泥源氏 ◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/13(月) 23:43:45.74 ID:3lTmpGgo<>



――――そこは、暗い闇の中。




彼女は、ただひたすらに逃げていた。
恐怖を感じているわけではないのだろう。
人形が、恐怖するはずがないから。


「はぁッ、はぁはぁ……」


では、何故足は動き続けるのか。
何故、生き足掻いているのだろうか。




「見ィつゥけたァ」




そして、

暗闇の中から現れたのは、真っ白の歪んだ顔。

咄嗟に引き金をひく。
響く、凶悪な音色。この距離でこの軌道、外さない、外れない。
目の前の怪物は地に伏せるはず。いや、伏せなければおかしい。


「――――っと」

「……っ!!」


しかし、

あり得ない、物理法則を完全に無視した現象。
彼に向けて放たれた銃弾は、彼女の脇腹へと突き刺さったのだ。

思わず片膝をついてしまう。
ここで足を止めることは、即ち死を意味するはずなのに。
<>「大好きだよ、一方通行」 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/13(月) 23:47:17.21 ID:3lTmpGgo<>



――――痛い。




彼女たちにも痛覚が存在する。
そんな当然の事実を知った時、少々驚いた覚えがある。
だがその痛みすら、今の自分には心地良く感じて。


「なンだなンだなンですかァあ? もォ終わりかァ??」


……彼女は、何を考えているのだろうか?
すぐに解放されたいのか。それとも次の一手を探っているのか――――


「ったく歯ごたえがねェ。……さァて、オマエはどォやって殺して欲しい?
選ばせてやってもいいぜ」




――――めちゃくちゃに犯して侵して壊して潰して食して欲しい。
願望が、口から漏れることはない。


「チッ、反応無しかよ」


舌打ちした彼は、少しだけ考える仕草。
――――そんなポーズまで洗練されていて、美しく、見惚れてしまう。






「決ィめた」


今度は、禍々しい笑顔。
コロコロ変わる表情を、ずっと眺めていたかった。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/13(月) 23:48:53.59 ID:3lTmpGgo<>
「喜べ。オマエは脳ミソかき回して、どォいう表情すンのか視姦してやる」


 それでも、終わりは近づいていて。
迫りくる彼の顔。目をそらせない、そらしたくない。


「じゃァな」


反応を見せない彼女に、彼は特に苛立ちを見せることはない。
最期に見えた表情は、諦観、だろうか。






「……つまンねェ」


呟いた彼は、まるで泣いているかのよう。
もしいつか出逢うことが出来たなら、思い切り抱きしめてあげたい。
そう、強く想うのだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/13(月) 23:54:14.65 ID:3lTmpGgo<>こんにちは。
こちらはとある魔術の禁書目録の二次小説です。

・地の文
・原作ネタバレ多し
・ifオリジナル長編?
・一方通行
・基本、科学サイド
・書きだめあり

ですので、気にくわない方は読まないことをオススメします。
また、文章で誤字・脱字の指摘や書き方のアドバイスなど
容赦なくお願いします。

スレ立ては初めてなので、ちょっと書き方がおかしいかもしれません。
もし宜しければ、そこの所ご指導のほど宜しくお願いします。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/13(月) 23:59:46.73 ID:3lTmpGgo<>
…………





一方通行(アクセラレータ)は、扉を開けて現れた異世界に、頭が真っ白になっていた。








――――目の前の状況が、理解できない。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:02:29.34 ID:avSACfMo<>




「やっほーう、ダーリン♪」






 もしかしたらこれが罠で、
テロリストが待ち受けていてくれたほうが色々と楽だったかもしれないが、
そんな気配はなく。





「警戒しないでいいよ、一方通行。
ミサカにあなたを攻撃するなんてオーダーは、一切インプットされていない」






彼の中で疑問は尽きない。
なぜ隠れ家であるこの部屋がわかったのか、
なぜこの部屋に入れたのか。



なぜ、自分がよく知る少女(ラストオーダー)が高校生ぐらいまで成長したような顔の女が、
ここにいるのか――――





「ミサカの目的はあなたを愛することだけ」




しかしそれらの疑問を抑えて、意外と常識的で紳士な彼には、耐えがたいことがある。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:03:51.65 ID:avSACfMo<>


「ミサカはそのために、そのためだけに、わざわざ培養器の中から這い出てきたぜ!」キリッ

「いいから服を着ろよ……」






 そう、彼女はなぜか、裸エプロンだったのだ。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:09:30.59 ID:avSACfMo<>…………


一方通行は、今日も『グループ』の仕事に駆り出されていた。


親船最中からのバックアップを得てからも、その状態は変わらない。
そのことに特に不満はない。
今の彼はこういう風にしか生きることができないことは、
自分でもよくわかっているのだから。

打ち止めからの連絡も毎日あるが、たまに取り合ってやる程度。
こんなところに生きている自分は、打ち止めの世界から消えたほうがいいだろう。
段々連絡が途絶えていけば、彼女も忘れていくことができるかもしれない。


そう彼は考えているものの、未だに連絡が絶えることはない。
むしろ頻度は増している。
電話をとる声も鬼気迫るものになりつつあり、正直彼も対処に困っているのが現状だ。
仕事に対する理解も求め、心配するなとも言っている。
なにより彼が指名手配されていることも、ちゃんと知っているはず。


『アイテム』や『スクール』などの他組織が壊滅した今、
事実上裏世界のトップに君臨する組織『グループ』。
その構成員である彼を警備員ごときが逮捕できるかどうかは正直疑問だが、
堂々と表に出てはならないのは間違いない。

本来なら電話だってすべきではないのだが、そこはそれ、逆探知対策は万全。
『グループ』の下部組織である技術部は、他の組織を吸収し今では学園都市の中でも
かなりハイレベルな技術力を持つ。
よほどの能力者、例えば第三位の超電磁砲などでもない限り、干渉は不可能だろう。


しかも毎日寝床の変わる自分を捜すのは困難で、
捜すなと釘を刺しているはずだが、――――

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:16:35.31 ID:avSACfMo<>

「黄泉川が俺を捜しているだとォ……!?」



仕事が終わり、組織の行動範囲が大きくなったせいで必要になってしまった定例会。
『グループ』のリーダーを押しつけられた土御門元春から教えられた事実には、
一方通行が振り切れない、日常の輝きがあった。


「所詮一警備員だからここに辿り着くとは思わんが、また厄介なことに幻想殺しが
絡んできちまってな」

「彼が? ……それはまた難儀なことになりましたね。無能力者のくせに裏に首を
突っ込みすぎなんですよ、彼」

「しかもなんだかんだ言って上条派閥なんてものまであるらしいし、理事会にまで
影響を及ぼしているみたいだから、面倒なことになりそうね」


 彼ら、一方通行、土御門元春、海原光貴、結標淡希の四人で構成される『グループ』は
裏の組織であり、表で活躍する類の上条当麻とは本来関わらない存在。
しかし数々の事件を処理していくうちに、その不幸体質ゆえか面倒事の中心人物に
なりやすい上条当麻は、『グループ』にとってもすでに避けられない存在となりつつあった。


「三下は今どうでもいいンだよォ、どうして黄泉川が俺を捜してやがる!?」

「そりゃお前、いつまでも帰ってやらない家出少年が悪いんだろう」

「電話がかかってくるだけじゃ、保護者としてもやはり心配なのではありませんか?」

「別に顔を出すぐらい何にも禁止されていないじゃない。現にそこのシスコンは、
しょっちゅう義妹と逢瀬を楽しんでいるじゃないの」

「舞夏と会えなくなるぐらいなら死んだほうがマシだ」(キリッ


 真面目にシスコン宣言する土御門は置いておくとして、他人になんと言われようとも
一方通行は、今現在彼女たちに会うつもりはない。
それは、ただ単に指名手配されているからということだけではなく、
決意が揺らぎかねないような気がしたのだ。

悪に徹し、闇の頂点に君臨し、たとえ彼女たちに嫌われても、
陰ながら彼女の世界を守りたいという決意。

実は、今少しその決意にもひびが見える。
だからこそ、尚更会えない。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:20:40.72 ID:avSACfMo<>
「……会う気は端からねェンだよ。あンなに何度も言い聞かせているってェのに、
バカなことしやがってェ……下手打つと殺されかねねェぞっ!」

「まぁな。だが仕方のないことでもあると思う」

「あァ!?」


 一方通行が凄むと、土御門が真剣な眼差しで睨み返した。
 彼でも、少しだけ気圧される。


「俺の担任と黄泉川は仲が良くてな、偶然相談しているところを聞いたんだ。
なんでも、どこぞの居候が帰ってこないって、可愛い娘が夜泣きするってな」

「…………」

「なるほど、そんなことを彼が知ってしまえば、動かないわけにはいかないですね」

「……俺は大切なものを守るためにココに身を置いている。一方通行が
どう考えているかはわからないが、大切なものを守るというのは、何も
身体的な意味ばかりじゃない。
大切な人の心も、身の回りの世界も守ってやることこそ、守るという意味だと
俺は思っている。
その世界の中には、自分も入っているということを忘れるなよ」

「……チィ」

「気をつけないと、取り返しのつかないことになるぞ」

「…………」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:25:13.83 ID:avSACfMo<>
結局その場では結論は出なかったものの、一方通行は自宅へたまには顔を出すべき、
という方向に、彼にとっては不本意ながらもまとまってしまった。



(わかってンだよ、ンなことは……でもどの面下げて会いにいけってンだ、クソッ!)



そう、彼は良くわかっていた。
わかっているからこそ、いつ野垂れ死ぬかもわからない自分を、
彼女たちの世界に入れたくはなかったのだ。

彼女たちを守るものとして、自分みたいに誰かに狙われるような人間をそばに
置いておくことは、言語道断だったのである。


(だが、事実俺はあいつを泣かせている。この俺自身が、だ!!)


すでに自分は、打ち止めの世界に奥深くまで入ってしまっていたのだ。
電話ではわかったフリをしていても、物分かりのいいフリをしていても、
それはフリだけ。
帰ってきてほしいと、言いだせないだけ。
それは何故か?



(俺に迷惑をかけたくねェからに決まってンだろォが……)






      彼女を悲しませる自分が許せなかった。
             ―――――だが、決意を譲りたくもなかった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:27:54.48 ID:avSACfMo<>
どんなに悩んでも、どんなに物にあたっても、考えがまとまることはない。
今日の『仮眠室』に近いコンビニでコーヒーを自棄買いしても、
自慢の演算能力を駆使しても、見当たらない答え。



そして寄り道しつつもようやく辿り着いた『仮眠室』には、なぜか人の気配。
――――瞬時に頭を切り替える。 



(なンだ? 敵の襲撃……にしては妙だな)



『仮眠室』にある気配は、どうやら隠れる気もないらしい。
鍵を確認してみても、部屋は間違っていない。
念のため組織の連中に連絡しようかとも思ったが、ひたすら面倒。
ここは正面突破で行くことにする。
これまた存外自棄っぱちだが、最強の彼には関係ない、
首元のスイッチを入れ、堂々と鍵を開け放った。






するとそこには、何故か、裸エプロンの女が、いた。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 00:37:06.72 ID:avSACfMo<>一旦ここで止めときます。
ちょっと空欄が多すぎるかもしれないな……
そこのところが、よく解りませんね。

今日の夜……かな?
また来ます。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 00:38:20.74 ID:HX0zaaIo<>乙!
期待してる!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 00:40:10.05 ID:uch3VQAO<>裸エプロン…だと…!?

支援C<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 01:35:33.10 ID:KU5D2eMo<>これはまた面白そうなのが来たな
乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 01:43:12.44 ID:Y.PGBp20<>面白そう!乙

確かに空白ちょっと多いか?ここぞ!!って時だけに使った方がいいかも
まぁ好みの問題かもしれんが<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 03:18:16.80 ID:8UncRuw0<>おもしろそうだな…
乙!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 03:25:36.09 ID:nH5UOa.o<>くそ…また巡回SSが増えたぜ!

おもしれえ!
乙!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 11:21:20.74 ID:2jpwL3M0<>これは面白い
支援<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:01:10.78 ID:avSACfMo<>


一方通行は、闖入者の扱いに苦慮していた。



取り敢えず、彼女に服を着させることで仕切り直すことにしたらしい。
しかし、話を聞く限りでは服が無いとのこと。
仕方がなく備え付けのバスローブを渡し、文句を言う女に無理矢理着させる。


彼の混乱は、収まっていないわけだが。


(……ワケがわからねェが、まず間違いなく第三位の体細胞クローンの一体だな)


そう、彼女は自分のことをミサカと呼んでいた。
そこから考えると、他人の空似ということではないだろう。
だが、他の妹達(シスターズ)と違うところがいくつか見受けられる。

一つは見た目の年齢が違うこと。
身長も伸びていて顔もすっかり大人の女性に近づきつつある。
また彼女のスタイルは、成長したというには少し不自然なほど変わっていた。
さっきは裸エプロンだったためなおさら強調されていたが、
胸やヒップが随分大きくなっていたのだ。
身長が伸びたせいもあって、そこらのモデルでは到底敵わないレベルに達している。

そして極めつけは、その長い髪の毛だ。
腰まで到達しそうなほど伸びた髪の毛は見た目の年齢以上の艶めかしさ。
前に会った御坂美鈴と違うところは、癖っ毛というわけではないというところか。

こんな所謂『イイ女』が裸でここまで来たという事実に、彼は頭を抱えたくなる。
それでも、話を聞いてから処遇を決めることにした。
有無を言わせずに放り出すという選択肢が最初からなかったのは、彼らしいというべきか。


昔だったら、そうしたのかもしれない。
しかし今の彼には、守ると誓った少女たちとそっくりな女を夜の街に
放り出すなどということは、出来なかったのだ。
ファミレスに置き去りにした、小さな少女が彼の脳裏をよぎる。
その時感じた、後悔すらも。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:07:06.18 ID:avSACfMo<>
「一方通行はコーヒーいるー?」

「……いや、今はいらねェ」

「そう? ……ならミサカもいっか。それで、話だったよね」

「こっちはサッパリ状況が掴めねェンだよ。そこンとこ考慮に入れて説明しろや」


見覚えのない毛布が隅に転がっているところをみると、彼女はいつぞやの少女みたいに
毛布一枚で研究所を飛び出してきたらしい。
とうに真冬を迎えている寒空の下、そんな姿で徘徊するのは、少々無茶が過ぎる。

すでに混乱も収まりつつある一方通行は、取り敢えず彼女の説明を聞くことにした。
すると、彼女は饒舌に語り出したのだった。



…………



「……第三次製造計画(サード・シーズン)……?」



「そう、第三次製造計画。この計画の目的は二つ。
一つは、旧くなりつつあるミサカ達を刷新し、ネットワークを拡大、再配備すること。
それによって、ミサカ達はさらなる性能の強化と躍進を遂げることができるの。
私はその、試作機(プロトタイプ)ってところかな?」

「なっ……!? ふざけンじゃねェぞォッ!!」
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:09:24.56 ID:avSACfMo<>


ネットワークの刷新、再配備。
それはつまり、クローンで言えば旧世代機の代わりに新世代機を置く、ということ。
そうなれば旧世代機は?
彼女たちはどうなるのか、想像に難くないだろう。



「大丈夫、落ち着いて一方通行っ! これは計画初期の考えで、統括理事会としては
そこまでやる必要はない、っていう結論に達したの。結局計画は軌道修正されて、
今いる個体のアップデートで対応していく、ということになったんだよっ」

「……そォか。悪ィ、取り乱しちまった」

「ううん、いいの。ミサカが悪かったね……ごめんなさい」


一方通行は、自分が疲れていることを自覚せざるを得なかった。
どうしても、彼女たちのことになると熱くなってしまう。
そして冷静になると、彼の目の前には守るべき少女と良く似た彼女が、
親に叱られた子供のように俯いていて。




「……オマエが凹むことじゃねェよ。気にすンな」




 不器用ながらも、慰めの言葉をかけることしか出来なかった。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:21:39.32 ID:avSACfMo<>

「うん、ありがとう。……ごめんね」

「それはもォいい、続きを話せよ。もォ取り乱しはしねェ」

「ふふっ……うん、わかった」




 彼の心が伝わったのか、彼女はすでに明るい笑顔だった。
 一方通行は、そっと息をつく。


「計画の二つ目の目的は、もしあなたが裏切った場合、または邪魔になった場合、
始末するためのミサカを作り出す、ということ」


 笑顔は一瞬。
 厳しい顔になった彼女は、やはり緊張し少し震えた声で話す。
 澄まし顔で話すのは、少し難しいであろう内容。


「ふゥーん」


 それを、彼は興味なさそうに、鼻で一蹴する。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:27:31.00 ID:avSACfMo<>
「ふーんってあなた……さっきとはリアクションがえらい違うんだね」

「別に今更その程度たいしたことじゃねェ。
俺は絶対能力進化(レベル6シフト)計画のために、
自分のためだけに一万体以上ものクローンをコワしたンだぜ?」

「そっか……そうだったね」


「それに十分理に適ってやがる、反吐が出るほどにな。
俺が統括理事会の立場だったとしても、きっとそォしているさ」


 そう言う彼は、自嘲の笑みを浮かべている。


彼自身、学園都市で最強であることを自覚していて、
自分の弱点も、重々承知していた。

一方通行を排除したいと考えた場合、首元の電極をどうにかするか、
彼の大事なものを人質にするか。
そこらへんは、統括理事会ぐらいなら簡単に思いつき実行するだろう。
彼の大事なものが、統括理事会にとって替えがききしかも簡単に手に入るものならば、
捨て駒にはもってこいである。



彼女たちに彼を殺させること。
それは倫理観の薄い統括理事会からすれば、あまりにもお手軽な方法だったのだ。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:29:32.48 ID:avSACfMo<>
「まあそれも今や必要なし、ってことになっているけどね」

「……そォなのか?」

「うん。だってあなた、全然統括理事会に逆らおうとしてこなかったじゃない。
ずっとって言ってもほんの三カ月ばかりだけど、ちゃんと仕事もこなしてきて、
無駄な情報収集もしてこなかった。統括理事会は最初かなりあなたを警戒してたんだよ。
だから第三次製造計画なんてものが持ちあがったんだけど、今となっては
あなたたちのことを頼りにすらしているみたい」

「…………不本意、だがな」

「そうなの? でもそのおかげで無駄に警戒されずに済んでいるなら僥倖でしょ」

「……チッ」


彼としては統括理事会に良いように使われるのは癪で、出来れば逆らいたかったのだろう。
『グループ』発足時は、確かに四人は学園都市に逆らうという方針で纏まっていたのだ。
実際、統括理事の潮岸を失脚させるまでは、結構順調に事は進んでいたはずだった。

統括理事である親船に協力させて、『ドラゴン』『天使』などに関しても、
良いところまで情報を得ていたのだ。
しかし、そのあとが繋がらない。
そもそも、最初から親船は乗り気ではなかったのである。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:36:12.83 ID:avSACfMo<>

『貴方達が統括理事会に対抗するために情報を集めたいと考えるのは、最もだと思います。
私も出来るなら協力したい。でも、貴方達が大切な人をこの学園都市に預けている以上、
これ以上迂闊に情報を探るのは得策じゃない。
だから、もっと違う正当な方法で学園都市に干渉していくべきじゃないでしょうか』


彼女はきっと、ずっと前から学園都市の在り方に疑問を持っていて、
彼ら『グループ』と同じことを考えていた時期もあったのだろう。





だが、しかし。
学園都市の闇は深すぎたのだ、――――そう、世界を巻き込むほどに。
その闇にとらわれれば、その身も、それ以上に大切なものも失ってしまう。


彼女はそれを良く理解していた。
もしかしたら、すでに何か大切なものを失くしていたのかもしれない。




彼女の説得と、仕事を通じて得ていく絶望感と、守るべきものの大切さ。
それらは四人にとって、学園都市に反抗する以外の選択肢を模索させるのに
十分なものとなっていった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:44:05.25 ID:avSACfMo<>
「……別に統括理事会の犬になり下がったわけじゃねェよ。
ただ単純に面倒臭かっただけだ。
俺の領域に手ェ出さないンなら、どォぞお好きにしてクダサイ、ってな。
だがもし害になるって俺が判断した場合は、
この俺がぶっ壊してやる。学園都市ごと全てを、な。
そうすりゃアレイスターの計画とやらに少なからず影響があンだろォぜ」


「……ははっ、あなたなら実現できそうで怖いね」


「ンで、第三次製造計画の本当の目的はなンだ?
今の感じからすると、どォも目的を見失っているように見えるンだが……」



そうだ。彼女の説明を真実だとするならば、もはや計画に目的はない。
ミサカネットワークの刷新もアップデートという形で対応可能。一方通行に叛意なし。
これでは完全に計画は頓挫である。


「んーと、まぁその通りなんだよね。結構見切り発車で計画は考えられたんだよ。
今は計画の練り直し段階、だからミサカは隙を見て逃げてこれたの。あなたの居場所は、
ミサカネットワークへの外部接続で把握したんだ。これも新機能なんだよ!」

「あァーハイハイ凄いデスネ。練り直し段階か……で、なンでオマエは外部接続してンだ?
 ミサカネットワークに直接接続できねェのか?」


第三次製造計画でミサカネットワークの稼働状況をモニターできるようになったことを
自慢したかったようだが、一方通行は適当にあしらう。
すると彼女は拗ねるように頬を膨らませた。
……どうやら見た目のようには、中身は成長していないらしい。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:50:14.39 ID:avSACfMo<>
「ぶぅー……はぁ、まあいいや。言ってなかったかもしれないけど、ミサカは
無能力者(レベル0)なんだよ。
他のミサカと同じみたいに電波を飛ばすことはできないから、ミサカネットワークに
直接つながることはできないの。
唯一できるコトは、ミサカネットワークの掲示板に書かれることをROMることぐらいかな。
ミサカはあなたに守ってもらわないと、何にも出来ないカヨワイ乙女なんだよ?」


「――――はァ?」



 カヨワイ乙女の下りはともかく、無能力者であることには、一方通行も驚きを隠せない。
それはもはや御坂美琴のクローンなのか……? とすら思えてしまう。


「……そんなに驚かなくてもいいじゃない。無能力者だってあなたの役に立てるはずだよ。
お料理も、お洗濯も、お掃除も、夜伽も、全部学習装置で身につけているんだから、
あなたの身の回りの御世話ぐらいならできるよ?
そもそも、計画が頓挫したからはい用済み、なんて酷いと思わない!?」

「あァ、そう……なのか?」

「でしょう!? だからミサカはあなたの専属メイド決定!! いやっほうーっ!!」

「ちょっ、バカ、待て飛躍しすぎだろォがッ!
……まだ意味がわかンないところがある、確認させろ」

「ん? どっか説明足りないところがあったかな?
あ、ここのカギは学習装置で身に付けたピッキングで開けさせてもらったから」

「そォじゃねェっつーかなンだその学習装置は!?
 とにかく今から親船の奴に連絡する――――いいな?」

「……いいよ、ちゃんと確認してみて」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 21:52:33.75 ID:avSACfMo<>



疑いたくはない、ないが……今の彼は、慎重にしてし過ぎることはない。
彼はすでに昔の化物だった彼ではないのだ。
能力を使っていないときは無防備の、ただの人間。
油断することはあり得ない、あり得てはならない、だからこその、最強。





 結果から言うと、統括理事会は把握していた。
本当はすぐにでも回収すべきだという声もあったそうだが、親船が掛け合って
一週間だけ猶予をもらったらしい。
その後、親船のほうから一方通行の隠れ家を教えたそうだ。

……有難すぎて、一方通行は泣きたくなった。




「つまりだ……こいつには何にも問題はないってことだな。
俺が一週間もの間、匿わなくちゃならねェ事以外は」

『匿う必要はないですよ』

「はァ? そっちで誰か預けるやつがいるのか?
ンじゃなンで俺のところに送ったンですかァ? オイ嫌がらせかコラ!」

『いえいえ、匿うなんて必要はない、っていうことですよ。貴方には家を用意しました。
そこで一週間ほど彼女、番外個体(ミサカベスト)と偽りの夫婦としてでも
ゆっくりと休んでください。言うなれば、ちょっとした休暇ってところかしら』

「…………」



 彼は、今度こそ言葉を失った。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/14(火) 22:02:08.54 ID:avSACfMo<>自分で言うのもなんですが、もう少し削るべきでしたね……
集中力も欠けてきたので、ちょっと小休止します。

読みやすい文章にするために、
皆様方のご意見ご要望を忌憚なくお聞かせ下さい。

あと、パソコンが壊れました。
もしお勧めのパソコンが御座いましたら、
教えていただけると幸いです。

でわでわ、また出直してきます。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/14(火) 23:26:23.24 ID:Ejt5mxo0<>小休止ということはちょっとしたら再開してくれるってことなのか

じゃあ寝ない<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 23:34:54.30 ID:nH5UOa.o<>頭に花の生えたエージェントを>>1のもとへ送った
これでパソコンも大丈夫だな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/14(火) 23:53:29.31 ID:S8G1ZSQo<>期待して良いの……か?<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 00:49:19.66 ID:qVKrkz.o<>「ねぇねぇ怒っているの?
確かに、ちょこーっとだけ強引だったかなーなんて
思ったりするけどさ。いいじゃん? せっかく休暇も取れたんだし。
それに一週間とはいえ、これは試用期間みたいなものでぇ、
本当は一生養ってもらってもいいというか、
お願いできないかなーなんて思っちゃったりして……
きゃっ言っちゃった言っちゃった!」


「…………」


はしゃぐ彼女を無視して、彼は先ほどの電話のことを考えていた。


(何が長期休暇で骨休めしなさいだァ?
しかもご丁寧なことに、手ェ回して指名手配取り下げさせただとォ!?)


少し冷静さを失っていたのかもしれない。
しかし状況を整理すれば、明らかに胡散くさい。


(あまりにも手際が良すぎる、まるで下準備でもしていたよォだが……
チッ、取り敢えず様子見しかねェか。
――――それにしても、結局こいつが何を考えてここにいるのか良くわかンねェな)


さっき彼女はミサカネットワークを見たと言っていた。
つまり、一方通行がどういう人間なのかを良く知っているということになる。



打ち止めといい、彼女といい、クローン達の考えている事は、彼には理解不能だった。



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 00:54:01.84 ID:JtHHYIAO<>要はワーストの真逆か
続けろください<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 00:54:32.05 ID:qVKrkz.o<>

(しっかし親船のヤロォ、長々とお説教をくれやがって……)



説教というのは、打ち止め達の話である。

この二カ月、クライアントである親船とは、あまり二人で話すことはなかった。
大概は土御門が窓口になっており、仕事については電話の男が潮岸の件があってからも
あいも変わらず連絡をよこす。
二人で話すような機会は、初めてかもしれない。


彼女はどうやら、ずっと一方通行のことを気にかけていたらしい。
親船は状況をよく把握している。
なぜ一方通行が打ち止め達に会いに行かないのかも、なんとなく察しているようだ。


『貴方は恐れているのね。意地になって、目をそむけている。
温もりを諦めないことを誓ったはずなのに、いざ温もりが近くにあると怖い。
溺れてしまうのではないかって考えてしまう』


(チィ……好き勝手言ってくれやがってよォ)


『もはや貴方は指名手配犯じゃない。
もう言い訳は聞かないですよ、学園都市最強の超能力者第一位さん?』


(わかってンだよクソォ……)


意地になっている事は、わかっていた。
色々と言い訳をしていたことも、自分で良く分かっていて。
ここまで言われては、
会いに行かないわけにはいかなくなっていることも、分かっていたのだ。



(本当に、ガキだな俺はァ……)



子供すぎる自分。
本当に、大嫌いだった。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 00:58:44.79 ID:qVKrkz.o<>





不意に、

彼の顔が、柔らかく温かい感触に包まれる。





「……電話で何を話していたかは良く聞こえなかったけど、
きっと、やり直せないことなんてないよ。
気づいたなら、これからでも前に進めるから」




 それが番外個体の胸だということに気づくのは、少しだけ時間がかかった。




「一緒に歩いていこう? どんなに辛くても、苦しくても、私が傍にいてあげる」




 彼女の胸に包まれながら、
 彼は、今日会ったばかりなのに、何も警戒出来ていない自分に気がつく。
 そして、やはり今の自分の姿を考えて、






(本当、甘ったれたガキでしかねェな……)

 そう、思ってしまうのだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 01:03:36.22 ID:qVKrkz.o<>今夜は終わりです。
もうちょっと練り直すかもしれないので、
今日は来れるか微妙です。

初心者の駄文なので、
暇つぶしにでも見てやってください。

でわでわ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 01:33:11.89 ID:9b8Ve2AO<>裸エプロンが…orz
続き待ってますぜ。超乙です

裸エプロンが…orz<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 02:25:44.22 ID:C5ZC9WIo<>おつおつ

なぜ最近の第一位はこんなにリア充なのか
ちくしょうもげろ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 08:00:31.97 ID:uIFDSswo<>乙です<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/15(水) 17:54:18.37 ID:vzbmQJg0<>乙 番外かわいいよ番外
続き待ってます<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/15(水) 21:24:15.55 ID:cK5jpM20<>一方通行「一週間だけな」<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/15(水) 23:36:10.87 ID:qVKrkz.o<>やっぱり投稿します。
今更、訂正は厳しいっぽいです。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 23:40:13.94 ID:qVKrkz.o<>


―――――そこは、どこだったのか。




 暗闇の中、呆然と立ち尽くしている。
 いつここに来たのかはわからない。
 どこかに行こうとしても、足はとらわれ動けない。


 地面を見るとそこには―――――足が落ちていた。


 そして気づく。
 周りは暗闇ではなく、沢山の人影に埋め尽くされている事に。


(量産個体……っ!? なンだってこンなに――――っ!)


 横たわる、御坂美琴の量産個体たち。
 よく見れば、皆どこか欠損している。


 右にいる奴は顔が無く、左にいる奴は右半分の体が無く、正面にいる奴は、下半身が無かった。
 ――――骨だけのモノも、沢山いた。


(そォ……か、こいつらは俺が殺した――――)


 よく見る夢だ。
 なんとなくだが、いつもの自分なら、狂ったように暴れ出すだろうなと思った。
 いっそ、暴れ出したほうが楽だったのだろう。
 ずっと、怒りにまかせて、全てを壊してきたのだ。
 だがそんなガキみたいなこと、もうやりたくはなかった。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 23:44:53.23 ID:qVKrkz.o<>


(なンでだろォな……)



 心境の変化はよくわからなかったが、
 周りを見てみると、もう量産個体はいなかった。




 そうして、代わりに顕れたのは、
 
 どうしようもなくクソッたれの最強≪さいじゃく≫な自分を、
 思いっ切りぶん殴ってくれた最弱≪さいきょう≫なあの男の背中だった。




 そこで、なぜ暴れ出さなかったのかようやく気づく。


(なンだよ、本当に単純な奴だな、俺は)


 両手には、いつの間にか、温かな手が握られている。





(コイツらの前では、格好良い俺でありたいだけなンだ。
 ――――そォだ、俺は単なるすかした格好つけ野郎じゃねェか)





 前に見える背中が、顔は見えないのに少し笑ったような気がした。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 23:53:01.67 ID:qVKrkz.o<>…………









 窓からの日差しが、大きく射しこむリビングルーム。
 暖房の効く室内であっても、冬の澄んだ空気は感じられて。
 二つの人影にもかかわらず、まるでそこは時間が止まっているかのようだった。

 寝息も立てず眠っていた一方通行は、前兆もなくその薄いまぶたを開ける。
 そこには見慣れたような、それでいて新鮮な寝顔があった。




 二人はいわゆる、膝枕、という体勢。




(あァ、あの後寝入っちまったのか……)


 母親に抱かれて眠る、おそらくそういう感覚に近いのだろう。
 経験したことのない温もりに、少しだけ和む。


(コイツは……警戒心が足りないンじゃねェか?)


 自分のことを棚に上げながらも、
 彼は目の前の幼い寝顔を、少しばかり観察していた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 23:57:22.65 ID:qVKrkz.o<>



 そうして、
 どれほどの時間が経ったか。




 番外個体の睫毛が少し揺れ、瞼が震えた。
 そろそろ起きるらしい。
 昨日が昨日だったため、彼は少し気恥ずかしいのか、
 狸寝入りとしゃれ込むようだ。


「んっ……んっ、ぅん……むー」


「…………」


「……ん、んん? ……あぁ、そっか。昨日は……ふふっ、ようやく夢がかなったんだ」


「…………」


「かぁいいなーダーリンの寝顔…………えっと、無防備なダーリンが悪いんだよね、うん」


「…………?」



 ダーリンって誰のことだオィ!
 という突っ込みを入れたいところだったが、彼はそれどころではなく。
 彼女の端麗な顔が迫ってくるのを、気配で感じる。




(オィオィマジやべェよどォすりゃいいんだコレ今更起きられねェ)




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/15(水) 23:59:31.10 ID:qVKrkz.o<> 




 かなりテンパリ気味な彼は、単なるウブな一人の少年に過ぎなくて。




 そうこうしているうちに、唇に息遣いを感じられるところまで来てしまう。
 鼓動は、即、マックススピードへ。





(…………〜〜っっ!!)






 このとき彼は、確かに永遠を感じていた。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 00:01:28.37 ID:Za4F0vMo<>






 ピリリッ、ピリリッ



 ――――すると、唐突に足元のほうから軽快な音色が響きわたる。



「「……っ!!?」」



 一方通行が目を開けると、すぐそこには番外個体の顔。
 ……きまずい、非常にきまずい。
 ばつが悪い、そんな顔を二人で仲良く体現していた。


「……あー、うん。おはようダーリン♪」


「……何してやがる?」


「キスをしようとしただけだよっ!」


「…………はァ、いいからどけ」


 目の前の無垢な笑顔の前に、彼も怒る気が失せてしまった。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 00:03:24.15 ID:Za4F0vMo<>

「はいはーい、っと。あーぁ残念」


 悪いことをしたとは一切思っていないらしい。
 一方通行としてもなんと言って怒ればいいのかわからない。



 頭を掻きむしり、
 彼は未だになり続ける救いの音色を止めるため、
 充電中だった携帯電話を取り無造作に通話ボタンを押した。


「――――どォした?」


『……やっと取ったか。まぁお前はすでに休暇中だから何してようと自由だがな』


「ンで、要件はなンなンですかァ? 俺はオマエに起こされたせいで機嫌が悪いンだ。
ちゃっちゃと吐いたほうがイイと思うがなァあ?」


 彼は、取り敢えず土御門に当たることにした。
 照れ屋で、意地っ張り。
 そんな彼の後ろで、彼女は小さく微笑む。


 それに気づかず、一方通行は無用心にもその場で話し出した。
 また、言われて初めて彼はもうすでに休暇が始まっている事を知る。
 どうやら、昨日の話は全くもってマジな話らしい。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 00:07:37.46 ID:XzWKCoAO<>前に製速で何か書いてた?<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 00:07:46.36 ID:Za4F0vMo<>
『怒るな怒るな、俺だってお前の機嫌を損ねたいわけじゃあない。
ただお前に親船から伝言があったからな。
これでも、早朝から面倒なお仕事だったんだぜ?』


「……そりゃァご苦労なこった。ンで伝言「私の下着は?」
……チィ、ンなもンねェ!! 「えーーっ!!」……伝言を早く言え」

『…………』

「……オィ、早く伝言を「お風呂に入ってるね、待ってるよん♪」……言え」



『…………』


「…………」



――――沈黙。
 鈍い一方通行にもこの間の意味が解った。




『………………』

「……あ、あァ、えェっとなァ……そのォ、うン……」



『ヒグッ 伝言は グスッ メールれ ウッ おぐる アゥ』

「なンで泣く!!??」

『うるべーーっっ!! リア充はじねぇぇえええ』ピッ

「なッッ!?」ツーツー


 ……嫉妬だった。見苦しいまでの嫉妬だった。
 結局、かけ直しても通じることはなかったという。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 00:17:23.14 ID:Za4F0vMo<>…………



「いやぁ……たはは、なんというか、その、ちょっとだけ悪戯したくなったりして、ね。
うん、放置が寂しかったというか……正直調子ノリました、スミマセンでしたっっ!!」



 見事な土下座。
 リビングに戻ってきて早々の、ジャンピング土下座である。
 こういう知識まで、学習装置は網羅しているものなのだろうか……?


「…………」

「あのぉー、無言が一番キツいんだけど……」

「はァァァああああ…………」

「無言でため息も結構キツいよっ!」


 彼としては、こうしている時間も無駄な気がするので、
 休暇明けのことを考えると若干鬱になるが許すことにする。
 ……なんだかんだで、甘いような気がしないでもない。
 

「……もォこンなことするンじゃねェぞ」

「!! うんっ、絶対にもう二度としないよっっ!
もし破った場合はミサカ何でもするっ!!
具体的にはダーリンの老後の世話から下の世話まで――」

「何言ってんですかァア!? というかダーリンってなんだァオィィイ??!」



…………



「えっ?」

「えっ?」


 かなり、今更ですね。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/16(木) 00:29:15.87 ID:Za4F0vMo<>……小休止です。

>>53
いえ、初投稿です。
というか、初めて文章書いたので、結構緊張しています。


空欄が相変わらず多い……
あと1レスごとに詰め込みすぎてる……のかな?

……詰め込みすぎると、どうなるのでしょう?
落ちるのでしょうか? それとも見づらくなるのでしょうか?

読みやすい文章を目指しているので、
ご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願いします。

それではまた、……おそらく、今日中に。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 00:37:17.22 ID:hKSeziMo<>>>1乙
俺はこれでも充分読みやすいと思うよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 00:38:13.05 ID:JlGvh/Ao<>>>56
詰め込みすぎると、
ワリと書いたつもりでニヤけてたのが、意外と少ないレス数で終わってしまって慌てることになる。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 00:42:10.61 ID:XzWKCoAO<>>>1乙
初めてなら大したもんだろ
期待してる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 01:01:14.74 ID:xl8hEEs0<>>>58
あるあるwww
1レスに多く書き込むから投下後に軽く凹む<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 01:20:30.67 ID:QFGrjiwo<>おつおつ

ちょっとリア充もやし殴ってくる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 08:07:14.61 ID:XL3QEroo<>乙
今のままで十分だよ
続き待ってる<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/16(木) 20:46:23.57 ID:Za4F0vMo<>こんばんわ。

>>58>>60
そうか……、スレ立てした身としては、
それなりのレス数を書きたいですね。
現段階では、KAGEROUよりも字数が多いですが……
さてさて、どの程度削れるか。

このままでは今年中には到底終わらないので、
週末はトバすかもしれません。
ご了承ください。

では、投下します。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 20:59:11.45 ID:Za4F0vMo<>


 一方通行は、いわゆる“普通”な子供時代を過ごしていない。



 学校でも特別クラスという形で‘隔離’されていて、
 一般的に放課後と呼ばれる時間も、実験材料として能力開発に勤しむ毎日だった。


 家族のことも、記憶とともに捨てた。
 いつも独り、研究所を転々とするも周りには死んだような眼をした科学者ばかり。
 遊ぶような友達などいたことはなく。


 自分に好意を持つ人間には、ついぞ出会ったことが無い。
 芳川などは気軽に話しかけてきたものの、
 好意を持って話しかけられているとは、考えられなかったのだ。


 だからこそ、自分に直球で好意を示してくれる打ち止めには、
 どう接すればいいのかわからない。
 人を遠ざけるくせに、人一倍他者の悪意や好意に敏感だったから、
 彼女の好意に素直に応えてあげることのできない自分が嫌いで。


 結局ミサカたちによって生き延びてしまったことから、
 彼女たちを命に代えても守ることこそが贖罪の道であり彼女の好意への‘応え’である、
 と彼は結論付けていた。


 彼女の前でだけは、最強無敵のヒーローを演じ続けることを誓う。
 これは、生きる理由としての依存、
 勝手な自己満足に彼女たちを利用しているだけ、なのかもしれない。


 そもそも、彼女が自分になぜ好意を持ってくれているのかがわからないから、
 自分で好意への応え方を勝手に解釈するしかなかったのだ。
 嫌われる理由は掃いて捨てるほど思いつくのに、慕われる理由は全くもって思いつかない。
 が、もしそれを知ってしまったら、自分を保っていられるか、酷く不安で。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 20:59:59.98 ID:Za4F0vMo<>









   そう、彼はただの、意地っ張りの臆病者で、
     ―――――そんな彼が、とても愛おしく感じたのだ。






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:03:13.35 ID:Za4F0vMo<>





「ミサカがあなたを最初に見たのは、ミサカネットワークのログの中で、かな。
第三次製造計画のカリキュラムには、ソレの閲覧も組み込まれていたんだよ」



 ミサカネットワークのログの閲覧。
ソレはつまり、一方通行によって殺された妹達の最期の記録を再生するということだった。



「あなたに一万回以上も殺されちゃったよ、あはは」

「……悪趣味、だな」

「……うん、ミサカもそう思う。きっとそれを見て、あなたへの憎悪が湧くんだね」


 大抵の個体は、途中で精神に異常をきたすか体調が悪化して気絶するか、
 目覚めた後には一方通行への恐怖と憎悪だけが残る。

 そして薬の投与によって恐怖を消し、立派な対一方通行専用兵器の出来上がりだ。
 負の感情が妹達よりも湧きやすく調整されているからこそ、出来る学習である。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:07:19.55 ID:Za4F0vMo<>「ミサカも最初は少しきつかったんだよ?
でも、何だろうな……段々またあなたに会える、
あなたの楽しそうな顔が見られるって思うとゾクゾクしてきて」

「……なンか変なものに目覚めそうになってるンじゃね?」

「まぁ、なんだろうな……つまり、あなたのせいだよ?」

「結構理不尽だろ……」

「大丈夫! 責任はちゃんと取ってもらうからね、ダーリン♪」

「……意味わかんねェっつゥかダーリンって呼ぶな」

「あぁ……今でもダーリンのアノ顔が目に焼き付いてはなれないよぅ……」

「話を聞け」



・・・・・・・・・・・・



「……そんな具合で楽しい実験もクリアして、
ミサカネットワークの現行ログや上位個体のバックアップ用ログ、
そして“特撰! 一方通行記念映像、『アルビノなあのヒト!』”
を数え切れないほど見直した結果、
ミサカは研究者にとっても興味深い進化を遂げたんだって!」


「へェ……途中、俺も興味深いモノが出てきた気がするンですが」


「それこそ、あなたに恋をしたおかげだったんだ!
……でもね、ミサカ頑張ったんだよ?
最高のミサカ、番外個体(ミサカベスト)になったのも、
ログを研究して、ダーリンに好かれるようなミサカになるために、
より魅力的な女性になろうとした結果なの」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:12:13.42 ID:Za4F0vMo<>

 全く話を聞かない変態だった。


(……一度話し出すと、変態ってのは本当に手に負えねェな……)


 どこぞのサングラスとストーカーのことが頭に浮かぶ。



「大変だったなぁ……運動は軒並みやったし、健康食品も、
ちょっと怪しげな薬品にも手を出したよ、ふふっ」

「そこで笑う意味がわからねェ」

「でもこういう形で生き延びてダーリンに会えたから、結果オーライだね!
一週間だけ迷惑掛けるけどヨロシクぅ!」


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 21:13:44.89 ID:bsP6krUo<>ミサベさんか…言いにくいなwwww
20000号からエロ抜いてテンション上げた感じかね<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:13:54.74 ID:Za4F0vMo<>
 


 ようやく話は終わったようだ。
 というか、何気に迷惑かける気満々である。


「……あー、終わったのか?」

「うんっ! 経緯は良くわかったかな? かな?」


「……そォいうネタはやめろ、反応に困るから。まァ、そォだな、突っ込み所は多いが、
取り敢えず、なンで無能力者(レベル0)になってンだ?
お前が番外個体(ミサカベスト)ってンならおかしいだろォ」



 昨日は普通に流したものの、よく考えてみればおかしい話だ。
 彼が今まで見てきた個体の中で無能力者であるものは見たことが無く、
 クローン技術的にみても確率的にみても、先天的ということは考えづらい。
 ということは、後天的に能力を何らかの方法で失ったということになるのだろうか。


「うん、まぁミサカも、ちょっと前までは大能力者(レベル4)程度の能力はあったんだけど、
色々実験やっているうちに、いつの間にかなくなっちゃった。
おそらく御坂美琴(オリジナル)が、こうなることを本質的には望んでいるからじゃないかな?」


「……あァ?」


「だって、ミサカはクローンだよ? なんとなくわかるの。
御坂美琴は、‘普通の女の子’に憧れている、ってね。
だから研究員たちは拘ったんじゃないかな?
番外個体(ミサカベスト)は、能力の無い‘普通の女の子’にしようって。
ダーリンにもその気持ち、わかるんじゃない?」


 あくまでも推測だけどね、と彼女は笑った。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:17:04.26 ID:Za4F0vMo<>



「……なンとなくだが納得してやる」

「むぅー、ちゃんと納得してよぉダーリン」

「わかったわかった、一時的に納得してやるからそのダーリンってのやめろって」

「それはムリ。
これから一週間、仮にも夫婦として過ごすんだから。形から入らないと、ね」


 確かに親船はそんなこと言っていたが、
彼からすれば寝耳に水であり、承諾しがたいだろう。


「……夫婦になる必要が見えねェンだが」

「そうじゃないと、あなたと一緒にいるミサカの説明が難しいでしょ。
知り合いには婚約者って方向でどう?」

「それにしたって一週間で別れるンだろォが……はァ、本当に俺ンところでいいンだな?
いくらオマエが奇特な変態だからって、俺は一万人以上の妹達を――」



「ミサカはダーリンを好きになってしまったの。
そこに理由はなくて、許す許さないの問題じゃない。……あなたと一緒にいたいよ。
お願いだから、一週間だけでも、隣にいて欲しい。
――――偽りでいいから、幸せを、下さい」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:22:20.22 ID:Za4F0vMo<>






…………こんな顔を、この顔でされてしまったら、彼には断る術がない。





(事後承諾だろォが、今更変更不可能、この先一方通行ってわけか)



「ったく、俺の傍にいるってことは、危険だってことだ。そこンとこ承知しとけよ」

「……うん」




(ただただ、今は踊らされてやる――――)





 誰かの、何らかの意図が介在する事は、間違いがない。
 どんな意図であろうとも、どんな悪意からも、彼女を、守る。
 それは、彼が彼女に会ってしまった時点で、決まっていた事だったのかもしれない。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:36:25.76 ID:Za4F0vMo<>――――――








黄泉川愛穂は、体育教師である。
同時に、女性でありながら警備員(アンチスキル)に所属している女傑でもある。



学園都市はアビニョン侵攻後、ロシアと一触即発状態にあった。
危険な状態だったものの今は小康状態にあるが、いつ戦争が起こってもおかしくはない。

政情は未だ安定しないが学園は不自然なほど平和。
そんな中で、警備員の彼女はいつもどおりに過ごしていたはずだったのだ。



しかし、それでも。
彼女も身内の話になると、弱い。
行方知れずな彼への心配は、時が経つほど増すばかり。




(単なる居候にしては、気にかかる子じゃん)








<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:39:40.82 ID:Za4F0vMo<>

「こっちはまだ情報は……うん、ああ、わかってる。そっちはどうじゃん?」


『………、…………』


「……そか、まぁ、あんまり心配しないほうがいいじゃん。芳川のほうも……うん」


『……。………、……』


「別にいいじゃん、気にするな」


「……! ……?」


「……きっと大丈夫、だから安心して家で待っているじゃん。もう少ししたら帰る。
それじゃあ――――ふぅ」



 自宅への電話も終わり、溜息一つ。
 今日も情報は手に入らぬまま、少し早めの下校時刻を迎える。
 冬休み直前のこの時期は午前授業のため、
 校舎に残る生徒は、部活動にいそしむ者たちぐらいか。
 


 めっきり冷たくなったリノリウムの廊下は、すでに赤く染まり始めていた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:43:04.91 ID:Za4F0vMo<>


(あーぁ、クリスマスもすぐだってーのに、あいつは何してんだろうね)



 考えるのはやはり、白い居候のこと。
 警備員のツテを最大限利用し捜しているものの、一向に見つかる気配が無い。
 痕跡が無いというより、意図的に消されている節がある。


 彼女も、警備員としてそれなりにこの学園都市に携わってきたから、
 ふれてはならない場所があることぐらい、よく承知しているつもりだ。
 それでも彼を捜しているのは、やはり最後に見た光景―――――


(あいつは私のために、あんなに怒ってくれたじゃん。
いくら暗部に触れているからって、諦めることなんてできない。
私はお前を必ず引きずり上げると誓ったじゃん)




 彼が謎の黒い翼を生やして暴れる姿を、彼女はその目で見ていたのだ。
 そして、止められなかった自分の無力さに歯噛みしている。





――――彼は、堕ちてしまったのか。

      黄泉川愛穂では彼を救えない、それが現実だったということだろうか。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/16(木) 21:45:05.33 ID:Za4F0vMo<>



(でも、救えないわけじゃないじゃん。
あの娘なら、最後の希望(ラストオーダー)なら、きっと救うことができるはず)


 細いけれども、唯一の希望。


 だがその希望も、段々と繋がりを失いそうになっている。
 最近では携帯の電源を切っている事が多いのか、なかなか繋がらなくなってきていた。


(私は、絶対お前をあの娘のもとに引きずり出す。とにかく元気を出さなきゃ無理じゃん!
何か精のつくものを今夜は食べるかなっと)


 そんなことを考えつつ職員室のドアに手をかけると、突然彼女のポケットが震えた。
 すぐに携帯電話取りだし、画面を開くとそこには――――








<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/16(木) 21:59:46.91 ID:Za4F0vMo<>



小休止……



>>69
本当は、ミサカワーストさんの反対っぽくして
オリジナル色を消したかったんですが……
いまいち、上手くいってないですね。
私の力量不足です。


書いていると、暴走し始めるからなぁ……俺が。


では、また後で。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 22:13:57.60 ID:kJ0a9vYo<>おつ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 23:16:59.97 ID:eSwYX56o<>ミサべさんが可愛い
それだけで十分だ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/16(木) 23:42:59.82 ID:XL3QEroo<>素直なミサべ可愛い<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 01:41:39.15 ID:LU8bLus0<>ミサベが
可愛すぎて
生きるのがつらい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 02:17:55.62 ID:jBTJIsk0<>アイデアがいいな
GJっす<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 02:40:52.32 ID:H6jr6WIo<>ミサベに固定しちゃった…
なんかゴメン<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 08:24:24.15 ID:C9jbWVIo<>だって言いやすいんだもん
<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 12:47:13.15 ID:8qCwHAko<>ミサカベスだと、スライムベスみたいだ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 17:44:04.65 ID:TTu5QEUo<>じゃあミサトさんで<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/17(金) 21:30:51.16 ID:tafuo4.o<>こんばんわ。
本日も、投下します。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:36:55.16 ID:tafuo4.o<> 


 とあるブティックの前、女性ばかり行き交うこの場所で。
 一方通行は、違和感なくモデルのように壁に寄りかかっている。
 彼は壁に寄りかかるだけで絵になるが、その恐ろしい顔と雰囲気が台無しにしていた。


(ったく、なンなンだよ……ちゃっちゃと行かねェと夜になるだろォが)


 遡ることこの日の正午。
 結局、納得しないまま番外個体(ミサカベスト)を預かることを了承した一方通行は、
 ランチをルームサービスで済ませた後『仮眠室』を出ていく際に、
 彼女が未だ備え付けの服であることに気づく。

 一旦スウェットを着させて出かけてみるものの、それは彼のプライドに触ったようで、
 服屋でもう少しマシな物を見繕うことにしたのだが――――


「こンなに待たせておいて、サイズが無い……だとォ……?」

「申し訳御座いませんお客様。
当店ではこの品物に関してサイズが限定されておりまして――」

「言い訳はいい。……チィ、次当たるぞ」

「うんっ!」


 存外、彼はファッションにこだわる性質で、
 彼女のこだわりもあり一層時間がかかっていた。
 時間を気にしつつもパジャマまで必死にコーディネートする彼自身は苛立っていたが、
 それを横目で見る彼女は実に幸せオーラ全開の様子。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:39:39.79 ID:tafuo4.o<>
「これはどォだ?」

「うーん、いい感じかも。というか、ダーリンが選んだものならなんでもいいよ!」

「……ふン」


 どうやら手に取ったそれは気に食わなかったらしい。
 杖を器用に使い、またいそいそと陳列されたパジャマの物色に戻る。
 
 胸が大きく身長も高めな番外個体は、先ほどのようなサイズなしということがままあり、
 一式揃えるだけで大きく時間がとられてしまう。

 しかし、どちらかといえばこだわりのある一方通行に番外個体が付き合わされている状態だが、
 付き合わされているほうが幸せそうなので、デートとしては上々なのだろう。


 結局、番外個体は見た目かなり幸せそうながら怒ったふりをし、
 強引にアクセサリーまで買わせてその場は終了した。

 一方通行としては、最後に買ったアクセサリーがネックレスに指輪を付けるタイプで
 あったことが気がかりであり、既成事実的なものを積み上げられているような、
 そんな気がしないでもない。

 しかし、一週間だけでも婚約者のふりをしてくれと涙目で説得されると、
 彼には抗う術がなく。




 一方通行は二日目にして、すでに真綿でくるまれるように落とされつつあった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:43:10.99 ID:tafuo4.o<>…………







 とある高級マンション、その一室。
 そこには、10歳前後の女の子が一人ソファーで寝そべっていた。


 彼女の名前はミサカ二○○○一号、通称≪打ち止め(ラストオーダー)≫。
 彼女こそ、一万体近く存在する御坂美琴の体細胞クローンの中で上位個体に位置し、
 妹達の反乱防止用の安全装置として存在する個体である。

 今現在もただ寝転がっているわけではなく、ミサカネットワークという
 妹達の電気操作能力を利用して作られた脳波リンクにアクセスしているところだった。


(あの人を見かけた個体はいる?
ってミサカはミサカはちょっとしつこいかなって思いつつも聞いてみたり)

(残念ながら未だ見かけた者はおりません、とミサカ一○○三二号は報告します)

(証拠はありませんが、データ上の彼の痕跡を何者かが意図的に消している可能性が
高いです、とミサカ一九○九○号は推測します)

(今現在治安部隊が出払っているため、学園都市では様々な裏組織が動いているようですが、
その中に紛れて彼も動いているのでは? とミサカ一三五七七号も推測を口にします)

(詳しく調べていきたいのですが、あまり調べると暗部の情報部隊とバッティングして
しまい危険です、と一○○三九号は僭越ながら忠告します)

(うーん、暗部に所属している事は間違いないんだろうけど……
ってミサカはミサカは避けられている可能性に怯えてみる)


 彼女たちの情報収集能力は高いものの、どうしても暗部にまで手は伸ばすのが難しい。
 しかも一方通行側が隠しているとなるとお手上げなのが現状だ。
 ただでさえ、今は戦争目前になりセキュリティの強度が上がっているため、
 捜索は困難を極めていた。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:45:55.46 ID:tafuo4.o<>

と、
打ち止めが行き詰まりを感じていると、彼女の携帯が可愛らしいメロディを奏でる。


(黄泉川からメールあり、ってミサカはミサカは報告してみる!)

(!! どのような内容ですか? とミサカ一○○三二号はwktkを隠せません)

(同僚から連絡があって、本日深夜零時をもってあの人の指名手配が解かれていたんだって! 
ってミサカはミサカは突然の発展に目が白黒してるよ!)

