以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:35:11.02 ID:YSJcebw0<>



この作品は理想郷にて投稿している『とある世界達の反逆戦争』と全く同じ物です。
自分を追い込むため、ここにも投稿しようと思いました。
ここは、簡単に削除して逃げれませんから。
大体更新速度は三日から一週間ぐらいだと思います。
最初は、連日投稿するつもりです。

この作品はスレタイ通り、

『とある魔術の禁書目録』
『灼眼のシャナ』
『東方Project』
『魔法先生ネギま!』

の四作品による多重クロス作品となっています。
設定やら実力やら、自己解釈が結構入ると思います(特に東方)。
他の詳しい舞台設定については、作品内で説明していけたらな、と。

最後に一つ。


『この作品にはオリジナルキャラは出ません』


……影薄い(レールガンアニメオリジナルキャラとか)キャラが出る可能性は、ありますけど……




<>【電波】とある×シャナ×東方×ネギま【作品】 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:35:55.43 ID:YSJcebw0<>




「さて、アレイスター・クロウリー」

学園都市に存在する、窓の無いビル。
その中の空間は漆黒の闇。
機械の光が星の如く点滅し、闇を照らす。
ぼやけた視界の中、中心にそびえ立つ巨大な培養機の中に居る人間は、"ソレ"を見る。
逆さまの瞳が映す"ソレ"は、一言で述べるなら蜃気楼。
金の色を放つ、光の歪み。
決まった形を持たず、ユラユラと、ただそこに不安定に存在しつ続ける、何か。

「今回の"戦場"はここに決まった訳だが……私は楽しみでたまらない」
「……」

歪みがある空間から、空気の振動では絶対に発することの出来ない、そう思わせる言葉が放たれる。
培養機の中で逆さまに浮かぶ、緑色の手術着を着た彼は無言で返した。
彼のそんな友好が欠片も感じられない態度に、歪みが左右に首を振ったように動く。

「つれないな。何か喋ってくれればいいのに」
「貴方を喜ばせて、私に何の利益がある?」
「やれやれ……君は少し無駄な行動が持つ、楽しさという物を理解すべきだね」

何処までも上から目線の言動。
ほんの少し苛つきながら、アレイスターは言葉を返した。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:36:29.66 ID:YSJcebw0<>

「もう用は済んだのだろう?早く帰ればどうだ?」
「帰れとは……酷いな。私は一応『神』なのに」
「世界を生み出して起きながら、遊びのために使い潰す存在が『神』か。どうしようも無いな、この世界は」
「ふむ。確かにそうだな」

声の主は否定しなかった。

「そういえば、こんなセリフがあったな。『世界はいつだってこんな筈じゃないことばかりだ』と」
「その言葉に私は全力で同意しよう」
「おぉ、ひどいひどい……」

歪みは、光を失い、闇へと溶けてゆく。

「ではアレイスター。また会おう……『戦い』の後、君が生きていたならば」
「出来れば会いたくは無いな。貴方の存在は、私を酷く不愉快にさせる」
「ふふっ……ならば尚更会いたくなるな」

声がプツリと、突然切れた。
歪みも消え、まるでそこには、最初から何も無かったかのようだった。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:37:07.32 ID:YSJcebw0<>

「……」

声が消えてから、彼は暫しの間沈黙を守る。
やがて、
空間が横一閃に"開かれ"た。
何も無い、ほのかな光が満たす空間なのに、まるで"隙間(スキマ)"の如く、それは切れ目を広げてゆく。
縦に二メートル程裂け、暗いぽっかりとした扉のような空間。
暗闇の奥に、何かの目が光った。
ギョロリと、単眼の眼は百を超え、暗闇からアレイスターを見る。

「は〜い♡お久しぶり」

ニョキリと、空間から誰かが顔を出した。
気楽そうな声を発したのは、美女。
黄金を伸ばしたような金色の髪に、紫の結晶を思い浮かばせる瞳。
貴婦人のドレスを着て、部屋の中なのに日傘をさすその姿は美しい。
こんな意味不明の出現さえしなければ、だが。
女性の出現の仕方は特に気にしてないのか、アレイスターは彼女に普通に話しかける。

「八雲紫、そちらはどうだ?」
「まぁまぁ、って所かしら?こちらの神やら幽霊やらの力を使ってある程度は世界も安定してるわね」
「そうか。ならば余り強力な者達は出せないか」
「そうねぇ……いざとなったら幻想郷に無理矢理何人か叩き込むわ」

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:37:44.13 ID:YSJcebw0<>

彼等の会話は、第三者から見れば訳の分からないものだ。
だが、彼等以外に居る人間も居ないため、第三者に分かるように会話する必要は無い。

「手は?」
「結構揃ったわね。『贄殿遮那』に『零時迷子』。『黄昏の姫御子』に『闇の魔法』。そして私の所の『博麗の巫女』に」
「こちらの『幻想殺し』だ」

彼女の言葉を引き継ぐように、最後の手の名前を述べた。
日傘をさした女性……八雲紫は美貌を呆れで歪めながら、

「……普通の神々なら十回は殺せそうな戦力ね」
「相手が普通ならば、な」

即答。
彼等は他にも大量の戦力を持っている。
だが、だがそれでも、あの『神』に勝てるかと言われると、首を傾げざるを得ない。

「頼りになるのは貴方の所の『幻想殺し』かしら?むしろ彼が居たからこそ、貴方は『反逆』などする気になったのでしょうけど」
「否定はしない。が」
「?」
「いい加減、『終わらせる』べきだろう?」
「……クスッ。その通りね」

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:38:19.61 ID:YSJcebw0<>

そう同意してから、


紫の纏う雰囲気が、変わった。


まるで、今すぐに火がつきそうな油を瞬時に身に纏ったかのような、緊迫感というのを肌が焼けるかのように放ってくる。
その姿に、先程までの淑やかな美女の姿は無い。

「じゃあ、踊りましょうか。まずは私を従えなければお話しになりませんわ」
「君は賛同してくれているだろう」
「何も無しに女性を陥そうだなんて、男性としてどうなのでしょうね?」

芝居がかかった敬語。
紫は口元を怪しく歪め、日傘を畳んだ。
心無しか、隙間から覗く目が光を増す。

「全く、他にも説得しなければならない者達がいるというのに……」
「そういうのは若い者達に任せましょう。面倒ですし」
「……まぁ、いい。プランに問題は無い」

声が、紫の"後ろから"聞こえた。
紫は其方を向かない。
ただ"目の前の"培養機に入ったアレイスターを見る。
彼女の背後に出現した"二人目"の彼は、手を前に差し出し、何かを掴み取る。

「……では」
「踊りましょう」


瞬間、二人の姿は掻き消え、




窓の無いビルを揺るがす程の震動が、『外』から伝わった。




<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:38:55.86 ID:YSJcebw0<>





夜の街、"何故か誰も居無い"大通りのど真ん中で、二人は対峙していた。

「なるほど、術式を設置することで莫大な力を出すタイプの魔法か……相手に不足は無いぜ」

少女の声は、"空中から"響く。
月を背景に、箒に跨り浮く姿は、魔女。
黒い三角帽子を抑え、浮かぶ金髪の少女は"男口調"で告げる。

「……やれやれ。何でこんなことになっているのやら……まさか学園都市で魔術師と会うなんてね」

宙に浮く少女を見上げるのは、身長二メートルの男だった。
"黒い親父服"に身を包んではいるが、親父さんというには余りにも姿が無気味過ぎる。
指輪や香水、紅く染めた髪が目立つ彼は、面倒そうに、

「まぁ、"焼き尽くす"だけなんだけど」
「へへっ、そう簡単に行くかな?」

箒の上で少女は、歯を見せて笑いつつ、

「私に勝ったら、色々教えてやるぜ?"普通の魔法使い"たる私のこととか、何でこんなことになっているのかとかな」
「あぁ、じゃあ無理だね」
「んっ?」

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:39:32.84 ID:YSJcebw0<>

少女は不信気に男を見下ろす。
何時の間にか取り出したタバコを咥えつつ、彼は、

「だって、灰とどうやって会話すればいいんだい?」

そう、タバコの先端に火を灯しながら言った。
暫くぽかんとしていた少女だが、言葉の意味を理解してとびっきり凶悪な笑みを浮かべる。

「言ってくれるなオッサン神父……!」
「僕は十四歳なんだけどね、時代遅れの魔女」

"太陽のような閃光"が、少女の手元から漏れ出す。
それを大して気にかけず、男はタバコを横合いに投げ捨てた。

「後悔しても遅いぜっ!?」
「生憎と、後悔するような行動はしていない」

少女の手から光が放たれ、男の手に"炎剣"が生まれた。


そして、衝突。





<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:40:08.98 ID:YSJcebw0<>





ギィィィィンッ!!
と、甲高い金属音が鳴り響く。
音源は打ち合わされた二本の"刀"からだった。
ただし、刀は長い。刀身二メートルはある。
それらを軽々振るうのは、二人の"剣士"。

「若いのに中々、やりますね……」
「それはどう、も!」

"サイドポニーの少女"の刀から、雷撃が迸った。
金色に光るそれを瞬時に察知し、白い腹出しTシャツに片側を限界まで切り裂いたジーンズを履いた女性が飛び退く。

「"魔術"では無い……?」

衝撃波が襲いくる中、彼女は呟き、今は考える時では無いと思考を変える。

「すみません……ですが、切らせてもらいます」
「そう言われて簡単に切られる程、馬鹿ではありませんよ?」
「はい、分かってます……今のは、私の自己満足のためです」

サイドポニー少女からの言葉に、彼女は少しだけこの少女と仲良くなれるような気がした。
だがしかし、今は戦う時だ。

「"神鳴流"──」
「……」

少女が言葉を紡ぎながら、大地を蹴って迫る。
対抗するため、彼女は刀を鞘に納め、

「雷光、剣!」
「フッ!」

己の力を込め、一閃。


そして、衝突。




<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:40:51.98 ID:YSJcebw0<>





「チッ……」
「なる程、君は完璧に無敵じゃないんだな」
「うっせェンだよ。"蛇"なンぞに跨りやがって」

ビルの上で、白い髪に紅い目の彼は文句をかます。
文句を言われた当の本人は苦笑して、

「仕方が無い。何せ余は"祭礼の蛇"なのだから」

口調が変わっている。
遠くから響いてくるような、男の声。
見た目高校生の彼には全くもって合わない声だが、彼が立つ足場の蛇は答えるように甲高い音を上げる。

「はっ、随分と趣味が悪ィな」
「そう?結構気にいってるけどね」

自分のセンスが否定されたのが悲しかったのか、彼は右手に持つ大剣を肩に担ぐ。
片手持ちのそれは、ビルの屋上に居る彼を傷付けたものだ。

「時間もねェ。とっと終わらすぞ」
「そうだね。時は金なり、だ」

血を流しながらも、彼はその歪んだ敵意の表情を緩めない。
彼等は、戦いの最後の会話を終わらせる。

「行くぞ、"悪党"」
「行くよ、"超能力者"」


そして、衝突。





<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:41:31.01 ID:YSJcebw0<>






「あーあ、面倒くさいことに……」
「大丈夫?」
「誰に言ってんのよ」

突然、建物が崩壊したにもかかわらず、"三人"が居る場所は無事だった。
まるで、見えない壁に阻まれたかのように瓦礫が周辺に落ちている。

「"れいむ"ちゃん、助かったわぁー」
「ちゃん言うな。第一あんた、馬鹿みたいな量の"魔力"があるんだから自分で防ぎなさいよ」
「え、えへへ……」
「笑って。誤魔化した」
「ウチ、そういう戦い関係の"魔法"は苦手なんよぉ……」

苦笑いする少女に、巫女服を着た黒髪の少女が突っ込む。
二人共黒髪のロングで、綺麗な髪だった。
そんな二人を横目に見つつ、何故か"脇の露出した"巫女服を着た少女は、

「……仕方無い。サービスよ」
「えっ?」

バラバラと、"札"が突然現れ、少女の周囲をクルクルと舞い始める。

「情報代と、ご飯代。感謝しなさいよ。普段ならツケにするんだから」
「借金は。余り褒められないと思う」
「借金じゃない、ツケ」
「同じことじゃ……」

札は宙で"霊力"による力を放出してゆく。
そんな中で、彼女は後ろの二人の言葉を無視しつつ、

「さ、てと。私に喧嘩売ろうってのは何処のどいつ?」

"巫女"とは思えない、交戦的な笑みを浮かべた。





<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:42:08.09 ID:YSJcebw0<>






「ぐ、がぁぁっ!?」

ビルの壁面に叩きつけられ、彼は壁を突き破り、ゴミのように吹き飛ぶ。
吹き飛びながら、なんとか体勢を立て直す。

「なんで、"雷化"が……?」
「信じられねぇって顔だな」
「!」

彼が吹き飛んで来た穴から現れたのは、"赤い学生服"に身を包んだ"ホスト風"の若者。
茶髪をかき揚げつつ、彼は"赤い髪"の少年に教えてやった。

「雷になっての移動……理論は分からねぇけど、雷として動くってことはだ。充分科学の力で抵抗出来るよなぁ?」
「あ、なたは……」
「一つ、教えてやる」

"木製の杖"を強く握り締めている少年を、立って見下ろしながら、

「俺の"未元物質"に常識は通用しねぇ」

白く、巨大な"翼"を広げた。







<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:42:45.96 ID:YSJcebw0<>





「ふーん。あんた等使えそうね。ちょっと力貸しなさい」
「ふぇぇぇっ!?ま、待って下さい!わ、私"ネギせんせー"を探さないと……」
「ミ、"ミサカ"もあの人を探さなきゃって"ミサカはミサカ"は〜!?」
「我が非情なる拉致人、"マージョリー・ドー"、もうちっと優しくしてやればいいんじゃねぇか?」


「テメェなんだ!?なんで私の"原子崩し"が防がれる!?」
「悪いわね。私、普通じゃないの」
「チッ!化け物が!」
「……"黄昏の姫御子"だったときから、知ってるわよ。そんなこと」


「小僧……何処に"隠れて"いた?」
「へへっ、敵にんなこと教える訳無いやろオッサン」
「ちょ、"小太郎"君!」
「……なるほど、その"女の力"か。ならば其方から片付けるとしよう」
「やらせるか!"夏美姉ちゃん"には触れさせんわ!」
「"千変"を舐めるなよ、小僧」


「"悠二"と、戦う」
「……それで、いいのかよ」
「うん。戦って、私は一緒に進む」
「そっか。んじゃ、俺も手貸すよ」
「……貴様は女子を見たら助けずにいられないのか?」
「えっ?いや、だって……」
「「…………ハァ」」
「何故に息ピッタシのため息!?」







誰もが戦い、誰もが思う。
真実を知り、彼等は前を向く。
とある小さな世界で、大きな戦いが起こる。


とある世界達の反逆戦争



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>saga<>2010/12/08(水) 16:44:04.12 ID:YSJcebw0<>
以上です。
修正しながらなので、すみません。
今日の夜か、明日の朝にでも修正した続きを投稿します。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/08(水) 18:48:25.99 ID:ViU3wUAO<>待てぃ。
あそこは多重投稿は駄目なんだぞ。
削除なさい。<> ◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:03:18.72 ID:obMV8ik0<>
>>15

・二重投稿はご自分のサイトか二重投稿先が許可している場合に限ります

上記の通り、二重投稿先が許可している場合に限って二重投稿を許可します。
また、これまでに、他サイト様との二重投稿で何度かトラブルが起きていますので、二重投稿のサイには、「必ず」Arcadiaにも投稿している旨を「他の投稿先の作品に明記」してください。
明記されていない場合には、作者以外の人間が投稿している可能性があるとして、削除する可能性があります。


とのことなので、二重投稿はOKみたいです。

続き、行きます。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:04:47.49 ID:obMV8ik0<>



「……」

学園都市第七学区。
昼間のそこにて、一人の少女が驚愕に足を止めていた。
黒い鉄のイメージを与えてくるコートを纏う、十二、三歳の少女。長い黒髪が優雅になびく。

彼女は棒立ちになって震えていた。

恐怖では無く、動揺で。

「アラ、ストール……"これ"なに?」
「我にも、分からん。いや、ありえん……!」

少女に答えたのは、胸元で光る黒のペンダント。
"コキュートス"と呼ばれるその金色の輪が二つ付いた宝石は、動揺を隠しきれない。
原因は周囲にあった。
かといって少女と石……正確には違い、"二人"が動揺するような原因は分からない。
何故ならば周りといっても、ただ普通の学生やスーツ姿の人々が歩いている、当たり前の光景が広がっているだけだ。


ただし、彼女達にとってはそうではない。
震える唇を、なんとか動かした。




「"存在の力"が、無い……!?」




この世には"存在の力"という物がある。
人が、物が持つその力は文字通りこの世に存在するために必要な力。
"紅世の徒"と呼ばれる者達は人間の存在の力を奪い、それを使って様々な現象を引き起こす。
そんな無茶な行為が"紅世"とのバランスを崩すのではないか……そう考えた"紅世の王"達は人間に力を与え、同胞らを狩る決意をした。

そして少女もまた、"天壌の劫火"アラストールをその身に秘めた "フレイムヘイズ"だ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:05:38.79 ID:obMV8ik0<>


なのだが。


「なんなの、これ……」

返答が返って来ないと知りながらも、彼女は震えながら呟く。
黒い瞳に映る光景は、違っていた。
"存在の力"の証たる炎が、誰一人として見えない。
その身を構成している"存在の力"を、欠片たりとも感じられない。

(どういう、こと)

彼女の全身を悪寒が駆け巡る。
知らない外国に放り込まれた、などというレベルでは無かった。
もうこれは、"異世界"に放り込まれたかのような──

「っ!?」

思考から、仮説を生み出す。
しかし、余りにも馬鹿げた仮説。

「でも」

それ以外に、答えが思いつかない。
胸元のアラストールも、黙っていることから恐らく同じ考えか。
第一、彼女は"少年"に負けた筈だった。
負けて、気を失って、気が付いたらここに立っていた。
"自在法"か"宝具"でも使われたのか。
仮説を立ててから周りを見ると、改めて別の異常が目に入る。
立ち並ぶ風力発電のプロペラ。
ドラム缶みたいな道を走行する機械。
宙を大画面テレビを映しつつ飛ぶ飛行船。

ハッキリ言おう。


ここは、絶対に少女が知る"世界"では無い。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:09:02.27 ID:obMV8ik0<>

「……とにかく」

ザッ、と。
彼女は漸く一歩を踏み出す。
まずは、動いて情報を集めなければ。
知らなければならないことが、多過ぎる。

ドンッ!!

「あうっ!?」
「おわっ!?」

が、動揺は大きかった。
気がつかずに誰かと真正面からぶつかり、弾かれて尻もちを付く。
両手が、舗装された地面に触れた。

(くっ……!)

思わず彼女は心中で呻いた。
なんたる、無様な姿か。
普段の自分ならよろめくぐらいで、重心のバランスをとって倒れない筈なのに。
フレイムヘイズたる自分を、彼女は叱責した。
そして勢いよく立ち上がり、

「……むっ?」
「どうしっ…………?」

疑念の唸りに反応し、彼女は尋ねようとして気がついた。

「"夜笠"が……?」

着ていた黒衣……彼女だからこそ使える防具、"夜笠"の左胸部分が、
消失していた。
勿論、彼女は何もしていない。
"存在の力"を込めても無いし、そもそも、こんなに急にぽっかり消えるのなどあり得無い。
だが、現に、消えている。

(一体、何がーー)

先程から驚愕の連続で少女の感覚は麻痺してしまいそうだった。
混乱が新たな混乱を呼び、グラグラと思考が不安定に揺れる。
そんな思考を、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:09:43.71 ID:obMV8ik0<>


「痛たた……っ」


誰かの声が断ち切った。
彼女はハッ、となって目を前にやる。
そこには、彼女と同じように尻もちを付き、立ち上がろうとしている少年が居た。
高校生くらいの、黒髪の少年。
髪はウニを連想させる程、刺々しい。
目も黒で、至って普通の少年だった。
彼は呻きながら起き上がろうと足を地面につこうとして、


何故か下にあった空き缶を踏み付けた。


「あぼっ!?」
「…………」

少年はツルン、と氷の上のように滑り、頭を地面に打つ。
ゴンッ!と音を立てる彼を尻目に、踏み付けられて吹っ飛んだ空き缶は雑踏に紛れて、どこかに行ってしまった。
ぽかーんと、余りにも間抜けな姿に少女は口を開いて固まる。
少女は今まで生きて来て、今みたいな間抜けを起こした人間を他に見たことが無い。

「うぐ、ぐぐぐ……!?」

で、その呆れられた当人は、ウニ頭を抑えてゴロゴロ転がっていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:11:22.29 ID:obMV8ik0<>

「い、痛い……!余りにも痛いです……!」
「……なんなの、こいつ?」
「何時の時代、何時の世界にだろうと、こういう者(不幸な人間)は居るものだ」
「不幸っていうか、ただ間抜けなだけじゃないの?」

アラストールに言葉を返し、ふと少女は思う。
何時の間にか、混乱は収まっていた。
理由を考える前に、転がっていた少年が痛みを乗り越え、気がつく。

「……あっ!そ、そういえば"上条"さんは人とぶつかって……」
「今頃?」

彼はガバッと起き上がろうとし、


再度何故か下にあった空き缶を思いっきり踏み付け、すっ転んだ。


「ぐほっ!?」
「……馬鹿っぽい」

"夜笠"を一瞬で修繕しつつ、彼女はため息を一つ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:12:29.03 ID:obMV8ik0<>






これが、二人の出会い。


少年の名前は"上条当麻"。

とある"不思議な右手"を持つ、この物語の"鍵(キー)"。

主人公であって、主人公で無い者。

全ての"幻想"を、殺し尽くす者。




少女の名前は"シャナ"。

『炎髪灼眼の討ち手』"天壌の劫火"アラストールのフレイムヘイズ。




少女の名前は"シャナ"。




とある一人の少年から貰った、大切な、とても大切な、名前。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:14:05.21 ID:obMV8ik0<>






「納得してくれたか、土御門元春」
「……信じざるを得ないだろ……」

窓の無いビル。
その中で、土御門元春はサングラスを光によって輝かせつつ呻いた。
彼の右手には、一つの折り紙があった。
鶴の形に折られたそれは、"魔術"の媒介。
学園都市の"能力者"である土御門は、特別な授業(開発)を受け、脳の"回路"が常人とは変わってしまっている。
なので、"才能の無い者が才能の有る者の真似をするために作り出した魔術"を使えば、彼の回路は負担によって弾け、全身から血を吹き出し、場合によっては、死ぬ。


彼は今、鶴の折り紙によって光を生み出している。
それは、魔術。
なのに、土御門元春の体には、傷一つありはしなかった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:15:24.10 ID:obMV8ik0<>


「こんなあり得無いことを、現実にしてしまうヤツか……」
「既に"他世界の理"も入り混じり、新たな"世界の理(ルール)"が生まれている。能力者なのに魔術を無傷で使えるのも、その一つだ」

彼と会話するのは、培養機の中の人物、アレイスター・クロウリー。
表情には、心無しか疲労の色が見えるが、アレイスターは気にせず会話を続ける。

「"封絶"も、君が望めば直ぐに使えるようになる筈だ……全く、あの『神』もやってくれる」
「遊びに全力を費やす、か。はたからは迷惑この上無いな」

珍しく、土御門は目の前の人間の言葉に同意した。
それくらい、彼等の敵は馬鹿げていた。
土御門の価値観を、粉々に打ち砕いてしまうくらいには。

「やっぱり"封絶"の理もかなり弄くられてるわね。もうこれ、"封絶"じゃなくて別の何かでいいんじゃない?」

にょき、と女性の上半身が、何も無い空間から急に飛び出して来た。
"協力者"の一人らしい。
最初は驚いた土御門だが、もう驚かない。
感覚が麻痺していた。今なら何だって受け入れられるだろう。
女性はそんな土御門のことを気にかけず、自分の世界で調べたことを話す。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:16:27.78 ID:obMV8ik0<>

「選ばれた者……異世界の住人と、ある一定以上の強さを持つ者だけが動ける空間を作り出す……解除した瞬間、何もしなくても自然に建物などを修復する」

分かったのはここまでよ、と胡散臭い笑みで言う女性、八雲紫の服は所々破れていた。
穴から豊満なボディの姿がチラチラ覗くが、彼女は全く気にしていない。
そして続けるように言葉を放った。

「で、後は一人早速"送り込んだ"わ」
「そうか」
「送り込んだ……?」

一つの言葉に訝み、彼は言葉を繰り返して尋ねる。
尋ねられた紫は何が楽しいのか、扇を口に当てて笑いながら言う。

「えぇ。神や一部の実力者達は動かせないけど……動かせるのもちゃーんと居るのよ。……それに」

パラッ、と彼女は扇を華麗に美しく開く。


「あの"二人"にとって、『神』は無関係では無いですし……とっっっても、珍しいことに」







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:17:17.23 ID:obMV8ik0<>




「……チッ」

とあるマンションの扉の前で、一人の少年が舌打ちした。
髪をガシガシ掻きたくなる衝動がこみ上げてくる。
彼は"紅い目"を苛つきで細めつつ、茶色のドアを忌々し気に見る。
彼の右手には"白い現代風の杖"が付いてあり、指には白いビニール製の袋を持っている。
袋は、中からの圧迫で大きく、カチカチに膨らんでいた。

「クソったれが」

彼は自分の左手を見た。
そこにある銀色の鍵は、ポッキリ真ん中でへし折られている。
ついさっき落とした際、折れてしまったのだ。
科学の最先端を行く学園都市の鍵なのに、落ちただけで折れるとは……

「チッ」

面倒そうに、もう一度舌打ち。
彼は左手を首元にやり、"黒いチョーカー"のスイッチを入れる。
そしてすぐさま、白く細い指を鍵穴に突き込み、
ベキリ、と。
捻って、無理矢理鍵を開けていた。
開けてから直ぐにチョーカーのスイッチを切る。
後に残ったのは、壊れた鍵だけ。

(まァ、別に鍵くれェどォだっていい)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:18:08.56 ID:obMV8ik0<>

そう無理矢理自分を納得させ、彼はドアノブを捻る。
どうせここは彼の部屋では無く、"暗部の隠れ家"の一つに過ぎない。
破壊したところで、とくに困る訳でも無い。

「……」

無言のまま、彼は玄関に踏み込み、靴を履いたまま上がる。
脱いだままだと、いざという時危険だからだ。
彼はブラブラと重たいビニール袋を揺らしながら、リビングという名の無法地帯へと歩く。

「お帰りなさい」
「あァ、ただいまァァああああああああああああああああああッ!!?」

思わず返事を返し、驚愕。
即座に彼は飛び上がり、チョーカーのスイッチを入れ直して後方へと飛ぶ。
ちなみにここに住んでいるのは彼一人であり、他に人など居ない。
必然的に、お帰りなさいなんていう人間は居ないのだ。
殺意も敵意も気配も、何一つ感じて無かったため、油断していた。

「一体なにも……ン……」
「……?どうしたのかしら?」

固まった。
圧倒的な敵意を込め、前方を見たが見事に思考が固まった。
それは、僅か十メートル先に居る人物の姿のせい。
輝く"銀色の髪"に、"夕日を思わせる紅い瞳"。白い肌によって象られる表情は、まるで水晶のような美しさを放っている。
ここまではいい。少年だって髪が若いのに"真っ白"だから。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:19:20.63 ID:obMV8ik0<>


だが、格好がメイド服。


メイド服。メイド服、だ。
肘よりも袖は短く、膝よりもスカートは短い。
白と黒を中心とし、清潔さを感じさせる飾りが少なめの格好。白いスカートと、黒の下布が一際目立つ。
髪を緑色のリボンで二つ、三つ編みを作って耳の前に垂らしている。

彼に細かい服装は分からないが、間違い無くメイドさんだった。テレビやら漫画で見る、あの。
暫し放心していたが、やがて彼はなんとか口を動かし、質問。

「……オマエ、誰だ?」

彼女はクスッ、と可憐に笑って、

「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るものじゃないかしら?」
「不法進入者に言われる筋合いはねェ」
「不法進入者じゃなくて、不法進入メイドよ」
「意味分かンねェよボケ」





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:24:52.04 ID:obMV8ik0<>





これが、二人の出会い。


彼は"一方通行(アクセラレータ)"。

この学園都市、"最強の能力者"であり、"悪党"。

過去に大きな過ちを冒し、それでも前に進もうとする者。

"天使の力"を、得ることが出来る者。

不動の"第一位"。




彼女は"十六夜咲夜"。

"紅魔館"にて、メイドの仕事をする者。

"時"を操り、その力故、人生が変わった"元普通人"。

その力は、従者として主人のために使われる。

人呼んで、"完全で瀟洒な従者"。






この二人の出会いは仕組まれたもの。


そして一つ、この二人には絶対的な共通点がある。







過去を越えるために、"名前を捨てた"ことだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:26:56.51 ID:obMV8ik0<>





新たな出会いの中で、物語は動き出す。
一つ一つの物語を非情に眺めながら、
世界は、揺らがず騒がず動き続ける。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/08(水) 21:28:17.20 ID:obMV8ik0<>

続きは明日です。
修正って、面倒だなぁ……
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/08(水) 22:54:43.22 ID:IDsTskDO<>東方、シャナ、ネギまのことよく知らんが期待<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 23:47:47.68 ID:7p1eYcYo<>ネギまは美琴とネギ先生の中の人が同じってこくらいしかわからんな
シャナもよく知らんが上条さんが触ったらシャナ消えるんじゃないの?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/08(水) 23:58:55.07 ID:iJyNJoSO<>>>33
それは上条さんが触ったらステイルが消えるって言ってるようなもんだと思う
多分ね<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:25:18.99 ID:htYAh9I0<>

>>33
作中でいつか出て来ますよ。
ただ、シャナは最初"右手"に対して警戒心がかなり薄いかもです……

続き、行きます。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:26:35.67 ID:htYAh9I0<>








「お前……何?」




皆さん。上条当麻です。
学園都市在住、運の悪い高校生こと、上条当麻です。
黒いウニ頭が特徴と言われて、少し悲しい上条当麻です。

えー、実は現在、









出会ったばっかりの女の子に、刀を突きつけられています。




不幸だぁぁああああああああああああっ!!と上条当麻は渾身の力で叫びたくなった。
叫んだ瞬間、首元に当てられた刃が突き刺さりそうなので、叫べなかったが。


話は数分前に戻る。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/09(木) 12:27:20.86 ID:htYAh9I0<>






「う、うぅ……不幸だ……」
「ハァ……」
「初対面の女の子にも呆れられてるし……」

痛みを堪えつつ(空き缶を警戒しながら)、ようやっと上条は地面に足を付け、立ち上がった。
少し潰れてしまった髪型を整え、首を振って意識をハッキリさせる。
少女……シャナはそんな彼の姿を見て、

「ねぇ、アラストール。"こいつ"に聞く?」
「うむ……少々不安だが、この際目を瞑るとしよう」
「うん……?」

その遣り取りに、上条は首を傾げた。
今、自分の気のせいで無ければ、声が"二つ"聞こえた気がする。
片方は少女の声だったが、もう片方は深く、重く響いてくる遠雷のような男の声。
腹話術?と、極めて現実的な仮説を彼は立てた。

「聞きたいんだけど、いい?」
「えっ?あ、あぁ。なんだ?」
「"ここ"、どこ?」
「へっ?」

意外な質問に、上条は面食らう。
少女を観察する。
よく見れば、毅然とした態度と言動に似合わず、子供だった。
中学生かどうかすら怪しい。
『外』から来て、親と逸れたのかな?と上条は考えて、

「ここは"第七学区の"……第一駅近く──」
「待って。第七学区?」
「そうだけど?」
「どこの地域の学区なの?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:28:12.44 ID:htYAh9I0<>

ハァ?と声が口から出かける。
どこと言われても、上条にとっては至極当たり前の答えしか返せなかった。

「何処のって……"学園都市"のだけど?」
「学園、都市……?"それ"は何処にあるの?ここは日本なのよね?」
「いや、当たり前だろ?正確には東京西部を切り開いて作られた場所だけど」
「……アラストール」
「間違いないな。"そんな場所"は我も知らん」

と、ここで。
上条当麻は漸く、目の前の少女が"普通では無い事"に気がつき始めていた。

まず一つ。
今の男の声は、明らかに少女からでは無く、その胸に垂らしたペンダントからだった。
特別な意匠をこしらえたそのペンダント……"コキュートス"からの声。
そしてもう一つは、この世界に住む誰もが知っているであろう、学園都市を知らないこと。

後者は世間知らずだと納得出来る。理由を"こじつける"ことが出来る。

しかしながら、前者の部分。
これだけは、彼女が普通では無いと分かる。分かってしまう。
スピーカーを入れている?だとしたらこんな風にするよりも、直接耳に付けるイヤホンタイプのほうが、遥かに効率がいい筈だ。
"普通では無い"彼は、こんな科学とは思えない不可思議な現象を納得させる、一つの"力"を知っている。
世界に人知れず存在する、異能の力。
つまりは、魔術。

(魔術、師……?)

だとすれば、あのペンダントは"通信用霊装"だとでもいうのか。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:29:07.43 ID:htYAh9I0<>

そんな"見当違い"の思考を上条が働かせている間に、シャナは状況を静かに吟味していた。

(別世界なのは、間違いないけど……ダメ。やっぱり情報が少な過ぎる)

まず、別世界に来たという時点で問題だ。
歩いて行けない隣、"紅世"ならともかく、人の姿や地域名は同じな瓜二つの世界など、聞いたことが無い。
聞いたことが無いだけで、実は"誰も帰ってこれない"から知らなかったのかもしれないが。
とにかく、それは置いておく。
肝心の材料は、もう一つあった。

("存在の力"が、使える)

先程、"夜笠"を修繕したさいに使った"存在の力"……己の中の力を、彼女は少しだが、使っていた。
何故か、自分には"存在の力"がきっちりと有って、しかしどこか"おかしい"。

(とにかく、もっと情報を)

彼女は思考を一旦閉ざし、出会ったばかりの少年に尋ねていく。

「この街──」
「待ってくれ」
「っ?」

言葉を、遮られる。
上条当麻は、逆に尋ね返していた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:29:58.11 ID:htYAh9I0<>

「アンタは、一体なんなんだ?さっきから聞こえる、男の声はなんだ?アンタ、"もしかして"……」

そこで、口を紡ぐ。
シャナの脳内で、今の言葉が反復する。

("もしかして"?)

それは、何らかの情報を彼が持っていることを示していた。
全く見当違いのことかもしれない(事実、そうである)。
でも、彼は普通じゃない自分を見て違和感を覚え、その違和感を解消出来る"何か"を知っている。

それだけで、追及するのには充分だ。

「お前は──」

人混みの中で、周りの人間を気にせず、彼を逃がさないように右手を掴もうとシャナは前に出る。
そして、左手が上条の右手を掴む。


瞬間、黒衣の袖口が、"消滅"した。


「「────っ!」」


程度や理由は違えど、両者は驚きに息を呑む。
片方はあり得ない、理解ができない異常な現象に。
片方は消滅の現象の理由を知り、予想が当たったことに。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:30:45.65 ID:htYAh9I0<>

そして、素早く動いたのはシャナだった。
彼女は、虫を振り払うように右手から手を離し、一歩バックステップを踏み、

「"封絶"!」

珍しく叫んで、それを"張った"。
彼等を中心に"紅蓮の炎"が展開され、陽炎の壁で一定の空間を囲う。
地面には火線が走り、奇怪な、紋章を描いている。

「っ!?」

上条は数瞬遅れて、思考を回復させた。
慌てて、不思議な空間と"何故か止まった"人々を見る間も無く、

「──ふっ!」

空からまるで流星の如く、紅い髪を靡かせながら此方に向かってくる少女を見ていた。
火の粉を周囲に散らつかせ、背に紅蓮の翼を生やし、彼女は地面に周囲の人間を薙ぎ飛ばしながら、着地。
巻き起こる衝撃波と、路面へのダメージを気にせず、彼女は勢いよく、白銀の刃を彼の首元に突きつけた。

そして、尋ねる。
この世界のことでは無く、ひたすら"得体の知れない"この少年のことを。


「お前……何?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:31:25.45 ID:htYAh9I0<>




日常から、僅か十分。
今、上条当麻は絶対絶命といえた。
死へ、ほんの一歩、いや一ミリ以下の距離。
足を踏み出すどころか、指を動かした瞬間、喉を凶器が貫き、"右手"を除いて普通の人間である上条は死ぬだろう。

「……っ!」

冷や汗が垂れ、死への恐怖に蒼白になった頬を通過する。

(どうする……どうする……!?)

ここで、上条が恐怖によってパニックに陥らなかったのは、ひとえに彼が今まで数々の修羅場を潜り抜けて来たからだ。
命の危険に慣れた……とまではいかなくても、対処の方法を考えるくらいには、頭を働かせれる。

「答えなさい。お前は、何?」
「一体何者だ?」

念を押すように"二人分"の問いが放たれ、刃が少しだけ前に進む。
刃は柔らかい皮膚に阻まれ、張力によってまだ堪えている。
しかしいつ、限界を超えて食い込むか分からない。

「……こ、んなとこで、何のつもりだ……っ!?」

絶望的な状況に対して、上条は質問に"答えない"。
それは、賭け。
自分が彼女の服(?)を消してしまった原因が分からない限り、彼女は不用意に動かない、そんな直感、理屈。
強者というのは、得体の知れない物が相手の場合、慎重に行動しようとすることが多い。

「……他人の心配してる場合?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:32:05.30 ID:htYAh9I0<>

そして、それはシャナも同じだった。
ただし、警戒のレベルはとんでも無いが。達人……生と死の境界を、常人には想像もつかない程、乗り越えて来ているのだから。

「あ、たりまえだろ……!街中だぞ……!?」
「"封絶"を張ってあるから大丈夫よ」
「……フー、ゼツ?」

思わず、聞きなれない言葉をオウムのように返した。

「……"封絶"も、無い。当たり前か。"存在の力"が無いんだから」
「存、在……?」

シャナが、自分の予想から更にかけ離れた存在であることを、彼は周りに視線をやって、理解させられた。

全てが、"止まって"いる。

雑踏も、風力発電のプロペラも、ドラム缶のような清掃ロボットも、誰かが蹴った空き缶も。
全てが、どんなに不自然な形……足を地面に付けていなくても、止まっている。

「!?」

上条は周りを見て、今少女が地面に突っ込んで来た際、周りにどれだけの被害が及んだか認識した。
衝撃波によって人々が薙ぎ倒され、地面が砕け散り、礫がいくつか撒き散らされている。

マネキンのように固まっていた人々は、砕けているのもあれば千切れ飛んだり、血を流しているのもあった。
人間ということを、必死に訴えかけるように。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:32:44.33 ID:htYAh9I0<>

「テ、メェ……!」

怒りの呻きを、上条当麻は上げる。

「……?あぁ、周りの人間のこと?お前が心配しなくても、"封絶"の中なんだから後でちゃんと"修復"できるわよ」
「な、に、言って……」

刃はピクリとも動かさず、シャナは説明を始めた。
ここで下手に無視して話を進めても、話が進まないだろうから。

「この陽炎の壁に囲まれた空間は、"封絶"って言って、周りの因果や時から隔離された空間なの。で、ここでいくら暴れていくら物を壊しても、外からは何も気付かれ無い。そして、解除する際に外の因果と紡ぎ合わせれば、全てを修復することが出来る」

実際の所、この説明には足りない点がいくつかある。
治せない物があるということや、修復に"存在の力"を使うこと。
しかし、今ここでは必要無いだろう。

「理解出来た?」

当然、少しだけ雑学やら異能の知識があるだけの学生、上条当麻は、半分以上も理解出来なかった。
ただ、半分は理解出来た。
つまり、

「そんな、こと。信じられっかよ……それって、ようするに"この空間の中で死んだとしても生き返れる"ってことじゃねぇか……!」
「……頭の回転は悪くないみたいね」

シャナに変わるように、アラストールが"コキュートス"を通して語る。

「生き返る、という訳では無い。"修復"だ。ようするに、"封絶"内で静止した人間は物として扱われるのだ。生き物を生き返さすことは出来なくても、人間の形をした物を直すことはできるだろう?」
「……分かった?」
「……っ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:33:26.42 ID:htYAh9I0<>

僅かに、刃が喉を貫こうと目に見えないくらいの距離を、進む。
上条は少し足を引きつつ、拳を握り締めて、

「……あんた等の話が正しかったとして、俺は静止してないってことは、人間として扱われてんだよな?」
「そう。あり得ないことにね。だから、それも込みで聞いてるのよ。お前は、何?」
「……っ!」

プツリ、と。
刃が皮膚の張力限界を超えた。
ほんの僅か、食い込み、血を垂らす。
白銀の刃に、赤がひと雫流れる。

「"封絶"の中で何の"自在法"も無しに動け、"夜笠"を消し去る。お前は、何?」
「っ、そ、れは……」

迫る刃に、上条が観念して答えようと口を開く。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:34:09.42 ID:htYAh9I0<>




「少しばかり待ってくれないか、異界の者よ」


言葉は、紡げなかった。
その声に、対峙していた二人は其方に視線を向けた。
刃は下ろされなかったため、上条は懸命に目を寄せなければならなかったが。

そこに居たのは、不思議な人間。

男にも、女にも、子供にも、聖人にも、罪人にも見える、言語では、表しきれない存在。
銀色の髪に、緑色の手術着を身に纏っていた。
足は裸足で、まるで病院から逃げ出して来たような姿。

だが、彼が放つ圧迫感が、ただの人間では無いということを語っている。

「……っ!」

バッ!と、黒衣を翻し、シャナは後方へ跳んだ。
十メートルの距離を一っ飛びし、紅蓮の火の粉を周囲に散らしながら、着地する。

「アラストール……」
「うむ。接近されるまで、全く気配が無かった」

突然去った、命の危機。
上条は薄く切られ、血が垂れる首元を抑えながら、

「あ、あんたは……?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:34:45.66 ID:htYAh9I0<>

その言葉に、シャナは目の前に存在する人間が、上条の仲間で無いことを知る。

「ふむ、そうだな。まずは自己紹介をしよう」

それは、上条の疑問に答える。




「学園都市統括理事長、アレイスターだ。"これから"よろしくお願いさせてもらうよ、異界の者に"幻想殺し(イマジンブレイカー)"」




上条当麻は少ししてから思った。
俺ジュース買いに部屋から出ただけなのに、どうしてこんな状況になったの?と。

で、その場に居た人の答えは、


「不幸だから」


単純明快、簡単なことだった。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:35:29.40 ID:htYAh9I0<>






「……」

ジー……と、白髪紅眼、失礼な言い方をすると悪人顏の一方通行は、ソファーに寝転がり、ある一方を見ていた。
細められた、人によっては見ただけで尻尾まいて逃げ出すその視線を受けた"彼女"は、

「そんなに見つめないでくれるかしら?少し照れちゃうわ」
「だったら出て行けよクソメイドォ」
「嫌」

サラッと拒否してくる。
ビキビキッ!と、嫌な音を立てながら、一方通行のこめかみに青筋が浮かんだ。
彼が見ているのは、対面、ガラステーブルを挟んであるソファーに座る女性である。
彼と同種、いや、美しさを感じさせる紅い眼から、柔らかい余裕を見せている。
彼女は"十六夜咲夜"などと言うらしい。
突然の招かざる客に、一方通行がとった行動は首元ふん捕まえて、外に放り出す、という強硬策。
とてもでは無いが"暗部"の刺客などには見えなかったし、ずっと視界に入れていると頭痛がし始めるので(精神的ダメージによって)、彼にしては珍しく無傷で解放してやった。
が、
ドアを閉めて(中からロックもかけて)リビングに戻ると、何故かメイドがソファーに居座っていた。
訳が分からない。
警戒しながらも、彼は無防備な"フリ"をする。
それが分かっているのかいないのか、咲夜は動かなかった。

一方通行が見る限り、隙や油断など一片も見当たらないが。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:36:07.98 ID:htYAh9I0<>

「オマエ……一体どうやって中に入りやがった?空間移動か?」
「いや、"普通に歩いて"だけれど?」
「ドアを閉めてた俺の近くを通り抜けて、かァ?馬鹿か」

罵倒されても、彼女はさほど答えた様子は無い。
彼の言うことはもっともだった。
ドアを閉めている間(能力を使ったので僅か0.1秒)に、その間をすり抜けリビングに侵入する。
バレるとかいう問題では無く、まず現実的に無理な行為だ。

「第一、女性を外に放り出すなんて酷くないかしら?」
「不法侵入クソメイドだろうがよ、オマエはァ……」
「しょうがないじゃない。ここには、あのスキマBBA(ババア)に叩き込まれたんだし」
「あン?BBA?」

咲夜が、本心からのため息をついて言った言葉に、一方通行は嘘を感じられず犯人のことを尋ね返した。

瞬間、


ゴガンッ!!

「あだっ!?」
「ぐばっ!?」


二人の頭上から金属タライが降ってきて直撃した。

薄くて軽い金属特有の低い音を余韻に響かせ、タライは床を転がる。
不意の攻撃によるダメージは大きく、特に一方通行は横になっていたため、顔面に直撃していた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:36:45.46 ID:htYAh9I0<>

「いたた……」
「ぐっ、がっ……いつからここはお笑い屋敷になったンですかァ!?」

後頭部を抑えながら頭を上げる咲夜を無視して、彼は天井に吠える。

そして、

「なっ……!?」

息を呑んだ。
天井に、一方通行と咲夜の頭上だけにぽっかりと黒い何かが開いていた。
例えるならば、"隙間"。
空間が裂け、生まれた真っ黒な隙間。
その奥からは、単眼の瞳が幾つも幾つも蠢いていた。

「…………」

パクパクと、空気を噛むように口を閉開している一方通行。
怒りなど、どこかに消し飛んだ。

「あ、相変わらず地獄耳ね……」
「….…オイ、これなンだ?」
「さっき言ったスキマbゲフンゲフン……"スキマ妖怪"の力よ」
「…………」

聞きなれないフレーズがあったが、彼は無視した。
ようするに、これは彼女をここに叩き込んだBBAとやらの力らしい。
咲夜が言ったことが、全て正しければだが。

「……一体どういう原理ばァっ!?」

ゴシャッ!!と、見上げていた彼の顔面に新たなタライが直撃。
痛みに声にならない呻き声を放ち、鼻を抑える。
ゴロゴロ転がって行くタライが、最っ高に苛つかせる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:37:27.91 ID:htYAh9I0<>

「ク、クソったれが……っ!」

チョーカーのスイッチを入れ、能力全開で天井ごとぶち壊そうとして、
ヒラヒラと、頭上から紙が一枚降ってきて、机の上に落着する。
計算されたようにそれは表で、文字が見えるようになっていた。
内容は短く、一言。

『次、言ったり思ったりしたら弾幕結界』

何を、とは書かれていないが、咲夜の咳払いでなんとなく分かった。

「……」

紙を一瞥してから、上に視線をうつす。
予想通り、天井には何も無く、床を転がっていた筈のタライも消え失せていた。

「……一体、なンだってンだ……」
「だから言ったじゃない、スキマ"妖怪"の仕業よ」
「オカルトのこと聞いてンじゃねェよ。何が妖怪だ。ンなモン居る訳「居るわ」

言葉に、割り込まれる。
短く、強く、真っ直ぐに放たれた言葉は、しっかりと彼の耳に届いていた。
立ち上がったままの状態で、一方通行は発言者たる十六夜咲夜を見下ろした。
彼女の表情に笑みは無く、ただ事実を残酷に告げる、大人の顔だけが存在した。
一方通行は、知っている。
こんな表情をしてきた人間を、何人も何人も知っている。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:38:05.36 ID:htYAh9I0<>

「……チッ」

舌打ちを、一つ。
ドカッと乱暴にソファーへ座り直した。
そして、命令口調で言う。

「詳しく話せ」
「命令?まぁ私も、この状況から早く逃れたいから、それくらい良いけど……」

呆れ顔をしながらも、咲夜は渋々といった風に説明を始めた。

「私が居たのは"幻想郷"っていう場所よ」
「聞いたことねェな。別世界です、とでも言うつもりか?」
「半分当たりで半分外れ」

何時の間にか取り出した、銀のナイフを手の内で弄び、彼女は続ける。

「"幻想郷"は厳密的にはこの世界に存在する……けど、結界が張ってあるから、普通の人は入ってこれないし、出て行くことも出来ない。ただ、結界の効力の一つに"世界において幻想(忘却)となった物"を取り込む、っていうのがあるから、物や人が時折入ってくるわ。これがこの世界でいう"神隠し"よ。妖怪とかも、この性質のせいで居るらしいわ。結界だけじゃなくて、例外も結構あるけど」
「オマエもその例外の内の一つか?」
「そうなるわね。というか、あのバ……妖怪が規格外なのよ」

忌々し気に彼女は語って、ナイフを宙に放り上げる。
クルクルと、ナイフが銀の軌跡を描き、落下して行くが、
フッ、と。
消える。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:38:42.22 ID:htYAh9I0<>

「人や妖怪の中には能力を持っている者が居る。一人に一つ、その存在に沿った、特別な能力」
「……人も?オマエも持ってるのか?」
「えぇ。で、あのスキマ妖怪が持っているのが『あらゆる境界を操る程度の能力』」
「….…」
「私も詳しくは知らない……というより、本人以外にアレをはっきり説明出来る人間は居ないでしょうね。とにかく、空間と空間の"境界"を操作して、あんなスキマを生み出せるのよ、八雲紫は」
「八雲紫……」
「周りからはスキマ妖怪って言われることが多いわね。私はさっきまで"紅魔館"に居たんだけど、スキマに飲み込まれて…
…外の世界のここにドスン、よ。まったく、何考えてるのやら……」
「……」

一方通行は、黙って考えていた。
勿論、彼は彼女の言っている夢物語を"全ては"信じていない。
当たり前と言えば当たり前だった。
科学が進んだこの世界で、誰が妖怪やら別世界やら信じるというのか。
だが、断片的に信じられる情報もある。

何故なら、一方通行は既に"スキマ"を見ている。

(……あれは、どォ考えても俺の知ってる『能力』の類いじゃねェ。だとすると、此奴の話もあながち、嘘だらけでもねェか)

可能性としては、"原石"ということもある。
とにかく、一方通行は彼女の言葉を全て鵜呑みにせず、かといってあり得ないと反論することも無く、ただ情報を喋らさせる。

(作り話なら、どっかに歪みがある……)

思考しながら、しかし、同時に思う。
頭の片隅で、表には出さず。


自分は、このメイドの言葉を真実だとほぼ確信している、と。
理由は、よく分からないが。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:39:24.29 ID:htYAh9I0<>

咲夜は、そんな彼の思考などいず知らず、ナイフを次々と生み出し、弄ぶ。
ナイフが窓から射す太陽光を受け、キラリと瞬いた。

「……誰か来たみたいね」

そして突然、ナイフを瞬時に仕舞う。
何処に仕舞ったのか分からないが、一方通行は言及しない。
彼女の言う通り、誰かの気配が感じられたからだ。
コツ、コツと、コンクリートを踏む足音が耳に届く。
その誰かは、ドアの前で立ち止まり、ガチャガチャとドアノブをいじり始めた。

「ありゃ?鍵はぶっ壊れてるのにロックはかかってるのかにゃー?」

軽そうな、男の声が耳に入る。
巫山戯た調子が言葉の端々から感じられる声に、一方通行は不愉快そうに眉を寄せた。

「こンなときにかよ……」
「知り合い?」
「シスコン義妹フェチのな」
「危険人物じゃない。警察にでも通報したほうがいいんじゃないの?」
「オマエも十分危険人物だがなァ不法侵入ナイフメイド」

つーか警察とか知ってンのかテメェ。だって私元々外の世界の住人だし。聞いてねェぞ。言ってないもの。
なんて会話を続ける内に、ベキンッ!とロックを破壊される金属音がリビングにまで届く。
足音を大きく立てて、その不法侵入(二人目)はリビングに入って来た。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:40:08.52 ID:htYAh9I0<>

「にゃーにゃー。一方通行、元気にして、た、か、に……ゃ……」

入って来たのは、金髪に青いサングラスをかけた、アロハシャツの男。
かなり図体も大きく、身のこなしも常人とは違うが、年は高校生くらいだろう。
見た目はまるっきり不審者で、横目にその姿を見た咲夜は、

「……変態?」

と、なんとも酷い事をサラッと言ってのけた。
外面的にも内面的にも間違っていないと思う一方通行は、特に訂正をせずに本日二人目の"お客様"に呼びかけた。

「鍵ぶち壊してまで何のようだ、土御門」

本当の鍵を壊したのは本人なのだが。
呼びかけられた男、土御門は黙って固まっている。

ソファーに座っている十六夜咲夜を見て。

「…………」
「……オイ何か喋ったら──」
「……一方通行」

小さく唇が動き、言葉が放たれる。
一方通行はその声に、巫山戯が消えているのを感じ、真剣さを理解した。
目を細め、土御門が視線を集中させている、彼女を見る。
咲夜はさほど答えた風もなく、自分の手元に視線をやっていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:40:46.61 ID:htYAh9I0<>

「…………」
「…………」

無言のまま、スタスタと彼は一方通行の元へと向かって来て、
胸倉を掴み、ひねり上げた。
無理矢理立たされても、一方通行は冷然とした態度で土御門を睨む。
彼が何故こんなことをしているのかは分からないが、真剣な目をしているため、少しだけ好きにさせてやろうと考えたのだ。
もっとも、殺されそうになったら、隠し持つ銃でぶち抜く準備をしている。
油断は、していない。

「お前──」
「……」

銃に意識を集中。
言葉を、待つ。
土御門は、サングラスの奥の瞳を獰猛に光らせ、勢い良く口を開いた。









「お前なんでこんな美人のメイドさんと同居してたこと言わなかった!?クソったれ羨ましいぞこんちくしょう俺と代わブバッ!?」




取り合えず思いっきり右ストレートで殴り飛ばした、一方通行だった。

……殺さなかったのは、彼なりの成長なのかもしれない。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:42:08.97 ID:htYAh9I0<>


「"盟主"殿の行方はまだ分からないか?」
「……はい」
「全く、少しは用心して欲しい物だ。まだ敵の勢力も未知数だというのに」
「戦力が少ないですね」
「"ババア"がいたら、いい策でも提示してくれそうなんだがな」
「……その呼び方は、本人に止めるよう言われてた筈ですが」
「いいじゃないか。本人がいないのだから」
「……」

「おー、二人共ここに居た"アル"か?」

「……一体どこに居たんだ、お前は」
「ちょっと厨房を借りて肉まんを作てたネ」
「……お前は馬鹿か」
「エヘヘ……」
「照れる所じゃないぞ」
「あっ、二人も食べてみるカ?味は保障するアル!」
「だ、か、ら。話を聞けと──」
「……頂きます」
「なに?おい、ちょ……」
「ほい」
「……あむっ。もふもふ……」
「どうアルか?」
「……美味しいです」

「…………」

「あむ、うむ……」
「まだまだあるから、ゆっくり食べるネ」
「…………一つ、貰おう」
「ハイヨー!」

「……ところで、頭の上のそれはなんですか?」

「なに?」
「?」

ゴガンッ!!

「ぐおぉっ!?」
「だ、大丈夫アルか!?」
「……これは、なんですか?」
「……タライ、みたいアル」
「…………何故?」
「さぁ……?」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:43:08.83 ID:htYAh9I0<>








脆き現実と、硬き幻想。
当たり前の矛盾を無視して、
受け入れる世界は、常に動き続ける。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/09(木) 12:44:08.15 ID:htYAh9I0<>

以上っす。
最近調子が精神的にも肉体的にもダウン気味なので、頑張りたいところ。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 12:50:39.11 ID:slFAVhoo<>乙
今後にも期待wwktk<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 13:30:40.44 ID:XuDWdVwo<>東方はわかるからいいけどネギまもそうとうキャラ多いよね
それぞれの作品からどれくらいのキャラが出るの?
クロス物で登場人物増やしすぎるとgdgdになるよ。ソースは俺<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 17:52:57.84 ID:dZ3b06DO<>インスクライブレッドソウルさんだかインペリシャブルシューティングさんだかもペンデックスモードになりゃ戦えるな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 18:08:08.58 ID:AJuN3ESO<>>>62
ちょっと何を言ってんのかわかんないです<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 19:45:41.66 ID:dZ3b06DO<>そういや姫神さんいればスカーレット姉妹とエヴァンジェリンは楽勝だな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/09(木) 20:37:18.64 ID:ASTUPxE0<>>>64
妹の方は血の吸い方が判らず相手を木っ端微塵に爆砕してしまうような奴だぞ
むしろ姫神がヤバイ<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:37:39.83 ID:/8MrQGE0<>
>>61
なるべく厳選したり、戦闘不能にさせて離脱させたりする予定です。
ただ、最初はネギまキャラ達の影が薄くなると思います。色々あって……というか、そこまで行けるか……

>>62
そうですね。多分いつか戦うと思います。
そしてインデックスさんはメイド長のナイフ斬撃でも不死鳥の燃え盛る炎でも無いので悪しからず。

>>64-65
それについては、まず吸血鬼組が出て来るか不明です。後、姫神の封印が解けるかどうかも。
フランと遭遇した場合、姫神は殺されますがフランも血を浴びて死ぬ可能性が高いです。


では、修正が終わったので投稿です。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:38:26.52 ID:/8MrQGE0<>







「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

テーブルを囲んで座る者達。
沈黙が、場を包み、飲み込んでいた。
戦場を連想させる、張り詰めた糸のような沈黙。
ここ第七学区にある、上条当麻の部屋は、勿論戦場などでは無い。
しかし、今、この時。
この部屋は何かのキッカケで、戦場になる可能性を秘めていた。
先程の出会いからは既に二十分が経っている。
彼等は、上条宅へと移動していた。
ごく普通の学生寮の一室。

部屋で、沈黙を作り出しているのは"四人に見える五人"。

一人は黒いツンツン頭の少年、部屋の主である上条当麻。
彼は部屋の空気に鳥肌を立て、五人の内の一人を警戒している。

居候たる、簡単には語れない"事情"を多々に渡って持つ、インデックスという、ティーカップのような金色の装飾がなされた、"白い修道服"を着た、銀髪碧眼の幼い少女。
彼女は、いつもは笑顔で緩んでいる頬を引き締め、真剣そのものだ。
原因は、上条と同じ人物。

もう一人、インデックスと同い年くらいに見える少女が居た。
腰までよりも長い、癖の無い黒髪に、黒曜石の輝きを垣間見せる瞳。
名前はシャナ。彼女と、胸元の神器"コキュートス"に意識を顕現させる"紅世の王"アラストールは、孤立して睨み合いを眺める形になっている。

そして、最後の一人。
この人物が問題だった。
正確には、この人間の、立場が。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:39:02.45 ID:/8MrQGE0<>


「ふむ……少しは敵意を納めて欲しいのだが」

ぬけぬけと(少なくともインデックスと上条にとっては)したその言葉に、インデックスと上条は更に敵意を増幅させた。

まずはインデックスが、"イギリス清教のシスター"、魔術サイドの人間として唇を動かす。


「アレイスター・クロウリー……まさかこんなアジアの島国に逃げてたなんてね」


普段の彼女からは信じられないくらい、軽蔑の感情が篭った声。
だが、そう言わせるだけの理由がある。

この世界には現在、"魔術サイド"と"科学サイド"という、二つの勢力が存在する。
文字通りの二つは、基本的には仲が悪い。

魔術と科学は相入れない。

誰が定義した訳でも無いが、科学は魔術の存在を危ぶませ、魔術は科学の存在を危ぶませる。
表裏。故に、この二つはデリケートな間柄ながらも、なんとか共存していた。

が、かつて、この両サイドの関係は危ぶまれることになる。

魔術サイドのリーダー……つまり、最強の魔術師と言って過言では無い、"魔神"の称号を持つ者が、科学に頭を垂れたのだ。
例えで言うなら、軍の代表が誰の意見も聞かずに、勝手に敵に降伏したようなもの。
当然、その"魔神"は世界中のありとあらゆる魔術師の敵となり、殺された、


"筈"だった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:39:43.95 ID:/8MrQGE0<>

そう、つまりはインデックスの目の前、ガラステーブルの対面に、正座で座る人間が最強の魔術師。
アレイスター・クロウリー。
彼は今、"科学サイド"のトップとして、彼等の前に居る。
今まで誰にも気づかれず、ひっそりと、それでいて堂々と存在していたというのに。
彼は表情を全く変えず、機械のようで人間のような、不思議な声を紡ぐ。

「"禁書目録"。君の態度の理由はよく分かっている。だが、事態はかなり深刻なのだ。どうか、分かって欲しい」
「……」

インデックスはフンッと鼻を鳴らして、それ以上何も言わなかった。
ここで追及したとしても、"魔力"を練れない自分には、アレイスターを捕まえたり倒すことは出来ないだろうし、もう一人、上条が連れて来た少女のことも気になっていたから。

しかし、彼女が一先ず矛を引いたというのに、

「……」

上条は、敵意の視線を注ぎ続ける。

「……"幻想殺し"」
「俺は」

アレイスターの呟きに声を被せ、上条当麻は、腹の底から声を発した。怒りが凝縮された、爆発寸前の、声。

彼は、色んなことを考えていた。
普通の高校生である筈の上条当麻は、今まで、学園都市の汚い部分に関わり、様々な闇を垣間見て来た。
非人道な、"二万人のクローン"を殺す実験。"人工の天使"を作り、暴走させたこと。
中には、ここに居る内、"記憶にある中"で一番付き合いが長いインデックスも知らない、この都市の隠れた部分に触れた彼は、感情のままに吐露する。

「アンタ、なんであんなことが出来んだよ。科学のトップってことは、知ってたんだろ?」
「?」

隣のインデックスが頭にクエスチョンマークを浮かべるのにも構わず、彼は断片的な言葉で問い詰める。
問い詰められたアレイスターは、やはり感情がさっぱり読めない顔で、

「あぁ。私がやらせたからな」
「──っ!」

ガラステーブルに手を叩きつけつつ、彼は猛然と立ち上がった。
口を開き、吠える。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:40:23.25 ID:/8MrQGE0<>

「アンタ……!「必要だから、私はやった。ただ、それだけだ」……っ」

しかし、今度はアレイスターが言葉を被せた。
流れるように被せられ、上条は無意識の内に口を閉じてしまう。
上条の動揺など歯牙にもかけず、アレイスターは語る。

「全ては、この『戦い』のため。理由はそれ以上でもそれ以下でも無い」
「……"妹達"を殺したり、"風斬"を不幸な目に合わせたりしたことが、それで許されるって思ってんのか?」
「許してもらうつもりなどない。ただ、必要だということを理解してもらいだけだ」

言葉が終わっても、一方的な炎の如き敵意は収まらなかった。
彼も分かっているのか、もう特に何を言うようにも見えない。

「……話は終わった?」
「終わったのならば、そろそろ此方の話に移らせてもらう」

と、重い空気を刃で切り裂くように、それまで傍観していたシャナとアラストールの言葉が発せられる。
彼女達が今まで何も言わなかったのは、彼等の話が自分達の全く知らない異世界の事情によるものであり、個人の小さな揉め事一つ一つに構うようなお人好しではないからだろう。
本当は、お人好しじゃないのではなく、そこまで子供でもないということなのだが、彼女達にとっては対して意味はない。

彼女達は、"フレイムヘイズ"なのだから。

「すまない、話を始めよう。いいかね?」

一言、断りを入れるアレイスター。
その感情が篭って無い言葉に、上条とインデックスの二人は無言で、シャナは軽く頷いて返した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:41:07.48 ID:/8MrQGE0<>

「まずは、貴方達のことだが、異世界。それも"紅の世界(クレナイノセカイ)"からの住人で間違い無いか?」
「"紅の世界"?"紅世"のこと?」
「正確には、"紅世"というものがある世界のことを、私と八雲紫はそう呼んでいる」
「"紅の世界"……?」

インデックスは首を傾げた。
彼女の脳内には、"完全記憶能力"によって刻まれた、"十万三千冊の魔導書"の知識が存在する。
つまり彼女は"超能力"や一部の例外を除く異能の力、"魔術"に関して、この世界でトップクラス……三本の指に入る知識を持っているのだ。
しかし、それでも分からない。
"異世界"なんてぶっ飛んだ話から入ったため、魔術側関係だと思ったのだが、"紅の世界"なんてモノの知識はカケラも存在しない。
さっぱり見当も付かないインデックスは、横に座る上条を少し下から覗き見る。
見られている彼は、インデックスの瞳に困惑の表情を写しながら手をわたわたと振って、

「はっ?ちょ?えっ?い、異世界?」

……どうやら、彼女達が異常だというのは分かっていたが、異世界から来たとは思っていなかったらしい。

「……お前、今更そんなことを言うの?」
「そこの修道女はともかく、貴様は既に我々の異常さを把握しておろうが、うつけ者め」

二人から呆れのみの言葉を投げかけられ、上条は何故かいたたまれなくなって小さく呻く。

「いや……普通異世界からとか、漫画でも無い限りそう簡単に考えられないって」

彼の言うことももっともだった。
漫画やアニメの世界でも無い限り、簡単に異世界などという異常を思いつくことは出来ないだろう。
何故ならば、人というのは自分自身が住む世界を生きていて"他がある"と考えている者は比較的少数だからだ(インデックスは少数派だと言える)。
ただ、シャナ達の場合、彼女達の世界自体にもう一つ異世界が、"紅世"が存在したため、異世界というものにある程度なじみが深かった。
そのため、すぐさま異世界に来たと断定出来たのである。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:41:45.07 ID:/8MrQGE0<>

「鈍いわね。"悠二"なら直ぐに気がついて…………っ」
「……どうした?」
「……うるさいうるさいうるさい。何でも無い」
「……」

シャナは問いかけて来た上条に文句を言い、アラストールが何か言いたそうにしているのを感じながらも、上条を指差して"誤魔化すように"アレイスターに尋ねる。

「異世界とかの話の前に、こいつ何?幾ら何でも異常よ」
「とうまが……?た、確かにとうまは女の子と異常なぐらい関わってるけど……って!よく考えてみれば今回もそうかもとうまのバカァァァァッ!!」
「うおいっ!?ちょいっとお待ちよインデックスさん!?今回上条さんは問答無用で殺されかけてギャァァアアアアアアアアッ!?」
「……珍妙だな」

アラストールから簡素に纏められ、頭部をがぶがぶと猛獣のごとく、噛み砕かれないぐらいの力でインデックスに噛まれている上条は泣きたくなった。
取り合えず、噛まれながらも説明を始める。

「インデックス痛い痛い!!煎餅食べていいから!……えーっとだな、俺の力はなんか、超能力(PSI)でも魔術(オカルト)でも無いらしいんだけど」

そこで区切り、シャナ達(胸元のペンダントは分からないが)が続きを促していることを確認し、




「俺の右手は、それが異能の力であるなら戦略兵器クラスの超電磁砲だろうがビルを倒壊させる攻撃だろうが、"神様の奇跡"であろうと触れただけで打ち消せます。はい」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:42:57.45 ID:/8MrQGE0<>


場に訪れたのは、沈黙。

「あむっ」
「ふむ。むぐむぐ……」

予め知っていたインデックス(何時の間にか座り直していた)とアレイスターはさして反応せず、テーブルの上に置かれた煎餅に手を伸ばし、食べていた。
最強の魔術師だろうと科学サイドのトップだろうと煎餅食うんかい、などと何気なく上条は思い、


「──なんですってっ!?」
「──馬鹿なっ!?」


驚愕の怒鳴り声に、勢い余って横倒しになった。
ドゴシャッ!とフローリングの床に叩きつけられる形となり、上条は奇妙な悲鳴をあげる。

「ぐべっ!?」

這い蹲る上条に、睨むと形容できるレベルの熱視線を浴びせながらシャナは大声で続けた。
信じられないという気持ちを、多大に込めながら。

「神様の奇跡もって……そんな力、あったら世界のバランスが崩れるわよ!"存在の力"をあんなに簡単に……」
「とうまの『幻想殺し』のこと?んー、それなら問題ないんだよ。とうまの力は"破壊"というよりは"循環"に近いから。世界に与える影響なんて全然無い筈。でも、とうま自身は不幸になりまくりだけどね、はむっ」
「……インデックスさん。煎餅食べながら普通に言わないで下さいよ……」
「……」

インデックスの言葉を聞いて、シャナは口を閉ざす。
異世界の法則など彼女には分からない。
ただ、今も肩にかかっている"存在の力"によって構成された防御の黒衣、"夜笠"が消されたのは確かなのだ。
削り取るとか、焼き尽くすとか、そんな曖昧な消滅では無く。
空気を薙ぐように、あの右手に触れた部分が消えた。

(……こいつの右手には、要注意ね)

誰ともなしに思い、警戒する。
いざとなれば、異能の力じゃない、純粋な力で殺せばいい。
先程の戦闘で体術自体は一般人となんら代わり無いと把握していることだし。

(……今思えばこいつ、さっき殺しかけられたのに、私を部屋に入れるなんて。全然警戒もしてないし、どれだけお人好しなの……?)

と、改めて上条当麻という人物の異常さに、今度は呆れていると、煎餅を一枚バリバリと食べ終わったアレイスターが、

「そろそろ話を戻していいか?」
「その前に口についた煎餅の欠片取れよ」
「むっ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:43:48.80 ID:/8MrQGE0<>


上条の指摘に、彼は無表情のまま口元を拭う。
なんだか笑ってしまうくらい似合わないが、上条は必死に堪えた。

「……では、説明を始めよう」

そして、漸く語られ始める。
目的、理由、事実。三つ全てが。







「我々の目的、『神』への反逆に協力してもらいたい」











<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/10(金) 12:44:37.29 ID:/8MrQGE0<>










「いつつ……少しは手加減して貰いたいもんだぜい」
「手加減してなきゃ、今頃オマエはトマトみてェに潰れてるぜェ?」

暗にそうしてほしかったか?と尋ねつつ、一方通行はソファーにもたれ掛かり欠伸を噛み[ピーーー]。
先程、土御門元春が来てから二十分が経過。
壁に衝突して気絶した彼を一方通行は放置し、咲夜と適当に会話をしていた。
その際、缶コーヒーを勝手に飲まれ(口の部分をナイフで切って開けていた)「マズイ!」と言われて買って来たコーヒーを全て窓から投げ捨てられている。
なので土御門が目を覚めた直後に見たのは、


『こんなマズイコーヒーを飲めるなんて、貴方の舌おかしいんじゃないの!?』
『俺の勝手だろうがクソメイド!つーか勝手に飲ンどいてその言い草はなンだ!?』


などという、言い争いの場面だった。
冷静沈着に見えた咲夜が何故か本気で怒鳴っていることに、少し驚いたのも束の間。
用事を思い出し、ソファーに座ったのである。
対面に座る一方通行は良い顔をしなかったが。

「ンでェ?用はなンだよ。またメイドとか言い出したら本当に肉片にするぞ」
「あっははは……さっきは我を忘れちまったからにゃー」

頭を掻きながら弁明する土御門。
彼をじと目で見ながら、咲夜は一方通行の隣に座る。

「メイドを見た瞬間我を忘れるなんて、危険な人ね。人里にも偶に居たけど」
「オイ、オマエ何ナチュラルに俺の隣に座ってンだ」
「?」
「首傾げてンじゃねェ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:45:23.27 ID:/8MrQGE0<>

ハァ、とため息を混ぜながら息を吐く。
天然なのかと疑いたくなるが、それだと先程までのコーヒー(紅茶もらしい)への完璧主義はどうなんだ?と思う。

「隣に座るな前に座りやがれ」
「嫌よ。メイドに興奮する変人の隣に座れなんて、貴方デリカシー無いわね」
「だったら床に座るか立ってろよ。不法進入者なのに部屋に居れるだけ有難いと思えボケがァ」
「あはは……変人……」

憧れの超美人(ここだけは一方通行も渋々同意)メイドさんに汚物を見るような目での言葉に、割りとシャレにならない精神ダメージを受けるが、土御門は首を振って雑念を振り払う。

「さて……そろそろ真面目な話と行こうか」
「「さっさとしろ」」

口調と表情が真面目になった彼に、容赦無く言葉を放つ二人。
色々感情が混ざった苦笑をしながら、土御門は用件を語り始めた。

「俺が来たのはアレイスターと八雲紫の代理だからだ」
「アレイスター、だと?」
「あのバ……スキマ妖怪と会ったの?」

彼から出た意外な、そしてある意味想像出来た名前に、二人は同時に反応し、普段の口調のまま問い詰める。

「まぁな。所で、説明の前にこれを見てくれ」
「……?何ダラダラやって」

勿体ぶる彼の言動に、一方通行が疑念を抱き、文句を言おうとして、


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:46:19.62 ID:/8MrQGE0<>




「"封絶"」




瞬間、"世界が変わった"。

「っ!」

反射的にソファーを蹴り飛ばしながら、一方通行は後方へと飛び、土御門から距離を取った。
慣れた手付きでチョーカーのスイッチを入れ、一方通行は"能力"を得る。
能力によって常人には絶対あり得ない速さで着地し、フローリングの床がべキリッ、と悲鳴を上げた。
僅かに目を逸らしてみると、視界の隅で同じように咲夜も着地している。
その白銀と漆黒の姿に沿うように、幾つもの銀のナイフが漂っている。
数は数十を超え、全てをバターみたいに切り裂きそうな刃は、土御門へと真っ直ぐに向けられていた。
銀光煌く凶器が自分へと向けられているというのに、土御門はサングラスをギラギラと輝かせ、無言で佇んでいた。

「……」

臨戦態勢を崩さず、彼は周りに視線を走らせる。
周囲は、異世界の様相を顕にしていた。
地面には薄ぼんやりと白く光る線とも紋章とも取れる文字が浮かんでおり、空気は僅かにだが重く、物質全ての色が薄くなっていた。
窓から覗く外の風景の先に、何やら壁らしきものが存在している。
清々しい青い空は見当たらず、ただそこには、白い楊炎の壁だけが存在した。

「……オイ、なンだこれ?」

何も起こらないまま数秒経ち、一方通行はドスの聞いた、答えなければ殺されるということが本能的に分かる声で、現象を発生させたであろう超本人に尋ねた。
が、何故か答えたのは、同じく異常現象に臨戦態勢を整えていた、咲夜だった。

「ふぅん……これ、一種の結界ね。効果はよく分からないけど、防御とかじゃなくて隠蔽や隔離の類いかしら?」

彼女は、興味深げに視線を衝撃でひび割れた床に落とす。
そこに描かれた紋様は、彼女が見たことが無い物。
元々、彼女とてそんなに詳しい訳ではない。

「大方、私が知らない魔法や魔術ね。どうしてこんなものを張ったの?」
「待て」
「?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:48:08.45 ID:/8MrQGE0<>
一方通行の頭が、聞き逃してはならないワードを捉えた。

「"魔術"?ンなもンがあンのか?」
「そうだ。能力では無い」

答えたのは、土御門。
彼はポケットに両手を入れ、ぐるりと周囲の空間を見渡す。

「これは"封絶"。外との因果を切り離し、中を隔離する術だ」
「……意味分からねェな。もっとハッキリ説明出来ねェのか?」
「まぁ、詳しい仕組みは後からでいいだろう。今知って欲しいのは『これは誰でも使える』『ここで静止しているものは全て後で直せる』『ここは存分に暴れるための戦場である』ということだ。あぁ、"超能力"以外の異能の力があるという証拠でもあるな」
「……」

自分の常識を完膚なきまでに叩き壊され、だがしかし、彼は頭脳を高速で回転させる。
第一位としての、最強の頭脳を駆使して、思考する。

(魔術、封絶、魔法、超能力、結界、十六夜咲夜、境界を操る程度の能力、学園都市では無い、異世界、土御門元春、タイミング、幻想郷、八雲紫、アレイスター)


そして、足りない、と気がついた。


「……目的は、何だ?」

簡素な、実に簡素な問いかけ。
十六夜咲夜のこと、土御門元春のこと、八雲紫とやらのこと、アレイスターのこと。
全てを含めて、彼は問いかける。
こんなことをする、目的はなんだと。

「……俺もさっき聞いたばっかりなんだけどにゃー」

土御門は、またもやお巫山戯口調に戻って、











「どうやら、俺達で『神』とやらに喧嘩売れってことらしいぜい?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:48:44.39 ID:/8MrQGE0<>

「…………はっ?」
「へぇ」

前者が一方通行、後者が十六夜咲夜である。
彼は魂がすっぽり抜けた声で、彼女は特段動揺無しの声で、それぞれの感情を見事なまでに示していた。

「…………『神』?」
「『神』だぜい。白い紙でも黒い髪でもない、神様の『神』だにゃー」
「………………」

臨戦態勢さえも忘れて、棒立ちになる一方通行。
彼は反射だけは維持しつつ、

ポケットから黒い携帯電話を取り出した。
勿論かける場所は、

「……救急車は何番だったか」
「待て待て待て。"封絶"の中じゃ電波が無いから無理だぜい」

"封絶"、という"証拠"を思い出し、一方通行は携帯電話を耳に当てる途中で止める。
だが、まぁ、突然『神様に喧嘩を売りましょう』などと言われて『あぁ分かりました』なんて返せる人間は、当事者では無いか思考回路が逝かれてしまった人間だけだろう。
いくら"魔術"という異常を、目の前で見せつけられたとしてもだ。

しかし、そんな彼とうって変わって、彼女は、

「で?何処の神に喧嘩売ればいいの?」

『神』という存在を簡単に受け入れ、即座に動き出しそうな雰囲気を放っていた。

「……オマエ、頭おかしいのか?『神』だぞ?」
「あら、幻想郷にだって神は普通に居るのよ?あと幽霊とか、天人とかも。地獄の閻魔も居るし」
「…………」

ガラガラと現実が崩れて行く幻聴が聞こえた。
痛むこめかみを無意識の内に抑えながら、一方通行は自分の常識を全て捨て去ることにした。
そうしないと、この怒涛の展開について行けなくなってしまう。もしくは精神的に死ぬ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:49:19.00 ID:/8MrQGE0<>

「……説明」

無理矢理自分の学園都市最強の頭脳を納得させ、彼は土御門にぷらぷらと白い手を促すために振った。
咲夜がその手を見て「か、完璧な白い肌……っ!一体どんな手入れをっ……!?」などと戦慄していたのは無視。無視ったら無視。

「あいよー。といっても、俺から言えるのは大したことじゃないんだけどな」

尋ねられた彼は、ポケットから左手を出す。
手には白い紙が握られており、小さな黒い文字がいくつか書かれている。

「んじゃ──」











<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:50:22.39 ID:/8MrQGE0<>






上条宅にて。

「これは『戦い』だ。異世界を幾つも巻き込んだ」
「『戦い』?」
「名前は無い。ただ一つの存在を満足させるための、巨大な『戦い』」
「……その存在が『神』って訳?」
「そうだ」

アレイスターの爆弾電波発言は一先ず置いておき、それに対しての理由を説明することとなった。
人間、アレイスターもさすがに性急過ぎたと思ったのか、一つ一つキチンと説明している。
上条は神妙に、この得体の知れない人間の言葉を聞いていた。
実際のところ、上条にはオカルトの知識が大して無いため、発言が出来なかったりする。

神や天使という存在に知識が深いインデックスが、顎に手を当てて、

「でも。その話が"本当に"正しかったとして」

まるっきり信じていない口調だった。
それは単に、アレイスター・クロウリーという魔術界の裏切り者への疑念からでは無い。
彼女自身の知識からの、反論。

「"神様"っていうのはそんな人間的な存在じゃないんだよ。人間とは、全く別種の存在なんだから。貴方も元魔術師なら分かるでしょ?」
「それはこの世界の理(ルール)でしか無い。他の世界には、神というものが人間のように存在していることもある」
「うむ……現に、我自身"天罰神"だ」
「て、天罰……」

会話の流れに乗って、自分の正体を明かす不思議なペンダント(上条はそう思っている)に、思わず上条は距離を取る。
彼は天罰とか、そういう不幸に関わるモノが大の苦手なのだ、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:51:32.22 ID:/8MrQGE0<>

「ただ、我々が言う『神』というのはそれら"とも"違う。"アレ"は、存在、世界、理論、概念、境界、意思、常識、時空、次元、限界、現実、幻想……ありとあらゆる全てから"外れた"モノだ。名前も分からず、『神』というのは我々の当てつけに過ぎない」
「……???」

オカルトand説明が高度過ぎて、上条のミニマム脳みそでは全てを理解するのは不可能だった。
取り敢えずは『余りにもおかしすぎる存在』なので便宜的に『神』ということでいいのだろうか?

「……そんな存在が居るなんて、信じられないんだけど」
「"アレ"とて、普段から"外れて"いる訳では無いだろう。なにせ元は……」

何故か、途中で口を閉じる。
暫く、迷うそぶりを見せて、

「いや、このことはまだいいな。確証も無い」

結局、何を言おうとしたのかは分からない。
追及せずに、シャナは黒い髪を少しだけ揺らし黙り込んだ。
黙り込んだ彼女を横目に、彼は口を動かす。




「その『神』は、"暇つぶし"に異世界の幾つかの理を混じり合わせ、戦いをすることにした」




気のせい、だろうか。
今、とんでもない"理由"を言った気が、する。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/10(金) 12:52:15.75 ID:/8MrQGE0<>

「……暇、つぶし?異世界の人間を、この世界に連れて来ておいて?そんな滅茶苦茶なことしといて、ただの"暇つぶし"?」
「そうだ。後は、不幸を見て楽しんでもいるだろうな」
「…………」

唖然。
アレイスターを除く全員が、理解不能の理由に、唖然となった。
特に、実際に異世界から連れて来られたシャナとアラストールに至っては唖然と同時にふつふつと、明確な怒りが湧き上がっている。
当然だろう。
いきなり訳の分からない場所に放り出された理由が、そんな自分勝手で小さな理由だったら、誰だって怒る。

「……それが、理由……」
「そうだ」
「……なんて、ムカつく奴」
「世界を繋ぐ程の、巨大な力を持っていながら……いや、"だからこそ"なのか?」
「むぅ……それが、本当だとしたら……いやでも……」

上条達は、それぞれの言葉で感情を示す。

彼等は、気がついているのだろうか?


自分達が、驚く程自然にアレイスターの話を受け入れていることに。


それだけ、それだけアレイスターの言葉からは嘘など感じられず、ハッキリと鮮明だった。
いや、違う。"それだけ"では無い。
もっと、確かだと色付けるだけの雰囲気を、彼は放っている。

「『神』はこの『戦い』をゲームだと語っている。世界を盤に、自分を相手に見たてた、ルール無用のチェスや将棋のようなものだと。"アレ"にはそう言えるだけの、力がある」
「俺たちが、その駒ってか?」
「異世界から来た者達もだ。殆どが"此方側の"だが大概が"第三勢力"になってしまう」
「?」

どういう意味なんだろうか?と、上条は首を傾げる。

「考えてみるがいい。異世界に急に放り込まれて、異世界の者達皆が共闘できると思うか?」
「あっ……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:52:58.03 ID:/8MrQGE0<>

比喩では無く、右も左も分からない。
そんな状況に放り込まれた者達同士が共同で戦えるのか?
『神』なんてものに?相手がどれだけ強いのかも分からないのに?もしかしたら、悪人も送り込んでくるかもしれないのに?性格も、戦い方もバラバラの可能性が高いというのに?

「『前回』は、悪人達を生き返らせてまで参入させ、偽情報を流し、更には人質をとってまで"仲間割れ"をさせた。向こうは、駒を動かして無いというのに」

ハァ、と。
どこまでも透明な、ため息を一つ。

「同じ目的を持つ者同士で殺し合い……最後には、『神』直々に一人づつ殺された」
「……『前回』と、言ったな」

シャナの胸元の魔神から、何かに気がついた遠雷のような声が響く。

「『前回』は今お主からの言葉からすると、敗北を喫したらしいな。ならば、その後はどうなったのだ?お主以外の生き残りは?世界は?」
「…………私は、参加はしていない。ただ、魔術によって眺めていただけだ」

じゃあ、と、上条は身を乗り出す。
戦いの後、どうなったのか。

彼は、滑らか過ぎて、残酷な音色で、言った。






「"世界ごと破壊された"からな。生きた者はまず居ないだろう」







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:53:48.00 ID:/8MrQGE0<>







「と、いう訳だ」
「……」
「……ハッ、どォしたメイド。こればっかは自分の常識範囲外でした、ってかァ?」
「……そういう、ことになるわね。正直、信じたく無いところもあるけど、こんな夢物語を嘯く理由が無いし……」

"封絶"が解かれ、元の世界となった暗部の隠れ家。
ソファーに改めて座り直した三人(やはり咲夜は一方通行の隣に座った)。
土御門の説明が終わり、一方通行は始めてこの完全さを感じさせるメイドの動揺を見た。
自分の常識を打ち破られれば動揺もする、ちゃんと人間らしい。

「"世界"ごと破壊……だとしたら、私達が勝てる確率なんて無いんじゃないの?」
「そうだな、俺もそう思う。ただ単純に、俺達が生きているのも『神』とやらの"気まぐれ"に過ぎない訳だからな」

だけど、と土御門は情報からの現実を認識させてから、

「"この世界は違う"。アレイスターの奴は他にも手があるのかもしれないが、少なくとも俺は一つ、『神』を殺せそうな"手"を持つ奴を知っている」
「何?」

世界を、地球なんて"惑星単位ではなく"、『宇宙レベルでの概念的な世界を破壊してしまう程の力』に対抗する術などあるのか、と疑いたくなる(後に話を聞いたところ、世界クラスの破壊にはそれなりに時間がいるらしい)。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:54:34.80 ID:/8MrQGE0<>
「一方通行、お前は知っている筈だけどな」
「……?」
「いや、分からないならいい。いつか分かる」
「……」

思考を展開しかけて、止める。
どのみち、"本当に彼の言う通り"これから戦いが起こるとするならば、いつかその"誰か"とも出会う筈だ。

なにせ、"封絶"は、ある一定以上の実力を持つ者を動けるようにしているのだから。

「……『神』とやらの目的もムカつくし、ルールとやらも適当で苛つくが、まァいい。一応信じてはやる」

隣に証拠の異世界人もいることだし、と一方通行は声を出さず、口を動かすだけに止めた。

「……所でだにゃー。一つ問題が……」
「……なンだ?」
「……なに?」
「一度に異世界人がぱぁーと現れるわけじゃないのは分かるにゃー?」
「…………分かるけどなンだよ?」

何処か致命的な"嫌な"予感がしつつ、彼は土御門に尋ね返す。
土御門は苦笑なのか微笑なのか、判断に困る笑いを浮かべながら、

「ってことは、必然的に長期戦になってくるわけなんだけど……」

長期戦の"長期"の部分が、一方通行の揉め事察知能力を反応させる。
そして土御門は、今度は誰から見ても分かる爽やか笑顔で、言葉という名前の爆弾投下。







「すまんけど、メイドさんと一緒に『戦い』の間生活して欲しいんだぜい♪」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:55:27.44 ID:/8MrQGE0<>

キラーン☆と、白い健康的な歯が光る。
突き出された右手の親指はビシッ!と綺麗に天を向いてそそり立っていた。
一方通行の返答は、

「いいわよ」
「却下……ってオイイイイイイイイイイイイっ!?」

勝手に答えられ、絶叫。
隣にて澄ました顔で問題を増やしてくれたメイドに、一方通行は睨みをきかせながら交渉(脅迫)を迫る。

「オイオイ、十六夜咲夜さァァァンンンっ?オマエ舐めてンですかァ?ここは俺の空間なンだよ。オマエは下の公園でホームレスみたいに寝てろ」
「いいじゃない。女性の私がいいって言ってるんだから、居候くらい」
「それ立場が逆の時に言うセリフだってのが分かってか?クソメイド」

ビキビキと、青筋を浮かばせる彼に、やれやれと首を振って彼女はその淡いピンクの唇を動かす。

「貴方の家はここじゃない、そうでしょ?生活しているにしては、余りにも新品の物とか多いし、物を破壊することに対する躊躇も全く見えない」
「……」
「加えて、貴方はこの部屋の中で警戒をある程度失っている。理由としては……そうね。"監視が無い"、"外からの攻撃に対し視覚的に強い"かしら?大方、この部屋は貴方の中で選び抜かれた空間じゃなくて?」
「……」

"全て当てられ"た彼は、吐き捨てるように一言。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:56:03.38 ID:/8MrQGE0<>

「……オマエに本格的に興味が出て来たぞ、クソったれ」

不機嫌さを全く隠さないその言葉に、彼女は瀟酒にクスッ、と笑う。

「あら、それは女性として嬉しいわね」

傍目からは、ツンデレと天然の会話。
ただ、"裏は"そうかと言われると……

「……話は決まったかにゃー?」

土御門からの言葉に、軽く頷く。

咲夜と彼が何か──恐らくお金や服など生活必需品のこと──で話しているのを片耳で捉えつつ、一方通行は天井を見上げた。

(……クソったれ。面倒なことになりやがった)

紅い瞳が見た天井は、一面灰色で、黒など一点も無い。




彼は知らない。




土御門元春が言った、"彼"のことを。




彼が現在、自分に似た立場に居ることを。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:56:50.08 ID:/8MrQGE0<>






何処か、遠く、近く、速く、遅く、そして暗い空間。
通常、人間の科学の領域では絶対にあり得ない空間。
そこにあるのは、白く、丸いテーブル。二つの白い椅子。
大理石から削り出されて作られたそれに、二人の"人間では無い者"が腰掛け、対峙していた。

「……あぁ、してやられた、と言おうか。八雲紫」
「そう言ってくれると、とてつもなくすかっとするわ」

金髪を揺らし、紫色の瞳を煌めかせながら八雲紫は笑う。

「まさか、幻想郷の戦力を投入するために"世界と世界の境界"を繋げるだけじゃなく、"現実と幻想の境界"を曖昧にするとは……いやいや、予想はしなかった訳では無いが、まさか実現させるとはな」
「"本来はやって来る筈の無かった"闖入者はお嫌い?」
「好きだよ。何が起こるか分からないからね」

彼女の目の前に居る筈の存在だが、姿が紫からはよく分からない。
光も無い空間だからか。
紫は妖怪なので、夜でもよく見える目を持っているのに。

「確かに、幻想郷に居る殆どの者は外の"現実"に出ると弱ってしまう。干渉しても、だったな。幻想郷の神や実力者達の力を……?それに君の力を合わせても、難しいが……なるほど」

恐らく、笑ったのだろう。
伝わって来る極わずかな雰囲気から、彼女はそう判断した。

「"AIM拡散力場"を利用したか。擬似的な"界"の力で、境界を曖昧にしやすくする。だがしかし、それでも君という巨大な戦力を失う上、余り強い幻想の存在は来れな……いや、まだ"何か"あるのか。今欲しいのは、"慣れるための時間"だな」
「黙秘させて頂きますわ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:57:40.66 ID:/8MrQGE0<>
扇が、パラリと開かれた。
空間には音が全く響かない。

「ふふふっ……やはり君は面白いよ、八雲紫」

紫の頬を、"冷や汗"が一筋垂れた。
それは、僅かな恐怖が作り出した、感情の結晶。






「──殺したくなる程にね」






その声は、地獄の亡者の声よりも呪われていた。












何がどうあっても、時は過ぎる。
戻すことは出来ず、ただ進むのみの一方通行。
それでも構わず、世界は進み続ける。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/10(金) 12:58:27.33 ID:/8MrQGE0<>
以上です。

説明回程つまらないものは無いな……
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 15:33:02.09 ID:xURNQgDO<>一方さんが魔術知らない、ていと君も生きてるってことは15巻前なのかな?
上条さんの正体や右手に関しては原作でもまだ不明の状態だし、神の奇跡は消せても神様自体は消せないしあまり戦力にならなそう
つか封絶とか霊夢の結界壊せそうだよね<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 17:17:55.40 ID:bRXvFm.o<>乙

>>92
博麗大結界ぶっこわしたらゆかりんブチ切れそう<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 18:34:32.05 ID:xURNQgDO<>そういや咲夜さんの時止めとか上条さんどうなるんだろ
テレポートとか右手含んだ能力は効かないから同じ理屈なら上条さんが存在する世界じゃ時間止められないのかな?
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 21:22:34.56 ID:ycRVepoo<>封絶で隔離すりゃいいんじゃないの?別空間なら使えるだろ
てゆうか東方の公式設定なんてあってないようなものだから解釈自由だろ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 22:23:18.86 ID:cQxNEHM0<>東方とか名前が聞いたことあることやSTGがあるってことくらいしか
シャナとか主人公がツンデレってことくらいしか知らない俺はどうしたらいいんだ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/10(金) 22:40:37.91 ID:Qx9vwIAO<>シャナとネギまは原作、とあるはアニメで把握してるけど、似た設定だよね


幻想殺し……右手に触れたありとあらゆる異能の力を打ち消す。

贄殿遮那……ありとあらゆる自在法の影響を受けない野太刀。

ハマノツルギ……召喚した者を一撃で送り返す大剣

魔法無力化能力……文字通り。魔法以外も可
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:21:27.40 ID:Rjfc40o0<>>>66
姫神の血って浴びただけで発動するようなモンだっけ?
まぁ「吸血殺し」だからそのくらいの効力あっても不思議じゃないが……
ちなみにフランは「手加減ができず、相手を一滴の血も残さず吹き飛ばしてしまう」んですぜ
血を浴びるなんてことはまずない。

>>92、94
その理論だとそもそもエンゼルフォールは発動しない。
上条さんは規模のでかいものに対しては自分への効果を打ち消すに留まる。
ちなみに時間停止はエンゼルフォールの対象が「人類」だったのに対して
あくまで対象:時間なので動くことすらできないかも。全身能力無効化なら話は別だが<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/10(金) 23:35:34.11 ID:ycRVepoo<>姫神さんの能力は匂いで吸血鬼をおびき寄せて吸わせなきゃ効果なかったはず

明日菜の能力無効化は空間系の能力は無効化できないんだっけ?
そうなると時止めは無理だな。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:19:40.52 ID:ku6k0iw0<>>>99
空間系は明日菜自身を対象とする力じゃないから無効かできないとかなんとか
転移系も無効化できないらしいから
「自分を対象としない攻撃」か「空間系」のどちらが無効化できないカテゴリーかわからんな
まぁどちらにしても時間操作を無効化は無理だと思う。

てか明日菜って魔法以外も無効化できたっけ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/11(土) 00:44:40.57 ID:8.mmbUAO<>>>100「気」
精霊砲は魔法なのかな?よく知らない
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 00:48:38.20 ID:UEmrxNEo<>一応禁書世界の超能力は魔法や魔術ではないんだよな。今のところ。
てかネギまの世界でいう魔法と禁書世界でいう魔術はなんか別物なきがする<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 01:03:08.29 ID:ku6k0iw0<>>>101
うーん、正直魔翌力とか気は同一もしくは同じカテゴリーのものとして捉えてるからな…
超能力は無効化してないの?てか超能力って出てきた?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 01:32:16.64 ID:BhXMBIAO<>期待してなかったけど意外と面白い
まだまだ導入部みたいだから様子見状態

でも原作で特に美人と言われてないキャラに対して美人、美人書かれるのが目につくのと
シリアス路線らしいのにBBAなんてネタは本気で止めろ
目につくどころではない<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 04:56:33.54 ID:Xb.Pn9Uo<>俺もシリアスにネタを、ってのはやめたほうがいいと思う

後、こういう多重クロス系は大長編になることが前提。短くまとめたらそれはそれで淡泊なものになっちまう。関係ないけど咲夜は俺の嫁。オリキャラ・オリ設定・独自解釈は結構だが、キャラ崩壊があると、割と簡単に話が面白くなくなる。

まぁ何が言いたいかってーと、ハードルが高い過ぎる上に何十個とあるから気をつけろって事だ。ちなみに>>1と俺はいい酒が飲めそうだ。好きなものが全く一緒だからな! 後なのはも入れたら完璧に俺と一緒だわ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 19:52:54.54 ID:Nn9mdUDO<>咲夜さんって美人じゃないの?つか東方キャラの公式設定なんて結構適当だろ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/11(土) 20:22:36.83 ID:BhXMBIAO<>人形のようと言われるアリスと前提の輝夜くらいしかない
他キャラには特に容姿についてなし

因みに、咲夜さんは垢抜けてると書かれてる
垢抜けてると書かれてるのは他にも数人いるな

シャナは知らんが他二つに大きな逸脱は見られないから頑張れ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/11(土) 22:08:28.05 ID:8.mmbUAO<>>>103
まぁ確かに気も魔翌力も似たようなモンだしなぁ

それ以外となると、さよのポルターガイストや憑依くらいかな?

ってかとある魔術みたいな超能力は魔法で代替出来るから無いかも。作品的に
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 20:42:35.48 ID:83N0R3Uo<>まあ、他作品同士の能力比較なんてできるもんじゃないし、書き手に任せようぜ

てか、東方クロスは珍しいなあ、幻想郷住人は書きにくいしね
まあ、逆にどうとでも動かせるっちゃあそうだけど
4作品ものクロスは書き手の力が問われるぞ
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/12(日) 23:39:45.25 ID:.R9i14A0<>まぁ東方キャラの完全再現は無理だろ。特に妖夢とかは口調が一定してないからなおさら。
ZUNが適当な分キャラの改変はしやすいかもしれんが、反面原作再現となると難易度が一気に跳ね上がる。

そそわの方でも「東方っぽい雰囲気」の作品書ければそれだけで拍手喝采の嵐ってくらいだし<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 23:44:10.80 ID:rzg9kIAO<>>>107
忘れてた
木花咲耶姫(富士山に住む神さん)が超美人

まだかな〜<>
◆roIrLHsw.2<><>2010/12/16(木) 08:39:08.14 ID:lZJY9vg0<>すみません!現在進行形で色々大変忙しいです!
暫くしたら嘘のように暇になると思いますので、もう何日か待っていてください!
本当にすみません・・・<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 01:00:27.26 ID:IPrAmkDO<>まあおとなしく待ってるよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 20:04:10.07 ID:fstu7sAO<>書かなくても
週一位定期的に生存報告は欲しいな<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:35:56.40 ID:/sjCyXA0<>
すみませんが、設定に関しての質問は作品内で。
いや、『幻想殺し』や『魔法無効化』の違いってのはかなり物語的に重要なんで。

フランや姫神関係は咲夜さんと一方さんに説明して貰おうと思ったんですが……急遽変更。
理由はいつか。


>>92
十五巻後のパラレルを想定しています

>>96
……(汗

>>104-105
すみません……でも、実はオバさんってのも、いつかとあるセリフに関係しそうなんです。
助言、ありがとうございます!

>>105
咲夜さんは俺の嫁……と言いたい所ですがナイフが飛んで来そうなので無理です。
なのはも大好きですよ!というか、最初はなのはもクロスする予定だったので。ユーノVS浜面とか……ここだけの話、裏設定になのは達が関わってたり……

>>107
ありがとうございます。咲夜さんの性格が特に心配だったので……

>>109
ですよねー……まぁ、ショボい奴はショボい奴なりに頑張ります。

>>114
了解しました。


行きます。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:37:59.67 ID:/sjCyXA0<>







「……」

夜、無言で佇む影がある。
漆黒の夜を下から人工の光が、上からは天然の光が照らすその世界に、小さな影。
影の正体は、人。
黒い布のような物を全身に巻き、寒さかもしくはもっと別の何かから身を守っている。

長い黒髪が、夜風にそよがれて宙に揺れた。

「……アラストール」
「なんだ?」

自然に、誰かの声を求めるように、呼びかけていた。
暫しの間、話題を探すために無言となる。

「ここ、凄いね」

出て来たのは、今更ながらの言葉。
既に、先に渡された資料で確認したこと。
問いかけを間違えたかなと思う彼女に、心優しき"紅世"の魔神が返す。

「そうだな。人間の科学力というものは、凄まじい」
「うん」

改めて、彼女は街を見下ろす。
八階のマンション屋上は、周りの建物に比べて低いが、それでもかなり一望出来る。
風力発電のプロペラが立ち並び、街の明かりは彼女が居た御崎市などとは比べ物にならない。

「……」

彼女は、夜の闇に手を伸ばす。
伸ばした白い手のひらは、屋上に張られたフェンスの金網に阻まれ、止まる。
キシッ、と。針金が軋んだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:38:40.99 ID:/sjCyXA0<>

「……」

彼女は、また、無意識のうちに言葉を発していた。




「──悠二」




「シャナ、ここに居たのか」
「……」

突然かけられる、声。
されど、予め誰かが近付いていることを知っていた、彼女は驚かない。
ゆっくりと、後ろへ首を回す。
そこに居たのは"彼女が望んだ少年"では無く、ツンツン頭の少年。
上条当麻。
そういう名前らしい。

「……?名前、あんまり気軽に呼ばない方がいいか?なんか顔怖いんですが……」
「別に。どうでもいい」

新たに現れた人間に、彼女は素っ気なく返す。

「お前、なんでここに?」
「なんでって……そりゃ、何時まで経っても部屋に戻って来ないから」

上条は何を当たり前のことを、というニュアンスを多分に含めながら言葉を放つ。
心配とも忠告とも取れる言動。

先程……三時間前、アレイスターとの話し合いにより、共同で戦うこととなった。
ただ、まだ異世界の者達も少ないとのことで方針は『匹敵必中』という簡単な物だ。
団体として縛られることも無いため、シャナはその申し出に頷いた。
ただ、問題が一つ。
上条宅に泊まってほしいという条件。
どうやら"封絶"の理が改変されており、ある一定以上の強者なら動けるため(しかもある一定の、という曖昧な基準)、誰かを巻き込む危険性がある。
よって、現地人で特別な力を持つ上条と共同で戦ってほしい……
普段から近くにいるように、とのことだった。

<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:39:08.79 ID:/sjCyXA0<>

「……」

彼女は、また、無意識のうちに言葉を発していた。




「──悠二」




「シャナ、ここに居たのか」
「……」

突然かけられる、声。
されど、予め誰かが近付いていることを知っていた、彼女は驚かない。
ゆっくりと、後ろへ首を回す。
そこに居たのは"彼女が望んだ少年"では無く、ツンツン頭の少年。
上条当麻。
そういう名前らしい。

「……?名前、あんまり気軽に呼ばない方がいいか?なんか顔怖いんですが……」
「別に。どうでもいい」

新たに現れた人間に、彼女は素っ気なく返す。

「お前、なんでここに?」
「なんでって……そりゃ、何時まで経っても部屋に戻って来ないから」

上条は何を当たり前のことを、というニュアンスを多分に含めながら言葉を放つ。
心配とも忠告とも取れる言動。

先程……三時間前、アレイスターとの話し合いにより、共同で戦うこととなった。
ただ、まだ異世界の者達も少ないとのことで方針は『匹敵必中』という簡単な物だ。
団体として縛られることも無いため、シャナはその申し出に頷いた。
ただ、問題が一つ。
上条宅に泊まってほしいという条件。
どうやら"封絶"の理が改変されており、ある一定以上の強者なら動けるため(しかもある一定の、という曖昧な基準)、誰かを巻き込む危険性がある。
よって、現地人で特別な力を持つ上条と共同で戦ってほしい……
普段から近くにいるように、とのことだった。
<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:39:57.01 ID:/sjCyXA0<>

上条の指摘に、シャナは、

「いい。今日はここで寝る」
「いやいや、何言ってるんですか?」
「お前の部屋に監視や罠が無いとも限らない」
「貴様達を完全に信頼してはい無いからな」

無言になる、上条。
確かに出会ったばかりで信用も無いのは分かるが、それではアレイスターの話通り、前の戦いのように最悪な内輪もめが起こるではないか。
ゾクッと、背中に悪寒が走る。
先程の刃の感覚が、今更ながら戻って来た。

「ひとまず、資金と資料をくれた事には感謝してる」

そんな上条の心中を察したかのように、シャナは体に巻いていた黒衣を解き放ち、はためかせた。
黒衣、"夜笠"には様々物が大量に収納でき(そのことを上条に説明したら「四次元ポ◯ットか!」と言われた)、彼女の名前の由来ともなった『贄殿遮那』という大太刀も収納されている。

「なんつーか……人をあんま信用しないのな」

頭を掻きながらの上条の言葉に、シャナでは無くアラストールが答える。

「むしろ貴様の様なお人好しの方がおかしいのだ。少しは警戒心というものを持つがいい」
「でもなぁ……というか、頼むから部屋に入ってくれよ。こんな夜空の下に小さな女の子ほっぽり出すとか良心的に無理だって」
「慣れてるから大丈夫」
「慣れてる……?」

シャナはその態度に、あからさまに大きなため息をつく。
どうやら上条は、彼女のことを見た目から判断しているらしい。
もしかしたら、人外だということもハッキリ分かって無いのだろうか。
<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:40:47.91 ID:/sjCyXA0<>

(……面倒臭い)

もう一度ため息。
そして上条に体全体で向き直る。

「……分かった。部屋の中で説明してあげる」
「説明?まぁとにかく、部屋に来てくれればいいや。インデックスも待ってるし、速く行こうぜ」

そう言って彼は屋上出口へと歩いて行く。
面倒なお人好しに、自分のことを、元いた世界の説明をすればまた何か言い出すかも、と嫌な予感がした。
と同時に、彼等のこともこれからのために聞きたくなった。

先行きを思いつつ、彼女はもう一度振り返る。

夜景は変わらず存在し、青白い月が夜闇を地上の光に負けないくらい、照らしていた。
幻視するのは、"水銀のような銀の炎"と、"全てを塗り潰す黒い炎"。


(──悠二)


今度は、声に出さなかった。










<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2010/12/21(火) 16:41:25.90 ID:/sjCyXA0<>







場所は変わって、一方通行の部屋。
部屋の中心で、メイド服のスカートをフワリと浮かせながら周りを見渡し、彼女は頷く。
彼女こと十六夜咲夜は、自分が生活することになったこの部屋をまず綺麗にすることにしたのだ。
というか、元来からして彼女は掃除好きなので、色んな物が散乱したこの状況は結構許せなかったりする。

「これでよし、と」
「……」

そして、ズキズキと精神的に痛む頭を、一方通行はソファーの上で抑えていた。
『じゃあ俺は"魔術側"へのこともあるから退散させてもらうぜい!』と言いながら土御門が出て行ったのが三時間前。
携帯電話に『PSメイドさんと同居とか羨まし過ぎるからちょっと写真撮って送ってくれ』というメールが来たのが二時間五十五分前。
勿論メールは無視し、一方通行は目の前の現実を見ていた。


部屋が"広く"なっている。


いや、ただ単に掃除をして広くなっただけならよかった。
新聞紙や電池一つ、冷蔵庫の中身まで整理整頓してしまった、その手際には正直な所関心していた。
それだけなら、よかった。

メイド服姿のまま、部屋の中心に位置するガラステーブルの近くで、彼女が目を閉じた瞬間、




部屋の広さが"単純に二倍"になった。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:42:13.49 ID:/sjCyXA0<>


「……」

ポカン、と。口を開いたまま固まる。
比喩でも何でも無く、本当に部屋が広くなったのだ。壁や天井が遠ざかって。
遠くへと行ってしまわれた、部屋の窓。カーペットで覆えなくなったフロアの床。ポツンと取り残されたソファー二つにガラステーブル。
その光景を見て、一方通行は改めて頭を抑えたのだった。

(……どこぞの"メルヘン野郎"じゃねェがよォ……常識が通用しねェな)

取り合えず、尋ねた。

「オマエの力は空間を操作出来ンのか?」
「いえ、正確には『時を操る程度の能力』で、空間操作はオマケね」
「……あァ、そう……」

……さすがにもう驚かない。
時を操るなど、非常識にもほどがあるが、そういうものだと納得させた(自分もよくよく考えると非常識だったからかもしれない)。
非常識な現実を受け止め、推測する。

(時間を操る?だとしたら、四次元やら五次元の話になるが……だから三次元を操作出来るってか?)

そんな思考を展開する彼に、

「ほら」
「?」

近付いて来た咲夜に、ポンッと何かを手渡された。
手渡された物を見てみる。

「……オイ、なンだこりゃ?」
「買い物袋だけど?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:42:49.97 ID:/sjCyXA0<>

布では無く、麻で作られた頑丈な手提げ袋だった。
エコを感じさせる、古めかしい布袋を手に持ったまま、一方通行は怪訝な顔で問う。

「……だから?」
「買い物に付き合って」
「…………ハァ」

ため息に込められたのは、彼女への呆れでは無く、彼女の超マイペースな言動行動に慣れてしまった、自分への呆れ。

「何買うってンだよ」
「主に食材、紅茶やコーヒー豆ね。後調理器具も」

マイペースに、彼女は告げて行く。
確かに、ここには調理器具やら食材などは無い。
一方通行は、普段の食事を全て外食及びコンビニで済ませていたからだ。
不健康極まるが、当人は全く気にしていないのだった。

「金はさっき札束で貰ってたろォが。一人で行ってきやが……」

ふと。一方通行は彼女の姿を見て、脳内シュミレートを始めた。
内容は外に出た場合どうなるか。
彼女は今だにメイド服だ。
メイド服、というのは別に問題無い。学園都市にはもっと奇抜な服装の人間もいる。
しかしだ、


スカートのポケットに札束を直接ねじ込んでいるのはどうなんだろうか?


