカは渋々花丸をあげます」

初春「鏡の国のアリスか、不思議の国のアリスみたいですね」

駒場「……明け方の4時44分にならないと帰れないそうだ」

垣根「何はともあれ、あと四時間くらいの辛抱だ。幸か不幸かこの世界は蚊もいねえ。魚も取れねえが」

フレンダ「キャンプの真似事ついでに、腹拵えでもする訳よ」

モノレールから降り、一行が辿り着いた先は満天の星空に煌めく人口湖の畔だった。それは奇しくも――

御坂「(よくわかんない世界だけど、黒子や結標淡希みたいなテレポーターなら時空も渡れるのかな)」

現実の世界にあって白井と結標が、この山岳地帯の温泉宿にて膳を囲み舌鼓を打っている最中であった。
同時に、もしこの場に結標がいたならば、窓のないビルの案内人であった彼女ならば気付き得ただろう。
この鏡像の世界が、虚数の学区が、アレイスターのいた窓のないビルとひどく似通った次元にあると――

垣根「じゃあ役割分担決めるか。駒場とそっちの眼鏡の女は知り合いっぽいから燃えるもん拾って来い」

固法「ふ、二人きりですか!?」

垣根「まさかこんな夜の山奥にガキを行かせる訳にも行かねえだろ。そんくらいの常識はある。それに」

固法「???」

垣根「あんた見たとこ透視能力だろ?夜目も利くだろうしよ」

固法「(ひ、一言も能力について話してないのに何で!?)」

垣根「とか思ってんだろ。生憎それくらい見てわかんなきゃ死ぬような修羅場くぐって来てんだよ。次」

フレンダ「死ぬような修羅場って言うか、結局死んでる訳よ」

垣根「――ムカついた。俺は死んでねえ!勝手に殺すな!!」

御坂が思案に耽っている間にも垣根はざっくりと各人に役割分担を割り振って行く。実に慣れた風に。

513 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:37:42.30 ID:+v3Iu8kAO
〜26〜

固法「……黙ってていてすいませんでした。言い出し辛くて」

駒場「……別に気を悪くした訳じゃない。元々こういう顔だ」

満天の星空以外に光源に乏しい山林の中を、固法は小枝や薪を、駒場はキャンプ場付近に詰まれた薪を。
それぞれ集めながら背中合わせに会話する。やや自嘲的な固法と、寡黙な駒場の間に薪割りの音の響く。
折れた生木の匂いと、どこからか漂って来る金木犀の香りが気になり、固法はバツが悪そうに鼻を掻く。
垣根の言う通り蚊すらいないこの世界では、眠りにつく蝉はおろか調べを奏でる鈴虫さえもいない。故に

固法「私、レベル2の透視能力(クレアボイアンス)なんです」

駒場「………………」

固法「伸び悩んで、友達はおろか後輩にまで追い越されて……」

駒場「………………」

固法「始まりはそんな感じで、そこで気になる先輩がいて――」

駒場「………………」

固法「何かダメですね。私、何してるんだろうって自分でも思う時があるんです。何もかも中途半端で」

闇夜と、静寂(しじま)と、これから先の事を思うと固法は吐露せずにはいられなかったのである。
そしてそれに耳を傾ける駒場もまた、半蔵や浜面、数多くのスキルアウトが集うだけの事があり――
それを告白させるだけの器量を備えており、同時に駒場も振り返った。歩んで来た道筋の始まりを。
固法のように輪から遠ざかるのでもなく、輪から弾かれた自分。そこから紡がれた和と繋がれた輪。
その輪に『一線』を引く事、それだけが駒場を非道より踏み留まらせ、血道に踏み切らせた理由だ。

駒場「……実は、お前が子供達を守りながら釘打ち機片手に大立ち回りしているのが鏡から見えていた」

固法「えっ」

駒場「……良い動きだった。発条包帯があったとしても滅多にお目にかかれない動きだったように思う」

固法「………………」

駒場「……お前の強さは、能力の有る無しじゃなかった。誰かを守る抜くために戦える人間の力だった」

その言葉に固法が薪拾いの手を一時止め、駒場の背中へと振り返った。だが駒場は振り返らなかった。
その背中が言わんとする事が固法にもわかったような気がした。それは御坂達を守る為の戦いの中――

駒場「……俺のように、ならないでくれ」

固法「――はい」

朧気に見出したものに、固法は二年後、答えを出す事になる――

514 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:38:10.84 ID:+v3Iu8kAO
〜27〜

婚后「ば、バナナを焼くなどと、わたくし見た事も聞いた事も」

フレンダ「結局、本当にお嬢様育ちって訳?一人だけ着物だし」

婚后「そうですわよ。異人さんの貴女にこの良さがおわかり?」

フレンダ「良いよね箱入り娘は。結局、黙って銀の匙咥えて座って待ってたら周りが世話焼いてくれて」

一方、婚后のお守りを命じられたフレンダは河原にてアルミホイルにバナナの切り身を詰めていた。
風斬が先程御坂のためにくすねて来た売店で、バナナの他にもマシュマロやチョコレートもあり――
それら合わせて一列目にバナナ、二列目にチョコレート、三列目にマシュマロを挟み準備して行く。
その様子が箱入り娘である婚后には興味深くて仕方無いのか、飽きる事もなくしげしげと見ている。
同時にフレンダもそんな婚后に、フレメアにもこんな頃があったかなと思いを馳せていた。だが――

婚后「……そうですわね。今日もわたくしはただおたつくだけで何一つ出来ませんでしたもの」ジワッ

フレンダ「(地雷踏んだ!?)ごめんごめん泣かないで!!」

垣根「おーいパツキン!ガキ泣かしてんじゃねーぞコラー!」

フレンダ「うるさいバ垣根!勝手に泣き出したんだっつの!」

余計な一言が婚后の幼気な心中に突き刺さったのか、大粒の涙が零れ落ちんばかりとなり垣根が野次る。
フレンダはそんな婚后を右手でよしよしと撫で、左手で垣根に対し中指を立てつつ、話を聞かんとする。
何でも今日、御坂のように活躍も出来ず初春のように援護も出来ず固法のように戦えなかった自分を――