(それは……なんらかの動きが期待できそうですね、とミサカ一三五七七号は
胸のドキドキを抑えつつも応えます)

(うん! ってミサカはミサカは期待してみたり! ……あと、皆に聞きたいことが
あるんだけど、ってミサカはミサカは唐突な話題転換をしてみる)

(? なんでしょう? とミサカ一九○九○号は少し重い空気になったので皆を代表し
気を引き締めます)

(あの人を捜してくれるのは本当にありがたいんだけど……皆は今、あの人のことを
恨んだり恐れたりはしていないの? ってミサカはミサカは聞きづらくて言いだせ
なかったことを言ってみる)

(! それは――――、とミサカ一○○三九号は応えあぐねます)


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:50:01.56 ID:tafuo4.o<>

 ミサカネットワークを使うことによって、他の個体と意識の共有は可能だ。
 しかしそれでも、他の個体の考えている事まではわからない。

 変化していく彼女たちが、他の妹達を殺害した一方通行に対して憎悪や恐怖を抱いても、
 打ち止めには責めることは出来なかったのである。


(……答えられない他の個体を代表して、直接相対して殺されそうになり上条当麻に
助けられた、ミサカ一○○三二号が答えましょう)

(ありがとうっ! あと他の個体も異論があったらヨロシク! ってミサカはミサカは
呼びかけてみる)

(イエッサー! とミサカ一三五七七号は他の個体を代表して返事をします)

(……結論から言うと、恐怖はありますが憎むことはありません、
とミサカ一○○三二号は断言します)


 彼女たちに彼への恐怖が無いと言えば、嘘になるのだろう。
 ある意味妹達にとって死の象徴ともいうべき存在が一方通行であり、
 感情の出てきた彼女たちが彼に恐れを抱いても無理からぬことである。


(彼に相対すればあの夜のことを思い出しますから少し怖いです、
とミサカ一○○三二号は正直に言います。しかしあの夜は、
あの人が私を助けにきてくれた、まさにアニバーサリーで、ドキがムネムネして……
とミサカ一○○三二号はモジモジします)


(ヒューヒュー、とミサカ一三五七七号は囃し立てます)

(うらやますぃーーっ!! とミサカ一○○三九号は本気で思ったことを口にします)

(負けられねぇ……漏れもそんな甘酸っぱい思い出手に入れちゃる!
とミサカ一九○九○号はここに誓います)

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 21:54:30.82 ID:tafuo4.o<>

(……おほんっ、とミサカはミサカは話の脱線を知らせてみる)


(あ、あぁーっと……続きを話します。彼を憎んでいないというのは、彼のおかげで
ミサカたちは存在できたのであり、彼に殺されることこそミサカたちの
存在意義であったため、彼に感謝こそすれど、憎むのは筋違いです、
とミサカ一○○三二号は皆を代表して答えます)

(そっか……ってミサカはミサカは予想通りの答えで安堵してみたり)


(確かに、妹達は彼を憎むことはあり得ませんが、お姉様はおそらく……、
とミサカ一○○三九号は言葉を濁します)

(そう、だよねぇ、ってミサカはミサカはうなだれてみる……はぁ)


 御坂美琴は、今まで殺された妹達もそれ以外の妹達も、皆本当の妹のように思っている。
 だからこそ一方通行を憎み、また実験を止められなかった自分すらも憎んでいるだろう。


(……あの人の演算補助をしているって知ったらお姉様は怒るかな、
ってミサカはミサカは呟いてみる)

(……さぁ? とミサカ一○○三二号は怒ったお姉様を想像し恐怖します)


 打ち止めも、広い高級マンションで独りである恐怖を今頃思い出し、
 彼の温もりに縋りつきたい想いで胸が張り裂けそうになっていた。
 彼女は赤い目を隠すように、彼の使っていた枕に顔をうずめ、呟く。





「…………会いたいよ、――――」





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:01:39.34 ID:tafuo4.o<>…………






 買い物が一通り終わり、クリスマスムード一色なショッピングモールを後にして、
 番外個体と一方通行は、近くの公園に来ていた。
 閑散とした公園、子供が遊ぶには少し寒すぎるのだろう。


「ふんふんふーん、ふんふんふーん、ふんふんふーんふふーん……♪」


 番外個体は終始幸せそうに、先ほどモールで流れていた曲を口ずさみながら
 一方通行の腕に抱きついている。
 彼は少し歩き辛そうだが、特に何も言わない。


 公園には三人がけのベンチがあり、二人はそこで休むことにしたようだ。
 もうすでに日が傾いてきたが、この後に仕事があるわけでもない。
 柄にもなくセンチな気分になる自分に苛立った一方通行だったが、
 何かに当たることもなく、舌打ちもしなかった。


「今日はミサカの服買ってくれてありがとね。これ一生大事にするよ!」

「大袈裟なンだよ、オマエは」


 そんなことを言いながらも、杖をしまいつつ彼はベンチに腰掛ける。
 だが彼女はベンチに座ることなく、公園の中心に歩きだした。
 それを、一方通行は訝しげに見やる。


「………?」

「・……えへへ、見ててね」





          彼に振り向き軽く会釈をした彼女は、
                 唐突に、その場でダンスを始めた。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:04:45.19 ID:tafuo4.o<>


 音楽はなく、観客も一人だけ。
 それでも彼女は笑顔で楽しそうに、踊る。


 まるで、彼に買ってもらった衣装を自慢するように。
 スカートが翻るのも構わず、踊り続けている。


 そんな彼女に、一方通行は言葉を失っていた。
 一言も話さず静かに舞う番外個体、だがそのダンスは雄弁に語りかけてきて。
 言葉にならない言葉、感情。その想いの奔流に圧倒されていたのだ。




 彼には目を離すことが出来そうにない。
 彼女の笑顔は、夕陽に溶けるように儚げで、どんなものよりも美しかったから。




 彼が見入っているうちに、どうやらそのダンスにも似たファッションショーは
 終わりを告げたらしい。
 始まった時のように一方通行へ一礼して、何事もなかったようにベンチに腰掛ける。
 そして彼女は、またなんでもないかのように口を開いた。


「……帰る必要なんてないよ」

「――――?」


 未だ呆然としている一方通行には、何を言われたのかわからなかった。




「もし会い辛いなら、上位個体に会いに行く必要なんてない。
この世界にはミサカがいる。この公園みたいに、二人だけの世界」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:08:00.24 ID:tafuo4.o<>



―――――完全に見透かしていた、ということか。




人ごみに疲れたという名目で訪れた公園。
だが、実際は家出少年が迷子のように途方に暮れていた、というだけだったのだ。
帰るべきなのに、踏み出せない。
踏み出すには、あまりにも時間が経ち過ぎていたのかもしれない。



「それでも、もし上位個体に会いたい気持ちがあったなら、どうして迷っているの?」


 それは静かな声だったが、彼の耳朶に、心に、しっかりと響いていた。
 無垢な瞳が、彼を穏やかに糾弾する。
 まるで打ち止めに、妹達全員に責められているかのよう。


「あなたは一体、何を恐れているの? あなたが迷う必要なんてないはずだよ。
歩きたい道を歩く、ただそれだけ。その先に、たとえどんなに高い壁があろうとも、
最強のあなたに越えられない壁なんてないんだから、さ」


 彼女の言葉には、少しだけ責める色があったものの、その大部分は誇りに満ちていて。
 一方通行への絶対的な信頼が感じられる。




(――――なンでここまで言わせちまったンだ、俺は)


 番外個体は、その強い言葉とは裏腹に、少しだけ震えていた。
 その目には、かすかに怯えが見え。
 それでも、その感情を抑えつけようとする、強い意思も感じさせて。



 自分を信頼する彼女に、悲痛な説教をさせてしまった―――
 そんな後悔が、彼の心を蝕む。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:12:54.14 ID:tafuo4.o<>
 そして一方通行は、思う。
 そもそも、自分は何を恐れているというのか、と。
 学園都市か、アレイスターか、それとも――――――打ち止めか。
 光のあたる道を歩くことは自分には許されない、だって?
 誰が決めたというのだろう、誰の許可がいるというのだろう。
 ただ自分が罪と向き合うことを恐れていただけ、じゃないのか。
 自分が幸せになることで、今までの罪を知ることが、怖かったんじゃないか。


 彼女達をそばで護ることも、目の前で失うことも、恐れている。
       ――――現実から逃げている、だけじゃないのか。


(小せェ、全然小せェなァ……そンなのは弱者の考えなンだよォ!)


 仕事で忙しかった、打ち止めに迷惑がかかると思った……
 彼女達のことを考えず無視した理由は、いくらでも思いつく。

 きっと、そんな言い訳をして逃げていた。
 臆病者の自分が、打ち止めの前でだけは最強として存在すると誓った自分に、 
 後ろめたさを感じていたのだ。




 今頃だが、本当に今更だが、彼は思い出す。

 第二位を殺した時。
止 めようとする黄泉川や打ち止めを、彼は殺そうとした。
 だが出来なかったのだ。



 結局、殺そうとしたことも、殺せなかったことも、弱さだと考えていた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:15:07.02 ID:tafuo4.o<>




『お前は、その程度の悪党なんかじゃないじゃんよ』





(何が、敵に回してでも闇から守る、だって?
俺はアイツら程度を敵に回さないと守ることが出来ない、弱い悪党だったってのかよ)






『良かった、ってミサカはミサカは言ってみる』







(あいつらに、これ以上弱さを見せてたまるかッッ!!)



これ以上、
逃げ回る自分を、見せたくなかったのだ。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 22:18:56.80 ID:tafuo4.o<>
「………オィ」

「……っ、なに?」

 逃げていた彼に弱さを突きつけたのは、彼女だ。
 彼女の手前、もう迷うわけにはいかない。


「……ありがとよ。そして、すまなかった」

「…………!」

「俺は、オマエの前でも、ずっと最強であり続けることをここに誓う。
もォ逃げも隠れもしねェよ。光のあたる場所を、正々堂々と悪党として
のさばってやるさ――――だから、泣くンじゃねェ」

「グスッ………うん!」


 彼女は少し泣いていた。
 ――――それでも、やはり笑顔だった。
 彼が守るべき、笑顔。
 心に、刻みつける。

 一方通行は、杖を使いながらも、しっかりと立ちあがった。
 彼女も、それに合わせるように勢いよく立ち上がる。


「……じゃァ帰るぞ」

「どこに?」


 彼女は、答えは知りつつも問いかける。
 すでに、悪戯っ子のような笑顔。



「……あいつらのところだよ。随分と寄り道しちまったが、な」



 彼らは、歩きだす。
 二人ともこの空のように赤い目をしていたが、どちらも曇りない眼差しだった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/17(金) 23:33:01.26 ID:tafuo4.o<>
ここで、やめときます。

また明日も、投稿しようと思います。



こりゃ、今年中に終わらないな……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/17(金) 23:43:05.52 ID:mA8GMi.o<>来年も生きる希望が出来た<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 00:15:52.82 ID:HHmjNgwo<>乙
年内に終わらないほうが嬉しかったりする<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 00:57:44.73 ID:QTEPKdso<>おつおつ

来世紀まで続けようぜ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 02:38:11.09 ID:SG0LFR.o<>こういう小さな楽しみがあるから生きていけるのよね<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/18(土) 13:08:10.43 ID:fZa1VsMo<>おはようございます。

>>101>>102>>103
コレクリスマス物だから、季節的に出来れば今年中に
終わらせて次のものを書こう、と思っていましたが……
同時並行出来ないと駄目って事ですね、わかります。

まぁ、どうせこのペースじゃ終わりそうに無いので、
今冬中に終わる、ぐらいな感じでやっていきたいと思います。

やっぱり、物珍しくオリジナルの無いもののほうが
需要はあるのかなぁ……
もしそういった提案みたいなものもあったら
お聞かせください。

では投下します。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:12:54.22 ID:fZa1VsMo<>――――






 芳川桔梗が帰宅した時、寄宿先である黄泉川のマンションには人の気配が無く。
 誰もいないのかと思えば、打ち止めがソファーで枕を抱いて寝ていて。
 このままだと風邪をひきかねないので、優しく毛布をかける。


(こんなに心配をかけて……彼も罪ね)


 寝ている打ち止めの顔には、涙の跡が残されていた。

 芳川も、今の今まで知り合いのいる研究所の手伝いを行っていた。
 絶対能力進化計画に参加していた彼女は、計画が頓挫した後も、
 その時培った人脈で色々と仕事を手伝い、日々過ごしている。

 ちなみに、元々は一方通行と打ち止めを預けるだけだったはずだが、
 彼女はいつの間にやら黄泉川家に転がり込んでいた。
 ……どのような心境の変化だろうか。余人には窺い知れない。


 そんな彼女は今、絶対能力進化計画について調べ直しているようだ。


 計画に深く関わった芳川だが、打ち止めに関しては妹達の叛乱防止としか聞かされていない。
 しかし、正直それだけではないだろうということは、ずっとわかっていた。
 かといって、どのような目的で生み出されたのか、突き止めるまでには至っていない。

 今では打ち止めも一方通行も家族同然に思っている彼女にとって、
 彼らの学園都市における不安定な地位を少しでも安定させるため、情報は不可欠。

 最近はそのつてを使い、もっぱら一方通行の行方を探っているのだが、どうも芳しくない。
 彼が『グループ』という組織に所属し暗部においては掃除屋のような働きをしており、
 学園都市のテロリストや叛乱分子をかたづけているということはわかったものの、
 居場所の特定には至らなかった。

 彼が噛んでいそうな事件といえば、二か月ほど前の『フラフープ』の起こしたテロや
 統括理事である潮岸の失脚か、他はそれこそ都市伝説レベルのものだろう。
 いずれもその残虐性、手段、身なりの特徴から言って間違いが無い。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:17:37.07 ID:fZa1VsMo<>

 それでもここ一週間は大きな事件を聞かないので、追跡も途絶えている。
 追跡というのもただ暗部で起きた事件を辿るだけだが、
 一週間前までは抗争が絶えず辿ることが可能だったというだけ。

 また、暗部でも隠しきれない部分があり、都市伝説という形で噂されていたのも、
 足取りをたどるのに役立った。
 一方通行は、その身なりゆえに目立つので特定しやすく、
 都市伝説でも度々『白い悪魔』として現れ恐怖の対象になっているからである。


 かといって、現在の居場所がわからなければ意味が無い。
 せいぜい彼の生存がわかる程度のもので、それもここのところ目撃情報はなく。
 
 先ほど黄泉川から一方通行指名手配解除の報を受けたが、結局暗部に動きはない。
 最悪の展開が頭をよぎったのだが、おそらく大丈夫だろうと判断する。
 彼ほどの大人物が[ピーーー]ば、暗部の力関係は大きく変わるのは間違いないため、
 動きが無いということはあり得ないのだから。


(それでもこの二カ月のことを思えば大きな前進ね。
 ……全く、調べているほうの心臓のことも考えて欲しいわ)


 そう、彼女はこの二カ月気の休まることが無かった。
 第二位との決戦、『フラフープ』の立てこもりテロ、
 潮岸という大人物の失脚における抵抗戦、そのほかの事件も生存の報が来なければ
 死んでしまったと言われても納得してしまうほどの抗争だったのだ。

 それでも、事件の後はまた事件、そのあとは雲隠れ。
 この一週間、新着情報がまるでなかったことを考えると、
 この報告は生存を知らせてくれたようで、安堵せざるを得ない。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:20:31.97 ID:fZa1VsMo<>
 また情報をチェックするためにパソコンの電源を入れようとした時、
 玄関のほうから鍵の開く音がした。
 どうやら黄泉川が帰ってきたらしい。


「ただいまーっと。あれ、打ち止めはどこじゃん?」

「おかえりなさい。あと打ち止めはそこのソファーよ。」

「……ぅ〜ん………」


 寝返りを打つ打ち止めに黄泉川が気づき、しまった、というような顔をしている。
 少し声が大きかったのか、それとも起きそうだったのか。
 まぁ、そろそろ起こしてやる時間なのかもしれない。


「打ち止め、もう起きたほうがいいわよ」

「……むぅ〜……」

「いやあ、悪いことしたな。起こしちゃったっぽいじゃん。
それで、桔梗のほうはどうだった?
こっちは調べたけど、指名手配解除の理由は未発表じゃん」

「そう……私の方は音沙汰なし、全くの消息不明ね」

「そっか、今回の件がいい方向に進むことを期待しとこう」

「……そうね」


 黄泉川は基本的に表の人間であり、
 裏の人間である一方通行のことを捜すべきではない。

 彼女は弁えているし、打ち止めたちを連れてきた時も深くは聞かなかった。
 預かる者としては失格なのかもしれないが、警備員として、
 触れてはならない領分をよく理解している。

 だが彼のことは、必ず連れ戻すと、引きずり上げると約束した。
 絶対諦めない、と誓っているのだ。
 芳川も説得したが無駄だったため、今では協力することにしている。


 これは非常に危険なことだと両者ともに理解してはいるが、
 打ち止めの笑顔のためなら―――――

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:22:19.34 ID:fZa1VsMo<>
「んん〜……ふぁぁ……ん、……ぁれ、これは……? ってヨシカワにヨミカワ!?」

「ただいま、打ち止め」

「ただいまじゃん、打ち止め」

「うん、おかえり!! ってミサカはミサカは起きたばかりなのにハイテンション!」


 笑顔だった。
 笑顔だったが、ちょっとばかりテンションがおかしい。


「ははは、元気が良くてよろしいじゃん。
それじゃ起きたばかりだけど、食事でもしに行くか? 今日は外食にするじゃん!」

「外食? それはいいわね」

「やったぁ! ってミサカはミサカは大歓喜!」

「じゃあ、出かける準備してきなさい。……顔に跡が付いているわよ?」

「えぇーっ!? ってミサカはミサカは乙女の大ピンチ!」


 そういうと打ち止めは洗面所に駆け込む。
 残された二人は、自然と笑顔になっていた。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:25:14.05 ID:fZa1VsMo<>


「……まるで嵐のようじゃん。それにしても、元気そうで良かった。」

「そうね。あんなに元気なのも久しぶりかしら? きっと愛穂の報告のおかげよ」

「そうか? 過度な期待は禁物じゃん。悪いことしたかな」

「いいんじゃない? 指名手配が解除されたってことは、何らかの決着があったって
ことでしょう。もしかしたら帰ってくる可能性だって否定できないわ」

「……甘いじゃん。指名手配が唐突に取り消しだなんて、何らかの取引の可能性も――――」

「もし取引でそれが極秘のものだったとしても、何らかの償いを行ったと考えるべきよ。
祝ってあげるべきだわ」

「つくづく、甘い」

「かもね。それでも、私たちだけでも信じて待ってあげなきゃ。
ここは彼の帰るべき場所で、光のあたる場所なんだから、ね」

「……わかってるじゃん」


 芳川も、甘いことはわかっていた。
 それでも、期待せずにはいられない。
 彼は自由を得て、ここに戻ってきてくれるのではないか、と。


「準備完了ぅっ!! ってミサカはミサカは報告してみる!」


「さて行きますか。何はともあれ腹ごしらえじゃん!」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:28:38.83 ID:fZa1VsMo<>




 三人がマンションから出ると、すでにすっかり日は落ちていた。
 吐き出された息は白く、足早な人々、雑踏に紛れて消える。


「わーけっこうさむいねー、ってミサカはミサカは真冬を感じてみたり」

「昼はそんなに寒くなかったじゃん」

「そうね、この時期になると夜は冷えるわぁ」


 そんな益体の無い会話を交わしながらも、足を動かす。
 打ち止めはしきりに周りを見回し、はしゃぎ回っていて。
 黄泉川と芳川の顔にも、笑顔が張り付く。




「――――そういえば、もうクリスマスだね、
ってミサカはミサカはちらほら見える電球の明かりで思い出してみる」


 しばらく歩いて、そこは人通りの少なくなった坂道。
 クリスマスイルミネーションだけが煌々と道を照らすその場所で、
 打ち止めは振り向かず唐突に切り出した。


「……そうね、ツリーはうちにも飾ったわね」

「クリスマスは何か食べに行くのもいいじゃん?
そうなれば予約しないと、ってもう遅いか」


「……色々食べたいものはあるんだけど、どれも美味しそうに考えられないの、
ってミサカはミサカは自分の精神状態を話してみたり」


「…………そっか」

「…………うん、ってミサカはミサカは肯定しちゃう」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:31:50.55 ID:fZa1VsMo<>

 俯く打ち止めは、顔が見えない。
 考えてみれば、今年のクリスマスは彼女にとって初めてのクリスマス。
 それどころか、初めての大きなイベントで。


「下位個体たちはみんな楽しみにしていて、道行く人皆楽しそうなのにミサカは
全然楽しみになれないよ、ってミサカはミサカはどうしようもない想いを打ち明けてみる」

「そう……」

「…………」


 先ほどのテンションも、無理をしていたのか。
 街のクリスマスムードにあてられて、沈んでしまっている。
 彼女はクリスマスをすごく楽しみにしていたのだろう。
 そう―――――彼と一緒のクリスマスを。


「どうしようもない事なのに、もっと明るくするべきなのに
こんなことを言い出すなんて、ミサカ悪い子だね、ごめんなさい、
ってミサカはミサカは謝るしかないよ……」

「別に大丈夫じゃん、無理してテンション上げても、痛いだけじゃん」

「――――そう、ね。あなたは無理なんかしなくていいの。
痛い時は痛いって、苦しい時は苦しいって言うべきなのよ」


 楽しみにしていたのは、なにも打ち止めだけではなかったのだ。
 彼女たちも、新しい家族での団欒なんてものを少しだけ夢想していたのだろう。
 打ち止めの気持ちは痛いほどに伝わっていて……悲痛な笑顔。



「ありがとう、ってミサカはミサカは――――っ!」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:36:49.41 ID:fZa1VsMo<>




 打ち止めは彼女たちに礼を言おうと顔を上げ――――絶句。
 驚愕に目を見開き、遠く道の向こうに釘づけになっていた。


「……ッ!!」

「んっ?」

「打ち止め!?」


 そして、彼女は走り出す。
 保護者達も、咄嗟に追いかけて。
 角の向こうには、信じられないものを見たような表情で立ち尽くす打ち止め。


「……いきなり走り出してどうしたの? ――――っ!」

「本当じゃん、転ぶじゃ―――――」


 皆、そのあとの言葉を継ぐことができなかった。
 打ち止めの視線の先を辿るとそこには






―――――ばつが悪そうに立ち尽くす、白い少年がいたのだ。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 13:39:22.49 ID:fZa1VsMo<>




少しの静寂の後、口を開いたのは彼だった。




「――――久しぶり、だな」


「うん」


「元気してたか……?」


「……うんっ、うんっ…… ヒクッ」


「まァとにかくだ、――――――ただいま」


「おがえりぃいい!」




 もう、限界だったのだ。
 少女を先頭に、彼女たちは、一方通行の胸に飛び込む。
 華奢だった彼は、少しだけ逞しくなっていて。
 杖をつきながらも、彼女たちを受け止める。
 そうして四つの影は、一つに重なったのだった――――






<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 17:13:09.86 ID:JcUjBr60<>ちょ、続き、続きを!!!
ここで止めるとか
死んじゃうよ?俺が<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 18:48:44.00 ID:4WvvAIAO<>続きが気になるぅぅぅぅ!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 21:43:58.49 ID:SG0LFR.o<>何というお預け!!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:05:45.05 ID:kA6GsASO<>さて黄泉川を受け止めきれるのか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:06:16.33 ID:SG0LFR.o<>折れそうだなもやし。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 22:55:11.71 ID:lhTQU7Io<>カチッ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 23:11:19.65 ID:y7H1lT.o<>>>120
カチッ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/18(土) 23:15:18.66 ID:mynjOFco<>>>120
すいません、もやしじゃなくてシラタキでしたねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/18(土) 23:36:07.93 ID:ygYFXf6o<>
唐突に投げ出してすみません。
すぐに再開するつもりでしたが、パソコンの所有権が剥奪されまして……

まぁ、先ほどヨドバシで買いましたので、もうそのようなことも無いでしょう。

このような文章の続きを期待していただいている方が
いらっしゃるなんて感謝感激です!

皆様のためにももう少し面白い文が書ければ……
頑張って書いて練習していきたいと思います。 

それでは、続きを投下します。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 23:44:50.08 ID:ygYFXf6o<>
再会から、帰宅後。
一方通行他三名は、マンションのリビングで、向かい合って座っていた。

一方通行が腕を組み、他三人が俯いているので、
ちょっとした反省会、に見えなくも無い。


「確かに、何の連絡もせず仕事に逃げていた俺は本当に悪かったと思うンだが、
少しは手加減してくれよォ……オマエ体育教師だよな? そンなのに思いっきり
締められたら、いくらこの一方通行様でも落ちンぞ??」

「…………まぁ、やり過ぎたことは謝るじゃん」

「あと、電撃だってやばいからな? 失神するとこだったンだからな??」

「…………ははは、ってミサカはミサカは笑ってごまかしてみる」

「ンで、あンなに思いっきり踏んだら足折れるぜ?
オマエハイヒールだよな? ソレ単なる凶器だろォッ!?」

「――――私も甘いわね、折るまでには至らなかったわ」

「…………聞こえなかったふりしとくわ」


 再会を果たした面々は、一方通行を抱き締める形で縋りついたものの、
 少し気恥ずかしくなり、また安心し腹が立ってきたようで、
 それぞれ一方通行に思いのたけを暴力という形でぶつけたのだった。





「ハァ……そォだな。でも、悪ィのは全部俺だ。――――本当に、すまなかった」





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 23:49:44.32 ID:ygYFXf6o<>


 ――――そう言って、彼は深々と頭を下げた。



「言い訳なンていらねェだろォからしねェし、正直何をやっていたのかは
クライアントの都合上言えないンだが、色々と心配かけてすまなかった」


 あの、プライドの高い彼が、頭を下げたのだ。


 昔の彼だったなら絶対出来ないであろう、堂々とした謝罪。
 これには、三人とも目の前の光景が信じられず、言葉を失くさざるを得なかった。


「頭を上げるじゃん――――別に、そこまで怒っているわけじゃない。
お前が無事だったならそれでいい。でも、ちゃんと連絡は欲しかったじゃん」

「あァ、そうだな……」

「…………それにしても驚いたわ。どんな心境の変化?
キミがそんなに素直に謝罪するなんて。私としては、すごく興味深いのだけれど」


 一科学者として、また長く彼を見てきた者として、純粋に芳川は興味を抱く。
 それは、短い期間ではありながらも一緒に過ごしてきた打ち止めと黄泉川も
 同様だったようで、興味しんしんのようだ。
 彼は一度目を伏せると、覚悟を感じさせる眼差しを三人に向け、口を開いた。



「大した変化があったわけじゃねェ。ただ――――――ただ、
迷惑掛けたンなら素直に謝る、筋を通す、それが『最強』ってやつの
責任じゃねェか、って理解しただけだ。お前らは、俺の家族で、何よりも大切なモンだ。
……いつ、俺のせいで事件に巻き込まれるかなンてわからねェ。
『最強』としてオマエら守り通すのも、筋に決まってらァな……・
腹ァ括ってもらうぜェ――――黙って腕の中で守られていろよ、
いつだって駆けつけてやる。それが俺の義務で、もォ逃げねェって決めたンだよ。
――――そンだけだ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/18(土) 23:52:01.60 ID:ygYFXf6o<>


 それは、彼の決意表明だった。
 彼が絶対に覆してはならないもの――――




 ではあったが、やはり恥ずかしかったようでもうそっぽを向いてしまった。
 それでも、彼の白い肌が紅潮していることが良くわかる。


「うっ……えっと……」

「……そう、ね、こういう時はなんて言えばいいのかしら……?」

「うわっうわっ、ってミサカはミサカは嬉し恥ずかしの大混乱!」


 一方通行の真剣な眼差しと真摯な答えに、彼女たちも恥ずかしそうだ。
 彼をおちょくろうと思うものの、赤くなるのを止められない。


「…………まァそォいうわけで、飯でも食いにいくぞコラァ!」

「……逃げたわね」

「……逃げたじゃん」

「うっせェよ!」

「うーん、食事に行くのは大賛成なんだけど、ってミサカはミサカは彼女を気にしてみたり……」

「――――あ」

「…………」



 改めて出かけようとする彼ら。
 玄関の方を見ると、そこには、不貞腐れる番外個体の姿があった。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:03:24.48 ID:1SFGj3oo<>

「それで、彼女はどういった方じゃん? なにやら打ち止めにそっくりみたいだけど……」


 居間ではまたもや話し合いが持たれている。
 先ほど作られた暖かい空気は、張り詰めたものに変化していたが。

 打ち止め、芳川、黄泉川はあからさまに不審がっているし、一方通行も
 説明が面倒くさいようで、口は重い。
 そしてその場への乱入者は、先ほどのやり取りが気に食わなかったのか、
 不貞腐れていて見るからに機嫌が悪い。

 一方通行のツレらしき人に「アンタ誰?」と聞くのもためらわれたので、
 彼女たちは彼に視線で説明を促す。
 彼も自分が話さないと事が進まないと判断したのか、億劫そうに口を開いた。


「……こいつは、簡単に言えば打ち止めの姉妹だ」

「えーっ!! ってミサカはミサカは生き別れの家族との再会にびっくりしてみる!」

「! ふーん……」

「っていやいや、打ち止めが驚いてるじゃん! 本当に姉妹なのかよっ!?」


 打ち止めは早々に一方通行の設定に合わせることにしたようだ。
 ミサカネットワークにつながっていない個体なので彼女が知るはずはないが、
 御坂美琴の量産個体であることは一目瞭然である。
 ……まぁ、天然の可能性も否定できないが。


「まァある種間違っちゃいねェだろォよ、っつーかいい加減オマエも説明しやがれ!」


「つーん……って、まぁ困っているようだし、許してあげるか。
うん、ミサカは打ち止めの姉妹だよ。彼女はミサカのことを知っているかどうかは
わからないけど、――――第三次製造計画(サードシーズン)って言葉、聞き覚えはない?」


「っ!」

「うーん……聞いたことないかも、ってミサカはミサカは正直に答えるよ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:05:57.66 ID:1SFGj3oo<>

 芳川は、瞬時にして顔色が変わる。


 彼女が一方通行について調べていた際、妹達を開発していた研究者たちの中の一人が
 話していたのだ。
 「計画は引き継がれた」と――――そして、目的も。

 それは本来なら絶対に漏らしてはならない機密だったが、
 彼らはあくまで妹達を開発する部隊であって、一方通行に関してはその後のことを
 把握しておらず、芳川が未だ計画に噛んでいると勘違いしたのだろう。

 そして、第三次製造計画は行われ、ここに量産個体が存在する。
 ――――一方通行の殺害という目的も存在する、個体が。

 これには芳川が危惧するのも当然であり、一方通行に目線で訴えかける。
 しかし彼は、問題なし、というリアクション。

 一つため息をつき、彼女も話を合わせることにしたのだった。

「さーどしーずん……? 芳川は知っているじゃん??」

「……ええ、第三次育成計画、これは優秀な人間を家族のもとから引き離し、
特別なカリキュラムで能力者を育てる計画だったはずよ。
きっと打ち止めの自我が確立されないうちに引き離されてしまったのね」


 裏の世界について詳しく知らない黄泉川には、このような筋書きが丁度いい。
 一方通行も彼女の意図を把握し、小さく頷く。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:07:47.86 ID:1SFGj3oo<>
「本当に本当なの……? ってミサカはミサカは恐る恐る聞いてみる」

「まァな。なかなか信じがたいかもしれねェが、間違いねェ……よな?」

「そ、そうだよ。ミサカは打ち止めの姉妹だよっ!」


 脅すように目を向ける一方通行に押される形で答える番外個体。
 打ち止めにとって絶対的に信頼する一方通行が言うのだから、
 彼女にとってそれは間違いのない真実となった。


「本当なんだね、やったやった! ってミサカはミサカは大きな胸にダイブ!」

「ふわっ!? ち、ちょっと、もう……」

「こらこら、はしゃぎすぎよ……――――愛穂、どうしたの?」

「…………」


 先ほどから俯いてしまった黄泉川に、芳川は訝しそうに声をかける。
 ……怪しまれたのか、警備員の情報で怪しく感じたのか――――それとも、勘か。
 芳川の中で思考が巡る。


「ヨミカワどうしたの? ってミサカはミサカはの胸の中でひいへみふ」

「ぁんっ……ちょっと、くすぐったい、よぉ、ん」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:09:44.14 ID:1SFGj3oo<>


 はしゃいで戯れる打ち止めと、言動とは裏腹に愛おしそうな番外個体は、
 傍目に見ても姉妹のように見えて。



 震えていた黄泉川が顔を上げる―――その顔は、涙で濡れていた。



「……どうしたもこうしたもないじゃん」

「――――あァ、そうだな。そンな軽い話じゃねェよな」

「そうじゃんっ!! 感動の再会じゃーーん!」

「うわっぷ!」

「な、なに? ふわ、ん」

「良かったじゃーーん! よがったなぁ、よがっだよぉ グスッ」

「――――ハァ、そういうことね」


 何の琴線に触れたのか。涙で濡れた黄泉川が、打ち止めと番外個体を抱き締める。
 ちょっと恥ずかしそうなものの、くすぐったそうで。
 それでいて嬉しそうな二人の姉妹が、そこには確かに存在したのだった。






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:18:18.20 ID:1SFGj3oo<>――――






 ――――聞こえる寝息は、耳に優しく。


 一方通行にとって、こんなにも心地よい夜は初めてだった。
 この家に住んでからバカ騒ぎした夜は、何も今日が初めてというわけではない。
 だが、彼もその輪に入っていたかといえば、答えはNOだ。
 今日は、自分でも考えられないほど彼は笑っていた。
 ――――もう、十分だろう。

 打ち止めの毛布をかけ直し、キッチンへと歩き出す。
 火照る体に、暖房のかかる部屋は少々熱い。
 冷蔵庫から適当にミネラルウォーターを二つほど取りだし、客間へと足を運ぶ。
 するとそこでは、番外個体が頬杖をついて外を眺めていた。


「……どうしたの? 眠れない?」

「それはこっちのセリフだ。ほらよ」

「ん、ありがとう」


 窓越しに入るのが見えたらしい。
 彼女はミネラルウォーターを受け取ると、
 何が嬉しいのかホクホク顔で自分の隣の席を叩いて着席を促す。

 取り敢えず、彼は近くにあった椅子にどっかりと気だるそうに座り、
 ペットボトルに口をつけた。

 そんな彼を少し恨みがましく横目で見て、
 彼女はすぐにまた溶けるような笑顔に変わった。


「面白い人たちだね」

「ちィと騒々しいのが玉に瑕だが、あいつらといると暇にはならねェな」

「――――そんな、騒々しい場所が大好きで、守りたい場所なんだよね?」

「……あァ、そォだ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:20:41.33 ID:1SFGj3oo<>
 結局あの後、感動の再会と家出人の帰宅を祝して飲み会をすることになり、
 晩飯はあり合わせと出前で済ますことになった。
 最初少しぎこちなかった番外個体も、打ち止めとなにやら二人で内緒話をした後、
 すっかり打ち解けてバカ騒ぎに加わっていた。

 いつもの彼だったなら、このバカ騒ぎに加わらず時折絡みに来る女性陣をあしらう形で
 眺めているぐらいのものだっただろう。
 しかし今夜の彼は、積極的に彼女達の輪に加わろうとした。
 バカ騒ぎまではいかないものの、絡む彼女達を邪険にせず、
 一緒にぎこちないながらも笑い、時に騒いだ。

 そんな彼の笑顔が彼女たちの心をくすぐり、バカ騒ぎは暴走してしまって、
 終いには野球拳まで始めてしまったのだが。

 彼もさすがにそれは止めようとしたものの、
 またその困ったような、恥ずかしそうな笑顔が女性陣の心も体も熱くしたらしく、
 戦いは熾烈を極め、黄泉川が素っ裸になるまで続けられた。

 番外個体はもはや勝負など関係なく脱ぎだし、
 黄泉川と乳比べを始め引き分けまで持ち込んだことを、ここに追記しておく。

 ちなみに一方通行は、
 彼女達が女を捨てているのか、はたまた自分は男扱いしてもらえていないのか、
 どちらにしろへこむ想像をして、実際少しへこんでいたとかいないとか……


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:23:44.93 ID:1SFGj3oo<>

「だけどよォ、お前はいくらなンでも暴れすぎだろォが……」

「ふふふ、イイ身体していたと思わなかったかな?
あ、でもダーリンに裸見られちゃったなぁ、もうダーリン以外お嫁にいけなーいっ!
……責任、とってね☆」

「だから理不尽だろォ……
そォ言えばオマエ、始まる前に打ち止めとなンの話をしてたンだ?」


 彼は気になっていた事を聞いてみる。

 打ち止めと話し合った後の番外個体は、全く違和感のない家族だった。
 飲み会の中でも打ち止めに対し、時に姉のように叱り、時に妹のように叱られ、
 時に母親のように撫で抱きしめていて。
 ――――その姿は、一方通行から見ても微笑ましく感じたのだ。


「ふふっ、乙女の秘密だよ♪……っていう必要もないことなんだけど、まぁ確認だね」

「確認……? 第三次製造計画のことか?」

「そんなとこかなぁ。あとダーリンのことだよ? ……随分寂しそうだった。
ミサカがダーリン奪っちゃうんじゃないかって心配してたよ」


 打ち止めとしては一方通行に自分を女性として見て欲しいようだが、
 なかなか見てもらえない。
 見た目の年齢を考えればそれも当然なのだが、恋する乙女には関係なかった。
 番外個体に、劣等感を持たざるを得なかったのだろう。

 初見こそ嫉妬したようだが、話し合ううちに、やはりそこは仮にも姉妹、
 好敵手としての絆が生まれるのもまた早かった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:26:13.01 ID:1SFGj3oo<>

「――――そォか。俺はそンな度量の小せェ男に見えるか?
オマエらは全員俺のもンなンだから、無意味な心配してンじゃねェよ」

「…………ミサカとしてはその発言にびっくりなんだけど、純粋に嬉しくもある、かな?
どんな意図でそんなこと言うのかはわからないけどね」

「………俺は恋愛なんぞしたことがねェからよくわからねェが、
別に一人しか愛しちゃいけないなンてルール存在しないンじゃねェのか?
選べって言われりゃ迷うけどよ、俺はオマエらの誰も選びたくなンかないンだよ。
俺と一緒にいたいヤツだけでいいぜェ、
そいつらだけは俺の意地にかけて愛し通してやるから、な」


 無茶苦茶だった。無茶苦茶だったが、どこまでも優しい彼らしい考えだった。


「……ある意味潔いね、でも優柔不断と罵られても仕方が無いかも」

「ンなこと百も承知だっつーの。
受け入れられねェってやつがいるなら考え直してやってもいい。
ま、オマエらと違って恋愛事にはあンま興味がないンでな――――これから、考えていくさ」

「……そっか、うん、これから、だね」




「……あァ、これからだ。これからここで考えていく。あいつらの傍で、な。
――――だから、こいつは用無しだ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:29:58.03 ID:1SFGj3oo<>

 そんな彼の手には、一枚のメモリが握られている。


 そこには、
 土御門からのメールに添付されていた親船最中の伝言の一部が入っている。
 ちなみにそれは複雑な暗号文でバラバラに送られてきた。
 ……完全に嫌がらせである。

 暗号解読自体、学園都市一の頭脳である一方通行には大した労ではなかったが、
 その後にまたリンクが張ってあり、お前はどこぞの動画サイトの管理人かと
 突っ込みたくなるような面倒臭い仕掛けがされていたのだ。
 ……土御門に入念なお礼をしてやることを決意する、一方通行であった。


「? ……それにはなにが入っているの?」

「俺たちが一週間逗留するために用意された家の住所だ」

「あぁ、そか、それはいらないね。
二人きりで暮らせないのはちょっと残念だけど、ダーリンの選んだ世界だもん」

「そォだ。逃避行は、もォ止めだからな」


 二人だけの世界よりも、皆と一緒に歩いていきたい。
 これは、今日番外個体も思ったことだった。
 彼女にとっても、この空間は優しく素晴らしい場所に見えて。
 ずっとこの場所で、皆と穏やかに暮らしていきたいと思えたのだ。


 彼女は、窓から見える月に、そんな幻想を映し出す。
 その横顔に、彼は終末の気配を感じて。
 きっと彼らを、学園都市は放置しないだろう。




 幸せは、かくも得難く、また儚く。
 一方通行は、月を仇でも見るように、睨み付けていた。








<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:34:33.93 ID:1SFGj3oo<>――――





 上条当麻は、今日も補習のために学校に来ていた。


 二学期の半ばにほとんど欠席していた彼には、
 冬休みなんていうものはほとんど存在しない。
 せいぜい教員が休まざるを得ない日ぐらいのものだろう。
 それでも、かなりの量の宿題によってその休日も無くなってしまう。

 そしてこの日、教員は休みなので課題を出されて昼で終わり、
 これから帰るだけの状況だが……彼は不幸なので、そううまくもいかないようだ。


「またビリビリか……」

「ビリビリ言うな!」


 いつも通り御坂美琴が絡んできて、コレまたいつも通り電撃を食らわせてくる。
 一時期これも途絶え、少しだけ寂しかったものの、復活してみれば面倒なだけだった。

(コイツ暇すぎるだろ……それともなんですか?
上条さんに不幸を与えるのが生きがいなんですか?
どんな悪いことを俺がしたって言うんだよ……)


「はぁ……不幸だ」

「私の電撃をいなしながら、んなこと言ってんじゃないわよっ!!
取り敢えず、話を聞けぇえ!」


 実際は構ってほしいだけなのだが、乙女心はかくも難解なものだ。
 彼は特に鈍感なため、全く理解できない。日常の挨拶と化してしまっていた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:37:41.51 ID:1SFGj3oo<> 
 そんなわけで決定的にずれている二人だが、
 彼らも話を聞けと言われれば聞くぐらいには仲良くなっているわけで。
 いい加減上条も御坂の相手をするために立ち止まり、
 まだ漏電しているようすの彼女の方を振り返った。


「それで、話っていうのは何なんだよ? 上条さんも結構忙しい身なんですが……」

「何が忙しいってのよ……ってそうか、あんた補習続きだっけ? 宿題でも出たの?」

「今日の宿題ももちろん出ましたし、もともとの課題に冬休みの宿題、
その他家事もこなさなきゃならないんだよ……はぁ」


 特に家事には特売に特攻も含まれるため一番苦労するところだが、
 彼の家には暴食シスターがいるので奨学金の少ない上条家としては
 節約しなければ野垂れ死ぬしかない。
 肉体的にも精神的にもおサイフ的にも厳しい現状だった。


「溜息ついてたら幸せが逃げるわよ……ってそうか、いやでも……」

「上条さんに逃げるような幸せはありません」


 そんな悲しくなるようなことを言う彼だが、
 その言葉を聞くことなく彼女は考え込んでしまった。
 寛容な彼でも、呼び止められた身としては面白くない。


「何か用があるのかよ? ……ないならもういくぞ。昼飯の準備もあるしな」

「……あ、いやちょっと待って! 私も課題手伝うわよっ!」

「はぁ?
意味がわからないし、さすがに中学生に手伝わせるほど切羽詰まってはいないぜ?」

「………アンタがなんで休んでたのか、少しは知っているつもりよ。
学校よりずっと大切なことだったんでしょう? その時手伝えなかったから、
―――肩代わりは出来ないけど、私にだって課題を手伝うことぐらいは出来るんじゃない?」

「…………」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:41:12.12 ID:1SFGj3oo<>



 そう、上条当麻は一カ月以上学園を欠席した時期があった。
 別にひきこもったわけでもないが、学校側への説明としてはいわゆる『自分探しの旅』
 程度にしか話せないため、結局サボりみたいな扱いだ。


 『自分探しの旅』――――それにしては、彼が自分のことを振り返ることは少なかった。
 ただがむしゃらに助けを求める人々を助け続け、イギリスから始まり、
 フランスからロシアまで、気づいてみれば大陸を横断。

 彼の動きは世界に大きな影響を与え、一つの世界戦争を食い止めるまでに至った。
 それは彼の人望もさることながら、彼の『覚醒』をアレイスターも、
 またローマ正教も、神の右席ですらも甘く見たということだろう。

 神の右席である後方のアックア、右方のフィアンマを『覚醒』することによって退けた彼。
 その後上条は、持ちうる人脈の全てを使い戦争阻止へ動く。

 彼としては皆に協力を仰ぐのは心苦しかったものの、
 無数の悲劇を生みだす戦争だけは避けたかった。
 そのためには、彼は自分の命を投げ出すことすらも辞さなかったのだ。
 その想いに皆応え、世界規模の反戦運動が巻き起こる。

 そして彼が帰ってくるまでも学園都市内において戦争回避運動は行われ、
 生徒たちによる反戦デモは日に日に大きくなり、一部統括理事による協力も相まって、
 アレイスターの計画変更を促し戦争を回避することに成功したのだった。

 その時学園都市内で生徒たちの動きを先導したのが、
 学園都市超能力者第三位の御坂美琴である。

 それによって彼女は生徒たちの中で英雄となり、
 学園都市では知らぬ人のいない存在となった。

 だが彼女としては、彼の尽力に応じただけだと思っており、
 受ける賛辞に素直に応えられないでいる。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:43:37.29 ID:1SFGj3oo<>


「……お前は十分応えてくれたじゃねぇか。別に気にしなくても」

「それでもっ! ……それでもやっぱりアンタのそばで戦いたかった、助けたかったの。
だからせめて、尻拭いぐらいは手伝うわ―――いいわよね?」

「別にいいけどその砂鉄の剣はなにマジやめて悪かったからどうしてこうなるの」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさーーーいっっ!!!!
脅さなきゃやらせてくれないでしょぉおおお!!」

「わかったわかったわかったわかったからストーーーーップっっ!!」





 恥ずかし紛れにどうしても攻撃してしまうのが御坂美琴の彼女たるゆえんなのだが……
 つくづく難しい二人で、進歩の無い二人だった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 00:46:18.81 ID:1SFGj3oo<>…………




 そんなこんなで、結局上条宅に向かうことになった二人。


「それで、昼食はどうするワケ?」

「家にもやしが残っているはずだけど……」

「……ハァ、それじゃま、買い物して行きましょ!
私が料理するからもやしなんて食べる必要ないわ」

「いやいやいや、そこまでしてもらうわけには――――」

「い・い・か・ら! 私が調理実習の確認をしたいだけよ。
……それとも、そんなものは食べられない、って?」

「わかったよ……強引だな」

「……アンタは強引じゃないと、話聞かないでしょ」

「へいへい、アリガトウゴザイマス」

「何よその棒よ――――っ!」

「……ん? ――――どうした?」



 唐突に立ち止まる御坂、つられて怪訝そうに立ち止まる上条。
 どうやら彼女は何かを見つけたらしく、
 視線の先を辿るとそこには一軒のファミリーレストラン。
 そのそばにある三つの人影の中には―――――


「ここで昼ごはん食べよう! ってミサカはミサカはあなたの左手を引っ張ってみたり」

「ったく落ちつけ。別にレストランは逃げたりしねェよ」

「ふふ、いいんじゃないかな。そろそろ昼食の時間だしここでも――――あれ?」



 不器用な笑顔を浮かべた、一方通行が、いた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/19(日) 00:53:14.39 ID:1SFGj3oo<>


と、いうわけで、一旦ここまでにしておきます。

ここいらで少しだけ、時間が空くかもしれません。
ご了承ください。

……どのぐらいのペースで投稿すれば良いのか、
いまいち解りませんね。
レス数も、一回一回が少ないと小休止レスもし辛いので、
今日みたいに唐突な終わりがありうるかもしれません。
そちらも、ご了承ください。

それではまた……今日、来れればいいなぁ。



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/19(日) 01:00:11.26 ID:PSZS5Qk0<>反転個体と一方通行の話かと思っていたらいつの間にか黄泉川家ハーレムになっていたでござるの巻<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 01:23:26.96 ID:C5ZMT5Q0<>一方さんがハーレム宣言した……だ…と…?
まあ一方さんはそれだけの力量があるから全然かまわないぜ

ただし上条、てめぇは駄目だ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage saga<>2010/12/19(日) 01:44:42.83 ID:.D.pS.Eo<>ちちくらべ
kwsk
な?
頼むよ
な?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 03:46:56.38 ID:DD.H.DQo<>全部愛してやるとか言うなら潔いからいいんだが

駄目だよ・・・・一番なんて選べない・・・・・←てめぇは駄目だ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 10:33:12.79 ID:WHLNgIAO<>期待<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/19(日) 19:23:22.59 ID:1SFGj3oo<>こんばんわ。
一日でも休むとアレなので、もう訂正するのはやめにしました。
正直、盛り上がりには欠けるかもしれませんが、ご勘弁を。

>>142>>143>>145
実は私、黄泉川家スレの住人なんだ……
と、冗談はなしにして、私にはハーレムルートしか書けませんでした。
説明不足だったことを、ここに謝罪します。
やはり、ハーレムを受け付けない方もいらっしゃるんだろうなぁ……

>>144
ちょっとまだわかりませんが、番外篇をいつか書こうと思います。
その時じゃ、ちょっと遅いかも知れませんが、皆様方が望む場合、
考えたいと思います。
ご提案宜しくお願い致します。


では、本日も投下します。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:26:45.46 ID:1SFGj3oo<>

 三人の中で御坂美琴に気づいたのは、番外個体(ミサカベスト)が最初だった。


「ん? ―――あれ、お姉様?」

「え? え? ってミサカはミサカはお姉様を探して……いたーーーーっ!
あの人も一緒っ! ってミサカはミサカは目を輝かせてみる!!」

「っ! …………」


 彼ら三人、一方通行と打ち止めと番外個体は一緒にショッピングをしていた。
 朝早く起こされた一方通行は、あれよあれよと言う間に連れ出され、
 二人に引っ張られる形でショッピングをし、お腹が減ったとごねる打ち止めに
 振り回されてここまで来ていたのだ。

 一方通行が御坂美琴に会うのはあまりにも久しく、あの実験凍結が決まった夜以来である。
 番外個体は、当然会うのが初めてだった。






「なんでよ………」





 そう、彼女とは初対面だったのだ。
 御坂美琴にとって、それは衝撃的な光景。
 彼女はあの時実験が終わり、妹達は皆助かったとばかり考えていた。


 しかし、これは何だ? なぜ一方通行はクローンを侍らせている?
 おかしい、アリエナイ……御坂美琴の中で、色々な思考が渦巻く。
 そしてそのアリエナイ光景の中で、一つだけ見えたものは




 ―――先ほどの幸せそうに話す、一方通行だった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:28:25.51 ID:1SFGj3oo<>


「なんで、何でなのよぉぉぉぉおおおお!!!」



 バチィィィイイイッッと、
 彼女の体より漏れ出る電流が、鞭のように暴れ狂う。
 近くにある街灯が砕け散り、ガラスの破片が砂塵に消えた。


「……あちゃー、キレてるねー」

「これはまずいよ、私たちで止めなきゃってミサカはミサカはのんびりしている
番外個体を促してみる!」

「そうだね、まずいねこれは……」

「アンタたちはどきなさいっ! 私はそいつに用があるの!!」

「…………」


 彼女の視線の先には、一方通行が微動だにせず立っている。
 前髪に隠れて表情は見えないが、その落ち着きがまた彼女にとっては腹立たしい。


「これは何? なんなわけ?? まだ懲りてないっての!?
何とか言いなさいよこの殺人鬼っ!! ……だからアンタたちはどきなさいって
言っているのよッ!!! 巻き込まれたいのッッ!!?」

「……ミサカたちはどかないよ、ってミサカはミサカはいくらお姉様でもこの人を
傷つけることは許さないって宣言してみる!」

「そう、だね。やるならミサカたちから―――」





「……オマエらはどいてろォ」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:30:14.84 ID:1SFGj3oo<>
 そこでようやく動いた一方通行が、杖をついている事に上条は気づくものの、
 御坂美琴は気づかない。

 もう目の前の怨敵しか見えていないのだ。
 彼女は思いこむと周りが見えなくなる癖があるが、
 このように混乱した状況では、それが顕著だった。

 そんな、今にも超電磁砲(レールガン)を放ちそうな彼女の前に、
 彼は首元のチョーカーに手を伸ばすことなく歩み出る。

 制止しようとする打ち止めと番外個体と上条を目で制し、
 その身を彼女の前に曝け出した。


「それで、何の用だ?」

「何の用だ、ですって……? アンタこそ何のつもり?
どうして私のクローンをまるで自分の物みたいに連れているわけ!?
どの面下げてまた体細胞クローンを作って、どの面下げて笑ってるわけ!?!?」

「…………」

「私の体細胞は、アンタの玩具にするために提供したんじゃないわよっ!!」

「止めろ御坂!」


 見ている方も痛くなるような、そんな言葉の刃。
 それに耐えかねた上条は割って入ろうとするものの、
 御坂の目はもはや狂気に彩られていた。

 そこにあるのは本能的な恐怖と、相手と自分への怒り。
 彼女の中で忘れそうだった、忘れてしまいそうだった現実を、
 一方通行を見て思い出してしまった。
 そして、忘れようとしていた自分に対する怒りや失望すら渦巻いて、
 完全に我を忘れているようだ。



 上条も息を呑み、後ずさる。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:32:07.37 ID:1SFGj3oo<>



「どけよ、三下ァ」




 そこに聞こえた声は、この中であって、異常なほど落ちついていて静かだった。
 この狂気を直接当てられている本人とは思えないほど、その顔は、その目は、力強く。

 上条も、沢山の人間と対峙し死闘を繰り広げてきたからわかる。
 これは『強者』の目だ。こういう目をした相手には、必ず苦戦させられる。
 彼の優れた危機察知能力が、戦わない方がいいと教えるのだ。
 実は彼自身戦う時このような目をしている事が多いのだが、それは自分ではわからない。


「アンタはどいて!! ……ねぇ、一方通行。まさか忘れたわけじゃあないわよね?」


 彼女はまた一歩、一方通行に近づく。
 ―――右手はポケットを探り、冷たいコインを握りしめる。


「――――あァ、俺はオマエの量産個体を一万人以上殺した。よォく覚えてるぜ」

「あ、そう。……だったら、ここで何してるワケ? なんで普通に生きていられるわけ??」


 これは、少し理不尽な問いかけかもしれない。
 彼女としても、それはわかっていたのだ。
 しかし自分に問いかけたかった問いを、目の前の男にも問いたかった。
 この男の答えが、知りたかった。





「そんなの決まってンじゃねェか――――俺が俺であるため、だ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:34:24.58 ID:1SFGj3oo<>




「……は?」

「アイツらは俺が‘最強’から‘無敵’になるために生み出され、
そうして、俺に殺されたンだ。
だったら俺はアイツらを血肉にして絶対能力者にならなけりゃ、
アイツらは何で生まれたのか、何で殺されたのかわっかンねェだろォが」




 これが彼の今の‘無敵’に対するこだわりの理由。
 ―――彼は今まで殺した妹達のためにも、絶対能力者にならなければならないのだ。

 予想外に正々堂々と応える彼、その様に御坂は気圧されその目の熱が冷めていく。


「どこの最強がビクビク怯えて引き籠ってンだよォ。
どこの最強が過去のことあーだこーだ引きづってンだァ?
アイツらのために俺に出来ることは、例の実験を『成功』させることだけなンだぜ?
いつか必ず絶対能力者になるためにも、絶対に最強を譲るわけにはいかねェンだよ」

「じゃ、じゃあその子たちは……」

「――――俺に出来ることはまだある。アイツらの残された同胞たちを、
都合のままに生み出されたコイツらを、誰一人として傷つけねェ、殺さねェ。
全員俺が生きている限り守り通すってことだ」


 そう言って打ち止めと番外個体を見やる。
 その横顔は自分の想い人に良く似ていて、御坂は戸惑いを隠せない。



「まァ経緯に関しては俺の言葉じゃ納得できねェだろォから、オマエの妹に聞きゃァいい。 
―――出てこいよ、そこにいるンだろ?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:36:23.78 ID:1SFGj3oo<>
「………バレていましたか、とミサカはすごすごと草むらから出てきます」

「!? アンタ……っ!」


 そう言って草むらから出てきたのは、ミサカ一○○三二号、通称『御坂妹』である。
 一方通行に実際殺されかけて、上条当麻に救われた個体だった。
 どうやらミサカネットワークで招集されていたらしい。


「オィ三下ァ」

「あ、あぁ、なんだ?」

「飯ィ奢ってやるからついてこい」

「へ? ……いやでも俺はちょっと」

「たっぷりお土産も持たせてやるんだがなァ……?」

「はいっ! 行かせていただきます!!」


 見事にお土産で釣り上げられた上条当麻は、御坂美琴のことを気にしつつも
 一方通行に追従する。
 御坂は俯いていて表情は見えなかったが、先ほどよりかは落ち着いた様子だった。
 彼女を任せる旨目配せをすると、御坂妹は紅潮しつつも頷く。
 ……なぜ紅潮しているのか、彼は気にしないことにした。


「もし話が終わったら連絡しろ、迎えに来る」

「……わ、わかった! ってミサカはミサカはいい返事をしてみる!」

「あと、これだ」

「ん、ありがと」


 番外個体にキャッシュカードを渡すと、彼は繁華街の方へと歩いていった。
 上条は何度か御坂たちを振り返りながら、一方通行と共にその場を立ち去る。



 残ったのは、同じ顔をし、それぞれの表情を持つ、四人のミサカたちだけだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:39:49.07 ID:1SFGj3oo<>――――









 そこは繁華街の中でも少し離れた場所にある、高級そうな飲食店。
 上条当麻は制服である自分の場違い感を気にしつつも、高級そうな椅子に腰かける。
 ちなみに、インデックスには電話で帰れない旨を報告しておいた。
 ……これはお土産を持ち帰らないと、また噛みつかれるだろう。

 貧乏な上条は緊張しっぱなしだが、一方通行は堂々とした様子で目の前のソファに腰掛ける。
 改めて、彼が違う世界の住人であることを思い知ると同時に、
 上条は、なぜこんなところで一方通行と二人で食事をすることになったのか考えていた。


(こいつはきっと御坂のことを考えてあの場を一旦離れたんだろうな。
意外だ……俺がなんで連れ出されたのかはわからないけど)


 正直、一方通行と上条当麻は仲がいい関係とは言えない。
 当然あの夜の死闘が原因だが、てっきり上条としては次会った時は出会いがしらで
 喧嘩を売られるのではないかと考えていたのだ

 先の御坂美琴と一方通行の対峙から、もう決闘が始まることはないだろうとは
 想像していたが……
 まさか一方通行と二人で食事をとることになるとは、彼としてはあまりに予想外だった。


「……オィ」

「は、はひ!」

「変な声だしてンじゃねェよ。オマエ食えないモンとかあンのか?」

「い、いえ、上条さんはそんな贅沢は言いません! なんでもイケます!」

「そォか」


 そう言って彼は手を挙げて店員を呼び止めると、和牛ハンバーグ定食を二つ注文していた。
 どうやら高級な肉を使っているらしく、壁には牛の飼育者の名前と顔が飾ってある。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:41:57.76 ID:1SFGj3oo<>


「……ハンバーグは嫌いか? 出来うる限り無難な物にしたンだが」

「い、いえ、大好物です!」

「ならいいけどよ」


 上条はそんな咄嗟の呼びかけにビクつきながらも、一方通行がコーヒーについて
 あれやこれやと店員と話している姿を見ながら、少し考える。


――――コイツ、本当にあの一方通行か?


