>>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/27(土) 13:51:50.52 ID:cPRQijA0<>以前別スレに投下させて頂いたシリーズの続編になります。
一話から三話まではその再録(多少修正アリ)です。
小ネタの方は完全新ネタとなっております。

≪家族の一番の見方でありたい≫保護者一方さんと
≪お父さんなあなたも好きだけどカッコイイあなたも大好き!≫な思春期打ち止めの
捏造未来ほのぼのストーリーにどうぞ御付き合いくださいませ。<>打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 13:53:22.15 ID:lxtXFIEo<>キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

wwktkが止まらない!<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:53:58.92 ID:cPRQijA0<>
いつからだろう。あの人のYシャツを着なくなったのは。
小さい頃は毎日のようにワンピースの上から羽織っていた、
あのYシャツ。
箪笥の中に大事にしまってあるそれは、
高校生になってからは一度たりとも着なくなっていた。


ミサカが離れたわけではない。
あの人が離れていったでもない。
それなのにいつの間にか、あのYシャツには全く手を触れなくなっていた。


そうだ。久しぶりにあのYシャツを出してみよう。
暖かい日の下へ。
あの頃みたいに羽織ってみて、あの頃みたいに手を繋いで街へ出よう。
あの頃みたいに、
あの頃みたいに。


防虫剤の臭いが染み付いてしまったYシャツへと袖を通す。
外出は洗濯してからかな、と少し残念に思いながら一つずつボタンを留めてゆく。
上から学校指定のブレザーを着こんで鏡の前で一回転。


「うん、やっぱり……………




 ……………………なんで入ンねェんだよォォォォォ!!!
ってミサカはミサカはあの人の真似をしながら叫んでみたりィィィィ!!!!」





≪ 第一話  部屋とYシャツとミサカ ≫



<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:54:26.06 ID:cPRQijA0<>
「ちくしょうぉ……なんでピチピチ高校生が着てるのにパツンパツンなんだよぅ……
 ってミサカはミサカは涙目になりながら愚痴ってみたりちくしょうぉ……」


箪笥の肥やしと化していたYシャツは、やっぱり箪笥の肥やしだった。
誰かこの幻想をぶち殺してくれ、ギブミー上条。


「……ハッ!!胸囲があるんだからそりゃパツンパツンなわけだよ!!
 ってミサカはミサカは僅かな可能性に縋りついてみたり!!!!!!」

「…………」ジィィーー ← 僅かな可能性

「…………」ペタペタ ← 僅かな胸囲

「…………」チラリチラリ ← Aカップ

「…………」モミモ… ← 揉むほどない

「    」



「 Orz 」



<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:55:01.76 ID:cPRQijA0<>
あの人とは相も変わらず一緒に生活している。
黄泉川とは流石に彼女が結婚した際にあの家を出たから離れたし、
芳川はそれより前に新たな職に就くと共に出ていったから
今はあの人と二人きりなわけだが。


あの人はミサカを妹か娘のように見ている節がある
(結婚どころか彼女すら出来たことの無い雰囲気なのだがそれでいいのだろうか)。


そりゃぁ学園都市からの支援金があるとはいえ
好きなモノを買えたり友達と出かけたりと周りの同級生に比べ手持ちに余裕があるのは
あの人がくれるお小遣いのお蔭なので文句は言えない。


無能力者や低能力者へ向けた薬物投与や無理な実験に頼らない能力開発を
研究するあの人は、その傍らカエル先生の下で助手やら勉強やらと何やら忙しい。


ミサカたち量産型能力者の不安定な肉体をより安定化させるために、
あの人は汗水垂らして頑張ってくれているのだ。


本職の研究者としても優秀らしく、
学園都市の名のある学会などによく呼ばれては
スーツを着てネクタイを締めて出席している。


昔からは想像もできないが、
学園都市第一位の頭脳を持ってしては当然なのかもしれない。


<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:55:36.60 ID:cPRQijA0<>
話を戻そう。
今ミサカが通う高校では学校指定のブレザーの下に
恋人のYシャツを着込むのが流行っている。


「恋人同士、離れていてもいつも一緒にいるからね」という意味らしい。
その話を聞いた時、どうしてもあの人のYシャツをまた着たくなった。


この気持ちが、周りが言うような『恋』と同じかなんて知らないけれど。
あの人が、今もこれからもそういう目では絶対見てくれないことは知っているけれど。


それでも、あのYシャツが着たかったのだ。
それなのに。


それなのに。





「何で入らないんだよコンチクショォォォォってミサカはミサカはァァァァァ!!!!!」



<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:56:04.43 ID:cPRQijA0<>
>コンコン
「おい打ち止め、さっきから煩ェぞ!コッチは朝帰りだってのに!!!」


ハッ、
我に還る。


「ご、ごめんね煩くしちゃって!ってミサカはミサカは

「さっきからギャーギャーどうしたァ?………入るぞ?」

「え、ちょ、待って………!!!」


>ガチャ

「   」← ザ・パツン パツン
「   」← 茫然

「   」
「………」

「   」
「………どォした?ンな古ィYシャツなんか出して。
 それ俺がオマエくらいン頃に着てたヤツだろ?入るワケねェじゃねぇか」




………… そ う だ っ た !!!!!!

可笑しいと思ったのだ。
出会ってから何年立っている。


能力に頼らなくなったあの人は自力で物事をこなす内に
自然と薄らとした筋肉がついてきたし、
男子特有の成長期を迎えて更に背が伸びたりした。


同じ年ごろの男女では体つきに違いがある。
女子は全体のフォルムが丸みを帯びてくるわけで。
同じ年でガリガリだったあの人のYシャツなどハナから着れやしなかったのだ。

<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:56:34.10 ID:cPRQijA0<>
「ね、ねぇねぇ!あなたの今のYシャツ1着貸して欲しいかな〜
 ってミサカはミサカはお願いしてみたり〜」

「あァ?別に構わねェが、何でまた?」

「ホ、ホラ!大覇星祭が近いでしょ?体育祭の練習で汗いっぱい掻いちゃうから
 予備にと思って、ってミサカはミサカは〜」

「買ってあるだろォが、予備。足りねェならまた買ってやるが

「明日すぐ必要なの!使うの!要るの!着なきゃいけないの!だからつべこべ言わず貸せ、ってミサカはミサカは胸倉掴みかかってみたりィィィ!!!」




よかった。何とか誤魔化せた。
興奮冷めやらず未だゲホゲホ言っている彼にこのモヤシがと毒づきながら
部屋のカギを閉めYシャツ(NEW!)を羽織る。



………………。

・学会用
・オーダーメイド
・このモヤシが
・背が伸びた

「…………」チラ ←袖は余っているのに丈が足りない

・背が伸びた(※手足に限る。座高は低い)

「…………」

「チクショォォォォォォォォ!!!!!!!」





<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:57:07.33 ID:cPRQijA0<>
「というわけなの、ってミサカはミサカは電話越しの黄泉川に相談してみたり」

「相変わらず状況説明に便利な口調じゃんね、って愛穂も愛穂も便乗してみたり」


ふざけんなよ黄泉川コンチクショウが。
………最近あの人に似てきた気がする。


「私も旦那のYシャツなんて入らないし、気にすることないじゃんよ?」

「黄泉川の場合入らないのはその巨乳でしょ、ってミサカはミサカは〜……うぅ〜〜」


入らないのがせめて胸なら。
せめて胸なら諦めがついたのに。


オリジナルか。オリジナルが悪いのか。
お姉様は態度(ツンデレ)もお胸も相変わらずである。


「あ、でも……」


もういいよ、黄泉川。
その胸に何を言われようが虚しいだけさ。


この幻想は誰にもぶち殺せないんだよ、
ってミサカはミサカはもう何もかも諦めてみたり……ハハ……ハハh



「ウチの旦那、急いでるのに自分のYシャツ見つからない時なんかは、私の着ていくじゃん」




そ の 発 想 は な か っ た !!!!!!


<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:57:46.76 ID:cPRQijA0<>
イける……!!!!それならイける……!!!
確かにミサカのYシャツなんてあの人は素直に着てくれないだろう。

だがしかし、長年一緒に生活していないのだ。
ミサカはあの人の攻略法を網羅している!




「ね、ねぇねぇ!さっきのYシャツ借りてみて思ったんだけどねぇ〜〜」

「あァ?」

「あなたYシャツ着てる時、ちょっとパツンパツンなんじゃないかなって
 ミサカはミサカは思うんだけど〜〜〜………だってあなた………」



「 昔 よ り 少 し 逞 し く な っ た じ ゃ な い ? 」



「そ、そゥか!!!道理で最近何かキチィ気がしてたんだよ(嬉)!!!」


大丈夫だ、それは気の所為だ。

まぁ兎にも角にも 計 画 通 り。
あの人はコンプレックス(モヤシ、アスパラガス等々)をカバーしてやるよう
煽てれば大抵調子に乗るのだ。

あとはここで上手く誘導して……


「袖先とかはともかくさ〜〜丈とかもうちょっと長くした方が良いんじゃないかな、
 ってミサカはミサカは筋骨隆々なあなたを思い出して意見してみたり〜〜〜」

「ま、まァ確かにそうかもな!細マッチョだもんなァ俺(照)!!!」

「大きめのヤツをさ、マッチョは汗掻くし予備とかも沢山つくっておいた方がいいよ〜〜
 ってミサカはミサカは洗脳を施してみたり〜〜〜」

「イエス、マイロード(喜)!!!」




<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 13:58:18.52 ID:cPRQijA0<>
嬉々として出かけたあの人は、
ミサカの指示でオーダーメイドではなく(オーダーメイドだと唯のモヤシ向けだ)
普通の量販店にYシャツを買いに出かけた。


絶対ェデケェよそれ……と思うがまぁ上手くいったものだ。




深夜3時。
やっと寝付いてくれたあの人の部屋に忍び込む。
昨日まで3日連続完徹だったために今はグッスリ眠っている。

大人買いされた我が家では誰の身の丈にも合わないYシャツを1枚くすねて
またこっそり部屋を出る。

あぁ、あの人のYシャツだ。
あの人が着たあの人の匂いが染み込んだあの人のYシャツだ。

ミサカはミサカはミサカはミサカはミサカはミサカは……………





<> 第一話 『部屋とYシャツとミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 14:01:20.40 ID:cPRQijA0<>
早朝6時。
今日の制服はいつもと一味違う。
学校指定のブレザーの下には、例のブカブカYシャツ。
ムフ、ムフフフフフ…………


自分のお弁当を用意しながらあの人にコーヒーを入れる。
今日は何処か公の場に出るらしく、あのYシャツ(のうちの1枚)を着るらしい。


>ガチャ 「ふあァあ……」


欠伸をかまして目を擦りながらリビングへと出てきたあの人は、
しかし、


ブ カ ブ カ Y シ ャ ツ を 着 て い な か っ た。


「Yシャツはぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!?????」


ビクリ、と肩を震わせたあの人は突然の奇声にはっきりと目が覚めたらしい。
状況についていけないながらもコチラへと機嫌でも窺うかのように目を向けた彼は、


「あ、あァ。一度着てみたらやっぱデカかったし、
コーヒー零して捨てちまった着てたの以外は今度三下にでもやることにしたンだよ」



「…………」チラッ ← 自分のYシャツ
「…………」

「…………」チラッ ← 自分のYシャツ(新品)
「…………」

「…………」チラッ ← 自分のYシャツ(×あの人の匂い ○新品特有のアノ匂い)
「…………」



「あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``!!!!!!!!!」
「   」ビクゥ!!



この世とは、真に不条理なものである。
                                       『部屋とYシャツとミサカ』(完)<> 【小ネタ】 部屋と第一話と一方通行<>saga<>2010/11/27(土) 14:05:29.99 ID:cPRQijA0<>
いつもなら8時過ぎまで寝ている一方通行だが、
今朝に限っては能力開発の指導先の関係上普段より2時間も前の起床を求められていた。

寝ぼけ眼を擦りあげながら正装に着がえてリビングへと足を運べば
先に行くと昨夜話しておいたのに、同居人の少女は健気にも自分に併せて起床し
更には朝食の準備に取り掛かっているところだった。


「ミサカとミサカとYシャツを……ムフ、ムフフフフフフ」

―――――― 何ブツクサ言ってンですかァ?あのクソガキ。

「包容力に包まれたミサカ…………うへへへへへへ」


―――――― 何処で育て方を間違えたのだろう。
恐る恐るリビングへと顔を出せば、カッと瞳孔を見開いた眼でこちらを見上げ
「Yシャツはぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!?????」と叫び出した。
………………やはり俺のような人間に真っ当な子育てなど出来る筈なかったのか。


結局、その日の朝食は散々なものだった。
突然立ち上がって「あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``!!!!!!!!!」
という奇声を発したかと思えば、
座り込んでまた「ミサカはミサカはミサミサミサミサ…………」とブツブツ言いだす。

複雑な年頃なのかもしれない。俺にも少し覚えがある。
なるべく触れないようにしながら「………、先に行くな」と玄関へ向かえば恨めしそうな眼で
「行ってらっしゃいとYシャツはYシャツは送りだしてみる」とワケの判らん返答を寄越してきた。
――――――――― 複雑な年頃なのだろう。そう思いたい。


午前の仕事を終えた一方通行は
午後からの超電磁砲との研究に関する意見交換のため一度帰宅し昼食をとることにした。
鞄から家のカギを取り出し、自宅の扉を開ける。

本来ならそこで品の良いインテリアに囲まれた玄関が彼を迎える筈なのだが、
今日はそこに謎の物体がポツリと一つ加わっていた。
可愛らしいカエルのアップリケがついた打ち止めの弁当袋だ。
今朝は様子がおかしかったし、ボーッとして忘れていったのかもしれない。


「いつまでも手のかかるガキだなァ、オマエは」


小さく笑みを浮かべると一方通行は開けた扉をまた引き返した。
右手に似合わぬ手提げを掲げ、少女が歩く通学路を今日だけは彼も闊歩してゆく。

                                             
                                            『部屋と第一話と一方通行』(完)<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:06:27.70 ID:vxLmpPgo<>Yシャツの人まで連載開始とはwwktk<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/27(土) 14:09:00.21 ID:cPRQijA0<>続きは今夜か明日にでも投下します。
>>2さんお早い反応をありがとうございます。マジビックリしました。

SS初心者でスレ立てたのも初めてな為に色々と勝手がまだよく解っていません。
「こうした方がいい」というご意見・ご指摘等ございましたら是非とも教えていただきたいです。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:14:12.24 ID:e3ukz.s0<>これマジ好き

頑張って<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:26:37.99 ID:ZY5bgIDO<>パンの人だけじゃなくシャツの人まで!?

頑張って下さい。楽しみにしてます!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:41:51.98 ID:spthb/Ao<>いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!(ガタンッ)<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:44:53.48 ID:AfvXSgSO<>乙!
スレ立て待ってた!

ただ、総合で投下に割り込んだ時は一言くらい謝罪するのがマナーだと思うよ。気づかなかったならしょうがないけど。

作品も小ネタも大好きだからこれからも頑張って!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 14:57:38.94 ID:WcCZze.0<>パンの人に続いてシャツの人キタアアアアアア!!!
全裸で待ってる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 15:03:12.11 ID:cPRQijA0<>>>19さん有難うございます!
新着チェックするのを忘れていたから気付きませんでした!

ちょっくら誤って参ります!!!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 15:23:08.66 ID:44uNjAAO<>素晴らしい。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 15:46:04.45 ID:h36CdEAO<>乙〜。
続きがきてくれて嬉しいです。
一方さん視点も追加されててよかった。
一方さんの思考がマジ保護者www<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 17:27:22.09 ID:vb6/TwEo<>きたああああああああああああああああああああああ

超期待!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 17:59:14.87 ID:MpUsn4co<>これもスレたててくれたのかー!
うれしいぜー!

一番やっちゃいけないのは萎縮と譲歩だと思ってるんで
どうか>>1の好きなようにやっちゃってくださいなー。<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/27(土) 20:09:12.57 ID:cPRQijA0<>今日は様々な禁書スレの方が投下してらして嬉しいです。
僕も流れに乗ってもう一話いっちゃおうかと思います。
とりあえず五話までプロットはできてるのですが……そこからどう繋げよう

↓以下本編<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:10:19.98 ID:cPRQijA0<>
「でさぁ、今着てるYシャツが彼のってワケ」

「マジ〜?いいなぁ……」

「ああ、あの3年の彼氏さん?カッコイイよねぇ〜」


ミサカだって着て来る筈だったのだ。
あの人のYシャツを。
少し大きさが合わないで身の丈に余るそれは、優しい包容力で持ってミサカを包んでくれる筈だったのに。


身の丈に余るどころか、身の丈に足りなかった。局部的な意味で。
現実とは、残酷だ。


「………はぁ〜………」

「どした、御坂?なんか今日元気ないじゃん?」

「ううん。何でもないの気にしないで、ってミサカはミサカは……はぁ〜」


何でもなくないじゃ〜ん!と心配そうに揺さぶるクラスメイトには悪いが、
今朝の出来事を思い出すと溜息しか出てこない。


結局今日は普段通り自分のYシャツを着て登校した。
いくらブカブカだったところであんな新品を着たって何の意味もない。


「ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……」

「お、何だその言い様!御坂、彼氏いんの!?」

「え、マジ!?どんな人どんな人!!」

「年下〜?年上〜?ま、まさかこのクラスに………!!!」

「み、御坂は私のモンだからな!!彼氏なんて認めないぞ!!」


思わず漏らした一言にクラスメイトが食いついてくる(一人変なの混じってたが)。
しまった。
ミサカは彼氏って思われても一向に構わないケド……
って、ミサカはミサカは何考えてんのもうキャーーーーーー!!!!!!


≪ 第二話  部屋と彼シャツ計画とミサカ≫
<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:11:30.27 ID:cPRQijA0<>
「お〜い、御坂〜〜〜?」

「へんじがない ただのしかばねのようだ」

「また御坂のヤツがトリップしちゃったよ、アイツ妄想長いからなぁ……」


大覇星祭を一緒に回って、ミサカの応援にも来てもらって、
一緒にお弁当食べてそれからそれから…………
………アレ?これ彼氏っていうか父娘じゃね?


「起きろ御坂〜〜〜、弁当食う時間無くなるぞ〜〜〜」

「ハッ!ってミサカはミサカは何か違う想像から脱出してみたり!!!」

「今日の妄想は3分28秒と」

「御坂にしては短い方だったね」

「も、もう!!いいからお弁当食べよう!お昼休み終わっちゃうよ、ってミサカはミサカ
はここで話を中断!!」

いつもと同じく酷い言われようだ。
いいじゃないか妄想の一つや二つ。
こちとらもっと強力な妄想を放つDNA単位でそっくりどころかまるきし同じなお姉様が
いらっしゃるんだよ!!
って………アレ?


「どした御坂?また妄想か?」

「お弁当………ない………」



<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:12:25.02 ID:cPRQijA0<>
時刻は12時17分。
お喋りに夢中になっていたせいでお昼休みの1/5近くが終わってしまっている。
今から行っても購買は売り切れ状態だろうし、
学食は確か改装工事だとかで一週間くらい休みじゃなかっただろうか。


「ふ、不幸だ…………」


ミサカはどこかのヒーローさんか。
今朝のYシャツ問題に気をとられ過ぎた所為で玄関かリビングにでも忘れてしまったのだろう。


「うぅ………」


なんだか惨めな気分になってきた。
あの人のYシャツは結局着れず。お弁当も忘れ。
ミサカには、何にもないじゃないか。


<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:14:10.70 ID:cPRQijA0<>
「泣くな御坂、弁当くらい分けてやるから〜〜〜」

そういえば今日帰って来たテストも赤点だった。
あの人にテスト中のミサカネットワーク使用を禁止された所為だ。
どこからかテストの日程表を入手したあの人は、
何の契約を交わしたのか知らないがネットワークを使えば番外個体から連絡が入るように仕向けていた。


「駄目だ話聴いてねぇし………つか、何か廊下騒がしくない?」


ネガティブな思考もあの人に似てきた賜物なのか。
ペットは飼い主に似るとか言うけどミサカはあの人にとってペット的なものなのだろうか。


「ホントだ。ちょっと見て来る」ガタッ
「あ。あたしも」


妹や娘的な立場とペット的な立場なら一般的に見てどちらが幸せなのだろう。
どちらにしたってあの人は不器用な優しさを持ってミサカを大事にしてくれるだろう。


「ちょ、大変大変!!なんか見たことないイケメンが廊下歩いてる!!」
「マジで!?」ガタッ
「年上〜?年下〜?」
「年上年上!!大学生くらい!!」


だがそれはミサカが求める優しさとはベクトルが少し違う気がする。一方通行のクセに。
『あらゆるベクトルを操作する能力』なら感情のベクトルも操作しろってんだ。


「今確認してきた。マジイケメン」
「どーゆー系〜〜?爽やか系?カワイイ系?」
「んんと、どっちか言うとヴィジュアル系?白髪赤眼の
「二次元から私を迎えに来てくれたのね、判ります!!!」ガタッ


イケメンかぁ……
ネガティブモードに移行していても都合のいい耳は都合のいい単語だけはバッチリ拾ってくるようだ。
だがミサカにとってイケメンとはあの人だけを指すものである。
例えソイツがヴィジュアル系の白髪赤眼なんてミサカのタイプを真っ向から攻めてきたって………
ん?白髪赤眼?


「おい、御坂っつーガキがいンのはこのクラスか?」ガラッ


<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:16:23.81 ID:cPRQijA0<>
「な、なななななななんであなたがここに、ってミサカはミサカはミサカはミサカは……」

「なんで、って出張講師の仕事終わって帰ってきたらオマエが弁当置きっぱなしだったからワザワザ届に来てやったンだろォが」

「あぁ今日の仕事は能力開発指導だったのね、ってミサカはミサカはえぇ〜〜〜!!!!」


どうしよう。物凄く嬉しい。
きっとあの人は講師を終えた後も他の仕事が山ほど詰まっていて。
しかしそれでもミサカのためにわざわざ学校まで来てくれたわけで。


心中ではさっきまであの人の悪口ばかり言っていたのに、
身勝手な心は心機一転晴れ渡ってゆく。


「ホントに!!ホントにありがとう、ってミサカはミサカはあなたに抱きついちゃうキャーーーーーー」ダイブッ

「馬鹿野郎!!こちとら杖ついて……ってウオ!!!!」


急いでチョーカーのスイッチを切り替えてミサカを支えてくれたあの人は
「もう忘れんなよ、いつも届けてやれるワケじゃねェんだから」
と頭を掻き回して(撫で回しのツンデレ版だ)去っていった。
ハァ……やっぱりミサカにはあの人しかいない……って


「…………………」ジトー ←クラスメイトズ
「       」

「『ミサカはミサカはあなたに抱きついちゃう!!!』」ポソッ
「!!」ビクッ

「『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』」
「!!!!」ビクビクッ

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!!アレが彼氏かぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」
「ヴィジュアル系のお兄ちゃん系かぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!」
「ふざけんなよコンチクショォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!」
「御坂は私のモンだぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!!!!!!!!」


え、ちょ、何このテンション。
止めて来ないで追い詰めないでってミサカはミサカは………


「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~


……………不幸だ(本日2回目)。<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:16:55.44 ID:cPRQijA0<>
「え、じゃつまり一緒に暮らしてるワケ?マジで!?」

「体弱いから家族の人と暮らしてるっつてたのに……まさか彼氏とはねぇ……」

「同居………もうヤることヤった?」


なんやかんやでクラスメイト3人(不穏な発言をするヤツは縛り付けて置いてきた)
を我が家へ招待することとなり、帰り道を賑やかに歩いてゆくミサカ一行。


どうやらあの人はミサカの彼氏として認識されているらしい。
ミサカとしては嬉しいが、あの人がこの光景を見たらどう思うのだろう。


「彼氏さん何やってる人?見た目は派手でも服装的にバンドとかじゃなさ気だったし」

「け、研究職!!能力開発に携わっててよく学会とかに出かけてるよ、
ってミサカはミサカは厳しい追及に焦りながらもついつい自慢しちゃってみたり!!!」

「学会っつーことは結構高収入てコトだよね?」

「クールで落ち着きあって高給取り………完璧じゃないか」


あの人も『クール』だとか『落ち着きがある』だとか表現されるようになったのね、
嬉しいわ……ってミサカはミサカはあの人のお母さん!?


でもやっぱり自分の友達からあの人を良く言われるのは……
………嬉しいな。


「着いたよ、ここがミサカ達の愛の巣さ!!ってミサカはミサカは調子に乗ってみる!!」


<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:17:30.85 ID:cPRQijA0<>
玄関を開けると、そこには見慣れない靴が何足も並んでいた。
普段は2人分(しかも1人1足)しか置かれていない分、4足というのは余計多い気がする。


「ただいま〜〜〜ってミサカはミサカは疑問を前面に押し出して帰宅を宣言する〜〜〜」

「「「おじゃましま〜〜〜す」」」


3人を引き連れてリビングへと向かうと妹達とあの人のヒーロー、上条当麻が何故だか人の家で美味しそうにコーヒーを堪能していた。


「お。おかえり打ち止め」

「ただいま。そしていらっしゃい、ってミサカはミサカは挨拶をきちんと返すよ!
 ところで今日はどうしたの?他にもお客さんが来てるみたいだけど……」

「ああ、俺は今日大学午後から休みだったから一方通行からYシャツ貰いに来たんだよ。
 なんかサイズ違いのヤツ大量購入しちまったんだって?」


ナルホド。
今朝あの人がそんなことを言っていた気がする。
しかし1足はあの人、もう1足はヒーローさんとして残り2足は一体……?


「御坂と御坂妹も来てるんだ。なんだか生体電流について書斎で議論してるみたいで。
 難しすぎて上条さんには全く判らないのですがねぇ……」


不思議そうにしてたのが顔に出てたぞ。
と付けくわえながらヒーローさんは懇切丁寧に教えてくれた。
下位個体も呼んだということは妹達の『調整』についての話なのだろう。


色々と複雑な経緯を経たが、
お姉様とあの人が普通に話をするような関係になったのはとてもいいことだと思う。


「じゃあミサカ達はミサカの部屋に行こうか、ってミサカはミサカは提案してみる」


<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:18:37.66 ID:cPRQijA0<>「今ミサカのお姉様達も来てるんだ〜、ってミサカはミサカは解説を加えるね」

「ほほう、つまりお姉様公認の仲というワケですなキミ達は」

「ち、違うよ!!いや合ってるけれどその解釈は違うよ!!ってミサカはミサカは……

「『合ってるけれど』?」

「合ってるんだ?」

「/////」プシュウゥゥゥゥゥ・・・・・・


確かにお姉様はミサカ達が一緒に暮らしている経緯も
あの人が妹達を護ってくれている経緯も認めてくれたし理解してくれたけど!!!
あの人の行いを許したわけじゃないしそもそも認めたってそうゆう認めたじゃないし!!


「お、お姉様はあの人と研究のことでお話に来てるだけだもん……
ってミサカはミサカは……うう〜〜〜〜〜」

「ハイハイ、からかってゴメンね御坂。」

「だってさぁ。話聞いてるとラブラブなのに彼シャツ着れないとかどうしてかな〜って
気になっちゃって」


…………彼シャツ?


「言ってたじゃん、昼休み。『ミサカも着たかったなぁ……彼シャツ……』って」

「い、いや……それは……」


言わない言えない言えやしない。
あの人がスタイル良すぎてミサカじゃ入んなかったなんて!!!


「あ、あの……それはね、ってミサカは……ミサカは……」


ジリジリと歩み寄ってくる女子A〜C。
アレ?これデジャブじゃね?昼休みと同じじゃね?
つまり辿りつく結末は………


「「「話、詳しく聞かせてもらうからね」」」ニタァ~~


……………不幸だ(本日3回目、本家リビングにてグータラ中)。<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:20:28.14 ID:cPRQijA0<>
「なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と」

「彼氏さんスタイル良さ気だったもんね〜〜」

「なんかダイエットでもしてんのアレ?食べても太らないとか女の敵?」


言わないであげて。あの人気にしてるから。
頑張ってお肉食べてるのに無駄な努力だねとか言わないであげて。


「あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!」

「考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……」

「そこを何とか丸めこんでさ〜〜」

「無理だよぅ……ってミサカはミサカは……」


何といえというのだ。
「あなたはモヤシだからミサカのでも着ていればいいのよ!」?
「べ、別にミサカのYシャツ着て欲しいワケじゃないんだからねっ!」?
………どこの超電磁砲だ。因みに本家は書斎である。


ハァ………所詮ミサカには彼シャツなんて無理な話だったのだ。
明日からも大人しく彼の買ってくれた自分用のブランドYシャツでも着ていよう。


「御坂」


なに?名もないクラスメイトA。
真剣な顔したところでケーキは出さないぞ。


「諦めたら、そこで試合終了だよ?」




……………………Aェェェェェェェェェエエエエエエ!!!!!!!!!!


「が、頑張る!頑張るよAちゃん!!ってミサカはミサカはここに宣言!!!!!」

「Aちゃんて誰だコラ」

<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:21:01.93 ID:cPRQijA0<>
次の日の朝。
今日もあの人は正装するらしい。


何といって声をかけようか。
ツンデレは駄目だ。あの人はあれでいて素直だから、そのままの意味で受け取るだろう。
うぅ〜〜〜〜


「おい、寝ぼけてンじゃねェだろうなクソガキ。遅刻すンぞ」

「あ、ウン!ってミサカはミサカは朝食にがっついてみたり!!」

「喉詰まらせンなよ、面倒臭ェから」


どうしようどうしようどうしよう。
今はまだパジャマだけど朝ご飯を食べ終えたらあの人は確実に着がえ始める。
その前になんとかミサカのYシャツを勧めないと……
どうしようどうしようどうしようどうしよう


「あ、そォだクソガキ」


どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう


「今日1日オマエのYシャツ貸せよ」


どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう
どうしようどうしようどうしようどうし………


…………………え?


「………え?今なんて……?、ってミサカはミサカは確認を取ってみたり……」

「だからァ、1日オマエのYシャツ貸せっつったんだろォがクソガキが。」


………これは、夢?



<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:21:33.62 ID:cPRQijA0<>
「昨日行った先の学校でバカ生徒にYシャツ汚されちまってよォ。
予備もクリーニングだし―――――――― オマエのなら多分ギリギリ着れンだろ」


夢、じゃない。


「で、でも……ミサカのだと袖短いし丈も長いよ……?、ってミサカはミサカは……」

「袖なら上着で隠れるし、丈は仕舞いこンじまえばなンとかなるだろ。
 つーか、今日Yシャツねェ方が困ンだから文句なンて言ってられねェしよォ」


ミサカはあなたのシャツを着れないけれど。
いつでも一緒になんて、到底無理な話だけれど。


あなたは、ミサカのシャツと一緒に、ミサカといてくれるのね。


「ちゃ、ちゃんと大事に着てね、ってミサカはミサカはお願いするからね」

「あァ」

「ミサカだと思って、丁寧に扱ってくれなきゃ嫌だよ、ってミサカはミサカは……」

「大事にする」


ああ、どうしよう。
泣きそうだ。

「俺ァそろそろ着がえて行くから、戸締りちゃんとしとけよォ」

「う、うん任せて!ってミサカはミサカは胸を張ってみたり!!」


昨日の不幸は今日の幸福のためにあるものなのね、
ヒーローさんに教えてあげよう。
暇そうな穀潰しシスターと一緒に、惚気でも聴いてもらいながら。

<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:22:34.70 ID:cPRQijA0<>
出勤や通学ラッシュで混雑する駅前を、杖をついて器用に闊歩する一方通行は
携帯を開いて通話を始めた。


キチンとどちらかに報告を入れるように、小さな同居人の同じ顔をした『お姉様』から
念を押されている。


ピリリリ………と数回コール音を響かせてから、回線の向こう側の相手は電話をとった。
今日は2限からとか言っていたから、まだ寝ていたのかもしれない。
そんなことを気にする一方通行ではないのだけれど。


「オイ一発で出やがれ、三下ァ」

「こっちはまだ寝てたんだぞ?無茶言わないで下さいよ」


やはり寝ていたらしい。


「で、どうだった?ちゃんと借りれたのか?」

「あァ、まァな。適当言って借りてきた。今着てる」

「おうおう、素直に言えたんだなエライエライ。……嬉しそうにしてたか、打ち止め」

「嬉しそうっつーよりもどっか飛ンでたな、意識が。ボーッとしてた」

「それは何より。な、やっぱ上条さんの言った通りだったろ?」

「………ゴチャゴチャ煩ェんだ、テメェはよォ――― 切るぞ」


「オイちょっと待てよ!!」だとか「少しは感謝しろっつーの!」だとか聞こえてきたが、
まあ気にしない。
ウザイだけだ。


しかし打ち止めのあんな顔は久々に見たような気がする。
弁当を渡しに行った時も少しは見れはしたが、最近はコチラを見ては思い悩んでいるような顔ばかりしていた。
本当に久しぶりだった。
あんな、花が飛んだような笑顔は。


確かに少しは感謝すべきなのかもしれない。
全ては、上条当麻の計画通りだったのだから。


<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:23:58.73 ID:cPRQijA0<>
「折角友達来てるんだしさ、お茶の一つでも持って行ってやったらどうだ?」

超電磁砲や妹達との議論も一段落し何か飲むかとリビングに顔を出せば、
要件を終えた筈の件のヒーロー様は何故かのんびりとコーヒーを堪能していた。

「テメェ……帰ったんじゃなかったのかよ」

「上条さんチはお金がないのでクーラーつけられないんですよ、
大覇星祭間近のこのクソ暑い時期にだぜ?もう少しのんびりさせてくれよぉ……」


今にも人ン家で寝こけそうな三下ヒーローは、
どうやら打ち止めが連れて来たらしい客人とやらを持て成せと言っているらしい。
テメェがやれ。


しかし打ち止めが級友を連れてくるというのは本当に珍しいことだ。
三下曰く「家に友達連れて行くとそこん家のお母さんが茶やらなんやら出してくれるもん」
らしいので、あのガキ気に入りの紅茶とクッキーを出して部屋へと向かう。


一応は女(つってもまだ高校生のクソガキだが)の集まりであるわけだし、
ノックくらいはしておくべきだろう。
それくらいの料簡はある。


「おいクソガキ、入るz



『なるほど。彼シャツが細身すぎて入んなかった、と』

『あ、ならさ!!逆に御坂のYシャツ着せるとかどうよ!!』

『考えてはみたけど……あの人がそうそう着てくれるワケないし……』

『そこを何とか丸めこんでさ〜〜』

『無理だよぅ……ってミサカはミサカは……』


彼シャツ。
扉越しに話を聞くに、どうやら男のYシャツを女が身につけることらしい。
この前からYシャツYシャツ騒いでいたのはこういうことか、と納得する。


そうか、クソガキは。
俺を『俺のYシャツ』を着たいのか。
俺を、『彼氏』と呼びたいのか。
<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:26:16.39 ID:cPRQijA0<>「彼シャツ、あの子の学校で流行ってるみたいね」

「………超電磁砲、聴いてたのか」

「アンタとアイツが騒いでた頃からずぅっと。あの子たち声大きいから全部丸判り」

「つまり一方通行は上位個体すらそのYシャツが着れないくらいモヤシというわけですね、
 とミサカは一方通行をからかいます。プギャー」


………妹達はなにやら違う方向に個性が傾いている気がする。
それとも相手が俺だからだろうか。


「……で、どうすんのよ?着てあげるの?あの子のYシャツ」

「………」

「そもそもアンタはあの子のこと、どう思ってんのよ」

「因みにミサカは上位個体に恋愛感情を抱いていることを肯定した時点で学園都市第一位
はロリコンであると宣言するつもりで

アンタは黙ってなさい!!と超電磁砲が妹達にチョップをかましている。
関係。
アイツと俺の関係。
傍から見たら、俺達の関係とは一体どう見えるのだろう。


保護者と被保護者?
兄と妹?
加害者と被害者?


「…………判んねェ」


だが、恐らく。


「………アイツが望んでいるような感情じゃ、ねェと、思う」

「…………そう」


恐らく、俺がアイツにそんな感情を抱くことは一生ないだろう。
アイツは確かに俺が護るべき大事なモンで。
今もこれからもアイツのためにできることは何でもしてやることが変わらなくても。
アイツが本当に欲しいモンは、結局、何も与えてやれない。

「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな」<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:26:44.89 ID:cPRQijA0<>
嘘をつくのは簡単だ。
好きだ、愛してる。嘘である方が逆に出て来る甘い言葉。
だが初めて会ったときから俺の核心を突いてくるアイツは、
すぐに気付いて、傷付けてしまう。きっと。


「アイツと一緒にいる資格なんて、ねェのかもな。……泣かせるか傷つけるだけだ」


やっと理解できた。
思い悩んだ表情でこちらを見上げるそのワケを。
何かを求めるような、耐えるような眼をするそのワケを。


気付いたところで、何もやれない。
俺はアイツが望む感情を、持ち合わせちゃいない。
だから、俺は


「ふざけんなよ」


俺は、アイツと


「お前は打ち止めが大事なんだろ。例えそれが打ち止めの望むような感情じゃなくたって、
打ち止めのことを大切に思ってるんだろ

資格?泣かせる?ふざけんじゃねぇ!!
あの子の傍を離れようとするそのことが、何よりあの子を傷つけるんだろうが!!!

いいぜ、お前がそんな風に勘違いし続けるってんなら、

まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!!!」



<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:27:50.04 ID:cPRQijA0<>ドガシャァァアァァ!!!!!


怒り心頭といった表情で殴りつけて来るヒーローの顔は、
あの実験を体一つで止めに来た夜を彷彿とさせた。


チョーカーのスイッチを切り替えて能力使用モードにすることもできたが、
それは敢えてしなかった。
背中に突き刺さるフローリングの痛々しさが逆に心地良い。


「………結局。なンも進歩してなかったって事かよ、俺ァ」

「関係やら理由やら、難しい事はゆっくり考えていけばいいじゃねえか。
 お前も打ち止めも時間はたっぷりあるんだから。その為に、お前は頑張ってるんだから。」





「………そォだな」

焦る必要はない。
アイツの『限界』は、俺がつくるのだから。



<> 第二話 『部屋と彼シャツ計画とミサカ』<>saga<>2010/11/27(土) 20:30:10.22 ID:cPRQijA0<>
上条との通話を終えて電車へと乗り込んだ一方通行は隣の車両の窮屈加減を尻目に
指定席へと腰を据えた。


駅前の雑踏に思ったより体力は奪われていたらしい。
また妹達にモヤシやらホワイトアスパラガスやら言われそうだ。


ブルブルブル……ブルブルブル……
車両内だからとマナーモードにしていた携帯電話が着信を告げる。


三下からの電話だったら、「電車乗ってたから」と無視してやろう。
事実だし。


しかし念のために確認してみるとそれは電話では無くメールで、
送信先は『超電磁砲』となっていた。
大方三下から連絡を受けて送りつけてきたのだろう。素直じゃ無いくせにお節介な女だ。


『打ち止めのYシャツ着てあげたんだって?アイツの言った通り、あの子喜んでたでしょ?』


「やっぱ、お節介じゃねェか」


続きはまだ書かれていたが、どうせからかうような戯言ばかりが書き連ねてあるのだろう。
勝手にそう解釈してメールボックスを閉じた一方通行は、そこで大きく一度伸びをした。


携帯電話の待ち受け画面には、
彼と少女が色々な意味で幼かった頃に大切な家族達と撮った写真が収められている。


ぶっきら棒にカメラから視線を反らす自分。
豪快に笑う黄泉川。
素直になれない自分を小さく笑いながら嗜めている芳川。

そして、
満面の笑みの打ち止め。


「ま、今日も一日頑張ってやりますかァ」


長い長い人生の中で、
彼らがこれから歩む道なりは、地平線を越えた見えない彼方まで続いている。

                                              『部屋と彼シャツ計画とミサカ(完)』<> 【小ネタ】 部屋と第二話と上条当麻<>saga<>2010/11/27(土) 20:32:26.99 ID:cPRQijA0<>
『………ゴチャゴチャ煩ェんだ、テメェはよォ――― 切るぞ』

「オイちょっと待てよ!!」


早朝からの連絡に眠りを妨げられた挙句一方的に通話を切られた上条当麻は
お約束の不幸だなんだを言うどころか呆れかえって物が言えなくなっていた。

「少しは感謝しろっつーの!―――――― 手間のかかるヤツ」

横暴な友人の(やっとこの表現を許してくれるようになった。未だ『三下』扱いだが)
態度は相変わらずだが、数年前に比べれば随分と成長を見せたような気がする。

「とうま、」

口では大口叩くクセして昔はもっと下らないことでチマチマ悩んでいたものだ、アイツは。
まあ彼と少女のバックグラウンドを考えれば仕方のないことかもしれないが。

「これで暫く落ち着いてくれればいいんだけどなぁ」

「とうま!」

自分は一体あと何回彼の幻想をぶち殺すことになるのやら。


「とうまぁあぁあぁあああ!!!!!!!!!」

「うおぉおお!!!」ビクゥッ!!!

さっきからずっと呼んでるのに何で無視するのお腹すいたんだよご飯はまだなの
ねぇとうまねぇとうまねぇとうま!!!!

「だぁあもう!!わかった、わかった、わかりました!!今すぐ作りますから!!」

同居人のこのシスターも、少しは成長というものを見せてはくれないのだろうか。
いやスグに噛み付かなくなっただけ成長したというものか?

「とりあえずパンでも焼きますかね」

トースターへと突っ込んだら空いた時間で御坂に連絡しよう。
面倒臭いあの二人へと、これからどう茶々を入れてくか相談しなくては。

「ケーターデンワーいじってないで、早くぅううーーー!!!」

俺の生活も大概面倒臭いのだが俺の場合はこれでいいのだ。
この日常に、俺は満足しているのだから。


                                      
                          『部屋と第二話と上条当麻』(完)<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 20:43:45.46 ID:spthb/Ao<>いやぁ甘酸っぱいなぁ

インテリオルさん成長してる!すげえ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 21:18:04.84 ID:RX3O1vY0<>インさんの成長パネエwwwwwwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 21:24:43.49 ID:FWxPQLM0<>>>1乙!
1回総合で見たんだけど
やっぱにやにやが止まんないわ
どうしてくれるのさ>>1よ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 21:34:56.93 ID:M6B7erwo<>そういえばインデックスさんも寝るときは上条さんのシャツ着てたな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/27(土) 21:52:10.65 ID:loKDNMDO<>上条さんはもうインデックスといたしちゃってんのかな<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/28(日) 12:59:10.59 ID:f9DDFBY0<>>>48様を見て思いついた小ネタ


【小ネタ】禁書目録とYシャツと超電磁砲


御坂美琴とインデックスは地下街にあるファストフード店の一角に座っていた。
彼女らの席の上にはハンバーガーやらポテトやらジュースやらの残骸と
未だ手の着けていられないそれらの山が大量に転がっていたが、
山にひたすら手をかけるのはやはりと申すか何というか某暴食シスターだけであった。


「ねぇ、短髪」

「ん?」


唯一ブラックコーヒーにだけ口をつけていた美琴は
(誰かさんを真似たのではない、砂糖やミルクを使うことで増えるカロリーを気にしたのだ)
ハンバーガーに伸ばした手を止めてまで自分に声をかけた理由が解らず、疑問をあげた。
頭にはてなマーク状態である。


「らすとおーだーはあくせられーたにYシャツ着て貰えたから、彼シャツできたんだよね?」
「まぁ……そうなるんじゃない?」


本来これは美琴が彼女の思い人・上条当麻の私生活について同居人から聞き出す会合なのだが
(二人はライバル関係であるが、そこでこの『賄賂』である)、
今日は専ら妹・打ち止めの話題ばかりが続いている。
まああれだけ各処で惚気てくれれば当然といえば当然であるが。

仕方ない、アイツの話は来週にでも聞き出そう。
そう美琴は思い直して妹の喜びっぷりについて呆れと羨望を交えた話題を出そうとした。

だが、それも眼の前に座る一人の好敵手の台詞によって全て遮られた。


「でも、私は更に上を行く本当の意味での彼シャツをとうまと毎日してるんだよ」




<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/28(日) 13:00:30.43 ID:f9DDFBY0<>



ハ?
WHAT?
わっと でゅー ゆー せい?


「で、……」
「で?」


「で、でででででででででででででもアンタ今修道服着てるじゃなななななななななない!!!」
「短髪よく舌噛まないね」


呆れかえったように、更にはムカつくことに自慢するように鼻を高々と掲げ
インデックスの野郎はふふん、と鼻を鳴らしてこちらを見やりながら言い放った。


「私は毎日とーまのYシャツ一枚で寝てるんだよ、それもとーまのベットでね!!」



…………………………
……………………
………………
『解るかインデックス?男物のシャツ1枚の女の子ってのはな、男のロマンなんだよ』
『とーま、』
『ほら、ベットで一緒に寝ようぜ?―――色んな意味で、さ』
『で、でもとーま……とーまもなんで下しか履いてないの?何だかその……恥ずかしいんだよ』
『いいぜ。お前がこれを恥ずかしがるっていうんなら、まずはそのふざけた羞恥をぶち殺す!!』
『とーまぁあああああああ!!!!!』



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/28(日) 13:01:50.38 ID:f9DDFBY0<>





「いやァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「急に大声出さないんでほしいんだよ短髪!他のお客さんもいるのに恥ずかしいんだよ!」

「その羞恥すらアイツにぶち殺されてるクセに!!お前の快楽だけはぶっ生き返すクセに!!」
「何の話なんだよ短髪!」

「いいわよ上等じゃない、だったら私もYシャツ一枚で今からアンタん家押し掛けてやるわよ!」
「ただの変態なんだよ短髪!」

「アンタが私を変態だって言うんなら、まずはそのふざけた常識をぶち殺す!!!!」
「ふざけてないんだよ短髪!」



ワー ギャー 
オヤメクダサイ オキャクサマー
ツンデレールガン ナメンナヨー  オチツクンダヨ タンパツー
…………………………
……………………
………………



「あー三下さンですかァ。不審者2名、引き取りに来て下さい。場所は――――――」


自慢と妄想が交差するとき、物語は       始 ま ら な い 。




「ベットの上でセクシーポーズだコラァァアアアアアア!!!!!!!」
「だから何なんだよ短髪!」

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/11/28(日) 13:07:57.83 ID:f9DDFBY0<>本文の方はまた今夜か明日にでも投下するつもりです。
明日テストなので勉強の捗り具合次第ということになりますが。
………コレ書いてる時点で捗ってませんね、量子化学どうしましょうか。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 13:16:33.71 ID:48vafoDO<>乙乙乙

量子を題材にSSを書けばry<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 13:21:29.17 ID:knCf7XEo<>乙

>>54
それなんてとある魔術の(ryで学ぶ量子力学?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 13:36:26.33 ID:QwDDsxUo<>妄想癖ひでぇwwwwwwwwww
乙!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 15:32:20.01 ID:gY9lU6AO<>美琴「なにがイマジンブレイカーだ私のバージンをブレイクしろオラアァア!」<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/11/28(日) 21:07:18.56 ID:f9DDFBY0<>勉強捗りません。
取り敢えず気分転換も兼ねて投下してみます。
………これがいけないんですね。<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:08:50.61 ID:f9DDFBY0<>
大覇星祭。9月19日から25日の7日間にわたって学園都市で催される行事で、
簡単に言えば大規模な運動会だ。
その内容は、街に存在する全ての学校が合同で体育祭を行う、というものなのだが、
何しろここは東京西部を占める超能力開発期間で、総人口230万人弱、
その8割が学生だというのだから、行事のスケールは半端ではない。


とまあ、ここまでは原典(本家的な意味で)からの抜粋である。
ミサカはこんな流暢な説明、アドリブじゃできない。


本日は大覇星祭の初日、9月19日。
お天道様も元気でいらっしゃる晴天真っ盛りではあるが、
長々とザ・校長先生ズのお話が延々と続く初日の天気としては少し恨めしいものがある。


大覇星祭は年に数回だけ学園都市が一般公開される特別な祝祭であり、
しかも不可思議な『超能力』を扱う者同士がしのぎを削って戦い合うというものだから
興味本位の一般客から、外部の科学者・研究者、はたまた学生の保護者からと大賑わいだ。


ミサカのクラスメイト達も外から久しぶりに両親が来ると言って盛り上がっている。
普段は親なんてウザイだけだ、とか言っているくせになんだかんだで嬉しいらしい。


……でも、ミサカは。


「来れないんだよなぁ……あの人、ってミサカはミサカは――――― ハァ〜〜〜」



≪ 第三話  部屋と大覇星祭とミサカ ≫


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:13:24.79 ID:f9DDFBY0<>
知らされたのは、昨日の夕食の席だった。


「『外』の学者共の面倒押し付けられてよォ。
なンか情報盗み出そうとしても学園都市第一位様がいりゃァ安心って考えなンだろォが
………面倒臭ェったらありゃしねェ」


―――――――え?じゃあ、ミサカの大覇星祭は?


「1日中色ンな研究所だの施設だの見て回るンだと。無論見せられる範囲だろォが」


一緒に屋台回るつもりだったのに。


「1日中かぁ……大変だね。頑張って、ってミサカはミサカは応援してみたり、えいおー」


ミサカの出る行事、応援に来てもらうつもりだったのに。

ミサカは、
ミサカは。




「―――――――― 泣きだしそうな面ァしてンじゃねェよ、クソガキ」


どっか1日は必ず行くから、絶対。
それまでテンション上げ過ぎてヘバったりすンじゃァねェぞ。


数年前に教えた『指切りげんまん』を、初めて自分からしてくれた。
その約束がなんだかとっても嬉しくって、
その子供扱いがなんだかとっても寂しかった。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:14:58.80 ID:f9DDFBY0<>
「あんま落ち込むなよ、御坂。大覇星祭は7日間もあるんだし」

「今日もアンタのYシャツ着てってくれたんでしょ?十分ラブラブじゃん」

「………うん、そうだね。あの人も1日は来てくれるって約束してくれたもんね、
 ってミサカはミサカはテンション上げ↑上げ↑のモードチェンジ!!!」

「アゲアゲ古い。つかテンション上げ過ぎんなってクギ刺されたんじゃなかったっけ?」

「安心しろ御坂!!そんな御坂が私は好きだ!!!」


クラスメイトの励まし(と一部脳が受け付けない告白)を受け、テンションは上々。
7日間持つように抑えながら参加競技場へと向かう。


「初日の競技って何だっけ?ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

「『棒倒し』。敵対する2校が7メートル以上の棒を立てて、自軍護りながら敵の倒すアレ」

「あれ陣営の距離がメッチャ遠いから遠距離攻撃できるヤツがいるとこ有利なんだよね」


大覇星祭なんて大体そうじゃん、遠距離攻撃とか念話能力とか高レベルのヤツがいないと勝てないの。


下らない話題(半ば大能力者や超能力者に対する愚痴だ、
ウチの学校は学校全体を通しても強能力者が1クラス分居るか居ないかなのだから)
は次から次へと飛び出し母校から一駅離れた競技場へはあっという間に着いてしまった。


能力へのコンプレックスはなくても能力への憧れというものは皆少なからずある。
あの人やお姉様といった超能力者や、番外個体といった大能力者に囲まれたミサカも
そんな彼らを見て羨ましいと、正直思う。


「まぁ無い物ねだりしてもしょうがないんだし皆で頑張ろうよ、
ってミサカはミサカはクラスを活気づけようと一人盛り上がってみる!!オー!」

「御坂はホントいい子だねぇ……ま、アタシらもせいぜい頑張りますか」


頑張らなくてはいけないのだ。
絶対に来るあの人に、イイトコ見せてやるために。


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:16:20.03 ID:f9DDFBY0<>
イケぇぇぇえええええ!!!!!
頑張れぇええぇぇえぇええ!!!!!!


怒声のような声援が響き渡るグラウンドで、
打ち止め含む30数名のクラスメイトはスポーツ専攻の強豪校相手に熱戦を繰り広げていた。


クラスに立った一人存在する精神感応系能力者が、
念動力で上方から戦況を汲み取るリーダーの支持を受け小分けされた各班長へ念話を送る。


どちらも学校では貴重な強能力者。
打ち止めのクラスには他に空間移動と風力使い、そして彼女本人を含む5人の異能力者が
在籍するが、これでも彼女の学校で言えば多い方だ。


『さっき発火能力を使った大能力者が空間移動能力者に近付いてる。
 能力制限から見て前列にテレポートするから、4班はさり気無く移動して防御態勢に!!』


念話能力による支持。
事前に立てた計画では支持のあった班の前後の数の班(この場合は3班と5班だ)は
その班の援護がいつでも出来るよう準備することになっている。


強能力者である打ち止めが班長を務めるのは2班なので、今回の支持では現状維持となる。
電撃使いである彼女の配置は棒の手前、最終ラインだ。
彼女が任せられた任務を全うするなら、いざというとき最前列に飛び込めるよう
前方に向けての攻撃態勢に入るべきだった。


でも。
(なんだか敵の様子がおかしい、ってミサカはミサカは推測してみる)
前列への攻撃なら、グラウンドの真ん中にいる別の大能力者に任せればいい。
あの発火能力者以外にも向こうには攻撃性に長けた能力者はアチラ様には山程いるのだ。
それにグラウンド真ん中なんてあまり意味の無い配置に大能力者が集まりつつあるのも
何だか怪しい。


(コレって………もしかして……………)


「テレポーターの能力制限はフェイク!!狙いは後方への移動による棒への直接攻撃!!」


ミサカはミサカは走り出す。
お姉様ほどの威力はなくても、あの人ほどの強さはなくても。

ミサカの精一杯を、今も何処かで頑張っているあの人に見せつけるために。<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:16:51.10 ID:f9DDFBY0<>
「打ち止め!!!」


競技が終わり程よい疲労感に満ち足りていた打ち止めは、観客席から聞こえた声に小首を傾げた。
呼び名が自身の通称(しかし彼女はこれこそ本名と思っている)というのもあったし、
なにしろその声が男のものだったからだ。
彼女を『打ち止め』と呼び尚且つ男性である知り合いは極端に少ない。


「誰かな誰かな〜〜ってミサカはミサカは……ああーーーー!!ヒーローさん!!!」


声の主は、妹達の『ヒーローさん』こと上条当麻だった。
成るほど、彼なら条件にはぴったりと当て嵌まる。


「来てくれたんだね!ってミサカはミサカは体全体で喜びを表現してみるキャッホー!!」

「おう、来てやったぞ〜〜―――― それにホラ、」

「久しぶり。大きくなったじゃない」

「―――――― お母様!!!!!!」



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:18:58.20 ID:f9DDFBY0<>
御坂美鈴。
学園都市第三位の超能力者、『超電磁砲』こと御坂美琴の母親である。
元来美鈴は打ち止めにとって遺伝子上の顔も知らない母親でしかなかったし、
超電磁砲のクローンの存在について美琴の両親が感づいたことを知らされた時も、
彼女が自分を受け入れてくれるとは思っていなかった。


美琴の両親が信じられなかったわけではない。
ただ常識で持って考えて、例え拒絶されたとしても「仕方ない」と諦めようと。
そう覚悟していたのだ。


だが美鈴とその夫・旅掛は、
彼女たち『妹達』9970人(下位個体9968人,打ち止め,番外個体で9970人)全員に
一人ひとり違う名前と、一人ひとり違う名前付きのバッチを送ってくれた。


「あなた達は皆、私たちの大切な娘です」
そう、メッセージを添えて。


打ち止めは現在その名前を使って学校に通っている。
あの人からは出合った時そのままの名前で呼んで欲しいために、
名前を貰う以前の友人たちには『打ち止め』での呼称をお願いしているが。


他の妹達も同様に各地で学生生活を堪能しているらしい。
学園都市では稀にドッペルゲンガー目撃情報が噂されるが、今はそれすらも誇りに思う。


美鈴達には、感謝してもしきれない。


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:20:53.93 ID:f9DDFBY0<>
「お母様!!わざわざ『外』から来てくれたの、ってミサカはミサカは跳びついちゃう!!」

「そうよ〜ん。他の子たちの様子も見たかったし、って美鈴も美鈴も抱きしめちゃう!!」


うっひゃあ、巨乳が羨ま苦しいぜお母様(造語)!!
でもお母様のそのDNAにミサカはミサカは期待を一身に寄せてるからねっ!!


「でも残念ねぇ。今日はシロくん来れないんだって?電話したら仕事中って……」

「うん。でも大覇星祭は7日間もあるし、必ずどっかで来てくれるって言ってたから
寂しくないよ、ってミサカはミサカはAカップを張ってみたり!!」


シロくんとはお母様が呼ぶあの人の渾名だ。
初めてあの人と対面したとき「あーーー!!!あの時の白いのだーーー!!!!」と
あの人に飛びついたお母様は(あの人も巨乳に苦しめられていた。いつかやりたい)、
再会早々学園都市最強に向かって恐怖などおくびにも見せず
『シロくん』なんてフザケやがった(あの人談)渾名を命名してみせたのだ。


「よーし良く言ったわね、イイ子イイ子。そんなイイ子ちゃんのために……じゃじゃーん!
 なんと勝者の雄姿を録画してたのでしたーーー!!!!」

「えーー!!!ホント?ホントにお母様!!!」

「おうともホントさ!後でシロくんにも見せたげなきゃね!!」


有難うお母様!!
何人もの大能力者を相手にするのはちょっぴり恐かったし疲れたけれど、
頑張ったかいがあったよ!!!


「―――――― 録画してたのは上条さんなんですけどね。聴いてないし………不幸だ」


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:22:04.67 ID:f9DDFBY0<>
クラスメイトは同じ様に『外』から来ていた両親と昼食を取るらしかったので、
打ち止めも美鈴と上条(ビデオの件のお礼にと美鈴が誘ったのだ)と共にランチとなった。


久々に会った『お母様』へ、学校の話や日常の話、あの人との生活やらと
事細かについ長々と報告していく。


お母様は全ての話に相槌を打ち、時々コメントを挟みながらミサカの話を終始笑顔で聴いてくれた。
「あなたが幸せそうなら良かったわ」。
そう聞いた時、涙が出そうになった。


「そうそう。旅掛が来るのは明後日からになるけど、美琴ちゃんの方は午後から見に来るって」

「お姉様も来てくれるの!!」

「黄泉川先生もさっき会った時警備員のシフトが終わったら来るって言ってたし、
 芳川さんも仕事に片がつき次第向かうって言ってたらしいぜ」

「わーい!!皆来てくれてミサカはミサカは両手を挙げて大歓喜!!わーい!!!」



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:22:50.46 ID:f9DDFBY0<>
大覇星祭初日は大いに盛り上がった。

約束通り午後から来てくれたお姉様はヒーローを前にそのツンデレっぷりを最大限発揮し、
お腹がすいたと飛び出してきたシスターは
フラグ体質絶好調で通りすがりの女性の胸へとダイブしたヒーローさんの頭を噛みしだき、
それぞれの仕事を終えてやってきたヨミカワとヨシカワはお疲れ様と労いながら
ジュースとアイスを買ってくれ、
そんな賑やかな光景をお母様は笑いながら全てビデオに納めてくれた。


「それでね、すっごくすっごくすっっっごく!楽しかったんだよ!!!
 ってミサカはミサカは超・超・超・超・超ご機嫌にあなたに報告してみたり!!!」

「そォかよ、よかったじゃねェか。―――――よかったからピーマン残すンじゃねェ」

「むぅう。今日くらい頑張ったご褒美であなたが食べてよぉ、ってミサカはミサカは……」

「オマエの代わりに食うのは簡単だが後で女共にガミガミ言われンのは俺なンだよ。
 判ったらつべこべ言わずさっさと食っちまえ、お子様がァ」


むう。レディーに向かってお子様とは失敬な。
しかしお子様と言われようが何だろうが苦手なモノは苦手である。
馬に人参、猫にマタタビ(なんか違う)。
ご褒美の一つでもぶら下げてくれれば少しは食べる気になるのだが………


「そうだ!!ちゃんと食べれたらお母様の撮ったビデオ、一緒に見てくれる?
 ってミサカはミサカはピーマン片手にあなたに交渉してみる!!!」

「あァ、ハイハイ。ちゃんと見てやるから食っちまえェ」


――――――― 最初っから見るツモリだったっつーの、クソガキが。


小さく口を動かしたあなたが、ミサカはミサカは大好きだ。


いつもは苦くて食べられないピーマンが、
今日だけはキャンディーみたいに甘く感じた。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:25:03.81 ID:f9DDFBY0<>
9月20日、大覇星祭2日目。


今日も皆はミサカの応援に来てくれるらしい。
持つべきものは、『仲間』と『家族』だ。


「今日は借り物競走だよね!!ってミサカはミサカは判り切ってても確認してみたり!!」

「おうおうテンション高いな〜御坂。今日こそ『あの人』が来るのかにゃ〜ん?」

「今日来れるかは判んないけど、ミサカが頑張ればお母様がビデオに撮ってくれるし
 あの人も見てくれるんだもん!ってミサカはミサカは優勝をここに大宣言!!!」

「優勝とか強気だねぇ。――― まあ御坂のためにいっちょ頑張ろうかね」

「任せとけ御坂!!この私の愛を持ってすれば優勝など軽いものだ!!!」


皆、ありがとね!!!最後のはヤツは死ね。
借り物競走はかつてお姉様が何処ぞのヒーローさんをひっ捕まえて
ラブラブ風景(意識してるのは一方だけだったけど)をテレビ中継させた伝説の競技だ。
もし競技中にあの人を見つけたら、「競技だから」って言って捕まえてやるのだ!!!
事実だし。


「競技に参加する学生は指定された場所に並んでくださーい」


「おっと。のんびりしてる場合じゃないや」

「張り切ってるとこ出られなかったら元も子もないしね」


待ってろよ!
ミサカが必ず捕まえてやるからな!!ムヘヘヘヘヘヘヘ!!!!!


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:27:38.40 ID:f9DDFBY0<>
「位置について、よーい、ドン!!!」


火薬の音と共にスタートダッシュ。
30メートル先の『借り物リスト』を1枚取ったら、
書かれている内容が借りられるまで学園都市内を走り回るハメになる地獄のゲーム。


(ミサカの、ミサカの借りるもの……!!!あの人からミサカが借りられるもの……!!)


これだァァァァアアア!!!!!!
勢いよく伸ばした手は競技に参加している学生の誰よりも早く、
積み重ねてあった他の数枚を吹き飛ばしながらこれぞという1枚の紙を素早く選別した。


(何が……何が書かれてる!!!?)


パラリと折りたたまれたそれを開くと、そこに書いてあったのは。


『Yシャツを着た人』


よっしゃァァァアアアアア!!!!!!!!
キタ━━(━(━(-( ( (゚∀゚) ) )-)━)━) ━━ !!!!!

キタよ、キタコレ、キましたよォ!!!
ミサカはミサカはやりましたぁぁあああああ!!!!!
Yシャツへの飽くなき執着がミサカを導いてくれたのね!!!!


既に何人かYシャツを着た観客とすれ違ったが、打ち止めはそれらを無視して走り続ける。
紙に書かれた内容を知っているのは今現在ミサカだけ。
だったら、少しくらい可能性に縋ったって良いじゃないか。
あの人に会える。
そんな、小さな可能性に。


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:28:39.89 ID:f9DDFBY0<>
競技場のある第17学区から第18学区へ向けて、打ち止めは走っていた。
第18学区には霧ヶ丘女学院や長点上機学園といったエリート校が軒並み揃っている。
それはつまり付属の優秀な研究所が沢山存在する、ということを示す。


ここならもしかしたら、あの人に会えるかもしれない。


打ち止めは僅かな希望を胸に抱きながら一方通行を探し始めた。
目立つ容姿だ、近くにいれば直ぐに見つけられる。


あの人の電波……
あの人の電波はないかな、ってミサカはミサカは……


かつてアホ毛をピーンと立たせながら行っていた『あの人サーチエンジン(お姉様命名)』
はアホ毛の無くなった今でも健在だ。
ついでにお姉様のネーミングセンスの悪さも(超電磁砲ドラマCD参照)。


「こっち!!こっちにあの人の電波をピーンって感じてみたり!!」


感じた電波を頼りに急いで方向転換。
足の軌道を左方向へ50度修正。


「いたーーー!!ってミサカはミサカは前方に白髪を発見うおおお!!って………アレ?」




『いいじゃねェか、そう言うなよ』

『良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!』



―――――― 女の、人?



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:29:13.68 ID:f9DDFBY0<>
「いいじゃねェか、そう言うなよ」

「良くないわよ。本当にアナタって自分勝手ね!」


あの人はミサカの知らない女の人と一緒にいた。
大きな胸を強調させた服装、長い髪を2つに高く結った姿。
どちらもミサカにはないものだった。


「オマエだって嫌じゃない筈だぜ?アソコに行くのはよォ……だって、」


「           」


まるでキスでもするかのような、残酷なほどに近い距離であの人が何かを囁くと
女の人は顔を真っ赤にさせながらコクコクと大きく頷いた。


どうしよう。
声をかけるか。ではなく、この気持ちをどうしようか拱いているうちに、
あの女の人の能力だろうか。二人で何処かにテレポートしてしまった。


二人は何処へ行ったのだろう。
あの人は何を囁いたのだろう。


オトナの恋人同士が贈る、恥ずかしい言葉なのだろうか。
そうゆうことをする場所に、二人は向かったのだろうか。


お仕事じゃなかったの?
ミサカの所に来てくれるんじゃなかったの?


ミサカ達のために幸せの全てを継ぎこもうとしてくれているあの人に
そうゆう関係の女性が出来たというのなら、喜んであげるべきなのかもしれない。


良かったね?
おめでとう?
あの人に向かって何と言えばいいのか判らない。


もしあの人が結婚したらどうしよう。
二人が過ごす『家庭』という世界に、ミサカの居場所はあるのだろうか。

<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:30:30.15 ID:f9DDFBY0<>




「ずっと一緒になんて、居られないんだね……」

知ってしまった。
気付いて、しまった。





<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:32:06.05 ID:f9DDFBY0<>
結局『借り物』は途中で会った上条当麻に務めてもらった。
今にも泣きそうになっているだろうミサカのヒドい顔を見ても、
何も言わず手を握ってくれた。


徒競走であるはずなのに走る気にもなれず
ミサカとヒーローさんはとぼとぼと歩いてゴールを目指していた。


あの人を探していたときは直ぐに立取り付けた筈の道のりが
今は、とても遠く感じた。




借り物競走で一人に与えられているタイムリミットは45分。
折角つき合ってくれたヒーローさんには申し訳ないが、
このままではゴールに辿りつく前にゲームオーバーを迎えそうだ。


身勝手な理由で、競技を放棄してしまった。
ミサカのためにと頑張ってくれているクラスメイトに、合わす顔がなかった。


「う…うぅ、ヒグッ…う…」


いつもの語尾が出てこない。
あの人との思い出ばかりが走馬灯のように駆け巡る。


ミサカを護ってくれたこと。
ミサカを助けてくれたこと。
ミサカを抱きしめてくれたこと。

ミサカに、笑ってくれたこと。


ミサカの短い人生のほとんどは、あの人との思い出に占められている。

あの人と離れてしまう未来が想像できなくて恐かった。
いつかは離れてしまうという現実が恐ろしかった。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:33:02.23 ID:f9DDFBY0<>


『借り物競走第3走者のタイムリミットは、残り1分となります。
 近くまで来ている競技者の皆さんはお急ぎください』




アナウンスが鳴り響く。
それでも、焦る気にはなれなかった。


繋いでいる手があの人だったら、二人で一緒に走ったのだろうか。
あの人におねだりして、お姫様の様に抱えて走って貰えたのだろうか。


あの人と、
あの人と一緒だったなら、
ミサカは。







その時だった。





「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」


見なれた白髪が、そこに、いた。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:33:45.95 ID:f9DDFBY0<>
ゴール地点の100メートル手前。
一方通行の、競技者の誰しもが必ず通るその道で、あの人はミサカを待っていた。



「急げェ!!!ラストオーダーァ!!!!」



ドクン、と心臓が大きく鳴った。
冷めきった熱が、熱い太陽に溶かされてゆく。


ふいに、繋いでいた手がゆっくりと剥がされた。
握られていた左手を辿りそっと真上を見上げると、
ミサカ達のヒーローは優しげに微笑んで、大きな掌で背中を押した。


「ホラ、行ってこい」



ありがとう!!!


語尾を忘れ、羞恥を忘れ。
大声で一つ叫んでミサカは、ミサカのYシャツを律儀に着たあの人の下へと走り出す。
幾度も救ってくれた恩人にはその短い一言しか思い浮かばなかった。


なぜなら、目の前のあの人のことでミサカの頭の中はパンク状態だったのだから!!!



「一緒に来て!ってミサカはミサカは叫んでみる!!!」



走りながら手を伸ばすと
骨ばったガリガリの細い手で、しかしそれでもしっかりと、
あの人はミサカの手を取ってくれた。


「一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!」


<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:34:49.69 ID:f9DDFBY0<>
カチリ。
チョーカーのスイッチ音がやけに大きく感じた。


ふわりと体が浮いたかと思うと、
地面を見て、
それが念願のお姫様抱っこだということに気がついた。


「凄いよ!速いよ!大好きだよ!!ってミサカはミサカはあなたにしがみ付いてみたり!!」

「歯ァ食いしばれっつったろォがクソガキ!!!公衆の面前で何言ってやがンだ!!!」


信じられないほどの猛スピードで、
その細い腕でミサカをしっかりと抱え込んだあの人は
観客達の熱い歓声を尻目にゴールのアーチへただひたすらに飛び込んでゆく。


パン、パァン!!
ゴールテープを切った合図を耳に感じた。



羞恥か疲れか真っ赤になったあの人の首に
超特急便は終わっているのに、ミサカは思い切り抱きついた。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:35:45.99 ID:f9DDFBY0<>
やっぱり順位はビリッケツだった。
当たり前だ、寧ろゴールできたことが奇跡と言える。


「ゴメンね、皆〜〜〜ってミサカはミサカは………あり?」


┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨……と何やら違うジャンルで流れてそうな効果音が
周囲一帯をせしめている。


「――――― ど、どうしたの皆、ってミサカはミサカは吃りながらも

「テンメェ御坂ァ!!!見せつけてくれやがってコンチクショォ!!!」

「このままゴールできないんじゃないかってハラハラしたアタシの気持ち返しやがれ!」

「お姫様抱っこ〜〜〜ヒューヒュー♪」

「うがああああ御坂ぁああああ!!!!それでも私は愛してるぞぉおおおお!!!!!」


今更になって気付いた。
もしかしてアレは、凄く恥ずかしい光景だったんじゃいか?


「ふにゃぁ〜〜〜ってミサカはミサカはぁああぁ………」

「あ、御坂倒れた」

「今更恥ずかしいと気付いたのか馬鹿め」


望んでいたお姉様とヒーローさんのテレビ中継のような伝説は、
とっくに越えてしまっていた。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:36:40.75 ID:f9DDFBY0<>
「あ、あのね……あの……今日は来てくれてあ、ありがとねっ!」

「あァ」


あの人を含むミサカの応援に来てくれた皆は観客席でミサカを待ってくれていた。
さてさて気になるあの人はといえば、どうやら黄泉川あたりにからかわれていたらしい。
グチャグチャと豪快に頭をかき混ぜられながら気恥ずかしそうにぶーたれていた。


「それでねそれでね、そのぉ……ミサカは、その、聴きたいことが、
ってミサカはミサカは……う〜〜〜」


聴きたいことは山ほどある。
お仕事はどうしたの?
どうしてミサカのところに来てくれたの?
さっきの女の人は?

そしてなにより
「あなたが誰かと結ばれたとき、ミサカはあなたの傍にいられますか」?


疑問と嫉妬と祝福と願望がパレットの上で一緒くたにされた絵の具の様に混沌を描いていく。
何と言えばいいのか判らない。
判っている筈なのに言葉が出ない。


矛盾した感情。
矛盾した思い。


言葉と一緒に、息が、詰まる。


「―――――― あの、ね。ミサカはね、あなたに言わなきゃって……その、その……
「あら一方通行、どうなの?結局間に合った?」


言い淀む自分の頭上から影が落ちる。
聴きなれない声に恐る恐る振りむけば、そこには
あの人の『大切な人』が。笑顔を浮かべて立っていた。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:37:57.91 ID:f9DDFBY0<>
「感謝なさいよ一方通行、ぜーんぶ私のお蔭なんだから。そうだ、今度何か奢りなさいよ」

「うっせェなァ。テメェだって『良いモン』見れたんだ、文句ねェだろ」



親しげに話す2人。


「………そっか」


全くの他人から見れば素っ気ない会話の様に聞こえるが、
あの人がここまでぶっちゃけた風体で話しかけるのは
ある程度の信頼を勝ち得たものだけだということを、ミサカは知っていた。


「………そっか。あなたが認めた、人なんだね」

「あァ?」


あなたと彼女を見て、決心がついた。
もう迷わない。
あなたが選び、あなたが認め、あなたが大事に思う人なら。
ミサカはきっと受け入れられる。


その人があなたを選び、あなたを認め、あなたを大事にしてくれるなら。


「本当に、本当におめでとう!ってミサカはミサカは祝福の詔をあげてみる!!!」






「何言ってンだ?クソガキ?」



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:39:22.91 ID:f9DDFBY0<>



「何言ってンだ?クソガキ?」

「………………………………………へ?」

「めでてェのはオマエの方じゃねェか、クソガキ。結局ゴールできたンだしよォ」

「………………………………………へ?」

「気に食わねェが結標に感謝しとけェ、俺をここまでテレポートさせたのはコイツなンだしよォ」

「あらあら、この子の前じゃ少しは素直になれるのね」

「………………………………………へ?」



つまり、つまり。―――――――― つまり、どうゆうことだってばよ?
イヤイヤイヤイヤ、ネタをかましている場合じゃない。
つまり本当にどうゆうことだ。


あの女の人があの人をここまで運んでくれて、
あの人はそれでミサカとゴールしてくれて、
でもあの人とあの女の人は恋仲なわけで、
『アソコ』とやらに頬を染めながら2人して行っちゃう仲なわけで、


「つまりミサカは、いやあの人は、つまりミサカがミサカがミサカがミサカががががが」

「あら、フリーズしちゃったわね。こうゆう場合ミサカネットワークにはどんな影響が
 出るのかしら」

「研究員魂燃やしてる場合じゃないじゃん桔梗!!大丈夫か打ち止め!!」



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:40:32.40 ID:f9DDFBY0<>
ハァ―――――、
と長い溜息を洩らしながらあの人が歩み寄ってくる。
ああどうしよう何も考えられない。
え?結局どうゆうことなの?
あなたはあの女の人(ムスジメさん?)と結婚するんじゃないの?
ミサカはいらない子になっちゃうんじゃないの?


「様子がおかしいって三下から聞いちゃいたがァ、やっぱ見てやがったなクソガキ」

「―――――――― へ?」


思わずヒーローさんの方を振り返る。
「俺今回はちょっとイイことしたんじゃね?」とかお姉様に同意を求めるヒーローさんは
こちらの視線に気付きニコニコとサムズアップ(親指立ててGJのポーズ)してくれた。


「見てたンだろ、クソガキィ。第18学区で俺が結標と話してたのをよォ」

「…………うん、ってミサカはミサカは小さく肯定してみる」

「大方それでいて『でも大事な部分は聞こえませンでした』ってトコかァ」

「―――――――うん」


なら教えてやるよ、クソガキ。
俺があの女に何囁いたか。


いつもの乱暴な口調じゃなくて撫でるような宥めるような声で言うのだからズルイ。
そんな風に言われたら、話を聞くしかないじゃないか。






「聞いて驚け、答えは『汗掻きショタもいるだろうぜ』だこのマセガキがァ!!」

「やめてそんな大声で人の隠れた趣味を暴露しないでぇぇぇぇえええええ!!!!!!!」


あの人の『彼女』の悲鳴が、大勢の観客の下へと波のように広がっていった。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:40:58.20 ID:f9DDFBY0<>
話を要約すると、こうだ。
仕事を終えたあの人はミサカの下へと向かう途中『元同僚』の結標さんに遭遇したらしい。


仕事先で起きたトラブルでチョーカーの充電を大分消費していたあの人は、
ミサカの競技へと急ぎたいが能力を使うワケにもいかずヤキモキしていたところで結標さんを発見し、
これ幸いとテレポートをお願いしたそうだ。


しかし当然結標さんには結標さんのスケジュールというものがあるわけで
渋る彼女に向かい、あの人はこう説き伏せたという。


『大覇星祭ってのはよォ、幼稚園児も小学生も参加してンだ。
 一 生 懸 命 頑 張 っ て 走 る 汗 掻 き シ ョ タ も 見 れ る か も な ァ 』


実はショタコンというとんでもない性癖を持っていた結標さんは
その言葉につられて一も二もなくすぐ会場へとテレポートしてくれた。
あの人の言を借りるなら「あの女が相変わらず歪みねェ変態で助かった」、だそうだ。


ミサカの参加競技は判っていても現在位置まで把握できていないあの人は
競技者なら誰しもが通るゴール手前でミサカのことをずっと待ってくれていたらしい。


しかし一人勘違いを起こしているミサカは、あの人からしてみれば何故かなかなか来ない。


そんな時に「ミサカの様子がおかしい」とヒーローさんから連絡を受け
(ミサカがヒーローさんに気付く前に連絡を入れ、
それからミサカとずっと一緒にいてくれたそうだ。なんとも気のきくヒーローである)
敏いあの人はそこで全てのカラクリに気付いたということだ。




「人の色恋云々なンて、オマエにゃ100年早ェンだよこのマセガキがァ」




<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:41:24.09 ID:f9DDFBY0<>
後でお姉様に教えてもらったところによると、
ミサカを抱えて走り出した時点でチョーカーの充電は本当にギリギリだったらしい。


後先考えずミサカのゴールを優先してくれたあの人は、
ゴールテープを潜ったミサカがクラスの輪へと戻っていくところを見届けると
直ぐに充電切れでぶっ倒れたそうだ。


先程まで元気だった人が急に倒れ、
尚且つ目の焦点もあってないというのは結構な騒ぎになったようで
それに気付いたお姉様がすぐさまあの人を回収し能力で充電してあげなければ
救急車で運ばれていてもおかしくない状態だったとそこで知った。



<> 第三話 『部屋と大覇星祭とミサカ』<>saga<>2010/11/28(日) 21:42:35.89 ID:f9DDFBY0<>


お姫様だっこでゴールする瞬間もばっちり収めてくれたお母様のビデオは、
今ではミサカの宝物になっている。


あの人と一緒に見ようとすると恥ずかしがって席を立ってしまうけど
ミサカは毎日のようにテレビの前でニヤニヤしながらその映像を堪能している。


『一方通行超特急便へようこそマセガキ!!
 歯ァ食いしばってねェと、舌噛ンだところで当社は一切責任取りませンからなァ!!!』


「えへ、えへへへへへへへってミサカはミサカは………

「たでェまクソガキ……ってオマエ大音量で何見てやがる!!!!!」

「ええ〜?いいじゃない、ってミサカはミサカはぶーたれてみたりぃ……
 ―――――まぁいいや、それより明日は玉入れだよ!あなたが来るの、待ってるからねっ!!」

「上等だクソガキ。嵐だろうがなんだろうが、絶対見に行ってやンよォ。」


俺達ァ、『家族』、だからな。


小さく呟くあの人。
やっぱり、ミサカはミサカはあなたが大好きだ!!!!!!



彼女たちの大覇星祭は、まだまだ始まったばかりである。



『部屋と大覇星祭とミサカ』(完)



<> 【小ネタ】 部屋と第三話と家族な二人<>saga<>2010/11/28(日) 21:43:37.55 ID:f9DDFBY0<>
「今日のお昼は屋台で食べよう!!ってミサカはミサカは皆に提案してみたり!」

(色んな意味で)波乱万丈の借り物競走も終え、本日の参加競技を全て出尽くした打ち止めは
自分の応援に来てくれた黄泉川,芳川,美琴,美鈴,上条,そして一方通行にそう提案した。

大覇星祭には業者や学生が開く屋台がそこ彼処に設けられている。
ソースや醤油の焦げた匂いは、午前中だけでかなりの疲労感を溜め込んだ体に空腹を呼び掛ける。

「ミサカはお好み焼きが食べたいな〜〜ってミサカはミサカはおねだりしてみる」

しょうがねェなァと呟きながらもお金を出してくれると言った一方通行と共の後ろをついて
デパートの前の屋台へと並んだ打ち止めは、しかしそこで『あるモノ』に気付いてしまった。

『―――それでは本日のエキジビジョン・ゲーム、借り物競走の紹介です』

へ?と思いながらデパートの側面を見上げるとそこには

『―――リミット間近で驚異的な追い上げを見せた御坂選手は協力者の方との
感動的なゴールを迎えました』

大画面に映る、あの人に抱きかかえられた自分がいた。



「キャァアアア!!!ってミサカはミサカは恥ずかしくって…………キャァアアア!!!!」

突然の叫び声に「あァ?」と同じ方向を見上げたあの人も、
屋台の列に並んでいた一般の人も、
デパートの近くを歩いていた普通の人も、

(しまった!!!ってミサカはミサカは騒ぎすぎて――――!!!)

「あのテレビに映ってるのあの人たちじゃない?」
「ホントだ。派手なことすんなぁ、あの兄ちゃん」

気 付 い て し ま っ た 。

ああどうしよう。この騒ぎをどうやって抜けようか。
品物を買うのを後ろで待ってくれている5人はニヤニヤと笑うだけで助けてくれる気配はない。

とりあえずまずはどうあの人を嗜めるかそれだけだ。
全く。幸せすぎるというのも、困ったものである。
<> >>1 あるいはシャツの人 <>saga<>2010/11/28(日) 21:46:17.92 ID:f9DDFBY0<>次回第四話より台詞のみ抜粋。イメージとしてはAngel Beats! の次回予告風味。




                                Lust Order
                                お父様!!

        Accelerator
  つか俺を巨乳フェチとして認識してたのかオマエは



       Misaka Worst
               『勃っちゃいました☆』って既成事実が残せたのにミサカ超残念



    Accelerator
      生ゴミ見るよォな目で俺をみるな


                 Tabikake Misaka
                            若い女の子に色々と振り回されるのは男なら誰でも通る道だな



Awaki Musuzime
…………あんの恩知らずうううううううう!!!!!!!!!!





 Unknown
                      笑っちまうほどにムカつくだろ?





第四話 『 部屋とショッピングとミサカ 』
<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/11/28(日) 21:47:27.27 ID:f9DDFBY0<>洒落てみようと思ったところで現実(ルビ)とは上手くいかないものですね。

………………どんまい!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 21:53:00.76 ID:1edcrWE0<>AAつくる時のソフトダウンロードすれば?
ちょっとしたルビや点打つとき役に立つよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/11/28(日) 22:16:00.86 ID:dURls5U0<>ていとくんですねわかります<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 23:00:07.30 ID:modO5Uso<>1から読んだが上条さんかっこいいじゃないか!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/28(日) 23:45:25.10 ID:AJwWOAAO<>>>86
その「Lust」は色欲だwww
最後は「Last」だぞwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 00:17:42.88 ID:mwx1Wgwo<>つまり次回は濡れ場というわけか

俺の股間がアクセラレイト!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 00:52:52.25 ID:hqck9jgo<>今の色ボケした状況だとある意味間違ってはいない<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/11/29(月) 02:17:05.36 ID:xdRQ4VM0<>>>91様
あばばばばばばば
肝心なところでいつもポシャりますね、僕。
今回の英語のテスト大丈夫だったかな………?
専攻理系なんでとか言い訳しても算数も間違えそうですし、潔く濡れ場な小ネタでも考えておきます(笑)


――――ところで関係ありませんけど中の人繋がりで一方さんが『紅』の竜士さんみたいな感じだったら凄く恐いですよね。
…………いや、関係ありませんよ?
ここの一方さんはそのような路線には参られませんのであしからず。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 06:01:12.43 ID:iTwp/oAO<>下位個体は9969人じゃね?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 18:14:53.11 ID:HwCA5Dw0<>20000−10032+1=>>97<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 18:17:26.42 ID:kLdM0hIo<>殺されたのは10031号までだから20000-10031が正しいね確かに<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/29(月) 20:19:19.61 ID:xdRQ4VM0<>>>95〜>>97様
うわぁ……やっちゃいました、ね………もうこれは完全言い訳できませんねあぅう。
堕天使みたいに偶に繋げないんです、僕(@カッコカワイイ宣言>蒼夜薫)
第四話までは一応できてはいるのですが、
修正しようかしまいか推敲している箇所が出来てしまったために今夜中に投下できるか少し判りません。
明日で全テストが終了しますので、第四話および同時制作中の第五話に取り組めるかと思います。

取り敢えず>>91〜>>93様にご指摘いただいた部分から>>94で宣言していたネタができましたので、そちらを投下。


【小ネタ】 ラストオーダーの○○な日々!




あなたの肌ってとっても白いのね、ってミサカはミサカは……」






ミサカの名前は Lust Order。
え?Last Orderの間違いじゃないかって?
フフフ、説明してしんぜよう。


確かに昼間生活を送っているあいだのミサカが
皆さんにとって馴染みあるLast Orderと呼ばれるミサカであることに間違いはない。


しかし夜の一時だけ、
ミサカは上位個体(Last Order)から色欲個体(Lust Order)へと進化(シフト)するのだ!


そして、その一時とは……




「………」Zzz...




あの人が入浴中に眠ってしまった、その瞬間である。


<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/29(月) 20:20:33.73 ID:xdRQ4VM0<>
あの人は疲労が溜まるとよくお風呂に入ったまま寝入ってしまう。
それで稀に風邪を引くのだが、
ミサカ的には溜まりに溜まった疲れを放出するかのように気持ちよく眠るあの人を起こすのも忍びない。


故に風呂場であの人が寝ていいのは5分だけと時間を定め、
その間ミサカはここ(浴室と洗面所を隔てる扉の前)で優しく見守ってあげているのだ。
言うなれば妖精のように。



「安らかな顔でいると美人さんね……
 男の子達の言う『情熱を持て余す』が判った気がする、
 ってミサカはミサカは鼻息を荒くしながら今日のあの人をビデオに納めてみたり……」ハァハァ REC> ジー


「あ、そうだ。こういう時は下の方も撮らなきゃいけないって20000号がアドバイスしてくれたんだった、
 ってミサカはミサカは恥ずかしいけどつい実践してみたり………」


「ハァハァ……あなた……ハァハァ……」


「ミサカは……ミサカはァァア!!!!」




――――――――――――
―――――――――
――――――


「やめろォォォオ、ラストオーダーァ!俺はそんな子に育てた覚えはありませンンンン!!!!」




<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/11/29(月) 20:22:14.37 ID:xdRQ4VM0<>
僅かに冷めてしまった浴室で、一方通行は唐突に眼を醒ました。
そこで初めてこの場に自分以外誰もいないことを知る。



「夢かよ全く……クソガキのあンな夢みるなんて−−−最低だな、俺。」



取り敢えずさっさと身体を洗って風呂を出よう。
きっとこれは疲れていたからだ。
ベッドに入ってキチンと寝ればもっとマシな夢も見れるはずだろう。


そう思い直した一方通行は勢いよく浴槽から身体を持ち上げた。


だがそこで湯の波の狭間からジーッという機械的でデジャヴュな音を耳に捉えその方向
−−−洗面所へと続く扉へと眼を向ける。



「オマエ……は……、」



そして、一方通行が眼にしたのは。








「あなたの肌ってとっても白いのね、ってミサカはミサカは……」





                                     『ラストオーダーの○○な日々』(完?)



     ※この小ネタはフィクションです。実際の本編・人物・団体等とは殆ど関係ありません多分。


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 20:50:40.20 ID:RMOJPs60<>乙!
ん?一方さんは全裸でlust orderの前に?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/29(月) 21:31:55.18 ID:VQHrsiQo<>変態だーーーーーーっっ!!!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/30(火) 03:08:04.40 ID:P9Yciwoo<>一方さん逃げて超逃げて<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/11/30(火) 20:46:50.93 ID:dSVTqh60<>テストが終わりました。様々なものも、同時に終わりました。

第四話投下致します。
ここからの本編は完全新作となります。
ぐだぐだ思いつく限りフラグを乱立させちゃいましたので僕にも全く先が見えません。

では本編をお楽しみください。<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:47:58.92 ID:dSVTqh60<>
第23学区に設置された空港は『外』から来た人間で溢れていた。
英語,フランス語,ドイツ語,スペイン語,中国語……聞こえる範囲でもこれだけ雑多な言語の
アナウンスが各所で鳴り響き、既にそこは一種のカオスと化している。


そんな混沌の中から一人、独特の格好で周囲の目を奪う女が父親ほどの男を引き連れて
ブーツの踵を鳴らしながら揚々と出てきた。


「さぁてと、ついに帰って来たワケだけど……どうやって『あの人』で遊んであげようかな」


彼女の存在がまた一つ、物語を生みだした。




≪ 第四話  部屋とショッピングとミサカ ≫




<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:48:43.28 ID:dSVTqh60<>
「お父様!!」


9月21日、大覇星祭3日目。
昨夜『外』からこの学園都市にやってきた御坂旅掛を含む御坂夫妻に対し打ち止めと御坂美琴、
そして一方通行は第7学区に位置するセブンスミスト前で合流することを決めていた。
本日出場する競技の無い末の娘に美鈴が服の一つでも買ってやりたいと申し出たためである。


普段ならば「家族水入らずで行ってくればいい」、
とただ打ち止めを送りだすだけの一方通行も今日ばかりは珍しく付いてきてくれたために
打ち止めは御満悦の様である。


この場合の一方通行は
別に空気を読んだだとか気を使えるようになっただとかそういうわけではないのだ。
打ち止めが考察するに、一方通行は御坂夫妻に多少なりとも負い目を感じている節がある。


『妹達』のオリジナルである御坂美琴と『絶対能力進化実験』に終止符を打った上条当麻とは
自身の研究に関するご意見処として招いたり(後者は全くアテにならないが)
他のメンバーも集めて食事をしたりと、
物凄く仲がいいとまではいかなくても普通に『仲間』と呼べるまでには至ったのだ。


が。『妹達』の遺伝子上の親である彼らに対しては美琴の件も含めて未だ蟠りが消えないらしい。
夫妻が気にした風な態度をとらない分、余計にそれが健著になる。


故に彼自ら「俺も行く」と言いだしたとき、打ち止めは蝶をも凌ぐ勢いで舞い上がったのだった。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:49:23.47 ID:dSVTqh60<>
「お父様!」


打ち止め一行(彼女とその保護者の一方通行、そして途中偶然会った御坂美琴)が
セブンスミストに到着すると、既に旅掛は入り口前の喫茶店で優雅にコーヒーと洒落込んでいた。


「おう!ちょっと見ない間にまた大きくなったな!美琴も、元気してたか?」

「うんお父様!ミサカはいつでも元気いっぱいだよ、ってミサカはミサカは主張してみたり!」

「私も元気。学園都市にいる他の妹達も元気みたいだけど」

「そっちは明日約束してる。本当なら御坂一族総出といきたかった所だが、それも目立つしな」


確かに美鈴も含めて同じ顔をした女性が何人も一か所に固まっていたらさぞ目立つことだろう。
―――――― しかし学園都市には妹達が4人ほどいたはずだったが、良いのだろうか?


「シロも元気にしてたか?また一段と白くなったが」


普段の調子でいけば「うっせェ、何ならオマエはいっそ青白くしてやろォか死体という名のなァ」
くらい言い返しそうな彼が、
「どォも」
と一言で済ましたことを大人になったのねと称すべきか否かは賛否両論である。
打ち止めとしてはもう少し二人が(特に一方通行が)馴染んでくれればいいと思うのだが


「コレ、打ち止めの先学期の成績表」

「ちょちょちょちょちょっと!!!!何見せてるの!ってミサカはミサカは〜〜〜〜〜っ」


前言撤回。
保護者同士のそういうコミュニケーションは今後一切止めてくれ。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:50:30.30 ID:dSVTqh60<>
「と、ところでお母様は何処?
ってミサカはミサカはさっきからずっと気になってた疑問を提示してみる」

「アンタは自分の成績から話題を反らしたかっただけでしょーが。そんなにヒドかったの?」

「美鈴ならホレ、あそこだ―――――成績はたっぷりプレゼント買ってもらってからにしような」


お父様ぁああああああ!!!!!!と感動のあまり叫び出しながら指さされた方向を見やると
そこには確かにレジで注文を通している美鈴の姿が見えた。
しかし、その隣には


「だからさぁ、ミサカはチョコレートブラウニーがいいって言ってるじゃん」

「でも体重気にしてるんでしょ?こっちの紅茶のシフォンとかのがいいんじゃない?」


………………なんで番外個体がいるのォォォォォオオオオ!!!!!??????