婚后「わたくしが力になれたのは最後だけ。こんな事では人はついて来ませんわ。お友達も御坂さんも」

ひどく悔いているようだった。もちろん、フレンダは婚后の生い立ちや根差すものなど知りはしない。
だが、自分が妹を泣かした時どうするか、友達がどういったものか、フレンダは経験から知っている。

フレンダ「……結局さ、大事なのは友達作るよりその後な訳」

婚后「その後?」

フレンダ「友達は離れて行かない。結局、離れてくのは自分が友達を裏切った時な訳よ。これがさ……」

婚后「わたくし、絶対に友達を裏切ったりいたしませんわ!」

それこそ、身を以て

フレンダ「――うん」

痛いほどに

フレンダ「出来るといいね。そういう友達(いばしょ)――」

515 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:38:37.32 ID:+v3Iu8kAO
〜28〜

初春「よいしょ、よいしょ、うーん!」

垣根「いやいや無理すんなよ。ふらついてんじゃねえかお前」

初春「働かざる者食うべからずです!」

垣根「(戦力として全くアテにしてなかったんだがな……)」

一方、垣根と初春は焚き火用の穴を掘るべく川原石を運んだり、それを組み上げたりなどと忙しかった。
その中にあって初春はやや大きめの石を抱えるもフラつき、途中で垣根が受けとって代わる事もあった。

初春「はー……やっぱり最後に物を言うのは体力ですかねー」

垣根「(……何やってんだかなー、俺も)」ギコギコギコギコ

訓練生の時分にまで逆行してしまった事が幸いしてか、初春は垣根に対して特に恐怖を覚えはなかった。
逆に一斗缶の四面の内一面をノコギリで切り裂き、穴の上に設置し川縁の水や山あいの風から守る等――
やたらアウトドアに手慣れてしまった垣根の方が忸怩たる思いを抱いていた。それはとりもなおさず……
一つは今(げんざい)の初春がそれを知らない事。一つは現在(いま)の自分の生き方に起きた変化だ。
動きを止めたければ殺す、気に入らなければ壊す生き方を垣根は文字通り死ぬまで省みる事がなかった。

初春「あの、男の子って皆こういう事とかが出来るんですか?」

垣根「ここに来てから覚えたんだよ。特にやる事なかったしな」

だがこの陽炎の街に住まう者は殺そうにも皆死んでいるし、蜃気楼の都を壊して回る意味も見出せない。
肉体を取り戻し、血讐を完遂する手立てを考える以外はこの持て余すほど長い永い時間の中にあって――
己の生き方を振り返る事が多くなった。悔い改めるほど殊勝でも救いを求めるほど脆弱でもなかったが。

垣根「食う必要も寝る必要もないんだが生きてる真似でもしてなきゃ退屈で本当に死んじまいそうでよ」

初春「……生き返ったり、生まれ変わったりしたいですか?」

垣根「当たり前だろ。ぶっ殺さなきゃいけねえ野郎もいるし」

初春「――その後は、その先は、貴方はどうするんですか?」

垣根「………………」

初春「ご、ごめんなさい!初対面の人に失礼な事言っちゃって」

話し合いによる解決など望むべくもない、無頼な生き様が、無残な死に様を通して垣根を少しずつ――

垣根「――いや」

少しずつ、変化する。

垣根「俺の方こそ、あの時は悪かった」

初春「あの時?」

垣根「――こっちの話だ。忘れてくれ」

変えられて行く――

516 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:41:17.38 ID:+v3Iu8kAO
〜29〜

御坂「皆、何だかんだして結構仲良くやれてるじゃない。子供返りしたのが結果として良かったのかな」

御坂9982号「最も幼児化する事甚だしいお姉様がそれを言いますか?と、ミサカは呆れ顔で見つめます」

次第に打ち解けて来る皆を、温泉街付近の自販機から掻払って来たジュースを山と抱えて二人は見やる。
御坂による電撃と、御坂9982号の回し蹴りによる連携プレーによって得た戦利品の内一つを、御坂は――

御坂「――でもさ。どうして私達は子供返りしたのかしらね。それから……妹達(あのこたち)の事も」

御坂9982号「先程も言いましたが、この世界ではイマジネーションや深層心理が大きく幅を聞かせます」

御坂「――幻想(イマジネーション)?」

御坂9982号「自分だけの現実とも言い換える事も出来ます、とミサカはメローイエロー片手に頷きます」

御坂9982号曰く、妹達が生きた屍のような姿で御坂を殺そうとしたのは、偏に内罰的な罪悪感だと言う。
去年の今頃御坂は絶対能力進化計画を知り、それがフラッシュバックのように反映されたのであろうと。
婚后が転入して来たのも、固法が過去と決別したのも去年の今頃であった。そう、御坂達は皆何処かで。

御坂「もしかしたら現在(いま)の自分になる前の過去(わかれみち)に思うところがあったのかもね」

御坂はDNAマップを提供する前の自分に、固法は風紀委員の前のスキルアウト時代に痼りを残した。
婚后は長い間桃李成蹊の意味を履き違えたまま躓き続けた幼年期に。それは死者達もまた例外ではない。
フレンダはもしかすると仲間を裏切って死んだ事を悔やんでいるのかも知れない。妹の事もあるだろう。
垣根は道半ばで、駒場は志半ばで、それぞれ自らの生み出した血の海に斃れた事に心残りがあるのかと。
だが御坂はそこで思い当たる。ならば御坂9982号は?更に言うなれば自分達で四件目となる神隠しは――

御坂「ねえ。一件目は風斬さんが、二件目はあんた達が送り返してたのはわかるんだけど、三件目は?」

御坂9982号「………………」

御坂「ねえ」

風斬「お二人さーん、ホイル焼きそろそろ始めちゃいますよー」

しかし御坂9982号が答えるより早く、風斬からお呼びがかかり、御坂9982号は意味深に頭を撫でて来た。

御坂「???」


直ぐにでもわかると、言わんばかりに――


517 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:41:44.55 ID:+v3Iu8kAO
〜30〜