 最後に彼と会った時と比べると、あまりにも雰囲気が違いすぎる。
 最凶最悪残虐非道であると考えていた一方通行とは、姿が重ならない。

 あの夜上条と殴りあった時弱いと感じさせた線の細さや不安定さが消え、
 堂々とした振る舞いを見せる彼は、上条当麻が今まで戦ってきた中であっても
 強者の風格だった。

 一方通行に興味を抱き始めた上条は、
 店員の持ってきた水を吟味している様子の一方通行に、
 取り敢えず先の件を聞いてみることにした。


「それで、さっきのことなんだけど……」

「あァ、さっきはすまなかったな。またオマエを巻き込ンじまった」

「それはいいけどさ、お前と一緒にいたの確か打ち止めだろ?」

「……オマエアイツのこと知ってンのか?」

「偶然会ってさ、一緒に人探しをしたんだけど……
もしかして、お前が電話に出た『あの人』か?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:42:47.79 ID:1SFGj3oo<>
 そう、実は彼らは何度か電話で話をしている。
 その時はノイズでお互い良くわからなかったが、
 直接会ってみると声は合致するような気がしていた。


「打ち止めが探してたってンなら、それは俺だ。
オマエこそ、白いシスターが探していた『トウマ』だろ?」

「! ……インデックスのことを知っているのか?」

「あン時ソイツと一緒にいたのは俺だからな。……なンつゥか、ご愁傷サマ。
あンだけ食うやつと同居してンだろ? 心底同情するわ」

「あぁ、お前は理解してくれるのか……?」

「そォだな、年下のガキに振り回されンのは人間なら誰でも通る道だ」

「そう、そうなんだよな。わかってんだけど、本当にアイツは―――」





 彼の愚痴は止まることを知らず、ハンバーグが来るまで続いたのだった……。












<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:45:40.98 ID:1SFGj3oo<>――――







 ミサカ一行は、近くにあったレストランで食事をとることにした。

 今はドリンクバーの飲み物を各自取ってきて、お互い探りあっているような状況。
 レストランのその一角だけが、異様な緊張感に満たされている。

 と言っても、各自表情はバラバラでしている事も統一感が無かった。
 御坂美琴はドリンクを見つめるように俯いていて顔が見えないし、
 そんなオリジナルを影ではお姉様と慕う打ち止めは、彼女のほうをチラチラ見ながら
 そわそわしている。
 番外個体は、先ほどから一方通行に借りたキャッシュカードを見つめニマニマしている。
 ……探り合いに飽きたらしい。

 そんな彼女たちを見まわし、ミサカ一○○三二号はそっと溜息をつく。
 結局は彼女しか、この中で話を始められる人間はいなかったのだ。


「……お姉様、話を始めてもよろしいでしょうか? とミサカは切り出します」

「………そう、ね。うん、ちょっと熱くなってた。ごめんね、話してちょうだい」

「わかりました、とミサカは了解を得て早速話し始めます。」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:47:43.90 ID:1SFGj3oo<>…………



 一通り話し終わると、御坂妹は手元にある水を口に含んだ。
 喉が渇いたのは長く話をしすぎたせいでもあり、緊張しているせいでもあるのだろう。


「――――そう、だったの。あの男がアンタたちを、ね」

「一方通行はミサカたち妹達の暴走を防ぐために奔走し大けがを負い、
ミサカネットワークで演算補助を行われている状態です、とミサカは説明の概略を話します」

「そっか……それでアンタたちはあの男を許すことにしたってわけね」

「うん、ってミサカはミサカは頷いてみる。
……さっきは不快な思いをさせてごめんなさい。でもミサカは、
あの人とお姉様を比べたりなんて出来っこないんだよ、ってミサカはミサカは…… グスッ」

 彼女はミサカネットワークを通して、御坂美琴のことを良く知っている。
 たとえ会ったことがなかったとしても、本当に大好きで、本当の姉のように慕っているのだ。
 そんな彼女を、一方通行と比べられない、比べたくない。

 打ち止めの涙と、無表情ながら怯えた様子を見せる御坂妹を見て、
 御坂美琴はまたもや自己嫌悪に陥っていた。



(あの実験は一方通行だけが悪かったわけじゃないのに、
騙されたにしても安易に協力してしまった私も悪かったはずなのに、
それを八つ当たりのように暴れまわって、挙句この娘たちを悲しませている……
本当、オリジナル失格ね)


 御坂は心の中で自嘲するものの、これ以上彼女たちを不安にさせるわけにはいかない。
 一度ゆっくりと深呼吸し顔を上げた彼女は、


 ―――いつもの皆に慕われ尊敬される、御坂美琴だった。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:50:35.97 ID:1SFGj3oo<>
「謝るのは私の方よっ、ごめんなさい! 打ち止め、ほら、泣かないで……ね」

「グスッ ……うん! 大好き、お姉様!」

「へっ? ……ふふっ、ありがとう、打ち止め」

「えへへ………」


 御坂美琴は元来世話焼き子供好きなので、打ち止めに惹かれない理由が無く、
 自分に向けるその純粋でとろけるような笑顔に、ある意味一目惚れしたのは
 必然だったのかもしれない。
 ここにまた、義理の姉妹が誕生した。

 その二人は御坂妹から見ても微笑ましくお似合いな姉妹だったので、
 少し嫉妬したものの、彼女も頬が緩むのを抑えられなかったのだった。



 そんな三人をぼーっと眺めているのは、一人カヤの外だった番外個体である。
 正直な話彼女は、一方通行のほうに付いていけばよかったと後悔し始めていた。
 あの時付いていかなかったのは、一方通行に目で促されたということも勿論だが、
 少し負い目があったからである。

 一方通行が御坂美琴に敵意を向けられた時、真っ先に飛び出したのは自分ではなく、打ち止め。
 一方通行を誰よりも愛していると自負する彼女にとって、それは非常にショックな出来事で。

 飛び出せば、無能力者の自分は確実に死ぬ――――そんな生存本能に、どうしても抗えなかった。
 自分がよくわからない。そしてひたすら、無邪気で一途な打ち止めが羨ましかった。


「―――それで、アンタは?」

「……へっ?」

「だから、アンタよアンタ! アンタの自己紹介をまだ聞いてないんだけど?」


 そんなことを考えているうちに、どうやら番外個体の話題になっていたらしい。
 三対のそれぞれの瞳が、彼女を映す。
 自分のことについては自分でもよくわからない彼女は、考えることを止め――――


「ミサカは番外個体(ミサカベスト)。一方通行専用クローンで、彼の愛人だよっ!」


 そんな、突拍子もない自己紹介を、口にしていた。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:53:32.45 ID:1SFGj3oo<>――――






 男二人、喫茶店でハンバーグを食べ終わった一方通行と上条当麻は、
 いつの間にやらすっかり意気投合していた。


「―――ってことで、俺がちょっと女の子を連れて帰るだけですぐ噛みつくんだぜ?
勘弁してくれっつーの!」

「カカッ! しかしそりゃオマエが悪ィと思うぜ三下ァ。
自宅にメス連れ込ンでやるこたァ一つ、
そォ考えりゃ邪魔モノ扱いされるって考えても仕方がねェだろ?」

「いやいやいや! 俺はそんな下心で連れてきたわけじゃないぜ!?」

「ハッ! どォだか。三下だって一男子高校生だからな。それともナンですかァ、
その歳でもう枯れちゃってンですかァあ?」

「枯れてねえよ! ……それと、俺は上条当麻という名前があるのであって、
いい加減三下はやめてくれませんでせうか……?」

「あれれェー、先に三下扱いしたのはドコのダレでしたっけェ?
それともアレか、俺の方が三下はふさわしいってことかァ?
……もォイッペンやンのかコラ」

「イエ、謹んで遠慮させていただきマス」


 ンだよつまンねェなァ、なんて本気で残念そうに漏らす一方通行に苦笑しつつ、
 上条は先程から聞きたかったことを聞いてみた。


「そう言えば、さっきお前と一緒にいたのは打ち止めと……もう一人は誰なんだ?
御坂とそっくりの顔だったけど、やっぱり――――」

「……アイツか、まァ想像の通り量産個体の一人なンだが、妹達とは違う意図で作られた
個体っぽいな。実験はもォ中止を確認済みだ」

「違う意図?」

「あァ、だがソイツもすでにお釈迦になっちまったと本人は言ってンだが、
正直まだ本当の意図は掴めちゃいねェ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:55:31.37 ID:1SFGj3oo<>

 なんだかんだ傍に置いてはいるものの、一方通行は番外個体という存在には、
 何か大きな意味があるような気がしていたのだ。
 彼にはまだわからないが、それが顔を出すまでは様子見することにしていた。


「意図か……それにしては警戒している風でもなく、お前ら楽しそうだったけどな」

「あァーー……なァンか、アイツにはどォしても警戒する気になれねェ」

「ははっ、それでいいのかよ」

「イインじゃねェの? なるよォになれってンだ」

「ま、そうだな。あの娘悪い人には見えなかったもんな。――――それにしても」

「あァ?」


 唐突に声色の変わった上条をいぶかりつつ、一方通行は顔をあげると、
 ――――予想外に穏やかな顔があった。


「お前、さっき会った時も思ったけど、やっぱり変わったよな」

「……そォか?」

「ああ。雰囲気も変わったし、顔つきも変わっているし、そもそもこんなにまともに
会話が成立するような奴じゃなかっただろ?」

「……まァ、な」

「教えてくれないか? どうして変わったのか。お前に何があって、
何を思って変わったのか」

「……聞いてどォすンだよ」


「どうもしないけどさ、すげー興味がわくんだよ。―――その進化の原点が、さ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 19:58:07.68 ID:1SFGj3oo<>
 そう言う彼のまっすぐな瞳が、一方通行には眩しかった。
 それでも、目をそらすことはしない。


「進化の原点、ねェ……そンなものがあるとしたら、オマエだな」

「は?」

「ナニ驚いてンだよ、当り前だろうが。オマエに殴られてから、よくわからねェ想いに
とらわれ始めちまったンだ。……そこで、あのガキが現れやがった」

「打ち止め、か」

「そォだ。そン時はわかンなかったけどよ、俺はきっとオマエみたいに
誰かを助けたかったンだ。オマエみたいなヒーローに、俺はなりたかったンだよ」


 俺はそんな大層なものじゃない―――そう言いたかったが、上条には言えなかった。
 一方通行の顔は真剣そのもので、その瞳は光を湛えていたから。


「それで、このザマだ……脳に障害を負って、妹達がいなけりゃ、
マシに生きることすらままならねェ身体になっちまった。
今の俺は杖が無きゃ、まともに歩けないンだぜ?」

「それで杖を……」


「それでもなァ、それでも、俺は後悔する気は起きねェ。
アイツらが笑顔でいられるなら、全然かまわねェンだ。
それにこの怪我のおかげで、大きなもン知ったよォな気がすンだよ」


 そこまで言うと、彼は目をつむりこの四カ月のことを思い返す。
 この四カ月、いつ死んでもおかしくなかった。
 しかしそれでも、自分一人じゃなかった。
 仲間がいた、協力者がいた、守るべき者も、いた。



「この世界には他人がいる。
自分の負債の重さに不貞腐れて、その事実から目をそらしていたンだ。
何も自分一人で返す必要はねェ。お人好しなアイツらと一緒に、
のンびりと返していきゃあイイ、そォ気づいたってワケだ。
……まァそォは言ったものの、まだ踏ン切りがつかなくて、
番外個体(ミサカベスト)のやつに覚悟を問われて、よォやく踏み出せたンだがよ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:00:46.17 ID:1SFGj3oo<>



 そう言う彼は、少し照れくさそうで。
 こちらも穏やかな気持ちになるような、澄んだ笑顔だった。


「そんなわけで、結局オマエのおかげで今の俺はいるってワケだな。
……一応、感謝はしてやる」

「素直じゃねえなあ」

「うるせェ」


 二人で少し笑う。
 それでも上条は、少しだけ言ってやりたいことがあった。
 そう、まだ自分を卑下する、この心優しい少年に。


「……俺は、大したことはしてねえよ」

「あァ? ンなわけあるかよ」


「確かに、俺がぶん殴ったおかげでお前のその幻想にヒビが入ったかもしれない。
でもさ、たとえ他人の力を借りたとしても、
お前は胸を張れるような選択を、お前自身で選びとってきたんだ。
この四カ月の間に、自分自身でぶっ壊したんだよ、その幻想!」


「……俺、が」




「お前はスゲー奴だぜ、俺が保証する! ―――お前は最強の男だよ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:01:53.67 ID:1SFGj3oo<>




「……っ! は、はは、なンだそりゃァ。意味がわかンねェ」

「あれ、そうか?」

「クククッ、そォだよ」

「そう、かな、はは」


 気づけば二人は、人目をはばからず大笑いをしていた。
 一方通行にとって、こんなに笑うのは、生まれて初めてで。
 彼に認められることが、こんなに嬉しいことだとは、思わなかったのだろう。

 彼の目から、自然と涙がこぼれ落ちる。
 それは、壊れた幻想のカケラ、そんな、美しいものだった。







<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:05:03.52 ID:1SFGj3oo<>――――






 突拍子もない番外個体による一方通行愛人宣言により、その一角は静寂に包まれている。
 しかし、それは嵐の前の静けさでしかなく、次の瞬間には皆それぞれ恐慌状態に陥っていた。



「あ、ああああ愛人ってぇ、どう言うことよおお!?」

「どひゃー、驚き桃の木びっくりドンキー、とミサカは驚愕します」

「あなたあの人の愛人だったの!?
ってミサカはミサカは正妻が私の可能性について考えて……きゃっ」


 一人は初心なのか顔を真っ赤にして叫び声をあげ、
 一人は無表情で本当に驚いているのか良くわからないことを言い、
 一人はなにやら的外れなことを言っていた。

 愛人発言を行った当の本人は、
 思いのほか愛人という言葉が自分にしっくりきてしまったがために少しヘコみ気味だが、
 その程度でくじけない、くじけてはならないのだ。
 そう、自分を奮い立たせる。


「落ちついて! 周りに迷惑だよ!!」

「ぁあ……コホン、そ、そうね。ちょっと取りみだしちゃったわ、ごめんなさい。
それで、あ、ああ愛人っていうのは、どどういうことなの??
どどどこまで進んでいるワケ??」

「お姉様落ちついて下さい、とミサカは平静を装って事態の鎮静化を図ります」

「はっ、愛人ってことはもうすでに……っ!
ってミサカはミサカはミサカの用済み説に戦慄してみたり!」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:07:03.50 ID:1SFGj3oo<>

 ……全然落ち着いてない様子だが、彼女は取り敢えず話を進めることにした。


「愛人って言っても、ミサカとしては殺したいほど愛してるってところなんだけど、
まぁミサカの本来の量産理由には合致していると言えば、そうなのかもね」

「殺したいほど愛してるって……それはまた大層なもんねぇ」


 そこまで一方通行を愛する理由が御坂には全然理解できなかったが、
 慣れ染めを聞くような雰囲気でもなかったため、質問を続ける。


「それであなたが生まれた理由って言うのは、なんなの?」

「『第三次製造計画』―――簡単に言えば、
一方通行が学園都市に反抗したときに排除するミサカを作る計画なんだけど、
その時に生み出されたのがミサカ。そして色々あって計画が頓挫しちゃってね。
ミサカは用無しになったワケ。それで彼の物としてそばにいることにしたんだよ」


 古いタイプのミサカと交換するため、という事は言わなかった。
 言えば余計な心配をかけることになる。
 だからこそ、この理由と言うのも簡単に、大したことでもないふうに説明したのだ。
 他の二人は知っていたのか、特に反応しなかった。




 だがそれは、御坂美琴にとって、流すことのできない事実だった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:09:05.40 ID:1SFGj3oo<>


「そう、
――まだ私のDNAマップを使って、そんなくだらないことしてるって言うの……?
学園都市は、どこまで私を侮辱すれば、気が済むって言うのよっ!!」



 御坂美琴は、怒りに震える。
 彼女はDNAマップを提供したことを、妹達のためにも、後悔したくないのだ。
 それでも、提供したせいで誰かを苦しめてしまうことになるならば、後悔せざるを得なくなる。
 握ったこぶしが悲鳴を上げた。まだ悲劇は終わってないというのか―――


「お姉様」

「―――え?」



 彼女が呼び声に顔を上げると、妹たちが穏やかな顔でこちらを見ていた。
 そう、彼女たちは、心優しい姉に伝えたい言葉があったのだ。



「ミサカは、あの人に出会えた。あの人のことを愛することができた。
そして心優しい姉妹たちにも、出会えた。
理由はどうあれミサカは生まれてきて幸せだよ。―――ありがとう、お姉様」

「そうですね、ありがとうございます、お姉様、とミサカは感謝をなんとか言葉にします」

「お姉様ありがとう!
ってミサカはミサカは大好きなお姉様へ伝えきれない愛を伝えてみる!」



「……っ! あん、たたち」


 様々な思惑によって、生み出された少女たち。
 彼女たちは玩具のように、軽く扱われる命だった。
 それでも、生まれてきて本当に良かったと、そう思ってくれている。
 それは罪悪感をぬぐい去れない御坂美琴にとって、何よりも救いだったのだ。
 

 ―――涙が、出そうになる。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:10:12.86 ID:1SFGj3oo<>



「でも、いくら同じDNAだからって、幸せは平等じゃないよね。
誰かさんたちと違って、この番外個体(ミサカベスト)の名に恥じない豊満な肉体を使って
アタックすれば、意中の人を落とすのはワケないはずだよん☆」



「―――へ?」

「……それはどういう意味でしょうか?
とミサカは空気の読めない彼女に青筋を立てながら問います」

「むむむ、ってミサカはミサカは強力なライバルの実質勝利宣言にカチーンときたり」


 そう呻く妹たちの視線の先には、魅力的な曲線美と破壊力抜群の胸、
 それらを強調しつつ誇らしげに笑う番外個体の姿があった。


「素直にアタックできないお姉様みたいに、
いつの間にか手遅れでしたーなんて結末は、ミサカは許容できないしね」

「なっ……あ・ん・た・ねぇぇええ」

「反論できるの?
あんなに毎度毎度電撃食らわせていたら、
相手は嫌われてるんじゃないかーって思っちゃうよ。
ミサカみたいに色々と食らわせてあげるならともかく、ね」

「アンタに言われる筋合いはないっての!! って何を食らわせてんのよっ!?」

「それはミサカも興味あるっ!」

「……はぁ、とミサカは不器用すぎる姉妹たちに呆れます」




 不器用な、姉妹たち。
 それでもそこは、日差しのように暖かく
 その騒がしさは、耳に心地よかったのだ。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:13:11.09 ID:1SFGj3oo<>――――




「いやあ、なかなか有意義な時間を過ごしたな!
ハンバーグもめちゃくちゃ美味しかったし、この土産もスゲー高級そうな肉だし……
マジでおごってくれてサンキューな!」

「俺が無理言って連れ込ンだンだから、別にかまわねェよ」


 御坂たちと別行動の二人は、すでに喫茶店から出てファミレスに向かう
 というのも、先ほど打ち止めから連絡があったからだ。
 声の調子からいって、無事和解できたのだろう。


「しっかしお前、さっき番外個体にキャッシュカード渡してなかったか?
なんでもう一枚持っているんだよ」

「ンなの、リスク分散のために必要に決まってンじゃねェか。一口とかあり得ねェよ」

「はいはい、ブルジョワブルジョワ、上条さんとは住んでる世界が違いますよっと」

「なンだそりゃ」


 そんな他愛ない話をしながらも、上条はさっきの会話を思い返す。


 この四カ月、奔走していたのは自分も同じだった。
 力が足りないと感じたことなんて、数え切れないほどある。
 それでもやはり、一方通行のように友がいた。
 最弱の自分を助けてくれた、仲間たちがいたのだ。
 その大事さを、また改めて知ることができたような気がする。
 そういう意味で、有意義な時間だったろう。


「で、まァさっきの愚痴でなンとなくわかるが、
あの暴食シスターは元気でやってるンだよな?」

「ああ、元気すぎるほどにな……良かったら家に会いに来ないか? 顔見知りなんだろ?」

「―――行ってもイイのか?」

「当り前だろ、俺たち友達なんだからさ」

「……そォか」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:15:10.76 ID:1SFGj3oo<>

「機会があったらお邪魔するとするぜ、そン時はまたおごってやるよ」

「いやいや、それは悪いっすよ! もてなさせてもらうさ……モヤシだけどいいか?」

「俺が肉山ほど買ってくから、腹いっぱいシスターの奴にも食わせてやれや……」

「……サーセン」




 と、そんな話をしているうちに、二人はファミレスが見えるところまで到着。


「さーて、御坂たちはもう出てきてるかなーっと」

「―――オィ」

「? なんだ?」



 上条が呼び止められ振り向くと、そこには一方通行が真剣な顔で立っていた。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:16:31.13 ID:1SFGj3oo<>


「……どうした?」

「一つ言い忘れたことがあったンだ、悪ィが聞いてくれ」

「いや別にいいけどよ」


「―――俺はもう二度と、ミサカたちを傷つける気はねェし、
傷つける奴は絶対に許さねェって決めてンだ」


「……あぁ当然だな。俺だって許さねえよ」



「だから―――たとえオマエであっても、許さねェってことだ。
量産個体についても、御坂美琴についても、な」



 改めて言う彼の目は、全く笑っていなかった。
 ―――まるで、すでに傷つけている相手に言うような、そんな責めている風ですらある。


「俺には全く傷つけるつもりねぇよ!?」

「どォだかな、案外お前が気づかないうちに傷つけてるかもしンねェぞ?
まァ、そォいう方面に関しては、俺が言えた口じゃねェがな」

「……? どういう意味だよ」


「言っちまえば、アイツらの事をちゃンと考えてやれってことだ。忘れンなよ?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:18:54.49 ID:1SFGj3oo<>


 そう言うと、彼は前を目で指し示す。
 上条もそちらの方を振り向くと、そこには御坂たちがいて。
 そのうち二人は思い切り駆け出す。


「久しぶりぃ、ダーリン! 愛してるお、ちゅっちゅしたいおっ、ん」

「あーーーっっ、ずるいずるいミサカもちゅっちゅしーたーいー、
ってミサカはミサカは胸に飛び込みながらふぁふぇんふぇみふ!」

「だーーっっ、コッチは杖ついてる人間なンですよォォ!? いたわれっつゥの!」



 そんな戯れる三人を横目に、近づいてくる二人のことを上条は思う。
 そう、一方通行に言われたように―――

(ちゃんと考えろ、か)

 なんとなくだが、言いたいことはわかる。
 確かに自分は忙しさにかまけて、
 彼女たちの言うことを真剣に聞こうとしていなかったかもしれない。
 そこにある気持ちも、流してきたかもしれない。


「どうかしたの? 珍しく考え事なんてしちゃって、雪でも降るのかしら」

「俺だってたまには悩みますよーっと。それで、あの娘たちと話は出来たのか?」

「はい、問題ありません、とミサカはお姉様に呆れつつ答えます。それで、そちらは?」

「な―――」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:20:36.57 ID:1SFGj3oo<>

 何やら絶句している御坂を置いて、上条は御坂妹との会話を続ける。


「こっちも有意義な話ができてよかったよ。
アイツだいぶ変わったみたいだな、スゲーいいヤツじゃねえか」

「……そう、ですか。それは良かった、とミサカは後の言葉に驚愕しつつ、
それを隠しながらもなんとか返事します」

「隠せてないじゃない……」


 これまた、何やら脱力している御坂は、それでも律義に突っ込みを忘れない。


 そんな彼女も、一つ深呼吸をして、一方通行の元へ歩み寄る。
 鼻息荒く、ガニ股で鬼気迫る感じで近づいて行ったので、
 先ほどから戯れていた三人は若干引いていたが、それもお構いなし。


「ちょっとアンタ!」

「あ、あァ、なンだ?」

「………悪かったわね」

「……は?」



「突っかかって悪かったって言ってんの!! ―――完全に八つ当たりだったわ。
アンタのことは好きになれないけど、
私にはアンタに攻撃を仕掛けていい権利なんてないものね。
少し熱くなってたわ、――――ごめん」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:22:30.21 ID:1SFGj3oo<>


 素直に謝る御坂美琴は、まるで叱られた犬ようなそんな可愛らしさがあったが、
 一方通行としては、謝られても困るだけだ。
 一方通行も、御坂に歩み寄る。


「……別にかまわねェよ」

「―――え?」

「オマエが笑顔でいられるなら、それだけで俺は満足なンだ。
いつだって突っかかってこい。サンドバックぐらいにはなってやる」

「…………」

「らしくねェなァ、オマエはバカみたいに突っ走ってりゃイインだよ。
ま、素直になれや。そうじゃなきゃ、欲しいもンは手に入ンねェぞ?」

「……うるさい、余計なお世話よ」

「そォか、ならもォなンも言わねェ。じゃァな、せいぜい頑張れよ」

「……おう、アンタも頑張りなさいよ」




 それを聞くと、彼は背を向け歩き出す。
 この二人が仲良くなる日は、そう遠くないかもしれないと、上条は思った。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/19(日) 20:24:32.30 ID:1SFGj3oo<>




 そして、

 彼の元に、一方通行が近づく。
 あの夜から交わらなかった二人が、今ここで対峙する。


「さっき言ったこと忘れンじゃねェぞ。もし破ったら、俺がぶン殴ってやる」

「ああ、頼む」

「それと、俺の力が必要になったら遠慮なく呼べや。
オマエはそォいうの得意そォじゃねェけど、俺を頼ってみろ。
―――俺たちゃ、友達なンだからな」

「――――ああ、お前こそな」

「自覚しているさ。……頼ンだぜ、“ヒーロー”」


 すれ違いざま肩をたたき、彼は去る。
 それを追って、二人のミサカも去っていった。






 去りゆく男は笑っていて、残る男も笑っている。
 再び邂逅する日は、近い。
 そう感じさせるような、そんな別れだった。






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/19(日) 20:31:34.43 ID:1SFGj3oo<>


というわけで、小休止です。

結構、投稿したなぁ。
投稿しすぎたかなぁ……?
長すぎて、皆様読む気がなくなっちゃうかな?
短編って、書けない性質です。
総合で投稿する人は、素直に尊敬しています。

あまり、盛り上げませんでしたが、
正直、盛り上げるのは得意じゃないので、
そこのところ、承知しておいて欲しいです。
戦闘シーンも、得意じゃないですね……
そこらへん、あまり期待せんといて下さい。

それでは、またあとで……それか、また明日。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 20:34:22.77 ID:HICKLs20<>乙!
長いほうがいいですよ!wwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 20:43:38.44 ID:tiBA0Y.o<>おつです!
長いほうが夢中になって読めるので短いよりも全然いいですよー!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/19(日) 22:00:18.32 ID:TkPYj.A0<>おつ
あのスレは男が一人だからハーレム化になりやすいからな、その住人の俺が言うのもあれだけど

自分も長い方が良いです
次も期待して待ってるんだぜ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 03:50:18.30 ID:s40K3ywo<>乙乙
傷つけるなって多分無理だよね
上条さんの体質考えると<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/20(月) 08:34:17.47 ID:azQGkpco<>おつかれ!

ハーレムでもなんでもいい!俺が許す!
始めようぜ、ハーレム!

幻想通行が普通に仲いいとうれしくなるわ
イイネイイネー<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/20(月) 13:56:18.24 ID:zS.ax0Y0<>今まで見た一方通行で一番イケメンだった
すげえ<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/20(月) 23:50:07.56 ID:jpPIoGwo<> 
 こんばんわ。

 早速ですが、


>上条は自然と口にした言葉だったが、
>一方通行としては少々照れくさく―――だが悪くない響きだった。


 上記の二行が、>>170の始めに抜けていたので、ここで訂正します。
 まとめサイト様に載るのが夢なので、
 もし載せて下さる方がいらっしゃいましたら、フォローお願いします。 
 ……このスレ、知名度なさそうだし無理か(笑)

 >>177>>178>>179
 展開によってぶった切っているので、
 長さは自然とランダムになってしまうのですが……
 出来る限り、長くしたいと思います。
 まぁ、長く書きすぎるとすぐに終わってしまって、
 自分としては寂しい、というのもあるのですが。
 このままなら、今年中に終わりそうだなぁ……

 >>182
 それは……私にとっては最大級の賛辞ですね。
 有難うございます!
 これからも、格好良く書けるように精進しますっ!!

 一方通行の出ない回の、なんと筆の進まないことか……
 詰まるのは、大概ソコですからね。

 まぁそういうわけで、皆さんお待ちかね(?)の憎いあんちくしょう
 の登場です。

 では、投下します。
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/20(月) 23:57:12.80 ID:jpPIoGwo<>――――






 浜面仕上はスキルアウトの元リーダーであり、
 暗部組織であるアイテムの元パシリであったが、
 今現在は裏稼業から足を洗った、学園都市の一不良青年でしかない。

 フリーターとして細々と学園都市内で生計を立てているのだが、
 そのような境遇にあっても彼は幸せだった。


 というのも、彼には守るべき女性が存在するからだ。


 彼女はとある事情で検査入院を繰り返している。
 頻度は低くなっているものの、クリスマス前のこの時期まで入院しているのは、
 彼女と初めて過ごすクリスマスとして、少し残念だった。


「滝壺さんはクリスマスまで超入院ですか?」

「そうなるみたいだな……」


 浜面と一緒に歩いているのは、元アイテム構成員の絹旗最愛である。

 彼女は暗部から足を洗わずに未だに仕事を引き受けているようだが、
 学園都市内での『グループ』による暗部組織残党狩りには引っかかっていない。

 その網には引っかからないような簡単な仕事を引き受けているらしい。
 こういう人間は少なからずいるのだが、
 グループ側としては自分たちに敵対しなければ黙認しているのが現状だ。


「あーあ超残念です。
代わりに超下っ端な浜面が入院すればいいのにそうだ試しにやってみるか超有言実行ーっ!!」

「いやちょっと待て俺が入院しても滝壺は退院するわけでもいやマジでやるのおかしいだろ勘弁してーっ!!」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:01:17.61 ID:Pdlg7fko<>

 この二人の所属していた『アイテム』という組織は、
 事実上空中分解のような形で解散してしまった。

 構成員であるフレンダは、リーダーである麦野沈利に処理されてしまい、
 麦野沈利は、無能力者でしかないはずの浜面仕上に滝壺争奪戦で敗れ、
 組織から離脱してしまった。


 その件について、実は浜面は危うく学園都市全体を敵に回すところだった。
 それは統括理事長であるアレイスター=クロウリーの実行している『プラン』に
 ダメージを与える因子を、無能力者浜面仕上は持ちうるのではないかと考えられたからだ。


 浜面は『プラン』の上では、
 『グループ』『スクール』『アイテム』『メンバー』『ブロック』による
 二カ月以上前に起きた抗争で死んでいなければならない人間だった。

 にも拘らず、彼は学園都市超能力者第四位である麦野沈利を撃破し、
 長らく存命している。

 そこからアレイスターは、
 浜面がアレイスター自身も知らないような新しい真価を得ようとしていると考え、
 その真価の『プラン』へのダメージを考慮し、浜面仕上を排除すべきだと考えたのだ。


 しかし、排除することを検討に入れた時、さらなる大きなイレギュラーが起こった。
 それは幻想殺しの『覚醒』である。
 これはアレイスターの完全な計算違いであり、
 それによって戦争の勃発前に情報が漏れるという、あり得てはならないことが起ったのだ。

 これによって、第三次世界大戦の勃発は事実上不可能となり、
 エイワスの興味は一方通行からそがれ顕れることが無くなり、
 そして『プラン』は致命的な変更を余儀なくされたのだった。


 それからというもの、アレイスターは柔軟な対応を取るようになる。
 浜面に関しては、一科学者でしかない天井亜雄が、
 学園都市第一位への致命的ダメージを与えたことなども考慮に入れ、
 浜面仕上は偶然にも情緒不安定な学園都市第四位が油断したところを狙い撃破出来た、
 単純に幸運な無能力者でしかない、と彼は結論付けたのだ。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:05:04.10 ID:Pdlg7fko<>


「はぁ……まあ考えてみれば超役立たずの浜面を入院させたところで、
滝壺さんが退院するワケが無いんですけどね」

「それを先に気づいてほしかった。というか、俺は先に言ったけどっ!」

「えっ!? てっきり音姫様の音色かと思いましたよ、浜面超適職を得ましたね!」

「俺はトイレで音姫の役をするのが生業ですかそうですかそんなのあったら凄いですね
そんなのあるわけが無いけどねっ!!」

「……浜面、超不潔です!」

「理不尽っっ!!」


 アレイスターの決定により、彼の扱いは保留となった。
 その後は戦争回避運動などもあってか放置状態、
 彼は彼女とのつつましくも幸せな生活を送っている。


「それで浜面、本当にこんなモノで滝壺さんは超喜ぶんでしょうかね?」

「ヌルー!?? 華麗にヌルー!!??」

「超うるさいです、『公衆便所の壊れた音姫』」

「ナニそれ、俺の通り名? 結構最悪じゃね??」

「あーもう、超話が進みません!! それで、これで本当に超いいんですね?
文句言われても私は知りませんよ!?」

「まぁお前のせいで進まないんだけどなっ! それで、このお見舞い品か――」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:07:19.11 ID:Pdlg7fko<>

 そう言い、二人の顔のあたりまで掲げたのが、今日のお見舞い品であるドリアンだ。
 その他に絹旗が別口でお見舞い品を持ってきたようだが、
 メインの品がドリアンでよかったのかどうかは、正直疑問だった。


「ま、まぁ大丈夫だろ。スキルアウトの頃は『ドリアン使いの浜面』といわれるほど、
ドリアン捌きで鳴らしてきた腕があるんだぜ?」

「それは……超音姫の方がいいと思います」

「それはねーよっ!!」


 引っ張る奴だった。


「……それと、なんでドリアンなんですか? 他にフルーツが超無かったんですか?」

「いや、滝壺がドリアンを食べたいって言っててさ。
なんとかバイトした金を費やして仕入れてきたってワケだ」

「それは……滝壺さんも超珍しいものを食べたがりますね」

「まぁな。
だがまさか、ここでドリアン使いの腕を使うことになるとは夢にも思ってなかったぜっ」


 うおーっ待ってろ滝壺ー!! なんて、病院の前で夕陽を浴びながら叫ぶ浜面を、
 何メートルか離れたところで絹旗は他人のふりをしながら、





「超キモいです」




 と、一言で切り捨てたのだった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:11:37.64 ID:Pdlg7fko<>…………






 結局、絹旗は病室に辿り着く前に自分のお見舞い品を浜面に手渡して、
 さっさか仕事へ行ってしまった。
 携帯で話している様子だと、どうやら時間が早まったらしい。

 そして今浜面は、彼女であり検査入院している滝壺理后を車いすに乗せて、
 屋上へと向かっているところだった。


「はまづら大丈夫、ドリアンおいしいよ。ありがとう」

「――――そりゃよかった……」

「はまづら元気だして。ほらあーん」

「あーん……ウグッ うんめぇよぅ滝壺ォ ング」


 そんな彼は、絶賛凹み中である。
 というのも、持ってきた見舞い品、果物の王様ドリアンが原因だった。
 その臭いは強烈で、看護師さんから苦情が来たほどである。

 まぁそれも凹んでいる一因ではあるのだが、
 ドリアン片手に意気揚々と果物ナイフを取り出そうとする彼を、
 鼻をつまむ滝壺の一言が打ちのめしたのだ。


「はまづら……私ドリアン食べたいなんて言った覚えないよ?」

「―――へ?」


 軍手をした彼の手から、ドリアンがこぼれ落ちる。


「もしかしてドリアのことかな? この前食事の時、ドリア食べたいって言ったよね」

「ド、ドリア……?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:15:51.38 ID:Pdlg7fko<>

 呆然と、そんな気持ち悪い宇宙人の名前みたいなものを口走る彼だが、
 確かに思い出していた。

 そう、滝壺はドリアが食べたいと言っていたのだ。
 何を血迷ったのか、見舞い品に困った浜面は、
 苦し紛れに立ち寄った果物屋でドリアンの札を見て、即買いしていた。
 彼にドリアなどというハイカラな食べものは、思いつかなかったのである。


「うん、大丈夫だよはまづら。うん、大丈夫……」

「無理にフォローしなくていいんだぜ……? ありがとな滝壺。俺超バカでごめん……」


 そしてその臭いから看護師さんが駆け付ける事態となり、浜面は凹みつつも、
 切り分けたドリアンを持って屋上まで逃げることにしたのであった。



「……あっ! そういえば、絹旗のお見舞い品渡してなかったな!」

「きぬはたの?」

「あ、あぁ――――これだ!!」


 そう言って滝壺に渡すのは、A4ほどの雑誌らしき物が何冊か入った袋。
 浜面としては、それによって上手くフォローしてくれることを心から望んだのだが――




「これ……たまごクラブに、ひよこクラブ? 底の方には……精力剤?」

「」



 とうとう、浜面は病院の廊下に膝をついたのだった。






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:19:22.00 ID:Pdlg7fko<>…………






 滝壺に励まされ、なんとか浜面は立ち直り、二人はようやく屋上に辿り着いた。

 そこは庭園となっており、周りは高いフェンスに囲まれているだけで
 風をさえぎるものはなく、十二月の風はかなり冷たい。
 寒いせいか、そこには誰もいないようだ。しかし二人が庭園の中心まで来てみると、
 陰で見えなくなっていた場所に一つの人影があった。


「しょちとる、こんにちは」

「リコウか……むっ」


 そこに車いすに乗っていたのは、影に溶けるような浅黒い肌に彫りの深い顔の少女だった。
 彼女は滝壺と知り合いらしく気軽にあいさつしたものの、
 浜面の姿を見て警戒心をあらわにする。


「お前、何者だ」

「えっと……こんにちは?」

「この人が前話したはまづらだよ」


 それを聞いたショチトルは納得した様子だったが、すぐに怪訝そうな顔をする。


「こいつがハマヅラ……? この便所が似合う男が?」

「……いや、もう突っ込まないよ。俺の生業だもんな」

「しょちとる、それは失礼だよ。はまづらはこんなだけど、便所男じゃない」

「むっ……悪かった。
ただここで読んだ漫画の、便所でたむろするような連中とよく似た風貌だったからな」

「フォローにあまりなってないけどありがとう滝壺。
あと、確かに見た目不良の下っ端なのは認めるわ……」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:29:18.51 ID:Pdlg7fko<>
 浜面も自分の風貌については認めるところなので、
 別に今更気にすることでもなかったが、便所については本気で就職を考えることにした。
 そんな自分の人生について考え始めた浜面を横目に、
 滝壺は持っていた皿をショチトルに近づける。
 

「な、何だそれは……?」

「ドリアンだよ。一緒に食べよ、しょちとる」


 強い風の吹く屋外にもかかわらず漂う臭気。
 思わず鼻をつまむショチトルに、滝壺はなおも勧める。


「うっ……ドリアン? これは、フルーツなのか?」

「うん、『ドリアン使い』が調理してくれたんだよ」

「なんか恥ずかしくなるからやめてくれ滝壺……」

「なるほど、そちらの男は『ドリアン使い』なのか。――――納得だな」

「納得するなよ!」

「ん……」

「どう? 美味しい……?」


 最初は警戒し眺めていたショチトルも、好奇心には勝てなかったのか思い切って口に入れる。
 すると、意外と美味しかったのか驚いたような顔をし、少しだけ頬が緩んだ。


「――ああ、美味しいな。ハマヅラには悪いことを言った。見事だ『ドリアン使い』」

「……どうも」

「だよね。まるでチーズケーキみたいで美味しいよね。
見た目と臭いで敬遠しがちだけど、ぜひとも食べて欲しい逸品だよ」


 そう言いながらサムズアップする滝壺が誰に宣伝しているのかわからないが、
 浜面としても激しく同意なので、何も言わずにサムズアップする。
 そうして笑いあう二人を見て、ショチトルは二人が本当に恋人同士であることを確認し、
 また心を通わせる姿に、自分の義兄とその仲間たちを思い出すのだった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:35:14.61 ID:Pdlg7fko<>――――









 もう日は落ちて夜を迎えたころ、
 一方通行は缶コーヒーをビニール袋いっぱいにぶら下げ、
 杖を器用につきながらも閑散とした路地を歩いていた。


 いつもではないが、彼はよくこのような時間にコンビニまで足を延ばす。
 缶コーヒーを買うのが主な目的だが、食後の軽い運動にもちょうどいい。


 首元に手を当てながら、彼は考え事をしていた。
 これは自分が臆病になったみたいで嫌だが、直せない癖になっている。

 今日昼に再会した二人は、
 もしかしたら、一方通行にとって大きなしこりのようなものになっていたのかもしれない。

 この数カ月、たまに聴くことがある名前、たまに見える影、
 この街にいれば必ず感じていた気配だった。
 それでも、出会うことはなく。

 
 そしてようやく出会うことができた今日、彼らに自分の思いのたけをぶつけた。

 果たしてそれは、正しかったのだろうか。
 彼らに想いは伝わっただろうか。
 自分は進むことができたのだろうか―――彼にはわからなかった。




 それでも、
 彼は家で今頃ゴロゴロテレビでも見ているはずの姉妹のことを考えると、
 反省せざるを得ない。
 自然と、苦笑いが出てくる。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:38:02.15 ID:Pdlg7fko<>


 上条たちと別れた後、二人にこっぴどく叱られたのだ。

 曰く、自分の命を投げ出すようなことはするな―――と。


 正直に言えば、自分はあの時御坂美琴に殺されても構わないと思っていた。
 解決するならば、これで終わりになるのならば、それでいいと。

 だがそれは、彼女たちからしてみれば全然お気に召さなかったらしい。
 もしそんなことになったら自分が姉をヤる、なんて息巻くヤツまでいる始末。
 おまけにもう一人の方は泣くわわめくわで面倒なことこの上ない。


 面倒事の嫌いな彼は、二度と自分の命を軽んじないことを二人に誓い、
 なんとかなだめる事に成功した。
 そして自分の命を必要としてくれる人間がいてくれることに、
 少なからず心が温かくなる。


 随分と人間らしくなったな、と自分の変化に戸惑う。
 でもそれは、不快じゃなかった。






 そんなことを考えながら顔を上げると、周りの景色にデジャブのようなものを感じた。
 デジャブ―――というべきなのか、ここで起きたことがフラッシュバックしてくる。
 そう、ここはいつだったか―――







<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:44:09.32 ID:Pdlg7fko<>…………














 そんな考え事にふける一方通行を見つめる、一つの影があった。




 影は、その細腕に似合わない無骨な銃を抱えるように持ち、
 ビルの屋上からスコープを覗く。
 そこに獲物を狩るという必死さはなく、ただただ淡々とした仕草だった。


(風が強いね、……標準を二クリック左に修正っと)


 抱える銃は、
 対戦車ライフル『バレットM82A1』に無理やり連射機能を加えた鋼鉄破り(メタルイーター)。
 プロトタイプではなく、すでに実戦投入されている一品。


 そして向けられるのは、学園都市第一位の超能力者、一方通行。


(よし)


 相手は完全に気づいていない。

 今現在、一方通行は演算能力を著しく損なっている。


 これが意味するのは、
 遠距離からの狙撃が気づかれなければ確実に仕留めることができるということ。
 彼女の腕を鑑みても、100%外すことの無いイージータスク。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/21(火) 00:49:17.91 ID:Pdlg7fko<>





(…………)



 与えられた仕事に、ほんの少しだけ物足りなさを感じつつも、
 彼女は今までのことを思い返す。


 自分の命は、全て一方通行のために在った。
 彼を憎み、彼を頭の中で何度殺したのかわからない。

 それでも、ここ数日観察した彼の様子を思い浮かべると、不思議な気持ちになる。
 しかし、引き金から指を離す気にはならなかった。


 彼の命を自分が蹂躙することを考えると、逆に鼓動が高鳴ってしまう。



(ばいばい、一方通行)



 そう、心の中で呟き、引き金を躊躇いなく、引く。
 暗闇に轟くのは、怪物の唸り声にも似た、狂喜の雄たけび。
 銃口の先にいる獲物は、静かな顔。





――――終わりが、始まろうとしていた。








<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/21(火) 01:00:01.06 ID:Pdlg7fko<>


 一旦終わりです。


 たまひよは雑誌でしたね……A4じゃなくA3でしょうなorz
 申し訳ございませんでした。


 あと、一つ言いたいのは、私は浜面君が好きです。
 ちょっと扱いが下手糞ですが、私のありったけの愛を込めました。
 まぁ、絹旗に手を出したら次元の壁を越えてぶん殴ってやりたいですが(笑)


 と、そんな私情はどうでもいいですよね。

 それでは、……今日は、ちょっときついかもしれませんが、
 また、後で。

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 01:02:49.73 ID:b3eK3XIo<>な…んだと…?
うおおお続きが気になる!
乙!

まあ絹旗は俺の嫁だしさすがに浜面でも手出しさせるわけにはいかないもんな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 01:06:40.87 ID:YZ8Wtgso<>標準じゃなくて照準だよー!
漢字には意味があるんだよおおお気をつけてえええええ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 01:07:35.57 ID:4XQvhdgo<>そうだな、ただ絹旗は俺の嫁だけどな<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/21(火) 01:16:18.16 ID:Pdlg7fko<>>>198
やっべ、完全に間違えた……
うわっ、思いのほか死にたくなるなOTL


修正できないのが、ここの恐ろしい所ですね。
はい、早々に謝罪させていただきます。
いっそ、こういう場合貼りなおすべきだろうか……?


>>197>>199
おい、屋上


……今日は身悶えしながら眠りたいと思います。
シーユーアゲイン、ハバナイスデイ!


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/21(火) 01:21:17.56 ID:Wh/zwbMo<>>>1「白馬に乗って、投稿しにくるぜ」

ですか<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/23(木) 02:22:57.15 ID:Cq2hHDco<>
 こんにちわ。

 
 一日休んで申し訳ありませんでした。
 取引先との忘年会って、面白くありませんね……


 身悶えも終わり、そろそろ復帰したいと思います。


 それでは、投下します。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:26:17.64 ID:Cq2hHDco<>――――









 騒がしい夕食を終え一方通行が出かけた後、
 黄泉川家の書室ではパソコンの前で芳川が一人、考え事をしていた。
 ちなみに黄泉川はキッチンで作業中、打ち止めはリビングでテレビに見入っている。


 芳川の悩みの種は、残りの一人である番外個体のことだ。


 彼女は一方通行が出かけた直後、体調不良を訴えて寝室に引っ込んでしまった。
 言われてみると顔色も悪かった気がする。
 一方通行に見せないように必死だったと考えるべきだろう。
 その健気さには、素直に感服だった。

 そんな彼女のことを、今更疑っているわけではない。
 だが芳川がどうしても気にかかるのは、
 彼女がどのような目的で一方通行の元に送り込まれてきたのか、ということだった。


(第三次製造計画の延長線上なのか、いやそもそも計画は本当に中止になったのか……)


 たとえ本当に彼女の言った通り研究所から逃げ出してきたとして、
 何故番外個体は番外個体(ミサカベスト)と呼ばれたのか見えない。
 そのような存在を作った理由も、だ。


(研究者たちが、意味もなくそんな呼び方をするはずが無いわ。
打ち止めは最終ロットのミサカだったとしても、じゃあミサカベストは?
研究者にとって、何にベストだというの?)


 あまりにも、存在が不確定すぎる。




「……ふぅ、OK、落ちつきましょう」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:29:05.43 ID:Cq2hHDco<>

 そう一人つぶやくと、少しさめてしまったコーヒーを口に含み、
 パソコンのキーボードを片手で意味もなくいじる。
 目の前の画面には真っ白な用紙。
 そこへ適当に番外個体から聞いた彼女の特徴などを書き込む。


(ミサカベスト、製造後四カ月経過、見た目高校生か大学生、身長高め、長髪、巨乳、
巨尻、肉付き良好、ぶっちゃけエロい、それでいて子供っぽい、性格は温厚、
一方通行好き、研究所から抜け出す、現在体調不良、無能力者……)


 これで少しは頭がまとまったかと言えば、そうでもない。
 しかし、ここまで書いて、とある事実が見えてきた。


(彼女は一方通行が脳に障害を受けた同時期に作り出された――?)


 それは、改めて考えるとよくわからないタイミングだ。
 まだ学園都市が一方通行を雇っていない段階で生み出されたということは、
 第三次製造計画はすでにその段階で考えられていたということか。


(一方通行がミサカたちという弱点を持ったのは確かにその時期だったけれど……
少し見切り発車じゃないかしら? それに彼女は無能力者、
警戒を解いて誘惑するって言うのならわからなくもないのだけれど……)


 そんな遠回しなことをするのだろうか。
 そのために敢えて、
 御坂美琴のDNAマップからは作りづらいはずの無能力者を作ったというのか



 そこまで考えて、――――芳川は唐突に立ち上がる。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:32:19.70 ID:Cq2hHDco<>

「―――まさかっ!!」


 椅子が抗議の声を上げるが、それもお構いなし。
 書室から躍り出て寝室を覗くと、そこにはすでに誰もいない。
 そんな彼女の珍しく焦った状態に、
 リビングでのんびりしていた二人は目を丸くしている。


「どうしたじゃん? 桔梗」

「……番外個体はどこ?」


 少し自分を落ちつかせた芳川は、ゆっくりと問いかける。
 それに答えたのは打ち止めだった。


「番外個体は外に頭を冷やしてくるって言って出ていったよ、
ってミサカはミサカは二人の焦りっぷりに驚いてみたり」

「!! ―――そう」


 その話を聞くと一目散に玄関に向かおうとして――――彼女はずっこけた。
 その豪快な転びっぷりに、再び二人は目を丸くする。
 頭をおさえながら立ち上がる様を見ると、どうやら怪我などはないらしい。


「……運動しなさすぎじゃん?」

「――――私も甘いわね、シリアスに徹しきれなかったわ」

「そういうこと言うから……ってミサカはミサカはダメだししてみる」


(まぁ私が行ってもしょうがないわね。
……でも、もし例の計画も同時に進行していたとしたら、色々と納得だわ。
――――彼を信じましょう)


 色々な言い訳を自分の中でしながらもリビングの椅子に座り、
 真剣な顔でみかんを食べ始めた彼女を見て、
 他の二人は本気でこの怠け者の働き口を考え始めたのだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:38:08.85 ID:Cq2hHDco<>――――








 鋼鉄破りの獲物であった一方通行のいる、五〇〇メートル先の光景は、
 他人からすればにわかには信じがたい現象が起っていた。


(弾が避けた、か……)


 反射の能力が発動したのか、銃弾は彼の足もとに突き刺さる。
 おそらく何らかの方法で射撃が知られたのだろう。
 スコープ越しに目が合う彼は、依然静かな顔だった。――――鳥肌が立つ。


(ぎゃはっ、そう、そうだよ! そうこなくっちゃあ面白くない!!)


 屋上から飛び出すように駆けだした影は、先ほどの不満そうな顔とは打って変わり、
 鮮烈な、あまりにも醜い、まるで大好物の獲物を見つけた肉食獣のような顔を、
 仮面越しに浮かべていた。

 狙われているはずの一方通行は逃げ出すことはなく、
 自分の元へ迫ってくる影をつまらなそうに見やり、
 コーヒーの袋を適当なところに置いて口を開く。


「どこの誰だかしらねェが、誰に喧嘩売ったのか知ってンのか?
それでここまで態々ゴソクロウとは、単なる自殺志願者としか思えねェなァ」


 これは彼の自信というわけではなく、単なる事実。周知の事実だった。
 その言葉は虚空に吐いた独りごとのつもりだったが、



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:41:18.53 ID:Cq2hHDco<>




「嫌というほどわかっているよ、第一位」




 暗がりから、くぐもった声が答える。
 聞こえたほうに顔を向けると、そこにはまるで人形のような、機械のような、
 そんなヒトガタが直立していた。
 体の線がよく見える服を着ているため、女性であることが伺いしれる。
 しかし頭に卵型のヘルメットを被っているので、顔は見えない。


「でもよくあの距離の射撃を避けることが出来たね、絶対ばれないと思ったのになぁ」


 悪戯でもばれたかのように無邪気に拗ねるヒトガタを、一方通行は鼻で笑った。


「俺は何度狙われていると思ってンだ? あの程度の射撃読めなくてどォする。
わかりやすすぎンだよ、完全にあそこは射撃ポイントじゃねェか」


 自動的な反射が出来なくなってからの彼は、臆病なほどの警戒を欠かしたことはない。
 自分が出かける場所を考え、その道筋においてどこならば狙われやすいのか、
 その手段は何が妥当か、そういった事を常に考え行動している。


(それにあそこからは、一度射撃されたことがあったからな)


 何号の時だっただろうか、
 彼は、絶対能力進化計画の時同じ場所から射撃されたことがあったのだ。
 実験がこんな形で自分を救うとは思わず、心の中で苦笑する。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:44:16.83 ID:Cq2hHDco<>

「へぇー、ま、どうでもいいことか。あなたは結局ここで死ぬんだから、さ」

「ハッ、ヤれるとでも思ってンのか?
止めとけ止めとけ、おうちに帰って寝ンねしといた方が有意義な時間を過ごせンぜ実際」

「……本当に、甘くなったね。そうやって、自分を殺そうとした人を見逃そうとしている。
でも無意味だよ。この顔を見れば、納得するんじゃない?」

「……なに?」


 そういって彼女はヘルメットをとる。
 そこから出てきた顔は、あまりにも見慣れた顔。
 先ほどまで一緒に過ごしていた、女。




「オマエ――――」


「やっほう。とうとう殺しに来たよ、第一位」




 番外個体の、姿かたち、声。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:45:55.12 ID:Cq2hHDco<>



 彼の顔が、絶望の色に染まる。





「ぎゃははははは! その顔が見たかったんだ!!
ああ、あなたのその顔を見るだけでイキそうだよぉ……」


 目の前の女は、彼女がしないと思っていた、下品な顔と言葉をぶつけてくる。
 そしてその眼に宿っているのは―――明確な、殺意。




 想定していた。
 第三次製造計画というものの存在を知ってから、彼はこの展開を予想していたのだ。
 しかし、実際こうなるとどうすればいいのかわからない。
 間違いなく、今の自分は身も心も無防備だ。


「逃げても駄目だよ。
ワザワザあなた一人のところをミサカは狙ってあげたのに、
それを裏切って逃げる気だったら、今度狙うのはあの人たちだからね」


 彼の逃げようとしていた足が止まる。
 彼女の言うとおり、この状況で狙われたのは、ある意味僥倖だったのだろう。
 何といっても、守るべき者が後ろにいないのだ。
 しかしいなくても、意識することが出来た。それにより彼の思考は回り始める。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:53:48.17 ID:Cq2hHDco<>



「……第三次製造計画は中止になったンじゃねェのか?」

「中止になったよ。でもあなたが狙われる理由なんて、いくらでもあるじゃない」

「……そォかよ」

「ようやくいつもの調子に戻ったかな?」


 彼のまともに回るようになった頭が導き出したこれからの行動は、


 戦闘を避ける――――不可能、
 だったら、彼女を傷つけずに気絶させる――――。


「あなたの考えていることは手に取るようにわかるよ。そしてその矛盾点も、ねっ!」


 彼女はその手に握っていたモノを、電流を利用し射出する。
 それは短い鉄釘のようなものだったが、拳銃程度の威力だ。難なく避ける。
 しかし、それは彼女の想定内。射出したのち、紫電とともに一気に距離を詰めた。
 彼からすればそれは遅い。完全に体勢は立て直っている。


 それでも、この顔を目の前にすると、どうしようもない。


 無様に転げて、近距離射撃を避けるしかない。


「どうしたの? ミサカを無力化して見せてよ。
あなたの中にあるルールに抵触しない程度で、攻撃して見せたら?
どうせ無理なんだろうけどね、ぎゃははははは!!」


 一方通行が自分の中で作ったルール、
 世界を敵に回してもミサカのクローンたちを傷つけないというルール、
 これに抵触せずに彼女を無力化する。それは可能なのか―――



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 02:57:00.14 ID:Cq2hHDco<>


(可能かどうか、じゃねェ。やるしかねェンだよォッ!!)



 ここにきてようやく、彼は攻撃の意思を見せる。
 足元のベクトルのみ操作し、一瞬にして彼女の懐まで迫った。
 傷つけないためには、接近戦で意識を刈り取るしかない。
 かなりの手加減が要求される。……精彩を欠いた動きだった。


 だがそのタイミングを完全に読んでいたかのように、
 彼女は空気を電流で爆破し威嚇すると、その勢いで上空に飛び上がる。
 そこから降り注ぐ、鉄釘の雨。
 停止した瞬間を狙われたため、彼はその餌食でしかなかった。


「がァっ……!」


 ――――何本彼の中に留まっただろうか、何本彼を貫いただろうか。
 いずれも致命傷には至らない。しかし、確実に彼へ大きなダメージを与えた。
 動くのが、難しいほどに。



「ぎゃひ」



 そして視界の中には、楽しくてたまらないといった風に、
 凶悪な顔を浮かべる彼女が、いた。


「なんであなたの思考が読めたか、わかるかな?
代理演算を行っているのはミサカたちだって事を考えれば、
今のあなただって想像はつくよね。つまりあなたに手加減は不可能ってこと。
あなたとミサカ、どっちかが死ぬしかないんだ、よ!」



 また射出される鉄釘は、今度こそ避けることが出来なかった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:00:00.02 ID:Cq2hHDco<>



精確に、一方通行の右肩を削り取っていく。



「がはっ……!」

「ぎゃはぎゃはぎゃはっ!!
思いだした思いだした、あなたがさっきの射撃を避けられたのって、
ミサカが昔あそこから射撃した時のことを覚えていたからなんだね!
何度も何度も殺されてきたから忘れてた!」


 そう言いながら何度も何度も同じ場所に、傷を抉り広げるように射出する。
 赤の中に白が見え始めていた。


「あ……がっ……!!」

「あぁ、あの時は痛かったなぁ。
まぁこれは一万三十一分の一程度のもの、利子も全然払えないよ」



 ――――そうだった、あの時彼が傷つけたのも、彼女の右肩だった。

 そう考えると、一方通行の熱くなっていた頭も、急速に冷えて行く。




「はっ、ははっ」





――――……これは、自業自得、じゃないのか?
 彼の頭によぎったのは、そんな、絶望的な、囁き。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:04:13.49 ID:Cq2hHDco<>



「気づいたのかな?」




 目の前まで来ていた彼女は、禍々しい笑顔を浮かべ、死刑宣告を放つ。



「これは、全てが自業自得で、全てがあなたのしてきたことなんだよ?
その痛みは、ミサカが味わってきたものなんだ。わかる?
ミサカはあなたに、妹達二万体と、打ち止め、
そして第三次製造計画によって生み出されたミサカの、
未成熟な感情も含めた全ての憎悪を、代わりに伝えにきたの。簡単には死なせないよ」



 必死に彼が振り切ろうとしていた闇が、まとわり付く。
 息が出来ない。動くことが、出来ない。
 喉が異常なほど渇き、変な音が聞こえる。



「もし今生きているミサカたちが、あなたのことを許したと考えているなら、
相当おめでたい脳味噌してるね。ミサカたちは生まれたばかりなんだよ?
憎しみなんて、抱きようが無いじゃない。たとえあなたを慕っているように見えたって、
本能としてあなたの罪悪感を利用すれば生きやすいって感じているだけ」



 支えが、崩れていく。今まで縋っていた標が、見えなくなっていく。
 周りの景色が、全て色褪せていくような、気がする。
 心の中にある想いが、虚空に溶けていくような、そんな絶望が彼を支配する。



「ぎゃははは! 勘違いしないでね、何もミサカが適当に言っているわけじゃあない。
ミサカネットワークを介して知っている。つまりこれは事実なんだ、まさしく真実!
あなたは単なる妄想を、ミサカたちに押しつけているだけなんだよっ!!」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:06:26.85 ID:Cq2hHDco<>



 壊れゆく、心。
 早く、自分を殺してほしかった。


 守るものを見失ってしまったら、彼は生きる理由を失うだろう。
 守ることが出来るということを知った彼は、成長すれば成長するほど、
 罪悪感が大きくなった。そう―――精神的に弱くなっていたのだ。



「あなたの罪は、永遠に贖えることは、ない。
あなたの理想とする未来なんか、ミサカがぶっ壊してやる。
いい加減あなたの自慰行為を見るのもウンザリなの。
―――いっそ、ミサカの物になっちゃおうよ。ペットとしてなら飼ってあげる。
他のミサカはわからないけど、それでミサカは許してあげても、いいよ」



 甘いささやきだった。


 もはや生気を失った彼には、彼女がさぞかし天使のように見えただろう。
 彼女は一方通行がもっとも欲しがっている許しを与えてくれる。


 心が動かないはずが、ない。




「もう、ヒーローごっこはやめて、一緒に行こう? 自己満足は、もう飽きたでしょう?
あなたは、絶対能力者<無敵>になんか、なれないんだから、さ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:08:13.99 ID:Cq2hHDco<>



 その言葉は、彼女からすればとどめのつもりだったのかもしれない。
 未来をへし折るような、そんな一言だった。





 しかし、
 彼女の放った言葉は、彼女が思っている以上に、彼の心の深いところまで届いていた。






「………なら…だ」

「え?」


 彼女は、ようやくまともな言葉を話した一方通行に驚きつつも、聞き返す。
 敗北宣言が聞けることを、信じて疑わなかった。


「俺は………」

「………何?」







「俺は、絶対能力者に、ならなきゃいけねェンだ!」





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:11:58.23 ID:Cq2hHDco<>




「――――はぁ?」




 出てきた言葉は、あまりにも稚拙。
 ヒーローに憧れる少年が、駄々をこねたようで。
 彼女としては、あきれるしかなかった。



 今の一方通行は、誰かを守るためにここにいるわけではない。
 彼にとって、今ここで死ぬことに何のためらいもなかった。
 だからこそ、彼が犠牲にした人々や上条当麻と交わした、原初の誓い。



 彼の中にある、絶対なる信念。
 ――――其の想いだけが、彼を突き動かす。



「――――ハッ!」

「なっ……!?」


 一つ大きく息を吸って、思いっきり笑い飛ばした彼は、
 すでにいつもの不敵で自信にあふれたような笑顔を浮かべていた。
 彼女にとって、それはあまりに予想外。


「ヒーローごっこ? 自己満足? 上等だコラァあ!!
オマエの真実が全てみてェにぬかしてンじゃねェっ! 
罪だろォが何だろォが、アイツらのために俺が全部食らい尽くすンだ!
殺してみろよ、クソ野郎。死んでも屈服しねェ。最強は、譲らねェよ」


 そう、彼は信じていた。
 彼女たちの遺志を、彼女たちの想いを。
 絶対能力進化計画の成功のために殉じた彼女たちの願いだけを、頑なに信じる。
 それだけのために、彼は最強として笑ったのだ。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:14:04.88 ID:Cq2hHDco<>



「――――じゃあお望み通り殺してやるよ」




 番外個体は、完全にキレていて。
 ヤケクソみたいに叫ぶ、この男に失望していた。


 だが、それだけじゃない。
 一方通行の目は、確実に生き返っていた。
 その瞳が湛える光に気圧されたことが、彼女の苛立ちを加速させたのだ。


 これ以上、遊ぶ気にもなれない。
 首を絞め、額に釘を当てる。


「ぐゥ……」

「興ざめだよ。―――ちゃっちゃと地獄に行け、殺人鬼」

「ぐふゥっ……へへ」



 それでも、笑う一方通行。
 それは彼女にとって、嘲笑に見えた。首を絞める手に力がこもる。
 そして――――――






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 03:17:27.85 ID:Cq2hHDco<>





 そこに飛び込んでくる、一つの影。






「おらあああああああああああああああ!!!」


「ッッがぁっ!?」




 響き渡る、叫び。



 それと同時に、吹き飛ぶ番外個体。
 そう、まるでヒーローのように現れたのは――――





「これ以上ダーリンに手ぇださせるかよぉぉぉおおおッッ!!!!」






――――鬼のような形相をした、番外個体だった。









<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/23(木) 03:25:13.94 ID:Cq2hHDco<>






 一旦ここで止めます。



 ……難しいですね、ええ、難しすぎますよ、ホント。
 なんか、ごめんなさい。突っ込みどころ満載かもしれません。
 シリアスって、厳しいですね。


 
 それでは、また今日……来れればいいなぁ。



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/23(木) 03:37:32.50 ID:yXBnakAO<>タヒね<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 03:57:38.56 ID:tO4MtW.0<>なん……だと<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 04:30:05.61 ID:flt4CZMo<>なん…だと

うっひょおおおおおおつかれえええええ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 09:22:38.82 ID:EA2ATBIo<>想定の範囲内だ
でもwktk<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 09:24:41.86 ID:a2FD/EDO<>乙
やだ……ミサベったらかっこいい……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 09:38:43.94 ID:NlfcFAAO<>ミサベさんは俺の婿<> e<>eee<>2010/12/23(木) 10:09:56.80 ID:K3ZYcTU0<>なんで2人いるのー?
なりすましかにゃーん?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 11:58:20.87 ID:nUT.UIAO<>ベストもいてワーストもいるって事か?