番外個体とはここ数年一向に良い思い出が無い。

嫌がらせと称してあの人を押し倒して弄繰り回すは(あの人は一日中不機嫌だった)
殺し合いと称してあの人に筋肉バスター決め込むは(あの人は一日中寝込むハメになった)
色仕掛けと称してあの人のいる風呂場に裸で押し掛けるは(あの人は一日中本気で怒っていた)

つーか最後の一個違くね?色仕掛けっておかしくね?


まあ兎も角ミサカと番外個体は犬猿の仲とまではいかないものの
それなりのライバル関係を築いているわけである。あくまでこっちが一方的にかも知れないが。


「なんで!?なんで番外個体がここにいるの、お父様と一緒にリオデジャネイロにいた筈じゃ!
 ってミサカはミサカは頭の中で一人混乱してみるぅううううう!!!」

「口に出てるぞ打ち止め。つーか俺が呼んだんだけどよォ」


なんで!?
いや確かにバディでいったら番外個体の方がミサカよりずっといいかもしれないけれど
主に胸とか胸とか胸とか胸とか!
そんなにおっきいおムネが好きならお母様で十分じゃない、
一番最初に再開したとき埋もれてたじゃない(※三話参照。あくまで彼の故意では無い)、
ってミサカはミサカは憤慨してみたりムっっっっっっキィィィィイイイイイイ!!!!!!


「いや、だから口に出てるっつーの。つか俺を巨乳フェチとして認識してたのかオマエは」
<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:52:12.39 ID:dSVTqh60<>
「あっれえ〜?もしかしてそこにいるの最終信号?
久しぶりだからミサカてっきりもう少し成長してるものと思ってたんだけど―――胸とか」


「あっれえ〜?もしかしてそこにいるの番外個体?
 一体どこのオバサンかと思ったってゆーかあの人に昔ロリコン疑惑かかったの忘れたの?
 ってミサカはミサカは付け上がってる勘違いオバサン(笑)を嘲笑ってみたりHAHAHA!!」


「その疑惑が解消されたのはあの人のところから巨乳メイド本が発見されたからだ、
ってミサカは記憶してるんだけど?」


「残念でしたアレはお姉様に家宅捜索される前にヒーローさんが託した一品ですぅ!
 ってミサカはミサカはあなたの容量の足りないメモリーを憐れに感じてみたりプギャー!!」


「でも結局はその後ミサカの裸見て顔赤くしてたよねあの人?欲情したって事はつまり……」


「あ、あれはあなたがあの人の入ってるお風呂に勝手に入ったんでしょ!
あの人はあなたに対する怒りとあなたに欠けた羞恥心に憤慨して赤くなっただけだもん!
 ってミサカはミサカは覗かれて可哀そうなあの人の気持ちを代弁してみたり!!!!!!!」


「下半身見とけば良かったなぁ〜〜そしたらミサカネットワークに『勃っちゃいました☆』
って既成事実が残せたのにミサカ超残念」


「何この羞恥プレイ。つーか生ゴミ見るよォな目で俺をみるな」


「………………ジトー………………(← 美琴・美鈴)」


「ま、若い男ならそういう本の一冊や二冊持ってても仕方ないよな」


「だからアレは三下のだって………同情するなァ!!!」


女の戦争、勃発。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:53:24.65 ID:dSVTqh60<>
セブンスミスト4階、女性服売り場一角。


「え、最終信号まだそんな子供っぽいの着てるわけ?イヤミとかじゃなくミサカ本気でビックリ」

「い、いいじゃない可愛いモン!!ってミサカはミサカはお姉様に同意を求めてみたり―――
 ―――ね〜お姉さ、ま?」

「…………いや、流石の私も高校生になったらそうゆうのは着なかったかな、って。可愛いケド」


お、お姉様まで!!?ミサカの少女趣味に理解を示してくれるのはお姉様だけだったのに!?
驚愕する打ち止めとそれを宥める美琴、その様を見て笑いこける番外個体という
『何処にでもいる普通の姉妹』のような光景を御坂夫妻は眼を細めて見守っていた。


「やっぱり、あの子たちが普通に仲良くしてる光景見ると和むわね。シロ君もそう思わない?」

「―――――― 別に」


一方、一方通行はそんな様子を一歩離れたような風に眺めていた。
そんな眼をしているときは大概ネガティブな考えに陥っているときかも。
と末の娘が言っていたのを思い出し、
美鈴はとりあえず自分の『息子』の調子をイジる方向で取り戻すことにした。


「よし、なら和み系待ち受けとしてあの光景をシロ君のケータイに設定しちゃおう!」

「あァ!?ふざけンじゃねェぞこのババア!!」


娘の家族は、それがどんな形であれ自分の家族である。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:53:54.24 ID:dSVTqh60<>
「さて。美琴ちゃん達の服も一通り買ったし、あとはシロ君のだけかな」

「俺は別にいらねェつってンだろォが、テメーで買うっつーの」

「子供が遠慮するもんじゃないぞ。取りあえず目指すは脱・モノクロだな」


いつの時代もこう来られれば子供は大人に勝てないものだ。
魔法の言葉『遠慮するな』は学園都市第一位にも有効であったらしい。
一方通行はアレやコレやと多種多様な服を宛がわれてはああじゃないこうじゃないとまた戻る
人形さんゴッコに付き合わされるハメとなった。


「うぅん、スタイルは良いクセに目つきの所為でパステルカラーは一切ダメね」

「俺にパステルカラー着せよォとすンな」

「じゃコレは?9人しかいない超能力者の頂点サンにミサカのお勧め☆」

「そのステテコどっから持ってきた返してきやがれ」

「あ!じゃあコレは?ゲコ太のアップリケ可愛いし」

「オマエはそれを俺に着せようとしてンのか超電磁砲」

「ミ、ミサカはこれが良いと思うってミサカはミサカは………!!!」

「何処まで続くんだオマエのその飽くなきYシャツへの執着心」


それも、誰もまともに選ぶ気の無い延々と続く地獄の人形ゴッコに。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:54:23.60 ID:dSVTqh60<>
一方通行が文句ばかり並べるために(当たり前だ)、
男は男同士、結局は旅掛が彼にチョイスすることで落ち着きを見せた。
キャイキャイとアレはどうだコレはどうだと騒ぐ女共を尻目に二人は紳士服売り場へ向かう。


お前さん位の年齢になると私服に口出されるより一張羅で質の良いのを貰う方が良いだろう、
というのが彼の意見だ。
まともな奴が残っていて良かったと一方通行は真摯に感じたという。


「コレはどうだ?」


提示されたスーツはセンスのいいもので、細身の自分にも丁度いいもののように思われた。
娘共のセンスは母親譲りなのかもしれないと自分のことを棚に上げた感想を抱く一方通行は
素直にそれをプレゼントされることにした。


「まあ何だな、女の買い物っていうもんには男は付いていけねえな」

「あァ」

「リオデジャネイロについ最近までいたろ?あそこでもあの子のはしゃぎ様は凄くてな
 いやあ、若い女の子に色々と振り回されるのは男なら誰でも通る道だな」

「それは全面同意する」


レジを通して品を受け取った一方通行は正直なところ旅掛と何を話せばよいのかも判らず、
旅掛が話す内容に相槌を打ったり軽く反応し返したりと会話を向こうに任せきりにしていた。


だからこそ、一方通行は気付けなかった。
旅掛が自分と二人になる場所を探していたことに。旅掛の纏う空気が急に変わっていたことに。


「ところでよお、シロ」


旅掛の問いは、あまりにも唐突だった。


「アレイスターの奴はどうした?」



<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:55:00.47 ID:dSVTqh60<>
シュン、
と空を切るような音がしたかと思えば、何もなかった空間にはいつの間にか女が一人立っていた。


「ご苦労だったな。結標」

「どうも。中々に大変だったけれど………あの子たちも頑張ってくれたから」

「少年院にいた奴らか」


そこに立っていたのは結標淡希であった。
任務を終え帰還した結標へと土御門は労いの言葉を一通りかけるとニタァ、と表情を翻し


「で?頑張ってくれたおかげで任務は早々に終わったけど
大覇星祭のショタに見とれて報告は大分遅くなっちゃいましたゴメンナサイ、と?」


な……な……
結標は負けじと言い返そうとするものの、言われたことがなまじ事実であるだけに言葉が出ない。
というかこの男は何故そのようなことまで知っているのだ(今更な話だが)。
調べるにしても同僚のプライベートなどではなくもっと優先することがある筈だろう!


「一方通行から連絡があってにゃー、
『大覇星祭を囮にしてショタコン女を使ったから暫く帰ってこねェかも』ってな風に」

「…………あんの恩知らずうううううううう!!!!!!!!!!」


とまぁそれはさておき。
自分で話題を振っておきながらそう一度言葉を区切った土御門は、
しかしその一瞬でサングラスの奥に隠された瞳を真剣な眼差しに変え結標と対峙する。


「マズイ事になったな。学園都市にとっても、俺達にとっても、―――― 一方通行にとっても」

「ええ。まさか『アレ』がまた動いてるかも、なんて言ったら彼どんな反応するかしら?」


きっと今までに見たどの表情よりも凶暴な貌で、後先考えずに全部ブッ壊してくるだろうさ。


カツ。
時計の針が音を立てて、小さく動いた。


<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:56:16.37 ID:dSVTqh60<>
「そう言えば聞いてなかったけど、なんで番外個体はあなたに呼ばれたの?
 ってミサカはミサカは抑えきれない動揺を必死に隠しながらあなたに尋ねてみたり」

「隠せてねェよ。――――呼んだのは調整の為だなァ、定期健診」


定期健診。
量産能力者として急速な成長を求められた妹達は
かつてならその短い寿命を延ばすために幾度も『調整』を繰り返す必要があった。
現在は定期健診という形をとった一年に数度の『調整』で済んでいるが、
他の個体より設定年齢を上げて誕生した番外個体は今でもかなりの頻度で健診が必要なのだ。


「冥土返しン所で暫く『調整』だ。入院にはなンねェからウチで預かることになる」

「えぇー!!あなた番外個体が来る度に酷い目にあってるじゃない!ミサカ見てるのが辛いよ、
ってミサカはミサカは……………」

「嫉妬乙(笑)」

「からかうのは止めたげなさいよ、って美鈴は美鈴は嗜めてみたり」

「いや、ママも十分からかってるよね」


女共の会話は軌道をずらしながらも延々と続いてゆく。





結局。
一方通行は旅掛の問いに答えられなかった。
答えなどとうに知っていた。だが、敢えて答えなかった。


『その時が来たら言えば良い。だが背負い込むなよ、頼ることを学べ。
―――俺達からすればお前もまだ相当ガキなんだからな』


一方通行は知っている、失うことの恐ろしさを。
一方通行は知らない、他人を巻き込んでしまったときそれは何処に繋がるのかを。


「――――――俺だ。結果はどォだった?」


だからこそ、一方通行は。

<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:56:47.19 ID:dSVTqh60<>





カツ…カツ…ローファーを地面に擦りつけながら歩くとわざとらしい音色が聞こえたとき、
男はもう逃げられないと悟ってしまった。


「……お、お前達は何なんだ!?」


何処まで逃げても眼の前に潜む『敵』が迫る。
何処まで逃げても『奴ら』は必ず自分を見つける。


「何処の所属だ!?まさか……リ、『リメイク』なのか!?」


経験則から導き出された結論には既に自身の決定的な死しか見当たらなかった。
ならば、やることは一つ。
端末で繋がった『本部』へと少しでも多くの情報を相手にバレないよう残すだけだ。


だが。


「ざぁーんねん、半分アタリだけど半分ハズレ。
確かに俺は『リメイク』所属だが、あそこにゃ山ほど小分けされた『部署』があるしな」


自分を追ってやって来た筈の青年はさも下らなそうに『機密事項』をペラペラ語り出す。
まるで「そんなことも知らないのか」と馬鹿にするかのように。
事実、青年は続ける。


「所属メンバーまでは統括理事会クラスの権限か超電磁砲クラスの電子制御能力か、
 はたまた守護神クラスのハッカー能力がなけりゃ無茶ってモンだが――――――――――

 ――――――――――――――――――― コレくらい知らなきゃ、話にすらならねえよ」



<> 第四話 『部屋とショッピングとミサカ』<>saga<>2010/11/30(火) 20:57:32.82 ID:dSVTqh60<>
瞬間。自分の肩が『何か』に貫かれた。
それが『どのような物』なのかは肩を見やれば一目で判る。
しかしそれが『何であるのか』が、男にはまったく理解できない。


「どうせ何処かで聞き耳立ててる奴がいるんだろ?なら耳かっぽじってよぉく聞いとけ」


そして、自身を射抜いた『羽根のようなもの』の塊を背中に纏った青年は、


「所属組織は『リメイク』、担当部署は『ケルビム』――――――」


もう一度、今度は背中の『羽根』で創った槍で持ってして眼の前の男を刺し貫くと閑かに。
そして吐き捨てるようにして呟いた。


「――――――この姿を見て 『Cherub <智天使>』 だとか、笑っちまうほどにムカつくだろ?」


青年は―――――垣根帝督は、
男の傍に落ちていた端末を勢いよく踏みつぶしてから痛みに泣き叫ぶ男の頭を鷲掴むと
デートにでも誘うかのようなその風貌にまるで似合わぬ柔和な笑みを一つ浮かべ
にこやかに「こう」訪ねた。


「お前の知ってるミサカネットワークについての情報、吐け。全部」


物語は動き出す。
平和に色付く光の世界と暗く佇む闇の世界、表裏一体の協奏曲をBGMとして携えて。
物語は今、確かに動き始めてしまった。




                                            『部屋とショッピングとミサカ』(完)


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/11/30(火) 21:04:17.81 ID:dSVTqh60<>取り敢えず第四話はここまでです。
第二話・第三話に比べて少し短めの話となっておりますが、
今日この後か明日に折角出てきたのに目立たせることの出来なかった番外個体を中心とした長めの小ネタを投下する予定です。

余談ですがこれまでの話に比べスレによる連続した作品を意識した話となっておりますために
次への伏線やらがいろいろと激しいものになっております(新登場キャラとか組織とか)。
僕のこれからの課題はこれらをどう上手く回収するかなのですが、初心者故に矛盾やら何やら生ずるかと思います。
どうか暖かく見守ってやってください。…………また話が長いって言われそうだ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/30(火) 21:14:03.23 ID:2BWqFVw0<>乙!ていとくんェ…
超能力者9人ですか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/30(火) 21:29:32.05 ID:FtQ9ifMo<>第二位…だと?

おもしれえ!
おつ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/30(火) 21:33:12.07 ID:rNsxeoAO<>「明日は玉入れ」じゃなかったのかよとかツッコミ入れようと思ってたらまさかのシリアスだと……?


滝壺とあわきんがレベルアップで良いのかな?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/11/30(火) 23:50:44.70 ID:8rkDGQDO<>乙。ほのぼのが一転してシリアスに…<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/01(水) 00:27:48.34 ID:Vj2DX7c0<>
>>120様 第四話のどっかに「午後」という記述を入れようとしてすっかり忘れてました。
美鈴さんと番外個体が食べていたのはお昼でしたのです。
ちなみに午前は深夜学園都市に来た旅掛さんと番外個体と一緒に美鈴さんも寝過ごした設定でした。
書きなおそうと思って間違えてどっさり消しちゃったままなんですけど。

以下、午前中にあった玉入れの様子。


【小ネタ】 9月21日 玉入れの記録

玉入れで勝利するために必要な手段は色々とある。
まずは単純に玉を入れること。とにかく入れて入れて入れればいい単純な話だ。
次に相手が玉を入れるのを妨害すること。これはルール上許されている。
そして終了間近に玉の入った籠を落とすこと。要は最終的に玉の多かった方の勝ちなのだから。


故に、打ち止めのクラスは――――――


「ウチのクラスは圧倒的に防御に弱い!!だから入れまくれェェェェエエエ!!!!!」

「競技終了2分前、相手の籠倒しにかかれェエエエエエ!!!!!!!」


ひたすら、内と外への攻撃に徹していた。
そして強能力者の電撃使いである打ち止めはというと、


「もう……だ、出せないぃ……」


もう何十発も電撃による攻撃を放ち、相手の妨害から自身の籠と玉入れ組を護っていたのだ。
打ち止めの体力は既に限界である。


「あぅう……ゴメンなさい、みんなぁ……とミサカは、ミサカは……」


打ち止めは既にこの状況を諦めていた。
だからこそ、応援に来てくれているあの人に向けて、一言ゴメンと言おうとしたのだ。
そうしたら、


<> >>1 あるいはシャツの人 <>saga<>2010/12/01(水) 00:28:24.59 ID:Vj2DX7c0<>
「行けェェェェ、ラストオーダァアアァアアアア!!!!!!」REC〈 ジー ← ビデオ

「いやお前美鈴さんの代わり務めようとすんのは解るけど何処のお父さん?」


打ち止めは慣れない大声を上げながら自分を見守る『あの人』(とそれにちょっと引くヒーローさん)
を見つけた瞬間、打ち止めは世界が変わった様な気がした。
まだ頑張れるかもしれない。体の奥底から不思議な力が湧いてくるような、そんな不思議な間隔。
そして、


「あ。御坂をお姫様抱っこしてた人だ」

「あ、マジだ。今日も何かやんのかな、あの人」


クラスメイトの一言で、不思議な力は何だか変な方向に向いた。


「ミ、ミサカはミサカはミサミサミサミサミサnxtferfehsjvfdgsfgfgzgdhjskkhf………」


どしゃーん、びしゃーん、びりびり、キャー ミサカ ガ アバレダシター
がしゃーん!!!!!


奇跡的にも、恥ずかしさのあまり起こした全力の放電は、相手側の籠を落とすのに一役買ったようだった。


「流石ウチの打ち止めだァ!!
もうダメだと見せかけて最後の最後でアレとは――――やっぱりアイツは天才だな!!」

「…………………ホント何なのお前」



『あの人』の喜びは親心なのか、はたまた。





実はこんなことがあったのでした。           凄く言い訳ポイのですが(笑)

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 00:34:13.63 ID:xr6rwR6o<>一通さんwwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 01:01:34.19 ID:Q9UJMFco<>さすが一通さんだぜ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 05:17:17.57 ID:2DrbtEAO<>何この世界一の親バカ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/01(水) 15:32:44.97 ID:eniZYsAO<>ビデオに声が入りまくりだなww再生するのが楽しみだwwwwww<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/01(水) 19:54:02.99 ID:Vj2DX7c0<>>>127様 つまりこうゆうことですね。

「シロ君、行けなかった玉入れのビデオ見せて」
「おォ持ってけ」

pi!←再生

『ミサカはミサ――行けェええええ!!!ラストオーダーァアアアそこだァアアア!!!!
 ちょ、お前目立ってるから恥ずかしいから!うォオオオオ!!!!――サカはミサカは頑張って――良いぞォオオオオ!!!!』

「………………」
「やっぱ何度見てもウチの打ち止めは天才だなァ」


なんという親バ…お父さん。


以下昨日投下できなかった四話の小ネタになります。打ち止め VS 番外個体の女の戦い。

<> 【小ネタ】 部屋と第四話と番外個体<>saga<>2010/12/01(水) 19:55:06.94 ID:Vj2DX7c0<>
遡って少し昔。
これは番外個体が初めて一方通行・打ち止め宅を訪れた日の夜の話である。



「ふぃ〜お風呂上がったよ〜ってミサカはミサカはあなたに後続を奨めてみたり〜」


風呂から上がった打ち止めは残された一方通行にまだ湯が温かいうちに入浴することを勧めた。

一方通行は以前、打ち止めが入ったずっと後のぬるま湯に浸かったまま疲労で寝こけてしまい
風邪をひいたことがあるためだ。

それ以来彼女は一方通行が入る直前に湯を沸かすか、自分が出た後に声をかけるよう努めている。


「おゥ、今入る」


一方通行がキチンと風呂場へ向かったところを見届けると
今日も一日勤めは果たした、と打ち止めはご満悦気味にソファへともたれかかった。

しかしそこである疑問に気付く。


「アレ?番外個体は?ってミサカはミサカは……」


ミサカがお風呂に入るまではここでお笑い番組をみて爆笑してたのに。
打ち止めがそこまで思い返したところで、


「ウギャァアァアアァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


事件は、起こってしまった。


<> 【小ネタ】 部屋と第四話と番外個体<>saga<>2010/12/01(水) 19:57:29.35 ID:Vj2DX7c0<>
「ちょ、ちょっと何してるの!?ってミサカはミサカは……!!!」

「何ってサービス?折角ミサカが体洗ってあげようとしてたのに―――――おっぱいで」

「ふざけンなよ、こンなことの為に人の電極に干渉してきやがってよォ!!」


風呂場は色んな意味で阿鼻叫喚……いや修羅場と化していた。
裸の女子大生が細身の男を押し倒し、男の家族で女と同じ顔をした少女が女に憤慨している。
これを修羅場(しかも寝取り系)と呼ばずに何と呼ぼうか。


「ミサカはあなたを憎むために生まれてきたんだもの。これくらい色仕掛けの一環でしょ」

「色仕掛けって違うよね好意持ってる人間のやることだよねってミサカはミサカは……」

「ヤる?まだ下の方には手ぇ出してないけど銜えるくらいした方がイイ?」

「銜えるとか!せめて触るって表現にしろってミサカはミサカは果たし状を叩きつけて……!」

「おィ、もォそれ何の話だ。つーかオマエら二人とも出てけ」



それ以来番外個体が来た際は
一方通行が入浴する前に声を欠けるだけでなく風呂場の前で警戒網を敷くことが
打ち止めの習慣になったのは、言うまでもない。



「ちょっとデカいくらいの下位個体に、ミサカはミサカは負けないんだから!!!」


ついでに書き加えるならば
入浴後のバストアップ体操が習慣になったことも、言うまでもない話の内である。



                                            『部屋と第四話と番外個体』(完)



――――― そして>>98へ……続きません。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 20:00:29.14 ID:dhoEKxIo<>ちょっと第一位もいでくる

止めないでくれ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 20:06:36.32 ID:D1fDLFIo<>>>131
待てよこれ持ってけ、何かに使えるかもしれん
つLO<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/01(水) 20:11:15.73 ID:Vj2DX7c0<>>>131
いや上条さんから託された一品とは言え部屋にあったのは事実だからこちらの方が使えますよ 
つ『ボッキンパラダイス〜悩殺!巨乳三昧☆〜』<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 20:13:17.44 ID:mK/3aBY0<>>>131
ついでにこれも持ってけ

つ番外個体&打ち止め着替え中写真<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/01(水) 20:17:47.83 ID:YEVBrHE0<>>>131
これも持っとけ、もしかしたら死なないですむかもしれん
つ冷蔵庫<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 00:34:03.31 ID:KhxnbyAo<>>>131
よかったらこいつも使ってくれ
つ「木原神拳指南書」<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 01:26:52.75 ID:t41PT7.o<>>>131
選別だ
つ[美琴のアルバム(小学校低学年編)]<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 06:27:34.51 ID:mNc51hYo<>>>134
なンでンなもン持ってるンですかァ!?

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/02(木) 20:04:12.42 ID:5F1TNt.0<>>>134 「取り敢えず路地裏来やがれェ」

>>131様の人気に嫉妬(笑)
番外個体が出てくると途端に色気づいた話になります。

そんな彼女も微妙にデレ期な第五話は以下から投下。
<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:05:31.47 ID:5F1TNt.0<>
いつも通りのHR。
いつも通りの薄らハゲた担任。
しかしながらその隣。


「えー、突然だが」


なんで。


「急な事故で入院された藤崎先生に代わって『能力開発概論』を担当することになった
特別非常勤講師の先生を紹介する」


なんで。


「――――― 鈴科です、宜しく」


なんであの人ウチの学校来てんのぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!





≪ 第五話  部屋と臨時講師とミサカ ≫


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:07:45.17 ID:5F1TNt.0<>
7日間に渡る大覇星祭は滞りなく終了した。
結果は惨敗。
上位30校にすら入れなかったが、ミサカの頑張りはお母様がしっかりとビデオに残してくれた。


お父様とお母様はまだ学園都市内のホテルに残っている。
お母様曰く、
「学園都市はなかなか立ち入れないんだし美琴ちゃんや他の妹達ともっと遊んでから帰る」
とのこと。


カエル先生の所に健診に来た番外個体は現在我が家に居候中だ。
再び風呂に侵入しようとしたところをミサカが撃破したのは言うまでもない。
しかしあの上位命令文対策は厄介だ。
ああいうものはもっとモラルのある個体に付けてあげて欲しい―――― アレ?いなくね?


今朝も朝ごはんの内容に関して番外個体と一悶着終えてから
(我が家の朝ごはんは米でなくパンだ!あの人のコーヒー事情の為にもこれだけは譲れない!)
ミサカは登校したのだが……



<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:08:34.84 ID:5F1TNt.0<>
確かに。
確かに今朝あの人は言っていた。
「暫くいつもの研究所じゃなくて別ン所に仕事行くことになったから」、と。


これだけなら以前もあったことだ。
例えばそれは別の研究機関の視察であったり、カエル先生のところのお手伝いであったり、
各教師陣に向けた授業としての能力開発の指導であったり。


でも。


ウチの学校に来るなんて聞いてない!!!!
あの人もドッキリ☆サプライズなんて決め込めるようになったのねオチャメさん♪
なんて言ってられるかァァァアアアアア!!!!!!



「ちょ、ちょっと!なんであなたがこんな所に!ってミサカはミサカは……!!」ガタッ

(てゆーかあの人前に学校来てなかった?)ザワ…

(あー、なんか御坂さんの彼氏?とか言ってなかった?)ザワ…

(え!彼氏が講師とかヤバくね!?)ザワ…



YABEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!
あばばばばばばばどうしよう!調子のって彼氏とか言うんじゃなかった!
「何で来てるのお兄ちゃんったらプンプン☆」ならまだマシだったものをををををを!!!



「どうした御坂?急に立ち上がって」

「イエ。何デモゴザイマセン、トみさかハみさかハ即座ニ返答致シマス先生様」



ああ、これからどうしよう。


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:09:18.23 ID:5F1TNt.0<>
「先生ぇー、御坂さんとはどのようなご関係ですかー」

「妹だァ、いもォとォ」

「先生ぇー、でも名字違うんですけどー」

「家庭の事情だ察しろォ」

「先生ぇー、彼女とかいますかー?いなかったら是非候補に……!」

「好みのタイプはハタチ以上、人のことをアレコレ詮索しない女ァ」


担任が居なくなった途端コレだ。
後はお若い者同士で、って お 見 合 い か。


というかやっぱりあなたはミサカのことを妹としか思ってなかったのね……!!!
二十歳以上、二十歳以上って!!!!




結局、あの人への質問タイムはかれこれ20分以上続いた。


「先生ぇー、おっぱいは大きい方が好みですか、ってミサカはミサカは 「黙れ」



<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:10:14.55 ID:5F1TNt.0<>
部活動を終えて職員室を覗いてみると、講師としてのあの人の席が確かに用意されていた。
見ればあの人も既に仕事を終えているようだったので、
状況説明も兼ねて一緒の帰宅を要求することにする。


隣同士の座席に座った学校指定のスクールバスに揺られながら二人は帰路に着く。
しかしあの人を誘っておいて何だが、何から聞けばいいのか全くわからない。



「ね、ねぇ……ってミサカはミサカは不安げにあなたに尋ねてみたり…………」

「…………何をだ」

「また、危ないことしてるワケじゃ、ないんだよね、ってミサカはミサカは確認してみる」



『何故ウチの学校に来たのか』、『どのような経緯でそうなった』のか。
本当はそんなことどうでも良かった。
一番聞きたかったのはそんなくだらない事じゃなく、『何に関わってそうなったのか』、だ。


かつてあの人は、『妹達』を護る為に何度も命を落としそうになった。
だからこそ、



「また、あんな風にケンカしたりしないよね、ってミサカはミサカは聞いてみる」

「……、あァ、約束する」



昔に交わした意味のない約束を、打ち止めはまた口にした。





<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:11:41.50 ID:5F1TNt.0<>
「講師として潜り込むだァ?」

「ああ。敵の出方が解らない以上、『妹達』の司令塔である最終信号の警備は厳重にすべきだろう」


一方通行達は自らに宛がわれた一つの個室で
情報交換とこれからの作戦及び対応について話し合いを進めていた。
そこで出てきた提案がこれだ。


「それについては俺だって同意だァ。だが………些か無理がねェか」

「大丈夫よ、あの子の学校の教師を一人『事故』で入院させたから」

「それは傷害事件って言うンじゃないンですかねェ。―――それにしたって無理があるだろォ」


いくら教師を一人入院させたところで、都合良く自分を教師の座に納められるとは思えない。
「一体どンな手段を使うつもりだァ?」、そう一方通行は訪ねようとしたのだが。


「何の為にお前を表舞台に立たせたと思っている。この為だろう?」

「違ェよ少なくともこの為じゃ絶対ねェ。つーか俺に『どうにかしろ』って言いてェのか」

「 b 」

「なンだよあの親指圧し折ってやりたい」

「文句があるなら自分が変わりましょうか。適当な野郎の皮剥いで転校生として潜り込むとか」

「死ね海原キモい」

「死ね海原ウザい」

「死ねロリコン死ね」

「だって!!一方通行さんはその生活の何処にそんな不満があるって言うんですか!?
 この前は御坂さんと義母様とお買い物に出かけて!
 果てには現在ちっこい御坂さんとおっきい御坂さんと絶賛万歳同居中!!!
 コレで文句を言うだなんて全世界のミサコンに向けて土下座して謝って下さい!!」

「ミサコンとか」

「義母様とか」

「死ね海原死ね」


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:12:09.39 ID:5F1TNt.0<>



そんなこんなで、
一方通行はこれまでに築いてきた自分の全コネを使って特別非常勤講師に就任するとなった。
これが彼のプライド諸々と引き換えになったことは、彼と当事者の内緒である。




<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:12:58.67 ID:5F1TNt.0<>

打ち止めと一方通行が乗ったスクールバスは彼女らが籍を置く学校の学生寮前で停止した。


当たり前だ。
本来なら在籍する殆どの学生が此処に住まうのだから。


打ち止めは『妹達』特有の短い寿命や、
未だ複雑な立場にあるための「何かあっても一方通行と一緒なら安心だから」といった理由から
『体が弱い為』と偽って学生寮の外にあるマンションで暮らしているに過ぎなかった。


したがってバスを降りた二人は自分たちの住処まで5分ほど徒歩による交通を余儀なくされた。
形だけの『約束』に納得はしたのか、
今日は学校で何があっただの、あなたはどうだったかだのと次々と話題を出す打ち止めは饒舌だ。


「それでね、今日のミサカのお弁当はあなたがつくったんだよ、って教えてあげたら――――」


ふいに、一方通行が足を止めた。
彼がどうしたのか解らずに、打ち止めは自身も足を止めて隣を歩いていた彼を見上げる。


「――――ねぇ、どうしたの、ってミサカはミサカは……………」

「…………三下だ」


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:15:00.15 ID:5F1TNt.0<>
言われて前を見やれば何がどうあったのか往来でボインの女性を押し倒すヒーローさんの姿があり
そりゃああんなもの見せられた日にはビックリして足も止まるわ、と思わず納得してしまった。


「こンな所で何やってンですかァ、三下くンよォ」

「ア、一方通行に打ち止め………!!いやこれは違うんですよ?
 転びそうになったこの人を助けようとしたら偶々こうなって―――蔑んだ目で見ないで!!」


どうやら無意識のうちにヒーローさんの価値を生ゴミと同レベルまで格下げしていたらしい。
「やっぱり華のジョシコーセーがあんな所見ちゃったらそりゃあ幻滅だよな………ハハハ」
とゴミ条はこちらを見て申し訳なさそう(威厳を失ったことを嘆いていたのかも知れない)に謝って来た。


「つーか三下ン家は方向コッチじゃねェだろ、まァたお人好し精神丸出しの人助けですかァ?」

「いやお前の所にレポート聞きに行こうかと思ってたんだよ、能力開発概論。
 ビリビリに電話してみたけど繋がんないし、上条さん馬鹿だからお手上げなんですよ……………………」


でもやっぱり年下の女の子に勉強教えて、って言うのは恥ずかしいから良かったカモ。
今日はヒーローの面目丸潰しだ。


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:18:55.01 ID:5F1TNt.0<>
上条の申し出にハァ、と心底面倒臭そうに溜息をついたあの人は、


「仕方ねェな。ならクソガキ連れて先ィ家帰った後、一端自分ン家戻ってあのシスターも連れてこい」

「え、インデックスも?何で?」

「オマエに理解させるとなると時間かかりそうだから
暴食シスターが喚きだす前にウチで飯食わしてやるっつってんだよ、ゆゥはン。」


あ、アクセラレータ様ァアァァアアアアアア!!!!!!!!!
あのシスターの食費が2食分(このパターンはいつもお泊り・朝食付きに変更されるのだ)
浮くと言うのだからヒーローさんの喜びっぷりも解るというものだ。


だが、ミサカには一つ納得できないことがある。


「どうしてミサカ達に先帰れなんて言うの?ってミサカはミサカはスルーされた問題を突きつけてみたり!」

「学校に書類忘れて来ちまったんだよォ、明日までの。だから先帰ってろ」

「なら俺ン家行ってインデックス連れてきてから一緒に………」

「ガキには宿題とか色々あるンですゥ。この前のテストだって酷かったし――――門限は8時だ」

「いやそれ少し過保護すぎだろ」

「このガキは中身6歳児なンだよォ」

「でも!今時の女子高生に8時はキツすぎるよ、ってミサカはミサカは―――あぁ、もうなっちゃう!!」

「だァから先帰れっつってんだァ」


頼ンだぞォ、ヒーローォ。
ヒラヒラと手を振りながら踵を返すあの人に、「行かないで」、とミサカはそう言いたかった。
それが何故なのかミサカにも全く解らない。
そう。ミサカはまた気付けなかったのだ、あの人のサインに。



『頼ンだぞ、ヒーローォ』



あの人が彼本人に向って言う、その違和感に。

<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:19:57.98 ID:5F1TNt.0<>
9/26 PM 8:05。
家に帰ると番外個体がソファに寝そべって煎餅を貪りながら恋愛ドラマの撮り溜めを眺めていた。
製造ライン的には『妹』に当たるのに、言動だけはこんなにも年上(オバハン的な意味で)染みている。


「ただいまぁ、ってミサカはミサカは一応あなたにも律儀に挨拶してみたりぃ」

「おかえり最終信号。ま、ミサカは一方通行には挨拶するつもりはないけど―――――――」

「いないよ、あの人。学校に忘れ物取りに行った、ってミサカはミサカは残念なお知らせ」

「な、なななななななな!!!ご飯でも囲みながら
『JKに囲まれてどうしたワケ?あ、JKなんてアナタには解らないかごっめ〜ん☆』って
バカにしようと思って折角ミサカがわざわざ帰宅に合わせてご飯作っといてあげたのに!!」

「長いし文章おかしくなってる。あの人が講師になったの知ってたんだ、ってゆうか
 朝料理できないのバカにされたこと実は気にしてたんだねってミサカはミサカは―――――」

「料理〜?べっつに気にしてませんけどぉ〜?
 この経験知得るためにミサカネットワークに繋いだりしたワケじゃないですけど〜?」

「あぁ、昼間の『男を落とす手段って言ったら料理だけどお前らできるの?』って挑発は
 反論する別個体から言葉巧みに情報を聞き出すためだったんだね、ってミサカはミサカは思わず説明口調になっちゃうよ」


しかし確かに美味しそうな匂いである。
夕飯にベーコンエッグとトーストという組み合わせもアレなのだが。
朝食に寸分違わず出された同じメニューは料理に一心であった彼女の思考からは消えていたらしい。


「悪いんだけどあと10人前追加で作ってくれるかな?
お客さん来るし、ってミサカはミサカはあなたに料理を急かしてみたり」

「ハァ、10人前!?なんでミサカが――――」

「あの例の暴食シスターが来るからやっぱり10人前じゃ足りないかも、ってミサカはミサカは解説を――――」

「だから、な・ん・で・ミ・サ・カ・が!!って聞いてるの!最終信号が作りなよ!!!」

「いいの?ミサカがそんなに大量のご飯作ったら折角のあなたの『お初』が薄れちゃうよ?
 ってミサカはミサカはあなたを誘導してみたり」

「た、確かにミサカの処女作が………誘導言うな」

「処女作言うな」


まぁ、取り敢えず姉妹なのである。
ふつーに。
<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:21:02.24 ID:5F1TNt.0<>
9 / 26 PM 8:20。

「おじゃましま〜す!!ってインデックスはインデックスは挨拶してみたり〜〜!!」

「だから一方通行はそうゆう喋り方の女の子に甘い訳じゃないし、
 そんなしてもご飯を多く出したりしてくれもしないから!!あ、俺もお邪魔します」


ヒーローとシスターのご訪問である。
相変わらず賑やかだ。


「だって!良い匂いがしてご飯が待ちきれないんだよ!!ホラ、あそこに美味しそうなご飯が………!!!」

「まだ一方通行帰ってきてないのか―――こらインデックス、家主が帰ってくるまで手をつけちゃいけません!」


『良い匂い』と『美味しそう』の言葉にピクピク反応する番外個体を観察するのは面白い。
いまにもにんまりとした満面の笑みでも浮かびそうな赤面を必死に隠している姿が笑みを誘う。
本当はあの人が帰ってきてから皆で手を合わせたかったのだが、
こんな珍しい彼女の姿を見ていると思わず「ま、いいか」で済ませてしまえる。


「いいよ食べよう。せっかく番外個体の『初めてのお料理』なんだから冷めないうちにさ、
 ってミサカはミサカは提案してみる」

「そ、そんなこと態々言わなくていいから!〜〜〜もういい、席についてあの人の分まで食らいつくそう!」


なんだか番外個体ってどこかビリビリに似てきたよな、雰囲気とか。
――――それは『ツンデレ』というのでは、ヒーローさん?


「さて。ではミサカはミサカは音頭をとっちゃうぞ、それじゃ手を合わせて!!」

「「「いただきま――――」」」

「だでェまァ」

「「「「………………」」」」


―――――――こっちのヒーローはこっちのヒーローで、タイミングが悪かった。


<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:21:42.99 ID:5F1TNt.0<>
9 / 26 8:03

「電話、誰からだったんですか」

「一方通行。どっかから来たストーカーを『回収』に来てくれって」


電話を受けた結標はキャンピングカーで同行していた海原へと包み隠さず報告した。
こんなこと隠したところで意味もメリットもないのだが。


「一人情報提供してもらうことになったから『カウンセラー』を呼んどけって」

「――――彼女ですか。
先日も『お仕事』して頂いたばかりですし、また一方通行さん絡みとなると良い顔しないでしょうね」

「新しいドレスの1つや2つ買ってやれば多分問題ないわよ、アイツ無駄に金あるんだし」


しかし、最近何かと『仕事』が多い。
こんなときは何か大きな『事』が起きる前触れだ。
―――フラグを立てるようなでしかない自分の考えに、結標は今日も溜息しかつけない。



<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:23:52.74 ID:5F1TNt.0<>9/26 PM 8:25


「………つーかなンでハムエッグトースト?」


夕飯を囲んだ後は
(結局シスターは15人前を食らい尽した。あの人の疑問には番外個体の鉄拳制裁が与えられた)
各々好きなように騒いでいた。


ヒーローさんはレポートの解らない箇所を聞いてはあの人に馬鹿にされ、
しかしあの人も時にその分野について教師にも教鞭を振るう立場にあるからか意外な教え上手らしく、
「あぁ!俺学園都市来てこれ初めて理解出来たわ!」なんて言ったりもしていた。
―――――よく大学まで行けたな、と思う。


シスターはミサカと一緒に先日買ったDVD『超起動少女カナミン THE MOVIE 〜初回限定生産版〜』を見ていた。
番外個体に関しては「これ配達屋さんから受け取ったのあの人だったんだけど、」
と洩らしてしまってからはもの凄い食いつきを見せ、
内容を見た上であの人がどれほどオタクに見られたのかからかおうとしたらしいが―――――
――――――ものの5分でカナミンの素晴らしさに陥落してしまった。


「素晴らしい映画だった。カナミンは大人の鑑賞にも堪えうる映画だよ………」
そう洩らす番外個体もそしてミサカも、やっぱり中身は6歳児だった。



<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:26:05.60 ID:5F1TNt.0<>
9 / 27 AM 2:08

「まだ起きてたんだ、ヒーローさんはお隣で爆睡みたいだけど?」


夜半唐突に目が覚めた番外個体は、水でも飲もうと廊下を出たところでリビングに灯りが点されていることに気付いた。
誰かさんが付けっぱなしで寝てしまったのだろうかと思い部屋を開ければ、
そこでは一方通行が携帯電話を片手に顰めっ面で座り込んでいたために冒頭に戻る。


「それも、帰りが遅くなったのに関係するワケ?」


それ、と番外個体が指さすのは一方通行の手に握られた携帯電話だ。
正確に言えば彼が先程まで睨みつけるようにして見ていたそのメール画面。


「関係ねェだろ」


視線を反らすように眼を背ける一方通行に番外個体は品の悪い笑みを浮かべながら言い放つ。


「このミサカがさぁ、気付かないとでも思ったワケ?――――アナタが持つ血の匂いにさぁ」


口元に大きな弧を描く番外個体は心底嬉しそうといったもので、その笑みには既に狂気が宿っている。


「ま。あなたが何しようが『何処』にいようが、あなたの言うとおりミサカには関係ないんだけどね。
でもそれが思わずミサカも勃っちゃうくらいアブなくてオイしい一品なら………あえてミサカも絡めてよ」

<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:27:08.56 ID:5F1TNt.0<>
興奮してきちゃったから今夜は寝られないかも♪
そう言い残してリビングを出た番外個体に一方通行は一つ舌打ちした。



――――――迂闊だった。
『反射』が万全だった昔とは違うのだ。
能力使用モードを切れば、途端にそれらは作用しなくなり彼にその場の様々な物を押し付けてくる。
例えばそれは音であったり、痛みであったり………匂いであったり。


敏感なアイツならば確かに気付いてもおかしくはなかった。
このままではいけない
今後は何か気を遣わなくては、アイツらにいつか『バレかねない』。


「――――クソったれが」


自身の言葉がこの腐りきった現実に向けてのものなのか、はたまた自分自身へのものだったのか。
理解できるものは本人も含めて誰もいない。
誰も、いない。




いまは。




<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:27:55.67 ID:5F1TNt.0<>
9/26 PM 7:59

「対象が二手に別れたぞ………どうする?」

「仕方ない。1班は対照コード:Aを、2班は―――――」




「――――――どっちも相手は『俺』だよォ」




路地裏の男達は驚愕した。
先程まで彼らが見張っていたうちの一人が『いつの間にか』自身らの目の前にいたのだから。


「鬼ごっこっつゥのは大勢でやるもンだろォが。二手だなんて連れねェこと言うンじゃねェよ」


瞬間、彼らに突風が突き刺さった。
吹き飛ばされたのではない。『刺さり飛ばされた』、そんな表現が的確だった。


ダメージを何とか押し込めて反射的に銃を向けるが、
徹底的に『対象』についての情報を叩きこまれた彼らはそれが『無駄』であることをとうに悟っていた。
そもそも、彼らは『対象』を討つために此処にいるのではない。
あくまで『対象』の動向をさぐるために見張りとして用意されたにすぎないのだ。


それなのに。
それなのに、何でこんなことに。


「うわぁあああああああ!!!!!!!!!」


叫び声をあげて逃げ出す男は、それが表通りへと伝わる前に首が跳ねられた。
無駄と知りつつ武器を振るった男は、案の定『反射』によって跳ね返った自身の弾で絶命した。
その他腰が抜けてしまった男、
恐怖に固まってしまった男、茫然と立っているしかなかった男は優しく拳銃で撃たれ死んだ。

<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:28:26.83 ID:5F1TNt.0<>

一人、その場で殺されずに『敢えて』残された男が居た。
男は血の海に沈む同僚をただ茫然と見下げていた。


「さァて、オマエは行きますか」


唐突に放たれた『対象』の言葉に、男は彼へと静かにその眼を向けた。
そして、海となった血が凝縮されたような濁った瞳と限界まで釣り上げられた口角を見て、


「嫌だぁぁああ!!!!!行きたくない、死なせてくれぇええええええ!!!!!!!」


喚き散らす男になど眼もくれず、男の『対象』であった青年は彼の首元へとそっと手を当てた。
すると、


「ぐ、が、ぁあぁああああぁああぁぁぁあぁぁあぁあああああああああ!!!!!!!!!!」


朝締めされた鶏のような一声を上げて男が地面に倒れた。
男の眼球がぐるりと白目を向き、口元から噴き出した泡と共に彼の顔面を白く塗りつぶす。


「あーあ、やっちまったァ。――――まァ死ンじゃァいねェだろうが」


男からの興味が失せたのか、青年は携帯電話を取り出すと慣れた手つきでそれを操作し始めた。
着信ボタンを押したらしく、耳に携帯を当てると待ち時間が惜しいのかイライラと貧乏揺すりを刻む。


「はい、もしもし」


1分ほどしてやっと出た相手に暫く文句を零していた青年だが、とうとうそれすら馬鹿らしくなったらしい。
「さっさと来い」と要件を告げると自分勝手に電源ボタンへと手を伸ばした。


ピッ、と軽く音を立てて通信がと切れると青年はまるで何事もなかったかのように帰路を辿る。



<> 第五話 『部屋と臨時講師とミサカ』<>saga<>2010/12/02(木) 20:29:15.38 ID:5F1TNt.0<>








あの暖かい家に戻る為には、何事も『無かったこと』にしなくては、ならなかった。









月日が経っても変わらないものがある。
それは信念であり、理想であり、関係であり、
そして。
『一方通行な思い』である。





                                               『部屋と臨時講師ミサカ』(完)


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 20:30:40.22 ID:lpIB/Nwo<>ミサカが臨時講師。。。!<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/02(木) 20:32:08.17 ID:5F1TNt.0<>本日の投下はここまでです。
明日は恒例の小ネタ(恐らく本当に小さいものでしょうが)の更新となります。

今のところ1日1更新を何とか保てているので嬉しいです。
ここまで読んで下さっている皆さんも拙い文章にだいぶお疲れでしょうが、どうかもう少しお付き合いくださいませ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 20:34:47.63 ID:zH.6wwDO<>>>158
臨時講師ミサカwww


>>1おつ〜
明日も期待してるよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 20:36:54.92 ID:GaRBPDoo<>やべえ
こういうのを待ってた

さて、そのへん歩いてる中学生にシャツ押し付けてくる<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/02(木) 20:40:50.05 ID:5F1TNt.0<>>>159様
あ!ホントだ、最後ミサカが臨時講師になってる!……また大事なところでやってしまった


多分そうゆう話ならこんなとかなんでしょうね↓

「鈴科くん!この文章を訳してほしいな、ってミサカはミサカはあなたを指してみたり!」

「………『私はミサカが好きです』」

「じゃあ次の訳はどうかなっ!ってミサカはミサカは頬を赤らめながら催促してみる」

「………『私はミサカに一目惚れしました』」

「―――なら、次はあなたの気持ちを言ってみて、ってミサカはミサカはロマンチックに言ってみたり」

「………前歯に青のり付いてる。昼に食べてたお好み焼きの。」

「はぅう!!」

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/02(木) 20:45:33.18 ID:rnRcbJgo<>「俺が舐めとってやらァ」<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/02(木) 20:45:58.62 ID:0Hu6RHg0<>ほのぼのとシリアスの割合が凄い好きです。絶妙なバランスだにゃー
次回も楽しみにお待ちしてます<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/03(金) 12:37:31.37 ID:WWzQ7nMo<>一方さん周りも上条さん周りも恋愛方面の進展は本編からほとんど無いのかなww
原作でもこういうほのぼの話を読みたいなぁ・・・<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/03(金) 19:15:04.05 ID:ETNPQCo0<>定期的に読んでくださっている方がいるようで嬉しい限りです。
本当にありがとうございます。

以下は昨日申していた小ネタになります。
本当に小さいもので申し訳ありません。<> 【小ネタ】 部屋と第五話と御坂美琴<>saga<>2010/12/03(金) 19:18:02.56 ID:ETNPQCo0<>
>>148 「ビリビリに電話してみたけど繋がんないし、上条さん馬鹿だからお手上げなんですよ……………………」


これは、上条当麻から連絡を受けた筈の御坂美琴の、その裏側を描いた物語である。




『その幻想をぶち殺す!』
『その幻想をぶち殺す!』


隠し撮りされた着ボイスは、隠し撮った本人の喘ぎ声によって掻き消されていた。


「あぁん、お姉様!!そんな、そんなことをされては黒子はぁああん!!!」

「人の制裁を何キモチ良く受け止めてんのよアンタは!!いいから私の下着返しなさい!!!」

「で、ですがお姉様!!
 黒子にあの殿方の使い終わった割り箸やらストローやらを回収するよう申されたお姉様には
 そのようなことを要求する資格はないかとあばばばばばばばば」

「そ、それとこれとは話が別でしょ!!それにアレはゴミを拾う環境対策であって、
 アンタのはまだ私が使ってるパンツを盗ったんだから窃盗よ、窃盗!!」

「……お姉様。『50歩100歩』、『どんぐりの背比べ』、『同じ穴のムジナ』―――どれがお好みでして?」


御坂美琴は気付かない。
そこまで求愛する愛しの殿方から、いままさに救いを求める声が自分に発せられているということを。


『その幻想をぶち殺す!』
『その幻想をぶち殺す!』


――――― 彼女が着信に気付くまであと5時間。
――――― 彼女が電話の内容を聴いて『プライベートレッスン』の幻想がぶち殺されるまであと…………




<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/03(金) 19:22:58.43 ID:ETNPQCo0<>ここの打ち止めの妄想癖とストー……愛にめげない癖は『お姉様』から、ネガティブ思考は『あの人』から影響を受けています。
というよりここの妹達は対外『お姉様』の悪癖を受け継いでいます。DNAに刻み込まれていたんでしょうね。

以下は>>166様のお言葉を受けて、いつも書いている一方さんではなく上条さんの日常を話にしてみたものです。
とてもニマニマしながら書かせて頂きました。
他にも「こうゆうネタは使えると思う」などというものがございましたら、宜しければご提供ください。
拙くはありますがこちらとしては喜んで書かせて頂きます。<> 【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん<>saga<>2010/12/03(金) 19:24:31.75 ID:ETNPQCo0<>
とある日曜日の午後。
上条とインデックスは二人揃って散歩をしていた。


ここ最近大学の関係で忙しかった上条はインデックスに構ってやることができず、
久しぶりに取れた休日に何がしたいかと尋ねれば「とうまと一緒にいたい」と彼女が申した為であった。


しかし。
最初は『二人きりの静かで穏やかな時間』に終始笑顔だったインデックスの表情も、
今では阿修羅もビビって引くほどの形相を描いていた。



【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん



当然である。
相変わらず超フラグ体質を誇る上条当麻は、
ここ1時間で既に10人の『知らない女性』とハイパー・ボディ・アタックを繰り広げていたのだから。


最初の一人はおムネの大きなお姉サンだった。
上条は急な貧血に倒れかかった彼女を支えようと腕を伸ばしたところ、
何がどうしてああなったのかそのたわわに実った果実を右手でもいでいた。


二人目は丁度打ち止め位の女子校生だった。
公園に拡がる大きな通りですれ違った少女と上条は、
急な突風に広げ上がった短いスカートの中の可愛らしい苺パンツを目撃することになった。
それも丁度上条にしか見えない位置取りで。


三人目は小学生の女の子だった。
石に躓いて転びそうになった女の子を庇おうとして体を張った上条だが、
結果女の子が自身の股間にダイブすることとなった。


そして四人目は………ああもう話すことすらイライラする。


<> 【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん<>saga<>2010/12/03(金) 19:25:06.70 ID:ETNPQCo0<>
とにかく。
上条の女性ホイホイ体質は熟年むっちり女からピチピチ女子高生、果てはぺったん幼女まで
幅広いバリエーションを伴って各所で彼にフラグを築かせた。


此処までの物を眼の前で見せつけられれば、嫉妬で噛みついたとしても誰も怒らないだろう。
インデックスはそう思う。


短髪はとうまと一緒に暮らす自分をよく羨んでいるが、これはこれで辛いものがあるのだ。


「ねぇ、とうま」


だからこそインデックスは時折確認する。
こんなに沢山の、
中には自分も物凄く可愛いと感じるような女の子達に囲まれた彼の隣に今自分が居ることが、
彼にとって『不幸』ではないのかと。


「私は、とうまと一緒にいたくてイギリスに戻らなかったんだよ……?」


すなわち。
彼も自分といることを、望んでくれているのかと。


<> 【小ネタ】 ヒーローさんとシスターさん<>saga<>2010/12/03(金) 19:26:09.10 ID:ETNPQCo0<>
「とうまは、私といて、楽しい?」


インデックスはこの一言を発する為に多くの覚悟と決断を乗り越える必要がある。
もしとうまが「別に」と言ったら?
もしとうまが「帰れ」と言ったら?
もしとうまが「嫌い」と言ったら?


だが彼は、そんな覚悟すら簡単に『ぶち殺して』、いつだってこう返してくるのだ。




「インデックスみたいな可愛い子が『一緒にいたい』って言ってくれて、上条さんは幸せ者ですよ」




いつだって、こう返してくれるのだ。


「……そっか」

「そうだよ」


どんなに鈍感だって。
どんなにオトメゴコロが解ってなくたって。
だからこそ、自分は。


「あ、御坂妹だ。おーい、一緒に散歩しねぇー?」

「もうっ、とうまのバカ!!!」




彼から、離れられないのだ。





                                      『ヒーローさんとシスターさん』(完)
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/03(金) 19:36:49.41 ID:cmtZzDko<>「あの殿方の使い終わった割り箸やらストローやらを回収するよう申された」って・・・
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/03(金) 19:43:00.61 ID:h.q8fmko<>ちょっとウニ頭ぶっ殺してくるね<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/03(金) 22:47:02.18 ID:0iHmJ.DO<>乙

そしてフラグを建てられて戻ってくる>>174であった<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/04(土) 00:08:38.48 ID:RApSxZQo<>インデックスさんって数年も経ったんなら
ローラさんの色違いみたいな容姿になってるのかなぁ<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/04(土) 20:05:03.48 ID:axDXmDQ0<>今晩わ。第六話を投下していきます。
正確には今回は『第六話 前篇』となっております。
本当は全部完成してからの投下といきたかったのですが
書きあげに時間がかかりそうであったこと、読んで下さっている皆様に話の経過(時系列)を見ていただきたかったこと
などから中途半端ではありますがここで更新ということになりました。
昨日に引き続き短い更新で申し訳ありません。<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>sage<>2010/12/04(土) 20:06:28.88 ID:axDXmDQ0<>
9/26 PM 6:00

「―――つまり、あのクソムカつく第一位サマをぶっ潰そうって考えは同じなワケだ」

「ああ。だがアイツの周りをうろついてる『グループ』の連中がどうにも邪魔だ……
 なら手ェ組んでもいいと思わねぇか?あのガキを絶望の果てに追いやるためによォ―――」


差し出された右手をそっと見遣ると、いずれ訪れる未来を想像してその口元に弧を描いた。


「俺が『グループ』、アンタが『妹達』を相手どるってワケか………いいぜ。乗ってやるよ、
 ―――木原数多サン?」


垣根は自身の右手を差し出して静かに相手のそれを握り返した。
その瞬間、『狂犬部隊(クレイジードッグ)』と『ケルビム』との間に同盟関係が結ばれた。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:07:10.16 ID:axDXmDQ0<>
9/27 AM 8:00

「……うま、とうま。起きるんだよ、とうま」


――――なんだ?朝か?
現在時効が朝であること、目の前にいるのが同居人のシスターであること。
この2つを認識した瞬間、上条の寝ぼけた頭は一気に覚醒をみせた。


「ゴメン、今すぐ朝飯作りますから噛まないで!」

「何言ってるんだよ、とうま。朝ごはんならあくせられーたがとっくに作ってくれたんだよ」


―――あくせられーた?


「とうまを起こしてこないと食わせないってイジワル言うんだよ!だから早く来てほしいんだよ、とうま!!」


―――ああ、そういえば昨日は一方通行の家に泊まったんだった。
完全に目覚めたと思っていた頭はどうやらまだ寝ぼけていたようである。
インデックスに促されるまま布団を抜け出せば、寝起き特有の肌寒さが上条を襲った。


「とうま、はやくぅ!」

「………今行くよ」


そういえば、布団で寝たのは久しぶりだった。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:07:37.32 ID:axDXmDQ0<>
上条がリビングに顔を出せば、テーブルの上にはすでに温かなフレンチトーストが置かれていた。


「起きたら朝飯が並んでるとか……なんか感動して泣きそうかも」

「今朝はあの人がフレンチトースト、番外個体がサラダ、ミサカがコーヒーを用意したんだよ!ってミサカはミサカは皆でヒーローさん達をおもてなししたことを主張してみる!」

「ほら見なさいインデックス、普通家事はこうやって分担するもんなの!」

「む、むうぅ……私は機械とか苦手だから仕方がないんだよ……」

「お前が学園都市で生活始めてからもう何年経ってると思ってるんだよ!そんな言い訳通じませんっ!」

「いいから黙って食い始めろォ!!特にクソガキィ、遅刻してもしらねェからなァ」

「ミサカは関係ないからしーらないっ」


まさに鶴の一声と言わんばかりに皆が(お構いなしに一方通行をからかう約一名除く)黙々と、
多少焦りながら食事を勧め出した。
一方通行は仕事が、打ち止めと上条には学校がある。


食事を終えた3人は二手に別れ、それぞれの目的地へ向かった。
インデックスは番外個体のいる彼らの家にそのまま居座り昼食まで貰う気マンマンである。


スクールバスへと乗り込んだ一方通行と打ち止めは、
朝の柔らかな陽ざしに瞼を擦りながら欠伸を噛み殺していた。


「おいクソガキ、今日は用事があるから帰りは一緒な」

「え!?あなたから一緒に帰ろうだなんて珍しい、ってミサカはミサカは大歓喜!!」


二人の会話は途切れることなく、学校に着くまでの間和やかに続いた。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:08:34.33 ID:axDXmDQ0<>
9/27 PM 1:01

土御門元春、結標淡希、海原光貴。
かつて『グループ』という小組織で苦楽を共にした3人は、与えられたキャンピングカーの中で互いの情報を交換し合っていた。


拡大化した『組織』の中には情報を持った面子は他にもいそうなものだが、その情報がどれ程信用できるか、どれ程価値のあるものか。
それらを考えるとどの程度で情報を「掴んだ」と言い出すか解る分だけかつての同僚の方が、都合が良かったのだ。
そう考える節は、現在欠けているもう一人にもあると言える。


「結論から言えば、彼の『肉体復元』を行ったのは統括理事会の子飼いとしか思えません。
………しかし、何故理事会なんでしょう」


「そりゃあこの現状が自分にとって邪魔以外の何物でもないからだろうな。
 アレイスターの在命を偽りながら統括理事会全体で学園都市を指揮し、
学園都市にとって『危険分子』と見做された人間は『俺達』が処理していく――――

―――――そういう体でありながら、実際は『俺達の理想とする学園都市』から外れた人間を『俺達』が処理し、
 『俺達の理想とする学園都市』を創れる人間……つまり親船最中が自然と理事会の中でも突出する。そういう現状がな。」



そう小首を傾げながら切りだした海原に対し、
可愛くないぞと冷静な突っ込みを一つ入れてから土御門は必要なことだけを淡々と返す。


だが海原はそんな態度には眼もくれず「そうではなく、」と先程までのやり取りを否定する。


「そうではなく、何故『今』、一方通行さん個人を狙って、なのでしょうか。
……これは4年も前から続いていることですし、今まで準備を進めてきたというのなら
計画が割れるのが早すぎます」


「それに、『情報』によれば既に『敵』は別組織と接触を図っているようだし………」


「ああ―――――」



彼らは気付いていた。
培ってきた経験とそれによって得た独自の嗅覚によって。


この事件は、全く違う2つの何かが複雑に絡み合っているということに。

彼らは気付いていた。<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:09:21.97 ID:axDXmDQ0<>
9/27 PM 4:20

「――――つまりAIM拡散力場が形成する微弱な能力フィールドは個人によってそれぞれ異なるものであり、
 逆に言えばこれを能力や専用機器を使って計測することで個人を特定できることになる
 ………っと、時間か。ンじゃ今日の授業はここまでなァ」


きりーつ、れーい、ちゃくせーき


授業後の定型文的挨拶を交わすと生徒達は好き勝手にガヤガヤと席を立ち始めた。
このクラスはこの授業で一日の全過程が終わったようだ。


「先生、ここわかんなーい」

「あ私も、教えてー」


新入りの若手(しかも中々顔も良い)教師に異性の生徒が食いつくのも、学校生活の中ではよくあることだ。
群がる女子生徒を追いやりながら、
しかし本当に解らないのであれば教えてやるのも教師の務めなので無下に扱えず
一方通行は慣れない若者特有のコミュニケーションに悩まされていた。
そんな中、


「おっ兄ちゃ〜ん、一緒に帰りましょ♪ってミサカはミサカは声をかけて―――――」


……………不幸だ。
打ち止めは学校ではどうやら自分を『兄』と呼び始めたらしい。
まあ説明も面倒なので都合が良いのは俺も同じなのだが。
だが。


「…………………………」


生産されたばかりの下位個体の様な眼でこちらを見るのはやめてくれ。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:09:50.52 ID:axDXmDQ0<>
9/27 PM 10:33

「――――― つまり、統括理事会の失態を断ずるのに、私達に協力してほしいってワケね?」

「ああ。反学園都市・革命組織『リメイク』の中でも理事会の監視・制御を担う俺たちに、な」


女は男の言葉を簡潔に纏め上げると、そっとその重たい腰を上げた。
どうやら『仕事』を受ける気になったらしい。


「OK、ならそっからは私達の仕事だ。そのナントカって組織に了承してやれ」

「『ブレイク』ですよ、超ボケたんですか」

「………そんなこと言ってまたビーム食らってもしらないよ」


共に席についていた他の女達は何やら軽いじゃれ合いついでに一悶着を始めているが、
『仕事』はやる気満載のようなのでまあいいだろう。


「向こう側に良好な返事を返してやらねぇとな」


携帯電話を片手に立ちあがった青年は、
本来そう多くあってはならない久方ぶりの『仕事』に心なしか少し嬉しそうに見えた。


「―――― さて、新生『アイテム』の始動といこうか」


麦野沈利、絹旗最愛、滝壺理后、そして浜面仕上の4人によって構成された『アイテム』の面々は
己らに課せられた『仕事』のために、小さなサロンの扉をそれぞれ開けた。
『上層部の暴走阻止』という、彼らだけの任務のために。
学園都市の表舞台を、その平和を、彼らなりに護る為に。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:10:20.96 ID:axDXmDQ0<>
9/28 AM 9:10

職員室に用意された自分の机の上で、一方通行は項垂れていた。
今朝は学校へ向かう途中ぶつかってきた女生徒が自分に胸を押し付けてくるというイベントに遭遇したのだが、
それを見た打ち止めが自分をゴミを見るような眼で見てくるようになったためである。
昨日のことも相まって打ち止めの自身の株は大暴落しているようである。


――――――俺は何処のヒーローだ。
件の彼を『三下』と蔑むのも忘れ、一方通行は盛大な溜息をついた。


「先生。鈴科先生、」


――――――よくテレビで中年の親父が『娘からの視線が痛い』だとか嘆いているが、アレも思春期特有のソレなのだろうか。
いやいやいや、いくら中年親父共の嘆きが『仕方のないもの』だったところで俺ァまだ20代だぞ?


「鈴科先生、」


――――――だがあのガキももう16、『あなたのパンツと一緒に洗濯しないで!』とか言い出してもおかしくない……
しかしこの前俺のパンツ持ってなんかニヤニヤしてなかったか?あれが嫌悪から来るとは思えねェし……


「聞いてるじゃん、鈴科先生!?」

「うォあ!!!」


黄泉川の怒声にやっとのこと思考の果てから帰還した一方通行は、
『ボーっとしてどうしたじゃん?』と心配そうに尋ねてくる彼女にしかし『子育てについて悩んでました』
などと答えられる筈もなく、適当に言って誤魔化すことにした。


「何でもないならまあいいけど……何か悩み事があるんなら、いつでも言うじゃんよ?」


いくら学校では『同僚の先生』扱いされた所で、彼女にとって自分はまだまだガキのようだ。


「…………おォ」


そんな扱いが、一方通行はムズ痒くて堪らない。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:10:54.56 ID:axDXmDQ0<>
9/28 AM 12:14

現在打ち止めの通う高校は昼休みの真っ最中であった。
そして、一方通行は


女子生徒に弁当を持って囲まれていた。


一方通行が代理を務めることとなった教師はどうやら打ち止めのクラスの副担任だったらしい。
この学校では昼休み、各クラスの担任は教室で昼食を摂ることとなっていた。
学校からの脱走者や後先を考えない無茶な行動による事故を防ぐためらしい。
そして担任が出張などで昼休みを留守にする場合、副担任が教室で昼食をとることになっている。


「ねぇ先生、御坂から聞いたんだけどさー、今日お弁当先生の手作りなんでしょ?交換しよー」

「アタシそのハンバーグ頂戴〜」


――――――打ち止めの視線が痛い。
教卓に弁当を広げ食べようとしていたところでこの騒ぎであったために、
打ち止めは少し離れたところに位置する女子グループの中で箸を咥えながら何も申さず
ただこちらをジーっと穴でも開けるかのように見やるだけだ。


「ねぇ先生聞いてる〜?」


甘ったれたような女性との声が四方八方から飛び交う。
――――――止めてくれ。お前達がそうする度にホラ、


「……………………」


打ち止めの無言が怖すぎる。


<> 第六話 前篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/04(土) 20:11:26.41 ID:axDXmDQ0<>
9/28 AM 14:25

「ウイルスの方は既に完成している。だが最終信号の方が上手く捕まえられなくてな」


木原数多は部下から預かった報告書に目を通しながら垣根帝督にそう漏らした。
対する垣根は第一位がべったり張り付いていればそれは難しいだろうと考えながら、
『もう一方』とやらを拝見させていただくことにした。


「なあ。そのウイルスってヤツ、ちょっとばかし見せてくれねぇか?」

「いや、こっちは『狂犬部隊』の方で済ませておく。お前達の仕事は『グループ』の干渉阻止だ。
 俺達の分野にまで手間をかけさせるワケにはいかねぇからな」


しかし上手く役割分担されたことで、それも中々上手くいかない。
――――――まぁいいか。あの糞ムカつく野郎の這いつくばる姿を見るのも悪くない。
垣根は既に『ウイルス』から思考をずらし、一方通行の憐れな姿を想像し始めていた。


所詮、『協力関係』を結んだ所で互いに信用や信頼なんてしてはいない。
あるのは相手を如何に上手く使ってやるか、それだけだ。
今は『使われている感』が否めないがいずれ目に物見せてやる………


「安心しろ、何としても近いうちに最終信号は確保する―――――決行は9月30日だ」


この一言が一方通行と打ち止め、
そして学園都市の運命を揺るがすことになるのを知るのは、未だ誰もいない。




第六話(前)『部屋とジェラシーとミサカ』


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/04(土) 20:13:08.92 ID:axDXmDQ0<>取り敢えず本日はここまでです。
明日後篇が投下できるといいのですが……
毎日更新が難しくなってきましたが、投げ出しだけはしないよう頑張ります。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/04(土) 20:15:36.77 ID:YEBz6AQ0<>乙です!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/04(土) 22:34:55.66 ID:AXOP4.DO<>正直シャツの話からこんな展開になる事を誰が予想できようか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/04(土) 22:37:49.38 ID:4ZDTUI60<>木原クンとていとくんが手を結んだだと・・・
冷蔵庫が熱くなるな・・・<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/05(日) 00:41:31.53 ID:/iPCncc0<>一気に読んだ
俺としては上条さんと美琴が絡むチャンスを不意にした黒子空気読めと言いたいが通行止めメインだし仕方ないと我慢する

その一方でほのぼのとおもいきやシリアスになりそうな本編にwktkだなあ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 01:52:10.52 ID:MTBIrsDO<>木原くん復活…ていとくん復活……
アイテムにもう一人復活対象がいるんだよ(´・ω・)<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 09:09:32.69 ID:9Tf5i6Yo<>フレ
    ンダ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 11:51:50.82 ID:ufSeXAQ0<>打ち止めも嫉妬させればいい
そんで夕飯のときにお互い探り合えばいい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 18:17:17.29 ID:JTZVa1Yo<>シャツの話かと思ってたら更に面白くなってた

このスレへの愛を示すにはヘッダが足りないぜ<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/05(日) 18:57:16.29 ID:pw4QFm60<>シャツから話が逸脱してきているというのに読んで下さっている皆さん、ありがとうございます。
シャツフェチな方はスレタイ詐欺状態になってしまっていて申し訳ありません。

>>191様 美琴嬢と上条さんが絡む話も今度書かせて頂きますね。取り敢えずこの展開が一息ついてからということで。

では以下第六話 後篇の投下となります。

<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 18:58:02.62 ID:pw4QFm60<>
9/28 PM 16:24

帰路へと向かうスクールバスの中で一方通行と打ち止めは揺れていた。
座席だけでなく、人間関係も。


「女の子達にデレデレしちゃって。やっぱりあなたも『男』なんだね、ってミサカはミサカは呆れてみたり」

「…………おいクソガキィ、一体いつ誰がデレデレなンてしましたかァ?大体あンなガキに興味は―――――」


興味はねェ、そう続けようとした一方通行の目に入ったのは今にも泣き出しそうな打ち止めの姿だった。
思わずギョッとして目を見開くと、目の前の打ち止めは鼻をグズグズと鳴らしながら喋り出した。


「ど、どうせ、ミサカはガキだしっ、あなたの恋愛対象からはズレてるかもしれないけどっ、
ってミサカはミサカは――――――」


もう一度確認しよう、ここはスクールバスの中である。
つまりは彼らが通う学校の他の生徒もいるわけだ。
彼らを知る生徒達は「何アレー?」「ていうか兄妹じゃなかったの?」と口々に囃し立てている。


「ストップ!!泣きやめ打ち止め、続きは家帰ってからだァ!!」

「でもっ、グスッ、ミサカは、ミサカは、………」

「だァア、もォ!!」


泣きだした打ち止めを宥めるだなんてもう何年もやっていない。
昔やった通りで通じるだろうかと懸念を抱きつつも彼女の頭上へ右手を静かに置いた一方通行は、
バスが停留所に着くまでの間、ずっと撫で続けていた。


<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 18:58:56.52 ID:pw4QFm60<>
9/28 PM 11:22

一方通行は風呂に入っていた。
あの後頭を撫でてやった打ち止めは何故か顔を真っ赤にさせて、
これまでの間ずっとボーッとしたまま殆ど反応しなくなってしまったのだ。


(あれじゃまだ怒ってンのかどうなのかも分かンねェしなァ……)


そんな見当外れなことを浴槽に身を預けながら考えていれば、浴室の外から何やらパタパタと足音が聞こえてきた。
自分が入っていることに気付いていないのかもしれない。
そう思い一方通行が声をかけると、


「おィ、まだ俺入って――――――」

「知ってる上でミサカは入ってきたんだけどね☆」


全裸の番外個体が曰く『ワザと』押し掛けて来た。


「な、な、な!!て、テメェ出て行きやがれ!!!」

「いやミサカネットワークから最終信号のジェラシーが山ほど流れ込んできたからさ、その悪意を発散しに」

「だからってテメェ恥じらいってモンがxgl;;djkfhdfj;jioouihhug………」

「ハイ電極対策、電極対策あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」


番外個体の持つ『電極対策』の所為で一方通行の体は動かなくなってしまった。
しかも、彼女を押しのけようと体を伸ばしたその状況から、一気に。
まるで一方通行が彼女を押し倒しているようなその光景で。


しかも。
ヒーローから2度も幻想殺しを受けた影響なのか、はたまた彼の体質が感染したのか、
一方通行の不幸はこれで終わらない。

<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 18:59:49.23 ID:pw4QFm60<>
9/28 PM 11:25

夕飯を済ませ落ち着きを取り戻した打ち止めは、
自分は随分と身勝手なことをあの人に言ってしまったと感じていた。


自分のそれはただの嫉妬だ。
それをあの人に当たるというのはお門違いと言うものである。


「――――そういえば、あの人が家に帰ったら教えてくれるって言ってた『続き』って何なんだろう、
ってミサカはミサカはふいに思い出して気にし出してみる」


一度気になるとどうにも悶々としてしまう。
あの人は今お風呂に入っている。
顔を合わして聞くのも恥ずかしいし、浴室を挟んで尋ねても怒られないだろうか。


打ち止めは勇気を出して浴室の前へと顔を出してみることにした。
あの人の『話』とやらをゆっくり聞こうではないか。
ニマニマとした笑いが抑えきれずにそっと足を運ぶと、そこには


<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:00:16.61 ID:pw4QFm60<>
「どう、ミサカの胸にダイブしちゃった感想は?あひゃひゃ気持ちイイ?ねぇキモチいい?」


番外個体を押し倒して、その胸に飛び込んでいるあの人がいた。


「な、何してるの……?ってミサカはミサカはあなたに尋ねてみる………」

「……………」


あの人からの返事はない。


「ふ、ふーん……そっか。あなたの『話』ってミサカはダメでも番外個体ならイけるよって、
 そうゆうコトだったのね、ってミサカはミサカはあなたに失望してみたり………」

「…………」

「ね、ねぇ、何で何も言ってくれないの?ってミサカは、ミサカは―――――」

「…………」


そうか。
あの人は言い訳すらできないほどに番外個体が好きなのね。


理性では理解できても本能が納得するのを拒絶した。
どうしよう、顔を合わせられない。
あの人の為にもミサカは身を引かなきゃいけないのに。


「す、少し外で頭冷やしてくるね、ってミサカはミサカは飛び出してみるっ!!!」


気付けば足は外へと向かっていた。
何処に行ったところで、ゴールなんて無いクセに。


<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:01:28.02 ID:pw4QFm60<>番外個体は込み上げたまま抑えきれない嘲りをわひゃわひゃと洩らしながら
自分に覆いかぶさる一方通行を見上げた。


「ねぇねぇ、最終信号に捨てられちゃった気分はどうかなって、
ミサカはミサカは尋ねてみたり〜あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」


しかし一方通行から反応はない。


「あれ〜?ショックでフリーズしちゃった〜?」


そこで彼女も彼へ電極対策を施したまま放置していたことを思い返す。
―――ああ道理で反応ないわけだ。しまった、最終信号の蔑んだ目をこの人は理解できたろうか。
別に処理しきれていなかったところでコチラが後で教えてやれば問題ないのだが、
折角なら彼自身の目で確認した『最終信号があの人に向ける嫌悪』をトラウマとして刻み込んで欲しい。


「ほい、電極対策解除っと☆」


プハァ!っと息を吐き出した一方通行をどうからかってやろうか。
番外個体が口元に大きな三日月を描きながら彼を見やると、

一方通行は、番外個体ですら今まで見たことのないような恐ろしい形相で周囲を確認していた。
これは羞恥や外聞を気にしてのものではない。
家族や友人を殺した憎い敵とでも対峙するかのような、この貌は。


「―――――打ち止めは何処行った?」


答えられない。
唇はワナワナと震えるだけで、言葉が紡ぎだせない。


「―――――もう一度聞く、打ち止めは何処へ行った?」

「あ、あ、あ、そ、外………外の、何処までかは、しら、しらない………ミサカしらない……」


チッ、
『使えない』。あの人の舌打ちがそう代弁しているかのように感じた。
現に一方通行は番外個体の返答を聞いた途端、
簡単にタオルを巻いただけの状態で自室へと駆け込み携帯電話を手に取っていた。

まるで全ての興味が最終信号にしかないかのように。
ちょっとイジり倒してやるだけのつもりだった。
それが、こんなにも彼を怒らせるなんて、思わなかった。<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:01:56.74 ID:pw4QFm60<>
9/28 PM 11:28

『――――土御門か。打ち止めが勝手に家を出た、一人でだ』


一方通行からの連絡を受けた土御門は仰天した。
アイツは今の最終信号の立場というものを理解しているのだろうか。


「っ、なんで一人にした!?今最終信号を捕獲されたら全部終わりだぞ!!」

『…………結標を寄越せ、俺の自宅付近を捜させろ。俺も直ぐ行く』

「結標は話を聞いていたからもう向かった!!俺の質問に答えろ、何をしていた!?」

『……………』


一方通行は応えなかった。
彼も自分の非を理解してはいるのだろう。


これ以上アイツの相手をしていても無駄だ、と判断した土御門は一方通行からの連絡を切ると
どうしたものかと考え始めた。


――――――やはり情報を掴んだ時点で潰すべきだったか。
しかし、『敵』が組んだ相手や協力関係に同意した組織の目的などを調べなければ何度だって『脅威』は湧く。
だからこそ一方通行はこの作戦に同意したというのに。


「ックソ、」


計画を全て組み替えなければならない。
どうする?どうする―――――土御門は思考に耽る。
考えることを止めた途端全てが終わってしまう、これがクソッタレの『現実』というものだった。


<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:03:19.78 ID:pw4QFm60<>
9/29 AM 1:03

「………見つからなかったわ」


最終信号の捜索に出かけた結標と彼女の部下である少年達からの報告は酷く簡潔なものだった。


「一方通行は?」

「一度家に帰ってみる、って。居なければ『妹達』の下位個体にネットワークから探させるとも」


確か現在一方通行の自宅には番外個体だとかいう『妹達』のシリーズが一人いた筈だ。
ネットワークからの捜索なら見つけだすことができるかもしれない。


「『能力追跡』は現時点では使えないからな、最悪『敵』に捕獲されていることも考えると……」

「でも、『ブレイク』とやらの背後が割れるまではこっちも手を出せないんでしょ?」

「『妹達』を利用されれば学園都市というシステムが崩壊する。優先させるはどちらか、だ」


そうね。
納得した結標は戦闘態勢に入ることを仲間に告げるため席を離れようとした。
しかし、立ちあがった途端鳴り響いた『連絡』に、彼女は再び座り込むはめになる。


『学園都市在住の『妹達』下位個体が全員消えました!!監視を振り切って自ら何処かへと集まっている模様!!』


絶望の足音が、聞こえた。


<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:05:30.42 ID:pw4QFm60<>

9/29 AM 0:58

一度帰宅した一方通行はまず玄関に打ち止めの靴があるかを確認した。
だがやはりそこに彼女の靴はない。


リビングに続く扉を潜れば番外個体が青ざめた顔で床に直接座っていた。


「打ち止めが今何処にいるか、ミサカネットワークから探れるか?」

「あ、………う、うん。今やるから」


やけに素直にネットワークへと潜り始めた番外個体は時折こちらをチラチラと窺いながら
打ち止めの探索を続けていく。


「ミサカネットワークへの上位個体からのここ数十分のバックアップ形跡は見受けられない。
 他の個体への接続どころかネットワークへのアクセス痕すら見当たらない。
 結論としては、ミサカに最終信号の居場所は…………」

<> 第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』<>saga<>2010/12/05(日) 19:06:22.05 ID:pw4QFm60<>
番外個体の言葉が不自然に途切れた。
気にかけた一方通行が番外個体の顔を覗きこめば、番外個体は焦点の合わない瞳を見開きながら


「上位命令文が施行されました。上位命令文が施行されました。
 『妹達』最終生産単位『番外個体』は上位命令文の受諾に対し統括理事会の決定を必要とします。
 よって『妹達』最終生産単位『番外個体』は統括理事会からの指示を要求します。
 繰り返します、上位命令文が―――――」


なンだ、これは………?
一方通行は当初何が起こったのか理解できなかった。
そして、一歩遅れて自分の不注意が『最悪の事態』を招いてしまったことを理解する。


ブブブブブブブ……
無機質なバイブ音がポケットの中から鳴った。
急いで携帯電話を手にとれば、画面は土御門からの着信を告げていた。


「結標達が張っていた下位個体が消えた。監視を薙ぎ倒して自分から出て行ったらしいから……」

「上位命令文による、ミサカネットワークを通したウイルス感染っ――――」

「そっちの個体にもウイルスがいったか。
 …………確か『番外個体』は上位命令文の受諾に統括理事会の決定を必要とするんだったな、
 保留にしているウイルスから内容を解析することはできるか」

「―――冥土返しの所へ連れて行く。あの医者なら出来るかもしンねェ」


一方通行は番外個体を何とか担ぎ上げると再び玄関へと向かった。
――――彼の護るべきものが、崩壊しようとしている。




                                        第六話 後篇 『部屋とジェラシーとミサカ』 (完)

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/05(日) 19:10:11.21 ID:pw4QFm60<>本日の投下はここまでとなります。
最近何やら細々とした更新で本当に申し訳ありません。
レポートと課題が一段落つけば何とかなりそうなのですが、一段落終わったところでまた次が来るだけなんて……
上条さんはこの『現実』はそげぶしてくれないのですね。

番外個体の上位命令文保留は僕の完全な捏造です。
打ち止めが上位命令文で邪魔しようとしてもそれを阻害して一方通行と戦える彼女なら恐らくもっとあっさりしていることでしょう。
今回は緊迫感を出すための僕の演出ということでご勘弁下さい。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 19:12:36.34 ID:FKL1xFoo<>まさかのシリアス一直線でごわす…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 19:13:27.62 ID:H/JRi4co<>うわああああ! 番外個体に悪気が無いだけに切ないなぁ……!
みんな頑張れ超頑張れ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 19:16:42.74 ID:.l0JLYgo<>一方さんvs垣根さんクルー<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 22:07:20.07 ID:JTZVa1Yo<>おおおおおおおおおおもしれえええええええ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/05(日) 22:52:08.04 ID:RNQ25y.0<>個人的には初春に期待<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 23:03:45.10 ID:SvXWHBY0<>>>206
打ち止めの命令はワーストに効かないっつー話を書く書き手は多いが
番外個体は20巻で上位個体の命令を防ぐ体内のセレクターを破壊されているから
今は上位個体の命令も受け付けてしまう可能性があるんだが…この話の展開上仕方ないか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 23:12:07.82 ID:Sa5.CcAO<>一方通行が
「だからお前は妹達に死ぬほど謝って、打ち止めの墓の前で涙を流して許しを乞え。
そうしたらお前達はもう一度ミサカネットワークになれる。必ずなれる!」
と番外個体に言うエンディングが見えたぜ!<> :>>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/05(日) 23:21:28.98 ID:pw4QFm60<>>>211様
そうだ初春がいた!!是非出させて頂きます。しかし一方さんと接点ないので名前なしの役かもしれませんが。

>>212様
その可能性については後々補完します(恐らくこの展開が解決してからの後日談あたりで)。
今は『何らかの理由で番外個体には上位命令文が保留される』ということだけ意識しておいてくださると嬉しいです。


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 23:26:14.87 ID:ufSeXAQ0<>ここだけで終わるのが惜しまれる…。
シャツの人はぜひ薄い本を…。
<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/05(日) 23:26:24.47 ID:pw4QFm60<>>>213様
夜中に近所迷惑になるほどの笑いが……!!!やばいやばい。
仮にそのようなエンディングを迎えたとして
浜面のように許して受け入れられるだけの成長を一方さんが6年の間に遂げていると嬉しいのですが。

「だからお前は打ち止めの墓の前で涙を流して許しを乞え!!これで俺もお前も同じ土俵だ!!」
にはならないよう注意します。多分大丈夫ですよ多分。
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/05(日) 23:44:17.12 ID:SvXWHBY0<>>>216
いやちょっと待て浜面にとってのフレンダと一方通行にとっての打ち止めは違うだろ
…違うよな?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 01:00:57.23 ID:7HVjWcSO<>久々に来てみたらめっちゃ投下されてた!
本編も上条さんとインデックスの話とかも
面白くてにやにやしながら読んだよ
しかもマメな更新、シャツの人乙&GJ!

