◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 18:57:00.88 ID:H8ixk1I90<>
番外個体「ってなワケで、今日からお世話になります!」一方通行「……はァ?」
前編
http://ex14.vip2ch.com/news4gep/kako/1284/12841/1284110670.html
後編
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1289/12899/1289901654.html
上記の続編になります
『とある魔術の禁書目録』の二次創作です
キャラ崩壊注意
誤字、脱字も多く見受けられるかもしれません
更新ペースは呆れるほど遅い上にダラダラ進行です
番外通行が好きな方にとって少しでもお腹の足しになれば幸いです
但し結構物語重視の傾向にあるので、単純な番外通行のイチャイチャだけを求めてる方にはあまり
オススメできないかもしれません。予めご了承を<>一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」番外個体「……うん」
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 18:58:38.98 ID:H8ixk1I90<>
なお、前回のヤツ読んでないor読むのめんどくさいって方へ
・当SSはロシア編で番外個体が一方通行や打ち止めと一緒に学園都市へ帰還しなかった設定上
のパラレルストーリーです
・このスレでの番外個体は諸事情によりネットワーク接続不可設定です。妹達の『負の感情』も
蓄積できません
・分岐点は一方通行がロシアから学園都市へ凱旋を果たす辺りからです。それ以前は原作設定を
なるべく考慮します(ミスがあった場合は全力でお詫びします)
・打ち止めは家族です <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 18:59:28.56 ID:H8ixk1I90<>
主な登場人物紹介
一方通行……ロシアから凱旋後、打ち止めと再び離れた孤独な生活中に番外個体と修羅場を乗り越え
両想いに。そして彼女と彼女達の世界を守り抜くため闇に残留する決意を表明する。
現在は番外個体と甘い同棲生活中
番外個体……一方通行達と学園都市に帰らず、ロシアで再設定(リプレイ)を施された後に学園都市
へ送られる。記憶に傷害を負ったり事件に巻き込まれたりで災難を背負うが、無事に
一方通行に救われてからは幸せな日々を送っている。
現在一方通行と同棲中。負の感情が無いせいか悪意指数がやや低め
打ち止め……一方通行と番外個体の仲睦まじげな様子に憤慨するも内心は幸せそうな二人を応援して
いる。容姿からは想像し難いほどの大人思考。だが立ち振る舞い自体はやはり子供。
現在は黄泉川宅で生活
御坂美琴……ロシアからの帰国後、至上最悪の事件に巻き込まれる。しかし頼れる仲間や上条当麻の
助けによって困難を乗り越え、現在は平穏な日々を満喫している。
憎い存在でしかなかったはずの一方通行だが、事件をきっかけに彼のこれまでの過程
を知ってしまい、複雑な心境である
上条当麻……ロシアで『神の右席』撃破後、無事生還。学園都市でも右に出ない不幸体質。彼もまた
事件の中心に身を投じていたが、現在は美琴や仲間と共に平和な日常を過ごしている。
美琴との仲に多少の進展あり?
禁書目録……呼び方は『インデックス』。イギリス聖教のシスターで脳に十万三千冊の魔導書を所有
している。上条当麻の寮部屋に居候中の大食漢。美琴と上条の急接近した関係に危機
感が生まれる
白井黒子……事件後、上条と美琴の進展に二つの意味で懸念している。“お姉様に近づく不届きな猿”
でしかなかった印象から……?
19090号……学園都市在住『妹達(ミサカシスターズ)』の一人。性格は内気だが嘘をつく事に優れて
いないため、時々厳しい意見も飛び出す。溌剌な性格の番外個体が少し苦手だが……?
では、初回投下に移ります <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:00:10.30 ID:H8ixk1I90<>
少年は求めた
何者にも届かない無敵のチカラを
少年は欲した
失いたくない存在を護れるだけのチカラを
少年は恐れた
蹂躙や破滅の運命によって希望の炎が消えてしまうことを
少年は抗った
愛すべき者の未来 ただそれだけのために
少年は手に入れた
それは何よりもかけがえの無い 比喩し難いほどに大切な――――――
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:00:41.14 ID:H8ixk1I90<>
少女は嘲笑った
彼の自己犠牲はただの自己満足手法に過ぎないと忌みながら
少女は牙を剥いた
初めから定められた運命(さだめ)に逆らう手段を知らないまま
少女は戸惑った
憎悪の終着駅であるはずの存在の 蓋の中身に
少女は失い 取り戻した
こびりついて離れなかった感情と頭に眠る替えの利かないアルバムを
少女は微笑んだ
それは曇りの欠片も感じさせないほどに安らかで悪戯な笑顔だった――――――
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:01:20.48 ID:H8ixk1I90<>
―――――少女は 少年のすぐ傍でまた笑った
限られた短い時間(とき)を 悔いなく過ごすために―――――
◆ ◆ ◆
季節は秋から冬へ移り変わる
====================================================
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:02:57.26 ID:H8ixk1I90<> ====================================================
短期終息した第三次世界大戦の余韻も薄れ、学園都市の平均気温は日が重なるごとに低下するこの時期。
勉学に励む学生を含めた住民達は皆来たるべく寒冷期に備え、冬籠りに勤しむ風情を演出する。
そういった最中、雪でも降れば景色との一体化も宛ら不可能ではない白髪白貌且つ華奢な少年は微かに
冷却された吐息を空へと吹いた。
傍らに存在する少女はそんな彼の尻を叩くように視線を傾け、少しだけ歩くペースを速める。
その手は杖を持っていない少年の腕を掴んだまま―――――。
「オイ、だから引っ張るなって言ってンだろ! そンなに急ぎてェなら腕離して先行け。落ち着かねェン
ならガキみてェにそこら辺走り回ってろ」
「いや、ダルそうに溜息吐くのは勝手だけどさあ、仮にも女の子を横に侍らせておいてそれってどうなの?
ハァァ、いつになったらエスコート作法が身についてくれるのやら」
「はァ? 何ワケの分かンねェ勘違いしてンだ? ただ寒くなってきたから息吐いただけだろォがよ」
「なに? 寒いの? まぁ無理もないか。あなたって見るからに耐性低そうだし」
「っせェな……、余計なお世話だっつの」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:04:04.46 ID:H8ixk1I90<>
「ふふ♪ ………歓喜的な提案が今浮かびましたー☆ そんじゃあもっと寄り添ってあげるね。定番の口説き
文句って言われても否定できないけど、こうやってくっついてれば寒くないよ。ってヤツ?」
「俺としちゃあ逆に離れて欲しいっつか離れろ。外でベタベタくっつくのは好かねェし、優越感なンて概念も
生憎持ち合わせちゃいねェンだ」
「あれえ? まさか腕組むより手ぇ握られる方が好き? まあ何事も初心が大事なのは大いに結構だけどねえ」
――――白が全体的なイメージの少年、一方通行が吐いた溜息を聞き逃さなかった少女、番外個体は口調に少々
の嫌味を淀ませた。
「そォいう問題じゃねェ。このまンまじゃ歩き辛くて仕方ねェンだよ」
正当な主張を振りかざそうにも、生憎それが通じるほど彼女は大人ではない。
寧ろ精神的には肉体以上に幼くて当然なのだ。
「あっそう。それ聞いてますます離したくなくなっちゃったわ。っつーことで、このままレッツラゴー♪」
ほんの先刻までの不穏さを無効とばかりに吹き飛ばした番外個体の笑顔は、小悪魔的な意味も含まれ
ていた。この体勢のままずっと歩き続けた果てに待つ展開を予想、危惧した一方通行は白い顔を青く
強張らせた。
「オイ、待てよコラ。“このまま”の状態で黄泉川に出迎えられるのだけは意地でも認めらンねェぞ!?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:05:59.40 ID:H8ixk1I90<>
だがしかし、この抗議をものともしない笑顔が立ちはだかる。
「きっとあたたか〜い目とお祝いみたいなお言葉がとんでくること請け合いだね。で、あなたはムキに
なって意味不明な弁明を始めると。いやあ、照れちゃうね」
「オマエの未来設計周到ぶりには両手を上げるしかねェのがよく分かった。オーケェ、分かった。もォ
しばらくは“このまま”で百歩譲ってやるとしてだ」
一方通行の瞳が濁みを増す。
遠くをじっと見つめているような哀愁と虚脱感が何とも印象的だ。
「ファミリーサイドに着いたらこの腕は問答無用で解かせてもらう。俺の全威信と名声にかけてもなァ」
たった今、そう決心した。断じて生半可な意志ではないことを雰囲気も織り交ぜつつで伝えるが、しかし。
「やってみれば? ミサカだって意地でも離してやんないから」
番外個体も退く姿勢を全く見せてくれそうになかった。
忘れてはならないのが、性格そのものは温和になったわけではないという事だ。
強気には強気で返すし、悪態も好きなだけ吐く。基本的な設定自体は初期仕様と大した相違がない。
更に大まかに言うと醜い憎悪がすっぽり抜け落ち、ドス黒い感情が幾らか和らいだ程度にすぎないのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:06:54.90 ID:H8ixk1I90<>
「……………」
そのまま無言で睨み合う両者。空気に混じっているため肉眼での確認は不可能だが、互いに譲れない
ものがそこには存在していた。
道の往来で腕を結んだまま近距離で見つめ合う二人に殺到する視線は、その殆どが下卑た部類のもの
であって、そこに野次馬的感覚以外のものは存在しない。
今、彼等には目的がある。決して暇を持て余すべく悠々と散歩をしている訳ではない。
だが、くだらない意地の張り合いでそれを忘れているのか、二人の足はそこから約ニ分程進行しなかった。
番外個体が学園都市に帰還してからちょうど一週間が経過した。
番外個体は本来なら他の妹達四人と同様、病院での調整生活を送る予定だったと後で知らされる。
だが、一方通行は咎める気を起こさなかった。
何故なのかは言わぬが華とやら。全ては番外個体本人の頑強な意志の末である。
ロシアで番外個体を引き取った一般家庭夫婦の所へ彼女を迎えに行ったのは妹達の一人だった。
その時の番外個体が世話になった二人へ送った言葉はネットワークを介し、打ち止めへと伝い、余も無く
一方通行の耳にさえ入ってしまっていた。これが彼女の嘘を容認した最大の要素と言える。
ふと、記憶を取り戻した番外個体の脳を去来する新たな記憶。
それは一月という短い間だったが、番外個体にとっては大切な存在である滞在先の夫婦との温かい日々。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:09:08.52 ID:H8ixk1I90<>
夫婦は両人ともにごく平凡な一般人だが、彼女を担当していた研究者と繋がりがあった。番外個体に外
の家庭の温かさを経験させようという粋な計らいである。
担当研究者の思惑通り、養子扱いで家庭の敷居を跨いだ番外個体を夫婦はまるで本当の娘のように愛して
くれた。たとえ僅かな時間だったとしても、彼女達の間には固い絆が確かに生まれていた。
いつだったか、一方通行にも話した。
自分に対し、とても親切にしてくれた夫婦のことを――――。
〜〜〜
――学園都市へ旅立つ直前、ロシアにて――
『――――短い間だったけど、今までお世話になりました』
『――――本当に行ってしまうのかい……。寂しくなるねぇ』
『ごめんね……。けど、ミサカはどうしても行かなきゃならないの』
『おや? もしかして、学園都市に好きな人がいるのかい?』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:10:20.29 ID:H8ixk1I90<>
『……………うん』
『そう、それならさぞ逢いに行きたいでしょうね…』
『………ごめんなさい。ここがイヤって訳じゃないんだ……。でも、ミサカはあの人に逢いたい。やっぱり
ミサカはあの人の傍に居たい』
『気にすることは無いよ。君が来てくれたおかげで私達も楽しかった。またロシアへ寄る機会があったら、
いつでも遊びにおいで。ここはもう君の家でもあるんだから』
『…………うんっ、ありがとう!』
『良い笑顔だ。よっぽどその彼の事が好きなんだね』
『あ…、いや別にそれはなんつーかぁ、その……///』
『はっはっは♪ 母さんも君ぐらいの年の頃はそんな風に初々しかったんだがねぇ』
『あら貴方? それどういう意味かしら…』
『……たはっ♪』
その後も夫婦との惚気染みた会話がこんな具合で暫く続くのだが、打ち止めの口から語られるこのエピソード
を一方通行は最後まで聞けなかった。
理由は単純、途中で寒気と恥心が全身に充満した以外に他ない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:11:17.38 ID:H8ixk1I90<>
〜〜〜
脱線したが、話を戻そう。
今、一方通行と番外個体は黄泉川愛穂の自宅へ向かう旅路の途中だ。
ゼロ距離でいつまでも睨み合ったままでは話が進まない。
「………もォ何でも良いから早く行くぞ。黄泉川やクソガキが待ちくたびれてる」
「………ふん」
ひとまず停戦にし、二人はまた肩を合わせたまま歩を進めた。
こんな風にくだらない小競り合いで時間を費やすのはもう何度目か。数えるのも馬鹿馬鹿しかった。
この日は番外個体を初めて黄泉川愛穂、芳川桔梗と対面させる予定になっている。
その背景にはさして重い事情がある訳でもなく、単に彼女達が“一方通行の保護者”として在った
過去もある以上、好奇心が芽生えない筈もないというだけの根底だった。そして現在も打ち止めの
世話役を任せている立場の一方通行は彼女達の誘い(強制)を断りきれなかった。
嗚呼、本当は嫌だった。だが世の中は汚く展開するものだ。打ち止めは「連れて来てーー!!」の
一点張り。番外個体も「あなたの保護者なら一度挨拶しとかなきゃ。お世話になってる身だしね」
と、もう彼の意向とは一切関係なしに話は展開してしまった。
ここでごねた所で見苦しい様を延長させるだけだ。一方通行もそのぐらいは理解できていた。
家を出た辺りで黄泉川に電話したところ、『今日はご馳走だから楽しみにしてるじゃんよ』との事。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:12:37.12 ID:H8ixk1I90<>
(今頃炊飯器の稼働率がとンでもねェことになってるだろォな…)
抵抗を諦めた脳は酷く暢気だった。ある意味では一種の現実逃避に近いかもしれない。
こういう経緯によって一方通行は久方ぶり、番外個体は初めて訪れるここファミリーサイド。
「………………」
訪れて早々に到着した黄泉川の住むマンションの前で番外個体はまず絶句した。
「………ねえ。あなたの保護者の黄泉川って何やってる人だっけ?」
「あン? 言わなかったか? 警備員で体育教師だとよ」
「……ふーん、けど公務員が住むにしてはちょーっと贅沢すぎる気がしない?」
典型的な高級マンションを訝しげに眺める番外個体。
設備的にも設計的にも一方通行と現在同棲している住居とは比較にならない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:14:48.31 ID:H8ixk1I90<>
「確か家賃の何割かは援助されてるっつってたな」
「へえ……、それは景気に希望が持てる話だね。国自体は不況だって聞いてるけど」
「こンな場所で経済の話か? 興味ねェっつの」
「う〜ん、ミサカでもオートロックの解除は難しいかも…」
「オイオイ、やめろ。インターホンの意味ねェだろォが」
オートロックに手を翳して何やら苦闘している番外個体を窘める。
上機嫌な黄泉川の応答と共にドアは開錠されるが、番外個体の興味心は更に加速した。
「ほ〜〜〜……へ〜〜〜………うわぁぁ…」
「あンまキョロキョロすンな、みっともねェ。まるで田舎から上京して初日みてェじゃねェか」
子供と接するのに心得がある一方通行は冷静に直喩を用いて対処する。初めて二人がデートした時
も番外個体は最先端技術の公開ショーにやたら目を輝かせていた。どうやら予めインプットされた
知識と実際に目視した時の違和感が感激の素となるらしい。ミサカネットワークから切り離された
番外個体に妹達から新しい情報収集が送られるのはもう実質不可能なのだ。よって、今の彼女には
“負の感情”は勿論の事、個体同士の新たな記憶や通信映像、感覚認識共有機能も断絶されている。
皮肉な事情の果てかもしれないが、別の言い方をすれば番外個体は『確立された個体』として今を
生きているのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:16:34.80 ID:H8ixk1I90<>
軍用クローンとして生成された身でも、そういった意味なら彼女は普通の少女と何ら分け隔てない
存在である。『大能力(レベル4)の電撃使いで御坂美琴にソックリ』という肩書きを除けばだが。
従って、ある程度の成長を終えた肉体を所有する番外個体がこうして思春期も迎えていない少女の
ように振舞うのは無理もないことなのだと一方通行は諦めた。
おそらくは、これが“負の感情”の欠落した彼女本来の姿なのかもしれない。
残念ながら憎まれ口や減らず口は相も変わらず、だが。
「―――――よっ、遅かったじゃーん。待ってたよ」
いつもと何ら変わらない軽口で一方通行たちを出迎える黄泉川。
だが彼女の顔からは久しぶりの再会による嬉しさが僅かながらも滲み出ていた。
「よォ、ソッチは相変わらずだな」
一方通行もそんな黄泉川に口元を緩める。
黄泉川の自分への接し方に感じていた刺々しい感情も、以前よりだいぶ和らいだらしい。
「君が番外個体か……。当たり前かもしれないが、あの子にソックリじゃんね」
「こ、こんにちは」
視線を移した黄泉川にぎこちない挨拶を返す番外個体。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:18:24.05 ID:H8ixk1I90<>
一方通行は怪訝な顔を隣りに向ける。この少女が人見知りだと認識した覚えはないからだ。
「何緊張してンだオマエ……」
「う、うるさいなあ! 別に緊張とかしてないし!」
この僅かな二人のやりとりだけで黄泉川は確信できた。「何の心配も要らなそうだ」と。
彼等若者同士の間を纏っている空気が何とも微笑ましい。
「まぁまぁ、とにかく二人とも上がりな。もうすぐ夕飯できるから奥であいつらの相手してて
くれると助かるよ」
「はァ……?」
「おっ、お邪魔しまーす」
露骨に顔を顰める一方通行とやはり未だ遠慮が消えない番外個体の二人は黄泉川に連れられて
リビングへ。相変わらずといった部屋の見取りに一方通行の表情が感慨耽る。
が、そこでは小規模な戦争が勃発していた。さっき抱いたばかりの疑問が早くも解消される。
「――――このっ! このっ! ってミサカはミサカはとっておきのコンボネーションで起死
回生を狙ってみたり!」
ふと、一方通行は中央に座り込む二つの見知った頭に着目する。
同時に和やかさを秘めていた心は一気に愕然へと近づく。
「――――ふふ、甘いわね。そこからの切り替えしは既に構築できているのよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:19:25.77 ID:H8ixk1I90<>
テレビ画面を凝視しながらコントローラーを操作する芳川桔梗と打ち止めがそこにいた。
「…………何やってンだオマエら?」
一方通行の呼びかけに彼女達は反応しない。
「最近こいつらすっかり嵌ってるじゃんよ。番外個体、悪いけどコッチ手伝ってくれる?」
「あ、うん」
後ろを向くと黄泉川が手招きで番外個体を呼んでいた。反発心など初来訪した家の主に抱く
わけもなく、一方通行も滅多に聞かない素直な返事が耳に障る。
「早速客人を働かせてンじゃねェよ……っつゥか」
番外個体だけ連れてキッチンへ戻った黄泉川に一方通行は小さく毒吐き、再びリビングで今
も激戦を繰り広げる大人と子供に目線を戻す。。
「こいつらどンだけ熱中してンだよ。クソガキはともかく芳川まで……」
「面倒見の良さが発揮されすぎて止めようがない状況じゃんよー」
キッチンの方から黄泉川の相槌が返ってくる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:20:46.90 ID:H8ixk1I90<>
一方通行は何となく声が掛け辛いこの状況に完全な手持ち無沙汰となっていた。
仕方なく一心不乱な二人の戦いに決着がつくまで黙って静観する事にした。
「あーくっそぉー! また負けたぁぁ!」
「惜しかったけど、まだまだね」
「はァ……だから何してンだオマエらはよォ」
「――――!?」
彼女らの集中が切れた所を見計らって今度こそと声をぶつける。
ようやくそこで二人は来客の存在を認識した。
「あぁーっ!? あ、アナタいつの間に……っ! ってミサカはミサカは予期せぬアナタの登場
に動揺してみたり……」
「あら、もう来てたのね。声くらい掛けてくれればいいのに」
芳川に至ってはさほど表情に変化はなかったが、打ち止めは隠していたものを親に見つけられた
ように慌て出した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:21:30.62 ID:H8ixk1I90<>
「み……見た? ってミサカはミサカは一応確認してみたり」
「あァ、良い負けっぷりだったなァ」
悪戯心はこういう所で表れるものだ。途端に打ち止めは顔を真っ赤なリンゴの如く変色させる。
「こっ、これは違うのーっ! 手が滑ったというか本調子じゃないっていうか……」
どうやらテレビゲームとは言え一方通行の前で無様な敗北を曝したのがたまらなく恥ずかしいようだ。
まさか来ていたことに気づかなかったのも取り乱す要点としては当てはまる。
「っていうかヨシカワ大人気ないよ! 子供相手に全力出すなんて! ってミサカはミサカはぁぁ!」
「あら、手加減したら怒るって言ったのは貴女よ最終信号。それに、悪いけどまだ本気ではないわ」
「ミサカだってまだ本気じゃないよ!! ミサカの真骨頂はこれからなんだから! ってミサカは
ミサカは再戦を要求してみたり!」
ビシッと宣戦するも、大人の芳川は軽くあしらう。
実際負けたとしてもこの毅然とした態度が維持できるのかは疑わしいものだが。
「いいわよ。何度やっても同じだと思うけど。何なら次は片手で相手してあげようかしら。丁度良い
ハンデになりそうね」
「ミサカを甘くみてると後悔するんだからーっ!!」
ムキィーッ、と奮起する打ち止めに柔らかくも冷酷な芳川。自分が出て行ってからこの家庭はいつも
こんな感じなのだろうかと考えると軽く眩暈がした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:22:06.83 ID:H8ixk1I90<>
「ったくよォ……たかが格闘ゲームでオマエら熱入りすぎだろ。ってか、まだ続くワケ? これ」
答えが返ってくるまでもなくセカンドラウンドが始まりを告げた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:24:06.09 ID:H8ixk1I90<>
―――
場面変わってキッチンでは、黄泉川と番外個体が肩を並べて調理作業に没頭していた。
「それで、あいつとの生活はどうなんじゃんよ〜?」
リビングから少し離れたキッチンで盛り付け中の番外個体にニヤケながら黄泉川が尋ねる。
「えっ? あ、あぁ……///」
思わず手が滑るが、そのまま料理を引っくり返すというベタな顛末までには至らなかった。
「おっとゴメン。いやぁ、あいつ……見ての通りじゃん? 短期間とは言え保護してた立場から
すると色々胸中複雑じゃんよ」
下劣な心を殺して追記する黄泉川。
「何ていうか、あんたに苦労掛けてんじゃないかなーってさ……。あいつが悪い子じゃないのは
勿論承知してるけど、一人で問題抱えたら絶対に他を寄せ付けようとしないヤツだし……ここ
から出て行ったのも、きっとそういう理由だったんだって分かってはいるんだけどさ」
「…………」
「やっぱ、心配じゃん? そういう子ほど私達大人は放っといちゃいけない。お節介って言われ
ちゃそこまでだけどね」
いつの間にか、黄泉川の目は優しく子供を見守る教師が放つようなそれへと変移していた。
まるで全てを包み込んでくれるような、そんな温かい印象を抱かせる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:24:48.43 ID:H8ixk1I90<>
「ま、実際私があいつの保護者面するのはおこがましいかもしれないが、それでも言わせて欲しい。
一方通行を宜しく。……じゃん」
黄泉川の言いたい事が何となく理解できた。
思い当たるというか、正にその通りだからだ。自然と番外個体の口が開く。
「アイツ……あなた達が大切っていうか、失いたくないっていうのは本当だと思う」
「………そうだと嬉しいんだがね」
「多分、あなたみたいに真っ直ぐぶつかってくる人の存在が……嬉しくて仕方ないんだよ」
「………」
「だからこそ、自分のせいで巻き込みたくない。傷つけたくない……」
番外個体の静かな主張に黄泉川は黙って聞き入る。
「けど、ミサカだけじゃきっと止まらない。だからミサカからもお願いします――――」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:26:31.37 ID:H8ixk1I90<>
「――――アイツを……アクセラレータをこれからもよろしく」
真っ直ぐ黄泉川の目を見つめて番外個体は告げた。
とても幸せそうな笑顔で。
「おーっと……。こいつはまさかの反射じゃん」
「にひゃっ」
敵わないといった調子で頭を掻く黄泉川に番外個体は舌を軽く出した。
そして、心温まる光景はその後もとめどなく続く。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:27:37.16 ID:H8ixk1I90<>
食事のセッティングを終えてリビングに戻った黄泉川と番外個体の目に映ったのは打ち止めや芳川、と
渋々ながらもテレビゲームに付き合わされている一方通行の頭を掻く姿だった。
顛末としては、やっぱり芳川の牙城を打ち崩せなかった打ち止めが観戦していた一方通行に半べそを
掻きながら仇討ちを依頼した流れである。
全力で画面に食い入りながら一方通行の操るキャラの応援をする打ち止め。
打ち止めの時よりは間違いなく本気な芳川。
興味ないし面倒臭い、とか言いたそうな顔をしながらも打ち止めの仇を取る律儀な一方通行。
その光景に黄泉川と番外個体の顔が思わず綻んでしまう。
「っさ、飯にするぞー! 今日は炊飯器全稼動のフルコースじゃん!」
可能なら、ずっとこのままでいたい。そう思わせるほどの幸せなひと時がそこには流れていた。
―――
夕食中は一言で表現すると、良い意味でも悪い意味でも賑やかだった。
黄泉川愛穂、芳川桔梗、打ち止め、そして一方通行と番外個体。
こうして食卓を囲んでいるとまるで本当の家族みたいだな、黄泉川はそんな事を思っていた。
「あんたらもさぁ、いっそここに一緒に住んだらどうよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:28:39.45 ID:H8ixk1I90<>
ポロリとこういった本音が零れてしまう。
番外個体が少しだけ困惑の表情を見せる中、一方通行は返答した。
「ただでさえガキの面倒押し付けてンのに、これ以上甘えられねェよ。コッチはコッチで何とか
なってっから、心配すンな。………まァ、気持ちだけ受け取っておくわ。たまにこォしてメシ
とかに呼ンでくれる分には何の不都合もねェよ」
「……そ。残念じゃーん」
わかっていたとは言え、残念なのは事実だった。
あの時はこういう心境を味わう暇すら許さずに出て行かれたが、これもこれでまた寂しいものだ。
「いよいよあんたも本格的に自立か……」
「ミサカはまたアナタと一緒に住みたいんだけどなー。ってミサカはミサカはちゃっかり自身の
願望を吐露してみる」
寂しいと感じているのはこの幼い個体も同様である。芳川は一瞬自分も、と言いたげな顔を覗かせ
たが、一方通行に母性満ちた眼差しを向けるだけに留めた。
なんだかんだ言ってもこんなに人から愛されてる一方通行を番外個体は嬉しく思った。
内心は複雑なのが正直な所だが、やはり素直に嬉しい気持ちが勝っていた。
「ま、気が向いたらいつでも来い。待ってるじゃん」
「気ィ向くことがあればなァ」
「ははっ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:30:43.42 ID:H8ixk1I90<>
やっぱりな、という顔で黄泉川はカップへコーヒーを注ぎ、そのまま一方通行の手前に置いた。が、
「おォ、悪いな」
次の瞬間、たったこの一言だけでそれまでの空気が大きく変化する。
「ッ!?」
「ちょーっとさあ! 今の何気ない流れで申し訳ないんだけど、ミサカが淹れてもあなたってば
いつも『ン』とか『あァ』しか言わないよね? 対応に明らかな差が生まれてないかしらーん!?」
普通に礼を告げたら何故か横から絡まれた。どうやら今のやりとりが番外個体の中で差別規定に
見事引っ掛かったらしい。
「貴方………、そこまで大人になったの?」
目を丸くした元研究者が訳の分からない問答を掛けてきた。少々の出来事ではあまり動じない性格
の彼女にここまで驚かれてはどう返すのが正解か、パッと思い浮かばない。
「オトナ!? あなたの最終理想はやっぱりオトナなの!? このミサカにはもう希望は残されて
いないのかーっ!? ってミサカはミサカは絶望のあまり突っ伏してみたりぃぃ!!」
対面のちんまりした保護対象はカウンター席で酔っ払ったサラリーマンのようにテーブルへ頭を伏せ、
挙句には芳川の前言以上に意味不明なことを喚き散らしている。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:33:31.84 ID:H8ixk1I90<>
「………なに? 俺、何か変なことでも言ったのか?」
疑問が本気の苛立ちへ進化する前に黄泉川を頼るも、彼女は失笑しながらこう言った。
「いやいや、成長ってのは本人が気づかない所でするから成長って言うじゃんよ」
「???」
結局疑惑は晴れなかったが、妙に腹立たしい気持ちだけが胸に残った。
何だかよく分からないが、極めて心外なのは確かである。
―――
それは別名、『食後の小さな悲劇』。
食べ終えた食器を黄泉川が片付けている最中の出来事だった。
「番外個体って、オリジナルに比べても発育が著しいのね」
芳川が何気なく口にしたこの一言が発端である。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:34:51.49 ID:H8ixk1I90<>
「……えっと、そういうんじゃなくて……促進剤そのものが違うんだよね。形態は多分『絶対能力
進化計画』とは別物だから」
「『第三次製造計画』か……。それにしても、機関の神経も大概ズレてるわね。バージョンアップ
にサイズアップも含めるだなんて…」
そんなどうでもいい評価をしながらも商品を見定めるような目で番外個体を眺める芳川。
かつて自身も関わっていた計画の延長線にとても興味深いようだが、明らかに研究者的視点以外の
意図が感じられる。
「ミサカみたいに即急問答無用で放り出されたんならこの目線の高さが定義であるはずなのにィィ!!
って、ミサカはミサカは悔しさのあまりハンカチを噛みしめてみたり!」
テレビアニメを鑑賞していた筈の打ち止めが話に加わってきた。関わらずにはいられなかった話題
のようだ。
「だから、肢体の成長に投与された薬品が別品なんだって。つまり、成長がそれまでの個体と違って
うーんと早まるワケだから、下手するとヨボヨボに老けた状態で戦線投入させられてたかもね。あ、
つっても老化して機動力ないんじゃ実戦は無理か」
何とも恐ろしいことを他人事のように語る番外個体。
番外個体、御坂美琴、打ち止め、この三人を並べたらよく保健の教科書に記載されている人体成長図が
リアルに実写で拝める……などとやはりどこかがズレた思考の芳川に今度は番外個体が振った。
「あなたは着衣やら肌の様子から見るとあんまり拘ってなさそうに見えるけど? 素材が良いのに勿体
ないんじゃない?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:36:06.08 ID:H8ixk1I90<>
「まぁ、貴女達みたいな若輩者の真似はさすがに……ね」
「ミサカは拘るどころか究めるつもりだよ! ってミサカはミサカは拳を堅く握って力説してみたり!」
「貴女は若輩すぎよ。無理な背伸びは返って成長の妨げになりかねないって立証されているわ」
「でもぉ……そこのおっぱいが“やーいやーい、早く追いついてみろー”ってあからさまな挑発を繰り
返してる気がして止まないんだけど! ってミサカはミサカは今に見てろこんにゃろうと対抗心を燃や
してみたり!」
メラメラと激しく燃える瞳は番外個体の二つの膨らみを直視していた。
芳川はそんなライバル心剥き出しの打ち止めを宥めようと椅子から立ち上がるのだが、その時に何かを
懐からボトリと落とした。
「???」
当然ながら、全員がその落下物に注目する。
「…………………………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:37:14.03 ID:H8ixk1I90<>
「……何これ? ってミサカはミサカは………ま、まさか!?」
ベルト型で体に巻きつけるタイプのそれは、以前健康グッズとして紹介されていたのをテレビで見た事
があった。確か、紹介者はバストアップ効果があるとか連呼しまくっていた。
そう、確認するまでもなくこれはその時の豊胸マシンだ。
「あ、いやこれはあれよ。元同僚が効果は保障するから試してみなとか言って無理矢理押し付けてきた
だけなのよ。で、捨てるのも何だか勿体無いし、別にそこまで過度な期待は望んでないっていうか」
「なーるほど、外面より普段隠せる部分を育ませてたってわけか。“あたし、脱ぐと凄いのよ”的な?
背伸びが成長の妨げになるって話、もしかして実体験だったりする?」
急に饒舌スペックが落ちた芳川を番外個体が冷静に視察する。
対して打ち止めは全身を震撼させている。子供が知らなくていい大人の事情が世の中には腐るほどある
のが実情だ。
その断片に触れた者としては至って通常の反応なのかもしれない。
しかし、それも束の間であった。
「あっ!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:39:09.36 ID:H8ixk1I90<>
散々身体を震わせた後、打ち止めは目にも止まらぬスピードで床に落ちていた豊胸マシンを拾い上げ、
速やかな逃亡を計った。
「今こそミサカの機動力を最大限に発揮する時だ! ってミサカはミサカは人生一番の大勝負っ!!」
勢い絶やさぬままに両足を躍動させる。
バトンを受け取ったリレー選手のように完璧なスタートを切った。あとは捕まるもんかとばかりに退散
するだけ。
「これでミサカも進化できる! これさえあれば………!!」そんなバレバレの下心と共に打ち止めは
超速で姿を眩ましてしまった。
呆然と見送る中、硬直から解放された芳川がいち早く動く。
「ま、待ちなさい最終信号!! 今の貴女にとってそれは危険物以外の何物でもないわ!!」
打ち止めを追い、リビングを飛び出して行く芳川。彼女もまたインテリを思わせない鮮やかな走り出し
だった。
ちなみに打ち止めは国外へ逃亡遂行の最中、キッチンで洗い物を終えた黄泉川にあっさりと捕獲された。
ついでに豊胸マシンも没収されてしまった。
しかし、今回の打ち止めは一味違う。
何とかして奪い返そうと果敢に強大な母へ挑む。が、そんな覚悟を嘲笑うかのように豊胸マシンは煙を
噴いた。渡してはいけない人間の手に渡ってしまったのがこの商品にとって運の尽きだったようだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:39:51.62 ID:H8ixk1I90<>
こうして打ち止めの壮大なプロジェクトは、序章を告げる間もなく儚い夢となって消えた。
「……………」
不自然すぎる流れで二人きりになったリビング。
キッチンの方から三人の騒然とした声が響く中、番外個体は現在唯一同じ空間にいる一方通行に尋ねた。
「あなたでも、やっぱりああいうの(胸の大きさ)とかに拘ったりするの?」
「………少なくとも、自然の成長に黙って身を委ねられねェやつには全く以って魅力を感じねェ」
一連の騒動の中、ずっとソファーで寛いでいた一方通行は面倒臭そうに答えた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/19(土) 19:46:10.82 ID:H8ixk1I90<> とりあえず今日はここまでです
前回のヤツ読んでてくれた方はお久しぶりです!
スレ建てるの遅くなってしまってすみませんでした
次回は番外通行の夜事情(?)の予定
地震や停電など多くの問題が残っていますが日本の復興を心より願っています
見ている方の気が少しでも和んでくれるよう、努力したい所存です
また明後日ぐらいに更新予定です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/03/19(土) 19:46:39.38 ID:ai/ZoJJp0<> タイトルからして既に殺しにかかってるとは流石だな
あと
>「………少なくとも、自然の成長に黙って身を委ねられねェやつには全く以って魅力を感じねェ」
これは名言だと思う <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>saga<>2011/03/19(土) 19:49:20.17 ID:re14JDsx0<> おつおつ
続編待ってた! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/03/19(土) 19:49:52.96 ID:re14JDsx0<> ageてしまった、ごめん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/19(土) 19:59:10.67 ID:rWgCczP30<> 俺たちの番外通行が帰ってきたぞ!!
なんかどことなく不穏な空気があるけど、今度はほのぼのストーリーなんだよな!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/19(土) 20:30:44.25 ID:EX1OjL360<> 乙です
スレタイから
上条「二人で一緒に逃げよう」美琴「……うん」を思い出した <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/19(土) 20:57:22.42 ID:/kuaaQrH0<> 乙 待ってたぜ!!
俺は此処で番外通行にはまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/03/19(土) 21:37:05.69 ID:eBLz5CWGo<> >>39
同じく <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/03/19(土) 23:30:41.10 ID:VPsjzrlRo<> 待ってたぜええええええ!!!
いいぜええええええ!!
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/19(土) 23:47:32.00 ID:6x/P8voDO<> >>38
ほのぼの純愛です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/20(日) 08:50:20.45 ID:zUMnzoR+0<> 待っていたぞ
あんたのおかげで番外通行患者がどれだけ増えたか…
あとちゃっかり新約ネタから入るとはニクイねwwww
またwktkさせてくれ超期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/03/20(日) 11:13:50.58 ID:tiCAtCRP0<> よし、今度こそみんなで温泉旅行、ビリビリもポロリもあるよ!
だな!
・・・ごめん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/20(日) 23:41:00.99 ID:f/lHhpOY0<> >>1乙
夜 事 情 だ と
期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/21(月) 03:29:34.41 ID:IFrMQKkb0<>
前のラストでかち合った御坂と番外個体から話が続くのかと思っていたんだが、あれはあれでどうなったんだろうね? <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/03/21(月) 20:32:08.15 ID:po2DgXaE0<> >>45
ごめんなさい、それは難しいかも…
誰か代わりに書いてくれないかしら(チラッ
>>47
時系列だとそれから六日経った辺りから始めてます
後に判明するかと…
では続き
多分イライラすると思いますが始まったばかりということで大目に見てあげてください <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:34:15.23 ID:po2DgXaE0<>
◆ ◆ ◆
黄泉川宅を後にしたのは夜の九時近く。
色々あって結構長居してしまった。いずれにせよ、近い内また遊びに行くハメになりそうな未来が
予測でき、一方通行は憂鬱そうな表情を浮かべている。
「寒くなってきたねえ」
そう口にしながら一方通行の腕に寄り添う番外個体。側頭部は杖をついて歩く一方通行の肩にもたれ、
密着度も行きの時と何ら変わっていない。
「日も落ちてっからなァ。そりゃそォだろ」
やはり歩きづらいとは思うが、嫌悪感は全くと言っていいほどに湧き出てこない。
これは反面、嬉しいと感じている自分がいるのだろうか。
狂喜以外の喜びを素直に表現するのが苦手な一方通行は、番外個体の方を直視できずに目を明後日の
方向へやり続けるしかない。返事する時すら逸らしたままだ。
「あなたに足りないのはまずガッチリしてて温かい体型だね。枯れ木にでも縋ってるみたい…」
「文句あンなら離せばイイ。っつかよォ、最近オマエ……アピールが露骨ってか、くっつきすぎなン
じゃねェのか?」
改めて指摘する。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:36:42.61 ID:po2DgXaE0<>
だが所詮、無意味な抵抗に終わる。
「仕方ないじゃん。寒いんだもん」
もちろん嘘だ。くっついていたい口実だ。一方通行は敢えて愚鈍な自分を演じているだけで、本当は
全てわかっている。
だからそんな彼女を可愛いやつだと思うし憎たらしいやつだとも思う。
だが、しかし―――――――肝心な応え方が今ひとつ掴めないでいるのだ。
理由はそれこそ挙げたらキリが無いが、強いて二つ。
自身の性格と経験に乏しいことだ。
誰にでも得手不得手ありとは本当に良く云ったものである。
「………ケッ」
せめてできる事は、番外個体が絡められるために腕と身体との間隔を無言で空けてやるくらいだ。
それでもだいぶ照れ臭いのには変わりない。精一杯妥協してこれである。
学園都市が切り札として要する怪物はそこにいなかった。いたのは粗忽で不器用で純朴なただ顔つき
の悪い少年と、その少年の腕にピッタリと絡み付いて離れずにいる幸せそうな顔の少女だった。
黄泉川宅から自宅までの帰り道、二人は道中のコンビニへ足を運んだ。
目的は缶コーヒーの補充である。
帰宅途中はこうして頻繁にここを利用する。少し戻ればスーパーもあるのだが、そちらは主に食材の
買出し用に立ち寄っている。目的がコーヒーだけならここで充分だと一方通行は思ったのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:39:19.12 ID:po2DgXaE0<>
「………」
コンビニの入り口より十メートル離れた横で、地域の学生達がたむろっている。
これもすっかり日常風景の仲間入りを遂げていた。
「どォした?」
何日前からかは忘れたが、番外個体はそんな学生達を物欲しそうな顔で眺めている事が頻繁にあった。
それらに分類はなく、ただ学生服を身に纏う人を羨望にも似た眼差しで見つめているだけだ。
彼女はその時に一体何を考えているのか、最近の一方通行が抱えていた疑問のひとつでもある。
「オイ、さっさと行くぞ。……ここは学園都市だ。学生がいても不思議に思う要素なンて、何ひとつ
ねェだろォが」
「へっ…? べ、別に〜、そういうんじゃないし」
「なら一体何なンだよ?」
「人間ウォッチングだよ! ミサカの趣味なの! 悪い?」
「……、 あっそォ」
大体こんな流れで打ち切られる。過度に詮索すると機嫌も悪くなり後々面倒になるのだ。
色々と気難しい彼女の心情を理解するのは一方通行でも無理というもの。
「……、…」
まだチラチラと学生集団に目をやる番外個体の腕を引いて入店する。もう気にしない事にした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:44:21.96 ID:po2DgXaE0<>
いつも通りに補充している途中、番外個体が顔を覗かせてきた。
「あれ? また銘柄変えるの?」
缶で満たされていくカゴを観察しながら番外個体は尋ねる。
「まァな。コッチはもォ飽きちまった」
適当な口振りだが、補充する手だけは偉く活動的に見えた。
せっせと急ぐようにコーヒー缶をカゴへ収めていく一方通行の姿は何度か目にしたが、やはり
滑稽にしか見えない。吹き出しそうになり、表情が崩れてくる。
多分、知っている人間にはあまり見られたいものではなかったのだろう。
一方通行が忙しない挙動なのはそのせいに違いない、と番外個体は密かに確定付けた。
「ついでにお菓子買ってっていい?」
込み上げてくる笑いに堪え切れなくなった時はこう言ってその場を離れるのが彼女の戦法である。
予測できていた一方通行は「好きにしろ」とだけ答え、一種類の缶コーヒーを大量に買い占めた。
これも何気ない習慣でかたづけてしまえるほど、今の二人の距離は近い。
コンビニを出た後は、一方通行にとってはある意味の試練が待っている。
右は杖、左は番外個体、そこに大量の缶コーヒー入りのビニール袋。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:48:25.18 ID:po2DgXaE0<>
左手で袋を携えると隣りでベッタリくっついてくる番外個体が猫なで声で唸り出す。
大抵の男にとってそれは悩殺級だが、一方通行にとっては鬱陶しい以外の感想が出てこない。
仕方なしに袋は右手首に掛けて歩くのだが、これがすこぶるキツイ。
歩き難さも勿論手伝っているのは言うまでもない。
一週間前はこのせいで筋肉痛になった。
(……ッ、重てェな。やっぱもォ少し量減らしときゃ良かったか)
買ってから後悔した所まで当時と全くと言っていいほど同じだった。
番外個体は何ひとつ変わることなく一方通行の左腕に寄り添っている。
何となくこの状態で文句は言いたくなかった。その理由には一方通行の小さくて醜い意地が
当て嵌まるのだが、それでも腕がプルプルと小刻みに震えていてはバレバレであるという事
に彼はまだ気づいていない。なけなしのプライドを守ることに必死なため、自然と視野が狭
まれているのだろう。
そんな中、
「……重そうだねえ。袋、持って欲しい?」
「!」
そう、これを訊かれるのが嫌だったのだ。ここで甘えては平然を保つ最大の理由が意味を持た
なくなってしまう。
つまり、答えは最初から決まっていた。
「いや、いい。別に重くねェし」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:50:12.67 ID:po2DgXaE0<>
しかし、前にも言った通り世の中は一方通行の思うがままに動いてくれるとは限らない。
「ひゃひゃひゃ、ミサカに離れろって言わないのはそういうこと? とんだ意地っぱりだね
こりゃあまあ」
「ッ!?」
所詮そんなチッポケな見栄など彼女にはお見通しだった事実がこの時に判明する。
何て事のない、いつも通りの平凡な道で一方通行はやや吊り上がりがちな目を鋭くした。
「知っててからかいやがったのかこのアマ……」
口端がピキピキと引き攣り出す。しかし番外個体は怯みなど一切垣間見せず軽快な調子を崩さない。
「そーいう男の意地みたいなの、ミサカにとっちゃ本能くすぐられるだけなんだよね。ざーんねん、
世の中はあなたの思い通りに動いてくれないよん」
絡みついた腕は勿論離してくれなかった。
結局、家に着くまで一方通行は右腕の痺れと戦い続けるしか選択肢が残されていなかった。
逆らいたいが、逆らえない。偉くもどかしかった。この場でできる反抗表示と言えば舌打ちぐらいだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:55:19.27 ID:po2DgXaE0<>
最終的にこの立位置が変わることはなかった。
もう何もかもが手遅れのようだ。番外個体と同棲して一番身についたのは“無駄な抵抗の見極め方”
だった。
「――――あの人があなたの“仮親”か……。いい人たちじゃん」
家に到着し、痺れた腕を軽く揉んでほぐしている最中、番外個体がそんな言葉を吹っ掛けてきた。
ちなみに家というのはかつて暗部組織『グループ』が拠点の一つとして利用していた木造アパートで、
現在は一方通行と番外個体の“愛の巣”(?)の事である。
質素よりも多少は広めの八畳部屋が一室と、ダイニングにバルコニーが付いた何て事のない一室。
黄泉川の所有するマンションとは比較にならない程の劣った環境だが、一方通行は不満どころか結構
気に入っていた。
番外個体も初日以降は特に何の不満も口言せず、今ではこの部屋が自分の家だという認識の下で学園
都市生活を満喫していた。
「仮親って表現が正しいのかは疑問だがな。実際あそこで過ごした日なンてほンの僅かな間だけだ」
そんな番外個体の何気ない話題にも、一方通行は首を向けずに言葉だけ返す。初めての彼女を親に紹介
した時のような、何となくそれに近い心境で照れ臭さがあるせいか、一方通行の対応はどこか塞ぎこみ
がちに思えた。
「……何であんないい人たちから離れちゃったの、って訊くのは野暮かな?」
「………あァ、今更だな。だが強いて答えるとしたら、“だからこそ”だ」
「…………そっか」
やっぱり…、と言いたげに目を伏せる番外個体。あそこで皆一緒に住んだら案外楽しいのではないか。
そう思うとちょっとだけだが寂しく感じた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:57:18.89 ID:po2DgXaE0<>
腕を揉み終えた一方通行はふと座椅子から立ち上がった。
「さて、風呂でも沸かすか」
ソファーにゴロンと寝そべる番外個体を横目にリビングを離れる。彼女はテレビを再び眺めながらも
何か思い耽っているような、そんな面持ちだった。
「――――オイ、先に風呂入るか?」
しばらくして声が掛かり、番外個体はそこで現実世界へ戻る。
何をぼんやり感慨耽っていたのか、この時点で忘却してしまった。一方通行が居間を離れてどれだけの時が
過ぎたのかも認識できないでいた。
「え……あ、あぁ。風呂ね」
咄嗟にこういう場面で上手く取り繕えない自分を軽く呪う。当然の事ながら、一方通行が彼女のそういった
微妙な変化を見逃すはずはない。
「……ナニ呆けてンだ? 目ェ虚ろなまま転寝でもしてたのかよ?」
「な、何でもないってば。じゃあお言葉に甘えて先に入らせてもらいます、っと」
適当に誤魔化し、立ち上がって浴室へ向かおうと足を動かす番外個体の手を、一方通行がギュッと掴む。
「待てよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 20:59:18.23 ID:po2DgXaE0<>
「…ん?」
「逃げるよォに締め括ってンじゃねェ」と、心を抉る言葉が強制停止中の耳へ届く。
早々に切り上げて入浴と共にリフレッシュさせようと目論む番外個体だが、一方通行はそれを許さなかった。
「……どうしたの? 一緒に入りたいとか言う前フリ?」
「甘くみやがって……、誤魔化せるとでも思ってンのか?」
虚勢から生まれた笑みに向けられたのは悪魔の羽でも生やしていそうな笑みだった。
「は? 誤魔化すって何がさ?」
「まだシラ切ンのかよ。黄泉川ンとこ出てから、明らかに変じゃねェかオマエ」
「ッ…!」
「どォした? 黄泉川に何か言われたのか? ガキ共がゲームに熱中してる間、オマエらに何があった?」
この口振りからすると、一方通行は食卓を囲んだ時点からすでに番外個体の中で何かが変わりつつあることに
薄々だが勘付いていたのだろう。最近で幾度とない心境の変化を経験したからこそ、人の心変わりには異常に
敏感なのかもしれない。
真っ直ぐ、心の奥まで見透かされるかのような眼差しに番外個体は観念せざるを得なかった。
「た、大したことじゃないってば。ただ、“あなたをよろしく”って言われただけ……」
気がつけば自白してしまっていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:00:56.85 ID:po2DgXaE0<>
「……ホントにそれだけか?」
今日の彼はいつもより少し疑り深いようだ。
「それ以外にないでしょ?」
「だったら何で俺の目を見ねェ? オマエが隠し事してるのなンざバレバレなンだよ」
「……何も隠してなんか」
「………ふゥン、まァいい。引き止めて悪かったな」
そこでやっと掴まれていた手が解放された。
「……うん。それじゃ、お先」
番外個体は特に何も無かったように平然を装い、浴室にその身を消した。
残された一方通行は気まずそうに頭を一掻きし、やがて先ほどまで番外個体が占領していたソファーに
ゴロリと寝転がる。
「………」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:04:04.45 ID:po2DgXaE0<>
今考えると、別にわざわざ問い詰める事もなかったのではないか。こんなのでいちいち不安になってどう
するんだ。天井を見上げながらそういった自責に没頭する一方通行。
しかし、抑え切れなかった。それに今となっては後の祭りだ。
いやな自分の一面を知ってしまった気分である。
後悔するくらいなら最初から詮索しなければいい、という単純な結論では解決しなかった。
独占欲を働かせる場面でもない。彼女の全てを知る必要がどこにある。縛り付けるような尋問が彼女への
ためになるわけでもない。ここまでわかっていても気になってしまったのだ。彼女の変化には人一倍敏感
な一方通行だからこそ。
とは言え、
「我ながら気持ち悪い真似しちまったなァ……」
後にこう思うことを繰り返してしまう不器用な自分に少なからず嫌気もさす。
考えればそれだけ滅入っていたたまれなくなるだけだと判決を下した一方通行は目を閉じ、そのまま無心
状態へと移った。
「………やっぱりねえ」
やがて浴室から戻った番外個体は、まず軽く溜息を吐いた。
予想を裏切る事なくソファーに寝転がったまま寝息を立てている一方通行の姿を見ながら。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:05:48.83 ID:po2DgXaE0<>
「何回言っても聞かないんだから……」
時期が時期だけに体調を崩してしまいかねないこの行為を番外個体は何度か咎めたのだが、寝そべると
浅い睡眠に陥ってしまうのはもはや性(さが)なのだろうか。
「風邪引きたいのかな、このアンポンタンは…」
しかし、今日に限っては何故かそんな彼を起こそうという気にはなれなかった。
彼の背景を自身の目で垣間見た影響なのか。それとも日頃から求めていた欲が沸点まで届いたのか。
どちらなのか判別できなかった。
それどころか、自分でも正体の良くわからない感情が膨れ上がってくる。悪戯心に近からず遠からずと
言ったところか。
「…………」
次の瞬間には物音を立てずに一方通行の眠るソファーまで接近していた。
殆ど無意識に。本能に従うままに。
「…………」
番外個体がすぐ傍まで来ても、一方通行の閉じられた瞼は開く気配を見せない。
おそらく、今目を開けたら彼はこの距離にビックリしてしまうだろう。
ついでに番外個体の格好は大き目のワイシャツ一枚と言ったこれまたお約束。縞模様のショーツは少し
下からだと簡単に覗けてしまう程度の長さしかない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:07:54.53 ID:po2DgXaE0<>
おまけに湯上りという事でいつも以上に色っぽさが表れている。
自覚も持った上での行動か否かは不明だが、番外個体は何かを考えるような目で一方通行の傍で屈み、
その綺麗で白い寝顔を凝視した。
(……浅いからすぐ起きるかと思いきや、今日は中々起きないね)
探究心と好奇心、そしてそれらを飲み込む程の悪戯心が全身を刺激する。
ついでに一方通行の寝顔の可愛さに多少の母性本能もピンク色に刺激される。
(どうしよ……。とりあえず、頬っぺた抓まんでみよっかな)
そう思った直後にもう手が伸びていた。
まるで意思より身体が先走ってしまったかのように、手は少女が予測したよりも早く彼の美肌へ到達
した。
(うわ、スベスベ……なんてモンじゃないね。女の立場からしたら殺意モンだわこれ)
予想以上の好感触に憤りが生まれてくる。
中世的な顔立ちとは言え、男の肌がここまで綺麗だと女としての何かが暴落しそうだ。
(……考えたら、こうやって肌に触れるのって……初めてじゃん) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:11:57.34 ID:po2DgXaE0<>
一方通行の顔に初めて触れた、そう意識するだけで番外個体の顔が上気する。
(もしかしてミサカ……今、とんでもなく恥ずかしい事やってたりする!?)
普段の大胆さは鳴りを潜め、羞恥心と平行して生まれた背徳感に番外個体は静かに嘆息する。
急に何とも言えない虚しさが襲ってきた。
(……何やってんだか。やめやめ、さっさと起こそう。お風呂入らないまま寝るなんて不潔だし)
トントン、と起こすつもりで一方通行の肩を叩こうとして、番外個体の手が止まった。
彼女の心が、再び言い表せない躊躇いを見出していた。
勿体無いし折角だからもう少しだけ……。本能がまたそう語りかけているようだった。
冷めかけた心が、再び熱を持つ。落ち着いてきたはずの鼓動が、また―――。
(やっぱ……起こす前に、もっと近くで……)
そして挙句にはそんな事を考えながら、顔をそーっと近づけていた。
上気した顔は収まりを見せず、体温も更に急上昇していく。
何かのリミッターが外れそうになっていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:12:39.07 ID:po2DgXaE0<>
(あ………)
一方通行の顔との距離が、気づけばもの凄く近くなっていた。少なくとも吐息が顔にかかるぐらいには。
しかし、離れようという選択は既に忘却の彼方へと葬り去られていた。それどころか更に顔と顔の距離
が縮まっていく。
心臓が鼓動を早める。呼吸が無意識の内にに荒くなる。
自制心を完全に失った番外個体は虚ろだった目をスッと閉じ、一方通行の無防備な唇へ向けて――――
―――― 自身の唇を伸ばしていた。
<>
>>63は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:16:04.11 ID:po2DgXaE0<>
(あ………)
一方通行の顔との距離が、気づけばもの凄く近くなっていた。少なくとも吐息が顔にかかるぐらいには。
しかし、離れようという選択は既に忘却の彼方へと葬り去られていた。それどころか更に顔と顔の距離
が縮まっていく。
心臓が更に鼓動を高める。呼吸が無意識の内に荒くなる。
自制心を完全に失った番外個体は虚ろだった目をスッと閉じ、一方通行の無防備な唇へ向けて――――
―――― 自身の唇を伸ばしていた。
<>
>>63は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:17:33.13 ID:po2DgXaE0<>
「………なァ、こいつは起きたらダメなパターンか?」
「!!!!???」 <>
>>63は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:20:10.30 ID:po2DgXaE0<>
番外個体の自我世界は、たったその一声で終焉を迎えた。
同時に彼女の中で流れていた時間が全て停止する。
「オイ……、あー……ダメかこりゃあ」
目をカッと見開いたまま硬直中の番外個体に一方通行はボリボリと頭を掻く。
「っと…」
そしてそのまま起き上がり、フリーズした番外個体の頭を軽く小突いてやる。
「イテッ!?」
「寝込みを襲うたァ、なかなかやるよォになったじゃねェかよ。弁明ってのがあるンだったら一応聞いて
やっても良いぜェ?」
「う……うぅー……///」
これ以上のバツの悪さはないであろう。番外個体は小突かれた頭を押さえたまま何も発せなくなってしま
っていた。
普段では決して有り得ないしおらしさが迸っているが、それを可愛いと素直に表現する一方通行ではない。
「言うまでもねェ、ってか? ならコッチから訊ねさせてもらうが、オマエは今俺に一体何をしよォとし
てたワケよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:21:43.67 ID:po2DgXaE0<>
鬼だ。Sだ。鬼畜だ……。素直に番外個体はそう思った。おずおずと一方通行の顔を見る。今の彼はすごく
意地悪そうな顔をしていた。
「………いつから起きてたのさ?」
籠もった声しか出なかった。これほど最高の気まずさが漂っているのでは致し方ない。
もっとも、一方通行はそんな彼女を弄り甲斐がありそうだと断定したのか、ニヤニヤと楽しそうな表情を
浮かべている。
「さァなァ。だが、オマエが音も気配も出さずにコッチへ来てたのは分かってたぜ」
「だったらどうして起きなかったのさ……?」
「そっちの方が面白そォだったから」
キッパリと断言された。
結局は一方通行に踊らされたに等しい、そう考えると今度は頭に血が昇ってきた。
「………ッ、この…っ」
「あン?」
顔を伏せたままプルプルと震え、拳を堅く握る番外個体に一方通行は悪寒を感じた。
「変態悪趣味野郎がァァあああああああああッッッ!!!!!」
もうどうなろうと知ったことではなくなった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:23:57.21 ID:po2DgXaE0<>
「げぶッッ!!!?」
とりあえず手元にあったクッションを掲げ、一方通行の頭へ向けて力いっぱいに振り下ろした。
その後、怒りに身を任せたまま暴れ狂う番外個体を宥めるのに三十分、更には機嫌を直させるのに二時間も
費やす一方通行であった。
流石にこれには猛省が必要だという意見が殺到しそうだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:28:43.14 ID:po2DgXaE0<> ごめんなさい、今日はここまでです
夜事情と聞いて期待していた全ての方に心からお詫び致します
次回は引き続き二人の夜風景から投下します
三日以内には来ますので、それまでお待ちを
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/21(月) 21:41:33.81 ID:9fMyksAC0<> 乙 俺はどっちでもかまわないぜ。
個人的にはここの番外通行を超えるのは無いと思ってる
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2011/03/21(月) 21:55:24.96 ID:J4uYeIjio<> 一方通行ェ……
そこは既成事実を作らせてから捕まえた方がよっぽどいじりがいがあるだろう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2011/03/21(月) 22:00:48.91 ID:NsXgTstVo<> 乙乙
一方通行、そこは黙ってしとくもんだろう……
打ち止めか、オリジナルあたりに乙女心を叩きこまれたらいいんじゃないかな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/03/21(月) 22:18:57.98 ID:sGBpGcEy0<> そこらへんのフラグブレイカーっぷりはほら、ヒーローから受け継いでるんだよ
にしてもアオザイは出るのかな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/22(火) 00:02:56.75 ID:36lYwKnfo<> >>73
セブンズミストでアオザイ手にとって悩んでる番外個体を妄想した <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/22(火) 00:27:00.33 ID:7ud3CIi+0<> アオザイも悪くないが・・・
やはりここは一方さんの服(上だけ)がセオリーだろう!!!
異論は認める <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/22(火) 11:27:17.68 ID:MXzQZcIp0<> 鬼畜一方さんと照れるワーストマジ天使 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/23(水) 01:38:09.70 ID:V721GY3AO<> >>74
アオザイって芳川からもらったんじゃ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/23(水) 21:40:26.11 ID:fCSYXOMK0<> アオザイ姿のワーストたん可愛いお
ちゅっちゅしたいお <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/03/24(木) 19:26:30.15 ID:5d+QSx4c0<> こんばんは
アオザイは後に登場予定とだけ言っておきます
この時点ではまだ持ってないの…
では続き <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:29:12.57 ID:5d+QSx4c0<>
―――
(疲れた……。何か知ンねェがとにかく疲れた)
一方通行による本気の謝罪の果て、ようやく機嫌を直してくれた番外個体。
とは言ってもまだ頬は軽くだが膨れている。
ひと悶着、というか一方的な呵責の図により疲弊しきった一方通行はふと時計に目をやる。
針は午前0時を指していた。時間の流れる感覚を取り戻してみると結構過ぎていたようだ。
にしても、まだ床に就くには些か早い。
「なァ、オマエは昼間とかどォしてンだ?」
なので、適当に話題を振って時間を潰そうと一方通行は計った。
「えっ? あなたが出かけてから? ……そうだねぇ、暇だからその辺ブラついてるのが多いかな〜」
番外個体は人差し指を意味もなく下から顎に当て、考えるような素振りで答えた。
不機嫌な面は取り敢えず鎮まったらしい。
「あぁ、そうそう! それであなたに相談があったの忘れてた!」
突如、思い出したと言わんばかりにポンと手を叩く。
「相談? 俺にか?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:31:21.65 ID:5d+QSx4c0<>
「あなた以外に誰がいんの? ……まあいいや。でね」
どうでもいい事を除いては脱線が嫌いで単刀直入が売りの番外個体。
彼女の瞳は隣のソファーで疲れを癒す一方通行の目を真っ直ぐに見据えた。
そしてこう頼む。
「ミサカのIDっての? あれ、できるだけ早急に発行してもらえる?」
「……は? 何に使うンだよそンなの。っつかオマエ」
間髪入れずに訊ねようとするが、番外個体がそれを拒否するように遮った。
「あとあと! ついでにもう一つお願いなんだけど―――」
「?????」
一気に畳み掛ける戦法はどうやら有効だったみたいだ。
これにより、一方通行は完全に話の腰を折るタイミングを失ってしまう。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:32:39.39 ID:5d+QSx4c0<>
―――
そしてそこからしばし時は進み、時間は悠に深夜帯へ突入していた。
丑三つ時を迎える頃、ようやく二人は就寝の準備に入る。
「〜〜〜♪」
番外個体が上機嫌に見えるのは決して気のせいなんかではない。ちゃんとした理由が実はあった
りする。
「……昨日も訊いた気がするが、何でンな嬉しそうなンだよオマエ」
「ん? そりゃあなたのワイシャツ………って、やっぱなんでもなーい☆」
「………乙女ってのはよくわかンねェわ。そンなに俺のお古が気に入ったのかァ?」
「あなたのサイズだとミサカでも大きすぎないし、着やすいんだよね♪ あ、でもやっぱり男の
服借りた時って、ダボーッてなっててガバガバしてた方が正直理想的かな」
そこでジーッと細い目を向けられても対応に困る。
「悪かったな細くてよォ………。どォせ俺には包容力もオマエを抱擁しきれるサイズの服も残念
ながら持ち合わせてねェよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:35:16.01 ID:5d+QSx4c0<>
自嘲的に吐く一方通行に一応のフォローが与えられる。
「まあまあ、そう悲観しないでさ、少しは身体鍛えるなりして筋肉つけよう、肩幅も広げて腕も
太くしよう、って心境には至らないワケ? ビルドアップされすぎるのもイヤだけど、今の時代
はだんぜん細マッチョでしょ。細すぎるあなたはまずそこを目指すべきだとミサカは思ってみた
りするんだけどさあ、これを機にしてみてはいかが?」
「……文句あるンだったら着なくてイイぞ?」
寝る前は本当によく喋る女だ。
しかしそれに付き合うのもやっぱり悪くない。それどころかこうでなければ彼女じゃない気がして
逆に自分が落ち着かなくなってしまうくらいだ。
何とも言い難い複雑な気分だったが、そいつもすっかり慣れてしまった。
今では全てが当たり前に輪廻している。
身近なところにこそ幸せは溢れている。一方通行に限ったことではないが、それを忘れてしまえば
いざ失った時の自失は計り知れないものとなる。
だから、一方通行はこの何の変哲もない普段通りの時間が結構好きだったりする。
夜のピロートークと表記するにはほど遠いが。
「ミサカの裸体(ストリップショー)でも見たいの? 意外だねえ、こんなムッツリさんが現代に
もまだ残留してたとはさぁ。男だったらハッキリ『脱げよ』の一言だけで決めてみな? そうす
りゃミサカのドス黒いハートも多少はグラつくかもよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:37:38.38 ID:5d+QSx4c0<>
「色々とツッコミてェ部分はあるが、俺が買ってやった寝巻きあンだろォが。あれは着ねェのかよ?」
そこでどうしてか「有り得ない!」って顔をされた。
「ぶっひゃあ、馬鹿言わないでよ! 誰があァんなだっっっせェェェの着るかっての!」
「……強調しすぎじゃねェの?」
心底嫌なのが声のトーンで分かる。ジェスチャーも一層拍車が掛かっていた。
番外個体用に自分が選んだパジャマは何故か大が付くほどの不評だった。何でも模様がもうすでに
イケてないらしい。
一方通行にはちっともそうは思えなかったどころか、むしろ自分も同タイプの物まで欲しいとか思
ってしまった(メンズ用)ただけに、これには少々ショックを受けた。確かに人によって趣味趣向
は異なるのかもしれないが、“何もそこまで否定しなくてもいいのでは?”と一方通行は嘆いた。
初めて自身のセンスに自信がなくなってしまうくらいはボロクソに言われたと解釈していい。
「………何が気にくわねえっつーンだか」
「自分が今着てるシャツにでも相談してみれば?」
そんなことで納得ができる筈もなかったし、己の趣向を改めて検討するつもりもなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:42:01.13 ID:5d+QSx4c0<>
腑に落ちないまま定位置のソファーで横になり、毛布を被る。
このソファーがすっかり彼の寝具と化していた。一つしか配置していないベッドは番外個体に謙譲…
いや、仕方がないから譲ってやっているという事にしておく。
別段、紳士など気取ろうとも思わないが、彼女のための自己犠牲を厭わなくなった今では大した苦の
内にも入らなかった。
ちなみに、彼には一つだけどうしても気に掛かっている事柄がある。
「……………」
その事柄とは、消灯した後に番外個体がスヤスヤと眠るベッドを見れば明白だった。
(……まただ。やっぱ不自然だよなァ、これ…)
この日もどうやらそうだったみたいだ。
(なァァンでこのアマはいっつもベッドを半分空けてやがるンだァ!?)
わからない、と言えば嘘だ。
可能性などすぐに想像がつく。だが確証はない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:43:34.27 ID:5d+QSx4c0<>
(やっぱそォか? それはつまりそォいう意味なのか? “さっさと入ってこいよこの意気地なし”って
俺に対して向けてるメッセージか何かかァ???)
このベッドはダブルではなくシングルだ。普通に彼女が寝ればベッド全域は確実に埋まっている。
……筈なのだ。
(………アホらし。仮に百万歩譲ってそォだとしても、俺にどォ応えろってンだ…)
根性なし、腰抜け、就寝中の番外個体の背中は一方通行にそんな事を言っている気がした。
一度起こした体を再び寝かし、さっさと意識を闇に落としてしまおうと一方通行は目を瞑る。
体の向きも、敢えて番外個体とは逆方向なのがどこか憎めない。
「……………」
どうする? どうアクションを起こす?
このままでは時間だけが無駄に過ぎていくだけだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:46:15.98 ID:5d+QSx4c0<>
選択肢は二つ。
確信の持てない誘いに乗ってみるか、昨日と全く同じ要領で目を閉じ、意識を落とすか。
しかしながら、頭の中が悶々としたまま今日も安眠できるかと問われれば自信が持てない。
「…………」
一度だけ、生唾をゴクリと飲み込んだ一方通行は、
「……邪魔、すンぞ」
遂に壁を超え、最初の第一歩を踏み出した。
今夜はいつもよりほんの少しだけ長くなりそうだ。
「………寝ちまってンのか」
向こうを向いたまま安らかで規則正しい呼吸音を立てる番外個体。
現在、彼女との距離は数十センチもない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:53:13.82 ID:5d+QSx4c0<>
(我ながら情けねェ話だな。これじゃあ誘惑の餌に釣られてるも同然じゃねェか)
(こいつがそンなつもりでスペースを空けてたっつう確証なンざ、どこにもねェってのに……)
(朝こいつが目覚めた時の反応が、おっかねェなこりゃ)
背中を流し目で見ながら危惧するが、こうなったらもうこのままここで寝てやると決めた。
目が覚めた途端に罵倒される覚悟も決めた。後戻りするつもりはない。
「寝るか……」
天井に目を戻し、一言呟いて瞼を閉じる。そうだ、今の日常を自身の手で狂わす意味がどこに
ある? 何もなくて何が悪い?
欺瞞と捉えられても文句は言えなかった。
外野ども、何とでも思えばいい。俺は寝る。とばかりに一方通行はまどろみ始める。
が、
「……ッ」
視界が暗くなってようやく、一方通行は鼻腔をくすぐる甘い匂いに気づかされた <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:54:32.09 ID:5d+QSx4c0<>
その正体は、番外個体の髪から漂うシャンプーの香り。
更に今まで特に意識した事も無かった女の子特有の優しい香りとブレンドされ、何とも魅惑的な
空気が彼の周りには漂っていた。
目を開けていない分、鼻は特に敏感なのが酷く恨めしい。
一方通行は嫌でも気持ちの高ぶりを抑え切れなかった。理解不能な感情が胸中を渦巻き、意識は
薄れるどころか更に活性化されていく。
そして、匂いが一層強まったかと思った矢先、すぐ横で何かがモゾッと動く音を聞いた。
「遅いよ……」
次に聞こえたのは、囁き声。吐息が掛かる程に近い耳元で、細く小さな甘い声。
声の主など問うまでもなかった。
無意識に身体がピクリと反応してしまう。
「……ンだよ、起きてやがったのか」
開いた目の焦点を、真横の少女へと合わせる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:56:12.88 ID:5d+QSx4c0<>
ようやくそこで二人は向かい合った。
艶やかさを纏う番外個体の顔が瞳に映る。
「今日もコッチ来ないかと思ったけど……たまには夜更かしも悪くないね」
「回りくどい野郎だ。一緒に寝て欲しいンなら最初っからそォ言えっての」
「言葉よりは分かりやすい合図だったと思うけど?」
「……ンなの、分かるわきゃねェだろォが」
小さな会話がひとつのベッド上で繰り返される。
消灯後の静寂な空間で二人の声が交互に木霊する。
「…………」
しかしそれがふと止んだ時、気まずい空気が突如として発生する。
二人に置かれている今の状況ではどう足掻いても自然と意識してしまう。
耐え難い時間というものは何故こんなにもゆったりと流れるのだろう?
今の二人には到底答えられないテーマだ。
「………ね、もう少し……そっち寄っても…………いい?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:57:56.26 ID:5d+QSx4c0<>
沈黙を嫌うように進言した番外個体の顔は、暗闇で見づらいものの確かに赤らんでいるのが分かる。
赤裸々な申し出に、一方通行は短い返事で応えた。
「………おォ」
「ん……しょ」
その直後、無音空間にズリッ、と布を擦るような音。より明瞭に伝わってくる生温かい吐息。
平静を装う一方通行だが、内心の胸の高鳴りだけはどうにも抑えきれない。操作範囲外のベクトル
が、今こうして自身を苛んでいる。
殺戮と破壊に慣れた身体も、妙な緊張のせいで全く動かせなかった。
互いに卑猥な表現に対して免疫はあった筈なのに、男女として一つの寝具で向き合った途端この様
である。番外個体も一方通行もこんな大事な場面で碌に頭が働かない自分を軽く呪う。
「ねえ、なんか喋ってよ……」
でないと不安になる、と言いたそうな表情。
「さっさと寝ろ。……絵本でも読ンでやらなきゃダメか?」
吐いた後で自らを殴り飛ばしたい衝動に駆られる。もっと言い方ってもんがあるだろ……! と、
脳内で頭を抱える。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 19:59:37.55 ID:5d+QSx4c0<>
しかし、番外個体は挑発的なセリフに応じなかった。
「確かにミサカは末っ子ってか、一番子供なのかもしんないけどさ……。それでもミサカのことを
ちゃんと意識してるんだよね…?」
「なに……?」
意味が理解できず、番外個体へ逸らした顔をもう一度向けた。
自責の念に溺れている暇などなさそうだ。
「だって、あなたちょっと震えてるよ?」
照れたような顔でそんなことを言われてしまった。
「!?」
「あははっ……参ったな。こっちから誘っといて悪いけど、ミサカったら柄にも無くガチガチでさ。
どう対処してやったらいいか全然わかんないや」
「………オマエ」
「でもでも、せっかくこうして一緒の布団で包まっちゃってるワケだしさ………このまま寝るって
のはさすがに無いんじゃない?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 20:01:52.17 ID:5d+QSx4c0<>
吹っ切れた表情と言葉が一方通行を崖際まであっという間に追い込んでいく。
先に気分を割り切らせ、開き直れた方が勝ちだったこの一戦に一方通行は完全に気後れした。
「だから…ね、こういう時はその……お、男のあなたがミサカを上手くリード……してよ?」
「――――!!?」
ナニヲイッテイルンダコノオンナハ? <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 20:05:07.84 ID:5d+QSx4c0<>
一瞬、現実が現実でなくなるような錯覚を受けたが、すぐさま頭の内部で状況整理が展開される。
いや、もうそんな必要もない……のか?
吃りながらだが、ハッキリと明言されてしまったというのに?
ここまで言われてしまって引けというのか? 仮にも自分は男ではなかったのか!?
いやしかし、このまま流される形で自制を捨ててしまうのが果たして本当の男であるべき姿なのか?
一方通行はこれまで以上の混沌を味わっていた。
勝負の時は今しかない。いや、男を証明するには今しかない!
どこからかそんな声が聞こえてきそうだった。
しつこいようだが、一方通行はこういったピンク一色の行事がまだ未経験である。
だからこそ慎重に、確実に発生源を予知して上手く回避してきた。
そもそも番外個体とはそんな間柄で一緒に暮らしているわけではなかったはずである。
しかし、ある日を境にその信念が薄らいでいってる自分もいた。
彼は番外個体をどう思っているのか。どんな関係を築いていきたいのか。それ以前に今、彼女とは
一体どういう関係なのか。
端からだと恋人にしか見えないだろう。共同生活時間が長くなるにつれ、カップルというのは各々の
異なるオーラのような風格が出現する。喩えるなら愛し合う者同士は常に一緒が当たり前。故に二人
で一つという外観的イメージがその“風格”と一致する。
実際この二人も、“風格”が既に出来上がっているのだ。
ただ、明確な言葉に出していないというだけのことだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 20:07:08.33 ID:5d+QSx4c0<>
しかし、一方通行には躊躇う理由がもう一つだけあった。それも決定的で致命的且つ、番外個体には
絶対に知られてはならない理由が――――。
むしろ、番外個体との夜の営みに踏み出せない根源と言ってもいい。
そしてこれは完全に彼の中だけの問題であった。番外個体に非は一切ないし、相談したとしても彼女を
困らせてしまうだけだ。
たとえ魅惑的な誘惑を受けたとしても、この問題が自分の中で解決できない限りは流されてしまうわけ
にいかない。
「……! ……!」
結果だけをザッと報告すると、この日は一方通行の完全な敗北に終わった。
だが、これで終わりなど誰よりも一方通行自身が認めようとしないだろう。
ともあれ、いずれ早い内にキッチリと決着はつけねばなるまい。いつまでも番外個体の誘惑から逃げ続け
られるとは思っていない。そろそろ限界か、と一方通行は内心で悟った。
彼女の気持ちにハッキリと応えて、本当の意味で安心させてやらなければならない。
何にせよ、次の日の延長線(予定)に期待である。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/24(木) 20:08:40.14 ID:5d+QSx4c0<> ここまでです
続きは明日の朝から始まります
一方さんのへタレ もげろ
それではまた三日以内にお会いしましょう
タラバ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2011/03/24(木) 20:09:23.04 ID:OYrUQPh1o<> 一通さん……
やっぱりホルモンバランスのせいで短小包茎不能なのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/24(木) 20:10:36.66 ID:Go5ynLaO0<> 毛が生えてないとか精通前とか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/24(木) 20:56:40.28 ID:eWahEoj60<> 番外個体が可愛すぎてもう死ぬかと思った
>>1おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/03/24(木) 21:06:33.25 ID:VB9eDAEf0<> 乙乙
同衾してるのにお互いガクガクいってるカップルって良いなほんと <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/03/24(木) 21:42:19.95 ID:soM8xF3AO<> EDセラレータん……。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/25(金) 10:33:42.82 ID:7vj6WZOj0<> 乙乙!
数ある番外通行の中でもやっぱりここが隋一だわ
ところで>>3の人物紹介でさりげなく19090号がメインキャストに抜擢されてる件について
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/26(土) 01:22:23.70 ID:iF32qYBA0<> 面白いんだが地の文形式進行ならもーちょい改行を気持ち多めにしてくれると読みやすくなっていいかも
原作みたいな読みにくさともどかしさをここでは味わいたくないんだ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/26(土) 12:04:25.39 ID:NlpBieeAO<> >>103
ちゃんと適度に改行がしてあって
かなり読みやすいと思うぞ…「きぬはた壮」みたいのに慣れすぎてないか?
むしろ禁書に限らず小説なんて皆あんな感じだぞ?
(文字の大きさや、文字と文字の間隔によって読み易さは変わるが…)
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/26(土) 19:00:47.84 ID:iF32qYBA0<> >>104
ただ今まで台詞形式に慣れすぎたせいか地の文にあまり免疫ないのだ
前作じゃ台詞あったから読めてたが、完全小説形式は正直きついぜ
小説今まで読んだことなくてアニメで禁書はまって原作がノベルだと知った並に残念だ…
けどこの作品自体はすげえ好きだし、我慢するよ
偉そうな事言ってすまなかった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/03/26(土) 19:27:42.68 ID:+IjFCZVQ0<> 小説形式は活字慣れすればどうとでもなる <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/03/27(日) 19:05:42.69 ID:iXOBvddM0<> >>105
いえいえ、ただ今回の話は台詞形式だとちょっと進行しにくいんですよね…
なるべく読みやすく分かりやすい感じで伝わるよう努めますのでどうか容赦してやってください
貴重なご意見&見てくれている方々、本当にありがとうございます
また色々好き勝手やっちゃうけど許してね
では続き
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:08:11.85 ID:iXOBvddM0<>
◆ ◆ ◆
朝、一方通行と番外個体が仲良く(?)暮らす新居から話は続く。
夜が明け、いつもと変わり映えのない今日が始まりを告げる。
外から射しこむ陽射しが、目覚まし時計の代わりを務めた。
眠い目を擦りつつ、一方通行は隣りで眠り続ける番外個体を起こさないように気を払いつつベッドの
上からフローリング式の床へ足を着ける。
いつもはダラダラと寝て過ごすのが習慣なのだが、この日は時間的に早めの仕事が入っているため、
午前九時の段階で起床しておく必要があるのだが……。
気だるさや二度寝したい衝動との戦いはやっぱり辛い。人間が持つ複数の『欲求』の中で、彼が最も
欲して止まないのは睡眠欲だ。
ふと、後ろを向く。そこには何とも憎たらしい番外個体の寝顔だけが映っていた。
彼女を見て、昨夜の最悪な悲劇を思い出す。
封印できたらどんなにいいか、とか考えても所詮無意味にすぎない。
気分を切り替え、着替えやら洗顔やらに移る。別に過ぎたことを悔やんでいるわけではないが、この
ままでは調子が戻りそうにない。今一方通行に求められているのは、早期適応力だ。
振り回されるのが嫌なら性分にも逆らえる順応性を身につけなくてはならない。
「…………」
まだ自分を捨てるのはちょっと難しいみたいだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:09:01.61 ID:iXOBvddM0<>
結局昨日は据え膳だった訳だが、あと一歩のところで彼は正気に戻ってしまった。
良く言えば誘惑に打ち勝つ強靭な精神、悪く言えばヘタレ。
しかし、既存の事実だが理由はある。例えて挙げるなら、睦事にまで至るにはそれなりのタイミング
またはムードというものが存在するのだ。
今日みたいな午前中からの活動予定を翌日に控えていては気持ち的に微妙である。
まるで性生活不充実の夫婦の旦那のような言い訳だが、彼としても本能に流されたまま一線を越えて
しまいたくはない。相手が番外個体なら特に。
こういう時だけは己の成長バランス不具合に感謝もできる。男性ホルモン健全なそこいらの人間なら
今頃すっきりテカテカ、精を存分に吐き出しましたという顔で朝を迎えている筈である。
性ホルモンが狂った一方通行だからこそ、番外個体の誘惑に流される形には至らなかったのだ。
勿体無い気がしないことも無いが、やはり昨日はやめておいて正解だと思い知った。初夜が女側から
のアプローチとうのは何か癪に障る。
それに――――――実際のところ、些細な材料を何個挙げても相比にならない事情だって持っている。
と、まあこんな風に出かける支度をしながらも弁解を止めない一方通行。ちなみに、彼のように特殊
な境遇でなくても女の子と同じ屋根の下で二人きりなのに一線を越えずにいられている英雄が知人の
中に約一名実在するが、一方通行は彼のそんな情報までは知らなかった。
一見すると一方通行の勝ちに思えるこの始末、実はしっかりと裏が用意されていた。
番外個体のフェロモンにより発生したなけなしの煩悩を振り払えたはいいが、その代償は決して小さく
はなかった。と言えば伝わってくれるだろうか? <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:11:47.02 ID:iXOBvddM0<>
「………馬鹿ヅラ垂らしてそのまま寝てろ。クソったれの小悪魔が」
身支度をひっそりと済ませ、捨てゼリフのように言い残してから部屋を出る。
(眠ィ……っつか、やっぱこの時間帯は寒いなァ。仕事なンかしたくねェ、ってヤツの言い分も今なら
少しだけわかる気がすンぜ…)
ぼんやりとそんなことを思いながら一方通行は通学する学生集団の波を掻き分ける。杖の音が鳴る度に
周りの人口も自然と増えていった。
面倒事を抱えた時に出る癖が無意識に表れている。
陽射しを嫌う吸血鬼みたいに目を片手で覆いながら、一方通行は朝の雑踏へと消えていった。
―――
学校だらけの学園都市、その中でも上位の部類に入る名門校の一つに常盤台中学の名がある。
一言で述べればお嬢様だらけの女子校で纏まるが、世間のイメージと現実の違いは優しくもあり、時に
残酷でもあった。
何を隠そう、それを立証できる一番の存在がこの学校の『エース』なのだから。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:14:13.75 ID:iXOBvddM0<>
時を遡ること一月半ばかし前、この学校は普段とは全く違う、望まれぬ形で世間からの注目を浴びている。
『常盤台が誇るエース・御坂美琴の失踪事件』
校則、寮則の厳しい常盤台の生徒が何の連絡もなしで数日間行方知れずになるのは中々の大事だった。
ましてやそれが学園都市第三位の超能力者ともあれば余計に事は膨れるのも仕方が無い。
だが、少し前にそんな事件があったとは思えないほど今の常盤台中学は通常授業だった。
様々な事情が見え隠れしているが、無事に復学を果たした美琴の精神を汲もうという結果に結局は収まった
らしい。今日も彼女は慕ってくれている後輩や級友なんかと登校し、授業を受け、充実した学校生活を送る。
その通学途中にツンツン頭の高校生が視界に入るのも、今や日常の一部である。
もっとも流石に以前みたいな“電撃ビリビリおはようございますおんどりゃあ!”みたいな展開にまで及ば
ない。節度と耐性は時間の経過と共についてくる。朝の二人の日常風景がそれを証明しているようだった。
「お、おはよう」
「ん? あー、御坂か。おはよ」
至極普通にこれと言って全く当たり障りのない挨拶から始まるのも、こうして思えばかなり時間が掛かった
気がしなくもない。上条当麻は相変わらずダルそうに通学しているし、御坂美琴は相変わらず後輩の夜這い
に悩まされていた。普段と特別変わりない景色もちゃんとそこに実在している。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:17:01.73 ID:iXOBvddM0<>
「あれ? 今日は白井と一緒じゃないのか?」
その後輩がいつもと違って不在なことから上条は話題を振る。
「黒子なら今日日直だからって先に飛んでったわよ」
「ふーん………。あ! 昨日メール返せなくて悪かったな。つい寝ちまってた」
「あぁ、まー良いわ。そんなこったろうとは思ってたし。ってかアンタ、寝るの早くない? 前から言おう
とは思ってたんだけどさ…」
「昨日も色々あってさ、帰りが遅くなって疲れてたんだよ」
「また人助け? はぁ……いい加減学習しなさいよね〜」
「…………」
「無言ってことは……当たってた?」
「そんな大したアレじゃねえんだけどな、スーパーの帰りにちょっと女の子が――――」
ブラブラと喋りながら歩く二人。
いつの間にか習慣のような自然空間がそこには生まれていた。
やがて、そんな和やかムードも分岐点に到達してしまう。
美琴が少しだけ残念そうな表情を見せたのが印象深い。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:22:16.74 ID:iXOBvddM0<>
「―――じゃ、またな」
「……えぇ、またメールするからちゃんと返事しなさいよ?」
最後は大体こんな別れ方だ。こうして二人は各々の学習の場へと足を進める。
後輩の白井黒子がいる時よりはゆっくり話せた。それだけで美琴は終始ご機嫌な態度で授業に臨めた。
対するツンツン頭の高校生、上条当麻は予鈴の前に健康オタクでもある吹寄制理の逆鱗に触れ、額と額が
鳴らす鈍い鐘の音を聞いた。
やはり、いつもと変わらない平穏な日常が一番である。
今日もこのまま、何事もなく一日が過ぎていく。別々の通学路を歩く二人はそう信じていた。
同時に、“そうあって欲しい”と願っていた。
―――
一方通行が外出して三十分後に起床した番外個体は病院にやって来ていた。
起きても一方通行が居なかったことに対しては事前に聞いていたから特に何とも思わない。
終わり次第に連絡をくれるらしいので、その後は合流するつもりでいた。
しかし、その前にしておかなければならない事がある。
定期調整が必要なクローン個体に今や例外なし。無理な成長促進と知識導入により短命な肉体を補うために
番外個体も今こうして通院を余儀なくされている。
自意スペックが低下していた時とはもう違うのだ。ただ電気信号の傍受不可によって脳の負担が失効したため、
調整自体は他の妹達より楽になったと言える。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:23:54.22 ID:iXOBvddM0<>
病院の待ち合いロビーを素通りし、真っ直ぐに目指すは特殊患者専用の病棟だ。彼女ら妹達の担当医である
カエル顔の医者は大抵そこにいる。
一般患者で賑わう領域から一転して静けさ漂う中、番外個体はわき目も振らずに目標地点へと足を運ばせた。
「やあ、来たね」
「やっほう。また世話掛けるけどよろしくね」
「うん、準備は整っているよ。開始前の確認が終わるまで少し待っていてくれ」
入室した番外個体にそう言いながら冥土帰しは機器の再確認を済ます。
彼の隣りには同軍用クローンであり、姉の立場でもある妹達の一人が佇んでいた。
「番外個体……、こんにちは。とミサカは最低限の礼儀で挨拶します」
「時間的にはまだ“おはよう”でいいんじゃないかな? えーと……あなたは何番?」
「ミサカの検体番号は19090号です……とミサカは控えめに自己紹介します」
おどおどしていて落ち着きを感じさせない個体なのは一目で判る。
そして、番外個体はこの個体に会うのが初めてという訳ではない。ただネットワークから隔離されたから
検体番号の分別ができなかっただけの話だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:26:32.35 ID:iXOBvddM0<>
「あー、スリムちゃんか。雰囲気からそんな感じしてたけど一応確認しただけだから気ぃ悪くしないでね」
「いえ……気にしてません。と、ミサカは首を横に振ります。あと、このミサカは少し痩せているという
だけで別段“スリム”ってわけでは……」
だんだん語尾が小さくなるのもこの個体の特徴である。彼女は番外個体に対してあまり良い印象を持って
いないのは何となく窺える。言い換えれば“苦手なタイプ”なのだろう。一万近くいる個体も今現在では
趣味や性格などがそれぞれによって異なっている。要するに個性がついているのだ。
「あなたも今日が調整日?」
「は、はい……とミサカは肯定します」
「奇遇だね。ミサカもだよ」
「そ……そうなんですか。とミサカは偶然を軽く呪います……」
「うーわ、相変わらず暗いね〜。まぁーた他のミサカに虐められたの?」
「いえ……、ミサカはダイエットのコツとかをしつこく追求されているだけで、決してイジメなどは…。
でも最近は辟易しているのも事実ではあります。とミサカはストレスの増加を素直に告白してみます」
ため息一つでも彼女の疲労困憊ぶりが予想できる。
番外個体も僅かな憐れみの視線を送ったが、ここは無難な言葉を選ぶ事にした。
「妹達同士、仲良くしないとね。同じ顔の喧嘩とか争いとか想像したら中々不気味な絵になるし。ミサカ
が言うのも変だけどさ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:27:19.91 ID:iXOBvddM0<>
番外個体は妹達の伸びた個性についてあまり気にしない。何しろ彼女みたいな引っ込み思案タイプは一々
言及するだけ疲れるのだ。
適当に割り切って接すれば何の問題も生じないし、苛々も溜まりはしない。
ネットワークに頼れない以上、こういった観察力と人を見極める勘を鍛えなければ妹達とのコミュニケー
ションは難儀してしまう。なので、少なくとも妹達の中での彼女は“接しやすい”イメージが広まりつつ
あった(それでも言動や性格の面から19090号は彼女が苦手らしい)。
ちなみに、打ち止めは見た目などのハンデを考慮した上で対象外と言う事にしておく。
「じゃあ、しばらく一緒だね。よろしくっ☆」
「い、いえ。こちらこそ……とミサカは…」
よろしくと言っても調整中は会話できないし、たまたま同時期だっただけのことだ。が、19090号の性格
では披瀝するまでに至らなかった。
それから何回かの言葉を交わした後、冥土帰しが彼女達に声を掛ける。
「確認したところ、特に問題はなさそうだね。ではそろそろ始めようか」
この瞬間から、番外個体と19090号の二人は少しの間だけ自由を失う。
―――
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:29:24.73 ID:iXOBvddM0<>
―――
一方通行は第○○学区の演説会場にいた。
勿論私事ではない、仕事だ。
今からここで公演する予定の人物に暗殺予告が届いていたのだ。一方通行の任務は暗殺者の捕縛である。
ちなみにその人物とは行政関係の長に就いているらしい。興味のない一方通行は餌(おとり)について
そんな程度の情報しか知らなかった。
これまでの方針から逸脱した仕事内容に思えるが、実は標的とされている人物が都市内でも重要な位に
就いていることもあって、暗部としてはこれ以上ない人材を派遣するのが自然だった。
……いや、暗部という表現は最近まで用いられたが、正しく言うと今は違う。
撤回するが、そもそも“これまでの方針”という言い回しすら今となっては不適合なものでしかないの
かもしれない。
一方通行は闇に現在もこうして身を置いているが、実質暗部という立ち位置で動いているのは一方通行
を例外とした“鎖なき人種”。要は学園都市に弱みを握られていない人々を意味する。
それ以外の訳あり境遇者は闇からの撤退を通告された。そしてこれを仕向けたのも一方通行だ。
現に彼が所属していた『グループ』も四日前に解散した。
もう一方通行以外の面子には闇で戦う理由がなくなった。少なくとも一方通行はそう思っていた。
一方通行は自分だけ闇に残って戦い続ける旨を結局最後まで彼等に語らなかった。話していたらきっと
あいつらは自分を許さないだろう、そう確信できた。仕事に対しては冷徹でも、根が悪い人種でない事
はとっくに知っている。一方通行一人だけ闇の犠牲になるような展開を彼等は絶対に喜ばないどころか、
下手をすれば統括理事に殴りこみすらかけかねない。それらも総合的に考慮した結案だった。
もっとも、やたらと物知りすぎる“約一名”にはお見通しなのかもしれないが、わざわざ確認などする
必要も無い。実際同僚と言う関係ですらなくなった彼がどのような行動を起こそうが、一方通行は干渉
しようと思わない。今の自分にとって有害となる立場に回った時は躊躇せずに排除する覚悟も既に決め
ていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:31:47.39 ID:iXOBvddM0<>
動く時は専ら単独のせいか、大胆な方法も多少は目を瞑れるようになった。寧ろ以前よりも仕事に支障
が派生しない。
それもそうだ、やはりこういうのは一人の方が向いている。ましてやまだこんな事を続けている理由の
大半が私情である以上、他人の介入はあまり認めたくない。
が、このまま堕ちるところまで堕ちるつもりもなかった。
すべての吐き気の元凶をこの手で根っこから毟り取り、護りたい少女達の未来が確約したと判断できた
その時こそ、自分は闇から本当の意味で抜け出せるんだ。一方通行はそう信じていた。
そう。いつか、きっと。
無言で表情を引き締め、気持ちを入れ替える。
今は仕事の最中だ。未来を夢見て思い浸っていい時ではない。
遠くからの狙撃が定番だろう、と一方通行は大衆に紛れつつ周囲に目を配った。
(果たして、今回はスカかヒットか……)
学園都市の中で如何わしい計画を企てているチーム関連ならヒット、私怨などによる単独犯ならスカだ。
(どっちかは判らねェが、見せしめが目的なら今が絶好の機会だ。これだけ聴衆がいりゃ紛れて逃げる
のにも適している)
いつでも最強の能力を得られるよう、チョーカーのスイッチに右手を添える。
警戒心もゆっくりと強まっていく。
一般人が多いこの場所ではあまり無茶はできないが、そこら辺はどうにかするつもりだ。
狙われている説者の方は若干汗ばんでいる。力の籠もった演説で体温が上がっただけではない。それは
説者本人と一方通行しか知らないことだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:35:39.35 ID:iXOBvddM0<>
そして、“その瞬間”は余もなく訪れる。
「――――ッ!?」
公演も終盤に差し掛かり、このまま滞りなく終了するかと思った矢先に事件は起きた。
パァン! と乾いた銃声らしき音が聞こえたと同時に演説が止まる。
「……!!」
悲鳴があちこちから響く中、演説者は血の流れる胸を押さえたままその場に崩れ落ちた。
一方通行はチョーカーのスイッチを能力使用に切り替え、突然の出来事にざわつく人々の包囲から縫う
ように抜け出す。音がした方向から空気の流れを原則に狙撃ポイントを割り出さなくては、逃走を成功
させてしまう。迅速な行動が求められていた。
しかしながら。
内容はあくまで暗殺実行犯の捕獲。暗殺阻止が目的ではないが、眼前で撃たれた人間を見殺しにするの
も後味が悪い。
移動しながら救急車の手配だけは済ます。あとは生き残るも死ぬも本人の気力次第だ。
取り出した携帯電話を乱暴にしまい、再び神経を集中させる。
風や気圧の乱れた発生地を精密に辿った末、幾つか並んだビルの一つまで絞れた。
距離的にも手頃といえば否定できない位置だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:37:41.47 ID:iXOBvddM0<>
まあ大体そんなところか……。と、一方通行は鼻息を短く吹いた。
「思ったよりか離れてねェな」
口元をニヤリと吊り上げ、狙撃地点と思われるビルの屋上へと一直線に跳躍する。
一般人の目線は撃たれた演説者に集中しているのを利用した大胆な算段に狙撃手は虚を突かれた。
「!?」
銃身の長いライフルをしまおうとした所で狙撃手は硬直した。
いきなり下から飛び出し、楽々と同じフィールドに着地されては無理もない。
「さァてと、あとは結果発表待ちみてェなモンか? しっかし骨がねェ。近頃はこンなンばっかで
本当うンざりしちまうぜ」
ハァ、と頭を掻き乱しながらの気だるそうなため息。
能力発動の絶対条件であるチョーカーのスイッチを通常モードに戻し、隠し持っていた拳銃を取り出す。
もう超能力などこの段階では不要だ。
そして呆然自失状態の暗殺犯へぶっきらぼうに滲み寄る。
思っていた以上にあっさりと片付きそうな事には違和感が残るものの、その後も難なく遂行できそうだ。
ちょっと、いや正直かなり拍子抜けである。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:39:10.23 ID:iXOBvddM0<>
―――
授業時間は何の滞りもなく過ぎ、時計は下校時刻に差し掛かっていた。
帰宅する学生が続々と増える中、プラプラと鞄を肩に掛けたままスローペースで歩く上条当麻。
欠席期間が長かった彼には補習でも補えきれない程の課題が付録つきで押し寄せてきたが、本日は
久々の定時下校を許可された。
また明日からは通常通りの放課後補習生活だと考えるといつにも増してやる気が起きない。もう慣
れてしまったとはいえ。
(休み明けが一番辛いんだよなぁ……。今日は早く帰って課題やんねえと)
家でもやらなければならないプリントも存在する。これも一つの鬱を生み出していた。
平和も平和で色々厄介にサイクルしているのが上条の顔色からも頷ける。
自業自得で済ますには理不尽に聞こえるかもしれないが、学校側に非がある訳でもない。
強いて言うなら上条のトラブルに巻き込まれる性質が全ての元凶だろう。
ロシアで神の右席を殴り飛ばし、学園都市の極秘組織相手に一戦交える。こう並べると日常と非
日常の区別も難しくなるほどの修羅場を乗り越えた形跡が残るが、実際それが学生生活でプラス
になるかと問われると首を捻ってしまう。寧ろ出席日数的にはマイナスにしかならないのが現状
だった。
ここ最近は学業で頭を使いすぎたからか、あまり身体を動かしたくない。
頭も身体もクタクタにするのはとても望ましくない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:40:13.36 ID:iXOBvddM0<>
(飯はどうすっかなー……。昨日と同じ塩焼きソバで済ますか、それとも少し捻りを加えて味噌
焼きソバという新種メニューを投入してみるか……)
どちらなら居候中のシスターは文句を言わないだろうか。いや、軽いリスクで済むだろうか。
本心はそこだった。
教育課程を荒療治的手段で詰め込まれた上条の今の脳はとてもデリケートだ。
外部からの刺激など以ての外である。そんなことをしては詰められた内容もろとも風船のように
膨張し、挙句の末に破裂してしまう。大げさでも冗談でもなく割りと本気で。
「――――あら? 今日は補習休みなのね」
鬱な脳は余計な声をインプットしない。
朝の健やかな調子はどこへやら、授業でスッカラカンとなった上条は何のリアクションも見せる
ことなく歩き続けた。歩行ペースも一定を保っており、言ってみれば完全シカトだ。
「………何ていうか満身創痍じゃないの、アンタ」
この対応にも慣れた事実に嫌気も覚えるが、めげることを知らない御坂美琴は上条の横に並んで
同情にも似た視線を送る。
「御坂……、何かもう上条さんは今の教育制度についていける気がしませんの事よ」
「不健康さが滲み出すぎよ。朝とは別人じゃない……。そんなに大変なの?」
「いや、内容よりも量が問題だ……。まるで一週間白米のみの生活を強いられているような……
そんなレベルかな。お前に言ったところで分かってもらえるとは思ってないが」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:42:34.10 ID:iXOBvddM0<>
「何よそれ……。せめて水もつけなさいよ」
「前者に不満かよ! あまり口にはしたくない皮肉が思わず咄嗟に零れてしまったというのに!?」
くだらない内容でも律儀に応じてくれる美琴の存在はやはり大きい。上条は改めてそう実感したが、
会う頻度が極端に増えている議題にはやっぱり無頓着である。
案外気づいた時にはもう横にいた、で通用するかもしれない。
何も突っ込まれない美琴がこんな淡い希望に行き着くのも自然な流れなのか。
敢えて言葉にせずとも、こうして一緒に居られるだけで幸せなのかも……とまで考えた所で上条が
唐突な話題を提供した。
「なぁ御坂。“塩焼きソバ二日連続”と“未知数溢れる味噌焼きソバ”……お前ならどっち選ぶ?」
他愛無い時間はまだ終わっていなかった。今は本当にこれで充分幸せなのだろう、と美琴は柄にも
無く素直な心境を胸の内だけで語る。
―――
「……ミ、ミサカはできることなら戦略的逃亡を計りたいのですが………逃がしてはくれませんか?」
「ダーメ☆ あの人が仕事終わるまでミサカは暇なの。良い機会だし、ミサカ同士交流を深めようぜ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:44:16.96 ID:iXOBvddM0<>
番外個体は調整終了後、嫌がる19090号の手を引っ張って病院近くの商店街に来ていた。
互いにお小遣いを所持しているということで、ショッピングでもしながら友好を深めようという建前だが
本音は単なる暇つぶしだった。
「……19090号ってお姉さま(オリジナル)以上に子供っぽかったりする?」
カエルのマスコットより更に年齢対象が低そうな子供アニメキャラクター人形に目移りしている19090号に
引き気味な目で尋ねた。
「みっ、ミサカは年相応な趣向に乗った上でこの人形を眺めていただけで、決して欲しいとか可愛いとか
持って帰って飾りたいとかいう願望しかないワケでは………うぅ」
自己フォローというか事故フォローだった。
「五歳児が好みそうだね、これ……“カナミン”? あひゃっ、さすがにこりゃあ無いっしょ」
「ミサカよりは年上では……? とミサカは…おそるおそる指摘します」
「世間の目的にはアウトだよ! 周りから見たらこのミサカは高校生、あなたは中学生なの!」
「うぅぅ〜……」
「自分にソックリな顔がナヨってんのを見ると悲愴なんて言葉じゃとても語りきれねぇぇ……。せめてさ、
もーちょっとハキハキ喋れない? 言うだけ無駄なのは分かってるけどぉ!」
「そ……そんなこと言われてもぉ………グスッ」
19090号が泣きそうだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:46:13.36 ID:iXOBvddM0<>
「いちいち泣くなよおお! 女々しいミサカなんて見たくねえーし!」
「汚い言葉遣いで雄々しいミサカもどうかと……」
「ああん!? 何か言った!?」
弱々しいもののしっかり反論は返ってくる。意外にこの個体、自分とタメを張るほど実は腹黒いのでは?