面白くなってきた<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 14:50:02.38 ID:3ndZ0IDO<>俺のワースト可愛すぎワロタ
一方さんペロペロ

この文体どっかで見たな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/23(木) 17:09:04.33 ID:Cq2hHDco<>
 こんにちわ。


 ちょっと時間が出来たので、
 少しだけ投下したいと思います。


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 17:14:04.50 ID:Cq2hHDco<>………… 







 あの空間に飛び込めば、死ぬ。
 無能力者の自分が大能力者であるはずの彼女を、止められるはずが、ない。
 目の前の光景を見て、恐怖が彼女の思考を支配する。

 一方通行のためならば命も惜しくないと、そう思ってここまで駆けてきたはずなのに、
 目の前に来て足がすくむのだ。


(この程度の想いだったの……?)


 カタカタと揺れる視界。彼女は震えていた。
 想いに身体がついてきていないのだろう


 それでも繰り広げられる断罪は、留まることを知らない。
 一方通行に叩きつけられる言葉の刃は、音速で放たれる鉄釘よりも鋭く痛々しい。


 自分が否定してあげたい、盾になって護ってあげたかった。
 しかし彼女は、見ているだけ。

 彼女が葛藤をしているうちにも、一方通行は生気を失っていく。
 目が乾いていく、心臓が激しく急き立てる。


(このまま終わっちゃうの? 何も始められず、何も得られないままに)


 そんな深い絶望に染まる彼女を助け出すのは、いつだって彼だった。


 あんな子供っぽく叫ぶ一方通行を見るのは初めてで。
 そんな、彼の丸裸の信念は、番外個体の心を貫く。




 ――――気づけば、彼女は走り出していた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 17:18:04.36 ID:Cq2hHDco<>


 何かがブチブチと切れる音がする。
 ごまかすように声を出し、体重全てを乗せた蹴りを、その無防備な横っ腹に叩きこむ。


 頭痛が酷かった。が、最高に気持ち良かったのだ。


「何やってンだよオマエ……」


 呆れた声が後ろから聞こえる。
 振り向くとそこには、酷く傷ついた、彼女の愛する人。
 なんとか、笑顔を作る。


「助けに来たぜ、ダーリンっ!」

「………」


 軽いノリは彼のお気に召さなかったようで少々呆れ顔だが、
 その顔はすぐに真剣に闇を見据える。
 どうやら、襲撃者は立ちあがってきたらしい。


「クソッ、お前の出番じゃないんだよ番外個体(ミサカベスト)ッッ!!」

「あんたこそ、何やらかしてくれてんのぉ?? 番外個体(ミサカワースト)ぉお!!」


 どっちも尋常じゃないほどにキレていた。
 無能力者と大能力者、勝敗は決まっているはずだが、
 ミサカワーストはおそらくアバラが何本か折れており息すらマシに出来ない状態だろう。




 頭痛は極限、ブラックアウト寸前。
 だがミサカベストは、後ろに守るモノがある限り、死んでも引く気は、ない。

 

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 17:21:09.18 ID:Cq2hHDco<>


「チィ……――――っ!! はいっ……はい…了解しました、すぐに」



 舌打ちし、鉄釘をとりだしたところで、ミサカワーストは虚空に返事をし始める。
 何らかの通信を受けているらしい。



………ギリッ!!



 彼女は悔しそうに歯噛みして、ミサカベストを睨みつけると、
 闇に紛れるように去って行った。




 脅威は去り、路地裏に静寂が戻る。




「……無茶するンじゃねェよ、怪我はねェか?」

「……うん、こっちは、大丈夫。そっちこそ、大丈夫、なの?」

「あァ、こォ見えても、な」


 一方通行の怪我は、見た目は酷いものの血がさほど出ていない。
 ベクトル操作で血流を作っているからだろう。
 彼女は、心の底から、安堵する。



「そう……良、かった……」



 それしか彼女の口から言葉は出ず、
 彼女はアスファルトの上へ叩きつけられるように、倒れた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 17:23:59.91 ID:Cq2hHDco<>


ドチャッ



生々しい音が、暗い路地裏に響く。


「――なっ、オィ!!」


 硬直は一瞬だった。
 彼は彼女に駆け寄る。


「……は、はは、ちょっと、疲れ、ちゃった……」

「無理に喋るな! ……クソッ、どォいうことだよこの熱はッ!!」


 荒い息をする彼女は、信じられないほどの熱を発していた。
 すぐに医者へ連絡する。


 数コール後出たのは、冥土帰し。


「どう――」

「急患だッッ! 至急車をよこせッ!」

「ちょっと待――」

「場所は…「落ちつきなさい!」ッ!!」



 思いの外強い言葉に遮られ、彼は息を呑んだ。




「君は落ち着かなきゃ、ダメだ。
――――患者の容体はどうだね? 君の能力は使えるかい?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/23(木) 17:25:12.81 ID:Cq2hHDco<>


 言われて、自分が取り乱していた事を知る。
 今彼は、精神状態が不安定だ。


 一つ深呼吸をすると、ミサカベストの頭に手を乗せる。
 皮膚上の電気信号から脳の構造を解析することが出来る彼には、
 触れることで患者全身の情報を採取することは、朝飯前だった。


「――――な、に……?」


 そうして、彼は知る。
 ミサカベスト、その名の意味を。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/23(木) 17:44:18.48 ID:Cq2hHDco<>
 出かける時間になってしまったので、
 ここで小休止です。


 帰ってきたら、また投稿しようと思います。
 何時になるかはわかりませんが……
 その時は、よろしくお願いいたします。


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 17:59:28.09 ID:flt4CZMo<>オーケィ全裸待機だ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 18:39:45.10 ID:yY3Yz3.o<>乙です!
無理はしないで欲しいけど、楽しみにしてる!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/23(木) 18:45:46.08 ID:a2FD/EDO<>>>236
ネクタイと靴下を忘れるな<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/24(金) 01:02:26.20 ID:8DNNsh6o<> 
 こんばんわ。


 全裸の人がいるので、かなり短いですが投稿しようと思います。
 やっぱり、時間の差し迫っているときに投稿すべきではありませんね……
 先ほど投稿し損ねた程度のものですが、ご賞味下さい。


 それでは、投下します。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(金) 01:04:26.26 ID:8DNNsh6o<>――――







 窓から差しこむ朝日は、夜が明けたことを雄弁に語っていた。
 空調整う病院の廊下は、忙しそうな看護師たちによって賑わいを見せ始めている。




そんな中、夜の静寂を未だに引きずる一つの影。
――――一方通行である。




 病院服に身を包んだ彼は、襟から覗く包帯が上半身全体を覆うものの、
 あり得ないほどの自己治癒能力によって昨夜の大怪我は鳴りを潜め、
 もう健常者と同じ様に動くことができる。
 麻酔を断って執られたオペは気付けにちょうど良かったのか、眠くはなさそうだ。



 そんな彼がいる場所は、自分の病室の前ではない。



 ミサカベストは、昨夜から目を覚ましていない。
 容体は安定を見せたようで現在はただ眠っているだけだが、
 一方通行にとっては酷く気がかり。
 そして結局、彼女の病室の前まで押し掛けている。


(ったく、馬鹿かよ俺は……)


 看護師はこちらをちらりと見るものの、特に不審には思っていないようだ。
 もしかすると、状況を理解しているのかもしれない。
 変な勘違いをされていそうだが、訂正するほど彼に元気はなかった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(金) 01:06:22.97 ID:8DNNsh6o<>



 一方通行がボーっとしていると、ここに向かってくる団体の足音が聞こえてきたので、
 そちらに顔を向ける。


「一方通行ーーーっ!! ってミサカはミサカは、きゃふっ」

「おはようじゃん一方通行。怪我は大丈夫か?」

「ハァハァ……、あなたたち、病院では、走っちゃだめよ、ふぅ」

「……オマエらうるせェ、怪我は大したもンじゃねェって電話で話しただろォが。
それとオマエ、この挨拶は恒例なのか?」


 いつもよりちょっと遠慮がちに突っ込んでくる打ち止めを、彼は受け止める。
 怪我に配慮したようだが、胸にぐりぐり頭を擦りつけられるのも、少し痛そうだ。


「……オィコラいてェよ」

「…………」

「……凄く、心配してたじゃんよ。帰ってこないなんて、何かあったんだーって」

「ハァハァ、ふぅ。……今回は完全にあなたが悪いわね。連絡するのも遅いし、嘘つくし」

「心配……したんだよ……?」グスッ


 三人とも、責める顔。
 芳川は汗だくでここまでどれだけ走ってきたんだという感じである。
 ……まぁ実際のところ、駐車場から病院の間ぐらいしか走っていないが。
 運動不足がたたっているようだ。




「……悪かった、ちと頭がうまく回らなかったンだ。珍しく動揺しちまってな、すまねェ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(金) 01:09:07.26 ID:8DNNsh6o<>


 そう言いながら、打ち止めの頭を優しく撫でる。


 彼女たちに連絡したのは病院に着くまでの車の中だが、
 出かけてからずいぶんと経っていたらしい。
 その時もえらく心配されたが、
 夜に病院へ駆け付けられても彼女たちが疲れるだけであるため、
 嘘をつき二人で友人宅に泊まるということを伝えていたのだ。


 今朝は電話越しにえらく怒られたものだが、責められても何も文句は言えない。


 ちなみに、怪我は医者も協力させてスキルアウトに襲われたことにした。
 そこは彼女たちも察したようで、心配そうだったものの理解してくれたのだった。


「――――はぁ、こっちに着いたら思いっきり叱ってやろうなんて考えていたけど、
そんな顔してたら怒る気失くすじゃん」

「……悪ィ」

「でもあの話は本当だったんだねって、ミサカはミサカは改めて驚いてみたり」

「そうよ、――――やっぱりあの計画は、水面下で継続していたってわけね」

「! ……芳川、オマエ知っていたのか?」

「知りはしなかったけど――――」





「皆さん、お揃いみたいだね?」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(金) 01:12:48.48 ID:8DNNsh6o<>



 聞こえた声に皆で振り向くと、そこには一方通行がイの一番に電話した、
 カエル顔の医者が立っていた。


「……あいつはどォだ、まだ寝てンのか?」

「ようやく起きたみたいだから、私は呼ばれてきたんだよ?
ちょうどいいタイミングだったかな?」



「それで、診察はすでにしたんでしょう? ――――彼女は、どうなの……?」



 誰かが、息をのむ音がした。
 一方通行も、知っているはずなのに、汗が浮き出る。
 カエル顔の医者は重々しく口を開け、








「――――三カ月、だね。彼女は妊娠しているよ」







 と、告げたのだった。






<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/24(金) 01:19:03.77 ID:8DNNsh6o<>


 まぁ、ここまで先ほど書きたかったのですが、
 何も得られない忘年会に行きましてね……ええ。


 とうとうクリスマスイヴということで、
 今日明日明後日はトバしていきたいと思います。



 予定?
 ……当然、家族とレストランでディナーとしゃれ込むつもりです。
 それが、クリスマスというものですから。

 私はJR東海の作った下らない慣習には流されず、
 ここに入り浸りたいと思います。


 それでは、また今夜会いましょう!


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 01:19:53.78 ID:r86MQroo<>くぁwwせdrftgyふじこlp;@:「」おもったよりこころがどうようしたyってどうしょうどうようししいいしししいあおあ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 01:38:30.91 ID:8QX4oWUo<>乙!
さて。一通さん…?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 01:41:30.05 ID:8QX4oWUo<>いやまて… 三ヶ月…?
連投すまん。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 02:04:20.08 ID:z2704BAo<>乙です。
息抜きに読んでたはずなのにボディーブロー食らった気分だぜ。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/24(金) 03:06:09.78 ID:O2zAT1.o<>乙!
隊長、全裸待機を継続します!

僕は暗部の仕事があるので今年はクスリマス中止です

<> Are you enjoying the time of eve?<><>2010/12/24(クリスマスイブ) 08:48:36.08 ID:Rrfwvbw0<>えっ<> Are you enjoying the time of eve?<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 10:05:23.97 ID:mMtD4JUo<>乙、えっにんs……えっ?

>>249
マジかよお前も仕事か、俺も今日の夜から明日の昼の間ある研究所で要人の護衛だってよ。
お互い頑張ろうな<> Are you enjoying the time of eve?<><>2010/12/24(クリスマスイブ) 15:10:27.47 ID:zRjWqGc0<>ビーカーの中暇だお<> Are you enjoying the time of eve?<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 16:17:21.47 ID:OVbqfS60<>そうか。
ついに俺の子を妊娠したんだなキリッ<> Are you enjoying the time of eve?<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 17:12:00.55 ID:OIoMXwAO<>俺の子か…<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/24(クリスマスイブ) 22:43:38.51 ID:8DNNsh6o<> 
 こんばんわ。

 >>248
 それは……いい意味だと解釈したいところです。
 ちょっとシリアスですが気張らずに読んでやってください。

 
 また、終わるときはちゃんと言いますので、
 少し途切れたと思ったら、
 便所に行ったか風呂に入ったと解釈してください。

 
 それでは、投下します。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 22:46:43.87 ID:8DNNsh6o<>…………








 そこはとある病院の産婦人科病室前。


 賑やかさが増していく中で、その一角は静寂が生まれていた。
 決して重苦しい空気というわけではなく、
 ただそれぞれどういうリアクションをとればいいのかわからない、
 戸惑っているといった雰囲気である。



「芳川、オマエは何か知っているのか?」



 切り出したのは一方通行だった。
 芳川は少し考えるように俯いていたが、まとまったのか、顔を上げる。


「……さっきも言ったけど、私も知っていたわけじゃないの。
ただ、そういった計画がちょっと持ちあがっていたのは事実よ。
君が彼に負けた、あの日からね」

「――――約五カ月前」

「そうね。まあその時は様子を見るってことで流れた話だったんだけど――」

「大真面目に研究しているやつがいたってことか」


「どんな計画なの? ってミサカはミサカは聞いてみる」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 22:51:03.77 ID:8DNNsh6o<>


 打ち止めの言葉に、芳川はちらっと黄泉川の方を見た後、一方通行に目で問う。
 その視線を受けて、
 一方通行はまだ黄泉川に、自分たちの境遇を教えていないことを思い出す。
 腕の中から自分を見上げる打ち止めを見つめ、そして頭を少し掻いたあと、口を開いた。


「黄泉川、オマエはどォする?
この話は前提条件として、俺らの出自を知らないとわからねェンだが」


「――――もし、聞かない方がいいって言うなら、どこか行ってるじゃんよ」


「これはオマエに選択権があるンだよ。俺たちの話を、危険を顧みず聞くか?
ここから先は一方通行だ、話を聞いたらもォ元には戻れねェぞ」


「……キミたちはいいの?」


「ンなの今更だろォが。俺に隠すような恥じる過去は存在しねェ、
ただ下らない同情はいらねェってだけだよ。
黄泉川のことは信頼してンだ、後は本人次第だろォぜ。
……オマエはどォだ? 俺らの過去のこと、話してもいいのか?」


「んーと……ミサカたちは、あなたがいいなら別にかまわないよ。
ヨミカワに迷惑をかけるのは嫌だけど、
家族だもん、知っていてもらいたいよってミサカはミサカは正直に言ってみる!」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 22:52:47.41 ID:8DNNsh6o<>


「私はお前たちを引き受けたじゃんよ。――――私たちは家族じゃん。
聞かないわけにはいかないよ」


「……本当にいいの? 愛穂」


「私だって警備員じゃん、色々と見てきた。危険なんて、今更じゃん?」


「……そォかよ。オマエも聞くか?」

「――――ふむ。僕は患者の事情にはあまり首を突っ込まないからね、
先に彼女の元に行っている事にするよ?」

「わかった。――――アイツを、頼む」


 頭を下げる彼にカエル顔の医者は無言で頷くと、病室にノックし入っていった。
 それを確認した後、彼は語り始めた。


 あの忌々しい実験と、その末路を―――





<> あぁ、間違えた……<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 22:54:56.82 ID:8DNNsh6o<>



 天使のように笑う打ち止めに、一方通行も頬を緩める。
 そんな彼らの姿は、黄泉川の守りたい世界を確かに感じさせて。


 彼らを引き受けると言った時に、すでに黄泉川の心は決まっていたのだ。
 それなのに、見ないふりをしてきた。
 隠し事の多い芳川に、甘えていたのかもしれない。


「私はお前たちを引き受けたじゃんよ。――――私たちは家族じゃん。
聞かないわけにはいかないよ」


「……本当にいいの? 愛穂」

「私だって警備員じゃん、色々と見てきた。危険なんて、今更じゃん?」

「……そォかよ。オマエも聞くか?」


「――――ふむ。僕は患者の事情にはあまり首を突っ込まないからね、
先に彼女の元に行っている事にするよ?」

「わかった。――――アイツを、頼む」


 頭を下げる彼にカエル顔の医者は無言で頷くと、病室にノックし入っていった。
 それを確認した後、彼は語り始めた。



 あの忌々しい実験と、その末路を―――





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:21:15.13 ID:8DNNsh6o<>…………








「―――とまァ、大筋はこンなところだ」

「少しあなたは自虐的すぎるかも、ってミサカはミサカは説明を総括してみる」

「うるせェ」

「…………そ、れは」


 黄泉川は、明るく話すこの二人が信じられなかった。
 今までの二人の関係も、見えなくなりそうだった。
 それでも、目の前の二人だけを、見る。


「オマエがこれを聞いて、どォ考えよォと自由だぜ?
出て行けって言うならいつだって出て行ってやる。
コイツだってそのぐらいの覚悟はあるはず……だよな?」

「うん! ミサカはあなたと一緒ならどこでも生きていけるよ、
ってミサカはミサカはちょっとさみしいのを我慢してみたり」

「愛穂……」


 芳川は不安そうだが、一方通行の顔に翳りはない。
 自分の罪を自白してもなお明るく振舞えるのは、
 黄泉川への絶対的な信頼があるからなのだろう。





(そして過去を、受け入れている、っていうことか――――)



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:26:05.78 ID:8DNNsh6o<>


 彼女が話を聞き、最初に抱いた感情は、怒りだった。
 子供たちが好き勝手に作られ、子供へ好き勝手に罪を押し付ける。
 学園都市へのぶつけようのないモノ。無力感だけがつのる。


 そしてもう一つの抱いた感情が、喜びだ。


 打ち止めの身の上はおおよそ推測できる。
 クローンの都市伝説、二人目の御坂美琴、御坂美琴とそっくりな外見。
 それらを結びつければ、彼女でも見当はつく。
 それでも、学園都市超能力者第一位である一方通行との関係性については、
 全く分からなかったのだ。
 芳川たちも、そのことに触れることはなく。


 そして彼は、帰ってきて早々、彼女に教えてくれたのだ。
 もし自分だったら、いくら親しくなろうとも、
 いや親しくなればなるほど打ち明けられないだろうと、彼女は思う。
 それほどの、罪だ。

 何せクローンとはいえ、一万人以上の人間を殺害している。
 それは、普通の人間なら耐えられないほどのもので。

 その過去を、彼は受け入れている。
 それも彼の精神が異常をきたしているということではなく、
 押し潰されそうな罪悪感の中で、贖罪の途を探していて。


(本当に、強くなったじゃん)


 孤独に戦う強さ、ではなく、仲間と共に戦う強さを、今の彼は持っていた。
 それは、好意を向けることを恐れていないその笑顔が教えている。
 ココに戻ってきたということも、その証し。


(自分で暗闇から這い上がることが、出来たじゃん)


 引き上げてやると、黄泉川はそう言った。
 しかし彼は、自分で這い上がってきた。
 何があったか知らないが、
 それでも彼女は、自分の役目が無くなったとは思わない。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:28:48.20 ID:8DNNsh6o<>



 彼女のすべきことは、軽蔑でも、同情でも、委縮でも、恐怖でも、忌避でもなく、
 ――――受容しか、有り得ない。




 いや、受容してやりたいのだ。
 黄泉川愛穂は、一方通行の家族として、生きていきたいのだ。
 彼女は、心の底から、そう思った。





「私はお前を絶対に諦めない、って言ったじゃん。
それは、これからもずっと支えてやるってことだからさ。年上に甘えて欲しいじゃん」


「そォか――――ありがとォな、黄泉川。俺もオマエをずっと守り続けると約束するぜ」


 彼が、彼女に真正面から感謝の気持ちを示したのは、初めてかもしれない。
 彼女が自分の想いをぶつけると、彼はそれに真剣な、それでいて自信満々な顔で応えて。
 どこまでも頼りになるような、身を任せたくなるような――――








「ってやば……っ!」

「あァ?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:29:49.26 ID:8DNNsh6o<>



 彼女のすべきことは、軽蔑でも、同情でも、委縮でも、恐怖でも、忌避でもなく、
 ――――受容しか、有り得ない。




 いや、受容してやりたいのだ。
 黄泉川愛穂は、一方通行の家族として、生きていきたいのだ。
 彼女は、心の底から、そう思った。





「私はお前を絶対に諦めない、って言ったじゃん。
それは、これからもずっと支えてやるってことだからさ。年上に甘えて欲しいじゃん」


「そォか――――ありがとォな、黄泉川。俺もオマエをずっと守り続けると約束するぜ」


 彼が、彼女に真正面から感謝の気持ちを示したのは、初めてかもしれない。
 彼女が自分の想いをぶつけると、彼はそれに真剣な、それでいて自信満々な顔で応えて。
 どこまでも頼りになるような、身を任せたくなるような――――








「ってやば……っ!」

「あァ?」


<> うわ、二回投稿しちまった……<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:33:13.68 ID:8DNNsh6o<>



 いつの間にか二人で見つめあう、そんな危険な雰囲気になっていた。
 とっさに黄泉川は顔をそむける。身体が火照るのを彼女は感じていた。
 事実、彼女の顔は真っ赤である。


(ちょっと前までは男か女かよくわからなかったくせに……っ)


 裸を見られても恥ずかしがらなかった黄泉川が、羞恥に身を悶えていた。


 改めて見ると、
 今の一方通行はホルモンバランスが整い始め性別がちゃんと定まってきている。
 身長が少し伸び、鍛えているのか少し体格も良くなってきていて、
 顔つきもずいぶん男らしくなっていた。
 外を歩いていれば女性が振り向くであろう、いわゆるイイ男になっていたのだ。
 男日照りの彼女は、彼に男を感じざるを得なかった。

 先ほどの言葉は、まるでプロポーズのよう。
 そう考えると、黄泉川は彼の顔を見ることが出来ない。
 その態度が、一方通行をいらつかせる。


「オィコラ、何がやばいってェ? 俺が頼りにならねェとでも言う気か?」

「……〜〜〜〜〜っ!!」


 いつの間に迫っていたのか、彼に顎を引かれる。
 彼女の目の前には、一方通行の顔。
 無意識にも、甘い声が囁かれる






「学園都市超能力者第一位の力を、その身体に教え込ンでやろォか?」

「…………あっ………ん」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/24(クリスマスイブ) 23:35:32.67 ID:8DNNsh6o<>



「「ストップ!」」


 完全に危険水域まで到達したところで、彼の肩が引かれた。
 おいてけぼりにされた二人が、半眼で睨んでいる。


「……ンだよオマエら」

「やり過ぎだよ! ってミサカはミサカはプリプリしてみたりっ」

「あなたたちは話の途中なのに、勝手に自分たちの世界に浸っちゃって……」

「そ、そんな大したものじゃないじゃん! なぁ一方通行ぁ!?」


 黄泉川としては、回らない頭でなんとかフォローしようとするが意味不明で、
 肝心の一方通行は完全に他人事。


「話の続きか、そォだったな」


 なんて、普通に話しだすもんだから、黄泉川は気が抜けたように座り込んだ。
 そして拗ねる。膝にのの字を書き始めた。


「…………ブツブツ…………」

「……ハァ、キミのせいよ」

「ったく面倒くせェなァ……」

「あなたデリカシーなさすぎかも、ってミサカはミサカは溜息混じりに言ってみたり」




 そんな、何故かのどかな、産婦人科病室前だった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(土) 00:52:30.08 ID:GcS1DpIo<>…………






 絶対能力進化実験。



 ソレは結局成功することはなく、研究者たちの悲願である絶対能力者の誕生は、
 またもや先送りとなる。


 このとき、同時に彼らは悟る。
 一方通行も一人の人間であり、死ぬ可能性があるということを。
 一人の無能力者により、証明は開始されたのだ。

 事実、八月三十一日の事件では、一方通行は死んでも何らおかしくはなかった。
 絶対能力者にこだわる研究者は、心臓が止まりそうになっただろう。
 何せ樹形図の設計者によって、絶対能力者になれる人間は一方通行のみである、
 と算出されているのだ。
 彼が[ピーーー]ば悲願の達成は難しくなる、しかし弱体化した彼はいつ死んでもおかしくない。

 そこで研究者たちは――――


「――――絶対能力者になり得る人材を作り出そう、と考えたわけ」

「なるほどな、倫理をドブに捨てたクソどもらしい発想だ」

「クローンはオリジナル以上のレベルにはなり得ないって話じゃん……?」

「だからこその子供だね、ってミサカはミサカは自分で考えて嫌な気分になったり……」

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫!」


 微笑ましい兄妹のようなやり取りを眺めつつ、芳川は思考を巡らせる。


 今、絶対能力者になれる人間がいなくても、
 未来の子供ならば、進化の可能性を秘めているのではないか?
 しかも七人の超能力者の上位の者たちの遺伝子を使い、
 学園都市の科学技術の粋を用いれば、可能性はずっと上がる。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(土) 00:55:39.12 ID:GcS1DpIo<>

「彼女が無能力者なのは――――」

「おそらくだけど、胎児への影響を懸念してじゃないかしら。
……言っておくけど、これらは全て私の推測にすぎないわよ?」

「だが筋は通ってンだろ。
アイツらの絶対能力への執着を考えれば、
そンな計画が秘密裏に進められていても不思議じゃァねェよなァ」

「でもでも、なんでこんな時期までその計画は引き延ばしになったの?
ってミサカはミサカは疑問に思ったり」

「確かに、研究者なら思いついたら即実行ってイメージがあるじゃん」

「何か問題でもあったのかな、ってミサカはミサカは勘ぐってみる」

「「………」」


打ち止めと黄泉川は首をひねるが、他の二人はおおよそ見当がついているようだ。
一方通行はイラつきを隠さない。


「……一方通行の能力が制限されたからよ」

「あっ! ……え?」

「彼も細胞程度は研究のために提出していただろうけど、
――――精子までは、協力していなかったんでしょう?」

「チィ……人が寝ているうちに好き勝手しやがってェ」

「「なっ……」」


打ち止めはともかく、黄泉川まで顔が真っ赤になる。
先ほどの接近が、彼女を女にしてしまったのだろうか。


一方通行の精子ともなればレア度で言えばトップクラス、
かなりの高額になることは間違いないだろう。
病院の看護師が協力に応じる可能性は、高い。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(土) 00:59:14.32 ID:GcS1DpIo<>


「細胞からも、理論上生み出すことは可能なはずだけど……」

「クローンがあの結果だからなァ、念を押したンだろォ。
クソッ、俺のモノ盗ンだ奴ァただじゃすまさねェぞ!」

「ま、まぁ私のほうで警備員に話しとくじゃん。は、はは……」


 本来性にあけすけなはずの友人が動揺する様に、
 芳川は一つ、ため息を零す。


 するとそのため息に呼ばれたかのように、病室からカエル顔の医者が出てきた。
 診察が終わったらしい。


「遅かったわね」

「ああ、検査も一緒に済ませてしまったからね?」

「……どォだった」

「母体も胎児も健康だよ? でも、確かに彼女は御坂君のクローンだったが、
いくつか人工的な相違点が見られるんだね?」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(土) 01:01:18.69 ID:GcS1DpIo<>


「――――どういうこと?」

「彼女は母体としてどこまでも完璧に調整されている、ということだよ。
不自然過ぎるほどに、ね。彼女はどういった女性なんだい?」

「アイツは、ミサカベストだ」

「番外個体、――――いや、最適母体、か」

「詳しいことは芳川たちに聞け、俺はアイツと二人で話すことがあンだよ」

「……わかったわ。私たちはどこか話せる場所に行きましょう」

「そう、だな。あの娘はお前を待ってるじゃん。行ってあげな」

「……彼女の心は今酷くナーバスだ。くれぐれも慎重にね?」

「あの娘を癒せるのはあなただけだよ、
ってミサカはミサカは大好きなあなたにエネルギー注入!」

「……あァ、頃合になったら連絡する」


 一方通行は抱きついてくる打ち止めの肩を優しく叩くと、
 その場にいる人々を安心させるように、力強く笑う。





 杖をつき病室に向かう彼の背中は、誰よりも頼りになる、男の背中だった。







<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 02:00:13.84 ID:GcS1DpIo<>――――








 ミサカベストは、病室の窓から外を眺めていた。
 静かな時間と対称的に、何かを待つような、探すようなそんな戸惑いが、
 整った横顔に感じられる。

 まるで迷子のようにも見えるし、深窓のお姫様にも見えた。
 そう思わせるのは彼女の純粋さ故か、儚さ故か、
 それとも病院という場所が演出しているのか。



 閉じた世界に、ノックの音が響き渡る。
 予想していたからか、彼女は落ち着いて応えることが出来た。
 そして入ってきたのは――


「よォ」

「……やっほう」


 彼女が今、誰よりも会いづらくて、誰よりも会いたかった人。
 一方通行は椅子に腰かけ、彼女に静かな口調で語りかける。


「どォだ、調子は」

「うん、今は全然平気。あなたこそ大丈夫なの? たくさん血が出てた気がするよ」

「俺を誰だと思ってンだ? この程度の怪我でどォこォなるほどヤワじゃァねェンだよ」

「……そっか」

「……そォだ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:03:51.54 ID:GcS1DpIo<>

 自然なようで、不自然な会話。


 彼女はうつむき、彼は外を見る。
 少しだけ話すと、居心地の悪い静けさだけが残り。
 交わることのない視線、時間だけが過ぎていく。


「……悪かったね」

「……ン?」


 唐突に、彼女は謝った。


「あなたに、何も言ってなかった。言えることはあったはずなのに、ね」

「胎児のことか? ――――それとも、計画のことか?」

「何もかも、だよ。あーあ、こんなことになるつもりはなかったんだけどなぁ」

「……だから無茶すンなっつったろォが」

「そう、だね。ミサカは、気づかないうちに過剰な生存本能を与えられていたみたい。
本能に逆らったから、リミッターが働いたんだね」

「胎児を守るため、か」

「そ。実際、ミサカもあまり知らないんだけど、
間違いないのは、ミサカベストがこの子を産むためだけに生み出されたっていうこと」


彼女はまるで他人事のように淡々と話すものの、
自分の子供に向ける眼差しは暖かかった。
改めて、彼女が母親であることを彼は認識する。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:10:09.65 ID:GcS1DpIo<>




「そして、――――『最高傑作(マスターピース)』」

「……あァ」

「それが、この子の通称、いや名前だってこと。
この子は、学園都市の科学技術を集結させて造り出された、
まさしく学園都市の最高傑作だよ」

「…………」


「だから勘違いしないでね。
いくら遺伝子データが参考になっているからって、あなたの子供って訳じゃない。
誰ともわからない男との、子供だよ」


 彼女は冷たく言い切る。
 一方通行を突き放すように。
 まるでこの二日間を、嘘にするかのように。


「いや、研究者たちに好き放題弄り回された結果産まれたんだから、あいつらの子供かな」

「……めろ」

「二日間も、ちょっとした遊びに付き合ってくれてありがとう。少しだけ楽しかった。
終わりはよくなかったけど」

「……やめろ」

「あの服は、貰うね。この指輪も……うん、あり、がとう」

「やめろっ――――」

「っ…………」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:15:35.65 ID:GcS1DpIo<>

 心を抉るように自嘲する彼女を、
 眼の光を亡くした彼女を、これ以上見ていられない。



 気がつくと、一方通行は彼女を抱き締めていた。



「なん、で……穢いよ? 離してよ……」

「穢くなンてねェよ」

「離して……ごめんなさい。もう……終わりなんだよ……?」

「終わらせない、終わらせてたまるか!
こンなクソみたいな終わらせ方、誰も望んじゃいねェンだよッ!!」


 彼女は、泣くことを知らず、か細い声には、虚ろな瞳には、何も存在しない。
 まるで人形。
 魂を持たない、ただの人形だった。



 彼女はきっと、一方通行への愛だけを頼りに生きてきた。
 つらい実験も、一方通行を想い、耐えてきたのだ。


 そんな彼女が今、その想いを捨てようとしている。
 すぐに訪れるであろう終わりを、演出するために――


「ミサカの義務は、この作品を学園都市に提出することなの。
ミサカに自由なんて、ない。だから、だから……」

「関係ねェ」



見捨てられない。
彼女を離すことは、彼にはもう出来なかった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:18:32.89 ID:GcS1DpIo<>

「……オマエは、俺のもンだろォが。そンでもって、俺たちは家族だろォが」

「は、はは、そんなことも言ってた、かな」

「オマエが、学園都市の最高傑作を腹に宿していることの意味は、
俺も色ンな実験を引き受けてきたからよォく知ってンだ」


 学園都市の暗部に浸ってきた彼にとって、その計画の重要性も、逆らう危険性も、
 ――――彼女の末路も、容易に想像出来る。
 それでも彼は、自分を救おうとしてくれた人たちのことを思い出す。


「どンだけオマエが暗く深い世界にいよォが、俺は絶対にオマエを諦めない。
そこから必ずオマエを引きずりあげてやる」


 似合わない真似だと思う。
 それでも、――――彼はヒーローに憧れた。
 救われた者として、今度は彼が救う番だったのだ。


「俺が描く未来には、笑顔のオマエが、ソイツを抱いているンだ。
――――俺たちのそばで、な。……オマエはどォだ?」


「――ミサカ、は」


「俺たちに迷惑とか、そンなの関係ねェンだ。
オマエの描きたい未来を、教えてくれ」




すぐ近くにある、顔と顔。
見つめあう、目と目。





――――瓦解する、壁。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:20:34.12 ID:GcS1DpIo<>






「……ミサカは、あなたと、ダーリンと一緒の未来じゃなきゃ、やだ」

「……あァ」

「ダーリンと一緒じゃない未来なんて、描きたくないよっ!
……ご、めんなさい、わがままで、ごめん」

「……ワガママなンかじゃねェよ。何としてでも実現させてやる、
――――だから、泣くンじゃねェ」


 彼女は、泣いていた。
 彼に頼ってばかりの自分が、ふがいない。
 それでも彼の温もりが、嬉しくて、優しくて。


「ヒグッ グスッ ……ゴメン、ゴメンね」

「謝ンなよ、――――家族だから、当然だろォ」

「……うん、うん!」



 腕の中で泣く彼女が、愛おしい。
 ヒーローになるために、これから来る困難に立ち向かうために、
 この想いだけで、彼には十分だったのだ。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:24:37.14 ID:GcS1DpIo<>…………







「そォ言えば……」

「え?」


 まだ少し赤い目をしたミサカベストが、彼を見つめる。
 名残惜しげな彼女からゆっくり離れると、壁によりかかり切り出した。


「さっきは、助かった。……オマエが来なくても、なンとかなったがな」

「ふふ、当然のことをしただけだよ、家族だもんっ!」

「……そォかよ」


 笑顔の彼女を見て先ほどの自分を思い出したのか、彼は少し恥ずかしそうに頬を掻き、
 誤魔化すように話題を変える。


「でも、なンでオマエがあそこまできたンだ?
……それと、あの女は誰だ。確か、ミサカワーストとか言ったか」

「…………」

「……第三次製造計画の個体か?」

「……うん」


 ミサカベストは、少し考えてから答える。
 それはためらっている、というより戸惑っているようだった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:27:27.91 ID:GcS1DpIo<>

「なんとなく、なんとなくだけど、ダーリンがコーヒーを買いに出掛けた時、
ミサカならこのタイミングで襲うだろうって思ったの。
そんな意味不明な、理解不能な悪寒がよぎったんだよ」

「無意識に刷り込まれた可能性はあるな……」

「うん……」


 だからこそ、いてもたってもいられず彼女は飛び出したのだ。
 自分では何もできないかもしれない。それでも。


「あの娘は大能力者である軍用個体、ミサカベストになれなかった失敗作、
対一方通行専用兵器である番外個体(ミサカワースト)だよ」

「なるほど、アイツがその一体ってワケか。
まさか失敗作が一体ってこたァねェだろ、何体いる?」

「ミサカワースト二百三十体のうち一体の確率でミサカベストは発現する、
って研究者は言ってたと思う。
ミサカベストの予備を考えても、二百体以上いるんじゃないかな」

「そォかよ……何で俺はそいつらに狙われてンだろォな……
第三次製造計画は結局続いてたってオチですかァあ?」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:30:03.53 ID:GcS1DpIo<>


 あのミサカワーストが二百体以上自分を狙っているかもしれないという現実。
 二百三十という、学園都市人口数の一万分の一の数字に何らかの意味を感じつつも、
 彼は正直降参したい気分だった。


「第三次製造計画は間違いなく中止になったはずだから、
理由は……正直よくわからないけど、何か対策は考えた方がいいよ。
昨晩だって、ほとんど無抵抗だったじゃない」


「解ってンだよ、ンなことは。
でも、どォしてもあの顔を相手にすると敵意が失せるぜェ。
……オマエに会わなければ、もっと逃げ回る気になれたかもな」


「……それどういう意味?」

「オマエになら殺されてもいいってことだよ、言わせンな恥ずかしい」

「うっ……それは嬉しいけど、死んじゃダメだよっ!」

「ハイハイわかってマス」

「本当にわかってるの!? 対策ちゃんととってよ!」

「当たり前だろォが、俺はまだくたばれねェ」


真剣に怒っているはずの彼女だが、彼には伝わってないようだ。
簡単にあしらわれてしまう。



「……いまいち信じられないなぁ。
――――じゃあ、ミサカたちへの愛に誓ってよ!」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:31:53.77 ID:GcS1DpIo<>




「――――はァ?」


 突然の意味不明な話に、目を丸くする一方通行。
 なぜそんな話になるのかサッパリわからない彼は、これが噂のスイーツ(笑)脳か、
 と理解するしかなかった。あながち間違いでもない……のか?


「だって、ミサカワーストに殺されても仕方がないってことは、
死んでほしくないって願うミサカたちとミサカワーストを秤にかけて
あっちが傾くってことだよね?」

「ンなこたァねェよ……」

「――そう言うなら、キスで示してよ」

「はァ!? 本当にナニ言ってるンですかァ? ……意味わかンねェ」

「やっぱりミサカは穢れてるから嫌なんだね……ううっ」


 泣いているように見えつつも、横目でチラッチラ彼を物欲しそうに見ている。
 明らかな嘘泣きだが、彼には放置も出来ない。


「だァーーっ!! ンなわけねェだろォがっ!」

「口だけじゃわからないよ、行動で示して……ん」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:34:22.95 ID:GcS1DpIo<>


 彼女は目を閉じ、唇を示す。
 悪ふざけではなく、本気のようだ。
 強気な彼女だが、不安が彼まで伝わってくる。
 ――――痛いほどに。


(――ったく、不器用すぎンだろォ)


 同時に、自分ほどではないか、とも彼は思った。
 積極的な彼女に、少しだけ惹かれている自分には気づいていたのだ。
 応えてもいいのではないか? うちなる彼がささやく。
 しかし、微妙な距離が、どうしても踏み出せない。


 なんだかんだあの男のことを言えないな、なんて自嘲する。


(愛なンざよくわからねェが……)


それでも、彼女の想いを恐れたりは、したくなかったのだ。


「……オマエ一人だけを見ることは出来ねェ」

「ん……いいよ」



 ささやくのは、残酷な言葉。
 そして二人は、誓いの口づけを交わした。
 温度差を、唇に残して。
 それは、二人の距離を表していたのかもしれない。







<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:36:49.35 ID:Tbhb4IDO<>●REC<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:37:35.28 ID:GcS1DpIo<>――――








「……申し訳ございませんでした」



 ――――ミサカワーストは、ミッションに失敗した。


 難易度はイージー、もう少し時間があればクリア出来た自信があるため、
 彼女にも不満がないわけではない。
 しかし、決して目の前のマスターに見せることはなく。


「なに、あれでいい。大事にしても厄介だ。それに最低限の確認は出来た。
アレはやはりお前の前では無力でしかない」


 玉座で頬づえをつく彼女のマスターは、何がおかしいのかくつくつと嗤う。


「正直アレの回収を依頼されたときは最悪な気分だったが……条件がとても魅力的だ」


 ミサカワーストとしては、彼の話にさほど興味がない。
 ただマスターの機嫌が良さそうなのは、喜ぶべきことだった。しかし、


「……あの男の言うことを、信じるのですか?」


 いつもの過剰なほど慎重なこの男にしては、
 彼女から見ていささか軽率な判断のように思えるのだろう。


「確かに、私には第一位を押さえられないと高をくくっての好条件かもしれんね。
だが、私も色々と保険をかけてあるから、彼も早々に裏切れまいよ。
それに彼にとっても『グループ』の存在は邪魔になってきた頃合いだ。
あんな死に損ないども、脳を回収できれば文句は言わないだろう」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:42:25.47 ID:GcS1DpIo<>


「わざわざあんな災いの塊にまた近づくことになろうとは、な。
復讐なぞ考えていなかったが、ついでに済ませてしまうか。唯一の心残りだ」


 口ではそういうものの、彼の瞳の奥には怪しく歪んだ光を宿していて。
 復讐を忘れた日は、一日たりともなかったのだ。
 押し殺していただけ、無理やり自分を納得させていた、だけ。


「この後はどうなさいますか?」


 マスターの負の情念が彼女にも伝わってくる。
 チリチリと、彼女の中のナニかが、焦げ付く音がした。


「ふむ、私は少々せっかちでね、いい加減この状態に飽き飽きしてきたところだ。
こういうことは、時間をかけることによって破綻し得るのだよ。
準備も整ったし、そろそろ決着をつけよう」


 男は、過去に一度命を落としている。
 今も、生きているとは言い難い。
 現世に蘇るために、彼は忌々しい『グループ』を滅ぼさなければならないのだ。
 その先にこそ精神的、肉体的な絶対的『安泰』がある。




「さて、今度は私が攻める番だ。せいぜい楽しませてくれよ、一方通行」




 男は、禍々しい笑みを浮かべる。
 そこにあるのは、恐ろしいまでの狂気。




 再び、戦いが始まろうとしていた。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 02:49:01.19 ID:GcS1DpIo<>



 と、いうわけで、一旦ここで退きます。


 ええ、意外と精神的にきつかったみたいですね。
 間違いだらけだし、筆もイマイチだし……

 まぁ、寝て起きれば治っているでしょう。
 たとえ誰もいなくとも、私は戦い続けようと思います。


 それでは、また昼にでも会いましょう!


<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:54:00.78 ID:L9zajV.0<>やばい
俺得展開すぎて生きる希望の漲りがやばい<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 02:56:45.07 ID:f6Lta0c0<>同じく生きる希望がグングン湧いてきて明日がやばい。<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 02:59:27.28 ID:GcS1DpIo<> 
 あと、

>批判ともとれる言葉に、彼は気にした風でもなく答える。
>人形に怒鳴り散らしたところで、意味はないのだから。
>彼にとってこの会話は、単なる独り言でしかない。


 こちらが、>>283の最初から抜け落ちていました。
 度重なる失敗を、謹んで謝罪したいと思います。



 orz


 >>285
 こんな夜まで付き合って下さってありがとう!
 貴方のおかげで、今日も頑張って書けそうです。
 ご希望の展開になるかはわかりませんが、
 もし宜しければ、またお付き合い下さい。




<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 03:19:02.45 ID:8ARrV7M0<>>>1 乙
木原くン?
まさかの天井か!?<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 04:38:15.26 ID:N.nC4wUo<>聖夜に敵ボス登場だと?やりやがる

おつおつ<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 05:58:34.80 ID:ErcbLwAO<>お塩先生じゃね<> MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 08:12:43.56 ID:YX1s9ugo<>乙です<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 20:36:48.23 ID:GcS1DpIo<>
 
 こんにちわ。

 遅くなりました。

 では投下します。

 途中で風呂入るのでゆるり投稿になります。

 よろしくお願いします。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:38:26.03 ID:GcS1DpIo<>――――








 退院手続きを行う黄泉川を待つのは、
 一方通行と打ち止めと芳川の三人である。
 もうすでに夕刻、退院するにしても朝には十分回復していた一方通行だが――


「チィ、もォこンな時間になっちまった」

「それは仕方がないわね、あなたは少し休んだほうがいいもの。
どうせ家に帰っても寝るだけだったんでしょう?」

「ンなことねェよ、ってオマエはいつまで黙ってンだ?」

「…………」


 結局午後いっぱい眠っていた彼は、時間を無駄にした気分で不満タラタラだが、
 打ち止めは芳川の後ろに隠れこれでもかっというほど赤面していた。
 一方通行が起きてから、ずっとこの調子である。


「……あなたのせいじゃない? あれはさすがに強引だったわよ。
まあ、煽った私たちにもちょっとだけ責任があるかもしれないけれど」

「……オマエは本当に自由だよな」

「甘い私は否定しないわ」

「いやしろよ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:41:19.25 ID:GcS1DpIo<>




 昼前の話。

 ミサカベストの病室に、カエル顔の医者とお茶していた三名が入ると、
 そこには不思議な空気が漂っていた。
 芳川が問いただすと、何やら面白そうなことになっている様子である。
 本人たちは至極真面目のようだったが、芳川としては楽しくて仕方がないので、
 さっそく煽る。
 彼女は、ミサカベストだけ不公平だと訴え始めたのである。
 それに便乗したのは、意外にもミサカベストだった。


『あなたは言ったよね、私たちの愛に誓うって。“私たち”、だよ』

『それオマエが言っただけだろ』

『そうなると、少なくとも打ち止めには愛を示さないとダメね。次点で愛穂かしら』

『聞けやっ!』

『な、なに言ってるじゃん! 私はすでにこんな歳で、えーと』

『ちょ、ちょっとやっぱり恥ずかしいかな
ってミサカはミサカはちょこっと羨ましくも思ってみたり』


 そんな混乱する二人も、なんだかんだ期待しているらしい。
 一方通行の唇をガン見である。


『ダーリンは前、ミサカたちを命懸けで守ってくれるって言ったよね。
でもその命を大事にしない。だったらミサカたちを大事にしていないのと一緒だよ。
愛が足りないんじゃないかな? かな?』

『あなた口だけは一人前ね。
約束するだけで許されるのは、今どき総理大臣ぐらいのものよ。
いい加減行動で示してみたら?』

『……好き勝手言ってくれるなァオマエら』



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:43:46.43 ID:GcS1DpIo<>

 色々な意味で好き放題言う二人に付き合うのも馬鹿らしいのだが、
 見た目に反して真面目な彼は、真摯に受け止める紳士だった。


(接吻程度は家族でもやるだろォから、別に気にする必要はねェ……のか?)


 そして彼は、そういったことに疎いことを自覚している。
 つまり、周りの信頼している人たちの言うことを否定出来るほど、
 自分の常識に自信があるわけでもなかったのだ。
 だからこそ、いじられやすいのだが。


『オィ』

『ひゃっ』


 意味不明な返事したのは、打ち止めである。
 そう言えば、彼女に好意を示すことのできていない自分に、彼は気づく。
 彼女なくして自分はあり得ないはずなのに、彼女を恐れている。
 一緒にいる理由を、贖罪という言葉に逃げているのかもしれない。


『俺は、……あァー…』

『な、なに? ってミサカはミサカは先を促してみたり』


 素直になれない自分、変わりたいと願う彼は、必死だった。
 それでも、上手く言葉が出ない。芳川のあなたは口だけだ、という言葉が引っ掛かる。
 何を言っても伝わらないような気がした。


『あァーもォ面倒臭ェ!』

『えっ?』


 打ち止めの肩に手を乗せ、彼は真正面から向き合う。
 考えてみれば、彼が彼女とこうやって真剣に視線を交わすのは初めてかもしれない。



『……愛してるぜ、打ち止め』


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:49:56.95 ID:GcS1DpIo<>



 一言に凝縮して想いを伝えると、一方通行には思いの外しっくりきた。
 これこそが、打ち止めにかける言葉だったのだと、彼としては納得する。



 失点を言うならば、他人からどう思われるかを考えなかったことだろう。



 言葉を発しない打ち止めの唇に彼はそっとキスをする。
 大切なものを優しく包み込むような、そんな口づけだった。


『さすがの私も赤面だわ……』

『うわ、うわ』

『じゃん、じゃん』


 ビデオを回す芳川でさえ顔が赤い。
 他の二人は推して知るべし、である。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:54:07.22 ID:GcS1DpIo<>

「まぁ結局、私たちはしてもらってないけどね」

「オマエは何故かカメラを回していたけどな。ったくどこからだして――」


 最後まで、言えなかった。彼は何が起こったのかわかっていない。
 目の前にある芳川の顔。


 ――――口に割って入ってくる、舌。


「――っ!?」

「んっ……ちゅ……んむ……」


 ぴちゃぴちゃと、
 淫靡な音が、狭い待合室に響き渡る。
 長い長い、大人のキス。


「――ふぅ、……あなたは自分を軽視しすぎよ。
私は、キミのいない世界なんて退屈なの、わかる?」

「――――チッ、オマエみてェなダメ女、俺が見張ってなきゃ危なっかしいぜ」

「言うじゃないの……――――罪があるのは、何もキミだけじゃない。
一緒に探していきましょう、私たちみたいな人間でも享受できるような、
そんな、幸せの形を」

「……あァ、そォだな」


 強引すぎるキス、睦言。それを呆然と見ていたのは――


「ミ、ミサカはミサカは……」

「じゃん……」


 先ほどから同室にいた打ち止めと、手続きを終えて帰ってきた黄泉川だった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 20:59:18.82 ID:GcS1DpIo<>…………









 ぎこちない雰囲気のまま、歩き出した四人。
 人の少ない受付を過ぎ病院の玄関までくると、
 不意に、カツッと杖をつく音が止まる。


「……どうしたじゃん?」

「――――あァ、チィと先に帰っててくンねェか?」

「? 何か忘れたの? ってミサカはミサカはあくまでも自然に問いかけてみる」


 前を行く三人が振り返ると、一方通行が億劫そうに首をなでていた。


「クソだよ」

「え?」

「クソに行きてェから先に行けっつってンだよ」

「」

「……良かったら待ちましょうか?」

「待たれてたまるか、先帰れ」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:07:26.94 ID:GcS1DpIo<>


 シッシッと手で追い払う彼に、芳川は肩をすくめると歩き出してしまった。


「ち、ちょっと桔梗! ……じゃあ気をつけて帰るじゃんよっ! 食事作っとくじゃん」

「あァ」

「また怪我しないようにね! ってミサカはミサカは心配で仕方がなかったり」

「あァ。オマエこそ気ィ付けろ、黄泉川たちから離れるンじゃねェぞ」

「うん!」



 名残惜しそうに手を振る打ち止めの姿が見えなくなると、
 彼はトイレの方に歩き出す。




 そして受付をぬけ人気のないトイレを通りすぎて、



 
 ――唐突に、その姿をロスト。
 だが正確には、消えたように見える、と言うべきだろう。
 そのスピード、ベクトル操作を用いたクイックネスは視認すら許さない。





 瞬時に視界から消えた彼、追おうとする影は完全に無防備だった。




「よォ、クソったれ」

「……」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:13:12.98 ID:GcS1DpIo<>






 その影は動じることなく、声の方へ振り返る。
 それは、見たことのあるような男。


「……驚いたな。これでも暗殺にはそれなりに自信があるのだが」

「馬鹿か、あンなのは暗殺じゃァねェよハゲ。本気で[ピーーー]気ねェだろオマエ」

「……確かに、目的は違うな。お前を[ピーーー]ことになんの興味もない。
復讐なんてものにまで付き合うほど、感傷に浸る気はないからな」

「ンで、潮岸の犬が今更なンの用なンですかァあ?
確か、杉谷とかいったか」


 その男は、過去に一方通行と殺しあった、甲賀の末裔である杉谷だった。
 一方通行の悪によって生き延びた一人。
 こういう人間が訪れる場合逆上した復讐者になってくると彼は思っていたが、
 どうやらそういうわけでもないらしい。


「もうすでに潮岸の犬というわけじゃないが、覚えて貰っているとは光栄だ。
ちょっとした野暮用でここに来ていたが、見た顔があったからな。
挨拶ぐらいはしておくのが礼儀だろう」

「……挨拶、ね。挨拶で俺をつけ回していたのかァ?
――――今度こそ本当に死にてェみたいだな」

「カリカリするな。お前はもう少し余裕をもったほうがいい。
その方が、色々と捗るぞ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:19:55.37 ID:GcS1DpIo<>

 こんなにしゃべる男だったのか、と少々ウンザリするものの、
 この男がここにいる理由には不吉さしか感じない。
 いっそ拷問でもしてはかせようか、と考えているとそれがわかったのか、


「まあ待て。
俺はただお前に忠告とお願いをしにきただけだ、殺されにきた訳じゃない」

「忠告もいらねェしお願いも聞く気がねェがな」

「忠告ぐらいは聞いておけ――――お前の大切なものに関することだ」


 ピクッ、と一方通行のこめかみが動く。
 その反応に満足したのか、杉谷は少し頬を緩めた。


「悪にはその確固たる理由が必要、というわけだな。
手助けをする気はなかったが、お前ほどの悪が簡単に散られても困る」

「……さっさと忠告とやらを言え」

「せっかちだな。――――お前、今自分が狙われていることに気づいているか」

「――――ハッ、ンなこと気づいているに決まっているだろォが」

「だろうな。だったらわかるだろう? お前の大切なものの危険性を」

「………」


当然だった。
彼にはわかりきったことだった。
それは常に命を狙われる彼にとっては決定事項と言ってもいい。
そうであっても、彼は逃げ回ることをやめたのだ。




「お前が大切なものの元に帰ってきたことを責めたいわけじゃない。
ただ覚悟しておけ――大切な人間が、自分のせいで死ぬという現実を」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:22:56.04 ID:GcS1DpIo<>


 これは、彼が学園都市最強であることの宿命、なのかもしれない。


 離れて守るか、近くで守るか、
 彼は近くで守ることを選択した。それだけのこと。


「……それが忠告、か?」

「そうだ。
お前は守りきれなかったことを悔いて、何をするかわかったものじゃあないからな」

「この俺が、自殺でもすると思ったのか?」

「そこまではしないだろうが、学園都市から消えるぐらいのことはするだろう」

「……何か問題あンのかよ」


 自殺はハナからする気がなかった彼だが、
 学園都市から去る可能性は否定できない。


「まあ色々と問題はありそうだが、結論からいうと俺が困るな」

「……オマエには関係ねェだろ」





「そこで俺のお願いだ。
俺は今、学園都市の犬として動いているが、いい加減嫌になってきたんだ。
お前雇ってくれ」


「――――はァ?」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:27:52.48 ID:GcS1DpIo<>


 全く意味がわからないという顔をする一方通行と、
 そして何故かため息をつく杉谷は、気にせずに続ける。


「俺が何故、学園都市の犬なんかしていると思う?
大怪我、失職、そこにつけこまれたからだ。
理由を突き詰めれば、お前以外いない」

「完全に言いがかりだな」

「お前のせいで俺は俺の正義のために生きられない。
……責任ぐらいとったらどうだ?
隣国じゃ、責任を取らなくてすむのは総理大臣ぐらいだと聴くぞ」

「……それ流行ってンのか?」


 今度は一方通行がため息をつく番だった。
 しかし言いがかりだろうと、杉谷の職を奪ったことは事実である。


「そもそも、なンの地位も権力も持たない俺に何を求めているンだ?」

「……俺はお前を高く買っているんだよ。
いつかお前は誰もが知るような強大な悪になるだろう、とな。
お前という悪のそばにいれば、俺は善になることが出来る。
――――いわゆる、青田買いだよ」

「そォかよ。オマエがそォ思うンならそォなンだろ、オマエン中ではな。
俺としてはそンな名誉欲しくもねェけど」



「ふん、――――お前もいい加減気づいているんじゃないか?
個としての最強なんてものには、全く意味がないことに」



「――――何?」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:32:57.11 ID:GcS1DpIo<>


 その言葉に、一方通行は少しだけ苛立った。
 彼がこだわる最強。否定されれば反論したくもなる。
 しかし考えてみれば、彼が真に欲していたのは――――


「絶対能力進化実験、その詳細をお前は知らなかった。
それは何故か、お前に力がなかったからだ。
――――地位や権力を手に入れろ一方通行。
そうすれば、見えなかったものが見えてくるぞ」

「…………」


 『グループ』として活動していた一方通行は、単なる駒にすぎなかった。
 昔はあまり不満にも思わなかったが、学園都市の強大な闇に直面していくうちに、
 彼は権力の必要性を強く認識していた。





 ピンッと、
 唐突に杉谷の手から放たれたものが、一方通行の手に収まる。
 それは、杉谷の名刺。


「もし気が変わったら連絡をくれ。俺は自分でいうのもなんだが役に立つぞ」

「……考えといてやるよ」

「気長に待つさ。せいぜい殺されてくれるなよ、――――本物の悪党を見せてみろ」

「抜かしてンじゃねェ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 21:35:20.95 ID:GcS1DpIo<>




 好き勝手に言う杉谷、
 だが一方通行としても、受け止めるべきものがあった。

 この卑怯な正義すら、糧にしなければならない。
 それが、何がなんでも大切な物を守る、ということだろう。




「守るべきものがある俺にとって、敗北は許されねェンだよ。
――――悪は滅びねェ、絶対に勝つ」





「……そうか」


杉谷は満足げに笑い、背を向けた。




「大切なものを見失うなよ、そうすれば負けるはずがないんだ。――――なぁ、最強」




置き台詞を残して、彼は去る。
廊下に残された静寂は、来るべき硝煙を匂わせて。
暗雲は近い。







<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 23:03:47.88 ID:GcS1DpIo<>――――








 コツ、コツと、アスファルトの響く音は、周りの騒音にかき消される。
 杖をつく一方通行の目に写る景色は、すっかりクリスマスムードに色付いた街並みだった。


 病院からの帰り道、すでに日は暮れども、イルミネーションに彩られた大通りは、
 昼間のように明るく騒がしい。
 道行く人々はいずれも幸せそうで、彼は少しだけ浮いていた。


 かといって路地裏を歩くのは、
 昨夜のことを考えるとあまりに軽率と言わざるを得ないだろう。
 怪我でもしたら、自殺志願者か単なる馬鹿だ。

 それでも彼が表通りを歩くことを躊躇ったのは、昨夜ミサカワーストに出会ったせいか。
 それとも、先ほどの杉谷との会話が原因だろうか。


 今の自分は酷く感傷的だな、なんて彼は自嘲の笑みを浮かべる。
 今更なのに。今更なはずなのに。
 ――――本当に、らしくなかった。


 そんな時、携帯電話の揺れる感触。揺れ続ける彼のポケットは着信を知らせている。
 急かすケータイの画面に写る文字は、意外と珍しい名前。


『――――、一方通行かっっ!?』


 耳に飛び込んでくる家族の声、彼は少しだけほっとしてしまう。
 対照的に電話口の声には焦りが混じっていて、息が荒い。
 どうやら走っているらしい。


「黄泉川か」

『黄泉川か、じゃない! こんな時間まで何してたじゃん!?』



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:08:20.61 ID:GcS1DpIo<>

 どうやら、彼女はご立腹のようだ。
 確かに、トイレにしては時間が経ちすぎている。
 病院内では携帯の電源を切っていたから、その間も何度か電話をしたのだろう。


「悪ィ、知り合いに会ってな」

『……はぁ、もういいじゃん。今どこにいる?』

「病院から近い公園だ。そばに噴水が見えるぜ」

『あそこか……、じゃあ噴水のそばで待ってなよ。すぐ行くじゃん』

「あァ、わかった」


 携帯が切れると、また周りの喧騒が戻ってきた。
 人知れず、笑みをこぼす一方通行。
 そんな彼を、一体誰が想像できただろうか。


(心配してもらうってのも、悪くねェな)


 いくら病人とはいえ、過保護かもしれない。
 それでも、彼には嬉しかったのだ。

 
 そして、彼は思う。
 自分はもしかしたら、寂しかったのだろうか? と。
 そんな感情、彼はほとんど感じたことがなかった。


(そォいや、ここンとこ一人で行動してねェなァ……そのせいか?)