これからの展開が気になりすぎて眠れない<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 01:25:17.73 ID:eI3kKsDO<>>>216
初春と一方さんは面識ってか会ったことはあるだろ?冷蔵庫前のていと君と闘う時に<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/06(月) 18:00:07.98 ID:fBQ09iY0<>>>217様
勿論違います。ちょっと>>213様のボケにノってみたいお年頃だっただけです、僕がwwww

>>219様
書き方が悪くて申し訳ありませんでした。
確かに二人は会ったことはあるのですが、僕は一方さんの方は初春さんをあまり意識していないのではと考えています。
言われて初めて「ああ、そんな花女いたなァなんか……」みたいな感じかと。
逆に初春さんは自分の命の恩人でありあれだけの騒ぎを巻き起こした片割れを
彼に救われた者として、風紀委員として調べているのではないかと。
―――――そんなお話もいつか書きたいです。フラグの立つようなお話ではないでしょうが。




<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/06(月) 18:01:51.08 ID:fBQ09iY0<>時間はいつもより早めですが以下、第七話分の投下になります。
土日は読みに来て下さる方が多いようで僕ももっと精進せねばと思っております。<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:02:55.51 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 1:00

「ウイルスの送信は完了、っと。あとは『時間通りに』あのガキが来てくれることを祈るばかりだな」


下脾た笑みを浮かべ木原数多は立ちあがった。
傍らにはぐったりとした打ち止めが転がっている。


「――――― 検体番号20001号より下位個体への上位命令文送信を完了しました。
繰り返します、検体番号20001号より下位個体への上位命令文送信を完了しました…………」

「さぁて、殺戮パーティーの始まりだ」


そして、物語は幕を上げる。



<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:03:27.63 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 2:23

タクシーを使って第7学区の病院へと向かった一方通行は
仰天する看護師たちを無視して冥土返しの下へと真っ直ぐに駆け込んだ。


「おィ、コイツを診ろ」

「君も相変わらず無茶を言うね、急に来ては何でも要求する」

「………つべこべ言わずにオマエはただコイツを診ればいい、殺されてェのか?」

「患者の必要なものを用意するのが僕の仕事だ。そして目の前にいるのは患者だ。…………彼女も、君もね」


一方通行が乗り込んできた騒ぎを聞きつけて看護師たちが集まってくるのを
ヒラヒラと手を振って追いやりながら冥土返しは番外個体を診察台へと寝かしつけるよう
一方通行に指示した。


大人しくそれに従った一方通行は険しい顔に浮かべたギラついた眼で「早く診ろ」と合図する。


「僕は医者だよ?キチンと診るから、君は大人しくしていてくれないかな?」


<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:03:56.00 ID:fBQ09iY0<>

自分の焦りや憤りを全て見透かされたようで腹が立ったが、
確かにこのカエル顔に当たったところで無駄な時間が消費されるだけだ。


そう思い直し一方通行は気分を落ち着かせるために冥土返しから病室の外へと意識を向けた。
すると、なにやら遅れてパタパタとした足音が廊下から近付いてくるのを感じる。
冥土返しが先陣を追い返したことを知らない看護師がまた来たのだろうか。


一方通行は入院や冥土返しの手伝いで既にこの病院に何度も通っている。
故に顔見知りも多い。
先程のようにあきらかに取り乱した状態なら別だが、彼が戻って良いと言えば大抵の看護師はそれに頷くだろう。


そう考え一方通行は廊下へと顔を出す。
だが、そこにいたのは看護師などでは無かった。


「先生、なんか凄い騒ぎがあったみたいだけど大丈夫か!?」


そこにいたのは一方通行の数倍この病院へと通い詰める、彼の『ヒーロー』だった。


<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:04:33.87 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 2:44

「一方通行、お前こんな所で何して………うわっ番外個体!どうしたアイツ何処か悪いのか!?」

「つーか……オマエこそなんでこんな所いるンだよ……」

「いやー、木に引っかかっちゃった女の子の風船取ってあげようとしたら失敗しちゃって……
 木から落ちて骨折しちゃったというわけなんですよハハハ……」


てゆうか番外個体のヤツ大丈夫?
なんて暢気に聞いてくるヒーローに一方通行は苛立ちを通り越した呆れしか感じられない。


さて、この厄介な事情をコイツに説明すれば意地でも頭を突っ込んできそうだがどうしたものか……
一方通行が頭の片隅でそんな事を考えているのにも気付かず『ヒーロー』こと上条当麻は
「なあ大丈夫なのかよー?」と(あきらかに無視されているにも関わらず)未だ尋ねている。


一方通行がそろそろコイツを黙らせるかと思案し始めたところで、
奇跡的にもタイミングよく冥土返しがそのカエル顔を二人のいる廊下の一角へと伸ばしながら
「解析終わったよー」と声をかけてきた。


病室へ向かう自分に自然についてくる上条を横目に見ながら一方通行が入室すると、
頭に花瓶でも乗せたかのような奇抜な髪飾りをした女が目の前のモニタを覗きこみながら
何やらカタカタと作業を進めていた。


「おィ、部外者連れ込んでンじゃねェよ」

「彼女はその道のプロだよ。作業効率を考えるなら外部から彼女を呼んだ方が速かった」


女は「これが解析結果になります」と端末用のメモリを差し出しながら律儀にも一方通行に向けて答えた。


「私が気になることは沢山あります。そこの女性のことも解析結果の内容も含めて、沢山。
 でも絶対にあなたにそれを聞くことはありませんし、他言もしません。―――プロ、ですから」

「……………」


<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:05:07.10 ID:fBQ09iY0<>

女は真っ直ぐな目を持ってして一方通行に応えた。
一方通行もその誠意に対しメモリを受け取る傍らしっかりと頷き返すことで答えた。
そしてクルリと踵を返すと未だ一人状況の掴めていない上条へと、彼は初めて『依存』をした。


「ミサカネットワークから『妹達』に『ウイルス』が感染した。
番外個体だけはそれに該当しなかった為に、その『ウイルス』の内容が解析できた。」

「なんだって!?なら俺も『ウイルス』を流したヤツらに………!!」

「だが!これが『敵』に知られれば、番外個体が狙われる可能性がある。…………だから、
 ―――――だから、コイツを、オマエが護ってくれ。必ず、絶対に、無事に、オマエが!!」


今の一方通行に恥も外聞もない、プライドはとうに捨てた。
彼が『信頼』して何かを託すことのできる相手は限られている。
そして、限られた中に存在する人間のうち危険を承知で巻き込める相手は殆どいない。


「俺は打ち止めを助けに行く。だからオマエにしか、頼めねェ」


上条当麻は一方通行の真剣な眼差しを受けながら驚いていた。
彼が自分を頼ってくれたことに、誰かに助けを求めてくれたことに、
一人で背負い込まなくなったことに。
だからこそ敢えて上条は懐かしい言葉を持って彼を送りだした。


「―――――死ぬなよ」

「―――――互いにな」


一方通行は病室を後にした。
上条当麻は番外個体の眠る寝台へと向かった。
そして、『ヒーロー達』はそれぞれの戦場へと赴いてゆく。




<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:05:38.45 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 4:13

病院を出た一方通行は自身の端末へと早速メモリを指し込んだ。
上位命令文の正確な送信日時、速度、『妹達』への浸透率などを眼で読み捌きながら
彼は目的とする『命令文の内容』を探す。


「―――あった、コレか!!」



『妹達』全下位個体へと送信。
学園都市在住の個体は上位命令文を受諾次第ミサカネットワークより送信される上位個体所在地へと集合。
その他個体は待機。
9月30日0時00分を機に各自武装し可能な限りの人間を殺害すること。



「――――――ハッ、嗤っちまうほどにクソッタレな内容じゃねェか」


打ち止めの誘拐。
『妹達』を媒介としたミサカネットワークの使用。
9月30日。
木原数多。


「つまりは、あのガキは何の関係もねェ、俺への私怨って事だろォが――――」



<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:06:09.61 ID:fBQ09iY0<>
一方通行はその他の内容を一通り確認すると携帯電話を取り出し再び連絡を取り始める。


「土御門か、こっちは上位命令文の内容が掴めた。今から送る。………そっちはどォだ」

『待て、先にそっちを確認する――――なるほどな大体掴めた。
 後は『狂犬部隊』の潜伏先と誰が木原数多を『復元』したのか、
そして誰が『ブレイク』に情報を売ったのかが判れば完璧なんだが…………』

「後の二つはともかく『狂犬部隊』の潜伏先は判る筈だろ、あの野郎ォからの連絡はどうした?」

『まだ来ない、が、恐らくは立てこんでいるんだろうな……
『狂犬部隊』は今こそお前に一矢報いてやろうと必死になってる筈だし、
そこに潜り込んでるアイツも働かされているんだろう
連絡が取れ次第アイツと海原を合流させることにした、最終信号については安心しろ』

「『9月30日を迎えるまでにこちらが『敵』を討てば、チェックメイトだ』」



9月30日まで、あと19時間37分26秒。





<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:06:38.33 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 8:37

「―――よお、お前が『幻想殺し』?」


長年の友人にでも接するかのように突如として気さくに話しかけてきた青年に、上条は構えをとった。
番外個体は自分の大切な友人であり、且つ今は一方通行から彼女を護るよう頼まれた身でもある。
得体の知れない人間に警戒を見せるのはこの状況下では至極当然なことだった。


「ああ、安心しろよ。別にそっちの人形に興味はねえから」


だが対する青年はこちらに殺気の一つも見せない。
番外個体を指して『人形』と呼んだことには怒りが湧いたが、気を落ち着かせて冷静に目前の青年を見遣る。


「誰だ、お前は――――?」

「俺は第一位サマの味方になったつもりなんて一度だってありはしないが
………借りくらいは一応返すつもりなんだよ、あの野郎と違って常識も良識も弁えてるしな」


青年は上条の問いには一切答えなかった。
だが彼の表情を観て上条は確信する――――コイツは、確かに一方通行の味方だ。


<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:07:06.01 ID:fBQ09iY0<>

「何か俺に手伝えることはあるか?」


急な上条の切り替えに青年の方も虚を突かれたような顔を示したが、
直ぐに面白半分に仕掛けたイタズラが成功を見せたときの様な幼稚でニヤついた笑みを浮かべ


「賢い奴は好みだぜ?野郎じゃなければな
………申し出はありがたいが用があるのはあっちのカエルと花女だ
おいカエル医者、例のウイルスに対抗できるワクチンプログラムを寄越せ」


その言葉にカエルと花女、この病室の主である冥土返しと先程ウイルス解析を行った初春飾利は
二人揃って待ってましたといわんばかりに顔を見合わせた。


「『もう完成している』。それを必要とする患者さんの下へ持って行ってあげなよ」

「―――――上等だ、金は一方通行にツケとけ」


そしてまた、舞台は移り変わる。





<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:08:14.79 ID:fBQ09iY0<>

9/29 AM 11:42

待機場所として用意された個室のソファに『アイテム』の面々は腰を据えていた。
『ブロック』から『同盟組織が牙を剥いた時の為』に用意された自分達には、未だ出番はないらしい。


「ねえ浜面、『他』の状況はどうなってる?」

「ああ。あとは『こっちの用事』が済めば何とかなるみたいだな」

「つまりは私達だけ超出遅れてるってことじゃないですか」

「でも今のままじゃあの人達は『依頼主』を教えてくれそうにないよ。どうする、むぎの?」


シャケ弁を片手に呑気にうんうん呻る麦野は『学園都市の崩壊』やら何やらには一切興味が無いらしい。
只一つ『自分達が出遅れたこと』に対して彼女が悔しがっていることは学園都市にとって幸いであるが。


「取り敢えずこっちの状況を纏めましょう。今私達が協力してやっている組織は『ブロック』
―――学園都市革命派の組織ね。
何処からか知らないけど『アレイスター・クロウリー統括理事長の死去』を嗅ぎつけ
 学園都市の破壊を目論み現在に至る、と」

「付け加えるなら『ブロック』の面々は『学園都市崩壊』の手段として
『妹達の暴走による学園都市の社会的崩壊』を選び、『妹達』を用いるのに最大の障害となる
一方通行への対策として『狂犬部隊』と同盟を結んだ、ってとこで超良いでしょうか」

「問題は『狂犬部隊』が裏切ったときの為に用意された過ぎない私達が
どうやって『ブロック』から情報を盗むか、ってとこなんだけど―――――」


未だ『ブロック』のリーダー格は現れない。
下っ端の構成員達は自分達が決起する切っ掛けとなった『情報源』について何ら知らないことは
既に行った取り調べというには過激な方法で確認済みであるし、
下手に動いて唯一それを知るであろう人間に引っこまれても困る。


さてどうしたものか………
思考に耽りつつコンビニ弁当の鮭へと齧り付いた麦野は何か碌でもないことを思いついたのか
そこで上品な服装に釣り合わない品の無い笑みをニンマリと浮かべた。


「なら、リーダーが動かざるを得ないほどのでっかい芝居をうってやろうじゃないか」




<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:09:01.92 ID:fBQ09iY0<>

9/29 PM 3:28

『連絡』を受けた結標は数人の部下を引き連れとあるサロンへと向かっていた。
今回の任務に同行する予定の海原とは、現地で合流するつもりだ。


任務に必要な『お膳立て』は全部現地にいる人間で済ませてくれるらしい。
とあらば、こちらはシナリオ通りに動く為で済む。


「―――――とは言え、油断しないようにね。暗部の『仕事』っていうは常に命がけが当たり前なんだから
 特に別組織と共同でやるときは相手を信用しても信頼しちゃダメ、解った?」


結標は『仕事』の内容によって連れ歩く人間を変える。
今回の『仕事』で連れてきた部下の中には十代中盤のまだ若い少年も居るため、
彼女はもう何度口にしたか判らない台詞を改めて口にした。


暗部の『仕事』は常に命がけだ。
相手の強さに信用を抱いても決して相手を信頼してはならない。
『仲間』がいつ裏切っても良いように、『仲間』がいつ己に刃を向けても良いように、
これが『暗部』という世界だった。



<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:09:38.16 ID:fBQ09iY0<>

9/29 PM 5:02

「だから、こっちはテメェら『ブレイク』に襲われたっつてんだろ!!ホラ見ろコイツ、
そっちの幹部じゃねぇか!」


そちらの構成員に強襲を受けたと『アイテム』からの連絡を聞き付けやって来た『ブレイク』の人間は驚愕した。


襲撃犯として突き付けられたグループのうち代表とされた男は確かに自分達組織の幹部であったし
証拠となった監視カメラの映像にも男が『アイテム』の面々に襲い掛かる姿がバッチリと映っていたが、
彼らの間にはそのような計画など無かったはずだったのだ。


この男に裏切られたのだろうか。
『ブレイク』の面々も一度はそう考えたものの、なかなかそれを受け入れられずにいた。
男が誰よりも任務に忠実であり誰よりも理知的な人間であることを、彼らは知っていたからだ。


ならば何故男はこのような行為に及んだのだろう。自分達に知らされていない計画の変更でも起こったのだろうか。


「リーダーを出せ、テメェら下っ端じゃ話にならねえ」


『アイテム』側の要求を『ブレイク』の面々は素直に受け入れることにした。


計画の変更だとすれば自分達が下手に駒を動かすわけにはいかないし、
『アイテム』のリーダーである女のドスの聞いた声音に恐怖を抱いた為でもあった。


彼らがこの要求を呑んだことで、麦野主演の『一芝居』は見事成功を修めることになる。



<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:10:26.08 ID:fBQ09iY0<>

9/29 PM 7:27

『ブレイク』の連中に裏切り者として拘束された男は
与えられた独房代わりの一室で壁に寄り掛かりずっと眼をつむっていた。
その姿は見ようによっては反省の態度を示しているようにも見えるし、
見方を変えればどうやってここから抜け出そうか策を練っているようにも見える。


そして、男の内情は後者だった。


(さて、これからどうしましょうかね……)


上手く麦野の芝居を際立たせてやったのはいいが、ここから抜け出すのはまた一苦労しそうである。


(脱出の手段は何通りかありますが、結標さんのグループも連れて出る最も効率の良い方法というと……)


面倒ではあるがいつでも逃げられる。
それが男の余裕を表していた。


(―――やっぱり麦野さん方から合図が出次第、結標さんにテレポートしていただくのが1番でしょうね)


結論がでてしまえばさて暇だ。
次はどうやって監視にバレないよう一眠りするかでも考えようか、
一方通行や土御門にとって作戦の要となる予定の男は、衆人監視の中暢気に昼寝の方法を考えていた。


(これから自分は特に忙しくなるでしょうしね)




<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:10:54.28 ID:fBQ09iY0<>

9/29 PM 9:39

『狂犬部隊』の詰め所へと戻った垣根帝督は無造作に転がされている最終信号へと歩み寄ると、
おもむろに少女へと手を伸ばした。


「さあてと、あのムカつく第一位サマが歯噛みする姿が楽しみだ」


彼は彼の『仕事』を成すために、ミサカネットワークを統率するその幼い頭をわしづかむ。


そして、垣根は――――




<> 第七話 『部屋と暗部組織とミサカ』<>saga<>2010/12/06(月) 18:14:48.58 ID:fBQ09iY0<>
9/29 PM 10:35

打ち止めと学園都市在住の『妹達』の居場所を掴んだ一方通行は
落ち着いた足取りで目的地へと向かっていた。


我ながらよくここまで我慢したものだと思う。
少し前の彼ならば同僚の静止など振り切って一人真っ先に木原の下へと乗り込みに向かったことだろう。


まあ、彼がそれをしなかった理由の一つに、それを懸念した同僚が今の今まで彼だけに
木原の居場所を教えなかったというのも大いにあるのだが。




侵入口を探すことすら面倒だと言わんばかりに派手にガラスを割って『敵』のアジトへと踏み込んだ一方通行は、
足元のガラスをパキパキと踏み砕きながら正面に携えた男をゆっくりと見上げた。


男へと視線を向け、男を真正面から認識した一方通行は、
狂気に満ちた笑みを浮かべその真っ赤な目を瞳孔ごと見開く。


「――――探したぜェ」


対する男の方も、侵入者の正体が一方通行であると認識すると
口元を半月型に歪めながら愛しい者を受け入れるかのように両手を横に広げた。


「――――待ってたぜえ」


「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
「一方通行ァァァァァァ!!!!」


今宵、二人の獣が対峙する。





                                        『部屋と暗部組織とミサカ』(完)




<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/06(月) 18:19:17.62 ID:fBQ09iY0<>本日の更新はここまでとなります。
レスの半分以上が昼休みに携帯で制作された物なので改行が一部おかしくなっているかも知れません。
……あったら申し訳ありません。

今回は様々な組織や人物からみた9月29日という長い一日をコンセプトにしていたので
いつにも増して唐突な場面展開が多く読みにくいかもしれません。
ご質問ご指摘等ございましたらどうぞ書きこんで下さい。

スレタイにはついているのに打ち止めが一切出てきません。Yシャツも出てきません。
………スレタイ詐欺で訴えられても勝てないレベルでごめんなさい。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 18:20:21.82 ID:6fUGEhE0<>乙乙ん<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 18:21:37.24 ID:k5gMJh20<>乙
一方通行に借りがあり、まず味方確定の人物・・・まったく思いつかない
まさかの監禁事件で助けられた子供の成長した姿か?<> 219<>sage<>2010/12/06(月) 18:44:16.36 ID:eI3kKsDO<>>>1おつ〜
「―――――死ぬなよ」
「―――――互いにな」
には不覚にも鳥肌が立ってしまった……。


>>220
いや>>1なら知ってるはずとは思ってたんだよ?丁寧返事ありがとう!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 19:16:56.57 ID:qQpFz2AO<>>>239
まぁ少なくとも何らかの因縁なりがあるとは思うが
明らかにそれはないだろww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 19:21:24.66 ID:WVxx4K60<>一方さんの味方らしき人物かぁ…まぁ、予想は野暮ですな。次回を楽しみに待つ事にいたします
乙です
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 20:33:19.66 ID:gm9EPWMo<>誰かまったく予想できないから楽しみにしてる
「互いにな」の辺りも「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」も
ときめきが止まらない、乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 20:48:14.34 ID:7gcaYsAO<>>>239
きれいな木原くン<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/06(月) 21:18:59.86 ID:g7sdvdgo<>妊娠した嫁助かった下っ端じゃね?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 00:18:00.53 ID:OCYx3kDO<>>>239
第一位サマって呼び方的に垣根だろう。味方を名乗る男が、ワクチン入手した後、垣根は打ち止めに接触してるしな。
まあ、垣根の借りってのが何かは思いつかないから、違うかもしれんが。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/07(火) 02:16:33.64 ID:Kkuf1S20<>>>246
黒い翼みて自分のことを理解したことが
垣根の借りじゃないの?

瞬殺されたけど、メルヘンの力が上がったのは事実だし
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 08:33:29.90 ID:aUw4wYAO<>13巻で一方通行に腹を刺された猟犬部隊の人かなと思ったけどモブすぎるし違うか。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 10:26:44.02 ID:hFWTuMQo<>ブロックなのかブレイクなのかどっちなんだ?両方あるのか?<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/07(火) 19:58:13.83 ID:Ys4I/w.0<>>>249様
『ブロック』は完全な誤植です。
『ブレイク』は『ブロック』を前景とした組織という設定を作って一度ぶっ壊した筈が一部そのまま残っていました。
混乱させてしまい申し訳ありません。

以下、第8話の投下となります。
これで第一部木原くン篇(今適当に付けました)は完結です。
<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 19:59:36.46 ID:Ys4I/w.0<>

9/29 PM 10:35


一方通行と木原数多は静かに向かい合っていた。


それは久方ぶりの再開を喜ぶのでなく、
憎悪を孕んで佇むでもなく、
互いに潰しあうという原始的で純粋な快楽に溺れきった獣の姿だった。


「――――探したぜェ」

「――――待ってたぜえ」


「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!」
「一方通行ァァァァァァ!!!!」




そして、獣達は牙を向く。




<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:00:06.75 ID:Ys4I/w.0<>










かと思われた。


「――――――なんてな」


ベクトル操作を纏い大きく振り上げられた一方通行の拳は、
言葉と共に途端に勢いを失くし彼の体ごとそのまま正面に倒れ込んだ。


驚愕と疑惑に眼を丸くする一方通行に、木原は酷く満ち足りた表情を伴いながらこう告げた。


「テメエみてぇな化け物相手に真正面から向かおうだなんて誰がするかよ、バーカ。
 ―――AIMジャマーと妨害電波発生装置が設置されてる。これで化け物もクズ以下ってな!」


ゲラゲラと今にも転げ回りそうなほどに大笑いする木原に、
思考回路だけは残されていた一方通行は馬鹿じゃないのかと彼を見下げた。


自分の様なハンデを背負った人間が、それに拮抗する手段を用意していない筈がない。
AIMジャマーはともかくとしても
ミサカネットワークによる補助を遮断する電波をジャミングする装置はとうの昔に杖に仕込んである。

<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:00:40.73 ID:Ys4I/w.0<>

そんな一方通行の嘲りに気付いたのか、
木原はそちらを振りむきニンマリと卑下た笑みを浮かべながら
この世の幸福を全て噛みしめたかのような光悦とした声音でもって一方通行にとっての悪夢を宣告した。


「テメエが動けなくなるのは今の一瞬だけで良かったんだよ、コイツラがこの舞台に入場するまでの一瞬で」


コイツラ。
木原が指差した方向を見た一方通行の顔色が見る見るうちに変わっていく。
まるで、何の力も持たないただの人間のように。


「上位命令文に従い木原数多の指示に伴った戦闘態勢に入ります、とミサカは表明します」


扉から次々と現れる同じ顔の少女達から一斉に銃口を向けられた一方通行は
その時点で既に、無力な人形と化していた。


何モ考エラレナイ。
アアソウカ。
コイツラニ殺意ヲ向ケラレル事ヲ、俺ハコンナニモ恐レテイタノカ。


「目標・一方通行を視認。発射します、とミサカは宣告します」


一方通行の悪夢は未だ終わらない。



<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:01:12.67 ID:Ys4I/w.0<>
9/29 PM 11:22


『ブレイク』潜伏先での任務を終えた滝壺理后と浜面仕上は次の『仕事場』へと向かっていた。
移動手段は浜面が『ブレイク』のアジトから失敬してきた黒塗りのワンボックスカーだ。


「はまづら、間に合いそう?」

「間に合いそうってゆーか間に合わなきゃヤベェだろ、滝壺居なきゃ何もなんねえし」


助手席に座る滝壺へと時折「疲れてないか?」と声をかける浜面はひたすら車を走らせる。
芝居の主演は彼女ではないが、今回の『劇場』では裏方として彼女の能力が重要視される。


(距離的にも結構ギリギリだけど、間に合わなかったら殺されるんだろうなー……俺だけ)


自分の管轄内から発生したミスで全計画がおじゃんになったと知らされた麦野を想像して身震いした浜面は、
とっくに制限速度を凌駕したスピードを更に上げるために強くペダルを踏み込んだ。


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:01:40.26 ID:Ys4I/w.0<>
9/29 PM 11:23

同時刻。

「っくしゅん!!」

学園都市の入門審査ゲート付近で、
麦野沈利は先程まで『ブレイク』の残党相手に『原子崩し』をブッ放していたとは思えないほどの
可愛らしいくしゃみを発していた。


「麦野、今更女の子らしいくしゃみしたところでキャラは超誤魔化せませんよ」

「ちげーよ馬鹿、なんか急にムズムズ来たんだよねー。誰かが噂してるのかにゃん?」


どうやらそのまま可愛いシズリちゃんモードに突入したらしい麦野相手に、隣を陣取る絹旗は超絶呆れ顔だ。


「まあどんな路線で行こうともいいんですけどね、これから始まる仕事さえ超頑張ってもらえれば」

「ああん?張り切るに決まってるじゃない、久々にこんな大人数相手に暴れてやろうってんだからよ」


いざ革命のときや来たり!!
そんな思いを抱いて来てみれば超能力者が超ヤる気(殺る気)マンマンでした、だなんて逆に敵さんが可哀想だ。
おーい敵さーん、超逃げてー。


絹旗はこれから相手取る『敵』に酷く同情したが、
(ま、久々に全力出しきって暴れまくるのも超一興かも知れませんしね)
結論に至ると麦野と同じく幼子のように純真な歪んだ笑みを浮かべた。


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:02:45.78 ID:Ys4I/w.0<>

9/29 PM 11:48

床に無様に転がったままの一方通行は4人の『妹達』から執拗な暴行を受け続けていた。
当初一斉に銃口を向けた『妹達』であったが、嬲り殺しを望んだ木原によって戦闘形態の改訂がなされた為だ。


既に20分以上少女達によって殴り蹴られる一方通行は、しかし悲鳴も懇願も懺悔すら一切言葉にしなかった。
ただ無感情な瞳で少女達を眺め続けている。


木原はそれが気に食わない。
こうも早く壊れてしまっては、自分の痛みを何も返すことができない。


「なあ、何をしたらテメエは啼きだす?どうしたらテメエは喚き散らす?
今なら何でもリクエストを受けてやるぜ、テメエを甚振る手段のなぁ!!」


終には木原の挑発にも応じなくなった一方通行に彼の怒りは頂点に達した。
仕方がない、多少予定より早いがまあいいだろう。


「おい、このガキで遊んでやるのにオマエも参加しろ―――――最終信号」


初めて、一方通行の目に光が戻った。


「……ラ、スト……オー、ダー………?」

「うん、判る?ってミサカはミサカはあなたと対峙してみたり」



それは、希望も幸福も何も移さない漆黒の光だ。



<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:03:17.79 ID:Ys4I/w.0<>
9/29 PM 11:52

「驚いてる?下位個体じゃなくても『学習装置』でプログラミングすればミサカだって支配の対象になるんだよ、
ってミサカはミサカは懇切丁寧にあなたへと教えてあげてみたり」


金属バットのような棒状の塊を構えた打ち止めは一方通行のところどころ血に染まった身体を眺めては
初めてファミリーレストランで食事を共にしたときの様な嬉しそうな笑顔を纏った。


「あなたが一番大事にしていたこのミサカに殺されるんだもん。あなたも本望よね、ってミサカはミサカは楽しんでみる。
 でもやっぱり直ぐには殺してあーげない♪ってミサカはミサカはあなたをからかってみたり」


悪戯っ子のような顔をしてそう告げた打ち止めは
ニコニコとした笑みを携えながら一方通行へとその金属バット勢いよく振りかぶる。


「ぐ、が、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」


一方通行から初めて悲鳴が漏れた。
それが身体的な痛みによるものなのか、精神的苦痛によるものなのか、

誰にも判別が付かない。


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:03:47.14 ID:Ys4I/w.0<>
バットを叩きつけられた一方通行のわき腹は彼の白い肌をじわじわとドス黒い色へと変色させ、
見る者にその凄惨さを知らしめた。


「ハハハハッ!!面白ぇ、実に面白ぇ!!」


『最も大事とする者』に傷つけられた一方通行の姿を眺め、木原は満足そうに叫びを上げた。


「さて、ここでイイ事を一つ教えてやろう。
≪世界中に散らばった『妹達』は9月30日を迎えた瞬間、暴走する≫!
………覚えているか?9月30日、俺がテメエに『殺された』日だ。
この9月30日に全てが終わるんだよォオオオ、ハハハハハハハハッ!!!!!」


『妹達』は俺以外の身近な人間全てを出来得る限りで殺すよう設定されている、人形達に精々赦しでも乞うんだなァ。
嘲りと共に倒れ伏せる一方通行を見下ろした木原は打ち止めに次を打ち込むよう顎で指示する。


次撃を促された打ち止めは再び容赦なく一方通行へとバットを振り下ろした。


「ぐ、ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


一方通行から大きな悲鳴が上がる。
それを見た木原が大きな笑い声を上げる。
そして残された打ち止めはそんな二人を眺めにっこりと微笑む。


異常な、光景だった。


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:04:13.20 ID:Ys4I/w.0<>
9/29 PM 11:59

「さあて、0時00分まで残り1分弱。このまま何にも手を出しませんじゃ詰らねぇぜ、一方通行よォ」


再び他の『妹達』も加わり始めた『制裁』はまた一段と残酷な物になっていた。
既に下位個体たちも各々殺さない程度の武器を携え一方通行へと振り翳している。


「―――― あと30秒ォ」


木原の悪魔の様な声がカウントダウンを刻みつけた。
だがそれに反応した一方通行が木原を睨みつけるその前に、『妹達』からの攻撃が与えられる。


「―――― 残り20秒ォ」


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:06:13.92 ID:Ys4I/w.0<>
一方通行は一度大きく荒い息を吐き出すと、唇をキッと結んだ。

―――― 10

そして真正面から打ち止めを見据える。

―――― 9

それは全てを受け入れる覚悟を決めた人間の顔だった。

―――― 8

彼の決意とも取れるそんな表情を打ち止めは静かな笑顔で受け止めた。

―――― 7

「覚悟はできてるんだね、ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

―――― 6

「ンなモン、出来てるから此処まで来たんだろォが」

―――― 5

「なら、いくよ、ってミサカはミサカは宣言してみる」

―――― 4

「来やがれ、クソガキ」

―――― 3

打ち止めは。妹達は。

―――― 2

一方通行へと今度は銃口を向けて、

―――― 1

そして。


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:06:53.95 ID:Ys4I/w.0<>
9/30 AM 0:00

―――― 0
ドォォオオオオオン………









そして。
木原数多は、自身に風穴を開けた5つの銃口を見上げた。


「一体……どぉ、して……?」

「簡単なことですよ」


血を吐きながら尋ねる木原に、ペリペリと顔の表面を剥がしだした『打ち止め』はさも事無げに答えた。


「――――― 貴方以外の全てが貴方にとって『敵』だった、それだけです」

「テ、メエ……海原、光貴……!!」


木原は海原を知っている。
一方通行と同じ組織に属する者として、資料でその情報を確認したことがあった。
確かにヤツは能力以外の『何か』を使って動いていることは聞いていた。


だがそれが仮に『肉体変化』などの変装であったとして、本物の最終信号は何処にいる?


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:07:49.51 ID:Ys4I/w.0<>

「最終信号なら既にワクチンコードを組み込まれてお寝んねしてるぜ、―――半日も前にな
 まあ上位命令文を撤回させてから改めて下位個体に『芝居』の内容を伝達させるなんて無茶させたし仕方ないが」


木原の疑問は直ぐに解消された。
突如として後ろから現れた男の声によって。


「垣根、帝督……?………テメエ、……裏切ったのかああああああ!!!!!!!!」

「オイオイあんまり怒ってくれるなよ。『信用しても信頼するな』、コレ暗部の常識だぜ?」


垣根帝督は床に平伏す第一位をニヤニヤと眺めながら、木原など物ともせずに眼先へと呑気に声をかける。


「人が苦労して最終信号を『回収』してやったんだ。これで俺を『復元』した借りは無しだろ、第一位サマ?」


その言葉を右から左へ聞き流しながら心身ともに破壊し尽くした筈の一方通行までもが
ゆっくりと立ち上がってしまう。


「どういうことなんだ、どういうことなんだよチクショォオオオ!!!!」



木原の悲痛な叫びに、海原は借り物の柔和な笑みを作りながら優しく答えてやった。



「『ブレイク』に促されて『妹達』の暴走と共に学園都市内部を武力でもって破壊する『外』の傭兵を用意していたでしょう?
 彼らの潜伏先と貴方を『復元』し『ブレイク』に情報を売った人物が掴めていませんでしたし、
 貴方はボタン一つで傭兵達に計画失敗を知らせる仕組みを用意していたようなのでここまで芝居させていただきました。
居場所もメンバーも判らないまま逃げられてもなんですし。

――― 9月30日丁度に学園都市へ乗り込もうと集まっていた方々は今頃袋の鼠でしょうね。
何しろ緩められたセキュリティを乗り越えて侵入した学園都市で最初に遭遇するのが
超能力者の『原子崩し』と『座標転移』、大能力者の『窒素装甲』なんですから」




<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:08:50.13 ID:Ys4I/w.0<>



「『狂犬部隊』も『ブレイク』も、俺達『リメイク』を反学園都市の革命組織として認識していたようだが、実際は逆だ。
 『ケルビム』も、『アイテム』をも組み込んだ『リメイク』っつー大組織の正体は――――――『 統括理事会の私設部隊』。
 
 まあそれを知ってるのは理事会でも親船だけで、あとは『グループ』が全部担ってるってゆうフェイクの情報に踊らされていたわけだが」



垣根は簡単に言ってくれるが、この通告は木原にとって悪夢同然だった。


つまりは9月26日に自分と垣根が手を結んだ時点……
いや、9月21日に自分が唆して一方通行を監視させた『ブレイク』の連中を撃破した垣根に目を付けた時点で
このシナリオが決まっていたことを示唆するからだ。



「………外で見張らせてたヤツらはどうした……?……AIMジャマーがオマエらの能力を阻害していた筈だ……」



「こっちにはAIM拡散力場から能力に干渉できる超能力者が居るんでな。
 最初はその女に標準の微調整をさせながら一つ一つ潰していったが、最終的には装置をブッ壊させてもらった。
 『アイテム』の無能力者はアレでなかなか使えるヤツなんだよ」


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:10:32.95 ID:Ys4I/w.0<>
――――― 終わった。
木原はそれを何故だか不思議なほどに静かに悟った。


「………この分じゃ俺のバックに付いてたヤツも知ってるんだろ……?」

「半年前理事会入りした新入り、アルベルト・バッティスティーニ。
 ―――― 本名アルド・プラチナバーグ、動機は『一方通行と学園都市に対する兄貴の仇討ち』」


一方通行は木原からの問いに簡潔に答えると、切っていたチョーカー型電極のスイッチを静かに入れ、
感情の抜けきった瞳をそのまま木原へと向けた。


自身の二度目の『最期』を痛切に感じた木原は選別と言わんばかりに大きく声を張り上げて
血を滴らせた唇で怨嗟の呪を眼の前のクソガキへと謳ってやる。



「忘れるな一方通行、俺は何度だって戻ってくる!!
 何度だってテメエの全てを……希望を、未来を、幸福を!全て壊しに戻ってくる!!
 次は『地獄の番犬(ケルベロス)』にでもなってなァ!!ハハハハハハハ、ハハハハハハハ!!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」


一方通行はそっと木原の喉元へと右手を添えると、
その最期の哂い声を捻り潰すかのように一思いに能力を爆発させた。
肉が弾け、血が噴き上がる音がして、男の体が一瞬にして只の肉塊へと変わる。





「―――― 自分から『狗』名乗ってる時点でテメェの底なんて知れてるんだよ、クソッタレが」






やがて、一方通行の声だけが小さく響き渡った。




<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:11:44.96 ID:Ys4I/w.0<>

9/30 AM 10:22

一方通行は垣根帝督によって第七学区の病院へと預けられていた打ち止めの下を訪れた。
先程まで番外個体と共に彼女を診てくれていた冥土返しと初春飾利、そして上条当麻は
一方通行の帰還した姿を認識するなり席を外してくれた。


打ち止めは与えられたベッドの上で静かに眠っていた。
彼女の左手には包帯が厚く巻かれている。
海原が護符として使う為に彼女の皮膚を削ぎ落とした痕だ。


もし、一方通行がみすみす打ち止めを奪われたりしなければ、別の手段もいくつかあった。
少なくとも彼女をここまで危険な目に合わせることは決してなかった。


「―――――――― クソッタレ、」


今回は打ち止めの命は助かった。
だが次は?また同じ状況に陥ったとき、同じ様に上手くいく保証なんて何処にもない。
一方通行は自身へと湧きあがる怒りが抑えきれずに、唇を強く噛み締めた。


ふいに、そんな一方通行の口元へと華奢で白い手がそっと伸ばされた。


「…………自分で自分を傷つけるなんてダメだよ、ってミサカはミサカは教えてみる」


打ち止めの小さな声を耳にした途端、一方通行は年甲斐もなく泣き出しそうになった。


「―――――ごめン、ごめン打ち止め……俺の所為だ、全部、俺の所為だ………」


幼い子供のように掠れた声で謝り続ける一方通行の頭をそっと抱えて撫でた打ち止めは、
軽いイタズラでも企むかのようにウインクをしながら一方通行にこう申し出た。


「悪いと思うならミサカのお願いを一個聞いてほしいな、ってミサカはミサカは強請ってみたり」




あのね、入院中一人じゃとっても寂しいから、


<> 第一話 『部屋と一方通行とミサカ』<>saga<>2010/12/07(火) 20:12:36.05 ID:Ys4I/w.0<>







「あなたのYシャツ貸してほしいな、ってミサカはミサカはお願いしてみる!」


「―――――― あァ」








彼らは『日常』という路を、時に何かに躓きながら、それでも確かに歩き続けている。






                                                『部屋と一方通行とミサカ』(完)


<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/07(火) 20:15:00.49 ID:Ys4I/w.0<>
というわけで『部屋とYシャツとミサカ』シリーズ、第一部・完です。
前話で登場した≪謎の青年≫の正体を見事的中されたのは>>246様でした。拍手!!


>>246様の仰る通り、『第一位サマ』という呼び方は垣根のものです。
彼の『借り』については少し触れましたが今度過去編か何かで詳しく描写される予定です。
よく読むとワクチンを取りに来た時の>>229と後に打ち止めと接触した>>235の一方通行の呼び方が
『第一位サマ』で統一されているのですが、気付いた方はいましたでしょうか?


連載を意識した形で4話から続けてきた第一部ですが、
話が複雑になり過ぎて僕にも多少纏めきれなかった感が残っています。
皆さんに話のオチがきちんと伝わっているといいのですが―――まだまだ精進が足りませんね。
一方さんが何故『芝居』の中で妹達を恐れたか、など描写していない部分は多々ありますがそちらは後々に保管される予定です。


今後としては後日談,小ネタ,クリスマス,お正月,そして……という感じでいきたいです。
なんとなく打ちきり漫画の最終回みたいな終わり方になっていますが
スレ自体はまだ続く予定ですので皆様にはもう少しお付き合い願いたく思います。


それでは、一方通行さんと打ち止めちゃんに愛を込めて。


追記:名前欄が第一話になってましたね、正確には第八話です。いつも大事な所でミスります、僕という男は………

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 20:15:31.75 ID:JyF2mcAO<>乙しった!

海原……流石演技の天才やでぇ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 20:24:50.01 ID:npOIrgAO<>ミサカはミサカは−の海原か

なんて胸熱<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 20:33:06.34 ID:tU57hXQo<>……待て。
と言うことは

>>床に無様に転がったままの一方通行は4人の『妹達』から執拗な暴行を受け続けていた。

これは芝居。つまり、「そういうプレイ」だったということかっ!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 20:33:41.74 ID:kgJCHSMo<>乙
しかし、海原はやっぱり打ち止めの皮剥いだのかなあ
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 20:42:23.16 ID:cc5lGkAO<>海原はこのあと一方さんに消し炭に……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 21:34:26.55 ID:/QQlkoDO<>乙!最後すごく気持ち良かった。木原くんザマァ


だが>>1よ番外個体がまだ救われてないんじゃないか?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 21:43:19.34 ID:UD8VScEo<>Yシャツがこんないい話に…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 21:47:29.98 ID:u9fuMDg0<>Yシャツがまさかこんな形で出てくるとは…
海原さんも一緒に助けてくれたので男女平等顔面パンチくらいで許してやってください

乙!これからも楽しみだ
ていうか未来話でバトルあり恋愛ありほのぼのありとか俺得すぎてやばい<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/07(火) 21:54:03.26 ID:Ys4I/w.0<>第一部完結といたしましたが僕の書き方が悪かった所為で皆さんに消化不良を招いてしまったかもしれません。
以下それら指摘への解答と頂いたご感想への返信です。皆さんの温かいお言葉は本当励みになります。


>>268,269様
そうですね、僕も今回の主演男優賞は海原だと思ってます。
彼は前話で打ち止めの他にも『ブレイク』の幹部も演じてますし。
まあ海原光貴の声で「ミサカはミサカは〜」したらドン引きされるでしょうが。
助演男優賞はていとくんです。9月21日から9日間木原くンと騙し合いしてたわけですしね。


>>270様
「あんな残虐な真似をしなければならないなんてとても心が痛みました、とミサカはほくそ笑みます」
「なンで悪く思ってるヤツがほくそ笑むンですかァ、アァ?」
一方さんはともかく『妹達』は案外ノリノリだったかもし……いやあんな可愛い子がそんな事思うワケ……ウン。


>>271,272様
一応本編最後より1個前のレス(>>265)に
『彼女の左手には包帯が厚く巻かれている。海原が護符として使う為に彼女の皮膚を削ぎ落とした痕だ。』
という描写があります。解り辛くて申し訳ありません。


>>273様
番外個体に関しては後日談でプチヒロイン(小話のメインガール)的な感じになる予定です。
>>212様に問われた『何故番外個体には上位命令文が効かなかったのか』についてもそこで。


>>274,275様
そう言って頂けると本当嬉しいです。頑張って書いたかいがありました。
これからもどうぞお付き合いください。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 22:07:25.30 ID:rx.fxLU0<>いや逆だろ
御坂さんと同じ顔をしている相手から皮を剥いだわけだし
もう二度と皮を剥がさせないで下さいって言って一方さんにパンチを食らわすと思うけど

んで番外個体が罪悪感を抱いちゃうんだけど一方さんがテライケメンな行動を……

ここまで妄想した

とにかく>>1乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 22:17:43.36 ID:yPhbrd.o<>おもしろかったぜ!

こっから日常パートか
股間が熱くなるな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 22:29:10.41 ID:Rp1bP.M0<>乙!
毎日が楽しみだぜ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/07(火) 23:12:18.79 ID:4skg5ADO<>何がかっこよかったって
ていと君がいいキャラしてるな<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/08(水) 20:15:06.32 ID:977lB620<>ほのぼのスレを名乗っておきながらこんな展開で良いのだろうかと危惧していた第一部も
皆様に受け入れて頂けた様で嬉しいです。
レスを書いて下さった皆様、読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。

本日の更新は第一部・第八話の後日談になります。
以下投下です。<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:16:24.73 ID:977lB620<>
自販機で自身への缶コーヒーを購入した一方通行は、少し悩んで再び無難な紅茶のボタンを押した。


ナースセンターのざわめきが隣り合う特別入院患者用の病室に接する廊下は、
暖房が効いているのか他に比べて程よく暖かかった。


廊下を渡った一番奥。
隠されたように離れた場所に位置する部屋の前へとやって来た一方通行はそこで僅かに立ち止まった。
学園都市第一位と称される彼にだって、気まずいという感情くらい、ある。


顎に指をあて考える仕草を部屋の前で暫く続けていた一方通行は、
しかし何か特別なことをするでなく、普通にノックをして普通に入室することを選んだ。


部屋の戸を叩いた一方通行は先程までの優柔不断な態度とは打って変わって
部屋の主がノックに返事を返す前にズカズカと入り込んでゆく。
一度腹を括ってしまえばあとはどうとでもなれ、の精神だった。


「ちょっと、もしミサカが着替えたりしてたらどうしたワケ?」

「男が入ってる風呂場に全裸で飛び込んでくるような野郎にそんな気遣い無用だろォが」


戸を開けるなり当たり前だが文句を垂れる番外個体へと買ってきた紅茶を投げ付けた一方通行は、
了承もとらずに彼女のベッドへと腰をかける。


馴れ合いが終われば沈黙が走る。
気まずいのは、互いに同じだった。



「―――悪かったな」



切り出したのは一方通行だった。


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:16:57.28 ID:977lB620<>
「自分の不甲斐無さをオマエに当たった………悪かったな」

「―――いや、ミサカが悪いよ。あなたが結構ヤバいことしてるの知ってたクセに、おふざけが過ぎた」


最終信号が奪われなきゃ、もっと色々と穏便に済んだんでしょ?
番外個体が発する自身への嘲りは確かに最もでもあった。
だからこそ、彼女は目の前の一方通行へ、彼が此処へ来てから一度たりとも目線を合わせようしなかった。


再び、沈黙。
刻々と設置された時計だけが音を刻む中、二人は互いに口をつぐみ合い目を逸らす。


だが暫くするとそんな空気が馬鹿馬鹿しくなったのか一方通行は
溜息と共にプシュリと缶コーヒーのタブを空け、それを口に含みながら呆れたように言った。


「ったく。あのガキにしてもオマエにしても、ワケ解んねェトコで辛気臭くていけねェなァ……
ンなモン、テメェが備えてた『シート』が『セレクター』が役立った時点でチャラだろォが」


番外個体には上位命令文に対するガード機能が備えられている。
それはかつてロシアの地で破壊された学園都市から与えられた装備でなく、
彼女本人が自ら望んで再び付け加えたものだ。


「根暗とか……あなたにだけは言われたくない……。
それに『使い捨てられないために他の妹達にはないものを持つことが必要だ』って言ったのはあなたでしょ、
ミサカはそれを実行しただけだよ」

「だが方法としてその手段を選んだのはオマエ自身だ。
『暗闇の五月計画』と並べてあれを設置する痛みに耐えたのは、オマエの強さだ」


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:17:46.23 ID:977lB620<>
『シート』や『セレクター』を再び取り付けるという事は、多くの危険性と強い痛みを伴う。
ただでさえ他の妹達より著しい成長を強いられた彼女の身体は、これらの弊害からより多くの検査や調整に縛られる。
しかしそれを呑んででも、
彼女は最終信号が悪用された際に自身がブロックしたウイルスから対抗できるワクチンを造るその道を築いた。
それは、ただ自分が生き残る為の手段としてだけでなく、


「ミサカだって、ただ利用されない為だけにこうしたワケじゃないんだからね。
………ミサカは、ミサカはその、あなたの……あなたの役に……」



あなたの役に立ちたくて………



「番外個体ー、見舞い来たー。どうだ体調ー?」


続けようとした言葉は、空気の読めない英雄によって遮られた。


「〜〜〜っ、ミサカは!ミサカはあなたをヒーローだなんて認めないんだからね、上条当麻ぁ!」


―――番外個体のヤツ、どうしたんだ?
―――複雑な年頃なんじゃねェ?


男って奴は、本当にバカだ。



<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:18:13.48 ID:977lB620<>
さて。
先程から病院内をウロウロと歩き回るっている一方通行であるが、
演技とはいえ木原に不信感を抱かれないレベルの暴行を長時間に渡って受けた彼もまた
立派な入院患者である。


持ち前のベクトル操作で傷の回復を促してはいるが、まだまだ検診も安静も必要とする身だ。
出歩いていることがバレてあのカエル医者に口煩く小言を言われる前に戻ろうと
(十中八九あのカエルは何処からかそれを嗅ぎ付けているだろうことを知りながら)
一方通行が自身に宛がわれた病室へと向かえば、
しかし個室である筈の彼の部屋から何やら騒がしい声が男女両方複数聴こえる。


―――あの声、


打ち止めのように幼さを残したものでも、先刻聞いた上条のものでもない。
―――俺が入院してることを知っている人間なンて数限られている筈なンだが………
そう思いつつも扉を開ければ、案の定というかやはりというか、彼の『同僚』が顔を連ならせていた。


―――イヤイヤ。揃ってこンなとこいちゃァマズいだろ、俺ら一応暗部だし。表向きには敵対組織だし。


学園都市入門ゲート前に集まった1000以上の傭兵を片っ端から薙ぎ倒すという
超能力者や大能力者の派手な交戦の情報隠蔽に追われている結標や土御門は流石にいなかったが、
麦野や垣根まで居合わせているのは問題だ。
というか何しに来たんだコイツら。


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:19:01.40 ID:977lB620<>
不機嫌な一方通行の表情を見抜いたかすかさずフォローを入れた海原は
皆さんお見舞いに来てくださったんですよ、と明らかな嘘を並べ立てる。
(コイツらがそんなことの為にわざわざ来るはずない。大方嫌味を言いに来たか、からかいに来たかのいずれかだ)


「つーか、俺が入院までする嵌めになった理由の半分以上が勢い良く振るってきやがったオマエのバットだったんだけどな」


「え?だって『全て受け止めるぜ、俺!』みたいな顔してたじゃないですか、
心なしか恍惚とた表情してたじゃないですか。
 てっきり僕は『あー、一方通行さんて実はドSじゃなくてドMだったんだー』って………そげぶ!!」


取り敢えず何だかムカついたので海原の顎へとアッパーカットを喰らわせておく。
しかしそれを受けてなお顎を摩りながらゆらりと立ち上がる海原は、今日は一段とウザい。


「ふ、ふふふ………良いんですか一方通行さん、僕にそんな真似をして………」


真似をしたらどうだって言うンですか、この変装野郎。


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:19:53.97 ID:977lB620<>
「一方通行さん、貴方、同じ学校に勤める黄泉川さんに心配かけたくないからって
自分の皮剥いで僕に講師やらせましたよね………
そのとき彼女に言われたんですよ『何時になったら約束果たしてくれるんだ』、って」

「テ、テメェまさか……!!」

「何のことかと思って聞き返せば………
一方通行さん、初めての酒の席で酔っ払ってやった宴会芸をまた見せる条件で
黄泉川さんに講師の席に捩込んでもらったそうですね……」

「海原止めろ、言うな!!!」

「『百合子ちゃん』―――でしたっけ?」


その瞬間、一方通行の白い肌が一気に赤面する。
何やらノイズが乱れたような言葉を一人モゴモゴと発しているが誰ひとり気にせ
ずに『百合子ちゃんコール』を連発している。


「「「ゆーりこちゃんっ!それ、ゆーりこちゃんっ!」」」


海原、垣根、麦野あとで殺す。


「ハ、ハハ……残念だったな俺ァ女装用の服なンて持ち合わせてねェぞ!!
持ってねェことには出来ねェし仕方ねェよなァ!!」


よっしゃあァァァァ!!!!勝ったァァァ………


「―――もってるよ、ナース服なら」


滝壷ォォォォォオオオオ!!!!!
オマエだけはまともだと信じてたのにィィィィ!!!!


「浜面がバニー好きだから、あくせられーたが喜ぶかと思って。看護婦さんに借りてきた」


………それは女が着るから喜ぶんであって、自分で着て喜ぶ野郎なんていねェ。


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:20:32.54 ID:977lB620<>
「丁度いいじゃねぇか、着ろよ第一位」

「誰がテメェの尻拭いしてやったと思ってるんだ第一位」

「僕がどんな思いでちっこい御坂さんの皮剥いだか解りますか第一位」


着ーろ、着ーろと今度は続く『着替えろコール』に一方通行はぐぅの音も出ない。
認めるのは釈だが世話になったのも事実だ。


「だーもォ、着替えりゃいいンだろ着替えりゃァ!!」


こうなりゃヤケだ。
ベッドに備え付けられたカーテンを引いて閉じた一方通行は早くしろだの逃げんなよだのといった
野次を尻目に仕方なく服を脱ぐ。
つーかこの状況下で逃げられるワケねェだろ。


見事ナース服へと早変わりした一方通行は、身に余る程の盛大な屈辱に半分理性がブッ飛んでいた。


「これでいいンだろォ!!!」


乱暴にカーテンを開いていっそのことウインクの一つでも決めてやろうかとした一方通行の前には、
しかし学園都市第一位の頭脳を持ってしても予期せぬ光景しか広がっていなかった。


「だ、大丈夫!あなたの趣味が女の子の格好することだったとしてもミサカとあなたの関係は変わらないよ!!
ってミサカはミサカは動揺を隠しながらフォローしてみたり!!」




やはり幻想殺しの効能には、『不幸を移す』が含まれていたらしい。


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:21:33.71 ID:977lB620<>
「い、いや打ち止め、これは違……」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!え、マジ!?マジでそーゆー趣味だったの?
道理でミサカのナイスバディにも勃たないワケだ」


「ゴメン、お前の見舞い来たら廊下で鉢合わたから連れて来ちゃったホントにゴメン」


番外個体テメェ、さっき折角人が励ましてやったってのに。
上条も余計なことしやがって覚えてろ。


「ぎゃはは!一番知られたくないヤツに秘密の趣味知られちゃって残念だったわねー」


オマエらが着せたんだろォが、麦野。


(てゆーか麦野あんなこと言っちゃって良いんですかね)

(え、なんで?)


なんでじゃねェよ馬面。あとチビガキは良く言った。


(いや、『アイテム』の役目は上層部の暴走阻止じゃないですか。
プラチナバーグが計画を始めた段階で私達が潰してればそもそもこんな事件、超ありえなかったんですが………)

(―――つまりむぎのは、あくせられーたに責任全部押し付けようとしてる)

(え、それヤベエじゃん黙ってよ!!)


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:22:10.94 ID:977lB620<>
「『黙ってよ!』じゃねェよ馬面ァ!!なンか今聞き捨てならねェモンが聞こえたぞォ!?」



―――麦野テメェェェエ!!!

―――騙される方が馬鹿なんだよバーカ。

―――やっぱテメエに第一位の素質なかったんだよ、ここはこの俺が……

―――黙れこの糞メルヘン。

―――もお、あなた落ち着いて!ミサカはあなたのどんな姿も受け入れるからってミサカはミサカは………

―――だから違ェつってんだろクソガキ!

―――きゃはは、自分勝手な展開にミサカの方が勃っちゃいそう!

―――女の子がそんな下品な言葉遣っちゃいけません、上条さん許しませんよ!



「うるせぇぇえぇえぇ!!!!ココ何処だと思ってる病室だぞ!!」

「「「「あ。スイマセン、ナース長」」」」


<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:23:36.88 ID:977lB620<>

面会時間の超過を建前に騒がしい奴らを帰した一方通行は、院内の一角にある携
帯電話使用エリアにいた。












『―――まさか、これで終わると思ったか?ローマ正教とロシア成教に潜伏していたショチトルとトチトリから報告が入った……
 どうやら今回の一件で《アレイスター・クロウリーの死去》が魔術サイドにも露見したらしい。
 各宗派の上層部は流石にとうに気づいてたろうが、反科学意識の強い一部の魔術師は直ぐにとはいかなくても近い内に必ず攻めて来る』




「ンなこと判ってる。……だが《魔術》に関してはテメェや海原の管轄じゃなかったか、土御門ォ?」




『ただ魔術師が降りて来るだけならな。
 ―――ミサカネットワークを利用した《妹達》の暴走を機具して全個体を隠密に処理しようとする動きもある。
 あれだけの数のクローンが世界中に散らばってるんだ、魔術師の中にだってその存在に気づいてる奴がいたっておかしくない。
 ………解るな?今回のようなミスは、二度と許されないぞ』






「…………解ってる」



<> 第九話 『部屋と後日談とミサカ』<>saga<>2010/12/08(水) 20:24:25.71 ID:977lB620<>

一方通行の答えはそれだけだった。
震える指を無理矢理動かしてなんとか携帯の電源を落とす。



彼は畏れていた。
木原の一件。
妹達からの暴行を受けた際、演技だと判っていた筈の彼は漠然とした恐怖を感じた。



妹達が自分を責め立てること以上に、
やっと人間らしい感情を手に入れた彼女達がそれらを全て失くしてしまうことを。
自分の目の前で彼女達を亡くしてしまうことを。
一番小さなあの少女の笑顔が、消えてしまうことを。







「………失ってたまるかよ………亡くして、たまるかよ………」







ああ、この世界は何処まで絶望に満ちているというのだ。



彼らの絶望を刻み込み、物語は、新たな幕を開ける。






                                              『部屋と後日談とミサカ』(完)

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/08(水) 20:32:26.90 ID:977lB620<>というわけで後日談でした。

>>273様、
番外個体はちゃんと救われたでしょうか?
>>276での宣言通り一応プチヒロイン化したつもりなのですが……

今回のおはなしは諸事情により全編ケータイ作成という無謀な方法で書かれたために
改行が多少おかしくなっていたりするかもしれません。ご了承ください。
また、>>277様のアイデアを採用させていただき海原の軽い復讐を取り入れてみました。
皆様のコメントがどんどんネタを築いていきます。本当にお言葉が頂けると嬉しいです。

最後に第2部への兆しが少し見え隠れしましたが、
第2部は土御門の言う通り『直ぐにとはいかなくても近い内に必ず来る』お話です。
暫くはほのぼの路線が続くと思います(伏線立てがココにしか入れられなかったのです)。

クリスマスは時期的に丁度いいので書きたいのですが、
他に何か『この人』や『このシチュエーション』というネタがございましたら宜しければご提供ください。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 20:39:15.12 ID:0RWP6Qo0<>乙!GJ!ニヤニヤした!これからも楽しみだ

クリスマスネタ…だと…これまた期待せざるをえない
とりあえず打ち止めが可愛ければおkじゃん?
あとインデックスさんもまた出てきてくれたら個人的にとても嬉しいですハイ
未来の話だけどインデックスの成長した姿がイマイチ想像出来ない・・・<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 20:46:20.51 ID:P8panIAO<>>>294
つローラ+銀髪<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 20:55:23.27 ID:X.sJPwAO<>滝壺かわいいよ滝壺<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 20:57:29.38 ID:DlmdR4w0<>乙

まさか自分の妄想を話に入れてくれると思わなかった
凄く良かったっす!

クリスマスはやっぱり番外通行止めでほのぼのとかどうでしょう?
途中で上条組や浜面組などと会ったりしたりとか
んで夜は黄泉川と芳川を入れて5人でわいわいすればいいと思う
黄泉川と芳川って酒癖が悪そうってイメージがあるんで酔った二人が一方さんに絡んで
一方「おィ、ちょやめっ「「…何してんの?」」!?」みたいなこ……

すまん、妄想が膨らみすぎてやばくなった自重する。すまん<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 21:10:34.61 ID:d0iZX2Uo<>とりあえず、黄泉川に約束を果たす百合……一方さんが見たいです。

ミニスカサンタ辺りで……すまんかった。

上条サンタ、浜面サンタと鉢合わせる一方サンタとか。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 21:16:03.33 ID:SPwC1YAO<>木原クンやカッキーが復活したなら

駒場さんも蘇れるんじゃ!?

駒場さんは一方さんと境遇似てたから絡めれるし、浜面も動かせる。

上条はインデックスを巻き込めば……



駄目だ、ほのぼのしねェ!シリアスまっしぐらじゃねェか!



乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 22:05:16.57 ID:FRe.QcDO<>>>1乙!

番外個体は良かったよ!まぁただあのタイミングで入ってきた上条さんは一度本気で殴りたい。お陰で番外個体のデレが中途半端じゃないか。

あとフレンダが居ないのが地味につらいな…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 01:16:00.20 ID:5QTVlmY0<>ずっと待ち焦がれてたんだろ、こんな展開を!どろどろした昼ドラ展開じゃねえ!
血と絶望の殺伐とした戦闘じゃねえ!他の何者でもなく!他の何物でもなく!
テメエのその手で、一方通行の役に立つって誓ったんじゃねえのかよ!
ずっとずっと彼女になりたかったんだろ!お姉さまみてえに上位個体みてえに、
Tシャツめぐってテンパっちゃうような、オンナノコになりたかったんだろ!
だったらそれは全然終わってねえ!! 始まってすらいねえ!!
ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねえよ!!
――手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、番外個体!
ようするに捏造未来ほのぼのストーリーがもっと読みたいです!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 01:46:44.32 ID:Aily3sDO<>打ち止め「Tシャツになってるよ?てミサカはミサカは指摘してみる」

一方「こまけェこたァいいんだよ」<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 02:01:21.66 ID:hWLIyhQo<>Tシャツだとなんか変態チックだな

番外個体らしい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 02:26:00.62 ID:KGqVd7Uo<>>>301>>302
この流れ、見た瞬間爆笑したwwwwww
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 15:46:08.70 ID:2vfJ/XU0<>一方さんの嫉妬見てみたいな<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/09(木) 20:00:04.61 ID:key1KXU0<>クリスマスのお話は長くなるでしょうし時間があるときに書きたいと思います。
>>294様,>>297様,>>298様、是非ネタとして使わせていただきますね。

>>299様,>>300様
話の構成的に生存した状態での登場は難しいかと思われますので、
浜面やアイテム視点の彼らに纏わるお話を何処か丁度いいところで書かせて頂きたく思います。
彼らはこのスレッドに登場しているキャラクターに大きな影響を与える人物達ですので、心の糧として力強く描きたいです。


では以下は本日の投下分です。小ネタなので短めですが御了承下さい。<> 【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達<>saga<>2010/12/09(木) 20:01:11.13 ID:key1KXU0<>

第七学区の病院に現在絶賛入院中の打ち止めが
同じく現在入院中である一方通行の病室を訪れると、そこにあったのは実に奇妙な光景だった。



「 何 し て る の か な って、ミサカはミサカは湧きあがる怒りを抑えながら番外個体に質問してみたり」


「何ってわかんないの?あの人のTシャツ盗んでたんだよ」



部屋に合った影は尋ねた彼の者ではなく、
自分と同じようにミサカネットワークから流されたウイルスの影響から
入院し調整を受けている番外個体の姿であった。



「何とか堂々と言ってんの!?どうせ疚しい事に使うつもりなんでしょ返しなさい!
 ってミサカはミサカはあなたがミサカと同じDNAを持つことを証拠に掲げながら叫んでみたり!!」


「『やましい事』じゃなくて『やらしい事』に使おうとしてたんだよ、より正確に言うならオn……」


「教育的指導ォォオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!」


<> 【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達<>saga<>2010/12/09(木) 20:01:43.63 ID:key1KXU0<>
打ち止めの華麗なドロップキックが番外個体の身体に向かい吸い込まれるように流れてくるが
それを優雅に避けながらフフン、と口元を歪めた番外個体は対峙する彼女を嘲笑う。



「てゆーか?その言い分じゃ最終信号は疚しい事に使ってたワケだ、あの人のYシャツを。
 ならミサカが此処から持ってこうとしているこのTシャツをどう使ったって責められないよねぇ!!」


「ち、違うもん!!
ミサカは厭らしいあなたと違って精々クンカクンカする位だもん、一緒にしないで!!ってミサカはミサカは……」


「それだって十分変態チックじゃん匂いフェチですかぁ?あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
 ならミサカの方が健康的でしょ、自然の摂理だし誰だってやるもんね自i……」


「だからハッキリ言うなって言ってんでしょォオォオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
なんでこーゆー個体に限って上位命令文が通用しないのさ使えないなあ!!
ってミサカはミサカは憤慨してみるコンニャロォォォォオ!!!!!!!!!!!」



<> 【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達<>saga<>2010/12/09(木) 20:02:24.13 ID:key1KXU0<>




『寄越せよあの人のTシャツ!!ってミサカはミサカは……』

『出たな本性!やっぱり最終信号も狙ってたんじゃん、もうYシャツ貰ってるくせに!!』



ワーギャーワーギャーと己の部屋から聞こえてくる少女達の、
しかし年頃の乙女とは思えない単語が並びまくった会話にそっと聞き耳を立てていた一方通行は
今の状態で自身が部屋に戻った場合どうなるかのシミュレーションを重ねていた。


あんなことを聞いてしまった以上もうYシャツもTシャツも返してほしいものだが、
全部聞いてましたなんて言いながら部屋へズケズケと立ち入るのも何処か気まずいものがある。
此処は彼に宛がわれた病室なのだが。



さて、どうしたものか。



<> 【小ネタ】 部屋とTシャツとミサカ達<>saga<>2010/12/09(木) 20:03:46.30 ID:key1KXU0<>



『だってだって!!Tシャツの方が汗とか色々ついてそうだもん嗅ぎたいもん!
ってミサカはミサカは心中を吐露してみる!』


『ならミサカだって絶頂の瞬間を……』


『黙れェェェェエエエエエエ!!!!!!!!!!』





少女達の喧嘩はまだまだ決着が付きそうにない。
禁煙家の妻の命令でベランダ族となった夫のように居場所を失ってしまった一方通行は、


(…………仕方ねェ、とりあえずあのガキにやったYシャツ洗濯してこよ)


取り敢えず、
あの少女の変な性癖を少しでも改善させるべく自分の荷物から匂いを消すことを選ぶことにして売店へ向かう。


(どこで育て方間違えたかねェ、本当に―――――)




「すいませン。洗剤とファブリーズ下さい」




一方通行の苦悩はまだまだ続く。


                                      
                                        『部屋とTシャツとミサカ達』(完)


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/09(木) 20:08:54.08 ID:key1KXU0<>今回の小ネタは>>301様,>>302様,>>303様の一連の流れから作成されました。ありがとうございます。

ここ最近まるまる一話分を連続して更新していたので、学業の方の時間を確保すべく暫く小ネタとなると思います。
日曜日には時間ができると思いますので長いものを投下できればと考えております。
申し訳ございません。

私事ですが霊能パロとかも書いてみたいです。
ゴーストハントの影響なのでしょうが可愛らしい関西弁で「安生可愛がってください」とかいう一方さんが夢に出てきて困ります。
………選べるならロシアの10777号に出てきてほしいです、ハイ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 20:20:34.75 ID:auQQzwE0<>おつ

駄目だこの打ち止め、とあるキャラの性格に酷似しすぎて笑ってしまうwww
凄く良かった<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/09(木) 21:15:03.40 ID:Aily3sDO<>>>1乙!

まさか使われるとは思わなかったのですごく嬉しい!
今後も楽しみにしてます!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 21:26:21.03 ID:5QTVlmY0<>こういうのが読みたかった
マジ乙です
勉強頑張ってください<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 21:37:33.14 ID:ABHD8wDO<>>>312
く○この教育を受けた打ち止めか…
アリだな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 23:07:07.98 ID:CZks7fEo<>これはひどいwwwww
シリアルもギャグもいけるなんて素敵ね!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 23:33:37.11 ID:5QTVlmY0<>いまさらだけど、部屋とYシャツと私ということは・・・
一方通行さんあんたの娘ヤンデレールガンにあbbbbbbbb<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 00:07:43.07 ID:LH3qeXIo<>叫ぶ打ち止めが可愛すぎて生きるのが辛い<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 03:44:23.58 ID:YoMZtZMo<>一通さんがファブリーズを店頭で買う姿を想像すると笑える<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 19:45:24.02 ID:5NyNc5.o<>ミサワ肉体年齢いくつだよ<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/10(金) 20:17:38.04 ID:Bn4aMxI0<>打ち止めと番外通行にヒドい性癖を持たせてしまって本当に申し訳ありません。
でもここのスレでは美琴嬢もかなりの妄想壁に育っているのでアリだと僕は思いま……美琴嬢がダメなのか?アレ?

それでは以下は本日分の投下になります。
クリスマス前のお話ですが第一部の9月30日から12月までは大分期間が開くので
扱いはあくまで≪番外編≫ということでお願いします。<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:18:54.68 ID:Bn4aMxI0<>

「……はァ?男ォ?」

「そうそう。打ち止めにも父親離れの時期がきたじゃんよ、きっと」


臨時講師として与えられた職員室の机の前で、
一方通行は仕事とは何ら関係のない私用バリバリの素っ頓狂な声を上げていた。


彼を『父親』と称したのは黄泉川で、
長い付き合いのある人間にしか分からない程度に複雑そうに顔を歪めた一方通行を眺めながらニヤニヤと笑っていた。


表現としてはいざこざを持ち込んだ、よりは素直に可愛い息子を弄って愉しんでいるといった方が近い。


「ウチのクラスの男子にね、打ち止めと同じ部活のやつがいて……なんか最近見かける度に二人で仲睦まじくしてるじゃん」


黄泉川の受け持つクラスの生徒ということは3年生、打ち止めの1つ先輩になる。
同じ部活のヤツなら見かければ挨拶くらいしてもおかしくはないのだが、
黄泉川がネタとして引っ張り出してくるレベルの信憑性はあるのだろう。


別にあのガキがどんな野郎とどんな関係になったところで構わないが
打ち止めの健全な成長を見届ける義務を持つ自分としては、これは色々と調べざるを得ないかもしれない。


フリーズしたように黙りこんだ一方通行を
その学園都市第一位の頭脳で有る事無い事考えているのだろうと判断した黄泉川は、
プクプクと笑いを堪えながら彼に押し出すにして助言をしてやることにした。


「気になるなら自分で調べてみるじゃんよ。あ、でも暴力沙汰はナシな」




その日から、一方通行による一人の男子学生に関する調査が始まった。



<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:19:36.38 ID:Bn4aMxI0<>

観察初日。
取り敢えず、黄泉川のクラスで授業する際にソイツを観察することにする。


結論は何処にでもいるようなフツーの奴。
誰とでもそれなりに付き合えて、くだらない雑談に華を咲かす。
学校に通った経験の殆どない一方通行でも分かるほどに極一般的な男子高校生だった。


打ち止めは彼女が生まれたその瞬間から自身も周りの環境も複雑な立場にあった少女だ。
『誰か』を選ぶのにそんな暗い世界とは一切関係のない、
陽射しの下で暮らす男を望んだとしてもおかしくないのかもしれない。


一応は、もう暫く観察を続けることにする。



<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:20:13.87 ID:Bn4aMxI0<>

観察3日目。
黄泉川の言っていた通りの、廊下で暖かな雰囲気を纏いながら会話をする二人を見つけた。


声をかけるか迷ったが邪魔をするのも悪いかも知れないと感じた一方通行だが、
自分がアクションを起こす前にアチラに先に気づかれてしまった。


彼を見つけた打ち止めは焦ったようにアワアワとしながらこちらに取り繕うようにして
「ち、違うんだよコレは!?」と叫んでいた。
隠すことはないのに。


結構ギリギリな時間だったので授業までには教室に戻れよと告げれば
何故だか淋しそうに「うん……」と言われたことだけが、何か引っ掻かった。



<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:20:46.90 ID:Bn4aMxI0<>

観察5日目。
あの男が別の女と歩いているところを見かける。


打ち止めと奴が何処までの関係を築いているのか定かではないので何とも言えないが、
男が女に接する態度が何か気にかかる。


真っ昼間の学校で、慣れた手つきで派手に化粧で彩られた女の腰を抱き卑下た笑みを浮かべている。
これが夜の街ならこのままホテルへなだれ込むんでもおかしくはない雰囲気だった。


打ち止めと話しているときやクラスメイトと談笑しているときとは明らかに違う男の顔つきに、
何か嫌な物を感じた。



<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:21:18.50 ID:Bn4aMxI0<>

帰宅した一方通行が女の意見も聞くべきなのかと番外個体へ相談を持ち掛ければ、
あろうことかこのアマは真剣なこちらに対しわひゃわひゃと何がツボに入ったのか床を転がる程に笑い上げてくれた。


「あー、あー、最終信号も可哀想に。これは流石のミサカも同情するよぉ!」


番外個体の反応を見るに、打ち止めがあの男に好意を抱いているのは間違いないのだろう。
やはりそんな男が他の女に手を出しているというのは不快なものだ。


素直に感じたままを言えば、余計番外個体に馬鹿にされた。
核心を突かず何でも遠まわしに言ってくる鼻についた嘲笑が非常にムカついた。


女心が解っていないと散々言われたがそればかりはどうしようもない。
そもそもまともな心根を持つ女が、俺の周りにはいない。


「仕方ない、なら馬鹿なあなたにミサカが最も単純な方法を教えてあげよう」


上から目線にイラっときたが此処は大人しく我慢する。
何せ相手は生まれてまだ6年、心は立派な6歳児だ。ここは大人な対応を見せねば。


「その男をあなたが誘惑して引っかかるか引っかからないか、それだけだよ」




――――― 全世界の6歳児は滅びればいい、そう思った瞬間だった。


<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:21:55.96 ID:Bn4aMxI0<>

日曜日。
番外個体の服を人形のように着せられた俺は無理矢理あの男の家の付近へと連れて来られた。


このやたらフリル満載のいかにも少女趣味な服装は御坂美鈴がたまには路線の違う物をと番外個体へ買い与えたもので、
自分は滅多に着ないくせに


「あんまり着なくてもお母様に悪いでしょ、こういう時に活用しなきゃ!」


とさも愉快そうに電極対策を施した俺へと着飾りやがった。
ご丁寧にいつの間にか地毛と同系色のウィッグまで用意されているのに腹が立つ。
オイ、カメラ構えんなクソが。


現在午前11時26分、ターゲットは一向に現れない……なんて考えている俺も結構ノリノリなのは気にしないことにする。
きっとコイツに汚染されただけだ。
以上蛇足。


「いやー、化粧も我ながらいい出来だね。お礼はフレンチのディナーでいいよ」


隣でシャッターを切り続ける番外個体に非常に腹が立つ。
というか……


「おィ、オマエが着いてくンなら俺ァこンな格好する必要なかったンじゃねェか」

「何を今更。―――それよりホラ、ターゲット出てきたよターゲット」



<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:23:07.21 ID:Bn4aMxI0<>

例の男はコンビニか何かの近所にちょっと出てきます、
といった位のサイフをジーンズの尻ポケットにねじ込んだ軽装でケータイを片手に自宅から出てきた。


マジにこの格好で声かけるのか。そりゃあ声くらい能力使えば変えられるだろォがよ……
いざやれと言われると急に物怖じしてしまう。
それはそうだ、『声かけてきた女装野郎は実は学校の先生でした』なんてバレたら大恥だ。


(ちくしょう、やっぱ頼み込んででも番外個体にっ……!!)


離れた電柱の陰からニヤニヤとこちらを見遣る番外個体の下へ戻ろうと一方通行が踵を返すと、
急に男の携帯から着信音が流れ始めた。
どうやら電話らしい。
男がそれを耳に当て何やら話し始めたのでそのまま足を進め聞き耳を立てる。


男は暫くグラビアだのAVだの下劣で下らない話しを白昼堂々していたものだが、
ふいに聞き捨てならない言葉が一方通行の耳を突いた。


「ああ、この前言ってたガキ?ガードは一丁前に固ぇが中々上玉だぜ、
 ………ええー、いいじゃん付き合えよ。この前女紹介してやっただろぉが、
 偶には3Pとか変わり種もヤりてぇんだよ。噂じゃあの『超電磁砲』の妹だっていうから話題性もあるし、お前にも箔が付くぜ?」


この前のガキ。
変わり種。
『超電磁砲』の妹。




一方通行の中で、何かがブチ切れる音がした。




<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:23:45.22 ID:Bn4aMxI0<>


「あのー。お兄さん、ちょっと宜しいですか?」


友人との会話に夢中になっていた男が
後ろからかけられた声に会話を妨げられたことで不機嫌そうに振り返ると、
そこには白髪・色白・細身の3拍子揃った美女が男の反応を待っていた。


「ちょっと探し物をしているんです、良かったら手伝って頂けません?」


適当に手伝った後遊んでやるのも良いかもしれない。
そう感じた男は美女の言うことを呑んでやることにした。


「良いですよ、何探せばいいんです?」


男が尋ねると、


「楽な話だ、女にホイホイ手ェ出してるクソッタレな男を捜してんだよォ」


口調どころか声までガラリと変わった女は、
一瞬でこれまでの柔和な表情から狂気すら垣間見えるような形相へと一変していた。


「いいぜェ。オマエが人ン家のクソガキに簡単に手を出すってンなら、まずはその汚ねェ汚物をブチ殺してやるよォ」


次の瞬間。
目にも捉えられない猛スピードでもって女の脚が男の股間へと伸びて来て、そして―――――





この世から、男が一人消えた。




<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:24:29.64 ID:Bn4aMxI0<>




「なあ一方通行、この前言ってた男子学生の話知ってるじゃん?」


週末明けのかったるい朝。
臨時講師として与えられた職員室の机の前で、一方通行は現在『同僚』である黄泉川愛穂に声をかけられた。


「何だか通り魔に酷いケガさせられたって………まさか一方通行じゃないじゃんね?」

「あァ?犯人の通り魔は女って話だろォが」


一方通行が否定を返せば、ああ良かったと黄泉川は安堵の溜息を吐いてボソリと呟いた。


「いやー、この前の話真に受けてヤバいことしてないか心配しちゃって」

「はァ?」


聞かれていたことにヤバい!と顔を青ざめた黄泉川は何やら口をモゴモゴさせて言い訳を吐いている。


「おィ、話せ」


しかし一方通行が昨日と同様、凄味の効きすぎた笑顔で
「仕返しにテメェの旦那に有る事無い事吹き込むぞ」と脅すと脅せば
彼女は「それはイカん!!」とブンブンと首を振って彼の顔色を窺うようにしてバラし始めた。


「いや……打ち止めのヤツ、アイツの持ってたモノクロ系の小物が良いセンスしてたから色々教わってるって言ってて……
 おもしろそうだからちょ〜っと一方通行を弄ってやろうかと、ね」


「………モノクロの、……小物?」


「いやクリスマス近いじゃん?だから多分プレゼント用にだと思うんだけど……」


<> ≪番外編≫ 部屋と嫉妬と一方通行<>saga<>2010/12/10(金) 20:25:20.43 ID:Bn4aMxI0<>

そうか、そうだったのか。
打ち止めはあの最低野郎に好意を抱いていたのではなかったのか。


もし打ち止めが本気であの男を好いていて、
その彼女があの男の本性を知ってしまったりしたらそれがどれだけ残酷であるか。
それくらいは一方通行にも理解できた。


「そうか……なら良かった」


「お!『良かった』ってことはやっぱり一方通行も実は嫉妬しt ―――――」


「でも一体ンなモンどの野郎に渡そうってんだ?
 今回の件があった以上何処の馬の骨とも知らねェ奴には簡単に預けらンねェぞォ……?」


「      」



彼が打ち止めの真意を知るクリスマスの日まで、あともう少し。




                                    『部屋と嫉妬と一方通行』(完)
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 20:32:38.91 ID:tk4q0MAO<>Oh……
俺の愚息がひゅんとなったぜ……<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/10(金) 20:33:46.93 ID:Bn4aMxI0<>本日の更新は>>305様のアイデアをお借りしました。ありがとうございます。

というわけで番外編、クリスマスシーズン突入です。
イヴのお話が日曜投下くらいになるでしょうか。
何回か小分けされてクリスマスネタは続きますので、宜しければアイデアのご提供をお願いします。

あ。ところで>>320様、
こちらは6年後の設定になっているので番外個体の肉体年齢はおおよそ一方さんと同じくらいを想定しています。
精神年齢は肉体年齢と製造年を往来していたりするのですが(小学生レベルの下ネタを持ち出したり態度をとったり)。
他の妹達も大体そんな感じですが、
『同年代』として接してくる人間は外見年齢に合わせた方々なので環境に慣れるうちに見た目相応の心が宿ってきています。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 20:36:08.37 ID:E9QSkbY0<>乙!
嫉妬ありがとう!!!ニヤニヤがとまらねぇ
しかし女装までするとはなwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/10(金) 20:58:03.75 ID:aoPfOrA0<>もっと番外通行成分をだな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 21:14:43.88 ID:cQxNEHM0<>もっと番外通行止め成分をだな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 22:42:45.87 ID:zYxz6dY0<>ばっかお前らここはもっと通行止め成分を要求するところだろ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 22:48:07.91 ID:4x13fGwo<>いっそ番外止めをww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 22:56:25.07 ID:yBrKskso<>>>338
いい事言ったな!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 22:59:21.57 ID:9fPaimwo<>番外止め! そういうのもあるのか!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:13:56.68 ID:nQcpP/Ao<>なんと斬新な<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:14:56.90 ID:cQxNEHM0<>誰得w<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:44:20.46 ID:0bGa6Ogo<>わたくし得ですの!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:46:13.71 ID:9fPaimwo<>>>343
テレポーターは黙ってろwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:56:18.23 ID:4x13fGwo<>別に百合じゃなくてもいいだろ…
個人的に仲良く喧嘩してて欲しい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:22:17.62 ID:WznZB1U0<>仲良く一方さん飲みかけコーヒーを巡って喧嘩してほしいww
できれば通行止め成分が欲しいが
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:26:59.83 ID:Y/BSz0Io<>黒子が美琴病を発病することなく普通に頼れる良いお姉さんしてくれるような話とかみてみたい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:33:07.57 ID:qFMZMNIo<>>>347
そげぶ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/11(土) 00:39:38.58 ID:phwMwKs0<>>>1乙
打ち止めが報われない…
なんか泣けてきたZE
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:46:56.49 ID:sg6yJOI0<>>>348
そげぶ

お姉さん黒子良いじゃん<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 01:30:54.23 ID:7NCFyTM0<>皆仲良ければそれでいいよ
ちょっとばかり変態や不幸がついてまわってもいい
クリスマスに魔術サイドがサンタさんと称して変人送り込んだり
一方通行や上条が女性達に弄ばれたり
そういう一日終わったあと、「ああ、今日もいつもどおりだったな」と安らかに眠れるような話なら
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 02:13:11.40 ID:LTUJWoAO<>このスレの通行止めの距離感が俺の理想すぎてたまらヌェー!!!
お陰様で毎日が楽しいです、ありがとう>>1<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 06:59:56.76 ID:TQ0x5MAO<>打ち止めがテストで赤点取りそうで一方さんが教えてやる事になったから
暇な番外個体が意地悪な問題とか出して困らせる

とか<> e<>eee<>2010/12/11(土) 07:39:42.66 ID:YtgbExk0<>1おつっす<> sage<><>2010/12/11(土) 15:07:31.94 ID:dUtKnu60<>クリスマス話はやっぱり通行止め成分欲しいなぁ。。
とにかく1おつ!!更新超楽しみにしてる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 10:17:50.77 ID:73DzRZM0<>やっぱりここは通行止め成分をだな…
ていうか打ち止めに報われてほしいかな

勘違いやら歯がゆい思いをしまくった挙句その内一方さんが
打ち止めの気持ちに気づいてくれればいいんだけどね<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 10:53:34.34 ID:DvnfN4Q0<>1乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 14:04:18.13 ID:yUf78lMo<>ただ普通に一方さんと愉快な家族でいいとも思うけどね。<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/12(日) 20:24:16.39 ID:xgz85eY0<>昨日は更新ができず申し訳ありませんでした。
母に都会のイルミネーションが見たいと言われて連れて行ったのはいいのですが……
周りはカップルだらけ、僕の隣にいる女の子は齢50歳、渋滞に巻き込まれSSは書けず、夕食はもうすぐ誕生日だから奢れと言われ、
――――散々な一日でした。

そんなこんなでクリスマスネタが未だ書けていません。本当に申し訳ありません。
今日も諸事情によりあまり書く時間が取れなかったので取り敢えず金曜に書いたネタを投下します。<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:25:32.44 ID:xgz85eY0<>

とある休日の午後。
打ち止めは、葛藤していた。



休みだからと昼まで寝過ごした打ち止めと一方通行は
ブランチというには遅すぎる食事を摂ったあと話の成り行きでなんとなく散歩に出かけることになった。


麗らかな午後の陽射しを浴びながら近くの公園までやって来た二人は
しかし思いがけないことにそこで倒れ伏している女性を発見する。


飲みかけの缶コーヒーを押し付けながら打ち止めに救急車を手配するよう指示した一方通行は、
女性の異常箇所を能力を使って調べていった。


最初は心配そうにそれを眺めていた打ち止めだが、
直に救急隊員が駆け付けてくると今度は別のことが気になりだしてしまった。



―――このコーヒー、飲んでいいのかな?



あの人の飲みかけコーヒー。
今これを飲めば間接キッスの完成だ。あわよくば唾液だって………
いやいやいや、そこまで疚しい気持ちでなくトキメキ乙女心的な意味で、ねぇ?


あの人は今救急隊員さんに自分がどのような処置をしたか教えている。
飲むなら今しかチャンスはない。
でももし途中で戻ってきたら………


「うぅ〜…どうしよう、ってミサカはミサカは〜」


そして、冒頭に戻る。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:26:03.83 ID:xgz85eY0<>

「や、やっぱり飲んじゃおうかな……いいよね?ウン、喉乾いちゃったから仕方ないよウン。
 ってミサカはミサカは自分と周囲を納得させる言い訳を披露してみたり――――」

「みぃ〜ちゃった☆」

「ふにゃああああああ!!!!!!!!!」


ようやく決心し缶コーヒーへと口をつけようとした打ち止めだが、
急に後ろから耳元へふっ、と息を吹きかけられたことで缶コーヒーを落とし零してしまう。


「なななななな何するの番外個体!!ってミサカはミサカはっ……」

「やだなー、ミサカ達の司令塔が実は男の飲み物に涎入れるような変態さんだったなんて」

「よ、涎入れようとなんかしてないもん!!あの人の唾液が入ってればいいなぁ、なんて思ってみてはしたけど!
ってミサカはミサカは断固抗議してみる!!」


近づいてきたのはどうやら病院での『調整』帰りらしい番外個体だった。
ちくしょうアイツの所為でコーヒー零しちまったじゃねえか。


「くっそぉぉおおおおお!!ってミサカはミサカは怒り心頭でアホ毛をバチバチさせてみたり〜〜〜!!!!」

「お、やる気?能力ならミサカの方が上なんだけどね!!」


いくらレベルが上だろうがボディラインが上等だろうが、女には身体を張って拮抗しなくちゃならないときがあるのだ。
だからこそ。女なら、


「「いざ尋常に、勝bっ………」」

「風紀委員ですの!!これ以上公共の場で暴れると言うのでしたらこちらの権限でひっ捕らえ……あら?」


オイ何だ人の勝負を邪魔すん――――アレ?


「いつぞやの、お姉さま方?」


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:26:31.35 ID:xgz85eY0<>

「まあまあ小さなお姉様に大きなお姉様ではございませんか、お久しぶりですわね」

「てゆーかミサカ達あなたのお姉様じゃないんだけど」

「あら御免遊ばせ。私お姉様方のお名前を存じ上げませんもので……」


ああ……どんどん人も集まってくるコーヒー零しちゃったし。
あ。あの人もこっち戻ってきた。
はあ……間接ちゅー……


「はぁ……ってミサカはミサカはリストラされたサラリーマンの様な溜息を……はぁ……」

「もし、小さなお姉様は何をその様に落ち込んでらっしゃるのですの?」

「ああ。実はかくかくしかじかでね」

「まあ。かくかくしかじかですの」


ちくしょう、このアマ共楽しそうにしやがって。――――SSは便利ですね。


「私も昔は良くお姉様相手にやったものですわ♪」


ナチュラルに変態発言か。
もっと恥じらい持ってやるべきが乙女だろう、ミサカのように。


「そのような事でしたら、この白井黒子がワンランク上の『ドキ☆愛しのあの方の夜の姿!?映像入手法』を伝授して差し上げますわ」


その言葉にピクリ、と耳を震わせた打ち止めと番外個体。
彼女達はそしてゆっくりと顔を見合わせ―――――――――――――


「「お、お師匠様ァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」」


此処に、変態淑女とその見習いによる一つの師弟関係が完成した。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:27:01.70 ID:xgz85eY0<>

キャッキャウフフな乙女オーラ全開のその場所へと戻ってきた一方通行は珍しい組み合わせに首を捻らせた。


「こんなところで何してやがるンだ、変態ツインテール風紀委員」

「あら第一位さん、お久しぶりですわね。覚えていて下さったようで嬉しいですわ」


さすが風紀委員として柄の悪い不良共を幾人も相手にしてきた実績を持つ故か、
一方通行の嫌味な例え(しかし事実)を前に屈するどころか軽く受け流した白井黒子は
学園都市最強の男に向かい呑気にこう申し出た。


「私久方ぶりにお会いしたお姉様方と少しゆっくりとお話ししたく思いますの。
 よろしければ皆様でお茶会でも致しません?そこに丁度ファミレスもございますし」

「行きたきゃ女共で勝手に行きゃいいだろォが。俺ァピンクな空気に晒され続けンのは御免だぜ」


女同士の会話が繰り広げられる中一人ポツンと同伴させられたときの居づらさといったらない。
以前御坂美琴の『近況報告が聞きたい』という申し出に打ち止めと番外個体を連れて昼食を共にした時に苦痛は十分味わった。


だが、一方通行が当然断ることなど白井黒子にはお見通しであった。


(本当はもっと違う形でカマをかけてみようかと思ったのですが……小さなお姉様の為、仕方ありませんわね)


「最近小さなお姉様の学校に通っている殿方で通り魔から酷い暴行を受けた方がいらっしゃったでしょう?
 一方通行さんは被害者が通う学校の臨時と言えど講師であるわけですし、そのお話も聞きたくて………」


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:27:27.83 ID:xgz85eY0<>

途端、断り文句を言おうとした一方通行の口がピタリと止まった。


「被害者の方は下半身を複雑骨折なさった挙句に局部的に潰されたりいたしたのでしょう?
 ………お可哀そうに、さぞや痛かったことでしょうね………」


一方通行からしてみれば自業自得どころか殺されなかっただけマシと思え、なのだが
やはり第三者の目からみれば手酷いものがある。


(追い詰めるにはあと少し、ですわね……)

「ああ。ところでこれは最初に通報を受けた風紀委員が聞いた、一部にしか出回っていない情報なのですが………」


そこで白井黒子は一方通行の肩をそっと掴みキスでも送るかのような近距離で
その続きを彼に向って囁き伝えた。


「通り魔の女は、白髪・細身・高身長でドスの効いた声の主だったそうですわよ―――――?」


学園都市第一位の頭脳を持った男は、そこで静かに陥落した。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:27:55.57 ID:xgz85eY0<>

公園近くのファミリーレストラン、その一角。


(ちくしょう……結標のヤツ、俺のガキの頃の写真なんてレア物流してやったのに情報操作失敗しやがって……
 いや、一部くらい出回るのは仕方ねェ。風紀委員内の噂に留めたのは褒めてやるべき、か)


「ンでェ?要は俺に何が聞きたいワケなんですかァ、仕事熱心な変態風紀委員さンよォ」

「あ、ドリンクバー4つでお願いしますわ。あとはこのケーキを―――一方通行さんはケーキの方いかがなさいますの?」

「あァ俺はいらね……聞けよ話ィイイイ!!!!」

「ケーキも4つでお願いいたしますわ」

「かしこまりました〜」

「いらねェっつってんだろォオオオオオ!!!!!」


一方通行は、白井黒子に押されていた。


「他のお客様にご迷惑ですわよ。風紀委員としてはそれ以上煩くなさると拘束しなければなりませんの」

「オマエ理不尽過ぎンだろソレ」


そんな光景を見て打ち止めと番外個体は感心せざるを得ない。


(さすがお師匠様、ってミサカはミサカは称賛を送ってみる)

(で?お師匠様はここで飲みかけコーヒーを狙おうって腹なのかね?)



彼女達はミサカネットワークを通じて会話をしながら師匠が何を企んでいるのか逐一洩らさないよう観察していく。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:28:24.62 ID:xgz85eY0<>

「では、ドリンクバーでも持って参りましょうか。一方通行さんはコーヒーで宜しくて?
 お姉様方は?何になさいます?」


廊下側に座った白井がおもむろに立ちあがりドリンクバーの注文をとってくる。
どうやら皆の分を持ってきてくれるらしいが、此処で何かアクションを起こすのだろうか?


「あァ。俺はそれでいい」

「あ!ミサカはオレンジジュースがいいな、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

「ならミサカはジンジャーエールで。氷無しね、薄まるから」

「心得ましたわ」

白井と同じく廊下側の、一方通行の隣に座った打ち止めは万一白井が飲み物に何か細工をしていてもいいように
彼にドリンクバーが見えないよう座り直し注目を集めた。


「折角頼んだんだしあなたもケーキ食べようね、ってミサカはミサカは先手を打ってみる。
 偶にはあなたとお茶したいもん」

「俺が甘いモン苦手なの知ってんだろォがクソガキ」

「甘いもの苦手とか何カッコ付けてんの中二病患者(黒い翼が出る)」


便乗した番外個体も一方通行を挑発することで彼にケーキを食べさせることを了承させた。
これで白井が何を計画していたとしてもフォローは完璧である。

暫くするとドリンクバーから白井が帰って来た。
人数分のドリンクがそれぞれへと回る。
そこへ丁度ケーキも運ばれてきて一方通行はそれを嫌々した顔で黙々と食べていた。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:30:51.27 ID:xgz85eY0<>

コーヒーで流し込みながらなんとかそれに手を付けていた一方通行だがそんなことをしていては直ぐにコーヒーが無くなる。


彼がコーヒーを再び接ぎに行こうとしたところで自身の紅茶を飲み終えた白井が立ちあがり、
ドリンクバーに向かうには打ち止めに席を退いてもらわなければならない一方通行は
彼女に自分のコーヒーもついでに持ってくるよう頼んだ。


表面上平和なお茶会を続けていた4人だがなにやら雲行きが怪しくなってきた。
――――なンだ、何か気分が悪ィ。
一方通行は体調の変化を感じ風邪でも引いたかと自身の額へと手を当てる。
――――なンか身体が熱ィな。


そんな一方通行の様子に気付いた打ち止めは「大丈夫……?」と心配そうに彼を見遣る。
気にしなくていいと一方通行は言うものの、様子がおかしいのは目に見えて解った。


「気分が優れないのでしたら私がテレポートで送って差し上げましょうか?」


白井黒子は腐っても風紀委員だ。
そして、この状態の一方通行が空間移動能力者というこの場において最も役に立つ能力を持つ彼女に頼らない理由は無かった。


だが、一方通行は失念していた。
彼が当初から言う通り



白井黒子は、変態だったのだ。



<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:32:23.82 ID:xgz85eY0<>

「さて、準備は整いましたわね」

一方通行達が暮らすマンションのリビングで白井黒子は高々と言った。
彼は今自室のベッドの中だ。


「ねぇお師匠様、あの人に何をしたの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」


打ち止めの素朴な疑問に白井黒子という名の変態淑女は恥じらいもせず答える。


「ずばり、媚薬ですわ」

「びやく?」

「勘の鋭い一方通行さんの事ですもの。
 一気に使っては直ぐにバレると思いまして少量ずつ、ケーキを一緒に食べさせることで何杯も飲ませましたの。
 それに関してはお姉様方のフォローもGJでしたわ」


あまりにも堂々と言う白井に目を白黒させる打ち止めと番外個体であったが、
『媚薬』という言葉を聞くと何故かドキドキしてしまうのも乙女なのだから仕方ない。


「一方通行さんはもうすぐ切なげなお声を上げながら自身の右手でその興奮をぶち殺す状態に入る事でしょう。
 それを決して邪魔はせず、ビデオと録音機を片手に静かに見守るのが淑女の嗜み。乙女の務め!!
 お姉様に頼まれてあの殿方に何度も同じ手を尽くしてきたこの私に、間違いなどございませんわ!!!」


打ち止めと番外個体には、このとき白井黒子が神のように輝いて見えたという。
あの人は今自室でどんな状態に陥っていると言うのだろうか。


「ミ、ミサカはミサカは先手必勝を叫びながらビデオを片手にベストポジションに向かって走り出してみたり!!!」

「あ!!ズルイ待ちなよ最終信号そこはミサカの定位置って決まって………!!!」


それを認識した瞬間、二人は互いを牽制しながら走りだした。
アイツを出し抜いて自分こそが最高の痴態を写し撮るのだ………!!!
二人はそんな思いでいっぱいだった。
しかし。


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:33:59.28 ID:xgz85eY0<>

パァアアン―――――!!!


そんな二人を、白井黒子はビンタによって嗜めた。


「お、お師匠様何するのってミサカはミサカは…………っ!!!」

「お姉様方……黒子は、黒子は悲しゅうございます。
 何故姉妹であられるお姉様方がこのように醜い争いを繰り広げなくてはならないのでございましょう。
 確かに殿方との恋を仲良く分けあうことなど出来ないかもしれません。
 それでも、それでも、お姉様方が争われることなど何一つないではございませんか……!!!」


白井はレースのハンカチで目頭を押さえながら、
そっと二人に高画質ビデオカメラと超高音質・精密録音機を二人へと差し出し―――――


「画質を優先すれば音質が落ちる、逆もまた然り。
 素人であらせられるお二人がこれらを同時に使いこなせるとは思いません。
 ――――好きな殿方との未来は1つでも、痴態は分けることができますのよ…………?」


迷い子を導く聖者の様な慈愛に満ちた表情で、白井は二人を諭した。
そんな白井の言葉に二人は互いに顔を見合わせる。
先に折れたのは、意外なことに番外個体であった。


「………ごめん、ミサカが悪かったよ。ズルイなんて言って………」

「そんなことないっ!!そもそもミサカが抜け駆けしようとしたのがいけないんだし、ってミサカはミサカはっ―――――!!
…………番外個体、怒ってない?」

「怒ってたら、ミサカから謝ったりしないよ………」


そう言って番外個体は打ち止めの顎にその細い指をそっとかけると
真摯な瞳で打ち止めを真っ直ぐ見つめ、彼女に向かって力強い声で言った。


「二人で、協力しよう?ミサカ達は姉妹なんだからさ!!」

「〜〜〜〜うんっ!!ってミサカはミサカは抱きついてみる!!番外個体大好き!!」


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:35:10.81 ID:xgz85eY0<>
姉妹愛を堪能している二人を白井は相変わらず慈愛に満ちた瞳で眺めながら、
彼女は二人に渡したよりも超小型のビデオと録音機で
彼女の愛するお姉様と同じ顔をした二人を撮影していた。


(ああっ……!!お姉様方に頼られ、そのお姉様方を導き、お姉様方が姉妹で絡み合う様子を堪能する………!!
 白井黒子、齢19歳にして我が生涯に一片の悔い無し、ですわっ!!!)


ハァハァと息を荒げながら白井は二人を急かす。


「さぁ、お姉様方!!一方通行さんにバレないよう事を起こすには、ドアを開けるのは必要最低分!!
 お二人が密着した状態で静かに撮影するしかありませんわ!!」

「うん解ったお師匠様!!ってミサカはミサカは番外個体と手を取り合ってあの人の部屋に向かってみたり!!」

「小柄な最終信号が前面に出て映像を担当した方が良さそうだね。ミサカは後ろから音声を撮るからビデオは任せたよ!!」


素早く一方通行の寝室の前へと立った二人は、打ち止めの後頭部が番外個体の胸元へと埋まる密着した形で機器を構えた。
そんな姉妹の様子に白井はもう絶頂間近である。


(ああっ………お姉様方っ………!!お二人のその間に、黒子も混ぜてくださいましっ……!!!)