と、番外個体は軽い眩暈を覚えた。
「うぅ、怖いぃ……。だから番外個体は苦手なんですよう……。とミサカは半泣きで訴えます……」
「……あー、わかったわかったよう。ミサカが悪ぅござんしたー」
「むっ、心が籠もってない……と、ミサカは」
「やっぱオマエさァ、ホントは逞しく生きてんだろ!? 根はすっげえ強靭なんだろ!? 今すぐ正体
見せろォォおおおおおおお!!」
「ひっ!? みっ、ミサカは危機的状況に従い逃亡を……い、いやあああああああ!!!」
大して広くない店内で騒ぐパッと見姉妹にしか見えない二人は他の客にとってすごく迷惑だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:50:48.76 ID:iXOBvddM0<> キリが見えないので半端ですがここまでで
あれからの各々の日常風景(?)といった感じです
次回も引き続きで更新したいと思います
もはや原作の原形を留めていない点につきましては、心よりお詫び申し上げます
軽くですが予告シーンを導入します
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:54:44.59 ID:iXOBvddM0<>
打ち止め「でね、ミサカは遊園地とジャンボパフェのイベントがただで入手確定されているのに、一体その日は
いつやってくるのかなぁ!? ってミサカはミサカは更に愚痴を零してみたり!」
黒子「日頃のストレスと格闘中なのはよぉぉく分かりましたから、どうか落ち着いてくださいな」
―――――――――
番外個体「………あっれえ? 出ないなー。オリジナルって何か部活動とかやってたっけ?」
19090号「その情報はリークされていませんが……? とミサカは即座に否定します」
―――――――――
一方通行「ッ!?………おいおい、いくら何でも早すぎねェか? 昨日の今日だぞ……。ンなすぐできるモン
なのかよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/27(日) 19:55:18.14 ID:iXOBvddM0<> 以上です
それではまた次回 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 19:58:49.26 ID:qPwiDUsJ0<> おつです
最近リアルタイムで遭遇してばかりで嬉しい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/03/27(日) 23:49:50.94 ID:zjLr7EgN0<> なんでか番外個体と19090号ちゃんは比較的遭遇率高い気がする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/03/28(月) 01:10:05.61 ID:bHOSeNFW0<> この19090号・・・・・・・・・
・・・・・・・・イケル! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/28(月) 01:16:59.50 ID:CAtdFprAO<> >>131
sageろ バカタレ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 02:43:30.45 ID:bHOSeNFW0<> ごめん!
サゲの仕方さっき知った><
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/03/28(月) 11:02:39.71 ID:0KglMTQ9o<> vipdeshine <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/28(月) 14:33:00.56 ID:rR1FeU1Fo<> もしかしてこの一方さんホントに不能なのかw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/29(火) 20:44:38.74 ID:hbGFthPy0<> はっはっは★
イ○ポなどこのミサカがじっくり触診して治してあげますよ。とミサカ20000号あbbbbbb <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/03/30(水) 00:26:22.18 ID:tZ7knXiSo<> 乙
今更ながら続編発見して追いついた
次回の投下楽しみにしてる <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/03/30(水) 20:32:18.56 ID:lsEBpjWb0<> こんばんは
いつもありがとうです
どうもほのぼのした感じを書くのは苦手です…
拙い文ですみませんが、続き書けたので投下します <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/03/30(水) 20:33:17.53 ID:lsEBpjWb0<>
―――
白井黒子と隣りには意外な人物がいた。
「でね、ミサカは遊園地とジャンボパフェのイベントがただで入手確定されているのに、一体その日は
いつやってくるのかなぁ!? ってミサカはミサカは更に愚痴を零してみたり!」
「日頃のストレスと格闘中なのはよく分かりましたから、どうか落ち着いてくださいな」
二人が並んで歩くはファミリーサイドと風紀委員第百七十七支部の丁度中間に位置する雑踏。
下校中の学生が往来する最中、打ち止めはたまたま遭遇した黒子に対し、さっきからこの調子である。
酔っ払いに絡まれるよりは遥かにマシどころか、崇拝の域に属する御坂美琴の遺伝子を受け持つ少女の
愚痴には何の苦も感じない。
だが、何事にも限度やら境界線やらが実在する。それが特殊な性癖を抱える白井黒子であったとしても。
会ってから十分間、止まることを知らない愚痴マシンガンの嵐に黒子は疲れを意識しつつあった。
だが勿論、無下な扱いまでは至らない。この幼い身体にしてはあまりに膨大な不満を抱えている打ち止め
の実態に少々気後れしてしまっただけだ。
内容の理解はマシンガンの一発一発観察する並に困難を極めた。要するに速すぎて殆ど拾いきれなかった。
そんなうららかな午後を彼女らは共有していた。
「打ち止めさん……? 落ち着きましたの?」
愚痴が一時止んだのを不審に思った矢先、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:34:23.08 ID:lsEBpjWb0<>
「何で昨日来た時に催促するの忘れちゃうんだよおおお!! ミサカのばかあああああああああああ!!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:35:28.36 ID:lsEBpjWb0<>
子供らしい大号泣が黒子の精神を大幅に揺さぶった。
「わわわ、ど……どうしたら……えーと」
対応と処理にとてもすごく困った。
正直言って、尊敬の位置に不動しているお姉様と激似なこの少女に身悶えている場合ではなかった。
「―――あれ? 白井さんにアホ毛ちゃんじゃないですか〜」
「うわ、珍しいツーショット……。白井さぁん? いくら御坂さんに似てるからってさすがに誘拐するのは
マズイでしょ…」
そういう間の悪い時に友人の初春飾利と佐天涙子に遭遇してしまうのは幸か不幸か。答えは言うまでもなく
前者だ。
二人とも黒子の性分を知っているせいか、怪訝な眼差しなのが少々痛い。
「ち、違いますの! 誘拐ではありませんの! 外回り中に偶然会っただけですのよォォ!!」
両手と首を全力で振る黒子の背後から、いつの間にか泣き止んでいた打ち止めがちゃっかりと助け舟を
出す。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:38:27.31 ID:lsEBpjWb0<>
「えへへ、実はマンションのオートロックに追い出されちゃって……困ってたらこのお姉さんに拾われ
ちゃったのだ! ってミサカはミサカは胸を張って状況説明してみたり!」
「いや……胸張るトコ? 今の」
佐天は隣りの初春に向かって首を傾げるが、当のお守り経験者は肩を竦めて首を横に振るだけだった。
「白井さんも知らない所で苦労してますねぇ……」
次に向けられた瞳には憐れみが込められているように感じた。
まことに心外な事この上ないが、取り敢えず折角出会えた友に黒子は助けを求めてみる。
「ひとまず支部で保護しようと思ったのですが、丁度良いですわ。お二方も御時間ございましたら是非
協力してくださいませ」
極力素直に申し出た筈なのだが、どういうわけか返ってきた反応は黒子にとって実に不可解だった。
「……え? てっきりアホ毛ちゃんと二人っきりがご所望かと思ったのに……」
「白井さんにしてはすっごく意外……なの?」
ピキッ。
額の筋が初春の一言で不快な音を立てた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:39:35.10 ID:lsEBpjWb0<>
「貴女方がわたくしをどういう目で見ていたのかよく分かりましたわ。つきましては初春、後でたっぷり
とお話がございますので今の内に辞世の句でも考えておきなさい」
この宣告を聞いて当然のごとく取り乱した初春に、佐天はただ無言で両手を合わせる。
祈る佐天の横で初春は「な、何で私だけぇぇ!?」とか叫んだが、肝心の黒子はもう聞く耳を持ってくれ
なかった。
三人寄れば何とやら。ひとまず全員でこの締め出しを喰らってしまった少女を保護することにした。
激昂する打ち止めの勢いは鬼気迫るものが感じられたとは言え、白井黒子一人の手では負えなかったのが
全く以って意外である。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:40:50.65 ID:lsEBpjWb0<>
―――
第十五学区、繁華街の裏手は光を嫌う人間にとって恰好の活動スポットである。
少し歩けば大勢の通行人に程なくして紛れる事が可能にも関わらず、まるでそこだけは別世界のような
不気味にも似た静けさが流れている。
外(表通り)を歩く彼等は皆この場所の存在を理解しているのだ。同時にそこへは近づかない方が賢明
だということも。
幾つか点在する通称“裏世界”に白髪の少年はいた。
彼は今、正面に佇む黒覆面と何やら話し込んでいる。
「こいつはただの使いパシリに違いねェな。鍵ィ握ってるにしちゃあ肝が小さすぎる。駒にもならねェ
捨て犬同然だ」
脇に抱えていた物体を前へ投げ捨てる。その物体とは先ほど行政人暗殺を実行しようとした襲撃犯の成れ
果てた姿だった。
覆面を被った長身の人物(多分男性)は地面に転がった“それ”を無言で拾い、一方通行に一言だけ、
「ご苦労、次の連絡を待て」と告げて姿を消した。今日の任務はこれで終了を意味する。
(こンな腰抜けを回すよォじゃ、仕向けた野郎の素性も関心を持つに値しねェな)
ここからは上の仕事になるだろう。
一方通行の使命はあくまで力技、強引をここぞとばかりに要する場面で生かされる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:43:54.84 ID:lsEBpjWb0<>
(ちっ、やっぱ今回も“ハズレ”か……。まァ、ンなすぐに事が進むとは思っちゃいねェ。気長に構える
気にはなれねェが、そォかと言って焦ったところで何の意味もねェだろォからな)
裏通りから表通りに身を現し、人の生む流れに一方通行も入り紛れ込む。
ふと公演の柱時計が目に留まる。いつの間にやら結構な時間が過ぎていた。
もう番外個体の調整も終わっている頃だろう。検査自体は延長の心配もないと告げられている。
徐に携帯電話を取り出し、通話履歴から彼女の番号を探り出して掛けた。
が、
「………出ねェな。調整が長引いてンのか……?」
十数回ほどのコール音の後、ゆっくりと携帯電話を耳から離して呟く。
この後は番外個体との合流予定しか頭になかったため、どうしようか一瞬悩む。
(……仕方ねェ。ガキにでも電話してみるか。それでも分かンねェよォなら直接病院へ行くしかねェ。
ついでに昨日頼ンだ“例の物”が、あとどンくらいで手に入るか聞いておくのもいい)
そこまで思慮し、再び携帯電話を操作し始める。
まずは打ち止めの番号へ掛けてみようと、メモリ表示画面で通話ボタンを押す。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:44:42.46 ID:lsEBpjWb0<>
数回ほどのコールで呼び出しを促す機械音は天真爛漫な声に切り替わった。
『もしもーし♪ ってミサカはミサカはアナタからの熱烈ラブコールに応えてみたり!』
「……あァ? オマエ今外にいンのか?」
とりあえず馬鹿な挨拶応答は無視し、第一に抱いた感想を言葉にして尋ねた。
周囲がやけに騒がしい。特に女子中学生みたいな若々しい声が駄々漏れである。聴こえている長さと
距離を察するに、外野の声がただの通行人のものとは断定し難かった。
もしかして黄泉川達以外の誰かと一緒なのか、と一方通行は疑心を抱く。
『うん、そうだよ! ちょっとゴタゴタしてるけどね。ってミサカはミサカは目を泳がせてみたり』
「……今、一人か?」
『ううん、お姉さまのお友達と一緒だよ。ってミサカはミサカはこれには深い訳があるんだけど…』
「ああそォ………ならいい。ちっと訊きてェンだが、第七学区の病院には確か妹達が何人かいたよな?」
判別不明だった外野の正体も即座に明らかとなった。
打ち止めの現状にはこれといって問題なさそうだ、と早期に判断した一方通行は早速本題を振る。
通話口の向こうで「エッ?」と尋ね返してきた打ち止めにもう一度分かりやすく問いただす。
「だから、あの医者が勤めてる病院に今妹達はいるかって訊いてンだ。いるンならそいつらに確認してェ
事がある」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:46:32.56 ID:lsEBpjWb0<>
『…? どうして? ってミサカはミサカは素朴な疑問を投げかけてみたり』
「番外個体がまだ病院にいるかどォかを調べてェンだよ。あいつ、携帯に出やがらねェからな」
剣呑な口調で事情を説明する一方通行だが、返ってきたのは何とも意外な答えだった。
『うーん、ミサカの情報網の結果によると……どうやら他のミサカと一緒にいるみたいだね。定期調整も
とっくに終了してる模様。ってミサカはミサカは報告してみる』
―――
そのままの流れで二人はとりあえずお茶することにした。
オープンテラスのカフェに向かい合って着席している上条当麻と御坂美琴。
美琴にしては上出来の進展と言っても差し支えないだろう。やはり“あの事件”がきっかけでこの少年との
関係にも除々に変化が起きているのか。終始デレデレな美琴はそこまで考える余裕が無かった。
もっとも今は赤く火照った顔も元の色に落ち着き、上条の言葉にも冷静な対応ができるまでに慣れたはいい
のだが相変わらず目は見れない。下向きがちに泳ぐ瞳があからさまな純情心を露呈していた。
「そういや、もうすぐまた身体検査(システムスキャン)だっけ? 上条さんには特に身構える意味のない
イベントだけど、お前は少なくても現状維持が必須だろ? 大丈夫そうか?」
カフェラテを啜りながら上条が世間話感覚で伺ってきた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:49:49.85 ID:lsEBpjWb0<>
「最低でもそこは維持しないと…。けど少しでも伸ばしたいのが本音よ。同じ記録ってなーんかスッキリし
ないのよねー」
ストローを銜えてチューチューしながら鬱そうに喋る美琴の顔は不安が表れていた。
情緒不安定な状態から回復したとは言え、日も浅い。以前の成績をキープできるのかがプレッシャーである。
だが、上条にそれを悟られるのだけは許さない。
「まあ、私は多分平気。それよりアンタさー」
「?」
「こ………」
「こ? ……何だよ、どうした?」
この後どうする? 何か予定あんの? あ、そういやまだアンタん家行ったことなかったわねー。ちょっと、
暇なら案内しなさいよ。
そう言おうとして咄嗟に制止が入る。待て待て待て、と心の自分がストップサインを発し続けている。
(なにサラッととんでもないこと口走りかけてんのよ!? 危ない危ない……。落ち着け落ち着くの落ち着き
なさい本来の私。こいつの家に行きたい本心はとりあえず置いておくとして色々順序をすっ飛ばすのは私の
沽券に関わるっていうか……)
「……御坂さーん?」
辛うじて保ち続けてこれた平常心が、早くも崩壊の危機を迎えていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:51:00.51 ID:lsEBpjWb0<>
自分の世界へ寄り道している彼女を不審に思いつつも気遣うが、当人はそれどころではなかった。
嫌な予兆を感じた上条は無意識に右手を美琴の頭にポンと乗せる。こうする事で彼女による電撃被害は無償に
抑えられるのだ。まさにゴム手袋並の便利さである。
と、そこへタイミングよく愉快なメロディが流れ出す。
音の発生地点は美琴の鞄の中からだった。
「おーい、携帯なってるぞー?」
顔の前で左手を振るが、美琴がそれに反応して我を取り戻すまでに消費した時間は過大だった。
ちなみに右手の方はずっと彼女の頭に置いたままである。
「あっ、アンタちょ……いつまで人様の頭に手ぇ乗っけてんのよ!!」
ヒステリックに喚く電撃姫を宥めるような口調で喩す。
「ほら、ケータイケータイ。早く出た方がいいんじゃねえか?」
「う、うっさいわね! わかってるっつーの、今出るわよああ出てやるわよこん畜生が」
「なに怒ってらっしゃるんだか、意味がわかりかねます事よ……」
知り合ってもう結構な時が経つが、彼女のこういった感情の起伏については未だに良く理解できない上条。
彼にとっては遺憾なのかもしれないが、やはりここは鈍感の一言で片付けてしまうに限る。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:51:48.22 ID:lsEBpjWb0<>
疑念を渦巻かせる上条を他所にブツクサ嘆息しながら携帯を取り出したはいいが、何故か着信には応じず
に表示を見たまま挙動が止まる美琴。
この様子がふと気になった上条は美琴からは死角の位置に体を移動させ、ひょいと背後から覗き込む行為
に至った。
着信表示されていた文字は『番外個体』。
一番最近で登録した番号だ。
意外な相手からの唐突な連絡に少々の動揺と戸惑いが生まれるが、無視するわけにもいかなかった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:53:13.58 ID:lsEBpjWb0<>
―――
「………あっれえ? 出ないなー。オリジナルって何か部活動とかやってたっけ?」
携帯電話を耳に当てたまますぐ後ろの19090号へ振った。
歩幅が小さいのか歩くスピードが控えめなのかは不明だが、彼女は番外個体と並んで歩こうとはしない。
「その情報はリークされていませんが……? とミサカは即座に否定します」
彼女ほど口調とセリフがマッチされていないのは珍しいだろう。
文字だけなら即座にキッパリと否定しているように取れるが、実際の声はもう少しボリュームを下げたら
聞き取れないほどに小さく、今にも壊れてしまいそうな印象だった。
「おっかしいなあ。………ん?」
諦めて切ろうかと思った寸での所でやっと応答があった。
『……もしもし? 番外個体?』
「おっ、出た出た。もしもし小柄なおねえさま〜ん? 調子どうよ」
『なに? イタ電? 悪意だけを理由にアンタは仮にも生みの親である私を貶めようと? そういう魂胆な
ワケですか?』
不機嫌な美琴の声色も計算の内だと番外個体はほくそ笑む。
何故か19090号の方はオロオロビクビクと気が気でない様子だ。どうやら、争いはするのも見るのも大嫌いな
典型的平和主義者らしい。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:55:20.09 ID:lsEBpjWb0<>
「ごめんごめん。悪意ありなのは素直に認めるけど、何もそれだけがミサカの全てじゃないよ?」
『アンタの口振りからは悪意と雑念しか読み取れないのよ!! ちょっと身体が成長してるからってDNAマップ
提供者を見下してんじゃねええええ!!!』
怒号の理由こそが醜い事に美琴は気づかない。
所詮は発育が自分より優れた同性への妬みだが、番外個体も直情的な美琴の相手をするのが面白いらしく、こう
してからかう間柄になったのだ。
この性格同士が同学年で更にクラスまで一緒になった日には間違いなく『二人は犬猿の仲』と称されるだろう。
もっとも彼女等の場合は切っても切れない縁にあるので馬が合わないという理由だけでは疎遠になったりなど
しない。寧ろじゃれあいの延長感覚で楽しんでるように見えなくもなかった。
「どうどう、あんまり激昂すると血管切れちゃうよん」
『ええいうるさい今すぐ黙れっ!! ………で、何の用なのよ?』
「いやあ、これといってないんだけど暇だったからさ。良かったらオリジナルで遊ぼうかなあと」
『私“で”!? 私“と”じゃなくて“で”だぁぁ!?』
「そうそう、そこ重要!」
気づけばいつの間にか楽しげな会話になっている………のか?
不安そうに窺う19090号はまだ断定できかねていた。ちなみに言うと彼女は電話の向こうで自分と限りなく近い
心境にいる少年の存在を知らない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 20:58:24.69 ID:lsEBpjWb0<>
御坂美琴と番外個体に接点が生まれたのはほんの一週間近く前のこと。
たまたま上条と出掛けたセブンスミストの試着室でバッタリ遭遇したのがきっかけだった。
美琴は一見してまず、御坂妹に出くわしたのかと思った。しかし幸いなのか災いなのか、出会った場所は試着室。
それも番外個体が着替え中なのに気づかず個室へ入ろうとしたのが拙かったのだ。尚、これに関しては鍵を掛け
忘れていた番外個体にも落ち度がある。
ここで御坂妹説はあっさりと覆される。彼女の自分には無い豊満な体つきが美琴の視線を釘付けにした。
信じたくなかった。そして信じられなかった。
本家の自分を差し置いてこのプロポーションは何事か。考えたくなかった悪夢が現実として目の前に現れた時の
美琴の驚愕ぶりは想像を絶するだろう。
結局、お互い連れがいることもあってこの日は連絡先の交換だけをした後すぐ別れたのだが、翌日に詳しい事情
を聞こうと彼女を呼び出したのが失敗だった。
美琴は自分はかなりの頑固で強固な人間だと自負しているつもりだ。ところがこの番外個体の自身とは似ても似
つかない言動、物言いには流石に愕然とせざるを得なかった。
何なんだこの女は? 本当に私の遺伝子から作られたのか? ある程度話して美琴が抱いた感想はこんな所だ。
第三次製造計画についてもざっと聞かされ、現在は一方通行と甘〜い同棲生活を送っていると知らされた辺りで
美琴はギブアップした。同時に聞かなければ良かったと一瞬後悔もしかけた。
一方通行に対してはまだ気持ちの整理も手付かずだし、ここまで粗暴な自分の将来像をまざまざと見せつけられ
ては仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。おまけに自分よりもグラマラスだ。実はそこが一番許せなかっ
たりもする。
真っ直ぐで裏表も悪心もない御坂美琴は、平たく言えば番外個体にとってこの上ない絶好のオモチャだった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:01:48.22 ID:lsEBpjWb0<>
後は今こんな風に電話で話しているような調子である。番外個体が正義感はあっても素直になれない美琴を
揶揄し、美琴の方は定義を沿うように反論、応戦する。ひとつの姉妹としての図式が一応ながらも成り立っ
ていた。
但し、姉と妹の立場は完全に逆転してしまっているが…。
こうして予期せぬ対面をめでたく果たした二人は仲が良いのか悪いのか分からない姉妹関係を樹立したので
ある。
ここで話を現状へ戻すが、番外個体は19090号と街を適当に散策している。
美琴は上条とカフェでお茶している。
番外個体が美琴に電話を掛ける真意は?
『今19090号と一緒なんだけどさ、暇だしゲーセンでも行こっかなあって思ってたんだ。お姉さまんもご一緒
にどうよ?』
「馬鹿にした呼び方しやがってぇぇ。……えっ? アンタ妹達と一緒にいんの!?」
『うん、たまたま定期調整カブっちゃってね。それよりどうすんの? ………あ! もしかして例のヒーロー
サマとよろしくでもしてたかにゃーん?』
「はあっ!? ばばばばば、ばっ…、何言ってんのよっ!!? よよよ、よ……よろ……っ///!!!??」
周囲の学生客と上条が引き気味な視線を送る。
ここがカフェであるという事項を脳外へ取っ払った美琴は素っ頓狂な悲鳴を上げそうになる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:05:31.09 ID:lsEBpjWb0<>
『おやおや、図星でしたか? そりゃ失敬。にゃはっ』
どこまでも軽く見繕った彼女の語調に歯噛みしつつ、美琴は姉の立場として平静を保とうと意識した。
コホン、と咳払いを一つ。
冷静に冷静に。ムキになるな。相手の思う壺だ。中身なら間違いなくこちらが大人で在るはずなのだ。
ただひたすらそう念じ、電話に戻るため声を発しかけたその時である。
『あーららら、やっぱビンゴかよ。へいお姉さまん☆ ここ、ここ。ミサカはここにいるよ』
「……えっ?」
咄嗟に辺りをキョロキョロと見回す。すると、
「やっほーう! お二人さん」
一番あって欲しくない光景がそこに広がっていた。
脳の内部全体がこの瞬間、真っ白に染まる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:07:04.77 ID:lsEBpjWb0<>
十メートル程度先にある歩道橋の上から番外個体がコチラに向かって手を振っていた。
ついでにその背後には、どうしたら良いか分からずにただオロオロするだけの19090号も付属されて
いた。が、やがて開き直る事にしたのか、19090号も番外個体の隣りに立って手を振ってくる。
あははは、と誤魔化し笑いをはっきりと浮かべながら。
「……………」
携帯電話を耳に当てたまま美琴は呆然と見上げるリアクションしか取れなかった。
上条も美琴の視線を追ってようやく招かれざる客の来訪に気づく。
「んん? あの子は………妹達……? え? いや、待てよ。何か変っつーか」
すぐに状況を受け入れるのはやはり難しかったようだ。
―――
番外個体と一緒にいるはずである個体の居場所を一方通行へ伝達し終え、打ち止めは可愛いデザインの
携帯電話をポケットへしまった。
「あッ!! また催促するの忘れてた!! いったい何時になったら口約は果たされるのー!? って
ミサカはミサカは自分の間抜けぶりに呆れてみたり」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:08:03.97 ID:lsEBpjWb0<>
思い出したように驚嘆する打ち止めを背後の三人少女は凝視する。
「………アホ毛ちゃん? 今の電話って…」
好奇心に負けた初春飾利が側まで寄って伺う。
白井黒子、佐天涙子の両名も『気になる』と顔に書いてあった。
「ミサカの大事な人だよ。ってミサカはミサカはありのままを伝えてみたり」
「へ……?」
この発言に一際強い衝撃を受けたのは無論黒子だ。
電話の感じからはどういった関係なのかまでは推察できないが、少なくとも相手が黄泉川でないのは
分かる。とすると断片的にしか知らないが、かつてこの少女を闇から救った真の保護者の存在が最も
有力候補になるわけだが……。
「打ち止めちゃんがよく“あの人”って言ってる人でしょ。どんな感じの人なの?」
憤る黒子を他所に佐天が核心をついた。
初春も「ああ、そっか」と思いついたかのように手をポンと打つ。
「うーん……。一言で言うと、強くて弱くて厳しくて怖くて臆病で素直じゃなくて…」
「一言じゃないよね。っていうかどんだけレパートリー豊富な人間!? 人物像がさっぱり浮かんで
こないんですけど」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:10:33.95 ID:lsEBpjWb0<>
我慢できずに途中でツッコミを入れてしまう佐天。
「それでね………すごく優しいの。ってミサカはミサカは照れながらレポートしてみたり」
「くぁああっ!!??」
可愛いその仕草に約一名がノックアウトされた。名は敢えて挙げるまでもないだろう。
ちょうどその頃、打ち止めとの通話を切った一方通行は女子達の話題の的にされているなど露知らず
ひとり途方に暮れていた。
病院からさほど離れていない大通りの一角に番外個体はどうやらいるらしい。
更に妹達の一人が同行しているとも聞いた。大方暇そうな妹でも見つけて遊びに繰り出したのだろう。
遊びに熱中しているなら迎えはしばらく後でもいいか…。という適当な結論に至ったわけだが、そう
なるとここから先の行動に迷走してしまう。
(しばらく適当に時間潰してェトコだが………さてどォすっかな)
付近のカフェでも利用するか。そう思った矢先、またポケットにしまったはずの携帯電話が震動した。
「……」
表示は病院からだった。
緊急を要する可能性もゼロではないので、とりあえず応答してみる。
最初からこっちに掛ければよかったのでは? と今頃になって気づいた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:13:46.23 ID:lsEBpjWb0<>
(どォもあいつが絡むと頭が働かねェっつか……色々抜け落ちちまう。天然さンじゃあるまいしよォ)
そんな彼の心理など知ったことではないような挨拶がスピーカー越しに流れる。
『やあ、元気にしてるかね?』
やっぱりこいつか……。
聞き慣れた声に少しだけ警戒心を緩める。穏やかな声色から緊急事態の疑いはあっさりと消えた。
「何の用だ?」
そっけなく問い返すが、後に医者が吐いた言葉は迷える一方通行にとって次の道筋となる。
医者は『例の、というか昨日頼まれたものが出来たんだが、取りにくるかい? それとも速達で便送
した方がいいかね?』と訊いてきた。
「ッ!?………おいおい、いくら何でも早すぎねェか? 昨日の今日だぞ……。ンなすぐできるモン
なのかよ?」
素直に驚きを表す一方通行。
実は昨日、番外個体に“ある頼み事”を承ったのだが、特に反対する理由もなく一方通行自身として
は寧ろ賛同すらできたので、引き受けた直後にすぐ電話で詳細を伝えて申請しておいたのだ。
『出来次第連絡する』とは言われていたが、まさか翌日に完成するとは思わなかった。
つくづくこの医者の手回しの早さには脱帽する他無い。
『こう見えても世渡りと人脈にはそこそこの自信を持っているよ。とは言っても、不具合が全くなか
った訳じゃないんだがね。けど安心していいよ。そこら辺は僕が上手くまとめておいた』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:14:32.55 ID:lsEBpjWb0<>
失笑気味に語る医者だけれども、今のセリフだけで追求要素が飽和していた。
一方通行が咎められる立場なのか、と返されてしまえばそれまでだが。
「………そォか、わかった。なら今すぐ行く。三十分以内にゃ着くが、時間は取れるか?」
『平気だよ。僕の方も昨日聞けなかったことが幾つかあるしね』
それだけの会話で通話を切り、一方通行は方向転換した。
向かう場所は確認するまでもない。
脚の動きが自然と速まっていた。
特に問題なく病院に到着した一方通行は、寄り道を一切せずに冥土帰しの診察室を訪問した。
カエルの顔みたいな医者だが、これでも冥土帰しと云う中々に響きのいい異名を持つ。
なんだかんだ言いつつもこの医者は一方通行にとって信頼できる人物の一人だった。
「――――はい、頼まれていた『番外個体のID』だ」
渡されたのは免許証にも似た一枚のカード。
それはこの街に住む学生なら誰もが所持している大事な身分証明書だ。これを持っていないと不法
滞在とみなされて拘束、拘留されてしまう。
もっともそれはあくまでテロリスト対策で、実際は国境警備隊のような仕組みである。
学園都市に他所から出入りするには例外が無い限り、本来このIDカードの提示が義務付けられて
いるのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:15:16.91 ID:lsEBpjWb0<>
いくら妹達とは立場が違うと言っても、特殊な地位のおかげで見事に例外となれた今の番外個体に
果たして今更これは必要なものなのか? という疑問は残るだろう。
しかし、その点は問題ない。明確な理由はちゃんとあるし、一方通行もそれについては昨日本人の
口から聞いたばかりである。
番外個体の喜ぶ顔が頭に浮かび、一方通行は自然と口角を上げる。
「世話ァ掛けたな。っつーかよォ、アイツさっきまでここに来てたンだろ? そン時にでも渡して
やりゃ良かったじゃねェか」
「依頼者は君だからね。僕が君を通さないで勝手な判断をすると思うかい?」
「……それもそォか」
愚問だった。と一方通行は独白し、話を先に進めようとした。
ここからの流れが言わば本題だ。
冥土帰しも診察椅子に腰を下ろし、一方通行にも着座を勧める。
「で、よォ……。昨日話した続きなンだが――――――」
一体何の事情があるというのか、残念だがこの時点ではまだ明かされない。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:16:04.64 ID:lsEBpjWb0<> ここまでです
ではまた次回の一部を公開します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:18:41.61 ID:lsEBpjWb0<>
上条「て事は、お前も妹達……なんだよな?」
番外個体「うん。つっても『第三次製造計画』だからそこいらの妹達とは根本的に違うんだけどね」
―――――――
打ち止め「わーい♪ やっと捕まえた! ってミサカはミサカは狙い通りのエンカウントにほくそ笑み
つつアナタに飛びついてみたりぃ!」
一方通行「うォわ!? っと………オマエ、こンなところで何してやがる?」
―――――――
美琴「アンタ何こいつのあらぬ姿想像して鼻の下膨らませてんのよおおおおおお!!!!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:21:18.39 ID:lsEBpjWb0<> 今日は以上です
続きはまた三日くらい先になりそう…
勿論早く書けたら随時投下に来ます
お付き合いくださった方、ありがとうございました
それでは <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:21:46.75 ID:lsEBpjWb0<> 今日は以上です
続きはまた三日くらい先になりそう…
勿論早く書けたら随時投下に来ます
お付き合いくださった方、ありがとうございました
それでは <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/30(水) 21:28:36.23 ID:MWc4bI0Ko<> 乙
和めばいいのかニヤニヤすればいいのかわからんぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/03/30(水) 21:30:46.17 ID:BNDfDU3eo<> ふ、膨らむのか…… <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/03/30(水) 21:38:52.63 ID:lsEBpjWb0<>
>>美琴「アンタ何こいつのあらぬ姿想像して鼻の下膨らませてんのよおおおおおお!!!!!」
ぐほっ…すいません。「鼻の下伸ばす」方が適切でしたね。脳内変換よろです
あと二重投稿すいませんでした
では今度こそ失礼します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/30(水) 21:39:10.36 ID:MWc4bI0Ko<> >>167
「熱膨張って知ってるか?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/30(水) 21:44:20.31 ID:3F30kikZo<> 乙
まあ、見た目的には番外個体のが姉だしなw
こういう風にいじられる美琴は中々新鮮な気がする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/03/30(水) 22:11:00.52 ID:Nv3rDRq30<> 成れ果てた姿って言い回しも聞いたことないというかふつう使わないというか
成れの果てか、変わり果てた姿かどっちかだと思う
しかし、番外個体物は狙ったように同日に来るのはなんでなんだぜ?次回も楽しみにしてます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/03/31(木) 00:05:52.77 ID:J1rLWQNSo<> 乙
やっぱ面白い
一方さんの本題が楽しみすぎる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/03/31(木) 02:56:24.76 ID:XkopQ5oAO<> 超乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 08:37:32.54 ID:rU679p270<> 乙
>>171
原作でも結構変な表現ってか言い回し多いからアリだと思う <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/03/31(木) 13:52:01.89 ID:Lbr8jmOy0<> パンツはいつ脱いだらいいんだ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/03/31(木) 18:15:04.03 ID:hVyJFKUio<> え?お前まだ脱いでないの? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/01(金) 10:59:30.51 ID:km2jcPy/0<> おつ
一方さんどうなってるんだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/01(金) 14:53:44.49 ID:6c4tyw+O0<> あいかわらず先が気になる終わらせ方だ……流石です
前回以上の感動を期待してます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2011/04/01(金) 23:39:42.39 ID:hype0ofn0<> ようやく、ようやく追いついた・・・超おもしれーよ
ここにくるまで色んな番外通行みたが超おもしれーよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/02(土) 00:14:42.53 ID:Ae3l1kM70<> >>179
何 故 上 げ た ?
更新来たかと思って全裸になった俺の靴下を今すぐ洗って返せ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/04/02(土) 00:51:09.08 ID:SSogN+rjo<> >>180
靴下とネクタイはしてなきゃダメだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/02(土) 17:34:25.43 ID:NJ0ku8jM0<> >>180
帽子もかぶんないと <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/02(土) 17:53:48.38 ID:aDVQfJMq0<> 全裸待機してたせいで風邪ひいちまった・・・
>>180
つアックアのパンツ <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/03(日) 20:08:16.56 ID:4SEpmCJp0<> >>180
つ番外個体のブラ
貴重な戦利品ですのでお大事に
あとで白い人が襲撃に来るやもしれませんが…
続きできたので更新します
アニメ終わっちゃった… <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:10:24.50 ID:4SEpmCJp0<>
―――
「えーっと……。御坂妹と、そちらの方は今度こそ正真正銘のお姉様?」
有無を言わさず同席してきた二人の似顔に上条はとりあえずそうコメントした。
美琴の方はもうなんか現実逃避していて、触れることにすら恐怖を抱かせた。上条はそんなうわ言
を虚空へ呟いている美琴をひとまず放置するのだが、やはり多少の混乱は免れそうにない。
「いえ、ミサカの検体番号は19090号です……。とミサカは慎みつつ10032号ではありませんと否定
します……うぅ」
右を見ても左を見ても正面を見てもほぼ同一の顔。うーん、何とも頭が痛くなりそうな光景に違い
ない。詳しく説明すると左に追いやられたのは美琴で、強引な手法で向かい合う形にさせられたの
は番外個体。で、空いていた右席を残り物に縋るように19090号が「お……お邪魔します」と控えめ
ながらも陣取った経緯なわけだが、上条はこの状況を素直に楽しむべきなのか本気で迷っていた。
巷でソックリと評判の三姉妹と現在仲良くお茶してます、と無理矢理設定を押し通せばイケるか?
上条は誰もいない空間に確認を取ったが、当然答えなど返ってくるはずもなかった。
「ついでに言うとこのミサカも違うよ? はじめまして、だね。ミサカ達のヒーローさん♪」
番外個体の声でハッと我に返る。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:12:44.67 ID:4SEpmCJp0<>
上条は初対面を名乗るこの少女に対し、まずは無難な確認を取った。
「て事は、お前も妹達……なんだよな?」
「うん。つっても『第三次製造計画』だからそこいらの妹達とは根本的に違うんだけどね」
「だいさんじ……??? なんだそりゃ?」
質問をしたのはコッチなのにも関わらず、理解不能な事柄が余計に増えただけだった。
『絶対能力進化計画』は以前上条が止めるのに一役買ったのだが、頓挫した後は全くと言っていいほど
関していない。従って『第三次製造計画』については無知なのも仕方ないのだ。
「……説明すんの面倒臭いなあ」
露骨に嫌そうな顔をする番外個体。
その面構えは妹達を思わせないほどに明確とした感情が表れている。
少なくとも御坂妹や他の妹達のような暗澹とした印象はさっぱり受けられなかった。
ついでに性格も妹達特有の事務的口調とは正反対なくらいに溌剌としていた。
これに関しては打ち止めと共通している面が感じられる。
もしかしたら打ち止めみたいな存在の更なる延長に立った存在なのかもしれない、と上条は適当な仮説
を立ててみた。
「ようは、クローンの製造そのものはまだ続いてるんだな?」
製造計画が文字通り“打ち止め(ラストオーダー)”で打ち止めなのは上条でも知っている。目の前に
いる少女がそれ以降に誕生したのなら、当然こういう考えを引き起こすだろう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:14:53.32 ID:4SEpmCJp0<>
「いやあ、そういうわけでもないんだけどさ………あー、19090号、パス。あとよろしく」
推測と勘次第では、てんで的外れな解釈を生みそうな展開になってしまう。
細かい気の配りが求められる説明役を嫌った番外個体は、責任を隣りの個体へと押し付けた。
「ちょっ!? え!? ななな……! と、ミサカは唐突なキラーパスに思わず心臓が止まりかけます……」
託された19090号は大きく動揺した。というか、先ほどから妙にそわそわしっ放しな気がする。
原因は言うまでもなく上条の存在のせいなのだが、上条当人はそんな彼女を「気難しい妹もいるんだな」程度
にしか認識していなかった。
面倒事を姉個体に回した番外個体は注文したコーヒーを啜り、完全にお寛ぎモードへ突入していた。
美琴は俯いたまま何かブツブツ呟いていて正直怖い。
普段に輪をかけて弱々しく細々とした声が第三次製造計画について説明してくれている。聞き取れなくて半分
も理解できない。挙句の果てに赤面されて電撃が飛んできた。だが所詮欠陥電気。美琴ほどの威力は到底無い。
じーっと注目していたのがどうにも悪かったみたいだが、そんなこと知るか! というのが上条のもっともな
言い分だ。ついでに彼はこうも語る。「電圧の問題ではない!」と……。
最後まで上条は計画の詳細をキッチリ掌握できなかったが、特にこだわらない。
経緯はどうであれ、今ここに彼女は生きている。そしてこれからも生きていける。
上条にとっては元々それだけで充分だったのだ。こと難しい闇の真相までは知識に入れたいと思わなかった。
「……まあ、見た目的には打ち止めと相反したようなモンだし、特に気にする必要もないのか……? ってか、
御坂さん? だんだん貴女の未来形やら過去形やらが綿密に露呈されてきましたよ? 昔のアルバム公開
とは比べ物にならないくらいに」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:16:21.52 ID:4SEpmCJp0<>
ここではないどこかへ放浪していて良いのか? と上条は暗に告げてみる。
すると、虚空を見つめていた美琴の瞳に光が戻った。
現実帰還を無事果たした美琴センセーに拍手を――――。
「アンタはぁぁぁ………」
「へ? ん……お、おい御坂? 瞳孔戻した途端に何故コッチを睨んで、あまつさえ拳を震わせているのでs」
「アンタ何こいつのあらぬ姿想像して鼻の下伸ばしてんのよおおおおおお!!!!!」
「んなにいいいいいいいいいィィィ!!??」
――――贈る前に純粋な拳をプレゼントされた。一体彼女は空想世界で何を見てきたのだろう。その答えは
強烈な右ストレートが爽快に教えてくれた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:18:07.28 ID:4SEpmCJp0<>
ともあれ完全な言い掛かりだが弁解の余地も何も与えられず、ただ理不尽に上条の身体は抉り飛ばされた。
椅子からガタンと崩れ落ち、床に背中などを強打して悶え苦しむ上条。
生還と共に高調した美琴は、手応えの響いた拳を握り締めて息を切らす。
「…………」
19090号は当然、さすがの番外個体もこれには言葉が出なかった。
とりあえず、上条が不憫だということだけはいやでも納得できる。
「ふー……ふー…………あれ?」
しばらく経過して、幻想と現実の区別がつかなかった美琴の脳はゆっくりと元通りの働きを取り戻す。
続いて目に入った上条の無惨な姿を目に収め、
「うっそ……まさか……え? うそでしょ? ねえ」
気が動転し出す。
うそじゃねえよ。お前がやったんだよ。と番外個体及び19090号は冷淡な目で美琴を見つめた。
「ちょっと! しっかりしてってば、ねえ!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:19:42.24 ID:4SEpmCJp0<>
駆け寄って抱き起こす模様を眺めている内に意地悪な気持ちが芽生えた。
「あーあー、暴力的な姉をもって、ミサカは悲しいよ。ねえ19090号?」
「えっと、その……あまりこういうことは言いたくないですが………暴力はよくないと思います……。
とミサカは残念ですが今回ばかりは番外個体に賛同せざるを得ません………ひゃっ、ごめんなさい」
二人の妹は庇う気ゼロ。
美琴は上条を抱きかかえたまま反論する。
「な、なによ!! 大体アンタらが不意打ちで現れたりするからこんな事になんでしょうがっ!!」
周囲からの注目もお構いなしに絶叫する美琴。
「なんじゃそれ? ミサカ達が来たのとお姉さまが勝手にトリップした事と何の関係があるってのさ?」
「アンタはこいつとは初対面だろっつってんのよ!! ちっとは私の立場になって物事を考えろ!!」
「はあ? ごめんさっぱりわかんないや」
「ミサカもわかりかねます……とミサカはお姉さまの肩が持てない自分を恨めしく思います」
番外個体の背後からまるで大人に怯える子供のように隠れつつも援護射撃に回る19090号。
美琴は唇を噛みしめながらコバンザメと化した妹へ矛先を向ける。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:21:45.29 ID:4SEpmCJp0<>
「アンタはこいつの手先か何かなの!? 悪いことは言わないわ、今すぐコッチ側につきなさい。近い
将来間違いなく後悔するわよ?」
可愛い妹を悪の道に染める訳にはいかないと手招きするが、しかし。
「今回は総合的に見てオリジナルに非があります。とミサカは強固な姿勢を……ひっ、ご……ごめん
なさい………あぅぅ」
どこが強固なのか疑わしくなる姿勢だが、勧誘は拒否されてしまったらしい。
毒気を抜かれた美琴はひとまず退却しようと上条の襟首を掴んで揺さぶる。
「っていうかアンタはアンタでいつまでのびてんのよ! さっさと起きろっつーの! ほら行くわよ。
早く立ってほら立ちなさい!」
「むにゃあ……」
脱力しきった上条の身体がマリオネットのように無理矢理引き起こされる。
意識が虚ろなまま連行されてしまった上条に番外個体と19090号は合掌する。美琴の背中はまるで
「覚えてろ」とでも伝えているかのようだった。
「あー面白い。お姉さまって本当にピュアってか清純ってか、からかい甲斐あっていいわ」
「仮にもミサカ達が誕生する発端となった方をそこまで貶めるのはどうかと……とミサカは申し出
ます……」
ほとんど同罪のくせに今更どっちつかずの19090号だが、この優柔不断さもまた彼女の個性という
ことで尊重してやりたいところだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:22:41.45 ID:4SEpmCJp0<>
「そりゃ感謝はしてるよ。けどこのミサカは基本捻くれた設定だからさあ……。あれもひとつの
“お姉さまに対する愛情表現”ってことで寛容できないかね?」
「あうぅ……」
個性がここでも邪魔でもしているのか、はっきりと言葉に出せない19090号。
「ま、今日の所はこの辺にしといてやるか。これ以上逢引の邪魔したら本気で恨まれちゃうし」
既に相当悪役を買っているのでは? とも言い出せない内気な19090号を引き連れ、番外個体は
ウィンドウショッピングの続きをしゃれ込もうとするが、ちょうど後方から妨害が入る。
「お客様、お会計がまだですが?」
「………」
振り返ると引き攣りスマイルの店員さんが仁王立ちしていた。
19090号は先の買い物で無一文。つまり、この場合は上条と美琴の分も番外個体が支払うハメ
になるのだが。
「………きひひ、お姉さまと次に会うのが早くも楽しみだねこりゃあ」
悪意を込めて笑う。
19090号はそんな彼女に戦慄を覚え、「ひぃっ」と小さく声を漏らした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:24:10.56 ID:4SEpmCJp0<>
―――
用事を済ませ、病院を後にした一方通行は先ほど打ち止めに指定してもらった表通りを探索
していた。
「チッ、さすがにもォいねェかもしンねェなァ……」
杖の音をアスファルトに刻みながら周囲に注意を配る。見知った顔はまだ発見できずにいた。
確かこの辺りのはずだが、やはり来るのが遅かったのだろうか。
「ックソ……!」
連絡してみようにも携帯電話の電池がもう無い。チョーカーのついでに充電する習慣が身に
ついていたためか、電極バッテリーが保つ日は稀に忘れてしまうことがある。
今日がその稀な日だった。
「先に家へ戻るか……。ンで、充電してからまた掛ければ……」
そう思案しながら歩行する彼の背後に、小さな影が接近していた。
やがてその影は無防備な腰に纏わりつく。
「わーい♪ やっと捕まえた! ってミサカはミサカは狙い通りのエンカウントにほくそ笑み
つつアナタに飛びついてみたりぃ!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:27:03.28 ID:4SEpmCJp0<>
やけに覚えのある感触が腰から伝わってきた。そしてこの声。誰なのかは一発でわかる。
「うォわ!? っと………オマエ、こンなところで何してやがる?」
腰に巻かれた鬱陶しい腕をあっさりと解き、振り返って問う。
予兆無しで突然現れた打ち止めは、テヘへと舌を出して顰め面の一方通行を見上げた。そして、
次には不思議そうな顔を浮かべる。
「あれっ? 番外個体と一緒じゃないの? ってミサカはミサカは予想とは少し違った展開に
あらぬ想像をしてみたり」
「その“あらぬ想像”ってのは不正解だボケ。っつか質問に答えろ。何でオマエがこンな場所
で一人でいるのか訊いてンだよコッチは」
「うーんとぉ……それには海より深い事情がありまして、何と説明したらよいやら……。って
ミサカはミサカは会見っぽく答えてみる」
「ははァ、また締め出されたのか。オマエも大概学習しねェな」
「な、何故バレたー!? ってミサカはミサカは衝撃のあまり身体を震わせてみたり…!」
打ち止めの顔が抽象画のように歪む。
首の関節をコキコキ鳴らしながら謎を自力で解いた一方通行は、番外個体を見つける前に飛び
込んできた厄介事に不快な気分を露にした。
「あンまり一人でブラついてンじゃねェよ。携帯持ってンなら誰かしらにすぐ連絡しやがれ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:28:06.35 ID:4SEpmCJp0<>
「正確にはミサカは今一人じゃないから心配無用なのだーっ! ってミサカはミサカは明言し
てみる」
「あァン……?」
ちょうどその時だった。
「――――あ、いたいた! 初春、白井さん! こっち〜!」
「――――どどど、どこですのおお!? 」
「――――ま、待ってくださ〜い……はぁ、はぁ」
何やら煩そうで面倒臭そうな女子中学生たちがコチラへ向かって走ってくる。
「あ! おーい! ってミサカはミサカはお姉さん達に手を振って呼びかけてみる!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:30:13.91 ID:4SEpmCJp0<>
「何だァ…?」
やがて合流を果たした少女たちは勝手に再会を分かち合い始めた。
「急にいなくなるから心配しましたのよ!」と、やたらオーバーな白井黒子。
「はぁ……はぁ…」と、急激な運動で息が切れ、未だ整う兆し無しの初春飾利。
「……ねぇ、後ろの人って……だれ?」明らかに怪訝な視線を打ち止めの背後へ注がせるのは
佐天涙子。
一方通行は雲行きが怪しくなる予感を覚えずにはいられなかった。まずい、何かがまずい。
脳が命令を送信する前にその予感は早くも的中してしまう。
「……ほぉ、もしかして誘拐ですのね? そうですのね! 運の悪いお方ですこと。わたくし
は風紀委員(ジャッジメント)ですの!! 誘拐未遂の容疑で貴方を拘束させてもらいます!」
怪訝、どころではない完全な敵意が一方通行へ向けられた。
確かに状況だけ取ってみればそう見えるかもしれないが、ここまで人の話を聞かずにいきなり
拘束とは……。
「こンなのが風紀委員だァ? ……学園都市もいよいよ末期だなオイ」
そう零すしかなかった。
これをしかと耳に入れた黒子が気を荒立てるのは決して不自然ではない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:32:38.84 ID:4SEpmCJp0<>
「大人しくお縄につきなさい!! この性犯罪者!!」
完璧に喧嘩上等チンピラよろしくスタイルで戦に赴くツインテール少女。
職務真っ当10パーセント、私情が90パーセントと言ったところか。どちらにせよ厄介極まりないこと
に変わりはない。
「し、白井さんっ! 加勢します!」
「やっば……今バット持ってないや。けど、勝てそう! なんかこいつひょろいし、もしかしたら私
一人でイケるかも!!」
呼吸が整った花少女とこれと言って特徴なさげな少女も好き勝手ほざきながらコチラへ敵意を向けて
いる。いっそぶっ殺して黙らせようかとも思ったが、そういうわけにもいかない。
迂闊に一般の、しかも女子中学生に殺気混じりの眼光を返す気にはなれない。
あくまで彼女達は勘違いしているだけなのだ。悪人とも思えない。ここはこちらが大人の対応を見せ
ておくのが妥当であろう。
「待てっつか、まず話ぐれェ聞こうって気にはならねェのかよ? オイ打ち止め。オマエもこの勘違い
しまくってる馬鹿中坊どもに説明してやれ」
「う、うん! お姉さんたち待ってーってミサカはミサカは――――」
この判断はどうやら功を奏したらしい。
それから数分後、打ち止めの証言のおかげで何とか誤解はとけた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:34:40.87 ID:4SEpmCJp0<>
ほんの少し前までの殺伐さはどこへやら、和解に近い雰囲気が生まれていた。
「――まさかお知り合いだとは思いませんでしたわ。軽率に犯罪者扱いしたことについては心からお詫び
申し上げます」
「すいませんでした〜。早とちりしちゃいましたね…」
さっきまでの凄まじい覇気もすっかり沈下した黒子は深々と頭を下げる。
初春と佐天も嫌疑感を内だけに秘めて黒子に続き謝罪の言葉を送った。
「……わかりゃあ良い。でェ? オマエらはこのガキのダチか何かか? っつゥかオマエ、俺の知らねェ
所でずいぶン愉快な交易広めてたンだなァ」
言葉の途中で打ち止めの方を振り向く。わけがわからないまま暴動に巻き込まれかけた立場としては元凶
をとっちめなければ収まりもつかない。
「途方に暮れていたミサカに救いの手を差し伸べてくれた親切なお姉さん達だよ。ってミサカはミサカは
紹介も兼ねて説明してみたり」
「ふーン……まァ何だろォが構わねェが、こいつが苦労掛けちまったみてェだな。あとは俺が引き受ける
から、オマエ達はもォ行け」
「………っ」
追い払うような言い方に三人の少女は顔を顰める。実際追い払いたいのは棚に上げたとしてもだ。
いくらこっち側に非があるとは言え、低姿勢を保つには少々受け流せない言い回しである。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:37:31.02 ID:4SEpmCJp0<>
「……、失礼を承知で伺わせていただきますが、貴方はこの少女とどういったご関係ですの?」
「あァ?」
質問には少々の棘が含まれていた。考えてみれば不自然に感じるかもしれない。身元不明なガラも目つき
も良いとは言えない男と幼い無垢な少女との接点は、通常なら簡単に結びつきにくいだろう。
となると、新たな可能性も発覚してくる。この男が少女を誑かしているという、単純且つ明快な可能性を。
「関係だァ? ンなの、逆に俺がオマエらに問いてェよ」
「あわわ、この人はミサカの保護者代理っていうか……」
先ほどとは微妙に異なっているものの、やはり穏やかではないこの流れを感知した打ち止めが慌てて割り
込みを試みるが、
「えっ? 保護してる人って警備員の黄泉川先生じゃなかったっけ?」
佐天に指摘され、ギクリと動揺した。冷たい汗をだらだら流して思慮に明け暮れても適切な誤魔化し手段
は浮かんでこない。
しばし、気まずい空気が漂い続ける。
すると、この不穏な空気に痺れを切らせた一方通行はついに禁忌に触れそうな少女達の前で雰囲気を変貌
させた。
突如、それに呼応するかのように場の空気まで禍々しく変化する。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:38:16.71 ID:4SEpmCJp0<>
「オイ……、こいつとどォ馴れ合おうが口出しする気はねェ。だがな、余計な詮索は決してタメになると
も限らねェ。……これは警告だ。踏み込ンじゃいけねェ領域ってのを見極められねェよォなら、いつか
そのツケをもろに頭から被るハメになっちまうぞ。知らねェ方が幸せな事実なンざ、この世にはいくら
でも転がってンだぜ?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:41:18.72 ID:4SEpmCJp0<>
低く、重く、調子のガラリと変わった凍てつく声が少年の口から発せられ、三人の心臓をドクンと揺らした。
ほぼ同時に寒気がゾクリと全身を走り、凍りついた表情で一方通行を見つめる少女たち。
彼女たちはまだ知らない。
この半端ではない威圧感を演出している少年の正体を。
崇拝してやまない御坂美琴より、更に高い位置に君臨している事実を。
現時点で分かっているのは、この紅い瞳に白髪の少年は只者ではないという事のみだ。
“関わったらヤバイ”彼女達の本能が無意識にそう警告した。
「………手間を取らせたのは詫びる。別に脅したりどォこォするつもりはねェンだ。すまなかったな。
ただ、こンなガキでも良かったら、これからも是非仲良くしてやってくれるとコッチとしても助かる」
得体の知れない不気味なオーラを解除した一方通行は、穏やかな空気を再び戻して述べた。
「行くぞ、打ち止め」
打ち止めに一声だけ呼びかけて、その場から去っていく一方通行。
「あ、待ってよぉ! じゃあ、またねお姉さんたち! ってミサカはミサカはお別れの挨拶と共に手を
振ってみたり!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:43:29.04 ID:4SEpmCJp0<>
先を歩く一方通行にすぐさま追いついた打ち止め。
未だ動く気が起きずにいる黒子、初春、佐天を残して不審な少年と幼い少女は人込みに消えてしまった。
「……なんていうかさ、怖かったね」
最初に発言したのは佐天。顔色が少し悪くなっていた。
「わたくしも……何と言いますか、硬直してしまって言葉も発せませんでしたわ。あの殿方の目………
おそらくわたくし達では想像もつかないほどの修羅場を体験しているような……そんな感じですの」
果敢な性質の黒子ですら身動きできず、一方通行が一瞬放った眼光を思い出すだけで震えが尚も止まら
ない状態らしい。
「うぅ、鳥肌がまだ……。けど……あの人、どこかで……」
初春はさっきから何かに迷走しているみたいだ。しかしいくら記憶を遡っても、とうとう思い出すまで
には至らなかった。
三人はこの日、言いようの無い恐怖を経験した。
それは不明確で実体すら掴めない程度でしかないが、確かに全身へと行き届いていて、今も離れない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:44:24.04 ID:4SEpmCJp0<>
一方通行は、特に大したことをしたつもりはない。
ただ、興味やら下卑な考えで境界線を越えてしまいそうになった少女達に導きを示してやっただけだ。
知ってしまえばそれだけ危険も無意味に加算されるという事を、己が一番よく分かっていたから。
「ねーねー、番外個体と一緒じゃないのはどうして? ってミサカはミサカは思い出したように尋ねて
みたり」
すぐ隣りでベタベタと寄り添ってくる打ち止めだが、番外個体で慣れてしまったのが痛い。
鬱陶しさの軽減された感覚に「うぜェから離れろこのボケ!」とは怒鳴れずにいた。
「ちょうど捜してたトコだよクソが……。ってェかさ、オマエなら居場所わかるンじゃねェのかよ?」
「あッ!?」
一方通行の見解は的を射抜いたようだ。
打ち止めはまたまた思い出したとばかりに仰天する。
「ったく、これだもンなァ……。お叱りはナシにしてやっからとっととあいつの居所を吐きやがれ」
「はーい。ってミサカはミサカはネットワーク接続モードとっつにゅ〜♪」
しばらく彼女のために立ち止まって待機するしかない。
その辺の電柱に寄り掛かった一方通行はひとつ大きな息をはく。
どこかでのんびりコーヒーでも飲みながら休みたい気分だ。冷気が頬と耳の神経を凍らせているのが
外にいつまでもいる厳しさを語っているようである。
そして、
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:45:25.84 ID:4SEpmCJp0<>
「19090号はっけ〜ん! ってミサカはミサカはアナタに吉報を伝えてみたり」
「よし、でかした。……で、あいつはどこにいる?」
要点だけを正確に伝達するよう暗に諭す。
途端、打ち止めの表情は何故か曇り、言いにくそうに追加した。
「……けど、ちょっと遠いかも。ってミサカはミサカは残念なお知らせを残してみたり」
「はァァ? マジかよくそォ………。更に面倒っつか、事態が余計に悪化しただけじゃねェか」
電柱に寄り掛かったまま一層深いため息を零す。
一体いつになったら番外個体に会えるのやら。一方通行は不吉な未来を予知せずにはいられなかった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:47:37.96 ID:4SEpmCJp0<> ここまでです
一方さん、超電磁砲チームとは結局前回じゃ会わず終いだったので、ここで遭遇させてみました
ではまた次回の一部公開します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:52:11.68 ID:4SEpmCJp0<>
美琴「なに……? まさか、猫プレイ中ですか?」
上条「え? なに? 待って、マジで把握できないんですけど!?」
―――――――
打ち止め「ねえってば! ミサカの存在はもう忘却の彼方!? ってミサカはミサカは空気と一体化しそう
な局面を恐れてみたり!」
一方通行「腐った生ゴミの匂いがプンプンするぜェ。こいつを見逃すって案は即却下だなァ」
―――――――
禁書目録「ほえぇぇ……。ああ、また日本特有の伝承魔法が私を安眠世界へ誘おうとしているんだよぉ〜」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/03(日) 20:55:38.44 ID:4SEpmCJp0<> 以上です
予告的なのをやる意味は特にないんですが、次回も必ず投下するっていう
自分戒めみたいなもんです
ちょくちょくおかしな言語が文中よく見受けられますが、それは私の国語
力不足の表れなのでどうかお許しを
ではまた三日以内に更新します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/03(日) 21:21:02.97 ID:weB767UDO<> お疲れ様〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/03(日) 21:28:10.71 ID:zbHl+jkDO<> やっぱ普通におもろい
…だけど御坂がちとうざすぎた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/03(日) 21:56:00.02 ID:m/qGFxQF0<> おつです
一方さん格好いい… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)<>sage<>2011/04/03(日) 23:55:22.57 ID:V81Zr2r/0<> 交易と申したか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/04/04(月) 00:27:46.54 ID:lJprzdJYo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2011/04/04(月) 00:35:11.99 ID:4A78Rytp0<> おつ!次も待ってる
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/04(月) 11:54:16.43 ID:unifibNW0<> おつした!
黒子らとの遭遇がリアルすぎて吹いたww
ってかアジサイ番外さんマダー? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/04(月) 12:10:17.71 ID:gZKfJfTno<> 結局サードシーズンについての説明ゼロのままかww
というか美琴さんテンパり過ぎで可愛いっていうかミサワさんに手玉に取られ過ぎww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/04(月) 19:52:51.05 ID:u5tWntwe0<> >>214
アジサイちゃうわwwww <>
214だす…<>sage<>2011/04/04(月) 23:07:07.23 ID:unifibNW0<> うわ、やっちまた
アジサイじゃねぇアオザイだったちくしょう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/05(火) 01:08:34.32 ID:69N3w9Dl0<> せめてアオザメって言えよww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/04/05(火) 11:19:41.46 ID:3MGO1lfS0<> >>218
大戦鬼に殺されるぞw <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/06(水) 20:25:49.74 ID:EpQqUMcy0<> お待たせしました
番外と美琴の掛け合いは書いてて楽しいことに気づいた
では続き投下します
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/06(水) 20:29:02.10 ID:XXLuIENJ0<> 待ってた <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:29:05.19 ID:EpQqUMcy0<>
―――
上条当麻が居を構えるごく一般的な学生寮。ここには一人の少女が住みついている。
その少女こと禁書目録は上条当麻管轄のもと、学園都市に在住するシスターである。
以前に神の右席の一人である右方のフィアンマが、『自動書記』の遠隔制御霊装を強奪の果てに使用
したことで意識不明に陥り、更には自動書記状態に覚醒したりと未曾有の大事態を引き起こしたりも
したが、現在は上条と共に平和な毎日を送っていた。
そんな世界を揺るがしかけた『禁書目録』を司る少女は今、こたつで丸くなっていた。
おまけに追加すると、彼女が以前に拾った三毛猫とは領土獲得権の問題で絶賛敵対中だ。
「ほえぇぇ……。ああ、また日本特有の伝承魔法が私を安眠世界へ誘おうとしているんだよぉ〜」
朦朧とした目でうわ言を漏らす禁書目録。おそらく彼女をここから出すのに物理的手段は通じない
だろう。そう思わせるほどに一体化した彼女は自分の領地へ侵入しようとゴロゴロ蠢く獣に注意を
促した。
「あ! スフィンクス駄目なんだよ! 領土を巡って結ばれた和平条約を早くも破るつもりなの!?」
禁書目録の警告も猫の脳には伝わらない。
同じ場所で丸くなるのに飽きた三毛猫はさりげなく禁書目録の私有地へと侵入を試みた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:30:41.88 ID:EpQqUMcy0<>
「ふぁ……だ、だから駄目だってばぁ。スフィンクスぅぅ……くすぐったいかも……あぁ…」
そのままあらぬ場所まで三毛猫は容赦なく進行した。そこは表現するならまさに秘境。
こたつで火照った頬が別の意味で朱色に染まっていく。
「いや、う、動いたら……っ!」
もぞもぞと死角で行われる再度の領土争い。しかし実際の戦場は血生臭さに溢れたものとはかけ離れ
すぎていた。
「ううう、いくら拡大を要求されてもこの場所から立ち退くのだけはいやだぁぁ……!」
放送禁止な部点を縦横無尽に弄られ、身悶える禁書目録。
それでも屈しない、降伏するわけにはいかない……!! と何故か無駄に意固地なのは今居座る場所
こそがベストスポットだったからだ。
が、口ほどにもなく限界点が見えてくる。
「あっ、そ……そこは一番まずいかもぉ。やめてスフィンクス! 実力行使なんて卑怯且つ横暴なん
だよ!! そこまでして“楽園”を独り占めしたいのかな!?」
視界で確認不可能な所にいる三毛猫相手に禁書目録は本気で声を飛ばした。
でも残念。猫は答える代わりにもぞもぞするから、性質の悪い結果しか訪れてくれない。
仕方なく所有地をいったん放棄し、修道服に潜り込んだままの猫を除去する作業に取り掛かる。
仰向けのまま自身の身体をまさぐり猫を掴もうと孤軍奮闘する。
たまに敏感な場所に自ら触れて変な気分を起こすが、全て錯覚だと言い聞かせた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:33:32.30 ID:EpQqUMcy0<>
そうしている内にだんだん苛々も募ってきていた。
何故こたつで丸くなっていただけでこんな事態を迎えたのか、ある少年ではないが「不幸だ」と叫び
たい衝動に駆られ始めた。
そしてある少年の受け売りなどではないが、不運というのは嫌なタイミングで重なることも長い人生
の中ではしばしばあったりする。
禁書目録にとって今がそれだと強く実感するのは、自室のドアがこんな最悪の時にガチャリと開放さ
れてしまってからすぐの時だ。
「――――たっだいま〜、インデック……ス?」
「――――お、おじゃ………ま…?」
“します”まで言えなかったのは本当に自分は今邪魔だったんじゃないか? と疑心したからに他
なかった。
上条当麻と奇しくもこれが初来訪となった御坂美琴は、入室後に二人揃って固まった。
そんな真っ最中、美琴がうっかり口走る。
「なに……? まさか、猫プレイ中ですか?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:36:58.77 ID:EpQqUMcy0<>
「…………ッッ!!」
ボフン! と頭に爆発音が響き、同時に煙が発生する。
赤面で済ますには些か生易しいリアクションだ。
猫に侵食されたから足掻いていたなどと馬鹿正直な言い訳ができる精神状態ではない禁書目録は、
とにかくまず拳を震わせてから上条をロックオンする。
「え? なに? 待って、マジで把握できないんですけど!?」
「―――――とうまァァァああああああああああっっ!!!」
気合一閃で三毛猫を修道服洞窟から追い出し、最大の武器である前牙を最大限に唸らせる。
彼女の感情を昂ぶらせた時は大体いつもこのパターンだ。
すぐさま上条は交渉しようと悪足掻きに打って出るが、遅かった。
「待てインデックス! 穏便に、どうか切に穏便な対処を所望しッ――――んぎゃあああああ!!!!」
希望に縋るも、虚しく咀嚼される上条。
美琴もなんだかんだ口実を駆使してやっと上条宅にお呼ばれまで進展したというのに、感動する暇
すら与えられなかったことに不満が隠せない。上条の悲鳴と美琴のため息が平行して綺麗なハーモニー
を奏でた。
この時点で、様々な意味で先が思いやられそうだ。と美琴は心中で呟かざるを得ない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:39:21.22 ID:EpQqUMcy0<>
―――
「………ン?」
そんな騒動など我知らず、打ち止めと並んで街路樹を歩いていた一方通行は不審な気配を感知した。
「どうしたの? ってミサカはミサカはアナタの異変にいち早く気づいてみたり」
少し前で同じく立ち止まり、振り返る打ち止めの声を無視した一方通行は違和感を生み出している
原因の車道に目を向けた。
(あァン? ………おいおい。白昼堂々って時間でもねェが、よりによって目の前通過させるとか
何考えてやがる? ただの馬鹿かそれとも確信犯か…)
車道の路肩に停車している一台のバス。特にこれといった特徴はないように思える。
だが、暗部駆逐のため暗部に身を構えている一方通行の肥えた目は誤魔化せなかった。
「確認しておく必要性大だな」
歩く方向を車道側へ向けた一方通行に当然の制止が降ってくる。
「ねえってば! ミサカの存在はもう忘却の彼方!? ってミサカはミサカは空気と一体化しそう
な局面を恐れてみたり!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:42:43.16 ID:EpQqUMcy0<>
「黙ってろ、そしてそこにいろ。絶対について来ンな」
言葉だけ粗末に返し、打ち止めをそこに置いたままガードレールを踏み越えて不審車両に接近する。
あれこれ文句が背後から聴こえてくるが、言われた通りついてこないので特に気に止めない。
用心のため、いつでも最強の椅子に降臨できるよう右手を首元へ構える。
そして、左手は懐の拳銃を抜き取れるよう備えておく。
が、しかし。
謎のバスまでの距離推定約四メートル地点、それは唐突な出来事だった。
「―――!!?」
突如、おもむろに開く降り口のドア。その中から姿を見せたのは、人間の原形とはほど遠い姿。
それが何なのかを確かめる前に、中にいた正体不明の何かは無駄のない動作で先攻に移った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:45:04.94 ID:EpQqUMcy0<>
「ッッ!?」
咄嗟に構えた右手を高速で動かし、スィッチを切る。と同時に右腕部分から放たれた戦車装備
クラスの砲撃が肉体を直撃する。
更に無駄の一切ない翻しで砲撃手はバスの中に戻る。バスはその直後にドアの閉まる音と共に
急発進した。
後に残るは砲撃で舞い上がった大量の砂埃。
中心にいるはずの少年の安否は煙で確認が取れない。人だかりが瞬時に集まる中、打ち止めは
ショックのあまり卒倒しそうになるが、人込みを小さい体を駆使して何とか掻き分け進む。
この場で最も爆発に巻き込まれた人物の身を案じている彼女は「どいてっ!! お願いだから
通してよぉ!!!」とムキになって叫び続ける。
やがて煙が少しづつ、晴れていく。
中央に彼は―――――いた。
まず、首を一回ゴキリと鳴らす音。続いて周囲のどよめく声が辺りに反響した。
「さァて、こいつは果たしてどォ始末をつけたらイイか―――――訊くまでもねェか」
久しぶりに表れる狂笑。
いきなり殺傷手段に打ってきた。これ以上にわかりやすいものはない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:46:05.97 ID:EpQqUMcy0<>
「―――――腐った生ゴミの匂いがプンプンするぜェ。こいつを見逃すって案は即却下だなァ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:47:27.49 ID:EpQqUMcy0<>
ギョロリ、とバスの逃げた方向を見据える。
そして直後、轟音と共に一方通行の姿がその場所から消えた。
瞬時に爆発的な速度を生み出し、目標物の追跡を開始したのだ。
それから一方通行は確信する。
あの車両は紛れもなく『暗部』絡みの異物だと。
穏やかな景観とは似気ない、相応しくない存在だと。
犠牲や巻き添えもお構いなしで発砲した砲撃主はおそらく―――――駆動鎧(パワードスーツ)。
一瞬しか姿を捉えられなかったが、今まで見たタイプとは形状が異なっているのは確かだ。
あの奇怪な形、人が身を包む仕様にできていないのは明白である。中に空洞でも設けていれば話
はまた別なので、まだ断定はしきれない。とりあえずは無人型の可能性が最も高かった。
そうして思考を凝らしている間もバスに見立てた不審車両はグングンと加速を増し、一方通行と
の距離をどうにか広げようと苦闘している様子が窺える。
(あのタイプは見た事がねェ。……どォやら極秘で造られていた最新鋭らしいが、ここで一体何
をしてやがった? どンな目的で? ………って、ソイツも直接訊いた方が手っ取り早ェか)
どちらにせよ、ここで見逃すわけにはいかない。何の前兆か定かではないが、自分にとってあれ
が後に障害とならない確証はどこにもない。不安要素は全て排除しておく必要があるのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:48:51.80 ID:EpQqUMcy0<>
(話なンて流暢に聞き出せる状況じゃなさそォだが……まずは停止させなきゃ話になンねェ)
弾丸と化した一方通行の身体は逃亡したバスの全影を瞬く間に通過した。
街のど真ん中の一般道で高速道路並の速度をあっさりと追い抜いた一方通行は遥か前方に着地し、
標的の到着を待つ。
(バスに偽装した工作車両か。……あンなモンがまだ出回ってたとは知らなかったぜ。俺の目ェ
一つじゃ行き届かねェのは承知してたが、思ってたより早く尻尾が掴めそォだ)
視界に捉えたバス。いや、工作車両が猛スピードでコチラへ突っ込んでくる。
道路の中央で一方通行は進路を阻害し、その時を待った。
やがて―――――
「……ッ!?」
――――偽装されたバスは一方通行の張った膜にあえなく弾かれ、強烈な爆発音を轟かせてから
木っ端微塵に吹き飛んだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:51:13.99 ID:EpQqUMcy0<>
「ッ…クソ……、調査するには不都合すぎるなこりゃ。ちっとぐれェスピード落としやがれっつの…」
炎上したバスを前に「こりゃマズイな…」と頭を掻き毟る一方通行。
減速するどころか加速したまま突っ込んで来るとは予想していなかったのだ。
防衛のためとは言え、反射はやはり得策ではなかったと少し後悔した。
後でこの出来事については上の連中に確認しようかとも思ったが、そこで引っ掛かる。
(待てよ……、俺の目に触れさせたくない件が絡ンでるとしたら、どォ尋ねてもはぐらかされるだけに
終わりそォだ。ここは自力で根源を突き止めた方が無難か?)
とりあえずバスを覆う邪魔な炎は風で鎮火させ、焦げ臭さの漂う残骸へと近づいてみることにした。
さっきの駆動鎧もこれではひとたまりもないだろう、と一方通行は高を括る。
それがまずかった。
「!!?」
ゴトリ…! と瓦礫に埋もれた残骸が動いたかと思った矢先の事だった。
駆動鎧が瓦礫を力任せに薙ぎ払い、再び一方通行の前に姿を現す。
ただ、見るからにボロボロで動きに軋みが生じているのが遠巻きからでも確認できた。
もうスクラップ寸前、といったところか。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:53:33.29 ID:EpQqUMcy0<>
『ぐ……!』
駆逐鎧の中から声が聞こえた。中の人物もどうやら相当の重傷らしい。
人の原形を留めていなかったから無人タイプだと推測していた一方通行は、苦虫を噛み潰したよう
な顔で接近する。
だがそれと同時に、生存していた事実に多少ながら安堵もした。
「まだ息がある内にオマエの知ってる事を全部ブチまけろ。そォすりゃ後の事は請け負ってやる」
とりあえず、こいつは病院送り決定だ。と一方通行は心中で吐く。
けれども、敵として認知している人間の発した戯言を真に受けるのは中々にして難しい。
当然だが、この言葉に耳を貸すはずがなかった。
向けられた銃口から、不条理にも消したばかりの炎が再出される。火炎放射器だと認知した時には
辺りが火の海の化していた。
逃亡も戦闘も不能に追い込まれた組織の人間が取る典型的手段。
それは、“全てを焼き尽くして何も残させないこと”だ。
その“全て”には無論、自分自身も含まれる。
「チッ」と舌打ち後、一方通行は自身に降り掛かる炎と周りの炎網壁を一緒に吹き飛ばす。
ありとあらゆる能力に恵まれた学園都市が誇る最強の力は伊達ではない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:56:31.33 ID:EpQqUMcy0<>
「クソが!」
触れた大気のベクトルを通じて更に遠くを流れる大気をも操る。
これで離れた位置にいる物体ですら思いのままに翻弄できるのだ。
それ以前に自分の手中範囲である気圧を全力で弾き飛ばしてしまえば、重機程度なら無力化させる
くらい造作もない。
外壁に激突させ、意識を刈り取った駆動鎧に一方通行は歩み寄る。
こうしてよく見ると何とも奇妙なデザインで、昆虫を思わせる形状をしていた。
すっかり焼失してしまい、元の原型もわからず真っ黒焦げになった工作車両を一瞥した一方通行は、
機能停止した鎧を引っぺがそうと企む。
まだ息があるか、一応のチェックだ。もし希望が残ってそうなら応急処置も施す必要がある。
結局手荒い方法になってしまったが、彼等の立場を考えればそれも仕方が無いのかもしれない。
頑丈な装甲にひびが入り、直に面が割れそうになる。あと一呼吸の間に鎧の素顔を拝見するくらい
わけもなかった。
が、その寸前に新たな邪魔が入る。
「……あァン?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 20:59:09.00 ID:EpQqUMcy0<>
キキーッ! と急停車する音が唐突に聴こえ、思わずそちらの方に注意を向けた。
すると同タイプの駆動鎧が戦艦から飛び出す魚雷のように続々と大型バスから降り次いで来る。
何体いるか、なんて愚鈍な考えはこの時点でもはや起きない。
「………なるほど、こいつはよっぽどの件らしいな……。最新鋭が知らねェ間に大量生産されて
ました、ってか」
我関せずで引き返すには既に手遅れの段階まで来たらしいが、それがどうした。と、一方通行は
鼻で嗤った。
「だったら、尚更見逃す手はねェよな?」
連中はもはや警備員だとか公機的な妨害など気にも留めていないようだ。
ならこっちも図に乗らせてもらうだけ。
まずはどちらに軍配が上がるのかを丁寧に指し示してやる。あくまで彼流のスタイルで。
「悪い事ァ言わねェ、オマエ達が腹に据えてる情報を恙無く吐きさらせ。そっちに交戦意思が無ェ
ってンなら、俺もこの場を血の池にするつもりはねェよ」
『それは忠告のつもりか? いつから平和主義者に目覚めたのか、是非お尋ね願いたいな』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:01:02.30 ID:EpQqUMcy0<>
向こうから返ってきた答えはこんなものだ。まぁ、ある程度の予想はできていた。
「ふン、“平和主義”ねェ……」
学園都市は今、戦後モードの平穏カムバック状態だ。
木原数多の一件も終結してからは青い空と笑顔の続く日が絶えない。
そんな街で血混じりの喧騒など、できるなら起こしたくはないのが本意なのだが………この輩は
どうやら違うらしい。
『恨むのなら、“見つけてはならない穴”を見つけてしまった己自身を恨むんだな』
「穴だと……?」
『これ以上は無意味な会話だ』
それ以降、彼等が言葉を発することはなかった。代わりに一方通行へ突きつけられた大量の銃器
が今後の工程をもの語ってくれた。
「……手間ァ取らせねェからとっとと地獄へ堕ちろってか? 安い問禅よりかはまだストレート
で好感が持てるけどな、生憎そいつは乗れねェ相談だ。黙って渡せるほど安い命じゃねェンでよ」
言い終わりを見計られたように、ライフル弾が一発頬の横を通過した。
………交渉の余地すら残っていないようだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:02:53.44 ID:EpQqUMcy0<>
「チッ、見た目にそぐわねェほどにヤンチャなやつらだ。何もそォ行き急ぐ事ァねェだろォに」
自分自身の命を脅かされても、相手の命を悪戯に奪ってやろうとは思わない。
とは言っても、向こうは完全にやる気だ。こうなっては無抵抗というわけにもいかない。
できることなら穏便に事を運びたかったのが本音だが、もはや贅沢は言ってられなさそうだ。
(全員を無傷で片付けるのは正直確約できねェが……なるべくそれに近くなるよォ、一応は努力して
やるか。ったく……。けどまァ、闇世界に居座り続けてりゃこォいうワケの分からねェやつらにも、
いずれは付け狙われる運命にあったンだろォし、今更文句垂れた所で状況は何も変わりゃしねェ……)
やはり、ここは腹を据えてやるしかない。
彼等全員を無力化させるだけなら幾らでもやりようはある。
「ハイハイわっかりましたよォ。あとは好きに行動すりゃいいさ。ただし、一方的なお仕置きタイム
になっちまうのはもォこの段階で既に見え見えだがなァ」
両手をヒラヒラと上げたまま、余裕を崩さない素振りで戦況を計る。
だが直後、一方通行の目つきが変わるのを確認した駆動鎧は一切の油断を感じさせない臨場感を生じ
らせる。構え直された銃の鳴らす鉄音だけが、付近を不気味に占領した。
しかし、このまま戦闘が開始されると思われていたまさにその直前。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:03:54.37 ID:EpQqUMcy0<>
「はぁ、はぁぁ……やっと追いついたよぉぉ。ってミサカはミサカはもうへとへと……って、あれ?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:05:33.23 ID:EpQqUMcy0<>
一方通行が神経を一層尖らせた―――――――ちょうどそれにピッタリと重なる瞬間だった。
「なッ!!!?」
この場でもっとも不釣合いな声明に、一方通行はただただ驚愕するしかなかった。
「うわっ、なにこの凄惨な光景……。ってミサカはミサカはちんぷんかんぷん……。あっ! おーい!」
一方通行の姿を確認するや否や、状況が掴めていない打ち止めがこちらへ走り寄ってきた。
頭を抱えたいが、残念ながらそんな場合ではない。一方通行はすぐさま叫び声を上げる。
「馬鹿!! コッチへ来るなクソガキ!!! あっち行ってろォォ!!!!」
全部隊の目線が、呆然と立ち止まった少女へ向けられる。
まずい……!! ただならぬ前兆に肝を冷やした一方通行は、俊足で打ち止めの元へと繰り出す。
そしてその不吉な予感が今、現実のものとなって降り注ごうとする。
(クソっ……たれがァァあああああああ!!!!!) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:07:22.00 ID:EpQqUMcy0<>
不条理に放たれるガトリング・ガン。
小さな的には多大すぎる物量が今や遅しと迫り来る。
だが、
「―――――うァァああああああああああああああああ!!!!!」
させるか!! とばかりに中間点へ降り立った一方通行が数知れない弾丸を全て弾き飛ばす。
一発たりとも通してなるものか! 無我夢中な彼の脳は唯一そう叫んでいた。
しばらくの間、響き渡る火器重機による激しい轟音。
やがて、撃ち方が止み、巻き起こった粉塵が霧晴れのように薄らいでいく。
そこにいたのは、全弾を防ぐのに成功した鬼の形相の一方通行とすぐ後ろで腰が抜けた打ち止めのみ。
どうやら打ち止めに実害はないようだ。
しかし、もはやそういった次元では収まりのつかない事態が発生していることに、果たして敵側の方
は気づいているのだろうか。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:09:30.96 ID:EpQqUMcy0<>
そう、例えば血相を変えて銃弾の嵐に割り込んだ“最強超能力者の逆鱗に触れてしまった”事とか。
今の一方通行を一言で表すなら、爆発寸前である。
眉はピクピクと小刻みに揺れ、顔面は今にも崩壊しそうなほどに歪んでいた。
そんな状態とは不相応な声で背後の打ち止めに語りかける。
「打ち止め……、今から俺が言うことをよく聞け」
「あ……あ……」
萎縮した細声がボルテージを増加させる。一体誰がこの小さな少女をここまで怯えさせた?
こいつらの、目の前で戦闘態勢を維持し続けるこのイカレたクソ野郎どもの仕業だ。
感情が、“怒り”と“憎しみ”で埋められていく。
だが、臨界点を超えてしまう前に成すべき使命が残っていた。
この恐怖で震えている少女を――――ここから無事に逃がすこと。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:10:40.66 ID:EpQqUMcy0<>
「いいか。百八十度転回した後は全速力で走れ。絶対に立ち止まるな。振り返るな。息が続く限り、
とにかくひたすら走り続けろ。わかったな?」
胸の内とは真逆に思えるほどの静かな命令には、嵐の前の前兆のようなものが籠められていた。
打ち止めは大きく首を頷かせるが、その目からは不安感が読み取れる。
「あなたはどうするの……? ってミサカはミサカは……」
「俺の心配は要らねェ。オマエは自分のことだけを考えろ。人の多い場所へ移動したら誰かにでも
助けを求めるンだ。……なァに、すぐ迎えに行ってやる。シケたツラしてンじゃねェよ」
一瞬、一方通行の口端が妙な形に歪んだのを打ち止めは見逃さなかった。
同時に戦慄が走る。
やばい、何かがやばい。このままではこの人が壊れてしまいそうでとても恐い。
漠然だが咄嗟にそう思えた。
しかし、自分では止めるどころか更に現状が悪化してしまうとも感じてしまう。
ここは一方通行に従ってこの場から退き、できる限り迅速に助けを呼んだ方が良さそうである。
打ち止めはそんな心中と不安感を隠しつつ、上辺の返事を述べた。
「うん……。って、ミサカはミサカは素直に従ってみたり。必ず来てね? ってミサカはミサカは
念押ししてみる」
「おォ。――――よし、走れ!!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:12:51.30 ID:EpQqUMcy0<>
すぐさま後方へ振り返り、ダッシュで駆け出す打ち止め。
だが、“利用材料を逃がすものか”と、走る打ち止めに躊躇いなく兵器を向ける駆動鎧集団。
だが、瞬きをする間もなく一方通行が往生し、それを阻む。
そして語り出す。
「やべェな、オイ。オマエら………不運なンて言葉じゃ取り返しつかねェことしちまったなァァ」
顔は、ただ不気味に笑っていた。
果たして、この笑顔の裏に隠れた心の正体は?
喜び?
楽しい?
面白い?
いや、残念だがいずれも該当しない。
答えはただ一つ、“狂気”。
破壊を好んでいた彼がかつて露にし、表面で剥き出しにしていた彼本来の素顔。
久しく失われていた、熱く滾る懐かしい何かが、彼の内で静かに目を覚ます。
全てを放棄し感情のままに暴れ狂い、そして滅亡させる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:14:36.95 ID:EpQqUMcy0<>
堪忍袋の緒というものが二本存在するとしたら、一本目と一緒に二本目も切れてしまったような――――。
決して一方通行の沸点が低いのではない。
ただ彼にとって打ち止めや妹達、番外個体は今やそれほどの存在なのだ。
危険の隣りに身を置かせる事すら断じて許し難いほどの―――――。
「あァ、何かもォ………色々と段取り踏ンでやる気分じゃなくなったわ」
思考回路が“抑止”という単語を忘れた。
ついでに容赦や慈悲といった心も取り払ってしまった。
しかし、もう手遅れだ。
彼等は侵してはならない領域にまで侵入したのだ。駆逐するのにこちらが躊躇する理由など、もうどこにも
存在しない。
「殺す」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:16:14.47 ID:EpQqUMcy0<>
それだけで充分だ。初めからそうすれば簡単に事が進んでいたのだ。
無意味な警告などはもう要らなかった。いや、最初から要らなかったのだろう。
そもそも話し合いで片付ける前提でいた自分が今では滑稽にすら思える。
「せめて覚悟くらいは決めさせてやるよ。―――――――――このクソったれ共がァァァ!!!」
絶叫と共にあふれ出す獰猛な殺気。
打ち止めは逃がした。ひとまず矛先を向けられているのは自分だけだ。これ以上に好都合な状況
はない。
あとはどう転ぼうが、知ったことか。完全にブチ切れてしまった。
自分も敵も、もうこれで後には退けない。
ただ一つ、“殺る”か“殺られる”か―――――。
一昨日前までは片鱗すら見せず、深い底へ沈ませていた黒い影。
暗部に留まりながらも、少なからず平穏な暮らしの影響により眠っていた闇。
かつて自らを象徴していた狂乱な一面、そして虐げることに快感を持つ腐りきった性質。
この時、それらは全て惜しみなく最前面へと押し出されていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:17:21.71 ID:EpQqUMcy0<> 一方さんブチ切れた辺りで切らせて頂きます
では次回をチラリ
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:20:15.74 ID:EpQqUMcy0<>
芳川「ところで、貴女がいるということは彼も一緒なのかしら?」
番外個体「うんにゃ。あいつはミサカを放っぽって暗闇の迷子さんを演じてるんじゃないかなあ」
―――――――
一方通行「ぎゃはは!! ぎゃはっ、 ぎゃはははははっっ!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/06(水) 21:22:00.95 ID:EpQqUMcy0<> 以上です
続きはまた近日中に
御一読ありがとうございました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/04/06(水) 21:35:20.75 ID:TJBe78mX0<> 乙
言うこときかないで付いてきた打ち止めの気持ちも判らんでもないけど
やっちまったなぁ…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/04/06(水) 23:37:06.51 ID:3usIAyBko<> 乙乙
久しぶりの狂気な一方さんか… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/06(水) 23:48:57.10 ID:eU49W9R2o<> 乙
一方さんはブチ切れた時が輝いてる気がする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/07(木) 05:10:43.65 ID:b+txa0uDO<> おつです。続き楽しみにしてます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/07(木) 08:36:57.45 ID:wZsJuIgP0<> 乙!