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:43:27.45 ID:/sjCyXA0<>
目立つ。間違い無く目立つ。ポケットから万札の束が飛び出しているのだから。
多分、彼女は盗まれるつもりが無いのだろう。
現に一方通行の視線にきょとん、としている。
彼女は"幻想郷"とか言う異世界からの住人だ。この世界の常識を分かっているんだろうか?
しかも、"幻想郷"では一部を除き、文明レベルがそれなりに低いらしい。
彼女は元外の住人だと言っていたが、もし問題を起こして目立ったら……

「……ハァ」
「じゃ、行きましょう」

ため息を了承と取ったのか、咲夜は小さく笑ってドアへと歩いて行った。
その後ろ姿に、彼は改めてもう一度、ため息を吐く。

「……面倒だな、クソったれ」

面倒、というのは彼女の買い物に付き合うこと"では無い"。


"明るい善人でも、暗い悪人でも無い"彼女に接することが、最凶最悪を自称する彼にとっては何よりも難しく、面倒で、大変だった。
彼女が光の住人なら、あからさまな拒絶で対応出来るのに。
彼女が闇の住人なら、あからさまな敵意で対応出来るのに。






そして、なにより。
それを、"悪く無いと思っている"自分こそが──






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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:44:03.21 ID:/sjCyXA0<>

「杖?」
「ンだよ」

先に部屋から出た咲夜が、部屋から出て来た一方通行を見ての言葉に、当人は不機嫌そうに言い返す。
彼女の言葉通り、彼は白い現代風の杖を右腕につけ、コツコツと先端をコンクリートに付いていた。

「杖がねェと歩き難ィンだよ」
「でもさっきは普通に、明らかに人外のスピードを出してたわよね?」
「色々あンだ」

素っ気なく言い終わらせる。
一々説明する義理など無いし、弱点を"偶々利益の一致"で戦っている相手に言うつもりは無かった。

「……その首に付けた物、ね」
「……」

彼女も『時を操る程度の力』とやらについて余り説明しないことから、どうやら弱点というものがどれだけ重要なのかはよく分かっているようだ。
気になっても、それ以上追及して来ないのが、何よりの証拠。

「ほら、先頭歩いて」

ただ、杖を付いてるからといって労わるつもりは毛ほども無いらしい。
急かされ、一方通行は無言で咲夜を追い越しつつ、マンション外の景色を見た。


ビルの隙間に覗く世界は、ただ黒い。










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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:44:46.09 ID:/sjCyXA0<>







「……ふぅ」

八雲紫は、息を吐く。
息という気体に込められたのは、安堵か、期待か、絶望か、恐怖か、もしくはそれら全てなのか。
概念というものさえ無い、黒い空間の中、大理石の椅子の上に彼女は居る。
彼女の視線の先、テーブルには巨大なチェス板があった。
白と黒に分かれた、オーソドックスなモノクロ。
ただし、普通のチェス板にしてはマスが多過ぎるし、駒は逆に少ない。
近くに並べられた、自陣の白い駒を見て、紫は忌々しそうに独り言。

「同時に動けるというのは、いいことばかりでは無いのよね……マスの取り合いを、味方でやるとは……」

自分達で自分達の首を絞める。なんという愚かな行為であろうか。
それが、仕組まれたものだとしても。

「だから、此方も手は選ばない」

無造作に、何処からともなく駒を一つ取り出し、板に勝手に乗せた。
明らかなルール違反。
しかし、咎める者は居ない。
なにせ、相手プレイヤー自身が──

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:45:19.96 ID:/sjCyXA0<>

「……さて、次の面子の抜き出しと、メイド服を送って差し上げないとね。後は、あの"吸血鬼"に菓子折りでも持って行きますか」

思考を誤魔化すように、彼女は立ち上がる。


彼女の予想が正しければ、いや、"彼女達の確信"が合っていれば、






目の前に居た『神』の正体は──









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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:45:59.23 ID:/sjCyXA0<>






学園都市、第七学区の大通り。
現在時刻は八時だが、それでも大量の人間が歩いていた。
学園都市は基本、学生の街だとはいえ、研究やら補習やらで遅くなる生徒も多い。
単純に、遊びに出る生徒も多いだろう。
その人混みの中に、二人は居た。
白い現代風の杖を付く少年と、メイド服を着てヘッドドレスを装着した少女。

「これが、今の外……」

付いて来てよかった、と一方通行は自分の判断に心から感謝していた。
なにせ隣に立つメイド少女は、サンタの正体を知ってしまった小学生の如く震えながら、棒立ちしている。
かといって恐怖一色では無く、僅かな興奮の色も見て取れた。
ちなみに札束は一方通行の持つ買い物袋にぶち込まれている。

「賑やか……こんなに大量の人間が歩いているのを見るの、初めて……」

呟きを聞きつつ、前から歩いて来たスーツ姿の男を躱す。
完全瀟酒という言葉が似合う、彼女の意外な好奇心に少し驚きながら、彼は歩きつつ問いかけた。

「最初は外に居たンじゃなかったのかよ」
「私が居たのは田舎だったから。それからは"ずっと一人旅だった"し」

フーン、と一方通行は適当に納得しつつ、背後を付いて来る少女の気配を背中で感じる。

「あそこか」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:46:34.98 ID:/sjCyXA0<>

やがて、紅い双眸が目的の建物を捉えた。
立ち止まった彼につられるように、咲夜も足を止める。
彼等の前にそびえ立つのはデパート。
周りでも一際目立つ建物で、高さはビル十階分はある。

「オラ、さっさと行くぞ」

その言葉をキッカケに、入り口付近で止まっていた二人は漸く入り口の強化ガラス製ドアを潜り抜けた。
照明の光が強まり、フロア全体が照らされている。

「……」

なんだか驚く表情を見るのが(といっても、普通の人からは分からないくらい小さい)楽しくなって来た一方通行。

(……馬鹿か)

と、心中で自分に罵倒を投げかけ、馬鹿馬鹿しい考えを無視する。
今回来たこのデパートの一階部分は、食料品コーナーとなっていて、一方通行にとっては当たり前の、咲夜にとっては驚きの光景がそこにある。
光るクーラーケースに納められた、野菜や果物。
パック詰めにされた、肉や魚。
加工されている、様々な食品。
瓶詰及びボトルに入れられた、飲み物と調味料。

「……凄いわね。私の時も、都会はこんな感じだったのかしら」

隣や前を人が通り過ぎて行くのを無視して、彼女は呟く。
今度は驚愕の言葉に返事を返さず、彼は傍らにあった紫色でプラスチック製の籠を掴み取った。

「それに入れればいいの?」
「あァ。好きなだけ入れてここに戻って来い」
「分かったわ」

短く返し、咲夜は籠を奪うように掴み取り、駆け出して行く。
人に紛れて、その姿は直ぐに見えなくなった。
メイド服を着ているのに人混みに紛れるのは、学園都市だからだろう。
普通なら、とんでもなく浮く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:47:20.41 ID:/sjCyXA0<>

「……本当に『時を操る程度の能力』なンざ、持ってンのかねェ……」

近くの壁に寄りかかって、一方通行はボソッと"心にも無いこと"を呟く。
能力を普通に使っていては、一方通行への無用な警戒心や弱点を晒す可能性がある。
第一、ナイフを出したり消したりした時点で、能力の有無は証明されていた。

(……喰ねェ野郎だ)

これが敵なら、どれだけ楽なことか。
第三者だとしても、利用するなり拒絶するなりやりようがある。

しかしながら、彼女は"味方"なのだった。
そして、一方通行が嫌いな種類の人間でも無い。

「……面倒、だな」

本日何度目か分からない呟き。
上に視線をやると、デパートの天井が目に入る。
風力発電によって産まれた電気によって、煌びやかな蛍光灯が光っていた。

「ふむ、面白い。大事にしたまえよ」
「…………他人に、言われる筋合いはねェよ」








一瞬。








天井から視線を前に戻し、瞬きもしていないのに、"ソレ"はそこに居た。
普通に返事を返せたのは、奇跡に近い。
性格やら生き方のせいで、彼は普段からかなりの警戒心を周囲に放っている。
ある程度の実力があるものだけが分かる、その力は十六夜咲夜などの一部を除き、かなりの高確率で一方通行に人や物、場の気配を教えてくれる。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:47:58.70 ID:/sjCyXA0<>

だが、だがしかし。

その類いの力なら、学園都市においてトップクラスな筈の彼が、




目の前に"現れる"まで、存在に気がつけなかった。




「……っ」

一方通行は何故か本能的に、空間転移(テレポート)の類いでないことが分かった。
"同僚"にテレポーターが居るというのも、理由の一つだろう。

だが、もう一つ理由がある。

彼の知り合いに、海原光希という男が居る。
仕事上、時々会う彼だが、何故か近付けば近づく程、一方通行の胸に圧迫感が襲い掛かってくるのだ。
今思えば、十六夜咲夜や"今日の"土御門元春とあった時も、僅かな呼吸のペースが変わるくらいの圧迫感を、時々感じていた。


その圧迫感を、現在一方通行は胸が痛むくらい感じている。


「──」


汗が顔を伝い、胸がキリキリと悲鳴を上げる。
"ソレ"の姿は、至って普通の青年だった。
黒い、"ある三下"を連想させる、ボサボサの鳥頭な頭髪。
黒い長袖の硬そうな上着に、黒色のTシャツ。
ズボンも黒いジーンズと、見事なまでに黒一色だ。
よく見ると、靴まで黒のスニーカー。


ただ、その瞳。
黒いその瞳には、一切の光が見受けられなかった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:48:40.36 ID:/sjCyXA0<>


まるで、死んだ魚のような、もしくはビーカーの不気味な薬品のような、"人間として"してはいけない類いの瞳。
一方通行はその険悪なまでの違和感から、この姿は"ソレ"の本当の姿、声で無いことを確信する。

「……随分趣味が悪ィ格好してンな」

彼は内心の動揺を表に出さず、軽口を飛ばす。
軽口を受けた"ソレ"は口元を歪めて苦笑しつつ、

「仕方が無いだろう。そもそもこれは、私の趣味では無い」

上着の裾を揺らしながら、弁解して来た。
一方通行としては服装では無く、姿のことを言ったのだが。

「違ェよ。顔とか口調のこと言ってンのが分かンねェのか」
「……やはりこの姿に、この口調は似合わない、か」

ブンッ!と、突如"ソレ"の手元に何かが出現する。
翡翠色の、円状の光。
クルクルとゆっくり回っている光は、一方通行には理解出来ない何かを描いている。

(……"魔術"、か)

極めて冷静に、現象を推測した。
周囲の人々は、二人を避けるように歩いて行く。
不思議な光に驚く者は居なかった。
ただ一瞥して、それだけ。
ここは超能力の街、"学園都市"。
この程度の現象は簡単に受け入れられる。

例え、それが"魔術"という超能力とは全く違う異能の力だったとしても。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:49:17.86 ID:/sjCyXA0<>

"ソレ"は、光を回しながら言葉を紡ぐ。


「……コード3069508869744495発動」


(……?)

ふと、一方通行は訝る。
今のは、なんだ?
ファンタジーな魔術とやらの詠唱にしては、かなり味気ない。




まるで、一種の"プログラムコード"のような言葉だった。




そんな一方通行の疑問をよそに、光は数度点滅し、消えた。
僅かに周囲に影響を与えていた光が消え、照らされていた服の色が元に戻る。
"ソレ"は満足そうに笑って、口を動かした。

「と。これでいいか?生憎と、この術式はあやふやな所も多いんでな」
「……」

口調が一瞬で変わったことに、一方通行は驚かない。
そもそも、声を変化させることなど超能力や科学の力でも出来るのだ。
それに、口調を変えても、

「……オマエにその姿は似合わねェよ」
「ははっ。初対面なのに、ひでぇな」
「気色悪ィ。見た目同じでも中身が違い過ぎンだよ、三下」
「……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:50:11.12 ID:/sjCyXA0<>

スッ、と。
目が細められた。
ハッ、と一方通行はこの存在が感情を持っていたという事実に、安堵と驚愕が混じった空気を吐き出す。
口調、外見、見た目の全てが、この存在に合っていないと一方通行は思う。
外見というのは、心という本当の姿を閉じ込めている器だ。
だが、中に入っている物の影響だって受ける。

恐らく、この声の持ち主はもっと明るい性格だった筈だ。
こんな声の裏側に殺意を秘めたような言葉を口にしないだろう。

恐らく、この姿の持ち主はこんな暗殺者めいた歩き方をしない筈だ。
そんな物騒なことを、本気で行なうような最悪人間ではないだろう。

恐らく、この顔の持ち主はちゃんとした人間だった筈だ。
こんな光を失った、災厄の瞳は彼の表情とは合わない。


"外見の『人間』"と、"中身の『存在』"が余りにも違いすぎる。


"ソレ"は、天使の皮を被った悪魔のような、この世の外道畜生の悪人達が馬鹿らしく思えるくらいの存在だ。

「……なる程、やっぱりただの人間じゃない、か」
「ただの人間に見えたのか?だったら眼科に行くのをオススメするぜ、『神』さまよォ?」
「しかももう余裕が出て来たか。面白くないなぁ……」

顎に手を当て、笑っている、その姿。これよりも禍々しい物を、彼は見たことが無い。
一方通行は左手をチョーカーに当て、何時でも戦闘が出来る態勢を取っている。
デパートの一角に満ちる、不穏な空気。
客達はただ少し遠巻きに、二人を見ては歩き去る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:51:38.06 ID:/sjCyXA0<>

何秒、経っただろうか。

「あっ、そうだ」

"ソレ"はポンッ、と手を打つ。
傍目からは明るい青年の行動にしか見えない、その行為。

一方通行は本気で、一瞬、






「周りの生物殺そっか」






恐怖という感情を、抱いた。

「──っ!?!?」

その姿は、余りにも異常。その言葉は、余りにも異常。
その姿は、余りにも異端。その言葉は、余りにも異端。
地面を踏むのと同じ感覚で、"ソレ"は言ったのだ。

周りの人間を殺すと。

子供の喧嘩のような、脅しでは無い。
狂人が叫ぶ、宣言でも無い。
言葉は軽く、されど本気だと嫌でも思わされる、そんな言動。
しかも、今の言葉には彼が今まで聞いて来た『殺す』とは、決定的に違っている部分がある。


(──生物──)


人間では無く、生物。
そう、言ったのだ。
ゾッ、とした。
"ソレ"にとっては、人間もその他も大して違いなど無いのか。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:52:06.84 ID:/sjCyXA0<>

「おっ?少しは動揺したか?」
「……っっ!」

音も無く、"ソレ"は眼前に迫る。
彼は思わず後ろに下がろうとして、壁に背中を預けていたことを思い出す。

(なンだこいつは……!?)

認識が甘かった。
『神』などと、咲夜や土御門が軽く言うから、無意識の内に甘く見ていた。

(──クソったれ!)

どれだけ頭脳をフル回転させても、この状況の打開策が見つからない。
この存在から、周りの人間を守りきるのは不可能だと、一方通行の全てが訴え掛けている。


そして。例え、周りの存在全てを見捨てたとしても、勝てないということも。


「──」

そして、『神』は何かを彼に言おうと口を開いて息を吸い込み、












銀色の閃光が走った。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:52:42.77 ID:/sjCyXA0<>





「……どうしよう……」

十六夜咲夜は、白い肌を考え事で歪ませながら呟いた。
彼女が居るのは野菜コーナー。
ぐるりと、食品棚に囲まれ、彼女は悩む。
問題ごとは、その手にあった。

「もう入り切らないわ……」

右手にぶら下げられたのは、文字通り山積みの野菜が入ったカゴ。
その中は野菜だけで埋められており、ぎゅうぎゅう詰めプラス零れ落ちるギリギリまで積まれていた。

「……それもこれも、ここの品揃えがいけないのよ」

自行自得なのだが、本人気がつかず。
ただ、彼女のために弁解しておくと、彼女とて自重するつもりではいたのだ。
好きなだけと言われたが、必要最低限で済ませ、後日御買い物ライフを楽しむ予定だった。

だけどメイド及び家事好き少女としては、好奇心を抑えきれなかった。

なにせ"幻想郷"とは比較にならない量、及び種類がある。
いや、彼女が経験した"外"よりも凄い。
季節関係無しで様々な食材が並び、しかも商品の値札についた解説によると(ビタミンだの熱現象だの、専門用語が多くて分からないのも多かったが)料理によって使う種類も豊富に分けられているようだった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:53:26.21 ID:/sjCyXA0<>

「……やり、過ぎたかしら」

結果が、大量の野菜。
完全瀟酒を自負しているとはいえ、メイド長の立場やら金銭問題やらストッパーが無い状態での誘惑には負けた。
うーんと唸る彼女の姿は、普段の彼女を知る人間からすれば驚いたかもしれない。

(……どうしよう)

で、結局最初に戻る訳だ。
彼女の中では『カゴに入れた物は買わなければならない』という間違った認識があるため、商品を棚に戻すという選択肢が思いつかない。
……まぁ、本当は新たなカゴを使うか、カートを使えば済むことなのだが、彼女には分からないし、悩むメイド長に教えてくれる親切な人も周りには居なかった。

「……しょうがない、戻りましょう」

結局、外のことは外の住人に頼るのが早いと結論が出た。
あの少年なら、面倒そうにしながらも教えてくれるに違い無い。

「……ふふっ。私らしく無いわね」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:54:10.22 ID:/sjCyXA0<>

重いカゴを片手に、軽やかに彼女は来た道を戻る。
肩にかかるくらいの銀髪が揺れ動き、爽やかな雰囲気を周りに醸し出す。

(……でも、まぁいいかしら。彼、私に似ているし)

そう、彼女は自分でもビックリするくらい彼──一方通行のことを信用していた。
恐らく、自分との共通点が多かったからだろう。
色素の抜けた髪に、紅い月のような目。
他人を警戒する性格、明らかな偽名。
人間としてはだいぶ違うだろう。
しかし、表面上はソックリと言っても問題ない。

「……」

黙りこくり、静かに歩を進める。
そう、似ている。
彼と自分は、余りにも似ている。

だからこそ、彼は自分を敵視し、自分は彼を認めるのだろう。

方や同属嫌悪、方や同属厚意で。

「まぁ、だからといって」

彼女の行動が、変わるわけでは無い。
他人の事で一々揺らぐような生き方はしていないのである。

「──?」

だからこそ、だろう。

「っ!?」

すぐさま、行動に移れたのは。


彼女の姿は掻き消え、持ち手を失い、重力に束縛されたカゴが床に墜落した。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:54:53.95 ID:/sjCyXA0<>







空気を裂き、銀は翔(かけ)る。

「っ!」

一方通行は体の硬直が溶け、猫のように飛びのく。
行動に一拍置かず、銀色の閃光が走った。

「へぇ……」

ぱしっ、と。
己の顔面に殺意を持って向かって来た、銀色の閃光を指に挟み、"ソレ"は笑う。
面白い、という笑顔には、一片の恐怖も浮かんでいない。

指に挟まっているのは、銀製のナイフだった。

「──お邪魔だったかしら?」
「……男とイチャつくような変態なったつもりはねェぞ」

音も無く目の前、"ソレ"と自分の間にメイド服をはためかせ、十六夜咲夜が軽やかに現れる。
ナイフを構え、佇む彼女に一方通行は彼なりの感謝の言葉を放った。
素直じゃない彼の言葉に、咲夜は少しだけ頬を緩め、直ぐに引き締める。

「時間停止移動……やっぱり、個人が持つにしては馬鹿げた力だな」
「あら?貴方の方が私は馬鹿げていると思うのだけど」
「そりゃ、手厳しい」

一方的な、睨み合い。
世界有数の最強クラス二人に睨まれても、"ソレ"は笑顔。
なのに、見ているだけで本能的な悪寒が走り、冷や汗が吹き出す。
分かる者には分かる、圧倒的なまでの力。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:55:31.88 ID:/sjCyXA0<>

(……どうする……どうする……)
(……『神』……想像以上ね)

二人が、この状況を切り抜けるありとあらゆる対処法を考えていると、

「おい、あれなんだ?」
「さぁ?喧嘩じゃね?」
「映画の撮影か?」
「メイドにナイフ……監督分かってる!」
「あの子突然現れなかったか?」
「空間移動だろ」
「警備員(アンチスキル)呼ぶか?」

ザワザワと、周囲の人々が騒ぎ始めた。
どうやら、ただ事では無いというのが咲夜のナイフでばれてしまったらしい。

(……っ!)

一方通行は即座にチョーカーのスイッチを振り切る。
相手は、先程周りの人間を殺すと言った。
ならば、今直ぐにでも殺し始めておかしくはない。
何せ、"ソレ"は誰から見ても世界最強の狂人だから。

「あー……もう今日はいっか」

しかし、一方通行の懸念を他所に、"ソレ"はあっさり引くと宣言した。
余りにも軽過ぎたからだろう。
咲夜は更にナイフに力を込める。警戒心の、表れ。
鋭い眼光で、彼女は睨む。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:56:57.13 ID:/sjCyXA0<>

「随分、簡単に引き下がるのね」
「ははっ、引き下がる、じゃなくてただ帰るんだよ。今回会いに来たのだって、『戦い』の前の視察だったし」
「……」
「こうして、直接赴いた方が面白いからな。今みたいに」

ナイフを突きつけられている状況を、本当に"ソレ"は楽しんでいた。
二人は言葉を紡ぐのを止め、ただただ警戒する。




「──じゃあ、さようなら」




そして、あっけなく、本当にあっけなく"ソレ"──『神』は消えた。
何の音も、力の発現も感じさせずに。
ブレも、残像も、残照も、何もなく消えた。


「……」

本当に消えたと分かった一方通行は、チョーカーのスイッチを通常モードに切り替える。
見れば、咲夜もナイフをしまっていた。

「……アレ、なんなの?」
「知るか」

乱暴に言葉を返す。
事態は思ったより深刻で、絶望的だ。
デパートの床に苛立ちをぶつけ、杖が音を上げる。

「取り合えず、帰るぞ。このままここに居たら面倒だ」

周囲が面倒臭いことになってるのもあってか、一方通行はとっとと帰ろうとした。
帰ってから、改めて考えようと思ったから。


が、


「まだ買ってないわ」
「………………」

確実に死にかけたというのに、この言動。
今度は呆れのため息すら、出なかった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:57:42.85 ID:/sjCyXA0<>











「……」
「すぅ……」

夜中の十時。
シャナは口をへの字にして、不機嫌さを示していた。
横になった彼女の視界には、インデックスの安らかな寝顔がどアップで映っている。
すこやな寝息を立てる彼女に、勝手な怒りが湧き出る。

(……こいつら、絶対おかしい)

人間では無い、子供では無いと一時間以上かけて説明したのに、少女と現在風呂場で寝ている上条の態度が変わる事は無かった。
というか、上条は半分も理解出来ていない気がする。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 16:59:33.60 ID:/sjCyXA0<>

「……はぁ」

一緒のベットに寝る、なんてお人好し行為を断るべきだったと、今更後悔。
床に避難しようとしても、服の端をしっかり握られていた。
その小さな指を振りほどくのは、僅かに躊躇われる。

(──変わった)

ふと、そう思った。
なんで今、そう思ったのか。
でも確かにフレイムヘイズとしての自分なら、こんなことはしない筈だ。

そう、『炎髪灼眼の討ち手』なら。


今は──?


今は違うのか──?


(分かってる)


何で今は違うのか──?


(何回も考えたから)




そう、それは────




「……」

彼女は、"フレイムヘイズであろうとする"少女は、考えを無くす様に目を閉じる。


意識が、深い深い、闇の底へと落ちて行く。



"もう一人の自分"を、押さえ込むように。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 17:00:31.36 ID:/sjCyXA0<>






「スキマァァァァァァァッ!!」
「……"レミィ"、何やってるの?今忙しいのだけれど」
「あのスキマババア、咲夜を勝手に連れて行ったのよ!?お陰で"紅魔館"の環境が最悪になったわ!」
「落ち着きなさいってば。あっ、その術式に触れないでね。ソレ、粉雪よりも脆いから」
「おっと……しかしあのババア、"人の従者"を勝手に使って後でどう八つ裂きに……」
「カリスマが崩壊しかけてるわよ……あれ?」
「どうした"パチェ"?」
「いえ……"禁句"を貴方が何回も言っているのに、何も起こらないから」
「はぁ?あぁ。アイツだって、いつもいつも暇な訳じゃ……」
「そうかしら?……もしかしたら」
「?」

「ふざけるだけの、余裕が無いんじゃない?」

「……"あの"、スキマ妖怪がか?」
「えぇ……もしそうだとしたら、相手は私達の想像を遥かに超えてるのかもしれない」
「……面白いじゃないか」
「……カリスマ復活」
「ふふっ、あのスキマ妖怪の余裕が無くなる程の相手……是非お目にかかりたいわ」







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 17:01:28.04 ID:/sjCyXA0<>










其々の思いと立場が重なり、物語は紡がれる。
まだ何もかもが、あやふやだとしても、
不安定な世界は、周り続ける。












<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 17:03:30.38 ID:/sjCyXA0<>

以上。
そろそろ戦わせたいところ。



クロスメモ
シャナand上条、咲夜and一方、??and???
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 17:04:38.36 ID:/sjCyXA0<>

おまけスキット




スキット1「心配」


咲夜「……寝れない」

一方通行「オマエはベットだろォが。俺はソファーだぞ」

咲夜「いや、違うのよ。ベットとかの問題じゃなくて」

一方通行「何がだ?男が居たら眠れませンてかァ?」

咲夜「心配なのよ、お嬢様達が」

一方通行「……」

咲夜「"幻想郷"に居るから、私は何も出来ないから」

一方通行「……」

咲夜「紅魔館の掃除は大丈夫かしら?妹様はジグソーパズル出来なくて壊したりしてないかしら?お嬢様ベットの上でお菓子食べてないかしら?中国は仕事中に寝てないかしら?」

一方通行「随分庶民的な心配だなァ!?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 17:05:25.46 ID:/sjCyXA0<>


スキット2「着替え中のフレイムヘイズ」


シャナ「よいしょ」ドスン!

インデックス「わぁっ!そのコートって、収納用霊装だったんだね!」

シャナ「霊装、っていうのじゃないわ。別にそういう解釈でもいいけど」

インデックス「……でもなんで箱ごとなの?」

シャナ「……面倒だから」

インデックス「……女の子として、どうかと思うんだよ」

シャナ「うるさいうるさいうるさい、私はフレイムヘイズなんだから。アンタも早くあの修道服に着替えなさ──」

ガチャ

上条「ふぁ……おは、よう……」

インデックス「……」

シャナ「……」

上条「………………」ダラダラ

シャナ「……」ゴゴゴッ

上条「いや、その、シャナさん?上条さんもですね、決して見たくて見た訳では無くていや見たく無かったといことではむしろ見たかったといやいやただ自分は幸せって違う違うワタクシは」

アラストール「峰だぞ」フガフガ

シャナ「ふんっ!」

ドバカッ!!

上条「げぼっ!?」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/21(火) 18:00:28.65 ID:/sjCyXA0<>
※今度から偶にスキットも出現します。

ではまた次回<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/21(火) 18:15:40.00 ID:zq/u5460<>これ面白い…次回も楽しみにしてます
乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/22(水) 15:40:51.98 ID:XtMitMDO<>神って誰だ?クロス対象作品の登場人物?
シャナは知らないが他の作品にこんなチート神いたっけ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 01:52:44.82 ID:g3qvSAAO<>乙
ネギの出番はまだみたいだな

>>152
一つ思い浮かぶのは名によって分けられる前の神かな
多分そんなのではなくオリジナルだろうけど
シャナは全然、とあるは半分程しか知らんけど

>>107
咲夜の性格は抜けてたり瀟洒だったり色々だから大丈夫<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 02:15:01.96 ID:R9VuQVoo<>禁書における十字教の神様は現実世界の神様とほぼ同じ。作中の最強は今のところエイワスであろうとのこと。
東方で神様って言ったら加奈子と諏訪子。でも東方的には最強クラスは月人だろ。
ネギまは作中でラカンが強さ表みたいなの出してたけどイージス艦とか戦車とか入ってたからワケワカメ
シャナは全く知らん

あと全く関係ないけど前にヘルシングと禁書のクロスみたがアーカードの旦那は姫神の能力を
「私とセラスにとっては何の脅威にもならん」みたいなこと言ってたな

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 23:41:09.44 ID:1uxGWcE0<>>>154
月人も神様だぞ。
全員がそうとは限らんが、少なくとも月の王は月読
てか東方で神と言ったら森羅万象を創造した龍神でしょ。
あと無限の面積を持つ魔界を作りだす創造神の神綺とかな。
かなすわも確かに神だが日本神話における神。GODではない<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 00:13:16.38 ID:.nW.qYAo<>月の王ってか月を神格化したのがツクヨミでツクヨミも日本神話の神だわな
東方は風からやってないけど龍神ってまだ出てきてないのか?設定だけは結構昔からあるよな。

つか日本神話の神様だってそのGODとやらには違いないだろ。そこらへんは宗教によって変わるってだけだ。
キリスト教とかの一神教か日本の神道みたいな多神教かの違い。<> Are you enjoying the time of eve?<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 18:02:39.70 ID:69chGIDO<>東方での月の王って意味じゃないの?ツクヨミって
東方は格ゲーしかやったことないなぁ。<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 04:44:44.74 ID:3ZfH86AO<>>>153に書いたのは東方のことなんだがなー<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 11:57:21.38 ID:0.BFUBQ0<>
>>152
現在完璧にオリキャラとなっていますが、何時かはオリ設定全開の原作キャラになる筈です。


『神』っていってもモノホンの神様じゃなかったりしますよ〜
ただ強過ぎて、他に表す言葉が無いだけで……


投下します。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 11:59:08.48 ID:0.BFUBQ0<>







「スキマ!私の言いたい事、分かるわよね……!?」

"幻想郷"──そこはあらゆる幻想達の、最後に辿り着きし場所。

「あら、そんなに菓子折りがお望み?はい、どうぞ」

"博麗大結界"と呼ばれる結界で囲まれた、一つ分の"世界"。

「ちがーうっ!!勝手に人の従者を連れて行ったことを言ってるのよ!」

人間、妖怪、妖精、亡霊、神。"幻想"と呼ばれる者達の、"楽園"。

「で、八雲紫。咲夜の次に誰を"向こう"に行かせるの?」
「パチェ!貴方も何か言ってやりなさい!」
「まぁまぁ、お嬢様……」

広いその世界に、"紅魔館"と呼ばれる建物が一つ。

「そこの門番の言う通り、落ち着いて下さいな。今は小さな事情に構っていられないでしょう?」
「小さく無い!」
「……駄々っ子になってますよ、お嬢様」

霧の湖の中心あたりに位置するその館は、紅い。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 11:59:56.77 ID:0.BFUBQ0<>

「次は誰にしましょう……霊夢と魔理沙はまだ使えないわよねぇ……"結界"と"術式"で其々忙しいでしょうし。ある程度信用出来て、外見に問題無く、それでいて強いのは……」
「咲夜だって忙し──」

窓が少なく、太陽が嫌いな"吸血鬼"の、悪魔の領域。

「失礼します」
「?」

そこで──

「"神奈子様"と"諏訪子様"が紫様に用事があると──」
「……」
「……」
「……」
「……」
「な、なんですかその『あっ!』みたいな目は……」


「……貴方に決めた!」


「………………ええっ!?」

次なる尖兵が、送り込まれようとしていた。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:00:58.68 ID:0.BFUBQ0<>





ダンッ!と、小さな拳がガラステーブルに叩きつけられる。

「とうまは何時もああなんだよ!全くもう!」
「変態ってこと?」
「というより、運が悪いというか良いというか……」

学園都市の男子寮。
男子寮の名の通り、本来は男性のみの筈だが、何故かとある一室にて女子の声が響いていた。
それも一人ではない。
二人分だ。
一人は長い銀髪に、紅茶のカップのような金と銀の修道服を着た少女。
もう一人は腰より長い黒髪に、漆黒の錆びたコートを羽織った少女。
インデックスに、シャナ。
男子高校生たる上条の部屋に居る理由は、今更語ることは無いだろう。ちなみに上条は学校へと全力疾走中だ。
現在二人は、朝の覗き事件(本人は事故だと言い張った)について話し合っていた。
事件の状況の説明は、意図的に省かせて頂く。

シャナの場合、上条を思いっきり制裁しまくったため、幾らか気が晴れたのだが、シスター少女はまだ言い足りないようだった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:01:41.52 ID:0.BFUBQ0<>

「──しかも、しかもだよ!?とうまったら周りに女の子が居るのに『もてたい〜』とか、『どっかに上条さんを好きになってくれる女性は居ませんかねー』とか言い出すんだよ!?」
「ふーん……」

 話がドンドンずれて行っている気もするが。
適当に返事を返し、シャナは窓の外に視線をやる。
ベランダからの景色は直ぐ対面のマンションに遮られ、見えない。
ただ、太陽の光が余り入り込んでこないのは、薄暗さで分かる。
インデックスの文句をBGMに、彼女は目を閉じた。

(──『シャナ』──)

無論、最低限の警戒は何時ものようにしている。

(──『僕と一緒に来て欲しいんだ』──)

何故ならば、フレイムヘイズだから。
世界のバランスを守るため、戦い続ける戦士だから。




(──『君を守るための戦いを始める』──)




だけど。
"彼"は、そんな自分を変えてしまった。
別に、変わりたくなかった訳では無い……と、思う。
今、確信を持つことが出来ない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:02:29.38 ID:0.BFUBQ0<>

(だって)

変わった。変わってしまったのだ。
幾ら否定を重ねても、幾ら抗っても、もう、変わってしまったのだ。

変わって、生まれた『もう一人の自分』。

その自分は、不安定だった。
時に暴走し、時に突き動かし、時に傷つけ、時に傷つき、時に落ち込む。
フレイムヘイズとは全く違う、もう一人の自分。
恐らく、自分は迷っている。

(──よかった。ここが、異世界で)

"フレイムヘイズらしくない"ことを考える少女。
異世界だから、"紅世の徒"がいないこの世界だから、"敵になった彼"が居ない世界だから、彼女には"迷うだけの余裕と権利"が存在する。

すなわち、




『贄殿遮那』のフレイムヘイズとしての自分と、


『シャナ』という見た目通りの少女としての自分、




二つを、見つめ直すだけの時間が。

「……馬鹿馬鹿しい」

口に出す。
当たり前だ。
答えは既に、決まりきっていた。
百回この選択を迫られれば百回同じ選択をとる。
それくらい、少女にとって答えは当たり前過ぎた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:03:17.55 ID:0.BFUBQ0<>

だけど、だとしたら、なんで、どうして、なぜ、




(こんなに、胸が痛いの)




「どうした?」
「……ううん。なんでも」

恐らく、声だけでなく顔にも出ていたのだろう。
胸に揺れる"コキュートス"に意識を表出させるアラストールの言葉。
シャナは父親のような存在の彼に、普段通りに返す。

「……?」

ふと視線を感じる。
勿論、この部屋にはシャナとアラストールを除けば一人しか居ないため、視線の主は決まりきっている。

「なに?」

シャナは俯いていた顔を上げ、インデックスの顔を真正面から見た。

「──っ」

瞬間、何故か唇が痺れ、声を出せなくなってしまう。
彼女が見たインデックスの表情は、笑顔。
だが普通の笑顔では無く、まるで優しく包み込むような、聖母のような笑顔だった。
翡翠の双眼が、優しく少女を見つめる。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:04:13.29 ID:0.BFUBQ0<>

「……多分、シャナは迷ってるんだよね?」
「っ!?」

いきなり、思考の中核に触れられた。
心でも読まれたのかと、無駄に勘繰ってしまう。

(ほう……?この少女……)

まるで人が変わったようなインデックスの姿に、アラストールは声に出さずに感嘆していた。
どうやら、彼女は明るさだけでは無く、その内側に何かを秘めているらしい。
"紅世の王"の評価にも気がつかず、インデックスはゆっくりと、悟らせるように言葉を紡いで行く。

「私はあなたのことよく知ってる訳じゃない。けど、何かに迷っていることはよく分かるんだよ」
「……シスター、だから?」
「そう!」

えっへん!と、その薄い胸を張るインデックス。
子供っぽいのに、何処か子供扱い出来ない。

「シスターは迷える子羊達を導くのが仕事だから」
「私は宗教に興味無いわよ」
「うん。異世界からだしね」

でも、と続ける。

「宗教とかシスターとか関係無しに、私はシャナの力になりたいんだよ」
「……なんで?」

疑問を、何処までも率直にシャナはぶつける。
素直で正直なその問に、インデックスはにっこりと、花のように可憐に笑って言った。






「だって、"ともだち"でしょ?」






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:04:49.93 ID:0.BFUBQ0<>

「…………はっ?」

思いがけない、そう、0.1%たりとも想像してなかった答えに、シャナは思わず面喰らう。
いや、友達という言葉の意味は分かるが、いやだからこそ余計に訳が分からない。
グルグルと思考の渦にはまり、悩むシャナ。
インデックスはそんなシャナに笑顔のまま、

「だから、何か頼りたいことがあったら遠慮なく言ってね?」
「……」

暫しの沈黙。
プイッ、とシャナは素早く顔を背ける。

「……本当、馬鹿みたいにお人好しね」

馬鹿にされたのに、何故かインデックスは、クスッと小さく笑った。


だって、背けた彼女の耳が、真っ赤に染まっているのが見えたから。




太陽が、世界を照らし出す。
眩しく、揺らぎ無いその姿。
しかし、炎髪灼眼の炎(思い)は揺らめき続けていた。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:05:45.64 ID:0.BFUBQ0<>






とある、学園都市においてかなり低レベルに位置する学校。
そこの教室の一つ。

「ううっ……」
「カ、カミやんどうしたんや!?むっちゃボロボロやないか!」
「どうせあれだぜい。誰かの着替えを覗いちまって殴られたとかだにゃー」

ギクッ!と、机の上に体を這いつくばらせながら、高校一年生上条当麻は心中で震えた。
友人の土御門の言葉が正に正解だったためだ。
……実際は殴られたのではなく、日本刀で殴打されまくったのだが。

(……つーか早過ぎ。見えなかったぞ……)

フレイムヘイズの仕組みについては実の所半分も理解していないが、とにかく"聖人"並に強いということはハッキリ分かった、いや思い知らされた。
文字通り体に刻み込まれた。刀の殴打という形で。

「な、なんやとぉぉおおおおおおおっ!?」
「うおあっ!?」

突如、青髪にピアスが目立つ大男が叫んだ。
エセ関西弁による咆哮で、上条は自然に背筋がピンッと張ってしまう。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:07:08.81 ID:0.BFUBQ0<>

「朝から女子の着替えを見るなんて、それなんてギャルゲーや!?妬ましい、あぁ妬ましい!!」
「うるせー!その代わり上条さんは生死の境界を彷徨う制裁を受けたんですよ!?」
「分かっとらん!カミやんあんたは全然分かっとらん!」

ビシィィッ!!と、額に手を当て叫び続ける青髪ピアス。
正直、身長百八十センチ台の男がクネクネ動きながら叫ぶ情景は、キモイ以外の何モノでも無い。
彼は、叫んだ。

「着替えを見てしまっての制裁!?殴られる!?そ・れ・が!いいんやないか〜!」
「ツッコミパンチィィイイイイイイイッ!!」
「ぶげらっ!?」

迷わず上条は気持ち悪い変態Xを殴り飛ばす。
ありとあらゆる変態を濃縮した存在(青髪ピアス)は渾身の一撃を受け、椅子と机を蹴散らしながらノーバウンドで壁に激突。
そのままズルズルと床へ沈んだ。
上条ははぁはぁと息を荒げながら叫ぶ。

「この変態!黙れ変態!んなことされて喜ぶのはお前くらいだ!」
「ぐっカミやんに罵られるなんて……悔しい、でも感じちゃ「感じなくていいわぁぁぁっ!!」
「あっはっはっ、今日は二人共テンション高いにゃー」

コントのようなやりとりを、土御門は椅子に座って見ていた。
カラカラと笑い、青いサングラスのレンズを光らせる。
そんな第三者を気取る土御門の軽い調子で紡がれた言葉に、上条はガクン、と肩を落とした。

「……そりゃそうだろ、土御門。テンション上げなきゃやってられねぇよ」

はぁ、とため息を吐き、彼は椅子に座り直す。
気がつけば、青髪ピアスも椅子に座っていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:07:45.15 ID:0.BFUBQ0<>

「なんでカミやんため息吐くん?」
「いや、だって……」
「カミやん、青ピに普通の感性を求めるのは無駄だぜい?」

あぁ、そうだなと返事を返し、彼は改めて教室を見渡す。
茶色の机に椅子、教壇に黒板。
うん、普通の光景だな、と上条は思った。




「俺等三人"だけ"じゃなけりゃな……」




教室に居るのは、上条、土御門、青髪ピアスの三人のみ。
何故この三人なのか?
理由はとても簡単。

ガララッと、教室前方の扉が開いた。
そして、

「さぁ、楽しい楽しい"補習"の始まりですよ〜」
「いよ!待ってましたぁ!」
「にゃー」

"子供のような声"で語られた事実に、上条は本日何度目かのため息を吐いて、毎度お馴染みのあのセリフを一言。


「不幸だへくしゅっ!?」


くしゃみのせいで、最後まで言い切れなかった。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:08:29.69 ID:0.BFUBQ0<>








学園都市の大通りというのは、意外と渋滞がない。
何故なら最新の交通制御システムにより、信号の赤と青の間隔を操作しているからだ。
しかしながら、人はそう簡単に行かない。
故に、風力発電のプロペラが立ち並ぶこの大通りも、人が溢れ返っていた。

「朝でも結構人が居るのね」
「今日は休日だからな。暇人どもがうようよしてンだろ」

一方通行と十六夜咲夜は並んで歩いていた。
傍目からは一方通行も咲夜もそれなりに目立つ容姿なので、朝の人混みの中でかなりの視線を受けている。
好奇、興味、疑念、嫌悪、様々な視線が集中するが、彼等に気にする様子は無い。

「で、なんなのこんな朝早くから」
「分かってンだろォが」

彼女からの問いを、一方通行はバッサリ切り捨てた。
とりつくしまも無いその姿に、咲夜は心中がもやもやする。
ただ歩くだけ、目的地も分からない、などという精神的に意外と苦痛な行為を柔らげるため、彼女は他の疑問をぶつけた。

「ここは寺子屋……じゃなかった。大きな学校みたいな所なのよね?普通今の時間、学校に行ってるんじゃないの?」
「休日って言ってンの聞いて無かったかァ?今日学校なンざ行ってンのは、教師共と変態研究者と補習受ける馬鹿な奴らだけだ」

饒舌に説明され、咲夜はへぇと返す。
要するに、休日とは一部を除き殆どの人間が休む日らしい。
周りをすれ違う若者達を横目に、彼女は自己解釈した。
ちなみにこの時、とある教室でとある少年がくしゃみをしていたりする。

「貴方は学校に行ってないの?」
「行ってると思うか?」
「思わないわ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:09:38.50 ID:0.BFUBQ0<>

杖をつきながらも、前から来る人を上手く躱す一方通行に、正直に言った。
僅か一日の付き合いだが、彼がまともに勉学に励むシーンなど想像出来ない。
咲夜の脳内イメージでは、一方通行が先生(とある寺子屋の先生)に罵倒を浴びせる光景が浮かんでいる。
その後思いっきり頭突きを喰らい、気絶する一方通行というところまでイメージを進展させてから、彼女の視界に入った物があった。

「なに、あれ?」
「あァ?」

驚きの余り足が止まった咲夜を不機嫌そうに睨み、一方通行は彼女の白い指で差された物を眺める。
百メートル程先に、巨大な建物が見えた。
何やら柱のような鉄柱らしきものがそびえ立っており、グネグネと宙で蛇の如く曲がりくねっている。
他にも巨大な円状の輪っかや、森らしきものも見られた。

「……レジャーパークだよ」
「れじゃーぱーく?」
「簡単に言いやァ、"遊園地"だな」
「"遊園地"?あれが?」

咲夜の驚きに、本当に知識が無駄に片寄ってるなと呟く一方通行。
彼は遊園地に向けていた視線を近くに移し、

「どうせ俺等には関係ねェ場所だ」

釣られて彼女も視線の先を見る。
先にあったのは、バス停。
丁度着いたばかりなのだろう。
バスからわらわらと人が降り立っていた。

「よっしゃあっ!着いたぜ!」
「こらルーク!恥ずかしいから叫ばないで!」
「いいじゃんか。折角ガイからチケット貰ったんだぜ?楽しまなきゃ勿体ない!」
「そうだけど……あぁ、ちょっと最初にお化け屋敷はダメェェッ!」

「ほら早く行くわよ!」
「イ、イリア待ってよ……そんなに走らなくても、ジェットコースターは逃げないから……」
「はぁ?ばっかねぇアンタ。ジェットコースターは逃げなくても、時間には限りがあるでしょうが!」
「そ、それは……ってそんなに引っ張らないでぇぇぇぇ!」

「……なる程ね」

納得の声を上げる。
バスから出て来たのは男女二人ばかり……ようするに、カップルが殆どだ。
しかも様子からしてデート。
二人にとっては確かに縁が無いだろう。
なにせ、二人共そういった恋愛関係に一ミリグラムも関わったことが無いのだから。
そんな恋愛関係が生まれるような環境に、二人は存在していない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:10:58.01 ID:0.BFUBQ0<>

「でもどうせなら、貴方と一緒に行くのもいいんじゃないかしら?」
「寝言は寝て言え」

咲夜の戯言に、一方通行は割と本気で返す。
見知らぬ女性と遊園地に行ってる所を、数少ない知り合いに見られでもしたらどうなることやら……

その何気ない会話の間にも、彼等はかなりの距離を歩いていた。
 
歩く度に一方通行の靴と杖の先端が、咲夜の靴が、音を立てて行く。
コツコツ、カツカツ、と。
やがて歩道の整備されたレンガを叩いていた足音が、徐々に砂が混じった、細かい音に変わって行く。


ジャリッ。


「……ここら辺でいいな」

辺りをぐるりと見渡し、一方通行は一人納得している。
彼の五メートル後方に立つ咲夜も立ち止まり、彼を視界に含めつつ周囲を見渡した。
巨大な金属性の箱らしき四角形の物体が山積みされ、地面は小石が大量にひかれている。
どうやら石をひいているのはワザとらしく、石の一つ一つが川原の石のように丸みを帯びていた。
砂利の海の中に、幾つ金属性の線路が見える。

咲夜の脳内には、この場所に関する知識は全く無い。

ただ一つ、分かるとすれば、


周囲一帯、この場に、"誰一人として居ない"ということか。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:11:45.60 ID:0.BFUBQ0<>


「ねぇ」
「なンだ」
「あえて、もう一度だけ聞くわね」

彼女は息を吸い込み、言葉を放つ。




「で、なんなのこんな朝早くから」
「分かってンだろォが」




返事とともに、一方通行の右足がトンッ、と驚く程軽く地面に叩きつけられる。
が、

ヒュボッ!!と、空気を切り裂いて砂利が跳ねた。

跳ねて、さながら天然のマシンガンになった砂利は、全てが正確に咲夜へと迫る。
常人がギリギリ視認出来るくらいの速度で放たれたそれは、彼女の眼前に迫り──


「──傷符「インスクライブレッドソウル」」


──音も無く、切り裂かれた。
超超超高速の連続斬撃。
常人には腕を振ったという感覚さえ感じさせない程の、超スピード。
砂利は宙でばらけ、勢いを失って彼女の後ろを舞う。
綺麗な灰色の断面から、とんでもない切れ味だということが分かった。
両手にいつの間にかナイフを持ち、咲夜は"白紙のカード"を切り捨てている。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:12:38.83 ID:0.BFUBQ0<>

「いきなりね」
「それがオマエの力か」
「まぁ、所詮これは使い捨てだけど」

暗に"自分の力はこんなものではない"と示しつつ、彼女はナイフを何処かへと仕舞う。
遅れて、漸く切り裂かれた砂利がバラバラと墜落した。
咲夜は、紅い眼を細め、一方通行の首本を見る。
スイッチの位置が、少し動いていた。

ソレだけで、目の前の"怪物"の力が増したと、彼女には手に取るように理解出来た。

「はぁ……どうせデートならさっきの遊園地に行きたかったわ」
「安心しろォ、これもある意味遊園地デートだ。スリル満点、ミスれば即地獄までの一方通行だがなァ」
「あら、私は一方通行と言われると逆走したくなるの。……"時を止めて"でも」
「迷惑だな。だから"向きを操作して"真っ直ぐ進ませて貰ォか」
「貴方にそれが出来るかしら、そんな細い腕で」
「腕どころか指一本で十分だ」

軽口の叩き合い。
二人共、理解している。
この会話がただ単純に相手の身のこなしを確認する作業であるということ。
相手の性格、言動から戦略を組み立てるための作業に過ぎないこと。

そして、同時に、






「じゃあ指が十本だったら?」
「十二分だ」






何処か、楽しいということも。

ニヤリ、と彼は凶悪な笑みを浮かべ、
クスリ、と彼女は瀟酒な笑みを浮かべた。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:13:54.30 ID:0.BFUBQ0<>




まず、戦場となった操車場に満ちたのは、爆風。
一方通行が大地を莫大な力で蹴り、宙へと舞った反動だった。
暴力的なまでの風だけでは無く、衝撃により舞い上がった砂利が豪雨のように、大地へと降り注いで行く。
轟音が連続して響き渡り、砂煙が凄まじい勢いで空間を浸食していた。
それら、巫山戯た光景を上空百メートルで彼は見る。

(……さっきの斬撃、あれは単純なスピードじゃねェ……"時間"を加速して大量の斬撃を放ちやがったのか)

咲夜の言葉(能力)が正しいとすれば、だが。
脳内で付け加えつつ、彼は重力の"ベクトル(向き)"を操作して宙に留まる。
一方通行は下の砂煙の壁を睨んで、

「っ!」

横に、重力と気流のベクトルを使って動いた。
移動した瞬間、一方通行が居た場所を"上から"ナイフの雪崩が襲う。
すぐ横を通過して行くナイフの谷を見つつ、彼は上空へと目をやった。

「……なるほど。時間操作が出来りゃ単純な速さなンか関係ねェよなァ!」
「褒めても何も出ないわよっ!」

何時の間にか十六夜咲夜はメイド服をはためかせ、一方通行より更に上空に存在していた。
一方通行はそれを見て重力によって浮くのを止める。
フッ、と体を浮かせる力が無くなり、気流操作によってゆっくりと彼の体は大地に引っ張られて行く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:18:16.29 ID:0.BFUBQ0<>

「ふっ!」

彼が此方を見ながら落ちて行くのに構わず、咲夜は腕を振る。
瞬間、指に挟まれたナイフが物理法則上、あり得ない軌跡を描いて下方の一方通行へ殺到した。

「っ、はっ」

一方通行は冷静に、迫り来るナイフ達を見る。
数は合計十六本。
軌道は様々で、直線的に向かって来る二本を除けば、ジクザクに、直角に、緩やかに曲り、停止しながら、と本当に様々だ。
そして更に厄介なのはそれら全てが銃弾並みの速度であり、そして銃弾よりも遥かに威力があること。

だが、まぁ、

「ざァンねェン」

一方通行相手には、分が悪過ぎた。
ヒュウンッ、と。
彼の体に当たったナイフは、"自然に"何処とも知れぬ方向に飛んで行く。十六本全てが、一本の狂いも無く。
壁に当たって弾かれたというよりは、受け流されたという表現の方が見た目的にも理論的にも正しい。

「えっ?」
「あァ?」

両者疑問の声。
片方は自分の攻撃が防がれた、不可思議な現象へ。
片方は思った通り操作出来なかったという現象へ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:19:35.40 ID:0.BFUBQ0<>

(弾かれた?いや、ナイフ"そのものを動かされた"って感じね。……最近、"弾幕ごっこ"ばかりだったから鈍ってないといいけど)
(どういうことだ?"反射"の設定をミスったか?いや、"異能の法則"に俺がついて行けてねェのか。……チッ、何が最強だクソったれ)

僅か0.01秒の間に、二人は雑念さえ交えながら、思考で答えを弾き出してしまう。
答えが出た瞬間、一方通行は勢いよく地面へと飛ぶ。
その姿を追うように、咲夜もナイフを構え、追いかけた。

(だったら、ナイフへの操作が追いつかないくらいの数を叩き込む!……死なないよう、柄の部分で)
(異能の法則を理解すンのは今は無理だ。なら、反射に頼らなければいい!……少しは手加減しねェとマズイか)

またもや同時に思考を終え、彼等は空を翔る。
一方通行は地面へと轟音を立てながら着地──

「らァっ!」

──した衝撃を操作し、前へと音速を超えて飛ぶ。
ぼやけるその姿を追うように、咲夜は自分の力をスムーズに発揮し、尚且つある程度ためて置ける、

「光速「C.リコシェ」!」

"弾幕ごっこ"の目玉、"スペルカード"を発動させた。
カードの絵柄が弾け、内に秘められた力を放出する。
紫色の光が辺りに散ったかと思うと、一斉に光が周囲の、咲夜が指定した広大な空間を翔る。
シュパァァァァッ!!と、空気を切り裂く紫色の光の正体は、ナイフ。
幾つものナイフが光の筋となり、空間をランダムに直線的に駆け巡る。
周囲に積まれたコンテナの山をも穴だらけにし、地面をえぐる。

「チッ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:20:16.37 ID:0.BFUBQ0<>

一方通行はその光景に舌打ちを一つ。
縦横斜め、360°全てから紫光のレーザーとなったナイフが襲って来る。
光の筋による、擬似的な檻。
その中を、

「──っ」

一方通行はなんと、正面から潜り抜けて行った。
身を翻し、重力を操作し、あり得ない動きで躱す。
感性の法則を明らかに無視した、異常な動き。
前へ前へと進み、コンテナの山と山の間の巨大な道、レールの上を飛び、地面を蹴る。
周囲の気流の流れなども利用しているのか、予めある程度予測して動いているようだった。

「おらァ!」

一方通行はある程度進んだ所で十メートル以上飛び上がり、一番上に積まれていたコンテナを蹴り飛ばす。
全ベクトルが集中され、グシャッ!と見事なまでに潰れながらも、コンテナは吹き飛んだ。
飛んだ行き先は、勿論、

「っ!」

宙に浮かぶ、咲夜の元。
音速の2〜3倍の速度で放たれた金属の砲弾を、彼女は淀み無い、最低限の動きで躱す。
だがその際、集中が切れてスペルカードの効果が切れてしまう。
彼女にギリギリ掠るか掠らないといったコンテナはそのまま宙を飛び数秒後、空気摩擦で減速し墜落した。
ズズンッ!!という、隕石のような落着音が咲夜と一方通行の遥か遠くから響き、穴だらけになったコンテナが振動によって悲鳴を上げ、周囲に金属同士が擦れ合う嫌な音が響く。

「今更だけど、これだけ派手に暴れて大丈夫なの?」
「なンのために場所を選んだと思ってンだ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:21:02.98 ID:0.BFUBQ0<>

だが、二人は全く気に止めなかった。
互いに示し合わせたかのように開けた空間へ降り立つ。
ギシギシギチギチギリギリッッ!!という、コンテナの悲鳴合唱の中、二人は確かに向かい合う。
この二人が間合いを詰めるのは、二秒あれば充分だ。
それを態々時間をかけて詰めたのは、

「で、どうかしら」
「まァまァだな。本気がどンなもンかは、大体予想出来る」
「私もそんな所。ただ、貴方の力を知らないから、分からない部分も多いけど」

第三者には訳が分からない、会話と呼んでいいのか躊躇われる内容。

実際の所、この戦闘は戦闘であって戦闘では無い。
互いの実力を戦いの中で見せる、組手とも儀式ともとれるもの。
第一、この二人が本気でぶつかり合っていたら、一分半後の現在、辺りは地獄の様相を見せていた筈だ。

「ただよォ」
「でもね」

だが、同時に、

「勿体無いよなァ?」
「勿体無いじゃない?」

この戦いを、楽しんでいるのだ。
お互い、手加減に手加減を重ねた状態。
しかし、それでもこの戦いを一方通行も十六夜咲夜も楽しんでいた。
別に、彼等がとびっきりに異常な戦闘狂という訳ではない(ただし、他の一般人よりは遥かに交戦的)。
ただの戦いでは無く、"似た者"同士の戦闘だからこそ、ここまで楽しめるのだ。

彼は、
彼女は、

お互いの目を見る。

「……」
「……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:21:48.77 ID:0.BFUBQ0<>

紅い双眸による視線は互いの紅い双眸を捉える。
其処に映る本質の全てが、自分と瓜二つ。
戦いという、もっともお互いが触れ合ってきた状況だからこそ、こうやって通じあえる。

「次、一撃を当てた方の勝ちっていうのはどうかしら?」
「はっ、上等だ」

ルールを決め、二人は思い思いの構えを取った。
そして、棒立ち状態の一方通行が、ゆっくり口を動かして、

「……行くぞ、十六夜」
「……えぇ、一方通行」

始めて、お互いを名前で呼び合う。
咲夜はともかく、一方通行にしては異常だった。
彼はここまで本来、素直では無い。
出会って一日の者を、名前で呼ぶなど、明らかに異常だった。

でも、そんな細かいことはどうでもよかった。

戦いの今は、今のことだけを考える。


それが、この二人の共通認識。


「っ!」

一方通行は、両手を天に向かって上げる。
まるで、神の祝福を受け取る聖職者の如く。

しかし、その手に生まれるのは祝福などでは無い。

轟!!と、暴風が吹き荒れた。
風は一点──彼の上空へと収束して行き、一点に収束された気体は熱を持つ。
そして熱はどんどん高まり、閃光を発した。
思わず目をつぶり、手で目元を抑えながら見る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:22:31.33 ID:0.BFUBQ0<>

「これは……」

咲夜は、その光景に圧倒されかけた。
一方通行の上空に生み出されたのは、白熱の塊。
火の粉のような白を散らし、太陽のような熱と光を周囲に撒き散らす。
丸い灼熱の球体は、当たれば人間など一瞬で消し去るだろう。
彼女は知らないが、この白い球体は世間一般でプラズマと呼ばれている。

「──!」

そして、一方通行は無言で両手を咲夜に向かって振り下ろす。
連なるように、プラズマも咲夜に向かって振り下ろされた。
灼熱の球体は、形を歪にしつつ彼女に迫り、






「そして、時は動き出す──」






次の瞬間、一方通行が見たのは自分が操るプラズマと、周囲に展開された大量の、空間を埋め尽くす程のナイフだった。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:23:59.30 ID:0.BFUBQ0<>






「幻世「ザ・ワールド」」

それが、彼女の発動したスペルカード。
彼女の言葉が紡がれると同時、世界は灰色に染まる。
モノクロの世界に熱は無く、ただダイヤモンドよりも硬い物質達が存在するのみ。
この世界で動けるのは咲夜ただ一人であり、彼女は止まったものを傷つけれない。
だから、あくまでこれは準備。
敵を完璧に始末するための。

彼女はゆっくりと、前へ歩く。
一歩踏み出せば十のナイフが。二歩踏み出せば百のナイフが。
三歩踏み出せば千のナイフが。
彼女が一方通行の隣を通り過ぎた頃には、空間を埋め尽くす程のナイフ包囲網が出来ていた。

「まっ、こんなところかしら」

魔力で作り出したナイフの調子を確かめ、彼女は解除のセリフを紡ぐ。

「そして、時は動き出す──」

瞬間、世界に色が戻り、全てが動き出す。
プラズマが大地に直撃して破壊では無く土を溶かし、ナイフも標的へ、一方通行へと衝突した。

耳を壊しかねない轟音が、轟く。

高熱の物体による、気体移動の暴風。
大量の物量衝突による、巨大な振動。
両者が生んだ破壊は凄まじく、コンテナの山が衝撃波によってなぎ倒される程。
積み木のように崩れて行くコンテナを横目に、

「……やり過ぎたかしら」

咲夜はタラリ、と冷や汗を一雫。
幾ら柄の部分とはいえ、やり過ぎた気もしなくは無い。
砂煙が衝撃波で吹き荒れて、着弾点がよく見えないので、無事かどうか確認出来ない。
少しばかり後悔する少女。




「オラ」
「えっ──」

ポコン<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:25:33.50 ID:0.BFUBQ0<>
「あたっ」


そんな軽い音と共に、白い杖の棒が咲夜の頭へ叩きつけられた。
年相応の可愛らしい悲鳴を上げ、彼女は頭を抑えつつ恐る恐る犯人へと目をやる。


其処に居たのは、やはり全く無傷の一方通行だった。


「……一体どんな手品を使ったの?」

なるべく冷静に、彼女は尋ねた。
砂煙が晴れ、着弾点を見ると其処にあるのはただ巨大なクレーターのみ。
不思議がる彼女に、一方通行は杖を付きながら逆に尋ねる。

「蜃気楼って知ってるか?」

?、と頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、咲夜は知識を引っ張り出した。

「確か……光の現象である物無い物が見える、"幻術"の元──って」
「そうだ。オマエがさっき、プラズマの閃光で目が眩んだ瞬間に"幻影"を作らせてもらったンだよ。プラズマを作ってから俺が喋らなかったのは、ただ単純に喋れなかったからだ」
「それで自分は応用で姿を消してたのね……」

はぁ、と咲夜はため息を一つ。

「手品でも負けるとは思わなかったわ」
「オマエの場合、ただのタネ無し手品モドキじゃねェのか?」

あら、失礼ね。と彼女は苦笑しつつ、

「帰ったら、能力について教えなさいよ?」
「そっちもな」

戦いの前とはどこか違う雰囲気で、ボロボロの戦場に背を向け、歩き出した。
一方通行も釣られて動き、砂利を踏む。




「あっ、そうそう。どうせなら十六夜じゃなくて咲夜って呼んでくれないかしら?」
「却下」




コンテナが、ギチギチと何時までも悲鳴を上げ続けていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:26:08.35 ID:0.BFUBQ0<>







後始末に働くのは、学園都市のトップ。


「やれやれ、かなり無茶なことをしてくれる……場所が場所だから、まだマシだが」

「ふむ、部隊を回して──」

「これでよし……」

「……しかし、『神』の"介入"が無ければ、私自身が動けるというのに」

「だが、最低限の役目は果たせる。よしとしよう」

「──遅いな」

「予定の時間より一時間オーバーしている」

「八雲紫、何があった……?」


窓の無いビルにて、統括理事長、アレイスター・クロウリーに嫌な予感が走った。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:26:41.90 ID:0.BFUBQ0<>




「クソ!」
「レミィ!落ち着きなさい!」
「落ち着いていられる訳が無いだろう!クソ!どうして、どうしてこんな最悪なタイミングで……っ!」
「紫様!スキマを此方から開けないんですか!?」

「『神』の馬鹿の"介入"が入ってる!本気でやってるけど、このままじゃ向こうに繋げれるのに三日もかかってしまうわ!」

「なんとか出来ないのかっ!?」
「なんとか出来たらもうやってるわよ!」
「お二人とも落ち着いて!私の力は使えませんか?」
「……『奇跡』。やってみる価値はあるわね。そこの門番も手伝いなさい!力仕事は得意分野でしょ!」
「任せて下さい!」
「スキマ!こっちで三日経ったら向こうでは何日経つんだ!?」

「……短くて、丸一日。長ければ、一週間ってとこよ。時間が、"介入"でずれたから……」

「っ──クソォォオオオオオオオッ!!!」


ガシャンッッ!!





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:27:26.46 ID:0.BFUBQ0<>




「うー、寒々……」

学園都市に少なからず存在する、スキルアウトと呼ばれる者達。
言ってみれば、彼等は不良だ。
無能力者(レベル0)と呼ばれ、何の力も持たない学生に過ぎない。
そして、浜面仕上も多少普通では無いとはいえ、何の力も持たない無能力者だ。
無論、魔術なども使えない。

「やっぱ近道なんかするんじゃなかったか……?」

染めてボサボサの金髪頭に、ソレ程顔も良く無い。
ちゃらちゃら適当にアクセサリーを付けている所など、実に小物ぽかった。
そんな彼は今、薄暗い影の中を歩いている。
乱雑に建てられたビル。
半数以上が廃墟になっているその地帯を彼が歩いているのは、単に近道だから。
彼が今寝泊りしているビルの一室(廃墟だが、それなりに真新しいビル)と彼が"文字通り命をかけて守った"少女が入院している病院がこの廃墟ビル地帯を挟んでいるからだ。

「しっかし、やっぱ寒いなここ」

長袖の上着を揺らしつつ、彼はゆっくり進んで行く。
早く帰って、布団に入りたかった。

が。

キラリ、と。
何かの光が浜面の視界に飛び込んだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:28:01.38 ID:0.BFUBQ0<>

「……?」

光をよく見てみる。
ビルの灰色の壁、もたれかかるように、誰かが居た。
五メートルも離れていない地点に。
内心、何故こんなに近くまで気がつかなかったのかと思いつつ、彼は近付いていった。
小さな寝息が聞こえることから、どうやら寝ているらしい。

年の頃は十歳程度だろうか?
かなり幼い少女だ。
"金色の綺麗な髪"、それこそ浜面のとは比べ物にならない。
頭に"布製の赤いリボン"が括り付けられた帽子が乗っかっており、服は白と赤の全体的に柔らかな印象を与えてくるワンピースらしきもの。

ただ、一番目立つのは"背中の翼"だろう。

"宝石のような七色の石"が七つ、黒い縄のような部分から垂れ下がっており、翼のイメージを与える。
恐らく、先程の光の正体はこれだ。

「……なんだこりゃ?」

普通ならこんな危険にも程がある場所で寝ている、少女の心配をするべきだが、余りにも背中の翼の飾り?が気になり、心配出来ない。

いや、正直な話"ソレだけでは無い"。


この少女を目の前にしていると、浜面の本能がざわめくのだ。


まるで──


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:28:45.41 ID:0.BFUBQ0<>

「う、う〜ん……」

そうこうしている間に、少女が起きてしまった。
彼女は目を眠たげに擦り、欠伸を大きくする。
そして、その大きな"紅い目"で、目の前でどうすればいいのか迷っていた浜面を捉えた。

「……あれ、"人間"?」
「──っ」

可愛らしい、癒すような声。
だが、浜面には、その目を見た浜面には癒すことなどあり得ない。
目を見ただけで、分かった。分かってしまった。

「ってことは……やったー!"紅魔館"から出れたんだ!ねぇねぇ、ここ何処っ!?」
「が、学園都市だけど……?」
「へぇ、聞いたこと無いなぁ……もしかして"外"なのかな」

少女は、可愛らしく首を傾げて、




「でも、まぁいいや」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:29:21.26 ID:0.BFUBQ0<>

「っ!?」

今度こそ、浜面の本能が全力で警報を奏でた。
彼は、この少女と似た目をした女性を見たことがある、いや、覚えている。
多分、一生忘れられないだろう。
それは、忘れるには余りに強烈過ぎた。

「ねぇ」

轟!!と、空気が悲鳴を上げたかのように見えた。
突如出現した、"燃え盛る剣"に空気が反応に、轟風が起きたのだ。
魔剣と呼ぶにふさわしい、灼熱の紅き焔の剣を、彼女は右手に握っている。

「うっ、ぐっ……!」

肌をジリジリ焼く熱波と恐怖に、浜面は一歩下がる。
それに反応して、少女も一歩前に踏み出して、浜面を見上げながら言った。

"悪魔"の様な、何処か恐怖を湧き出される笑顔で。






「一緒に遊ぼ?」









これが、浜面仕上と、"悪魔の妹"フランドール・スカーレットの出会いだった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:30:02.35 ID:0.BFUBQ0<>














世界は内包し続ける。
友情、希望、愛情、狂気、ありとあらゆる全てを受け入れ、
今宵も世界は、残酷であり続ける。














<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/25(クリスマス) 12:31:54.13 ID:0.BFUBQ0<>
※今回はおまけスキットはありません。


浜面君は生き残れるのか?
次回へ!
<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 13:08:19.17 ID:.WgIK42o<>はーまづらェ……

尾中<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 13:08:42.14 ID:5oi9fwDO<>浜面よりによって妹様かw<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 04:43:32.21 ID:0snBcYAO<>東方からは雑魚ばっかかと思ったら中堅キター

ただの人には荷が重いな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 15:01:34.23 ID:V1IQIPw0<>ただの人ってか物質として存在してる相手には鬼門すぎねぇ?
てか咲夜さん時間停止中の物質に干渉できたはずだが。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2010/12/27(月) 16:19:42.23 ID:VfhlOOU0<>
>>195
ただの人、ってかこの世の存在の殆どにとってキツイ気が…w

>>196
まぁ、フランですから……
あ、後咲夜さんの能力については「物体を動かす」ことは出来るけど、「物体を傷つける(破壊)」することは出来ないっていう自己解釈が入ってます……理論とかは抜きで。


現在、大急ぎで執筆中ですが、年内には無理かもしれません。
では皆さん、

浜面先生の来世……じゃなかった。次回にご期待下さい!

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/28(火) 19:58:07.80 ID:kPgbWcAO<>何だ彼んだと弱点てんこ盛りだから
水系能力や太陽系能力持ってれば封殺出来る<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 01:01:26.65 ID:fqc1ddM0<>ゲッショーのレミリア見る限りだとそれやってもすぐ死ぬわけじゃないからな、天照の攻撃食らっても気絶しただけだったし
手をぎゅっと握るだけの動作で発動する破壊能力で粉微塵にされる。
まぁそもそも何かする前に殺されてる可能性高いんだけどな。性格的にも
霊夢や魔翌理沙が殺されなかったのはゲーム補正なのか腹が減ってないだけなのか
霊夢はその気になれば夢想天生あたりで防げそうではあるが<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 19:11:09.47 ID:PgEWEYAO<>>>199
折角の殺し合わない為の弾幕ごっこなのに
天照出して殺しましたじゃいかんだろ
直ぐに死ぬ訳ではないのは同意だが、致命的であるのは紅、儚あたりから間違いない

会話は意外と理性的ではあったな
気がふれてるのや人を粉々にしてるのは違わないが<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:09:49.43 ID:ge8.Nu20<>
>>196
以下、とある後書きコーナーより抜粋。


咲夜『で、時間停止最中に攻撃出来るか出来ないか?出来るわよ、本気出せば』

フラン「本気出せば?』

咲夜『本気を出すのは疲れるんです。時間に割り込みを入れようとしたらかなり。それよりも一瞬だけ時間を解除してダメージを与え、直ぐに離れるという戦法の方が現実的なのですが、それはそれで相当な体力を使うのです。時間停止は相当疲れるので』

浜面「つまり、やろうと思えば出来ないことは無いが、戦闘中は難しいと?」

咲夜『えぇ。でも物を移動するだけなら普通の時間停止でも出来るから、普段は問題無いわ。物を傷つけたり破壊することは出来ないけど』

浜面「……なんか異次元の会話過ぎて、ついて行くのが厳しいんだが」

フラン「こういうのは『ご都合主義』とか『自己妄想設定』とか言うんだよね!」

浜面「はははー、何処でそんな言葉を覚えて来たんだ?」


>>198-200
自己解釈設定で行きます。すみません。


では、見てる人も少ないとは思いますが、行きます。<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:11:11.24 ID:ge8.Nu20<>
















人間、誰しも過ちの一つ二つはあるものだ。
それは人によって異なり、小さい過ちもあればとても大きな、人生が終了してしまうような大きな過ちもある。
結果の大きさが違えば、過ちの原因の大きさだって違う。
とても小さな、日常的な過ちもあれば、人生一度っきりの大きな過ちの可能性もある。

だが、ここで決して忘れてはいけないことがある。




"過ちのレベル"と、それに対する"結果のレベル"は必ずしも釣り合うとは限らないことを。




さて、では彼はどうなのか?
彼は現在、一般人なら間違いなく人生最大級の死の危険に直面している。
原因は、ただ"通る道を間違えた"こと。
他の廃墟ビルの近くを通る、いやそもそも廃墟ビル地帯に入らなければよかった。
多少遠回りでも、素直に"日の当たる場所"を選ぶべきだった。

だけど、所詮は道を間違えただけ。
そんな、誰もがしてしまうような間違えの代償が彼の場合、死に直面すること。






ただ、ただ"それだけ"のことだった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:11:57.53 ID:ge8.Nu20<>



可愛らしい、しかし何処か狂った声がビル地帯に一つ。

「行くよ?」

例えるならば、"悪魔"。
金色の、宝石のような髪。
緋色の、血のような瞳。
小さな、天使のような体型。
背中に生えるは、七色の宝石の翼。

そして、振りかぶりしは、究極の禁忌。
燃え盛る、魔の剣。

名を、レーヴァテインと言う。

「う、おおおおおおっ!?」

浜面仕上は迷わず、自分の足を引っ掛けるように地面に倒れこんだ。
我ながら無様だと、地面に手と顔面を押し付けながら思ったが、その判断は正しかったと次の光景を見て理解する。


ヒュボッ!!と、空気が裂かれ、真上を炎の塊が通過した。


一直線に迷いなく真横に振り抜かれた魔剣。
空間にその姿を焼き付けながら、残照を散らす。
音すら立てずに、長大な刀身に周囲のビルの壁が"溶かされた"。
斬ったのでは無く、溶けた。
膨大な熱量が圧縮された剣の前に、ただのコンクリートや鉄の固まりなど意味を為さない。
煙を上げる、ビルの一直線に穴が開いた風景を見て浜面の顔に嫌でも冷や汗が伝う。
後少しで、"少し前まで生きていた知り合い"のように上半身と下半身が無惨に分かれる所だったと思うと、恐怖で筋肉に無駄な力が入ってしまった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:12:50.98 ID:ge8.Nu20<>
(な、なんだってんだ一体!?コイツ、なんなんだよっ!?)

なんとか躱した死への恐怖を無理矢理押さえつけ、彼は膝を付いて立ち上がる。
今までの経験がなせる力だった。
絶対的な強者の前に置いて、恐怖などで足を止めてしまったら待っているのは死のみだということを、彼はよく知っている。

(とにかく、コイツはヤバイ、ヤバ過ぎる。どう見ても普通じゃねぇ……!)

浜面が恐怖を押し殺し、必死に生きる道を探している中、

「あははははははははっ!!躱されちゃった!」

楽しそうに、愉快そうに、狂った笑みでソイツはワラっていた。
魔剣と同じ緋色の瞳は狂気に染まり、単純な殺意よりももっと怖気が走る狂気を放っていた。

「見た所普通の人間なのに、凄いんだね!じゃあ次!」
「まっ──クソ!」

停止の声を上げるが、無駄だと分かり、浜面は罵倒と共に駆け出す。
彼女から少しでも離れようと、彼が出せる全力のスピードで。

「禁忌「恋の迷路」!!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:13:19.43 ID:ge8.Nu20<>
そしてその行動は正しかった。
少女が何かを叫んだ瞬間、爆発するような効果音とともに、彼女を中心に光が生まれた。
光が地面に一瞬走ったかと思った、
瞬間、

「っ!」

浜面は本能のままに、曲がり角へ飛び込む。
ゴガガガガガガガガッ!!と、天が砕けたと思ってしまうような轟音が鳴って、近くのビルの壁が一斉に破壊された。
光る、青色の何かによって。
破壊した物をハッキリ視認する余裕は、彼には無かった。
ただ分かったのは少女を中心にして何かがばらまかれたということと、浜面の居る場所どころか辺りいっぺんに破壊が襲ったということだ。
息をつく間もなく、第二陣、第三陣が襲ってくる。
空気を裂く怖気が走る音と、一瞬で死にいたらしめるであろう何かが。

「うわぁっ!?」

悲鳴を上げながら、浜面は走る。
壁を貫通してくる何かを必死で躱し……いや、運がいいだけだった。
曲がったことで少女と浜面の間にはビルという障害物があるのと、距離が少しばかり開いたお陰だ。

走りながら少しだけほっとした彼──




ベキリッ




──の耳に、ただの破砕音では無い、不気味な音が響いた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:13:56.73 ID:ge8.Nu20<>

「!?」

さっきの、後方に居た筈の少女が何かしたのかと思ったが、違う。
上を見上げた。

「うげっ!?」

苦々しい驚愕の声が飛び出る。
だが無理も無いだろう。
相当な広範囲に放たれたのか、周囲のビル陣は浜面の身長よりも高い位置の壁まで破壊されていた。
降り注ぐコンクリートの破片は、余りにも破壊つくされたせいか小さい。

その代わり、ビルが徐々に傾き始めていた。
視認出来る程、ゆっくりと。

「や、やべぇっ!」

浜面が走る道の、両脇に建つビルが道へとゆっくり崩れて行く。
鉄筋が折れる、金属質な音が空間に連続で木霊した。
ビルがまだ倒壊していないというのが、浜面の運の良さを表している。
現在、浜面の両脇で倒れかけているビルは十階ぐらいのもの。
倒れた瞬間待っているのは、瓦礫の山に飲み込まれるか、衝撃波で打ち倒されるかのどちらかだ。
後者はともかく、前者は絶対に助からないだろう。
"人間"はトン単位の物体に押しつぶされて生きていられる程、頑丈に出来てはいない。

「クッ、ソォォオオオオオオオオッッ!!あのガキィィイイイイイイイイッ!!」

姿が見えぬ(見えたら困るが)少女に向かって罵倒を吐き、浜面は走る。
徐々に破損音が大きなっていくのを、彼の耳の鼓膜が嫌な程震えて繊細に教えてくれた。
地面を死に物狂いで叩き蹴り、速度を上げる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:14:37.18 ID:ge8.Nu20<>

「う、おおおおおおおおっ!!」

前方の視界が開けた。
オレンジ色の光が照らす空間に、浜面は全力で後先考えずに頭から飛び込む。

彼の足が丁度ビルの通路から出た時、ビルが限界を迎えた。


世界が、ひっくり返る。


莫大な、千の雷が降り注いだかのような轟音とともに浜面の全身を灰色の爆風が叩いた。
背後のビル陣が崩れたことにより、砂埃を多分に含んだ衝撃波が生まれたということを、浜面は宙を舞いながら漸く認識する。
五メートル近い距離を吹き飛び、彼はコンクリートの地面に投げ出される。
ゴシャッ!!と、背中側から大地に叩きつけられた。

「ガ、ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

獣の雄叫びのような咆哮を上げた。
そのまま浜面は肺の中の空気を強制的に吐き出されつつ、ゴロゴロと地面を転がる。
清掃ロボットによって綺麗になっていた筈の道は、今や灰色の煙によって廃墟の様相を表していた。
ボールのように転がっていた浜面は、対面のビルの壁にぶつかることで動きを止めた。

「ぐがっ!」

衝撃が体を駆け抜け、全身から力が抜ける。
打ち所が悪かったのか、痺れたように力が入らない。
爆風が吹き荒れる中、浜面は動かない体で視線を動かす。

「……マジ、かよ」

先程まで疾走していた廃墟ビル地帯は、もはや地獄だった。
ビルが幾つも同時に崩れて行き、噴煙と爆風を撒き散らす。
瓦礫が隕石のようにコンクリートの地面に落着し、破壊して、破壊される。
十数のビルが倒壊して行く様は、いっそ滑稽でもあった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:15:17.01 ID:ge8.Nu20<>

「ははは……」

思わず笑いが、彼の口から零れる。
余りにも破壊のスケールが大き過ぎて、現実味が無い。
まるで、出来の悪い映画のような。
しかもそれに自分が関わっているなど。
今だって、全身に走る痛みと、頭上を覆い太陽の光を遮る程の灰色の煙が無ければ、現実だと思っていなかったかもしれない。




だが、"悪魔"は彼に現実を突きつける。




浜面が通った道が有った場所。
瓦礫によって埋もれ、見えなくなったそこの瓦礫が"粉々に跡形もなく"破壊された。
ボンッ、という風船をわるような効果音。
その後には、塵も残らない。
突如、消えた瓦礫の山に、彼の思考は停滞する。

「……はっ?」

疑問の声が上がった時には、瓦礫の音の合間に聞こえる音があった。

足音。
コツ、コツ、コツ、と。

「……ねぇ?どうしたの?もうお終い?」

足音は、軽やかに、華麗に、それでいて残酷に、

「立たないの?そんな状態じゃ私すぐ"壊しちゃう"よ?」

砂埃の中で、響く。


コツ、コツ、コツ、と。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:15:51.84 ID:ge8.Nu20<>

「あーあ、つまんない……」

砂埃を切り裂くように、彼女は現れた。
その姿には少しの汚れも無く、右手に持つ炎の魔剣と、背中の宝石の翼が異様だった。
絵にでもすれば、とてもその姿は綺麗で、

だが、目の前に居るこの状況では、この世の何よりも恐ろしい。

「──っ!」

上から見下ろしてくる彼女の瞳を見て、悪寒が全身を駆け巡る。
少女の緋色の瞳には、狂気と、おもちゃが壊れてしまった時の子供の虚しさが、ごちゃまぜになっていた。
それは、断じて人を見る際にしていいような瞳では無い。
いや、そもそもしてはいけない類いの、瞳。

(う、ごけ……っ!)

浜面は歯を食いしばり、全身に力を込める。
しかし、能力者に対抗するために鍛えた肉体は動かない。
"人外"の前に"人間"の力など無意味だと、宣告するかのように。
金の髪をなびかせつつ、少女は、

「じゃあ、バイバイ」
「……っ!!」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:16:27.60 ID:ge8.Nu20<>

浜面の見上げる目が、ゆっくりと真上に振りかぶられる魔剣を映す。
動こうと、躱そうとする浜面の努力も虚しく、

(クソ、ったれ……っ!!)


あっけなく炎の魔剣が振り下ろされ、彼を絶命させた。















その、"筈"だった。


「キャァァァァァァァァァッッ!!?」
「!?」

耳に轟きしは、甲高い少女の悲鳴。
彼女手から離れた魔剣が、ザシュリッ、と"音を立てて"浜面の顔面直ぐ横に突き刺さる。
が、直ぐに火の粉の欠片となって姿を消した。

「……えっ?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:17:11.08 ID:ge8.Nu20<>

突然消えた死へ、呆然となる浜面。
漸く力が入り始めた体の指を地面に食い込ませ、立ち上がろうとする。

「……っ?」
「あ、ぐ、ぅぅぅ……っ!?」

そこで見たのは、浜面と同じように地面に倒れこみ、右肩を抑える少女の姿だった。
彼女は先程の余裕ある姿は何処へ行ったのか。
顔を青ざめさせ、冷や汗を流し、呻きながら痙攣している。

「い、一体何が……?」

辺りを、首を動かして見渡す。
特に、何が起きたということも無い。
周囲一帯は灰色に覆われていて、とてもでないが十メートル先すら見えなかった。
しかしながら、灰色の隙間から差した"夕焼けの光"が一閃、浜面の前に差して──

「……って、まさか?」

馬鹿らしいとは思うが、これしか考えられなかった。
狙撃などをされた形跡は無いし、第一、浜面なんていうそこら辺に幾らでもいそうな男を守る価値など、何処にも無い。
ならば、この予想が正しいのだ。


「"太陽の光"が……?」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:17:50.41 ID:ge8.Nu20<>

今思えばビル地帯に直接日光は差して無かったし、ビルを崩してからは噴煙が日光を遮断するカーテン代わりになっていたのだろう。
彼女は、今まで日の元に出なかった。
だけど今、"超高熱の魔剣を上に振りかぶったことにより"、熱と空気の移動で気流が生まれ、砂埃のカーテンを一部消し飛ばしたのだ。
詰まる所、この結果は簡単に纏めると、

「運が、良かった……?」

いや、悪いからこんな目にあってんじゃねぇか、と彼は即座に意見を取り消した。
だが、運が良いというのもまた事実なのだ。

最初に太陽が目立たない薄暗いビル地帯から戦闘が始まったこと。
破壊の渦を上手く避けれたこと。
ビルの倒壊が遅れたこと。
灰色の砂埃で上手く太陽が隠れたこと。
彼女が魔剣で止めを刺そうとしたこと。
そして、夕暮れ時だったこと。

全てが、偶然。
誰の力による介入も無い状態で、彼が死に物狂いでつかみ取った『奇跡』だった。

「う、ううっ……」

呻き声に、意識を前にやる。
彼女はまだ肩を抑えていた。余程ダメージが大きいらしい。

(しっかし、なんでなんだ?)

少女を警戒しつつ、浜面は疑問を抱く。
何故、突然襲ってきたのかはもはや言動から大体予測出来る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:18:32.91 ID:ge8.Nu20<>

問題は太陽の光を浴びただけで倒れたことだ。

色素……つまり髪が黒とか金だとか、目が黒だということを決める成分が足りずに、日光を浴びただけで皮膚が焼け焦げたり、光が強過ぎて頭が痛む人間も世の中には居る。
しかし少女の場合は、明らかにおかしい。
肩を抑えていることから、皮膚に日光が当たったということは分かる、分かるがそれにしては様子がおかしい。
肉体の一部をえぐられたかのような悲鳴に、彼女が抑えている辺りから出ている煙のような何か。
焼け焦げるにしても、一瞬日光に当たっただけだ。
普通はもう少し日光に当たらないとそんなことは起こらないのではないか?

(……考えても、意味ねぇか)

浜面は医療の専門家では無い。
少女が日光を浴びて倒れた原因など、分かるはずが無いのだ。
そもそも、彼にとっては彼女が何者かなどどうでもいい。
いきなり襲われたが、もう二度と関わるつもりも無い。

「さてこれからどうするか……」

口を閉じたら、ジャリッと口内で砂の味がした。
灰色に染まる唾を汚らしく吐き出す。
体はまだ痺れており、上半身をようやく起こせた所だ。
ビルの倒壊は収まったのか、浜面の耳には倒壊独特の轟音は聞こえない。
代わりにガラガラと、瓦礫が瓦礫の山から転がり落ちる音だけが、いくつか聞こえた。

(ビルを十は潰したんだ。絶対後何分かで風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が来る……急いでここから離れねぇと……)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:19:12.44 ID:ge8.Nu20<>

幾ら廃墟地帯といえど、そろそろ野次馬なども絶対に来る。
風紀委員や警備員に捕まるのが一番最悪。
そうなった場合、浜面は事情徴収され、下手すると冤罪をかけられる可能性もある。
いや、この場合浜面は明らかに被害者なのだが、彼は問題行為を幾つも起こしていて"前科"が山程あるのだ。
今回も、見知らぬ少女よりは浜面の方が疑われる可能性が高い。

「……まっ、どう見ても普通じゃねぇけど」

両手を地面に付き、プルプル震えながらも体を上げて行く。
ここから逃げるために。
一つは先に考えた風紀委員や警備員から。
もう一つは、少し離れた所で転がったままの少女から。
ふと、倒れた少女から視線を外し、

「……っ!?」

その時、浜面は気がついた。
上空を覆っていた噴煙が、徐々に流れていっていることに。
風が強く吹いているのか、そのスピードは凄まじく、浜面"達"を包んでいた天然の"カーテン"が姿を消して行く。
このままでは、ものの十数秒で砂煙は何処かへ消えるだろう。


そして、必然的に"日光"が差し始めた。


夕暮れのオレンジ色の光が、ゆっくりと。

「……」

ボロボロの体で、浜面は思う。
残り何秒かで、この煙は晴れるだろう。
そうすれば、夕焼けが辺り一面を覆うに違いない。
しかし彼にとって、それは問題でもなんでもなかった。
何故ならば彼は普通の人間であり、日光に当たった所で何の問題も無いからだ。
むしろ太陽の光は浜面の肉体を温め、力さえ与えてくれるだろう。


しかし、しかしながら"それは彼一人だった場合"だ。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:19:50.83 ID:ge8.Nu20<>

「っ……」

地面に倒れ伏す、浜面を襲ってきた謎の少女は無事では済まない。
ただ、肩に当たった、掠っただけで痛みで動けない程のダメージを受けているのだ。
まともに全身に浴びてしまえば、どうなるかくらいは浜面にだって予想出来る。

「……」

浜面は、動かない。
当たり前だ。
彼女は、己を殺しかけた存在なのだ。
しかも何の繋がりも無い、赤の他人。
そんな彼女を助ける理由が、彼のいったい何処にある?

(……そうだ。後腐れは無い方がいい。後で逆恨みされてまた襲われるかもしれねぇ)

むしろ、見捨てるべき理由の方が大きい。
早くしなければ捕まる恐れがあるし、あの狂いようからするとここに来た人間全てを殺しかけない。

そうだ。誰がどう見ても、百人中百人は見捨てるべきだと言う筈だ。

「……っ」

だとすれば、この胸にあるモヤモヤはなんなのか。
何故自分は歯を食いしばっているのか。
何故自分は拳を握り締めているのか。
彼は自問自答を繰り返す。

(……つーか、第一体が動かねぇよ)

フッと、その思考で体の力が抜ける。
自分の体は今、痺れて上半身を起こすのが限界なのだ。
だから──



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:20:27.38 ID:ge8.Nu20<>





「お姉様……っ」






そんな呟きが、浜面の思考に滑り込む。
その声は今までの狂った、壊れた声と違い、見た目相応の、悲痛な呟きだった。

「──っ!」

またもや、拳に力がこもる。
ギチギチと音を立て、歯を食い張る。
浜面は、自分が何をしたいのか、抑えているのか分からなくなってきた。
理性は、彼女を見捨てろと叫んでいる。
本能も、彼女から一刻も早く離れろと叫んでいる。

だとすれば、


今、自分は何故、何を悔しがっている?


「……」

浜面仕上は、無言のまま動かない。
表情は硬く、




彼は動かず、後数秒で日光を浴びるであろう少女を見ていた。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:21:09.68 ID:ge8.Nu20<>








今日、"幻想郷"の紅魔館に"幽閉"されていた吸血鬼、フランドール・スカーレットは"偶々"メイド妖精の警備を突き破り、地下からの脱出を果たしていた。
彼女にしてみれば久しぶりに外出したくなり、外に出ただけ。
一週間近く誰とも会話して無かったため、地下暮らしが飽きていたというのもある。
"とある紅い霧の異変"からは友達という名の遊び相手も何人か出来たし、知り合いも増えた。
精神が比較的安定していた時は、宴会にも連れて行って貰えた。
精神が安定している時の彼女は、至って普通の女の子。

しかしながら、今日は鬱憤が溜まり大分不安定であった。
だから、彼女は自分の知り合いの誰かに会い、"遊んで"貰おうと思っていたのだが、


広間で見た。
見て、しまった。


「さて、準備は出来た?」
「こちらはいつでもOKですわ」
「私の準備が出来てませーん!というか話を聞いて下さい!」
「早苗さん、もう諦めた方が……」
「だーれーかー!」

自分の知っている知り合い達が、何か"とても面白そうなこと"をしているのを。
門番の中国風の女性が、緑色が目立つ巫女を羽交い締めにし、紫色の魔女が何やら魔法陣を敷き、金髪で胡散くさいスキマの妖怪が何やら黒い割れ目を開き、それらを自分の姉が面倒臭げに見ている。

「私じゃなくてもいいじゃないですか!そもそも、私は風祝(かぜはふり)で色々問題が……」
「じゃあ美鈴、押し込んで」
「ちょっとー!?」

どうやら、あの割れ目は何処かに繋がっていて、現在巫女は放り込まれようとしているようだった。

そう考えた時には、彼女は動いていた。
楽しそうに、無邪気な子供そのものの姿で。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:21:46.75 ID:ge8.Nu20<>

「っ!?」
「えっ」
「っあ!?」
「妹様っ!?」
「フラン!?」

彼女は、周りの知り合いにも構わず、スキマ妖怪を突き飛ばしてスキマに飛び込んだ。

それは、もしかしたら彼女なりの反抗だったのかもしれない。
勝手に、自分に何も教えてくれずに楽しそうなことをしていた知り合い達、姉に対しての。


子供っぽく、無邪気に、後先考えず。


だからだろうか。
こんな目にあったのは。

(痛い)

その単語一つが、地面に倒れ伏す彼女の脳内を埋め尽くしている。
とにかく、痛い。
体を切られた痛みとも違う。
弾幕に当たった時の痛みとも違う。
腕を爆砕してしまった時の痛みとも違う。
まるで、魂というものをガリガリ削られたかのような、痛み。

「あ、ぐ、ぅぅぅ……っ!?」

声にならない悲鳴が、小さな唇を震わせる。
そこに、先程までの狂気に染まった姿はない。
痛みとともに、狂気も吹き飛んでしまったかのように。
実の所、今日彼女は始めて日光を浴びた。
今まではずっと地下に居た上、外出の際は"とあるメイド"が日傘をさしてくれていた。

だから、吸血鬼の弱点である日光を浴びたのは、生きてきた"495年間"の中で始めてだった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:22:24.74 ID:ge8.Nu20<>

「う、ううっ……」

想像を絶する痛み。
肩に直撃しただけでこれだ。
もし、全身に浴びた場合、彼女は本当に魂ごと消滅するかもしれない。
肉体の再生はとても遅く、フランは今し方"壊しかけた"もののことを意識から吹き飛ばし、ただ呻く。

だが、

(──っ)

足元から僅かにだが漂って来る陽気に、彼女の全身が恐怖で震える。
それは、消滅への危機に震える少女の反応。

(……罰が、下ったのかな……)

フランは、痛みで朦朧とする頭でそんなことを考える。

彼女は、自分が"おかしい"ということを重々承知していた。
生まれた時から『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』などという、数ある力の中でも特段異常な力を持っていた彼女は、その能力で気がふれていた。
呼吸と同感覚で物を破壊でき、しかも破壊に快感を覚える。
破壊に快感を覚えるというのは、人間も妖怪も大して変わらないだろう。
しかし彼女の場合、破壊の力を持っていた。
簡単に幼少期から物を壊し、他人を壊し、全てを壊し。

壊した瞬間にあるのはただ狂おしいまでの快感と、壊した後に残るのは壊した物が無くなるという虚しさ。
まるで、麻薬のように、彼女は破壊に溺れていたのだ。

彼女の姉が自分を幽閉した時も、特に反抗はしなかった。
おかしいのは事実だったし、幽閉する以外に自分を止める手段が無いのも分かっていたから。
魔法と鋼鉄の壁に守られた地下の部屋に、彼女はずっと居た。
時々、館の住人と話すことはあったけど。


ずっと、ずっと、ずっと、一人で。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:23:05.09 ID:ge8.Nu20<>


それはしょうがないことで、同時に認めたくないことでもあった。

自分の力で壊せない、つまりは自分よりも強い友人が出来てからは、破壊衝動も大分治まった。

しかし、彼女の破壊衝動が完璧に消えた訳ではない。

彼女は、破壊を続けていた。
ただただ、精神を安定させる快感のために。
妖怪にとって、何かを壊したり殺したりするのは全くおかしい事では無い。
何故なら、妖怪という生き物が人々に恐れられるべき幻想(存在)なのだから。
だから、妖怪にとって殺生は大した罪では無い。


だけどフランは、自分が違うと知っていた。


他の妖怪にとって"破壊"が食事なら、
フランにとって"破壊"は麻薬。


とてもとても、悪い事だということは、心の底で理解していた。


日光が、砂煙を貫いて空間を満たして行く。
後数秒で、まともに光を浴びることになるだろう。
彼女は、これが自分に対する罰だと思った。
罰なら受け入れようとも思った。




"だが"、


「お姉様……っ」


ここに居ない姉を、彼女は呼んでいた。
つまりは、助けを求めていた。
死にたく無かった。
吸血鬼というのは死ぬことが稀な存在であり、フランに死への覚悟などありはしない。

彼女は、幾つもの命を"破壊"して来たというのに。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:24:05.30 ID:ge8.Nu20<>

(ば、かみたい……)

心でそう思っても、体は正直だ。
痛みで震える体は日光から遠ざかろうと必死にもがき、硬く瞑った瞼からは透明な涙が音もなく零れ落ちる。

頭の中を、様々な思い出が駆け巡って行く。


なんだかんだ言いつつ、自分や姉の我侭を苦笑しながらも受け入れてくれた門番の女性。

本を幾つか持って来てくれた図書館の司書の小悪魔。

小悪魔の主で、姉の親友の七曜の魔女は魔法関係の知識で様々なことを教えてくれた。

過ごした時間は短いけど、特別な力を持った完璧で、でも何処か天然なメイド長。

自分に、世界は広いということを教えてくれた黒白の魔法使いと、紅白の巫女。


そして。
何時も何時も、それこそ生まれた時から迷惑だっただろう。
影でこっそり『アイツ』と馬鹿にしたりもした。
関係無い、自業自得な怒りをぶつけたりもした。
時には、無茶なお願いもした。
だけど。
彼女は全てを受け入れ、怒り、笑い、悲しみ、隣に居てくれた。
ずっと変わらず、愛情を注いでくれた。
誰よりも、大切にしてくれた。
たった一人の、姉。


「ごめん、なさい……」

最後なのだからと、彼女は呟く。
届かないと分かっていながらも、呟く。
不幸を撒き散らす自分の存在を、謝るように。

そして、無情な太陽は光を強める。
砂煙が晴れ、




彼女を、包んだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:24:42.08 ID:ge8.Nu20<>














(……なんだろう)

闇の中、フランドール・スカーレットは考える。

(全然、痛くないや)

日光に包まれたというのに、欠片も痛く無かった。

(もしかして、痛みを感じなかっただけなのかな?)

だとしたら、運が良い。
恐らく、痛みを感じていたら地獄の劫火に勝る痛みだろう。

(ここ、何処なんだろ?)

真っ暗で、何も見えない。

(地獄じゃ、ないのかな)

"幻想郷"に存在する地獄では無いようだ。

(外で死んだから、地獄には行けなかった?)

適当に推論を述べる。

(でも、ここいいかも)

死んでいるのだからと、正直な気持ちを吐露した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:25:19.60 ID:ge8.Nu20<>

(だって、あったかいし)

体全体を包む、柔らかな温かみがとても気持ち良く、










「……えっ?」






"体全体"を包む、柔らかな温かみ?
死んだのに、何故?
いや、そもそもだ。


今、自分は声を出さなかったか?


そして、少女は"瞼を開く"。

まず最初に、多少涙目になった緋色の瞳に映ったのは、壁。
真っ黒な壁が、自分を包んでいた。
よく見ると、壁は布。

それは、"服"だ。

硬めのごわごわした上着が、彼女の体に押し付けられている。
全身を、似たように包んでいた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:26:18.91 ID:ge8.Nu20<>

「……」

フランは、恐る恐る視線を上に上げる。


そこには、


「あーちくしょー!」

自分で自分に文句を叫ぶ、彼女が先程"壊しかけた"少年の、何処か後悔するような、それでいてやり遂げたような、不思議な表情。




彼女にはその姿がまるで、都合の良い物語の王子様(ヒーロー)かのように見えた。





















(だー!畜生!何で体が動くんだよ!)

とことん自分の思い通りに動いてくれない己の肉体に、彼は心中で罵倒を放つ。
浜面仕上は結局、名も知らぬ少女を助けた。
覆い被さり、日光を遮ることで。
抱きしめるように彼女を包み込みながら、彼は早くも後悔していた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:27:06.89 ID:ge8.Nu20<>


が、同時に何処かスッキリしてもいた。


それは、彼を変えた人物と同じことが出来たからだろう。
彼は、少し前は自分でも馬鹿にしたくなる程の屑だった。
貧弱で、それもただ弱いという訳で無く、誰かのために戦える心の強さも無かった。
誰かに頼りながらも、自分のこと以外を考えてない。
そんな、どうしようも無い奴だ。

だけど、"とあるツンツン頭のヒーロー"が彼を変えた。

全くの赤の他人の癖に、完璧な部外者の癖に、一つの命を助けるために銃弾飛び交う戦場に踏み込んだヒーロー。
彼の姿に、浜面仕上は憧れたのだ。


だから、彼は助けた。


(……なんでか体は動くしなぁ)

心の強さなんてものは紛い物だと思っていたが、案外馬鹿に出来ないなと浜面は苦笑。
そして自分の顔をキョトンとした表情で見てくる少女に尋ねる。

「えっと、日光が駄目なんだな?」
「えっ、あっ、うん……」

少女はおどおどしながらも頷いた。
先程のことがことだったため、警戒されてるかと思えばそうでも無かった。
あの気持ち悪い狂気も、今は全く感じられない。

「普通の光は?」
「だ、大丈夫」

再度の質問に満足のいく答えを返されつつ、彼は上着の前を開け、なるべく日光を遮る範囲を広げる。
そしてそのまま、

「よいしょ!」
「ムグッ!?」

少女を上着で包み、抱え上げた。
あれだけの破壊を起こせたとは思えない程、その体は軽い。
子供なので、足を丸めてしまえば浜面の体と上着で日光を遮れたのだ。
後少しで太陽は沈むので、覆い被さったまま夜を待てば良かったのだが、そうもいかない。
風紀委員や警備員が来てしまう。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:27:47.40 ID:ge8.Nu20<>

「悪いけど、このままここに居ると色々不味いから俺ん家に来てもらうけど……いいか?」
「う、うん……」

返事を聞き、浜面仕上は慎重に、それでいて速く走る。
太陽を背に、前に抱えている少女に日が当たらないよう。
少女の未発達な柔らかい感触が彼に触れるが幸か不幸か、

(検問とかしかれてるか?もし有ったらあの手で……いや、女の子をこんな誘拐みたいに抱えてる時点でアウトだよな!それよりも日が当たらない部分で隠れてた方が……)

思考の渦にはまり込んだ彼に、それを感じる余裕は無かった。


だから、きっと彼が"笑っていた"のは、






自分の手で、自分の理想(ヒーロー)に近付けたからなのだろう。














(……暖かい)

抱え上げられ、揺らされながらフランは思う。
服の上から伝わる、確かな温かみ。
今感じている人肌独特の温かみは、今まで彼女が感じて来た温かみと違っている。

(男の人、だからかな)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:28:53.66 ID:ge8.Nu20<>

多少土臭い上着に包まれ、しかし微かに感じる汗の匂いが、何故か心地良い。
彼が走る度に体は揺れ動き、彼女の意識を和らげる。
このままだと、眠ってしまいそうだ。

「……ねぇ」
「っ、お、おぉ。なんだ?」

呼びかけたら、少し彼は動揺した。
やはり、自分のことが怖いらしい。
怖いのに、なんで助けたんだろうとフランは考えて、クスリと笑う。
答えは分からない。

けど、分からないことが無性に楽しい。

絶対にあり得ないと考えてすらいなかった展開が、これ程楽しいとは思わなかった。
突然笑った自分を、首を傾げて彼が見ている。

「フランドール・スカーレット」
「はぁ?」

名前を名乗ったら、彼は更に混乱していた。
フランはよくこんな思考速度で私の弾幕を躱せたなぁ、と心の中で呟き、

「名前。教えて」
「……そういうことか」

彼は、手が空いていたら頭でも掻きそうな、何とも言えない表情で、




「浜面。浜面仕上だ」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:29:28.37 ID:ge8.Nu20<>



(浜面。浜面仕上)

復唱する。
温かみの中、揺らされて、匂いを吸い込みつつ。
彼の──浜面の名前を。


この時、フランドール・スカーレットの中で、




"壊す筈だった他人"は、"浜面仕上という一個人"に変わった。




白い肌は、ほんのり赤く染まっている。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:30:24.81 ID:ge8.Nu20<>



「……」

アレイスター・クロウリーは珍しく、本当に彼にしては珍しく唖然としていた。
つい一時間前、此方に死に物狂いでやって来た八雲紫に事情を聞き、慌てて捜索を開始したのが五十五分前。
ビル地帯が崩れていたという報告が五十分前。
『神』のせいで"滞空回線(アンダーライン)"が使えないため、予想以上に見つけるのに時間を使ってしまった。


吸血鬼、フランドール・スカーレットについては前から認識していた。

彼女の能力は『神』に通用する可能性があるからだ。
しかし、精神的に危険なため、案は消えた。
敵の損害よりも味方の損害の方が高くなる可能性が高い。


そう、アレイスター・クロウリーですら御しきれないと判断したのだ。


なのに、


「へぇ〜。で、その人はその時なんて言ったの?」
「長かったから全部は覚えてねぇけど、確か──って」

ビルの一室にて、フランドール・スカーレットと会話していたのは、アレイスターが少しばかり危険視していた存在、浜面仕上。
彼はとある超能力者(レベル5)を撃破しているのだ。
ただの、無能力者(レベル0)なのに。

そんな要注意人物二人は仲良く話しており、フランドールからは狂気を感じない。

予想外の、本当に予想外の状況に、アレイスターは頭を抱えた。

「……どういうことなんだ」

割りと本気で。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:31:03.19 ID:ge8.Nu20<>









「それで?どうだったんだ?」

"幻想郷"──、紅魔館の一室にて、レミリア・スカーレットという吸血鬼の少女が尋ねる。
風貌は幼く、銀と青を混ぜ合わせたような髪と、背中に生えた一対の蝙蝠の様な翼が特徴的だ。
こう見えても500年を生きる、立派な吸血鬼である。
そんな椅子に座って紅茶を飲む彼女に尋ねられたのは、やっと戻って来た八雲紫。
やっと、といっても三時間しか経ってはいないのだが。
彼女の内心を表すかのように、カップを持つ手が震えている。
彼女は"妹"を心配する、それでいて素直で無い少女に少しだけ笑って、

「話を聞いた所、危なかったみたいだけど偶々居た"人間"に助けられたみたいね」
「ええっ!?よくその人妹様に殺されませんでしたね……」

反応したのはレミリアでは無く、隣に立つ紅美鈴。一応、妖怪。
彼女は紅い長髪とチャイナドレスを揺らしながら、本気で驚く。
あの精神が不安定な状態のフランに遭遇して、生きていたというのはもはや奇跡の域だ。
生き残れるとすれば、美鈴やレミリアのような人外、僅かな力のある人間だけだろう。
異世界というのは凄いんですねーと、彼女が関心していると紫はあぁと付け加える。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:31:40.19 ID:ge8.Nu20<>

「それが"彼"、一度殺されかけたらしいのよ」
「……はい?」
「運良く太陽のおかげで助かったらしいんだけど、その太陽から庇ったのも彼らしいのよねー。あっ、ちなみに何の力も持ってない、普通の一般人だったわ」
「………………すみません、訳が分からないんですが……」

殺されかけた人を助けるって、その人馬鹿ですか?
と、会ってさえもいない見知らぬ人間に美鈴がツッコミを入れていると、

「……そう」

カチン、とレミリアはティーカップをソーサーに下ろした。
カップの中身はカラッポで、美鈴は慣れた手つきでテーブルの上のポットを掴んで注ぐ。
コポコポと、温かい湯気を放ちながら、紅い紅茶がカップに溜まって行った。
やがて入れ過ぎず、されど少な過ぎ無いというギリギリまで入れた所で、美鈴はポットをテーブルに置き直す。
レミリアは直ぐにカップを掴み、持ち上げながら、

「で?何でフランを連れて帰らなかった?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:32:14.16 ID:ge8.Nu20<>

ギロリと、視線だけで普通の人間なら殺してしまいそうな殺気を紫に飛ばす。
だが紫は慌てず騒がず、胡散臭い笑みを浮かべていた。

「そうですねぇ……理由の一つとして一人しか行き来出来なかったことと……」

彼女は、一旦言葉を切り、




「淑女は、"恋する乙女"の味方だからですわ」




…………………………………。

「「……はっ?」」

長き沈黙の後、幼き吸血鬼とその従者はそれだけ呟いた。
レミリアに至っては、カップから紅茶がドボドボテーブルに零れている。汚い。
白いテーブルが紅に染まって行く光景をあらまぁ、と見る爆弾発言者にレミリアはプルプル震えながら尋ねる。

「……だれ、が恋する乙女、なの?」
「決まってるじゃありませんか。フランドール・スカーレットですわよ」
「……誰に?」
「助けてもらった人間の男に」

そこで、漸くショックから復帰した美鈴が主人と同じように震えながら尋ねる。

「なんで、そんなことが……?」
「あら、私もそれなりに恋愛事には詳しいのよ?見れば彼女が恋する乙女だと、直ぐに分かりましたわ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:33:09.56 ID:ge8.Nu20<>

胡散臭い口調で言うのだが、何処か真剣味を感じる。
今までに無い彼女の言葉に、レミリア・スカーレットは顔の筋肉を痙攣させながら、再度の問いかけ。

「……冗談、じゃないんだろうな?」
「……はぁ」

ため息を吐いたスキマ妖怪は、帽子の隙間から零れた前髪を掻き上げ、


「マジよ」


何時に無い真剣な顔つきで、レミリアの言葉を否定した。
それは彼女が今言った内容全てが正しいという証拠であり、また彼女の愛する妹が自分の知らないうちに大人になったということでというか恋とか自分したこと無いんだけど何で自分はこんな意外な面で妹に負けるんだあぁどうしよう赤飯を炊くべきなのかいやここは姉として『認め無い!』とか言ったりいやまてまて自分はまだそのフランの好きな人を見てないではないかもしかしたらとんでもなく素敵な男性で姉も恋に落ちるなんていうドロドロ三角形に……

ぐるぐるぐるぐる…………

「……きゅう」

思考の負荷に耐えきれず、レミリア・スカーレットは目を回して崩れ落ちた。
カップかテーブルの上に放り出され、小さな体が崩れ落ちる。
その姿は見た目相応で、紅魔館の主としてのカリスマなど無い。
まぁ、色々限界だったようである。

「お嬢様!?お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

カリスマが破壊された主人に叫ぶ、美鈴の叫びが幻想郷に木霊した……かもしれない。




「さて……どうなることやら……」




ただ八雲紫はそんな光景を眺めつつ、『神』さえも予想して無かったであろうこの展開に、笑みを浮かべていた。

意地悪な、策士の笑みを。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:33:45.71 ID:ge8.Nu20<>
















世界は奇跡で埋め尽くされている。
人々は各々の奇跡を選び取り、
世界はそれに答え、輝きながら周り続ける。

















<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/02(日) 11:34:33.83 ID:ge8.Nu20<>





少し間が空きました。お久しぶりです。
そして明けましておめでとうございます。
ただの電波から始まったこの話も、ようやくプロローグあたりが終わりました。
次回の総集話によって各々の今までの状況まとめ、及びキャラ達が出て来ます。
まぁ、間話ということです。戦い前の。
今回最後らへんが短く、状況整理が無いのもそのため。

次回、『神』の正体が分かるかも……?

それでは、今年一年も頑張って行きます!

<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/02(日) 12:36:58.67 ID:F/GN7CMo<>乙
はまづらはやっぱりはまづらなんだな<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/02(日) 13:17:46.95 ID:HpSZckY0<>東方は歌と弾幕と〜程度の能力と影絵しかしらない俺に説明plz

一方さんの天使化は神の力以上だからなぁ……どうなるのか
しかし現在ねぎまが空気化しているが大丈夫か?

そして姫神の能力は吸血鬼(多分ある程度近い距離の)がいた場合、本能的にすわずにはいられなくするから。
フランが吸血鬼らしいから、多分ケルト十字はずした瞬間吸いに来て自滅する。
……姫神の命が残るかはわからんが<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<><>2011/01/02(日) 15:44:20.18 ID:G0Nv4iw0<>エイワス=永琳
アレイスター=月人
フィアンマ(全盛期)=紫
ガブリエル(天使状態)=萃香
禁書キャラの東方での位置づけはこんな感じかな?

>>237
能力の規模なら天体制御でどんな天体でも操れるガブリエルだけど、戦闘力ならユーラシア大陸破壊規模の攻撃を防げる天使化一方の方が上かもな;(てか禁書インフレし過ぎ)

フランは人間を襲うのがヘタで跡形も無く消し飛ばしてしまうみたいだし、姫神だけが死ぬんじゃないか?<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/02(日) 19:54:10.00 ID:HxR48kAO<>乙
>>238
流石過大評価
プランク爆弾とか永遠を使わすなら月人はそんなレベルだと思うけど

吸わずにいられないからフランだけが死ぬ
いくら能力が高かろうが関係ない<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/02(日) 20:07:09.01 ID:HxR48kAO<>訂正
流石に過大評価<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<><>2011/01/02(日) 21:05:21.37 ID:G0Nv4iw0<>>>239
いや、フィアンマが紫に勝てるかとかそういうのじゃなくて、両作品のパワーバランス上での位置付けってだけの話。
いわば強さの序列を当てはめた感じだな。

プランク爆弾ってどれぐらいの威力?核よりは確実に威力は高いみたいだが。<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<><>2011/01/02(日) 22:39:23.06 ID:YdQmoEDO<>>>237
一方天使が神の力以上はないな
ヒューズ風斬と共闘でしかもアッークアさんが力押さえてたからな<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/03(月) 00:07:35.57 ID:z3pgmw20<>>>242
あそこは天使化どころか黒翼すらだしてないんだぜ?<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/03(月) 01:30:34.90 ID:4MZb52so<>オーケー強さ議論は荒れるからそこまでだ<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/03(月) 03:22:22.99 ID:UHp1Vo6o<>禁書の強さ議論ほど不毛なもんってないと思う

<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/03(月) 03:35:39.01 ID:TuBrWcAO<>>>241
プランクエネルギーは原子力エネルギーの約10^21倍
このエネルギーを超えると時空上に存在し得なくなる
エネルギーの限界量という設定

因みに超小型のプランク爆弾がある<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 00:03:10.30 ID:4y1GxSM0<>>>239
上でも言われてるがフランは血を吸いたくても吸い方がわからず、相手を血の一滴残らず爆砕してしまうからな?
姫神にとっては最悪の相手。

あと東方は情報が少なすぎるから拡大解釈もクソもない。作者の匙加減だ。
紫の能力なら別にフィアンマ以上だろうと以下だろうと別に驚かん、「月人に勝てない」しか判ってないからな
せめてゲッショーでなんで勝てないのか書いてくれればよかったんだが<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<><>2011/01/04(火) 12:56:28.72 ID:kM3am060<>>>239
フランにとっては異能の力の塊で、何度破壊しても復活する天使連中の方がはるかにやっかいだと思う。
神の力なんて破壊したら周辺数十キロは灰になる規模の爆発を起こすし。

ただこの作品で神の力なんてまず出ないとは思うけど。<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 16:18:34.12 ID:YDjZkoAO<>襲い方を知らず吹き飛ばしてしまう
確かに断定するのは言い過ぎた
吸いたくなくとも吸ってしまう程のものを前に、先ず破壊するかは疑問
まあ、作者の匙加減だわな

>>247
高度な科学力、強靭な生命力、妖怪の手に負えない未知の力<> あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!<>sage<>2011/01/04(火) 22:12:22.61 ID:GOFK6Fk0<>

   待符「>>1マダー?」<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/01/05(水) 11:19:45.25 ID:fHVtzzw0<>現在正直に言うとゲームで執筆停止中……
いや、本当にごめんなさい。
東方の"アレ"をやってスペルカードが弾幕とどう違うのか見たりしてるんですが……
"あの子"を出すためには必要なんです。"全人類の○○○"とか使わせるためには。


強さは基本的には決めてないです。
大体、弱・中・強で大まかには分けてるけど、やっぱり結局は相性です。
>>238の図で言うならば、フィアンマは永琳や萃香には勝てるけど、法則を完璧なまでに覆す紫には勝てません。
フィアンマはノーマルな敵に対してはほぼ無敵ですから。余程の特殊で無い限りまず負けません。
天使は正直東方やネギま実力キャラの三人分はあります。
エイワスに関しては……多分天使、月人、殆どが一人では勝てません。

でもあくまでガチで、真正面からぶつかった場合なので状況、時の運で絶対に変わります。


では、さっさとゲーム終わらせてスペルカード見て書きたいと思います。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/05(水) 15:14:05.26 ID:6PwSJNI0<>エイワスはなぁ・・・
それこそ倒すには顕現したアラストールとか、
龍神だとか魔界神だとか天照あたりを連れて来なきゃ倒せないんじゃって気はするよね・・・<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/05(水) 17:18:37.31 ID:1OofVqY0<>魔界のアホ毛神は星蓮船の設定のおかげで一気に最強候補になったよな
まだ出てきてないけどな!