 彼は弱くなってしまったのか。


 しかし、悪くない。
 こんな気持ちも、嫌いじゃなかったのだ。


 噴水の前は人が多くいたが、もう疎外感はない。
 夜空を見上げる彼は、立派な待ち人だった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:16:48.23 ID:GcS1DpIo<>



「一方通行っ!!」



 彼を呼ぶ黄泉川は、この寒空の中でもいつも通りジャージ姿。
 膝に手をのせ肩で荒い息をするものの、一方通行に向ける目は離さない。


 彼はゆっくりと黄泉川に顔を向けると、笑いかけた。
 ただでさえ赤かった彼女の顔が、真っ赤に染まる。


(こんな顔もできるの……?)


 流し目と、その後見せた艶やかな笑顔。
 ――――美しかった。非現実的ですらある。

 噴水の前の白い彼は、儚げにもかかわらず圧倒的な存在感。
 赤い瞳の前に黄泉川は、動くことすらためらわれ。



 恋人たちの集う幻想的なその場所で、二人はしばし見つめ合う。



「……走ってきたのか」


 先に口を開いたのは一方通行だった。


「……? その手に持っているのは」

「あ、あぁこれか。マフラー、桔梗から借りてきたじゃん」


 ぎこちなく、右手に持ったマフラーをかかげて見せる黄泉川。
 そして強引に息を整えた彼女は、一方通行の元へ歩み寄る。
 不思議そうな顔をする彼の首に、マフラーを巻いて。
 必然的に、彼の顔が目の前。
 彼女は鼓動が速くなるのを感じた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:19:36.37 ID:GcS1DpIo<>


「病人はしっかりと防寒対策しないと」

「……あァ、そォだな」

「よっ……えっ……あれ……?」

「ン? ……そのマフラー、異様に長くねェか?」

「これ、まさか……」


 彼女の手にあるのは、明らかに一人では長すぎるマフラー。
 見ると、ご丁寧にも二人用のマフラーであることが印字されていた。


「カカッ、面白ェもン持ってくるじゃねェか」

「あっ……いや、そのぅ」

「ンだよらしくねェなァ。まァいいや、二人で使おうぜ」

「――――え?」


 彼女は一瞬思考が止まる。
 一方通行が冗談を言うとも思えなかったのだ。


「……本気?」

「オマエ、その格好じゃ風邪引くぜ」

「風邪は引かないと思うけど、恥ずかしくないの?」

「オイオイ今更そンなこと気にすンなよ」

「……わかった」


完全に口癖を忘れたような黄泉川を怪訝な顔で伺うものの、
こういう類のマフラーをするのが初めてなのか、彼は純粋に嬉しそうだ。
ちょっとだけ、憧れていたのかもしれない。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:23:22.48 ID:GcS1DpIo<>

 マフラーをもふもふする一方通行を横目に、
 黄泉川も自分の首にマフラーを巻き、
 二人無言で歩き出す。


 するとどうだ。
 彼女には今まで全く見えていなかった、
 周りの景色が鮮明になってくるではないか。
 辺りを見渡せば、カップルばかり目についてしまう。


(――――私たちを見ている人は、どう思うのかな)


 隣を歩く彼は何を考えているだろう、そんなことが彼女の頭をめぐる。




 黄泉川愛穂は、あまり異性と付き合いが多いわけではない。
 彼女は魅力的で狙っている男性も多いが、色恋沙汰まで行き着かない。
 忙しいということもあるが、そういったものにあまりに無頓着だった。

 話しはあるものの、自分には必要がない。
 そう言って、時間だけが過ぎて。
 残念な美人と、評されるようになってしまった。

 もしかしたら彼女は、夢を見るタイプだったのかもしれない。
 恋愛を神聖化していた、のかもしれない。

 普通に話して、普通に仲良くなって、普通に恋をする。
 それが彼女には想像つかない。
 自分とは違う世界の話にしか、見ることが出来なかったから。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:26:03.37 ID:GcS1DpIo<>

 彼女は、隣を見て思う。
 ひょんなことから預かった、整った顔つきの真っ白な男の子。
 学園都市超能力者第一位なんて大仰な肩書きだけど、
 見た目に反して常識的で人の心がわかる子供だった。
 だからこそ、自分のしたことを後悔している。

 ちょっと前まではふてくされたような、厭世的なところが見受けられたけれど、
 今の彼は楽しそうで、彼女には微笑ましかったのだ。
 この三ヶ月に何があったのか、
 保護者としては聞くべきかもしれないが未だ聞いていない。


(この子が無事なら、それでいいじゃん)


 そう楽観視させるような、立派な成長を遂げていたのだ。


 だがそのおかげで、
 三ヶ月前には考えられなかったようなことを、考えるようになってしまった。


(これが、母性本能をくすぐられる……ってやつなのかな)


 正直子供にも同性愛にも興味が湧かなかったが、
 成長した彼は彼女の心を捕えて離さない。
 意識させられるとこのざまで、いつもの調子はどこへいってしまったのだろう、
 彼女はうまく会話も出来なかった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:28:26.08 ID:GcS1DpIo<>



「……電話」




 永遠かとも思わせる時間を壊したのは、一方通行。
 急な声に彼女が驚いて横を見ると、彼が柔らかい表情浮かべていた。
 彼は少し俯き加減に、とつとつと語る。


「さっきので二回目だな、ケータイで話すのは」

「……そうね」

「クッ、それで思い出しちまったぜ、最初の電話。まさしくありゃァ黒歴史ってやつだな」

「黒歴史……?」


 彼は、照れくさそうに笑っていた。
 彼女は、自分が食い入るように彼を見つめていた事に気づく。
 思わず視線をそらしたが、彼女は名残惜しいのかチラチラ彼を見ていた。


「下らない不幸自慢みたいだっただろォがよアレは。
――――枯れた考えだったな」

「……そうかな?」

「そォだよ。闇の深さとか、自分の怪物性とか。
比べたって何にもならねェことぐらいわかるはずなのによォ。
ナニを腐ってたンだろォなァ俺は」

「………」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:36:33.99 ID:GcS1DpIo<>


 黄泉川としては、厭世的になっていても仕方がないような気はする。
 なにせ病院で聞いた話が、一部でしかないのだから。
 あれ以上の地獄をずっと味わってきたのだから、
 本来狂っていても、おかしくはないはず。


「そんな腐ってた俺に手を伸ばしたヤツ、実はオマエが初めてなンだぜ?」

「……打ち止めは?」

「アイツは、どっちかっつゥと一緒にいた、って感じだな。
アレは地獄までついてくるタイプだ。それも珍しいがな」


 アイツもアイツでバカだ、と彼は笑う。
 そこに確かな絆を感じて、彼女の心はかすかにザワついた。


「オマエも、俺ン中ではヒーローなンだよ。
いつでも味方で、いつでも助けてくれる。
この三ヶ月、それこそが心強かったンだ。――――ありがとな」

「……それは、当たり前」


 彼にそこまで言ってもらえることはすごく嬉しいが、
 それは彼女にとって至極当然のことで。


「当たり前……か」

「そう、だって――――」





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:40:00.53 ID:GcS1DpIo<>



(家族、だから?)




 言ってしまえば、簡単。
 それでも、なぜかその一言が言いたくない。だから――――




一方通行の、唇を奪う。




 キョトンとした彼の顔を見て、黄泉川は満足そうな笑みを浮かべた。
 何か憑き物がおちたような、そんな爽快感。


「貴方を、愛しているから」

「………」

「それだけは、知っていてほしい」

「……あァ」


 全部、彼女の我儘だった。
 しかし必要だったのだ。



 きっともう、いつもの黄泉川愛穂。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:42:24.79 ID:GcS1DpIo<>




「――――さて、帰って食事じゃん!
アイツら、腹空かして待ってるよっ」

「また炊飯器か?」

「今日は洗濯機じゃん」

「…………冗談、だよな?」

「ハハッ」

「笑ってごまかすなァ!!」


 イルミネーションの中、
 じゃれあう二人はマフラーでつながっていて。


 もう人目は気にならない。
 彼女の胸の鼓動は、いつのまにかおさまっていた。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/25(クリスマス) 23:54:19.23 ID:GcS1DpIo<>




 一旦、ここで切ります。


 長い……長すぎるっ。
 ……様な気がする。
 内容がイマイチだからそう思えるのでしょうか……?
 それとも、ダラダラと投稿したからでしょうか?


 もうちょっと、短く簡潔に、
 しっかりと書きたいですね。


 そして、気づいた方は明らかに黄泉川家スレ住人な
 部分がありました。

 ま、内輪みたいで嫌なのでそこにはあまり触れませんが、
 一言言えば、パクったわけではない、ということです。


 それでは、また会いましょう!



<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/25(クリスマス) 23:57:12.23 ID:q6lX5SUo<>なんで一方通行ファミリーはこんなに可愛いんだろうねぇ…<> クリスマス終了のお知らせ<>sage 佐賀<>2010/12/26(日) 00:10:58.47 ID:wgyYfDQ0<>ハーレムは一方通行なら許せる不思議<> クリスマス終了のお知らせ<>sage<>2010/12/26(日) 00:44:01.74 ID:O1p6rtUo<>乙長すぎる……だと?
んなことねぇからもっと書いてくれ<> クリスマス終了のお知らせ<><>2010/12/26(日) 00:57:30.99 ID:zJdinhM0<>同性愛

えっ<> クリスマス終了のお知らせ<>sage<>2010/12/26(日) 00:57:42.36 ID:NHuz7cso<>黄泉川も芳川も打ち止めも可愛い

でも一方通行さんが一番可愛いです

おつ!<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/26(日) 10:50:22.30 ID:2AwjYyY0<>乙。良い話に長すぎて困ることは無い。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/26(日) 12:55:22.14 ID:IKSvmxY0<>芳川姉さん大胆すぎるぜ







是非俺にもやってください<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/26(日) 21:04:44.97 ID:W9XkcQAO<>打ち止めァ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/26(日) 21:54:48.32 ID:f7zI1Sco<>フラグどころか攻略完了しちゃってるよ一方さん<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>saga<>2010/12/26(日) 22:27:15.30 ID:7IAx.f6o<> 
 こんばんわ。

 sagaって面倒ですね。
 出来る限り、殺すとか死ねとか書かないようにしますが、
 もしかしたら混ざってしまうかもしれません。
 そこは、文脈で察していただけると助かります。


 >>319
 自分でも読んでみましたが、実は大して長くなかった……
 思ったよりもショックですね。
 ……へこたれずに頑張ります!

 >>325
 俺、フラグ乱立系鈍感主人公って実は得意じゃないんだ……
 そんでもって、昼ドラ的ドロドロも得意じゃないんです。
 そしたら、こうなりました。
 ……こういうのも、どうですか? 節操なし? ですよねー。


 それでは、投下します。


 <> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 22:33:52.45 ID:7IAx.f6o<>――――








「それでは、第一回チキチキ黄泉川家家族会議を始めたいと思います!」

「ヒューヒューっ!
ってミサカはミサカはチキチキは意味不明だけど突っ込まないで煽ってみたり」


 一方通行たちが帰りつくと、そこにはすでに食事を食べ散らかした風の
 打ち止めと芳川が異常なテンションで待ち受けていた。
 
 そして、黄泉川が伝えておいたのだろう、帰って早々の会議開始を要求している。



 お遊びではない会議が、お遊びになりそうな予感だった。



「……家主は置いてきぼりじゃん……というか、あのマフラーについての釈明は?」

「こまけえこたぁいいんだよ! ってね。良い思いしたんじゃん? じゃんじゃん?」

「よーしそこに直ってみようか桔梗てか直れ」

「ヨミカワ結構本気で怒ってる……?
ってミサカはミサカは恐くてあなたに擦りよってみたりぃ……へへぇ」

「オィ、って酒臭っ!! オマッ、オマエら酒飲んでたろっ!?
つゥか打ち止めにまで飲ませてンじゃねェッ!」

「こまけぇ(ry」

「きーきょーうー……」

「そもそも遅い君たちが悪い(キリッ ってちょまっやめ――そげぶっ!!」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 22:36:40.50 ID:7IAx.f6o<>




 痛烈な拳が芳川の頭に降り、ゴンッと嫌な音が響く。

 芳川は頭を抱え悶えるしかない様子。



 一方で打ち止めは一方通行に絡む絡む。

 御坂家の女性は皆絡み酒なのだろうか?

 と頭を抱える一方通行の耳を、しゃぶり続ける打ち止め。






 会議は、果てしないカオスで始まった。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 22:40:48.37 ID:7IAx.f6o<>…………






「さて食事も終わったところで、改めて家族会議を始めるじゃん」

「……確かに調子に乗ったことは謝るわ。でもやりすぎだと思うの。
絶対こぶが出来てるわよこれ」

「オマエは自分に甘過ぎるだろォ…」

「……うぅー…んむ……」


 黄泉川に正座させられた芳川はすっかり酔いが覚めたらしい。
 先程のゲンコツが効いたようだ。


 打ち止めは一方通行の腕の中で幸せそうに眠っている。
 なんだかんだで、
 されるがままにいじられ続けた一方通行も十分甘いのだろう。

 本人は耳を犯され情けなさで涙目だったが。


「で、家族会議の中身はというと、――――まずは一方通行の怪我。
病院では詳しく聞かなかったけど、その怪我はどうしたじゃん?」

「……病院で言った通り、大したことねェよ」

「また恨みでも買ったの?」

「まァそンなところだな」

「お前を傷つけるなんてかなりの危険人物じゃん!?」




「――――気にする必要はねェ。
これは俺の支払うべきモノだ。……俺の、義務なンだよ」





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 22:45:28.70 ID:7IAx.f6o<> ミサカワースト、
 それは一方通行が精算すべき咎の結晶、
 乗り越えるべき壁だったのだ。


「だからオマエらは自分たちの身体だけ心配しとけ。
見ての通り、今の俺は無敵のヒーローってわけには行かねェンだ。
四六時中オマエらを守ってやることは出来ねェ、
悔しいことこの上ねェがなァ……」

「……わかったじゃん。こっちも出来る限り一人になることは避けるじゃん」

「そうね、私も気を付けるとするわ。だから君も気負っちゃダメよ?」

「あァ、わかってンよ」


 ミサカワーストが襲って来たとき、去り際に何者かとの通信を確認した。
 撤退のタイミングから、あまり目立ちたくなかったのだろうと推測できる。
 一人で行動しない限りそうそうなことにはならないとは思うが……
 結局、相手を掴みかねているのが現状だった。


(相手のことがわかってりゃ対処すンのは簡単なンだが、いくら調べても見えてこねェ)


 彼の破壊力は軍隊相手にも引けを取ることがなく、
 彼の防壁は核兵器でも突破不可能だが、
 その範囲はあくまでも自分のみだ。
 拠点防衛や護衛には適しておらず、
 下手をすれば、対象を傷つける可能性も否定できない。

 彼の能力は正しく一方通行であり、他者と自分は隔絶した存在。
 ――守る対象も他者でしかないから、手が届きにくい。

 だからこそ、ベクトル操作による情報収集によって先手を握り、
 こちらから乗り込み制圧するのが彼の常套手段だった。


(親船のヤツすらも掴めねェとはな……)


 親船最中は潮岸を失脚させたあと確実に力を伸ばし、
 学園都市の中でもかなり高度な情報権限を握っている。
 その彼女の力を利用しても、影すら掴めないのだ。


 油断なんて、毛ほども出来ない。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:00:42.22 ID:7IAx.f6o<>


「二つ目の議題は、当然ながらミサカベストじゃん」


 一方通行があれこれ考えるうちに、次の議題に移っていた。


「基本的には彼女の意向に沿う形だとは思うけど、
正直、私たちも妊娠について詳しいわけじゃない」

「そうね、これに関しては彼にいい助産婦でも紹介してもらう必要があるわ。
私も科学者の端くれだけど、
いくらミサカクローンの一人でもちょっと分野違いね」

「知識だけならすでにあるンだが、何分俺じゃ実践経験が足りねェな……
不本意だが、他人の手も借りるか」


 一方通行は過去に妊婦の処置を施したことがあり、
 その経験から医学に関して勉強し直していた。

 今の彼は、医学知識に関して並の医者を凌駕しているだろう。
 それでも、残念ながら実地研修は確実に足りていない。
 免許も持たないから、心許ないのは事実だった。


 だが、心許ないのは彼としては、だ。
 他の二人からすれば、信じられないほど頼もしい。
 そしてその才能に、ため息をつくしかなかった。








「……さすがに、お父さんは違うわねぇ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:03:09.65 ID:7IAx.f6o<>

 そしてまた、要らぬ火種を注ぎたがる芳川を駆り立てるには、
 十分な一言でもあるようだ。
 

 ツボはイマイチわからないが。


「――――は?」

「……なるほど、予習するのは当然ってわけか。
あの突っ張っていた一方通行が、父親になると変わるものね」

「逆じゃん。そういう人間こそ、家庭を大事にしがちなもんじゃん」

「さすが教師兼警備員、わかっているわね」

「伊達に何人も更正させてないじゃん」


 ウンウン、なんて頷き合う二人と、それについていけない一方通行。
 彼にしてみれば、虚を突かれたのだろう。


「………ちょっと待て」

「なに? パパ」

「なんじゃん? パパ」

「俺は一言も父親になるなンて言ってねェしパパって呼ぶンじゃねェ!」

「「えっ……」」


 彼の悲痛な叫びは、驚愕の顔で返された。
 引かれるのは心外だが、
 負い目があるだけに硝子の心は傷つかざるを得ない。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:05:25.63 ID:7IAx.f6o<>


「……もしかして、認知する気なしじゃん?」

「さすがの私もそりゃ引くわ……」

「イヤイヤイヤ、俺の子供じゃねェンだから当たり前だろォが!」

「子供はね、セッ○スしたら出来てしまうものじゃん」

「してねェよ! そもそも時系列的にオカシイっつゥの!」


 彼がミサカベストと初めてあってからまだ一週間も経っていない。
 そして彼女は妊娠三ヶ月、完全に冤罪だった。


「それでもお前の遺伝子も混ざっているじゃん?」

「……まァ俺の遺伝子データが少し参考になっていることは認めンよ」




「――――虐めるのはこれぐらいにして、
どう? 父親になる気はない?
きっとミサカベストも喜ぶと思うわ」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:07:56.81 ID:7IAx.f6o<>


 冗談にしてはキツかったが、彼女たちにも良くわかっていた。
 彼に父親を押し付けても、全く意味がないことを。
 強制されるものでは、無いということを。


「……俺に父親なンざなる資格はねェよ」


 そして、彼は拒否する。


 資格なんていらない、と綺麗事を言うのは簡単で、
 責任放棄だ、と彼を責めることも簡単だ。
 だが彼の過去を考えれば、
 それはあまりに酷というものかもしれない。


「俺がアイツの親になるなンて、認めねェ。
こンな中途半端でどォしよォもねェ父親は、いちゃならねェンだよ」


 彼は幼少期に両親を失っている。温もりも、記憶すらも。
 だからだろう、親とはどうあるべきか、という理想を余計意識してしまう。


 遺伝子の話だけではなく、自分の罪も罰も生きざまも、
 背負わせるわけには、いかなかったのだ。


「……お前がそう思うなら、今は父親になる必要はないと思うじゃん。
いつかきっと、胸を張って父親になるじゃん」

「そうね、若いんだからまだまだこれからよ。
あと、キミはもう少し自分に甘くなるべきだと思うわ」

「……ま、考えとくぜ」


自分が親になる未来は想像がつかないが、不承不承に頷く彼。




「じゃあ、誰がキミの子供を最初に産むか、競争する?」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:11:32.31 ID:7IAx.f6o<>


 拗ねる彼はまだまだ子供っぽさがあり可愛かったため、
 早速いじることにする芳川。
 彼女なりの和ませ方だが、顔は完全に悪戯っ子だ。


 ……暇すぎるからか、こういう余計な遊びを覚えてしまったようだ。
 不幸だった、主に周りの人間が。


「……なに言ってるじゃん」

「私は、何だかんだ甘い一方通行が年上の押しに負けて愛穂に搾り取られる、
に五百万ペリカ賭けるわ」

「なっ、なんでそーなるじゃん!!」


 そういいつつも良案だと考えた黄泉川は、おもむろに衣服を脱ぎ始めた。
 でてきたのは、
 布面積が小さすぎてその豊満な肉体を隠しきれていない紐下着――


「変なナレーションをいれるな! 脱いでなんていないじゃん!!」

「んもぅ、少しは童貞少年たちに夢を見させてあげなさいよ」

「そんなもののためにキャラ崩壊もキャラ被りも覚悟は出来ないじゃん……」


 うなだれる黄泉川、ニヤニヤする芳川。
 人間は暇すぎると歪むことを、一方通行は知った。


「……本当にオマエ、ハッちゃけたよな」

「最高の褒め言葉ね」

「褒めてねェ……」


 そして、開き直ったときの強さも。
 ……少し間違っているような気もするが。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:16:10.72 ID:7IAx.f6o<>


「ん、ごほん! それでは最後の議題行くじゃん」


 咳払いし、黄泉川が一旦仕切り直した。
 話題が彼女には不利だったということもあるし、
 もうちょうどいい時間でもある。


「最後の議題……? まだ何かあったのかよ」

「……キミはもう少し世間に興味を持った方がいいと思うの。
まぁ色々あったから、気持ちはわからなくもないけど」

「明日はクリスマスイブじゃん!」

「――――マジか?」


 一方通行は基本的にイベント事はスルーしてきたが、
 それでも、仕事に必要な程度には把握していた。


(たるンでるってレベルじゃねェぞっ!)


 忙しかったにしても、全く頭になかったのは問題である。
 彼にとってはかなりどうでもいいイベントだが、
 祝日は蟲が湧きやすいから、
 もしかしたら緊急の仕事が舞い込んでくるかもしれない。


「……俺は仕事が入ンじゃねェかな」

「出来る限り夕方には帰ってくるじゃん!
私も警備員の仕事早く切り上げてくるから、さ」


 それでいいのか? と一方通行は思うが、
 本来忙しく走り回っている黄泉川だ、
 もしかしたら同僚は気を配ってくれるのかもしれない。



 ……同僚としては男でも見つけてこい、という意味かもしれないが。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:18:51.14 ID:7IAx.f6o<>



「それにこの子たちが初めて過ごすクリスマスイブよ、
やっぱり、祝ってあげたいじゃない?」



「――――あァ、そォだな」



「……ふぅ、私も予定空けておくわ」


 さも大忙しのように言う芳川だが、当然予定はない。
 彼らは甘辛なので、生ぬるい視線とともにスルーした。


「じゃあ誰がケーキ買ってくるじゃん?」

「準備は全部芳川に任せればいいンじゃねェの?
見張り役で打ち止めをつければ、下手なことはしねェだろ」

「スルーの上にその仕打ち、やってくれるじゃない……」

「……じゃあ桔梗たちに任せるじゃん。大丈夫?」

「別にたいしたことじゃないんだから、ニートの私でもダイジョーブよ。
……あなたたちは、自分の身体を気遣いなさい」

「……あァ」

「わかってるじゃん」



 少しすねているようだが、それでもその目は真剣で。
 彼女が本当に心配していることがよくわかる。
 だからこそ、二人も真剣に頷いた。
 決意するように、
 誓いを立てるように。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:20:24.99 ID:7IAx.f6o<>



「……さて、クリスマスイブは何をしようかしら。当然お酒は飲まないとね」

「ミサカベストを考えると病院でやるべきじゃん?」

「そうね、それがいいわ。彼に相談してちょっと大がかりなものにしようかしら。フフフ……」

「なァンか、スゲー嫌な予感がするンですケド……」

「あの医者がいるんだから、きっと変なことにはならないじゃん?
……多分だけど」


 嫌な笑みを浮かべる芳川を横目に、
 二人は不吉さを覚えずにはいられない。


 それでも、きっとなんだかんだ盛り上がるだろう。




 せめて、腕の中で眠る打ち止めに、幸せな日を。
 そう願わずにはいられない、一方通行だった。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:24:05.91 ID:7IAx.f6o<>…………








「ったくよォ、明日も飲むンじゃないンですかァ?
しかも一人は仕事じゃねェか……」


 家族会議も終わり、てっきり寝るのかとおもいきや飲みだした女性陣。
 そして酔いつぶれた挙げ句後始末を任されれば、
 一方通行も愚痴の一つ言いたくもなるのだろう。


(オマエら本当に行き遅れンぞ……)


 どこまでも無防備にだらけて眠る二人に、
 彼は危機感を覚える。


(まさかコイツら、一生このまま過ごすつもりか……?)


 考えてみればすでにコブつきでこの年齢、
 危険水域ではないだろうか。


 いや、下手すればこの二人で結婚ということも……


 そんな嫌な想像を振り払うように頭を振りつつ、
 自分のベッドに向かおうとすると、



「ふぁ……んんー…一方通行ぁー…」



 寝ぼけた顔をした打ち止めが、そこには立っていた。
 目を擦っている彼女は、
 先ほど着替えさせたパジャマにぬいぐるみを抱えた愛らしい姿。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:27:25.20 ID:7IAx.f6o<>


「どォした打ち止め、もしかして起こしちまったか?」

「むぅ……おしっこ」

「あァーハイハイ、ちゃっちゃと行ってこい」

「……一緒にきて」

「はァ? 何言ってンだよオマエ。一人で行けンだろォが」

「今日ヨシカワと怖い話をしちゃって怖くなってきたの……
ってミサカはミサカは思い出して震えてみる」

「芳川のヤロォ……チィ、ったくわァったよ。オラ、行くぞ」

「……うん」


 お気に入りの白ウサギ人形に顔をうずめながら頷く彼女は、
 小走りで一方通行のに駆け寄り手をとる。
 そして背中に隠れてしまった。

 密着する打ち止めをみやり、
 軽くため息をつきつつも手を引き洗面所まで連れていく。

 といっても、そんなに遠いわけじゃない。
 きっと彼がそばにいることを感じていれば、満足なのだろう。


「ほら、ついたぜ。行ってこい」

「………ん」


 彼女は再び頷くと、トイレへと入っていった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:30:11.96 ID:7IAx.f6o<>



 そして一方通行は、
 さっきから打ち止めが全然自分の顔を見なかった理由に思い至る。



(そォ言えば、あン時はノリで口づけちまったが、
女にとってはかなりの大事なンじゃねェのか?)


 もしかしたらショックを受けているのかもしれない。
 一方通行としては、言い訳しようがない。


(クソッ、テンションに身を任せるとロクな事がねェな)


 どこかで聞いたような言葉を、彼は今更心の中で吐き捨てた。
 そんなとき、壁越しに声がかかる。


「一方通行、ちゃんといる? ってミサカはミサカは確認してみる」

「ちゃんといるっつゥの、終わったのか?」

「うん」

「だったら早く手を洗え」

「……うん」


 ちょっと強く言い過ぎたかもしれない、と後悔する彼。
 眠気からくる苛立ちが出てしまったようだ。
 出てきた彼女は、うつむいたまま手を洗い始める。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:33:44.09 ID:7IAx.f6o<>




「――あの、ね」

「ン?」

「この家に帰ってきてくれて、本当にありがとうね、
ってミサカはミサカは感謝してみる」

「……感謝されるいわれはねェよ」

「それでも!
……それでもミサカは凄く嬉しかったから、
ってミサカはミサカは正直に言ってみる。
あなたがいなければ、ミサカも存在出来ないから……」


 それは一方通行も彼女に感じていた、依存の心。
 なんのことはない、二人は両者で依存しあっていたのだ。
 だが一方通行には、
 打ち止めが自分に依存する気持ちが、わからなかった。


 打ち止めは、何故自分のような死に損ないを求めてくれるのか――――
 これは彼の最大の疑問であり、恐怖の原点だった。


(金、力、名誉、いずれも感じねェ。コイツは欲がねェのかよ)


 彼は、理屈でしか好意を見ることが出来なかった。


 そう、出来なかったのだ。


(違ェよな、全然違ェ。そンなもンじゃねェ。
なンとなくだけど、わかってきたンだ)


 一方通行は、理屈じゃない愛を、
 幸運にも三人もの女性に教えてもらうことができた。


 とうとう、踏み出すべき時かもしれない。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:36:40.87 ID:7IAx.f6o<>




「……今朝のことだけどよォ」

「っ!?」


 手を洗っていた打ち止めの肩が、ビクゥッ! と反応する。
 彼は構わず続けた。


「アレは冗談でもなンでもねェ。オマエを愛しているンだ、打ち止め。
だからこそ此処に帰ってきた。贖罪、同情、そンなもンは存在しねェ。
理屈じゃなく、オマエの傍にいたい、オマエを守りたいンだ。
……それを伝えたかったンだよ」


 彼は、結局謝らなかった。
 悪いことだと、思いたくなかったから。
 打ち止めの背中に投げ掛ける言葉は、彼の精一杯の好意だった。


「……本当に?」

「……本当だ」

「本当の本当に?」

「あァ、本当の本当に、だ。
俺は総理大臣じゃねェからな、嘘はつかねェよ」

「……何ソレ、ってミサカはミサカは笑ってみる」

「流行ってンだとさ。そこに突っ込ンでンじゃねェ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:42:33.47 ID:7IAx.f6o<>


 二人で少しだけ笑いあうと、
 打ち止めは一方通行の胸に背中を寄せた。


 そこは、彼女の定位置。
 これからも、ずっと。


「……ドキドキ言ってるね」

「……あァ」


 彼女の背中に伝わる鼓動が、
 彼が柄にもなく緊張していることを主張していた。
 好意を向けることになれない彼にとって、
 どれだけの勇気が必要だったのだろうか。


「……あのキスはね、ミサカの初めてだったんだよ、
ってミサカはミサカは貞淑宣言」

「そォか」

「誰にするのかも、決まってたんだよ、
ってミサカはミサカは一途をアピールしてみたり」

「……そォか」


 ここで初めて、彼女は彼と向き合う。
 ――――その目は、涙に濡れていて。
 一方通行の首に、打ち止めの腕が絡まり、
 唇が、重なる。




 これが、二度目のキス。
 セカンドキスは、打ち止めから。
 優しい、フェザーキスだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/26(日) 23:46:50.34 ID:7IAx.f6o<>

「へへぇ……一方通行だーいすき!」

「――――あァ、俺もだ」

「……今夜は一緒に寝よう? ってミサカはミサカは大胆発言」

「別にかまわねェよ」

「ふふっ」

「ククッ……そォいや、今日はクリスマスイブだなァ」

「へっ?」


 時計を見ると、すでに短針は真上を過ぎていた。
 ――――もう、魔法は溶ける時間。

 彼は、彼女の手をとる。
 そこは魔法の介在しない、二人だけの世界だった。


「……昼間に備えて寝るか」

「うん!」

「家族会議で決まったンだが、オマエ芳川と宴の準備な」

「了解! ってミサカはミサカはいい返事」

「……ちゃンと見張っとけよ」

「……ははは」



 彼は、思う。
 この依存し合う関係は、脆く拙く幼いものかもしれない。
 それでも、此処こそが自分の帰る場所なんだ、と。


 手のひらの優しい温もりに、
 希望が存在することを、
 彼は確かに感じていた。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/27(月) 00:00:16.91 ID:ubRNWoQo<>

 さて、一旦ここでやめにしておきましょうか。
 ……これじゃ短いですかね?
 まぁ、一区切りということで勘弁してください。


 書くにあたって、
 小説形式か、台本形式か。
 コメディか、シリアスか。
 ハーレムか、カップリングか。
 続編か、新作か。

 ここら辺の需要が聞きたいですね……。


 反映できるかどうかはわかりませんが、
 もし宜しければ、
 皆様の好みでもいいのでお聞かせください。
 ご意見ご要望もお待ちしております。


 ではまた会いましょう!

<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 00:15:01.93 ID:Gm9WfL20<>超乙。結局誰選ぶんだよ?俺のミサべを返してくれよ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 00:19:33.78 ID:3X9eg0co<>マジ乙
台本小説うんぬんは>>1が書きやすい方で
個人的にハーレムがいいな(チラッチラッ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 00:35:16.12 ID:UWuHx2AO<>コメディハーレムを希望wktk<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/27(月) 00:35:55.70 ID:wHXTN.c0<>小説で 
ワーストちゃんも加えての
ハーレム
シリアスとギャグの成分比は任せる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 00:41:19.97 ID:E9MkUowo<>乙
書きやすいように書いてくれたら良いよ
この流れだったらハーレム……しかなくね?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/27(月) 00:41:43.05 ID:IaOusjc0<>小説形式か、台本形式かはやりやすい方でいいですよ
自分もハーレムがいいな(チラッチラッ
<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/27(月) 01:09:53.28 ID:ubRNWoQo<>

 何かすみません汗

 ただ、これが終わったら何を書こうかなぁ
 と思って安易に聞いてしまいました……
 すみませんでしたorz

 
 続編だとシリアスっぽいし小説形式の可能性が高い。
 新作だとコメディっぽくて台本形式の可能性もある。


 どちらがいいか、それを別の形で聞いてしまった、
 正しくチキンの所業でした。
 まだ書くかも考えていないのになぁ……
 見切り発車もいいところですね。

 戯言と、スルーしていただいて一向にかまいません。


 ちなみに、これは一応シリアスのハーレム方針です。
 ので、ミサベさんの出番も少なめ、かも。
 ご了承ください。


 それでは、ようやくクリスマスイブに突入です。
 長かった……少しずれましたが、ギリセーフということで。

 それでは、また夜にでもあいましょう!



 <> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/28(火) 00:50:53.52 ID:3IkFSFc0<>いやいや、あれだろ?
ハーレム√とミサベ√の二つを用意してあるんだろ!?
頼む、そうだと言ってくれorz<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 00:37:05.40 ID:XwVvTEDO<>ミサワさんちゅっちゅっ<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 01:09:19.60 ID:pe4j396o<>
 こんばんわ。


>>354
このssはハーレム方針、と言いましたが、
ぶっちゃけ恋愛要素は薄いです。
今更すぎますかね……?
まぁそういうわけで、誰ルートとかそういったものは
考えておりませんでした。
まぁ、敢えていうならばミサベルートでしょうが、
結ばれるかどうかは……保証しかねます。
ご了承ください。


 遅ればせながら、投稿させていただこうと思います。
 よろしくお願いします。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:14:12.06 ID:pe4j396o<>――――









 十二月二十四日、クリスマスイブは、学園都市においても特別な祝日だ。



 雑踏は大いに賑わいを見せ、様々な色の飾り付けは街に彩りを与えている。
 店頭に並べられた商品は赤と白のコントラストを奏で、
 さながら店員はその中で踊るコンダクターか。
 街の中心には大きなもみの木がどっしりとかまえ、存在感を見せつけていた。


 浮き足立つようなそんな空気が、
 商店街から少し離れたこの寮の窓からも、伝わってきているはずである。
 伝わってきているはずなのだが、
 その一室は少しだけ不穏な空気が立ち込めていた。


「――――で、呼び出した本人はいないってわけ?」

「鍵を開けっ放しにするのは感心できませんね。
まあ、盗るものがあるようには見えませんが……」


 その一室はダンベルなどの筋トレグッズが無造作に転がっているが、
 男の独り暮らしの部屋にしては、それなりに片付いている。
 恐らくは、部屋の主の大事な義妹が片付けてくれているのだろう。


「こンなボロっちい寮に呼び出してどォいうつもりだ?
まさか此処で話し合いってわけじゃァねェよなァ?」

「いつもと違って此処にこいと指定されただけですから、
仕事や親船さんの私事ではないのでしょう」

「ことあるごとに、馴れ合うつもりはない(キリッ
って言ってたのはあのシスグラのくせに……」

「もはや言っているだけで、形骸化していますからね……」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:16:59.17 ID:pe4j396o<>

 話しているのは、
 『グループ』所属の一方通行、海原、結標の三人である。


 彼ら『グループ』も一緒に仕事を始めて約三ヶ月。
 始めの一ヶ月は全く仕事以外会うことがなかったものの、
 統括理事である親船最中がスポンサーについてから、
 仕事以外のことでも呼び出され始めた。

 彼女の庇護の下で働くことを余儀なくされているので断ることもできず、
 ホームパーティーやら子供たちの相手をやらをさせられた時は、
 彼らも本気で逃げ出したかったが。


 スポンサーは絶対。
 現実は非情である。


 まぁ、一人だけ心の中で大喜びなショタコンがいた事は、
 誰でも想像の付くことだろう。


「こンな狭い場所に呼ぶぐらいなら、
いつも通りキャンピングカー用意しろってェの」

「壁は薄そうで、会話に適していませんね」

「暖房がついていることだけが救いかしら」


 口々に文句を言うのは、待たされた苛立ちからか、
 それとも――――
 




「嫉妬は見苦しいにゃーーっ!」




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:19:49.76 ID:pe4j396o<>



 ばたぁーーん、と 
 ドアを蹴破って現れたのは、ご存知シスコングラサンこと土御門である。


「…………(イラッ」

「……ここはあなたの部屋だから別にかまいませんが、扉壊れますよ?」

「で、誰に誰が嫉妬しているって言うのよ?」


 三者三様のリアクションを見せる三人だが、
 それに対して不満そうな顔の土御門。
 ……どうやら、彼は現在テンションがおかしいらしい。


「お前らテンションが低いにゃーっ!
……おいおい、恋人たちに嫉妬する暇があったら、
こういう日だ、自分たちで盛り上げていこうぜぃ?」

「別に嫉妬した覚えもないですし、
こういう日だからこそ、呼び出してほしくなかったのですが――」

「シャラーップ、シスロリストーカー!
クリスマスイブなのに家族ぐらいしか過ごす人間がいない奴らへの
粋な取り計らいを理解するにゃーっ!」

「……あなたにだけは言われたくないですね」

「で、なんの用よ? ちゃっちゃと言いなさい」

「急かすな急かすな、慌てるコジキはなんとやらだぜぃ」

「…………(イラッ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:22:36.22 ID:pe4j396o<> 約二名の苛立ちはMAXに近づいていたが、彼は気づかない。
 一旦両手の荷物を置いた土御門は、
 荷物から取り出してきたものを三人に渡す。


 それは、市販のクラッカーだった。


「メリーークリスマスイーーーーブ!」パンッ

「「「……」」」

「メリークリスマスイブ!」パンッパンッ

「「「…………」」」

「メリー……」

「「「…………」」」

「…………」


 自分だけでクラッカーを何個も鳴らしていた土御門は、
 ようやく不穏な空気に気づいたらしい。


 冷たい眼差し、嫌な沈黙。


「……なんか文句があるなら、言え」

「取り敢えず、今日呼び出した用件はなんですか?」

「このメンツ+αでクリスマスパーテーでもしようかと」

「はい解散」

「ちょ、ちょっと待つたい!
恋人もいない寂しいもの同士傷の舐め合いでぼばっ!!」


 出ていこうとする三人を止めようとした土御門、
 その顔に勢い良く当たり潰れたのは、
 白い物体――――豆腐だった。


 投げたのは、一方通行である。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:25:23.58 ID:pe4j396o<>

「…………」ダラァ

「さァて、このまま帰ンのも馬鹿らしいし、カラオケでも寄るかァ?」

「それは良い案ですね。しかしこんな日ですから、きっと混んでますよ?」

「いざとなりゃ外でやりゃイインじゃねェの? 野外カラオケな」

「それは新しいわね……」

「オイ、一方通行」


 先程から俯いていた土御門に声をかけられた一方通行は、
 普通にスルーしようとも思ったが、
 後々面倒なので振り返ることにした。
 ちょっとした、嫌な予感とともに。


「……あァ? なンなンですかァあ?
あァあとメールの件は別に怒ってねェからな」

「…………」


「(絶対怒ってますね……)」

「(さっきの豆腐には、その恨みが入ってたのね……)」


 一方通行は昔に比べると、格段に温厚になっている。
 今の彼は滅多なことじゃないと暴力は振るわないはずだ。
 つまり土御門のメールは、今の彼の癇に障るほどだったようである。


 豆腐まみれな顔の土御門だが、彼らにはどうしても同情できなかった。
 彼は時折悪ふざけが過ぎる。


「……せたんだってな」

「あァ? 聞こえねェよ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<>sage<>2010/12/29(水) 01:31:30.74 ID:pe4j396o<>



 俯いて背中を向ける土御門の声は、豆腐のせいかくぐもって良く聞こえない。

 三人が振り返ると、
 そこにはサングラスを整える土御門が、異様な雰囲気で立っていた。







「一方通行、お前女孕ませたんだってなぁ」


「――――は?」

「「…………えっ!?」」





 ボソッと、土御門が呟く。
 土御門は自他共に認められる情報通、たとえ彼が天邪鬼《ウソつき》だとしても、
 その言葉は重く響き。

 事実、海原と結標は信じられないという様な顔を一方通行に向けていた。


「しかも、孕ませておいて責任取る気なしって話じゃないか」

「…………アイツは、俺の子供じゃねェよ」

「あくまでも言い張るのかにゃ?
たく、これだからペドフィリアは……性に対する犯罪意識がないから、
ロリ以外は皆使い捨ての肉便器扱いたい」フゥ

「…………ァ?」ビキビキィ

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 01:37:15.53 ID:pe4j396o<>

 めちゃくちゃだった、めちゃくちゃな物言いだった。
 衝撃的な話だったがその前に、
 流石にまずいと感じた傍観者二人は止めに入る。
 ここで暴れられてもたまらない。


「ち、ちょっと言い過ぎですよ土御門さん!」

「そ、そうよ!」

「諦めない俺かこいい(笑)ロリスト、ショタフラはだまりゃ!」

「……ショタフラってどういう意味よ?」

「フラッシャーは露出凶という意味です。あとはわかりますね?」

「…………」ビキビキィ


 土御門はまた恨みを買ったらしい、
 結標の肩がプルプルしている。

 一方、一方通行もキレかけているようだ。
 耐えているところに成長をうかがえるが、
 今の彼にも触れてはならない逆鱗がある。


「――――死にたいなら早く言えよ土御門ォ、
遠慮なくバラしてやるぜェ?」

「うるせえ鬼畜ペドフィリア、子供が可哀想だ(笑)。
勝手に乳繰りあってNTRろよ」

「オイオイ呼ンだのはオマエじゃないンですかァ?
どうせ女にも妹にも見放されて、
今夜は自慰しかやることがないから俺たちに縋ったンだろォ?
このキモオナニストが」

「ぁ?」ピキッピキッ


 一方通行に触れてはならないものがあるように、
 土御門にも触れてはならないものがあったようで。


 事実、彼は傷心だったのだ。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 01:47:37.87 ID:pe4j396o<>


「ザ・子供の敵に言われたくないなぁ……
久しぶりに、キレちまったよ……屋上行こうぜぃ……」

「俺たちを呼んで俺たちに嫉妬してりゃ世話ねェなァ(笑)
言うとおり俺は乳繰りあってくるから、
オマエは妹ネトラレものAVでも見て泣きながらシコってろよ」

「テメェェェこのキチペド野郎ォォォおお!!」

「来いやシスロリヤロォォォォォォォおお!!」

「ちょぉっと待てェェェェッッ!!」


 泣きながら殴りかかろうとする土御門を止めたのは、
 いつの間にか現れた隣人の上条だった。

 他の二人は離脱準備に入っている。
 止める気なしである。


「止めるなカミやんっ!! コイツを殴らなきゃ気がすまねぇ!」

「落ち着け土御門っ!! 一方通行を殴ったって、きっと虚しいだけだっ!
失うものが多すぎる!! プライドも、寝床も、俺の部屋も――――」


 何気に彼の切実な願望も吐露されるが、
 ソレも今の土御門には届かない。



 うおおおォォおォオオ……



 哀しき野獣の雄叫びで満たされたこの部屋に、
 外で流れるジングルベルは、聴こえてこなかった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 02:03:45.42 ID:pe4j396o<>



 ちょっと短めですが、ここで一旦止めます。
 それでは、また夜に来ます。<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/29(水) 02:12:39.03 ID:h0eUTAAO<>乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 02:44:16.07 ID:VN1742Uo<>ワロタ!

ワロタ……<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 09:58:27.23 ID:d6OmO/co<>この寒空で部屋失ったら上条さん[ピーーー]るな<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 12:54:18.65 ID:P2I7.vM0<>なんというリア充
次元が違う<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 16:06:52.56 ID:j.neFMAO<>つっちー可哀想すぎるwwwwwwww<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 21:41:14.58 ID:hazvpNU0<>乙! 土御門クッソワロwwwwwwwwww<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 21:49:06.85 ID:pe4j396o<>
 こんばんわ。
 早速ですが、投稿させていただきます。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 21:51:03.68 ID:pe4j396o<>…………









「しゅびばしぇんべしば……」


 部屋の中央で顔中にアザを作り正座して謝っているのは、
 部屋の主である土御門だった。


 ちなみに顔のアザは取り押さえるとき作ったもので、大半が結標、海原のもの。
 ……ついでにウサも晴らしたらしい。
 ちょっとしたサンドバック状態である。


「何やら隣が騒がしいと思ったら、
聴こえる声は両者とも友人だし、喧嘩してる風だし、
お前らが暴れたら被害はこの部屋だけですむはずがないし、
俺が乗り込むしかねぇって思ったわけですよ」

「いやはや、迷惑をかけましたね」

「この二人の喧嘩を止められるのって、多分貴方ぐらいじゃない?」

「止める努力ぐらいはしてくれ……」

「嫌よ、巻き込まれたくないし」

「……不幸だ」ハァ



 今日も今日とて、上条当麻は不幸だった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 21:54:55.65 ID:pe4j396o<>

「で、一方通行は反省しているのか?」

「……チッ、反省してまァーす」

「舌打ち!? ねぇ今舌打ちした!??」

「うっせーなァ……そもそも変な理由で呼び出したソイツが悪ィンじゃねーの?」


 彼が顎で示す先には、ボロボロのサングラスをかけ直す土御門。
 喋るにも、口の中が切れているようで話づらそうだ。


「どうなんだ? 土御門」

「……オレは単純に、
せっかくのクリスマスイブだからパーティーでもして盛り上がろうかと――」

「そンな関係かよ、俺らが」

「…………」


 嫌な沈黙が訪れる。
 今来たばかりの上条には、そもそも彼らの関係すらわからないから
 戸惑うしかない。


「あのー聞きたいんですが……」

「……ンだよ」

「あなた方はどの様なご関係であらせますでせうか……?」


 上条にとっていずれも知った顔だったが、
 あまり繋がりのなさそうな連中であり、
 つるむ想像が出来なかった。


 そんな無垢な質問をする上条に、四人は顔を見合わせる。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 21:56:52.73 ID:pe4j396o<>


「……仕事の同僚?」

「そんなところですかね」

「あンまりこォいった付き合いはねェがな。
オマエは何で家にいンだよ、暇なのか?」

「い、いや俺は……」


 これ以上突っ込まれるのも嫌だったので、多少強引に話をそらす。
 それがわかったのか、他の三人も合わせることにした。


「そういえば言い損ねていたが、
クリスマスパーテーに呼ぼうとしていたメンツの一人はカミやんだにゃー」

「じ、じゃあ御坂さんも!?」ガタッ

「呼んでないぜぃ」

「見かけてないな」

「そうですか……(´・ω・`)」

「……じゃあ呼ぶか?」

「い、いえいいんです! きっと気まずいでしょうから……」


 ションボリする海原だが、忘れちゃいけないのは、
 彼が御坂美琴にストーカーまがいのことをしていたという事実。
 海原としても、御坂とはしゃべりづらいだろう。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 21:59:51.18 ID:pe4j396o<>

「で、他に呼ンだやつはいンのかよ」

「他はあたってみたがダメだった。
……まあどうせこんな場所じゃそんなに人数いらないだろう」

「そもそも、どうしてここでパーティーをすることにしたんですか?」


 当然の疑問だった。
 見る限り、この部屋には十人も入らないだろう。
 クリスマスパーティーをやるには、少し狭すぎる。


「――――急すぎて場所が取れなかったンだろォな」

「っ!?」

「……そうなの?」

「確かにそうだが、よくわかったな一方通行」

「カレンダーの今日の日付を見てみろ」

「カレンダー……?」


 皆がカレンダーに注目し、日付を追う。
 すると十二月二十四日には――――


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:01:40.49 ID:pe4j396o<>



「……!」

「舞夏とのランチ――――」

「相当楽しみだったんでしょうね……幾重にも丸がされているわ」

「ですが、約束の時間には既に間に合いませんよ?」


 カレンダーにある時間は十二時、
 今まさに迎えようとしている時間だった。


「つまり土御門は義妹にドタキャンされたンだよ」

「ドタキャン? いつ?」





「――――今朝、だろォ? 土御門」

「…………」


 土御門は黙秘無表情、サングラスによって瞳はうかがい知れない。
 だが、一方通行は確かに静かに言い切る。


 彼は、この推理に自信があったのだ。


「……なんで言い切れるんです?」

「理由は複数、証拠は二つ、だ。まず一つ目の証拠はソコのゴミ箱」

「ゴミ箱……?」


 一方通行が指差す場所には、小さなゴミ箱があった。
 特に不審な物でもない、普通のゴミ箱である。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:06:05.16 ID:pe4j396o<>


「ゴミの切れ端が見えるだろォ? アレは『曲がり角コウジィ』のもンだぜ」

「……『曲がり角コウジィ』って、有名なあの!?」

「えっと……俺にはさっきからノリも何もよくわからないけど、その店は?」

「ちょっと前に芸人がパティシエになるって話題になったことがあるんです」

「その芸人が出店したのが『曲がり角コウジィ』よ。
値段は結構はるんだけど、それに見合う美味しさだって話ね」


 興奮して説明する海原と結標に上条は若干引きつつも、
 自分には全く無縁な世界のデザートであることは理解した。


 だが彼の中で疑問がでてくる。
 果たして土御門は何故、
 いつそんな高価なものを食べたのか――――


「可笑しいよなァ、
土御門はクリスマスイブの朝に、
もォすでにクリスマスケーキを食べ終わってンだぜ? 
しかもあの箱から見て二三人前はある。
一人で食うには多すぎンだろ」

「それは……
例えば昨日の時点で義妹さんのキャンセルがわかっていて、
昨夜一緒に食べたのではありませんか?」

「それはありえねェよ。
土御門の義妹はメイドだ、
そンなヤツが、ゴミを部屋に置きっぱなしで帰るかァ?」

「確かにそうだわ。



――――本当に一緒に食べたのが義妹さんなら、ね」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:09:04.16 ID:pe4j396o<>



 それは、ほとんどあり得ないにしても、捨てきれない可能性。
 義妹一筋の土御門だが、もしかしたら――――


「違う女と一緒に食べた可能性、か。あり得ないわけじゃァねェなァ。
ここで第二の証拠だ。
上条、この部屋に入った時、何か違和感を覚えなかったか?」

「――――え?」


 唐突にふられた上条は、
 皆から注目されつつも少しだけ考えてから答えた。


「違和感、かぁ……
そう言えば、やけにいつもより片付いているような……?」

「それは……私たちが訪問するとわかったから片付けたのでは?」

「それ以前に、義妹さんがちょくちょく片付けに来ているなら
この程度小綺麗なのは納得なんだけど?」


 上条の違和感の理由を説明する二人。
 食いつかれたものの上条としては、
 まだ違和感が拭えない。


「この部屋が片付いている理由は、
それで納得できるかもしれない。
――――だからこそ、キッチンに証拠が残ったンだ」

「!」

「キッチン? ……私が見たときは特に何もなかったと思うけど……?」


 結標はこの部屋に入った時、真っ先にキッチンを覗いたのだ。
 料理の練習をしている結標からすれば、
 自然で小綺麗に感じるものだったはず。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:13:02.99 ID:pe4j396o<>


「ああ、ちゃンと片付いていたぜ。




――――置いてあるのは、
乾いたシンクに生クリームのついたフォーク一本だけだ」



「「っ!」」



 ある意味それは決定的な証拠だった。
 フォークだけなら結標が見過ごしてもおかしくはない、
 そしてシンクが乾いているということは、
 洗い残しというわけでもないのだろう。


「そんな……」

「まさか……」


 結標と海原は悲痛な顔。
 土御門の肩が震えたような気がした。


 暗い空気の中で、まだよくわかっていない上条のために、
 一方通行は事の全貌を語る。
 この、ありふれた悲劇を。


「悲劇ってヤツは大概一つの希望から始まるンだ。
――――つまり、
土御門が義妹にクリスマスイブの約束を取り付けた時、
既に悲劇は始まっていた」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:16:19.32 ID:pe4j396o<>


「きっと喜んだでしょうね……」

「ええ……彼がアロハシャツの柄を迷う姿が目に浮かびます」


 そんな幸せな日々は、クリスマスイブ当日まで続くことになる。
 土御門が予約したレストランは、なかなか予約のとれない有名店。
 奨学金が少なく、 暗部で稼いだ金は
 ほとんど義妹のための貯金や資金へと消える彼には辛い出費。



 しかし彼は、彼女の笑顔を見られるだけで満足だったのだ。



「そして昨日の夜、
この部屋の片付けと洗い物、ご丁寧にもシンクの掃除までした」

「おそらくクリスマスイブぐらいは義妹さんに掃除させまいとする、
土御門さんなりの意地だったのでしょう」

「念のために聞くけど、土御門は昨夜確かにここで過ごしたのよね」

「あぁ、それは間違いない。昨夜は少しだけご飯を恵んでもらったし。
そう言えばいつもよりテンションが高かったなぁ……」


 隣人の裏付けはとれた。
 だから上条のナチュラルなコジキ行動はスルーすべきだろう。


「眠れない夜を過ごした土御門は、
クリスマスイブ早朝に出かけて『曲がり角コウジィ』へと向かった。
ちなみに、ここから『曲がり角コウジィ』まで一時間はかかるぜ」

「となると、どこかに寄ったついでに買ってきたという線は考えづらいな」

「あそこはちょっと学園都市でも外れのほうにありますからね。
どんな用事があったとしても、ついでに、というわけにはいきませんよ」

「そもそもせっかく予約したからっていう理由で買うにはちょっと値段が
高すぎるんじゃない?
確かクリスマス限定のケーキってわけじゃなかったはずだし」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:20:25.45 ID:pe4j396o<>


 つまり、彼はわざわざ二三人前のケーキを一人で食べるために、
 一時間かけてケーキ屋に行ったということになる。
 何故、そのような結果になってしまったというのか――――


「買いにいくときは、まだ希望ってヤツが潰えていなかったってことだな。
ドタキャンは、おそらく帰り際だろォぜ」

「「うわぁー……」」

「キッツいですね……」


 舞い上がっていた彼には、寝耳に水だったろう。


 その時、彼はどのような気持ちになったのだろうか。
 どのような、顔をしていたのだろうか。


「きっとどォしよォもない理由だったンだろォぜ、
例えばメイドの急な仕事が入った、とかな。
やり場のない怒りと哀しさ。
帰ってすぐに泣きながらケーキを貪ったンだな」

「義妹の写真を正面において、
やけくそに涙味のケーキを頬張る土御門……
目頭が熱くなるわね」




 もしかしたら、
 一方通行たちを呼んだ時何か言われるのが嫌で、
 証拠隠滅を図ったのかもしれないし、
 これ以上ケーキの存在が許せなかったのかもしれない。


 悲しい想いが、蘇ってくるから。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:23:41.41 ID:pe4j396o<>


「そして、おかしいテンションで一方通行さんに絡み、
図星、逆ギレで殴りかかったわけですね」

「人間としてはアレだけど、シスコンとしては仕方がなかったってわけか」

「これが、この悲しい出来事の、真相」

「ここまでが俺の推理だ。どこか違うところはあるか? 土御門」

「…………」


 皆が目を向ける先には、土御門の震える背中。





 次の瞬間、彼は膝をつき泣き崩れた。


「土御門さん……っ!」

「土御門……っ!
大丈夫よ、貴方には私たち『グループ』がいるわ!」

「豆腐投げつけて悪かったなァ。ぶっちゃけあン時、
大方の事情はわかってたけどオマエウザかったンだわ」

「もういい……!
もう……休めっ……!
休めっ……!
土御門っ……!」

「……ううっ」

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:26:08.72 ID:pe4j396o<>



 彼はサングラスごしに泣いていた、哭いていた。



 思う。
 俺は、そんなに悪いことをしたのか? と。
 周りの、本気で慰めているような、
 お通夜のような雰囲気の奴らを見回す。



 どこからか入ってきた猫は、
 場の空気を無視して呑気にあくびをし、




「おそいんだよとうま! おなかすいたーーっっ!」




 よく聞く声が、聞こえてくる始末。




 土御門は、本気で死にたくなった。


 そんな、クリスマスイブの正午。


 玄関から聴こえるジングルベルは、
 彼に対するララバイだったのかもしれない。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/29(水) 22:29:06.22 ID:pe4j396o<>

 一旦、休みます。
 風呂やらなんやら終わったら
 おそらく再開します。


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 22:31:48.14 ID:Cus0fgQo<>もういい…やすめ…休むんだシスコン軍曹…っ!