まさかの急展開にwwktk! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/07(木) 15:36:42.24 ID:bwdn4IUqo<> 乙
やっと会えた打ち止めが追いかけてくるのは仕方ないんだろうけど・・・
来ちゃいけなかったな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/04/07(木) 23:17:02.56 ID:cvR5pYtFo<> まあこの一方さん、翼を出さないだけまだ冷静だと思ふ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/08(金) 08:15:50.94 ID:nFyiI8/8P<> やべぇニヤニヤする <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/08(金) 19:24:08.70 ID:CbblizLl0<> 打ち止めェ・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/09(土) 10:09:03.01 ID:LnjsYae+0<> また面白そうな展開になってきたじゃないの
ん?芳川が出るということは・・・しかも番外と一緒ってことは・・・
ま、まさかッ!? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/09(土) 10:24:28.05 ID:sthNtMut0<> ここの垣根くンはどォなってンだっけ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/10(日) 08:39:01.58 ID:z6efx1a80<> >>259肉塊じゃね? <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/11(月) 21:55:31.01 ID:d9kfNYEk0<> こんばんは
遅くなって申し訳ございません
まだまだ余震が続いてますが、皆様のご無事をただただ祈るばかりです
投下しようか迷ったのですが……待っててくれている方もいる(と信じたい)ので
させて頂きます
今回は多め
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 21:57:00.46 ID:d9kfNYEk0<>
―――
番外個体とミサカ19090号は大量の買い物袋を手に提げ、大型デパートの中から出てきた。
一方通行に支給された小遣いはこれで全部使い果たしてしまったが、後悔していない。
我慢や忍耐など、持っていたところで無駄に吹き溜まりを増やすだけだ。
貯金設計の有意義さを理解しようとしない番外個体の表情は至って晴れやかだった。
並行、ではなく二歩分後ろを尾く19090号は荷物持ちに巻き込まれ、不平不満な心情を露出させる。
しかし彼女の性質は引っ込み思案の内気お嬢様タイプ。
前方を歩く上機嫌の“見た目は姉、設定は妹”な人物に向かって堂々と文句を飛ばすなど、できる
はずもない。
(はぁ……。まるでミサカはこの個体の腰巾着みたいです。と、ミサカは諦めがちに呟きます。
立場的にはミサカの方が姉のはずなのに………クスン)
仕方ない。あのミサカはこのミサカより全てにおいて高性能なのだ。
身体(スタイル)も、能力も、とてもじゃないがガチで挑んで勝てる気がしない。
弱者は強者に仕える法則の定義がここに成り立っていた。
「―――まあ、貴女たち。外で鉢合うなんて珍しいわね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 21:59:34.77 ID:d9kfNYEk0<>
そんな関係が破綻しないまま、二人は自分達と由々しい人物に遭遇した。
番外個体はその人物を見てすぐにハッとする。
「あ、あなた……昨日の」
「芳川桔梗よ。改めてよろしくね、番外個体」
前日に黄泉川宅で卓を囲んだ芳川の登場に番外個体は僅かな動揺を露にする。
当然彼女のことは“事前情報”で知ってはいるが、逆に言うと表状の上でしか知らない。
今のところの印象は“いい年こいてまだ悪あがきして身体レベルアップに精を出す行き遅れ”
といった感じだ。
芳川はそんな己へのイメージなど知る由もなく、あることに疑念を抱いていた。それは、先ほど
から自分に対し、しきりに救いの女神的な眼差しを放っている19090号の存在だった。
「……妹達? 番外個体、この子は……?」
「ミサカのおもちゃ♪」
「みっ、ミサカの検体番号は19090号ですっ! とミサカは挨拶を意識しつつ番外個体の前言を
速攻否定し…………」
人が往来する道のど真ん中で語尾を荒げた自分が恥ずかしくなったのか、どんどん小さくなって
いく19090号。この個体から明確に感じ取れる“照”や“恥辱”といった意思に、芳川はくすりと
微笑みを浮かべた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:00:54.67 ID:d9kfNYEk0<>
「ふふ。少し見ない間に、だいぶ感情表現が豊かになったわね。これは喜んでいい事かしら?」
「さあ、ミサカに訊かれてもねえ……」
肩を竦めて何故か申し訳なさげな心理を表象する19090号を尻目に芳川は話を進めた。
「ところで、貴女がいるということは彼も一緒なのかしら?」
「うんにゃ。あいつはミサカを放っぽって暗闇の迷子さんを演じてるんじゃないかなあ」
「?」
答えの意味がよく理解できなかったが、どうやら一方通行は一緒じゃないらしい。
それだけでもわかった芳川はあまり深く追求しないように振舞った。
「まあいいわ。………あ、そうそう。ちょうど貴女に渡したいものがあったのよ」
今思い出したかのように告げる芳川。
まさか胡散臭い矯正ものやら健康グッズやらの世界にミサカを巻き込むつもりではあるまいな…?
と、あからさまな不信感を募らせる。
「はい。着る物に困ってるかは知らないけど、あって損はないでしょ?」
そう言われて渡されたのは服一式程度なら入りそうなサイズの紙袋。
よく見ると何やら“懸賞”の文字が書かれた紙が付着している。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:03:22.90 ID:d9kfNYEk0<>
「え…? これは……」
「福引で当たったのよ。豪華温泉旅行ペアチケットほど上等なものじゃないけど、良かったら
もらってくれない?」
「はぁ……この感触から察するに、もしかしなくても服?」
ホッチキスで閉じられているため、中は確認できない。袋の外側から物色した番外個体は適当
に推測してみた。それ以前に渡す時、“着る物”発言されているのでほぼ確定である。
「サイズが合いそうにないのよ。丈やらウェストやら私とは異なるサイズが組み重なっちゃっ
てねぇ……。あ、でもバスト周りはあなたにピッタシのはずよ?」
どう考えても不要物を単に押し付けた感が否めないが、タダでくれるのなら一応はもらって
おくことにした。隙間から僅かに見える独特なデザインは胡散臭さも湧き立たせていた。
「『アオザイ』って言うベトナムの民族衣装よ。主に正装用みたいだけど、土産物としても
流出しているわ。チャイナドレスのようなものね」
中身について懇切丁寧に解説する芳川。
「ふうん……。じゃ、ありがたく貰っておくね」
見慣れないものに興味が持てないわけではない。帰ったらとりあえず試着決定だ。
そう腹に据えた番外個体は芳川に礼を言い、雑談もそこそこにその場で別れた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:04:49.24 ID:d9kfNYEk0<>
「はい19090号、荷物追加ね。ミサカ(と一方通行)の家に着くまで落としたらデコピンだよん」
「うぅ……悪魔ぁ。……というか、あなたの家までミサカも同行決定なのですか!? とミサカは
気が遠くなりつつも確認を取ります……」
「愚問は受け付けないよ? ってか、ミサカだって重いし。可愛い妹個体にあなたの持ってる手
荷物全部抱えて一人帰れだなんて、薄情とか思わない? あーあ、重いよーう。これ全部持って
歩くなんてミサカ無理ぃー。でも姉が手伝ってくんないなら仕方ないか……よよよよ」
見るからに態度が急変した番外個体に戸惑う19090号。今度は同情を誘う算段のようだ。
逆に親切心を疼かされ、命令されるよりも拒絶し難い空気が瞬時に出来上がっていた。
「……わかりましたよぅ。と、ミサカは降参のポーズをとって承諾します」
そう言うしかない。
ええい、こうなりゃとことん付き合ってやりますよ。可愛い(?)妹のためですもん。
と、19090号は懐の容量を最大限にまで拡張させた。
(くくく、同姓からのお涙頂戴作戦に乗ってくれるなんて、全ミサカシリーズを統計してもこの子
ぐらいのモンだね。まあ、さすがに悪いから夕飯くらいは後でご馳走してやりますか、っと) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:06:28.72 ID:d9kfNYEk0<>
善意と悪意が入り混じったセリフを心中で呟きながら、番外個体は移動を開始しようと踵を返し――――
「ん?」
――――かけたところで急停止した。
向こうの車道を挟んだ反対側の歩道を、見たことのある顔が疾走している。
その顔は今にも感情を爆発させそうなほどの緊迫感に包まれていた。
ネットワーク共有不可の番外個体では事情がちっとも呑み込めないが、とりあえず反対歩道へ向けて
大きな声を飛ばした。
「―――最終信号ああっっ!!」
想像し得ない高音が彼女の口から放たれ、走行中の打ち止めの耳を正確に捉えた。
「ッ!?」
驚きを連れてコチラを向いた少女の全身は小刻みに震え、額は汗だくだった。
番外個体、そして19090号の存在に気づいた打ち止めは縋るような表情で車道を越え、迫って来る。
勢いのままに打ち止めは言った。
「お願い! あの人を止めて!」と―――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:10:56.79 ID:d9kfNYEk0<>
―――
人影も少ないとある区域では不気味な気配が流れ続けていた。
殺伐とした空気のなか、軍事用施設から引っ張り出されたような機体が少年、一方通行を中心に
覆い囲んでいる。
四方八方を奇形な駆動鎧が依然立ち塞がる。
一方通行は完全に包囲されているのも厭わず壊れかけの微笑を絶やさない。
筋の入ったこめかみはピクピクと攣りっ放しだ。
「――――!!」
一方通行が行動を起こす前に、数にして十体近くの駆動鎧は中央へ向けて各々の腕に取り付けられた
銃器から爆炎を噴射した。
瞬時に周囲を埋め尽くす強烈な爆撃音。そして無尽に覆い狂う炎。
まさに集中砲火。
一方通行の身体があっという間に硝煙と炎渦で覆われて消える。
その間も攻撃は延々と続いた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:14:41.77 ID:d9kfNYEk0<>
一人の生身相手にここまでやるのかと外野は懸念するかもしれない。
だが、相手は特異中の特異。
学園都市の中でも屈指の怪物として闇からも恐れられている人物だ。
寧ろこの程度で本当に陥落できるのかが逆に怪しい。
そして、一斉砲撃は隊長と思しき駆動鎧が合図を翳すことで終了する。
次いで彼等の一部は銃器の装填に取り掛かり、残りは近接用の槍天をアームにセットして身構える。
誰もがこれで彼が死んでいるなどとは思っていないのが窺えた。あとは固唾を呑んでその時を待つ
ばかりだ。
やがて煙は晴れ、視界が良好となる。
ところが、その場にいた駆動鎧は全員面食らってしまう。
「ッ!!??」
「んな……!?」
いるはずの人間が、視界に映らない。
言い換えるなら、そこには誰もいない。
まさか砲撃をまともに浴びて跡形も残らない結果が訪れたとでもいうのか。それはあまりにも信じ
難かった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:18:18.85 ID:d9kfNYEk0<>
「やつはどこだ!!??」
隊長らしき駆動鎧が叫び声を上げる。
後に砲火地点をよく観察してみると、おかしな現象が起きているのがわかった。
「まさか……」
地面のアスファルトの一部が、大きく捲れている。
まるで大型ドリルで抉り掘ったかのような場所は、人一人なら身籠りできそうな幅が造形されていた。
「まさか、地中を――――ッ!?」
背筋を凍らせた瞬間だった。
「――――あはァ」
不気味さしか感じられない、笑うような声が地の底から聴こえた。そう思った直後の事だ。
地盤が軋んだと思う間もなく地面のコンクリートから二本の手が芽のように生え、すぐ真上にいた装甲の
脚部をがっしりと掴まえた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:20:43.81 ID:d9kfNYEk0<>
瞬間、凄まじい力で地盤は割れ、脚部を拘束された一体の駆動鎧は地層へと引きずり込まれる。
コンクリートと鎧が激しい摩擦音を轟かせ、地面下で生き埋め状態となった装甲に代わり、一人の悪魔が
姿を現した。
「っはは、ぎはっ」
今の彼は、面白い遊びを思いついた少年の顔に近かった。
大地の地層は手に触れれば鉄筋コンクリート越しだろうと何だろうと意のままに操れる。
コンクリートを抉り、下の有機物と無機物の混合された全物質を圧縮させ、自然の流れとは真逆の働き
を活性させることで即席地下道を作り上げるなど容易い所業だった。
所詮は化合物。構成元の法則云々以前に自然物質だ。
障害役にパッと思いつきそうな土砂や砂利なども当然の然り。
既知しているベクトル操作で生成を促したり退化させるなど、方法は幾らでもあった。
あとは成分限定の反射膜を張りさえすれば、土やら砂埃やらが被着する問題点もあっさり解消される。
よって衣類や身体には一切汚れが付着しておらず、地面に潜ったというのがまるで嘘のようだった。
「物騒なオモチャあ向けるンなら俺だけにしとけば良かったのになァ。ああかわいそうに。これで先の
永い寿命がぜェンぶおしゃかになっちまうなンてさァ。ホントに不幸だよオマエら。なァ? 最後に
訊くケド、オマエらが手に持ってるそいつはナニ? そンな一撃殺傷可能な代物を誰に向けて構えた
か分かってるか? あァ?」
酷く静かな言い回しにはハッキリとした怒りが備わっていた。
一方通行が一言一言発する度に禍々しい憎悪と劣情が辺りを埋め尽くしている。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:24:31.77 ID:d9kfNYEk0<>
「最も許しちゃならねェ項目にオマエ達ァ触れた。なら相応の罰はとォぜン受けてもらわなくちゃなァ?」
「ひ……ひっ!!」
恐怖に蝕まれた一端が引き金を弾く。
が、しかし。
「ナニ? せめて自ら発砲した銃弾でひと思いに殺られたいってか? はっ、残念だな。ンな生易しい
末路は用意してねェンだよ」
弾丸を気にも留めず、狙撃した駆動鎧目がけて一息の内に肉迫する。そして告げる。
「もォ一度言ってやる。“誰に危害を加えようとしたのか”を、良ォくその胸に刻ンでみろよ。なァ?」
おぞましい殺気に満ちた、冷淡な声。
すぐさま一方通行の腕が駆動鎧の頭部へと伸ばされる。
「――――がぁっ!?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:27:12.35 ID:d9kfNYEk0<>
頭を五指で鷲掴みにされた駆動鎧は、直に引力に抗うように脚が地面を離れた。
一方通行の片手だけで宙に浮く駆動鎧を目に映した全員が、この光景にぎょっとした。
「ははっ!」
一笑した一方通行は腕を軽々と回し、振り子のように駆動鎧を翻弄してから力任せにブン投げる。
投げ飛ばされた重装機体は、凄まじい勢いを保持しながら呆然と立ち尽くす別の駆動鎧と激突した。
勿論これは一方通行策略の元による結果である。
轟音を散乱させ、二体のスクラップが瞬く間に完成する。
無力化し、沈黙した彼等の成れ様を眺め、一方通行はタガの外れた高笑いを響かせた。
「ぎゃはは!! ぎゃはっ、 ぎゃはははははっっ!!」
神経が昂ぶっていくのが判る。
ずいぶん味わっていなかったような、爽快な気分だった。
「さァァ、お次は誰がガラクタ送りにされてェンだァ? オマエか? それともオマエかなァ?」
狂っていた。
足が竦む恐怖だけがこの場を支配していた。
たった一人の化け物の手によって。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:30:31.86 ID:d9kfNYEk0<>
品定めをするように、戦闘可能な駆体を順番に見回す一方通行。
複数の獲物を物色する肉食動物の如く、その眼は飢えていた。
「なンだよオイ。もしかして興ざめさせよォとかって腹積もりか? ま、どっちでも好きにすりゃ
イイが、生憎だな。俺はもォ乗っちまった。オマエらが仕掛けたくだらねェ計略に付き合ってやる
って言ってンだ。まさか今さら後に退けるだなンて思っちゃあいねェェよなァァァ? あァァ!!?」
煽劫と同時に地面を力強く踏み、真下の地盤を揺るがす。
これにより小規模な震動が発生し、戦意を削がれた武装隊に追い討ちを掛ける。
立つことさえままならなくなった駆動鎧集団は傾き、倒れ、引っくり返る。
連携どころか体勢さえ継続不能に追い込まれた。
無論、これで区切りがつく道理はなかった。
重い駆体が災いしたのか、倒れてから立ち上がりのタイムラグがあまりにも大きい。
一方通行でなくてもこの隙を見逃しはしないだろう。
「今日は最高のゴミ収集日和だ。なァ、オマエもそォは思わねェか!?」
「―――――ひィィいいいいいいいっ!!!!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:33:45.27 ID:d9kfNYEk0<>
ぶれた世界に歪む笑顔。
そこから先はまさに阿鼻叫喚の地獄絵巻。
無慈悲。
容赦無用。
徹底的な暴力。
誰もが目を背けたくなる光景が次々と広がっていった。
響くのは顕著な破壊と昂ぶりを抑えようとすらしない甲高い笑い声。
装甲の腹を抉り、回路線を引き千切り、もげた四股をゴミでも捨てるように放り、僅かな抵抗力
すら完膚なきまでに奪い去っていく。
結果的に、たった数分程度で全ての駆動鎧小隊は全滅した。
現場の様子を言語表現するなら、“凄惨”。
文字通り、車通りが殆ど無い閑散としたハイウェイは見事な“スクラップ場”へと変形した。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 22:36:39.67 ID:d9kfNYEk0<> すいません、ちょっと中断。まだ今日は続きます
三十分くらいで戻りますのでしばしお待ちを <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:23:14.06 ID:d9kfNYEk0<> 中断失礼しました
では再開します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:25:20.80 ID:d9kfNYEk0<>
「あーあ、つまンねェ……。終わってみたらやっぱ味気ねェモンだ。俺も丸くなった証拠だな」
惨状を見渡しながら、一方通行は喋れる程度に留めておいた一人に歩み寄る。
もっとも、動かせるのはおそらく口だけで身体自体はもう使い物にならないだろう。
「なァ、訊くがこいつはある種の集団自殺かよ? それともこォなる結果すら予想できねェ馬鹿
のかたまりか?」
起立不能の駆動鎧目前でしゃがみ込み、尋ねる。
「イヤまさかなァ。さすがにそこまで愚者って事ァねェだろォ? ンじゃなに? やっぱただの
死にたがりなワケ? 自殺方法も千差万別、ってか?」
何も答えないくたばり損ないに、一方通行は執拗なまでの会話を求める。
やはり黙秘か?
だが、この者の意識が失われている可能性も否定できない。
仕方ねェな、と一口吐いた一方通行は、手に持っていた装甲の破片をだらしなく伸ばされた太股
へ、ひと思いに突き刺した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:29:25.65 ID:d9kfNYEk0<>
「っぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
瞬間、無言を貫いていた駆動鎧のソプラノが最大音量(マックス)で放出される。
「お? 何だ、起きてンじゃン。良かったねェ、死ンじまってたらどォしよォーってなァ。ンじゃ
色々手順省いちまうけど、オマエらの指揮者はどこのどなたァ? 明確な目的はナニよ? ほら
ほらァ、早く答えないと傷口が握り拳サイズにまで拡大しちまうぞォォ?」
明るげな調子で言いながらも、手は破片を握ったままグリグリと傷を抉り続ける。
苦しみと痛みを最高潮に演じて呻き、首を横に振ることでそれを表徴する憐れな駆動鎧の姿が在った。
「この期に及ンで黙秘権が通用すると思ってンのか? 今ならどンな残酷な逝かせ方だって際限は
ねェンだぜ? さっさと一つずつ、ゆーっくりゲロぶち撒けてみろよ。オマエが少しでも楽になり
たいンだったらな」
こうして生きていることすら奇跡だと思わせる言い回しも含んだ尋問。
あまりに膨大な苦痛が伴っているのは一目瞭然。
いっそのこと、このまま殺して欲しいぐらいだ。しかし一方通行は無慈悲に傷口を広げるだけ。
この地獄を、あとどれくらい味わえば彼の怒りは鎮まる? 自分と悪魔しか残されていない空間に
問い掛けても答えが返ってくるはずはなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:30:25.51 ID:d9kfNYEk0<>
そんな血飛沫塗れる時間の最中、どこからか声域の高めな声が乱入した。
この声は女? 朦朧な意識が微かに反応を示す。
「おやおやまあまあ、こりゃまたずいぶん楽しそうな遊戯に嵌っちゃってること」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:32:16.30 ID:d9kfNYEk0<>
「―――――ッッ!!!??」
駆動鎧がいっそ兜を脱いでしまおうかという明暗の淵に立った矢先、新たな人物がそこに登場した。
道路の中央線に沿いながら近づいてくるのは、ひとりの少女。
「に……しても、つくづく災難ばっか降ってくるねえ。あなたって野郎はさ」
少女の呼び名は『番外個体』。
現在では一方通行の“ストッパー”という位置に立つ、数少ない存在だった。
「………オマエ、何でここに?」
「いつになく血気盛んなあなたの姿を拝みに」
間も無いまま、答えは返ってきた。
それも普段と何ら変わらない風格で。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:34:30.47 ID:d9kfNYEk0<>
「その事じゃねェ! 俺が訊いてンのは“理由”だ! たまたま通りかかったとか言うンじゃねェぞ!」
真面目な質問に軽口で返されては、相手がたとえ番外個体だろうと語調も荒くなる。
いや、実を言うとそれだけではない。
今の自分の残酷無比な様を、最も見て欲しくない人物に見られてしまったことから生まれた動揺にも
直結していた。
後ろめたいとか、そんな奇麗事ではない。
ただ、“見られたくなかった”のだ。
彼女の前では、できることなら闇の仮面をずっと外していたかったのだ。
そのささやかで淡い願望も、この時点で呆気ないお終いである。
逃げ出したい衝動すら起きたが、それだけは耐えなければならない。逃げたところでどうにもなりは
しないことぐらい判っていた。
しかし、起こってしまった事象は何をどうしても決して覆ったりはしない。
向き合っていかなければ、前に進めないのだ。
一方通行は、密かな覚悟を胸に秘めた。
醜悪とは呼べないまでに清浄されてしまった番外個体は、今の自分に一体どんな印象を抱くだろう?
その答えは、目前まで迫ってきていた。
こんな騒動に巻き込まれる寸前までは早く合流したい気持ちで一杯だったのに、不遇にも程がある。
「あ、理由ね。泣きべそ掻きながらマラソン中の最終信号が偶然視界に入ったからとっ捕まえただけ。
別にやましい事情なんか、何処にもないよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:35:47.68 ID:d9kfNYEk0<>
「……打ち止めが?」
声色は普段と何ら変化が見られない。演技なのか、それとも素で何とも思っていないのか。
一方通行には判別し難かった。
が、今はそんな場合ではなかったことを瞬時に思い出す。
「ッ、そォだ! 打ち止めは!? あいつは今どこに――――」
気が穏やかでない様子の一方通行を安心させようと、番外個体が口を挟んだ。
「大丈夫よん。そっちは“ツレ”に任せてきたから何の心配も要らないって。ひとまず落ち着きな?
とりあえずは深呼吸でもしたらいいんじゃない?」
どっちかというと手の掛かる子供に呆れたような顔だ。
だが、一方通行は否定できなかった。
確かにそうだ。ガキみたいな憂さ晴らしとは事情が違うものの、やり過ぎの範疇を超えているのは
この惨状を見ればわかる。ここまで徹底的にやって何か得があるというのか?
だんだん熱が冷め、思考回路が部分的に欠落している自分に気づく。
番外個体に「打ち止めは!?」などと喚くように問うこと自体がそもそもおかしい。
事前に“番外個体が妹達の一人と一緒にいる”という情報を聞いていたにも関わらず、馬鹿みたい
に必死な声で自分は何を叫んでいたのか。
推理するまでもない事にすら気づけなかった。裏を返せばそれさえも忘れてしまうほど自分はトチ
狂っていたことに繋がる。
何とも情けなく、笑えない話だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:37:01.86 ID:d9kfNYEk0<>
「………すまねェ。俺、ブッ飛ンじまってた」
自嘲気味に白状するしかできない。番外個体は今の自分に呆れているだろう。
何故か、それが何よりも恐い。この少女に見限られたら? とか考えるだけでゾッとしてしまう。
それだけ今の一方通行は彼女に心を許し、そして依存している。
(最悪だ………クソ)
奥歯がギリギリと軋る。
様々な感情が複雑な胸中をざわつかせている。
打ち止めも番外個体もどっちも大切な存在なのは言うまでもない。
比較対照にする時点で間違いだというのもまた然り。
だが、打ち止めに危害を及ぼそうとした連中相手に決起して暴れ狂い、番外個体にそんな自分の
断面を覗かれて恐れを抱く。一体何なのだろうか。こうして自身を客観視してみると、空回りや
不器用といったレベルを軽く超越してしまっているのがわかる。
(馬鹿野郎……。全てテメェの自業自得だろォがよ!! アホみてェにラリって、思考すら放棄
しちまって、挙句その姿をこいつに見られて気ィ落としてる、だとォ!?)
(ふざけンじゃねェよ、この大馬鹿野郎が……!!) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:38:08.30 ID:d9kfNYEk0<>
振り返れば振り返るほど自分への怒りが湧き上がってくる。
自責で顔を歪め中の一方通行だが、番外個体はお構いなしで声を掛けてきた。
「……とりあえず、虫の息にしか見えないこの珍妙なガラクタは何なの? ミサカにも説明してよ」
「………俺にも分からねェ。ただ碌な連中じゃねェことだけは確かだ」
「ふうん。つまり、またあなたのよく知らない何かが忍び寄ってるってわけか」
単純にまとめるとそうなるが、今回の件は十中八九自分絡みである。番外個体の性格上、首を突っ
込まない確率はほぼ皆無だ。
どうすべきか悩む一方通行とは別の意味でガッカリし出す番外個体。
「折角あなたの窮地を救ってやろうと気合入れてきたってのに、時既に遅しか……あーあ」
先端の尖った釘を数本懐からチラつかせて露骨にテンションを下げる彼女に対し、一方通行は面食
らったような顔を向ける。
「次はちゃんとミサカの分も残してよねー。あなたばっかり先走るなんてずるいじゃん」
「……何楽しそォにしてンだよ。また厄介事が降り掛かってくるかもしンねェンだぞ? わくわく
ウキウキするよォな場面じゃねェだろォが」
真剣な眼差しで尋ねてくる一方通行が可笑しいとでも言いたいのか、番外個体はまるでお笑い番組
でも見ているかのように吹き出した。
「ぶふっ……、マジ顔で的外れな見当つけないでくれる? ミサカが平和をこよなく愛する良家の
お嬢様にでも見えたのかにゃーん?」
「はァ…?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:39:28.28 ID:d9kfNYEk0<>
「このミサカの生存本能は本来なら血生臭い戦場を求めてるんだよ。けど、あなたと一緒の世界に
いられるなら平穏も悪くないって思った。ところがあなたときたら、そんなミサカを差し置いて
勝手におもしろイベントに参入しようとしてる」
「……オマエ…」
「つまらないことばっか気にしてるようだけど、残念ながらそいつは全部杞憂ってヤツだね。いつ
からミサカはあなたの中で勝手に美化されてたワケよ?」
言われて否定できないのがもどかしい。
確かに驕りがあったかもしれない。元来彼女は戦闘要員として一方通行の前に現れたのだ。
変わったのはあくまでも“一方通行に対する憎悪が愛嬌になっただけ”だということもいつからか
失念していた。
悪戯レベルの悪態が止まないとは言え、それほどまでに眩しい笑顔をこの少女は魅せてくれた。
彼女と共に過ごす毎日、打ち止めやお節介な保護者に包まれた平穏が何より幸せだったのだ。
それだけは、どんなに自制を失おうとも決して忘れてはならない。
「独り占めなんて許さない。ミサカにもちゃんと分けて。ミサカを生かしたのはあなたなんだから、
当然その権利はあるはずだよね?」
木原数多を消滅させた後、全ての記憶を一時的に蘇生させた番外個体と正面から向き合った時の事
を思い出す。
あの時から、一方通行はこの少女の人生の支え役を自分が引き受けると決心したのだ。
今現在彼が抱く信念の大半がそこから始まっていたのかもしれない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:41:15.98 ID:d9kfNYEk0<>
「危険を冒そうってんなら、ミサカは迷わずあなたについていく。言ったよね? どんな時でも絶対
離れてやんないって……。あなたがミサカより先に死ぬのは許さない。……でも、ミサカもあなた
を残して死にたくはない」
「……支離滅裂だろォがよ」
「まあね。けどミサカ達は死ぬまで―――――ううん、死んでからもずっと一緒。あなただけが危な
い橋を渡るつもりなら、ミサカはどんな手を使っても喰らい付いていく」
その瞬間だけ、番外個体は慈愛に満ちた天使のような微笑みを浮かべた。
一方通行が抱えている不浄な概念も拘りも、全部吹き飛ばしてくれるには充分だった。
色々悩み込んでいた自分がただの馬鹿だと、また知らされる。つくづく彼女には敵わない。
たかが愛する女ができただけでここまで弱く脆くなってしまうのが不思議でならないが、それもまた
人間の本質と言うべき点である。
「……ったく、愛の告白すンなら時と場所を選びやがれ」
プイ、と顔を背けるが、頬が紅潮しているのを見抜いた番外個体は瞬時に悪意を込めて接近する。
というか彼の性格を知ってさえいれば、これが照れ隠しなのはもはや自明の理だ。
「あらあらあら? なあに必死で目ぇ背けてんのかなああん? コッチ見てよーん、ねえねえ。あ、
まさか照れちゃった?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:43:46.14 ID:d9kfNYEk0<>
「あなたの挙動パターンとか全部お見通しだし。大げさにソッポ向く時は大体照れ隠しだって事もね。
きゃひゃひゃひゃひゃひゃ♪ かっわい〜」
「黙れこのアマ! 指さして笑ってンじゃねェよ!!」
気がつけば、すっかりいつもの二人に戻っていた。
これまでの間ずっと放置された駆動鎧は、こんな二人を見て何を思い立ったのか。咳払いひとつ
だけ発してから彼等に呼びかける。
『………あー、お前達。少し独り言を喋りたくなったんだが、良ければ聞いていくか?』
「……あァ?」
「あれ? まだ生きてたんだコイツ」
酷い発言も出たが、スクラップ寸前の駆動鎧は気にせず続ける。
「……耳を傾けるか傾けないかはそっちの自由だ」
「…………………」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:45:57.41 ID:d9kfNYEk0<>
「……絆されでもしたのかァ? どォいう風の吹き回しなンだか……」
「まあ、いいじゃないの。詳しい経緯はあとであなたの口からちゃーんと聞かせてね」
「あァ? クソガキから聞いてねェのかよ?」
「話聞くのはぶっちゃけ後でもできんじゃん。それよりも現場急行の方が優先なの」
「…あっそォ」
『―――――学園都市第一位と暗部改変の発端となった計画の遺産の共存か……』
突然、機能を失った駆動鎧は遮るようにうわ言を漏らす。
「……おかしいか?」
『いや、あまりに仲睦まじい姿に少々口が緩んでね……』
「ってかさ、まずあなた達は一体何なの? 狙いはミサカ? この人? それとも最終信号?
バックはやっぱそれ相応な大手さんでも絡んでんのかな?」
捲くし立てる番外個体を一方通行は窘める。
「まァ待てよ。ここは大人しく聞き手に回ろォぜ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:47:58.59 ID:d9kfNYEk0<>
そして、目線を下へ遣る。
「オイ、続けろ。俺達はオマエの独り言ってヤツにちょくちょく腰ィ折らせてもらうが、それ
でも構わねェな?」
『………ああ、どうせ長く持たない命だ。どんな形であれ何かは残したい。嘘の情報を漏らす
つもりはないさ』
「そォか……、その意思は汲み取ってやる。話せ」
一方通行の促しを合図に、駆動鎧は懺悔を開始する。
自ずと緊張感に満ちた空気が突如として流れ出した。
『私は所詮いち小部隊の隊長にすぎない。故に全ての全貌を知らされている訳ではない。…が、
少なくともこれだけは確定している――――』
『――――学園都市最強の超能力者、“一方通行は総資産として存命する”と……』
「………は?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:57:43.38 ID:d9kfNYEk0<>
意味が読み取れない顔の二人は、意外な名前を耳にした。
『木原数多、お前達はヤツの目的について何か聞かされてなかったか?』
ダメ押しとばかりに出される木原の名前。ますます確信めいた展開になってきた。
動悸が自然と荒ぶっていく。
一方の番外個体は、話がまるで理解できていませんとばかりに首を傾げるだけだった。
「………俺の『脳』が狙いか? 確かそンな事仄めかしてやがったよなァ」
『やはり知っていたか……。なら理解が早いな』
駆動鎧は嫌味を言うように呟いた。
どうやら一方通行が考えている通りの詳細らしい。
『未元物質(ダークマター)』
「……!」
唐突に出されたその単語。これで九分九厘といったところだ。
やはり、というかもっと早くに気づいていても良かったはずである。
穏やかで眩しい陽射しを浴びる生活に嗅覚が薄れてしまったのだろう、と一方通行は自嘲気味に
苦笑した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/11(月) 23:59:25.83 ID:d9kfNYEk0<>
「……よォやくハッキリしたぜ。オマエ達が俺をどォしたいのかがな」
何もかも悟ったような面構えに、駆動鎧は満足そうな雰囲気を発した。
もやもやとしていた霧が晴れ、実体の掴めなかった影の全体が、今やっと捉えられた気がする。
『“元”この学園都市の学生。そして貴様に次いで強大な超能力を司る有力者。彼の現状は承知
しているな?』
「あァ。たしか俺にスクラップにされた後、脳を三分割されて見るも堪えない姿に成り下がった
挙句、能力だけは今もしっかりと活用され続けてる憐れな野郎だってのは知ってるぜ」
『最終的には、貴様にもその末路を辿ってもらうのが主な工程らしい』
「………ケッ」
「ちょっと? それってさあ、この人自身の人格は消去(ダスト)して、最強の能力だけは温存
させようって魂胆なワケ? それってもはや非人道なんて騒ぎじゃなくね?」
蚊帳の外になりかけていた番外個体がそこで口を挟んできた。
これがどういう事に繋がるのか、彼女も理解できてしまったのだ。黙っていられるはずがない。
しかし一方通行は、
「いィや、今更何も驚きゃしねェよ。ヤツらがどれだけ腐ってンのかは計測不能の域に達してる」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:00:51.43 ID:7MmK4SJe0<>
思想はさほど問題ではない。
元々配下として媚びを売っていたわけでもなければ、方針に忠実だったわけでもない。
計画の趣向に合わないのなら、いっそ駆逐する手法の方が一方通行からしてみればまだ清々しい。
だが、彼が内蔵する“超能力”は学園都市としても手放し難いものであるだろう。
ならば、どう手を打つ?
利用価値は最大クラスだが躾に手間が掛かる猫がいるとしたら、一体どうするのがこちらにとって
良い結果となるのか。
学園都市はひとつの答えを導き出したのだ。
それは番外個体が指摘した通り、あまりに人道から逸脱した選択だった。
『感傷に浸っているところ悪いが、話を進めても構わんか?』
「……あァ。好きにしろ」
今はできる限り、ひとつでも沢山聞いておくのが優先される。
この駆動鎧の意識も僅かずつだが薄れ始めているだろう。仕入れられる内に仕入れておきたい。
『首謀者の存在だが……それは我々にも知らされていない。指揮は全て統括使用式の極秘回線を
通じて指令が下っていた。少なくとも、理事会関係の人間であることは間違いない』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:02:09.76 ID:7MmK4SJe0<>
「……俺の記憶が確かなら、そォいった不定な派閥は木原の施設を潰した後で一斉摘発された筈
だが? その辺の事情は一体どォなってやがる?」
『ふっ…』
表情は窺えないが、駆動鎧に包まれた顔が微笑したのは判った。
『ああ、その通り。確かに当時の計画に絡んでいた輩は一切の漏れなく検挙されたよ。ただし―――』
『――――あくまで、“当初”のだがな……』
「…………」
つまり、あの事件以降に新しく設立された組織が主な敵の全体像となるわけだ。
その存在を、駆動鎧はこう総称した。
『新入生』と――――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:04:11.02 ID:7MmK4SJe0<>
結局、そこまで話した直後に彼の意識は失われてしまう。
放置する訳にもいかず救急車を呼んだ後、一方通行と番外個体はその場から静かに立ち去った。
路頭を歩く二人。
空気が、若干の重苦しさを放っていた。
結局、現段階ではそれ以上に行動の起こしようがない。
わかったのは敵の明確な存在だけ。あとはその目的くらいか。
平和な時間など、やはりそう永くは続いてくれなかったのだ。
彼等の特殊な立場が、それを許してくれそうになかった。
一方通行はそのことを悟っていた。だから暗部の世界に残ったのだ。
自分の身柄と力を交渉材料に持ち出し、他の縛られし人間を呪縛から解放させる。
そして、彼女と彼女達の平穏を保障させる。
そのためなら自己犠牲など、何の苦にもならない。みっともなく我武者羅にもがいて無条件に手に
した平和など、程なく打ち砕かれるものだ。
だから一方通行は“大人”としての用法を駆使したのだ。
忌み嫌う学園都市に。金と権威に溺れた醜い連中相手に。
真っ向から立ち向かうだけじゃ護れないと悟った。
だが、結果はこれだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:06:21.60 ID:7MmK4SJe0<>
思っていた以上に反吐の出そうな裏が、しっかりと用意されていた。
所詮、自分は闇の底を計り違えていたのだ。自分が今佇む闇よりももっと深い世界が、今現在も
拡大され続けている。
どれだけ底へ潜っても、いっこうに到達できない。まさに“深海”と一緒だ。
まだ人生経験豊富とは言えない一方通行が知るには、早すぎたのかも知れない。
大人の汚い内面を知ってしまうのが、そもそも早すぎた。
そして、正解な足掻き方すらもわからない現状。
歯痒さ、なんてものではない。舌さえ噛み千切ってやりたいくらいだ。
しかし、隣りを共に歩いてくれるこの少女。
番外個体。
無言で俯いているが、手はしっかりと一方通行の杖を持たない手を掴んでいた。
いつもみたいに腕を組むのとは明らかに違う意図が、確かに感じられた。
不安、心配、恐怖、一体どれが正しい感情なのだろうか。
敵に怯えるのとは違う。一方通行に迫りつつある死への恐怖。
近からずも、遠からず……か。
やがて人の賑わう場所まで来た二人。
そこを見計らったかのように、番外個体が明るい声を発した。
「ねえ、暗部活動はしばらく廃業ってことでいいんだよね?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:07:40.12 ID:7MmK4SJe0<>
「あ? 何だ急に……。……まァそォなるだろォな。知られなくていいことを知っちまった俺に
あいつらが仕事を回してくるとは思えねェ。……謹慎処分みてェなモンか」
すると、それまでの空気を打破する案が番外個体の口から告げられる。
「んじゃさ、明日は思いっきり遊んじゃお☆」
手繋ぎ状態から腕組み状態へ移行された。
まるでおねだりモードだ。だが、特に抵抗の意思表示は見せない一方通行。
少しの間、空虚を見上げてからこう答えた。
「あァ、いいンじゃねェの?」
「え…?」
これに驚いたのは番外個体。鳩が豆鉄砲を喰らった顔とはこの事だろう。
「誘った当人が何驚いてやがる?」
「いや、意外とあっさりってか……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:09:29.65 ID:7MmK4SJe0<>
「たまには悪くねェと思っただけだ。別に深い意味なンざねェよ」
少し照れたように目を逸らされた。
どこまでも素直になれない彼だが、それから番外個体の機嫌がずっと最高潮だったのはもはや言う
までもない。
「最終信号も連れて遊園地、なんてどう?」
「……そォだな。そォ言やァ前にそンな約束してたっけ……」
「けってーい♪ そうと決まったら早速最終信号と合流しなきゃね。19090号と一緒のはずだから」
「お、おォ…」
振り返ってみると、打ち止めの様子が気に掛かって仕方なくなってきた。必ず迎えに行くとも言った
し、口約を果たす機会もできた以上、一刻も早く駆けつけてやりたい。
しかし何より、恐い目に合わせてしまったから心配だというのが一番大きかった。
まずは居場所を突きとめなければ。と、番外個体から携帯電話を借りる。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:10:18.70 ID:7MmK4SJe0<>
―――
一方その頃、番外個体が一方通行の元へ向かってしまったせいで優遇的に御守りを任された19090号と
打ち止めは、すぐ近くにある公園へと立ち入っていた。
ベンチに座り、ジュース缶を握り締めた打ち止めはどこか俯きがちで浮かない顔をしている。
19090号はその様子をただ心配そうに見つめるだけだったが、しばらく考えて声を掛ける事にした。
「……大丈夫ですか? とミサカは20001号(上位個体)を気遣いつつ声を掛けてみます」
「………うん」
声にもいつものような元気は感じられない。
詳しい経緯を知らない19090号はどう接してやるのが正解なのかが掴めずにいた。
「……………」
それからまた沈黙が訪れる。
居心地悪そうに貧乏ゆすりを始めた19090号の方を見ないまま、打ち止めが重たげな口を開く。
「……あの人、大丈夫かなあ。ってミサカはミサカは呟いてみたり…」
「一方通行のことはひとまず番外個体に任せるのが賢明だと思いますが……」
「そっちの意味とは少し違うんだよね。ってミサカはミサカは否定してみる」
「?」
ではどういう意味なのか。と表情で尋ねる19090号に、ようやく顔を上げた打ち止めは少し声の
トーンを高くして言った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:12:03.05 ID:7MmK4SJe0<>
「ミサカはあの人に“来るな”って言われたのに、追いかけちゃった……。だって、心配だった
んだもん。折角また平和になったのに……あの人はもう辛い思いなんかしなくていいのに……。
どうして? ってミサカはミサカはやりきれない心中を吐露してみたり」
苦痛に歪む打ち止めの顔を、19090号はただ直視していた。
ネットワーク経由で大まかな事情を知っているだけに、言葉の選択が難しいようだ。
前に一方通行が木原数多に監禁されてしまい、音信不通となってしまった時、打ち止めは誰よりも
一方通行の身を案じていた。それ故に一方通行が事件に巻き込まれるのをただ黙って見ているなど、
できる筈もなかった。
来るなと言われたところで、足は本能に従い動いてしまっていたのだ。ほぼ無意識の内、と言って
も過言ではない。
打ち止めを救うため血みどろになり、番外個体を救うためボロボロになった一方通行。
『もう良い。もう彼にも、いい加減に安息が訪れたって良いじゃないか。彼が辛い目に遭ったり、
彼が危険に足を踏み入れなきゃならない理由なんて、もうどこにもないだろう?』
打ち止めの強い本心がそう叫んでいた。
「何でみんなあの人を放っておいてくれないの? 学園都市第一位だから? 最強の能力者だから?
わかんないよ……。強い力を持ってるってだけで、何でみんなしてあの人を虐めるの? ミサカ達
はただ平和に生きていたいだけなのに……。このままじゃ、あの人………本当に壊れちゃうよ」
最後は消え入りそうな声だった。涙ながらに心の内を吐き曝す打ち止めの姿は、とても痛々しく儚げ
で目を逸らしたくなる。
しかし、19090号は打ち止めの肩にそっと手を置き、辛辣ながらも言葉を綴った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:13:27.84 ID:7MmK4SJe0<>
「心配なのはよく知っています……。ですが、堪えるしかありません。それが彼の選んだ道なのです
から、ミサカは愚か、あなたでも立ち入ることは敵わないでしょう……。ミサカ達が一方通行に抱く
感情は上位個体や番外個体に比べて軽いものでしかありませんが、それでも願おうと思います。この
ミサカでもできる唯一のこと……」
「願……う……」
「祈りましょう。いつか一方通行も含めた皆が、一切の汚れや乱れた秩序のない場所で、笑いながら
過ごしていける日を。………それが、このミサカも好意を持つ“あの方”の願いでもあるのですから」
遠い目で虚空を見ながら、優しい唄でも歌うように語り続ける下位個体。
打ち止めの表情も、幾分落ち着きが戻っていた。
「……あの人、言う事聞かなかったミサカのこと……怒ってるよね。ってミサカはミサカは自嘲気味に
笑ってみたり」
「謝るしかないですね……。間違いや失敗や正しくない判断は全ての人間に付き纏うものです。だから
世には“謝罪”という言葉があるのでしょう。と、ミサカは悟ったように呟きます」
普段とはずいぶん違う様子で子供をあやす19090号。番外個体が見たらきっと面食らうだろう。
「それにミサカの勘が正しければ、一方通行は上位個体に対してもう怒りは感じていないかと思います。
と、ミサカは何となくですがそう推測します」
「そう……かなぁ?」
それでもやっぱり不安そうな打ち止め。
するとそこへ―――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:14:03.77 ID:7MmK4SJe0<>
「っ! ミサカのケータイだ!」
―――――ピリリリリ、と電子音が鳴り始めた。表示は『番外個体』。
「も、もしもし!? ってミサカはミサカは――――――」
打ち止めは躊躇うことなく電話に応じる。
そんな中で先の展開も予測できているのか、19090号は慌て口調な打ち止めの隣りで薄い笑みを零した。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/12(火) 00:21:47.49 ID:7MmK4SJe0<> ここまででようやくひと区切りです
ワケ解らんって人のために産業
・木原くンは上層部に『一方通行の脳提供』を交渉されていた←前回参照
・摘発された後にに後継人的派閥ができた。
・そいつらに一方さんが狙われる
……うん、多分こんな感じ……かな?
次回は番外通行の夜パート2です
一部公開的なのは敢えて無しです
多分三日後くらいに来ます
お付き合い頂いた方、ありがとうございました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2011/04/12(火) 00:23:43.29 ID:tIA3dx0AO<> 投下乙!
夜パート楽しみにしとく。全裸で。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/12(火) 00:24:35.89 ID:jvJ3o9eJo<> 乙
アオザイやら「新入生」やら新約ネタもちょくちょく拾ってるのな
これは可愛い可愛い新入生にも期待が持てる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/04/12(火) 00:58:55.64 ID:R5GoSyFTo<> これはまさか…窒素コンビか…?
乙
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2011/04/12(火) 04:52:27.98 ID:wpXcykLh0<> なんか違う鎌池さんがいるみたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/12(火) 08:55:02.63 ID:uHXjdH/SO<> 投下乙
続き楽しみにしてるよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/12(火) 21:58:47.04 ID:hpZ/BKvj0<> >>307
女子高校生・鎌池洋馬でピッタリだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/04/12(火) 23:44:08.87 ID:awo4NGzho<> 乙
相変わらず面白いな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/13(水) 18:54:47.99 ID:7sutwrvy0<> 自分も地文形ss書いてる側ですが、いつも勉強させてもらってます
新入生登場フラグktkr
てかアオザイってベトナムだったんだ・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/13(水) 19:52:12.64 ID:iCoioFdY0<> >>309
ちょ、おま・・・それをここでいうとは・・・・。お主何者だ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/14(木) 18:59:40.05 ID:/+YBEr9J0<> >>309
え?>>1って女子高生なの? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/15(金) 15:54:44.39 ID:Wr7iOzAC0<> >>313
元ネタはかまちー総合のかまちーは女子高校生というネタ。確か。
実際に>>1やかまちーが女子高校生かは知らんけど。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/15(金) 16:48:16.91 ID:gaTL9iYL0<> >>314
かまちー総合のかまちー?
かまちーはクローンでもいるのか? <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/15(金) 20:07:41.35 ID:LvToF1A+0<> 女子高生と触れ合いたい>>1です
では二人のプライベートをまた少し覗……いや、更新したいと思います
R-18を期待していた方には先に謝っておきます。サーセン
私にそんな技量はなかった…
では投下 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:09:56.27 ID:LvToF1A+0<>
◆ ◆ ◆
その日の夜。
疲れが溜まっていたのもあったせいか、ソファーにごろ寝したまま動こうとしない一方通行の上に
番外個体がピョンと飛び乗ってきた。
「ぐほォ……!」
「よう、カバさん。そのまま夢の世界へ旅立つってんなら全力で阻止させてもらうけど?」
「………重てェから退け」
脱力状態のまま忠告する。
が、無論却下だ。
「せめてベッドの上にしときなよ。風邪でも引かれたら面倒臭いじゃん。看病とか看病とか、あと
看病とか」
「わかったから連呼すンな。しかも耳元で……。っつか、何だァその珍妙な格好は?」
いつの間にやら着替えていたらしいが、彼女の服装の奇抜さには刮目せずにいられなかった。
こんな民族舞踊に使われそうな服なんて買ってたっけか? と首を傾げる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:11:47.93 ID:LvToF1A+0<>
「ああ、これね。昨日黄泉川の家にいた芳川って人とたまたま会ってさ、そん時にもらったの」
「どう? 結構似合ってない?」と付け加えてくる番外個体。似合ってないこともないが……。
「何処の民族衣装だっつの……。相変わらず芳川のセンスはぶっ飛ンでやがる」
「福引で当てた景品らしいよ。確かベトナムで流行ってるとか言ってたっけ……」
通称『アオザイ』と呼ばれる衣装を着た番外個体は、うーんと考える仕草で上を見たままだ。
その姿をちょっと可愛いと思ってしまったのは是非内緒にしたい。
しばらく気づかれないように見とれていると、
「―――あ!」
自由気ままな番外個体がそこで何かを思い出したような動作を見せる。
一方通行は番外個体の下敷きになったまま何事かと思い、眉を顰めた。
「あのカエルからIDもらったんだよね? ちょーだい♪」
にんまりとしながら解読不能な事を言い出した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:15:38.67 ID:LvToF1A+0<>
これと並行して生まれてくる複数の疑問点を一方通行は容赦なく突いていく。
「……何でそれ知ってンだよ?」
「検査の時に本人から『もう出来てる』って聞いたからだよ」
「じゃあ何でそン時受け取っとかなかった?」
「あなたから渡されたかったの。カエルには『一方通行に渡して』っつっといた。ご苦労さまです♪」
超簡潔な回答だった。やっつけ仕事とも取れる早口なのがいかにも彼女らしい。
しかし、可愛子ぶりっ子全開で許しを乞われても駄目である。
つまりは単なる我が儘。それも自分が何も知らない内に勝手な茶番に付き合わされたようなものだ。
怒りは別にそこまで感じないが、このまま何の体裁もなしで済ませられるほどの軽罪でもない。
少なくとも一方通行にとっては。
「―――!」
と、いうわけで攻守交替。自分に馬乗りの番外個体からスルッと抜け出す。まるでタコ壺から外出する
タコのように滑らかな動きを披露され、番外個体は呆気なく脱出を許してしまう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:16:47.63 ID:LvToF1A+0<>
「あっ!?」
「ご苦労さまです、じゃねェンだよコラ。要するに俺はただの無駄足だったンじゃねェか!」
反逆の火蓋はここで切って落とされた。
これ以上ないほど的確に隙をついてやった。
一瞬何が起きたかも判らないまま、一方通行がさっきまで寝そべっていたソファーに成す術なく押し
倒される番外個体。
その絵面は寸分前とは綺麗なくらいに真逆だった。
身体の位置が入れ替わった事実を遅れながらも把握できた番外個体はひとまず口を動かす。
「ちょっ……」
何か言おうとするが、それは叶わなかった。出かけた声が強制的にストップされたとも言う。
自分の真上で少年は、意地悪を思いついた子供に類似した笑顔を曝け出していたからだ。
背筋が一瞬凍ってしまう錯覚を味わった。
「!!??」
咄嗟の、しかも予兆すらない完璧な不意打ち。おまけに不気味さ溢れる彼の笑み。
心が大きく乱れてしまうのも何ら不思議ではなかった。
「ククク……、ちっとばかし躾してやンねェとなァ。この俺を上手く尻に敷いてるつもりだったらしい
が、そォは問屋が卸さねェンだよ」
「………ふーん」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:18:36.82 ID:LvToF1A+0<>
読めた。というか非常にわかりやすかった。
つまり簡単に説明すると、この男はコキ使われて大変ご立腹なのだ。しかしながら怒りを全面に押し出
すのも今いち格好がつかず、こうしてささやかな反撃に転じ、こちらの恥辱心を刺激してやろうという
魂胆なのだろう。
まさに悔し紛れの一本背負いである。
主導権をたまには握りたい願望も混ざっているのだろうが、どっちにしろ底が知れていた。
可愛い子供がよく行う手段を不気味な笑顔で実行する一方通行の姿。
これをからかいのネタにしない手はない。
魔性の囁きが番外個体の目をキラリと光らせてしまったことに気づかず、優勢に立てた喜びを雰囲気で
表現する一方通行。
嗚呼、実に誠に愚かなことよ。
というか程度が低い。
「………いいよ」
「あァ?」
可憐さをポイントに放つのが一つの鍵だ。
未経験の域を軽く超えた番外個体の反撃が始まる。
「あなたの躾だったら、ミサカは喜んで受けるよ? だから……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:19:27.43 ID:LvToF1A+0<>
「オイ、オマエ急に何言い始めt――――」
「ミサカの身体、あなたの好きにしていいよ。何なら痛くても……///」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:21:01.63 ID:LvToF1A+0<>
とどめはモジモジと身を捩じらせるこのアクション。
成果のほどは報告するまでもない。
「…は……いや、待て………なに?」
言っては悪いかもしれないが、間抜けな最強の図がここに誕生した。
今しがたまでの勢いは瞬速で低落し、青ざめた一方通行は自身の突発的な行動を振り返り、酷く後悔
した。この反応が返ってくるなど予想しているはずもないのは、彼の顔がしかと教えてくれている。
“ただ少しお仕置きするだけのつもりだったのに、何で世の中はこうも思い通りにいかなすぎるのか?”
彼が今思っていることなど、大方この辺りが関の山であろう。
所詮、どんなに強いからといって必ずしも全てを制圧できるとは限らないのだ。
喩えるなら『愛着の深いパートナー』やら、『大切が故にめっきり頭の上がらない同居人』やら。
挙げるとそれこそ収拾がつかないだろう。が、そのおかげで世界は安定して廻っているのかもしれない。
「ぶふふっ、なーに? ミサカに爪痕を刻むんじゃなかったの? 早速怖気づいた?」
「……………」
あれ? と番外個体はそこで不審に思う。
空気がそれまでと一変したのが判ったからだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:22:33.34 ID:LvToF1A+0<>
あまり弄りすぎて暴走でもされたら本末転倒だと早々にネタを暗示しているのに、一方通行の様子が
どこかおかしい。
見上げるとすぐ側にある顔は青ざめてもなく、かといって怒りも感じられない。何か深い悩みがよう
やく解決したような、そんな顔をしていた。
「………どうしたの?」
からかうのを止め、尋ねてみる。
すぐに返事はきた。
「―――ッ!?」
ただし、それは言葉ではなかった。
すぐに番外個体の脳神経が激しく波を打つ。
起こされていた身体を倒したかと思う間もなく、番外個体の身は一方通行の華奢な両腕によって
包まれていた。そっと優しく、そして力強く。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:24:42.44 ID:LvToF1A+0<>
まさか突然覆い被さってくるとまでは思ってもいなかった。
思考が突然の不意打ちでショートしそうになる。
「ア……アクセラレータ……?」
ふいに呼んでしまう。冷静に努めようにも、心臓がドックンドックンと騒がしくて気が気ではない。
こんな展開は今までの記憶になかった。
何故、彼は今、仰向けになった彼女の身体を覆い、抱きしめている?
今一番知りたい事は明確なのに、答えはなかなか返って来てくれない。
「ねえ……、アクセラレータってば」
密着状態の彼へ再度声を掛けるが、依然として反応はなかった。
代わりに腕の力が強く込められたのを感じる。
どうすればいい? ここはされるがまま?
番外個体は何が何だかわからなくなっていた。
いつもは自分からちょっかいをかけ、彼が反抗しようと調子に乗り、こっちが最終的に激昂して
向こうも減らず口で応戦して―――――こういったサイクルではなかったか? <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:26:20.87 ID:LvToF1A+0<>
段階を無視したこの進展に正しい返し方なんてすぐには出てこない。
耳年増なのは何も一方通行だけではないのだ。
よく卑猥な表現が好きな人間の中には、実際にその状況が一切の洒落抜きで訪れたら化けの皮が
即剥がれてしまい、遂にはガチガチになってしまうタイプもいる。
今の番外個体の姿はまさにそれと比例していた。
だが、一方通行の意図は未だ不明瞭である。
一体彼の中でどんな深層心理が働いたのか。
やがて、そこからの長い沈黙の後、ようやく一方通行の声が耳に入った。
「………すまねェ」
「……?」
この謝罪の意味は果たして何だというのか。
わからない様子で瞬きをする番外個体の顔を、ゆっくりと見下ろした一方通行。
そのままの体勢でこう言った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:30:21.97 ID:LvToF1A+0<>
「また面倒な難関が足音をたてて、こっちに近づいて来てやがる……。何となくわかるンだ」
「それで…?」
「その時、オマエを隣りに居させるわけにはいかねェ。………だから――――」
「――――それ以上っ!!」
ほとんど無意識で、条件反射みたいに紡がれようとしていた口文を寸断した。
「その先を一言でも口に出したら……! 顎、叩き割るよ?」
一方通行が何を言おうとしていたのか、咄嗟に本能で察知できたからだ。
あの場に運良く立ち会えたからとか、そういう前項があろうが無かろうが関係ない。
きっと彼の判断は他人から見たら正しい選択なのかもしれない。
だが、そんな苦渋の選択の先に安泰が待っていてくれる定義などもない。
だったら、死ぬまで。
朽ち果ててしまう時が来ようとも、最期までこの人と一緒に居る。
番外個体の答えなど、最初からずっと決まっていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:33:08.37 ID:LvToF1A+0<>
しかし、一方通行はそれでも恐かった。
あの駆動鎧が言っていた『新入生』の未知な影。
木原数多が残した危険因子とも取れる彼等の存在が、今後どのような悪影響を及ぼしてくる
のか、この時点では何もわからない。調べる術もない。暗部の世界では電話一本が繋ぎだった
のだ。その回線も秘匿モードへ設定されていたのをさっき確認した。
おそらく、自分が知らない所で悪循環が働きを促進させているのだろう。
所在を知られているのか、そうでないのかも不明。
数分後に襲撃されるか、それとも明日の朝に寝首を掻かれるか、それも不明。
あまりにも情報不足すぎて、不安しか生まれてこなかった。
知っているのは、その『存在』と『目的』だけ。
幸いなのは連中の目標が自分(一方通行)に集中していることだ。
番外個体や打ち止めが直接理由に関与しているわけではない。つまり、言ってしまえば自分が
首さえ差し出せば、敵は彼女たちにまで害を及ぼしたりしないはずである。
しかし、このまま彼女をここに置いておけば、“利用材料”として手に掛けられてしまうのも
時間の問題。
もしそうなってしまったら……。考えるのも恐ろしいことだった。
だからせめて、自分の側から番外個体を離れさせよう。
一方通行の思考は、こういう苦肉な方向へ進んでしまったという訳だ。
だから番外個体は、即答で彼の思案を前提から否定した。
“ふざけんな”という全身全霊の想いを込めて。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:34:50.56 ID:LvToF1A+0<>
「ミサカはあなたと一緒だよ。あなたが先に死ぬのは許さないし、ミサカが先に死んだら
あなたが苦しむから、ミサカも先に死んでやらない……」
一方通行の細い身体に両腕を回し、はっきりと宣言する。
「死ぬときが来るんだとしたら、そのときは二人一緒以外じゃなきゃ嫌。何が起きたって、
絶対にあなたから離れないもん」
「……馬鹿野郎が。たまには俺の言う事に耳を貸せってンだよ……。あのガキだってそォだ。
どいつもこいつも、好き勝手に俺の周りに寄って来やがって……」
「最終信号も、このミサカも、きっとそれが幸せだって信じてる」
「馬鹿が……。悩ンでた俺も馬鹿だクソったれ……。ホントにいいのかよ? 俺はオマエ達
を……」
“守り切れないかもしれない”、と言いかけて止める。
その言葉だけは、口にしてはならなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:36:45.18 ID:LvToF1A+0<>
番外個体は一方通行のそういった心理を全部見透かしたような微笑みを浮かべ、包む両腕に
更なる力を込めた。
「ミサカ達は、いつまでも守られきゃ生きていられない存在なんかじゃないよ。……ううん、
今度はあなたを守る側に回らなくちゃね」
「…………」
番外個体の胸に頭を押し付けたまま、一方通行は安心したように瞼を薄っすらと閉じる。
気分が心地よく、和らいでいく。
薄汚い神経や醜い情感が、隅々まで浄化されるような感覚をしばし堪能する。
そして――――。
「……悪い、今さっきの事なンだが……綺麗さっぱり忘れてくれ。我ながらくだらねェ思慮
に囚われちまった」
「あなたも偶にはナーバスにくらいなったっていいじゃん。同棲してるんならそういう所も
寛容しないとね☆ 今日みたいに情緒不安定な時は、ミサカの胸で良かったらいつでも貸
してやるよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:37:41.28 ID:LvToF1A+0<>
「…………」
弱い自分を見られるのはどうにも居心地が悪い。
背中に背負った十字架をたまには下ろしてもいいんじゃない? と言うこの少女も例外では
ないのだが、まだ気分は軽かった。
それは同棲人として、心を許している存在として、自分が彼女を特別な目で見ているから。
………なのだと思う。
ともあれ、番外個体の柔らかな身体に包まれているうちにモヤモヤしていた心もかなり和ら
いでいた。そろそろ密着した肢体を分離させないと、番外個体の胸で窒息死してしまう。
ところが、手をソファーにつけてゆっくり身体を離そうと起き上がった時――――。
「――――――ッッ!?!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:38:57.30 ID:LvToF1A+0<>
それは起きてしまった。
何気なく番外個体の顔をふと覗き込んだのが最大の元凶である。
番外個体は一方通行の動きが自分の顔を覗くために停止した事を把握する前に自らも身を
起こそうとした。
中途半端に番外個体を真下に見下ろす形で急停止する一方通行。
一方通行が起き上がるのを神経で察知し、自分も起きようと頭を上げる番外個体。
これら二つの事例が組み合わさった結果、どういう事に結びついてしまうのかはおそらく
もう理解できた人も多いだろう。
「………………………………」
かつてないほどに長い静寂が二人を包んでいた。
唇と唇。
心と心。
違った人間同士の愛情表現は、これらの呼称を一体化させるのが一般的と言われている。
言うならば“合体”。
前例は物理的に。そして後の例は心理的に。
もっとも具体的に挙げやすい例のひとつが今、ここで実遂された。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:41:01.75 ID:LvToF1A+0<>
接吻、キス、口付け、など様々な呼び方を持っているこの行為。そこに至るまでの過程や
種類も大変豊富である。
一方通行と番外個体。
彼等の現状を検察すると、この場合は“サプライズタイプ”もしくは“無作為タイプ”に
該当する。
まあ結局のところ、所謂“事故キス”というやつだ。
そんな出来事を何気ないタイミングで体験してしまった二人。だが、除々に双方から変化
が見え始める。どっちも驚いて唇を離そうとしなかったのは奇跡というべきか。
「……ん…」
時間が経つにつれ思考が働きを取り戻したのか、それとも元々この展開を胸の内で望んで
いたのか、どちらか定かではない番外個体が丸くしていた目をそっと閉じる。
「………!」
続けてゆっくりと身を預ける。離れるどころか更に密着を求める番外個体の大胆な所業に
一方通行はただ固まるしかない。
言葉を発するのも不可能だった。その口を塞がれてしまっているのだから。しかも言葉を
投げたい相手本人の口で。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:42:10.88 ID:LvToF1A+0<>
どうしたらいいのか、わからない。
思考がおかしい。脳がまともに機能しない。
離れるタイミングも、拒むタイミングも完全に逃してしまった。そもそもどうしてこんな
展開が急に訪れたのかがまず難儀である。
(どォな…ってンだよ……。なンで……)
密着された身体を分離させる気にも、押し付けられる柔らかい唇からの感触から逃れる気
にもなれなかった。
そこで更に疑問が湧く。
自分は拒みたいのか? 本気で拒絶したいだなんて思っているのか?
本当は愛しい彼女とこんな行為に浸りたかったのではないのか?
そうだろう?
あの時、番外個体がロシアへ帰ってしまった時から気付いていたのだろう?
彼女に対する、この“想い”の正体に。
だったら後はどうする?
簡単だ。告げればいい。
一方通行が心の奥に隠している番外個体への気持ちを、自身の本音を、一言一句漏らす
ことなく伝えてやればいい。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:43:44.76 ID:LvToF1A+0<>
いいかげん、自分に正直になってみろよ―――――と、葛藤は激しさを増すばかりだが。
(待てよ……。待て!! このまま流されちまうのは……!)
「――――ぶは…っ! 番外個体! 待て、ストップだ!」
(………ダメなンだ……。まだ――――)
(―――――まだ、俺自身の問題が消えてねェ。それに………)
紅潮した頬で甘い時間を嗜んでいる番外個体の両肩を掴み、押す。
そうして引き離したことでようやく重なり合った唇は解れ、顔が向き合う形になった。
薄っすらと開いた番外個体の目には名残惜しさが浮かんでいたが、一方通行は真剣な顔
で伝えようとした。――――が、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:46:08.99 ID:LvToF1A+0<>
「すまねェ……。けど、まだ――――ッ!?」
「……っ!」
離した唇が、一方通行の話を待たずに襲い掛かった。
接近し、もう一度重なる少女の顔と少年の顔。
再び訪れた甘い空間。
彼等の居内が蕩けそうな色彩に染まっていく。
今度は番外個体の方から口を離して開く。
「もう……、待ってらんないよ。あなたの罪の意識が晴れるまで、ミサカは一体どれだけ
待てばいいの?」
積極的に一方通行を求め始めたその真意を、切なげな目で露にした。
「……ッ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:47:21.17 ID:LvToF1A+0<>
胸が痛かった。
チクリと針で刺されたような、それも至る箇所を断続的に突かれるような。
そんな痛みが一気に押し寄せてきた。
番外個体の目は、潤んでいたから。
彼女が何を言いたいのかも、想像できてしまっていたから。
だからこそ、一方通行の心は余計に痛みを感じていた。
「あなたがミサカに何もしてこない理由なんて、とっくに知ってる……。このミサカが
何のために作られたのか、あなただって良く知ってるでしょ?」
潜んでいた真意が、深海から水面へ浮上するように晒されてしまう。
彼女が気づいていることさえ、本当は気づいていた。
結局、ここでも自分は甘えていたのだ。
それに気づいていないフリで貫き通そうと―――――。
そう、全て自己欺瞞だ。
とっくに自覚していた。しかし、認めることに対して恐れを抱いていた。
「ミサカの気持ちはもうあなたに云った。……一生あなたの傍にいたい。ずっと、死ぬ
まで一緒にいたい。……あなたは?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:48:13.93 ID:LvToF1A+0<>
まだ、彼の口から直接伝えていなかった言葉。
そしてこれを言ってしまえば、おそらくもう―――――。
「……言っただろォが。オマエが一人でも生きていけるよォになるまで、俺がずっと―――」
「それじゃあいつかは別れが来るってことでしょ? ……それがあなたの答えなら、もっと
ストレートに告げて」
引き下がる姿勢? そんなものはどこかへ綺麗サッパリ放り投げてしまいましたという表情
で促される一方通行。
ここまで来ると、下手な言い逃れや抗弁では手の施しようがない。
番外個体の頑固さは、これまでの共同生活のおかげで否応にも知り尽くしている。
潮時、か。
これ以上引き延ばしにはできないのが、空気からも伝わってきている。
「………番外個体」
ちゃんと言葉に出して伝えて欲しい。証が欲しい。番外個体の瞳がそう訴えていた。
一方通行が、ゆっくりと静かに紡ぎ始める。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:49:29.94 ID:LvToF1A+0<>
「上手い言い方なンざ知らねェ。オマエの期待に添える自信もねェ。我ながら情けねェかも
しれねェが、俺もまだ手探り状態なンだよ」
「けど、俺の意志……オマエへの気持ちだけは、はっきりしてる。俺もずっとオマエと一緒
にいたい。嘘や偽りはどこにもない。俺の心からの願いだ」
これを聞いた瞬間、番外個体の表情は驚きと嬉々が入り混じったものへと変化する。
やっと、言ってくれた……。
悶々としていた感情に、満足感が姿を見せ始める。
一方通行の詠いはまだ続く。
「オマエの見通しに間違いはねェよ……。オマエの想いに身体で応えてやるのは、もォ少し
時間が掛かっちまいそォだ」
「すまねェな。こンな臆病者でよォ……。けど、必ず応える。待っててくれなンて言わねェ。
ただ、俺を信じ続けて欲しい。………駄目か?」
番外個体は一つ一つの言葉を胸に刻み、頭に残し、その上で微笑みを見せた。
僅かに首を頷かせ、濡れた目元を拭い、いつもと変わらない笑顔を再臨させる。
ようやく心の声を聞かせてくれたことに対する確かな喜びが、彼女の顔色から感じられた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:51:03.74 ID:LvToF1A+0<>
そして、この短くこそばゆい物語は佳境へ突入する。
最後に一方通行は、そっと彼女の肩から首に手を回した。
「ありがと……な。オマエを大切にしたい。だからこそ今は時間を掛けて、少しずつ進ンで
行きてェンだよ」
少しずつ、顔と顔の距離が縮まっていく。
反射的に目を瞑る番外個体。
彼女が真っ暗な視界の中で聞いた声は、こうだ。
「―――――今は、これが俺の精一杯だ」
一方通行の澄んだ声。その直後、唇に当たる愛しい感触。
そう、彼は初めて自らの意思で―――――、
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:52:29.94 ID:LvToF1A+0<>
「あ……んっ、んん………っ」
―――――― 番外個体と口付けを交わした。
言葉以上の熱い気持ちが込められた、優しい唇から漏れる吐息。
二人の世界、二人だけの世界。
完成したばかりの園で、彼等は互いを求め合う。
ついばみ、触れあい、囁きあう。
それ以上はまだ進めないが、今二人にできるのは現時点でそこまでだが。
今はこれだけで、充分幸せだった―――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:54:03.37 ID:LvToF1A+0<>
「今日はもう寝よう? 明日も早いしね」
「あァ、そォだな……。寝るか」
今日のスイートタイムは、ひとまずここまで。
抱き合った姿勢のまま、意識はゆっくりと落ちていく。
「明日はあなたも少しくらいハメ外してね。いつも肩肘張ってばっかじゃ、疲れちゃうよ」
眠りに落ちる直前、横で眠る番外個体がそんなことを言ってきた。
既に朦朧としていた一方通行は、一度だけ頷くように首を下げ、隣りの番外個体を優しく包み込んだ。
そして、嬉しそうに目を細める番外個体。瞼を完全に閉じ、その身を包む本体へ遠慮なしに委ねる。
少しだけの進展と共に、今日は明日へと移り変わっていく――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:56:24.15 ID:LvToF1A+0<> はい、A入りましたー!ってことでここまでです
ぬるくてごめんなさい。何か最後っぽい感じになったな…
次回も少し間が空いちゃいますが、気長に待っててくれたら嬉しいです
では一部公開(後悔)
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 20:59:00.44 ID:LvToF1A+0<>
一方通行「やっと入れたか……。っつか、どこもかしこも人だらけだなァオイ」
番外個体「うわあ……噂には聞いてたけど、想像以上に胸躍りそうだねこりゃ」
打ち止め「はやくはやく! ミサカが乗りたいヤツ混んじゃうよー! ってミサカはミサカは急かしてみたり!」
――――――――――
美琴「あっれー、どうしたのよ黒子? まさか私が気づいてないとでも思ってたワケ?」
黒子「お、お、お姉様………?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/15(金) 21:01:44.54 ID:LvToF1A+0<> ん? 手抜き感がバリバリ? 気のせいだ
さて、次回は打ち止めちゃんお待ちかねの遊園地です
ほのぼの期待は多分地獄を見ます
ではまた
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/15(金) 21:02:06.83 ID:zm/7VZp70<> おつ!
やべぇ、にやにやにや <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/04/15(金) 23:39:32.47 ID:KGY5zLSIo<> やっはーいいなーすっげえいいなー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/16(土) 10:53:09.60 ID:lOjnnw6u0<> 一方さん包茎……?
なんにせよ乙!
アオザイ番外と一方のベッドシーンとか想像しただけで三杯イケるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/04/16(土) 12:02:50.38 ID:sl2szYHf0<> 一気に最後まで行ってしまうよりこういうペースの方が好きだな俺は <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/17(日) 01:06:35.03 ID:/990jIdf0<> じわじわ焦らし派ですかそうですか・・・
いいぞもっとやれ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/04/17(日) 02:03:00.72 ID:SSNq+NQX0<> ふむ、こういう展開、GJ!
次に期待!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/17(日) 23:05:19.94 ID:iSL2iWWD0<> >>315
かまちー総合スレで、かまちーは女子高校生なんじゃないか
って話題が出たという事じゃね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/17(日) 23:53:25.09 ID:/990jIdf0<> >>352
うっそマジ!?
だが有り得ない話じゃないな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/18(月) 16:21:44.24 ID:rAQrphiH0<> もしかして>>1も女子高校生で黒子のような性癖を・・・。
かまちー=むぎのんみたいな容姿(中身はアンジェレネ)
>>1=あわきんみたいな容姿(中身は黒子)
やべェ、イケる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/18(月) 19:20:10.96 ID:+HmbwThY0<> >>354
有名処だと「この作者さんってどんな人なんだろう?」とはよく思うけど、
いや〜、その発想はなかったわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/19(火) 20:37:51.81 ID:wGr2bdv40<> 前作一気読みしてきた!最高でした!
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/20(水) 20:56:52.17 ID:2ugeZ1TB0<> いつもレスくれる方、本当にありがとうございます
そして遅くなってすみませんでした
大した量は書けてないですが、投下します
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 20:57:59.08 ID:2ugeZ1TB0<>
◆ ◆ ◆
第六学区は、レジャー施設がこれでもかとばかりに密集した区域である。
遊園地、動物園は勿論のこと水族館や映画館といったあらゆるアミューズメント、テーマパークが一通り
揃っている。
外部から来た観光客や都市内に住む学生など客層も幅広く、休日は最も人の多く集まる学区としても有名
なスポットだ。
そんなメルヘンチック溢れる場所に、彼等は来ていた。
「うーわ……、思ってた以上の列だねこれは」と、入場口の混み具合を評議する番外個体。
「あァ……考えてみりゃあ今日祝日だったか」と、全身でやる気の無さをアピールしながら吐く一方通行。
そして、
「おおー! さすがミサカ念願の聖地だけあって人気ですなぁ〜! ってミサカはミサカは前方がよく見え
ないのでピョンピョン飛び跳ねてみたり!」と、昨日の出来事を匂わせない太陽のような眩しい顔を辺り
に振り撒く打ち止め。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 20:58:43.47 ID:2ugeZ1TB0<>
「人の密集した所でポンポン跳ねてンじゃねェぞ、クソガキ!」
「だってだってー! ミサカはずーっとここに来たかったんだもん! ローテンションで臨む方が無理って
ものだよ少年。ってミサカはミサカはワクワクとドキドキが今にも破裂しそう!」
ちなみに現在は人の波に挟まれて思うように進めない状態だったりする。
杖つきの一方通行には相当辛い状況なのだが、そこは番外個体が絶妙にカバーしていた。
「ほら、進むから気をつけて! 最終信号も離れちゃダメだよ?」
一方通行の腕を持ち、身体を支えながらゆっくり前進する列に従う。
打ち止めもサポートしてるのかただじゃれつきたいだけなのかは知らないが、一方通行の腰にしがみ付いて
離さなかった。
「歩き辛ェ、帰りてェ」などとは間違っても言えなかった。
入場する前から軽い疲労感に早くも襲われている。
番外個体の胸が腕に当たるのも妙に意識してしまうし、一方通行の身体によじ登って前方を眺めようと目論む
打ち止めを制さなければいけなかったりと、とにかく入る前から色々忙しかった。
ようやく列の最前にたどり着き、チケットを購入して入園を果たした頃にはとりあえず一服することしか頭に
残っていない。だが無論、この申し出は却下された。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 20:59:52.22 ID:2ugeZ1TB0<>
「やっと入れたか……。っつか、どこもかしこも人だらけだなァオイ」
「うわあ……噂には聞いてたけど、想像以上に胸躍りそうだねこりゃ」
「はやくはやく! ミサカが乗りたいヤツ混んじゃうよー! ってミサカはミサカは急かしてみたり!」
三者三様の感想が漏れる中、移動を開始する。
入場した時に貰ったマップ兼パンフレットを見ながら、一方通行が打ち止めに尋ねた。
「おい、オマエが乗りたいって騒いでたヤツ……もしかしなくてもコレか?」
一方通行が打ち止めに提示したのは、
『リバース必死!! 夢遊病ルート確定!! 絶叫上等!! 学園都市が誇る最大のスリル!!
ようこそ音速の世界へ。命知らずなあなたは是非一度体感あれ!!』
などという馬鹿げたキャッチフレーズを売りにした超音速ジェットコースターの案内ページ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:01:02.78 ID:2ugeZ1TB0<>
「それそれ! ってミサカはミサカは長年の夢が叶う瞬間を今や遅しと待ち焦がれてみたりー!」
「超音速ぅ? げ……、あの恐怖は一般公開していい次元じゃないと思うけどな……」
「技術チームの連中が考える事ァつくづく理解できねェな……」
大げさか否か判別しかねる広告に言い様のない不安が押し寄せてくる。
打ち止めは相変わらず無邪気にはしゃいで一方通行、番外個体の手を引く。
そこで番外個体がある事に気が付いた。
(…! ちょ、ちょっと……? これって………)
気になったのは自分達の位置関係。
一方通行、番外個体、そして間に打ち止めを挟んだこの光景を客観視してみる。
「……………」
頬が熱を帯びてきた。どうしようか、このまま何も気づいていないフリを演じていようか番外個体
は迷う。
すると、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:01:44.75 ID:2ugeZ1TB0<>
「こうしてると、何だかミサカ達って本物の家族みたいだね♪ ってミサカはミサカは疑似体験に
まんざらでもなさそうな表情を浮かべてみたり」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:02:37.94 ID:2ugeZ1TB0<>
「!?」
おいいいい!! と番外個体は心中で叫ぶ。そんなハッキリ口にしたら横のこいつまで変に意識し
出すだろうがああああ!! と絶叫しようにも、大勢の人が周りにいる中ではそれも躊躇う。
一方通行も、極力なら目立つ行為は避けたいはずである。
そんな意図を汲み込んだ番外個体は、開き直る選択を取った。
「ふーん、確かにねえ。ミサカがお母さんで、あなたがお父さんで、最終信号がミサカ達のこ…っ///」
言わなければ良かった、と早くも後悔した。拷問並の羞恥が喉を詰まらせる。
「…………さっさと行くぞ」
明後日の方を向きながら一方通行が足を速めた。勿論照れ隠しなのは訊くまでもない。
年齢的に無理があるとは言っても、番外個体と酷似顔の打ち止めは母似の娘なんだと外野が捉えても
不思議ではなかったりする。
周囲の目線が気になるわけではないが、これも気持ちの問題だった。
こういった経緯の中、憩いに満ちたパーク内をいそいそと移動する三人。
やがて、打ち止め希望の乗り物が視界に入ってきた。
早速地上から車体がレールを滑走する様を拝見してみる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:03:45.48 ID:2ugeZ1TB0<>
「……………………」
速い。とにかく速い。もはや何人乗っているのかも識別不能であった。
あんなスピードであんな蛇みたいなクネクネしたコースを走行する上に、おまけに一回転まで付くのか……。
初見で意気消沈も珍しくないこのインパクト。にも関わらず、既にゲート前は長蛇の列ができていた。
無論入場する時ほどではないにしても、わけのわからない人気がここにはあるらしい。恐いもの見たさ
に似たような心理が、ここでは活性化されているみたいだ。
「……なァ。オマエ、あれ本当に乗ンのか?」
「も……もっちろん♪ ってミサカはミサカは即答してみたり」
あれを見て尚臆さないとは、どんな神経の持ち主なのか。一瞬声がくぐもったのは見逃しておくにしても、
この少女の肝っ玉にはあらゆる意味で呆れる。
隣りの番外個体にふと視線を向けてみると―――。
「うおおお!! 何アレ!? すっげえ面白そうじゃん!! こりゃ並んででも乗る価値ありそう☆」
「………………マジか?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:04:50.25 ID:2ugeZ1TB0<>
さっきまで『音速』にトラウマでもあるような怖気を見せていたのが嘘みたいである。
打ち止め同様、あの“速く走る電車みたいな何か”の魅力に憑りつかれてしまった番外個体。
ここからノーカットで一方通行による一人脳内葛藤の時間が再来する。
(冗談だろマジであれ大丈夫なのかよ? 娯楽とかアミューズメントの域軽く超えてンだろォがオイ……
リバースどころの騒ぎで済むのかがまず疑問じゃねェか? っつか、俺もあれに乗るの決定か?)
(イヤ、別に恐いわけじゃねェ。そもそもたかが遊園地のアトラクション如きで恐れを抱くなンて有り
得ねェだろ。っつーかアレ、音速の域に達してねェじゃねェか。ハッ、お決まりの宣伝文句ってヤツ
かよ。ちっと大げさに宣伝する事で客集めようって魂胆かァ。汚ったねェやり方だなァオイ。そンな
子供騙しに何でこの俺が付き添ってやらなきゃならねェンだっつの。まァ、大した事ァなさそォだな。
音速にすら届いてねェスピードってンじゃどォせたかが知れて―――)
「何やってんの! 早く並ぶよ! ってミサカはミサカは棒立ちしたままブツブツ何か言ってるアナタ
の腕を強く引っ張ってみたり」
「うォお!? ちょ、ちょっと待ッ―――!」
チーン、強制終了。又は時間切れとも言う。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:06:22.80 ID:2ugeZ1TB0<>
「っしゃあ! んじゃ、カッ飛びに逝きますか! いっちょ風になってやるぜ!」
番外個体にまで協力されたのでは、勝てる見込みは絶たれたも同然。
考える時間を所望する一方通行の声も虚しく、三人は列に並んでその時を待った。
やたらワクワクしている二人の少女に歯向かう術など、最初から無かったに等しい。
そこから大した時間も要さないまま人列はスムーズに流れ、彼等はとうとうゲート内に入ってしまった。
もう逃げられない。退路が完全に絶たれたわけではないが、ルート中こまめにセッティングされている
通称『ギブアップルート』に足を踏み出す度胸など、一方通行にあるはずもなし。
今か今かと胸を躍らせている番外個体や打ち止めに感づかれないよう、ただ横目でチラチラと窺うのが
彼の限界だった。表面上では「くっだらねェ……、何でこンなガキ染みた所にこの俺が」とでもぼやき、
いかにも興味なさげな感じで取り繕ってはいるものの、内心では言いようの無い不安が高まっている。
これが俗に言う、ポーカーフェイスである。
そうしている間にも列はじわじわと、焦らすようにだが着実に前へと流れていく。
あとはチケットを提示し、乗り口まで一直線だ。
割りと長く続いている通路を断続的に進んでいる最中、番外個体が唐突に尋ねてきた。
「アクセラレータ……まさか、怖いの?」
「……はァ? ナニ愉快な寝言こいてンだ? テンション上げすぎて着眼点おかしくなったンじゃねェのか?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:08:07.15 ID:2ugeZ1TB0<>
「いやあ、さっきから身体が小刻みに震えてるから、まさかなーって思ったんだけど……」
「はははっ、それはないよ番外個体。この人がジェットコースター如きでビビっちゃうなんて、世紀末
どころの騒ぎじゃないし。ってミサカはミサカはそう言いつつミサカも緊張が高鳴ってきている事実
に目を瞑ってみたり」
「……ケッ、くだらねェ。くっだらねェな。こンなモンに俺が付き合わなきゃならねェ事に対する苛立ち
から無意識に身体が震えてたンだ。天地が引っくり返っても有り得ねェ憶測を飛ばしてンじゃねェよ」
「だよねえー(ってミサカはミサカはー)」
何とか誤魔化すのに成功したらしい。
「実は不安です」などとは身体が裂けたとしても口にできない。少なくとも彼の性格では。
たとえ生身状態で臨むからという理由があったとしてもだ。その姿勢は単なる捻くれ者と大差なかった。
再び彼から目を離して通路上に見える景色を少女二人が観賞している中、一方通行の葛藤も密かに再度
幕を開けた。
(もォすぐか……ッ! どォする!? 間違ってもこいつらの前でみっともなく悲鳴を上げるワケには
いかねェぞ! けどこンな事で一々能力使用に切り替えるなンてどォ考えても馬鹿げてやがるし……かと
言ってこのままだと……!) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:10:29.94 ID:2ugeZ1TB0<>
どうする? どうするよ最強? 誰かがそう囁いているような錯覚に陥った。
通常モードのままで臨んだら一体どうなってしまうのか、彼は知っている。経験はなくても大方の想像
は容易い。だって自分自身の体なんだから。
こんな場所を訪れた過去は今までないが、無能力状態であれに耐えられるとは流石に思わなかった。
パラシュートを装着して上空四千メートルから落下するのと、裸で何の施しもなくビルの屋上から転落
するのとでは比較にならない。
安泰な手段を選ぶなら能力使用モードに切り替えればいい。そうすればあの程度の速さなど、自分でも
簡単に繰り出せる。風の抵抗や空間の高速移動なんかも、能力に充てられる演算ができれば何の障壁も
なくこなせてしまう。
しかし、残念なことにプライドが邪魔をしていた。最強の力をこのような娯楽の場で頼ってしまうなど、
一方通行にとっては非常に許し難いことだ。別の言い方をするなら“男の意地”である。
だが、一日フリーパスチケットを提示しなければならない所までもう差し掛かっている。あそこを超え
たらいよいよどちらかを選択しなければならなくなる。
(プライドを捨ててテメェの表面を守るか、それとも意地ィ張り続けてこのまま挑ンで無様に喚くか…)
二者択一。
くだらない事に見えるが、少なくともこの男にとっては深刻な問題だった。今後の自分に関わるから、
というのもあるので仕方無いのかもしれないが。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:11:31.77 ID:2ugeZ1TB0<>
(冗談じゃねェ! こンなふざけた場面で間抜けな絶叫なンて出来っかボケが! そンな恥ィさらして
生きるぐれェなら死ンだ方がまだマシだっつーの! プライドォ? ンなの知った事か!)
一方通行はプライドを捨てた。能力を使おう。迷わず使おう。これは有意の選択だ。
もし仮に逆の道を選んで男らしく華々と散る決意を表明したとしても、現実はおそらく残酷な末路しか
用意してくれないだろう。
彼女達の間でネタにされ続ける程度ならまだ易しい。が、打ち止めの事だから黄泉川や芳川に知られる
のは勿論、下手をすればネットワーク経由で一万人近い人間の脳内で自分の断末魔が晒されてしまう。
考えるだけでゾッとするような、恐ろしい未来だった。
(そンなモン持ってたトコで有効活用できなきゃ意味がねェンだ。乗ってる時間は数分もねェンだし、
それくらいなら何の支障もねェはず―――――)
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:12:30.23 ID:2ugeZ1TB0<>
「あ、乗車中は能力の使用厳禁みたい。ま、そりゃそうだよね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:17:00.20 ID:2ugeZ1TB0<>
(なン………だと?)
おそるおそる確認してみる。
すると、確かに注意版にはそう書かれていた。『乗車中の飲食、喫煙は禁止!』と表記されている下に、
何とも学園都市らしく、ご丁寧に。
「……………」
神は、何の前ぶれもなく死に絶えたようだ。
まるで、あと一歩でクリア目前だったテレビゲームが突然バグを起こした時のような虚しさが一方通行
をそっと包む。
注意看板に表記された事項を番外個体に読み上げられ、一方通行は凍りついていた。
唯一の活路はこうして赤子の手を捻るように淡々と打ち崩されてしまったわけだが、ここで一つ、ある
事に気がつく。
「オイ、そォいや身長制限とかねェのか? ここ」
「え……?」
キョトン、と滑稽な体勢で立ち止まる打ち止め。と、そこへこれまた絶妙なタイミングで係員が声を
掛けてきた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:18:51.53 ID:2ugeZ1TB0<>
「誠に申し訳ございませんが、そちらのお客様のご乗車はちょっと……」
「…………………」
規制マニュアルのようなものを片手に携えながら打ち止めと身長基準表を交互に見遣る係員。
今度は打ち止めに悲劇が襲い掛かった。
「やだやだー!! ミサカはミサカはすごく楽しみにしてたんだよ!!」
「我が儘言ってンじゃねェクソガキ! ルールなンだから仕方ねェだろォが!」
「ま、確かにお子さまにはちょーっち早すぎるかもねん♪」
当然打ち止めは駄々をこね、一方通行がそれを叱り、番外個体は楽しげな第三者側に回る。
一旦列から外れた位置でこの図式は数分ほど滞在した。
「とにかく、乗れねェンならここに居たってどォしようもねェな。他ァ行くぞ」
と言いつつ一方通行は出口へ足を向けた。新たな活路が開けた瞬間だ。まさしく好都合である。
打ち止めには可哀相かもしれないが、規則なら仕方がない。規則なら。
今の一方通行の顔を良く見てあげて欲しい。とても晴れやかだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:20:27.24 ID:2ugeZ1TB0<>
関門を越えたことによる安堵を隠しながら引き返し始める一方通行。と、そこへ背後から予想外
の言動が飛んできた。
「うーん、しょうがないな……。今回はミサカは我慢する! ってミサカはミサカは涙を呑みながら
非情な現実を受け入れてみたり。しょうがない、今回は若い御二人に譲ってやるぜ! ミサカの事は
気にしないで、仲良く楽しんできなさい」
「……は?」
何を馬鹿な事を言っているのかこいつは。一方通行は本気でそう思った。
折角三人で来ているのだ。打ち止めを一人待たせて楽しむなど、論外中の論外である。
その旨を伝えようとするが、
「ううん、いいの! ミサカにはまだ早すぎたみたいだし、もっと大きくなったら今度こそ絶対乗ってやる
んだから! ってミサカはミサカは新たに闘志を燃やしつつ颯爽と退場してみる〜」
「入場口の近くにあったベンチで待ってるからね〜!」と告げながらトテトテと去ってしまった打ち止め。
「……っと……つまり、どォなっちまうンだ? この場合は」
素で尋ねていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:21:24.46 ID:2ugeZ1TB0<>
「最終信号の分まで堪能しなきゃならんに決まってんじゃん! さあー行こうぜ♪ 科学の高みへ」
「―――いィ!?」
腕をホールドされ、行列の先端へ見事に復帰する二つの身体。
フリーパスも提示され、そのまま乗り口目前まで到達してからようやく一方通行は覚悟を決めた。
(クソったれが……。もォ、どォにでもなりやがれ!!)
打ち止めの退場により、一万人近い個体に醜態を晒す事態は最悪でも回避できそうだが、結局は同じ事だ。
四六時中、共に過ごしている少女の前では今更格好のつけ様がない。
「では、逝ってらっしゃーい♪」
係員の慣れた送り出し。それから一分後の事。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:22:18.81 ID:2ugeZ1TB0<>
「――――ぎゃああああひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっひゃ♪ ナニこれすげえ最高マジ快感!!
やべえこれ超面白れええええええええええええええ☆☆☆☆☆」
「――――うォ、あ、あ、ンぎゃァァァァァァァああああああああああああああああああああああ!!!!!