龍神とどっちが強いのやら<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<><>2011/01/05(水) 18:18:51.45 ID:QjK425g0<>作中ではフィアンマ>神の力だけど、東方勢と戦うなら明らかに神の力>フィアンマなんだよな・・。(幻想郷破壊は無しとして)
依姫なんかはフィアンマと相性最悪かもしれんが。

>>252
全盛期のフィアンマの時点で惑星を消せるんだから、たかが十字教程度って言ってられるアレイスターよりもはるかに強いエイワスって一体・・;
3月から新約になるみたいだけど、ドラゴンボール並みのインフレは覚悟した方が良いかもな。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/06(木) 20:53:57.16 ID:RTR1P6AO<>>>251
紫にそんなこと出来たっけか?<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 09:35:48.86 ID:MNvkCU7AO<>東方に偏ってるな<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:23:31.68 ID:rclQNgSM0<>


>>252
エイワスは正直なんなんでしょうね、正体。
天使の記号から外れた天使……?うーん

>>253
正直、星蓮船の設定余り知りません!
ですが、魔界のあの神は最強クラスだと想定しています。

>>254
依姫がジャンケンでグーチョキパー以外にも大量の手が使えるとしたら、フィアンマはジャンケンを行った時点で勝ちですからね。グーだろうがチョキだろうがパーだろうがそれ以外だろうが
あぁ、三月が楽しみ+怖い……

>>255
境界というのはあらゆるものに存在するので、解釈的には可能だと思います。

>>256
他も少しづつ出すつもりです、すみません……



なんか2ちゃんねるで大変な騒ぎがあったみたいですね。
詳しくは知らないけど。

では投稿します。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:25:09.29 ID:rclQNgSM0<>







「あっはははははははははは!!」

高笑いが一つ、暗い暗い空間で響く。
笑っているのは、一人の青年。
おぞましい、邪悪な笑いは見た目と合わず、またそれが一種の怖気を走らせる。
悲鳴の如く震える大気。
本人は気にせず、ひとしきり笑っていた。

「はははははははっ!浜面仕上!面白い!全く持って面白いよ!」

空間に満ちるその言葉一つ一つが、重い。
言葉自体は軽い筈なのに、まるで怨念のような重さを持っている。

「まさかまさか、フランドールを懐柔するとはな!マジで予測不可能、本当の奇跡だ!実力でも、運でも、状況でも無い!そう、"偶然"!」

段々と、声がおかしくなってきた。
まるで一度に大量の人間が同じ言葉を喋っているような、そんな言葉。

「これだから、人間で遊ぶのは止められないというもの!あぁ、久しぶりね、こんなに笑ったのは何時振りだろうかなぁ!」

ビキ、と。

近くにあった何かに亀裂が入る。
だが、"ソレ"は気にしない。
ただただ、笑い続ける。

「"封絶"の有効人物に入れてあげたんだ!踊って楽しませろよ!?あはっ、はははははははははははははははははははははっ!!」

バキャンッ

何かが、弾けた。
だが、"ソレ"は毛程にも気を止めない。
ただただ、笑い続ける。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:25:55.13 ID:rclQNgSM0<>



「さぁ、舞台は間も無く準備を終える!観戦者は私と八雲紫にアレイスター・クロウリー!舞台は飛び入り参加ありの大宴会!」

"ソレ"は、






「さぁて、どんな"劇"になる?どう登場人物達は踊ってくれる?ははっ、はははははっ、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!!!!」






狂って、笑っていた。









世界において、十月十六日、深夜と称される時間の時のことである。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:26:38.41 ID:rclQNgSM0<>








上条当麻は欠伸をしていた。

「ふぁ〜……」

大きく、口に手を当てつつ彼は息を吸い込み、吐き出す。
暢気な、惚けた姿。
彼は現在、高校の教室に居る。
月曜日の今日なら二日ぶりの学校だー!と生徒の何人かはテンションが上がるだろうが、生憎と上条は昨日補習で学校に来ていたのでテンションなど上がらない。
むしろ下がっていた。
教室はザワザワとざわめき、朝のHR前独特の雰囲気を保っている。

「あー……」

窓際の席に一人、テンション最低の状態で陽気に浸る。
結局昨日自分が居ない間に何があったのか、シスター少女ことインデックスとフレイムなんとかのシャナは、仲が良くなっていた。
あくまで上条視点からの話であり、シャナ本人に聞けば否定されるだろう。
彼女が全くもって素直で無いことは、たった二日だが分かっている。
なにせ昨日、上条が帰って来てからの台詞が『別にここ以外に行く場所も無いし、行く場所が見つかるまでここに居るから』だ。
耳だけが赤かったのが、印象に強く残っている。

「……本当に何があったんだ」

同居人少女の偉業に、上条が冷や汗を垂らしながら感服していると、

「カミやんどうしたんや〜?」
「本当、お前は何時も通りだな」

青髪ピアスの大男がヘラヘラ笑いながら上条の横の席に座っていた。
彼も昨日上条と同じ様に補習を受けた筈なのだが、元気が無いようには見えない。
むしろ元気良さそうだ。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:27:30.91 ID:rclQNgSM0<>

「当たり前や!なんせ本来ならありえん休日の二日連続で小萌先生に会えるんやで?テンション上がらへん方がおかしいわ!」
「おかしいのはアナタです」

ビシッ、とツッコミを入れてもはははーと陽気に笑い続ける青髪ピアス。
再度、上条は重くため息を吐く。

「あっ、そういえばカミやん聞いた?」
「何をだよ?」
「"昨日の事件"」
「はっ?」

肩肘をついたまま、彼は首を傾げた。
昨日の事件、と言われても思い当たる出来事は無い。
精々、帰り道安いメロンパンを買って少女二人にあげたら『なんなのよこの科学調味料ばっかりのメロンパンは!馬鹿にしてるの!?』と投げつけ返されたことだろうか。
今思い出せば、かなり理不尽な気もする。

「廃墟ビル地帯があるやんか?あそこでビルが幾つか倒壊したそうや」
「ふん?」
「かといって重機を使われた様子も無いんで、高位能力者の仕業やないかって言われとるんやけどな」
「へぇ……」

頭の中で、もたらされた情報を反復した。
もしかしたら、あのいけすかない学園都市ナンバーワンが言っていた『戦い』に、関係があるのかもしれなかった。
上条はそう思い、しかし何処か自覚が薄い。

(……実際よく分かんねぇな)

世界の存亡をかけた闘い、などと言われてもさっぱり自覚が湧かない。
話のスケールが大き過ぎるのだ。
『戦い』と言われても、彼に起こった変化といえば異世界から来たという少女一人。
確かにその少女は明らかに普通では無かった。
人間離れした身体能力、普通ではあり得ない不思議な道具。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:28:20.42 ID:rclQNgSM0<>


しかし実の所、"それだけ"なのだ。


彼は馬鹿みたいな身体能力を持つ人間を知っているし、とんでもない道具も見たこと聞いたこと、対峙したことすらある。
なので、上条には問題の大きさというのがいまいち分からない。
今まで数々の命をかけた事件に関わって来た、故に話のスケールをリアルに想像出来ない。
それは良いことでもあり、悪いことでもあった。

「あれ?そういや土御門は?」
「さぁ?あれや、通学路の途中で可愛い女の子でも見つけて追いかけて行ったんじゃ……」
「だからそれはてめぇだけだっつーの!この青髪変態星人EX!」

ギャーギャーと、何時もの如く騒ぐ二人。
もう既に日常の光景となっているため、周りの人間は特につっこまない。

のだが、

「貴様等……相も変わらず馬鹿騒ぎね。少しは"一端覧祭"に向けて頑張ろうって気は無いの?」

声をかける者が一人。
少女だった。
赤みがかかった黒い髪と、かきあげた前髪が特徴的。
……上条はもう一つ特徴を思い浮かべたが、思い浮かべた瞬間頭突きを喰らいそうなので忘れることにした。
彼女は吹寄制理。上条のクラスの委員長。

「でもさぁ、どうせ中学の時とあんま変わん無いだろ?」
「腑抜けてるわね」

ジロリ、と睨まれ、上条は意味も無くデコを抑える。
危険を本能が察知したからだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:28:58.80 ID:rclQNgSM0<>

「そんな風だったら、またお得意の不幸で"あの事件"にも巻き込まれるんじゃない」
「いやいや吹寄さん。上条さんとてビルが倒壊するような不幸に巻き込まれることなんか殆ど無い……よ、な?」
「カミやん、疑問系になっとるで」

自分で自分の言葉になくなって来た上条当麻。
頭を抑え『いやいや上条当麻お前はそんな体験を二桁も行って無いはずだしっかりしろ』とブツブツブツブツ呟く彼を上から見て、吹寄は、

「ビルの倒壊事件もあるけど、それだけじゃないらしいのよ」
「へっ?」
「それは初耳や」
「私も小耳に挟んだだけなんだけどね、どっかの"操車場"でコンテナの山が崩れたらしいわ。しかも明らかに人為的な破壊の跡も結構あるみたい」
「っ」

彼女の口から出たとある単語に、思わず上条は息を飲む。
首の後ろを、一雫の冷や汗が伝う。

「どうしたのよ?」
「い、いや……」

何とか言葉を返す。
そう、本当に何でも無いのだ。
ただ操車場というのが、彼にとって余りいい思い出のある場所ではないということ。

(……まさか、な)
 
外へと視線をずらす。
そこは晴れ模様の大空が広がっていて、彼の悩みなどちっぽけに見えるくらい青かった。




彼は知らないが、今日は十月十七日。






本来の物語ならば、彼はイギリスに行くはずだった日だ。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:29:38.10 ID:rclQNgSM0<>













物語の主人公(ヒーロー)は問題の大きさが分からず、
故にこの最初の、"灼熱"の話は、
彼が主人公(ヒーロー)では無い。



















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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:30:22.96 ID:rclQNgSM0<>



「……」
「……」

カップラーメンという物をご存知だろうか?
人類が生み出した超高速調理食品だ。
調理方法はお湯を入れて三分待つ。
それだけ。

だが、世の中そんな簡単なことも出来ない子が居るのだ。

「う、うううううううううっ!」
「まだ一分よ」
「け、けどもう待てないんだよ!」

その調理方法の『三分待つ』が出来ない暴食シスターことインデックスは、昨日も同じベットで寝た新たな同居人少女、シャナにストップをかけられていた。
箸をグーで握ってよだれを垂らし、キラキラ光る瞳は小動物のよう。
だがしかし、シャナにかといって彼女を解放する義理は無い。
その無愛想さが、今になって痛くなるインデックスである。

「うー……シャナの意地悪……」
「いや、あんたがおかしいのよ」
「修道女がそこまで強欲でどうする」

突然、男の声が響く。
その余りにも的を射ている正論に、インデックスはうぐっ、と呻いた。
声の主はシャナの胸元にある宝石のペンダント、"コキュートス"に意思を表出させる"紅世の王"アラストール。
彼女の契約者でもある炎の魔神は、呆れた風に(声からしか感情を読み取れないが)、

「たかが三分。その程度の時間を待てぬ者が人を導く立場であって良いのか?」
「うっ……」

箸を握ったまま呻き続ける。
その年相応の姿に、つい昨日とは別人だなとシャナが思っていると、

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:31:01.95 ID:rclQNgSM0<>

ピピピッ!


「あっ、三分たっt「いただきます!」


……早かった。
とにかく早かった。
シャナはフレイムヘイズであり、故に彼女は銃弾を視認して躱す程の反射神経が存在する。
だが、そんな彼女の目でさえ霞んで見えるスピードで、インデックスはカップラーメンに食いついて行った。

「「…………」」

唖然とする彼女とその契約者を尻目に、インデックスは止まらない。
汁が飛び散り、かなり汚いが気にしていないようだ。

「ズルズルアムアムむしゃむしゃむしゃっ!御馳走様なんだよ!」

もう何処から突っ込めばいいのだろうか。
その異常な箸の早さか、食い付くまでの猛獣のごとき表情とか、完食までの僅かな時間へか。

「……屋上で食べて来る」
「分かったんだよ」
「我の見当違いだったか……?」

シャナはカップラーメンを持ち、玄関へすたすたと歩いて行く。
その小さな背中を、インデックスは手を振って見送った。

「……ふぅ。片付けないとね」

バタン、と玄関の扉が閉まる音を耳に入れつつ、彼女は修道服を揺らして立ち上がる。

「うーん、でも今日のかっぷらーめんは何時もより美味しかったんだよ」

何時もは三分待たなかったからだよ、とツッコミを入れる人間は居ない。
インデックスはカップを持って台所へ向かった。
とてとてと、柔らかな、可愛らしい足音が一人だけの部屋に響く。

「……」

が、突如笑顔は消え、表情は何処か影がさし、シスターとしての顔になった。
シャナが居ない、今だからこその表情だった。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:31:48.32 ID:rclQNgSM0<>

「……『神』」

一体、それはどんな存在なのだろうか。
彼女は聖職者であり、『神』と呼ばれる程の者がどんな姿でどんな力を持っているのか、知りたかった。
神様を超えると言う『神』。
この世界だけでは無く、全ての世界の絶対強者。

「アレイスター・クロウリーは何を……」

答えを知っていて、しかし何も言わず、あれから姿の一つも見せない学園都市のトップに文句を言おうとした所へ、






「彼なら観戦者だから、過剰の干渉は出来ないのさ。まっ、八雲紫はその分動いてるようだけどな」






サラリと、その声は彼女の耳へ紛れ込んで来た。

始め、インデックスはそれが幻聴だと思った。
もしくは、何かの物音だと。
それだけその言動は自然過ぎ、そして尚且つ人の気配が全くしなかった。
気配、というのも様々だが、大概は人間の息遣いや極わずかな動きによる空気の流れ、振動。


しかし、インデックスは何も感じなかった。
息遣いどころか、物音一つ。


「──っつ!?」

意識を回復させ、彼女は声がしたと思われる場所、自分の後ろを見る。
そこに居たのは、黒い何かだった。
いや、何かという表現は正しく無い。
それは、人。
黒い髪に、黒い目。全身を黒の色調で包んだ日本人らしき青年。
少なくとも"表面上は"人間だ。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:32:37.52 ID:rclQNgSM0<>

「っ」

その姿を見て、インデックスは息を飲む。
突然見知らぬ男性が居たからでは無く、この世の物とは思えない歪んだ笑みへでも無く、理由は一つ。






"影が無い"。






窓からさす、僅かな太陽光。
薄く床に広がる筈の影が、"ソレ"には無い。

人間として、いや、この世の万物として決してあってはならない現象が、今現在目の前で起こっている。

「……幽霊、もしくは、人間とは違う存在?」
「いや、俺は"人間"だよ。散々バケモノ扱いされてるけど」

"ソレ"はインデックスの呟きに、律儀に反応して来た。
何をぬけぬけと、と彼女は思わず心中で吐き捨てる。

(……なんなの……?)

ただ、同時に混乱してもいた。
彼女には、十万三千冊の魔導書が脳内にあり、魔術に関することならほぼ全てのことがインデックスには分かる。
例え神様や更に上にある"人には理解出来ないであろう存在"の話だったとしても、推測や憶測を立てることは出来るだろう。




しかし、分からない、




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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:33:22.95 ID:rclQNgSM0<>

理解出来ない。不可能。不可解。
目の前の"ソレ"からは何も感じられない。
異世界の力だとしても、何かを感じておかしくは無い。
なのに、全く感じない。

目の前に居るというのに、まるで其処に居ないのではないか、そう思わせるくらい、"ソレ"からは"何も感じなかった"。

「あぁ、映像とかじゃないぞ?俺はちゃんとここに居る」
「……」

それは分かっていた。
映像や遠隔音声にしては、声が余りにも生々しい。

「実際の所、たいしたことじゃない。物質的、空間的に自分の体へ干渉出来ないようにしただけだ。空気も、電子も、光子も、魔力も、気も、妖力も、霊力も、神力も、法力も、存在の力も、天使の力も、全て」

まぁ、その代わり此方からも物理的干渉は不可能なんだけどな、と付け加えて"ソレ"は言葉を締めくくる。
言葉には少し理解できない部分があったが、インデックスにはこれだけは分かった。




これは、たかが一つの世界の法則しか知らない者が、理解できる存在では無い。




足を背後に一歩下げる。
しかし一体何処に逃げろというのだろう。
台所から外へ続く通路には"ソレ"が居る。
他に通路は無く、袋小路だ。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:34:06.89 ID:rclQNgSM0<>

「安心しろ」
「っ!?」

距離を、一瞬で詰められる。
それは本当の一瞬だった。
世界における、時間の最小単位。
三メートルの距離をそんな速さで詰めたお陰で姿がブレる。
光以上のスピード。
例え、インデックスが地球の裏側に逃げたとしても、目の前の存在は一瞬で彼女に追いつけるだろう。

「言ったろ?今この体に残ってるのは光子と声の振動による干渉、それと"世界の束縛"だけだ」
「世界の、束縛?」

なんとか唾を飲み込み、震える声で尋ね返す。
"ソレ"は何が楽しいのか、ニヤリと笑いながら、

「セフィロトの樹は知っているだろ?本来は少し違うが……は要するに束縛だ。人間はここまで、神様はここまでっていうような、世界からの束縛。世界が定めた法。世界が、世界であるための」
「でもそれだと、貴方がここにいる理由が分からないかも」

セフィロトの樹というのは人間や神様などの位階級のことで、言ってしまえば確かに彼が言った通りの物だ。
だとすればおかしい。
世界において、人や神が居られる数は限られている筈だ。
世界とは常に満タンの袋のような物。
無理矢理に別の存在が入って来た場合、世界は──

「あ──」

其処まで考えて、インデックスは気がついた。
そうだ、世界には常に限界がある。
人間の数という、限界が。
限界を超えてしまった場合に待っているのは椅子取りゲームのような、体と精神の移動。
ならば、ならば何故、






あのシャナという"異世界から来た"少女が居るのに、そんな混乱が起きていない?






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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:34:43.25 ID:rclQNgSM0<>

「なに、簡単なことだ。肉体にかかる世界の束縛を変えればいい」

彼女の考えを読んだかのようにゆったりと"ソレ"は続ける。

「といっても何ら難しい話じゃない。世界に自分を認識させるだけ。方法は千を越す。それこそ、ただ普通の人間なら世界の壁を超えるだけでいい。それだけで、世界は全てを受け入れる。異世界人も、転生者も、神様も、全てのイレギュラーな存在を」

つまりそれは、この世界において真の頂点とは、"世界"という一存在となる。
そして、一存在であるとすると、世界も人と同様。
数で数えることや、破壊さえ可能になる。

「世界は受け入れる。全てを」

もう一度、"ソレ"は呟く。
インデックスの恐怖に染まる表情へ、歪んだ顔を近づけ、










「世界は全てを受け入れる。絶望も、邪悪も、破壊も、破滅も、全て──」












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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:36:16.21 ID:rclQNgSM0<>




「っ!」

ガバッ!と、インデックスは跳ね起きた。

「……あ、あれ?」

はぁはぁと息を荒げながら、彼女は周りを見渡す。
間違いない。普段通りの、自分が居候させてもらっている部屋だ。

「……夢?」

至極真っ当な答えを、彼女は小さな唇から零す。
しかし、テーブルの上に置かれたコップが、夢だという理由を否定した。

「……痛っ」

ズキンッと、頭に痛みが走る。
反射的に頭を抑えると、手が汗で湿っていた。
手だけでは無く、全身も。
お陰で修道服がベトつき、暑苦しい。

「世界の、法則」

頭を抑えながらも、インデックスは考える。
『神』が話していた内容は、正しくこの世界の限界を超えた、数字で表しきれない類いの話だった。
それこそ、言葉で説明するのさえも。
ただ一つ分かるのは、

「世界を変えられている」

今更ながら、はっきりと自覚が湧き上がる。
異世界からの存在、あれだけの異常な『神』がこの世界に平然と存在すること。
それが、この世界が変えられていることの証明となる。

「だとしたら……」

不味い、と彼女は思った。
そもそも世界はそんなに簡単に変えていい物では無い。
『神』様が作った、神聖で繊細な機構によってなりたつ物だなのだから。

「……その『神』が世界を……」

しかし、残念なことにその神様とやら自身が世界を破壊しようとしているのだ。
彫刻者が、自分の作った石像を叩き壊すが如く。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:37:03.32 ID:rclQNgSM0<>



インデックスは今、この世界に数少ない真理に迫る者だった。
あの『神』にしか分からないであろう、世界という物の『本当の中の本当』。
そこに彼女は迫りつつあった。
世界というものの、本質を。
それはアレイスターや紫でも、異世界に存在する神や閻魔などでも、自論でしか理解できない物。

何故、世界によって神の立ち位置が違うのか?
何故、世界によって人間の持つ力が違うのか?
何故、世界によって異能の力の在り方が違うのか?
何故、世界によって物理法則や因果率さえ変わるのか?
何故、世界によってイレギュラーな転生者などの存在が居るのか?
何故、殆ど同じなのに結末が違う世界が存在するのか?




何故世界は、同じ素材、人、法則から、全く違う物へと変わって行くのか。




セフィロトの樹や数学では分からない、あらゆる世界の法則の中に存在する唯一の真実。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:37:57.70 ID:rclQNgSM0<>

それこそ、『神』の余興とすら知らずに彼女は考えていたが、

「っ……」

再度、頭に痛みが走り、思考が強制的に中断されてしまった。
当たり前だ。
これは既に、人間が理解していい領域を超えてしまっている。
幾らその脳内に十万三千冊の法則を持っていたとしても、無限に存在する世界の真理に届くなど不可能。

「……喉が乾いたんだよ」

それを理解したインデックスは、のろのろとした動きでベットから下りる。
とにかく汗をかき過ぎて、喉が乾いていた。
水が欲しい。


「──あ、れ?」


だが、コップに伸ばされた手は宙で止まる。
傍目からは世界には何も起こっていない。
しかし、彼女には分かる。









「なんで、空気中に魔力が──!?」







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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:38:34.91 ID:rclQNgSM0<>











彼女は気がつかない。
真理に近づき過ぎ、世界の異変に気がついたせいで。
自身のポケットに放り込まれた、"金色の鍵"に。













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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:40:27.43 ID:rclQNgSM0<>










「──これは確かに真実と判断しするべきね」
「あぁ、俺もこれは予想外だ。世界に魔力を振りまくなど」
「恐らく、世界において異世界の者が全力を震えるような配慮ね」

"イギリス"──
深夜の英国、とある場所にて、土御門元春と一人の女性が話し合っていた。

「普通、魔力というのは魔術師自身の生命力を変換して作られる物だが、こう空気中にばら撒かれると不味いことになる」

魔術とは、かなり繊細な物だ。
魔術師である土御門は、自分の肌から感じる魔力に表情を歪めつつ述べる。

「ふむ……まず考えれしは、魔術の暴発と言う所。次は"一般人による無意識の魔術発動"という所かしらね。何せ本来特別な技法で精製せし魔力が普通に存在しているのだから」
「……意外と冷静なんだな」
「ふふっ、色々ありけるのよ」

"上司"の軽い笑みに、影がさしたのを土御門は見逃さなかった。
どうやら、彼女にも『神』とやらが関わっているらしい。

「さて……しかし、混乱が"今から"世界にて起こてる今、よりにもよって学園都市に増援を送るのは難しい話よ」<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:41:07.44 ID:rclQNgSM0<>

空気を吹き飛ばすかのように、女性は問題を語る。
土御門は苦々しい笑みで頷き、

「一番良いのは"ステイル"か"神裂"なんだが、二人共仕事中とはな」
「かといって、放っておく訳にも行かぬわね。能力者が魔術を使えるようになっている以上、"能力者(PSI)が魔術(オカルト)の領域に踏み込む"、なんてことになりし可能性は無視できない」

そう。
今、土御門が一番危惧しているのがそれだ。
正直、『神』などどうなろうがしったこっちゃない。
大事なのは、科学サイドと魔術サイドの関係なのだ。
この二つが現在、綱渡りにも近い状態で均衡しているというのに、こんな境界をあやふやにするようなことをされたら。






待っているのは、世界を巻き込む大戦火だ。






何万、下手すると何億単位での命が消えるような。

「ふむ、取り敢えず身内を纏め上げないと話にならぬわね」

そんな、大変な状況に置いてもイギリス清教の"最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアート"は笑っていた。



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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:41:47.06 ID:rclQNgSM0<>














世界の魔術師達を混乱に落とし込んだ、『魔力散布現象』。
十月十七日午前十時に起きたこれにより、実質殆どの魔術結社が活動を停止してしまう。
原因は空気中に存在する魔力による魔術の暴走、及び誤作動。
特にイギリスやフランス、ロシアによる混乱が酷く、"とあるクーデター"は起きなくなる。

しかし現時点において『神』に対抗出来る戦力が、魔力などのオカルトに関係無い科学サイド──




学園都市とそれに付属する幻想郷だけになったのは、確かだった。












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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:42:23.92 ID:rclQNgSM0<>





──■■■■jptkhanyu■■─kahqimuxb─■■■──gptaknxymwagw■──

a──────────






『来るな"バケモノ"!』

『悪魔よ……あれは悪魔の子よ!』

『に、逃げろ!悪魔に喰われるぞ!』


勝手な拒絶から逃げて、向かったのは他人の居ない山奥。

自分の■■を使って獣を殺して、生のまま肉を食べる汚らしい感触。

何故か涙が止まらず、体を生臭い真紅に染め上げながら、嗚咽を零す。

何故、こんなことになったのだろう。

自分は、誰かを傷つけるつもりなど無かったのに。

ただ、自分の持つ■■を使っただけなのに。

当たり前のことでないと気がついた時には、既に遅かったのだ。

何が『■■■■■■■■■■』だ。

不幸なだけの、無様な力では無いか。


山に、村人達による討伐隊が踏み込んで来た。


自分を、殺すための。




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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:43:45.42 ID:rclQNgSM0<>





場面は切り替わる。

何処かの古城へ。

古ぼけた、歴史と伝統を感じさせるそこには、血。

石の部屋は紅に染まって、闇夜からの月明かりに照らされる。

さながら、生き物の内臓の如く、無気味に照り出され。

這い蹲るのは、異端の生物。

この世に存在してはならぬ物。

"カインの末裔"。


またの名を、"吸血鬼"。


血みどろのそれに突き刺さるのは、銀の短剣。

一本二本では無く、それは数十単位で突き刺さっていた。

銀という魔術的力により、"バケモノ"は地に倒れ伏す。

次々生まれてくる血の池の中で、軽くステップを踏み、歩く。

己の身が血塗られるのにも関わらず、膝をついて吸血鬼の様子を見る。

まだ息があった。


ドスッ

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:44:23.75 ID:rclQNgSM0<>


止めの一撃に血が吹き出し、降り注ぐ。

吸血鬼の魂が見せる最後の芸術とも言える、神秘的で吐き気がする光景。

雨のように降り注ぐが、気にせず歩く。

目的を果たした今、この古城に居る意味は無い。

鮮血のシャワーの中で、無表情に歩くその姿。


自分。






我ながら、"バケモノ"と呼ばれる光景に相応しいと思った。
















「──」

パチリ、と。
瞼が開かれ、光を眼球に取り入れた。
カーテンの隙間からさす太陽光線が、自分の全身を照らす。
何処か暖かいその光を遮るように、十六夜咲夜は額に手をやる。
白い柔らかな寝着に包まれた腕と、それよりも更に白い自分の肌が見える。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:45:01.85 ID:rclQNgSM0<>

「……久しぶりね、"アレ"を見るのは」

自嘲気味に彼女は呟き、ベットからガバッと身を起こす。
布団がはだけられた下に覗いたのは、此方に来て買った寝着だ。
メイド服を何着か置いて行った以外に、八雲紫からの接触は無い。
故に世界の間を渡る術を持たない彼女は、この部屋に居座り続けている。

「さて、ご飯の用意……」

ベットから出て立ち上がり、背伸び。
咲夜は居候の例として料理を作ることにしている。
料理だけでは無い。
日によっては掃除もするつもりだ。

「……」

チラッと視線を近くにやる。
リビングでもあるこの部屋には、もう一人住人が居る。
そもそも、この部屋は咲夜の物では無い。
ソファーに横になっている、彼のためにある部屋だ。
毛布の一つも身に纏わず、彼は普通の服(彼なりの寝着らしい)で横になって眠っている。

「全く」

時刻は現在朝の九時。
普通の人ならとっくに目を覚ましている時間帯だ。
特に彼女の場合、早寝早起きが普通の世界に居たため余計に遅く感じる。
問題の人物は咲夜のそんな呆れも知らず、健やかな寝息をたて眠っていた。
黒いソファーに全体的に白いイメージの彼が横になっているのは中々目立つ。
自分より白い肌を持つ彼を一瞥し、ふと咲夜は考える。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:45:40.33 ID:rclQNgSM0<>

「……"ベクトル操作能力"……」

それが彼から聞いた、彼の力らしい。
あらゆる物のベクトルを操作出来る、と最初言われた際には意味が分からなかったが、説明を聞いて愕然とした。
ベクトルというのは、向き。
この世の物には全て向きが存在し、彼はその向きを自由に操作出来るのだ。
例えば、彼にナイフを飛ばしたとする。
その場合、ナイフの先に彼を突き刺そうとする『力の向き』が存在する訳だ。
彼は、皮膚にその向きが触れた瞬間、それを自由自在に操ることが出来る。
そらす事も、跳ね返す事も、自由自在。
この世の全てのベクトルを操作出来る。ありとあらゆる全てを。
彼女の世界風に言うならば、『あらゆる向きを操る程度の能力』。
この力を使えば、




彼は、例え"地面に立っているだけ"でも世界を敵にまわして勝つことが出来る。




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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:46:20.79 ID:rclQNgSM0<>

ただ、今まで魔力などは操作したことが無かったため、完璧には操作出来ないようだ。
だがしかし、そうだとしても強い力には変わりない。
なにせその気になれば、地球という星の自転の向きすら変えれるのだから。

"世界を確実にかつ迅速に滅ぼせる力"。
幻想郷でも、滅多にお目にかかれないレベルの力だった。

「……」
「スゥ……」

自分と同じ、いや、自分以上に色素が抜けた髪を少し揺らしながら、彼は相変わらず寝息をたて続けている。
素直な寝顔からは、普段の彼がどれだけ警戒していたのかが分かるだろう。

しかし、その姿から一体全体何人が、彼が人類の歴史を一瞬で終わらせれる"バケモノ"などと思うだろうか。

いや、と咲夜は自分の考えを否定する。
バケモノなどと決めるのは、力の大きさでは無い。
そうだとすれば、"幻想郷"はバケモノしか居ないことになる。
バケモノというのは、


周りが、力ある存在をどう思うかによって決まるのだ。


そして、"人間"にとってバケモノは、バケモノと"呼ばれる"のは ──


「……馬鹿らしい」

今更、自分は何を考えているのだろう。
夢の影響でも受けたか。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:47:04.71 ID:rclQNgSM0<>

コツン、と軽く自分の頭を小突いて、彼女は着替えを始める。
上着を脱ぎさり、ズボンも一気に脱いで下着姿へ。
下着の色は雪のような白で、肌と同化したかのように違和感が無い。
見ようによっては、裸にさえ見えるだろう。
純白のガターベルトを彼女はさくさく付け、違和感が無いよう布地を引っぱって整える。

「っ、うん……」

流石に朝から下着姿は少し寒い。
彼女は何時ものメイド服──ガラステーブルの上にあるそれを取ろうとして、




「っ……ァあ……?」
「──」




バッチリ、目があった。
起き上がって来た、彼と。

(し、しまぁぁ……っ!?)

情けない悲鳴を心中で上げる。
声に出さなかったのは、完全瀟酒を自負する故か。
もっとも、心中は完全瀟酒などとは結して言えない。

(あぁ……忘れてた、時間を止めるのを忘れてた……っ!)

固まった状態で、咲夜は悔やむ。
昨日は彼が居るから態々時間を止めて着替えたのだ。
しかし今日は考え事で紅魔館の自分の部屋で着替えるが如く、堂々と、惜しげもなく裸身を晒していた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:48:01.85 ID:rclQNgSM0<>

「ン……」

一方、彼は目をこすり、眠たそうな目をソファーの上から向けて来る。
固まったまま、声も出せずに咲夜は次の動きを待っていた。

そして、

「……ン、毛布毛布」
「はっ?」

彼は動く。寝ぼけた状態で。
フラつきながらも手を伸ばし、ガシッと掴んだ。




ガラステーブルの上に置かれた、メイド服を。




ビキリッ、と今度こそ本当に咲夜の全てが止まった。
思考とか呼吸とかも、全て。
さながら時を止められたかのように。
彼はそんな咲夜を無視し(というより寝ぼけて気がついてない)、再度ソファーに横たわる。
咲夜のメイド服を鷲掴みしたまま。

「ふがふが……」

しかも体に毛布のように巻付け、顔を埋めているではないか。
スースーとした布地越しの呼吸音が聞こえる。
つまりそれは、自分の服の匂いを嗅がれているというわけで──

「──ッッ!?!?」

その辺りが限界だった。
顔の色が驚愕の青から羞恥の赤に移り変わり、彼女の腕が勢い良く振り上げられ、


「この……変態ぃぃぃぃいいいいっ!!」
「がはっ!?」


パァーンッ!!と、マンションの部屋に、清々しいビンタの音が響いた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:48:35.99 ID:rclQNgSM0<>











彼女は後ろを見ない。
過去を見返してしまえば、唯一の自分が終わってしまうから。
彼女は、完全瀟酒であろうと今を見続ける。

















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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:49:28.83 ID:rclQNgSM0<>






──■■■■jpkpytjhcu■■─kjtrynxb─■■■──kntpgbwuowagw■──

a──────────






『くっ、駄目だ!銃が効かない!』

『対能力者用の装備を至急準備するんだ!急げ!』

『戦車の砲弾が効かないだと……クソ、バケモノめ!』


とある所に、一人の少年が居た。

名字は二文字、名前は三文字。

それ程珍しい名前でも無かった筈だ。

彼は学園都市という場所で、■■を手に入れた。

それが、自分を不幸にする物だと、幼い彼は気がつけなかった。

少し、喧嘩に能力を使っただけ。

大して珍しくも無い、学園都市ならよくあること。

しかしその行為によって、彼は自分が世界を滅ぼしかねないバケモノだと知った。

自分を囲う、化学兵器の山と人の言葉によって。


その日、彼はそれまでの自分を捨て、


一方通行(アクセラレータ)と名乗るようになった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:50:11.05 ID:rclQNgSM0<>




場所は変わる。

何処かの研究所。

嫌な、人工的な匂いしかしないその場所へ、少年は居た。

白い、何処までも白いイメージしか与えない彼が見るのは、一枚の紙。

そこに書かれていたのは、二万人のクローンを殺すことによって成り立つ、最悪の実験。

彼を"最強"などという中途半端では無く、"無敵"にするための。

少年は、誰とも関わりたくなかった少年は、それを受け入れた。


そして、茶色の髪の少女を殺す毎日。


首を折り、四肢を叩き潰し、反射によって殺し、血管を破裂させる。

彼には一滴たりとも血が触れない。

それが、何者も寄せ付け無い彼の■■だからだ。

人の形をした物を殺す、異常な、壊れた日々。

崩れた操車場の風景の中、ゆっくりと呑気に歩く、無傷の自分。






我ながら、"バケモノ"と呼ばれる光景に相応しいと思った。









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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:50:55.42 ID:rclQNgSM0<>




「っ〜クソが……」

ヒリヒリする頬を抑え、一方通行は呻いた。
彼の頬には赤い紅葉のような跡が一つハッキリと残っており、様々な痛々しさを感じさせる。

「俺が何したってンだ」

一方通行としては、正に一方的な制裁だった。
目覚めのビンタなど何故されなければ無かったのか。
本気で怒り、文句を言おうとしたら向こうは殺気混じりの怒りをぶつけて来たので思わず「あ、あァ。すまねェ……」と理由も分からないまま謝ってしまった。
彼女は「今度から絶対に時間を止めて……」などとブツブツ呟きながら台所へと姿を消した。
スパスパ何かを切り裂く音が聞こえるので、大方料理を作っているのだろう。
彼としては食事が自動で出てくるので、悪いことでは無い。
誰かと一緒に食べるというのは慣れないが。

「あー……」

暇、である。
料理の手伝いなどを一方通行がやる訳が無いため、食事が出来るまで彼は暇だった。
彼女によると普段は時を止めたり加速することにより、かなり調理スピードを上げているらしいが、今は忙しく無いからそんなことはしないと言われたので、それなりに時間がかかるだろう。

「……」

ふとそこで、彼は視線を部屋の隅にやる。
二倍に広くなった部屋の片隅にポツンと、薄型テレビが置かれていた。
一方通行はこの部屋を一時的な隠れ家としてしか考えていなかったため、台所や備品などの細かい設備は調べていなかった。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:51:55.65 ID:rclQNgSM0<>

暇を潰すのには持ってこいだろうと思い、テレビのスイッチを入れる。
パシュン、と軽快な音と共にテレビの画面に光が灯り、映像が流れ出す。

『では次のニュースです』

映ったのは何処にでもある普通のニュースだった。
無論、見たい番組など無いのでチャンネルを変えずそのままにしておく。

『第七学区にて廃墟ビルが倒壊した事件ですが──』
「……ふァ」

が、もう既に意識はニュースから離れていた。
ニュースキャスターが事件の詳細を説明しているのを朧げに感じつつ、一方通行は思考を夢へと飛ばす。
僅かにぼやけたその内容は、懐かしくもあり、馬鹿馬鹿しくもある内容。

(……どうせ、メイドのせいだろォな。カッ、有難迷惑だってンだ)

世界には自分に似ている人間が三人は居るという。
だとすれば、異世界には何人自分に似ている人間が居るのだろう。
少なくとも、一人は居た。

時を操る力──なるほど、応用性から見ても破格の力だ。
空間をも操作し、ありとあらゆる戦略を作り上げる。
しかも彼女はソレだけで無く、魔力や霊力と呼ばれる力によって人間を超えた動きに、空まで飛べる。
異世界人と呼ぶに相応しい力だった。

ただ、一つ。
彼女から他の『〜程度の能力』について聞いたが、どうも此方の超能力に似たような力も多い。
具体的には『炎を操る程度の能力』や『風を操る程度の能力』などだ。
しかも能力というのは、人間は余り持っていない物らしい。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:52:42.12 ID:rclQNgSM0<>


だから、憶測が一つ。




人間であって『時間を操る程度の能力』などという能力を持った彼女は、自分と似たような経験をしたのではないか?




間違い無く、そうだろう。
咲夜の自分に対する好意も、自分の咲夜に対する奇妙な対応も、原因はこれだ。


しかし、


「どうでもいいな」

そう、どうでもいい。
彼女がその内にどれだけの地獄を抱えて来たとしても、どうでもいい。
赤の他人の自分に気にすることなどないし、そもそも、自分みたいなバケモノが肉体的にならともかく、精神的に誰かの助けになるなど不可能だ。
一万三十一人の人間を殺したバケモノが、一体何をしようというのか。






自分は、"悪党"なのだから。





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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:53:20.75 ID:rclQNgSM0<>


どちらにしろ、彼女が大して気にしていない以上、彼が気にすることは無い。

「はいっ」

一方通行が結論を出し終えた所で、テーブルにドンッと皿が置かれた。
皿の上に盛られているのはスパゲッティ。
赤いミートソースがタップリと盛られ、ほかほか湯気を立てるそれから目を離し、対面に座った少女を見る。
咲夜は顔を多少赤くしながら自分の分のスパゲッティにフォークを突き刺していた。
呆れた目で、一方通行は口を開く。

「何キレてンだよ朝っぱらからよォ」
「なんでもないわ」

興奮しながら短く切り捨てる彼女に一方通行は訝しげながらも、用意された自分のスパゲッティを見る。
毒の危険性などは考えていない。
今、彼女が自分を殺した所でデメリットしかないから。

「……」

黙ったまま、一方通行はクルクルとフォークを回して紅く染まったパスタを掬い取る。
本当は肉料理が食べたかったが、我慢した。
口へとフォークを運び、口内に放り込む。

「どう?」
「喰えなくはねェな」
「そう」

辛辣な一言に、咲夜は笑顔で返す。
彼女には分かったからだ。今の言葉が単なる素直になれないだけの言葉だと。
一方通行にそれに気がつき、顔をあからさまにしかめる。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:54:14.50 ID:rclQNgSM0<>

(クソ、面倒臭ェ……)

やはり、一方通行は咲夜という少女をどう解釈しても苦手だった。

冷めない内にさっさと全部食べてしまおうと、フォークを動かす。

「……あら?」
「どうした」

だが、突然目の前の彼女が何かに気がついたかのように、フォークの動きを止めた。

「いや、何時の間にか空気中に魔力が存在しててね。この世界には魔力なんて無いと思ってたんだけど」
「分かるように説明しやがれ」
「つまりね……魔力っていうのは二パターンあって、自分の精神力や生命力を練って生み出す"自分の魔力"と、空気中にあって自分の魔力で従えれる"空気中の魔力"があるの」

ようするに火種とガソリンか、と一方通行は自分流に解釈しつつ、フォークの動きを止めない。
なんだかんだ言いつつ、彼女の料理を黙々と食べていることから、やはり美味しいようだ。

「で、空気中に満ちる魔力ってのは場所や地域によって変わるの。だから本来は空気中の魔力は自分の魔力で間に合わない時に使うんだけど……」
「だけどなンだ」
「元々、この世界には空気中の魔力なんて無いのよ。多分、"空気中に魔力が無いと過程しての魔術及び魔法"しか無いと思うの。もしくは"魔力以外の力を用いた魔術"とか」
「……」

段々、一方通行にも話が見えて来た。
つまり、

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:54:52.47 ID:rclQNgSM0<>


「この世界の魔術師達、今ちゃんと魔術を使えるのかしら?」

そういうことだ。
一方通行に実感は無いとはいえ、かなり不味いのだろうというのは想像がつく。
土御門は魔術サイドの増援を求めに行ったのだろうが、そういうことでは本人さえ戦力として期待出来ないかもしれない。

「"幻想郷"から来たオマエは大丈夫なンだな?」
「えぇ」
「なら問題はねェな」
「確かに」

短く会話を終え、二人は食事に戻る。
一方通行は魔力など関係無い(反射には関係あるが)し、咲夜は大丈夫だと言う。
ならば、二人にとって問題は無かった。






二人は、二人でさっさと問題(協力者集め)を解決しようとしていた。
力ずくで。


なんとも、二人らしい選択だった。







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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:55:28.26 ID:rclQNgSM0<>











白い少年は、貫く。
自分の道、自分の業(カルマ)から逃げずに、
ただ一人ボロボロになりながら、それでも進む。















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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:56:13.37 ID:rclQNgSM0<>





「うー……眠いですの」
「"黒子"ー、どうしたのよアンタ」

とある朝。
ある少女は同居人の寝ぼけっぷりに首を傾げた。
呼びかけられた、黒子というらしい少女は茶色かかったツインテールの髪を揺らしながら答える。

「実は昨日、"風紀委員(ジャッジメント)"の仕事で余り寝てないんですの」
「なんか事件があったの?」
「えぇ。ニュースでもあったと思いますが、ビル倒壊事件」
「あぁ」

納得、という声を上げた。
黒子は更に言葉を続ける。

「重機の跡も見られないので高位能力者の仕業と考えられているのですが……」
「ビルを崩すって、結構凄い奴ってことよね」

通学路の道を歩き、少女はそう呟いた。
ビルを崩すとなると、とんでもない力が必要になる。
それこそ──

「しかもそれだけじゃありませんの」
「んっ?」

ふと、隣からの言葉に彼女は思考を中断した。
まだ続きがあるようだ。

「どうやら第七学区遊園地近くの"操車場"で、コンテナの山が崩れたり地面をえぐられたような破壊痕があったそうですの。恐らく、ビル倒壊と同じ犯人だと思われますわ。確証はありませんが」
「っ」
「"お姉様"?」

一瞬、息が詰まった少女へ、黒子は下から顔を覗き込みながら尋ねた。
少女は慌てて手を振り「なんでもないなんでもない」と返す。
そう、なんでもないのだ。
ただ、"操車場"というのが彼女にとって余り良い思い出のある場所では無いだけで。
そのため、胸につっかえるような違和感を覚える。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:56:49.62 ID:rclQNgSM0<>

「しかも」

黒子はそれに気がつき、しかし特に踏み込まずに言葉を続ける。

「両方とも、少し上から圧力がかかりましたの」
「……」

その言葉に、無言となる。
彼女達は少々普通とは違い、普通の学生なら知らない、学園都市の闇に触れたことがある。
なので、上からというのに余りいい印象を抱いてない。

「ただ、様子がおかしくて」
「おかしい?」
「えぇ、今までは自分達の悪い所をもみ消すような悪意を感じる圧力だったのですけど、なんだか今回は"無用な混乱を避けたい"という意思を感じまして。勘ですが」
「ふぅーん……」
「だからお姉様?余り首を突っ込んだり、危険に飛び込んだりしないでくださいですの」
「わ、分かってるわよ……」

後輩の小言にしろどもになりながら返して、しかし、

(……ちょっと、調べてみるかな)

彼女は思考を終わらせ、後輩とともに学校へと向かう。
"茶色の前髪"から、時折"青い火花"を散らしながら。




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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:57:25.37 ID:rclQNgSM0<>




彼女達が現在向かっているのは、常盤台中学。
学園都市でも名門の、お嬢様学校。






そんな学校へ向かう彼女の名は、"御坂美琴"。











学園都市に七人しか居ないと言われている、"超能力者(レベル5)"の一人。










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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:58:07.63 ID:rclQNgSM0<>




「なんでこんなことになってんだろうな……」

浜面仕上はベッドの上でため息をつく。
ぼさぼさの染めた金髪を掻き、自分の前にある現実をもう一度見つめ直す。

「……んっ……」

現実が少し身じろぎした。
はぁ、ともう一度ため息。
しかし現実は全く変わらなかった。

彼が寝そべるフカフカのベット。
高級感溢れるそれは、どう見ても隠れ家のボロい布団では無い。
柔らかさといい、香りといい、正しく一級品の物だった。
それから分かるように、ここは浜面が寝泊りしていたビルでは無く、とある学園都市の高級ホテル。
ただ、悪趣味な大地に聳え立つ巨大ホテルでは無く、五階建ての"外観は"普通のホテルに過ぎない。
ここは"訳有りの人"のための、隠れホテルというべき場所なのだ。
さり気なく防弾ガラスをはめ込まれた窓を触り、浜面はふぅと、本日三度目のため息を吐く。
何時もの野暮ったい格好に着替え終わった彼は、改めて自分の状況のおかしさに参っていた。

「『神』だの吸血鬼だの……何時から世界はこんなオカルトちっくになりやがった」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:58:56.81 ID:rclQNgSM0<>

そして世界において科学の最先端を行く、この学園都市のトップがオカルト話を言うのだからもう色々終わっているのかもしれない。
最初は突発的に湧いた怒りも、今では意気消沈していた。
怒った所で"死んだ奴等"は返って来ないし、話された内容もぶっ飛んでいたからだ。

「ホント、一体全体何が何やら……」

世界が終わる?異世界?
漫画で使い古されたような単語を使っての話に茫然となったのはつい昨日の夜だ。

「何で俺なんだよ、クソ」

フランの実際に吸血鬼たる証拠を見た浜面は、どうにかオカルトの存在を飲み込んでいた。
が、何で自分なのかと疑問に思う。
こういうのは、もっとヒーローっぽい奴の仕事では無いのか。


あの、ヒーローのような。


自分は、ただの無能力者だ。
超能力者(レベル5)を倒したりもしたが、運と状況が大きく関わった上での勝利だ。
フランから助かったのだって、ただの運だ。

「どうしろってんだよ」

しかし、浜面は逃げれない。
逃げることを、許されない。
何故なら、助けた少女がなんでかなついたからだ。
彼女はとんでもない戦力になるらしい。
だから、彼女を扱えそうな浜面は、必然的に協力しなければならないのだ。
協力の代償として、こんな隠れ家を利用させて貰っているし。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 16:59:33.66 ID:rclQNgSM0<>

「……はぁ」

五度目のため息を吐きながら、しかし何処か仕方無いかと思う。
なにせ、自分はしっかり考えた筈だ。
フランを助けたことによって起こる、様々なデメリットや責任を。
そう、しっかり考えた。








そして、よかれと思う選択を、彼は自らの意思で選んだのだ。








ならばこそ、浜面は責任から逃げず、真正面から対峙しなければならない。

(あぁ、"滝壺"に何て説明しよう……)

割りと深刻な悩みに呻き、窓の外へと視線を飛ばす。

風力発電のプロペラがクルクルクルクル回っていた。







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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:00:15.46 ID:rclQNgSM0<>













ただの少年は悩みながらも進む。
己の進むべき道を、ボロボロになりながら。
ヒーローとは、悩みながらも進む者だと知らずに。

















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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:00:54.79 ID:rclQNgSM0<>



フランドール・スカーレットはベットに潜り込み、考えていた。

(お姉さまに叱られるかな……絶対叱られるよね)

少年と違い、割りと明るいことを。
無論、重大な内容を忘れた訳では無い。
『神』のこと、このままでは世界ごと消されるということ。
なる程、確かに重大な内容だろう。
だが、深刻だからといって何時までもうじうじ悩んでいても仕方が無い。

(……浜面は何してるんだろう)

ベットから出て行った少年がまだ部屋の中に居るのは分かる。
匂いや気配で簡単に。
ただ、何やら悩んでいるような呻きが聞こえてくる。

(あったかいな)

ベットの中には、彼の残り香と暖かさが残っていて、それを感じるだけでなんだか幸せな気分になれる。
彼はベットに自分が潜り込んだ時こそ驚いたものの、暫くすれば普通に寝ていた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:01:33.95 ID:rclQNgSM0<>

不思議だな、と思う。
死にかけてまだ怖い筈なのに普通に接せられる浜面も、




彼を■さない自分も、両方とも。




それは、自分の彼に対する気持ちのせいか。
それとももっと別の何かなのか。

(何をしよう……そうだ、浜面に街を見せて貰おうかな)

ただ一つ言えるのは、フランドール・スカーレットは恋していた。
何の力も無い、ただの人間を。
何故か?
分からない。誰にも分からないかもしれない。
本人でさえも。

推論を述べるとするなら、






始めて打算も何も無く赤の他人から差し伸べられた手(希望)が、彼女に始めて触れたからなのかもしれない。






だが、

(もふもふー、もふもふー)

当の本人は難しいことを考えず、ベットの中でゴロゴロ暴れていた。
普通の、子供らしく。





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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:02:18.33 ID:rclQNgSM0<>












悪魔の妹は、気がつかない。
この先、降りかかってくる苦難を。
ただ今は、安らかな幸せに浸り続ける。














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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:03:00.54 ID:rclQNgSM0<>




窓の無いビルの中。
機械的な光のみが、場を照らし出す空間にて。
アレイスター・クロウリーは動かずに居た。
正確には、動かないようにさせられていた。
見た目にはなんら変化が無くとも、彼を縛る何かが、今窓の無いビルごと覆っている。
現在彼は、誰にも干渉することが出来ない。

(……やれることはやった、が。不確定要素が多過ぎる。特に"魔法の世界(マホウノセカイ)"からの増援が、全く期待出来ないのが……)

彼は、その気になれば誰かに干渉することは出来るだろう。
世界最高の魔術師とは、伊達では無い。








ただその場合、世界が消え去るが。
"ルール違反"ということで。








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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:03:38.60 ID:rclQNgSM0<>



(結局の所、我々はこのゲームに付き合うしか無いのだな)

なにせ、相手はその気になればいつでも世界を滅ぼせるのだ。
だとすれば、相手の機嫌をそこねないようにしなければならない。
故に、アレイスターは待つ。
役目を終えた、彼は。

(…………)

巨大なビーカーの中で、解放の時を。






全てを、他の者へと託して、魔神は一時の眠りにつく。
目覚めた時に待っているのは、地獄か、それとも──












<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:04:20.13 ID:rclQNgSM0<>






紅魔館──、"幻想郷"に位置するそこには、一匹の悪魔が居る。
正確には二匹だが、今は居ない。
その悪魔こと、レミリア・スカーレットは幼い顔を無機質な物へ変え、紅茶のカップを掴んでいた。
窓の無い、ランプで照らされただけの、締め切った暗い部屋。
テーブルに座ったままくるくるとスプーンを動かし、紅茶をかき混ぜる。
特に意味は無い。
ただの暇つぶしだ。
銀色のスプーンが揺れ動く度に、紅茶の紅い水が波紋を立てる。

「……」

暫し、無言。
くるくると機械的に回し続け、ボンヤリとしていた。
やがて、ピタッとスプーンが止まり、レミリアは口を開く。

「浜面、仕上」

それが、妹を助けた者の名前らしい。
先程の紫のセリフを、彼女は思い返していた。
咲夜はともかく、せめてフランを連れ戻せと言った時の、あの言葉。


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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:05:08.38 ID:rclQNgSM0<>




「『本当の笑顔を教えてくれるかもしれない』ね……」




"本当の笑顔"。
それは確かに、紅魔館や幻想郷に居る全ての者が、彼女に教えられないことかもしれない。
495年間、ずっと幽閉し続けた彼女。
気がふれて、破壊に甘美を覚える狂った悪魔と言うべき存在。
もし、彼女が本気で迫った場合レミリアも勝つことは出来ないだろう。


しかし、異世界の男──浜面仕上は、フランに殺されていない。


あの圧倒的な力の前に、あの狂った精神の前に、ただの人間がだ。

「……"信じる"、ねぇ」

全く、簡単に言ってくれるとレミリアは吐き捨てる。
その言葉に頼るしかない、自分自身にも苛ついた。

「どうせフランも利用しようって魂胆なんでしょうけど……」

『神』とやらは、そこまで危険な存在なのか。
自分に世界を渡る術が無いのが、残念に他ならない。

「咲夜は居ないし、パチュリーは術式研究中だし、中国は門番やってるし……」

暇だー、と、レミリアはテーブルの上に体を押し付ける。
カチャン、とティーカップが音を立てた。

「……」

眠い。
そも、吸血鬼にとっては昼間の今は寝る時間だ。
別に寝て悪いことは無い。
どうせ風邪など引かないからと、彼女は眠気に身を任せる。
急速に、意識が落ちて行く。

「フラン……浜面仕上……」

異世界に居る妹と、それを助けた姿知らぬ男の名を呟きつつ、彼女は意識を闇に沈めた。


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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:05:45.49 ID:rclQNgSM0<>





一方、レミリアがそんな風に妹とまだ見ぬ妹の思い人へ思いはせている頃、

「はぁー……」

紅魔館の門へ、ため息を吐きながら歩く少女が居た。
華やかな花壇の光景に、その落ち込みようはとんでもなく似合わない。

緑色の鮮やかな長髪にカエルと蛇の飾りを付け、身体に纏うのは青と白の巫女服。
赤では無く青であり、袖と体の部分が繋がっていない。
つまりは、脇の部分が露出している。
そんな改造巫女服を着た少女の名は、東風谷早苗。
"守矢神社"という"幻想郷"に存在する神社の風祝、ようするに巫女であり、本人自身も特別な力を持った"現人神"とまで呼ばれる存在である。
ただまぁ、この世界においては本物の神様を殴り飛ばしてしまうような力の持ち主が居るので、早苗も少し強いだけのただの人扱いだ。
別にその点に置いてはもう気にしていない。
ため息を吐いた問題はそこでは無く、

「やっぱり、私が行くべきだったんだろうなぁ……」

つい五時間前の騒動のことである。
彼女は立場的にも、性格的にも、経験的にも、実力的にも全てが異世界に放り込むにはばっちりだったらしい。
そのため、無理矢理にでも行かせようとしたそうな。
まぁ言われてみれば、個人の事情なんか世界の問題の前には些細なことだろう。

「でも理由を言ってくれるなり、考える時間とかくれれば良かったのに」

そうすれば……と、早苗はうって変わって今度は文句を呟き始めた。
ブツブツブツブツ……と、彼女にしては珍しく怨みを込めた呟き。

「大体、何で幻想郷で強い人達って大概身勝手なんでしょうか。いや、私もそうでしたし言える立場じゃないのは分かってますけど、でも──」
「あっ、お帰りですか?」
「わひゃあっ!?」
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:06:21.94 ID:rclQNgSM0<>

ふとそこで、突然声をかけられた。
分かりやすく飛び上がり、早苗は慌てて声の主を見る。

「め、美鈴さん」
「はい、そうですよ」

ニッコリ微笑みながら返され、自然と早苗も笑顔になる。
民族風……チャイナドレスと思われる物を着て、緑色の帽子を被った女性が、門の近くに立っていた。
三つ編み二つと、ストレートに伸ばしている紅い髪を揺らしながら、彼女はニコニコと何が嬉しいのかと言いたくなるくらい笑顔だ。
紅美鈴。それが、彼女の名前だ。

彼女はこう見えて妖怪だが下手な人間よりも人間らしく、紅魔館な中でも比較的常識人(妖怪?)なため、早苗としては数少ないまともな知り合いである。

「そうそう。先程はすみませんでした」
「い、いえ。レミリアさんに命令されたんじゃ、美鈴さんも断れないでしょうし……」

ぺこりと丁重に頭を下げられ、早苗も頭を下げ返す。
二人が言っているのは先程の騒動の際のこと。
早苗をスキマに放り込もうとしたのが、美鈴だったのだ。
まぁ、彼女はレミリアに仕える身なため、渋々といった感じでやっていたのだが、それでも良心が傷んでいたようだ。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:06:59.41 ID:rclQNgSM0<>

「それに、私の方こそごめんなさい」
「何がです?」

きょとん、と。
本気で分からないのだろう。
美鈴からの純粋な疑問の声に、早苗は少し表情に影をさしつつ、謝罪する。

「だって、私が早く行ってればフランさんも"向こう"に行くことは無かったじゃないですか」

そう。
あの時早苗が下手にごねらず、さっさとスキマに飛び込んでいれば、フランが異世界に行くことは無かったのだ。
聞けば、向こうで彼女は太陽の光を浴びて死に掛けたらしい。
ただでさえ吸血鬼には弱点が多く、フランという少女自身も危険だというのに……
そう考えて更に落ち込む彼女へ、






「あれっ?"そんなこと"ですか?」






「──えっ?」

早苗は呆気に取られ、口を開けたまま思わず惚ける。
今、彼女は何を?
惚けた状態の早苗へと、美鈴は笑いながら、

「いやぁ、"心配しなくても大丈夫ですよ"」
「──」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:07:41.51 ID:rclQNgSM0<>

声が、出ない。
それだけ呆気に取られていた。
一体全体、何が大丈夫なのか。
フランドール・スカーレットという吸血鬼を知る者なら、まず口に出せない言葉を、紅魔館の門番は口から放つ。

「妹様だけじゃない。咲夜さんもきっと大丈夫です」
「──あっ」

そこで漸く、彼女は気がついた。
美鈴の笑顔に込められた物に。


それは、"信頼"。


圧倒的なまでの、それこそ下手な"信仰"など相手にもならない程の。

「……美鈴さんは、皆さんを信じてるんですね」
「えぇ、勿論」

迷うこと無く、彼女は答えた。

「何せ、お嬢様や妹様とはまだ母乳を飲んでいた頃からの関係ですし。パチュリー様はそのお嬢様の友人、咲夜さんは仕事仲間となれば、信じれない人なんか居ませんよ」

ただ本当の意味で人と呼べるのは咲夜さんだけですけどねー、と彼女は笑顔で紡ぐ。
其処からは、単なる年月だけでは構築し得ない、硬い絆を感じた。

(──凄い)

早苗は始めて、本当の意味でこの妖怪を凄いと思った。
弾幕ごっこは自分の方が強い。
しかし、他人を信じる気持ちにおいては、きっと自分は彼女に叶わない。

「もしかして、美鈴さんって門番の仕事サボったりしてるのは、館の人を信じてるから……?」
「うーん、それもあるかもしれませんね。私が抜かれたとしても大丈夫!ってどこか安心はしてますけど」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:08:18.47 ID:rclQNgSM0<>

はははっ、と美鈴は苦笑い。
実は彼女、度々門番の仕事中に立ったまま寝るという無駄な技能でサボっていることがあるのだ。

「でも今はちょっと大変だなぁ。咲夜さんが居ないから、昔みたいに私も館の中のことしないといけないし。"黒白"も来ないんで、結構暇だったからいいんですけど」
「……あれ?そういえば、咲夜さんって元から紅魔館に居たんじゃないんですか?」

ふと、疑問に思ったことを尋ねてみた。
今までの口振りからすると、あの完全瀟酒なパーフェクトメイドがこの紅い館に来たのは、そう昔のことではないようだが……

「あー……まぁ、色々あってですね……」

問いかけられた美鈴は、言葉を濁す。
やはり、余り触れられたくない部分だったようだ。

「す、すみません」
「いえいえ……言ってもいいんですけど、咲夜さんが嫌がるかもしれないんですよ。だから本人が居ない今はちょっと……」
「そうですね、本人が居ない所でそう言う話は……」

ごにょごにょと謝罪の言葉を言う、青い巫女。
そのある種の保護欲を感じさせる姿に、美鈴は苦笑しながら対応する。
一方で、

(……懐かしいなぁ)

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:09:03.13 ID:rclQNgSM0<>

昔を、少し思い返してもいた。
咲夜との出会い、そして付き合い。
そんなに時は経ってないのに、人間というのは成長がやはり早い。






『さて、今日はオシャレをしてみましょう!』
『……おしゃれ?』
『えぇ。主人に仕えし者。身だしなみをキチンと整えなければ!』
『どうするの?』
『んーと、そうですね。お化粧はまぁまだ咲夜さんには早いですし、髪型を変えてみましょうか?』
『髪型……』
『どんなのが良いですか?私が好きなようにカットして上げますよ〜。こう見えて私、偶にお嬢様の髪を切ったりもしてるんです』


『……それ』
『それ?あぁ、"三つ編み"ですか?まぁ、私のこれも確かにオシャレと言えばオシャレですし……でもいいんですか?』
『……うん』


『分っかりました。じゃ、そうですね……この、緑のリボンでいいですか?』
『……うん』
『……咲夜さん、どうして私の服を見て……?』






(『美鈴の服の色だから』は、正直嬉しかったですねぇ……)

自分の顔の両脇に垂れ下がる三つ編みを撫でながら、彼女はフワリ、と微笑む。
その柔らかな笑みに、早苗も釣られて笑顔になっていた。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:09:45.09 ID:rclQNgSM0<>







「"盟主"」

暗闇の中、声が一つ。
学園都市の、とある廃墟の一室。
部屋の光景は、暗く染まって人の眼力では捉えられない。
しかし、確かにそこに誰かが居る。

「あぁ、"分かる"」

暗闇の中、飛び交う言葉。

「むぅ?私には何が何やらサッパリアル」
「……何やら"別の力の塊"が、大気に満ちている」

声は四つ。
それぞれが違う音の振動を生み出し、会話を行う。
一つは青年の、まだ若さを感じ、しかし何処か遠くから響く声。
一つは男の低い、物騒気な声。
一つは少女の、特徴的な口調の声。
一つは更に若い、子供のような少女の声。

「そろそろ本格的に動くべきだろう」
「味方集めネ?」
「甘いことを……"手駒集め"だろう」
「はは……確かに、味方までは厳しいかな。せめて協力者だ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:10:25.81 ID:rclQNgSM0<>

口調が、変わる。
しかし、それを注意する者は誰もいない。
当たり前のことだからだ。

「じゃ、各自解散だ。手当り次第、しらみつぶしに捜して行こう」
「らじゃアル!」
「やれやれ、面倒なことだ……」
「……」

闇に、影が散る。


十月十七日。
深夜のこと。




『戦い』が、迫る。


















同時刻──

「……」

バタバタと、布が風によってはためく、存外大きな音が響く。
はためくのは、黒いマント。
学生寮の屋上。
古びたフェンスを軋ませ、彼女は淵にバランス良く立っていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:12:20.17 ID:rclQNgSM0<>

「……」

彼女は黒い長髪を風に任せる。
癖の一つも無い柔らかな髪は、揺れて風の流れを浮かび上がらせた。

彼女は、肌で大気を感じ取る。
其処にある、明らかに感じたことの無い力を。

「魔力──」

そう、あの白いシスター少女が言っていたことが正しければ、これこそが一つの異世界での地から。
なる程。"存在の力"とは、質がかなり違う。

「……」
「行くか」
「……アラストール」
「なんだ?」

彼女は、己の契約者に呼びかけた。
魔神は言葉に答え、尋ね返す。

「今の私、戦えるかな?」
「それはお前の決めることだ」

彼の端的な言葉に、彼女は内心で頷く。
そうだ。
自分のことは、自分で決める。
そして、今は迷うべき時では無い。
戦いに、私情を持ち込まない。
それは、戦士として当然のこと。




「行く」
「うむ」




ボウッ!と、灼熱が弾けた。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:12:58.54 ID:rclQNgSM0<>
瞬く間に髪が炎の赤に染まり、瞳も紅き灼眼へ。
体の周囲に、この世の物では無い火の粉が弾けて舞い散る。
周囲の空気は熱で震え、異常な現象だということを指し示した。

「すぅ……」

ギチッ、と、足に力を溜め込む。
そして、

「──ぁぁああああああああああっ!!」

吠えて、屋上から飛んだ。
一直線に、本来なら絶対にあり得ない直線を描いて、少女は飛ぶ。
その小さな背中には、炎の翼が広がっている。

目指すは、街中に突如張られた"封絶"。

夜中、突然現れた開戦の合図。
当然、彼女は気がつき、あの二人を置いて戦うことにしたのだ。
あの少年は、色々言っていたが。

少しだけの回想を振り切り、彼女は飛ぶ。








戦場へと、"フレイムヘイズ"シャナは飛び込んだ。








戦いが、始まる。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:13:41.97 ID:rclQNgSM0<>














炎髪灼眼は戦う。
戦いの先に、自分の絶望があるとも知らず、
異世界で刀を振るい、闘う。













<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:14:26.15 ID:rclQNgSM0<>





「……そろそろ『戦い』が始まってもおかしくは無いわね。ここまできたら、後は任せるしか無いか……」

場所は変わって、"幻想郷"。
昼の時間帯のため、八雲紫の手元にも日光がさしていた。日傘をさしているが、日光は強く紫を照らす。
只今彼女は"守矢神社"に居た。
其処にいる"神二柱"と更に話し合うため。
ただ、話し合いは終わったため、現在紫がここに居るのは──

「と、思ったら」

キィィィィィンッ、と甲高い音が神社の砂利の上に立つ、紫の鼓膜を揺らす。
音は、遥か上空から響いていた。
"幻想郷"に居る、大概の者が聞いたことがあるであろうこの音は、空を高速飛行している時の音だ。
そして紫の真上に一瞬影がさし、
ストンと、柔らかに誰かが着地した。
紫の後ろに着地したため、彼女は其方へ向こうと体を動かす。
フリルのついたドレスが、フワッと揺れた。

「あっ、"衣玖"が会うのってアンタだったの?」
「……あれ?」

が、そこに現れた意外な、いや、ある意味簡単に予想出来た人物にガクン、と肩を落とす。

黒くて丸い帽子に何故か桃を付け、白いドレスに虹色の文様をあしらっている。
髪は青くストレートに伸ばしており、イタズラっぽい子供のような光を含んだ瞳は、紅い。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:15:04.21 ID:rclQNgSM0<>



知っている者は知っている、"天人"、非想非非想天の娘。
比那名居天子。


それが、現在紫の前で無い胸張っている少女の名だ。
普段は、"幻想郷"の天空に位置する世界、"天界"に居る筈だが……

「聞いたわよ。なんかとんでもなくヤバイ奴と戦うって話じゃない。何でこの私を呼ばないのよ!」

色々面倒だからよ、と言い返したくなったが、紫は大人の余裕でグッとこらえる。
正直、今かなり疲弊した紫ではそれなりの実力を持つ天子に勝てないだろう。
故に、柔らかな口調で、

「そう、貴方天界に居たのよね?天人達の様子はどうだった?」

他の話題へと移る。
本来ならば天界へスキマを開き、どうなっているのかを見ていただろうが、紫はついさっきまで全力で動いていたのだ。
そんな余裕など無い。
紫の問いかけに、天子は渋い顔になって首を振る。

「残念だけど、あの馬鹿達の助力は無いと思った方がいいわ。どーも『現実性が無い』だの『暫く考える猶予を』だの言ってるけど、あれただの言い訳ね」
「あら、そう」

何となく予想していた答えのため、紫は短く返す。
天人達の態度は今に始まったことでは無いため、特に気にしてもいなかった。
確かに戦力は欲しいが、実がない力など要らない。寧ろ邪魔だ。

「で、あなたは"緋想の剣"を持って一人やって来たと?」
「まぁね。別にいいでしょ?」
「そうね……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:15:44.13 ID:rclQNgSM0<>

"紅い剣"を肩に担ぎ、此方へ問いかけてくる天子のことを顎に手を当て、考える。
確かに、彼女は戦力としては申し分無い。
だから別に悪くは無いのだが。

「──ふぅ。総領娘様は早過ぎです」
「あら。漸く来たわね」

ヒラリ、と。
新たな人影が、紫の近くに着地した。
天子とは対象的な、柔らかな動きで着地したのは緋色の羽衣を身にまとう、一人の女性。
背は天子より高く、女性らしい体つきをしていた。
触角のような飾りが付いた帽子を被り、天子と同じ青い髪に紅い目。

彼女は永江衣玖。
竜宮の使い、妖怪だ。
一応、天界において、天子より下の立場の存在である。

「って衣玖〜。私のことは天子でいいって言ったじゃん」
「善処します」

ちょっとー、という天子の文句を彼女は無視。
紫へと、彼女は"空気を読んで"言葉を告げる。

「"龍神"様からのお言葉です……『この世界のことはなんとかする。例え世界を犠牲にしてでも、"奴"を殺せ』と」
「有難う。これでかなりの無茶が決行出来そうね」
「礼なら私では無く、龍神様にお願いします。私はただ伝えただけですから」

そんな二人の会話に、首を傾げながら天子が入り込んだ。
彼女は純粋な疑問の声を上げる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:16:28.35 ID:rclQNgSM0<>

「龍神って、あれよね?幻想郷の最高神。確か万物の法則全てを生み出したっていう」
「えぇ。そして私は彼の使いです」
「これからは世界にかなり負担をかけるからね。龍神の協力を取り付けれたのは幸いだったわ」
「ふーん……他には何処に協力を求めるの?」

天子の疑問に答えるべく、紫は手を虚空へとさし伸ばした。
瞬間、小さなスキマが開き、紙が一枚彼女の手に握られる。
かなり異常な現象だが、天子は特に気にせず紙を自分で取って眺めた。

「えと、◯が付いてるのが協力を取り付けたのよね……へぇ、"太陽の畑"まで」
「上手く行くかはさて置いて、ね。一応候補に入れてるの」
「よし!」
「?」

と、急に気合いを入れる彼女に紫が首を傾げると、




「取り合えず私が行ってくるわ!」




いや、何故だ。
そう紫が突っ込む暇さえ無かった。
天子は紙を持ったまま駆け出し、地面を蹴って宙を飛ぶ。
そして二人を置いて、あっという間に飛び去っていた。
後に残るのは、空気を切り裂く高い音と取り残された紫と衣玖だけ。

「「………………はぁ」」

二人の口から揃ってため息が吐かれる。
呆れと呆れと呆れと、呆れしか篭ってないため息が。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:18:03.54 ID:rclQNgSM0<>

「そもそもあの子って太陽の畑の場所知ってるの?」
「多分話でしか知らないかと……」
「「……はぁ」」

再度ため息を吐いてから、二人は気を取り直し、其々の行動を始めた。
紫はスキマを開き、衣玖は天子を追うべく宙に浮く。

「まぁ龍神様からも総領娘様に付いて行くよう言われてますから」
「お願いね」

空気を読んでくれた彼女に感謝して、紫は単眼が煌く闇へ飛び込もうと、

「一つ、聞きたいのですが」

した所で動きを止めた。
振り返り、羽衣を揺らす彼女を見る。
衣玖は少しばかり躊躇いを見せながら、しかし一度呼び止めたのだからと尋ねた。

「何故、龍神様は直接戦わないのでしょう?」
「……」

返るのは、ただの沈黙。
彼女は、尚も続けた。
ずっと抱いていた疑問を。

「龍神様は強い……それこそ、この世界全ての存在を束ねたよりも、です」

そう。
龍神とは、名がつく前の神。
万物に五行相関の法則も作り出した最高神。
自然の豊かさや恵みがあるのも、全ては龍神のおかげなのである。
天界、地獄、冥界、魔界、異世界、幻想郷、様々な世界を例外無く超えられる正に破壊と創造の神。
例え月の民や大天使、天罰神や創造神といえど、龍神の前では無に等しい。
それだけの実力がある。
その気になれば、世界を破壊出来る程の。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:18:36.97 ID:rclQNgSM0<>


だからこそ、衣玖には分からない。


『神』というモノが危険なら、龍神自身で滅ぼしてしまえばいいものを、何故?
いや、その『神』が龍神よりも強いとしてもだ、"一緒に戦う"という選択をしなかったのは、何故なのか。

「まるで、龍神様は御自身が"絶対に勝てない"と悟っているかのようでした」
「……あってるわよ、それで」

彼女の問いかけに、紫は答える。
その声に含まれているのは、何なのか。

「細かい理由はまだ言えない。けど、そう、あえて言うのなら──」

スキマへと身を踊らせ、彼女は最後にたった一言だけ言った。

重い、暗い、闇に染まった声で。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:19:33.23 ID:rclQNgSM0<>

































「人形は、人形師に逆らえない」











<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:20:16.22 ID:rclQNgSM0<>








天界でも、冥界でも、地獄でも、魔界でも、異世界でも無い何処か。

「遊びが過ぎるのでは?」
「いや、寧ろこれくらい遊んだ方が丁度いい」

並んで歩く二人が居た。
宮殿のような廊下を、ただ歩く。

コツコツ、と。
硬い足音が連続して響く。
其処は、何処なのか。
本当に大地を踏みしめているのか。
あやふやな感覚を発する、不思議な空間。

「"ネギ・スプリングフィールド"達は?」
「依然、まだ抵抗してます」
「そうか。丁度良いな」

答えながら、"学生服"の少年は寒気が一瞬だけ走るのを感じた。
不思議な物だと思う。
"作られたただの人形に過ぎない"自分が、寒気などという人間らしい感情を抱くことに。

「もう既に手は打ってる。幻想郷にもな。後は観戦だ」
「……」
「まぁ、英雄の息子達はもう少し後でいい」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:20:57.98 ID:rclQNgSM0<>

カツ、カツと。
"ソレ"は歩く。
人の姿を持ちながら、確実に人では無い。
そう嫌でも感じさせる、独特の雰囲気がそこにある。
彼等は高い場所に立っていた。塔の先端のような場所に。
周囲は気流が逆巻き、唸りをあげている。

「さて……じゃ、留守番は任せたぞ、"フェイト"」

次の瞬間には、"ソレ"は黒いローブを身に纏っていた。
体を覆い隠すどころか地面にまで届くボロボロのローブを。

「はっ」

フェイトと呼ばれた少年は跪き、返事を返した。
何処までも律儀なその態度に、"ソレ"は笑う。

「ははっ、"代行体"も面白い人形を作ったもんだ」
「……」

人間扱いされていないというのに、フェイトは何も言わない。
何故か。間違っていないから。

「しかし、あの世界は本当に面白い。まさかあれだけのヒントで真理に届こうとする者が居るとはな……"プレゼント"をやりに行って正解だった」

頂の上で遥か眼下を見下ろし、笑う。
笑みからは、見た者の魂を削るような悪意を放ち。

「……」

後ろでその姿を見るフェイトは、何も言わない。
当たり前だ。
人形は、人形師に逆らえない。
逆らおうとも思わない。
"人間"では無く"人形"なのだから。

「全ては、貴方の意のままに」

故に彼は、胸の中にドロリと漂う何かを出さずに、言葉を紡ぐ。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:22:06.89 ID:rclQNgSM0<>


































「我が主『造物主(ライフメイカー)』」









その言葉に応えるように『始まりの魔法使い』は笑う。


それはまるで、紫色の毒の如き笑みだった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:22:46.93 ID:rclQNgSM0<>














世界は、全てを飲み込む。
世界は、全てを受け入れる。
世界は、──────────















<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/12(水) 17:24:17.05 ID:rclQNgSM0<>








後書き
今回の話は短い話が連続して続く総集編でした。
その分、文量は過去最高……なのか、な?
様々な人物やらキーワードやらが続々と、それこそ作者ですら認識出来ない程(えっ?)てんこ盛りです。

特にインデックスの話は自分のちょっとした理屈が入ってます。自論ですので、超分かりにくいですが。

それと龍神の強さは勝手な自己設定です。
魔界神や、天照とかの神々の方が強いんじゃないの?と言われるかも知れませんが、この作品ではそれらを楽に上回る強さという設定です。御了承下さい。

更に『神』の正体ですが、実はまだ本当の姿ではありません。
本当の姿は、もっと別の存在です。


これからはとある魔術の世界と東方の世界、両方世界での戦いを書いていけたらなと思っています。

久しぶりの投稿のため、後書きも長くなってしまいました。

次回も遅れる可能性が高いですが、どうかよろしくお願いいたします。




次回は、シャナ大活躍!……の、筈です。





Psおまけスキットもあるのですが、それは明日……


<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/12(水) 20:43:12.29 ID:fE9/frIH0<>良いですね…良い厨二な面白さ
おまけも楽しみにしてます<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/12(水) 21:02:44.72 ID:Dh2Nrl/Mo<>キテター
ぶっちゃけネギま勢空気な気がしてならないけど今後どう動いてくのかwwktk<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/12(水) 22:30:49.89 ID:NmNgIvb0o<>もうちょっと改行減らしてくれ
演出のつもりなんだろうがはっき言って見づらい<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 04:00:02.58 ID:Ceswu8f30<>乙です。
なんか神が霊夢の夢想転生に近いことをやってるような・・・
星蓮船の設定は魔界神が作った魔界が無限の面積を持つとかいうのじゃなかったっけ?<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:39:24.21 ID:AQOT3+v50<>

>>336
すみません……感覚が分からなくて……
以後、なるべく気をつけます

>>337
あぁ、その設定ですか!ありがとうございます!


では、少々オマケを……


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:39:58.70 ID:AQOT3+v50<>




おまけスキット




スキット3「上条当麻の一日」



上条「寝惚けて教科書忘れて来ちまった……不幸だ」


上条「朝、通学途中で転けたせいで弁当の中身が……不幸だ」


上条「同居人達が何か騒いでる……不幸、だ?」


青髪「不幸な訳無いやろぉがぁああああああああああああっ!!ロリ二人の同居人?舐めとんかゴラァァァァァアアアアアッ!!」

上条「おわっ!?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:40:30.13 ID:AQOT3+v50<>

スキット4「カップラーメン」


シャナ「……あれ、同じ銘柄なのに」

アラストール「どうした?」

シャナ「うん。御崎市で食べてたのと同じ物の筈なのに、こっちの方がやけに美味しくて」

アラストール「原材料名に『化学調味料』と書かれているが?」

シャナ「なっ!?化学調味料……」

アラストール「……何故ショックを受ける」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:41:03.20 ID:AQOT3+v50<>


スキット5「訳が分からねェ」


一方通行「そういやよォ」

咲夜「なに?」

一方通行「朝結局何があったンだ?」

咲夜「うぐぅっ!?」ギクンッ!

一方通行「こっちはイキナリぶっ叩かれたンだ。理由を聞く権利ぐれェあるよなァ、クソメイド」

咲夜「メ、メイド……メイド服……」ブツブツブツ……

一方通行「オイ何黙ってンだよ」

咲夜「五月蝿い!この世から消し去られたいのこの変態ィィイイイイイッ!!」

一方通行「誰が変態だァ!」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:41:43.34 ID:AQOT3+v50<>


スキット6「それなぁに」


フラン「ねぇねぇ浜面」

浜面「何だ?」

フラン「朝抱きついてた時に気がついたんだけどさ、なんで[そこまでよ!]が大っきくなってたの?」

浜面「えぎあがっ!?」

フラン「確か[そこまでよ!]ってあんなに大っきく無かったと思うんだけどなぁ。絵とか資料でしか知らないけど」

浜面「お、男には色々あるんだ!色々!」

フラン「色々?」

浜面「色々!色々ったら色々!!俺ちょっとトイレに行ってくる!」

ダダダッ!バタンッ!!

フラン「……むぅー、私に欲情して無かったのかなぁ……?」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:42:22.65 ID:AQOT3+v50<>

スキット7「あっち!」


天子「あっ、衣玖」

衣玖「総領娘様、太陽の畑の場所も知らないのに何処へ行こうというのですか?」

天子「だから天子でいいって、固っ苦しい。太陽の畑の場所ぐらい知ってるわよ」

衣玖「……本当ですか?」

天子「だって、太陽の畑って言うくらいだから太陽の方にあるんでしょ!それくらい分かるわよ!」

衣玖「………………」

天子「どうしたのよ?」

衣玖(総領娘様って、こんなにバカでしたっけ……?)


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:43:29.03 ID:AQOT3+v50<>






すぺしゃる企画!

暴露コーナー!!





上条「と、いう訳で!」

浜面「今回のこの企画は更新が何回か遅れたお詫びも含めた、特別企画だぜ!」

上条「作者によるとんでもない事実が次々と暴露されていくぶっちゃけ企画だから、気をつけてくれよ!」

フラン「おーっ!」


三人「「「………………」」」




シャナ「…………」

咲夜「…………」

一方通行「…………」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:44:25.92 ID:AQOT3+v50<>


上条「……いや、あの?お三方も参加してくれませんかー……?」

シャナ「面倒」

咲夜「こういうのは余り……」

一方通行「死ね」

上条「っておい!?一方通行は酷くないかそれ!?」

一方通行「黙れ死ね」

フラン「だめだよアクセラレータ!そんなこと言っちゃぁ!」

上条「おお!よし、フランちゃん言っちゃって下さい!この最近人気急上昇で天狗になってるアルビノ野郎へ!」

フラン「そこはせめて"壊れろ"、ぐらいにしとかなきゃ!」

上条「大して意味変わってない!?」

浜面「というかそこの、シャナ、だっけ?何周りキョロキョロ見渡してんだよ?」

シャナ「別に何でもない」

咲夜「あら?さっき小声で『悠二……』とか言ってなかったかしら?」

シャナ「っ!!?な、なななんで……っ!?」アタフタ

咲夜「瀟酒ですから」

浜面「いや、それ理由になってねぇよ」

シャナ「くっ……"ヴィルヘルミナ"と同じ服着てるのに、嫌な奴……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:45:29.03 ID:AQOT3+v50<>

一方通行「あのォ、俺もォ帰っていいですかァ?というか帰るわメンドクセェ」

フラン「待って待って!こういうのは皆でやらないと!もし勝手に帰るなら……」

一方通行「なンだよ?」




フラン「◯◯◯を"きゅっ"して"どかーん"するからね!」




男三人「「「」」」

シャナ「……◯◯◯ってなに?」

咲夜「あのね、世の中には知らなくていい事も山程あるのよ」

シャナ「?」

フラン「分かったっ!?」

男三人「「「ハイ!」」」

フラン「あれ?なんで浜面と当麻も頷いてるの?顔青いし」

浜面「誰だって恐怖するって……男の象徴爆破されるなんて言われたら……」ダラダラ

一方通行「……とっと始めろ」ダラダラ

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:46:37.58 ID:AQOT3+v50<>

上条「わ、分かった。えーと、まず一つ目は……」


『咲夜さんのPADネタ入れたいと最近死ぬ程思ってる』


咲夜「OK。殺してあげる」シュンッ

浜面「き、消えた!?」

フラン「咲夜凄ーい!」

上条「というか作者馬鹿だろ!?こんなの暴露したら殺されるって分かんだろ普通!?」

シャナ(……というか、ぱっどってなによ)

一方通行「オイ、なンか次血塗れの紙が回ってきたぞ」

上条「生きてたか作者……んじゃ、次」


『そもそもこれ(暴露コーナー)書いてるのはギャグを書きたかっただけだったり』


上条「ダウトォォオオオオオオオオッ!」

浜面「本当にぶっちゃけやがったぁぁぁぁぁぁっ!?」

一方通行「後先全く考えてねェな」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:48:30.11 ID:AQOT3+v50<>

シャナ「ギャグ……?」

フラン「そしてシャナは原作通り、相変わらず無知だねー」

シャナ「……喧嘩売ってるの?」

フラン「クスクス……なに言ってるの?自意識過剰なんじゃない?」

シャナ「余り調子に乗ってるなら……」シャキン

フラン「いいよ。炎の剣でネタが被っちゃうから、シャナには是非消えて欲しいし……」ゴォォォッ

浜面「って、うぉい!?なんだこの灼熱空間は!?」

上条「二人共、すとーっぷ!?」

咲夜「あら、妹様楽しそうね」

一方通行「作者の馬鹿は?」

咲夜「しょうがないから半殺しで済ませてあげたわ」




少女戦闘中…………




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:49:09.99 ID:AQOT3+v50<>


上条「はー、はー……つ、次……」

浜面「なんで十分足らずで、こんなに疲れんだ……?」


『このコーナー、浜面VSフラン戦よりも前に書いてたりする』


上条「だ、か、らぁぁぁぁっ!?」

咲夜「こういうの、よく分からないけど言わない方がいいんじゃないかしら?」

一方通行「作者にンな常識が通じる訳ねェだろ」

フラン「そもそも、この話自体が前代未聞だったりするんでしょ?」

シャナ「確か、普通クロス作品って大体二つしかクロスしないわよね?」

浜面「あぁ。四作品とかになると、作者が纏められなかったり、読者が付いていけなくなったりするのばっかだな。成功して、しかも完結したのなんか超稀だ。……そもそも普通のクロス自体難しいってのに……」

上条「それをウチの作者は四つも……ライトノベル、漫画、同人ゲームってなんだこの組み合わせ!?」

浜面「"リリカルなのは"まで入れてたら、"アニメ"もプラスされてたな。いや、とあるもシャナも東方も(※1)ネギまもアニメあるか」

(※1同人作品で東方アニメがあります)

シャナ「まぁ、今の所ネギま?、の奴らは出てきて無いけどね」

一方通行(……本当は一人出てるンだが、黙っとくか)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:50:12.00 ID:AQOT3+v50<>

上条「じゃあ、次!」


『実は前々回の話、半日で書き上げてたりする』


全員「…………………………」

浜面「……いや、なんと言ったらいいのか……」

フラン「半日で書いたなら、直ぐに投稿すればよかったのに」

シャナ「見直しがあったんじゃないの?」

咲夜「えーと、なになに……『投稿した日の一日前に感想を見てテンションを上げて、後は勢いで書いた』……?」

浜面「典型的なテンションタイプだな……」

上条「『バトルが一番早く書けた』と書いてる……まぁ、咲夜VS一方通行戦はずっと書きたかったらしいしな」

シャナ「……裏、なんか書いてるわよ」

上条「あれ?」

フラン「本当だー。えーとね」


『作中で一番自信が無いのはバトルシーン』


浜面「いや、なんでだぁぁああああああああっ!?」

一方通行「一番早く書き終わるクセに一番自信無ェのか!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:52:20.75 ID:AQOT3+v50<>

咲夜「理由は……『戦いが現実離れし過ぎて表現が難し過ぎる。短い気もする』ですって」

上条「……まぁ、確かに」

浜面「普通の人間は空飛んだりビーム撃ったりビル破壊したりしないもんな」

咲夜「そうかしら?」

フラン「そうかなー?」

上条・浜面「「そうなんです!」」

一方通行「まァ作者も?それなりに喧嘩してたから殴り合いは簡単に書けるとか言ってたなァ」

シャナ「……例えば?」

一方通行「少学生でガラス殴り割って、血塗れの拳で喧嘩したとか」

上条「え?」

一方通行「中学生で初日から目をつけられて毎日五人以上と喧嘩してたとか」

浜面「ちょ」

一方通行「一回、十人近くにバットでリンチされて、逆にバット奪って足折ったとか」

上条「カーット!!カァァァァァァァットォォォォォォッ!!」

浜面「ストップ!ストップ!」

咲夜「妹様、暫くこれを掲げていて貰えますか?」

フラン「?うん、分かった」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:53:29.89 ID:AQOT3+v50<>

シャナ「忙しい連中ね」

一方通行「オイ、オマエら一体何」

フラン「せーのっ









──只今電波が乱れています、暫くお待ち下さい──by雷放送局










上条「しゃあっ!張り切って続き行くぜぇぇえええええええっ!」

浜面「おおおおおおおっ!!」

一方通行「」返事が無い、只の屍の様だ

咲夜「平仮名では無く漢字ね……よいしょ」

フラン「あー!膝枕だ!いいなー」

咲夜「クスッ……妹様は其方の男の方が宜しいのでは?」

フラン「それもそうね!浜面〜」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:54:28.22 ID:AQOT3+v50<>

シャナ「膝枕とか馬鹿らしい」

フラン「ふふっ、どうせ"お子ちゃま"には分かんないでしょ」

シャナ「……何ですって?」

フラン「あれ、何か間違ったこと言ったかな?だって原作でも世間知らずっぷりをあますことなく発揮してたじゃない。キスとかも知らなかったし(笑)」

シャナ「さっきの続きでもしたいの?このチビ」

フラン「大して身長変わらない癖に!」

浜面「落ち着けって!早く次行くぞ!」


『そもそも最初はフランを出すつもりは無かった。浜面も』


上条「はっ?」

浜面「えー、と?吸血殺しとかの質問をされた時に思いついたんだっけ?」

シャナ「突然の思いつきにしては、随分大胆ね」

咲夜「作者馬鹿だから」

フラン「でもそのお陰で私が出れたんだから感謝しないと!最低でも"二部"までは名前すら出る予定無かったらしいし」

シャナ「……ふん」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:55:27.32 ID:AQOT3+v50<>

上条「次ー」


『そもそも東方紅魔郷しかしたこと無い』


浜面「今回最大級の暴露来やがったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

(※2 現在は緋想天も持ってます)

咲夜「作者としての大前提をぶち壊したわね」

上条「いやいや……作者買いに行けよ早く……」

フラン「『店に行くのに一時間かかる上に、暇が無い』だって。その分、えっと、ゆーちーむ?で動画を見てるって」

上条「『紅魔郷の弾幕全部覚えたのに、ルナティッククリア出来ない』どうでもいいわ!」

浜面「『キーボードじゃなくてゲームパッド使いたい』だから知らねーよ!」

咲夜「どうりで紅魔郷キャラの比率が高い訳ね……単純に好みもあるみたいだけど」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:56:44.12 ID:AQOT3+v50<>

一方通行「っ……ぐっ」

咲夜「あっ、起きた」

一方通行「一体何が……って、何で俺は膝枕なンざされてンですかァ!?」

浜面「いいじゃねぇか。役得だろ」

上条「そうそう。美人メイド少女に介護されるとか、役得以外の何ものでもないぞ」

一方通行「元々の原因を作ったのはオマエらだろォが……っ!」

フラン「そうした原因を作ったのは一方通行だけどね!」

シャナ「自業自得よ」

一方通行「……ちっ」

咲夜「舌打ちは酷いわね」

一方通行「うるせェクソメイド」

咲夜「ふふっ……」


上条「さて、上手く纏まった所で今回はこれでお終いだ」

浜面「あぁ、終わりだ……」

シャナ「もうこんなことは二度とごめんよ」

一方通行「全くだ、クソったれ」

フラン「えー、面白かったじゃん。またやろうよー」

咲夜「そうですね、妹様」

上条「そうだなー、次は"一部"が終わった後にでも」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:58:32.22 ID:AQOT3+v50<>


ヒラリ


上条「……って、何か紙が出て来たぞ……」

浜面「まだ何かあったのか?」








『この作品は三〜五部構成になる筈ですが、多分一部で終わります。体力・気力的に』




……………………………

「「「「「「ハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」」」」








END







「「「「「「いや、作者待っ」」」」」」





強制END
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/13(木) 12:59:47.34 ID:AQOT3+v50<>
以上。
あー、誰かゲームとか作ってくれないかなー
ストーリー案しか無いからなぁ


では、続きを書いて来ます。

<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 13:04:56.75 ID:etIDSJG8o<>いや、作者待っ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 14:31:49.01 ID:wuR/9NUDO<>題材も内容も面白いし何より4作品のクロスをやろうという勇気は微笑ましいけど確かにちょっと改行が多いな
もしもしだとちょっと辛い<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 14:55:28.51 ID:+jhM+JZDo<>乙、他作品クロスは大変だろうが頑張ってくれ
>>359
もしもしに合わせてたら逆にPCの奴らにとって読みにくい文章になったりすんだろが、我慢して読むかPC買えよ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 15:48:48.44 ID:wuR/9NUDO<>誰も合わせろなんて言ってないだろアホか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 15:57:15.97 ID:4FEg1YPK0<>PCだけど読みづらいとはいわないがぶっちゃけくどく感じる。
改行使いすぎるとダルくなってテンポ悪いからもうちょっと減らしてくれると読みやすくなると思います。
出先で携帯で見たいときにも見づらいしね。<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/13(木) 22:38:56.22 ID:xGLODwywo<>板移転みたいだから依頼出しましょう

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/01/14(金) 07:37:03.97 ID:kPkX4D6u0<>>>363
ま、まじすか……依頼、出して来ます
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> 真真真・スレッドムーバー<><>移転<>この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 00:37:37.04 ID:63VqlXB70<>待符「>>1マダァー?」<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:16:40.36 ID:XVy08GQz0<>
>>366
書符「全力書き込みEX」

改行の多さについては面目無いです……

今回の投稿はかなりペースが遅くなります、すみません……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:17:25.97 ID:XVy08GQz0<>

















学園都市。
十月十七日。
深夜。
外灯のオレンジ色の光が道を照らし、外を歩き回るのは不良や一部の人間となった世界。

「はぁ、はぁっ!」

夜の闇に紛れ、疾走する少年が居た。
バッシュの底をアスファルトの地面に叩きつけ、彼は体を前へ前へと押しやる。

(あっちか!)

彼は上条当麻。
学園都市の高校一年生。
逆立った黒髪が特徴で、普通の学生服を身に纏っていた。
彼が現在走っているのは、健康のためのマラソンなどでは勿論無い。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:20:12.35 ID:XVy08GQz0<>
「クソ、勝手に行きやがって!」

大声での文句が、道に反響して響く。
しかし人が居ないので、それを迷惑だと注意する者は居ない。
故に彼は、息を荒げながら全力で疾走する。

目指すのは、"白い炎"により覆われた空間。
まるで、街中に突然東京ドームでも出来たかのよう。
しかも明らかな異常なのに、"上条を除いて誰も気がついて無い"というのが恐ろしかった。

"封絶"と言うらしいソレは、顔を上げた上条の目に大きく映る。
まだ、炎の壁に辿り着くまで五百メートルはあった。

「任せてられっかよ……!」

それは、彼女が信用出来ないからでは無く、純粋に心配だから。
何処の世界に、少女一人で戦わせて大丈夫と言える男が居るのか。
例え、少女が異世界からの住人、とんでもない力を持った者だといえど、彼はただ待つなんてことは出来ない。
何故か?


誰かを助けるために戦うのが、上条当麻という人間の軸だからだ。


彼は、走る。
夜闇の中を、一人。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:22:50.02 ID:XVy08GQz0<>





無論のこと、封絶に気がついたのは上条達だけでは無い。
特に封絶は空間に影響するため、見た目的にも感覚的にも非常に目立つ。
気がつかない筈が無い。
彼等は一人残らず、歴戦の孟者なのだから。

「どうする?」
「様子見だな」

一方通行と十六夜咲夜も例外では無く、突如街中に現れた異常現象を適当なビルの屋上で眺めていた。
距離は約二キロ離れているが、白い炎の壁はくっきりと見える。

「範囲が小さい……おびき寄せる餌かもね。中に入った瞬間、不意打ちを狙うつもりかしら?」
「力に限りがあるから勿体ねェとかかもなァ。策を練っているせよ、力を出し惜しみしているにせよ、どっちにしろ三下だ」

一方通行は大雑把な考えを終わらせ、杖を打ち付けた。
コツン、と固い物同士が当たる、無機質な音が屋上に響く。
他に屋上に満ちる音は風音くらいな物で、封絶からはなんの音もしなかった。
白い炎も風に関係無く揺らめくばかりで、燃えるような音はしない。
やはり、見た目通りの炎では無いようだ。
咲夜によるとあの炎は概念的な存在で、実際は炎の姿を取っているただの力でしか無いらしい(一方通行にはさっぱり理解出来ないが)。

「私が一人で行ってくるわ。一人なら時間停止で逃げれるし」
「やけに余裕じゃねェな。なンだ、腹でも壊したかァ」
「壊す訳無いでしょう馬鹿馬鹿しい」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:25:19.10 ID:XVy08GQz0<>
彼からの挑発に、呆れながら彼女は返す。
だがすぐさま、表情を真面目な物に変え、

「封絶が張られる前、三つくらいヤバイのが居たわ」
「ヤバイ?」
「人間じゃないってこと」

咲夜からの言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、『神』。
彼は、あれ以外に本当の意味での人外を見たことが無い。
この世界には本来、そんな異端の存在がゴロゴロ居ないからだ。
渋い顔になった一方通行を見て、咲夜もそれに思い当たったのだろう。
苦笑を交えて訂正する。

「あんな巫山戯た奴じゃないわ。"幻想郷"でも見かけるレベルよ」

その言葉に、内心一方通行は安心した。
少なくとも、『神』のような奴がゴロゴロ出てくることはないと分かったから。
されど安堵を表情には出さず、彼はジッと封絶を見る。

「……」

あの中で何が起こっているのか、外から確かめる術はない。
穴が空くほど見つめたところで、揺らめく炎しか目に焼きつかないだろう。
だとすれば、中に入るしか状況を理解する手段はない。

「……中に入ったらなるべく誰かと接触すンじゃねェぞ。まだ土御門のクソ野郎が言ってた"此方側の協力者"が何処の誰か分からねェンだ。こっちの情報は外見さえも渡さねェつもりで行け」
「私に命令していいのはお嬢様だけよ……まぁ十割同意だから、従うけどね」

そう言って咲夜はため息を吐き、唇を一旦閉じた。
そして、ナイフを一本取り出し、

「さて、種も仕掛けも御座いません──」

ナイフから手を離して、落下させた。
銀色の残照を残しながら、ナイフは吸い込まれるように屋上の床に落下し、尖った鋭利な先端がコンクリート製の床に突き刺さる。<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:31:01.38 ID:XVy08GQz0<>

瞬間、咲夜の姿が掻き消えた。文字通り跡形も無く。

残ったのは、ハラハラ舞い散るトランプ数枚。
ハートとクローバー、スペードとダイヤのカードは強風に吹かれ、宙を舞う。

「……本当に"種も仕掛けも無い"じゃねェか。何処が手品だボケ」

彼の言うとおり、馬鹿げた、手品と言えない物だ。技術も錯覚もクソも無い。
夜空の下で何処へと飛んで行くカードを見て、一方通行は顔を歪めて呆れた。
呆れながら、彼は、




「──で、いきなり現れて何の真似だ?」




フェンス越しに封絶の炎を眺めつつ、一言放った。
カツリ、とそれに答えるがごとく足音が一つ。
おかしい。
屋上に咲夜が居なくなった今、居るのは一方通行だけの筈なのに。
彼は一歩も動いていないのに、足音などが響くのか。
何処ぞの心霊現象を連想させるこの現象に、一方通行は驚かない。
"咲夜が居なくなった瞬間に"気配が一つ、屋上に生まれたことに気がついたからだ。
あの、心臓を抑えたくなるような"圧迫感"も。
だから彼は、其処に居る"誰か"を確認するべく振り返る。
そして、その凶悪な紅い瞳が"誰か"を視界に捉え──


「……あァ?」


──"疑問"に、細められた。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:33:17.20 ID:XVy08GQz0<>






「──んっ?」
「どうした?」

一方、異変に気がついた別の組。
浜面仕上とフランドール・スカーレットは隠れホテルの一室に居た。
もっとも、気がついたのはフランだけだ。ただの人である浜面は気がつかない。
ホテルの窓は幸か不幸か、封絶が張られた場所の真反対に位置しており、部屋に居て封絶を視認することはまず不可能だった。
なので、浜面にはフランが突然壁へ顔を向けただけに見える。

「……ううん、なんでもない」
「そうか、それならいいけど……」

髪を掻く浜面を見てフランは頬を染めつつ、しかし内心ではキチンと思考を働かせていた。

(今のが封絶ってやつだよね……魔力でも霊力でもないや。うーん、突然魔力が生まれたことも気になるし、ここは待機しておいた方がいいかなぁ)

少し気になるけど、と付け加えてから彼女は抱きまくらを握り締めた。
高級なもっふもふ感に、頬も緩む。心も緩む。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:38:35.63 ID:XVy08GQz0<>

「ねぇねぇ浜面。どうしてこれこんなに柔らかいの〜?」
「んー、そりゃ高級品だからじゃねぇの?」
「えー、でもさ私の部屋にあったのも高級品の筈だけど、この枕の方が柔らいよ」

へぇ、と浜面は呟く。
冷蔵庫からビン製の世界一有名な炭酸飲料を取り出し、蓋を開けながら。

「なんだ、フランってお嬢様だったのか」
「うん!お姉さまもだけどね」
「…………お姉さま?」
「レミリアお姉さま。私と同じ吸血鬼の」
「………………」

ビンを口元に運びかけ、ビタッと止まる浜面。
ベッドに腰掛けたまま、フランは首を傾げる。
一体どうしたの?という疑問を素直なジェスチャーで伝えられたにもかかわらず、彼は固まったままだった。

(お、お姉さま?お姉さま?吸血鬼のお姉さま?そ、そそそんな人が……)

浜面の脳内には真っ黒な角を二本生やし、黒目と白目が反転した恐ろしい目と形相を浮かべ、その口からは血と長い犬歯を見せ、紅い血に染まったような槍を構える吸血鬼の姿が浮かんだ。
残念ながら槍しかあっていないのだが、威圧感は変わらないので問題無い。

(ややややべぇぇええええええっ!フ、フランを傷つけたとか朝のこととかバレたら……)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:42:16.12 ID:XVy08GQz0<>

脳内シュミレートで「妹をよくも傷物にしてくれたなワレェ!」「ち、違うんです!本当なんです!」と槍でぶっ刺され死亡してから浜面は悶えだした。
傍目からは急に彼が顔を抑えて、膝を震わしているようにしか見えない。

正直、キモいと誰もが言いたくなる状態だった。

「どうしよう……どうしよう……」
「あっははは!やっぱり浜面って面白ーい!」

ブツブツ呟く彼を、指をさして問題の原点たる彼女は笑っていた。


少なくとも、今ここは間違い無く平和であった。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:43:10.10 ID:XVy08GQz0<>







「……」

封絶の中に降り立ったシャナの表情は、真剣そのもの。
鋭さを感じる視線を辺りへと走らせる。
灼眼に映るのは何時も通りの、異常な風景。
因果を切り取られ、世界から隔離されたこの空間では、全てが止まる。
人も車もプロペラも、全てがまるで映画のワンシーンを抜き出したように。
なので、彼女が見たかった物はその光景では無かった。

「居ない」
「あぁ、だが"あ奴"は必ず居る筈だ。俄かには信じ難いが」
「うん」

アラストールと会話してから、改めてしっかりと刀を構える。
この世界に来てから、彼女達は存在の力を感じることが難しくなっていた。
異世界のせいか、もっと別の何かのせいか。
とにかく、自分が放つ存在の力"以外"の存在の力……つまり"紅世の徒"やフレイムヘイズが放つ人外独特の雰囲気を感じ取れなくなったのだ。
しかし、今は確かに感じる。
近くに、"紅世の徒"が居るのを。
それは確信だった。気配や雰囲気なども関係無かった。

何故ならば、彼女達はこの"炎の色"を見たことがあるから。

「居るんでしょ?出て来なさい」

愛刀『贄殿遮那』を強く握り締め、シャナは喉を震わせ、叫んだ。




「"狩人"フリアグネ!」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:47:36.02 ID:XVy08GQz0<>

「──やれやれ、折角の再開の舞台で叫ぶなんて無礼なままだね、おちびちゃん」

ゆらりと、男が一人出現する。
藍色の短髪に、何故か白いタキシードを身にまとう優男。
ただ、"宙に浮かんでいる"ことと"周囲を漂う白い布"さえ無ければ、何処にでも居そうな美男子だった。
──見た目だけは。


彼は、シャナの"かつて"の敵、"狩人"フリアグネ。


なよなよした外見とは裏腹に、"紅世の王"としての力と大量の宝具を使って戦い、幾人ものフレイムヘイズを屠って来た異能の存在。

シャナに討滅された筈の、本来なら居てはならない"死人"だ。

「お前は我が滅した筈だ。何故ここに居る?」
「そう簡単に答えるとでも?」

シャナの胸からのアラストールの問いかけに、フリアグネは馬鹿にするように返す。
経緯は長くなるが、フリアグネはアラストール自身の炎……"天罰神"直々の聖なる断罪の炎をまともにくらい、世界から消え去ったのだ。

断罪の炎とは、ただの炎では無い。
概念的にも、物質的にも、全ての存在を滅することが出来る、最強と称して過言ではない、灼熱の焔。
閻魔が魂という物を裁くことが出来るように、アラストールには相手を消滅させる断罪の炎が使えるのである。
正に、天罰。
だからこそ、おかしい。
何故、フリアグネは今現在ここに、しかも異世界に居るのか。
シャナ達は、既に答えを知っていた。

「嘘だと思ったけど、どうやら全部本当みたいね」
「まさか、本当に死んだ者を蘇らせるとは……」
「おや、知っていたのかい」

そう、アレイスターは言っていた。
『神』は死人を生き返させると。
正直嘘だろうと思ったが、こうして現実が存在する以上、認めなければならない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:51:28.56 ID:XVy08GQz0<>


アレイスターからの話は、全て真実だと。


「ふふっ、正確には生き返させたのでは無く"フリアグネという存在をまた新たに作った"と言っていたがね」

滑らかにすらすらとフリアグネは語る。
その得られた情報をゆっくり吟味しながら、シャナは上を見上げて嘲るように笑う。

「ふん。いいの?そんなこと言っちゃって」
「知られてるなら別に構わないさ。この程度のことであの『始まりの魔法使い』がどうなることもないだろうしね」
「……?」

『始まりの魔法使い』とは何だろうか。
シャナは考える。
話の流れからして『神』のことだろう。
しかし、『始まりの魔法使い』。
その単語から、何か別の物を感じる。
"始まりの魔法使い"。
もっと、大きな意味で捉え直せば──

「最も」
「っ!」
「来るぞ!」

思考を断ち切り、アラストールの警戒の声を耳に入れ存在の力を練る。
フリアグネは右手を上へと差し伸べた。
高く高く上げ、そして、
白い手袋で包まれた指を鳴らす。

「ここで死ぬ君達に言っても、何も問題無いだろう?」

パチン、というその軽快な音とともにシャナは跳んだ。
足裏に紅蓮の爆発を引き起こし、その反動を持ってして突撃。
狙いは勿論、頭上に浮かんでいたフリアグネ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:54:27.47 ID:XVy08GQz0<>

「はぁぁぁぁっ!!」

刀身を前へと突き出し、鋭い刺突を放つ。
霞む銀のそれを、フリアグネは微笑をしながら顔を傾け、かわした。
空気を引き裂いて刀は顔の真横を突き抜ける。

「だぁっ!」
「おっと」

刹那、刀身に一気に炎が奔った。
火花とともに灼熱の炎が巻き起こり、一瞬で炎の大太刀を形成する。
長さ十メートルを越す炎の刃をシャナは躊躇無く振り抜く。
空気を裂くのではなく、焼き尽くす独特の効果音とともにフリアグネへと叩き込まれるが、またもや宙を舞い、かわされた。
クルクル回転しながら踊るように地面へ着地した彼へ、シャナは大太刀を振り下ろそうとしたが、

「弾けろ!」
「避けろ!」
「──っ!」

周囲に人形が数体、浮いているのに気がついた。
どれも小さく、部屋のベッドなどに飾られてそうな人形。
契約者の言うがままに彼女は追撃を止め、翼を生やし、飛ぶ。
周囲を取り囲んでいた四体の人形のうち、一体を無造作に切り捨て、空いた空間へと飛び込んだ。

その直後、轟音をたてて人形が内側から炸裂する。

白色の爆炎が、シャナの浮かんでいた空間を中心に広がった。さながら、花びらのごとく。
空気が震え、建物が悲鳴を上げる。

「ぐっ!?」

轟!と吹きすさぶ風を背中に受け、加速しながらシャナは大地へ落着した。
着地の衝撃に、無惨にもアスファルトがひび割れる。
背中に怖気を誘う音が響いてから、轟風が大地を叩く。
ビリビリと、細かい振動を感じながら、シャナは視線を動かした。
彼女から十メートル離れた場所。
地面から僅か十センチ程浮かんでいるフリアグネの手には、ガラス製の装飾がなされたハンドベルが握られていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 16:59:36.81 ID:XVy08GQz0<>

「"ダンスパーティ"……!」

またもやあってはならないものを見て、彼女の表情に苦い物が浮かぶ。

「君にとっては懐かしいだろう?僕にとっては、つい数日前の感覚なんだけどね」

"狩人"としての、コレクターとしての笑みをフリアグネは浮かべ、シャナへとそのハンドベルを見せつける。
ダンスパーティ。
"燐子"と呼ばれる、徒が作り出す下僕を爆弾へ変えるという"宝具"だ。

「同じ"宝具"が、二つだと?」

アラストールの疑問の声はもっともで、本来宝具とは一つだけしか存在しないものなのだ。
人間と徒、双方の願いによって生まれるという紅世の宝は"極一部の例外"を除き、必然的に一つしか存在しえない。
偶然によって生まれる可能性が高い物で、物によっては戦力差をあっさりひっくり返すような強力な宝具もある。
そしてフリアグネは、大量の宝具のコレクターであり使い手だった。
ただ、ダンスパーティはシャナがとある事情から真っ二つに破壊したため、あれは二つ目か、もしくは……

「これも作られたのさ。宝具があんなに簡単に作られるのを見ると、笑ってしまったよ。自分達がどれだけちっぽけな存在かがよく分かる」

シャナは自分の思考による答えが当たっていたことを知り、そして周囲を見渡す。
ダンスパーティの効力を考えるならば、更に人形の形をした燐子が居る筈だからだ。
予感は当たる。

但し、人形の数は百を越していた。

「──」

視界を埋め尽くす、マネキンの山。
様々なポーズ、服装の燐子達が建物の影からぞろぞろと湧いて来る。
不気味な程揃った足音を響かせ、シャナを包囲して行くその姿はまるで軍隊。
白い、物言わぬ人形達を見て、

「はっ、真名を"狩人"から"人形遣い"にでも変えたら?」
「生憎と、既に異世界に居るらしい。それに"狩人"として相応しく無いというのは理解しているさ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:00:13.58 ID:XVy08GQz0<>

シャナの軽口にも、フリアグネは苦笑で返す。
その態度に内心彼女は苦い物を感じた。
どうも、戦いの流れが悪い。
相手に完璧に流れが行ってしまっている。
だが相手が強いというよりは、寧ろ──


「しかし、君何処か鈍いねぇ。"あのミステス"も居ないみたいだし、どうしたのやら」
「っ」


刀が、震えた。
極僅かに、剣先が宙で揺らぐ。
ザリッ、と足下で何かが音をたてた。

「……お前は」

動揺を誤魔化すため、シャナは人形達の向こうに立つ彼へ問いかける。
その姿は、フレイムヘイズの筈だ。
アラストールは、特に何も言わなかった。

「なんでここに来て、こんなことをしているの?」

答えが返って来るか、否か。
彼女はまず間違い無く答えるだろうと思った。
フリアグネのお喋り癖(他の"紅世の徒"にも言えるが)は、一度戦ったこともあり、よく知っていた。
そして予想通り、フリアグネは勝手に、自分に酔ったように語り出す。

「そうだね……『始まりの魔法使い』のご機嫌とり、といった所かな?復讐というのもあるけど」
「……"あの燐子"を、己のように生き返させて貰う気か?」
「その通り。あの力は本物だ。間違い無く、生き返らせてくれる。"そのための条件"も、今叶えられる……」

自分を殺した紅蓮の魔神の言葉にも、フリアグネは淀み無く返して来た。

(……)

シャナは事実を噛み締める。
彼のような"紅世の王"が、"下手に出なければならない"ような敵の存在を。
ギシッと、噛み締めて、飲み込んで、


己を封じ、フレイムヘイズとして、動く。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:01:07.02 ID:XVy08GQz0<>


「……"紅世の王"ともあろう者が、随分弱気なのね」
「否定はしないさ。君達も"アレ"の前に立てば、僕の気持ちが理解出来る……もっとも」

スッ、と白い純白の腕が真上へと振り上げられ、

「──ここで君達は殺すけど」

シャナに向かって、真っ直ぐに振り下ろされた。
瞬間、彼女を包囲していた人形達が一斉に動き出す。
まるで糸で繋がっているかのように揃った動きで。
百体ものマネキンが己に迫って来る、その不気味で危機感を覚える光景に対して。

「……」

シャナは灼眼を細め、屈む。
膝を曲げ、力を溜め込んだ上で、

「はぁっ!」

跳躍。
足裏から紅蓮の大爆発が起こり、衝撃とともに爆風を撒き散らす。
本来は敵を滅するための爆発は、彼女をまるで銃弾のように弾き出した。
刀を前に突き出しながら、シャナは地面スレスレを燕のように飛ぶ。

「ふん」

真正面からの突撃。
馬鹿正直な攻撃に、フリアグネは僅かに後ろへと下がった。
下がった理由は、向かって来るシャナから逃げるためのものでは無く、人形の壁から離れるため。
壁の隙間が無くなり、人形によって敵の姿を捉えられないが、彼は特に気にしなかった。
どのみち、爆発させてしまえば全て同じなのだから。
ハンドベルを、彼は振りかぶる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:02:52.72 ID:XVy08GQz0<>

チリーン、と。
静かな音色が戦場を、

「ガァッ!?」

かけなかった。
フリアグネは勢いよく後方へと紙のように吹き飛ぶ。
彼は見た。
人形達の壁を一瞬で突き破った、紅蓮の腕を。
それは巨大で、軽く十メートルはある破壊を撒き散らす焔。
炎によって構成された、巨人の拳。
存在の力によって象られたそれが、ダンスパーティを鳴らそうとした彼を"殴り飛ばした"のだ。
つまり、先程の突撃は囮。
突撃によってフリアグネが距離を取り、自分の姿を捉えられなくなった所で、"彼の知識に無い"力による一撃で人形達を薙ぎ払ったのだ。

(炎の形をしているだけの、物質化……!あのフレイムヘイズ、炎を上手く使って……)

宙を跳ね飛びながらフリアグネは、自分の知るフレイムヘイズとの違いに思考を働かせる。

「──逃さない!」

そしてシャナは、そんな隙を見逃す程甘くは無い。
炎髪を後方に靡かせ、突進する。
地面に力を入れ過ぎたせいで、綺麗に整備されたアスファルトにビキリと亀裂が走る。
僅かに、灰色の砂煙が湧いた。
大通りだったようで、片側二車線の広大な道を彼女は駆ける。
黒衣が夜風を切り払い、音をたて、彼女は構わずに敵へ飛んだ。

「はぁぁぁぁっ!」
「っ!」

フリアグネが態勢を立て直し、着地した瞬間。
シャナは上段から白銀の刃を真っ直ぐに振り下ろしていた。
フレイムヘイズとしての、怪物としての強力な力を込められた刀は、彼の端整な顔へ音すらたてずに迫り、
ガキンッ!!と、防がれる。

「……っ?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:03:37.55 ID:XVy08GQz0<>

防がれてもなお押し込む彼女は、疑念に目を凝らす。
疑念は防がれたことにでは無かった。
問題は、防がれた物。
フリアグネは片手に何かを持ち、斬撃を防いでいる。
左手に握られたそれは、銃だった。
一瞬、かつての"フレイムヘイズ殺しの銃"が頭を過るが、どうも違う。
オートマチック式、現代で良く見るタイプの銃。
黒い鋼で出来ているようで、長大な銃身は白銀の刃とはめっきり対象的だった。

「くっ……?」
「中々の業物だろう?」

銃身へ刃を押し込むが、傷さえもつかない。
どう考えても普通では無かった。
『贄殿遮那』は、真の業物だ。
鍛えられた鋼でさえ、バターのように切り裂き、あらゆる自在法の干渉を受け付けない、一流の剣士たる彼女に相応しき刀。
だからこそ、そんな『贄殿遮那』でさえ切れないこの銃は、明らかに危険な物だ。

「ふっ!」

やがて鍔迫り合いに意味はないとシャナは感じ、刀を叩きつけて反動で後ろへと下がる。
小柄な体は宙を綺麗に一回転して、子猫のように路面へと着地した。

「異世界でこれは"七色の銃(イリス・トルメントゥム)"と呼ばれているそうだ」

望んでもいないのに、彼は一人語り始めた。
余裕溢れる姿に、シャナはじりっ、と背中に嫌な感覚が走るのを感じる。

「元々は異世界の武器でね、余り君に対しては使えないと思ってたけど……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:04:13.90 ID:XVy08GQz0<>

そこまで言って、フリアグネはシャナへ銃口を向けた。
銃口を向けられた瞬間に、彼女は横へ一歩ステップを踏む。
一拍置かずに、炎髪から舞う火の粉を弾丸"らしきもの"が貫いた。
消え去った火の粉を横目に、シャナは訝る。
今、弾丸に違和感を感じた。
ただの鉄の塊でも無く、存在の力の塊でも無かった。
まるで、別の"何か"のような……

(今のは……?)
「驚いたかい?"魔力で構成された弾丸"なんて始めて見るだろう?」

困惑する彼女へ態々解説してから、フリアグネは気軽にトリガーを引き絞る。
ガンガンガンガンガンガンッ!!と、火薬が弾けるのと似た炸裂音が鳴り響き、銃口から弾丸が発射された。
標的を貫かんと弾丸は高速で彼女に迫るが、残念ながら既にシャナはもう二歩横に移動している。
空を裂き、弾丸は何処へと消えた。

(……地面にも、壁にも何かに当たった音がしない)
(生命体にしか当たらぬ攻撃なのだろう。気よ付けろ。何か特別な力があるやもしれん)
(うん)

確かにこの状況で、そんな魔力製の弾丸を飛ばすだけの銃を持ち出すとは考えにくい。
何らかの、特別な効果か力があると考えるべきだ。

そして、シャナは次の一手を打つべく刀を握り直した、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:04:51.08 ID:XVy08GQz0<>




瞬間。




「ぶわっぷっ!?」
「!?」

シャナでもフリアグネでもアラストールでも無い、第三者の声が響いた。
シャナの対面、フリアグネの更に向こう。
何時の間にか近付いていた封絶の壁、白い陽炎の壁を突き破り現れた第三者。
逆立った黒髪に、高校の制服。
知っている、少年だった。

(上条、当麻!)