舞夏?俺の隣で寝てるよ<> 清掃ロボ<>sage<>2010/12/29(水) 22:41:47.05 ID:6ON5A6Mo<>舞夏?俺の上ではしゃいでるよ?<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 22:51:16.56 ID:j.neFMAO<>なんというつっちーの心の傷を掘り返す会<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<><>2010/12/29(水) 22:59:24.19 ID:P2I7.vM0<>俺はお前等をみているような気持ちになった<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/29(水) 23:58:13.41 ID:ikje/Eco<>何という公開処刑<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 00:45:08.50 ID:SDxpum6o<>これは泣いて良いレベル<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:08:07.26 ID:Vn8CsnMo<>
 では、再開します。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:12:10.58 ID:Vn8CsnMo<>…………










 とある寮の一室で発覚した、幸せだったはずの男に訪れた悲劇。
 これによりもたらされた、滑稽で胡散臭い陰鬱な空気は、
 隣室にいた白い餓鬼の乱入により、呆気なく霧散した。


「おそいよとうまー、なにしてるの?」

「おぉ、丁度良いところに来たなインデックス」

「?」


 キョトン、と小首をかしげる姿は愛らしい。
 それでも一方通行が彼女を見て真っ先に考えたのは、
 先ほど見た冷蔵庫の心配だった。


 間違いなく、買い出しが必要になってくるだろう。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:15:18.00 ID:Vn8CsnMo<>

「オマエも呼ばれたのか? ……そォいう訳じゃなさそォだな」

「あっ! あの時の白い人だ!!」

「そういやお前、世話になったんだってな。ちゃんと礼をしたか?」

「ぶーっ、失礼なんだよとうま!
でも一応もう一度お礼を言うね、ありがとう!! えっと――」

「……俺は一方通行だ、インデックス」

「ありがとうあくせられーた! またよろしくねっ」

「おぃっ!」

「別に構わねェよ。もしコイツに餓死させられそォになったらいつでも言え」

「一方通行……すまねぇ」

「いやいや、少しは遠慮すべきでしょ!」

「やっぱりあくせられーたは優しいね。
いつでもうちに遊びに来ていいんだよ?」

「イヤ、はぁ、もういいや……いつでも来てくれよ、お前なら大歓迎だ」


 そんな、たかりともとられかねない誘いだったが、その目は澄んでいて。
 きっと、こういう包容力がこの男の強さなのだろう。一方通行は思った。


「――――よしっ!
誘った人間も揃ったことだし、パーティーでも始めるかにゃーっ」


 いつの間にか立ち直っていた土御門の号令。
 これによってインデックスはどういうことになっているのか理解するものの、
 伝え損ねた上条への制裁は忘れない。



 彼の不幸な叫びで、クリスマスパーティーは始まったのだった。



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:17:33.52 ID:Vn8CsnMo<>…………





「くぉーー、なぁんでこんな序盤でキングボンビーになるんだよぉっ!」

「カカッ! オマエ貧乏神独占しすぎだろォ」

「とうまは不幸すぎてこういうゲーム向いてないよね……」

「上条君、不幸というレベル超えてるわよコレ。ある種の天才ね!」

「いや、天才っつゥかもはや天災だろコイツのは……
何連チャンで一を出すンだよ」


 今は昼食のちょっとした休憩中。
 案の定冷蔵庫の中身が無くなったため、
 土御門と海原の買い出し待ちで桃鉄に興じているところだ。


 ちなみに、買い出しはポーカーで決めた。
 当然の如く上条が負けたものの、
 彼が行くと無駄に女性が増えるという理由で土御門が却下し、
 二位と三位が行くことになったのである。


「ちょっ、結標オマエッ!」

「へへーん、あんたに調子に乗らせる私じゃないわよっ!」

「すごいんだよあわき! もうちょっとで逆転だね」

「ケッ、上条から盗ンだカードじゃねェかよ」

「盗んだなんて人聞きの悪い、貰ったのよ」

「不幸だ……」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:19:54.28 ID:Vn8CsnMo<>



 始めた時はあまり乗り気じゃなかった結標と一方通行も、
 元来の負けず嫌いから大盛り上がりだ。


 そんなとき、どこからか軽快な着信音が鳴り響く。


「ン?」

「あ、私みたいね。小萌かも」

「小萌って――」

「こもえはこもえだよ、あわきは一緒にすんでるもんねーっ」

「ねー」

「えらく仲がいいな、ってそうか、小萌先生と一緒に住んでいるなら当然か」

「そうだよ、とうまがいない時はこもえの家に押し付けられているからねぇ」

「ちょ、いや俺も忙し……ぎゃぁぁぁああああ」

「ふふふっ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:22:20.92 ID:Vn8CsnMo<>


 騒ぐ三人を横目に、喉の渇きを潤すためキッチンに向かう一方通行。
 見事なまでに喰い尽された料理達の残り屑が、テーブルの上に無様な骸を晒している。
 冷蔵庫の中も同様で、一方通行は呆れと感嘆の息を漏らしていた。



 その耳に、玄関から届く控え目なノック。
 どうやら彼しか気づいていないようなので、
 面倒だが出ることにした。


「誰だよオイ」

「あ……」



 そこに立っていたのは――――



「――――あァ?」

「……」


 一見は超電磁砲、
 だがその頭には彼女の容姿にミスマッチな暗視ゴーグル。

 あまりにも見慣れた顔で、
 彼のまぶたにこびりつき離れたことはない。


「――――妹達、か」

「…………製造番号一〇〇三二号です、とミサカは混乱しつつも名乗ります」

「あァ、オマエか……で、どォした?」


 土御門が妹達と知り合いであるという話を、
 彼はついぞ聞いたことがない。

 ここに来る理由は、かなり限られてくるだろう。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:23:53.20 ID:Vn8CsnMo<>


「……隣室に住んでいる上条当麻がどこにいるか知っていますか?
とミサカは隣人に驚きつつも直球で聞いてみます」

「待て、俺はここに住ンでねェ。オマエだって知ってンだろォが」

「知っています、上位個体があなたを保護していましたね、
とミサカは会話が進まないことに苛立ちつつも答えます」

「……その認識は腹立つがまァいい。
上条ならこの家にいるぜ。なンか用か?」

「! ……いえ用があるとかそういうわけでは、とミサカは……」

「……あァーなるほどな。ここはアイツと俺の知り合いン家だ。
どォする? 上がるか?」


 歓迎の言葉をかけられて、さらに彼女の表情は驚愕に染まる。
 素直に一方通行が自分を受け入れるとは思わなかったから。
 咄嗟に、反応できない。


「えっ……いや、えっと、とミサカはモジモジ……」

「……」

「えっと……」

「…………」

「そう、ですね、とミサカは……」

「あァー面倒臭ェ! オラッ、上がれっ!」



<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:26:39.50 ID:Vn8CsnMo<>


 一方通行は足踏みしている彼女を強引に招き入れると、彼女も素直に従った。


 前を歩く彼の背中は意外なほど大きく、
 彼女は何故か兄という存在を幻視する。


(彼が変わったのか、それともミサカが変わったのか……
きっと両方ですね、とミサカは自分の心境を冷静に分析します)


 彼女が、御坂妹が生まれ、
 そして自由になりそれなりの時間が経過した。

 その時間はかなり密度が濃いもので、
 見るもの全てに感動し、感銘させられたと言っても過言ではなく、
 彼女を成長させるのには十分だったのだ。


 彼女は、知る。
 楽しい、悲しい、嬉しい、寂しい、苦しい。
 そしてそれらを伴う、愛や怒りや憎しみを。

 その上で、
 彼を、自分たちを殺害した一方通行という捕食者を、恨まなかった。
 恨むにも、憎むにも、怒るにも、何分彼を知りすぎたのだろう。
 上位個体を通しても、自分としても、彼を『理解』してしまったのだ。





「おっ、御坂妹じゃねぇか。どうした?」

「――! あっ、その……」



 飛び込んでくる、上条の呼びかけ。
 急な想い人の声に思考が途切れる、胸の鼓動が大きく高鳴った。
 考えてみれば、良くわからない感情に支配され、
 いつの間にやら訪ねて来てしまっただけ。
 理由なんて、存在しない。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:29:11.46 ID:Vn8CsnMo<>


「チィ……コイツも混ざりたいンだとさ。だろォ?」

「! ――――はい、そうです、
とミサカは何をしているのかサッパリわからないながらも頷きます」

「ん? クリスマスパーティーだぜ? ちょっと面子は珍しいけどな」

「……超電磁砲?」

「短髪じゃなくてクールビューティーだね。妹の方だよ」

「クリスマスパーティー……」


 御坂妹には知識はあっても経験がなく、
 どうすればいいのかわからない。
 立ち尽くすしかなかった。


 ぽんっと、
 彼女の頭に手が添えられる。
 一方通行だ。


「クリスマスイブを上条と一緒に過ごしたかったンだろォ?
……違うか?」

「――そう、ですね。きっとそうなのでしょう」

「だったらコレをやれ」

「え……?」


 渡されたのは、ゲームのコントローラー。
 それは、一方通行の使っていたもので。


「じゃ、終わったら起こせ。俺は寝る」

「――――あ」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:30:56.87 ID:Vn8CsnMo<>



 そんな、勝手に一通り決めて寝ようとする彼を、
 彼女はとっさに袖をとり引き留める。


「……なンだ?」

「……無責任です」

「あァ?」

「私はこのゲームのやり方を知りません。教えてもらわないと困ります、
とミサカは勝手に去る貴方を糾弾します」

「だったら上条にでも教われ」

「ダメです。……きっとダメなんです、とミサカは意味もわからず否定します」


 このままでは、
 一方通行はこれからも彼女たちに微妙な距離を取り続けるだろう。


 とある幼女の願い――――、


 彼女が彼に近づく時は、今なのかもしれない。


「……そォかよ。ダメならしょォがねェわな」

「しょうがないです、とミサカはさりげなく好位置に座ります」


 すかさず上条の隣に座る彼女、そのとなりに座る一方通行。
 二人を見て、傍観していた三人は優しく笑うのだった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:32:47.47 ID:Vn8CsnMo<>






 その後ゲームに熱中し笑いあう彼らを、
 いつの間にか帰っていた土御門と海原が眺める。


「――――羨ましい、ですね」

「お前も節操がないな」

「……否定はしませんが、それだけではありませんよ」


 ぎこちなくも近づこうとする、一方通行と御坂妹。
 その姿は、近づくことの出来ない海原が求めた理想で、
 あり得ない夢だった。


「――よっしゃ、見たかコラァ! オマエスゲェぜッ!!」

「いえ貴方の指導がいいからです、とミサカは興奮しつつも謙虚さを見せます」


 パンッと手を合わす二人は微笑ましく、彼らの頬も緩む。


 御坂妹は無表情の中に少し笑みのようなものが見え、
 一方通行は子供のように笑いはしゃいでいた。


(こんな顔を見せられては、憎めませんね)

(そんな顔を見せられては、妬めませんよ)


「そうか……俺としては否定すべきだと思うが」

「彼女もまた御坂さんですよ」(キリッ

「…………」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:34:43.41 ID:Vn8CsnMo<>



「あぁーーーっっ追加のご飯!!」

「土御門たち帰っていたのね」

「じゃあ飯にするか。
コラッ、まだ手をつけちゃいけません!」

「ではミサカも……ほら、一方通行も頂きましょう」

「……あァそォだな」




 そこは誰の理想郷か、
 明るく楽しいクリスマスパーティーはまだまだ続く。




 ジングルベルは、未だに途切れることなく聴こえ、
 終わりなき宴を思わせて。




 その儚さを、皆噛みしめていた。




<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 01:40:23.72 ID:Vn8CsnMo<>


 

 ここで、一旦止めます。
 

 どのぐらい行を空ければいいのかわからないですね。
 あと、1レスでどのくらい書けばいいのかも……

 需要に応えるべきなのか、それとも好き勝手に書けばいいのか。
 需要を作ればいいとばっちゃは言っていたけれど、
 それは難しいよばっちゃ……

 
 それでは、また夜にでもあいましょう!


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 01:49:30.45 ID:hU.Bbxk0<>乙かれー
いいないいなぁ…妹と一方さんの距離感がなんかいい<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 02:00:06.69 ID:bvqxJeQo<>おまえが好き勝手に書くことが俺の需要だ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 03:24:37.05 ID:SnLH7qMo<>俺はこのままでも一向に構わんっっっ!
一通さんがみんなと仲良くしてたらそれでいい
しかしここで妹達とは…やりおる

おつかれじゃん<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:40:54.22 ID:Vn8CsnMo<> 
 さて、投稿しますね。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:41:30.28 ID:Vn8CsnMo<>――――







「へぇー面白かったみたいだね」

「……まァな」

「良いじゃん良いじゃん青春してるじゃん!」



 病院でのクリスマスパーティーは、
 ミサカベストに対する昼のパーティーの報告会になっていた。


 肩をバンバン叩く黄泉川をうっとうしく思いつつも、
 少し気恥ずかしくジュースを煽ってごまかす一方通行は、
 それでも昼のパーティーに満足気だ。


「ミサカも行きたかったよーー、うーうー!
 ってミサカはミサカはジタバタしてみる!」

「うーうー言うのを止めなさい!
 って強気になれるほど元気になれないわぁ。……若さって良いわね」


 打ち止めは呼んでもらえなかったことを不服に思っているようだが、
 一方通行としては仕事仲間のいる場所に連れていく気にはならず、
 わざと呼ばなかったようだ。

 打ち止めと芳川は大がかりなクリスマスパーティーを計画していたが、
 ドクターストップがかかったらしい。
 こぢんまりとした、ミサカベストの個室でのパーティーになった。
 酒はシャンパンのみである。
 


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:45:27.72 ID:Vn8CsnMo<>

「でもこうして話を聞くだけでも十分面白いね。
一方通行が楽しいなら、ミサカも楽しいよ」

「……そォかよ」

「いやぁ良い娘さんじゃん! 子供もさぞかし可愛いだろうねぇ」

「早く会いたいね! ってミサカはミサカはわくわくてかてかしてみたり!」

「そうね、子育ては私も手伝うわ」

「……それはちょっと心配じゃん?」

「変な方向に行きそうかも……ってミサカはミサカはけねんをひょうめいしてみる」

「オマエ、コイツ産まれたら定職につけよ。ニートは育児に悪影響だからな」

「うっうっ……最近彼ら私に甘くないのよぅ」

「あはは……よしよし」


いい歳してすがり付く芳川の頭を撫でるミサカベスト。
気のせいか、彼女もすでに母親のような貫禄が見えなくもない。


「でも一方通行もパーティーの出来る友人が出来たか……」

「――そう、ね。感慨深いわぁ……」

「なンだよそりゃァ」

「スゴくいい変化だよっ!
ってミサカはミサカはちょっとだけ寂しいのをガマンしてみる」

「……あなたの世界は、もっと拡げていくべきだよね。
助けになるから、きっと、ゼッタイ」


打ち止め同様ミサカベストも少し寂しそうな顔を覗かせたが、
それでも嬉しそうで。
彼の幸せを、本気で願っているようだった。


 彼は、この暖かい世界が大好きで、それでも慣れそうになく。
 リアクションに困り、俯くしかなかった。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:48:51.13 ID:Vn8CsnMo<>
「――――さて、そろそろプレゼント交換じゃん!」

「そんな時間かしらね」

「ン? ……オイ、俺は何も用意しちゃいねェぞ」

「ダイジョブダイジョブ、ってミサカはミサカはプレゼントの用意!」

「あなたは何もしなくていいよ。ただ座っているだけでいいから」

「……? というかなンで迫ってきてンだ!」


 ビクつく一方通行を見て、四人は笑い合う。
 そして、彼を壁際へと追い詰めると、――――皆でしっかりと抱き寄せた。



「お前は沢山の人を救う力があるじゃん」ギュウ



 彼を見る目は皆優しく、



「キミは壊すだけじゃなく創ることも出来るから」ギュウ



 暖かく包み込んで、



「そんなあなたのいる世界は、ずっとずっと幸せであるべきなんだよ、
ってミサカはミサカは願ってみる」ギュウ



 何も言葉を発することが出来ず、



「あなたを愛しているよ、ダーリン♪」ギュウ



 溶けてしまいたかった。
 <> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:50:48.32 ID:Vn8CsnMo<>



それは、甘いチョコレートのような、愛のクリスマスプレゼント。




「……ワッケわかンねェ。どこがプレゼント交換なンだよ、クソッ」


「皆で温もりを交換してるじゃない?」


「クソックソッ……あちィよ、たまンねェよォ……」


「大丈夫、ここには私たちしかいないじゃん」


「何がだよ、クソッ……」


「それは弱さじゃないから、ってミサカはミサカはフォローしてみる」


「……何言ってンだ」


「だから、――――あなたは今泣いて良いんだよ」


「何、が…………え?」



 彼は、頬に雫を感じる。


 家族の愛に初めて浸って、油断したのか。
 自分でもわからないうちに、泣いていたのだ。
 涙は、止めようとしても止められない。



 優しさに包まれて泣く一方通行は、まるで赤ん坊のようだった。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:53:22.90 ID:Vn8CsnMo<>…………









 しばらく五人で抱き合っていた後、
 芳川が人脈を駆使して買ってきた『曲がり角コウジィ』の特注ケーキを食べ、
 その場は解散になった。

 と言っても、ミサカベスト以外が同じ家に帰るだけだが、
 寂しそうなミサカベストと離れるのに骨が折れて。

 それでもなんとか家に帰ると、打ち止めは疲れたのかすぐに寝付く。
 その後、一方通行はサンタモドキをさせられたのだが、
 それはまた別の話。





そして――――





(早く帰ンねェと皆起きちまう、っと!)


 ダッ、と。
 一方通行は携帯片手にサンタ姿、建物間を跳ぶ、翔ぶ、飛ぶ。


 世界中、一万人以上の人間にプレゼントを配るという、
 誰にも知られないであろう偉業を、
 学園都市の科学技術を駆使した芳川の協力をもって
 成し遂げた彼は、ようやく学園都市に帰ってきていた。



 日はとうに顔を見せていて、朝と言って何ら間違いではない時間帯だ。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:55:55.49 ID:Vn8CsnMo<>


 そんな時間に彼へ連絡してくる人間は、おおよそ想像がつく。
 まだ彼の最愛なる家族は起きていないだろうから――――


「で、なンの用だ? この性の六時間後のコーヒーブレイクタイムに」

『それを言うな……仕事の話だ』


 茶化す一方通行に少し反応するものの、
 土御門の硬い声は崩れない。
 仮にも休暇中の一方通行に連絡が来るということは、
 どうやら緊急の仕事らしい。


「へえ……? まだ馬鹿は消えてねェってわけか」

『蟲はいくら殺しても湧くものだから仕方がない。
だが今回の蟲は少々生意気みたいだな。
ピンポイントで俺たち「グループ」に喧嘩を売っているらしい』


 ピクッ、と。
 一方通行の眉が動く。
 蟲の気配を、感じたかのように。


「――――聞かせろ、そのクソムシはどォいう奴だ。
なンらかの接触はあったのか?」

『あぁ、ご丁寧にも予告してくれたよ。







――――“親船最中暗殺計画”をな』


「!」


<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/30(木) 20:57:47.63 ID:3aXzLq6o<>サンタさンマジカッケ―wwwwwwww<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 20:59:30.23 ID:Vn8CsnMo<>
 統括理事の親船最中は一時期一線から退いていたものの、
 現在は復帰し『グループ』最大の支援者となっている。
 それは裏の世界ではよく知られた話で、つまり――――


「なるほど、俺らに喧嘩売っているみてェだな」

『俺たちが護衛することを見越した上か、それとも俺たちをおびきだす罠か』

「どっちにしろ、やるしかねェ」

『そうだ、だからいつもの場所に来い。ミーティングをするぞ』

「了解、リーダー」

『……じゃあな』ピッ


 ツーツーっと。
 一方通行は無機質な音を、なんとはなしに聞いていた。
 その音に合わせて、急速に頭を冷やし、心を固くしていく。

 今の彼は首にあるチョーカーの改良が進み、
 持ち運び可能な充電機も完成して、
 かなり長い間能力を使うことが出来る。

 それでも基本的にはスイッチを切った状態だが、
 戦闘には全く支障がないようになっていた。

 現に昨夜、世界中駆け回っても電池は尽きることがなかったのだ。
 今日の戦いに使う電池は、
 充電済みのものを使えばいい。替えの電池もある。


 つまり今の彼は、正真正銘時間制限無しの学園都市最強、
 誰にも恐れられた超能力者第一位、一方通行である。
 そんな彼に、喧嘩を売った奴がいる――――


(全く、俺の癇に障ってンじゃねェよッッ!)


 目の前の蟲を圧し潰すように突貫する彼は、誰にも止められない矛。
 それでも、彼が油断をすることはなく。


 向かうは戦場、 学園都市の風は鬨の声を上げていた――――――

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:40:49.24 ID:Vn8CsnMo<>――――










 サンタクロースが世界中を疾駆したクリスマスイブの夜は終わったが、
 クリスマスは終わらない。終われない。終わってたまるか!



 そんな叫びが聴こえるかのように、
 不機嫌に空き缶を蹴飛ばすお嬢様にあるまじき素行が、
 御坂美琴から他人を遠ざけている。


 スカートの下に見える短パンが、
 何人の漢たちを絶望させてきたのか知るはずもなく。


(あーームカつく!!
コレがなかったらイルミネーション手当たり次第壊していたところよっ!)


 物騒なことを考えてはいるが、
 制服の下に着ているゲコ太Tシャツ、
 世界的ブランド『ITTUU』がデザインした限定モデルのお陰で
 だいぶ不機嫌が抑えられているようだ。


 ちなみに、そのTシャツは昨夜サンタクロースにもらったもの。

 厳重な警備である常磐台中学寮に侵入し、
 しかも超能力者である自分に気付かれず、
 プレゼントを枕元に置くなんて本物のサンタに違いない。

 そう考えるところが、純粋乙女御坂美琴らしいと言えるだろう。


 同じ部屋に住む白井黒子が、
 風紀委員(ジャッジメント)として侵入者を逃したことにショックを受けていたことは、
 御坂にとってはどうでもいいことである。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:45:04.67 ID:Vn8CsnMo<>

 そんな彼女が今不機嫌なのは――――


(くぉーー、なぁんでアイツはあの子とパーティーなんかしてるのよぉ!?
……まんまと嵌められたorz)


 怒ったり凹んだりと忙しい彼女。
 元凶は、例の如く上条当麻だった。


 昨日の土御門主催のクリスマスイブパーティー。
 実は影で謀略渦巻く上条当麻争奪戦が繰り広げられており、
 結局土御門が保護という形で匿い終息させた経緯がある。

 だからこそ無関係な『グループ』を招待客にチョイスしたのであり、
 上手く紛れこんだのが御坂妹だった。
 なお、インデックスは単に忘れられていただけである。

 そして上条争奪戦は足の引っ張り合いに終始し、
 御坂美琴はミサカネットワークによる巧妙な情報トラップに引っ掛かり、
 脱落した。

 先ほど御坂妹と出会い慰められたのは、
 御坂からしてみれば
 『恥辱のクリスマスイブ』と名付けてもいいぐらいの屈辱。


 だからこそ、御坂はこのクリスマスに挽回したいと考えている。
 取り敢えず昨日の轍を踏むまいと、
 勇気を出して上条の寮に向かうところだが――――


(さっきの情報は本物なのかしら……?)


 自分のクローンに思いっきり小馬鹿にされた事実は忘れ去りたいが、


『あの人は寮にはいませんでしたよ?
とミサカは携帯が通じないことを再確認しながら、
ライバルに塩を送ります』


 という情報は捨てがたい。

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:48:23.95 ID:Vn8CsnMo<>

 それが本当なら、完全に無駄足であり、
 他者に遅れをとってしまうことは間違いないのだから。
 それでも――――


(昨日の今日で信じるなんてこと簡単には出来ないわね。
……念のため行ってみましょう)


 すでに昨日煮え湯を飲まされたばかりであり、
 送られた塩は劇薬である可能性も否定出来ない。


 一旦寄るぐらいの時間はあるだろう。
 今現在十一時を回ったところ。
 彼女は白井黒子を振り切るのに時間を使いすぎた。


(色々考えるだけ無駄ね。ひたすら突っ走るのが私らしいかもっ)


「周りの電化製品に注意しろよー。掃除ロボだって高いんだからなー」


 そんな、
 電気を使って走りだそうとした御坂を止めたのは、
 メイド服を着て掃除ロボの上に座る少女。


「……舞夏?」

「やっほー」


 彼女の名前は土御門舞夏、
 土御門元春の最愛なる義妹である。
 御坂美琴とは友人であり、
 下の名前で呼ぶくらいには既に仲良くなっていた。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:50:55.56 ID:Vn8CsnMo<>

「こんなところで暴れてどうしたんだー?」

「それは……えと、アンタこそ何してるのよ?」

「私は昨日の埋め合わせだぞー」


 まさか想い人とクリスマスを過ごすためにここまで来たとは、
 御坂の性格上言えないので言葉を濁す。
 そんな意思を汲み取ったのか、舞夏もあまり突っ込まない。
 さすがはエリートメイドである。


「あぁ、アンタの兄貴こっちに住んでるんだっけ。昨日なんかあったの?」

「昨日は兄貴がランチに誘ってくれて私も時間あったからOKしたんだけどー、
急に学校の用事が出来てドタキャンしちまったんだー」

「……そっか」


 メイドという仕事は基本的に無休だ。
 主人の求めにはいつでも応える必要がある。
 クリスマスだから休み、とはなかなかいかないのだろう。
 御坂はそう理解した。


「でも今日はやっと本当に休みを貰えてなー、
兄貴に話したら年甲斐もなく大喜びで、
ディナーを予約するって騒いでさー」

「へぇー……いい兄貴じゃない」

「そうだなー、バカだけどいい兄貴だと思うぞー」


 舞夏はバカなんて兄を貶めるが、その目は優しく。
 本当に大事に思っていることが、よくわかった。
 兄弟のいない御坂としては、少しだけ羨ましい。


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:54:31.14 ID:Vn8CsnMo<>

(まっ、姉妹ならかなり沢山いるけどね。ちょっと生意気だけど)


 思い浮かべるのは、自分と同じ顔をした妹たち。
 なんだかんだ喧嘩みたいなことをするが、
 それでも自分は妹たちに救われている。
 そう御坂は思っていた。


「しっかし兄貴のやつどうしたのかなー?」

「ん、なにかおかしかったの?」

「いやー、『明日の夜は大事な話がある』って
昨夜真剣な声で言われてさー。
珍しいなーって思ってー」

「…………」


 それ変なフラグじゃない? とは、御坂には言えなかった。
 彼女にはフラグ不成立を願うことしか出来ない。




「で、美琴はどこまで一緒なんだー?」

「……そう言えばそうね」


 どうやら、話しているうちにだいぶ歩いていたようだ。
 地図によるとこのあたりが上条の寮のようだが――――


「それ兄貴と一緒の寮じゃないかー?」

「え」

「ほらここー」


<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/30(木) 23:57:30.72 ID:Vn8CsnMo<>


 PDAを覗きこんだ舞夏が指差すのは、目の前の寮。


「私の兄貴と一緒だー」

「そう……みたいね」


 そして階まで一緒、隣同士の場所を目指していたとは、
 さすがに両者驚き顔だった。


「あー、美琴は上条当麻に用があったのかー」

「……ちょっと、ね」

「それじゃなー」

「うん」


 隣の部屋に入っていく舞夏を見送り、
 このような偶然もあるんだな、なんて彼女は少し思う。


 しかし今の彼女はそれどころではないのだ。


(そうよ、アイツが家にいるか確認しなくちゃ!)


 無駄に緊張する御坂は改めて上条宅に向き合い、
 ノックにすべきか、チャイムを鳴らすべきか、
 それともいっそ蹴破るか……そんなことを考える。

 どうやら、切羽詰まると彼女の思考は暴力的になるらしい。
 蹴破ろうとする彼女は、
 寸前でドアの隙間に挟まれたメモに気づいた。


(……?)


 手にとり確認すると――――

<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/31(金) 00:00:59.08 ID:J4zRO4Eo<>



――――脱力。


 内容は、推して知るべし。
 なお、差出人は御坂妹だったとだけ追記しておこう。




 こうして、

 彼女はどのくらいの時間脱力していただろうか。
 忙しない車の気配に気を取り戻した御坂は、
 メモ片手にワナワナと震えだした。


(舐めた真似してくれるじゃない……こうなったら、あのバカ絶対に見つけてやる!)


 燃える彼女に追われる上条。
 上条の身体に走る悪寒は、
 哀れその後に起こる不幸を報せることしか出来なかった。







 ――――そして、戦いはこの時既に始まっていたのだ。





<> 泥源氏
◆88arEec0.g<><>2010/12/31(金) 00:02:29.91 ID:J4zRO4Eo<>





 というわけで、ここで一旦止めます。


 また、今日中には来るつもりです。


 よろしくお願いいたします。




<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 00:06:02.54 ID:TNJiaE2o<>乙<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 00:10:54.92 ID:05Ckxpko<>おつ<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 00:20:19.61 ID:g0ILxRo0<>ご苦労様<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 00:52:49.29 ID:sO3rUQUo<>乙です
メモの内容が気になる<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 01:25:39.07 ID:.KQ7Eqso<>真っ白なサンタさんか<> 以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします<>sage<>2010/12/31(金) 09:00:29.67 ID:mZOcgsDO<>乙
サンタ服のまま出勤する一方通行さんマジサンタ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/05(水) 19:40:05.61 ID:P6q4GXc0<>ふむふむ 今日はまだまだ今日だな<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/08(土) 22:02:02.80 ID:5q8esGY0<>マダ--? AA略<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/09(日) 22:14:19.06 ID:vNLcH2tt0<>年開けてから、あちこちで書き込みが減ってるんだが、大規模規制でもやってんのかね<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/10(月) 05:36:39.14 ID:FxkimegBo<>モペキチと東日本が大暴れして2ch全体が被害食らったからな
これからどんどん規制作業が行われていくはず<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 01:12:01.59 ID:Djgpv7uUo<>ここは2ちゃんねるじゃないから^^;<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 06:03:46.02 ID:2tWfSIqaP<>何か勘違いしてないか<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 16:06:48.62 ID:XGvlso2io<>パート速報の方で、2ちゃんねるでも有名な荒らし(K5)が大暴れしてるから、それの巻き添え<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/11(火) 17:40:11.63 ID:hW4BmT410<>今日っていつさ<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/12(水) 18:20:34.70 ID:dOH3Ter10<>規制の影響なんかなぁ
他のSSでも年末年始からプッツリ途切れてるのも多いし・・・<> VIPにかわりましてGEPPERがお送りします<>sage<>2011/01/14(金) 00:26:23.31 ID:fnTQvZcio<>新板への移転にも気づくといいが・・・
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/

<> 真真真・スレッドムーバー<><>移転<>この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/14(金) 23:54:55.32 ID:qP7Lb3XOo<>


 明けましておめでとうございます。m(__)m


 しばらく顔を見せることができませんでした。
 全く言い訳のしようもありません。

 見捨てられてしまっているかもしれませんね……
 それでも、始めたなら完結するのが筋ってやつですよね。
 頑張ります!!


 というわけで、移動させておきました。
 またよろしくお願いいたします。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/14(金) 23:58:09.73 ID:VMf0vwVAO<>大丈夫。そんな>>1も応援してる。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/15(土) 00:42:36.79 ID:3p/uoAW90<>続きを楽しみに待ってます。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 08:01:25.53 ID:i5WF59qIO<>ずっと待ってる<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/15(土) 21:39:09.47 ID:dJI3aSzi0<>年末から数時間おきに巡回してる。<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/16(日) 15:25:19.65 ID:/KiteR09o<>いいぜ
待つわ<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:39:37.51 ID:BkXnBeqvo<>




 舞台は、第三次世界大戦の起こっていない世界。





 一方通行の元に現れたのは、御坂美琴の量産個体の一人である
 番外個体(ミサカベスト)だった。
 彼女や親船たちに促され打ち止めたちと和解した一方通行は、
 束の間の休息を黄泉川家で過ごすことになる。


 そして、時期はクリスマス。
 皆とクリスマスパーティーを行い、サンタの真似事までした一方通行。
 そんな彼に、土御門より緊急の電話があった。





 不吉な影は、彼のすぐそこまで近づいていて――――





 あらすじ…………みたいなものです。
 かなり適当でおおざっぱですが、思い出していただけると幸いです。
 それでは、>>423の続きから始めます。



 <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:42:32.85 ID:BkXnBeqvo<>――――






「“親船最中暗殺計画”、ね」




 そのワンボックスカーでは、四人の男女が思い思いにくつろいでいた。
 それでも話す内容は物騒で、顔は真剣そのもの。


「予告しちまったら暗殺もクソもねェじゃねェか」


 ぼやくのは、一人仮眠用ベッドで寝転がる一方通行。


「で、予告っていうのはどういうものなの?」


 訪ねる結標は、今簡易キッチンからタオルで手を拭いつつ出てきたところ。


「なに、大したものじゃない。
『親船最中様を暗殺させて戴きます』――――ちょっとした古風なラブレターさ」

「なかなか過激なラブレターですね」


 土御門はソファーに身を任せ、海原は身を乗り出して座っていた。


「そのラブレターはどンなシチュで渡されたンだ?
まさか下駄箱に置いてありましたァなンてこたァねェだろォ」

「渡し方もなかなか古風だったよ。――――矢文だ」

「……矢文?」

「ああ、一メートルの鉄矢だ」

「…………」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:44:20.77 ID:BkXnBeqvo<>

考え込む一方通行を置いて、話は続く。


「事務所近くの広場に突き立ててあったらしい。
通常はイタズラで処理するところだが……少しばかり狂気じみていたからな」

「警備員、風紀委員じゃなく『グループ』に話がくる理由はそれ?」

「それもあるだろう。理由としては、相手が複数人の能力者集団、
――――最低でも強能力者(レベル3)、という点も挙げられそうだ」

「相手は集団、そして狂気に満ちている? ……まるで宗教ですね」

「それに近いのかもな」

「待て」

「……なんだ? 一方通行」

「なンで矢文を打ち込まれただけで狂気がわかる?
猫の死体でもあったのか? あと人数もだ」


 土御門が説明を欠いたのはわざとなのか図りかねたため、
 海原はあえて突っ込まなかったが、一方通行はどうも心地悪かった。




 意味のわからない動悸、発汗、頭痛。


 まるで、その狂気がすぐそこにあるかのよう。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:46:07.04 ID:BkXnBeqvo<>

「……猫の死体も、ましてや血糊で書かれた予告状もなかったさ。
単に矢文が刺さっていただけだ」

「じゃあどうして――」

「そう、矢文が刺さっていたんだ。







――――広場を覆い尽くすぐらい、な」

「「っ!!」」

「…………」





 その光景は、あまりにも異様で、非日常的で、狂っていた。



 直立する鉄製の矢は規則正しく置かれていて、
 機械的過ぎるソレは何者かの恐ろしいまでの神経質さをまざまざと見せつけている。

 もはや芸術的なソレは、しかるべき場所に存在すれば評価されたのかもしれない。


 しかし、そこは皆の憩い、子供たちも遊ぶ広場で、
 日常の風景を提供してくれるはずの普通の敷地だ。


 日常を蹂躙したソレは、美しさよりも禍々しい、描いたものの狂気を顕現させていた。


「それは――――」

「狂っている――――わね」

「……なんの意図があるのかはわからないが、やらかしたヤツは常人だとは思えない。
イタズラでは処理不可能だ」

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:48:10.19 ID:BkXnBeqvo<>

「予告状も本気だってこと?」

「まず間違いないでしょうね」

「…………オイ」


 先ほどから喋らなかった一方通行が重い口を開く。
 彼らしくない、少し震えた声だった。


「……どうした一方通行」

「その矢文は何本あったンだ?」

「――――二百本、だな」



『二百三十体作られていたとしたら二百体以上いるんじゃないかな』



「書かれていたのは――――」

「さっき言っていた文と、脅迫だ」

「脅迫?」

「親船最中の行動計画を変更しない、警備員や風紀委員に通報しない、
これらの条件を満たさない場合は無差別にテロ起こす、ってさ」

「なるほど。差出人は親船さんの行動を把握している……?」

「おそらくは限定的に、だ。
今日彼女が第三学区中央ホテルでVIPと昼食、ってのは特に秘匿事項じゃない」

「それだけ知っていれば、差出人としては十分なのね」

「そうだ。そこで仕留める気満々ってわけだ」

「解せないのは、それだけ目立つ行為を行っても警備員や風紀委員を排そうとする、
という点ですかね」

「私たち『グループ』を誘っているからってこと?」

「他に……他に何か書かれてなかったのか!?」
<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:49:51.90 ID:BkXnBeqvo<>

 矢文の光景を思い浮かべた一方通行には、
 自分が時折見る悪夢が何故かフラッシュバックしてしまう。


 視界にちらついて離れないのだ。


「他に……? あぁそう言えば」

「なンだ!!?」


 簡易ベッドから立ち上がる彼は少し取り乱して、顔に余裕が見られなかった。


「……? 確か、数字が書かれていたみたいだ」

「数字?」

「細かく模様みたいに、一本約五十個のペースで








――――計一万三十一個」

「っ!!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:52:22.54 ID:BkXnBeqvo<>



――――まさしく鉄製の矢は、墓標だったのか。




 その数字は、一方通行に馴染み深い数字、彼の犯した罪を現していた。
 偶然には出来すぎていて、作為には悪意がすぎる。



(断罪……これは俺への死刑宣告、か)



「どうしました? 一方通行さん」

「……いや、なンでもねェ。構わず続けろ」


 一方的に突きつけられた殺意。
 彼は受け止め取り乱すものの、
 その目にあるものは諦観でも絶望でもなかった。


(なンとしてでも、殺されてやるわけにはいかねェな)


 悪意は受け止めても、自分が壊れるわけにはいかない。
 そうでなければ、悪意は行き場を失ってしまうから。


 破滅が、訪れるだけだから。


 これからの行動指針を決める他の三人の話を聴きながら、
 一方通行は思いを馳せる。


 自分にも、彼みたいに守ることが出来る、そう信じて。






 来る困難の重さを確かめながら、彼はただ救う決意を固めていた。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:55:55.60 ID:BkXnBeqvo<>――――







「今日の検査が終われば一旦退院ですね、
ご苦労様でした。それでは失礼します」

「……ありがとうございました」

「おめでとう滝壺」

「おめでとうございます、滝壺さん」

「ありがとう、はまづら、きぬはた」



 十二月二十六日、クリスマスの翌日に滝壺理后は退院する。
 医者の話では、もうしばらく入院は必要ないとのこと。


「いやー良かった良かった……うん、とにかく良かった」

「超良かったですけど、浜面はどんだけ語彙ないんですか」

「いいじゃねえかよ、本当に良かったんだから。
これでクリスマス会出来るな! …………ここで」

「ショバ代超ケチってますね」

「うっせ」

「? わたしはここ好きだよ?」

「だよな! やっぱ好きなところでやるべきだよなっ!」

「……せいぜい昨日みたいにならないよう超気をつけて下さいね」

「ぐっ……!」


 そう、昨日のクリスマスイブも二人は滝壺の病室を訪れパーティーを決行していた。


 すると浜面の仲間が頼んでもないのに押し掛け、
 病院はパニックになりパーティーは中止を余儀なくされてしまったのだ。


 約一名、某忍が警備員待ちで暴れていたが、強制的に絹旗が排除したとか。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 20:58:14.48 ID:BkXnBeqvo<>

「アイツら誓約書書かされたから、もうさすがに今日はこねーよ」

「だと良いですけど」

「大丈夫だよ。あの人たちいい人っぽかったし」

「根はいい奴らなんだけどなぁ……」


 浜面の仲間である彼らはスキルアウト、無能力者の集まりであり、
 能力開発をドロップアウトした人間が能力者から身を守るため、
 そして学園都市で生き抜くために作った団体である。


 戦争反対運動でも彼らは浜面と共に活躍、学園都市での地位を上げ、
 今現在はリーダーの意向でなんちゃって警備員みたいなものをやっている。
 学園都市の平和を守る縁の下の力持ちを自負していたのだ。


 それでも根っからの騒ぎたがり屋が集まっているため、
 祭りとなれば助っ人を買ってでるのはいいが、やり過ぎるのが珠に瑕。


 浜面との親交は途絶えず、超能力者を撃破した浜面を尊敬している節があり、
 滝壺は姐さんと呼ばれ親しまれるが、こういう時は正直迷惑だった。


「昨日は悪かったな滝壺……クリスマスイブが台無しになっちまった」

「たく、本当に超反省して下さい」

「あれはあれで楽しかったからいいよ、はまづら。
それに今朝は貴重な体験もできたし」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:01:49.93 ID:BkXnBeqvo<>

 そういう彼女は全然気にしていなさそうで浜面としては助かったものの、
 機嫌のいい彼女が少し不思議だった。


「……朝何かあったんですか?」

「うん、サンタさんと出会ったの」

「「…………は?」」


 一瞬何を言ったのかわからなかった浜面と絹旗だが、
 理解すると大したことはない。
 きっと病院の先生かなにかが変装したのだろう。


「へぇー、超粋な計らいですね」

「……俺が行ってやりたかったけど、昨夜は色々と付き合わされてさ。
ごめんな滝壺」


「空を飛び回れるなんて、サンタさんてやっぱりすごいんだね」


「……へ?」「……ん?」


 彼らを無視して放った滝壺の言葉に、
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。

 少なくとも、
 浜面たちの常識の中に空を飛び回る偽サンタはいない。


「……見間違い、とかではないですか?」

「朝の散歩の途中に会って、話もしたよ。
プレゼントももらったんだ」

「プレゼントって……大丈夫なのかよ!?」


 浜面としては、
 知らない人に物を貰っちゃいけませんなどと、
 いい歳した女性に言いたくない。


 しかもそれが自分の彼女なら尚更である。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:05:05.99 ID:BkXnBeqvo<>

「これがプレゼント、すごく綺麗だよね」

「これ、ですか?」

「ん? ……なんだそれ??」


 滝壺のマイペースには慣れたもの、
 無視されてもへこたれない強さを浜面は手にいれていた。


 プレゼントはちょっとした黒い破片、のように見える。


「明らかに不審物ですが、確かに超綺麗ですね」

「あぁ……惹き込まれるような、不思議な美しさがあるな」


「サンタさんは言ってたよ。
『コイツを俺は“竜王の鱗(ドラゴンメイル)”って呼ンでンだが、特別にやるよ。
だから俺がココにいたことは秘密だ』って」


「ふーん……って、滝壺さん超言っちゃってますよ!?」

「あちゃー……てへっ(ノ∀`*)」

「――――ま、超どうでもいいんですけど」

「可愛いは正義だな!」



 ……二人ともなんだかんだで滝壺には甘かった。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:07:42.45 ID:BkXnBeqvo<>



「そう言えば、今日のクリスマス会にしょちとるも呼んでいい?」

「? それは誰ですか?」

「あぁ、滝壺が病院で作った友達だよ、な?」

「うん」


 ショチトルは昨日のパーティーにも誘ったが、断られていた。
 検査の後に義兄との約束があったらしい。


「ほー、超いいですね。浜面呼んできてください」

「……やっぱり俺か。あの子俺を見て警備員呼ばないよな?」

「うわっ……その子にも超変態扱いですか?
どうせ超自業自得なんでちゃっちゃと行ってきてください」

「……そうですねこの中で行けるの俺ぐらいだもんな
不審者として追っ払われても知らんぞコンチクショーーッ!」

「ごめんねはまづら、パシリが似合うはまづらを私は応援してるよ」

「うおおおおおーーーっっ!!」

「あなた廊下を走らないっっ! 大声もダメっ!!」

「……スミマセン」


 突然大声を出して走り出した浜面は、
 結局廊下で看護士さんに捕まり説教されていた。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:10:19.97 ID:BkXnBeqvo<>


「超ダサッ」

「……ごめんはまづら、フォローできないや」


 そんな女性陣の追い討ちが聴こえていないのが不幸中の幸いか。
 彼は無事(?)受付に向かう。



 病室も大分静かになったように感じられた。


「――――はぁ、ようやく超暑苦しいのがいなくなりましたね」

「ちょっと暑苦しいところがいいんだよ、はまづらは」

「……滝壺さんって超ちょくちょく毒吐きません?」

「? そうかな?」


 とぼける滝壺に、呆れ顔の絹旗。
 本気かどうかいまいちわからない所が、
 滝壺の侮れないところである。



 そして静寂の中、
 滝壺は思考に耽り絹旗は適当に持ってきた映画雑誌を読む。
 これは『アイテム』として活動している頃より変わらないスタイルだった。


 だからこそ、二人は思い出してしまったのかもしれない。
 あの、四人でファミレスに集まる日々を。


「……きぬはた」

「……何ですか?」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:12:50.15 ID:BkXnBeqvo<>


 滝壺は絹旗に呼び掛けるものの視線は窓の外を眺めたままで、
 絹旗も顔を上げることはない。


「きぬはたは、今幸せ?」

「……っ! どうしたんですか? 超突然」

「私は幸せだよ」

「……そう、ですか。私も、まぁそれなりには――」

「うそ」

「え?」


 否定されるとは思わなかった絹旗は、思わず顔を上げる。
 そこには、真剣な滝壺の顔、透き通った瞳が、
 絹旗を見透かすように見つめていた。


「きぬはた、時々寂しそうな顔してるよ。
少なくとも、自分は幸せじゃないって思ってる」

「そ、そんなこと……」



 否定しようとするものの、絹旗の言葉に力はなかった。
 ――――事実だったから。



 『アイテム』、それは絹旗や滝壺が所属していた暗部の組織である。
 他の二人、麦野とフレンダが離脱を余儀無くされ、『アイテム』は実質解散済み。



 滝壺にとって唯一の居場所でもあったが、それは絹旗も同じ。
 そして浜面の隣という居場所を得た滝壺と違い、
 『置き去り(チャイルドエラー)』である絹旗は家族もおらず、


 事実、彼女は居場所を失っていたのだ。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:14:50.85 ID:BkXnBeqvo<>



「……ごめん、変なこと言って」

「……いえ、いいんです。
滝壺さんに心配させた私が超悪いんですから」

「私たちは、きぬはたの居場所にはなれなかったんだね」

「そういうわけでは超ないですが……私は結局暗部でしか生きられない、
そんな生き方しか超出来ないのかもしれませんね」


 絹旗最愛は“置き去り”で『暗闇の五月計画』の被験体であり、
 暗部組織『アイテム』の構成員だった。


 そう、彼女は学園都市の闇から出たことがないのである。


 そんな彼女が、早々に暗部から足を洗うことは難しいのかもしれない。




 絹旗はあくまでも暗部に居場所を求める。
 たとえ、独りになろうとも。




「私たちはずっときぬはたを応援してる。
つらくなったらいつでも来てね、いつまでも友だちだよ」

「……滝壺さん、超少しですけど饒舌になりましたね」

「そうかな? ……そうかもね」


 絹旗は自分が恵まれている、とも思う。
 こんなに思ってくれる友が、いるのだから。
 その事実だけでも、十分心の支えになる。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:16:58.72 ID:BkXnBeqvo<>




「――――あっそうだ! きぬはたにこれあげる」

「それは……
さっきの、“竜王の鱗”とかいう超厨二プレゼントですか?」

「うん、サンタさんに言われたの。
『オマエが幸せになって欲しいヤツにくれてやれ』って」

「……サンタが、そんなことを」


 滝壺へのプレゼントを自分が受けとることに抵抗はあったが、
 頑固な彼女が引くとは思えない。
 自然と、絹旗の手に納まっていた。




 その欠片は不思議な黒、
 決して無の黒ではなく、無限の集合体を感じさせて。




 未だ見えぬ彼女の前途を、
 闇で照らしてくれているような気がした。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/01/16(日) 21:22:49.64 ID:BkXnBeqvo<>


 今日は、一旦ここまでにしておきましょうか。



 
 不定期になってしまうと思いますが、
 気長に見てやってください。


 あと、今更言いますが超厨二的オリジナル設定が
 少しあります。
 そこは、生温くスルーしてください。。。






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/01/16(日) 21:46:17.71 ID:qgyDUmrh0<>いいね!いいね!最高だね!!
今日はいろんな番外通行スレが更新されてたまらん
乙<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 00:03:40.58 ID:BSOmT2IIO<>乙です
不定期でも待ってる<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/17(月) 09:20:50.11 ID:PDgtTqUro<>wktkしてきた<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/01/18(火) 20:20:25.75 ID:/7b+KXLJ0<>窒素通行あるかなー?
とりあえず乙
次もwktkです<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/01/30(日) 16:45:32.02 ID:qxR3hXKo0<> 乙

まだかなまだかな <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 21:47:22.29 ID:99QDuSj2o<>



 不定期は甘え。




 スランプも甘え。








 上手い文章が書きたいです……芳川先生……。







 というわけで、書きます。
<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 21:50:32.61 ID:99QDuSj2o<>


第三学区中央ホテル――――



 VIP御用達の三ツ星レストランも内包し、、
 学園都市の内外における顔ともいうべき第三学区においてさえ、
 一際華やかで絢爛豪華とも言えるであろう来賓用宿泊施設である。


 統括理事が外交によく使うことでも有名であり、
 正装のみ許されるそこは警備員も多く配置され、
 現代の城を思わせる荘厳かつ凄然かつ威圧的な雰囲気を持つ。



 今現在中央の広大なダンスフロアにおいては、
 ホテルの威信を賭けていることが一目でわかってしまうほどの
 大がかりな立食パーティーが行われていた。


「ンで、なァンでココにオマエがいて、わざわざ俺に付きまとってンだよォ……」

「モガっ?」


 高級スーツを身に纏い一人会場に潜入している一方通行の近くで、
 バイキングから取ってきたであろう食事を貪るのは、
 こういう場所に全く縁がなさそうな男、上条当麻だった。


「ん……ふぅ、そりゃお前、面倒事には俺が付き物、だろ?」

「憑き物ねェ……コッチは仕事なンだが」

「コッチだって知らなきゃ首突っ込まねえよ。
けど親船さんが狙われているって聞いたら黙ってらんねえ」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 21:53:04.51 ID:99QDuSj2o<>


 面倒臭そうに頭をかく一方通行を横目に入れつつも、
 上条当麻の箸は止まることがなく。



 ガツガツ、じゅるじゅる、ぐびぐび、ばくばく。



 同居人に似てきてしまっていることに、彼は気付いているのだろうか。



「――――どォやって侵入した?
その正装だって、もやしばっかり食ってるヤツが
借りることの出来る代物じゃァねェだろォ」

「んぐ……、いやー、俺金はないけど人脈だけはあってさ。
借りは高くついたけど、なんとかなったんだ」

「……そォかよ」


 ハハハ……と笑う上条の笑顔は渇いていて、自嘲しているといった風。


 一方通行は彼の人の好さに呆れつつも、
 ヒーローらしいその振る舞いに、内心少しだけ喜んでいた。
 眩しいものを見るように、目を細める。


「正装と言えば、最初見たときはお前だって全然わからなかったぜ。
その髪の毛なんだよ(笑)」

「うっせェ白髪は目立つンだよクソが。オマエこそだて眼鏡似合わねェ」

「……そうかな? 結構気に入っているんだけど……」


 一方通行は髪を黒く染めてアイコンタクト、
 上条はヘアーワックスでガチガチに固めた髪とだて眼鏡装着コーデで
 いつもの自分にさよならしちゃお★状態であるが、
 画がないのは非常に残念である。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 21:57:17.36 ID:99QDuSj2o<>


「……誰にそそのかされたかしらねェが、オマエは帰れ」

「なんでだよ。役立たずになるつもりはないぞ?
これでもそれなりに修羅場を経験しているんだ」

「ンなこと知ってる。だが今回はオマエが絡むよォな事件じゃねェ。
クッセェ下水道ン中の、汚物にまみれた茶番劇だ」


 そう、一方通行は自嘲するように吐き捨てる。


 犯行予告、描かれた巨大なアート。
 大仰な演出を、彼はどこか冷めた目で見つめていた。


「!! お前、犯人を知っているのか!?」

「正確には知らねェよ。
ただ、俺を恨んでいる奴らの仕業の可能性が高いってことだけはわかる」

「――――……そうか、例の数字だな?」

「知っていたのか……だったらわかンだろォが。
これは俺の尻拭いだ、オマエの出る幕じゃねェ」


 ヒーローに、蟲同士の腐れた小競り合いは似合わない。
 正々堂々、勧善懲悪が上条当麻の居場所であり歩む道だ。
 一方通行は無意識に目を伏せた。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 22:00:21.04 ID:99QDuSj2o<>


「何言ってんだよ、そんなもん関係ないね。
俺は俺のためにここにいる。それだけだ」

「チィ、強情な野郎――――っ!」


 と、押し問答の中感じるかすかなノイズ。
 ――――知らせるのは、辺り一帯の磁場の異常。


「……のンびりしてる暇はなさそォだぜ、せいぜい生き延びンだな」

「へ? ――――ってうお!?」


 バチンと、
 
 唐突な停電。
 談笑していた親船も戸惑う様子が見てとれたが、
 電源が切れてなお十二分に明るいため、比較的落ち着いている。


(昼間だから停電が視界を奪うことはねェ。だったら狙いは――――)


 親船を囲み安全な場所に護送しようとする秘書たちの横をすり抜け、
 一方通行は駆ける。
 当然上条の制止は無視。


(イージス・システムは電気で作動している。
 ――――ここを狙ったのは、掌握可能だと判断したからか…っ!)


 このホテルのセキュリティは学園都市でも最高峰。――――だからこそ、狙う。
 そもそも外交を行う場所がバレている時点で驕りだったのだ。


 砂皿緻密に狙撃を受けて以来、
 親船が公で行う演説などは『グループ』側が万全に万全を重ねた警備だった。
 一方通行の演算能力、土御門の下拵え、海原の変装に結標の座標移動。
 噛み合わないようでがっちりと噛み合う、約三か月で培った絶対防御である。


 しかし今回の接待は別だった。
 ホテルと接待相手が繋がっているのか、安全性の宣伝に利用するため
 セキュリティに関しホテル側が全面的に請け負う形で同意させられてしまった。
 これはホテルの面子、プライドも大きく寄与するところなのだろう。


 確かに対能力者対兵器に関しての守りは固いが、相手は軍隊。
 いくら城のように堅固であっても、所詮は一ホテルで、
 戦争に耐えうるかと言えば疑問符がつく。


 事実、電気系統を掌握され、
 すでに七十パーセント以上のセキュリティは麻痺しているように思える。
 ――――城は、初手で落ちていたのだ。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 22:04:59.76 ID:99QDuSj2o<>

 一方通行は騒然とした緊張の最中、疾風の如く窓から飛び出す。
 一見、狂乱を疑う光景だが――――




 次の瞬間、空を覆うほどの大爆発。




 見ている人間には、にわかに信じられないだろう。
 日常における、非日常的なテロリズムも。
 人間が、ミサイルに突っ込み無傷で空に浮かんでいるという事実も。



 一方通行は、翼を広げるように両手をかざす。



――――その姿は、まさに悪魔。



 見せつける邪悪な笑みは、とても救う者には見えなかった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 22:14:08.12 ID:99QDuSj2o<>


 髪の毛が、みるみるうちに白く枯れていく。
 双眸が、みるみるうちに紅く歪んでいく。



「さァて、俺に喧嘩を売った代償を払ってもらうぜェ――――」



 ニタァッと、
 更に深く禍々しい笑顔を浮かべた彼は、空から、視界から消失。


 いや、目にうつるスピードを越えていた、のだろう。


 すでに彼は別のビルで、
 二発目のミサイルを放とうとしていた者の目の前に立ち塞がっていた。



「なァ――――番外個体(ミサカワースト)ォ」



 彼の鼻先で大きなミサイルランチャーを構える女は、
 一昨日の夜に一方通行を襲ったミサカワースト。




 堕天使の目の前に捧げられた贄は、ただただ怯えることしかできなかった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/08(火) 22:41:04.50 ID:99QDuSj2o<>


一旦ここでお開き……って、全然進まない……!


くそっ、完結が遠いぜ……


下らない短編だけは出来たが、総合にでも投下するか。
それとも、ここに投下……ってのもおかしいか?


もし見かけたら、優しくしてね♪


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/02/08(火) 22:42:26.12 ID:l7yUNsPC0<> おつおつ

ゆっくりで良いから頑張れー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/08(火) 23:08:13.05 ID:MVbX9l16o<> おつおつ
いつまでも待つわよ


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 01:22:01.47 ID:wMc3pRgf0<> ワタシマーツーワー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 21:23:21.46 ID:BxjwlKnoo<> 乙
ゆっくりでも待ってるよ <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 21:42:38.46 ID:XdZJesNBo<>

 それでは、今夜も投下します。

 せめてこの文章は終わらせて、次作に移りたい……


  <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 21:46:56.08 ID:XdZJesNBo<> …………






 ミサイルランチャーをのぞくミサカワーストの前に現れた一方通行。
 彼が彼女を見る目は凪いでいて、破壊者のそれではない。


 だが彼女は知っている。
 彼は虫を潰すのと同様に人間を[ピーーー]ことの出来る怪物であることを。


(一旦距離を――――っ!?)


「どこに行く気だよ、オマエ」


 ミサカワーストの失策は、一方通行のスピードを見誤り接近を許したということ。
 思考をモニターし行動を起こすまでのタイムラグは、この距離では到底無視できない。


 ガッと、
 ミサカワーストの首を押さえた一方通行は、能力によって完全に彼女を掌握する。


「くっ……うぅ」

「手足動かせねェだろォ? 人間ってのは首押さえちまえば終いなンだよ」

「ふ……殺しなよ……」


 息も絶え絶えに、ミサカワーストは精一杯嘲笑する。
 そんな彼女を、一方通行は無表情で観察していた。
 
 ――――気に食わない。
 強者の余裕が、彼女の癇に障る。



「…………吐け。オマエのご主人サマはドコのドイツだ」

「話すと思う? ミサカの仇であるあなたに」

「……話さねェだろォな」

「でしょ? だから殺しなよ。妹達みたいに、さ」

「…………」

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 21:51:21.59 ID:XdZJesNBo<>


 一方通行はミサカワーストを殺さない、いや殺せない。


 彼女はそれがわかっているから挑発している、という風でもない。
 彼女の行動原理は、いかに一方通行を苦しめられるかのみだ。
 ――――命など、惜しくはないのだろう。


「さあ、どうしたの? あなたに選択肢はそんなに多くないと思うけど」

「わかってる。








 ……オマエ、俺に手ェ貸せ」


「――――は?」


 彼女を[ピーーー]ことの出来ない、彼の導きだした最善策。
 あまりに突拍子もない、彼らしくもない大きな博打だった。


 一瞬、一瞬だが、ミサカワーストの顔が本当に驚いた、そんな幼い表情を見せ呆ける。


 彼女は耳を疑う。それ以上に、一方通行の正気を疑った。


「……頭おかしくなった?」

「オマエのご主人サマが何者か知らねェが、
オマエは捨てゴマ扱いってことぐらいわかンだよ。
――――こォなるってことも、なッ!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 21:54:39.05 ID:XdZJesNBo<>



 ――――直後、爆発。




 一方通行たちのいた場所に爆炎と爆煙、赤と黒の大樹が空へと昇る。


 ミサカワーストを抱き抱えて飛び出した一方通行、


 彼を狙う第二撃はガトリングガン。
 それは飢えた獣のように執拗に追い回す。


「――――ちッ」


 彼にすれば全くの無意味。だが――――


(コイツにあてるわけにはいかねェ)


 ミサカワーストの身体を覆うには、一方通行の身体は少し小さかった。
 身体の自由がない彼女を、必死に抱き締め庇う。
 そして、足裏のベクトルを操作。



――――高く高く飛び上がる。
 宙に投げ出されるように。天空に、墜ちていくかのように。


 捕捉。
 獣たちは大好物の獲物を見つけたように一斉に襲いかかった。
 多方面より同時掃射、蜂の巣にならなければおかしい。
 



 しかし、忘れてはならないのは、一方通行が対軍能力者であるということ。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 21:59:12.06 ID:XdZJesNBo<>


 既に、一帯の風は彼の支配下。
 ――――銃弾程度が、通る術はない。


 銃弾は異常な上気流の前にことごとく逸れ舞い上がる。
 上空で火花を散らし、さながら小さな花火だった。





「見ろ、この光景を」

「…………」


 応えられない。
 ミサカワーストは、不覚にもその圧倒的な力に魅せられてしまっていた。

 ――――ゾクゾクッと、
 背筋に得体の知れない快感がかけのぼる。


(これが、ホンモノ――――最強の力ッ!)


