VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:00:50.28 ID:mcrF5brAO<>前書き

禁書SS。
突き抜けるほどオリミサカ。
もしもし。
立て主が厨二。
経験値?知らんがな。


危険を感じたらUターン安定。
じゃ下から投下開始。<>ミサカ「いただきます、だよ!」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:02:15.62 ID:mcrF5brAO<> ん――

何だろう、ここ。

どこだろう、ここ。

「――――!!」

うるさい何かが聞こえる。
どこだろう、ここ。

「――くそっ、失敗作が!!」

何だろう。

「名の如く『欠陥』とは……ここまで酷いのは類を見ないですね」

ボクは、誰だっけ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:02:42.31 ID:mcrF5brAO<>




とある矛盾の幸福理論(ハッピーエンド)





<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:03:58.44 ID:mcrF5brAO<> ――――

「『そうして人魚姫は海に飛び込み、泡になって消えてしまいました……』」

少女は本を閉じる。
外見は中学生くらいで、髪はショートで綺麗な栗色をしていた。

その目には大粒の涙が揺蕩っている。
少女の読んでいた絵本の題は『人魚姫』だった。

「うぅー……何でこうなるのー……?」

いや、訂正しよう。最早号泣であった。

彼女はげんなりとした様子で立ち上がり、本棚に絵本を戻した。
壁一面の大きさのそれには、絵本がずらりと並んでいる。
それはどれも子供向けで、『桃太郎』『金太郎』と言った日本の昔話から、『人魚姫』『不思議の国のアリス』などの西洋の物語まで様々だった。

「うーん……どうすれば人魚姫のお話はハッピーエンドになるのかなー?」

少女は涙を服の袖で拭いながら、ifの思考を頭の中に広げていく。

「やっぱり人魚姫が王子様と一緒にいないといけないよねー……大体何でハッピーエンドじゃないんだろう」

「ハッピーエンドじゃないといけないのに」

少女はうんうんと頭を捻る。
考えても考えても答えには至れないのだ。

それも仕方無くはあるのだが。



彼女にはここ最近の記憶が無い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/03/27(日) 00:04:58.98 ID:9vbg1Ut4o<> 立て主() <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:05:52.69 ID:mcrF5brAO<> 勿論それは思い出せないと言う事に他ならないのだが、少なくとも話す事は出来るし計算も出来る。

ただ、情緒的な思い出がぽっかりと抜けてしまっているのだ。

きっと、『人魚姫』も子供の頃に読んだはずなのだろうが、それを思い出せない。

母も父も居たのだろうが、思い出せない。

それが原因で彼女は、知識以外は全く幼い頃と変わりなくなってしまった。

だが、それを寂しいとは感じない。
何故なら彼女にとって、父も母も見たことが無いと感じているのだから。

だから今はこうして呑気にも仮の自宅で読書に耽るのだ。
宛ら子供の如く。

「そうだ。どうなるかは分かんないけど、もうちょっと頑張れば良かったのかもなー!ボクならもうちょっと頑張る!」

結局彼女は『もうちょっと頑張る』と言う結論に至って、満足そうな顔になる。
きっと頭の中には『もうちょっと頑張る』事によって幸せになった人魚姫が居るのだろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:07:39.27 ID:mcrF5brAO<> ピンポン、とベルが鳴る。
少女はピョコンッと飛び上がり、ドアへと駆けた。

「お客さんかな、お客さんかな!?いや、きっとお客さん!」

ウキウキワクワクしながらドアの鍵を開けると、そこには一人の女性が立っていた。
髪は手入れしていないようだが、指を通しても引っかかるような様子は無い。
汚れの無い白衣が彼女自身を引き立てている、奇妙な風貌の女。

「芳川おねーちゃん!」

芳川「こんにちは、亜弥(あや)」

亜弥と呼ばれた少女は深々と頭を下げて、恭しく言った。

亜弥「よーこそいらっしゃいました!」

芳川「はいはい、いらっしゃりました」

来訪者の名は芳川桔梗。
能力開発の研究者であり、また少女の一時的な保護者でもある。

少女の頭を優しく撫でるその様子は、幸せと言っても否定はされないものだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 00:09:36.93 ID:QDZOebISO<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:10:57.87 ID:mcrF5brAO<> ――――

学園都市。

ここは異能が蔓延る、外と架け離れた世界と言っても過言では無かった。

科学は進み、医療技術は人の許されざる線を踏み越え、そして人間が超能力を使う異界。

見所のある子供達に能力開発を施し、超能力者を目指す大きな実験場のような場所。

人の業が渦巻く人の世の凝縮体。

力を得た者たちが、それを暴力として行使する事も多々ある世界。

そんな場所とも知らず、ただ日々を暢気に過ごす子供達とのアンバランスさ。

そんな色々なものがごちゃ混ぜになった場所だった。

少女の物語は、この街から始まる。

少女の名は亜弥。
名字は御坂といった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:12:14.36 ID:mcrF5brAO<> ――――

亜弥「ふふふーん、ふふーん」

街をスキップしながら行軍する少女。
彼女の浮かれている原因は、芳川と呼ばれた女性にあった。

亜弥「おっこづっかい、やふーい!」

絵本を買うお金を貰ったのだ。
新しい絵本を手に入れられるとなれば、喜ぶのが彼女なのだ。

周りの訝しげな目線には気付く事無く、お気に入りの古本屋にたどり着く。
それは科学の進んだこの街にどこか相応しくない、古ぼけた建物だった。

彼女は横開きの手動ドアを開け、大きな声で挨拶をした。

亜弥「おじさん、また来たよ!」

店主「おぉ、亜弥ちゃんかい。こりゃまた今日もご機嫌だね……臨時収入かい?」

亜弥「うん、絵本見ていいかな!?」

店主「どうぞ、好きなだけ見てって構わないよ」

ニッコリとした笑みを返す、初老の男性。
レジの前で椅子に座って本を読んでいたようだ。手で奥を差し、自分はメガネをあげ直して再び書に目を落とす。

少女は既に大量の絵本に目を奪われていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:12:48.12 ID:mcrF5brAO<> 30分ほど吟味して、少女は結論を出した。

亜弥「ごめんおじさん。今日は止めとく……」

店主「良いものに出会えなかったんだね。構わないよ、またおいで」

亜弥「うん、また来る!またねー」

少女は店を後にして、その背中を老人は、とても幸せそうに眺めていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:15:11.66 ID:mcrF5brAO<> ――――

亜弥「かーえるが鳴くかーら……あや?」

トテトテと軽い駆け足で帰っていた少女が、奇妙な声に足を止める。
それは一人の小さな泣き声と、たくさんの大きな罵声。

少女は吸い寄せられる様にそれが聞こえた路地裏へと駆けていった。


案の定、背が低めの男の子がガタイの良い男らに囲まれていた。

弱い者いじめだ。
少女はそう思った。

思えば早い。

亜弥「こらっ、弱い者いじめしちゃダメなんだぞっ!」

その男ら――三人組に喝を飛ばす。
まだ若い少女の声で放たれる、更に幼い内容の呼びかけに男らの目線が少女に向いた。

男1「あぁ、何だおまえ?」

男2「この子友達なの。分かる?俺ら友達と話してただけ――」

亜弥「悪いやつはいっつもそうやって言うんだ。やっつけてやる!」

言うが速いか、彼女は先頭の男に飛び蹴りを叩き込んだ。
軽く吹っ飛び、地面を転がる男。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:16:26.19 ID:mcrF5brAO<> 男3「野郎!」