マズイ、とシャナは"悠長"に考えてしまった。
その間に、封絶内に入って来た彼を捉える双眼がある。

「……へぇ。この世界の住人かい?」

"狩人"フリアグネ。
異世界から舞い降りし、"紅世の王"。
巨大なる存在は、今、ちっぽけな高校一年生の上条を獲物を捉えた目で見ていた。
不気味な視線を受け、しかし上条は逃げ出さない。
真っ直ぐに、ただ進む。
拳を、握り締め。

「テメェが、この変な空間を張りやがったのか」
「っ馬鹿!」

シャナは罵倒してから路面を蹴り、駆け出す。
上条当麻は確かに普通の人間よりは場馴れしている感じがする上、不思議な右手も持っている。
だが、それでも彼は人間だ。
彼女が思いっきり殴り飛ばせばそれだけで脳みそか内臓をぶちまけて死ぬ、そんな脆弱な人間だ。

「待て!」

そして、焦ったのがいけなかった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:06:45.57 ID:XVy08GQz0<>

「っ!」

アラストールの普段に無い、切迫した声に、彼女は反射的に足を無理矢理止めた。
直後、彼女の走行コースへ白い無機質なマネキンが着弾する。
ベキョリ!と余りの衝撃に自分の体が壊れているのにも構わず、砕けた足で燐子は飛びかかって来た。

内側から、白い閃光を走らせながら。

咄嗟の判断で、シャナは夜笠を幾重にも体に巻付け、せめてもの防御を取る。
チリン、と。音色が一つ響き、

白い爆炎と轟音が、至近距離で彼女の黒衣に包まれた体を叩いた。

当然、ビルを震えさせる程の爆発を至近で受けたシャナはボールのように吹き飛び、地面を転がって行く。

「あぐぅっ!?」
「シャナ!?」

爆風に逆らいながら、上条は必死にシャナの姿を目で捉える。
突然人形が爆発したが、彼女はどうやら生きているようだった。
砂埃のせいで視界は所々霞んでいるが、シャナであろう黒い塊が動いているのが見える。
上条は一瞬その姿を見てホッとし、

「見た目は普通だけど、何か特別な力でも持っているのかな?」
「うわっ!?」

仰天した。
気が付けば、目と鼻の先までフリアグネが迫っていたのだ。
彼は状況を全て把握していない(フリアグネのことを何一つ分かっていない)が、少なくとも、この白いタキシードが映える美男子が、敵であることは分かる。
右手に持つハンドベルはともかく、左手に持つ大型の銃はその姿に圧倒的なまでに普通で無いと指し示していた。
銃の先から花束が飛び出ます、なんてパーティグッズにも見えない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:08:04.64 ID:XVy08GQz0<>

「……っ、逃げなさい!」

上条に迫るフリアグネの姿を見て、シャナは吠える。
黒衣は破れてボロボロで、体には擦り傷や煤に塗れた部分が見えた。
地面になんとか指を食い込ませ、震える体から、力を振り絞る。

(何時もの……力が……)

おかしい、と思う。
普段の自分なら、こんな風に不意打ちの一つや二つで倒れ伏すなどということはない筈だ。
あんな不意打ちなど、喰らわない筈だ。
何で、自分は今、こんなにも無様な姿を晒している?

「っ、ぐぐぅ……」

内なる力を練り、早く動けと、体を急かす。
しかし、誰がどう見ても爆発によってかなり距離が開いたこの状況で、シャナが上条とフリアグネの間に割り込むのは不可能だと分かる。
無論、彼女だって分かっている。
だからこそシャナは逃げろと叫んだのだ。

無駄だと、知りながらも。

「一応君も殺しておくかな。この世界じゃ人間を存在の力に変えるのは無理だしね」

フリアグネは、左手を動かす。
"七色の銃"のトリガーに指をかけ、上条の額に押し付けようと銃身が下から上へ動き、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:09:34.24 ID:XVy08GQz0<>

「くっ!?」

"彼が左手を動かすよりも前に"上条は右手を動かして、銃とフリアグネの左手を払う。
その動きは、彼がこの街で生きて行くうちに身についてしまった、銃への対処方法だった。
撃たれる前に、弾き飛ばす。
銃への素手による対処としては実に正しい動きだ。

しかし、それが、

「……なっ?」
「……へっ?」
「……!?」

予想以上の成果を発揮した。
起こったこと、ありのままに述べよう。






フリアグネの左手が"消滅"した。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:10:45.54 ID:XVy08GQz0<>

音もなく、特に目立った現象も無く。左手の肘から先が消え、断面から存在の力が吹き出ることも無い。
まるで世界から抜け落ちたかのような、消滅。
銃も失われており、彼の腕と同じように消えたのだと、そこにいる誰もが直感で理解した。

「……?、??」

フリアグネは半ば茫然となる。
自分の左手が、『神』が直々に創造せし銃が、呆気なく消え去ったことに全く思考が追いつかない。
痛みも無く、肘から先が消えた左手を直接目で見ても、まだ実感が湧かない。

(どういうことだ。今のは、なんだ。なんの攻撃だ。一体、一体何だ。この"僕の体を構成する存在の力を直接消し去る"などという、力は!?)

消えた理論は分かっても、原因が分からない。
そんな意味の分からない不可解な状況に落とし込まれても発狂しなかったのは、"紅世の王"だからか、それとも一度死んでいるからか。
正気と狂気の境界を彷徨い、フリアグネが導き出した答えは、

「殺す!」

一刻も速く、この得体のしれない少年を殺すことだった。
跡形も無く消し去ろうと、ダンスパーティーを何処かに仕舞い、素手になった右手に膨大な炎が集まる。
白い炎は凝縮され、太陽の如き白光を生み出した。

「──っ」

僅かに上条は反応が遅れてしまった。
当たり前だろう。
今まで彼は様々な者達と戦って来た。
幾つもの異能の力をその右手で打ち消して来た、
数々の敵を殴り飛ばして来た、
が、

触れただけで、人の形をしたものが消えるなんてことは、一度たりとも無かった。
故に、誰かを直接殺したことも無かった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:11:50.51 ID:XVy08GQz0<>

それは、ただの一学生として当然の反応で、
今においては、余りにも致命的な行為だった。

「はぁぁっ!」

シャナはそんな固まった上条に迫る炎を止めるべく、走る。
体を無理矢理動かし、刀を握り締めて。
一歩、二歩──
三歩目を出す前に、空から燐子が降って来て前を塞いだ。
鋼の古い西洋剣を振り被るマネキン型燐子を、彼女は数瞬おかずに切り捨て、更に前に出る。
しかし燐子の数が多過ぎた。
休む間もなく、次々と後ろから、前から、燐子達が現れる。

(一体何処に……まさか、"封絶の外に待機していた"の!?)

足元からすくい上げるような斬撃を跳んで躱し、蹴りでデフォルトされた胴体を吹き飛ばす。
幾らなんでも、先程の人形の軍勢といい、燐子が多過ぎる。
燐子は徒に比べれば存在の気配が薄いとはいえ、これだけいればそれなりに感じる筈だ。
だがそれも、封絶内では無く外に散らばって待機していたというのならば納得が行く。
封絶の中と外では気配の察知が難しいためだ。
恐らく、シャナが封絶内に飛び込んだ瞬間、燐子達を外に放ち待機させていたのだろう。

(封絶が小さかったのは、そのため……!)

まんまと、"狩り場"へ誘い込まれた自分に途方も無い怒りが湧く。
何故だ。
何故自分は、こんなにも弱いんだ。
もっと、もっと自分は"強かった筈"だ。

切り捨てても切り捨てても、人形達は次々現れ、前に進めない。
幸いなのは、フリアグネがダンスパーティーを使えないことか。
しかし、その代わりに一人の少年が死のうとしている。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:13:23.12 ID:XVy08GQz0<>

(駄目)

紅蓮の大太刀で一気に前方の燐子達を焼き尽くし、道を開く。
黒焦げの路面を踏みしめ、シャナは右手に炎を集中した。
炎弾。
フレイムヘイズ、徒、双方が使えるとても簡単な自在法。
効果は文字通り、炎の弾丸を放つ。

だが、間に合わない。
フリアグネの炎弾が上条にぶつかる方が、絶対的に速い。

(駄目!)

駄目だ。
あの少年を殺されては、駄目だ。
あの少年を守れなければ、自分の最後の何かが壊れてしまう。
自分勝手で、巫山戯た力を持っている少年。
だけど、インデックスにとってはとてもとても大事な人間なのだ。
恐らく、自分にとっての"悠二"のような

(────)

そこまで考えて、
ガクン、と右膝から力が抜ける。

(──えっ、あ)

一瞬のことで、彼女は直ぐに態勢を立て直したが、もう無駄だと知った。
今の時間のロスにより、確実に間に合わない。
0.1%たりとも、あの少年を助ける確率は、もう無い。

「っ、あ、あ、ああああああああああああああっ!」

シャナは叫んだ。
普段の可愛らしい、凛とした声が嘘のような獣の叫び。
叫びは封絶内を駆け巡り、しかし現実は変わらない。

彼女の必死の努力も虚しく、

フリアグネの右手にある炎が上条に叩きつけられ──


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:14:48.08 ID:XVy08GQz0<>




(ま、ずい……!)

僅かな思考の停滞から復活した上条が見たのは、眼前に迫る白色の焔。
自然界ではまずあり得ない類いの炎は、彼を焼き付くそうと迫る。
死へ迫っているからだろうか。視界に映る全てが、とてもゆっくりに見え、肌が泡立つような寒気が駆け巡り、顔が青ざめた。

(やば、まに、あわねぇ……!)

表情を狂笑に歪めたフリアグネの顔と、肩越しに見える遥か後方でシャナが絶叫している姿が見える。
上条の死では"ない"何かに対し、悲観するそのボロボロの姿。
その姿を見て、

(……勝手に来て、このざまかよ……っ!)

自分の馬鹿らしさに、腹が立った。

だったら、最後まで抵抗してやる。
男の意地とも言えるその感情だけで、上条当麻は動いた。
右手を炎弾へぶつけようと、動かす。
スローモーションの感覚の中で右手の動きはとても遅く、間に合わないと分かる。
しかし、それでも最後まで彼は──


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:15:57.51 ID:XVy08GQz0<>




ヒュボッ




そんな音が一つ。

突然の、全く予想外の現象が起きる。


上条の額まで迫った白色の炎弾が、まるで蝋燭の火のように掻き消えた。

「な、に──!?」

カッ!と、音が更にもう一つ。
全員の目線が其方へと向かった。
音源は壁。
正確には、壁に刺さっている"銀のナイフ"だった。

「えっ──」

上条は、何かを紡ごうと唇を動かす。
が、その前に。
音もなく、壁に刺さったナイフが"消え去った"。

「なっ──」

いきなりの現象に、シャナの意味無き言葉が発せられる。
が、その前に。
ザシュザシュザシュッッ!!と、連続で何かの音が木霊する。
彼女が慌てて視線を動かすと、まだ生き残っていた燐子達が白炎を上げながら崩れ落ちて行く光景。
頭部を貫いたのであろうナイフが、アスファルトへ突き刺さっていた。

「──」

次は、誰が声を発しようとしたのか。
声として誰かが空気を震わせる前に、ナイフは煙のように消え去っていた。
燐子の骸と壁や地面に空いた穴が無ければ、白昼夢と勘違いしてもおかしくないような、一瞬の光景。

「……な、にが?」

暫し経ち、漸くシャナはそう呟いた。
勿論、返答はない。
この場に居る誰もが、今起きた現象を推測はともかく、説明など出来なかった。
場は自然と膠着状態になり、音の無い封絶内で、ただ時間のみが過ぎて行く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:17:10.96 ID:XVy08GQz0<>

「……よくわかんねーけど、助かった?」
「……そのようだな。全く、悪運の強い」

上条の頭を掻きながらの言葉に返したのは、呆れたアラストールの声。
何処か安心が篭った声に、上条も自然と苦笑。恐怖の名残か、僅かに頬を冷や汗が通過していた。

(……くっ)

状況は不利。
フリアグネは、そう判断した。
訳の分からない触れただけで己の存在を消される少年に、調子が悪いとはいえ強者たるフレイムヘイズ。
二対一。
この不利な状況は、彼にとって気にいらなかった。
折角狩り場を用意したというのに、これでは意味が無い。

「──討滅する」

現状を、シャナも理解した。
刀に煌く紅蓮を乗せ、背中に紅き双翼を展開する。
上空へと火の粉を背に引きながら舞い上がり、さながら流星のごとく、
つい先日上条にしたのと同じように、高所からの高速刺突を放った。
キュンッ、と空気の壁を貫いて、シャナは大地へと、大地に立つフリアグネへと迫る。

「おわわっ!?」
「小賢しい……!」

上条は空から迫り来るシャナの姿に、かつて自分にされたことを重ね慌てふためきながら飛び下がり、フリアグネはその生意気にも真っ向勝負を仕掛けてきた少女へと受けて立った。
フリアグネはその場から動かず、何やら手元を探っている。
また、なんらかの武具を出すつもりか。
シャナはそう考えてから、しかし止まらない。
もっといい方法もあった気がするが、ここまで来た以上後には引けなかった。

「はぁぁあああああああああああああっ!」

そして、激突。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:18:00.67 ID:XVy08GQz0<>


但しフリアグネにでは無く、幾重にも編まれた半透明の"魔法陣"にだ。


「っ!」

スパークを上げながらも数枚は切り裂いた。が、力が足りなかったのか、それとも今まで切ったことが無いものだからか。
魔法陣全てを貫けずに、強引にシャナは弾かれた。
空中を舞い、回転する光景の中で彼女はその姿を見る。

そいつは、突然現れた。
フリアグネとシャナが激突する筈だった地点へと、いきなり。

(……誰だ?)

少し離れている上条には、その人物がまるで闇の中から出て来たように見えた。
そう思うのも無理は無い。
なにせ、全身を"真っ黒なローブ"で覆っており、何故だか分からないが"仮面"まで付けていた。
表現するならば、悪の魔法使いという言葉がピッタリなその姿。
割り込まれたフリアグネは、チッと舌打ち。
明らかに不機嫌そうだった。

「君か。一体何の用だい?」
「危険そうだったのでな、手を貸したまでだ。条件を揃えるのにとやかく言うつもりは無いが、少しは行動を謹んだらどうだ?」
「はっ、"人形"の癖によく言う」
「"お前も同じ"だろう」

会話の内容からすると、仲間なのか。
ただ、余り仲が良いとは言えないようだ。

「……誰?」
「名乗るつもりは無い」

シャナは問いかけを拒絶され、少し警戒を強める。
下段に刀を構え、重心を少し前に傾けながら敵の二人を見る。
二対二だが、実質二対一と言って過言でない。
しかも上条はシャナとは敵を挟んで対面に居る。
この状況は、どう考えても不利。
今襲われたら、何処まで対処出来るのか。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:19:13.60 ID:XVy08GQz0<>
「……引くぞ」
「はいはい……」

が、警戒する二人を他所に、フリアグネ達は呆気なく撤退した。
足下から浮かび上がった闇の塊が彼等を包み、凝縮してゆく。
渦のように逆巻き、だんだんと小さくなって、消えた。
後には何も無く、戦場が残るのみ。
僅か二秒の出来事。

「……なんだったんだ?」
「……」

上条は緊張したまま敵の行動に疑問を持ち、シャナは無言で刀を納める。
そんな二人にも構わず、
維持する者を失った封絶は掻き消え、中の世界は外の因果に合わせられ、再生された。

「お、おお……」

ビデオの逆再生のような圧巻の光景に、自然と口から呻きのような声が漏れる。
ひしゃげた外灯が真っ直ぐになり、穴が空いた地面は破片が合わさり補修され、焦げ目は全て消え去る。
明らかに現実離れした、異常の光景。
そんな上条とはうって変わって、シャナは封絶が修復されて行く光景を、灼眼で見た。


一体、何を求めて自分は視線を動かしたのか、その時の彼女には、分からなかった。







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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:20:11.88 ID:XVy08GQz0<>




「……ふぅ」

十六夜咲夜は息を一つ吐く。
彼女は今、ビルの屋上から屋上へ飛び移動するという超人技を平然と行っていた。
夜の風景、冷たい夜風の中を突き進むその白銀の姿は、とてつもなく幻想的で美しい。

「全く、しっかりして欲しいものね」

手元で"銀のナイフ"をカードのように揃えながら、彼女は文句を紡ぐ。
先程まで咲夜はあの封絶内に居たのだ。
誰にも、それこそ封絶を張ったフリアグネにさえ気づかれ無かったのは、彼女の気配絶ちがとんでもないレベルだということを示している。

(……あの紅い髪の子はともかく、あの男……)

触れただけで敵を消し去った、あの力。
咲夜にはさっぱり正体が分からない。
彼女の全感覚が、彼の手からなんの力も感じず、特に武器なども無かった。
ただの、ごく普通の人間に、ごく普通の右手。
なのに、あの巨大なる違和感を撒き散らしていた存在の腕を、あっさり消し去った。
決して、フリアグネが油断していた訳ではない。
ただ、あの力がおかしいのだ。

(第一、本人も驚いていたし、"本当に"謎の力か)

ナイフを空間を操って仕舞い、果ての無い考察を止める。
答えは、何時か接触しない限り出ないだろう。


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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:20:49.22 ID:XVy08GQz0<>


だが、だがあの力ならあの化物を──


「よっと」

スタッ、と。
軽やかに華麗に、彼女は降り立つ。
白い片足をコンクリートの地面に叩きつけ、微動だにせずに立った。
とあるビルの屋上。
普段なら誰もいないそこに、人影が一つ。

「……よォ」
「どうしたの?」

人──一方通行から投げかけられた少し困惑が混じった声に、咲夜は素早く反応した。
辺りに視線を張り巡らせ、何も、誰もいないことを確認する。

「……嫌、なンでもねェ」
「?」

変だなと思いつつ、しかし咲夜は特に踏み込まなかった。
彼が何でもないと言うのなら、何でも無かったのだろう。
そう結論付け、彼女は自分が見聞きした内容を話始める。




古びたフェンスの編み目が一つ、ちぎれていた。







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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:21:26.32 ID:XVy08GQz0<>






「……ごめんなさい」
「全く……」

上条当麻は意気消沈して歩いていた。
夜の闇の中、外灯の明かりと建物から僅かに漏れ出している光のみが照らす意外と明るい世界。
トボトボと歩く彼の傍を、此方はしっかりした歩みを進める少女、シャナ。
彼女は先程の戦闘からずっと沈黙を保っており、上条が落ち込んでいるのはその胸元からの説教故だ。

「貴様は己の力というものが理解できているのか?たかが人間の身で右手が無ければ封絶の中で動くことも出来ないというのに……」
「面目無いです……」

全くその通りなので、上条も言い返せない。
今回において、明らかに自分は邪魔だった。
自分が居なければシャナはあのフリアグネという男(?)と普通に戦えていただろうし、足手まとい以外の何者でも無い。
上条は再度、ため息を吐いた。
ため息を吐いても、肺に溜まった重い空気は出ていかなかった。
更に、アラストールの説教(という名の鬱憤ばらし)は続く。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:22:13.33 ID:XVy08GQz0<>

「……」

そんな上条とアラストールの一方的な、不毛なやりとりを珍しく思いつつ、シャナは視線を真上にやっていた。
考えていることは、二つ。
一つはフリアグネが言っていた、数々の情報と、あの突然のナイフによる攻撃。
フレイムヘイズとして、情報を分析し、推測する。

もう一つは、あの不安定な力の波。
あの時自分は、とてつもなく弱かった。
大体、上条が来た時の不意打ち。
あんなものを簡単に喰らってしまった時点でおかしかった。
封絶の大きさに、直前まで疑問を抱かなかったのもおかしかった。

「……」

悩むことが多過ぎて、頭が痛くなりそうだ。
そう弱音を吐きそうになり、しかしグッと彼女は力を込めてこらえる。




彼女は『炎髪灼眼の討ち手』なのだから。




(そう、私はフレイムヘイズ。それ以外の、何者でもない)







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:23:03.21 ID:XVy08GQz0<>









何処か、遠くに存在する宮殿。

「チッ……あの『炎髪灼眼』を討ち取れば、僕は……」

ブツブツと呟きながら、フリアグネは歩く。
左手は復活しており、世界の法則によってじわじわと失った存在の力を回復させていた。
表現は狂騒の一歩手前を見せていると勘違いしてもおかしくないほど、邪悪に歪んでいた。

「…………」
「……うん?"君"、居たのかい?」
「……」

やがてフリアグネの近くに、誰かが現れた。
闇に溶けこむその姿は朧げで、近くに居るフリアグネでもハッキリ捉えれない。
だが、フリアグネはこの人物を知っていた。

「そうか、まぁ君が何しようが僕は気にしないけど、僕の邪魔だけはしないようにね」
「……」

頷いた、のだろうか。
影が僅かに揺らいだのを見て、彼は振り払うように再度歩き出す。

「……」

その後ろ姿を、影は黙って見ていた。




その目に篭ったのは、同情か、哀れみか、嫌悪か、もしくは──





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:23:53.36 ID:XVy08GQz0<>

















世界は一つではない。
人が決して一人で無いように、
世界は互いに寄り添いながらも、生き続けている。


















<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:24:30.94 ID:XVy08GQz0<>






──────────────────────────────


──────za.


za.

zza.




zzzZzzaazzZzZzzZzzzazzazzzZzzzZzzzzzzaaaaaaaa!!!!!






『最後……生きの…………やっぱり貴方だっ…………』

『……』

『どうし………"高町なのは"?まさ……ここに来て、怖じ気……た………』

『誰………は、貴……倒す』

『ふ…………しては、貴方を部…にしてもいい…思って…んだ……』

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:25:05.48 ID:XVy08GQz0<>

『絶対……嫌!"ユーノ君"達…殺した………、従…わ……ない!』

『少…理解出来な……もう……の世……ど…転んで…終わ……。貴方………殺したと………』

『そ…は……』

『貴……行動は全部無……無意味、無価値な……』

『違う…価値…か、そうい……題じゃ…い!』

『へぇ…』

『私は、貴方を止……。もう、私………いな悲……起こ……いため…、貴方……こで……』

『……なる……。見……らずの異世界……人を守る……、か』

『馬鹿だと思う?』

『いや、余り。……馬鹿だか……色々と』






『だけど──ZzzazazzzzzZzaaaaaaaaa!!!!!






z.zzazazaaaaaaaaaaaa.................


za──────


──────────────────────────────







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/23(日) 17:26:24.02 ID:XVy08GQz0<>
※今回はおまけスキットはありません。







後書き(また長い)
かなり意味不明な回になってますよね……うー
今回はシャナの中にあるアレイスターへの疑いを消し飛ばすための回だったんですよねー、で、必然的にフリアグネを持って来たと……
あががががが、文書の調子が最低にも程がある……


一番最後の会話文に関しては、特に気にされなくてOKです(えっ?
ただ、この作品はあらゆる世界の集合体なので、こういった内容も必要かなぁ、と。
本来、この作品なのはもクロスするつもりでしたし。


次回から二・三話、場面が幻想郷に移ります。
東方を知らない人には、キツイかもしれない……
天子が主人公、かな?まだ余りスペル理解してないけど




PS
四作品の中で出して欲しいキャラとか居たら言ってくださると嬉しいです。
要望に100%答えるのは無理ですが、もしかしたらフランや浜面のように急遽出演するかも?

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 18:05:44.35 ID:AHX9WIuAO<>バランスブレイクになって絶対出せないと思うが
輝夜(東方)
ラカン(ネギま)


始まりの魔法使いが出るとは、ようやくあの作品の出番かえ

最後のなのはには一瞬びびった<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 19:24:19.66 ID:/2MXDjMP0<>フェイトそん出して欲しいのですが、「達」ってなってたのでまさか・・・
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 19:39:50.53 ID:Qmdu2oEw0<>もう出てきてるけど、
幻想殺し完全覚醒した上条さんとか、
龍神降ろした夢想転生状態の霊夢とか・・・
まぁこれもバランスブレイクしそうだけど(というかまだ原作でもやってない)

あと、マージョリーみたいな他のフレイムヘイズは出てこないのかな?<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 22:23:51.56 ID:63VqlXB70<>禁書の魔術勢は使えないそうなのでナンバーセブンを要求する。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/23(日) 23:20:34.55 ID:UG1eCUCAO<>右方のフィアンマ達三人組

・・・でもとある魔術勢は出せないんだったか<> >>407<>sage<>2011/01/23(日) 23:54:54.15 ID:AHX9WIuAO<>シャナだけ知らんから今回きつかったが
始まりの魔法使い登場は興奮した<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/24(月) 00:51:26.97 ID:JeCWU9Oho<>>>1に聞きたいんだけどネギまがマホラ祭終わった直後までしか読んでないからあまりわからなかったりする?<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/01/25(火) 17:44:39.74 ID:9D/i9uix0<>
>>407
ラカンは最初っから出すつもりだったので無問題です。
輝夜さんは……ちょい役、かな?
なのはとかは裏設定の存在ですが、驚いてもらえたなら嬉しかったり

>>408
なのた達はもう"幻想"の存在なので、出すのは難しいかと……

>>409
今考えてみれば神降ろしって結構反則技だなぁ……
他のフレイムヘイズは確実に一人、幻想郷に現れます。

>>410
削板さんですね……はい!了解です!

>>411
最低一人は登場しますよ!……多分

>>413
えっと、これは自分のことなのでしょうか……
ネギまは全巻買ってますよ〜。ただ何回かマガジンの方見逃しているので、早く次が見たいです。二月発売だったはず……
ネギまはかなりオリ設定が入っているので……自己解釈とかでは無く、始まりの魔法使いが別人と言っていいので。



現在、スランプということで理想郷に別の作品を投稿しています。
『東方超人禁』という、東方ととある魔術のクロス作品。
中編程度の、比較的短めになるはずです。
作風が全く違いますが、よければどうぞ。

この作品で、なんとかスランプを乗り越えたい所……!


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/25(火) 23:33:07.29 ID:QD7lmnB0o<>ああ、そうじゃなくてネギま全然分からないからこのSSでわかんないこと多くなりそうかな?って意味で聞いたのよ、日本語不自由でサーセン<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/26(水) 01:23:33.40 ID:hvrGeMAdo<>相変わらず凄まじい数の空改行で安心した
いずれ空改行を表示しないスクリプトのJaneスキン入れてみようっと<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage <>2011/02/05(土) 00:23:32.05 ID:+WqCW4lS0<> 待符「>>1マダー?」
<>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/02/05(土) 14:39:17.06 ID:uxlkJc1T0<>
>>417
もうちょっと!後一週間以内にこれる筈ですから!

>>415
あぁー、こっちも理解能力乏しくてすみません……
ネギまの方については、半分くらいオリジナルが入るけど……微妙な所です。先入観があった方がいいと思いますし。

>>416
弁解の言葉すらありません……
iPhoneなので、これくらいの改行が丁度よく感じてしまうのです……


後一つ書いたら『東方超人禁』の方が終わるので、もう少しお待ちください……
ただ、少々勉強しなければならないので書くスピードが落ちるかも……
頑張ります


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/05(土) 16:32:30.86 ID:lbKm/q0To<> >>416
勝手に入れてろよわざわざレスすることじゃねぇだろ <>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/02/14(月) 17:44:25.51 ID:uKvm0xsF0<>
お待たせしました!
幻想郷編、投下します。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:45:39.16 ID:uKvm0xsF0<>







"幻想郷"──、それはあらゆる幻想達が最後に行き着く結界に囲まれた『楽園』。

現代社会の面影など、その世界には全く無い。

普通の人の手だけで作られた家に人は住み、自然とともに生きる。

豊かな自然が当たり前に存在するこの世界には、幻想が住んでいる。

妖怪、妖精、幽霊、宇宙人、神……そして、人間。

多種多様に渡り存在し、そして共存している。

しかしながら、ただの楽園では無い。

旧時代の世界と同じ──弱肉強食の、当たり前の残酷さを秘めている。

美しくも、残酷な楽園。

"幻想郷"の力は一つ。

全てを受け入れること。


そして今日も、結界に囲まれたこの楽園は輝いていた。






忍び寄る、破滅の足音に気がつかず。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:46:29.01 ID:uKvm0xsF0<>



「……」
「……」
「…………」
「…………」
「…………総」
「うがぁぁあああああああああああああっ!」

十月。
まだまだ太陽が頑張っている幻想郷の、人里からかなり外れた場所に響く絶叫。
大地を震わすような絶叫(というより本当に震えている)をまともに耳に受けた永江衣玖は、珍しく表情を苦くした。

ここは幻想郷の外れにある"太陽の畑"。
辺り一面に太陽の化身のような向日葵が咲きほこるこの場所に、とある妖怪が別荘を構えている。
その妖怪を尋ね、あわよくば協力を得ようと(衣玖は絶対に無理だと確信しているが)"人里"に寄って態々場所を聞いて来たのだ。
太陽の畑は普通の人間達にとっては、"特級の危険地帯"であるため、情報自体はすぐに手に入った。
が、自殺志願者なのかと言われたり、他に色々ゴタゴタもあって掛かった時間は約二時間。
そしてその二時間は全て水の泡になってしまった。
何故ならば、

「なんで、なんで"風見幽香"が居ないのよ!?」

と、いうことだ。
そのとんでもなく危険な妖怪自体が居なかった。
ダンダン!と、足を地面に叩きつけ吠える天人こと非想非非想天の娘、比那名居天子。
彼女は頭の上の桃つき帽子が揺れるのにも構わず、鬱憤を地面へと叩きつけていた。
地面にとってはいい迷惑だろう。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:47:22.78 ID:uKvm0xsF0<>

辺り一面に広がりまだ花を咲かせている向日葵を見つつ、衣玖はどうしたものかと思う。
衣玖は天子に余程のことが無い限り逆らわない、というより逆らえない。
それは天界において、衣玖が天子よりも下の立場だからだ。
従者ということでは無いとはいえ、やはりそれでも逆らえない。
故に進言という形で、お目付け役たる(色んな存在からの)彼女は意見を通そうとしたのだ。
天子は本質的には馬鹿では無い。
ただ、行動が子供っぽく見えるだけで、実際は深く物事を捉えていたりするのだ。
……実際に馬鹿な面もあるとはいえ。

(……しかしどう言いくるめましょうか。やはり、妥当な意見を柔らかに述べて……)

今までの経験を元に次に発する言葉を決めて、『能力』を使用してから、よし、と衣玖は内心頷く。


「……しょうがない。次、行くわよ」
「……へっ?」


意外な言葉。
思わず彼女はまじまじと、不良天人とよく呼ばれる天子の後姿を見る。
彼女の視線は目の前の向日葵に向かっていて、表情を読み取るのは物理的に不可能だ。
天子は背を向けたまま、言葉を続ける。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:48:02.87 ID:uKvm0xsF0<>

「風見幽香が居ないっていうなら、何時までもここに居るのは時間の無駄よ。次、別の所に行くわ」
「……」

正しい理屈に裏付けされた内容だった。
普段の我侭っぷりが、嘘のような。
なので、普段の彼女をよく知る衣玖は口を開けて惚けていた。

「どうしたのよ?」

返事が無い衣玖に疑問を持ったのだろう。
天子は怪訝な顔で振り向き、ぽけーとしていた彼女を疑問の瞳で見た。

「……い、いえ。なんでもありません」
「……なんかもの凄い馬鹿にされてる気がするけど、まぁいいわ」

慌てて取り繕う衣玖に不信感を抱きつつ、手元へと視線を移す。
普段の姿からは信じられない程白く小さな手に握られているのは、一枚の紙。
八雲紫から受け取った(半ば強奪)紙は羊皮紙であり、そこには墨だと思われる黒い文字で何かが書かれていた。
それは名称と印。
名称が幻想郷においての場所などをさし、印が協力を取り付けられたかどうかを示す。
ザッと見ると、冥界や紅魔館、守矢神社には印がついていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:48:46.97 ID:uKvm0xsF0<>

「冥界関係、紅魔館、守矢神社はオッケーね。他には──あぁ。ここにしましょう」
「何処ですか?」
「ここよ。ここ」

催促の言葉。
衣玖は背後から首を伸ばし、彼女が指差す文字を覗き込む。
天子は笑顔でその文字を指差しながら、


「この"地霊殿"って場所」













「と、いう訳でこの地底まで来たのです」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:49:22.80 ID:uKvm0xsF0<>

とある館の一室。
薄暗く、窓の外が真っ暗なその部屋にて、敬語口調で状況を語り終えたのは衣玖ではなく天子。
彼女は緋色の棒のような物を腰に下げ、柔らかな口を閉じる。
その顔には月のような、透き通った笑み。
後ろに控える衣玖は内心、

(やはり総領娘様に敬語は似合わないな)

などと思ったが口には出さないでおいた。
衣玖は空気が読める女性だからだろう。"文字通り"。


「"えぇ"、私もそう思います」


しかし、そんな声が一つ。
彼女の"心に"同意するように放たれる。
放ったのは一人の椅子に座る少女。
淡い桃色の髪を短く切り、桜のような薄いピンク色の瞳は眠たげに半ば閉じられかけている。
見た目はどう見ても十代前半、下手をすると十歳以下と言われても納得してしまいそうな幼子なのに、そのジト目は何故か似合っていた。
そして、彼女が普通で無いと分かる点がもう一つ。

体から伸びる紐に繋がる、眼球のような物。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:49:59.83 ID:uKvm0xsF0<>

ただのアクセサリーでは無い。
何故ならば、時折その眼球の瞼が閉じられたり、横に揺れ動いたりするからだ。
明らかに生物的なイメージを与えてくる目は、天子と衣玖を見つめている。

彼女の名は古明地さとり。
ここ、"地底"に位置する地霊殿の主人である。
地底とは幻想郷の"旧地獄"。
地上の悪賢くなった人間達に愛想をつかし、やって来た妖怪達や元々居た怨霊達が住むこの地底において、地霊殿の館はかなり目立つ存在だ。

そして目の前の少女は、そんな妖怪達や怨霊達"にさえ"恐れられる妖怪である。

「ふぅ……いきなりの訪問に対応するのにも疲れるのですが」

自分の書斎に居る天子と衣玖を彼女はジト目で見てくる。
立派な机に肘をつき、睨むと言ってもよさそうな視線を両目とアクセサリーから受けて、しかし天子は引き下がらない。
喫茶店の営業スマイルを思い浮かばせる笑顔を浮かべつつ、彼女は言葉を発する。

「ごめんなさい。色々忙しくて──」
「『こんな小さなのが本当に地霊殿の主人なのかしら?』ですか……一応私がここの主人ですよ。後小さな、というのは余計では?」
「うぐっ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:50:46.12 ID:uKvm0xsF0<>

天子の言葉が詰まる。
心の中身、隠していた本心をピタリと当てられたからだ。
いや、正確には当てられたのではない。
さとりの"覚り妖怪"としての能力──『心を読む程度の能力』よって文字通り、本当に心を読まれたのだ。
心を読むために必要な『第三の眼』に見つめられ、天子の頬に冷や汗が一雫伝う。

「え、えーと……」
「『ど、どうしよう……猫被った意味無いじゃない。というかこの思考も読まれてたら……』──はい、猫被る意味は無いので、普通に話して下さると助かります」
「……もうっ!」

更に追撃を受け、天子は諦めた。
笑顔の仮面を壊し、少女らしい不貞腐れた表情を浮かべる。
どのみち彼女のことは知っていたのに、対策を取らなかったのだから仕方無い。
まぁ、対策を取るといっても、天子にさとりの能力を防ぐ手段など無かったのだが。

「そうですね。私の能力を防ぐなら、それなりの術か能力を使わなければ無理でしょう」
「……あのさぁ、何で別に突っ込まなくていい所にまで突っ込むの?」

それだから嫌われてるんじゃない?と、今度は素の自分らしく堂々と告げる。
天子はネチネチした物が嫌いであり、故に必要のないしつこさを持つ言動は嫌いだった。

「確かにそうかもしれませんが──」

自分を馬鹿にされても、さとりの表情に苛立ちは浮かばなかった。
代わりに、ピキピキと小さく青筋が浮かび、怖いくらいの笑顔で告げる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:51:24.84 ID:uKvm0xsF0<>

「あなたでしょう?"異変"で地震など起こしてくれたのは」
「えっ……?確かにそうだけど──あっ」

返事を返して、気がつく。
だが時既に遅し。
この時程、"悪魔の従者"の能力に頼りたいと思ったことは無かった。
が、当然『大地を操る程度の能力』と天人としての能力しか持たない彼女に発言を撤回する術は無く。

「局地的な地震のようでしたが、地底も一部揺れたのですよ?しかも後少しで"六十年に一度クラスの大地震"まで起こるところだったらしいでは無いですか」
「……ごめん」

ぺこりと、天子は頭を下げる。
さすがの彼女も少しは悪いと思ったのだろう。
天人には地上の者を見下す節があるとはいえ、天子のそれは大夫良くなりつつある。
加えて、地上と地底では明らかに地震に対する危険度が違うこともあった。
地上は最悪、だだっ広い平原にでも逃げ込めばいいが、地底はそういかない。
最悪の場合には、生き埋めになる可能性すらある。
そうなると生き残れるのはごく一部の実力者だけだろう。
誰しもが、常識を逸脱した実力を持っている訳ではない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:52:08.98 ID:uKvm0xsF0<>

「って、幾らなんでも詳しすぎない?地震が起きたのは事実だけど、なんで局地的って……」
「地上で情報を聞いたのと、後ろの竜宮の使いの心を読ませて頂きました」
「すみません総領娘様」

疑問によって発覚した事実。
一応の謝罪を隣から受け、天子はため息。
読まれたのは仕方無いにしても、そんな所まで空気を読む必要はないんじゃないかと思わないでもない。
責めるに責めれない、複雑な心境の天子。

「それでは、助力を受けるのは不可能なのでしょうか」

しかしそれを無視して、衣玖はさとりに尋ねかける。
空気を読んだのか、読んでないのか。間違いなく後者だと天子は思う。

「あれ?衣玖?何であんたが話を進めて……」
「それはまた別の話ですので。今のはただの私事です」
「そうですか。それはなによりです」
「いや、だから」
「しかし、少々怒っているのは紛れもない事実ですがね」
「すみません。後で私からも言っておくので」
「二人共敬語なのに死ぬ程苛つくわね。緋想の剣でぶっ叩かれたいの?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:52:52.17 ID:uKvm0xsF0<>

無視して話を進める上、失礼な言葉の数々に触発されてビキリッと青筋が天子の額にも浮かんだ。
桃付き帽子も僅かに傾いた気がする。
流石に天子が暴れた場合は面倒、もしくは勝てないからか二人も天子を無視するのを止め、さとりは三つの目を天子に向けた。

「ですが、どちらにしろ私達に出来ることは限られますよ」
「はぇ?」
「私達の中には特別な能力を持った者はいません。戦力的な意味でなら、確かに私達は幻想郷においてもかなりの戦力かもしれませんが、世界の干渉などの事柄にはさっぱり皆無です」
「……言われてみると確かに、魔法使いとかも居なさそうだし……」
「『八雲紫が風見幽香とかに協力を取り付けて無かったのも、そのせい……?』。そうでしょうね。彼女は実力ならば幻想郷最強クラスですが、それ以外には特に秀でたものは無いですから」

確かにそうである。
彼女達は勢力としてはかなりの力を持つ。
だが、特別な何かがあるかと問われればそうではない。
精々、さとりの心を読む力くらいだろう。
"核融合の能力"なども特別ではあるが、闘い以外の用途は殆どといっていいほど無い。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:53:36.71 ID:uKvm0xsF0<>

「じゃあ、どうしよっか?」

紙を見直しつつ、天子は思い悩む。
大体の彼女が知る、世界間の問題に関われそうな者達の協力は取り付けられており、天子達の働きは無駄かもしれない。

(だけど、完全に無駄じゃない。あの"資料"通りなら戦力は幾ら居ても困ることは無いはず)

が、天子はあえてポティシブに物事を捉える。
彼女にネガティブという言葉は似合わないのだ。

「"そのこと"なのですが」
「……あのさぁ、心を読まれてもいきなり過ぎて理解出来ないわよ」

主語を省いたさとりの言葉にツッコミを入れる。
一応、天子には何のことか理解出来たが、他人にはさっぱり理解出来ないだろう。
さとりはそんなツッコミに構わず、静かに口を動かす。

「資料の内容は全て事実なのでしょうか?だとすれば、"幻想郷の存在が否定されかねない"と思いますが」

心を読まれるのにも慣れたのか、天子は特に反応を示さずに返答を淡々と返す。

「多分ね。だって、天人達に嘘の資料を送ってまで協力を得ようとする理由は無いだろうし」
「えぇ、私が保障します。正確には、龍神様が」
「……なる程」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:54:20.96 ID:uKvm0xsF0<>

恐らく、衣玖の心を読んで龍との会話を見たのだろう。
何処ぞの天人やスキマ妖怪ならともかく、幻想郷の最高神からの情報となれば、幾らさとりとて疑う余地はない。
椅子に座る彼女は顎に手を当て、ふむ、と息を一つ。
全く子供らしくない(実年齢不明)表情で、告げる。


「分かりました。出来る限りの助力は受け付けましょう」
「よしっ!」


承諾の言葉に、天子は思わず周りに構わずガッツポーズ。
グッ!と右拳を握り締め、満面の笑みをその顔に浮かべた。
緋想の剣も彼女の意思に反応したのか、僅かに揺らめいている。

「見たか!これが天人の常に先を行く超天人、私の実力よっ!!」
「すみません。テンションが上がると何時もこうなもので」
「ウチにも似た子が居るので平気ですよ」

書斎の入り口たる扉に向かって叫ぶ彼女を、呆れ顔で会話しながら見る二人。
似たような苦労をしているのだろう。
多少砕けた口調で会話する二人は、今にもため息を吐き出しそうな雰囲気を発していた。
が、無論、衣玖のように『空気を読む程度の能力』などを持っていない天子は相変わらず叫んでいる。
表情は殴りたくなるくらい晴れ晴れとしていた。
他人から見れば可愛いとも思うかもしれない笑みだが、当事者達から見ればただのアブない人に過ぎない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:55:03.99 ID:uKvm0xsF0<>

「この私に、不可能は無いっ!!」
「しかし、誰でも出来るようなことで何故あの天人はここまで喜んでいるのでしょう?」
「総領娘様はちょっとアレなので……」
「アレですか」
「アレなんです」
「ふふ、はははははははっ!!」

実際の所、さとりが協力を了承したのは彼女達にも関わる問題だっただからなのだが。
しかも決め手は龍からの情報。
しかし、そんな些細なことは天子には関係無いようだ。
大らかに無い胸を張って背中を反らす彼女の口からは、笑い声が放たれ続けている。
もしかしたら最近ストレスでも溜まっていたのかもしれない。
"天界"暮らしは退屈なようだし。

「あっははははははっ!!」
「……」
「……あの」

流石に五月蝿く感じて来たのか、衣玖が場の空気(主にさとりの)を読んで笑い続ける彼女に声をかけようとしたところで、




「あっはっはっはっ「さとり様!」ぶげしゃっ!?」




突如その笑い声は途切れた。
というより、途切れさせられた。
途切れた理由は、バァァンッ!!と勢い良く扉が開いたことによるドア直撃。
見事なまでにクリーンヒットを受け、天子はゴロゴロ床を転がり顔を抑える。

「〜〜っっ〜〜〜〜っ!!」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:56:07.69 ID:uKvm0xsF0<>

よっぽど痛かったのだろう。
声にならない悲鳴を上げながら体を丸め、鼻を抑えていた。
超天人の威厳など欠片も無い。
そんな彼女のもがき苦しむ姿をサラリと無視して、さとりは突然の乱入者に問いかけていた。

「どうしたのお燐?そんなに慌てて」
「大変!大変なんですさとり様!」
「わ、私の顔も大変よ……っ!」

ヒリヒリ痛む鼻を抑えながら、起き上がった天子の瞳に映りしは、猫耳がついた少女。
年の頃はさとりよりも上に見え、頭には猫耳、顔の横には普通の耳がついているという、一見してコスプレをしているようにしか見えない。
赤髪赤目、黒い服というオシャレとしては簡素な装いの彼女は、両手をおろおろさせて表情は青ざめていた。
天子は知らないが、彼女の名は火焔猫燐。
地底に存在する"灼熱地獄跡"にて、怨霊の管理や死体運びを任されている化け猫妖怪だ。
さとりのペットでもある彼女は、唇を震わせて、形に成らない言葉を吐き出す。

「そらっ、お空、お空がっ!」
「どうしたの?落ち着きなさい!」
「……?」

ふと、天子は首を捻る。
さとりの能力を使えば、言葉など使わなくても彼女の言いたいことが分かるのではないか?と。
だが気がついた。
能力はあくまで心の中を読むのであり、その心自体が混乱していては意味が無いのだと。

つまりは、さとりの能力でさえ読めない程お燐の心中は混乱しているということになる。

「ゆっくり、落ち着いて。焦っては駄目です。混乱していては、大事なことも伝えることは出来ません」

諭すように、衣玖の所々区切られた言葉がお燐に囁かれた。
彼女の滑らかな言葉に、精神が少しは落ち着いたのだろう。
それでもまだ慌てた言葉で、しかし意味は伝わる言葉がお燐の口から放たれた。




「お空がっ、"見たことない奴ら"と戦ってて、強くて、お空が!」





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:56:56.71 ID:uKvm0xsF0<>




「う、ぐっ……」

ザリッ、と左手の指が地面に食い込んだ。
地底の外れ。
光苔が辺りで輝く薄暗い、開けた場所に、一人の少女が倒れていた。
白いマントは茶色に焼け焦げ、悲惨な穴もいくつか空いている。
纏めていたであろう髪は今や荒れ放題。服も焼け焦げて、肢体がチラチラと覗いている。
右手に装着されている"茶色の棒"も所々にヒビが入っていて、ヒビの間から紅い何かが光っていた。

彼女の名は、霊烏路空。
周りからは主にお空と呼ばれる、地獄鴉の妖怪。
『核融合を操る程度の能力』という、破格の能力をとある二柱の神から与えられた、灼熱地獄跡の火力担当者。
実力も幻想郷において破格の彼女は、

今現在、地面にボロボロという言葉が似合う姿で這いつくばっていた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:57:32.15 ID:uKvm0xsF0<>

「う、にゅう……っ!」

なんとか力を込め、立ち上がろうとするのだが体が思うように動いてくれない。
それどころか、気を抜いてしまえばすぐさま地面にめり込んでしまいそうな程、体が重かった。

(一体、何が目的で……)

普段、鳥頭鳥頭と馬鹿にされる頭をなんとか働かせて、お空は考える。
そう、今日は確か灼熱地獄跡での仕事を早めに終わらせ、主人におかしを貰うつもりだった。
その帰り道、"そいつ等"は突然現れ、襲って来たのだ。

(訳わかんないよ……)

お空でなくとも同じような思考になるだろう。
少なくとも、ここは自分の仕事場ではないし、構う必要も無かったのだが、お空の警戒心が働いたのだ。
そいつ等はヤバイと。
そして本能の通り、そいつ等は本当にヤバかった。
なんとかお燐は逃がしたものの、受けたダメージは大きい。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:58:43.22 ID:uKvm0xsF0<>

「ェェエエエクセレーント!!」
「っ!?」

這いつくばるお空の耳に、甲高い男の声が叩き込まれた。
かなりの五月蝿さだったため、僅かに痛む黒い翼を動かし、耳を塞ぐ。
耳を塞いだ状態でも、男の声は耳に強烈に響いてくる。

「こぉーれが、魔ぁ術的な核ッ!融!合!のパゥアァァァァーッ!なぁんてエェクセレントでエェキサイティング!!こぉれは研究のしぃがいがあぁりますよぉー?」
「"教授"ー。不用意な敵対行動は『始まりの魔法使い』様に禁止されているんひゃいたひいたひ」
「おぉー黙りなさぁい!目ぇの前にあーる物を研究しなくてどーするんです!?」
(研究……?)

言葉の意味が分からず、お空は顔を上げる。
十メートル程先に立つ男と、変な物が居た。
男の方は髪を乱雑にベルトのような物でまとめ、首からは何か訳の分からない物が大量にぶら下がって居た。
身に纏う"白衣"からは、お空の嗅覚で捉えれる嫌な人工的な匂いが漂ってくる。
対してもう一つは、生き物では無かった。
鋼色の、団子のような丸いボディ。
それに足と腕が突き出て、人間のように立っている。
丸い頭がポコン、と天頂から出ており、なにやら男の手から伸びた指に引っ張られていた。

「人形?……っ」

膝をなんとかつき、体を持ち上げる。
しかしそんなお空の動きに気がついてないのか、二人(?)はまだコントのようなものを続けていた。

「とにかくドォミノォォォォォッ!早く回収用の燐子を回すんですよぉ!」
「一体でいいんでございますです?」
「全部にきーまってるではあぁーりませんかぁ!こぉのまま地底の妖怪達を数体、ほ、か、くっ!するのでぇぇぇすっ!」
「えええええええっ!?」
「ほ、かく?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 17:59:25.92 ID:uKvm0xsF0<>

捕獲。その単語が、やけにお空の耳に残った。
何故なのか。
それは、肉体に存在する鳥としての本能が警告を発したから。
翼はもう耳を塞いで無かった。
お空は片膝を地面にめり込ませ、耳に声を捉える。

「そんなことをしてしまってはこの地底は混乱、下手すると文明的に"崩壊"してしまうのでふぁいたひいたひいたひゃいひぇふ!」
「何事もおぉそれていーては出ぇー来ませんっ!実験実験また実験!そぉこに謎がある限り!進ぅみ続けるのですっ!!他のこぉーとは、後で考ぁえなさぁい!」
(……"崩壊"?地底が?)

正直な話、お空には会話の内容の一割も理解出来なかった。
ただ、"地底が崩壊する"。
この単語だけが、やけに耳に反響し続ける。

「……させない」

口から、言葉が自然と零れていた。
左右で形が違う足を地面に叩きつけ、体を無理矢理、重力に逆らって起こす。
黒い、背中から生える鴉の翼を動かし、風力を起こして体を支えた。

「ほぇ?」
「んん?」

彼女が起き上がって、漸く気がついたのだろう。
二人はお空の方へと向き直る。
その時には既に、右手の棒を左手で支え、照準を合わせていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:00:12.03 ID:uKvm0xsF0<>

「ここは、私達の家なんだ……絶対に、壊させない……っ!!」

生まれた時から、お空はこの地底世界に住んでいる。
元地獄だったこともあり、ここに来るのは妖怪か巫山戯た強さを持つ人間ばかり。
生憎と、住み心地がいいとは言えない環境だ。

だけど、それでもお空にとっては思い出ある、故郷であり住処。
それをこんな訳の分からない連中に、壊させる気などない。

本能のまま、感情のままに、お空は力を収束し、

「吹き飛べぇぇぇぇぇぇっ!」

極限まで力が溜まった所で、力のトリガーを引いた。

「爆符「メガフレ──」




瞬間、バキャン、と砲身たる右手の棒が、弾け飛ぶ。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:01:01.65 ID:uKvm0xsF0<>

(──?)

一瞬の、空白の思考が生まれる。
惚けた目で、お空は目の前の粉々になった右手の棒を眺めた。
今、砲身のように扱ったのはただの媒介ではない。
"制御棒"。文字の通り、お空の巨大すぎる力を制御するための、神からの贈り物だ。
お空の力は、たかが妖怪一匹が扱うには到底大き過ぎる。
故にこの棒を媒介として、お空は自由に力を振るえたのだ。

では、その制御が無くなってしまえばどうなるか?

内側に秘められていた閃光が、爆発した。
壮大な爆音と爆風が、至近距離からお空の体を吹き飛ばす。

「──っ!?」

悲鳴すら、閃光にかき消されて上げることは出来なかった。
木の葉のように後方へと体が飛び、視界の隅に自分の左右で形が違う両足が映る。

ドゴンッ!!と、轟音が鳴った。
背中から、周囲に有った巨石に叩きつけられた音だった。

「ぐっ、がぁっ!?」

そこで漸く、肺からそのまま吐き出されるように言葉が発せられる。
同時に口から吐き出された血が、悲鳴を更に痛々しいものにしていた。
しかし、痛みは無駄では無かった。
凶悪な爆発によって途切れた意識が戻る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:02:02.64 ID:uKvm0xsF0<>

「うっ……」

戦闘者として、お空は巨石に寄りかかりながらも周囲に視線を走らせた。
辺りは暴風によって光苔の半分以上が半径五十メートルに渡って消し飛び、爆心地たるお空が居た場所は熱のせいで溶けている。
これだけの威力でも、全然本気ではないのだ。
本気ならば、暴発の余波を受けたお空はとっくに死んでいる。
暴風のせいか、砂煙は大して舞い上がっていない。

「ふーむ?あぁーの棒が、核のチィーカラを制御していたぁんですかねぇー?」
「ごほっごほっ、教授ー、燐子が数体消し飛んだんでございますです」

なので、お空にはその姿をはっきり捉えることが出来た。
何かを壁に使ったのだろう。
黒く焼け焦げた残骸を前に、あの二人は無傷で立っている。

(……ど、うしよ……)

もうお空に抵抗出来るだけの力はない。
そもそも制御棒が破壊された時点で、戦う力が有ったとしても危険過ぎて扱えないのだ。
戦う術が無ければ、力が有ったとて無駄。
オマケに体は痛みで動かないと来た。
万事休す。命運尽きたというべき状況。
幾ら鳥頭と言われている彼女でも、それくらい分かる。

(ごめん……お燐、さとり様、こいし様……)

近づいて来る足音を耳に入れつつ、お空は目を閉じた。
騒がしい会話の声が近づいてくる度に、自分の命が一ミリずつ削られて行くのだと感じる。
息を吸い込むような、呼吸音がヤケに強く響いた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:03:09.65 ID:uKvm0xsF0<>

「捕獲用燐子、全体転送完了しましたでございますです!」
「オッケェェェェェェェッ!!さぁて、では早速ほか」


「地符「不譲土壌の剣」!!」


だが、天はこの熱かい悩む神の火たる少女を見捨てなかった。
ハキハキと響いたその声に、お空は瞳を開ける。
正面には丸い団子に長い腕が付いた、ガラクタのような見ようによっては笑える人形が二十体程迫っていた。
集団で迫っていたそれらが、


突如、ズズンッ!という地響き
ともに地面から突き出された石柱によって、破壊される。


グシャ!!と、金属の破壊音。
先端が尖った、岩の波とも言える石柱らは団子達を無造作に貫き、まるで生え贄のよう。
そこから突き刺さった団子達がバチバチと音を立て、閃光を撒き散らして爆散した。
ドゴォォォォォンッ!!という爆音ととめに、黒い爆煙が地底の空間へと立ち昇る。

「ノオォォォォォォォォォッ!?」

爆音とともに教授とやらの叫び声が壁の向こう側から聞こえるが、お空は気にすることが出来なかった。
岩が生まれた一点。最初の中心地。


そこに突き立つのは、一本の緋色の何か。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:04:13.44 ID:uKvm0xsF0<>


『緋想の剣』と呼ばれる敵によって形を変えるという名剣は、確かにそこに突き刺さり、刀身を緋色に揺らめかせている。

「大丈夫ね?」

そんな女性の声が、上から放られた。
岩に寄りかかったお空は、その姿を見ようと首を上へ反らす。
しかし、その意味は無かった。
声の主は轟音を持ってして大地へと、緋想の剣の前へと着地する。
投げかけた言葉から乱雑さが伺える通り、彼女は緋想の剣を乱暴に抜き去る。
と、同時に。爆散によってヒビが入っていた石柱が、支えを失ったように崩れ落ちた。

「運が良かったわね。まぁ、私が来たからにはもう大丈夫よ」
「……?」

何故そんなに自信満々なんだろう?と、お空は少し思ったが言うことは無かった。

「さて……あんた等ね。この爆発騒ぎの犯人は」

彼女──天子は緋想の剣を眼前に構え、珍妙な二人へ告げる。
告げる、であって尋ねるでは無かった。
もうすでに、彼女の中では彼等が犯人だと決まっていたからだ。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:05:19.19 ID:uKvm0xsF0<>

「は、はわわわわわわっ!?どどどどーしましょう教ひゅいたひいたひ!」
「落ぉーち着くんですよぉ、ドォミノォォ。お前もわぁたしの助手ならば、つぅーねに冷静であるのでぇす」

教授は意外と冷静で、ドミノと呼ばれた人形の頬(?)をこれでもかというくらい引っ張っていた。
コントをやっている二人を前に、しかし天子は油断はしない。

(……さっきのお燐って奴も、この鳥少女も、弱い訳じゃない)

冷静に、彼女は力を練りながらも考えて行く。

(でも、こいつ等からは二人を倒せるような強さを感じない。何か特別な力?)

罠に嵌めるなり、道具を使うなりしたのだろうかと思う。
なんにしろ、もう少しでさとりが来るのだからその時に目的含めて吐かせればいい。
距離は二十メートル。
直ぐに詰めれる距離だ。

「取り合えず、この騒動の分くらいは」

ビキリ、と。
天子の足元が陥没した。
足による踏み込みの力に、大地が耐えられていない。
見る者には分かる、強力な怪力を使って、

「払ってもらうわよ!」

ドンッ!!と、前へ飛んだ。
緋色の剣を前に突き出し、刺突の形を持ってして突き進む。
霞む視界の中、まだ平然としている教授とあわあわと両手を振り回すドミノを捉え、

「──危ないっ!」
「っ!」

その叫びに本能を揺さぶられ、剣を地面に突き立て一気に停止した。
残り十メートルといったところで止まった、天子が次に見たのは、


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:06:08.00 ID:uKvm0xsF0<>



ゾンッ、と目の前を通過した"虹"だった。


「──っ!」

衝撃が、身を叩く。
虹の閃光による衝撃波をまともに受け、天子の体が元来た道を転がって行った。

「わっ、ぷっ!?」

ゴロゴロ五メートルぐらい転がって、天子は剣を持っていない左手で帽子を抑えながら身を起こす。
視線を前に戻すと、一直線に地面がえぐられていた。
虹色の光線によって、消し飛ばされたのだろう。
後ろからの警告──お空の声が無ければ当たっていたかと思うと、背中が寒くなる。

「誰っ!?」

虹と言われて思い浮かぶのは博麗の巫女、紅魔館の門番、七色の人形遣い。
だが、今の攻撃は彼女達が扱うどれとも違う、見たことがない、"感じたことがない"力だった。
天子の叫びに呼応するように、声が一つ。

「やれやれ、討ち漏らしを追ったのは失敗だったか」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:07:05.62 ID:uKvm0xsF0<>

透き通った男の声。
まるで、声ではない別の媒介を使用したような、不思議な声。
その声の主は、先の天子のように、しかしゆっくりと彼女の前に着地した。
青年と言う言葉が似合うぐらいの男。
"白い長髪"に、青いマントを翻させ、その手には白銀の剣を一本。
"サーベル"と呼ばれる片刃の剣を左手で構え、その男は立つ。


背中から"虹の翼"を煌めかせながら。


「恨みは無いが……俺の目的のために死んでもらおう、異世界の戦士」
「……はっ」

挑発的な言動に、天子は笑みを浮かべる。
明らかな強敵。
動きに一つたりとも隙は見えず、感じる力は膨大。
背中から虹の残照によって広がる翼は、神々さすら感じさせる。
しかし、天子は笑う。
戦いが好きな者が浮かべる、独特の深みを持ってして。
そして一言だけ笑って返した。

「上等!」





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:07:53.54 ID:uKvm0xsF0<>






これが、幻想郷に置いての最初の戦い。
"虹の翼"メリヒムと、"探眈求究"ダンタリオン、その"燐子"カンターテ・ドミノとの遭遇。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:08:42.04 ID:uKvm0xsF0<>






場所は変わって。
幻想郷の地上。太陽の光が照らす世界。

「終わった……」

溜め込まれた息が、肺から吐き出される。
緊張を解き、背中を椅子にもたれ掛けさせた。
金色の短髪を右手で一撫でし、赤いカチューシャに触れる。

ここ、"魔法の森"と呼ばれる場所にあるとある一軒家。
意外な大きさを持つ家の一室に、一人の女性が居る。
魔の霧が立ち込め、普通の森とは危険度的な意味で桁違いのこの森に住む、幻想郷においても異常な者。
ワンピースの上からケープを羽織り、腰元には一冊の大きな"魔導書"を抱えた彼女の名は、アリス・マーガトロイド。
"七色の人形遣い"の異名を持つ、"種族としての魔法使い"である彼女は、今現在一つのことにかかりきりになっていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:09:17.29 ID:uKvm0xsF0<>

「……八雲紫も面倒なことを」

思わずそんな文句が出るのも、無理は無かった。
一ヶ月程前、突然やって来たかと思えば「とある術式を組み上げて欲しい」などと依頼されたのだ。
依頼というのは建前で、殆ど強制と言ってよかったが。
しかも自分以外の有名魔法使い三人にはもう協力を取り付けていたのだから、抜け目ない。
あの"魔理沙"でさえ手伝っているのだ。
そうなれば、断ることなどできようもない。なんだか負けた気分になってしまう。

「どうせ量は一番少ないんでしょうけど」

チラッと、前に視線をやる。
視線の先では、ピンク色に輝く直径二十センチ程の魔法陣が古めかしいテーブルの上でくるくると回っていた。
この魔法陣の中に、また更に大量の魔法陣が込められているのである。
アリス・マーガトロイドという幻想郷でも指折りの魔法使いが、一ヶ月かかって組み上げた魔法陣だった。

そして、これはまだ"四分割"されてでの量に過ぎない。

「"七曜の魔女"とか"命蓮寺の魔法使い"はもっと多いのかしらね」

片方は暇人、片方はお人好しだし、とアリスは呟きつつ頭を働かせる。
分割し、統合するための術式部分が存在しない、全体的に二割弱程の術式でこの量なのだ。
いや、もしかしたらもっと多いのかもしれない。
しかし、とアリスは怪訝に思う。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:09:53.32 ID:uKvm0xsF0<>

「こんな術式、何に使うの?」

返答は、ない。
普段なら返ってくることもあった返答がないことに、アリスはため息。
この術式の内容に興味を持ち調べてみたはいいものの、どうもおかしかった。

「空間移動の術式に似ているけど、それにしては術式の保護防壁の数がおかしいし、方式も点というより線を作るのに近い……そもそも、無駄に大き過ぎる。普通の空間移動ならもっとコンパクトな方がいいでしょに」

そして、もう一つ。

「これ、"本当に"八雲紫が作ったの?」

術式の内容が、余りにも違い過ぎていたこと。
術式に使われている技術の数々、理論の全てがアリスの見たことが無い物だった。
異世界からの〜などという理由だけでは決してない。
間違いなくこれの設計図を作った者、もしくは者達は"天才"だろう。


千年に一度、一万年に一度クラスの。


「でも、なんで八雲紫がこんなものを持って……最近人里とかで聞く"噂"と関係あるのかしら」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:10:57.69 ID:uKvm0xsF0<>

何故なのか。答えは分からない。
椅子に背中を預けると、木が僅かに軋む音がする。
アリス以外誰も居ない家に、その音は予想外に大きく響く。
今は人形達も動いていないため、実質部屋の中で動いている彼女以外に音を立てる者は居なかった。

「……とにかく」

アリスは立ち上がる。
考えていても仕方ない。
一人で出来る作業は全て終えてしまった。
残りは他の術式と見比べつつ、慎重に重ね合わせながら形成して行く必要がある。
なので、インドア派の彼女も外出しなければならなかった。
といっても、外出すること自体にソレ程抵抗は無いのか、テキパキと服装を整えて行く。

「先に魔理沙の所に寄ってから紅魔館に……」

これからの行動を呟きながら整理し、手鏡を取り出して髪を整える。
鏡の中に見えるのは、人形のような自分の顔。
金色の髪に、青い瞳。
透き通った白い肌。
他に見えしは、背後の部屋の光景。
人形が飾られた壁に、作りかけの人形が並べて置かれたソファー。
魔法の植物を植えている植木鉢に水溜りに赤のカーペットに──

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:11:44.01 ID:uKvm0xsF0<>


「──」


鏡の中を、凝視する。
"水溜り"?
確かに、鏡に映し出された光景には映っている。
直径一メートルくらいの円状の水溜りが、アリスのすぐ後ろに。
勿論アリスは部屋に水など撒き散らしてはいない。
今日の天気は晴れであり、雨など降ってないし、雨漏り自体この家はしない。

ならば、あの水溜りはなんだ?

「──っ!」

アリスは背後へ振り返る前に、手鏡を水溜りへと投げつけた。
手裏剣のように投擲された手鏡は回転しながら水溜りへと突っ込み、

バキンッ!と、"水溜りから出て来た何者か"に砕かれる。

(水を利用した、転移魔法……っ!?)

背後へと視線をやりながら、アリスは体を水溜りに対して横にずれようとする。
水溜りから出て来た何者かは、上半身だけを抜け出させていた。
白い髪のまだ"少年"にしか見えない彼は、砕いた手鏡の残骸を身に浴びながら、言葉を紡ぎ出す。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:12:18.93 ID:uKvm0xsF0<>

「障壁突破『石の槍』」

ビキリ、と。
床に亀裂が入った。
そこから少しだけ見える、突き出してくる大地の槍の先端を見て、アリスの顔に冷や汗が伝う。

(まずいっ!?躱せな──)
「さようなら。異世界の"人形遣い"」

床が、破裂した。
木片を突き破って現れたのは、石柱。
先端が槍のように尖った石柱が、高速でアリスに迫る。

「くっ!?」

左手を翳し、障壁を張って躱す時間を稼ごうとする。
青い魔法陣が、槍の前に展開された。
だが、ベキン、と。
槍は障壁をいともたやすく、それこそ紙を突き破るかのように打ち砕いた。

(障壁無効化!?それに、この術は"精霊魔法"──)

アリスが驚く、その間にすら槍は彼女の腹へと迫り、






ザシュッ!!と。切り裂く音が、一つだけ。
部屋に、無情の音色を持ってして響いた。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:12:56.76 ID:uKvm0xsF0<>










幻想の世界にて、争いが始まる。
自分勝手な、昔のままの者達は戦う。
幻想の力を、ただただ信じて。














<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:13:36.85 ID:uKvm0xsF0<>

おまけスキット




スキット8「向日葵って……」


天子「そういえばさ、向日葵って普通どれくらいまで咲いてるの?」

衣玖「そうですね。確か、精々長くて九月から十月までといった所でしょうか?」

天子「へぇー、一年中咲いてるのかと思ったわ」

衣玖「花なのですから、いつかは枯れるものですよ」

天子「いや、噂に『幻想郷の向日葵は一年中咲き続ける』なんてのがあったから」

衣玖「噂は所詮噂です」

天子「そうなんだけどね」

衣玖「仮に本当だったとしても、恐らく何処かの誰かが能力でも使って咲かせているのでしょう」

天子「ふーん。変なことする奴も居るわねー」


幽香「くしゅんっ……誰か私の噂でもしているのかしらねぇ」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:14:18.14 ID:uKvm0xsF0<>


スキット9「お燐って……」


天子「そういえばさ、なんでお燐って耳が四つもあるの?」

お燐「さぁ……?あたいにも分からないよ」

天子「分からないって……一応自分の体でしょうに」

お燐「うーん、本当に分からないなぁ。気がつけばこんなんだったからね」

衣玖「恐らく霊長の主たる人間の姿になろうと独学で学んで行った結果、人化が不完全な物になったのではないでしょうか?」

天子「あー、成る程ね」

さとり「まぁ、本当のことはZUNさんしか知らない訳ですが」

お燐「ちょっとさとり様!?それは危険ですってば!」

天子「何が?」

衣玖「大人の事情というものです、総領娘様」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:14:56.93 ID:uKvm0xsF0<>


スキット10「よく聞こえます」


天子「結局、その耳は両方とも本物って訳ね」

お燐「そうだよ」

天子「便利ねぇ。耳が複数あるってことは色んな声を聞き分けれるってことでしょ、聖徳太子みたいに」

お燐「いや、そうでもないね。結構聞こえ過ぎるってのも困りもんだし」

天子「黒板を擦る音とかもよく聞こえたりするの?」

お燐「そりゃ……って、なんでそんなピンポイントな音を選ぶんだい?そしてなんでアンタの手元にミニ黒板があるんだ!?ちょ、まっ」

天子「えいっ♡」


ギギィィイイィィィィイイイイ〜

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/14(月) 18:16:53.28 ID:uKvm0xsF0<>
以上です。
教授の口調むずけぇぇぇぇぇぇぇっ!
次回、メリヒムVS天子、アリスVS人形。
頑張ります!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/16(水) 01:01:13.90 ID:QB8EAloUo<> キター超人の方も乙した
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/21(月) 22:08:12.50 ID:2h2r7mOAO<> 亀だが乙

>>406ってまだ大丈夫?大丈夫ならサーレとキアラをお願いしたい。 <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/02/28(月) 12:27:07.41 ID:G6tRDw0b0<>
>>460
彼方の方も見ていただいたとは……幸いです。
もう暫くしたら短編を書く予定なので、その時は是非

>>461
有効ですよー
サーレとキアラですね……サーレはともかく、キアラは絶対に出ます。

次回は明日か明後日です。遅れてすみません。

東方新作、だと?
内容と新キャラ次第ではこのss終わってしまうかも……
あぁ、どうなるんだ…… <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:42:44.86 ID:JUPP1soS0<>
では、幻想郷編第一話、投稿します <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:43:35.79 ID:JUPP1soS0<>







魔法の森。
魔が立ち込めるこの場所は、幻想郷に幾つかある危険な場所の一つ。
アリス・マーガトロイド邸は、そんな場所に位置する。
魔力を含んだ霧や木々、植物があるこの森は、魔法使いにとっては過ごしやすい環境でもあるのだ。
そして、アリスの住む屋敷から、


ザシュンッ!と、残酷な音色が響いた。


「……」

音色を響かせた原因たる少年は、ただ前に視線をやる。
古風な室内。
アンティークの装飾品が各所に飾られ、西洋風の雰囲気を醸し出している。
その部屋の床から突き出しているのは、石柱。
床板を裂いて無惨に破壊し、対象を貫くべく突き出された灰色の石の先には音源たる物体がある。
魔法の石槍に突き刺さっているのは、


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:44:16.41 ID:JUPP1soS0<>


綿を内側から漏れ出した"人形"。


貫かれる筈だった人形遣いは突然飛んで来た人形に突き飛ばされ、石柱の破片やら余波で汚れた赤いカーペットへと背中側から倒れこんでいた。

(……なるほど)

彼は瞬時に次の攻勢へと移る。
突き刺したままの石柱は置いておき、自分の周りに鉄の刃を出現させた。
刃渡り一メートル。
数は五。
漆黒の鋼鉄で形成された、異形の刃。
片刃で持ち手が無い投げるための刃は、彼の右手が振り下ろされると同時に自動で、破砕された床に倒れこむアリスへと飛んだ。

「!」

彼女は飛び上がり、後ろへとバックステップ。
ザクザシュッ!!と、自分の居た場所をあっけなく貫いて行く漆黒の刃を見つつ、彼女はパチン、と指を鳴らす。
何かの攻撃かと思い、彼は正面へ手を翳した。
直後、

「──?」

ギュンッ!と、魔力のうねりが出現する。
重い、攻撃だと分かる魔力の流れが直近くに。
彼は横目、なるべくアリス自身から目を放さないようにしながら視線をやる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:44:59.57 ID:JUPP1soS0<>

そこには、石柱に刺さったまま今にも爆発しそうな人形があった。

「──」

彼が何かする前に、
ドゴォンッ!!と人形が大音響と共に炸裂する。
青い閃光とともに爆風が弾け、室内にある全ての物を消し飛ばした。
絵画が、アンティークが、棚が、人形が。
焼き千切られ、引き裂かれ、燃やされた。
屋根すらも消し飛び、埃と爆煙が混じった、視界を遮る漆黒の煙が周囲を覆う。
が、一秒経たずに煙は消え去った。

"無傷"の少年が、腕を振って煙を消失させたからだ。

至近距離から大爆発を喰らったというのに、彼には全くと言っていい程傷が無い。
その身を包む民族風の、無駄な装飾が一切無い服にさえ、焦げの一つもなかった。
普通ならあり得ない。
彼と同じぐらいの距離にあった石柱は原型すら残っていないし、そもそも部屋が無くなるだけの爆発に、人間が耐え切れる訳が無い。

「……」

だというのに、彼はしれっとした顔で周りを見渡している。
周りは壁が無くなったせいで魔法の森の風景が丸見えであり、素通りする風によって倒壊寸前の家屋がミチミチ悲鳴を上げていた。

「やはりそう簡単にはいかないか」

直後に、彼──フェイト・アーウェルンクスは跳ぶ。
床が軋み、彼の姿は残像すら無く消えた。
逃げた人形遣いを追うために。





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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:45:46.65 ID:JUPP1soS0<>








「はっ、はぁ、はぁっ!」

アリス・マーガトロイドは森の中を駆け抜けていた。
左手には魔導書を抱え、それ以外には何一つ持ち歩いているようには見えない。
何時もどおり空を飛ばないのは、見つかる確率を減らすためだ。
なので彼女は枝を踏み折りながらも、足を止めない。

(……あんな狭い所で戦うのは自殺行為。確か、この先に開けた場所があった筈)

アリスは魔法使いだ。
魔法使いというものは、殆どが接近戦に弱い。
何故なら、魔法を使うには大概がどんなものでも時間がかかるからだ(無詠唱という物もあるが、それは威力を犠牲にしている)。
確かに彼女達は火力や特性という点では、他の種族に負けない。むしろ優っている点も数多くある。
しかし、等価交換の法則上、どう足掻いても接近戦が弱くなってくるため、魔法使いなのに接近戦が強い者は少ない。
しかもアリスの戦闘スタイルは人形が前衛、自分が後衛というスタイルなため、それなりに広い空間でないと実力を発揮出来ないのだ。

(それにしても、"アレ"はなに?)

走りながら彼女の脳内に浮かぶのは、襲って来た少年の姿。
白い髪に、無機質な瞳。
見たことの無い服装に、かなりのレベルであろう精霊魔法。
ここまでは他の魔法使い、強者達にも分かることだろう。

だが、アリスはもう一つだけ気になっていることがあった。

(極わずかにだけど、動きに──っ)

突如、視界が開けた。
思考を取り合えず切り上げ、アリスは足から滑り込むようにして開けた場所へと飛び込む。
何らかの原因で木々が生えないのだろう。
森の中にぽっかりと開いた、芝に覆われた大地。
そこに立つアリスは、足で体を支えながら上空を見上げる。
普段ならうす気味悪い霧が魔法の森を覆っているのだが、今日は晴れており、太陽の光が照らし出されていた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:46:30.42 ID:JUPP1soS0<>

そして、太陽を背に此方へと落下して来る人影が一つ。

前方にスタッ、と人影は柔らかく着地した。
アリスは無機質な瞳による視線を受けながらも、自分の周囲に人形を展開させる。
六体の縫ぐるみのような人形が周りをフワフワと浮かび、回転させながら彼女は口を開いた。

「誰?この辺りでは見ない顔だけど」
「──フェイト・アーウェルンクス」

少年、フェイトが素直に名乗って来たことにアリスは小さく驚く。
驚きつつ、心で思ったことをそのまま彼女は口から放った。

「いきなり襲って来たから余程の無礼者だと思ったけれど、名乗るなんて意外だわ」
「否定はしないよ。謝罪をするつもりもない」
「でしょうね」

不思議な少年だと、アリスは思う。
見た目は明らかな子供だというのに、まるであらゆる理不尽や不幸、悲劇を見て達観したかのような、大人の雰囲気を感じる。
だが、その裏側に一人の少年としての感情も見え隠れしていることが、不思議な雰囲気を更に倍化させていた。

「目的は?生憎と、私は誰かの恨みを買ったつもりはないわよ?」
「恨みというより、危険の排除だね。──貴方の持っている"術式"を渡していただく、もしくは今この場で破壊して貰いたい」

思わず舌打ちが出かける。
先程の一撃はやはり自分ではなく、自分が持っていた術式が狙いだったのだ。
現在アリスはその術式を、媒介を使ってポケットにしまっている。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:47:23.17 ID:JUPP1soS0<>

("なんで術式のことを知っているのか"──なんて聞いても無駄でしょうね。全く、スキマも面倒な物を押し付けてくれちゃって……後で一から十まで問い詰めてやる)

面倒だ、と思いながらも術式を放棄しないのが彼女らしいといえば彼女らしい。
アリスとて、魔法使いとしてのプライドという物がある。
一ヶ月かけて作り上げた物を「はいそうですか」なんて言って渡せる程、プライドは低くない。

なので彼女は、問い返す。

「断る、と言ったら?」


「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」


返事は、魔法の詠唱だった。
始動キーと呼ばれているそれは、精霊への干渉を行う始まりの言葉。
当然、魔法使いとして様々な魔術の知識を持つアリスはそれを知っていた。

「行って!」

アリスの言葉に答えるかのように、人形達が飛ぶ。
空間を一直線に疾走する人形の手には、何時の間にか人間が扱うような西洋剣が握られていた。
人形は小さな体全体を使って剣を振り回すように動き、カッターのようにフェイトを切り裂こうとする。
だがフェイトはそれらを、

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:48:04.71 ID:JUPP1soS0<>

「おお、地の底に眠る死者の宮殿よ」

詠唱を続けながら、肉体で叩き潰した。
その小さな体躯からは想像できない速度の拳と蹴りが、人形達を全て叩き潰す。
グシャッ!!と。壮絶な打撃音と衝撃波が辺りに響き渡った。

「ラテン語……西洋系の、精霊魔術ね」

人形を潰されながらも、アリスは冷静に少年が扱う術式を見定めていた。
なるほど、相当な実力者らしい。
詠唱に込められた魔力量といい、身体強化による体術といい、普通の術者を軽く凌駕してしまっている。


「まっ、それでも」


負けられないのだが。

「魔符「アーティフルサクリファイス」!」

カードが掲げられた。
フェイトがアリスの手元から魔力によって弾けた術を感じ取った時には、上空から三体の人形が落下して来ている。
見た目は普通の、布で作られた人形。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:49:18.64 ID:JUPP1soS0<>
「ごめんなさい」

そんな人形への謝罪とともに、
ドォンッ!!と、またもや轟音と閃光を上げて人形が炸裂した。
但し先の爆発とは違い、青や赤の尖った弾幕を含んだ爆風が辺りへと壁のようにばら撒かれる。
美しく、そして残酷に。
術者であるアリスの視界さえ一気に閃光が包み、そして消える。

「──」

だが、弾幕の嵐が止んだそこにフェイトの姿は無い。
えぐられたボロボロの大地だけが、そこに存在した。

「我らの下に姿を現せ」

遥か上空。
ハッとなって見上げた先には、詠唱を終える彼の姿が。
ゾクリ、と。
その姿に、アリスの魔法使いとしての感覚が警告を発した。

ヤバイのが、来る。

「『冥府の石柱』」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:50:00.14 ID:JUPP1soS0<>

瞬間、空に柱が出現した。
六角形の、直径十メートル、長さ五十メートルの呆れるような大きさの一枚岩が四本も宙に浮かんでいる。
黒いそれは、魔法により召還した上位の物理的魔法だった。

「っ!」

予想通りの大規模な魔法展開に、アリスは魔力を練り上げる。
あれが大地に叩きつけられた場合辺りへの被害がとんでもなく、下手をすると舞い上がった土砂に巻き込まれる危険性がある。
かといって空を飛んで射線から体を外しても、直ぐに接近されるに違いない。
障壁で防ごうにも、物理的に難し過ぎる。


「足軽「スーサイドスクワッド」!」


だから、彼女の取った選択肢は「消し飛ばす」。
人形が三十程、アリスの後方から現れて、火が灯る。
一旦、力を溜めたように見えて、瞬時に"発射"された。
ミサイルの如く、体から噴射炎を放出する人形達は上空から降り注ごうとしていた柱達に、モロに次々と直撃する。
当然のように人形達は爆発し、臙脂色の爆発は白い爆風とともに巨大な柱へ、ビキビキビシビシッ!!と、ひび割れを入れ、広げて行った。
だが、崩壊までには至らない。
爆風を押し裂き、柱は天から地上へと迫るが、

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:50:43.75 ID:JUPP1soS0<>

「まだまだっ!」

アリスが追撃に放った第二陣の人形達によって、崩壊させられた。
ゴシャァァッ!!という人形爆弾の轟音とともに砕け散った柱は、千を越す瓦礫の雨となって大地に降り注ぐ。
さながらそれは、天罰の雨のように。

(どこに?)

小さい破片を片手間に張った魔法障壁で弾き、大きな破片を残りの人形達で爆破しながら、アリスの青い瞳が辺りを射抜いた。
黒い岩の雨が降る中、フェイトの姿がまたもや掻き消えていたのだ。
空にも、大地にも、あの白い姿は無い。

「──っ!」

アリスは精神的反射で、後方に浮かぶ人形を横合いに叩きつけた。
狙いは、左横の瓦礫。
その空間に落下していた瓦礫の影に隠れるようにして、
フェイトが、拳を振りかぶっていた。

「むっ……」

気づかれたのにも構わず、彼は拳を抜き放つ。
易々と瓦礫を貫通し、自分へと迫る拳へ、彼女が人形を叩きつけたのは直撃ギリギリのタイミングだった。
拳を受けた人形はグニャリと歪み、爆発。
爆発は拳を放ったフェイトだけでなく、アリスにまで暴風を叩きつけた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:51:21.20 ID:JUPP1soS0<>

「うぐっ!」

爆炎に押されるように吹き飛び、地面に着地。
ブーツの底を瓦礫の雨によって荒地となった地面にめり込ませ、アリスは前へと顔を上げる。
視線の先には、沸き立つ黒煙。
ボンッ!!と。
それを突き破って、民族服の彼が迫る。

「……」
「とっ!」

フェイトはアリスの顔へと、回し蹴りを放った。
かなりの速さと唸りを持って顔面へと迫ったそれを、アリスは体を屈めて躱す。
ひゅっ、という空気を切り裂く音が今だに降り注ぐ瓦礫の雨の中で響き、

「!?」

追撃の蹴りが、屈んだアリスの胸元へと突き出すように放たれた。
余りにも速過ぎる蹴りに対応しきれず、彼女は思わず左手に抱えた魔導書を盾にする。
ドゴンッ!!と。
魔力が込められた紙の束を通して、衝撃がアリスの左手を襲った。

「あ、ぐぅっ!?」
「やはり貴方は接近戦がそれ程得意じゃないみたいだ」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:52:25.71 ID:JUPP1soS0<>

グラついたアリスへと、大地から石柱がまたもや突き出した。
花が咲くように、自分の足元から出現した岩槍をアリスは真上へと飛んで躱す。
ただのジャンプではなかった。
一蹴りで高さ二十メートル以上の上空まで飛び上がり、ふわふわと浮かぶ。

(こいつ、単純な力の総量がそもそも人間じゃない!吸血鬼クラスよ!?こんな魔法使いが居たなら、私だって知ってる筈なのに!)

考え続ける時間は残念ながら皆無に等しい。
フェイトもなんらかの術を使用しているのだろう。
宙を飛び、彼はアリスへと迫る。
完全に接近戦を仕掛けて来るつもりだ。

「っ!この……!」
「……」

空を飛び、二人は平行に飛行して激突しながら、森の上を戦場に変えて行く。
フェイトからの拳や蹴りを体を自在に逸らして躱し、アリスからは剣を持った人形で攻撃する。
尖った杭のような岩も、弾幕を躱す時と同じように躱した。
お伽噺の中のような、空飛ぶ人による戦い。
空中では爆発音と衝撃波が連続して轟き、周囲に少なくない余波を叩きつけている。
森の木々にとまっていた鳥達は普段にない異変に、慌てて飛び立って行った。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:53:04.71 ID:JUPP1soS0<>

幾千、幾万もの攻防が天を滑空しながら行われ、アリスの脳内に思考が展開され続ける。

(この体術、紅魔館の門番と似たようなもの?共通した流れがあるし、我流って風にも見えないわね!)

ボッ!と、顔の直ぐ横を岩槍が通過するのを感じつつ、アリスは冷静に考えていた。
空中では、やはり動きにおいてアリスに軍杯が上がる。
日頃から空中戦ばかりの彼女達にとって、地上戦よりも空中戦が得意になるのは仕方無いこと。
だがそれでも、フェイトの動きに乱れはない。
アリスの顔面へと、正確な肘打ちを叩き込もうとしてくる。
その肘を、青い魔法陣で受け止めた。

「……このままじゃ、ジリ貧ね」

バチバチッ!!と、肘を受け止め障壁から発生した魔力同士のスパーク音に紛れるように、アリスは決意の言葉を口に出す。
同じようなやりとりが、数十は行われているのだ。
このままでは、キリが無いか、もしくは自分がやられる。

「ふっ!」

アリスは、勝負に出た。
体を空中で急停止させ、逆にフェイトにぶつかりに行く。
青い瞳が煌き、彼女の体を炎の如く輝く、青い魔力光が包み上げた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:53:40.66 ID:JUPP1soS0<>

「?」

今まで接近戦から逃げようとしていた彼女が、突如接近して来たのに驚いたのだろう。
フェイトの目に、僅かな驚きの色が浮かぶが、彼は躊躇なく右手を振り抜いた。
瞬間、彼の手に沿うように黒い小型の魔法陣がいくつもいくつも展開されてゆき、次々と魔法陣から何かが発射される。
銃弾のようなそれは、鉄製の長大な杭。
長さ一メートルはある、人工的な形を持った武器。
空気を切り開く甲高い音色を鳴らし、漆黒の杭達は一斉にばら撒かれた。

「たっ!」

文字通りの弾幕となって迫る杭達を、アリスは身を捻って回転し、服に触れるスレスレで避ける。
まともに喰らってしまえば焼き鳥の肉みたいに串刺しにされるのだが、彼女の瞳に恐怖は映っていない。
周囲へと雨霰とばかりに降り注ぐ杭の間を駆け抜け、彼女は右手をフェイトへと向けた。
そして、彼女は叫ぶ。

「喰らえ!」

宣言とともにその手から紅い光球が弾き出された。
光球は杭達にぶつかることなく一直線に飛び、フェイトの顔面へと迫る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:54:48.42 ID:JUPP1soS0<>

「……」

彼の右腕が、一瞬の停滞さえ無く振り抜かれた。
振り抜かれた右腕は普通の人間では捉えれない速さを持ってして、光球を掻き消す。
と、

「なに?」

バァンッ!と、火薬が弾けるような音がしたかと思った時には、フェイトの視界を白い煙幕が覆っていた。

(煙幕型の魔力弾?無駄なことを……)

そんなことを彼は思いつつ、更に杭を数十、前方の空間へと放つ。
小さな魔法陣から放たれた杭は煙幕を引き千切り、飛んで行くのだが煙幕が掻き消えることはない。
普通の煙幕なら衝撃によって消し飛ぶだろうが、魔法によって編まれた煙幕にそのような常識は通用しなかった。
開けた空間を埋め尽くすように、再度煙幕が満ちて視界を白く遮る。

(魔力探知も無効、か)

探査の魔法も無駄なことを知り、フェイトは適当に辺りへ杭を放ち続けた。
目に見えないため、牽制の意味を持った攻撃の嵐。
うまく当たれば御の字。当たらなくても、相手に対して近付くのを抑える壁になる。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:55:31.59 ID:JUPP1soS0<>

ヒュッ、と、風切り音が一つ。

フェイトの耳は、それを杭達の風切りとは別の音として捉えた。
僅かな速度の違いによって変わる音の大きさ。
それを聞き分けた彼は、音がした背後へ裏拳を振るうった。
鋼鉄すら粉々にしてしまいそうな一撃は、煙幕に紛れてフェイトに迫っていた何ものかを貫き──

「!」

始めて、フェイトの表情に小さな驚愕の色が浮かんだ。
彼の左手が薙いだのは、一体の人形。
金色の糸による髪を靡かせる、人間大の人形だった。

「囮……?」

彼が疑問に答えを出した瞬間、




「戦符「リトルレギオン」!」




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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:56:36.68 ID:JUPP1soS0<>


上空から宣言が一つ。
フェイトが顔を上げると、晴れかけている煙幕の隙間から覗く視界の先に、彼女の姿はあった。
彼女が掲げたカードは粒子となって弾け、光を撒き散らしながら力を世界に放出する。
力によって現れたのは、五十を越す人形の大軍。
それぞれが形の違う剣や槍を手に持ち、魔力を集中させていた。

「突撃!」

叫び声に、人形達は一斉に動き出す。
全ての人形が一切のブレ無く、下へと翔るその姿はまさしく小さな軍団(リトルレギオン)。
フェイトが回避行動を取る時間は、なかった。


ズバァァンッ!!と。


もっとも前方をかけていた人形がフェイトの張っていた魔法障壁を貫き、雪崩のように、彼の体を人形達が押し潰して行った。
大地へと人形達とともに彼は墜落し、轟音と砂煙がアリスが居る空中にまで撒き上がる。
世界が震えていると勘違いしてしまいそうな程の地響きとともに地面はひび割れ、崩壊した。
爆弾が落着したような、自分が起こした下方の現象へ、
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:57:32.80 ID:JUPP1soS0<>

「次っ!」

更に、軍団を差し向ける。
槍を輝かせた人形達が新しく彼女の周りに現れ、砂煙を流星のように突き破り爆心地へと直撃していく。
ズドドドドドドッッ!!と、連続して爆音が大気を震わせて木霊した。
一度消えた砂煙もまた新たに撒き上がって、空間を砂色に染め上げた。

「──やったかしら?」

トンッ、とブーツを荒れた大地に付け着地。
アリスは砂が張り付く服を時折払いながら、着弾点へと視線を向けた。
人形による突撃を受けた地点から、砂煙が立ち昇り続けていた。
アリスが動いたことによって起きた風でも、砂煙は全て晴れてはいない。
もうもうと立ち昇る砂煙は消えることがなく、着弾地点を外界から覆い隠してしまっていた。

「……」

ギュッと、魔導書を握る左手に自然と力が篭る。
目を凝らし、砂煙の向こうを全神経を持ってして警戒し、魔力を練る。

(……)

そして、




障壁を張った瞬間、膨大な衝撃が肉体を叩いた。





「ぐ、あっ、ぁあああああああああああああああああああああああっ!?」

青い魔法陣の障壁を粉々に砕き、彼女の体へとを叩きつけられたのは、砂。
小さな粒の塊が巨人の腕のごとく塊となり、アリスの体を無造作に吹き飛ばす。
しかも塊は一つではなく、正面のあらゆる角度から砂刃が水のようにうねって迫るのが、高速で流れて行く視界の中でも認識できた。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:58:12.22 ID:JUPP1soS0<>

「ぐ、うぅっ!?」

口内に血の味を感じながら、腹にめり込んだ砂を魔力弾で消し飛ばす。
そしてそのまま勢いを無理矢理殺すように、足を大地に食い込ませた。
ガガガガガガガガガガッッ!!と、アリスの履くブーツの底と荒れ果てた大地の間に、摩擦音とは程遠い破砕の音が轟く。

「っ!」

襲い掛かって来た砂の刃達を、人形を生み出して操ることで相殺させた。
ついでとばかりに、七色の弾丸を人形の手から放つ。


「邪魔だよ」


だが、全てがまたもや吹き飛んだ。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:58:53.97 ID:JUPP1soS0<>


ゴバッ!!!!と。

突如として、"魔法の森の一角が"消し飛ぶ。
大地の奥深くごとえぐられた土砂は、斜め上へと特殊な爆弾でも受けたかのように弾け飛んだ。
バラバラの積み木みたく切り裂かれた木々が土砂に紛れており、大地の津波ともいえる現象は、一角ではなく、辺りの森へさえ物理的に押し潰す。
生物全ての鼓膜を破るような轟音は幻想郷の、世界の空を、大きく深く震わせた。

「──っ、か、はっ……!」

ガラガラと。
耳に瓦礫が転がって行く音を感じながら、アリス・マーガトロイドはなんとか息を吐き出す。
吐き出した吐息には、紅い血が霧状になって混じっていた。
朦朧とする意識を無理矢理しっかりさせ、彼女は青い瞳を、表情を痛みに歪めながらも動かす。

自分の状態は最悪。
服はスカートや上着が灰色に染まって引き千切れ、ボロ雑巾のよう。
出血も見られ、殆どが擦り傷レベルだが、深く切ってしまっているのもある。
土砂の山に半分埋もれながら寄りかかり、なんとか体を起こしている状態だ。

「っ、え、ぎっ、が……っ」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 15:59:36.41 ID:JUPP1soS0<>

まともな声が出ない。
喉と肺の痛みに呻きながらも、彼女は思考は止めない。
芝に覆われていた大地はいまやただの瓦礫と土砂によって荒れ狂った、何処ぞの戦場かと言わんばかりの状態。

そして、その大地、アリスの前数十メートル先に、フェイト・アーウェルンクスは居た。

漆黒の刃を百本程、自分の周囲に漂わせて。
恐らく、あの大量の刃が今の破壊を引き起こしたのだろう、と答えを導き出すアリス。
だがそれより、森を消し飛ばしたことなどより問題なのは、

(無傷……っ!?そんな……!)

自分のスペルカードの一撃をモロに喰らって、それでも無傷な彼の姿だった。
少しばかり服は破けてはいるものの、その肉体には傷の一つもない。
明らかに、異常。

「まさか本気を出すことになるとはね……異世界というのは、やはり侮れない」

彼は靴で地面を踏みしめ、此方へと歩いてくる。
歩くその姿を目を凝らして見つめ、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:00:22.78 ID:JUPP1soS0<>

(なっ……!?)

漸く、気がついた。
彼の体を覆う、異常な魔法障壁の量に。
五枚、六枚などというレベルではない。
二十、三十枚以上の魔法障壁が全方位に張り巡らされて、曼荼羅のような、複雑かつ堅牢な多重障壁を創り出されていた。
普通の魔法使いでも、まずこんな障壁を張り続けるのは不可能だと断言できる。

(まさか、さっきの攻撃は全部、この障壁に防がれて──!?)

アリスの頬を、血と冷や汗が音無く伝って行く。

(ま、ずい……!態勢、を……っ!)
「貴方のような実力者は後々厄介だ。残念だけど、貴方にはここで舞台から退場してもらおう」

焦るアリスへと、彼は無表情のまま残酷に告げた。
白い髪を風に揺らし、右手を前へと差し出す。
差し出された右手の人差し指に、目が痛くなる無気味な閃光が収束され始めた。
そして閃光は、アリスへと向けられている。
閃光の正体を読み取ったアリスの表情から、血の気が引く。

(詠唱破棄……っ!?)
「じゃあ、さようなら」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:01:00.28 ID:JUPP1soS0<>

少しの猶予さえ無かった。
そんな漫画のような『トドメ』の時間を、目の前の少年はくれなかった。
高い、魔力が収束する独特の効果音とともに、目に焼きつきそうなくらい光が凝縮してゆく。
彼女は、目の前にはっきりと迫った死の予感に対向するべく、とある魔法を使用しようとした。

"奥の手"を使おうとしたアリス。
無慈悲にトドメの魔法を放つフェイト。
両者の僅かな時間差で勝負が決する、この瞬間。






「火符「アグニシャイン」!」






第三者が、介入した。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:01:35.06 ID:JUPP1soS0<>

「!?」
「あ!」

二人が其々の驚愕を表した瞬間、炎の壁が爆発するような音をたてて出現する。
赤い灼熱の炎はアリスとフェイトを引き離すかのように燃え上がり、空気をその熱で焼き尽くす。

「……」

表情をまた無表情に戻し、フェイトは後方へと軽く飛んだ。
すると、後方へと離れた彼を追うように、炎の壁から幾つもの弾幕が放たれた。
弾幕は全て炎の塊であり、火の玉と言うべき物体。
フェイトは砂を操り、叩き落とそうとしたが、

「精霊が……?」

不思議そうな声を紡ぎ、魔法を発動しなかった。
火の玉を全て己の障壁と拳で叩き落としながら、彼は首を傾げる。
フェイトの周囲では、火の玉が大地に直撃し、噴煙を巻き上げてゆく。
彼は魔法を使わなかったのではない。使えないのだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:02:14.03 ID:JUPP1soS0<>


まるで、辺りの"精霊全てを支配された"かのように。

「相性が悪かったわね。異世界の魔法使い」

ヒラリと。
女性が一人、現れた。
気だるそうな雰囲気をその身に纏い、目は半分閉じかかっている。
色は紫。
髪の毛は鮮やかな紫で、服も薄い紫を中心とした、ヒラヒラ揺らめく質素なドレス。
丸い布の帽子を頭に乗せて、右手には一冊の分厚い魔導書を持っている。

パチュリー・ノーレッジ。七曜の魔法使いと名高い、幻想郷屈指の魔法使いの一人。
普段ならば紅魔館の大図書館にいる筈の彼女が、そこに居た。

「……どうしたの?万年引きこもり気味のアンタが、こんなところに出張するなんて」
「私だって偶には外出するわ。本に囲まれているだけでは出来ないこともあるもの」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:03:05.33 ID:JUPP1soS0<>

自分の隣に着地した彼女に、アリスは苦い笑みを浮かべた。
予想だにしない展開だが、まぁ取り合えずは助かったのだ。少しは笑みが浮かぶのも当たり前。
そのことを素直に感謝する気はないが。魔法使いというのは、総じてプライドが高いものだ。

「っ、痛たた……」
「下がってなさい。貴方が持っている術式を無くしたら、全てが終わると言っても過言ではないのだから」

彼女が言っているのが"術式"のことだと認識し、顔を顰めながらもアリスは先のパチュリーの言葉から言葉を紡ぎ出す。

「……"異世界"ってやつ?変なやつだとは思ったけど、まさか異世界とはね……」

無理矢理体を引っ張り起こしながら、アリスは前方を見やる。
そこには、不機嫌そうな顔をした、地属性の魔法使いであろう少年が荒地の真ん中で佇んでいた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:03:57.21 ID:JUPP1soS0<>

「なるほど、貴方が七曜の……」

彼、フェイトの言葉に答えるように、パチュリーの唇が静かに動く。

「貴方も方式は違えど、私と同じ精霊魔法使い。故に精霊の力を借りるという点に違いはない。そして余り知られてないことだけど、精霊というのはその気になれば自分だけで支配出来る場合もある。精霊を支配してしまえば、他の精霊魔法使いは力を借りれず、魔法を使うことは出来ない」

つまりは、フェイトが魔法を使えない理由はパチュリーの工作によるものだということ。
百年以上の時を楽に生きる、生まれた時からの魔法使いは告げる。

「私の能力は『火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力』。土・地属性は私の領分。相性が悪かったわね」

意外とこの魔女は説明好きなのかもしれない、とアリスは聞きながら思った。
喘息持ちなのだから、無茶はしない方がいいのではと思わないでもないが。

「……確かに、年季の面でも僕は貴方に負けているようだね」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:04:34.09 ID:JUPP1soS0<>

勝ち誇るパチュリーに向けるその言葉は、何処までも透き通っている。
二十メートル先の目蓋を閉じたその姿は、彫像のように硬そうに感じられる。

「……っ」

アリスは無意識のうちに、構えを取っていた。
強者なら誰しもが持っている、第六感と呼ばれるような物で感じ取ったからだ。
パチュリーも、似たような何かを感じたのだろう。
フワフワ宙に腰掛けるように浮かび、魔導書を開く。
フェイトは目蓋を見開き、その無機質な瞳で二人の姿を見て、


「なら、まずは貴方から」


ドンッ!と、彼の姿がぼやけて掻き消える。
と思った時には既に、パチュリーの眼前に手を伸ばしていた。
手からは、鈍い灰色の光を散らしている。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:05:10.36 ID:JUPP1soS0<>

(早い!)
(これは、石化魔法?)