うおわァァァァァァああああああああああああああああ!!!!!」
学園都市最強の超能力者の大絶叫と、狂喜に憑りつかれたクローン少女の大爆笑が走行コース上に延々と
木霊する。もう、そこには意地もへったくれも存在しなかった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:23:08.25 ID:2ugeZ1TB0<>
―――
白さと悪戯が売りにして特徴の男女が音速モドキの絶叫マシーンを体験している頃、常盤台中学女子寮の
一室では事件……と言うほどでもない、ささやかな騒動が起きていた。
部屋の番号は寮監も目を光らせていることで有名なニ〇八号室。
となると、騒動の中心人物はもう決まっている。
「だから、違うって言ってんでしょ!! 昨日はその……ま、マンガ喫茶で一気読みしてたら、つい時間
忘れちゃってんだってば!」
「いーえ! お姉様が昨夜上条さんと一緒だった事実は上がってますのよ! 誤魔化そうとしないでくだ
さいまし!」
女子中学生同士の二人部屋では結構ありがちな何気ない口論だと普通は思うであろう。
しかし、彼女達を知ってる者から見ればこれは非常に珍しい光景だった。
白井黒子が御坂美琴に真正面から応論する時点で只事ではないのが判る。
「う……な、なんで……」
怯みを見せた美琴に黒子は畳み掛ける。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:23:46.24 ID:2ugeZ1TB0<>
「お二人が喫茶店で合席していたと」
「ぐ……」
針で突かれたように胸を押さえる美琴。
「わたくしの知人が居合わせておりましたのよ。何でも相当暴れて目立ったそうですわね」
「あうううう……!」
今度は頭を押さえて聞こえないフリをするが、所詮子供の足掻き方だった。
「お姉様!!」
「ひ……っ」
声を荒げる黒子にビクッと跳ねた。どうやらここは素直に謝罪した方が賢明のようだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:25:01.19 ID:2ugeZ1TB0<>
昨日、上条宅へ初めて訪問した美琴。
禁書目録もそこに居たが、そんなことはどうでもいいと思えてしまうほどに嬉しかった。
上条の携帯番号とアドレスを入手した時と同じぐらいに。
予定では門限に間に合う様、早くお暇するつもりだった。
しかし、
『あともう少しだけ……もうちょっとだけ』
そうこうしている内に至福の時は過ぎ去り、結局上条宅で夕飯までご馳走になり、帰宅
する頃には門限も余裕でアウト。黒子からのメール&着信履歴の嵐に身体を震わせたの
は語らずとも然り。
昨夜は帰宅時と消灯時間か重なってしまったために言及は翌日、つまり今この時に持ち
越しとなったのだが……。
「上条さんと一体どこで何をしていたんですの!? ……はっ! まさか、わたくしの
知らない間に……っ! お姉様っ!! 白状なさいな!!」
「…………」
やはり、どうもおかしかった。
寮則を破った事についてはあまり触れてこない。いや、“そんなものはどうでもいい”
とさえ言っているようにも思える。
美琴には心当たりが無いわけではなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:25:42.01 ID:2ugeZ1TB0<>
「黒子……。アンタ、私とあいつが一緒に居るのがそんなにイヤだったっけ?」
「何を仰いますの!? 当然ですわ! お姉様は常盤台のエースですのよ? 上条さん
以外にも立派な殿方は幾らでもいらっしゃる筈ですのに……」
最後ら辺は独り言のように、まるで心で思った事をそのまま喉から出したように呟く黒子。
美琴には無論丸聞こえだった。違和感が確信へと繋がっていく。
前々から出さないように努めていたが、どうやら解禁する時が来たらしい。
美琴は勇ましく吊り橋を走るのと正に似たような心境で切り出した。
「………やっぱ、変っつかさ。アンタ……もしかして気づいてないの?」
「な、何を……ですの?」
「アンタ、あいつの事『類人猿』って呼ばなくなったわよね?」
「――――ッ!!?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:26:30.86 ID:2ugeZ1TB0<>
白井黒子という少女の心臓が、その一言で氷の彫刻のように固まった。
思った以上の効果に美琴も一瞬驚きを見せるが、口を閉じるつもりはない。
いつの間にやら立場が完全に逆転していた。
「あっれー、どうしたのよ黒子? まさか私が気づいてないとでも思ってたワケ?」
「お、お、お姉様………?」
今度は滝のような汗を流し始めた後輩を更に追い込む。
ちょうど良い機会だから、もうここで白黒つけてやろう。白井黒子なだけに。
いつかは迎えなければならない試練。そう、避けては通れないイベントである。
「もうこの際だから、はっきり言うわよ。黒子……アンタ、あいつに惚れてるでしょ?」
「ッッッ……!!!」
「もういいのよ。隠さなくったって……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:28:19.11 ID:2ugeZ1TB0<>
「お姉様……黒子は、黒子は決してそんなつもりでは……その……」
美琴が自分の封印したはずの心理に気づいていたのは黒子にとって正に誤算だった。
しかし、黒子本人も無意識の内に表してしまっていたのだ。
上条当麻に抱く、仄かで淡い心を。
これまでは御坂美琴一筋で生きてきた少女。今もその想いは変わらない。
だが新しく生まれたこの未知の感情は一体何なのか。手に余る思いを当初は味わっていた。
だんだん明確になってくるに連れ、抵抗も強くなってしまうのは必然だった。
何しろ、気持ちの正体は紛れも無い“恋心”なのだから……。
それもよりによって美琴が好意を持つ唯一の男、上条当麻相手に。
皮肉、と言ってしまえばそれまでだ。
美琴が行方不明となってから、利害の一致で一時的な同盟を結んだ時から、それは始まって
いたのだろう。
上条と近い場所に長く居れば、こうなってしまうと何故予測できなかったのか。
相手が女子とのフラグを建築する、美琴にとって有害な存在であると判っていたのに、何故。
好きになってしまった今となっては、そんな御託ももう後の祭りだ。何もかもが既に手遅れ
の段階へ来てしまっている。
現在では美琴のために上条を忘れようとしているのがかえって逆効果となり、余計に意識を
強めてしまっている事実に黒子はまだ気づいていない。
少なくとも美琴にあっさりと見透かされて真っ白となった頭では適切な判断能力すら危うい
のはおいておこう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:29:30.61 ID:2ugeZ1TB0<>
「だから、もういいんだって。……これでもアンタの事は良く見てるのよ? 隠したままだ
と、アンタも辛いでしょ? 私に気を遣うのは……もうやめて欲しい」
「………ッ…ッ」
言葉が上手く繋げなかった。
どう答えるのが的確なのか判別できず、黒子はただ吃るしかない。
「わ、わたくしは………」
目を必死に泳がせる後輩を見て少し後悔する美琴。
やはり唐突すぎたか? 早計だったのか?
そんな思いが胸中で渦巻くが、もう遅かった。
「黒子……。私が木原数多に捕まって監禁されてた時、あいつと一緒に私の事……捜して
くれてたのよね?」
「……はい」
「だったら、私がとやかく言う筋合いじゃないし、そうでなくてもアンタの心はアンタの
ものよ。誰が何を言う権利もないわ……。―――――けど」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:30:56.81 ID:2ugeZ1TB0<>
「……!」
瞳を真っ直ぐ黒子へと委ね、美琴は堂々と宣言する。
「私の心も私のものよ。……私はアイツが、上条当麻が好き! たとえアンタでも……
これだけは絶対に譲れないから。……悪いけど」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:31:45.55 ID:2ugeZ1TB0<>
「ッ……!」
「それだけは、覚えておいて……」
行き先を告げずにそう残し、美琴は部屋を出て行ってしまった。コンビニに立ち読みしにでも
行くのか、それとも上条に逢いに行くのか。
いずれにせよ、黒子は追いかける気になれなかった。
「…………はぁぁぁ」
後に残ったのは、気味の悪い静寂のみ。
緊張の糸が切れたのか、黒子は床にぺタリと座り込んでしまう。
表情は放心状態、と言った所か。
考え事が色々増えすぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
それ以前に、まずは気持ちを整えなければならない。
全ての機能回復には、まだ少し時間が掛かりそうだった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:33:04.92 ID:2ugeZ1TB0<> ここまでです
次回から新キャラも色々増えていく予定です
では一部公開入ります <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:35:44.96 ID:2ugeZ1TB0<>
一方通行「ンだよ、その目はァ? おかしかったら笑うなり何なり好きにしろよ」
番外個体「いや……何ていうか」
打ち止め「……ごめんなさい。ってミサカはミサカは軽率だった自分を呪ってみたり」
――――――――
???「―――――すっかり平和ボケしてます。ってか?」
???「―――――とうとう見つけたぞ……。第一位」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/20(水) 21:37:13.32 ID:2ugeZ1TB0<> 以上です
また何日か空くと思いますが、その分なるべく多く投下できるよう努めます
では、今回もお付き合い頂きありがとうございました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/20(水) 21:38:11.97 ID:wpKpocfIo<> 乙
流石上やん属性・・・フラグ構築能力に常識は通用しないな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/04/20(水) 21:57:22.10 ID:zwlCUPRM0<> 乙!
待ってたぜぃ!
オセロをも攻略するとは・・・
さすがフラグの一級建築士・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/21(木) 19:29:46.19 ID:6RF6QB/i0<> オセロじゃないですのおおおお!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/04/21(木) 19:35:57.64 ID:995QBoQio<> ごめん、パンダさん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/21(木) 20:24:22.73 ID:isMcybEc0<> 黒子「上条さん、バレンタインデーですのでチョコを差し上げますの。たくさん食べてくださいですの」
上条「あぁ、サンキュ……って全部笹の葉じゃねぇか!!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/04/22(金) 00:06:33.38 ID:P19UcQaOo<> 乙です
おまえらパンダ好き過ぎだろwwwww
俺は超大好きだけどな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 04:13:03.43 ID:kTXfIE9x0<> 乙パンダですの!
パホパホ <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/23(土) 19:47:16.94 ID:6fU7aQkz0<> パンダの着ぐるみ着た白井黒子想像したら悶えた
更新に来ました
上条さんは爆発せよ <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:48:52.13 ID:6fU7aQkz0<>
―――
「ありゃりゃ、なんだか足下がおぼつかない様子に見えるけど?」
降り口の階段でニヤニヤしながら伺ってくる番外個体が厚かましく感じた。
しかしそれを言葉にした瞬間、この弱った体に更なるダメージが付加される未来は予知能力者で
なくとも予知できる。
「っきしょうがァ……頭がぐわンぐわンしやがる。殺人マシーンの一種かよありゃあ。死者が出
てもおかしくねェぞ」
「自身の貧弱さから目を逸らすなって。っつか免疫なさすぎ! しょっぱなからそのザマじゃあ、
先が思いやられるね」
「ほざけ。誰だって初見には泡吹かされるモンだろォが」
「このパターンは単にあなたが脆いだけじゃん」
腕に絡みつく番外個体の腕。肩を借りるような形で支えられているのは苦肉にも幸いだった。
一方通行が能力に頼りきった道程の代価は、上条当麻が実験を阻止した段階で既に立証されている。
能力に頼れない境地に立ってからは暗部生活で自衛技術を少しは磨いたと言っても、やはり簡単に
肉体は強化されてくれなかったようだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:49:40.33 ID:6fU7aQkz0<>
番外個体の前でもこういう情けない姿は見られたくない。
当然の心理かもしれないが、彼女はそんな一方通行が面白くて楽しくて仕方がないように見える。
出口のゲートを潜った辺りで小さな影が揚々と駆け寄ってくる。
「おかえりー! ってミサカはミサカは出迎えてみたり。……あれ? アナタの顔色が悪くなって
る気が……?」
「き、気のせいだ気のせい! 大した事ねェンだよこンなモンはァ! ケッ、乗らなくて正解だな。
所詮ガキの娯楽産物に過ぎ……ゥッ…!?」
番外個体の横で虚勢を張る一方通行。しかしそれも途中で不自然に止まる。
口元を押さえる彼の様子は吐き気を必死に堪えているようにしか見えなかった。
どうやら急に大声を出したのがまずかったようだ。
「ちょっ!? だ、大丈夫……? わりとマジで」
茶化しモードから心配モードへ切り替わる番外個体だが、一方通行には応じる余裕がなかった。
打ち止めも心配そうに駆け寄る。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:50:38.71 ID:6fU7aQkz0<>
「もしかして酔っちゃったの? ってミサカはミサカは驚愕の事実を目の当たりにしてみたり! し、
しっかりして! ってミサカはミサカはとりあえず前屈みになったアナタの背中をさすってみる!」
「うっ……おェ………ち、近くに手洗い場は……」
ちょっと、いやかなり洒落にならない状況らしい。
「あ、あっちにあるよ! 歩ける? もうちょっと我慢できる? ってかここでブチ撒けんのは流石
にナシだよ!?」
「うぷ……やべェ。気持ちわる……っぷ」
「うわああああ!! 急いで急いで!! ってミサカもミサカも救助活動に参加しつつ頑張れーって
励ましのエールを送ってみたり!」
「おォォ……あンま……揺らすンじゃ………」
よろよろと二人の女子に身体を支えられながら吐き気と戦う一方通行。
結局、番外個体と打ち止めが付近に運良く設けられていた公衆トイレに一方通行をぶち込む事で最悪
の事態はひとまず去り、騒然としかけたシーンは収まりつつあった。
初めてのジェットコースターの思い出は、最低の形でたった今、脳に刻まれた。
できることならデリートしたい。いっそ全て無かったことにしたい。
そんな思いを噛みしめながらも、一方通行はトイレでリバースした。最大限の屈辱を引き連れて……。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:52:21.29 ID:6fU7aQkz0<>
―――ピンポンパンポーン♪―――
※一方通行ただ今おもどし中。 しばらくお待ちください <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:54:41.59 ID:6fU7aQkz0<>
―――
数分後、いつものニ割り増しでゲッソリした一方通行がトイレから出てきた時は、事の発端となった
打ち止めも流石に心を痛めたみたいだ。番外個体も一方通行の小顔が更に小さくなった様子を冷やか
してやろうとは思わなかった。代わりに憐れみを込めた眼差しが送られる。
「ンだよ、その目はァ? おかしかったら笑うなり何なり好きにしろよ」
「いや……何ていうか」
「……ごめんなさい。ってミサカはミサカは軽率だった自分を呪ってみたり」
「謝ンな! こっちが惨めになっちまうだろォがよ!」
「今度はアナタでも乗れそうなヤツをチョイスしよっか」
「別に何だろォが構わねェよ。っつか、あれ乗り越えりゃあ大概は問題ねェだろ」
乗り越えられてねえだろ! 思いっきりもどしてんじゃねえか! とツッコミたくてしょうがない
少女達。が、ここは我慢して呑みこんだ。これ以上追い詰める意味など何処にもないから。
「アナタの気分を癒す意味で、次は観覧車を推奨してみる」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 19:55:44.61 ID:6fU7aQkz0<>
「観覧車ァ? ……そォいうのは一番最後に乗るモンじゃねェのかよ?」
「ま、いいじゃん♪ あなたの顔色を考慮した結論ってことで。最後にもまた乗りゃいいしね」
「ここの観覧車って最高の眺めなんだよー! ってミサカはミサカはテレビで仕入れた情報を活用
してみたり」
そんな訳で一同は観覧車へ。
学園都市を一望できる限られた名所の一つとして挙げられるこの巨大観覧車。乗車時間は何と奮発
の三十分。
「うわぁぁ……。ってミサカはミサカは大絶景に言葉を失ってみたり」
「たっけー……。見てみろよアクセラレータ。人がゴミのようだ」
ゴンドラが最頂部へ差し掛かり、当然の如く目を輝かせる二人。
一方通行は黙って景色を眺め、感慨深げな顔を覗かせた。
「こォして見ると、結構馬鹿デケェ街なンだな……学園都市っつーのは」
「展望台から見るのとはまた違った感じだね」
「あァ……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:00:42.55 ID:6fU7aQkz0<>
(ホント、穢れた闇が渦巻いてるのもまるで嘘みてェに思えちまう……)
下降中も興奮が冷めず、ゴンドラ内ではしゃぐ打ち止め。
揺れるゴンドラで面白がる番外個体。
まるで親の立場であるかのように、それを咎める一方通行。
終始続く、この平和でまったりとした時間。
だが彼等はまだ知らない。
既に暗い世界から発現した魔手が、人知れぬ内に伸ばされていたことに――――。
観覧車に名残惜しくも別れを告げ、三人は広大な園内を堪能し続ける。
そうしている内に時計も正午を過ぎていた。
「ったく、元気に走り回りやがって。迷子になっても知らねェぞ?」
「だって生まれて初めての遊園地だよ!? ミサカのテンションは上昇する一方なのだー!
………けど、お腹空いちゃったかも。ってミサカはミサカは三大欲求の一つには敵わな
かったり」
「もういい時間じゃん。ミサカも腹減った〜。ってことで、どっかで補給しよーぜ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:02:04.52 ID:6fU7aQkz0<>
「ハイハイ。真っ直ぐ行きゃフードショップがあるから、そこで構わねェな?」
うん! といい返事の番外個体に、イエーイ! と飛び跳ねる打ち止め。
素直な感情表現に一方通行の口元も緩む。
この男、案外子供の世話には向いているのかもしれない。非常に今更だが。
「う…っ」
その道中、打ち止めの身体が一瞬ブルッと震えた。
「突然なんですが……。ってミサカはミサカは申告してみたり……てへへ」
「あぁ、小便?」
何の疑いもなく察し、これまた堂々と発言してくれる番外個体。
「なっ…! み、番外個体! 言葉の選択には注意して欲しいな! ってミサカはミサカは…」
恥ずかしそうに憤慨する打ち止め。一方通行は後ろでじゃれあう二人に首だけ振った。
「わかったから早く行って来い。番外個体、頼ンでいいか? 俺は先に行って席取ってる」
「ったく、しょーがねえなあ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:04:43.44 ID:6fU7aQkz0<>
渋々頷いた番外個体。道から逸れて少し歩いた先にお手洗いの看板がある。
モゾモゾする打ち止めの手を引き、一旦一方通行と別れた番外個体は案内板に従う。
「漏らすなよ、最終信号」
「ミサカはそこまで子供じゃないもん! ってミサカはミサカは背筋をピーンと伸ばしてみる!」
二人の楽しげな声を背にし、一方通行は少し先に見える園内レストランへと足を近づけた。
「………………」
騒がしく賑やかな二人から離れ、一人になるとどうも妙な感じだ。
周囲は相応に人が混み合っているのに、何故か静かに思えてしまう。
不思議な感覚を体験しつつ、一方通行は屋外タイプの客席の一角を陣取るために移動を続けた。
昼食時のピークともあってか空席を見つけるのに少々手間取ったものの、何とか三人掛けの席に
腰を落ち着けることができた。天気は快晴で屋外にはもってこいな上、パラソルもキッチリ設け
られているため、陽射しが嫌いな一方通行でも快適な気分で女子二人を待てる。
気温も適度で、油断するとうたた寝してしまいそうだ。
(注文は中まで行かなきゃいけねェのか……。なら、あいつらが来るまで待ってりゃいいか)
そんなことを思いながらぼんやりと時を過ごす。
仲睦まじげなカップル。
小さな子供の面倒に手を焼きつつも幸せそうな家族。
勉学という名の拘束から解放され、これでもかというくらいに休日を満喫している学生のグループ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:06:02.93 ID:6fU7aQkz0<>
視界に映る人々の顔は、どれも今この時をとても楽しんでいるように感じた。
同時に、こんな空間の中心に自分も混じっているのが何とも不思議な気分だ。
喧騒、暴挙、殺害、生々しい断末魔。
そういった日常が板に付いていた彼にとって、この光景は羨ましくもあり眩しくもあった。
ずっと眺めていたらおかしくなってしまいそうなほどに……。
(平和か……。できるなら、これが束の間じゃねェことを祈りてェな)
そうはいかないとわかっていつつも、彼は願ってしまう。
隣りに居てくれる大切な彼女が、いつも笑っていられるように。
小さい身体からは想像できない程に気丈な彼女が、無事に成長していけるように。
叶うなら、そんな彼女達と共に歩んでいきたい。
だがそれは、今の自分にとって贅沢な望みなのかもしれない。
自分の幸せをあれこれ考える前に、すべき事は山積みとなっているのだから。
まずはそいつを片付けてからだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:08:26.02 ID:6fU7aQkz0<>
(しっかし遅ェなあいつら。このままだとひと眠りしちまいそォだ……)
まどろみ始めた視界。
心地よい気候に混じった少しの肌寒さが睡魔を誘っていた。
十二月にしては実に快適で、過ごしやすい気温である。
だが、流石にこんな場所で寝てしまっては迷惑行為に繋がるだろう。一応の良識は兼ね揃えて
いる一方通行は頬杖つきながらも眠気と格闘した。
その真っ最中だった。
少女と思わしき声が、無防備な鼓膜に届いたのは。
「―――――すっかり平和ボケしてます。ってか?」
「……!?」
閉じかけていた目を開かせ、声がした方へと首を傾ける。
いつの間にか正面に座っていたのは打ち止めでも番外個体でもなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:10:26.07 ID:6fU7aQkz0<>
「場違いにも程があるんじゃない? 仮にも怪物の最高峰にランクされてる分際で、一般大衆の
真っ只中に溶け込もうなんてさぁ」
「……誰だ? オマエ」
「あぁ、名前? そんなの聞いたって無意味だと思うけど」
唐突に会話を仕掛けてきたのは見覚えのない少女。年齢は十代前半に見えるが、その物腰は成人
を匂わせるほどの冷静さを醸し出していた。無理して背伸びしているとも、一概には言えない。
自分は常にこう振舞って育ってきた。と、彼女の瞳は語っていたからだ。
まどろんでいた意識を現世に戻した一方通行は、この不審な少女に警戒心を抱く。
女の顔に馴染みはないが、まとっている雰囲気だけは異常な親近感を覚えた。
この感覚、雰囲気は……。
「暗部の人間か?」
「嗅覚は健在みたいだね。つっても、最近のアンタは路上のゴミ掃除レベルの仕事しかやらせて
もらってないだろう?」
シンプルな質問にも物怖じせずに返してきた。顔色の一つも変えない部分から察するに、相当
『闇社会』に慣れ親しんでいるようだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:12:32.06 ID:6fU7aQkz0<>
「こンな大っぴらな場所にまで侵攻してくるその無鉄砲ぶり……。そォか、オマエが『新入生』
ってヤツかよ」
「場所や状況に頓着するのが薄いだけだよ。……ま、言ってる事に間違いは無いけどさ」
髪を掻き上げ、億劫そうに右上の方を眺める少女はいつ注文したのか不明な紅茶を一口啜った。
そして苦笑混じりに零す。
「んー……、やっぱこういうトコに設けられた店に、味なんて期待するだけ損みたい」
「……俺がオマエ達の存在を知っていた。そいつに驚きは感じねェのか?」
「あぁ、昨日とうとう知っちゃったんだっけ? 寧ろ知るのが遅すぎなくらいだけど、仕方ないか。
大半が卒業しちゃった中、一人心身を削ってるアンタに通達したところで、何の意味もないしね」
「目的は割れてる。茶ァ濁すのはやめとけ」
「それも知ってる。けど存在を知らしめたからって結果は変わらない。単に無意味で面倒だった
から、って理由が正解なのは本当さ」
剣呑な眼差しの中に含まれた侮蔑。
まるで現在の一方通行そのものを、根底から否定しているようだった。
「ずいぶン余裕だな。標的(ターゲット)の脅威度を熟知した上でそこまで平静を装えるってン
なら、オマエは大したタマだ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:15:16.63 ID:6fU7aQkz0<>
「誤解してるんなら教えてやってもいいけど」
遮る勢いで言葉が割り込まれてきた。
一方通行の言動に、何か間違いでもあったように指摘する。
「私達は何も、“暗部構造”の格差をつい最近知ったわけじゃない」
「改まって言われるまでもねェな。そンなモンは初見でわかる。“匂い”には俺も多少敏感でね」
「“学校”に喩えるともっとわかりやすいかもね。『中学校に入る前は小学校に通っていた』……。
といった感じに」
「それまで居た世界、更に小規模だった『闇』から這い上がってきたのがオマエ達か……」
「そう、だから『新入生』。そしてそんな私達にとって、アンタは『留年生』。はっきり言って
良い環境ではないだろうね。アンタの立場的に想像すると……私なら耐え難いかな」
一見心無さげに見えるが、しっかりと棘を含んだ物言いである。
眉をピクッと一度動かした一方通行に少女は質問攻めを浴びせてくる。
「わざわざ“残留”の道を選んでどんな気分? 優越感? それとも自身が犠牲になった事で大勢
の人が救われたとか、自己心酔の域にまで達してたりする?」
「オマエにどォ思われよォと知ったこっちゃねェよ。それに、俺はテメェの身を差し出したりした
つもりもねェ」
「じゃあなに? 格好でもつけてるつもりかよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:16:16.28 ID:6fU7aQkz0<>
「人の話はよく聞いておくンだな。どォいうつもりだろォが、オマエに理解できるよォな本論じゃ
ねェンだよ。俺自身だけが意識できてりゃあそれで充分事は足りる」
「……聴こえのいい言葉ではぐらかしてくれんじゃないの。『留年生』が」
少女の顔つきが、少しずつだが険しくなっていく。
優雅なティータイムとは不相応な気まずさも並行して生まれてきた。
「俺からしてみりゃ、オマエら(新入生)こそ何様なンだか……。まァ、そこは置いておいてだ。
オマエは弱みを握られて『闇社会』に飛び込ンだクチか?」
「……、今そいつを訊いてどうしようと?」
「重要な事だ。できたら本音で答えてくれねェか?」
僅かに間が空いた。
やがて考えをまとめた少女はニヤリと微笑し、断言する。
「ここに居るのは私自身の意思だ。何の後ろめたさもないね。だって、ここ(闇)が私の居場所。
平穏なんてクソ喰らえさ」
「…………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:17:52.70 ID:6fU7aQkz0<>
一方通行は無表情でこれを聞き入れる。どのような感想を心中に抱いているのかは、残念ながら
窺えそうになかった。
「第三次世界大戦が思ったより早期に終結した時は残念だったよ。そん時は色々と面倒な規制が
邪魔だったせいで、ついには一滴の血も見る事なく終わっちまったんだから」
まるで嫌な思い出のように語る少女。
一方通行はここで目を閉じ、また開く。それがこの正面に向かい合う彼女の本質を見極めた合図
であった。
「なるほど……、よォくわかった。どォやら、俺の通告が根本から堂々と破られたわけじゃねェ
らしいな」
「ああ、その件か」
思考の回転も速い少女は即座に応じてみせた。
「通達は私自身に来なかったからね。けど、借金抱えたせいで泣く泣く『雑派』へ編入させられた
憐れな野郎。親戚の命を闇商人に握られて仕方なく偵察部隊で働かされた不憫なヤツ。そういった
知り合い連中は、手を叩いて歓喜してやがったよ。『これで光の世界でまっとうに生きる事ができ
るんだ!』ってね……。私はそいつらとは違う。現に、私には何の“鎖”も掛けられちゃいない」
「なら安心だ。オマエが自分の信念に従った上で行動してるンなら、コッチがためらう理由も存在
しなくなる。“末路を受け取る覚悟もある”と看做して問題ねェな?」
「責任と自覚は基本中の基本。いちいち確認を取る必要があると思う?」
「ケッ……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:19:06.54 ID:6fU7aQkz0<>
どこまでも調子に乱れがない辺り、どうやら本心のようだ。
そう判断した一方通行だが、そこでふと壁の時計に目を遣る。
そろそろ話合いに区切りを打たなければ、不利になるのは自分だ。
こちらの不安材料を除去しておくためにも、これ以上の探り合いは不要だった。
「………場所を変えるぞ」
そう言いながら席を立つ一方通行に、少女は可笑しげな態度を示す。
「“ツレ”を巻き込みたくない?」
「好きに解釈すりゃあいい」
しかし一方通行の意志とは相反し、少女はいっこうに席を立とうとしない。
代わりにこう発言する。
「さっき言ったよねえ? 私達『新入生』は面倒な配慮や境界線なんて無頓着だってさぁ」
「……あ?」
そこからそう繋がるのか先読みできず、一方通行は着席したままの少女を反射的に振り返る
しかなかった。袖に腕も通していない、頭にフードを被っただけの白のコートが妖しく揺れ、
少女の眼光が変わった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:20:11.66 ID:6fU7aQkz0<>
「なんせ、ようやく直々に勅令が下りたんだ………。“見物も無しだなンてつまンねェだろォ?”」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:22:11.78 ID:6fU7aQkz0<>
「――――!?」
途中から口調も豹変した。直後にカップの中の紅茶がいきなり宙を舞い、一方通行に向かって
伸びる。咄嗟に首の重心を側面へずらすことで液体は回避した。
が、すかさず後続が入る。
今度はカップ本体が意思でもあるかの如く、一方通行の顔面へと一直線に特攻した。
この僅かなタイムラグを利用した一方通行は、すかさず電極のスイッチをオンに切り替える。
こういったように、わざわざ手動でスイッチを弄らなければ最強の能力者へと移り変われない
のは弱点の一つだが、ジャミングの対策にも手を講じている以上、スイッチの切り替えにさえ
成功してしまえばこちらのものだ。
現に、彼の鼻っ柱に損傷を負わせるため飛ばされたガラス製のカップ。
こいつはもはや避ける必要もない。
「!」
案の定だ。
眼前で粉々に粉砕されるカップ。当たり前だが周囲の目はいっせいにこちらへと注がれた。
盛大に舌打ちをする一方通行。暗部らしからぬ無謙虚な彼女のこのやり方、想像以上に厄介で
あると嫌でも実感せざるを得なかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:23:29.11 ID:6fU7aQkz0<>
このままいけば騒ぎになるのは必須。そしてこの女はそんな中で雑踏に紛れ、何事も無かった
様に姿を眩ます算段なのだろう。
目立つ行動を冒すのは逆に動きやすい。それがこの少女の暗部としてのスタイルみたいなもの
なのか。
その辺りはまだ確定しないが、どちらにしても手を焼きそうだ。
「馬鹿が。アンタを相手にタイマン張った所で、どォなるかは目に見えてンだよ!」
しかし、そのことよりも気に掛かっている事があった。
「『暗部の掟』だか『規則』だか、そンな陳腐な建前にとらわれてる場合かよ? 第一位」
「………ッ!」
「あ? ンだァその面? ……あー、そォいうことね。ふン、よォやく気づいたのか? ま、
当然だよなァ。自分に関する事象に敏感なのが、アンタのウリみてェなモンだし」
この瞬間、一方通行の中でひとつの答えが生まれた。
少女の様変わりした喋り方。そしてカップに触れた時の奇妙な感覚。
気づかないわけがなかった。そう、これは紛れも無く……。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:24:40.84 ID:6fU7aQkz0<>
「オマエ、―――――『暗闇の五月計画』の被験者か」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:26:37.72 ID:6fU7aQkz0<>
『暗闇の五月計画』。
『置き去り』を使い実験開発を行っていたチームの一つであり、同時に計画名そのもの。
学園都市最強の超能力者である一方通行の演算パターンを参考に、 各能力者の自分だけの現実
(パーソナルリアリティ)を最適化、能力者の性能を向上させるためのプロジェクトのことだ。
一方通行の精神性、演算方法の一部を意図的に植え付けるという、 個人の人格を他者の都合で
蹂躙する何とも非人道的な計画である。
まさかこの計画の元被験者にこんな形で巡り会うとは全くの想定外だったが、一方通行にとって
この少女、『黒夜海鳥』はそこまでの脅威に値しない。
「オマエみてェな小悪党が俺を仕留める計画の前線に居ンのかよ? シラケさせるにはまあまあ
の与太話だわな」
「だから言ったじゃねェか。アンタと真っ正面からぶつかる程、こっちも馬鹿じゃないンだよ」
全く同系の言葉遣いで対峙する黒夜。
只ならぬ空気に野次馬が増え始めていたが、彼女はそれを気にも留めない。
それどころか、好都合とばかりに悪意の込もった眼光で一方通行を睨む。
「さァ、せっかくこォして会えたンだ。アンタの平和ボケ具合がどれほど重症なのか、いっちょ
ここで確かめてやろォか?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:28:59.84 ID:6fU7aQkz0<>
「何だと……?」
「“こンだけ人が集まるよォに私が仕向けた”。つったら、もォ理解できてるンじゃない?」
「―――!!」
一方通行の眼球が急速に広がると同時、黒夜は付け足すように続けた。
「アンタに会ったらどォしても言っておきたい事があったンだ。ずいぶン長引いたせいで忘れ
ちまうトコだったが……その胸糞悪いツラ見てたら思いだしたから、言わせてもらうわ」
一瞬伏せた表面を、もう一度さらす。
まるで別人のような形相を浮かばせた黒夜は、捨てゼリフのように吐いた。
「――――“世の中全ての人間が、仲良しこよしになりてェとか思ってンじゃねェぞ”」
この言葉が放たれてから三秒経つ間もなく、オープン席全域に爆音が響いた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:30:29.90 ID:6fU7aQkz0<>
テーブルや椅子は斧で切られたかのように裂け、一般客の悲鳴が疎らになると同時に黒夜は
一方通行に一枚の写真を提示した。
「さァて。話は変わるけど、第一位」
切り刻まれた跡が鮮明に残るテーブルの上に写真が落ちた。
「ッ……!?」
そこに映っていた人物を目に入れた一方通行は、驚愕を浮き彫りにする。
「こいつがアンタの足枷。つまり、こっちの勝算。………ねェ、賭けてみる?」
「………何をしでかそうってンだ? このガキ……!」
「簡単さ。こいつの末路だよ。大人しく首を出せば賭けは無効にしてやってもいい。いやなら――――」
ボロボロのテーブルの上に置かれた写真に、勢い良くフォークがつき立てられた。
三本の先端部分は、写真の中の番外個体の胸部を正確に貫いている。
「――――こォなる方に私は賭けちゃうケド?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:31:47.55 ID:6fU7aQkz0<>
悪魔のような笑みが零された。
「……俺はその逆の未来に賭けろ、って事か」
「そォせざるを得ないだろ? アンタの場合は、さ」
「…………ッ」
この時点で、彼女達も新入生の標的に加えられてしまった事実が遠まわしに発覚する。
ダイスを振ったら最悪の目が出てしまったような気分に陥るが、生憎そんな暇すらなさそうだ。
(クソったれが……。とにかく、ここに居たら直にあいつらが来ちまう。まずは場所を変えねェと)
焦り気味の思考が交錯する中、状況は更に収まりのつかない事態へと進んだ。
「―――――とうとう見つけたぞ……。第一位」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:34:58.72 ID:6fU7aQkz0<> 半端ですが、ここで無理矢理区切ります
今更補足しますと、ここでは原作と時期が微妙にずれてます。一ヶ月ちょいくらいかな…
ではまた一部公開入ります
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:39:06.09 ID:6fU7aQkz0<>
一方通行「……何でオマエがここに?」
???「よくも抜け抜けとほざけるよなぁ。こっちは一日も早くテメェに会いたかったんだぜ?」
―――――――
打ち止め「み、番外個体……」
―――――――
番外個体「大気操作系の能力者……!?」
黒夜「あァー、半分正解かなァ。別に大気そのものを直接操れるってワケじゃねェンだ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/23(土) 20:41:18.23 ID:6fU7aQkz0<> 今回はここまでです
次回もまた書き溜め終了次第来ます
ホントにダラダラで申し訳ありません
ではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/04/23(土) 20:43:28.55 ID:AlXgX7nX0<> 乙!さァてどォなることやら <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/04/23(土) 20:44:15.75 ID:SevEJSOe0<> 乙!
相変わらず、素晴らしい文章力!
次も期待ですwwwww
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/23(土) 22:09:55.47 ID:m+72D7jU0<> 乙!
???はていとくんかな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 09:03:48.99 ID:N5+Hdt1v0<> 乙!
黒夜登場に俺歓喜!!
ていとくんしかいなくね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/04/25(月) 06:46:33.59 ID:werBf7Ez0<> 予想は(ry
一方さんが黒夜タソに構ってる間、番外タソは俺様に任せとき
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 06:51:43.47 ID:4KVWR5xSO<> 朝から来たと思ったじゃねーか
何故ageた? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 06:55:54.24 ID:werBf7Ez0<> >>428
うわっ・・・ミスったごめん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 20:52:49.46 ID:dtoHvM670<> 杖ついてる人ってジェットコースター乗れたっけ?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 23:34:13.52 ID:zNrTrDY50<> 千葉の某夢の国は乗れるのもあるっぽい
杖じゃなくて半身麻痺の人のレビュー?日記?だったけど
全部乗れるかどうかは不明 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 19:15:06.19 ID:pdsjmoEf0<> としまえンで杖ついた人が普通に並ンでたよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 04:49:46.62 ID:AtNUKt0SO<> 追いついた
続き早く <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/04/28(木) 21:33:00.29 ID:twZfxaNF0<> ずいぶん時間掛かってしまった…
>>431
>>432の通り、一応乗れるやつもあるそうです
描写不足でサーセンした
ではゆっくり続き <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:34:46.67 ID:twZfxaNF0<>
「―――――とうとう見つけたぞ……。第一位」
「!?」
ふと、どこかで聞いた事のある声があさっての方角から耳に届いた。
これにより、一方通行は黒夜から視線を咄嗟に逸らしてしまう。
その行為と隙が結果的に失敗を生んだ。
「な……ッ!!?」
ニヤリと口元を歪ませた黒夜を視界に戻した時、既に遅し。
軽やかな動作で身を翻した黒夜は足下のビニール製イルカ人形を素早く拾い上げ、そのまま
迷い無く走り出した。
「クソ……! 待ちやがれ!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:36:19.68 ID:twZfxaNF0<>
叫びと同時、逃走する小柄な身体を追おうと前進するが、彼の行く手を先ほどの声の主が
割り込むような形で塞いだ。
「おっと、どこに行こうってんだよ? あ?」
「この野郎…! 退……ッ!?」
行く手を阻まれ、一方通行は無意識に激昂しようとした。
だが、退け! と叫ぶ前に、正面に立ちはだかる男の顔をくっきりと見つめてから一方通行
の思考は再び迷走状態へ陥る。
立ちはだかった人物が、彼の見知った顔だったからだ。
「オマエは……」
「へぇ……。てっきり忘れられたのかと思ったぜ」
学園都市で一度、更にはロシアでもこの男とは面識があった。
忘れることなど、まず有り得ない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:37:27.59 ID:twZfxaNF0<>
学園都市にとって、まさしく“規格外”の人間であり、一方通行と対を成す『反乱因子』。
上条当麻とはまたタイプの異なった、この“無能力者”の顔を――――。
「……何でオマエがここに?」
「よくも抜け抜けとほざけるよなぁ。こっちは一日も早くテメェに会いたかったんだぜ?」
『浜面仕上』。
かつてスキルアウトを駒場利徳の代わりに束ねていた経歴もあり、暗部組織『アイテム』の
下っ端要員として身を置いていた男だ。過去に遭遇した時から妙に因縁めいたものを感じて
いたものの、何故このタイミングでこの男が現れるのか、一方通行は本気で理解に苦しんだ。
しかも、浜面の態度がどこか普通ではない。事情を聞かずとも目を見れば明らかである。
この目が物語っているのは、一直線すぎるほどの『敵意』と『憎悪』。
彼がこんな顔で人を見ること自体、既に不可解だった。
一度目は勘違いによる激昂。二度目は予想外の登場による吃驚。過去に彼が自分をどんな顔
で見ていたのかと問われればこんなものだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:38:53.09 ID:twZfxaNF0<>
ロシアで功績を上げた者同士が、何の因果かこうして再度顔を合わせている。
浜面の声にはドスが掛かっており、一方通行の疑念を深めるばかりだった。
唐突に向けられたあからさまな敵意。相手側の事情がまず知れなかった。
しかし、今は浜面を相手にしている場合ではないことを瞬時に思い出す。
黒夜を取り逃がした。これがどういう事に繋がるのか。
一方通行の中で導き出される答えは、既に一点へと絞られていた。
おそらく、さっき自分で言っていた“賭け”を実行するつもりだろう。
「悪りィが、こっちは取り込み中だ。オマエに付き合ってる暇はねェ……っ!!」
そう残し、一刻も早く黒夜の追跡に復行しようとするが、浜面は退く姿勢を見せるどころか
語調を荒げた。
「待てよ! 勝手に後回しにしてんじゃねえ!!」
吼えながら取り出し、構えた拳銃。
こんな公の場で凶器を惜しげなく晒す彼の神経は、もはや正気の沙汰とは言い難い。
しかしながら、彼の瞳には尋常ならざる覚悟が秘められてもいた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:40:45.57 ID:twZfxaNF0<>
「……おい、そりゃ一体何の真似だ?」
「今、テメェを逃がすわけにはいかねえんだ。コッチも意地を通させてもらうぜ」
「そンなモンで俺が止められると本気で思ってンのか? 何があったか知らねェが、錯乱
してるにも程があンだろ」
「ああ……、本気だよ」
今度は怒りを通り越したような冷静口調で語る。この間も銃口は一方通行に向けたままだ。
「どんな小汚え手を使ってでも、テメェには付き合ってもらわなくちゃならねえんだ……。
こちとらとっくに腹は括ってんだよ。どうしても行くってんなら、俺をこの場で殺してみな」
「意味がさっぱり分かンねェよ。狙いは何だ? 俺に何の用があるっつンだ?」
「――――黙って俺と一緒に来てもらう。拒否は認めねぇ」
銃を握る手に力を込め、浜面は眉間に皺を寄せた。虚勢でもハッタリでもない。
彼は本気で一方通行を止めるつもりなのだろう。一方通行の恐ろしさを知っているにも関わらず、
それでも退こうとしない強固な意志。一体何が彼を突き動かしているのか、一方通行には未だ見当
もつかなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:42:53.82 ID:twZfxaNF0<>
わからないのではどうしようもない。どんな言葉を投げれば効果的なのかも、この段階では不明瞭
である。
些か厄介な状況だが、いつまでも足止めを喰らっていられない。ここは強行に及んででも突破する
必要がありそうだった。事情を洗いざらい聞こうにも、生憎そんな時間の余裕はなさそうである。
こうしている間にも、闇の魔の手が何の罪もない番外個体や打ち止めに近づいているのだ。
一刻も早くこの場を抜け、黒夜の目論みを阻止しなければ……!
逸る気持ちを抑えるのに精一杯な中、浜面が話しかけてきた。
「……今、どんな気分だよ? 第一位」
「あァ……?」
「そのツラだと、本当に何も知らないんだな……。だがな、知らなけりゃ全てが無効になるんなら、
戦争なんて最初から起こらねぇ。……いや。無自覚だからこそ、アンタが余計に許せねぇ!!」
「“俺が許せねェ”……だと?」
話がまるで見えてこなかった。
どうやらこの男に逆鱗に触れる事を自分が犯してしまったらしいが、当然ながら全くと言っていい
ほど身に覚えがない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:44:26.42 ID:twZfxaNF0<>
「ワケわかんねえか? 何で俺が突然目の前に現れて、何でテメェの足を止めようとこうやって命
張ってんのかが……。呑気なモンだよなぁ、第一位よぉ」
「オマエが何の血気に駆られてるかは知らねェがなァ……、言ったはずだ。今、俺にはどォしても
外せねェ用事があンだよ。詳しい話は後でいくらでも聞いてやるから、とりあえずそこを退け」
「悪いが、今のアンタを信用することはできねぇ。いやでも俺に付き合ってもらう」
「………今のは最終通告だ。こっから先は、洒落や冗談じゃ済まねェぞ?」
「好きに選択しろよ。言っただろ? ……俺の覚悟はとっくに決まってんだ。後に退くつもりは
これっぽっちもねえよ」
「チッ、馬鹿が……」
もはや、これ以上の話し合いは不毛のようだ。
浜面は元より、とうとう一方通行もその空気を察知してしまう。
彼に構わず無視し、能力の行使によりこの現状を打破しようとも考えていた。が、もうその
気も失せてしまった。
何より、浜面が放つ鬼気迫った威圧感がそれを許さなかった。仮にそちらを選んだとしても、
今の浜面なら、無関係な一般人を利用してでも一方通行の進行を妨げようとするだろう。
浜面の真剣な瞳からはそんな覚悟さえも感じられた。こうなっては、迂闊な強行に及ぶわけ
にもいかない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:45:35.68 ID:twZfxaNF0<>
一方通行は再度舌打ちをして、正面に佇む浜面を見据えた。
単純な話だ。
相手が力で阻もうとしてくるのなら、こっちも力ずくでこじ開けてやればいい。
慈悲の心を解除した一方通行と、依然変わらずに闘志剥き出し状態の浜面仕上。
奇妙な形で再会した両名は、互いの信念を胸に宿したまま睨み合った―――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:47:36.34 ID:twZfxaNF0<>
―――
番外個体は打ち止めを両腕に抱えたまま、広い園内を疾走していた。
「ハッ……ハッ……!」
目撃してしまった。
一方通行と謎の少女が対峙しているのを。
打ち止めと一緒にお手洗い場から一方通行が待っているであろうフードショップを目指していた。
そんな彼女の目に映ったのは一点に注目する人の群れ。何か事件でもあったのだろうかと思わせる
その光景に番外個体は興味本位で接近する。元々この先に待ち人がいるはずなのだ。
嫌な予感を即座に感じ取ったのも手伝い、極力足早に見通しのいい位置から様子を窺った。
人巻きを掻き分けるよりも次の動きに移りやすいためだったのだが、この判断が見事に功を奏した。
人々の視線の的となっている中心人物の一人は、予感通り一方通行だった。
一方通行と見知らぬ少女。状況的には、正に一触即発の一歩手前のように見える。
相手の少女の只ならぬ雰囲気も遠距離から伝わってきた。まともな生活で生きているようにはとても
思えない。おそらく、一方通行と相対している少女は暗部の人間と捉えて間題ないだろう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:49:35.24 ID:twZfxaNF0<>
昨日の出来事が番外個体の頭の中でフラッシュバックする。
束の間の休息で一時忘れかけていた一方通行の現状。そうなると、あの少女の狙いも絞れてくる。
最初は一方通行に加勢しよう。そう意気込んだが、隣りの不安そうな表情の打ち止めがふと目に付き、
番外個体の袖を引いた。
拙い。自分ひとりならまだしも、打ち止めが一緒では行動範囲が自然と限られてしまう。
敵の標的はあくまで一方通行。しかし、番外個体は一方通行の心臓の一部のような存在。打ち止めも
一方通行の支点として重要な位置に属している。
もし敵の手が打ち止めにまで向けられてしまったら、それで今度こそ取り返しのつかない事態を呼び
起こしてしまったら……最悪の未来しか待っていないだろう。
打ち止めを連れたまま、のこのこと得体の知れない敵の前に姿を見せるのは論外だ。
となれば、道はただ一つ。
走る。ただひたすら距離を置く。
自分達がいる。それだけで彼の足枷にもなりかねない。
一方通行なら絶対に切り抜けてくれると今は信じ、できるだけ遠くへと離れる。
これは逃げではない。寧ろ逆だ。
打ち止めを少しでも危険から遠ざけることが一方通行の本懐でもある。
ならば、今の番外個体にはその使命を全うする責任がある。一方通行の代わりに、ここは番外個体が
打ち止めを守り抜かなくてはならない。
一方通行が戦いに専念できるように、気が削がれないように。一方通行を安心させるために。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:51:58.15 ID:twZfxaNF0<>
「番外個体……、どこまで行くの? ってミサカはミサカは尋ねてみる……!」
「悪いけど少し黙ってて。アクセラレータとは一旦別行動を取るから、我が儘は聞かないよ!」
走りながらも余裕の少ない喝を唱える番外個体。この一転した慌しい展開を、打ち止めは一体どう捉え
ているのだろうか。さっきまでの楽しかった時間が嘘のような浮かない顔からでは、判別が難しい。
(甘かった……! ミサカ達の考えが甘かった!)
(まさか昨日の今日でもう手を回してくるなんて……、思ってた以上に深刻な問題みたい)
(とりあえず、あの場でミサカ達にやれることはない。このミサカならともかく、最終信号も一緒の
時点で分が悪すぎる!)
(だったら、ミサカにできることは一つ………)
(――――この子を………最終信号を、少しでも危険地帯から引き離すこと!)
決意を胸に、番外個体は真っ直ぐ走り続けた。打ち止めは言われた通りに沈黙を保ち続けた。
番外個体の胸元辺りの服端をギュッと掴みながら、暗雲立ち込める未来に露骨な不安感を剥き出しに
している。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:54:42.33 ID:twZfxaNF0<>
昨日の件がもし無かったとしたら、番外個体の腕から抜け出してすぐにでも一方通行の所へと戻って
いたのだろう。
だが、今の打ち止めがその横行に踏み出すことはなかった。同じ轍を踏んで、また一方通行を困惑さ
せるのが今度こそ目に見えていたから。
ここは悔しいが番外個体の言う通り、大人しく現場から離れた方が良さそうだ。ある程度の時が過ぎ、
落ち着いたら携帯電話で連絡を取ればいい。
打ち止めの脳内がこの結論に至ったとほぼ同時刻、番外個体が足を止めた。
「ふうっ………あれ? ここ、どの辺だっけ?」
行き着く場所も不明なまま走っている内に、いつの間にか閑散とした場所へ来てしまった。観光客
どころか、周囲には人っ子一人見えない。
「遊園地の外へ出ちゃったの? ってミサカはミサカは現在地を確認してみたり」
「改札口みたいなバーは跳び越えた気がするけど、もしかしてあれが出口だったのかなあ……?」
「た、多分それだよ! ど……どうしよう。再入場って普通にできるのかな……。ってミサカはミサカ
は心配性になってみたり」
「う……。か、金は流石に取らないっしょ?」
初来園で勝手がわからず、アホ染みた論争を交わす二人。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:56:40.36 ID:twZfxaNF0<>
「っていうかさ……、じゃあここは一体どこなの……?」
周りにはもう使われていないような工場が密集しているが、やはり人影は見えない。
どの学区内にも必ずと言っていいほど存在する『空白の無法地帯』に足を踏み入れてしまったのか。
もしそうだとしたら少々都合が悪い。
「がむしゃらに走ったはいいけど……こんな誰も来ないようなトコまで来たら、かえって危険区域に
飛び込んだだけだったりしてね」
あまり笑えない冗談を苦笑混じりで飛ばす。この発言のせいで、打ち止めの表情はより一層緊張感を
増した。
「や……やめてよ。ってか、それより早く人の多い場所まで行こう? ってミサカはミサカは促して
みたり」
「……そうだね。出ちゃったモンはしょうがないし、どっかの店で落ち着いてからアクセラレータに
連絡を取ってみるか」
二人の間でそう決定し、打ち止めを降ろした番外個体が先を歩こうとした――――その時だった。
『――――悪いが、そう上手くはいかない』
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 21:58:35.27 ID:twZfxaNF0<>
「ッ!?」
機械を通したような怪しい声がどこからか反響し、二人の足をピタリと止めた。
同時に番外個体と打ち止めの警戒心が最大にまで跳ね上がる。
「――――最終信号っっ!!」
不吉を瞬時に予測した番外個体が打ち止めへと駆け寄り、脇に抱えて跳ねる。
それから一秒後、打ち止めのちょうど立っていた地面付近で、爆竹みたいな乾いた音が発生する。
死角から発砲されたらしい。あと少しでも反応が遅かったら、蜂の巣にされていたかもしれない。
着地した番外個体は、発砲してきたと予測される方向へ鋭い視線を送りつけた。
「コソコソしてないで出てきたら!? 女相手に情けないと思わないの!?」
怒りを露にした口調で怒鳴りかける。
すると、早速相手側からの反応があった。
「……!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:01:17.36 ID:twZfxaNF0<>
廃工場と思しき内部から姿を現す武装した謎の集団。数はざっと三十人あまりか。
まるで、彼女達を最初から待ち構えていましたと言わんばかりのこの光景に、番外個体は喉を
唸らせた。
「くはー……、相手側にとっちゃあ想定内どころか思う壺だったってワケか。いんやあこりゃ
一本取られた気分だわ。いやホント」
『――――番外個体、最終信号、両名を確認。場所は―――――』
番外個体が感心している間に、武装兵の一人が通信機越しで何者かに報告業務を済ましていた。
どうやらこちらの話は、最初から聞く意思などないらしい。
「……ふん。まあそれならコッチもやる事が自然と限られてくるから、別に構わないんだけどね」
番外個体がより鋭く目つきを変えたのに合わせるよう、武装兵たちが銃器を向けた。
背後で戦慄を覚えている打ち止めが小さく声を漏らした。
「み、番外個体……」
「お願いだから、最終信号はその場所から絶対に一歩も動かないでね」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:03:20.78 ID:twZfxaNF0<>
「え……?」
「あなたに怪我負わせるわけにはいかないの。……どんな事があっても、絶対に」
「番外個体……」
正面を見据えたまま胸の内を零す番外個体に、打ち止めは感銘のようなものを受けた。
一方通行が命を賭してでも救おうとした小さな命。
それをこんな所で散らせるなど、決して許せるものか。
番外個体の強い意志が、打ち止めにも何となく伝わっていたのかもしれない。
「……………わかった。ってミサカはミサカは力強く頷いてみる!」
「ん、いい子だね☆」
一瞬だけ微笑んだ番外個体。しかし次の瞬間、般若のような形相で青白いスパークを
発生させ、身体の周りの空間を無造作に走らせた。
『……!!』
武装兵たちにも緊張が走る。
番外個体の能力は『電撃使い』。大能力者レベルの実力を誇る。
決して侮っていい相手ではない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:07:06.85 ID:twZfxaNF0<>
「あなた達に一つ教えておくけど」
電流を帯びた番外個体が静かに語り出す。
「このミサカは平和主義者なんかじゃない。血生臭いのは寧ろ大好物さ。……ソイツを
よーく覚えておきな」
肝の据わりようも伊達ではない。
このぐらいの境地など、窮地にすら感じていなかったようだ。
ただならぬ雰囲気にプレッシャーを感じたのか、何人かの兵が先走って銃弾を放つ。
無論、そんな事で倒れるような彼女ではなかった。
「ふん」
『―――ッ!?』
不敵に鼻で嗤いながら、何かを横薙ぎに放る。投げられた物体は分散された電子のように
拡散し、瞬速で迫る複数の弾丸と相殺した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:08:32.64 ID:twZfxaNF0<>
次の一手は、番外個体が掴み取る。
「ほら、まだだよ」
再び弾丸を相殺させた金属物をばら撒く。が、物体はまるで意思でも備わっているか
のように軌道を自由に修正させ、武装兵の身体を片っ端から貫通していった。
貫かれてから、彼等は番外個体が投げているのは何の変哲もないただの釘で、磁力を
応用させて操作している事に気づく。
『……小娘がッ!!』
憤りを露出しながら武兵は応戦に転じようと息を巻くが、少女の余裕の笑みを打ち消す
までに至らなかった。
電気釘に打たれ、次々と無力化されていく武装兵。
気づけば半分以上がやられてしまっていた。
残された戦力にも“怯え”や“惑い”が生まれ始める。
「あっれえ? なーんか張り合いねぇーなー……。もっと血湧き肉躍るモンだと思って
たのに、もしかしてミサカが勝手に期待しちゃってただけ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:09:30.15 ID:twZfxaNF0<>
返答する余裕も、兵の中にはいなかった。
しかし、別の方角から電流を纏った彼女に答えが下される。
「―――――そう言うなよ。コッチの資金なんてたかが知れてんだから、コストダウン
は避けて通れない道ってヤツさ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:11:40.71 ID:twZfxaNF0<>
「!」
新手か? と声のした方へ眼光を向ける。
視線の先に悠然と佇む少女。だが、よく見ると……。
「あなた、さっきアクセラレータと……!」
「っ! 一緒にいた人だ! ってミサカはミサカは指さしてみたり。……けど、何でここに?」
そう。一方通行と対峙していたはずの少女が、何故この場に?
番外個体と打ち止めの面相が疑惑の心を表示しているが、当の本人である黒夜海鳥は
ぶっきらぼうに告げた。
「あーあ、ずいぶん派手に暴れちゃってまあ……指揮とってた立場としては心が痛むわ」
あまりそうは見えないが、とりあえず疑問点を追及してみる。
「……アクセラレータはどうしたの?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:13:22.88 ID:twZfxaNF0<>
「あぁ? んなの後回しに決まってんだろ。“コッチ”を先にした方が手っ取り早い
上に楽ときたモンだ。敵の弱点をつくのなんざ、スポーツの世界でも定石だろうがよ」
「弱点……?」
ピクリ、と眉が細かく振動した。
聞き捨てならない発言を耳にしたせいか、表情も自然と強張っていく。
「足止め、ご苦労さん。アンタ等はもう下がってな」
その一声で残りの武装兵はいっせいに退却し、黒夜だけがその場に残った。
「さて、番外個体(ミサカワースト)に打ち止め(ラストオーダー)。アンタ達が第一位
の支柱だって事はとっくに調べがついてんだ。アンタら自体に恨みなんてないけど、計画
のために利用させてもらう。憎むんなら不甲斐ない第一位と、生まされた事を憎みな」
突如、周りの空気が変化した。いや、正確には黒夜の近辺を流れる空圧が前兆も無しに向き
を変えた。
「ッ……!!?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:15:15.16 ID:twZfxaNF0<>
黒夜は特に大きな挙動を取ったわけではない。ただ両手を左右に広げただけにすぎなかった。
なのに、たったそれだけで、どういう仕組みか異空間に取り込まれたような痛覚がよぎる。
そう。まるで、ここだけ生命維持環境が狂っているみたいに。
(これは……!)
火災現場にでもいるような息苦しさに口元を手で覆いながら、番外個体は一つの仮説を立てた。
「大気操作系の能力者……!?」
「あァー、半分正解かなァ。別に大気そのものを直接操れるってワケじゃねェンだ」
「――――ッッ!!?」
聞き親しんだ口調が突発的に耳を貫き、番外個体は仰天する。
疑いたくもなって当然だ。一体この少女は何者なのか。興味は尽きるどころか更に深まっていく。
「……その言葉遣いは……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:17:06.34 ID:twZfxaNF0<>
「あ、説明がまだだったか。つっても、アンタじゃ一から十まで理解させるのは困難な話かもなァ。
けどまァ、私の場合は―――――」
「『暗闇の五月計画』か……」
黒夜の口弁が番外個体の一言で遮断される。
「“くらやみ”……? 番外個体、それって……?」
流れに置いてけぼり状態の打ち止めがおずおずと尋ねた。
「……最終信号は知らなくていい事だよ」
「?」マークを頭上に表示している打ち止めに振り向かないまま、一言で切った。
今、打ち止めに詳細を口授したところで何も意味を成さないからだ。
一方の黒夜は呆気に取られていた。
まさか、自身とほぼ無縁のこの計画を知っていることは完全に予想外だったらしい。
「………へェ、知ってたンだ。こいつァちょっと意外だったねェ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:20:25.58 ID:twZfxaNF0<>
「話には聞いた事があった。もっとも、実際に被験者本人を直接拝める機会が来るとまでは……
さすがに思ってなかったけどね」
「そりゃあ良かったじゃン。ならついでに、アンタが今抱えてるであろォ問題についても解答を
くれてやる」
「ほう」
こちらの状態を観察するように目玉をギョロつかせる黒夜。
どうやら全てはこの女の手の内通りに展開しているみたいだ。
「ここら一帯の空気がなーンかおかしく感じるだろォ? さて、ソイツは何でだと思う?」
クイズでも仕掛けている風な言い回しだった。
「さっき惜しいトコにまで着けたンだ。ならもォ分かってるよなァ? 正解は―――――」
「―――――“窒素”さ」
更に彼女の独白は続く。
「こいつが私の『窒素爆槍(ボンバーランス)』」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:23:00.11 ID:twZfxaNF0<>
宣告と一緒に、広げられた両手から膨大な量の気体が噴出される。
先刻から何かが噴き出ている音は聴こえていたが、今ようやくその謎が解けた。
微弱で目にも見えない窒素を放出させることで、空気中物質の割合を崩していたのだ。
番外個体が息苦しさを感じていた原因はこれによるものだった。
「……要は、手から気体を発するだけのチカラでしょ? ミサカの相手になるとは到底思え
ないけど?」
「未知のチカラを前にして先入観を捨てない……か。所詮は副産物、いい具合に期待を裏切
ってくれてるねェ」
「ミサカが副産物……?」
「おやァ? 自覚がないってかァ? アハハハ! こりゃあ傑作だ! 一時期障害を患った
ってのは、どォやらデマじゃなかったみてェだな」
馬鹿にした風な少女の態度に番外個体の不機嫌指数も上昇していく。
ムッとした人相で話を先に進めようと振り出した。
「………もういい。ってかさ、いい加減に“その喋り方”やめてくんない? すっげえ癪に
障るんだよ。乙女ボイス再生だと特にさ」
「残念ながら、そいつは無理な相談だね。何せ思考パターンの一部を植えつけられた関係上、
能力使用時は実験当時の一方通行の思考や言動に人格も引き摺られちまうンだからさ。言わば
デフォルトと化してンだよ。わかるか? 物真似とかそォいったレベルじゃねェ。これは“実験
の結晶版”だ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:25:16.83 ID:twZfxaNF0<>
「あっそう、だったら即急に能力使えなくした方が良さそうだね。このまんまじゃいらない
ストレスが溜まっちゃいそう」
身構える番外個体を前に、黒夜はまだリラックス体勢を解かない。余裕の表れか、それとも
単にナメ腐っているのかは断定しきれないが、不愉快なのに変わりはなかった。
だが、この局地で番外個体も黒夜と似た類の薄ら笑いを見せる。
「何笑ってンだよ? いっちょ前に恐怖でも通り越した?」
「いやあ、ただね……」
胸の内を自白するように、番外個体は妖しく輝かせた瞳を一点に絞った。
そこへ向かって、言葉を投げつける。
「判りやすいぐらいにあなたも根が腐ってるようで安心したんだよ。どうやら躊躇ってやる
必要性は皆無みたいだし」
「ふン、量産から突起した程度の造形品に言われる筋合いはねェよ」
「ホント、残念だわ。あなたとは是非とも違う形でお会いしたかった。そしたら、きっと
このミサカとは良いお友達になれただろうね」
「ははっ、それについては同感だな。アンタとは色ンな意味で話が合いそォだわ。けどな、
私は自分が“科学の犠牲者”だと意識した事はねェ。私の居場所なンてハナっから“ここ”
しかねェのよ。アンタと違って、平和に浮かれて堕落するよォな人生は真っ平なのさ!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:27:02.63 ID:twZfxaNF0<>
「……!」
黒夜が両手から発していた窒素の槍が拉げたみたいに広がっていく。
番外個体や背後の打ち止めも今気づいたが、黒夜の足下にあったイルカのビニール人形は、
いつからか彼女の背中にピッタリと張り付いていた。
能力助長の役割でも買っているのか、番外個体側からは解析不能である。
それよりも不可解な点。
黒夜の感情が異常なまでに昂ぶっている事だ。
何が可笑しいのか、黒夜は歪めた顔を更に歪めて馬鹿笑いを繰り返している。
「アハハハハハ!! やっとこの時が来た!! 根気よく待ってた甲斐があるってモンだ!」
何やら芳しくない状況が起きているかのようだ。
番外個体も黒夜の起伏の激しさを垣間見ては、流石に怪訝に思ってしまう。
「ついに“接点”も生まれた! これで上層部は正式に『殺害許可令』を出さざるを得なく
なる!! 下準備は完全に整ったァァ!! ……ククッ、今日は良い記念日になりそォだ」
「?」
言葉の大半が理解できなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:28:11.06 ID:twZfxaNF0<>
空を仰いで叫んでいる黒夜の様子は、その時だけ我を忘れてしまう程に歓喜を焙らせた雰囲気
に思えた。それまで押し殺していた感情が、能力の解放と共に前面へと押し出されてしまった
ものと仮定できる。
そして、嘲笑は今もまだ止まない。
「あとはアンタらをあっさりと片付けて、浜面仕上と一方通行との間に生まれた“接点”を
切れないよォに仕向けさせりゃあ全て完璧よ」
ギロリ、と殺気が束ねられた。
黒夜が視点を向けたのは番外個体ではなく、その後ろで呆然と立ち尽くしている打ち止め。
「ち……ッ!!」
この事象に不穏を感じた番外個体は、瞬時に対応しようと雷撃を纏わせた複数の釘を黒夜
へと飛ばした。
―――――が、
「駄目だよねェ、そンなンじゃ。もォアンタには何も止められる力がない事に、いい加減
気づけよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:29:55.00 ID:twZfxaNF0<>
この言葉の直後、放たれた複数の釘は紫電を失くし、冷たい地面に次々と落下していった。
カラン、カラン、と無機な音が地を鳴らす。
番外個体の眉が大きく吊り上がる。
一体何が起きたのか、皆目見当がつかなかった。
「は……?」
「アンタが『電撃使い』なのを知ってて、手を打たないとでも思った? 二酸化窒素でも
発生させられちゃあコッチとしても困るンだよ」
「気づかなかっただろォけど、手の先から微量ずつ窒素を流出させてたのさ。ちょうど私
とアンタの間に壁を作るよォ調節して酸素濃度を低くさせれば、対電撃用の戦法は樹立
する。大気中の気体の割合を一方的な窒素で狂わせ、電流の空気抵抗を促進させたって
ワケだ」
「とは言っても、こンだけじゃあ流石に今みてェな威嚇レベルの低電圧を防ぐのが限界だ
ろォな。大能力者級のアンタを相手にするには若干まだ心許ない。が―――――」
「―――――私の手札も、当然これだけには終わらねェ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:31:44.76 ID:twZfxaNF0<>
得意気に語る黒夜の目線は再び打ち止めへと移される。
唖然としている場合ではない。わかってはいても、惑いを抱えていては動作もやはり鈍い。
「さァーて。ほンじゃまずは、手頃な方から機能停止に追いやってみるか」
凶器同然の掌が、幼い少女へと照準を合わせた。
「……! 最終信号ッッ!!」
次いで「逃げろ!!」と叫ぶため、首を大きく後ろへと振った。
敵から思いっきり目を逸らしてしまう行為なのも厭わないほどに、頭の中は混乱していた。
しかしこの後、事態は番外個体の予測を遥かに超えた展開を見せる。
「え……っ?」
思わず振り返った後に間抜けな声を漏らす番外個体。
背後に居た打ち止めが、何の前ぶれもなく唐突に、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:33:10.48 ID:twZfxaNF0<>
目の前から、忽然と姿を消してしまった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:35:22.73 ID:twZfxaNF0<>
「な……に?」
今度は何が起きたというのか。番外個体は必死に頭を働かせる。
「ち……空間移動系の能力者か」
忌々しそうに吐き捨てるのは黒夜。
再度、黒夜へと首を戻した番外個体は複雑な心象に駆られた。
(あいつの仕業じゃない……? けど、安否不明じゃあ胸を撫で下ろすのはまだ早計か……)
窮地を脱したとはいえ、依然として安心できる状況とは限らなかった。
黒夜の言う通り、空間移動系の能力者による所業だとしたら、短時間で遠くまでの輸送は
至難の筈である。打ち止めを消したのが黒夜とは別の刺客者である可能性も捨てられない
以上、心置きなく勝負に臨んでいられる心境ではない。
ここは速攻で畳み掛ける必要がある。
そして、それは黒夜にとっても同じ事だった。
「何がどうなってんのかサッパリだけど、あなたにはとりあえず退場してもらおうか」
「同感だよ、クソったれが……! まァ仕方ねェな。こォなりゃアンタから手早く沈めて
やる!」
電撃と窒素。
二つの異なる物質同士が、彼女達の背景を禍々しく覆う。
行方不明となった打ち止めへたどり着くのは果たしてどちらが先か。
事態は一刻を争っていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:37:25.57 ID:twZfxaNF0<> ちょっと量多かったかな…
区切りがつけにくかったぜ
とりあえずはここまでです
では一部解禁
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:39:43.43 ID:twZfxaNF0<>
浜面「何やってんだよ……! さっさと殺せばいいだろ!! 情けのつもりかよ、ふざけやがって……!」
一方通行「ッチ……ピーピーうるせェ野郎だ。そンなに自殺してェンなら、他の方法でも考えてろ」
―――――――
???「まったく……。私達を出し抜こうなんて、超浅はかでしたね」
???「ホントよ、勝手な行動は謹んでもらいたいわね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/04/28(木) 22:41:39.30 ID:twZfxaNF0<> 以上です
またキャラ増えます
正直バレバレですが……
それではまた次回に <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/04/28(木) 22:44:20.40 ID:NVRyCJhA0<> 乙!
いいねェ、いいねェ、最ッ高だねェ!
次も期待してンぜ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 22:44:31.60 ID:AtNUKt0SO<> おつ!!
初めてリアル遭遇できて感激です!!
続き早く見たい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/28(木) 23:31:45.86 ID:MuD0RHCG0<> おつ!
ていとくんおもたらはまずらだった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/28(木) 23:48:17.14 ID:XKN5SciQ0<> >>1乙 今回も面白かった!
打ち止めがどんどんインさん化していくよおおおぉぉぉ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 06:05:32.60 ID:gIgSatxV0<> おつ
本当にここの>>1は予想外なとこついてくるわ
絶対カッキーかと思った
つーかこれ、新約再構成みたいになってきたな
個人的に原作より面白くなりそうだと思う <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 07:00:39.16 ID:AjSvg0+r0<> >>475
フレメアちゃんはいらんと申すか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 07:47:07.41 ID:Rk/xKCbSO<> そういやここじゃ時間遅れ設定なんだよな
フレメアはどうなってんだろ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/04/29(金) 10:11:44.08 ID:3NzWU+900<> >>477
にゃあにゃあしてると思う。
読み間違えるなよ。絶対に。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 13:04:04.60 ID:AjSvg0+r0<> にゃんnyあbbbbbb <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>SAGE<>2011/04/30(土) 21:51:48.08 ID:Dky5kulv0<> かまちー? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 01:00:32.88 ID:UfyzZr9H0<> だから女子高s・・・おっと、誰か(ry <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2011/05/01(日) 02:10:00.09 ID:irXrsUk80<> おら、ワクワクしてきたぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/02(月) 11:22:26.90 ID:QJKGv0Kc0<> ついにここにも窒素姉妹が…ゴクリ
続きがすごく気になる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 20:26:56.21 ID:gHOvZhR30<> >>483
ナイトロジェンシスターズを読んだな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 23:04:54.52 ID:wDhKulkO0<> 超大作臭がすげえ
これはどうまとまっていくのか想像もつかんな
ゆっくりで構わんから欠陥電気みたいな途中打ち切りは勘弁してくれよ? <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/04(水) 22:03:40.65 ID:qaC60ibF0<> レスくれる方も目をサッと通してくれている方も本当にありがとうございます
そして更新ペース遅くてごめんなさい
打ち切りはしません! 読んでくれる人が一人でも居てくれればそれだけで嬉しいです
こんな妄想劇に付き合ってもらって、感謝の言葉が尽きません
では続き
ちょっと少ないかも <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/05/04(水) 22:04:40.24 ID:2pyhWO7c0<> キタァーーーーー!
待ってたぜぃ! <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:06:47.96 ID:qaC60ibF0<>
―――
こちらの現状をパッと整理してみよう。
標的を番外個体達に変更し、逃走した黒夜海鳥。彼女の行動は不可解だった。
彼女達を利用目的で狙うのなら、わざわざ自分の前に姿を現す必要性が本当にあったのか。
疑問は深まるばかりで、少しも解決へと結びつかなかった。
だが、“彼”が現れたのは果たして偶然か。または他者による策略、陰謀か。
この着眼点に基づいた方向で思考を凝らせば、ごく自然にひとつの答えが浮き出てくる。
黒夜の行動の真意。そして、これが真相だとすれば、自分はまんまと策にはまってしまった
事になる。
「……ちくしょう、……っ!」
新たに掴めそうな事実に顔を強張らせる一方通行の真下で、悔しげな声を発するのは浜面仕上。
勝負は一瞬でついた。
浜面が引き金を弾く前に至近距離まで接し、無防備な体へ強烈な打撃をお見舞いしただけだ。
あとは足を引っ掛ける事でよろめく体を地へと払い倒し、立ち上がる前に上から圧し掛かって
組み伏せれば制圧は完了する。
感情の荒ぶりで一方通行の戦法を見誤っていた浜面の完敗だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:08:50.94 ID:qaC60ibF0<>
身動きひとつ取れずに押さえつけられた体勢のまま、浜面は自暴自棄に叫び出す。
「何やってんだよ……! さっさと殺せばいいだろ!! 情けのつもりかよ、ふざけやがって……!」
「ッチ……ピーピーうるせェ野郎だ。そンなに自殺してェンなら、他の方法でも考えてろ」
「それがイヤなら、黙ってここで待機してるンだな。さっきも言ったが、コッチも色々と立て込ンで
ンだ。いつまでもここで燻ってるワケにいかねェンだよ。……ったく、事態を更にややこしくして
くれやがって……」
「勝手な事ほざいてんじゃねえよ!!」
尚も戦意を薄めるどころか喚き散らし、一方通行の拘束から逃れようと錯誤する浜面。
次第にこうして気を遣うのも馬鹿らしくなってきた一方通行は、手っ取り早く浜面の獰猛な意識を
いっそ刈り取ってしまおうかとも目論んだ。
しかし、その前に一つ興味を示す物品が残っていた。
組み倒すために胸倉を掴んだ際、浜面が落とした拳銃である。
見た事もないデザインで、まるで特撮で使用される小道具のような形だ。
こんな意味のわからないもので一方通行を制するつもりだったのか、最初は正気の沙汰ではないと
結論付けていたが、そうでもなさそうな気がした。
「おい……、こいつはどこで手に入れた?」
「……は?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:13:26.75 ID:qaC60ibF0<>
一瞬、何を問われているのか解らないような顔を見せた浜面だが、論点をずらす程のものでもない
と即判決した。
「関係ねえだろ。今はそんなこと……」
「何度も言わせる気か? 急いでンだよ俺は。オマエは今、額に銃口を突きつけられてるのと変わ
らねェ。そンな事もわからねェのか?」
「んな事は承知してんだよ!! 俺も覚悟は決めてるっつったろうが!! だから殺すんなら早く
そうすりゃいいだろ!!」
駄目だ……拉致が空くどころか、ただの時間浪費になりかねない。一方通行は心底そう思った。
このままでは話になりそうもない。やはり意識を断ち切らせるか、と決案しかけたが、その直前――――。
「はーい、そこまで。ウチの大事な構成員にそれ以上乱暴しないでくれる?」
――――浜面に救いの手が差し伸べられた。 <>
>>490は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:15:29.49 ID:qaC60ibF0<>
一瞬、何を問われているのか解らないような顔を見せた浜面だが、論点をずらす程のものでもない
と即判決した。
「関係ねえだろ。今はそんなこと……」
「何度も言わせる気か? 急いでンだよ俺は。オマエは今、額に銃口を突きつけられてるのと変わ
らねェ。そンな事もわからねェのか?」
「んな事は承知してんだよ!! 俺も覚悟は決めてるっつったろうが!! だから殺すんなら早く
そうすりゃいいだろ!!」
駄目だ……このままではただの時間浪費にしかならない。一方通行は心底そう思った。
とても話になりそうにない。やはり意識を断ち切らせるか、と決案しかけたが、その直前――――。
「はーい、そこまで。ウチの大事な構成員にそれ以上乱暴しないでくれる?」
――――浜面に救いの手が差し伸べられた <>
>>490は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:18:28.51 ID:qaC60ibF0<>
「……ったく、今度は何だ?」
うんざり顔で声がした方を向く。
そこには二人の女性が凛々しく佇んでいた。
一人は小柄で外見から判断するに十ニ〜三歳。黒夜海鳥と同年代くらいに見えた。
ニットのセーターが素材のワンピース姿だが、丈が短いのは意図的か。サービスショット寸前まで
露出された太股が何とも眩しかった。もっとも、一方通行はそんな事で目を眩まされたりはしない。
もう片方はそれに比べて立派な大人にすら見える。まだどこか幼げな面影があるのを考慮するに、
十代後半といったところか。端麗で整った顔立ちが、大人びた雰囲気を演出していた。
丈の長いコートから覗く生足が艶やかで魅力だが、今はそこに着目する場面ではない。
大人チックなコートを靡かせた女性がもう一度だけ忠告した。
「そいつを解放してくんない? 第一位。ただの下っ端や使い捨てならいくらでも切り捨ててやる
けど、一応はそんな馬鹿でもウチの正規構成員なんだからさぁ」
「む、麦野……? 絹旗まで……!? お前等、どうして……っ!」
地に寝かされたまま、瞳を横へ傾けた浜面は愕然とした。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:21:02.46 ID:qaC60ibF0<>
麦野沈利、絹旗最愛。
浜面の窮地に颯爽と現れたこの顔ぶれに、一方通行は眉を顰める。
「………『原子崩し(メルトダウナー)』か?」
「あらあら。格下の事をいちいち覚えてくれてるなんて、正直意外ね。まぁ一応自己紹介ぐらい
しておこうか。初めまして第一位、麦野沈利よ。以前“こいつ”が何度か世話を掛けたみたいね」
一方通行の真下にいる浜面を顎でしゃくり、簡潔な挨拶を済ませる。
麦野の隣りに立っていた絹旗も、無様な格好の浜面へ辛辣なコメントを送った。
「まったく……。私達を出し抜こうなんて、超浅はかでしたね」
「ホントよ、勝手な行動は謹んでもらいたいわね」
麦野も呆れた風な溜め息を漏らす。
すると浜面はよほどの気まずさを覚えたのか、組み伏せられたままガタガタと震えだした。
「こ、これは……その」
「?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:23:36.27 ID:qaC60ibF0<>
勇猛果敢ぶりはここで一旦奥へと引っ込んでしまったようだ。
この様子だけでも浜面が普段、彼女達とどういった間柄を築いているのかが掌握できる。
一言でまとめるなら、至極わかりやすいほど尻に敷かれているらしい。
「ち、違うんだ! 別にお前らを出し抜こうとした訳じゃ……」
「言い訳なんて超見苦しいですよ。一人で第一位に特攻を仕掛けるだなんて……浜面の癖して
超生意気です!」
「お前の沸点はそこ!? 微妙にズレてる気がするけど……、とにかく、お前らは引っ込んで
てくれ。これは俺の――――」
「あら、なぁーに? アンタだけの問題、だとでも言いたいのかしらーん?」
「うっ……」
麦野が放つ眼力の凄みに浜面は思わず怯む。
(何がどォなってやがる? 何故この局面で第四位が……。クソ、状況が読めねェ)
減速知らずの急展開についていけない一方通行。
「ま、アンタに訓戒を与えるのは後にしておくとしようか。それより――――」
周囲を眺めながら麦野は面倒臭そうなニュアンスで述べる。
野次馬達がまるでドラマの撮影現場を見物しているような取り巻きと化し、物事を進めるには
非常に不効率な状態と言えた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:25:43.18 ID:qaC60ibF0<>
「――――まずは移動しましょ。話はそれからでいいわね?」
目線は地面に伏している浜面へ。
「いいわね? 浜面」
「っ…………あぁ」
苦虫を噛み潰した顔で了承する浜面。無念さが全身から表れていた。
しかし、この提案に一方通行がすんなりと従えるわけがない。
何度も述べたが、今の彼には何よりも率先しなければならない事が残っているのだ。
「こいつにはもォ言ったが、今はオマエらに付き合ってる場合じゃねェンだ。話なら後にさせ
てもらうぜ」
そう吐き捨てて浜面からあっさりと身を離した一方通行は今度こそその場から消えようと背中
を向けるが、冷静な麦野は遠ざかる背中に衝撃の宣告を飛ばした。
「あぁ、アンタの連れなら心配要らないわよ。とりあえずは、ね」
「………何だと?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:29:00.74 ID:qaC60ibF0<>
「おい、第四位……。今オマエ何て言った?」
これを聞いて足が止まらない筈はなかった。
「ふふ、第一位のそんな顔が見れるとはねぇ……。よっぽど大事な存在なのかにゃーん?」
「オマエには関係ねェだろ。それより今のはどォいう意味だ? 何でオマエがあいつらの―――」
「ハイハイ取り乱さないの。あとで存分に説明してあげるから、いったん血圧下げよっか」
「ッ……」
第四位のペースに乗せられる第一位というのも珍妙な光景である。
するとここで沈黙を保っていた絹旗最愛が口を開いた。
「第一位」
「……何だ?」
「心中穏やかでないのは承知しています。ですが、ここは超黙って私達についてきてください。
……これ以上話をややこしくするのは互いにデメリットしかありません。……どうかお願いします」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:31:47.18 ID:qaC60ibF0<>
一方通行からしてみれば信用できないであろう立場を察したのか、極めて下手且つ丁重に申し出る
絹旗の姿勢。これには麦野も浜面も驚かされたらしい。
だが、この行為が一方通行の急く心に僅かな落ち着きを与えたのもまた事実だった。
「………」
絹旗からそれ以上の言動はなかった。
再び沈黙の仮面を装着した彼女の表情は“無”。まるでそうする事で激情を強制的に封じ込めている
ように見受けられた。
「……あいつらと俺との関係は、既に把握できてるってことか?」
「そういうこと♪ あと捕捉しておくけど、今あのガキを追いかけても敵側の思う壺だってのは理解
できてる?」
「たとえそォだとしても、俺には……」
「逸る気持ちはわからなくもないけど、そこを曲げて信用してもらえないかしら? 私らは少なくと
もアンタと敵対するつもりはない。約一名の馬鹿はどうだか知らないけどね」
「……ずいぶンと勝手な言い分じゃねェか。俺が簡単に信用すると、何故確信できる?」
「無理にとは言わないわ。どうせアンタを武力で止めるなんて不可能なんだから。後悔したいんなら
好きにすればいい。信用を得れなくたって私としては別に構わないのよ。……でも、これだけは胸に
留めておいて」
「………?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:33:34.40 ID:qaC60ibF0<>
「もし私らがアンタの敵なら、罠へ飛び込んでいくアンタをこうしてわざわざ止めたりはしない。
浜面の解放だけ済んだら、あとはとっとと傍観者側へ回ってるわ。当然、身の安全を確保した上で……ね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:35:37.15 ID:qaC60ibF0<>
「………………」
「いきなりで信じられないでしょうけど、……それでもここは折れてくんない?」
最後は麦野の明るげな懇望。
緊迫感があるのか無いのか、微妙なラインである。
「………ッ」
突然出てこられて信用できるほどの間柄でもない学園都市の第一位と第四位。
しかし、一方通行はこの普段から馴染みの無い彼女たちを猜疑しきれずにいた。
浜面が己に剥ける牙の真意も気に掛かる。
既に麦野が手を打っているという言葉。一方通行はこれに賭ける選択を取った。
だが、あくまで信用したのはこの言葉だけであって、麦野自身を完全に信用した訳ではない。
そこら辺はこれから移動した先で話を交えた上で判断するつもりだ。
「…………わかったよ。さっさと行くぞ」
一方通行の決断に微笑を浮かべて引率するように歩き出す麦野と、不貞腐れた調子でついてくる
浜面。隣りを歩く絹旗に至っては完璧な無表情を徹底したままで一方通行の顔を見ようともして
こない。浜面が自分に委ねてくる嫌悪感と何か関係性がありそうだ。
園外へと出た一同は浜面が運転する車に乗り込み、新生『アイテム』が所有する隠れ家へ向けて
出発した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:36:40.36 ID:qaC60ibF0<>
―――
(………まずった)
番外個体は心中で呟く。
苦悶の表情で。
「アハハハハ! どォした? 『欠陥電気の強化版』な割りには大した事ねェなァ!」
黒夜海鳥の嘲弄が更に勢いづく。
両手から噴出された『窒素爆槍』の力。何らかの方法で強化でも施されているのか、その威力
は大能力者の際限を悠に超越していた。
質量からして既に最初から勝負にならなかった。
劣勢ならまだ良かったのかもしれない。
「ははっ。けどまァ、お人形さンにしちゃあ頑張った方か。“取替え”無しじゃ危ないトコだ
ったかもしれねェし……。っつか、アンタの王子様はどこで何やってンだか。私の予定じゃ
とっくに姿現しててもおかしくないってのに」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:38:23.40 ID:qaC60ibF0<>
腑に落ちない様子で首を捻る黒夜だが、彼女は一方通行が浜面を引き連れたか、或いは単身で
ここに登場すると目測していたようだ。そうなった場合、たった今叩き伏せたこの少女を利用
して一方通行の動きを封じ、一気に優勢となるチャンスが生まれていたのだが、現実は違う方
へと進行していた。
「ちっ、まァいい……。ならこの女を生け捕りにして交渉材料に利用するまでよ」
舌を艶かしく這わせ、下唇を濡らした黒夜が廃工場の屋根からストンと飛び降りる。
そのまま歩み、地面を這っている番外個体へ接近した。
「ふふふ。もう一匹の交渉材料(最終信号)は取り逃がしたが、ひとまず良しとしよォか」
すっかり勝ち誇り、横柄な態度の黒夜。
だが彼女は気づいていなかった。
俯いて見えない標的の顔が、笑っていたことに―――――。
「―――――ッッ!!?」
突如、口角の歪みを合図に走る閃光。
それが番外個体の発生させたプラズマだと認識する前に、黒夜の視界はふさがれた。
「うァあ!! め……目が……ッ!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:39:53.59 ID:qaC60ibF0<>
顔を手で押さえて蹲る少女に嘲笑の眼差しを向けながら、番外個体は静かに立ち上がる。
そして形勢は一瞬で逆転する。
「テメェ……ッ! 古典的な戦法とりやがって……!!」
至近距離で電磁波を応用させたレーザーのように光子密度の全体が大きくなるよう調整した
スパークを浴びせられ、一時的に視力を失った黒夜の忌々しげな声が飛ぶ。
「暗部の新時代を担うとか豪語してた割には、ずいぶんと不注意が目立ってるじゃん。あぁ、
やっぱりアレ? “新入生”の特権でもある間抜けぶりをアピールしたかったの?」
「クッ……ソがァァ……ッ!」
「ふふ、あなたの能力は大体わかったよ。どうやら手の先から噴射するしか能がないみたい
だね。他に秘策を用意してるってワケでもなさそうだし、さっさと終わらせてあげる」
宣言し、番外個体は蹲ったままの黒夜へ向けて右掌を翳した。
死なない程度の電気ショックを与え、意識を断ち切る。
それでこの恐ろしい力を所持した少女との抗争に決着がつく。
ところが。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:40:41.99 ID:qaC60ibF0<>
「そォだね。ンじゃあこれで終わりだ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:44:29.12 ID:qaC60ibF0<>
それは、さっきとまるで真逆の光景。
今度は黒夜が顔の手を退け、邪悪な笑顔を覗かせたのだ。
あれほどの強烈な光を網膜に取り入れ、こんなに早く視力が回復するなど有り得ない。
番外個体が仰天した顔でそれを指摘する前に、黒夜の『窒素爆槍』が襲い掛かってきた。
「さっき“不注意が目立つ”っつったよなァ? そっくりそのままアンタに返すよ」
完全に不意をつかれた番外個体は対応しきれず、暴れ乱れる轟風に成す術なく体を切り
刻まれる。
洗濯機の中で回っているかのように回転しながら、その身の節々に次々と切創が加算
されていく。
「あァァああああああ!!!」
痛々しい姿で弾き飛ばされ、工場の壁に衝突した番外個体。
そのまま力無く壁に寄り掛かる形で倒れ、呻き声を上げた。
「あうう……っ!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:47:35.39 ID:qaC60ibF0<>
すかさず黒夜がトドメの攻撃を加えようと手を開き、脱力しきった番外個体へ照準を
絞った。喩えるなら一撃で命を奪う凶器を突きつけたようなものである。
まさに勝負が決した瞬間だった。
「甘いのはどうやらソッチだったみたいだな。平和に浮かれたガラクタ如きに、この私
が後れを取るとでも思った?」
今度こそ勝利を確信した黒夜は、不気味に口周りを引き攣らせる。
対する番外個体は壁に頭を打ちつけた衝撃のせいで、意識が朦朧としていた。
何が起こったのか理解できない。
「目ェ“替え”といて正解だったよ。強化されてなかったらあと十数秒は動きが取れ
なかっただろォねェ。実に惜しかったけど残念、こいつでチェックメイトだ」
「………っ」
無慈悲に放たれる『窒素爆槍』。
思考が定まらないままの番外個体に、逃れられない残酷な結末が訪れようとしていた。
が、しかし――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:51:46.99 ID:qaC60ibF0<>
「なン……っ!!?」
ここで、またしても黒夜は顔を歪ませる。
それもそのはず。打ち止めの時と全く同様、番外個体もその場からフッと姿を消して
しまったのだ。
『窒素爆槍』が工場の壁ごと彼女の身体を抉りとる、まさにその寸前で。
「……ッ!!」
目標を失った窒素の槍が、工場跡の外壁を無意味に破壊する。
「クソっ……!! どこのどいつだ!? いちいち癪に障りやがって!!!」
二度に渡る外部からの妨害。
頭に血を昇らせた黒夜はすぐさま空中へ飛び上がり、消えた少女の行方を追おうとする。
「ちっ!」
だが、結局発見には至らなかった。おそらくはもう安全な場所まで移送されているのだろう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:52:53.15 ID:qaC60ibF0<>
「あァァ、やべェわこりゃ。ムカつきが収まらねェ!! あと一歩で完璧だったのに………。
―――――こン畜生がァァあああ!!!」
元の工場跡に着地した黒夜は、周りのガラクタへ向かって八つ当たりの如く猛威を振るった。
次々と原形を崩し、倒壊していく廃工場。
しばらくそうやって暴れているうちに気が落ち着いたのか、息を深く吐きながら崩壊する建造物
をバックにして呟く。
「ハァ……ハァ………ッッ!!」
「これで難を逃れたと思うなよ……。こっちには時間も保険もあるんだ。じわじわと、少しずつ、
じっくりと居場所を失くしてやるよ。なぁあ、第一位?」
囁くような笑い声は、工場の倒壊音に掻き消された。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:55:07.61 ID:qaC60ibF0<> 今回はここまでです
ようやく新章的な何かに突入した感じです
ゆっくりダラダラですがお許しください
では次回の一部公開 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 22:58:47.25 ID:qaC60ibF0<>
番外個体「えっと……寒くないの?」
???「え? いや、今日はそうでもないでしょ。……っていうか、最初につっこむトコがそこなの?」
―――――――
麦野「打ち拉がれた顔を見せるなんて、ホントに予想外ね……。イメージぶち壊しなんてモン
じゃないわよ?」
一方通行「……俺の知らねェ所でそンな事が起きてたとはな。確かに『知りませンでした』で済ま
されるよォな話じゃねェ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/04(水) 23:00:27.14 ID:qaC60ibF0<> 以上です
お付き合い頂き感謝します
それではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/05/04(水) 23:01:59.45 ID:2pyhWO7c0<> 乙!
相変わらず、楽しませてくれるねェ!
来てくれたのは、結標かな・・・
次も期待! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/04(水) 23:06:52.84 ID:1f+V0AHSO<> 超おつです!!
ようやく私の出番ですか…超焦らしすぎです!
あのクソ夜は私に超任せて下さい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/04(水) 23:42:15.21 ID:8p1a5WFW0<> >>512
絹旗ちゃンよォ
sageることもままならないんじゃ
あたしには勝てないんだよねェ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 00:06:54.92 ID:V3bu/KZSO<> >>513
ム…?
言ってくれるじゃないですか。
手先からマジック噴射するだけしか能がない超ワンパターン能力の分際で <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/05(木) 00:10:04.47 ID:fMlYIoHS0<> まァまァお前ら
ここはお兄さンの顔に免じて仲良くしやがれ
何なら矛先を向けてもいいンだぜェ?ハァハァ
あ、それと>>1乙だァ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/06(金) 08:44:00.38 ID:llXUSzMt0<> はーまづらぁ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/07(土) 21:55:39.76 ID:OzPAxAay0<> 木原の次は黒夜か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/05/08(日) 19:25:15.26 ID:Fxtuup8n0<> あわきんだと!?
胸熱!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 19:27:53.99 ID:Fxtuup8n0<> ああああああああああ!!!!!!!!!
しまったあああああああああああ!!!!!!!!!
sage入れるの忘れてたあああああああああ!!!!!!!!!
久々に覗いて感想書こうとした結果がこれだよshsidhbne;imj,cf未ウsンgbfxl
許して御免 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/11(水) 22:31:28.36 ID:bnE8ajSE0<> こんばんは
GWも終わって五月病真っ只中
更新ペースが遅くなってることに関してはお詫びの言葉もございません
が、終わるまでは何とか続けたいと思います
では今回もまったりと続き <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:33:20.16 ID:bnE8ajSE0<>
―――
「あれっ……?」
気がついたら見覚えのない場所にいた。
風景は薄暗く、そこが路地裏だということは一目で認識できた。どうして自分はここにいるのか?
わけもわからないまま、番外個体は自問自答を開始する。
「ミサカは確か窒素を使う能力者のガキと……!」
意外とすんなり思い出した。
黒夜の反撃と自分の詰めの甘さが戦況を絶望に追いやり、トドメが刺されようとした辺りで記憶は
途切れている。
と、いうことは?
「ミサカは……死んだの?」
誰に尋ねているのかさえ曖昧な声がポツリ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:35:04.73 ID:bnE8ajSE0<>
少なくとも、こんな閑静で気味の悪い場所が天国だとは思えなかった。
では、やはりここは地獄なのだろうか?