男2「ヤッちまえ!」

奥の男が手から炎を出し、少女に向けて放つ。

異能。
外の非常識であり、ここの常識である。

火炎は少女を呑み込み、肉を焼くはずだった。
ただ、彼女でなければ。

亜弥「……ごちそうさまでした!」

男3「ハァぁ!?火を食いやがったぁ!?」

彼女は炎に対して頭突きをするように頭を出し、その炎を食べた。
いや、食べた様に見えただけだ。

男2「こ、この!」

もう一人の男が殴りかかってくる。
となると肉体強化の能力ぐらいしか当てはまらないだろうな、と少女の本能が少女自身に語りかける。

半身になってその右ストレートを躱し、そのまま回転し後ろ回し蹴りを横っ腹に差し込んだ。
確かに手慣れた技術の、それ。

男は動揺した。
肉体強化によって全身が硬化しているはずなのに、少女の蹴りは確かに自分の柔らかな場所を打ったのだ。

男1「お、おい。コイツヤバいぜ」

男3「う、うむ。トンズラ安定だ!」

たったそれだけであっさり逃げ出す三人組。
それを追わず、しかし彼女は、

亜弥「こらーっ、ごめんなさいしろーっ!!」

とだけ叫んだ。

遠くから小さく『ごめんなさーい』と聞こえたような気がした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:17:18.21 ID:mcrF5brAO<> 亜弥「ふふん、やったね」

得意顔で絡まれてた少年に向き直る少女。
少年はビクリとだけして、黙って走って行ってしまった。

亜弥「あ、待って……お礼言ってよー!!まだハッピーエンドじゃないよー!?……行っちゃった」

呆気に取られて、追いかけれなかった少女。
仕方無く、肩を落としながら帰途に着いたのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:19:17.24 ID:mcrF5brAO<> ――――

異能の街。
そこに存在する彼女もまた、異能である。

御坂亜弥は能力者である。
ただし、強度――レベルは0だ。
最底辺の彼女に赦されたのは、右手と左手を使って弱い静電気を出す事。



――そして頭部と両足に宿る、異能を喰らう力。



以前もこういった事があり、その時に彼女自身が気付いたのだ。



――自分は能力を打ち消せる。



色々な挑戦をし、それは頭と両足に触れた異能だけを打ち消せると分かった。
お陰で両手からは静電気を出せる。
有用かどうかは置いておいて、だが。

初めて彼女が能力を打ち消したのは、今やったように頭で火炎を相殺した時だ。

以来彼女は自分の能力をこう呼んだのだ。



『幻想喰らい(イマジンイーター)』と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:20:36.29 ID:mcrF5brAO<> 他にも彼女には不思議な点が幾つかある。
その一つが、磨き抜かれた体術だ。

いざ自分でやってみようと思っても全く出来ないが、さっきの様な場合は身体が勝手に動く。
まるで覚えていたかの様に、だ。

それは、記憶を無くす前の自分は凄かったんだな、と彼女の中では結論付いている。

しかし、それを彼女はとても喜んでいた。

悪い輩を成敗して、弱い人たちを守る。
それは彼女が数多く知るハッピーエンドの一つだったのだから。



「ふっふふーん」

すっかり機嫌が直りスキップで帰る少女は、とても満足そうな顔をしていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/27(日) 00:22:17.93 ID:mcrF5brAO<> 投下終わり。もしもしだと少なくていかんね。
名前欄の戻し方ググるか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/03/27(日) 00:26:03.61 ID:64SQj34AO<> これなんてヒドイン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/03/27(日) 03:19:01.00 ID:G+qWlFoFo<>   /\___/\
/ /    ヽ ::: \
| (●), 、(●)、 |
|  ,,ノ(、_, )ヽ、,,   |
|   ,;‐=‐ヽ   .:::::|
\  `ニニ´  .:::/      NO THANK YOU
/`ー‐--‐‐―´´\
       .n:n    nn
      nf|||    | | |^!n
      f|.| | ∩  ∩|..| |.|
      |: ::  ! }  {! ::: :|
      ヽ  ,イ   ヽ  :イ   <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2011/03/27(日) 09:46:24.20 ID:ZA6irmF3o<> 喋り方と行動で某マイナーコミックの女勇者(見習い)思い出した。
とりあえず今後の展開を待つ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/27(日) 10:59:15.07 ID:CzAtrxKIO<> オレは期待する <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>saga<>2011/03/31(木) 08:54:14.78 ID:WEpReWvAO<> 投下開始 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 08:59:06.04 ID:WEpReWvAO<> ――――

亜弥「ありゃ、ご飯が無いよー?」

彼女は冷蔵庫を開け、ほどなくして落ち込む。
彼女の主食――フローズンフードの買い置きが切れていたのだ。
このままでは夕方を空腹で過ごす事になる。

彼女は料理が出来ない。
いや、もしかしたら出来ていたのかもしれないが、記憶と共にその詳細も彼方へと旅立ったのだ。

亜弥「うーん、しかたない。今日はお出かけして食べよう!」

決めたら速く、財布の中身と鍵を確認してポケットに突っ込む。
玄関に走り、靴をトントンと慣れた調子で素早く履いた。

亜弥「いってきます!」

誰もいない部屋の誰かに向かって挨拶を一つ、彼女は駆け出した。

残されたドアから、オートロックの音がした。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:00:13.71 ID:WEpReWvAO<> ――――

亜弥「ファミファミファミ〜レ、ファミファミレ〜ス、っと。到着だよ!」

迷ってもいけないと彼女は思ったのか、寄ったのは比較的近くで営業しているファミリーレストランだった。

奥の方の静かな席に座り、すぐに来た店員にお子様ランチを頼む彼女。
店員は僅かに苦笑いしていた。

亜弥「いっただっきまーす!」

案外待たされる事なく注文が出てくる辺り、良い店なのだろう。
味も良いらしく、彼女は舌鼓を打っていた。

亜弥「んふふー。やっぱり外のご飯おいしー!」

オムライス。
たこさんウインナー。
サラダ。
ゼリーなどなどをペロリと平らげる彼女。
あっという間に完食し、食後の多幸感に浸って寛いでいた。

そんな幸せ真っ最中の彼女の耳に入ってくる、男性のダミ声。

好奇心旺盛な彼女が席から身を乗り出して確認してみると――遠くて分かりにくいが、女の子が不良っぽい男数人に絡まれているのが見えた。

亜弥「まただ!よし、やっつけてやるぞ!」

と意気込んだものの、彼女は先にレジに向かって会計を済ませた。
食べ終わったなら速く払わないと、泥棒と思われそうで少し嫌なのだろうか。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:06:49.90 ID:WEpReWvAO<> 亜弥「よーし、今回はどうしよう?」

お店で暴れたら怒られそうなので、彼女的にも穏便に運びたいのだろう。

彼女が取った方法は、「お友達のふりして遊びに行くふり作戦!」だった。
自分の名案に大満足し、彼女は悠々と現場――絡まれた少女のいる席へと歩いていった。

――――

亜弥「ごめーん。待たせちゃった……って、みんなお友達?」

不良1「あぁ?何だテメェ」

亜弥「ボクその子のお友達!ここで待ってて貰ったの!」

その少女――鬱陶しそうに目を閉じていた――は気色の違う声を聞き、そちらへと振り向いた。

「――っ!!!?」

亜弥「へ?」

男の下品な笑い声が響く。

不良1「何バカな事言ってやがんだよ。お前らどう見ても姉妹じゃねぇか」




彼女は、御坂美琴と出会った。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:14:41.87 ID:WEpReWvAO<> 御坂「な……アンタ誰よ!?」