アリスはその距離を詰めたあまりにも早い速度に、パチュリーは自分に近付く手に込められた魔法に、思考を分けながら迎撃の魔法を放とうとする。
フェイトが右手をパチュリーの魔法障壁に叩きつけようとし、アリスが人形達に指令を出して彼を迎撃しようとし、パチュリーが精霊魔法を発動させようと






「おっと、私を忘れてもらっちゃあ困るな」






した直後、フェイトの右肩にトンッと何かが当てられた。

「「あっ」」
「っ!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:06:01.01 ID:JUPP1soS0<>

突然の乱入者。
自分がその気配を感じ取れなかったこと、接近スピードの早さにフェイトは驚愕によって目を見開き、首を動かす。
スローモーションの世界の中で体はゆっくりと動き、そこに立つ者の姿を見ようと瞳が動く。

だが、その前に、


「恋符「マスタースパーク」!!」


馬鹿みたいな量の閃光が迸り、消し飛ばした。
太さ二十メートルはありそうな、超極太の光線が。
金色の閃光は"力尽く"でフェイトの多重障壁を叩き壊し、その体を閃光の中に消し去る。
閃光は一気に森を一直線に貫き、木々を壮絶な破壊音によって薙ぎ倒し、消し去り、何処までも貫いて行く。

「きゃっ!」
「くっ」

余波だけで、アリスとパチュリーの体が木の葉のように宙を舞った。
衝撃波が吹き荒れ、荒地の瓦礫達が浮き上がり、転がる。
光線は百メートルを楽に越し、遥か遠くの岩山に光の先端がぶつかって、
ドゴォォオオオオオオオオオオンッ!!と、岩山が噴火したかのように吹き飛ぶ。
遠目でも、灰色の岩山が崩れ落ちて行くさまが目に入った。

地形を軽々と変えてしまう一撃。
森に荒地を切り開き、岩山を消し飛ばしたこの一撃。
知っている人は知っている、そんな一撃だ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:06:42.20 ID:JUPP1soS0<>

「……少しやり過ぎちまったぜ」

環境破壊上等な一撃を放った人物は、"八角形の物体"をお手玉のように弄びながら、笑顔で呟く。
見た目のは、アリスやパチュリーよりも年下に見える少女。
金色の長髪と金色のイタズラっぽく輝く瞳。
小さな体躯を包むのは、"白と黒のエプロンドレス"。
そして何よりも目立つのが、頭にある"黒い三角帽"と手に持った"古い箒"だ。
昔のおとぎ話を連想させる、魔女の洋装。

霧雨魔理沙。
それが、そんな彼女の名前だ。
魔法の森に住む、"人間の魔法使い"である。

「少しどころじゃないわよこの馬鹿!」

開き直ったように呟く彼女へ、アリスは地面に着地しながら怒鳴る。
余波だけでも普通の人間なら死にそうな一撃を至近距離で受けかけたのだ。
アリスの怒りももっともと言えよう。

「そこまで怒らなくたっていいじゃないか」
「私の人形三体巻き込まれもしたら、怒るに決まってるじゃない!」
「助けてやったんだから別にいいだろー」
「助けたどころか、アンタ私を殺しかけたんだけど?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:07:23.98 ID:JUPP1soS0<>

細かいこと気にするなって、とヘラヘラ笑いながら対応してくる魔理沙に更に怒りの炎を燃え上がらせるアリス。
これは一度オハナシしなくてはならないかと意気込む彼女へ、

「そろそろいいかしら?」

何時の間にか近くに迫っていたパチュリーが、気だるそうに問いかけた。
気がつけば、三人は結構近くまで近寄っていて、ひそひそ話が出来るくらいアリスは魔理沙に詰め寄っていた。

「むっ……」

冷静になるアリス。
今はこんなことをしている場合では無いと思い起こされ、すごすごと引き下がった。

「サンキュ、パチュリー」
「別に。それよりも、"アレ"は生きてるのかしら」

パチュリーはジト目で、魔理沙の光線の先を見る。
放たれた光線は岩山に直撃しており、地形を変化させているだろう。
これだけの一撃をまともに受けて生きられているとしたら、それは相当の──


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:08:02.77 ID:JUPP1soS0<>


「どうも、僕は相当ついてないみたいだ」


──化け物だ。

三人がその声のした方、上空を見上げると、そこにはフェイト・アーウェルンクスが無表情を揺らがすことなく浮かんでいた。
ただし、その右腕は無い。
肩の部分からもぎ取られたかのように、右腕が無く、血が噴出していないことから魔力で組織閉鎖でもしているのだろう。
無論、彼に血があればの話だが。

「私の魔法を喰らってほぼ無事とは……とんだ化け物だぜ」

己の一撃を放つために必要な道具──八卦炉を手で構えながら、魔理沙は交戦的な笑みを見せる。
そんな彼女の言葉に、フェイトはため息を吐きながら呆れたように返す。

「僕としては、ただの魔力光線で障壁を一枚残らず突き破った君の方が化け物だと思うけれど」
「こんなに可愛い美少女を化け物呼ばわりとは酷いぜ」
「自分で言ってどうする」

突っ込むアリス。
無視する魔理沙。
呆れるパチュリー。
そんな三人の魔法使いを見て、フェイトは魔理沙の姿を注視した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:08:44.75 ID:JUPP1soS0<>

「君が"伝説の魔法使い"か。確かに、"彼"と似たような何かを感じる」
「おいおい、私は"普通の魔法使い"だぜ?間違えてくれるなよ」

むっ、となって言葉を返す魔理沙は、表情を歪めている。
「あんたの何処が普通だ」と言いたくなる自分を、アリスとパチュリーは抑えていた。
言った所で、この自称普通の魔法使いの認識が変わるとは思えない。いい意味でも悪い意味でも。
そんな彼女に対し、興味は無くなったとばかりにフェイトは注視を止め、

「さすがに幻想郷屈指の魔法使い三人を相手にするのは些か分が悪い。今日の所は引くよ」


──ズズズッ、と。


そんな言葉とともに、フェイトの体を、"黒い何か"が包んで行く。
まるで、闇に浸食されて行く月のように。
この世の現象とは思えない、不確かな何かが黒い何かにはあった。
その余りにも、"魔法として見ても異常な光景"に、三人は驚きを隠せない。
唖然と、ただ異常な光景に視線が釘付けになる。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:09:31.47 ID:JUPP1soS0<>

「精霊魔法じゃ、ない?」

そんなパチュリーの呟きが届いたのか、届いていなかったのか、今となっては定かではない。
が、その時彼は上半身の全てを闇に覆われ、顔をも包まれようとした時にこう呟いたのだ。


「人間には、"絶対に超えられないモノ"だよ」


全身を闇に包まれた彼は、始めてアリスの前に現れた時のように、音も無く消えた。
ただ後には、荒れはてた大地森林、三人の魔法使いが取り残されていた。















「結局、あいつはなんだったんだ?」
「さぁ?"術式"を狙ってたのは間違いないみたいだけど」

そんな声が、扉を隔てて耳に入る。
ボロボロの服を捨てるように脱ぎさりながら、アリスは一人部屋に居た。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:10:31.36 ID:JUPP1soS0<>
フェイトと名乗る少年が消えた後、直ぐにでも紅魔館に向かう予定だったのだが、アリスの状態が余りにも(色んな意味で)酷いため、一旦アリス宅へと引き返したのだ。
魔理沙とパチュリーの話し声を適当に聞き流しつつ、人形に包帯を巻いてもらう。
時折、これで大丈夫か首を傾げてくるので、軽く頷いてやった。

(……)

他の人形達には爆発によって壊れた部屋を修理してもらいつつ、アリスは思考を展開してゆく。
顎に手を当て、人形のように整った顔を歪ませつつ、

(あの少年……"血の気"がしなかった。それに、動きに一定のパターンが……ここから導き出されるのは)

答えを、アリス・マーガトロイドは出す。


(あれは、人形……?それも"魂"がある、人形という範疇を超えた)


「おーいアリスー、まだかー?」
「……もう少しー」

焦れたように尋ねてくる白黒魔法使いへ、普段よりも大きな声で返す。
そして、視線を下げて、

「まっ、何にせよ……下着姿で考察するようなことじゃないか」
「?」

はぁ、と白い下着姿のままため息を吐くアリスの動きに、人形が可愛く首を傾げた。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:11:06.36 ID:JUPP1soS0<>











魔法使い達は集い、物語を進め始める。
地の人形は、何も出来ず、
ただただこの物語は、進み続ける。












<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/01(火) 16:16:29.96 ID:JUPP1soS0<>

※今回、オマケスキットはありません。


更新が遅れた理由、それはゲームをしていたから。
すみません……マイソロ3が楽し過ぎたんです……
ちなみにリタとレイヴンが一番好きだったり。

後、ちょっとゲームのプログラムについて調べてました。格闘ゲームかSTG作れないかなぁ、と。
だけど、ss書く片手間にーってのは無理っぽいですね。
諦めるしかないか……

東方新作出るようで。
設定崩壊の危機が訪れそうで怖かったり。
しっかし、ZUNさん頑張るなぁ……

では、長くなりましたが次回も頑張ります。


PSレス数500突破しました!皆さんのお陰です、ありがとうございます!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/01(火) 16:53:56.35 ID:WURlvAQIO<> 更新乙
一方組はまだまだ先か
応援してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/01(火) 20:37:15.68 ID:3GjkuXfqo<> 乙
まぁよっぽどの能力だされない限りなんとかなんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/02(水) 00:37:05.61 ID:orMIX2SGo<> >>501
>格闘ゲームかSTG作れないかなぁ、と。

MUGEN
東方弾幕風 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/03/02(水) 00:41:14.87 ID:fqIpMMTz0<> まぁゆかりんの能力みたいに額面通り受け取ったらありとあらゆる小説漫画ラノベのキャラが負けるような能力でも大丈夫じゃないかな。
今まで通りうやむやな設定だろうから。

支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/02(水) 20:59:41.00 ID:C+Y6qQlQ0<> 秘封倶楽部って設定的に出すの厳しい? <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/05(土) 17:24:28.27 ID:+XwKCxWt0<>
>>502
まだ先ですね。多分、浜面達の話もあるので

>>504
こんな便利な物が……うーん、しかし時間が無い……

>>506
ちょっと厳しいかな?あの二人戦闘力0なので……


明日の朝か今ぐらいに更新します。今日本当は投稿したかったんですが……
後二回投稿したら、一旦幻想郷編は終わって学園都市に視点が戻る予定です。

ちなみに、メリヒムは無双しませんのであしからず
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/05(土) 17:42:28.02 ID:PHMR3u8IO<> 期待してる <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:18:23.84 ID:W8ZOT1MM0<> あれ?なんかiPhoneから見ると凄い変なことに……
どうすればいいんだこれ?

と、ともかく。投稿します。 <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:23:14.63 ID:W8ZOT1MM0<>



地底──それは、幻想郷の地下に位置する、旧地獄跡の現在の名。
地上に忌み嫌われた、もしくは地上の汚らわしさに飽き飽きした妖怪達が住み暮らすその世界は、地上とはまた違った光景を生み出している。
土蜘蛛の巣、嫉妬の妖怪が住む地底の都への橋、灼熱地獄跡と呼ばれるマグマ地帯、鬼や怨霊様々な妖怪が暮らす地帯都市。
どれもこれも、普通の人間が迷い込みでもしたら数秒で死んでしまいそうな、魔郷と呼ぶに相応しき場所。
そして、覚り妖怪と呼ばれる者が住む、地霊殿。


──の、北西三キロメートル先の、大地。


近くには灼熱地獄跡への入り口などもある、地底ではなんら珍しくない光苔の生える地域。
黒と灰色が入り混じる岩石が乱雑に大地から突出しているこの場を照らすのは、太陽では無く光苔の鈍い光と、時折通る怨霊達の火の玉。
そんな、全体的に暗い闇の世界で、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:24:43.41 ID:W8ZOT1MM0<>

ゾンッ!!と、閃光が空気を突き破り、翔る。


閃光の正体は、"虹"。
全く物質の抵抗というものを感じさせずに、虹色の光は直線上の全てを例外無く切り開いて行く。
巨大な、力による必殺の一撃。

「よっと!」

その一撃を、軽々と飛んで躱す者が居た。
高く高く、優に五十メートルは飛び、その身を空に踊らせる。
太陽の光が届かない、地底の暗闇に染まりきった空。
虹の余波による風にその身を回転させて舞う姿は、まさにそれこそが彼女に相応しいと言わんばかりの雰囲気を発している。
彼女──比那名居天子は、遥か下方を貫いて行く虹の閃光の"元"を睨んでいた。
紅い瞳が映し出すのは、西洋風のサーベルを突き出し、その先端から閃光を無造作に放つ一人の青年騎士。
背中から虹の光を伸ばし、白銀の長髪を優雅に漂わせるその姿は、伝説の昔話の勇者の如き装い。
彼──メリヒムからの一撃、それを躱した天子は、一瞬だけ虹の先に目を向けて、

「ていっ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:25:20.30 ID:W8ZOT1MM0<>

剣を振りかぶった。
彼女の手に収まっているのは、一本の緋色の剣。
揺らめき、炎のように姿を不安定にするその刀身は、どう見ても鋼から象られた剣には見えない。
その剣から、緋色の光り輝く球が剣風の代わりとばかりに発せられた。
キュボッ!!と、直径一メートル程の光球は、下方のメリヒムへと寸分の狂い無く飛んで行く。

「ふん」

だが、薙ぎ払われる。
たった一撃、彼から赤色の光が迸った瞬間には、緋色の光球は掻き消えていた。
虹と違い、圧倒的な力では無いのだろう。
相殺という形で赤の光線は掻き消え、炸裂の轟音が辺りへと満ちる。

「むっ?」

空気の震えを至近で感じながら、メリヒムは唸った。
爆風を吹き飛ばすように、何らかの飛来物が迫って来たからだった。
それは、岩。
ただし、しめ縄らしきものが岩に縛られており、先端が竹の子のように尖っていた。
高速で飛来する岩の数は五。
しかし、彼が疑問を抱いたのは飛来物の奇妙な見た目ではなく、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:26:08.03 ID:W8ZOT1MM0<>


ドゴシャッ!!


その五つ全てが自分に当たらない軌道を描いていたことにだった。
岩は五つともメリヒムの周囲に突き刺さり、動きを止める。

「!」

そう認識した時には、彼は飛んでいた。
マントを風圧にはためかせ、身を翻した瞬間、
大地に亀裂が入り、巨大な岩石が突き出した。
間欠泉の如く吹き出した岩を間一髪と見えるタイミングで避けた彼は、そのまま近くに幾らでもある全長五メートル程の岩石の"壁面に"着地する。

「なるほど、大地を操るための媒介のような物か」

自分が避けた物への推測を適当に呟き、
彼は、サーベルを真横へ振り抜く。
と、同時に、

「だぁああああああああっ!!」

ガキィィィィィィィンッ!!と、金属同士が強く衝突する音が地底の奥深くまで鳴り響いた。
踏み込んだ足によってヒビを岩石に与えながら、金属音の原因たる天子は叩きつけた緋色の剣に更なる圧力を込める。
対するメリヒムは何処か涼しい顔で、天子の一撃をサーベルによって受け止めていた。
鍔迫り合いが、岩石に力の拮抗によって産まれる圧力を与えながら続いて行く。

「悪くはないな」
「そっちも、ね!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:26:56.13 ID:W8ZOT1MM0<>

ガキャンッ!!と。
擦れるような破裂するような音をたてて、天子は僅かに下がった。
壁面に横立ちになる姿なのだが、当人達は大して気にせず、重力に逆らって立っている。

「……ふっ!」

一息付いて、天子は飛ぶ。
真横の地底の光景と、虹の残照を背に佇むメリヒムへ、

「!」
「はぁっ!」

潜り込むように、下から屈んで切り上げる。
元々、天子の方が男性(少なくとも見た目は)であるメリヒムよりも背が低い。
更に潜り込むように下から迫れば、背が高いメリヒムには剣で対処するのが難しい一撃となる。
切り上げによって、岩石に刀身が触れてえぐられているのだが、そんな細かいことには構わない。
天子は迷わず、剣を振り抜いた。
キュボッ!!と。
メリヒムから放たれる赤い光線を吹き消し、剣は彼の顎を切り裂こうと走る。

「甘い!」

が、キィンッと軽く弾かれた。
光線を消したことにより生まれた、一秒の何分の一かの時間で、メリヒムは態勢を立て直し、サーベルを翳して剣の一撃を防いでいたのだ。
そしてメリヒムは隙だらけの天子に、一撃を喰らわせようと力をためた。
が、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:27:43.13 ID:W8ZOT1MM0<>

「ふぅっ!」
「っ!?」

だが、天子の戦いの勘(バトルセンス)は彼の予想の更に上を行く。
弾かれた肉体の動きを利用し、彼女は右足を軸に体を横回転。
緋色の剣を腰だめに構え、


「気符「天啓気象の剣」!」


一気に、突き出した。
左足で踏み込み、緋色のエネルギーを凝縮させた丸い槍のようになった刀身を突き放つ。
ゴバッ!!と。
踏み込みによって岩石は今度こそ全体にヒビを入れ、バラバラに破砕させられた。
轟音とともに足場が崩落しかける、直前に、

「くぁっ!?」

ドォォンッ!!と、爆風によって天子の体が吹き飛ぶ。
原因は、自分が突き出した力と、向こう側から与えられた"三色の光線"による至近距離での衝突だった。
本来なら相手の後方まで貫く筈だった一撃は、最初の牽制弾幕のように相殺して爆散したのだ。

「ちっ!」

舌打ちを一つ。
猛獣のような獰猛な表情を浮かべながら、天子は新たな岩石の頂点に着地する。
刹那、

「──!」

ゴバッ!!と、一条の虹の光が迸る。
一撃をまたもや飛んで躱した天子は、飛行の術によって身体を操作し、綺麗に別の岩石の上へと着地した。

「……えげつない一撃ね……貫通力、威力、攻撃範囲、ともに最高クラス。貫通力にいたっちゃ、魔理沙の奴より上かも」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:28:34.59 ID:W8ZOT1MM0<>

音さえ立てずに、自分が立っていた岩石が自重で崩れて行くのを、天子は冷や汗を一筋垂らしながら感想を漏らす。
ただ、その表情に恐怖や焦りといったものはてんで見られない。

「お前こそとんでもないと思うが?少なくとも俺は、あんな反応速度と巨大な力、戦略を組み立てる者を十人程しか知らん」

そんな彼女へ、対面の似たような岩石に立つメリヒムから称讃の言葉が放たれた。
彼は剣に突き刺しかけられ、爆風を受けて黒く焦げた腹を抑えながらサーベルを軽く一振り。
天子は僅かにずり下がった帽子を整えながら、ニヤッと笑う。
その笑みは、戦いを楽しむ強者独特の、美しき笑み。

「あら、それは残念。どうせなら見たことがないって言われたかったわ」
「一人、何処までも輝いていた戦士を知っているからな」
「ふーん」

気兼ねなしに呟き、天子は手を差し出した。
手が指す方向は彼女から見て右下方。
その手から前触れ無く、ノーモーションで岩が放たれる。
多少丸い岩は、しかし中途で赤い光線に撃ち落とされた。

岩が狙った、その先。
そこには、二人と違い大地に居る者が居た。
居る、というよりは青い結界の中に入っている、と言うべきだが。

「ドォーミノォォォォッ!!なぁーにをやっているんです!?早く解析装置を形成するんですよぉー!」
「す、すみませんです。先程教授の命で燐子を全体転送した際に、転送装置に負荷がかかり過ぎたようでふいたひいたひ」
「おぉーまえは、私の性だと遠まわしに責ーめてますねぇ?」
「いひぇいひぇ、ひょんなひょこは」

「「…………」」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:29:18.96 ID:W8ZOT1MM0<>

なんだか、コントらしきものをやっている二人組が居た。
教授と呼ばれる男が機械仕掛けの丸い人形らしき物体を急かしているという、なんとも馬鹿らしい光景だ。
余りの馬鹿らしさに、天子とメリヒムは「はぁ……」と、揃ってため息を一つ。
だが青い結界に守られている二人(?)には届かないだろう。
岩の接近にも、全く気が付いていなかった。

「私としては、アンタみたいな奴がなんでアレと組んでいるのか理由がさっぱり思いつかないわ……」

指を再度、馬鹿なことをしてる教授達に指しながらメリヒムに呆れた表情で問う天子。
彼女にしてみれば、当然の疑問であった。

「俺の"願い"のために組んでいるだけだ……そうでなければ、あんな奇人とこんな異世界にまで来る筈が無かろう」
「やっぱりアンタ、異世界からの奴なのね。薄々勘づいてはいたけど」

メリヒムからの言葉に、表情の笑みを強める。
資料にあった、神の手先。異世界からの使徒。
あの見たことが、感じたことがない力で構成された虹の閃光。
そして、対峙した瞬間から延々と感じ続けている圧倒的な"存在の違和感"。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:30:06.31 ID:W8ZOT1MM0<>

「ほう、知っているのか」
「運がよかったわね。私は数少ない知っている者の一人よ」

それは運がよいと言うのだろうか?と彼女へ問い詰める者は居なかった。
メリヒムはただ僅かに、口の端に笑みを浮かべるだけで、凛とした表情を崩さない。

それにしても、と天子は言葉を続ける。

「あんな奴のお守りなんか大変ねぇ」

私なら死んでもごめんだけど、と付け加える彼女は、膝を少し曲げる。
その言葉の言外には、守る対象というハンデを背負った敵への僅かな同情が込められていた。
鈴の音色のような、凛としたその言葉にメリヒムは余裕の姿で、

「そちらこそ、後ろを随分と警戒しているようだな」

天子の痛い所をついてくる。
むっ、と不機嫌さを顕にする彼女の感情豊かな表情の前には、どんな鈍感な者でも彼女の感情が理解出来る。
実際天子はハンデともいえる難題を背負っていた。


それは、相手の虹による一撃の射程の長さである。


あの虹は想像以上の射程を持っており、彼の目の届く範囲ならばほぼ撃ち抜ける射程距離があるのだ。
天子の遥か前方、つまりはメリヒムの背後のキロ単位での先には、地底の都が存在する。
もし、あの都まで届いたらと思うと、幾ら天子でも後味が悪過ぎる。
"自分が起こした異変"と違い、自分で確実に止めれる保障など何処にも無いのだから。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:30:52.99 ID:W8ZOT1MM0<>

「別に、このくらいのハンデで丁度いいわ」
「虚勢を。まぁ、それくらいでなければ俺の相手は勤まらんか」

偉そうに、と言おうとして天子は口を閉じる。
「お前もな」と言い返されそうな気がして、言い返せない自分が居たからだ。
代わりに、

(さて、地上でならともかく……この状況でこいつに勝つのは正直難しいわね)

冷静に、戦況を見極めていた。
戦士として戦いの頭脳を全力稼働させ、紅い瞳を細める。
現在、天子は満足に力を振るえていない。
地底と地上では大地を操る感覚に多少誤差が出る上、明らかにハンデも自分の方が重かった。
向こうは結界に守られており、此方は遥か遠くの都。
守らなければならない対象が大き過ぎる。
しかも、"それだけではない"。

("時間を稼げば私の勝ち"、なんだけれど──)

天子は目を開き、前を見る。
虹の騎士が、そこには変わらない姿で存在していた。

「そんなんじゃ、私らしくないわね」

剣を翳す。
緋色の軌跡が宙に描かれ、周囲を緋色に染め上げた。
そして、段々と周囲から薄い緋色の何かが、緋色の剣へと"萃"まって行く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:31:52.56 ID:W8ZOT1MM0<>

「『緋想の剣』よ──」

己の剣の名を紡ぎ出し、地底の空を切り裂くように振り上げた。

「……?」

攻撃にしては余りにも大胆な構えに、メリヒムは訝しみ、サーベルから虹の火の粉を僅かに零す。
緋色の剣──『緋想の剣』を上段に両手で振り上げる天子は彼の態度など歯牙にもかけず、言葉を更に続けた。
流麗な詠唱が、空気を震わせて空間に木霊する。

「その緋色の輝きを持ってして──」

瞬間、目に見えて剣に萃まる緋色の霧が増す。
薄く、霧のようだったそれは今や血のように濃くなっている。
そして、その緋色の霧は空間からだけではなく、

「……なんだこれは?」

虹の騎士からも、滲み出ていた。
水のように流れていく緋色の霧。
自分の身体から溢れて行く何か。
かといって自分から何も失われていないことが分かる彼は、やはり疑問を隠せない。
が、

「なんにせよ、その前に撃ち抜くだけだ」

右手を前に突き出した。
ようするに、これらの現象が何らかの特別な儀式なり術の類いだったとしても、何かする前に叩き潰せばいい。
策は実行される前に潰す。
それが、メリヒムの中でもっとも簡単でもっとも早い答え。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:32:39.88 ID:W8ZOT1MM0<>

音を置き去りにして、虹の一条がその右手から放たれる。

見る者全ての視界を虹色に染め上げる、そんな一撃だった。
そんな七色の光が一直線に、大気を消滅しながら天子へと直撃するべく迫る。




「彼の者の"緋想"を映し出せ──」




しかし、閃光が轟音とともに岩を吹き消した時には、天子は遥か上空に飛んでいた。
空中に、丸い岩を浮かせてその上に立って尚、剣を構えている。

「早い……チッ」

外したことに舌打ちしつつ、メリヒムはその姿を下から見上げる。
追撃の虹を放つことはなかった。
既に緋色の霧は消え、剣へと渦巻く風のように圧縮されていたからだ。
体には何の影響も感じず、ただ黙ってこの現象の結果を金の瞳で捉えるメリヒム。

「ふっ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:33:31.84 ID:W8ZOT1MM0<>

そんな彼からの視線を肌の感覚で感じつつ、天子は上空で剣を横へと素早く薙いだ。
ブゥンッ、と。
揺らめく刀身は残照を残しながら煌き、緋色の霧を内へと収束させてゆく。

やがて、周囲に満ちていた緋色の霧が全て剣に吸収されると、刀身が変貌し始めた。

変化は、極わずかな物。
不安定な流動体のようだった刀身の揺れが収まってゆき、目で見れる実体となっていく。
まるで土が鋼に成り変わって行くような、不思議な光景。
やがて剣の揺らめきが収まり、緋色の霧も残らず消え去った。
霧の後には、剣を構える天子が存在するのみ。

「ふーん、こんな形か。まっ、妥当ね」

ブンッ、と試し斬りのように軽く手首だけで振るってから、

「たぁっ!」

天子は岩から飛び降りる。
躊躇なく大地へと落下して行き、その体を飛行の術で支えることもしない。
ただ地上よりも強い星の重力に身を任せ、剣を振り下げるのみ。
流星の如く落下して行く彼女の落下地点は、虹の騎士。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:34:17.66 ID:W8ZOT1MM0<>

「?」

空からの落下エネルギーを利用した一撃を、メリヒムは僅かワンステップで躱した。
というより、躱すのが簡単過ぎる直線的な一撃だった。
そして、振り下ろされた剣は足場になっていた巨石に直撃し、

バカッ!!と、巨石が内側から破裂する。

「なっ!?」

グラッと足場が壊れ態勢を崩す彼に、天子は容赦なく追撃。
巨石をいとも簡単に真っ二つにした『緋想の剣』を引き抜き、メリヒムの顔面へと鋭い突きを放つ。
だが緋色の先端はメリヒムの頬を少しばかり削るだけに留まった。首を捻って躱されたのだ。
血ではなく虹の火の粉が鮮血の代わりに舞い、その普通の生物にはあり得ない現象に天子は瞳を見開いて驚く。

「ふん」
「!」

虹が放たれた。
動揺で生まれた小さな隙を撃ち抜くように、至近距離で虹が彼女の体を焼き尽くさんと七色が束ねられ、集束する。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:35:07.03 ID:W8ZOT1MM0<>

「ふっ!」

虹を放たれた瞬間、小柄な体を利用してメリヒムの背後へと回り込んだ。
直後に衝撃の余波が肉体を叩くが、天界の料理で強化された天人の体はそこまでやわではない。
緋色の光を空間に刻む、神秘そのもの剣を天子は彼の首を狙って薙ぐ。
メリヒムも虹が躱されてからの対応が早く、もう既に首への斬撃を防ぐべくサーベルが立てられていた。
キィィィィィンッ!と、甲高い音色が響き、空気を細かく震えさせ、鼓膜に音を響かせる。

「ふぅぅぅっ!」
「これは……!?」

無理矢理押し込んでくる天子の力にではなく、メリヒムは緋色の剣を見て驚愕の表情を見せた。
明らかに天子からではなく、剣から何らかの力の補正を感じたというのが、理由の一つ。
もう一つは、刀身の形だ。
七十センチ程の緋色の鋼に、僅かな反り。
そして片刃で全体的に薄く、洋風の波紋が無い刃。

それは、自分が持つサーベルと瓜二つの剣だった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:35:51.57 ID:W8ZOT1MM0<>

ガキィィンッ!と。
刀を力に任せて弾き、足場となっていた岩石達が瓦礫となって大地を転がって行くのを感じつつ彼は宙に浮かび続ける。
対して天子も弾かれた体を回転させて、宙に漂っていた。

「その剣は……」
「これは『緋想の剣』。人の思いを、気質を、暴き、操作する剣よ」

誇るように、天子はメリヒムへと説明する。

「この剣に特に決まった形はない。日によって変わる天のように、敵に対してあらゆる刀身へと変貌する。貴方の場合はこの細めの刃だったってことね」

更に、と天子は地の空へと剣を掲げ、

「こんなことも出来る!」

瞬間、剣から緋色の何かが立ち昇ったかと思うと、
空に、"虹"が浮かんだ。

「……!」

虹だ。
ただしメリヒムが使うような、攻撃的な虹ではない。
自然現象の、見る者の意識を釘付けにするような、美しい輝ける七色の光の帯。
本来ならば天気というものが存在しない真っ暗な地底の空に、その虹は浮かんでいた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:36:44.41 ID:W8ZOT1MM0<>

「こんな風に気質を使って、天気の形で気質を表したり、緋色の力として戦うこともできる。まっ、異変の時と違って、今は天気も戦いに影響を出せるレベルじゃないけど」

クルン、とバトンのように剣を回しながら、彼女は微笑む。
聖母ではなく、悪人が浮かべるような凶悪な微笑みだったが。

「さしずめ、貴方の気質は『虹』。効力は多分……『短命になる程度の天気』かしらね」
「……意味がわからんな」

不機嫌そうに、言葉を返すメリヒム。
恐らく気質などなんだの、話に半分程ついて行けないのだろう。
ただ短命などと言われては、多少苛つくのも分かる、
なので天子は左手をプラプラと振って、補足をつける。

「馬鹿にしてる訳じゃないわ。ただ『虹』の気質ってのは結構珍しいのよ。虹は希少で、見る者全てを引きつける輝きを持つ。故にこの気質は英雄や聖人と呼ばれる者が持つことが多い……ただ」

と、そこで天子は剣を右肩に担ぎ、表情を引き締める。
緋色の気質を漏れ出させる『緋想の剣』によって生まれた、虹の空を眺めながら、

「歴史が証明しているように、そういう者達は皆こぞって短命が多い。突然珍しいと周りに言われながら生まれて来て、人生の一つ一つで輝いて、輝いて、輝いて、そして周りの期待を背負いながら呆気なく消え去る。"燃え尽きて"しまう」
「……」
「だから、『虹』は短い命の象徴でもあるのよ。同時に、他人の中に何時までも刻み込まれる輝く者の象徴でもある」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:37:53.83 ID:W8ZOT1MM0<>

説明終わり、と言って言葉を終了させる天子。
青い長髪を時折払う彼女の言葉を聞いたメリヒムは、目を閉じていた。

「……なるほどな」

そして、納得するように呟く。

「確かにそうかもしれん。そうなると"彼女"も同じ気質とやらかもしれんな」

しかし、とメリヒムは続ける。

「それで俺にどうやって勝つつもりだ?我が必殺の『虹天剣』を、その気質とやらで防げるのか?」

確かにそうなのだ。
ここで問題なのはメリヒムのあの虹──『虹天剣』を防ぐ方法であり、気質がどうこういう問題では無いはずだ。

なのだが、

「……残念」
「なに?」

比那名居天子は、


「もう、私の勝ちよ」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:38:49.44 ID:W8ZOT1MM0<>


勝ち誇ったような、何処か納得が行かないような、不思議な笑みを浮かべていた。
その笑みの理由を、メリヒムが考える前に、




「光珠「龍の光る眼」」




巨大な雷の弾丸が、彼を"背後から"襲っていた。
基本的には二つの雷弾が雷のロープによって結ばれ、高速回転しながら迫ってくる形だ。
雷の弾丸も雷のロープも、生物が触れたら一瞬で炭になってしまいそうな威力を秘めていると、メリヒムは最近感じ取れるようになった"存在の力以外の力"を感じ取る。

「くっ!」

宙を翔け、幾つも放たれた雷撃達の極僅かな隙間を潜り抜けた。
小鳥の囀りのようなパチパチと音をたてる雷が、周囲を焼く。
宙に躍り出て、視認した。
虹の光をサーベルから輝かせながら、突然の乱入者に向けて『虹天剣』をメリヒムが放出しようとした所で、

「せいっ!」

彼の腹をえぐるように、蹴りが叩き込まれる。
叩き込んだのは、言わずと知れた天子。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:39:51.57 ID:W8ZOT1MM0<>

「な!?」

驚愕。
メリヒムは表情を驚きに歪ませ、彼女の表情へ視線をやる。
彼女は、笑って足を叩きこんでいた。
天子が自分の近くに居るということは、彼女もこの弾丸の嵐を掻い潜ったということである。
なのに、その表情には一片の恐怖も、一雫の冷や汗もない。
ドゴンッ!!と、爆弾が炸裂するような轟音が天子の足から鳴り響いた。

「ぐぉっ!」

呻きを上げ、大地へと吹き飛んで行くメリヒム。
蹴り飛ばした本人たる天子は其方へと視線をやらず、自分も静かに大地へと着陸して雷を放った者を見た。

「衣玖、ようやく来たわね」
「"虹が見えたので"、気質操作による物だと気がついたのです」

フワリと。
宙に風船のように浮かぶ人影がある。
天子よりも濃い青の短髪に、薄い緋色の衣を肩から柔らかく羽織り、全体的に柔らかそうな貴婦人にも似た黒いスカートを履いて居る。
頭には黒帽子。
ただ桃は乗っておらず、赤い触覚のような装飾がなされていた。

永江衣玖。
美しき緋の衣を纏う彼女は、天子へとゆっくりゆったり語りかけた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:40:39.42 ID:W8ZOT1MM0<>

「意外ですね。総領娘様のことなので辺りのことなど気にせず、暴れ回ってるものだと」
「地上ならそうしたかもしれないけど、状況が状況だからね。悪い意味でも、良い意味でも」

ニヤッと快活に笑う彼女の姿に、苦笑のような微笑みを漏らす衣玖。
もし天子が本気でメリヒムを倒すべく動いていた場合、そこには遠慮など欠片も無くなっていただろう。
辺りがキロ単位で戦場となり、様々な者が犠牲となるに違いない。
更には取り逃がす恐れと、手加減など出来ずに殺してしまう可能性が高かった。
殺すのはともかく、折角の異世界からの敵なのだ。
出来る限り、生け捕りにしたい。
はぁ、と天子はため息をついて口を動かす。

「一人で倒したかったけど、弾幕ごっこじゃないから殺しちゃいそうだったしね。少しくらいは我慢してやるわよ」
「………………総領娘様。地上の食物を食べる時にはまず周りの人達に食べれる物かどうか尋ねてから──」
「どういう意味よ!?」

我侭で有名な不良天人たる天子は遠回しに馬鹿にされムキーッ!と怒鳴る。
子供っぽい態度を示す彼女に、衣玖は手を口元に当ててクスッと笑う。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:41:31.13 ID:W8ZOT1MM0<>

(昔に比べると大分落ち着いている……これも地上の民のお陰か)

内心、昔遠目に見ていた彼女との違いに、感嘆深く呟く。
昔の駄々っ子がここまで変化したのは、衣玖にとっても驚くものだった。
ただし、口には出さない。空気を読んで。
空気は弛緩した、柔らかな空気。


「──二人ならば、俺を捕らえられると?」


そんな声が、二人の間を切り裂くように響いた。
其方へと視線をやり、天子はあからさまに顔を顰める。
蹴り飛ばしてやった筈のメリヒムが、大地にクレーターを作っているのに飄々とした顔で起き上がったからだ。
それなりに力を込めた筈なんだけど、と彼女は不貞腐れながら思う。
やはり相当の実力者のようだ。

「甘いな。"虹の翼"を舐めてもらっては困る」

自分の真名を名乗り、その背に文字通り翼を広げているメリヒムの姿は、神々しい。
円形の虹の光を背に構えたサーベルへと光を徐々に集め、重い重量のようなプレッシャーを辺り一帯に、撒き散らしていた。
確かにまともに戦えば、腕の一本は覚悟しなければならない強敵だろう。


だが、天子はそれでも"勝ち誇った"笑みでこう言った。


「誰が、"二人だけだって言った"のかしら?」
「……なに?」
「ではお願いします」

そんな三者三様の言葉が空間に通った直後、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:42:32.78 ID:W8ZOT1MM0<>






「想起「騎士団(ナイツ)」」






"炎の軍勢"が突如として、上空に出現した。

「──」

"虹の翼"メリヒムの思考が文字通り停止する。
理解不能、いや、理解拒否。
ぽかんと口を開いた状態でだらんと両手を下げ、彼は上空をただ見上げる。
そこにあるのは、炎の軍団。
適当に炎で象られた槍を持った人間、軍馬に跨る異形の存在、この世の物とは思えない巨大ななんらかの生物。
そんな炎の塊達が隊列を組み、雄叫びを上げている。
大気が震え、大地から悲鳴のような振動が起こる。

「──っ!?」

だが、メリヒムとて歴戦の孟者。
迫り来る危機を感じ取り、放心状態から復活する。
サーベルを上へと向け、

「──オオッ!!」

叫びとも咆哮とも取れる声を発して『虹天剣』を撃つ。
細い一条の虹は軍団を紙のように引き千切り、余波で消し飛ばす。
が、炎の軍団の数は二百に届くのだ。
五十程は消し飛んだが、残りの百五十程が大地に居るメリヒムを消滅させるべく、咆哮を上げながら空から迫る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:43:29.31 ID:W8ZOT1MM0<>

「邪魔だ!」

メリヒムは再度一撃。
それによって、またもや軍団に大きな穴が開いた。
周りの炎達がその隙間を埋める前に、彼は虹を引いて潜り抜ける。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!という轟音とともに、次々と炎の軍団は誰もいない大地へと衝突し、砂煙を上げながら燃え尽きて行く。
メリヒムは其方を見ずに、怒りそのものといった風に目を鋭く細め、辺りへと素早く視線を走らせた。

「『巫山戯た真似を』ですか。ですが、其方が先でしょう?」

声が一つ。
天子と衣玖の対面側、メリヒムの背後から。
グリンッ!と音がしそうなくらいメリヒムは首を動かす。
そこには、岩に乗る一人の少女。
桃色の髪に桃色の瞳。その二つを光苔によって輝かせ、小さな体躯を衆目に晒す。
身を包むワンピースのような小さい子供服を揺らすその姿に、眼を象ったアクセサリーのような物が一つ。
そして、その瞳は見開き、顔についた瞳もどうしようもない怒りの心で見開かれていた。

「先にウチのペット達に手を出したのは、其方でしょう?」

その怒りは、身内に手を出された純粋な怒り。
見た目は子供なのに、言葉に込められた殺気は子供どころか大人でさえ泡を吹いて気絶するレベルのもの。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:44:17.53 ID:W8ZOT1MM0<>

彼女の名は古明地さとり。
地底に住む、地霊殿の主人たる者。

それに対峙するメリヒムの顔に浮かぶのは、明らかな憤怒の表情。
己が心に焼き付く技の猿真似をされたが故の、猛烈な怒りだった。
怒りを溜め込み、メリヒムは自在法による普通の人間とは違う声を迸させる。

「貴様が今のを」
「『やったのか?』ですか。やったらどうだって言うんです?あぁ、間違えました」

言葉を放りながら、怒りの余り蒼白の表情でさとりは一枚の紙を投げる。
紙には何も書かれておらず、言わば白紙の状態だ。

ウォン、と。
その紙に、突然紋様が描き出される。
殴り書きのような、光る文字が。

「言う必要はありません。心を読むので」

紋様が描き出された紙──スペルカードを宙に舞わせ、彼女は小さな唇を動かす。

「想起「戦技無双」」

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:45:10.38 ID:W8ZOT1MM0<>

瞬間、カードは弾け、周囲に妖力をばら撒く。
と普通の者が考えた直後に、白い帯が貫く。
そんな物がカードから放たれた。
一本一本が純白の、細長いリボン。
それは槍のように先端を尖らせ、あらゆる角度から空気を突き破ってメリヒムへと迫る。

「!」

またもや因縁深い一撃の真似をされ、しかし先程よりも落ち着いてメリヒムは対処した。
光背の虹が凝縮し、直線として放たれる。
『虹天剣』によって前方から迫る槍襖を一撃、消滅。
焼け焦げた残りかすさえ無く、開けた空間を彼は突き抜ける。
そして虹を躱すために飛んださとりへと、牽制とばかりに光線を五つ。
赤、黄色、橙色、青色、緑色の五色の光線だった。
それらへと空を飛ぶ少女は、

「想起「幕瘴壁(バクショウヘキ)」

またもや新たなスペルカードを"創り出して"いた。
放たれたスペルは弾け、力を現象としてこの世に放出する。
次に現れたのは、鈍色の噴煙。
壁のように、巨大な四角い形で放たれたそれは光線をたやすく掻き消し、煙という見た目からはあり得無い鋼鉄の壁となって突進していた彼に迫る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:46:14.58 ID:W8ZOT1MM0<>

「貴様……!」
「『舐めた真似を』ですか?言っておきますが舐めてなどいませんよ。本気で殺すつもりですから」

ズズンッ!!と。
冷酷な声ともに、噴煙は大地へと叩きつけられた。
相当な硬度と重量があるのだろう。
ぶち当たった大地は岩石を交えて平になり、整備された道路のようになっている。

「はぁっ!!」

壁と大地に押し潰されるのを防いだメリヒムが『虹天剣』をまたもやぶちかましている姿を、天子と衣玖は遠目に眺める。

「強いわね……色んな意味で」
「流石は地霊殿の主と言った所でしょうか」

壮絶な、周囲に光やら轟音やらを撒き散らしながらの戦いを眺め、天子の呆れたような呟きに、いつの間にやら隣に降り立った衣玖も同意した。

さとりのあのスペルカードは、全て彼女のオリジナルではない。
彼女の能力を利用して相手の心、その奥深くの記憶まで読み取り、技をコピーしているのだ。
恐らく、強く印象にあるものから順に。
相手にとってはえげつない力だ。
精神を刺激されるような、過去に味わった攻撃を再度繰り返されるのだから。
技のコピー、ラーニングは言う程簡単な物ではない。
単純な模写などと違い、技というのは個人のために様々な強さ、形、タイミングが存在する。
それら全てを真似するなど、心を読むだけでは絶対に不可能な技能だ。
正に、才能と種族の二つがあってこその技能。

天子はさとりが恐れられる理由がよく分かったような気がした。
確かに、いくら天子でも出来るならば彼女とは戦いたくない。
戦闘は実力だけが決めるものでは無いと知ってはいるが、それを直々にトラウマレベルで味わいかねないからだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:47:15.71 ID:W8ZOT1MM0<>

「と、総領娘様。第三者を気取ってないで早く加勢しましょう」
「あんたも傍観してたじゃない!」








ゾンッ!と、光が迸った。
地底の空に、それは砂煙を突き破って光の残照を散らし刻み込む。

「っ!」

さとりの肩を、黄色い閃光が撃ち抜きかけた。
小さなミスによって生まれた、隙。
掠るに留めた彼女は、しかし集中を切らしてスペルを中断してしまう。
しまった、と怒りで沸騰していた思考が冷めるが、時既に遅し。
空中で静止し、痛みに顔を顰める彼女へ、

「貰った!」

メリヒムがサーベルを振り下ろした。
その剣先に、虹の波動を集束させて。
膨大な破壊力が叩きつけられる。
彼女は突然の事態に、動けない。

「っ……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:48:12.55 ID:W8ZOT1MM0<>

さとりの能力は心を読める。
しかしながら相手の心を読んで戦っても、躱せなければ意味はない。
分かっていても体が動かなければ車に轢かれるのと一緒だ。
肩を抑え、上段から振り下ろされる虹の一撃を、三つの瞳で凝視し一撃を貰うのに歯を食いしばった所で、

「かがみなさい!」
「!」
「なっ!?」

咄嗟の声に言われるまま、さとりは上半身を倒す。
倒した瞬間に、緋色の斬撃が空気を引き裂いた。
メリヒムは突然の──さとりに集中し過ぎていた──斬撃をサーベルで受け止め、しかし吹き飛ぶ。
力が溜められた一撃に、不安定な姿勢で受けたメリヒムが耐え切れなかったのだ。

「ふっ!」
「ぐっ!?」

更に、追撃を受ける。
メリヒムが吹き飛んだ場所に衣玖が待ち構えていたのだ。
拳に槍状で逆巻く鋼鉄よりも硬い布による拳撃を、彼は空中で回転して刀身で防ぐ。
ジャッ!!と、布と鋼とは思えないような衝撃音が鳴った、

「ぐぉぉおおっ!?」

と思った時には、メリヒムの体に電流が走っていた。
青い、落雷のようなバチバチッ!!と悲鳴を上げる電流。
彼の体を駆け巡り青い鈍い光を放ちながら、肉体へとダメージを与えて行く。
厳密にはメリヒムに肉体は無いが、それでも雷撃という熱の高い物を受けて無傷という訳には行かない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:48:58.31 ID:W8ZOT1MM0<>

「っ、かはっ……」

メリヒムは後ろへと飛ぶ。
接触状態では痛みが増すだけだと悟ったのだろう。
下がって防御無視の『虹天剣』で撃ち抜く。
確かにそれが、普段ならベストな対処方だった。


「想起「虹天剣(コウテンケン)」」


"一対一"ならば。
自分を中心に、視界の隅で何かが煌めいたと思った、

「──」

その色に愕然となる。
色は言わずと知れた、虹。
周囲に展開されて行く力の塊達。
オリジナルとはまた違った、全方位からの円形陣。
光はメリヒムを中心に置いて幾つも凝縮し、

そして弾けた。

「わぷっ!?」

ズドォォォォォォォンッ!!と、爆音。
虹の爆炎が吹き荒ぶ中、大地に衝撃波で難着陸させられた天子は耳と帽子を抑えながら息を詰まらせた。
ラーニング技能によってオリジナルには及ばないものの、それに近いレベルで放たれた弾幕はオリジナルを連想させる莫大な力を持っている。
故に、周りに岩が木の葉と同じように舞いそうな程の爆風が吹き荒れていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:49:46.91 ID:W8ZOT1MM0<>

「げほっげほっ……」

口に入った砂の味に、天子は顔を歪めて咳を吐く。

「すみません、助かりました」
「ごほっ……怒りで熱くなるのはいいけど、気をつけなさいよ……」

手加減的な意味で、と心で付け加えて視線を横に。
そこにはいつも通りの表情とジト目に戻ったさとりが、肩を抑えて立っていた。
彼女は余波に巻き込んだことにか苦笑し、珍しく心に踏み込まずに前へと向き直った。
さとりなりの感謝のしかたなのかもしれない。

「しっかし、げほっ!これは酷い……」

再度咳き込み、天子は大変な惨状に表情を歪める。
土砂を思いっきりえぐったせいか、今までの戦闘とは比較にならない砂煙が空間を産め尽くしていた。
灰色の、巨大な煙幕。
隣に立つさとりの表情ですら、時々白くなって見えなくなることがある。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:50:42.21 ID:W8ZOT1MM0<>

「ご無事でしたか」
「えぇ、まぁ」
「当然」

なのだが、彼女達には視覚以外の周りを判断する力──霊力、妖力といった物がある。
だから、上から降りかかった声にも大して驚かず返せた。
天子が視線を少し上にやると、そこには空気に漂うように浮かぶ竜宮の遣いが居る。
言葉と裏腹に、表情には心配色など少したりとも浮かんでいない。
だが、それは彼女が自分達を信用しているからだと知っている天子はそこには触れずに、

「衣玖、上から見える?あいつ、自分の体も何らかの構成しているみたいで感覚が役に立たないのよ」
「切ったら血でなく火の粉が散ったのですか……確かに、霊体などでも無いようですし」

話が早い、と天子は笑みを一つ。
余計な説明が省けるというのは、こういう状況ではとても楽で効率がいい。

「……すみません、何も見えないです。能力で把握するのも、こう空気が澱んでいては……」

上空から、残念そうな返事が返って来た。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:51:37.44 ID:W8ZOT1MM0<>

「そう。そっちは?」
「私も同じですね。第三の目で見なければ私の能力は意味が無いので」
「じゃ……他に増援は?」
「お空とお燐が。お空は動けず戦えないでしょうが、お燐の方が地底の民に呼びかけている筈です」
「へぇ?あんた達って嫌われてたんじゃなかったけ?」

天子の、普通なら尋ね難い筈なのにズバッとした問いかけに、さとりは苦笑しながら言葉を紡ぐ。

「忌み嫌われている、といっても所詮は私だけの話です。あの子達は其処まで嫌われてはいませんよ」
「なるほど。増援の数はどれくらいになりそう?」
「百、といった所でしょうか?地底のカリスマたる"鬼"が義理人情に熱いので」
「"鬼"……それなら安心か」

自分の知り合いにも"鬼"が居る天子は、あからさまな余裕が出来る。
鬼という存在の巨大さはよく知っている。
何せ、まともに戦ったら天人一、世界最強などと吠える自分でさえ勝算が見当たらないのだ。
思わず天子が弱気になってしまう程、鬼というのは強い。
あの"見た目子鬼"が特別強いだけかもしれないが。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:52:45.98 ID:W8ZOT1MM0<>

「だったら、もういいわね」

思考を切り上げた彼女はそう言って『緋想の剣』を腰だめに構え、霊力を持ち手に集中させた。
その行為に、何かしら二人が言葉を発する前に、

「さっさと、出て来なさい!」

一閃。
サーベルと同じ細い刀身が、砂煙を剣風で綺麗に吹き上げる。
鋭く、深く、広く。
緋色の剣劇は、白煙を視界から押し出す。

「──、っ、はっ……」

そして、晴れたその先。
そこにはサーベルを地面へと杖のように刺し、片膝を付く騎士が居た。
服は黒焦げ、マントは焼き尽くされて消えている。
襷のようにかけていた剣帯も無くなっており、正に満身創痍と言えた。
虹の欠片をポロポロ体から零している傷付いた姿だが、その瞳から戦意は掻き消えていない。

「……分かっていたのですね」
「気質でね。天気もまだ持続しているし」

空を指差し、じとーとした視線を向けてくるさとりにイタズラっぽい笑みを向ける。
地底の空には似つかわしくない、虹の空。
七色の輝きで照らし出すその光は、決着に相応しい。

「天気は気絶するか戦闘不能になるか、もしくは死んじゃうと気質の流れが途切れて戻っちゃうのよね。別に戦闘に影響は出ないからいいんだけど」

さて、と天子は『緋想の剣』をメリヒムへと向ける。
距離にして、役二十といった所か。
脳内で目算と対応を考えながら、彼女は問う。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:53:45.04 ID:W8ZOT1MM0<>

「話は聞いていたでしょ?大人しく投降するのならばよし。投降しないのなら痛い目にあってもらう。さぁ、どっち?」

太陽のような笑みで脅迫する天子。
だが、見る者が見れば分かるだろう。
笑顔の裏側に潜んだ、猛獣の笑みが。
"痛い目にあわせる"という言動が嘘だと感じさせない、そんな笑みだ。

「……」
「投降するのをオススメしますよ。地底の民も、恐らく後数分で来るでしょうから」

虹の光に照らされ、沈黙を守るメリヒム。
そんな彼の背後に位置する場に衣玖が降り立ちながら、言葉を告げる。
緋色の羽衣を揺らす彼女の表情にも、情けというものが一片たりともなく、容赦など少しもしないだろう。
さとりは言わずもがな、だ。

形はメリヒムが正面に天子とさとり、背後に衣玖と挟み撃ちされた形となる。
あらゆる者がメリヒムの不利を訴える、そんな光景。

「……」

しかし、依然として彼は口を開かない。
ただ真っ直ぐに天子を見つめ返すのみ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:55:02.65 ID:W8ZOT1MM0<>

(ねぇ、心を読めないの?)
(どうも思考が入り混じって、正確な思考を読み取れません。心を読まれるのを警戒してだとしたら、とんでもないですね)

そんな会話を小さく行っても、やはりメリヒムは動かない。
何秒、経っただろうか。
とうとう焦れた天子が弾幕の一発でもかましてやろうと気質を刀身に集中した所で、

「……こちらメリヒムだ。教授、聞こえているか?」

何やら、カードのような物を取り出した。
幻想郷に住む者として一瞬スペルカードかと構えるが、彼はスペルなど使えないことに直ぐ気がつく。
カードも銀色の無地と素っ気なく、ただの板という印象が強い。
大きさトランプ程度のカードに彼が返答を求めていることから、きっとあれは通信系の術が秘められているのだろう。
教授というと、さっきの二人組の一人かと天子は考えて──

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:56:08.72 ID:W8ZOT1MM0<>

『なぁーんですかぁ!?今、私は気質といぃう、スペシャリティクオリティパーフェクトな力の計測を』
「状況が悪い。引くぞ」
『……んなぁーんですってぇぇぇぇぇぇっ!?』

甲高い声音が、カードから辺りに均等にばら撒かれた。
うげっ、と顔に嫌な気持ちを浮かべる天子。
よく見ると、さとりや衣玖、メリヒムまで似たような表情をしていた。
メリヒムは頭痛がするかのように顔に苦痛の表情を見せつつ、カードに右手を当てる。
すると声が小さくなり、天子達には雑音程度にしか聞こえなくなった。
全く便利な物だ、と天子は一人関心する。

『──!──っ!!?』
「──だが、『空軍(アエリア)』も無い状況でこの三人を相手にするのは厳しい。自殺したいのならば、話は別だが」
『──っ!?──、────っっ!!』
「ドミノ、頼んだぞ」

強引に通信を切ったのか。
一瞬だけ音声が大きくなって、消える。
カードを音もなく胸元にしまい、地面に突き立ったサーベルを彼は右手で引き抜きながら立ち上がった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:57:02.18 ID:W8ZOT1MM0<>

「ということだ、逃がさせていただこうか」
「はっ、そうはいかないわよ?」

剣を構え、天子はまず相手の出方を伺うように腰を落とし、スペルカードを取り出そうと






待て。






ちょっと、待て。

(何で、私──)

待てと、天子の脳が叫ぶ。
それは警告であり、警報であった。
おかしい。余りにも、色んなことが。

(何で、私、今、"相手の出方を伺う"なんて馬鹿なことを──?)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 10:57:52.81 ID:W8ZOT1MM0<>

そう、キッカケは今の行為。
普段の積極的な自分にはあり得ない、酷く消極的な選択。

一つに気がつけば、次々と。

(最初に衣玖が来た時、なんて言ってた?)

"虹が見えたので"と彼女は言った。
何故だ?
あれだけの戦闘を行い、轟音と光を撒き散らしたのに?
気質によって生まれた"虹が無ければ"、衣玖は戦いに気がつけなかった?
しかも衣玖は天子が大して暴れていないようなことを言っていた。
そして、何故それに違和感を抱かなかった?

(あの二人組へ、私はなんで攻撃を仕掛けなかった?)

戦闘中。
衣玖と合流するまで、二人組を攻撃する機会は幾度となくあった筈だ。
なのに何故、攻撃を一回しか仕掛けなかった?
それに衣玖に合流した時、何故衣玖にさとりの方を任せて動けない二人組へと攻撃しなかった?

(何で、隙だらけだったのに一撃も攻勢に出なかった?)

砂煙に視界が埋められた時、カードで通信していた時。
捕縛が目的なら、あの時問答無用で倒せばよかった筈だ。
なのに何故自分は、態々剣を突きつけて降伏を促した?
そんなのに同意する訳が無いと分かっているのに?
そして、何故衣玖やさとりはそんな行為を咎めなかった?

(いや、そもそも──)

他にも様々な自分にとってあり得ない綻び、矛盾を幾つも感じつつ、天子はもっとも大きな問題に突き当たる。
原点の、問題。

(私は"一体どうやって、あのお空って奴が戦っている場所を突き止めた?")

答えは、分からない。
分からないのだ。
見つからない。自分のことの筈なのに、さっぱり分からない。
これは、そう、これはまるで──

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:00:42.92 ID:W8ZOT1MM0<>









"無意識"の内に、思考を誘導されていたかのような──









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:01:29.11 ID:W8ZOT1MM0<>

「──衣玖っ!」

弾けるように、天子は叫ぶ。
その叫び声に、今だ違和感に気付いていない衣玖とさとりは不信気に天子の切迫した表情を見、

「あぐっ!?」

衣玖の体が、横合いに吹き飛んだ。

「なっ!?」
「むっ」

さとりの驚愕の声と、何処か納得が行ったようなメリヒムの声が同時に木霊する。
周りには、突然衣玖の体が宙を舞っているとしか理解出来ないだろう。
だが、天子は見た。
彼女の体に、光球が──"妖力"で編まれた弾幕が直撃したのを。

「誰っ!?」

"無意識の内に弾幕を相殺するという選択肢を奪われた"彼女は、衣玖の容体を近寄れないながらも気にかけながら吠える。
その咆哮に、


「自力で気付くなんて……天人のお姉さん凄いねー」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:02:22.55 ID:W8ZOT1MM0<>


答えるように、声が一つ。
天子の瞳は、その存在を漸く捉えた。
それが居たのは岩石の一つ。
先程まで"何故か"視界に入れなかった高い頭頂に、その姿はあった。

「くっ、あれ、は……っ?」
「──えっ、あ、ぁ……?」

衣玖が焦げた服と痛む腹を抑えながらその姿を見上げ、さとりは呻きのような悲鳴のような、声にならない何かを吐き出す。
姿は、少女。
"黒い丸帽子に黄色のリボン"による装飾。
帽子を乗せる髪は、ウェーブが掛かった"白"。
童心の光と、得体の知れない何かを秘める瞳は"深緑"の色。
全体的に黄色と緑色の色調の装いで、長袖のゆったりしたシャツと丈が短めスカートの、生地が少し硬そうなこと意外は普通の格好だ。

ただ、"藍色の丸いアクセサリー"を除けば。

それは三本の紐を服の内側に潜り込ませて、確かに存在していた。
球体はふわふわ浮き、"線のような何か"意外何も特徴が無い。
ただ、比那名居天子は気がつく。

あれは、古明地さとりが持つ"第三の目"と同類の物だと。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:03:05.28 ID:W8ZOT1MM0<>

「な、んで……なん、で」

呟きが、固まった地霊殿の主人たる少女の口から零れる。
信じられない、信じたくない、そんな類いの声が。

「久しぶり、声を交わすのは一週間ぶりくらいかな?」

さとりを高みから見下ろす少女の口から、決定的な言葉が紡がれた。




「お姉ちゃん♪」




彼女の名は"古明地"こいし。
名から分かる通り、
古明地さとりの、妹だ。


閉じた恋の瞳が、残酷なまでに何も感じさせなかった。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:03:56.46 ID:W8ZOT1MM0<>














世界は常に、裏切り続ける。
予想の遥か上を行くこの世界で、
しかし、全ての生物は足掻き続ける。














<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/06(日) 11:07:17.79 ID:W8ZOT1MM0<>
予想を裏切る展開を目指して書いた今回の話。
実は幻想郷編をこれで一旦区切るつもりだったのですが、もう一話書くことになりました。
虹の気質については全てオリジナルです、深く考えないで下さい。これから出ることも多分無いので。
さとりは実際お空とかより強いのでは?と思う今日この頃。

おまけスキットは、明日で。
一体どうやったらiPhoneで普通に見れるんだ畜生……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/06(日) 12:33:34.20 ID:tj3bX7YAO<> 乙!

文体がシャナっぽいと思ったのは気のせい? <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/07(月) 12:43:15.50 ID:BkrQXu1C0<>

おまけスキット




スキット11「マスタースパークの取り扱いには御注意を」


魔理沙「うーん……」

アリス「どうしたのよ唸って」

魔理沙「いや、ちょっくらマスタースパークをぶちまかしたいな「ダメ!」ケチだな〜」

アリス「ケチとかいう問題じゃない!アンタがあんな破壊光線ドンドンぶちかましたら、あっという間に森林が消滅するわ!」

魔理沙「木なんか後でポンポン生えて来るぜ」

アリス「年単位でね!良いから止めときなさい。せめて今日は……」

魔理沙「むぅー……」


パチュリー「……はかいこうせんと違って反動が無いから」


魔理沙「んっ?パチュリーなんか言ったか?」

パチュリー「別に……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/07(月) 12:44:22.16 ID:BkrQXu1C0<>



スキット12「乙女は複雑」


パチュリー「……」フワフワ

魔理沙「……なぁパチュリー。せめて紅魔館までは歩こうぜ?」

パチュリー「キツイからやだ」フワフワ

アリス「……喘息持ちだから仕方ないっちゃあ仕方ないけど」


アリス「余り運動してないと、太るわよ?」


パチュリー「……」ピタッ

魔理沙「はははっ、何言ってるんだよアリス。パチュリーがんなこと気にする訳──」

パチュリー「歩く」スタスタ

魔理沙「……えっ?パチュリー?ど、どうしたんだよパチュリー!?何時も引きこもりがちで、常にふわふわ浮いてる駄目魔法使いなお前が!?なんか悪いもんでも食べ」

パチュリー「日符「ロイヤルフレア」!」ゴォォォォッ!!

魔理沙「あちゃちゃちゃちゃっ!?」

アリス「馬鹿ねぇ……」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/07(月) 12:45:06.71 ID:BkrQXu1C0<>


スキット13「虹って七色」


天子「虹って七色なのかしら?」

メリヒム「……いきなり何だ、突拍子もない」

天子「いやね。虹って大まかに分けて赤、黄、橙、青、緑、紫ってあるじゃない」

メリヒム「……で?」

天子「最後の一色が分からないのよねー」

メリヒム「ほう……それで俺に尋ねt」


天子「主に作者が」

メリヒム「!?」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/07(月) 12:47:26.17 ID:BkrQXu1C0<> >>555
はい、ワザとです。
シャナを読みながら書いてたので、自然とこうなりました。


藍色が虹の七色目だと知った作者です。
少々現実でトラブってるので、面倒な事態になるかもしれません。
その時はここで報告します。

では次回

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/07(月) 16:26:31.50 ID:dy0nsteIO<> 更新乙
次回も期待してます <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 14:58:29.32 ID:EMSvwDfv0<> 何時投稿出来なくなるか分からないので、速攻で書き上げました。

行きます <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 14:59:59.09 ID:EMSvwDfv0<>





地底。

幻想郷の地下。

其処に在る闘いの場にて。


全てのモノを裏切るような『裏切り』があった。









「あ、うっ……」
「あはっ、どうしたの"お姉ちゃん"?そんな血の抜けたような顔して」

悪魔だと、天子は思った。
真っ暗闇に浮かぶ虹を背に立つその神秘的な姿には、悪魔という言葉が一番似合う。
照れたような微笑みの裏側に、白い前髪に僅かに隠れた緑の瞳の裏側に、どれだけどす黒い何かを抱えているのか。
滲み出る"それ"を気質の力として感じる。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:02:40.26 ID:EMSvwDfv0<>
(……っ)

相手の気質を読み取る『緋想の剣』を握り締め、天子は見上げる。
同じように見上げるさとりは、こいしの言葉通り血の抜けたような蒼白した顔で震えている。
胸元にある第三の眼が、ただその瞳を血走らせて感情の色を表していた。
衣玖も己の能力で岩石に立つこいしの異常さを読み取ったのか、弾幕を受けて砂埃に塗れた顔を苦く顰めている。

天子は『緋想の剣』の特殊能力で、衣玖は自分の能力で、朧げにしか古明地こいしの"狂気"を感じ取っていない。


だが、さとりは。
心を直接読むことが出来る、いや、"読んでしまう"覚り妖怪である彼女はどうなのか。


「なん、で、こいし、貴方が……」

震える唇を何とか動かし、さとりは信頼していた妹へと問いかける。
彼女にまるで、"お空やお燐に攻撃したこと"を否定してほしいように。

「クスッ、何を言ってるのお姉ちゃん」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:03:21.86 ID:EMSvwDfv0<>
しかし、心を読むというのはとてもとても残酷なこと。
例え相手がどれだけの愛想笑いを浮かべても、例えどれだけ相手が慈悲に満ちた言葉をかけてきても、
その"裏側"にあるもの全てを、憎悪も、嘘も、何もかもを見抜いてしまう。

そして、古明地こいし自体も、それを分かっていて尚、

「私はただお姉ちゃんのことも深く知らずに懐いてる屑に、お仕置きしようとしただけだよ?」

言葉での否定すらしなかった。

「ひっ──」

黒い物の隅々まで感じ取ってしまい、耐え切れなかったのだろう。

さとりは現実から目を背けた。

目蓋を強く閉じ、耳を両手で塞いで地面に膝を付く。
そこに地霊殿の主たる姿は無く、見た目通りの少女が居るだけだった。
だがしかし、第三の眼は、そんな子供のように現実逃避するさとりに反抗するようにこいしを凝視している。
覚り妖怪としての性。
今程彼女は、自分の生まれを後悔したことがなかった。
こいしは彼女に構わず、仮面の笑顔で心中の言葉を吐き出す。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:06:03.75 ID:EMSvwDfv0<>
「ちゃんちゃらおかしいよね、ただ心が読めるってだけで馬鹿みたいに懐く動物共がさぁ」
(止めて)

耳を塞いでも、脳内にこいしの声が残酷に響くのは変わり無い。
第三の眼、覚り妖怪である性だ。
頭の中で反響し、さとりの魂へとナイフのように突き刺さっていく。
精神的な、妖怪に対しては究極の攻撃方法として。

「お姉ちゃんのことを"知っている"のは私だけなのに、お姉ちゃんに"守られていいのは"私だけなのに」
(聞きたくない)

第三の眼を引き千切りたい。
引き千切って、弾幕を食らわせて、消滅させて、この場から全力で逃げ出したい。
そんな無茶苦茶な思いが、吐き気とともにこみ上げる。
何故、という言葉しか思いつかない。
彼女は、自分の知る妹は、私の妹は、古明地こいしは──


「周りの奴等もさ、"心が読めるってだけで"へこへこしたり気味悪がったり……本当に生きる価値も無い下衆だよね」
「やめてぇぇぇぇぇぇっ!!」


──こんな、こんな気持ち悪い黒い物を抱えた子なんかじゃない。
さとりの悲鳴が、大気を振るわせて弾けた。
女性特有の甲高い凄惨な悲鳴に、何故かビクリと肩を震わすこいし。
部外者の天子や衣玖が驚くのは分かるが、こいしが驚く理由は無いはずだ。
彼女はきょとんと、緑の瞳を丸くし、不思議そうに眼下のさとりへと尋ねる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:06:48.30 ID:EMSvwDfv0<>

「どうしたの、お姉ちゃん?だって事実でしょ?心を読めるだけで、昔から人間にも妖怪にも、嫌われて拒絶されて逃げて、辿り付いたのがこんな針山地獄が錆びた廃れた地の底。周りの奴等がどれくらい屑かってことくらい、私と違って心を読めるお姉ちゃんにはハッキリと分かるよね?」
「こいし、お願い、お願いだから……」

澱んだへドロの水に似た瞳を、さとりは直接二つの目で見てはいない。
だが第三の眼が、彼女が知りたくない情報まで強制的に与えて来る。
ドロドロとした、底無し沼よりも酷い憎悪の塊を。

「だからね、全部壊すことにしたんだ。お姉ちゃんを否定する屑達を全部、全部!」

ただし、それは"憎悪"であって"悪意"ではない。
恐らくこいしにとっては、完全な善意にも近い思いからの言動なのだろう。
小さい頃から独りで、瞳を閉じた、妖怪としての特徴を捨て去った臆病者の自分を守ってくれた姉への。
そして、心の奥底に秘めていた自分達姉妹を拒絶して来た世界の下衆共への憎悪。

しかし、だからこそ余計に質が悪い。
元が悪くない分、ただの悪意などより、ずっとずっと。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:11:23.25 ID:EMSvwDfv0<>
「お願いよぉ……いつもの、いつものこいしに、戻ってぇ……」

呻きのような、掠れた声がさとりの口から零れ落ちる。
それと同時に、頬を目蓋から漏れ出した透明な雫が一つ、伝って行った。
悲しい、見る者に善の心が在るならば胸を打たれるような姿。


「私はいつものこいしだよ、お姉ちゃん」


だが現実は変わらない。
第三の眼で読み取るこいしの内心も、全く。
カチカチと、音がなる。
さとりの歯が上下で打ち合い、悲鳴の代わりに上がる音だった。
妹への、恐怖で上がる悲鳴の。

「大丈夫、安心して。私が全部、お姉ちゃんが嫌な物全部壊すから」

恐怖に震える彼女に、更にこいしは狂った愛情による言葉をかける。
その言葉が、さとりを精神的に追い詰めているとは塵にも思わず。
慈愛の、しかし裏側に黒い物がある笑みで彼女は口を開く。

「覚り妖怪だからって気味悪がって来た屑達を──」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:12:09.73 ID:EMSvwDfv0<>



「はい、そこまで」




スパンッ、と。
斬撃音と声が綺麗に、狂った言葉を切り裂いた。
斬撃音の音源は、気質を刀身に纏い長くなった緋色の刃と、それに切り裂かれたこいしの立つ全長十メートルの岩石。
そして声を発したのは、言わずとしれた比那名居天子。
彼女は剣を振り抜いたままの姿勢で、むすっとした怒ってますという表情で、

「姉妹喧嘩をするのは良いけどさ、同じ大地に立って会話しなさいよ」
「……喧嘩のつもりは無いんだけどなぁ」

ズズッ、と斜めに切断され、静かにズレて行く岩石。
その頭頂から跳んだこいしは、小柄な体格に似合った身軽さで天子達の前方へ着地する。
おどけたように話す言葉の裏側には、姉妹の会話を邪魔された不気味な憎悪が秘められていた。

「うっさい、無視して勝手に会話する方が悪いのよ。少しは周りのことも考えなさい」
「周りのことなんか正直どうでもいいから、全く気にして無かったよー」
「言ってくれるわね……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:15:52.65 ID:EMSvwDfv0<>
こいしの鋭い視線を受けながらも、天子に怯えはない。
不適に表面上は笑って、しかし内心は状況の正確な把握に勤める。

(さとりは……ダメか。完璧に精神が追い込まれてる)

視界の片隅で震える少女の状態に、舌打ちしかけた。
妖怪とは肉体よりも精神に重きを置く存在だ。
人の"恐れ"から成り立ち、心を中心に妖怪達は存在している。
伝承などで妖怪達を言葉で追い払ったり退治したり騙したりする物が沢山あるのは、言葉などによる精神的な攻撃に妖怪達が弱いからだ。
肉体的には人間より遥かに強くても、精神は案外脆い。
妖怪とは、基本的にそういった生き物だ。

故に、妹の心を覗いて追い詰められているさとりの状態は非常に不味い。
精神が崩壊した場合、下手をしなくても消滅(死)の危険がある。

(衣玖。どれくらい行けそう?)
(大した怪我では無いので、心配は御無用ですよ)

スタッと、隣に羽衣を揺らしながら衣玖が着地した。
心なしかさとりの方に意識を集中させており、直ぐにでも飛び出せそうな妖力の波動を放っている。
服が所々破れたりほつれてはいるが、肉体には問題なさそうだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:16:58.71 ID:EMSvwDfv0<>

(不味いわよね)
(えぇ。これ以上精神的なダメージを受けたら、確実に彼女は消滅します)

ボソボソと、小さな声で会話する二人。
剣を体の前に構え、こいしに一歩踏み出しながら天子は面倒そうに指示を出す。

(覚り妖怪だの姉妹喧嘩だの何だの知ったこっちゃ無いけれど、ここで見殺しにするのもアレだしね。私が気を引くから、その間にとっとと離脱しちゃって)
(分かりました。地底の増援も後五分も経てば着くでしょうから)

戦いのことに関しては頭が百倍働く天子の言うことに、衣玖は素直に承諾した。
ただ姿にそれを表すことは無く、雷を時折周囲に散らすだけである。
パチパチと紫電の音を耳に入れながら、天子は小さな悪魔に問いかけた。

「で?アンタは一体何がしたいの?お姉ちゃんだか覚り妖怪だが事情は知らないけど、肉親を追い詰めてまで何がしたいのよ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:22:24.36 ID:EMSvwDfv0<>

天子にはさっぱり、さとりのこともこいしのことも、その胸に抱えた事情も知らない。
だけど、だからといって唯一であろう肉親に狂気を見せてまで何をしようというのか。
五割の興味心と五割の打算で、天子は返答を待つ。

「……天人のお姉さんは知らないもんね、私達が受けて来たモノを。ううん、本当の意味では誰も理解していない」
「まぁ、ねぇ。私は天人であって、覚り妖怪じゃないし」

掛かった。
暗い笑顔で言葉を続けるこいしの顔を見つつ、打算が成功したことに心の中で笑みを漏らす。
これで情報収集と共に時間を稼げる。

「お姉さん正直だね。嫌いじゃないよ、そういう人」
「そう?天界じゃ不良天人なんて言われて結構嫌われてたりするけど」
「あは、何それ?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:23:13.81 ID:EMSvwDfv0<>

言葉だけを聞けば軽いキャッチボールのような、お互いを知るための会話に見えた。
しかし互いが、その言葉に精神的な重圧を込めているとなると、ただのキャッチボールは銃弾の打ち合い躱し合いとなる。
『緋想の剣』に込められた気質の量が、僅かにながら増した。

「お姉ちゃんはね、昔からずっとずっと──それこそ百年単位で嫌われて来たんだ。私みたいに逃げずに」

ギュッと、こいしは苦虫を噛み潰したような苦々しい表情で胸元の第三の眼を掴み取る。
ギチギチ、と。閉じた瞳は妖怪特有の圧倒的な怪力で握られても、反応を一切示さない。

「そんな私でも、お姉ちゃんは構ってくれて、傍に居てくれたんだ。心を閉ざした私の傍に。自分も、辛い筈なのに」
「……」

黙って話を聞くふりをしながら、天子は直ぐ後に訪れるであろう激突のために脳内で情報を組み立てていた。
一つ一つ、パズルのピースを嵌めるように。

(覚り妖怪?でも第三の眼は閉じてる……てことは心を読む能力は使えない?さっきのことから、何の術式も使わない心理操作、心理誘導系の能力?)

大まかな予想を立てる天子は、対策を立てようとして、


「ねぇ、"お姉ちゃん"。『完全なる世界』って知ってる?」


そんな言葉が耳を射抜いた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:29:02.08 ID:EMSvwDfv0<>
「……っ」
「……『完全なる世界』?」

その言葉に、蹲るさとりへと羽衣を伸ばしかけていた衣玖は、指を一本動かして固まってしまう。
声が無ければ、数秒後には衣玖はさとりを抱えていて離脱していたのに。
衣玖との考えを読まれていた、と"態々さとりの方へ呼びかけた"こいしの態度から知った天子は、単語を繰り返す。

「……そう、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』」

自分の姉からの反応が無かったのが寂しかったのだろうか。
少しばかり不機嫌さを見せながら、こいしは言葉を続ける。
その小さな口からもたらされたのは、

「あらゆる可能性の中から抜き出された、あり得たかもしれない幸福な現実、最善世界。入り込んだ者の、もっとも幸せな時を繰り返す『永遠の園』。ありとあらゆる理不尽、アンフェアな不幸のない、『楽園』──」

馬鹿馬鹿しいにも程がある、内容。

「……は?」

思わず、天子は間抜けそのものの声を発して首を捻っていた。
今のこいしの言葉が長過ぎて理解出来ない、などということではない。
余りにも言っている内容が巫山戯過ぎていて、意味が分からないからだ。

「そんな夢物語がある訳ないじゃない。今時子供だって、もうちょっとは現実を認識してるわよ」

天子による否定の言葉が、当然の如く放たれた。
が、しかしこいしは微笑みを崩さずに、

「……うん、そうだね。確かに天人のお姉さんの言う通り。私も"実際に見て感じるまでは"ただの馬鹿らしい嘘だと思ってた」
「実際、に?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:30:01.04 ID:EMSvwDfv0<>

その言葉が持つ意味に天子と衣玖はほぼ同時に気がつき、


「うん。実際にその世界に入る時までは」


こいしの頷きに、唖然となった。
彼女は笑顔のまま、黒い物を感じさせたまま、そして嘘を全く感じさせない表情で簡素に言い終えた。
つまり、こいしはその楽園を体感したことがあると言っていて、それは、今彼女が語ったような理想郷が現実に存在するということ──

「──っ!あり得ない!」

沈黙した場で、口火を切ったのは天子だった。
彼女はごく普通の、この世に存在するモノとして当然の考えのまま叫ぶ。

「そんな理想郷が存在することはない!現実的にも、魔術的にも、理論的にも!絶対にあり得ない!いや、あってはならない!」

落ち着きなど吹き飛んでいた。
だが、それももっともだった。
そんな理想郷などがあるとすれば、天界などとは違い真の意味での『理想郷』だから。
『理想郷』とは、無いからこその『理想』なのだ。
それが実在するとなれば──

「あれれ、お姉さんどうしたの?別にそんな悪いことじゃないよね?だって理想郷だよ」

声を荒げる天子へ、面白可笑しそうにこいしは告げて行く。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:32:37.08 ID:EMSvwDfv0<>

「『幻想郷』……幻の想像存在達の楽園。なら、『理想郷』……正しい理に満ちた楽園があってもおかしくはないでしょ?それに……そっちの羽衣のお姉さんはともかく、天人のお姉さんは気がついていると思うけど、違った?」
「……?」

口を開けずに固まったままだった衣玖の、疑問を示すような吐息が小さく唇から零れた。
突然、気がついていないと言われても見当が付かない。
首を捻るようなあからさまな態度は取らなかったものの、彼女は隣に立つ天子へと視線をやる。

「……っ!」

そこには、顔を青ざめさて頬に汗を伝わせる天子が居る。
普段に無い天子の、弱々しい表情に息が詰まりかけた衣玖は、ふと気が付く。

彼女の自分と同じ紅い瞳は、地面に屈んだままの地霊殿の主人に向けられていた。

「──!」

龍宮の使いは、気付く。
そう、例えこいしが嘘をつこうとさとりがこいしの心を読んでいる以上、さとりには全てが分かる。
嘘かどうか、どんな事柄なのか、関連の内容はどうなのか。
相対した者の心を個人差はあるとはいえほぼ100%読み取れるのだ。
そんな彼女は、震える体をとても遅い速度で起き上がらせていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:33:33.61 ID:EMSvwDfv0<>

「っ、う、うっ……」

亀と同じくらいの動きで起き上がる彼女は、泣いていた。
桃色の瞳からポロポロと雫を落とし、目元をぐしゃぐしゃにして。
お燐やお空が見たら、卒倒しそうな姿。
ただし、瞳から正気の色は失われてはいない。
そこは、流石地霊殿の主人というべきか。
普通の妖怪ならば、とっくに精神が崩壊してしまっている。

「……どう、なの?」

天子による、とても簡単な言葉での問い。
心を読める彼女には苦にもならないもの。
吐き気をこらえるように口元を抑え、心配して背中を摩る衣玖の手の熱を感じながら、古明地さとりは告げる。


「……は、い。こいしの、言っていることは……全て、事実です……」


答えが確定した。
さとりが嘘をつくとは思えないし、嘘をつく理由もなく、更には嘘をつくだけの余裕もない。
そしてさとりの能力は断言するだけの確実性がある。
まず、間違いないだろう。
だとすれば『完全なる世界』の存在も確実だということに──

「っ……その『完全なる世界』とアンタの目的に、どういう関連性があるのよ?」

思考を自分で断ち切り、天子は最初の問題に戻った。
そう、流されつつあったが最初の問題は「何故こいしがこんなことをしているのか?」というものだった。
その問題とやらと、妄想話にしか思えない夢物語に一体何の関係があるのか。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:40:23.52 ID:EMSvwDfv0<>
「やだなー、『神』のことは知ってるんでしょ?私、今手先になってるんだ♪」
「っ!」
「!」

──失念していた。
資料の通りだとすれば、相当な存在である、諸悪の根源たる存在を。
そう示す二人の表情に笑みを強め、
ザッ、と。こいしは一歩を前に踏み出す。

「あの世界──嫌われ者になっていなかった世界を見て思ったんだ。"この世界は腐りきってる"。だから、私はあの『神』にお願いした。『この腐りきってる世界を変えて下さい』って」

ザッ、と。
更にもう一歩踏み出した時点で、あからさまにさとりの肩が跳ね上がった。

「あっ……」
「お姉ちゃんも心を読んだなら、見たでしょ?さっきまで私が言ってた、思い出してた世界と違って『完全なる世界』は本当に楽園だったよね」

先程までの言葉は全て、現在と幸せとの格差を感じさせるためか、と衣玖は無意識の内に納得する。
納得しながらも、徐々に近付いて来るこいしに対して構えた。
どのタイミングで攻撃が来るのか、判断がつかない。

「でもね、『神』は条件を出したんだ。手先となって働け、屑共を殺し尽くせってね。私は二つ返事で了承したよ」

ザッ、と。
もう既に十歩歩き、距離を三分の二まで詰めている。
その身に、大量の妖力を秘めて。
パチパチと。
空気が小鳥の鳴き声に似た音を立てる。
妖力の圧縮による余波だ。

(この少女、実力も相当な……!)
「だってそうでしょ?あの幸せな世界が手に入って、お姉ちゃんを嫌う屑共は殺せて一石二鳥。願ったり適ったりの条件だし」
「こ、いし……」

やはり、単純な憎悪では無かった。
怖い程の愛情、義務感、責任、それらから来るドロドロした黒いモノ。
体の震えを堪えながら、さとりは妹の名前を弱々しく言う。
姉の見る者によってはみっともない姿に、こいしは慈愛の笑みを見せて、

「大丈夫。私がお姉ちゃんを幸せにしてもらう。お姉ちゃんを貶す奴等を全員殺し尽くす。だから、お姉ちゃん、私と

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:41:11.03 ID:EMSvwDfv0<>









バキャンッッ!!!!









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:45:19.99 ID:EMSvwDfv0<>

「「「!?」」」

何かがブチ撒かれた。
それは透明な力。
轟音を上げて大地に叩き込まれ、巻き上がり、色が付く。
砂では無かった。
灰色でも無く、白色でも無く、黒色でも無い。




それは、"緋色"。




三者全員が驚いている中で、

「……ねぇ、何巫山戯たこと言ってるのよ」

ドバッ!!と。
緋色の濁流が、大地だけで無く辺りへと撒き散らされた。
弾丸、などという生易しいものではない。
文字通りの壁となった普段は見えない力の波が、辺りへと一気に。

「っ!」
「うっ!?」
「っっ!」

こいしは素早く体を浮かせて背後へと飛び去り、衣玖は羽衣を伸ばして自分とさとりの体を覆って吹き飛ばされる。
余波を受けただけでボールのように、さとりと一緒に地底の大地を転がった。

「くっ……けほっ!」
「ぁ、ぅ……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:46:17.76 ID:EMSvwDfv0<>

ゴロゴロと。
十五メートルの距離を無様に吹き飛んで転がり、勢いを利用して衣玖は羽衣の防護を解き、起き上がる。
長年の勘からの、自然な動きだった。
羽衣に体を包まれたさとりの無事を確認しつつ、彼女は地面を転がる羽目になった少女へと文句を、口から紡ぎ出す。

「何、を──一体何を、総領」

だが、

「娘──!?」

最後まで、言い切れなかった。
衣玖が紅い瞳で見たその光景が、余りにも非現実的だったからだ。

緋色の間欠泉。

そう呼ぶべき現象が起きていた。
滝の水音に似た、轟音とともに。
巨大な緋色の濁流は柱となり、地底の天へと高く伸びる。
ベキベキッ!!と大地を陥没させ、蜘蛛の巣のように亀裂を走らせ、瓦礫を次々と宙に浮遊させて行く。
そして輝く緋色の中、


「私の前で、巫山戯たこと言ってくれんじゃない……っ!」


比那名居天子が、顔に壮絶な憤怒を浮かべて立っていた。
間欠泉の中心。
下から吹き上げて来る緋色をオーラのように纏って、彼女は更に力を放出している。
蒼い青空のようだった髪は今や緋色に染め上げられ、眼光は灼熱の光を見せつけていた。
服もまるで太陽の光で編んだかのように光り輝き、緋色の装いとなる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:47:06.41 ID:EMSvwDfv0<>

「久し振りね、ここまでブチ切れたのはぁぁ……!」

右手に握る『緋想の剣』が、更に強く握られ、剣が答えるように力を増やす。
ズンッ、と大地が更に陥没してから、
ゴキャバキャンッ!!と、浮いた瓦礫達が余りの圧力に耐え切れず砕けて行く。
細かな破片達は更に砕かれ、やがて塵も残さず消える。
大地は破壊されるだけではなく、熱で一部が焼け焦げ始めた。

例えるならば、太陽。
圧倒的な、力の奔流。
幻想郷に住む普通の妖怪程度なら、たとえ千匹集まろうと勝てない。
それだけの力を、辺りへ重圧として放つ。
その緋色の姿に、

「……これが、総領娘様の全力……」

衣玖は始めて見る、天子の全力、そして本気の怒りに茫然とし、

「……」

さとりは何故か、天子の姿を見たまま黙り込み、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:47:46.21 ID:EMSvwDfv0<>

「へぇ、それがお姉さんの全力なの?随分と強いんだねぇ」

嘲るような声音で、こいしは口を開く。
明らかに怒りの矛先を自分へ、しかも純粋な力として突きつけてきているのに、恐怖は見られない。
単純に負けない自信があるのか、それとも何処か狂ってしまっているのか……
どちらにせよ、こいしの態度が変わる訳でもない。

「どうしてそんなに怒ってるのかな?もしかして、不要な殺生はいけませんっていう笑える正義感?それとも天界よりも『理想郷』があるってことを天人として認めたくないってこと?」
「……」

もはや、天子には戯言に付き合うつもりなど毛程も無かった。
ただ黙って『緋想の剣』を両手で握り締め、正眼に構えるのみ。
ギチギチと、握り手からキツイ摩擦音が上がっていた。
全体像としては刀身が炎のように揺らめき、しかも緋色と同化しているために、まるで巨大な焔に天子が包まれたように見える。
眼光輝く天子へ、相手にされなかったこいしは笑いながら言葉を投げかけた。

「むぅ、お姉さんの相手をして上げたいのは山々なんだけど──」

戯けた風に、こいしは肩をすくめた。

(……ムカつく)

一々苛つかせる妖怪だ、と天子は戦闘以外の思考領域で考えて、叩き切ろうかと悩み、




「じゃあ、メリヒムさん」
「……あぁ」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:49:59.65 ID:EMSvwDfv0<>

その声に、頭が急速に活性化した。

(──思考誘導!)

声の方向へと、天子を含む全員の視線が向けられる。
声のした方に居たのは、今まで"思考誘導によって存在を忘れられていた"メリヒム。
膨大な、天子のものとはまた違う力を辺りに放っているため、発見は容易だった。

ただし、

「なっ!?」
「えっ!?」
「……」

そこに居たのは"七人の男"。
全てが同じ姿、全てが同じ表情の同一存在が其々別の岩に立ち、三人を見下ろしている。
何らかの術を使っているのだろう。
一人一色の、七人。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
七色のへと分かれているメリヒムは、それぞれが剣を持ち、言葉を放つ。

「準備は終わった」「自在法の展開も」「この世の全てを薙ぐ」「我が必殺の一撃」「その七つを」「今一斉に」「無双の放射として」

流れるように言葉を続けるメリヒム達は、サーベルの刀身に力を集める。
集束し、前兆として輝いて行くそれらは刃の先端に各々の色で現れた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:51:10.50 ID:EMSvwDfv0<>

「狙いは分かってるよね?」
「無論だ」

こいしの言葉に、七人のメリヒム全てが頷く。
そして全く無造作に、サーベルを"前に"翳した。

「?」

天子と衣玖は、不思議に思う。
現在メリヒムは彼女達よりも高い、岩石群の上に居る。
なので見下ろす形になるのと同じように、天子達を攻撃するつもりならば、サーベルの先から真っ直ぐ光線を放つため下に下げる形となる筈。
もしかすると、七つの光線が集束して、頭上から降って来るのか。
そんな風に予想をたてていた二人へ、

「ま、ずい……っ!」

精神の様々なショックで苦しみながら尚、無理矢理立ち上がるさとりの口から呻き声が漏れる。
危機感を含むその言葉と姿に、思考が加速し、

「っ!まさか……!?」

危険の内容を二人は理解した。
衣玖は羽衣ごと、"背後"へと振り返る。
その紅い双眸が捉えたのは、

遥か先にある、地底の都。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:52:26.78 ID:EMSvwDfv0<>

しかもよく見ると点のように小さく感じる都から、黒い影に似た点が此方へと幾つも近付いて来る。
徐々に大きくなって行く点は、恐らく人影だろう。
頼んでいた地底からの増援が、次々と空を高速で飛んで来ているのだ。

自分達に、恐ろしい死の一撃が突きつけられているとも知らずに。

(地底の者達に攻撃する気!?しかし、何故、いや今はそれよりも)

七本の光線で地底の者達へ攻撃するのか、それとも集束させて一本の虹にするのか。
衣玖は危機に突き動かされ、叫ぶ。

「さとりさん!」
「……っ!」

相手の心を読めるさとりへ、対処の方法を求めるが、彼女は口を動かさない。
いや、動かせない。
答えを断定出来ないからだ。

「拡散、集束、どちらかなのは、分かりますが……」
「……っ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:53:37.27 ID:EMSvwDfv0<>

唇を噛む。
さとりの能力は確かに凄まじい。
相手の攻撃の種類、パターン、方向、全てを読み取れるのだから。
戦闘においてそれは、相当な優位に立てる。
しかし今のような状況では役に立たない。
二つの答えを予め用意されているような、面倒な状況では。

(このままでは相当な数の被害が……!)

メリヒムに攻撃しようと、こいしが恐らく全て叩き落とす。
能力を使われて躱される可能性もある。
衣玖の能力、実力では止めるのは無理だ。
例えるなら衣玖に戦車並の力があるとしても、相手が戦車二台ならば横合いからやられてしまう、そんな物だ。
さとりは先程までの精神攻撃から完全に立ち直ってはいない。戦力として期待出来ない。
ならば──

「お姉ちゃん、さっきはごめんね」

そんな声が響いた。
声の主たるこいしはメリヒムよりも更に上へと飛び、大地に立つ者達を見下ろしながら笑う。
白い前髪が、帽子の影で揺れていた。

「でもね、お姉ちゃんにしっかり思い出して欲しかったんだ。昔のことを。そして知って欲しかったんだ。"最善"との違いを」
「……こいし」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:54:54.27 ID:EMSvwDfv0<>

その声に邪気は無い。悪意も無い。憎悪も無い。
ただただ、謝罪の気持ちだけがそこにはある。

「…… 分かって貰えなくても、いい。だけど、私は」

声音が、変わる。
その音に含まれているのは、"願望"。

「あの幸せな世界で、お姉ちゃんと居たい!」

叫ぶその声は何処までも透き通り、何処までも響く。
どれだけ歪んでいようと、どれだけ私情や理由が含まれようと、
それは確かに願いだった。
周りを犠牲にすることで成り立つ、黒い願い。

「だから私は──彼奴らを、あの屑達を殺し尽くす!」

その瞳は接近して来ているであろう地底の者達を、光無き思いで睨んでいる。

「マズ──」

惨劇の予感に、策も無しで衣玖が、ワンテンポ遅れてさとりが、飛び出そうとして、




「ぁぁぁぁあああああああああああああああああああっっ!!」




ゾンッ、と。
豪快な斬撃が、こいしに迫っていた。
それは刀身が緋色の気質で作られた、幻想の刃。
鋼鉄すら楽に一刀両断する、二十メートル以上の長さを誇る、長大な刃だ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:56:26.62 ID:EMSvwDfv0<>

「なっ!?」

ギョッと、体の動きを止めてしまったこいしは妖力による壁を形成し、斬撃を防ぐ。
緋色の一撃は、しかし弾幕をたやすく防げるであろう透明な壁をブチ抜き、余波を砲丸のようにこいしの小さな体へと叩きつけた。

「ごっ!?」

肺から無理矢理空気を押し出され、不気味な悲鳴が可憐な唇から漏れた。
そのままの勢いで、こいしは宙を吹き飛んで行く。

「ふぅっ!」

其方を見ずに、下方から『緋想の剣』を振り切った天子は、

ダンッ!!と、大地を一蹴り。

他の者の驚きなど無視し、メリヒムと同じ高さまで、純粋な天人としての脚力で飛び上がる。
大量に萃めた気質によって全身を緋色に輝かせ、空中に軌跡を残しながら舞い上がる。

まるで、伝説の鳳凰のごとく。

「っ──」
「ぁ──」
「──」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:57:53.35 ID:EMSvwDfv0<>

その美しき緋色の姿に、その場に居たものは、メリヒムさえ、心を釘付けにされた。
単純な見た目の美しさだけではない。
宙を舞う動作の中に含まれる、荒々しさ。
表情に見て取れる、次の攻撃への感情。
腕に込められた、決意への力。
心の輝きを深く見せる、緋色の瞳。
それら全てが、輝いている。

「はぁっ!」

気質に蒼から緋色へと染まった髪を靡かせ、空中で体を動かす。
動きの一つ一つが暗闇に緋色の流れを刻み、そして気質の流れを他人へと表す。

(──)

もはやここまで来ると、美しい、という言葉さえ間違っている気がしてしまう。
今の彼女の姿の前には、どんな褒め言葉も似合わないだろう。
だが、そう、あえて一言。
あえて一言、言うならば、




(──英雄──)




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:58:36.19 ID:EMSvwDfv0<>


「行くわよ!」
「!?」

その声と共に、その場に居た三人は停滞した思考を元に戻す。
天子は両手を掲げ、手の平に『緋想の剣』を浮かばせて居た。
高速回転する剣に、彼女の体を緋色に染めていた気質が、全て萃まって行く。
みるみるうちに彼女の体は蒼を中心とした色に戻り、その瞳だけは変わらない、
灼熱の緋色を、輝かせている。

「!」

その瞳を見て、メリヒムは納得した。
彼女が攻撃の宣言を態々したのは、反撃をさせて、防がせるためだと。
身を省みない、無茶苦茶な作戦。

(随分と無茶をする……何処の英雄も、こんな感じか)

無鉄砲な、ギリギリの綱渡りを躊躇無く渡る生き様。
自分が知る者とその姿を重ねて、メリヒムは苦笑を浮かべた。

「っぁああ!!」

そして、咆哮。
七人のメリヒムから放たれた一人一色の閃光は、真ん中で交わり虹となる。
『虹天剣』。メリヒムが持つ、最強の自在法。
虹は、莫大な光の塊となって天子へと真っ直ぐ突き進む。
音を置き去りにした、一撃へ、天子は己の『緋想の剣』を突き出した。

そして、宣言。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 15:59:25.30 ID:EMSvwDfv0<>





「「全人類の緋想天」!!」




緋色が、迸った。
周囲の空間から、生き物から、ありったけの気質を萃められて象られた緋色の光線は、直ぐさま虹の光線に激突し、炸裂する。

ドバッッッ!!!!と、閃光同士がぶつかり合う、異様な轟音が轟いて、一瞬だけ閃光が静止した。


が、直後に。
緋色が虹を切り裂き、押し潰した。


「っ!?」

驚く間など無い。
光線はそのまま一直線に進み、岩石達を根こそぎ消滅させて大地へと数秒置かず、衝突した。

ドゴォォオオオオオンッッ!!と。
地底の空を震わす程の轟音が、キロ単位で周囲一帯を襲う。

「はっ……」

襲い掛かる衝撃波に身体を揺れ動かしながらも、天子は重力に身を任せ、大地へと着地した。
ズンッ、と、足の裏で自分の重さを感じとりながら、周囲を見渡す。
辺りには乱風が荒れ狂い、白い砂埃が視界を覆っていた。

「……」

砂塵の中、天子は前を見る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:00:10.60 ID:EMSvwDfv0<>

「……やってくれるね、お姉さん」

と、突如、彼女の眼前に顔が一つ出現した。
空間からそのまま滲み出て来たような錯覚を与えて現れたのは、古明地こいし。
黒い丸帽子を抑え、口から血を零しながら彼女は天子との間を数センチにまで狭めた。

「……」
「……」

砂嵐が舞う空間で、二人は至近で睨み合う。
互いの眼光には一片の揺らぎも無く、翡翠と緋色はその奥にある自分の姿をも見ていた。
ゴウゴウと風が逆巻く最中、彼女達は沈黙を守り続ける。

「……別に赤の他人から認められる気なんか、無い」
「……私もアンタの目的を認める気なんか、無い」

ポツリと、双方の純粋な思いを、ただ紡ぎ出す。
薄汚れて、疲れ果てて、血を流しているボロボロの姿でも、譲れない気持ちを正しく相手に認識させる。
それだけで。
それだけで十分だった。

「……」
「……」

呼吸音さえ無く、空間移動でもしたかのように、こいしの姿が消えた。
どんな力を使ったのかは、天子には残念ながら分からない。
睨み合っていた相手が消えた、その虚空を天子は見つめ続ける。

「……」

ただただ、見つめ続けていた。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:01:21.72 ID:EMSvwDfv0<>





「終わった、のでしょうか……?」

砂煙がだんだんと晴れて行く世界で、衣玖は疲れを感じさせながら呟く。
宙を舞っていた砂達が重力に負けて沈んでいく光景の中で、彼女は周りへと視線を向ける。
近くにはさとりが立っているだけで、それ以上は今だに認識出来ない。
ただ感じ取っていた力の雰囲気が二つ消えていたことから、恐らくメリヒムとこいしが、この場から消えたというのは分かった。

「──総領娘様!」

返事は、無い。
肌に感じる僅かな力の雰囲気を頼りに、衣玖は砂煙を払いながら歩き出す。
しかしながら視界が悪過ぎる。

「──よう、無事かい?」

が、そんな悪条件は一瞬で取っ払われた。
まるで神風でも吹いたかのように、砂煙が吹き飛ばされる。
ブワッ、と。
風に流されて行く白を無視し、衣玖は声の方へと振り返った。
そこには半袖半ズボン、酒瓶を抱えて、頭部に一本角を生やした女性が居た。
彼女は朗らかに、酒臭い笑みを浮かべて話しかけて来る。

「あんたが龍宮の使いかい?お燐に言われてやって来たけど、もう終わっちまったみたいだねぇ」
「えぇ、そのようです」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:02:09.05 ID:EMSvwDfv0<>

チラッと見ると、此方へ幾つもの妖怪達が飛んで来ているのがはっきり認識出来た。
どうやら目の前の女性は、他の妖怪達を後方へ置き去りにする程早く飛んで来たらしい。
傍目からは酔っ払いだが、実力は相当な物なのだろう。

「折角皆でひと暴れ出来ると思ったけど、終わっちまったなら仕方無いか……うん?」

ふと、何処からともなく取り出した器に酒を注いで居た女性は、首を傾げる。
その視線が自分の隣を見ていると知った衣玖は、釣られて隣を見る。

「……」

俯いたままの、さとりが居た。
地霊殿の主人は妹が居なくなったことで緊張の糸が切れたのか、
ガクンと、その小さな肢体が崩れ落ちる。

「おっと」

が、しかし。
地面に落ちる前に回り込んだ女性に支えられた。
一瞬の出来事。
余りのスピードに、衣玖は口に手を当てて驚きを表す。

「流石は"鬼"と言った所なのでしょうか」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、ここで一体何があったんだい?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:03:26.66 ID:EMSvwDfv0<>

顔を顰めながら、"鬼"は尋ねて来る。
表情には、長年の経験から来る疑念が篭って居た。

「こりゃ、精神を攻撃された妖怪独特の気絶だ。覚り妖怪で精神的に強い筈のこいつが、こんな風になるなんて普通じゃあ無い」
「……それなりの出来事が、あったのです」
「正直に言え、って言いたいけどこればっかはプライベートな問題だからねぇ。黙っとくよ」

正直を美徳とする彼女は、しかし余り踏み込んでこなかった。
踏み込んではいけないと、本能的に悟ったのかもしれない。

「取り合えず、さとりはお燐に任せて来るよ」

よっこらせ、と意識の無いさとりの体を肩に担ぐ"鬼"。
左肩に力の抜けた さとりを乗せて、彼女は先程までの笑みを見せる。

「ただし、後で何があったかしっかり言ってもらうからね」
「お気遣い、感謝致します」

ニッと笑って、"鬼"は豪音を上げて大地を蹴り上げる。
砲弾のように彼女の体は衣玖の前で飛び、数十メートルの距離を一息で詰めて行く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:04:13.75 ID:EMSvwDfv0<>

「……」

あっけない程早く消えた"鬼"の背中を見送ってから、

「さて、総領娘様?」

そう、問いかけた。
問いかけられた者は、衣玖の十メートル程先にまで歩いて来たらしい。
砂煙によって少しばかり白くなった服を叩いて元に戻しつつ、彼女は歩いている。
右手で輝いていた『緋想の剣』も、今やなりを潜めていた。
此方に気がついた

「っと、衣玖。そっちは特に問題なぁってぶべっ!?」

ズシャーッ!!と、みっともない間抜けな音が鳴った。
衣玖は目を呆れさせて、

「……何故そこでコケるのですか、総領娘様……」
「うぐぐ、疲れたから仕方無いのよ……後先考えずにぶっ放したし」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:05:07.55 ID:EMSvwDfv0<>

むぎゅー、と地面に頬を押し付けてジタバタ暴れる非想非非想天の娘の姿に、衣玖はため息を一つ。

「はぁ……」
「ため息つく前に手を貸しなさいよ!」

自分勝手な文句を言って来る天子に呆れながらも、衣玖は天子へと右手をさし伸ばした。
彼女はその右手を掴み取り、起き上がる。
緋色の美しさが嘘のような姿に、衣玖はもう一度、今度は苦笑とともにため息を吐き出した。

「はぁ……総領娘様はやはりいつも通りなのですね」
「どーいう意味よ……全く」

天子も彼女に釣られるように、僅かに微笑む。
しかし、微笑みながら遠くを見上げた。
地底の空の、更にその先。
もっと、何処か遠くを。

「──"私"が"私"だからこそ、譲れないのよ」

誰に言ったのかも分からない言葉。
揺るぎない、その姿。
龍宮の使いはただ、見守っていた。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:06:42.76 ID:EMSvwDfv0<>






「へぇ、フェイト君は失敗しちゃったんだ」
「そういうことになるな。最初から成功して来てもらっても、面白くないとは思っていたが」

とある宮殿。
暗い渡り廊下の上で、会話をする者が二人。
コツコツと足音を立てながら、会話を続ける。

「こっちの方は任せて貰っていいんだよね?」
「あぁ、ただ教授の願いはなるべく押し進める形で」
「分かってるよ。あの人少しおかしいけど、面白いし」

片方はこいし。
帽子をクルクルと回しながら、心底楽しそうに語る。

「それに、一人いいライバルが出来たしね。楽しくなりそう」
「『緋想の剣』を持った天人、か」

片方は、黒いローブを纏った青年。
不思議な声を持つ、黒髪の青年。

「じゃあ私はちょっとフェイト君の所に行って来る。誰が邪魔したのか聞きたいしね」

ステップを踏みそうな軽い足取りで、こいしは歩いて行く。
近くを離れ、先を歩いて行く小さな背中を見ながら、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:08:12.04 ID:EMSvwDfv0<>

「"虹の翼"も御苦労様」
「……」

その声に反応するように、廊下の影から一人、姿を表す。
彼、メリヒムは"右腕が無い状態のまま"、青年に憎々し気な声を放つ。

「おかしなことをする。本気であの世界を潰す気ならば、人形やあの女、俺を使わずに自分で潰せばいいものを」

その言葉には、青年の思考を理解出来ない者として当たり前の不愉快さが込められていた。
それと同時に、畏怖も。
くすっ、と。
青年は笑って、

「一気に終わらせてはつまらないから、って何回も言っただろう?」
「……理解出来んな」
「心配しなくても"約束"はちゃんと守るさ」

口調がころころ変わる。
信用というものを一寸たりとも感じ取れない姿に、メリヒムは確認の意味を込めて問いかけた。




「本当に俺が戦えさえすれば、"マティルダ・サントメールは生き返らせない"のだな?」




「愛する女を"戦わせたく無いが故"に戦う、か。それもまた一興」

トンッ、と。
青年──『神』は軽く浮上した。
傍目からはとても軽く、ドアをノックするくらいの気軽さで跳んだそれは、渡り廊下の天井に着地する。
逆さまのまま、来た道を引き返す。

「大丈夫。約束は守る方だ」
「……どうだか、な」

そしてメリヒムもまた、逆に歩き始めた。
コツコツ、カツカツと両者の歩く音が響き、


前触れなく、消える。


再び、宮殿に静寂が戻った。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:08:58.12 ID:EMSvwDfv0<>





一方。

「ふぁ〜あ……偶には朝の散歩もいいものね」

幻想郷の、"とある竹林"の中を歩く一人の女性が居た。
日本特有の衣服、"着物"をその身に纏い、歩いて行く。
早朝のためか薄く霧が張られた竹林は、少し寒かった。
が、女性は気にしない。
寒さ如きに負ける程、彼女の体は弱くは無かった。
艶を放つ"長い黒髪"を靡かせながら、足下の落ち葉と土を草履で踏みつけながらサクサク歩く。

「──さて」

ザリッ、と。
足を止める。

「早起きは三文の得とは言うけれど」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:09:41.40 ID:EMSvwDfv0<>



「う〜ん……」
「"キアラ"起きて!」
「変な女が見てるわよ!」




「これは果たして三文なのかしら……?」

目の前の地面に頭から直撃してめり込む、変な"鏃型の髪留め"をした少女を見てはぁ、と息を吐く。
しかも幻聴で無ければ、"声"は鏃型の髪留めからした。二つとも、少女の口からは出ていない。

(……暇つぶしが出来そうね)

最近平和続きで面白く無かったことだし、と心を弾ませる。
だが、まぁ取り敢えずは、

「誰が変な女ですって?」

蓬莱山輝夜こと、永遠と須臾の罪人は、
其処だけには反論した。




幻想郷にある"迷いの竹林"。
その中での一つの出会いは、片方が気絶しているというなんとも間抜けな物だった。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:11:11.14 ID:EMSvwDfv0<>




そして、もう一つ。
幻想郷の湖の中心にある、一つの館。
外観は血のように紅く、吸血鬼が住むのに相応しき洋館。
名を、紅魔館。

その地下にある大図書館。
端から端が見えない、幻想郷においても最大の蔵書量を誇る一人の魔法使いのための図書館にて。

「……へ、へ?」

口をパクパクさせる、司書が居た。
ただの司書では無い。
頭に生える飾りの羽と、背中から生える黒い蝙蝠の翼はどう見ても人間では無かった。
彼女の名は小悪魔。
とある魔法使いの使い魔である。

そして何故彼女が呆然となっているのかというと、


「う〜ん……」


突然、空から人が降ってきたからだ。
当然のことだが、図書館なので天井は勿論ある。
しかしその人物はなんの前兆も無く、真っ逆さまに小悪魔の前に墜落したのだ。
其処にあった、本の山へと。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:12:18.54 ID:EMSvwDfv0<>
「は、はわわわわわっ!?どどどどうしましょう!?パチュ、パチュリー様はお出かけ中でした!」

持っていた本を投げ出し、大いに慌てる小悪魔。
自分の主に頼ろうとして居ないことを思い出し、更に慌てる。

「咲夜さん……も居ない!レミリア様はお昼寝中……となると美鈴!美鈴さぁぁぁぁぁぁんっ!」

バァンッ!!と、図書館の大扉を悪魔らしい怪力で開け放ち、最後の希望へと走り出す彼女は、見て居なかった。
本の雪崩の中、気絶している少女の胸元から、"カード"が一枚毀れ出しているのを。
"現代の学校で見るような制服"を着た彼女は、呻き声を一つ。


「"ネギ、先生"……」


こぼれ落ちたカードには、ラテン語で名前が書かれていた。


ユエ・アヤセと。


これが、この小さな魔法使いが始めて幻想郷へ訪れた状況だった。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:12:57.43 ID:EMSvwDfv0<>












幻想の物語は止まらない。
本人達の意思など関係無く、
ただ、永遠に進み続ける。













<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:13:42.28 ID:EMSvwDfv0<>

おまけスキット




スキット14「スーパー」


衣玖「そういえば総領娘様」

天子「なによ?」

衣玖「総領娘様の体を気質が覆ってましたが……あれはなんという技なのですか?」

天子「あぁ、あれ?あれはただ『緋想の剣』から溢れ出しか気質を逃がさないようにしてただけだから、技とかじゃないわよ」

衣玖「そうなのですか……」

天子「でもいいかもね。技にするのも。えーと、じゃあ何にしようかな……」

衣玖「……」

天子「決まった!」


天子「超天人にしよう!読み方は、スーパーてn」

衣玖「それは色々危険なので止めてください」





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/09(水) 16:17:05.13 ID:EMSvwDfv0<> 最初の頃に比べると、随分の地の文が増えてるなぁ……道理で読む人少ない訳だ……

次回からはまたもや視点は学園都市に移り、浜面チームのお話です。
幼女に振り回される浜面君の活躍に、ご期待ください。いや、背中刺されてるかもしれませんが。

……って、よく考えると浜面普段から絹旗に振り回されて(ry

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 17:12:53.98 ID:ImA8kLumo<> 心配しなくてもすごく面白いと思いますよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 19:28:42.53 ID:lnYiIvNdo<> 帽子をぬいだパチュリーとパチュリーの帽子をかぶったゆえが見分けつかない


つまりだ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 20:57:37.95 ID:orrZeIyAO<> キアラが来た!!夕映もきた。悉く期待。

夕映は禁書側の学園都市のいちごおでんetcに興味持ちそうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/09(水) 21:54:00.62 ID:G9C+X0vy0<> 乙です

まさかこんなにかっこいい天子の姿が見れるとは… <> フィアンマ「今日は鍋パーティーだ」<><>2011/03/15(火) 23:08:34.31 ID:GtSA+5rk0<> >>1は無事なのかな・・・? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(和歌山県)<>sage<>2011/03/19(土) 17:29:07.08 ID:eLuvNL4z0<> >>611 名前どうしたしwww <> ◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/21(月) 13:25:25.02 ID:DxJtpqyg0<> >>607
ありがとうございます……!

>>608
なん、だと……?
そこに気がつくとは、貴方は天才か……

>>609
このスレの天子は結構自己解釈と主人公補正が入ってるので輝きます。

>>610
総合の方、読ましていただきました。
面白かったです


地震でいとこと連絡を取り、三日目で無事が確認出来てから気が抜けてしまって全く書いてませんでした。
只今徐々に書いていますので、もう暫くお待ちください……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/21(月) 13:27:48.75 ID:DxJtpqyg0<> 訂正。
>>610ではなく>>610でした申し訳ない…… <>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/03/21(月) 13:29:44.55 ID:DxJtpqyg0<> あれ?>>611って打った筈なのに……
連投すみません <> 609<>sage<>2011/03/21(月) 21:41:32.07 ID:hmed4COAO<> >>609も>>610の間違いじゃない?
俺は天子には触れてないし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/22(火) 01:44:00.83 ID:OyY9TGXNo<> >>615
まぁ落ち着いて俺の鼻くそでも喰えよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/22(火) 13:09:28.93 ID:P9H+VtUJo<> 追いついたぁ!
原作でネギまのライフメーカーがキャラ崩壊しててわろた
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 17:57:24.07 ID:MYPr/Fxz0<>

あぁ、何をやってるんだ自分は……間違えて一回削除しちゃうし、本当調子悪い……

投稿、行きます

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 17:58:39.82 ID:MYPr/Fxz0<>





学園都市。
総人口二百三十万人の、巨大な学生の街。
世界に名を馳せる、科学の最先端を行く都市である。
そこでは様々な科学技術が存在し、更には電極やら薬剤やらを利用した『開発』によって『超能力』という異能の力がある場所。
漫画の中でしか見ないような非常識が散らばる、神秘で不可思議な一つの別世界。
日本の東京西部を切り拓かれて存在するこの街には、沢山の者が居る。


そしてそれに伴い、沢山の光と闇がある。


そんな、ある意味では残酷な街。


そんな街の、十月十八日。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:00:46.07 ID:MYPr/Fxz0<>




浜面仕上は不良である。
ボサボサの金髪。鼻ピアスの跡。野暮ったい外見。薄汚いファッション。
漫画に出てくれば「ようよう兄ちゃん、金くれや」などと言って主人公登場フラグを垣間見せる存在だ。
それか何処かの薄い本では、男役の一人として女性を蹂躙するような存在。まぁ酷く言えばモブと言っていい男。
だがしかし、見た目と雰囲気で判断してはいけない。
彼は実は、学園都市の『闇』に触れ、七人しか居ない超能力者(レベル5)の一人を無能力者(レベル0)なのに倒し、生還。
更には吸血鬼というこれまた一般人が出会う筈の無い存在とばったり合い、しかし生きながらえているという、一般人の枠から外れてしまっている男だったりするのだ。

そんな普通とは違う不良少年、HAMADURAはというと、




「わぁっ!?ねぇねぇねぇねぇ!あれなにっ!?」
「あっぶねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」




"日傘"を持ってダッシュしていた。
正確には、させられていた。
男に似合わないであろう、真っ白な布の傘で日の光を遮り、走り出した少女をガシィッ!!と掴んで急停止をかける。
急停止をかけられた少女は、ずれた帽子を直しながら自分の動きを止めた少年に不満の声を出す。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/03/25(金) 18:01:47.89 ID:MYPr/Fxz0<>
「浜面、なんで止めるの?」
「いやいや、急に走り出すなよ!お前あと少しで太陽に焼かれる所だったんだぞ?」
「日傘があるから大丈夫じゃないの?」
「影から出たら日傘の意味ねぇよ。頼むからもっとゆっくり動いてくれ……アスファルトにヒビ入ってんじゃねぇか……」
「むぅ……」

不機嫌そうに唸る金髪の少女を見て、浜面はため息を吐いた。
現在彼によって日傘の下に拘束されている少女の名は、フランドール・スカーレット。
浜面は短くフラン、と呼んでいる(他人からも大体フランらしい)。
彼女、見た目は十歳程度の少女だが実は495年以上の時を生きる"吸血鬼"。
絶大な力を持つ、正真正銘の化け物。
その気になれば浜面のような普通の人間を、一瞬で挽肉に出来る存在。
現に、最初は呆気無く虫のように殺されかけた。

なのだが、何故か知らないが浜面はこの少女に好意を持たれていた。

「本当になんでかなぁ……」
「ほらほら早く!」

服を引っ張られながら歩く彼は、小さく呟く。
自分には絶対似合わないだろうなぁ、と思いながら買ったオシャレな日傘を掲げながらと問いかけに、答える者は居ない。

昼間。
学生の街だと言いつつ、普通なら勉強している筈の学生が目立つという大通りに、二人がホテルから出て繰り出しているのはとても簡単な理由だ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:03:53.77 ID:MYPr/Fxz0<>

『外に出たい!』


以上。
なんだかんだの流れでフランと同じ居住空間に居る浜面にとって、そのお願いというものは出来れば我慢して欲しい物だった。
異世界?ナニソレ美味しいの状態な一般不良の浜面には、精神的な余裕が無かったからだろう。
だが脱走しそうだったというのと、上目遣いのお願いに屈指てしまい、お金を使って態々準備してから漸くお出かけとなった訳である。

「バニラ二つ」
「あいよ」

フランの指差した目的地──車型のアイスクリーム店に辿り付き、浜面は間髪入れずに注文する。
注文を受けた気のよさそうなおっさんが慣れた手付きでコーンを取り出して行くのを見つつ、ソフトクリームのモニュメントを突いているフランに問いかけた。

「何か困ったことはないか?」
「うーん、特には無いよ。でも、翼を出せないのがちょっと苦しいかな」

突っつくのを止め、フランはチラッと自分の背中を見る。
真っ赤な服の背中にあるのは、黄色のリュックサック。
何故か中からもごもご動いているそれは、人外の証を隠すために浜面が買って来た物だ。
背中側の布を切り取り、中にフラン独特の宝石のような翼が隠されている。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:04:52.73 ID:MYPr/Fxz0<>

「悪いな。あの羽は目立ち過ぎるんだ」
「うん。でもこんなことなら人化の魔法練習しておけばよかったなぁ……」

しょぼん、と言った風に僅かにだが落ち込むフラン。

「幻想郷じゃ隠す必要なんて無かったんだけど、ここじゃそうはいかないもんね」
「そういうこった。そこら辺は常識の違いってことで納得してくれ」
「うん」
「……」

またもや素直に頷かれ、居心地悪く感じた浜面はツーと目を逸らす。
居心地の悪さと伴に感じたのは、一瞬の不安。
彼はある程度違うとはいえ、一般人。
故にフランに対する恐怖心も、全てが抜けている訳ではない。
今でも、いつフランがあの時のように魔剣を振り抜くのではないかとビクビクしているくらいだ。

「そういや、幻想郷にアイスクリームなんかあったのか?文化レベル結構低いみたいだけど」

が、なんとか浜面はその感情を表に出さず、話題を変える。
一方フランは、今度はガラスケースと中のアイスケースが珍しいのか、べったりとガラスに張り付きながら、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:05:41.00 ID:MYPr/Fxz0<>

「ケーキとかはよく食べてたけど、あいすくりーむはあんまり食べたことないね。かき氷は一杯食べたことあるけど」
「確かにかき氷の方が遥かに簡単だしな。氷砕いてシロップかけるだけだし」
「私とお姉様の分はシロップじゃなくて血だったけどね」
「真っ赤なかき氷か……食欲わかねぇな、絶対」
「えー?そう?あの鉄臭さとかよくない?」
「鉄臭い食べ物って言われたら普通の人は食欲無くすわ!」
「ふふっ」

ビシッ!と突っ込みを入れるも、フランは手を口元に当てて笑うのみ。
天真爛漫な彼女の態度に、浜面は苦笑する。
とてもではないが、ビルを十単位で潰した吸血鬼には見えなかった。

「ほい、バニラ二つ」
「あっ、あぁ。さんきゅ」

と、三角クッキーコーンのてっぺんに丸い何か……簡素に言うと白いアイスクリームが乗せられた物が差し出された。
カウンターの向こうから差し出されたアイス二つを浜面は受け取り、代わりに百円玉を四枚をカウンターに置いている。
そして片手のアイスを、下からキラキラキラキラッッ!!した子供の目で見上げて来ていたフランへと差し出した。

「ほら」
「うわぁ?……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:06:33.76 ID:MYPr/Fxz0<>

まるで宝石を見つめるかのように、純粋そのものの目でアイスを見つめる吸血鬼少女。
その姿に浜面は「早く食べないと溶けるぞ」と笑いながら忠告し、日傘を持っていない空いている方の手でアイスを口に運んだ。
後味の悪く無い、さっぱりとした甘さが口内に広がる。
十月といえどまだまだ暖かく、アイスの冷たさが心地良い。

「よう、兄ちゃんお守りは大変か?」

と、突然、アイスクリーム屋のおっちゃんから話しかけられ、浜面は其方に向き直る。
三十代ぐらいの男の茶化すような笑みと視線を受けつつ、浜面は苦笑のまま言葉を返す。

「似合わないことだから大変だよ。そっちこそ、そろそろアイスは季節外れだろ?大変なんじゃないのか?」
「はっはっはっ、一本取られたか。でもこっちは毎年のことだからな」
「俺は人生初めてだ」
「もぐむぐもぐむぐ」

軽い雑談をしながら気がついたが、少女の心はどうやらアイスの甘い香りと見た目に叶わなかったらしい。
小さな口を限界まで広げバニラアイスをほうばる姿は、見る者全てを癒すような愛嬌があった。
浜面は滅多に見ない小さな子供の行動と、日傘を持つ自分の場違い感を認識しながら、

「でも、ま。絶対にやりたくないって訳でもないしな。多分」
「妹かい?」
「いやいや、それはねーよ」

否定する。
冗談だろうと思いつつ(フランと自分が明らかにレベルが違うという自覚があるため)、しかしながらはっきりと否定しておいた。
何故かというと、浜面は知っているからだ。
それは、

「私と血がつながっているのはレミリアお姉様だけよ!」

と、もう食べ終わったであろうフランは、頬や口元をアイスで白く染めたまま主張する。
その和む姿に、自然と浜面と男の顔にも優しい笑みが浮かび上がった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:07:32.79 ID:MYPr/Fxz0<>

「はいはい。取り合えず口周りをどうにかしてから言おうなー」
「むぅー!」
「ははっ、仲が良くて何よりだ」

ほらよ、と業務用であろう大きめのテイッシュを貰い、浜面は礼を言いながらフランの口元を拭いて行く。
フランはモゴモゴとむず痒そうに動いていたが、目を猫のように細めて嬉しさを示していた。
まるで小動物だな、と浜面は素直な感想を抱く。

「どんな事情があるのかは知らんが、折角生まれた女の子との繋がりなんだから大事にするんだぞ」
「うるせぇよ、此方とら意外に女と関わり合ったりするんだからな!……全員が全員、なんか普通じゃねぇ、っていうか色んな意味で変だけどさ」
「……浜面、それって私も?変ってどういう意味で?」
「ウグッ!?」
「本当に仲が良いなぁ。ははっ」

笑い事じゃねぇぇぇぇぇぇっ!!と内心で思いっきり悲鳴を上げる不良少年。
それに対して"表面上"はニコニコ笑みを浮かべるフラン。
ただし、その背後から何か黒い物が滲み出ている気がするのは気のせいだろうか?