そしてバナナとチョコレートとマシュマロのホイル焼きと、缶ジュースによるささやかな宴が催された。
既に死して久しい者達は空腹や眠気を訴える事はないのだが、初めてのキャンプに心踊らせる婚后や――
ようやく肩の力が抜けた初春らに付き合ってアルコールはないのかとぼやきながらも付き合ってくれた。

死者達にとってはは、こうして生者が迷い込んで来た時に聞く他愛ない話や取り留めない会話等が――
ある種の娯楽らしい。やはり外界へ行き来出来る風斬が見聞きして来た事柄だけでは物足りないとも。
そんな折である。御坂が死者達はこの無人の学園都市で、普段どう過ごしてるのかと問い掛けたのは。

御坂9982号がここに電気は通っているがネットには繋がってないと言うと、初春が地獄ですねと笑った。
駒場もまた、無人の学園都市をフラフラとドライブしているとたまに自分達のような死者に会うという。
そこで婚后がその人達はどこに行くのですかと問えば、何時の間にか増えたり減ったりしていると返す。

垣根は垣根でやたらと記憶を保持している御坂から一方通行に関する情報を得ようと躍起になっていた。
フレンダも大好きな鯖缶を掻払い放題なのは良いのだが、お腹が空かないため有り難みに欠けるらしい。
固法がテレビはどうなんですかと聞けば、再放送のように一日遅れで放送されると言った次第であった。

風斬曰く、駒場は当初フレンダはここに来た時『舶来が死んだのか』とかなり驚き入った様子だったと。
御坂9982号は御坂9982号で、TSUTAYAで片っ端から映画を借りては『感情』なるものを学んでいるとも。
更に一番未練たらたらなのは垣根らしく、俺の身体は今どうなってる?まさか冷蔵庫じゃあるまいなと。

生者と死者の夜会が刻一刻と過ぎ行く中、疲れ切った婚后と初春が固法にしがみつく形で眠りに落ち――
フレンダは『何か呼ばれてるっぽい』と立ち上がり、ホタルのような夜光の粒子に形を変え姿を消した。
垣根と駒場もまた、御坂を除く面々が眠りについたのを確認すると、静かに焚き火を消して立ち去った。

残された者達で起きているのは御坂と風斬と御坂9982号の三人。
真夏の一足速い日の出を待って、畔で語らう事およそ四時間半。
それは奇しくもも、白井が結標を抱きながら迎えたのと同じ朝。


――そして夜が明け――

518 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:42:14.42 ID:+v3Iu8kAO
〜31〜

御坂9982号「お別れの時間です、とミサカは光輝き目映いばかりの朝日にゴーグルを下ろします……」

御坂「……あんた」

御坂9982号「泣いてませんったら泣いてませんと、ミサカは心配性なお姉様から顔を逸らし俯きます」

午前4時44分。朝焼けの光を浴びて煌めく人口湖の畔にて、御坂は小さな身体で目一杯背伸びし――
短くなった足で爪先立ち、短くなった腕を御坂9982号の腰元に回して、ギュッと抱きつき頬摺りした。
嗚呼、小さくなってなかったらあんたをもっと強く抱き締めてあげられたのにねと微苦笑を浮かべて。

御坂「ううん、私こそごめん。あんたがこの世界に留まってるのは、私の事心配してくれて成仏出来な」

御坂9982号「か、勘違いしないでよね!別にお姉様のためなんかじゃ、とミサカはツンデレてみせます」

御坂「……ありがとう。ずっと私を見守ってくれて。ううん“妹達”を見守ってくれて、ありがとうね」

御坂9982号「………………」

御坂「私とあんたの妹達は、今すごく幸せに暮らしてる。あんたが言ったみたいな“まぶしい世界”で」

そんな二人に彼方より向日葵、何処より朝顔、此方より金木犀の香りが鼻腔を刺激し胸を満たして行く。
朝風が木々を揺らし、微風が前髪を靡かせ、涼風がスカートを戦がせ、白南風が身体を吹き抜けて行く。
目映い朝焼けの光が柔肌へと降り注ぎ、頬にそれとは異なる熱が溢れ出し流れて行くのが伝わって来る。

御坂「ありがとう。こんな事言えた義理じゃないけど、あの世で合わせる顔もないって思ってたけれど」

御坂9982号「――お姉様」

御坂「私、あんたに出会えて良かった!」

そして御坂9982号の身体が陽射しを受けて光の粒子となり、御坂の身体に溶けるように流れ込んで行く。
それにつれて幼年期に逆行していた御坂の身体が中学年、高学年、中学一年生、二年生へと変化して――

御坂「――また、必ず会いに来るから!」

御坂9982号「……馬鹿ですね、お姉様は」

御坂が中学三年生の肉体を取り戻し、代わって御坂9982号の肉体が完全に光の中へ帰って行く刹那――

御坂9982号「――もう来んじゃねーよ、とミサカは生まれて初めての笑顔と共に、お姉様を見送ります」

確かに笑ったのだ。御坂と瓜二つでありながら御坂すら敵わない、時すら止めるほどの笑顔を浮かべて。

519 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:44:30.67 ID:+v3Iu8kAO
〜32〜

御坂「(あんたは、あんた達は、確かに私の中で生きてる。息づいてる。今ならそう感じられる――)」

風斬「……――御坂さん」

御坂「うん、もう大丈夫」

取り戻した自分の身体を抱き締めるようにして御坂は膝を付いて、川原石に落ちたバッチを拾い上げる。
上手く言う事も伝える事も出来ない、確かな何かが手指の先端から身体の深奥に至るまで広がって行く。
この三途の川のような人口湖の畔で、賽の河原にも似た川縁で、御坂は限り無く広がる青空を見上げた。

御坂「……何でだろうね。今、何も怖くないって思えるぐらい」

風斬「……はい」

御坂「――私は孤独(ひとり)じゃないんだって、感じられる」

真夏の夜の夢から目覚めの時を迎え、御坂はこの日、夏への扉の向こう側へと少女時代に別れを告げた。

御坂「行こう風斬さん!私固法先輩おぶるからそっちお願い!」

風斬「ラジャーです!」

そして風と光と水が溢れる人口湖の船着場に、独りでに遊覧船が朝靄を突っ切って少女達を迎えに来る。
御坂は眠りについた固法を背負い、風斬は婚后と初春を小脇に抱え、二人は船着場へと駆け抜けて行く。