そんな事を思いながら立ち上がろうとする彼女の背後で、先ほどの独り言に対した返事が聞こえた。
「――――残念だけど、生きてるわね」
「!?」
予期せぬ応答に驚き、慌てて振り返る。
そこにいたのは自分と同年代くらいの少女。路地に幾つも並んでいるビールケースの一角に腰掛け、
番外個体を半身体勢で見つめていた。
十二月だというのにヘソ出しな上、惜しげなく露出した脚。さらにはピンクのサラシを胸に巻いた
だけで上からセーターと学生服らしき上着を羽織っただけの独特な格好は嫌でも番外個体の視線を
釘付けにする。
「えっと……寒くないの?」
「え? いや、今日はそうでもないでしょ。……っていうか、最初につっこむトコがそこなの?」
素直に本音が出た番外個体に呆れる少女。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:39:34.85 ID:bnE8ajSE0<>
「いやあ、だってこのミサカでも奇抜に見える辺り、あなた相当だよ?」
「……何の話かしら?」
「あなたの服装以外にある? 街中歩いてても同じ格好の人にはまずお目に掛かれないだろうね」
番外個体の頭には、“暴漢にあって身ぐるみ剥がされた可哀相な少女が警察に保護された際に上着を
着せてもらった図”が完成していた。
ただし、あくまで格好から連想できる図式なだけで、当人は弱々しい印象など微塵も感じさせずに凛
としている。
そして、今はそんな事について深く討論している場合でもなかった。
「はぁ……。まさかこの状況でそんな反応が来るとは思わなかったわ。貴女って、けっこう能天気?」
「そっちこそ、初対面の相手に向かっていきなり失礼なこと言うね」
「普通は場面の転換に思考が集中するものでしょ! ……あと、失礼なのはお互い様よ」
「そう言われればそうかもね。んじゃあ状況をサクッと整理すると……あなたがミサカを助けてくれた
って事でオーケー?」
「改まって言葉に出されると何だかくすぐったいわね……」
女性は丈の短いスカートから伸びる両脚を組み直し、プイと目を逸らした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:40:49.38 ID:bnE8ajSE0<>
「ま、そういう事になるのかしら。これでも空間移動系の能力者だから、方法には困らない」
「へえ〜、空間移動系の人に会ったのは初めてだよ。想像してたよりずっと便利そうな能力だね」
「……そりゃどうも」
(初めて、じゃないんだけどね……)と声には出さず、心の中だけで付け足す少女。
「まあ、ミサカを助けてくれた事に関しては素直に感謝するよ。……で、ここはどこ? ってか何で
こんな薄気味悪いトコに転移されてんの?」
「仕方ないじゃない。咄嗟に身を隠せる場所なんて限られてるんだから」
「ふーん……、まぁいいけど。それじゃあもう幾つか訊いてもいいかな?」
「えぇ、答えられる範囲で良かったらどうぞ」
自分を窮地から救ったこの謎の女。
質問は腐るほどあった。相手もそれを判っているらしく、黙って番外個体の二の句を待つ。
「あなたは何なの? 暗部の関係者?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:43:44.30 ID:bnE8ajSE0<>
遠慮のない番外個体の言動にも、少女は態度を変えることなく応じる。
「正確には『元』よ。さらに細かく言うなら……そうね、『卒業生』ってのが妥当かしら?」
「……。ってことは、あなたも上層部に弱みを握られてたクチ?」
「それについて詳しい話は伏せたいけど………まぁ、そういう解釈で問題ないわね」
「ふむ……。じゃあ次、最終信号を消したのもあなただよね? あの子はどこにいるの?」
問われた方は少し意外そうな表情を見せた。
てっきりこちらの素性ばかり探ってくると予測していたのだろう。
「………。ひとまず身柄は安全な場所で保護してるから、心配は無用よ。驚かせちゃった
みたいで、ごめんなさいね」
「気にしなくていいよ。結果的には助かったワケだし。むしろコッチが感謝する立場じゃん」
「そう言ってくれるとコッチとしてもありがたいけど……」
打ち止めの無事も聞けたせいか微妙に弛んだ空気が漂う。
そんな中、少女は軽やかに立ち上がって番外個体を先導した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:46:15.12 ID:bnE8ajSE0<>
「とりあえず、移動しましょうか。この先に仲間の車が待機してるわ。ひとまず安全な場所
があるから、そこまで行ったらゆっくり話しましょ」
そう告げて歩き出した少女。番外個体も後に続きつつ、先を歩く背中に話し掛けた。
「ねえ。あなたの名前、問題無かったら教えてもらってもいい?」
僅かな間を置いた後、少女は振り向かないまま返答した。
「―――――結標淡希よ。ここは“よろしく”って言った方がいい場面かしら? 番外個体」
くすっ、と鼻で笑うついでの自己紹介。
全体的にミステリアスで妖しい雰囲気をまとっているものの、番外個体には不思議と警戒心が生まれて
こなかった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:49:18.97 ID:bnE8ajSE0<>
―――
新生アイテムの隠れ家は、第十九学区と第二十学区の境にひっそりと点在していた。
間取りは中々に広く、いい具合にさっぱりとしていて散乱物も少ない。
ビリヤード台やダーツ、更には壊れたアーケード台が幾つか設置されている所を見ると、ここ
は閉業された遊技場らしい。
今は暗部の隠れ拠点の方がしっくりくる程度には寂れていたが、そこいらに洒落たインテリア
が施されているのは彼女達の遊び心なのだろう。
「寂れた地域にしてはずいぶンと贅沢な環境だなァ。ただの身隠し場所にここまで手ェ加えて
どォしようってンだか……」
一方通行は案内されるままに足を踏み入れ、周りを見渡しながら適切な感想を述べた。
「最近見つけたのよ。無監視な上にスペースも申し分なかったしね。こういった有効活用は元来なら
“ウチラ”の基本でしょ?」
そう言葉を返しつつも、麦野は他所から持ち込んだとしか思えないソファーで既にリラックスモード
へ突入していた。
この様子に若干呆けながらも、しっかり拾いどころは外さない一方通行。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:53:17.55 ID:bnE8ajSE0<>
「“ウチラ”、ねェ……。オマエらは暗部に未練でもあンのかよ? 俺みてェな立場でもねェヤツに
はとっくに通達がいった筈だ。もォ泥ン中で縛られて生きる必要はねェンだぞ?」
「その言い様だと、やっぱりアンタが発端か……。まだちょっと半信半疑だったけど、どうやらこれ
で確定みたいね。知ってる? アンタ、今や『卒業生』の英雄みたいなモンよ?」
「はぐらかそォとしても無意味だってのが分からねェか? ……通達は行き届いてなかったのかって
訊いてンだよコッチは」
少し苛つき気味になる一方通行だが、麦野は物怖じせずに平然と言った。
「通達なんて来るワケないじゃないの。別に今は、正式な暗部活動に取り組んでないんだから」
「何……?」
最初こそは事情が掴めなかったものの、話を聞くに連れて自然と納得できてくる。
現在、『新生アイテム』は暗部組織の枠内に入っていないとの事だ。
つまり、一方通行が仕向けさせた『鎖の切断』の対象に含まれてもいないのだ。
ロシアから帰国して以降、浜面たち側の状況など全く把握していなかった一方通行からしてみれば
おかしな話である。
彼女らは、自分が通告を流す以前から既に“卒業”していた事になるのだから。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:56:04.58 ID:bnE8ajSE0<>
しかし、これだけでは数多い疑問点のほんの一部が解明されただけにすぎない。
とりあえず、今解ったのは彼女らの現在の立ち位置である。
麦野たちの動向や趣旨も気にはなるが、それらは後に回して最優先の質問を投げ掛けた。
「オマエ達の近況は大体把握できた……。話を変えさせてもらうが、番外個体と打ち止めの方は
本当に大丈夫なンだろォな?」
「ふふふ、心配性ね。ちょーっと待ってなさい」
大人の余裕にも似た不敵な笑みを残し、麦野はいったん席を外した。
携帯電話を片手に持っていたのを見る限り、“そちらの担当者”へ連絡を取りに行ったのだろう。
彼女達が集合所兼隠れ家として利用しているこの空き施設は地下に位置する。電話使用の際は上まで
出向かなければならないのが面倒だが、その点さえ妥協すれば身を隠す場所としては悪くなかった。
わざわざ内密にしている部分が若干気に入らないが、出すぎた詮索で下手に敵を増やす必要はどこに
もない。この時はまだ、そう考えていた。
仕方なく自分も椅子に腰を下ろし、荒れていた心を落ち着ける作業に掛かった。
ふと、そこで感じる重苦しい視線。
「……………」
右奥のカウンター席に座る絹旗最愛が、こちらへ冷たい目線を送っていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:57:01.45 ID:bnE8ajSE0<>
しかし、これだけでは数多い疑問点のほんの一部が解明されただけにすぎない。
とりあえず、今解ったのは彼女らの現在の立ち位置である。
麦野たちの動向や趣旨も気にはなるが、それらは後に回して最優先の質問を投げ掛けた。
「オマエ達の近況は大体把握できた……。話を変えさせてもらうが、番外個体と打ち止めの方は
本当に大丈夫なンだろォな?」
「ふふふ、心配性ね。ちょーっと待ってなさい。今確認してきてやるから」
大人の余裕にも似た不敵な笑みを残し、麦野はいったん席を外した。
携帯電話を片手に持っていたのを見る限り、“そちらの担当者”へ連絡を取りに行ったのだろう。
彼女達が集合所兼隠れ家として利用しているこの空き施設は地下に位置する。電話使用の際は上まで
出向かなければならないのが面倒だが、その点さえ妥協すれば身を隠す場所としては悪くなかった。
わざわざ内密にしている部分が若干気に入らないが、出すぎた詮索で下手に敵を増やす必要はどこに
もない。この時はまだそう考えていた。
仕方なく自分も椅子に腰を下ろし、荒れていた心を落ち着ける作業に掛かった。
ふと、そこで感じる重苦しい視線。
「……………」
右奥のカウンター席に座る絹旗最愛が、こちらへ冷たい目線を送っていた。 <>
>>529はミス ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 22:59:24.11 ID:bnE8ajSE0<>
(何だ……? あのガキ)
その目は、この場に一方通行が存在していることを不快に感じているように思えた。
一方、左側の方角。
壁にもたれ掛かったまま煙草をフカシていた浜面仕上は一方通行の方を見ようともしない。
不貞腐れたチンピラ風な見た目そのまんまの雰囲気が良く出ていた。
「……………」
空気がとてつもなく重かった。
絹旗はともかく、浜面が一方通行に抱いている嫌悪感は誰の目にも明らかである。
この原因、そして詳しい事情を突きとめなければ謝罪も弁解もできない。
いたたまれない空気を打破するため、一方通行は浜面に話し掛けようと唇を動かした。
まずは、ずっと引っ掛かっていた部分から触れてみる。
「おい、そォいやずっと気になってたンだが……『滝壺』とかいう女はどォした? そいつも
確かオマエらの仲間だったンじゃねェのか?」
この言葉がある種の引き金というやつだ。
途端、浜面の目つきは一層鋭さを増し、絹旗は憤りを必死で隠そうと身を震わせている。
一方通行はこの反応に呆然とするしかない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:01:25.24 ID:bnE8ajSE0<>
「あァ……? 何だよ。どォしたってンだ?」
二人を交互に見ながら深く追求しようとする一方通行。
そんな中、浜面が人相とは裏腹の冷ややかな声を発する。
「アンタ……、よく堂々とあいつの名前が出せるよな。マジで何にも知らないのかよ?」
「だから訊いてンだろォが。俺には何がどォなってンのかがサッパリなンだよ。オマエが俺を
許せないって言った事と、何か関係があるのか?」
「っ……何でだよ」
「……!?」
浜面が悔しさを噛みしめる様子に嫌な予感が走った。
思えば初めて出会った時もロシアで遭遇した時も、この男は一人の少女のために奮闘していた
記憶がある。無能力な自分を必死に奮い立たせ、大切なもののために勇敢な姿勢を貫く。
それが浜面仕上という人間だ。
彼の動力源と言っても過言ではない存在のはずの少女、『滝壺理后』。
何故彼女が不在なのか、それがずっと気に留まっていた。
そして、そのことが浜面の怒りの直結となっているのは何となくで予測できるが、肝心の過程
が一切解らないのでは罪の意識にとらわれる事もできない。
たとえ逆効果になるとしても、彼等との関係が悪化するとしても、一方通行は真実を追究した
いと心から願った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:04:21.87 ID:bnE8ajSE0<>
「いい加減に教えろ! オマエ達に一体何があった? オマエが守ろォとしたあの女は、今どこに
居る!?」
直球を投げる。回りくどく求めるよりかはこの方がまだマシのはずだ。
一方通行の真剣な眼差しに浜面は言葉を紡げず、顔を俯かせてしまう。
その時の浜面は、脳内で酷い葛藤と戦っているかのように見えた。
と、そこへ―――――。
「滝壺なら入院中よ」
いつの間にか戻って来ていた麦野が、言葉を噤む浜面の代わりに返答した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:07:51.75 ID:bnE8ajSE0<>
「何だと……?」
発せられた言葉に愕然とする。が、当の麦野はそれから飄々と話題を変えた。
「あぁ。アンタの連れね、今確認したけど何とか無事だそうよ。良かったじゃないの」
「……ッ、そォか……。あァ、すまねェな」
これに関しては素直に良かったと息をつく。
しかし、全力の手放しで喜べる気分でもなかった。
麦野が戻って第一声に放った言葉の詳細をとにかく早く知りたい。
「………で、その滝壺とやらのことなンだが……詳しく話してもらえねェか? 一体どォ
いう経緯なのかがまるで解らねェ」
珍しいくらいの低姿勢で頼む一方通行だが、それほど今回は謎が多い。
多少は捻じ曲げてやるくらいでないと、真相へはたどり着けないと悟っているのだろう。
“木原数多が復讐と共に授かった条件”を『新入生』が引き継いだこと。
これと新生アイテムに何の因果が眠っているのか。まずはそこをハッキリさせなくては。
と、そんな一方通行へ意外な方向から声が掛かる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:10:15.61 ID:bnE8ajSE0<>
「第一位……」
そう、均衡を破ったのは意外にもこれまで無言を貫いていた絹旗だった。
「浜面が貴方を敵視しているのは……超無理もない事なんです。本音を言えば私も、そして
麦野も………できるのなら貴方へ引導を渡してやりたいところです」
普段とは別人格のような冷笑を付け足して瞼を閉じた絹旗は、一呼吸置いて話を続ける。
「ですが、貴方には知り得るはずもない。それどころか罪の意識さえ感じていない……。
これを容認できるほど、私も大人ではありません。特に浜面は……」
絹旗が喋り出した事により、麦野は静観する立場に回らざるを得なかった。
浜面は肩を震わせながら壁に寄り掛かったまま乱暴な動作で床に座り込む。
目を開き、しっかりと一方通行を見据えた絹旗は、声のトーンを一段階上げて断言した。
「結論を言います。滝壺さんが入院したのは貴方のせいです。幸い命には別状がなかった
ものの、場合によっては死んでいてもおかしくなかった」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:16:10.59 ID:bnE8ajSE0<>
「……!!」
室内の温度が上昇した気がした。
態度こそ冷静だが、彼女の瞳は一方通行に対してぶつけようのない怒りを表している。
「……第一位が直接の原因ではないにしろ、根底を辿れば……っ!」
「絹旗、もういいわ……」
麦野が見切りをつけた。変に強がって平常心を保とうと必死な絹旗を見ているのは、
やはり辛いものがある。後を引き継ぐように言葉を繋ぐ。
「逆恨み……って言っちゃえばそれまでかもね、第一位。……けど許してあげて……。
こいつらは暗部失格レベルの仲間想いなのよ。今は私も人のこと言えないけど」
「……そォか。って事ァ、やっぱりオマエらにも………」
「えぇ、暗部時代の連絡網経由で指令が来たわ。“新入生と共にアンタの抹殺部隊へ
加入しろ”ってね……」
「……………」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:18:49.07 ID:bnE8ajSE0<>
「当然蹴ってやった。私らは暗部に復帰するつもりなんてなかったし、アンタが何を
やらかそうと興味はないから。……でも、この話に統括理事が絡んでないと知った
時には、既に遅かった……」
「相手の素性はわからないけど、新入生を束ねるだけの力と権利を持っている者……。
理事会に何らかの形で精通している派閥と捉えて間違いないでしょうね」
「ヤツらが強行手段に打って出たのも指令を蹴ってからすぐ後のことよ。何しろ相手は
危険度もトップクラスの第一位(アンタ)。自惚れじゃないけど、超能力者第四位でも
ある私の力に連中が固執するのも頷ける。……前の隠れ家は襲撃を受けて壊滅したわ」
「刺客は何とか撃退できた……。けど、その時の戦闘で滝壺……ウチらの仲間が一人、
大怪我を負わされた」
「私らもそっから頭に血が昇っちゃってよく覚えてないけど、そいつらは『恨むのなら
第一位を恨め』と、まるで催眠でも掛けられているかのように連呼していたわ」
「何の事かはその時全然わからなかった。何せ仲間が重傷でそれどころじゃなかったしね。
けれど、時期が落ち着いて調べている内に“ある事件”が絡んでいる事が判明したのよ――――」
「―――――二ヶ月近く前に起きた『超電磁砲の失踪事件』」
ピクリと、一方通行の眉が大きく反応した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:20:47.04 ID:bnE8ajSE0<>
「私たちがアンタを快く思わない理由、これで納得した? まぁさっきも言ったけど、
アンタが直接危害を与えたわけでもないし、アンタに怒りをぶつけたところでどうにも
ならないのは良くわかってるわ。……でも、だからって簡単に割り切れないヤツはいる。
たとえばそこで滝壺を守れなかった事をずっと悔いている馬鹿とか」
「……………」
浜面へ視線を配る麦野だが、彼女とて同じ思いを噛みしめているはずだ。
大切な仲間を危険に曝した本元を目の前にして、麦野はどんな気持ちなのだろう。
本当は浜面のように殺意を剥き出しにしたいのかもしれない。平気な雰囲気で話している
だけで、本当は絹旗のように必死で私情を押し殺し、我慢しているのかもしれない。
そう思うとやりきれず、さっきとは違う意味で掛ける言葉が見つからなかった。
「打ち拉がれた顔を見せるなんて、ホントに予想外ね……。イメージぶち壊しなんてモン
じゃないわよ?」
「……俺の知らねェ所でそンな事が起きてたとはな。確かに『知りませンでした』で済ま
されるよォな話じゃねェ」
「あら、優しいじゃない。いつからそんなに慈悲深くなったのかにゃーん? 残虐非道性
ナンバーワンの名が泣いてるよ」
「コッチにも色々あった、って事で納得してくれ」
「ふん……」
どこまでも大人な気質を崩さない麦野は鼻で軽く一笑し、諭した。
「さ、今度はアンタが知ってる事を恙無く語りなさい。そこで初めて次の段階へ進めるわ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:23:27.38 ID:bnE8ajSE0<> 今回はここまでです
弁解という名の言い訳:滝壺さん嫌いじゃないむしろ大好き早く登場させたいだから滝壺好きな方々刀をしまってくだsあbbbbbbbbbbbb
どぇは次回の一部 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:24:59.16 ID:bnE8ajSE0<>
打ち止め「放して! ミサカは行かなくちゃいけないの! お願いだからミサカを解放してーっ!!
ってミサカはミサカは脱獄を諦めなかったり!」
???「だっ、脱獄って何なのですかぁー!? 先生の部屋は鑑別所ではないのですよーっ!!
っていうか暴れないでくださぁーい!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/11(水) 23:27:19.31 ID:bnE8ajSE0<> すいません取り乱しました
次回も遅くなると思いますが、気長に待っててくれたら幸いです
にしても誤字多いな……注意が足りてませんね
それではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/11(水) 23:28:30.43 ID:vhmiI/zw0<> つまりあれか、
こもえてんてーが裏事情に巻き込まれて……!!
うっ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 00:22:02.57 ID:c6eEu7/A0<> 乙です!
つかクオリティやばいな・・・
この週一くらいの少年誌感覚更新は嫌いじゃないから問題ないぞよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 00:26:08.42 ID:MP4BYWoSO<> 次回は幼女二人の戯れ合いか…
胸が熱くなるぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/12(木) 00:29:48.97 ID:79g5Lcj+0<> 乙乙
つまりまとめると
一方さん暗部脱落(超電磁砲失踪事件)
↓
一方さんをSATSUGAIしろって命令が下る(by相当な権力者)
↓
むぎのんがそれを蹴る
↓
おかげでアイテムアジトが襲撃受ける(by木原の残党?)
↓
滝壼負傷
ってことでいいのかしら
あれ?じゃあ馬面逆恨みってレヴェルじゃなくね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 01:28:55.48 ID:2AvV3Vzmo<> >>545
うむ……さすがにちょっと浜面や絹旗の怒りの向け方は理不尽すぎる気がする…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 01:34:01.11 ID:U/T49f+mo<> 馬面は完全に逆恨みだけど
絹旗の場合はそれ以外の問題も交ってるわな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/12(木) 01:35:10.78 ID:GIZvrs+fo<> >>1乙
>>546
催眠にでも掛かってしまったんじゃない?
> 「私らもそっから頭に血が昇っちゃってよく覚えてないけど、そいつらは『恨むのなら
> 第一位を恨め』と、まるで催眠でも掛けられているかのように連呼していたわ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 08:25:53.11 ID:id3vlUAM0<> 食蜂さん登場フラグ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/12(木) 23:21:23.61 ID:7fQOEc+q0<> >>549
いくら何でも心理掌握出すのはキツクないか?
能力的にはokだが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/13(金) 00:47:53.09 ID:EpJw8PbW0<> 一方さんとていとくんの脳味噌が仲良く並んで能力吐き出す絵を想像したらなんか萌えた
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 10:25:12.45 ID:9HgWmH9DO<> >>545
原作からして逆恨みというか思考回路がおかしい人ばかりだし気にしない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 10:29:49.02 ID:irKbbJLEo<> 考えてみれば前回の事件での美琴さんも一方さん番外さんターゲットなのに完全にとばっちりでの被害なんだよな
当人達にそういう描写が薄いからすっかり忘れてたけどww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 19:56:37.28 ID:TqWp7zME0<> 今回美琴たち超電磁砲組は蚊帳の外か…
どう絡むのか気になったんだが、あれこれ言っても>>1のハードル上がるだけだし黙って静観するわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 01:09:50.32 ID:vSibqMsTo<> この場合下手に巻き込まれない方が幸運だろうと思うしまたとばっちりで巻き込んだら一方さんの心労ヤバそうじゃねww <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/18(水) 20:19:35.49 ID:3usc0sm90<> ご意見ありがとうございます
色々おかしいところも出てますが、話の中でできるだけ解決する予定です
それでもやっぱり変!! って部分もあるでしょうが……その時はレス返しで応じる次第です
では今回も大した展開は期待できませんが、投下します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:21:57.20 ID:3usc0sm90<>
―――
時は少し流れ、昼過ぎに差し掛かった頃。
ボロっちい構造で、お世辞にも綺麗とは言えない一件のボロアパート。
このアパートの二階に位置する一室で、二人の幼い少女が口論を繰り広げていた。
「放して! ミサカは行かなくちゃいけないの! お願いだからミサカを解放してーっ!!
ってミサカはミサカは脱獄を諦めなかったり!」
「だっ、脱獄って何なのですかぁー!? 先生の部屋は鑑別所ではないのですよーっ!!
っていうか暴れないでくださぁーい!」
手足をバタつかせる打ち止めを全身で食い止めているのは月詠小萌。
打ち止めより一つか二つぐらい年上にしか見えないが、これでも立派な教職者である。
そんな彼女のレッテルは『ロリ教師』。ちなみに都市伝説の一部にもさりげなく関与していたりする。
祝日による休日を満喫していた彼女の元に突然帰宅した結標。
能力を使って部屋に上がった事を咎める前に、唖然としたままの打ち止めをいきなり押し
付けられたのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:25:50.97 ID:3usc0sm90<>
自分が戻るまでは絶対に部屋から出さないよう言い残し、コッチの弁論する時間も与えられ
ないまま結標は行ってしまった。
あとに残った打ち止めから事情を聞こうにも、錯乱に近い状態の彼女では言動の意味が殆ど
理解できない。
わかっているのは今この少女を外へ出すのが危険行為だという事だけだ。
こういう流れで急な子守を受けさせられてしまったが、ここは結標の言う通りに従い面倒
を見ようと決断する辺り、流石である。
だが、預かって面倒を見るとは言っても、現状は彼女をこの部屋に留まらせるのが精一杯
だったりする。
結標が出てからというもの、打ち止めもしきりに外へ飛び出そうとする一方で全く話にも
ならないのだ。
元気でパワフルな打ち止めを止めるのに全神経を使っているため、何を喚いているのかも
正しく認識できていない。
この拉致が明かない状態は小萌が偶然甦らせた記憶によって収まりをつけた。
「……あっ!? あなたは、確か黄泉川先生の家でお世話になってる……」
「?」
まるでコントのように全ての運動を止めた打ち止めが首を傾げた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:27:26.56 ID:3usc0sm90<>
「ほら、私ですよ! 覚えてないのですか!? 去年の夏ごろに一度だけ会ってますよーっ!」
「あ……あぁーーっ!!」
思い出した、と言わんばかりに指をさした。
「ヨミカワの家に初めて行く前、そう……あの人とミサカが退院した日に会った――――」
「うんうん」
その調子、と期待に満ちた眼差しを送る小萌だったが……。
「――――生まれたときからずーっと実験三昧で成長がストップした可哀相な“自称”先生……。
ってミサカはミサカはさめざめと思い出し泣きしてみる……」
「そうそう………って、ちっがああああああああああああう!!!!!」
大人気ない小萌の絶叫は、ただでさえ長くないアパートの寿命をさらに縮めた。
この時のリアクションはプロの芸人ですら絶賛する域にまで達していたのは言うまでもない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:28:39.68 ID:3usc0sm90<>
それから数分が経過した頃には、小萌と打ち止めの親交もずいぶんと深まっていた。
決め手はやはり、日頃から互いが抱えている悩み等の共通点が多い事だろう。
始まりは打ち止めがジェットコースターに搭乗できなかったエピソードを聞いた時、
小萌が常人以上の共感を示した箇所からである。
「身長制限撲滅運動を実施しようか検討してみるのですー」
「大賛成!! ってミサカはミサカは会員番号1番に立候補してみる!!」
「……ちなみに、年齢制限の方は善処できませんよ?」
「なん……だと……? ってミサカはミサカは絶句してみたり……」
内容自体はくだらないの一言に尽きるが、こういった問題は当人からしてみれば結構
深刻だったりする。
というか、悠長に家主と会話を弾ませているが、打ち止めはさっきまで己を急かして
いた原因をもう忘れてしまったのだろうか。
彼女にとってもかなり大事なことのはずなのだが……。
「って、こんなトコで油売ってる場合じゃないんだよミサカはぁぁ!! ってミサカ
はミサカは修羅場の最中である立場を忘れてた自分を恨みつつお邪魔しましたーーー!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:30:22.68 ID:3usc0sm90<>
「いや、だから待ってくださいってばぁぁ!! 結標ちゃんに頼まれてる先生の立場
も考えてくださいですぅーーー!!」
ここで振り出しに戻る。
が、そこから先はさっきと異なった変化が生じてくる。
談笑に至る前とほぼ同じ構図を二人が演じている途中、古びた扉がガチャリと開かれた。
小萌も打ち止めも暴れ押さえの挙動を停止し、ドアの方に目を向ける。
「――――ただいま」
小萌にとっては、すっかり慣れ親しんだいつもの掛け声である。
「――――どうも、お邪魔するね」
そして、すぐに打ち止めの目標人物も背後からひょっこりと元気な姿を見せた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:31:51.99 ID:3usc0sm90<>
〜〜〜
ここで三十分ほど時間を巻き戻してみる。
場面は移動中のワゴン車内。後部の広めな座席で番外個体と結標淡希はお喋りに熱中していた。
「アハハハ! あのアホは組織の中にいても協調性ないんだね」
番外個体の笑い声が運転席まで良く響く。
結標も気づけばクラスの友達と駄弁っているようなペースで対話に応じていた。
「確かに、私たちは仲良し集団なんかじゃない。……けど、孤高を貫いた結果失敗したんじゃ元
も子もないと思うでしょ?」
「あいつにゃ無理だ。ウン」
「うーわ、断言した……」
「『俺に命令してンじゃねェよ(キリッ)』って周りを省みず、単独で解決しちゃうタイプでしょ?」
「さすがにそこまで酷くないわよ。なんだかんだで上手くやってた……と、思う。っていうか似て
るわね……」
話題に上がっているのは明記するまでもなく一方通行だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:34:03.46 ID:3usc0sm90<>
結標と番外個体。彼女たちには特に接点などないが、結標は一度だけ入院室で昏睡中の番外個体を
お目に掛かっている。
一方通行と記憶障害を負った番外個体が、ロシア以来の再会を迎えた瞬間にちゃっかり立ち会って
いたのだ。ちなみに『グループ』での召集扱いだったため、土御門元春、海原光貴もその場にいた。
海原に至っては、番外個体の護衛指令を横取りしようとした前科もある。
「けど、まさかアクセラレータの同僚にこんな綺麗ドコロさんがいたとはねえ……」
「死語を使ってまで表現しなくても……。それに、正確には“元”同僚よ」
「ミサカに会う前のあいつ……どうだった?」
「私に訊くの? 貴女と違って親しい間柄ってわけでもないし、大した収穫は期待しない方がいい
気がするけど……」
「あいつ、自分の話なんて殆どしないし。だからこうして貴重な知人からちょっとずつ収集してく
のがやっぱ一番かなーって」
「ぷふっ……貴女も結構言うわね」
「『何でオマエがそンなこと知ってンだァ!?(アタフタ)』とか言いながら慌てふためくヤツの顔を
想像してみ?」
「や、やめてよ……クスッ、ふふ……あははははは!! 無理! 貴女たちの私生活をモニターで
監視なんかした日には耐えられる自信ないかも……っ」
ついに腹を抱えて笑い出した結標。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:38:01.31 ID:3usc0sm90<>
「だろ? マジでツボに嵌るっしょ? うーん、何から聞こうかなあ……。……!」
思いついたように手を打った番外個体。
無難な所から入ってみよう感覚で肩が落ち着いた結標へ尋ねる。
「アクセラレータと初めて会った時の事とか、良かったら是非聞かせて欲しいな」
「えっ……?」
思わぬ展開に一瞬結標が腑抜けた声を上げた。
「出会った当時の印象とか、どういう経緯(いきさつ)だったとか、……そういうのって地味に
気になるんだよね」
「……貴女、ひょっとしてもの凄く嫉妬深かったりする?」
「んにゃ、ただの探究心だよ。好奇心とも言うかな?」
「どっちもどっちよ。………初対面時ねぇ……。言ってもいいのかしら……」
「うん?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:38:58.05 ID:3usc0sm90<>
考え込む仕草に詮索意欲が一層強まった。
ある意味、番外個体は押してはならないスイッチを押してしまったのかもしれない。
結標淡希は基本的に面倒見の良さそうなお姉さんのイメージが強い。
だが、忘れてはならない。
どんな表面のしっかりした端麗美人にも悪戯心は存在する。小悪魔な一面だってちゃんとあるのだ。
「……そんなに聞きたい?」
「ム……。勿体つける必要があるってことは、ちょっとエグイ内容も入ってたり?」
「あなたがどう受け取るかも興味深いし、それによっては楽しい結末になりそうね……。いいわ、
話してあげる。一応忠告するけど全部事実だから、そこら辺は頭に残して聞いて」
喋った。喋りやがったよ。結標淡希。
しかも自分が完璧な被害者だと思わせるように脚色を加える所も流石である。
「……それ、本当に本当?」
「ええ、嘘偽りは一切ないわ」
「…………」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:41:31.42 ID:3usc0sm90<>
番外個体が言葉を失くしている。
自分の息子の過去に犯した悪事を知ってしまった母の心境に近いのだろうか。
「……ミサカが謝るのは筋違いだろうけど………、ごめんね」
「別に今更気にしてなんかないわよ。ただ、貴女が望んだから教えてあげただけ」
「………鼻、大丈夫だった?」
「えぇ。腕の良いお医者さんが治してくれたから」
「そう………。けどさあ、まさかそこまで腐ったヤツだとは知らなかったな。どこまで殺戮を
窮めたとしても、“超えちゃいけない境界線”くらい判断できると思ってたよ」
「そ、そうは言っても過去の話よ? あなたがそこまで怒る必要はないんじゃない?」
予想以上に肩を震わせている番外個体に結標は少しびびった。
てっきり「サイテーだね! よし、ならミサカがあなたの恨みも込めて思いっきりブン殴っとい
てやんよ」程度で片付くはずだったのだが……。
ちょっと洒落やギャグを織り交ぜていい場面ではなくなっている。これは少々誤算だった。
「あなたみたいに泣き寝入りできない性質なの。このミサカはね。他人事だったとしても同じ。
見て見ぬフリなんてできるワケないでしょ? ましてアイツ(一方通行)絡みなら特に」
「いや、何もそこまで……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:44:10.28 ID:3usc0sm90<>
「割り切るのはミサカも得意な方だけどさあ、それでも見過ごしちゃいけない例もあるんだよ?」
現在の一方通行と番外個体の関係を承知している結標は、(やっぱりマズかったかな……)と
頭を掻いた。
どうやら、思っていた以上に同情を買ってしまったらしい。
番外個体も女の子である以上、女子の顔面に全力で拳を叩き込む行為を許容できなかった。
ただそれだけの事だ。
そして、番外個体には正義感の強い御坂美琴の遺伝子が組み込まれている事実も計算外要因の
一つであった。
「結標淡希って言ったっけ? あなたの仇は、このミサカが討っておくから安心して」
怒りの込められた声でそう宣告された時、結標の些細な悪戯心は後悔に変わる。
一度決めた事にはとことん頑固な番外個体相手にフォローなどは無駄でしかないのは言うまでも
なかった。
このことから急速に親密レベルを底上げした結標淡希と番外個体。
月詠と打ち止めが騒ぎ立てるボロアパートに到着する頃には、互いの連絡先を交換するほどの仲
にまで発展していた。
(喋ったのは失敗だったわね……。私が原因で喧嘩にでもなったら責任感じそう。やっぱ言わな
きゃ良かった) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:45:37.38 ID:3usc0sm90<>
〜〜〜
ここで時は合流を果たす。
敢えて説明する必要もないが、結標淡希は月詠小萌宅で居候中の身である。
実質、暗部組織『グループ』の構成員でもなくなった結標に後ろ盾などある筈もなく、こうして
下宿先を緊急避難所に利用してしまう始末だ。しかし、それも仕方の無いこと。
元同僚の土御門元春や海原光貴とは連絡の取りようもなく、一方通行に借りを残したまま普通の
生活に戻るのも気が進まない。とは言え、あの二人も何らかの形で動いているのは間違いないと
確信が持てる。特に情報力に関しては、自分など足下にも及ばない程の土御門がこの現状を掌握
していないとは考え難かった。
単身で色々嗅ぎ回っている中で偶然知り合った『新生アイテム』の面々も、あくまで“手を結んだ
だけの同盟関係”だ。決して加入したわけではない。
車内で『新生アイテム』のリーダーである麦野沈利と連絡を取り合い、何とか『新入生』の企みを
未然に防ぐのに成功した事が確認できた。
今のところはこれでいい。
『卒業生』として、このまま『新入生』に一方通行を譲渡してやるつもりなど微塵も無い。
むしろ全力を以って阻止してやりたいぐらいだ。
いけ好かなかった麦野沈利と協定を結んだのもそのためである。
とにかく、今は“一方通行の精神を繋ぎ止める鍵”であるこの二人の身の安全が第一。
な、はずなのだが……。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:46:12.56 ID:3usc0sm90<>
「…………何してるの? 貴女たち」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:47:03.57 ID:3usc0sm90<>
いつの間にやらくんずほぐれつ状態の滑稽な児童(片方は大人)に溜息を吐くしかなかった。
この空間で緊張感など生まれてたまるか。
「む、結標ちゃん!? おかえりなさいです、ってか、まず助けてくださいですー!」
「むうううう!! ミサカの進行を妨げるなぁぁ!! ってミサカはミサ……!?」
打ち止めが番外個体に気づいた。
「はは、大丈夫どころか元気ありあまってそうで安心したよ」
「番外個体っ!」
月詠の腕からスルリと抜け出し、番外個体の胸に飛びつく打ち止め。
「心配したんだよぉぉ。ってミサカはミサカは涙声を漏らしてみたり」
「はいはい、そっちも無事で何よりだね」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:48:19.48 ID:3usc0sm90<>
ポンポンと打ち止めの頭を撫で、安堵の息を吐く番外個体。
あとは、一方通行と合流すれば取り敢えず落ち着ける。
「それじゃ、ミサカ達はもう行くよ。長居しても悪いし……。そこのあなたも、迷惑掛け
てごめんね」
上半身を起こしたまま流れに乗り遅れている月詠にそう告げ、番外個体は打ち止めの手を
引いて月詠宅を後にしようとするが、
「ち、ちょっと待つのですよー!」
呼び止めた月詠は番外個体の前に立って進路を塞ぎ、こう言った。
「実は、先生この後学校に用事があって……出掛けなきゃならないのです」
「へ……?」
急な言動に唖然とする一同を意に介さず、更に続ける。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:49:15.91 ID:3usc0sm90<>
「それで、もしかしたら帰るのが遅くなるかもしれないのですよー。結標ちゃんのお友達
でしたら気にせずに居てもらって構わないです。狭い部屋で良かったら遠慮なく寛いでいって
くださいですよー」
「…………」
これが月詠なりの配慮だった。
番外個体と打ち止めをすぐ外に出すのは危険。それだけわかっていれば充分だ。
そして、あからさまに引き止めるよりもこう言った方が相手に気を遣わせ辛いのを知っている。
子供の立場から考察した、何とも教師らしい言い回しである。
「では結標ちゃん達、お留守番よろしくですー。怪しい人が訪ねて来ても、出てはいけませんよ」
「ちょっ……あ……」
結標が声を掛ける間もなく、小萌は自室を出て行ってしまった。
気を遣わせてしまったのは勿論三人とも理解できている。口実をわざわざ作ってまで番外個体たち
を匿ってくれる優しさに、残された方はこう口にするしかない。
「……なんか、申し訳ない気分だね」
「ミサカ達、お邪魔してていいのかな? ってミサカはミサカは謙虚な面持ちで伺ってみたり」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:51:03.33 ID:3usc0sm90<>
「………いいと思うわよ? このまますぐ部屋を出て敵と遭遇しちゃったら折角の厚意を踏み躙る
だけに終わっちゃうし」
「……じゃあ、お言葉と厚意に甘えさせてもらうかなっと」
そう決定し、座布団に腰を下ろす番外個体。打ち止めもチョコンと座って寛ぎモードになった。
結標はそんな彼女等に微笑みながらキッチンへ向かう。
「今お茶淹れるわ。それと、良かったら何か食べてかない?」
「あなたが作るの?」
「あら、他に誰が作るのかしら?」
「ミサカ、お腹空いちゃった。ってミサカはミサカは腹の虫をグーグー鳴らしてみる」
「ふふふ、いいわよ。すぐ作るから待ってて」
「料理得意なんだ?」
「これでも最近は自信ついてきたのよ。期待してくれて結構」
目をキラリと光らせる結標だが、この自信がフラグを立てている事に気づかない。
そして番外個体と打ち止めも、この端麗で秀逸なオーラを放つ結標がそんなお約束展開を厳守する
など夢にも思わないだろう。
その幻想は、一口目を食べた辺りでぶち壊された。
ちなみに、この時結標が最初に放った言い訳はこうである。
『あれ? これ塩だとばかり思ってたけど……、よく見たら砂糖じゃないのよ!』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:52:38.37 ID:3usc0sm90<> ここまでです
番外個体は元気です
あわきんは俺の嫁です
では次回の一部をどうぞ <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:55:30.94 ID:3usc0sm90<>
麦野「アンタの身柄を手中に入れられたとして、その後はどうなんのかしら?」
一方通行「ハッ、ンなの決まってンじゃねェか。“兵器”を自由に扱えるよォになったヤツの成れの果ては―――――」
―――――――
???「あっれー? 何だか優等生の匂いがすると思ったら、通称常盤台のエースさまじゃーありませんか」
美琴「げっ……」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/18(水) 20:56:25.89 ID:3usc0sm90<> 以上です
お付き合い頂きありがとうございました
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 20:56:52.35 ID:4TyP7SSp0<> >>1乙
そしてそげぶ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/05/18(水) 20:59:15.04 ID:JsIvIixW0<> >>1
待っていたぞ!
相変わらず面白い!
次も期待だ!
あと、乙。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 21:07:45.90 ID:qdusI1WSO<> >あわきんは俺の嫁
さりげないつもりだろうがそげぶらせてもらう己
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/19(木) 00:48:00.35 ID:BS2d/Y7SO<> 乙なのですよー
まさかの出番に歓喜なのですー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/19(木) 01:15:56.91 ID:Uc+w9+aY0<> 頭脳は大人。見た目はロリ。
流石は先生やでぇ……禁書治そうと魔法使った時みたいに活躍せえへんかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/20(金) 09:32:54.32 ID:gEXInh+Z0<> 子萌センセーって打ち止めと面識あったっけ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 00:28:33.37 ID:bOoKM/yY0<> >>582
原作十二巻とアニメ二期を見ろとしか言えない… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/22(日) 22:51:11.85 ID:H3YKdoTZ0<> 更新ペース落ちたなぁ……
前作じゃ三日おきぐらいが平均だったのに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/24(火) 16:33:55.99 ID:5dAtPCfP0<> いやいやこれしきで文句言うなよ
二か月くらい更新止まるとこなんていくらでも <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/24(火) 20:30:43.21 ID:Q5J8VsfX0<> どうもこんばんは
>>584
いやほんと…返す言葉もないです
さくさく読みたい方にはとてもお勧めできませんねこのスレ
どうか気長にたのみます
毎度お待ちいただいてる方、本当にありがとう
最近あまり見ないうちに新スレいっぱいできててびっくりしてます
お気に入りスレも終わってたりしてさびしい…
では続き <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/24(火) 20:32:24.04 ID:Q5J8VsfX0<>
―――
番外個体と打ち止めが結標渾身の手料理に悶絶している頃、『新生アイテム』の所有地である
地下室では大まかな情報交換が終了しかけていた。
一方通行と『新生アイテム』メンバーの麦野沈利、絹旗最愛、浜面仕上。
この奇妙な組み合わせもだいぶ目に馴染めてきたが、浜面や絹旗はやはり一方通行に何かしら
のわだかまりを抱いたままだ。
その理由は入院中のために不在であるもう一人のメンバー、滝壺理后が関係している。
そして、一方通行もまたこの事実を既知していた。
たった今、一方通行が麦野たちに話したのは番外個体と自分を死の直前まで追いやった『木原
数多』との一件である。
同時に一方通行の口から直接明かされる『超電磁砲、御坂美琴失踪事件』の全貌。
三人とも流石に驚きが隠せなかったのか、ゴクリと生唾を飲む音が静寂な空間を揺らした。
「超電磁砲が行方不明になった事件はもちろん知ってたけど……まさかそんな真実が隠れてた
なんて……」
「本当だとしたら、確かに超表沙汰にはできないでしょうね……」
彼女たちの反応にとらわれる事なく、一方通行は冷静に語り続ける。
この一派が欲するであろう情報を余すことなく。 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/24(火) 20:34:25.03 ID:Q5J8VsfX0<>
「オマエらみてェな学園都市に鎖を巻かれた暗部組織は数知れねェ。そいつらと番外個体に
何の違いもねェ。……だから俺は決心したンだよ。『縛り付けて闇に浸からせている連中を
全員解放しろ』ってな……。エゴな話に聞こえるかもしれねェが、もォクソガキや妹達……
番外個体みてェな“科学の街に翻弄される”人間を増やしたくなかった」
瞳からは、一切の嘘も感じさせなかった。
それから語られる、自身の『暗部残留』の意図。
「俺はあの事件で根が完全に絶たれたと思っちゃいねェ。だから俺は“見張る”立場に回った。
暗部との距離を離さないことで、迅速な処置が施せるよォになァ」
「『第三次製造計画』みたいな馬鹿げた計画が発案される前の段階で、確実に叩き潰せるよォに……」
「もォ起きちゃいけねェ。起こさせちゃいけねェンだ。何の罪もない人間を、何の感慨もなく玩具
にしよォとする学園都市のやり方に、俺は心底我慢ならねェ……っ」
「だがな……」
「どォやらそいつは向こうにとっても同じらしい……。“もォ『俺』は実験動物として扱うに値しない”
ンだとよ。仮に俺がその立場だったとしたら、排除以外の選択を取らねェとも言い切れねェ……ククッ」
自らの運命を受け入れるかのような乾いた笑み。まさしく自嘲というやつだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/24(火) 20:37:26.57 ID:Q5J8VsfX0<>
いや、どちらかと言うと一種の悟りであると表現するべきか。
一方通行がどこまで覚悟を決めているのかなど、訊くだけ野暮な話だろう。
少なくとも黙って耳を傾けている三人の若人にはそれぐらいわかる。
この話の中で、麦野は真っ先に一つの結論へと行き着いた。
「それじゃあ、やっぱり……」
と言うより、頭に浮かべていた様々な憶測の内の一つが当てはまったに等しい。
麦野は一瞬言葉を噤んだものの、少し間を置いてからはっきりと核心に触れた。
「第二位、未元物質の垣根帝督……。アンタもそいつと同じ運命を辿らされるってこと?」
一方通行は、この見解を肯定した。浜面も絹旗も声こそ出さなかったが、激しい動揺が顔色から窺える。
息を呑む様子が立証していた。
「あァ、それ以外に辻褄の合わせよォがねェだろ。連中にとって必要不可欠なのは『一方通行』であって、
『俺』じゃねェ……。いや、むしろ俺の人格、意思は不要どころか脅威になっててもおかしくねェだろォな。
現に連中はこれ以上俺を野放しにする事を恐れてやがる。“新入生”ってのは、そンな性根の腐った権力者
の道具だと認識すりゃあいい」
「強引なんて言葉じゃ済ませられないわね……。いくら何でも、そんなこと上層部が許すはずないんじゃ……」 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/05/24(火) 20:38:45.34 ID:Q5J8VsfX0<>
「だからこそ、暗部情勢が不安定な内にケリをつける必要があンだろ。バックの力がそれほどの脅威でもねェ
“新入生”が前線に出て来てンのも、これなら頷ける」
「アンタの身柄を手中に入れられたとして、その後はどうなんのかしら?」
「ハッ、ンなの決まってンじゃねェか。仮にテメェが自由に兵器を使える権利を得たとしたらどォする? そこ
から辿り着く先は―――――」
「―――――戦争、ね……」
麦野の逸早い見当に、一方通行は目を伏せることで同意を示した。
第二位、そして第一位。学園都市が誇る超能力開発のトップとも謳われる存在。
全ての再現が不可能だとしても、強大な兵器には何ら変わりない。現に麦野や浜面がロシアで対偶した『未元物質』
を劣化させたような謎の尽きない兵士。
どの程度元祖に近づいた形で具現されるかは定かでないが、『一方通行』の能力を量産させられる未来がすぐ近く
まで迫っているとしたら。
一方通行の意思とは無関係に能力を生み、『暗闇の五月計画』とは比にならない数の被験者がテストマッチを受け
させられる未来が、もし確定されているとしたら。
「………まったく、ふざけた話だ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:41:48.49 ID:Q5J8VsfX0<>
「今回ばかりは同感、と言わざるを得ないわね」
そう、何としてでも成就させてはならない。
『暗闇の五月計画』の被験者である絹旗最愛に仲間意識のある麦野からしてみれば、これほど頭にくる未来はない
であろう。
「なめ腐ったヤツらの思い通りになんて、絶対にさせない……。これは私個人の意志みたいなモンだから、そこら
辺は勘違いしないでおきなさい。決してアンタに同情したとか、そんなんじゃないわよ?」
「……いちいち忠告されなくてもわかってンだよ。ンな事ァ」
「ふふ、なら成立ってことで問題ないかしら?」
「“成立”だァ?」
「おいおい、のみ込みが悪いねぇ。互いの敵は同じなんだ。ここはいっちょ、協定を結ぼうじゃないか。気づいて
たとは思うが、実は最初からそのつもりだったんだけどね……。アンタにとって、悪い申し出でもないでしょう?」
「…………」
さも当然のように言い放たれるが、一方通行の顔はここにきて渋みを増した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:43:38.68 ID:Q5J8VsfX0<>
「……背中を預けろ、って事か?」
「信用してついて来たんだろ?」
「当初はな……。だが、話を聞いた今となっちゃあ色々事情が違ってくンだろ?」
そうだ。まだ最大の気掛かりが彼の中に残っていた。互いの持ち得る情報を晒した以上、それを追究しない手は
存在しない。
このタイミングで綺麗さっぱり晴らそうと決意し、伺い立てる。
「そう、ならいいけど。アンタの話を聞いたコッチの結論としては、やっぱり手を組むのが妥当な流れだと思わ
ない? アンタだってこのまま大人しく捕まるつもりはないんでしょ? だったら強力な味方を増やして損だ
なんて事は、まず有り得ないだろうし」
「……正論だがな、その前に一つ訊いておきたい事がある」
「あら、何かしら?」
どうしても解せなかった論点をついに吐き出す。
「何でオマエは俺を迎え入れよォとする? いや、これじゃ訊き方が悪りィな……。何で俺みてェな野郎を受け
入れられるほどの器が持てる?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:46:57.39 ID:Q5J8VsfX0<>
「………?」
「おかしいと思ったのはさっき、オマエが“負傷した仲間”の話をした時からだ。そこの無能力者も、チビの女
も……俺を嫌悪する理由がその話に関連してたのは良くわかった。オマエは違うってンなら、わざわざ疑問を
抱くこともなかったがな……」
「オマエ(第四位)が身内に執着しねェよォなヤツだったら、“割り切れてる”って結論で済ンだだろォ。けど
残念ながらそいつは考えられねェ。オマエがこいつらに向けてる“目”を見りゃそンな事ぐれェ判る。そこの女
もさっき断言した通り、オマエも俺に嫌悪感を露にすンのが自然な流れじゃねェのか?」
「そう、オマエはそいつら同様、……いや、下手すりゃそいつら以上に俺の存在が憎いはずだ。……なのにオマエ
はその感情を隠し通そォとしてやがる。本音を隠したままのヤツとつるむのは、現状じゃ危険以外の何物でもねェ
だろォがよ」
「深すぎるトコまで詮索するつもりはねェがな。味方側に立つってンなら、無駄な争いにもならなくて済むしよ……。
でも本当にオマエはそれで納得できンのか? オマエの仲間が負傷する原因を作った張本人が、こォして目の前
にいるってのに……。挙句に“仲良くしましょう”だなンて言われても、信憑性に欠けると思わねェか?」
「…………」
麦野は黙り込んでしまうが、ここまで言及した以上は一方通行としても引き返せなかった。
どの道、麦野の心理を正しく解明させなくては手など結べるはずもない。ましてや背中など預けられるわけがない。
しつこいと呆れられても仕方が無い。自分でも馬鹿げた詮索だと自覚している。
しかし、それでも憎んでいるのなら憎んでいると正直に告げて欲しかった。
浜面や、絹旗のように。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:49:21.54 ID:Q5J8VsfX0<>
酷く言えば、この件を機に麦野が派閥へ参入する決断を下して一方通行の敵側へ移ったとしても不自然ではなかった。
実際こうして対面するまでに浜面たちが一方通行の意図を見誤っていたという点を考慮した場合でも、やはりこれは
腑に落ちない。そんな簡単に転換させていい惨状ではなかったはずである。
麦野に他の狙いがあるようにも見えない。では何故、彼女は自から一方通行が罠へ飛び込むのを制止したのか。
あまつさえ敵のやり方が気に入らないとは言え、元凶の一方通行を自分達の新アジトへ招き、手を結ぼうと提案した
のか。
確かに滝壺に手を下したのは一方通行の意思と何の関わりもない。
しかし、種を蒔いたのは紛れも無く一方通行自身である。そういう覚悟も負った上で暗部情勢を変えたのだから。
戦場から離れた彼等の日常を奪うきっかけとなったのが、自分の存在である事に変わりはないのだから。
一方通行のできる限界の予想では、滝壺に怪我を負わせた派閥、集団に報復を終えた後で矛先を自身へ向けてくる
のが精々だった。少なくとも、今の彼女達が一方通行を庇い立てする理由は何も見つかっていない。
だが、そんな疑心に囚われている一方通行に残念そうな顔で麦野は苦言する。
「はぁ……、すいぶんと見縊られたモンだわ。まぁ、確かに私らの立場的には恨みのぶつけ所も炙りきれなくて、
はっきり言っちゃえば逆恨みだけど、やりきれない気持ちがアンタに向けられちゃうのも仕方ないでしょうね」
「いや、そいつは違う……。全部事実だ。オマエらが俺に抱く気持ちは正当だよ。どォ影響していくか、しっかり
把握しきれなかった俺の責任だ。結果、平穏に戻れたオマエらの日常を、俺自身が悪化させちまった」
「………そこまで思い詰められても、今更よ。もう私らだって引き返せないトコまで来てるんだから」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:52:23.38 ID:Q5J8VsfX0<>
「……今なら俺の首を毟り取って、連中に差し出すって手もあるンだぜ? 俺が知りたいのは、何故オマエがその
強行策に乗り出そォとしねェのか、だ。この間までに機会なンざ腐るほどあったはずだ」
「言ったでしょ? こっちにはアンタを殺る理由が無いから蹴ったって」
「だが、“今”はどォだ?」
「………っ」
そう、理由など後からいくらでも付け足せるのと同じように次々と生まれてくるものだ。
現在では明確な理由が存在している。
『仲間に傷をつけた』。仇討ちを名目に、彼女が一方通行と敵対しても不思議はない。
「第四位。オマエ、聞いてたより悪人でもねェよな? そンな仲間想いなオマエが、仲間に更なる危険を及ぼし
かねない俺を引き入れてどォしようってンだ? 途中で後ろ首を掻こうって作戦なら、今すぐにしろ。その方
が面倒な手順を踏まなくて済むだろ?」
「アンタには言わなくても分かるでしょ? いちいち私情を挟んでたら暗部の世界じゃ生きていけないんだよ」
「オマエは……いや、オマエらはもォ暗部の人間じゃねェ。もしまだそンな境遇で生活してる奴等がいるンなら、
徹底的に洗浄してやる。闇で生きる人間として許されるのは、“その世界が好き”なのかどォかだ。それ以外
はこの俺が認めねェ。自分を忘れて闇に身を沈めるのも同様だ。あとでそいつが泣きを見ンのは分かりきって
るからなァ」
「………なに? さっきから回りくでえ言い方してくれちゃって……。私を怒らせたいの?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:54:52.75 ID:Q5J8VsfX0<>
流石に麦野の表情が険しくなるが、一方通行に動揺は表れなかった。
「事実確認が不充分って言ってるだけだ。別に喧嘩ふっかけてるワケじゃねェよ」
「だったらもういいじゃないの! 私らと組むか組まないか、ただそれだけの話よ! 嫌なら無理強いはしない
とも言ったよねえ?」
「嫌なンじゃねェ。ただ背中を預ける以上、そいつの本心を全て吐き出させてやりてェだけだ」
「私の本音……だぁ?」
「あァ。そこの二人と違って、明らかにオマエだけ気が張ってンじゃねェか。表情に出してなくても、そォいう
のは敏感なンだよ。このまま溜め込ンだまま俺と契約結ンでも、その内オマエ自身が破綻するのは目に見えてる。
だったら今この場で、俺の目の前で曝してみろよ」
「………………」
麦野の心、その奥底まで見抜いているかのような一方通行の瞳。
俯いた顔を上げ、目を逸らさずに睨み返した麦野は静かな沈黙の仮面を一気に破り捨てた。
「ちっ………。あぁ、そうだよ。テメェの言う事に何ひとつ間違いはねえよ」
一方通行自らの望んだ答えが、それまでの清楚さが嘘のような汚い言葉遣いとなって返ってきた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 20:58:50.10 ID:Q5J8VsfX0<>
「確かにもう暗部とは無縁の日常で生きてみたいとも思ったよ。……けど、やっぱ無理だった。結局、
私も長く浸かりすぎてたんだ……」
「もう血に塗れた光景なんて見なくてもいい……。そんな風に考えてた自分が、今じゃ情けなくすら思えて
くるわ……!」
「ホントはすぐにでもブチ殺してやりてえさ。……首謀者もテメェも、私からしてみりゃ皆同罪なんだよ!!」
悔しそうに顔を歪め、胸の内を叫ぶ。
そして、苦痛の嗚咽と共に後悔の句を小さく呟いた。
「私がもっとしっかりしてりゃ……滝壺があんな目にあうことも――――」
「――――麦野! ……それは違う。滝壺に怪我させたのは俺が……」
咄嗟に口を割った浜面の顔からは、痛々しくてやりきれない気持ちが強く出ていた。
しかし、麦野の懺悔は止まらなかった。浜面以上の沈痛な面持ちで嘆きを再開する。
「……ねえ、第一位? アンタに分かる? 理不尽に仲間を傷つけられ、自責しきれずに他人を恨むしかない
この歯痒さ……。浜面だってアンタに怒りをぶつけるのは筋違いだって分かってるんだ。……けど、そうし
なきゃ自我を保てないんだよ。影の見えない、尻尾も満足に捕らえられないような敵を生み出したアンタを、
見当違いと理解してても快く思えないコイツの気持ち、私にはよく分かる」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:00:26.12 ID:Q5J8VsfX0<>
「麦野……」
「私はアンタを無罪だなんて思いたくない。……でも、それでも私は、これ以上こいつ等を、……危険な目に
あわせたくないの。断腸の思いとは違うけど、アンタと組む事でその可能性を減らせるなら……、私は迷わ
ずにアンタを受け入れてやる」
「……大切なモノを守るためなら、建前や手法は選ばねェ……って事か」
「そうね。前はそんな風に考えた事もなかった……。けど今は違う。何がなんでも今の仲間を大事にしたい。
ははっ、甘い戯言だって笑いたくなるでしょ?」
「……………」
普段ならそこで一笑でもしているだろう。けれども一方通行は笑わなかった。
そんな彼の心理を射抜いているのか、麦野は立て続けに告白する。
「私は、かつての仲間をこの手で殺した」
「―――!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:01:57.48 ID:Q5J8VsfX0<>
一方通行だけでなく、絹旗や浜面も表情を変えた。
誰しもが予想できなかった衝撃の自白には、深く、そして重い彼女の闇が現れているようだ。
「理由は今となっちゃ話す意味もないほど軽いものだった。けれど、いくら悔やんだって奪った命はもう二度と
帰って来ない。……だから、その子の墓の前で私は誓ったんだよ。“どんなことがあっても今の仲間を大切にする”
ってね……。罪滅ぼしにもならないのは承知してるさ。それでも、私がそうしたいって決めたんだ。この決意が
崩壊するぐらいなら、アンタに頭下げるのだって躊躇しないよ」
「そうさ……。後悔したって何も始まらないんだ……。フレンダがたとえ私を許してくれなくても、こんな私に
ついてきてくれる馬鹿を、もう傷つけたくない………」
遠い目で虚空を見つめる麦野。
一方通行はこの様子を達観しながら、心の中で難解なパズルが完成していくような感覚に浸る。
(そォか……。こいつも、俺と同じ―――――)
脳裏で再生される妹達の残虐シーン。
あの日、実験を上条当麻に阻止され、それから打ち止めという護りたい存在ができてからの道程。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:04:35.46 ID:Q5J8VsfX0<>
自分は何のためにこれまでを過ごしてきた?
彼自身が惨殺したクローンたち。調整を受けながらも少しずつ人間として歩み成長していくクローンたち。
そして打ち止め、番外個体。
彼女たちに対し、かつて抱き続けていた想い。
償いきれない過ちを犯した自分と向き合い、強固されゆく意志。それは罪の意識とはまた別次元である。
一方通行と麦野沈利。
異なる過程を経てきた二人の超能力者。
だが、その信念には共通する何かが感じられる。
(テメェが殺した妹達に、俺はどォしたら償えるのか。ずっと追い求めてきた……。けど、そンな方法なンて
存在しねェ。何をどォしよォと、過去に犯した事実は絶対に消えちゃくれねェンだ。こいつも、今それを必死
になって追求している。昔に殺した仲間ってヤツへの償いのために、傍にいる仲間を大切にする信念。それが
俺の気になっていたモヤモヤの正体だったのか……。この女は、憎むべき相手であるはずの俺と協力する事に
なってでも仲間を守りたいと………。なるほどな)
もう、充分だった。
要らぬ詮索をしてしまったことに、今では心が痛むくらいだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:07:36.79 ID:Q5J8VsfX0<>
「麦野、もう……」
見かねた浜面が口を出そうとしたが、その前に一方通行の謝罪が響いた。
「すまなかった……。もォ疑ったりはしねェ。互いの目的が同じなら、いがみ合う理由はねェからな。つい慎重
になっちまうのは癖みてェなモンだ。悪く思わないでくれ」
「え……?」
意外だったのか、その場にいた一方通行以外の人間は面食らったような顔を見せた。
特に喋り中だった浜面の仰天ぶりが何とも印象的である。
「……そう、なら同盟成立でいいのね?」
「あァ。“新入生とその裏に立つ連中”の思惑通りにはさせたくねェのは同じだ。利害は充分一致してる」
「ふふっ、じゃあ改めて――――よろしく。第一位」
互いに出した手を固く握り合う両者。
学園都市屈指の能力者。その中の一位と四位が晴れて同盟を組んだ瞬間だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:10:40.84 ID:Q5J8VsfX0<>
「新しく入手した情報はできるだけ早急に伝えるわ。そん代わり、ひとりで先走るなんてのは今後控えてね。
アンタが脳を奪われてヤツらが高笑いだなんて結末は願い下げよ」
「心配には及ばねェよ。ノコノコと首を獲られるよォな間抜けに見えるか?」
軽口を叩き合いつつ、組まれた手を離した超能力者二人。
「あ、そォいやもォひとつ訊きたい事があったのを忘れてたぜ」
「ん?」
「何で俺の居所がわかった? 俺が予め第六学区に来るだなンて、まず予想がつけられるとは思えねェな。
さっき言ってた協力者ってヤツの情報か?」
「あー、それね……。実はさ――――」
「――――“文書”だよ」
麦野の解説を上塗りする声の主は、浜面だった。
ここまでで幾度に渡り麦野の説明を遮断してきた彼だが、今回に至ってはそのまま引っ込まずに麦野とバトン
タッチする。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:16:20.16 ID:Q5J8VsfX0<>
「今朝、俺の部屋に差出人不明の文書が届いたんだ……。中身にはアンタの行き先が記されてた」
「……差出人不明だと? 誰の情報かも知らねェで、オマエは内容を信じて出向いたってのか?」
「それは………」
「ホント、呆れて物も言えねえよ……。私らが部屋に押し掛けた時には既に蛻の空。GPSが無かったらと思うと
ゾッとするわ」
「なるほど……。そいつがヤツラ(新入生)の仕組ンだ罠だとすると、一応の辻褄は合うな……」
僅かずつだが、一つ一つの謎が明らかになっていく展開に一方通行は頬を緩める。
つまり、敵の作戦は『新生アイテム』のアジトを襲撃した時からすでに始まっていた事になる。
暗示を掛けるように彼女たちの恨み対象を一方通行へと移させ、結果的に拒否された指令を遂行へと導かせよう
としていたのだ。
少年少女たちの意思など気にも留めない、むしろ心理につけ込んだ最悪の手法と言える。
「“新入生”も、ずいぶんと悪知恵が働くみたいね。あいつらの計算じゃ、私たちは今頃殺し合いにでもなって
るってトコロかしら?」
「さァ……そればかりはさっぱり分かンねェが、第一位と第四位が手を組ンだ事はさすがに想定外のはずだ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:18:23.20 ID:Q5J8VsfX0<>
「……どうして言い切れる?」
浜面が何気なく尋ねてくる。
気づけば第三者といった傍観的立場から、議論に参加する方へと回っていた。
一方通行はこの事に敢えて触れずに説明する。
「敵が相手側の戦力強化を計算してると思うか? 第四位の見解で多分間違いはねェだろ。少なくとも一泡吹か
せるチャンスは巡ってきたってワケだ」
「…………」
「それより話を戻すが、どォしてオマエは明らかに怪しいと分かる文書を信じた? 罠かもしれねェとは思わな
かったのかよ?」
「……思ったさ。当たり前だろ」
力ませた拳を握り締め、浜面は当時の心中を暴露する。
「けど、もしこいつが全く嘘の情報で、単に俺を貶めるための罠だったとしても! 俺は飛び込むしかなかった!
そうだろ!? 内容が事実でもそうじゃなくても、滝壺を酷い目にあわせた原因のどっちかは確実に来るって
思ったから……」
「差出側の目星はつけてたンだな?」
「ああ……。じっとしてなんかいられなかった。麦野たちにも教えるべきだって分かってたのに、体が先走って
収まらなかったんだ……。すまねえな。麦野、絹旗」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:19:55.60 ID:Q5J8VsfX0<>
「おいおい、今更謝んのかよ? ……まぁ、気持ちはわかんなくもないけどさ。コッチの心境ってのも考えなさ
いよね」
「うん、絹旗も……ごめん」
「別にもう気にしてませんよ。もし私だったら、きっと同じ行動をとっていたかもしれませんしね……。浜面と
同意だなんて超遺憾ですが」
「こらこら、一言余計だろ」
勝手に身内同士の和解が済んだようだ。
ここら辺は部外である自分が干渉するだけ野暮というもの。しばし彼等のやりとりを黙って眺める事にした。
―――
「あっれー? 何だか優等生の匂いがすると思ったら、通称常盤台のエースさまじゃーありませんか」
上条当麻に会いに行こうか、でも先に事前連絡を送るべきか、それとも今日は遠慮して普通に立ち読みだけして
帰ろうか。御坂美琴が歩道を進みながらも、これらの選択肢をいずれにするかで決めあぐねていた矢先の出来事。
唐突だった。振り返ってみれば、彼女が事件に巻き込まれたり普段の日常からほんの少し足を踏み外してしまう
のは予兆なしの唐突が多い気がする。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:21:59.73 ID:Q5J8VsfX0<>
「げっ……」
もっとも、今回のケースはそれほど大げさな事象ではない。ただ苦手としている人物に遭遇してしまった。ただ
それだけの事だ。
「ごきげんよーう。今から御習い事ですか?」
言葉だけ取ればごく丁寧なのに、ニュアンス的にはどう聴いても嫌味みたいなものが含まれている気がしてやま
なかった。相手の見えない角度で美琴は顰めた顔をさらす。
そしてその後にすぐ戻し、表面を一瞬で繕った。
「冗談。暇だったから適当にぶらついてただけよ」
手を軽く振るジェスチャーを混ぜながら愛想笑いを浮かべる。
しかし、やはりと言うべきか表情には若干無理が表れていた。
まるで嫌いな食べ物を嫌いと思わせないように食しているかのような、そんな様子だ。
「あーら、そうなんですか。……あれからお体の方はどうですの? 詳しい事情は知りませんが、しっかり療養
なさってくださいな。最近までは顔色も特に優れませんでしたし」
「あぁ、うん。……ありがと。気にしなくて平気だから」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 21:23:34.01 ID:QOXxoDBu0<> 割り込みだったらスマン
>>1乙何だが残虐じゃなくて虐殺じゃないか? <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:24:59.90 ID:Q5J8VsfX0<>
「いえいえ、なんと言っても常盤台中学で唯一この私の上に立つ存在ですもの。気にするな、なんて無理無理」
お嬢様語とギャル語を見事に混合させた人物は、突然目の色を変えた。
心の中まで見透かしてしまいそうな真っ黒な瞳。たちまちこれが美琴の動揺を誘った。
この人物が何をしようとしていたのか、無論知っていたからだ。
「ちょっ!? や……やめてよ! 別に嘘なんて吐いてないわよ!?」
「ふふふ、取り乱さなくても大丈夫。人の外面しか見えない生活なんて遠い昔に捨ててますわ。どれほど特殊な
環境であろうとも、人間というのは順応性に優れた生き物。どんな能力に恵まれようと、習慣が新鮮な心を奪い
去る様に世界は成り立ってますの。貴女の底なんて、今更知ったぐらいでどうも感じません」
「意味わかんない表現で煙に巻こうとしてんじゃないわよっ!! っつかホントに性質悪い能力よねそれ!」
「お互い様です。そういう貴女も漏電してますよ? 雷の鎧も私からしてみれば充分羨ましい能力ですわ」
「………ああ分かってるわ。アンタの前でいくらポーカーフェイス作ったって無駄な事だってのは。本質を見破る
とか誤魔化しにくいとかってレベルじゃないぐらいにねぇえ!!」
「ずいぶん嫌われているようで、寂しいですわ。………まぁあまりからかっても得があるわけではありませんし、
貴女の堪忍袋の緒を切ってしまう前に退散するとしますか」
ヒートアップする美琴とは正反対の涼しい顔で女は背を向ける。
だが、意外にも美琴は呼び止めた。一つ確認し忘れた事があったからだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:27:13.98 ID:Q5J8VsfX0<>
「ち、ちょっと! 待ちなさいよ! アンタ……そうやって平然としちゃってるけど、どうせもう私の心は読め
てるんでしょ? だったら……」
「………ふふっ。貴女も、見えないトコで相当苦労なさっていたのね」
「……っ!」
この言い方から察するに、やはり彼女は全ての事情を“掌握”しているようだ。
これこそが、彼女の扱う能力そのものである。少なくともこの女の前で嘘を突き通せる人間を美琴は知らない。
同じ常盤台中学の生徒でも、最も関わり合いにはなりたくない人物である理由がそこにあった。
「……………」
「緊張の糸を解きなさいな。全身に力が入りすぎているばかりか、心が不安定に揺れ動いてますわよ? 安心なさい。
私には一切興味の無い事情ですわ。他人事に一々好奇心を抱いていては、この力を所有する器を持てませんから」
「さっきと言ってる事が矛盾してるじゃない……」
「あら、そうでしたっけ? 私、気紛れですからあまり物事を考えずに喋ってしまうんですよ」
「相変わらずそうやって自分だけ本心を曖昧にしやがって……ッ。まさか、ここで私と会ったのも単なる偶然だって
言うつもりじゃないでしょうねぇ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:28:18.50 ID:Q5J8VsfX0<>
「お暇でしたから、お散歩と洒落込んでいただけです。私という人間を中途半端に知っている貴女なら無理もない
でしょうが、少し考えすぎじゃなくって?」
「………っ」
下手に言葉を模索すればするほど自分が不利に追い込まれていく。この女と接する機会があると大抵こうなるのだ。
だから苦手でもあったし、いけ好かないとも思った。
ただでさえ能力総合レベルの高い学校で突起した立場の自分と対等と表現するに近い人間だというのに、会えば会う
ほど嫌悪感は増すばかりである。
「本当……、アンタとだけは分かり合える気がしないわ。『心理掌握《メンタルアウト》』」
「うふふ。そうやって最初から本音を表に出していれば、世の中の理とも多少はマシに向き合っていけるでしょうね。
面倒な成り行きから人生を学んでいくのも否定しませんが、せめて少しは器用な生き方を覚えることをお勧めしますわ。
ねぇ? 『超電磁砲《レールガン》』」
「……どういう意味よ?」
「私たちのように特別な位置づけの怪物でも、まともに恋愛する権限ぐらいはある、という事ですわ。うふふ、精々
良い御奮闘をお祈りしています」
「ッ……!!」
本当に、どこまでもいけ好かない女だ。
手を振って去り行く背中を見つめながら、心からそう思った。
この憤りも相手には全て見透かされている。それがわかっている分尚更だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:34:14.76 ID:Q5J8VsfX0<> ここまでです
麦のんが仲間になったよ。やったね!
心理掌握のキャラが完全に独創です。資料が見つからなかったので想像でしか書けませんでした
では次回予定
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:36:40.07 ID:Q5J8VsfX0<>
一方通行「いい度胸だ。俺に脅迫もどきの言動浴びせるたァな」
浜面「拒否して俺を殺すのも、テメェが選んだ答えなら好きにすりゃいいさ」
―――――――
結標「――――久しぶりね」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/05/24(火) 21:40:11.49 ID:Q5J8VsfX0<> 以上になります
長々と続いたわりにはあまり進んでない…
もっとサクサクっとテンポ良く書ける技術が自分にもあれば……っ!
嘆いても仕方ないか
今回はこの辺で失礼します
それではまた
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/05/24(火) 21:42:26.06 ID:7rcuXUNH0<> 乙!
待っていたぞ!
第一位と第四位の同盟か……
こりゃ、面白くなりそうだな。
しかも、食蜂さん登場!
今後の絡みにも期待。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/05/24(火) 21:49:09.94 ID:dw2+246Fo<> >>613
いくら時間がかかってもいいさ。
焦って書いて質が落ちても仕方がない。
ただこれだけは約束してくれ。
必ず完結させるんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 22:57:29.00 ID:AJFw2qYSO<> こいつは前作以上の熱い展開が期待できそうだ
てか学園都市が一方さんのていとくん化計画をリアルに視野に入れてそうで怖い((゚Д゚ll)) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/24(火) 23:58:26.12 ID:5Ufx8auh0<> やっと追いついた……
食蜂さんがいいキャラすぎるな〜
>>1、乙でした <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 01:39:32.15 ID:Qp5rl63O0<> このssの食蜂さんは原作に近そうだわ
なにより美琴とのやりとりがすごい…
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 01:44:15.93 ID:ZbDbR6qSO<> >>850
みことにっきとお世話になりますと貴方たちを全力で倒す!はガチで泣けた
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 01:46:00.88 ID:ZbDbR6qSO<> すまん誤爆した <>
食蜂操祈<>sage<>2011/05/25(水) 18:42:31.39 ID:NyXLNt1i0<> やっと私の登場ね! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/25(水) 20:40:08.53 ID:Qp5rl63O0<> >>621
それ心理掌握の本名? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/26(木) 01:52:35.38 ID:PsEdti6g0<> >>622
名字は本当だが名前はわからん
てかなんて読むんだ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/26(木) 06:02:53.08 ID:1V92Szou0<> >>623操祈でみさき
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/28(土) 01:37:37.88 ID:4D5iIFNF0<> 焦らずゆっくりでいいさ
完結すればまとめサイトで一気読みできるから問題ナシ!!
にしても心理掌握がここで登場とは・・・
敵になるのか味方になるのか読めん
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/05(日) 19:20:03.93 ID:/aftsAzx0<> お久しぶりです
時間過ぎるの早いですね
では続き更新 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:23:44.21 ID:/aftsAzx0<>
―――
新『アイテム』隠れ家。
話は纏まる方向へと進んでいた。
麦野から聞かされたままを素直に受け止めれば、一方通行にとって都合の悪い事など何一つない。
色々と不可解だった点も解決した現状となっては拒否する理由も思い浮かばなかった。
改めて、彼女達は信用するに値する。最終的に一方通行はそう判断したのだった。
「要望って言うのは変かもしれねェが、コッチからの異論はねェ。ただ協力関係にゃ不慣れだ。オマエの構想通り
になるとは断言できねェが、それでも構わねェな?」
「ん、上等よ。敵の本命、されど第一位。これ以上の収穫はないわ」
満足そうに微笑む麦野だが、絹旗はやはり最後まで表情を変えなかった。
彼女にも何か事情がありそうだが、そこまで追求する必要はないだろう。少なくとも、今はまだ。
浜面は何か言いたそうにこちらの挙動を窺っているが、一方通行には長居している余裕があまりなかった。
したがって、今日の所はこの辺りでお暇させてもらおうと席を立つ。
「帰るの?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:27:55.53 ID:/aftsAzx0<>
立ち上がった一方通行に麦野は尋ねる。
一方通行は軽く首を鳴らしながら答えた。
「あァ。ツレと合流してェンだが、場所を教えてくれると助かる」
「それだったら、この番号に連絡すれば大丈夫よ」
そう言われて手渡されたのは携帯番号だけ書かれた一枚の紙。
一方通行は目を通しながら確認した。
「さっき言ってた“協力者”ってヤツの番号か?」
「えぇ、まあね。この付近は見ての通り人気も薄い地区だから安全だとは思うけど、一応外に出たら用心し
ときな」
「ハッ。いくら最強から引退したっつっても、そこまで間抜けじゃねェさ」
軽い微笑を浮かべて生命維持装置の役割を負っている首筋のチョーカーを指でなぞり、一方通行は麦野たち
に別れを告げた。
一人薄暗い階段を上りながら、これまでの経緯を振り返る。
(“新入生”……。とうとう本格的に動き出してきやがったか。また厄介な事になっちまったなァ) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:30:46.21 ID:/aftsAzx0<>
やはり、避けては通れそうにないだろう。
こちらもいよいよ腹を括らなければならない。あの日、消滅した木原数多の残した“置き土産”との決着を
つけないことには平和な暮らしに戻れないのだ。
今は自分一人の命ではない分、辛い未来が待っているかもしれない。しかし、これも全て己が決めて進んだ
道である。後悔などはないし、自分にとって大切なものを守るためならどこまで堕ちてしまおうと厭わない。
そう、脳内で鮮明に残る番外個体の憎たらしい笑顔。打ち止めの無邪気にはしゃぐ姿。
これらを失ってしまうこと。それは死ぬ以上に耐え難い。そして失わないためには戦うしかない。
決意を新たに一方通行は地上をめざした。
「――――待ってくれ。第一位」
「?」
背後から自分を呼ぶ声。
振り向いた一方通行の視線の先にいたのは、先ほどまで強烈な敵意を剥き出しにしていた浜面仕上だった。
思えば、ついさっきまで彼は一方通行に何かを伝えたそうな雰囲気を発していた気がする。
こうしてわざわざ追いかけてきたということは、やはり何かあるのだろう。
そんな中で浜面が口にしたのは、意外なセリフだった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:38:26.77 ID:/aftsAzx0<>
「悪かっ……た」
「……!」
謝罪。詫びの言葉。
表情から何となく察してはいたものの、どうにも腑に落ちなかった。浜面の行いは逆恨みだと誰かが言って
しまえばそれまでかもしれないが、一方通行は正当な怒りだと受け入れていた。自分が暗部の体制を変えて
さえいなければ、浜面の大切な存在である滝壺理后は傷つかずに済んだ。これは曲げようのない事実である。
「何でオマエが……。謝っても許されない事をしたのは俺の方だろォがよ」
「いや、違う……。本当は気づいてんだよ。筋違いなのは俺の方だってことも、滝壺を守れなかったのは
単に俺が不甲斐ないだけだったことも」
「俺の引き寄せた因果にオマエらは巻き込まれただけだ。……被害者には変わりねェよ」
「………それでも、俺がアンタを憎むのは………やっぱり違う」
「おい、オマエらを襲撃したヤツらの具体的な特徴が知りたい。良かったら聞かせてくれねェか?」
「え……?」
強引に話をすり替えた。こうでもしないと間がもちそうになかったのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:42:04.60 ID:/aftsAzx0<>
もっとも、彼等を襲った実行犯を視野に入れておきたいのは本当だから特に問題もない。
“新入生”と一括りにしても、全体像はまだ薄いのだ。実際に判明しているのは黒夜海鳥のみ。しかも自身との
因縁も深い相手である。他の戦力もできるだけ頭に残しておいて損はないだろう。
「直接指揮を取ってたリーダー格みたいなヤツは、麦野が討ち取ったよ。ほとんど暴走に近い状態だったけどな。
確か、『シルバークロース』って呼ばれてた。……だが、そいつも別の誰かからの指示で動いてるようだった。
こっちも情報が足りてねぇ。黒幕の正体自体はまだ掴めてねえんだ……」
「黒幕か……」
「何か知ってるのか? ……そう言えば、アンタあの時誰かと一緒だったよな? 確か黒い服着た女の子と……」
「………ありゃ無関係な一般人だ」
ここで黒夜海鳥の正体を伏せたのは、己が片付けなければならない問題だと考えたからである。
実際彼女と因縁があるのは自分だけだし、主犯者が黒夜だったとしてもこれを他に譲るつもりはなかった。
だが、ここまでの内容を整理するからに、浜面を仕向けたのは黒夜本人で間違い無さそうだ。
一体何のために?
彼等を巻き込んで何か得でもあるのか?
これ以上は思考を凝らしても解らなかった。
アイテム勢をぶつけさせて自分を追い込もうという計画かとも思ったが、ならば浜面ではなく麦野を仕向けさせる
のが得策のはずだ。敵の意図は未だ計り知れない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:44:08.62 ID:/aftsAzx0<>
「とにかく、俺の知ってる情報は第四位にも話した通りだ。女の敵討ちに必要な材料は、生憎持ってねェ……」
「そうか……。わかった」
「……俺が言えた義理じゃねェが、女の傍になるべく居てやれ。これ以上傷モノにしちまわねェよォに、オマエが
しっかり守ってやりな」
「…………」
それだけ告げて去ろうとする一方通行。
が、浜面は話題をコロッと替える調子でそれを制止した。
「あ! ちょっと待て第一位! ………ついでにもう一つ頼まれて欲しいんだ」
「……何だ?」
足を止める一方通行の側まで近づいた浜面は、携帯電話を取り出して一枚の画像を提示した。
「―――――この写真に見覚えあるか?」
この浜面の言葉が耳に入る前に一方通行の目は驚きの色に染まった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:45:55.37 ID:/aftsAzx0<>
「―――!! ………こいつは……」
「忘れてねえだろ? アンタが殺したスキルアウトのリーダー、駒場利徳さんだ。……俺達の、リーダーだった
男だよ」
「………!」
一瞬、浜面の目がまた鋭くなったような気がした。
知らない所で恨みを買っている事に慣れている一方通行は、冷静に話を引き出させる。
「……あァ、覚えてるが? そいつの墓の前で土下座でもしろってか?」
「それも悪くないけどな……。ここで最も注目して欲しいのは、隣の子の方だ」
「――――?」
駒場利徳の腕に寄り添う幼い少女を浜面は指した。
見た限り、打ち止めと同い年ぐらいの金髪少女。この子供がどう関係しているのか、一方通行は眉をひそめて浜面
の言葉を待つ。
「この子を救出するのに協力して欲しい」
躊躇なく要望を述べる浜面。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:48:19.86 ID:/aftsAzx0<>
「……どォいう事だ? 順を追って説明しろ」
「この子の名前は『フレメア=セイヴェルン』。……アイテムの構成員だったヤツの妹で、駒場さんが命を張って
でも守りたかった人間だ。話すと長くなるから簡単に説明するが、フレメアはスキルアウト時代の仲間が保護して
くれてた。……けど、一ヶ月くらい前から行方が分からない。仲間から事情を聞いたが、“見た事のない形をした
駆動鎧”に攫われちまったらしい」
「“見た事のない駆動鎧”、だと……?」
「あぁ、多分最新型だろうな。……仲間はフレメアを守ろうと抵抗してくれたが……入院した。俺も連絡を受けて
急いで現場へ走ったんだが、間に合わなかった……。それ以来、足取りが全く掴めないでいる」
「…………」
(昨日のヤツらと断定するには早ェが、関連性は高い。って事は、ここでもやっぱり“新入生”が絡ンでるのか?
しかしそォなると目的がわからねェ……。俺とは全く無関係のガキを攫って何の収益がある?)
壁に背をもたれつつ優秀な頭を働かせてみるも、なにぶん情報が不足している。これでは何の線も見えてこない。
そんな一方通行の心情を窺いつつも、浜面は話を続ける。
「こいつを見てくれ……。今朝、部屋の窓に括りついてあった文書だ」
ズボンのポケットから乱雑に取り出された黒夜が差し出したらしき文書。これを受け取った一方通行は無言で拝見
する。その中のある一文が目に止まった。
『フレメア=セイヴェルンの命がどうなっても構わないのなら、この情報は無視しても良い』と。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:51:18.07 ID:/aftsAzx0<>
この文章から解った事が一つだけあった。
「……オマエが動いた最大の原因はこいつか」
「あぁ……、麦野たちには話してない」
「何故話さねェ? あいつらじゃ力にならないってことか?」
「アンタが俺ならそうしたか? ……あいつらは関係ねぇ。俺の私情みたいなモンに左右させられるかよ」
「…………」
自分が彼の立場なら。その視点で考えると妙に納得できてしまうのが憎い。
やはりこの男もあのツンツン頭の少年同様、自分とどこか共通している面がある。育ち、環境は違えど人間として
の一種の芯のようなものが酷似しているのだろうか。
「……事情は大体わかった。で、あの二人には言えねェ相談を俺に持ちかけた理由は何だ?」
「俺と不良仲間(スキルアウト)だけじゃフレメアを救い出せる保障がない。けど第一位のアンタが協力してくれ
れば……あるいは」
「このガキがまだ生きているとも限らねェンじゃねェか?」
「確かにそれはわからねえが、だからって殺されてるとも限らねえだろ?」
「つまり、ほとンど賭けみたいなモンか……。生死を計る手掛かりがこの紙切れ一枚、しかも確証は無しとはな……。
雲まで人間が飛べるかどォかってレベルだ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:53:22.58 ID:/aftsAzx0<>
「そうだな。だがどの道、アンタには協力してもらう義務がある。フレメアは駒場のリーダーにとって大切な人だ
ったんだ。そのリーダーの役目を断ち切ってしまったアンタが目を背けるのを、俺は許さねぇ。駒場のリーダーが
何のために『闇』と戦ったのか知っているはずのテメェがこの問題に見て見ぬフリしようだなんて、そんなの俺は
絶対に認めねぇ!」
「…………」
「アンタには、フレメアのために戦う理由があるんだよ」
仮にも最高位の存在であるはずの自分に、臆することなく言い切れるこの覚悟。
おそらく、彼も知らない内に一方通行に勝るとも劣らないほどの修羅場を経験してきたのだろう。
この場で即ミンチにされるかもしれない危険性などに浜面は怯まなかった。
エリザリーナ独立国で出会った時とは一皮も二皮も剥けた浜面の物腰に、一方通行は素直に感心した。
「いい度胸だ。俺に脅迫もどきの言動浴びせるたァな」
「拒否して俺を殺すのも、テメェが選んだ答えなら好きにすりゃいいさ」
「………頭に留めておく」
最後にそう残し、今度こそ一方通行は階段を昇りきってしまった。
浜面も、もう呼び止めようとは思わなかった。一方通行がどんな決断に至るか、無意識ながら心のどこかで感じ取って
いたのかもしれない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:54:30.11 ID:/aftsAzx0<>
一方通行の姿を消した階段の出口を踊り場でしばらく眺めていた浜面だが、やがてクルリと身を翻して地下へと戻って
行った。
―――
第七学区の中央部でタクシーから降車した一方通行は、携帯電話を片手に指定通りの道順を辿った。
時間はすでに完全下校時刻を越えており、通学路として活用されているアスファルトの歩道も静けさに包まれていた。
たむろしているスキルアウトらしき集団には目もくれず、目的地に到着した一方通行は電話の女性声が案内した一件
のアパート前で待機する。
そして、一分後。
「――――久しぶりね」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 19:57:02.25 ID:/aftsAzx0<>
声と共に姿を現した少女に、一方通行は露骨なまでの呆れ顔と冷めた視線をプレゼントした。
「どっかで聞いた声だとは思ってたが、やっぱりオマエだったか……。結標」
「ふふふ、そういう貴方は相変わらずそうね。幸せ太りぐらいはしてるかと思ったけど」
「……からかってンのか?」
サシで会えば大体こんな風に険悪気味な空気になる。とは言っても主に一方通行がぶっきらぼうなだけと言ってしま
えばそれまでだが。
「いやね。そんな殺気を込めた目で見ないでくれるかしら? こっちは貴方の核を守ってあげてたっていうのに……」
「誰が頼ンだ?」
結標の方は一方通行の性格を把握していた。まさに予想通りの反応だったのか、それとも接し方を心得ているのか、
特に平静を乱すこともないまま妖しく微笑む。
それが癪に障るのも勿論だが、冷たい目で睨む理由は他にもあった。
「どォいうつもりか、一応は聞いてやる。はぐらかさずに答えろ。第四位の一派と何処で繋がりを持った?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:00:37.76 ID:/aftsAzx0<>
逃れる選択を許さない迫り口調にも怯まずに応じる。
「企業秘密よ。貴方に説明する必要がどこにあるのかしら?」
「………わかった。なら質問を変える」
やや間をおいてからの発言後、結標の懐へ潜り込むように接近した一方通行は彼女の羽織っていた学生服の襟首を
乱暴に掴み、強く引き寄せた。
「……っ!」
「ナニ企ンでやがる? 返答次第じゃ、今すぐこの場でその顎をブチ砕くぞ?」
「……何って、別に貴方が想像してるような裏事情なんか……!」
「仮にもしそォだとしても、困るンだよ。暗部でもないオマエが余計な首突っ込ンでくるのはなァ!」
一方通行の紅い瞳がギラリと光り、獰猛な獣が放つ気迫をまとっているようだった。
彼にとって、この結標淡希という少女は何の関係もない一般人なのだ。一般人には一般人らしい振る舞いと立ち位置
が存在している以上、その境を踏み越えて来る事を一方通行は容認できなかった。
最悪、力ずくでも彼女を元の居場所へ送り戻してやる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:04:22.85 ID:/aftsAzx0<>
ところが、掴まれた当初こそ表情を歪めたものの、やがてすぐに普段の冷静な口調で結標は言葉を返してきた。
「ご挨拶ね、コッチは曲りなりにも貴方に恩を感じてるのよ? 勿論、“勝手な真似しやがって”とも思ってるけどね」
「黙れ。オマエがどォ感じてよォが、俺の知ったこっちゃねェンだよ。命が惜しけりゃ、二度と暗部には関わってくる
ンじゃねェ。次はこンな生易しい警告じゃあ済まさねェぞ?」
「そんなに一人でカッコつけたいんなら、学園都市の外でやんなさいよ。私もこの街に腰を置いてる以上、他人事で流
せる事態じゃないでしょう? 『原子崩し《メルトダウナー》』から大体のいきさつは聞いたはずよ」
「そこにオマエが絡ンでいいかどォかはまるっきり別の話だろォが!!」
「強がってられる身分かどうかも分からないの!? ふざけないで!! あんたのエゴに黙って従ってやるほど腐って
ないのよ!!」
「………っ!!」
最後の応酬には互いの感情が交差するように飛び、しばしの沈黙と詰まるような息が残る。
やがて仕切りなおしのように落ち着きを取り戻した両人。
まずは一方通行が静かに囁いた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:05:52.52 ID:/aftsAzx0<>
「………まさか、海原や土御門のヤツまで関わってンじゃねェだろォな?」
「さあ? あいつらの動向なんて、それこそ知った事じゃないわ。これはあくまで私個人の干渉よ。貴方のおかげで
自由になったから、それに従って自由に動かせてもらっただけ……。余計な真似だなんて言われる筋合いはないわね」
「なら話は簡単だ。オマエはこれ以上一切関わってくるな。こいつは俺自身の問題だ」
「お断りよ。なんで貴方の言う事を、私が聞かなきゃならないワケ?」
「……ッ!」
この即答に、再度こめかみの辺りをピクつかせなければならない。
「鼻血の一滴でも垂らしてみなきゃ分からねェか?」
襟首を掴んだままの右手に力が込められるが、結標の答えが変わる気配はなかった。
それどころか、ふふんと鼻で笑い始める。
「どうぞ。暴挙に出るのなら、好きにしたら? ただし、あとで後悔するのは間違いなくそっちよ?」
「あァン? ……おい、そりゃどォいう意味だ?」
「言った通りよ。あとで好きなだけ実感すればいいわ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:07:18.70 ID:/aftsAzx0<>
ハッタリかと思ったが、どうも違う気がした。というか妙な寒気が全身に走った。
とりあえず、自分にとってかなり都合の悪い末路が用意されているのは何となくだが読み取れた。
しかし、ここで退くわけにはいかない。こちらにも譲れない信念がある。少なくともこの問題に彼女を関わらせるわけには
いかなかった。
「………どォしても、退く意思はないってか?」
「残念ながら……ね。もう手遅れよ。貴方に死なれでもしたら、後味が悪いなんてモンじゃないから」
「そォか………」
やはり、話し合いでは解決しそうにない。
ならば、と一方通行は首筋のスイッチに空いていた手を伸ばす。
「手荒な手段はできるだけ避けたかったンだが……そォいうことなら仕方ねェよなァァ」
最終手段。
『記憶神経操作』という禁断の方法を選ぶしかなさそうだ。
これを行うことで、結標の脳に何がしらの後遺症は残ってしまうやもしれない。
言葉にした通り、できるなら避けたかったが、強情な彼女の意思を無理矢理変えるにはもうこれしかなかった。
すべては、この闇から救われた少女の明るい未来のため。
どこまで弄れるか、どこまで忘去させられるかは直接触れてみなければ分からない。いや、そもそも上手く消去できる
のかどうかすら分からない。何しろ前例がないからだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:09:46.58 ID:/aftsAzx0<>
しかし、それでもこうするのが一番だと一方通行は己に言い聞かせた。
以前、記憶に障害を負った番外個体にもこの荒業を試そうとはしなかった一方通行だが、今回は流石に状況が違う。
ここでのためらいが最悪の結果を生むかもしれないとわかっている今、彼に迷いの余地はなかった。
これが、万が一など許さない彼のやり方。
どれほど低い可能性でも徹底して未然に防ぎたいという彼の想い。
闇の犠牲者を少しでも減らせるなら、躊躇する必要などない。
そう信じて疑わなかった一方通行の魔手が、スッと結標の側頭部に添えられようとしていた―――――。
――――だが、その寸前。天使は一方通行に微笑みをくれなかった。
「なーにやってんのかにゃーん? お二人さん」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:10:55.76 ID:/aftsAzx0<>
「!!!??」
たった今、この世で唯一彼の築き上げてきた理念を崩壊させることのできる人物が降臨した。
その人物はボロアパートの二階から野次馬のようにこちらを凝視しながら、
「やっほう。もしかして、ミサカはお邪魔だったかな?」
薄っすらと、青筋を立てていた。
見下ろしている身体がバチバチと発光しているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
「あーあ……」
凍りついた一方通行の耳を通過する結標の呆れたような声。
「だから言ったじゃない。“あとで後悔する”ってさ……。知ーらないっと」
スルリ、とあっさり掴まれた手を解いて抜け出した結標だが、一方通行はマネキンのように固まっていて
全くの無反応だった。
「ねーえ、アクセラレータあ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:13:47.82 ID:/aftsAzx0<>
鬼嫁が放つオーラに近いものを纏った番外個体が不気味な声色で尋ねてきた。
恐い。素直にそう直感した。
彼女の呼び声が、まるで呪念のように脳を浸透した。
「今、何しようとしてたの? ミサカにもわかるように説明してくれるかなあ?」
「あ……いや、こいつは……」
先ほどとは別人としか思えないほどの素っ頓狂な声が口から漏れていた。
そして、そんな彼に更なる追い討ちが掛かる。
「激写ーーーー!! ってミサカはミサカはパパラッチの気分で飛び出つつ浮気現場をカメラに収めてみたり!」
「ンなァァァ!?」
番外個体の背後のドアが開いたと同時に颯爽と登場した打ち止め。
ついでに響くパシャパシャと耳障りなシャッター音。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:16:26.91 ID:/aftsAzx0<>
いつの間に購入したのか、彼女は一眼レフを首からぶら下げて手に携えていた。その姿はまさしく子供カメラマンだ。
ただし、完璧なまでの似非ぶりだが。
「こいつは明日の全面確定だね! ってミサカはミサカは仕入れに成功した特ダネに満足してみたり」
「………さっぱり意味がわからねェが……、おいクソガキ。何も言わずに大人しくその趣味の悪いカメラをこっちに
よこしやがれ」
「だが断る! ってミサカはミサカは即答してみる」
「あァ!? ナメたクチ利いてンじゃねェぞこのクソガ――――」
「なーに子供に凄みきかせて誤魔化そうとしてんの?」
ギロリ。
より一層と番外個体の迫力が増した。
こんな所で金縛りを体験するとは、夢にも思ってなかった一方通行。
「お、おい待て。オマエが何を想像してるか知らねェが、疚しいことは何もねェぞ?」
「ふーん、けどさ。その感じだとやっぱりその子とはただならぬ関係だったみたいね」
「はァ? ……どンな関係だっつーの。別にこいつとは――――」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:17:29.72 ID:/aftsAzx0<>
「“身体でぶつかりあった関係”、でしょ? 全部聞いたよ。あなたがこの子を慰み者にした過去も、全部……ね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:21:06.62 ID:/aftsAzx0<>
「………………………なに?」
生返事。
世界がどう動いているのか、一瞬忘れかけた一方通行。
「ちょーっと待て。流れに全然ついていけねェ。まず何なンだよその慰み者っつーのは? っつか結標……!?」
目を戻した先には、誰もいなかった。
「…………あの野郎っ!!」
逃げやがった。
とんでもない置き土産を残し、さっさと退散してくれた結標の調理法を検討する一方通行だが、そんな彼に非情な
現実が襲い来る。
「ちょいとー? ミサカを無視してくれてんじゃないよコラ」
「――――い!?」
いつの間にやら、眼前まで番外個体が接近していた事に心臓が止まりかけた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:24:35.34 ID:/aftsAzx0<>
どす黒いオーラと紫電を纏う番外個体から逃げる術はこの時点で絶たれた。
「………見損なったよ。あなたがまさかスケコマシさんだったとは……さすがに気づかなかったわ。クールな
表面に、完全に騙されたよ」
「落ち着け! っつか話を聞け! あの女に何を吹き込まれたか知ンねェが全部ごか――――!?」
「―――――――うるさい死ねェェええええ!!! あなたを殺した後でミサカも死んでやるゥゥうううううううう!!!!!」
ものの喩えとかそういうのではなく、実際に雷が落ちた。
動揺した精神状態で演算が働くわけもない一方通行が辿った先は、言わずもがな。
激しい修羅場に怯えて出るに出られない月詠小萌の隣りで、打ち止めはとりあえず合掌した。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/05(日) 20:28:09.80 ID:/aftsAzx0<> ここまでです
あ、遅くなりましたが>>607
その通りっす。『虐殺』の方が適切でした。ありがとうございます
では次回の公開……は今回なしで!
それじゃまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/06/05(日) 20:31:46.08 ID:oYW2lMAa0<> 乙!
久しぶりな感じだが、相変わらずの質に安心!
そして、何故、次回の公開がないのか?
そういうことすると、次回への期待が高まるじゃないか! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/05(日) 21:07:00.52 ID:QGVPcBUM0<> 乙!!
あーあ、一方さんやっちまったなこりゃあ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/06/05(日) 22:53:27.43 ID:xDn7817wo<> シルバークロースさん早くも退場かコレ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 23:05:55.11 ID:EL7NPMtSO<> シルバークロース「解せぬ…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 00:23:59.40 ID:0q2yYS0I0<> >>1乙!
待ってた!
浜面の不器用さがよく出てる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 01:43:10.37 ID:JiO/uTgSO<> 乙!こりゃー次も期待だわ
つか結標が絡んでたと判明した時の一方さんの反応が妙にリアルwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/06(月) 17:53:58.93 ID:nIDN8zIAO<> 乙!
鬼嫁モードのワーストさんにニヤニヤするww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/07(火) 00:31:18.50 ID:JtTPw22O0<> やっぱりワーストだとカカア天下がしっくりくるわww
にしても打ち止めがパパラッチってのはまた斬新だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/06/07(火) 00:59:25.88 ID:qhy8YLek0<> パパラッチ→ダイアナ→イギリス→ヴィリアンと想像した俺は負け組 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/08(水) 21:56:42.49 ID:lVqgdpIt0<> >>659
なぜそこまで行ったのかと思い考えてみたら俺もそこまで行ってしまったため俺も負け組 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/09(木) 00:14:31.46 ID:KK8gJcdj0<> 誰か打ち止めがカメラマンになる話書いてくれないかしら?チラッテラッ
>>1にお願いするのは厚かましいかな・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/10(金) 01:56:19.23 ID:kf1nASHL0<> >>661
自分で書け期待 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/11(土) 20:39:54.04 ID:YC+vQ2a70<> こんばんは
いつもレスくれてありがとうございます
感想でも雑談でも、やっぱりレス付くのは素直に嬉しいです
同時に遅筆な自分が憎くなる…
>>661
厚かましいなんてことはない! 誰か書いてくれないかしら?
では続き <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/11(土) 20:40:51.93 ID:YC+vQ2a70<>
―――
第七学区で大規模な停電が起きたほぼ同時期、とある場所のビル裏では密会が行われていた。
一人は暗黒の背景がこの上なく似合う少女、黒夜海鳥。
彼女は二メートル近くあるブロック塀の上に腰掛け、薄暗い風景に溶け込んでいた。
そして、彼女の視線の先には――――。
「………また貴女ですか。まあ心の声が聴こえた時点で分かってはいましたが」
常盤台中学の制服に身を包んだ外見以上に大人びている女学生だった。
彼女の能力名は、『心理掌握《メンタルアウト》』。
学園都市に七人しか存在しない超能力者のうちの第五位に君臨する怪物を相手に、黒夜は獲物を見据えるような
獣の目で相対していた。
「夜の散歩が日課なアンタにも非はあるんじゃないか? 碌でもない組織から勧誘されるくらいなら、ウチら(新入生)
の傘下に加入した方が遥かに得だと思うけど」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:44:08.16 ID:YC+vQ2a70<>
「そういった輩のあしらい方なら手馴れてますの。残念でしたわね」
心理掌握の薄い笑顔もどこか妖しさが漂っている。
少なくとも黒夜の余裕に満ちた笑みが崩される程度には。
「チッ……、超能力者ってのはどいつもとっつきにくいヤツばかりだな。こっちもわざわざ時間作ってやってる
ってのによ」
「お暇ではないのでしたら、もう私に関わるのはお止しになったら? はっきり申し上げますが、時間の無駄かと」
「時間を無駄にしても惜しくないほどの力を持っているヤツが言ってくれるじゃねえのよ」
「……どうしても諦めるつもりはありませんの? でしたらこちらもそろそろ本腰を入れなくてはなりません。
存じているとは思いますが、貴女をこの場で自害させる事ぐらい朝飯前ですのよ? こうして私と対峙し続ける
事に恐怖は感じませんの?」
脅しとも本気ともとれる心理掌握の言い回し。口論で片づかないのなら武力行使に出るしかないのは黒夜としても
望ましい展開だが、流石に相手が悪い。ここは両手を上に掲げて交戦する意思がないことを示す。
「まあ落ち着けって。そこまでして引き入れる気はないよ。私はあくまでおいしい話を持って来てるだけさ」
「ならばせめて、私の興味をそそる材料を用意してみせなさい。無いのなら、大人しく諦めて第三位でも勧誘すれ
ば良いでしょう」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:47:04.70 ID:YC+vQ2a70<>
「第三位は駄目だ。能力自体の汎用性は優れちゃいるが、暗部に最も適さない人格者ときてやがる……話を持ちか
けでもしたら、協力どころか真っ先に敵対するだろうよ。それに今回必要としているのはどっちかっつったらアンタ
の能力(チカラ)の方だ」
「あらあら、ずいぶんと買われているようで……。悪い気はしませんわね」
「アンタが“新入生”に加われば達成にグンと近づくんだ。暗部にいたワケでもないのにそれほど大きな闇を感じさ
せるアンタなら、きっと楽しめるはずさ。……どうだい? 今なら特典は私の直属だぜ? シルバークロース以上の
働きをしてくれそうなアンタが来れば、私的にはすごく助かるんだがねぇ……」
「………答えは先日申し上げた通りですわ。第一位の首に興味などはありませんし、何より貴女のようなガキの下に
つけと? ふふっ、冗談も休み休み仰いなさい。私にもプライドがありますのよ」
ふん、と鼻で笑い飛ばす心理掌握。
これにカチンと来ない黒夜ではなかった。
「……私を見下してんのか? 今の言葉は聞き捨てならないねぇ」
「おや、気に障りましたか?」
「あぁ、不愉快極まりないよ。これだからお嬢様は好かないんだ」
「私は貴女みたいなタイプ、嫌いではありませんがね。心から陰湿を好む性質の貴女にとっては暗部社会がオアシス
みたいなものかしら?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:48:07.14 ID:YC+vQ2a70<>
「…………」
「ですが貴女には貴女の居場所、私には私の居場所がございます。第一、上層部に漏れでもしたら叩き潰されるのは
どう考えても貴女方ですわよ? リスクの大きい派閥に加わるほど私も馬鹿ではありません。この街で私の置かれて
いる立場ぐらいは当然把握していますよね?」
「まぁね……、そんなのは承知の上さ。危ない橋のひとつでも渡らなきゃ、第一位の首は取れない」
「ですが、“接点”はすでに持たせた……。上層部が危険因子を駆害したがるための……。これで貴女がたも堂々と
活動を行えるのでしょう? 折角樹を熟させたというのに、私を招き入れる違反行為に及んで大丈夫なのかしら?」
「説明の手間も掛からないのが一層魅力だわ。……まぁその点は問題ないだろう。第一位が事の真為に感づいてると
は考えられない。浜面仕上と接触させることが狙いだったコッチとしては好都合さ。同盟でも結んでてくれれば言う
こと無しだね」
「因子同士が合間見えたとなっては、上層部もゴーサインを出さざるを得ない……」
統括理事長のプランを大きく狂わせた浜面仕上と一方通行。
この二人に接点が生まれる事を理事会は危惧している。黒夜からしてみればこれを利用しない手はなかった。
ただでさえ“新入生”は正当派閥(統括理事会幹部中心)にとって非合法な組織だ。いつまでも水面下で活動していては
目標の達成にはいっこうに近づけないだろう。だったらどうすればいいか?
簡単である。
非合法な組織でも利用せざるを得ない状況を作り出してやればいい。
前述の通り、一方通行と浜面仕上が接触してしまった段階で上層部は冷静な判断能力を失っている。
『“誰でもいい”からヤツらを引き剥がせ。最悪の場合は殺害に至ってもやむを得ない』と言ったところか。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:52:23.81 ID:YC+vQ2a70<>
あとは、上層部の目論みを自分たち“新入生”が引き受ければ摘発される心配が無くなる。
ここまでは順調にきているのだ。失敗の要因を作らないためには心理掌握の協力が是非とも欲しい。
「第一位に危害を加えてもお咎めが来ない状況が作れたのなら、私の出番など無いんじゃないかしら?」
「咎めはなくても、支援(バックアップ)してくれるワケじゃない。第一位を相手にするには戦力が足りないんだよ」
「……私が加わったところで、戦況が変化するとでも? 第一位との序列差は確かに片手の指分ほどですが、私と彼との
力の差は、はっきり言って天と地ほどありますわ。第一位側の勢力が如何ほどかは知りませんが、仮に直接戦闘になった
としたら……、私ではとても役になど立てないでしょうね」
「いや、今の第一位には重要な欠陥がある。そこに付け込んでやればいくらでも活路が見出せてくるさ」
「……例の“脳障害”ですか?」
心理掌握が食いついてきた。
黒夜は街灯に照らされた顔をニヤッと綻ばせて告げた。
「いや、もっと致命的なヤツさ」
意味深な面の内部思考を読み取る心理掌握。
こういうタイプは大抵この手で答えをもぎ取る。その方が不快感も少ない上に手っ取り早いからだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:54:13.67 ID:YC+vQ2a70<>
「………なるほど、所謂“色恋沙汰”というものですか」
掌握してから納得した。しかし仮にも学園都市最強の化け物である彼が……。
心理掌握は正直に意外そうな顔を見せる。同時に僅かずつながら興味心も確実に燻られているようだ。
「にわかには信じ難いですが、それでは自分の能力を否定することになりますわね……」
「アンタに嘘はつけないから正直に話してやるが、女の方もこれまた特殊な存在なんだ。つまりは計画の邪魔で
しかねえんだよ。っつか、ヤツの延命装置的役割を担っている“妹達”自体がすでに厄介な敵みてえなモンかもな」
「何せ一万近い個体相手では、第一位の演算補助を断ち切らせるのも至難でしょうね」
「ヤツはただでさえ“妹達”に特別な想いを馳せている。ならその中でヤツと最も近縁な個体をうちらの手に収めて
やれば、どうなると思う?」
「………最悪、“精神の崩壊”も避けられない事態と想定しておくべきでしょう。でも、貴女がたにとってプラスに
働くとは限りませんわよ? 下手な言い方をすれば、『核爆弾のスイッチを押す行為』に比例するやもしれません……」
起きて欲しくない未来を想像しながら軽く身震いする。
「そうなったらそうなったで面白いかもな……。だが、それだけじゃねぇ。一万近い個体を束ねている“司令塔”が
第一位の核として存在している。最悪、こいつの息の根さえ止めてしまえば第一位の首は取れたも同然よ。脳の回収
も問題なく行える」
「……相応に危険を伴うでしょうけど、ね」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:55:31.75 ID:YC+vQ2a70<>
「なあに、暗部の世界はいつだって危険と隣り合わせさ。『新入生』だって例外じゃないよ」
ふわりとブロック塀から飛び降りた黒夜は、路地の奥へと歩き出す。
「………傘下に入るのは、もう少し考えさせていただきますわ」
「ん、上等。前回と違う答えが聞けてよかった。けど、あまりのんびりもしてられねぇ。できるだけ早めに頼むよ。
いい返事を期待してるからな」
そう言い捨て、闇夜へと姿を消していった彼女に心理掌握はボソリと呟く。
「大戦も終わって日も浅いというのに、今度は国………いえ、街中での内乱ですか……。ふふ、たまには近くで成り行きを
見物するのも、悪くないのかもしれませんね」
参戦か傍観か、それともこれまで通り無関心でいるか。
少女は珍しく迷っていた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:56:33.93 ID:YC+vQ2a70<>
―――
場面変わってここは一方通行と番外個体が居を構えるアパート。
自室の中は軽いとも重いとも言えない、何とも微妙な空気だった。
「おい」
「…………なにさ?」
頬の膨れた面がこちらを向く。
部屋の隅で三角座りしながら不貞腐れていた番外個体に、一方通行は勇気を出して声を掛けたのだ。
「……いつまでそォしてンだよ? 散々説明しただろォが。オマエの想像は全部的外れだってわかったろ? いい加減
に機嫌直せよ」
「“ぜんぶ”? 殴ったのは本当なんでしょ? 女の子の鼻面に向けて思いっきりグーかますようなヤツ相手に、どう
やって愛想振りまけばいいのかな?」
「はァ………、またそれか」
頭を面倒臭そうに掻きながらゲンナリする。もはや弁解するのにも疲れた模様だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:57:44.41 ID:YC+vQ2a70<>
一時的に仮避難所と化したボロアパートでの騒動(帯電状態番外個体の激昂)以降、ずっと彼女はこの有様である。
打ち止めを黄泉川宅まで送り届け、帰路に着くまでの雰囲気は微妙な居心地の悪さを引き出していた。
「あン時はあン時で色々あったンだ。もォ蒸し返すンじゃねェ。っつかよォ、なンでオマエがそこまで気分悪くする必要
がある? ……俺のクチからはあまり言いたくねェが、妹達には………もっと残酷な事もやってたンだぜ?」
「残酷レベルの話なんかしてないよ! もっとこう、モラル的な問題でしょ」
「………その辺がよく分かンねェンだよなァ。……っつか、もォいいだろ? 触れられたくねェ過去ぐれェ、誰しも必ず
持ってるモンだ。あとは察しろ」
「あなたには触れられたくない過去しかないんじゃない?」
「………返す言葉が見つからねェよ」
必死になって機嫌取りに努めていた自分が馬鹿らしくなってきたのか、ソファーに寝転がってソッポを向いてしまう。
そんな一方通行を他所にキラキラした目で手に持ったものを眺める番外個体。
「いよいよ明日からミサカも正式な学園都市住民かぁー……ふひひ」
「不気味な笑い方しやがって。っつーか胸躍らせてるトコ悪いンだがよ、やっぱやめといた方がいいンじゃねェか?」
「なーに今更なこと言ってんのさ。冗談っ! 最近はこれだけがミサカの活力の源だったんだよ? それを奪い取ろう
って言うの? あなた鬼の化身か何か?」
「そンなつもりはねェ。………ただ、危険性を少しでも下げてやりてェだけだ。今、どォいう境遇なのかは理解できて
ンだろ? いつ、どこで襲撃が始まるかも分からねェ……。そンな矢先にオマエと離れる時間を増やすのは……」
「ご心配どうも、って言いたいトコだけどね。もう後戻りはできないよ? 手続きだって済んでるんだしさ」
「……やっぱ、無理か」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:58:25.52 ID:YC+vQ2a70<>
「とーぜん♪ 明日は記念すべきミサカの女子高生デビューだよん☆ 今になって延期とかシラけるどころじゃ済まさ
れないっつーの!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 20:59:21.41 ID:YC+vQ2a70<>
「………に、してもタイミング悪すぎンだろォが」
明日が来る。それだけで気分はウキウキ状態の番外個体。
冥土帰しによる計らいで学園都市の住民証明機能を果たすIDを特別に入手したのはこのためだった。
『せっかく他のミサカ同様に肉体年齢設定があるんだし、年相応の生活がしてみたい』。全てはこういったメタな発言
から始まった。ある日唐突に切り出された我が儘。しかし実際は結構前から抱いていた願望だったらしい。
もちろん、一方通行は反対した。最初だけは。
だが、一度口から出してしまった胸の募りはもう抑えられなかったようだ。
番外個体の畳み掛け(拝み倒しとも言う)は生半可なものではなかった。
最終的に、「どうしても駄目だって言うんならもう一生クチ利いてやんないから!!」の一言が決め手となってしまった。
普段ならこんな茶番染みた我が儘を聞き入れるどころか、付き合おうとすらしなかったはずの自分を一方通行は光を失った
目で振り返ったらしい。
“人とは絶えず、大なれ小なれ変化する”。この格言が頭の中でエンドレスリピートしていた。
けれども嬉しそうな番外個体を眺めている内に、「まァ、悪くないか」とも思ってしまった。これもまた事実。
打ち止めにも当てはまる事だが、この時に一方通行は気づいた。
『ああ、そうだ。なんだかんだ言って彼女(達)の喜ぶ顔が何よりも見たい。その気持ちが強くなってしまったから自分は
こんなにも甘くなってしまったのだ』と……。
嬉しくもあり、悲しくもあった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:01:31.75 ID:YC+vQ2a70<>
そんな番外個体の門出を控えていた矢先での一大事。一方通行はどうすべきか悩んでいた。
打ち止めは“妹達”との意識共有ができる限り、ひとまずは安全と言えるだろう。
しかし、クローン個体でありながら全てのツールが孤立している番外個体には自分がついていた方がまだ安心できる。
狙われているのが自分だと判明した時、番外個体と早急に一時的な別居体制を取るべきだった。
今更こんな風に思っても手遅れだが……。
すでに番外個体も“標的対象”に追加されているのは明らかだ。目を離すのは非常に危険な現状である。
『新入生』の刺客が番外個体に奇襲を仕掛けてきたら……。そう思うと暢気に学校など行かせる気にはなれない。
しかし、一方通行の親身な忠告にも番外個体は耳を貸さなかった。
「大丈夫だよん☆ そりゃあんまり有名な高校だとさすがにマズイかもだけど、黄泉川の学校って所謂“底辺校”でしょ?
ならミサカ一人転入したって問題ないって♪」
「そのことを心配してンじゃねェ! ……たしかに容姿が『超電磁砲』と瓜二つなのは一つの問題でもあったが、そこン
ところは黄泉川を信じるしかねェだろォが。それより、俺はオマエが狙われる可能性の方を危惧してンだ。ヤツらがどこ
まで掴ンでンのかは不明だが、もしオマエが出歩いてるトコを目撃でもされたら……」
「ああ、そっち? だったら尚のこと平気だよ。ミサカを甘く見ないでよね」
強気な態度を装う番外個体だが、一方通行にとってはそれこそが一番の不安でもあった。
「根拠がねェ自信ほど信用できねェモンはねェな。っつか、そこまで学生に憧れてたのか? ……そォいや、コンビニ前
で溜まってた学生の集団をやけに凝視してたよなァ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:02:59.80 ID:YC+vQ2a70<>
「まあね。ああいう輪の中に自分もいたら楽しいだろうなーってさ……。ずっと思ってた」
「ふゥン……、俺には共感できねェな」
「成長に相応の知識は学習装置から受けてるけど、やっぱり友達とかと学校帰りに買い食いとかしたいじゃん。ミサカ、
『悪友』っての? ぜひ作ってみたいな♪」
「そォかいそォかい。まァ、意志も固ェらしいからこれ以上オマエの学校生活に口出しする気は起きねェが、ヤンチャ
するンなら程々にしとけよ? 派手に目立つ行動だけは絶対に取るンじゃねェぞ。わかったな?」
「ふふん、このミサカを少しは信用したまえよ。っつーか親じゃないんだから、そんなにクチ酸っぱくされても違和感
しか生まれてこないよ?」
「真面目に忠告してやってンだ。茶化さずに聞くことをちっとは覚えろ」
「取り越し苦労だよ。目立つような制服でもないし、普通に楽しく過ごせるんならそれだけで充分♪」
「………ならいいンだが、な」
(何もなく過ぎるンならそれに越した事はねェが……、どォーも嫌な予感がするぜ……)
この不吉な予感が思わぬ形で的中してしまう事を一方通行はまだ知らなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:05:18.52 ID:YC+vQ2a70<>
◆ ◆ ◆
一方通行と新生『アイテム』が同盟を結んだ翌日。
この日も普段と何も変わらない、至っていつも通りの日常風景が溢れていた。
学生は群れをなして学校へと出向く。特に休日明けともあって多少の慌しさと気だるさが流れているくらいのものだ。
それ以外は本当にいつも通りの朝だった。
第七学区に位置する、ごく一般的な高校。
これと言った特徴もなく、通っている生徒の能力レベルも比較的低い。というか無能力者が大半を占めているような学校である。
ただ、教師や生徒は個性的な人間がわりかし集まってはいたりする。
例えば、どこからどう観察しても十代前半にしか見えない女教師や、警備員に属する「〜じゃん」が口癖の体育教師など。
生徒に至ってはもっとひどかったりする。
そう、朝のHR前に自席で大あくびをかますツンツン頭のぱっと見だけはごく普通の男子学生、上条当麻とか。
そして、そんな上条に「また寝不足かにゃー? カミやん」と気さくに話しかけてくる金髪サングラス少年、土御門元春とか。
朝から異性属性がどうとか意味不明な持論を振り翳してくる青い髪の長身、青髪ピアス(本名不詳)とか。
他にも挙げるとキリがないので、この辺にしておく。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:06:20.85 ID:YC+vQ2a70<>
とりあえず、今は上条たちの会話に視点を置いてみよう。
「いや、寝不足っつーか……。ほれ、昨日また停電しただろ? そのせいで暖房つけられなくてさ。寒くてあんま寝られなかっ
たんだよ。お前んトコは平気だったのか?」
何気なく訊き返す上条に、土御門は得意げな顔で答える。
「俺っちはもう寝てたからにゃー。朝に舞夏から言われて初めて知ったぜよ」
「ラッキーなヤツめ。……ってか寝るの早くない!? たしか停電したのって夜の七時ぐらいだぞ!?」
「やだなあカミやん。休日は生活習慣が狂って当然なんだぜい。もっとも家にはストーブやら湯たんぽやらあるし、防寒対策は
万全だったがな。カミやん家にもストーブはあっただろ?」
「ありますよ。でも灯油が切れてたんですっ!」
「不幸だにゃー」
「…………」
時期的にもそろそろバスタブで寝るのは生命の危機に関わってくるんじゃないかと上条が本気で懸念している所に、横からハスキー
な関西弁が割り込んできた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:07:21.66 ID:YC+vQ2a70<>
「カミやんには温めてくれる子がおるだけまだマシやんかー。僕ぁどんだけ部屋を暖めても心は冷たいままなんやで」
「お前が考えてるような温暖事情は残念ながら無いぞ?」
「またまたぁ、冗談きついわ。あの修道服着た天使みたいな子を毛布代わりにしてるんちゃうの?」
「………は?」
上条の目が黒ゴマみたいに丸くなった。
「なに? 今なんて? っていうか、なんで当たり前のようにさらっと口走っちゃってるんでせう?」
「え? だって一緒に住んでんねやろ? だったら互いに温め合いながら寝るのがこの極寒を乗り越える秘訣なんちゃうの?」
「だああああ!! やめろ! 頼むからクチに出すな! 意識しないように毎晩必死なんだぞコッチは!! その涙ぐましい
上条さんの努力を全部フイにする気ですかぁあ!?」
「待てカミやん! 女の子だと意識するからいけないんだぜい! 青ピも言っただろう? “毛布代わり”だと。……そうだ、
いっそ毛布だと思えばいいんだにゃー! 暖房器具なんだと思え! そうすりゃ煩悩も振り払えてなおかつ快適な冬を過ごせ
るはずだにゃぶしっ!?」
最後まで言い切られる前に上条の右フックが土御門の頬に突き刺さった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:08:28.90 ID:YC+vQ2a70<>
「アホか! 抱き枕ならともかく生身の人間、それも本物の女体だぞ!? 一度足を踏み入れたら最後、どんなにしたって欲望
なんか振り払えるワケねーだろうが!! こちとら絶賛第二次性長期だっつーの!!」
「暑苦しい夏を乗り越えたんや! 寒い時くらい身を寄せ合って何が悪いねん!」
「テメェは何を期待に満ちたニュアンスで主張してんだ!?」
「据え膳食わずは敵を増やすだけだって事だぜ? カミやん」
「今すぐ黙らないと今度はマジでグラサン叩き割るぞ?」
「独り寂しく冬眠して過ごさなきゃならん男の苦しみと切なさがカミやんにわかるっちゅーんか!?」
「そんなに言うなら生殺しの気分を一度味わってみろ! 逆に地獄だぞ!?」
「それすら……それすら味わえんから僕はぁぁ……」
「カミやん、嫌味も大概にしとけよー? そろそろ俺の腕も殴打に走りそうだにゃー」
いつもと同じ馬鹿騒ぎの最中、チャイムと同時にクラスの担任を請け負っている月詠小萌が入室する。
「みなさーん! もう予鈴は鳴ってますよー! 早く席についてくださぁーい!」
声と仕草だけで世界を平和にしそうな訴えに逆らう生徒はクラスにいなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:09:56.07 ID:YC+vQ2a70<>
くだらない激論を瞬時にストップさせ、土御門も青髪も自分の席へ速やかに戻る。
上条は頬杖をついて眠そうに欠伸しながら教壇に立つ小さな担任をぼんやり眺めた。
全員が静かになった所で小萌が唐突に切り出す。
「えー、突然ですが、今日から皆さんと一緒にお勉強する転入生を紹介します。なんと女の子ですよ! おめでとう
野郎ども!」
「!?」
本当に突然のニュースだった。
クラス全体がざわつく中、小萌は教室入り口に向かって呼びかけた。
「では、入って来てくださーい」
直後にガラガラとドアが開き、少し緊張している面持ちの女子が姿を現した。
特に興味も湧かないのか、上条は薄っすらと前に顔を向けつつ今にも鼾を掻きそうなほどにぼーっとしていた。
実際に寝不足なのだから仕方が無い。
転入生が教壇へ立ったらしい。男子の歓声が耳を障る。どうやら相当の上玉みたいだが、上条はそれよりも眠かった。
見ているようで、見ていなかったというやつだ。
しかし、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:10:31.06 ID:YC+vQ2a70<>
「――――は、はじめましてっ!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:11:30.71 ID:YC+vQ2a70<>
……初めまして?
おいおい、転入挨拶で普通そんな言葉使わないだろ。声からも察しはつくが、どんだけ緊張してんだよ。
などと心中でぼやく上条だが、途中で何かが引っ掛かった。
(ん……ってか待てよ。今の声……あれ、どっかで………?)
たちまち意識が覚醒してきた。
そして、上条の目がはっきりと転入生を捉える前に自己紹介が始まる。
「御坂 奏(みさか かなで)って言います! こんなミサカだけど、みなさんどうかよろしくっ☆」
しっかりした挨拶のすぐ後に、ゴンッ! と良い音がした。
上条の頬に当てた手がズルッと顔を滑り、そのまま机に勢い良く額をぶつけた音だ。
クラス全員の視線を浴びながら、上条はオデコの痛みを堪えつつ口の中だけで呟く。
(………なに? なんなの? どういうコト? さっぱり状況が飲み込めない。っていうか意味がわからない。誰か上条さん
にもわかるように説明してください)
個性豊かな面々が揃うクラスに、こうして新たな色が加わった。
上条の眠気が完全に覚めたのは追記するまでもないだろう。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:12:57.31 ID:YC+vQ2a70<>
「……上条ちゃん?」
教師(小萌)の怪訝な視線にムクリと顔を上げる上条。
これにより、ごく自然に番外個体と目が合ってしまう。
するとどうだろう。あからさまに緊張していた番外個体の表情が急速に和らいでいく。
見知らぬ場所で独りだった時に知人を見つけたような彼女の変化は実にわかりやすかった。
上条当麻の災難はこの時からもう始まっている。
不吉な予感を覚える前に、番外個体は上条へ向けて可愛らしいウィンクを飛ばした。
この行為から何が生まれてくるかは、もう察しがつくだろう。
番外個体の美貌に一目惚れした男子は少なくなかった。大げさでなく彼女が女神に見えた生徒もいたであろう。
ところが、そんな彼等には何のチャンスすら与えられないまま女神が微笑んだのは、数多くのフラグを築き上げてはフイに
することで有名な上条さんである。
結果、男子全員の目に殺気が宿る。
そしてその殺気は当然彼に向くというわけだった。
「はは……、何がなんだか全然わからんが、とりあえず不幸だ……」
脱力しながらそう吐くしかなかった。
今の上条が土御門の意味ありげなニヤリ顔に気づくはずもない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:14:04.62 ID:YC+vQ2a70<>
結局、番外個体の席は上条の真後ろに決まった。
クラス全員(主に男子)の呪念溢れる視線を浴びる上条は休み時間が訪れるのを恐れる。
これが初めてなのではない。だから恐れているのだ。
休日明けの朝一番からテンションだだ落ちの始まりを迎えてしまったわけだが、HRから一時限目開始までの僅かな時間中に
トントンと背中を指で叩かれた。
「………ハイ、何でショウカ?」
機械のように完璧な動作で振り返る上条に、番外個体は吹き出しつつも話し始めた。
「ふひひ、まーさかあなたと一緒の学校、しかも同じクラス、とどめにいつでも監視できる配置にくるとはね〜♪ これも
何かの運命かな? ヒーローさん」
「………もしかしなくてもこの前会った妹達、だよな?」
「イエース☆ ……って、ここじゃその呼び名は封印してね! ミサカは御坂美琴の親戚で成績の悪い御坂奏なんだから!
ちなみに前は言い忘れてたけど、ミサカの個体名は番外個体《ミサカワースト》だよ」
「……個体名からしてすでにマイナスなイメージが強いのは俺の気のせいか?」
「まあ、作られた目的が目的だけにね……。いつか機会があったらそこんトコも詳しく教えてやるよ。あなたの心の中だけに
留めておいて。一応禁則事項ってことになってるからさ。さっきのミサカの設定、くれぐれも忘れちゃダメだよ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:16:39.24 ID:YC+vQ2a70<>
「自己紹介の後に先生が説明してたヤツか? よくもまぁ捏造したモンだなぁ……。まさか御坂妹とかもどっかの学校に通い
始めてたりするのか?」
「いんやあ、さすがにそれはないっしょ? ミサカならこの成長した体のおかげで誤魔化しは利くだろうけど、他の妹達だと
明らかに無理が生じちゃうよね。まあ、このミサカは厳密に言うと妹達の枠内から外れた存在だから、その辺の事情に詳しい
ワケじゃないけどさ」
あまり公の場で話していい内容では無いのでヒソヒソと小声気味に喋る二人。
それが火に油を注ぐ結果を生んでしまう。
転入して数分も経たない内から密談する彼等の様子は周囲に誤解しか招かなかった。
そして、上条がこの事実に気づいた時には何もかもが遅かった。
おかげでその後の授業など頭に入るはずもなかった。
で、恐怖の休み時間。
案の定、嫉妬に狂ったクラス仲間から正義の鉄槌(フルボッコとも言う)を下される上条。
資料(もちろん偽造)では帰国子女扱いとなっている番外個体に興味津々で群がる取り巻きからは、天国と地獄を連想させる境界線
しか見えなかったと言う。
何はともあれ、賑やかに過ぎていったのは確かなようだ。
番外個体の方は転入生同士という事もあってか、姫神秋沙との会話がかなり弾んでいる。
上条当麻との関係をまず追及されたが、適当に話を作ってやり過ごした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:17:30.99 ID:YC+vQ2a70<>
「上条くんとはいつから知り合いなの?」
「あはは、こないだたまたましつこくナンパされてた所を助けてもらっちゃってさあ」
「……また?」
「へ?」
ジーッ、とボロ雑巾と化した上条を蔑んだ目で見下ろす姫神。
誤魔化すためにでっち上げた口実が、偶然にもリアリティのある内容だった事に番外個体は気づかない。
上条ならやりかねない、とあっさり納得した姫神に今度は番外個体が尋ねた。
「……まさかとは思うけどさ、あなたも彼に助けられたりしたクチ?」
「うん」
何の迷いもない答えが返ってきた。
「…………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:18:36.59 ID:YC+vQ2a70<>
「彼には気をつけた方がいい。でないと。多分近い将来泣かされるハメになるから」
「……ご忠告どうも」
「あなたとはウマが合いそうな気がする」
「うん、心なしかミサカもそんな気がしてきたよ」
結局、最後まで「ごめん、実は嘘です」と言う気にはなれなかった。
バレない嘘は嘘ではないと自己欺瞞するも、罪悪感は薄れてくれそうもない。
番外個体が純粋な人間にまた一歩近づいた辺りで、一日の全授業は終わりを迎えたのだった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:22:13.03 ID:YC+vQ2a70<> 今回はここまでです
番外個体の偽名はさして重要ではないのであまり気にしないでください。あくまで私の趣味です
一応説明しますが、由来は『天使』です。知らない方は“奏、天使”をキーワードにググってください
では次回の一部公開に入ります <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:25:48.24 ID:YC+vQ2a70<>
一方通行「……ったく、何だって俺はこンなトコにまで出張ってンだか………我ながら泣けてくるぜ」
――――――――
番外個体「あれ? あなたこんなトコで何してんの?」
――――――――
黒子「どうせなら部屋の中央に置いた方が良いに決まってるんですの。っていうか、貴女の能力でどうにかなるのでは?」
初春「うーん、自身をヒート状態にでもできれば言う事なしなんですけどねぇ……。あ、でもこれからの時期には便利ですよ。
肉まんとか鯛焼きとか、常に温かい状態で食べれますし♪」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/11(土) 21:26:43.19 ID:YC+vQ2a70<> 以上でした
次回も一週間以内に来れるといいな……
それではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2011/06/11(土) 21:27:43.54 ID:VCGN/Wm40<> 乙
こんなにもNTRの不安の無い旗男も珍しい
とりあえず激辛マーボーで涙目になる番外はまだか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/11(土) 21:29:14.33 ID:b0nVJrTu0<> 乙!
食蜂さんが新入生と接触してんのか……
これからどうなることやら
そして、日常生活に番外個体と上条さんとの接点ができましたなwwwwww
次も期待!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/11(土) 21:30:31.76 ID:jzs9WMjw0<> 奏ってお前……
まあ深くは突っ込まないぜ乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/11(土) 21:32:49.96 ID:8Bl94cZSO<> 乙した!!
キャラの扱いホントに上手いな!
次回を見るからに、一方さんまさか……? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/06/12(日) 00:10:03.51 ID:HT4zPEZmo<> 乙!
番外個体の名前が奏でだと……
まさかあのssの(ry <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/12(日) 01:00:28.60 ID:xkxkdK0a0<> 御坂一族は名前が音楽関連だからそういう意味じゃ奏はアリかもな
ていうかどっかで美奏(みかな)っての見たぞ
まぁ結論をいうと番外個体マジ天使!ってことで <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2011/06/12(日) 18:04:42.98 ID:kW4NZ7EAO<> >>696
糖尿病とは別人だよ。名前は一緒になったけど <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/12(日) 19:19:48.67 ID:lzZ1ixsSO<> 髪の色的に一方さんの方が名前合いそう…
あ、けど一方さんには百合子という本名が(ry <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/13(月) 21:19:03.52 ID:0FQ2Rxz40<> 伏線回収乙です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/14(火) 02:01:28.31 ID:YJcvr0Kn0<> >>698
何それkwsk <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/21(火) 22:12:23.20 ID:iQdgg21g0<> 遅くなりました。ごめんなさい
とりあえず書けた所まで放出します
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/21(火) 22:15:24.06 ID:iQdgg21g0<>
―――
下校時間。
時計が差す短針は三時と四時のほぼ中間。
様々なタイプの学制服を着た若者たちが鞄を手にぶら提げて帰途に着く時間帯である。
上条当麻や番外個体が滞在している高校でも、現在進行形で生徒が疎らに校門を潜り始めている。
部活動で残る生徒以外は、全日程を終えた事による解放感が大体この時間帯に集中するのだ。
特に、レベルの高いエリート校とは対極の立場である高校の学生ほどハメを外す輩は多い。
上条当麻が通う学校もその類に含まれており、大半は風紀委員などに目を付けられる傾向がある。
そういった経歴のせいか、行動範囲も今や厳粛に規制されている有様らしい。
なので最近は知恵を揮う生徒も増えている。如何にして規制の目を欺き、網を潜り抜けるかが重要と考えている
者が現在では大多数を占めているのだ。公の場で暴れたり、表立った不祥事を起こす時代は僅かづつだが終わり
を迎えつつあるようだ。未だに堂々と恐喝や暴行に明け暮れているスキルアウトでも、いずれはこの時代の波に
呑まれてしまう日が来るのだろうか。まさに時の流れの残酷さが垣間見える例の一つと言えよう。
現に、校門を抜けるまでは教師陣の目に止まってしまう様な行為を慎むのが学生の一般常識として捉われている。
それは当然この高校だけに限らない。
だがしかし、学校という拘束から解き放たれた生徒達の足取りが全体的に軽やかに弾んでいるように見える事実
は否めないだろう。さながら“浮かれ気分”というヤツだ。この現象は昔から自由をこよなく愛する人類を象徴
しているようで、実に面白い。
下校してしまえば、その後の予定は各自異なってくる。
改めて説明するのも馬鹿らしいほど当たり前の事だ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:17:01.15 ID:iQdgg21g0<>
そんな中には友人と待ち合わせている他校生も普通に校門前にいたりするのだが、今日はそうでもなさそうだ……。
……否。
前言を撤回させて頂こう。
誰かを待っていると思しき人物は校門前にいた。
女みたいな体型だが、目つきの悪さはチンピラ以上である。
それも一際目立つ外見だったため、校門を抜ける生徒が必ず一度は目を移らせている。
アルビノがそんなにもの珍しいのかは良く知らなかったが、興味本位の視線を浴びるのはいい加減に慣れていた。
それでも決して気分が良いとは言えなかった。
いちいちガンを放つのも面倒なのか、彼はあさっての方を見上げながらウザそうに舌打ちした。
「……ったく、何だって俺はこンなトコにまで出張ってンだか………我ながら泣けてくるぜ」
ボソリと乾いた風に向かって呟く杖をついた白髪の少年。校門を通る学生の中に彼が学園都市の最上能力者だと気づく
者はいなかった。
というか、まさかこんな中の下レベルの高校の壁に第一位の超能力者が寄り掛かってるだなんて誰が思うだろうか。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:20:20.49 ID:iQdgg21g0<>
彼が道行く学生に注目を受けるのは、良い意味でも悪い意味でも人並み外れた容姿のせいである。
白く綺麗な肌、そして髪。華奢で線の細い体。紅く輝く鋭い獣のような目。
人の視線を浴びる材料としては申し分なかった。
はっきり言ってしまえば、完全に場違いである。
何故、彼がこんな何処にでもありそうな一般高校へ足を運ばせているのか。その理由は一つしかない。
(まだかよあのアマ……。とっくに下校時間じゃねェか。何トロトロしてやがる。早く出て来いっつーの)
少しずつ苛立ちが顔に表れてきている。
性格上、あまりのんびりと物事を待って過ごすのは好きではない。惰眠を貪る行為はあくまで別としても。
考えついた事はどちらかといえばすぐに実行したい派の一方通行は、意味もなく杖を地面にコツコツと鳴らし始めた。
徐々に鳴らす音は大きくなり、リズムも速くなる。
心理状態を表すのに、これほど分かりやすい例はないだろう。
(チッ、やっぱ来るンじゃなかったか……。いや、今の境遇を考慮するとそォも言ってられねェな。にしても遅せェ……。
まだかァ? まだ出て来ねェのかよ? 来る時間をもォ少し遅くしておくべきだったか……?)
五分、十分と時間が経つにつれて苛々が更に加速する。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:24:58.97 ID:iQdgg21g0<>
何度も昇降口方面を窺っては壁にもたれ掛かる動作を繰り返している。
足が棒になってきたのでそろそろ座り込んでしまおうかと思ったその時、何人かの男女グループが昇降口から出てきた。
その中に見慣れた顔を発見する。
が、
「………………はァ?」
見覚えのある顔は一つじゃなかった。これは予想だにしない事態だ。
まず、番外個体はあのグループの中に間違いなくいた。普通なら、「へェ、編入初日からもォ友達作るとはなァ。こいつ
は正直意外だったぜ」程度の感想で済んでいただろう。
ところが、しかし。
(おいおいおいィィィ!?)
(どォいう事だァァ……!? 一体ィィ……ッ!!)
思わず壁に隠れて奥歯をギリッと噛んだ。
ドッキリを仕掛けられた芸人以上のリアクションを正門の隅で披露している。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:26:40.80 ID:iQdgg21g0<>
(な・ン・で・ 土御門がァァ!? ……それに、俺の視力が正常なら、番外個体の隣りにいる野郎は間違いなく――――ッ!!)
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:28:37.04 ID:iQdgg21g0<>
全てが夢であって欲しいと一瞬本気で思った。
(くそっ、落ち着け。とにかく落ち着け……! ここは確か黄泉川が教師として勤めている学校のはずだ!)
頭を抱えるポーズ。加えて学校の正門前。
他人の視線はいかにも不審者を目撃していますと言わんばかりに加熱するが、生憎それを気にしている余裕はない。
とりあえず考えるべき事は、ここからどう動くかだった。
できたばかりの友人を連れて下校して来るのは何となく予想できていたが、同行者の中に見知った人物がいることまでは
一方通行の視野の範疇外だった。
(っつーかよ………)
多少はクールに落ち着いた瞳でもう一度、番外個体交じりの集団を目視する。
(あいつが通う学校……ここだったのか。チッ、何の運命が悪戯しやがったのか……。ただの偶然なンだろォが、これじゃ
堂々と出迎えるわけにもいかねェぞ)
どうする? 何食わぬ顔で出迎えるか?
それともこの場での合流は避け、番外個体が友人と別れるまで尾行するか?
目線を下へ向け、迷いに迷い抜いた末―――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:29:17.88 ID:iQdgg21g0<>
「――――――あれ? あなたこんなトコで何してんの?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:31:29.81 ID:iQdgg21g0<>
「ぶっ!!?」
シリアスに決めていた顔が台無しに崩れた。
考え事をしている間に番外個体たちは校門外まで出て来ていたのだ。しかしこれは動揺しすぎていた一方通行の珍しい不注意
が招いた結果である。
番外個体のすぐ後ろで新しい仲間連中が驚きの目を彼に向けていた。
約一名、土御門元春だけは今にも爆笑しそうにニヤついていた。ぶっとばしたい衝動に駆られるが、今は見逃しておく。
それよりも―――――。
「………一方……通行、だよな? えーと、何つーか………久しぶり」
上条の引き攣った表情が実に印象深かった。
突然のエンカウントに思考が追いついていない様子がこちらからでもまるわかりだ。
このおかげで、何故か逆に一方通行の方が冷静になれてくる。
「……よォ、また会ったな」
挨拶代わりに一言落としてそれらしい雰囲気を放つ。
滑稽な姿など、彼の前では死んでも晒したくなかった。
とにかく、見つかってしまった。
こうなってしまっては仕方が無い。もう後は野となれ山となれだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:33:56.15 ID:iQdgg21g0<>
「上条当麻、この人……知り合い?」
一緒に並んで歩いてきた中の一人が上条に声を掛けた。
見るからにこちらを警戒しているようだが、無理もないだろう。
突然こんな凶悪な顔つきの人間が登場した場合、彼女のような反応が最も一般的である。
一方通行も不本意ながら自覚していた。
「ま、まあ……なんていうか」
彼が学園都市の最上能力者である事を知っている上条は返答に困る。
しかし、そんな不甲斐ない上条の代わりに土御門が助け船を出してくれた。
「まーな、俺らの友達だ。これからミサカちゃんの歓迎会も兼ねて遊ぶ予定なんだが、良かったらお前も来るか?」
「えっ? そうなん? 僕は初対面やけど……」と反応する青髪は放置され、話は勝手に進む。
上条や一方通行はこの突発な提案に唖然とするしかない。
相変わらず、土御門の真意は計り辛かった。
「っていうか、ミサカさんも知ってる人なの?」
横で番外個体にも質疑するのは先ほど上条にも同じことを伺った女学生、吹寄制理。
クラス委員長のような雰囲気を身に纏っているが、実際は違ってたりする。どちらかと言えば暴力賛成派だ。
クラス内では“エモノ”として名高いオデコがキラリと光った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:35:41.54 ID:iQdgg21g0<>
「いやいや。知ってるもなにも、ミサカの家でやっかいになってる同居人だよ。まだ話してなかったっけ?」
「………えええ!?」
女同士の間に激しい温度差が生じるが、たまらず一方通行が訂正にかかる。
「おい、虚説を堂々と垂れ流してンじゃねェぞ。やっかいになってる身分なのはオマエの方だろォが!」
「い……、一緒に住んでるのは事実なのッ!?」
「えっ? ……ちょっと待て。上条さんの耳が不具合を起こしたんでないのなら、つまりそれって………」
「う、うそやろミサカちゃん!? なんてことや……。ミサカちゃんにはもう将来の相手がおったんかいな……。
早い! 早すぎるで! 僕の淡い初恋がぁぁ……」
「ミサカさん、大胆……」
それぞれの個性的な対応。
この中でも土御門は一歩引いた目線で客観視し、仕方なくまとめ役に回る覚悟を決めた。
「………やれやれ、収拾がつかなくなりそうだにゃー。ここで立ち話もアレだし、ひとまず移動するぜよ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:39:23.81 ID:iQdgg21g0<>
―――
「ですから、冬場は寒いからストッキング常備が良いと思うんですよ。そうしたら佐天さんによる悪質な嫌がらせも
減少するんじゃないかなーって」
「初春と佐天さんがどうじゃれ合おうと、わたくしの知った事ではありません」
「むー……」
風紀委員第一七七支部。
ニヶ月近く前に諸事情で活動停止を喰らい、一ヶ月位前から復帰した白井黒子は初春飾利の戯言を軽くいなした。
「そろそろこの支部にもストーブが欲しいですよね〜」
今度は寒い季節序盤で定番の話題。
「暖房があれば充分ですの。ってか、無駄な贅沢をぼやく暇があったらさっさと書類まとめなさいな」
「エコが流行ってるからあんまり暖房に頼れないじゃないですか。私寒いの苦手なの知ってますよね?」
「………だいたい、置き場がありませんわ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:44:35.60 ID:iQdgg21g0<>
「私のデスクの横なら空いてますよ♪」
「それでは貴女しか温まれないでしょう? 自己中心的な考えはやめなさいな」
「だって白井さんは平気なんでしょ〜?」
「どうせなら部屋の中央に置いた方が良いに決まってるんですの。まぁ、中央はご覧の有様で不可能でしょうけど……。
っていうか、貴女の能力でどうにかなるのでは?」
「うーん、自身をヒート状態にでもできれば言う事なしなんですけどねぇ……。あ、でもこれからの時期には便利ですよ。
肉まんとか鯛焼きとか、常に温かい状態で食べれますし♪」
「………」
上機嫌で語る初春の方を黒子は見ない。
正直言ってどうでも良い内容なせいもあるが、心ここにあらずになる理由が他にもあったからだ。
「……白井さん?」
「………はぁ」
「白井さん!」
「――――ホヒッ!? な、なんですの?」
声のボリュームに驚き、意味不明な奇声が思わず飛び出てしまった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:47:41.80 ID:iQdgg21g0<>
「なんですの、じゃないですよぉ。何か悩み事ですか? さっきから溜め息の数多いですよ?」
「べ、別になんでも………」
ジーッ……と、言い逃れるには厳しい視線が向けられる。
初春の真っ直ぐ見透かすような目に、黒子の目が泳ぎ出す。付き合いが長くなると、隠し通すのも難しくなる良い例だった。
「な……何をジロジロ見てますの? わたくしは悩み事など抱えてませんわ」
「ふぅ〜ん、へぇ〜」
「………小突きたくなる返し方ですわねぇ……」
「そこまであからさまに出しておいて、まーだ隠そうとするんですもん。そりゃ呆れもしますよぉ」
「…………」
初春には自分の複雑に絡まった心情が筒抜けであったことに、ここでようやく気づかされた。
「そ、そんなに顔に出てました……の?」
「固法先輩も心配してたぐらいですしねぇ……。なんだったら相談してくださいよ〜。本気で白井さんが悩みを抱えてる
んなら、本気で力になりますから」
「貴女が“本気”とかクチにすると、言い様のない恐怖を覚えるのは何故でしょうか……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 22:56:57.94 ID:iQdgg21g0<>
「恐怖だなんてヒドイですよ〜! 私が裏でとんでもないことしてるみたいじゃないですか!」
「…………」
二ヶ月ほど前に発生した『御坂美琴失踪事件』。この解決に最も貢献した人物が、実は初春だったりする。
そんな事例があったせいか、初春の情報処理能力の凄さを改めて知ったのだが、逆に敵に回したらと思うと時折寒気
が走ってしまう。
結局少し惑った末、黒子は遠回しな表現で打ち明けることにした。
「……………もしも、もしもですわよ?」
「親しい間柄の方と、偶然同じ異性を恋慕してしまったら……貴女ならどうなさいますか?」
「た、たまたま知人にそういう境遇の方がいまして! 相談されて困ってましたのよ! ですから決してわたくしが
そうだという事ではなくて……」
無意味に左右のひとさし指をくっつけたり離したりするちょっと可愛らしい仕草。
これこそが躊躇と葛藤の果てにやむなく意見を問う人間の姿の見本と言えよう。
しかし、残念ながらこのいかにも『自分は違う。これは自分の話ではない』的な主張は無効に終わる。
「…………! あぁぁ。ふーん、そういう事ですかぁ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 23:00:36.66 ID:iQdgg21g0<>
閃き、何もかも悟ったような声に黒子は追求せざるを得なかった。
「な、何を一人で納得してますの?」
「親しい人ってのが御坂さんで、恋した人が上条さんなんですよね?」
「!?」
あっさり見抜かれていた。
だが初春にとっては見抜くほどの関門でも何でもない。ある程度の観察力と洞察力さえ持っていれば、簡単に割り出せる
方式だった。
「う、初春ッ!? ですからこれはわたくしとは無関係で――――」
この期に及んで抵抗を止めない白井黒子。
だが残念。初春には何の効果も齎さない。動揺混じりの否定は肯定と同一されるのが世の法則である。
「でも、上条さんですかぁ……。御坂さんと下手したら戦争になっちゃいますよ? 私としてはあまり見たくないなぁ……」
「くぉらぁあ!! 話を聞けェェえええええ!!! だから違いますのよおっ!! わたくしが上条さんに想いをよよよ、
寄せるなど……///」
この弁明に初春は、「見苦しいですよ? 白井さん」とでも言いたげな目をした。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 23:01:58.39 ID:iQdgg21g0<>
「えー? だから悩んでたんでしょ? “上条さんが気になる。でも御坂さんが上条さんの事を好きなのを知ってる。ああ
わたくしはどうすればいいんですの?”………だいたいこんな所じゃないんですか?」
「ぐぼ……」
鬱陶しい声真似付きでお送りされたが、「違うのか?」と問われても今度は断言できなかった。
まさに心の中をそのまま読み上げられた気分だったからだ。
どんなに違うと意識していても、奥底の本音を射抜かれて気が動転しない人種は少ない。
口も舌も一定時間上手く回らなくなってしまった黒子に、初春は更なる追撃を仕掛ける。
「佐天さんも多分気づいてますよ。『白井さんと上条さんと御坂さん、いったいどうなるんだろうねぇ〜♪』って良く話題
振ってきてましたから」
「なん……ですと……?」
知りたくないこともついでに知ってしまう。
暫くの間、得体の知れない絶望感に彼女は苛まれた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 23:05:58.87 ID:iQdgg21g0<> 今回はここまでです
待っててくれた方、いつも本当にありがとうございます
では、次回の一部 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 23:11:06.28 ID:iQdgg21g0<>
美琴「………で、アンタは何であんなトコうろうろしてたわけよ? あんまり人通りの多い場所を目的なしでブラつかれると、
多大な迷惑を蒙る人間がここにいるんですけど?」
19090号「うう、み、ミサカはただどうしても欲しいものがあっただけで……お、オリジナルに迷惑をかけるつもりは……」
――――――――
土御門「あー、腹減ったぜよ。肉だ肉♪」
上条「あ、あー……。お二人さん。喧嘩はよろしくありませんよー? ほら、スマイルスマイル。わたくしの真似して
笑ってごらん。あはは」
番外個体「おっ! この砂肝ってヤツ美味そう♪ ねえねえ、秋沙はホルモン系好き?」
姫神「……好き。こりこりした食感が絶妙だと思う」
吹寄「肌の色素や瞳の変色は専門外だから置いておくとしても、うーん……、やっぱり線の細さが異常ね。日々の生活
リズムを見直す必要がありそう……」
一方通行「将来は栄養士でも目指してンのか? それともただ単にからかってやがンのか、オマエ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/21(火) 23:14:32.79 ID:iQdgg21g0<> 以上です
お付き合い頂き、ありがとうございます
次回も未定ですが、投げ出しはしませんのでどうかご容赦を…
それではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage <>2011/06/21(火) 23:17:15.94 ID:p2cpNyVQ0<> 乙
一通さんはヒーローの前では無様な姿を晒したくないんですな
そして、上条さんの高校メンツと知り合いになりましたなwwwwww
あと、ついにパンダちゃんが動くのか?
次に期待してます! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/21(火) 23:20:15.45 ID:09EWra/SO<> やっほう待ってました!!
超乙!!!
焦るパンダが可愛くて涙が出るww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/22(水) 02:00:40.35 ID:qUM3E+1q0<> 乙
上条クラスメイツに一方さんか…
ありそうでなかったような展開だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/06/22(水) 03:23:52.14 ID:UcaQ4QRSO<> 青髪「解せぬわ……何で僕が次回予告に入ってないん?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2011/06/22(水) 12:30:42.23 ID:GP84LAISo<> 乙
おデコちゃん怒られるぞw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/23(木) 00:26:32.15 ID:wH+a4mGY0<> >クラス内では“エモノ”として名高いオデコがキラリと光った。
おいwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/23(木) 03:29:23.18 ID:rdVTzJXSO<> >>727
おっと、エセ委員長の悪口はそこまでだ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/25(土) 23:58:36.91 ID:1BlcwiTU0<> 番外通行だと思ったらまさかの上黒・・・だと・・・? <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/06/27(月) 21:40:09.29 ID:8ghSJ8cR0<> こんばんは
お待たせしました
今回は少し多めです
相変わらずの遅筆で返す言葉もないですが、それでも読んでくれたら嬉しいです
では続き <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:42:47.61 ID:8ghSJ8cR0<>
―――
「ああもうっ! だから別に深い意味とかないんだってば! 単なる気まぐれよ! き・ま・ぐ・れ!」
学校帰りに喫茶店を利用する学生は多い。
特に女子中高生は好みの店に足を伸ばし、スイーツタイムやらティータイムと言った嗜好品を飲食する行為を日課のように
楽しむものだ。
よって、下校時間になるのをそういった意味で楽しみにしている女学生も珍しくはない。
そんな数多い店舗の内の一角。さらに数ある席の中での一端。
甘いスイーツも勿論好きだし、子供が好むようなキャラクターに目を輝かせる一見まともな女子中学生、御坂美琴は相席して
いた瓜二つの同顔にいきり立っていた。
「ジー……。とミサカは疑いの眼差しを向けます。ミサカ10032号からの情報から考慮するに、お姉様が妹達を友好的にお茶に
誘うなどとは少々考え難いのでは……」
「ええい、何度も言わせんなッ!! 自分と同じ顔で同じ格好の人間が堂々と街中徘徊してるのを目撃しといて見て見ぬフリ
できるワケないでしょーが!!」
客席から店内に響く甲高い声。
「ご、ごめんなさい……。とミサカは肩を萎縮させて謝罪の言葉を述べます……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:44:21.45 ID:8ghSJ8cR0<>
御坂美琴のクローン、通称『妹達』。そしてこの弱腰な個体の検体番号は19090号。
街を悠々と散策していた所を学校帰りのDNA提供者に発見され、今に至る。
弱気な割りに好奇心が強い子、と御坂美琴本人は認識している。
「……あー……こほん」
思わず大声を発してしまった事にバツの悪さを感じたのか、軽く咳払いする美琴。
19090号はモジモジしながら相手の顔色を窺う姿勢へ移行してしまったようだ。
「………で、アンタは何であんなトコうろうろしてたわけよ? あんまり人通りの多い場所を目的なしでブラつかれると、
甚大な迷惑を蒙る人間がここにいるんですけど?」
「うう、み、ミサカはただどうしても欲しいものがあっただけで……お、オリジナルに迷惑をかけるつもりは……」
「欲しいものって何よ?」
「……言いたくありません。とミサカは口を噤みます……」
「えぇー? 何それ。……気になるじゃない。別に笑ったりからかったりしないから教えなさいよ」
「…………」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:46:37.32 ID:8ghSJ8cR0<>
絡み口調の美琴に首を横へ振る事で拒否を示す19090号。
実際、クローンというだけあって容姿は自身と見分けをつけるのが難しい。そんな彼女が不審な行動を目立つ場所で取る
のを寛容できないのは当たり前の事象である。
要は、“この子の目的が達成できるように力添えをしてやろう”ということだ。
決して悪意があるから追求しているわけではない。『妹達』のためにもなるし、自分のためにもなる。むしろ一石二鳥だ。
そういう意図を持った上で美琴は19090号の目当ての品を聞き出そうと試行するのだが、結局19090号は口を割らなかった。
「………わかった。そんなに大事なものなら、これ以上詮索しないわ」
流石のオリジナルも頑なに黙秘を貫かれては折れるしかなかった。
それにしても19090号は一体何を求めてこんな人の多く集まる地域を訪れたのだろうか。
当人から聞くのは諦めたが、やっぱりまだ気になっていた。
この近くに何がある? 美琴は安心してパフェを頬張り始めた19090号に感づかれないように思考を働かせた。
(セブンスミスト……? は無いか。病院から来たんだとしたらこんなトコ通らないし……。何かショッピング用の店
なんてこの辺にあったっけ?)
(あるとしたら、健康グッズみたいな胡散臭そうなモノばかり売ってる店しか……。でも、まさかねぇ……)
(うーん、やっぱわかんないなぁ〜……。他の子だったらここまで気にならないんだろうけど、この子たちとなったら
話は別よね! 一応私のデータが元なんだし。趣味とかそういうのだって、私の立場的にはすごい気になるっつーの!) <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:48:34.78 ID:8ghSJ8cR0<>
最後の心の声はどこか自己正当化する罪人みたいだったが、まあ自分のクローンがどう変革していくのかを気にするな
というのは少々酷な事かもしれない。
なんだかんだ思っても、最終的に来るのは“親心”みたいなものである。
特に美琴の場合はその感情が人一倍強いのだろう。
ちなみに19090号がごく最近美容に興味を持ち、現在ではそれにすっかりハマっている事実を美琴は知らない。
そんな彼女に19090号の目的が見破れるはずはなかった。
「………あの、お姉様?」
「えっ?」
現実へ引き戻すような19090号の声が耳から脳へ浸透した。
顔を戻すと、19090号が怪訝な眼差しをこちらへ送っている。いつの間にかパフェも食べ終わっていたようだ。
「申し上げにくいのですが、ミサカはここの会計分を持ち合わせていません……」
本当に申し訳なさそうな口振りと仕草。このおかげで美琴の方が心を痛める始末である。
「あ、あぁ。気にしないで。ここは私が出すから。連れ込……誘ったのはコッチだしね!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:50:59.45 ID:8ghSJ8cR0<>
「ありがとうございます。ご馳走になります。とミサカはお辞儀します」
「や、やめてってば! コッチこそごめんね。目的あったのに邪魔しちゃって……」
「いいえ、おかげさまで美味しいスイーツを堪能できました。感謝するのはミサカの方です」
「うっ……」
何だか自分が凄く嫌なヤツに思えてくるような、眩しい笑顔だった。
謙虚な姿勢が実は美琴にとって一番有効だったりもする。
「時間、大丈夫なの?」
「はい。急がなければならないというわけではありませんから……。とミサカはドリンクメニューに目線を落としながら
何を注文しようか考えます」
「あ、私ももう一杯頼もっかな〜」
「では、ミサカはこれを」
「じゃあ私も! それ美味しいのよねー♪」
気づけば本当の姉妹みたいな仲へと移り変わっていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:53:35.09 ID:8ghSJ8cR0<>
笑み零れる美琴と19090号。そこには殺伐とした空気など存在しない。
そんなこんなであっという間に時間は過ぎ、放課後の楽しいひとときにも終息が訪れる。
別れ際。
「たまには妹とお茶するのも悪くないわね」
「ミサカの方こそ……。ところでお姉様。体の調子はどうですか? とミサカは心配そうに尋ねます」
「えっ? ……あぁ、もう大丈夫。すっかり本調子よ! あれから結構日にちも経ってるし」
「お姉様がご無事で帰ってきたのが、何よりも嬉しかったです。すでに10032号が伝えたとは思いますが、一応……」
「うん、聞いた……。アンタらにも心配かけちゃったね。ごめん」
「謝らないでください。お姉様は被害者です。元気でいてくれているのならそれが一番だと……。ミサカはそう思います」
「ありがと……。けどアンタたちも元気に育ってるみたいで、なんていうか……安心したわ」
「他のミサカにもお姉様がそう言っていたと伝えておきます。きっと喜びますよ。とミサカは微笑みます」
「うん、よろしく。……ねぇ、良かったらさ。またお茶とかご一緒しない? 今度は他の妹(こ)も連れてさ」
「え……? ですが、あまり複数のミサカが公共の場に姿を現してはお姉様に迷惑が……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 21:59:10.21 ID:8ghSJ8cR0<>
「なーんか、アンタの顔見てたらそんな建前どうでも良くなっちゃった♪ 駅前とか人が沢山いるトコは無理でも、こう
いう感じの店ぐらいなら問題ないでしょ」
「………ありがとう、ございます。とミサカは感激のあまり、上手く言葉が紡げません」
「どうせなら番外個体も呼んでみちゃう?」
「…………それは少し考えさせてください。とミサカは正直ちょっと遠慮したいと暗に告げます」
「あっはは♪ アンタ、あの子みたいなタイプ苦手そうよね? 私も最初喋った時はアッタマきたわ」
「彼女は、きっと天邪鬼なのでしょう……」
苦手な部分は否定しないまま、19090号は美琴に別れを告げて去っていった。
途中まで背中を見送った美琴だが、19090号がさっき話題に出した“胡散臭い健康グッズが売っている店”に真っ直ぐ駆け
込んで行くのを目撃した辺りで踵を返し、「見なかったことにしよう……」と呟いて帰路に着いた。
―――
姉妹の絆が僅かに深まった頃、とある男女グループが学校帰りの服装のまま焼き肉屋へと入店した。
ひとしきりゲームセンターやらカラオケやらで遊んだ後、夕食を済ますために飲食店を訪れる学生の団体はこれといって
珍しい光景でもない。
現に彼等も例と同じ、若者らしくゲームセンターで遊戯に浸ってからこの店へやって来た。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:03:36.53 ID:8ghSJ8cR0<>
奇抜な面々なのが幸いか災いか、すれ違う通行人から必ず一度は注目を受けた経歴があったが、その場面は割愛させてもらう。
それ以外は本当にどこにでもいる仲良しグループにしか見えないだろう。あくまで事情を知らない他者から見ればの話だが。
席に案内されて腰を下ろした際、堂々のトップで人の視線を集めていた本人が深いため息を零した。
「ハァ……。なンでこの俺が……。おかしいだろどォ考えてもよォ」
露骨に不機嫌な顔で愚痴るが、他の面子はどうやらここに来るまでに慣れてしまったらしい。特に反応する者は誰一人として
いなかった。
むしろ、誰も聞いていなかったように流れは変化しない。
「あー、腹減ったぜよ。肉だ肉♪」
土御門の暢気な声が癪に障るが、学園都市第一位はそれなりに場を弁えている。
ここは我慢だ。我慢。
(この野郎は相変わらず飄々としてやがるし……。っつか、完全に場違いだろ俺……)
ここまで気が滅入っていても、彼にはこの場から立ち去れない決定的な理由がある。
それは――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:10:26.68 ID:8ghSJ8cR0<>
「―――――おっ! この砂肝ってヤツ美味そう♪ ねえねえ、秋沙はホルモン系好き?」
「……好き。こりこりした食感が絶妙だと思う」
「栄養面も優れてるのよねぇ。内臓ってだけで毛嫌いしてる子も多いのが残念でならないわ」
楽しげにメニュー表を眺めながら会話する女子たちの中に在った。
食欲に目をキラキラと輝かせている番外個体の存在が、一方通行を留まらせているたった一つの元凶だ。
そうでなければ群れるのを好まない自分がノコノコとここまで同行するなど有り得ないだろう。天と地がひっくり
返ったとしても。
こういう浮かれた地に足を着けている気分ではないというのに、実に不快だ。
やはり自分にこの場所は合っていないのだろう、と強く認識させられる。時間が延びれば延びるほどに強く。
しかし、彼女の楽しそうな顔が袖を掴む。
この雰囲気をぶち壊すのを躊躇させてしまう。
入店する結構前の段階から流れに逆らう気が失せていた。
されど、素直に楽しもうというのはやはりどう割り切っても不可能のようだ。
「…………」
隣りにふと目をやる。
青い髪の関西弁を話す少年は温和な顔で談笑する女子群を眺めており、更に隣りの暗部で見慣れた金髪グラサンは
相変わらず学生モードでワケの分からない薀蓄を垂れ流している。そして自分の真横に座っている上条に至っては
金髪のアホ話を聞き流しつつもメニュー表の値段に頭を悩ませている。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:14:11.23 ID:8ghSJ8cR0<>
「―――――おっ! この砂肝ってヤツ美味そう♪ ねえねえ、秋沙はホルモン系好き?」
「……好き。こりこりした食感が絶妙だと思う」
「栄養面も優れてるのよねぇ。内臓ってだけで毛嫌いしてる子も多いのが残念でならないわ」
楽しげにメニュー表を眺めながら会話する女子たちの中に在った。
食欲に目をキラキラと輝かせている番外個体の存在が一方通行を留まらせている。
こういう浮かれた地に足を着けている気分ではないというのに、実に不快だ。
やはりこの場所は自分には似合わないのだろう、と否が応にも意識させられる。時間が延びれば延びる分、その
思いは強くなっていった。
しかし、彼女の楽しそうな顔が袖を掴む。
この雰囲気をぶち壊すのを躊躇させてしまう。
入店する結構前の段階から流れに逆らう気が失せていた。
されど、素直に楽しもうというのはやはりどう割り切っても不可能らしい。
「…………」
隣りにふと目をやる。
青い髪の関西弁を話す少年は温和な顔で談笑する女子群を眺めており、更に隣りの暗部で見慣れた金髪グラサンは
相変わらず学生モードでワケの分からない薀蓄を垂れ流している。そして自分の真横に座っている上条に至っては
金髪のアホ話を聞き流しつつもメニュー表の値段に頭を悩ませている。 <>
ごめんなさい、ミスったorz。>>740は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:18:12.30 ID:8ghSJ8cR0<>
何故にこんな連中と自分が同じ空間を共有しているのか。
自問自答しても無駄な行為に過ぎなかった。もはや観念するしかないのだろう。暗に誰かがそう告げているような
気がした。
もう何も考えず、腹にモノを詰め込む行為に没頭しよう。
そう決めてメニューに目を通し始めたところで正面から声が掛けられる。
「ねえ、きさ……じゃなくて貴方。失礼なこと訊くけど、普段どういう生活してるの?」
「あァ?」
上条と土御門の会話がピタリと止む。
一方通行に向かって貴様呼ばわりしかけた吹寄の命運に全神経が傾いてしまい、雑談どころではなくなった。
「貴方の体つき……不健康なんてものじゃないわね。一体どんな食生活してるのかしら? 病弱ってわけじゃない
みたいだし」
一方通行を観察しながら問診を続ける吹寄制理。さっきまでの委員長みたいな風格は一変し、目の前の特異体質の
健康状態を気に止める看護士のような目線を送っていた。
そこに冷やかしや嘲弄は込められていないとは言え、いちいち干渉されるのは不快に違いない。
眼光でそれを示してやるが……。
「肌の色素や瞳の変色は専門外だから置いておくとしても、うーん……、やっぱり線の細さが異常ね。日々の生活
リズムを見直す必要がありそう」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:21:49.84 ID:8ghSJ8cR0<>
一方通行の全身の隅から隅までを分析するように語り始めた吹寄に対し、かつてない居心地の悪さを覚えた。
実験体として扱われる事に慣れすぎている分、余計に。
「将来は栄養士でも目指してンのか? それともからかってやがンのか、オマエ」
もちろん吹寄に悪意はない。というより、悪癖が発動したようなものだ。
あきらかに不健全そうな一方通行の外見が初見から気になってきて、ついに看過できない領域まで達してしまった
だけだった。
が、露骨に顔を強張らせる一方通行の心境を察し、慌てて我に帰る。
「あ……気分を害したのならごめんなさい。不健康そうな人を見てると何だかほっとけなくて……」
「やっぱからかってンだな? コラ」
「だ、だから違うってば! もし改善できる余地があれば今からでも遅くないと思っただけよ。こう見えてもソッチ
(通販の健康グッズ)方面なら多少目が利くのよ。だから色々とアドバイスできるかなって……。ごめんなさい。言葉を
間違えたわ……」
「………悪気がねェのは分かったから落ち着け。大体、今更そンなモンに頼ったところでどォにもならねェよ。こりゃ
体質っつーか、生まれつきみてェなモンだ」
「そ、そう……? なら、なおさら余計なお世話だったかしら……」
「まァ、気持ちだけはありがたく受け取っておくがな……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:25:49.01 ID:8ghSJ8cR0<>
失言だったが、もう過ぎた事だ。
これ以上咎める必要もなかったので、反省を顔に表している吹寄に寛大な心を見せた。
すると、何故だか番外個体が不機嫌になる。
「あなたが不健全な生活してんのは事実でしょ? おすすめの通販サイトでも教えてもらえばいいじゃん」
「あァン!? オマエも人のこと言えねェだろが! っつか、何でそこでオマエが絡ンでくンだよ!?」
「ミサカの友達に失礼な態度取るからだよ! 言わなきゃわかんないの? やっぱ生活習慣見直したら?」
「なァァにィ……ッ!」
「お?」
額がくっつきそうな距離まで身を乗り出し、睨み合う両者。
誰がこの修羅場を止めるのか。瞬速で行われたアイコンタクトの結果、めでたく上条当麻が抜擢された。
本人以外の満場一致で。
「あ、あー……。お二人さん。喧嘩はよろしくありませんよー? ほら、スマイルスマイル。わたくしの真似して
笑ってごらん。あはは」
この発言から三秒後。
憐れにも仲介に入った上条の身体は綺麗すぎるほど水平にかっ飛び、ノーバウンドで頭からインテリアの屏風へと
突き刺さっていった。
誰の仕業かは言うまでもない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:30:52.74 ID:8ghSJ8cR0<>
そんな一悶着もあったりしたが、以降は普通の仲良し同士が集まる宴会ムードとさして変わりなかった。
一方通行と番外個体も一応は仲直り(?)したらしく、店内の器物破損でしぼられたばかり(得意の平謝りで何とか
許してもらえた)の上条と土御門はホッと胸を撫で下ろす。
一部では肉をめぐって戦争も勃発したが、一同が充分に焼き肉を堪能した頃に一方通行がふと立ち上がった。
その際、上条にしか分からないように目配せする。
「…………!」
合図を受け取った上条は無言で頷いた。
無論、他者には悟られないように。
一方通行がお手洗いに立ったと皆は思い込む。番外個体でさえも。
やがてしばらく経ち、上条も立ち上がる。
「悪い。ちょっと手洗いに行ってくる」
上条は一応告げてから席を立った。
座敷から離れ、靴を履いた彼が向かう先は勿論手洗い場ではない。
外に見えた白い影の元へ、上条は若干の緊張を漂わせながら歩を進めた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:34:27.33 ID:8ghSJ8cR0<>
そして遂に―――――。
――――――彼等は正面から向かい合った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:36:31.25 ID:8ghSJ8cR0<>
そして遂に―――――。
――――――彼等は正面から向かい合った。 <>
あれ? またミス…? 本当ごめんなさい ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:41:00.86 ID:8ghSJ8cR0<>
こうして顔を合わせるのは、あの事件以来だったか……。
いずれにせよ、一方通行が上条と二人になれる機会を望んだのは間違いない。
上条もこれに異存はなかった。こちらも聞きたい事があったから、むしろ好都合だ。
店を出てすぐ先にある巨大な歩道橋の上。
かつて幾度か衝突し、強大な敵を相手に大暴れした最強と最弱は再び巡り会った。これは偶然なのか、それとも
予め運命によって決められていたのか……。一方通行にも上条にも分からないことだった。
杖を地面につけたまま、夜景の光に白髪を照らされた最強が最初に沈黙を破る。
「―――――よォ、まさかこンな形でまた会うハメになるとはなァ……」
「―――――あぁ……、正直俺も驚いてるよ。まぁさっきも言ったけど、久しぶりだな。元気にしてるみたいで
良かったよ」
下を走る車の音が少しうるさかったが、確かに互いの言葉は伝わっていた。
予想外のアクシデントでも、こうやって彼と再会できたのは果たして運が良かったのか悪かったのか。一方通行
は分からなくなっていた。
今の自分達の境遇を彼に話すか?
話したところでどうなる?
彼にまた助けを求めるというのか? <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:50:40.30 ID:8ghSJ8cR0<>
冗談ではない。
ふざけているにも程がある。
そこまで彼に委託するくらいなら、いっそ殺されてしまった方がまだ清々しい。
だが、学校へ通い始めた番外個体と同じ学校で同じクラス。
この条件だけでも上条が感づいてしまうのは時間の問題かもしれない。厄介事に巻き込まれる実績に
定評がありすぎる彼なら……。たまたま番外個体と一緒に居る時に襲撃されるのがオチのようにさえ
思えてきた。
それに、ある程度の事情を予め彼に伝えておけば、番外個体の学校生活が少しは安全に近づくのでは
ないか?
だとしたら、一体どの程度話せばいい?
どこまで教えれば、彼が出張らないよう仕向けられる?
番外個体(達)と合流してから、一方通行の頭はこの葛藤で埋め尽くされていた。
今ここに上条とサシで相対しているのは、その答えが決まった事を意味している。
「打ち止めも元気にしてるか?」
「あァ、うるさくてクチをテープで塞いでやりたいくらいだ……。オマエの方は変わりなさそォだな」
「はは、まあな……。つっても、今日でだいぶ変わったけど。“転入生”辺りから……」
「“その事”についてなンだがよォ……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 22:56:48.17 ID:8ghSJ8cR0<>
再会の挨拶も程々に済ませ、本題を切り出す。
「まァ、知ってるとは思うが……。あいつは今までの『妹達』とは根本的に違う存在だ。オマエが『妹』だとか
呼ンでたヤツ以上にひでェ目的で作られた。……オマエはあいつからどこまで聞いてる?」
「“作られた目的”ってのは聞いてないな……。けど、それ以外なら大体は知ってる。御坂関連で、前にも一度
会ったことがあるからな」
「そォか。それじゃあ、イチから説明してやる必要はねェな……」
ニヤリと口の端を上げる。
番外個体と同じクラスになってしまった以上、これからは彼も全くの無関係者ではなくなる。
幸なのか、あるいは不幸なのか。
一方通行なら、おそらくは後者を選択するだろう。
「俺もあいつも今は厄介な連中に目を付けられちまってる……。俺がいない間、つまり学校にいる間だけあいつを
――――――番外個体をオマエに頼みたい」
「―――! え……?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:04:34.79 ID:8ghSJ8cR0<>
唐突に頭を下げられ、上条は戸惑う。
そしてこの頼みが何を意味しているのか、理解できずにいた。
一方通行が上条に対し、ここまで低身になったのは二度目だ。
一度目は、木原数多によって閉じ込められた牢獄で彼に救いを求めた時。
彼は今、どんな思いで格下であるはずの上条に頭を下げているのだろう。
少なくとも、断腸とはまたどこか違うような雰囲気を目の前の悪魔は匂わせている。
彼の姿勢には一切の迷いが感じられなかったからだ。
「……どういう事なんだ?」
上条は静かに問う。
これを聞き入れた一方通行は僅かに眉を顰める
ヤマが当たったものの、やはり皮肉を感じずにはいられない。
予想通りだった。わかっていた。
中途半端に真実を濁せば、上条のことだ。こんな風に全貌を求めて足を踏み入れようとするであろう。
ここは慎重に言葉を選ばなければならない場面だ。
下からの目線に不慣れな分、尚更に。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:12:00.03 ID:8ghSJ8cR0<>
「ちっと訳ありでな。……だがオマエが心配するほどの問題じゃねェ。俺だけで事足りるレベルだが、番外個体
が学校にいる間ばっかりは流石に目が届かねェ……。そこで、俺の代わりにあいつの面倒を見てやって欲しい。
こいつはオマエにしか頼めねェンだ」
「………狙ってるヤツってのは誰なんだ? 前の事件が関係してるのか?」
「そこまではわからねェ……。俺ひとりならどォにでもなる相手には違いねェが、オマエも知ってる通り、俺は
今あいつと一緒に住ンでいる。一応、俺はあいつの保護者代わりみてェなモンだ」
「……打ち止めは?」
「頻繁に会っちゃいるが、今は一緒に住ンでるワケじゃねェ」
「そうか……。ようやくわかったよ。お前はあのとき――――――」
木原のアジトで交わした言葉の内容が頭を去来し、ピースがはまっていく。記憶の隅に置かれていた謎が解けて
いくような感覚を味わう。
一方通行が肉体をボロボロにしてまで護りたかったものの実体が、ここに来てようやく掴めたような気がした。
少なくとも彼が番外個体を何よりも大事に想っていることだけは、理解できた。
だが上条の言葉が紡がれるのを制すように、少々強引ながらも一方通行は話を戻す。
「どォ受け取ろォがオマエの勝手だが、論点をずらしてる余裕はねェンだよ。イエスかノーなのか、今俺が知りたい
のはそれだけだ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:15:42.13 ID:8ghSJ8cR0<>
そう言って、一方通行は携帯電話を取り出した。
つられて上条もポケットから弄り出し、二人は三歩接近して互いの連絡先を交換する。
これで、ようやく彼らは確かな接点を繋げた。終わってみれば案外呆気ないものだ。
新規登録されたメモリを眺めつつ、上条は不思議な感覚にとらわれる。
(………なんつーか、学園都市でも数少ない超能力者の番号を二人も控えてるって……、改めて考えるとすごいな)
今後、日常の不幸で携帯電話を失くしたり壊したりしたらと想像するとゾッとしなかった。
「………用件は以上だ。時間取らせて悪かったな。他の連中に怪しまれないうちにさっさと戻るぞ」
素っ気無い口調で促した一方通行。しかし、店の方角からこちらへとやって来る人物を視界に収めた瞬間、二人の
足は止まった。
立ち止まったのとほぼ同時に陽気な声が飛ぶ。
「――――――よーう、二人して何をコソコソ内緒話してんのかにゃー?」 <>
ミス多いな……しっかりしろよ俺。>>752は無しでお願いします… ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:20:05.57 ID:8ghSJ8cR0<>
「頼むって言われても……具体的に何をしたらいいんだよ?」
「基本は普通に接してりゃいい。だが、もし怪しい人物が番外個体に接触してきたら……、すぐ俺に知らせろ。少し
でも不穏な空気を感じたら、できるだけ早い段階で俺に連絡するのが最良だ。それを頭に留めておけ」
そう言って、一方通行は携帯電話を取り出した。
つられて上条もポケットから弄り出し、二人は三歩接近して互いの連絡先を交換する。
これで、ようやく彼らは確かな接点を繋げた。終わってみれば案外呆気ないものだ。
新規登録されたメモリを眺めつつ、上条は不思議な感覚にとらわれる。
(………なんつーか、学園都市でも数少ない超能力者の番号を二人も控えてるって……、改めて考えるとすごいな)
今後、日常の不幸で携帯電話を失くしたり壊したりしたらと想像するとゾッとしなかった。
「………用件は以上だ。時間取らせて悪かったな。他の連中に怪しまれないうちにさっさと戻るぞ」
素っ気無い口調で促した一方通行。しかし、店の方角からこちらへとやって来る人物を視界に収めた瞬間、二人の
足は止まった。
立ち止まったのとほぼ同時に陽気な声が飛ぶ。
「―――――よーう、二人してなにをコソコソ内緒話してんのかにゃー?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:24:15.54 ID:8ghSJ8cR0<> 量多めとか言いましたが、投下してみると全然そんなことなかったです……申し訳ない
あと、今回はいつも以上に見苦しい文となってしまった事、お詫び致します
大して良い区切りでもないですが、今回はここまでです
では次回の一部をどうぞ <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:29:30.02 ID:8ghSJ8cR0<>
???「連れションなら誘ってくれよ。水臭いヤツらだにゃー」
―――――――――
一方通行「………何の冗談だ? 場合によっちゃあ、その首を薄汚ねェツラごと地面に叩き落とすぞ」
―――――――――
上条「え……何? 二人とも、知り合いなの?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/06/27(月) 23:32:17.49 ID:8ghSJ8cR0<> 以上です
皆様も熱中症にはお気をつけて
ではまた次回 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/06/27(月) 23:55:12.87 ID:Jf3f6BjNo<> おつー
次回も期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/28(火) 00:28:39.89 ID:xd8wnZUQ0<> 乙です
やべぇ俺得展開でにやにやが・・・
とりあえず続き待ってるわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/28(火) 21:21:58.38 ID:+6rspxISO<> 一方さんが低姿勢とか……ねぇわ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本)<>sage<>2011/06/29(水) 00:44:49.74 ID:w//mOKyk0<> 一方さんは妹達のためなら頭ぐらい迷わず下げるだろ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/29(水) 23:29:40.48 ID:rkdNrUe80<> 乙!
これ原作でも実現したらいいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/30(木) 01:07:47.36 ID:pqNppRiA0<> >>759
一方さんはロシア編ですでにプライド捨ててるぞ
一方通行というキャラクターをよく理解した上で言えよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/06/30(木) 02:49:37.79 ID:TltsmLS9o<> 守るべき人のために頭を下げられるなんて立派になったな一方さん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/01(金) 20:47:09.71 ID:1/BBLRfy0<> まあ、守るのを頼んでも心配で学校を見に行くんだろうな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/01(金) 21:33:59.26 ID:xS1V/cpSO<> オデコと一方さんのカップリングも悪くないなww
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:18:40.12 ID:AL7aSOPE0<> 毎度お待たせしてサーセン
今からまたちょい続き投下します <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:20:35.11 ID:AL7aSOPE0<>
―――
「よーう、こんなトコで二人して何をコソコソ内緒話してんのかにゃー? 俺も混ぜてくんない?」
「土御門……!」
上条が驚きの声を漏らし、一方通行の目つきが一層鋭さを増す。
颯爽と登場した土御門が歩くスピードを緩めずに合流する事で、初めての組み合わせが誕生した。
「連れションなら誘ってくれよ。水臭いヤツらだにゃー」
腹立たしさがマックスに達するには充分すぎるニヤケ面。
しかし、ここまで冷静に事を運んできた一方通行だ。簡単に激情するような展開にはならない。
その代わりに、肉食獣すら慄くほどの殺気を放った。
「………………」
(クソったれ……、最悪のタイミングで登場してくれやがって……! どこまで俺の予定を狂わせりゃ気が済むンだ
このクソボケ野郎が……! ちっ、上条の前で迂闊にこいつと接触するのはやっぱ拙いな……。土御門もその辺は
弁えてるはず……。けど、だったら何故この場にのこのこと現れる!? 本当にどこまでも底が読めねェ……)
上条の前で土御門と対話していいものか躊躇する。 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:21:55.38 ID:AL7aSOPE0<>
ところが、そんな一方通行の心境を見破ったのか、何と土御門の方から気さくに仕掛けてきた。
「よう、一方通行。久しぶりだってのに随分ツレない態度じゃん? ……っと、仏頂面なのは前からだったか」
「!!」
あまりにもごく自然に接してきた。上条の存在などまるでお構いなしに。
(こ……、この馬鹿! なに堂々と……ッ!)
この元同僚が何を考えているのか、もはや永遠に理解できる気がしなかった。
胆を冷やしている一方通行と土御門を交互に見遣る上条は、唖然としながら尋ねる。
「え……何? 二人とも、知り合いなの?」
以前に土御門から一方通行の情報を聞いた機会はあったが、顔見知り同士だとまでは知らされていなかった上条。
当たり前のように尋ねたら、土御門は何の迷いもなく明る気に応えた。
「そーそー、俺達はマブダチだにゃー♪ 幾度とない死線をくぐった仲なんだぜい。な? 一方通行」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:23:11.49 ID:AL7aSOPE0<>
「マジで!? ………そりゃ初耳ですよ」
(――――――土御門ォォおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!)
三者の温度差は面白いほどにバラバラであった。
「………………おい」
荒ぶる気持ちを抑え、一方通行は海の底から響いてきそうな声を出した。
矛先は当然ひとりしかいない。
「何しに出てきやがった? コッチはオマエと話す事なンかねェぞ。つーか、そろそろ戻るつもりだったからなァ」
上条の手前、穏便に終わらせようと努めている様が完全に裏目に出ているようだ。どす黒いオーラが全身から迸って
いるせいで逆に恐怖を演出していた。
「あいつらか? それなら心配はいらない。手は打ってきたからにゃー♪ 時間はたっぷりあるぜよ」
「“手は打って”って……?」 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:25:23.02 ID:AL7aSOPE0<>
「座敷の個室タイプが有効に生きたな。少々眠らせたぐらいじゃ、店員にも見つかったりしないだろう」
上条の何気ない疑問に対し、とんでもない答えがさらっと返ってきた。
「お、おい土御門!? お前何を……」
「こンの野郎……ッ!!」
上条は展開についていくのがやっとのようだ。
中で待っている友人を、こうして密談するだけの目的で―――――。そう、これが彼のやり方だ。
多少は手荒になっても、効率性を優先させる土御門元春の。
その中には無論、番外個体も入っている。この事実だけで怒りのボルテージは上昇する。
「………何の冗談だ? 場合によっちゃあ、その首を薄汚ねェツラごと地面に叩き落とすぞ」
声こそ低いが、それが余計に恐ろしい。
もはや元同僚に向けるような眼ではなかった。元々この男への印象は良好ではなかったどころか、むしろ警戒すら
していたのだ。
暗部組織から除名されている今、土御門がどんな行動に出るか的を絞るのは一方通行でも困難なことだ。
最悪、敵の位置に立たれる可能性さえ起こり得るだろう。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:26:27.40 ID:AL7aSOPE0<>
当の本人はのほほんとしたままなのがまた不気味だった。
彼なら一方通行サイドの状況を既知していてもおかしくはない。様々な顔を持つこの男の情報収集力は一方通行から
しても相当の脅威である。
敵か、それとも味方か……。判断するにはまだ早かった。
「ま、冗談はこのぐらいにしておくか。お前の不手際を修正する時間も惜しくなるしな」
急に表情を変えたかと思った途端にそう告がれた。
ビルの明かりでサングラスは照らされて目線は探れないが、間違いなく彼の目は一方通行を捉えているのが確認できる。
「修正だァ? ………いきなり何を寝ぼけた発言してやがる?」
「呆けてんのはお前の方だ。まったく……カミやんもカミやんだぜーい? あんな説明だけで、本当に全部納得でき
たのか?」
やれやれ、と肩をすくめた土御門に上条は戸惑う。確かに一部始終を聞かされたわけではないが、一方通行からあれ
以上語られる事はおそらく無いだろうと諦めに近い結論を下していた。
一方通行の顔面が歪む。
その意味は紛れも無い驚愕と怒り。
土御門がこれから何を喋ろうとしているのか、本能で感じ取ってしまった。
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:28:35.49 ID:AL7aSOPE0<>
「――――おい!! 土御門ォ!!」
ガラスが割れそうな勢いで放たれた喝。
それでも対象は冷笑し、熱のない声で問い詰めてくる。
「なんだ? 今、何が起こっているのかを親友にも教えてやろうとしただけなのに……随分と躍起になっているな?
まさか肝心な部分は伏せて、都合良く活用させてもらおうとか思ってるんなら、いつものお前らしくてまだ理解でき
なくも無いが……、俺を見縊るな。お前の安くて甘っちょろい思想は、残念だがお見通しだ」
「黙れ! ……余計な事を口走る前にここから消え失せろ。……さもなきゃ、本当にブチ殺すぞ!!」
「………??? お、おい……。なんか良くわかんねーけど二人ともやめろって! ってか土御門? お前、まさか……」
「ああ、大体の事情は知ってる。……なぁ一方通行。こいつはカミやんにも知っていてもらった方がいい。お前の境遇
を考慮した上で、俺はそれが賢明だと思う」
「黙れっつってンだろォォ!! オマエには関係ねェだろォが!! 無闇に他人の――――――」
「――――悪いが、そうも言ってられないんだ。詮索するなと豪語できる段階なんざ、とっくに超えちまってるんだからな」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:29:55.72 ID:AL7aSOPE0<>
叫びが感情の籠もっていない機械みたいな声で遮られた。一方通行の喚きに近い抗弁が、一瞬で詰まらされた。
その理由は、土御門の冷ややかな言葉だけではない。セリフと並行して行われた挙動のせいでもあった。
チャキ……。金属の擦れたような音が微かに聞こえた。
一方通行は、この音の正体を知っていた。
そう、これは―――――。
「!!???」
撃鉄が起こされ、コッキング(射撃体勢)状態になった拳銃が鳴らす独特の―――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:31:07.78 ID:AL7aSOPE0<>
「………おい、念のために訊くが………正気の沙汰なンだろォな?」
銃口が一方通行を真っ直ぐ見つめていた。
無表情で狙いを固定させている土御門。今にも引き金を弾き、一方通行の心臓を貫いてしまいそうな雰囲気。
只事ではない展開に、上条も言葉を詰まらせる。
「つ……ちみかど……? お前、何を………」
完全に置いてけぼりの上条をスルーし、一方通行は銃口を向けたまま静止している土御門に正面から向き合った。
まずは、この男の意図を解明してみよう。その後どうするかは、まだ保留にしておく。
もっとも、流れ次第では―――――――。
「そいつで俺を撃ち抜けると思ってンのか? または脅しか、警告の意思表示か? まァ、どっちでもいいが……
言い分ぐれェは聞いておこォか」
こちらも邪悪な笑みを浮かべて余裕の心境を見せつける。今この元同僚に隙を見せるのは、非常に危険だ。
今の土御門は上条の級友として振舞っている時の彼ではない。お得意の憎たらしい暗喩を使って話をはぐらかせる、
ペテンまがいな言動を発する気配も窺えない。
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:33:05.07 ID:AL7aSOPE0<>
上条から見た限り、対魔術師と共闘している時の彼とも雰囲気が違っているように感じた。
それよりも、もっと刃物みたいに鋭くて氷を思わせるほどに冷徹な……。
上条当麻の知っている土御門元春は、そこにはもう居なかった。
それもそのはず。土御門が上条に『暗部』の顔を見せるのは、これが初めてなのだ。
威圧感。
非情。
一切の隙を与えない物腰。
見たことのない親友の姿に、上条は呼吸さえも忘れそうになる。
まるで、一方通行が放っている不気味で独特な空気と同種。
硬直している上条など、もはや居ない者と捉えたような前提で二人は睨み合っている。
というより、上条に神経を傾けている状況ではないのだろう。両方にとっては。
銃を片手で構え、一方通行への照準をずらさない土御門。
土御門の人差し指次第であの世へ直行しかねないにも関わらず、平然と佇む一方通行。電極のスイッチは通常モード
のままだ。能力での対応は封じられているに等しい。
スイッチを切り替えるのと銃弾を受けるのとではどちらが先かなど、考えるまでもなく判る。
今、頼りにできるのは『言葉』だけだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:36:01.42 ID:AL7aSOPE0<>
この後の言葉の交わし合いのみが運命を左右する。
一方通行からは既に投げた。あとは土御門からの返事を待つしかない。
しばしの沈黙後、微笑を浮かべてすぐに土御門は声を発した。
「勘違いするなよ? 俺は“アッチ側の駒”として動いているわけではない。……中立の立場、つまり第三者側の
立場で考えたら―――――――こうするのが一番手っ取り早い、最善の策だと踏んでいるだけさ」
「…………」
「ここまで教えれば、お前にも理解できるだろう?」
「………………“俺ひとりが犠牲になれば全て丸く収められる”、か……。確かにそォだよなァ。オマエの選択は
何も間違っちゃいねェよ。あァ正論だ。少なくともそれで街が荒れ果てちまうよォな未来だけは回避できるだろォ
からな。……クク」
薄く、笑う。
「下手をすれば学園都市の暗部勢力が総動員で動く事態すら起こり得る。………お前は今やそこまでの脅威として
伸し上がっている。そうすればいずれどうなるか………。想像力に乏しくないお前なら、もう見えているはずだ」
「ククッ、あァ。まァ当然っちゃ当然だわな。現時点で残っている“学園都市の裏住民全員”が、俺の首欲しさに
群がってくるってワケだ」
「………もしそうなってしまったら、『第三次世界大戦』以上の打撃は免れないだろうな。全てが手遅れになって
しまう前に、ここで元凶を絶っておく必要がある」 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/06(水) 21:39:36.98 ID:AL7aSOPE0<>
「だから俺を今ここで殺す、ってか?」
「そういうことだ。流石に頭の回転が速いお前相手だと説明が楽で助かる。なあに、今のうちに楽になった方が遥かに
マシなはずさ。俺にとっても、お前にとっても……」
月夜に輝くサングラス。
妖しい光の奥に宿る土御門の瞳は、学園都市の未来を真剣に見据えていた。
土御門の突発的な行動の意味はわかった。
だが、一方通行は依然として狂ったような笑みを浮かべている。
死を受け入れるような笑みとは全く別の―――――。
と、そこへ。
「――――――おい、さっきから何言ってんだよ。テメェ……」
ずっと無言を貫いていた上条が横ヤリを入れ始める。
表情は険しく、土御門を睨む黒い瞳は薄っすらと怒気が表れていた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:42:21.26 ID:AL7aSOPE0<>
「……………」
何も答えず、銃口を一方通行へ構えたまま佇んでいる土御門。
両者の間に上条がゆっくりと割り込んだ。
「……ッ!」
「カミやん……、そこを退け」
一方通行が叫ぶ前に、土御門の静かな警告が響いた。
しかし上条はそこから動こうとせず、一方通行に背を向ける形で立ち塞がる。
「……その銃をしまえよ。土御門」
反発の意味を込めた警告のお返し。
「カミやん。お前にはまだ詳しい事情を説明していないが、こいつが只事じゃないってのは何となく解ってるんだろう?」
「ああ、本当に何となくだけどな……。けど、それが何だってんだ? ふざけてるにも程があんだろ……。こいつが死な
なきゃならない理由なんて、どこにもねえじゃねえか! こんなの……絶対間違ってる」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:45:08.24 ID:AL7aSOPE0<>
「いや、これが正しい末路だ。それに理由ならあるぜい。そいつが今ここで死ねば、余計な被害者がこれ以上増えなくて済む」
「それが納得できねえんだよ!! 何だよそれ!! 何なんだよ!? まるでこいつが厄災みたいな言い方しやがって……!