「余り女の子を怒らせるんじゃねぇぞ兄ちゃん、女は怖えからなー。ウチのカーチャンとか」
「おい!?そもそも原因は──」
「浜面……?」
「はいぃぃぃぃぃっ!」

ダラダラダラダラ!と頬を伝う冷や汗。
焦りつつ、しかし残念ながら浜面は普通の少年なので女性のご機嫌を取る方法などさっぱりで。
思考からこの状況を乗り越えるだけの答えなど出る筈も無く、フランが鬼神の笑みで一ミリずつ迫って来──

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:08:22.24 ID:MYPr/Fxz0<>

「ほらよ、嬢ちゃん。サービスだ」
「えっ?いいの!?ありがとう!」

が、せめてもの助け船として差し出されたアイスクリームに、フランから滲み出ていた黒い物が綺麗さっぱり消失した。
年相応の姿でアイスに飛びつく光景に、浜面は引き攣った表情で暫く固まる。

「………………」
「間一髪だったな、兄ちゃん」

ドヤ顔を向けて来るおっさん。
取り合えず、浜面は怨みを込めてボソッと一言。

「……嫁さんに嫌われるよう願っとく」
「ワリと洒落にならねぇから止めてくれ……っ!」
「おいしー!」

少女特有の高く柔らかい声が、周囲に鈴のように響いた。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:09:21.86 ID:MYPr/Fxz0<>








「ステイル」
「神裂か。そっちはどうだったんだい?」

イギリスのとある沿岸部。
波が打っては引くという光景を繰り替えす砂浜。
其処に二つの人影があった。
片方は"黒い神父服"に、"赤い長髪"。
更には"タバコ"をくわえていて、どうも神父さんには見えない。
もう片方は女性。
"青の上着にジーンズ"。
しかし片方は大胆に太股の付け根までカットされており、ブーツと白い肌を露出させている。
そして手には、"一本の長い何か"。

「途中で術式を暴発して自滅してました。其方は?」
「こっちも似たようなものさ。まっ、建物ごと吹き飛んだのには流石に驚いたが」
「貴方自身は大丈夫なのですか?」
「イノケンティウスの方は、まぁ問題無い。多少出力が上がっただけだ。ルーンの枚数で調整出来る。ただ、炎剣は暫く使えないね。僕自身の手を燃やし尽くしてしまう」

互いの会話は、普通の人間ならばまず理解不能、もしくは電波発言だと思うだろう。
だが、二人は大真面目だった。
大真面目に、自分達が住む"世界(オカルト)"のことを話していた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:10:15.92 ID:MYPr/Fxz0<>
「どうやらウチの馬鹿上司も動いているようだ。三大宗教会議が開かれるらしい」
「護衛の任は確かに私にも届きましたが……向こうが乗ってくるでしょうか?」
「どうも向こうもおかしな事態になっているらしいからね。少しでも情報が得られるのなら、喜んで飛びつくだろうさ」

さて、と。
男性の方は神父服を揺らし、歩き出す。

「僕達は僕達に出来ることをやるだけだ」
「……気になりますか、"あの子"のことが」

背中越しに投げかけられた言葉に、ステイルと呼ばれた"少年"は立ち止まる。
そして振り返らずに、言葉を紡いだ。

「……それは君もだろう?」
「……今、私達には学園都市の情勢を把握する術が無い。更には、戦うことも危うい状態」

質問には答えずに、神裂と呼ばれた女性は少し別の事を話す。

「アレイスターに関われないどころか、学園都市内の情報を"どんな手を使っても"得られない。なのに、外交自体は全て上手くいっている。魔力現象といい、魔術師や人間に出来る範囲を超えている。そして、学園都市にはあの子が居る……」
「……不本意だが」
「?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:11:03.24 ID:MYPr/Fxz0<>
その台詞に、踏み出そうとした足を止めた。
神裂は、同じように立ち止まっているステイルの背中を見る。
彼はどんな表情をしているのか、神裂に感じさせないまま、

「不本意、あぁそうさっ。本っ当に不本意だけれども……あの子の傍には、"アイツ"が居る。だから、少しの間は大丈夫だろう……少しの間はね」

暫しの間、女性は沈黙。
だがこらえきれなかったとばかりに、口元に手を当てた。

「……くすっ」
「……なんだい、神裂」
「いえ、別に。では、行きましょう」

足を素早く動かし横に笑いながら並び立つ彼女へ、ステイルは何か言いたそうな顔をしていたが、ふぅ、と紫煙を吐くに留める。
自分でも、彼女が笑った原因は分かっているのだ。
ただ、認めるのが嫌なだけで。

「……分かったよ。じゃあ行こうか」
「えぇ、私達に出来ることをやるために」

二人の魔術師は歩き出す。
その胸に、一人の少女と一人の少年を思い描いて。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:12:07.63 ID:MYPr/Fxz0<>







「で、結局どこに行くんだ?」
「うーんと……分かんない」

おい!?と、突っ込みたくなるのを浜面はなんとか堪えた。
今は大通りのど真ん中ということもあり、目立つのは避けたかったからだ。
ただでさえ一部からは『何故か真っ白な日傘を差した不良』と『可愛くて何処かのお嬢様みたいなのに黄色のリュックを背負う少女』として目立っているというのに、流石にこれ以上視線を集めるのは浜面といえど恥ずかしい。
だが、上着の端を掴むお嬢様にはそんなことは関係ないようで、

「というより、私はこんな人が一杯居るところを見たりするだけで満足だから」
「そうかぁ?俺からしてみては普通だけどな。後危ねぇ、ぶつかるぞ」

ひょい、とフランの肩を掴んだまま横に移動し、正面から来ていた青い髪の少女を躱す。
周りにはまだ様々な格好の少年少女(大人は余り居ない。学園都市らしい)が通過して行き、立ち止まるのは邪魔なような気がしてきた。

「やっぱりこの大通りは学校があろうが無かろうが賑わってんな……」
「浜面、私ちょっと疲れたかも……」
「……俺もだ」

意見に同意し、右横を通り抜けて行く花飾りを頭に乗せた学生を見つつ頭の中に地図を思い浮かべる。
さて、これから何処に行くべきか。
自分の知っている場所はかなりあるとはいえ、どれもこれも平日の昼間に行けば不良扱いされそうな所ばかりだ。
そうなると、この人混みに紛れて行けるような場所ということに……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:13:01.18 ID:MYPr/Fxz0<>

「──あっ」
「?」

突如、浜面は口から思わずといった形で声を漏らしていた。
首を傾げるフランに、彼は尋ねかける。

「ちょっと行きたい所があるんだけどいいか?」
「うん、いいよ。浜面と一緒なら、何処へでも」
「そうか」

浜面はそれを好意と受け取り、笑顔でフランの頭を撫でる。
ごつごつした手に撫でられながらも、自分の言葉に秘められた物をスルーされて少し不機嫌になる彼女に気がつかず、浜面はんじゃと言って、

「あっちだな」

フランの手を掴んで歩き始めた。
人混みの間を縫い、金髪の学生にぶつかりかけながらも道の一番端にまで辿り着く。
辿り着いたその先、それは定食屋とアクセサリーショップの間にある空間。
つまりは壁と壁の隙間として生まれた、薄暗い道。

「こっから行った方が近道だし、人も居ないから楽だ」
「へー、浜面って物知りなんだね」
「……まっ、"必要だった"からな」
「へっ?」

純粋な瞳で見つめられ、浜面はワザと笑って誤魔化す。
そして早く行くぞとばかりに路地裏へ一歩踏み出し──

「どわっ!?」
「あぶなっ!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:13:56.36 ID:MYPr/Fxz0<>

ぶつかりかけた。
路地裏の影から勢い良く飛び出して来た人影に、体を捻って避ける。
日傘のことがあるため余り動けなかったが、向こうがとんでもない反射神経で体を停止させていた。
よって、衝突をギリギリで免れる。

「す、済まねぇ」
「ご、ごめんなさい!」

反射的に浜面の口から謝罪の言葉が漏れ、対する少女からも謝罪が言われる。
年は中学生、フランよりは年上だろう。
光を反射する茶色の短い髪に、活発そうな瞳の光。
そしてその身を包む制服に、浜面は心当たりがあった。

("常盤台中学"の制服……?お嬢様学校の優等生が、なんでこんな平日の昼間っから、しかも路地裏から出てくるんだ?)

当然のこととして、浜面は暢気な疑問を持つ。
が、少女はそんな余裕が無いのか、顔をチラチラと後方に向けて慌てていた。

「急いでるの!ごめんなさい!」

一言そう言ってから、彼女は驚く浜面と状況について行けないフランを置いてきぼりにして走り出す。
お嬢様とは思えない、スポーツ選手のような綺麗なフォームだった。
ちなみにスカートの下は短パンだった。

「……なんだったの?」
「……さぁ?」

当然のフランの問いに、要領を得ない返答しか出来ない。
とにかく、あっという間に消えてしまった少女のことを何時まで考えても仕方無い。
そう考えた浜面は、改めて路地裏に向き直った。
太陽の光が直接差し込まない空間。
薄暗いとはいえ、一応日傘はさしたままの方がいいかもしれない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:14:55.63 ID:MYPr/Fxz0<>

「なんだか迷路みたい」

それが、フランが持った路地裏への第一印象だった。
コツコツと、静かな路地裏の道に二人分の足音が鳴り、静寂を打ち消す。
コンクリート剥き出しの道には、清掃ロボットが居ないせいかかなり汚い。

「迷路ってのも違ってねぇかもな」

周りへキョロキョロ視線をやる彼女に、浜面は言葉を返す。
確かにこの路地裏は編み目のように広がっており、様々な大通り、学生寮の間、店舗の密集地帯などと繋がっている。
いわば天然の『迷路』。
ざっと見るだけでも、曲がり角が十はある。

「よく警備員から逃げるのに使ってたぐらいだ。逸れたら迷子になるだろうから、気を付け──」
「あれ?こっちにも道があるよ?」
「言ってる最中から!?」

一秒どころかマイナスである。
太陽の光という、自分を拘束するものが無くなった天真爛漫少女フランは平気で横道へとそれて行ってしまわれた。
話もなんのその。傍目からは可愛いが、保護者(代理)の彼としては溜まったものではない。
浜面は前に進みかけた状態でストップし、フランが向かった横道に行こうとして、

「ちょっと邪魔よ」
「とっ!?」

壁に張り付くこととなった。
張り付いた、というよりは凛とした何処か強制力のある声に動かされたというべきだろう。
道を譲る形になってから、声の主をまじまじと見つめる。
フランと見た目同い年くらいの、長い黒髪に黒曜石のような瞳、黒色の錆びた感じを与えるコートと黒一色の少女。
胸にはペンダントらしきものがぶら下がっている。
幼そうなのに、子供らしさというものが見た目からも雰囲気からも感じ取れず、一本の刀のようなイメージを与えて来る女の子だった。

「……」

彼女は壁に張り付いたまま似合わない日傘を掲げる浜面を無言で一瞥し、興味が無いとばかりにそのままサッサと歩いて行ってしまう。
早歩きのようにも見える動きで、少女は路地裏の入口から先程の大通りに出て行った。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:15:50.78 ID:MYPr/Fxz0<>

「……なんだありゃ?」

奇怪な少女だ。
少なくとも浜面はこの辺りで見たことがない。

「今日は変な日だな」

いや、吸血鬼のエスコートという時点で変ではあるのだが。
空いた手でぼさぼさの金髪を掻き、視線をフランが向かった道へと向ける。
時々声が聞こえるので、そんなに遠くまでは行っていないのだろう。

「待つか、行くべきか……待とうか」

彼女も馬鹿ではない(むしろ頭が良いと浜面は感じている)。
太陽の下に出なければ、フランになど危険はほぼ無いのだ。
不良が絡んだとしても余裕で返り討ち、下手すると血ダルマになるだろう。

「幼女だから大丈夫だとは思うけど……」

流石の不良やスキルアウトも、あんな幼女に何かしようとしたりはしないだろう。
"何か"しようとしたら、そいつは立派なロリコンだ。

「精々身代金目的で浚うとかだよな……あんな見た目十歳の幼女をまさか──」
「あら、貴方ロリコンさん?この都市では変態は珍しく無いのかしら?」
「うぉぉおおおおおおおおおおっっ!?」

全力で飛び上がるロリコン疑惑のHAMADURA。
日傘を思わず取り落とし、其方へと視線をやる。
そこに居たのは、メイドさんだった。

「……メイドさん?」
「それ以外に何に見えるの?ロリコンさん」
「あのすみませんその呼び方マジで止めてくれませんかね!?軽く死にたくなるんだけど!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:16:42.77 ID:MYPr/Fxz0<>

先程の少女とは違った意味で厄介な女性だった。
見た目の年は浜面と対して変わらない気がするのだが、どうも大人の雰囲気を周りへ放っている。
銀色の髪に、紅い目。
そこまで見てから、

(……あれ?)

ふと、戸惑う。
何故だか、見たことがある気がする。
何処か、そう何処かでこの二色を見た。
彼女では無い。
確か、この目は……

「私の顔に何か付いてるかしら?」
「っ!わ、悪ぃ」

そこで浜面は、自分が女性の顔を凝視していたことに気が付いた。
咄嗟に謝り、表情を取り繕う。
そんな彼の不礼儀な姿にも対して気にせず、女性は微笑を浮かべながら、

「ところで、こっちに女の子が来なかったかしら?長い黒髪の子なんだけど」
「長い黒髪……その子ならあっちに行ったけど」

浜面は自分の心当たりに一つしか無かったため、迷いなく大通りの方へと指差す。
指で差された方をメイドさんは見て、ふむと一人納得している。
そして、何やら人目をはばからずぶつぶつと呟き始めた。

「人………紛れ……つも…?……がバレ…?でもそれ…………を、……、誘われ……?」

ぶつぶつぶつぶつ……目の前に居る浜面など気にせず呟き続ける電波メイド。
正直に言って、街中で見かけても絶対に関わり合いたくない姿だ。
が、恐る恐るといった風に浜面は声をかける。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:17:35.32 ID:MYPr/Fxz0<>

「……あのー?メイドさん?」
「あっ。ごめんなさいね」

すると、忘れていたとばかりに顔を上げ、笑顔を向けられる。
美人メイドさんの0円スマイルに、思わず顔を赤めてしまう。
男の頬を染めた顔なんかキモイだろうなー、と浜面は無意識のうちに顔を背けたが、

「では、御礼に手品を一つ」
「へっ?」

その声に、再度向き直った。
見るとメイドさんは手を前に差し出し、唇を静かに動かす。

「種も仕掛けもございません──では、さようなら」

パチン、と指を鳴らした。
直後、


メイドさんが、浜面の視界から跡形も無く消え去る。


「──?」

そして後には、四枚のトランプが宙をヒラヒラと蝶のように舞っていた。
キング、ジャック、スペードの三枚は風に流されて行き、

「わぷっ」

残る最後の一枚が浜面の顔面に何故か直撃する。
目を反射で閉じたため、手探りでトランプを払う。
払ったトランプの絵柄は『ジョーカー』。
しわくちゃババアにも見える、変なピエロの笑い顔が飛んで行くのを見つつ、浜面は間抜けな顔のまま言った。

「……手品じゃねぇじゃん」

何処ぞの巨乳ジャージ教師の口真似になってしまった。
手品と言われても、あんな物を手品と本職の人達に言ったらボコボコにされそうだ。

「大方、空間移動(テレポート)関係の能力なんだろうけど、態々あんな使い方するか普通……?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:18:31.14 ID:MYPr/Fxz0<>
やっぱり変な人だったなぁ、と思うと同時、なんで自分の周りには変な女性及び女の子しか居ないんだ、と肩を落とす。
はぁ、と。青少年の重いため息が吐き出された。

「おーい!」

噂をすれば影とばかりに、間髪入れずに、変な女の子の一人が戻って来た。
苦い顔に笑みを混ぜ、其方へと視線をやる。
が、

「…………………………………」

固まった。
ピキリ、と石化の術でも喰らったかのように浜面の動きと表情が固まる。
理由は、

「ねぇ浜面ー。これなぁに?私が攻撃したら反撃してきたんだけど」

戻って来たフランドール・スカーレットの手に、金属のガラクタのような物が握られていたからだ。
所々が焦げて、溶けてさえもいる、"ドラム缶"のような形。
高さ一メートルも無い、原型の面影を形と色にしか残さないもの。
だが浜面は、それがなんなのかよく知っていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:19:16.28 ID:MYPr/Fxz0<>



警備ロボ。学園都市製の、一体百二十万円する機械の無惨な姿である。




『シス、テム、の、い、じょ、う、をかか、くに、んん』
「おっかしぃなぁ。さっきまではちゃんとした言葉喋ってたのに。中に人も入ってないから、式神の一種なんだろうけど──」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!?」
「わっ!?」

浜面はフランの始めてテレビを見た時と同じ不思議そうな声を聞いてなかった。
とにかくフランの胴回りを腕と腰の間に抱え、一気に走り出す。
この後の、予想通りの展開から逃げるために。

ビィィィィィィィィィッ!!!

「ギャァァァァァッ!?やっぱり鳴りやがったこんちくしょう!どんな耐久強度してやがんだ!?」
「あはは!なんだか知らないけど楽しー!」

背後からのブザーから逃げるため、不良少年は路地裏を無様に駆け抜ける。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:20:06.68 ID:MYPr/Fxz0<>








「……なるほどな」

第三学区のビルのとある一室。
オフィスとしての環境が整えられた空間に、一人の女がソファーに寝そべっている。
高校生くらいの女性。
長く黒い髪を時々払う仕草には、何処か艶やかさが感じられる。
彼女の近くにはパソコンのモニターや、それを置くための台などを設置しており、オフィスではなく完全な私室として使用していた。
誰かと通話しているのか、携帯電話を片手に持って耳を当てていて、納得した表情で口を動かしている。

「恐らく統括理事長は動けない立場にあるんだろう」
『どういうことだ?』

電話越しの男の声に、女性は目を細めて返事を返した。
声に多少の呆れを込めながら。

「簡単なことさ。暗部の活動停止、統括理事長からのノーコンタクト、『闇』の研究機関の停止──どう考えたって理由が不可解だし、デメリットが大き過ぎる。まず間違いなく、こんなことをしようとはしない筈だからな」
『しかし、動けない立場とは……』
「知らんよ、私も推論を述べたに過ぎないけど。だからといってまぁ、予想がつかない訳ではないけど」
『理由が分かるのか?』

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:20:58.96 ID:MYPr/Fxz0<>
答えを率直に求め続ける男に答えつつ、彼女はパソコンの画面へ視線をやる。
そこにはいくつかの衛星写真が映っていた。
それぞれが全く違う地点を映していて、第一学区から第二十三学区までの二十三枚の映像がリアルタイムで受信されている。
それらを一つ一つ眺めながら、

「──『敵』だろう。アレイスターが動きを止める程のな」
『敵?一体何処の誰が……?』
「さぁ?ただ、これが個人だったら恐ろしいけど。衛星にダミーの映像を流すように細工し、学園都市絶対の監視網さえも誤魔化しているっていうのは、例え国一つでも難しい」
『……何故集団ではなく、個人だと思う?何処かのテロ組織とう線もあるだろう』
「ただの勘さ。気にしなくて構わない」

それをたった一人でやる、というのは偉業とか天才という話ではない。
レベルが違い過ぎて、話にさえならないということだ。
クッキーを一つ、台の上から取り出しつつ、

「『敵』がなんにしろ、今は統括理事会が学園都市の全権を握っていると言っても過言ではないんだ。監視網が弱くなった今、頑張ってもらわないといけないけど」
『……お前の力も借りるぞ』
「過度な期待に答えれるよう、待機しておくよ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:21:47.73 ID:MYPr/Fxz0<>
プツン、と軽い手付きで通話を切る。
何の音声もしなくなった携帯電話を傍らにおいて、彼女はパソコンの画面に直接触れた。
指先に反応した画面が、軽く指をスライドさせるだけで映像を動かす。
中心に来た映像をクリックすると、何処かのカメラ映像になる。
そこにはコンテナが山積みされた操車場が映っており、特に何も変化は怒らない。

「……」

が、


二、三秒経った瞬間、映像は戦場跡に変わった。
まるで、映像が切り取られていたかのように。


えぐれた地面。
崩れたコンテナ。
跳ね上がった線路。
それらを片付ける暗部組織、といった所で映像再生は終了する。
他にも風紀委員の活動、警備員の動き、暗部組織の情報などが次々と流されて行く。

「……『外』ではなく、『中』でもない……ふーん、これは相当重い事っぽいけど」

映像を見終わった彼女は、ソファーに寄りかかって天井を見上げた。
質素な茶色一色の壁紙が貼られた天井を見て、彼女は呟く。

「さてどうなることやら」

彼女──雲川芹亜は気楽そうにそう言った。
その横顔に、学園都市の危機を背負うというプレッシャーは感じらず、余裕の表情がそこにはある。
それは彼女のスタンスだからなのか、それとも、


ピピピッ!


「んっ?早速か……これは当分、暇無しかもな」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:24:09.04 ID:MYPr/Fxz0<>





「はぁーっ、はぁーっ……フラン、頼むから、少しは大人しく……」
「浜面!あそこに大っきな画面があるよ!?」
「聞いてねぇし……」

荒い息をビルの日陰で吐き出しつつ、浜面はフランの楽しそうな声に釣られて上を見た。

『突然の一部の学校や研究所の休校及び休業についてですが、学園統括理事会は理由を"書庫(バンク)"を管理するコンピュータのうち、二機の故障と述べており、ネットワークシステムの活動に弊害が──』

現在彼等は路地裏の出入り口の一つ、ビルとビルの間に座り込み休んでいる。
正確には浜面だけが地面に座り込んでいる状態で、フランは日傘を持ってはしゃいでいた。
そして反対側のビルにはめ込まれた巨大なテレビ画面を見上げている。

「ばんくって何?」
「あー……俺等には関係無いことだ」

説明が面倒な浜面は、気怠そうに立ち上がりながら答える。
書庫(バンク)というのは学園都市の巨大データベースのことだ。
学生や大人の基本的な人間情報、住所から場合によっては脳波や能力のデータまで入っている。
他にも様々な情報が電子データとして納められているが、テレビのことすら良くわかっていないフランに説明するのは難しいだろう。
それよりも、

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:25:02.50 ID:MYPr/Fxz0<>
「たかが故障しただけで休校……?」

大袈裟な対応の方が浜面には気にかかった。
幾ら何でも学校を休校するには理由が軽過ぎやしないか、と。
浜面は学園都市統括理事会では無いため、お偉いさん方がどう考えたのかは分からない。
が、どうも不自然さを感じる。
第一、故障といったって『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』のような特別な物でも無いのだから、替えぐらいないのか。

「アレイスターの野郎か……?でも、なんで……」

休校になった学校のテロップを流すテレビは、疑問には答えない。
ただ結果のみを、自動で放出し続けている。
テロップの中には常盤台中学の名もあり、それだけが浜面の目を引きつける。

「なんだか滅茶苦茶だなぁ……最下層のしょぼい学校から、最上級のお嬢様学校まで休みなのかよ」

またもや支離滅裂なテロップに、考え込む浜面。
顎に手を当て、悩む。
そして、


「はーまーづーらー!」
「ぐぇっ!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:25:56.36 ID:MYPr/Fxz0<>
ゴガンッ!!と。
横腹を猛烈な一撃が襲った。
体を横に折り曲げ「お、ぉおぉぉ……!?」などと呻く浜面。
よろよろとしながらも一撃を放った者を見ると、そこには吸血鬼少女がアスファルトへと綺麗に着地するところだった。
彼女はプンプン、と全身で私怒ってますと表現している。

「もう!浜面私の話を聞いてよ!」
「ちょ、おまっ、まて……いま、ローリング、ソバット……」

横腹を抑えながら震える声で抗議するが、お嬢様は大層ご立腹なのか聞いていない。
こんな少女に誰が今みたいな技教えやがった!と浜面は内心で叫ぶが、実は彼女が知ったのはホテルのテレビに映っていた朝のヒーローアニメが元だったりする。
レッドがローリングソバットで悪役を蹴り飛ばす姿が、どうも印象に残ったようだ。

「折角あそこにメガネかけた"幽霊"が居たのに消えちゃったじゃない!」
「……"幽霊"?」

その単語に、動きをピタリと止める。
不思議そうにフランを見ると、彼女は日陰の外の人混みを指差しており、その先には勿論ただの学生達しか見えない。
幽霊など、居る筈がない。

「……あのなぁ、フラン。幽霊なんか居る訳が……」

が、其処でふと浜面は気がつく。
吸血鬼のフランが居るのだ。
今更幽霊の一匹(?)など、居てもおかしくないのでは?と。
幻想郷とやらには様々な種族や伝説上の生物が居るという。
ならば──

「幽霊は居るよ?私の知り合いにも半分幽霊で半分人間って奴も居るし」
「まじか……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:27:01.69 ID:MYPr/Fxz0<>

半分幽霊というのが気になったが、どうやら幽霊はマジで居るらしい。
ヤバイなー、お化けってマジなのかよー。
そう考えると暖かかった筈の気温が多少下がった気がする。

(……トイレ真っ暗闇じゃいけねぇな)
「でもね、ちょっとおかしかったんだ」
「んっ?」

フランの話はまだ続くらしい。
彼女は小さな唇を動かし、

「普通の幽霊からは妖力とか霊力しか感じないの。半人半霊でも、気とか魔力とかね。でも、さっきみた幽霊は私の知る幽霊とは全く違ってた。全く、本質が違ってた」
「……?ようするに、"幽霊っぽかったけど、中身は幽霊では無かった"ってことか?」
「……浜面ってこういう時の思考は早いから好きよ」
「そりゃどうも。フランも大人っぽくなるとギャップが激しいな」

適当に返す浜面に膨れるフラン。
だが彼女の内心に気がつかずに、彼はよっこらせと立ち上がる。
フランも不機嫌そうにしながらも、話を続けて行く。

「そもそもこの街自体がおかしいの。魔力が空気中に満ちているのはいいとして、魔力とは違うもっと"別のナニカ"がある」
「"別のナニカ"、ねぇ……」

浜面は考えるが、これといって思いつくものはない。
フランも答えは期待していなかったのか、日傘をくるくる回している。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:28:06.20 ID:MYPr/Fxz0<>

『──次のニュースです。第七学区にて能力事件と思わしきものが確認されました』
「「?」」

顔を上げる。
テレビでは休校のお知らせは終わったのか、最新の情報を流していた。
LIVEの映像が、ニュースキャスターの後ろに浮かんでおり、事件の現場がそのままに映っている。
何処かの広場なのだろう。
噴水やらベンチやらといった公共物が見える中、地面にしかれているレンガが一直線に崩壊している。
焦げ後も目立ち、まるで"砲撃"でも放たれたかのような惨状だった。
横に付け加えるように書かれた住所に、口を開く。

「げっ、こっから近いじゃねぇか……しかも"滝壺"の病院にも近──」
「滝壺?病院?」

浜面の呻きは中途で途切れさせられた。
何時ものように、フランの疑問の声が放たれたのだ。
苦笑し、浜面は答える。
照れたように、頬を掻きながら。

「あぁ、滝壺って女の子が居るんだけどな。今病院ってとこで、怪我……じゃなくて病気を治してもらっ」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:29:03.76 ID:MYPr/Fxz0<>





空気が凍った。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:29:49.14 ID:MYPr/Fxz0<>

「──」

息が詰まる。
セメントの海に沈められたような、不気味な圧迫感があった。
吐き気を催すような、尋常ではない雰囲気が満ちていた。
氷塊を背中に入れられたような、異常な寒気がした。

「──っ、あ、」

日陰の外の人混みも、何人も此方を見て凍り付いている。
浜面仕上は、隣へ首を動かす。
其処には少女が居た。


紅い、感情の見えない瞳をしたフランドール・スカーレットが。


(同じ、だ)

見る者全てを恐怖に陥れる、そんな瞳を見て思う。
この瞳は間違いない、命を狙われたあの時と全く違わない。
"狂気"に取り憑かれた、瞳。

「──」

フランは無言だった。
表情からは感情が抜け落ちていて、何を考えているのかさっぱり分からなかった。
汗が、浜面の頬を流れ落ちる。

「フ、ラン」

カチッ、と。
彼の歯が上下で恐怖を表すように触れ合う。
その音は無音の世界によく響き、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:30:49.33 ID:MYPr/Fxz0<>




瞬間、空気が霧散した。




「──っ?」

あれだけ身を締め付けていたプレッシャーが、跡形も無く消え去った。
ガクン、と崩れ落ちそうになる膝を支えつつ、浜面は前を見る。

「えっ、あっ?あれ?」

其処には、普段通りのフランが居た。
彼女は今自分が何をしようとしてたのか分からないのか、目を白黒させている。

「今、私何を……」

本当に分からない、といったその姿に、浜面は無理矢理笑みを作って言う。
この、純真無垢な少女を傷つけてはいけないと思ったから。

「いや、なんでもねぇよ。何も、何もねぇから……」
「そ、う……?」

フランは子供の姿で疑念を抱いていたが、

「?」

路地裏の方を見たかと思うと、軽い足取りで入って行く。
揺れ動く小さな後ろ姿を見つつ、浜面は大きく息を吐き出した。

「ふぅ……」

ドサッ、と壁に背中を付けた。
体から一気に力が抜け、思い出すように手が震え出す。

「……狂気」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:31:46.48 ID:MYPr/Fxz0<>
小さく呟いた。
さっきのフランを見て、やはり思い浮かぶのはそれだった。
ああいった症状は、スキルアウトでも他に見たことがある。
普段は彼女の奥底に沈められているであろうそれが、自分の何かでまた浮かび上がったのだ。
つまりは自業自得、全面的に浜面のせいだ。

「クソ……ッ!」

拳をビルの壁面に打ち付ける。
当然、コンクリートの壁にヒビが入る訳でもない、無様な行為。
ただの痛みを生むだけの、戒めの行為。

「俺は……」

きっと、フランが狂気に飲み込まれずに暴れたのは自分が恐怖したからだ。
浜面仕上を傷つけたくないと、彼女が自分で押さえ込んだのだろう。
なら、自分は何をした?

「……俺は」

浜面仕上は、彼女に対して何が出来る?

「……」

自問自答して帰って来た答えは、理解すること。
フランについて、浜面は余りにも色々なことを知らな過ぎる。
彼女の力も、運命も、心も、何も知らない。
だったら、まずは知らなければ話にならない。

「そうだ……」

人混みを見ながら浜面は一人、決意する。
一度助けた以上は、最後まで責任を持つ。


その、当たり前のことを成し遂げるために。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:32:47.91 ID:MYPr/Fxz0<>


「……って、フラン?」

と、其処まで考えて。
路地裏の方に行ったフランが帰って来ない。
何をしてるんだ、と浜面は闇の中をひょっこり覗く。
フランは案外近くに居た。路地裏の入り口から十メートル程しか進んでいない。
少し離れた所で何やら屈み込み、ジッとしたまま動かない日傘。
どうやら、また狂気に染まったなどということはないようだ。

「おい、どうしたんだ?」

なるべく普段と変わらない口調で問いかけると、少女は日傘ごと振り返る。
そして、

「浜面、これ何?凄い可愛いけど……」
「……?」

笑顔で突き出された両手。
その手の平には、何かが乗っていた。
細長い胴体に、茶色の毛並み。
生き物のようで、幸いにも浜面はそれが何なのか知っていた。

「……"オコジョ"?」

イタチ科の哺乳類。
日本では北海道や本州の山地に見られる、主にペットとして知られる生き物である。

「なんでこんなとこに……飼い主とはぐれたのか?」
「なんだか疲れてるみたい」

二人してオコジョを覗き込み、首を捻る。
猫でもあるまいし、学園都市に居るのだからきっと飼い主が居るのだろうが……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:33:54.29 ID:MYPr/Fxz0<>

「それにしては飼い主の証っぽいのが何も無いし……まっ、どうせマイクロチップでも埋め込んでるから、ペットショップにでも連れていきゃ」

と、そこで。
オコジョが小さく口を開いた。
おっ、と二人が漸く見せた反応に視線を集中させる。




「へ、へへ……っ、俺っちのオコジョ人生も、ここまで、か……」




………………………………!?!?!?

「わぁー!喋った!ねぇねぇ浜面!喋ったよ!」

心底楽しそうにはしゃぐフラン。
対して浜面は、先程までとはまた別の形で凍り付いていたが、やがてハッ!と正気になった。
慌ててツッコミを入れる。

「ま、まてまて!普通動物はオウムとか以外喋らねぇって!多分、スピーカーかなんか仕込んで……」
「私、喋る動物ってお姉様に借りた漫画でしか居ないと思ってたけど、世の中にはやっぱり居るんだね!」
「うぐぐぐっ!?」

夢見る少女の純粋な言葉と表情に、汚い浜面は口を閉ざしてしまう。
その笑顔が余りにも純粋過ぎて、ぶち壊す自分が悪魔のようで現実的な意見を述べられない。
他人が見れば「ヘタレ」と言われてしまいそうだ。

「……まっ、いいか」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:35:21.51 ID:MYPr/Fxz0<>

楽しそうに笑うフランを見て、浜面は呆れに笑みを混ぜる。
別に悪いことでも無いし、夢を見せるのも偶にはいい。
狂気に染まるのよりは、ずっとずっといい。
保護者じみた思考を浮かべつつ、そう考える浜面。
癒しを与えてくれたオコジョに、感謝の意味も込めて視線を落とし、






「死ぬ時は、女性の下着に埋もれて死にたかったぜ……」
「よしフランそれ貸せ。壁に叩きつけた小動物がどうなるか見せてやる」
「うおぉぉおいっ!?まっ、待ってくれ兄さん!頼むからまっ……うぎゃぁああああああっ!?」












"最弱のヒーロー"浜面仕上。
"最狂の吸血鬼"フランドール・スカーレット。
二人が、異世界からのオコジョ妖精、アルベール・カモミールに出会った瞬間だった。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:36:08.33 ID:MYPr/Fxz0<>











日常と非日常はカード。
裏返すのか裏返さないのか。
その選択を与えられているのかは、分からない。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/25(金) 18:38:13.09 ID:MYPr/Fxz0<>


※おまけスキットはありません


新刊は浜面の苦悩が自分が書いたのとそっくりでなんかちょっと感動しました
やっぱり浜面にはああいう苦悩が似合うと思うんだ……
さて、今回のお話では禁書キャラが中心。
張られた伏線も、殆どが禁書キャラです。
日常の裏に潜む非日常を、行間のステイル達で感じていただければ幸い
穏やかな日常がいつ崩れるか分からないというのを、フランと浜面で感じてもらえば幸いです。


では、また次回!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2011/03/26(土) 06:21:54.07 ID:oTowXEjAO<> 乙!

色々すれ違ってたけど青い髪は頂の座? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/26(土) 14:19:58.77 ID:sKmIrBzNo<> 乙 <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:52:25.06 ID:iiJHPEo80<>
作者「あー、最近書くスピード遅えなぁ……前までは一話一日で書けた時もあったのに、今では五日かよ……」
友人「……なぁ、これって単に一話辺りの文量が増してるだけなんじゃ?」
作者「えっ?」

という訳で、半分、もしくは三分の一程書き上げたので、それだけ投稿します。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:55:14.03 ID:iiJHPEo80<>







「ただいまー」
「あれ?おかえりなんだよとうま」

十月十八日の朝。
第七学区の学生寮。
その一室で寝転がっていた白いシスター、インデックスは普段よりも遥かに早い家主の帰宅に、不思議そうな顔をしながらも取り合えずおかえりと言った。
答えるように、玄関の方から廊下を歩いて来る足音が鳴り響く。

「あー、結局今日遅刻寸前に滑り込んだ意味無かったなぁ」

鞄を適当に床に放り、全身の筋肉を伸ばすように背伸びする家主こと上条当麻。
夏服から衣替えとなった制服の上着をぶかつかせながら、うーんと唸り、

「ぷはぁ」
「とうま、おっさんぽい」
「上条さんは現役高校生ですよー」

失礼な、と反論する青春ばりばりの上条。
そんな上条に、インデックスは彼が帰って来たことについて尋ねる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:55:58.61 ID:iiJHPEo80<>

「なんでとうま今日はこんなに早いの?今日は休みじゃないんだよね?」

彼女の知識上では今日は十月十八日。
祝日ではなく、上条は夕方まで帰らない筈だ。
インデックスには自分の知識を疑う必要が無いため『確か?』などという言葉を使う必要は無い。
それに対し、上条はツンツン頭を右手で掻きながら、

「なんか突然休みになった」
「?」

要領を得ない答えに、インデックスは更に不思議そうに小首を傾げる。
上条自身も納得がいっていない、もしくは理解出来ていないようだ。
ガラステーブルの前に座り、頬杖をつくその表情は、惚けた悩み顔。

「機材の故障がどうこうってことで休みになったんだけど……小萌先生も、なんとなくにしか納得出来てないって顔してたし……本当は、もっと別の何かがあったのかもな。アレイスターが何かしたとか」
「よく分からないかも……でも、今日はご飯が早く食べれそうな気がするんだよ」
「その予感は間違ってると言おう」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:56:52.42 ID:iiJHPEo80<>

そんなー、とガラステーブルに頬をつけるインデックス。
頬杖をついた上条と向かい合う形となり、ここにダルダルダメ人間が二人生まれた。?
二人とも、暫くボーッとお互いの雰囲気を感じ取りながら沈黙を守る。
やる事が無く、ぼんやりと漂う雲のように、ただ黙って時が過ぎて行く。
インデックスも上条が何も言わないせいか、口を開くことはない。
久しぶりの二人きりなのに、不思議と会話が始まらない。

「……アレイスター、か」

突然、気の抜けた表情のまま上条はそんなことを言い出した。
脈絡が無いその言葉と単語に、シスター少女は眉を潜める。

「……?」
「いや、考えてみりゃ、俺は凄い奴と話してたんだなって」

上条は苦笑で返す。
あの男にも女にも子供にも老人にも聖人にも罪人にも見える、学園都市のトップ、かつての世界最高の魔術師。
目的のためならば、どんなことでもすると宣言した者。
そして実際に、幾つもの命を葬り去った者。

「今更だけど、随分俺は場違いな気がするんだよ」

苦笑のまま、しかし言葉は重く告げる。世間ばなしにしては、かなり重い声。
昨日の戦い。
異世界の者。
完全な足手まといだった、自分。
ただの異能を打ち消すだけの右手しか無い上条当麻という存在は、この舞台には似合わない。
彼等のように戦うための強い理由というものが、上条には無かった。
彼は基本的にハッキリとした戦う理由を得てから戦う人間だ。
昨日の夜、シャナを助けに行ったように。

何時の間にか、彼の顔から笑みは消えている。
インデックスの表情も、真剣なものとなっていた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:57:30.77 ID:iiJHPEo80<>

「世界、って言われてもやっぱり俺には想像出来ないし、敵がどういうのかっても分からないと、戦う気も起きない。そんな中途半端な俺が、この『戦い』に手出ししていいのかなって、さ」

アレイスターは本気で世界を救おうとしていた。
シャナには強い信念が感じられた。
だけど、自分にはなにも無い。


だから、弱く、足手纏いになる。


「……って、悪い。折角休みなのに、空気悪くなっちまったな」

自分で漂わせてしまった重い空気を払うように、彼は笑う。
平和な空気が、これでは台無しだ。
心中で僅かに悔やむ。
そして、目の前の少女へと何処か暗い笑顔を向けると、

「……と、とうまが私に弱音を吐いた……っ!?」
「おぉいっ!?結構真面目だったんですが!?」

体を半分後方に引くぐらい驚いていらっしゃった。
さながらその姿は異常に怯える小動物。
空から降ってくる魚でも見たかのような驚きように、上条はツッコミを入れるが、



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:58:14.33 ID:iiJHPEo80<>



「だって、とうまって何時も私に何も言わないんだもん」




「っ──」

金槌で殴られたような衝撃があった。
不貞腐れたインデックスを見て"弱気"になっていた彼は思う。
そうだ。自分は彼女に、こんな風な弱音を見せたことは今まで無かった。
単純に上条自身が強い心の芯を持っていた、というのもある。

だが、本当の理由は、違う。

この白い少女に、弱い部分を、汚い部分を見せたく無かったからだ。
『彼女の信じる上条当麻』であり続けようと。
その緑の瞳に浮かぶ絶望を見たくなくて。
その笑顔が歪むのが見たくなくて。
その心が苦悩に埋め尽くされるのを見たくなくて。


──あの、完璧過ぎる笑顔を二度と見たくなくて。


だから、『上条当麻』は『上条当麻』であろうとしたのに。

(何やってんだ、俺は……!)

何故、この少女に、よりにもよってこの白い少女に弱音を吐いてしまうのだ。
弱気になっていた自分を罵倒するように、上条を強い後悔の念が襲った。
歯を音がするくらい食いしばる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:58:59.41 ID:iiJHPEo80<>

「でも、嬉しいな」

が、そんな彼を優しく包むように、少女から言葉が紡がれた。
穏やかな風にも似たその言葉に、彼は目をインデックスに合わせる。
インデックスは、笑っていた。
それは、素直な喜びの笑みだった。
だが一転して、表情は悲しみとなる。

「昨日シャナの所へ行った時もそうだよ。とうまは何時も何時も何も言わないで誰かを助けるために、何処かへ行っちゃう。仕方がない時も多かったけど、やっぱり、心配だよ。何も言わないから、何時か幻みたいに消えちゃいそうで」
「……インデックス」

悲しそうに語るインデックスを見て、上条は名前を呼ぶことしか出来なかった。
全く反論出来ない。
彼女の言っていることは全部正しくて、上条当麻の事情と勝手な思いでの答えだから。
自分勝手な、思いの押し付けだから。

「……」
「でもね」

だが。
更に落ち込む上条に、彼女は聖母の笑みを持ってして語りかける。

「私はそれでもとうまを信じてる。とうまは私が『いってらっしゃい』って言ったら、どんな目にあっても必ず『ただいま』って帰って来てくれるって」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 17:59:45.53 ID:iiJHPEo80<>

言葉に揺らぎはない。
信じてる、という気持ち通りの言葉は、上条の精神へとしみ渡って行く。
絶対的な思いの力が、上条当麻という人間を精神的に力強く、支える。

「だからとうま。一つだけ約束して。絶対に、何があっても大丈夫だって」
「──あぁ」

上条も笑みに対して笑みで返す。
そこに先程までの陰りはなく、何時もの彼らしい"強い"笑顔が浮かんでいた。
彼は口を開いて、約束する。
絶対的な、誓いの言葉を。

「約束する。絶対に、どんな事になっても、どんな奴等と戦っても、必ずお前の所に帰って来る」

その言葉は上条にとって当たり前のものだった。
例えどんな困難だとしても、この少女も元に笑顔で帰って来ると。
何処までも白い彼女を、必ず守り抜いて見せると。
その二つの思いを込めた誓いを、言葉として宣言する。
それだけで、心にあった迷いは完全に消え去っていた。

「……えへへ」
「……ははっ」

互いに笑い合う、この平和な一時。
この世界(平和)を、壊させる訳にはいかない。
"前の"上条当麻では無くても、彼はそう思う。
戦う理由がハッキリした上条当麻は「うしっ!」と掛け声をかけて勢いよく立ち上がる。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:00:32.29 ID:iiJHPEo80<>

「じゃあ早速シャナを探しに行くか」
「あっ、待って!私も行く!」
「えっ?……そう、だなぁ。来てくれると助かる……」
「……とうま、シャナに昨日のことまだちゃんと謝ってないから、会うのが引けてるでしょ」
「うぐっ!?なな、な、なんのことでせう?」

挙動不審に陥るヘタレなヒーローを見て、インデックスは小さく笑う。
先程までとはまた違った、年相応の少女の笑顔。
部屋を出て、廊下を歩きながらもう一度決意する。


例えどうなろうと、必ずインデックスを守る、と。


「──────」
「んっ?なんか言ったか?」

だからだろうか。
先導するように前を歩いていた、インデックスの言葉を聞き取れなかったかったのは。
問いかけに対し、彼女は、

「……ううん。何でもない!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:01:17.41 ID:iiJHPEo80<>

と簡単に答えた。
上条の方も、特に追及はしない。

「あっ、そういえばとうまーお腹減った」
「朝食から二時間経ってませんが!?」
「それでもお腹が減ったんだよ!私の胃袋が空っぽで悲鳴をあげてるかも!」
「その悲鳴を変換して頭に噛み付こうとするのは止めて下さいインデックスさん!?」




何故この時にインデックスの"真意"に気がつかなかったのか。
何故『神』と遭遇していたことを"聞かされなかった"のか。
何故インデックスの最後の言葉を聞いていなかったのか。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:02:06.34 ID:iiJHPEo80<>








後に上条当麻は、この時のことを死ぬ程後悔するはめになる。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:03:36.57 ID:iiJHPEo80<>





「……」

第七学区のとある通りを、無言で噂の少女シャナは歩いていた。
黒いコートのような"夜笠"で身を包み、整然とした歩みで歩を進める姿には視線を向けることすら躊躇われる。
周囲には人が居て、人混みの中を歩いているというのに、抜き身の刀を持っているかのようにその小さな姿が目立つ。
簡素に言うならば、全くもって人混みに紛れていなかった。

「……」

昨夜、上条を送り届けてからずっとこうだった。
部屋に戻ることもなく、睡眠を取ることもなく、食事をとることもなく。
当てもなく街を彷徨う。

(……いかんな)

そんな契約者の姿に危機感を抱くのは、少女の胸元にあるペンダント。
正確には"コキュートス"と呼ばれる神器に意識を表出させる、"天壌の劫火"アラストール。
紅世きっての魔神は、己の契約者でありまるで娘のような彼女のことに気を遣う。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:05:07.50 ID:iiJHPEo80<>

(幾らフレイムヘイズとて休まなければ身が持たんというのに……それさえ考えれない程、精神が疲労しているというのか)

フレイムヘイズは確かに不老不死の存在であり、それに伴って人間が生きるために必要な行為というのが彼等には基本的に必要無い。
飲まず食わずでも活動出来るし、睡眠を取らなくても死ぬことは無い。
だが、元は人間。
もし本当に飲まず食わずで睡眠も取らないでいると、何時か精神のバランスが崩れてしまう。
そして精神のバランスが崩れた者が、まともに戦える筈が無い。

(我が言っても聞かぬのだ。一体何者がシャナを……)

この愚かな行動を止められる者として、アラストールが真っ先に思い浮かんだのは──

(……)

思い浮かんだのは、もう今では絶対に頼れないであろう者だった。
あの、少年。
シャナをここまで変えてしまった原因である、"ミステス"の少年。


ただのフレイムヘイズであった筈の彼女に、シャナと言う名前を与えた、"自ら敵になった"少年。

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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:05:57.90 ID:iiJHPEo80<>


(……運命とは、何時の時代も残酷なものだ)

似合わないと思いながらも、魔神は思わずには居られなかった。
それだけ、あの少年の存在は大きかったのだ。


胸元で自分の身に秘める"紅世の王"がそんなことを考えているとは知らず、シャナはただ前へと歩を運ぶ。

(あの"始まりの魔法使い"という名前……そしてフリアグネと黒ローブの術師……全体像が見えないけど、敵は組織であると考えた方がいい)

眈々と歩を進めながら、昨日の夜、実際には数時間前に得た情報を整理し、現在必要な情報のみを引っ張り出す。

(昨日のナイフの主だろう、他の第三勢力のこともある……接触して、どうするつもりなのか聞き出すこと……)

そこまで考えて、

「ごめん!通して!」
「っ?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:06:48.27 ID:iiJHPEo80<>

ドンッ、と突き飛ばされた。
突き飛ばされても後ろに足を下げることで、体が倒れるのを防ぐ。
黒い瞳を自分を突き飛ばした犯人へと向けると、茶色の髪の少女が近くにある路地裏へと飛び込むところだった。
どうやらシャナが路地裏に飛び込むには邪魔だったからのようだ。一瞬見ただけだが、相当慌てていた。

「……」

周囲を見渡すと、人混みに僅かに乱れがあった。
恐らくあの制服を着た少女は、シャナ以外の人間も掻き分けていたのだろう。
視線を路地裏へとやる。

「……」

シャナは小柄な体躯を路地裏の闇へと飛び込ませた。
視界が途端に薄暗くなり、狭ばる。
闇の世界。日が当たらない、無法地帯。
一直線ではない、迷路のように枝分かれした路地裏という別世界をシャナは躊躇なく歩いて行く。
十歩程進んで、唇をゆっくり動かした。

「……アラストール」
「なんだ」

瞬時に返ってきた返事に、言葉を待っていたのかなと思い、しかし表情は冷たいまま尋ねる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:07:32.82 ID:iiJHPEo80<>

「昨日のフリアグネ、あいつは"生き返ったのではなく、新たなフリアグネという存在を創り出した"って言ってたけど……どう思う?」
「言葉通りの意味なのだろう。あそこで虚偽を混ぜる理由など何処にも存在せん」
「だとしたら、人形っていうのも間違ってない……下手すると、フリアグネが複数居る可能性もある訳ね」
「想像したくはないが、な」

うん、とシャナは軽く頷く。
路地裏に入った理由は、この会話をするためだったのだろう。
用は済んだとばかりに、彼女は歩みを早める。

「……シャナ」

突然、そう呼ばれた。
呼ばれたシャナは返事を返さず、歩きながら次の言葉を待つ。
何を言われるのかと、頭の片隅で幾つか予想するが、

「……いや、なんでもない」
「そう」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:08:23.19 ID:iiJHPEo80<>
その言葉に、思考を初期化した。
言葉を濁したことに、追及するつもりはない。
追及したところで返ってくるのは、虚偽が混ざった曖昧な物と相場が決まっている。

(……でもアラストールが言葉を濁すのは、久しぶりな気がする)

少しだけ興味を持ちつつ、しかし尋ねはしない。
そしてすぐ傍に人の気配を感じ取り、目の前を改めて見て、

「……?」

変な物体(人間)を捉えた。
お嬢様が持つような真っ白い日傘を手に持った、ボサボサ金髪頭の不良だ。
野暮ったい格好した彼は急に立ち止まり、何やら横道へと声を放っている。

(何こいつ?)

不審者感バリバリの男に、シャナは表情を歪める。
路地裏というのは変な者(彼女にとって不良というのは理解出来ない存在)が一杯居るが、この男は一kmくらいぶっ飛んでいた。
取り合えず邪魔なので、シャナは声を出すために口を開く。

「ちょっと邪魔よ」
「とっ!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:09:12.34 ID:iiJHPEo80<>

驚いたらしい男は飛び上がり、壁に張り付いた。
よく見ると、男というよりはまだ少年と言っていい者だった。
何処にでも居そうな、不良フェイス。

「……」

特に何も感じなかったシャナは興味なさげに一瞥して、再度歩き出す。
後ろから少年の視線を感じたが、無視した。
一々他人からの視線を気にしていては、身が持たない。

(……あの者は一体何をしていたのだ……?)

アラストールは割と意味不明不良少年のことが気になっていたが。
そんなことなど露知らず、シャナは反対側の出入り口によって路地裏から体を出す。
太陽の光がすぐさま肉体を照らし出し、皮膚が熱を感じ取った。
大通りのようで、人の量が比べ物にならなかった。
スーツ姿の男性、何処かに電話する金髪の学生、走っている制服姿の少女、多種多様な人間がそこには居た。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:10:41.12 ID:iiJHPEo80<>

「……」

黙って彼女は人の流れに従うように左へと進み、変わらない速度で歩く。

そして、"今更気がついた"自分の腑抜けっぷりに小さくギリッ、と歯切りする。

自分の精神と肉体が疲れているとは気がついていない少女は、ボソリと呟く。


「尾けられてる」
「うむ。何時かは分からんが、路地裏に入る前からだな」


もう一度、気がついてなかった自分に対して、歯切りした。




不安定な彼女は、自分でさえ自分の危機に気がついていない。
一体誰が、彼女の力になるのかも。
もしくは……




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/27(日) 18:14:11.48 ID:iiJHPEo80<>
少ないですがこんなとこで。
次回、咲夜視点に行間、浜面に次回への導引話が入ります。


美琴さん逆にスルーしまくってる……どうしてこうなった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 18:18:44.00 ID:qVViooyjo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>saga<>2011/03/28(月) 23:52:06.32 ID:gocV4a5+0<> 惜しみない乙と乙と乙を足して7で割る。
乙に3を足して二倍して7足して13で割って1足して2で割って1を引く。答えは乙。

>>677の最後は誰か、浜面、美琴さんかな? <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:02:06.06 ID:PAOHj3CZ0<>
Q.一番友達になってほしいアニメキャラは?
A.クラナドの春原 陽平(すのはら ようへい)


>>681
あれ?なんだっけこれどっかで見たような……元ネタが思い出せない!
>>677に関しては、果してそうでしょうか?とだけ


残り半分、行きます。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:03:17.43 ID:PAOHj3CZ0<>









時を僅かに遡ること、三十分。

「さて、と……何をしようかしら」

完全で瀟酒な従者と幻想郷に名高き彼女、十六夜咲夜もまた第七学区の通りの一つを歩いていた。
歩いているのはごく普通の一車線道路の歩道で、他にも疎らに人が近くを通って行く。
何時も通りな白と青のメイド服に身を包む彼女は、一際目立つ。
見た目も麗しいため、メイド服でなくても目立っただろう。
ただし、顔はやるせない不機嫌な物となってはいるが。
何故、日光を浴びれば倒れてしまいそうなイメージさえある彼女が外に居るのか?

「いきなり『出て行け』だなんて、失礼よねホント」

同居人にお金と適当な地図を渡され、外出を強制されたからだ。
ご丁重に能力を使ってまで咲夜を玄関から投げ捨ててくれた。
全くいい迷惑よ、と咲夜は吐き捨てる。
能力を使えば部屋に戻ることなど簡単だが、それはそれで負けた気がして躊躇われる。
彼女とて、プライドというものがあるのだ。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:04:25.75 ID:PAOHj3CZ0<>

(……それに、結構真面目な顔してたし)

「出ていかないなら気絶させてでも」という風な雰囲気を全身から放っていた、真っ白な少年の姿を思い浮かべ、ふぅ、と息を一つ。
その表情には、大人(大人では無いが)の余裕が見て取れた。

「やっぱり、昨日のことなんだろけど」

咲夜は頭を働かせる。
「うーん」とあからさまに唸りながら顎に手を当て「私悩んでます」という感情を全身で無駄にアピールしていた。
昨日の夜、結界"封絶"内の情報を持って帰ってからどうも様子がおかしい。
情報を聞く前からおかしかったのだから、きっとあの封絶内での出来事は関係無いだろう。
ならば、自分が彼の近くから離れていた少しの間に何かあったのだ。

「なんでか私には頑なに言おうとしないし……そんなに信用ならないのかしらね」

コツコツと、一定のペースで歩いていた咲夜はふと、途中で立ち止まり、

「でも、深く気にしても無駄か。今は暫く世話になるこの街を見ておきましょう」

トンッ、と微かな音と共に"跳んだ"。
周囲を歩いていた人々には、突然街中でメイドが一人消えたように見えるだろう。
だが、気がついた者も居るかもしれない。
彼女が一瞬にして飛び上がり、二十階建てのビルの屋上へと駆け上がって行く姿を。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:05:23.68 ID:PAOHj3CZ0<>

「よっ、と」

コンクリートの壁面を靴で蹴り飛ばし、体を上へ上へと押し上げて行く。
物理法則的に、絶対にありえてはならない現象を、彼女は軽々とこなしていた。
やがて数秒でビルの屋上まで辿り付いた咲夜は壁面の角を蹴りつけ、宙を滞空してから緑のフェンスへと綺麗に着地する。
カシャン、と金網が金属質な音を上げた。

「ふぅ……風が気持ちいいわね……」

僅か十センチ程のフェンスの淵に立つ彼女は、服と体が風に揺られるのに身を任せながら都市を一望する。
渡された地図を見た限りでは、この都市は二十三の区画に分けられていてそれぞれ特徴があるらしい。
現在、十六夜咲夜が居るのは第七学区。
学園都市のほぼ中心に位置する、はば広い種類の建物が立ち並ぶ学区。

「……塀に囲まれた、牢獄の街。能力が平気で溢れ返る、別世界」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:06:27.90 ID:PAOHj3CZ0<>

夢想するのは、遥か遠くに存在するであろう、写真で見ただけの塀。
完全に自由で残酷な世界で生きていた彼女には、どうもこの街の空気は少し合わない。
どちらかと言えば、あの少年が纏っていた重い雰囲気の方が好みだったりする。

「──お嬢様達は、何をしているのかしら」

瞼を軽く閉じて、そう呟く。
ホームシック、とまではいかないが、自分が居ない紅い魔の館がどうなっているのかは、やはりメイド長として気になっていた。

「私の空間操作の効力も消えてるだろうから、狭くなってるのは間違いないし……妹様とかが暴走してなかったらいいんだけど」

実は既に暴走してしまっているのだが、そんなことは如何に完全を自負する彼女でも、知っておけというのは酷だろう。
目の届かないところまで完全を求めるには、彼女の背負う物が重過ぎる。

「うーん……」

とこれまた分かりやすく唸る彼女は、腕を組んだまま瞼を再度開いた。
視力5.0という何もしなくても超人クラスの視力が、風力発電のプロペラと高層ビルが目立つ都市の風景を鮮明に写し出す。
心配するにしろ何があるにしろ、この街に暫く世話になることは確実なのだ。
地上を歩く人々と、空を飛んでいる飛行船を眺め続ける。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:07:24.93 ID:PAOHj3CZ0<>

「あの飛行船、目が悪い人には意味が無いんじゃ……」

などと素朴な疑問を言葉にしながら街中を覗いていた咲夜だが、

「ん?」

一つの通りに、一人の少女を見つけた。
結構な距離があり、小さな黒い点にしか見えないが、魔力によって視力を強化。
そしてその姿が紅い瞳にはっきりと写り込み、口元を緩める。

「へぇ……丁度いいわ。手土産には持ってこいね」

フェンスの上で可憐な、それでいて裏側にナイフを光らせる強き笑みを浮かべ、彼女は足を空へと踏み出す。
何もない、空気しかない空間を普通のこととして足は通過し、


世界が、音が無い灰色の世界へと移り変わる。


咲夜の能力『時を操る程度の能力』により、世界の時が停止した瞬間。
人々の動きが、空飛ぶ鳥達と飛行船が、街頭のテレビ画面が、警備ロボットが、者と物に限らず全てが縫い付けられたように止まっている。
この世界で動けるのは咲夜だけであり、彼女以外の存在は誰一人として動けない。
人間が持つには、余りに巨大な能力。
もし学園都市でこの能力が測定出来るのであれば、間違いなくレベル5になるだろう。

「それでも、無敵ではない」

ビルから重力に引き摺られて落下しつつ、咲夜は呟く。
彼女は知っている。
自分の能力が、其処まで凄くはないことを。其処まで異常ではないことを。
紅い魔の館の住人達にコテンパンにされ、更には巫女や魔法使いにもフルボッコにされたのだから。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:08:17.01 ID:PAOHj3CZ0<>

(……訂正、向こうがもっと異常なだけだわ)

腕を斬られても平然と笑ってたり、全周囲に魔法障壁を張ったり、時を止めた後に出現したナイフを余裕で躱す、などという巫山戯た動きを思い出し、心の中で訂正を加えた。




さて、十六夜咲夜の能力『時(空)間を操る程度の能力』というのは完全無欠な能力ではない。
時間を戻すことは出来ないし、停止した物体を動かせても破壊することは出来ないし、何より時間停止の時間さえ其処まで長くはない。連続使用もかなり難しい。

精々多めに見積もって、十秒。

普段なら掃除をしたり、弾幕を張ったり、主人の元に駆けつけるためにしか使われないこの力。
だがしかし、それでも相手は動かずに十秒動けるというのはかなりのアドバンテージだ。

「っと!」

空中を術によって高速飛行し、直線上にあるビルの一つにぶつかりかける。
体を反転させてビルの壁面へと着地して、魔力で強化した足で蹴る。
ドンッ!!という音が静寂の世界で大きく響き、それと同時に銃弾の如く咲夜の体が空を翔る。
空を飛ぶなどということを街中などですれば空飛ぶメイドさんとして注目の的になっただろうが、この世界で動けるのは彼女ただ一人なのだ。
故に誰の視線も気にしないまま、少女は飛び続け、

「解除、と」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:09:12.69 ID:PAOHj3CZ0<>

通りの道端に着地してから、能力を解除した。
灰色の世界に色が戻り、す人々の活気と賑わいが戻って来る。
突然咲夜が現れたことに周囲の──主に学生は驚くが、能力という物があるこの街では「能力なのか、凄いなぁ」で納得出来てしまう。
そのため、咲夜をメイドさんとして注目する者は居れど、実際に声をかけたりする者は居なかった。

「……」

咲夜は壁に寄りかかり、横目で遠くを見る。
気配はあえて殺さない。
こんな街中で気配を殺している方が、逆におかしいから目立ってしまう。
目的の人物は、五十メートル先に居た。
黒い髪と黒いコート。
髪の毛の色が違ったが、間違いなく……

(昨日の少女、なんだけれど……何か変ね)

どうも、身に纏う雰囲気が違う。
昨日の夜は正に『完成された戦士』としてのイメージを感じていたのに、今日は全くそういった物が感じられない。
ただ敵を切り過ぎて、野晒しにし過ぎた刀の雰囲気。
ボロボロになって、今にも折れてしまいそうな印象を与えて来る。

「細かいことはいいか。取り合えずは、後を尾けさしてもらいましょう」

だが無論のこととして、彼女が求めているのはあの少女の力ではない。
少女と一緒に居た、あのツンツン頭の少年の力だ。
少なくとも、あの得体の知れない力に関しての情報は手に入れたい。
時折歩みを止めたり視線を外したりしつつ、咲夜は前方を歩く少女に対しある一定の距離を保つ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:10:05.24 ID:PAOHj3CZ0<>

「当てもなく彷徨ってるって感じね。さて、一体何がしたいのやら……」

追跡をしつつもそんなことをぼやく、瀟酒なメイド。
彼女は無駄な行動・行為というのが大嫌いであり、遊びならばともかく真面目に動くならばそれなりの動きをしなさいよ、と余計な悪態をつく。
近くの飲食店のガラスケースを見ながら少女の方を見ると、誰かに体当たりされたところだった。
茶色の髪の少女にぶつかった彼女は、倒れずに堪えていた。

そしてどうやら少女は、横道に入るらしい。

黒髪を靡かせて、薄暗い路地へと飛び込んで行く小さな体を見て、

「……バレた?」

急な方向転換に一応警戒しつつも、横道の前を一度ワザと通過してから様子を見る。
特に待ち伏せの気配は感じられない。

「……」

何時でも時間停止とナイフを抜き放つ心構えをしてから、路地裏へと踏み込んだ。
薄暗い、湿った空気で満ちた場所。
そこに黒髪の少女の姿はない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:11:01.51 ID:PAOHj3CZ0<>

「……」

無言で咲夜は歩を進めて行く。
暗闇の中で白い彼女の姿はそれなりに目立つが、それを気にすることはなかった。
辺り一帯から、人の視線を感じなかったから。

「見失ったかしら?いや……」

テクテクと、咲夜は真っ直ぐ進み続け、そして、

「精々身代金目的で浚うとかだよな……あんな見た目十歳の幼女をまさか──」
「あら、貴方ロリコンさん?この都市では変態は珍しく無いのかしら?」
「うぉぉおおおおおおおおおおっっ!?」

先程からなにやら幼女だのなんだの呟いていた不審者Xへと話しかけた。
そう、不審者。
日傘を持った不良スタイルの少年という、似合わないにも程がある、正に不審者というのに相応しい者だと咲夜は思う。
分かりやすく驚いてくれた金髪頭の少年は、咲夜の姿を見てボソッと一言。

「……メイドさん?」
「それ以外に何に見えるの?ロリコンさん」
「あのすみませんその呼び方マジで止めてくれませんかね!?軽く死にたくなるんだけど!」

ロリコン呼ばわりはやはり男性にとって精神的にキツイらしい。
初対面だというのに容赦無い男のツッコミに、微笑を顔に見せる咲夜。
この街は面白い人が多いな、と適当に考えていると、相手が自分の顔を食い入るように見つめているのに気がついた。
疑問に思い、こういった場合には決まり事の台詞で問う。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:11:54.66 ID:PAOHj3CZ0<>

「私の顔に何か付いてるかしら?」
「っ!わ、悪ぃ」

「何か変なのかしら」と、自分の姿に今一度疑問を持つメイド。
しかし今はそれどころではない、と思考を切り替える。

「ところで、こっちに女の子が来なかったかしら?長い黒髪の子なんだけど」
「長い黒髪……その子ならあっちに行ったけど」

迷いない動きで、不良少年は道の先を指差した。
やはりあの黒髪の少女はそれなりに目立つらしい。
何となくだが、納得する。
だが、納得がいかない部分もあるのも確かで、

「人混みに紛れこむつもり?尾行がバレた?でもそれなら封絶を、いや、誘われている?」
「……あのー?メイドさん?」
「あっ。ごめんなさいね」

どうやらまた思考の渦にはまり込んでいたらしい。
業務用の笑顔を声をかけてくれた少年に向けると、初心なのか頬を掻きながら顔を逸らしていた。
思春期らしい彼の態度に、咲夜はクスッと笑ってから、

「では、御礼に手品を一つ」
「へっ?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:12:49.05 ID:PAOHj3CZ0<>

間の抜けた言葉に構わず、彼女はお決まりの言葉を続ける。
用意するのはトランプと唯一の能力。

「種も仕掛けもございません──では、さようなら」

パチン、と指を鳴らす。
瞬間、世界の時は止まり、咲夜は間抜けな表情の少年を置いて走り出す。
恐らく時が戻った時には、瞬間移動したようにしか見えないだろう。
彼女のみが出来る、自慢の曲芸である。

「──見つけた!」

大通りへと飛び出し、目指すは黒髪の少女。
それにしても、と彼女は笑う。
周囲の時が戻って行くのを感じながら、この街の幻想郷とは違った面白さに笑っていた。

「やっぱり、退屈しなさそうねこの街は」

隣をツインテールの少女が走って行くのを見やりながら、十六夜咲夜は体を動かす。
どんな手土産を持って帰れるのか、少しワクワクしながら。




ちなみに。
この時彼女がもう少しだけ不良少年に付き添っていればこの後の話もまた違ったのだが、所詮ifの話である。


?






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:14:09.60 ID:PAOHj3CZ0<>






『よォ、土御門。オマエ今何処に居やがる』
「そっちから掛けて来るなんて、珍しいこともあるもんだぜい。こりゃ明日は槍の雨かにゃー?」
『御託はいい。サッサと質問に答えろ』
「今はイギリスから時速七千キロで帰って来た所だから、出来れば手短にお願いしたいにゃー」
『……情報を寄こせ。オマエが知ってること、全部残らず』
「……なにかあったのか?随分とマジじゃないか」
『嫌な"モン"見ちまったンだよ。俺にとって、イヤ、違ェな。"誰にとっても嫌な存在"ってのをな』
「オーケー、まぁどちらにしろ此方から連絡を入れようとしたとこだからな。丁度いい」
『……なンだと?』


「"グループ"大集合だ。楽しくてクソったれなボランティア活動に精を出そうか」









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:15:08.99 ID:PAOHj3CZ0<>






一方。
とある、第七学区の廃墟ビルでは。

「くっ!?」

ボンッ!!と、爆音が腹の底まで響いた。
吹き荒れた爆風に背中を押されつつ、少女は前へと転がる。
コンクリートの硬い床の感触が、体中で感じられた。

「げほっ、げほっ……ほんっと、容赦無いわね!」

転がって壁に背を付き、悪態を付く。
しかし襲撃者が答える訳がないというのは、彼女にだって分かっていた。
なので右手を、"茶髪"の彼女は振るう。
振られた手から、一条の閃光が音を置き去りにして飛び出した。
それは、"雷"。
青い電流が、砂埃を引き裂くように駆け抜け、爆散。
ドゴンッ!!と、何かに莫大な電気がぶち当たった時の轟音が、彼女が居る廃墟ビルを細かく揺らした。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:16:34.52 ID:PAOHj3CZ0<>

「──そういう貴方は、随分とお優しいようで……」

だが轟音の余韻と砂煙を拭き散らすように、小さな小さな声が場に響く。

「私の"演奏"から逃れるのは、そうた易いことではありませんよ……?」

現れたのは、一人の女性。
長い髪に、肩にゆったりとした膨らみがある何処かドレスを感じさせる上着にミニスカート。
瞼はギリギリまで閉じており、それでもしっかり、目の前の雷を放った少女を見つめていた。
だが一番の特徴は、耳の上から生えた"角"。
木製の飾りに見えるその角は、しかし何処にも違和感が無い。

「はっ、演奏とはよく言うわね。私の方が百倍上手く弾けるわよ」

それら全体を視界に納めつつ、彼女は一点を睨んで言う。
睨んでいるのは、角少女が持って居る見た目"バイオリン"のような楽器。
ただし、それがただの楽器では無いことは先程までの追撃で判別している。

「おや?貴方も楽器を弾くのですか……?」
「普通の楽器だけれどもね。お嬢様はなんか楽器を弾けないといけないらしいわよ、世間様的には」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:17:41.16 ID:PAOHj3CZ0<>

「大人しく降伏して頂ければ、これ以上危害を加えなくて済むのですが」
「私が大人しく従うと思う?」
「でしょうね」

会話はそこで呆気なく途切れ、




廃墟ビルの元玄関から、巨大な爆炎が吹き出した。









十月十八日。
本日最初の戦闘は、学園都市の超能力者"御坂美琴"と、異世界の人形の配下"調(シラベ)"。








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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:18:41.76 ID:PAOHj3CZ0<>










戦いは更に巨大な物となってゆく。
あらゆる命達は総じて巻き込まれ、
そして、何かのために戦う。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:19:38.19 ID:PAOHj3CZ0<>


おまけスキット




スキット15「夢を壊す罪人には天罰を」


浜面「さぁて、次はどうしようかフラン」

カモ「いや、不良の兄さん、俺っちを紐で縛りながらその台詞はちょっとぐええっ!?」バタバタ

フラン「あはははっ!カモ面白ーい!」

カモ「いや、嬢ちゃん!?これ割りと洒落にならなぐぇぉおおおっ!?」

浜面「黙ろうな、エロおこじょ。テメェなんかに感謝した俺の心をしっかり癒してもらわなきゃなぁ……」

カモ「じゃ、じゃあ、俺っちの秘蔵写真でおごぉぉおおお!!」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:20:22.15 ID:PAOHj3CZ0<>


スキット16「自動車」


カモ「げほっげほっ!!た、助かった……」

浜面「フラン、自動車に乗ってみたくねぇか?」

フラン「自動車って?」

浜面「あの街中で走ってる機械のこと」

フラン「あれ乗れるの!?うん!乗ってみたい!」

浜面「よし。じゃあ早速、自動車見つけてこいつの紐を括って来る」

カモ「……あのー兄さん?一体何をするつもりで……?」

浜面「実験だよ」


浜面「エロおこじょが一体どれくらいのスピードでなら挽肉になるかの」

カモ「うぉおおおおおおおおおおおいっ!?」ズルズル……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/03/29(火) 14:24:46.33 ID:PAOHj3CZ0<>
Q.一番背中合わせが似合う!と個人的に思ってる『東方キャラ』二人は?

A.十六夜咲夜と紅美鈴。


浜面達の描写は時系列関係でカットしました。
次回は美琴と調のガチバトルになる筈です。
久々のガチバトルなので、気合いが入ります!

では、また次回。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 20:46:20.47 ID:/5FOYlSHo<> 美人なメイド追い出すとか白もやしマジ何考えてんだか、
逆に出て行かれそうなのを土下座して居着いて貰うだろjk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 21:34:28.79 ID:bNFF+FN20<> 乙です
ってか随分咲夜さんの能力制限されてるんだなぁ。
原作だと掃除や休憩に使ってるから軽く見積もっても数時間くらいは余裕らしいが・・・

そしてネギま勢は調か、まだまだわかんないこと多いな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 22:00:43.28 ID:/5FOYlSHo<> >>703
野暮な事言うが原作(STG)で使ってる描写はせいぜいナイフ投げる時だけじゃね
香霧堂にも求聞史紀にも長時間使用する描写は書いてなかったが…

まぁ制限云々をキャラの設定毎に考えると他にも色々怪しいのあるし二次創作だから別にいいんだけどな! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 22:47:02.94 ID:bNFF+FN20<> 一応紅魔郷おまけテキストに時間を止めて掃除をするって書いてあるよ。あと永夜抄6Aとか。

まあ二次創作だし別にいいんだよね!・・・うん、変なこと言ってごめん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/30(水) 10:08:43.66 ID:UTv/3SvIo<> うん、ごめんテキストの事おもっくそ忘れてたわ、すまんこ <>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/03/31(木) 13:24:15.25 ID:vm7uvEri0<>
どうやら咲夜さんの能力説明に言葉が足りなかったので補足。
時間停止十秒というのは空を飛んでる最中や弾幕を張る瞬間、つまりは戦闘中においてのものです。
普段、掃除の最中とかならもっと長くなります。

でも自分は実際、掃除最中に時間停止をあまり使って無いのでは?と思ってます。というより想像してます。


だって時間停止そんなに頻繁に使ってたら直ぐオバサンに……


と、誰か来たようなのでここで失礼させて頂きます。
現在完成率は四十パーセントです。
ではまた
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:37:48.75 ID:7U41SKEx0<>
Q.個人的に一番面白かった神ゲーは?
A.キングダムハーツ


>>702
ですよねー、一方通行ホント女に興味無いというか……
はっ!?まさかホモ(ry



ようやっと完成しましたので、投稿します。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:38:37.70 ID:7U41SKEx0<>




十月十八日。
今日の始まりは突然の休校からだった。

「ふぇ?」

常盤台中学女子寮。
『学舎の園』と呼ばれる幾つかの名門学校が纏まった区画にある、常盤台中学。
お嬢様しか居ないと言っても過言ではないその女子寮の食堂で、御坂美琴はサラダのレタスにフォークを突き刺してから首を傾げた。
原因は、隣に座る後輩からの一言。

「だから、もう一度申し上げますが」

寝起きで頭が活性化してないであろう彼女に、後輩たる白井黒子はため息を混ぜながら二回目の内容を伝えた。

「今日、常盤台中学を含む幾つかの学校は休校となりました、と言ったのですわ」

改めて伝えられた内容に、ピタッと美琴の動きが止まった。
口元に新鮮な野菜を運びかけた状態で固まり、問い返す。

「はぁ?なんで?」
「詳しい情報はまだ分かっていないですの。ただ、重要機械の不調だとしか……」
「ふぅん……で、アンタはなんでそんなに急いでるの?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:39:27.51 ID:7U41SKEx0<>

返答を受けて口を閉じ、野菜の感触を味わう彼女は呆れた表情でまた別のことを尋ねた。
それも仕方がなく、なにせ彼女の隣で朝食を掻き込む黒子の姿はかなり変だったのだ。
衣替えで長袖に変わった制服をボタンを止めずに着ており、何時もはツインテールに纏まっている筈の髪は寝起きのまま。
そんないかにも急いでます、的なスタイルで朝食をお嬢様とは思えない荒々しい早さで胃の中に納めている。

「ゴクンッ!げほっ、いえ、今から直ぐに風紀委員(ジャッジメント)として支部の方へと向かわなければならないので」
「あぁ、今気がついたけど腕章も付けてるわね」

後輩の乱れきった姿の二の腕部分に目を止める。
そこには緑色の、何やら盾の紋章が描かれた腕章があった。
この学園都市の生徒で構成された自治組織、風紀委員。
時には命をかけるような危険なボランティアの役職である。
ただし彼等は厳しい訓練を受けており、様々な試験にクリアすることで風紀委員の立場を得ている。
そんな正に"正義の味方"というべき団体の一人である黒子は、その分多忙なことも多い。

「大方監視網に"穴"が空いて、そこを埋めるために巡回しなきゃなんない訳だ。大変ねぇ、アンタも」
「えぇ、折角愛しきお姉さまとの朝食なのに堪能する時間が無いだなんて……」
「前言撤回!さっさと行って来い!」
「あぁん」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:40:01.59 ID:7U41SKEx0<>

押しのけるように体を押され、黒子はなんともいえないような笑みを浮かべる。
こんなとこさえなければ、何処に出しても恥ずかしくない子なんだけど……と美琴は人知れず頭を抑えた。

「どうしましたのお姉さま?はっ!まさか体調の不調!?いけませんわ直ぐに部屋に戻らなくては!そして黒子のベットでぐっすりすやすやお休みになられて」
「変態思考はいいから!」

髪をゴムで止め、ツインテールにしながら何故か興奮している後輩の言葉を強制的に遮る。
これ以上聞いたら、朝っぱらから食欲がゼロになりそうだ。
美琴はパンを齧りつつ、隣へと言葉を投げかける。

「学園都市の監視網に穴が空くって言ったら相当な大事件の筈だけど、公にはなっていないの?」
「えぇ。混乱が生まれるのを避けるため、一部の者を除いて報告されていませんわね。それに今日一日でなんとか出来る問題のようですので、今日だけ誤魔化せればいいのでしょう」
「だからアンタも私に軽々と喋れる訳だ」
「もう一般人でも知ってしまっている者も居るようですし。ああぁ、そ・れ・と」
「?」

立ち上がり、食器を持った黒子からついでとばかりにこんな一言が。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:40:47.29 ID:7U41SKEx0<>

「"あの殿方"の学校も休校になってはいますが……くれぐれも、くれぐれも問題など起こされないようにお願いしますわよ?」
「??????っ!?よ、余計なことはいいからさっさと行きなさいっ!」

顔を急激に真っ赤に染め上げた美琴の前髪からバチィッ!と電撃が一条駆け抜けた。
かなり細めの、恐らく照れ隠しに放たれたのであろう一撃は"黒子が居た場所を通過して"宙へと僅かに光の軌跡を残しながら消え去る。
ふぅー、ふぅー、とまるで全力マラソンでもした後のように息を荒げながら彼女は顔の頬を引っ張った。
頬が、熱い。

「たっく……第一休みになったのよ?なのになんで私が一々アイツのことを気にする必要があるのよ……」

食べ終わった食器をテキパキと、ではなくガシャガシャと片付ける美琴。
もう後輩は居ないのに、言い訳するようにブツブツ呟いている。
周りに座っていた他の女子達も誇りた高きレベル5の色んな意味で危ない姿に、少々引き気味だった。
高価な食器を乱雑に積みながら、彼女は更に呟き続ける。

「そうよ、休みだからって、私がアイツに会う訳でもないんだし、一体全体どういう……」

要するに、彼女はそのアイツとやらに自分は特に何も無い?的なことを主張したいらしい。
だからどうした、とツッコミを入れる人間は周りには居なかった。
ついでに、主張を聞くべき後輩も居ない。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:41:37.34 ID:7U41SKEx0<>


「……き、来てしまった……」

で、結局。
なんだかんだ言いながら速攻で身なりを取り繕い、全力疾走してやって来たのは第七学区の広場の一つ。
ある少年に遭遇する確率が高い、現在では美琴お気に入りの場所。
レンガで鋪装された、噴水の音が響く空間。
平日というのと時間帯のせいで、この場に居るのは美琴だけだ。

「……って、私は何やってんのよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

今更ながら自分の朝からの奇行の恥ずかしさが襲って来たのか、思いっきり足を近くの自動販売機へと叩き込む。
女子中学生とは思えない強烈な回し蹴りは自動販売機全体をドゴンッ!!と震動させ、内部構造に影響を与えた。

ガタン!

「ふぅ、ふぅ……落ち着け、落ち着きなさい私ぃ……」

自販機が缶を一つ吐き出した音を聞き、彼女は自分を落ち着かせるべく深呼吸を繰り返す。
落ち着かせる前に犯罪行為をしてしまっているのだが、美琴にはそれどころでは無い。
実は、彼女が落ち着いていない理由はただ単純に"恋"そがれる少女だからだけでは無かった。
いや、実際はその感情に分類されるものからなのだ。
しかし、同じかと言われれば違うと言おう。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:42:21.84 ID:7U41SKEx0<>

「……まぁ、心配だってのもあるし」

頬の熱を冷ましながら、彼女はつい数日前の出来事を思い浮かべる。
ボロボロの体で何処かへと向かおうとしていた少年。
その姿が余りにも酷すぎて、心を抑えきれなくて、とにかく自分の言えるだけの言葉を全てぶちまけたあの日。

「……って、なんか余計思い出しちゃったぁぁぁぁっ!」

ドガンッ!!と、衝撃音。
次は額を自販機のケースに叩きつけるお嬢さま。
もしこの場に人が居たら即、警備員に通報されかねない姿である。
ただ美琴自身も羞恥心MAXで余裕が全く無いのだ。
今もしあの少年にあったら恥ずかしすぎて気絶する。絶対する。

「う、うぅ……やっぱ帰ろっかな……なんで私ここに来たんだろ……」

暴走した結果、逆に後悔する恋の乙女(本人は絶対に否定するが)。
痛む額を抑えつつ手を自動販売機の中に突っ込み、缶を取り出す。
指先で触れたアルミ缶は冷たかったが、体は丁度熱くなっているので構わない。
出て来たのは「ゴボウサイダー」と消費者を舐めているようなジュースだったが、とにかく冷たいものを飲んで精神を落ち着かせたい彼女には関係なかった。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:42:57.70 ID:7U41SKEx0<>

「んっ」

指でプルタブを開ける。
カシュッ、と中身の空気が放出される音が鳴った。




直後。




「!?」

蓋が開いた缶を放り捨て、美琴は後ろに跳んでいた。
そして跳んで、"感覚"でしか捉えなかった"それ"を見る。

自販機が、吹き飛んだ。

ドガシャァァァンッ!!と、轟音が鳴り響き、トラックにでも衝突したかのように重い金属の箱がひしゃげ、潰れた塊となって飛んで行く。
しかもケースの部分や塗装、比較的脆そうな部分は粉々になり、空気と混ざって消えた。

「なっ!?」

地面に滑り込みながら、その衝撃の光景を目の当たりにする。
思考が停止しかけた美琴の前で、潰れた自販機がレンガの大地へと落着した。
ビキビキバキャンッ!と、レンガが自販機の重量と速度に耐えきれずに悲鳴を上げ、砕ける。
辺りにレンガの小さな破片がばら撒かれ、思わず顔を手で覆った。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:43:35.83 ID:7U41SKEx0<>

「……手荒な真似をしたことは謝罪します。しかし、これで、現実(リアル)というものを感じていただけたのならば……」
「っ!」

小さな、轟音の余韻に混ざりそうな程小さな声が美琴の耳に届いた。
視線を走らせ、彼女はその姿を見る。

(……変な奴)

それが第一印象。
女性だった。
西洋風の、何処か整った制服を感じさせる服装はまだいい。
だが頭部に生えた木製の角らしき飾りと、その手に持つバイオリンがこの場の雰囲気に全くと言っていい程あっていない。
何処かの仮装大会にでも出場するのか、という姿に、しかし美琴は油断することが出来ない。

なにせ、今自販機を吹き飛ばしたのは間違いなくこの女なのだから。

「大人しくついて来ていたただければ、なにもすることはありません……ただ抵抗するというのであれば」

小風のような消え入りそうな小さな声を紡ぎ出しながら、突然の襲撃者は左手に携えたバイオリンを首元に当てる。
そして右手に持つ弦をゆっくりと、沿うように触れさせた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:44:19.95 ID:7U41SKEx0<>

「少々、痛い目にあってもらいます」
「へぇぇ……いい度胸じゃない。嫌いじゃないわよ、アンタみたいに威勢のいい馬鹿は」

それに応じる美琴の表情は、不適な笑み。
余裕をある程度感じる態度で、彼女はスカートのポケットから何かを取り出す。
それは銀色の丸くて薄い物体。
コインと呼ばれるそれを、美琴は親指で軽く弾いた。
キィィンッ、と甲高い金属音が場を満たす。

「でもね」

クルクルと、表と裏を交互に見せつけながら、元の手に収まるべくコインは落下して行く。
そして、

「相手が悪いのよっ!」

空気が切り開かれた。
電光が一瞬奔ったかと思えば、既にコインは彼女の手から砲弾として解き放たれていた。
音速の三倍で大気に埋められた空間を突き抜け、標的をぶち抜く砲撃。
カテゴリには銃に位置する筈の、しかし銃というには余りにも強すぎる一撃。
地面に敷かれたレンガ達を一直線に粉砕し、抉り取る一撃。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:45:15.96 ID:7U41SKEx0<>

レールガン。

御坂美琴の異名たる一撃は、襲撃者の前方に直撃するはずだった。
前方に直撃して爆風を撒き散らし、敵対者を薙ぎ倒す。


その、はずだった。


ドゴンッ!!と、レールガンが突如生まれた"見えない壁"に受け止められる。
壮絶な轟音と重なるように辺りに爆風が襲い、しかし壁を貫くことはない。
つまりは、襲撃者にはダメージが無かった。
レベル5の異名になる兵器クラスの一撃が、完全に止められていた。

「……なっ?」

風が吹き荒れる中、美琴は詰まった息を吐き出すようにやっとのことでそれだけを呟く。
彼女のこの一撃を防いだ者、というのはそれ程多くはない。
科学的に対策をとられたりしたか、個人という意味では"二人"にしか防がれたことがない一撃。
それが、こんなにも簡単に。

「……アンタ、名前は何よ?」

震える唇を動かし、美琴は尋ねる。
その問いかけには自分の知らないレベル5なのではないかという意味が密かに込められている。
それに対して、対峙する襲撃者の女は一言。

「調と申します……では、ご同行願えますか、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:46:01.71 ID:7U41SKEx0<>




とある十階はありそうな廃墟ビルの一階で、小規模な爆発が起きた。
ドォンッ!!と、ビル全体と周辺の大地が衝撃で震え、ミシミシ悲鳴を上げている。

「さっぱり分かんないわ、ね!」

爆風から弾き出されながら、美琴は自分の回想にツッコミを入れた。
現在、突然予想だに出来ない爆発が起き、視界を砂煙で防がれてしまっている。
舞い上がった粉塵のせいで粉塵爆発が起きたのだと推測した。
向こうもビルの外に出たのではないかと考えながら、美琴は思考を巡らす。

あの後は自販機のサイレンが鳴り響き、とにかく場所を移動した。
向こうも人目につきたくないのか、背中を向けた彼女に追撃をかけるような真似をしなかった。
そうして、今居るのは第七学区の廃墟ビル。
本当ならば第十学区や第十九学区などが一番人を気にせずに戦えるのだが、そこまでの余裕は無い。
今はただ、戦いのことのみに頭を使うべきだ。

(多分、自販機を吹き飛ばしたのも、レールガンを防いだのも、恐らくは……)

近くによって来た砂煙を軽く払いつつ、前を睨む。
爆発によって埃やら砂やらが舞い上がり、天然のカーテンとなっていた。
そして、その灰色のカーテンを透明な何かが突き抜ける。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:46:40.29 ID:7U41SKEx0<>

「!」

ボキュッ!!と、爆発するような音を響かせて飛来するそれらを、美琴は最低限身を捻って躱し切る。
肩のすぐ上を通過した弾丸が髪を幾筋か奪い、コンクリートの床にぶち当たったものは噴煙を捲き上げた。
もうもうと、火事が起こった後にも似た煙が空間内に立ち込める。

「見えなくて、私のレールガンを防ぐ、更には脆い物体を粉々に、か……ようやく、分ったわよ」

服を撫でる余波の風を感じながら美琴は髪を払う。
煙りっぽい空気が喉に張り付くが、そこは気合いで息を吸う。
払った髪からは青い火花が散り、彼女が彼女たる所以の能力を見せつけながら、宣言。

「アンタの能力は"音"。空気を震動させて特殊な音波の弾丸を放っている。違う?」
「──この短時間で零からバレてしまうとは……」

宣言に答えるように噴煙を突き破り、襲撃者の女、調が現れた。
コツ、コツ、と。
軽い足音をボロボロの部屋に鳴らしながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。

(……残り、十七メートルってとこか)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:47:19.52 ID:7U41SKEx0<>

目測で、調との距離を測る。
能力使用において目測というのは演算のさいに重要になってくるものなため、レベル5ともなればほぼ一センチ単位での目測が可能であり、その『脳』の強さもまた、彼女を学園都市第三位に認定する能力の礎だ。

「っつーかアンタも間抜けね。粉塵爆発に自分も巻き込まれてんじゃない」
「確かに、"格下"の貴方が予想以上だったので少々驚いてしまいました」

何気ない彼女の一言に、
ビキッ、と。
美琴の額に青筋が一つ、浮かび上がる。
ピクピク痙攣する口の端を釣り上げ、無理矢理笑顔を作りながら、なるべく柔らかな口調で尋ね返した。

「格下……?それ、本気で言ってるの?」
「本気も本気ですが……なにせ、データを見た限りでは貴方は『発電能力』という私達にとってはごく普通の現象を起こす能力しか持っておらず、それ以外は普通の女子中学生……先程の一撃もあの程度では、たかだか知れてます」

──プチッ☆
そんな音が聞こえたような気がした。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:48:00.78 ID:7U41SKEx0<>

「小さな声の癖してぶつぶつぶつぶつ……うざったいったらありゃしない……」

途端に、美琴が身に纏う雰囲気が"現実的に変わる"。
目に見える量での雷電を体の各所から周りへ散らし、空気が衝撃と熱で大気移動、風を起こし始めた。
まるで"気"を纏った時に似た現象を科学的に引き起こす彼女に、調はほう、と息を一つ。
その関心したような態度を無視し、美琴は、

「だったら見せてやろうじゃない……私の、超能力者の能力をね!」

叫んで、腕を前に翳した。
その手に、紫電を迸らせながら。






実の所。
調はそこまで御坂美琴のことを過小評価してはいなかった。
むしろ、彼女のことを強者だと、自分の主人から貰ったデータを見て誰よりもそう感じていた。

(十億ボルトの雷を使いこなし、最低でも音速の三倍の砲撃を軽々と放ち、磁力によって様々な物を操る……応用力において、かなりの物のようですね)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:48:39.17 ID:7U41SKEx0<>

しかも、軽く余波を当てるつもりだった音の弾丸も全て紙一重で躱されてしまっていた。
自分と違い、超人的な身体能力が無いにもかかわらず、だ。
反射神経が発達しているのかもしれないが、そうだとしても人間離れしている。

(挑発に乗ってくれましたし、此方のペースに引き摺りこめれば良いのですが……)

バイオリンを直ぐに弾けるよう構えながら、調は普段から細目な瞳で美琴の姿を観察する。
彼女が手を前に差し出した瞬間、
ボコンッ!と床の一部が浮上した。
コンクリートの巨大な塊が彼女の周囲を磁力に引っ張られて漂っている。

「なるほど」
「喰らえ!」

掛け声が響いた。
直後に瓦礫の石つぶてが高速で射出される。
自分の元に迫ってくる石つぶてというには大き過ぎる瓦礫の群れを見て、冷静に調は自分の武器『狂気の提琴(フィディクラ・ルナーティカ)』を奏でる。
ギギギィー……とお世辞にも上手いとは言えない音が奏でられ、そこを音源として目には見えない音の弾丸が放たれる。
いや、今放たれたのは弾丸というよりは壁に近く、広範囲に渡って迫る瓦礫達全てに直撃した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:49:12.49 ID:7U41SKEx0<>

「無駄ですよ」

ゴバッ!!と。
そんな音とともに、音の壁に瓦礫達が防がれる。
コンクリートは音波の細かい震動を受けて砕け散り、塵芥と化す。
ただ中身の鉄筋だけは学園都市製というのもあって、耐え切っていた。
クルクルと、宙を多少歪みを見せながらも細長い鉄筋が舞う。

「むっ……」

自分の一撃で壊せなかった鉄筋が弾かれるのを見て、調は僅かに眉を歪める。
しかし、クルクル回っていた筈の鉄筋が"空中で停止"し、迫って来たのを見て、

「なっ!?」

そんな、珍しい驚愕の叫びを上げる。
音の壁が無くなった直後に、矢のように鉄筋は先端を向けて真っ直ぐ突き抜けて来た。
調はようやく、これを狙っていたのかと策にはまってから気がつくが、もう遅い。
既に鉄筋は放たれている。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:49:46.37 ID:7U41SKEx0<>

「くっ……!」

身を捻って、横腹をえぐろうとした鉄筋の矢を躱す。
服を掠めて切り裂いた鉄筋は、そのまま剣のように床へと突き刺さった。
しかも、鉄筋は一歩だけではない。
次々と、細長い鉄筋が彼女を貫かんと全方位から迫り来る。

「……ふっ!」

だが、調は突然の包囲網にも慌てなかった。
冷静に再度弦を鳴らして、音の壁を張る。
バキャンッ!!と。
今度は耐えきれなかったのか、曲がるのではなくバラバラに破片になって砕け、跡形も無く消えて行った。

(単純な威力で貫くのではなく、手数で攻める気ですか。ですが、そう上手く行きますか?)

恐らく、音の壁を常時展開するのは無理だと判断した上での連続攻撃なのだろう。
しかしながら、調自身の肉体もそれなりには強い。
よって、さっきの瓦礫などを受けても致命傷にはなりえなかった。
確実に調を倒したいのならば、億単位の雷なり先程のレールガンなりを使わなければ──

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:50:30.07 ID:7U41SKEx0<>

(いや、甘いから使わないだけなのかもしれませんね……)

平和な日本の女子中学生ならば仕方が無いかもしれませんが、と、調は精神的に甘過ぎる少女へ反撃しようとしたが。

「……?」

居なかった。
前方、無駄に広い部屋の壁際に居た筈の美琴の姿が何処にもない。
彼女が居た場所には、ただ瓦礫を生み出すために穴が開いた床が存在するのみ。
本人自体が、何処にもいない。

「一体何処へ……っ!」

視界の端から端まで見ていた調は、直感で前へと跳ぶ。
床へ着地した瞬間、跳ぶ前の場所へ閃光が迸った。
正体は、雷。
室内なら本来絶対にありえないような現象が起き、コンクリートを熱で溶かしながら爆圧で破壊する。
轟!!と、室内の壁が壊れてもおかしくないくらいの轟風が吹き荒んだ。

「そこですか!」

雷を間一髪で躱した調は、即座に武器を奏でる。
奏でて生み出された音波は、"天井"へと直撃した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:51:04.48 ID:7U41SKEx0<>

「ばれたか」

天井に張り付いていた美琴が、今度は壁に張り付いていた。
そう、張り付いている。
足を垂直に壁に付け、壁面に立っていた。
明らかに重力の法則を無視している。
その仕組みを、調は魔法的ではなく科学的に理解した。

(壁の中に含まれる鉄分へ、自らの体を逆に張り付かせているのか……!)

つまりは、磁力を使って瓦礫を操っていたのとはまた逆。
自分の体を磁力でマグネットのように貼り付けさせることで、蜘蛛の如く壁面歩行が出来るのだろう。
恐らく、鉄筋が混ざったコンクリートで作られたこのビル内ならば、彼女は重力に囚われることなく立体的に自由自在に動くことが出来る。

(この場を選んだのもそのためですか……ならば)

調は、走り出した。
廃墟ビルの窓へと向かって。

「ちょ、アンタ逃げるつもり!?」

美琴からの非難の声を、彼女は思考から追い出す。
そしてそのまま、ただの四角い穴となっている窓から飛び出した。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:51:37.88 ID:7U41SKEx0<>

(その地の利を潰さして頂きます)

一階のため、地面との高さは殆どない。
だが足が地面に着く前に、調は息を吸って言葉を紡いだ。

「救憐晶」

ギョンッ!!と白い弦が今までよりも一層高く音を立て、

ビルの一階部分を、"全周囲"から音の衝撃波が襲った。

ダイナマイトでも使ったかのような爆発が起き、一階部分を呆気なく消し飛ばす。
外側から内側へと力の指向性があったせいか、中心に凝縮した音が上へと逃げ、ビルの上部さえも揺らし、破壊する。
外からなのではっきりとは分からないが、まず間違いなく三階辺りまでの天井は木っ端微塵だろう。
いや、そもそも一階部分を根こそぎ潰したのだ。
間もなくこのビルは倒壊するに違いない。

(幸い、周りは建設中と書かれたビルばかりですし、人間も他にはいないようですね)

轟音を立てながら自重で崩れて行くビルを通りに出て眺めつつ、辺りを見渡す。
周りには倒壊中の廃墟ビルと同じような、しかし『建設中』と看板付きで鉄骨なども剥き出しになっている。
この廃墟ビルは隣を建設中ビルに挟まれており、どうやら近々取り壊すらしいことが伺えた。

「手間が省けたとでも思って頂ければよいのですが」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:52:10.12 ID:7U41SKEx0<>

ズズズズズズズズズズッッ!!!!と、地響きを上げながら崩れ落ちるビルを尻目に、そんな一言を調は述べる。
砂埃が今までの規模ではなく、もはや火災があっているのではないかというくらい灰色の煙が潰れたビルから立ち昇っていた。
やがてガラガラと、時折瓦礫が転がる音だけが人通りの少ないこの場に響いている間際になって調は通りから倒壊跡へと躍り出た。

「ふむ……」

スタッ、と。
軽やかに瓦礫の山に着地し、辺りに視線をやる。
現在、かなり瓦礫の山は不安定な上、今だに衝撃波の余波と砂埃がかなり立ち昇っているのだが、彼女にそれを気にする必要は無い。

(上空からの奇襲は潰した……あるとすれば、瓦礫に混じっての下からの攻撃)

流石に瓦礫に押し潰されたと考える程、調は楽観的な思考をしてはいなかった。
彼女ならば、磁力によって落下してくる瓦礫を逸らすことくらい簡単だろう。
五メートル以上先を視認することが出来ない、砂埃の中で調は立ち止まる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:52:41.88 ID:7U41SKEx0<>

「……」

刹那、
一拍という間さえ置かずに、足元から鉄筋の槍襖が出現した。
鋼色の曲がりくねった刃を軽く飛んで避ける。
だが連撃は止まらない。
次は、足が触れている瓦礫が直接かなりの勢いで持ち上げられた。
グンッ!と足場を失い、上に乗っていた調は宙に投げ飛ばされる。

「なるほど……」

宙に体を彷徨わせながら、しかし調の余裕の態度は崩れなかった。
どのみち、相手の攻撃がくる方向は分かり切っているのだ。
ならば、たかだか瓦礫やら鉄筋やらに彼女がダメージを受ける筈がない。

「ふっ……」

ボンッ!!と下から追撃をしかけるように飛んで来ていた瓦礫が、バイオリンからの音波を受けて粉々に砕け散る。
今度は鉄筋さえも軽々と砕き、次々と砂煙に混じっていく。

「単純ですね……さて、本人は」

何処ですかと、言葉を続けられなかった。
瓦礫の上に着く筈だった足が、突然生まれた穴にはまり込む。
落とし穴に嵌ったように、ガクン、と体が揺れ態勢を崩した。
磁力によって、周囲の瓦礫が締め付けてくる感触が伝わってくる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:53:18.32 ID:7U41SKEx0<>

「くっ……」

右足が瓦礫の拘束を受け、動けない。
無理矢理力尽くで引き抜こうとするが、その前に、
彼女を黒い波が襲った。

「……黒い砂?砂鉄か!」

調の言葉は正しい。
瓦礫に嵌って動けない彼女を飲み込むように、砂鉄で出来た壁のようなものが襲って来たのだ。
さながらそれは、黒い波。
飲み込もうとしてくるそれへ、調は音を放って対処する。
音の弾丸を受けた砂の塊は、液体のように簡単に弾けた。
辺りに小さな、目に見えないくらいの粒となって風に乗るが、

「砂鉄は無に帰せません、か」

ギョリギョリッ!!と、金属同士が擦り合うような異質な音が砂鉄しかない空間から聞こえる。
弾けた砂鉄が、またもや集合しているのだ。
チェーンソーのように細かく震動しながら、黒い刃となった砂鉄が数十襲い来る。

「ですが、数は減らせるようですね」

波打つ刃の群れを、また一掃。
音で蹴散らしてから、自分の足元にも一撃。
拘束していた瓦礫を吹き飛ばした。
足が自由になったのを確認してから、調はバックステップ。
居た場所を、再生した砂鉄の刃が襲う。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:53:53.24 ID:7U41SKEx0<>

(瓦礫と鉄筋は動かさない……個別に扱うのは磁力では難しいのでしょうか)

砂鉄以外の攻撃が無いのを確認しつつ、再度連続して襲ってくる砂鉄の群れを破壊した。
破壊されて、また砂鉄は刃へと再集合しているのだが段々と小さくなっている。

「ならば、無くなるまで」

後ろに飛び退きながら音色を奏でて行く。
その度に音が放たれ、砂鉄が消し飛ぶが砂鉄もしつこく迫って来る。
壁を突き抜けて、前と右から刃が一本ずつムチのようにしなりながら襲って来た。
首を傾けてそれらを躱し、一際高く飛んで音を放つ。
見事にからぶっていた砂鉄の刃が、音に叩き潰された。

「……本人は、何処に?」

瓦礫の奇襲、罠、砂鉄。
全てを潰した調は、残る本人を打ち倒すべく視線を張り巡らす。
が、本人が何処にも居ない。
気配さえも、砂煙と瓦礫のせいか、感じられなかった。

「一体何処へ……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:54:29.74 ID:7U41SKEx0<>




「ここよ」




そんな声が、"上空"から聞こえた。

「──なにっ!?」

普段にない大きな声を上げ、調は顔を上げる。
その瞳が砂煙の向こう、その先に見た光景は、御坂美琴の姿。
ただし、宙に浮かんでいる美琴の姿だ。

(馬鹿な……天井は無いと言うのに、一体どうやって──っ!)

そこで気がついた。
彼女は両手を左右に広げ、まるで見えないロープでも掴んでいるような態勢になっていることを。
そして、両脇には鉄骨が剥き出しのビルが二つ。

(そうか、左右からの磁力の反発を利用して浮いて──)
「言っとくけど」

調の思考を断ち切るように、美琴からの一言が場を突き抜ける。

「死なないでね?」

その一言とともに、
最初の比ではない莫大な電流が、茶色の前髪から瓦礫の山に立つ調へと叩き込まれた。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:55:16.23 ID:7U41SKEx0<>




ズドォォォォォンッ!!と、莫大な電流による轟音が、場に満たされる。

「──?」

普通ならば誰もが勝ったと思う瞬間、美琴が抱いたのは困惑だった。
電流を防ぐとすれば音と言う名の『空気の震動』による壁で、その程度の壁を突き破るくらいの威力は今の雷には込められていた。
だが、

「何、あれ……」

下方で展開される光景は、美琴の予想にない光景だった。
巨大な何かが、瓦礫の山しか無い筈の大地を覆い隠していたのだ。
電流を受けてまる焦げになっているのが、より一層違和感を引き立てる。

「焦げてるってことは、炭素で出来た何か?」

しかも、鼻に感じる焦げた匂いは知っている物だった。
信じられない、といった面持ちで美琴は告げる。


「もしかして、"植物"?」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:55:52.03 ID:7U41SKEx0<>

その言葉に答えるように、黒焦げのドームを突き破って茶色の物体が飛び出して来た。
それは巨大な穂先のように、美琴をすり潰さんと突撃してくる。

「うわっ!?」

反射的に、美琴は右側のビルに磁力で引き寄せられ、空中から離脱する。
大気を裂き、目の前を通過していく"木々"の群れを見て、顔から血の気が引く。

「なによ」

これ、とまでは言えない。
鉄骨に音を立てて着地した瞬間、周囲に彼女自身が撒き散らしている電磁波から何かを感じたからだ。
レーダーのようにも使えるそれは、美琴に危機を訴えかける。

「!?」

周囲を、木々の群れが囲んでいた。
樹木に殺されかけるという、普通ならば絶対にあり得ない感覚を感じ取って、迷うことなく美琴は鉄骨から跳ぶ。
鉄骨から離れた直後に木々がドゴォォンッ!!と、鉄骨へとぶつかり、余波でビル全体の鉄骨を破壊していた。
ゴッゴッゴッゴッ!!と、鉄骨のビルが壊れていく音を聞きながら、しかし美琴はそれ所ではなかった。
なにせビル十階分の高さから真っ逆さまに落下しているのだ。
下手をしなくても十分死ねる高さである。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:56:59.09 ID:7U41SKEx0<>

「くっ……なめんな!」

バチバチッ!と、怒りを表すように放電。
そして先程の磁力の反発を使って目に見えない瓦礫から発せられている、磁力を操れるもののみが使用可能な層を作り上げた。
飽くまでゆっくり、段階的にスピードを落とし、瓦礫と鉄筋で構成された地面に難着陸。

「中々のお手前で」

見事な応用技に、調からの賞賛が投げかけられる。
しかし、美琴は欠片も嬉しさを見せないまま、調の近くから生えている木々を見ていた。
鉄骨がコンクリートに直撃し、轟音が場に満ちる。

「……アンタ、それ」
「あぁ……本来は使うつもりはなかったのですが、思わず使ってしまいましたね」

互いに睨み合い、対峙する二人。
言葉の裏側、美琴の脳内では混乱が渦巻いていた。
表面上は冷静そうに見える表情にも、冷や汗が伝っていることから冷静でないことが分かる。

(どういうこと……"能力は一人一つしか持てない"はずなのに!)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:57:44.52 ID:7U41SKEx0<>

能力は一人につき一つ。
これは学園都市における常識の一つだ。
これに例外はなく、過去に多重能力(デュアルスキル)の検証もあったが『不可能』という結果が既に出ている。
よって相手が使える能力は一つでなければならない。

しかし相手は、音と植物の両方を使っている。
絶対に共通点などない、二つの力を。

(あのバイオリン、能力の補助道具だと思ったけど)

能力の補助に道具を使うのは不思議ではないため、今まで気に止めてはいなかった。
軍用ライトを使う能力者もいるし、風使いで銃を利用する者もいる。
『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を強く現実にイメージさせ、能力を強く円滑に使用する。
そのために、『音』という物体を扱うために『楽器(バイオリン)』を扱っていたと思ったのだが……

(あの楽器自体が音波兵器……いや、待て!音は私の本気じゃないとはいえ、レールガンを防ぐ程の力があったのよ?そんな最新兵器クラスの力が、あんな小さな楽器にある筈が……)

自分で自分の考えを否定する。
超能力者級の力があんな古ぼけた楽器にある筈がない。
となると、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:58:27.57 ID:7U41SKEx0<>

(音自体はアイツの能力で、あの植物自体は別の第三者?でも周りには誰もいない……まさか、"木山春生"と同じ『多才能力(マルチスキル)』?)

実は調も知らなかったことが、一つ存在していた。


御坂美琴は"超能力以外の異能の力を知らない"。


彼女のデータには、この世界の魔術関係の事件と関わったというデータがある。
しかしそれは全て無意識の内に、つまりは部外者に近い形で絡んだものであり、本筋に直接踏み込んだ訳ではない。
なので美琴は、調をただの能力者として見ていた。
それが、大きな過ちとは気がつかずに。

「アンタ、本当に何者?なんでレベル5クラスの能力を二つ使えんのよ」
「……?私は『能力者』などではありませんが?音は私の"アーティファクト"、植物は私の"種族"としての能力ですよ」
「……なんですって?」

調にとっては当然の、美琴にとっては意味の分からない答えに、またもや衝突間際の、重い空気が張り詰め始めた。
電撃が鳴り、木々が蠢き、空気が震える。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:59:09.15 ID:7U41SKEx0<>




ウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!