少女は驚きを隠せない。
それは彼女も同じだったが、程度は軽いものだ。

亜弥「あやややや?そっくりさん……じゃないや!」

亜弥「ほら行こ!早くしないと行けなくなっちゃうよ!」

少女の手を引いて、席から立たせる彼女。
だが、少女はその手を振り払った。
気味の悪い物を、見る目で。

不良たちが彼女を囲う。

不良1「ほら、さっさとどっか行けよ」

不良2「面倒臭いからコイツも纏めね?」

失敗。
その事実に、目に見えて機嫌が悪くなる彼女。
彼女が描くハッピーエンドに、少し遠くなったのだ。

どうすれば良いだろうと、良く回らない頭で必死に考える。
が、そこに不良の追い討ちが入る。

不良4「大体テメェにゃ関係ねぇだろ。何か文句でもあるのかよ」

スイッチが入った。

亜弥「あるに決まってるよ!女の子みんなでいじめて、ダメなんだよ!」

御坂「……うん?」

だんだん不穏だった空気の方向性が変わってくる。
それには気付かず、彼女は捲し立てた。

亜弥「女の子は弱いんだよ?弱い者いじめするやつはボクが許さない!」 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:18:05.78 ID:WEpReWvAO<> 御坂「……ふーん」

不良2「はいはい分かった分かった」

不良3「偉いなー、いい子いい子してあげようかー?」

ゲラゲラと下卑た笑いがレストラン内に響く。
見れば、周りの客や店員もこちらを戦々恐々しながら見守っていた。

亜弥「お前らみたいなムカつく奴は今すぐやっつけて――」

御坂「私が今一番ムカついてんのは――」

パリ、と小さな稲妻が走る。後、

御坂「お前だぁぁぁぁぁっ!!」

凄まじい放電。
少女の身体から発せられるそれは、高位の能力者である事を表していた。

不良2「こ、高位能力者でしたか……」

言い残して気絶する悪役の鏡。
しまった、やり過ぎたかと少女が思った辺りで――

亜弥「あやー……強い!凄い!」

御坂「――え?」

彼女は声を掛けてしまった。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:25:01.93 ID:WEpReWvAO<> ――――

御坂「何で……何ともないのよ?」

それは少女の純粋な疑問だった。
只では済まない電撃を放ったつもりだったのだろう。

亜弥「何で?んー、良く分からないけど、何か効かないよ」

少女はジリ、と彼女との距離を詰める。
御坂美琴にとって、目の前の存在は何から何までイレギュラーだった。

問い詰める。

御坂「アンタ誰よ?」

亜弥「ぼ、ボクは御坂亜弥だけど……何でそんな怖い顔なの?ほら、悪い奴やっつけたしハッピー――」

御坂「黙りなさいよ。質問に答えて」

亜弥「…………」

御坂「答えなさいよ!」

亜弥「黙れって言ったのに!?」

御坂美琴のイライラが高まっていく。
それは漏れ出した電気から見てもも明らかだった。

亜弥「(怒ってるのかな。でも何に?)」

考えても分からない、から。

亜弥「(とりあえず逃げよっ)」

彼女は一目散に店から飛び出した。

御坂「ま、待てこのっ!」

それを急いで追いかける御坂美琴。

レストランの店員は漸く一息ついたのだった。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:26:06.68 ID:WEpReWvAO<> ――――

御坂「こら待て!」

市街を走りながら、隙あらば電撃を浴びせる少女。

亜弥「よっとー」

しかしそれらは彼女に触れる事は無い。
彼女も一応電撃使いなので電気には敏感であり、また彼女の両足は異能を蹴り穿つ。

彼女は逃げながら、来る電撃を悠々と打ち消し続けた。
それが更に御坂美琴を逆撫でる。

随分長い事追い掛けられ、気付けば大きな橋の上に彼女はいた。

亜弥「も、もーダメ。走れないよー……」

そこに少女の電撃が走る。
地面を抉り、それに躓いて彼女は盛大に転んでしまった。

亜弥「あやー!?」

御坂「やっと追いついたわよ……」

彼女は怯えていた。
追い掛ける事は良くあっても追い掛けられる事は少ない。

まして彼女は、彼女にとっての悪くない奴に恨まれる経験などないのだ。
余計に意味が分からず戸惑っている。

御坂「ほら、吐きなさい。アンタ、一体何なのよ」

胸ぐらを掴まれ、睨まれながらの詰問。
彼女はもう涙目だった。

亜弥「知らないよぅ。覚えてないんだもの……」

御坂「そう、まだシラを切るのね?」

亜弥「大体ボクは君が誰かも知らないし、今日が初めましてじゃない……」 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:36:12.88 ID:WEpReWvAO<> 知らない、と言う単語に再びイライラを募らせる少女。

御坂「アンタ……常盤台中学2年、レベル5の第三位。『超電磁砲』の御坂美琴って、聞いた事ないの?」

亜弥「無いよー?」

ピキリと音なき音がした。
だんだんと御坂美琴の顔が般若に近づいてゆく錯覚。

御坂「そう、ならそれが私よ。覚えときなさい」

亜弥「へー、凄いんだね!ボクなんかレベル0だから、いくらかけ算しても追い付けないや」

御坂「レベル、0」

御坂美琴のプライドが、声を張り上げて主張する。

ふざけるな、と。

御坂「ふざけんなゴルァァァァァッ!!」

亜弥「ひっ!?」

御坂「ふー……アンタが何者だとかそんなんはこの際どうでも良いわ」

と言って彼女を突き飛ばす少女。
起き上がった彼女が見たのは、遠くで右手にコインを構える少女。

御坂「これで化けの皮剥がしてやるわ」

ピン、と親指でコインを弾き、落下するそれに能力を行使する。

御坂「『超電磁砲』!!」 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:36:44.77 ID:WEpReWvAO<> 音速の速さを伴って来るそれは、彼女の頭部を的確に捉え、

亜弥「――いただきます、だよ!」

喰われた。

御坂「――なん、ですって?」

少女は膝をつき、呆然とする。
これ幸いとばかりに彼女は駆け出した。

亜弥「さ、さようならっ!」

今日はあんまりハッピーエンドな気分がしなかったらしいが、悪い輩をやっつけれたので、彼女的にはオッケーだったようだ。 <> 1<>saga<>2011/03/31(木) 09:41:05.10 ID:WEpReWvAO<> 投下終了 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/03/31(木) 10:15:49.65 ID:AqpqeCk3o<> 上条さんと妹達にした再構成系? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)<>sage<>2011/03/31(木) 10:19:20.15 ID:/kjJkTAAO<> オリミサカじゃなくてオリキャラ×ミサカかこれ?
しかしなんかこう…ちょっと… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/03(日) 01:18:36.74 ID:RRCOGBweo<> 俺は期待する


……ただしちゃんと完結させていただきたい
いやホントお願いしますマジでorz <> 1<>saga<>2011/04/09(土) 23:39:13.78 ID:uI4KZoPAO<> >>33
大体そんな感じ。

投下開始。 <> 1<>saga<>2011/04/09(土) 23:47:10.74 ID:uI4KZoPAO<>



『金太郎』




<> 1<>saga<>2011/04/09(土) 23:48:04.01 ID:uI4KZoPAO<> ――――

亜弥「……それからくまさんは、みんなとなかよくすごしました……っと。おしまいおしまい」

パタリ、と彼女は絵本を閉じる。
タイトルは『きんたろう』だった

満足そうな顔の彼女。
お好みのハッピーエンドだったのだろうか。

亜弥「んふー」

やはりご機嫌のようだ。

日課の朝の読書を終え、彼女は服を着替え始めた。
外出の準備をしている辺り、今日のランチは外食だろう。

亜弥「おサイフもったケータイもったIDもった……よーし、いってきます!」

靴にトントンと踵を入れて、彼女は玄関から飛び出した。
主の外出を見送る様に、オートロックが閉まる音が静かな廊下に響いた。 <> 1<>saga<>2011/04/09(土) 23:56:23.97 ID:uI4KZoPAO<> ――――