エッシャーの『三つの世界』にも似た、分かちがたくありつつ隔てられた異界の、最後の案内人の元へ。

〜32・5〜

風斬「じゃあ御坂さん、皆さん、どうかお気をつけて!!!」

御坂「本当にありがとう!!風斬りさんこそお元気で!!!」

御坂は風斬に見送られた後、遊覧船もとい幽霊船に乗り込み皆を客室に横たえて、船内を探索していた。
今も操舵室を覗き込んで見たが誰もおらず、遊覧船は無人状態のまま対岸へと進んでいる。だがそこで。

御坂「(あっ、最後の一人が誰なのか聞きそびれちゃった)」

実のところ、御坂には今回の事件を引き起こした首謀者にある程度目星はついていた。だがしかし――

カン、カン

御坂「(この足音――)」

全く心当たりがないにも関わらず、御坂9982号が『お姉様もよく知っている方です』と仄めかした……
最後の一人が甲板に響かせる足音に御坂が耳を疑うより早く、振り返るより速く、颯爽と姿を現した。

???「よっ」

御坂「――嘘」

三件発生した神隠しの内一件目は風斬が、二件目は御坂9982号達が、更に三件目を解決したのは――

520 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:45:23.00 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

上条「――久しぶりだな、ビリビリ――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
521 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:45:52.78 ID:+v3Iu8kAO
〜33〜

御坂「……え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!?」

上条「うおっ!?」

御坂「何で?何であんたがここにいるのよ!?死んだの!!?」

上条「ちょっ、ちょっと待てよビリビリ!んな揺さぶられたら湖に落ちてまた死んじまうだろうが!?」

御坂「あんたイギリスに残ったじゃない!私を捨ててあのシスターと駆け落ちしたじゃない何で!?」

上条「落ち着いて話聞けって!そりゃ確かに上条さんかも知れねえが、そいつは“二人目”の俺だ!!」

御坂「何よ二人目とか一人目とかややこしい!あんたはあんた、上条当麻でしょうが馬鹿馬鹿馬鹿!!」

船首にて湖心を望んでいた御坂の前に、白南風と共に姿を現すは御坂を『ビリビリ』と呼んでいた――
インデックスの『竜王の殺息』により『一度目の死』を迎えた、『一人目』の上条当麻その人だった。
『二人目』の上条は御坂が言う通り、インデックスと共にイギリスに残る事を選んだにも関わらず――

御坂「――だからもういっぺん死ねェェェェェェェェェェ!!」

上条「――ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

上条当麻は、現れた。

〜33・5〜

御坂「――つまり、あんたも“死”を迎えたからこの世界に?」

上条「って事になんのかな一応。或いは二人目(いま)の俺が一人目(はじめ)の俺に拘るあまり――」

御坂「………………」

上条「生き霊にでもなっちまったかな?ははっ、もしくはインデックス泣かせちまった後悔かもな――」

御坂が電撃を浴びかけ、上条が逃げ回ると言った懐かしいやり取りを終え、二人は今手摺りに凭れ――
御坂の事を『ビリビリ』と呼んでいた一人目の上条と、二人目の上条と恋仲であった御坂が並び立つ。
そこで交わされる会話に、御坂は上条と付き合っていた頃の残り香を探しそうな自分を必死に戒めて。

御坂「……一人目のあんたもインデックス、二人目のあいつもインデックス、もうやってらんないわよ」

上条「……悪い」

御坂「別に?私がムカついてんのも、好きになったのも、二人目のあんたであって今のあんたじゃない」

上条「……そうか。けど二人目の上条さんも馬鹿な事したよな」

御坂「ええ、人を馬鹿にすんのも大概にしろ!って言ってやり」

上条「――こんな可愛い娘、泣かすなって話だよ。ったく……」

御坂「えっ……」ドキッ

522 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:48:27.79 ID:+v3Iu8kAO
〜34〜

その思わぬ一言に、御坂は一人目の上条と二人目の上条を重ね合わせて見てしまった自分に腹が立った。
頭に宿る理性ではわかっていても、子宮に宿る本能と、心臓に宿る感情がそれらを裏切ってしまう事に。
インデックスの言う一人目の上条当麻、食蜂の言う痛みを伴った記憶という言葉が、胸へと突き刺さる。

御坂「……でも、私はあんたに感謝してる。あんたのおかげで妹達も、私も、世界中の人が救われたの」

上条「……そりゃ二人目の俺がした事であって、上条さんは」

御坂「それは確かに二人目のあんたよ!だけどね、私が初めて出会ったのも一人目のあんたなのよ!!」

上条「!」

御坂「――だからこれは、上条当麻そのものへのお別れなのよ」

故に御坂は上条の胸に飛び込んだ。間もなく遊覧船は対岸に着く。彼岸と此岸を隔てる最後の幻想へ。
イギリスで一度、そしてこの幻想の中で最後、御坂は別れを告げる事にしたのだ。何故ならば上条は。

御坂「……ぶち殺してよ、私の幻想を。このままじゃ幻想(ゆめ)から覚めたくなくなっちゃうからさ」

上条「……わかった」

幻想殺しの右手を持つ無能力者だからだ。だからこそこの真夏の夜の夢の幕を下ろすのにこれ以上……
これ以上相応しい相手もまたないと御坂は思った。鏡の国から不思議の国、最後は現実への国だった。

上条「――さようならだビリビリ。俺、お前の事そんなに嫌いじゃなかったぜ。でも一人目の俺が……」

御坂「………………」

上条「本当に地獄の底から引きずり上げてでも守りたかったのも、二人目の俺がお前を裏切ってまでも」

御坂「――――――」

上条「守りたかった女の子はインデックスただ一人だったんだ」

御坂「……知ってる」

そして遊覧船が船着場に着き、上条の両腕で御坂の身体に回された時、鏡が砕けるような音が響いた。
これでお別れだと、やっと前に進めそうだと、御坂は消え行く幻想(かみじょう)に向かってキスし。