 地面に這いつくばる蟲を見下す。
 そんな構図に、負の情念を持ちやすい彼女が興奮しないはずがなかった。




「オマエは、玩具みてェに食い潰されていいよォな奴じゃねェ。
――――生きろよ、ミサカワースト。
オマエに、最低で最高のクソッたれな世界をプレゼントしてやる」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:01:29.02 ID:XdZJesNBo<>


「…………ミサカ、は」

「オマエの枷は今壊した」


 気づけば、既に先程いた場所は遠く、見知らぬ場所で二人きり。
 彼は、彼女の首からゆっくりと手を離す。


 ピキピキッと聴こえる音はミサカワーストの首元から。
 彼女につけられていた遠隔制御装置の壊れた音だった。


「裏切れば[ピーーー]気だったンだろォな」

「…………」

「学園都市で生きる道は、俺が指し示してやる。――――オマエが、自由に決めろ」




 ミサカワーストは、考える。
 目の前で、こちらを見つめる一方通行のことを。


(一昨日に見えた弱さが消えた――――?)


 自分の力に対する絶対的な信頼、そんなモノが垣間見える。
 何を言われても動じない強さ、芯、のようなものだろうか。


(まさか、ミサカが温もりを惜しむなんて、ね)


 彼に抱き締められた時、嫌悪感ではなく安心感がそこにはあったのだ。
 それこそ、おそらく強さにすがりたくなった、のかもしれない。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:04:22.16 ID:XdZJesNBo<>


 彼女は気づく。
 心にある憎しみや恨みを、単に拠り所にしていただけなのではないか。
 生きる理由の見えない自分の唯一無二の感情だったから標にした、
 ただそれだけではないか。



 必要とされたい――――存在を認めてもらいたかった、だけなのだと。



 一方通行の過去を肯定し飲み干す度量、進化の前に、彼女は完全に敗北を悟る。



「……ま、ミサカとしては、面白ければ何でもイイんだけどねっ☆」

「あ?」


 おどける彼女、浮かべる笑みは年相応のものだった。


「なんでもなーい。手を貸すって言うけど、具体的にはどうするわけ?」

「……取り敢えず、ここから生き延びろ」

「なるほど、……囲まれているみたいだね」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:07:05.91 ID:XdZJesNBo<>


 気づけば、一方通行たちのいる場所を囲うように気配がある。
 仕掛けてこないのは、様子をうかがっているからか。


「オマエはここの病院に行け。これを受付で見せればわかる」

「PDA――――、ミサカも戦えるよ?」


 フンスッと、鼻息荒く息巻く。
 そんなミサカワーストを見やり、軽く嘆息。


「怪我人は足手まといだ。一昨日の傷、治ってねェンだろォが」

「……あちゃー、バレてた?」

「すぐわかンだよ、オマエらのことぐらい。
――――俺が引き付ける。その間に抜け出せ」


 PDAを見ると、逃げ込んだ場所から病院はすぐ近くだった。
 これならば、肋骨が複数本折れているミサカワーストでも無事たどり着けるだろう。



「わかった、言う通りにする。あなたもこんなところで簡単に死なないでよ」

「ふン、当り前だ」

「ミサカはあなたを頼ることにした。その方が面白そうだし」

「…………」

「一方通行の生き様、思いっきり笑ってあげる。――――だから、早く来てね」

「――――あァ」


 不敵に笑いあい、ギュッと、固く手を握り合う。
 再会は遠く、戦場は彼らを逃さないだろう。
 果たして二人の向かう先は地獄か、それとも――――





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:10:21.31 ID:XdZJesNBo<> …………







「ようやく出てきたの? 臆病風に吹かれたのかと思ったよ」



 外に出てきてすぐ一方通行に吐き捨てられた言葉は、
 侮蔑混じりの罵倒だった。


「せっかくの朗報なのに、あの人の気が変わったらどうするワケ?
あまり手間取らせないで」

「知ったことか。で、どォする? やンのか?」

「……あぁ今すぐ殺してあげたい、ケドだ〜めっ!
これから始まる楽しい楽しい茶番劇の主役だよ、きゃは☆」

「そうだねそうだね興醒めだねっ! 先に殺したらカントクに怒られちゃうっ」

「他の役を集めるのもちょっとばかし苦労したわ〜。
楽しませてくれなかったらコロスからね♪」

「えーーっっ、ミサカが殺したいぃーーーー」

「ミサカは×××食べたいなぁ」

「ヤダ、大胆……」


 ミサカワーストと同じ顔、声、姿の人間が何人も彼を囲む。
 それぞれが好き勝手に言い、統制はない。


(第三次製造計画の個体か……)


 不健康そうな顔、御坂美琴が高校生ぐらいの容姿、下品で凶悪な言動、
 いずれも特徴が一致する。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:13:27.32 ID:XdZJesNBo<>



「……オマエら、俺になンの用だ?」


 一方通行のその言葉に、ピタッと雑談が止まった。
 そして役目をようやく思い出したかのように、皆向き直る。
 ――――手に持つ黒光りした花とともに。


「……ミサカたちについてきて。言っておくけど、あなたに選択肢なんてないから」

「わかった。ちゃっちゃと俺を連れていけ、オマエらのステージへ」

「――――へぇ……素直についてくるなんて、どういう風の吹き回し?
あなたをどうやって連れていくのかこっちは随分迷ったのに、これじゃ拍子抜けだよ」

「ちなみに、もし従わなかったら
一人ずつそこらへんの人殺していくって結論になったんだー」

「むしろ残念……この街を世紀末にしてみたかったにゃーん」

「ヒャッハーーッッ! 汚物は消毒だぜぇぇーー!!」

「ヤダ、不覚にも心躍る……」


 軽口をたたく彼女たちだが、手に持つ重苦しい荷物が単なる冗談にしていない。
 彼女たちならばやりかねない。――――いや、迷いなくやるだろう。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:15:54.81 ID:XdZJesNBo<>



「オラ行くぞ。俺だって暇じゃないンだ、オマエらのオアソビに付き合う気はない」

「カッチーーン。……いいよ、皆行こう」

「了解」


 全員の量産個体が同意すると、一方通行を中心に部隊を変形した。
 ――――彼を逃がさない、籠のように。


「……第一位、同調出来る?」

「抜かせ。オマエらトロトロすンなよ」

「さっすが。じゃ、全機ブーストジャンプ!」


 全員同時に電気を利用して飛び上がる姿は、同じ顔も相まって圧巻だった。
 一方通行は押される形で飛び上がるものの、ほとんど遅れることはない。


(俺はコイツらを傷つけない、その上で親玉を狩る……っ!)


 難しいことは、十分承知で。
 しかし、彼は成すだろう。いや、成さなければならないのだ。
 ――――彼の、存在意義なのだから。



 命を賭けようとも、引くわけにはいかない。
 曇天は光を閉ざし、学園都市に大きな影を作っていた。






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:42:04.83 ID:XdZJesNBo<> ――――








学園都市シーサイドビル――――

 本来なら今年中に完成するはずの建造物であり、
 企業も続々とオフィスを構える予定だった。
 しかしスポンサーが突如撤退し計画は頓挫、
 工事も中止され今現在多くの鉄骨を晒している。


『何故君をそこに呼び出したのかわかるかな?』

「さァな」


 当然の如く屋上は立ち入り禁止だが、今は三つのディスプレイが置かれ、
 ちょっとしたシアターのような会場が特設されていた。


『このビルは私が出資して建設していたのだよ。
しかし私が財を没収されたために完成させることが出来なかった。
君たちのおかげでね』

「オマエが政争に負けただけじゃねェか」

『……はは、手厳しい』


 特設シアターの一番大きなディスプレイに映っている人間は、
 駆動鎧に身を包み一方通行を見下ろしていた。


「で、そンな的外れな復讐のために俺をこンなところに呼び出したのかよ」

『ククッ、確かに八つ当たりと言われればそれまでだが、
これには様々な大人の事情というものが存在するのだ。察したまえ』



「知ったことか。
しかし統括理事もここまで落ちぶれるといっそ滑稽だよなァ、





――――潮岸よォ」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:44:21.84 ID:XdZJesNBo<>


 『グループ』を襲撃し殺害しようとした人物、
 そしてその後失脚し行方知れずとなっていた男。



それが、元統括理事の潮岸である。



 誰よりも安泰を望んだ彼こそ、ミサカワーストを使い親船襲撃を演出し、
 一方通行を呼びだした首謀者。


『……ふん、今はただ好機をうかがっているだけだ。
しかしようやくこの惨めな時間も終わる。
そのために必要なのが君の命、というわけだ』

「…………」

『だが、クライアントが欲しているのは君が単純に果てることではない。
そんな容易なことでは、満足し得ない』

「……だから、こいつらを使ったのか?」


 一方通行の周りには、いつの間にやらかなりの数の番外個体たちが存在した。
 下準備らしきものをする彼女たちは、一様な顔をしているようでいて少しだけ違う表情。
 それは感情の発露ゆえの違いだろうか。


『ああソレか、ソレらは破棄寸前だったところを拾ってきただけだよ。
もう下手な人間を信じれば私の「安泰」に関わる。ソレはそういう意味で便利だ』

「……そォかい」

『君の弱点でもあったからもっと使えるかと思ったが、
……すでに乗り越えてしまったようだな。
おかげで予定変更、君と遊んでもらう人間が必要になってしまった。
――――まあ用意できたからいいがね。後ろを見たまえ』


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:47:04.52 ID:XdZJesNBo<>


 一方通行も、言われずとも気づいていた。
 彼が振り向くとそこには、大きなリングに観客席、ご丁寧に実況席まである。



 そう、そこは仮説試合場。
 まさしく奴隷同士が殺しあうのにはぴったりなコロッセウム。



「っ!! ――――これは」

『驚いたか? なに、クライアントが派手好きでね、
君の処刑台としてこのような形を所望してきたんだ。
……ふむ、相手も準備完了したようだな。


――――ククッ、どうやら私としては、ミサカワーストよりも楽しめそうだぞ』



「…………オマエ、っ」


 仮設されたコロッセウムの上、
 対戦相手と思わしき人物が、直立不動で一方通行を見下ろしていて。





 会ったことがある、どころではない。
 何度も死地を共にした、先ほどまで一緒にいた、そんな人物。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<><>2011/02/09(水) 22:48:44.41 ID:XdZJesNBo<>




「さて、ようやく出番か。
――――学園都市超能力者第一位を[ピーーー]役目を俺が引き受けることになるとは、
なかなかに光栄だぞ一方通行」






 アロハシャツに、サングラスをかけた金髪。
 土御門元春が、いつもとなんら変わらない顔と口調で、
 一方通行の眼前に立ち塞がっていた。






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 22:54:45.20 ID:Rwhn/DMP0<> つっちー…だと…? …無理じゃね?
それはともかくシリアスシーンはsaga推奨 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 22:55:15.00 ID:6oezXlFvo<> ちょっと待て



ちょっと待て! <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/09(水) 22:56:39.72 ID:XdZJesNBo<>


 ……ここらで、一旦止めにします。



 はいっ、そうでしたね。
 “殺す”って書くと隠されてしまうんでしたね。
 久しぶりで忘れてましたよっ!



 OTZ 



 ……ごめんなさい、隠されているものは全部“殺す”が入ります。

 まぁ、私には謝ることしかできませんね、はい。


それでは、また明日……だと思います。
 今週末こそ頑張るぞっ!
 みなさんでわでわ、バイビーーッッ!! 


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 22:58:40.98 ID:BxjwlKnoo<> 乙
しかしここで切るとは…焦らしてくれるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 23:02:42.07 ID:6oezXlFvo<> 乙なんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/09(水) 23:27:44.72 ID:oAekBF+Jo<> つっちーだと…?
アセロラさんお構いなくぶち殺しそうだなw
まあおそらくは…
おつ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/10(木) 00:45:54.92 ID:aV6iODvgo<> ミサカじゃないし、土御門は瞬殺でやられるだろwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/10(木) 02:12:47.05 ID:mr6b79Cfo<> また土御門さんは色々企んでるんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/10(木) 12:08:21.67 ID:LooV+30AO<> 動機は間違いなくクリスマスの公開レイプの意趣返しだな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/02/10(木) 14:31:51.03 ID:POPxxuqr0<> >>505
ワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/13(日) 15:07:36.35 ID:pmlxdhxAO<> 追いついた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/16(水) 23:20:56.24 ID:cY1T//h80<> 1乙です!!楽しくて今日1日で追いつきましたー

ベストワースト打ち止めの3姉妹丼だと・・・?(*゚Д゚) <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:25:21.41 ID:nIcPF987o<>

 さて、言い訳のしようもないわけだが……
 長い目でみてくだされぃ。

 始めます。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:25:47.20 ID:nIcPF987o<>

 さて、言い訳のしようもないわけだが……
 長い目でみてくだされぃ。

 始めます。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:30:03.80 ID:nIcPF987o<> ――――










――――上条当麻を探して、どれだけの時間が経っただろうか。



 すでに太陽は中天を過ぎているはずだが、雲に遮られ良くわからない。
 御坂美琴は、またもや上条の家の前で途方に暮れていた。


 探索、不在、探索、不在、八つ当たり、逃走、自己嫌悪、……逆戻り。



(なんでどこにもいないわけ!? あーーほんっと苛々させてくれるわ――ッ!!
見つけたらただじゃおかないから……)



 もはや目は胡乱、完全に不審者。
 ああ哀れ気弱警備員、声かける勇気あらず。
 しかし賢明、その命守られて。



(……いくら探してもいない、データ上も動きなし。コレじゃ手詰まりね)



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:32:46.59 ID:nIcPF987o<>


 はぁ、と
 溜息を吐きチラりと見るは、隣の土御門家。



(もしかしたら隣室なら、何かしらの気配を感じ取っているかも)



 それは淡すぎる期待で、
 クリスマスを楽しんでいるであろう土御門たちを邪魔する野暮なことかもしれない。


 しかし残る疲れ果てた理性が止めるも、恋する乙女には勝てなかった。
 まさしく完敗である。ほぼノータイムでチャイムを鳴らしていた。



ピンポーン
…………



 一向に出てくる気配はない。



(――――あれ? おかしいな……別れ際に午後はずっといるだろう、
なんてこと言っていたのに)


 すでに出かけてしまったのだろうか。
 しかしノブを回すとドアが開いている事に気づく。


 不用心だな、なんて。
 不法侵入する人間に住人たちも思われたくはなかっただろうが、
入ってしまったものは仕方がない。




 御坂美琴には迷いがなかった。ある意味凄い少女である。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:34:59.48 ID:nIcPF987o<>


 そろりそろり。
 先ほどの威勢に反する足さばき。
 入る時は大胆だったが、いざ入ると少し怖い、そんなものかもしれない。



 入ってすぐに感じたのは、決して小さくない違和感だった。




(全く人の気配がない――どころか、人がいた気配すらない……?)




 部屋は寒く、暖房の類はいれられていないようだ。
 ゴミ袋は置いてあるが、それも今朝置かれたようには見えない。
 外に出るのならメイドである舞夏はきっとついでに捨てるだろう、
 そう御坂には思える。




 少し見てわかったのが、



 土御門舞夏は一切この家の家事をせず鍵を開けっぱなしで出ていった、ということ。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:37:22.25 ID:nIcPF987o<>



(どういうことなの? ……まさか、何らかの事件に巻き込まれた!?)




 いつもそう考えて先走ってしまう御坂だが、
 今回は少しだけ慎重に考えてみることにする。

 もし事件性があるにせよ、
 何らかの手がかりがなければ辿ることすらままならないのだから。



 取り敢えず狭い部屋をもう一度、今度はじっくり捜索してみると――――



(鍵が落ちている……っ、これは!?)



 落ちている鍵を拾おうとして気づいたのは、薄い複数の足跡。
 しかも、その靴を御坂は見たことがあった。
 業務用のスニーカー、コレを使う会社を良く知っていて、




 ――――ピタリと、パズルがあてはまる。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:39:36.98 ID:nIcPF987o<>


(……なるほど、ね。あの時、もう少し気を配っていれば――ッ!)



 御坂が一度ここを去るとき、確かに目撃していたのだ。
 せわしなくこのマンションに現れた――――ゲコ太マークのカエル郵便を。




 常に安全運転を心掛けるあの会社が、あんな大きなブレーキ音を鳴らすはずがなかった。
 不審者に間違われないように帽子をしないはずの彼らが、帽子を被っていた。




 即座にPDAで、カエル郵便の宅配システムをハックする。



(…………やっぱり、この寮にあの時間配達履歴はない。抜かったッ!!)



 電話を手にとり、すぐさまワンプッシュコール。
 やはり、彼女に迷いはなく、ためらいもない。――――つくづく凄い少女である。



『はい、もしもし――――』

「黒子っ!!」

『ひゃいっっ!?』

「今すぐに言う車を探してっ! 誘拐事件よ!!」

『!! ――――わかりましたわ。……準備は出来ましたの』

「車種は―――――――」




 御坂美琴は、友のために走る。
 紫電のごときスピードで、電流のように想いは周りへと伝わるだろう。
 真っ直ぐな心は澄み渡っていて、彼女に不可能の文字は見えなかった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:45:35.07 ID:nIcPF987o<> ――――








「レディースエーンジェントルメーーーン!!」





 閑散としているはずのビルの屋上は、
 かなりの数の観客により、熱気がすさまじい物になっていた。
 もはやテレビに放映される試合の様相を呈している。



「さて、このたびの試合の実況は私、ミサカワースト、略してミサワとッ!」

「……解説の海原光貴、もといエツァリです」



 コロッセウムに設置されていた実況席に座る一組の男女。
 テンションに極端な差があるのは、プロ意識によるものか、
 それとも――――



「この二人でお送りさせていただきます! 
どうも、初めまして海原さん」

「初めまして。……まぁ顔の方は、見慣れていますが」

「さっすが海原さん!
お姉様の写真をいじくり未来予想を必死にしていただけのことはありますね!」

「……え? な、なんでそれを――――」

「――――おっ、早速リング外で動きがありそうですよっ!」

「答えて下さいっ!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:49:07.01 ID:nIcPF987o<>


 大仰なレフェリーの紹介も、噛み合わない実況も、観客による怒号と罵倒と悲鳴も、
 一方通行と土御門には届いていなかった。




 見えるのは、相手の姿だけ。
 聴こえるのは、相手の息づかいだけ。




「……オマエ、本気で俺に勝てると思ってンのか?」



 一方通行が真っ先に土御門へ問うたのは、理由等ではなく彼の正気だった。


 腐っても学園都市超能力者第一位である自分と、
 上条とは違い紛れもなく無能力者(レベル0)である土御門、勝負にはならない。
 それは彼が主観的にも客観的にも行った評価である。



「まあ、このままじゃ俺がお前に勝つことは絶対不可能だろうな」

「自殺がしたいなら勝手に死ンでろ。
こンな決闘、俺には何のメリットもない」

「しかしお前がここから逃げ出す事は出来ない」

「……何? ――――!?」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:52:57.43 ID:nIcPF987o<>



 唐突に、ガクッと、一方通行の姿勢が崩れる。
 なんとか踏み止まった彼も、杖がなければ少し辛そうだった。


 
 ――――電極のスイッチが突然切り替わったのだ。



「――――そォいう事かよ、クソッ!」


「理解したか?
ハンデを貰わなければ俺に勝ち目なんてあるはずがない。
そしてお前にその状態で逃げ出す術は、ない」


「……電極、いつの間に細工した?」


「――――お前の電極をイジっている技術班は、一体誰の部下だと思っている?
こんな時のために、なりたくもないリーダーになったんだ。
彼らは疑いなく従ってくれたさ」



 チッと吐き棄てるように舌打ちするものの、一方通行の電極はどうやっても直らない。
 どうやら番外個体に協力を仰ぎスイッチをバカにしたようだ。
 完全に壊さなかったのは、スポンサーの意向か。




 本当に、舞台劇を演じる気らしい。
 あくまでも泥臭く、無様に。野蛮な、獣類の如く。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:55:49.97 ID:nIcPF987o<>

どこぞの役者の様に大げさに、土御門は客席へ合図を送る。
合わせるように、客席からは大歓声。



――――完全に一方通行のアウェイゲームだった。





「さて、ようやく対等に近い、
いや土御門さんに若干有利な状況に持ち込めたでしょーか、
そこら辺に詳しい海原さん」

「……いえ、まだまだ差は大きいですね」

「ほう、それは何故ですか?」

「一方通行には黒翼という奥の手が存在するからです。
彼が自由に扱えるかどうかは不明ですが、追い詰められれば……」

「んなるほどっ!」



 一方通行が持つ謎の黒い翼。
 これを使えば、まず間違いなく彼の勝利は確定するだろう。


 だが、一方通行がそれを使いこなせているかと言えば疑問であり、
 不安定かつ不明瞭な力に頼るほど彼は馬鹿ではない。
 そして、この会場には沢山のミサカがいる。
 暴走に巻き込みかねないと考えると、理性がブレーキをかけるのも必然。




 黒き力は、結局奥の手にしかなり得なかったのだ。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/17(木) 23:58:41.32 ID:nIcPF987o<>




「……聞いてやるよ。オマエが裏切った理由はなンだ?」


「天の邪鬼(ウソツキ)である俺にその質問は意味がないが、答えは簡単だ。
――――アレを見ろ」


 土御門が指差すのは、三つあるディスプレイの一つ。
 そこに映っているのは――――



「――――縛られたメイドに複数のゴロツキ、か。
アレがオマエの義妹か?」

「そうだ。俺がお前に敗北したとき、舞夏は汚され殺される。
俺には勝利しか道がない」 

「……分かりやすい理由アリガトウ」


 土御門のシスコンぶりを思えば、
 一方通行を殺して義妹が助かるなら迷わないだろう。



 だがそれでも、彼女が助かるとは限らないのだ。




 そう、ここはコロッセウム。
 奴隷同士が殺し合い、主人の温情で生かしてもらう場所。
 ――――褒賞なんて、高尚な物を望めるわけがなかった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:02:37.64 ID:XKZ/1aavo<>





「……彼らは殺し合うしかないんですよ、自分たちが生き残るために」

「土御門さんが敗北した場合闘うことになる海原さんとしても、
他人事ではないでしょう?」

「ええそうですね。
……ショチトルを握られている限り、闘わざるを得ない」



 三つのディスプレイ、
 残り一つに映っているのは、褐色の少女が捕らえられた姿。
 土御門も海原も、すでに生命線を握られている状態だったのだ。



 一方通行も、そのことを良く理解した。
 だからこそ、もはや会話するだけ無駄と感じたのだろう、
 黙ってリングに上がる。





――――途端に、ビルが揺れるほど猛々しい音の津波。





 罵声嬌声歓声が入り交じる。
 殺せと、潰せと、嬲れと、甚振れと、ことごとく汚い叫び。
 まさしく、悪意の大挙だった。




「大人気だな、一方通行」

「人気者は辛いぜ、ったく」



「では、始めよう。――――最初で最後のデスゲームを」





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/18(金) 00:05:36.13 ID:VN1c/66M0<> (;゚д゚)ヒョエー <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:06:57.90 ID:XKZ/1aavo<> ――――









 ミサカベストが入院中の病院は、現在混乱の最中にあった。


 突然起きた停電により、
 病院の電子機器、警備システムが麻痺してしまったのである。


 間違いなく患者の死活問題、医者や看護士は右往左往。
 彼女のように軽度患者の病室には連絡のみで、誰も来ることはなく。





――――だからこそ、襲撃者にとってはまたとない好機。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:07:59.79 ID:XKZ/1aavo<>


 ガチャガチャと、
 一個小隊の襲撃者はミサカベストの病室に無断で入り込む。
 ベッドの膨らみを確認すると、素早く囲みガバッと布団を剥いだ。
 するとそこには――――






「……ソレに一体何の用だ?」





 声が聴こえたのは、ベッドからではない。
 人形は、しゃべるわけがないのだから。




 ドサドサッ、
 襲撃者たちは次々と倒れていく。





 そう、単純な話だ。
 ――――襲う者と襲われる者は、最初から逆だったというだけのこと。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:11:18.50 ID:XKZ/1aavo<>





「あっけないねぇー。我らが同胞として恥ずかすぃーにゃーん」

「しょうがないよ、相手が忍者だもんっ!」

「……君は忍者に夢見る外国人かね」



 どこから現れたのか、ミサカベストとミサカワースト、
 そして杉谷が襲撃者を縛りながらも軽口を交わしていた。



「大能力者と言えど、一個小隊程度いなすのは難しくない」

「ふーん……もしかしてあなた、超能力者に匹敵しちゃう?」

「……能力なぞ、所詮戦うための道具にすぎん。
使いこなせなければ脅威ではない」

「……仮にも軍用個体なんだけどね」


「――――うんっ、忍者っぽいね!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:13:29.92 ID:XKZ/1aavo<>



 ウンウンと頷く彼女は放っておくとして、
 彼らはこれからの指針を確認することにした。



「で、どーすんの?
ミサカはあなたに合流しろって言われただけだよん」

「俺は一方通行の家族の安全を確認しにいく」

「じゃ、ミサカはダーリンの元へ行くよ!」



 フンスッと、
 気合いを入れ歩き出すミサカベストを横目に、杉谷は小さくため息をつき、
 ミサカワーストはニヤニヤと悪戯っ子の様に笑っていた。


「……お前、付いていってやれ」

「あいさー♪」


 彼女は危険だと言っても止まらないだろう。ならばいっそツーマンセルに。
 杉谷としても、お守り役までするつもりはなかった。





「……これはお前の戦いだ一方通行。
結果を背負うといい、必ず何かを掴めるだろう」




 呟く声は、誰にも聴こえない。
 期待に応えがあると信じて、忍は影に溶けていった。






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/02/18(金) 00:19:16.29 ID:XKZ/1aavo<>




 ここまでで、お願いします。


 またもや不定期……で来ますんで
 見捨てんといてください。
 それでは、ごきげんよう。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/18(金) 03:25:16.30 ID:xHL6ING+o<> 大ミサカ姉妹が可愛過ぎてつらい…
てか無能力者で身体能力ほぼ最強のつっちー相手とかやばすぎるだろ
しかしエツァリは安定してるなぁw

おつおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/19(土) 12:50:14.54 ID:KDRfR/xIO<> 乙
投下は不定期でも面白いから待てる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/02/27(日) 16:07:49.58 ID:mfzy6Hlq0<> こんな良スレを見捨てるわけあらへんよ
待ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/07(月) 21:30:33.58 ID:XOVfbkmZo<> のんきに待ってます <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:13:42.27 ID:VAbyktRxo<>

 久しぶりです。


 一か月ぶりでしょうか。
 不定期……やっぱり逃げですね。
 ちょっとモチベーションもあがってきたので、
 ここいらで進めたいと思いましょう。



 それでは、始めます。


   <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:16:41.57 ID:VAbyktRxo<> ――――








 土御門元春が主役を演じることはない。
 いつだって彼は端役、お膳立ての黒子である。






 舞台で活躍する主役たちはそれ相応の悲劇を背負ってきているが、
 彼のような端役は、地味な努力と犠牲と時間を背負うだけである。
 たとえ主役を霞ませるような悲劇的な過去があろうと、語られることはない。




 何故なら、端役だから。




 上条当麻の様に反則的な能力で切り札を演じることも出来ない。
 一方通行の様に圧倒的な力で存在感を示すこともない。
 浜面仕上の様に土壇場で逆転できる底力があるわけでもない。



 主役たちの演技を横で眺め、時に助言し、時に導く。
 誰がやろうとも同じ。それならば、路傍の石と何が違うのか。

 
<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:18:39.50 ID:VAbyktRxo<>

 日常に没してしまいそうな、
 スポットライトの中にいても注目されることのないような、
 そんな役回りをする彼。






 ――――――だからこそ、ダークホースと呼ぶに相応しい。





 端役なりの努力と犠牲と時間は、彼に人脈と暴力と知略を授けた。 
 戦略的勝利のために、必要不可欠である役者たちを。





 土御門元春は、上条当麻に勝つことが可能か?
  ――――――肯定。肉弾戦に持ち込めれば易く、また甘さに付け込めば軽く御することが可能。


 土御門元春は、浜面仕上に勝つことが可能か?
  ――――――肯定。吹けば飛ぶような塵芥の如き存在であり、屠る必要性すら見当たらない。


 そして、
 土御門元春は、一方通行に勝つことが可能か?
  







  ――――――肯定。語るまでもない。
        アレイスターが見張りとして傍に置いた、それだけで根拠は十分である。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:19:58.75 ID:VAbyktRxo<>



 付け加えるなら、今の限定付最強である一方通行でなくとも仕留めることは可能だ。





 何故なら、彼には幻想殺しという切り札があるから。
 



 公式≪一方通行は幻想殺しに勝てない≫にX≪幻想殺し≫という役者を挿入しただけ。




 これこそが、戦略的勝利への方程式であり、
 方程式を成り立たせる前提こそ、彼が培った“人脈”であり“暴力”であり“知略”であった。 

 

 「ぐゥゥ……」


 「…………」



 だから、この結果は偶然でも奇跡でもなく、単なる必然。



 
 弱点だらけの一方通行を嬲るのは、彼にとって赤子の手を捻るより容易だったのだ。


  


  <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:21:51.80 ID:VAbyktRxo<>




「がはッ……ぐゥ」

「……まあ、お前にしては良く頑張ったほうだよ」



 一方通行と土御門の闘いも、すでに終わりが近づいていた。
 ギリギリと首を締め付ける手が、一方通行の意識を削り取っていく。



 能力が封じられ、杖をつかなければ歩行もままならない一方通行だが、
 数々の死闘を切り抜けてきているだけあり善戦。
 杖を上手く使い立ち回る姿は、とても脳に障害を持つとは思えないものだった。


 しかし土御門のリーチ、体術の前には完全に子供扱い。
 彼は逃げる一方通行を追い回し、止めは刺さず弄ぶように暴力を振るい続けた。





 観客の反応も上々で大盛り上がり。
 ショーは大成功である。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:25:13.06 ID:VAbyktRxo<>


「拳銃を持っているくせに観客を気にしてためらっているようじゃ、
俺に勝つことは到底不可能だ。――――興ざめだぜ、本当に甘いよお前は」

「…………」

「スパイってのは大抵丸腰、孤立無援で生き延びなければならない。
お前みたいに賓客扱いされるはずもなく、いつも真っ先に切り捨てられてきたんだぜ?
能力に甘えてヌクヌクと生きてきた奴とは違うってこった」



土御門はたびたびこうやって長話で決着を引き延ばす。
ショーの一貫なのか、時間を稼いでいるのか、彼も殺すのをためらっているのか――





しかし、それも限界が来ていた。
潮岸が焦れてきていることが、画面越しにも伝わってくる。
クライアントから指示がこないから何も言わないだけだろうが、
そろそろ終わらせてもおかしくない。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:27:34.44 ID:VAbyktRxo<>



「……だから、なンだ」

「……何?」



 ボロボロになりながらも、一方通行は反論を止めることはなく。
 紅い眼は、土御門を睨みつけて離さない。
 気持ちだけでも負けないように、意地だけで食らいついている。



「俺は、諦めない。オマエみたいに早々に切り捨てるなンてこと、もォ出来ねェ。
うンざりなンだよ、悲劇も、絶望も」

「――――ハッ、悪党のセリフじゃないな」

「……幻想と、罵られても、いい。
救いたい、守りたい、悲劇と絶望を奇跡に、塗り替えてやる」




 その姿は、どこかで見た男のようで。
 ――――――土御門は、心の中で唾棄した。




「……ふん、それは確かに幻想だな。
お前みたいな弱者に、そんなヒーローみたいなマネ出来るはずがない」

「ククッ、まァ、一人じゃ無理、なンだろォよ。
とっくに、気づいていたつもりなンだがな……」



 見せる遠い眼差しは何を見ているのか。
 一方通行は誰に言うともなく、呟く。


 土御門にしてみれば、負け犬の戯言。
 あっけなさと儚さに、失望が湧く。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:29:34.18 ID:VAbyktRxo<>




「……――もう終わりみたいだ。じゃあな、一方通行」





 とうとう、




 合図が、来た。
 終わりの、合図が。


 土御門は、手に力を込める。





(終わり、か)


 仲間を殺害することに、ためらいはない。
 全ては予想通り、全く持って何も裏切られることはない。
 ここまで至極当然の結果だった。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/03/18(金) 23:31:42.53 ID:P2lD+D8Z0<> >>いつだって彼は端役、お膳立ての黒子である。

禁書で黒子と書かれるとツインテールの彼女しか思い出せないんですの! <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:31:55.01 ID:VAbyktRxo<>







―――――――だからこそ、未だに信じている。
           
           脚本家の筋書きをひっくり返す奇跡を。






 これは、予感。もはや、確信。
 いや、もしかしたら彼の、内なる期待。










「やめろ土御門ォォッッ!!」






 そんな時、ヒーローは必ず現れる。
 全ての幻想(脚本)をぶち壊す、出鱈目で無謀な馬鹿野郎が。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/18(金) 23:35:04.84 ID:VAbyktRxo<>




 嗚呼、短い。
 久しぶりなのに、短い。


 うん、最近ここにいつでもいるから、
 またすぐ来ると思う。


 それでは、お気をつけて。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/03/19(土) 00:36:38.41 ID:Sy1QySIfo<> 乙
震災後の生存報告がないから不安だったが無事で何よりだ
次の投下待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/03/19(土) 12:50:25.51 ID:re14JDsx0<> おつおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/03/20(日) 15:58:03.65 ID:wp5ZlI3ao<> 来てたー!

乙! <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:21:57.13 ID:GjUytUexo<>


 お疲れ様です。
 

 
 まだ読んでくれている方がいらっしゃるというのは
 感謝感激です。

 こういう時、何を書けばいいやら……
 私には、続きを投稿することしかできませんね。
 あと、ちょっとだけ返答をします。


 >>540
 それは、自分も考えました。
 黒子さんはインパクト強すぎるな……w
 一応シリアスっぽかったので変えればよかったですね。

 >>543
 続きも書かず生存報告はちょっと心苦しかったもので。
 不安にさせて申し訳ございませんでした。


 それでは、投下します。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:24:18.28 ID:GjUytUexo<> ………








 上条が処刑場に辿り着けたのは、御坂妹のおかげだった。
 彼女なら、沢山の番外個体が存在する違和感を察知することが可能だったのだ。

 上条はそのことを知らないが、情報屋を自任する彼女を頼りにしている。
 そして今回もドンピシャ。これならば報酬の一回デートも安いものだろう。
 ……彼からすれば、デートではなくただの荷物持ち程度の認識だが。



「何やってんだよ、お前ッ!」

「見てわからないか? これはちょっとしたショーなんだにゃー」


 このような状況でも、土御門はいつもと変わらない。
 それが尚のこと上条を苛立たせる。


「ショー……だって?」

「そう。カミやんには空気を読んでもらいたいぜぃ」


 観客席は乱入者への怨嗟の声で溢れていたが、上条とってはどうでもいい。
 友が友を殺そうとしている、その状況に戸惑い、また怒りに震えていた。


「……離せよ」

「…………」




「離せっつってんだよ、この野郎――ッ!」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:25:59.78 ID:GjUytUexo<>



 その眼差しは、先ほど見た――――――






「……どうする? 潮岸」

『いいだろう、離してやれ』

「了解っと」



「――――がッ!」

「っ! 一方通行ッ!!」


 唐突に放り出された一方通行は地面へとしたたかに叩きつけられる。
 それでも駆け寄った上条が見る限りでは、彼に大事なさそうだった。


「大丈夫か!?」

「……ぐ、はァ、だ、大丈夫に決まってンだろ……ったく、遅ェぞ上条ォ!」

「なっ、無茶言うなっ!」

「ケッ……でも、助かったぜ」


 不器用ながらも礼を言う一方通行。
 表情には信頼と、僅かな安堵があった。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:28:05.13 ID:GjUytUexo<>


「……、今の状況は?」

「ディスプレイを見ろ、そォすりゃ大方わかる」

「――――っ! なるほど、クソッたれが」


 ディスプレイの一つに舞夏を見つけ、上条は土御門の行動を理解する。
 そして、中央で見下す偉そうな男が首謀者であることも。




「…………テメェ、何者だよ」

『……邪魔が入ってしまったな。これではクライアントに申し訳がたたん』


 上条の問いには答えず、全く困ってなさそうにため息をつく潮岸は、
 画面の奥で何らかの指示を出しているようだ。


「……で、どうする? 二人を相手にしても構わないが」

『いや、それには及ばんよ。邪魔者は排除する、それだけだ』


 土御門の問いに、
 彼は想定内だったと言わんばかりの余裕の笑みを浮かべた。






――――事実、策は用意されていたのだ。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:31:13.48 ID:GjUytUexo<>



『ではこちらを見たまえ。幻想殺し』




「何? ――――ッッ!?」

「なっ……!!」





 驚愕は、二人。
 ディスプレイが切り替わった先の光景は、見覚えのあるもので






 ――――まさしく、悪夢の再来。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 21:33:56.77 ID:GjUytUexo<>









「風斬!?」

「天使(ANGEL)――ッ!」




 幾重にも昇る、光り輝く白き翼。





 曇り空に生える様は、まるで霹靂か。





 根元に存在する核は、学生服の少女。







 そう、そこに映るのは――――ヒューズ=カザキリ。
 AIM拡散力場より生まれた天使だった。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:26:23.76 ID:GjUytUexo<>







 神々しくも醜く卑猥なその姿に、観客たちは下卑た歓声を上げる。
 メインディッシュも少々飽いていた彼女たちには、いい口直しになるのだろう。





「…………っ! テメェッ、俺の友達に何してんだッッ!!」


『ふん、九月三十日と同じだよ。
まぁ今回魔術師がいないから攻撃は始めないかもしれんが……
くくっ、演出としては派手で最高だろう? 多少見苦しくもあるがね』



「打ち止めは、打ち止めはどォしたァァ――ッ!」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:27:57.36 ID:GjUytUexo<>




 喰い気味に、一方通行が叫ぶ。




 九月三十日。
 それを聞いて彼が真っ先に思い出したのは、打ち止めが木原数多に捕らえられた姿。
 薄々ながら感じていた関連性が、焦燥感を駆り立てる――――



『私が優しく教えてあげるとでも思ったのかね?』

「何っ………!」


 にやにやと嗤う気配で、ディスプレイ越しに観察する潮岸。
 一方通行はギリリッと、音を立てて歯噛みした。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:29:01.69 ID:GjUytUexo<>



「待て一方通行!
あいつに聞くより直接電話したほうが早いんじゃないか!?」

「……チッ」



 一方通行もどうやら取り乱していたらしい。
 携帯電話を取り出すと、打ち止めの番号をダイアルする。






――――長い、長い待ち時間だった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:32:06.08 ID:GjUytUexo<>









『――もしもし?』

「――っ!! その声は芳川かッ! 打ち止めは!?」

『……何かあったの? 打ち止めは今お昼寝中よ。そろそろ起こさないと』


 一方通行とは対照的に、芳川の声はのんびりしていた。
 そんなものなのかもしれない。
 あまりのズレに違和感を拭えないが、無視。
 そもそも彼の状況が異常なのだ。


「……わかった。何かあったら連絡しろ」

『大丈夫? 用があったんじゃないの?』

「いやいい。夜までには帰る」

『そう……じゃあね』

「あァ」


ピッと、
電話を切り、一方通行は胸を撫で下ろす。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:34:03.13 ID:GjUytUexo<>



「……打ち止めは?」

「今は昼寝中だとよ、ったくのンきな奴だぜ。……っ! じゃァあの天使は――――」

『思い至ったか? 第三次製造計画について知っている者なら理解出来るだろう』




 第三次製造計画。
 その目的の一つは、旧くなりつつあるミサカ達を刷新しネットワークを拡大、再配備すること。
 それならば、打ち止めのような役割の個体が製造されていてもおかしくはない。
 上条は置いてけぼりだが、一方通行はそう理解した。


「……つまり、打ち止めは無事ってことか?」

「そォいうことだ。取り敢えず、オマエは天使の元へ行け」

「ココは大丈夫なのか?」

「まァ見てろ、俺は負けねェ」


 少し不安そうな上条を見据え、ハッキリと断言する。
 怪我は多いものの、生気は取り戻しているようで。
 上条の知る、いつもの一方通行だった。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:35:52.62 ID:GjUytUexo<>

「あと、こいつを持っていけ。こっから天使の場所まで遠そォだからな」

「こいつって……万札!? い、いらねぇよ!」

「いいから持って行けっての、タクシーでも使え」


 強引に押し付けられた上条は、一旦受け取っておくことにする。
 一方通行の稀有な好意を無碍にすることは避けたかったから。
 …………決して、貧乏性が出たわけではない。


「ありがとう、一方通行」

「ンなこと気にするな。
それより――――オマエなら止められるか? あの天使」

「ああ、今度こそ止めて見せるさ。……俺の親友を、頼む」

「……任せろ」


 ニッと、二人で笑い合い、上条は飛び出るように屋上から消えた。
 その背中は、後に一切の憂いを残していない。
 躊躇いも、一切ない






 止める者は、止められる者は誰もいなかった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 22:37:00.90 ID:GjUytUexo<>





「――――さて、またさっきと同じ状況のようだが」

「抜かせ、もォ俺が負けることはねェよ」

「……ほう、どこからその自信が?」







「俺に勝ったのはアイツだけ。そしていつだって最後に勝つのはこの俺。
かかってきやがれ土御門、本物の最強を見せてやる」






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/03/21(月) 23:18:10.45 ID:jnSeQfKj0<> 今日初めて読んで一気に読み切っちまった
熱いね!いいね!カッコイイね! <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/21(月) 23:30:53.86 ID:GjUytUexo<>


 今日のところはここまでにしておきましょうか。



 もうちょっとやりたかったけど、
 手直ししたくもありまして…………


 と言いますか、読み直すと
 明らかにテンポがおかしくないですか……?
 なんというか、息継ぎが足らないというか、
 落ち着かないというか……
 
 あと、説明不足ですよね……。

 ここらへん、どなたか意見を聞かせていただけると助かります。
 いや、本当にお願いしますm(__)m


 それでは、また会いましょう。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/03/22(火) 01:18:09.10 ID:CWPl76Xb0<> 乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/03/22(火) 02:03:31.08 ID:wzbu/CSLo<> 私は一向に構わんッッッッ!!!!

つまりそういうことだ
アヘ顔は確かに卑猥だよね

乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/25(金) 20:09:32.77 ID:O2IJlFAD0<> 一気読みしたが面白いわ
番外個体がいっぱい出てくるのはここだけだろうな <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:04:51.13 ID:wSY5P0C1o<>

 こんちわ。


 週一ぐらいは更新すべきですね。


 もっとSS書きたいが、アイデアが浮かばない……
 もうちょい気楽に考えて書かんとね。


 では、始めます。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:06:30.26 ID:wSY5P0C1o<> ――――







 上条がビルの外に出ると、外はえらく騒がしい。
 車のクラクションは、下手糞なオーケストラだ。


(……当然か。突然街中に天使が現れたんだから)


 あの姿を見て天使だと思う人間がどれだけいるのか。


 しかし上条にとってみれば天使であり、――――友だちだった。


(あの時と違って警備員がまともに機能しているから、
 正直タクシーじゃまともに近づけないな)


 所々検問が敷かれているようだ、渋滞がどこも起こっている。
 だが、そもそもビルから天使までタクシーを使うほど離れてはいない。
 なんとか走っていけるだろう。とても万札がいる距離ではないのだ。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:08:46.42 ID:wSY5P0C1o<>


(じゃあなんで万札を……? ――――っ!)


 先ほど一方通行から貰った万札を良く見ると、
 携帯のメモリが貼付されていた。


 ――――折らなくて良かった、心底思う上条だった。


(中身はっと……)


 携帯に差しこみ読み込む。
 あるのはちょっとした文章。手紙、ということなのか。


(――――これ、さっき書いた文章か!? いつ書いてたんだ……?
 もしかして打ち止めに電話したときか?)


 こんな文章を携帯に書いているとは、あの場の誰一人として気づかなかっただろう。
 書かれている文章は、



 なるほど、気づかれてはならないもの。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:11:05.14 ID:wSY5P0C1o<>



(あいつ――――やっぱ、スゲーやつだよ)



 そこには、
 ディスプレイに映る背景から推測出来る土御門舞夏の居場所と状況、
 そして天使の正確な場所とそこまでの最短距離が書かれていた。
 渋滞すらも考慮されている。


(『メイドの情報は信頼の足る人物に――――』か。
 信頼の足るって言うのは解決可能な人間ってことだろうな、
 ……警備員は忙しそうだし……風紀委員?)


 そんなことを考えて携帯をいじっていると、
 センターにメールが溜まっている事に気づく。

 受け取ると――――



(げぇっ! 御坂ぁっ!?)


御坂美琴からのメールで溢れかえる受信ボックス。


見なかったことにしたかったが一通ぐらいメールを返したほうがいい、
そう彼は判断した。


後が、怖い。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:12:46.57 ID:wSY5P0C1o<>





(――――! 御坂に送るって手もあるな)



 御坂美琴、彼女は超能力者である。
 彼女が解決できないのなら、大抵の人間には解決できないだろう。


 信頼の足る人物――――これ以上ない、しっくりくる評価だった。


(送信、っと。それにしても、一方通行のルートは人が少なくて走りやすいぜ)


 彼はそこまで考慮に入れているのだろう。
 本当に、上条当麻は友人に恵まれている、
 つくづくそう思った。




 長い間路地裏を走り、大通りに出る。
 そこは、もうすでに天使の膝元。


「ここから先は立入禁止区域だから気をつけなきゃな……」

「そうだね、あんちすきるってやつに見つかったら捕まっちゃうよ」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:14:57.13 ID:wSY5P0C1o<> ・










 ビクゥゥッ!!
 彼は、大袈裟に、盛大に、引っ繰り返らんばかりに驚く。
 しかし、振り返る勇気はない。


 気にせず、不機嫌そうに語りかける声。


「そのリアクションは何かな? とうま」

「え、えーと、インデックスさんではございますまいか……
こないとこでどないしてはるんどすえ?」

「……とうまが何語喋っているのかわからないかも」

「……俺にもわからん」





「――――それより早く行こう! ひょうかがあそこで待ってるよっ!」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:34:27.03 ID:wSY5P0C1o<> ――――








(どうなっている?)




 土御門は、今まで数多くの敵と相対してきた。
 多重スパイとして、アレイスターの駒として奔走してきた彼は
 十分すぎるほど肝が据わっていて。


 しかし、この男、一方通行にはどうしても威圧される。恐怖すら感じてしまう。
 敵になることで、初めて真に理解出来た。



(コイツは、紛れもない化物――ッ!)



 化物。
 そう呼ぶしかないだろう。


 あり得ないはずだ。
 能力の無い一方通行など、ただの弱者だったはず。






 それならば、なぜ杖も使わず、土御門を圧倒しているのか――――



 

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:36:38.39 ID:wSY5P0C1o<>


「カカカッ! どォしたンですか土御門くゥゥゥン?」

「くっ……」


 直線的な一撃。
 読むのはそう難しくない。


 だが、そのスピードと威力は受け流すことすら一苦労で。


「オラオラオラァ!! もっと楽しませろォォおお」


 繰り出される連撃はまるでマシンガン。
 一方通行の乱舞は地面に着く必要すらない。



(なんだ……なんなんだよその黒いモノはッ!)



 そう、黒い鱗のようなものが一方通行を支え、動かしているのだ。
 それは途切れ途切れ、消えたり現れたりする、そんな不安定な鎧。



(これは……黒翼を無意識下で操っている――――?)




 背中から生えていない、異形の翼だとでも言うのか。
 この底知れない力こそ一方通行が持つ威圧感の原点だろう。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:38:12.77 ID:wSY5P0C1o<>




「調子に……乗るなッ!!」

「ガッッ!?」




 土御門の救いは、一方通行が武術に関して素人だったこと。
 動きを先読みし拳をかわしてカウンター、
 見事に一方通行の顎に入った――ように見える。




 しかしその手応えは、まるでざらざらなゴムを固くしたような、
 そんな彼自身の拳を痛めてしまう感触。



「クッ、クックックカキコケキ……あーいってェなァ。
 ケケケ、だがその程度で俺をヤるのはちと無理なンじゃねェかァ?」


「……チッ」


 効いていない、いや届いていないのかもしれない。
 土御門の拳は、荒いヤスリでもかけたように削れていた。
 それでも、痛みより感じるのは恐怖。



こちらを窺う一方通行の真っ赤な瞳は、異常なほど爛々と輝いていて――――



「うおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!」



土御門は、気づけば走りだし、一方通行に肉薄、蹴り飛ばしていた。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:51:42.37 ID:wSY5P0C1o<>



「ごッッ!!?」

「ハァッッ!!」




 当然それだけでは終わらせない。
 体勢を整えつつある彼をフックで捕まえ、また拳が傷つくのも無視して殴り続ける。

 


――――四肢を存分に使った高速の連撃。



――――避けられない、反撃する暇すら与えない。



――――自分の意志で倒れる事さえできない。





――――煉獄の炎から、逃れる術はない。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:55:34.78 ID:wSY5P0C1o<>



「おーーっと、アレは富田流の煉獄かーーーーっっ!?」

「……どこで覚えてきたんでしょう?」

「殴る蹴る殴るぅぅーーそして、時々蹴るゥゥゥうう?
 息もつかせない連打だぁぁーーッッ!!」


「一方通行さんには得体の知れないオーラがありますからね。
 正直、対峙したくない相手ですよ」

「つまり今の土御門さんは――」

「恐怖、というより生存本能に駆り立てられ動いているのでしょう。
まだしばらく続くかと」

「では、ここで宣伝しておきましょう! 私のブロマイドが来年の初めに発売します。
握手会も行われますので是非ともご参加くださいっ!」

「……何で宣伝……まぁ、僕も握手会には参加しますけどね」





脱力するような実況の間も連撃は終わらない。
いくら感触が悪くとも、土御門は終わらせる訳にはいかなかった



――――が、



「……煉獄は、息が続かないだろォが」

「っ!?」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 01:58:26.12 ID:wSY5P0C1o<>


 ガシッと、
 何度目の鉤突きか、一方通行は動きが鈍くなっていた土御門の拳を受け止める。



「長くやりたいなら、そンなに焦ってやっちゃ駄目だぜェ」

「チィッ!」


 一度距離を取る土御門は、すでに息が上がっている。
 煉獄は長く続けるには不向きだろう。体力も酸素も多量に必要だ。
 続いたとしても一分か二分。

 ――――時間稼ぎには使えない。


(まだ、か)


 一方通行は、息一つ乱さずに土御門を観察する。
 今の彼が必要なのは、勝利ではなく時間。


 そこにあるのは、圧倒的強者の余裕だった。


「どォした土御門、もォ終わりか?」

「……さっきまでのお前とえらい違いじゃないか。
 今にも死にそうだったお前はどこにいった?」

「言っただろォが、本物を見せてやるってな」

「聞かせて欲しいな、その心境の変化を。――――強さの礎を」

「…………」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 02:01:02.26 ID:wSY5P0C1o<>




 土御門の目は、先程までの冷酷な色が消え失せ、
 いつも通り、いや少しだけ呆れているようだ。


 敗北を、悟ったのだろう。





「クッ、大したこっちゃねェよ。
あのバカにこの場を任された、――――それだけで十分だ」

「……ハハッ、なるほど」



 ヒーローであり友である上条当麻の信頼に応えること。
 それは、一方通行にとってどんな名誉にも勝るものだった。
 土御門にもなんとなくわかるのだろう。納得の笑みを浮かべている。





「……じゃあ、行くか」

「……オゥ」




 どちらからでもなく呼吸を合わせ、二人は同時に駆けだしていた。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 02:02:01.36 ID:wSY5P0C1o<>









 先ほどの激しさが嘘のように、無音。






 そして、響き渡る轟音。
 一方通行の拳が、土御門をとらえ、叩き伏せる。
 決着のゴング代わり、か。


「……勝ちだ」

「……ああ、そしてオレの負けだ」

「いや、俺たちの勝ちだぜ」

「……何? ――――っ!」




 彼らが見るディスプレイ、その映像は――――




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/03/27(日) 02:06:17.90 ID:wSY5P0C1o<>




 というわけで、今回はここまで。



 戦闘シーンも、なんかわけわからんですな。



 そしてどこまでも厨二。
 オリジナルチックな翼。
 これ書き上げたときまだ二十一巻ぐらいだったからなぁ……
 天使とか無視気味です。
 ご了承ください。


 それでは、また。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 07:57:43.09 ID:5PDW5cjSO<> 喧嘩商売とか予想外すぎ ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/27(日) 12:41:44.20 ID:zjLr7EgN0<> 美琴の扱いが原作どおり過ぎて涙出そう
あと握手会って一人しか来ないんじゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 17:27:04.80 ID:YmigyDYSO<> 土御門を鍛えたのは文さんだったのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/03/28(月) 02:26:56.79 ID:5BLQtxAZo<> まさかのwwwww

表の人間なのに裏方なみこっちゃんさすがやで!
乙! <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:17:48.19 ID:pSmIqulzo<>

 こんにちわ。


 そうです、喧嘩商売をネタに使わせてもらいました。
 触り程度ですが、大好きなもので思わず……
 木多さんもしょっちゅうネタ使っているし、許されますよね?