亜弥「おっかいものー、おっかいものー!ルルルおっかいものー!」

因みにアクセントは『お』である。
陽気その物と言っても過言では無い彼女は、セブンスミストと呼ばれる洋服店へと向かっていた。

ふと、彼女がスキップを止めて耳を澄ませる。
妙な音を聞いたようで、そういう時は誰かが悲しんでいると彼女は知っていた。

目標は路地裏。

亜弥「まったく、いじめっ子が多いなぁ。やっつけてもやっつけても減らないんだもの」

口ではそう言いながらも、彼女は薄暗い死角の中へと急いで駆けていった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:04:44.22 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「見つけた!観念しろ悪いやつ!」

チンピラ1「……はぁ?」

チンピラ2「なんだなんだぁ?」

やはりと言うか、大柄な男二人と壁際に押さえつけられている少年を彼女は見つけた。

いつもいつも虐める側は二人より多い、と彼女は舌を打つ。

今回は有無を言わさず手前の男の顔面に左ジャブを突き入れ、怯んだ一瞬に腹部に右の足先を捻り込んだ。
腹を抱えて下がった頭を横薙ぎに蹴り飛ばして、彼女は一人目の意識を刈り取る。

チンピラ2「――野郎!」

男が取り出したのは、刃渡りが人の頭ほどあるナイフ。

――という事は能力者では無いか、或いは低レベルだろう。

と、彼女が思考する間で、もう一人の男の意識も彼女の見事なCQCによって堕ちた。

亜弥「えーと……『安心しろ、峰打ちだ』!」

決め台詞を忘れず、そして前回の失敗を忘れていない彼女。
今度は逃げる暇を与えず被害者を捕まえられたようだ。

亜弥「――あれ、キミ……こないだの子?」

「あ……お前」

少年は、この間逃してしまった大きい鯛だった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:12:34.89 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「これいいかもー!」

彼女は一悶着ありながらも漸くセブンスミストに着き、洋服を物色していた。

先ほどの少年と共に。

「……なんでこんな事に」

亜弥「あー、またつまらなそーな顔してる!ほらもっと笑うのよー!」



亜弥「ね、初矢くん!」

介旅「……名前で呼ばないでくれないか」



亜弥「おともだちは名前で呼びあうでしょ?」

介旅「……何処の国の常識か知らないけど、間違いなくその国がイカれてる事だけは解るよ」

少年は、先ほどまでとはまた違ったベクトルでうんざりしていた。
何と厄介な女に捕まってしまったのだろう、と。

僅かだが、話を遡ろう。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:22:00.53 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「ねぇ、キミ。なんでこないだは勝手にどこかへ行ったの?」

介旅「は、はぁ……?何の事ですか?」

少年は彼女を警戒しながら、問うた。
あれだけの立ち回りを見せられては、致し方無い部分もあるだろう。

亜弥「だーかーらー、こないだ助けてあげたのに『ありがとう』を言わなかったでしょ!?」

彼女の柔らかな頬がプクッと膨らんでいる。
表情豊かな彼女の顔は、少年に意思を伝えるのに一役買ったようだ。

介旅「あ……うん。ありがとう、ございました?」

亜弥「…………」

介旅「……?」

あれだけ喧しかった彼女が急に大人しくなったので、少年はふと目線を彼女に向けた。

瞬間、

亜弥「んふふー!!やったー!」

彼女の弾けるような満面の笑顔を目にしたのだった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:32:41.65 ID:1jkneDFAO<> それは少年には明る過ぎて、思わず目を背ける。
が、彼女は少年の手を取り、真っ直ぐに見つめて言ったのだ。

亜弥「ボク、御坂亜弥!キミのお名前は?」

介旅「……介旅。介旅初矢」

亜弥「初矢……初矢……」

介旅「?」

亜弥「いい名前だね、初矢!」

ニッコリと笑いかけてくる彼女は、少年の心を少しだけマシにしたようで。

介旅「……どうも」

亜弥「どういたしましてー!……ねね、初矢くんはこれから用事あるのかな?」

天然なのだろうが、完璧なタイミング、角度、光の反射具合の上目遣いだった。
それは少年の思考を若干フリーズさせ、言葉を選ぶ領域を占有する。

介旅「い、や。特、に?」

亜弥「それじゃ――」

彼女は少年の手をひっ掴み。

亜弥「遊びにレッツゴー!!」

介旅「――ほぅわぁぁぁぁぁ!?」

そして拉致されたのだった。

セブンスミストまで引っ張られ、漸く理由を聞いた少年が得た解は、

亜弥「だってボクらおともだちになったよ?」

というもので。
ここに至って漸く少年は頭を抱える事になったのであった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:43:56.54 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「あややー……」

介旅「……どうした?」

服を手に右往左往している彼女を見かねて、少年は声を掛けてしまった。

彼女は随分としょんぼりとした顔で答える。

それはもう例えるなら、しょんぼり顔全国大会が開かれれば優勝して次の大会でシードが取れるレベルだった。

亜弥「すっごくカワイイ服があったんだけどね……足りないの。お金……」

成る程見れば確かに多少値が張る品であった。
しかし少年にとっては、無理をすれば出せない値段と言う訳でも無い。

介旅「……残念だったな。まぁ、試着だけなら出来るけど?」

亜弥「ホント!?」

言うが早いが彼女はその場で上着を脱ぎ出す。
お陰で少年は、焦りながら彼女を試着室へダンクシュートする羽目になったのだった。

亜弥「どーかなー?」

彼女が選んだのは、天真爛漫な彼女によく似合う、薄い水色のワンピース。
少年も、知識が無いながらに見事だと感じた。
しかし気の効いた言い回しも思いつかないので、ただ一言。

介旅「悪くないと思う」

とだけ言った。

亜弥「えへへー、ありがとー!」

少しだけ、ドキリとした。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 00:53:21.76 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「んゆー……」

介旅「……また金が出来たら買いに来たらいいと思うんだが」

トボトボと彼女はセブンスミストから帰り道を辿っていた。
少年も、何とはなしに着いてきている。

亜弥「ボクあんまりお金無いのよー……」

介旅「……奨学金があるだろ。もしかして低レベルか?」

亜弥「うん。ボクは『電撃使い』のレベル0らしいよー。初矢くんは?」

しかし、少年から返事は来ない。
ただ、呆然としていた。

介旅「レベル、0……か。そっか」

亜弥「?」

介旅「いや、何でもない。僕は『量子変速』のレベル2だ」

亜弥「おぉっ、凄い!」

その『凄い』も、心からの言葉で、またそれを少年も感じた。
くつくつと自嘲の笑いが少年の口から零れる。

介旅「そんな、立派なものじゃない。あんな風に絡まれても自衛すら出来ないし」

亜弥「そんな事ないよー!初矢くん凄い!」

そう言って、彼女は首を傾げた。

亜弥「ところで、しんくろとろんって何?」

知らないのかよ。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:04:15.97 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「あややややややや……」

介旅「(『や』が多い……?)どうした?」

随分と歩いた後の彼女の発言。
となれば次にくる言葉は限られるだろう。

亜弥「疲れたよー……ちょっと公園で休も?」

介旅「お、おぅ?」

疲れたと言う割にはグイグイと少年を引っ張っていく彼女。
連れられるままに、少年は彼女と二人でベンチに腰掛けた。

亜弥「んふー……一息ついたー……」

だらしなくグッタリする彼女。
少年といえば、上から覗く角度になるので、チラチラみえる彼女の胸元の微妙な膨らみや項に目線が行ってしまっている。
そこで少年は気付く。
自分に今までこんな女っ気が無かった事に。