御坂「……知ってた」

涙に滲む視界、瞳に映る世界、壊れ行く幻想、離れ行く上条。

御坂「――さようなら」

光が溢れ、風が吹き、水が跳ね、御坂は泣き笑い、上条へと。

御坂「――あんたなんて」

最後の幻想に、夜明けの空が幕を下ろす。

主演女優の、退場(えがお)と共に――

523 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:48:53.06 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

御坂「……あんたなんて、大嫌いよ――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
524 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:53:24.98 ID:+v3Iu8kAO
〜35〜

同時刻、結標と白井が遊覧船で人口湖を渡河しアトリの森へ向かったその対岸にて少女達は目覚める。

婚后「うっ……」

寄せては返す細波に揺られ、婚后は朝日の中うっすらと目蓋を開き、慌てて顔を上げて周囲を見渡す。
その眼前にはフレンダ=セイヴェルンと刻まれた精霊流しの万燈が見守るように波打ち際で揺蕩って。

初春「んっ!?」

婚后と隣り合わせで目覚めた初春は、ずぶ濡れの制服の冷たさにガバッと身体を起こして我に返り――
暫し愕然とし呆然とした。自分が何故春上と訪れた地に身体を横たえているのかが理解出来ないのだ。

固法「ここは――」

口の中に入り込んだ砂利の異物感と、どこかで失った眼鏡の喪失感に、固法は目覚め切らぬ頭を振る。
長く、切なく、悲しい夢を見ていたような気がするのに何故だか思い出せず、ただただ朝日を仰いで。

御坂「――おはよう!みんな!!」

婚后・初春・固法「御坂さん!?」

その朝日を後光のように背負い、一足先に目覚めていた御坂が唇をなぞっていた手を下ろして笑った。
ここに来て三人の混乱と当惑と疑心は頂点に達した。婚后はオープンキャンパスに赴いたところから。
初春と固法は捜査のため臨場したところから、それぞれ霧ヶ丘女学院を訪ねたところから記憶がない。

婚后「わ、わたくし達は何故かような場所で眠り込んで???」

初春「私、何してたんだろう?何しなきゃ行けないんだろう?」

固法「一体何がどうなってるの!?私達、霧ヶ丘女学院に――」

御坂「みんな一旦落ち着いて。今から順番に説明して行くから」

三者三様のリアクションの中、御坂もまた同じく濡れ鼠となった制服の裾を絞り水気を切りながら――
人口湖より山の中腹に位置する温泉街を見上げる。一先ずこんな格好では出歩けないし落ち着かない。
人心地つきたかったし、話せば長くなる積もる話は腰を据えて話したかったし、何よりお腹も空いた。

婚后「あら?わたくし……」

初春「私、どうして涙が?」

固法「……溢れて来るの?」

そして三人もまた、後から後から溢れ出す涙の理由の意味も訳もわからぬまま御坂を見上げるばかりで。

御坂「……信じてもらえないかも知れないけど、みんな聞いて」

同じく、御坂も手中に残されたゲコ太のバッチを握り締めたまま

御坂「――私達ね……」

笑いながら、泣いていた。

525 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:53:53.35 ID:+v3Iu8kAO
〜36〜

固法「……御坂さんの言葉と、柳迫さんの報告が無ければとても信じられなかったわ。まさかそんな事」

初春「実際現実に起こり得るだなんて、それこそ想像だにしませんでしたよ。でもかなり残念です……」

婚后「――全く記憶にございませんわ。まるでわたくし達全員、狐に包まれたような心待ちでしてよ!」

御坂「だよね。私だって記憶が残ってなかったらとても信じられない話だもの。嗚呼、生き返るー……」

婚后・初春・固法「「「冗談に聞こえませんって(わよ)」」」

虚数学区より霧ヶ丘女学院の姿見、帝国タワーの硝子、人口湖の水鏡より生還した四人はと言うと――
ずぶ濡れになった身体と衣服を取り繕うべく、山間の温泉郷の一角にて乳白色の湯船に浸かっていた。
朝方の飛び込みの客とあって女将は顔を顰めたがそれも御坂がブラックカードを出すまでの話である。
以降、御坂達は替えの衣服から下着から一揃えし、改めてこれまでの経緯を聞きつつ昼風呂に浸かる。
その間にも固法が一七七支部に電話し、柳迫より事件解決を告げられたのである。何でもあの後に――

固法『先の行方不明者もやっぱり、他の被害者みたいにこの学区で発見されたそうよ。花火大会中にね』

御坂「(……後は警備員が引き継ぐって話だけど、その方が初春さん達にとっては良いかも知れない)」

頭の上に乗せたタオルがズレるのを直しなつつ、御坂は昼風呂に肩まで浸かりながら物思いに耽る。
御坂も大凡ではあるが目星はついている。帝国タワーという大電波塔を局地的なMNWに代用し――
能力者にとって切り離せないAIM拡散力場を展開し、心象や精神や意識が物を言う虚数学区を掌握。
大規模戦闘が起きようと街は壊れず人も死なない陽炎の街。そこで見知った全ての記憶を改竄する。
統括理事長以外扱えない虚数学区をデッドコピーしてまで『御坂美琴を手に入れよう』とした者――

御坂「(――これもあんたの仕業なんでしょ?“食蜂操祈”)」

食蜂操祈。だからこそ御坂だけは電磁バリアーによって記憶改竄を受けずに済んだのである。そして――
御坂は知り得ない。食蜂が手にした1500億円が元暗部や垣根の肉体を再生し手駒にするための経費だと。
垣根という圧倒的暴力を心理掌握で得る事で悪魔的謀略は完成するのだ。御坂美琴を手に入れるために。

526 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:54:21.66 ID:+v3Iu8kAO
〜37〜

御坂「(何で、あんたにそこまで憎まれなきゃいけないの?)」

電磁バリアーに阻まれ覗き見る事の出来ない自分の心を盗み見、掌握するためだけにこうまでして――
勝算こそ見込めど、採算など度外視してまで自分に向けて来る妄執が御坂には全く理解出来ないのだ。
偏執狂でまどろっこしいやり方と執念、偏執的で回りくどいやり口と情念。だから御坂は気づかない。