 みこちゃんは、出来る限り原作に近づけました。
 基本的に彼女、脇役で輝くタイプなんですよね……
 美琴好きな人、不愉快にさせたらすみません。


 それでは、始めます。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:19:50.95 ID:pSmIqulzo<> …………








『あぁーテステス……ちゃんと聞こえてる? まいっか。
えーと、ソッチの様子は良くわからないけど、舞夏の身柄は確保したわ』


 屋上のディスプレイ、その一つ。
 土御門舞夏の映っていたディスプレイからは激しい音が聞こえた後、
 舞夏の姿が消え、代わりに御坂美琴がマイクで話をしていた。


『あの馬鹿のヒントメールは正直助かった。
 車の場所だけじゃ、ちょっと絞り込めそうになかったし』

『おーい、兄貴ぃー。こっちは大丈夫だぞー』


 画面に割り込むのは、土御門舞夏。
 怪我もなく、元気そうだ。


『そういうわけで、舞夏のお兄さん安心して下さいね。
 ……あと、こんなことやらかした人間、私は絶対に許さない。
 高くつくから覚悟してね。じゃ!』



 最後に一つ脅しをかけて、その映像は終わった。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:21:43.92 ID:pSmIqulzo<>  

そして――――


『ん、んんーーーー?
 このビデオでなに映してんだこれ?
 人質ってやつなのか?』

『そうですね。
 あの時話してたお兄さんに超見せつけているみたいですよ。
 今あっちで吐きました』

『あ、そうなの?
 ……えーと、んんっ、ショチトルのお兄さん、彼女は無事ですよー』

『……エツァリ、大丈夫か?
 無茶するなよ。私の心配なんかするな』

『こっちは片付きましたから、そちらはそちらで超頑張って下さい。
あ、私たちですか? 通りすがりの人間です』




 映っているのは、ショチトルを含めた二人の少女と一人のチンピラだった。
 チンピラの方は、犯人が寝返ったのかもしれない。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:24:08.42 ID:pSmIqulzo<>




『え? い、いや、ちょちょっと、え? なにその扱い』

『浜面は仕方がないですよ、超安っちい顔してますもん』

『……フォローは出来ないな』

『いや、え? 俺って結構大活躍だったよね?
裏で無能力者にはあるまじき、まるで映画みたいな――――』

『いや、そんなこと語られてないんで皆知りませんよ』



 ここで語られることはないが、
 浜面仕上はアクションスターばりの大活躍だったようである(目撃者なし)。
 まぁ、番外編も用意されてはいないが。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:27:37.41 ID:pSmIqulzo<>


『絹旗は見てたよね?
 続編への布石みたいな、そんな敵との出会いもあったよね?』

『……さぁ? 私は良く見てませんでした。
それと続編があったとして、浜面が出るかどうか超微妙ですね』

『コラーーーーーーッッ!!
活躍してたじゃねぇかっつーか俺は第三の主人公だぞこの野郎!
俺が出なかったらお前も大して出ないんだぞ!?』

『いや、浜面超書き辛いって言ってましたし、
 絹旗最愛ファンクラブ入ってますんで、
 次回作では待遇の差が露骨に超表れると思います』

『……それマジ?
ソースあんならすぐ出せマジならスキルアウト総力を上げて潰すが』

『ソース? 浜面に見せるソースなんて超ありませんよ。
せいぜいトンカツソースですねこのトンカツ顔!』

『な、ト、ト、ト、トンカツ〜〜〜〜!??
 お前なんてパンツ担当の痴女じゃねぇか!!』

『痴女じゃありません超お色気担当といって下さいっっ!!
 浜面なんて髪の毛といい、超明らかにトンカツじゃないですか!
 浜絹なんて超お断りですよッッ!!
 滝壺さんの可愛さを引き立てるトンカツ、
 カツカレーで言うらっきょうです超浜面はっ!!』

『そこはせめてトンカツだろぉ!?
 つーか俺はトンカツでもらっきょうでもねーーー!!』


『……と、いうわけで、無事帰ってこい、エツァリ』


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:29:22.78 ID:pSmIqulzo<>






 ここで、二つの映像は終わった。
 シーサイドビル屋上との温度差は激しいが、それも仕方がないだろう。
 観客席、舞台上、どちらも不自然なほど静まり返っている。


「舞夏――――っ」

「大事なさそうですね……」


 土御門と海原は、安堵の笑みを浮かべる。
 張り詰めていた空気が、一気に弛緩したようだ。


「……悪かった。お前には世話をかける」

「別にかまわねェよ」


 一方通行も、少しだけ声に余裕がある。
 彼でも、人質がいるといないとでは緊迫感が違うのだろう。
 苦虫を噛み潰したように押し黙る潮岸に、溜飲を下げていた。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:32:01.37 ID:pSmIqulzo<>




「これは……どうなるのでしょうね」

「まぁ、勝負は勝負ですし、こちら側としては残念ですが終わりなんじゃないでしょーか」

「あなたの実況なかなか楽しかったですよ。――――握手会は行きます」

「……ミサカもつまらなくはありませんでした。ストーカー行為もほどほどに」

「ストーカーだなんて人聞きの悪い。これはピュアな愛です」

「…………そ」


 ストーカーは、そう言い残して仲間の元へ駆け寄る。
 闘いは、終わった。剣闘士たちは、どちらも生き延びたのだ。


「無茶してくれますよ。見ているこっちはヒヤヒヤです」

「……なかなか楽しめただろォ?
 アレでも頑張って引きのばしたンだぜ」

「一方通行のことだから何か手があると思ったからな。
 オレも必死で時間稼ぎだ」

「――――まったく。でも、ありがとうございます。正直助かりました」

「まだ終わっちゃいねェ。ゴミ掃除が、な」

「ああ、そうだな」





 三人が睨みつけるのは、うつむき顔の見えない潮岸だった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:34:00.35 ID:pSmIqulzo<>









『クッ、ククククッ』


 唐突な、笑い声。
 先ほどから一転、潮岸は笑い始めた。
 彼は、自分の舞台を台無しにされたにもかかわらず、笑っていたのだ。


『いやいや、これは予想外の展開だよ。
 君たちは良い仲間を持っている』

「オマエ……」

『素晴らしい! コングラッチュレーションだ!!』




 合わせて、一斉に観客席より拍手が送られた。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:35:16.36 ID:pSmIqulzo<>



 それは、一方通行からしてみれば、あまりにも不気味。
 潮岸は気でも狂ったのか? そう考えたかった。
 だが彼の頭は、最悪のケースを考えてしまう。



「……で、潮岸。結局オマエは何をしたかったンだ?」

『言わなかったかね?
 クライアントの趣味に付き合っただけだよ』

「じゃァ、こっからが本番ってワケか」




『違うな。ここからは単なる勝利宣言だ』

「……何?」

『これから君は私のお人形遊びに付き合ってもらおう。……コレを見たまえ』

「…………あ?」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:36:29.30 ID:pSmIqulzo<>


 にやり、潮岸の顔が、歪んだ。
 潮岸を映していたカメラが、横にずれていく。
 ゆっくりと、ゆっくりと、もったいぶるように。
 そして、段々と映りこんでくるのは――――




「…………な……ンで……?」




 見たことのある、愛くるしい少女。




「あ……り……えねェ」




 一方通行の生命線




「どォして、どォしてだよ打ち止めァァァァああああッッッッ!!!!」





 横たわる、打ち止めが、そこには、いた。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/02(土) 15:41:08.62 ID:pSmIqulzo<>


 短めですが、今回はここで終わりです。


 しつこいですね……
 同じ手は何度も使うとアレな感じですが、
 まぁ鉄板ということで……ご容赦ください。

 ちなみに、実況ミサカはネットアイドル、
 同じミサカたちや、ツインテールの変態、
 グラビアオタクなど、アングラでは結構
 人気、という設定です。
 ……完全に蛇足ですね。


 それでは、また来ます。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/02(土) 15:45:15.16 ID:37SY8X3eo<> 乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/02(土) 15:50:10.19 ID:oSYw/meQ0<> おつおつ
そういやトンカツみたいな顔してるよなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/04/03(日) 02:38:17.48 ID:jwcr+IVKo<> 馬面…

乙乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/04(月) 21:59:28.98 ID:/g+7fE/S0<> 「潮岸」が「湖岸」に見えて「こがん」と読んでしまってからシグルイの虎眼先生が頭から離れないんだがどうしよう。 <> 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:42:10.93 ID:OD//0ETBo<>

 どうも、こんばんわ。


 時間を空けるとダメですね。
 やっぱり投稿は適度な間隔がいいと思います。
 どのぐらいがいいのかちょっとわかりませんが。
 もし要望があればおっしゃって下さい。

 次回作……難航してます。
 オリジナル展開すぎて、収集のつけ方がわからんのです。
 しかも例の如く地の文満載でして……進まないのなんの。
 一日2000字と考えると、一か月でたったの6万字か。
 遅筆、なんでしょうね。スレ建ては遠いよぉ……


 それでは、今週も書きます。


  <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:43:18.47 ID:OD//0ETBo<>



『蛇蝎の如く、数で圧す』




地味で、強引で、狡猾で、執拗で、
――――確実で、周到で、堅実で、安全だった。


これこそが、潮岸の『攻め』。
絶対的『安泰』を求める、彼らしい戦い方だった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:45:42.66 ID:OD//0ETBo<> …………









『ハハハッ、チェックメイト、といったところか。説明が必要かね?』



嘲笑うように、潮岸は王手をかける。
呆然と打ち止めを凝視する一方通行の耳には、届いているだろうか。



『まさか、携帯電話がちゃんと機能したと考えたわけではあるまい?
それとも、よほど芳川女史に似ていたのかな?』



油断、だったのか。
もしかしたら、彼は最悪の事態から目をそらしていたのかもしれない。
違和感を、無視してしまった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:46:29.73 ID:OD//0ETBo<>



『君は守護者として良くやっている。少しだけ手こずったよ。
情報トラップ、マンションのセキュリティ強化、親船最中の手まで借りて打ち止めを護衛するとは。
まぁ、軍隊の前では無力だがね』



必死だった。
彼は、打ち止めを傍で守ると誓った時から、
徹底的かつ隠密に打ち止めの防衛に専念してきたのだ。



『結局、君は耐えかねた。専守防衛ではジリ貧と考えたのだろう、私の元に討って出た。
――――その時点で、君の負けだよ』



自信があった。
自負が、あった。
最強とは、果たしてなんだったのか。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:48:06.30 ID:OD//0ETBo<>


『間違いではない。
確かに君が来なければ、執拗に念入りに狡猾に付け狙っただろう。
しかし、私のホームに来てしまった。
情報は遮断され、外で何があったか君は全く知らない。
電撃使い(エレクトロマスター)の大勢いる場所に来るとは、そういうことだ』



回りの観客たちは、嗤い続ける。
舞台の上にいる、哀れなピエロを。



『……さて、総括しよう。君の敗因は幾つかある。
この場所に来てしまった、これも大きなものだが、最大というわけではない。
君の最大の敗因、それは――――』



一旦言葉が止まる。
言うのをためらっているわけではない。
そこにあるのは、――――怒り。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:49:33.22 ID:OD//0ETBo<>





『次期統括理事長有力候補の私に、単なるモルモットふぜいが喧嘩を売ったこと!
私を、潮岸を舐めたことだッ! 万死に値するッッ!!』



バキッッと、
目の前の机を駆動鎧で叩き壊す。
その顔にあるのは、狂気。



『……だが、私も君たちを舐めていた、それは謝ろう。
私を本気にさせるとはさすが最強のモルモットだ。
しかし、こんなものだよ』



ニタァ……
浮かぶ狂笑に、海原もゾッとする。
それは親船最中への暗殺予告、その時垣間見えたものによく似ていた。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:51:15.26 ID:OD//0ETBo<>


『権力の欠片もないクソガキに、本気の私が負けるはずがない。
知っているか?
統括理事でもない私の元へ、今でも多くの有力者が顔を見せにくる。
あいつらは良くわかっているのだ、私が未だ軍需関連に顔が利くことを』



「…………」


一方通行は、気づく。
自分が、上条当麻に負けた時よりも、ずっと打ちのめされている、という事実に。



『弱みを握っているから、警備員はもちろん治安部隊ですら私に手を出せない。
脱税しようが人を殺そうが捕まらない。
事実、君たちの「視察」によって失脚させられても、
身を少しの間隠せばまた復帰可能だよ。
――――ちょっとした土産が必要だがね』




これが、これこそが、潮岸の権力。
学園都市に十二人しかいない統括理事会の一人、
軍需関連に大きな力を持つ男の権力だった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:52:54.22 ID:OD//0ETBo<>


『……ふぅ、少し大人げなかったか。
対軍兵器とは言っても、政治的には弱者にすぎんからな』


「……見つけ出す」


『ん?』


「必ずオマエを見つけ出して、打ち止めを救ってやるッッ!!」


『……なんだ、まだ諦めていなかったのか。
言ったろう? ――――チェックメイトだと』



ピンッと、
潮岸が指を鳴らせば、いとも簡単に一方通行の演算能力は剥奪された。
ドサッと、崩れ落ちる音が響き渡る。
――――今度こそ、終わり。



『……さて、もう終わらせよう。――――狩れ』



一言。
潮岸の合図。
それに合わせ、観客席より一斉に群がる番外個体たちは、まるでハイエナのよう。
一方通行の身体は、餌。
食事の時間は訪れて。





――――しかし、まだ始まらない。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:54:04.59 ID:OD//0ETBo<>



「コイツを食べることは許さないぜぃ」

「ええ、仲間は殺らせませんよ」



土御門と海原が、立ちはだかったのだ。



「お前、やれるのか?」

「そちらこそ、ボロボロじゃないですか」

「ふん、この程度、肉体再生でへっちゃらだにゃー」


二人とも、不利なことはわかっていた。しかし負けられない。
――――彼らのために戦った、仲間のために。



『……無謀、だな。遠慮なく潰せ』

「こいやッッ!!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:55:34.38 ID:OD//0ETBo<>



命令に押されるようにして駆け出す番外個体たち。
それを迎え撃つのは、海原の原典。


彼女たちの一角が吹き飛ぶ。


「うひゃ〜凄い威力だぜぃ」

「土御門さんも戦って下さい!」

「接近戦は任せろい」



すぐ近くに迫っていた番外個体を殴り飛ばす。


が電撃によって弾き飛ばされる、土御門と海原。




「……まさかミサカたちが単なる三下だなんて思ってないよね?」

「大能力者のミサカたちに、あなたたちだけで挑むなんてマジ馬鹿だし(笑)」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:56:38.18 ID:OD//0ETBo<>




「ミサカたちもいんだよこんちくしょぉぉおぉおおぉおお」

「にゃーん、ミサカもいるよん♪」





そこに乱入する、ミサカベストたち。
シーサイドビルの屋上は、限りなくカオスな戦場になっていく。






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:58:34.55 ID:OD//0ETBo<>


演算能力を奪われた一方通行に、その乱戦を見ることは適わない。
しかし一方通行を守ろうとする四人の仲間たちは、確かに奮戦していた。



それでも数には勝てず、一人、また一人と倒れていく。



そして残るのは、一方通行を庇うように両手を広げるミサカベストだけになっていた。
――――生存本能に震えながらも、必死で抗う姿が痛々しい。



「……どうします? アレだけはご命令通り無事ですが、確保しますか?」

『……ソレは学園都市の「最高傑作(マスターピース)」を抱えている。
下手なことは出来ない――が、抵抗するようなら構わん』

「了解しました」



彼女たちはミサカベストを囲う。
逃げられないように、威圧するかのように。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 01:59:47.79 ID:OD//0ETBo<>



「――――で、どうするわけ? 最適母体(ミサカベスト)」

「……ミサカはここを動かないよ……ミサカがこの人を、守るっ!」

「……はぁ、頑固だねぇ。
ソレの何が気に入ったのかは知らないけど、あんたは所詮最適母体でしかない。
『最高傑作』を生むだけの器だよ。わかる?」

「……関係ない。ダーリンとの愛は、揺るがない」

「くひ、くひゃひゃひゃっ! スイーツ(笑)はホント救えないよ。
傑作傑作、マジ笑い死ぬって!」



囲う番外個体たちも、嗤う。
彼女たちには、これも見せ物でしかなかった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:01:03.91 ID:OD//0ETBo<>


「……ミサカも、愛が勝つ、なんて下らないこと、信じない」

「ふーん、じゃあ潔く捕まるの?」

「でも、ミサカは、この愛だけに生かされてきたの。
だから、ここで引くわけには行かない」

「……馬鹿だよ」

「わかってる。でもミサカ、この人がいなきゃ、生きられないっ!」

「……そ。だったら情けとして、ここでソイツと一緒に逝かせてあげる」

「本望だね」

「……ふん、勝手にときめいて逝けッッ!!」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:02:37.04 ID:OD//0ETBo<>

鳴り響く、銃声。

一方通行に、その会話も、銃弾の行方も、崩れ落ちるミサカベストも、
彼女の涙も、何も見えていない――――はずだった。









「大好きだよ、一方通行」








それでも、確かに聴こえていた、視えていたのだ。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:03:22.77 ID:OD//0ETBo<>




「■■■■■■■■■■…………ッッ!!」





溢れ出る感情は、黒い翼の形をしていて。
背中から吹き出る、力の奔流。
辺り一帯に、爆発的に膨張し、満ちる。

彼を中心に起きた嵐には誰も対応できない。
人々は、皆鉄骨の下に消える。
 幕は、瓦礫と共に、降りた。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:12:16.34 ID:OD//0ETBo<>




一旦、ここで止めます。
うん、クライマックスですね。


次回作……どうすればいいんだろう。

このスレを見ていてくれる方は、どういったものが好きなんだろう。
今、どういったスレが求められているのだろう。

やっぱり、カップリングみたいなものが求められているんでしょうか?
誰と誰がいいんでしょうね。
一方絹旗かな? ……それは俺かw
それとも、ハーレムものでしょうか。
一方通行が愛されていればそれでいい、ってのが俺ですけど、
通行止めじゃなきゃイマイチなのかなぁ……
Pixiv的に考えて。

結構、人生的に岐路って感じです。
もし宜しければ、意見をお聞かせください。
それでは、おやすみなさい。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/10(日) 02:15:45.79 ID:fdN8g1zto<> おつおつ

禁書でカプを募集したら収集がつかなくなるぞ <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:19:11.16 ID:OD//0ETBo<> >>615
募集というつもりはなかったのですが、
ただこのスレはそんなに知られてなさそうなので、
見てくださる方はどういった趣向の方なのかなぁと…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)<>sage saga<>2011/04/10(日) 02:23:19.21 ID:LfjzAUumo<> 一方通行が愛されてればいいってのには同意するぜ
ときめいて死にそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/10(日) 02:28:28.40 ID:72OtV2tAO<> こういう掲示板とかだと、マイナーなカップリングも結構需要あるんじゃない
ピクシブのような累積点数評価だとメジャーものが圧倒的だったりするけど

一方絹旗書くなら、全力出して支援しますぜ
カッコ可愛い一方通行が見られるんなら何でも支援するけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/10(日) 02:29:37.99 ID:fdN8g1zto<> oh…早とちり失礼
上でレスしといてなんだけど前半みたいなほのぼの黄泉川家とか俺得すぎる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/10(日) 02:32:39.33 ID:5GpohafRo<> 乙乙
認知度については、オリキャラが嫌いな人も結構いるから、その辺が原因かと
文章上手いし展開も破綻してなくて面白い、楽しく読ませてもらってます。
強いていえば投下ペースが早いともっと幸せになれる

カプ要素は、窒素通行は俺得だけど、需要よりも書きたい物を書けばいいよ!
キャーリサ様家出スレみたいに新境地を拓くのもアリだと思う <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 02:56:39.28 ID:OD//0ETBo<>

黄泉川家スレで十五万字とか言ってたの俺なんだ……
芳川のセリフ言ったのも俺です。
このスレ始めたのは黄泉川家を愛でるためだったが……
どうしてこうなった。


うん、俺もオリキャラ出てたら避けるタイプだから、
このスレ見かけたら避けるよ。
完全に、ネタが思いつかなくて走ってしまった……負けですね、はい。
次回作は、モブ以外絶対出しません。

あと、投下スピードはやっぱりモチベーションと文章力ですね。
躊躇と妥協、これが難しい壁だ……

一方通行と風斬と絹旗を愛でる。これが目標ですね。
あと一方通行のキャラを崩さない……難しそう。
書きたいものを書きます。見かけたらよろしく。


馴れ合いとか言われるのもアレなのでいい加減本当に寝ます。
それでは、おやすみなさい。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 04:58:48.31 ID:818APX8wo<> 乙

オリミサカはオリキャラにはぎりぎり含まれない気がするなぁ
オリキャラはダメだけどミサカは許容範囲って結構居そうだ
カプについては、マイナー系もいいかもしれないけどベーシックなのは安定して人気でるよね
通行止めとか上琴とか浜麦とか、それだけでチェックリストに入れる人も多いだろうし
メインはマイナーカプでもサブでそういう要素加えればチェックする人も増えるかも? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 10:02:25.42 ID:PS0Ik/vL0<> >>622
ベーシックといいつつ上禁ではなく上琴、浜滝ではなく浜麦と書くあたりに
お前の揺るがぬ主張を感じたwwww

まあ次回作の話は完結してからでもいいんじゃね>>1
期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/04/10(日) 10:49:07.16 ID:MBhhaURAO<> >>622
俺はミサベさんはオリキャラだと思うな。悪い意味じゃないぞ

20000号は変態、みたいな感じで
出てきてないけど、原作に存在するミサカの性格を改変するのとはまたちょっと違うと思う

ちなみに僕は座標通行が好きです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(佐賀県)<>sage<>2011/04/10(日) 12:20:53.59 ID:RxS5iOMqo<> 一般的に好まれないのは、原作無視、オリキャラ無双、オリキャラとのカップリング辺りかな
妹達は、1万体もいるからある程度好き勝手に設定しても大丈夫だと思う
(20000や14510や17600は最早当たり前と化しているしね)

マイナーカップリングは、簡単でもいいから成立した経緯の説明が欲しいかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 12:54:30.14 ID:818APX8wo<> >>623
上禁より上琴の方が圧倒的に多いし、浜滝は脇役としての登場なら多いけどメインの話は浜麦の方が多いと思ったからな
浜滝が少ないのは他カプと違って原作で確定されてるからかな
まあ上琴と浜麦は大好物なのは否定しないけどwwww

>>625
オリキャラはキャラ不足を補ったり、原作キャラを死亡させたくない場合に身代わりで死なせるとかの使い方が無難かな
あとは数年後設定で子供が居る場合は確実にメインでオリキャラになっちゃうけどこの場合は仕方ない <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 13:22:03.90 ID:OD//0ETBo<>

大好きなスレが荒れているとね、どろしぃ★は悲しいのです……。

ドゥッドゥルー、どろしぃ★です!


……うん、
今書いてる自分のSSのことを語らなくちゃいけないとは思うのだけど、
それって結構恥ずかしいのよな。

ミサベさんは、なんとかオリキャラ臭を減らそうとしたけども、
やっぱりオリキャラはオリキャラなのです。
いくら読んでも無理です。匂いは抜けません。

一方絹旗書きたいが、イマイチ絹旗様のキャラが書けぬ。
……私めのような下賤の輩では無理なのか。

ちなみに、世紀末帝王さんは嫌いではありません。
未だに主人公とは認めたくありませんが、ええ。
浜絹も、上絹も受け付けられない身体になっちまった……
基本的に、許容量が少ないどろしぃ★です。


長文、御無礼。
では、続きをもうちょっとしたら書こうと思います。
パリパリチキンうめぇ。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/10(日) 13:56:36.11 ID:72OtV2tAO<> うん、その気持ちは痛いほど分かる
キャラへの愛が深まると、時に守備範囲が狭くなる
気に病むことはない、あって当たり前の感情だと、個人的には思ってる

一方さん好きだけど、一方×滝壺はちょっと躊躇してしまう
一方絹旗は超バッチ来いです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 14:24:54.06 ID:QgGgZbx80<> 一方さんが原作の流れでいくと、恋愛フラグたてそうなのは、一方座標、番外通行、妹達、窒素通行
くらい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/04/10(日) 14:35:03.99 ID:R1ujiSN5o<> 通行止めはどうした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 14:37:19.00 ID:818APX8wo<> 12巻、13巻で一方禁書もアリかな?と思ったのは俺だけではない気がす
最新刊も入れると一方海鳥とかも・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 14:55:21.68 ID:QgGgZbx80<> >>630

打ち止めは原作ですでに家族だ!(打ち止め好きだけど) <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:33:17.56 ID:OD//0ETBo<>

 こんにちわ。

 実は、結構終わりが近いです。

 

 一方通行は、怒りに身を任せるも、時すでに遅く。 
 無力なその手は、何も掴めないのか。



 それでは始めます。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:34:22.76 ID:OD//0ETBo<>


気づけば、屋上は見る影もなく。
寒空に投げ出され、無人の廃墟のようになっていた。



「……な、なんなんだ?」

「……黒翼、でしょうか」


そんな中最初に起き上がったのは、死にかけていた土御門と海原だ。
彼らはどうやら助かったらしい。


「……オレはてっきり死んだかと」

「ギリギリの状態ですけどね」

「……穴だらけ、か。くふっ」

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:35:16.92 ID:OD//0ETBo<>


血は、止まっている。
だが、穴は開いていて。
助かったとは、言い辛かった。



「……そう、だね。ミサカもギリギリだよ」

「お前は――――」

「それより、あれを見て」

「えっ……?」



なんとか生きていたミサカワーストが指差すのは、瓦礫の頂上。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:36:19.50 ID:OD//0ETBo<>



ミサカベストを腕に抱え、一方通行が俯く。
彼は、血まみれの彼女に語りかけていた。



「俺は」

「うん」

「守らなきゃって、思ったンだ」

「うん」

「でも……俺には、力が足りなくて」

「うん……」

「だから、これ以上誰も傷つけないように、せめて逝くなら、俺の手で」

「恨みを、引き受けようって、思ったんだよね」



「……最強なら、出来るはずじゃないか。
学園都市第一位?
守れない、救えない、成し遂げられないなら、一体何の意味があるンだよォ!?」



叫んだ彼は、泣いていた。
今の彼は、ひどく幼い。
まるで、親にすがり付く子供。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:37:36.58 ID:OD//0ETBo<>

「クソッ! くそっ、くそォ……」

「……」

「俺は、俺、は……」







「……あり、がとう」






「……え?」


突然の感謝の言葉に、一瞬固まる。
頬を弱弱しく撫でる手が、青白く。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:39:02.54 ID:OD//0ETBo<>



「ミサカが生きられたのは……あなたのおかげ。だから、ありがとう」

「いや、だ」

「ミサカは、あなたに、救われた……あなたなら、守れるよ……まだ、諦めないで」

「や、めろ。置いていかないでくれェ……」

「この子や、打ち止め……だけでも……助けて、あげて……ね?」

「………………あァ……」





僅かな微笑みは、一瞬だけ。
頬から、彼女の手が滑り落ち。
止血しているはずなのに、体温は下がっていく。






零れ落ちる、命。






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 16:40:35.41 ID:OD//0ETBo<>




「ミサカベスト……?」




一方通行は、彼女の手を握る。
握り返すことは、なかった。
そして、彼女の腹部に手を添えて。
そこには、もう一つの音。




「……コイツ、無事だぜ」

…………

「は、はは。今動きやがった」

…………

「……助けて、くれ」

…………

「助けてくれェェェえええ!!」





彼の叫びは、曇天に消え。
――――応えるように、声が聴こえた、気がした。






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 17:52:57.74 ID:rS+Mx4+L0<> 乙、でいいのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/04/10(日) 17:57:30.70 ID:ZGUdV6GQ0<> えっえっちょっこれでENDじゃないよね? <> 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 18:35:30.11 ID:OD//0ETBo<> もうちょいしたら唐突に再開します。
何も言わず席を立ち、申し訳ありません。 <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:20:56.23 ID:OD//0ETBo<>








――――そこは、どこだったか。







<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:21:47.23 ID:OD//0ETBo<>


目を開ければ、暗闇の中立ち尽くしていた。
見回せば、いつも夢に見る場所。



(何でここにいるンだ……?)



先ほどまでの光景を思い出す。
確か自分は屋外にいて、腕の中には――――









「何を立ち止まっているのですか? とミサカは詰問します」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:23:11.28 ID:OD//0ETBo<>



ビクゥッ!
自分でも驚くほどのオーバーリアクション。


だが、考えてみてほしい。
いつもここには死体しかいなかった。
そして誰かに話しかけられたこともない。



そこで唐突に声が聴こえれば、誰だって驚くだろう?


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:24:41.22 ID:OD//0ETBo<>

「……リアクションが大きいですね。
大方、死人が口開いただァ? ってな具合でしょうか、とミサカは推測します」

「…………」

「この人まだ寝ぼけているのでしょうか? とミサカはジロジロ観察します」

「いえ、きっとまたへたれているのでしょう、とミサカはあからさまに馬鹿にします」

「ああ、彼女の死にショックをうけているのですね。






一万人以上殺したのに今更かよ、とミサカは呆れます」





「……っ」

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:25:43.83 ID:OD//0ETBo<>


そう、今更。
人の死なんて、慣れたはずだった。
だが、自分はこんなにも打ちのめされている――――




「いいじゃない、傷ついたって」




――――――っ!?




「ミサカも死んだらあなたにはショックを受けて欲しいかな、
ってミサカはミサカはワガママを言ってみたり」


「ワガママじゃないわよ。好きな人には自分が死んだら傷ついて欲しいし、
好きな人が死んだら傷つくに決まっているわ。
それぐらいの人間らしさは持ち合わせているんでしょう?」



そこにいたのは、御坂美琴と打ち止め。
軽くパニックになる。
彼女たちにはこんな場所、あまりにミスマッチだったから。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:26:57.54 ID:OD//0ETBo<>



「……コイツは大丈夫じゃん」

「そうね、彼ほど人間らしい人間もいないわ」




もはや驚かない。
むしろ、驚いてやるものか。
近くにいた黄泉川と芳川を軽く睨む。




「おお怖い怖い、意地になっちゃってまあ」

「……これも彼の照れ隠しよ」

「なるほど、そう考えると可愛らしいじゃんよ♪」




好き勝手言ってろォ、心の中で吐き捨てる。
夢の中にまで、わざわざこいつらはおちょくりにきたのか。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:32:20.76 ID:OD//0ETBo<>



「人間なんだから、立ち止まって当然だ」

「そうですね、彼も疲れることぐらいありますよ」

「ちょっと気を張りすぎなのよ。もう少し楽になさいな」

「貴方は独りじゃないんですから」

「ケケケ、ミサカもその無様な姿を隣で見ててやるよん☆」




今度は『グループ』と親船最中、そしてミサカワースト。もはや訳がわからない。
だがそれでも、彼らが励ましてくれていることはわかった。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:33:56.15 ID:OD//0ETBo<>






「あーダメダメ」






ひらひらと、
手で否定しながら現れたのは、憎たらしい顔面刺青野郎。



「コイツはケツをぶん殴ってやんないと前に進まねえよ。
一方通行博士の俺が言うんだ間違いねぇ」


「チッ、前に歩き出さないテメェにゃこっちもイライラすんだよ。
さっさと行けや、じゃないと俺が先に行くぜ?」




もう一人、クソ忌々しいメルヘン野郎もいた。
相変わらず、翼の似合わない奴。




「自覚はあるが、お前には言われたくねぇ。黒翼(笑)」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:35:07.64 ID:OD//0ETBo<>

イラッとくることを抜かすバカメルヘンに世間の仕組みを叩き込もうとすると、
下から服を引っ張る感覚。



そこには、いつかの子供がいた。





「あなたは、ヒーローなの?」





突然の問いに、言葉がでない。
迷わず、否定するところなのに――――声が出ないのだ。
すると、――――






「ああ、コイツはヒーローだぜ」





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:37:09.08 ID:OD//0ETBo<>




結局、何故か。
肯定したのは、自分ではなく。
声の聴こえた方向は、眩しい光が差していて。
そこにいたのは、――――上条当麻。





「やっぱりそうなの!?」

「ああ、そうだよ。――――な?」




……正直、自分で肯定出来るほど自信があるわけではない。
自分がなれるのは、せいぜいクソッたれの悪党だ。







「……何ためらっているんだよ。
お前まさか、俺に助けてもらえるなんて甘いこと考えているんじゃないだろうな?」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:38:34.46 ID:OD//0ETBo<>


思わず、息をのむ。
図星、なのかもしれない。
ヒーローが来てくれる、そう信じていたのは、何もこの子供だけじゃなかった。



「求められるのも憧れてくれるのも嬉しいし、たまには寄りかかってもらいたいとも思う。
でも今、救えるのは、助けられるのは、成し遂げられるのはお前しかいないんじゃないのかっ!?
この場面でヒーローになれるのは、主人公のお前だけだろうがッッ!!」





…………そう、なのだろうか。
助けを求めるだけではなく、俺が、この俺が――――









「ヒーローになれるよ、一方通行なら」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:39:40.73 ID:OD//0ETBo<>



聴こえてくる声は、光の中から。
愛おしい声、自然と光の方へ手を伸ばしていた。



『権力を手に入れろ一方通行』

『対軍兵器とは言っても、政治的には弱者にすぎんからな』



(力がないンだったら――――)




手は光の中へ。
そこは、無限の世界。








「手に入れてやるよォォォォおおおおッッッッ!!!!」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:49:55.22 ID:OD//0ETBo<> ――――









外界はサイレンやクラクションの音で騒々しいが、
ビルの屋上は水を打ったような静寂。




一方通行の悲痛な叫びから、誰も声を出せないでいた。




だが、それも長くは続かない。
続ける訳にはいかないだろう。
まだ、戦争は終わっていないのだから。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:50:51.64 ID:OD//0ETBo<>


ジャリッと、
最初に動き出したのは、一方通行だった。
いや、そもそも彼が動き出さなければ何も始まらないのかもしれない。


腕に抱いていたミサカベストを、優しく横たえる。
彼女の頬を撫でた彼は、一瞬だけ笑みを浮かべるとゆっくり立ち上がった。


その場にいる仲間たちは、彼を見守ることしかできない。
むしろ、彼の見せる所作、挙動に魅せられている、といった表情だ。


それほど、今の彼は神聖で魅力的だった。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:51:55.52 ID:OD//0ETBo<>




―――――――嵐の前の静けさ、だったのか。





バキバキバキッと、
何かにヒビが入るような音が、広い空に鳴り響く。


それはまさしく、世界が割れた、という表現が似つかわしい。
黒いヒビが、一方通行の背中から空に向けて入っていき。




否、それはヒビなどではなかった。

彼の背中から、黒い翼が明確な形を持って世界を侵食していたのだ。

いつもの彼の翼と違うのは、噴き出す、というより形作っている、という点だろう。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:52:50.09 ID:OD//0ETBo<>



そう、形作っている。
黒い、黒い翼を。




ピキピキピキッと、
形作られた翼にヒビが入る。
殻が、割れるように。
サナギから、蝶になるように。




――――そして、顕現する。




パキーーーンと、
甲高い音が響き渡り。
殻が割れ、生まれいずる絶対的な存在。





――――一方通行の背中に、大きな翼




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:54:07.38 ID:OD//0ETBo<>



「おぉ……」

「すご……」

「なんて……」




見ているものは、まるでお伽噺に迷い込んだかのように錯覚するかもしれない。
これは夢だと、受け入れることを無意識に拒んでも致し方ないのかもしれない。




一方通行から生えた翼は、神話や伝説に出てくる竜の翼に、あまりにも忠実だったのだから。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:55:14.86 ID:OD//0ETBo<>


「あれは……」




「――――“幻想具現化”」





「えっ?」

「っ! まさかあれが絶対能力ですかっ!?」

「……オレも断定は出来ないが、あの翼、魔術にしても科学にしても生々しすぎる」

「確かに、まるで本当に背中から生えているみたいだね」

「竜の翼だけ召喚、あまつさえ自分と融合させるなんて聞いたことがありませんよ?」

「ああ、オレもそんな話全く聞いたことがない。だが幻想具現化なら、納得出来なくはないな」

「……どういうこと? 第一位はあんな厨二妄想をしてたわけ?」



「……『ドラゴン』」



「えっ?」

「そう、かつてオレたちが探っていた『ドラゴン』、アレがもしかしたら関係しているのかも」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:56:20.91 ID:OD//0ETBo<>


彼ら『グループ』は『ドラゴン』まで辿り着いてはいない。
しかし上条当麻の“竜王の顎(ドラゴンストライク)”について、土御門は知っていた。
覚醒状態にも、その片鱗がうかがえる。



『幻想殺し』と『幻想具現化』、
その二つには大きな繋がりがあるのかもしれない。




そんなことを土御門が考えていると、突然、肌にナニかが触れる。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 19:57:20.20 ID:OD//0ETBo<>



「ん……?」

「これは――――雪?」




見渡せば、学園都市に舞い落ちる雪のようなモノ。
雲の隙間から差す陽光を反射し、キラキラと輝いていた。



「――――雪って、案外暖かいんだね」

「…………これは、雪じゃない」

「え……そう、なの?」

「おそらく、先ほどの――――」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 20:03:53.89 ID:OD//0ETBo<>



雪、というより、破片。
そう、これは一方通行が先ほど打ち破り舞い上げた殻。
触れば溶けてしまう、幻想の欠片。



「――――何だろう、スゴく落ち着くよ」

「傷が治っていく……?」




その欠片は、
まるで愛を形にしたような、そんな奇跡だった。




一方通行は、一つ大きく羽ばたき、空へと溶けていく。
まるで、彼が幻だったかのように。
神々しくも、儚く、切なく、夢物語は紡がれる――――








<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 20:06:51.48 ID:OD//0ETBo<>



今日は、ここまでです。
途中少しの間途切れてしまって申し訳ありませんでした。

また来週来たいと思います。
有難うございました。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)<>sage<>2011/04/10(日) 20:35:46.01 ID:ldiX5pdB0<> な、なにが起こったんだってばよ? <> 泥源氏 ◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/10(日) 21:49:18.78 ID:OD//0ETBo<> >>665
置き去り、だったかもしれませんね……orz


超厨二展開でオリジナルの翼出ちゃったのは、
これ書いたのが二十一巻以前で、天使なんて知らなかったからです。
痛々しいですか……そう、かもしれませんね。
軽く流してやってください。No think,feel.


皆さん、おやすみなさい。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/11(月) 01:04:00.01 ID:3bRYdCaT0<> 何この超展開 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/04/11(月) 03:20:43.52 ID:VA8GX0/Zo<> 乙乙

すごいピーンチで絶望したところでオールキャストの励ましから真の力的なものが覚醒
という古典レベルのスタンダードな展開で
ドラゴンの翼が生まれた流れ描写されてるし、何に置き去りにされてるんだろうか
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/11(月) 14:26:24.40 ID:Ds+ETB4T0<> >>668
わかりやすすぎワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2011/04/11(月) 23:43:28.11 ID:AW9CJWJXo<> >>668
ロマサガ思い出した
わかりやすすぐる <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:24:07.96 ID:ibw4YJ0so<>

 お疲れ様です。


 >>668
 まぁ……そんな感じです。
 ありきたりなストーリーですみません。
 どうしても纏め方が思いつきませんでした。
 
 うん、リアクションもあまりないところからして
 置いて行ってしまったのか、見捨てられたのか……
 まぁ、もう少しで終わりそうなので、許してください。


 それでは、今週も始めます。
 ちなみに、またオリジナル設定でます。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:25:35.99 ID:ibw4YJ0so<> ――――










(とうとう辿り着いたか、一方通行)




そこは、窓のないビル。
円筒に逆さまで浮かぶ人間が、珍しく感情を漏らしている。

アレイスター=クロウリー、学園都市統括理事長にして、二十世紀最高の魔術師。
彼が見せるのは、――――歓喜の表情。


(『最高傑作(マスターピース)』が絶対能力への“門(ゲート)”の役割を果たしたな)


彼の『計画(プラン)』が大幅に進むことは、間違いないのだろう。
だが、それだけではない。





(嗚呼、一方通行。早く会いに来てくれ)




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:26:58.30 ID:ibw4YJ0so<>


他人には見せることのない、愛着、執着が垣間見える。
特別な存在、なのだろうか。



「君がそんな表情を見せるとは珍しい。そんなにアレが嬉しいのかな?」

「――――エイワス、か。あなたにはわからないだろう、わかるはずがない。
彼は天使になることも、アレを顕現することも出来るということだ」

「……そう、か。実に興味深い」


エイワス、通称『ドラゴン』。謎の存在。
彼は、一方通行の進化を覗くため地上に顕現していた。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:27:52.85 ID:ibw4YJ0so<>



「……ふむ、それにしても『竜王の翼(ドラゴンブレード)』、か。
なるほど、君が求めていたものはアレか」

「――――あの美しさは忘れられない。五十年程度で拝めるならば、あまりに易いな」

「だが、アレは御し難いのも事実だ。まさか過去の失敗を忘れたわけでもあるまい?」

「だからこその一方通行だよ。私は必ず『計画』を成功させてみせる」

「……そうか。楽しみにするとしよう」




全く期待しているようには見えない顔で言うと、エイワスは闇の中に消えていった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:28:32.78 ID:ibw4YJ0so<>




残ったのは、恍惚に浸るアレイスターだけ。
笑みは、いつものモノに戻っていて。
魔術師は、不敵に笑い、企む。







「――――もう止まることなど出来はしない。たとえ彼を利用することになろうとも」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:29:40.81 ID:ibw4YJ0so<> ――――









大通りの一角。
クリスマスイルミネーションで溢れるソコにいるのは、二人の人間。


――――そして、天使。


二人の人間とは上条とインデックスであり、
今は機能が停止している天使がヒューズ=カザキリである。
それでも、カザキリが風斬に戻ることはなく、一時的な処置に過ぎない。



(……これが俺に出来ること)



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:30:52.08 ID:ibw4YJ0so<>





ちょっと前、
彼らは警備員の包囲を抜け、なんとか天使のところに辿り着いていた。


その場所には警備員の影はなく、野次馬すらもいない。
理由は上条たちにはわからないが、好都合には違いなく。


「ひょうかを止めるには核になる少女を見つけ出して対処するしかないんだけど……
 とうまは彼女がどこにいるか知ってる?」

「少女? ……もしかして打ち止めか?
 悪い、場所はまだわからん」

「わからないって……じゃあどうやって止めるの!?」

「わからないものはしょうがないだろ!?
 俺の……この右手でどうにかしてやるしかないっ」

「とうま……」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:31:55.30 ID:ibw4YJ0so<>



 上条も、正直言って可能かどうかは試してみないとわからない。
 インデックスも、見てみないことには対処を考えることが出来ない。



 結局、行き当たりばったりだが、上条には自分の右手を信じるしかできなかったのだ。



「っっ!」

「っ、ひょうか!!」


目の前には、苦しむ友人。
迷う暇は、無かった。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:32:38.18 ID:ibw4YJ0so<>



「…………やるぞ、インデックス」

「…………うん」



上条当麻は、幻想殺しを天使に向けかざす。





大地が揺れる。
大気が震える。
世界が、歪む。


その歪みを喰い破るように、上条の右手に顕れたのは
神話に幾度も出てくる竜、その頭だった。


竜は存在を誇示するように、咆哮。
天使を威嚇したのだ。



「すごい……っ!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:33:31.29 ID:ibw4YJ0so<>


これこそ、覚醒。
『竜王の顎(ドラゴンストライク)』と呼ばれる対幻想最終兵器であり、
神の右席ですら退けた紛れもない最強である。


天使に向けて威嚇し続ける竜は、魔術ではないためか天使の排除対象ではないらしい。
反応はしていない、が天使の機能が低下していっていることは一目でわかる。



上条の右手が覚醒して得た能力の一つ、『竜王の声(ドラゴンシャウト)』。



「! ひょうかを殺さないでっ!」

「わかっているッ!」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:34:05.87 ID:ibw4YJ0so<>


かつて竜はその声によって威圧し、萎縮したところを襲い獲物を喰らったという。
声そのものに、幻想停止能力があるのだ。
つまり声だけならば、風斬が消されることはない。
しかし、――――



「う、うおおおおおおっっっ!!」

「がんばってとうま!」



天使を襲おうとする竜を、必死に抑える。
餓えた竜は凶暴で強力だ。
飼い慣らすのは、上条でも一苦労だった。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:34:46.36 ID:ibw4YJ0so<>



やがて天使は機能を失い、輝きを失う。
決して消え去ることはないが、時間が停止したかのように全く動かない。



「止まったね……」

「ああ……」

「止めることが出来たねっ」

「ああ!」


地上に堕ちた天使は、人の形をしたままで。
絵画の中に、戻ったというのか。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:35:41.66 ID:ibw4YJ0so<>





そんな時、雪が舞い落ちる。






時を動かすように。
彼女の罪すらも、許すかのように。

その優しい雪のおかげなのか、
降り始めて少し経つと天使は翼を失い、風斬は膝をつき倒れた。


「!!」

「ひょうかっ!」


駆け寄るインデックスを、風斬はフラフラしながらも起き、抱き締める。
強く、強く。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:36:30.59 ID:ibw4YJ0so<>



(元に戻っている……どういうこと?)



「うっ、うぐっ」

「ひょうか……」

「またっ……私はっ……」



 わからない――――――
 十万三千冊の魔術書を以てしてもわからない。


 友を助けることの出来ない知識に、いったい何の意味があるのだろう。
 インデックスは、風斬を支えながらも唇を噛みしめる。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:37:11.21 ID:ibw4YJ0so<>




風斬氷華は、前のように叫んだりはしない。
ただただ、震えながら泣いていた。
凍えている、わけではない。
化物であることが、辛いのだろう。



上条は、彼女の嘆きを聞いている。
だからこそ、その無力さに歯噛みしていた。



(この右手は、壊すだけだ……)



竜の宿る手を見る。
暴走してしまうことを考えると、風斬に近づくことが出来ない。
友だちとして、励ますことすら出来ないのだ。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:38:04.42 ID:ibw4YJ0so<>




(あいつのヒーローに、俺はなれない……っ)




幻想殺しの彼には、幻想を救うことは不可能。
これは、自明の理で。


 一方は、自分の知で友を救えぬことを嘆き、
もう一方は、自分の力で友を救えぬことを嘆いていた。





二人は視界一面の雪に、自分の小ささを痛いほど思い知るのだった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/17(日) 21:46:42.78 ID:ibw4YJ0so<>



 うん、今週はここまでです。


 
 また、意味わかんない感じになっていますか?
 でもこんな感じで走り抜けます。悪しからず。

 次回作を練っているときに投稿はつらいね……
 週一の更新って遅いですか?
 皆様方はどの位の頻度がいいですか?
 出来れば、お教えください。


 次までに投稿の仕方をLOMって勉強してきます。

 
 それでは、プロットが完成してテンションの高いどろしぃ★でした。


 エル・プサイ・コングルゥ




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/17(日) 21:55:05.19 ID:mSqt/Ym60<> 乙
自分のペースで走り抜ければいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/04/18(月) 09:59:17.05 ID:BG5ru91Go<> 意味が分からないことはないけど
レス数の割に展開が遅いからコメントしづらいのかも

欲を言えばもっと更新あげてほしいけど
無理して完成まで続かないよりは、週1ペースを守ってもらった方がうれしい
また来週期待してます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/18(月) 13:14:51.86 ID:JKM4qvlIO<> 乙です
ペースは書き手の自由だと思うけどコメントについては>>689に同意

面白いから頑張って <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/23(土) 15:20:34.51 ID:HjPXds9h0<> 自分も>>689に同意
全然面白いけど微妙にリアクションしにくいとでもいうのか
まだまだ先の話だけど個人的には終了後の量産型番外個体の処遇が気になって仕方ない <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:04:53.03 ID:onlKvykKo<>

こんばんわ。


>>689
展開遅いですよね……。
引き伸ばしばかりで、どこのジャンプ漫画だって感じですよね。
私の悪癖のようです。


今日も投下します。
よろしくお願いします。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:10:26.60 ID:onlKvykKo<> ――――








とある学区、地下深く。
核シェルターよりも頑丈な部屋があった。


どのように入るのか、知っているのは一人だけ。
まるで王のように中央でふんぞり返る駆動鎧を着た男、
元統括理事の潮岸のみである。



(最終的にこうなるだろうと思ってはいたが、あの威力は……)



一方通行の黒翼については彼も研究中だが、
今までのケースと比べ威力が段違いだった。


地下と屋上のラインを根こそぎ吹き飛ばしたのだ。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:11:57.54 ID:onlKvykKo<>




(様子を窺うことが出来んな。……まぁ、こちらにはアレがある)




チラリと、ソファに寝かされた打ち止めを見る。
天使を発動するデバイスとして使用中だが、比較的落ち着いた寝顔だった。




(天使の方は幻想殺しによって封じられている頃合いだろう。どうでもいいがな)




彼にとっては、単なる演出にすぎない。
もはや用済みだ。



必要なのは、人質のみ。
物理的にも政治的にも、発見、侵入が不可能な場所での籠城。
ただ彼はラインの復旧を待てばいいだけ。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:13:00.63 ID:onlKvykKo<>




(のはずだが、なんだこの胸騒ぎは……)





潮岸は、学園都市に住まう人間全般に言えるが、オカルトの類いを信じない。
それは自分の第六感に関しても同様である。



経験からの推測である勘ですら疑うのは、そこに思考的空白が存在するからだ。
なんとなく、などというものを信じていては、精神的“安泰”を得られない。
そう彼は考えているからである。




だが、この絶対的“安泰”であるはずの場所で、確かに彼は恐怖していた。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:14:09.84 ID:onlKvykKo<>








「見ィつゥけたァ」









結論から言えば、





第六感も、恐怖も、気のせいではなかった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:15:02.23 ID:onlKvykKo<>





「あ……あぅ……」



「一緒に遊ぼォぜェ……」




彼以外誰もいないはずの場所に、声が響く。





「なァ、臆病者の潮岸くゥゥゥン」




それは、黄泉に誘う声。





翼を背負う悪魔が、ただただ嗤っていた。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:18:34.14 ID:onlKvykKo<> ――――









――――そこは、どこだったのだろう。








<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:19:59.44 ID:onlKvykKo<>



ここが先ほどまでいた学園都市ではなく、
私がよく知る『陽炎の街』であることはわかっていた。
しかしこんな光景は、間違いなく生まれて初めてだ。




何もないはずの街に、こんこんと降り積もる雪。




雪は周りの景色を白く白く染め上げて、化粧していく。


寒いわけでは、ない。
むしろ、そこには暖かい感情が存在して、



(すごく……心地好い)



私は、自然と笑みを浮かべていた。
この奇跡に、涙すら浮かべていたのだ。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:21:17.70 ID:onlKvykKo<>





「つッまンねェ場所だなァ」





唐突に、聞き覚えの無い声。
空耳、とは思えず振り返る。
そこにいたのは――――




「オマエ、こンな場所で何してンだ?」



白い、白い少年。
雪の中に見えなくなる、ことはない。




大きな、大きなその翼が、圧倒的な存在感を示していたから。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:22:13.65 ID:onlKvykKo<>



「……あ、……う……」

「なンだ、天使ってのは喋れないのか?」

「い、いえ……驚いて、しまって」

「そォか……ま、しゃァねェわな」

「は、はい……」



私はびっくりしてまともに声も出なかったが、この人は全くもって平然としている。
この街に、さもずっといたかのように。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:23:12.21 ID:onlKvykKo<>



「あの……」

「ン?」

「……えっと、どうやってここに、……来たんですか?」




「……俺に不可能はねェ、そォ考えろ」




「……は、はぁ……それで、いい……のかな?」


 納得できるかと言えば、正直厳しいが。
 それでは話が進まなそうなので、無理やり納得することにした。
 下らない冗談も、嘘も言っている風でもなかったから。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:24:09.37 ID:onlKvykKo<>



「で、だ。話は変わるが、俺が何をしにここに来たと思う?」

「え……?」



そんなことわかるわけないっ、とは言えずに、少しだけ考える。


ここがどういう場所なのか、私も正確にはわからない。
それでも、学園都市にとって重要な場所であることは、なんとなくわかる。
そこから鑑みるに――――




「この場所が……欲しい、んですか?」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:25:03.66 ID:onlKvykKo<>



「なるほど、俺は侵略者ってわけだ。そォ見えるか?」

「あ、……えと」



チラリと、彼の翼を見る。
見た目は恐ろしく感じたが、悪い人には思えなかった。
ぶっきらぼうな声だけど、優しさがあり。
誰かに、似ているような気がした。




「確かにこの翼はチィと凶悪かもしれねェなァ……」

「い、いや……でも、悪い人では……ないと」

「……そォかい、ありがとよ」



彼は、少なからずショックを受けているようだ。
……ちょっぴり可愛いかった。



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:26:02.85 ID:onlKvykKo<>



「俺は侵略者のつもりはねェ。俺の目的は――――オマエだ」

「……?」




「オマエを、ここから連れ出しに来たンだ」




「…………え?」





意味が、わからなかった。
ここから連れ出す?
……この人は何を言っているのだろう?




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:26:51.91 ID:onlKvykKo<>




「訳がわからないって顔してンな」

「それはっ……そうですよ。
ここから出るなんて、出来るわけない……じゃないですか」

「言っただろォ、俺に不可能は無いって」

「じゃあどうやってっ……どうやって、私を……連れ出すんですか?」






「――――オマエを人間にする」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:27:41.41 ID:onlKvykKo<>




端的に、簡単に、あっさりと、彼は言った。
私が、何よりも叶えたい願望を。
私の、幻想(ユメ)を。




「……私が……人間に……?」

「正確に言えば、肉体を用意してオマエの魂を移植する形になる。
当然色々と制約は出てくるだろォな」

「……そんな神様みたいなことが……」





「出来る、俺には出来るンだ。――――絶対能力者の俺には、な」

「っ!!」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:28:43.80 ID:onlKvykKo<>



絶対能力者(レベル6)、聴いたことがある。
神ならぬ身にて天上の意志に辿り着くもの。
あまりに信じがたいが、竜の翼が絶対的な説得力を附与していた。



「……どうして」

「ン?」

「どうして……私を人間にして、下さるんですか?」




「……アレイスターの野郎と交渉するためのカード、そンなところだ」

「……なるほど」





「――――だが、それだけじゃねェ」

「……え?」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:29:43.85 ID:onlKvykKo<>




ポリポリと、
後頭部をかく彼は、言葉を必死に探しているようで。
その不器用さと誠実さと優しさが、混乱する私の救いだった。


そんな彼が、私を真っ直ぐに見つめる。
赤い瞳に、ドキッとした。



「嫌なンだよ、俺は。
オマエみたいなヤツが化け物扱いされているのが、耐えられねェンだ」


「…………っ」


「普通に暮らして、友人と駄弁って、旨い飯でも食って、時々怒って、
……そンな、日だまりの中でオマエは笑っているべきなンだよ」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:32:07.26 ID:onlKvykKo<>




彼は、ゆっくりと私に歩み寄る。
少しだけ怖かったけど、その慈愛に満ちた目が私を気遣うようで。
警戒なんて、出来なかった。




「俺にはオマエを人間にする手段がある。だが、強制なンざしたかねェ」




近くまで来ると、怯える私に手を差し伸べた。
その白く細い手は、意外なほどしっかりしている。




「オマエが選べ。俺を信じて人間になるのかどォか、な」






彼は、神妙に問うた。
人間になりたいか、と。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:33:14.46 ID:onlKvykKo<>



「……一つ、聞かせてください」

「……なンだ?」

「私の名前は、風斬氷華、です。……あなたの、お名前を……教えて下さい」





「……一方通行だ」




「――――、一方通行さん」





私は、噛み締めるように口にした。
心へ、刻み付けるように。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:34:21.05 ID:onlKvykKo<>




「一方通行さん」

「なンだ、風斬氷華」






「私をっ、……私を人間にして下さいっ!」






いつの間にか私は、涙ながらに懇願していた。


そんな私を安心させるかのように、彼は力強く微笑む。
その笑顔はあまりに綺麗で、私は未来永劫忘れられないと思う。




「あァ、わかった。俺がオマエの幻想(ユメ)を実現してやる」





一方通行、
私のヒーロー。
彼に、手を伸ばし――――





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/04/25(月) 00:40:05.30 ID:onlKvykKo<>





 ここで、短いですが終わっておきます。
 悪癖、何とかしないとな……


 
 スペース多すぎだ。
 もうちょっと、考えないといけませんね。


 >>691
 後日談かなんかで書ければいいですね……
 あるかは、ちょっとわかりませんが。


 それでは、おやすみなさい。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大分県)<>sage<>2011/04/25(月) 00:51:50.95 ID:0gZDnIkh0<> 乙。
気にすんな。俺は応援してるぜ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 03:41:31.25 ID:iSx6tVTDO<> 乙
俺も気にならんよ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/04/27(水) 20:31:12.93 ID:06gP9Z0R0<> 乙乙
風斬にもフラグがたってこれはもうどうなってしまうのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/30(土) 04:28:07.77 ID:vtBWuX6Ko<> おつおつ
超楽しみだよ <> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:50:21.28 ID:SF7Gj6uAo<>
 うん、言い訳のしようもないね☆
 何も言わずに投稿致します。

<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:51:36.59 ID:SF7Gj6uAo<> ――――








「ひょうかっひょうかっ……!」




インデックスは、泣きながら消えてしまった親友の名を呼び。
涙の雫は、冷えきったアスファルトを濡らす。


「インデックス……」

「…………」


上条に、かける言葉はなかった。
前も風斬を病室に招き入れた後いつの間にかいなくなっていたが、
二度も目の前で消えてしまったインデックスはどれだけ辛かっただろうか。

友だちとの別れに、いつまでも慣れることはなく。
こういうものだと納得するしかなかった。


「……大丈夫か?」

「……うん」


涙の跡が痛々しい。
それでも、舞う雪が彼女を癒す。
白い雪は、白い彼女を慰めるように抱き締めていた。


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:53:23.18 ID:SF7Gj6uAo<>





「……え?」






雪に感じる温もりは、気配は、どこかで感じた――――





「なっ……」




だが、驚きはそれだけではない。
二人の目の前に現れた謎の発光体。







「風斬っ……!?」

「ひょうかっ!」


風斬氷華が、雪とともに降り立つ。
その様は、まるでお伽噺に出てくる天使のように美しい。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:54:22.15 ID:SF7Gj6uAo<>


そんな彼女に、インデックスは思い切り抱きつく。
困ったように、恥ずかしそうに笑う風斬は嬉しそうで。
先ほどの悲劇が嘘のようだった。



「ひょうか、人間になったんだねっ!」

「うんっ!」



微笑ましい二人の少女を眺める上条は、嬉しさとともに、少しだけ悔しさを滲ませた。



「この雪のおかげ、か?」

「これは雪じゃないよ。あくせられーたなんだよっ!」

「――――そう、なのか」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:55:03.66 ID:SF7Gj6uAo<>

彼もなんとなくわかっていたらしい。
右手が、虚空を掴んだ。






「……本当にスゲーよ、一方通行。お前が、お前こそがヒーローだ」





完敗だな、そう言い彼は笑った。
他の二人も、笑う。




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:55:42.89 ID:SF7Gj6uAo<>

インデックスは、空を見上げた。
そこに、見えるはずのない翼を幻視する。






「――――『竜王の涙(ドラゴンダスト)』、悲劇を奇跡に変える欠片」





囁きは、風に消えていく――――






「あくせられーたは、みんなのことが大好きなんだねっ」






<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:56:47.73 ID:SF7Gj6uAo<>




――――学園都市はこの日、白い奇跡に染められた。





「先生っっ!! 患者たちが――」

「こちらもですっっ!! 皆、謎の治癒を――」

「今行くよ? 大忙しだね、嬉しい悲鳴というやつかな?」

「……ミサカも手伝いましょうか、とミサカは復帰したばかりのローテンションで尋ねます」

「君は回復したばかりだろう? ゆっくり休むべきだよ」

「そうですか……しかしこの現象は、とミサカはちょっと興奮気味に唸ります」

「……さあね?
きっと優しい、優しいサンタさんからのクリスマスプレゼント、じゃないかな?」

「……そう、かもしれませんね、とミサカは昨夜を思い出しつつ頷きます」

「では、僕は行くよ? 患者たちが待っているからね?」

「はい――――、




…………あなたは、本当に強くて暖かくて優しいのですね、とミサカは誰もいない部屋で呟きます」




<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:57:31.38 ID:SF7Gj6uAo<>





――――雪は降り続ける。







「ホワイトクリスマス……ですわね」

「そう――ね」

「雪が降る予定はありませんでしたけど」

「この雪、不思議と冷たくないわね……?」

「傘が必要ないのは助かりますわ。なんだか疲れが取れていくような気もしますの」

「……私も」

「……んっんっ、お姉様は類人えゴフッゴフン……あの方とお過ごしにならないのですか?」

「……別に、会ったら過ごそうかなって、その程度のもんよ」

「では、私めと二人で――――」

「黒子は風紀委員で何かあるんじゃないの?」

「い、いえっ! お姉様に時間があるなら、いやむしろなくてもお付き合いして下さいまし!」

「いや、なかったら付き合えないじゃない」

「お、お、お、お姉様、ふ、ふ、ふ、二人で熱い夜をおおおおおおおおっっっ!!!」

「ちょちょぉっと黒子ぉッ!?」


<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:58:07.03 ID:SF7Gj6uAo<>





――――人々を癒すように、包み込むように。






「……はまづら、これ」

「ん? おおぅ、雪か。予報じゃ曇りだったけどなぁ」

「…………」

「……どうした滝壺。もしかして絹旗のことか?」

「――――それも、ある。大丈夫かな、きぬはた」

「雪は大丈夫だと思うけど……裏の仕事は心配だな」

「うん……そうだ、はまづら、やっぱり何か店でも開かない?」

「ああ、例の話か。アイツを店員に呼ぶのもいいな」

「きぬはただって、きっと居場所はあるよ」

「そうだな――――」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:58:42.44 ID:SF7Gj6uAo<>





――――それは、愛の結晶。






「ありがとうじゃん。杉谷さん、だっけ?」

「俺は頼まれただけだ」

「…………これは」

「ん…………雪、か?」

「…………違うじゃん、これはあいつの精一杯の好意、ってとこじゃん?」

「そうね……この雪、まるであの時の――ふふっ」

「……はぁ、さすが奥様方だ」

「まあね。私たちは彼の、彼らの帰る場所だもの」

「――――なるほど」

「……あ、来たっ! おーーい」



<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 22:59:14.85 ID:SF7Gj6uAo<>



学園都市のクリスマスは、彼の涙に愛されて。
幻想は幻想ではなくなり、悲劇は奇跡に救われる。




人々は奇跡に酔い、クリスマスは笑顔で溢れていた。




これこそ、一方通行の幻想。
世界は、幻想の中へ溶けていくのだった。





<> 泥源氏
◆a15dGnhq8NbI<>saga<>2011/05/26(木) 23:05:14.03 ID:SF7Gj6uAo<>






……うん、実はこれで終わりなんだ。
終わらせたくなかったんだけ、
いわゆるピーターパン症候群かな。



間あき過ぎて、読んで下さった方は少ないと思いますが、
もし読んで下さった方には有難うと言いたいです。

エピローグ……というより続きは、難しいですね。
ちょっと考えてあるけども、もはや書けなくなってしまいました。


また違う形で会うことになると思います。


辛口でもいいので批評下さると助かります。
それでは、一旦終わります。

有難うございました。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/05/27(金) 00:22:23.68 ID:7jMdXWTro<> 乙でした
一方さんはどうなったの?
時間が空いても是非エピローグが見たい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/27(金) 00:38:23.64 ID:plB5MKqIO<> 乙
個人的には最後ちょっと物足りないかなとは思うけど、面白かった
次回作も期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/27(金) 11:24:31.20 ID:ftq5wQQwo<> あれ、どっか読み飛ばしたかな
ベストの妊娠の回収ってどうなった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/05/27(金) 12:18:30.29 ID:RzuQgJXxo<> 風斬が娘に転生とか思ってた
何はともあれおつおつでした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 22:09:16.70 ID:+OfOfu3Ko<> ミストさん霧の如く消えてしまったの?(´・ω・`) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/06/11(土) 00:40:24.43 ID:squSfiWg0<> 久しぶりに来たら完結しててうれしい
次以降も期待
おつ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/06/28(火) 00:40:13.66 ID:uFw5TrVio<> ベスト(´・ω・`) <>