ドキドキするのも仕方無いのだ。

少年がぼんやりとしている所に、彼女から声がかかる。

亜弥「ねぇねぇ初矢くん」

介旅「ひゃいっ!?……何?」

声が裏返ったと言う事実の揉み消しを謀った少年。

亜弥「あの腕に何か巻いてる人ってたくさんいるよね。なんなんだろ?」

揉み消し成功。

しかし、その質問の内容に少年は顔をしかめる。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:12:06.72 ID:1jkneDFAO<> 介旅「……風紀委員(ジャッジメント)の腕章だろう……知らないのか?」

亜弥「あー……確かみんなの平和を守る良い人たちだよね!」

少年の顔が更に曇る。

介旅「……んな事ねぇよ。アイツらは」

流石に彼女でも目の前の少年の変化に気付く。
彼女は恐る恐る聞いてみた。

亜弥「……嫌い?」

介旅「あぁ、大嫌いだね」

亜弥「何で?」

介旅「弱い者を守るとかぬかしてさ……だけど、僕がいざ不良に絡まれても、ジャッジメントは助けになんて来なかったさ」

少年は早口で、しかしぽつりぽつりと言った。
少年の手に力が篭る。

介旅「アイツらは自分の目についた、自分の気の向いた時に、自己満足するために人助けしてるだけなんだよ……っ」

亜弥「……つらかったの、初矢くん?」

介旅「そんな事……ねぇよっ」

少年の肩が震える。
俯いていて見えないが、きっと目には何か、水が溜まっているに違いないだろう。

彼女は、少年を両腕で包み込んだ。
びくり、とする少年。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/10(日) 01:14:42.60 ID:e1ARJ8t20<> 某ゲームの
「イタダキマス、ダナ!」かと思った <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/10(日) 01:20:32.84 ID:iUW3qpSJ0<> オリキャラ?クロス?
誰か教えてくだしあ <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:22:56.44 ID:1jkneDFAO<> キュッ、と抱き締め、彼女は背中を柔らかく叩く。

亜弥「――大丈夫だよ。初矢くんに何かあったら、ボクが助けてあげる」

介旅「――――」

亜弥「だから、元気になって。ね?」

少年は、ずっと忘れていた暖かさを、しかし惜しげも無く離した。

言わねば、と思った。

介旅「……ありがと、う」

亜弥「どういたしましてー!」

彼女の笑顔が、少年にとって意味を持った。

亜弥「――大丈夫?」

呆けていた少年に不意打ちを掛ける彼女。

介旅「うん。ごめん」

少年はしっかりとした口調で言った。

亜弥「良かった。でも、案外風紀委員って悪いやつなんだね……正義の味方なんかじゃないよー!」

介旅「あぁ……ま、でも僕にはアイツらを懲らしめる算段があるけど」

亜弥「へぇ……凄いや!ごめんなさいさせないとね」

介旅「そうだな……そうだ」

少年は長く、息を吐いた。


暫くして、少年と彼女は別れた。
また会おうと約束して、アドレスを交換する。

いつ会おう、とはその時言わなかった。

少年は、少しだけ幸せになった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:30:37.63 ID:1jkneDFAO<> ――――

少年と別れて暫くした、もう空も焼けてくるくらいの時間。
彼女はコンビニのATM相手に苦戦を強いられていた。

亜弥「あややー、おろし方が分からないよー……」

正直問題外だった。
海に泳ぎに行って水着忘れるくらい問題外だった。

しかし現金を卸さねばワンピースを買えない彼女に、諦めるという選択肢は無い。

そんなオロオロする彼女を見つけ、鋭いダッシュで接近する影あり。

常盤台中学2年、『超電磁砲』の御坂美琴だった。

御坂「アンタ、ようやく見つけたわ、よ……?」

亜弥「うゆぅ……そっくりさんかぁ」

近寄って分かる尋常でないオロオロぶりに、流石の少女も毒気を抜かれたようだ。

御坂「……何やってんの?」

亜弥「おろし方分かんない……」

御坂「はぁ!?……ほら、カード入れて……ボタン押して、暗証番号……」

亜弥「わー、ありがとー!」

意外と親切に教えてくれる少女に感動し、抱き着く彼女。

御坂「ちょ、ちょっと何すんのよ……」

いきなりの事に狼狽える少女。
彼女の方は、すっかり不安そうな顔では無くなっていた。



が。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:45:04.56 ID:1jkneDFAO<> 亜弥「あやー……」

御坂「残高全然無いじゃない。何の為にATM寄ったのよ」

亜弥「ふにゅー……ありがとー。帰るー」

御坂「あ、うん。またね」

彼女がガックリとした様子で店を出る。

手を振ってそれを見送る少女が目的を思い出したのは、彼女を見失う直前だった。

御坂「こら待て勝負しろコラぁぁぁぁ!ついでに正体見せろゴラぁぁぁぁ!!」

亜弥「あやーん!?」

二度目の鬼ごっこが始まった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 01:54:25.98 ID:1jkneDFAO<> ――――

もうすっかり暗くなった、そんな時刻の川原で漸く少女は彼女に追いついた。
というか彼女が疲れてしまっただけなのだが。

御坂「とうとう追い詰めたわよ……覚悟なさい」

亜弥「うわーん!もうやだー!」

半泣きの彼女を見て、しかし怯まない少女。
容赦無く電撃を放つ。

亜弥「もー!」

彼女はやって来る電撃を蹴り消す。
余りに簡単そうにやってのけるそれは、少女の逆鱗を撫でた。

御坂「なら、これはどう!?」

川辺の砂が少女の手に集まって、剣の形になる。
どうやら砂鉄を磁力で固めているようだ。

しかし斬り掛かられるそれに、頭をぶつけるだけで往なしてしまう彼女。

御坂「――ならっ、これは!?」

彼女の右腕を掴み、電撃を直接流し込む少女。
確かに電撃は流れ、しかし彼女は感電しなかった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:02:21.75 ID:1jkneDFAO<> 御坂「――なんで」

亜弥「ボクも電気使うからねー」

掴まれた右腕を掴み返し、空いた手で彼女は少女にデコピンをかました。

亜弥「はい、ボクの勝ちー!」

呆気に取られ、後に怒る少女。

御坂「あ――アンタ!!真面目にやんなさいよ!!」

そして、仕方無いとばかりに彼女は溜め息を吐き、言い放つ。

亜弥「――本気でやっていいの?」

と、同時に拳を握り振り上げる。
少女は右手を強く掴まれているせいで逃げられず、小さく震えて目を瞑った。

全く、ずるいものだ。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:10:06.41 ID:1jkneDFAO<> 彼女は後ろに向かって倒れ込み、土の上で仰向けに寝転ぶ。
そして、

亜弥「あやー、まいりましたー」

と言った。
きっと勝ちたいのだろう、と思った彼女の譲歩。
だったのだが。

御坂「な――バカにしてんの!……って聞いてる?」

少女を怒らせてしまったようだ。
しかし、彼女にはもうあまり聞こえていない。

今日たくさん遊んだ上の御坂マラソンだったのだから仕方無い。
彼女は土の寝心地が案外良い事を知って、あっと言う間に意識を手放した。

御坂「え……ちょっと!?起きなさいよ、もう!」

亜弥「くー……」

今日は友達が出来てとてもハッピーエンドだったと、彼女は夢心地に思ったのだった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:20:53.16 ID:1jkneDFAO<> ――――

御坂「どうしてこうなった」

少女は今ホテルの一室にいた。
本来なら学生寮に帰るべきだが、何故こんな所に居るかと問えば、

御坂「でも、放っておくわけにも……」

と返事が来るだろう。
変な所でお人好しだが、それなら最初から追い掛けないと言う選択肢は無いのだろうか。

少女はスヤスヤと静かな寝息を発てる彼女の顔を、ジッと見つめた。

御坂「やっぱり……似てるわよね」

服装はともかく、体型や目鼻立ちが同じなのはどう考えてもおかしいと少女は考える。

その上、得体の知れない能力。
レベル5の自分を退ける存在。

御坂「何なのよ、アンタ……」

もう一度、彼女の寝顔を見る。

自分はきっとこんな安らかな寝顔ではないのだろう、と少女は思って少女自身も床に着いた。

部屋に据え付けられたベッドは、ダブルベッドが一つだけだった。

時刻ももう遅く、少女もすぐに寝入ってしまう。
二人並んで眠る姿は、まるで姉妹のようだった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:28:18.66 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「むにゃ……おはよーござまーす……」