<> 【小ネタ】 部屋と師匠とミサカ達<>saga<>2010/12/12(日) 20:36:45.85 ID:xgz85eY0<>
深夜。
リビングに設置された大型テレビの前で打ち止めと番外個体は手をとりあって『ある映像』を見つめていた。


「イイ感じに撮影出来てるじゃない最終信号、見なおしたよ」

「番外個体こそ、あの人の声が最高に撮れてるね!ってミサカはミサカは興奮してきて……うぅ〜〜〜」


テレビに繋がれたヘッドホンを仲良く片耳ずつ装着し二人は思い人の悩ましい声とその痴態を堪能していた。



『……くっ、……なンで、こンなっ……あ、あ!……つ、ゥ…………』



普段の行動がアレなくせに顔を真っ赤にさせて映像を堪能する二人はもはやヘブン状態だ。


「これからもお師匠様の下で二人一緒に頑張ろうね、ってミサカはミサカは番外個体の手を握り締めてみたり!!」

「一人じゃどうとでもならない事も、ミサカ達二人なら何とかなるよ!!」


姉妹愛に興ずる二人は気付かない。
そんな二人を見つめる影が一つ、そこにあることに―――――



「白井黒子、ブッ殺す」


一方通行は彼女が愛する御坂美琴へと電話をかけ、そして―――――――


「あぁん!!あの人の声堪らない、ってミサカはミサカは〜〜〜」

「見て最終信号!!あの人がアソコに手をかけてホラっ………!!!」



(だめだコイツら、早く何とかしないと―――――)


一方通行の苦労はまだまだ続く。



                                      『部屋と師匠とミサカ達』(完)<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/12(日) 20:37:40.39 ID:xgz85eY0<>今回も皆様から頂いたネタを採用しました。
>>338様と>>346様,>>347様のネタを混ぜてみたのですが……ど う し て こ う な っ た 。


そう言えば昨日はスレを立てて初めて更新が出来ない日でした。
これは皆様のコメントを見て直ぐ書いたので投下できているのですが書き溜めストックが現在完全にありません。
最近書いている時間が取れない事ができてきました。
毎日更新は難しいかもしれませんが放り出す真似は致しませんので、どうか見守ってやって下さいませ。


―――――ところで黒子ちゃんの口調はこれで合っていますか?お嬢様言葉難しいです。
<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/12(日) 20:40:00.55 ID:xgz85eY0<>追記。
>>347様へ。美琴病を発揮しない黒子譲は僕には書けませんでした。
多分戦闘モードになったら普通にカッコいいのでしょうが……
ちょっと場面場面だけでも書いてみます。申し訳ありません。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 20:41:11.99 ID:3ePiwLAo<>乙です。
親孝行な1を責めるやつなんていないので
自分のペースで更新すればいいよ。

で、親孝行した後にどうしてこんな変態小話を投下できるんだ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:04:41.77 ID:X5smi2AO<>番外止めの和解がまさかこんな展開だとはwwwwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:26:09.41 ID:uGo52xoo<>変態すぎるwwww


いいぞもっとやれ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:37:42.49 ID:.m1exMM0<>乙です!
コーヒー採用ありがとうwww

ニヤニヤしすぎて口が裂けそう<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:44:06.22 ID:4pdLr2go<> | ', i l  /  l   イ,、-‐ーー‐--、::::,、-‐ー-、l !::i;::::::::::';::::::::::::::::::l l:::::::::` ‐、
 | ', l イ//  l/ r'/ /-''"´ ̄ ̄ヽ `,-''"´``‐、 ヽl';::::::::::';ヽ/:::::ノ ノ::::::::::::';::::\
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   ___l___   /、`二//-‐''"´::l|::l       l! ';!u ';/:::l ', ';::::::l ';:::::i::::::l:::::::';:::::
   ノ l Jヽ   レ/::/ /:イ:\/l:l l::l   u   !. l / ';:::l ', ';:::::l. ';::::l::::::l::::::::i::::
    ノヌ     レ  /:l l:::::lヽ|l l:l し      !/  ';:l,、-‐、::::l ';::::l:::::l:::::::::l:::
    / ヽ、_      /::l l:::::l  l\l      ヽ-'  / ';!-ー 、';::ト、';::::l:::::l:::::::::l::
   ム ヒ       /::::l/l::::lニ‐-、``        / /;;;;;;;;;;;;;ヽ!   i::::l::::l:::::::::::l:
   月 ヒ      /i::/  l::l;;;;;ヽ \             i;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l   l::l::::l:::::::::::::
   ノ l ヽヽノ    /:::l/:l /;;l:!;;;;;;;;;',               ';;;;;;;;;;;;;;;;;ノ    l:l:::l:::::::::::::
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   __|_ ヽヽ   /イ//l::l ヽ、;;;;;;;ノ....      し   :::::::::::::::::::::ヽ /!リ l::::::::::::::
    | ー      /::::l';!::::::::::::::::::::  u               ', i ノ l:::::::::::::::
    | ヽー     /イ';::l          ’         し u.  i l  l:::::::::::::::
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     |      /::::::::::::`‐、 し      ',  /    u   ,、-'´  l,、-''"´ ̄
     |      ``‐-、._::::::::::` ‐ 、     ',/       , -'´`'´ ,-'´
     |      _,、-‐'"´';:::::::::イ:l';:::` ‐ 、._____,、-‐'"´  u /     し
   | | | |    \ l::/ l::::::/リ ';:::::lリ:::::l';:::l l:l:::::l\  u /
   | | | |      \/  l:::/ ノ  ';::/ ';::::l l::l リ l::l l::/ヽ /   し
   .・. ・ ・. ・     ヽ \ リ    レ  ヽ! り  レノ  `y


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:46:59.04 ID:OqCbfes0<>一方さん発散しちゃったのか……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 21:56:17.63 ID:v1kWZYAO<>上条さんも媚薬飲まされてたんだなwwww<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/12(日) 22:10:33.43 ID:xgz85eY0<>>>374様、それは僕が変態という名の紳士だからです。
>>347様へ。お詫びに僕なりのカッコイイ黒子嬢を。



打ち止めに襲いかかってきた刃は、しかしその直前で突然現れた塊によって軌道を逸らされた。


「え……?」


何故自分は生きている?
喜ばしい事態の筈なのに、その理解できない要素がより一層打ち止めを不安にさせる。


「どうして……?」

「――――お姉様の大切な妹君を、失うわけにはいきませんでしょう?」


疑問は、同様に突如現れた声によって遮られた。
ああ。この人は。


「………誰だ?」


打ち止めと相対していた男だけが納得できずに声を上げる。
それに声の主は高々と、満ち足りた声で名乗りを上げた。


「風紀委員ですの、婦女暴行および殺人未遂の疑いで拘束いたしますわ!!」

「………黒子お姉ちゃんっ、どうして!!ってミサカはミサカは――――」



<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/12(日) 22:11:28.56 ID:xgz85eY0<>

何故彼女がこんな場所にいる。これは自分の問題だ、巻き込むわけにはいかない。
そう訴える打ち止めを、白井黒子は眼だけで制した。


「――――大切な人の宝物を護ろうとする意志に、理由が要りましょうか。
 先に行って下さいまし、一方通行さんがお待ちなのでしょう?」


なんとか立ちあがるも足を進めず、躊躇いを見せる打ち止めを白井は更に急かす。


「早くいって下さいな。………お姉様に、黒子の功績はしっかり伝えて下さいね」


その言葉に打ち止めは決心したように踵を返す。
彼女がちゃんと、彼女の愛しい人が待つ上へと向かったことを確認した白井は
愛武器である鉄矢を構えながら眼の前の男に向かい口角を上げた。


「――――――さて。恋する乙女に無粋な真似は通じません事よ、野蛮人さん?」


白井黒子の、孤独な戦いが始まる。






………こんな感じで如何でしょう。どういう状況かは僕にもさっぱりですが。
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 23:01:58.98 ID:Vd2Wul.o<>というか美琴も何しとんwwwwww

ある意味諸刃の剣だよな
違う女の名前でも叫んでた日には……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 23:45:29.21 ID:Vy/n7ZQ0<>乙
お母様は大切にね ビリビリ
それにしてもこの2人変態であるもっとやれ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 23:47:54.90 ID:ZuChjpwo<>媚薬を投入した上でこっそり美琴の秘蔵写真(by黒子)とかを寝床に忍ばせておけばOKなんじゃなかろうか
むしろムラムラしてる上条さんに迫るのが一番効果的なのにみこっちゃんってばまったくもう<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 00:28:56.91 ID:B/dTGEk0<>妹達がどんどん変態になっていく・・・打ち止めは一方さんのそんな姿とか見ていいのか?
教育的指導ォォォ!とか言ってたの誰だっけ?
打ち止めさんこそ教育的指導受けてきなさい、一方さんに

黒子は変態淑女カッコ可愛いなほんと<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 01:12:13.76 ID:yCmpF6co<>>>373
要望を満たしつつも黒子らしさも完璧に再現され、予想を遥かに超えたクオリティに最早ヘブン状態でございます乙<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/13(月) 20:15:14.11 ID:fm92PA60<>皆様暖かいコメントを毎度ありがとうございます、どうも変態です。
お母さんは大事にするよ!何たってあの人クリスマス生まれだからね!

今日は変態打ち止めは一旦お休み。クリスマス編の本編に突入です。
書く書くといって長らくお待たせいたしました、では以下よりどうぞ。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:16:17.05 ID:fm92PA60<>

♪ジングルベル ジングルベル 鈴が鳴る〜


12月24日、クリスマス・イブ。
街にはツリーが至る所で彩られ、焼けたチキンや甘いケーキの香りがあらゆる商店から漂っていた。


(遂に来た…!!あの人と二人っきりの、クリスマス……!!)


ここ最近仕事で忙しくしていた一方通行はその日の内に家へ帰ることが中々できないでいた。
彼のその頑張りが自分や番外個体を養っていることは知っているが、
それでも寂しいものは寂しい打ち止めは一週間前に約束したのだ。


『クリスマスは、絶対ミサカと二人っきりでロマンチックに過ごそうね!』、と――――


(番外個体はクリスマスじゃない日に一度、あの人に何しても見逃すってことで賠償したし……)


実の所、これまで打ち止めは一方通行と二人きりのクリスマスというものを体験したことがない。
結婚した黄泉川の新居に二人呼ばれたり、美琴主催のパーティーに出席したり、
ときには妹達全員を集めてネットワーク越しでない初の全生顔合わせをしてみたりもした。
そのどれをも打ち止めは心から楽しんだが、やはり大切な人との二人きりの時間というのは格別に思う。


(えへへ……今日は二人で何しようかなぁ……)


そして、打ち止めは人生初の『特別なクリスマス』を迎える―――。




≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:16:49.33 ID:fm92PA60<>

12月24日の朝。
打ち止めと一方通行、番外個体は3人で朝食の席を囲んだ。


一人先に食べ終えた番外個体は、約束を果たしてくれるつもりなのか
「用事があるから」と言って出かけていった。


さて、遂に二人きりだ。
あの人はデートの計画とか立ててたりするのかな、と打ち止めの心臓は既に爆発寸前だ。


駅前のイルミネーションも見に行きたいし、美味しいディナーも食べたい。可愛いケーキも買って……


「ンじゃ、取り敢えずデパートでも行くか。夕飯の買い出ししてェし。」


打ち止めの考えを汲んだかのように出かける事を提案する一方通行。


(あぁ、本当に楽しみ! ってミサカはミサカは―――)


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:19:56.29 ID:fm92PA60<>
ど う し て こ う な っ た 。


「お、キャビア安い」

「え、マジで!?マジでキャビアなんて食わせてくれんの!?」

「流石あくせられーたなんだよ!とうまと違って甲斐性ある!」


現在打ち止めと一方通行は、上条当麻・インデックスと行動を共にしていた。
そこに至るまでの経緯を説明するには、時は1時間前を遡る――――



「お、一方通行じゃねえか」


駅前の大通り、期間限定で設置された大きなクリスマスツリーの前で打ち止め達と上条達は偶然鉢合わせた。


何処に行くのかと問われた一方通行が素直にクリスマスディナーの材料調達と言えば、
それを聞いたインデックスはさぞ羨ましそうに「いいなぁ…」と呟いた。


話を聞けば、上条家にはクリスマスにご馳走を用意するだけの貯蓄が無いらしい。


「とうまは貧乏だからね」

「お前が取っておいた貯金を使い果たすくらい食い尽くしたんじゃねえか!!」


―――――自業自得とはいえ、何だか可哀相になってきた。


誰だってクリスマスは楽しく賑やかに過ごしたいものだ。
その時こそ打ち止めはそう思いはしたが、まさか一方通行があんな申し出をするなんて
彼女は考えもしなかったのだ。



「だったらウチで飯食うか?」



―――今日は、二人だけのクリスマス、だったのに。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:20:25.75 ID:fm92PA60<>

そのまま行動を共にすることになった4人は、デパートの地下にある食料品売り場で食材の調達をしていた。
素材にこだわりを持つ一方通行は安さより品を優先させるので値段など気にせず
気に入った物をホイホイ籠へと放り込んでいくのだが、そんな彼に上条とインデックスは目を白黒させるばかりだ。


「5000円もするテリーヌ買ってるし……上条さん家なら有り得ない光景ですよ」

「ねぇねぇ、あくせられーた。七面鳥は買わないの?あそこで売ってるよ?」

「ああゆうのは大抵中身ミックスベジタブルだから買わねェ。自分で仕込む。
……あとはどうすっか、シスター入ると量必要になるしチーズフォンデュでもやるかァ?」

「チーズフォンデュ!!食べたい食べたい、作ってあくせられーた!!」


―――ああ、シスターさんが嬉しそうで何よりです。
確かにあれだけの笑顔を見せられれば良かったと思うが、打ち止めとしては複雑な気分だ。


(二人きりって約束、忘れちゃったのかなぁ……)


「どうしたの、らすとおーだー?お腹痛い?」


打ち止めの憂い顔に気付いたインデックスは声を上げかけるが、
何分彼女が元凶であるので打ち止めは明るい顔など到底できない。


「ううん、違うの。あの人のマリネ美味しいから作ってくれないかなって思って、
ってミサカはミサカはさりげなく希望を述べてみたり」


こういう時、自分が醜い人間であると実感して嫌になる。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:22:32.00 ID:fm92PA60<>
「あァ?屋上だァ?」

「うん!デパートって屋上に遊園地があるんでしょ、行ってみたいんだよ!!」

「でもよインデックス、あーゆーのって小さい子用だぜ?お前もうハタチじゃん」

「とうまのバカっ!ホントに乙女心が解ってないんだから!ねー、らすとおーだー?」

「それはどちらかと言えば子供心だと思う、
ってミサカはミサカは味方に付けないことを表明してみたり……」


時刻は午前11時過ぎ。
なんやかんや言ってもインデックスの意見を無下にもできない一行はデパートに設置された屋上遊園地にいた。


「ガランガランだねぇ…、ってミサカはミサカは隠しもせずズバッと見たままを正確に言ってみたり」

「うぅ…なんだか想像してたのと違うんだよ……」


しかし遊園地といっても所詮はデパート。
インデックスの想像したような観覧車やジェットコースターは勿論ない。


「だァから言っただろォが?遊園地なら第6学区にでも行かねェと」

「にしてもホントに誰も居ないなあ…―――うわぁ!!」


上条の急な叫びに一同一斉に注目する。
疑問を抱いたまま彼が凝視する方向をそっと見遣れば、そこには


「うわぁ…ってミサカはミサカは……うわぁ…」

「あの人前にみた『りすとら』の人とおんなじなんだよ。
昼間からワンカップ片手にベンチでうなだれてるとことか」

「こ、こらインデックス!!そんなハッキリ言っちゃいけません!もっと相手に気を使ってオブラートに包んでだな……」


周りが好き勝手その男を言う中、一方通行だけが一人小首を傾げていた。


そうして男の座るベンチへと近づくと、何の躊躇いもなく男へ声をかける。


「ンなトコで何やってんだァ、浜面ァ?滝壺はどォした?」
<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:23:02.37 ID:fm92PA60<>
暫くボーっと地面を見つめていた浜面は、一方通行の声にゆっくりと顔を上げた。


「あぁ……一方通行ぁ……?」


実際そんな事はないのだが、彼の纏うオーラの所為なのか心なしか少しやつれて見えるのが気にかかる。
一方通行も若干引き気味に再度滝壺はどうしたのかと尋ねる。


すると浜面は急に滝のような涙を流しながら「一方通行ぁ…!!一方通行ぁ…!!!」と縋りつき始めた。
良い歳をした大の男がやっているのだ、気持ち悪い事この上ない。


「だァクソ、離れやがれェ!!第一俺らはンな馴れ合う様な関係じゃねェだろォが!!!」

「声かけといてそんな態度はねぇだろぉおおお……!!!!滝壺がぁ、滝壺がぁ……!!!」


浜面のある意味において尋常ではない様子に一方通行は訝しげに眉を寄せる。
滝壺に何かあったのだろうか。
しかしそれなら浜面もこんな所で呑気になどしていないだろう。


(なら滝壺に浮気でもされたかァ……?でも滝壺の奴はンな柄でもねェだろうし……)


一方通行の知り合いと気付き警戒心が薄れたのか、近づいてきた上条達も心配そうに彼を慰める。


「なぁ、何があったんだよ……?あんたが誰かなんて知らないけど、話くらい聞いてやるぜ?」


上条と浜面は、浜面がまだスキルアウトだった頃に御坂美鈴の命を狙った一件で面識があるのだが
互いにそれには至っていないらしい。


見ず知らずの人間の温かい思いやりに触れた浜面は、袖口でゴシゴシと涙を拭いながら思いのたけを暴露した。


「麦野とっ……!!麦野と絹旗に、滝壺とられたぁああああああああ!!!!!!!!!」


瞬間、一方通行の渾身の蹴りが浜面をブチ抜いた。
<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:23:45.52 ID:fm92PA60<>

「ンな下らねェ事でウダウダやってやがったのか!!無駄な時間取らせやがってェ!!」

「だって俺このままじゃクリスマス一人ぼっちだよ!!彼女居るのに!!聖夜に!!オンリー☆俺!!」


良く解らないが彼女さんの女友達に彼女さんを連れて行かれてしまったらしい。
彼と一方通行の話を聞いていただけだった打ち止めは、詳しい事情は知らないがそういう事で納得した。


(もうこうなったら、一人増えようが二人増えようが一緒、なのかな………)


「なら、ミサカ達と一緒にパーティーする?ここにいるヒーローさんとシスターさんも来るんだよ、
 ってミサカはミサカは一人ぼっちにならない方法を提案してみる」

「………っ、いい、のか?俺なんかが着いて行って……」

「―――――まァ、シスター居るンじゃ一人や二人増えたところでメシ作る量変わンねェしな」


やっほおおおおい!!!!
と両手を上げて喜ぶ浜面に上条とインデックスも「キャビアも七面鳥もあるんだよ!」と彼の気分を盛り上げてやっている。



ミサカは、良い事をしたのだ。それでいいじゃないか。
震える腕を、打ち止めはそっと握った。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:24:22.52 ID:fm92PA60<>

適当にデパート内のファストフード店で昼食を摂って、
一方通行の指示の下必要な食材を買い上げると時間は既に夕方の4時を回っていた。


最後に人気のケーキ店でかなり大きめのホールケーキを3箱買い
(なにせ暴食シスターとパーティーを共にするのだ、自分の分を確実に確保するにはこれでも足りないかもしれない)、
5人は打ち止めと一方通行の暮らすマンションへと帰った。



部屋の玄関を開けると、靴が3足並んでいた。
1足は見慣れた番外個体のものだ。だがもう2足、この女物のスニーカー達は誰の物だろう?


一方通行が何も言わないのであの人は知っているのかもしれない、と打ち止めがそのまま彼の後ろを着いて行くと
待っていたのは既に家を出ていた筈の黄泉川愛穂と芳川桔梗であった。


「おお、お帰りじゃん。ってうぉ!なんかいっぱい来てるじゃん、ビックリした〜」

「あら本当、ワインとシャンパン多めに買ってきて正解だったわね」


二人はそれぞれ酒やらツマミやらを持ちこんでいたから、
当初からここで揃ってクリスマスパーティーをすることは決まっていたらしい。
打ち止めは今朝から彼が二人に連絡をとる所など、一切見ていない。



(やっぱり約束、忘れてたんだろうなあ……)



キッチンにいた番外個体も賑やかな様子を聞きつけたのかリビングへと顔を出してきて
パーティーにおける料理長である一方通行がクリスマスのディナーを完成させるまで、結局、
ロマンチックな要素など欠片もない半ば宴会のようなパーティーが続いた。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:26:25.32 ID:fm92PA60<>芳川が持ち込んだワインは然程アルコール度数が高くないにも関わらず彼らに大きな影響を与えたらしい。


「一番・黄泉川!!脱っぎま〜〜〜す!!」

「二番・浜面!!歌いま〜〜〜す!!」

「三番・上条!!生そげぶしま〜〜〜す!!」


ディナーを粗方食べ終えた頃には、打ち止め以外の人間は既に皆ベロンベロンの泥酔状態であった。


酒が禁止される理由は幼い身体には害が大きいからだ、と唯一成人を迎えていない打ち止めは
自分より製造が後であるのに肉体的に成熟しているからと飲酒を許された番外個体を憎らしく思いながら
一人、周りの雰囲気に着いてゆけず悶々としていた。


「なあ一方通行もなんかやろうぜえ?なんなら上条さんとそげぶゴッコやる?」

「ンなの俺がボコられるだけじゃねェかよォ……あァなら俺『百合子』やるゥ、あれ得意ィ」

「あ、あ!俺ミニスカサンタの衣装持ってるぅ、これの所為で麦野と絹旗が
 『超エロい事考えてる』とか『クリスマスのノリでできちゃったガキの気持ち考えろ』とか
 言って滝壺連れてっちゃったんだけどぉ、あはははははははは」


男性陣も中々に盛り上がりを見せているようだ。しかし何故かそこに黄泉川が便乗して
「なら一方通行と私で野球拳やるじゃん、負けた方が一枚一枚脱いでくの〜〜」
と何やら変な方向へと向かいかかっているのが気にかかる。


「「野球〜をす〜るなら、こ〜ゆ〜具合にしなしゃんせ〜」」

「アウトォ!!」「セーフ!!」

「よよいの、よい!!」


よっしゃああああ!!!まずは一勝、いいぞ一方通行このまま爆乳剥ぎとれぇええええ!!!!
――――ああ、あの人が勝ったのね。
ミニスカサンタのワンピなんてタイツと帽子と本体しかないしミサカは安心したよ……


「な、なんで一度も勝てないじゃん!!もう下着しか残ってないじゃんよ!!」

「ジャンケンってェのはなァ、振りかざそうとする拳が既に次に出すチョキやらパーやらを作ってンだよォ。
 HUNTER×HUNTERのG・I編でも読んで出直してくるンだなァ」


打ち止めはすでに悟りきった表情で一人ジュースを傾けていた。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:27:32.93 ID:fm92PA60<>

パンツとブラジャーだけになった黄泉川は、そこでやっと男性陣から解放されたらしい。
本人は自分の格好など気にもせず悔しそうにビールを開けているので、『解放』という表現が正しいのかは定かでないが。


調子に乗ったのか今度は浜面が芳川に勝負をかけ始めた。
しかし芳川はもう既に絡みモード全開で下着だけの黄泉川に女同士くんずほぐれつの濃厚なちょっかいを仕掛けている。


「なら次はミサカとあなたで野球拳やろぉよ〜」


普段の刺々しさは何処へ消えたのか、酒の所為で些か甘え上戸になったらしい番外個体が
今度は一方通行との勝負を所望している。


「あァン?さっきの見てただろォが、オマエが俺に勝てるワケねェだろォが……ヒック」


――――顔赤くしてミニスカサンタで凄まれても何にも恐くないよ、あなた。
呆れ顔の打ち止めが溜息をついて隣を見れば暴食シスターはフォークとナイフをカチカチ言わせながら
「七・面・鳥!!七・面・鳥!!まだまだ足りない七・面・鳥!!」と叫んでいるのが目に入った。
………コイツは酒が入ってもあまり変わらない。


シスターの保護者と言えば、例のフラグ体質故か芳川と黄泉川の絡みに上手い事巻き込まれ
今にも出血大サービス(物理的な意味で)でもおかしそうな勢いだ。
浜面は一方通行の更なる快勝=番外個体の全裸を期待して待機中である。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:28:20.68 ID:fm92PA60<>


(ハァ……クリスマスって何だっけ、ロマンチックって美味しいの?……ハァ……)



最早打ち止めからは溜息しか出て来ない。


「野球拳ミサカとやるったらやるの!!ただやってもつまんないしぃ、
 負けたら指定された場所を脱いで晒した素肌を一分ずつ舐められるぅ〜」

「俺の勝ちは揺るがねェし別にいいけどよォ、後悔してもしらねェぜェ?」

「いいぞぉ、ね〜ちゃん!もっとやれぇ〜ってハマヅラはハマヅラは盛り上げてみるアハハハハ」


―――――何やってるんだか、あの人達は。
打ち止めの大人組を見る目は既にウジ虫を見るそれと同類だ。


―――――てゆーかミサカ、何か忘れてる気がするんだけれど……なんだったっけ?


「「野球〜をす〜るなら、こ〜ゆ〜具合にしなしゃんせ〜」」

「アウトォ!!」「セーフ!!」


――――――アレ?そういえば番外個体って……アレ?アレぇ!!?


「そ、その野球拳ちょっとタンマってミサカはミサカはっ―――――!!!!」

「よよいの、よい!!」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:29:22.38 ID:fm92PA60<>


「なン……だと……?」

「はぁい、ミサカの勝ちぃ♪忘れたのぉ?ミサカはネットワークからあなたの動きを先読み出来るんだよ!!
 原作20巻でも読んで出直して来な!!
 解ったら大人しくそのミニスカサンタワンピ脱いでミサカにビーチク舐めさせることだね!」


―――――番外個体のヤツ、酔ってなんていなかったぁああああ!!!!!!
アイツ、酔ったフリしてあの人の油断を誘い脱がせるのが目的だったというのかぁああ!!!!


「これは途中で抜け出す事など到底許されないまさにデスゲーム!!
あなたは負けると知りつつ恥じらいながら一枚一枚丁寧に脱ぎ、
そしてミサカにその肌を捧げるんだね!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!」


――――――なんか、もういいや。


「……っ、クソッタレ!!好きにしやがればいいだろォが!!」

「ならまずは上半身からだねぇ!!あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!!!!」


―――――パトラッシュ、ミサカはもう疲れたよ……なんだかとっても眠いんだ……


「あ、らすとおーだー寝るんだったらそのチキン貰っていいかな?」


やがて打ち止めは教会(より厳密にはシスターが身に纏う霊装としては壊れている『歩く教会』)の前で静かに眠りにつき、
そして………


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:30:00.38 ID:fm92PA60<>



打ち止めが目を覚ますと、すでに日付は変わり25日に突入していた。
時刻は深夜1時。
他の面々はそれぞれソファーやマットレスの上で眠り果てているが、何故か一方通行だけが見つからない。


暫くして耳が覚醒を始めると静かな部屋の中にカチャカチャと僅かな音が聞こえてくる。
音を頼りに打ち止めがキッチンへと向かうと、やはり一方通行はそこにいた。


「どォした?起きたンならキチンとベッドで寝ろよォ」


ロマンチックどころか二人きりの瞬間だって朝の僅かな時間しかなかったクリスマス。
それなのに何にも気にしていないという風なあの人の態度。


(楽しみにしてたの、ミサカだけ、だったのかな……?)


そう思うと途端に涙が出てきた。
気付いたあの人が洗いかけの食器を置いて慌てて駆けてくるのが判る。


「おィ、どォした!?腹でも壊したか!?」

「違うの!!ミサカはっ、ミサカはっ!!う……うぅ……」


あの人は何もわかっちゃくれない。
ああそうだ、言わなきゃ解らないかもしれない。それでも、何も言わずとも解ってほしい。
―――――あなたとの時間を、ミサカがどれだけ大事に思っているか。


「ミサカ、ミサカはね、クリスマスっ……」

「こりゃ明日のクリスマスもしかしてダメかァ?無理矢理休みとったが何処かにズラして……」



(………え、………?)



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ<>saga<>2010/12/13(月) 20:31:35.73 ID:fm92PA60<>「え……?クリスマスって……、え……?」

「ンだよ、オマエが時間取れっつったクセして自分は忘れてたンですかァ?
 これでも俺が二日連続でまるまる休み取るって結構大変なンだからなァ」


―――――――え?


「え、だってクリスマスって今日じゃ……」

「はァ?今日はクリスマス・イブじゃねェか。
イブは黄泉川や芳川が来るからオマエと夜出かけるのは25日にしたンだろォ?」


――――――アレ?そう言えば一週間前……


『クリスマスは、絶対ミサカと二人っきりでロマンチックに過ごそうね!』

『あァ?別に良いが…なら24日は黄泉川達くるし何とか2日間休みもぎ取ってくる。約束なァ』


―――――――…………………忘れてたぁあああああ!!!!!!!
あの人とのデートにテンション舞い上がっちゃってヨミカワ達来るの忘れてたぁあああ!!!
悪いのミサカじゃん、勘違いしてたのミサカじゃん、
え?どうしよう、マジ恥ずかしいんだけどマジどうしようマジヤバイよ、どれくらいヤバいかってゆうとマジヤバイ


「熱は?……ねェみてェだなァ……取り敢えず今日は大人しく寝て明日ダメだったら……」

「だだだだだ大丈夫!!もういいの、もう平気なの、ウンもう大丈夫、明日楽しみにしてるね!!
 ってミサカはミサカは………なんかホントごめんなさあああい!!!!」


あの人を置いてミサカはつい走って部屋へと籠ってしまった。
―――――ちゃんと、覚えててくれたんだ。


ああ、顔が熱い。
朝になったら一日を満喫するために今は一刻も早く眠らなきゃいけないのに
この滾る心の火照りは、なかなか抜け切れそうにない。



そして、ミサカ達は新たにクリスマスを迎える―――――。


 
                                   『部屋とクリスマスとミサカ ――前日編――』(完)
<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/13(月) 20:32:29.49 ID:fm92PA60<>というわけでクリスマス前日編でした。
>>297様,>>298様の意を汲んで上条組と浜面を黄泉川家に追加してみたのですが……
滝壺出せなくて申し訳ありません。
でもミニスカサンタは全う出来ましたよ、後半ずっと一方さんミニスカサンタでしたしね!!


さて、このお話は当日編へと続くわけですが。
果たして浜面は滝壺を女子組から奪還できるのか!?
最近名前しか出て来ない美琴嬢は見事上条さんをクリスマスにデートへと誘えるのか!?
そして打ち止めは一方さんと平穏でロマンチックなクリスマスを過ごすことができるのか!?

………期待せずゆっくりお待ちくださいませ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 20:52:09.77 ID:EUyHi2Ao<>乙
先に言っとく
25日のはまづらはもげてしまえ<> 298<>sage<>2010/12/13(月) 21:01:41.77 ID:33WCNu2o<>イエィ!! ミニスカサンタ百合子ごっつぁんです!
GJ!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 21:05:33.34 ID:LbFVAgc0<>打ち止めさんはホンマにいつも一方通行やでえ・・・
乙です<> 297<>sage<>2010/12/13(月) 21:05:47.06 ID:9TgF7k60<>凄い良かった!

さあ打ち止め、幸せを満喫してくるのだ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 21:16:21.37 ID:rLLEToAO<>前日編クッソワロタwwwwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 21:40:30.07 ID:eFIk1XUo<>き・て・るるるるうううううううううううう!!!
きてる! きてる!
うひゃああああ今自分が見てる中でここの>>1だけが更新してるややふうううう!!!
うれぴいいいうれっぴいいいいよおおおおお
うごぎゃあああああああ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 21:49:21.88 ID:pJR0dYAO<>
急患です、どなたかー!
お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんかー?
>>409が…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 21:57:42.41 ID:NLGG3i2o<>>>410
そっとしておいてやれよ…
色々あるんだよきっと。日頃の鬱憤とか。<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/13(月) 22:10:56.82 ID:fm92PA60<>「>>409様のためにミサカが執刀してあげるよ。取り敢えず何?ケツにメスでもブッ刺しとけばいいの?」

「>>409様死んじゃうから!らめぇええええええ、ってミサカはミサカは搾乳器片手に叫んでみたり♪」

「………なンでオマエもちょっと楽しそうなンだよ、クソガキィ」<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 22:16:04.30 ID:VGvGfHUo<>「メスのケツにぶっ挿しとけばいいの?」に見えた。疲れてるな俺<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 22:52:47.39 ID:0IrlukDO<>>>413
メス「らめええぇぇぇぇ!切れちゃう!きれひゃうよおおぉぉぉぉぉ」

ごめんなさい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/13(月) 22:53:49.62 ID:AJpFc7s0<>番外固体マジ策士<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 23:01:13.96 ID:XHtKQ2DO<>>>1乙!

妹達全員集合とかどんだけ広いスペース必要なんだよwwwwwwそれに20歳の禁書目録があんな事言ってると考えるとなぁwwあとグリード・アイランド編は最高<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 23:05:58.83 ID:xjq/eoSO<>で、番外個体は結局どこをペロペロしたの?
B地区とあとはどこ?
耳?うなじ?内股?足の指?
早くデータをアップして感覚共有をってミサカはミサカはぁぁぁああああ!!!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 23:24:53.97 ID:66vJ4M60<>大丈夫 
クリスマスだから打ち止めもペロペロできるさ
俺は打ち止めペロペロしたいがなペロペロ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 23:48:18.87 ID:pujc1.SO<>もう打ち止めが悲しくなるたびに胸が張り裂けそうだったよ
なにこれ?恋?

しかしまさか一方さんが酔ってたとはいえ、
自ら百合子やるゥとか言うとは思わなかったww
あと生そげぶってなんだ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/13(月) 23:54:46.04 ID:sFKmWCso<>あのAAじゃね?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 09:55:58.38 ID:e6waFgSO<>あーなんか<(^o^)>こんな顔でくねくねしてるやつだっけ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 14:39:49.53 ID:z7Oe/.so<>みこっちゃんはクリスマスデートに誘えずとも、せめて上条さんたちと一緒のパーティの席で楽しく過ごすくらいの思い出作りが出来るとええなぁ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 18:19:54.72 ID:LnPyr2DO<>いやもう美琴には普通に甘々なクリスマスを過ごしてほしいな!ここまであまり優遇されてないし…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 21:55:06.07 ID:hSoD0gSO<>キャラの扱いは作者次第だろ
これだから上琴厨は……
美琴は俺と一緒にクリスマス過ごすんだから、話に出てこないのはしょうがないんだよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 21:56:45.93 ID:Nf6QdXYo<>そげぶ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 01:00:37.19 ID:Po.8XFUo<>お姉さまは既に私との先約がございますの<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/15(水) 20:58:48.35 ID:9KX4szI0<>昨日は更新できず申し訳ございませんでした。
皆様の暖かいお言葉を読み返す度に本当に自分が不甲斐なく思います。

ここからはクリスマス完結編の投下となります。昨日更新できなかった分、ここ最近の投下にしては少し長めです。
それでは以下よりどうぞ。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 20:59:38.39 ID:9KX4szI0<>



12月25日。
一方通行は駅前の巨大なツリーの前で、一人小さく困惑していた――――。






《番外編》 部屋とクリスマスとミサカ―当日編―




<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:00:07.55 ID:9KX4szI0<>

事は1時間前に遡る。
昨日と同じく一方通行と打ち止め、番外個体に加え黄泉川や芳川、上条、インデックス、浜面の8人で
賑やかに朝食の席を囲んだ彼らは、食事が済むとそれぞれ別れて行動をとることにした。
今度は完全に全員バラバラだ。
それはと言えば、今日一日を共に過ごすことを約束した打ち止めが


『デートっていったらやっぱり待ち合わせからだよね!ってミサカはミサカは雰囲気を大事にしてみる!』


なんてことを言い出した所為だ。


(デートなんて言った覚えはないンですがねェ……)


兄妹や父娘でも二人で出掛けることを『デート』と比喩することもあるが、
なまじあの少女の場合はそれが『どのような意味』なのかは図りづらい。―――大方予想はつくが。


(まァ、アイツも喜ンでるみたいだったし……良しとするか)


なんたって今日は、クリスマスだ。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:00:44.78 ID:9KX4szI0<>

打ち止めは誰もいない我が家でいそいそと着替えていた。
今日のファッションはスノーホワイトのファー付きワンピース。
あの人と一緒のときは、何と無く彼の白さとお揃いの様な気がして気に入っている。


(番外個体に悪いことしちゃったかな……)


数分前に出て行った彼女を思い、打ち止めは思案する。
どうしてもと頼み込みクリスマスを譲ってくれた彼女は、今晩は芳川の下で一晩を過ごすらしい。


『ミサカは昨日あの人に好きなだけ悪戯したからね、今夜は最終信号に譲ってあげるよ。
ミサカからのクリスマスプレゼントね。……んじゃ、ミサカは独り者同士芳川と飲み合ってくるから』


番外個体には何かあの人とは別に取っておきのプレゼントを買ってこよう。


(ありがとねっ…、番外個体!!)


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:01:22.99 ID:9KX4szI0<>

朝食をご馳走になってから二日酔いでフラフラとなったインデックス(しかし食事は人の3倍、しっかりと食べた)を
背負って一方通行宅を出た上条当麻は、自身が暮らす学生寮の前に見慣れない影が立っていることに気付いた。
目を凝らして窺えば、


「あれ……御坂?」


そこに居たのは御坂美琴であった。


「どうしたんだよビリビリ、こんなところで。インデックス連れた俺が言うのもなんだけどココ男子寮だぜ?」


いつもならここで電撃を伴った反応
――例を挙げるなら「アンタが言う台詞じゃないっ!」や「べ、別にアンタには関係ないじゃないっ!」などだ――
が返ってくるものだが、今日に限って美琴は何故か萎らしい。


「どうしたんだよ……――何かあったのか?」


もし彼女がそうだ、と言えばそれだけで上条は事情など求めずに協力するだろう。
しかし美琴の口から出たのは、上条にとっては思いがけない言葉であった。


「昨日は黒子達とクリスマスパーティーしたんだけど今日は皆『彼氏』と過ごすみたいでっ……、
 アンタ今お金ないんでしょ?ち、丁度いいから私がパーティーメニュー作ってあげても、い、いい良いわよ!」

「え、マジ!?でもなんで俺が金無いって知ってるんだ?」


上条が尋ねると美琴は一瞬ビクリと肩を震わせた。


「べ、別に?アンタの事だからどうせそんな所だろうと思っただけよ!」

「ふーん」


美琴としてはそんな重箱の隅を突いたような細かい事より『彼氏』を強調させた方に気付いて欲しかったのだが、
ここは少しくらい目をつむろう。


クリスマスを共にする、まずは第一段階完了だ。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:01:53.76 ID:9KX4szI0<>

「お、おまたせっ!って、ミサカはミサカは一度やってみたかったシチュエーションを思い切り堪能してみる!」

「走るなクソガキ、転んでもしらねェぞ」


こんな日まであからさまな子供扱いかと打ち止めは一度口を尖らせるが、
次に続いた「珍しいモン履いてンだから気ィ付けろ」という言葉に一転して顔を真っ赤にさせた。


(奮発して買った新しいブーツ、……気付いてくれたんだ)


気を配った精一杯のオシャレを見てくれること程、最初の第一声として嬉しいものはない。


「ンで?結局何も決めてなかったが何処行きてェんだァ?」

「えっとね、デパート!今日はミサカがディナー作るから!ってミサカはミサカは宣言してみる」

「飯だけで良いのか?」

「あなたが他にも良いって言うならディナーの後に駅前のイルミネーション見に行きたいな……
って、ミサカはミサカはあなたの顔を窺いながら希望を述べてみたり……?」

「なら飯早めに作り始めねェとなァ、駅前混むだろォし」


さりげない言葉は了承の合図だ。


「えへへーっ」

「あァン?」


ニマーっ、と顔を綻ばせた打ち止めはそのまま一方通行の腕へと自身のそれを絡ませ手を繋いだ。


恋人繋ぎくらい許されるだろう。
何たって今日はクリスマスだ。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:02:55.84 ID:9KX4szI0<>
浜面仕上は『アイテム』がアジトの1つとしている個人サロンの一角へと来ていた。
昨日麦野と絹旗に連れて行かれてしまった滝壺に携帯は繋がらなかった。
3人の自宅を回ってみても見つからなかったことを鑑みれば、あとは浜面が知る内でパーティーが出来そうな場所は此処しかない。


しかし此処まで来たはいいものの、滝壺に何と言えばいいのだろう。
もしかしたら彼女は自分をエロい事しか考えていない最低な男と思ってしまったかもしれない。
強ち間違ってはいないかもしれないが………あんなに可愛い彼女がいるのだ、少しくらいは仕方ないというものだ。


「しかし俺は誠意を持って滝壺に接するのだ、浜面さんマジ紳士に俺はなるしかひゃああああ!!!!!?」

「………じぃー……」


浜面の紳士になります宣言はしっかりと滝壺に届いていた。
ただし気持的でなく現実的に。


「たたたたた滝壺!?なんで?麦野と絹旗は?」

「むぎのもきぬはたも二日酔い。まだ寝てる」

「イヤ麦野はともかく絹旗まだ呑んじゃダメだろ」


滝壺は相変わらず天然満開のキョトン顔を繰り広げているが浜面としては恥ずかしい事この上ない。
何せ要は『男の欲求に耐え今夜は純愛を目指すのだ』というような内容を聞かれていしまったのだ。
我慢している、は前提にエロい事を考えているが見え隠れだ。


普通なら折れてしまうかいっそのこと開き直ってしまいそうなこの状況下で、しかし浜面は男を見せた。
漢・浜面仕上!!滝壺の為だったらどんな逆境にだって堪えてみせますとも!!
もう二度と麦野に『クリスマスのノリで出来ちゃったりしたガキの気持ち考えろ』なんて言わせねえ!!


「滝壺!!」

「なに、はまづら?」

「滝壺……俺、俺、………ノリじゃなくてキチンとお前としたいんだあああああ!!!!!!」


―――――――――アレ?なんか違くね?


「こんな場所でなぁに宣言してるのかなあ、はーまづらぁー」


以上、なんか浜面だけ危機を迎えているクリスマスの中継。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:03:26.85 ID:9KX4szI0<>

デパートで買い物を終えた一方通行はリビングでのんびりとした1日を過ごしていた。
『あなたが昨日美味しい料理を作ってくれたから今日はミサカが一人で作るの!』待ちである。


(そォいや、超電磁砲は上手くいったかねェ)


御坂美琴に上条当麻が金欠でクリスマスもまともに送れないという情報をリークしたのは、何を隠そう一方通行だ。
『メシでも作りに行ってやれ』という内容なら美琴も上条に会いに行く口実ができるし、
インデックスも多少女関係を我慢すれば好きなだけ豪華な食事にありつける。
どちらか一方を優先させたわけではなし、我ながらナイスなアイディアだ。


(らしくねェことしてる気もするが……案外とクリスマスに舞い上がってたのかもしれねェなァ、俺も)


ところでリビングからは何だかキャア!だのウォウ!だの尋常ならない声が上がっているのだが大丈夫なのだろうか。
ソファから立ち上がろうとする度に「大丈夫だ、問題ない!」と牽制されてしまうのでどうにもあちらの様子が解らない。


(………そういえば揚げ物とか手の込んだモンは危ねェからやらせた事無かった気がする)


「キャアアア!!!あひるさんの油がああああってミサカはミサカはああああああ!!!!!」


―――――………そんな料理で大丈夫かァ?

<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:04:08.86 ID:9KX4szI0<>

御坂美琴の振る舞うクリスマスディナーは上条当麻とインデックスに至福を齎した。


「ぷはぁー、美味しかったあ。短髪のヤツ料理できたんだね」

「シスターのくせによく食べるわねえ……てゆうかご飯作ってあげたのに失礼よね、人を何だと思ってるのよ」

「いやあ、やっぱり何だかんだ言って御坂は『お嬢様』って印象が強いからさ。
 こーゆー庶民的なこと?っていうの?出来るとは思わなかったから上条さんも好感度UPというものですよ」


好感度UPという言葉に美琴の顔が一気に赤く染まる。
そんな彼女の様子を、フォークを銜えながらじっと観察していたインデックスはあからさまな棒読みで上条を囃し立てた。


「あーあ、イルミネーション見に行きたかったけどお腹いっぱいで動けないんだよ。
 代わりにとうまが短髪と一緒に見に行ってよ」

「え、お前が腹いっぱいになるとかありえなくね?てゆーか名にその棒読m……―――」

「うるさいんだよ、私だって満腹くらいあるもん!判ったらさっさと行くんだよ!!」


懐かしくも噛み付いてまで起こり始めたインデックスに対し上条はこれ以上のやり取りは得策でないと判断したらしい。
大人しく彼女に従い「悪いけど付き合ってくれ」と美琴を促す。


美琴にとっては嬉しい限りだが、あの欲望に忠実なシスターがわざわざ敵に塩を送りつけるような理由が解らなかった。
上条に連れられて玄関に向かう途中、すれ違いざまにインデックスの方を見遣ると


「――――ご飯作ってくれたお礼。私だって大人の分別くらいあるんだよ」


小さな声で呟かれた。
美琴が声も出せずにそのまま外に出ようとすれば、彼女もはっきりと礼を言うことが相当恥ずかしかったのだろう。


「1時間だけなんだからねっ!シスターは寂しいと死んじゃうんだから!!」


近所迷惑になるほどの大声が、辺り一面に響いた。

<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:04:42.77 ID:9KX4szI0<>

昨日の酒は体内分解を促進させて抜いてあったようだが、日頃の疲れは相当溜まっていたのだろう。
いつの間にかソファで寝込んでしまった自分にそれは流石に失礼だろうと一方通行は叱咤を飛ばす。
時計を見れば最後に確認してからまだ5分程しか経っていなかった事に安堵の息を吐いた彼は、
改めて台所を確認してみた。


先程のような悲鳴は聴こえない。
しかし、何かを調理しているような音もまた聴こえない。


時刻は午後5時。
イルミネーションを見に行く為に早めの夕食を予定していたから既に完成していたとしてもおかしくはないが、
打ち止めの性格を考えると出来たら直ぐにでも運んできそうなもので、何処か違和感があった。


足音を立てずにそっと台所へと向かえば、打ち止めは放心状態で声も出せずに泣いていた。
カウンターとコンロには何がどうなったのか原形を留めていないダークマターが2つ(暗黒物質的な意味で)。


そっとそのまま気付かれないようリビングに戻り一方通行は感慨もなく、
あくまでいつも通りに打ち止めへと声をかけた。


「そォいや、ケーキの材料買うの忘れたなァ。
今からだと買ってくるのに1時間くれェかかるが我慢できるかァ?」


急に話し掛けられた声にハッと反応を示した打ち止めは、
自身の動揺を悟られないよう必死に平淡な会話を取り繕う。


「う、うん!その頃にはご飯も完成してると思う、ってミサカはミサカはあなたを送り出してみる!」


玄関口の閉まるキィ…とした音を聞き届けると、打ち止めはその場に小さく座り込んだ。


「……あと1時間ある。大丈夫。美味しいご飯は作り直せる、
ってミサカはミサカは自分に言い聞かせて気合いを入れてみたり」


(―――こっちは暗部で命懸けの騙し合いしてンだ、これくらいでヘマして堪ンかよ)


外へと出た一方通行は普段使うバス停を横切りあえての徒歩を選んだ。
時間は出来るものではない、作るものだ。
<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:05:47.70 ID:9KX4szI0<>
浜面仕上と滝壺理后は駅前のコーヒーショップにいた。
あの後麦野にさんざん怒鳴られ追い掛け回された浜面はすでに息も絶え絶えだ。
昨日に続き今日までも、彼ら二人はクリスマスらしいことを何一つ揃ってやっていない。


「悪ィ滝壺、あんなこと言って。………やっぱり失望したか?」

「ううん。はまづらがバニーの雑誌持ってたときも
『男とはそんなもんだ、それを受け入れる度量が女を美しくする』ってかきねが言ってたから」

「名言っちゃ名言だけど……アイツ何言ってんだ?」


純真無垢を絵に描いたような滝壺にあんな男の欲望丸出しな思いを暴露してしまい
彼女に引かれたりしないかと不安に感じていたのだが、
彼女の度量の広さというか天然っぷりはそれを上回るものだったらしい。
垣根じゃないが、そこまで大きく受け止められるといつも以上にときめいてしまうではないか。


「――――つーか俺ら、クリスマスらしいこと何一つしてねえな」

「でも、はまづら連れて来てくれた。コーヒーショップじゃなくてあそこに行きたかったんでしょ」


滝壺が指したのは近くで催されているイルミネーションのライトアップだ。
既に周りは混雑していて、特にツリーの辺りは今から集団に加わっても遠目にしか見えないかもしれない。


「いやでも何か混んでるし。滝壺人混み苦手そうだから気ぃ悪くするかなあって」

「………迷わないように手、繋いでくれるならへーき」


そう言うと滝壺はそっと浜面の手を握り取ってレジへと向かい、浜面が財布を取り出す前にさっさとカードで会計を済ませた。
店を出た後も彼の手をぎゅっと握りしめサクサクと煌びやかな明かりへと向かってゆく。
可愛らしいというより、もういっそのこと男前と呼んだ方がピッタリな具合だ。


滝壺に手を引かれながら歩く浜面は、ふいに自分の尻ポケットから不可解な振動が立っていることに気づきそちらに目を遣る。
「……たぶん、むぎのから」という滝壺の言葉に
そういえば雰囲気ブチ壊しなんて事にならないよう携帯を今日はマナーモードにしていたことを思い出す。

麦野からだと知っているという事は出ていいという事だろうか。
滝壺の方を窺いながら通話ボタンを押すと、電話の向こう側の相手は一言、小さく言って電話を切ってしまった。


「ゴメン。……羨ましいからって、調子乗り過ぎた」


彼女が羨んだのは、果たして浜面か滝壺か。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:06:24.47 ID:9KX4szI0<>

ケーキを求めて街中を歩いていた一方通行は上条当麻に手を握られて顔を真っ赤にしている御坂美琴を発見した。
手を引かれて歩く姿はさながら迷子にならぬよう気をとめる親子の様だ。
その例えは上条から見ればあながち間違っていないのだろうが、美琴から見れば至って大真面目だから何とも言えない。


(つーかあのヒーロー相手に超電磁砲のヤツよくアソコまで進めたなァ)


女心が解らないのは自分も同類だという自覚はあるが、自覚がある分まだ彼よりはマシな筈だ。
………恐らく。
声をかけるのも野暮だろうと考えた一方通行は大人しく目的地へ向かおうとその場を離れようとしたが、
やはり相手が悪かった。


「アレ?あそこにいるの一方通行じゃねえか?」


おーい一方通行ー、なんて暢気な声が後ろからかかる。
今日ばかりは超電磁砲に同情した。


「お前こんなところで何してんの?打ち止めは?」

「そこの洋菓子屋にケーキ買いに来たンだよ。アイツは飯作ってる」


打ち止めはご飯作ってくれるから偉いよなー、ウチのインデックスはさー、……――――
続く上条の愚痴に既に美琴からはビリビリと抑えきれない小さな電気が発せられている。
『ウチの』という言葉も引っかかったのだろうが、何分この雰囲気の中他の女を話題に出されたのだ。
無理はない。


そんな美琴を横目に確認した一方通行はどうにかしてこの場を離れる手段を考えようとするが、
目の前の鈍感ヒーロー様は「あ、あっちには浜面が!!あの人が彼女さんかなあ?」と次のターゲットをロックオンしている。


「あー……なンつーか……俺はガキ待たせてるから、あとは仲の良いお二人でごゆっくりィ」
(―――――厄介な女。人の事にはやたら口出すクセしてよォ)


『仲の良い』をワザと強調させてトンズラをこいた一方通行は
「な、仲良くなんてないわよ!」と大声でビリビリやっている美琴を尻目に確認し溜息をついた。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:06:59.23 ID:9KX4szI0<>

一方通行が帰宅すると、食卓にはささやかながら豪勢な食事がテーブルを彩っていた。
かぼちゃのスープにパスタにリゾット、マリネにテリーヌに―――――北京ダック?


「き、昨日七面鳥食べちゃったから北京ダックにしてみたんだけど………おかしかったかな?ってミサカはミサカは――――」

「いや、北京ダック久しぶりに食うなァと思っただけだ」


ケーキを冷蔵庫にしまうといつの間に用意したのだろう。赤ワインがグラスと共に一方通行の席にだけ置かれた。
打ち止めの席にはアップルサイダーが頓挫している。


「あひるさんの油がけに失敗しちゃって……結構焦げちゃったりしたんだ………
 焦げた所はミサカが食べるからあなたは美味しい所食べてね、ってミサカはミサカは皿を勧めてみたり」


本格的に丸のアヒルを加工する所から始めたらしい打ち止めは、
皮だけしか使われない北京ダックの尚且つ焦げていない箇所という非常に希少な部位を一方通行の皿へと乗せた。
そのまま彼の席へとサーブすると不安そうにこちらを見つめてくる。


「どうかな、ってミサカはミサカは心配しながら尋ねてみたり……」


一方通行がそれを静かに口へ運ぶと、打ち止めは今にも消え入りそうな小さな声で尋ねてきた。


「うめェよ」

「本当のこと言って!………ミサカ、あなたがケーキ買いに行く前に一回料理全部失敗しちゃったの。
 そこから何とか頑張ってみたけど、昨日あなたが作ってくれたみたいにはならなかった!!
 見た目だって貧層だし味も保証できないし………ダメならダメってちゃんと言って、ってミサカは……ミサカは……」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:07:45.48 ID:9KX4szI0<>

打ち止めは泣いていた。
涙をぽろぽろと零しながらそれでも表面上の言葉ではなく本音が欲しいと言う。
強い奴だ、と一方通行は素直に感じる。
思えば出会ったときから、この悲痛な運命の下生まれてきた彼女は強く、気高く、優しかった。




「味が濃い。この濃さならテンメンジャンは少しでいい、それかタレは無しでも。後は削いだネギかキュウリの千切りが欲しい。」



だから一方通行は彼女のプライドに倣い、隠さずに本音を吐露する。全部。
普段は恥ずかしくて言えないような台詞も全部纏めて。


「だが、………だが、俺の為に作ったっつーだけで、満足だ。
 栄養管理とか義務だとかそうゆうンじゃない『俺だけの為のメシ』は、オマエらに会ってからが初めてだしなァ」


研究所で餌のように与えられる物でもない、一人味気なく食べていた冷凍食品や外食でない、
自分の為に作られた食事。
打ち止めという一人の少女が、まさしく一方通行の為だけに奮闘して用意した夕食。


「―――――それだけで、十分うめェよ」


うわあああああん!!!!
緊張の糸が切れたのだろう。
もっと幼かった頃のように声を張り上げて泣く姿が一方通行にはひどく懐かしいもののように思えた。
その所為か、彼女との生活にやっと慣れ始めた頃に始めた『撫でる』という行為を一方通行は静かに何度も行った。


彼の白く骨っぽい手が彼女の頭に触れる度、打ち止めは小さく「大好き……」と呟いていた。
一方通行は答えなかった。
代わりに向かい合った細い腕が、そっと打ち止めの肩を引き寄せた。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:08:22.53 ID:9KX4szI0<>

バチンっ!と小さく電気が音を発したと思うと、急に部屋の明かりが消えた。
この学園都市で停電なんて事態は非常に珍しい。


(――――超電磁砲がなンか遣らかしたかァ?)


実は彼の勘は見事的中しており、
上条が天然で言った美琴にとって恥ずかしい言葉が彼女を真っ赤にさせると共にひどい電流を生み出したのだが、
この場にいる打ち止めと一方通行には知る由もない。


「………電気、消えちゃったね」

「仕方ねェな―――――コレならどォだ?」

「ふふっ!なぁにそれ、ってミサカはミサカは珍しく珍妙な行動をとるあなたを笑ってみたり」


一方通行が持ちだしたのは外で購入してきたケーキだった。
しかしただのケーキではない。
持ちだされたのは、まるで誕生日のようにロウソクが何本も刺さったクリスマスケーキだった。
その一本一本にライターで火を付けた一方通行は「これで大丈夫だろォ」と満足そうに言い、
それがますます打ち止めの笑いを誘った。


「でも、これじゃ外のイルミネーション復旧するまでに時間かかりそうだね……
 七面鳥じゃなくて北京ダックだし、ケーキも誕生日みたいになっちゃったし。
 クリスマスらしい雰囲気全部吹っ飛んじゃったかも、ってミサカはミサカは少ししょんぼりしてみたり」


真っ暗な部屋で顔も見えないが、打ち止めが本当は『少し』などではなく『かなり』がっかりしていることは声で解った。
伊達に何年も一緒に暮らしていない。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:09:22.41 ID:9KX4szI0<>

どうしようか学園都市第一位の頭脳をフル回転させて考えた一方通行は、
去年のクリスマスパーティーで黄泉川がケーキを運ぶとき大声でクリスマスソングを歌いながら持ってきたことを思い出した。
いかにも『クリスマスらしい』雰囲気に打ち止めが手を叩いて喜んでいたのも頭に残っている。


「―――――♪ We wish you a merry Christmas And a happy New Year.」


一方通行は小さく息を吸うと、『歌う』という本当に慣れない行為を始めた。
彼が彼女の為に歌ったのはこれが2回目だ。
そして、意識ある彼女の前で歌うのは、これが初めてだ。


「♪ Glad tidings we bring to you and your kin We wish you a Merry Christmas and a Happy New Year! 」


暫く驚いたようにして打ち止めも彼が1番を歌い終える頃には顔を綻ばせていた。
「こンなンしとけば雰囲気出るだろォが」と呟いた彼が恐らく顔を真っ赤にさせているだろう事は、彼女が一番良く知っている。


「♪ For we all like figgy pudding For we all like figgy pudding」
「♪ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ」


2番を促した打ち止めは彼に声を合わせ歌い始める。英語の発音が上手くいかないのは御愛嬌だ。


「♪ For we all like figgy pudding so bring some out here! 」
「♪ ふぉあ うぃー おーる らいく ふぃぎー ぷでぃんぐ  そぉ ぶりんぐ さむ あうと ひあー」


そこまで歌うと窓と向かい合う形で座っていた打ち止めが声をあげた。
外をじっと見ているので何事かと同じように見遣れば


「雪!雪だよ見てみて!ってミサカはミサカは興奮して窓を開けてみたり!!」


全ての街灯が消え真っ暗となった夜空に、白く輝く雪が舞っていた。


「ホワイトクリスマス、あなたの歌のおかげだねっ!ってミサカはミサカは喜びを身体全体で表現してみたり!!」


そんな遣り取りをしているうちに街はだんだんと灯りを取り戻してゆく。
――――――あァ、やめろ。今明かりがついたら顔が真っ赤なのがバレちまう。

<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―<>saga<>2010/12/15(水) 21:10:17.61 ID:9KX4szI0<>

「電気付いたし、イルミネーション見に行くかァ?」


顔を隠すように俯きながら立ちあがった一方通行に、打ち止めは何も言わなかった。
言えなかった。
何か言おうと顔を合わせれば自分も顔を真っ赤にしていることが知れて、恥ずかしかった。


「うん行く!ってミサカはミサカは勢いよく立ちあがって玄関までダッシュしてみたり!!」

「おィ、クソガキィ!!ちゃんと上着着やがれ風邪引いてもしらねェぞォ!!」



そして、彼らのクリスマスは―――――



「クソガキィ、帰ったらツリーの下ちゃんと見とけよォ」

「なんで?ってミサカはミサカは疑問を提示してみたり」

「サンタさン来てたから」

「あ、それならミサカも見た!クリスマスツリーの下にね、プレゼントが3つ置いてあったの!!」

「………3つ?2つじゃなくてかァ?」

「赤いリボンの2つ以外にいつの間にか黒いリボンのが混ざってたんだよ、ってミサカはミサカは不敵に笑ってみたり」

「………そォかよ」



――――――――円満の完結を迎える。






We wish you a merry Christmas!(楽しいクリスマスをあなたに!)




『部屋とクリスマスとミサカ ―当日編―』(完)

<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/15(水) 21:15:25.81 ID:9KX4szI0<>という訳でクリスマス編の本編はこれで完結です。
最後に出てきて触れられなかったクリスマスプレゼントについてや
登場できなかったキャラや目立てなかったキャラに関しては小ネタとして暫く投下していこうかと考えています。

まず何から小ネタにしようか悩みどころです。
@プレゼントに関しての後日談
A番外個体や黒子嬢、ていとくんなど未登場キャラに関して(その他のキャラでも可)
B登場したキャラに関しての後日談

宜しければ「これがいい!」とご意見いただければ幸いです。あくまでB以外は書く順番ですので結局どれも書くと思いますが。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/15(水) 21:20:44.43 ID:cK5jpM20<>番外個体アリアリであっまいのを一つ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:26:25.32 ID:HSD2vTM0<>乙ー
打ち止めかわえぇ、一方さんカッケー…他の人達も良い味出してる
中でも浜面が個人的にはかなり良かった、頑張れ男浜面ー

自分はAで黒子やていとくんが気になります<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:35:41.57 ID:RAXSdOM0<>>>昨日は黒子達とクリスマスパーティーしたんだけど今日は皆『彼氏』と過ごすみたいでっ

そーか。黒子も変態から脱したのかあ、と変なところでしみじみした。

しかしなんだな、このSSは原作から6年後設定だから美琴は20歳。
どんだけ一途で初心なんだよ。

リクエストは番外固体&超電磁砲組の3人娘の様子でお願いしたい。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:38:57.80 ID:.BQZ5ws0<>乙
一方通行さんと打ち止めさんは、ホンマおしどり夫婦やでぇ・・・

Bで砂糖を吐くような甘いのを頼む
むぎのんや絹旗ちゃんが2人さびしくクリスマスパーティ二次会
いつの間にか寝てしまったむぎのんがふと目を覚ますと、そこにはかつて自分が真っ二つにしたフレ/ンダ(サンタコス)が!
その後なんやかんやあって、再び目をさますとそこにはだらしなく寝てる超少女だけ
あれは結局夢だったのだろうか・・・
まで妄想した

あと上条さんはもげろ。黒子にテレポートでもいでもらえ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:42:03.00 ID:HfwwrGc0<>乙
一方さんがイケメンすぎて辛い

打ち止めの幸せを満喫したから今度は番外個体が見たいです<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:51:53.43 ID:Tt3pZ3co<>やはりはまづらはもげるべき
芳川と番外個体の独り身同士の大愚痴パーリィで<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 21:57:52.13 ID:m6rD7V60<>乙!
ニヤニヤした!でも一方さん答えないんだなー 少し切ないぜ



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 22:12:35.31 ID:CD1FPfwo<>通行止め親子。いいね。乙です。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 22:33:58.29 ID:qVQe1oAO<>乙!
全部見たいけど早く見たいのはミサワさんかな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 22:38:18.33 ID:WLawG2AO<>一通さんまじイケメン

Aでミサワさん見たいです!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 22:47:04.78 ID:J/O3GbYo<>美琴さんの精一杯頑張った結果をチラリといいので見せて頂きたく

しかし通行止めの方はきっちり進展してる感じだな・・・
一方さんマジイケメンなのに上条さんときたら<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 23:05:02.38 ID:tThAtvAo<>気づいたらにやけてたぜぇええええ!!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 23:24:45.62 ID:PaRk1S.o<>ニヤニヤと切なさに同時に襲われたわ
すげえ

番外ニートの愚痴を聞きたいなァ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 00:25:35.65 ID:.Ij5n2SO<>ご飯のとこで打ち止めと一緒に泣いた
ニヤニヤしたし…キュンとしちまったわ…

答えないけど抱き寄せる一方さんマジイケメン

@ABどれも見たいけど今回譲ったインデックスさんがどんな気持ちだったか
考えたらなんか泣けてきたのでインさんの後日談とかも気になったり<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 21:55:07.04 ID:Xckox2Io<>Aで頼む<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/17(金) 19:16:14.15 ID:MCOcixI0<>取り敢えずざっと見た限りA……というかミサワさんが人気みたいなのでAから更新します。
本日の投下は垣根帝督、超電磁砲3人娘、番外個体、それぞれのクリスマス。
3本で1話分の小ネタ集です。

では以下よりどうぞ。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:19:09.85 ID:MCOcixI0<>

【 部屋とクリスマスと未元物質 】




「……なぁ。こんな日にこんなトコいて悲しくなったりしないわけ、お前?」

「その台詞、そのままバットで打ち返すわ」


垣根帝督は暗部で使用している『アジト』の一つにいた。
何かと色々揃っているので、垣根は此処がお気に入りだ。


「世間はクリスマス一色、リア充達は恋人同士ロマンチックに過ごしましょうってな。
 俺の相手は基本どれもセフレだから今日みたいな日は皆本命といたがるんだよ」

「最っ低」


そんな最低男・垣根が先程から話しかけているのはドレスの女だ。
『心理定規』と呼ばれ垣根達が徒党を組んでいる組織『リバース』で尋問官を務めている女と言えば、お分かりいただけるだろうか。


「つーか俺ら去年もココでこんな感じに過ごしてなかったか、クリスマス」

「そうかもね。でも私の場合はいつ仕事が来ても平気なように待機してるだけだから違うわよ」


いやいやいや。
お前も絶対俺と同類だって、と垣根は思うが口には出さない。出せばウルさく返されるだけだ。


「あーあ、近くに可愛い子がいればなあ」チラッ

「ホント。近くに色男がいればね」チラッ


言いながら二人は互いに顔を見合わせて――――――



「「はぁ。ホント空から落ちてきたりしないかな」」



吐いたため息は冬の空気に混じって白く色付き、直に消えた。

<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:20:04.36 ID:MCOcixI0<>


【 部屋とクリスマスと超電磁砲組 】




「なぁんで、あんなこと言っちゃったんでしょうかねぇ……」

佐天涙子はレストランの個室で溜息を吐いた。
小洒落たフレンチレストランも、メンバーがクリスマスイヴ・当日共に女だけとなると虚しいばかりである。


「でも言いだしたのは佐天さんでしょう」


向かいに座る初春飾利はデザートでありある意味メインディッシュでもあるブッシュ・ド・ノエルに舌鼓を打ちながら
今回の『計画』の主犯である佐天を見た。


「だってさ、ああでも言わなきゃ御坂さん『当日も女4人でワイワイやりましょ』って言うのが目に見えてるし。
 …………ホントは好きな人と過ごしたいクセして、中々言いだせないからってさ」


「だからってあんな強引に『御坂さんも男の人でも誘えばいいじゃないですか』はありませんの!!
 お姉様がもしあの猿人類に何かされでもしたら黒子はどうしたらよいか、ああお姉様!!!!!!」


嘆いているのはご存知、白井黒子である。
よっぽど『愛しのお姉様』が心配なのかまだ成人を迎えていない佐天がこっそりシャンパンに手を伸ばした事にも気付いていない。




<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:21:13.07 ID:MCOcixI0<>

「何かしちゃうとしたら御坂さんの方だと思いますけどねー。………それと佐天さん、風紀委員は白井さんだけじゃありませんよ」


訂正。白井が気付かずとも初春がしっかり見張っていたらしい。
仕方ないと諦めて佐天はグレープジュースを口に含んだ。
と、突然。


「あ、停電」

「………どうやら此処だけでなく街全体で起こってるみたいですわね」


先程まで『お姉様』を連呼していた人間がこうも早く反応できるとは、流石しか言いようがない。


「学園都市で停電なんて、普通なら殆どないことですし…………まさか!!」


何か感づいたのか『お姉様ァアアアアア!!!!!』と叫び声をあげて白井はテレポートしてしまった。
どうしたのだろう、という佐天の疑問を捉えたのか初春は軽く目配せしながら悪戯っ子のような笑みで簡単に言った。


「普通なら起きない学園都市の電気制御の攪乱なんて、誰なら出来ると思います?」


恋のコの字も惚れたホの字もないのは、どうやら自分と彼女だけらしい。
佐天はそんな常識外れの、見ず知らずの超能力者の思い人を心の中で労りながら――――――


「あ、雪だ」



ホワイトクリスマスを引き合いに出せるロマンチックな恋人が座る隣席は、埋まる日が未定なまま未だ空席だ。





<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:21:59.98 ID:MCOcixI0<>



【 部屋とクリスマスと番外個体 】





「女は不条理でね、馬鹿な男ほど可愛く思っちゃうものなのよ」

「芳川ぁ、ミサカには意味わかんないですけどぉ」



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:22:40.13 ID:MCOcixI0<>

クリスマスはあの人と二人きりで過ごすのだ。
そう豪語した最終信号に家と一方通行を譲ってやった番外個体が(製造月日的にはミサカのが年下なのに)
逃げ込んだ先の芳川の家での飲み会を終えて帰って来たのは、25日を2時間ほど過ぎた辺りの頃だった。


「たっだいまぁー」


―――――返事はない。
二人とも流石に寝てしまったのだろうか。
……まさかミサカを差し置いて二人でしっぽり、なんてことはないだろうな。


一度懸念を抱いてしまえば後はもう嫌な予感しか湧いてこない。
足音を立てないようそっとリビングへと向かえば、なんてことはない。
一方通行はリビングから繋がったキッチンで食器を洗っていた。


「おかえりィ」

「………うん、ただいま。……最終信号は?」


あまりにもあっけらかんと言われるものだから最終信号もからかいどころを失くしてしまった。
今日は一日二人で何をして過ごしたのか、聞きだしながら弄ってやろうと思っていたのに。


「ガキならもう寝たぞ、はしゃぎ過ぎて疲れたみてェだな」

「……ふぅん。そっか」




なんとなく、気まずい。




<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:23:22.27 ID:MCOcixI0<>

番外個体は二人が一日どうしたのか実は何も知らないわけではない。
最終信号が感じたクリスマスで最も幸せだった瞬間。
彼女はそれを無意識に、殆ど反射的にミサカネットワークへバックアップをとった。


(―――――14510号と20000号が騒いでたっけ)


彼女たちにとっての記憶のバックアップは全個体での記憶の共有を示す。
すなわち『妹達』の一体である番外個体も『知って』いるのだ。
彼の、『最終信号だけの歌』を。


番外個体は正直少し羨ましかった。


いつでもあの人に大切にされる最終信号。
あの人が護ろうとする世界の象徴でもある最終信号。
いつでもどんな時でもあの人にとっての最優先事項となる最終信号。


(……ミサカも、『ミサカだけの』何か、欲しいな……)


カチャカチャと食器を洗い続けるあの人はこっちの憂いなんてものには気付いてくれやしない。
だからどうせ気付かないなら、いっその事放っておいてくれればいいのだ。
それなのに。


「そォいや、あのガキとクリスマスにオマエが家空ける代わりに俺に何かさせるって約束したんだってェ?」

「……え?あ。……うん」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:24:03.74 ID:MCOcixI0<>

唐突だった。
こちらの気持には全く気付いてくれやしないのに、あの人はいつも『欲求』だけは直ぐに察する。


「何がいいンだァ?俺にも準備っつーモンがあンだから、早いうちに決めて言え」


言えば、ミサカにもくれるのだろうか。
ミサカの一番欲しいもの。


「なら、一緒に寝てよ」

「………………は、ハァアアアアア!!!?????」

「そっちの意味じゃないよエロ魔人、残念だったねあひゃひゃひゃひゃ!!添い寝しろっつーことですぅ」

「添い寝だァ?」

「そう、添い寝。………それで、子守唄かなんか歌ってよ」


あの人は一瞬押し黙った。
ミサカが『歌った』事について知っているのを感づいたのかもしれない。


あの人が拒否したら何と言おうか。
添い寝の方ならまだしも、歌うことを躊躇われるのはちょっぴりショックだ。


「………いいぜェ。どっちで寝る?」



だから、あの人が自分とミサカ、どちらのベットで寝るか聞いているのだと理解するのに数秒かかった。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:24:45.08 ID:MCOcixI0<>



自分から言い出したのはいいものの少し緊張する。


あの人のベットで一緒に横になったはいいものの、あの人はミサカに一切手を出さなかった。
ただ、横にいるだけ。
それでもこんな近い距離にあの人が居るのは初めてだった。


「………子守唄っつっても、大したモン知らねェぞ俺ァ」

「クリスマスソングとかでもいいよ。もう過ぎちゃったけど」


あの人は少し悩んでいた。
少し悩んで、やがて小さく口を開いた。




「♪ Lullay, Thou little tiny Child, By, by, lully, lullay.(おやすみ、おまえみどりごよ、 ねんね、ねんね、おやすみよ。)
   O sisters too, how may we do, For to preserve this day.(あねさまいもうと、どうしたら、この一日を守れるの。)
This poor youngling for whom we sing By, by, lully, lullay.(わたしら歌ってきかせてる、あわれなこの子を守れるの。)」




静かな歌だった。
小さな声で歌うあの人の顔は、シーツに埋もれてよく見えなかった。



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:27:23.93 ID:MCOcixI0<>

学習装置からインストールされた知識のお蔭でだいたいの日本語訳はできるものの、
いかんせん曲の背景が解らない。


「ねぇ、それ何て曲?」

「……歌ってやったんだ、大人しく寝ろ」

「曲名気になって眠れないよ。教えてくれたら素直に寝る」


真っ直ぐ見つめてハッキリと言えば、根負けしたようにあの人は「『Coventry Carol』だァ」、と教えてくれた。
歌ったことが、それともこの曲がそんなに恥ずかしかったのか、
言ったらそれきりあの人はシーツに顔を埋めたまま不貞寝してしまった。


これじゃ全くミサカを寝かしつけていないじゃないか、と思いながらも
しかし好都合と言わんばかりに番外個体はネットワークへと意識を巡らせた。



(――――――もしもし?誰か手が空いてる個体いる?)

(ミサカなら空いていますが、とミサカ10777号は返答します)



10777号。確かロシアにいる個体だったか。



(悪いんだけど『Coventry Carol』って曲について調べてくれない?気になるけど調べられない状況でさ)

(了解しました、とミサカ10777号は番外個体の依頼を快く引き受けます)



こんなときミサカネットワークは便利だと、素直に思う。



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:28:40.16 ID:MCOcixI0<>





(――――調べ終わりましたよ、とミサカ10777号は番外個体へと通信を繋げます)


10777号からの返信が帰って来たのは10分ほど経った後だった。



(Wikipedia先生は優秀ですね、とミサカは調査が全く苦でなかった事を告げます。
 ―――――『Coventry Carol』、イギリスのコヴェントリーで『刈り込み人と仕立て屋の芝居』という劇中で歌われた曲ですね。
 作者は不明ですが、聖書中のマタイ伝に出てくる物語のヘロデ大王がベツレヘムで行った大規模な幼児虐殺事件を描いているとあります。
 この歌はその中で当時乳幼児であったイエスを逃亡させる場面を歌っているともあります、とミサカは結果報告します)




(………そう、ありがとう)




<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏<>saga<>2010/12/17(金) 19:29:50.95 ID:MCOcixI0<>
言葉が出なかった。
10777号との通信は一方的に切ってしまった。
この人はこの歌の、誰に誰を当て嵌めてこの歌を歌ったというのだろう。


大量の虐殺を行ったという王様?
乳飲み子のイエスを護ろうとする人?
いずれにしても。


「――――ホント、馬鹿だ」


『自分を殺すために生まれてきた存在』にまで気を使うことなんてないのに。
こんなミサカの傷まで、あなたは自分の傷にしてしまう。
確かに最初「あなたの所為だ」と言ったのはミサカだ。
それでも、鵜呑みにしてミサカの事まで自分の『痛み』にしてしまうあなたは、本当に馬鹿だ。


「……でも、そんな馬鹿が、愛おしくてたまらないんだ……」


寝入ってしまったあの人の隣で、芳川の言葉が頭に響いた。





『女は不条理でね、馬鹿な男ほど可愛く思っちゃうものなのよ』






                                         ≪部屋とクリスマスと舞台裏≫(完)

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/17(金) 19:35:49.45 ID:MCOcixI0<>心理定規ちゃんの性格はほとんどオリジナルです。申し訳ありません。
この二人はくっつける、というより僕の中ではコンビです。
強いて言うなら「馬鹿じゃねぇの」「お前もな」くらいの感覚です。


番外個体の話に出てきた歌が僕は割と好きで打ち止めと対にしてクリスマス話に使おうと前々から決めていたのですが、
いざ書こうとしたら曲名が思い出せず昨日は一日それを調べていました。
曲名をはたと思いだしてからは簡単でWikipedia先生に即座に教えていただきました。
日本ではあまり聞きなれない曲かもしれませんので、イメージのわかない人はようつべなどで是非どうぞ。


次回はBのむぎのん・絹旗ちゃん組と美琴嬢、インデックスさんを書く予定です。期待せず御待ち下さい。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 19:48:26.61 ID:WhCzJ2U0<>                 _
           _.....―:.:.:_:」> 、
    _.....―:.:.:_:.:.:―:::::_:: γ^ヽ
  <_:.:.:―:::::_:::::―:.:.:_:」:乂_ノ
  |::::_:::::―:.:.:_:.:.:―:::::_:::>:V:ヘ
  |:.:._:.:.:―:::::_:::::―  ヘ: . . . . V:ハ        >>1乙です。と、ミサカは次回をwwktkしながら待機します。
  <_:::::―: ./ : /-‐ ¬ ヘ:. : . : .Vハ
  7.: : .‐7}「:/ }/  . -−、 レー 、: . V|
  { : : . .{ rr‐::、   イ:::::::::::::} ィ .}: . . .|
   、: :{: ハl.|:::::::}   、:::::::ノ'  _ノ.: . . .|
    ヽΝ }^ー '     ̄zz/ : : : . . ;
     {: :八zz.   n  _. ィ: : :/}: : /}./
     ∨、: :>ー‐=マX_ノへ}/.ノ/ /
      \{\{ Y^)Yヮ{.  >
            {/   .}く \
          く:.__.人.ヽr┘
         く:::ノ.:.:}:.:、:ヽ:.>
            .〉へヘヘイ
          /^ヽ/|  |
           〈_>'  | ̄7
                 ヒフ

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 20:08:20.19 ID:2paVoPY0<>相変らず良いね、このシリーズ。
番外個体カワイイよ番外個体

乙でした。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 20:31:02.98 ID:sae.8bc0<>みんなにもシスターの私がちょっとだけ教えてあげるんだよ!

打ち止めのための
http://www.youtube.com/watch?v=C1aguHjgd8g
番外個体のための
http://www.youtube.com/watch?v=cy1l1PAvXCA<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 21:35:26.98 ID:kA6GsASO<>禁書さんに幸せになってほしいんだが現実はそんなに甘くないのか<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/18(土) 21:50:50.29 ID:osjcNek0<>>>475様、音楽情報の提供ありがとうございました。
それでは本日分投下して参ります。最近不定期な更新で申し訳ありません。

では以下よりどうぞ。<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:51:42.50 ID:osjcNek0<>



【部屋とクリスマスとアイテム】




「――― 頭、撫でてよ」





麦野の『お願い』に、浜面は動揺した。





「滝壺にするみたいなのを望んでるんじゃない。……ただ、撫でてくれればそれでいい」





<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:52:13.11 ID:osjcNek0<>

滝壺との『デート』を終えて浜面達が戻ってきたのは、結局最初のサロンだった。
そこで2日目の『飲み会』を行ったらしい麦野と絹旗はそれぞれソファで酔いつぶれている。


人混みに少し疲れたのかもしれない。
滝壺も此処に戻ってくるなり横になるといって眠ってしまった。


そんな滝壺の頭を優しく撫で毛布をかけてやった浜面は結局、
先程までの甘い雰囲気の余韻か興奮冷めやらぬ自分だけが酒臭い部屋の隅っこで残っていたワインを一人傾けることとなった。


浜面がツマミを食すために置くグラスの固い音だけが時折部屋に響く。
数時間前まで立っていたイルミネーション前の賑わいとは大違いだった所為か、実はあの幸せな一時が夢だったのかと疑ってしまう。


(イヤイヤイヤ、ドンパチやら物騒な日常に馴れ合い過ぎだろ俺。ああゆうのもアリだって普通)


しかし色々な経緯を経て『アイテム』に加わらなければ滝壺と出会えなかったのも事実である。
妙な気分になるのはクリスマスに浮かれ過ぎた為だろうかと一人葛藤していると、
うんうん呻っていた声が聞こえたのだろうか。
割と近くで眠っていた麦野がムクリと起き上ってきた。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:53:04.03 ID:osjcNek0<>
「はよ、麦野。二日酔い大丈夫か?」


イヴでダウンするまで呑んだ挙句、今日また浴びるように酒に投じたのである。
麦野の丈夫さは死ぬほど知っているが、それは『超能力者』としての彼女であって『彼女自身』の強さを指しているワケではない。
こんな二日酔いなんかで言うのも何であるが、心配なものは心配だ。



「……ん。ちょっと気分悪い、かな?」


疑問形とはいえ多少はキツイのだろう。
米神を押さえる麦野に浜面は水を取って来てやることにした。


「ホラ、飲め」


差し出した浜面の男らしい大きな手と麦野の女性らしい細い手が重なった。
否、麦野が、重ねた。


「………麦野?」

「ねえ浜面。……お願い、あるんだけど」


―――お願い?
キョトンとする浜面。
近づいてくる麦野の顔に、ああ。このまま握っていたら水が温まっちまうな、なんて場違いな事を考える。


そして麦野はキスでもするかのように近い距離、唇と唇の距離僅か数センチで静かに『頼んだ』。




「――― 頭、撫でてよ。
 滝壺にするみたいなのを望んでるんじゃない。……ただ、撫でてくれればそれでいい」



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:53:36.66 ID:osjcNek0<>




「――――― へ?いや、……なんで?つーか、なんで頭?」

「いいから。撫でろっつってんだよ。いいでしょ別にキスだのセックスだのしろって言ってるわけじゃないんだし」

「セセセセセセ、セックスって、おま!!!女の子がそんな直接的な表現するもんじゃないでしょう、めっ!!」


何?まだ滝壺と致してなかったワケ?なんて暢気に言う麦野は自分がどんな爆弾発言をしたのか解っているのだろうか。
驚いて思わず後ずさった浜面を追いかけるようにソファから起き上りその後を追う。


「―――クリスマスプレゼント。まだ貰ってないし。頭撫でるだけっていったら安いもんでしょ?」

「いや俺お前にプレゼント貰ってな……」

「滝壺との二人きりの時間」


バッサリと切り捨てるように言う麦野に、いよいよ浜面は逃げ場を失くした。
別段逃げきろうとしていた訳ではないがなんとなく滝壺に目撃されたらマズイなと思う後ろめたさがある。
会話が会話だからだろうか。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:54:07.09 ID:osjcNek0<>

「ちっこいガキにでもしてやるようなのでいいんだよ。――― 本当に、それだけで満足なんだ」


ボソリと呟くように発する麦野の目は真剣だった。
真剣で、それでいて何処か思いつめたような切なさを伴っていた。


ここで簡単に容貌を聞いてやる事は、後々麦野を傷つけることにはならないのだろうか。
嘗て浜面は麦野を見捨てた。
滝壺という一人の少女を護る為に、麦野という選択肢を見限った。


それを知り、それを聞いた麦野の『お願い』を聞く事は、果たして麦野にとってプラスなのだろうか。
浜面は考える。


そして、一つの結論を出す。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:54:37.72 ID:osjcNek0<>

「酔い、早く醒ませよ」


これは、『気遣い』だ。
酔っぱらった仲間にかける、当たり前の気遣い。


その大きな手でワシャワシャと整えられた髪を掻きまわすのは『プレゼント』でもなければ『色恋』でもない。
ただ麦野の小さな思い出として残るだけの、ありきたりな行為。
麦野も、それを正しく感じ取ったのだろうか。


「絹旗、起きてるんでしょ。さっきからモロバレ」

「べ、別に起きてたんじゃなくて超寝ぼけてただけです!」


わざわざ寝たフリをしてこちらを窺っていた絹旗を起こし、からかう様にこう続ける。


「アンタもして欲しいんならしてもらえば?良い夢見られるかもよん」

「いやそんなして欲しいなんて超思ってないんですけど!?でも私以外全員やったなら此処は超空気を読むべきかな、みたいな!?」

「おおイイぜ、ちびっこ絹旗には寝んねのナデナデが必要だモンな」


手をワキワキとさせながら絹旗の下へ行く浜面。
顔を真っ赤にさせながら大人しく頭を差し出す絹旗。
それを大笑いしながら見つめる麦野。
そして、いつの間にか置きだして写真に収める滝壺。



これが、アイテムのクリスマス。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:55:06.87 ID:osjcNek0<>



【部屋とクリスマスとライバル達】




「お前、良い母親になるかもな」


そう言われた御坂美琴はアイツがお父さんで私がお母さんで子供には真琴なんて名前を付けて……、
とそこまで妄想を爆発させ赤面した。
『超電磁砲』の異名を持つ彼女の、渾身の一撃と共に。


「なななななな、何恥ずかしいこと言ってんのよバカーーーーーー!!!!!!」



<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:55:34.40 ID:osjcNek0<>

事は数十分前に遡る。
イルミネーションに彩られた大通りを緊張の面持ちで歩く美琴は、隣を歩く上条当麻をチラチラと見遣る最中で一人の迷子を発見した。


その小さな少女は割と長い時間保護者と離れた状態らしく、
優しく声をかけた美琴に飛びつき堪えていた涙を溢れさせた。


そんな少女を丁寧にあやしながら美琴は「何処で見失っちゃったの?」「いつ頃から一人ぼっち?」と事細かに情報を仕入れていく。


彼女の鮮やかなて付き合って故か、直ぐに少女の保護者は見つかった。
「バイバイ、お姉ちゃん達!!」と元気良く手を振る少女に、良かったなと上条は素直に感じる。


そこで冒頭の一言だ。


『学園都市最強の電撃使い』の一撃は辺り一面の電気機器にも大きな影響を及ぼしたらしい。
自身は『幻想殺し』で守れた上条も、周囲全体となると無力に等しくなる。


バチバチと不気味な音を立て、パチパチと灯りを点したり消したりという妖しい動きを繰り返していたイルミネーション達は
とうとうプツリという音を最後に全ての電気を消してしまった。


それだけならまだしも信号などの交通機関や各商店・家庭の電気すら消えてしまったのはマズイ。
当事者の美琴もどうしよう、やってしまった!と顔を真青にしている。


「落ち着け御坂!!お前のチカラでどうにかならないのか!?」

「此処でやれって言うの!?む、無理よ!!こんな広範囲なんて……キャっ!!」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:56:13.00 ID:osjcNek0<>

反論しながら上条の方を振り向こうとした美琴は、未だ暗闇に慣れていない目の所為か
近くのレストランに設置されたコンクリートの階段に躓いてしまった。
そんな美琴がひっくり返る前にと慌てて上条も手を伸ばす。


しかしそこは不幸体質・超フラグ乱立師の上条当麻である。
『不幸な事にも』彼の足もとにも割と大きな小石が落ちていた。
暗闇の中上条はそれに気付く事が出来なかった。
美琴へと手を伸ばしながら足を踏み出した上条は自身もその小石へと躓き、そして――――


「おい大丈夫かビリビ……うわぁあああ!!!」


倒れ込んだ上条の『幻想殺し』は、見事美琴の標準より小さめの心臓部へと収まった。


「い、一体……何処、触って……イヤァアアアアア!!!!!!」

「わ、悪い落ち着いてくれ御坂…ってうぉおおおお!!??」


混乱しながら絶叫を上げた御坂は今にも内に秘めた紫電を全力開放させようとする勢いだった。
上条は今すぐ御坂の胸元から手を退けてやりたいのだが、
こんな状況で『幻想殺し』を彼女から放せば確実に自分は死ぬ。この近距離は絶対だ。


「お、落ち着いてくれ頼むから御坂、右手放せないお前から!!いやそうゆう路線の意味でなく生死の問題で!!」

「せせっせ、精子!!!???べべべべべ別に嫌ってわけじゃないってゆうか寧ろ歓迎なんだけどこんな大勢の前では……その……」

「いや何の話をしていらっしゃるんでせうか御坂さん!?」


上条も美琴も軽いパニック状態である。最早会話が噛み合っていない。
そんな時、こんな状況を切りぬけるキーパーソンとなる人物がやってきたのが上条の目に見えた。
ああ、誰でもいい助けてくれ。この状況を何とかしてくれ。
そして、その人物は―――――


「この変態類人猿!!こんな公衆の面前でお姉様のお、おお、押し倒すだなんてっ……!!」

「お前は白井……!!え、ちょ、本当に違うんです、あの鉄矢を向けないでいただきた……あの、だから、不幸だあああああああ!!!!!」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:56:42.82 ID:osjcNek0<>

「取り敢えず、電気の方の復旧はこちらで手配しておきましたわ。
 ……といっても此処まで広範囲ですもの、局ももっと早くから手をつけていたようですが」

「「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」」


危うく婦女暴行罪で風紀委員に拘束されそうになった上条と「ああん、離れたくありませんわお姉様!!」と白井に腕を絡まれていた美琴は
暗闇に目が慣れてきた辺りがザワザワと自分達を本格的に騒ぎ立てる前に何とかその場を抜け出した。


「んで?これからどうする?イルミネーションの完全復旧にはまだ時間かかるって言ってたけど………どっかで暇潰すか?」


ここでウンと頷けば、美琴が上条と共に過ごす時間は格段に伸びる。
過程はどうあれ結果オーライだ。
しかし頷きかけた美琴の頭にそっと、あのシスターの顔が浮かんだ。


寂しそうに、しかし義理立てとして自分にこのクリスマスを譲ってくれたあのシスター。
自分はそれを有難く受け取ってきたが、1時間だけだよと言ったあのシスターは一体どんな思いで自分達を見送ったのだろう。


「………そうだな、――― ケーキ屋さん寄りたいかも。とびきり美味しいケーキ屋さん」


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:57:24.95 ID:osjcNek0<>

インデックスは誰もいなくなった部屋での突然の停電に困惑していた。
以前停電が起こったときには懐中電灯を持ちだした上条と共に恐い話などをして盛り上がったものだが、
一人ぼっちの家の中ではそんな思い出もただただ心細いだけである。


「とうまぁ……寂しいよぉ……」


自分が美琴へと彼を譲った事を、インデックスは後悔していない。
恋敵である彼女に塩を送ってやる事事態は釈然としないが、一食の恩義と言う借りをその恋敵に作るのはもっと釈然としなかった。
しかし、そんな想いとは裏腹に『寂しい』という感情は消えてくれない。


隣の部屋は誰かと共にこの瞬間を過ごしているのだろう。
インデックスにとっては聞きなれた、
日本人にとってはクリスマスにしか聴かないような讃美歌を流したその部屋からは時折クスクスとした笑い声が洩れてきた。


寂しさを紛らわせるためにポソポソと薄ら聴こえるメロディに合わせて歌ってみる。
そんな彼女の歌声が隣にも聞こえたのか、彼女を讃えるような拍手が壁伝いに送られた。


褒められても隣の賑わいを感じるだけで、寂しさは埋まらなかった。
テレビも付かない、暖房機器も付かないために冬の寒さが身に染みた。


「早く帰って来てよぉ……とうまぁ………」


そんな時だった。
玄関に響いたガチャリという施錠音はその瞬間、彼女にとって神の御神託を聞き入ることと同位となった。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:57:53.72 ID:osjcNek0<>

「ただいまインデック……うお寒っ!!そっか、俺ら歩いてきたから体温まってるけど部屋こんなに寒いのか」

「……とうまぁ、ヒグっ……とうまぁ……」

「うお、どうなさったんですかインデックスさん!?お前暗闇恐怖症とかじゃなかったよな!?」


上条の帰宅を認識した途端、インデックスは堪えていた涙をボタボタと零し彼に飛びついた。
ワンワンと泣き続ける彼女に戸惑いながらも上条はその背中をポンポンと叩いてやる。


「そうだよな、こんな暗くて寒い部屋に一人きりじゃ寂しかったよな。ゴメンな」

「……う、……うん……でもとうま、短髪は?」


いるよ。そう言って上条が自身の後ろを見せると、そこには高級ケーキ店の箱を抱えた美琴が立っていた。


「御坂が帰ろうって言ったんだ。お前が一人じゃ寂しいだろうから、って」


上条の言葉にインデックスが窺う様にして美琴を見つめる。
どうして短髪が。
目がそう語っていた。


<> ≪番外編≫ 部屋とクリスマスと舞台裏U<>saga<>2010/12/18(土) 21:58:36.63 ID:osjcNek0<>

「1時間って、そう約束したからね」


そんなインデックスに美琴は恥ずかしそうに答えた。
実際で、内心美琴は物凄く恥ずかしかった。
なんだかんだ言って彼女に『好敵手』以上の『友情』を感じている、自分に対して。


「でも外、こんな停電になっちゃって、……あんまり見て回れなかったんじゃ……?」

「そこは自業自得だし―――――それにアンタの立場になって考えた。私には寂しすぎて出来ないって、そう思った」


二人の会話にキョトンとする上条を尻目に少女達はそっと手を取り合う。


「ケーキ。買ってきたから食べましょ。アンタどうせお腹いっぱいになんかなってないんでしょ?」

「さっきまではいっぱいだったもん!でも泣いたらお腹がすいたんだよ。とーま、早くお皿並べて!!」


普段は喧嘩ばかりの彼女たちの突然の変わりように上条は目を白黒させる。
そして二人の笑顔を見ながら少し可笑しそうに笑った上条は、


「来年も3人で過ごそうな、クリスマス!!」

「「女心の解らないバカっ!!!」」


今宵これからも、きっと笑いが絶えることはない。




「あ、短髪!!そのオペラは私のなんだよ!」

「お子様はショートケーキでも食べてなさい」





                                      ≪部屋とクリスマスと舞台裏U≫(完)


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/18(土) 22:04:39.74 ID:osjcNek0<>>>475様、インデックスさんは少しは幸せになれたでしょうか?