どいつもこいつも、テメェらの私利で物を計ってんじゃねえよ!! 他人の命だからってどうでもいいような決断かまして、
何が余計な被害だ!! そんなモン、俺が認めると思ってんのか!? 許すとでも思ってんのかよ!! 土御門!!」
一気に声を荒げ、捲くし立てる上条。
だが、所詮はただの感情論。そんな事で精神を左右される土御門ではない。
土御門は反論する意思もないのか、ただ冷徹にこう告げるだけだった。
「………もう一度だけ言うぞ? そこを退くんだ」
「いやだね。撃てるもんなら……、撃ってみろよ」
双方譲らず。以降、膠着した状態が続く。
会話の内容が突拍子すぎて、殆ど話しについていけなかった上条。だが、それでも理解できている事があった。
“土御門は学園都市の調律維持のために一方通行を犠牲にするつもりらしい”。
上条はこの手段に賛成できなかった。
誰かが犠牲になって得られる平和など何の意味も成さない。この考え方は今もずっと変わっていない。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:46:51.17 ID:AL7aSOPE0<>
目の前で聞いてしまった以上、黙って静観などできない上条の性格を土御門は知っているはずだ。
にも関わらず、こうなる事を予測していなかったというのか?
この謎は、一方通行の行動によって解き明かされる。
「―――――邪魔だ」
「―――――ッッ!!!?」
背中に電流が走ったような衝撃を受けた上条。
一方通行の手が、上条の肩にポンと置かれた瞬間の出来事だった。
「……ぎ………ッ!!」
全身の糸が切れたみたいに地面へ崩れた上条は、身じろぎ一つできなくなっていた。
何が起こったのか分からないといった表情で一方通行を見上げる。
しかし、起き上がれない。
それどころか、右手以外の各部位が機能停止でもしているのか全く動かせなかった。
「お…………ぐ………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:48:31.29 ID:AL7aSOPE0<>
この現象から推察するに、一方通行は上条の生体電流を能力によって操作したのだろう。
右手の感覚だけ残っているのがその証拠である。だが、右手首より先の神経が働いていただけではどうしようもない。
ただ虚しく指を乱立させるしかなかった。
本当に右手以外の全神経が麻痺状態にさせられたのか、声を発する事さえ叶わなかった。
「ったく……、何でもかンでもでしゃばりゃ良いってモンじゃねェだろォがよ。……いいからオマエは引っ込ンでやがれ」
一方通行からしてみれば、まさに御株を奪われた気分だ。
彼には確かに恩のようなものを感じてはいるが、それとこれとはまるで別の話。心底余計な真似である。
「守られる立場は流石に御免か……。予想していた通り、そこまで腐っちゃいなかったようだな」
「まァな。そンな役に回されるくらいなら、オマエにこの場で撃ち殺された方がよっぽどマシだ」
不敵に囁く土御門。これも彼のシナリオだった。
一方通行も全てを見透かした目で土御門を捉え、口元を歪める。
「さて、じゃあ改めて……、覚悟は出来たな?」
「あァ、いつでも来いよ。防壁(能力)は解除してある。文字通り丸腰だ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:49:59.51 ID:AL7aSOPE0<>
両手を広げ、悪人の笑顔で挑発する一方通行。
土御門も再び狙いを定めた。後は指を弾くだけだ。
「……め………ろ」
右手首を上げて声にならない声を絞り出す上条だったが、もはや二人の眼中に入っていない。
現に何の阻害にもなっていなかったからだ。
そして、その時は余も無く訪れた。
「――――― 殺れ」
促した直後、土御門はニッと微笑んでから引き金を―――――――――弾いた。
「――――――!!!!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:50:55.32 ID:AL7aSOPE0<>
……………………。
…………………………………。
……………………………………………………。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:52:39.74 ID:AL7aSOPE0<>
長い静寂。
辺り一帯に響く。といったほどではないが、確かに発砲音は聞こえた。
銃口から煙も噴き上がった。
だが、
「……………」
一方通行の胸に、あるはずの風穴が空いていなかった。
それどころか血の一滴すらも垂らしていない。
全くの無傷。そして、一方通行のまた無表情のままだった。
対する土御門も、悪戯好きの子供みたいな薄ら笑いを浮かべている。
上条は、またしてもこの状況に置いてけぼりを喰らう。
何が起きているのか分からない。そんな中、土御門がネタばらしでもするかのような調子で喋った。
「――――――と、まぁ……俺がどっちにも肩付かずの立場だったとしたら、間違いなくこうしてただろうな」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:54:04.97 ID:AL7aSOPE0<>
「チッ……、ふざけた小芝居が好きな野郎だ。いい加減ウンザリしてきたぜ」
ポリポリと頭を掻き乱し、冷めた視線を送る一方通行。
そして、彼の目が映す先には上条が良く知っている悪ノリの大好きな土御門がいた。
「あー、カミやん? 聞こえてるかは知らんが、こいつは空砲♪ ………ん〜? 無反応だな。おい、一方通行。
まさか思考回路まで断ち切っちゃった?」
「アホが。イジったのは運動神経だけだ。思考は正常のままに決まってンだろォ。ただ単に、オマエのくだらねェ
サル芝居にまンまと乗せられただけなンじゃねェのか?」
どうやら一方通行の見解が正解のようだ。
段々と状況が理解できてきた上条の顔が、複雑な感情で引き攣っていく。
「あー……もしかしたらカミやんも見抜いてると思ったんだがなぁ」
「そりゃねェだろ。こンだけ真っ直ぐに生きてるヤツに限って……」
「いや、カミやんは俺が予め“嘘付き”だって教えてあるはずなんだが……」
「わかっていよォが何度も騙されるから“善人”っつーンだ。捻じ曲がった生き方を知らねェこいつに見抜けるワケ
ねェだろォーがよォ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 21:56:44.35 ID:AL7aSOPE0<>
やれやれ、と肩をすくめる一方通行と頬を人差し指で軽く掻いている土御門を視界に収めている内に、純粋な怒りが
上条を支配した。
( テ メ ェ らぁぁぁぁ…………ッッ!!)
「とりあえず、元に戻してやったらどうだ? 人通りがいくら少ないと言っても、ずっと地面に這い蹲らせたままは
キツイだろ。絵的にも」
「果てしなく危険な匂いがすンだがなァ……ま、いつまでもこのままってワケにいかねェし、仕方ねェな」
麻痺拘束から解放された瞬間、上条は右手の拳を堅く堅く握り締め、狼の如く二人に飛び掛かった。
相手が親友だろうが学園都市最強だろうが、そんな事はどうでも良くなっていた。
そして彼にしては珍しく、一発ぶん殴っただけでは気が晴れなかったようだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 22:00:48.95 ID:AL7aSOPE0<> ここまでです
次回で一応は一区切りつきます
なるべく一週間以内には来れるようにしたい…
では次回の一部 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 22:05:32.78 ID:AL7aSOPE0<>
一方通行「あァ……? 久々に顔見せたと思ったら、いきなり何ぬかしてやがる?」
??「何って……。貴方が余計な事をしてくれたおかげで、自分の生活設計に大きな狂いが生じたと言っているんです」
―――――――
吹寄「まったく! 男って皆そうなのよね! 女はただ帰りを待つだけの生き物だって履き違えやがって! 聞いてんの!?
上条当麻ぁ!!」
上条「き、聞いてまふ! 聞いてまふから額擦り付けないで!! 摩擦でヒリヒリするぅぅう!! ……ってか何で俺???」
青髪「ぐへへへ、足三本かいな。どう攻めたら………むにゅ」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/06(水) 22:06:30.38 ID:AL7aSOPE0<> 以上です
ではまた次回 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/06(水) 22:47:44.57 ID:AHsiWqnwo<> さすがに今回は助長が過ぎたかなぁ…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/06(水) 23:02:31.09 ID:1DxljRdSO<> 土御門が敵だったら面白いんだがな…
まぁまだ中途段階っぽいし四の五の言わずに拝見しよう <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/07(木) 00:53:21.29 ID:0fIEr1Q0o<> >青髪「ぐへへへ、足三本かいな。どう攻めたら………むにゅ」
なにこれこわい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/07(木) 00:55:51.08 ID:BcczWq2K0<> 乙!!
青ピに何があったwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/08(金) 01:02:46.81 ID:5eyArqLy0<> 上条さん立場無さ杉ワロタ <>
◆jPpg5.obl6<>sage<>2011/07/09(土) 22:12:01.55 ID:YN04+dKh0<> >>790 >>791
ご期待に添えない展開でごめんなさい
では続き
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/09(土) 22:13:46.35 ID:YN04+dKh0<>
歩道橋上での一悶着後。
「―――――まったく……。いくら心の広い上条さんでも、悪ふざけが過ぎるのは感心しませんのことよ」
「いやぁ、すまんすまん。ははは」
「全面的にこの馬鹿の責任じゃねェか。何で俺までとばっちり受けなきゃならねェンだっつの………」
「見破った上で乗ったヤツが今更何を言うんだ?」
「確証は得てなかったがなァ……。まァここぞって時の勘は外れた試しがねェから、俺としちゃあ大した難題
でもねェよ」
「じゃあもし俺が本気でお前の殺害を企てていたとしたら、どうするつもりだったんだ?」
「ケッ、そン時はそン時だ」
殺伐としたムードはすっかり消え去り、三人とも肩の力を抜いて小喋りする。
すでに暗部組織リストから除名扱いとなっている土御門に一方通行抹殺の通達など来ているはずがない。
にも関わらず事情を把握している彼を、一方通行は心底不気味に思った。
一体どこから情報を仕入れているのやら。 <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/09(土) 22:15:19.59 ID:YN04+dKh0<>
「んで、結局どういう事なんだよ? ……俺にはサッパリ呑み込めないんですけど?」
上条が請う。
しかし一方通行は言葉に迷った。自分の口から語るにはやはりまだ抵抗が強いのだろう。
ここは土御門に責任を取ってもらう意味でも頼るしかなさそうだ。
「まぁ落ち着けカミやん。簡単に現状を話すと、一方通行は裏住民の標的にされてるんだにゃー。だから同棲中の
番外個体にもそいつらの手が伸びてしまう事を恐れている。カミやんにわざわざ念押しの意味で頭を下げたのも、
おそらくそれが一番の理由だろう。な? 一方通行」
「ペラペラと余計な事まで喋りくさってンじゃねェぞ。………まァ八割方は事実だけどよ」
「残る二割は意地ってヤツかい?」
「黙れ。声帯を喉仏ごと潰されてェのか?」
「へいへい」
陽気に降参のポーズを取っている土御門から上条に目線を移す。
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/09(土) 22:17:32.26 ID:YN04+dKh0<>
「今の、やっぱり本当なのか……?」
「まァ、そォいうワケだ。今更隠しても意味はねェから言わせてもらうが、俺の“ココ”をヤツらは欲しがってる。
そのためにどンな薄汚ェ手使ってくるかはわからねェ」
自身のこめかみの部分を指でトントンと指し、簡単に話す。
案の定、上条の表情が重くなった。
「………俺に、何かやれる事は無いのか?」
「さっき俺が頼ンだ事項を徹底してくれりゃ、それでいい。下手に関わろォとするのだけは……絶対にやめろ」
「なんで……ッ!?」
一方通行の口調からは一種の拒絶に近いものが含まれていた。
この突き放すような物言いに、上条は歯痒い感情を覚える。
「相手がどれだけいるかも判ってないんだろ!? ……だったら、味方は少しでも増やすべきじゃねえのか? 俺
にだって何かの役には立てるかもしれない」
「だとしても、駄目だ。今度ばかりは俺に全ての原因がある。これ以上他人を巻き込むつもりはねェ。オマエも例外
じゃねェぞ?」
「“これ以上”って……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:20:16.50 ID:YN04+dKh0<>
麦野たちの存在を暗に仄めかすような言い方をしてしまい、軽く後悔する一方通行。
「……とにかく、オマエは番外個体の学校生活を護ってくれ。もし学校が襲撃を受けたとしても、絶対に手は出すな。
番外個体を連れて逃げるか、警備員もしくは教師に任せろ。そしてすぐに俺へ連絡をよこせ。間違っても応戦しよォ
なンて考えるンじゃねェぞ。勇敢とか正義感とかで解決できる規模の問題じゃねェンだ」
「…………わかった。……けど、今言われた事を全部守れるかは約束できねえぞ? もしもの時は、俺の判断で動く
からな? それでもいいんなら任せとけ」
「あァ……、あとはオマエを信じるしかねェからな。……頼ンだ」
「そっちの話は終わったか? そろそろ俺の方も進めたいんだが……」
二人の短いやりとりをしばし観覧していた土御門だったが、ここで口を挟んできた。
更に間髪入れずに付け足す。
「あー、あとカミやん。悪いんだが一方通行と二人にしてくれるか?」
「え……何で? 俺が居たらマズイ話でもするのかよ?」
「うーん、否定はできないが、多分カミやんには殆ど理解できない内容だからな。それにコイツとは色々積もる話もある。
身内話みたいなモンだから、また置いてけぼりを喰らうだけだぜ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:22:54.86 ID:YN04+dKh0<>
「わ、わかったよ。そういうことなら……。んじゃあ先に戻ってるぞ」
「おーう」
仏頂面で級友たちのいる店の方へと戻って行く上条。土御門はそれを軽く手を振り見送った。
一方通行は離れて行った上条から視線を土御門へ移し、遠慮なしに問う。
「さァ。そンじゃあ自白タイムといくか。一体どォいうつもりであンなふざけた演出を挟みやがった?」
“演出”とは、先の小芝居の事を差している。
正直言うと、完全に土御門の演技を見破っていたわけではない。ただ何となくそんな気がしただけ。要するに“勘”だ。
根拠や確信が掴めない場合は結局そいつをアテにするしかない。
大して複雑に考える必要性など、最初から無かったのだ。
「その質問は、俺がお前にぶつけるべきなのを自覚した上で訊いているのか? ん?」
「………!」
土御門の吊り上がっていた口が、並行になる。
これはつまり、笑顔ではなくなったという事だ。
意外な反応だったのか、一方通行は言葉を一瞬詰まらせてしまう。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:24:40.51 ID:YN04+dKh0<>
土御門はその隙を突くように畳み掛けた。
「“どういうつもりか”……だと? 本来ならそれはコッチが使うセリフなんだが………生憎、お前の意図はもう
見通せている。しかし……理由はどうあれ、勝手に“暗部改変”に踏み出したのはやはり頂けなかったな。一応俺
にも“立場”ってのがあるんだぜ?」
「そンな前のことを、ずーっと根に持ってたのか? 意外と器が小せェじゃねェか。土御門くンよォ」
「気にしていたわけじゃない。“俺”はな……お前も存知の通り、俺には幾らでも拠り所がある。暗部組織の構成員
でなくなったところで、特に困惑はしないさ」
「……………」
意味深な口調に表情が強張る。
この後に土御門が語った内容は、一方通行の理想概念を根底から覆す現実を意味していた。
「お前の作為によって確かに暗部情勢は大幅に改編された。端から見れば良い兆候にしか見えないだろうな……。
―――――ただし、“外部側や一般的な目線で見れば”だが」
「……………」
一方通行からの返答はない。
「言葉に詰まるって事は、もう気づいていると受け取っていいな?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:28:36.10 ID:YN04+dKh0<>
「…………………続けろ」
自身が行った『暗部改変』。正確には暗部社会に身を置かざるを得ない学生達の足枷を外す行為。
まだ日は浅いものの、確かに一方通行の通告の効果で殆どの“人質”は闇から解放された。目の前の対話相手である
土御門元春もその一人だ。
だが、それによって前線へ進出を果たした“新入生”。麦野沈利たちの一件。
善い結果ばかり生まれないのは当然だと覚悟はしていたが、現実はやはり甘くはなかった。
そして、ここに来て更なる駄目押しの実例が挙げられる。
「そうだな……。『海原光貴』についてはどこまで知っている?」
「………そこでそいつの名前を出す、か……。さァな。つか同じ組織にいたオマエなら良ォく知ってンだろ。個人情報
には基本的に無関心な連中の集まりだったじゃねェか。詳しい事情なンていちいち把握してねェよ」
「“その後”は?」
「ツラも見てねェな。“借り物の顔”とやらを捨てて、本来の居場所にでも戻ったンじゃねェのか?」
「本来の居場所……か」
と、その時。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:30:00.32 ID:YN04+dKh0<>
「―――――――ははっ、戻れるなら是非とも戻りたい所ですがねぇ……。生憎自分には“帰る場所”が無いんですよ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:33:07.90 ID:YN04+dKh0<>
「!」
ふと声がした方を向く。
すると、まさに今話題に出ていた海原光貴が反対側の通路から足音もなく歩み寄って来ていた。
「オマエ……何でここに? いつから居やがった?」
「ククッ……」
土御門は海原の接近を予想していたかあるいは知っていたのか、首を擡げようともせずにほくそ笑んだままだ。
やがて、土御門の真横にピタリと立った海原は、一方通行に対し呆れたような顔を見せる。
「まったく……、貴方という人はどこまでも身勝手なんですねぇ。まさか自分達の居場所までも奪ってしまうとは……。
もはや蛮行としか表現できませんよ」
「あァ……? 久々に顔見せたと思ったら、いきなり何ぬかしてやがる?」
「何って……。貴方が余計な事をしてくれたおかげで、自分の生活設計に大きな狂いが生じたと言っているんです」
「なンだと……?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:39:25.44 ID:YN04+dKh0<>
海原が自分にこれほど強い意見をぶつけてきたのは、おそらくこれが初めてなのではないか?
そのせいか、一方通行は二の句が繋げなくなってしまう。
普段なら腕っぷしで制してしまう所だが、どうもそういう雰囲気ではない様に思えた。
仮に今そういった暴挙に出れば、間違いなく彼は全力で応戦してくるだろう。それには本能も同意している。
それ自体は別に慄くほどの事ではないのだが、なるべく無意味な争い事は避けたかった。
海原の次の出方を窺っている間、見かねた土御門が横から代弁するように語り出す。
「海原はこの街の住人じゃない、ってのは知っていたか?」
「………どォでもいいし、興味もねェ」
「これまではそれで通っていたが、状況も変わっている。単刀直入に言うぞ? お前は取り返しの付かない事をしで
かしてしまった」
「何だそりゃ?」
さっぱり呑み込めなかった。
海原光貴の正体になど口述した通り興味すら湧いていなかったし、グループが解散した後の動向なんてそれこそ知った
事ではなかった。どこで何をしようが基本的に自由。それで何か問題があったのだろうか。
引き続き、土御門がこの疑問を明かしていく。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:42:40.36 ID:YN04+dKh0<>
「さっき“海原は学園都市の住人じゃない”って言っただろ? “暗部”という居場所が無くなった今、海原はもうここで
は不法侵入者扱いだ」
「はァ……!?」
「当然の処置ですね。自分は正式な手続きを経てこの警備が厳重な街に入ったんじゃないんですから……」
「………!」
そうだった。
何で今までそんな簡単な事を見落としていたのか。
そもそも正規ルートで学園都市に来たのなら、わざわざ仮の姿で自分を偽る必要などないのだ。
「その顔を見ると……、ようやく何もかもが理解できた様子ですね。にしても今頃着眼するとは、貴方らしくない。よほど
心に余裕がないのでしょうか?」
「まぁ、こいつの今の環境を考慮すれば無理もないことだ。精神的にも相当参ってるようだしな」
「ッ……!」
見下されているような言動に、一瞬頭が沸騰しそうになる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:49:23.63 ID:YN04+dKh0<>
「………ちっ」
が、ここで喚いたとしても状況が好転するわけではない。
立場的にも怒れる身分ではない。と、大人びた(?)思考で無理矢理に怒りを鎮めた。
「少しは目が覚めたか? 海原がここにいる時点で俺が何を伝えたいのかは分かっただろう」
「……、やっぱり最初からオマエが仕組ンでやがったのか……」
「そいつは誤解だな。発案したのは俺じゃなくて海原だ。共犯なのは認めるが」
「どっちだろォが関係ねェンだよ! くっだらねェ茶番設けやがって……」
「逆ギレはやめてくださいよ。本来、罵声をぶつけるのは自分なんですから」
海原の呆れ顔が深みを増すが、一方通行の気分はいっこうに晴れない。
回りくどい方法で事実を突きつけられたのが何よりも気に入らないのだろう。
「やれやれ……でも、確かに薬が少し強すぎたかもしれませんね。そこの所はお詫びします。……ですが、コチラの心境も
察してください。何せ自分は祖国から迫害を受けている身、学園都市に滞在できなくなったといって帰るわけにもいかない
のですから」
「迫害だァ?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 22:51:32.80 ID:YN04+dKh0<>
「いろいろと事情があるんですよ……。つまらない理由です」
「そういうわけだ、一方通行。お前のせいで海原は路頭を彷徨わなければならなくなった。海原だけでなく、他にも暗部組織
除名された事で不遇となった者も少なからず存在するはずだ。そいつらにはどうやって落とし前つける気だ?」
「余計な恨みを買ったってか……。別に構やしねェよ。俺は俺のやりたいよォにしただけだ。その結果、不具合が生まれたン
なら文句言うなり襲うなり好きにすりゃいいさ。いくらでも受けてやる。……海原、オマエの主張もな」
「それは良い心構えですね。………まぁ、安心してください。自分にも一応の拠り所はありますから、とりあえずは何とかな
っています。余計な心配を掛けたようですね」
「そォかい、そいつは良かったな。………オマエにも意地悪な一面があったって分かっただけでも、大収穫だ」
「貴方に現実を知らしめてやりたかったのですが、悪戯の範囲を超えていましたね……。いっそ、何も仕込まずに堂々と殴り
掛かった方がまだ良かったと後悔してますよ」
「あァ、どこぞの馬鹿みてェに正面立って直接言ってくる方がまだマシだな。もっとも、その後の末路はどォなるか知らねェ
けどよ」
「おぉ、こわいこわい……」
「ケッ」
このセリフが果たして一方通行流ジョークなのか、それとも本気なのか。一方通行の不気味に歪んだ顔を見た海原は、後者だ
と確信する。
同時に愚行に乗り出さなかった自分自身をひっそり褒め称えた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:02:44.34 ID:YN04+dKh0<>
そんな海原に釣られたのか、土御門も少し控えめな声で言う。
「俺も少し悪ノリしすぎたみたいだな……ちょっと反省するぜよ」
「人を欺くのに慣れてるオマエが『反省』っつっても、説得力ねェな」
ふん、と鼻で嘲笑ってやる。すると土御門は「そりゃ心外だにゃー。俺だって清く正しく勤勉に励む青春真っ盛りな男子高校生
なんだぜーい!」などとアホ染みた抗弁を返してきた。
海原もこんな掛け合いにどこか懐かしさを感じているのか、いつの間にやら楽しげな表情に移っていた。
僅かの間だが、彼らの周囲が和やかな雰囲気に包まれる。
「――――ンで、結局海原はそれだけのためにわざわざ来たのかよ? 俺に文句を言いたかったらもっと他に機会あっただろ……。
よりによってこの馬鹿のクソ演出後に登場しやがって」
「まぁまぁ。少し時期の早い、小規模な『同窓会』ってことでいいんじゃないかにゃー」
「一人、足りませんけどね」
「同窓会ねェ……。そンな間柄だったっけか?」
欠席者と最近会ったばかりの一方通行は、海原の呟きを無視した。
あまり思い出したくない出来事があったからなのは言うまでもない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:11:50.09 ID:YN04+dKh0<>
そんなこんなでピリピリしていた空気も緩和された中、土御門がやや強引ながら本題に触れた。
「俺も海原も、お前の現状を深刻に思っている。………お前、これからどうするつもりだ?」
「さっき言った通りだ。ヤツらの動向にこの俺が怯えるとでも思ったか? 逆だよ。見えないトコでこそこそやってるのは
好かねェが、表立って挑戦しようってンなら乗ってやるつもりだ。来るなら来やがれってなァ」
「貴方だけならそれで済むんでしょうけど……、では“彼女”の方はどうなるんです?」
「当然守り抜くさ……。俺の脳よりも最優先でなァ」
「命以上の存在、か……。そう言うと思ったぜよ。番外個体はカミやんと俺に任せておけ。授業時間中の心配は要らないさ」
「悪りィな……。何も起こらないのが本当なら一番だが、『新入生』が番外個体の存在を無視するとは思えねェ。番外個体
の安全を確保するには、どォやらオマエの協力も必要みてェだ。……っつーことで、是非ともよろしく頼むわ」
捻くれ要素控えめで一方通行にしては見違えるほど素直だったが、もう海原も土御門も驚かなかった。
しばらく顔を合わせてなかったものの、一方通行の心境の変化に気づけない二人ではない。意思の疎通が図れるほどではない
にしろ、これまでの付き合いはそういう意味で無駄ではなかったと言える。
現に一方通行の直感は、『彼らは敵ではない』と告げていた。
だから安心して頼めたのだ。
上条や土御門が同校だったのは、ある意味ラッキーだったのかもしれない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:19:54.78 ID:YN04+dKh0<>
「ところで、結標にはあれから会ったか? 折角だからアイツも混ぜてやろうと思ったんだが……連絡先が変わってて行方
知れずなんだ」
偶然に感謝しかけた所で唐突に掘り返され、一方通行の思考が止まる。
いや、それ以前に今彼は何と言った? 行方知れず?
「はァ? オマエら……結標とは通じてねェのか?」
「いいえ、『グループ』解散前の仕事以来、見かけてませんよ」
「アイツも謎多き女ってヤツだからにゃー……。何も知らずに学生復帰してるのかどうかすらも分からん。今頃どこで何
してるのやら……」
「…………」
嘘を吐いている風には見えなかった。
(本気で言ってンのかコイツら……? だが、確かに結標も『コイツらとは繋がってない』っつってたし……。嘘じゃな
かったって事か……。本当は裏で繋がってンじゃねェかと思ってた俺の思い過ごしかよクソ)
新生『アイテム』とのいざこざを知っていて、そこに結標が関わっている事実を知らないのは正直違和感しか残らない。
情報の手違いか、又は結標自身が上手く計ったのか……。現段階では不明だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:24:44.45 ID:YN04+dKh0<>
結局、結標と接触した件については伏せておいた。
話した所で別段問題はないが、結標は結標で意志を持って動いているのだ。
水を差してしまう結果を生むのは極力避けてやるべきだろう。
というのは建前。本当は話すのがイヤなだけだ。
「ま、面白そうな事件の匂いでも嗅ぎ付けて、いずれ姿を現すかもしれん。結標の事はとりあえず今は置いておこう」
「そうですね」
「………っつーか、土御門。流石にそろそろ戻らねェとマズイだろ。長くなる話はまた後日にでも改めよォじゃねェか」
「あー……そうだな。カミやん一人に任せるには荷が重いだろうし、ぼちぼち戻るか。伝え残しがあったらまた後々連絡
ってことで」
「何でもいいからさっさと行くぞ」
「では、自分もここで失礼させて頂きます。何かお力添えになれるような事があったら、その時はどうかよろしく」
一方通行と土御門は表通りの方角へ、海原はその逆方向へと足を踏み出し、小さな同窓会はこれにて一旦終結した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:26:41.85 ID:YN04+dKh0<>
「――――――ぎゃはははははははっ!! 遅かったじゃんかよー、アクセラれーた〜☆▲○〜」
「!?!?」
店へ入るなり、やたら騒いでるヤツがいるなと思ったら自分の連れだったというまさかのオチ。
「野郎二人して駆け落ちですかぁ〜? ミサカを置いて旅立っちゃおってんですかぁぁ〜〜!! ふざっけんなよゴルァ!!
ミサカより可愛い子とかだったらまだ分からなくもないよ?! けどよりによって男にとられるって………このミサカ
にあるまじき失態ィ〜〜!! ねえねえ! ミサカの何がいけないのかなあ!? 秋沙!」
「言葉が乱暴。……とても良くない。だがそれが良い。グビグビ」
「どっちさ?」
「まったく! 男って皆そうなのよね! 女はただ帰りを待つだけの生き物だって履き違えやがって! 聞いてんの!?
上条当麻ぁ!!」
女子面子は三人とも良い具合に壊れていた。
「き、聞いてまふ! 聞いてまふから額擦り付けないで!! 摩擦でヒリヒリするぅぅう!! ……ってか何で俺???」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:35:12.28 ID:YN04+dKh0<>
「ごくごく……ッ!」
「ふ、吹寄サン? もうそれ飲まない方が……どう見ても未成年に適さない代物ですよ? ってか飲みすぎだろオイ!!」
「ぶはーっ! ……飲みすぎたのは貴様のせいよッ!!」
「何故!!??」
「ぐへへへ、足三本かいな。どう攻めたら………むにゅ」
男陣は色んな意味で終わっていた。
青髪ピアスはテーブルにだらしなく突っ伏したまま夢の世界へ旅立っており、先に戻らせていた上条当麻は異様な状態の
女子たち(主に吹寄)の餌食となっている。
一方通行たちの帰還に気づくと同時に、縋るような眼差しを向けてくる。要するにこちらへ助けを求めているようだ。
「お、お前ら遅いっ!! 早く何とかしてくれ! ってか土御門! お前こいつらに何を飲ませた!? この座敷全体に
広がる匂いと酔っ払いが放つ独特の酒気がもう正解を教えてるようなモンだけど、敢えて聞かせてもらう!」
「あちゃー……ははは」
「ははは、―――――じゃねえっっ!!! テヘ♪ みたいな顔して誤魔化そうとすんなぁぁ!! お前確か『眠らせて
る』っつってたよなぁ!? なんだこれ!? なんなんですかこの始末!? 戻って来たら全くアベコベの状況じゃねーかっ!!」
「酔い潰れてる頃かな〜と思ったんだにゃ。どうやら皆思ってた以上の酒豪だったみたいだぜい。約一名(青髪)以外は」
テーブルの上に散乱した酒瓶が凄惨な光景を物語っていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:40:59.76 ID:YN04+dKh0<>
「助けに回ってくれる要員が潰れてんじゃ意味ねーだろ!! ああもう、吹寄さんだからくっつかないで胸が……! 上条
さんの腕にあらぬ部位が密着を許してますの事よ!? っつーか、見てないで助けてくれ! 今店員にでも見つかったら完璧
アウトどころか、下手すりゃ停学になっちまう!!」
「カミやんを殴り飛ばして救出してもいいんだが……、しかしここでカミやんを助けるのは果たして吉か……う〜ん」
そうこうしてる間にも酔っ払い特有の絡みは執拗に上条の精神を削っていく。
姫神秋沙はほんのりと赤みを帯びた肌が色香を演出していたが、暴走中の吹寄を仲裁できるほどの力は兼ね揃えていない。
吹寄の絡み酒ぶりに歓声を上げていた番外個体は、自身のターゲットを見つけて一気に上機嫌となった。
そのターゲットとは一体誰のことを指すのか?
(『君子危うきに近寄らず』ってのは良く言ったモンだぜ)コソーリ、コソーリ。
ターゲット? そんなのはもちろん一人しかいない。
「おいテメー。なにコソコソ逃げようとしてんの? どうせ『面倒臭い状況』だとか思ってんでしょコルァ」
「う、うるせェ! つか酒臭ェンだよ! 纏わり付くンじゃねェェ!!」
無謀な離脱を試みるものの、所詮は無駄な足掻きでしかなかった。
酔った番外個体の絡みっぷりは凄まじい。一方通行は皮肉にもそれを知っていた。
なにせ以前に彼女たちのDNA源、御坂美琴の母親に似たような絡み酒の被害を受けた憶えがあるのだ。
こういう局面で、“あの女”の遺伝子がしっかりと引き継がれている事を実感させられる。彼にとっては迷惑でしかないが。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:42:28.51 ID:YN04+dKh0<>
とりあえず、絡みついて離れない番外個体はそのまま放置して元凶の土御門を睨みつけた。
如何せん迫力に欠けるのは、背中にタコのようにしがみついた番外個体のせいである。
「よりによってコイツに与えちゃならねェモン与えやがって……。遺書は書けてンだろォなァ土御門ォォ!!」
「あはは、いやー計画ってのは必ずしもどこかに穴が空くから面白い。とりあえず店員呼ぶか?」
この一室はカラオケボックスなどで見られる個室のような扱いの座敷だ。
こちらから呼び出さなければ店員はまず来ない仕様である。今回はこれが災いの元種となったのだが、今となってはその
システムが救いだった。
「ふざけてンのかァ!? ンなことしたら更に面倒な――――」
「おーいアクセラれーた〜☆ ミサカもう眠くなっちゃった〜。寝ていーい?」
「うお、背中に圧し掛かったまま急に脱力すン……く………重……ッ!!」
不意に体重を預けられ、支えきれなくなった一方通行は抗議も虚しく座布団の上に崩れ落ちた。
その様子を見て土御門が笑いを堪える。姫神は一方通行の虚弱さに失望したかのような目を投げ、吹寄は興味を示す仕草
すら出さずに上条を捕食し続けている。
そして青髪は相変わらず爆睡こいたままだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:44:37.80 ID:YN04+dKh0<>
「おい、退け……ッ…コラ……!」
「ぐがー……」
「って、ホントに寝てンじゃねェ! ………クソ。おい、上条―――――」
「こら上条っ!! だいたい貴様というやつはいつもいつも(以下説教)」
「ひぃぃ………不幸だぁぁ」(これならインデックスに噛み付かれた方がまだマシだ)
「―――――は……アテにならねェか………。はァ、何つーか今まで真面目に色々と考えてたのが、いっぺンにアホらしく
なってきたわ………」
鼾を立てる番外個体の下敷きになりながら、一方通行は本日を締め括るような深いため息を吐いた。
同時にこんな悠長な気分でいて本当に大丈夫なのだろうか……。と、少し不安にもなった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:48:34.20 ID:YN04+dKh0<> ここまでです。ようやくこれで一区切りです
次回はまた一週間以内に更新する予定です
ではその一部シーンを <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga <>2011/07/09(土) 23:53:24.81 ID:YN04+dKh0<>
麦野「おい浜面ぁ! 氷は五つ以上入れんなっつったろーが!! 溶けて味落ちちまうじゃねえか!」
絹旗「まったくこれだから超浜面は……」
滝壺「大丈夫? はまづら」
――――――――――
黒夜「構うこたァねぇ。浜面仕上以外は好きに“殺”っちまえ」
シルバークロース『―――――了解した』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/09(土) 23:54:42.21 ID:YN04+dKh0<> 以上です
ではまた次回 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/09(土) 23:59:31.33 ID:xRnLiQmr0<> 乙
吹寄可愛いなぁ…
続き待ってます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/10(日) 00:00:43.63 ID:YuQEH2Yeo<> 変わらないことを誰かに願うのは子供のエゴだね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/10(日) 00:20:40.39 ID:Zq/Dw39y0<> 乙!!
最近ここも過疎ってる気がするけどやっぱ面白いなぁ
ところで次回予告はツッコむべき・・・? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/11(月) 00:57:35.02 ID:IuOEaenSO<> 海原さんそういや国帰れないんだったな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/11(月) 23:56:54.03 ID:o1G8W2cy0<> シルバークロース生きてたん? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/12(火) 01:27:22.41 ID:Pa2EzqDg0<> >>825
撃退とは書かれてたが死んだとは描写されてない <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/18(月) 22:33:02.82 ID:opLHq8YV0<> どうもです
今回の途中から浜面達アイテムサイドの回想編に突入します
時系列は「ってなワケで、今日からお世話になります!」終了のすぐ後……かな?
一方さんと番外さんの絡みを待っている方には先にお詫び致します
では投下
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/18(月) 22:39:57.01 ID:opLHq8YV0<>
―――
普通に晩飯を外で摂るだけのつもりが、酒入りの小宴会になってしまった番外個体編入初日。
同日、とある病院に彼はいた。
「……………」
茶髪にほぼ同色のジャージ、下はジーンズを着用した一見ただの不良にしか見えない少年は絶賛不幸中といった湿っぽい
面持ちで待合室の椅子に腰掛けていた。
彼、浜面仕上の全身からはまるで受験結果発表直前みたいな、妙な緊張感が走っている。
だがその反面、やはりどこか湿々とした印象も混合していた。
手を合わせて、顔の前で意味もなく何かを祈り続けているその仕草に、側を通る入院患者などの同情の視線を彼に向けて
いた。場所が場所だけに、この少年が今どんな状況でどんな心境なのかが何となく察知できているのだろう。
決して森閑としたエリアではなく、そこいらで話し声やらアナウンスやらは鳴っている。
が、浜面にはそんな音など耳に入ってこない。
今の彼にとって、ここは寂れた無音地帯と何ら変わりないのだ。
それほどに、心ここにあらずだった。
一人の少女のこと。あの日に起こったこと。
全てが今でも鮮明に脳内でリプレイされる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/07/18(月) 22:43:11.56 ID:TNsHqx9AO<> 舞ってて良かった <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:43:27.03 ID:opLHq8YV0<>
(滝……壺………)
潤いを全く感じさせない枯れたような声が、心の中でまた繰り返される。
もう何度この名前を呟いたか。何度叫んだか。
何度、呼びかけたか。
(ごめんな……俺のせいで………ほんとに………ごめんな…………)
何度、謝ったか。
そうしてまた、少年は自責の念に溺れていく。
同道巡りし続ける記憶回路。
病院の待合席で独り、こんな風に過去にとらわれるのが習慣のようになりつつあった。
知っていた。
こんなことは無意味でしかない、と。
何の慰みにもならない、と。
しかし、他にできる事が思い浮かばない。
こうして毎日見舞いに訪れるしか、できる事がない。
彼女の意識が戻ってくれるまで、少しでも近い場所で願い続けるしか―――――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:44:54.72 ID:opLHq8YV0<> ※以下、回想 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:48:05.63 ID:opLHq8YV0<>
〜〜〜
約一ヶ月ほど前の夕刻。
その日は、普段と同じように終わるはずだった。
明日、明後日になれば、ついさっき食べた夕食のメニューも思い出せなくなるだろう。
いつしかそんな風に“今日”すらも忘れていく。浜面仕上は本気でそう思っていた。
まさか忘れられない日になるとは夢にも思っていなかった。少なくとも、この時はまだ。
「おい浜面ぁ! 氷は五つ以上入れんなっつったろーが!! 溶けて味落ちちまうじゃねえか!」
いつものファミレスに、いつも通りの怒声。
今となってはこれすらも幸せな日常の一部だった。
「まったくこれだから超浜面は……」
絹旗最愛の蔑むような目も。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:51:19.37 ID:opLHq8YV0<>
「大丈夫? はまづら」
不思議系兼癒し系少女、滝壺理后の心配しているのかしていないのか判別しきれないこの気遣いすらも。
何もかも鮮明に憶えていた。
あの数時間後の未来を、可能ならば伝えてやりたい。
当時、元通りの平穏に慣れ浸っていた自分達に―――――。
時は更に少し巻き戻り、正午過ぎ。
かつて、アイテムが所有していた数ある隠れ家の中の一角。現在では新生アイテムの正式なアジトとなっていた。
アジトとは言っても至って普通の一般宅だが。
ここではリーダー格の麦野沈利を筆頭に、絹旗最愛、滝壺理后、浜面仕上が生活を共有し、有意義な時を過ごしていた。
戦争が終結し、平和で穏やかな景観溢れる学園都市。
彼女達は一度入った亀裂を修繕しようと、新たなスタート地点に立ったのだ。
すでに暗部組織という枠内から逸脱している異端な少年少女達。されどその能力は上層部も軽視できない程に高い。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:54:21.50 ID:opLHq8YV0<>
以前と変わった部分。
それは統括理事直属の指令が彼女等に下りなくなった事。
だが、別段と不自由に感じた者はいなかった。元々好き勝手に振舞う面々だったせいもあってか、彼女達は特に後ろめたい
感情を表そうともせずに、それぞれ自由に行動していた。
ここは、そんな彼女達の帰る場所という役割を負っていた。
少しずつではあるものの、また前のような関係になれつつある。
あの時、ロシアという異国の地で麦野を説き伏せた浜面はそう信じていた。そしてその日も決して遠くはないと。
帰国した浜面に、もう一つだけ変化があった。
ロシアでずっと行動を共にした少女、滝壺理后との関係である。
帰国してそう経たない内に、彼女は浜面へ想いを打ち明けてきた。
いつもと同じ口調なのに、瞳からは並ならぬ決心と意志が強く表れていた。滝壺なりに、真剣なんだというのが一目で
判った。
そして、浜面もまた彼女と同じ気持ちだった。
気に食わない点としては、女の方から先に言わせてしまったことぐらいだ。
だからこそ想いを告げられた時、せめて不器用な返事を口で述べる前に行動で応えようと、彼女を優しく抱きしめた。
そこから麦野たちとの関係も微妙に変わったような気がする。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 22:58:33.29 ID:opLHq8YV0<>
麦野はこれまで見せなかった切なげな顔を、良く彼の前で見せるようになった。いや、正確には浜面と滝壺が揃っている
場面でと言った方が正しい。
まるでどこか物憂げそうな、寂しそうな……。
だが、浜面か滝壺がその様子に気づく前に麦野はいつもの調子を取り戻している。何かを押し隠すみたいな、悟られたく
ないような、そんな心情が浮き彫りになっていた。
絹旗に至ってはもっと酷い仕打ちが予想されたが意外にも反応は大人しく、ネタにして浜面を貶すような真似はしなかった。
これは浜面にとっても滝壺にとっても少し予想外だったらしい。
二人がくっつく前はバニー服やら何やらで浜面を挑発(面白がって)していたあの絹旗が、くっついたらくっついたで
何か思う節でもあったのだろうか。特に冷やかしが無い分、拍子抜けした記憶がある。(別に期待していた訳ではない! 断じて)
下手に“暗黙の了解”で仲間との距離を伸ばすよりも、しっかり報告した方が吉だと踏んだ彼らの判断が間違っていた
のかどうかは誰にもわからない。だが、決して彼女達の間の溝が深まったわけでもない。
今はそれで良いだろう……。
何日か前、滝壺とベッドの上でそう結論を下したところだ。
幸福は高望みをすると逃げていく。
だから、せめて今現在の幸せを満喫しよう。
もうあんな恐ろしい目に合う事も、震える足を奮い立たせて戦地へ赴く必要もないのだから――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:00:16.83 ID:opLHq8YV0<>
「――――――ちっ……」
「どうした? 麦野」
リビングで何かの通達書に目を通している麦野を見つけた。
浜面はそんな彼女にさりげない感じで声を掛ける。
「あぁ、浜面か……」
声色からは不機嫌さが露骨に表れていた。
「何見てんだ? ……もしかして、また『例のヤツ』か?」
「まあね……。ったく、しつこくて参っちゃうわ。なーんでウチらをそっとしておこうって気になんないのかしら……」
学園都市最高戦力の一員な上に、暗部の世界でもめざましく活躍していた彼女を上層部が放し飼いにしておくとは思え
なかった。勿論そんな事は麦野本人も承知しているのだが、平穏を取り戻して過去を清算するまさにこれからという時
ではぼやきたくなっても仕方が無いのかもしれない。だから浜面は敢えて指摘しなかった。
もっとも、したらしたで後が恐ろしいというのが本音なのだが。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:12:16.66 ID:opLHq8YV0<>
「『第一位の抹殺……但し頭部の原形は留めよ』、か……。いよいよ本格的に街を敵にしやがったらしいな」
通達書の内容のメインを覗き込んでそんな感想を吐く浜面に、麦野は問う。
「あいつも同時期にロシアまで来てたとはね……。それにしても、第一位は何をやらかしたのかしら?」
「ロシアの件がきっかけにしては、随分と時期が遅いぜ? 帰国した後に事を起こしたって考えるのが自然だろ」
麦野も浜面も現時点でまだ一方通行が暗部情勢をガラリと変えてしまった事実を突き止めてはいない。
そのため、指令内容の裏を探ろうにも未知の謎だらけでさっぱり真相が見えてこない。
仮に調査に本腰を入れたところで、これまで頼りにしていた情報提供人も御役御免となっている。
コネやアテが無ければまさに暗中模索である。難事件が迷宮入りしてしまうのと同様、真実に辿り着ける可能性は極め
て低いだろう。
向こうも詳細を伝える気はないらしく、ただ言われた通りに動いてもらうだけの記述しかされていなかった。
元々こんな条件で働くことを麦野は好かない。まして第一位が生きようが死のうがあまり興味も持てない。
何よりあの“悪魔”と相対する以上、こちらもそれ相応の覚悟が必要だ。今はそんな生死を賭けるような覚悟を決める
気分でもなかった。
「仮にもこの街でトップの脳髄なんだし、希少価値はとんでもないんだろうけどさぁ……。何か腑に落ちねえんだよな。
えげつねえ実験やら研究やらで成り立ってる街なだけに、陰謀の匂いがプンプンしてやがる。恐ろしい事の“前兆”みたい
な感じがするな……」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:15:29.88 ID:opLHq8YV0<>
「ま、どうでもいいけどね。どっちにしたって私らには関係ないことよ」
上層部に掛け合ったところで、指令が口頭に変わるだけだろうと判断した麦野は通達書をクシャクシャに丸め、ゴミ箱
へ向けてポイと放り投げた。
「んなことより、滝壺と絹旗はどっか行ったの? さっきから姿が見えないけど」
「ああ、滝壺ならもう検査に行ったぜ。俺も行くっつったんだけど、一人で平気だってさ……」
ロシアでは『体晶』の影響でまともに歩くのもままならなかった滝壺だが、学園都市に帰還してからは体調もすっかり元に
戻っている。今日はその確認検査のようなものだ。言い換えればただの健康診断である。
一緒の同行をやんわりと拒否されてしまい、どこか寂しそうな浜面を麦野は茶化した。
「おーおー、お熱いこって。愛想つかされるきっかけになんなきゃいいわね。あまり心配しすぎたり過保護に扱ったり
すると女は重荷に感じちゃうモンだから、精々気をつけな」
「そ、そんなつもりはねえよ。……たぶん」
「もうちっと男らしくビシッと断言できねえのかよ? ……ったく、滝壺もこんな馬鹿のどこに惹かれたんだか……。
こいつは永遠の謎だわ」 <>
リア充爆散しろ ◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:18:50.70 ID:opLHq8YV0<>
「悪かったな。どうせ人生初彼女ですよ。経験豊富な麦野さまに比べたら俺なんてさぞヒヨッ子ちゃんなんでしょうねぇ」
「いや、誰もそこまで……っつか経験豊富って誰が……?」
不貞腐れた様子の浜面に麦野の調子が狂う。
「そ、そう言やさ! 絹旗はどこ行ったのかなーん」
さりげないつもりで話題を変えた。
浜面は一瞬白い目をしたが、あまりノリすぎると恐い展開になりかねないので黙っておく。
そして麦野の質問に眉を寄せて答えた。
「さあ? あいつが何も言わないで出かけるなんていつものことだし……。またマイナー映画でも観に行ったんじゃねえのか?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:22:30.66 ID:opLHq8YV0<>
―――
「………………」
今の状況を強いて表現するなら、一触即発。
他に人が誰も居ないビルの屋上で睨み合っているのは齢十五にも満たない少女同士。
片やニットのワンピースに背の小さい小柄な少女。もう片方はパンク系統の洋服に黒のパンツルック、更に手には大事そうに
抱えたビーチやプールなどでお馴染みのイルカのビニール人形。
一見対称的な二人だが、実は彼女達にはある重要な共通点が存在している。
「……おいおい、テメェから呼んでおいて出方を探るってのはちょっと卑怯なんじゃねえのか? 絹旗ちゃんよぉ」
先に黒で統一された少女、黒夜海鳥が沈黙に焦れた。
「っつーかよぉ……良く私の連絡先が分かったよな?」
「これでも“元”暗部の人間です。心当たりさえ超はっきりしてれば、行き着く方法なんていくらでもあるんですよ」
「んで? わざわざこんな風情のねぇ場所まで選んで何の用よ? 懐かしの級友同士、思い出話でもしようってか? 突然
ワケの分からねえ行動に打って出る面は変わってねえらしいな。絹旗ちゃーん?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:30:33.81 ID:opLHq8YV0<>
「そっちこそ、相変わらず超粗暴な口ですね。……白々しい」
「あぁん?」
空気が一瞬で凍りつく。
不愉快な心情を形相で語る黒夜に対し、絹旗はペースを崩すことなく切り出す。
「今朝、ウチらの元に上層部直々の通達書……いえ、指令書が届きました」
「ふーん。……え? っつか何? いきなりそんな話されて私はどうリアクション取ればいいわけ?」
「少し前なら特に珍しくもないんですがね。けど、ここ最近で暗部組織『アイテム』の体制は大きく変わりました。今の私達に
直属の指令が届くなんてのは、超有り得ないんですよ」
「…………」
無関係な人間からすれば何が何やらさっぱりだが、絹旗は確信を持って喋っている。
まるで、黒夜の懺悔を待っているかのように。
「つまり、何が言いたいわけさ?」
「まだ自分から白状する気にはなりませんか? ……ならいいでしょう。超断言します―――――――」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:32:10.93 ID:opLHq8YV0<>
「――――――この指令書を私達の元へ送ったのは、あなたですね?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:35:57.80 ID:opLHq8YV0<>
一呼吸間を空けた後、絹旗は黒夜を真っ直ぐ見つめて言った。
「そして、この計画の中心……いえ、前線で動員されている内の一人があなた……違いますか?」
「ぶふっ」
冗談抜きの真顔に思わず吹き出してしまう黒夜。
「探偵ゴッコにでも嵌ってんのか、絹旗ちゃーん? なかなか滑稽だったからもう一回見せてくんねえか?」
「私が今言った事がでたらめだったなら、確かに滑稽でしょうね……。でも私の目は超欺けませんよ? あなたが絡んでいる
のは超間違いないんですから」
「……何の根拠がある?」
「この指令書をあなたが作った時点で、何故私にバレないと思ったのか……逆にコッチが伺いたいです。あなたの工作癖なん
て、“あの時”から身体で嫌というほど憶えてしまっているこの私に……」
「…………」
「筆跡だけを隠したところで、大した意味はなかったようですね。所詮あなたは“あの時”から何にも成長してないんですよ」
次第に無口になっていく黒夜に容赦のない言葉が刺さる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:40:41.96 ID:opLHq8YV0<>
「本題はこれからです。――――――私達をこの件に巻き込むのは、やめてください。私達はもう暗部の人間ではありません。
あなた方の指図に従う義理もないんですよ」
「…………」
「あなた方がどこで何をしてようと、私の超知ったことではありません。第一位の首にも執着する気はありません。やるんなら
どうぞご勝手に。……二度とこんなふざけた通達を送らないでください。はっきり言って超迷惑です!」
とどめに通達書(コピー)を黒夜の目の前でビリビリと破り捨てた。
「今のはウチらのリーダーの代弁、そして私からの超警告です。これ以上はコッチも超黙ってませんからそのつもりで。……用件
は以上です」
そう言い残し、立ち去る。
しかしそのまま大人しく帰す黒夜ではない。
つんとした背中に威嚇の眼光を放ち、敵意剥き出しで呼び止める。
「おい! 待てよ絹旗ちゃん。一方的に言いたいだけ言ってサヨナラーってか? そりゃちょっと都合良すぎなーい?」
「………話すことはもうありませんから」
振り返らずに冷たく伝えるが、黒夜の腹の虫は収まってくれないらしい。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:44:57.17 ID:opLHq8YV0<>
「そんな寂しいこと言わずにさぁ……。久しぶりにこうやって再会したんだ。もっと互いの近況について語り合おうぜ?」
「…………」
絹旗は無視を決め込んだ。付き合うのも無駄だと言わんばかりにスタスタと非常階段口の方へ歩き、黒夜から離れていく。
このとりつく島もない状況に痺れを切らした黒夜は、少々強引な手段に切り替えた。
「……そーかいそーかい。あくまで私達の計画に協力する気が無いってんなら、別にそれでも良いさ。――――――だがな」
「―――――!」
途端、周囲を流れる風向き。いや、大気そのものの循環が異変を見せた。
その直後、異常を感じた絹旗が足を止める前に、すぐ真横を棒化した気体が凄まじい速度で通過して行った。
「………………何の真似ですか?」
さして驚いた様子もなく、背後の黒夜へ問い掛ける。
今しがた横を通った異物の正体は絹旗も充分に分かっていた。
そう、彼女自身の能力の素材とも言える物質、『窒素』である。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:48:18.59 ID:opLHq8YV0<>
「人の話は最後まで聞けよ。アンタだって第一位の存在は疎ましく感じてンだろォ? なら消しちまおうって発想には
至らねェのか? あァ?」
ガラリと豹変した口調に、自然と絹旗の表情が引き締まった。
「ふん、生憎ですね。私はあなたとは超違いますから。陰険で狡猾で根っこまで腐っているあなたなんかとは……」
薄ら笑みを浮かべ、嘲弄する。
「同じ穴のムジナ……って知ってるか? どォ奇麗事並べよォが、私らは“あのクソ忌々しい計画”の被験者同士。この
事実は変えらンねェのさ。そォ突き放そォとしないで、仲良くやろォじゃないの」
「超反吐が出ます」
「なンなら今ここで“お遊び”と洒落込ンでも良いけど、どォする絹旗ちゃーン? 反撃体勢は取らないのかにゃーン?」
「超安っぽい挑発ですね……。そうまでして私の気を引かせたいですか? くだらない。悪いですが、そんな鼬ごっこには
超付き合ってられません」
「……………………あァ、っそ」
ここまで誘っても絹旗は闘志を見せなかった。これ以上は本格的なバトルに突入しかねない。そうなっては手駒に加える
算段も確定的に絶たれるどころか、今後の予定に支障も出てしまいそうだ。結局脅し作戦も失敗に終わったわけだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:53:20.65 ID:opLHq8YV0<>
退き際を誤っては本末転倒である。
黒夜は全身を渦巻く『能力』を解くと共に脱力し、残念そうな顔で吐いた。
「ちっ、ノリ悪くなったなぁ絹旗ちゃんよぉ。少しぐらい熱を上げてくれてもいいのにさ……。あーあ、なんかシラケた」
「……………」
やはりこちらの冷静さを奪い、まずは感情を昂ぶらせるのが目的だったようだ。そんなことだとは思っていた。
話し合いに持ち込ませずに一方的な意見だけをぶつけて去ろうとすれば、大体はその方法を選ぶしかなくなってくる。
絹旗は全て見透かしていた。最後まで心を揺らさず、挑発にも一切応じないのがこの場合最も有効な対処法だ。
元の調子に戻った黒夜にはもう目も振れず、絹旗は再び足を動かす。
「あー、最後の忠告だ。今夜は“荒れ”そうだから、戸締りはしっかりしておきな」
「…………?」
最後に意味深なセリフに一瞬引っ掛かったが、また気を引かせるための方便だろう。
構わずにそのまま屋上を下りて行った。
独りビルの屋上に残った黒夜は、通信機と携帯電話の中間みたいな機器を胸元から取り出すと、スピーカーに向かって
喋り出した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:54:59.67 ID:opLHq8YV0<>
「私だ、シルバークロース」
『早かったな。答えは聞けたのか?』
「あぁ……、やっぱり結託には至らなかった。交渉はあっさり決裂さ。まぁ、予定通りだがな」
『では、やはり今夜に決行という流れで変更は無いな?』
「変更する理由も無いしな。そっちに何か不備不具合はあるか? シルバークロース」
『動員数も申し分ない。第四位が少々厄介だが、対処法は既に構築済みだ。特に問題ないだろう』
「もう“衣装”も決めたんだな?」
『抜かりはない』
「……オーケー、それじゃ後の指揮はアンタに任せる。牙の抜けたOG共に地獄を見せてやりな」
『つまり、場合によっては殺害も許容すると?』
「構うこたァねぇ。浜面仕上以外は好きに“殺”っちまえ」
『わかった。……ところで、黒夜は来ないのか?』
「私は“ガキ”の情報収集に回る。もうちょっとで回収できそうなんでな」
『そうか……。では仕方ないな。ヤツらの断末魔くらいは録音して、後で聞かせてやろう』
「ふふ、そりゃあ楽しみだ……。良い報告を期待してる」
通信を切り、醜悪な笑みを浮かべる。
そして囁いた。
「折角のご忠告、悪いが棒に振らせてもらうぜ。絹旗ちゃんよぉ……。ククク」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:57:14.22 ID:opLHq8YV0<> 今回はここまでです
次回は新入生と新生アイテムの戦闘模様に入ります
ではその一部をどうぞ <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/18(月) 23:59:38.74 ID:opLHq8YV0<>
麦野「馬鹿以下のクズ共かよ。やっぱシカトして正解だったわね」
浜面「同感だな……」
シルバークロース『お前達の意見に興味は無い。従い、これ以上の話し合いは不毛でしかない。――――――恨むのなら、第一位を恨むんだな』
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/19(火) 00:02:46.74 ID:f8CYGzpo0<> 以上です
ではまた次回
>>829
ありがとうございます
遅過ぎ筆で本当に申し訳ないっす… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/07/19(火) 01:23:52.45 ID:zDKEg6WIo<> おつー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/19(火) 11:23:24.15 ID:tGQg+FDfo<> ここの絹旗ちゃんは自分だけ理解してるつもりになってて抜けてるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/19(火) 12:19:19.66 ID:9qeaUZkSO<> うん、冷めた絹旗ちゃんも悪くない
いや、むしろ……イイ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/20(水) 00:52:07.43 ID:JzLGnPj10<> おつです!次回も楽しみに待ってます!
っていうか>>839www <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 00:54:48.59 ID:/m8SohzSO<> >>848の「ガキ」ってのはにゃあの事かな? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 01:07:06.08 ID:rwYQuUwc0<> >>856
多分そうじゃね?
つかそろそろ時系列が複雑になってきたな……
時期的には番外と美琴がエンカウントした辺りの認識でおk?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/22(金) 00:29:11.82 ID:/gmeHGrl0<> この感じだとにゃあも登場するっぽいな〜
wwktk(・∀・) <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/24(日) 22:44:10.58 ID:P2AkWO4m0<> 新刊の内容は無理に取り入れようとしないでやって欲しい
・・・まあそれも>>1次第なんだが <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/07/26(火) 22:12:03.36 ID:rc/cGNyJ0<> >>857
その認識でおkです
>>859
もう話の結末は決まっているので路線変更はしないつもりです
では続き更新します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:13:43.03 ID:rc/cGNyJ0<>
―――
間もなく完全下校時刻に差し掛かろうという頃。
麦野たちが寝床としている家宅周辺は街灯も少なく、警備員による巡回も比較的少ない位置に在している。
よって、闇ルートの密輸売買などが近辺で頻繁に行われていたりもする。
もっとも彼女らには全くと言っていいほど関係のない事象であり、もし仮にその類にちょっかいを掛けられたとしても
返り討ちにするのは容易い。
したがって、絹旗の帰りが遅くなろうが麦野はそれほど心配していなかった。
「――――じゃ、そろそろ俺は帰るよ。絹旗が帰ったらよろしく言っといてくれ」
麦野たちの玩具にされ、心身共にズタボロとなった浜面が立ち上がって告げた。
女だらけの家では落ち着かないのを理由に一人だけ以前から住んでいるアパートで寝をとっている浜面に、少し前に帰宅してきた
滝壺が申し出る。
「ねぇ、はまづら。私も行っていい?」
「へ?」
「はまづらの部屋、行きたい」
この突然舞い降りたイベントに浜面は戸惑った。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:15:18.92 ID:rc/cGNyJ0<>
「……。いや、今日散らかってるしさ。とても女の子を上げられる状態じゃ……」
「むぅ……。昨日もそう言って逃げた。はまづらは私と一緒に居るの、嫌?」
赤面したまま曖昧に断ろうとする浜面に滝壺の頬がむくれる。
麦野は「紅茶でも入れよっかな」と、まるでこのピンク色の空間を拒むようにキッチンの方へと行ってしまった。
二人きりにされたせいか、滝壺が更に大胆に迫る。
「そろそろ……はまづらの部屋に行きたい。……まだ駄目なの?」
「駄目とかじゃねえよ。……ただ、物事には順序ってのがあるだろ? いきなり部屋ってのは流石になぁ……。だいたい、滝壺
が好きそうなものとか、何も置いてないぞ?」
「はまづらが居ればいい」
「っ……」
ぐらついた。たった一言で心が大きく震動してしまった
正直言ってこの言葉はきつい。付き合い始めて日が浅い内は色々と段階を考えてしまうのが当然という趣向の浜面。
その信念を根元から圧し折ってしまう滝壺の言葉と眼差し。
普段はこんなに自分の意見を主張する性格ではない事を知っているだけにこれは応える。
舞い上がりそうになるのをグッと堪えるのが精一杯だった。
今の彼の半ニヤケ顔を麦野が見たら間違いなく惨事になっていたはずだ。運が良いのか悪いのかよく分からない男、浜面
仕上はそれでも自制心と格闘し続けるしかない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:17:09.33 ID:rc/cGNyJ0<>
(おいおい、ここまで言わせて恥ずかしくねえのかよ浜面仕上! 男ならこの純粋な願いに応えてやるべきじゃねえか!?)
(いやだがしかし待て! 部屋に男と女、それも付き合いたてホヤホヤのカップル同士……。どうなるかは火を見るより
明らかだぜ!? まだ早すぎるんじゃねえのか!? そもそも何の準備もしてねぇ……。避妊具やら部屋の消臭やら
ベッドメイキングやら……。踏み込むんならそういうトコしっかり準備しねえでどうするよ!?)
(けど……、滝壺の準備さえオーケーならそれほどこだわる必要も………うーん……しかし、うーん………)
「…………はまづら?」
脳内で会議中の浜面を不思議そうに見つめている滝壺。
あほらしい、勝手にやってろ。とキッチンの方から誰かの不愉快そうな声がした、ような気がした。
「………………よし!」
どうやら一応の答えが出たようだ。
というかわざわざ自分会議してまで導き出すほどの内容か?
勇ましげな鼻息をふんと鳴らし、浜面は滝壺と正面から向かい合った。
そして真っ直ぐ目を見つめ、言葉を紡ごうとした――――――瞬間だった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:18:03.84 ID:rc/cGNyJ0<>
「―――――!!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:22:26.41 ID:rc/cGNyJ0<>
外から尋常ではないレベルの爆音が轟いた。
すぐ近くに雷でも落ちたような、あるいは猛スピードで走行する自動車同士が衝突したような、そんな衝撃音。
浜面も滝壺も何が起きたのか予測できず、音の発生した方を反射的に向く。
キッチンからすぐに麦野が姿を見せ、浜面の傍に駆け寄ってきた。
「――――ちょっと!? なによ今の……?」
音の正体は今三人が向いている方の壁の亀裂が教えてくれた。
どうやら、住居の外壁に“何か”が突っ込んできたらしい。
やがて壁のひびは大きく広がり、数秒もしない内に呆気なく破壊された。
再度響く轟音。そして硝煙。
浜面たちは咄嗟に腕で顔を覆い、室内で突如発生した爆風を凌いだ。
舞い散る粉塵と壁に空いた大きな穴。
その穴から姿を現したのは、人間よりも一回り巨大な搭乗型の駆動鎧。
「……ッ……なんだよ、こいつ……!!」
完全に意表を突かれたせいか、この急展開に頭が追いついていかない。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:23:59.57 ID:rc/cGNyJ0<>
「見たことのないタイプね……」
麦野は思わずそう呟いた。
これまで長い期間、暗部世界で生きてきた。
学園都市が所持する強力な兵器の類は大凡頭に残っている。駆動鎧もその例外ではない。
だが、目の前に悠然と佇む駆動鎧は装甲のデザインや形状もかつて見たものとは大きく相違している。
『第四位、原子崩し(メルトダウナー)・麦野沈利、窒素装甲(オフェンスアーマー)・絹旗最愛、能力追跡(AIMストーカー)
・滝壺理后―――――』
頭部から野太い音声が漏れ出す。
その巨体躯は身構える目標を上から見渡し、原稿を読み上げるような口調で話す。
『―――――及び、浜面仕上。通達を無視したお前たちを反逆者と看做し、これより制裁を加える。窒素装甲は不在の
ようだが、特に支障もなさそうだ』
鉄同士が擦れるような、鈍い音がしたと思った矢先。
右上腕に取り付けられたアーム砲を彼女たちへ向けて構えた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:33:29.77 ID:rc/cGNyJ0<>
だんだんと状況が掴めてきた。どうやら自分達は今、襲撃を受けているらしい。
浜面は咄嗟に滝壺を庇う形で前へ躍り出る。
しかしそれを更に遮るように立ちはだかったのはリーダーを務める麦野。
その佇む姿は勇ましく、超能力者の名に恥じない威圧感を走らせていた。そして言葉を返す。
「通達って、あのふざけた手紙のことか? あんなの鵜呑みにするワケないでしょ。ちょっと街から離れてる間に馬鹿
が増えたみたいね……。交渉術の基礎から学んできたら?」
『……原子崩しか。正しい手順は踏んだつもりだが?』
「ハッ、どこが? どっちから名乗るのが礼儀かも把握してねえ上に、得体の知れなさ過ぎる組織ときたモンだ。普通
なら蹴って当然だろうがよ」
『どうしようが自由だ。従うのなら歓迎するし、否なら駆逐するまで。それ以外に何かあるのか?』
「………あー、駄目だわこりゃ……。あの第一位を相手にしようなんて、どんな度胸据わってる連中かと思ったら……」
麦野は呆れた仕草で長い髪をかき上げ、はっきりと口に出した。
「馬鹿以下のクズ共かよ。やっぱシカトして正解だったわね」
「同感だな……」
浜面も麦野に同調した。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:34:50.58 ID:rc/cGNyJ0<>
駆動鎧はそれに激昂する素振りも見せず、あくまで涼しい態度を保つ。
『お前達の意見に興味は無い。従い、これ以上の話し合いは不毛でしかない。――――――恨むのなら、第一位を恨むんだな』
この発言後、相手の雰囲気が一変する。――――――相手は完全にやる気のようだ。というより初めからそのつもりでここに
来たのだから、話し合いが通じないのも道理である。
今から一秒もしない内に敵が攻撃に移る。浜面の勘がそう囁いた。
護身していた拳銃を素早く掲げ、その巨体へ向け発砲しようとする。
が、
「浜面ぁぁぁ!!」
麦野の雄叫びを至近距離で受けてよろめいた。
怯んだ浜面の代わりに先制を仕掛けたのは麦野。
一直線に光線を掌から放出し、駆動鎧の頑丈そうな腹部に直撃させる。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:37:19.47 ID:rc/cGNyJ0<>
『――――!』
さして間合いも無い位置からまともに『原子崩し』を受けた巨体駆は、無抵抗で壁の奥へと押し戻されていった。
どうやらこの衝撃は駆動鎧を外まで追いやったみたいだ。
すぐさま麦野は大きく空いた穴から吹き飛んだ獲物を追う。その際、浜面に嘱した。
「滝壺を頼んだよ。私がひと仕事終えるまでの間、しっかり守り抜かないと承知しねえぞ!」と。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:42:34.33 ID:rc/cGNyJ0<>
―――
外壁を突き破り、轟音と共に外の荒地へと着地した駆動鎧。
アジトからは数十メートル以上離れた地点でようやく余波からも解放されたようだ。
しかし、これといったダメージを負っている風には見られなかった。
「――――――牽制のつもりで撃ったとは言え、全くの無傷かよ。大した性能だねぇ」
破損した壁穴から姿を現した麦野は、軽く舌打ちをかます。
全部位が装甲で覆われているものの、あの駆動鎧が一般的(オーソドックス)なのは一目で見当がつく。
どの程度の強度かは知らないが、今の一発で効果なしだとすれば……。
「久しぶりに思う存分“やれる”、ってわけか……。ん、上等じゃないの」
そう言いつつ腕を鳴らす。
本来の性質が眠りから醒めたように全身を通り、充満していく。
しばらくの間封印していた闘争本能が目覚めたとも言う。
『体晶』による影響で不安定だった力も、すっかり本調子に戻っているようだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:49:04.19 ID:rc/cGNyJ0<>
学園都市に七人きりの超能力者。中でも四番目の兵力。
その猛威ある力を如何なく振るう精神状態へとシフトされていた。
ゆっくりと接近し、愉快そうに微笑み言い放つ。
「“制裁を加える”っつったよなぁ? マゾヒストがどっちなのか、体に教えてやんよ。テメェの方こそ、精々良い声で
鳴くんだね」
サディスト感溢れる麦野の迫力に、駆動鎧は戦慄でも覚えたのか制止したままだった。
いや、だが実は勘違いである。
フルフェイスの下の素顔はそんな麦野を前にして笑っていた。まるで袋のネズミに追い込んだかのように。
この敵が最初に狙っていたのは、戦力の分断。
それもなるべくなら第四位を孤立させるのが最も望ましい。
麦野が向こうから単独でこちらまで寄って来てくれたのは、有り難い結果だった。
『そうか……。予想はしていたが、あくまで刃向かう意思のようだな。……なら、それも良いだろう』 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:51:49.44 ID:rc/cGNyJ0<>
「……ケッ」
『それにしても、自ら前線に赴くとはな……、世の中は案外思い通りに動くものだ』
「はぁ?」
顔を顰める麦野を嘲笑う駆動鎧。
自分の方が明らかな強者だと疑わない麦野にとって、この堂々とした佇まいは遺憾でしかなかった。
『こちらから動く手間が省けたということだ……。礼を言うぞ』
「何ワケ分かんねえ虚勢張ってるワケ? どう見ても絶体絶命なのはテメェの方だろうが」
『どうやら、お前にはまだ状況が理解できていないらしいな――――』
「――――!?」
その直後。
後方の隠れ家からけたたましい騒音が麦野の耳を劈く。
振り返ると、何やら怪しい色合いのスーツを着用した武装兵たちが半壊した隠れ家へ次々と進入して
いる様子が窺えた。
中にはまだ滝壺と浜面が残っている。
「………!!」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:53:39.79 ID:rc/cGNyJ0<>
敵の狙いが読めてしまった。
この男は初めから自分だけを誘い込み、手薄となった隠れ家へ部下を送り、残った仲間を――――。
『眼前の敵から目を背けていいのか? 原子崩し』
「テメェ……!!」
正面へ顔を戻す。焦る内心を零さないよう、気を引き締めた麦野は天使とも悪魔とも似つかぬ笑みを
燈す。
そして、こう吐いた。
「ふん、馬鹿が……。あいつらが“アナ”だとでも言いてえのか? そりゃ完全にそっちの作戦ミスだな」
『ほう……』
吊り上がった唇の両端。駆動鎧は次の言動を待つ。
「よっぽどウチらを過小評価してるみたいじゃない? あいつらもそれなりに死線は潜ってきてんだ。どこぞの馬の骨
にまんまとやられちまうほど脆くはねえぞ?」
「それに―――――」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 22:58:42.89 ID:rc/cGNyJ0<>
麦野の片目と片腕が高鳴る感情に呼応しているかの如く発光しだす。
不安定な形状のまま溢れ出した粒子が、彼女の全身をオーラのように包んだ。
「――――テメェを速攻で瞬殺すりゃあ、そもそも何の心配も要らねえってことよ!!!!!」
高らかな叫びと共に『原子崩し』が拡散し、周囲を暴れ回る。
全精力をぶつけ、一気に終わらせる。
先ほどの牽制や威嚇とは比較にならない威力の白い直線が八方から駆動鎧の硬い装甲を打ち抜いた。
「……な…!!?」
しかし、この後に面食らったのは麦野の方だった。
装甲に風穴を空けるどころか、傷と呼べるものは何一つ無かったからだ。
『過小評価していたのはそちらも同じらしい』
『原子崩し』をものともしなかった躯体の頭部から忌々しげな声が発せられる。
だが、そんな挑発に耳を傾けている場合ではない。歯噛みしながら隠れ家方面を気に掛けている。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:02:43.45 ID:rc/cGNyJ0<>
(チ……。そう簡単にはいかない、か……。グズグズしてらんないってのによぉ……ッ!!)
見たままのイメージ通り、この駆動鎧の装甲は『原子崩し』でも一筋縄ではいかないらしい。
放射能や高熱線に耐性のある駆動鎧とどことなく似ている造りから察しはついていたが、どうやら予想以上の防御力を
持っているようだ。
加えて両腕の肘から固定式で備え付けられているバズーカ砲。
浜面たちを援護しようと背中を見せた途端、おそらく“それ”は火を噴き麦野の身体を跡形もなく吹き飛ばすだろう。
油断したら命取りになりかねない、と麦野は悟った。
(やっぱりこいつを何とかしてからじゃないと、助けには戻れそうにないわね……)
この最新鋭の化け物一体に、神経を集中する。
なんだかんだ言いつつもやはり浜面や滝壺の状況が気にはなるが、ここは諦めて彼らの力量を信用するしかなかった。
と、駆動鎧の中身がそこで唐突に口を開く。
『さきほどだったか、“自分から名乗らないのは失礼”と言っていたな?』
麦野への手向けのつもりか、はたまた礼儀を尊重する性質なだけか。男の声は呆気に取られた麦野に構わず自らの名を
告げる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:04:31.35 ID:rc/cGNyJ0<>
『――――――シルバークロース。これから死に行くお前が憶えておく必要はないが、一応の義理だ。せめて足掻くのを
諦め、潔く散る事を勧めておく』
重火器を携えた両腕を麦野へ向けて突き出した。
暗く底が見えない砲口が瞬く間に白く輝き、熱線となって麦野に迫る。
「ッ!?」
砲口が光ったと同時に機転を利かせ、自らの迎撃の『原子崩し』をシルバークロース目掛けて発射した。
二人の中心で巨大な力同士は激しく衝突し、その衝撃に耐えられなかった麦野は後方へと大きく飛ばされる。
頑丈な構造の駆動鎧に搭乗しているシルバークロースも、相殺によって生まれた爆圧に躯体を退かされてしまう。
荒れ果てた地形だったのが幸いしたか、栄えた街方面に影響は出なかった。
だが、学園都市の天候や気候状態の管理を司る最新の人工衛星がこの莫大な力の発足を観測していないはずがなかった―――――。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:06:37.38 ID:rc/cGNyJ0<>
―――
浜面仕上と滝壺理后は麦野がシルバークロースの後を追うため外へ出て行った後にまずリビングを離れた。
広間は何もここだけではない。
この隠れ家は元々小規模なスーパーマーケットとして使われていた施設を改良、再利用した場所だ。
あまりに人気のない地域のため閉鎖したらしいが、暗部などの組織からすればかなり好条件の拠点となる。
ちなみに彼女達『新生アイテム』が生活空間として活用していたのは、売り場コーナーから直結している元経営者の別宅であった。
個人名義で経営する店舗ほど有り難いものはない、と言ったところか。
晩を越した経験が無いとは言え、浜面もこの隠れ家については詳しい。従って充分に立ち回れる。
地下には割りとスペースの有る駐車場が存在する。主に運転手を務める浜面専用の場所となっているが、ひとまずそこへ向かおう。
全ては滝壺の発言が元となっていた。
「………囲まれてる」
麦野の姿が見えなくなって一分ほど経過し、不意に滝壺がそう漏らしたのだ。
「囲まれてるって……、あいつの仲間か?」
「多分そうだと思う。……正確な数はわからないけど、結構多い……」
「マジかよ……」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:09:16.59 ID:rc/cGNyJ0<>
何故そこまで滝壺に分かるのか疑問だったが、今はそれについて追究している場合ではない。それぐらいは浜面でも分かる。
(またとんでもない事になってきたな……。麦野も帰ってきて折角また楽しくやれると思った途端にこれかよ。クソ……!!)
歯噛みしている内に、入り口の方から乱雑な音が耳に届いた。どうやら扉を破壊されたらしい。
それから聞こえてくるのは、ドカドカと近づいてくる複数の足音。完全に突入を許してしまった。
このままここに留まるのは自殺行為に繋がる。
「グズグズしてたらやべえな……。とりあえず、ここから離れるぞ。滝壺」
「うん……」
滝壺の手を取り、急いで広間を脱出する。
廊下の奥から近づく足音から少しでも距離を開かなければ。早まって対峙などしようものなら、おそらく飛び道具の嵐により一瞬でゲーム
オーバーだ。
緊張で波打つ鼓動を無理矢理に抑えた浜面は、滝壺の手を引いたまま足早に移動し続けた。勿論、滝壺の歩幅等を考慮した上で。
(間に合うかわからねえが、いちおう警備員に通報しておくか……)
早歩きしつつ携帯電話を取り出す、が……。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:14:15.51 ID:rc/cGNyJ0<>
「――! クソッ……!」
画面右上に表示されている『圏外』の文字。
苦虫を噛み潰したような顔で携帯電話の画面を睨む。
「どうしたの?」
「携帯が使えないみたいだ。これじゃ助けも呼べそうにねぇ……」
「そう……。もしかしたら磁場が狂っているのかも……」
「電波障害ってヤツか……。これもヤツらの仕業だとしたら、抜かりねえな。準備万端かよ畜生……!」
依然、無数の足音が後ろからプレッシャーを掛けてくる。
苦言を吐くよりも、まずはこの状況を打破しなければ。だが、立ち止まって考察するわけにもいかない。
瞬時の的確な判断が生死を分けると言っても過言ではなかった。
「はまづら………」
滝壺が心配そうにコッチを見ていた。
一体どう動けばこの窮地を乗り切れるのか、無い知恵を必死に絞って頭を悩ませる。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:16:07.66 ID:rc/cGNyJ0<>
「!」
そこで思いついたのが駐車場だった。
あそこには自分がこれまでに盗んだ車が幾つかストックされている。元々盗難車だったものを再活用したため、どれも
愛着はない。重ねてこの事態である。多少は派手にやってしまっても問題はないだろう。
手元にある拳銃の弾倉を軽くチェックした浜面は、すぐに決意を固めた。
「コッチだ!」
滝壺を連れ、地下駐車場までの階段を駆け下りる。
流石にコチラの足音も響いているはずなので、追手はそれを頼りに地下まで下りてくることだろう。
それが狙いだった。
「滝壺、お前は先に出口まで行ってるんだ!」
駐車場に着き、即座に車用出口の上り坂を指し示した。当然滝壺はこう尋ねる。
「車を出すんじゃないの?」
「このまま車で逃げても、蜂の巣にされるのがオチだからな……。追手はここで足止めを喰わせるしかねぇ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:20:23.65 ID:rc/cGNyJ0<>
「………どうするの?」
「大丈夫、俺に考えがある。ただかなり危険だから、滝壺は先に地上を目指しててくれ。なぁに、すぐに追いつくさ」
「……………わかった」
浜面の強気な目を見て、滝壺は頷いた。
そしてその場に留まる浜面を残し、一人で出口まで向かい始める。
その際、一度だけ振り返った。
「……けど、絶対に無理はしないで。はまづら」
「ああ、わかってるって」
心配すんな! と頼もしく言う浜面に笑顔を返した滝壺の身体は、徐々に離れていった。
「――――――さぁて……」
後は野となれ山となれ。
追手が来る前にやっておかなければならない事をまずは迅速に済ませておく必要がある。
何かを探すように周囲全体を見回す浜面。やがて、目的の物はすぐ視界に収まった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:22:00.04 ID:rc/cGNyJ0<>
駐車場の隅に、非常用のガソリンが汲まれている一斗缶が消火器と並んで置かれていた。
浜面は迷うことなく一斗缶を手にする。
中身を覗き、ガソリン入りである事を確認した。これで準備は整った。
「………! ……来やがったな」
複数の人間が階段を下りる音が聞こえてきた。
緊張の汗が頬を伝うが、ここまで来たら腹を括るのみ。
そして、タイミングを重ね―――――――手に持っていた一斗缶を前方へ勢いよくブン回し、中身のガソリンを撒き
散らした。
ガソリンが底を尽きたとほぼ同時に、階段口から追手の武装兵が姿を現す。
ドンピシャだ……! 浜面は拳を握った。
すかさず、腰元から拳銃を取り出して構える。
「悪いな……、そっから先は通行止めだ!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:23:55.09 ID:rc/cGNyJ0<>
宣言と発砲。
地面のコンクリートに染み渡った液体が、瞬時に豪火と化して燃え広がる。
いきなりの出火に階段口で立ち往生する追手たち。既に彼らと浜面の間は炎の壁で遮断されていた。
成功に口元を緩める浜面だが、このままここに居たら自分も丸焼きになってしまう。
それどころか、直に起こるであろう車の爆発にも巻き込まれかねない。
と、なれば長居は無用。浜面は燃えさかる炎上網に背を向け、先に行ったはずの滝壺を追う。
「もうすぐここは跡形も無くぶっ飛ぶぞ!! 命が惜しかったらモタモタしてねえで、とっととズラかるんだな!!」
最後に炎の向こう側でパニック状態の追手たちにそう叫びかけ、浜面は走り出した。
まずは外に出て麦野と合流し、遠くへ避難しなければならない。
幸い、上層部は自分達に直接の危害は加えられないはずだ。
ということは、襲撃側は正規に認められた組織ではない可能性が高い。上手くいけば警備員によって一網打尽にできる
かもしれない。
希望を捨てずに走り続け、滝壺の背中を一直線に目指す。
「―――ッ!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:26:09.40 ID:rc/cGNyJ0<>
しかし、この希望は淡く潰えてしまう。
地上へ出た彼らを出迎えたのは外で隠れ待機していた戦闘要員の集団だった。
出口手前で銃器を突きつけられ、両手を上げたまま身動きの取れない滝壺を発見した。
すぐに浜面も取り囲まれ、全ての挙動を封じられてしまう。
『動くなよ。手間を取らせやがって……』
頭部を含む全身を覆い隠すようなスーツを着た一隊の一人が鬱陶しげに吐く。
滝壺に目を配らせながら思考を凝らすも、四方から凶器を突きつけられているこの状況は絶望的とも言える。
建物の反対側から激しい爆音が轟いてくるが、おそらく麦野が暴れているのだろう。
この分では彼女による助けも期待できそうになかった。
(一難去ってまた一難かよ……!)
追い詰められ、まさに絶体絶命の危機。
滝壺だけでも何とか逃がそう。浜面はまた一か八かのギャンブルに身を投じる覚悟を決めるしかなかった。
(全員の注意を俺ひとりに向けさせるしかなさそうだな……)
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:29:21.66 ID:rc/cGNyJ0<>
浜面を取り囲んでいるのは五人、滝壺を取り囲んでいるのもほぼ同数。
したがって、約十人余りの注目を一気に集める必要がある。
そのために思いついた策は、一つだけだった。
(やっぱ……、こいつを派手に撃ちかますっきゃねえか)
腰に差してある拳銃を、適当に乱射するのが一番手っ取り早そうだ。
浜面が必死に抵抗している間に滝壺が逃げられる保障はないが、このまま大人しく殺されるよりかはマシな選択だろう。
滝壺が麦野の所まで上手く逃げてくれれば、それこそ言う事なしだ。
どちらにせよ、浜面が生き長らえる確率は限りなくゼロに近いが……。
(どうせあと十秒後には穴だらけになる……! 無抵抗で終わるくらいなら、精一杯足掻いてやろうじゃねえか!!)
背水の陣。
金縛り状態の手を、ピクリと動かす。僅かに震えているのが分かった。
だが、それも当たり前だ。死を意識して恐怖が掠めない人間などまずいない。
今の心境は、さしずめ処刑用ロープに自ら首を通している場面といったところか。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:33:04.02 ID:rc/cGNyJ0<>
(はまづら……!?)
浜面の異常に気づいた滝壺の顔色が青冷める。何か、とてつもなく重いものを背負っているような……。鬼気迫る印象に背筋が凍った。
言葉ではとても言い表せないような不安感が一気に襲ってくる。
すぐにでも浜面を止めなければならない。頭ではそう思っているのに、口と身体は動いてくれなかった。
やがて隊長らしき兵士が一言、『殺れ』と指示を出した。
「……っ!」
カチ…、カチ…、と連鎖するように鳴る金属音。
射殺の準備を目の当たりにし、いよいよ浜面も覚悟を決める。
心臓の鼓動が騒がしい。脈拍が異常な速度でビートを刻んでいる。
そこへ隊長格のような男が、言い忘れたようにこう告げ落とした。
『恨むなら、第一位を恨め』
(またそれかよ……くそっ、何だってんだ一体……!? ……さっぱり分からねえが、こうなったらとにかくもうヤルしかねぇ!!)
『今度ばかりは死ぬかもしれない』。浜面が辞世の句を読み上げるように悟り、敵の発砲前に手を動かしかけた――――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:39:07.85 ID:rc/cGNyJ0<>
まさにその瞬間だった。
「――――――――な……っ!!?」
驚嘆の声が喉から出た。
浜面を囲んでいた刺客全員が轟音と共に吹き飛んだのだ。
ついでに、その時に発生した風圧で浜面も地面を転がされるハメになった。
何が起きたのかを確認すべく、身体をむくりと起こす浜面が見たのは歩道を突き抜けて横転している一台の軽自動車。
どうやらこれが突然彼らの間を割った正体のようだ。
俄かには信じ難いが、誰かが自分たちの窮地を救うべく軽自動車を敵兵目掛けてブン投げたらしい。
そして、そんな芸当ができる人物は限られている。何より咄嗟にこんな荒業を選択するのは“あいつ”ぐらいのものだ。
道路の中央に見える人影に向かって浜面は叫んだ。
「いつつ……。 ……おい! もうちょっとスマートにやってくれよ! 死ぬかと思ったじゃねえか!」
返事はすぐに返ってきた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:40:21.94 ID:rc/cGNyJ0<>
「そこは超感謝する所でしょう? 助けられた身分で文句言うなんて……人として超終わってますね」
「ったく………っつかお前、今までどこに行ってたんだよ?」
「………超私用です。それよりも―――――」
薄暗い道の奥から姿を見せた絹旗最愛は浜面の苦情にも憮然とした態度だった。
すぐさま滝壺を包囲していた残党が絹旗に銃口を向ける。
しかし、絹旗の能力を持ってすれば銃などは脅威の内に入らない。
「―――――とりあえず、まずは掃除からですね」と一言呟き、演算を再開する。
ためらいもなく放たれた銃弾に怯むこともなく、一気に接近戦へと持ち込んだ。
動揺を隠せない敵兵の内の一人の懐まで難なく詰め寄り、横っ面に拳をぶち込む。
ぶっ飛ばされてビルのガラスを突き破った雑兵になどはもう目もくれず、絹旗は次の獲物に飛び掛かった。
「ひっ……!」と悲鳴を上げる雑兵の頭を鷲掴みにし、パニックに陥ったのか無駄にも関わらず銃を乱射し続けるもう一人
の方へ勢いよく投げ飛ばした。
仲良く激突した雑兵同士は、そのまま二人揃って路上駐車されている中型トラックまで低空飛行した。
トラックからの物凄い破壊音を絹旗はもう見ていない。
最後に残った一人をどう掃除しようか、じりじりと歩み寄りながら思案する。
すると、 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:42:03.26 ID:rc/cGNyJ0<>
「……ありゃ?」
歯をガチガチと鳴らしていたと思ったら、突然地面へと伏し、動かなくなってしまった。
どうやら絶望のあまり失神したらしい。この結末に絹旗は少々呆れたが、それ以上の危害を加える気にもなれず浜面たちの
元へ駆けた。
「とりあえずは終わったか……。サンキューな、絹旗」
「ありがとう」
「超嫌な予感がしたので、慌てて走って来たんですが………良かったです、間に合って……。それにしても一体何があった
んですか? 家の壁とか超エライ事になってますけど……」
胸を撫で下ろしつつ、詳しい事情を求める絹旗。
そして滝壺と浜面から経緯を聞いた途端、黒夜が最後に仄めかした言葉を思い出す。
―――『今夜は荒れそうだ。戸締りはしっかりやっておきな』―――
(そういう事ですか。……………よく分かりました。“これ”があなた達の答えなら………)
「絹旗……?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:43:22.38 ID:rc/cGNyJ0<>
怒りに肩を震わせている模様の絹旗を不思議そうに見つめる両人。
やがて一度深い息を吐いた絹旗は吹っ切れたように目を見開いた。その目は滝壺と浜面をしっかりと捉え、
「……私はこのまま麦野の援護に向かいます。二人は逃走用のアシ(車)を確保してから来てください」
「お、おい絹旗……っ!?」
浜面の返事も聞かずに背を向けて走り出した絹旗。その切迫したような表情は何か裏を感じさせていた。
「……どうしたんだ? あいつ……」
「さあ……。どうする? はまづら」
顔を見合わせて固まる二人だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。
とりあえず絹旗の言う通りに行動するのが無難だ。
幸い、ここいらは時間帯によってはほぼ無法地帯に近くなる。何故なら警備員の巡回ルートから都合よく外れた区域だからだ。
乗り捨てられた車はちょっと裏通りに入ればさほど苦労せず入手できる。もっとも、それも浜面のピッキング技術があっての
賜物だが。
「……よし! んじゃ早いトコ車かっぱらって麦野たちと合流するか。行こう滝壺」
「うん……」
「滝壺……? 大丈夫か? 顔色悪いぞ……」
「大丈夫………行こう」
おそらく急な展開で疲弊したのだろう。早くここから逃亡して休ませた方が良さそうだ。浜面はこの時そう考えていた。
しかし、滝壺の体調が優れない原因はもっと別にあった。すぐにそれを知らされる事になる。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:45:03.46 ID:rc/cGNyJ0<> とりあえず今回はここまでです
次回にはこの無駄に長い回想も終わる予定です
ではその一部を公開します <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:50:00.95 ID:rc/cGNyJ0<>
滝壺「ごほっ………はま……づら………っっ」
浜面「う……そ………だろ……」
――――――――
麦野「こんのクソ野郎がァァあああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
絹旗「……ッッ…」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/07/26(火) 23:51:21.25 ID:rc/cGNyJ0<> 以上です
ではまた次回に
多分また一週間くらい先かも… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/27(水) 10:23:49.18 ID:MOCBhLXF0<> 滝壺おおおおおおおおおおおお!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/27(水) 11:30:45.77 ID:uVsy31/SO<> やっぱりはまづらはやる時にはやる男だな
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/28(木) 01:38:54.70 ID:LjAbUc4v0<> 久々に胸熱展開ktkr
……けど原作未読な俺にはもはやついていけないかも <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/07/29(金) 01:38:56.43 ID:kddZoIFX0<> >>896
サクッと読む人向けではないのは確かだ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/29(金) 01:45:17.31 ID:AGmFMtaSO<> ageんなKs
来たかと思ったじゃねぇか
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/30(土) 19:08:11.60 ID:ZdKvgSJE0<> 展開が決まってるんなら言うことはない
完結までついていくまでよ!!