彼女が目を覚ましたのは、翌朝の早くだった。
寝ぼけた目を擦り、周りを見渡して驚く。

亜弥「……どこ?」

見たことの無い部屋。
パッと彼女が見た限りでは、豪華な造りをしているようだ。

ベッドに手を付き、彼女は起き上がった。
ふと、右手に柔らかい感触。

少女の胸部だった。

亜弥「――わお」

動転した彼女が、とりあえず出した言葉がそれだった。
眠りが浅かったのか、少女はそれだけで目を覚ます。

御坂「ん……アンタ、起きたのね――へ?」

少女が身体の一部分の感覚に気を取られて、目線をそちらに向けた。

御坂「――あ、アンタぁぁぁぁ!?何やってんのよぉぉぉぉっ!!?」

真っ赤になってがむしゃらに電撃を漏らす少女。
その電撃は吸い込まれるように彼女の頭に直撃し、消えた。

亜弥「こんな朝ごはんいらないよー……」

御坂「あああアンタまさか私の寝てる間に――」

亜弥「あや?」

御坂「……アホらし。そんな奴じゃなさそうだし」 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:38:33.08 ID:1jkneDFAO<> 冷静になったのか、少女は頭をかいて照れを隠す。
彼女は、ちょうどいいと思った様で、疑問の解消に努めた。

亜弥「ここはどこ?」

御坂「……ビジネスホテルだけど」

亜弥「なんでボクはここに?」

御坂「アンタがいきなり川原で寝出すからよ……」

亜弥「あー、そっかー……」

彼女は漸く思い出したようで、そして思い出した。
消え行く意識の中、少女が怒っていた事に。

亜弥「えーと。まず、一晩お世話になりまして、ありがとうございました」

御坂「え、いや、どういたしまして?」

ペコリ、と彼女は頭を下げた。
それに釣られて少女も会釈を返す。

亜弥「うん。で、昨日なんだけど……なんでそっくりさんはボクとケンカしたがるの?」

御坂「そっくりさん言うな!私にはちゃんと『御坂美琴』って名前があるんだから!」

胸に手を当てて自己表明する少女。
彼女はその名前に、前は気付かなかった違和感を見出だしたようだ。

亜弥「――『御坂』?美琴ちゃんも御坂って言うの?」

それは、彼女にとっての手掛かり足りうる事だったのだろうか。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:47:23.56 ID:1jkneDFAO<> 亜弥「美琴ちゃんは、ボクの事知ってるの?」

御坂「ハァ……?私が知りたいわよ、全く。あと美琴ちゃんやめて恥ずかしい」

亜弥「じゃあ美琴ってよぶね!」

御坂「……話が進まないわ」 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 02:48:53.22 ID:1jkneDFAO<> ――――

御坂「記憶喪失……それに『幻想喰らい』と微弱な『電撃使い』ねぇ……」

亜弥「うん」

一部始終を彼女は少女に話した。

が、少女は本当に関係無いのだと知って少しだけ落ち込んでいるようだった。

御坂「……ま、とりあえずは信用してあげるわ」

亜弥「ありがとー」

礼を言われるような事なのか、と少女は思う。
話が終わったと感じた彼女は、少女に再度質問した。

亜弥「……で、なんで美琴はボクとケンカしたがるの?」

御坂「別にケンカしたいって訳じゃ……事情も分かったし、今はそんな事ないわよ」

ケンカしたいって訳じゃない。
今はそんな事ない。

その二つの文章は彼女に一つの結論を与えた。
彼女がよく知る、ハッピーエンドの一つ。

亜弥「――じゃあじゃあボクたちおともだちだねっ!よろしくね、美琴!」

ギュッと彼女は少女に抱き着いた。
甘えるようなそれに、戸惑いながらも少女は受け止める。

御坂「……ホント、妹みたい」

少女は、何気なく、呟いたのだった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:00:39.30 ID:1jkneDFAO<> ――――

家に帰った彼女を待っていたのは、白衣を私服の様に着こなしている女性だった。

芳川桔梗その人である。

余り怒られはしなかったが、彼女は一週間外出禁止になってしまった。
これには彼女も涙目である。

そして彼女の物語は停滞し、少年はとある事件を起こす。

後に『虚空爆破事件』と呼ばれる、その話をしよう。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:08:42.75 ID:1jkneDFAO<> ――――

御坂「あ、初春さん。待った?」

初春「いえいえ、そんなには待ってませんよ」

少女はセブンスミストの前で待ち合わせをしていたようだ。
待っていたのは、頭に綺麗な花飾りを付けた少女と、黒く長い髪の少女。
返事をしたのは花飾りの少女だ。

御坂「初春さん、その子は?」

初春「あ、こっちは私の友達の――」

佐天「どうもー。初春の親友やらせて貰ってる佐天涙子です。ちなみにレベルは、ゼロでーす」

あははー、と笑いながら見事な自虐ネタを挟む黒く長い髪の少女。

花飾りの少女は初春飾利、黒髪の少女は佐天涙子。
ともに中学一年である。

御坂「私は御坂美琴。よろしくね」 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:16:14.52 ID:1jkneDFAO<> ――――

御坂「あ、これカワイイかも」

佐天「えー、子供っぽくないですか?」

女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので、今はブティックと洒落こんでいる。

御坂「そういえば、初春さんは風紀委員の仕事いいの?」

話を振る少女。
花飾りの少女の右腕には、風紀委員を示す腕章が巻かれていた。

初春「えぇ、たまにはと言う事でお休みを頂きました」

御坂「ふーん。いや、ほらあの事件があったじゃない」

初春「あぁ、『虚空爆破事件』ですね」 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:28:18.57 ID:1jkneDFAO<> 虚空爆破事件。

ごく最近連続して起こっている、風紀委員をターゲットにしたと見られる爆弾を使った殺傷事件である。
殺傷、とは言っても実際死人は出てはいない。
が、大小怪我を負った風紀委員は占めて9人。

犯人は恐らく『量子変速』の能力者と分かってはいるが、唯一可能であると思われるレベル4の人間は随分前から昏睡状態で、ずっと病院で眠り続けているらしい。

量子変速とは、簡単に言えばアルミを爆弾に変える能力である。
が、遠隔操作には高い演算能力が必要で応用が利きにくい点もあった。

初春「正直お手上げですよ……」

御坂「うーん……どういう事なのかしらね」

佐天「ま、今はそんな事気にせず楽しみましょう!ほら御坂さんこの服!」

御坂「あ、カワイイ……」

少女たちは再び洋服に意識を向ける。

だが、些か迂闊では無いのだろうか。

犯人が風紀委員を狙っているのだとするのなら――

初春「わぁ、これもカワイイですね――」

――彼女が標的にならないとも限らないのに。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:39:46.27 ID:1jkneDFAO<> ――――