むぎのんとワーストちゃんは僕の中で似たような立場です。ですから話の構成を似た感じにしてみました。
一方さん、上条さん、浜面君と3人のクリスマスを書いてみたのですが
かまちー先生の後書きの印象が強いのか一番女性問題で割り切っているのが浜面となりました。
因みに一方さんはわざと曖昧な、上条さんは超天然な感じです。
上条いい加減にしろよ、なのですが実際やられるとキツイのが一方さんのパターンだったりします。
しかしここのスレの一方さんは『父親』と『兄貴』と『一人の男』が同居して合体したようなイメージなのでご勘弁願いたいです。

次の更新は何とか明日します。
クリスマス編最後のプレゼントのお話です。期待せずお待ちください。
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:05:46.38 ID:SG0LFR.o<>乙なんだよ!
浜面はとりあえず爆発しろなんだよ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:06:36.70 ID:whgLJNAo<>カミやんはいつも通りのようだぜい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:07:12.40 ID:Oc5.LoYo<>俺も麦のんの頭撫でたいんだよ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:16:51.21 ID:JcUjBr60<>つまり……それらを合体した結果
一方さんはテライケメンってことでおk?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:25:41.88 ID:kA6GsASO<>ありがとう禁書の可愛さでお腹いっぱいです


上条さん本当に22なんだよなこれ…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:30:34.56 ID:o5IB8bY0<>乙
禁書目録さんはステイルや神裂からの救われぬものに救いの手をENDでもよかったと思うけど
教会の仕事が忙しくてそれどころじゃないか

ちなみに俺が一番好きなクリスマスソングはこれです
http://www.youtube.com/watch?v=FKrx-4Awe70<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 23:17:39.99 ID:SoJHn4I0<>乙です
今更だけど一方さん美琴にアドバイスできるくらいならもうちょっと打ち止めたんに・・・!



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 23:20:23.89 ID:mynjOFco<>ここの一方さんの身長ってどんくらいなんだろう……数年たってんだし伸びてもおかしくないから175くらいだとかんがえて細さはラストオーダーよりほそくて……

アンガールズ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 23:43:28.05 ID:gTVsJ9w0<>>>499
じゃンがじゃンが<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 12:40:27.92 ID:lg0BRSwo<>乙乙
どのグループも幸せなクリスマスを過ごせたようで何よりだ・・・
美琴とインデックスがライバルであり親友であるって光景はマジ大好き
ここの>>1はなんでこう俺のツボばかり突いてくるのか・・・なんかの能力者に違いないな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 13:24:01.18 ID:lHhCpaU0<>そ…その
げ…幻想を
ぶ・・・文にする
幻想書き(イマジンクリエイター)だろ
<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/19(日) 20:42:03.15 ID:DrGDPmM0<>
取り敢えず皆様の疑問にお答え。


>>496様 はい。上条さんは22ですよ……何か?

>>497様 なんだったらステイルやねーちんのクリスマスも書いた方が宜しいでしょうか?需要次第で書かせて頂きます。
素敵なクリスマスソングも教えて頂いてありがとうございました。

>>498様 一方さんは美琴嬢にアドバイス出来るくらいには女心を理解してるのに打ち止めにも番外個体にも曖昧にしているからズルいんです。

>>499様 数年経って背は伸びました。しかし細さはあまり変わりません。寧ろ打ち止めが女性らしい肉付きが出てきた所為で変わりました。

>>501様 最近『赤点創造(レッドポイントメーカー)』という能力を身に着けました。流石でしょ?

<> >>1 あるいはシャツの人 <>sage<>2010/12/19(日) 20:42:30.94 ID:DrGDPmM0<>
ここからは本日分の投下となります。
クリスマス編の色んな話の続きとなりますのでご注意下さい。
では、以下よりどうぞ。

<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>sage<>2010/12/19(日) 20:43:29.18 ID:DrGDPmM0<>


「なんで……」


朝になっても起きて来ない一方通行を心配して彼の部屋を訪れた打ち止めは戦慄した。
なぜなら彼のベッドには


「なんであなたと番外個体が一緒のベッドで寝ているの!?ってミサカはミサカはァァァァアアアアアア!!!!!!!!」


パジャマの上しか着ていない番外個体と、それをしっかり抱え込んだ一方通行が仲睦ましく一夜を共にしていた為である。





【部屋とプレゼントとミサカ】





<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:44:06.41 ID:DrGDPmM0<>

「うっせェなァ……」


打ち止めの怒声で目覚めた一方通行は寝ぼけ眼を擦りながら奇声を上げた少女を見上げた。
打ち止めはプルプルと肩を震わせながらそんな彼をキッと睨みつけ尋問をかける。


「問1!なんで番外個体と一緒に寝てたの!?問2!なんで番外個体はそんな格好なの!?
 問3!あなたのチェリーは既に奪われてしまったの!?ってミサカはミサカはあなたに追究してみる!!」


打ち止めの質問に一瞬訳が解らないと顔を顰めた一方通行も、
隣でうんぅ…と声を漏らして張り付いてくるお寝坊ワーストを見て納得した。


そういや強請られたまま添い寝したんだったか、と昨夜の事を思い出す。
――――― 思えば中々にこっ恥ずかしいことを自分は致したかもしれない。
そんな余計な事まで思い出しながら。


「解1、お前の勝手な約束の所為でコイツに付き合わされたから。解2、俺は知らねェどうせコイツが自分で脱いだ。
 解3、女子高生が童貞云々言うな。つーか俺の歳で童貞っつーのはお前の中でアリなのかァ?」

「え、ちょ、それってまさか今回の前にもう済まして、えぇ!?ダメそんな、エェエ!!?ってミサカはミサカはぁぁああ……」

「んん……ちょっと最終信号、朝からキンキン煩い……」


打ち止め本日2回目の奇声に今度は番外個体もしっかり目覚めたようである。


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:44:51.09 ID:DrGDPmM0<>

起き上った彼女からシーツがパラリと落ちると
そこからは中々に豊満な果実を包む黒いレースと、魅惑の茂みを覆い隠す揃いのギリギリラインがパジャマの裾に隠れて見え隠れした。


「にゃはぁあああああ!!!!!!」


打ち止めの羞恥に満ちた叫び(本日3回目)にも目もくれず、
当の本人達は呑気に何のアフターかと思うほどの甘い空気(ジェラシーを含んだ打ち止め視点)を漂わせている。


「おいテメェ、真冬なんだから下蹴り脱いだりしてンじゃねェよ。風邪引くだろォが」

「だって……二人でひっついてたら熱くなってきちゃったからさあ」


肌蹴た番外個体のパジャマのボタンを留めてやりながらその下を手渡す一方通行を見て打ち止めは、



「や、やめてぇぇぇえええええええ!!!!!!!!」



本日4回目の悲痛な叫びをあげた。


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:45:37.69 ID:DrGDPmM0<>

「あ、ああナルホド……つまりあの約束(>>389)の所為だったのね、ってミサカはミサカは一応は納得してみる。ウン。」

「だからそうだって言ったじゃねェか」


何とか打ち止めを落ち着かせた一方通行はコイツ全く人の話を聞いちゃいなかったなと察しを付けながら受け答える。


「てゆうかイヴにあの人の乳首や脇や×××を舐め漁ってたのが『約束』じゃなかったわけね、
 ってミサカはミサカはある意味しっかりとした番外個体に感心してみる。ある意味」

「×××って何だよ、規制しなきゃなンねェよォな所舐めさせちゃねェよ」

「そうだよ安心しなよ最終信号。アソコすら舐めようとしたらあの人に止められたんだよアナr……」

「ハイ、番外個体ちゃん規制ェェェェェェ!!!!!」


今度は一方通行が奇声を上げながら番外個体の口を塞ぐ。
そんな番外個体を半ば羨ましげに見ていた打ち止めは、はたとその後ろのツリーの下に置かれた幾つかのプレゼントボックスに気が付いた。



「あ。そう言えば二日酔いだ何だでクリスマスに開けるの忘れてたね、ってミサカはミサカは今更ながらプレゼントの存在を示唆してみたり」


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:46:32.35 ID:DrGDPmM0<>

ツリーの下に置かれたプレゼントの数は6個。お互いが自分以外の2人へ向けて置いた数になる。


「折角だし今からプレゼント交換しよっか、
ってミサカはミサカは自分の買ったプレゼントを二人に手渡しながら提案してみる。ハイ、どーぞ」


打ち止めは一方通行に黒のリボン、番外個体にピンクのリボンの付いたプレゼントを手渡しながらそう言った。
それに薄く微笑んだ二人は自身らが購入したプレゼントをそれぞれ交換する。


「じゃあまずは番外個体のから開けようかな、ってミサカはミサカはリボンを解いてみたり」

「それって好きなオカズは最後に残す、ってヤツ?まあミサカはいいけどさ」


シュルシュルと番外個体から貰ったプレゼントの箱を開けていく打ち止めはそこでビデオの一時停止のように固まった。
同じ様に彼女からのそれを開けていた一方通行も岩と同類となっている。


「最終信号はこの前数学のテストで赤点取ってたから『サルでもわかる算数ドリル』。
 あなたにはミサカ達に構わずに勝手に抜けば?って意味を込めて『オナホール』と『バイブ』」






空気が凍った。


「つーかよォ……オマエ一体何処でどんな顔してコレ買って来たンだ一体……」

「ああ店知りたい?師匠お勧めの路地裏店。
あなた案外と好きそうかなってバイブ買ったときはすんなりだったんだけど、オナホールは怪訝そうな顔されたなあ」

「もうオマエら白井黒子と会うの禁止だかンな」


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:47:11.30 ID:DrGDPmM0<>





「………き、気を取り直して次はミサカのプレゼントを開けてみてよ、ってミサカはミサカは二人を促してみる」


番外個体の件がよっぽど答えたのか、一方通行は失礼にも打ち止めのプレゼントを警戒して開けていた。
まあ仕方ないと言えば仕方ないが。
そして彼は、シュルシュルとリボンを解いた先の中身に驚愕した。


「モノクロの……ライター……?」

「あなた偶に煙草吸ってるし使うかなって思って。―――― 気に入らなかったかな?ってミサカはミサカはそっと伺ってみる」


モノクロの小物と言えば、以前一方通行が打ち止めに男が出来たと勘違いしたときに彼女が購入していたものだ。
彼好みの品を買う為に先輩から色々と話を聞いていたのだが、その所為で一方通行から誤解を受けることとなった曰くの品。


「オマエ、コレ……俺の為に買ってたのかよ……?」

「え、うん。そうだけど……やっぱり気に入らなかったかな?ってミサカはミサカは――――」

「―――― いや。クソガキにしちゃァ良いセンスしてンじゃねェかと思ってなァ」


な!ガキじゃないもん!と文句を飛ばす打ち止めを尻目に何故か安心した気になっている一方通行は
まあ。あの男にゾッコンなンてなってたら今頃ヤバかったしな、なんておかしな方向に思考を傾けていた。
しかしこれ位が本人達にとっても前進なのかもしれない。


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:47:52.62 ID:DrGDPmM0<>

「番外個体も開けてみてよ。ミサカ的には結構イイと思うんだ、ってミサカはミサカは自信を持って勧めてみたり」


促されるまま箱を開けた番外個体は目をパチパチとさせた。


「――――― ネックレス?」

「番外個体のアクセサリって可愛い系はあんまりないでしょ?お母様に貰った服とかに合うかなって選んでみたんだけど、
 ってミサカはミサカはクリスマスを譲ってくれたお礼に買って来てみればこれだよチクショーって本音を晒しながら渡してみたり」


暫く押し黙った番外個体は着がえて来ると言って部屋を出ていった。
そう言えば彼女も一方通行も打ち止めに起こされたきり寝巻のままである。
一方通行のプレゼントを開けるのは3人揃ってからの方がいいだろうと判断した打ち止めは、
本当は待ちきれない彼のプレゼントを開ける事を耐え、番外個体を待つことにした。
一方通行もその間に自室に着がえに行った模様だ。




「――――― これで、どう?」


戻ってきた番外個体が着ていたのは以前美鈴から貰った所謂森ガール的なフリル満載の少女服だった。
胸元には先程打ち止めが渡したネックレスが飾られている。


「似合う!!似合うよ番外個体!!ってミサカはミサカは自分のセンスが抜群だった事に自画自賛してみたり!!」


絶賛する打ち止めに、番外個体は恥ずかしげに口を尖らせるといういつもなら絶対しない様な表情で


「………ありが、とう」


と小さく呟いた。
普段は一方通行を挟んだ恋のライバル的なポジションである筈なのに、彼女の嬉しそうな顔を見るのが打ち止めはひどく嬉しかった。


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:48:55.14 ID:DrGDPmM0<>



「ンじゃ、最後は俺のだなァ」


そう言うと一方通行はそれぞれ大きさの違う赤いリボンの付いた箱を二人へ手渡した。
自分のものよりも番外個体の箱の方が大きな事に少し動揺する。


「ね、ねぇ!番外個体から開けてみなよ!!ってミサカはミサカはお願いしてみたり!」


こうゆう時に人から先にやらせるのは非常にズルイと思ったが、自分から開けるなどという事は何ともし難かった。
ならミサカから開けるねと言われるがまま素直に実行してくれた番外個体は、
打ち止めのとき同様、箱の中身を見て再び目をパチパチと躍らせた。


「―――― ミュール……」

「ま、要はクソガキと同じだな。オマエあの少女趣味抜群の服に合わせる靴持ってねェクセに、
『お母様から貰ったのだから』っつって着る気満々だったからなァ」


番外個体が与えられたピンクのミュールは、彼はどんな顔でこれを買いに行ったのだろうと考えてしまうほどに可愛らしいもので、
しかしそれが美鈴の服とキチンとマッチするあたり無駄にブランドやらに精通している一方通行らしかった。


「まだ下ろしてねェし室内で履いても問題ねェだろ。合わせてみ?」


美鈴の服。
打ち止めのネックレス。
一方通行のミュール。
それらを全て揃えた番外個体は極めて女性的な普段とは全く違う印象を皆に与えた。
彼女本人も鏡の前でそれを認識すると、そっと胸の前に当てた手を握り締める。


「ウン。ありが、とぉ………大事にする」


番外個体のあんな笑顔見たの久しぶりだな、打ち止めはそう感じた。


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:50:25.97 ID:DrGDPmM0<>



「よ、よぉし。じゃあミサカも開けちゃおっかな、ってミサカはミサカは緊張の面持ちでリボンに手を伸ばしてみたり」


終に一方通行のプレゼントを開けた打ち止めは、その先でピタリと手を止めた。
そのままギギギ……と首を回転させると後ろにいた一方通行に静かに尋ねる。


「………コレ、は?」

「Yシャツ。揃いのが欲しかったみてェだから俺でもオマエでもサイズが合う様にオーダーしてきた」


揃いの、Yシャツ。
ミサカでもあの人でも着れるサイズの、Yシャツ。


「ね、ねぇ……ならもしかして今あなたが着てるYシャツって……」

「あァ、俺の分。この後かったりィが仕事だしなァ」


あの人とお揃いの、ペアルックの、Yシャツ。


「―――――― い、」

「……い?」


先程から片言でしか喋らない打ち止めに一方通行は眉を顰める。
選択肢を誤ったのだろうかと
学園都市第一位の頭脳をフル回転させながら本当にプレゼントがこれで良かったのか確認の為に彼女の顔色を窺う。


するとそこへ、




「いぃやっふぅうぅうううううう!!!!!!!!ってミサカはミサカは大・歓・喜ぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!!」




一方通行の鼓膜を突き破るかのような打ち止め本日5回目の奇声が辺り一面に響き渡った。

<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:51:17.27 ID:DrGDPmM0<>



打ち止めは上機嫌で街を歩いていた。
仕事に行った一方通行と、あの服で少し散歩してくるという番外個体が家を出た為に自身も外へと繰り出すことにしたのだ。


現在の打ち止めの服装はいつもの制服。
ただし、その下には先程一方通行から貰った『彼シャツ』が仕込まれている。


(ムフフフフ……ああ、今この瞬間このミサカを誰かに自慢したくて堪らない……むふ、むふふふふふふ)


そんな打ち止めは大通りの前方で恰好のカモ、もとい丁度いい話相手を見つけた。
『妹達』の下位個体の一人だ。


「ねぇ!!あなたは何号?ってミサカはミサカはあなたへ唐突に尋ねてみる!」

「ミサカの製造番号は10032ですが何か御用でしょうか、とミサカは上位個体に尋ねます」

「うん!ちょっとお話に付き合って欲しいんだ。奢るから付いて来てよ、
ってミサカはミサカは上位であるのを良い事に10032号を引き摺り回してみる!」

「あーれー、とミサカは面倒臭ぇなこのJKと思いながらノリに合わせて叫びます。あーれー」


<> ≪番外編≫ 部屋とプレゼントとミサカ<>saga<>2010/12/19(日) 20:52:15.96 ID:DrGDPmM0<>

そんなこんなでミサカ10032号こと御坂妹を捕まえた打ち止めは近くのファミレスへと彼女を連れ込んだ。
そして適当に注文を付けた後、無い胸を張りながら御坂妹へと自慢を始めた。


「と、言う訳で!!これがミサカの彼シャツなのだ凄いだろう!!
とミサカはミサカは興味なさ気な10032号へと構わず見せつけてみたり!」


制服のボタンを少し外し、中のYシャツを見せつけた打ち止めは高々と天狗にした鼻をフフンと鳴らし言いきった。
そんな彼女を惚気んじゃねえよこのガキがという顔を隠しもせずに見せた御坂妹は、
これまでの話を聞いてのありのままの感想を打ち止めに伝えた。


「というか上位個体。彼シャツというのは彼氏のブカブカ袖余っちゃうYシャツを着るから彼シャツなのであって、
 袖が余ったところでブカブカでもない、寧ろ一方通行の方がウエストの余る上位個体自身のYシャツを彼シャツと呼ぶかはミサカには甚だ疑問です。
 とミサカは自分の長ったらしい説明口調にウンザリしながら吐き捨てます。砂糖も吐きそうウェップ」


ピシリ、と打ち止めが固まった。
凍りついた打ち止めにも目もくれず席を立った御坂妹は静かに伝票を上位個体の手へと握らせながらこう呟いて店を出ていった。


「国産黒毛和牛を使った極上サーロインステーキご馳走様でした、とミサカは礼儀良く申し上げます。それでは」


カランカランとドアを閉めたベルが鳴り、ハッと意識を取り戻した打ち止めは――――――




「チクショォォォォォオオオ!!!ミサカにとってはこれが彼シャツなんだよコンチクショォォォォオオ!!!!
 でも真の意味での彼シャツも諦めねェからなコノヤロォォオオオオ!!!!」




打ち止めの彼シャツを目論む計画は、まだまだ終わりを見せない。




≪部屋とプレゼントとミサカ≫(完)





<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/19(日) 20:53:43.08 ID:DrGDPmM0<>
先に言っておきます。
一方さんに全く悪気はありません(笑)

これでクリスマス編は一応の完結となります。
ここからはまた小ネタを挟みながらの第2部となりますが、途中番外編としてお正月ネタも書きたいです。



ところで本日は以前から書きたいと言っていた霊能パロを総合様に投下して参りました。
宜しければ以下よりどうぞ。

▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-19冊目-【超電磁砲】http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1292144549/
>> 731〜 『上条「どうせ俺はレベル0の霊能者ですよ……」』
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 21:09:38.33 ID:FRbnpYY0<>乙
そろそろ番外はリオに帰るべきなんじゃないかなってミサカはミサカは涙目になってみたり

一方さんまじ罪な男<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 21:29:41.83 ID:HAmY4oAO<>なにこの打ち止め超可愛い<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 21:38:12.15 ID:kfAEzsoo<>▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-19冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1292144549/731

余計なお世話かもしれないけど
たしかこれでレス番まで指定したurlになるはず<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 22:08:12.64 ID:Nq1ngWwo<>乙
御坂妹ww
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 22:41:54.66 ID:F/ycOUSO<>ここにきてまたYシャツとは…
一方さん外さねーな流石だわ

彼(とお揃いの)シャツでもいいじゃないか
一方さんとペアルックって考えると…なんかこっちが恥ずかしくなってきた<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 23:22:24.35 ID:/7NVgUDO<>一方さんは打ち止めの3サイズを知っていた、ということでよろしいんですよね!?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 00:15:24.62 ID:EaDSzsQo<>>>522
打ち止めさんは成長が(ry<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 01:57:52.89 ID:zHn9hqA0<>乙・・・乙なんだが・・・
たしかになかなかの更新ペースとクオリティの高さは読み手のこちら側としては感謝感激にゃー
だけど、それで赤点とってちゃだめだぜよ
勉強を始め、実生活をしっかりすることは前提なんだぜい

あと、ステイルやねーちんのこと書く前に、土御門様とその義妹のラブラブストーリーをあbbbbb<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 10:15:41.98 ID:FY1a00.o<>ここでYシャツ来たかぁ。一方さんマジ男前<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 14:24:21.13 ID:7kpJqxMo<>>つーか俺の歳で童貞っつーのはお前の中でアリなのかァ?

おいやめろおい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 17:43:54.37 ID:cK7bTYSO<>実際どうなのかなぁ
ノットチェリーだとしたら一体いつ誰と、それは愛のあるものだったのかなって
ミサカはミサカは恐る恐る聞きたいような聞きたくないような…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 18:07:24.76 ID:FY1a00.o<>どんな答えだろうと傷つくんじゃなかろうか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 20:41:08.70 ID:ksPu5TIo<>芳川さんがアップを始めました<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/20(月) 21:08:36.25 ID:xfPtS8Y0<>>>524様
お気遣いありがとうございます。赤点はスレ立てる前に受けたテストなので大丈夫です……大丈夫か?
しかしss書く時間を確保しようと考えると今までだらだらやっていた勉強が割とサクサク進むのでこれは良い傾向だと感じています。
人間遣り甲斐あるものを見つけることが大事ですね。
………ところで赤点だったの小論文なのですが、誰か上手い文章の書き方を教えてください。切に。


第二部へ移行するのに多少時間がかかるかと思います。今度の祝日までには投下するので気長にお待ちください。
その前に>>524様のリク投下するかもですが。
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 21:18:04.15 ID:nCes3b2o<>チェリー喪失
相手:ラブボディ

コレなら傷付かないだろうけど哀しい物をみる目になるな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 21:22:21.38 ID:cY9gR62o<>小論文は文章じゃなくて数式なんだぜ。
内容よりも型式を見るものというか、ある種の様式美と考えてもいいかも。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 23:39:06.46 ID:zHn9hqA0<>SSじゃなくてちゃんとした本を読めばいい
別に難しいのじゃなくて、小学校高学年から中学校の国語の教科書に載ってるような奴を
とにかく一日一冊以上が理想で、最低でも一週間に1冊は読むようにする
マジお勧め<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 16:05:41.60 ID:/765vQQo<>一方さんは
幼少時代(美ショタ時代)に
研究員とかにチェリー奪われてるに
決まってンだろ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 16:10:58.21 ID:b3eK3XIo<>木原くンか…<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 16:33:27.27 ID:8pohL9Ao<>木原君が童貞奪うとかなにそれ怖い<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 17:36:09.91 ID:/765vQQo<>木原ちゃンじゃねーか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/22(水) 22:46:28.57 ID:6Ze7boDO<>木原「おい一方通行。服脱げよ」

一方「あン?なに言ってンだよ」

木原「いいから脱げって言ってんだよっ!!」
一方「あァ??!!!なにしやがッ…てめッ!!…そこは……あッァ……」


ゴメン(´・ω・)<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 20:51:34.25 ID:Zt62wBU0<>なんというストッパー
やるな>>538<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 01:47:21.90 ID:yoi/iIAO<>>>539俺も思ったwwwwww
さてさてイヴだ<> 生存報告<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:53:23.06 ID:IXcB6vk0<>23日までに更新すると申しましたが、
研究室入りしてから泊まり込みの作業が増えた為に全く書き貯めが進みませんでした。
これから環境が落ち着くまで暫くお休みさせて頂きたく思います。
時間が出来る度にちょくちょく更新していきたいと思いますが、期待せずお待ちください。

小論文についてのアドバイス有難う御座いました。確認したら採点ミスで赤点じゃありませんでした、やった。
いつの間にか一方さんの童貞談義になっていた事が物凄くウケました。<> クリスマス終了のお知らせ<>sage<>2010/12/26(日) 03:03:15.33 ID:m9SGUEAO<>生存報告乙
自分ペースで無理せず書いてな〜<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/26(日) 16:59:11.55 ID:ASq8Gawo<>打ち止めのキレ方に確実に一方さんの元で育った影響が見受けられるのがこのSSの良いところだと思う<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/29(水) 20:41:10.09 ID:Oee2D/I0<>短いですが大晦日ネタ。少し早いのは百も承知です。
和装した一方通行組がみたいのは僕だけではないはず……誰か書いてくれないかなぁ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/29(水) 20:41:48.07 ID:W5C8EQDO<>キタ━ヽ( ゚∀゚)ノ┌┛)`д゚)<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:41:52.96 ID:Oee2D/I0<>

「も〜お、い〜くつ寝ると〜お正月〜」

「お正月には〜姫初め〜女を啼かして遊びましょ〜」

「…………最悪な替え歌作ってンじゃねェよ、クソガキ共」


12月31日、大晦日。
夕食を終えダラダラと紅白を見る打ち止めと番外個体はいかにも暇そうだった。
コチラは明日からのおせちを作るのに猫の手も借りたいほどなのに。


手伝えよ、と内心ツッコミを入れながらも打ち止めは兎も角
番外個体を台所に入れればたちまち全ての料理がゴミと化す事を知っていた一方通行は(主に彼女のちょっかいとそれによる打ち止めの暴走で)
一人黙々と正月料理の準備に没頭していた。


打ち止めとの二人暮らし以来必要に駆られて手に入れた料理スキルは最早家族と呼べる人間の中で最も上位の物となってしまった。
学園都市の白い悪魔(ガンダムかよ)と呼ばれた化物もすっかりナリを潜めたものだと悲しい事に自分でも思う。

<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:42:44.76 ID:Oee2D/I0<>

そんな半ばどうでもいい事を考えていた一方通行の耳にピンポーン、と大晦日に相応しくない間の抜けたチャイム音が入った。
大晦日っつったら引き籠ってコタツで紅白だろォが誰だこんな時間にと思いながら「オイ暇人共玄関開けろォ」と少女らを急かす。


「ミサカが出るねー、ってミサカはミサカは玄関にダッシュしてみたりー」という声と共にパタパタと軽快な足音が聞こえたので
打ち止めが出たのだろう。
宅急便かも知れないと考え一方通行がハンコを用意していると、


「外寒いんだよ!早く引越しソバ食べさせて欲しいんだよ!!」

「年越しソバな。つーかいきなり来た人ん家で早速食べ物要求してるんじゃありません!!」


お呼びじゃない客人がそこに居た。



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:43:20.26 ID:Oee2D/I0<>

「いやー、色々あって電気もガスも止められちゃいましてね……」

「もう丸一日以上ご飯食べてないんだよ!!部屋の暖房も利かないしもう耐えらんないんだよ!!」


一瞬でも憧れた自分が馬鹿だったイヤあれは気の迷いだと思わせる程に情けない姿のヒーローと聖職者の癖に欲求の塊の様なシスターは
一方通行宅に到着するや否や倒れ込んで床暖房の利いたフローリングで寝転がり始めた。
人の家にも関わらず我が家の様な馴染みっぷりである。


「ソバ作ンのはイイけどよォ、オマエら来る予定無かったから精々4,5人前しか用意できねェぞ」


本来なら一方通行,打ち止め,番外個体,上条当麻,インデックスの5人で食べるのにその量は丁度いいものなのだが、
暴食シスターの存在を考えると明らかに足りない。
しかも丸一日食べていないという上条組には何かしらボリュームのある物を出してやらねばならないだろう。



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:43:50.17 ID:Oee2D/I0<>

「ちと早ェが雑煮でも作るかァ?っつってもさっきまでお節作ってたから用意がねェし時間がかかるがァ……」

「オセチ!?それ食べたいんだよ早く出すんだよあくせられーた!!」


バンバンと机を叩くインデックスを小突いて上条へと「絶対にこの糞シスターは台所へ入れンな」と命令した一方通行は
その辺の物を勝手に食べられない内にと急いで年越しソバと雑煮の準備にかかる。


手伝いを申し出た上条と共に台所へと並び、忙しなかった二人は漸く取り戻した落ち着きに溜息を吐いた。


「本当すいませんね、急に押しかけちゃって……」

「つーかよォ、俺らの周りにゃちったァまともに女は作れる奴はいねェのか」


男二人で正月料理に手を焼く姿は何ともシュールだ。
取り敢えずモチは50個くらい焼いとくかと途方もない数にウンザリしながら、一方通行と上条はまた盛大に溜息を吐いた。



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:44:22.34 ID:Oee2D/I0<>

一方その頃リビングの女子組。


「へえ……お財布落としちゃうなんて災難ね、ってミサカはミサカはシスターさんに同情してみたり」

「そうなんだよ!とうまがドジした所為でもうお腹と背中がくっ付いちゃいそうなんだよ!!」


うう〜と余程堪えたのか今にも泣き出しそうなインデックスに打ち止めは
一方通行が密かに買い溜めしていた秘蔵のツマミを隠しながら取り敢えず手持ちのお菓子を勧めた。
渡した瞬間にパッケージだけを残して消えたそれを見て、あの人の一品隠しといて良かったなと切実に思う。
もう1袋欲しいんだよ!!と要求するシスターに言葉の通り手渡してやった打ち止めは、しかしそこで先程から何も言わずに考え込む番外個体が目に入った。


「番外個体どうしたの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「…………ねえ、上条当麻とシスターは泊ってくワケ?」


打ち止めの質問を無視してインデックスへと声をかけた番外個体は
「出来れば泊めてくれれば嬉しいかも」とお泊りセットを掲げながら明らかに泊る気マンマンだった彼女を見てまた考え込む仕草をする。



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:46:50.15 ID:Oee2D/I0<>

「ねえホントにどうしたのってミサカはミサカは……」

「なら、今夜はミサカはあの人と一緒に寝るよ」



WHAT?
打ち止めが固まった。空気が凍る。
だが番外個体はそんなこと一切気にせずに言葉を続ける。



「2つの客室のウチ1つはミサカが使ってるでしょ?でも客人に譲らない訳にはいかないし……
仕方ないから此処はミサカが一肌脱いであげるよ」



一方通行達が暮らすマンションは、元々は黄泉川愛穂が所有していたそれを譲り受けたものである。
当時芳川と黄泉川が使っていた部屋を客室とし、うち芳川の部屋を現在は番外個体が使用している為余ったベッドは一つしかない。



「いや〜、ホント仕方ないなあ。でも此処は居候のミサカと家主のあの人が我慢するしかないよね」


「仕方ないじゃないよ!!一肌脱ぐって物理的にも脱ぐつもりでしょあの人襲う気でしょ深夜0時に姫初めでしょ、
ってミサカはミサカはさせるモンかと捲し立ててみる!!
番外個体も一応は客人だしぃ?此処はミサカがあの人と寝るべきだよね!ってミサカはミサカは―――――」


「ふざけんじゃねぇよこの元・幼女!!嘗てのロリさもないアンタがミサカに敵うと思ってんの?
今は大人の色気の時代なんですぅ自重しろこのAA!!」



「さ、流石にAAじゃないもん!ってミサカはミサカは反論してみる!!」


「あ、ごっめ〜んAAAの間違いだったあ?ってミサカはミサカはぁ、最終信号のマネしてみたりぃ」


「おいそこに直れこのクソアマがァその脂肪の塊引き裂いてハンバーグにすんぞコラ」


「ぎゃはは最終信号のヤツ口癖も忘れてやがんの!それが本性ですかあ?あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」



<> >>1 あるいはシャツの人<>saga<>2010/12/29(水) 20:47:38.39 ID:Oee2D/I0<>


同時刻、台所の男達。
男達は悲しきフラグ体質に泣いていた。



「――――――……モテモテだな」

「同情はいらねェ。俺の部屋に布団敷くからそれでいいかァ、三下ァ?」

「あ。泊めて頂けるんでせうか、本当にありがとうございます」



台所へも今も響くワーキャーとした叫び声に一方通行は本日3度目の盛大な溜息を吐いたのだった。



<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2010/12/29(水) 20:49:57.74 ID:Oee2D/I0<>打ち止めと番外個体がにゃんにゃん言い争ってる光景が好きです。
何度も「大ミサカ」と打ち間違えしました。

>>543様の言う通り打ち止めの口の悪さは一方さん譲りです。子供はすぐ真似します。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 21:13:05.35 ID:LF.uVvs0<>>「おいそこに直れこのクソアマがァその脂肪の塊引き裂いてハンバーグにすんぞコラ」一方さんそのものじゃないですか打ち止めさん<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 21:44:55.29 ID:7HgH1AQ0<>人の家にきていきなり食事を要求とか
さすがインダストリアルさん歪みねぇ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 22:33:55.89 ID:j.neFMAO<>打ち止めvsミサワさんが楽しすぎるんですが<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 23:00:26.42 ID:UKtc7VA0<>姉妹喧嘩微笑ましすぎワロタ
そしてインアクティブさんは帰れ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/29(水) 23:12:36.06 ID:P2I7.vM0<>インさん相変わらずクズっすねwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 01:29:07.20 ID:YfIO1ADO<>インデックス可愛い
この可愛さは俺だけ知ってればいい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 01:44:41.47 ID:Ba9XLNc0<>>>560
イカ娘ちゃんはもう終わったんだ
その幻想をインアニティさんに見るならそげぶ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 02:09:51.94 ID:1qBuucDO<>打ち止めァ可愛いよ可愛い
番外さんもいいが、また家族以上な日常通行止めが読みたいですお願いします
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 02:44:34.24 ID:hU.Bbxk0<>>>559
何を言うか、インデックスの可愛さなら俺だって知っている<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 11:48:22.82 ID:c.yCCsDO<>インストールさんの可愛さなんて知らない<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 11:58:28.97 ID:sIgU9iko<>>>554
ほら、夫婦は似るって昔からよく言うじゃないですか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 22:23:47.69 ID:aq0LTM.0<>
インデックスが可愛いのは自分も知ってるし上条さんも知ってるからおk
それほど一方さんのご飯がおいしいんってことだよ

それより20過ぎたインデックス(おそらく美少女から美女に進化している)が
これまた20過ぎた上条さんのおうちで二人暮らしって大丈夫なの?上条さんの理性とかが
もうそれって同棲じゃね・・・なんなの?夫婦なの?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 23:33:48.88 ID:3aXzLq6o<>少が無くなる?ソイツは退化って言うンだぜェ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 07:12:41.21 ID:PtHqqvQo<>>>566
ンなわけあるかよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 15:38:29.00 ID:6z9Ac9Qo<>大女インデックス<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/01(正月) 02:01:51.40 ID:.twG5Yg0<>大喰女インデックス<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage saga<>2011/01/02(日) 22:33:09.44 ID:BB1900Y0<>続きまだかな?
楽しみにしてます<> >>1 あるいはシャツの人<>!inaba_res<>2011/01/04(火) 01:03:00.31 ID:Ja80mfo0<>
お久しぶりです。今日からは本編続きに軸が戻ります。
やっと2部を書き始める時間が確保できました。スローペースになると思いますが宜しければお付き合いくださいませ。

ここからの展開には他スレ様での妹達設定が用いられます。ご存知無い場合も問題なく読めますが、あまり好まれない方はご注意下さい


<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<><>2011/01/04(火) 01:04:23.74 ID:1qnwFsAO<>キター(°∀°)ー!<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:05:14.28 ID:Ja80mfo0<>




「「打ち止めも一方通行も番外個体も、退院おめでとう〜〜〜!!!」」

「つーかよォ。なンで自分の退院祝いの金出さなきゃなンねェンですかねェ、俺は」





10月10日。
一足先に退院していた一方通行に追い付く形で打ち止めと番外個体が無事に退院日を迎えた。


9月29日に木原数多からのウイルス攻撃を受けた『妹達』
―――― ことウイルスを直接投下された統率個体である打ち止めと解析の為にウイルスを脳内で喰い止めていた番外個体は、
厳しい『調整』に身を投じることとなった。


そして木原数多とその手勢を封じ『妹達』と学園都市の平穏を庇うべく立ちあがった一方通行も冗談では済まされない怪我を負った。


やっと迎えた退院に事情を知る上条当麻とその同居人であるインデックスは彼らの退院祝いをすることを決めたのだが、悲しきかな。
二人は不幸体質とシスターの名に反した暴食の所為で万年金欠の身である。
そこで上条とインデックスが考えた名案というのが、



『あ!ならお金持ちの一方通行にスポンサーについて貰えばいいんだよ!』

『冴えてるじゃないかインデックス!!』

『なンでだァァアアァァアァアァア!!!!!!!』





「まあ皆無事に日常に戻れたんだし良いんじゃないかな、ってミサカはミサカはあなたのお財布なんて気にせずに無責任に発言してみたり」

「ミサカも良いと思うよ。どーせあなたお金持ってるしそれくらいがお似合いだよ」

「自分で金稼げるよォになってから言えクソガキ共」


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:05:53.48 ID:Ja80mfo0<>



一頻りのパーティーを終えた上条達が帰宅するのを見届けた一方通行は(そう。しかも彼らは会場を一方通行のマンションとしたのだ)、
そのまま靴を履き自身も玄関口を潜った。


「あれえ、お出かけ?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

「仕事だよォ、シ・ゴ・ト。オマエらが見境なく使ってくれるお蔭で働きアリさンになンなくちゃならないンですゥ。
 ただでさえ研究職と教員の二重生活だっつーのによォ」

「うぅ……無駄遣いはやめます、ってミサカはミサカは反省してみたり……」


キチンと戸締りして早く寝るんだぞォ、と告げた一方通行に研究所に泊まるのかと当たりをつけた打ち止めは
忠告通り玄関の戸をキッチリと閉めてカギとチェーン、更には電子ロックの三重防備を施した。
もう子供じゃないのにと思っても事件が起きたのはつい数日前だ。


「気を付けろって言ってくれるのが愛、みたいな?ってミサカはミサカは自分で言ってて恥ずかしくなっちゃったりキャー♥♥♥♥」




<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:06:42.30 ID:Ja80mfo0<>





一方通行が訪れた路地裏を更に外れた先にある廃ビルだった。
一見ボロボロに見えるそこは目を凝らせば人の出入りが窺える。


「当事者のお前の到着が一番最後ってのはどうなんだよ。常識的に」

「黙れメルヘン野郎」


一方通行がガラス戸の所々割れたドアを潜ると、垣根を初めとする十数人の男女が彼を出迎えた。


麦野,絹旗,滝壺,浜面の4人から成る『アイテム』の面々。
『スクール』から合流した垣根,心理定規の2人。
土御門,海原,結標の嘗て一方通行が所属した『グループ』の元メンバー3人と、結標が『グループ』時代に人質に取られていた少年達が数人。


彼らは表で普通の生活する一方通行が多少のデメリットと引き換えに
自分たちにとっての学園都市のメリットを目指し行動を共にする現在の『共犯者』である。


一方通行にとって、そして彼らにとって互いに対する『仲間意識』や『信頼』といった感情は一切存在しない。
代わりに互いの強さを認める程度の『信用』は置いている。


「時間通りではあるから遅いだの何だのはそこの心の狭い第2位と違って言わねえけどよ、
 木原の『肉体復元』に関する技術情報は掴めたんだろうなあ?」


文句は言わないと明言している割に既にキレかけている麦野沈利が浜面から馬のようにどうどうと言われながらも一方通行を言及する。
本日のメインテーマの1つがこの話題でもあり、コレは彼らの中では一方通行にしか判別の付かない事だった。


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:08:44.05 ID:Ja80mfo0<>


「………結果から言えば、俺と冥土返しで開発した『クローン技術』を応用した欠損部位補完の為のそれだった。
 肉体全体を再生させるなんてマネしたのはそこのメルヘンだけだったが、プラチナバーグの野郎は俺を狙って木原に試したらしい。
 元々手綱の握れねェ『一方通行』への対策の一つとして、理事会の一部で垣根と同様に脳の保管はしてたみてェだしな」



一方通行の報告に心理定規の肩がピクリと揺れた。
4年前、彼が管理していた『未元物質生産ライン』を含む管轄内を掌握した『グループ』に垣根帝督の引き渡しを交渉した彼女は
垣根の復活の為の技術開発から現状までの経緯を考えて僅かながらも責任を感じているのかもしれない。



「だがプラチナバーグがその技術を応用しようとした所で使いこなせるとは思えねェ。
 一般に知られているのは事故や病気で損失した人体の一部を造りくっつけるモンだ。
 人一人丸々作るクローンよりある意味で調製が色々と面倒な代物を再現するだけの『協力者』が居た筈だ」


「ローマ正教に潜伏していたショチトルから入電がありまして、それに関しては自分が多少掴んでいます。
 今回の一件で露見したアレイスターの死亡情報をローマ正教内に齎したのはスペイン星教の様で、
 その内容があまりにも学園都市内部に精通したものだった為に彼女はスペイン星教の手の者が此方側に潜んでいると推測しています。
 スペイン星教の方にはロシア成教内に回していたトチトリを派遣したのでそちらについても近日中に報告できるかと」


「スペイン星教か……迂闊だったな。ローマ正教にロシア成教,そしてイギリス清教までは常に情報を張っていたが、
 あちらにはあまり手を回していなかった」


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:09:51.23 ID:Ja80mfo0<>

海原や土御門の意見に他の面々が口を挟む事はない。
2人以外は魔術サイドに関しては少々聞き齧った程度の素人であり、専門外だ。
序でに言えば学園都市の様に世界中に知られる大組織に比べ
魔術サイドは各地に別れる宗派の更に一部の人間だけが係わりを持つ能力である為に科学サイドの人間からはその全貌が掴み辛い。


基本定義や情勢の一般公開が微塵も無いだけに、科学 対 魔術が正面からぶつかり合うとなれば科学サイドに多少分が悪かった。


そのうえ現状、魔術サイドのどの組織が学園都市に手を出した所で『クローン能力者のり危険性』を訴えられれば
学園都市側としても国際的にも全面的な非難は出来ない。
そもそも道徳的な問題としてクローン技術は禁止されており、ミサカネットワークを利用したウイルス流出法を提示されると
クローンの人権が通るかも厳しいのだ。


「学園都市入門ゲートの監視は『アイテム』に一任する。が、AIM拡散力場を持たない魔術師を相手にするのは滝壺には難しいだろうし、
 お前は後方支援として俺達の状況を力場の揺れから察知しててくれ」

「わかった、私は魔術を知らないしつちみかどに今回は従う。……むぎのはそれで文句ない?」

「まあ餅は餅屋ってね。良いわよ、ゲートは私と絹旗で担当するからあんたは浜面を護衛に後方支援に付きなさい」


魔術専門家の土御門や海原が今回は中心指揮になるとはいえ、各メンバーはこの『大組織』の中でそれぞれ『小組織』に属している。
滝壺のリーダーはあくまで麦野であり、彼女の配置は麦野に最終決定権がある。


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:10:31.00 ID:Ja80mfo0<>

「外部からの侵入は『アイテム』が阻止するとしても既に学園都市内部に潜んでいる魔術師が居る事は確かだ。
 そこで結標のグループが人海戦術でそいつらを捜索、俺と海原も魔術方面から捜索に当たる。
 発見次第駆逐出来る様垣根は戦闘準備をして待機、心理定規は通常通り敵を確保してからの査問官として動いてくれ」


土御門からの指揮を適確な指示として受け取った3人は自身の名が呼ばれると共に首を立てに振るう。
それを見取った土御門は最後に残った一方通行に顔を向け静かな口ぶりで彼を諭した。


「世界中に散らばった量産能力者全員にこちらから護衛を送る事は出来ない。妹達自身に自衛して貰うしかないのは解るな?
 最終信号から最低でも2人1組での行動を取るよう上位命令文を命じさせろ。そしてお前は今度こそ最終信号を手放すな。
 海原の報告通りスペイン星教には木原を復元するだけの『科学技術を有した魔術師』がいる。お前が何をすべきか、良く考えておけ」





<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:11:13.81 ID:Ja80mfo0<>








『お前が何をすべきか、良く考えておけ』


土御門の言葉が一方通行の優秀な脳内で何度も巡り、そして消えた。
俺が何をすべきか。
答えは既に出ている。妹達を、打ち止めを全力で護る。それだけだ。
一方通行には己に課した絶対的なルールがある。


≪ 例え何があっても妹達や打ち止めといったクローンを傷つけない ≫


こんな血塗れの自分が彼女達の笑顔を作れるとは思えない。
それでもせめて、彼女達が自分の内側から生み出した笑顔を護りたい。一方通行はそう思っていた。


だが実際はどうだ。
木原数多によって簡単に打ち止めを奪われ、作戦の為に海原の護符精製として彼女の皮膚を裂いた。
全ては己のミスだ。
打ち止めが狙われている事を知りながら、否、妹達の弱い立場をずっと前から理解していながら彼女達を護れなかった。


(そンで?今回はどうだ、妹達全員を目の届く場所に置くことなンて俺には出来ねェ。
 結局俺はアイツらに絶対的な安全地帯を用意してやることさえ無理っつーワケかよ……)


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:12:21.77 ID:Ja80mfo0<>

一方通行は自分が未だ暗部に属している事を表の生活に関わる人間に話していない。
不本意ながらも友人のカテゴリに入る上条当麻やインデックス、妹達の素体となった御坂美琴、
家族と認める黄泉川愛穂や芳川桔梗、そして妹達の一人である番外個体や打ち止め。


誰一人として一方通行が『日常』へと帰って来て6年経った今でも、
自分から残ったとはいえ学園都市の暗部に居る事を知らない。


打ち止めからミサカネットワークを通じて自己防衛を徹底するよう妹達に勧告させるとなると
多少省いたとしても自分が裏社会に関わっている事が察せられるだろう。
量産能力者を危険視する魔術師が学園都市外部から各個体を狙った場合、護ると誓った妹達も
結局は自分で何とかしろと放りだす事になる。


(アイツらにこンな世界は見せたくなかったっつーのに………クソッタレが!!!)


一方通行にはそれが歯痒くて仕方ない。
それでも、現実を考えれば自分一人でどうにかなる問題では事態は無くなってしまった。





<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:12:44.40 ID:Ja80mfo0<>

一方通行は自分が未だ暗部に属している事を表の生活に関わる人間に話していない。
不本意ながらも友人のカテゴリに入る上条当麻やインデックス、妹達の素体となった御坂美琴、
家族と認める黄泉川愛穂や芳川桔梗、そして妹達の一人である番外個体や打ち止め。


誰一人として一方通行が『日常』へと帰って来て6年経った今でも、
自分から残ったとはいえ学園都市の暗部に居る事を知らない。


打ち止めからミサカネットワークを通じて自己防衛を徹底するよう妹達に勧告させるとなると
多少省いたとしても自分が裏社会に関わっている事が察せられるだろう。
量産能力者を危険視する魔術師が学園都市外部から各個体を狙った場合、護ると誓った妹達も
結局は自分で何とかしろと放りだす事になる。


(アイツらにこンな世界は見せたくなかったっつーのに………クソッタレが!!!)


一方通行にはそれが歯痒くて仕方ない。
それでも、現実を考えれば自分一人でどうにかなる問題では事態は無くなってしまった。





<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 01:14:59.60 ID:Ja80mfo0<>>>581で接続不調から同じ内容が2回投稿されました。謹んでお詫び申し上げます。<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<><>2011/01/04(火) 01:16:57.68 ID:Ja80mfo0<>






ミサカ14510号はスネークと称される17600号から対価と引き換えに横流しして貰った一方通行の写真を眺めながら
頬を染め一人ニヤニヤと他者から見れば気持ちの悪い笑みを浮かべていた。



1か月に1度送ってもらう一方通行アルバムの最新版。
学園都市へは中々向かえない彼女にとって、想い人に接せられるこのアルバムは
誰に何と言われようと恋する乙女の真っ当でありがちな手段であった。決してストーカーなどでは無い。



「と、考えながらも……あでもやっぱり一方通行さんには知られたくないわ恥ずかしいキャー
 なんて思ってるんだろ言ってみろよ。まあミサカにとってはその湧き上がる背徳感も美味しいがな、とミサカは推測および意見主張します」


「に、20000号!!いつから見ていた!
 つーかあの人に使う媚薬やら用意したりあの人の写真見ながら下品な想像してるヤツに背徳感云々言われたくねーよ!
 とミサカは20000号に写真を横取りされないよう隠しながらツッコミます!!」



20000号が調製機器の問題で在住する研究所から一番近い此処を尋ねている事は知っていたが、
まさか至福の時間(一方通行とのラブラブ妄想タイム)を見られるとは……



「(ラブラブ妄想タイム)って要は賢者モードだろお前も下品な想像してんじゃねーかなあ兄弟、
 安心してコッチに来いよ[らめぇぇっ!]とか[田島「チ○コ破裂するっ!」]とか考えたって何にも問題な――――」


「問題大アリだァァァア!!!!ミサカネットワークから思考を読むなというか思考洩れてた?え、マジで?
 やだちょ、いやでも本当に下品な想像なんてしてないからねカップルストローしか想像してないもんってミサカは――――」


「大丈夫大丈夫中学生みたいな想像(手繋ぎ,一本マフラー,お弁当差し入れetc)しか見てないから、ってミサカはフォローしま……ププッ」


「笑ってんじゃねぇェエエエエ!!!!!」


<> 第十話 『部屋と新展開とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 01:20:13.32 ID:Ja80mfo0<>

大声で怒鳴り散らした14510号はハァハァと肩で息をしながら勢いで飛んだ唾を拭いつつ20000号を睨み上げ、
暫くすると脱力したように溜息を吐いた。


「お前に何を言っても無駄だって事は生まれてからこれまででもうしっかり分かっちまってるよ悲しい事に、とミサカは諦めの意を示します」

「お。なら一方通行ちゃんマジ天使はミサカに譲るということで、とミサカは結論付けちまいます」

「オイコラそういう意味じゃ……、―――――!!!」









普段直には会えない妹達同士の親睦を兼ねた他愛無い雑談を続けていた彼女達は、
しかし次の瞬間2人同時に勢い良く首を後方へ振り翳し目を見開いた。


「右前方50 m先の曲り角に不審な人影を発見。武器の携帯は見受けられたか?とミサカは20000号に確認します」

「いんや、一瞬しか見えなかったが銃器は無かったように思えた。
それでも携帯用ナイフなんかを所持してる可能性もあるから油断は禁物だな、とミサカは14500号に注意を促します」


言葉とネットワークだけで互いの意見を交換し合った2人は声を揃えて通路の陰に隠れる人影に問うた。


「「さて。あなたは何者ですか、とミサカは尋ねます」」


だが彼女らは自らが尋ねた問いへの応答にその僅か数秒後、困惑することとなる。


「あァ。俺だよ」

「一方、通行 ――――――?」




10月10日、日本時刻PM 23:08。
科学サイドと魔術サイド、そして妹達と魔術師を交えた新たな物語がここに幕を上げる――――。


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/04(火) 01:21:55.90 ID:Ja80mfo0<>
という訳で2部開始です。
14510号と20000号は他スレ様の印象から個性の強さを口調に出しました。
14510号をもっと可愛く、20000号をもっと変態チックに書きたいのになかなか出来ません。
今のままじゃ打ち止めや番外個体の方が変態度上だぞ、頑張れ20000号!!

宗教関連に関しては恥かしながらあまり知識を有していないので原作で殆ど触れられていない『スペイン星教』を敵側に置く事で多少濁しました。
当スレは設定不備があっても脳内保管を推奨致しているということでここは一つ。

大分遅れましたが明けましておめでとうございます。今年もスレ共々よろしくお願い申し上げます。
<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 01:23:15.65 ID:yyDhnZIo<>乙<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 01:36:43.21 ID:TAm/jtU0<>うむ<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 01:41:56.51 ID:tBjKUMAO<>俺の新年初の乙はこのスレに捧げるぜ!
今年も楽しみにしてます<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 01:42:55.44 ID:VztneBI0<>乙
まあ魔術師は普通の人間が手に入らないだろう力を得るために魔術やってるわけで
科学の方が楽だと言うなら、そりゃかび臭い本なんか捨てるだろうから
科学に精通する魔術師がいてもおかしくないだろうな

そして相変わらずのインなんとかさんと上条さん(ヒーロー笑)がひどいw
<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 02:49:26.69 ID:NIMlHFIo<>ここでこの二体だと…
なんかもう続きが楽しみすぎて死ぬ
死んでもう一回再生する勢い

おつかれじゃん<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 03:15:56.10 ID:3DE4uG60<>この後の展開が俺得の予感

14510号と20000号の表現がうまいなぁ
そんな風に書けばいいのか、勉強になる

乙<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/04(火) 20:35:59.01 ID:Ja80mfo0<>
連日投下なんて久しぶりです。
昨日の続きで本編になります。オリジナルの設定や人物が多少交錯しないと物語は進まないと割り切って下さるとありがたいです。

では、以下より投下始めます。<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:37:02.10 ID:Ja80mfo0<>




10月10日 日本時間 22:59


大学内のサークルで行われた飲み会で帰宅が遅れた御坂美琴は不良共が屯する夜の学園都市を歩いていた。
2次会を見送ると告げた美琴に、あと1時間で日付が変わる様な時間帯でもある事から帰宅の共を名乗り出た男子が数人いたが
皆『超電磁砲』と恐れられる超能力者・御坂美琴の実力を知っている為に美琴が丁寧に断りを入れれば彼らはあっさりと引き下がってくれた。



「でもこれだけガラの悪い奴らが雁首揃えてるんですもの、フツーの女の子だったら危ないでしょうね……」



既にその『ガラの悪い奴ら』を幾人か伸した美琴はつい先程電撃を浴びせ昏倒させた周囲の男を眺めながら呟いた。
大多数の子供を預かりながら学園都市の治安が何処か不安定なのは相変わらずだ。


さて、このスキルアウトであろうと思われる男共は如何しようか。
放っておいても美琴としては一向に構わないのだが、
彼らが別の不良達に追い剥ぎされる可能性を考えれば警備員にでも連絡してやるべきかもしれない。
こんな時上条当麻ならほぼ間違いなくお節介に彼らを気遣い何かと対処してやることだろう。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:37:48.33 ID:Ja80mfo0<>


(べ、別にアイツに褒められたいとかアイツみたいにしたいとかそんなんゃないんだからっ!!)


脳内ですらツンデレを展開する美琴が携帯電話を取りだそうとバッグへ手をかけた所で、美琴は気付いた。
遠くから喧騒が迫っている。


それもそこいらの不良共が織り成す様な罵声の応酬では無く
例えるなら動物達が獲物を捉え様と列を為す緊張感が静かに、そして確実に迫ってくるイメージ。


一度は超能力者である自分を狙ったものかと考えた美琴であったがどうにも近づいてくる気配の殺気はこちらに向いていない様に思える。
何処か近くで美琴の知らぬ厄介な事件が起こっているらしい。


まさか件のトラブルメーカー・上条当麻ではあるまいな。
そんな事を考えた美琴が周囲全体に意識を集中させた美琴はその瞬間何か引っ掛かりを捉える事に成功した。
感じ慣れた能力の感覚。自身と同等のチカラ。



「狙われてるのってまさか……妹達!?」






<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:38:28.07 ID:Ja80mfo0<>






10月10日 日本時間 23:01


ミサカ10032号、通称・御坂妹は息を上げながら夜の街を掛けていた。
早く、早く逃げなければ。
彼女がこれだけ自身の死を実感したのは『絶対能力進化実験』で一方通行と対峙したあの夜以来かもしれない。


妹達はこれまでに何度も命の危機に瀕している。
しかしそれは『自分とは別のミサカ』が体感したそれをネットワークを通じて知り得た謂わば『情報』に過ぎない。


だが、今は違う。
今にも殺されそうになっているのは間違いなく自分で、必死にもがいているのも『このミサカ』だ。


死にたくない。
そんな感情が彼女の中で華を咲かす。
与えられた命であると語っていた自分が心の底からそう感じられたのに、その瞬間に死ねと言うのか。


学園都市では風変りなファッションとしても見受けられない様な在り得ない格好―――
―――――古めかしい修道服の様なものを着込んだ訳の判らない一団は、訳の解らない能力を行使しながら静かに歩み寄ってくる。



「―――――っ!!」



後ろからジリジリと迫り来る敵を視認した御坂妹はミサカネットワークで他の個体へ危険を知らせながらひたすら逃げる。
精々が強能力者程度の自分の能力は通じなかった。
学習装置によって武器の扱いや体術も知識としてインストールされているが、
武器なんて日常で携帯している筈もないしあの人数に体一つで挑もうというのは些か無謀だった。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:39:20.10 ID:Ja80mfo0<>


万事休す。
そんな言葉が脳内を占め始めた彼女が頭を振って逃げる事に集中しようと路地の角を曲った時。
御坂妹の右手が不意に掴まれ、彼女の体が横に伸びた路地裏へと吸い込まれた。



「なっ―――――!!!」



悲鳴を上げようとした口は右手を掴む手とは反対のそれで覆い塞がれ、
暴れようともがく体はビリビリと体全体を弱く取り巻く電流で拘束される。



「ん、ん``ーーーー!!ん``ん``ん``ーーー!!!!」

「ちょ、大人しくなさい!アイツらに見つかっちゃうでしょうが!!」



耳元で囁かれる声は焦っていながらも自分を労る優しい音色だった。
声の通りに大人しくすれば溢れ始めた涙をポケットから取り出したハンカチで拭ってくれる。





「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ、あとは私に任せなさい」

「――――お姉、様ぁっ!!」




<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:40:02.57 ID:Ja80mfo0<>


しゃくりを上げながら本格的に泣き始めた妹を美琴はしっかりと抱きとめながら路地の奥深くへと進んでゆく。
電気を使って敵が居ないか周囲をサーチしながら、彼女が落ち着いたのを見計らうと美琴は真剣な眼差しで妹を見遣る。



「ジーパンは似たようなデザインだし問題ないわね……上着を貸しなさい、それでアンタはここで待ってなさい」

「お姉様!まさかミサカの代わりになるつもりですか、とミサカは問います!それはあまりにも危険です!!」



御坂妹は美琴を必死で止めようとするが、聞く耳すら持たずに美琴は効率良く妹の上着を脱がせ自分のそれを被せた。
そして自分の荷物や携帯を妹へと押し付けると自身に満ちた笑顔でこう告げる。



「アンタ、私が超能力者だって知っててそれ言ってるワケ?―――――それに。妹を護るのは姉の務め、でしょ?」



相手が何の目的でアンタ達を狙ってるか分からない以上、警備員に連絡は出来ない。
でも黒子に留守電入れといたからそのうちに来てくれると思う。あの子が来たらリアルゲコ太の所までテレポートして貰いなさい。
それで万が一、私や自分がヤバいと思ったら、アイツに連絡なさい。

――――――本当は、巻き込みたくないんだけどね。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:40:51.12 ID:Ja80mfo0<>


御坂妹は、早口でそれだけ言い残して敵が潜む大通りへと駆けて行った『姉』を今度は止める事が出来なかった。
超能力者の姉ですらあの集団に何らかの危険を感じている。
自分が付いて行った所で足手纏いにしかならない事が理解出来てしまった。



「お姉、さまぁ……!お姉様っ……!!」



自分には、膝を抱えて泣きながら姉を待つ事しか出来ない。
姉の無事を祈ることしか出来ない。


しかし、神は彼女を見捨てなかった。少なくとも御坂妹はその時確かにそう思った。
その一瞬、その僅かな時間の中に限って、そう信じてしまった。










ザリ、と埃や砂利で溢れた薄汚い路地裏の地面を踏みしめる音が聞こえた。
御坂妹は慌てて膝へと埋めていた顔を音の方向に振り向ける。


そして、彼女は見た。
上位個体の隣で6年前の8月31日以降ずっと『ミサカ達』を護り続けてくれた存在。
学園都市第3位を誇る姉を上回る実力を持つ数少ない相手。



「――――― 一方、通行?」



薄暗い夜の街で巡り合った見慣れた少年の口元が、静かに弧を描いた。




<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:41:40.98 ID:Ja80mfo0<>








御坂美琴は古めかしい修道服の様な物を着込んだ不可思議な一団を相手に猛攻を奮っていた。
つい先ほどまで御坂妹を追い詰めていた彼らも、一瞬で様変わりした様な標的に驚きを隠せない。


妹と入れ替わり彼女の振りをして戦う美琴は、
しかし能力スペックは億尾も隠さず全力を出しながら一撃、また一撃と死なない程度にしか手加減しない電撃の槍を敵へと叩き込む。


美琴は焦っていた。
圧倒的優位に立ちながらもピリピリと感じる違和感に。
この小さな綻びが積りに積もって大きくて大切な何かを壊してしまうのではないか、そんな風にさえ感じる謎の感覚。



(何が起こっているのか、この目で確かめる――――っ!!)



自分の感じた違和感を確かめるかのように美琴は再び渾身の一撃を
槍や杖や斧、果てには良く解らない様な物まで時代を一回り二回りも遡ったかの如く非合理的な武器を携えた敵相手に炸裂させる。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:42:23.01 ID:Ja80mfo0<>


瞬間。
敵の一人が不自然な動きをした指をそのままに杖へと触ると、その杖が捉えた美琴の電撃が七色の光を放出しながら四散した。


一方通行の様な反射でもなければ、念動力で造られたシールドで防がれた反応とも違う。
超能力者として幾人もの人間と対峙した美琴が見た事も聞いた事も無いチカラ。
姿形も能力も学園都市とは相反する敵。



「アンタ達、一体何者―――――?」

「……そうですね。その脳内ネットワークとやらで『妹達』の皆さんにはご挨拶しておきましょうか」



行動に反して丁寧な口ぶりを伴って、敵の一団の中から一人の若い男が歩み寄って来た。
彼が近づくと周りに立つ男女は道を空ける。



「初めまして『ミサカ』さん。危険因子たる貴女方を処分しに来ました、魔術師です」



海を渡ってスペインから来たその男は、目の前の『兵器』を見てにこやかに微笑んだ。



<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:43:54.08 ID:Ja80mfo0<>


「――――マジュツ、し?」



RPGに出て来るような中二全開の単語を真面目腐った顔で語る男を前に、美琴は目を見張った。
だが美琴の優秀な頭脳は理解出来ないその『マジュツ』という単語を否定しながらも考察を続けてゆく。


6年前、0930事件。
自分が信じてきた科学的ルールが通用しなかった存在。
最も信頼する少年が『友達』と称し助けに走った巨大な少女の様なその偶像。


『天使』。
あの事件の顛末を学園都市は何と公表していた?
思い出せ、思い出せ。



≪ 学園都市の外には『魔術』というコードネームを冠する科学的超能力開発機関があり、そこから攻撃を受けた ≫



『魔術』。
学園都市の『外』の組織。
つまりはあの『天使』を生み出すのと同等のチカラ。




「――――外の、あの子達の事なんて何も知らない様な人間が、……あの子達を否定するんじゃないわよ!!!」



<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:45:00.63 ID:Ja80mfo0<>


『魔術』を自分なりに理解し解釈した美琴は、その『魔術』というチカラよりも
学園都市の外から来た妹達のその優しさも強さも持つ心を知らない人間が勝手に彼女達を否定した事に激怒した。


これまでは死なない程度まで攻撃を加減してきたが、妹達に手を出そうというのなら話は別だ。
尋問する一人を除いて全員始末したって構わない。


沸騰した頭が殺意を弾き飛ばす程に熱くなった美琴は全力を込めて超電磁砲を放つコインを弾こうとした。
だが。



「学園都市にはこんな時間でも徘徊する若者が沢山居るんですね」



その言葉に美琴が周囲を見渡せばそう遠くはない距離で
呑気にケータイのカメラを向けながらこちらを観戦している人影がチラホラと窺えた。
いつの間にかステージは人通りが多い場所へと徐々に移動させられていたらしい。


こんな場所で超能力者の美琴が全力を出したらどうなる事か。
一気に冷めた頭で幾つかのシミュレーションを弾き出してみたが何の関係も無い一般人を巻き込んでしまう可能性が大きすぎる。



「ならっ――――!」



コインを懐に戻し美琴はバチバチと指先からある程度加減して発した紫電を、槍を構えた敵へと浴びせかける。
攻撃を向けられた敵はブツブツと早口で呪文の様な物を捲し立てると無防備に突っ立ったまま構えた槍を突き出してきた。



(……?そんな槍一本で私の攻撃を防げるわけ……)



しかし無防備な敵へと向かった紫電は絡め取られる様に槍へと巻き上げられ、
不可解な光を散らしながら物理的に不可能な方向へと弾き飛ばされた。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:45:41.64 ID:Ja80mfo0<>


躱すでもなく消すでもなく弾け飛んだ美琴の一撃は、あろう事かこちらを窺っていた若者の集団へと突っ込んでゆく。
呑気に写真なんて撮ろうとしていた連中が手加減してあるとはいえ美琴の攻撃を受けて大怪我をしないわけがない。



「しまった――――――!!」



突如電撃に襲われた少年達は叫びを上げる暇すら与えられず
驚愕と恐怖に開いた口を閉じることすら許されぬままに硬直した体の所為で指一本さえ動く事が叶わないでいた。


そんな彼らの下へ美琴が駆け出すが頭の片隅では既に計算してしまった結果が踊り狂っている。
間に合わない。
今から別の電撃を発して少年達に向かった自分の紫電を相殺するにも、自分が身を挺して庇うにも時間が足りない。



(もう、駄目………!!)



諦めと覚悟が美琴の中に生れてしまった。
その躊躇いが走る彼女の脚を半歩分程遅らせる。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:46:46.81 ID:Ja80mfo0<>


少年達は動かない、動けない。
手を伸ばす美琴の手も、届かない。
誰が見てももう駄目だと思える状況だった。



(―――――っ!)



予期してしまった未来に、見たくもない光景に目を反らして閉じた美琴は
だがそれにより研ぎ澄まされた聴覚によって絶対的な救済者の存在を察知する。






「随分苦戦してるみたいじゃねェか、超電磁砲」






少年達を今にも呑み込もうとしていた紫電が先程の槍とは違う原理で弾き飛ばされた。
飛んでいった先は槍の遣い手。
美琴が本来攻撃しようとしていた相手の胸へと凄まじい電撃が付き刺される。


紫電を『反射』した青年はダン、と地を蹴って美琴の背へと自身の背を向け
背中合わせとなった美琴へと口元に弧を描きながらさも可笑しそうに笑って言った。




「超能力者同士のタッグ戦なンてマニアなら金払ってでも見てェような光景じゃねェか
 ―――――始めようぜ超電磁砲?こっからは反撃開始だってなァ!!」



<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:47:46.42 ID:Ja80mfo0<>







急に自分達に対峙した一方通行から発せられた『超電磁砲』という言葉に魔術師達は揃って首を傾げた。
『超電磁砲』というのは確か標的の素体となった人間の異名ではなかったか。


そこで彼らはやっと気付いた。
能力スペックが事前情報とは明らかに事なった目の前の人間が出来そこないの欠陥品などではなく恐るべきオリジナルであった事に。



「あの手の輩は武器構える暇すら与えねェか、武器と声のどちらかを奪っちまえば大抵何も出来なくなる」

「良く解らない法則に惑わされるな、ってワケね―――――後ろ。任せたわよ」

「誰にモノ言ってンだ三下ァ………俺は学園都市第一位の化者『一方通行』様だぜェ?」



目でも口でも合図は無しに、しかし息の合ったタイミングで超能力者達の猛攻が始まった。
第三位の『超電磁砲』、第一位の『一方通行』。
二人によって組まれた突発タッグはそうとは思わせない見事な連携を見せ魔術師達を翻弄してゆく。


携えた武器を構える暇も詠唱させる時間も与えない。
途中仲間が攻撃を受ける間に無から有を生み出す様な奇妙な術を行使する者も見られたが
魔術への対応に戸惑いを見せる美琴を背に追いやりながら彼女の前へと躍り出た一方通行がそれを調整しながら反射する。


反射された筈の敵の一撃は物理法則を無視して七つに分裂し、
内一つが美琴へと向かうが彼女は電気を纏った右手でそれを往なしながら一方通行の背目掛けて飛び出した敵を粉砕する。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:48:45.88 ID:Ja80mfo0<>


「くっ――――!」



リーダー格らしい唯一美琴と口をきいた魔術師が唇を噛む。
まさかこの段階で超能力者と、それも同時に2人になんて対峙するとは想定していなかった。


一方通行と美琴は余裕の表情で次々と仲間達を昏倒させてゆく。
彼らに自分達を殺す気はないようだが勝ち目はないとみて間違いないだろう。


一体どうすべきか。
最も有効な手段を算出していた彼は、自分の後ろからザリ、と地面を踏みしめた音を捉えた。


―――――来た。
それは、標的たるクローンを一端見失った際最も広い範囲の捜索に走らせたモノだった。
アレならば『この』2人が相手なら勝ち目がある。







「標的の内1体を近隣の路地で発見しました。
 明確な命を受けていない為そのまま連行しましたが如何致しましょう、と一方通行はマスターに指示を求めます」









一方通行が、2人―――――?
美琴の小さな呟きだけが、星の見えない静寂の中響き渡った。





<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:49:50.05 ID:Ja80mfo0<>








10月10日 日本時間23:08。



「一方、通行 ――――――?」



ミサカ14510号とミサカ20000号の前に現れた一方通行は多少ばかり不機嫌そうな表情を浮かべながら心なしか拗ねた口調で



「他のこんな白髪に赤眼が一体何処に居るって言うンですかァ?研究の一環でオマエらの居る施設順々に回ってンだよ」

「そうでしたか。そのような情報は受けていなかったので少し驚愕しました、とミサカは弁明します」



あァ、構わねェよ?
そう語る一方通行が自身の右手を、返事を返した14510号の左肩に伸ばし―――――


バチバチバチ!!
伸ばされた一方通行の右手が14510号から発せられた電撃によって弾かれた。



「―――――何しやがンだ、テメエ?」

「あなたは何者ですか、とミサカは再度問います。今度こそ正確な解答を期待しています」



自分を睨み上げるような視線に、一方通行は何の感慨もなさそうにその顔から一切の表情を消し去った。
と言うよりも、何の感情も無い事が彼の基本形であるかのような既視感を覚えるその態度は。


<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:53:41.64 ID:Ja80mfo0<>




「何故。オリジナルでは無いと解りましたか、と一方通行は疑問を提示します」


「身長が目測6.7センチ低い、髪が3.2ミリ長い、筋肉の付きが5.2パーセント足りない、ウエストが1.3センチ細い。
 ………他に相違点はまだ解るだけで132項目程ありますが全部羅列する必要がありますか、とミサカは指摘します」




14510号から事細か過ぎるほどに明確に指摘された答えに少年は怪訝そうに眉を顰めた。
答えを確認するかのように自身の髪や腕の筋肉などを眺めながら




「確かに設定年齢はオリジナルの最盛期であった15歳前後でありますがそこまで細かな指摘を受けるとは思いませんでした、
 と一方通行は自分が贋物である事を肯定します」


「ミサカに言わせれば年齢と共に漂いが増した色気とか何とかがまだまだ足りないのが一番の違いかね、
 とミサカはあの人の懐かしい姿に口角が上がるのを抑えきれません。
 ―――ところで、14510号から求められた明確な答えが未だ返って来ては居ませんが?
 大方検討は付きますがその吸いつきたくなる可愛らしいお口から言って欲しいものですね」




応えるべきか否か。
躊躇いを見せるかのように間を空けた白髪赤眼の少年は、しかし考える素ぶりや表情などを一切見せないまま口を開いた。



その言動を嘗ての自分達と重ねた14510号と20000号は確信する。
瞳に宿る感情の色が一点に集中せず常に視界に映るモノを追いかけている様な曖昧な焦点。
強制入力された知識から生まれる独特の口調。
それは。



<> 第十一話 『部屋と激突とミサカ』<>saga<>2011/01/04(火) 20:54:14.26 ID:Ja80mfo0<>









「一方通行型量産先端深化能力者02号とでも答えるのが妥当でしょうか、と一方通行は生産ロッドから検体標識を告げます」










一方通行、御坂美琴、妹達――――。
三者にとっての悪夢の様な計画が、今、明かされる。






<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/04(火) 20:56:53.92 ID:Ja80mfo0<>
本日はここまでです。
戦闘シーンが相変わらず上手く書けません。
美琴嬢は強いのですが初めて明確に触れた魔術に戸惑った、という感じが伝わったでしょうか。

次に更新するときは戦闘シーン増量しなくては話が進まないので読んで下さる皆様に出来るだけ状況が伝わるよう頑張って書きあげます。
ではまた次回を期待せずにお待ちください。<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 21:03:14.78 ID:VaMwZgso<>生産ロッド乙
うん、漲ってきた<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 21:08:08.53 ID:IRaSZjEo<>ワクワクしてきました。乙<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 21:18:27.85 ID:yvu.soYo<>量産型一方が捕まって妹達の玩具にされてしまうのか…むねあつ<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 21:48:13.07 ID:mnFA6TEo<>お姉さまさすがですわぁああん、ロッドてはなくロット(lot)であり
一般的な意味の「多量」から転じて生まれた技術英語ですわ、
と黒子は黒子は申してみますの!<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/05(水) 00:05:14.38 ID:WYawx8co<>すごい展開…!
妹達が救われるのを祈るしか<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/05(水) 00:45:40.65 ID:OsY9d360<>一方その頃上条当麻はひさしぶりに沢山ご馳走を食べれた幸福感に包まれ眠っていた<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/05(水) 03:44:25.80 ID:EH0zMdEo<>一度”億尾”で検索してみることをお勧めする<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/05(水) 19:19:45.34 ID:Wd/HVFMo<>乙
目が離せない展開になってきたな。
まあ毎日更新してるか確認してるんだけどね<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/05(水) 21:40:43.93 ID:2I8yKVM0<>>>614様 
×ロッド → ○ ロット(lot)の指摘ありがとうございます。
レポートで毎回使ってるくせに間違えました……解せぬ、と>>1は>>1は悔しがってみたり。

>>617様
×億尾 → ○噯 の誤変換もありますが根本的に使い方が間違ってました。
「噯にも出さない」は物事を深く隠すこと、なので直すとしたら「〜などまるで持たないかのように」などでいいのでしょうか?
文章力がまだまだ足りません。

次回は木曜深夜か金曜に投下予定。期待せずお待ちください。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/06(木) 00:36:11.79 ID:Mb/G1Dk0<>俺たちに期待するななんて、セロリ派妹達から一方通行を引き離すようなもんだぜ!
待ってます<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/07(金) 17:29:22.67 ID:V6HRnCQ0<>
前回は誤字が多く読み辛かった事と思います。大変申し訳ありませんでした。
以下より先日の続きとなります。
……ところでこのスレにシリアス要素は需要あるのでしょうか?


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:31:06.18 ID:V6HRnCQ0<>






「一方通行型量産先端深化能力者02号とでも答えるのが妥当でしょうか、と一方通行は生産ロットから検体標識を告げます」







<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:32:15.37 ID:V6HRnCQ0<>






「……『深化』、ですか?とミサカは疑問を提示します」


「我々は破棄された『妹達第三次製造計画』での番外個体製造ラインを参考に
 オリジナルの全盛期を模する事で全ての個体における能力値を大能力者相当に設定されています、と一方通行は返答します」



予期していた解答とはいえ、
目の前に立つ少年本人から聞かされた言葉にミサカ14510号と20000号は少なからず動揺した。


元来能力値が等しかったとしても『一方通行の模造品』と『超電磁砲の模造品』とでは圧倒的有利となるのが前者である事は
『絶対能力進化実験』の際に『樹形図の設計者』がオリジナル2人の戦闘シミュレーションを予測演算した結果からも既に明らかだ。


だというのにこの少年は大能力者のチカラを有し、妹達にその牙を向けるというのだ。
普通に考えれば真正面から対抗しても勝てる可能性は皆無である。



<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:32:56.12 ID:V6HRnCQ0<>


だが。
狼に喰われる運命にあった羊は、普通のカテゴリに収まりきらない存在だった。



「そうですか。お蔭で疑問はサッパリ解決できました、とミサカは少年・一方通行02号に頭を1つペコリと下げます」

「んじゃ、お礼までしてやったんだから可愛いお顔歪めながら這いつくばって喘いでごらん?
 とミサカは14510号のセリフを利用して誘惑という名の挑発をしてみます」



1万人近く存在する妹達の中でも『断固セロリ派』を自称する異端2人は、
憧れの人の懐かしい姿を前に先輩クローンらしい大人の余裕を見せつけてみせた。






<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:33:35.85 ID:V6HRnCQ0<>







「もうっ!とうまったらまた知らない女の人とイチャイチャしちゃって!!」

「イヤでもアレは不可抗力と言いますか転びそうになってたのを助けてあげたら何かああなっちゃったと言いますか……」



上条当麻とインデックスは一方通行宅で行われた退院パーティーの帰り道、
いつも通りの不幸体質と対を成す超フラグ体質が齎すハプニングエッチイベントに遭遇した。


帰宅を急いでいたらしい若い女性が沿道にあったコンクリートの塊にヒールを引っかけた事に気付いた上条が
女性が躓く前に支えようとした、という内容だ。


だが結果的に上条は、自分も足元に落ちていた別の小石に足を捕られ何とか女性の背が道路に激突する事は避けられたものの
彼女の胸元にそのツンツン頭を丸々ダイビングさせてしまったのだった。



「人を気遣える心は素晴らしいけど胸に飛び込むのはあり得ないかも!
 結局女の人の荷物も毀れちゃったし探すの手伝ってたらこんな時間になっちゃったし!!」

「いやホント……ゴメンなさい」



<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:34:50.93 ID:V6HRnCQ0<>


今日はインデックス噛みつかないで来ないんだなー、成長したなホント。
なんて謝りながらも上条がそんな失礼な事を考えているとは露知らずインデックスは彼の得意とする説教を本日は自分が行っていた。


が。
そのインデックスの動きが突如『何か』に反応しピタリと止まった。
俯いた顔を彩る真剣な眼差しはずっと考え込む様に地面を見つめている。



「魔術、の気配がする……」

「魔術?ステイルか神裂でも来てんのか?」

「ううん――――そんな感じじゃない、あんまり感じ慣れてないタイプだからいまいちハッキリとは言えないんだけど――――
 何かを、……攻撃してる?多分遣い手は複数いるんじゃないかな?」



魔術師による何らかの攻撃。


昔土御門に聞いた話だと、第三次世界大戦が終結してからはアレイスター統括理事長の働きで
科学サイドと魔術サイドはお互い必要以上に干渉せず理由ない武力行使も行わないという締結が結ばれた筈だ。


だが実際この学園都市で複数の魔術師が攻撃を仕掛けて来ている。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:35:44.45 ID:V6HRnCQ0<>


嫌な予感がした。
やっと訪れた学園都市の平穏を何もかもブチ壊す様な『何か』が近づいてくるような、そんな予感が。



「インデックス、その魔術の気配がする場所って判るか?」

「うん。結構遠いけどちゃんと案内できると思う」



上条の意思を呑んだインデックスは何も言わずに彼へと協力の意を見せる。
昔なら魔術の事なのだから自分に任せろと言ったものだが、どれだけ止めても無駄だという事は長い付き合いの中で既に学習してしまった。



ならば、魔術に詳しい自分が最初から彼と共に行動し彼をサポートする方がずっと彼にとって安心だ。
そして。


「誰かが困っているかもしれない」。
それだけで動き手を差し伸べてくれる彼を愛してしまったのだから、インデックスに上条当麻という男を止める事は到底不可能な話だった。







<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:36:32.95 ID:V6HRnCQ0<>






ズリ、ズリ―――……

七分袖のシャツとスカートから伸びた傷だらけの手足。
コンクリートで舗装された地面を引き摺られながらも声の一つも上げないグッタリとした茶髪の女。


そして、女の襟首を無情に掴む目の前の『自分』。



「学園都市を拠点とする標的の処分に関する明確な命を受けていなかった為そのまま連行しましたが如何致しましょう?
 と一方通行はマスターへと指示を要求します」

「良くやった05号。そのまま殺さない程度に傷めつけろ。出来るだけ、お前のオリジナルと超電磁砲に見せつける様にな」

「了解しました、と一方通行は行動に移ります」





何ダ、コノ光景ハ?





<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:38:01.27 ID:V6HRnCQ0<>


10032号こと御坂妹の襟首を放りだす様に話したクローンは静かに、
しかし正確に急所を狙ってベクトルを器用に操作しながらそのまま彼女を蹴り始めた。


どれだけ理不尽な暴力を受けようとも御坂妹は何の反応も示さない。
完全に意識を失っている。


暫く無感情に彼女を蹴っていたクローンもそれでは「見せつける様に傷めつける」という命令を完遂できないと踏んだのか、
あろうことか彼女の首筋に細い指先を当て生体電流を操る事で無理矢理その意識を覚醒させた。


強制的に再覚醒された痛覚が体中で悲鳴を発する。
現在進行形で与えられる強烈な痛みに御坂妹は思わず声を上げた。



「―――――っ、あ、ぁ、あ!痛っ、いつっ、あ、う、ぅ!!」



自身のクローンが繰り出す刺激に呻く妹達に一方通行の肩がビクリと震えた。
上手く思考が回らない、纏まらない。


妹達を助けなければ。
だが、





『……あ、な、た、の、せ、い、だ』





ロシアで聞いた番外個体の言葉が脳裏に響いた。



<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:39:47.32 ID:V6HRnCQ0<>



『だからミサカには糾弾する権利がある。あなたを殺すべき理由がある』




『絶対能力進化実験』が凍結した夜、
御坂美琴が死を覚悟してでも自分に勝負を仕掛けてきたあの気持ちが今ならはっきりと理解できる。


俺の所為だ。


俺が居なければ更なるクローンなど生まれて来なかった。
自分の死で全てが収まるというのなら、一方通行は直ぐにでも自分で自分を刺す事だろう。


目の前のクローン体には確かに自分を糾弾する権利がある、殺すべき理由がある。
だが。



「――――っ、あ!あ!……うぐ、あ、うぅ……」



悲痛な叫びを上げる妹達を助けたい。
しかし、自分の所為で生まれてしまったクローンを傷つけていいのか分からない。


一方通行は困惑していた。





『お前が何をすべきか、良く考えておけ』




何ヲ スベキ カ、解ラナイ。 判ラナイ。





<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:41:02.78 ID:V6HRnCQ0<>







能力追跡。
滝壺理后が持つその稀有な能力は、一度記憶したAIM拡散力場の持ち主を捕捉し例え太陽系の外まで逃れても居場所を探知する。



「―――――増えた?、のかな?……うーん……」



小首を傾げながらうーん、うーんと考え込む姿は隣に座る浜面仕上の心を安らかに癒してくれた。


滝壺がうーんと呻く姿を見つめながら、こういう一つ一つの動作全部がこう、小動物、って感じなんだよなぁ……
などと考えていた浜面はご馳走様ですといった仏の顔で「どした滝壺?なんか変な動きでもあったか?」尋ねると



「増えた。あくせられーたのAIM拡散力場が」

「増えたぁ?」



無能力者である上青春時代をスキルアウト、
そしてアイテムという学園都市の暗部の中で過ごして来た浜面にはまともな教養が殆どないと言っていい。
前提からして、ただでさえ馬鹿な頭が滝壺ですら首を捻る様な問題を理解できる筈が無かったのだ。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:42:01.31 ID:V6HRnCQ0<>


出来るだけ自分にも解る様に、それでいて簡潔に何が起こったか判る範囲で教えてくれ。


滝壺一人で考えるのが難しいなら自分も手伝えばいい等と考えたのが馬鹿だった。
オーダーを受けた滝壺はリクエスト通り3行で答えてくれた。



「あくせられーたのAIM拡散力場が急に増えたの。
 最近追跡してなかったからか何かの装置で隠蔽されてたのか解らないけど突然14個くらいに。
 1つはあくせられーた本人のとして、残りの13個がやけに反応が低いのも気になる……」


「んで、結論を言えばその13個の反応っつーのは何な訳?」



今度は考え込むというより発現を躊躇う様な仕草を見せた滝壺は痛々しい表情で浜面を見上げながら、
ぽつりと小さく言葉を返した。




「前に追跡した最終信号と超電磁砲の違い、に、近い存在」



<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:42:41.86 ID:V6HRnCQ0<>




滝壺が感知した反応は『アイテム』以外の組織にも直ぐに伝達された。
感知された13個の反応で妹達のAIM拡散力場に接近していると判断されたものは3つ。


内1つは学園都市の外での反応で在る事から早急な対処は出来ないと見做され、
残り2つの反応を優先的に調査していく事が決定した。



「一方通行のクローンっつーことは『反射』も出来るんだろ?簡単に対処も出来ねえんじゃ……」


「大丈夫。みんなから一番離れたところはむすじめ、もう1つは近場に居たむぎのが向かってくれた。
 感知された能力のレベルも大能力者ってところだし、2人なら何とかなると思う。それに、むすじめの方には本人もいるから」



本人。
つまり一方通行が既に現場に到着しているという事に浜面は一抹の不安を覚えた。
アイツはクローンの事となると考えなしに無茶する傾向にある。


『自分のクローン』と『自分が護って来たクローン』が激突したとき、彼はどうなってしまうのだろう?
沸々と湧き上がる不安を思考の端に寄せて、浜面は自身に与えられた仕事に再び没頭した。


自身の不安が、確かな現実になる事など知らずに。








<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:43:37.55 ID:V6HRnCQ0<>







ミサカネットワークを通じて14510号からの報告を受けた打ち止めと番外個体は、
情報としての認識は済んだ物のそれを理解するまでに数秒を要した。


量産先端深化能力者。
クローンによる妹達への襲撃。
一方通行の模造品。


自分達の命を最優先で護りながら、出来得る限り『彼ら』を傷つけずに保護するよう下位個体たちに命じた打ち止めは
『彼ら』に対し『ミサカ達』がどう対応すべきか真剣に悩んでいた。


初めて出来た自分達と同じ境遇の存在。
同胞。
自分達を殺しに来た存在。
学習装置によって強制入力されたであろう『彼ら』の使命。



「どうすれば、皆幸せになれるのかなあ……?ってミサカは、ミサカは――――」



呟くように吐きだされた言葉に番外個体も悲痛な貌を浮かべる。
だが彼女はその直ぐ後に表情を強張らせ、ギョロギョロと恐ろしい形相で周囲を警戒し始めた。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:45:19.61 ID:V6HRnCQ0<>



≪ 一方通行様がご帰宅なされました ≫




ピンポーンという気の抜ける様な合図と共に
マンション正面玄関のオートロックが解除された事を告げる合成音声が流れた。


ゾワリと番外個体の背中を辿った嫌な気配は、確かに件の『贋物』の物だった。


指紋,声紋,更には眼球によるチェックなどの厳しい検査を
『本人と同じ一品』によって通り抜けた『贋物』は今にも自分と最終信号を手に掛けようと迫って来ている。


危険を察した番外個体は昔に比べ遥かに大きくなった打ち止めの体を何とか担ぎ上げるとベランダへと飛び出した。
自分達の住まいは中々の高層階だったが電撃で空気を爆発させながら段階に分けてゆっくりと着地すれば何とかなるだろう。


少なくとも、『一方通行』という強力な能力を有した自分と同じ大能力者と対峙するよりはずっといい。




『ガキを任せられるか?』




そう尋ねられたのはもう6年も前の話だ。
ロシア側からも学園都市側からも、全てから打ち止めを護れと嘗てあの人の一番大切なモノを託された彼女は
決死の面差しで何十メートルと離れた地面へと飛び降りた。



(最終信号を最後まで護りきれたら、あの人は褒めてくれるかな?)



そんな自分には似合わない感情を、胸に秘めて。





<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:46:52.73 ID:V6HRnCQ0<>






妹達の暴走、および侵入者への対策の一つとして研究所内に備えられたAIMジャマーは効果を示さなかった。
設置された部屋へと逃げ込めた時は勝利を確信したが、結局は糠喜びに終わってしまった。



「我々はAIMジャマーによるAIM拡散力場の乱反射を一定まで阻害する装置が埋め込まれています。
 このまま装備が設置された部屋に居れば寧ろあなた方に不利なのでは?と一方通行はお2人に尋ねます」



挑発や蔑みから来る言葉ではなく純粋な疑問として発せられたそれが嫌に反復される。
製造されたばかりの自分達を見ている様で14510号は唇を噛み締めた。


インストールされた目的や手段を顔色一つ変えずに、それがどんな命令であろうと何の反発も無く行う人形。
まさに目の前の少年がそれだった。


死ぬのは嫌だ。だが、殺すのも嫌だ。
子供の我儘の様に矛盾した感情をぶつけ合ったところで打開策は見つからない。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:49:30.45 ID:V6HRnCQ0<>


≪『反射』の所為で『キャパシティダウン』も使えないだろうけど、どうするよ?
  AIMジャマーを無効化する装置ブッ壊すにしたってあの反射をどうにかしないと無理な話だぜ? とミサカ20000号は意見します≫



ネットワークから20000号が通信してくる。
彼女の言う通り一方通行の反射をどうにかしない限りは絶体絶命の一言から脱せられないだろう。



≪ クローン体が破壊した瓦礫によって援護に向かうまでに時間が掛かる!何とか耐えてくれ!! ≫

≪ いや、研究所に居る14人のミサカ達全員で向かったところで多分結果は変わるとは…… ≫

≪ なら14510号と20000号を捨て置いて逃げるっていうの!?出来るわけないよ!! ≫



14510号と20000号が持つ装備といえば、AIMジャマーが設置された部屋へと向かう途中引き摺り出した
対戦車ライフルのメタルイーターMXとF2000Rトイソルジャーが一丁ずつ。


だが単純な銃火器では『一方通行』という能力を打ち破る事が出来ないのは10031回に渡る『実験』で嫌というほど知っている。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:50:40.54 ID:V6HRnCQ0<>


元々研究所にいた8名に20000号のように機材の都合から一時的に来訪していた6名を加えた
総勢14名で対抗策を探すも名案は浮かばない。
数で言えばこちらが圧倒しているというのに勝てる見込みは本当に何処にもないのだろうか。



(ん?)



14510号はそこまで考えて引っ掛かりを覚えた。
思い出せ。記憶を共有していた『ミサカ達』には自分が忘れた情報のバックアップなどそれこそ山の様にある。



『一方通行型量産先端深化能力者02号とでも答えるのが妥当でしょうか』

違う。



『我々は全ての個体における能力値を大能力者相当に設定されています』

違う。



『AIMジャマーによるAIM拡散力場の乱反射を一定まで阻害する装置が埋め込まれています』

これだ。
【AIMジャマーを一定まで阻害する装置】。
【一定まで】。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:52:20.03 ID:V6HRnCQ0<>


AIM拡散力場を乱反射し自分で自分の能力を干渉させ阻害するAIMジャマーは
大量の電力や演算能力が必要で在る為に、大抵の施設ではその装置が持ちうる最大限の効果を発揮しきれていない。


では、その装置に14人の電撃使いが装置へとチカラを貸し与えたら?
もし加わった電力分でより強力な効果を発揮出来たら?