「「!」」

突然の甲高い人工音に、二人の肩が跳ねた。
そして驚いている間にも、音は鳴り続け、どんどん近寄って来る。
この音を、美琴はよく知っていた。
顔からまた、別の意味で血の気が引く。

「げっ!?ア、アンチスキル!?」
「タイミングが悪いですね……潮時ですか」

そんな言葉を聞いて、美琴は怨みを込めた視線で調を睨む。
その目はこう言っていた。「お前のせいだろ」と。

「オイゴラ。まさかアンタ逃げるつもりじゃないでしょうね……?」
「そうですが、何か問題でも?」
「おおありよ!アンタがビル壊したんでしょうが!?ここでアンタが逃げたら私のせいに」
「では、時間も無いようですので、私はこれで」
「ちょ、待て!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 15:59:43.38 ID:7U41SKEx0<>

勝手に逃げようとする破壊の演奏者に、ぶち切れながら電撃を飛ばす美琴。
だが調は電撃をさらっと躱し、何やら愉快気な(※美琴視線)笑みを見せながら、地面を蹴って飛ぶ。
普通の人間にはあり得ない、十メートル以上の高さを飛び上がり、反対側のビルの壁面へ着地した。
その、またもや能力者としてはあり得ない現象に美琴はギョッとなり、口から声を漏らす。

「その身体能力、アンタ一体本当に……」
「では、また何時か会いましょう。異世界の電撃姫」

その言葉を遮るように、彼女は意味深げな一言を。
そして即座に、調の姿は美琴の見ている前で消え去った。
音も無く、彼女の後輩の空間移動のように。
電磁波によるサーチにも、もう誰も感じない。

「……"異世界"?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:00:18.92 ID:7U41SKEx0<>

「よく考えるとアンチスキルの対応も遅いし、学園都市で何が起きてるの?」

答える者は勿論居ない。
段々と近付いて来たサイレンを耳に入れながら、美琴は走り出す。
お嬢様とは思えない早さを見せながら、彼女は思った。
操車場の事件、ビル倒壊、監視機器の故障、只今の襲撃。




これは、思ったよりも大きい『何か』かもしれない、と。





<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:00:57.59 ID:7U41SKEx0<>




「……ここでいいわね」

一方で。
第十九学区という寂れた学区。
そこの広い、デパートでも建っていたのであろう空き地で、立ち止まる一人の人物が居た。
名はシャナ。
外見は幼い彼女は、黒いコートを翻し、叫ぶ。

「そこに居るのは分かってる!出て来なさい!」

シャナが睨んだのは、一つの建物。
ボロボロのコンクリートで建築されている、二階建ての物だ。
何のための建物なのか、今ではもうさっぱり分からないが、この辺りで一階ではない建物はこれのみ。
その建物に向かって、シャナの可憐で鋭い叫びが放たれ、




「バレましたか」
「気配は消していたつもりだったんだがな」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:01:28.84 ID:7U41SKEx0<>


建物の上から"二人"。
超人としかいいようがない跳躍を見せて、シャナの十メートル前へと着地する。
一人は黒い猫耳をつけた少女。
もう一人はツインテールに、何故か片目から不思議な気配を感じる少女。
二人共シャナよりは年上だが、まごう事なき少女だった。
そしてもし、二人を御坂美琴が見たらこう言っていただろう。

彼女達が着ている服は、自分を襲った少女と全く同じ物だと。

「私は暦。こちらは?。今日は貴方と話をさせてもらいに来ました。"炎髪灼眼の討ち手"、でよろしいですね?」
「……話、ね」
「出来れば穏便に行きたいが、其方の態度しだいでは此方もそれなりの対応を取らしてもらう」

二人の言葉を聞きながら、シャナは注意深く観察する。
身のこなしがただ者ではない。
ある程度の経験を積んだ者のみが出来る、洗練された動きだった。

(二対一……面倒ね)

決して勝てないという訳ではない。
ただ、向こうの力が分からない以上、下手に動くのは危険なのも事実。

(……応じるか)

デメリットは此方には存在しない。
時間を稼がれたところで、特に何もない。
当てのない彷徨いよりは、此方の方が幾らかは有意義なものになるだろう。
口に出して、応じる言葉を告げようとした。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:02:33.84 ID:7U41SKEx0<>



「やっぱり、私じゃなかったのね。道理で気配絶ちの荒い奴が居ると思ったら」
「「「──っ!?」」」




告げれなかった。
突然。そう、突然現れた一人の女性によって。
気配の欠片も感じさせず、堂々と、その人物は空き地に踏み込んで来る。
その手に、一つのナイフを煌めかせて。

「……何者だ」

?と呼ばれた少女から、その女性はそう尋ねられる。
女性は、簡単に笑顔で答えた。

「完全瀟酒メイド」






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:03:11.10 ID:7U41SKEx0<>







時と炎は束ねられる。
世界の二つの元素は混じり合い、
新たな可能性を創り上げる。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/02(土) 16:07:53.02 ID:7U41SKEx0<>

※おまけスキットはありません


Q.ネギまキャラで一番好きなのは?
A.神楽坂アスナ。


最近周りはポカポカ陽気で一日中眠いです……
執筆速度を落とさないようにしたいのですが……やっぱり難しいなぁ
フェイト部下編が終わった直後……というか、正確には今の話の裏側でとあるキャラが動いてたりするので、早くそのキャラの話を書きたいなぁ……


では、また次回にて。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/02(土) 21:06:31.27 ID:VvZQToS/0<> 乙です
>?と呼ばれた少女
これは文字化けかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/02(土) 21:40:04.05 ID:TPUU/yc10<> 乙。
時&炎対決か。咲夜さんとシャナが普通に共闘するなら負けはなさそうだが・・・

あと裏で動いてるのはグループかな? <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 16:54:47.33 ID:RUfmZQh/0<>
テスト:焔

Q.一番好きな台詞は?
A.FF9の『誰かを助けるのに理由がいるかい?』


投稿します! <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 16:55:42.25 ID:RUfmZQh/0<>




第十九学区の広い空き地。
アスファルトとコンクリートで構成された場にひっそりと存在する、茶色の地面。
ある程度整備されているだけの、何もない無駄な土地。
元々、第十九学区自体が寂れた学区であり、今では廃れた水蒸気機関などの古い技術を研究し直すことで、最新技術への応用が出来ないかどうか試しているという学区でもある。
よって新たな研究所を建てる必要はほぼなく、この四方百メートルはある素っ裸の土地は普段屋外実験にでも使われているのだろう。

そんな場所に、彼女達の姿はあった。






「メイド……?」
「そっ」

理解不能を示す呟きを口から漏らす、猫耳少女の暦。
その彼女の言葉に軽く頷く、自称完全メイドの十六夜咲夜。
ミニスカートと銀の髪を風に揺らし、彼女は笑顔で補足を付け加える。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 16:56:55.94 ID:RUfmZQh/0<>
「でも、あえて言うのならば。悪魔の従者兼、異変解決も生業とする"幻想郷"一のメイドよ」
「"幻想郷"?」
「そうか、貴様……時の使い手の」

聞きなれない、そして何処か重要性を感じる地名に、黒髪の少女シャナは眉を顰め、ツインテールの少女たる焔は納得したように呟いた。
あら、と。
白い可憐な表情に余裕の笑みを混ぜながら、咲夜は唇を動かす。

「私のことを知ってるなんて、貴方の方こそ一体何者なのかしら?」

ナイフを手でチラつかせながら、穏便に、かつ拷問のように問いかけた。
言葉自体に重みなど無い筈なのに、普通の一般人が聞けば思わず口を開いてしまいそうな強制力がその問いにはあった。
ただし、二人の少女もただものではない。
ピクリと反応自体はしたものの、それに答えることはなかった。
口を開かない少女達。だが、シャナだけが何かに気がついたように言葉を放つ。

その黒い瞳は、咲夜の手で揺れ動く"銀製のナイフ"を捉えていた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:03:47.89 ID:MZ+tbx1s0<>

「そのナイフ、昨日の……!」
「あら、バレちゃったわね」

ワザとらしく呟く咲夜。
見せつけるように、彼女はナイフを動かす。
このナイフにシャナは見覚えがあった。
というよりも、昨日の夜のことなのだから忘れる筈もない。
そんな動揺を見せる彼女の思考と視線を感じつつ、

「と、いうことは此方は昨日の優男と黒魔術師のお仲間さんってことでよろしいのかしら?」
「……だったらどうだと?」
「いえ、ただの確認よ」

陽光で煌く銀髪を払い、彼女は紅い瞳で三人を順番に眺めて行く。
昨日、結果的に助けたことになった炎と刀使いの少女。
髪と眼の色に違いはあれど、彼女で間違いない。
そして今の問いに対する答え方からして、少女二人が巫山戯た『神』、大元の敵だろう。
ならば第三勢力であるシャナは無視すべきか。

やるべきことは──

「さて。貴方達には色々聞かせてもらいたいのよね」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:04:48.46 ID:MZ+tbx1s0<>

ジャキンッ!と。
その場に居た三人が気がついた時には、既に咲夜の両手にはナイフが収まっていた。
指の間にナイフを一本ずつ挟み、計八本のナイフを構え臨戦態勢を見せる。

「生憎と、話だけで情報を引き出すのは苦手でして。少しばかり痛い目にあってもらってからにしてもらうわ」
「図に乗るなよ、小娘」
「小娘に小娘と言われてもなんとも思いませんね」

焔という少女に殺気とともに言葉を返されても、平気な顔をして彼女は更に言葉を返す。
ビキッ!と、ツインテール少女の額に青筋が見えた気がした。
どうやら小娘呼ばわりは特に気にいらないらしい。
隣に立つ猫耳少女の顔にも、明らかな不愉快さが現れていた。
恐らく自分の主人から任された"任務"に誤差が生じているためだろう。
なるべく丁重かつ、不機嫌そうな表情で構えを取ったまま暦は咲夜へ喋りかける。

「失礼ですが。私達は其方の"炎髪灼眼の討ち手"に用があるのです。貴方の下へは"他の者"が行くでしょうから、今日の所は引いて貰えないでしょうか」
「その"他の者"っていうのも気になるけど、だからといって貴方達を見逃すという答えが出るわけないでしょう?黒パンツ獣人さん」
「ぶはぁっ!?」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:05:30.36 ID:MZ+tbx1s0<>

が、その不機嫌そうな表情は羞恥の赤に強制的に塗り替えられた。
自分の下着、しかも"とある変態オッサン"に突っ込まれたこともある曰く付きの物を見られていたことに、彼女は先程までの冷静さが嘘のようにワタワタ手を振り始める。

「い、一体にゃんで……っ!?」
「だって私が地上を走って尾行してたのに、貴方達は飛んでたから。あっ、ちなみに貴方に黒は似合わないと思うわよ。折角黒い猫耳なんだから、対比するように白とか縞模様とかの方が……」
「うるさいっ!余計なことは言うなっ!」

下着講座までし始めた彼女へ、暦はムキーッ!とばかりに怒鳴る。
取り繕っていた刺客臭が一発で霧散してしまっていた。
顔を真っ赤にした同僚のみっともない姿に耐え切れなくなったのか、ため息を吐きつつ焔が制止の言葉を放つ。

「暦……少しは落ち着け。たかだか同性相手に下着を見られただけでそこまで動揺してどうする。相手のペースに嵌るな」
「うぐっ……ご、ごめん……私としたことが……」
「あぁ、そっちの貴方はピンク色のパンツだったわね……なんというか、凄く意外性が」
「〜〜〜〜っ!?黙れ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:06:17.91 ID:MZ+tbx1s0<>

精神的に幼い面もある少女は、セクハラで訴えてもよさそうな挑発に耐え切れなかった。
怒りの叫びを突きつけながら焔の左目に魔力が集中し、

咲夜が居た場所が爆炎とともに弾ける。

結果だけで述べるならばそんなもの。
詳しく言うならば、彼女の瞳に炎のような物が浮かんだと思ったら、咲夜の方を睨んだ直後に空間が直接爆発した。
抜き打ちの、一般人ならばまず木っ端微塵になる威力の爆発。
だが、

「よっと」
「……!」
「チッ……」

咲夜は既に回避していた。
彼女の姿は誰にも気がつかず、シャナの隣へと着地する。
ヒラヒラと周囲をトランプのカードが何枚か舞っているのは、完全に彼女の遊びだろう。
音もなく、隣に降り立つ彼女へとシャナは警戒の色を強めながらも言葉を放つ。

「……余計なことを」
「そういう言葉は、万全の状態の者が言うことよ」
「なにが言いたいの?」
「取り合えず戦闘準備ぐらいしなさい、ってこと。もう会話なんか出来る雰囲気かしら?」
「……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:07:07.11 ID:MZ+tbx1s0<>

指摘を受け、無言のまま瞬時にシャナは刀を引き抜く。
『贄殿遮那』。
長い白銀の刃を持つ、名刀と呼ぶに相応しい刀。
それが彼女の黒衣から空気を切り裂きながら抜き放たれ、小さな両手にしっかりと握られた。
へぇ、と改めて近くで見てからの刃の持つ切れ味と力に関心の吐息を漏らす咲夜。
対して、その刀を持つシャナに対峙する二人の雰囲気が変わった。
"交渉"が失敗したということを確かめるべく、暦から最終宣告が放たれる。

「話は、していただけないと?」
「えぇ」
「そうですか、残念です。隣のメイドさえ居なければ……」
「そう?どうせなんらかの要因で失敗していたと思うけれどね」

慰めるように言葉を紡ぐメイドだが、逆効果で焔と暦の苛立ちを増させる結果となる。
「その原因が何言ってんだ、あぁ?」とでも言いたげな目で睨まれ始めた。
咲夜はその見るだけで人を殺せそうな怨念じみた視線を受けても、大人の余裕とばかりに何処吹く風だ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:07:44.86 ID:MZ+tbx1s0<>

「……で、貴方はどうするの?足を引っ張るくらいなら、始めから隅っこで震えて貰ってた方が助かるんだけど」

そして、何処吹く風状態のまま内緒話をするようにシャナへと話しかける。
話しかけて来たことに訝しげながらも、シャナは唇を動かす。

「私はアンタと一緒に戦うつもりなんかない」
「そうでしょうね。でも、"今の"貴方に戦える?」
「……」

挑発じみた咲夜の言葉を相手にするのが馬鹿らしくなったのか、それとも自分でも理解しているのか。
口を閉じた状態で彼女を無視するように、シャナは一歩を踏み出す。

「待て。シャナ」
「なに?」
「んっ?」

だが二歩目を封殺するように、声が一つ。
それは胸元にあるペンダント、コキュートスから。
"天壌の劫火"アラストールの声だった。
始めて聞くアラストールの声に咲夜が首を傾げているのには気にせず、シャナは凛とした態度で問い返す。
そして、返って来た答えは、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:08:21.00 ID:MZ+tbx1s0<>


「隣の者に任せ、ここは引くぞ」


予想だにしないものだった。

「──」

一瞬、あらゆる返答の中で本当に予想だにしなかった返答に、シャナの思考及び肉体が止まった。
目を見開き、自分の胸元をみて立ち止まる姿は、とても脆そうに見える。

「──っ」

刀を持っていた手から力が抜けて落ちかけ、しかし直前で握り直す。
ギチッ!と、音がするくらい強く持ち手を握り、声を不自然なまでに震わせながら問う。

「何、言ってるの……?」
「だから引くと言ったのだ。今のお前では、危険過ぎる」
「そんなこと……っ」

ない、とは言い切れなかった。
強がることも出来ない程、その言葉は事実だったから。
昨日の夜がいい例だ。
自分は力の全てを出し切れず、無様な格好で戦っていた。
もし隣のメイドが居なければ、少なくとも上条は死んでいたのだ。
フリアグネという、一度戦ったことのある存在。
それなのにあそこまで後手に回っていた自分に、何処まで戦えるというのか。
シャナは口を引き結んで黙りこくる。
その顔は分かっていても心が認められないという、年相応の感情を表していた。

「……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:08:51.87 ID:MZ+tbx1s0<>

メリットとリスクを冷静に、異常なまでに冷静に考える。
ここで二人を倒すなり捕縛するなりすれば、向こうの情報が大量に手に入る可能性は高い。
だが、シャナには拷問や誘導尋問の心得は無かった(そもそも拷問など徒との戦いでは無意味)。
相手が徒ならともかく、普通の人間なら難しいと言わざるを得ない。
対してリスクは敗北によって死亡、もしくは捕縛された場合。
上条が孤立するというのもあるし、あのお人好し達に囮として使われる可能性もある。

こうして考えるとメリットよりもリスクの方が大きく感じる。
だが、今までのシャナなら間違いなく戦っていただろう。

何故なら、本来の力ならば目の前の二人にはほぼ確実に勝てるからだ。

「……ッ!」

ギリッ、と歯を食いしばった。
突きつけられた自分の不調に、苛立ちが募る。
そしてなによりも、その自分の不調が原因である様々な失敗が彼女を更に怒らせた。

「……別に、アンタを信用してる訳じゃないから」
「えぇ、だから昨日の借りは今度返してもらうわ」
「…………口がぺらぺらよく回るわね、アンタ……」
「周りの"環境"がよかったのよ」
「ふんっ……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:09:30.09 ID:MZ+tbx1s0<>

減らず口の咲夜は置いておいてとばかりに、シャナは刀を真上へと振り上げる。
構えから動いたその姿へと、焔と暦が何かする前に、

彼女の全身を灼熱の炎が包みこむ。

いや、正確には炎が包んだのではなく、長い長髪が炎のように紅く染まったのだ。
それは正に炎髪。
はらはらと、薄い火の粉を散らす髪を靡かせ、灼熱の瞳を輝かせながら彼女は刀を真下へと振り下ろす。

「──ふっ!」
「っ?」

その行為に対する焔の一撃が発動する前に、

白銀の刀身を、巨大な紅蓮が包み上げた。

轟!!と、周囲の空気を飲み込み、唸りを上げる紅蓮の大太刀が瞬時に出現する。
全長三十メートルはありそうな、炎で編まれた巨大な刀身が時折揺らめいていた。
紅蓮の炎はただの炎ではなく、存在の力によって象られたシャナの強さのイメージの一つ。
その炎刃が神速を持ってして大地に叩き込まれた。
炎としての力と刃としての力を持った大太刀は、まず大地を衝撃で陥没させ、次に大地をえぐるように大爆発を引き起こす。
主に空き地の空間の一部、少女二人の方へと。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:10:04.55 ID:MZ+tbx1s0<>

「くっ!?」
「にゃっ!?」

予想を超える威力だったのだろう。
呻きを上げながら、二人の体が木の葉のように宙を吹き飛ばされる。
爆炎と爆風に押されながら、しかし肉体へのダメージは殆ど見られない。
半分勢いに身を任せながら、彼女達は爆煙立ち込める変わり果てた空き地へ素早く着地する。
だがその時には既に、シャナは背を向けて飛んでいた。
地面を蹴って爆発させ、数十メートル単位の距離をほぼ水平に、銃弾のように飛んで行く。
黒煙を背後に置き去りにして、彼女は脇目も振らず逃走していた。

「なっ……」

暦と焔は怖るべき早さで小さくなってゆくシャナの背を見て、戸惑いの声を上げる。
データ上でのみの彼女を知っていた二人には、シャナが逃走に奔るとは思わなかったのだ。

「くっ……!」

だが直様正気に戻り、追いかけようと足に力を込めるが、
カッカッカッ!!と、足元に何かが突き刺さる。

「っ!?」
「うわっ!?」

行く手を塞ぐように彼女等の前に数本突き刺さったのは、ナイフ。
銀で創られた、一流の手入れによって輝きを放つ対魔の力も持つ刃。
まだ周囲で燃え盛る爆炎に照らされて煌くその武器を放った人物は勿論、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:10:47.12 ID:MZ+tbx1s0<>

「どんな力を持っているかは知らないけど、流石に今からあのシャナ?っていう少女を追うのは無理でしょう」

黒煙の中から現れた改造メイド服を揺らす女性。
十六夜咲夜。
彼女は周囲の砲撃でも受けたかのような戦場でも、その瀟酒な姿を崩さない。

「貴様……」
「理解したなら早く始めましょう。『時』の無駄だわ」

焔の憎々し気な声にも、彼女は何処までも響き渡りそうな凛とした声で答えた。

「なにせ」

音も無く、彼女の弾幕が展開される。
咲夜の背後。
つまりは逃走したシャナとの壁となるように、魔力によって形成された弾幕が。
手に持つナイフと似たような、しかし数百という凄まじい数で空中を漂う弾幕達をバックに、彼女は小さな笑みを口の端に浮かべながら告げる。


「私と違って、貴方達の時は有限なのだから」






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:11:22.23 ID:MZ+tbx1s0<>




「……」

周囲の景色が線のように流れて行くのを感じながら、シャナは無言で飛んで居た。
正確には、ビルの屋上を蹴って飛ぶことで高速移動を可能にしている。
炎の翼を使わないのは、発見されるのを防ぐためだ。
別に空を飛ばずとも、彼女の肉体は既に第十九学区を抜け、第四学区に突入している。

「……」

元の色に戻った黒髪を抵抗の気流で後方に流しつつ、シャナは小さく口を開いた。

「ごめん」
「うむ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:12:00.76 ID:MZ+tbx1s0<>

短い謝罪に、短い把握の言葉。
他人が聞くととても軽く感じてしまうが、その一言にはとても重い感情が込められている。
今戦わなかったことで捨て去ったメリットは、かなり甚大だ。
しかも本来ならば確実に得れたメリットだというのが、余計に捨て去ったのを大きく感じさせる。
故に、シャナは今謝った。
そしてそれ以上後悔はしない。
終わったことをぐちぐち悩み続けるよりは、得た事柄を整理し反省する方が百倍いいからだ。
後悔も反省もせずに開き直るのは馬鹿のすることであり、シャナは馬鹿ではない。

「……アラストールはどう見る?」

彼女は別のことに話を移す。
反省は後でも出来る。
今は、現在進行している問題について話すべきだ。

「戦闘についてか?」
「うん……あの"ヴィルヘルミナ"に似た服を着た女と、猫耳女に炎の女。どうなると思う?」

アラストールは補足の言葉を受け、ふむ、と一息。
要するにあのメイドと二人組、どちらが勝つだろうかということを尋ねているのだ。
ビュウビュウと周囲で音を奏でる風の音に混じるように、遠雷のような声を響かせた。

「お前と同じだろう」
「そう……」

以心伝心。
戦いのことに関しては絶対的な繋がりがある二人は、意見を同じくして納得する。
『夜笠』をはためかせながら空を飛び、シャナは確認の意味も込めて呟いた。

「まず、間違いなく──」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:13:17.45 ID:MZ+tbx1s0<>




「クソッ!」

舌打ちと共に、発火能力持ちの少女、焔は言葉を吐き出す。
今日、自分と暦は任務のためにこの世界に降り立った。

("炎髪灼眼の討ち手"と接触し、"情報をわざと漏洩しつつ撤退する"、そうなる筈だったというのに……っ!)

ナイフを持ったメイドが、それを邪魔した。
一通り見たデータの中にその姿を見たことがある。
時を操るという、異世界においても数少ない才能を持つ女。
だが所詮は個人の力。此方は二人。
すぐにでも撃退し、"炎髪灼眼の討ち手"の方を追える"筈だった"のに……


何故、未だに十六夜咲夜を倒すことが出来ない?


いや、それどころか──

「ふっ!」
「がはっ!?」
「焔!」

ドゴンッ!!と、轟音。
咲夜による鋭い膝蹴りが、焔の腹へと勢いよく叩き込まれる。
場所を移動しながら戦っていた焔は、体をくの字に折り曲げながら道路の標識へとぶち当たった。
背中に硬い金属の感触が、焔の脳へ直接伝わる。

(ぐっ、がっ……っ!話には聞いていたとはいえ、幻想郷から来た奴は頭が一つ二つ、ずば抜けている……!)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:13:53.30 ID:MZ+tbx1s0<>

そのまま、金属で作られた一方通行を示す標識は根元からへし折られ、焔の体と共に吹き飛んで行った。
だが、彼女とてただ吹き飛ぶだけではない。
移動している間に辿り付いた第四学区の大通りに足をめり込み、彼女は踏み止まる。
第四学区は食品関係の施設が多いせいか、大通りも大型トラックが通るのを考えて作られており、かなり広い。

「舐め、る、なぁっ!」

周りから感じる一般人の視線など無視して、焔は標識を手に持つ。
ブォンッ!!と、分厚い空気の音が鳴った。
細い腕から現代医学上絶対にあり得ない筋力を見せ、標識を鉄パイプのように投げたのだ。
ただし、鉄パイプとはスケールが違い過ぎる。
横回転でブーメランに似た動きで飛ぶ標識が狙うのは、彼女から見て上空。
高い所から攻撃しようと突撃して来ていた、咲夜へだ。
十メートルは飛んでいる一般人ではない彼女へ、一般人ではあり得ない筋力で投げ飛ばされた、一般人では絶対に防げない攻撃が迫る。

「スペルを使うまでもないわね」

しかし、たやすく一刀両断。
銀光が煌めいたと思った時には標識は切断され、咲夜の後方へ二つに分かれて流れている頃だった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:14:27.30 ID:MZ+tbx1s0<>

「……!」

だが。
咲夜はナイフを構えたまま、落下しつつその顔を見る。
攻撃を防がれた筈の焔の口元には、ハッキリとした笑みが浮かんでいた。

ボンッ!!と、咲夜の背後で標識が爆発する。

ただ単純に咲夜がいる空間を爆発させても、効果は薄い。
魔法的な爆炎は起こすのも簡単だが、防ぐのも障壁を張りさえすれば防げれてしまう。
現に何度か咲夜には防がれていた。

「考えたわね!」

だが今のは違う。
標識自体が爆発したことにより、熱を持った鋼の欠片が対人手榴弾のように刃となってばらまかれたのだ。
それこそ、咲夜を背後から狙い打ちする形で。
完全瀟酒なメイドは、そんな奇襲でさえ背後を見ずにナイフを振ってやり過ごす。
ガガガガガッ!!と、鋼を弾き、体を三回転程させながら道路のど真ん中へと軽やかに着地した。
高さからして普通なら足の骨が骨折、最低でもヒビが入ってもおかしくはないが、そんな様子は見られない。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:15:00.78 ID:MZ+tbx1s0<>


「────ッ!!??」


そこで漸く、周囲の歩道や自動車の中に居た人々の悲鳴が炸裂した。
高位能力者にしか見えない者達が(実際は違うのだが)戦っている。
しかも子供の喧嘩レベルではなく、明らかに殺人クラスの戦いを行っているのだ。
巻き込まれたらどうなるのか、考えただけでも恐ろしいとばかりに周囲の人々は次々と二人の傍から離れて行く。
中には自動車を乗り捨てていく者もいた。
勿論、当事者である彼女達はそんな細かいことを気にしない。

「この、化け物め……」
「化け物って言うのは、貴方の所のトップにこそ一番似合うと思うのだけれども」

自分の世界で培った会話能力で、咲夜は微笑みつつ目の前の炎少女を挑発する。
しかしながら、短気な彼女は怒りマークを見せながらも攻撃してこない。
代わりに、

「暦!」
「?」

相方の名前を呼んだ。
姿が見えない、あえて放置していた黒猫少女の名前に、咲夜は警戒を強める。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:15:41.41 ID:MZ+tbx1s0<>


──瞬間、彼女の動きが止まった。


実際にはミリ単位で動いているのだが、周りからは氷付けにでもなったようにしか見えない。
目ではよく分からないが咲夜だけではなく、彼女の半径五メートル周囲の空気も停滞していて、まるでその空間だけ"時間の流れが違う"かのよう。

「アーティファクト『時の回廊(ホーラリア・ボルティクス)』時間停滞」

この異常な現象を引き起こしたのは、咲夜の右後ろに位置する三階建ての施設の屋根に立つ暦。
彼女の手の中には塔のような先端が二つある容れ物に囲まれた砂時計がある。
アーティファクト。
彼女達の主人から承った、彼女達の武器。
調という少女が持っていたバイオリンのように、暦の砂時計にも特殊な力があった。
それが、この限定範囲での時間操作。
主に時間の停滞と加速を操る、彼女だからこそ使える力。

「焔、今ッ!」
「分かっている!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:16:13.48 ID:MZ+tbx1s0<>

『止まった』状態の彼女へと焔は容赦しない。
左目に魔力を最大まで込め、一気に焼き尽くしてやろうと立ったまま固まっている咲夜を睨む、

「──っ?」

が、そこで気がついた。
気がつかざるを得なかった。
彼女の能力は左の瞳で爆破する空間を睨むことにより、発動する物なのだから。
焔が、その左目で見たのは、


動きが『時』によって止まっている筈の咲夜が、唇を釣り上げ、笑っている姿。


バキャンッ!!と、何かが砕け散るような破砕音が鳴り響いた。
それと同時に、彼女の時が正常に動き出す。

(レジスト!?)

時間停滞を形成していたフィールドが霧散したため、咄嗟にそう考える。
レジスト。つまりは魔法的現象を魔法的現象で打ち破るというのは、実際ないことではない。
寧ろ一般的。当たり前の現象だ。
だが暦の能力は時を停滞する。
つまりは能力に捕まった者は特殊な思考速度でもしていない限り、時を止められたことにさえ気がつかないのだが──
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:16:46.99 ID:MZ+tbx1s0<>

(ハッ!?そうだ、このメイドは時を使う──)
「幻符「殺人ドール」」

思考を最後まで終えるのは無理だった。
動き出した咲夜の、呟きと現れたナイフの群れによって。
現れたナイフ達は咲夜の周りを刃を光らせながら回転し、五十と五十に綺麗に分かれて一気に光となって突き抜ける。
シュパァァァァァァァッ!!と、気体を切り裂く甲高い音を響かせて、ナイフのレーザー群は焔と暦、両者に迫った。

「くあっ!?」
「はぐっ!?」

当たったら肉どころか骨さえも残りそうにないナイフ群を、焔は空間を爆発させた余波で、暦は屋根から飛び降りて躱す。
焔の方に向かっていたナイフ群は放置された自動車に直撃。暦の方に向かっていたのは屋根をごっそりヤスリがけのように抉り取った。
自動車の機構がナイフによって粉々にぶち壊され、衝撃が伝わってガソリンが大爆発する。
ガス臭い熱風が唸りを上げて、大通りに立つ三人へと吹き荒れた。

「ふっ、」

そして、

「ふふふっ、あはははははははっ!」
「「……」」

間を置かず咲夜による歓喜の咆哮が、爆炎によって紅く染まる大通りに響き渡った。
狂った感じはなく面白い漫画を見たのにも似た、純粋な笑い声に近い感覚。
ただ、その笑いには戦闘者としての歓喜が多分に含まれていた。
怪訝そうな、というか若干引き気味の二人にも気にせず、彼女はまだ笑いが収まらないまま、言葉を紡ぐ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:17:26.63 ID:MZ+tbx1s0<>

「ふ、ふふ……まさか、異世界に私みたいな力を持った人が居るなんて。やっぱり、面白いわね」

それは、幻想郷という狭い世界に居たからこその感想だった。
確かに彼女が居た世界には、自分の持つ時を操る力が小さく見える程の能力持ちが居た。
運命や奇跡などが代表的であり、実力で言うならば更に多くの人妖を知っている。
だがしかし、それでも自分の持つ能力を他の者が持っていたことはない。
精々、近い能力としては竹林の姫ぐらいだろうか。
それでも本質は違ったものだった。
なので、彼女にとっては始めてとなる、同じ能力同士の戦い。




だから、だからこそ。




「更に楽しくなりそうね!」

心がわき踊る。
完全な笑顔を見せて、咲夜は跳んだ。
地面が彼女の細身からは信じられない程の脚力を受け、ひび割れる。
ナイフを右手に握り紅い瞳で狙いを定めたのは、背後で砂時計片手に立っていた猫耳少女、暦。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:18:03.04 ID:MZ+tbx1s0<>

「うわっ!?」

神速と呼ぶに相応しい斬撃を、暦は身を屈めて避ける。
が、それを読んでいたように、腕を振った状態のまま回転して力を得た、咲夜の右足が鋭く真っ直ぐに叩き込まれた。

「ぐにゃ!?」
「甘いわよ」

ガゴンッ!!と透明な魔法障壁ごと、彼女は勢いよく蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた暦はノーバウンドで吹き飛び、数十メートルの距離を一気に飛んで行った。
蹴った衝撃で浮いた肉体を地に着け、咲夜はそのまま油断なく胸元からカードを引き抜く。
カードにはナイフであろう綺麗な模様が描かれており、かなりの魔力が封印されていた。
そして宣言。

「奇術「エターナルミーク」!」

同時に咲夜の手が消えた。
消えた、というより余りにも高速で動いているため、白い腕の姿が視認出来るレベルを超えていた。
目に見えない速度で振られる腕が放つのは、大量のナイフ。
銀のナイフが陽光を浴びながら空間を乱れ飛び、散弾となって焔へと唸りを上げて飛んで行く。
対して焔は一度瞳を閉じたかと思うと、目を開き、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:18:38.17 ID:MZ+tbx1s0<>

「炎精霊化!」

魔法のキーワードらしき物を叫んだ。
瞬間、彼女の全身が燃え上がり始め、炎が彼女の全身を覆い尽くす。
それも一瞬のことで、全身を包んでいた炎は朧げに服を焼け散らした肉体を覆っている。
彼女の肉体は変わっていた。
ツインテールの先は紅い炎が燃え、額からは人外を象徴する短い角が生え、更には全身の皮膚が紅い。

(炎精化?そんな上級魔術をあっさり……いや、種族としての力なのかしら)

ナイフを無造作に投げ続けながら、そう考える。
炎精化というのは、精霊魔術などで使われる精霊や妖精と似た霊的存在に肉体を変える技法だ。
単純な変化などと違い、肉体の構造自体が変わるので相当高度な術となる。
人外に囲まれながら過ごした咲夜だって、資料以外では滅多に見ない力だ。
そして、その力は……

「たかだかナイフ如き!」

目前に迫っていたナイフの群れに、焔は自ら飛び込む。
彼女の小さな体躯がゆらりと揺らめいた直後、
直撃したナイフ達全てが、彼女の体を素通りした。
まるで、炎を突き抜けるように。

「炎化……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:19:16.36 ID:MZ+tbx1s0<>

無駄だと悟り、スペルを即座に打ち消す。
肉体自体が炎になっているため、単純な物理攻撃は効かないのだ。
全ての精霊がそういう訳でもないのだが、焔はそういう意味では相当高度な術者なのだろう。

「貰ったぞ!」

そして気がつけば。
炎を纏わせた拳が、咲夜の顔面を焼き尽すべく迫っている。
肌をジリジリ焼く異常な熱気を感じさせる、灼熱の姿に、

「だけど」
「っ!?」

咲夜は笑いながら対処してのけた。
迫った拳を即座に張った障壁で正面からずらして、そして、
拳を直接ストレートで叩き込む。

「ぐ、ごっ!?」
「貴方が攻撃する直前は、絶対に実体化する」

見事なカウンターだった。
まともに、自分の前進スピードによる影響もプラスして頭を揺さぶる一撃を受けた焔は、来た道を辿るように押し流された。
意識を僅かに飛ばしながら、しかし歯を食いばって耐え抜く。

「ただ、ちょっと熱いわね。素手で殴ったのは失敗だったわ」
「っ、ほざけっ!」

ヒラヒラと殴った左手を空気で冷やしながら語る咲夜の愉快気な態度に、怒る焔の眼光が光った。
空中で態勢を立て直しながらも炎の瞳で咲夜を睨み、またもや何も無い空間が弾ける。
爆炎や爆風が何もない空間から生まれても、いつも通り動揺はしない。
メイド服を揺らしながらアスファルトを蹴り、爆発から逃げる咲夜。
空中に飛び上がり、姿勢を制御している彼女へ追撃が迫る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:19:50.79 ID:MZ+tbx1s0<>

「!」

背後。
背中に感じた鋭い殺気に対処するべく、咲夜はナイフを振るうった。

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

ガキャンッ!!と。
音を上げ、ギチギチギリギリと空中で拮抗する。
攻撃して来たのは、もう一人の敵である暦。
ただし、その肉体は先程までとは違っていた。
猫耳と隠れるように生えていた尻尾だけが人外である証だったのに、今では全身が黒い体毛で覆われ、目は金色に輝く猫目。
そしてナイフと打ち合う腕の筋力は、人外レベル。
獣人。人間ではない、異端の者。

「お次は獣人化、か。変身に憧れる年頃?」
「相も変わらず巫山戯た態度をッ!」

自分の全力で押して、尚拮抗しながら暦は荒々しく吠えた。
先の丁重な態度はどこへやらといった表情で。
そして吠えながら、獣人としての力による凄まじい連激を放った。
獣の筋力による打突が両手から、咲夜の上半身を打ち抜くべく放たれ続ける。
しかし銃撃に勝る打突の嵐を、咲夜は両手で防ぎ切る。
身体能力では暦の方が勝っている筈なのだが、魔力で強化された彼女の手は一撃一撃を見事なまでに受け止めていた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:21:29.73 ID:MZ+tbx1s0<>

「くっ、ニヤァァァァッ!!」
「っ!」

一撃。
一撃が咲夜の防御を潜り抜けた。
構えられた彼女の手をすり抜け、心臓に当たる部分へ黒い手が突き出される。


「残念」


が。
無駄だった。

「にゃっ!?」

気がついたのは、既に蹴り飛ばされてからだ。
背中から折れ曲がり、ガクンと崩れる暦が視界の隅で捉えたのは、自分を蹴り飛ばすメイドの姿。

(時間、停止……っ)
「貴方なら分かるでしょ?時の、強さというものが」

ドンッ!と、黒い体が宙を舞う。
ただ蹴り飛ばしたのでは無かった。
此方に攻撃をしようとしていた炎少女たる焔の方に吹き飛ばすことで、攻撃出来なくさせたのだ。
衝撃によりビリビリと余韻を感じながら、咲夜はナイフを抜き放つ。
抜き放ちながら、重力に従って落下し、

「ふんっ!」

自動車を片手で持ち上げた。
巨大な鋼の塊をメイドが片手で持ち上げるという、圧巻でしかない光景を形成しながら、彼女は振り被る。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:22:04.62 ID:MZ+tbx1s0<>


そして投げた。数百キロを越す、鋼の塊を。


ブォンッ!!と、空気を鳴かせながら塊は砲弾となって宙を飛ぶ。
狙いは宙に二人で浮かぶ、敵。

「チッ!」

焔の大きな舌打ちと共に、中途で鋼の塊は爆発した。
数百万円の物体が一撃でスクラップになるのは、持ち主からしてみれば溜まったものではない。
しかし、そんなことを気にする彼女等では無かった。
焔と暦の前方を覆う、爆炎のカーテン。

「ふっ!」

高熱のそれを、咲夜は真正面から突き破り、二人に砲弾の如く突撃する。
焔は再度舌打ちした。
自動車の影に隠れる形で、咲夜も接近していたのだ。
ここまで来ると、爆破しても自分達も爆発に巻き込まれてしまう。

「『時の回廊』自陣加速!」

そんな彼女の隣に浮かんでいた暦が飛び出した。
術によって浮かぶ自らの体を、甚大な脚力によって打ち出す。
更に、自分へとアーティファクトの効力を帯びさせ、自分の時間を加速した。
そうすると、暦は常人ではあり得ない早さを得られるのだが、

「それくらい、私にも出来るわ」
「っあ!?」

相手もそれは同じ。
時間加速同士がぶつかりあった結果、自然と技能の高い者が勝つ。
それは当然の摂理であり、当たり前のこと。
咲夜のナイフが、暦の頬を掠った。
思った以上に深く切れたのか、頬から血が強く吹き出す。

「暦っ!」
「出し惜しみはしない方がいいわよ!」
「くっ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:22:38.74 ID:MZ+tbx1s0<>

暦がなんとか咲夜の手元から離れたのを見て、焔の能力が発動。
爆発が空間に起こるとともに、三つの人影がアスファルトへと難着陸する。
ダンッ!!と、固い物がぶつかりあう硬質な音が響いた。
周囲には、すでに誰一人としていないため、三人の息遣いと爆発の余韻だけが、この場を満たす音だった。

「はぁ、はぁ……」
「この程度?だったら期待外れね」
「う、うるさいっ!」

相方が吠えるのを見ながら、焔はなるべく冷静に咲夜の姿を見る。
そのメイド服は所々汚れているが、それらは全て爆発の余波によるもの。
実際、彼女自身にダメージはない。
此方にもダメージは殆ど無いが、此方は本気を出した上、疲労献倍になりながらだ。
戦いの中で、はっきりしたことがある。
向こうは恐らく、まだまだ強い。
調子を取り戻すために、少しずつ力を強めていっている感じさえする。

(強さだけならば最強クラス……私達が二人で敵う相手ではない)

"四人"ならばともかく、二人では絶対に勝てない。
しかし、かといって戦闘を放棄し、離脱するのは今となっては難しい。
背を向けた瞬間にグサリと行かれる可能性もある。
服ではなく、炎で包まれながら彼女は相方に問いかけた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:23:51.00 ID:MZ+tbx1s0<>

(……暦、どれくらい戦える)
(まだまだ余裕!……だけど、正直、ムカつくけど!……勝てる気がしない)
(あぁ、分かっている)

彼女達とて馬鹿ではない。
力量差は、十分理解していた。
才能と経験の量では、二人は咲夜に負けてはいない。
ただ、"経験の密度"。今までどのような者達と戦って来たのか……その相手のレベルが、二人の経験とは比べ物にならなかった。
なので、今どう足掻いた所で粘ることは出来ても、勝ちはない。

(だとすれば離脱しかないわけだが……んっ?)

ふと。
ここで何故か、焔の感覚に違和感が走った。
何故か。焔本人もよく分からなかったが、目の前を改めて見て気がつく。

(十六夜咲夜が、攻撃して来ない?)

対峙している咲夜が、攻めて来ないのだ。
ただダラリと両手を下げ、受身の態勢で対峙している。
紅い双眸は此方を眺めており、暦がそれに「ウゥッ……!」と唸りながら反応している、といった形だ。

(……どういうことだ?)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:24:24.48 ID:MZ+tbx1s0<>

強者の余裕、というのならばまだいい。
だが、見た限り十六夜咲夜はそんな油断を見せる人物には感じられない。
むしろ逆。
油断の一欠片も見せずに、相手を容赦なく打ち倒す。そんな人物である筈なのに……

(いや、待て。なら何故私達はまだ生きている?)

自分の考えを否定した。
それだけ非常で完全な人物ならば、既に自分達は斬殺されている。
変化する間さえ与えてくれはしないだろう。
戦いが楽しいから、ワザと長引かせている?
いや、確かに暦の時の力によって、戦いを楽しんでいる感じではあったが──




(……"ワザと長引かせている"?)




突如、その単語で何かが分かったように焔は顔を上げる。
まさか、という感情を込めながら。
顔を正面から向けられた時を操るメイドはため息を吐き、告げた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:25:14.25 ID:MZ+tbx1s0<>

「"態々街中を選んで戦っていたのに"、何も違和感を抱かなかったのは幸いだったわね」
「──っ!」

それは遠回しな背定の言葉。
聞いた瞬間、焔の生きが詰まる。
そう、最初から気がつくべきだった。
人通りの多いこの場に誘導されたこと、相手の無駄な戦い方、"ワザと目立つような"行為の連発。
そしてなによりも、


戦い始めてから、未だにアンチスキルと呼ばれる治安維持部隊の姿がないことに。


これらの結論は、至極簡単な物となる。
つまりは、

「逃げるぞ!"罠"だ!」
「えっ!?」
「銀符「パーフェクトメイド」!」

行く手を塞ぐように、咲夜の手からスペルカードが発動する。
金属同士がこすり合う音を出しながら、ナイフの網が周囲を突き抜けた。

「邪魔だ!」

それらを焔は爆発で弾き飛ばし、逃げ出すための活路を開く。
後ろから暦がついて来ているのと、更に放たれ続けるナイフの群れを感じながら焔は炎を揺めかせながら飛んだ。
逃げるために。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:26:12.04 ID:MZ+tbx1s0<>

「えっ、ちょ、焔!?」
「説明は後だ!いいから早ぐっ!?」

しかし、逃げ出すことは出来なかった。
突如として出現した透明な壁のような物に、衝突したのだ。
自動車並の速度で何かにぶち当たった焔は、痛みに体を強張らせながらもそれを推測する。

(結界、だと!?炎化している私を止めれて、しかも気配を全く感じさせない結界など──っ!)
「っ!あ、あれ!」

暦の叫びに、焔はそれを見る。
見えたのは大通りの端で魔力を放つ、結界の媒介であろうもの。
小さな、それこそ手に収まるサイズのそれ。

媒介の正体は、"折り紙で作られた塔"だった。

「"陰陽術"……!?」

かつて主人が気まぐれとばかりに本をパラパラ捲って実践していた日本伝統の魔法を思い出し、




「にゃー、正解も正解。大正解だぜい、燃える女の子」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:26:48.63 ID:MZ+tbx1s0<>

巫山戯た調子の、しかし真剣味を感じる、掴みきれない声が焔の耳に響いた。
気がつけば、ナイフの群れが消え去っている。
アスファルトをえぐられ、ボロボロの大通りの一角。
施設の影から現れるように、声の主は咲夜に向かって歩いていた。
金髪にサングラス、更にはアロハシャツと不審者極まりない男。

「何時から居たの?」
「『スペルを使うまでもないわね』ってとこからだにゃー」
「最初からじゃない。さっさと出てくればよかったのに」

はぁ、と咲夜は呆れたようにため息を一つ。
それに対して男──土御門元春は、まるっきり巫山戯た調子のまま、

「いやぁ、どっかの誰かさんのせいで高度な結界の展開に戸惑っちまったんだにゃー。陰陽博士たる俺も、流石に今回は一苦労だったぜい?」
「ですが、魔術的トラブルを考えなくていい点では、ある意味楽だったのでは?」
「っ!?」

声が一つ追加された。
其方を見るように、焔の視線が駆け巡る。
反対側の道。
そこを塞ぐためなのか、スーツ姿の男が一人立っている。
此方は茶髪の爽やかな、優男風の男性。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:27:31.17 ID:MZ+tbx1s0<>

「あら?一人だけじゃないのね。まぁ、これだけ時間を稼がせておいて、一人だけって言ったら怒ってたけど」
「そこまで無能ではありませんよ」
「でもさ、私には状況がさっぱり理解出来ないのだけど?どういう状況?なにあの炎女に猫女は」

更にもう一人。
施設の屋根に座っていた。
つい数秒前には、居なかった筈なのだが。
サラシを胸元に巻き、肩から上着を一枚羽織っており、手には軍用ライトをクルクル回していた。
彼女は困惑と呆れが混じった目で、全体を眺めている。


そして。


「……オイ、もォいいンだよな?」

最後の一人が、上空から降って来た。
ズシンッ!!と、細身の体躯からあり得ない轟音を上げて、その人物は着地する。

「貴方も来てたのね」
「あれだけ五月蝿くやってりゃァ、イヤでも来るに決まってンだろうが」

白い髪。
紅い目。
黒い服。
白い杖。
街中でも絶対に目立つ、悪人面の男がそこに立っていた。

「お、前達は……」
「名乗るもの程じゃないけど、一応名乗っとくか」

土御門は、軽い調子で、




「暗部組織"グループ"だ。お嬢さん方を捕まえに来た、な」




宣告を下した。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:28:13.02 ID:MZ+tbx1s0<>








世界は変化してゆく。
人々が入り混じり、進んで行くことで、
世界は変化してゆく。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/06(水) 17:30:44.92 ID:MZ+tbx1s0<>
次回はグループ関係の話だと思います。
急用が入っているので、今日はこれだけで!
ではまた!


PS近日中に、総合の方に何か投稿するかもしれません

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/04/06(水) 18:27:52.63 ID:unvua+DG0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2011/04/06(水) 19:04:31.28 ID:QAd5yXCAO<> 乙!

サブラクとメアは出てきたりする? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/06(水) 20:07:54.22 ID:2J+ntnzIO<> 一方さんキター
グループの活躍楽しみにしてますね
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/06(水) 22:31:12.16 ID:qMz4ZE2T0<> 乙

早くシャナに断罪や審判を使ってもらいたいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/07(木) 20:37:50.62 ID:KD/TbRGi0<> これってここの作品以外で他の作品とか出たりします? <> ◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 10:22:35.28 ID:j5MthPDd0<>
>>789
出ます。いつか出ます。ただメアは出ない可能性が高いです……

>>791
そうですね。シャナと悠二が会って、それからなのでまだ先ですが、早く使ってもらいたいものです。

>>792
回想でのみの出演となります。
作者自身うろ覚えな作品も出る可能性があるので、一概には言い切れませんが。


今日、用事が無い限り夕方投稿しに来ます。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:35:18.25 ID:j5MthPDd0<>

■更新が遅れた理由■
・総合で短編を書いていたから
・グループの戦闘描写が想像以上に長引いたから


はい、言い訳ですね!
……投稿します
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:36:27.25 ID:j5MthPDd0<>







「"グループ"……?」

第四学区の大通り。
トラックなどの大型車が通ることも考慮して作られた、普通の道路よりも遥かに横幅が広い道路。
片側四車線という馬鹿でかい通りに、七人の人影がある。
そこは大きく透明な壁で切り取られるように囲まれていて、中の者を脱出出来なくしていた。
壁の正体は結界。
魔術という、この世界の裏側に存在する力。
科学の本拠地でそんなことをしてのけたのは、金髪に青いサングラスをかけた高校生、土御門元春。
多重スパイとしての顔もある彼は、疑問を紡ぎ出した全裸と言っても過言ではない?の言葉に笑いながら、しかし重く言葉を発する。

「そう、学園都市に存在する揉め事処理屋さ。まっ、嬢ちゃん達は少々調子に乗り過ぎたってことだ。あんまり科学の力を舐めたらいけないぜい?」
「……クソッ」

口汚く焔が言葉を吐き捨てるのを見てから、土御門はやれやれとばかりに両手を広げ、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:37:02.58 ID:j5MthPDd0<>

「嫌われっちまったぜい」
「そりゃそうでしょ。サングラスにアロハシャツなんて外見の男、普通の女子なら受け入れるのは難しいわよ」
「更にはメイド好きのシスコンという救いようのない変態だし。一回閻魔の説教でも受けたらどうかしら」

そんなやる気の見えない彼へ軍用ライトを回しながら屋根に立つ結締淡希、ナイフを構えたままの十六夜咲夜、女性二名による厳しい言葉がぶつけられた。
口を開きつつも二人はそれぞれの警戒度で、焔と暦の動きを注意深く見張っている。
その辺りはやはり、二人が一般の女性でないと感じる姿だ。

「うげぇ……女性の意見はやっぱり厳しいにゃー」
「当然の言葉だと思いますよ。自分もそう思いますし」
「グタグタ言ってねェでサッサと終わらせるぞ。五人がかりで逃がしましたじゃ笑い話にもならねェ」

更に二つ声が交わされる。
一つは焔達と土御門の間に立つ、白い男から。
もう一つは大通りの施設の影に立つ、茶髪の見栄えのいい青年からだ。
スーツを着た茶髪の青年の名は、海原光貴。
本名は別に存在する、"アステカ"の魔術師。

レベル5に届きそうなレベル4に、超一流の陰陽博士。更には時を操るメイドに、"原典"所持者の魔術師。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:37:35.56 ID:j5MthPDd0<>
そこまでは焔と暦にとって許容範囲内だった。
学園都市でも指折りの実力者達であり、多勢に無勢なのは変わりないとはいえ、まだ戦える。

だが、だがしかし。
最後の白い男。彼が居ることにより、許容などという言葉は使えない。
主人の、更に主人から受け取った資料……そこに書かれていた、二人の少年。
この世界においての『最重要人物』として取り上げられた、英雄の素質を持つ者。

「一方通行……ッ!」

無理だ。
二人の脳内をその言葉が埋め尽くす。
勝てない。自分達は絶対に、この少年には勝てない。
それがよく分かっていた。
分かっていたからこそ、漏れた呟きだった。

「……俺のことを知ってるみてェだな。つゥことはだ、もっと別の情報を知ってる可能性もある訳だ」

そして白い悪魔は、一歩を踏み出す。
周りの四人がそれなりに間合いを取っているというのに、彼は全く無造作なまでに一歩を踏み出した。
それは彼が誰からの攻撃も意味が無いと、事実として認識しているからだ。
一方通行の首元にある黒いチョーカーは振り切られており、電極が彼の脳へと力を与える。
それだけで、彼は核兵器すらも笑って防げる最強と化す。

「例えばこの世界に来てる異世界とやらのクソ野郎共のことや、あの『神』のことも、な」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:38:18.52 ID:j5MthPDd0<>

更に一歩、彼は踏み出す。
どんなベクトル変換をしているのか、細い足からは信じられない程の轟音を立ててアスファルトが綺麗に陥没した。
ただでさえナイフやら爆発やらで荒れていた戦場に、更なる亀裂が入る。
明らかな脅しだが、実の篭った現実的な脅しだった。

(……フォローした方がいいわね)
(あぁ、分かっている。こっちは結界を維持するから、そっちは魔術へのフォローを頼む)

そんな彼の背後で、咲夜と土御門は小声で短く会話していた。
実の所、一方通行のベクトル操作は完璧ではない。
魔術というものに対して、彼の能力は万能とは言い難いのだ。
ただし、とある少年にぶん殴られる前の彼ならともかく、

「さて、ボロ雑巾のよォになって連れていかれるか、大人しく連れていかれるか、好きな方を選べ」

今の彼に、そんな弱点など弱点たりえないが。
油断の欠片も見せずに、一歩一歩を歩いて来る一方通行。
その姿に、何故か壁が近付いて来るような圧迫感を感じてしまう。
恐らく一気に飛びかからないのは逃がす可能性を極限まで削るためだろう。
そうで無ければ、今頃彼を含む五人は二人へと勝手に攻撃を開始している。

「……っっ!あああああっ!!」

耐え切れなくなったように、焔の叫びが場に突き通る。
同時に焔の左目が煌き、魔力が渦巻いた。
刹那、一方通行の居る場所を中心とした爆発が巻き起こる。
轟音をたてて炸裂した爆風は巨大で、術者であり炎精状態である筈の焔でさえ、顔を覆ってしまう程の力があった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:38:51.92 ID:j5MthPDd0<>

「暦ッ!」
「『時の」

そして間を置かずに、暦の手元が光り出した。
獣人状態の彼女の手に握られているのは、アーティファクトである『時の回廊』。
魔力で創り出されたそれは、暦の意思によって時間という絶対的である物を操作することが出来る。
二人としては本気を出しても十六夜咲夜一人に勝つことさえ出来ないのだから、早急に逃げ出す以外手が無かったのだ。
時を止め、結界の核か術者を始末し逃げるという手以外には。
もっとも、それでも逃げ出せる確率は低いが。

そして、そのただでさえ低い逃走確率が一瞬で零となる。

一秒後、音を立てず、暦の持つ砂時計が粉々に"分解"された。
分解される前、奇妙な印が浮かび上がったように見えたことから、自然現象ではないと分かるのが精一杯。
一瞬。完全に思考が停止する。
突然の事態に、体が追いつかない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:39:23.95 ID:j5MthPDd0<>

「──なっ!?」
「ふむ。どうやら原典レベルの霊装では無いようですね。安心しました」

数秒経ち、漸く驚きを叫んだ暦に答えるがごとく、海原の言葉が響く。
その右手には"黒い黒曜石"が握られていた。
削ることで刃を持った、石のナイフだ。
それが今、暦のアーティファクトをバラバラにした原因だと断定するのに迷いはなかった。

(魔術、アーティファクト、能力!?)

言葉と態々道具を取り出しているということから、焔は海原の方へ殺気を充満させた視線をやる。
ただの視線ではない。
彼女の目は、本当に人を殺すことが出来る。
魔力を込めて、空間を爆発させようとした所で、

目の前に突如、巨大な物体が"音も無く"現れて視界を塞いだ。

「……っ!?」

巨大な、人間よりも大きな鋼鉄の物体。
それは白い4ドアの自動車だった。
一般人が逃げ出した際に放置していた自動車だと理解した時には、既に力を使ってしまった後。
焔の能力の弱点、視線が通らなければ爆発しないという点をつかれるどころか、利用されてしまうと理解はしても、もう間に合わない。
視線から放たれた魔力の筋が、直ぐ前に現れた自動車に直撃し、
ドンッ!!と機械油臭の爆風と熱波がほぼ零距離から叩きつけられる。
だが所詮は熱風。
常人なら黒焦げになるような爆発を受けても、体の半分が魔法的に炎へ変化している焔にダメージが当たることはない。
ただし、それは彼女だけのこと。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:39:57.67 ID:j5MthPDd0<>

「うわっ!?」
「っ、しまった!」

相方の獣人少女の方はそうはいかなかった。
自分の武器を壊され、放心していた隙をつくかのような一撃。
モロに受けてしまった暦は、顔を手でガードしながらも薙ぎ倒されて転がる。
それを爆炎の中で見ていた焔は、舌打ちをして彼女に駆け寄ろうとした所で、


轟!!と、白い手が正面から襲い掛かって来た。


「──」

真正面、視界を完全に爆発によって防がれていたというのに、爆煙を引き千切るかのごとく手が伸びて来る。
まるで悪魔の手のようで、しかし命を奪うという点では悪魔の手に違いなかった。

「──ッ」

絶望的な死の手は、声を上げる暇さえ与えてくれない。
反射的に焔は目の前に炎の壁を創り出していた。
彼女の能力によるものではなく、魔力に生み出された炎の丸い盾。
渦巻いている盾が張られた直後、

「ショボいンだよ」

ヒュボッ、と。
手は、たやすく炎の盾を貫いた。
普通の銃弾程度なら熱で溶かし、大砲レベルの衝撃でも防げる筈の盾が紙のように。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:40:29.29 ID:j5MthPDd0<>

「!?」

足を後ろに運ぶ暇は、なかった。

「つゥかまえた」
「がはっ!?」

焔の細い首が鷲掴みにされる。
そこに至ってようやく辺りに満ちていた爆煙が消えていった。
そして、現れた白い手の主は勿論、紅い瞳を持つ少年。
学園都市最強の能力者、世界を滅ぼすことが出来る存在。
一方通行。
能力を名前とする彼は、焔を重さが感じさせない手つきで持ち上げる。

「ぐっ、かはっ……!?」
「生け捕り成功、ってなァ。面倒な体しやがって。なンなンだよオマエは。ホントに人間か?」
(それは、此方のセリフだ……っ!)

魔法というものにまだ理解が及ばないが故の言葉に、焔は内心で叫び返す。
現在の焔は肉体が通常の人間とは違い、炎のようなものに近い。
それを魔法のまの字さえつい最近までは知らなかった、科学の存在がたやすく捕まえているのだ。?
手に一つの火傷も負わずに、ゴミを掴むように無造作な動作で。

「チッ。オイ、こいつを捕まえとく方法なンざあンのか?」
「そこは安心しろ。ちゃんと魔術(オカルト)を捕まえておく方法はある」

一方通行の気味悪気な言葉に、土御門は冷たい笑みで返す。
ふン、とため息と納得が混じった息を吐き出しながら、最強は更に尋ねる。
土御門にではなく、他のメンバーへと。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:41:04.94 ID:j5MthPDd0<>

「で、そっちはどうなンだ」
「終わったわ」
「一応、ね」
「……っ!」

"何故か触れることが出来ない"手の拘束から逃れようともがきながら、焔は苦々しく息を飲む。
荒れたアスファルトに張り付けにされるように、ナイフと瓦礫や自動車の破片に囲まれて気絶している暦を見たからだ。
体を覆う黒い体毛が消えている──つまりは獣人化が解けていることから、気絶しているのが分かる。
頭部周辺の地面が陥没しているため、恐らくは頭に一撃貰ったのだろう。
そして張り付けと気絶、両方やったのは間違いなく佇むメイドにサラシ女に違いない。

「それより貴方、裸の少女を掴み上げて眺めるってちょっと犯罪っぽいわよ」
「そうですね。ロリコンではないかと心配になりますよ」
「ロリコンはオマエだろォが」
「……っ、……!」

咲夜からの言葉に同意する海原にだけは反論した。
多分、咲夜の性癖が分かっていたら反論していたに違いない。
そんな談笑にも似た雰囲気に、焔は自分が裸を異性の前に晒している(服は焼けて既に無い)のに気がつき、しかし体を隠そうとは思わなかった。
それどころではないからだ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:41:34.42 ID:j5MthPDd0<>

(最悪だ……っ!)

詰んでいる。そう言って過言ではなかった。

自分を捕まえているのは最強の存在。
近くには自分のよく知らない日本の魔術の使い手。
更に恐らくは"空間移動"関係の力を持つ女性。
自分と相方二人掛かりでも倒せない強者のメイド。
背後には一瞬で物を分解する力を持つ魔術師。

特に背後の魔術師、海原が不味い。
例え完全に炎化して一方通行の手から脱出したとしても、背後から狙い打ちされてしまえば防ぎようがない。
空間移動の力を持っている女が居ては、単純な速度で逃げ出すのも不可能。

(暦は気絶している……逃げられない。な)
「自害などしてくれるなよ」

底冷えするような冷徹な声が、彼女の思考を先取りするように響いた。
ビクン!と、思わず肩が跳ねる。
焔を震わせるような声を伝えたのは、土御門。
彼は完全に包囲された彼女へ、サングラスの奥にある獰猛な目を向けながら言葉を続ける。

「少なくとも一人は既にこっちに捕まっている。が、お前を殺しても構わないって訳じゃない。"死体の脳から直接情報を吐き出させる"方法も完全ではないし、死体を処理するのも面倒だ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:42:10.69 ID:j5MthPDd0<>

聞く者全員が悪寒を感じるような残酷な声だった。
場によく響いて、でも小さな声。
有無を言わさない、闇に居る者のみが発することが出来る言葉だからだ。
が、何故か周りの一方通行達は「甘い」とでも言いたげな、しかし「しょうがない」ともいえる表情を浮かべている。
土御門の言葉に含まれた意味。
それは要するに「死人を増やすのは後味悪いから大人しくしといてくれ」という意味だ。
確かに殺さなければいけない場合、殺すのに躊躇いは彼等に無いだろうが、だからといって無駄な虐殺を行う程彼等はイカレれてはいない。
だからこそ、根っこの所ではやはり甘い一方通行は表情の皮膚を歪めながら話を変える。

「これからどうすンだ?結局"グループ"全員で動くのかよ」
「というか私はまず状況が理解出来ないのだけれど?明らかに"能力"じゃないわよね、それ」

結締は軍用ライトで、一方通行が掲げている焔を指し示しながら、

「急に呼ばれて説明も無しにここに移動させられて……ちゃんと説明してくれないと、私もう帰るわよ」
「あら、事情を知ってたんじゃないの?」
「私はただグループの仕事だー、って言われて集められて、ここに移動させられただけ。魔術なんてファンタジー、サッパリよ」

へぇ、と質問者の咲夜は相槌を打つ。
気兼ねないその態度に、結締は特に何も言わなかった。
ただ内心で呟く。

(……魔術っていうのに対する"心当たり"がゼロな訳じゃないけれどね。というよりこのメイド女は一体……?一方通行と土御門は知ってるみたいだけど)
「自分もですね。自分は魔術師ですが、彼女達のようなものは始めて見ます」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:42:39.87 ID:j5MthPDd0<>

重ねるように、海原の言葉も発せられる。
グループが集まった直後に、咲夜が戦っているという情報が入ったのだろう。
説明の前に行動を起こした、という訳だ。
それでも『戦い』のことなど何も知らない二人が土御門に従ったのは、ある程度の信頼はあるからなのか。

「悪い悪い、急な動きが起きたからな。先に行動したのさ」
「もしかして、私を外出させたのは彼等と集まるため?」
「……チッ」

舌打ちを一つ。
そして咲夜の言葉に、正確には一つの単語に反応するもう一人の女性。

「あらあらぁ?外出?もしかしてもしかして、貴方幼女だけじゃなくてメイドまで好きになっちゃったのかしら?」
「新たな変態二人目、ですね」
「うるせェンだよ」
「そうそう、一人目は一体誰なのやら……」
「変態は貴方でしょう?金髪で黒い眼鏡をかけた、流行に乗ろうとして失敗している残念美男さん」

またもやメイドさんからの辛辣な言葉に「うぐぅっ!?」などと言って胸を抑える土御門。
なんだこいつ?病気なの?と焔含む全員の思考が一致した瞬間だった。

「……と、いうことでだ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:43:13.03 ID:j5MthPDd0<>

が、土御門は仕切り直すように口を開き直す。
今の会話はもうこの状況が不動となっているからこその、余裕溢れるお遊びだったが、決める所はきっちり決める。
それが、グループ。

「大人しくついて来てくれると、お互いにとって一番いい結果になるんだが……」
「ほざけ、この変態が……っ!」

首を絞められ、声が小さい。
だが、土御門を睨みつつ焔ははっきりと言い切る。
その生意気な態度に、やれやれと彼は息を吐く。

「しょうがない。強制連行するか」
「その前に説明お願いね」
「自分からもお願いします。正直、状況について行けません」

異世界などという事情をサッパリ知らない海原と結締の言葉に、土御門は口調を崩さないまま「あぁ」と言って、




「"あれ"をどうにかした後にでもゆっくり、な」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:43:44.95 ID:j5MthPDd0<>

バキャン、と。
透き通った破砕音が、辺りに木霊した。
薄いガラスを綺麗に砕いたような、余韻が美しい音。
そして現実の固体では出せそうにもない、異音でもある。
壊れたのは、周囲を囲っていた人払いと壁を形成していた結界だ。
土御門が指し示す物に直ぐに気がついたのは、一方通行。
彼は目に見えない魔力の余波を受けて僅かに苦痛の表情を見せ、顔を上げる。
そしてその姿に釣られるように咲夜、海原、結締の三人は顔を上げてギョッとなった。

「……氷槍」

人が一人、足場も何も無い五十メートル上空に浮いていた。
パラシュートなどの道具も使わず、風などによる浮力を受けているようにも感じなかった。
しかし浮いていること自体が驚きの原因ではない。


その"少女"の周りに、百を超える氷の槍が並んでいたからだ。


水色を含む、半透明な細長い物体。
細長い、といっても太さは二メートルはあり、長さは五メートルを優に越す。
ある程度の平均を持って空を覆う氷の弾幕。
投下を待ち望んでいる、爆弾の雰囲気を漂わせており、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:44:24.31 ID:j5MthPDd0<>

「行け」

実際に、斜め下に先端を向けて射出された。
空気の層を貫き、目にギリギリ視認出来る速度で氷の弾幕は五人へ襲い掛かる。

「「「「「──」」」」」

ゴバッッッ!!と、四方百メートルの空間が正しく一掃された。
大地へと轟音を上げながら次々と突き刺さり、アスファルトの破片を勢いよく巻き上げる。
衝撃で砕けた氷の破片も次々と空中を舞い、辺りの気温が一気に五度程下がった。
氷の柱が大量に突き刺さる光景は、とてもでは無いが現実とは思えない。もはや空爆だ。
明らかに、現実的な人間に対する攻撃のレベルが違う。

「赤キ木ヲ焔ト変エ盾トスル!(モえるくらいならタテになれ!)」

が、五人もただの人間ではない。
赤い折り紙が舞ったかと思うと、一部の空間に水蒸気が立ち込め始めた。
熱。
氷とはうって変わって炎のような壁が出現し、攻撃を防いでいたのだ。
炎のような光の壁を生み出したのは、陰陽博士たる土御門元春。
彼は手を翳し、媒介たる折り紙に魔力を加えながら苦い笑みを見せる。
手に感じる重みは、大きい。

「チッ、中々やるじゃないか」
「いやー、楽ねこれは」
「いやはや、楽ですねぇこれは」
「……オイこらお前ら」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:44:55.53 ID:j5MthPDd0<>

そして壁で必死に飛んで来る氷の余波やら破片やら防ぐ土御門の背後には、結締と海原の姿が。
彼等は余裕余裕という表情で土御門の壁によって生まれる、安全範囲に立っていた。
自分の魔術や能力を使用して氷の攻撃を躱し、ここまで来たのだろう。
そう考えつつ、土御門は働く者のみが感じる怒りを含めながら怒鳴る。

「少しは手伝え!氷に対して炎の術式を利用しているとはいえ、完璧じゃないんだからな!」
「そのことなのですが、土御門さん。貴方、魔術をそんなに使用して大丈夫なのですか?」
「後で説明するから、さっさとしろ……!」
「魔術、ねぇ。ぶっ飛んでるっていうかなんていうか。驚くつもりは無かったけど、驚かざるを得ないわねこれは」
「………………」

暫し、動かない二人に対して土御門は無言になり、

「……あれ?土御門さん?何故盾を傾けて……うわ、余波が!?」
「ちょ!?洒落なんないわよ!?悪かった!悪かったから!!」

氷の雨の中、魔術師と能力者の悲鳴が鳴る。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:45:33.73 ID:j5MthPDd0<>




一方で。

「!」

ボォンッ!!と、爆発が起きていた。
氷の力による物ではない、ちゃんとした炎による物だった。
紅い爆炎が氷によって冷やされた大気を押し流し、気体体積の急激な変化によって轟風が吹き荒れる。

「ぐっ!」

そんな空間から勢いよく飛び出したのは、炎の塊。
人の形をした炎の塊は、地面に着地すると共にしっかりとした人型をとる。
小さな角を生やした、全身から炎を発する少女、焔。
完全に炎化することで、あの悪魔の手から脱出したのだ。
彼女は息を吸う時間も惜しいとばかりに走り出す。
辺りにはまだ氷が降り注いでいるのだが、無視した。

「暦!」

そして目的の人物を見つけ、一気に駆け寄った。
荒れたアスファルトの上に投げ出されている少女、暦。
気絶してから変わらない姿で地面に張り付けられており、不思議と氷の弾幕は彼女の周りには全く落ちていなかった。
暦の体を燃やさないよう、気をつけながら抱え上げ、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:46:09.41 ID:j5MthPDd0<>

「酷い外傷はないか……早くここを離れ」

立ち上がり、逃げ出そうと足に力を込める。

「動かないで」
「──!?」

逃げれなかった。
一瞬。
瞬きの間に、白銀の牢獄が彼女を囲む。
牢獄、白銀の刃によって形成された拘束。
周りを数センチの間を開いて滞空するナイフの群れに、自然と息を飲む。
ギラギラとした刃が向けられていては、動こうにも動けない。

「……っ!」
「動けば刺す。喋っても刺す。能力を使っても刺す。分かったかしら?」

後ろに、音無く十六夜咲夜は立っていた。
メイド服に汚れの一つも付けることなく、完全瀟酒の姿を崩すことなく。

「……」

口を開くことさえ許されず、焔の全身からドッ、と力が抜けた。
炎精化も解け、周囲を覆っていた熱気も収まる。
歯を食い縛るが、状況はそう簡単に好転しない。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:46:42.27 ID:j5MthPDd0<>

「そう、大人しくしていてくれれば──」

そして。
降参の意思を示したであろう、焔を横目で見た咲夜に、
氷結の一撃が迫る。

「っ!」

空気を切り裂く、喰らえば絶対に生物にとって不味い一撃。
ナイフを浮かばせていた魔力を消し、左横からの一撃にのみ意識を当てる。
一撃の正体は、拳。
一般よりやや小さめの、しかし音速を軽く突破している殺人拳。
鋭い、顔面に向かって放たれたその一撃に対して咲夜は反射で首を傾ける。
が、直前で拳は止まり、引き戻された。

(フェイント!)

グルン!と。
拳の主は体ごと回転し、右の肘打ちを繰り出してくる。
狙いは腹。
予め予想していた一撃に、咲夜は手を動かす。
が、

「ふっ」
「!?」

更に、肘打ちも止まった。
フェイントだと理解はしても、高速で動く体はついていかない。
ビダッ!と動きが止まってしまう彼女に対し、敵は肉体をもう一度半回転。
全くの死角に陥った右側から、一撃が迫る。
咲夜の頭部を薙ぎ払うように。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:47:14.80 ID:j5MthPDd0<>

「──ッ!」

バギャンッ!!と、"金属"が破壊される音が鳴った。
衝撃に押されて、咲夜の体が回転しながら吹き飛ぶ。

だが、死んではいない。

「──危なかったわね」

ズザザザザッ!!と、摩擦音を盛大に上げながら着地した。
拳を薙ぎ払うように──つまりは裏拳として叩き込まれた咲夜だが、ナイフの束を瞬時に間に挟むことでクッションとし、直撃を防いでいたのだ。
言葉では簡単だが、実行するには達人の領域にまで行かなければ出来ないであろう行為。
ただ砕け散った破片まで躱すのは無理だったようで、傷一つ無かった肌には一筋の紅い線が入っていた。

(それでも直撃よりは遥かにマシでしょうし、仕方無いとしますか)

右に纏めていた髪が、拳に纏われていた冷気で一部凍ってしまっている。
直撃していたら凍り付けにされて、粉々に砕かれていたに違いない。
脳内で自分に体術を仕込んでくれたとある門番に感謝した。
何故なら……

「"中国拳法"に"氷属性の精霊魔法"、ね。貴方は一体何者?」
「一瞬でそこまで見抜きますか……」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:47:45.02 ID:j5MthPDd0<>

トッ、と。
ナイフの牢獄から解放された焔を庇うように、少女がアスファルトの瓦礫に着地し、咲夜に対峙する。
異様だった。
見た目の年は十歳程。
"白い髪"を持ち、民族風の男性服を着た少女。
その瞳は無機質で、まるで"人形"。
しかし、誰が信じるだろうか。
彼女が周囲一体を吹き飛ばした犯人などと。

「"六番目(セクストゥム)"、様……」

焔の口から漏れたのが、恐らく名前であろう。
対峙しつつも、咲夜は訝しむ。
セクストゥム。
それは確か、ラテン語で六番目を意味する単語では無かったか。
勿論おかしなことではない。
日本にだって、一郎さんやら三郎さんなんて名前に数字の意味がある人間は居る。
しかし──

「暦を抱えなさい、焔。扉(ゲート)を開きます」

身長百五十センチ程の小さな少女は、高圧的な態度で告げる。
それに反抗することなく、焔は暦を抱きしめた。
合わせるように、焔の前で何かが逆巻く。
それは水。
魔力が込められた、自然の水とは一線を介した存在。

(水を媒介にした転移魔法!)

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:49:09.42 ID:j5MthPDd0<>

スチャッ!!と、ナイフを即座に取り出し、足を踏み出す。
時に干渉するべく、奥の手の一つである懐中時計を取り出そうとして、


ドバァァァァァァァンッ!!!!と、衝撃波が敵味方区別なく襲った。


外側。
周囲を氷の柱が覆う中で、氷の世界を薙ぎ払って莫大な風の一撃が轟音を上げてやって来た。
さながらそれは天然の壁。
逃げ場のない、死のローラー。

「っ!」

咲夜は手で目を庇い、狭ばれた視界で壁の行方を見守る。
全くの反対側を襲った風は、間にある氷達を一瞬で粒へと変えて行き、水に慌てて飛び込もうとする焔と、飽くまで冷静に立ち続けるセクストゥムと呼ばれる少女を数秒経たずに飲み込んだ。
そしてそのまま、一気に突き抜けて行く。
バキバキバキバキィッ!!という氷の破砕音が響く中、余波を手で防ぎながら咲夜は呟く。

「……強い」

紅い目は、見ていた。
セクストゥムが、最低限の魔法障壁で己と焔のいる場所のみを防いだのを。

「……やれやれ」

そして、自分の真後ろに高速で着地したのも。
瞬動。
戦闘技術の一つで、強い力で地面を蹴り、そして急停止する単純な移動技。
単純故に、奥が深い技。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:49:44.60 ID:j5MthPDd0<>

「十六夜咲夜。『時間を操る程度の能力』」
「そして完全瀟酒な、悪魔の従者よっ!」

背後でセクストゥムが地面を蹴ると同時に、ナイフを振り切った。
刹那、魔力が込められた銀のナイフと氷の力を持つ拳がぶつかり合い、相殺される。
ガキャンッ!という音とともに、弾かれ、間合いが開く。
対魔の力を持ったナイフで切り裂けないという、巫山戯た力を込められた拳に舌打ちしつつ、ナイフを投擲。
一本だけに見えたナイフは、しかし飛んでいる間に十に増えた。
奇術ともいえる現象に、だが人形のような少女は少しも怯えない。

「弱い」

一言、短い感想を述べてから飛んで来たナイフ全てをつかみ取る。
銃弾並みのスピードに対し、銃弾を超える速度で振るわれた両の手にナイフを掴まれ、咲夜は、

「……そこ、射程圏よ」
「?」

意味不明な言葉を放った。
僅かに浮かびながら首を傾げるセクストゥム。

「!」

だか、間を置かずに気がついた。
自分を目指して、何かが接近していることに。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:50:15.84 ID:j5MthPDd0<>

「──クソが、調子に乗ってンじゃねェぞ!」

時速にして七百五十キロ。
背中に四本の竜巻を接続し、超高速で飛行する一方通行の手が、セクストゥムへと迫った。
彼女は依然、表情を欠片も変えずにただ障壁を展開する。
普通の障壁では無かった。
全方位に広がる、曼荼羅のような多重構造魔法陣。
堅牢なそれは一方通行の素手による一撃を受け、壮絶なスパークを上げた。
が、

「あァァァァァァァッ!!」
「!?」

スパークを上げるだけで終わらない。
叩き込まれた腕は、物理学上普通に殴っては絶対に出せない威力の力を叩き出す。

「!?」

其処まで至って、漸くセクストゥムの顔に人間らしい、驚きの表情が浮かんでいた。
そして驚いている間に、一方通行の白い拳はあり得ないベクトルの力を持ってして障壁をぶち抜く。
甲高い破砕音とともに、彼の拳がセクストゥムの顔面へと躊躇の一欠片も見せずに叩き込まれた。

「……!」

轟音を上げ、薙ぎ倒す。
バランスを崩しながら、セクストゥムは氷とアスファルトが混ざり合った瓦礫の山へと砲弾のように勢いよく突っ込んだ。
巨大な轟音とともに、瓦礫の山が崩れ去るガラガラした音も鳴り響く。
殴り倒した一方通行自体は、足を大地にめり込ませ止まった。
背中に接続されていた竜巻も、吹き消すように静かに消えて行く。
表情には、汗が幾つか垂れていた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:50:44.94 ID:j5MthPDd0<>

「ぐっ……」
「どうしたの?随分疲れてるじゃない」
「……どうもねェよ」

?せ我慢だな、と咲夜は思ったが言うのは止めておいた。
言ったら言ったで面倒なことになるのは目に見えている。

「アイツ、人間じゃねェな。人体構造や構成物質が違ェ」
「人間じゃない、ね」

一方通行は人間でないというのに驚きを感じ、咲夜は普通に返す。
咲夜にとって、自分の周りでは人間の方が珍しいのだ。今更敵が人間ではないと言われた所で、驚きはしない。
それに、あの少女の不気味な雰囲気は人外だからこそ纏える物だ。
なので彼女は大して驚かない。

「── 一方通行に、十六夜咲夜」

ガラガラと、今だに煙を上げながら音を出し続ける瓦礫の山。
其処から音に混じるように、声が響く。
異常なまでに透き通った、女の声。
砂煙の向こうから、氷で冷えた大気を震わせて声が一方通行と咲夜の耳へ届く。
ピクリ、と。両者の指先が動くが、足は動かさない。
立ち昇っていた砂煙も徐々に消え、情景が顕らとなった。
少女は瓦礫に半身を埋め、服をボロボロにしながらも冷静に思考を紡ぎ出す。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:51:14.74 ID:j5MthPDd0<>

「危険度は最大のレベル10。両者を同時に相手にするのは危険だと判断……」
「まるで一人なら相手に出来る、なんて言い方がイラッと来るわね」
「オマエは黙ってろ」
「一人なら相手出来ますが?」
「オマエも余計なセリフを吐く必要はねェンだよ」

人形のようだと思ったが、それなりに人間らしい部分もあるようだ。
と、一方通行はジト目で倒れているセクストゥムを見やる。
感じる雰囲気は、人間の物とは思えない程冷たい。

「此方の目的は達成しましたし、引かせて頂きます」
「随分と余裕じゃねェか、あァ?確かにあの二人は逃がしっちまったが、オマエまで逃がすと思ってンのか?」
「いいえ」

一方通行の剣呑な雰囲気を纏った問いに、冷たい言葉で彼女は答えた。




「私は既に離脱しているのですから」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:51:52.51 ID:j5MthPDd0<>

砕け散る破砕音が鳴り響いた。
咲夜が0.1秒クラスの早さで投擲したナイフが、瓦礫に埋もれるセクストゥムの胸元を貫いた音だ。
銀のナイフが胸元に深く突き刺さった瞬間、彼女の動きが固まり、色が失われて行く。
後に残ったのは、人そっくりな氷像。
人形のような、ではなく。本当に人形となっていた。

「囮(デコイ)、それもこんなに高度な氷精召喚を呆気なくやってのけるなんて……」
「……」

魔術のことについて詳しく知らない一方通行には、今何が起こったのか詳しいことは分からない。
ただ、囮という言葉から、逃げられたということだけはハッキリと分かった。
表情が、歪む。

「しかも私が気がつかないレベルでの魔法行使。正直、術者としてなら私よりも強いのは確実ね」

さて、と感想を一通り言い終わり、咲夜は周囲を見渡す。
太陽の光に照らされるのは、氷と瓦礫で象られた大通り。
元の面影を小さく残すのみとなってしまった異常な風景を眺め、彼女は視線を一方通行へとやる。
そして両手の手の平を上に広げつつ、気の抜けるように一言。

「逃がしちゃったわね?」

「五人がかりで逃がしては笑い話にもならない」と言っていた最強は、不機嫌さを表すために大きく舌打ちした。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:52:25.10 ID:j5MthPDd0<>







時刻不明。
初春飾利は、街中を歩いていた。
第七学区の何処にでもありそうな普通の片側一車線の通り。
周りには彼女だけでなく、他にも制服や私服やスーツを着た人々が歩いている。
ただ彼女自体は普通の制服に頭部を半分くらい占領していそうな花飾りを付けているため、意外と人目を集めていたりするのだが。
そんな彼女は耳元に携帯を当て、誰かと会話していた。

『初春、今何処でパトロールしてますの?』
「第七学区の北側です。支部から結構離れちゃってますけど、事が事ですし」

聞く人によっては「?」と首を傾げそうな会話内容。
パトロールなどという単語は、おいそれと普通の学生の口から出て来ていい物ではない。
だが彼女の右袖に付けられた物を見れば納得するだろう。
緑色の腕章。盾をモチーフにしたマークが付いた、特別な雰囲気を感じさせるもの。
風紀委員(ジャッジメント)。
学園都市の治安維持部隊の一つで、学生の中から選抜された正義の味方とでも言うべき人達なのだが……

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:52:55.19 ID:j5MthPDd0<>

『……初春が一人でパトロール。なんだか凄く不安になりますわね……』
「ちょっと白井さん!?」

同僚からの言葉に怒る可愛らしい少女からは、とてもでは無いが凶暴な超能力も相手にする正義の味方とは思えない。
むしろヒーローに守られるような、お姫様系の雰囲気がしていた。

「そういう白井さんこそ大丈夫なんですか?」
『私は大丈夫ですの!……しかし、北側ですか。それでは自分で調べるしかないようですわね』

意味深気な言葉に、小さく首を傾げた。

「へっ?どうかしましたか?」
『第七学区の方でビルが幾つか倒壊したそうですの。まだ現場検証が始まったばかりですが、どうも能力者の犯行らしく……』
「……一昨日のビル倒壊と、何か関係が?」

表情が移り変わる。
真剣な、戦う者の表情となった初春は、自分の知っている事件との関連性が無いか尋ねた。
電話の向こうに居るであろう、ジャッジメントにおいて先輩の少女は息を吐きつつ、

『それは今から分かることですわ。とにかく、パトロールをしているのならばしっかりと仕事をなさい』
「はい、了解です」
『……"肩の怪我"は、大丈夫ですのね?』
「………………はい」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:53:24.98 ID:j5MthPDd0<>

たっぷりと間を開けて、しかしハッキリと返答する。
初春は自然に、開いた左手で右肩を抑えていた。
秋となり、長袖になった制服の下。
彼女の右肩には、包帯が巻かれている。
それはつい九日前に受けた傷。
明らかに格上だった存在に、一人の女の子を守るために反抗し、負った傷だった。
名誉の傷といえば聞こえはいいが痛いものは痛い。
学園都市の技術によりもう動かしても痛くはないものの、完治はまだしていなかった。

『……まぁ、言っても無駄でしょうから引き止めはしませんの。その代わり、何かあったら自分だけで解決しようとしないように。いいですの?』
「はいっ!それはもう!いざという時は頼りにさせてもらいます!」
『………………そこを力一杯言うのもジャッジメントとしてどうなんですの……?』

プツン、と切れる電話。
やっぱり呆れられちゃったなぁと思いつつ、携帯を畳んでポケットに突っ込む。

(監視カメラが半分程使えない今、頼れるのはやっぱり自分の目ですね。頑張らないと……)

自分の得意分野で動けないことにううっ、と呻きつつ、初春は立ち止まっていた状態から一歩を──


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:54:03.41 ID:j5MthPDd0<>


ズキンッ!


「痛ッ……」

突然、右肩が傷んだ。
思わず手で抑え、顔に痛みをこらえる苦渋の表情が浮かぶ。
傷が、肩の骨が、ズキズキと痛む。

「ッッ……」

今までぶり返して来た痛みのどれよりも痛い痛みに、彼女は痛みに耐えつつも疑問を抱いた。
一体何故、こんな急にと。

「──っ?」

そしてその時。
直感でもなく、聴覚でもなく、視覚でもない、何らかの"何か"に、彼女は顔を上げされた。
言葉にするのは難しい、その感覚。
異世界のとある吸血鬼ならば、こう称しただろう。






それが『運命』なのよ、と。





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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:54:35.94 ID:j5MthPDd0<>

視線の先。
その"人物"は居た。
"赤い学生服"。染めたのだろう"茶髪"。
不良とホストを足して二で割ったような青年。
彼の顔は、初春と同じ驚きを示していた。

初春は知っている。
彼を、よく知っている。

「テメェ、は……」

そして、驚きのあまりといった言葉を聞いた時。
それは確信から事実へと移り変わった。












垣根帝督。"学園都市第二位"『未元物質(ダークマター)』。
初春を傷付けた、死んでいた筈の彼が、其処にいた。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:55:06.43 ID:j5MthPDd0<>







物語は加速する。
人々の思いと力を乗せて、
全ては早く、過ぎ去って行く。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:55:42.92 ID:j5MthPDd0<>

おまけスキット




スキット17「腐らないのか」


インデックス「もぐもぐ……」

上条「で、結局何か喰ってんのな」

インデックス「むむっ、これはシャナから貰った物なんだよ?」

上条「へぇ?何貰ったんだ?」

インデックス「えーとね……メロンパンかも」

上条「おいおい、あのメロンパンマニアっ子がメロンパンくれたのか……」

インデックス「うん。なんだかね、秘蔵のメロンパンだって言ってくれたんだよ」

上条「秘蔵、ねぇ……って、あり?」

インデックス「どうしたの?」

上条「いや、なんでも……これって夜笠ってやつから出してたのか?」

インデックス「……?うん」

上条「……だったら大丈夫かな」


上条(消費期限が三年前になってるけど……)


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:56:15.17 ID:j5MthPDd0<>


スキット18「お腹減った」


シャナ「邪魔!」

浜面「危な!?ちょ、俺が何をして……」

シャナ「…………のが悪い」

浜面「へっ?」

シャナ「お前から美味しそうなアイスの匂いがするのが悪い!」ビシィ!

浜面「いやまてぇ!?そんな糖分中毒者みたいなキレ方されても……うぎゃぁぁああああああああっ!?」

シャナ「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁぁいっ!何か言う暇があるならアイスよこしなさいぃっ!こっちは何も食べてないのよ!」


アラストール(だから何かを食せと……)



スキット19「お腹減った2」


暦「初めまして」

焔「……ふん」

シャナ「……お前達は『グゥー….…』…………」

暦「…………今の音、焔?」

焔「そんな筈あるか。私はつい先程朝食を取ったばかりだ」

暦「……じゃあ」チラッ

シャナ「…………ッ」かぁぁぁ

咲夜「お腹減ったの?なら飴を上げましょうか?」

シャナ「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁぁぁいっ!そんな保護的な目で私を見るなぁぁぁぁぁぁっ!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:57:00.33 ID:j5MthPDd0<>

スキット20「そして時は動き出す」


咲夜「ではさようなら」パチン

浜面「……空間移動?手品のつもりなのか?」

バッサバッサ

浜面「……うん?」チラッ


上からトランプ×100000


浜面「」

バッサバッサ!!

浜面「いやまてぇ!?数多過ぎんだろ!?ちょ、どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

ドドドドドドッ!!

フラン「わー!浜面がなんかトランプの海に溺れてる!面白ーい!」


咲夜「これが真の手品師ですわ」



スキット21「とある機械達の愚痴零し」


警備ロボット「よう……」

自動販売機「よう……」

警備ロボット「……お互い、大変だな」

自動販売機「あぁ……。原作でも二次創作でも、俺等は破壊されまくりだよ……」

警備ロボット「ホント、生まれるなら人間になりたかったぜ……」

自動販売機「そうだな。でも……」


警備・自動「「浜面だけにはなりたくない」」


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:57:35.46 ID:j5MthPDd0<>


スキット21「セクストゥムって……」


咲夜「変な名前ね」

セクストゥム「貴方の名前程ではない」

咲夜「いや、変よ。だって貴方の名前、セとクの間に小さいツを入れたら大変なことになるじゃない」

セクストゥム「……?」

咲夜「下ネタを知らない、と……」



スキット22「グループって……」


咲夜「変態ばかりなの?」ヒソヒソ

結締「えぇ、そりゃもう。裸の幼女を見たら襲いかからずにはいられないというぐらいの……」ヒソヒソ

土御門「ちょっと待てぃ!」

海原「僕達のイメージを地獄まで叩き落とすような嘘情報は止めていただけませんか!?」

焔「……っ!?」ババッ!

一方通行「オマエも今さら体隠さなくていいンだよ!」

セクストゥム「……学園都市第一位は変態。データ入力終了です」

一方通行「オーケェェェェェ、余程愉快なオブジェになりてェようだな、三下ァァァァァァッ!!」




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 16:58:30.44 ID:j5MthPDd0<>

垣根君登場です。
彼の話が書き終わったら、幻想郷編に突入することになると思います。
次回はまだ黒子の話で、これからは十月十八日に出て来て放ったらかしにされたキャラ達の話を纏めつつ……という形になるかと。

ちなみに今回出て来た土御門の魔術は全てオリジナルです。
特に元ネタもありません。ただ結界に関しては『日本の城の水掘が?』と裏設定があったりします。

では、また次回にて。


PS総合二十冊目に『とある美琴の非日常』という作品を投稿したので、壊れギャグが見たい人はどうぞ。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/12(火) 18:26:43.00 ID:DJBIw3ys0<> 訂正……
二十冊目じゃなくて26冊目です
どんな間違いだよ俺…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州・沖縄)<>sage<>2011/04/12(火) 20:05:58.63 ID:/LVj7eKAO<> 乙
結締じゃなくて結標ね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/12(火) 22:58:46.17 ID:felJlVt0o<> 乙
最高に乙 <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:22:17.76 ID:xPqI8Idj0<>
>>834
うわー、死にてぇ……何やってんだ自分

投稿行きます <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:23:03.25 ID:xPqI8Idj0<>



白井黒子。
彼女は常盤台中学に所属する生徒であり、風紀委員(ジャッジメント)だ。
危険を伴う職務であり、また高いモラルを求められるため、九枚の契約書にサインし十三種類の適正試験と四ヶ月の研修をクリアした志願生にのみ、資格が与えられる。

そんな厳しい問題をクリアするだけの力と、ただのボランティアと言っても過言ではない『正義の味方』をやるだけのお人好しさも求められるジャッジメント。
例に漏れず、黒子自身も正義感が強い少女であり、学校が休校になった今とて立派に働いていた。

「ジャッジメントですの!」

働いていた。

「ジャッジメントですの!」

働いていた。

「ジャッ……ジメントですの……」

働いていた。


「──ジャッジメントですのぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


ブチ切れた。
第七学区の薄暗い路地裏に彼女の叫びが響き渡る。
口上もクソ喰らえで、路地裏で喧嘩をしていた不良にドロップキックを喰らわすジャッジメント。
小柄な体躯からは信じられない程の威力があったため、腰当たりへモロに受けた哀れな不良は吹っ飛び、壁にノーバウンドで叩きつけられる。
げほげほっ、と息を詰まらせながら不良は叫んだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:23:41.82 ID:xPqI8Idj0<>

「ちょ、おまっ、ジャッジメントなんだろ!?だったら最初に投降を促すとか、そんな──」
「黙るんですの!どうせ投降などしないでしょうが!こっちは昼食抜きでパトロールしているというのに、馬鹿みたいに喧嘩して!少しはこっちの目にもなりやがれですの!」
「いや、それがジャッジメントの仕事ぶべるっ!?」

もっともな正論を言いかけていた不良の顔面へ、持ち歩いている道具が入っていて重い学生鞄を叩き込んだ。
ドゴシャッ!!というストレートな打撃音と共に不良は大地に叩きつけられる。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」

漸く怒りが収まったのか、肩で息をしながら彼女は冷静になろうと勤める。
しかし誰も彼女の怒りを責めないだろう。
何せ朝早くから朝食を殆ど取らずに動き回り、もう既に二十近い事件にぶち当たっているからだ。
不良の喧嘩、盗難事件、違法な武器取り引きまで。
全て遭遇した分は黒子一人で解決した分、疲労も人一倍溜まっている。
更に現在の時刻は既に一時を回っている。
普段なら昼食を取っているため、余計にお腹が空く。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:24:14.79 ID:xPqI8Idj0<>

「……ハァ」

だが言っても仕方が無い。
不良の言葉ではないが、それがジャッジメントの仕事なのだから。
黒子は多少苛つきつつも、気絶した不良を回収してもらうため、携帯電話を取り出した。
なんだかんだ言いつつ、彼女はやはりジャッジメントなのである。









が、そんな彼女でもやはり不満だってあったり、人間らしく文句を言ったりするのだ。

「うぅ……支給品の栄養ブロックでは物足り無いんですの……」

鞄の中に入れていた非常用の柱状クッキーをボリボリと齧る黒子。
多少殴った衝撃で砕けているのが、彼女の哀愁を更に強くしていた。

「結局"現場"では何も得られませんでしたし、何故かわたくしだけ異常な程遭遇してますわね……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:24:52.29 ID:xPqI8Idj0<>
向かった瓦礫の山を思い出し、連鎖的に先程までの不良連続エンカウントを思い出してクッキーを噛む力が強まる。
第七学区の南側に位置するビルが二つ、取り壊し中のと建設途中のが倒壊したという情報が入ったので現場に行ったのだが、そこにあったのは瓦礫の山のみ。
周囲に重機の後が無いことから、能力者の仕業だとほぼ断定できたことが唯一の収穫といったところ。
現在も、警備員と精神感応系能力者が現場検証をしているはずだ。
瓦礫の撤去を手伝っていたが、もっと効率のいい念動力系能力者が来たので黒子はまたもや不良退治(パトロール)に駆り出されている訳である。
普段は平日の昼間、学校に登校している時間帯のため、こんなにも不良が居るのかと若干関心さえしてしまうレベルだった。恐らく監視がどうこうではなく、普段からこうなのだろう。
とにかく自分の能力を利用して彼女は駆け回り──

「──と!気がつけばこんな所にまで……」

足を一度止め、辺りを見る。
パトロール、つまりは警邏中に殆ど無心となって歩いていたからか、第七学区駅前にまで来ていた。
近くにデパートがあるこの辺りはよく人が交差する地点で、平日にも関わらず大量の通行人がある者は無言で、ある者は隣と談笑しつつ歩いている。
どうやら昼食時というのもあり、デパートのレストランにでも行ったであろう者達がチラホラと瞳に映る。

「羨ましいですの……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:25:22.87 ID:xPqI8Idj0<>

グゥー、と、小さく鳴るお腹の音を耳に入れつつ、ため息を吐き出す黒子。
栄養食品を食べても空腹感は大して減らない。
しかも栄養食品はカロリーが馬鹿みたいに高いため、ガツガツ食べてはあっという間に栄養過多になってしまう。
花咲く青春時代を謳歌する女子中学生にとっては、そんな不健康極まる行為はなるべく遠慮したいのである。

「……んっ?」

ここでふと、黒子は視線を感じた。
首の後ろを見るような、弱い視線の圧力。
ジャッジメントととして実戦を何度も味わっている黒子は、己の感覚に迷わずに後ろを振り向く。
そこには一人の少女が居た。
中学一年生で低めの黒子よりも、更に小さい。
青いサラサラした短い髪に、青い瞳。
服装はその辺りで見繕った感がある、安物の新品だ。
水色シャツに濃い青のミニスカートと正に青一色に統一された少女は、感情の色が見えない瞳で黒子の顔を下から眺めている。

「……」
「えっと、何か御用でしょうか?」

ジーとした視線に少し驚いたものの、そこはジャッジメントとしてキチンと柔らかに対応する。
黒子の腕章を見てジャッジメントだと判断し、何か頼み事があるのかもしれないからだ。
一般市民の悩みに答えるのも、ジャッジメントとしての大事な仕事の一つである。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:25:56.06 ID:xPqI8Idj0<>

「……」
「……あ、あの?」

が。何故か少女は全く答えなかった。
ビー玉のような瞳で顔を見つめられ、暫し言葉が詰まる黒子。
やがて、少女はポツリと一言。

「……貴方ではない」
「はい?」

首を傾げる黒子だが、少女は興味を失ったのか無造作に背を向け、歩き出す。
ゆったりとした歩みの筈なのに、どんどん離れて行く彼女の後ろ姿はあっという間に人混みに紛れてしまった。
目を凝らしても、もう少女の姿は見当たらない。

「……一体なんだったんですの?」

少女の姿が消え去った方向を遠目に見つつ、呟く黒子。
暫し茫然と棒立ちになり、不思議な少女に思いはせていたが、

「おー?白井かー?」
「?」

またもや後ろから視線と声が。
今度は何処かで聞き覚えのある声だったし、なによりジャッジメントとしてではない名指しで呼ばれた。
なので黒子は仕事ではなくプライベートの顔を見せながら、声の方へと向く。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:26:26.80 ID:xPqI8Idj0<>

其処にいたのは、ちびメイドだった。

いや、正確には学園都市名物である清掃ロボットに乗っかった、ちびメイドだ。
昔の絵画に描かれていそうな正しく整えられた、何処か気品を感じる装い。
頭にはカチューシャをつけ、前髪を上げた彼女は土御門舞夏。
繚乱家政女学校という、メイド育成学校の実地研修が許されるいわばエリートメイドであり、常盤台中学の女子寮でも働いていたため黒子とは顔見知りだった。
舞夏はやはり、何時も通り感情が掴みにくいのんびりとした表情で「おーす」と手を上げている。

「……」

なの、だが。
なのだが、と黒子は其方に目を向けて思った。
それは決して舞夏が清掃ロボットの前にモップを引っ掛けて無理矢理動きを止めているからではない。
というより、問題は彼女には無い。
問題は、




「おおっ!?ツインテロリっ娘ジャッジメントやて!?なんちゅうマニアックな子が居たんや!」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:26:59.66 ID:xPqI8Idj0<>
彼女の隣に立つエセ関西弁男の方だった。
青い髪とピアス、細目が特徴的。
そして何やら此方を見て、どう考えても危ない台詞を言いながらクネクネ動いていた。
しかも身長百八十センチメートルは有りそうな大男のため、キモさが倍増。余りにも変態過ぎる。

(……………………)

ジャッジメントの仕事でも中々お目にかかれない、というよりお目にかかりたくないような変態男を目撃してしまった。
今すぐ捕まえた方がいいのだろうか、とジャッジメントとして黒子は無意識の内に考えるが、その前に舞夏がのんびりと口を開く。

「こっちは兄貴の友達だー。ちょっとおかしい所もあるけど、基本的には良い人だぞー」
(……ちょっと?)

舞夏には悪いが、正直ちょっとどころではない。
こんな変態が居るとは、やはりわたくしもまだまだですわねと何故か反省してしまう黒子。
自分がお姉さまにダイレクトアタックする変態時のことをすっぽり抜け落ちさせていた。
人間というのは他人のことに気がついても、自分のことには気がつかないものである。
大男は黒子の結構酷い思考に気がつかず(気がつく訳ないのだが)、今自分人生楽しんでます!とでも言いたげな笑顔で自己紹介。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:27:38.98 ID:xPqI8Idj0<>

「皆からは青髪ピアスって呼ばれとるから、そう呼んでなぁ」
「はぁ」

見た目そのまんまなあだ名ですね、とは流石に突っ込まなかった。
代わりに、黒子は舞夏へと問いかける。

「……一体この殿方と何をしてたんですの?」
「ウチの学校も常盤台みたいに休みになったからなー。ご飯を奢って貰ってたんだぞー」
「舞夏ちゃんみたいなかわええ子にご飯を奢るくらい、朝飯前やでぇー!」
「あはは、ありがとなーお兄ちゃん」

そんなメイドっ娘の感謝の言葉に「お兄ちゃん呼びもいい!土御門クンの気持ちも今なら分かる!」などと叫びながら両手を上げてくねくね動く青髪ピアスを見て黒子は思う。

(……うわぁ)

これはやっぱりここで捕まえたのがいいのかもしれない。主に公共猥褻物体的な意味で。
更には話に聞いていた"舞夏の兄"も、危険人物な可能性が出て来た。
割りとガチかつ真剣に黒子は悩むが、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:28:18.39 ID:xPqI8Idj0<>
「で、白井ちゃんやったけ?風紀委員の仕事はええの?」

が、その公共猥褻物体(候補)から言われてハッとなる。
今は警邏中であるというのに、ついつい話をし続けてしまった。
先の青い少女への対応も含めれば、かなりの時間となる。
普段ならともかく、今日はジャッジメントになってからもっとも忙しいというのに。
時間のロスに少しばかり慌てながら、彼女は口を開く。

「すみません、自己紹介も出来ませんでしたがこれで失礼させていただきますわ」
「あー……呼び止めてすまんなー」
「いえ、お気になさらず」

少しばかりしょんぼりした空気を纏う舞夏に、黒子は笑顔でフォローの言葉をかける。
これも監視システムの不調が悪いのだ。
たっく、上は何をやってますの……などと乱雑な呟きを心中でしつつ、黒子は笑顔を見せる。

「では失礼を」

その一言とともに、


黒子の姿が二人の前から消えた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:28:49.06 ID:xPqI8Idj0<>

走って行ったとか、隠れたとか、そういった単純な意味ではない。
そのままの意味で白井黒子は二人の前から姿を消す。
先程まで彼女が立っていた場所には、もう何もない。
明らかな異常現象だがここは常識から切り離された学園都市。
騒ぎ出す者は誰一人としていない。

「随分とキャラが濃いい子やねぇ」
「いやいや、自分の方がキャラ濃いいと思うぞー」

そんなのんびりとした会話が、黒子が居なくなった後も続いていた。










<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:29:19.44 ID:xPqI8Idj0<>



一方。
第七学区にある、とあるマンションの一室。

「ふむふむ。つまりその『神』が全ての元凶で、『戦い』って名前のゲームをしていて、負けたら世界を滅亡させられると」
「そうよ」
「で、『始まりの魔法使い』というのが『神』の名前(だと思われる)で、実際にとんでもなく強いと」
「そうよ」
「一つ言っていい?」
「何かしら?」
「馬鹿にしてるの?」

結標の言葉が、部屋に呆れの雰囲気を含んで響いた。

氷の少女達を逃がしてから約一時間。
グループ+メイドの五人は結局、警備員が来る前に逃走し第七学区の一方通行の部屋に再集合していた。
そして、主に事情を知らない二人のために、これまでの状況をまとめ始めたのだが……
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:29:49.87 ID:xPqI8Idj0<>

「異世界から来た戦士達と協力して悪の親玉を倒しましょう?……なんて今時の漫画でもベタ過ぎて無いわよ。馬鹿にしてるようにしか思えないわ」

誰が見ても呆れているように見える結標は、自分が座るソファーへともたれ掛かる。
ボフン、と。空気が抜ける、柔らかそうな音が鳴り、真面目な話の雰囲気を保ち続けていた空気が霧散した。
そんな彼女に対し真剣な顔で話していた咲夜は、腕組みをして壁に寄りかかりながらため息を一つ。

「はぁ……頭が固いわね。頭が固いのは閻魔だけでいいのに」
「同意する訳ではありませんが、自分もですね。ただの妄想としか感じられません」

彼女の言葉に続けて、対面辺りの壁に寄りかかっていた海原かやも否定的な言葉が放たれた。
彼の手にはコーヒーカップが一つ、湯気を上げながら掴まれている。
咲夜が丁重かつ瞬時に入れたコーヒーが、黒い水面をゆらゆら揺めかせていた。

「ですが」

その黒い水面に唇を僅かに付け、再度彼は口を開く。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:30:19.85 ID:xPqI8Idj0<>

「魔力が世界中に満ちているのもまだ確かであり、これはどんな人間だろうと魔術だろうと霊装だろうと不可能なことです。だとすれば、我々が想像出来ないような何かが居るのも確かなことでしょう」

自然現象という線は薄いでしょうし、と魔術師としての自分の観点を言い終え、海原は咲夜の方へと爽やか笑顔を向ける。
そして自分が飲んだコーヒーの感想を素直に述べた。

「美味しいです」
「あら、有難う。他の人は感想を一つも言ってくれないから不味いのかと思ったわ」

海原に笑い返しつつ、咲夜は冷たい瞳で周囲を見た。
評価が貰えない、というのは完全を求める彼女にとっては意外と苛立つ物なのだ。
ソファーに座る結標は「美味しいわよ」と適当に返事を返し、対面のソファーに座っている土御門はただ苦笑していた。
苦笑しつつ、目の前のテーブルに置かれたコーヒーには手を付けずに彼は口を開く。

「まっ、簡単に信じてもらえるとは思っちゃいない。例え異世界からとしか思えないような人間を見ても、信じてもらえない可能性は考慮に入れていた」
「なる程……じゃあ信じてもらえなかった場合のことも考えているのよね?」
「あぁ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:30:56.22 ID:xPqI8Idj0<>

彼は軽く答えつつ、ポケットから何かを取り出した。
小さい、学園都市では絶滅したと思われている茶封筒だった。
今時こんなので手紙を出すのは学園都市の外くらいだろうと思う結標。
そんな彼女へと、茶封筒が放られる。
軽い手付きで結標は受け取り、疑問に眉を顰めた。

「なによこれ」


「お前の仲間を解放するための符丁(パス)だ」


空気が凍ったと、完全瀟酒な咲夜は呑気に考える。
彼女は新たなカップを何処からともなく取り出し、リビングが見渡せるキッチンでコーヒーを新たに注ぐ。
学園都市製の高性能ポッドから、熱くて黒い液体がコポコポと注がれる音だけが暫しの間響いた。
そして丁度カップが黒い液体で満たされた所で、

「……冗談なら流石に怒るわよ?」

冷えきった結標の声が発せられた。
実際に気温が下がっている訳ではないのに、下がったように感じてしまう感覚。
普通の者なら体を震わせてしまうような恐ろしい声だが、咲夜は大して気にせずカップを手に取っていた。
澄ました顔を見せる咲夜だが、問題の当事者である結標にとってはただごとではない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:31:27.55 ID:xPqI8Idj0<>

(一体何を……)

表情には怒りのみを見せ、しかし内心は戸惑いに塗りつぶされる。
それだけ、今手渡された封筒の中にある物は彼女にとって重い。

結標淡希が学園都市の暗部に所属する理由。
それは"人質"。
かつて彼女はとある事件を起こし、学園都市に牙を剥いた。
その目的自体はとあるツインテールのジャッジメントやレベル5二人に潰されたのだが、その時の仲間は学園都市に捕まってしまった。
学園都市上層部は結標の仲間を人質に、闇の使いっ走りを強制させられている。
いつか助け出すために彼女はトラウマを乗り越え、闇の中で戦っていたのだが、

その目的があっさり達成出来る物が、今彼女の手に掴まれている。

「それを使えば、お前のお仲間は全員即座に解放される手筈だ」
「……どうかしらね?これを馬鹿正直に本物と信じる程、私は馬鹿じゃないわよ」
「なら後で確認すればいい」

疑念が篭った結標の声にも、土御門は表情を崩さず冷静に返す。
素っ気無い返答に、結標の顔に困惑がチラチラ見え隠れし始めた。
彼のその冷静さが、言外に本物だと証明しているような感じを見せている。
しかし、相手は相当の策士。
簡単に信じる訳にはいかないと、しかし僅かな希望が心に生まれ、彼女は封筒を強く握り締める。
そんな揺れ動く結標から視線を外し、土御門は壁に寄りかかる海原へと言葉を放る。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:32:01.34 ID:xPqI8Idj0<>

「そして海原。お前自身とお前の妹についていた監視はもうない。何時でも逃げようと思えば逃げられるだろう」
「……」

結標の話から想像はついていたのだろう。
海原の表情は、結標程ハッキリとは変わらなかった。
ただ、やはり驚きを示すように目蓋が少し大きく開かれ、まじまじと土御門の方を見ている。

「……一体何がしたいの?これと引き換えに手伝えっていうのなら分かるけど、こんな風に軽々しく渡す訳が分からないわ」

これ、とばかりに封筒を掲げつつ、結標の問いがまたもや土御門に突きつけられた。
報酬としてお前の仲間を解放してやるから手伝え、ならば分かる。
が、こんな風に前金とばかりに渡しては此方が逃走したり約束を無効にする理由も高いだろう。
なにせ、彼女達は好きで暗部に所属している訳ではないのだから。
尤も暗部を抜けようとした場合、学園都市から逃げれるのかという問題が発生するとはいえ。

「電話で言っただろう?これは"ボランティア"だと。要するに自由だということだ。参加しようと、しまいと」

土御門の言葉に、結標と海原の疑問が更に増した。
それは要するに、"暗部としての仕事ではない"ということなのだろうか。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:32:43.59 ID:xPqI8Idj0<>

「勿論命懸けになるし、嫌なら嫌で参加しなくて結構だ。世界が終わるかもしれない、なんて頭の片隅に止めつつ平穏を過ごせばいい」
「……暗部に所属する限り、平穏など無理だと思いますが」
「所がどっこい。現在色々あってアレイスターは動けず、暗部組織もほぼ全て活動を停止している。アレイスターが動けない内に情報操作をされて、上層部はもう混乱しきってるからな」
「……!」

息を飲む。
もし、今の言葉が真実だとすれば、『神』という存在たった一人によってこの学園都市が崩壊しかけているということになるからだ。
例え日本以外全ての国から戦争を吹っかけられても勝利出来るであろう、この学園都市が。

「幸い、向こうも学園都市が根本から崩壊してしまったらゲームにならないと分かっているんだろう。情報操作である程度学園都市としての機能を維持出来るようにはしてくれているらしい。まぁ、監視システムが半分程使い物にならなくなってはいるがな」
「……じゃあ『神』って奴がその気になれば」
「一時間後にでもこの都市は崩壊するだろうな。物理的にか社会的にかは分からないが」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:33:16.38 ID:xPqI8Idj0<>

沈黙が降りる。
突発的なこの話に、今までまだ常識の世界に居た二人は考え込む。
正直な話、二人はまだ土御門の言葉を信じ切れていない。
この学園都市という科学の街の強さと底無しさを認識しているからこそ、信じ切れていないのだ。
だが、こんな調べれば直ぐにバレるような大嘘を、暗部のリーダーを勤めたり統括理事長に直接交渉するような策士が言うとは思えない。そもそも、言う理由がない。
やがて、海原がゆっくりと口を動かす。

「……『神』とやらは、どれくらい強いのでしょうか?」
「俺は資料だけで直接会ってないから断言は出来ん。が、少なくとも『神』と言われるくらいには強いし格が違うんだろう。……そうなんだろう?」

土御門の問いは、外観よりも絶対に広いリビングのど真ん中へと放たれていた。
全員の視線が、板張りの床に寝転がる"彼"へと集まる。
今まで会話に全く干渉して無かった彼は、白い髪を揺らしながら言う。
重く、素っ気無く、強く。

「実際に核兵器を頭に落とされても、笑っていられるよォなヤツだ」

その態度には、最強と呼ばれる彼に珍しく、恐怖という感情が見えていた。
だが怯えはない。
彼には、この世界をそんな巫山戯た敵に壊されたくない理由、守りたい人が居るからだ。
だから、例え二人が逃げようが一人になろうが構わない、という雰囲気さえ見せていた。
そんな彼の隣にコーヒー入りのカップを直に置きながら、銀髪のメイド、十六夜咲夜が言葉を発する。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:33:47.31 ID:xPqI8Idj0<>

「確かに今まで妖怪や吸血鬼や巫女や魔法使いや幽霊や神やらと戦って来たけど、あれは別格ね。絶対に個人で勝てるレベルじゃないわ」

プライドがそれなりにある筈の彼女は、個人では勝てないと断言した。
それだけ、あれは圧倒的過ぎた。
余りにも実力差があり過ぎて、実感もまだ上手くは湧かないのだ。
空の彼方から隕石が迫っているような、危険だとは分かっているのだがスケールが違い過ぎて放心してしまう、そんなレベル。
だが、それでも。

「誰かがやらなくてはならない。そのことに私が選ばれたのは少しばかり不愉快だけれど、何も知らずに死んでたりするよりはマシね」

気がついていたら死んでいた、なんてことよりは戦って抵抗する方がいいと、彼女は自分の思いを告げた。
その姿から、迷いは欠片も見えない。

「……と、いうことだ。どうする?」

咲夜の言葉が終わるのを見計らって、土御門の問いが再度放たれる。
Yesか、Noか。
二人の答えは。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:34:20.06 ID:xPqI8Idj0<>

「……あのねぇ、私は正義心バリバリのお人好しでもないし、仲間さえ無事なら他がどうなろうと知ったこっちゃないのよ」

まず最初に口を開いたのは結標。
彼女はため息でもつきそうな調子で喋り、


「でも。一応、こんな世界でも無くちゃあの子達が生きれないからね。手伝ってあげるわ」


Yesと答えた。
封筒を羽織った上着の裏ポケットに仕舞い込み、笑顔で彼女は言ってのける。

「そもそも自分にはもう帰るべき場所がありませんし、守るべきものがあるここが、今の自分の居場所です」

続けるように、海原が言葉を紡ぐ。
その瞳に、強い思いの光を見せつつ、


「だから。自分がこの居場所を守る手助けになるというのならば、喜んで」


彼もまた、Yesと答えた。
ニッ、と。土御門の顔に分かりやすい笑みが浮かぶ。

「時間はない。今までに分かったこと、予想出来ること。全部頭に叩き込むぞ」

サングラスを窓からの光で煌めかせ、彼は宣言。




「ボランティア"グループ"結成だ。張り切っていこうか」




返事は短く、全員バラバラだった。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:34:52.74 ID:xPqI8Idj0<>





同時刻。
物理法則上絶対にあり得ない空間に位置する、宮殿がある。
全長がkm単位に渡るこの宮殿内部には数えきれない程の部屋があり、数えきれない程の骸が存在する。
充満した魔力によって瘴気が僅かに漂う廊下を、四つの人影が歩いていた。

「"環"は……」
「まだ戻っていないため、直に此方から迎えに行く必要があるでしょう」
「そうですか……」

先頭を歩く少女、セクストゥムの返答に小さくションボリする少女、暦。
その暦を両側から挟むように歩いているのがツインテールの少女、焔と、角が生えた少女、調だ。
彼女等は三人揃って同じ服装に身を包んでおり、何処か組織らしさを感じさせる。

「……」

あくまでも機械的な上司の対応に、焔は一人目を細め、不満を見せる。
前々からこの"上司達"のことは"可動"する以前より知ってはいるが、どうも想像していたのと違う。
自分達の主人とほぼ同じと言われても、何かが違うと感じてしまう。
それは使用する魔法の違いなどという、単純なものではない。
もっと、精神的な──

「焔、どうかしましたか?」
「っ!いえ、なんでもありません」
「そうですか」
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:35:23.46 ID:xPqI8Idj0<>

疑念に感づかれたかと思ったが、一言言っただけでセクストゥムは迷いなく歩を進めて行く。
恐らく環を連れ帰りに行くのだろう。
感情は氷のような横顔からは読めない。
やはりよく分からないと、そのどんどん離れて行く後ろ姿を見て思うが、今度は表情に出さないように気をつけた。

「……焔?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ」
「そうですか……」

本日三回めの「そうですか」を調から聞き、焔は苦笑を見せる。
上司はともかく、付き合いの長い仲間にはばればれらしい。
だがこれは焔のみが抱いた問題だ。
関わらせるべきでは、ない。

「それより調。そっちも駄目だったのか?」
「えぇ……随分と手痛い反抗を受けました。予想以上の実力でしたよ」

くすり、と笑いながらの調の言葉に、焔は内心その敵へと関心する。
調は余り感情を丸出しにするようなタイプではない。
小さく笑い、小さく喋る。
そういった大人しめなタイプの少女。
そんな彼女が、ここまで分かりやすく笑った。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:36:01.87 ID:xPqI8Idj0<>

(超電磁砲、だったか。なる程、一般人と大して変わらないと思っていたが、中々やるらしい)

そう考えつつ、ふと隣を歩く暦がそわそわしているのに気がついた。
何やら落ち着かないようで、指をもじもじさせている。
うじうじしたことが嫌いな彼女は、そんな彼女へと迷うことなく尋ねた。

「どうした暦?」
「いや、あの、フェイト様無事かなって」
「あぁ……」

焔と調は同時に納得がいった。
彼女は一人で異世界に乗り込んでいった、自分達の主のことを心配していたのだ。
心優しい彼女だからこその心配に、多少笑いながら二人が答える。
それは心配し過ぎだと。

「心配するな。フェイト様が強いのは知っているだろう?異世界だからといって、そうそう傷を負うことも無いさ」
「そうですよ。あのフェイト様に限ってそんなことは……」
「そ、そうだよね。まさかまた腕が無くなってたりとか、そんなことないよね」
「ははっ、まさか」
「いくら異世界とはいえ、フェイト様と戦える強者がそうそう居る筈もありませんし」

笑いを見せながら、焔達三人は一つのドアの前で立ち止まった。
黒い板のように見えるが、立派な魔法による精錬を受けた鋼で象られたドアだ。
その向こうに、彼女達の主は居る。
コンコン、と軽くノックしてから、焔は言葉を紡いだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:36:40.69 ID:xPqI8Idj0<>

確認に答えるようにウォンと、自動ドアのようにドアが開く。
横に全体がスライドするのではなく、縦に切れ目が入って半分が左右にスライドする方式だ。
そして、黒に支配されていた視界が開け、

「……環は居ないみたいだけど、どうやら無事みたいで安心したよ」

右腕が無い白髪の少年が居た。


右腕が無い、主たる少年が、此方をベットに座って見ていた。


……………………………………!?