介旅「ククッ……いたいた。呑気に服なんか物色してやがる」

少年は、花飾りの少女を見つけた。
手には鞄を持っていて、その中にはぬいぐるみが幾つか入っている。
中にはアルミ缶が仕込まれていた。

用途は、『量子変速』に寄る起爆。
目的は、眼前の風紀委員への復讐。

少年は気取られないようにこっそりと、物陰にぬいぐるみを仕掛けてゆく。

その最中に、一着の服が目に止まった。

淡い水色のワンピース。

少年は少し迷って、しかし躊躇いなどなくそれを取ってレジへ向かう。

燃えてしまったら、あの子は悲しむだろうと少年は思ったのだった。

介旅「……すいません、会計を。……プレゼント包装で」

そうして少年は、満足気に店を後にする。

介旅「ケッ。焼かれろ」

後は、店の裏手の薄暗い路地で待機するだけ。

彼女に電話しようか。
プレゼントとか、似合わないよな。

そんな他愛の無い事を、少年は考えていた。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:50:35.47 ID:1jkneDFAO<> ――――

亜弥「あやーん……」

やっと謹慎が解けた少女がまず行ったのは、やはりセブンスミスト。

だがしかし、既にあの服は売れてしまったようだった。

しょんぼりとしている彼女に、背後から声が掛かる。

御坂「……アンタ、何してんの?」

それは彼女にとっての友人の声。
彼女はクルリと振り返った。

亜弥「美琴……服が無くなっちゃった」

御坂「服ぅ?……あ、売れたのね」

佐天「あれあれ……御坂さんって妹さんがいたんですか?」

初春「凄くそっくりなんですね……」

少女の後ろに、彼女は知らない人を見つけた。
キョトンとする彼女。

亜弥「どちらさま?」

御坂「あ、二人は私の友達の初春さんと佐天さん」

初春「どうも」

佐天「よろしくっ!」

友達の友達。
ということは、彼女にとっては友達同然だったようだ。
途端に笑顔になる彼女。

亜弥「ボクは御坂亜弥って言うんだ。よろしくね!」

佐天「(何この純粋な目。ちょっと心に痛い)」

初春「(ボクっ子……)」

それぞれがそれぞれの反応をし、さて交友を深めるかと思いきや。

急に爆発音がした。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 03:58:03.27 ID:1jkneDFAO<> 御坂「っ!?」

亜弥「――っ」

初春「きゃあっ!」

佐天「わぁっ!?」

各々の反射。
しかしやはり中学生、子供の反応であった。
それはレベル5の少女とて例外ではない。

彼女以外は。

彼女はスイッチが入ったかの如く、顔付きが大人びていた。


感じる、悪い奴の気配。


騒然とする店内。

二度、三度と次いで爆発が起こる。
爆発、と言う単語が少女の思考に引っかかった。

――虚空爆破事件。

つまり、それは。

御坂「初春さん!!」

初春「へ?」

少女は電磁波を飛ばして周囲を探り、見つける。
体内にアルミを内包したぬいぐるみが、花飾りの少女の後ろにあるのを。

間に、合わない――



そのぬいぐるみが、爆ぜた。



爆風は花飾りの少女を呑み込み、焼き焦がす――はずだった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 04:05:13.94 ID:1jkneDFAO<> 亜弥「――いただき、ましたぁっ!!」

それは彼女に全て打ち払われる。
そして、間発入れずに彼女は走り出した。
少女は狼狽える。

御坂「あ、アンタ何処に――」

言いかけて気付く。
まだ周囲に幾つかアルミの気配がある事に。

しかし。

御坂「アイツ……電撃使いとしてはレベル0でしょ?何で、分かったのかしら……」

初春「うぅ……」

御坂「初春さん、佐天さん、大丈夫!?」

佐天「え、えぇ何とか……」 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 04:20:48.47 ID:1jkneDFAO<> ――――

彼女が全ての爆弾を潰して回ったので、大した被害も無く、また怪我人も出なかった。
彼女はどこかやりきった表情で、既にショッピングどころでは無い店内から出ようとする。

出口に、少女がいた。

御坂「待ちなさいよ」

亜弥「美琴?」

彼女は首を傾げた。
少女の雰囲気が些か友好的では無かったからだ。

御坂「アンタ、なんで言わないの?今ここで出ていったらヒーローよ」

亜弥「ヒーローかー……それも良いけど」

彼女は、そんな事はどうでもいいのだと言わんばかりの態度だった。

亜弥「みんなケガしなかったし、もう爆発もしないからハッピーエンドだよ。せっかくいい感じに終わったお話を台無しにできないよ」

御坂「……そ」

亜弥「うん。それじゃ、またね。バイバイ」

手を振る彼女を見送る少女。
全く、自由で羨ましいと思う。
しかし一体犯人はどこにいるのか……

と思考する少女に、一人の少年が目に入る。
コソコソと路地裏に入っていくその様子に、少女の鋭い勘が語りかけた。

――多分、アイツ。

少女は少年を追って路地裏へと走っていった。 <> 1<>saga<>2011/04/10(日) 04:28:35.32 ID:1jkneDFAO<> まだ読んでる酔狂なやついる? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/04/10(日) 06:14:15.29 ID:jFASJJ5Oo<> ん? <> 1<>sage<>2011/04/10(日) 07:46:41.50 ID:1jkneDFAO<> 寝てた。今晩更新。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:32:59.52 ID:564etwNAO<> 再開 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:36:43.94 ID:564etwNAO<> ――――

介旅「チクショウ、何で失敗したんだ……配置は完璧だったはずだ」

少年は一人、自らの失敗に動揺していた。
故に、背後から近寄る足音にも気付けない。

御坂「へぇ……やっぱりアンタが犯人だったんだ」

介旅「ひっ……誰だ――ってお前か、亜弥」

カチン、と少女の頭に怒りのサインが打ち鳴らされる。

御坂「残念、人違いよ。常盤台中学の『超電磁砲』、御坂美琴。アンタもつくづく運がないわね」

介旅「なっ――」

聞くなり速攻で逃げ出す少年。
確かにそれしか無いのだ。
敵うはずがないのだから。

だが、正確にその足を貫く電撃。
痺れが少年を襲い、無様に地面に転がった。
少年はハッとした様子で、手元に持っていた紙袋を見る。
どうやら中身は無事のようだ。

御坂「ほら、手こずらせるんじゃ無いわよ……さっさと観念、なさい!」

少女が放った電撃が、今度は少年の腕に突き刺さる。

介旅「わぁぁ―――!!?」

痛い。熱い。千切れる。

そんな散乱とした言葉が脳内に浮かぶ。
元々少年は暴力に弱い。
痛いのは当然嫌だし、かと言って逆らえば更に痛い。
ただ黙って相手が満足するまで痛ぶられているのが一番丸く収まると知ってもいたのだ。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:38:21.09 ID:564etwNAO<> 今回だってどうしようも無い。
自分の復讐は、皮肉にも最高のレベルの人間に止められてしまったのだと、少年は痛む思考の中で理解した。

しかし――

御坂「うわ……何よそれ、女物のワンピース? 気持ち悪い……」

サァ、と血の気が引く音がした。
見れば、少年が抱えていた袋は電撃によって焼け焦げ、それは中身も例外では無かった。



『すっごくカワイイ服があったんだけど――』

『どーかなー?』

『えへへー、ありがとー!』



思えば少年は怒る、と言う感情が希薄だった。
不良に囲まれて殴られても、まず先に恐怖が立つし、普通はそうだろう。

だから、こんな感情は初めてだ、と少年は思った。

思って、吼えた。

介旅「このやろぉぉぉぉぉっ!!!」

御坂「なっ!?」

少年は手近にあった空き缶を少女に向かって投げ、起爆させる。
少女は多少の焦りを見せるが、難なくその爆風を電気的に相殺する。

しかし、身を守る術を持たない少年。
当然身体を爆風が焦がしてゆくが、今の少年は痛みなんかでは止まれない。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:39:42.56 ID:564etwNAO<> 突き動かされるような情動が、後から後から沸々と湧いてきて、ただ敵を倒せ、ぶっ殺せと語り掛ける。