これは賭けだ。
成功率の著しく低い勝負。



≪ 馬鹿げた提案だが、聞いてくれるか?失敗すればこの研究所に居る『ミサカ達』全員が犠牲になるかもしれない。
  だが、成功すれば利用されるが儘の『同胞』を救えるかもしれない。――――のって、くれるか? ≫



1人の問いに、研究所内の13人全てがゆっくりと首を縦に振った。







<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:53:39.90 ID:V6HRnCQ0<>






硬直する一方通行を余所に、
数年前の彼と全く同じ姿をした少年は静止命令が来るまで御坂妹に暴力を奮い続けている。


クローンを攻撃する事を拒否した美琴は少年が『マスター』と呼ぶ魔術師に攻撃を仕掛けたが、
新たに現れた別のクローンがそれを庇い立てた。


流石に超能力者の攻撃まで完全反射できなかったのか後方に吹き飛ばされたクローン体の姿が目に焼き付いてからは、
それが一種のトラウマの様に美琴の体を蝕んで彼女に一切の攻撃を躊躇わせた。



顔面蒼白で立ちつくす二人をさも愉快そうに嗤った魔術師は、
御坂妹を傷めつけるよう指示した個体へ卑下た声で次なる命令を加える。



「オリジナルのレパートリーの中に肉を毟り取るものがあったろう、やれ。血液逆流も試してはみたいがそれでは直ぐに死んでしまうからな」

「了解しました、と一方通行は演算に入ります」



<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:54:30.55 ID:V6HRnCQ0<>


ビクリ!
一方通行と美琴の肩が震えた。
指を、脚を、腕を、腹を、あらゆる所を千切り採り見せつけ食し蔑んで人間としての扱いをすべて捨て去ったあの行為。


『自分』の指がゆっくりと妹達に近づいてゆく。
実験当時の自分と同じ姿をした『自分』が残虐非道な行為を護ると決めた筈の少女達へ施そうとする。




「嫌!嫌です!ミサカはまだ死にたくは―――――っ!!」




悲鳴を聞く為という理由で激しい痛みの中意識を強制的に保たされていた妹達が死にたくないと叫んでいる。
6年前とは違う、何の拒絶も示さなかった彼女達が恐怖に声を上げながら助けてくれと叫んでいるのに目の前の『自分』はその手を止めない。






『もし、仮に。あの日、あの時、ミサカが戦いたくないっていったら?』






選択肢は終わってなどいない。
これが、答えだ。
一方通行は選びとった運命を掴んだ手を目の前の『自分』へと伸ばし、そして――――――








<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:56:35.30 ID:V6HRnCQ0<>







「くっ、はは!?ぎははははははっ!!ぎゃああァはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」



ベクトル操作を纏った右手が御坂妹を暴行していた個体を貫く。
クローンの腹から決して少なくはない血が流れ出すが一方通行はそれを気にもせず狂気に満ちた嗤いを叫びながらその腹を踏み上げた。



「ぐ、はぁ!!」



足元の『自分』から大きな呻き声が洩れる。
それをしっかりと耳で聞き入れながらもなお一方通行は嬲る様に踏み付ける行為を止めない。



「簡単に死ねると思うなよ、あァ?――――どうした、何か言ってみろよ?」



こんな『自分』は刺しても斬っても討っても射っても打っても蹴っても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺しても殺し足りない。



最早口など開ける状態に無い『自分』を見下ろして一方通行は口角上げた。


一方通行は既に正気でない。
妹達を傷つけていた自分のクローンを『嘗ての自分』と認識し、それを破壊する事で過去の罪を繰り返さずに済むと考えてしまっている。



「止めなさい、一方通行!!」



何とかして彼を止めようと美琴が必死に声を上げるが彼女の声は一方通行に届かない。
静止の声を、受け入れようとしていない。


<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 17:58:05.09 ID:V6HRnCQ0<>


無理矢理クローン体から一方通行を引き剥がそうと彼の腕を掴んだ手は全てを拒む彼を象徴するかのように反射されて跳ね返された。


自身が反射した美琴に目もくれず一方通行はこの場に居る2人の『腐っりきった自分』を眺める。


すると、一方通行の視界の端に相手側の急な反撃に主人を護ろうと臨戦態勢に入る個体が映った。
護るべき妹達でなく誰とも知れないクソ野郎を庇い立てるクソみてェな『自分』。


ニヤリ、と一方通行の顔が歪む。




「――――――許せねェンだよ、テメェだけは……」


「な、何を言っている?クローンが新たに生産されたのも、クローン同士で傷つけ合うのも元はといえばお前の所為だ!
 腐りきった自分を棚に上げて私を責めようというのか、ええ!?」




突如として予測しなかった行動に出た一方通行の精神を破壊しようと魔術師は彼を責め立てる。
しかし、一方通行は始めから魔術師など見ていなかった。


彼の視界に映るのは、妹達を傷つける『自分』と、それを許容する『自分』。







「―――――自分(テメェ)だけは絶対に、許せねェンだよおおォおおおおおお!!!!!」







<> 第十二話 『部屋と量産能力者とミサカ』<>saga<>2011/01/07(金) 18:01:35.40 ID:V6HRnCQ0<>





目の前の『自分』を本気で殺すつもりで伸ばされた右手が別の誰かの右手によって掴まれた。
これでは『自分』を殺せない。振り解こうと払った右手は、だがより強い力でしっかりと握り絞められた。

掴まれた右手に伝わる熱が、何故だかとても熱く感じる。



いつも窮地に颯爽と現れて救いを与えてゆく『ヒーロー』がこんな『自分』すら救おうと自分に立ち塞がっている。








「腐りきってんのはテメエの方だ魔術師野郎。
 テメエがまだこの反吐の出るみてえな舞台を続けるってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」














お伽噺の様な『ヒーロー』はいつだって傍に居る。
格好良く颯爽と登場出来なくても、躓きながらも転びながらも臨めば必ず『ヒーロー』はやって来る。


自分自身が誰かの『ヒーロー』になれる可能性を、彼はまだ知らない。




<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/07(金) 18:02:30.11 ID:V6HRnCQ0<>
中途半端なところですが今日はここまでです。
ベッドの中で寝転がりながら書いたのでまた誤字・脱字があるかもしれませんがご勘弁下さい。

とりあえず熱下がったら明日更新ということで。期待せずお待ちください。


追伸:このスレのヒロインは打ち止めです、念の為。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 18:04:59.36 ID:LKdZ0gSO<>乙!

>>ヒロインは打ち止め
え、ヒロインは一方通行じゃなかったの?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 18:14:56.90 ID:CBfseUDO<>熱とか
お大事になー<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 20:16:47.08 ID:DSVEnmc0<>乙なんだよ
真のヒロインはいつだって影から支えてあげるものなんだよ
けっして空気とかじゃないんだよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 20:23:15.60 ID:9BngDHko<>>>648
ちょっと、インディカ米さんは黙っててくれるかな。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 20:34:22.08 ID:X3unjaw0<>>>648
インダクタンスさんちーっす<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 20:57:49.64 ID:es/91h2o<>超好き。>>1愛してる。
シリアスとかコメディとかそんなの関係ないんだよ。
あんたの書くお話が好きなんだよ!
それでもまだ需要がどうこうって思ってんなら、あんたのソレをほじくりまわしちゃうぞ。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/07(金) 21:21:53.27 ID:PCK2tIco<>上条さんがちゃんとヒーローしてる!!

おつおつ!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2011/01/08(土) 00:06:08.50 ID:SDnrnjI0<>上条さんマジヒーロー

この話のヒロインは少なくとも今現在は一方さんであってるはず
・・・打ち止めさんの活躍待ってるよ!<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/10(月) 18:49:17.37 ID:2lPG2NgW0<>シャツの人熱まだ下がんないのかな?
ゆっくり休むんだぜ!
そして次の更新待ってる<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 01:06:47.13 ID:wqpYq0aL0<>ようやく追いついた!!
面白いです〜乙です。

ただ、このスレは基本これからも胃が痛くなるようなシリアスがメインなんでせうか…
最近コメディタッチのスレタイ覗いたらハードなものだったというスレタイ詐欺が多いので。
<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/14(金) 01:55:46.75 ID:xZRvTtUv0<>移転すんのか?
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/14(金) 22:36:06.93 ID:vlTRVbjYo<>うおおおお気づいてくれ>>1ぃぃぃぃぃ
SS・小説スレは移転しました
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<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/14(金) 22:39:20.91 ID:mMCEMs/9o<>まあ移行期間は一ヶ月あるからそんなに慌てんでも
SS・小説スレは移転しました
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<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/15(土) 01:48:10.33 ID:J4k/gkJh0<>やっと風邪治った……移転したいけどやり方分かんないです。
だ、誰か代行して頂けたりしませんか……ね……?
SS・小説スレは移転しました
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<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 01:50:45.46 ID:ZfiOA5eso<>■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 01:51:20.69 ID:ZfiOA5eso<>1 名前:荒巻@管理人 ★[sage] 投稿日:2011/01/13(木) 22:07:13.76 ID:???
SS・ノベル・やる夫板は自治スレで議論した結果、新たなる大地を求めて移転しました。

SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/

じゃん


専用ブラウザな人は板一覧を更新してください。
ブラウザな人や携帯な人はちゃんと誘導できるようにしています。。がここで案内してもらっても構いません。

また、SS系スレを新天地にすっ飛ばすサービスも承ります。
我先に吹っ飛ばしたいスレ主の皆さん、ふるってご応募ください。





SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 02:17:50.23 ID:ZfiOA5eso<>ああもういってきたよ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/246

SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> 真真真・スレッドムーバー<><>移転<>この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/15(土) 22:39:37.16 ID:chmuwkna0<>よっしゃああああOPに木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!
と、書こうとしたら全然そんなことなかった。OP変わってなかった。
EDは変わったけど後半主役級の活躍を見せる一方さんがカケラも出なかった。……インデックスさん可愛かったから良いけど。

はい。そんなわけで本当にお久しぶりです。更新停滞してて申し訳ありませんでした。
移転を引き受けてくださった>>662様、本当にありがとうございました。

以下より本編となります。本当に久々で申し訳ありません。<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:41:28.78 ID:chmuwkna0<>





「腐りきってんのはテメエの方だ魔術師野郎。テメエがまだこの反吐の出るみてえな舞台を続けるってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!」







目の前の『自分』を本気で殺すつもりで伸ばされた右手が、別の誰かの右手によって掴まれた。
いつだって『ヒーロー』は窮地に颯爽と現れて救いを与えてゆく。



『自分』は、こんなにも穢れきっているというのに。







<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:42:16.66 ID:chmuwkna0<>


「………離せよ」

「離さねえ」



呟くように囁かれた一方通行の声を上条当麻は突き放した。
一方通行からギリ…という唇を噛み締める音が聞こえたが、俯いてしまった彼の顔は長い前が身に隠れて窺えない。



「……離せよ、これは俺の問題だ。テメエの始末くれェテメエで着ける」



一方通行がもう一度言った。
自分のクローンを―――― 否、『過去の自分』そのものを清算しようとする彼には、目の前の『自分』しか見えていない。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:42:46.58 ID:chmuwkna0<>


「ここで俺が止めねェと、コイツらはまた同じ事を繰り返しちまうンだよ……俺が止めねェと。俺が、俺が『実験』を……」



唯一、一方通行を抑えつけようとして反射され地面に座り込んでいた御坂美琴だけが彼の表情を捉えていた。


酷い汗だ。
代謝のあまり活発でない彼からは考えられないほどの汗が滝の様に沸々と白い肌を辿り、半ば空ろになった寮の目は瞳孔が開かれ、
興奮状態にある所為か荒い息がハアハアと彼の口元を覆っていた。


一言で言うなら、異常だった。
一方通行を垣間見た美琴がそのプレッシャーに戦慄する。



「今の俺が、俺自身が、あの『実験』を止めなきゃならねェンだよォオオオオオ!!!!!」




<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:43:19.50 ID:chmuwkna0<>


一方通行が咆哮した。そして突如、暴れ出す。
何とか上条の右手から逃れようとする一方通行は、能力を『幻想殺し』で封じられている為か自身に装着された歩行補助用の杖を伸縮し
既に瀕死のクローンへと叩き込もうとする。



「うォああああ!!!!!」



一方通行が振り翳した杖で、本気で『自分』を殺してやろうとした途端。
――――― 彼の体が、小さく弾かれた。


ペタリと尻もちをついた一方通行には何が起こったか分からない。
きょとん、としたような表情で茫然と遠くを見つめている。
すると後から追い付く様な形で鈍い痛みが顔面左端から襲ってきた。横目でそっと眺め見遣る。


鼻血が出ていた。
一番痛みを発する患部はそこを中心に赤く腫れ始めている。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:44:02.50 ID:chmuwkna0<>


「――――― なら、お前はどうなんだよ」



自分は殴られたのだとようやく気付いた一方通行は、殴ったであろう上条へと目線を向けた。
近しい記憶を何処かに置き忘れてしまった様な感覚。急に現実感を突き付けられた。



「あの『実験』に後悔して、もう二度と繰り返さねえと誓ったのは分かる。アイツらに妹達を殺させまいと考えるのも賛成だ。
 ――――― だが、それでお前がクローンを殺しちまったら、それはお前自身が『実験』と同じ事を繰り返す事にならねえのかよ!?
 クローンだろうが何だろうが命ある一人の人間だって知ったんだろう、お前は!?
だったらお前がまたアイツらを手に掛けちまって、それで良いのかよ!?」



見開かれた瞳孔が急速に萎んでいく。
目の前の『自分のクローン』を『過去の自分』と同化していた事にやっと思い至る。
あ、あ……と弱々しい呻きが一方通行から洩れた。
上条の言葉に一瞬光を取り戻した瞳が再び暗く沈んでいくのを、美琴は見た。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:44:42.14 ID:chmuwkna0<>


後悔。なんてレベルじゃない。
自分自身に付けた楔を、掟を、決意を自分自身で踏みにじってしまったのだ。一方通行は。
自分が犯してしまった事実に恐怖してしまった為か、或いはそれを受け入れられずにか、徐々に放心状態へと陥ってく彼を見て
上条当麻は怒りに顔を歪ませた。







「―――――覚悟はできてんだろうな、魔術師野郎。人の命を弄んだ罪と俺のダチを甚振った罪、両方とも被って貰うぜ!!」








爪が皮膚へと食いこむほど握り締めた拳が、大きく空を切った。






<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:45:14.59 ID:chmuwkna0<>





現在地点。絶対座標でX-228561、Y-568714。
貨物列車に使う大量の金属製コンテナが並ぶ操車場の地理を、番外個体は『メモリーデータ』として『知って』いる。


ここは、最後の『実験』で使われた場所だ。
使用検体は10032号、用途は『「反射」を適用できない戦闘における対処法』。



(――――よりによって、やっとの思いで逃げ込んできた場所が此処とはね)



打ち止めを抱える様にして自宅の高層マンションから飛び降りた番外個体は、電撃を使って器用に空気を爆発させながら衝撃を和らげ見事着地。
そのまま製造時に学習装置で強制入力された『証拠隠滅マニュアル』を応用しながら『一方通行型量産先端深化能力者』とやらから逃げ続けていた。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:45:43.62 ID:chmuwkna0<>

だが、それも此処までが限界の様だ。
コツコツと靴音を鳴らしながら近づく足音が辺り一面に響き渡る。


ゆっくりとした音の感覚は相手が歩いている事を明確に伝え、騒ぎが大きくならない場所へと誘導されたのだと悟った時点で
番外個体はこれ以上逃げる事を諦めた。



番外個体は目の前の『敵』に集中していたが、
傍らに置いた打ち止めにはネットワークから他の個体が遭遇した別のクローンへの情報収集を任せている。
何処か別の個体が一人でも『敵』への対抗策を見出せれば、それで全ての勝利が決まると考えた為だ。


しかし打ち止めの蒼白した表情をみるに他所も芳しくない状況にあるらしい。


―――どうする。
番外個体は考える。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:46:38.68 ID:chmuwkna0<>


先にも言った様に、これ以上逃げ遂せる事は出来ない。
『敵』は人気のない場所で戦闘を行う為にワザと番外個体を此処まで逃がしたのだ。放置したと言っても良い。
ここまで来たのなら相手も本気で番外個体と打ち止めを殺しにかかるだろう。



(――――― 『敵』は同じ大能力者。でも、能力自体に埋められない差がある)



一方通行が第一位であり、御坂美琴が第三位に甘んじる決定的な理由。
能力の応用性。


美琴も決して能力が狭い訳ではない。
ハッキングに核弾頭の破壊、砂鉄の剣や水分子の電気分解など、異名となった『超電磁砲』以外に寧ろレパートリーがあり過ぎるくらいだ。


しかし、結果的に『一方通行』という能力はそれを上回っている。
運動量、熱量、光、電気量など体表面に触れたありとあらゆるベクトルを任意に操作できるそのチカラは最早反則とさえ言える。
オリジナルの一方通行本人に至っては複雑な風のベクトルを軽々と操ってプラズマを形成した上、
魔術などというフザケタ代物を科学的に解決してしまったチート人間だ。



(『反射』がある限り、同じ大能力者のミサカ程度じゃその壁を貫ききれない……と考えるのが妥当。
 ―――――― 問題はあのクローンに自動防衛能力が備わっているかどうか。
 あれがなければ『反射』に対処出来なくったって、『反射』を演算できないようにすれば勝ち目はある)



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:47:33.32 ID:chmuwkna0<>


一方通行や彼の演算パターンを元にした『暗闇の五月計画』を受けた番外個体には自動防衛能力が備わっている。
だからこそ彼の反射を皆『勝手に働く便利なチカラ』と考えがちだが、あれを無意識下で行うのはかなり高度な技だ。


まず、向かってくる攻撃の速度や予想到達時刻を咄嗟に計算式に書き加えなければならない。
そして反射後の位置設定を正確に演算しなくては敵へ跳ね返る事がない。


つまりはあのクローンが自動防衛能力を持っていなかった場合、
隙を作る―――― 例えば別に意識を向けるなどすれば攻撃への演算が間に合わなくなり普通の人間と同様ダメージを受ける事になる。


その一瞬の隙に最大出力2億ボルトを浴びせれば殺すことだって可能だろう。
番外個体はそう考えていた。
だが、







隠れていたコンテナが一撃で破壊された。
自分達を追っていた『敵』が目の前に姿を現す。
足元を見れば小さな石ころがいくつも転がっていた。蹴ったのだ、石を。
ただそれだけで重量ある金属コンテナが四散し遠い彼方へと飛び散ったのだ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:48:19.64 ID:chmuwkna0<>


番外個体と打ち止めを第2撃が襲う。
足元の地面を抉り取られ、衝撃に2人の体が宙を舞った。


こんな化け物相手に、隙なんて作れるのか。
無理だ。出来っこない。


地面に軽く触れただけで、大量の土砂が押し寄せて来る。
足元のレールを踏めば軋みを上げながら自分達を貫こうと怒濤を上げて突き進んでくる。


逃げ切る事など出来やしない。
ましてや打ち倒す事など到底できない相手だ。


クソ……。
番外個体の唇からつう、と一筋の血が流れた。噛み締めた唇が傷ついた事に彼女は気付いていない。


そっと、番外個体の目線が隣で何とか立ち上がった打ち止めへと移った。
全てから護れ。
一方通行から掛けられた、もう6年も前の言葉が脳内に甦る。


全てとは、何だ。
ロシア軍か、学園都市か?否。
そう尋ねた時、一方通行自身に否定された。
全てだ。全てから打ち止めという彼の最も大切な存在を護りきれ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:49:04.79 ID:chmuwkna0<>


トン、と。
番外個体の右手が、打ち止めの肩を押した。
小さな衝撃に尻もちをついた打ち止めが訳も分からずに番外個体の方を見上げる。


一方通行のクローンを真っ直ぐ見据えた番外個体の顔は窺えなかった。
覗き見ようと地面に手を突きながら立ちあがる。
すると、



「―――――行きな」



番外個体が呟いた。
理解力の範疇を超えた言葉の受け取りを鼓膜が拒否しているのを感じる。



「どうゆう事……?って、ミサカはミサカは尋ねてみたり」



疑問を上げれば番外個体から溜息を吐かれた。
相変わらず身長差の所為で顔は見えないが、馬鹿にしている声音だけが打ち止めに番外個体の状況を伝える。



「『敵』の目的が分からない以上、司令塔『最終信号』を奪われる事が一番厄介なんだよ……分かるでしょ?
 あの人の邪魔になりたくないなら、さっさと何処にでも行ってくんない?」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:49:47.20 ID:chmuwkna0<>


確かに番外個体の言う事は最もだ。
木原数多に誘拐され世界中に散らばった妹達の一斉暴走に利用されそうになったのは、つい先日の事でもある。



「なら……なら、番外個体も一緒に―――――」

「馬鹿じゃないの!!」



否定の言葉は、怒声によって一蹴された。



「アンタみたいな能力もロクに使えないヤツが居たって、戦闘の邪魔にしかならないんだよ!!
 最終信号と一緒に行動する限りミサカだって狙われる!とっととミサカから離れてよ、この疫病神!!」



普段から使われる様なからかいの罵声と同じ内容の筈なのに、かかった重みが全く違った。
疫病神。
自分が居れば、番外個体もずっと狙われ続ける事になる。


打ち止めの足がふらふらと頼りない足取りで進んだ。
吹き飛んだ拍子に居ったダメージの所為か、散乱するコンテナを伝いながらのろのろとその場を離れて行く。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:50:28.43 ID:chmuwkna0<>


途中後ろを振り返ろうとすれば、「さっさと行けよ、ミサカが逃げらんないじゃん!!」と怒鳴られた。
零れ落ちそうになる涙を必死で堪えながら少しでも番外個体から離れられるようにと前へ進む。


ザリ……と自分以外の人間が地面を踏んだ音がした。
酷くゆっくりとした足取りで相手は自分に近づいてくる。
見返らなかった。どうか彼が自分だけを追ってきます様にと考えながら、ひたすら前へと進む。










「もう、満足ですか?と一方通行は尋ねます」

「ふうん、意外とアンタ空気読めるんだ?それともミサカなんかさっさと蹴散らして最終信号を殺しに行けるって?」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:51:00.58 ID:chmuwkna0<>


『ゆっくりと後ろに進めた歩を戻して』、『敵』の前へと立ち塞がった番外個体がニヤリと笑った。
戦闘ヒーローに出て来る雑魚じゃないのにも関わらず、律儀に番外個体が『演技している』間攻撃を待ってくれていたらしい。



「いえ……ただ、学習装置に沿った知識では『敵の覚悟は無下にするな』、と」

「――――― なかなか良いプログラム使ってんだね。……それだけに惜しいよ、同胞同士で殺し合いなんてさ」



番外個体の体からピリピリと紫電が走った。
静電気でふわりと前髪が散らばる。



「逃がさないよ。………最終信号の下へは、行かせる訳にいかないからね」



命を賭けて敵を狩れ。
大切な人の、最も大切な人を命を張って守り通せ。
そうしたら、



(そうしたら。ミサカの事、あなたはいっぱい褒めてくれるかな……?)



番外個体 ≪外れ者≫ の戦いは、いつだって孤独だ。





<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:51:30.15 ID:chmuwkna0<>







番外個体がクローンと戦闘を始めた一方、
調整を受ける研究所内で既に戦闘を始めていた14510号と20000号は攻撃を仕掛けるタイミングを諮っていた。


所内にいる妹達14人での賭け。
これが決まらなければ簡単に全てが陥落する。



≪タイミングを――――皆が一斉に行動を起こさないと意味がない≫



ミサカネットワークを使った情報交換が飛び交う。
≪配置に着きました≫ ≪こちらも≫ ≪いつでもいける≫
14510号と20000号を除いた12名が準備完了の思念を上げる。



≪――――20000号、お前はいけるか?≫



計画発案者として指示を送る14510号が傍らの20000号へと合図を送った。
装備したF2000Rトイソルジャーを装填し20000号が了承を示す。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:52:00.28 ID:chmuwkna0<>


≪――――――3、2、1≫



20000号が次弾を設定した銃器をクローンへと構える。
それを無駄だと知る『敵』は銃器の方向から予想貫通部位を見定め『反射』の演算を開始した。



≪―――――GO!!!≫



20000号の銃の標準が一方通行のクローンから逸れ、すぐ隣の電灯スイッチへと向かった。
気付いたクローンが自分の位置をずらしてそれを阻もうとするが間に合わない。


ドガガガガガガガという乱雑音が轟き、プラスチック製のスイッチがいとも簡単に破壊された。
部屋中の電気が一斉に消える。
辺り一面が暗闇と静寂に包まれた。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:52:55.36 ID:chmuwkna0<>


「無駄です。暗闇を形成したところでベクトルから障害物位置の特定が可能です、と一方通行は通告します。そもそも我々には『反射』が――――」



クローンの言葉が不自然に途切れた。
何か、強烈な違和感が体中を締め付ける。
こめかみの辺りに感じる小さな痛みの発信源を探ると複数の細いワイヤーがあった。これは――――



「………………AIMジャマー?」



何故だ。
AIMジャマーには確かに能力者自身にAIM拡散力場を乱反射させる事で能力を使用出来なくさせる効果がある。
だが自分達にはそれを更に阻害する装置が体内に埋め込まれている。
研究所レベルの設備ではAIMジャマーに必要とされる電力や演算能力が足りない為、自分の装置を上回る出力が出せる筈がない―――――。


そこまで考えた一方通行クローン02号は、ある一つの可能性に思い至った。
装置で制御できる以上の出力の確認。
AIMジャマーの最大効力を発揮する為には不足していた電力。
そして敵の本質、『欠陥電気』。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:53:24.74 ID:chmuwkna0<>


(まさか―――――……)



「―――――― 気付かれましたか」



唐突に掛けられた言葉に、巡っていた思考から02号が意識を声へと集中させる。
小さな物音にもいち早く反応できるようベクトルを操作して物体の位置関係から敵の居場所を割り出そうと演算する。
だが。



「―――――っ!!」



頭が痛い。強烈な痛みが02号を襲う。
演算は出来ない事もないが、今まで能力で全てを補っていた誕生間もない体が初めて体感した痛覚に悲鳴を上げる。


カチャリ、と金属同士が擦れるような音が聞こえた。
マズイと感じて直ぐに演算を開始しようと試みる。しかし――――



「―――――遅いですよ、とミサカ20000号は笑みを浮かべます」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:53:53.24 ID:chmuwkna0<>


告げられた声は殆ど聞こえなかった。
花火が上がった様な甲高い銃声に言葉の半分以上が掻き消されていた。


じわりと太股から広がった血液を視認しながら衝撃に02号の体が倒れ込む。
倒れ込んだ瞬間に肩へと銃口が向けられた。
至近距離からもう一発、銃弾が体へとのめり込む。



「ぐ、あぁああああ!!!!」



悲鳴と言うものを上げたのは全個体でも初めてかもしれない。
何処かぼんやりとし始めた頭がそんなくだらない事を考える。


自分は、負けるのだろうか。
学園都市最強の存在から生まれた、最強に最も近い存在なのだと教え込まれた自分が『負ける』という感覚に02号は良い様のない不安を覚える。
これが恐怖という感情なのだろうか。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:54:35.25 ID:chmuwkna0<>


負けてはいけないと思った。


他の個体が全て科学サイド総本山の学園都市へと送り込まれた中で
下位個体への襲撃のテストタイプとして唯一本部から最も近いこの研究所へと送り込まれた02号は、
その試験行為に自分が選ばれた事に誇りを抱いていた。


誇りを抱く事の出来た自分を、命令だからとただ頷くだけの簡素な他の個体とは違うのだという優越感を感じていた。
負けたくない。そう思う。



「く、そおおおおおおお!!!!!!」



AIMジャマーに超能力を完全に封じ切るだけの効果はない。
これはあくまで能力を阻害しその精度を下げる事で能力者の自滅と躊躇を与える為の物だ。


だからこそ02号は自分の死さえも覚悟して近距離から銃を放ったミサカ20000号に能力を向ける。
『一方通行』という能力には一瞬で敵を抹殺できるレパートリーが山の様にある。


しかし。







「―――――― あの人の顔しときながら、こんな馬鹿げた事で死のうとしてんじゃねえよ。とミサカ14510号はあなたの意志を否定します」




<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:55:29.12 ID:chmuwkna0<>


後ろから声が届いた。
ハッとして暗闇に慣れてきた目を周囲に向けると1、2、……少なくとも10人以上の妹達がグルリと周囲を囲んでいる。



「―――――な、」



驚く前に、02号の体が完全に冷たい床へと倒れ込んだ。
消音機をつけた14510号の銃から細く煙が上がっている。



「悪かったですね、あの状況下でわざわざ武器まで運ばせて」

「いや。―――――ミサカは上条派だし、決着くらいセロリ派につけさせてやるさ」

「しかし彼は大丈夫でしょうか。足と肩から出血しているようですが」

「最後に打ち込んだのは持ってきてもらった麻酔銃だし急所も外れている―――――― 問題ないだろう。
 それよりも、ここに逃げるまでに負った14510号と20000号の傷が心配だ」



集まって来ていた12人の妹達が一斉に14510号と20000号へと視線を向ける。
注目を浴びた2人は02号とは比べ物にならない傷口から、所々血が流れていた。



「ミサカ達も大丈夫だ。調製ついでに数日治療する程度で治るし……――――おい20000号、倒れたクローンに何しようとしてる?」

「だってえ、喘ぎ声の一つでもかまして貰おうと思ったらそんなサービス全然くれなかったしさあ。
 仕方ないから麗しの白い肌(主に下半身)をペロペロしてやろうかと…………」

「(主に下半身)って何だああああ!!!ちょ、ズボンのチャック下げてんじゃねえよ!」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (前篇)<>saga<>2011/01/15(土) 22:56:11.74 ID:chmuwkna0<>


クローンに別の意味で手を掛けようとしていた20000号を出血も気にせず「あの人の弟の貞操はミサカが護るうううう!!!」
と叫びながら抑えつけていた14510号を尻目に、本当に心配なさそうだと判断した周りの妹達がネットワークへクローン撃破の伝令を送る。


何とか20000号を黙らせたらしい14510号が立ちあがると周囲はこちらをジト目で見ていた。
「セロリ派って皆あんななのか?」「マジで?」「きっとセロリから変な性癖うつるんだぜ、アイツ自身ロリコンだし」
と不名誉なコソコソ話があたり一帯で騒がれている。


ゴホン、とそれをわざとらしい咳払いで中断させた14510号は麻酔で眠っている事を知りながら
意識無い一方通行クローン02号へと語りかけた。



「―――――あなたの敗因は絶対的な『経験不足』です。あなたのオリジナルならば、例え大能力者だったとしてもミサカ達に勝ち目はなかった。
 ミサカネットワークという直接的な思考交信形態の警戒を怠ったのがその証拠。
 ………しかしあなたには同じ頃のミサカ達異常に『個』が存在する。いつか我々も分かり合える事でしょう、とミサカは希望を述べます」


「………14510号、20000号に下げられた一方通行クローンのチャックを戻しながら言っても全くキマりません」



こうして、ミサカ14510号と20000号の物語は幕を閉じる。








<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/15(土) 23:05:13.01 ID:chmuwkna0<>と、かなり中途半端ですが本日は此処で終了です。
全文投下するとワープロ枚数で40ページ近く、レス数も同じくらいになるので読みづらいかと思い此処までで断念しました。
よそ様のスレで「1レスに詰め込み過ぎても読みづらい」とのお声があったので1レス当たりを短くしてみたのですが如何でしょう?
短くしすぎた感があるのですが……今回の皆さまの反応次第で次回投下での配分を変えます。


ところで1週間以上停滞してしまい申し訳ありませんでした。
熱で浮かれたテンションで思いついた全く別作品を総合様に書いていたら頂いたコメントでどんどん妄想が広がり、
「あっち先に収集つけないと意識が散漫してYシャツ書けねえ!」という感じになってました。自分のスレを疎かにしてしまい申し訳ないです。
次回分はもう熱もないので明日更新できるようにします。1話分の続きなのですし更新しないと申し分立ちません。


追伸。>>655様、大変申し訳ありませんが多分このまま間に小ネタを挟んだシリアスで終わります。最後はいつもの日常に戻れるといいですね!
最終回に向けて頑張るぞ!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 23:08:23.22 ID:LhpAN8oSo<>乙
不安と不信の20000号、安心と信頼の14510号<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 23:08:48.31 ID:/XhqCIvoo<>乙ですぞ!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 23:12:20.61 ID:wXkAQ+GDO<>うおおおつうううう!
待ってた超待ってた
02号くんペロペロ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 23:22:53.75 ID:UxUfWRvro<>20000の通常運転っぷりに安心した。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 00:07:25.24 ID:QejGlWNJ0<>乙乙ー
番外さんがんばれッ一方さん浮上しろッ

>>688、活字大好きだから全然気にならない。
今まで通りでもいいと思うけど1が納得いく様にしてくれたらいい
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 00:53:32.23 ID:ExJQojFBo<>ちょっと漢字変換がおかしすぎるんだよってミサカはミサカはダミープラグをあなたのあなたにロックオンしながら
あれはあなただったのねって驚愕してみる!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 15:22:15.45 ID:/KiteR09o<>安定の20000号とおもしろさに安心した
文字数はあんまり気にならないなぁ
スマホだし

おつおつ<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/16(日) 22:00:41.18 ID:ZRuYJHxE0<>前後篇にしようとしたら、思いのほか長くなりました。
前回は誤字が酷かったようで申し訳ありません。
あまりチェックの時間が取れず書きあげ→そのまま投下に近い形になっているので御愛嬌とでも思って頂けると幸いです。

あんまり長くなっても読みづらいでしょうし、ワープロ用紙20枚分を超えたので≪中編≫とします。
以下より投下。<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:01:47.50 ID:ZRuYJHxE0<>





まるで紙屑でも丸めるかのように、
あの悪魔の手がそっと触れただけで金属コンテナがグシャグシャに圧縮しこちらに向かって投げつけられる。


打ち止めをこの場から遠ざけた番外個体は一人、『敵』であるクローンと対峙していた。
勝ち目のある戦いでは無い。
同じ大能力者でも天と地ほどの差がある。



(こんな状況で隙なんか見つけられるわけないじゃんっ……!!)



先程ミサカネットワークから伝令された14510号と20000号らによるクローン撃破の情報から鑑みるに
相手には幾ら一方通行のクローンと言えど自動防衛能力までは備わっていないらしい。


隙の一つでも作れれば、反射の意識を別に持っていければ。
しかし、相手の猛攻がそれを許さない。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:02:15.48 ID:ZRuYJHxE0<>


「くっそおおおおおお!!!!」



バヂッと紫電を放ちながら、風船のはじけるような音と共に番外個体から2センチ程の鉄釘が音速を僅かに超えた速さで射出される。
それは狙い通り正確に『敵』の背後に聳えた金属製のコンテナを打ち抜き、その破片が一方通行クローンを襲う。


破片から身を護ろうと反射をそれに裂いた瞬間の第2撃。
新たな鉄釘を構え再び射出を試みた番外個体が目の前の『敵』へ目線を向けると――――――



「―――― へ………?」



一方通行のクローンは何処にもいなかった。
『反射』ではなく脚力のベクトルを操作して回避したとでもいうのか。
自分の背後に危険を感じ、番外個体は鉄釘をいつでも発射出来る状態にしたまま急いで振り向く。
だが。



「脚力操作による回避までは正解です。しかし、我々の『知識』ではその場合全方への警戒が常識とされます、と一方通行は警告します」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:02:43.53 ID:ZRuYJHxE0<>


声が届いたのは、真上からだった。


番外個体がそちらを見遣る前に、肩へと急激な重みが加わる。
足元から地中深くに体全体がのめり込んでいく様な感覚が番外個体の神経を侵す。
そしてその比喩は、強ち間違いではなかった。


軽く押し出す様なレベルでクローンの足が肩に触れただけだった。
だがその瞬間、重力のベクトルでも操作したのか番外個体の体が実際にメリメリと沈んでいったのだ。



「――――っ!」



焦った番外個体は足元で電撃を爆発させ体が完全に沈み切る前になんとか地面から抜け出る。
自分が起こした爆発の瞬間、地中の砂利が大量に足へと突き刺さりジクジクとした痛みを発したがそんな事は気にしていられない。


手中にまだ鉄釘のストックがある事を確認する。
『敵』は余裕だとでも言う様に携帯電話を片手に何処かと連絡をとっている。


チクショウ。チクショウ、チクショウ、チクショウ!!!
まだ自分は殺される訳にはいかないのに。
あの人の大切な宝物が逃げ切るまで、ミサカが足止めしなくちゃいけないのに。
そこまで出来て初めて、あの人に褒めてもらえるのに。



「チクショオオオオオオ!!!!!!」





<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:03:10.03 ID:ZRuYJHxE0<>




打ち止めはひたすら走っていた。
『敵』が番外個体へと目を向けないように、自分が引きつけなくてはいけないのだ。


しかし、一向に『敵』が近づいてくる気配がない。
ミサカネットワークで番外個体の現在状況を探ろうとしたが、例によって番外個体には上位命令文がストレートには通じない。
番外個体がネットワークへの情報漏洩をストップする限り、打ち止めには手を出す事が出来ない。



(一体……どうして追ってこないの?ってミサカはミサカは………)



最後に番外個体と別れた操車場の方へと何となく視線を向けると、瞬間。
ズドオオオン、と大きな爆発音の様な物が聞こえた。
それと同時に自分と同等のチカラの反応。


まさか。



≪上位個体より伝令、上位個体より伝令。学園都市在住の下位個体で襲撃を受けていない個体へ告ぐ。
 絶対座標X-228561、Y-568714地点の現在状況を述べよ。繰り返す―――――≫



まさか。嫌な予感が打ち止めの中で走った。
まさか、番外個体は嘘を吐いたと言うのか。囮にでもなって自分を助けようとしたのか。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:03:40.57 ID:ZRuYJHxE0<>


≪繰り返す、上位個体より伝令―――――≫

≪こちらミサカ19090号。上位個体が提示した絶対座標より大能力者クラスの同等能力を確認しました。
 ………ところで一方通行クローンにも未完成の上位個体がいるのでしょうかとミサカは―――――≫

≪御苦労ショタグリーン、死ね≫



やはり。
番外個体はあんな暴言を吐いて悪人ぶって、自分をあの場から遠ざけたのだ。
自分を護る為に。自分を庇って。



(助けにいかなくちゃ……でも……)



『アンタみたいな能力もロクに使えないヤツが居たって、戦闘の邪魔にしかならないんだよ!!』



自分を遠ざける為の言葉だったとしても、あれが事実なのは変わらない。
強能力者程度のチカラしか持たない打ち止めがただ駆け付けたところで番外個体のお荷物にしかならないだろう。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:04:17.28 ID:ZRuYJHxE0<>


どうしよう、どうしよう―――――。
14510号や20000号といった下位個体は集団戦法と能力妨害装置を用いる事で勝利できた。
しかし、この場にそんなものはない。


今まで自分達を助けてくれたあの人は、10032号の最後の通信から考えるに直ぐに此処まで来る事は不可能だろう。
ヒーローさんもお姉様も同様だ。
どうしよう――――――。



(あれ、10032号―――――?)



確かあの場所は10032号が一方通行と最後の『実験』を行った場所だった。
地理情報は妹達全体でネットワーク共有した為、地の利で言えば一方通行クローンに比べこちらが有利だ。


何か、何かミサカ達だけが知り得る『勝てる要因』を探し出せ。
何か。



『粉塵爆発って言葉ぐれェ、聞いた事あるよなァ?』



それは6年前、薄れゆく意識の中で10032号が耳にした台詞――――――あの人の、言葉。



(粉塵、爆発―――――?)



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:04:52.81 ID:ZRuYJHxE0<>




一方通行クローンの攻撃を紙一重で躱してゆく番外個体も、既に限界に近かった。
8割の攻撃を回避したとしても、残り2割で受けるダメージが大きすぎる。


これだけの怪我を負って、これだけの体力を削っても最終信号と別れてからはまだ10分程度しか経っていないだなんて信じられなかった。
肩から、腕から、腹から、腿から、脚から、一筋一筋流れる血液が肌を伝ってキモチワルイ。



「余所見をしていると早急に決着が着いてしまいますよ……?と一方通行は尋ねます」



背後から聞こえた声に番外個体は再び鉄釘を射出する。
大能力者クラスの電流を込めた渾身の一撃が見事正確にクローンへと襲いかかる。


しかしクローンは難なくそれを反射すると、反射された自身の攻撃に番外個体が怯んでいる間に
脚力のベクトルを操作して彼女のすぐ目の前まで一気に近づいた。
握り締めた拳に加わった強大な能力がアッパーカットとなって番外個体に奮われる。



(あのモヤシと違って……体術の方もそこそこできるワケだ……)



地面を何度かバウンドして倒れ込んだ番外個体は、軋む体を無理矢理起こしながら思考の片隅でそんな下らない事を考えた。
戦闘に集中しなくてはならないのに、先程からずっと一方通行のことばかりが脳裏に浮かぶ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:05:31.65 ID:ZRuYJHxE0<>


ロシアでの初めての対峙。
協力を約束し、初めて感じた他人の体温。握り締めた互いの手。
教えて貰った『暗闇の五月計画』。


自分に襲いかかる砂利などの物体はある程度までこの自動防衛能力で回避できる。
意識しなくても視界に入っていなくても、体表面に物体が触れた瞬間体から発した電気でそれを弾ける。


だが一方通行クローンの直接攻撃だけは、それで回避する事が出来ない。
体から発した電気全てがクローンの体に触れた途端反射される為、自身の技ですら番外個体の『敵』に回るのだ。


そして何よりもう一つ、番外個体が一方通行クローンに勝てない大きな要因がある。



(なんで本当に……アイツと同じ顔してるんだよ……っ!!!)



一方通行もそうだったのだろうか。
ロシアで自分が立ち塞がった時、今まで彼が見てきた少女達と全く同じ顔をした自分を見て。
こんなにも恐怖したのだろうか。心が壊れかけるほどに。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:06:14.78 ID:ZRuYJHxE0<>


番外個体が再び鉄釘を放った。
射出された鉄釘は足元の地面を大きく抉り、クローンのバランスを崩す。


この一瞬の隙に次の一撃を!
だが、番外個体の中でつかの間の躊躇いが生まれる。
あの人と同じ顔をした少年への攻撃。



「――――――あ、」



撃てなかった僅かなタイムロスの間にクローンが体勢を立て直す。
勝てない、こんな相手に。


あの人と同じ遺伝子に殺されるなら、それもまた一興か。
精神回路を極限まで追い詰められた番外個体がそんな風にさえ考え始めたとき。







≪―――――番外個体っ!≫



自分より年上の、自分より小さな同じ顔をした少女の声が頭を過った。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:06:42.71 ID:ZRuYJHxE0<>


≪番外個体っ、聞こえてる!?番外個体っ!!≫

≪―――っ、聞こえてるよ!煩いなあ、今こっちは必死で逃げてるところだって言うのに――――≫

≪ミサカも戦うから!≫



………は?
その言葉で、自分の嘘がバレていると悟った。


しかし言った筈だ。その程度のチカラでウロチョロされても邪魔にしかならないと。
そんな事も理解出来ないほどこのお子様は馬鹿だったのか?



≪ミサカも戦うから!良い事思いついたの!だから協力して!!≫

≪………良い事って何?それ次第≫



最終信号の息を呑む音が聞こえた。
一か八かの危険な賭けだとでも言うのだろうか。



≪―――――粉塵爆発≫

≪粉塵爆発ぅ!?≫



確かにここのコンテナに入っていたのは小麦粉だ。
だがこのコンテナは番外個体やクローンの攻撃に巻き込まれ何個も破壊されている為、既にいつ起こってもおかしくはない状況だ。
番外個体が全力での攻撃を躊躇っているからこそギリギリで引き起こされないと言い換えても良い。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:07:08.42 ID:ZRuYJHxE0<>


≪だから、そこからちょっとずつ離れて。あの人のクローンをコンテナ群に残したまま≫

≪無茶言わないでよ、ミサカが操車場から離れようとすれば追って来るに決まってんじゃん!≫

≪だから、二人で戦うの―――――あなたが操車場を出ようと出入り口の端まで言ったところで、反対側からミサカが現れる。
 ミサカがあの人のクローンの注意をその場で何とか引きつける。だから『敵』が操車場の中心に立ったところで、全力で撃って≫



番外個体の中に躊躇いが生じる。
自分の全力で、否、その際に起こる爆発であの人と同じ顔をした少年が死んでしまわないか。



≪ミサカも、恐いよ―――――?≫



番外個体の心を読んだように打ち止めが言った。



≪ミサカだって恐いよ……『あの人のクローン』を傷つけちゃう事が、すごく怖い。
――――でも、『あの人のクローン』の手でミサカ達が死んじゃった後に、『あの人』が傷ついちゃうことの方が、もっと恐い≫



番外個体の中で、言い知れない感情が漂った。



≪………ねえ、もし『このミサカ』が死んでもさあ。あの人は泣いてくれるかな………?≫

≪――――それもおもしろいとか絶対に言わないでね。………あの人、きっと壊れちゃうから≫



決意は固まった。
最終信号と共に、自分達が外道になる決意。
『あの人』と『あの人のクローン』を天秤にかけて、あの人を選ぶ決意が。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:08:22.34 ID:ZRuYJHxE0<>






「―――――ミサカネットワークでのお話は済みましたか?できれば遺言も、と一方通行は確認をとります」

「ホント、アンタって馬鹿みたいに律儀だね……『戦闘の流儀』とかほざくのは学習装置をプログラミングした奴の趣味?」

「我々の開発者はヨーロッパ系の為そうかもしれません、と一方通行は自身の性格構成に開発者の出身が一役買った可能性に驚愕しながら答えます」



言いながら一方通行クローンが一気に番外個体との距離を詰める。
少しでも遠ざかろうと番外個体が後ろへ後退する前に喰らう鳩尾への強烈な一撃。


ゲホッ……と番外個体が唾液と一緒に吐血した。
肋骨が鈍い音を立てるのを番外個体は感じた。



「確か……オリジナルの戦術にこんなものがありましたね…………」



不穏な台詞を耳にした番外個体がクローンを見る。
すると。



「風の……ベクトル、操作……!?」

「流石にプラズマの形成まではいきませんが、と一方通行はオリジナルとのスペック差を痛感します」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:08:52.54 ID:ZRuYJHxE0<>


轟々とクローンの両手から小さな竜巻が渦巻いている。
あれで貫かれでもしたらとんでもないダメージになる。


いや、それよりも。粉塵爆発の計画が台無しになる。
あれは微細な粉末が空気中に充満していなければ意味をなさない。
この場を漂う小麦粉が彼の風によって吹き飛ばされてしまえばアウト。


万事、休す。



「く、そおおおおお!!!!!」



不意に、風が凪いだ。
肌に感じる風が不規則に揺らぐ。



「――――――?」



目の前の少年も不可解な現象に首を傾げている。
鰻が泳ぐようなぬるぬるとしたその風の動きは、明らかに自然の現象では無かった。



≪上位個体から詳しい状況は聞きませんでしたが、こんな事もあろうかと待機していて良かったですよ。ほんとーに≫



頭の中で自分以外の声が響く。


――――――ミサカネットワーク。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:09:41.45 ID:ZRuYJHxE0<>


≪こちら19090号ー、只今絶対座標X-228561、Y-568714地点をモニタリング中ー。
 はい風力発電プロペラ係の皆さんイイ感じですよ〜〜、風渦巻いてます漂ってますコレなら粉散っちゃいませんねー≫


≪ちょ、ちょっと待って!なんでアンタがこっちの計画知ってんの!?≫


≪絶対座標が『最後の実験場』で粉塵爆発の仕組みについてあれだけ上位個体に確認されちゃ解りますって、流石に。
 こっちでそちらを支援できる人数も限られてるんで、直接の戦闘参加ではなくそっちの計画に加担させてもらう事にしましたー。≫



―――――本当。最っ高の姉妹だよアンタら、ミサカの自慢できるお姉様方だ。


一方通行クローンに詳しい『実験』のデータは入力されていないらしい。
自分の完璧な演算が何に阻害されているのか判断できずに戸惑っている。



≪最終信号!今ならイけるよ!!≫


チャンスは今だけ。
クローンが自身の妨害に思考を張り巡らせている間に番外個体がその場を離れようと駆け出した。
気付いたクローンが僅かに遅れてこちらに向かってくる。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:10:09.45 ID:ZRuYJHxE0<>


「番外個体っ!!」



番外個体が逃げ出そうとした出口の反対側から打ち止めが顔を出した。
相手の注意がこちらに向かう様に、わざと声を上げる。
一瞬そちらを振りむいた番外個体が、しかしそれ以降打ち止めには目もくれず出口に向かって走り出す。


――――― 優先順位は、最終信号の抹殺。
『敵の覚悟は無下にするな』。
先程は番外個体が命を掛けて最終信号を逃がそうとしたために、一方通行クローン03号は学習装置の知識に倣って流儀としてそれを認めた。


だが、勝てないと悟り自分の命が惜しくなったのか番外個体は逃げ出した。
故にもう彼女に義理立てしてやる筋合いはない。
03号は攻撃対象を最終信号へと変更する。


03号は『知識』、謂わば0と1の羅列によって構成された文章としてしかその『流儀』を理解していなかった。
変わる事のないたった一つの信念というものを『経験』から得ていない。


故に03号は気付かない。
番外個体が本気で最終信号を見捨てたのだと、そう視覚だけで判断する。


03号の足が最終信号の方へと向かった。
ベクトルで操作された脚力が一瞬で最終信号との距離を詰める。


そして、その体が操車場の中心を横切った時――――――



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:10:40.04 ID:ZRuYJHxE0<>


甲高い金属音が響いた。
一秒にも短い時間が何年もの長い時間を刻んでいる様に感じる。


番外個体の手を離れた鉄釘が音速に程近い勢いを伴って03号へと射出される。
最大出力2億ボルトの電流を纏った鉄釘はビリビリと紫電を発しながら空気を貫き――――――






直後、あらゆる音が吹き飛ばされた。
小麦粉の粉塵が撒き散らされた半径30メートルもの空間そのものが巨大な爆弾と化し、
まるで空気中に気化したガソリンに火が着くように辺り一面を焼き尽くす。


空気中の酸素を燃料とした粉塵爆発が一瞬で周囲の酸素を奪い急激に気圧を下げた。
反射によって爆発自体のダメージは負わなかったものの、
この場は密閉空間ではなく外である為に真空状態になる事はないが急激な気圧の変化が03号の内蔵をギリギリと絞り上げ、
初めて感じた『苦痛』に彼の体から荒い息が洩れた。


ハア、ハア、……と呼吸を整える間もなく。
彼が先程の現象が『粉塵爆発』だったのだと理解しきる前に。


ドスドスドス!!!
彼の左腕を、肩を、脚を、電撃を纏った鉄釘が貫通する。
感じた事のない痛みが03号の中を駆け巡った。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:11:06.40 ID:ZRuYJHxE0<>


ベクトル変換は『元の向き』と『変換後の向き』を演算しなければならない高度な能力だ。
よって自動防衛能力を持たないクローン達は相手の攻撃を視認しなければ、その設定を行えない。


紅蓮の煉獄の様な炎の海と爆発によって形成された煙幕によって敵の位置さえ把握できない03号には
何処から次の鉄釘が飛んでくるか判断出来なかった。


ドスドスドスドス!!
鈍い音を立てて再び幾つもの鉄釘が体中に貫通する。
相手は何処か別の場所にいる仲間からこちらの位置情報を得ているらしい。


ミサカネットワークにはそのような戦術利用法もあったのかと頭の片隅で考える。
強烈な痛みで吐いた荒い息が、体に酸欠を引き起こした。
これまで能力によって補っていた体のバランスが、限界が来たのかグラリと揺らぐ。


しかし、始末をつけるには絶好のこの機会に、最後の一撃が彼を襲う事はなかった。
今なら『反射』を使う余力も残っていないだろうに。



「――――――――?」



03号の頭には疑問しか浮かばなかったが、そんな事はどうでもいいとなんとか体力を振り絞って立ちあがる。
ヨタヨタと周囲の無事だったコンテナに手を着きながら番外個体へと歩み寄った03号は一応懐に仕舞っていたサバイバルナイフに手を掛ける。


最終信号はまだダメージを負わせていない。
相手は強能力者程度とはいえ、今の自分が戦って勝てるかは怪しいところがある。
だが番外個体は同じ様に限界が来たのか気絶している。
万一目覚めても自分と同じように大きな怪我をしているのだから殺せるかもしれない。


直ぐに手当てをしなければ危うい傷だった。
このまま死ぬなら、せめて一人でも多くの妹達を殺して任務を全うするべきだ。
半ば義務の様な感覚でナイフを振り翳した03号はそのままその切先を、目を閉じて横たわる番外個体へと向けた。


だが―――――。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (中篇)<>saga<>2011/01/16(日) 22:13:48.13 ID:ZRuYJHxE0<>




「折角仔猫チャン達が頑張ったんだし、ムカつく第3位のクローンとは言え助けてあげるべきなんでしょうね」





聞き慣れない声が03号の耳を打った。
そして彼が声の主を見遣る前に輝くビームの様な細い一撃が彼の腹に小さな風穴を開ける。




ドクドクと決して少なくはない血を流しながら完全に沈黙した03号に未だ辛うじて息がある事を確認し、
番外個体も同様に生存確認を施してから麦野沈利は溜息を吐いた。



「折角第1位に借りでもつくってやろうと思ったのに、殆どクローン自身で解決されたかぁ……
 ―――――まあ、最後の最後で止めを刺すのを躊躇っちゃったみたいだけど。2億ボルトの一撃喰らわせてたら勝ってたしねえ」



麦野は懐から携帯を取り出すと此処に向かうよう自分に言った滝壺へと連絡をつける。
彼女の能力でいずれ判るとは思うが一応一方通行クローンの一体が撃破された事を告げると、
結標淡希を通じて暗部の医療班へ彼らをテレポートする様指示を出し通話を切った。



「………さて。――――さっきからそこで覗いてるお嬢ちゃぁん、お姉さんと一緒に来てもらおうかにゃ〜?」







ビクリ、と麦野が03号へ原子崩しを放った辺りから様子を窺っていた打ち止めの肩が跳ねる。
そんな少女を見て麦野の口がニヤリと歪んだ。





<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/16(日) 22:17:40.62 ID:ZRuYJHxE0<>以上です。
こんなに番外個体のターンが長くなる予定ではなかったのですが……戦闘シーンは僕の描写が下手な所為で無駄に長くなります。
中途半端で放置するのも何なんで、続きはできるだけ早く投下できるよう頑張ります。

19090号は原作で一人こっそりダイエットしてた個体です。
ショタグリーンのネタは子煩悩なミサワさんが可愛い『番外個体「小さい一方通行?」』スレ様よりお借りしました。超リスペクトです。

以下返信。
>>694様、その通りです。史上最悪なエヴァパロも十人十色の幸福シリーズも僕の犯行です。そちらも読んで下さったようで嬉しいです。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 22:19:29.86 ID:9Cvc6aOm0<>おつおつ

あの人を思いながら闘う番外個体ェ…
総合の方も楽しませてもらったよー<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/01/16(日) 22:26:10.91 ID:uM0Invuq0<>番外個体マジヒロイン・・・
上位個体なんか初めからいらなかっあbbbbb<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/16(日) 22:27:47.72 ID:LzT/2VBD0<>おつおつ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 23:12:14.94 ID:DzEV2bGv0<>考えてみれば最初からあまり打ち止めってヒロインぽくなかったような
>>1から読み返したらおいしいところは全部番外が持っていってたわwwwwww<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 23:55:50.03 ID:ExJQojFBo<>番外個体のこれは一途ってんじゃなくてもう行動理念だなあ。
一方さんマジ罪作りやで。

十人十色はほんとに面白かった。
誰の思惑が、誰の行動が、その結果がなんてもう無限の可能性よね。
文章って面白いわー。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 00:10:05.31 ID:mTe7j2/AO<>十人十色もエロヴァも>>1だったなんて…
このスレといい霊能力(?)といい上2つといい>>1の書く作品が俺のドツボ過ぎてヤバい
乙ってレベルじゃねーぞ!もうお前無しじゃ生きてけない…!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 01:50:52.02 ID:+4Yjc5Czo<>あの二つお前だったのかよwwwすげーおもしれー!とか思いながら読んでたわ

しかしキャラのつかいかたがうまいな
見習いたいわ

おつおつ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 02:04:03.75 ID:QtHLzHtDO<>霊能力のやつ大好きだわ
続きが気になってしゃーない
弟達とかありそうでなかったネタがつぼにくるよ<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/17(月) 21:32:57.88 ID:o1rSeKJC0<>総合の方もこんなに読んで下さった方がいたとは……面白かったと言われると本当に感無量です。
中途半端もアレなんで早めに蹴りをつけようと連続投下3日目。
前篇、中編の次は後篇です。ちゃんとコレで第十三話は終わります。長かったぜ……

では、以下より投下します。

<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:33:48.31 ID:o1rSeKJC0<>


「御坂、お前は一方通行を連れて下がってろ!!」



上条当麻の奮った拳が空を切った。
上条の攻撃が当たりを付ける前に自身の前に、首にかけるにしてはやけに大きい十字架を掲げるが
それは防御の意味もカウンターの意味もなさずに上条の拳を僅かに掠めただけで終わってしまう。


幻想殺しを宿した右手が魔術師の腹に突き刺さる。
だが魔術師は相当のダメージを喰らっているにも関わらず、ニヤリと気味の悪い笑みを溢した。


上条の背筋に蛇が這う様な妙な感覚が漂う。
強烈な違和感。
これを見逃してしまえば取り返しのつかなくなるような、そんな感覚。


しかし、探りを入れる暇はない。
こちらが敵を一手に引き受けてから美琴が警備員や救急車に連絡を入れたようではあるが
なにぶん、御坂妹や一方通行が倒した彼のクローンは出血が酷過ぎる。


未だ放心状態の一方通行と重症人2人を背負って逃げるなど美琴1人にはとても不可能な話だし、
上条としては一刻も早くコイツを倒して新手が来る前にこの場を離れたい所だ。



「喰らえ――――――っ!!」



ゾワリとした感覚を持ったまま、しかし構わずに再度拳を奮う。
幾人もの敵を薙ぎ払ってきた上条の右手は正確に魔術師の顔面を貫いた



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:34:15.42 ID:o1rSeKJC0<>


――――――かと思われた。



「ぐ、は―――――――?」



右手が相手の顔面を殴る直前に、上条の膝が地を着いた。
痺れる様な強烈な痛みが右肩に突き刺さる。



「なっ―――――!!」



見れば、自分の右肩の肉が僅かに抉れていた。
驚愕しドクンと心臓が鼓動を打った途端ジワリと血液が広がり、慌てて左手で押さえつける。


一体何がどうなっている。
俺の拳が突き刺さる前、一体ヤツは何をした――――?


だが上条が疑問に思考を巡らせる暇はなかった。
先ほど主を庇おうと立塞がったクローンが、ベクトル操作したコンクリート片を上条に向かい蹴り上げる。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:34:45.92 ID:o1rSeKJC0<>


身を捻らせて何とかそれを躱した上条に再び激痛が走る。
何の攻撃も受けていないのに、今度は右腕の関節辺りの肉が小さく削り取られていた。



(一体何なんだよ、この現象は――――っ!!)



恐らくあの魔術師が何らかの魔術で引き起こしている現象なのだという事は理解できる。
だがそれがどのような過程を経てこの現象に至るのか、上条がそれを視認、あるいは考察する前に
超能力による直接的な攻撃がクローンから奮われる。



「とうまっ、それは十字架をシンボルの一つである『人間』に見立てた術式『磔刑の現(イエズス=ナサレス)』だよ!!
とうまの血を吸わせて『とうま本人』に見立てた十字架を磔刑みたいに釘で刺す事で、とうまの同じ場所を傷つけてるんだよ!!」



そうか。最初の十字架はガード材ではなく、俺の拳を十字架で掠めて血液を採る事にあったのか。
つまり。



「要はアニェーゼの『蓮の杖』みてえなモンかよ!!」



そうは言っても、同じ座標攻撃でもアニェーゼ=サンクティスの様な衝撃波とは異なり直接体を甚振るものなので
攻撃事態を幻想殺しで打ち消すことは出来ない。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:35:26.57 ID:o1rSeKJC0<>


(なら、十字架本体の効果を打ち消せば――――っ!!)



魔術師へと距離を詰めようとした上条の体が吹き飛んだ。
真正面の魔術師だけを見据え無防備だった横から繰り出されたドロップキック。
しかし普通の人間ではありえない力で蹴りだされたそのキックは、
上条の体を横へ横へと押し出し終には後ろにあった路地の壁にぶつかるまで勢いを止めなかった。



「マスターに触れさせる事は致しません。
 超電磁砲によるダメージは相当でしたが貴方の相手を出来ないほどではありません、と一方通行は進言します」



上条を吹き飛ばしたクローンが淡々と告げる。
そんなクローンの頭を一撫でしながら魔術師がインデックスへと目を向けた。



「よくやった04号。―――――禁書目録、私の術に関する貴女の見解は確かに正しい。
 ……しかし、だからと言って貴女に何が出来ます?他者の詠唱に割り込みを入れる強制詠唱も私には通用しないでしょう?」



尋ねられたインデックスが悔しそうに唇を噛んだ。
その通りだ。先ほどから何度試しても『強制詠唱』が作動しない。


あの術式における魔術発動部分は、魔術師が十字架に釘を打ちこんでからそれが上条に連動するまでの部分のみだ。
すなわち『十字架に釘を打ち込む行為』は十字架への物理攻撃に過ぎず、
連動して上条の体が破壊されるのを邪魔しようとしても、タイムロスなしに発動する魔術は略式に略式を重ねた強制詠唱でも間に合わない。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:36:14.06 ID:o1rSeKJC0<>


「なら――――、」



インデックスの柔らかな声音が歌を紡いだ。
美しくも荘厳な、そして何処か不気味さを纏ったその歌が暗い路地裏に響き渡る。


『磨滅の声』。
相手の魔術の根幹を支える信仰や教義の矛盾点を徹底的に糾弾する事で相手の精神を一時的に破壊する術。


インデックスの歌は的確に相手を苦しめる。
地面に跨った魔術師に上条がすかさず駆け寄った。
そして、



「――――――だから、無駄だと言っているじゃないですか」



届いたのは、『正気を保ったままの』魔術師の声だった。
その声が上条の耳を打った瞬間、彼の腹の、耳の、指先の肉が小さく抉り取られていく。



「ぐ、ああああああああっ!!!」

「『磨滅の声』まで扱えるとは流石です、禁書目録。普通の人間ならばその歌の波長すら再現できないでしょう。
 ―――――だからこそ、あなたの術には穴がある。普通の人間には作れない波長。ならば、私の耳は普通の人間の波長以外拾わなければいい」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:36:49.30 ID:o1rSeKJC0<>


サイドの髪を掻き上げて、魔術師がチラリと自身の左耳を見せた。
その耳は、取り付けた何らかの装置を覗かせる。



「ははははははは!!!あははははははは!! 主の味わった痛みと同じ痛みを与える事は信徒にとってこれ以上ない苦しみ!
 だが私のこの苦痛も、悲観も!全ては憎き異教徒を廃する為に昇華されるのだ!!あははははは!!!」



一定以上の音波の妨害。
必要な機材を用意すればそれは確かに可能である。
しかし少なからず『魔術師』を名乗る人間が科学に頼った対策をとるだなんて。



(いや……、クローンを作り上げた時点でヤツを『魔術』だけに傾倒した人間と思っちゃいけなかった……)



考えている間にも地面を勢いよく踏みしめたクローンから、
どのようなベクトルを操ったのかメリメリと罅の入ったコンクリートが上条の位置まで新幹線並みの速さで迫ってくる。


コンクリートの滝に飲み込まれる前にと上条がそれを飛び退けると、



(しまった―――――っ、)



迫る地面を囮にしたクローンが、上条のすぐ目の前まで近づいていた。
血液逆流すら可能とする悪魔の右手が彼の顔面へと差し出され、鷲掴みにしようと5本の指が関節を曲げる。


死ぬ。
オリジナルである一方通行の能力発動にかかる時間―――ほぼ0秒を知る上条が自身の死を意識した時、



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:37:16.36 ID:o1rSeKJC0<>


キー――――ン、と耳慣れた甲高い金属音が鳴り響いた。
轟々と呻きを上げて射出されたそれは、音速を遥かに凌駕し目の前の『敵』を打ち落とす。



「―――――確かにさっきはアンタを傷つけちゃった事に動揺した。私がアンタ達を傷つけたくない事も、本当」



カツ、カツ、と品の良いローファーを鳴らして、暗い路地裏を自らが発する紫電で照らしながら茶髪の女がゆっくりと歩いてくる。
学園都市最強の電撃使い、『超電磁砲』の異名を持つ超能力者の序列第3位。
――――――全ての妹達のオリジナル、御坂美琴は怒りをその顔へと顕著に示しながら次の砲弾を構えて宣言する。



「それでも、ソイツに手を出した事は許さない。ソイツは私の獲物よ、―――― これ以上痛い思いをしたくなかったら大人しく地面とキスしてる事ね」



御坂妹と一方通行を託して安全な場所に非難させた筈の美琴が此処に居る事に、上条は驚いた。
疑問はそのまま声へと上がる。



「御坂、どうして……!!いやそれよりも、御坂妹と一方通行はどうしたんだよ!」

「そこの表通りの端で黒子に運んでもらったわ。ついでに一方通行が『倒した』方のクローンも連れて病院まで一直線」



風紀委員の仕事なのか、美琴が御坂妹と最初に遭遇した時には白井黒子と連絡はつかなかった。
しかし機転を利かせ自分の現在位置を探知するGPSのアドレスと留守電を後輩の携帯に残した美琴は、
それを頼りに到着した白井に妹と一方通行、そして彼の弟と偽ったクローンを病院までテレポートさせたのだ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:37:53.27 ID:o1rSeKJC0<>


超能力者に戦闘へ加わられるのは非常に厄介だ。
自分達クローンを傷つけたくないと言った美琴を動揺させるために一方通行クローン04号は、
主の前に立ち塞がり自らの体を盾とする事で美琴の動揺を誘う作戦に出る。
だが。



「オリジナルはとんでもなく優秀なクセに、さっきの攻撃で分からなかった?
 ―――――こっちは腐っても超能力者。『死なない程度に加減する』くらい、心得てるのよ」



躊躇なしに射出された美琴の第2撃は正確に04号の脚を貫いた。
動脈などの太い血管が通っている所は避け、致命傷を躱しながら見事に『動けなくなる位置』へ命中させる。


クローンという最大の壁を失った魔術師は狼狽した。
『磨滅の声』を回避する為に装着された装備は『通常での人間の声の波長』以外の波長一切を遮断する。
それはつまり物音一つ察知できない事を示唆する。
今までクローンが盾となる事で回避できていた視認できない動作――――例えば後ろからの攻撃などを防ぐ手段が殆どなくなる。


形勢逆転の状況に上条が膝に力を加えて立ち上がる。
確認するように右手を握り締めた上条は、
先程の魔術で集中攻撃された右手からジュクジュクと赤い血と半透明のよく判らない体液が流れ出すのを半ば呆然と見つめながら



(まだ……もう1発、イケる……)



握力を込めてもう一度右手を握る。まだ、イケる。
渾身のチカラを込めた1撃で、ヒトの命を弄ぶこの腐れ外道を殴りつける事が出来る。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:38:27.19 ID:o1rSeKJC0<>


「ま、まだだ!!私には『磔刑の現』もある!禁書目録の『磨滅の声』とて、装置を破壊しない事には――――」

「―――― へぇ。よく解んないけど、その装置ってのを壊しちゃえばあのシスターがアンタになんか出来ちゃうわけだ」



既に事は魔術の領分だ。
だからこそ、彼は失念していた。
『自分で装置を用意したわけではない』からこそ、その装置の『欠点』に気づいていなかった。



「私は魔術については何にも知らないけど、そうゆう電子機器ってさ。―――― 私みたいな『電撃使いの領分』なのよね」



妹達を狙うのに、電子機器を『奥の手』とした時点で既に彼に勝ち目はなかったのだ。
理由は簡単。
妹達に手を出されて、黙ってみている姉はいまい―――――


バチバチ!という何かがスパークする様な音がして両耳に装着した装置が爆発した。
衝撃で耳が弾け、鮮やかな鮮血が僅かな肉を伴って飛び散る。



「う、ぐ、ああああああああ!!!!」



思わず魔術師が悲鳴を上げた時、彼は更なる絶望を耳にした。



「ありがと短髪。――――これで心置きなく『磨滅の声』が使えるんだよ」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:39:09.52 ID:o1rSeKJC0<>


王室御用達の名歌手の歌声と世の全ての不協和音を一斉にかき鳴らしたような心地よくも気持ち悪い、良くも悪くも人間離れした唱が心を占拠する。
世界中の人間全てから糾弾されるような感覚が魔術師を襲う。


死にたい。こんな思いを味わい続けるのなら、いっその事死んでしまいたい。
唐突に、人類全員に詫びたい様な気持ちになった。
唐突に、死んで償いたい気分になった。
唐突に、死よりも恐ろしい何かが自分を襲う感覚に陥った。


あゝ、ああ、アア、嗚呼!!
イヤだ。解放されたい。壊れる。何が。心が。気持ちが。支配される。何に。唱に。唱。一体何。
ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい








狂った様に叫び続ける魔術師に上条は右手を向けた。
時折混じる謝罪の声に唇を噛み締める。



「いいか、覚えておけ。
 お前が感じるその苦痛は御坂妹や一方通行や――――お前達が利用したクローンの100分の1も満たしやしねえ。
 その苦しみを絶対に忘れる事無く、死ぬまでアイツらに謝り続けろ」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:39:53.67 ID:o1rSeKJC0<>


魔術師から返事はない。
ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさい
私は悪くない私の所為じゃない計画したのは私じゃない私は違う悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない



今度こそ、上条は拳を握る。
踏み締めた足で重心を置き、その1撃に全てを込める。



「いいぜ。――――お前が自分の罪も何もかも見ねえフリしようってんなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!!」



幻想殺しが男の顔面を貫いた。
後ろに倒れこんだ男は、気絶することで漸く自分を支配する『何か』から解放される。



「現実を見て、自分の罪を全部知れ。―――――償いたいなら、やるべき事は山ほどある」



上条当麻の小さな呟きだけが、夜の街並みに静かに響いた。







<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:40:22.80 ID:o1rSeKJC0<>




「――――はあ!?一方通行と弟がいない!?」



御坂美琴が悲鳴を上げたのは、全てを終え、妹たちの様子を電話で白井に尋ねた時だった。
白井の報告によれば病院で治療を受けた後ちょっと目を離したすきに2人も消えてしまったという。
一方通行クローンの傷は応急処置程度で早々動けるものではなかったし、放心状態にあった一方通行も自ら動き回る様子には見えなかった。


誰かに連れ去られたか、あるいは自ら望んで連れて行かれたか。
ともかく、御坂妹の容体も心配だし病院へ向かおうと上条達が結論付けたところで―――――



「な―――――っ、?」



倒れていた魔術師の一団が、消えた。
一瞬だった。先程の魔術師も、上条が合流する前に美琴と一方通行で撃破した魔術師も全員消えている。



「あくせられーたのクローンもいないんだよ!!」



何処を探しても見当たらないとインデックスが騒ぎ出す。
全員、意識が無かった筈なのに。一体何処へ消えたというのだ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:41:08.37 ID:o1rSeKJC0<>


「なあインデックス、これが何かの魔術って可能性は―――――?」

「それはないと思う。魔術の気配なんてちっとも感じないし………チョーノーリョクって事はないの?」



超能力。
こんな状況を引き起こせるのは白井のような空間移動系能力者くらいだが、果たしてここまで出来る能力者が本当にいるのだろうか。
移動物体に手も触れる事無く、離れた場所から座標を飛ばすことの可能な能力者―――――



「―――――……ムーブポイント」

「へっ―――――?」



美琴の呟きに上条が声を上げる。
何処かで聞いたことがあるような気もするが………ダメだ、思い出せない。



「そうよ、『座標移動』だわ!!『残骸』事件だけじゃ飽き足らずあの女、また何かしようって言うの!?」



『残骸』事件。
『樹形図の設計者』の残骸を巡って、白井黒子が学園都市外部の化学結社と結託した少女と対峙した事件。
確か白井と戦った女の子ってのも、同じ大能力者でも随分と能力値に違いのあるテレポーターだったって話で―――――



「―――――って、あの時の女の子!?でもあの人、大星覇祭のとき一方通行の元同僚とか言ってなかったか?」

「………一方通行のヤツ、一体何考えてるっていうのよ……」







<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:41:42.57 ID:o1rSeKJC0<>







結標淡希が一方通行とそのクローン達、そしてスペイン星教から来たという魔術師達を『回収』したのは
学園都市の暗部で動く彼らがアジトとするビルの一室だった。



「魔術師ってゆうと私達じゃよく解らないし、土御門か海原立会いの下で心理定規に尋問させるよう回しといて」



アジトに戻れば駆け寄ってくる部下の愛しい少年達に愛想良く命令し、結標は自分と一緒に転移した一方通行へと目線を移した。


一方通行の瞳は、生きているものの目ではなかった。
それは大きく見開かれ、ガラス玉のように表情がなかった。
視点が固定され、ただ光を返すだけの剥製のような瞳。


そんな彼の様子に溜息を吐いた結標は、前髪を掻き上げながら面倒臭そうに言葉を漏らす。

「アンタさあ、確かに気持ちは解らないではないわよ?でもそんな事でいちいちウジウジしてんじゃないわよ面倒臭い。
 『敵』側のクローン一体壊しちゃったくらいで一体何落ち込んで―――――――っ!!!?」



突如、結標の体が廃ビルの汚らしい壁へと叩きつけられる。
右手で顔を鷲掴みにされ、中心となる口は覆い塞がれ、男とは思えない白い肌がと寄せられたかと思えば
耳元へと端正な唇が吐息を感じるほどに近づく。


まるでこれから一夜でも共にするかのような空気に結標が硬直する。
頬が僅かに赤らんで、緊張からか快感への期待からか少しでも耳元の呼吸を感じ取ろうと無意識に神経を研ぎ澄ませる。
ねっとりと首筋を舐められて、下腹部が僅かに疼くのを感じた。熱っぽくて荒い息が唇から洩れる。
そして―――――、



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:42:42.02 ID:o1rSeKJC0<>




「解ったようなクチ聞いてンじゃねェぞ、この淫乱。テメエ如きが理解できるようなモンじゃねェンだよ、俺達は」





偽物のようなそれから一転して、獰猛な獣を思わせる光沢。
初めて対峙した時の憐れみを含んだものでも、テンションがハイになると出るキチガイらしいものでもない何処までも冷徹な声音。


叩きつけるような叫びでもなく、泣きわめくような呻きでもなく。
深淵に縁どられた澄んだ声。
酷く純粋で、だからこそ言葉に嘘はないと証明する口ぶり。



「……あ、あ―――――、」



喰われる前の草食動物にでもなったかのような感性が結標を襲う。
緊張して動けない。
甘い空気になどではない、命の危機に瀕した際の単純な恐怖感。


メキリ!!!と音を立てて、押し付けられた壁の、顔のすぐ脇の壁が潰れた。
コンクリート製のそれが、まるでトマトでも押し潰すかのように簡単に崩れパラパラと砂埃を立てる。


成長して結標自身彼と並ぶ超能力者に身を置いたとしても、未だ感じる圧倒的な実力差。
一方通行の手が顔面から離れた事で逆に支えを失くした結標の体が、ズルズルと壁を伝って冷たい床に座り込んだ。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:43:50.98 ID:o1rSeKJC0<>


一度目だけで殺せるほどの殺気を結標に見せた一方通行は、そんな彼女からは既に興味を無くしたのか目線もくれずにその場から立ち去ろうとした。
だがそこで、



「待ちなよ、第一位。滝壺と私からの有難〜いお話がまだなんだけど?」



麦野沈利が一方通行の前へと躍り出た。
ヒールを鳴らしながら彼の前へと歩み寄った麦野は、一方通行の顎へとキスでも誘うように細い指を艶やかに這わせる。



「まず滝壺から1つ良いお知らせ。学園都市外の研究所から能力追跡で探知された第一位のクローンは、
 お気に入りのお人形ちゃん達で処理できたみたいよ。
 アンタと一緒に行動してたっていう妹達もあっちのクローンの方も危うかったけど命に別条はないみたい。……あ、2つになっちゃった!」



絡め取るように自分の顎へ手をかける麦野の指を、一方通行は拒まない。
早く次をと目だけで告げる。



「そんな怖い顔すんなって!!……さて、私からも良いお知らせだ。
 アンタのクローンをやっつけようとして番外個体ちゃんが死線を彷徨いました、ってね!
 ま、愛しの最終信号は無事だったみたいだし。よかったじゃない?ほら良いお知らせ!」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:45:27.47 ID:o1rSeKJC0<>


見開いた一方通行の視線が麦野を射抜く。
殺してやる殺してやる殺してやる……瞳が物語るその声に、常人だったら意識の一つも手放しているかもしれない。
だが麦野は違った。伊達に一つの暗部組織のリーダーを務めてこなかったのだ、これくらい耐性はある。



「私にそんな顔したってしょうがないでしょーが、一方通行。
 そんなに大事なお人形ちゃん達なら、全部手元に置いて外に出さなきゃ良いんだ。
 お部屋の中で囲い込んで適当に撫でてでもしてやれば傷つく事も無い」



麦野の言葉に一方通行が歯噛みする。
牙を剥き出しにして威嚇する姿はさながら野生の動物だ。



「それ以上アイツらを『人形』扱いしてみやがれ……―――ブチ犯すぞ」

「おーおー、いつまでも思春期の抜けきらないお子ちゃまはこれだから嫌だねえ……――――」



一方通行の殺気を余裕の笑みで受け止めた麦野は、彼の顎に掛けた手を引き寄せてキスが出来る距離までに近づける。
そして囁くようにそう語ると唐突に一方通行を突き放し――――――



「だったら!!泣き事ほざく暇あんならさっさと元凶ブチ殺して来いってんだよコッチは!!!!
 どんだけアイツら壊されようが壊そうが、生きてさえすりゃあテメエには後で幾らでも泣いて謝って謝って謝って詫びる事が出来んだろォが!!
 メソメソメソメソしやがってガキみてえな我儘してる間にやる事やりやがれインポ野郎!!!!」





陰鬱な第一位の顔面を、スポーツマンも真青な身体能力をもって勢い良く殴りつけた。





<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:46:33.26 ID:o1rSeKJC0<>


一方通行の顔から鼻血が吹き出る。



「あれまあ。近距離で見つめ合っちゃった美人なお姉さんに目が眩んで鼻血までだしちゃいましたか〜?
 一方通行マジえっろ〜い中二男子〜♪」



殴りつけた拳をプラプラと振りまわしながらアノ第一位を挑発する麦野を見て、浜面仕上は蒼褪めた。
おいおいおいおい、こんな所で超能力者同士の全面対決なんて御免だぞ。
せめて隣の滝壺だけでも護らなければと彼女の方を向いた浜面は、しかし滝壺の予想外の反応に驚嘆した。


滝壺は、酷く切なげな表情をしていた。



「むぎのはね、あくせられーたが羨ましいんだよ。何度だって謝れるあくせられーたが。
 本当は正確に言えばあくせられーたも『本人』には一生謝れないんだけど、ミサカネットワークって巨大な意思から『本人達』の思考を汲み取った
 同じ顔をした別の子があくせられーたを許してくれなくても懺悔を聞いて謝罪の場にいてくれる。
 ―――――フレンダはもう、死んじゃったから」



言われて気付いた。
似ていたのだ、麦野と一方通行は。
キレ方だとか口調の野蛮さだとか単純な部分もだが、もっと根底。
大切な人達を、失ってはいけなかった人達を自らの手で押し潰してしまった過去。



「むぎのは私達にちゃんと謝ってくれた。私もきぬはたも、いいよ。って、言った。
 でもフレンダは――――……幾らフレンダのお墓に謝った所で一つも返事が返ってこないの。」



一方通行から見れば妹達はそれぞれ『個』なのだろうが、
彼女達を『妹達』という括りで見る麦野にとっては、一方通行は自分の一番してはいけなかった行いを償える羨ましい存在なのかもしれない。




「むぎの、言ってたよ。『あの個体の考えはどうでした』って妹達から聞いてるあくせられーたを見て、
 フレンダは私に殺された時どう思ったんだろうね、って」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:47:30.83 ID:o1rSeKJC0<>


熱の冷めたらしい一方通行が袖口で鼻血を拭いながら麦野を見据える。



「――――ケッ」



麦野にある意味励まされた事が恥ずかしいのか何なのか、一方通行は麦野を一瞥しただけでそれ以降なかなか顔を上げようとしなかった。
俯いたままにその場を去ろうとする。



「ああ。待って待って、その前に!第一位サマにはまだ私からの悪ぅいお知らせがあっりまーす」

「―――あァ?」



まだ何かあンのかと言いたげな一方通行など気にも留めずに、
麦野沈利は柱の影へと手を振りながら何かを呼び寄せる様に「ほぉら仔猫チャン出ておいで〜」と声を掛けた。



「さあ!第一位への悪いお知らせ―――――」



手品でも始めるマジシャンの様に大ぶりな動作で一方通行へと一礼した麦野は
なかなか姿を現さない『何か』を柱の影から引っ張り出して仰々しい声で舞台を続ける。



「――――愛しの最終信号チャンのご登場でーす!!」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:48:14.88 ID:o1rSeKJC0<>


麦野が連れてきたのは、少女だった。
何処かの高校の制服を身に纏った、まだ十分に幼いと言える少女。
そしてこの場の誰もが様々な事件で目にした女性達と同じ顔をしている少女。



「………麦野さんに、全部聞いた。
 あなたが今までミサカ達に黙って『こんな所』にずっと居た事も、ミサカ達の為に黙っていてくれた事も、全部」



一方通行は目を見開いたまま応えない。



「どうして言ってくれなかったのなんて、今更言わない。ミサカ達の事を思ってって言うのは理解してる。
 でも、でもね……――――――」



打ち止めがそこで言葉を切った。切れた端から鼻を啜るしゃくりあげた声が届く。



「でもね……、あなた一人で背負わなくても良いじゃない。麦野さんの言う通りだよ、皆生きてるんだよ?
 10032号も14510号も20000号も番外個体もあなたのクローンも確かに怪我はしちゃったけど、生きてるんだよ。
 皆はそんな言葉求めてはいないけど、ゴメンなさいは、いつだって言えるんだよ?」



「一人じゃないじゃない。ヒーローさんもシスターさんもお姉様も此処の人達も、皆、皆あなたを助けてくれたじゃない。
 一人で背負おうとしないで。失う事が恐いなら、ミサカがいつだって証明してあげる」



「ミサカがいつまでもあなたの隣で生き残って、絶対にいなくなったりしないんだって証明してあげる!!」



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:49:01.89 ID:o1rSeKJC0<>


ゆっくりと一方通行に触れた打ち止めが、そっと彼の羽織るシャツに触れた。



「ミサカのYシャツ……ちゃんと着てくれてるんだね……
 ねえ、知ってた?大好きな人のシャツを着るのって『離れていてもいつも一緒にいるからね』って意味なんだよ」



そして、そっと愛しいその人を抱きしめる。





「ミサカは永遠にあなたと一緒にいます、ってミサカはミサカは宣誓してみたり」





一方通行の両腕が、ゆっくりと打ち止めの背中に回った。
壊れ物でも扱うかのようにそのまま静かに力を込める。



「―――――――――あり、が、とォ……」



しゃくり声が混じった。
二重に響く鳴き声が鉄筋とコンクリートに囲まれた部屋いっぱいにBGMとして流れ始める。



<> 第十三話 『部屋と戦闘とミサカ』 (後篇)<>saga<>2011/01/17(月) 21:50:16.11 ID:o1rSeKJC0<>


精神年齢変わらないんじゃないかコイツらなんて思いながらも意地らしい2人を横目で見遣った麦野は
茫然と座り込んだままの結標を揺り起こしながら



「いつまでボケーッとしてんだ座標移動。一方通行クローンのショタ個体でも探さなくていいわけ?」

「あ、そうだった!妹達の上位個体みたく幼く出来てる可能性もあるわけよね!!」



跳び起きた結標に能力の調子を確認すると年上としての意識か、
はたまた元来持ち合わせていたリーダー気質なのか部屋全体へと収集を掛ける。



「ホラ。管轄としてはアンタの責任なんだから、きちんと最後まで指揮取りな第一位」



一方通行が一度眼を閉じ、深く息を吸い込んだ。
スペイン星教からの魔術師。未だ姿を見せない残りのクローン。妹達の安全―――――
学園都市第一位の頭脳をフル稼働し最善の案を構築する。



「――――――科学と魔術の最終決戦の始まりだァ」







物語の、最後の幕が音を立てて上がり始めた―――――――――。







<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/17(月) 21:51:19.38 ID:o1rSeKJC0<>
そして此処でYシャツである。
というわけで本スレも着々と最終回に向かって動き始めています。
最後の最後で決めるのがヒロインなのだ。………いや、むぎのんじゃなくて。

むぎのんの台詞は>>300様に『フレンダがいないのが辛い』とお聞きしたときから温めていたネタでした。
原作でフレンダには既にお墓があるとのことでしたので復活は無理だろうと思い、じゃあむぎのんの指針の一つになればイイさ……と。

エロ?そんなサービス僕には最初からありません)キリッ フラグが立ったショタ個体にあわきんはきっと良い思いしてくれる事でしょう。


>>723様、霊能パロお待たせして申し訳ありません。
次のスレ立ては多分コレになるのでしょうが設定づくりに時間がかかり、プロットが出来てても本文がなかなか進んでません。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 21:54:59.70 ID:VKhd41cX0<>乙です!!
十人十色も貴方の作品だと知って納得。
グロ&バイオレンス描写がくどいという短所も、緻密な構成と、キャラの使い方の巧みさという長所も、似てるなぁと思ってしまいました。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 22:00:49.13 ID:+4Yjc5Czo<>おつおつ

ここでフレンダとか涙腺破壊だわ
話が緻密でおもしろいなぁ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/17(月) 22:04:59.21 ID:kuVz/i+DO<>面白い
霊能力者の続きも待ってるよ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 22:14:16.36 ID:VTT1MPtVo<>>>748
総合でもグロいって言われてたな…
そうでもないと思うんだけどなー
ショッキングって言ったらそうかもしれんが<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 22:21:52.11 ID:yZ97uvbAO<>もし上位個体がオッサンだったらどうするんだ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 22:49:49.35 ID:+4Yjc5Czo<>あわきんに羽が生える<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 23:12:36.71 ID:FkvT21LCo<>間違いなくリングも付いてくるな<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/01/17(月) 23:44:11.35 ID:Dv4bsU7S0<>そのまま天国に座標移動ってか<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 01:31:29.73 ID:XXNS0Gz+o<>上位個体はロリ百合子だろ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 02:08:22.30 ID:rAigUYzSo<>俺もあわきんぺろぺろしたいお<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 07:17:52.91 ID:/B5GF8LWo<>グロ…い…?
怪我とかの表現が生生しいってことかね
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 08:41:32.47 ID:5MWWPuwho<>単に耐性がないだけじゃね
そんなんで原作読めるのかなあ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 10:30:08.08 ID:P/MfmAxm0<>グロがないと思って原作読むやつはいないが、
グロがないと思ってSSを読むやつはいる。
それだけのことでしょ。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 20:18:20.54 ID:12xZ+UfCo<>総合の、両方とも読んでたよ!
美琴に3Pとか言ってたの俺です
そして号数についてはエヴァは0から始まってるからやっぱり美琴が弐号機に該当すると思うんですよとかしつこく食い下がってみる
うん、どうでもいいな!

つか美琴さんマジかっけぇ
美琴さんが防御破壊→インデックスが足止め→上条さんでトドメと3人で成立コンボとかSS上でも珍しい組み合わせにマジ興奮した
バトルシーンでの展開・構成マジ素晴らしくて毎回感動するわ・・・<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/21(金) 22:24:28.68 ID:VMeJFAZxo<>むぎのんカッコいいけど冷静に見るとただの八つ当たりのような……
いやかっこいいけど<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/21(金) 23:19:52.23 ID:JijPszWC0<>
>>761様へ。より元ネタに忠実にしてみました。こうですか?僕にはわかりません><



美琴 「や、やっぱり本家は零号機から始まってるし、私は二号機でいいと思うのよねっ!」

上条 「と、いいますと?」

美琴 「つつつつつまり……2人乗りでも何でもいいから私に乗れって言っt――――」

白井 「それは違いますわお姉様!!」ババーン!!

美琴 「く、黒子!?アンタどっから―――――」

白井 「お姉様が本家本家と仰るなら、わたくしも覚悟を決めましょう。
    本家の通り二号機の初動はセカンドチルドレンとサードチルドレンによる3Pですわ!!」←セカンドチルドレン

浜面 「えー何、呼んだ〜?」←サードチルドレン

上条 「ああ、そういや浜面がサードチルドレンだったな」←ファーストチルドレン

美琴 「………………」

白井 「こんな類人猿を交えるというのは些か気が引けますが……安心なさって下さいな、お姉様。
    二号機をメインで動かすのはセカンドチルドレンたるこの黒子の役目。
    お姉様の挿入口を初めて開くのはわたくしのダミープラグでしてよ。ゆっくり差し入れますから」

美琴 「そ、そんな初めて―――――らめええええええええ!!!!!!」





一方通行 「つーか本家に忠実とか……零号機の俺は三下に乗られるワケなんだろォ?マジ勘弁」

打ち止め 「ならミサカと二人で合体してましょ、ってミサカはミサカは周囲に都知事の影が無いか探りながら誘ってみたり!!」


<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/21(金) 23:20:27.70 ID:JijPszWC0<>
ハイ。上とは全然関係ありませんが、本編始まります。
まさかの上位個体オッサン疑惑に書いてる本人がビックリです。……いや、渋い一方さんもカッコイイと思いますよ?