御坂「(あの女はいつだって、絶対に私の力が届かない場所から負けないための勝負を仕掛けて来る)」

結標が白井に向けていた愛憎と食蜂が御坂に向けて来る妄執。
相似しつつも相反し、近似しつつも酷似に至らないそれに――

御坂「けど私も皆って言う心強い仲間にまた今回も助けられちゃったし、今日は私の奢りでパーッと!」

婚后「――それもそうですわね!受験前に最後の思い出作りに」

初春「あはは、何も覚えてませんけど迷惑でなかったら是非!」

固法「支部に戻って報告しなきゃいけないから、少しだけね!」

気付かぬままに、一時の青春を謳歌しようとまさにその時である。

「ああん!」

全員「!?」

切り崩されたような岩影の向こうの湯船より、艶めかしい声が――

〜37・5〜

白井「もう恥ずかしい事や痛い事はしないと仰有っていたのは嘘でしたの!?ああん、ダメですの……」

結標「五月蝿いわね!私を泣かせたお仕置きよ!!まあ、貴女にとってお仕置きとご褒美の境目なんて」

白井「こんな昼間からこんな事をこんな所でだなんて破廉恥ですの!淡希さんはいやらしいですの!!」

結標「――紙一重の差ほどもありはしないわね。大丈夫よ、こんな昼間っから人なんていやしないわよ」

白井「〜〜〜〜〜〜」

結標「それとも人に見られる方が感じる?前だってデート中に××××入れて××××で歩いた時――」

白井「あ、あれは嫌がるわたくしに貴女が無理矢理させて――」

一方、天文台からテレポートを繰り返し何とか時間内に汗だくで遊覧船より宿まで戻って来た二人……
結標と白井は相も変わらずイチャイチャして、汗を流しているんだか掻いてるんだかわからぬままに。

結標「うふふ、あんまり声出したら聞かれちゃうわよ?黒――」

自分達が凭れている岩影の向こうにいる人間にも気付かずに――

527 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:56:52.24 ID:+v3Iu8kAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

御坂「〜〜真っ昼間から何してんのよあんた達はぁぁぁぁぁ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
528 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:57:19.06 ID:+v3Iu8kAO
〜38〜

白井「――お、お姉様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?(どうしてお姉様がこんな所に!??)」

結標「御坂美琴!こんなところまで邪魔しに来ないでよね!!(チッ、折角いいところだったのに!)」

御坂「出来るならスルーしたかったわ知り合いでなきゃ!っていつまでくっついてのよぉぉぉぉぉ!!」

婚后「は、破廉恥ですわ白井さん!が、学徒にあるまじき(御坂さん!前くらいお隠しなさって!!)」

初春「(かぶりつきで覗いてたのは婚后さんじゃないですか。それはもう目を皿にして耳を象にして)」

固法「御坂さん電撃出さないで私達まで浴びてしまうわ!(は、初めて見たわ白井さんのあんな表情)」

奇しくも、御坂達が立ち寄り、白井達が逗留していた温泉は同じ百合閣(びゃくごうかく)だったのだ。
同様に昨晩、麦野が切り崩した巨岩より漏れ出た白井の嬌声にそうとは知らぬ婚后が一番乗りで覗き――
後に続いた御坂らが赤面しつつ覗き込んだところでまさかの鉢合わせである。後は言わずもがなである。

結標「黒子そこどいて!ほらかかって来なさい御坂美琴!!電撃なんて捨ててかかって来なさい!!!」

御坂「黒子どいて!その女殺せない!!」

白井「お二人共やめて下さいまし!わたくしのために争わないで!!喧嘩は止めて!二人を止めて!!」

結標・御坂「「貴女は(あんたは)どっちの味方なのよ!?」」

白井を間に挟んでの結標(ハブ)と御坂(マングース)の睨み合いと罵り合いと取っ組み合いである。
端から見ずとも内輪の痴話喧嘩であり、それを見つめる三者の眼差しは三様に生暖かいものであった。

婚后「……白井さん、モテモテですわね」

初春「ちっとも羨ましくありません……」

固法「何て言うか、ひたすら醜い争いね」

三人は御坂から伝え聞くのみで、虚数学区で起きた出来事や、出会った人々を一切覚えていないが――

婚后「友達付き合いを見直す時期に差し掛かかっているのやも」

初春「……分かり合えないって、悲しい事ですねえ本当に……」

固法「……ここ上がったら、やっぱり戻って仕事しましょうね」

何となく、誰かがこのやり取りを見て自分達同様苦笑いしているような、そんな気がしてならなかった。

529 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 22:58:01.48 ID:+v3Iu8kAO
〜39〜

上条「今戻ったぞーってフレンダは?あいつも成仏したのか?」

垣根「まだみてえだ。ああ、その白カン。これで親倍確定――」

風斬「ツモ、大車輪です!ラス親蹴って、ハコテン飛びです♪」

垣根「ふざけんなクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

駒場「(……不用意に引かせるからだ)……次お前も入るか?」

上条「遠慮しとく。頭悪くて、点棒計算も出来んのことですよ」

一方、御坂達を見送った後上条が帝国タワーに戻るとそこにはサンマで麻雀卓を囲んでいる三人がいた。
お盆も近いのに私達は何をしてるんでしょうと苦笑いしつつ、未だ帰らないフレンダの行く先を想った。

上条「――ビリビリ達も、全員無事に帰って行ったみてえだぜ」

垣根「そう、か」

駒場「……うむ」

風斬「これで一件落着ですねー……はい、ロン。四暗刻単騎♪」

垣根「テメエいかさましてんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

誰かに呼ばれたと言って下界に降りて行ったフレンダも今頃どうしているかと、風斬は空を見上げ――

〜39・5〜

麦野「……何がどうなってんだよこれは」

絹旗「私に聞かれても超困るんですがね」

滝壺「大丈夫、私はそんなあの娘達の人間綱引きを応援してる」

結標「離しなさいよ!」

御坂「あんたこそ!!」

白井「痛いですの!!」

一方、白井に道を踏み外させまじと引き剥がさんとする御坂、引き戻さんとする結標の二人の間で――
綱引きのように左右から両腕を引っ張られる白井を見、麦野は心底げんなりしきった表情を浮かべる。
一つは御坂がここにいる事、一つは昨夜のフレンダを悼む精霊流しの余韻も残さずぶち壊された事に。

麦野「(風情もへったくれもないわね。内風呂に戻ろうっと)」

もう関わり合いになりたくないと観戦する絹旗と滝壺に背を向け、麦野が踵を返さんと身を翻すと――

フレンダ『はあはあ、麦野の入浴シーンな訳よ!最高な訳よ!』

麦野「」

フレンダ『あれ?もしかして私見えてる?嘘、本当に本当!?』

麦野「」バターン!