ただし途中放棄だけはぜったいに許さんぞ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/01(月) 22:57:12.70 ID:ijckwvNb0<> >>896
原作読んでこい <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/02(火) 20:39:51.13 ID:mUKwWCaA0<> 途中放棄はしません
どんなに遅くなっても読む人いなくなっても完結までは続けます
ただし事故が起きたらごめんなさい
では続き <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/02(火) 20:41:59.80 ID:mUKwWCaA0<>
―――
「………っちきしょォ……。一体何なんだよ、テメェ……」
憎々しげに漏らす麦野。
全身の至る箇所に傷を負い、着ているベージュのワンピースは土や埃で酷く汚れ、何ともみすぼらしい姿に変わり果てていた。
右の頬にも痣ができている。文字通り満身創痍だった。
しかしそんな苦戦を強いられても、眼光からは未だ闘志が尽きていないのが確認できる。
活路さえ見出せれば、自分のターンにさえ持ち込めれば、この闘志は爆発的な猛威へと変化することだろう。
麦野とは対称的に無傷の駆動鎧に身を包んだ刺客、シルバークロースはゆっくりと次の攻撃体勢へ移行しだす。
『お前の受けているその苦痛も、全ては第一位が根源だ。死んだ後も呪い続けるがいい』
「くっ……、ワケの分かんねえ偏屈ばかり並べてんじゃねえぞォォ!!!」
威勢良く立ち上がり『原子崩し』を再度発現させる。直線上に打ち抜くのはやめ、死角からの奇襲戦法へ切り替えた。
だが、それでも―――――。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 20:47:23.65 ID:mUKwWCaA0<>
「………っ!」
上下左右からの光線も全く以って効果は見られない。
せいぜいよろめかせるのがやっとだった。擦り傷ひとつ付けられない戦況に、麦野の心は焦りを増すばかり。
(マジでここまでやってノーダメージかよクソッ……! 一体どんな構造で成り立ってんだあの“着ぐるみ”はよォォ!!)
片目、片腕が閃光の如く輝きを増す。まるで今の心境を強く表しているかのように見える。
それは『自身の力で捻じ伏せられない現実に対する憤り』以外の何物でもなかった。
砲撃自体は『原子崩し』での相殺が可能である。
だが、それでは“凌ぐのが精一杯”だと言っているに等しい。
つまり、圧倒的に劣勢だと断言されても反論の余地は無かった。
ここいらで流れを変えなければ、このまま敗北してしまう結末も有り得る。何としてでも避けなければならない結末だ。
超能力者としてのプライド云々より、自分がもし敗れでもしたら残された仲間は果たしてどうなってしまう?
様々な可能性が想像できるが、どれも最悪の未来には違いなかった。
(まずい……。甘く見すぎてた………。まさかここまで厄介な武装で仕掛けて来るたァ思いもよらなかったよ……)
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 20:55:27.92 ID:mUKwWCaA0<>
次第に身体が竦んでくる。
これまでとは比較にならない未知の怪物に翻弄され、心が恐怖に囚われている。
ようやく実感してきた。敵の恐ろしさもそうだが、伊達にあの第一位をターゲットに活動している訳ではないのだと
言うことを……。
だが、しかし。
(このままだと確実に死ぬ……。ならコッチも最大限の力を出して臨んでやる! ………一切の隙も見逃せねぇ)
額の汗を拭い、神経を研ぎ澄ませた。ここからは一つのミスがそのまま死に直結すると考えて間違いはない。
敵の評価を修正する。己の全てを脅かす最大の障害として認めざるを得なかった。
もはや麦野に油断はない。持ち得る演算能力を余すことなく駆使しなければ、おそらくこの壁を打ち破れない。
とは言え、何の考えもなく力任せにぶつかっては分が悪すぎる。悔しいがそれも認めるしかなかった。
攻め一点ではなく、あらゆる方向から観測してみる。
(何か、あの装甲の弱点……いや、少しでもコッチの有利に働くような条件があれば……!)
じりじりと迫るシルバークロース。
微動だにしない麦野を見て諦めたと判断したのか、右腕の砲口を静かに構えた。
そして、静かに語り掛ける。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 20:58:58.51 ID:mUKwWCaA0<>
『言い残すことはあるか?』
「…………」
どうやら思っていた通りらしい。
この男は麦野沈利という女の底を見誤っている。
大方『超能力者』は自分の“力”に絶対の自信を持ち、その“力”が完膚なきまでに打ち崩されたら脆弱に為り下がって
しまう人種だと認識していたのだろう。
確かにそれは完全に否定できない。
現に『超能力』という武器がなくなれば、彼女は只の“少女”でしかない。
絶対の防御策を講じて臨んだシルバークロースが勝ちを疑わないのは、そういう事だった。
麦野の信頼して止まない『原子崩し』という名の凶器。
これに耐えるだけの防御力と、息の根を止める手段さえ用意できれば超能力者など恐るるに足らず。最終目標となっている
一方通行も結局はそうする事で苦労せずとも討ち取れる。
この“第四位である麦野沈利”との一戦は、言わば前哨戦だ。
数ある駆動鎧のコレクションから最も防御性に優れたものを選んだのだ。それも最新の技術を駆使し造られた中の一体。
失敗など許されようものか。
熱線だろうが超電磁砲だろうが、この装甲の前では無力と化す。ここまでの過程で充分すぎるほど誇張された。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:06:34.30 ID:mUKwWCaA0<>
(なめやがって……! その余裕に満ちた汚え鉄仮面引っぺがして、私を見縊ったことを後悔させてやらなきゃ
収まりつきそうにないわ。……見てやがれ。アンタのその油断を有効に生かしてやるよ)
超能力者(レベル5)第四位を圧倒している現実。
ここまで滞りない状況では、“驕り”が生まれても不思議ではない。
『…………無いのなら、終わらせてもらうぞ』
あくまで麦野が勝手に推測しているだけだが、勘は決して鈍い方ではないと自負している。
相手の精神観測、それも憶測。
確率で言えば低い数字かもしれないが、このまま訳の分からない新型に打ちのめされるくらいなら賭けも悪くない。
麦野はそう決心し、細めていた目を見開いた。
更に輝きを失っていた片腕と片目が再度強烈な閃光を見舞う。
まるで、劣勢の麦野自身を鼓舞するかのように。
『……っ! まだ余力を残していたか』
鬱陶しそうな口調で吐き捨てる。
当然ながら閃光で目が眩むなどという事はない。
よって、光でコチラの視力を封じ、その隙に一先ず退却すると言った方法は通用しないのだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:14:42.14 ID:mUKwWCaA0<>
しかし、麦野は逃げる素振りを見せない。
夜の闇に反映するまばゆい光の中、麦野は静かに逆転の糸口を探す。
あの装甲は、自分の力を持ってしても壊せない。
ならどうする? 威力をこれ以上増加させる手立てもない今、依然詰んでいる状況に変わりはない。
せめて、自分の攻撃の通る部位が針の穴ほどでもあれば………。
「――――!」
違う角度から考えてみると案外すぐに道が開けたのはよくある話だが、まさか今ここでそれを実感するとは思いもしなかった。
(ったく………馬鹿か私はよぉ……。“根本的な本質”ってのを今の今まですっかり忘れてたわ……)
頭を抱えて己を罵倒したい所だったが、とりあえず後に回しておこう。
何にせよ、成功するかどうかはやってみなければ何とも言えない。。
『ふん。足掻くだけ無駄なのが分からないのなら、分からないまま死ねば良い』
麦野の胸の内など知る由もないシルバークロースは、あくまで使命を全うすべく発光した麦野に照準を定める。
あとはこのまま撃つだけだ。それで最大の難所は突破した形になる。
リーダーを片付けた後の組織など、はっきり言ってどうにでもなるのだ。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:20:16.29 ID:mUKwWCaA0<>
だが、とどめが何故だか寸断された。
麦野の様子が奇妙に見えたからだ。とてもこれから死ぬ人間の顔とは思えなかった。
希望に輝く彼女の瞳はシルバークロースに一瞬だけ疑念を持たせた。そして、その一瞬こそが勝負の合図となった。
『ッ……!?』
異変を感知したシルバークロース。だがもう遅かった。
麦野は悪魔のように顔を歪め、纏っていた光を分散させた。
綿密に操作された発光物質は飛行機雲みたいに線を残し、シルバークロースの周辺を飛び回る。
やがて――――。
「くたばれこのガラクタ野郎ッッ!!!」
麦野の叫びが合図とばかりに発光物質が牙を剥いた。
散り散りとなっていた光がいっせいに目に見えない速さで滑空し、駆動鎧を集中砲火する。
これだけなら先に試行済みだったため、普通ならシルバークロースのように『また無駄なことを……』と思うだろう。
が、麦野には明確な考えがあった。
元々彼女の『原子崩し』は慎重な照準設定を要求される繊細な力だ。絶大な力を扱うからこそ、これを疎かにすれば能力者
自身もただでは済まない。そのリスクの程度は以前、麦野本人も直に味わっている。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:22:51.83 ID:mUKwWCaA0<>
即ち、“狙う位置”は撃つ前から必ず定められている事になる。
“何処が弱点なのか”が断定出来ていれば、勝率は嘘みたいに跳ね上がるのだ。
そう、麦野は気づいた。
シルバークロースが乗る駆動鎧の弱点部位に――――。
『…………ッ!!?』
全ての光線を装甲で弾き、辺りがまた闇に包まれた瞬間。
そこで自らの非常事態にようやく気づいた。
『何を……した?』
奮起しそうになるのをギリギリで堪えているかのような問い掛けだった。
麦野はさっきまでとは打って変わった笑顔で親切に答える。
「テメェで考えな」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:25:44.31 ID:mUKwWCaA0<>
天使のような愛嬌と悪魔のような残酷さが込められた回答の直後に放たれた追撃の光線を浴び、シルバークロースの操縦する
駆動鎧は無抵抗に宙を舞った。
十数メートル後方に背中から着地し、それから起き上がる様子は見られない。
すっきりしたように微笑んだ麦野は機動しなくなった駆動鎧へとにじり寄る。
今の攻撃は戦況を完全に引っくり返すきっかけの意味であり、決して息の根を止めるつもりで撃ったわけではない。
麦野の計算通り、シルバークロースは絶命していなかった。仰向けに倒れた駆動鎧から降りる事もできずに呻き声を上げている。
その声が今の麦野には何とも心地の良い旋律だった。やっぱり借りは熨斗をつけて返すに限る。
「さぁーて」
テクテクと暢気に傍までやって来た麦野が楽しげに話す。
「どう盛り付けてやろうかしら? ずいぶん手間ァ取らせてくれちゃったしねぇ……。よし。とりあえず、アンタらのボスについて
洗いざらい喋ってもらおうかにゃーん」
『…………』
意識を失っていないのは分かっている。つまり彼が何も発さないのは只の黙秘だ。
もちろんそんな選択を麦野が許すはずもない。
「おい、聞こえてんだろう? 状況認識能力まで吹っ飛ばした覚えはねえぞ? さっさと吐いた方がアンタのためだと思うけど?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:30:49.37 ID:mUKwWCaA0<>
少し声が荒々しくなる。大抵の男ならその迫力に慄き、思わず口を割ってもおかしくはないのだが、シルバークロースは首を逸らした
だけだった。
そして、逆に質問を返した。
『……何故……だ……?』
「ぷっ、おいおい。まだ気づいてねえのかよ? テメェが扱う兵器の欠点ぐらい、熟知しとくのが普通だろうが」
『………欠点だと? ………まさか……ッ!』
「お、ようやくわかったみたいね……。基本、駆動鎧ってのは非力な人間のパラメーターを補うための代物。中で操るヤツが強化され
たワケじゃない……。つまり、脅威なのはその“衣”だけさ。そいつの機能さえ止めちまえば、ガラクタ処理場送りは避けられないのよ」
「どれだけ全身の防衛機能が高性能だろうが、駆動鎧に限らず絶対に“脆い箇所”ってのが存在する。どこかはもう気づいてんだろ?」
『………ッ』
そう、麦野が目を付けたのは駆動鎧の『搭乗口』。
複数のレーザーはあくまでカモフラージュ用で、狙い澄ませていたのはそこだけだった。
「下手に他の部位と同等の頑丈設計にしちまえば、緊急脱出みたいな乗降時に不具合が生じる。ましてそこだけは重要な回路が密集
しまくってるから、迂闊に耐久度を変更させるわけにもいかない……。改善がまだだったみたいで、コッチは命拾いしたけどね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:34:52.59 ID:mUKwWCaA0<>
本当に賭けだった。
麦野の知識はあくまでも今の旧型に属する駆動鎧も含む兵器関連のものでしかない。最新式を操る彼相手にこの知識が通用するかは
正直言って怪しかったのだ。
それだけに内心かなりヒヤヒヤしたが、どうやら運は麦野の味方をしてくれたらしい。
やはりこの欠陥を改善するだけの技術を学園都市はまだ持っていなかったようだ。
「駆動鎧の搭乗箇所は種別関係なく統一されてるはずだから、カモフラージュ塗料も無意味だったって事。納得できたかにゃーん?」
『…………ッ…』
シルバークロースは何も答えない。
己の乗る駆動鎧は完璧だと信じていた。その自信は、超能力者とも正面から相対できる程に大きかった。
故に、覆された時の喪失感も尋常ではない。
所詮、完璧な武器や兵器などは存在し得ないのだ。
“人が作ったものには、必ずどこかに欠陥が発生する”。これは正にその一例である。
「さ、種明かしはこれでお終い。今度はそっちが自供する番よ。まぁ、拒否するってんなら楽しい拷問タイムに移行するまでだけど」
麦野が嬉しそうに指の骨をニ〜三度鳴らしたその時だった。
「…………ん?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:37:43.65 ID:mUKwWCaA0<>
複数の異様な気配を感じて振り返ると、どこか腰の引けたように見える男が六〜七人ほど麦野に銃を向けて立っていた。
おそらく、たった今討ち負かしたばかりであるこの男の部下だろう。
適当に推測し、明らかに雑魚同然の彼らを威圧した。
一目で彼らの自分に対する“恐怖”の度合いが識別できた以上、わざわざ手を下してやる必要もない。
事実、麦野が少し威嚇しただけで部下は全員小さな悲鳴を漏らし、本能で後退していく。
絶対の脅威に己を奮い立たせるその姿勢は立派だったが、内心の怯えまではやはり隠せないようだ。
何だか憐れにも思えてきたせいか、彼らまで殺そうという気にはなれなかった。
口を割らないシルバークロースは一旦後に回し、この恐怖に引き攣った残存兵共からまずは聴取に入ろうと思いつく。
殺気を解除し、穏やかな振る舞いで彼らに声を掛けようとした瞬間―――――。
「―――――麦野っっ!!!」
聞きなれた声が残兵のすぐ後ろから響いてきた。
当然、全員がその方向へ首を向ける。
「そこにいると超危険ですから、何とか自分で超避けてください!!」
その次に彼らの視界に映ったのは、斜め上空からこちらに放物線を描いて飛んでくる三トントラックだった。
「んなあああっっ!!!!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:41:00.65 ID:mUKwWCaA0<>
トラックは容赦なく残兵達の居た地点を抉るように着地した。
この衝撃に残兵全員が事故による被害検証の実験などに使用される人形のように弾け飛び、巻き添えを逃れた麦野も土煙をもろに
浴びる。
誰がこんな豪快な真似をしたのか確認するまでもなく麦野は絶叫する。
「き、絹旗ぁあああ!!! いきなり何してくれてんだぁあ!? 危ねえだろうがこのボケ!!」
怒鳴った先にはまだあどけなさの残る少女の姿があった。
少女こと絹旗最愛はご立腹の麦野に慌てた口調で取り繕う。
「ち、超失礼しました……。麦野のピンチかと早とちりしちゃって、つい……」
「こんな雑魚相手にこの私が追い詰められるワケねーっつの。っつか、危うく私まで巻き添え喰うトコだったんですけど?」
「ごめんなさい。てへへ……。だ、だから超警告したじゃないですか!」
「遅すぎんだよ! フツー投げる前に言うモンだろ! ったく……」
こういったハプニングは不本意ながら慣れているせいか怒りはすぐに収まり、懈怠な笑みを浮かべて絹旗と向かい合う麦野。
「その調子だと超大丈夫そうですね。わざわざ私が加勢するまでも無かったですか……。あー、超残念」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:43:29.43 ID:mUKwWCaA0<>
「当然よ。私を誰だと思ってんの? こんな使い回しに苦戦するワケないでしょーが」
「……服、超汚れてますけど?」
「ゆ、油断したのよ! ほんのちょろーっとだけね! ……それより、浜面たちは見なかった? あいつらのトコにも追手が
行ったのを見たのよ。無事だと良いけど……」
「それなら超心配要りません。直にコッチへ来ると思いますよ。アシの確保もちゃーんと頼んでおきましたから」
「さっすが♪ ……じゃあ、合流したら早いトコ移動しましょ。増援とか来たら面倒だし」
浜面と滝壺の無事を知り、ひとまず麦野は安堵の息を吐いた。
あとは浜面が入手した車が見えるまで待機するだけだが、目立つ場所にいて残党に見つかり、応援でも呼ばれたら厄介だ。
そのため、もう少し落ち着ける場所までとりあえずは歩くことにした。
その間に互いの情報を軽く世間話でもするように交換するが、結局絹旗はここでも事実を伝えられなかった。
黒夜の件に関しては自分の手で解決しなければならない問題だと気負っていたからだ。
どちらにせよ、長い話は安全な場所に着いてからでないとできそうにない。
現在地から最も離れた地区に所在するアイテム専用隠れ家まで移動するにも、浜面と滝壺が来ないことには始まらないのだ。
しかし、荒地を出た次の瞬間――――。
『逃がすか……!』
「――――!?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:47:19.06 ID:mUKwWCaA0<>
―――
逃走用の車は問題なく入手できた。
燃料は少し心許ないが、この際贅沢は言っていられない。
乗り捨てられた軽ワゴン車の運転席に乗り込んだ浜面は、すぐさま麦野や絹旗との合流を果たそうと車を動かした。
助手席に座っている滝壺の横顔をチラ見する。
「大丈夫か? 滝壺……」
明らかに顔色が悪い。以前の『体晶』による悪影響ほどではないが、相当辛そうだ。
額に汗を滲ませた滝壺は、それでも気丈に答える。
「平気……。少し疲れただけだから……」
無理をしているのが一目で判った。一体どうして滝壺がここまで苦しんでいるのか、浜面は考えたくない可能性を挙げる。
「……まさか、何らかの副作用が今もまだ働いてるのか? それとも、まだ完全には……」
治っていなかったのか? と、浜面は繋げようとするが、滝壺がそれを遮るように声を発した。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:51:30.66 ID:mUKwWCaA0<>
「ううん、ちがう……。多分」
「じゃあ何で……」
「わからない……。けど、変だと感じたのは、大勢の信号を感知した辺りから……だったと思う」
「感知って……。お前の能力でか?」
「うん……。おかしいとは思った………。AIM拡散力場が人数分観測できるのは不思議じゃない。………だけど、それに
しては平等すぎる……」
「平等……?」
「磁場の大きさや………強度は………普通は一人一人、違うもの………」
息苦しそうに途切れ気味で話す滝壺の姿は、まるでうわ言を喋っているかのようだった。顔色もさっきより蒼白に近づいており、
症状も回復どころか寧ろ時間が経つにつれて悪化してきている。
あまり無理に喋らせるのはまずい。
「滝壺、もういい! 無理させて悪かった……! 麦野たちを乗せたらすぐ病院に連れてくから、それまで安静にしてろ……」
次第に呼吸も荒くなってきた滝壺に不安を感じた浜面は強制ストップを掛け、車の速度を上げる。
滝壺の話していた内容と体調不良に陥った原因が気に掛かるが、そんなこと今は後回しだ。
急いで麦野と絹旗を回収しなければならない理由がすぐ隣りにあった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:54:06.00 ID:mUKwWCaA0<>
「―――――いた!」
麦野と絹旗。馴染みのある後姿が約四十メートル先に映った。
「………ん?」
だが、あちらも何やら妙な雰囲気だ。ここからでははっきりと分からないが、まだ交戦中なのだろうか。
やや遠い位置に車を停めた浜面は、そこから降りて確認しに行こうと決意する。
もちろん、こんな状態の滝壺は連れていけない。
「ちょっとあいつら迎えに行ってくる。すぐに戻るから、ここで待っててくれな」
安心させる口調でそう伝え、車を降りた。滝壺からの返事はなかったが、代わりに虚ろな目で浜面を見上げてきた。
そんな彼女に、「大丈夫だ。無茶はしねえから、絶対そこから動くなよ?」と言い残し、ドアを閉めて駆け出す。
距離が近づくにつれて彼女達の現状が見えてきた。麦野、絹旗の正面に対峙していたのは紛れもなく家の壁を破って
特攻してきた強力そうな駆動鎧だ。しかし、麦野にやられたのか強固に見える装甲は鍍金が剥がれており、頭部には
痛々しい損傷が入っている。はっきり言って、まだ動くのかが疑わしい印象だった。
懐から拳銃を取り出し、安全装置を解除し、浜面は足を速めた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 21:58:25.35 ID:mUKwWCaA0<>
―――
「ちっ、テメェ……。まだ動けたのかよ」
振り向いた先にいたくたばり損ないを恨めしそうに睨む麦野。絹旗も怪訝な顔を浮かべ、ガラクタ同然の鎧を纏った
シルバークロースを凝視する。
『生憎、旧世代とは造りが違うのだ。……回路を絶たれても、最低限の動作機能は保障できる』
そう言いながら重そうな上腕を掲げてみせるが、俊敏性度は期待できそうにない動きだ。
この有り様でも尚、彼女らの障害物として振舞おうとしているこの男はよっぽどの負けず嫌いか上への忠誠心が強いか
のどちらかだろう。
「はん、要は動くのがやっとってトコでしょ? そんなザマでまだ立ち向かってくるとはいい度胸ねぇ。そんじゃ遠慮
なくトドメ刺してやるわ」
麦野の目が再び戦闘色に染まっていく。
絹旗も臨戦態勢を取るが、麦野の迫力を目の当たりにして『自分の出る幕はなさそうだ』と悟った。
しかし、シルバークロースもただ楽になるために彼女らを引き止めたわけではない。
鎧の下に隠した不気味な薄ら笑いに、二人が気づくことはなかった。
やむなく訪れる地獄の挽歌を想像し、シルバークロースはほくそ笑む。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage sagaa<>2011/08/02(火) 22:00:43.82 ID:mUKwWCaA0<>
確かに直接装着していた銃火器は使い物にならなくなってしまった。
だが、実装されていない他の武器なら使用可能だ。ただ引き金を弾くだけで済むのだから。
隠し場所は使用不能になったアーム砲口の中。相手は丸腰だと信じきっている所に隙がある。
銃撃の通用しない絹旗が後手に回るのも、計算通りだった。
ゆっくりと戦鬼と化した麦野がにじり寄ってくる。両者の距離は僅か七メートル。
あと一歩でも近づいてくれれば、絶好の立ち位置だ。不意も突ける上、まず回避は不可能なはずである。
勝負の瞬間を逃しはしない。そう意気込むシルバークロースは、浮いた麦野の右足が地を踏むのを待った。
今が好機――――。
『―――ッ!!』
油断しきった麦野に引導を渡すべく、シルバークロースが左腕を右腕のアーム砲口へ伸ばした。
あとは躊躇せずに抜き取ったライフル銃で良い位置に立ってくれている第四位を撃ち抜くだけだ。
が、形勢逆転を確信したのも束の間――――。
『がァ……ッ!!?』
どこからか飛んできた弾丸に取り出したライフル銃が命中し、駆動鎧の手を離れて回転しながら宙を彷徨っていった。
数メートル後ろでガラン! と銃の落下した音が響く。
この突然の出来事にシルバークロースはもちろん、麦野も絹旗も目を丸くした。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage sagaa<>2011/08/02(火) 22:05:17.44 ID:mUKwWCaA0<>
「うおお、すげえ……。咄嗟に撃っちまったけどちゃんと当たった……」
彼女たちの背後にまで接近していた救世主、浜面本人も驚いていた。
すぐさま身体を反転させた麦野が喚き散らす。
「浜面ぁぁ!! テメェ人の獲物に手ぇ出すとはどういう了見だコラ!!」
「えええ!? そう来た!? ひでぇ……。無我夢中だったのに……。まぁ、確かに『キャー、浜面様! かっこいい!
助けてくれてありがとー♪』ってなるのを期待した俺も心底どうかと思うけどさ……」
予想通りの対応とは言え、やはりショックだったのか肩を落とす。
そしてそんな浜面にかまけることなく計画の狂ったシルバークロースへ鉄槌を振り下ろした。
渾身の『原子崩し』という鉄槌を――――。
「――――あぁん? 滝壺の様子がおかしい、だぁ?」
「そうなんだ。結構ヤバそうだし、すぐ病院に連れて行かないと……」
「第七学区の病院まで距離ありますよ。……いったん近場の医療所まで行きますか」
浜面は絹旗と麦野に経緯を説明し、これからの行き先について論議していた。ちなみに十数メートル先には煙を噴かした駆動鎧
が横たわっているが、動く気配はもう見られなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage sagaa<>2011/08/02(火) 22:08:48.81 ID:mUKwWCaA0<>
「……あんまり立ち話もしてらんねえな。すぐに移動しよう。滝壺も心配だし、増援が来るかもしれねぇ」
「そうね。……っつーか、何急に仕切ってんだよ浜面」
「そうですよ。いくら非常事態だからって格好つけすぎです。超キモイ」
「すいませんさっきはホント調子に乗りすぎました。だからもうそろそろ許してくれてもいいんじゃないですかねぇ?」
三人が足を車の方角へ向けた時、スクラップと化した駆動鎧の眼がギロリと光った。その眼は立ち去る寸前の少年と少女の姿を
しっかりと捉えていた。が、流石に破損が酷く、立ち上がることすら適いそうもない。
それでも微かだが、腕の機能はまだ動作可能だった。更にすぐ傍には、先ほど弾かれたライフル銃が運命の悪戯とばかりに都合
良く落ちている。
メキメキと軋む上腕を動かし、銃を拾う。
当然、この軋み音に気づいた三人は愕然とした顔でこちらを向いた。
「ホント、しぶてえ野郎だな……。こりゃあ流石に呆れるしかないわね」
「超同感です……。見苦しいにも程がありますね」
『原子崩し』を悉く受けても尚、全機能を失っていない。これには麦野も敵の防御性能を認めるしかなかった。
だが、同時にうんざりもする。もう二度と起き上がってこないように、最後の一撃を見舞ってやろうと手を翳す。
しかし。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:11:21.95 ID:mUKwWCaA0<>
「―――ッ!? ………やば……」
その翳した手は、自らの額へと伸ばされた。そのまま痛みの走る頭を押さえて蹲る。
「え……? 麦野!?」
慌てて駆け寄る浜面と絹旗。
能力酷使による反動か。急激な演算を多用したために、とうとう彼女の脳が悲鳴を上げたらしい。
突然の頭痛により眩暈を起こし、シルバークロースに最後の一撃を放てなくなった麦野。
未だ治まる気配を見せない激痛に、呻き苦しむ。
「ぐううう……!! 今頃……かよ、ちきしょおおお………ッッ!!」
『……………はは』
生き残るために神様が授けてくれた、最大の隙。
思わぬ所で起死回生の場面に遭遇し、シルバークロースは声高らかに爆笑した。
『ふは……ふはは………! はぁーーーはっはっはっはっはっははははははははは!!! 詰めが甘かったな原子崩しァァ!!』
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:12:34.26 ID:mUKwWCaA0<>
彼の恐ろしい形相は鋼鉄の面に隠れていて直視できないが、その狂喜に満ちた心は離れた位置からでも確認できた。
そして、ためらう事なくライフル銃は頭を押さえたままの麦野へ向けられる。
「くそっ……たれが……ァァああ!!」
額に汗を浮かべながら敵の挙動を見据える事しかできない麦野は、奥歯を強く噛み締めた。
演算どころではなく、激しい頭痛が治まらない内には回避行動もとれない。認めたくはないが、万事休すだ。
だが、霞んで映っていたスクラップ寸前の駆動鎧が大きな背中によって塞がれた。
「―――――!?」
『浜面仕上……』
屈んだままの麦野を庇う形で立ち、駆動鎧と正面から向き合う男、浜面仕上。
シルバークロースはこの展開に一瞬だけ動揺したが、襲撃直前に交わした黒夜との通信を再度思い返す。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:13:55.07 ID:mUKwWCaA0<>
〜〜〜
『浜面仕上だけを生かすというのは、逆に厳しい条件だな……』
「そこんトコを上手くやるのがアンタの仕事だ。シルバークロース」
『まとめて一掃できればもっと簡単に済むんだが……。それならわざわざ戦闘に入らずとも爆弾一つで足りるぞ』
「文句言うな。……上層部に第一位の抹殺を黙認させるには浜面仕上が必要なんだよ」
『頭の堅い派閥か……。しかし黒夜。それでは第四位を殺すのも認められないのではないか?』
「バレなきゃ問題ないさ。アンタら実行部隊が証拠さえ残さなければ、な」
『そんなヘマはしないさ……』
「まぁ、いずれはウチらの存在も上から規制が掛かるだろうな。……だがその前に何とかして私が“接点”を作る。
馬鹿なゴミ集団から“ガキ”も回収できたしなぁ。下準備は完成ってワケよ」
『そうか……。さて、そろそろ任務遂行の時間だ。これで―――――』
「あ、おい待て。……ひとつ重要な事を伝えておくよ」
『……なんだ? 黒夜』
「もし余裕があったら、あるいは追い込まれるような事があった時は……………浜面仕上を狙え」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:16:38.58 ID:mUKwWCaA0<>
『……。 どういう意味だ? 先ほどはしきりに“殺すな”と言っていたな?』
「もちろん殺さないように急所だけは外すんだ。できるよな?」
『容易い。が、意図が見えん……』
「全部話すには時間が足りない。そうだな……、敢えて言うなら“第一位への憎悪をより深くさせるための隠し
スパイス”ってトコか」
『…………?』
〜〜〜
今の今まで失念していた。
目の前で麦野沈利を庇うように勇ましく立ち塞がる浜面。
ここで彼を撃てば何かが変わるのか。シルバークロースが追究する前に通信は遮断されたのだった。
ただの悪あがきにしかならない行為から生まれた絶好の好機。
自身の存亡のためにも、この機会は是が非にも生かしたい。
そして、そのためには恰好の的となっている少年を絶命させるわけにもいかない。
シルバークロースは迷った。
それは本当に一瞬の時間だったが、彼にとっては長い葛藤の末に残った忠義心である。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:18:18.89 ID:mUKwWCaA0<>
ライフルの引き金を握る指に、機械混じりの力が込められる。
照準を二つの目でしっかりと定める。
「―――! ―――!」
前衛に立つ浜面の背後で、少女たちが喚いている。
その口から発せられる言葉はやれ『何してんだ』だの『馬鹿』だの『危険だから退け』だの……。
しかし浜面の表情は何とも不思議なもので、今すぐにでも逃げ出してしまいそうなほど引き攣っているというのに、
自然と退く意思が全く感じられないのだ。
まるで、臆病な自分を必死で奮い立たせているような……そんな印象に近い。
けれども彼は逃げない。何故かそう確信できる雰囲気を感じた。
幸いにも浜面はそこから動こうとしない。
それもそうだ。麦野が真後ろにいる以上、庇う立場の浜面が動けないのは何らおかしくない。
慎重な狙撃が要求されるシルバークロースとしては好都合でしかなかった。
すでに照準も合わせた。あとは引き金を弾けばいい。
鉄仮面に隠された口まわりがニヤリと歪み、彼は詳細不明の最終段階任務を実行する。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:20:23.56 ID:mUKwWCaA0<>
パァン! と、ライフル銃から乾いた唸りが聞こえた。
浜面はその時、本当に死を覚悟していたのだ。
仲間の盾でもいい。この命が何かの役に立つなら、大切な仲間のために活きるのなら。
震える体に根性を据え、この場に立った。
後悔は、なかった――――――。
―――――――――はずなのに………。
「!!!!!!!」
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どうしてこんな結末が用意されていたのだろう。
日が経つにつれて、その気持ちは破裂してしまうほどに膨らみを増していった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:22:53.73 ID:mUKwWCaA0<>
「ごほっ………はま……づら………っっ」
気づいた時には、そんな掠れ声が耳に入っていた。
自分はまだ生きているどころか、何の痛みもない。
そう感じる前に、起きてしまった現実を直視した浜面の頭は、文字通り真っ白になった。
目に映ったもの全てが信じられなかった。
「う……そ………だろ……」
もはや喋ったというより、食べ物をうっかり零してしまうのと同様でただ声を漏らしただけだった。
彼の頭は、もうこの時すでに働きを失っていたのだから。
「こんのクソ野郎がァァあああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
現実を受け入れられない浜面の背後から聞こえた甲高い怒声。
頭痛など忘却の彼方へと葬り去った麦野が猛り狂った声を上げながら、正面の駆動鎧へ突撃していく。
凄まじい殺意と怒りだけが横を通過した後に空気となり、自失状態の浜面をゆっくりと正気に戻していった。
「……ッッ…」
更に背後で一連を目の当たりにした絹旗は、この非情な結末に言葉を失っていた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:27:03.40 ID:mUKwWCaA0<>
「――――――ゥゥゥううああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
自分と駆動鎧の間……いや、浜面のすぐ前に立っていた少女、滝壺理后。
振り返った彼女はニコッと微笑んだ。まるで、浜面の命が失われずに済んだのを喜ぶように……。
腹部が赤く染まっていた。
その染みは、憎いことにみるみる拡大していく。
傷口からは、砂漠で稀に出現する湧き水のような勢いで出血しているのが分かった。
滝壺の顔が、色を無くしていく――――――。
最後まで笑顔を貫き、滝壺はその場に力なく倒れ伏した――――――。
そんな現実を必死で拒絶するように、浜面は倒れた滝壺の身体を抱き締め、ただ絶叫した――――――。
――――――彼の叫びは、もう彼女の耳に届いてくれなかった。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:29:32.91 ID:mUKwWCaA0<> ここまでです
次からまた時間軸は回帰します
その一部は下記になります <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:37:08.89 ID:mUKwWCaA0<>
??「……今日もらしくねえ面してんな。不本意だが、見慣れちまったよ」
浜面「………すまねぇ」
―――――――
絹旗「あの超クソ女には怪我をした仲間の前で千回土下座させます。床に頭を擦らせて泣きながら贖罪させます。額が磨り減って
骨が見えるまで許してやるつもりはありません」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/02(火) 22:39:39.94 ID:mUKwWCaA0<> 次回、ついにあの方登場です
ではまた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/02(火) 23:01:49.56 ID:FyGHLhNDO<> あの方って半z <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/02(火) 23:23:45.12 ID:O8+3ky5SO<> やべえここの絹旗さん最高
罵倒系色が強い
踏まれたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/03(水) 01:23:50.33 ID:bAkzP8JO0<> 乙!
半zさんもついにお世話シリーズ出演か…
フレメアがどう出てくるのかが気になる
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/03(水) 11:16:47.86 ID:eCsNJjE1o<> 能力的な洗脳が見られないなら本当にアイテムがアホの子集団になるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/04(木) 01:26:33.20 ID:T29BfGf70<> アイテムって皆どっかしらおかしいもんな
ただし浜面がアホなのは周知の事実 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/06(土) 02:16:44.75 ID:B5kh6Rb/0<> 一方さんと番外さんのイチャイチャまだー? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2011/08/16(火) 16:21:45.52 ID:a/e7m82AO<> 早く絹旗の罵倒を拝みたいです! <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/16(火) 21:52:22.17 ID:rSukkoHc0<> 先週来れなくてごめんなさい
今から投下開始します
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 21:54:44.60 ID:rSukkoHc0<>
〜〜〜〜〜
目の前で、本当にすぐ目の前で大切な人間が鮮血に塗れていった。
手を伸ばせばすぐに届く距離だったのに………何故、彼女を護れなかった?
―――――――。
視界が、世界が、その瞬間からまるでここまで築いてきた人生を否定するかのように光を失った。
目を背けたいのに、できない。脳に深く焼き付いていて離れない。
偽りや幻想であることを強く望んでも、運命は許してくれない。
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/16(火) 21:56:26.27 ID:rSukkoHc0<>
そこから先はよく覚えていなかった。記憶の一部が欠け落ちてしまったかのような感覚を味わいながら、か細い呼吸を
繰り返している滝壺の身体を抱きしめて、何度も何度も叫んでいたらしい。
必死に止血を試みたが、それを嘲笑うかのように血の流れは激しく、ただ彼女の意識を繋ぎ止めるべく呼び掛けること
しかできなかった。
前方で凄まじい轟音が鳴り響いた。完全にブチ切れた麦野の罵声も一緒に。
しかし、そちらに気を向けている余裕は無かった。
絹旗がいち早く冷静に応急処置を施した後、とにかく夢中で車を飛ばした。救急車が間に合うとは到底思えなかった。
一刻を争う事態なのは誰しもが理解できる。悠長に救急車の到着を待っている猶予すら厳しい状態の滝壺を乗せた車は
夜の学園都市を爆走した。後部座席で横たわる滝壺の血色は死人に近く、刻一刻と命を削られているのが判る。
そんな危険な状態の滝壺を、迅速に暴れ終えた麦野と絹旗が懸命に看護してくれている。
チラチラとその様子を確認しつつ、浜面はただ『間に合ってくれ!』とだけ願い続けた。
ハンドルを握る手に力がこもる。小刻みな震えが治まらない。思考回路が正常に働いていない。
悪条件ばかりが重なる中、アクセルを強く踏み続けながら、浜面は彼女の息が途絶えてしまわないよう祈った。
助けを求めた先は、唯一道順を知っている過去に何度か世話にもなったあの『冥土帰し』の勤めている病院。
今も時折思うが、あんな精神状態で良くまともに辿り着けたものだ。火事場の馬鹿力というのはつくづく凄い。
手術自体は、無事に成功した。
腹部に受けた傷も冥土帰しが綺麗に塞いでくれた。輸血も支障なく施され、彼女の身体に残っていた弾も摘出され、
何とか峠は越えたとのことだ。
手放しで喜んだのを憶えている。頑張ってこの世に留まり続けてくれた彼女に胸を撫で下ろしながら、ひたすら労いの
言葉を送った。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 21:57:47.60 ID:rSukkoHc0<>
だが、次に外科医から告げられた言葉が束の間の喜びであることを諭してくれた。
『経過を見ないと何とも言えないが、いつ目を覚ましてもおかしくない』
最初はそれを聞いて呑気に安堵したものだ。
早く意識を戻した彼女とお喋りがしたい。あの無関心そうな顔と声で、名前を呼ばれたい。
そんな願望を胸に抱えながら日々を過ごす内に、安心感がじわじわと薄れ始めていった。
『滝壺は……いつになったら目覚めるんですか!?』
我慢しきれず、医者にそう詰め寄るのも無理はなかった。二日、三日過ぎても―――――彼女は目を開けてくれない
のだから。
すぐにでも起きてきそうなほど安らかな寝顔。
浜面もよく知っているいつもの寝顔。
肌の色も点滴のおかげで明るみが戻っている。閉じられた瞼がいつ開いても確かにおかしくはないはずなのに……。
麦野も絹旗も、浜面同様に剣呑な面持ちで医者の答えを待っていた。
そして、浜面は聞かなければまだ楽だったのかもしれないと後悔した。
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/16(火) 22:00:02.07 ID:rSukkoHc0<>
『………原因はまだ確定ではないが、脳波が異様に乱れたままだ。おそらく出血性ショックによる影響かもしれない』
言葉を失った。
病院側は原因を追究するため、彼女を検査すると約束した。
しかし、不安定な脳波以外は全て正常。しかも意識不明に陥るほどの症状ではないという診断結果。
失望のあまり、顔を俯かせて床を見つめていた浜面たちに冥土帰しは『希望を捨ててはいけない』と言ってくれた。
後に、それはただの気休めの言葉なんだということに気づいた。
(滝壺………)
それから間もなくして、新たな問題が発生していた事を知った。
かつての仲間、フレンダの忘れ形見とも言える存在。
フレメア=セイヴェルン。
事件の何日か前に浜面の前に現れた少女。
麦野たちに話すには少し時間が必要だと判断した浜面は、彼女の面倒をスキルアウト時代の仲間に託した。
その彼女が、事件のあった日に何者かが連れ去られた。
病院に入り浸りだった浜面を見つけた仲間、服部半蔵から伝えられた衝撃の事実。
犯人について詳しい事情を聞き、浜面は驚愕した。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:01:19.42 ID:rSukkoHc0<>
『見たことのないモデルの駆動鎧を何体も引き連れた小柄の女だった』
<>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/16(火) 22:05:19.44 ID:rSukkoHc0<>
同一の組織だと浜面は確信する。
その時に浜面たちを襲撃した駆動鎧も、確か見たことのない駆動鎧を装備していたのだから。
すぐに浜面は昔の仲間たちと共に調査に加わった。もしかしたら、滝壺を撃った連中の親玉の正体が掴めるかもしれない。
タイミングを考慮するに、フレメアを攫った犯人と隠れ家を襲撃してきた連中に繋がりがないとはとても思えなかった。
ただ貪欲に追い求めた。
全てを知るために。そして、彼女の仇を討つために。
異常なまでに執着する浜面の姿勢に仲間連中は心配した。
表面ではフレメアの身を案じているように思える。実際、浜面もフレメア救出を目的にあちこちを飛び回っていた。
しかし、彼の心はすでにドス黒い感情に覆われていた。
いくら表面上でいつもの彼らしい建前を並べても、『怨念』や『復讐心』という醜い感情の芽生えを抑えることができな
かったのだ。
仲間はそんな浜面に対して協力こそ惜しまないが、どういう言葉を掛けてやれば彼は憎悪の呪縛から解放されるのか、何
をしてあげれば普段の“正義感溢れる軟弱者”が売りの浜面が帰ってくるのかが解らなかった。
最も近い立場である半蔵でさえ、浜面の死に物狂いな様子に何も言えなかった。
解決法といえば敵の尻尾を掴み、復讐に憑りつかれた浜面の望みを実現させることぐらいしか思いつかない。
だが、所詮スキルアウトの彼らが暗部社会の極秘事項に辿り着けるはずはない。
どれほど足掻いたところで足が掴めるはずもないのだ。
仲間が失意に堕ちていく中、浜面は追い続けるのを止めなかった。
時には強引に、時には狡猾に、元暗部の人間を絞り出して片っ端から口を割らせる。もしかしたら秘密を握っている人物に
遭遇できるかもしれない。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:08:05.14 ID:rSukkoHc0<>
病院を出た後の彼は、刑事も驚きの暗躍者へと変貌する。
結果など考えなかった。ただ、彼は休むことなく動き続けた。
まるで、そうすることで荒みきった心から目を背け、向き合うのを拒んでいるかのように。
独りになると、考えていることがどんどん黒く淀んでいってしまう。
初めはその変化に一応ながらの抵抗も試みてはいたが、当時すでに精神的にも相当参っていた浜面の心に、負の感情が蓄積
されるのも時間は掛からなかった。
憎しみの矛先を向ける特定の人物像が掴めない。それも心が荒んでいく要因となった。
誰があの襲撃のきっかけになった?
誰が存在したからあんな事になった?
とうとう、彼は敵が狙っていた境地にまで到達してしまった。
事件を思い返す内に浜面の脳で囁かれる呪いの一言。
『恨むのなら、第一位を恨め―――――』
『うらむのなら、だいいちいをうらめ―――――』
『ウラムノナラ、ダイイチイヲウラメ―――――』
『怨むのなら、第一位を怨め――――――』
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:10:25.27 ID:rSukkoHc0<>
(第……一………位…………)
次に脳が描いたのは、今まで彼が直に見てきた学園都市最強の能力者の姿。
凶悪で誰しもが慄くという一般的な噂はあながち間違いでもない、と当初は感嘆したものだ。
もしかしたら、彼は噂通りの悪党ではないのかもしれないという幻想すら抱いていた。
むしろ、世間の一般常識として成り立っている第一位へのイメージそのものが、みみっちく感じてしまった程だ。
悪人としての度量が根本的に違っていた。
しかし、ただでさえ彼に対しては蟠りがある。
自分の尊敬していた人間の命を奪った張本人もまた、彼なのだ。
いくら頭では割り切ったつもりでも、悪循環の中で在籍している偽りの利かない思念は調味料のようにブレンドされ、
醜い感情の餌と化す。
一種の洗脳か、或いは催眠効果か。浜面は進展しない現状に苛立ちを通り越し、おかしくなっていたのかもしれない。
少なくとも、第一位が本当に牙を向けなければならない相手なのか、考え直せなくなるくらいには……。
やる事がまた一つ増えた。
それは言わずもがな、第一位の捜索だ。
偶然でも何でもいいから、とにかくもう一度だけ巡り会わせて欲しい。神にそう祈りつつ、浜面は第七学区中心に街
を彷徨い尽くした。当然それこそ手掛かりが簡単に掴める次元ではない。意図的に捜し出すのは最も困難だと知って
いる。が、すでに頭の一部が狂い始めていた浜面にそんな常識は通用しなかった。
捜した。ひたすら捜した。
会えないと分かっていても滝壺の見舞いは欠かさない。
アテもなく第一位を捜しに街を徘徊する。
気づけばそんな日々だけがずっと続いていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:14:57.09 ID:rSukkoHc0<>
詳細も分からない組織と違い、第一位なら顔も覚えている。運が良ければ遭遇できるかもしれない。
情報が入手できないなら、地道に外を歩くしかない。
周囲から見れば明らかにイカレた考え方だ。効率性も何もない、ただの極論に従って動いているだけとも捉えられる。
だが、浜面は本気だった。
麦野も絹旗も最初こそはそんな狂った思想の彼を心配してくれていたが、最近はめっきり自由行動状態だ。
二人がどこで何をしているかなど、いちいち把握していない。
大体あの二人は自分なんかより遥かに強いのだ。こんな彼女ひとり守れない無能力者に心配されるようなタマではない。
滝壺が入院して三週間も過ぎた頃には、彼の頭の中で第一位の存在が何よりも許せない程にまで成長していた。
『第一位(あいつ)さえいなければ、平和に暮らし始めた俺達に脅迫は掛からなかった』
『俺達がワケのわからない輩に襲撃されることもなかった』
『滝壺が――――――』
『こんな目に合うことも――――――――』
『―――――――――なかったんだ………』
もはや、彼が常時持ち得る良識さえ―――――悪魔の囁きによって酷く歪まされていた。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:16:04.48 ID:rSukkoHc0<>
少しずつ、着実に積もり積もって育てられた憎しみの芽が―――――――立派な花を咲かせていた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:18:04.85 ID:rSukkoHc0<>
―――
前日、遂に念願が叶った。
捜しに捜し求めていた第一位と再会したのだ。
誰かが仕組んでいたというのは流石にわかったが、そんな事はどうでも良かった。罠だろうが知った事ではない。
迷うことなく、その足で直接現場まで向かった。悪戯だったとしても構わない。少しでも可能性があるなら……と、
希望を胸に抱いた。
一応初めは穏便に話し合うつもりだ。無論、本当に会えたらの話だが。
第六学区のテーマパーク施設を徘徊している内に、見覚えのある顔が視界に入った。間違いない。あの特徴のある
中世的な見た目。心が一気に昂ぶったのを憶えている。
とうとう、この日が来た……。
とうとう……………この日が……………。
『怨むなら――――――第一位を怨め』
制御の役割を果たしていたネジが彼の顔を見た瞬間に頭を抜け出して、どこかへと吹っ飛んでしまった。
唯一残っていた人としての心さえも……。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:19:44.82 ID:rSukkoHc0<>
「とうとう……見つけたぞ」
「あァ……?」
(こいつが、全ての元凶――――)
(こいつさえいなければ、滝壺は今も俺の隣りで――――)
悪魔の囁きが、浜面の思考を完全に狂わせてしまっていた。
そんな昨日の出来事を浜面は振り返り、肩をしずめてから嘆いた。
(逆恨みもいいトコだよな……。情けねえ、どうしようもねえクズ野郎じゃねえか………)
途中から麦野と絹旗の介入もあり、何とかどん底に堕ちる結末は避けられたものの、結局は彼女たちに尻拭いをさせるという
最悪の始末だった。正直、あの時の自分を思い出すだけで恥ずかしさが込み上げてくる。
我を失っていた、なんて言葉はただの言い訳にしかならない。自分の弱さをここまで痛感したのは初めてだった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:21:06.45 ID:rSukkoHc0<>
(これじゃあ、滝壺に合わせる顔がねえよ………)
集中治療室から個室に移され、今日になりやっと面会ができるというのに……。何とも複雑な心中だ。
「――――よう」
「……!」
すぐ真横から声を掛けられ、伏せていた顔をふっと上げる。
そこに立っていたのは、見飽きた人物だった。
「半蔵……。いつからいたんだ?」
「今来たばっかだ」
軽く返し、浜面の隣りに座る少年の名は服部半蔵。
浜面に負けず劣らずのガラの悪さからも分かる通り、スキルアウト繋がりの仲間だ。もっとも、向こうはまだ現役だが。
一言で彼を語るなら、正に『良き理解者』という言葉が適切だろう。
現にこうして浜面の様子をわざわざ見に来るぐらいなのだから。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:22:53.13 ID:rSukkoHc0<>
「に、しても……今日もらしくねえ面してんな。不本意だが、見慣れちまったよ」
「………すまねぇ。今……ちょっとな」
歯切れの悪い返しに半蔵は内心気を落とした。表面以外も重症だと確信したからである。
こんな浜面と一緒の空間は、正直言って居心地が悪い。
何の話を切り出すべきか思索するのに時間を要したせいで、空気も微妙になってくる。
浜面とは結構な付き合いになるが、気まずい沈黙というのは初めてだった。
「………何か、変わったことはあったか?」
そして、この沈黙を先に破ったのは意外にも浜面。
「いや、相変わらず何も掴めてねぇ。目ぼしい場所は粗方調べつくしちまったし……こりゃ最悪、もう学園都市外に出ち
まってる可能性もいよいよ視野に入れなきゃなんねえかもな」
溜息混じりの返事に浜面の士気も低迷する。
今日に至るまで、フレメア=セイヴェルンの居所に関する手掛かりはゼロ。かつて駒場利徳が牛耳っていたスキルアウト
を総動員させて執り行なってきたにも関わらず、何の収穫もないという非情な現実。仲間の大半は諦めムードだ。無論、浜面の前でそんな類の言葉は禁句だが。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:24:42.14 ID:rSukkoHc0<>
「なぁ、浜面」
湿気を払うような調子で話し掛けてくる半蔵に、浜面はふと顔を上げた。
半蔵は何故か笑顔を作っていた。
「今日からやっと面会できるんだろ? 良かったじゃねえか」
「………まあ、な」
「あれ? あんまり嬉しそうじゃねえんだな……」
「いや、悪い……。もちろん嬉しいさ。集中治療室からただの個室に移るってことは、順調に回復してるってことだ。
わかってるんだけど……さ」
「だったら何でそんなシケたツラしてんだ? もっと喜べよ」
「…………どんな顔して会えばいいんだか、わかんねえんだよ……」
強張った表情から漏れた、微かな声。
まるで恥を晒しているかのような声色と台詞に半蔵も顔を顰める。
「はぁ? ……何だそれ? お前何言ってんだ?」
「………なぁ、半蔵。正直に答えてくれよ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:26:23.83 ID:rSukkoHc0<>
首を傾げている半蔵を横目で窺ったと思ったら、急に尋問口調である。
「……何だ?」
「今までの俺………まともに見えたか?」
「いんや」
即行で首を横に振られた。真面目に答えているか怪しいものが感じられたが、今度は半蔵がそのまま言葉を紡げる。
「鬼気迫る……なんて表現がピッタリなぐらいだったぜ。命懸けてるような……捨ててるような……、ここんとこのお前と
きたら正にそれだよ。っつか、今頃になって自覚できたのか?」
「情けねえことにな………」
「ははっ、そうか。………で、そっちの目標は果たせたのか?」
「ああ……。第一位に会えたよ」
「………収穫は? 何がわかった?」
「強いて挙げるなら、自分のクズっぷり……かな」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:27:43.98 ID:rSukkoHc0<>
ふっ……と、乾いた笑いが零れた。
昨日の出来事を大雑把ながらも半蔵に話す。反応は――――――何とも曖昧だった。
「つまり、第一位はやっぱり何も知らなかったってワケか……。これは良かったって言えばいいのか?」
「俺は良かったってことにしてる……。おかげで、悪夢から醒めたような気分になったからな」
「そっか……」
「けど……、これまでの俺を思うと最悪な気分だよ。考えれば考えるほど自分がどれだけ最低だったか……っ」
「……それで、そんな塞ぎ込んだ顔してたのか」
「とんでもねえ思い違いをしてただけならまだ救いようはあったんだ……。でも、俺は滝壺の意識が戻らない事を言い訳に
して………!」
浜面の肩、そして声が震えだす。
許しを請う、というよりは罪滅ぼしを求めているに近い告白を、半蔵は黙って聞いた。
「第一位は悪くねぇ……。わかってたんだ。頭の中じゃわかってたんだ……!! けど抑えられなかった……。そうしなきゃ、
誰かを憎まなきゃ………壊れちまいそうだった」
「………滝壺があんな目に合ったのは俺のせいだってのに……そいつを棚に上げて………」
「どうしようもねえクズだろ? 最低だろ? ………他人に矛先向けて自分の逃げ場作るなんてよ………。滝壺のためだとか
何とか言って、結局自分が一番可愛かっただけじゃねえか……。まさか、俺がこんな弱虫だったなんて……」
「……滝壺と向き合う資格なんて、今の俺には………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:28:50.37 ID:rSukkoHc0<>
氷解したところに苛むのは、並ならぬ後悔と自責。
滝壺の損失でぽっかりと空いた心につけこむようにして現れた仮想の悪魔。その悪魔に精神を呆気なく乗っ取られてしまった。
浜面自身がそんな自分を許せないのだろう。その気持ちは半蔵も少なからず共感できた。
だが、彼は敢えて浜面に厳しい視線を送った。
「―――――で、もう気は済んだか?」
聞くのに飽きた、とでも言いたそうに伺ってくる半蔵。
思わず浜面は声を呑む。
「ったく……、ちっとはマシになったかと思ったら、まだまだ全然じゃねえか。過去を振り返ってクヨクヨなんて、お前の
キャラじゃねえだろ? お前の持ち味が何なのか、いい加減に思い出せよ」
「…………」
「お前の気持ちなんてさっぱり分からない、とは言わねえさ。モテない人生に終止符を打ってくれた可愛い〜い初カノさん
だもんな。そんな大きな存在を突然傷つけられて、まともな精神を保てなくなるのは仕方ねえよ」
半蔵の声の調子が豹変したが、浜面は何故か全く言葉を挟む気になれなかった。
こんな彼は、今までに見た事がなかったからだ。
「けどさ、そろそろ前を向けよ。間違ってた自分に気づいたんなら、二度と間違わないようにどんな事にでも全力でぶつか
っていけよ。………いつまでもそんなんじゃ、目醒めた時彼女に悲しまれるぞ? せめて、彼女に対して逃げ腰になるの
だけはやめた方がいいぜ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:30:42.13 ID:rSukkoHc0<>
「………どのツラ下げて会ったら良いのか、わかんねえんだ」
「ま、そのツラじゃいけねえのは確実だな」
半蔵はさっきまでの剣呑な装いを一瞬で解き、今度は導くような優しい目で促す。
「誰もお前を責めねえさ……。だからお前が自分を許しちまえば、それで全部オッケーよ。……まぁ何が言いたいかっつ
−とだな、いつまでもガラじゃねえ真似してんなってことよ! 気の迷いから犯す過ちなんて、誰だって経験するモン
だろうが。自分が無能力者だからとか、そんな格差は関係ねえんだって! “怪物”だろうと“凡人”だろうと、皮膚
の下は皆同じなんだからよ」
説教臭くなった空気に照れでも感じたらしく、浜面の背中をバシバシ叩きながら励ます半蔵。
浜面は物珍しそうに半蔵の方を見ていたが、やがて苦笑いを浮かべた。
「過ぎたことを悔やんでたってしょうがねえだろ? それよりこれからどうするかだ。………ちなみに、俺たちは諦める
つもりはないぜ。どれだけ時間掛けようが、どんな卑劣な手ぇ用いろうが、あの子を取り戻してやる」
「半蔵……」
「あの子は、駒場のリーダーが命よりも大切にしてた子だ……。リーダーがもういない今、俺たちが助けないで誰が助け
るんだよ? もちろん、そのためなら第一位の協力だって惜しまねえさ。むしろ願ったり叶ったりだ」
そう言って半蔵は徐に席を立ち、背中を向けたまま追記する。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:32:28.09 ID:rSukkoHc0<>
「だから、さ……。一人で暴走するのは今回限りにしとけ。こいつはお前だけの問題じゃねえんだしよ」
「ああ……。肝に銘じとく」
浜面の返事を聞いて満足したのか、半蔵はそれから何も語らずに去っていった。
本当に彼は何しに来たのだろう? 結局そこは最後まで不明だったが、浜面にとっては大きな意味があったに違いない。
心中でボソリとだが、感謝の言葉を述べる。さっきと別人みたいにすっきりした顔で。
―――
ちょうどその頃、病院の屋上には少女が一人佇んでいた。
強風を受けた短い丈が頻繁に危険信号を送ってくるが、彼女は全く気にも留めずに遠くの空をただボーっと眺めていた。
彼女もまた、昨日までの過程を振り返っていたのだ。
〜〜〜
「殺す! 超殺す! 炙り出して徹底的に殺す! どこに隠れようと、絶対に見つけ出して顔面のパーツというパーツを
福笑いみたいにバラバラに切り刻んでやる!!」
物騒な台詞を撒き散らしながら夜の街を駆ける少女、絹旗最愛。
滝壺が腹部に重傷を負い、病院へ搬入された翌日の午後だった。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:33:40.93 ID:rSukkoHc0<>
荒れた心を抑制しきれずに、絹旗は滝壺の容態を聞くや否や病院を飛び出した。
いや、“荒れた”というのは適切ではない。彼女は完璧にキレていた。
麦野たちと離れて一人になった途端、絹旗は般若のような恐ろしい形相を瞬時に作り出して携帯電話を乱暴に操作した。
「…………ちィィ……ッ!!」
耳に入ったのは『お客様がお掛けになった番号は現在使われておりません』といったお決まりの機械音声。
予測していたとは言え、やはり腹立たしさは拭えない。
今頃あいつは自分の知らない場所で薄ら笑いを浮かべているのか、そう考えるだけでハラワタが煮えくり返る。
となると、次に行かなければならないのは必然的に“あそこ”しかなくなってくる。
気は進まないし、行ったとしても手掛かりが得られる可能性は限りなく低い。
しかし、それでも今は縋るしかない。このまま泣き寝入りするのだけは死んでも御免だった。
歯噛みしつつも進路を変更し、絹旗は全力で目的の場所まで走った。
やがて、辿り着いたのは郊外にある古びた研究施設。
ここは自分と黒夜海鳥について、良く知っている研究者が勤めている。
平たく言えば、古い知人である。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:35:14.02 ID:rSukkoHc0<>
そして、共通の知人ということは――――――そう、『暗闇の五月計画』の関係者だ。
こうして訪ねるのは二年ぶりか。一瞬だけ緊張の面持ちが交錯したが、今は懐かしんでいるような気分ではない。
表情を引き締め、施設内部へと進入する。
二年以上前と言っても過去に何度か訪れたことがある。目当ての人物が大体どこにいるのかはおぼろげに憶えていた。
見覚えのある通路を記憶頼りに進んでいくと、
「―――――ねぇ、もしかして絹旗ちゃん?」
背後から突然名前を呼ばれた。
驚いて振り向く絹旗を訝しむように眺めていたのは、二十代半ばぐらいの白衣を着た女性である。
「………超お久しぶりです」
「え? うわ、ホント? マジで絹旗ちゃん!? うっそーどうしたのよ! ちょ、ホントに久しぶりじゃない!」
二年ぶりの再会。
この研究者はあの計画に関わっていた人間の中でも浮いた存在であり、当時まだ幼かった自分や黒夜が気を許した貴重な
人物だった。幼い子供なんて道具程度にしか思わない研究者が殆どだっただけに、この少々変わり者の女性は心の拠り所
として大きな存在だった。元々彼女は研究者としての能力こそ優れてはいたが、その情に厚い人柄のせいか計画の全貌を
知らされていなかったし、計画の頓挫後も、自分の口から明かしてやろうとは思わなかった。
純粋に子供を大切に想ってくれている彼女の思想を壊す気にはなれなかったのだ。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:37:59.94 ID:rSukkoHc0<>
それは黒夜にとっても同じだったのだろう。
現に他の研究者は一寸の慈悲も無く惨殺したが、この女性だけは殺そうとしなかった。凶暴化し、理性が吹っ飛んでいた
のにも関わらずだ。もっとも、深くは携わっていなかったために除名しても問題はないだろうと決議され、『研究者は全
員皆殺しにあった』として表明されたのだが………当事者たちしか知らない隠された真実というヤツだ。
そう、“共通で繋がっている人物”はこの女性研究者だけである。言わば、唯一の希望だ。
「何年? 二年だっけ? うわー、背ぇ伸びたわねぇー。突然来るだなんて本当ビックリだわ。元気でやってるの? 今
もう中学生かしら? サプライズ過ぎて何にも用意してないわよー! ねぇ、どこの学校通ってるの? 有名なトコ?」
「………」
二年ぶりだというのに、この人は全く変わってないな。と、絹旗は胸中で嘆いた。ちょっと口の煩い母親みたいだ。
だが、こうやって人の事ばかり気に掛けている彼女だからこそ嫌いになれなかった。
また一瞬だけ懐かしさにトリップしていたが、すぐさま本懐に意識を戻す。
「あ、あの! 超早速本題なんですが、黒夜海鳥と最近連絡を取りましたか?」
「ほへ? 黒夜ちゃん……?」
思いがけぬ名前を聞き入れ、女性研究者は余計に顔を綻ばせた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:39:49.45 ID:rSukkoHc0<>
「黒夜ちゃんかぁー。懐かしいわね……。あの子も元気でやってんのかしら……」
「………今、黒夜がどこにいるか超知りたいんですが……、その様子だと知らないみたいですね」
肩を落とすが、冷静になって考えてみればそれも当然だった。
本懐を終えた黒夜が雲隠れに移るなら、手掛かりと為り得るような接触は避けるのが普通だ。
何と言ってもこの女性研究者は共通の知人なのだ。黒夜もそこら辺は抜からないだろう。
(……私としたことが、超浅慮すぎです。超無駄足じゃないですか……)
熱の入っていた頭の温度は急速に著しく低下し、そのまま重い溜め息となって体外へ流れた。
「もういいです……。突然押し掛けて超すみません。私、もう帰りますね」
意気消沈した足取りで離れていく絹旗に、一人で思い出を膨らませていた女性研究者は慌てて声を投げた。
「え!? ちょちょちょ、ちょっとぉ!? もう帰っちゃうの!? 久々に会ったっていうのに冷たいじゃないのよー!
折角なんだしお茶淹れるから、もうちょっとゆっくりしていってよ!」
「……超申し訳ないんですが、思い出話に花を咲かせるのはまたの機会にしましょう」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:41:57.14 ID:rSukkoHc0<>
「そんなぁぁ……。まさか貴女もとうとう反抗期に突入しちゃったのぉぉ!?」
ガーン! と、シュールな反響音が女性の背後から鳴った気がしたが、この女性の扱い方をまだ忘れていない絹旗は軽く
流すように告げるだけだった。
「そんな気分じゃないんです。落ち着いたら、その内また顔を出しますから……。今日はこれで失礼します」
「うぅ……。仕方ないわねぇ。…………ところでさ。最後に一つ訊いてもいいかしら?」
「……何ですか?」
「黒夜ちゃんと絹旗ちゃんって、確か相当仲が悪かったわよね? 彼女に用があるってことは、もしかしてお友達になれ
たのかしら?」
そんな笑い話にもならない逸話に有り得ないオプションが付属され、臭い物でも嗅がされたように鼻を曲げた絹旗。
首を半分だけ反らしてから、腹の内を初めて他人にブチ撒ける。
「冗談にしても看過できない架空設定ですね。超胸糞悪いです!」
「あら……。そこんトコの事情も変わってなかったのね」
「超最悪に悪化してますよ。………今すぐ、この手で引導を渡してやりたいぐらいに……!!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:43:47.75 ID:rSukkoHc0<>
「………」
絹旗の言動と鋭く尖った顔つきから明確に伝わってきた殺意に、女性は戦慄に近いものを感じて口を噤んでしまう。
一度吐き出したら止まらない、と誇示するかのような愚直の言葉を思いっ切り叩きつけ、その勢いのまま駆け出した。
「あの超クソ女には怪我をした仲間の前で千回土下座させます。床に頭を擦らせて泣きながら贖罪させます。額が磨り減って
骨が見えるまで許してやるつもりはありません……!! ………超失礼します」
離れていく背中を見送る女性の目には、驚きと少々の悲哀が入り混じっていた。
お気楽で心配性な彼女では、絹旗を止める術が思い浮かばなかったようだ。
「なんかもう……、単に仲が良い悪いの次元じゃなくなってるみたいねぇ……」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:46:31.32 ID:rSukkoHc0<> ここまでです
もうそろそろ次スレ行きそうですね
では次回の一部を入れて今回は超終わりです <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:49:55.94 ID:rSukkoHc0<>
絹旗「いきなり何を言い出すんですか!! 第一位を仲間に引き入れようだなんて……、本気でそんなことができると思って
ないでしょうね!? 超無理に決まってます! 超論外です!!」
麦野「まぁ話だけでも聞いてってば。決め付けるのはその後でもいいでしょ?」
―――――――
結標「はぁ!? だだだ、誰があんな虚弱人間に恩なんて感じてるって!? 愉快な発想すぎて欠伸が出そうだわ!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/16(火) 22:51:13.29 ID:rSukkoHc0<> 以上です
ではまた次回お会いしましょう
多分一週間以内に来れると思います <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2011/08/16(火) 23:11:09.25 ID:a/e7m82AO<> 乙!!
キレ旗がいい具合にキレてた
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 00:33:12.00 ID:E1LZ2mCY0<> 待ってた!
半蔵さんがギャルゲーによくいそうな親友っぽくなってるwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 02:27:02.41 ID:RMU6am7SO<> もうこれ書籍化でいいだろ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 14:46:00.24 ID:uHJfajT8o<> うーんそれでもまだ足りないんだよなぁ
一方通行接触後の主人公たらしめようとする浜面の描写と
接触前の疲弊し堕ちた愚者の浜面との結びつきが弱い <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 02:10:59.31 ID:9vmii6/l0<> イメージは何となくできるんだがもう少し浜面のダークっぷりが書かれてたら
尚良かった
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 11:44:00.72 ID:7iAWfMoSO<> 乙!
ダーク浜面か…
意外とありそうで無かったな <>
◆jPpg5.obl6<>saga<>2011/08/21(日) 17:54:39.58 ID:Zk4zZ5Rv0<> ご意見ありがとうございます
至らない所が多い所については本当お詫びするしかないです…
では、このスレ最後の投下に入ります
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 17:55:45.70 ID:Zk4zZ5Rv0<>
〜〜〜
「超反対です!!」
新居住へ移ってから麦野も浜面も単独で動く機会が増えた。それぞれが何かの考えをもっての行動と受け取っていた絹旗は、
少なくとも目処が立つまで詮索しないことにしていた。そして、これは逆も然り。互いを信じ合っているからこそ成り立つ
暗黙の了解というやつだ。
そんな中、麦野が持ちかけてきた内容がとんでもないというか……考えもしない提案だったのだ。
あっさり首を縦に振るには突然すぎて頭の中は大きく混乱してしまい、思わず叫んでしまう絹旗。
「いきなり何を言い出すんですか!! 第一位を仲間に引き入れようだなんて……、本気でそんなことができると思って
ないでしょうね!? 超無理に決まってます! 超論外です!!」
頑なな拒絶反応を示してしまうのも無理はないのだが、麦野は平然と話を進める。
ちなみに浜面はこの日も朝から不在だった。
「まぁ話だけでも聞いてよ。決め付けるのはその後でもいいでしょ?」
「………どういう事なんですか?」
「あいつら、やたら第一位の事を連呼してたじゃん? それが気になって、一人で色々と調べてたんだけどさ、……どうも謎が
多いのよ。ここ最近、暗部情勢が大きく改変したってニュースは知ってる?」
「ええ……、その件に第一位が一枚噛んだって話ですよね?」
「なーんだ、知ってたか……。ま、私らはもう暗部組織の枠内からはみ出したクチだから、そういう話は自然と舞い込んでくる
わけじゃないし、真相に辿り着くのも今じゃ一苦労よ」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 17:58:04.45 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「殆どの組組が解散してるのが現状らしいですけど、どこまでが本当なのかはまだわかりませんね……」
「私もまだまだ調査の余地が腐るほど残ってる段階なんだけど、道中で思いがけない出会いをしてね……。少しそいつと話し合
ったんだけど、どうせならアンタも一緒の方が良いんじゃないかって判断したのよ。これから来る予定になってるわ」
「………はいい!?」
驚嘆のあまり、声が上ずってしまった。正にこれこそ寝耳に水だ。
麦野もいきなりで驚きと戸惑いを隠せない絹旗の心情がきっちり計れているのか、どこか控えめな声のトーンだった。
「いやいやいや……、今から来るって……また超急ですね」
「悪いヤツじゃないわよ。だから安心していいわ」
「その根拠だけでも教えてくれません?」
「私に見る目があるのはアンタも知ってるでしょ?」
「……いや、だからこそ超不安なんですけど」
「んん? なんだって?」
「いえゴメンなさい超何でもないです」
麦野の目つきが鋭くなったので、これ以上の失言は避けよう。
そう内に秘めた絹旗だが、やはり誰が来るのかは気になるようだ。情報を握っている、つまりそれなりに危険要素のある
人間だというのはこの時点で確定的みたいなものだが……。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 17:59:10.91 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「―――――へ〜え、ここが『アイテム』の新居? 仮設住宅っぽいのを想像してたけど、随分とまともな所ね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:02:26.10 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「…………えっ!?」
「お、来た来た。早かったわね」
ソワソワする間もなく登場した訪問者に、絹旗は跳び上がりそうになるのを辛うじて耐えた。
麦野の方はヘラヘラとしながらまるで友達が遊びに来たかのような対応を見せる。
「………これはまた……、超珍客ですね」
「その言い方、何だか貶されてるように聞こえるわね……」
「あはは、こういうヤツなのよ。まぁそこら辺適当に座んなさい」
「……ええ、そうさせてもらうわ」
釈然としない雰囲気を発したままの来訪者は傍にあったソファーの手掛けに腰を乗せた。
それから絹旗に目線を移して妖艶な笑みを見せる。
麦野とは違ったタイプだが、どこか大人びた余裕を持つその少女の姿勢に絹旗は金縛りにでもあったのか、自分から声を
掛ける気になれなかった。というか、この少女の正体は一目でピンと来ていた。
来訪者の少女が絹旗を目で捉えたまま、表情を変えずに自己紹介を始める。
「こんにちは、『窒素装甲』。私は結標淡希。『座標地点』って能力名はご存知かしら?」
「そりゃまぁ……。『超能力者候補』とまで謳われてるぐらいですからね」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:04:58.30 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「ふふっ、光栄ね。でも残念。色々と欠陥があるのよ……。私のことはどこまで知ってる?」
「………“暗部でのイメージ”以上は知りません。あとは、『案内人』ってことくらいでしょうか」
「そう……。私も貴女の話は聞いてるわよ。『暗闇の五月計画』の被験者だったんですってね?」
「――――!? 何であなたがそれを……?」
底が知れない相手に警戒心が強まる。
絹旗の眉が大きく吊り上がったのを見届けた結標は、それ以上深くは探求しなかった。
「あー……そんなに警戒しなくても大丈夫よ。スパイ目的とかじゃないから」
「…………」
「貴女は私の事を『案内人』って呼称で既知してるんでしょう? それと同じようなモンよ。上辺でしか把握していないわ。
だからその“物騒な空気”を鎮めてくれないかしら? 念のために言っておくけど、私は交戦するつもりなんて無いから」
一瞬だけ黒夜との関連性を疑ってしまい、無意識に能力が漏出してしまっていたらしい。
感情を一旦落ち着けた絹旗を結標は微笑ましく見つめ、優しい口調で話を再開する。
「まず、そうねぇ………。何から話そうかしら? っていうか、貴女たちは何が知りたいのかしら?」
「アンタは実際どこまで知ってるワケさ? 私らのここまでの経緯は教えたろ? その上での意見と、情報提供が望ましい
と思うけど?」
既に寛ぎモードの麦野が欠伸しながら、結標の根本的な疑問に倍の質問を付属させて返した。
と、この麦野の発言に絹旗が大きく反応を示す。 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:07:08.88 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「えっ!? ちょ麦野……! 話したって……?」
「襲撃者の全貌が知りたいんだから、当然でしょ? この女は第一位の身近にいた数少ない情報人よ。包み隠さず教え合う
相手として申し分ないじゃん」
「本人の前で堂々と言える貴女って、噂以上の大物よね……」
呆れた顔の結標と、軌道修正を図る絹旗。
「……腰を折って超すみませんでした。是非話を聞かせてください」
「ええ、いいわよ。私の知ってる限りでいいなら―――――」
〜〜〜
「……………暗部改変の発端が第一位……。ガセじゃなかったんですね……」
一部の噂程度でしかなかった情報も、語り手が語り手だけに一段と真実味を帯びてくる。
この時聞いた内容はあくまで暗部組織の大規模な解散にまつわる裏話。
一方通行と番外個体の二名を中心とした大事件については何も聞かされなかったし、話に振れられることもなかった。
どうやら、暗部情勢がごく最近で一変した件には彼女達が想像もつかないような事情が隠されているらしい。
顛末を語った結標の顔色は、どこか複雑そうに見えた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:10:30.22 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「大体、こんなところかしら? 一応知っているだけの真実は話したつもりよ……」
「まさかねぇ……あの第一位が……。一概には受け入れ難い話ね」
麦野と絹旗の反応は結標の予想とほぼ一緒。
表上での印象しか知らない人間からすればこれが一般的反応に違いなかった。
更に結標は愚痴るように付け加える。
「ホント、あのロリコン野郎はまた突拍子もない事をしでかしてくれたわ。おかげで私も御役御免になっちゃったしね」
「どういうことですか……?」
「さっき、私のことを『案内人』って言ったでしょう? 正確には『元案内人』よ。もう統括理事会の言うままに従う
必要はなくなったの。今の私は、『統括理事長(アレイスター)の正確な座標を知っている空間移動能力者』に過ぎないわ」
「……!!」
「そういうこと……。謎がひとつ解けたわ」
愕然とするしかない絹旗とは対称的に、麦野は胸のつっかえが取れたような発言を零す。
「アンタも前ぶれ無しで自由を手に入れた身分よね? だったら詳細をそこまで知ってるのはちょーっと不自然かなーって
思ってたのよ。……一応訊くけど、情報源は誰?」
「統括理事長本人よ」
「はぁ!? ……ちょ、それって超やばくないですか……?」
「堂々と聞けたわけじゃないんでしょ?」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:13:14.73 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「そりゃそうよ。私の役職じゃアレイスターから直接聞き出すなんてのは不可能だもん。いきなり呼び出しが入ったと思った
ら、あっさりお払い箱。いくら無頓着なタイプの人種でも、突き止めようとするのが自然じゃない?」
「まあ……当然だわな」
「だから私は自身の能力を有効活用しただけ……。隠された書類を見つけ出すくらい、どうってことない作業だしね」
「………!!」
ようやく話が呑み込めてきた絹旗の背筋に冷たい汗が滴る。冷静でいられる麦野と結標を見る目が「信じられない……」と
でも言いたげだ。
だが、結標は何でもないような顔で心配要素を否定した。
「大丈夫よ。あの時点で既に私の足枷は外されていたんだから。………けどその代わり、あいつにでっかい借りが出来ちゃ
ったぐらいかしら」
最後ら辺の語調だけ、少しばかりの悔しみが籠められているように聞こえたのはおそらく気のせいではないだろう。
何て表現すべきなのかを見失っている絹旗の心情を、麦野が代弁した。
「ま、どんな理由あっての行動かは知らないけどさ……。はっきり言って余計な真似よね。裏世界のヒーローにでもなった
つもりかよ……」
「………確かに、そう捉えるのが普通でしょうね。でも私は正直………悔しい」
「?」
「ううん……。悔しいって言うか、腹立たしいわ……。貴女の今言った通り、“余計な真似”以外の何物でもないのよ……ッ!」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:15:44.53 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「ちょ……お、落ち着いてください!」
肩を震わせて奥歯を噛む結標を絹旗が宥める。
心の中だけで抑えていた感情が何かの拍子で外に漏れてしまったようだ。
「………あいつは何様のつもりなの? 何の心境の変化だか知らないけど、『自己犠牲』で全て解決させるなんて……! 確かに
私にも目的はあった……。目的さえ果たせれば、いつかは表の世界に戻れるかもしれないって淡い夢を見ていた事もあった……!
それがこんな形で実現されて、納得が行くと思う? 冗談じゃないわよ………。ふざけやがって……ッ!!」
「む、結標さん……。目が超血走ってますよ? し、深呼吸しましょう! ほら、心を鎮めて……」
「やめときな、絹旗……。そいつの気持ち………何となくだけど、分かるよ」
「麦野……!?」
腕を組んで静観していた麦野に遮られ、絹旗は目を泳がせる。
そうこうしている内に平静を取り戻した結標は、詫びの言葉を述べた。
「ごめんなさい……。ちょっと取り乱しちゃったわ」
「いいさ。もし私がアンタの立場だったら、迷わず第一位をとっちめてやるだろうね……」
確かにそういう借りを作るのを麦野は一番嫌うだろうからなぁ……。と、内心思った絹旗が重くなった空気の入れ替えを試みる。
「つ、つまりアレですね? 結標さんは第一位に恩返しがしたいから、ウチらも第一位勢力に加算して欲しいって解釈で良いん
ですよね?」 <>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:17:31.38 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「はぁ!? だだだ、誰があんな虚弱人間に恩なんて感じてるって!? 愉快な発想すぎて欠伸が出そうだわ!」
(うわぁ……)
(意外と……っていうか超わかりやすいですね)
(こういった方面は脆いのね。このコ……)
「……な、何よその哀れむような眼差しは!?」
麦野ですら何て返してやれば正しいかの判断に困ったようだ。
心外だとばかりに顔を背けてしまった結標が平常心を取り戻すのに、かなりの無駄な時間を費やした。
「…………でさぁ、結局アンタはこれからどうしたいのよ?」
落ち着いた所で麦野に核心を突かれた結標は、俯きがちに答える。
「………まだ、わかんない。まさかこんなに早く解放されるなんて、夢にも思ってなかったもの……。これからの事なんて、
まだ何も……」
「上層部がアンタを動かすために抑えていた“人質”はどうしたの?」
「……解放されてるわ。……そう、もう何も気負う必要が無くなった………。だからどうしたら良いのかが、わかんないのよ。
貴女たちだってそうでしょう? 長く汚い裏世界に漬かっていた人間が、いきなり表に放り出されたって………」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:18:51.58 ID:Zk4zZ5Rv0<>
困惑気味に暴露した心中の嘆きに、麦野も絹旗も少なからず共感した。
環境が突然良い方向へ変わってしまうのも、案外複雑だったりする。張り詰めた糸が切れ、目的を失い、これから何を目指して
進めば良いのかという、生きていくためにある意味最も重要な『身近な目標』が消滅してしまうのだ。
掴めた幸福をすんなりと受け入れられない神経質な人種は大抵このパターンに陥る。結標もまた慣れ浸った暗部社会から唐突に
脱却され、今後の行き場所を決めあぐねているのだろう。
「ま、事情は人それぞれか………。けど残念、私にとっちゃ好都合よ。要するにアンタ、毎日クソ暇なんでしょ?」
「………大きなお世話よ。だったらなに?」
「そうむくれるなって。なぁ結標、良かったら私らと一緒に“暇潰し”しない?」
「――――!?」
「え……、麦野? 超何言ってるかわかんないんですけど……」
麦野にまるで友人を遊びに誘っているかのような軽口で問われ、結標はもちろん絹旗さえ呆けてしまう。
「だから、私らと組もうって言ってんのよ。……実はさ、私らは“ある組織”をぶっ潰してやりたいんだけど……情報が全然
集まんないんだこれがまた……。アンタの能力、色々と役立つだろうし」
「………『アイテム』に、この私を勧誘しようってわけ?」
「だめ?」
「何で上目遣いなのよ……。標的の性別間違えてない?」
(うわー……。なんか男に超媚びてそうな色香出し始めた……。こりゃ下手にクチ挟めないですね)
絹旗が心と身体を全力で退きに回す中、交渉(?)は続く。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:20:32.15 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「………私が元『グループ』の構成員なのを知ってる上で誘ってるのかしら?」
「なら尚更よ。あの第一位とは、元同僚の関係なんでしょ?」
「貴女……、何企んでるの? 言っておくけど、あいつの連絡先とか住所なんて一切知らないし、知ってたとしてもまず教え
たりしない………。意図を説明して」
「そんな身構えなくてもいいじゃない。別にそこまで教えろとか言わない。……ただ、協力して欲しいだけよ」
「何の協力?」
「仲間を傷つけられたから、その復讐。シンプル且つ純粋だと思わない?」
「……………………加入はお断りするわ。私は貴女たちを信用しきった訳じゃない……。ここへ来たのも、私の中でモヤモヤ
していた何かが、少しは変化するかもしれないと思ったからよ。情報提供も別に貴女たちを想っての事じゃないわ」
結標の瞳は真っ直ぐ麦野を射抜き、決意の固さを露にしていた。
だが、答えはやはりノーかと絹旗が確信しかけた時、結標は急に眼の鋭さを和らげてこう繋げた。
「………でも、貴女たちに協力するだけっていうなら、特に断る理由も思い浮かばないわね」
「!」
普段の穏やかさと余裕に満ちた、普段の結標淡希がそこにいた。
この僅かな間で、彼女なりの結論を導き出せたのだろう。迷いの感じられない二つの眼がそれを立証していた。
「いいわよ、手を貸してあげる。できる範囲でなら……ね」
「オーケー、んじゃ成立ってことでいいわね? 絹旗」
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:21:53.79 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「……まぁ、敵に回られるよりは断然マシですけど……」
「ふふ、よろしく」
いつの間にやら絹旗のすぐ前に立った結標が、スッと手を差し出していた。一瞬戸惑った絹旗は、その手をおずおずとだが
握り返した。
(むぅ……、麦野とはまた違う大人の魅力を感じますね……。超妬ましい)
この時の正直な本音だった。
「んで? 契約成立したはいいけど、私に一体何をして欲しいの?」
「その時が来たらコッチから連絡するから、それまでは自由にしててちょうだい。アンタの能力は影で活かすのにもってこい
だし、多分色々と頼んじゃうだろうからよろしく」
〜〜〜
今になって考えてみると、全てが計算通りに仕組まれたような気がする。
絹旗最愛は病院の屋上でそんな感慨に耽っていた。
前日、第一位と第六学区のテーマパーク施設で対面してから状況が動きつつある。
もしも黒夜海鳥がこの事を把握しているとしたら、確実に何らかの行動を起こすはずだ。彼女本来の狙いは第一位なのだから。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:23:34.49 ID:Zk4zZ5Rv0<>
(結果的にはまだ何とも言えませんが、あのクソ野郎に辿り着くのも時間の問題………。第一位に接触される前にカタをつけたい
ところですね……)
麦野たちには未だ明かしていない、黒夜との因縁に瞳の奥が燃える。
(そうですよ……。あんなヤツが束ね役の時点で、それほど恐れるような組織じゃない。第一位の力なんか借りるまでもないんです!
だいたい、最初から私は反対だった……。これは私達『アイテム』の問題です! 第一位や座標地点なんざ、お呼びじゃないんですよ!)
手すりに力が込められ、めりっ……という鈍い音と同時に手を乗せていた部分がへこんだ。
(麦野が何を考えてるかは超知りませんけど、この件は私が一人で片付けてみせます! 誰かの助けなんて……いらない)
物憂げな表情を浮かべながら屋上を去る絹旗。
風はそんな彼女を後押しするように強く流れ続けていた。
―――
「まさか昨日の今日とはねぇ……。まぁ、誘ったのも私だし? 返事が早い分には有り難いんだけどさぁ……」
「あら? 何かご不満かしら? こう見えても決断は早い方ですのよ」
小洒落た喫茶店に常盤台中学の制服を着た少女と、イルカのビニール人形を持参したパンク系少女という少々異様な組み合わせ。
パンク系もとい黒夜海鳥は紅茶を啜りつつ訝しげな顔で相席者を見つめた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:24:31.20 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「………念のために訊いておくが、妙な企みとか持ち込んでねえだろぉな……」
「そのつもりなら、私の能力(チカラ)次第でどうとでも動かせます。疑うのでしたら、白紙にしても構いませんが……」
「っと、冗談だよ。気ぃ悪くしたんなら謝るわ」
黒夜にしては珍しいこの言動。それほどまでにこの相席者の力を買っているということだ。
常盤台中学が誇るもう一人の超能力者、『心理掌握』こと食蜂操祈。
「契約書みたいなものは御必要かしら? 構成員の御紹介とかも私はできれば御遠慮したいですわ」
長い金髪を靡かせた彼女は気品にエスプレッソを嗜んでいる。その手つきも正に良家の子息といった表現が似合う。
しかし、黒夜にはその一挙一挙の全てが煩わしく見えた。
そして遂にその不満が限界を超えたのか、はっきりと指摘する。
「……なぁ、どうでも良いんだけどよ。アンタ、そのキャラはどうにかなんないワケ? お嬢様モードってヤツ? 私、
そういうの駄目なんだよ。見てて悪寒が走るし、虫唾も走るんだ。私の前でくらい、普段通りでお願いできないか?」
「……………普段の私……で、よろしいのでしょうか………。」
「ああ。はっきり言って、作ってる感がバリバリだ。無理してるようにしか見えない」
「…………そうですか………。…………わかりました。……では――――――」
次の瞬間、それまでの上品な雰囲気が幻想の彼方に葬られた。
背もたれに寄り掛かり、組んでいた足を崩し、開口一番は、
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:27:06.46 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「――――――あぁ〜〜〜、疲れたぁ。お堅い女キャラってのも楽じゃないわよねぇ。ケドまぁお嬢様学校だしぃ、少し
ぐらいはそれらしく振舞いたかったってかさぁ。わっかんないかなぁ? そういう心理」
「……………」
黒夜、絶句。
まさかここまでとは思っていなかったらしい。百八十度どころかK点を軽く越えていた。
食蜂は長い髪を指でクルクル巻きながらエスプレッソを一気に飲み干し、すぐに別のお代わりを注文した。
「こんな苦いのも飲めるようになんなきゃお嬢様じゃないってんなら、願い下げよねぇ。四六時中ずっとやってられる
子なんていんのかしら? 私は無理ね。忍耐力もたないし、持続力にも自信ないのよぉ」
(やべぇ……。これじゃさっきの方が全然マシだわ。どうしよう……)
一分も経たない内に疲労感を覚えたが、やっぱりお嬢様モードに戻せとも言えず、蓄積する疲労に耐えるしかなかった。
「んー、やっぱコッチの方が落ち着くってか、私らしいって気がするわ♪ 演技力は充分磨かれただろぉし、おしとやか
お嬢様はこれにて封印♪」
(いや、悪いが才能の欠片もねぇよ。ってか、作ってんのバレバレって言ったじゃねえか……)
何故か満足げな食蜂と、ポーカーフェイスを維持するのに必死な黒夜。
だがしかし、
「……ふーん。酷評ありがとう♪ 可愛い顔して、結構エゲツないコト思ってくれてんじゃないのぉ。くすくす……」
「!!?」
ギャップの変化に惑わされたのか、食蜂に嘘は無意味という基本中の基本設定を失念していた黒夜。
獲物を捕捉したハンターみたいに目を光らせる食蜂を前に蒼白し、必死に否定の言葉を並べた。
<>
◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:28:08.45 ID:Zk4zZ5Rv0<>
「ちっ、違う! こ、これはだから違くって……いや、別に本心じゃなくてだな!? ああとにかくちが――――」
「あはは、そんなにテンパらなくていいよぉ。大丈夫、もう慣れっこだしね♪」
「………ごめんなさい」
『こういうのに慣れている』という台詞から彼女の今日までの境遇を何となく察した黒夜は素直に謝ることにした。
このシュンとした表情だけを見ると、まだ年相応のあどけなさが感じられる。
そして食蜂も黒夜より年上な分、寛大な笑顔でウィンクした。
「気にしないで。私の包容力は常盤台でも群を抜いてるって評判なんだから。心の声にいちいち気分を害してちゃ、
三分もしない内に発狂しちゃうわ」
「…………」
今度はリアルな説得力に言葉が出なかった。
すっかり食蜂にペースを握られてしまっている。だが、それに気づくほどの余裕すらない。
少しだけ、ほんの少しだけ誘ったのを後悔した。計画成功の暁にはとっとと縁を切り、二度と関わるまいと固く決意
したのは言うまでもない。
「んでぇ? 結局のトコさぁ、私に何しろっての? まさか第一位を引っ捕らえろとか無理難題押し付ける気じゃない
でしょーねぇ」
「………それじゃ協力の意味がないだろう? ただの縋りになっちまう……。なぁーに、もっと簡単な仕事さ。アンタ
にとっては、だがな……」
「なによ? 地味ーなのとか、コツコツ系なヤツとかは苦手だからパスね」
「…………」
本当にこの女は組織の人間としての概念を持ち合わせているのだろうか……。
黒夜は眩暈を感じ、任務の詳細を説明する前に紅茶をもう一杯注文した。
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◆jPpg5.obl6<>sage saga<>2011/08/21(日) 18:29:52.42 ID:Zk4zZ5Rv0<> とりあえずここまでです
以降は次スレに続きます
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 19:27:23.29 ID:6JBfz+/i0<>
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i:::::::;'::::::!::::!::::i:::!戉.´リ r'ヾ\ i::::::/ リ 弋ソ, ,'::::::/、::::::!::::::::::::::::::し'`ーγ-、___ /:::/
i:::::;':__!:::!:::::i:::!.八 弋ソ i::::/  ̄ ,'::::,イ> 〉リ:::::::::::::::::::::::::::::::::` ´:::::::::::::::::::ヽ ,':::;'
i,イ:ゝ -リi:::::リ:::i. ー ´ i:/ . ,':;イノ/ 、:::::r' ヽ::::_::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ i::::! , -、
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i:\リー`ヾ ' ′ ノ゛ ゝ '。 { じ /_::::::::>.´ i::::! j:::::/
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リ',' 刈:::ゝ r ´_ ̄..v `、iフー‐v-、 三 / i::::! /:::/
リ`i::::,::> ´ _...., ,イ.\ ゝ _ ノ__ , /ヽ .j:::j ,':::;'
i:/ ヾ', > ./ .! \ ハi`ーy-- ´/,:::::::i ,':::;' ./:::;'
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/ リ! \i ト、 iヽ、.〉 //::::::::/| /::::/ /:::/
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< /. /∨. ト、 ヽ '´ i /´丶 i .{,.,.ノ /`ヽ\ 三三三三三 .\'´
,ィ´ // ∨ | `丶 </./. 、 .i ` {ノ_,_ノ \ 三三三三: /
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/21(日) 20:39:55.17 ID:R7eZEerBo<> >>1じゃないけど次スレ
一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」番外個体「……うん」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313919099/ <>
◆jPpg5.obl6<>sage<>2011/08/22(月) 01:21:23.40 ID:3/EKXf2F0<> >>997
張っていただきありがとうございます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 02:21:48.11 ID:lTMfVqXn0<>
/ l , 、 l |
/ l i /| i ! !ヽ l |
/ / l i /! _ム イ | i `iヽ、 ト、 . l |
/ / l _|,. ィイ´/ | |ヽ | ハ | ヘ` i‐- __i l |
/ / l | / |/ |i ヽ |! i| ヽ| ヽ | l |
// l l |/ ,,jニ二ミ ヽ | 二ニニ..,,_ ヽ| l|
レ l i l |,ィ彳::::o::::リ ヽ | i::::::o::::气、 | l|
l i l ヘ ヾとつ二ノ ヽ! 弋二_ノっソi / l|
| ハ l ヽ ヽ / / l |
| ! | l \ヽ i / / l |
リ | l iヾ、 / イ / /.|
| l i 、ヽ / ヽ /,イ / /|
| l i l \ i ! // イ / ト
ハ l ! l,.イ `i 、 ゝ.ノ イ i / |/ | ヽ
/ l !ヽ l l i イ !| l / ヽ
/ _,.| H|:ヘ l l ` ´ l l /::|ヽ _ ヽ
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// ヽ |::| ヘ l l,. -く ヽ ハ ,.ム l / .|::| / ヘ ヽ
/ l ヽ. |::| ヾ. r ´ V i/ \ レ |::| l ヽ
/ | ヽ |::| | -─‐- 、i i r ─‐- i |::| / | ヽ
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<>sage<>2011/08/22(月) 04:10:16.34 ID:dGuNeT7ro<> 次スレ行ったのか
乙 <>
1001<><>Over 1000 Thread<> ___, - 、
/_____)
. | | / ヽ || 父さんな、会社辞めて小説で食っていこうと思うんだ
|_| ┃ ┃ ||
(/ ⊂⊃ ヽ) /  ̄ ̄ ̄ \
\僕はSS!/ \_/ ! ( ( (ヽ ヽ
,\ _____ /、 | −、ヽ\ ! <私は二次創作
ゝ/  ̄ ̄ ̄ \ /. \/ ̄\/ .\ | ・ |─ |__ /
/ _____ヽ | | _┌l⊂⊃l | | ┌ - ′ ) /
| | / ─ 、−、! | | / ∋ |__| | | ヽ / ヽ <
|__|─ | ・| ・ | | /`, ──── 、 | | ` ─┐ ?h ̄
( ` ─ o−i ヽ / \ .ノ_ .j ̄ ̄ |
ヽ、 ┬─┬ノ / ̄ ./ ヽ- 、\ /  ̄ ヽ\
// /ヽ─| | ♯| / i ぼくオリジナル | ..) ) \ i ./ |\\
| | / `i'lノ))┘/ , ─│ !-l⊂⊃l┐__ヽ__/\ / | | |
| | | ̄| / /| / ( (... .ヽ / |____|∈ __./ .| | |
|_|/ヽ、_/ ./ ` ─ /\ /ヽ  ̄ \-──| \|_|
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俺の事いじめてた奴のメアドてにいれたったwww安価メールやるお @ 2011/08/22(月) 04:01:47.59 ID:b/cDilU40
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