では以下より投下始まります。

<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:21:51.91 ID:JijPszWC0<>





「――――ええ。ここで学園都市というアレイスターの負の遺産を根絶やしにすれば、最大主教の座は必ずや貴方の手に渡る事でしょう。
 これを成し遂げれば貴方は偉大な功績を得る。………貴方は人類全ての英雄となるのだから」




受話器を電話台へと戻すと、チン、というアンティークな音が小さく鳴った。
典型的な白衣を真っ黒に染め上げた様な奇妙な出で立ちをしたその男が電話台から離れると、
すかさず対照的な髪から服まで真っ白い少年が歩み寄る。



「全個体のマスター設定を私本人へと変更するよう00号へ伝令しろ」

「はい開発主(ドクター)、と一方通行01号は了承します」



踵を翻した男が夕暮れ時の廊下を渡ると、男の体に陽の光が照り長い長い影を射した。
不穏を纏った、長い影だった。





<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:22:28.18 ID:JijPszWC0<>




心理定規が尋問室から顔を出したのは、時に『カウンセリング』と称される尋問が始まって早20分程度の頃だった。
自分と対象の『心の距離』を一体何処まで縮めたのか、
どんな拷問にも口を閉ざし耐えかねない対象が素直にのこのこと心理定規の後ろを着いて回る様を見て、
結標淡希は思わず「うへぇ……」と声を上げてしまった。



「相変わらずこうゆう事には使い勝手の良い能力よね……てゆうか素直な一方通行とかキモチワルイ」

「この子の主人まで距離を近づけたから何でも丁寧に教えてくれたわよ。やっぱり大能力者クラスじゃ精神感応系は反射できなかったみたい」



クローンが『吐いた』情報を提供する為に適当な椅子に座った心理定規が怪我の回復の為に彼にも休む様命令すると、
『尋問』されていた04号は一つこくりと首を振り、指示された通りに医務室へと向かって行った。
その後ろ姿を見届けた心理定規がゆっくりと口を開く。



「まず彼から聞いて得られた情報が2つ。1つは第七学区の妹達が収容されている病院にクローンが数体向かった事」

「そっちは大丈夫。能力で察知した滝壺が人員要請してあるわ」



傍で聞いていた滝壺直属の上司、『アイテム』のリーダー・麦野沈利が口を挟む。
心理定規はそれに頷くと立てていた指を1本増やして続きを語る。



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:23:04.41 ID:JijPszWC0<>


「2つ目は一方通行クローンにもやはり上位個体が存在する事。電撃使いの妹達とは違って能力によるネットワーク構成は出来ないから、
 脳内に埋め込まれたチップに上位個体のみがアクセスして命令を送信出来る様になってるみたい。
 下位個体は上位個体への反逆防止に情報送信権がないから個体同士の脳内情報交換は出来ないようだけど。

―――――あとは魔術師からの情報ね。
あそこでリーダーぶってたのは正確には襲撃班第一陣……一部隊の隊長程度だったらしいわ。
クローン達を本来の実質的なリーダーから数体借り受けてマスター設定を弄っていただけのようね。」



聞いてて私に理解できたのはここまで、とそこで一端話を切った心理定規は自分が出てきた尋問室へと目を移した。
キイ…とドアが開く音に「あとは本業の魔術師さんにでも聞いて頂戴」という彼女の声が被る。



「自分の情報も似たようなものですよ。
 ――― 付け加えるなら、彼らは『モンセラートの聖母マリア使徒団』の影響を強く受けていると言った所でしょうか」



扉から出てきたのはアステカの魔術師、海原光貴だった。
彼の言葉に魔術知識など皆無なので意味が無いかもしれないが、念の為に結標が「ナントカ使徒団って?」と説明を求める。



「『モンセラートの聖母マリア使徒団』――― スペイン・モンセラート修道院にある黒いマリア像を強く信仰する一団です。
 この一団自体は現在残っていませんが、彼らはこの十字教以前の地母神信仰と聖母信仰が一体化した信仰を取り入れているのでしょう」



海原の『講義』はまだ続く。



「あとの特徴はスペイン星教の基本的特徴として、彼の地に奉られる十二使徒最初の殉職者・聖ヤコブに纏わる術者が多いと言った点ですね。
 先程回収した魔術師の中にも『コキーユ・サン・ジャック』を術式に取り入れた術者が――――――」



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:24:24.85 ID:JijPszWC0<>


海原の説明が、途中であるにも拘らず遮られた。
彼の胸ポケットに仕舞われていた携帯電話がブルブルとバイブを震わせながら着信を知らせた為だ。
「失礼、」と場に断りを入れてから海原が受信ボタンを押す。



「はい、こちらエツァリで―――――ハイ、ハイ。………なっ、!?……」



『海原』ではなく『エツァリ』を名乗ったと言う事はアステカの仲間だろうか。
電話を取って未だ数分も経たないが、海原の顔がどんどん青褪めていく様を見ながら結標が考察した。



「はい、了解しました。確認はこちらで取ります。くれぐれも貴女も気を付ける様に。……ハイ、では」



ピ、と音を立てて通話を切ると海原がその場の人間達に目を向けた。
そして確認するように辺りを見渡す。



「土御門さんは、現在どちらに?」

「……つちみかどなら地雷式の術式が施されてないか念の為調べに行くって、あくせられーた達が戦った現場に向かったよ?」



滝壺の返答に眉を顰めた海原は、一度仕舞った携帯を再び取り出すと件の土御門へと連絡をつける。
すると「俺だ、」とコール数発で応答した相手に「そちらは変わりますからイギリス清教に確認を取って下さい」とオーダーを出す。





「――――――スペイン星教へ潜伏したショチトルから入電です。………イギリス清教の一部と彼らが手を組んだ可能性が高い、と」






<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:25:39.80 ID:JijPszWC0<>





「一度の戦闘経験を全個体が『共有』できる……脅威ですね、ミサカネットワークは。と一方通行08号は考察します」

「だからこそ我々は同法たる妹達を排除しなければならないのでしょう?と一方通行09号は07号へ確認を取ります」

「ええ。アレイスター・クロウリーの負の遺産たる学園都市抹消に命を懸けて貢献する事――――それが我々の使命であり生まれた意味です、
 と一方通行07号は肯定します」



個体間のスペック差では明らかにこちらが有利だった。
だが、既に2体もの個体が妹達に敗北した。
2体の敗北には共通する要因が1つある。ミサカネットワークによる集団戦法だ。


6年開いた製造年。そして10031回に渡るオリジナル――― 一方通行との戦闘を体験した妹達は『経験』の面で彼らを翻弄する。
ならば。


ミサカネットワークへの対抗策として一方通行クローンらは自分達も集団戦法を取ることとした。
映像・音声・経験・思考……あらゆる物を脳内で直接送受信できる彼女達には流石にコンビネーションでは劣るが、
それでも各個体での戦闘なら確実に勝てる。


圧倒的な力によってミサカネットワークにアクセスする余裕を与えなければ、絶対に勝てる。


集団による実験的襲撃の先遣隊として派遣された一方通行クローン07号〜09号の3体は、
学園都市で妹達が調整を受ける第7学区の総合病院を訪れていた。


05号は敗北こそしたものの、妹達10032号に致命的な負傷を負わせた。
彼女の治療および治療期間の護衛に学園都市に在住する他の妹達は此処に集まっている筈だ。


妹達が普段収容されているという特別室への扉を、3体は顔を見合わせ互いが頷いてからゆっくりと開ける。
能力がいつでも使えるよう、扉の向こうの正面だけをしっかりと見据えた。



視認さえ出来れば反射は直ぐにでも発動できる。
例え開けた瞬間鉛玉が飛んできたって、体表面に触れた瞬間にその弾を硝煙ごと跳ね返して撃った相手を貫ける。



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:26:25.41 ID:JijPszWC0<>


だが。
飛んできたのは鉛玉でもなければ、扉の向こうにいるのは妹達でもなかった。


ヒュン、と風を切るように自分に向かって進んできたその『何か』を07号は確かに見た。
到達速度も接触座標も一分の狂いもなく反射の演算を実行した。
しかし、



「――――――っ、!?」



07号の肩を、『何か』が貫いた。
反射が適用されていない。貫かれた右肩からドクドクと血液が流れ、痛みが遅れてやってくる。


隣の08号と09号を見遣れば、同じように腹や足を複数貫かれていた。
驚愕に揺らいだ心を落ち着かせながら思考を半ば無理矢理目の前の『誰か』へと集中させる。



「ムカつく第一位と同じ顔が痛みと恐怖に歪んでく様っつーのはケッコー滾るかと思ったんだが………大して面白くもねえモンだな」



自分達を撃った、『誰か』。
学園都市第一位を誇るオリジナルの演算パターンを完全に再現した反射を、いとも容易く打ち破った人間。
長身、茶髪でホストかヤクザに見紛う風貌。




「―――――――垣根、帝督ッ……!!?」




<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:27:38.86 ID:JijPszWC0<>


「おーおー知ってて貰えたか。でもよお。テメエらみてえな乱造品に呼び捨てされるほど、俺は低く見られてんのか?あア?
 そうゆう糞ムカつく所ばっか再現率高えワケだ、オマエら。やっぱ興奮しなくても痛めつけるコト決定」



能力追跡によってクローン達の動向を察知した滝壺理后の『手配』を受けた垣根帝督は、
妹達が居住地とし10032号が治療を施されている第7学区の総合病院へと連れて行かれた。


見知ったカエル顔に事情を説明しながら、此処は戦場になるからと患者と医療関係者の避難を要求する。



『本当にキミ達はこの病院にどれほどの患者がいるか理解しているのかね?……そんな無茶を言うのはキミで2人目だよ』



『1人目』というのが目の上のタンコブたる第一位である事を知っていた垣根帝督は
冥土帰しからそう揶揄された事に腸を煮え繰り返しながら、妹達に代わってこの特別室でクローン達を待ち構えていた。


キイ…と音を立てて静かに扉が開かれていく。
その光景にニヤリと歪みきった笑みを浮かべた垣根は、湧き上がる興奮を抑えながら『一方通行』という能力に合わせた演算を開始する。


天使を思わせる6枚の翼がキラキラと発光しながら垣根の背に現れた。
『未元物質』で構成されたこの翼は飛行、防御、烈風、打撃、攻撃の全てを担う。
その『全て』の中には『反射の貫通』も含まれる。


垣根帝督は自身の能力が一方通行に劣っているとは思っていない。
第一位が第一位たるその所以は一方通行の人間離れした演算能力、応用力、状況把握能力、適応力といった
臨機応変に反応を示す本人自体のスペックにあると考えている。


生まれついての才能も大きい。だが、そのチカラの大凡を構成するのは『超能力者』という境遇の中で彼が得てきた『経験』だ。





故に、例え相手が『第一位の劣化模造品』と言えど、垣根帝督が敗北する理由は何処にもないのだ。






<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:28:19.35 ID:JijPszWC0<>




「―――― 一方通行のヤツ、何考えてんのよ……?」



一方通行と彼のクローンが行方不明との報を後輩である白井黒子から聞きつけた御坂美琴とその一行――――上条当麻とインデックスは、
共に運ばれた御坂妹の容態を確認するためにも、取り敢えず彼らが消えたという第7学区の総合病院へと向かう事にした。


電話口では白井がテレポートで迎えに行こうかと申し出ていたが、
病院に着けば迂闊にクローンについては話せなくなるのでそれを丁寧に断り歩いて出向く事にする。



「何にも状況理解できないままバトルになっちゃったケドさ……一体誰が作ったんだ、一方通行のクローンなんて?」

「私だって解らないわよ。妹と合流した時には、もうあの子は追われてたから」



クローンの話題は分野外だろうと敢えて美琴に尋ねた上条にインデックスの鋭い視線が突き刺さる。
「だってお前は学園都市とか科学的な事には疎いだろ」と素直に言えば、
しかし予想に反してフフンと鼻を鳴らしたインデックスがチチチと指を振りながら小馬鹿にした様に話に割り込んできた。



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:29:03.42 ID:JijPszWC0<>


「分かってないね、とうまは。あくせられーたのクローンといたのは魔術師だよ?霊装を見れば何処の宗派かくらい私には判別出来るんだよ」

「でも魔術師がそんな科学的な事できるとは思えねえじゃん。もしかしたら学園都市の人間と組んでてそいつが……」

「アンタ本当に馬鹿ね。さっきの奴ら『魔術師』だろうと何だろうと、そいつらの所属が解れば協力関係にある組織も割り出し易いでしょうが」



片や10万3000冊分の魔道書の知識を有し絶対記憶能力を持つトンデモ修道女、
片や学園都市が誇る最強の電撃使いにして序列第三位の超能力者に両方から責められ心折れそうにな上条を、
構っている暇はないとばかりに普段は彼を取り合って争う女2人が互いの魔術知識と科学知識を総動員させながら考察を進めていく。



「あの魔術師達が持つ霊装の中に『コキーユ・サン・ジャック』があったんだよ。
 『聖ヤコブの貝』って呼ばれるサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼で巡礼者の証として使われるホタテ貝なんだけど、
 あれを霊装に転用するって事はよっぽどの執着か信仰心があるんだと思う」


「『聖ヤコブ』って確か新約聖書に登場する使徒の一人よね?」


「そう。『ゼベダイの子ヤコブ』はイベリア半島でのレコンキスタの最中に、異教勢力と闘う十字教勢力を守護するシンボルとして崇められた
 ――――――スペインの守護聖人だよ」



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:30:11.54 ID:JijPszWC0<>


インデックスと美琴はあの魔術師達を『スペイン星教』の所属だろうと推察した。
クローン製造には大掛かりな設備が必要だろうという美琴の意見と、スペイン星教の慣例が満たせる方角を提示するインデックスの発言から
既に敵アジトの規模と大まかな候補地まで割り出され始めている光景を見て、上条は自分には到底入り込めない世界だと遠い目をした。



「あーあ。やっぱ天才っつーのは頭の出来から何から色々と違うもんだなあ……
 レベル5の超能力者とか凄腕の魔術師とか、周りの格が違いすぎて上条さんはいつも置いてきぼりですよ」

「超能力者は解りませんが、魔術師はそうでもないですよ?魔術は元々『才能ない者がそれを補う為に求めるチカラ』ですから」

「そうゆうもんですかねえ……――――――ってうお!?」



あまりにも自然に会話が続いたものだから違和感なかったが
独り言に返事が返ってくるなんて、実は上条が多重人格者で一人二役を心中のみならず
現実でも熟していましたなんて設定が付随されない限りアリエナイ。


≪――――― 声の主を見れば、顔のない女が唯一持っていたギラつく唇を裂けるほど引き攣らせて笑っていた。≫


上条の脳裏に先日見たホラー番組の一説が過る。
え、まさか。だってそんな雰囲気じゃなかったもの、シリアスムードだったもの。
しかし自分の不幸体質を振り返れば、ここで何が現れてもおかしくはない気もする。


え。まさか、本当に。
声が届いた方角へギギギとブリキのように首を回しながら、上条は恐々と自身の後ろを振り返った。


すると―――――、



「なんだかたくさん汗を掻かれている様ですがおしぼり要りますk――――」

「で、出たあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」





<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:31:04.32 ID:JijPszWC0<>


「―――――ゴメン五和。急に叫んだりして」

「い、いえ気にしてませんので………それに変な所に立っていた私も悪かったんですし」



後ろから来た声の主は幽霊でもなければ化け物でもなく、イギリス清教内天草式十字凄教に所属する五和だった。
声を掛ける前まで走っていた所為で乱れた髪を直しながら、夜の街で静かに輝く街灯の下でイイ感じの影を射した彼女は
よくよく思い出せば自分が叫ぶ前におしぼり云々言ってた気もするなあ、と上条は思い出す。



「てゆうかこのヒト誰なのよ」

「ああ、こいつはイギリスの知り合いで五和っていう―――――」



隣でインデックスと議論を繰り広げていた美琴が、急に輪に混ざってきた五和を上から下までジロリと見渡しながら上条に尋ねる。
なんで御坂さんはそんなにピリピリ(電気的な意味も含めて)してらっしゃるんでせうか……?
と思いながら彼女を紹介し始めたところで上条はハタと気付いた。



「つーか五和、こんなところで何してんだよ?てゆうかどうやって学園都市に入ってきたワケ?」

「天草式は日本国内に限定するなら特殊なポイント『渦』を使って割と自由に移動できるんです。
 学園都市も政治的には日本国と隔離されていますが、地理的には伊能忠敬時代における術式成立時の日本領域に含まれますから」



そういえば『法の書』の事件でオルソラやアニェーゼに初めて会った時に、インデックスがそんな事を言っていた。
確かその『渦』と『渦』の間を行き来する『地図の魔術』だとか……



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:31:58.00 ID:JijPszWC0<>


インデックス、俺ちゃんと覚えてたぜっ!
そう自慢しようとした上条が彼女の方を向くと―――――インデックスが目を見開いたまま固まっていた。



「……インデ、ックス?どうしたんだよ?」



上条の声にも一向に反応しない。
気分でも悪くなったのだろうかと上条が熱を測る為に彼女の額へと腕を伸ばそうとすると――――――



「―――――んだよ」

「………へ?」

「ありえないんだよ!!今まで学園都市は特殊な防御結界が張られていた!だから天草式の移動術式が通用する訳ないんだよ!!」



インデックスが声を張り上げる。
上条には、そして何の魔術知識も持たない美琴にも詳しい事情は分からなかったが、
とにかく五和が本人の言う通りの方法で此処に来られる筈はないと10万3000冊が判断した事は理解できた。



「………確かに。日本国内に設けられていると言っても、私達天草式は学園都市へ術式で立ち入る事は出来ませんでした。
 しかし、それも数日前までの話です。――――正確には、数日前まで『入れないと勘違いしていた』、でしょうか」



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:32:43.15 ID:JijPszWC0<>


「学園都市には今まで、魔術というには法則が僅かに異なる非常に特殊な結界が張られていました。
 私達もそれに押し出される形でこれまでは術式での移動を阻まれていました。しかし―――――――」



インデックスの疑問の声に、五和が口を開く。



「しかし数日前『結界が作用していたのは6年前までであり、現在の結界は良く偽造されたフェイクである』との情報を受けたんです。
 実際に確かめてみると今までの結界ととても良く似ていましたが、私達の術はきちんと作動しました」



このように学園都市に入って来られたのがその証拠です、と証明と言わんばかりに五和が自分の胸に手を当てながら答えた。
インデックスは暫し眉を顰めていたが―――――――



「どうやら学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーが死亡した後、彼の術式を極限まで再現する形で誰かが結界を張り直したのでしょうね。
 私達の様な先に土地に馴染んでいた術式でなければ通用しない程に良く似せた、強い結界でした」



続く五和の言葉に納得したように首を縦に振った。
いつ結界が贋物に摩り替ったのか、それだけが不思議でならなかったらしい。
だが学園都市在住の上条と美琴は逆に疑問が増えるばかりだった。それも、思わず大声を上げてしまうほどの。



「統括理事長が死んだってどうゆう事よ、聞いてないわよそんな話!!」

「お、俺もニュースとかで一度もそんな話題見た事無いっ!!」



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:33:23.37 ID:JijPszWC0<>


学園都市を長く治めてきた統括理事長が死去したとなればニュースで大きく取り上げられる筈だ。
上条一人なら気付かなかったのではないかと言えなくもないが、超能力者の美琴まで覚えがないと言うのはオカシイ。



「こちらが受けた情報によれば、アレイスター・クロウリーは6年前に死亡しており現在は残った統括理事会とその補佐官達が
 『統括理事長は生きている』ように演じながら学園都市を纏め上げていたようです。
 まあ私達が来日した理由にはこの情報の事実確認も含まれていますから、まだ何とも言えないのですが―――――」


「ちょっと待て、『含まれてる』って何だよ?お前達天草式は、一体何の為に学園都市に来たっていうんだ?」



上条の顔が僅かに蒼褪めた。
ショッキングな話が既に連発しているというのに、まだ悪いお知らせがあるって言うのか。
そして五和は、上条の顔をしっかりと見ながら至極真面目な顔で語った。





「―――――学園都市が不当に造った人体兵器、『量産能力者』の捕縛ですよ」





<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:34:08.47 ID:JijPszWC0<>



「―――――量産、能力者……!?」

「はい。何でも現在学園都市では各所で量産能力者が暴走しているようでして。
 今は学園都市内に収まっているからいいのですが、これが世界に広まる前に魔術サイドで捕縛して科学サイドとの均衡を保とうという訳なんです」



五和の表情に、嘘偽りは混ざっていなかった。
だからこそ、上条達を余計に混乱させる。



「………御坂妹達は………アイツらは、暴走なんてしていない!!
 仮にするとしたって悪いのはアイツらじゃない、アイツらを利用して悪さを企む奴じゃねえか!なのに、どうして……っ!!」

「みさか、妹……ですか……?」

「誤魔化さないでよ!アンタ達の言ってる『量産能力者』……この私の、――――学園都市第三位『超電磁砲』のクローン『妹達』の事よ!!」



懐からゲームセンターのコインを取り出した美琴が唇を噛み締めながらそれを構えた。
五和に見せつける様に攻撃準備に入るものの、興奮と涙で指が震えて上手く標準が定まらない。



「あの子達は、やっと普通の生活が出来る様になってきたのよ……っ!それを土足で踏み躙るっていうなら、私は殺してでもアンタ達を止める!」



仮にも学園都市で最高位を謳う『超能力者』の脅しに、だが当の五和は素で首を傾げながら心底驚愕したように目を白黒させた。
「学園都市は、第三位のクローンまで製造していたんですか……!?」という彼女の声を聞いた上条の体を、冷たい何かが蛇の様に這いあがる。



「私達に捕縛命令が下っているのは、学園都市が製造したという『第一位のクローン体』ですが……?」

「――――――何だって!?」



嫌な予感と言う物は、感じた時には既に運命が決している。






<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:35:38.69 ID:JijPszWC0<>





同時刻。
海原光貴と入れ替わる様に座標移動で戻った土御門元春はイギリス清教との事実確認に追われていた。


学園都市暗部とスペイン星教との問題にイギリス清教までもが介入する。
このまま抗争拡大が続けば科学と魔術の大規模対立、牽いては第四次世界大戦の引き金になりかねない。



「――――ステイル、『スペイン星教の応援要請をイギリス清教が受けた』と言うのは……」

『ああ。本当だよ、残念ながらね』



確認と言っても土御門には最大主教を問い質すだけの権威が無い。
精々が同じ『必要悪の教会』に所属する魔術師に詳しい話しを聞くことしかできない。
彼の情報収集に応答したステイル=マグヌスは、愛しのインデックスが暮らす学園都市で魔術的な諍いが起きた事を忌々しく思いながら



『―――ただし、「イギリス清教が応じた」というのには少しばかり語弊がある。
 受けたのはあの女狐を出し抜いて頂点に成り上がろうとした一部の馬鹿な上層部、最大主教は関与していない』

「誰が応じようと関係ない!!現状は!?一体イギリス清教の何処までが動いているんだ!!」



ステイルは電話越しから聞こえる土御門の怒鳴り声に小さく溜息を吐いた。
当たられる様に大声を出された所で、どうしようも出来ない事に辟易しているのはこちらも同じだというのに。



『学園都市の出入りゲートは能力者がガードしているだろう?
 魔術側だって大事にしてこちらから仕掛けたなんて思われたくはないから、正面からは侵入できない。

 イギリス清教に応援要請が来たのはただ一つ……――――ゲートを使わずに侵入できる天草式がいたからさ。
 ま、聖人を無暗に動かすのは国交問題になりかねないといって神裂には知らされていないようだけど』



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:36:32.07 ID:JijPszWC0<>


「………それで?一体スペイン星教は天草式に何をするよう伝えたっていうんだ?」



ステイルからの返答を聞きみるみる内に顔を強張らせた土御門は、



「―――――クソっ、やられた!!スペイン星教の奴ら、一方通行クローンの製造を学園都市に擦り付けやがった!!」



強く壁を叩いた彼に、周囲の皆が反応を示す。





「………現状を報告しなさいよ、土御門元春。アンタだけが理解していたって私達は動けないわ」



だいたい予想は着くけど、と付け加えながら言われた麦野の言葉に土御門も大分冷静になったらしい。
もう一度壁を大きく殴って気分を落ち着かせてから2、3度深呼吸して荒く鳴った息を整える



「―――――完全体としての人間1人のクローニングなんて、普通なら学園都市でもなければ出来やしない。
 学園都市より20年は技術進歩が遅れてる『外』の中でも、ただでさえ科学に疎い魔術師達はそう思うだろう。」



魔術師でなくても量産能力者なんて一品はイコール学園都市製と思われて然るべきものだ。
なにせ学園都市の暗部を知り尽くした此処にいるメンバーですら、誰一人として魔術サイドがクローンを用意するなど考えもしなかったのだから。



<> 第十四話 『部屋と疑惑とミサカ』<>saga<>2011/01/21(金) 23:37:48.95 ID:JijPszWC0<>


「これまでの奴らの計画は俺達が阻止してきた。……阻止してきたつもりでいた。
 だが奴らは『妹達という学園都市に隠蔽された兵器を自分達が排除した』という実行支配が出来なくても、
 学園都市さえ機能しなくなれば目的が果たせたんだ」



先程土御門がステイルから得た解答は五和が話したものと同じ、『第一位のクローンの捕縛』というものだ。
すなわち、そこから推測できるのは――――――



「学園都市内で現在暴走しているクローンが世界中を侵食するという噂が魔術サイド内で立ち始めているらしい。
 奴らは自分達の用意したクローンを『学園都市製』と偽る事で学園都市が世界を支配しようとしていると魔術サイドに刷り込みやがった」



これに反応しない宗教組織はないだろう。
今はまだ噂程度だからまだマシだが、もし本当に一方通行クローンが暴れ出してそれを魔術サイドの人間が取り押さえたら。
その光景を科学サイドから魔術サイドへの挑戦状としての証拠とされたら。





「奴らの目的は『スペイン星教による学園都市の侵略』なんてチンケなものじゃない。
 ――――――『学園都市の社会的な抹消』。奴ら、クローンを二重にも三重にも利用してきやがったんだ!」






奔走する学園都市に、新たな試練が立ち塞がった。






<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/21(金) 23:39:13.93 ID:JijPszWC0<>本日分の投下は以上になります。
いかんせん僕に語彙が足りない所為か「苦戦している雰囲気」「戦闘状況を分かりやすくする」という事を意識すると生々しくなってしまいます。
今回はバイオレンスな表現を加減してみようかと、ていとくんのシーンでの負傷描写を少し押さえてみたのですが……如何でしょうか?

最近書く時間がなかなか確保できません。その割にこんな話書きたいなーという妄想ばかり広がっています。
美琴嬢と一方さんの百合っぽい話とか書きたい。超書きたい。プロットばかりが溜まっていく日々です。

>>762様、半分やつあたり、半分「お前はまだ間に合うんだから諦めてんじゃねえよ」という渇のつもりです。描写が足りず解り辛かったですね。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2011/01/21(金) 23:42:13.11 ID:ukqk1GpM0<>乙
今回はそこまでグロく感じなかったよ
美琴と一通の百合話wktk<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/21(金) 23:50:15.83 ID:V7ncGIw+0<>よくありそうな策だよな<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/22(土) 00:03:19.35 ID:Ea7ELFlU0<>乙です
よくありそうということはそれだけ効果的で使われているということなんじゃね?<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/22(土) 02:12:47.39 ID:3GZUdB1to<>百合っぽい……って、えっここの一方さんって百合子だったの?<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/22(土) 02:20:02.26 ID:ij3fgAvqo<>乙乙
エヴァパロの話を引き摺れば引き摺るほど状況が悪くなるようなので美琴の処女はダミープラグに奪われる前に俺が奪っておこう・・・<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/22(土) 02:28:06.36 ID:7GlAh4ESo<>悪いな、既に俺がいただいてるんだわ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 00:41:16.55 ID:zveSy4DAO<>>>789 の正体は 黒子か上条さん<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 00:42:16.14 ID:8Tp5qiSwo<>口調からすると後者だな<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/24(月) 22:19:24.16 ID:ptzVABBF0<>頭が回らないので皆様があっと驚くような複雑な策は練れないのです。
「ありがちだな……フッ、だがまあ読んでやろう」くらいの感覚でいて下さると有難いです。

では以下より本編になります。<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:20:26.62 ID:ptzVABBF0<>


ハァ…、ハァ…
唇から零れる呼吸すら勘付かれる要因になるのではないかと錯覚した。


学園都市在住の妹達を襲撃する為に向かった第7学区の病院で
逆に垣根帝督の攻撃を受けた一方通行07号は、致命的な負傷を負いながらも何とか戦場から這い出て来た。


同行していた08号と09号を置いて来てしまった。だが、仕方のない事だと思う。
オリジナルである一方通行や御坂美琴と異なり、同じ超能力者でも彼は自分達を殺す事を躊躇う理由がない。
寧ろ第一位の姿形をそのまま受け継いだ自分達を甚振る事を楽しんでいる様な発言も見受けられた。


逃げなくては。逃げて、今の自分に出来得る限りの任務を全うせねば。
妹達を、殺さなくては。


一方通行07号は暗い路地裏をひたすら歩き続ける。
引き摺った足が歩を進める度に1滴、2滴と血を垂らしたが関係ない。


最低限の応急措置しか施されていない体が、出血の為かそれによる寒さの為かガクガクと小さく震えた。
薄れゆく意識を理性で引き留めながら考察する。集中しないこの思考力で演算能力にはもう頼れない。


ベルトに押し込んだ拳銃を手で触って確認した。よし、ある。
出撃前に整備はしたが、不安定な心境がこの銃は使い物になるのかと訴えかけた。
急な不安に襲われた07号が思わず拳銃を引き抜き、グリップを握った所で―――――――――



「いたぞ、例のクローンだ!!」

「短銃の所持を確認、情報通り暴走の可能性が考えられます!!」



(え………?)

07号の思考が、混乱から静かに揺らいだ。







<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:20:59.36 ID:ptzVABBF0<>





学園都市に在住する御坂妹こと10032号以下10人の妹達は、負傷した10032号を連れ病院者によって運ばれていた。
垣根帝督が居住する病院を戦場として用いる際に、患者および妹達の移動を冥土帰しに要求した為である。


彼女達の襲撃を狙っていた一方通行クローンは垣根が引き受けたものの、彼女達自身未だいつ狙われるか分からぬ身。
事あるごとに病院の防衛装備として『実験』から使ってきた対戦車用ライフルとトイソルジャーを構え、
妹達は周囲を警戒しようと窓からそっと外を覗きこんだ。



「―――――おや?」

「どうしました13577号?とミサカ10039号は尋ねます」

「いや……あそこで追われてるのもしかして一方通行のクローンじゃね?とミサカ13577号は窓から少年を指差します。ホレホレ」

「あ、ホントだ。ありゃウワサの一方通行クローンだー懐かしいもん年齢が、とミサカ19090号も同意します。うわー」



最初に声を上げた13577号が指差す少年を尋ねた10039号が同じ様に窓から窺うと、それは確かに一方通行クローンだった。
だが。



「あの追ってんのって、10032号が見た『マジュツシ』じゃねえの?
 持ってる武器とか学園都市じゃありえない位アンティークな一品だぜ?とミサカ10039号は議題を提示します」



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:21:29.81 ID:ptzVABBF0<>


クローンを追う集団は槍やら斧やら、学園都市では普通選ばない品を武器として装備していた。
そしてそれは、現在意識を失っている10032号を襲った『マジュツシ』の特徴に酷似していた。



「つーか、一方通行のクローンって『マジュツシ』の仲間じゃねえの?なんでソイツらに追われてるワケ?とミサカ10039号は疑問を感じます」

「@仲間割れ、A何らかの罠、Bミサカ達に恋して助けようと裏切りを図り―――――」

「黙れセロリ派」

「黙れマイナー削板派」



誰もまともな反応しねえのかよ、と10039号は心中ツッコムが
個性が突出し始めてからの妹達は普段から案外とこんなものなので気には掛けない。というか、気に掛けていられない。



(先程の3択――――Bはナシにしても、追われている理由は確かに@かAが有力だ……)



前者なら一方通行クローン全個体が自分達の味方に可能性がある。
同胞として、同じクローン体としてこれ以上嬉しい事はない。早急に彼を保護し結託すべきだ。


だが、そう思わせておきながら実は後者であったら?
既に2体のクローンを撃破した妹達であるが、今回はクローンに加え未知なる『マジュツシ』もいる。
彼らに一斉に掛かってこられたら勝利するのは難しいだろう。
現に『マジュツシ』に襲われた10032号はお姉様に助けられなければどうなっていたか分からなかった。



(どちらであるか分からない以上は、手を出さず傍観に徹するべき。でも――――――)



しかし此処に、1つだけ心配な要因があった。追われているクローンの容体だ。
少年は明らかに致命傷を負っていた。逃げる度に体のあちこちから血が噴き出している。
演出にしたって、このまま逃げ続ければ出血多量で死にかねない。
学習装置によって初期データを入力された自分達だからこそ判る、彼は引っ掛かるかどうかも定かでない罠の為に死ねる人間だ。



(どうする――――――?)



罠である可能性を考慮し見に徹するか、罠である可能性を考慮しながら命を賭けて敵である一方通行クローンを『死』から救うか。
10039号に芽生えた心が、小さく揺らいだ。





<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:22:00.51 ID:ptzVABBF0<>





学園都市では非効率的と見做されるレイピアやドレスソードを装備するのは、魔術師である証だ。
一方通行07号は戸惑っていた。
だが何故彼らが自分を襲う?捕らえようと手を伸ばす?

(―――――……マスター……?)


ぼんやりとした頭が反応を遅らせた。
その一瞬を突いて鋭く磨かれた戦斧が拳銃を持った右手に向かって振り翳された。


咄嗟に反射を発動させるが演算能力の意識散乱と、魔術という非科学的な法則に対する超能力の歪みから能力が上手く適応しない。
幸いにも打たれたのは戦斧の逆場の部分であったが、激突の衝撃だけは免れずフラフラ揺れる力無い体が薄汚い路地裏の壁へと叩き付けられた。



「ぐ、は……っ」



ゲポ、と不吉な声が口から洩れた。
覚束ない視線をゆっくりと移動し、口元に宛がった手を見遣る。


ドス黒い血が、ベッタリと付着していた。黒く見える血は胃からの出血だった気がする。
学習装置の知識を振り返る。が、朦朧とする頭から引き出したものでは合っているかの保証すらできなかった。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:22:27.95 ID:ptzVABBF0<>


「大人しくなったようだが、どうする?捕まえろとは言われているが……」

「一般人に手を出されても困るわ、縛り付けておきましょう。『反射』を考えれば無駄かもしれないけど」



縛る?捕まえる?冗談じゃない。
主人の真意が判らぬ以上、自分にはまだ任務に生きる義務がある。


逃げなくては。垣根帝督からも、この謎の集団からも。
そうだ、きっと彼らは主人達とは敵対する魔術結社なのだ。
スペイン星教が、牽いてはそれが収まるローマ正教が魔術サイドのトップに立つ事を阻む為派遣された敵対組織に違いない。
だからこそ障害となる自分達を襲うのだ。


学習装置によって刷り込まれた『マスター』という概念は07号他彼らクローンを何処までも主君に忠実とさせた。
それは、初めて目の合った母親の後をずっと付いて回る幼子に何処か似ていた。



「――――そうだな。捕縛して教皇代理と……一応情報提供者のスペイン星教へも連絡を入れよう」



故に、主君から切り捨てられた07号は、まるで母に置き去りにされた子供の様な言い様の無い悲しみの中へ突き落され、



「う、あ、あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」



信じてきたもの全てが、頭の中で爆発した。





<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:22:58.08 ID:ptzVABBF0<>




「っ、急に暴れ出したぞ!!」

「やはり暴走状態に―――――――!!!」



動きを封じる霊装を施した縄を掛けようとしたところで、大声を上げ急に抵抗を始めたクローンに天草式は困惑した。
『反射』を持つクローンであるからこそこれまでは大技を繰り広げても問題なかった。
が、何処でやられたのか既に重傷を負う少年は先程の一撃でもう能力を行使できるかも危うい。


超能力を殆ど知らない彼らでもそう感じる程の大怪我。
それ故に天草式はクローンの少年を大人しくさせようと彼を強く押さえつけた。


暴れれば暴れるほど、少年の命が危ない。
『救われぬ者に救いの手を』。ヒトの都合で勝手に造られた憐れなクローンを殺す気など、元より彼らにはないのだ。


だがクローンは自身の怪我などまるで無かった物の様に気にも留めず
見開いた眼で天草式の魔術師達を射抜き、銃を持った手を振り回して彼らから逃げようと抵抗を重ねる。
まるで子供の駄々の様にただ四肢を奮う少年には、銃を『撃つ』という手段さえ思い至らない様に見受けられた。


少年の指が偶然引き金に引っ掛かった。
重力に従い引かれた引き金は、原理通り込められた銃弾を発射させる。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:23:24.79 ID:ptzVABBF0<>


「―――――っ!!」



焦った牛深が躱そうと身を捻った所で、何処にそんな体力が残っていたのか少年から鋭い蹴りが繰り出される。
蹴り技に気を取られた一瞬の隙を突いて、少年が逃げ出した。走る度に血がダラダラと流れ落ち少年の息が上がっていく。



「待ちなさい!!」



立ち憚った浦上がドレスソードの切っ先を向け威嚇するが、少年の足は止まらない。
仕方なくそのまま彼女が攻撃に出た所で――――――クローンの少年が、顔を吸い込ませるようにしてその刃に身を寄せた。



「なっ、――――!!」



浦上が慌てて武器を下げる。しかし、強い力でドレスコードを握る少年の手がそれを許さない。
刃ごと握った手から流れる血に目も向けず、痛みを感じていないのか意識する程の理性が無いのか顔の一つも顰めない少年が
ドレスコードを持った浦上の体を、体を回転させて路地裏の壁に叩きつけた。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:23:54.91 ID:ptzVABBF0<>


明らかに理性を手放しながら、殺したくないという天草式の意向を利用した冷静な戦術。
それは、07号にとっての本能的な戦いだった。
この世の全てを信じられなくなった幼い少年の、八つ当たりと焦燥感だけで構成された当たり前の行動理念。


この感情を何かにぶつけたい。でも、直ぐにでも何処か遠くへ逃げてしまいたい。
途中で命を失うことすら厭わない07号は立ち塞がる天草式全てを退けながらひたすらに逃げる。


だが、本来ベッドに括りつけられてもおかしくない程の重傷を負った少年が彼ら魔術師から逃れられる訳がない。
野母崎の手が少年の肘を掴んだ。そのまま覆いかぶさる様にして地面に縫いつけようと試みる。
体格と体力と物理的な問題で、少年に抵抗は出来なかった。にも拘らず、



「ぐぼっ、」



強い衝撃を受けて野母崎の体が吹き飛んだ。
と同時に、狭い路地裏の中一帯をモクモクと立ちあがった煙が充満した。



「くそっ!!」



パタパタとした足音が少年の周囲で駆け巡る。
急いで発動させた魔術の風で煙を遠ざけた天草式が何が起こったのかと周囲を確認すると、


クローンの少年が、僅かな血痕を残して綺麗に消えていた。





<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:24:28.44 ID:ptzVABBF0<>




「――――此処で間違いないワケね」

「うん。あくせられーたと同じ……でももっと弱い能力の反応が此処からする」



心理定規の『尋問』から一方通行クローンの上位個体の存在を知った結標淡希と滝壺理后は、独自の判断からその居場所を追っていた。
当初13体しか感知されなかった反応だが、捕らえた05号の証言だと上位個体00号はかなり複雑な装置でその居場所を隠蔽されているらしい。


明らかな滝壺対策だ。
『敵』は能力追跡への対策として能力者のAIM拡散力場を極力洩らさないよう造られた装置を保持している。
だからこそ、当に製造されたクローンであっても実際に能力を使うまで滝壺は、同じ能力反応が重複するこの以上を感知出来なかった。
しかし同じクローンの証言を参考にしたころで、能力追跡によるAIM拡散力場の反応測定誤差を修正し今度は何とかその居場所を感知出来た。



「でも、よかったの?魔術の事はつちみかどかうなばらの意見を聞いてからって――――――」

「良いのよ。アイツらに聞いてからじゃ標的に移動されちゃうかも知れないし、クローンは所詮科学側なんだから私達でも何とかなるし。
 …………それに何より、アイツらじゃ私を対上位個体戦には回さないでしょうしね」


ボソリと付け加えられた台詞に滝壺が首を捻ったが、結標はそんなこと気にしていられない。
この戦いには、アルビノショタを我が手中に収められるかが掛かっているのだ。
自分をショタコンと罵る奴らに知れたら、それを阻もうと麦野辺りを派遣してくるかもしれない。



「そんな事……許してなるものですか……」



ウフフフフフフと気味の悪い笑みを浮かべる結標に、珍しく顔を顰めた滝壺が僅かに引いた。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:25:34.32 ID:ptzVABBF0<>


結標と滝壺が踏み込んだ先で待っていたのは、年若いと表現するにはあまりにも幼すぎる少年だった。
クローン達の上位に立つ存在が未完成体であるというのは、妹達で言うところの最終信号を髣髴とさせるが、纏う雰囲気が彼女とは大分違う。


しいて言えば、10歳前後の幼い見た目に反し少年は、その表情だけが気味悪いほどに大人びていた。
無垢という言葉から遠く離れた、歪んだ微笑み。



「ようこそ、此処まで来られるのは貴女方くらいだろうと思っていましたよ。
 此処に至るまでの能力特定と座標特定の詳細は、直接現場に赴かなければ掴めないでしょうし」



腰を据えていた椅子から立ち上がり、少年が舞台でも始めるかのように大振りな動作で腕を広げ2人を迎え入れる。
少年が立ち上がった事で結標と滝壺が臨戦体勢を取った。すると、


ガン!と少年の座っていた椅子が有らぬ方向へ勢いよく蹴り飛ばされた。
「このまま戦闘に入るのなら邪魔になりますしね」と少年は余裕の笑みを見せる。



「一方通行の検体番号は00号、貴女方が言うところの『上位個体』です」

「――――――ねえ、あなたは『一方通行は一方通行は〜』みたいな喋り方しない訳?ちょっぴり期待してたんだけど」



だが、結標も怯まない。
手で触れる必要のないコルク抜きを態々取り出して見せつけ、一歩、また一歩と舌なめずりをしながら00号へ近づく。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:26:04.71 ID:ptzVABBF0<>


「そンなに語尾を長くした所で非効率的じゃないですか。まあご希望ならやりますが、と一方通行は一方通行はサービス精神を利かせてみたり」

「強要はしないわよ。お姉さんはありのままの自分を露わにしてくれるショタが好きなの――――――心も、身体もねっ!」



掛け声と共に結標が軍用懐中電灯の灯りを00号へと向けた。
途端、00号が結標の前へと転移する。



「大能力者程度じゃ空間移動は『反射』できないんでしょう?大人しく投降するならお姉さんが可愛がってあげるけど?」

「………生憎と、一方通行には特殊な性癖がありませンので」

「こうゆうクソ生意気なショタってのも好いものね、育て甲斐があるもの。例えば私色に染め上げてあげるとかっ!!」



顎にかけられた細い手を00号が払った瞬間、急に空間に現れた先程の椅子が00号の体に激突する。
衝撃で彼が倒れこんだ瞬間を狙って結標がその体を床に縫い付けようと駆け寄った。



「あんまり暴れないでね、可愛い顔に傷がついても台無しだし。ベクトル操作で逃げようとしても無駄よ。あなたの能力は滝壺が既に掌握してる!」



結標が飛び掛かるようにして体を使って少年の体を押さえつけた。
豊満な胸の中に00号の頭が諸に埋まるが気にしている様子はない。寧ろ笑っているようにも窺える。
抑えた、結標はそう確信した。
だが胸の中から聞こえるくぐもった声が結標の耳を打った途端、彼女の体に衝撃が走った。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:26:44.88 ID:ptzVABBF0<>


「―――――――だから、特殊な性癖はないって言ってるじゃないですか」



結標の体が吹き飛んだ。
傍観していた滝壺には、その状況が理解できない。


クローンの能力は自分がAIM拡散力場から干渉する事で全て掌握したのだ。彼に能力は使えない。
つまり、あの攻撃は少年の細く幼い体から生み出されたことになる。
それが物理的にありえなかったとしても。


対して結標は状況を事細かに理解していた。
あの人間離れした機動力、運動性。しかし駆動鎧の様に目に見えた装備を施していないという矛盾。
だからこそ、00号を傷つけたくなかっただけに結標は唇を噛む。



「嘗て貴女が苦戦した無能力者……――――― 駒場利徳の戦闘法を参考にさせて頂きました」

「―――――っ、あなた!そんな骨格の出来上がっていない身体で『発条包帯』なんて使ったらどうなるか解っているの!?」



発条包帯。
学園都市をローマ正教が襲撃した際、内側の警備が薄くなった隙を突いて能力者に対する反逆を企てたスキルアウト達がいた。
そのリーダー、駒場利徳が能力者への対抗策として仕込んでいた発条包帯には結標も苦しめられた覚えがある。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:27:52.91 ID:ptzVABBF0<>


だが、駆動鎧と違い使用者への安全装置の一切を省いた発条包帯は、本来の10倍以上の速度や力を引き出せる代わりとして相当の負荷がかかる。
大きな力を無理矢理に扱う事に生身の人間が耐えられないためだ。


駒場の場合は膝にある6つの靭帯を保護し、大腿骨、脛骨、腓骨を繋ぐ足の筋肉各部を外側から補強し、
加えて靴に鉄板を仕込み足が自壊するのを防いで初めてそれが使いこなせた。
しかし、プロのアスリート以上に繊細で合理的な調整を施した駒場でも全身の筋肉が肉離れを起こす危険性が否めなかったのだ。
00号のような幼い肉体がそれを使えばどうなるかは、火を見るより明らかだった。



「ええ。理解していますよ?てゆうか、既に全身の筋肉がガタガタ言ってますし。テスト試用も含めてまだ30分しか使っていないンですがねェ……
 でも死んだらまた作り変えれば良いンだから、気にする事もないでしょう?
 『マスター設定の書き換え』も『上位命令文の追加』も済ませた今となっては、上位個体も替えの利く個体の1つに成り下がったンですし」



恐らく体中を蝕んでいるであろう苦痛を意にも介さず、00号がケロリと言ってのけた。
そんな彼の態度に滝壺の表情が悲しみに揺らぐ。


少年は最初から、敵対勢力として自分達が来ることを知っていた。
例え他の能力者が同伴したとしても、せめて自分達2人の首だけは確実に狩る為に、少年は命を削る様な方法を選択したのだ。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:28:35.93 ID:ptzVABBF0<>


00号の足が冷たい床を踏みしめた。
ダン!!という轟音が響いて、小さな体が高速で飛来する。
少年の狙いに気付いた結標が急いで座標を選択するが、間に合わない。
攻撃を諦め近場の物を全てバリケードになる様引き寄せる。


が。
分厚い金属製のロッカーも大型のテレビもステンレスの机も鉄の板も、少年の拳が当たった瞬間まるで紙を丸めるかの如く全てひしゃげ、
綺麗に鋭く折れた金属片がバリケード先の少女を襲った。



「逃げて、滝壺ぉおおおおお!!!!」



結標の喉から叫びが上がる。
しかし、彼女のように能力による移動も攻撃も手段を持たない滝壺は、能力ではなく純粋な武力を行使する相手から逃れる術がない。


ガラクタとなった破片の竜巻から伸びた手が滝壺の頭を鷲掴みにした。
勢いを殺さぬままに、そのまま地面に叩き付けられる。



「ぐ――――、ぼぇ……っ!!」



滝壺の口から吐瀉物が滴った。
胃液の酸っぱい味を感じる暇もなしに強烈な痛みが全身を襲う。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:29:39.91 ID:ptzVABBF0<>


床に正面から激突させられた腹を抱えて倒れる滝壺の下腹部を00号が嬲る様に踏みつけた。
ズブズブと足が沈む度に滝壺から血が吐き出されるが、少年が気にする様子は微塵も感じられない。



「どうしますかァ、特殊性癖のお姉さン?
 こっちのジャージのお姉さンをこのまま潰すのと、お姉さンの見事な死に様で一方通行を楽しませるのと。どっちを選びますゥ?」

「―――――あなた……特殊な性癖は無いって言う割に良いドSっぷりじゃない?」

「お姉さンが仰ったンじゃないですかァ。『生意気も好い』って」



キャハキャハと嗤う00号が、初めて子供らしい笑みを見せた。
弱肉強食の頂点に立ち心の底から喜ぶ光景は幼い子供が残虐性を満たした際、本能的に快感を得るのに良く似ていた。



「前言撤回……やっぱりショタは素直で可愛いのが一番ね」

「素直で可愛いつもりなンですけどね、一方通行としては」



結標が呟きと共に落ちていたダストボックスを少年に向けて転移した。
しかしそれも簡単に00号は退けた。よりにもよって、滝壺の体を盾にして。



「――――――ジャージのお姉さンを潰す方がお望みですか」



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:30:21.80 ID:ptzVABBF0<>


滝壺の髪を掴んで彼女の体を強制的に起こした00号が、滝壺の喉に手をかける。
今はゆっくりとした動作だが、発条包帯を巻いた腕は本気を出せば一息で彼女の呼吸を奪うだろう。


子供とは思えない艶やかな手付きで滝壺の喉を弄る00号がチラリと結標を窺った。
楽しんでいる、こちらの反応を。
苛立ちに結標が眉根を寄せるが、下手な攻撃をすれば再び滝壺を盾にされかねない。



「―――――――いいわ。反対してたあの子を無理矢理引っ張ってきたのは私だもの。責任はとる」

「ならご自分の体内に針でも埋め込んで頂けますかァ?そこのソーイングセットから取り出して、内臓各部を何発も。
 ズブリと心臓部に一発、っていうのも捨てがたいですけど他人が苦しんでる様は長く見たいじゃないですか」



言われた通り、ソーイングセットを引き寄せた結標がその中から縫い針の束を取り出す。
転移する度に自分の居た座標へと00号が掴んだ滝壺を寄せるのを見て、結標は攻撃する事を諦めた。


既に能力に対するトラウマは克服した。逃げようと思えば、逃げられる。自分だけは。
滝壺の転移は彼女の喉を締め付けている00号が許さないだろう。
そして自分だけが逃げた所で、逃げた先で応援を呼んでいる間に確実に彼女は殺される。



「……素直っていうなら約束してよ。私が死んだら、滝壺は許してくれる?」

「生かしておいてあげますよ。薬漬けにして命令通りに能力を使うだけの道具にされるでしょォが」



生かしておく。それならいい。
人ひとりを薬漬けにするのは案外と時間が掛かる。その間に誰かが彼女を救ってくれれば、それでいい。
今まで暗部の同僚を信頼した事など無かったが、今回ばかりは願う。きっと、誰かが。



「――――――最後に見れるのが可愛い男の子の笑顔なら、中々儲けものかもね」



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:31:02.85 ID:ptzVABBF0<>


わざとらしく結標が微笑み、00号を見据えた。
震える指で針を握りしめ演算に集中する為に呼吸を整える。


スーハーと息を吐いていた結標の口が閉ざされた。
真剣な眼差しで針の切っ先一転を見つめる。



(さよなら―――――――、)



自分でも最早誰に向けているのか解らない遺言を心中に、体内と手中の座標設定を始める。
正確な演算で彼女の手の内の針が消え、


ドガァアアアアアアン!!!!!!


急な衝撃に部屋中が揺れた。
結標の体が耐えきれず倒れたことで、転移された針が腕を掠めただけに留まる。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:32:16.57 ID:ptzVABBF0<>


(………?)



一番状況を理解出来なかったのは、意識を失った滝壺でも滝壺の能力束縛がなくなりベクトル操作でバランスを取った00号でもなく、
倒れ込んだ結標だった。


しかし彼女が状況を確認しようと起き上がると、部屋全体を見るまでも無く全てが解った。


何故なら、彼女の目の前に部屋の天井が4階からこの地下まで全てをブチ抜いて崩れていたからだ。
何故なら、その破壊的行為を行った少女が男の体を引っ掴んで埃立つ部屋の中心に立っていたからだ。
何故なら、埃を払いながら立ちあがった男が滝壺を掴む00号を見て殺気立ったからだ。



「超完璧なタイミングだったみたいですね……正義のヒーローみたいじゃないですか、私達」

「本物のヒーローだったらヒロインがこんなになる前に駆けつけてるだろうさ」



「おやおや、滝壺さんをヒロインって今超認めましたね」「るせー。こんな時に揄うな、チビ」
本人達は認めないながらも、宛らスーパーマンの如きタイミングで現れた男女2人―――――
――――ニット地のワンピースを着た少女と、ジャージのパンツに適当なシャツを羽織った男が、風に靡いた埃の中からその姿を露わにする。



「滝壺をそんな風に扱った罪、駒場のリーダーを冒涜した罪、―――――しっかり償って貰うぜ」



2人の女のピンチの中颯爽と駆けつけた浜面仕上と絹旗最愛が、そこには立っていた。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:33:00.72 ID:ptzVABBF0<>


「………どうして此処が?能力追跡のような探知能力者や、座標移動のような空間座標把握者がいなければ掴めない筈ですよ?」

「普段からボーッとしてる滝壺の携帯には、危なっかしいからってGPSが入ってんだ。電波障害だろうと何だろうと阻害されない特別なGPSがな」



浜面の解答を聞いた00号が、暫し呆然と彼を見た。
そして「あァ〜あ、モロ科学の中で生きてるのにこォゆゥ時にドジっちゃうンですよねェー」と呟きムスッと口を尖らせる。



「―――――はァ……。子供相手に大人が何人も寄っていたかって集まるなンて、リンチですよォ、リンチ」



呆れた様に溜息を吐く00号に浜面の鋭い視線が突き刺さる。
しかし00号はその殺気を意にも返さず、未だ髪を乱暴に引っ掴んだ滝壺をブラブラと見せつけた。



「お兄さァん、ピリピリすンのはイイですけど彼女さンどォなっても良いンですかァ?
 そっちのショタコンお姉さんだって一方通行には手出し出来ませんでしたよォ?」



それでも浜面は関係ないと言わんばかりに00号へと近づいていく。
ジリジリと歩み寄って来る浜面に00号は眉根を寄せた。


先程の会話を聞く限り、この能力追跡のジャージ女とあの男は特別な関係にある様に思える。
ならば何故この男は人質を気にも留めない?


意識の半分を思考に回している間に浜面が間合いを詰めようと一気に駆け抜けてきた。
だが、予想の範疇だ。
発条包帯を巻いた00号はそれを余裕のステップで躱した。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:33:39.45 ID:ptzVABBF0<>


否、躱したつもり、だった。


避けた先に、何故か浜面仕上がいた。
「なっ……!」驚愕している間もなく滝壺の腕が取られ、奪われまいと対抗する間に隙を突いた結標のコルク抜きが飛んでくる。
結標の気配から何とかそれを察知した00号は滝壺を諦めコルク抜きを避ける事に専念した。
結標の読み通り、大能力者クラスの『一方通行』では空間移動は反射出来ない。


人質を失ってからの結標は確かに厄介だ。だが発条包帯でカバーできる彼女以上に厄介なのは。
浜面仕上。
彼が何をしたのかが解らない。どうしてあの時、避けた先で彼が待ちかまえていたのかが掴めない。


浜面から距離を取ろうと00号は後退した。
能力が使えるならば浜面仕上は遠距離からベクトル操作で攻撃する方が利巧だ。


敵全てから適度に離れた00号が地面を抉り飛ばそうと床を踏み付けた。
途端ボコボコと亀裂の入った床が浜面に向かって物凄いスピードで襲いかかる。
滝壺だけでも逃がそうと浜面は奪い返した彼女に手を伸ばした。亀裂の予測到達地点から突き飛ばす様にして押し出す。


押し出した頃には、もう『迫る床』は目の前だった。
頭や顔へのダメージだけでも緩和しようと腕で十字を造り顔の前に掲げる。
(うお、思ったより結構ヤバそう)
床が浜面を呑み込もうとした。浜面がダメージを覚悟した。その時、



「来てくれてありがとう、はまづら」



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:34:32.73 ID:ptzVABBF0<>


床がメキメキと呻きを上げて、逆再生された。
時間を巻き戻しているのではあるまいし、実際の原理はそうではない。しかし比喩としてそれ以上相応しいものは無かった。
急速な勢いで逆方向に進んだ床が、放った00号に牙を向く。


00号は咄嗟に反射を展開させようと演算するが、何故か能力が発動しない。
――――――まさか。
襲いかかる自身の技から道具補強で強制的に高めた脚力を用い逃げると、00号はそこで見つけた女を眼を見開いて睨みつけた。



「――――滝壺、理后……っ!!」

「能力は使わせない。あなたのAIM拡散力場は、もう私の手中にある」



多勢に無勢のこの状況で能力なしというのは些かキツイ。
いや、能力者がいたとしても発条包帯だけで乗り切れる自信はあったが、浜面仕上の存在によってそれも危うくなった。


もう一度、滝壺理后をオトさなければ。あの女が邪魔だ。
00号が滝壺に向かってロケットの様に踏み出した。先程彼女を鷲掴みにした腕が、再び迫る。
しかし、



「――――――そう何度もやらせねえよ」



視界から滝壺が消えた。
否、声の方を見返せば彼女の手を先に引く浜面仕上がいる。


浜面の腕の中から即座に滝壺が安全な場所へ転移させられた事で、彼のフットワークが一気に軽くなる。
振り翳された右拳を避けるべく、00号が移動角を調整しようと床を踏み左に跳ねた所で――――――



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:35:15.70 ID:ptzVABBF0<>


無防備だった左脇腹に、浜面の左拳が突き刺さった。
正確には浜面の左拳の合った場所へ自ら飛び込んだと言っても良い。



「ぐぼえっ――――――!!」



怯んだ矢先に、脇腹へと痛恨の一撃が突き刺さった。
体重と踏ん張りの勢いを上手く乗せたプロ顔負けの拳に、00号の幼い体が吹き飛ぶ。


ザザザザザ!!!と引き摺る様に摩擦で床に足を留め、00号は浜面を見た。
何故、という不可思議な物を見る目線に浜面が淡々と答える。



「駒場のリーダーは能力者に対抗する為何重にも策を練っていた……
裏路地の世界で俺は上手く仲間を纏めきれなかったが、それでも俺は副将としてあの人を隣でずっと見て来たんだ……」



軽蔑する様な浜面の眼が、00号を射抜いた。
00号の肩がピクリと揺れる。



「風紀委員への対処法……警備員への対処法……能力者への対処法……
 アイツらの手を利用すると同時に、駒場のリーダーはその弱点も全て把握していたよ……
 ―――――例えば『駆動鎧の初心者は、直線的な速さに頼り過ぎてある程度軌道が予測できる』、とかな」



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:35:43.32 ID:ptzVABBF0<>


「駒場のリーダーの意思も志も知らずにソイツを真似たなら、それはもうあの人への冒涜だ。俺はソレを、許さねえ」



浜面の威圧感に、00号は本能的に彼へ襲いかかった。
反射的な行動とは裏腹に浜面の指摘を冷静に取り入れた蹴りは、積み重ねたステップにより先程と比べ随分と小回りが利いている。


だが。



「お前は無能力者を舐め過ぎたんだよ。駒場のリーダーはもっとソイツを使いこなしてたぜ」



身体との兼ね合いも考慮した結果、テスト試用を含めて00号が発条包帯を使用したのは30分強。
学習装置で強制入力されたデータでは絶対に補えないモノを識る浜面には、未だ読める軌道の範疇に過ぎない。



「悪い事したらお仕置きってなあ……歯ぁ喰い縛れよ、クソガキ!!!!」



浜面の回し蹴りが00号の内臓を内側へ内側へと圧迫し、胃液と唾液と血液が無造作に混ざって口から零れた。
吹き飛ばされた先で体勢を立て直そうと地に足付く前に、そのまま後ろから強い力で拘束される。



「まさか……私が天井ブチ抜く為だけに来ただなんて、超勘違いですよ?」



声掛ける絹旗も十分小柄な部類だが、見た目10歳前後の00号の方がよっぽど小柄だ。
後ろ手を片手で捻り上げられ、抵抗する前に服を捲り上げられる。



<> 第十五話 『部屋と接触とミサカ』<>saga<>2011/01/24(月) 22:37:04.75 ID:ptzVABBF0<>


00号の服の中から、ビリビリと布を裂くような音がした。窒素装甲を纏った絹旗の手が毟る様にして発条包帯を奪い取る。
未だ滝壺に能力を封じられ、絹旗に拘束され、浜面から深手のダメージを負った00号は最早無力な子供でしかない。



「――――助けてェ、お姉ちゃン……っ!!」



半泣きの表情で結標へと訴える。
それを戸惑う様な瞳で受け取った結標は、



「言ったでしょう?少し生意気な子の方が好みなの。泣いて懇願する様も好きだから迷うけど……『他人が苦しんでる様は長く見たい』じゃない?」



ニコリとした笑みに呆然とする間に、浜面の手刀が首の神経系を穿った。
一瞬で00号の意識がシャットアウトする。



「色んな意味で人生経験が足りな過ぎるんだよ、お前は。長く生きてもっと経験積みやがれクソガキめ」



乱暴な手つきでクシャリと撫でられた頭を、当の子供だけが知らずに幕が落ちた。







<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/24(月) 22:39:57.05 ID:ptzVABBF0<>そんなこんなで以上です。
本当はインデックスさんまで出したかったのですが、思ったより長くなったのと今書くと語尾に「〜〜ゲソ」って付けそうなので諦めました。

物語にはどうしても主人公やヒロインを出せない繋ぎの話が必要になる事もあるのですが、一方さんも打ち止めも出せない回は少し申し訳ないです。
何というスレタイ詐欺。今回は駒場さんネタが出来たので許して下さい。一度書きたかったんです、駒場さんと浜面。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/24(月) 22:52:42.29 ID:auV1roDzo<>おいバカ面がかっこいいぞどういうことだ
あわきん歪みなさすぎだろw

おつ!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/24(月) 22:53:46.96 ID:M5+vCGafo<>最近、格好いい浜さんが多すぎて。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/24(月) 22:58:44.90 ID:GEJfWDbDo<>>>何故なら、彼女の目の前に部屋の天井が4階からこの地下まで全てをブチ抜いて崩れていたからだ。
あまいあおSUGEEEEEE!!!と思ったらてんじょうだった<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/24(月) 23:01:16.34 ID:ujoaHcWEo<>浜面さんマジイケメン<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 02:00:59.64 ID:aSbUSLmdo<>こんなカッコイイ浜面は浜面じゃないから
きっとベクトル操作とか窒素パンチとかで瞬間移動してると思ったら
マジモンのスーパー浜面だったでゴザル<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 07:23:02.46 ID:2KFHUHqd0<>滝壺がボコられている時に、滝壺か00号を移動させれば解決じゃね?って思ったけど、
滝壺を座標移動しなかったのは焦燥と、滝壺自身がボコられて移動していたのと、演算終了するより00号が滝壺[ピーーー]ほうが早そうだったせいだとか、
00号を座標移動しなかったのは、反射は無理でも、11次元に干渉できる能力者を移動させるのは危険だったとか、なにか説明がつくのかな?<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 13:42:34.43 ID:QD7lmnB0o<>この浜面は15巻の浜面だ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 14:14:56.90 ID:W+0EY1BIO<>Yシャツ成分が足りないってミサカはミサカは(ry<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 19:09:16.39 ID:WfbNachAO<>今最初から読んできたけどめちゃくちゃ面白いスゲー>>1乙っ

…スペイン星教を考えてるのは自分だけだと思ってた
ふふふ…プロットから書き直してきます
イラン政教は出さないよね、ねぇ>>1ッ!<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 20:20:45.12 ID:AxMYd2TWo<>乙
滝壺がピンチなんだし、いくら浜面でもスーパー化するだろ、JK…
どうせ次の出番じゃ補正も切れてるだろうしさ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 20:44:34.14 ID:x+S6ywKXo<>浜面はこれくらいヒーロー補正があるほうがいい<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 21:09:36.66 ID:HzfCDFC60<>マイナー削板派とミサカの出会いをkwsk 削板は上条さんより超鈍感だぞきっと
辛気くさいミサカを根性論で諭して、俺についてこい!!!!走るぞ!!!!! はい、師匠!!!  的な話を待ってます<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 21:10:29.50 ID:HzfCDFC60<>間違えた。  マイナー削板派とミサカの出会い → 削板とマイナー削板派なミサカの出会い<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/26(水) 02:06:15.82 ID:LEfQBxKDO<>原作のあの時意識があったミサカとかいう感じじゃないかね<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/26(水) 19:51:03.61 ID:duWRC12eo<>久しぶりに来たら話がわけわからなくなってた。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/27(木) 21:48:23.59 ID:PtCAWGrP0<>>>832
Yシャツは
Y型だからYシャツではなく
白いからYシャツ<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/28(金) 01:33:08.93 ID:o9QHSXBDO<>ホYトシャツか<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/28(金) 07:56:24.76 ID:0Ylpdzob0<>ほのぼのYシャツがあるからこそ、シリアスが一層熱いな…!
シリアス大好きです。
一方通行さんのクローンとかマジで俺得…>>1本当にありがとう

作品の中でキャラ達が活き活きしてて、読んでいて堪らん
支援

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/29(土) 19:29:08.23 ID:aHvdUUFQ0<> >>823様
駒場さんと同様00号は結標が能力を行使する前に、結標が設定した座標から退くかその座標に滝壺を配置する事で攻撃を回避していました。
00号は11次元に干渉出来ませんが、結標さんが演算に座標を設定する際の目線などで、彼女の能力使用のタイミングを測っていました。
描写が足りず申し訳ありません。

>>825様
Yシャツ成分本当に足りていません。スレタイ詐欺もいい所です。………本当にゴメンナサイ。

>>826様
イラン政教は出しません。というか思いつきもしなかった……アイデア凄いですね!!
イランとスペイン両方を出す話と聞いて、スペインの影響が強いメキシコにもスペイン星教の色があってアステカ術式を交えたメキシコ独特の宗教と
中東系の宗教が手を組んで一挙に学園都市へ押し寄せて来て魔術VS科学の戦争へ――――まで想像してしまいました。どうでもいいですね。

>>832様
スレ立て当初と比べ話の傾向が変わってしまい大変申し訳ありません。因みに時系列的には
Yシャツ → 一方さん講師就任 → VS木原くン → 入院・退院(Tシャツ事件) → クローン編(今ココ)です。

>>834様
マジ吹いた()。

>>835様
スレタイ詐欺の自覚があるからこそ、そのお言葉が何より励みになります。


以上返信。
以下より本日更新分の本編です。

<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:30:31.98 ID:aHvdUUFQ0<>


「それじゃ、上位個体さえ確保すればあなた達の本拠地が解かるワケね?」

「ハイ。マスター専属の01号を除き一方通行たち下位個体には『本部』の居場所は伝えられていませんが上位個体には伝令されている筈です、
 と一方通行は解答します」



クローン体と〈クローン−マスター〉の位置まで心の距離を縮めた心理定規の『尋問』は続いていた。
彼女の問いに何の抵抗もなく答える一方通行05号は、その時、確かに心理定規に意志の自由を掌握されていた。



「一方通行クローンの上位個体の下には結標が独断で行っちゃったし、絹旗達も追っていったから捕縛できると思うけど……」



全く、どいつもこいつも勝手なんだから。
学園都市の出入りゲートの防衛を担当していた絹旗が浜面と共に結標―――――
―――――正確には、結標に連れられた滝壺を追って上位個体の下へ向かったのは今から10分程前になる。


絹旗が持ち場を離れたため、現在ゲート防衛を担当しているのは麦野になるのだが、
何故滝壺の下に麦野が向かわずそんな回りクドい事をしたのかといえば理由がある。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:31:15.66 ID:aHvdUUFQ0<>


スペイン星教ではない、多勢力に所属する魔術師の存在だ。
今、学園都市に侵入しているのは問題が生じる前に学園都市に潜り込んできたと思われる前述のスペイン星教と、
特殊な術式により日本国内の何処でも(『伊能忠敬時代の日本国内』を効果範囲とする為学園都市も含まれる)移動が可能な天草式の2つだ。


スペイン星教が『イギリス清教』へと応援を打診しておきながら、何故内部小組織の天草式しか派遣されないのか。
それは、高位能力者が警備するゲートからの侵攻は不可能だろうと魔術サイドに思われているためだ。
ならば大能力者の絹旗より、より高位な『第四位・原子崩し』に正面から真っ向してもらったほうが威嚇としては丁度いいのだ。



「ウチのリーダーも同じ理由で行っちゃったし……取り敢えず『尋問』対象の上位個体クンが来るまで私は暇ねえ……」



ふわあ、と心理定規が欠伸を吐いた。
こんな時に何と不謹慎な、と思うかもしれないが何時『情報提供者』が寄越されるか解らない以上
持ち場たる此処を離れる訳にはいかない彼女は非常に暇なのだ。
何せ此処は何の娯楽もないただの廃ビルだ。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:31:54.12 ID:aHvdUUFQ0<>


「どうぞ、と一方通行は欠伸で涙を浮かべた貴女にハンカチを差し出します」

「ああ、ありがとう。あなたオリジナルと違ってホントに気が利くわね……――――――――――」



そんな平和でクダラナイ日常の一片を過ごしていた時である。
ただでさえ虚ろな05号の瞳が死体の様に濁り始めたのを見て、焦った心理定規がガタリと席を立った。



「――――――…………05号、一体どうしたのか、自分の状況を説明しなさい!」

「edhiok第一級hagbk命令mzio、ngfdsfkplnb受信中zwcv……」



意味を成さない情報の羅列が05号の口からコピー機の様に吐き出される。
濁った瞳を見開き、瞳孔をギラつかせながら、出来の良い人形の如く05号から文字が漏れる。



「05号!!」

「上位命令文の施行を確認、上位命令文の施行を確認。一方通行05号はこれを受理。
命令文に従った行動プロセスの実行に移ります。繰り返します……――――――――」



言葉が、繋がった。
上位命令文の施行。クローン達の意思と尊厳を奪う、ヒトの手によって作られた最悪最低の手段。


「結標達、間に合わなかったって言うの……――――――っ!?」







<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:32:22.52 ID:aHvdUUFQ0<>




「上位命令文による束縛は、演算を抵抗に回せば多少は緩和されます!気をしっかり持って下さい、とミサカは激を飛ばします!!」



学園都市在住の妹達を乗せた病院者の中で、ミサカ10039号は困惑していた。
謎の魔術集団から追われていた一方通行クローンを救い出したは良いものの、
彼が気絶している間にどうやらアチラ側の上位命令文が下されたらしく、命令を受けたクローンがそれを実行しようと所構わず暴れだしたのだ。



「オイ、どうすんだよ……とミサカは救出を提案した10039号に目線を向けます」

「この怪我じゃ能力の演算は出来ないだろうが、これ以上暴れたら出血多量で死ぬぞコレ……とミサカは一方通行クローンの身を心配します」



他個体が言う通り、これ以上暴れれば彼の命が危うい。
傷の所為で演算に集中できないだろうからベクトル変換なんて高度な能力は使えないだろう。
10人近くの妹達で今は押さえつけているものの、『抵抗』を重ねる間にも彼の傷からは命の滴が零れていく。


持っている装備は『実験』当時使われていた銃火器の様な完全な『武装用』であり、麻酔銃なんて『鎮静用』の代物もない。
乗っているのは病院者であるが、麻酔なんてものは持たされていない。


10039号は、何とか彼を救いたかった。
例え他の個体から非難を浴びたとしても、貴重な同胞である彼を彼女は救いたかった。



(一体どうすれば……?)



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:33:00.57 ID:aHvdUUFQ0<>


10039号は考える。
しかし、絶体絶命の状況を引っ繰り返す名案なんてそうそう浮かぶ物じゃない。



「……っ、―――――」



眉根を寄せた10039号の手を、誰かがそっと握った。



「……10032号?お前はまだ起き上がるには危険な容体だろう―――――――!?」



周りの妹達から驚愕の声が上がる。
当たり前だ。一方通行クローンによって長時間嬲られ続けた彼女の体は、まだまだ安静にしていなければならない状態なのだ。



「……電撃使いの、ミサカ達と違い……脳波ネットワークを構築できない一方通行クローンは………機械による、補助を……受けなければ……
 上位命令文の送受信が、出来ません…………」



息も絶え絶えに紡がれる10032号の声に、10039号が息を呑んだ。



「…………電子機器は、ミサカ達の領分です………と、……ミサカは、ニヤリと……笑います……」



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:33:50.66 ID:aHvdUUFQ0<>


「――――――ミサカはこの同胞を、救いたい、です」



10039号が小さな声で呟いた。



「10032号の言う通り、上位命令文を受けるため彼の脳内には極小チップが埋め込まれているのでしょう。
 障害となるのが電子機器なら、ミサカ達はこれに対抗できます。だから、――――――――」



そして、真っ直ぐと大事な姉妹を見渡す。



「だから、どうかミサカと共に立ち上がって下さい。とミサカはキョウダイ達を促します」



機械を壊せなくてもいい。
要は機能できなくすれば、それで全て解決する。
しかしオリジナルの第三位、『超電磁砲』・御坂美琴と異なり彼女達には1人でナノサイズの精密機器を制御することは難しい。
ならば、



「……まあ、そう改められなくてもミサカはセロリ派だし協力するつもりだけど……とミサカはお姉様並みのツンデレっぷりを見せつけます」

「ミサカは削板派だが協力するぞ。つーか『協力』じゃなねえだろ、お前1人の問題でもねえし」



ミサカも、ミサカもと次々に声が上がる。
1人で解決できない問題は、手を繋いで取り掛かればいい。


重ねられた幾人分の手が、静かに07号の額へと添えられた。






<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:34:28.17 ID:aHvdUUFQ0<>




精神が浮上するように07号の瞳に僅かに光が戻るのを見て、
ケージの猫と扱い同じく競うかの如く彼の顔を覗き込んでいた妹達たちが安堵の息を吐いた。



「意識は安定していますか?上位命令文による脳内汚染の影響は?とミサカは矢継早に尋ねます」



思考回路までは安定しきっていないのか、07号は暫し呆然と彼女たちを見つめていた。
だが、その瞳が完全に見開かれると



「そうか……一方通行はマスターに見捨てられたのですね……、と一方通行は呟きます……」



少年の呟きを真正面から受け止めた10039号は、何も答えることができなかった。
彼が見捨てられた、或いは裏切られたのは変えようのない事実であり、そんな彼をどう慰めていいものか考え付かなかった為だ。


だからこそ彼女は、慰めるのとは別の道を選ぶことにした。
「違うよ?きっとあなたのマスターはあなたを待ってるよ?」なんて甘い言葉を吐いたところで、彼が幸せになれる訳がない。



「そうです。あなたは――――あなた方、一方通行クローンは組織から完全に切り捨てられました。とミサカは肯定します」



キッパリとした肯定の声に07号の肩が沈む。
組織と、マスターという世界しか知らなかった彼にとって、そこから放り出されるというのは母親に捨てられるも同然だった。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:35:21.83 ID:aHvdUUFQ0<>


「――――――――しかし。それはつまり、あなたは現時点を持って自由を得たと言うことです。とミサカは自身の考えを述べます。
 ミサカ達『妹達』は『実験』の終了から研究者達の手を離れることによって『個』と『日常』を得ました。
 そこには紆余曲折がありましたが、今、確かにミサカ達は『自由』です。とミサカは経験談を語ります」



07号が、別の意味で目を見開いた。
そんな考えを今まで持ったことがなかったのだろう。あの『ヒーロー』に教えられるまで自分たちもそうだった、と10039号は思いを馳せる。



「さて。ミサカはあなたが自由になったら尋ねたかったことがあるのです。聞いてくれますか?とミサカは小首を傾げます」



コクリ。07号の首が小さく振られた。
それを静かに見届けてから、10039号が再び口を開いた。



「――――――――……ミサカと、友達になりませんか?とミサカは握手の手を差し伸べます」



ゆっくり伸ばし、躊躇い。


ドヤ顔でフンヌ、と手を差し伸べる10039号を窺う様に覗き見て―――――――――その手が、壊れ物を扱う様に、そっと取られた。







<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:35:47.42 ID:aHvdUUFQ0<>





一方通行クローンが暴走している。
そう仲間から連絡を受けた五和を追いかけるようにして共にその現場へ向かった一向―――――上条当麻、インデックス、御坂美琴の3人は
天草式の魔術師と共に街中で暴れていたクローン3体を取り押さえていた。


深夜だったことが幸いし被害にあったのは屯していたスキルアウト数名、それも天草式の迅速な対応から掠り傷程度で済んだ者だけだった。
とは言っても、能力『一方通行』の大能力者3名を相手にこれだけの被害で済んだのは、超能力者たる美琴の存在も大きいのだが。


巻き込まれたスキルアウトに関しては後で記憶改竄の魔術をかけるらしい。
確かにそうでもしなければ、学園都市最強は実は3つ子だった、なんて事になりかねない。


それは兎も角。


フーッ、フーッと牙を剥き出しにして威嚇するクローン達は、宛ら野生の獣だった。
大能力者クラスの『反射』では捌き切れない衝撃を与え続けた美琴の方も、既に呼吸が荒い。
体力的な問題ではなく、クローンを傷つけてしまったという精神的な圧迫で。


大きなダメージを受けたクローン達は、流石にもう能力を行使するための演算が出来ないらしい。
高度な能力ほど怪我などで意識が散漫すれば演算に集中できず、能力は使えない。
現在はなお暴れようとする体をロープで縛られていた。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:37:01.98 ID:aHvdUUFQ0<>


「まだ解らないのかよ!?お前たちはスペイン星教に良いように利用されてるに過ぎない、何の関係もない人達を襲ったって……―――っ!!」

「それでも。一方通行達はマスターからそう命じられました、と一方通行11号は返答します」
「マスターの命令は絶対です、と一方通行12号も11号へ同意します」
「マスターの為に生まれマスターの為に死ぬ。それが我々の至高です、と一方通行13号は追記します」


上条は叫ぶ。
しかし、クローン達は自分という絶対的な犠牲を厭わない。


クソッ……。皮膚に突き刺さった爪が出血を起こす程、思わず拳を握りしめた。
何でだよ、何でなんだよ……
幾ら説得したところで、彼らの返答は変わらない。
一体、どうして。



「――――――――それが、彼らに刻み込まれた上位命令文だからです。とミサカは明言します」



ふいに、第三者が介入した。
上条達一行でも天草式でもない、特徴的な口調。



「――――御坂、妹……?」

「いいえ。ミサカは御坂妹と呼称される10032号とは別のミサカです、とミサカは上条当麻の判断を否定します」



「いやー、やっぱりミサカだけでも偶然見つけたツンツン頭を追って来て正解でした。……あ。因みにミサカの検体番号は13577号です」
そう名乗った13577号は「いやどっから現れた?」と皆に疑問を抱かせながらも、マイペースに淡々と作業を進めていく。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:38:35.19 ID:aHvdUUFQ0<>


「微弱電気による探知では、どうやら脳内チップの場所は07号と変わらないようですね。お姉様もいる事ですしコレなら対処できるでしょう、
 とミサカは希望ある発言をします」

「た、対処ってどうゆう事だよ!?コイツらを止められるのか!?」

「恋愛以外にも鈍い上条当麻にミサカは多少イラつきます。ミサカは上条派では無いのでキツいですよ。
 ………要はまあ、上位命令文を送受信する脳内チップを特殊電磁波をぶつける事でお姉様に機能停止して貰い暴走命令の脅威を取り除こう、
 とそういうワケです。とミサカはカクカクシカジカで済まない説明を面倒ながらも行います」



「宜しいですか、お姉様?」そう尋ねる13577号に美琴が頷く。
07号対処時に行った通りのプロセスを大まかに説明すれば、
これが超能力者の実力と言わんばかりにピリピリと発する小さな電気で、それを簡単に停止に追い込んだ。



「これで目覚めた頃には問題無くなっているでしょう」








悪戦苦闘しながらも同様の操作を10人がかりで行った妹達と違い、最小の電力で美琴1人が行った為か
チップの機能を停止させられたクローン達は5分ほどで直ぐに目を覚ました。



「気分はどうだ?」



覗きこむようにして上条が尋ねる。だが、反応が返ってこない。
訝しんだ彼が13号へと手を伸ばした。
すると。


「――――――――えっ……?」



その手は、強い力で振り払われた。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:39:06.66 ID:aHvdUUFQ0<>


完全な拒絶。
手足は縛られていて動けない為、触れられた肩を勢いよく振って近づく手を払う。



「………どうして……?上位命令文っつうのは止まったんじゃなかったのかよ……?」

「おかしいですねー、07号の時はこれで大丈夫だったんですが……とミサカは自分に非が無い事を暗に伝えます」



13577号の言葉には、処理した美琴が同意した。
もう一度能力で確認しても、クローン達の中に埋め込まれたチップは完全に沈黙している。



「何があろうとマスターの命に従う。それが我々の存在理由です、と一方通行は宣言します」



まさか。
上条が息を呑んだ。


停止された上位命令文。だが、未だ止まらない暴走の意思。
つまり、それは――――――――――






<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:40:19.02 ID:aHvdUUFQ0<>






「―――――――上位個体を通した正当な方法で上位命令文が中断されました。これにより、上位命令文の実行を停止します」



傍らに立った05号の言葉に、心理定規が息を漏らした。
これで全個体の暴走が停止された筈だ。


命令文の中断をきちんと処理した小さな子供の頭を、浜面が力強くワシワシと撫でて褒める。



「よし、よくやったクソガキ。このまま全個体の機能停止を命令しろ!」

「イヤですよ。一方通行はマスターかドレスのお姉さンの言葉しか聞かないのです」

「こんのクソガキィィイイイイイイイ!!!!!!!」



喚く浜面を余所に、座標移動で帰還した結標、滝壺、絹旗、浜面らが連れ帰った上位個体――――― 一方通行00号に能力を使った心理定規は、
上位命令文中断の際と同じく、全個体の機能を停止させるよう命じた。
しかし、



「そンな事しなくっても殆どの個体はソチラにやられた負傷で動けませンし、
 動ける個体も上位命令文を送受信するチップが破壊された様なので意味ありませンよ。01号には元よりチップが入ってませンし」

「そんな事言ったって!!現にまだクローンは暴走してるって情報が――――――――っ!!」



マスターと同じ心の距離にいるからだろうか。
自分の言葉を拒絶した心理定規に、00号が悲しそうな瞳を向ける。
だが態度とは裏腹に淡々と、ごく当たり前の常識を述べるかのように00号は続く言葉をあっさりと語った。



「上位個体であるこの一方通行が干渉していない。……―――つまりは、個体自らの『意思』に決まってンじゃないですか」






<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:41:06.35 ID:aHvdUUFQ0<>





一方通行は薄暗い閉鎖空間を我が物顔で闊歩していた。
何故ならば、此処が勝手知ったる彼の嘗ての『学校(ホーム)』だった場所だからだ。


特力研。正式名称、特例能力者多重調整技術研究所。
敷地内に死体処分場があると噂され、一方通行曰く、噂以上の施設だったという其処は
警備員によって制圧・解体されて以来、書庫の中でも厳密な領域に記録された謂わば禁断の場所だ。


彼がこの研究施設を居としたのは9歳までだったが、幼いながらも記憶は正確だったらしく
心当たりのある場所を虱潰しに探していけば『標的』は考えていたよりも早く、そしてあっさりと見つかった。



「―――――………00号の確保、上位命令文の中断、そして此処の解明……キミが来るのはもう少し後だと思っていたのですが」


「ンな回りくどい事しなくても、俺のクローンが完成していた時点で学園都市内に本拠地を置ける場所はある程度絞れンだよ。
 俺のDNAマップを採取・保管できた場所、クローン製造に必要な機材の揃っている場所……
 『実験』当時使っていた研究所は木原の件の後真っ先に調べたが何も出て来なかった。だから、後は可能性のある施設を片っ端から潰したまでだ」



一方通行は幼少期から施設を転々としてきた存在だ。
どれだけ絞り込みをした所で、可能性のある施設は相当な数になる事だろう。


とんでもない事を平然と断言する一方通行に、黒衣の男が子供の悪戯を見る様な目つきでクスリと苦笑した。
そして、悪さをした少年に尋ねるかの如く、一方通行に優しげに問いた。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:42:14.21 ID:aHvdUUFQ0<>


「それでも、キミの居る組織が体勢を整えてから突入するにはまだ早い。見る限り1人で来たようですが……一体どうして?」

「あのシスターがデメエらの用意した第一陣――――最初に遭遇したクローンに接触した時点で、
 天草式とやらがスペイン星教の企みに気付くのも時間の問題。
 なら、テメエの目的にスペイン星教の利益は無関係っつゥ事になる。つまりは学園都市の破壊こそ純粋な目的。
 そンなテメエが、クローンの情報を他勢力に売り渡すだけで留まるとは思えねェ。何仕出かすか解らねェ以上、早めに潰すに限る」



場違いな拍手の音が響き渡った。
「正解、正解です一方通行!」と黒衣の男が心成しか嬉しそうに語る。



「ああ、その通りです。確かに私は別の策も用意していましたよ?キミの読み通りです、素晴らしい!」



我が子がテストで100点をとった時の様な男の妙な態度に、一方通行が微かに眉を顰める。
先程からコイツは何処か自分に馴れ馴れしい。


怪訝そうに自身を見る一方通行の視線に気付いたのか、
男が「ああ!」とわざとらしいリアクションを取りながらニコリと笑った。



「この施設が閉鎖されるまで、僕は此処に勤めていたんですよ。研究者として。キミの開発にも間接的ではありますが携わっていました。
 まあ、直接的な接点もありませんでしたし、キミは僕の存在など全く知らないでしょうが」



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:42:55.26 ID:aHvdUUFQ0<>


「――――酷い場所だと思いませんか、学園都市は?僕は思いましたよ。『こんな場所、あってはならない』と。
 科学者の端くれとして20年先の道を辿る学園都市に夢を持って来たというのに、現実は子供を使った非人道的な実験の繰り返し。
 キミの開発も見ましたよ……酷いものだった。辛かったでしょう?恐かったでしょう?
 私はキミ達の様な子供をこれ以上増やしてはならないと、そう思いましたよ」



『同情』を受けた事で一方通行の顔が顰められた。
男が何処の研究所にいようが、自分とどのような関わりがあったのかなど一方通行には興味が無い。
それよりも、



「………それが、お前の『理由』か?」

「研究所が閉鎖し故郷のスペインに戻ってからもずっと考えていました。―――どうしたら彼らを救えるか、悪たる学園都市をどうしたら壊せるか」



チッ、と一方通行が舌打ちをする。
気分が悪い。



「――――――――……余計な御世話なンだよ、」

「それはキミが『成功例』だからこそ言える台詞だ。『失敗作』となった他の子供達がキミと同じ事を言えると思いますか?」



この男の思想に共感し躊躇いが生じた為でなく、
自分の為などと男がバカゲタ表情で抜かす事に腹の底から妙な感覚が込み上げてくるのを一方通行は感じていた。



<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:43:50.80 ID:aHvdUUFQ0<>


「故郷スペインで私は『魔術』という学園都市の科学力に拮抗しうる力を得た。
 この力を持ってして学園都市を壊してしまえば、もう彼らの様な子供達が生まれる事も無くなる……」



男の貌付きが、『崇高な思想』を語る酔った表情から一変し、何十年もの時をひと思いに過ぎ去った老人の様なそれに変わった。
幾重もの苦難を越え悟りきった眼で一方通行を見遣った男は、彼へと目線で同意を求める。
しかし、



「テメエが何をほざこォが、俺とテメエが相入れる事は一生ねェ」



「残念です」、と男が呟いた。
男にとっては一方通行の様な学園都市の暗部に浸りきった者も『憐れな存在』の内なのかもしれない。
それでも、男が手段に一方通行にとって何より大事な『憐れな存在』を蝕んだ時点で、彼は一方通行にとっての『敵』となる。


「ならば、互いの信念を賭け合わねばなりませんね」。
黒衣の男がそう言うと、今まで2人の遣り取りをじっと傍観していた一方通行と全く同じ顔をした少年が無言で彼らに歩み寄った。



「此の場はお任せ下さい、マスター。と一方通行はオリジナルと対峙する意思を見せます」

「お前……その馬鹿に付いてく事がテメエらクローンにとって本当に正しいと思ってンのか?」



一方通行は尋ねる。見た事も無いほどに、悲しそうな瞳だった。
そして――――――――――――――……





<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:44:35.49 ID:aHvdUUFQ0<>




「――――――お前達は、それでいいのか?」



そして、上条の問いに13号が答えた。



「聴こえなかったのなら何度でも繰り返しましょう。マスターの為に生き、マスターの為に死ぬ。それが我々の使命です、と一方通行は語ります」



13号の答えに、上条の鋭い視線が彼を射抜く。











「我々はマスターの手によって生み出され、マスターの手によって育まれました。謂わば、マスターは我々の創造主なのです。
 命を与えてくれた、心を与えてくれた。そんな存在に使える事を幸せと呼ばず何と表現しますか、と一方通行はオリジナルに尋ねます」



一方通行が押し黙る。
答えを探しあぐねるのではなく、その答えをどう伝えようか悩む様に暫く間が空いた。


僅かな間を置いて、一方通行が自虐めいた笑みを零す。
「まさか俺がこンな事口にする羽目になるとはなァ……」と呟く彼は何処か遠くを見ていた。






<> 第十六話 『部屋と命とミサカ』<>saga<>2011/01/29(土) 19:45:52.57 ID:aHvdUUFQ0<>




「馬鹿げた事抜かしてんなよ……マスターの為に生きて死ぬだ……?ふざけんな!お前達を道具としか見ていない奴に、お前は命を賭けんのかよ!?
 お前はただ逃げてるだけだ。『生きる』って事を知らないまま、その辛さや恐さにばかり脅えて『主人の為』を謳って考える事を放棄しただけだ!」




嘗て、自分を『実験動物』と称した少女達がいた。
彼女達は、自分達の価値を『何度でも作れる量産品』としか見ていなかった。
『替えの利く存在』としか認識していなかった。




「生まれた過程がどォあれ、テメエの命もテメエの心も、全部テメエ自身のモンだ。与えられた借りを返すっつゥその考えが間違ってンだよ。
 生きるも死ぬも他人になンか委ねてンじゃねェ、自分自身で決めやがれ」




この少年達も同じだ。
『個』を知らず、『命』を知らず、数奇な運命からそれについて考える事を止め、『マスター』という絶対的上位者に依存していたに過ぎない。




「どれだけ俺が言ったところで、お前がまだ自分を『道具』に思ってんなら、……―――――――――」



「それを『使命』だとか言って、その生き方を『幸福』っつゥンだったら、……――――――――」










「「まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!!!」」








今宵、2人の『ヒーロー』が咆哮する。




<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/01/29(土) 19:46:56.39 ID:aHvdUUFQ0<>
以上です。
ウチの一方さんは上条さんの影響を物凄く受けています。それなのに自分はヒーローなんかじゃないと思ってしまうお馬鹿さんです。
次回は打ち止めとインデックスが大活躍!!原作12巻の終盤を読むとこの2人はセットでヒロイン的な演出をしたくなります。

因みに中盤に出てきた13577号がこっそりマイナー削板派の設定。どっかで削板と絡ませたいです。>>829様のアイデア的な感じで。


ところで。
来週一方さん来たァアアアアアア打ち止め来たァアアアア妹達マジ可愛ィイイイイイイイイ!!!!!!
うっひょひょほほほほほほほほほほ来週まで待ちきンねェェェェエエエエエエエ!!!!!!!!!!!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/29(土) 19:50:06.59 ID:NNgL3zAQo<> 乙乙リアルタイムで楽しませてもらった!
思わずそげぶキターって声に出してしまったww

来週一方さんて予告カットに出てたのか
ウチの方の放映は今夜なんだぜ今から全裸待機なんだぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/01/29(土) 19:50:17.93 ID:Y65qqaHS0<> おつ
予告で一方さんと打ち止め観て本気で絶叫した
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/29(土) 20:17:45.62 ID:i1pCP1I+o<> おつおつ

おお、来週一通さんか。また見始めないとな

ところでこんだけクローンがいたら学園都市第一位が着用したシャツ大量生産じゃね?売れるんじゃね?
某ニートさんに相談してくるか
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/29(土) 20:40:27.83 ID:ZVoS8iLDO<> 乙です
すでに個の意思を持ってるってのが面白いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 00:19:34.84 ID:4BOi+sM0o<> マジ乙です。自分の意志とは言い難いかも知れんが、自分なりの個性を既に持ってるってのはいいな。

一方通行が出ない回は飛ばし飛ばしに見てたけどついに来週から出てくるマジ楽しみ。
でもテレビ版は所々俺の好きなセリフをバシバシ端折ってくるからな〜

上条さんが黒子を助けた時の、エツァリのことを表したセリフとか
つっちーがオリアナと戦闘する直前のセリフとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 10:26:19.32 ID:Gi6Cq69IO<> あまりにも乱発で気になったから言わせてほしい。
一方さんは二人称でテメエは使わない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 14:58:23.58 ID:FdBVLncM0<> 乙
上条さんがドヤ顔でそげぶしてるのにまるで見向きもされてない・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 19:57:42.05 ID:ksKRz7N8o<> オマエだな>二人称 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 23:19:49.76 ID:kw/6Ok78o<> アニメでその設定なかったことにされなかったっけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/30(日) 23:21:49.74 ID:/wapf8wk0<> 木原くン「テメエが[ピーーー]」一方さん「オマエが[ピーーー]」と覚えとくと間違いないよ
これ豆な>二人称 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/31(月) 16:29:43.01 ID:r9WWsKGIO<> いや、アニメではテメェって言ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/31(月) 16:56:24.64 ID:x5/80HFDO<> くんかくんかが足りない…
もっとくんかくんかを
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/31(月) 23:29:36.27 ID:Kc0qI/7To<> 原作ではテメェとは言わない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2011/02/01(火) 20:06:27.08 ID:ydYPajdg0<> 原作はオマエしか言ってないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/01(火) 21:47:24.43 ID:/z7oWptoo<> 時間が経つうちに上条さんに影響されてテメェいうようになった感じでいいんじゃないの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/01(火) 21:53:23.00 ID:5ZHMQcIJo<> 憧れのヒーローの口調を真似するなんてよくあることです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/01(火) 22:04:38.10 ID:zfSLU6J1o<> なるほど、小学生がだってばよって言うようなもんか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/05(土) 20:48:05.54 ID:8a6CRsZU0<> 本編に通行止め出てきたな、OPもいい感じだし
打ち止めの可愛さパネェ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/06(日) 20:59:10.37 ID:jZsDVP8N0<> ……まだなのか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/06(日) 22:23:25.99 ID:sZ+8tRk60<> 総合に来てたしそろそろじゃない?wktk <> 生存報告<>sage<>2011/02/07(月) 21:30:23.05 ID:H7UuwyLW0<> リアルで忙しくやってるうちにテスト週間に入ってしまい……隙を見てちょこちょこ書いていますが時間がかかりそうです。
残り2話を予定しているのですが、これら2つはあまり離して更新したくないので暫しお待ちいただきたいです。

>>876様
よ、よく解りましたね……!!やはり僕の文体は分かりやすいでしょうか?
しかしあれは2部に入る前に書いたクローン編のボツネタ改変版だったのでずっと前に完成していた書き溜めなのです。
誰も総合にいなかったからついやっちゃっただけで。

一方さんの2人称間違えまくりでした!全部僕のミスです!
学年末の最後の試験なので時間がなかなか取れそうにありませんが、隙を見てなんとか書きあげます。本当にマイペースで申し訳ありません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/11(金) 04:30:31.18 ID:PA4ch2BHo<> 保守 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/11(金) 07:09:02.96 ID:nzodil0AO<> ここは保守いらない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/11(金) 08:33:53.46 ID:h+yxgF4DO<> >>878
ここVIPじゃないのだけれど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/11(金) 22:10:06.79 ID:GWRFEvfY0<> 支援は要るけどな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/17(木) 18:17:21.94 ID:BE8Rw8C80<> まだっかなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/02/19(土) 21:01:45.25 ID:CUpkNu440<> 保守 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 21:08:14.41 ID:pOymmcyAO<> ageンなよ、期待するだろォが <> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/19(土) 22:14:13.15 ID:NbiBTJcl0<> あばばばばば本当に遅くなって申し訳ありませんっ!!
バカ兄貴の所為でLAN侵入されたりテストがあったり色々あったのですが、やっと落ち着いて書けました!
長らくお待たせいたしました、そしてお待ちいただいた皆様本当に有難うございます。

それでは以下より本編をどうぞ。 <> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:15:32.15 ID:NbiBTJcl0<>



「それを『使命』だとか言って、その生き方を『幸福』っつゥンだったら――――……まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す!!