滝壺「あっ、むぎの倒れた」

絹旗「お風呂まだなのにもう超湯当たりですか?麦野!麦野!」

滝壺「何だか信号を感じる」

そこで麦野が目にしたものが、果たして本物のフレンダであったかどうかは、それは神のみぞ知る――

530 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 23:00:12.66 ID:+v3Iu8kAO
〜40〜

かくしてここに真夏の夜の夢は幕を下ろし、日常へと回帰する。

結標「大体私は前から貴女の事が気に入らなかったのよ!私の黒子(もの)に触らないで!殺すわよ!」

御坂「それはこっちの台詞よ!私も昔からあんたの事が気に食わなかったの!表に出なさい結標淡希!」

結標「上等よ!口の利き方から礼儀までその貧相な身体に敗北と共に刻み込んであげるわ御坂美琴!!」

御坂「胸がデカけりゃエラいもんでもないでしょ何人の身体見ながら論ってんのよこの万年露出狂女!」

結標「この岩盤にさえついてる凹凸すらない、タイルみたいな貴女のスタイルよりはマシなつもりよ!」

御坂「――ぶっ殺す!!」

結標「殺ってみなさい!」

白井「(嗚呼、恋しい淡希さんと愛しいお姉様がわたくしの為に争って――)っていい加減になさい!」

婚后「白井さん、段々とこの成り行きを楽しんでませんこと?」

初春「でも、自分一人を巡って二人の人間が争うだなんて……」

固法「それはそれで女冥利に尽きるわね。羨ましくないけれど」

湯とかけあい、水をしぶかせ、桶を投げ合い、タオルで叩き合い、口汚く罵り合う三人と呆れる四人と。

麦野「盆でもねえのに化けて出やがったかぁぁぁぁぁー!!!」

絹旗「超落ち着いて下さい麦野!誰と戦ってるんですか!!?」

滝壺「(あっ、この信号はふれんだかな?なんだか懐かしい)」

隣の湯殿で虚空に向かって吠える麦野、羽交い締めにする絹旗、プカプカと揺蕩いながら浸かる滝壺と。

姫神「昼休みだから来てみれば。いつの間にか。地獄谷温泉に」

吹寄「……汗と言うより血が流れそうね。どうなってるのこれ」

初春「(嗚呼!佐天さん達の約束忘れてた!?どうして今の今まで思い出せなかったんだろう!!?)」

バイトの休憩時間中に一汗流しに来た姫神と吹寄が固まり、初春が戒めから解かれたように我に返って。

御坂「だからあんたは!」結標「黒子はどっちの味方なのよ!」

白井「お姉様は大事な方、淡希さんは大切な方、どちらも大好きですのでどちらにも肩入れしませんの」

御坂「〜〜〜〜〜〜」

結標「〜〜〜〜〜〜」

御坂がガンを飛ばし、結標がメンチを切るのが同時であり――

結標「……貴女なんて!」

御坂「――大嫌いよ!!」

かくして真夏の夜の夢は朝を迎え、夏への扉が開かれて――

531 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 23:00:39.68 ID:+v3Iu8kAO
〜farewell story〜

食蜂「あらあらぁ。みんな青春力発揮してドタバタ大変ねぇ〜」

女学生A「……女王?」

女学生B「如何な――」

女学生C「…………、」

食蜂「ちょっと席外してぇ。その間貴女達はこの砂浜でダッシュ×20セットにレッツ・チャレンジ☆」

女学生ABC「「「承リマシタ」」」

そして全ての顛末を、初春を通して見ていた食蜂はアイスティーをソーサーに戻し、青空を仰ぎ見る。
飛び交うウミネコの鳴き声と、寄せては返す細波と、吹き抜ける潮風に回る風車に耳を澄ませながら。
そのビーチパラソルの下には、食堂にて御坂達の隣席で神隠しについて『話させられた』少女達の姿。

食蜂「所詮デッドコピー力はデッドコピー力でしかないわねぇ」

食蜂は汗だくで砂浜を全力疾走する少女達に一瞥もくれずに、ガムシロップでピラミッドを積んで行く。
使い道のなくなった遊び道具を再利用してはみたが、やはり望む結果は得られなかったと積んでは崩す。
御坂の精神は操作出来ずとも、心理を誘導すべく流した噂はマジシャンズセレクトとしては機能したが。

御坂『あんたみたいな人間に、私の気持ちなんてわからないわ』

食蜂「………………」

御坂『人の心は読めても、人の痛みがわからないあんたにはね』

思い起こされるのは、帰りの飛行機の中で御坂が零した溜め息と漏らした呟き。それを聞いていた自分。
御坂は知らない。本気で食蜂が御坂を害そうと思えばわざわざファーストクラスを貸し切りなどしない。
何故ならば持ち駒が減るだけであるし、飛行機を落とすといった実力行使にも説得力が薄れるだけだと。

食蜂「……さあてとぉ」

砂浜に御坂の名前を書いてそれを踏みにじり、食蜂はパレオを外しペタペタと足跡を残して海へ向かう。
ここは神奈川県にまで跨る学園都市の最果て、三十年に前に開発途中で放棄され地図から消された学区。
海水浴場としてしか訪れる者のいない廃墟の街、幻の海上学区。いつしか人はそこを『軍艦島』と呼ぶ。

食蜂「――次は何して遊ぶぅ?みぃーさぁーかぁーさぁーん☆」

真っ白なカレンダー、真っ赤な花丸。楽しい愉しい夏休みはまだまだこれからだと、食蜂は歩んで行く。


天上には風に流される雲の城、大地には波に浚われる砂の城、その狭間に揺蕩うは影一つきりの影法師。


カラン、と汗を掻くグラスの中で氷が溶ける音だけを残して――


532 :>>1[saga]:2012/05/23(水) 23:01:25.50 ID:+v3Iu8kAO
BD映像特典しゅーりょー!