「にゃぎやああああああああああああああっ!?」
「ちょ、えええええええええええええええっ!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
「?」

突然絶叫を上げる三人に対して、少年ことフェイトは軽く首を傾げた。
殺風景な部屋に一つだけあるベットの上に、彼は座っているのだが、服は裂けたり千切れたりでボロボロ。右腕の部分は綺麗さっぱり無くなって居た。
なのに平然とした顔を向けてくるので、三人の少女にとってはたまったもんではない。
当人自身は呆れる程冷静なのも、彼女等の混乱に拍車をかけた。

「フェ、フフフェイト様ぁ!?うで、うでが、右腕がぁ!?」
「直ぐに治療を!」
「ゴーレム!治療用ゴーレムは……!」
「……少し落ち着こう、三人とも」

珍しく呆れと驚きによる感情を見せ、フェイトは慌てている三人を落ち着かせるべく声をかけた。
冷静沈着極まる言葉に、多少三人も声のトーンを落とすが、それでもまだ慌てたままだ。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:37:14.14 ID:xPqI8Idj0<>

「いや、フェイト様何故そんなに冷静なんですか!?」
「もう治療しているし……」
「治療してるからとかゆー問題ではありません!」
「少しは御自身の身も心配して下さい……心臓が幾つあっても足りません」

昔からなのだ。
他人のことに関しては相当な感の鋭さと反応を見せるのに、自分のことになるとボケているのではないかというくらいの反応の無さを見せる。
自分という主導体が殆ど無く、かつて見せた"唯一の望み"も今はない。
そんなフェイト・アーウェルンクスだからこそ、彼女等はついて来ているのかもしれないが。






「これでよし、と……」
「すまないね」

ギュッと、布を縛る音が鈍く鳴る。
魔法の紋様が刻み込まれた包帯を、フェイトの傷口に巻き終えた音だ。
巻いた猫耳少女こと、暦は取り敢えずの治療が全て終ったことにふぅ、と安堵の息を吐く。
彼は治療をしたと言っていたが、予想通りと言うべきかただ傷口を魔法による組織閉鎖で塞いでいただけだった。

「しかし、まさかフェイト様が傷を負われるとは……」

治療が終ったのを見計らったように、近くに立つ調が彼を見つつ呟いた。
この少年は見た目こそ調達よりも幼いが、実力は全くと言っていい程比べ物にはならない。
全員で戦ったとしても、一撃たりとも与えられないだろう。
そんな彼が異世界とはいえ片腕を失ってくるとは……
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:37:43.60 ID:xPqI8Idj0<>

「あぁ、あっさりとやられたよ。やはり幻想郷のレベルは全体的に高いみたいだ」
「「……」」

フェイトの言葉に黙り込む暦と焔。
その幻想郷出身のメイドたった一人に叩きのめされたことを、苦々しく思い出したからだ。

「すみません、フェイト様……」
「いや、気にする必要は無いよ。むしろ敵地に赴くという危険な任務によく行ってくれた。ありがとう」
「勿体無きお言葉……」

ザッ、と膝を付き、焔は主従を示すように感謝の念を述べる。
危険で重要な任務を任された、ということはそれだけ信頼されているということなのだからだ。
だからこそ、その信頼に答えられなかった自分達が悔しかった。
焔に続くように暦と調も床に膝を付き、頭を垂れる。

「詳細は聞いていないけど、セクストゥムの報告はある程度見た。皆、大変だったみたいだね」
「しかし、私は超電磁砲を取り逃がし」
「我々二人は任務の内十分の一も……」
「超電磁砲については主人の戯れだからそこまで問題はないし、暦と焔に頼んだのは僕の個人的なお願いだから悔やまなくて構わないよ。それに、向こうの情報もある程度取れた」

労りつつ、現実的な言葉を紡ぐ彼に、暦が躊躇いがちに口を開く。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:38:13.07 ID:xPqI8Idj0<>

「あの……フェイト様……」
「なんだい?」
「その、何時まで……」
「分からない」

即答。
思わず、質問しようとしていた暦はビクリと体を震わせた。
言葉を最後まで聞かず、フェイトは音も無く立ち上がる。
慌てて歩く道を塞がないように、三人は横に動く。
その動きにも構わず、彼はゆっくりと歩を進めていた。
コツコツという、硬い足音が鳴り、彼は窓の傍に立つ。

「今やっていることが正しいことなのか分からないし、自分がどうしたいのか……主人の夢想を叶えるための人形には分からない」
「そんなことは……っ!」

無いと、言いたくなるのを焔は堪えた。
生まれた時から運命付けられていたのかは知らないが、少なくとも焔達はフェイトが言う目的とその理想、そして他でもない彼自身に惹かれてここまでついて来たのだ。
だからこそ、自分で自分を否定するのは止めて欲しかった。

「多分バレているだろうね。僕が疑問を持っていることも、敵に塩を送るような真似をしていることも」

知っていて、楽しむために見逃しているんだろう。
そう言う彼の背中を見つつ、三人は心中で頷く。
調と環の任務は主人からの戯れだが、焔と暦に関しては完全に単独行動なのだ。
なのに助けが来た。しかも主人直属の一人が、だ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:38:46.83 ID:xPqI8Idj0<>

「……再三になるけど、いいのかい?君達の抱いていた理想と、僕達の行動はもう大分ずれて来ている。ついて行けないと思うのなら、僕が主人に君達を──」
「フェイト様」

今度は暦がフェイトの台詞を断ち切る番だった。
言葉の途中でキョトン、となった彼に、暦は思ったことを飾らずに告げる。

「我々はフェイト様に助けられ、ついて行くと誓ったのです。だからフェイト様がどんな行動を取ろうと、何処までもついて行きます。最後まで」

普段、一番子供らしさを見せる彼女にしては、とてもはっきりとした誓いの言葉。
彼に助けられたその日から抱き続けている思い。

「私も暦と同じです。例えフェイト様がどう動こうと、私は貴方について行きます」
「恐らく環や栞も同じでしょう。無論、私もです」

続く二人の言葉に、フェイトは黙る。
だが。
普段から無表情なその顔に、小さく笑みを浮かべた気がした。
見た目にあった、少年の笑顔を。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:39:19.09 ID:xPqI8Idj0<>

「ありがとう」

そしてまた無表情になり、前へと向き直った。
宮殿の外は、その日の主人の気分によって変わる。
現在は星屑のような小さな光が散りばめられた夜空だ。
彼には景色に対する感動というものは殆ど無いが、それでもなんとなく感じる物はある。

「……」

無言で夜空を見て、そして彼の口が開く。


「ネギ君、もし君が僕だったらどうするんだい?」


夜空からの返答は、無い。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:40:28.21 ID:xPqI8Idj0<>




「異常無し、ですわね」

一方。
"希望の世界(キボウノセカイ)"と一部には呼ばれるこの世界の、東京西部に位置する学園都市。
その第七学区の地下。
デパートの地下で、レストランなどの店が立ち並ぶ地下街に、白井黒子は風紀委員の腕章を付けて歩いていた。
風力発電によって生まれた電気、そして学園都市の技術が詰まった灯りが通路や店内を照らし、地下というイメージが薄れそうなくらい明るい。

「この辺りは特に問題はありませんわね」

煉瓦の模様が描かれた床を踏みしめ、彼女はツインテールを靡かせながら歩く。
流石の不良達もこんな死角が殆ど無く、しかも人で溢れ返っている場所で喧嘩やらをする馬鹿はいないのか、黒子が見たところ特に異常などは起こっていなかった。

しかし油断は禁物。
事件というのは、何時起きるものなのか分からないのだから
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:41:05.07 ID:xPqI8Idj0<>

「やぁ、パトロールかい?」
「えぇ、そうですの。其方もですか?」

正面から来ていた警備員(アンチスキル)に挨拶を返す。
二十代後半といったところの男は苦笑しつつ頷いた。
黒い装備で全身を固めているが、メットを脱いでいるため素顔が露わになっている。
周囲の人々は会話する二人を気に止めず歩いて行き、特に注目するようなことはなかった。

「人手が足りなくてね。本来ならアンチスキルの仕事なんだろうけど、正直君達(ジャッジメント)の協力は助かるよ」
「どういたしまして」

ぺこりと綺麗にお辞儀する。
年上の相手へと向けるに相応しい、綺麗なお辞儀だった。
黒子が在学するのは名門お嬢様学校こと、常盤台中学。
この手の礼儀作法は朝飯前なのである。

「ははっ、じゃあ頑張ってくれよ」
「はい」

短い会話を切り上げ、黒子は自分の仕事をするべく一歩を踏み出す。




しかし油断は禁物。
事件というのは、何時起きるものなのか分からないのだから。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:41:34.95 ID:xPqI8Idj0<>


ズシン、と。
地面が揺れた気がした。

(──?)

疑問が、足を踏み出した直後の黒子の脳内を駆け巡る。
今の振動はなんだろう。
地震、ではない。
普段でも度々感じるような揺れだった。
そう、地面そのものが直接揺らされたのではなく、地面へと何かの物理的な力を加えられて、その余波として地面が揺れた。
そんな揺れだ。

「──」

何時の間にか、周りから音が消えていた。
人々の歩みや会話が止まり、雑踏の音が地下から消えたせいだ。
本日何度目かの予感に従って、彼女は首を動かす。
真後ろ。
十メートル程の距離がぽっかりと空白地帯になっていて、視線が何者に遮られずに通っている。
そこに、少女が居た。
肌が茶色で、ドレスのような服を着ている外国人の少女だった。
だがただの少女にしては、おかしな部分が二つ程。
一つは"大きな角"。
頭のこめかみの辺りから生えた角は、骨のような色をしている。
飾りだと思うには、余りにもリアル過ぎる気がした。
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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:42:05.59 ID:xPqI8Idj0<>

そして、彼女の背後に伸びる"巨大な尻尾"。

根元が少女のスカートの中から伸びているのに、その尻尾は余りにも長かった。
既に少女の体よりも大きくなっているというのに、何やらまだ大きくなっている気がする。

バキバキッ!!と、肉体が変化する音が、黒子の耳を叩く。
少女の足が、何やら得体の知れない物に変貌しつつあった。

「なっ……」

驚きで放心し、言葉が出ない。
周りの驚愕の感情を無視して、少女はただ黒子を見ていた。
隣のアンチスキルなど無視して、ただ彼女だけを。
そして、その口が動く。




「──見つけた」




しかし油断は禁物。
事件というのは、何時起きるものなのか分からないのだから。
そして、何時巻き込まれるのかも。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:42:36.40 ID:xPqI8Idj0<>








思いは複雑に絡み合う。
それぞれの願いと思いを胸に乗せて、
物語は動き続ける。









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◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/18(月) 17:43:17.55 ID:xPqI8Idj0<>
後書き
この作品を書き始めたのが九月下旬。
ただの電波からプロットなどクソくらえで始まったこの物語も、長期更新停止を挟みつつ半年をあっという間に通過し、ここまでやって来ました。
物語自体はまだ半分にも達しておらず、しかも一部という有様ですが……
しかし見直すと結構書いたなぁ、とも思います。
時の流れというのは想像よりも遥かに早く、しかし変わらないものもあると感じる今日この頃。

というか、何故こんなことを急に言い出し、更には更新まで遅らせやがったのかというと、今日は自分がssというものを、文書というものを書き始めてから一年になる日だからです。

思えば、自分で文書を書こうと思った頃からクロスオーバー小説は何時の日か書きたいと思っていました。
昔自分が見ていたクロス作品は片方の作品に比重を置き過ぎてただの無双(そこが面白いのも勿論ありますが)になって面白くなくなったり、クロスさせるだけさせてただのチートオリキャラが活躍するだけの話だったり、明らかに片方の作品を乏したりといった内容が多かったのです。
「ちゃんとした、各作品を上手く組み合わせたクロスオーバーを書きたい」と言いつつ、「王道だけどちょっとおかしな、目立つような話を書きたい」という思考が合体して生まれたのがこの多重クロス作品。
正直自分には荷が重過ぎるでしょうし、技量が明らかに作品の内容に追いついていませんが、ここまで頑張れたのは全国に居る少ないながらも見てくれている読者の皆さんのお陰です。
本当に感謝を。ありがとうございます。


ところで、皆さんは小説やssをなんだと思っていますか?
自分はフィクション、架空のお話だとは思っていません。
全てはifの世界だと思っています。
「こんな人が居て、こんな事があって、こんな世界だったら」これらを文字や絵という形で世の中に出力するのが、小説やssではないのかと。
そういう意味では正にssがそうです。
「もし悠二が吉田を選んだら」
「もし上条が死んでしまってたら」
「もしネギがアスナなどに頼らなかったら」
「もし霊夢に好きな人が出来たら」
「もしこんなオリキャラが居たら」
殆どの作品のテーマがこういった物になってくると思います。
この作品で言うならば「もし四作品のキャラ達が『神』を倒すために交差していったら」。
ありえたかもしれない可能性、それを書くのが小説やss。
そして、この可能性を描くという思いこそが、一番ssを書く際に必要な物なのではないか……と自分は一年前から思っています。
皆さんはどうでしょうか?
物語を書くに従って、本当に必要なのはなんなのでしょうか?
百人中百人がバラバラの答えを出しそうな質問ですが、貴方の答えはなんでしょうか?


と、偉そうな自論語りを態々飛ばしていただいた方には謝罪を。態々読んで頂いた方には感謝をして。
今回はこの辺りで筆を置かして頂きます。
次回からは短い後書きに戻るので、どうか御安心を。
一週間二回更新を目指して頑張ります。目指せ、年内完結。


では、また次回。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/04/18(月) 18:12:08.47 ID:FeZgKoV90<> 乙!!                     <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2011/04/18(月) 18:14:21.86 ID:FeZgKoV90<>        / : : : : : : : / |ヘ:: : : : : : : : \
     /..: : : : : : : :∧ :!,∧:.: : : : : : : : :\
     r' : : : : : : : : ::∧. | ||/∧: : : : : : : : : : ヽ
    ゝ;: : : : : : : :∧ ヾ! ||/ ∧r‐--、r.、 : : ノ
.      |三三三ミ\\l |l,/∠| [三]:::i三ミi
       !三三三三ミ\ | /三| ゙[三]::::!三ミ!
    /:: ̄:/  ̄ ̄ ̄ `'' ̄ ̄└‐‐<:`´:: ̄!
.    /: : : : /! i l /l ハ ハ ハ /l /'ヽ: : : :ヽ,
.  /: : : : /' l ハ. N l/ l/ l/ l/ !/l  ハ: : : : ヘ
  /: : : : /l 从ハl       '     ル'!イ  !: : : : :ヘ
. /: : : : / Y /, ヘ、    ‐‐    人  !  l: : : : : ::ヘ
/: : : : / i  ∨/r≦l>、.___,.イ≧ハ/  ∧: : : : : : ヘ
: : : : /  ',.  V4三o三Y゙rt Y三o三ラ゙  /' ハ : : : : : : ヘ
: : : /!  八  乂三三ニlイ ト、l三=/  / / ハ: : : : : : : ヘ
.: ::/入 k´:\  ヾ"=ム∀,ム=ツ  //  /::\i: : : : : : : ::ヘ
: :7 r':\ ヽ: λ  !: : : ::介:: :/ /:.::/  /: : : : :l: : : : : : : : :ヘ
:.:i  ハ : : ヽ ∨l. ノ.: ::/l lヽ:l/、: : / ,/: : : : : ::l:: : : : : : : : ::ヘ

   乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 04:25:09.21 ID:KD/3oO2/o<> 乙

とりあえずSSは書かないけど寝る前に妄想は皆するよな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(マーシャル諸島)<>sage<>2011/04/24(日) 17:23:55.50 ID:EOCU8YEl0<> 確かにしますね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(マーシャル諸島)<>sage<>2011/04/24(日) 17:29:31.40 ID:EOCU8YEl0<> 遅れました。乙です。 <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:26:53.37 ID:ciltodti0<>
お久しぶりです!
事情により、予定から一週間程遅れました。

では投稿を開始します。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:29:00.92 ID:ciltodti0<>



学園都市の地下街。
第七学区の、学生達にはデパ地下と呼ばれるそこでは沢山の店、主に飲食店が並んでいる。
第二十二学区程ではないが、ここの地下街もそれなりに発展していた。
『どのような色彩を中心にした方が客の入りがよくなるのか』や『どういった形の店が客の入りがよくなるのか』などという心理現象を研究し、商業的に役立てようとしている実験的な意味合いを含めた店も幾つか存在する。
故になのか、それなりの人が平日でも其処に居た。
人工的な明かりと騒音に満たされている空間は、


今や、戦場へと変貌している。




(──っ、不味い!)

地下街の通路。
其処で白井黒子は放心から復帰した。
目の前で変貌しつつある、一人の少女。
彼女が何者で、何が目的なのかは分からないが、誰を狙っているのかは分かる。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:32:32.47 ID:ciltodti0<>

爬虫類のような眼光は、黒子の姿を真っ直ぐ射抜いていた。

その間にも、ベキベキと骨や肉が変貌してゆく、およそ日常に生きている人間が絶対に聞かないような異音が無音の世界を切り開く。
骨付きの肉をプレス機にでもかけたらこんな音が鳴る。そう考えさせられる音だった。
少女の体から伸びる尾はどんどん長くなり、全貌を捉えるのが難しくなってくる。

「……」

ビリッッッ!!と。
服を裂き、背中から何かが飛び出した。
それは、翼。
鳥の持つような、それでいて鋼の如き堅さを見せる翼が、少女の背中から絶対に有り得ない容量を地下街へと広げてゆく。
それはまるで、芋虫の羽化にも似た変貌だった。

「「「────ッ!?」」」

其処までが周囲の限界だった。
男女問わずに甲高い悲鳴が地下街を震わせ、全員が一斉に出口を目指して走り出す。
押し合い、他人など気にかけず真っ先に自分が助かるために動くその姿は、人間の生存本能をありありと表しているように見えた。
自分の周りから離れてゆく人の波にも気にせず、名も知らぬ少女はただ両手を広げる。
服の袖を引き千切り、手が巨大な鍵爪を持つ何かに一秒ずつ変化していた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:33:04.10 ID:ciltodti0<>

「っ、何だあれは!?能力者!?」

黒子の隣に立っていたアンチスキルの男が叫び、訓練通りの慣れた手つきで腰から拳銃を引き抜く。
本来ならば発砲前に投降を呼びかけなければならないのだが、そんなことを気にしている場合では無い。
そして抜き放ち様に数発放つ。
暴動鎮圧用の硬質ゴム弾は火薬の炸裂音を鳴らして少女へと一直線に突き進む。
目で捉えるなど到底無理な銃弾は二発が地面に、残りの二発が少女の体へと直撃する。

いや、直撃したかのように見えた。

ガガガッ!!と、金属同士がぶつかり合うような衝撃音を上げて、銃弾は少女の少し手前で停止する。
停止する、というのは厳密には正しくない。
半透明な見えない壁に、黒い銃弾が受け止められていた。
空気中の光を歪ませて彼女の前に突き立っている何かが、彼女の身を守っている。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:33:38.49 ID:ciltodti0<>

「くっ!?最新鋭の電磁シールドか!?」
(……違う)

隣からの声を、黒子は心中において否定した。
あれは最新鋭の科学兵器ではない。
それは『自分だけの現実』という異常な感覚を持つ能力者の一人たる彼女だからこそ、ハッキリ断定出来たのだろう。
取り敢えず今の彼女に分かることは三つ。
この変貌している少女はただ者では無いこと。
パトロール装備のアンチスキルでは倒せないこと。


この少女は、明らかに自分を狙っているということ。


「避難誘導をお願いしますの!」
「あっ、君っ!?」

傍らのアンチスキルの制止を無視して、黒子は空白地帯へと持っていた鞄を投げ捨てながら躍り出る。
もう胴体と顔以外には人の面影を残さない少女は、無謀にも飛び出して来た黒子を見て、獣のように四つん這いになる。
彼女なりの戦闘体型だと分かっていながらも、黒子は凛とした声で、

「狙いはわたくしでしょう?他の方には手を出さないようにお願いしますわ」
「……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:35:37.59 ID:ciltodti0<>

コクン、と小さく少女は頷いた。
それと同時に、とうとう少女の原型が掻き消えた。
ベキベキッ!と、音が一層強く響く。
ずんぐりむっくりとした、重たそうな胴体。
体に沿うように納められた、翼。
長くて天然のクリーム色を見せる、角。
胴体の半分くらいはありそうな長さの、尾。
そう、その姿は──

「"龍"、ですか。たっく、ここは一体何時からファンタジーな世界になったんですの?」

昔の絵や漫画、飾りとして見ることの多い伝説の生き物。
鯉が滝を上ることで翼をその背に生やし、雷雲の中で成長すると言われている生き物。
お話によっては世界を創造した創造神とも呼ばれる存在、龍。
ただ、流石に人間の万倍とかいう大きさでは無いが、それでも屈んでいる時点で高さ五メートルはある。
しかもよく見る細長い図体ではないので、余計に重量感があった。
正にモンスター、ファンタジーから直接現実に持って来たような姿。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:36:53.59 ID:ciltodti0<>

(肉体変化能力……いえ、それでは説明がつきませんわね。明らかに質量がおかしいですし。それに、能力は一人に一つ。肉体変化能力だとしたら、さっきの見えない壁の説明が──)

ジャッジメントとして鍛えられた脳をフル可動して、目の前の少女について考える黒子だが、

「環」
「……?」

短く発せられた単語に、思考を止める。
何のことかと思った、直後に理解する。
恐らくは彼女の名前なのだろう。

「……というか、そんな図体になってもちゃんと言葉を話せるんですのね」
「……私の目的は、貴方を連れて行くこと」

ツッコミを無視して龍こと環は、巨大な姿からは想像付かない少女の声を放つ。
もしかしたら声帯から声を出しているのではなく、別の道具か何かを使って声を発しているのかもしれない。
少なくとも、学園都市の技術でそれくらいは絶対に可能だろう、と黒子は無理矢理納得させた。

「大人しくついて来てもらえさえすれば、危害を加えるつもりは、ない」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:38:31.57 ID:ciltodti0<>

言葉と共に足が一歩踏み出される。
圧倒的な重量によって、路面が轟音をたてながらひび割れた。
ひびは蜘蛛の巣のように辺りへと広がり、地下街全体を細かく揺らす。
自分の足下までひび割れが迫り、黒子は僅かに足をもたつかせた。
自然と、頬を冷や汗が伝う。

「……一つ尋ねますが、それに私が同意すると思って?」

それでも、彼女は戦う。
ジャッジメントとは市民を守るために存在するのだから。
ついて行けば暴れ回るようなことはしないかもしれないが、ここまでの混乱を起こしておいて「はい、ついて行きます」などと答えれる筈がない。
そして、向こうもそれぐらい分かっていたのだろう。

「……」

返事は無言と、


上から叩きつけられた巨大な尾だった。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:42:32.93 ID:ciltodti0<>

斧の如く、怖気が走る風切り音を立てながら尾は真っ直ぐに伸ばされた状態で振り下ろされ、鈍い光沢を見せつつ路面へと直撃した。
ドォンッ!!という轟音とともに地面がめくり上がり、爆煙を周囲へと撒き散らす。
灰色によって空間が産め尽くされ、息をするのも苦しい砂埃の空気が辺りに満ちた。
そんな、さながら爆弾にも似た一撃を、

「いきなりですわね」

黒子はギリギリの所で躱している。
彼女の姿は真逆、環の背後にあった。
どう考えても移動し過ぎ、更にはあり得ない移動だが、彼女にとっては普通のこと。
大能力者(レベル4)として黒子が持っている能力、『空間移動』。
文字通りの能力であり、普通の能力に比べて制約が多いとはいえ、学園都市でも百人以下の珍しい能力である。

「……!」

外見が龍なので感情はよく見えないが、恐らく息を飲んだのだろう。
追撃とばかりに尾へと力が篭り、
一気にしなった。
ベキベキベキベキッッ!!と、壁際にある店舗を破壊しつつ、尾は半円に振られる。
狙いは勿論、背後に立つ黒子。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:43:06.33 ID:ciltodti0<>

「……ふっ」

唸りを上げて迫る攻撃を黒子は一瞥して、冷静に"飛ぶ"。
パッ、と。音を立てずに、一瞬で黒子の体は十メートル真上へと移動していた。
直後に尾が彼女の真下を通過し、反対側の壁へと突っ込んだ。
店のウィンドガラスを砕く壮絶な破砕音が木霊し、衝撃波が砂埃を薙ぎ払う。
それらを見つつも、黒子はまたもや転移を行って移動。
今度は、

「!」

環の目の前へと現れていた。
トンッ、とガラス吹雪が舞う光景が展開される中、彼女は軽業師のように軽く着地。
そしてその手に黒い金属製の矢(ダーツ)を挟み、振り被る。

「ガァァッ!」
「!」

が、その腕が振られることは無かった。
黒子自身の体よりも大きな、人体など濡れた紙のように引き裂けそうなかぎ爪がついた巨腕が、横殴りに振られたからだ。
弾かれるように彼女は後ろへと転がる。
ブォッ!と。頬を一撃の余波が不気味な強さで撫で上げた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:44:26.70 ID:ciltodti0<>

「くっ……!」

度重なる衝撃ですっかり荒れた地面を、砂まみれになりながらも転がって直さま立つ。
整えていた髪や制服が汚れ乱れるが、そんな些細なことを気にしている場合ではなかった。

「これ、ならっ、ライオン相手の方が、まだマシですわ……っ!」

転がった際に足を擦りむいたため、足に血が伝った。。
砂汚れが混じった黒い血は、彼女の内心を表しているように見える。
一撃一撃が、受ければ人間である黒子など挽肉になる威力があるのだ。
幾ら彼女とて、恐怖を感じない筈が無かった。
息が乱れ、動悸が治まらない。

「君、早くこっちへ!」
「!?」

唐突に声が響いた。
勢いよく其方へと顔を向けると、数十メートル先に黒い団体が見えた。
全員が全員、連射式の長銃を持っていて全身を黒いスーツと甲冑で固めている。
更には透明な体全体を包める盾を持っている者も。
どうやらパトロールに割かれていたアンチスキルの集団のようで、先頭に立ってスピーカー片手に叫んでいるのは黒子と喋っていたアンチスキルの男。
場数を踏んで来た黒子には、彼等が今からどうするのかが言われなくても分かる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:45:39.50 ID:ciltodti0<>

「……」
「っと!」

環の意識がアンチスキルへと向いた隙を見計らい、転移。
破壊尽くされてボロボロの店内の一つへと移った、

瞬間、

「撃てぇ!」

一声とともに、炸裂音が鳴った。
ガガガガガガガガガッッ!!!!という連続した火薬の爆発音が、鼓膜を破らんとばかりに鳴り続ける。
十以上の銃口からは例えゴム弾であろうと対象を殺してしまう恐ろしい程の銃弾が、毎分数百発の割合で放たれて敵へと殺到した。

「くっ!」

思わず店内の壊れたテーブルの影でツインテールを掻き上げ、耳を塞ぐ。
そうでもしないと、この爆竹などとは比べ物にならない炸裂音に耳をやられてしまう。

「……」

対して、環は慌てなかった。
というより動かなかった。
ただその雄大なる姿で、銃口を向けるアンチスキルの集団を眺めている。
銃弾の山は全て環にぶつかる前に、透明な壁にぶつかって火花を上げながら弾かれ、幾つか貫いても龍の肌に弾かれる。
その無言の姿からは、何処か余裕が感じられた。
影で見ていた黒子は目を見開き、息を飲む。

(あれだけの銃弾を受けて、全くのノーダメージ!?)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:48:22.32 ID:ciltodti0<>
見えない壁が何なのかは知らないが、少なくとも金属矢を投げなくてよかったと思う。
なにせ銃弾でもダメージを与えられないのだ。女子中学生の力で投げた矢がダメージを与えられるとは、到底思えない。

「き、効いていないだと!?」

アンチスキルの驚きの叫びが、炸裂音の合間に微かに鳴る。
圧倒的な筈の掃射。
普通なら例え肉体が持ちこたえても、衝撃で吹き飛ばされておかしくないだけの力があるのに、人智を超えた化け物相手には全く意味を成さなかった。
だが無駄であろうとなんであろうと、掃射は続く。


「……邪魔」


そんな言葉が、聞こえた気がした。
ゆらりと、巨大な体の前足が上げられ、二足のみで龍は立つ。
そして、黒子は気がついた。
前足よりも巨大な後ろ足が、地面にがっちりと食い込んでいることに。

(まさか、今までずっと衝撃を堪えて?)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:51:55.63 ID:ciltodti0<>

銃撃音の最中朧げに思考するが、それよりも嫌な予感がした。
巨大な体が二足歩行になったせいで、更に高くなった龍の姿。
口を開けて、刃物よりも鋭い煌めきを放つ牙。
その姿に、勘が叫ぶ。

何かが来る、と。

「──」

警告の叫びは、掃射の轟音に塗り潰されて響かなかった。
アンチスキルはただマニュアル通り訓練通りに、銃のトリガーを引き続ける。
それが、命取りになった。

「……」

環が取った行動はシンプルだ。
ただ、前に倒れかけるように後ろ足を蹴って飛ぶ。
それだけで、

ゴバッッッ!!!!と。
地下街を一陣の嵐風が吹き荒れた。

巨体からは想像のつかないスピード。
圧倒的な車以上の重量。
左右の壁にぶつかりそうな程広げられた翼。
それらと"科学では説明出来ない何か"が合わさって、生まれた風。
それは全てを薙ぎ払うように、吹き荒れた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:53:21.58 ID:ciltodti0<>

「きゃっ!?」

直接暴風を受けた訳ではないのに、余波だけで体を持っていかれかけた。
這い蹲って体を固定し、壁を鷲掴みして必死に堪える。
頬を浅く、何かが切り裂いた。
瓦礫の破片が舞い上がり、頬に当たって切れたのだと、黒子は目を閉じていたため分からない。
ただ気がついた時。
目を漸く開けれるようになった時。

アンチスキルは、全滅していた。

「ぐっ、がっ……」
「ぎ、いっ……」
「がふっ!」

通路になんとか這い出した黒子を待っていたのは、そんな現実。
まともに暴風を受け宙を舞い、荒れた地面に叩きつけられて気を失ったり呻くだけの大人達。
近くにばらまかれた武器の数々。
風に押し流された瓦礫が、更に光景を非現実的な物に変えていた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:55:59.25 ID:ciltodti0<>

「……」

苦い表情で、全身に鈍く走る痛みを無視して彼女は通路に立つ。
風によって瓦礫が無くなった黒子の周りは、胸騒ぎがする程嫌な雰囲気が漂っている。
そして、一つ影が差し、
ズンッ!!という轟音とともに、目の前へ着地した。

「……邪魔者は居なくなった」

アンチスキルをたった一人、もしくは一匹を薙ぎ倒した化け物を前に、砂まみれの姿で彼女は苦笑した。
馬鹿らしいとばかりに。

「……全く何処のアニメですかこの展開は」

たった一人で伝説に似た生き物と対峙する。
そんな巫山戯た展開に追い込まれた彼女は、苦笑をしつつも両手に金属矢を構えた。
絶望的だが、それでも白井黒子は戦う。
ジャッジメントとして。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:56:54.16 ID:ciltodti0<>






「全く、こういうのは"カミやん"の役目やっちゅうに……」

地下街を走る誰かが居た。
普段なら沢山の通行人が居る通路だが、今は誰もいない。
非常事態だからだ。
冗談でなく、命に関わるレベルでの。
テロ。そう一般市民には放送され、避難指示が出ている最大級の危険地帯。
なのに、その人物は迷わず走り抜ける。
危険の震源へと。

「まっ、仕方あらへんか」

誰もいない地下に、走る足音だけが連続して響き渡る。
その人物には、事件に向かうだけの理由があった。
友人の義妹と一緒に避難し、他の野次馬達に混ざっていた時。
近くに居た野次馬が携帯を持って会話していたのだ。

曰く、『風紀委員の一人がテロリストと戦っている』と。

それだけならばまだよかった。
この街で生きる内に、友人との関係の中で何度か似たような危機にあったことはある。
ジャッジメントがテロリストと戦う、なんてことは周りではよくあることだったし、特に気に止める必要も無い。
だが。


『噂によるとどうも"常盤台"のジャッジメントらしいぜ』
『まじかよ!つーことは女か』


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 13:59:22.41 ID:ciltodti0<>

この会話が、キッカケになった。
常盤台所属のジャッジメント。
その人柄に心当たりがあったのだ。
正確には、あったばかりだった。
友人の義妹の知り合い。
"彼"自身にとってはただ一言二言会話しただけの、知り合いと呼ぶことすら難しい。
向こうは自分の顔を覚えているかどうかすら怪しいものだ。


しかし関係無い。


彼の友人ならば、迷わずこう答え、同じ行動を取っている筈だ。
だから、彼も同行者を安全な場所に避難させ、アンチスキルの閉鎖を潜り抜けてここまで来ている。

「可愛い女の子を助ける!なぁんて、男の子なら絶対憧れるシュチレーションやでぇ?!」

暢気な笑い声を放ちつつ、表情は真剣にただ走る。
徐々に、事件の震源へと近付くのを肌で感じながら。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:03:47.67 ID:ciltodti0<>




「はぁ、はぁ……っ」

荒い息遣いが口から漏れる。
白井黒子は壁に寄りかかりつつ、肺へと酸素を送り込んでいた。
彼女が居るのは荒らされた店の一つ。
元々は洋服店だったのか、粉々に砕けたショーウィンドウの強化ガラスに混じって、売り物にならなくなった衣服達が其処かしこに散らばっていた。
ガラスで切らないように腰の下に布を敷いて、へたり込む。

(スタミナが、違い過ぎる……っ)

実際の所。
黒子には、あの龍へと変貌した環という少女の防御を貫く方法が存在した。
彼女の空間移動によって攻撃すればいいのだ。
空間移動──11次元法則によって転移した物体は、転移先にある物体を『押しのけて』出現する。
そこに双方の強度は関係無い。
故に相手が例えダイヤモンドの塊であろうが、紙キレ一枚あれば切断することは簡単なのだ。
相手がどんな防御方法を取っていようと関係無い。
銃弾でビクともしない怪物であろうと。

「ふー、ふー……」

しかし、彼女は追い込まれていた。
問題点は幾つかある。
一つは相手が無駄にデカい癖に素早いこと。
もう一つは空間移動の演算は時間と集中力が必要なこと。
更に、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:06:17.72 ID:ciltodti0<>

(アンチスキルの掃射を防いだ"何か"……まさか、正体が空気だったとは……)

相手の予想外の攻撃。
てっきり、あのデカいかぎ爪や尾で襲ってくると思ったのだが、相手はあろうことは空気による攻撃をして来たのだ。
アンチスキルを薙ぎ倒したのと同じような、暴風による攻撃を。

(しかし、アレは本当になんなんですの……?)

この状況からの逆転方法を考えつつ、能力開発で培われた頭脳を使って考える。

(肉体変化能力者……矛盾も生まれますが、これが一番可能性が高いですわね。サイボーグや駆動鎧、新手の生物兵器なんていうSFチックな可能性もあることにはありますけど、明らかにあれは人間。第一、そういった『人工的に人間の肉体を超える』発明は技術的な問題で余り進歩していませんし……)

チラッと、壁の影から小さく顔を出す。
近くに姿は見当たらないが、間違いなく自分を探しているだろう。
正直、次に真正面からぶつかった場合無事で済むとは思えなかった。

(ではあの風は全て何らかの兵器によるもの?もしくは近くに協力している能力者が居る?あれだけの力を、他人に合わせて振るえるというならばレベル5といっても過言ではないですの……)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:08:28.25 ID:ciltodti0<>

答えが出ない。
取り合えず仮定として『相手は肉体変化能力者、風は別の何かによるもの』と考える。
そして、どう戦えばいいのか模索しようとして、

「……」

ふと、勝利条件は何も相手を捕縛することだけではないとうことに気がついた。
極端な話、逃げてしまえばいい。
自分の能力は空間移動。逃げるのにはうってつけの能力だ。
向こうの狙いは自分なのだから、一旦離脱して外に居るであろうアンチスキルの増援と合流すれば──

(……いや、待ちなさい。"アンチスキルの増援"?戦いから既に十分は経っている筈なのに、何故……)

アンチスキルとて無能ではない。
自ら街を守るために志願し、訓練を受け、戦闘装備で身を固めた大人なのだ。
なのに、これだけ大きな事件が起きてながら何故未だに増援が来ない?

(監視装置が作動していないから?いや、そんなものでは……)

彼女にしてはやけに弱気な思考は、


背後からの轟音に吹き飛ばされた。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:09:19.35 ID:ciltodti0<>

「──!?」

ビキッ!!と、寄りかかっていた壁全体に巨大なひび割れが入る。
轟音の正体は、何かがぶつかる衝突音。
その衝突音の正体が敵によるものだというのは、分かりきっていた。
そして、このままでは店ごと潰されるとも。
咄嗟に空間移動を発動させ、外へと一瞬で移動する。

が。

「かかった」
「!?」

彼女の視線の先。
店の壁を壊していた筈の環は、凶器たる龍尾を黒子へと振りかぶっていた。
外の通路に転移し、足を十センチ程宙に浮かせている彼女へと。

(壁を壊そうとしたのはフェイ──)

転移先が読まれていた。
そう考えた時にはもう遅い。
視界を、龍尾の影が覆いつくし、


グシャッッ!!と、車に跳ねられたような轟音が肉体の内部から直接伝わった。


「──、──」

悲鳴は声にならなかった。
脳へと痛覚を知らせる電気信号が過剰に伝わり、全身の感覚が消える。
視界が紅くなり、直ぐに色が戻って、しかしぼやけた線の形しか見えなかった。
それが体が真横に吹き飛ばされているせいだと、ゴミのように地面へと叩きつけられてから漸く悟る。
人間という肉の塊が硬い物にぶつかる、気持ち悪い音が発せられた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:10:39.42 ID:ciltodti0<>

「がぁぁあああああああああああああああああああっっ!?」

魂を削るような悲鳴が口から声となって迸る。
ノーバウンドで五メートルは宙を舞い、勢いよく大地へと墜落したのだ。むしろ意識を失っていないだけマシといえた。
荒れた地面を転がって体の所々に切り傷が生まれるが、そんな痛みの情報が頭に入ることは無い。

「あ、がっ……!」
(まずっ、骨が……やら、れっ……!)

肋骨を何本か折られた。
いや、本能的に間へと挟んでしまった左腕も完全に折れている。
炎で焼かれているような痛みが、全身を襲っていた。
油汗が滲む。

(……わたくし、まだっ……死んでないのです、ね……)

凄まじい激痛に襲われながらも、這い蹲った状態で必死に思考を働かせる。
今の一撃。黒子を殺したいのならば、殺せた筈だ。
学園都市製の路面を粉々に粉砕する力があるのだから、アンチスキルのように装備をつけてさえもいない生身の彼女など紙に等しいだろう。
なのに、死んでいない。
完全に手加減をされていた。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:12:41.14 ID:ciltodti0<>
「……ついて来て欲しい」
「っ、はっ……」

息も絶え絶えな黒子へ、環からの声が上から投げかけられる。
その声は上から目線の物ではなく、何処かお願いにも近いイメージを与えた。
状況と全くあっていないその言葉に、疑問を持つ。

(……い、や、そもそも……何故、ここまでして、ただの、ジャッジメントに過ぎな、い、わたくしを……?)

最初はかつて捕まえた能力者達の誰かによる復讐かと思った。
心当たりは残念ながら腐る程ある。
彼女はそれに雇われた高位能力者ではないのかと。
だが言葉からそういった印象は感じない。
様々な感情がごちゃ混ぜになった、子供の言葉。

(嫌々、やっている……?何故……)

激痛を堪え、なんとか思考するが、答えは出て来ない。
その間にも、環の言葉は続く。

「貴方はテレポートによる攻撃で、私の"内部"を狙わなかった。内臓や脳を傷つけて、殺すのを避けたかったから」

龍の口から物悲しげな声が、真っ直ぐと黒子の耳へ伝わる。
言葉には、偽りが感じられない。
彼女のありのままの言葉を投げかけられていた。

「貴方は、優しい。だから、これ以上抵抗をせずに、大人しくついて来て欲しい」
「……っ」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:14:10.96 ID:ciltodti0<>

そして。
這い蹲り、悲鳴を抑えていた黒子は、

「……お、断りです、の」

挑発するように、舌を出して拒否した。
苦し気な声とともに口から血が吐き出され、お世辞にも余裕ある姿とは言えなかった。
表情も苦痛で歪んでるし、目元には涙も浮かんでいるに違いない。
ただ、その瞳。
その瞳に宿る意思の光は、例えどれだけの苦痛を突きつけられようと揺らぎ無かった。

「──……」

環はその姿に何か言いかけて、止めた。
黒子を気絶させる一撃を叩きつけようと、右足を振りかぶる。
感情を無理矢理消し、動けない黒子へと無慈悲な一撃を叩きつけようと、力をためる。

(……ここまで、ですわね……)

自分の上へと掲げられた人外の足を見て、黒子は心中で呟いた。
空間転移はまだ出来るかもしれないが、連撃を躱せる自信はない。転移しても足を動かすことすら無理だろう。
攻撃して怯ますにしても、手が掴めるのは路面のみ。
王手。チェックメイト。詰んでいる。
後はただ、結果を叩きつけられるだけ。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:16:48.64 ID:ciltodti0<>




な、筈だった。




その時。
攻撃をしようとしていた環。
防御を諦めた黒子。
両者が今の今まで気がつけなかったが、一つの人影が二人の方へと向かっていた。
その手に、倒れていたアンチスキルからもぎ取った装備を手に持って。

(……っ!?)

黒子が二十メートルの距離まで近付かれて、漸く環の背後から迫る人影に気がつく。
その人影に、彼女は見覚えがあった。

(あれは……変態さ、ん?)

青い髪に、百八十センチはある長身。
黒い学生服。
正に、先程あったばかりの男だった。

「?」

環自身も背後十メートルにまで近付かれて足音に気がついた。
巨大な体を曲げて後ろを見る。
だがしかし、その頃には青髪は既に環の懐にまで潜り込んで居た。
手に持つのは、


HsLH-02。
鋼鉄の扉を破るための、電磁力(リニア)式ハンマーだ。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:19:40.92 ID:ciltodti0<>


一見、バズーカ砲のようだが、中身は先端が平らになった巨大な鋼鉄の杭。
本来は鋼鉄の扉を破るためなどに使われる装備だ。

「女の子を傷つけるのは趣味やないんやけど、なっ!」

彼は両手で振りかぶり一気に環の四肢、後ろ左足へと叩きつけた。
引き金はいらない。
砲口付近に衝撃を与えることで、二十キロの鋼鉄の杭は、亜音速で標的を叩く。

ゴッッ!!!!と、衝撃音が鳴り響いた。

「ガッ!?」

環の口から初めて苦痛の呻きが漏れ、状態がぐらつく。
あれだけの掃射を受けても揺らがなかった巨体は、一瞬の油断を突かれた一撃で揺らいでいた。
そして、グラついた彼女へと青髪は更に追い打ちをかける。

「!」

向こうによる攻撃か、風の刃が一つ頭の横を突き抜けたが、彼は無視した。
素早く電磁力式ハンマーを操作し、杭を内部へと引っ込ませる。
再度、今度は右足へと叩きつけた。
流石に直撃とは行かず、空気の壁にハンマーは防がれた。
しかし、内部から飛び出した杭はそのまま環へと叩き込まれる。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:20:20.55 ID:ciltodti0<>

「ッッッ!?」

幾ら重量があろうと、碌に力が入っていない状態では亜音速の一撃を耐え切れなかった。
銃撃と違い、鋼鉄の扉を吹き飛ばすことを前提に作られているというのも影響したのだろう。
かぎ爪がついた足が宙に浮き、横へと移動する。
単純に言うならば、吹き飛んでいた。

「グォォォォォォッ!?」

咆哮が迸るが、崩れた巨体はそう簡単には立て直せない。
轟音と噴煙を巻き上げながら、龍は横倒しとなる。
辺り一帯へと地震に似た振動が伝わり、茫然と敵が薙ぎ倒される光景を見ていた黒子は、その振動の余波で奔った痛みで、放心から回復した。

「逃げるで!」
「っ!」

ハンマーを投げ捨て、自分へと駆け寄って来た青髪を見つつ、黒子は頭の中で演算式を組み上げる。
自分の能力を使い、逃げるために。
痛みが演算の邪魔をするが、それは精神力でねじ伏せる。
そして、青髪の手が自分に触れた瞬間、

(……行けぇっ!)

能力を発動し、二人の姿は夢幻のように消え去った。








<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:23:22.70 ID:ciltodti0<>




「グッ……」

起き上がった環が見たのは、誰も居ない荒れ果てた地下街の光景。
周囲を視覚だけでなく、魔法をも使って探索するが、あのツインテールの空間移動能力者は見当たらない。
恐らく、いや、確実に逃げられた。
追跡も不可能。
この地下街は入り口が至る所にある上、入り組んでいる。
人海戦術が出来るならともかく、一人では無理だろう。

「……フゥ」

一息吐き出すと、彼女の体が小さくなり始めた。
肌の色も人間味のある色へと戻って行き、翼も無くなって行く。
獣化ならぬ、龍化を解いているのだ。
やがて一分も経たずに元の人間の姿へと戻り、彼女が人外だと示すのは頭部から生えた角と腰辺りから生えた尾だけとなる。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:25:44.82 ID:ciltodti0<>

「……」

そこで。
自分が身に纏う服が無いことに気がついた。
龍化した際に着ていた服が弾けとんだので、着るものが無くなったのだ。

「……」

無言のまま、環は悩む。
別にこのまま帰還しても構わないが、もし服を着る前に主や他の者達に見られたら羞恥心で大変なことになる気がする。
戦いの最中ならばこんなことは気にしないのだが、やはり冷静になると少しは恥ずかしい。
むむっ、と唸る環。


「……任務は失敗したようですね」
「──っ」


冷たい声が一つ。
氷水をかけるように響く。
顔にから急速に血が引くのを感じつつ、環は声の方へと全力で振り向いた。
其処にいたのは、十歳程度の白髪の少女。
見た目に不相応な氷の声で、彼女は環へと呼びかける。

「それに、"貴方のアーティファクト"を使えば、まず逃がすことはなかったのではありませんか?」
「……すみません」

片膝を付けつつ、環は頭を下げた。
彼女の任務は『白井黒子と呼ばれる少女の捕獲』という、彼女の主の主からの任務なのだ。
直属の少女が良い顔をしないのは当然のこと。
しかも戦い方を見る限り、環が黒子に逃げてもらいたがっていたのは自明の理なのだから。
環の力ならば、途中で乱入して来た男など一撃で始末出来ただろうし、黒子を空間移動が全く出来ない程度まで痛めつけるのは可能だった筈だ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:29:07.83 ID:ciltodti0<>

「謝罪は詳細は主人へ。一先ず貴方は先に帰還するように」
「……はっ」

機械のような眈々とした指示に、環は頷いた。
これも普段通りのこと。
が、

「……あの」
「なんですか?」

今回は少し違った。
素肌を晒したまま、環は口をもごもごと動かす。

「……セクストゥム様はどうされるので?」

それは先に帰ってろと言われたからこその疑問。
てっきり連行に近い形で連れて行かれると思ったからだ。
疑問をぶつけた彼女に対して、セクストゥムと呼ばれた少女は淀みなく答える。

「私には"上手く動いていない駒"のため、主人直々の任務があるので」

答えてから、次の質問を与える間もなくセクストゥムの姿が"沈む"。
足元に生まれた水溜りに、彼女の体が沈んで行くのだ。
まるで水溜りがとても深いように見えるが、周りの地面と対して代わり無い筈である。
そもそも、普通この地下街では水溜りすらまず無い。
水を利用した転移魔法。

「……」

主と同じ魔法を見た環は、無言で暫し佇んでいた。
不気味な程透明な水溜りを、その目で見ながら。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:31:34.02 ID:ciltodti0<>





「……」

無言で、少女は歩いていた。
黒い長髪を靡かせ、黒いコートを羽織って。
口を引き結び、一片の笑みすら許されないといった表情を見せながら。
たった十年足らずの人生しか歩んでいない外見の彼女に、その追い込まれたような表情は似合わない。

「……」

少女は周りの好奇の視線も気にせず、ただ雑踏の中を歩いていた。
目的地も何もなく、ただただ、足を動かす。

「テロ?」
「まじまじ。嘘じゃねーって。今アンチスキルが現場に踏み込んでるらしいぜ」
「何処の馬鹿だよ、んなことしやがった奴は……」

「……」

足を止めた。
それは別に耳に入った会話に興味を持ったからではない。
ただ単純に、会話をしている野次馬達が歩くのに邪魔だったからだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:32:47.74 ID:ciltodti0<>

「……」

完全に道を塞いでしまっている野次馬達の視線に合わせるように、顔を静かに動かす。
彼女の身長は高校生が中心の人集りよりも低いため、彼等が注目している対象、もしくは現場を直接見るのは出来なかった。
が、それでも騒音や会話から大体の内容を推測することくらいは出来る。

「テロ……」

革命などのための、暴力的な行為のこと。
学園都市に何か不満でもあったのだろうか。
だとしても、彼女には関係無いが。

「……」

無言で少女は歩き出そうと足に力を込める。
そこで、

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:35:35.22 ID:ciltodti0<>

「シャナ!」

彼女──シャナを呼ぶ声が背後から響いた。
常人を超えた反射能力で、シャナは名前を呼んだ者へ体を向ける。
一人の白い少女が、其処にいた。
背はシャナと同程度。
ただ、シャナが黒いコートに身を包んでいるのに対し、少女の身を包んでいるのは白い金色の刺繍が成された修道服。
とてとてと駆け寄ってくる彼女はシャナの顔を見てにっこり笑っている。

「ようやく見つけたんだよ!」
「何のよう?」
「むっ、折角迎えに来たのに、そんな言い方は酷いかも」
「──」

別に頼んで無い、とシャナは心で思って、

「……」

しかし口に出せなかった。
何故かは分からない。唇が上手く動かなかった。
この少女を突き放すような一言が、口から放たれない。

(……?)

それに怒りを感じず、純粋に疑問を感じる。
何故、たかだか一言を言うのに躊躇ったのだろう。

「はぁ、はぁ……インデックス!」

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:36:54.02 ID:ciltodti0<>

その答えが出る前に、ツンツン頭の少年が少女の名を呼びながら駆けて来た。
名を呼ばれたシスター少女ことインデックスは、後方へと銀色の髪を靡かせながら振り向く。
そして息を切らして走って来た彼へと、腰に手を当ててむすっとしながら口を開いた。

「とうま遅い!」
「上条さんにとってはこの人集りを掻き分けて行くのはかなり重労働なんですぅ!って、シャナ!ここに居たのか」
「……ここに居るって知らなかったのに何で来たのよ?」
「いや、お前を迎えに行こうかってことで街を歩いてたんだけど、インデックスが急に走り出したから……」
「シャナを見たからね」

えへん、と胸を張るインデックスに、ツンツン頭の少年こと上条は苦笑しながらも彼女の頭を撫でる。
見方によっては家族にも兄弟にも恋人にも見える、平和で確かな絆を感じる二人の姿を見て、

「……ふっ」

小さく、シャナの表情に笑みが浮き上がった。
今まで無理矢理隠されていた感情が、少しだけ零れた、そんな笑み。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:38:01.42 ID:ciltodti0<>

多少の陰りを、本人も気づかず含めた。

「シャナ?」
「なによ?」
「……いや、なんでもないんだよ」
「?」

突然神妙な顔で問うようにこえをかけて来たインデックスに、シャナは眉を疑問で顰める。
今度は逆に此方から問い返してやろうと唇を動かすが、

「一体な『ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!』」

……言葉は言い切れなかった。
無粋な電子音が、辺り一帯へと甲高く鳴ったからだ。
しかもかなり大きめの音量で。

「「…………………………」」
「ふ、二人共!そんな目で見ないでくれ頼みます!」

その電子音の原因たる上条は、二人分+自分より年下(少なくとも見た目は)の少女達による「空気読めよ」というかなり精神的に痛い視線を受けて後ずさっていた。

「とと、なんで着信音がこんなにデカくなってんだ……?」

空気読めない男という不名誉な称号を与えられかけている上条は、二人に背を向けてポケットから携帯を取り出す。
電子音の正体は彼の携帯から発せられる着信音であり、それは今現在とて発せられていた。
周りに大量の人が居るので電波状況も多少悪い筈だが、さすがは学園都市製というべきか、特に通話に問題は無さそうだ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:39:52.88 ID:ciltodti0<>
「あれ?この番号、一体誰のだ……?」

首を傾げる上条。
携帯の画面に表示された番号は、彼の見たことが無い物だった。
だが取り敢えずは電話に出ることにした。
何事もやらなければ分からない、それは当たり前のこと。

「はい、もしもし?」

耳に携帯を当てる彼の後姿を、シャナとインデックスは眺める。

「誰と電話してるんだろ?」
「さぁ……」

シャナの聴覚は超人クラスだが、周囲に騒音が溢れる中通話の声を聞くのは難しい。
しょうがないとばかりに、となりの少女へ無遠慮な声を放る。

「重要なのなら、あのお人好しも私達に話でしょ」
「そうかな?とうまのことだから、本当に危険なことだったりしたら一人で解決しようとして何も言わないかも」
「その時はその時。後を付けるなりなんなりすればいい。いずれにせよ、会話の内容次だ」




「えっ、"白井"が!?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:41:35.42 ID:ciltodti0<>

またもや彼女のセリフを遮るように、上条の大声が場に響く。
ただし、今度の大声は切迫した、非常事態を感じる物だった。
彼を見る二人の目に疑念の色が混じる。

「んっと、ちょっと知り合いでってソレどころじゃねぇな。分かった!直ぐ行くから今何処に──、あぁ、あぁ、今行く!」

ピッ!と、上条は慌しく携帯のボタンを押し、通話を終了する。
ねじ込むように携帯をポケットへと仕舞い込み、

「シャナ!インデックスと一緒に先に帰っててくれ!」
「とうま!?」

インデックスも制止も聞かず、走り出した。
人混みを押しのけるようにして、あっと言う間に学生服の背中は見えなくなる。
誰が見ても、何か緊急自体だと分かる姿だった。

「追うわよ」

そしてシャナは彼の言葉に従わない。
先程の会話通りに、行動する。
そこに躊躇いや躊躇というものは見えなかった。

「ひゃわ!?」
「しっかり掴まって!」

隣に立つインデックスを抱き寄せ、無理矢理しがみつかせた。
彼女が驚きつつも自分の体にしがみ付いたのをシャナは確認し、

「──ふっ!」

地面を蹴った。
普通の少女では絶対に有りえない、二十メートルという巫山戯た高さの跳躍を見せる。
更には自分と同程度の重さを抱きつかせてというオマケ付きで。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:42:18.58 ID:ciltodti0<>

「舌噛むわよ!」
「っ……!」

高所恐怖症の人間なら気絶してもおかしくない高さに放心していたインデックスは、その声に口を硬く閉じた。
やがて地面が迫り、誰も何も無い路面へと勢い良く着地する。
ドンッッ!!という、重く鈍い音とともに衝撃に耐え切れなかった路面がメキメキと悲鳴を上げる。
そして再度、彼女の体は空へと撃ち出された。

(シャナ)
(大丈夫)

上空から走る上条の姿を探しつつ、人を気にして黙っていたアラストールへと返事を短く返す。
彼が何を"心配"しているのかは、言われなくても十分分かっていた。
自分のコンディションは、ベストからは到底かけ離れている。
正直に言って、まともに戦えないと彼女自身も理解している。
今、一番の選択肢はインデックスと共に部屋へと帰り、休息を取ることだということも。


だが。


「あっ、あそこ!」
「!」

今は。
この白い少女があの少年と離ればなれにならないようにしてやりたかった。
例え、その行動を自分でおかしいと理解していても。




この行動を取った理由が自分とインデックスを無意識の内に重ねたからだということを、シャナはもう少ししてから気がつくこととなる。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:43:01.86 ID:ciltodti0<>











一人一人に理由と思いがあり、
それぞれがそれぞれで一歩を踏みしめて行く。
それらを、世界はただ見守っている。












<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/04/30(土) 14:44:36.38 ID:ciltodti0<>
以上です。
次回は既に三分の一書き上げているので、多分早いとおもいます。
垣根と初春のお話を、どうかお楽しみに! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/04/30(土) 19:06:53.95 ID:AActkvki0<> 乙
>>1から一気に読んだよ。明らかに書き手の文章力と構成力が成長しててワロタ
まるで初期〜中期のかまちーを見てるようだったよ
自分もSS書きたくなったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/02(月) 02:58:49.36 ID:Xb9QO40w0<> 最初から一気に読んだ。
この手の作品って文章力とか構成とかがめちゃくちゃなヤツが多いよな。
展開急すぎ、厨キャラ無双、みたいな。

だからこういう多重クロスものってどうしてもつまらない印象があったんだけど、
このSS読んだらしっかりと作り上げれば多重クロスものでも面白く作れるって実感した。
シャナは知らないけど、それでも十分楽しめてるのはこのSSがある程度しっかり書かれてるからなんだろうな。
完結まで先は長いだろうし、ジャンルがジャンルだけに人とかあんまり来ないかもしれないけど、
これからもがんばってくれ。
応援してるよ

乙! <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 11:56:56.90 ID:BxVPZz8p0<>
>>919
そう言っていただけると嬉しくて土下座で感謝したくなります!
自分では成長している、よな……?と疑問に思っていたため、この言葉に本当に感謝です。
ss書きたくなったとは……嬉しくて土下座どころか泣きそう……
これからもよろしくお願いします!

>>920
自分でも多重クロスの作品は滅茶苦茶なのが多いと思います。最低でも五割くらいは無茶苦茶な気が……
それらの作品を踏まえて、面白い作品を書こうと手探りで半年以上書いてますが、如何せん難しい。キャラ一人一人に気を使うのが特に。
でも「面白い」と言ってくれる人が全国に何人も居てくれるので、長くても頑張れる気がします!
これから先、まだまだ続きますが、これからも読んでいただければ幸いです。



取り合えず前半だけ投下します。


<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 11:57:46.15 ID:BxVPZz8p0<>



学園都市には超能力者(レベル5)と呼ばれる者達が居る。
全員が全員、軍隊とやりあえるような化け物と言われ、更にはただの物理学を超えた破格の技術を生み出す元でもある。
超能力者達は更に七つの順位に分けられていて、第何位という風に格付けがされていた。
これは単純に『能力による応用研究がどれだけの利益を生み出すか』という計算によって基づき、決して実力による物ではない。
第七位の"原石"と呼ばれる男が良い例で、彼は能力による研究価値が圧倒的に低いため、第七位となっている。
つまりは、実力に順位は関係ない。


ただし。


第七位を除く六人。
この六人の内、上位二名。
二人に関しては違う。
レベル5とレベル4の間に巨大な壁が存在するように、彼等二人とそれまでのレベル5には途轍もない壁が存在している。
軍隊など、彼等二人には脅威ともならない。
その気になれば、国一つ敵に回しても余裕で生きられるような化け物。

そんな二人の内、学園都市序列第二位『未元物質(ダークマター)』という能力を持った少年が居た。

名を垣根帝督。




十月九日、学園都市序列第一位と呼ばれる者に、殺された少年だ。



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 11:59:06.61 ID:BxVPZz8p0<>




頭の花飾りが特徴的な少女、初春飾利は訳の分からない状況へと落とし込まれていた。
自分は街中でパトロールをしていただけ。
特に特別なことをした覚えもないし、するつもりもない。
確かに少々不思議な事件のせいで真昼間からパトロールに駆り出されている訳だが、それでもまだ普通と言うべきだろう。

なのに何故、




自分を殺しかけた男と会うなんていう、三文小説じみたことになる?




「……」
「……」

沈黙。
街中の通り。
大人三人が両手を広げても余るスペースがあるくらいの歩道のど真ん中で、二人の視線はぶつかり合う。
火花が散る──なんて類いの視線ではない。
ただ困惑と恐怖のみが篭った、状況を必死で捉えようとする視線。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 11:59:43.57 ID:BxVPZz8p0<>
(なんで……)

目の前の彼を見ながら、初春の脳内をその単語が駆け巡る。
染めたであろう金に近い茶髪に、長点上機学園所属を示す赤い学生服。
全てが、九日前の彼となんら変わりがない。
違う点を上げるとすれば、怒りでも作り物の笑顔でもない、困惑の表情を浮かべていることだろうか。
多分、自分も同じような表情をしているのだろう。

「……っ」

ズキンッ、と。
右肩から痛みが奔る。
彼から踏みつけられ、外された肩の骨が痛みを訴えていた。

「……チッ」

僅かに苦痛によって歪んだ彼女の顔を見た彼は、何を思ったのだろう。
一瞬、表情に何かを見せて、彼は歩き出す。
無言のまま、肩を抑えた初春の隣を周りの通行人と同じように通過する。
茶髪が揺らいで、整った横顔が視界の真横を過ぎ去った。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:00:13.17 ID:BxVPZz8p0<>
「──」

前を、彼がもと居た場所を見ながら、初春は息を飲んだ。
内心彼女は少しばかり恐怖していたのだ。
何せ小さな女の子を襲うために自分に接触し、更には答えないということで殺しかけられた相手なのだから。
恐怖を抱かない方が寧ろおかしい。

「……」

通行人達の騒音によって掠れて聞こえる彼の足音。
どんどん小さくなって行く足音を聞きながら、初春は、

「……すぅ」

何故か息を吸い込んでいた。
本来ならばこのまま何事の無かったように警邏に戻るのが正しい選択の筈だ。
向こうが何も言ってこないし、何もしてこないのだから。


だが、


「あ、あのっっ!!」
「!?」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:00:42.55 ID:BxVPZz8p0<>
振り向きつつ予想以上に大きな声が、彼女の小さな唇から迸る。
周りの通行人が立ち止まり、突如大声を上げた彼女を訝しむように見ていた。
彼も突然の大声に驚いたのだろう。
肩を驚きで跳ねさせ、恐る恐ると言った風に首を此方に向ける。
一度見たことのある彼と、何処か違う態度に戸惑いを覚えながらも──

「よ、よろしければ、そこの安っぽいファミレスで昼食を一緒にどうですか!?」

色々とツッコミたくなる、逆ナンとしか思えない大声を叩きつけていた。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:01:23.74 ID:BxVPZz8p0<>



彼──垣根帝督は元死人である。

九日前、彼にとって忌々しい言動をしたあの第一位に、彼は文字通り『虐殺』された。
それこそ人間の原型を留めない程バラバラのグチャグチャにだ。

そして肉片となり、生命活動を強制的に零へとされた彼を待ち受けていたのは、何故か傷一つ無く生きているという現実。

体を自分でも調べてみたが、特に異常は見当たらなかった。
どうやらゾンビやらキョンシーなどといった死体なのに動いている不思議生物になった訳では無いらしい。
後から来た黒いローブ男(?)の話によると、厳密には生き返ったのではなく『死ぬ寸前の垣根帝督』を記憶能力精神そのままに創り出した、とのこと。

(ようするに、俺は完全なクローンって訳か)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:02:01.95 ID:BxVPZz8p0<>

自分で納得した垣根を、その名前も知らない主人とやらは、彼を学園都市へと帰した。
特に何も細工をすることもなく。

(まぁ、俺が気がついて無いだけで、盗聴器やら洗脳やらをされているって可能性はある訳だが)

「自分の好きなようにやれ」それが厳密には違うとはいえ、垣根帝督を生き返らせた相手からの言葉。
好きなようにやれ。
その言葉に、

(どうするか)

垣根は、かなり悩んでいた。
見た目は飄々としながら、内心は動揺しながら。
彼は九日前(感覚的には一日前)に第一位に殺された際、目的を叩き壊されていた。
学園都市統括理事長へ直接対峙するために、様々な策略を張り巡らせ行動を起こした。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:02:41.15 ID:BxVPZz8p0<>

しかし全て終わってしまった。


彼を暗部という闇の中で前へ前へと突き動かしていた原動力は、今や欠片も彼の心には残っていない。
暗部との関わりも無い。第二位としてのプライドも、今となっては彼を暴れさせる程強くは無かった。
彼を縛る物は、何一つとして無い。
残されたのは、第二位としての経済能力くらいか。何故かカードなどは普通に使えたので驚いた。
大方、あの『神』とやらが何かしたのだろう。どうでもいいが。

(……つっても、何もすることはねぇんだけどな)

ブラブラと、目的も無く街中を歩きながら垣根は夢想する。
前までの自分は、つい数日前までの自分は、こんな時間をどんな風に過ごしていたのだろう。
それとも、こんな時間自体がそもそも無かったのか。

(胸糞悪いくらい平和だな)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:03:34.68 ID:BxVPZz8p0<>
周り歩く人々の笑顔を見る度に、垣根は毒つく。
前までの自分もこんな暢気な笑顔は幾つも見て来た筈だが、何故今となって苛つくのか。

(いっそのこと、第一位を探してみるか?アイツと対峙すれば、あのどす黒い感覚が蘇るかもしれねぇ)

そんな、"自分を取り戻すため"の方法を考えていた時だった。




自分が殺しかけた、花飾りの少女に会ったのは。






<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:04:03.07 ID:BxVPZz8p0<>



そして今現在。
何処にでも在りそうなファミレスの一つ。
大型のソファーとテーブルで均等に席がある店内にて二人は、

「……」
「……」

黙ったままお見合いのように座っていた。
勿論、お見合いのようにというからには相手がいる訳であり、その相手である少女はもじもじとしながらもしっかりと垣根を見ている。
瞳からは、確かな意思の光が感じられた。

(……クソ。何やってんだ俺は……!)

今更ながら、自分の不甲斐なさに久方ぶりの怒りが込み上げる。
自分を心中で叱咤しつつ、彼は肘をテーブルに付いて窓の外を眺めた。
外ではやはり、太陽の光が差す先程までと幾分も変わらない平和な光景が映っている。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:04:35.20 ID:BxVPZz8p0<>
(糞が、なんだこいつはよ……)

花飾りの彼女のことを、垣根はハッキリ覚えていた。
何せ死ぬ寸前に見た少ない人間の一人なのだ。
特徴のある外見も合わさって、記憶に焼き付いている。
だからこそ、垣根はこの少女の行動がさっぱり理解出来ない。

(俺は此奴を殺そうとした。なのになんで此奴は俺をこんな所に連れ込んだ。一体何を考えてやがる……)

そして、自分も。
そう付け加えて、前へと横目で視線をやった。

「……えっと、その……)

水しか置いていないテーブルを挟んで、彼女は口を開いたり閉じたりしながら何か言いたそうにしている。
そんな彼女の姿に、垣根は何故か無性に苛つく。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:05:28.56 ID:BxVPZz8p0<>
(……あぁ、クソ。言いたきゃサッサと言っちまえお人好し)

恨み言か質問か。
何にしろ、言いたければ言ってしまえばいいのに、どうして躊躇うのか。

「……テメェなぁ」

優柔不断な彼女の態度に、何か言おうと口を開きかけた所で、


グゥゥゥ…………


お腹空いたと主張する、腹の音が響いた。

「……………………………………」

思わず口を閉じ、黙りこくる。
無論、今のギャグ要素全開の音は彼の腹からではない。

「……す、すみません」

顔を羞恥で赤く染め上げ、更に縮こまりながらぺこりと頭を下げる少女。
無意識のうちに壁に掛かった時計へと視線をやる。
時刻は既に一時となり、お腹が空いてもおかしくない時間帯だ。
だから、仕方無いといえば、まぁ……
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:06:03.28 ID:BxVPZz8p0<>
「……」
「……」

互いに気まずく黙り込み、周囲の音がやけに響く。
頬付をついた状態で、垣根はわしゃわしゃと髪を掻いた。
目を不愉快そうに歪めながら、睨むような眼光を見せる
そして面倒だと思いつつ、口を開き言葉を発した。

「折角ファミレスに来たんだからなんか頼めよ。一体何のためにテメェはここに入ったんだよ」
「あっ、その……今はジャッジメントの仕事中なので」
「逆ナンしといて仕事もクソもねぇと思うがな」
「逆ナンっ!?ちょ、違いますよっ!?私はそんなつもりなんかこれっぽちも」
「はいはい」

逆ナンというのがそんなに恥ずかしかったのか。
両手を振って反論してくる真っ赤な少女を見つつ、垣根はテーブルの端に置かれたメニュー表を軽い手つきで取る。
プラで鋪装された無駄に固く薄いそれを、

「あの、話聞いてます!?私の言葉耳に届いてぶっ!?」

ベシンッ!と、喚いた少女の可愛らしい顔面へと遠慮無く叩きつけた。
真っ赤に染まった照れと羞恥の表情への仕打ちとしては最悪であり、紳士的な振る舞いとはかけ離れている。
が、垣根に猫を被っている時ならともかく、素の状態でそんなレディファーストな対応が取れる筈も無い。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:06:38.00 ID:BxVPZz8p0<>
「とっととそれ見て何か頼めよ」
「……こんな可愛い乙女に対して何するんですか」
「自分で可愛いなんて言ってるうちはそいつは乙女なんかじゃねぇんだよ。いいから何にするんだ」

むぅ、と。暫しの間少女は鼻を抑えてむくれていたが、やがて無駄だと悟ったのか、視線を叩きつけられたメニュー表へと落とす。
彼女は顎に手を当て悩みながら、

「えーっ、と。じゃあこの『ルナティックパフェ』……じゃなかった。『イージーパフェ』で」
「まだ店員呼んでねぇけどな」

しかもデザート単品かよ。自分の勝手じゃないですか。飯は要らねぇのか。糖分があれば体と頭は基本的には動くんです。
などと、会話をしている内に、アルバイトであろう高校生くらいの店員が二人が居る席へと歩いて来た。
店員はニッコリとしたゼロ円スマイルを浮かべつつ、

「ご注文はお決まりになりましたか?」

青年のマニュアル通り完璧な対応に対して二人も笑顔で、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:07:27.35 ID:BxVPZz8p0<>
「私はこの『イ」
「『ルナティックパフェ』とステーキセットを一つ」
「ちょ!?」
「かしこまりました。暫くお待ちください」

慌てて訂正しようとする少女だが、その頃には店員はニッコリスマイルのまま伝票を持って行ってしまっていた。
その横顔が無駄に爽やかで、イラッとくる少女。
なのに、怒らせた原因である垣根は何処吹く風と言った表情で窓の外を眺めている。

「何してくれてるんですかぁ!?」
「いいだろ別に。イージーだろうがルナティックだろうが対して変わらねえよ」
「変わりますよ!ほら!ここ見てください!」
「……」

慌しく催促されて、垣根も仕方無しに少女の指差すメニュー表を見た。
彼女の指は無駄に光沢のある表の、デザートコーナーに写るパフェの写真をさしていた。
そこに映っているパフェは……
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:08:03.14 ID:BxVPZz8p0<>
「……おいおい」

デカかった。
とにかくデカかった。
普通の店で見るパフェの五倍は大きい。
山盛りにされた白いクリームにフルーツも二十種類は積まれていて、更にはチョコ菓子らしきものがぎっしりと隙間を埋めるように乗っけたり刺したりされている。
正に怪物パフェ。
男は無論のこと、女ですら吐き気がするかもしれないレベルの。
『自分に常識は通用しない』と自負する垣根ですら、そのパフェは常識外れの桁違いだった。

「すげーな。写真でこれだけなら、現物はどれだけでけぇんだよ。頼む奴の気がしれねぇな」
「貴方ですよ!あ、な、た!」
「テメェ最初に頼もうとしてたろ」
「それは、そうですけど……そ、それにですね……」

はて?と首を傾げる垣根。
彼女が怒る理由が勝手な自分の行動からというのは分かるが、何やら様子がおかしい。
切迫したような、不思議な怒りと焦り。
その原因がなんなのか、彼は改めてメニュー表を見直して気がつく。

「あぁ、金がねぇのか」
「うぐっ」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:08:38.21 ID:BxVPZz8p0<>
見た目も常識外れなパフェだが、値段も常識外れだったということだ。
ゼロが四つ。先頭には堂々とした一。
確かに、高位能力者でもないただの女子中学生がいきなり払うには少しばかり厳しい値段かもしれない。

「別に気にすんなよ。俺がカードで適当に払うから」
「……と思ったらカードが使えないなんていうオチじゃないでしょうね」
「そんなギャグ漫画みたいなオチある筈ねぇよ。第一現金だってある」
「それなら大丈夫ですね!」
「そしてテメェは奢られる気バリバリなのな」
「えへへ……」

照れたようにメニュー表で顔を隠し、笑う少女を見てため息を一つ。
何時の間にやら彼女からは恐怖や緊張が抜けていて、恐らく素であろうフレンドリーな態度で此方に接してくる。
──垣根にとっては眩しいくらいの『光』の住人として。

(……何やってんだ、俺は……)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:09:21.33 ID:BxVPZz8p0<>
もう何度目か分からない問いを自身へと投げかける。
幾ら殺しかけた少女といえど、ここまで付き合う必要はない。
この少女にここまで付き合っている"自分"の態度が、"自分"なのに信じられなかった。
垣根は『闇』の中では人間味のある方だったが、お人好し正義感剥き出しの少女に目的も無く付き合うようなお気楽男では無い。
そんな人間が、学園都市の第二位などになれる筈が無い。
殺されたせいで、頭がどうかなったのか。


"何かが変わってしまった"のか。


「──垣根さん?」
「っ!」

意識が現実へと回帰する。
此方を見つめる黒い瞳を直視し、思わず後ろに下がろうとしてソファーのクッションに体が食い込んだ。
キョトンと、垣根を、超能力者(レベル5)の彼を"怯えさせた"彼女は惚けながらも、

「どうしたんですか?はっ!?もしかして私の余りの美少女っぷりに放心して」
「いや、それはねぇ」

垣根からの身も蓋もない否定に、ですよねーとからからと笑う少女。
どうやら冗談だったらしいが、全く上手く無い。
普通の女子中学生ってどいつもこんな感じなのか?と垣根が光の住人に対する間違えた知識をインストールしていると、ふとある事に気がついた。
今、彼女は確か。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:09:56.35 ID:BxVPZz8p0<>
「おい。なんでテメェは俺の名前を知ってんだ?」
「あれ、忘れたんですか?最初に会った時自分から私に名乗りましたよ『垣根帝督』って」

少女からの言葉に、記憶を探る。
数秒置かずに思い出す。自分はこの少女に名前を名乗っていた。
そして、その後──

(──)

瞬間。
垣根の背中を何やら寒い物が駆け上がった。
寒気と呼ばれる、恐怖の感覚が。
そう。あの時自分はこの少女に接触し、殺しかけた。
彼女は軽く名乗っただけの垣根の名前を覚えている程、自分が殺しかけられた現実を覚えている。

なのに何故、その現実を思い出すような言動をしながら笑顔でいられる?

(……なんだ、こいつは)

気味が悪い、とは感じない。
むしろ、太陽のような暖かささえ感じる。
なのだが、余りにも垣根が知る人間達とは在り方がかけ離れていた。

(なんでこいつは、自分を殺しかけた相手に向かって平気で笑えるんだ)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:10:30.64 ID:BxVPZz8p0<>
そんな"彼女に問いかければ直ぐに終わる思考"にはまり込んでいた彼だが、

「初春飾利です」
「……あ?」

聞いたことのない単語によって、思考が止まった。
ういはるかざり?と、一文字一文字がバラバラのまま脳内で浮遊する。
視線を少女にやると、彼女は花のような笑みを浮かべて再度口を開く。

「私の名前は初春飾利です」
「……」

漸く。
別に暗号でもなんでもないただの名前だと知って、しかし何やらむずがゆい。
自然と垣根は視線を初春から外していた。
今度はファミレスの店内。他の客達が談笑しながら昼食をとっているのが目に入る。
平和そのものの、"普通"の光景。

「……テメェをそのまま表したような名前だな」
「どういうことですか?」
「春ってことだよ。頭の外も中も」
「酷いっ!」

知らず知らずの内に、彼は小さく、薄く、笑っていた。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 12:12:00.45 ID:BxVPZz8p0<>
後半もとある先生の話になりますが、基本は垣根と初春です。
禁書キャラばっかになりそうな悪寒……


後半は夕方投稿します。

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:00:50.16 ID:2lpB1JBb0<>
夕方になりましたので、
後半投稿します!
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:01:27.17 ID:2lpB1JBb0<>



とある高校が第七学区にはある。
学園都市に幾らでもある弱小高校の一つで、第七学区に位置するというのもまた普通の高校らしい事柄だろう。
その学校の職員室もまた普通だった。
灰色の金属性机が並び、一つの机に対してノートパソコンが一つという意外には見た目の共通点が無い。
プリントが散らばっているのもあれば、そもそも備え付けの棚に全てを入れてしまっている殺風景な物もある。
ただ一つ、普通の職員室と違う部分があった。

人が居ないのだ。本来なら学校自体が休みでも、誰かいる筈の職員室に。
まるで緊急避難でもしたかのように。

「……」

ガラッと。
人が居ない職員室の扉を開ける人物が一人。
緑色のジャージを身に纏った、背の高い女性だ。
髪を後ろで一括りにしており、スタイルもかなりのもの。顔も美人と言って差し支えない。
ただ前述したように色気の欠片も無い緑色のジャージを着ているというのが、彼女の見た目をかなり台無しにしていた。
何処となく体育会系の雰囲気を滲ませる彼女の名は黄泉川愛穂。
この学校の女教師であり、学園都市の自治組織『警備員(アンチスキル)』に所属する女性だ。
"子供に絶対に武器を向けない"という信念があり、暴走する能力者達を防具の盾で薙ぎ倒すというパワフルアンチスキルとして一部では有名だ。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:02:10.64 ID:2lpB1JBb0<>
「……」

そんな、普段なら陽気という言葉がこれ以上ない程に似合う筈の彼女は、やけに静かだった。
無言のまま後ろ手に自分が開けた扉を閉める。
彼女だけなので特に周りへ気にする必要は無いのだが、黄泉川はゆっくりと歩き、己の机へと向かった。

「ふぅ……」

安物の金属椅子に座り込み、背もたれに体を預ける。
ギチギチッ……という、耳に余り良くない、擦れるような軋むような金属音が無音の職員室で木霊し、黄泉川の気分を僅かながら回復させた。

「全く、暇にも程があるじゃん」

体育会系としては半ば拘束にも近いこの状況に、ため息を吐きながら憂鬱を示す。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:02:45.41 ID:2lpB1JBb0<>


今現在、学園都市ではとある事件によって大規模な警戒態勢が敷かれていた。
警戒態勢、と言われると大仰な物に聞こえはするが、実際は表には表出していない問題なので少し違うと言える。
が、アンチスキルやジャッジメントの九割が警邏と警戒待機しているという点から言えば、かなりの緊急事態だろう。

学園都市内の監視態勢への穴。

それを埋めるべく、アンチスキルの筆頭候補である黄泉川愛穂も本来なら警邏するべきなのだが……

「あーっ!黄泉川先生!」
「──ん?おっ、小萌先生じゃんかー」

ガラッという扉を開ける音と共に入って来たのは、彼女にとって同僚の教師。
黄泉川は椅子をくるりと回転させ、其方へと向く。
向けられた視線の先、其処に居たのはどう見てもランドセルを背負う年としか思えない少女だった。
ピンク色の髪に、小学生レベルの低身長、ピンク色の少女趣味全開のワンピースがこれ以上無い程似合っている。
まかり間違っても高校に居ていい年齢に見えないが、実は彼女、既に二十を越しているのだ。
この学校の教師の一人、月詠小萌。
彼女はとてとてと、小さな足を動かして黄泉川の方へと駆け寄って来た。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:03:24.90 ID:2lpB1JBb0<>
「なんで学校に居るんですかー!?今日は先生、無理矢理休みだった筈なのですよー!」
「あっはっはっ、暇だったから来ちまったじゃん」
「もう!無茶は駄目なのですー!」

プンプンとばかりに可愛らしく、それでいて本気で心配そうに怒って来る同僚に黄泉川は若干の申し訳無さを含めた苦笑で返す。
今日までの間に黄泉川は「無理をするな」という言葉、もしくはそれに類する言動を既に三十以上受けている。
その理由は至って簡単。無理をするなと言われるだけの理由があるからだ。

(皆心配し過ぎじゃんよ、全く……)

無意識の内に横腹を撫でる。
緑色の布地の下には、服以外の感触があった。
透視能力持ちでも無い限り、服の上からは絶対に分からないだろう。
彼女の腰回りに、消毒液の匂いがする白い包帯が巻かれていることになど。
外見から黄泉川が"怪我"をしているのに気がつける人間は、果たしてどれ程居るのか。

(もう五日前に退院したから大丈夫だとは思うんだけど……)
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:03:57.67 ID:2lpB1JBb0<>
これ位の怪我で、等と思う黄泉川はやはり熱血タイプなのだろう。
普通の人間なら最低でも二週間は入院しなければならないレベルの怪我を、幾ら医者が良かったとはいえ僅か四日で入院生活を終えたのだから。
それでも食事制限は多少あるし、傷もまた開いておかしくないなどと全治とは程遠い。
なのに、

「アンチスキルとして警邏に出てるって聞いた時、私卒倒したんですよー?」
「あははは……悪かったじゃん」

つい二日前の行動をじとーとした視線で責められ、黄泉川は頭を下げることしか出来ない。
アンチスキルはボランティアであり、一歩間違えば死んでいたかもしれない傷を負ってでもやるべきものではない。
のだが、アンチスキルに所属する殆どの大人がそうであるように、黄泉川もまた、とても正義感と義務心が強い大人であった。
退院してから直ぐに現場に戻る、などという大変不味い行動を取った彼女を止めた一人である小萌は目の前の先生による行動を思い出しつつ、再度の注意を必死そうに放つ。

「黄泉川先生はとっと家に帰って寝るのです!何か必要な物があれば、私が持って行きますから」
「うーん、それはありがたいけど……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:04:35.19 ID:2lpB1JBb0<>

見た目は子供、頭脳は大人(子供っぽい一面あり)を地で行く先生からの言葉を三分の二程聞き流しつつ、黄泉川は金属製デスクに置かれた黒いノートパソコンを開く。
スリープモードだったのか、開いただけで真っ暗な液晶画面に光が灯り、中断されていた映像を映し出した。
なんらかのフォルダを開いているのか見えたのはスタンダードな壁紙ではなく、白と黒で構成された味気ない画像。
其処に書かれている情報は前に座り操作する彼女にしか見えない。

「ちょっと気になったものがあったから来ただけじゃん。見終わったら直ぐに帰るから」
「……」

カチカチとキーボードを慣れた手付きで叩く黄泉川の姿に、眉を潜める小萌。

「……家のパソコンでは駄目なのですかー?」
「うん、まぁ……」
「……はぁぁ……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:05:16.10 ID:2lpB1JBb0<>
気まずさ全開で言葉を濁す黄泉川を見てから、小萌は自らの予想が的中したことにため息を吐き出す。
家のパソコンでは駄目。
それは要するに、セキュリティ"ランクD"以上の情報を見ているということである。
学園都市ではネットでの情報端末に各種ランクが設けられている。
当然、ランクが高ければ高い程機密的な情報となり、ランクが低い端末からはランクが高い情報を見ることは出来ない。
大体普通の家庭や公共の情報端末のセキュリティランクはD。
しかし、現在黄泉川が使っている教員用のパソコンのセキュリティランクはB。
つまり、黄泉川はBランクレベルの情報を見に態々学校へと来たということ。
そしてBランクともなれば、かなり高レベルの情報。
まず間違い無く、普通に家で療養するためには必要ない類いのものだ。

「全く、本当に黄泉川先生は……」
「ジッとしてるのは柄じゃないじゃん。それに……」
「?」

一瞬、首を傾げている小萌に自分が考えている疑問を打ち明けるかどうか迷う。
が、いずれにせよ、この見た目からは信じれない程鋭い先生を誤魔化すのは時間の無駄だと思い、手を動かしながら口を開いた。

「これ、おかしいと思わないか?」

これ、という彼女の言葉とともに指差された画像を小萌は若干背伸びしつつ見る。
そこに映っている情報の詳細は、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:06:00.70 ID:2lpB1JBb0<>
「ランク別の情報……?」

ますます首を傾げる小萌。
其処に映っていたのは二つの白い文書データで、それぞれタイトルから別の内容だというのは理解出来るが、もっと気にかかるのは下に小さく出力されているセキュリティランクだ。
片方がDなのに対し、片方はBとなっている。
態々Bランクの端末でDランクのデータまで出しているのか。

「とにかく内容をよく見てみるじゃん」
「……?」

言われた通り、小萌は目を細めて上から流れるようによく見てみる。
書いている内容は以下の通り。


〜突然の休校について〜
ランクD ?00:32
突然の一部の学校や研究所の休校及び休業について。
学園統括理事会からの情報によると"書庫(バンク)"を管理するコンピュータのうち、二機の故障。
よって学園全体のネットワークシステムの活動に弊害が生まれる可能性あり。
以下、別項として休校となった学校名を表示する──

?突然の一部休校への詳細〜
ランクB 00:35
学園都市における監視装置を纏めるサーバー、及び衛星になんらかの細工がされた可能性があり。
只今原因究明を急いでいるが、今の所どの個人、もしくは団体が電子的攻撃を仕掛けて来たのか、何処から仕掛けて来たのか詳細は不明。
原因究明の手掛かりが見つからない場合、発電系、情報系の能力者を投入するのも視野に。
警備員、及び休校となった学校の風紀委員は各支部により警邏を急遽行うこととする。
尚、既に幾つかの事件が起きているらしく、別項として大きな事件の詳細を表示する──
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:06:46.65 ID:2lpB1JBb0<>
多少省略してしまっている部分はあるが、概ねはこんな物である。
一通り読み終えた小萌は首を傾げたまま「うーん?」と唸った。
内容は無難そのもので、特に異常は見受けられない。
ランクが高い情報を隠すために、ランクが低い情報として表向きの内容を晒すのはよくあることだ。
ただ、何らかの違和感を感じた。
小さな何かを見落としてしまっていて、余りにも小さ過ぎるが故に分からないような、そんな感覚。

「うーん、うーん……」

尚も粘る小萌だったが、突如唸るのを止めて首を振る。

「分からないです……」

降参を示す言葉に、黄泉川は苦笑しながら指を画面に這わすようにスライドさせた。
やがて、彼女の人差し指は問題の項目を指差す。
そこに書かれていたのは、
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:08:01.30 ID:2lpB1JBb0<>
「更新時刻?えっと、ランクDが方が『00:32』で、ランクBの方が『00:35』……特に、問題は──」
「小萌先生、おかしいじゃんか。ランクBは本当の理由で、ランクDは表向きの理由じゃんよ?だったら普通は"嘘であるランクDの方が更新時刻が遅れる筈"……」
「あっ」

小萌も気がついた。
そうだ。ランクDの方はランクBの方を公にするのに憚られるため(それでもランクBの情報は流失する可能性は少なくないが)作られた理由である。
いわゆる偽装であり、書庫にアクセス出来なくなっているのは被害を広げて来る可能性のため、ハッキングを防ぐためだ。
なので真っ赤な嘘であるランクDの方は後付けに過ぎないのに、本当の理由であるランクBの方が更新が遅い。
ここから、一つの仮説を立てることが出来る。

「ランクDの方は、既に誰かによって書かれていた……?ランクBの情報が公開されるよりも前に?」
「情報が少な過ぎて断定は出来ないけど。でも、ただのタイムラグで済ませるにはどうも怪しいというか……」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:09:32.41 ID:2lpB1JBb0<>
平常時ならば、ただの誤作動やら向こうの機械が不調だからなどとあり得そうな理由で納得出来る。
だが、このタイミング。
黄泉川は嫌な胸騒ぎがするのを抑えきれなかった。

「相手も不明。今学園都市で問題が起きてもオレンジやレッドにするのも難しい。実質、野晒し状態じゃん。これが内部犯じゃ無かったとしたら、本当に最悪の事態も……」
「あの、黄泉川先生」

二つの情報が映った画面を見比べる彼女へと、小萌の不思議そうな声が発せられる。
その幼さが感じられ、同時に心配そうな淀みも含まれた声に、黄泉川は疑問に思いながらも尋ね返した。

「何じゃん?」
「その、私見なのですが……なんだか今の黄泉川先生は焦っているように見えるのですよー」
「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/04(水) 18:15:09.39 ID:9tth+Ed30<> 惰眠を貪り飽きてPC起動させたら更新が来てたでござる
龍神様エイワス様ありがとう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 18:15:14.83 ID:bOc6dj6mo<> 投下中で悪いが>>1はアルカディアさんのとこにも二重投稿してる?あっちにもあったからびっくりしたけど <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:19:55.94 ID:2lpB1JBb0<>

彼女は、否定しなかった。
ただワザと画面のみに視線を向けながら、唇を小さく噛む。

「……ちょっと、色々あって」
「……そうですか」

ポツリ、と。
零れた言葉に、小萌は深く突っ込まなかった。
恐らく聞くのは不味いと感じたのだろう。
人の感情に対するその鋭さに黄泉川は感謝しつつ、腹を静かに撫でる。

この怪我は、彼女にとって戒めと言ってもよかった。
九日前、彼女はとある少年と街中で遭遇していた。同居人の茶色の少女を置いて、一人消えてしまっていた少年だ。
幾ら探しても、一向に手掛かりさえも見つからず、日々を過ごしていた時。

彼は、人を殺す直前だった。

杖を付き、拳銃を左手に。
まるで台風でも生まれたかのような街の無様な光景の中。
黄泉川はそれを止めた。
武器も防具も無しに少年の手から拳銃を取り上げ、バラバラにして。


そして、殺されかけた。


今になってもどう殺されかけたのかハッキリとは分からない。
ただ鳥の羽のような物に腹を貫かれ、地面に倒れて異常な何かに押し潰されていただけだ。
そこから先は対して覚えていない。
起きた時に見たのは病院の白い無機質な天井。
少年は、居なかった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:20:27.38 ID:2lpB1JBb0<>

(……あれは、私のミスだった。あの時救えた筈なのに、私は救えなかった)

ドロドロした闇の中から、あの真っ白な少年を救えた筈だった。
少なくとも、救える立ち位置には居たのは確かだった。
黄泉川愛穂が九日前、もっとしっかりしていれば救えていた筈なのだ。
あの白い少年を。


そして、"あの少年"を。


(……今、私に出来ることをやるしかない)

彼女は再度の決意を抱き、パソコンの電源を落とした。




彼女は知らない。
自分を殺しかけた少年が、今『光』と触れていることなど。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:21:07.98 ID:2lpB1JBb0<>



「で、だ……いい加減言ってもいいんじゃねぇのか」
「何をですか?」

視点は変わってファミレス。
垣根と初春は相変わらずファミレスに居座って居た。
茶色のテーブルには、二人が注文したものが置いてある。
垣根の前には注文した黒い鉄板でジュウジュウと音を立てるステーキセットと水が入ったコップ。
初春の前にはルナティックパフェなどという怪物パフェがでん、とそびえ立っている。
座った自分の頭部よりも高いという馬鹿げたパフェを見て瞳を輝かせる初春だったが、垣根からの言葉にクリームの塊へと突き刺そうとしていたスプーンの動きを止める。
分からない、という雰囲気と態度で返して来た彼女へ垣根はパフェに多少引きつつも口を開く。

「俺をここに連れ込んだ目的だ。何がしたい?もしくは何が聞きたい?とっとと言えよ」

口調には先程から変化は無いが、何処か黒い雰囲気を感じさせる。
彼は初春が目的があってここ(ファミレス)に連れ込んだのだと思っていた。
あのまま通り過ぎていた垣根を呼び止めた、なんらかの目的。
自分を殺しかけた相手を呼び止め、会話をするだけの理由が何かあるのだと。
でなければ、二人きりの状況を作り出すような馬鹿な真似は幾らお人好しといえどしまい。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:21:37.00 ID:2lpB1JBb0<>
(恨み言でも言いてぇのか?もしくはもう"打ち止め(ラストオーダー)"に手を出さねぇって確認か?さぁ、なんだ……)

幾つかの理由を想像しつつ、垣根は初春の言葉を待つ。
そして、最初の大人しさが嘘のような自然体で彼女は、

「………………えっと、特に無いです♪」

ウィンク+あっかんべーしながら「テヘッ☆」とでも言いたげな顔でそう言った。
垣根はしばらく黙り込み、

「……舐めてやがるな。余程愉快な死体になりてぇと見える」
「うわぁっ!ストップストップ!直ぐに怒ったら駄目ですよ!そんなだからカルシウムが足りないって言われるんです!」
「言われねぇよ!」

パフェをもぐもぐと食べながら巫山戯た言動を示してくる初春に、思わず大声で返した。
垣根は思う。こいつ本当に何がしたいんだ、と。
発言の所々が黒く、本当に女子中学生なのかと疑いたくなる思いだった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:22:12.21 ID:2lpB1JBb0<>
「でも、本当に無いんですよ」

スプーンの動きを早めながらも、彼女の言葉が放たれる。
少しばかり真剣さを感じる言葉に対し、垣根もステーキにフォークを突き刺しながら耳を済ませた。
様々な思考を働かせる彼へ、初春は言葉を紡ぎ出す。

「私も最初はなんでなんだろう、って自分で疑問に思ってたんです。確かに垣根さんのことは怖かった筈なのに。勢いというか、垣根さんの顔を見たら、"そのまま"行かせちゃいけないって気がして。"自分"のことなのに、"自分"が分からないっていうのも変ですけど」
「──っ」

息を飲む。
"自分"で"自分"が分からない。
それは、垣根が胸に抱いていた悩みと同じだった。
目の前の少女が自分と同じ悩みを抱いていたということに、驚き以上の何かを感じる。
固まる彼に気がつかず、初春はただ自分の気持ちを吐露し続ける。

「九日前、貴方に殺されかけた時のこともちゃんと覚えてるのに。もしかしたら、貴方がまだ危険だと自分の心の奥深くでは思っていて、それで目を離せないのかもしれない。でも、私は、今はとにかく貴方を見ておきたいんです」
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:22:51.76 ID:2lpB1JBb0<>
もはや言葉として成り立って無かった。
彼女自身、おかしなことを言っているという自覚はあるのだろう。
照れを隠すように、パフェをスプーンでザクザク刺しながら口を閉じる。

「……よく分かんねぇな」
「あはは、そうですね。言った私ですらさっぱりです」
「だけど一つ聞かせろ」
「?」

改まったように喋る垣根に、クエスチョンマークを浮かべる初春。
純粋な彼女へ、垣根はこう尋ねる。




「"まだ危険だと思っているかもしれない"?つまりそれは、今の俺はテメェにとって危険人物じゃねぇって言いてぇのか?」



<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:23:25.13 ID:2lpB1JBb0<>
ズパッ!!と。
垣根の前に置かれていたステーキが、真っ二つになった。
フォークを中心として突如平たい牛肉が左右へと裂けたのだ。
自然現象で片付けるには余りにも不自然な現象。
勿論、自然現象等では無かった。
彼の能力による"非常識"な現象。
その気になればステーキどころか鉄板、テーブルすらも真っ二つに出来ただろう。

そして、対面に座るただの少女である初春も。

これは脅しだ。
自分を正しく評価しろという、自己主張にも似た脅し。
これだけ簡単に人を殺せる力を持ち、更には自分のためになら遠慮無く他人を殺せる人間が危険では無い?
馬鹿らしい。余りにも馬鹿らし過ぎる。

(そうだ、俺は学園都市の第二位『未元物質(ダークマター)』)

第二位としてのプライドは粉々に粉砕された。
だが、だからといって舐められるのは気にいらない。
それは垣根帝督に残った最後の砦。
これを踏みじられる気だけは、例え死のうが無かった。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:23:59.14 ID:2lpB1JBb0<>
(さぁ、前言撤回しろよ……)

見る者を凍えさせる殺気を全身から滲ませ、垣根は待つ。
彼の姿を見て初春はスプーンの動きを止め、口を噤んでいた。
やがて、薄いピンクの唇が静かに動く。

「……垣根さんは、前はともかく、今はそんな人じゃないと思います」
「……」

ギリッ、と。垣根の口から歯軋りの音が漏れる。
垣根の"前"とは違うという心理を刳る一言に、彼の何かが振り切れた。
そして彼の能力が感情のままに発動し、彼女を八つ裂きに──


「だって、私が呼んだら立ち止まってくれたじゃないですか」


しなかった。
能力を発動するための演算途中で、垣根の動きがピタリと止まる。
彼にとって間違い無く、予想外の言葉だった。
何かを求めるように、対面の彼女の瞳を凝視する。
初春は真正面から見つめられながらも、言葉を途切れさせない。
<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:24:30.48 ID:2lpB1JBb0<>
「私の我侭に付き合ってくれてるじゃないですか。私にパフェを奢ってくれてるじゃないですか。そんなことをする貴方だから、私は今の"優しい"垣根さんが、九日前の垣根さんと同じように危険な人だとは思えません」
「……」

ねっ?と、同意を求めるように笑いながら小首を傾げてくる彼女。
優しい。
そう言われたのは、多分初めてだった。
能力者になってから優しくて得になることなど一つも無かったから。優しかったら生きて行けなかったから。
殺されかけ、殺し、研究され、進化し。
そんなドロドロの闇の中しか知らなかった彼にとって、その笑顔は──

<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:25:00.63 ID:2lpB1JBb0<>
「……チッ」

舌打ちを一つ。
垣根は腰を上げて立ち上がり、ファミレスの通路へと出る。
彼の目蓋は閉じていた。
まるで、彼女の方を見るのを堪えるように。

「あ、あれ?少女一人残して何処に行くんですか!?」
「……トイレだよトイレ。直ぐ戻って来る」

「あっ、そうですか……」と、胸を撫で下ろす初春を横目に見て、見ようとしなかったのに見ていた自分に気づく。

(……クソったれ)

吐き捨てるように、心中で自分を罵倒した。


闇の住人である自分が、光の住人である彼女と一緒に居ること自体が異常なのだと己に確認数させるように。
ゆっくりと、彼は歩く。
途中ですれ違った中華風の服を着た少女の隣を通過し、何かから逃げるように。


「……」

そんな彼の、学生服に覆われた赤い背中。
歩いて離れて行くその背中を、初春飾利は見つめていた。
光を灯すその瞳に、何かを込めながら。




<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:25:36.63 ID:2lpB1JBb0<>








「へ、へへ……いたいた、いやがったぜ……」
「くくっ……最高に愉快だなぁ!」
「おいおいお前ら、あんまり騒ぐなよ。折角隠れてんのにバレっちまうぞ」
「なんだぁ、お前。ビビってんのかぁ?」
「こっちは数も多いし、それに"アレ"だってある」
「あぁ、"アレ"な。レベル5だろうがイチコロって奴だ」
「まぁ?あんな腑抜けた奴に使う必要があるとも思えねぇけどぉ?」
「備えあれば憂い無し、って奴だ……移動するみてぇだ。行こうぜ」
「おお!」

闇の中。
そんな会話が響いて、消えた。









<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:26:15.46 ID:2lpB1JBb0<>







二つは一つであり、
一つは二つ。
世界は、狂い無く進み続けている。







<>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/04(水) 18:28:52.22 ID:2lpB1JBb0<>
そろそろ次スレの時期なのかなと思いますが、残りのレス数が微妙ですね……
埋めるか、ギリギリまで投下し続けるか。
取り合えずそれらは明日にでも決めるとして。

次回はまた垣根と初春のお話、もしくは番外編です。
どうぞ、お楽しみに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/05/04(水) 18:35:45.22 ID:9tth+Ed30<> 乙
キャパシティダウンクルー?
垣根ほどの能力者があんな玩具でどうにかなるとも思えんが、はてさて <>
◆roIrLHsw.2<>saga<>2011/05/05(木) 16:39:46.38 ID:B5vIckVo0<>
>>956
はい、してます。作者名が雷ならば間違いなく自分です。


次スレについてですが、次回投下の際に新しく建てることにしました。
なので、このスレは適当に埋めて行こうかと。
次スレでも、よろしくお願いします!
スレタイは、

【多重】とある×シャナ×東方×ネギま【クロス】2スレ目

です!

では、また次の投下で!




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2011/05/05(木) 18:55:32.99 ID:obqmePGAO<> 乙!

次スレも楽しみにしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/06(金) 01:31:03.80 ID:Zr7gFmTy0<> 乙乙 <>
◆roIrLHsw.2<>sage<>2011/05/08(日) 16:25:31.26 ID:csuMSGf70<>
新スレ立てたので、後は埋めます <>
◆roIrLHsw.2<><>2011/05/08(日) 16:49:24.89 ID:/5IriSl20<> すみません!
只今何故かiPhoneの書き込むが開かないという変な現象が起きているため、書き込むのが遅れます。
新スレ立てといて本当に申し訳ない……
何故このスレは大丈夫なのに、新スレは駄目なんだ…… <>
◆roIrLHsw.2<><>2011/05/08(日) 16:55:58.97 ID:/5IriSl20<> どうやら五十レスを超えないと書き込めなくなっているっぽい……
なんなんだこれは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 22:59:45.17 ID:oFXafPsUo<> つまり次スレでは50までレスレースか………くふっ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/12(木) 02:22:32.39 ID:IDcgiAqA0<> 新スレ乙です
うめうめ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:16:41.72 ID:zwOhDY5N0<> 埋め <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:17:21.54 ID:zwOhDY5N0<> うめ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:18:22.24 ID:zwOhDY5N0<> 生め <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:18:57.87 ID:zwOhDY5N0<> う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:19:32.42 ID:zwOhDY5N0<> め <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:20:04.91 ID:zwOhDY5N0<> ま <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:20:44.33 ID:zwOhDY5N0<> す <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:21:36.62 ID:zwOhDY5N0<> か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:22:13.13 ID:zwOhDY5N0<> ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:22:45.93 ID:zwOhDY5N0<> く <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:23:23.04 ID:zwOhDY5N0<> ぽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:23:53.53 ID:zwOhDY5N0<> ぽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:24:28.56 ID:zwOhDY5N0<> ぽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:24:59.13 ID:zwOhDY5N0<> ぽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:25:53.67 ID:zwOhDY5N0<> | <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:26:34.35 ID:zwOhDY5N0<> | <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:27:08.59 ID:zwOhDY5N0<> | <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:27:45.64 ID:zwOhDY5N0<> ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:28:29.77 ID:zwOhDY5N0<> ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:29:16.49 ID:zwOhDY5N0<> ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:30:17.67 ID:zwOhDY5N0<> ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/21(土) 01:30:52.05 ID:zwOhDY5N0<> 1000 <> 1001<><>Over 1000 Thread<>                  . -‐- .,. '  ̄  ` .  _,.-―- 、__,,....ィ
             , ´            ヽ   i    ヽ   '-、
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          /                    ` 、‐ ' 'z__ l ,>-‐''     ,/
          i              人 l、     ヾ    `´      //
          /         ,ィ /  ヽi ヽ. l、   ,|         /   /
          "i     /^ヽ! / !,/ -―-  |,/ |   ハj         そ 人
         i    l ハ i/      ━    ヽ. l/ /           ゙ヾ. ヽ、
         ゙l.   ヽ_             { 、_ソノ   ,.. -  ..、      '; !~
         /ヽ! ,ィ/            `-  ;'    ;'      ` :,    ヽ!
       /  _Y     ヽ      t 、  /_     ':,  ━     ;      ヽ,
      〃´ ̄ 亠─----;:>- 、.  `´ /,,. ';  ,, _  ` 、 _ ,,, .. '         ;"
     i'´          ̄  __ ,,.. -`<´ ;: '",:' ,:'     `  -  、  ,,.. --‐ /
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    l    !   /       l          \   ,...、__,,.-'' /;'        l
    |   ヽ/         !           `-:イヽ-'  / /       ;リ
   |                i             ` ~ ´  /        ;'
    i                   !                     /       /
.    i                 ヽ  __          _,,,,....ノ       /
   l                   `ー' i~~ ̄ ̄ ̄ ̄          ,〃
    l                    i                 ノ/        SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>蚊に刺されたら皮が剥けるほど掻きむしるでしょ? @ 2011/05/21(土) 00:21:47.76 ID:kNbMvSRAO
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男「…へ?」 少女「だからね」 @ 2011/05/21(土) 00:50:48.68 ID:bKnQqaV4o
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犬より猫派 @ 2011/05/21(土) 00:36:00.25 ID:FZG41Jrw0
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ポケモンダイパプHGSSBW心のファンファーレ聴いてきた @ 2011/05/21(土) 00:08:48.74 ID:SSRTgVBUo
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一方「どンなに泣き叫ンだって、それを聞いて駆けつけてくれるヒーローなンざいねェ」 @ 2011/05/21(土) 00:00:40.96 ID:gGgzkDcl0
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出会いスレ @ 2011/05/20(金) 23:37:08.57 ID:o3v9JBd+o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1305902228/

一方「木ィィィ原くゥゥゥゥ」穴子「ぶぅぅぅるるるるるるらぁ!!!」 @ 2011/05/20(金) 23:21:49.47 ID:c7UvG4pu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1305901309/

少しばかり痩せたいんだが @ 2011/05/20(金) 23:21:12.27 ID:u3qetVgAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1305901272/


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