 ――――――――――――………なァんて、らしくねェ事吐いてみたワケだが………」



一方通行が目の前の01号を静かに見遣った。
01号は彼の言葉にも僅かに瞳を揺らしただけで、『主人』を庇い立つその態度を崩さなかった。



「………飽くまで態度は変わりませンってか。ま、ンな簡単に目ェ覚めるなら楽だわなァ」



首元のチョーカーに手が触れたかと思えば、一瞬で一方通行と01号との間合いが消える。
01号の首筋に綺麗に当たった手刀はすぐさまその意識を奪った。



「仕置きは後だ、寝てろ」



一方通行が床を滑る01号の体を緩く弾くと、彼より幾ばくか年若い身が放物線を描いて遠ざかった。
その距離は彼が室内で派手な戦闘を起こしてもギリギリで余波が届かない場所に当たる。



「どォやら、お前の方を先に何とかしねェとならねェよォだからなァ」



向き合った黒衣の男がニコリと嗤う。



「キミには理解しがたいものかもしれませんが、子というのは無条件に親を慕う生き物なんですよ」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:16:03.69 ID:NbiBTJcl0<>


一方通行の頭に芳川桔梗と黄泉川愛穂の顔が過る。………違う。彼女達は、こうではなかった。
紆余曲折を経て得た俺の家族は、こンなモンじゃない。



「悪ィが知らねェなァ、俺は育ちがイイもンで」



教えなければならない。俺が。
クローン達のオリジナルとして。―――――――『兄』として。


『この子達は、私の妹だから』
『お前は、世界でたった一人しかいねえだろうが!何だってそんな簡単な事も分っかんねえんだよ!』


かつて、悪党を名乗った。自分の悪行も認識している。
それでも、今だけは自分がヒーローを努めなくてはならないのだ。例えそれがどんなに滑稽に見えたとしても。今だけは、絶対に。


この『主役』だけは譲れない。








<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:16:36.45 ID:NbiBTJcl0<>






「―――――つまりは、個体自らの『意思』に決まってンじゃないですか。一方通行には止めようもないですよ」



00号のあっさりとした、しかし重みある響きにその場の皆が押し黙った。
個体の意思。
個人が各々の決意を持って決めた、『主を護る』という覚悟の現れ。


だからといって放置していいかと問われれば、それだけは否定する。このままでは学園都市全体の立場が危うくなるのだ。
だがこれまで無理矢理働かされているクローン達を解放する為に戦ってきた彼らにとって、
自ら死の覚悟を持って挑まれるとあれば多少は戸惑うというものだ。



「………まあ、意思でもなんでも構いません。天草式側は『善良な一般人』が処理して下さるようですし」



キイ、という音と共に扉が開いた。
疲れた様に肩を回しながら入室した男が、空気も読まず冷静に告げる。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:17:25.62 ID:NbiBTJcl0<>


「さて、噂の上位個体さん。あなた方のマスターとやらの居場所を教えてはくれませんか?
 一方通行さんは独自ルートで勝手に行ってしまったようですし、土御門さんも魔術的工作のチェックでゲートに向かわれましたから
 戦力的には不安が残りますが――――――――――行かない訳にもいきませんしね」



良く言えば柔和な、悪く言えば胡散臭い笑みを浮かべながら、アステカの魔術師・海原光貴が尋ねる淡々とした声音に00号の方がピクリと震えた。
瞳の奥に浮かんだ海原の殺意に身を縮込ませながら、現在の命令受諾順最上位者にある心理定規へと視線を向ける。
彼女が首を縦に振った瞬間、焦った様な幼い滑舌がペラペラと『個性持って』喋り出した。



「御坂さんの目の前で妹さん達を嬲ったのを見てついカッとなってしまって……彼らは『個人』なのに、大人げ無かったですかねえ」



ニコニコと笑う同僚に、浜面の足が半歩退いた。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:18:13.32 ID:NbiBTJcl0<>





待機するよう宛がわれた部屋から聞き耳を立てていた打ち止めは、隣の部屋から微かに洩れるその会話に切なげに目を伏せた。



「………あの人………やっぱり勝手に行っちゃったんだ、ってミサカはミサカは……」

「――――――まあ、古来から戦士は戦場に向かうに当たり妻子を置いて行くものですよ、とミサカは上位個体を慰めます」

「気を遣ってくれて有難う、ってミサカはミサカは―――――――」



……………………?
何だか今、会話が成立しなかったか?というか、誰かに慰められなかったか?


「特力研………厄介な所を根城にされましたね。
 あそこに関して残っている情報は限られていますし、書庫の地図と実際の設計も大分異なると聞きます。
 如何に結標淡希といえどそのような場所への転移は不可能でしょう、とミサカは指摘します」


――――――――ミサカ?
ミサカネットワークではない。ネットワークを利用したなら上位個体たる自分が気付かぬ筈がない。
つまり、コレは…………



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:18:52.93 ID:NbiBTJcl0<>


「そこかァアアアアアアアア!!!!!!!!」



打ち止めが天井に向かって強能力者クラスの最大電力をぶつけると、明らかに人の棲む場所に数えないそこから「うぉわ!」という悲鳴が上がった。
途端、ガタガタと慌てた様な足音が鳴り天井からニョキ、と彼女を少し成長させたような顔が首を出す。



「酷いっスよ上位個体ー。折角気ぃ使って情報持ってきたンスよー、とミサカは自分のキャラに合わないと知りつつ上位個体に訴えます」

「3秒間待ってやる正直に吐け何しに来たゴラ」

「いやホントに情報持ってきただけっスよー、どうしても直接しか伝えられない情報だったんで仕方無かったんス。
 別に結標淡希に並ぶ特殊性癖妹達『シショターズ』からショタセラレータ個体の写真を撮って来るよう買収されたなんて事はないスよー、
 とミサカは自身の検体番号が17600号、すなわち通称スネークと呼ばれる個体である事を証し無罪を証明………」

「出来てねェよンだコラ、ショタセラレータの写真撮影に買収されたってどうゆう事だ吐け」

「――――――――――フッ、あの人の影響が強すぎて嘗てのロリがコレですか……とミサカは上位個体への萎えを表明します」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:19:25.61 ID:NbiBTJcl0<>


閑話休題。
17600号、通称スネークへの尋問がどのようなものであったか。
その悲惨な過程を教える事は健全をモットーとするこの物語では明かすことが出来ない。


話を戻そう。
疚しい気持ちは多少存在したものの、17600号が持ってきた特力研――――特例能力者多重調整技術研究所に関する情報は信頼できる確かなものであった。
そして、この情報で少しでも上位個体の助けになりたいと考えた気持ちもまた、確かなものである。



「特力研といえば、直接踏み込むにしたって当時の研究者か被験者の案内がなければ直ぐ迷うと聞く
スネークを自称するこのミサカの中でもトップシークレットな情報の1つですよ、とミサカは補足します」

「そんな……じゃああの人を追うことは出来ないの……?」



不安げに揺らぐ打ち止めの瞳をしっかりと見据え、17600号が力強く首を横に振った。



「ご安心を。このミサカには特力研を隅から隅まで案内できるだけの情報が完備されています、とミサカは最近出来てきた胸を張って答えます」

「―――――――……すねーく………、」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:20:27.98 ID:NbiBTJcl0<>


姉妹の間に、熱い絆が結ばれる。
そして、



「…………………ねえ。なんでそんな場所の情報をあなたはそんなに詳しく知ってるの、ってミサカはミサカは緊張の面持ちで尋ねてみたり」

「いえ。『実験』当時お姉様に各研究所を破壊された後移設した183の施設の1つに特力研も一時的に含まれた為、
 そこに配備された別のミサカが知っていたのを教えてもらって―――――」

「……………」

「……………」

「……………それ、やっぱ直接持ってくる必要無くね?」

「……………」

「……………」







<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:21:13.23 ID:NbiBTJcl0<>






勢い良く押し開けられたドアから、あれだけ用意した部屋から出てはならないと説き伏せた打ち止めが現れたとき海原の中で嫌な予感が走った。



「ね、ねえ!!ミサカ、特力研の案内できるよ!だからあの人の所に一緒に連れてって!!ってミサカはミサカは皆さんに交渉を持ちかけてみたり!!」



ああ。嫌な予感というものは何故こんなにも当たってしまうのだろう。
愛しの彼女が妹と認めたこの少女を出来得る限りは危険な目に合わせたくないというのに。



「……………駄目です。その案内の詳細とやらだけ残し貴女は此処に残って下さい」

「きょ、拒否するならミサカ勝手に行っちゃうよ!一人で勝手に突っ走ってあなた達の邪魔になっても知らないよ!!ってミサカはミサカは脅してみる!」



少女曰く恐喝された大人達の顔が一斉にミサコン2号(ミサカコンプレックスの略。彼らの認識では1号は一方通行である)へと向けられる。
「どうすんだよ、オイ」「どっち選んで何があってもお前の責任だからな」と体よく選択権を押し付けられ、彼は



「…………………………………………………………仕方ないですね」



たっぷり原稿用紙1行分の間をとって、諦めた様な疲れ果てた様な海原の頭が項垂れた。






<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:22:17.01 ID:NbiBTJcl0<>






このクソ野郎を潰さねェと、全ては収まらねェ。
そう判断した一方通行が黒衣の魔術師へと突撃しようと動き出す。


足元のベクトルを操作し、ミサイル並みの速さで彼の体が男に向かって飛び出した。
―――――――――その時。


妙な感覚が体中を駆け巡ったのを、一方通行は感じた。
本人の意思とは関係なしに、能力で取っていたバランスが彼の両足が突如として縺れたことで崩れ去り細い体が冷たい床へと崩れ落ちる。


経験ある、演算式の崩壊。
導出された完璧なソレが何かしらの干渉を受けたことで解れていく瞬間。



「――――――――……AIMジャマー、か」



だが無駄だ。
高位能力者にとってその装置がどれほどの障害になるかなど、もう嫌というほどに知っている。
それ故にこの手の対策は既に取ってある。


ヤツが仕掛けてくる前に、杖に仕込んだジャミング装置が発動して反射を取り戻せる。
使ってくる手が三流なンだよ。そう一方通行が心中で毒づいた。
しかし。



「ご明答。………ですが、勿論私もこの程度で完全にキミを封じ込めるとは思っていませんよ?
 だからこそ、妹達を利用する作戦に当たって『彼ら』を用意したのだから。―――――――……01号、」



呼ばれた01号が主人へと歩み寄り、跨った身体を床から起こそうとする一方通行へと静かに目を向けた。
すると、



「了解しましたマスター、と一方通行は事前に指示された通りのプログラムを行使します」



すると、01号が手に持った漆黒のナイフを自らの腹部へと突き刺した。
ズブリとした嫌な音がやけに響き、途端、ボタボタと大粒の鮮血が無機質な床を彩ってゆく。
感情を持たない人形の様に淡々とした姿を纏っていた01号の表情が、光悦に歪んだ。


≪ こ、の、一、方、通、行、が、一、番、お、役、に、立、て、た ≫


音にならない声で小さく動かした口から発せられた言葉に、一方通行が戦慄する。




そして、世界が反転した。





<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:23:21.64 ID:NbiBTJcl0<>


「「ぐ、あァァァアァァァァァァァアアァァァア!!!!!!!!!!!!」」



血生臭い叫び声が趣味の悪いBGMのように反響した。
零す血が床を汚すのは片一方である筈なのに、強烈な痛みに響き上がったのは2つの悲鳴。


―――――――01号と、一方通行。


それぞれその場から崩れる様にして倒れ、このまま沸騰してしまうのではないかと思い違うほどに沸き洩れてゆく血液に意識を奪われる。
苦しみ、空ろな眼で視線を彷徨わせる彼らを見て、魔術師が嗤った。



「ああ、キミは部下と幻想殺しの一戦を見てはいなかったのでしたか。それではこの可能性に気付かなかったのも無理はない」



両手を大きく広げ悠々と歩く姿は、宛ら舞台の主演男優だった。
教師が生徒に指導する様に、或いは大人が子供に言い聞かせるかのように。聞きわけの無い幼子を嗜める仕草で男が口を開く。



「血は、人間にとって最も個を示す存在だと思いませんか?血とは生命、血とは人と人を結ぶ証。他方で血とは戦と暴力の象徴。
 ―――――――分かりますか?血とはキミがキミである絶対の物的証拠なのですよ。
 しかし……『彼ら』を作った私が言うのもなんですが、キミの血は非常に『個』の括りが危うい。

 こうして『彼ら』の血を代用して、キミに術式が掛けられるようにね!!!!!」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:23:50.18 ID:NbiBTJcl0<>


もし一方通行が、彼が部下とした男と上条当麻の一戦を目撃していたら、現在の朦朧とした頭でも直ぐに状況を理解しただろう。
先程の男と使い勝手は違くとも、これは血液から特定した他人にピンポイントでダメージを与える術式である、と。


だが悔やまれる事に、彼はその光景を知らない。そして彼はまず、魔術を把握しきれていない。
骨が軋む様な得体の知れない激痛に、段々と意識が奪われていく。



「聞こえていますか?――――――――……ああ、良かった。まだ辛うじて意識はあるみたいですね。
 苦しいでしょう?痛いでしょう?キミが嫌だと、もう我々に抵抗しないとそう仰って下されば私はこの痛みからキミを解放します」

「………ふ、……ざけンな………クソッタ、レ………」



ここで彼から声が発せられたのは、ある意味奇跡と言っていい。
或いは意識を捨て去るという手段で激痛から解放されなかった事を不幸と呼ぶべきか。



「――――――――………残念です」



男がそっと、静かに目を伏せた。
何かを思い返す様に遠くへ意思を馳せ、そして、再び静かに目を開ける。



「では、私は見届ける事にしましょう。キミの最期と、……――――――その懐かしい姿を」



一方通行の思考が、シャットアウトした。






<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:24:33.81 ID:NbiBTJcl0<>





特力研に居た事があるという個体の記憶を、ミサカネットワークを通じて得た打ち止め案内の下、一行はその得体の知れない研究施設を探索していた。
因みに17600号ことスネークは再び天井裏に潜りこっそりついて来ていたりする。
――――――恐らく師匠たる海原にはモロバレだろうが。余計なことしやがって後で覚えてろよ馬鹿弟子と罵る目と目があった時は本当にビビった。


ホラー映画に出て来そうな、廃れた建物特有の不気味な雰囲気。
しかし人が居を構えるが故に所々で発せられる機材の振動。


先頭を案内人の打ち止め、殿に控えるのは自動防衛能力を誇る絹旗。
00号との戦闘で負傷した滝壺と看護・護衛を任された心理定規を除き、打ち止め、浜面、結標、海原、絹旗、そしてこっそり17600号を加えた彼ら一行は
無機質な静寂に包まれた廊下を静かに、淡々と歩く。


だが廊下を突き曲った所で、急として浜面が滞りの無かった足を止めた。そして自身の前を歩く打ち止めの肩を掴んで彼女を止める。
え?と呟く打ち止めに、人差し指を口元に当て黙るよう指示した彼は周囲を警戒しながら五感を散らした。
――――――数秒を要して、浜面は確信する。


焦った彼が、立っていた廊下と隣り合った部屋へと無理矢理打ち止めを押し込める。
続いて絹旗や結標を部屋へと移動させようとしたが………間に合わない。


キリキリとしたワイヤー音。何度だって聞き、何度だって脅えた駆動音。
嘗て大規模なスキルアウト集団の副リーダーを務めた彼は、身を持って知っている。


これが、警備員が所有する駆動鎧の音である事を。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:25:12.06 ID:NbiBTJcl0<>


肩を押された打ち止めが誰もいない実験室の様な部屋へと転がった次の瞬間、
天井が爆破され、先程まで一緒だった彼らの頭上へと瓦礫の雨が滴った。


助けなきゃ。そう彼女が動き出す前に、神と呼ばれる人物はサディスティックにも現実を突き付ける。
プラネタリウムが見せる様な星空を、しかし実際に映し出す穴の開いた天井からは次々と武装した人間が極太のワイヤーを蔦って降下してくる。


思わず、悲鳴を上げそうになった。
もしかしたらあの瓦礫の下には、此処まで一緒に来た彼らが埋もれているかもしれないのだ。
無防備な彼らに武器が向けられたら。そう思うと、ぞっとした。


だが打ち止めは駆け出そうとした足を止める。
動くな!
聴こえた声は、確かに聞き覚えのあるものだった。



「動くんじゃねえぞ、こっちには暗部の高位能力者が2人もいるんだからな!!!」



駆動鎧に向けられて怒鳴ったそれは、同時に自分に向けての物であることを打ち止めは悟った。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:25:48.48 ID:NbiBTJcl0<>


「――――――構え」



浜面の言葉に意も向けず、駆動鎧の一団の中でもリーダー格らしき人間から冷淡な声が上がった。
指示を受けた武装兵達が次々に銃を向ける。


――――――殺される前に、殺る。
判断を下した結標が攻撃準備の為に仕込んだコルク抜きを手元に転移した。否、転移しようとしたと表現すべきか。
ズプリと肌に何かが食い込んだ感覚はまさしく本物。手品でも何でもなく、自分が弾き出した演算式が招いたチカラの結果。



「い、やぁああああああああ!!!!!!!」



結標の白い手に真っ赤な肉の溝を造るかの如く喰い込んだコルク抜きが、嘗てのトラウマを蹂躙する。
1度克服したとはいえ、そのグロテスクな光景は女が直視するには些か厳しい物がある。
特に、その光景を生み出すのが自分の身体となれば。


結標の悲鳴に反応した浜面が小さく舌打ちした。
以前あの第一位が杖に対策装置を仕込んでいるのを見た事があった為見過ごしていた。
それを利用する立場にあった自分は、誰よりも知っていた筈なのに。
―――――――高位能力者は自分の力を過信し過ぎると。それ故に、付け入る隙ができると。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:26:21.11 ID:NbiBTJcl0<>


「絹旗!!お前、AIMジャマーへの対策は!?」

「超申し訳ないんですが……何も……」



チクショウ、俺のミスだ。
浜面は唇を噛むが、彼が今そうした所で打開策など生まれる筈も無い。


能力が使えなければ結標も絹旗も普通のか弱い女の子だ。
まともな戦力としてカウントできるのは、これで無能力者の浜面と元より能力者でない海原だけとなった。
目の前には、最新鋭の駆動鎧が十数機。



「……………万事休す、ってヤツですかね」

「諦めたらそこで試合終了だぜ?………ついでに命もな」



或いは、もし此処に滝壺理后がいれば、AIMジャマーによって強制的に乱反射されるAIM拡散力場を補正してもらうことが出来たかもしれない。
そうすることで2人の高位能力者が戦闘に加われたかもしれない。
だが、彼女は此処にいない。


海原と浜面が、間に結標と絹旗を挟み背中合わせにそれぞれ構えた。
攻撃態勢を取った彼らに駆動鎧の集団がジリ、と歩み寄る。


その光景にスゥ、と息を吸い込んだ男達は



「「うおおおおおおおおお!!!!!!」」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:26:57.17 ID:NbiBTJcl0<>


轟、という派手な爆発音と共に浜面の前にいた駆動鎧が崩れ落ちた。
機体が装備していた大型のショットガンが衝撃で吹っ飛び、すかさずそれを浜面が奪う。


ガガガガガガガ!!!!と三流映画の様に生身の人間が持つには些か大きすぎるオモチャを乱射する彼の後ろで、
海原の手の内にある黒曜石のナイフが、駆動鎧が突入してきた際に出来た天井の穴から射す光を浴びてキラリと光った。そう、金星の光を浴びて。


今度は海原の隣で彼を射殺しようとしていた機体が破壊され、生身の人間が中から剥き出しとなる。
しかし、駆動鎧は撃破された仲間には目もくれず、寧ろ邪魔になったそれらを薙ぎ倒すかの如く構わず進攻し、施設内にその数だけを増やしていった。


―――――――キリがない。
弾切れを犯したショットガンに舌打ちをしながら次の獲物を拾った浜面が、その隣に落ちていたそれなりに小型の武器を駆動鎧に向かって蹴り上げた。
勿論揚々とそれを躱した機体が浜面へと襲いかかる。



「クソッ!!」



絹旗を背に庇いながら、再び浜面が無造作に撃って、撃って、撃って撃って撃って撃って、そして撃った。
その結果、彼の判断は見事に功を成し――――――――



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:27:35.82 ID:NbiBTJcl0<>


「ありがとう、浜面のお兄さん。ってミサカはミサカは立ちあがってみる」



彼が蹴り上げ、それを駆動鎧が予想に反せず避けた事で描いた通りの軌道を持って戦場に隣した小部屋の窓ガラスを割り転がった装備銃が、
打ち止めの手に渡った。
それを拾って構え、学習装置の知識を元に一通りの動作を確認した打ち止めが静かに立ちあがる。



「―――――上位個体、これも」



天井から、滴り落ちる血も気にせずに顔を出した17600号が打ち止めでも片手に収まりそうな短銃と暗視スコープを手渡した。



「駆動鎧突入の際に、天井裏でやられました。利き腕と足が使えないミサカは足手纏いにしかならないでしょう。
 手を貸すと言って付いて来ながら……申し訳ありません、とミサカは苦渋の選択をします」

「大丈夫、此処からはミサカ1人で行く。怪我してる所悪いけど17600号は駆動鎧の動きをネットワークで実況して、
 ってミサカはミサカはお願いしてみたり」

「っ!!…………了解しました。お役に立てず申し訳ありません、とミサカは再度謝罪します」



僅かに血の付いた短銃と予備の弾丸をズボンのベルトに押し込んで、打ち止めが静かに足を進めた。
AIMジャマーに苦しめられているのは、きっとあの人も同じなのだ。
『無敵』に最も近かった彼が『全ての能力を打ち消す無能力者』に敗北を喫した事は、彼女と彼女の姉妹たちが一番よく知っている。



「ミサカだけは、あなたを絶対に一人にしないから………ってミサカはミサカは断言してみる」



共有された知識を頼りに1人立ちあがった打ち止めが、天井裏に仕込まれた通気口の中へと消えた。






<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:28:15.63 ID:NbiBTJcl0<>





もし打ち止めが自分の考えを正確に汲み取っていたなら、一方通行の下へあの子は向かった事だろう。
これは17600号だけでなく、浜面にとっても苦渋の選択であった。
まだ幼い年下の女の子を戦闘に巻き込み、あまつさえ血生臭いその先へと1人で向かわせたのだ。



「この場を何とか切り上げて、急いで追いかけないといけませんね」

「………気付いてたのか」



――――――当たり前でしょう。
震える海原の声を聞き取り、ああ、コイツも辛いんだな、と浜面はそう思った。そう言えばコイツはあの子の姉ちゃんが好きだったんだっけ。



「それにはまず、此処から生きて脱出しねえといけねえな」

「結標さんと絹旗さんを連れて暗部の人間なんかには似合わないハッピーエンドの大団円、といきますか」



改めて駆動鎧と向き合った男達は、既に限界に近かった。
後ろに無防備の女2人を庇い、限られた武器で学園都市最新鋭の装備を相手取っているのだから当然といえば当然だ。



「つーか……多少見た目が違うとはいえ何で警備員の駆動鎧がアイツらに加担してんだよ」

「大方昔の『ブロック』のような理由でしょう。
アレイスターの不在を知り、彼の負の財産たる研究や実験が進められる前に学園都市自体を崩壊させる………そんな所でしょうか」



それでも、男達は引くわけにはいかない。
どれだけクソッタレで反吐がでるような街だとしても彼らの大切な人間が暮らすこの街を、
加えて何より、今後ろにいるか弱い少女らを、彼らは護らなくてはならないのだ。


護りたいのだ。



「――――――やってやろうじゃねえか、R-18も真青の極上スプラッタの完成だ」



そして、男達は戦に臨む。





<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:28:45.56 ID:NbiBTJcl0<>




打ち止めは薄暗い通気口の中を匍匐前進で進んでいた。
能力は使えないが、17600号から託された暗視スコープのお蔭で何とか周囲を窺える。


特力研に居たという個体が目星を付けた部屋は残り僅か。他は全て、既に当たった物の見当違いだった場所だ。
――――――――何処?あの人は何処なの?


打ち止めの中で焦りが生まれる。
早く行って、ミサカはあの人を助けなくちゃいけないのに。
あの人の、傍にいてあげなくちゃいけないのに。


奇しくも、彼女が持つ一方通行への強い執念は、彼女が彼の居場所を察知するに十分な働きをしてくれた。
奇しくも、というのはそのきっかけがあまりにも穏やかでなかった為だ。
6年前の9月30日に。そこから彼がいなくなり、再開した黒翼の彼に。更に転じて極寒のロシアで。


彼女が感じたのは、悲しい事に何度も嗅いだ、彼の血の匂いだった。
血の匂いなんて人間そう大差の付く物ではない。別人の物だ。そう否定するのに、彼女の本能が正解の鐘を上げる。


通気口から天井裏へと這い出て、僅かに開けた天井から下の部屋を見下ろす。
途端広がったのは、強烈な金属の匂い。金臭い不気味なそれに、打ち止めが眉を顰める。


―――――― 一体誰から……?
周囲を見下ろして窺った打ち止めの目に、彼より僅かに幼い、しかし同じ顔をした血を流す少年の姿が映る。
不謹慎ではあるが、その時確かに打ち止めは良かったと、そう感じてしまった。


だがその感情の中に微かな違和感が混じる。
何かを見過ごしている様な気がする。打ち止めは少年の姿を注視した。そして、やっと気付いたのだ。


―――――――オリジナルたる一方通行の最盛期、6年前をモデルに造られているにしては幼すぎるというその事実に。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:29:50.96 ID:NbiBTJcl0<>


打ち止めはギョッ、とした。
盗み聞いた暗部の面々と尋問される00号の話では特殊な形態を取っているのは上位個体の00号のみ。
能力を用いて聞き出していたようだから、00号の認識的にそれは間違いないのだろう。


まさか、上位個体に知らされていない個体が存在したのか。
否。そんな事はない、と同じく妹達の上位個体を務める打ち止めは考えるまでも無く知っていた。


あえて情報を伝えられない事はあっても、暴走抑止を目的として製造される上位個体は全個体の存在を正確に把握していなければ意味を成さない。
だからこそ、彼が知らない個体など存在する筈がないのだ。なのに。


何か嫌な予感を感じた打ち止めは、血を流して倒れる少年から視線を反らし再び周囲を見渡した。
天井裏の狭い視界から嫌な予感の根源を見つけ出そうと身を乗り出す。


結論から言おう。
打ち止めはそれを見つけだすことができた。普通ならパニックに陥っても仕方の無い状況で発見を成し得たのだから褒められても良いだろう。


ただし彼女が見つけたのは、同じ様にして倒れる最愛の人の、やはり僅かに年若い姿であった。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:30:49.95 ID:NbiBTJcl0<>


他ならぬ打ち止めが渡したYシャツ。最後に見た彼と同じ、見間違えようのない、それ。


それは、確かに一方通行だった。
見る限りこれといった負傷はない。死に直結する様な傷どころか掠り傷でさえも彼は負っていないように思えた。
だが、その光景は異常だった。何処ぞの探偵漫画ではないのだ。人間がみるみる内に姿を幼くしていくなど、ありえない。


マジュツ。
その言葉が打ち止めの中で過る。このような超能力に関する知識を、彼女は入力されていない。
『実験』に際して妹達は戦闘術、ことそれぞれの超能力に関する特性や効果を知識として刷りこまれている。
それでも、彼女はこれを知らない。


消去法で、彼女が思い至ったのは10032号が遭遇した『マジュツ』だった。
0930事件の後発表された、学園都市とは異なる方法で開発されたという異能のチカラ。



≪ 誰か!学園都市にいる個体でヒーローさんの近くにいけそうな個体っている!? ≫



薄れゆく意識の中、当たり前のように『マジュツ』を語っていた男達を見た10032号。
彼女の記憶と彼女が感じた感覚を信じるならば、彼らは確実に、『マジュツ』を知っている筈だ。



≪ はいはーい、上位個体。丁度このミサカこと13577号がヒーローとシスターとお姉様と行動を共にしてまーす ≫

≪ なら『マジュツ』について急いで聞いて!!人を小さくさせちゃうようなヤツを、早く!! ≫

≪ え!?そっちそんな事なってるんスか…………コナン君じゃあるまいs ≫

≪ いいから早く聴けぇえええええええ!!!!!!!! ≫



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:31:28.22 ID:NbiBTJcl0<>




「あのー、スイマセン。何かウチの上位個体が人を小さくさせる様な『マジュツ』ってないか聞いてるんですが、
 とミサカは伝書鳩じゃねえんだからと思いつつ上位個体の伝言を概略して口にします」

「人を小さくする………魔術………?」



即座に反応したインデックスが考える様に額に手を置く。恐らく10万3000冊分の魔道書の知識を漁っているのだろう。
検索を終えたらしい彼女が、13577号に向けて質問を質問で返した。



「その現象が起こっている近くに黒いマリア像がないかな」

「あー……自分分からないんでちょっと聞いてきます、とミサカはネットワークでその情報を伝えます」



≪ 上位個体、シスターが黒いマリア像がないか確認して欲しいそうです ≫

≪ 黒いマリア像!? ≫



マリア像、マリア像………探してみるものの、天井裏という限られた視界の中から見つけ出すのは困難を極める事だろう。
巨大な物であればいいが小さなもの、例えば倒れているクローンや一方通行が覆いかぶさる事で隠れてしまう様な大きさなら此処からは絶対に見つけられない。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:31:55.08 ID:NbiBTJcl0<>


≪ 黒いマリア像はある筈です!!07号が教えてくれました!! ≫



突如、打ち止めと13577号の会話に別の個体の思念が紛れ込んだ。
信号を確認。―――――――これは、10039号。



≪ 教えてくれたってどうゆう事!? ≫

≪ 報告が遅れて申し訳ありません上位個体。先程訳あって一方通行クローンの一体を保護したのですが………
彼がそちらに居るマスター専属個体の予備だったらしく、黒いマリア像の存在を知っていたんです!≫



罠かもしれない。10039号は、あの人のクローンに騙されているのかも。



≪ シスターに伝えて、黒いマリア像の存在を確認。事の詳細の伝達を求む、って ≫

≪ 了解しました ≫



だが、打ち止めは信じたかった。あの人のクローンが自ら選択し、自分達に協力してくれている事を。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:32:38.74 ID:NbiBTJcl0<>


「スペイン星教……黒いマリア像……、やっぱり」



インデックスの確信の声を聞いた13577号が反応する。



「面倒臭いので感覚共有してあなたの声が直接上位個体に伝わるようにしました。ちゃっちゃか説明お願いします、とミサカは求めます」

「多分それはスペイン星教独特の……――――――
 『夾雑物の加わらない原始』を意味する『黒いマリア像』を使った『原始還元(メイテック・サークル)』だよ。
 血を霊装の黒マリア像に認識させる事で個人を特定し、時間を掛けてそれを最初に戻していく術式………」

「――――――戻していく、というのは体が幼くなっていくと同義であると考えて宜しいのですね、とミサカは確認します」

「うん。まあ、酷い激痛を伴うし強力で破壊的な術式だから『戻す』目的には殆ど使われないけど」



誰かがその術式の被害に遭っている。
事情を察したらしい上条がインデックスを言及した。



「何か弱点とか、効果を中断させる方法とかないのかよ!?」

「マリア像を壊すか、マリア像に別の人間の血を上書きさせるか………
 でも当然術の核になるマリア像には防御結界が敷いてあるだろうし、上書きされても効果が拡散するだけだからあまり解決には………」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:33:06.87 ID:NbiBTJcl0<>


「―――――――――それだけ分かれば十分です、と上位個体の伝言をミサカは口にします」

「それだけって……一体誰が術の効果を浴びてるんだ!?打ち止めは大丈夫なのか!?」



叫ぶ上条に僅かに視線を遣った13577号は、それは自分の役割ではないと彼から目を反らした。
そして、突然の魔術関連の話題に呆然としていたオリジナル、御坂美琴へと顔を向ける。



「―――――――集計が取れました。結果は全員一致で了解との事、あとはお姉様の了承だけです」



先程までマイペースを貫いていた彼女とは明らかに違う真剣な表情に、美琴が息を呑む。
姉として彼女達に報いようと同じく真剣な眼差しを返した美琴に、彼女は



「ミサカ達の一生のお願いを聞いて下さいますか?とミサカはお姉様を見つめます」






<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:34:12.64 ID:NbiBTJcl0<>




「―――――――良かったのですか?これであなたは完全にマスターを決別した事になります、とミサカは懸念します」

「………多分、コレ、で、良かったんです。一方通行を救ってくれた、のは、マスターじゃない…………
 ………あなた、だ………と、一方通行は、断言し、ます……」



10039号の問いに、息も絶え絶えになりながら07号が答えた。
術式とやらの効果は『一方通行の血』を有する彼にも及んでいる。
喋れるだけの意識が残っているのは根源から距離がある為かもしれないが、それでも苦しい事に変わりはない。しかし、07号は話す事を止めない。



「……一方通行たちは、『友達』なんで、しょう?………一方通行の知、識に倣うなら、『友達』は『友達』、に、協力するものですよ……」

「そう、ですね……とミサカは07号に同意します」



そうだ。ミサカ達はもう『友達』だ。
『友達』は『友達』に協力すべき。だから、ミサカは―――――――――……





<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:35:02.65 ID:NbiBTJcl0<>





事態の解決方法はマリア像を破壊するか、あるいはマリア像に使われた『一方通行の血』に別人の血を上書きする事。
あの人が無傷でクローンが出血している様子を見るに、
恐らく体細胞クローンの特性である遺伝子レベルで同じ体を利用されたのだろうと打ち止めは推測する。
そうなると、マリア像はクローンの下敷きになっている可能性が高い。


――――――――やるしかない。
打ち止めは浜面から授かった駆動鎧のショットガンを構え、17600号から譲られたベルトで固定した短銃と弾丸の存在を確認する。


大丈夫だ、ミサカには出来る。
だってミサカには10031回に渡る最強との戦闘経験があるのだから。


ずっと護ってもらった。ずっと庇ってもらった。ずっと助けてもらった。
全てが終わってやっと帰って来られたのだと呑気に喜んでいれば、それは単なる糠喜びで、あの人はミサカ達の為に薄暗い暗部で一人苦しんでいた。


―――――――今度は、ミサカがあの人を護るんだっ!
そう、宣言したではないか。そう、誓ったではないか。なのに何にも、ミサカは果たせていないじゃないか。
何も出来なかった自分が悔しかった。何も教えてくれなかった事が悔しかった。だが何より、教えられるだけの強さがない自分が悔しかった。


悔しいなら、今此処であの誓いを果たせばいい。


そして、打ち止めが天井裏を飛び出した。
全てを終わらせる為に。この世界で最も大切な人を、自らの手で護る為に。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:35:29.86 ID:NbiBTJcl0<>


ダダダダダダダダダダ!!!!!!!!!!
天井裏から着地した打ち止めが即座にショットガンを撃ち抜く。
弾数など考えず、着地して1番最初に目についたこの部屋で唯一立っていた男―――――一方通行を傷つけた『敵』へと銃を乱射する。


そうして男に生まれた隙に、打ち止めが駆け出した。
直ぐにでも男を殺してやりたかったが、最優先事項はマリア像の破壊だ。
じわじわと彼を原始へ返すその術式とやらがいつまでもこのペースであるかの確証はないのだから。


マリア像を下敷きにしているだろうクローンの身体を足でどかし、打ち止めは少年の居た床へと銃を向けた。
マリア像は、そこにある。


怨敵の内蔵をブチ撒いてやるかの思いで打ち止めはそのまま弾丸を発射した。
引き金を1度引けば、あとは彼女がそれを離すまで発射され続ける弾丸は止まらない。



「―――――― チッ!!」



だが、マリア像は破壊されない。
これが防御結界とやらかと舌打ちした打ち止めは、だが学園都市最新鋭装備の銃に最期まで耐えられる筈がないと信じ、再び撃つ。
撃って、撃って撃って撃って撃って、なのに、それでもマリア像は壊れない。壊れてくれない。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:36:09.39 ID:NbiBTJcl0<>


打ち止めはマリア像を抱えると、ショットガンを構えたまま『敵』である男に向かって走り出した。
小型とはいえ、本来駆動鎧が装備していたそれを片手で振りまわす姿は最早普通の少女とは思えない。


もう、自分は温い平和に浸かりきった平凡な少女ではいられないのだ。
あの人の隣に立てるだけの、あの人が信頼できるだけの、あの人を護れるだけの強さがなくては。



「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」



打ち止めは、人を殺した事がない。殺そうと思った事も無い。
だがそれは過去の話だ。
真実、ドロドロとした根深い殺意を持って打ち止めは男へと銃口を向けた。躊躇わずそのまま乱射する。
しかし、



「私はその『科学』に対抗しうる為に『魔術』を身に宿したんだ。―――――……銃如きで殺される道理はないでしょう」



小馬鹿にした様な笑み、嘲笑。それでも打ち止めは止まらない。
カチッ、カチッ、と弾切れを起こし銃が弾丸を吐き出さなくなるまで彼女はただひたすらに撃ち続けた。
それを男は表情に反した柔和な言葉――――――……美しい聖書の一節でそれを平伏していく。



「この研究所は既に私のホームグラウンド、魔術効果を増幅させる様な仕掛けを幾らだって用意している事にまだ気付かないのですか?」



男はあっさりと言うが、仮にも学園都市を襲撃する魔術組織のリーダーを務めているのだ。
一方通行が特力研を去ったのが9歳というのだからそれから13年、
否、一度スペインに帰ったものの学園都市に帰還し暗部にマークされないだけの長い期間を過ごしたのだから、
彼はもっと短い期間にこれだけの術式を習得し利用していると言える。これも一重に才能と言えよう。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:36:44.74 ID:NbiBTJcl0<>


男の事情などは打ち止めには関係ない。
ショットガンの予備弾丸は持ち合わせがない為、彼女は使い物にならなくなったそれを攻めてもと男に投げつける。無論効果は無いが。


ベルトから短銃を引き抜き打ち止めが再び撃った。
込められた8発は全て正確な軌道を描いて男に向かい、しかし全てが見えない壁に突き刺さったかのように空中で停止し、重力には従って自然と落ちた。



「マリア像の破壊、加えてマリア像への上書き行為を進めようとするその姿………術式の中断法を知っている様ですが無駄ですよ。私の血は貴女には奪えない」



自分に酔った言葉だった。
それもそうだろう、最大の障害、学園都市第一位を潰したと公言するだけで彼につく物は山の様に現れる。
もしかしたらアレイスターの居ない今の脆弱した学園都市なら、『最強』を失った事で芯が折れ敗北を認めるかもしれない。



「――――――………あなたは、ミサカの様な存在を無力と呼ぶ?ってミサカはミサカは尋ねてみたり」



ポツリと呟かれた言葉に男が穏やかな笑みを浮かべた。
これが『敵』でなければ父親の様にすら感じる、そんな穏やかな笑みだった。



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:37:31.59 ID:NbiBTJcl0<>


「私は絶対的なチカラに抗えず無暗に命を奪われていった子供達の様な、その無力な存在を救いに来たのです。
 力無き事を悔やむ必要はない。悔やまずとも、救われる世界がいずれ来るのだから」



如何にも聖職者の言葉だ。
優しく、希望ある、誰もが縋ってしまいたくなる様な暖かな言葉。


光の方向へ導く為のその言葉に、打ち止めは切なげに瞳を揺るがせ、



「―――――――――………与える、なんてほざく世界、こっちは真っ平御免なんだよクソッタレ」



短銃に弾丸を詰めた打ち止めが再び男に標準を合わせ、狙い撃った。
1、2、3、4、5、6、7発。
撃たれた弾は正確な軌道で男の下へ届き、そしてやはり男に突き刺さる前に墜落していく。



「残念です。貴女も私に賛同してくれないとは………これも彼の影響ですかね」



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:38:09.08 ID:NbiBTJcl0<>


男の勝利宣言に、打ち止めは手元の銃をじっと見つめた。
ああ、これで全てが終わるのだ。
そのまま右手に持ったその銃をそっと、自分に向けて構える。


自分の心臓へと銃を突き付け、引き金に手を掛けた。
あとはそれを引くだけで、彼女はあっと言う間に他界するだろう。


そして、打ち止めは





―――――――――――心臓から標準を反らし、マリア像を携えた自身の左肩へと向けて弾を撃った。





<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:38:44.66 ID:NbiBTJcl0<>


「なっ―――――――!!」


男から驚愕の声が上がる。
恐らく術式の効果を寸分違わず理解しているであろう人間が上書きに自分の血を用いるなど、ありえない。


ましてや彼女もまた『妹達』というクローン集団の一体なのだ。
自分一人の血で10000人近くのクローンとオリジナルが術式の効果を受ける事に―――――……


そこで、男は気付いた。
もし術式の効果を同時に10000人に発したら、どうなる?効果は拡散され、それぞれに渡る。
1人に対して与えていた効果を100% とするならば10000人に渡った際の一人当たりの効果は0.01 %。


まさか―――――――………



<> 第十七話 『部屋と決着とミサカ』<>saga<>2011/02/19(土) 22:39:40.14 ID:NbiBTJcl0<>


「………つ、ゥ…………」



小さく洩れた呻き声に、男の肩が跳ねた。
0.01% の効果。0.01% の痛み。
銃撃に倒れた少女に代わる様にして立ちあがった、見慣れた顔。自分が製造し向き合ってきた14体のクローンのオリジナル。


白い髪、赤い瞳、整った顔立ち、張りのある肌、細いライン、首元のチョーカー、所々汚れたYシャツ、筋肉の少なめな手足、ギラギラと光る黒い靴、
それは、まさしく――――――――






「よく分からねェが、俺の身体もまた随分と懐かしい姿になってンじゃねェか。奇しくも6年前、っつー所かァ?」



不吉の象徴の様に揺れる体を杖なしでバランス取った『それ』は、
足元に倒れる少女の姿と目の前の男を交互に見遣ってゆっくりと口元を歪めた。



「――――――――あァ、本当に懐かしい。制限無しの能力使用だなンて久しぶり過ぎて加減が思い出せねェかも知れねェなァ………」



そして、





「まァ、見る影もねェ程グチャグチャになっても………―――――――――許せ」






――――――――そして、真の『最強』が、再びその牙を剥く。





<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/19(土) 22:43:11.36 ID:NbiBTJcl0<> 以上、今回の投下終了です。
ヒロインに血生臭いドロドロとした銃激戦やらせたがるのも暴言吐かせたがるのも完全に僕の趣味です。
セーラー服と機関銃の見過ぎでしょうか、薬師丸ひ○子の方の。
予定通りなら次回、最終回です。で、出来るだけ早く投下します!頑張ります!

取り敢えず今週のアニメもっかい見て元気を補充してきます。どうしよう見てて辛いのにエロかった、色々と。
ワクワク虐殺ランドの回で昇天しないか(僕が)心配です……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 22:45:41.21 ID:FsObtoGJo<> 帰ってきた一方さん
でも上条さんにさわられたら… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 22:46:11.84 ID:DvakMhFDO<> 乙
待ってた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 22:48:37.49 ID:EowYM5T4o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/02/19(土) 23:20:58.46 ID:eYuMmtDm0<> これは・・・打ち止めと一方通行同じくらいの年齢か!
やったね打ち止めちゃん! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 23:34:58.05 ID:uWZByzcQo<> ようやく打ち止めのターン来たでぇ、もうメインヒロイン?とか言わせねェぞクソッタレが状態
だが打ち止めが戦闘 → 一方さん助けるために負傷で第一位のウジウジ自己嫌悪ループフラグも来たでぇ
アニメは一方さんボコボコシーンがやけに作画丁寧でワロタ
電池切れ、ヘッダが足りない一方さん、絶叫木原くンとか想像しただけでパンツの中がグショグショだ

ところで口調を真似すると言えば、子供がよく親の真似をあbbbbbbb <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 23:59:29.22 ID:3uMfcq9+o<> 全力モードとか魔術師詰んだか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 01:20:22.82 ID:dcxmSQdb0<> 乙ー
打ち止めのターンに胸熱
次回の一方通行のターンへの期待でさらに胸熱

……やっと、やっといえるぜぇぇ!
通行止めktkr!!これで勝つるっ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 01:28:12.24 ID:fSkwiRkMo<> 魔術の対象を妹達に移し替えたぁ・・・それで後は美琴の許可のみ、だったわけか
ここの>>1は通行止めの関係だけじゃなく妹達同士や妹達と美琴、またその周りの人達との絆の描き方がイチイチ憎いなぁww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 01:33:39.26 ID:ekjcUZI1o<> 美琴の許可というか、了承かね?
効果は美琴にも及ぶわけだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 01:38:49.68 ID:3NyErgaHo<> 一瞬ミサカ全員ロリ化するのかと思ってしまったZE <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 01:38:59.77 ID:fSkwiRkMo<> >>930
ああうん、そういうつもりで言ったんだけど言い方悪かったごめん
で、まあ美琴の事だから真意を知ったら二つ返事でOKしたんだろうなって思うと胸熱 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 02:15:37.07 ID:c/rLanTDO<> おつううううううう
全快な一方さんとかわくわくするな
あと打ち止めに敵意ある目で睨まれたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 05:40:50.93 ID:VVMgSAHfo<> うおおお相変わらず話の展開が俺のツボをついてきやがるうううう!
おつうううううう!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 09:03:35.97 ID:K7ScE9RSO<> 巻き戻った後で上条に触られても効果は消えはずだな、原作見る限り <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 09:40:13.05 ID:vF5yUcTu0<> 激熱…!!
19話の興奮と重なって私のテンションがレベル6です^p^

1>>乙通行
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 13:31:30.55 ID:Sio1flJ10<> あつすぎる〜〜〜〜!!!!!1乙!!

もちろん最終回の後は番外編、そしてUだよな?? <> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/20(日) 23:14:12.86 ID:gngUMmaQ0<> 久々の投稿にも関わらずご読了頂いた皆様、本当に有難うございました。
以下より本スレの最終回となります。
皆様の納得できる最後に仕上がったかは分かりませんが、宜しければ読んで頂けると嬉しいです。
<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:15:22.70 ID:gngUMmaQ0<>


「あははぎゃはあはははひひひひゃははあはアハあははははッ!!!!!!!」



落雷の様な轟音、実際に地面が抉れていく徹底的な破壊音。
そして、年若い少年の狂気に満ちた爆発的な嘲笑。



「ンンーう?あはははっ!ヤベエな、能力の加減どころかテンションすら可笑しくなってきやがった!
 なんつーの。自分で言うのもアレだが少しは落ち着きが出来たと思ってたのによォ、若気の至りってェのは恐ろしいなオイ」



一方通行は笑う、嗤う。何処までも、ただ壊れた様に哂い続ける。
これは戦闘では無い。これを戦闘とは呼ばない。
幼子が考えなしに遊び尽くした結果、気に入りの玩具を壊してしまうかの様に。一方通行の行為はひたすら一方的に行われる。



「イッポーツーコーだから仕方ありませン、ってなァ!!あァ……マジでヤベエ、最高にトンじまったぞクソ野郎!!!」



しかし、それは虐殺では無い。
何故なら虐殺とは、考え得る限りの惨たらしい方法で殺害する事を指すからだ。
対して一方通行は、男を未だ殺していなかった。



「だってまだ……遊び足りねェモンなァ?」



防御詠唱の暇を与えず、呼吸する余裕すら奪い、肩が弾け腹が裂け足が抉れ顔が歪み鼻が砕け指を失っても、男は決して死ぬことが無い。
血管を繋ぐベクトル操作が、まだ活きている。
地獄の果てまで続く痛みだけが男の脳内を蹂躙するかの如く掻き乱し、それを見て一方通行はやはり嗤う。


キヒ、
金属を擦り合わせた様な奇怪で不気味な嘲りだけが、儀式場へと木魂した。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:16:10.88 ID:gngUMmaQ0<>


「まァ、見る影ねェほどグチャグチャになっても……――――――――許せ」



そう告げた一方通行は、だが直ぐには男に手を掛けなかった。
こンなクソの相手してる暇があンなら、まず打ち止めの治療をすべきだ。
この時、まだ彼は数年間の間に落ち着きを見せた理知的で優秀な思考回路を正常に機能させていた。


足元に倒れる、何があったかは知らないが現在の自分と同じ程の少女。
光の世界に生きるには似つかわしい、所々血がこびり付いた短銃を必死に握り締める少女に一方通行は眉根を寄せる。
少女からは、火薬の匂いが自身の存在を主張するかのように漂っていた。
左肩からは幾多の命の滴が流れ落ち、少女の温かな体温をゆっくりと奪ってゆく。


無論、打ち止めだってあんな男の為に死んでやるつもりなど無かった為、致命傷は避けている。
銃器を扱う自分の腕前を徹底的に考察し、相手に気取られないようマリア像に血液を付着させるという条件の下
最も軽傷で済む箇所を選んだつもりだ。
しかしそれでも人を殺す為に造られた武器は確かに少女の意識と体力を奪い、何より―――――――『少年』の心を狂わせた。



「…………本当に、嗤っちまうわなァ。えェ?あのガキだけでも闇の中から連れ戻すっつってたのにコレたァ、本当。馬鹿みてェな話だよなァ」



口元を歪ませながら、打ち止めを治療するその手は止めず、ただ一方通行は嗤い続ける。
嘲笑うのは、馬鹿な自分だ。
戯言を吐いておきながら結局は少女に傷を負わせ、何より少女に人を殺す為の醜い道具を持たせ、
自分の所為で彼女を闇へと引き摺り込んでしまった。


これは、自分が招いた結果だ。
自分がヘマをしなければ、彼女がこんな場所まで来る事は無かった。
あの子供は光の世界に有るべき存在だ。誰よりも輝き誰よりも美しい世界で生きていくべき存在だ。
それなのに。それなのに、



「自分どころか結局ガキだって連れ戻せてねェ。
 いや、一人抜け出ていた所を俺がまた引き擦り込んじまったって所か………本当に、俺は変わらねェ」



丁度良いじゃないか、ほらよく見てみろ一方通行。
姿形が変わった所でお前は何かが変わったか。違うだろう。この姿だったあの頃から、結局お前は変わっちゃいない。



「――――――――何処までも、クソなままだ」



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:17:03.43 ID:gngUMmaQ0<>


一方通行は知っている。
これが八つ当たりであるという事も、一番にブン殴りたいのが自分である事も。この行為こそが自分が成長しきれていない証であるという事も。



「あははぎゃはあはははひひひひゃははあはアハあははははッ!!!!!!!」



全て理解した上で、一方通行はひたすら男を嬲り続ける。
波打ち揺らぐ思考を血と肉で塗り替えなければ、頭が破裂してしまう様な、そんな気がした。



「悲鳴の一つでも上げてみやがれ!何の為に喉は守ってやってンと思ってんだ、アァ!?」



彼が指を僅かに動かしただけで男の血肉が弾け飛ぶ。
悪趣味にもその血が自分に降りかかる際だけ反射を解いて、口元に散ったそれを舌先で弄びながら一方通行は笑う。
楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに、面白そうに、物足りない様に、何かが欠けている様に。


そんな彼を見て男は、懺悔するでも命乞いするでもなく、僅かに悲しげな眼をした。
男の表情に一方通行の顔が歪む。誰の所為で、誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で。


――――――――――自分の所為だ。


誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で誰の所為で。
なのに何故お前がそんな顔をする。ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな。



「――――――ブチ、殺す」



もういい。遊びにも飽きた。
血と肉が欲しければ別にコイツじゃなくても構わない。どォせアジトに戻れば捕獲したコイツの部下が居るのだ。幾らだって代えは利く。
代償を払わせろ。自分をこちら側へ引き留める理由を作ったこの悪に、打ち止めをこちら側へ連れてくる原因となったこの悪に、


――――――――――俺の所為でしかない。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:18:21.02 ID:gngUMmaQ0<>


余計な事を考えるな、頭が破裂しそうになる。気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
さっさと元凶をブチ殺して全てをゼロへと還元すりゃイイ。
全部に片が付いたらこの世界から足を洗ったってイイ。学習装置でも何でも使って銃を握らせた事を打ち止めから忘れさせりゃイイ。
コイツの血肉を愉快に素敵にブチ撒いて、それで全部終わりにすりゃイイ。


――――――――――俺が俺である限り、そんな事じゃ全て終わらない。


ああ。久々に血流を弄ったってイイ。
傷口を嬲る様に抉っては血管に指を喰い込ませジリジリと捻り徐々にベクトルを変え体中の穴と言う穴から血反吐が湧きでるのを見て光悦に浸り
肉を千切っては砕き壊して野郎の口の中へと息も出来なくなる程詰め込み呼吸が疎かになってゆく姿を静かに観察してみるのもイイ。
だから。



「――――――――――だから、これで全部終わらせろよ」



一方通行が男へと手を伸ばした。
全部、終わりにするのだ。このクソッタレな現実を全部コイツの死を持って決着づける。
似合わねェハッピーエンドに現を抜かしてまた戯言を吐きながらあのガキを元の世界へ



「………ダメ、だよ……って、ミサカはミサカは、あなたの腕を、つかんで……みたり……」



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:19:45.43 ID:gngUMmaQ0<>


小さな声だった。
施設内で響き渡る機械の駆動音。別の部屋でも戦闘が起きているのか時折上がる爆発音で簡単に掻き消される程の、それは微かな音色だった。
だが、それはとても大事な声だった。少なくとも一方通行にとって絶対に聞き逃してはならない、とても大事な声だった。



「………そんな殺し方をしたら、多分、あなたはまた後悔しちゃう……だから、ダメだよ、……って、ミサカはミサカは言ってみる」



治療は済んでいるものの、やはり呼吸のたびに鳴る心臓の鼓動が傷口に響くのか、打ち止めは言葉の端々を途切れ途切れにしながら
一方通行に縋りついた。
格好こそ縋り付く様に彼の腕へと身を寄せる打ち止めであったが、
彼女の表情は、少年の全てを受け止める覚悟を刻んだ慈愛に満ちた聖女そのものであった。



「ミサカは、あなたに償えなんて言わない。言えない。許されるとも許すとも言えない。
だってミサカも誰かを殺そうとしたもの。だから、ミサカには絶対に言えない。でもね―――――――」



あの実験以降、少年は護るべき少女達の為に自ら身を削りながら従事してきた。
少女達を護る為に、再び罪を背負う事もあった。罪を背負い、一人孤独の中で彼女達を護ろうとした事もあった。


許されるべき殺人なんて、きっとない。
世間一般に道徳概念を叩きつけられればそれが普通だ。そして恐らく、それが真実だ。
だからこそ打ち止めは、血に濡れた自分を恨む日が彼に来る事を知っている。
今以上に社会に浸り今以上に社会に馴染んだ時、彼が自分を嫌悪する日が来る事を、彼以上に社会に溶け込んだ打ち止めは知っている。


だが、今のままなら彼はまだ、人を殺めた自分を後悔する事は無い。
あの『実験』を唯一除いて、彼は絶対に自身の罪を後悔だけはしないで済む。何故なら、



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:20:40.84 ID:gngUMmaQ0<>


「あなたに『罪』があるなら、それは全部ミサカ達の為の物だった。
 あなたはいつもミサカ達の為に動き、ミサカ達の為に薄暗くて冷たい世界で一人ぼっちで背負ってきた。

 ―――――でもね、あなたは一人じゃないよ。言ったでしょ?ミサカは絶対にあなたと一緒に居るんだ、って。
 ミサカは誰かを殺そうとした。それはあなたを護る為だった。それをあなたが自分の『罪』だって言うのなら、あなたの『罪』もミサカの物だよ。
 一緒に背負っていけるんだよ。二人で一緒に明るい場所で、自分勝手に必要な時だけ闇に浸っちゃうアンチヒーローを気取ったりして、
 一緒に背負っていけるの」



打ち止めが、一方通行の赤い瞳をしっかりと見据えた。
6年前の姿に戻った一方通行とは裏腹に、殆ど実年齢のままを維持した凛々しい打ち止めの瞳が交錯する。
もう、自分は幼かった少女じゃないのだ。
彼の隣に立ち彼を支え、彼と共に歩んでいく為に、自分はここまで成長したのだ。
その為に、きっと自分は此処まで彼に護られてきたのだ。



「――――――だから、自分の為に殺しちゃダメだよ。
 自分に言い訳をする為にあなたが誰かを殺しちゃったら、ミサカの背負う『理由』が作れないじゃない」



あなたの『罪』がミサカ達の為である限り、ミサカはあなたと、それを一緒に背負っていける。
あなたの隣で綺麗事を並び立てて、あなたとミサカの幻想を護っていける。



「一人で背負うだとか。粋がってンじゃねェぞクソッタレ、ってミサカはミサカはいつものあなたを真似てみたり」



あなたと一緒に、生きていける。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:21:40.02 ID:gngUMmaQ0<>


一方通行はあの8月31日から、いつだって打ち止めや妹達の為に生きて来た。
100点満点なんて呼べる代物で無くても、打ち止めや妹達の命や生活を多少なりとも護って来れたと思っている。
その為に必要な事をやってきたとは信じている。


故に彼は、絶対に後悔しない。
あの日からの過ちも犯したものも全て纏めて、それが自分の存在意義であるとの考えは変わらない。


そう、変わらないのだ。変わらない事こそが信念なのだ。
姿形が変わろうと生きる場所が変わろうと周りの環境が変わろうと、揺るぎない一本の柱だけは決して折れず変わらない。
それが、決意という物なのだ。



「―――――――ははっ。やっぱ俺、馬鹿じゃねェか」



ガキにまで嗜められやがって。
いや。今の俺と年齢も大差ねェし、ガキ同士馬鹿やってろっつー事か。
馬鹿丸出しで呑気に過ごして、都合悪くなりゃ悪党気取って立ち振る舞って。そうして二人で馬鹿やりながらエゴイストらしくレール踏んでけ、ってか。



「上等だ、クソガキ。――――――……ただし列車は一方通行、途中下車なンざ出来ねェぜ」

「上等だよ、根暗くン。――――――……ただし途中下車出来ないので何処までも付いて行きますが、ってミサカはミサカは返してみたり」



クカッ。
ついに頭の螺子が可笑しくなっちまったか。笑う場面じゃねェだろ。否定しやがれ、クソッタレ。
縋るな依るな引き摺るな、あのガキを何に巻き込むつもりだ。あのガキだけは全うな道に残していけよ。
分かっている筈だろォが。なのに、なのに。



「――――――――……地獄の底まで付いてきやがれ」



本当に馬鹿だよ、俺ァ。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:23:57.96 ID:gngUMmaQ0<>


「あはははははははは、あはは、あははははははははははははは!!!!!」



悲鳴の一つも上げなかった男が突如、狂った様に笑いだした。
腹の底から心の底から、大きな声で笑い続ける。



「笑いたけりゃ勝手にしやがれクソ野郎。どのみちお前を殺す事に変わりはねェ、残念だったな」



一方通行が冷淡に告げても、男の笑いは止まらない。
神経回路が狂ったように笑い続け一頻り笑い息も絶え絶えになった所で、
男は一方通行の猛攻の所為で上手く動かなくなった手指をギシギシに動かしながら
笑い続けた故に生じた涙を無理矢理拭った。



「――――――キミは、変わりましたね」

「あァ?」



男の言葉に一方通行が眉根を寄せる。
意味が解らない。男の真意が、分からない。



「いつだって諦めた様な眼を、子供らしくない死んだ瞳をしていたキミがいつの間にやら大きくなって。
 間接的とはいえキミの実験に関わって、いつも思っていた。こんな子供達を救ってやれたら、と」

「――――――……理解できねェな」



唯一、打ち止めだけが男の言葉によって彼の真意に気付いた。
対象を原始へ、逆行させる魔術。一方通行の開発に携わり抱いた、無力な子供を救いたいという意思。



「だが、私が手を貸す前にキミは―――――……既に自分で、自分の道を作っていた」



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:25:05.71 ID:gngUMmaQ0<>


この憐れな魔術師は、一方通行を救いたかったのだ。
酷く歪んだ湾曲した方法で、一方通行の様な子供達に道を作ってやりたかったのだ。



「クローンの不法製造、閉鎖施設の無断利用。公的に裁けンのはこのくれェだろォが学園都市には反逆罪がねェ分好き勝手出来る。
 ――――――――――……まァ、これだけヤらかしやがったンだから後は分かンな」

「あはははははははっ!キミもそうだが、私も大概馬鹿だったようだ。
 キミのような『経験』ある子供が『此処』にいる時点で気付けば良かったものの――――――――」



そしてその決意の切り口となった一方通行に、幼かった頃の彼に問いたかったのだ。
彼という『普通の子供』が、今、幸福であるか否か。
大人の身勝手に呑み込まれていた幼い『彼』を、男はその手で救いたかったのだ。



「――――――――……学園都市は、もう、何の心配も無かったのかも知れませんね」



打ち止めは男に同情しない。
手段としてクローンを用い、新たにクローンを生み出した事実だけで打ち止めは彼を軽蔑する。
そしてしっかりと脳裏に刻み込む。
手段を決して間違えるな。あの人を護る為の手段を、自分は決して間違えるな。
これは自分のIFの姿だ。そう、頭に叩き込め。



「大丈夫。あの人はミサカが護るよ、ってミサカはミサカは宣言してみる」



男の口元が、小さく笑みを作った。
何処か不思議そうに二人の遣り取りを見ていた一方通行が、潔く瞳を閉じた男へと自身の拳銃を向ける。



「目ェ、瞑ってろ」

「見てるよ。だって、ミサカはあなたと一緒の道を進むんだから。ってミサカはミサカは断言してみたり」



そして、一発の弾丸が轟いた。
弾丸が正確な軌道で男の心臓部へと呑み込まれ、やがて血だまりの中に消えていった。








<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:25:48.78 ID:gngUMmaQ0<>





「―――――――それで、ミサカの元に来たという訳ですか。と、ミサカは花束とか似合わねーと一方通行を笑い飛ばしながら向かい入れます」

「………お前ら偶にブッ飛ばしたくなる時があるよな、偶に」



一方通行が訪れていたのは御坂妹ことミサカ10032号に宛がわれた病室であった。
彼女も今回の一件で重傷を負い、毎度世話になっている第七学区の総合病院に入院している一人だ。



「しかしまあ、チューリップですか。似合わない事この上ないですが百合や菊を持って来なかっただけ合格でしょう、
 とミサカは一方通行を褒め称えます」

「お前、俺を何だと思ってやがンだ」



クソ、偶に似合わねェ事すりゃコレだ。………あ、似合わねェって認めちまった。
俺も大分ヤキが回った気がするヤベエどうしよう、と頭を抱える一方通行に御坂妹は無表情のままクスクスと笑いながら(恐い)



「どうせ関係各位に花束持って回るつもりでしょう?
 なんなら念の為の精密検査で学園都市を訪れている14510号と20000号にも会って来て上げて下さい。
 ……………そしてあなたの弟を助けてあげて下さい、とミサカは助言します」

「お、おォ?」



後半は良く分からなかったが、14510号と20000号といえば学園都市外の支援機関が襲撃を受けた際に被害にあった個体の筈だ。
見舞いに顔くらい出すのは道理だろうと、一方通行は彼女らの病室を訪れた。
そこで、



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:27:01.80 ID:gngUMmaQ0<>


そこで、一方通行は御坂妹の言葉の意味をはっきりと理解する事になる。
妹達っつーのは果たしてこンなだったであろうか。



「あ、あああああああ一方通行さん初めましてミ、ミミミミミサカ14510号と申しまあわわわわ生一方通行さんだ生一方通行さんだ
 どうしようマジどうしよう緊張してあわわわわわ、とミサカは考えあわわわわわわ」

「うっひょ、02号たんと生セロリたんと一緒のお部屋で空気吸ってるって何コレ逆ハーレム?逆ハーなのかうっひょほほほほ
 とミサカは部屋の空気をくんかくんかしながらミサカ達に抵抗出来ない02号たんの滑らかなお尻をナデナデチュッチュしm…………
 …………ごっばァァアアア!!!」



数秒前まで恥じらう乙女だった14510号が、隣で一方通行02号のズボンのチャックを降ろそうとした20000号にアッパーカットを喰らわせた。
あべし!ひでぶ!と世紀末の様な悲鳴が木魂する中、難を逃れた今の一方通行を僅かに幼くした高校生程度の少年が一方通行へと縋り付く。



「たたたたたたたた助けて下さい!このままでは一方通行の貞操がががががががが」



…………よっぽど恐ろしかったらしい。
最早自分の恐れ泣き喚く姿を見る日が来るとは思わなかった。
ヒクヒクとしゃくりを上げる02号へ、昔幼かった打ち止めにしてやった様に頭を撫でてやると



「うはっ!セロリたん同士の絡みとか萌えええええええ!!!ちょ、02号たん、もっと摺り寄って!
 密着して『お兄様〜』って胸板に顔を擦り付けて!とミサカはリクエストをs……オッボェ!!!」

「スイマセン馬鹿は黙らせたのでこのミサカの事は軽蔑しないで下さいコイツと一緒にしないで下さい本当に申し訳ありません、
 とミサカは一方通行へ必死に頭を下げます」



どうにも忙しい少女達である。
「イヤ、別に軽蔑とかしねェけど……」と一方通行が若干引きながら(本当に若干だ、こればかりは許してくれ)答えると、
「ほほほほほほ本当ですか、ななななら、是非握手して下さいとミサカは手を差し伸べますうううう」と14510号は顔を真っ赤に染めながら言った。
素直に握手を返してやりながら、あまりにも真っ赤なその顔に「……大丈夫かァ?」と尋ねれば



「おぼっふぁぁああああ!!一方通行さんに、一方通行さんに下から覗きこまれる様にして心配され……
 もう今日からオカズなしでご飯食べれるうううう!!!」



―――――――………やっぱり、彼女達は些か苦手かも知れない。区別するつもりも無いが、些か。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:28:22.16 ID:gngUMmaQ0<>


そのまま一方通行は学園都市在住の妹達に宛がわれた病室へと訪れる。
彼女達にも大分迷惑を被らせたのだから、顔くらい出さなければ。
学園都市で暮らしている個体とはある程度の交流があるので大体キャラは掴んでいる。今更新たな一面に驚く事も無いだろう。
否、どんなにちょっとアレな性格だって個性が芽生えるというのは本当に良い事である。本当に、多分、多少難ありかも知れないが、
良い事な筈である……ウン。


一方通行、若干21歳にして子育ての難しさを悟る。


部屋を訪れれば、彼を出迎えたのは何かとマイペースで生意気な口を利く13577号であった。
「おや一方通行……チューリップかよ、何かもっと高級な菓子とかあるだろうに。金持ちなんだから」と始まる第一声に、
世の父親母親は大変だと感じる。


「いいのか俺にそンな口利いて。………折角超能力者繋がりでゲットした第七位の連絡先教えてやろォと思ったのによ」

「いやチューリップとかやっぱ第一位のセンスは一味違うわ。下々のミサカには考えつかない素晴らしい感性があるね、ウン。
 さぁお望み通り褒めて遣わしたんだから削板軍覇の連絡先とやらを教えなさい今すぐ渡しなさい、
 とミサカは一方通行の胸板を叩きつつ強請ります。よーこーせー」



赤外線を通して第七位の携帯番号とメールアドレスを渡してやれば、
「あ、削板さんのケータイですかー。初めましてミサカと申します。今からお会いしたいのですが………
 …………弟子入り希望?あ、そんな感じで。じゃお願いしますぅ」
と積極的なアピールを始める始末である。そのうえ、



「いやはやマイナー削板派ミサカにこの手の交渉を持ちかけるとは……学園都市の最強さんは恋のベクトル操作もお手の物ですってかコノコノ」



肘で突かれるのはややウザイと思ったが、これも一重に妹達の個性である。………やっぱり若干難あり。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:30:04.01 ID:gngUMmaQ0<>


意気揚々と13577号が病室を飛び出すと(恐らく第七位の下へ弟子入りとやらに行ったのだろう。いいのかソレで)、
再び自分と同じ顔をした存在がおずおずと自分から目を反らした。そんなソイツに隣に居た妹達の一人は、


「大丈夫ですよ、07号。動物園のライオンだって飼われている分には大人しいものです、とミサカは07号を促します」
俺は動物園のライオンと同義か、コラ。


「弟が素直に兄に甘えたって、何のバチも当たりませんよ。とミサカは再度07号へ囁きます」
『兄』、という言葉に少しばかりこそばゆくなる。良く分からないが超電磁砲も妹達を『妹』と認識したとき、こんな気分だったのだろうか。


「あ、あの……一方通行07号、です……。は、初めまして……オリジナル」


コイツらにも随分と個性があるらしい。
妹達にしろコイツらにしろ時折焦ったり引いたりする事もあるが、これはきっと良い傾向なのだ。



「このミサカ10039号と一方通行07号は大の親友なのです。ゲーセンで太鼓の達人を2人プレイする仲なのです。羨ましいでしょう?」
仲良くしてやってくれンのは本当に有難いんだが、後ろでウチの弟「太鼓の達人って何ですかー」とか抜かしてるんだが。


「当り前です。これからしていく予定なんですから、とミサカは最近になって他のミサカより微妙に大きくなった胸を張ります」
張らんでいい張らんでいい。つーか全部お前の妄想か。



「他のミサカ達も、段々と彼らとの共存の道を歩んでいく事でしょう。
 手本となるべき兄のあなたが怖気づいたりすんじゃねえぞ、とミサカは一方通行に忠告しておきます」



…………まさか、特力研での遣り取りをネットワーク介して見ていたんじゃないだろうな。
より個性ある腹黒個体たちに徹底的に絞りとられる事を覚悟しながら、俺は次の目的地へと向かう。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:30:44.27 ID:gngUMmaQ0<>


一方、削板とコンタクトを取り見事弟子入りを果たした13577号。



「いいか!世の理、それらは全て『根性』である!!」

「根性である!とミサカは師匠に倣って復唱します!!」

「こーんじょおおおおおおおおお!!!」

「こーんじょおおおおおおおおお!とミサカも叫びますうううううううううう!!!!!!」



(むふふふふふふ……コレが果たして何の修行かはさっぱり分かりませんが、身を削って尽くす弟子に師匠は
 徐々に師弟関係以上の物を感じるようになり次第に弟子へのめり込めながら「いかんアイツは俺の弟子で……っ!」となるのは最早王道。
 この勝負、ミサカが貰ったああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!)



「見てみろミサカとやら、あれが根性の星だ!あの根性に向かって走るぞ!!!」

「ハイ師匠、とミサカはあれ飛行機の灯りだよなと思われる物体に向かって全力疾走します!!!うおおおおおお!!!!!」



13577号は、幸せだった。以上閑話休題。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:31:11.33 ID:gngUMmaQ0<>


次に向かうのは番外個体の個室である。一方通行は途中購入した缶コーヒーを啜りながら歩いていた。
アイツも随分と手酷くやられたようであるし、小一時間は嫌味を延々と聞かされるかも知れない。
まあそれも仕方の無い事だと一方通行が彼女の病室へ向かおうとすると、



「あ、お兄様〜〜〜〜〜〜!!!!」



ブフゥウウウウウウウウ!!!!!
一方通行の口からコーヒーのレインボーブリッジが完成された。お、おおおおおおおお兄様!?鳥肌たった肌がなかなか戻らない。


「ミサカのお姉さン達が言ってました。お兄様は一方通行のオリジナルなのだから『お兄様』と呼ぶべきだ、と」
アイツら、絶対面白がってやったに違いない。あとで希望通り高級菓子でも買って来てやろうと思っていたが却下だ、却下!


「あれ?一方通行にクソガキじゃねえか」
一方通行がメラメラと復讐の炎を燃やす中場違いに軽い声を掛けてくる男に、思わず一方通行が「あ゛ァ!?」と不機嫌に牙を剥いた。


「うぉ!?なんか今日は一段と不機嫌だな………恐いからヤメテ」


空気を読めない浜面仕上は、これでもやるからと両手に持っていた缶コーヒーの一本を押し付けて一方通行を落ち着かせようと試みる。
そんな彼に、先程凶悪な第一位をお兄様と呼び回ったクソガキこと一方通行00号は



「一方通行にも缶コーヒー買って下さい、お父様」



残った缶コーヒーのプルを開け口に含んだ浜面から、コーヒーの瀬戸大橋が完成した。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:32:11.29 ID:gngUMmaQ0<>


「おおおおおおおおお父様!?」

「子供を叱り付けるのは父親の役目だとミサカのお姉さン達が言ってました。つまり一方通行を叱り飛ばしたこの三下残念顔野郎が
 一方通行のお父様になるのです」



「えええええええええ何その暴論!?つーか父親って呼ぶならもう少し俺を敬えよ、何だよ残念顔って!」
当たり前だが戸惑うばかりの20代前半で10歳前後の子持ちとなった他称・父親、浜面仕上げに一方通行は



「ンじゃ任せた。頑張ってくれお父さン」

「任せないでお兄ちゃんんんんんん!!!ちゃんと弟さんの面倒見てあげてえええええ!!!!!」



完全に他人任せモードとなった一方通行に助けを求める浜面を、横目で見やりながら盛大な溜息を吐いた00号がぼんやりと呟く。
「はァ……この一方通行のお父様が馬糞だとは……はァ。せめて滝壺のお姉さンがお母様になってくれれば一方通行と釣り合いが取れるのに」
滝壺を母親に、という言葉に浜面の顔がタコの様に真っ赤に染まった。何だ恋煩いばかりか俺の周りは。
というか俺のガキの頃はこンなに腹黒でも口悪くも無かったぞ。個性にも程がある。


『兄』を名乗ってゆく事になるなら、此処は一つ何か叱ってやるべきなのだろうか。
当然ながら幾ら優秀な学園都市第一位の頭脳にもた○ごクラブやこっ○クラブの知識なんて入っていない。
子供の教育法なんて全く解らない。
もし彼の思考を覗ける人間が居たらそれこそ『兄』でなく『父』だろうとツッコめるのだが、この場には生憎とそんな人間はいなかった。
代わりに、



「見ぃつぅけたああああああ00号くぅううううううん!!!!!!」
20000号と並ぶ変態淑女が、何も無い空間からテレポートして舞い降りた。



「なァにやってンのかなァ、結標さァん?」

「どいて離してお願いだから!抱っこ!抱っこだけでいいの頬擦りはしないから00号君を触らせてええええええ!!!!!」



額に青筋を浮かべる一方通行は首元のチョーカーのスイッチを入れると、00号曰く特殊性癖のお姉さンの首元にチョップを入れた。
神経をヤられた結標の意識が奪われ、身体が揺らぐ。俺の周りは変態しかいねェのか。



「あァ、一方通行はショタコンのお姉さンに追われて逃げている途中なのでした。すっかり忘れていたのです」
お兄様〜、お兄様〜と猫なで声で摺り寄って来る弟をお父様に押し付けて、一方通行もすっかり忘れそうになった目的地へ向かうことにした。
決して照れただとかそんな理由からじゃない。急いでいたからだ。恥ずかしかったからでは、決してない。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:32:40.89 ID:gngUMmaQ0<>


番外個体の部屋の前に行くと、膝を抱えたヒーローがグスグスと泣いていた。何があったかは容易に想像がついたので敢えて声は掛けない。
そして俺は同じ轍は踏まン、とノックをしてから返事が返って来るのを確認して入出する。



「やっぱりあくせられーたは違うんだよ、とうまなんかノックせずに入ってみさかわーすとの着替え見たんだよ!」
――――――やっぱりか。此処まで来るとラッキースケベも確かに不幸の一環な気がしてくる。自業自得だが。



「ミサカはあなたになら裸見られても良かったんだけど。逆騎上位で腹上死させるってのもアリだと思うし」

「ココココココラ、女の子がそんな破廉恥な事言わないの!」



「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!お姉様ったらこっども〜〜」と笑いこける番外個体に超電磁砲は「いいからちゃんとした言葉遣いを学びなさい!」
と叱りつけている。なるほどアレが『姉』の姿か。一方通行は一つ学んだ。


ねえお姉様、ちょっとだけ二人にしてよ。そっちの暴食シスターも。
番外個体の言葉に超電磁砲は納得したように、シスターは不思議そうな顔で部屋を出る。
俺も、その真意が読み取れない。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:33:19.10 ID:gngUMmaQ0<>


「…………ミサカ、最終信号を護りきったんだよ」

「――――――あァ」

「…………なんか言うこと無いの、ミサカに」



言う事?山の様にある。幾ら言ったって多分足りない。
そして申し訳ない事に、こっちの意地とプライドの所為で一度しか言えない。



「――――――悪かったな、世話ァ掛けた」



……………もういい。
謝れば唇を尖らせてそっぽ向かれた。
アイツの事だから厭味ったらしく最強とは名ばかりかと責め立てるかと思っていたのに、何だか呆気ない。
マゾヒストでも何でもないが些か心配になる。



「傷が痛むのか?」

「学園都市第一位の優秀な頭脳、ってホント名ばかりだね。ほんっとぉおおに馬鹿」



多少ニュアンスは違うが、良かった。いつものアイツらしい。
馬鹿鈍感そんなところまでヒーローもどきか死ね阿呆だらと小言を聞かされ、その度に悪かったといえば殴られた。



「あなたなんて大っ嫌い、死ね」



半ば無理矢理追い出される様にして部屋を出る前に、もう一度だけ、アイツに一言言っておく。



「――――――お前のお蔭で助かった、有難うな」



本当に死んじゃえよ、馬鹿………。
番外個体の呟きに、一方通行は病室を追い立てられた。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:33:45.21 ID:gngUMmaQ0<>


一方通行の居なくなった病室に、美琴が再び顔を出した。
妹が潜り込んでグスグスと泣くベッドに腰掛け、自分と同じセミロングの茶髪をゆっくりと撫でてやる。



「そんな所まで私に似なくたっていいのに。どうしてアンタもああゆうタイプを好きになっちゃっうかなあ」

「お姉様のDNAの所為だ………失恋が遺伝子単位でこびり付いてんだよ、責任取れコンチクショウ」

「な!わ、私はまだ失恋してないもん!!アイツはまだ特定の女の子作って無いし……っ」

「同じ女と何年も同居してる時点で勝負あった様なモンじゃん、ミサカもお姉様も。事実婚ってヤツ?」



焦る美琴を見遣りながら溜息を吐いた番外個体は、先程出ていったあの男と自分という存在について考える。
彼を殺す為に生まれた存在として生まれ、しかし結局は彼の為に生き、彼が愛した存在の為に命を掛けた。
有難うと柄にもなく感謝され、望めばきっとお礼に何でもしてくれて、ミサカの小言に付き合ってくれる。



「………どうしたの?難しい顔しちゃって」

「別に。お姉様と失恋パーティーでもしようかと思って」

「しししし失恋って、まだアンタも私も決まった訳じゃないでしょうがあああ!!!」



――――――― 一生あの人の傍にいて、一生お零れに集ってやる。精々下剋上に気を付けろよ、最終信号。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:34:22.45 ID:gngUMmaQ0<>


最後に一方通行が向かうのは、他でもない、打ち止めの病室だった。



『ミサカはあなたと一緒の道を進むんだから、ってミサカはミサカは断言してみたり』



―――――本当にいいのか?なんて、野暮な事を聞くつもりはない。
綺麗な世界だけを見せていくつもりでいたあのガキが、
打ち止めが自分の殺人を最後まで見届けた時点で、もう自分も彼女もその先の道が決まった様なものだ。


だからこそ、一方通行は再び誓う。
逃げるな、全てから。汚ねェ現実を覆い隠して、あのガキには潔癖で合って欲しいと勝手に願って余計なモンをあのガキに背負わせるな。
互いが互いで背負うのではない、決めたのだ。二人でクソデカい荷物を背負い合っていくのだと。


ガラガラと開いたドアに打ち止めが目を遣ると、そこには彼女が求めてならなかった青年が居た。
心成しか気まずそうにする彼に打ち止めは屈託のない笑顔を見せながら、しかし寂しそうに笑う。



「折角ミサカと同い年だったのに、直ぐヒーローさんに戻して貰っちゃうなんてちょっと寂しいかも。ってミサカはミサカは残念がってみたり」

「あのままジワジワ赤ん坊まで戻ってもマズいだろォが。効果が分散しただけで魔術は有効だったンだからよォ」



それでももう少しくらい良かったのにー、と唇を尖らせる打ち止めにうるせェと返しながら一方通行はチラリと彼女の具合を窺う。
肩の怪我以外にも、大型のショットガンを無理に振りまわしたり移動の際に用いた通気孔内で負ったりした筋肉の悪化や傷の所為で
打ち止めの姿は十分痛々しい物となっている。


だが、一方通行に謝る事は出来ない。
共に背負うと決めた矢先だ。彼女がそれを望まない事は幾ら一方通行でも理解できた。



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:35:00.92 ID:gngUMmaQ0<>


「―――――――Yシャツ、今日は着てないんだね」

「埃と返り血でボロボロになっちまったしな、使い物にならねェ」



やっぱり、ちょっと残念。
打ち止めの呟きに、一方通行は彼女の頭をクシャリと撫でた。


本当に言うのか?絶対にキャラじゃない。
個性個性と今日はよく言っているが、それこそ俺の個性に沿わない。


恥ずかしげに顔を真っ赤にさせた一方通行に、どうしたの?と打ち止めが首を傾げる。
ああ、ああ一番の恋煩いはこの俺だよ馬鹿野郎!



「お前、俺とずっと一緒だとか抜かしてたよな」

「?うん、ミサカはずっとあなたの隣にいるよ、ってミサカはミサカは絶対の答えを示してみたり」



ガキ扱いして妹扱いして、アイツの好意の意味を知りながら関係を崩すのをいつまでも恐れて放置して、
それでも結局、一緒に背負うとプロポーズも真青な爆弾宣言に縋って頼って依存して。


学園都市第一位の頭脳の持ち主、だなんて。とんだ戯言だ。
年下のガキに振り回されては、いつだってそいつに護られて生きているんだから。生きて、いくんだから。



「…………寄越せよ、お前のYシャツ」

「―――――――へ?」



垣根か海原辺りが見たら一週間はネタにされそうなくらい、恐らく俺はとても恥ずかしい顔になっている。
ああ、滑稽だろうさ。これがあの最強サマだっつーんだからな!



<> 最終話 『部屋ととある二人とミサカ』<>saga<>2011/02/20(日) 23:35:56.31 ID:gngUMmaQ0<>







「彼シャツは『ずっと一緒の証』、なんだろ?―――――――……だったら貸せよ、お前のYシャツ」


「―――――――うん、ってミサカはミサカは満面の笑みで頷いてみたり!!」







大馬鹿野郎は大馬鹿なガキと、滑稽な道辿るのがお似合いなのだ。









【 打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」 (完)】






<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/20(日) 23:36:42.38 ID:gngUMmaQ0<> 以上、本スレ最終回でした。
此処まで辿りつくのにおよそ3カ月……お付き合い頂いた皆様、本当に、本当に有難うございました。
元々の話が総合で書いた処女作だった事もあり当初からは大分文体も変わりましたが、
皆様が求めて下さったような通行止めという幻想を、僕は描けていたでしょうか。

次回スレを立てる機会にもし恵まれたら、
書きかけの霊能者パロか一方さん再構成モノを完成させるか半分以上書きあげてから投下したいと思っています。
またいつか皆様とお会いできる日を心待ちにして。暫くは総合でコソコソやっているような気もしますので、その時もまた優しくしてやって下さい。
これにて、【 打ち止め「あなたのYシャツ貸して欲しいな!ってミサカはミサカは…」一方「あァ?」 】完・結!!!

<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/20(日) 23:37:15.57 ID:gngUMmaQ0<> 私情にまみれたお知らせをついでに一つ。
以前総合に投下した【十人十色の幸福シリーズ】に最近になってもっと通行止めらしい「打ち止めの幼い恋(キス)エンド」を書きたくなり、
結果、追加エンドを加え全編纏めた作品をpixiv様に本日投下させて頂いてきました。
総合での誤字脱字も修正しましたので、宜しければそちらも合わせてご覧ください。

【禁書SS】十人十色の幸福と、【前篇】(※R-18G)
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=192289

【禁書SS】十人十色の幸福と、【後篇】(※R-18G)←こちらに追加エンドが収録されています
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=192355
<> >>1 あるいはシャツの人<>sage<>2011/02/20(日) 23:38:14.88 ID:gngUMmaQ0<> 私情にまみれたお知らせをついでに一つ。
以前総合に投下した【十人十色の幸福シリーズ】に最近になってもっと通行止めらしい「打ち止めの幼い恋(キス)エンド」を書きたくなり、
結果、追加エンドを加え全編纏めた作品をpixiv様に本日投下させて頂いてきました。
総合での誤字脱字も修正しましたので、宜しければそちらも合わせてご覧ください。

【禁書SS】十人十色の幸福と、【前篇】(※R-18G)
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=192289

【禁書SS】十人十色の幸福と、【後篇】(※R-18G)←こちらに追加エンドが収録されています
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=192355
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 23:40:29.95 ID:K41fvAGAO<> 終わってしまったか…
今までお疲れ様 面白かったぞ。
>>1超乙ゥァァァァ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 23:43:18.61 ID:t1FSOGm4o<> ひゃっはァァ―――――!!
超超おつっした――――!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 23:44:07.12 ID:LMrjrIQeo<> 乙ー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 23:46:01.26 ID:/n74qcJ1o<> 超乙
ええ話やった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/20(日) 23:46:31.93 ID:Te8qLMFDO<> 大学受験前に終わってよかった!

激しく乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:00:02.05 ID:QZFyiwLDO<> 乙乙乙

すごく面白かった! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:09:16.83 ID:LWjNENDao<> 乙!
とてもよい最終回であります!
終わっちまったんだな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:11:03.36 ID:rtF2geeJ0<> 乙!
しぶ投下も乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:29:21.22 ID:Nmmi8/mzo<> うはぁぁぁぁぁ
楽しかったよぉぉぉ

1乙!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:53:25.75 ID:5hRpUwSSO<> ずっと楽しみにしながら読んでたから終わるの寂しいけど
何はともあれ1乙!超乙!!通行止め大好きだーっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 00:53:27.03 ID:xfB1vZBHo<> 完結お疲れ様〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 01:01:53.23 ID:VJyHRumho<> 乙

ずっと小さいままかと思ってたwwwwww
記憶は退化してないんだよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 01:11:05.64 ID:KEq2J9cV0<> 乙
美琴だけ話についていけてねぇwww
でもまだ番外個体も美琴もチャンスあるよ!がんばれ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 01:18:18.74 ID:Xk9k6x8Xo<> 超乙!!
最後まで楽しませてもらいました
>>1の書く打ち止めはかわいくて強くてかっこよくて大好きだ

しぶに投下した追加エンドもよかった。ていうか泣けた
また次の作品もたのしみにしてる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/02/21(月) 02:06:25.64 ID:ykRY+zQa0<> 本当にいい物語をありがとう!

超乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 02:42:21.80 ID:D2dyc7R80<> 最高でした…!!!
良作には付き物ですが、完結してしまった喪失感が…半端ない…

これからもシャツの人応援しています!!
また素敵な作品書いてください。
超乙かれ様でした

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 04:33:37.80 ID:LYput9YDO<> 乙でした!たくさんの燃えと萌えをありがとう!
あはぎゃは一方さんはやっぱり素敵やでぇ
一方通行クローンズの今後がすげえ楽しみだ
次回作や続き作も待ってます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 12:27:38.91 ID:ZnXfDxdx0<> 乙!ひたすらに乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 14:57:11.58 ID:pU7TET8DO<> 超乙〜!!

総合に投下された内容からは想像できないほどの作品で本当に感動したぜ!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 18:17:44.64 ID:x8Yxx4q90<> 超おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおつ

最後良さ過ぎ。エンドロールが見えたよ。皆が幸せだな。超乙なんですよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 18:21:42.31 ID:x8Yxx4q90<> あれ?皆が幸せと言ったけど、海原が忘れられてね?
大丈夫だよ、超頑張ったのに忘れられてる海原(偽)のことも応援してるよ。超乙だよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 18:25:53.78 ID:17GdMYI1o<> 御坂さんとその周りの世界が守られることが私の幸せです(キリッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 19:17:31.99 ID:ZnXfDxdx0<> きめェ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 22:02:09.35 ID:K+1oQeUQo<> 始まった頃はほのぼの通行止めと思いきやガチシリアスまくりだったな・・・
乙でした! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 23:40:50.88 ID:V2O6gbCAO<> 超乙です

これで一つ楽しみが無くなっちまったなぁ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/22(火) 07:16:50.62 ID:i4goQaPDO<> 俺の常駐スレがまた一つ消えた……最ッ高に乙だぜェ! <> 861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/22(火) 12:06:09.82 ID:nN0GGFS30<> 乙っす!

次回作も楽しみにしてますwww
特に霊能都市の一通さんは幸せにいてやってほしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/22(火) 23:18:13.48 ID:uUKi4w+V0<> 乙
次回も絶対はりつく
面白かった!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/23(水) 01:15:19.63 ID:CTcM8WjOo<> 超乙!!
次回作も期待して待ってます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/23(水) 02:27:55.52 ID:xrN/m+sAO<> 3ヶ月存分に楽しみましたありがとう
乙であった! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/23(水) 15:01:34.13 ID:KB72zOrDO<> 乙です!
ほのぼのもギャグもシリアスも萌えて燃えましたありがとう
>>1さんの書く通行止め大好きなのでまた来てくれたら嬉しいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/23(水) 21:52:50.44 ID:bVkokEsf0<> お疲れ様でした
霊能パロの続き(というか一方さんその後)が気になってるのでぜひ!!!
まったりしてまってます <> e<>eee<>2011/02/25(金) 16:18:35.68 ID:CSvcSHBL0<> あれ?おかしいなあパソコンの画面がゆがんでるよー? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/25(金) 16:54:53.53 ID:59Xq0rmAO<> 一通さんが親バカ全開になったり
ミサワさんと打ち止めが一服盛られた一通さんのオナヌーを盗撮するために結束した作品
と同じ作品とはとても思えん。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/25(金) 20:32:43.23 ID:lP0R0z8A0<> ふむ



ふむ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/25(金) 21:19:17.62 ID:TcEoij/Io<> 乙梅 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/25(金) 21:19:45.72 ID:TcEoij/Io<> >>1000なら祈願成就 <> 1001<><>Over 1000 Thread<>               | ///////i!、\ \ ヽ
   、 ,          |/// / ツ/// /i 1!、 \ ヽ ヽ
  エIIエ ふ イ 大. お  |// //// // /.| ||i;゛、   ヽ ヽ  、
  .Eヨ     | .申 , れ  .|/ /リ{ {{{{// / i | ||i .!ヾ   ヽ `、 ヽ
           ̄    |.//{ Y'''''/ /ノ |.|!||! 、i ヽ    `、 、
  、 ァ .つ | 十    |///| { ,,;;;;i :: |.|ii ii、 i  !    i  i
  ┐用 .う  .レ.cト、   |シ从|.|,,,;;;" ̄~"|.|.ii ヾ、、 ヽ    i  i|
  ~ー‐ 、、    、、  |//i、.|| ii!' ,,, -‐.|.| 乂 \  \   i
  ┼ __  -|―|‐    |i i.i|. r| li!く  ゚ |ト /  i;; \  \  i
  ノ 、__   !_    | ii ||/"| l!`ミニ=ニ||'  /;;;;;: \  `、、_
              { |、{{..(| ll! i!;;;;;;; /|  '、:::...:  \  `ー-
   |-    /       | i!|1ト、|lili! !;;;;;;;/ .!  ii|il= il!   .` ー
  .cト、   /⌒し    |!i从/i∧i! i::::    ili!'__iI!--―'' ナ`-ト
          、、   |/いi|l!∧ ::  ー'''''二 ==--一"ヲ/  ||
    O  -|―|‐    .|./i i i|/∧ : :: ヾ-'"        / ;;;::リ'
         !_       | .|/i i!!リi ヽ:: :: ::|li、´ ̄ ̄ ̄ ̄ン ;;;: /
               | .i! i| /i| |、ヾ、.ィi' Tー-―テI|、  ;/:::
        /      |  /リ、| | ||.\i! l! ー‐キil!:::|/::::::::_
        /⌒し    |/ / i!.!;!ii|| |!::::` 、i!  " リ:/-‐''' ̄      SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
              /   .ノ  i! !/:::::::::: へ=-‐'´           http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/

<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>遊戯「ひぐらしのなく頃に?」 @ 2011/02/25(金) 21:10:51.71 ID:MFis6lTAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298635851/

しゃぶしゃぶ食べ放題の肉1皿原価は80円なんだが… @ 2011/02/25(金) 21:07:59.39 ID:kQdgwuTAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1298635679/

俺の宇宙 @ 2011/02/25(金) 20:54:44.10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1298634884/

心を犯されるとマジきつい @ 2011/02/25(金) 20:23:08.68 ID:SHqFYxLAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1298632988/

やる夫は定職に就くようです4種目 @ 2011/02/25(金) 20:11:27.66 ID:9Iwd7firo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298632287/

たかみな専用スレ @ 2011/02/25(金) 20:04:57.85
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1298631897/

よつば「とくしゅ、がっきゅう?」 @ 2011/02/25(金) 18:58:12.18 ID:eAx7wOsDO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298627892/

【お茶に】とある結社の黄金時間(ティータイム)【しましょう】 @ 2011/02/25(金) 18:48:38.47 ID:frP9IS9io
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298627318/


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