じゃあの
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/05/23(水) 23:02:33.91 ID:9kwoxL4k0
乙 是非また特典を…
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/23(水) 23:46:09.75 ID:qlk64Aefo

フレンダと婚后さんの会話に泣いた
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2012/05/24(木) 00:06:28.85 ID:Y0drQFpL0
おつおつ
御坂と9982号の話も泣けた
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2012/05/24(木) 00:27:23.96 ID:KlIvtENc0
ここの上条さんとインデックスは…うん…
そういう役回りだったと思うしかないよな
最後まで面白かった!乙です
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/05/24(木) 01:50:17.70 ID:kVWMAog9o
上条さん…
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/05/24(木) 12:35:35.58 ID:8HPW+xqPo

病んでるなあ、みさきちww
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/24(木) 23:26:45.67 ID:HVD9eoXIO
特典がここまでとは…
OVAはまだか⁉


540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/05/24(木) 23:57:02.88 ID:1tnnpMnAo
OVAはインデックスと屑条がイチャイチャする内容だから駄目だろ
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/25(金) 00:39:11.53 ID:deQUNtns0
インデックスも上条もクズすぎワロタwww
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/25(金) 01:06:30.52 ID:DRZ7Z31Ao
前に読んでた上インスレでも似たような展開で上条さんが叩かれまくってたっけなそういや
やっぱ上琴インの三角関係はドロドロしてるよりほのぼのほうがいいな
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/25(金) 01:25:28.16 ID:vFDhRw9AO
そこで電磁掌握ですよ
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/05/25(金) 08:10:14.56 ID:SbSDl7fho
まあ、選ぶ勇気ってのも人生には必要なわけで誰が悪いってもんでもないがww
どっちも選ばずだらだら二股されても嫌だし
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/25(金) 22:51:29.33 ID:LW2wFkRDo
二股どころか一度選んでおきながらあっさり手のひら返して置きながら何故か一途な上条△っぽい空気になってるのが叩かれる原因じゃねーかしらww
要するに男なんてサイテー、女同士が一番、がこのスレの世界観なんですよ多分

冗談はともかく、インデックスの影も形も感じられないのがちょっぴり不気味
ひょっとしてインデックスさんってもう死んでて、上条さんがイギリスに残ったのもそれが理由なんじゃないかなんて妄想まで浮かんできた
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/26(土) 01:15:08.70 ID:IkH7Hr4AO
黒子をレイプして御坂にハメ撮り見せつけたあわきんや、御坂壊そうとしてそれ以外全員殺そうとしたみさきちの方が明らかにインさん上条よりクズだろwwこれで女同士最高はねえわww
これでもかってくらいみんなすがすがしいクズ(誉め言葉)だった。胸糞とかぐう畜の肥料の上に咲いた良い百合だったよ。
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/26(土) 01:35:00.99 ID:RlAXHoyYo
その二人はクズをクズとして描写され作中でもクズ扱いされてるやん
上条さんとインデックスはそれに近しいクズなのにいい人ぽかったり存在が無かったかのようにスルーされてるのが皆が突っ込みたくなる所以じゃないかしら
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/05/26(土) 06:19:34.47 ID:DXBLf2dWo
恋愛沙汰にいいもわるいもねえだろ
厨房じゃないんだから
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/27(日) 12:23:07.48 ID:q86qJ9/Qo
厨房にいいもわるいもねえだろ
大事なのは出てくる料理だ
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/27(日) 14:05:47.27 ID:v5QWpqKWo
御坂は中坊だろ
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/27(日) 17:05:21.48 ID:4OKNC5eDO
御坂の事じゃないだろ
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/01(金) 04:54:11.27 ID:PAzh0fXAO
黒子の事であわきんに恨まれ、上条さん絡みでインさんに憎まれ、みさきちに仲間狙われでみこっちゃんマジ不幸。
正義感出せば泥沼、仲間連れてくれば洗脳、みさきちを拒めば拒むほど状況悪化するとか詰んでるww
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/01(金) 04:58:14.44 ID:PAzh0fXAO
更に処女捧げた次の日にヤリ逃げバックレされるとかも合わせると本当に悲惨だよなあ笑い事じゃなくて。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)[sage]:2012/06/05(火) 16:30:23.21 ID:DJAoOTsNo
>>553
まあ、それで繋ごうとしたのが下策だったかもねえ
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/06/05(火) 22:08:04.10 ID:ESuoe05S0
もう3回以上読んだよ。この小説・・・名作でしょ
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2012/06/05(火) 22:11:49.49 ID:xJLuh05To
>>555
確かに名作だけど、SSを小説なんて読んだらVIPの恐いにーちゃん達に晒されるぞ
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/05(火) 23:52:22.33 ID:0wRZ2GcN0
インさんを虚数学区にやって二代目上条さんを解放できたらハッピーエンドなのに
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/06(水) 00:52:14.19 ID:guqzR41R0
>>557
そーいや、とあるの百合SS自体はここも含めてたまに見かけるけど禁書×風斬は見たこと無いな
俺が見落としてるだけかも知れんが

大好物なのに一度もお目にかかったことが無い、とはこれ如何に

それはさておき、普段は軽めのしか読まないけど、たまにはこういうドロドロな百合もいいね
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 01:50:44.41 ID:mN6+5VrAO
>>558
とある百合自体ゆるくて仲良しほのぼのしたライトなSSがほとんどだからなおさらなんじゃないかな。
フォックスワードやブルーブラッド読む限り書き手は女性らしいけど、重苦しくて暴力的な作風だし。



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