御坂「このっ!」

少女の電撃が数度少年の身体を貫き、少年はグラリ、と倒れ――ない。

しっかりと大地に足を踏みしめ、目は少女を睨み、その瞳の奥には烈昂する紅蓮の怒りが渦巻いていた。

少女がその様子に若干たじろぐ、その隙を少年は見逃さなかった。

介旅「もっと……もっとだ!」

少年は自分の耳に乱暴にイヤホンを突っ込む。
そこから流れる音楽が、少年の思考回路をクリアにしていった。

それは『幻想御手(レベルアッパー)』と呼ばれる、アンダーグラウンドの産物。
強制的に演算レベルを引き上げる呪詛。

少年は逃げたい訳じゃなかった。
ただ、純粋に負けたくなかった。

やり場の無い怒りでは、ないのだから。

介旅「うぉぉぉぉっ!!」

少年が力を込めると、そこら中から空き缶が集まってきた。
それらは空に舞い上がり、少女に向かって降り注ぐ。

御坂「っ――らぁぁっ!!」

しかし、少女の全力の電撃はそれら全てを撃ち落としてゆく。
爆発させても少女には届かず、また数を撃っても意味が無く。
少年は手詰まりを起こしてしまった。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:42:46.29 ID:564etwNAO<> 介旅「ばけもんが……」

御坂「結構やるけど、所詮そんなモノね」

少女はポケットから一枚のコインを取り出した。
それは少女にとっての、必ず殺す概念。

御坂「さて、これはどうかしらね?」

少年は泣いた。

痛みでは無い。痛みには強くなった。

惨めさでも無い。誇るような自分ではないのはとうに知った。

ただ悔しかった。
彼女の好きだった物を壊されたのにも係わらず、何も出来ない自分に悔しがった。

介旅「チクショウ……何で俺の周りは……こんなのばっかりなんだよ」

少女の手がコインを弾き、再び手に戻った瞬間、『超電磁砲』は放たれた。

音速を越えて、プラズマ化したそれが迫る。
当たれば、ただでは済まないだろう。

――やっぱり、誰も助けてなんかくれなかった。

少年がそう諦めた時――

少年の背後から飛び出した何者かが、少女の矢を下から蹴り飛ばした。

『超電磁砲』は角度を変え、空へと吸い込まれていく。

「何してるの、美琴!!」

女の声。
しかもそれは少年が聞いた事のある声で。

介旅「お前――何で」

「だって、助けてあげるって言ったもの――」

亜弥「――初矢くん」

彼女が、約束を守りに来たのだ。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:43:42.02 ID:564etwNAO<> 御坂「ふーん……私が悪者って訳かしら?」

亜弥「そうだよ!こんな酷い事して、許さないぞ!」

彼女は怒りを露にしていた。
それを見て急速に冷めていく少女。
意地悪く笑って、冷たく言い放った。

御坂「そいつ、さっきの事件の犯人よ? それでもソイツを庇うの?」

亜弥「えっ――」

少女は振り返り、少年を見る。
少年は、目を反らす事しか出来なかった。

亜弥「何でそんな事――」

介旅「……僕を守ってくれない風紀委員に、復讐がしたかったんだ」

御坂「は?そんな下らない理由で?」

明らかな侮蔑を込めた少女。
だが、彼女の反応は全く逆だった。

亜弥「なーんだ、そうだったの。でも、やっつけるにしても……他の人を巻き込んだのは良くないよ?」

少年はポカンとする。
予想外の反応に、脳が返答を出せなかったのだ。

介旅「あ、あぁ。確かに。ごめん」

亜弥「うん、よろしー!って訳だから、美琴もごめんなさいしなさい!」

この物言いには流石に少女も苛立ったようだ。
語気が荒くなる。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:44:55.43 ID:564etwNAO<> 御坂「はぁ?……アンタ何言ってんの?」

亜弥「分かるもの!初矢くんのケガ、美琴がやったんでしょ!?」

確かに少年の様子は酷かった。
服はあちこち焦げ溶けているし、皮膚も同様である。

御坂「いや、ソイツが悪いんだから自業自得じゃない」

亜弥「でもごめんなさいしたよ!もう悪くないよ!!」

御坂「子供か!謝ってすめば風紀委員と警備員は要らないのよ!」

亜弥「じゃあそんなのいらない!!初矢くんを悲しくするそんな奴らいらない!!」

だんだんとヒートアップしていく二人。

亜弥「本当に悪いやつやっつけるなら分かるけど、初矢くんはそうじゃないよ!」

御坂「じゃあ誰が悪いって言うつもりなのよ!」

亜弥「風紀委員が悪いやつ!」

少女は絶句した。
言うに事欠いて風紀委員が悪か、と。

御坂「へぇ……つまり、そいつをいつもいつも助けられなかった風紀委員が一番悪いって?」

亜弥「うん!」

少女は思いっきり、嫌味を込めて言った。

御坂「バッカじゃないの? そんなにイチイチ風紀委員が小さい事で動ける訳ないじゃない。ただの逆恨みじゃん」

少年が、ビクリと震える。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:46:02.79 ID:564etwNAO<> 亜弥「それが風紀委員のお仕事じゃなかったの!?悪いやつをやっつけない正義の味方って何なの!?」

御坂「知らないわよ……あー、頭いたー……」

終わりが見えない口論に、一つ波紋が起こる。
妙齢を思わせる女性の声と、彼女が聞き覚える少女の声と。

白井「お姉様、無事でしたの!?」

初春「御坂さん、犯人はどちらに?」

風紀委員の腕章を付けた少女が二人。
彼女が見た事の無い方の少女は、長めのツインテールだった。

御坂「そこでへばってる男よ」

少女は顎で少年を指す。
が、ツインテールの少女の目線は彼女に釘付けになっていた。

白井「お、お姉様そっくりのお方……ジュルリ」

御坂「あ、こら黒子ぉ!?」

気付いた時には既に遅し。
ツインテールの少女は彼女の目の前にテレポートしていた。
どうやら転移能力者らしい。

白井「貴女はお姉様のご姉妹であらせられますの?」

興奮した様子のそちらと違い、彼女は静かに聞いた。

亜弥「キミは、風紀委員?」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:50:57.29 ID:564etwNAO<> 白井「えぇ。腕章にもある通り、白井黒子は正真正銘ジャッジメントですの!」

亜弥「初春ちゃんも?」

白井「う、初春ちゃん?……まぁ、そうですの」

何故初春はちゃん付けですの?とツインテールの少女は思い――少女の金切り声が響く。

御坂「――黒子下がって!!」

白井「え――?」

一瞬。
たった一瞬でツインテールの少女は投げ飛ばされた。
何が起こったのか理解するより先に、安全に着地出来るようにテレポートを行う。

白井「な、何をするんですの!?」

介旅「お、おい……っ!」

少年も、流石に声を掛ける。
まさか彼女は、と思い、そしてそれは的中した。

亜弥「見つけた……」

御坂「バカ、止めなさいよ!?」

白井「な、何ですの!?」

初春「亜弥さん……?」

風紀委員の二人がようやく彼女のただならぬ気配に気付く。

彼女は堂々と、自分の正義を掲げたのだ。

亜弥「悪いやつ、やっつけてやる!」

白井「悪いやつ……ってわたくしですのぉぉぉっ!?」

ツインテールの少女が叫ぶ時には、既に彼女の右足はその空間を薙いでいた。

しかし。

亜弥「(手応えが無い。転移能力は厄介だけど、弱点が多い)」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:52:51.72 ID:564etwNAO<> 御坂「この――」

少女が電撃を飛ばしてくるが、彼女にとっては虫けらの飛行に等しい。

白井「どうやら本気のようですわね」

ツインテールの少女の雰囲気が変わる。
やっとやる気になったようだが、些か呑気過ぎないだろうか。

御坂「初春さん、警備員を!」

初春「は、はいっ!」

その場から離れていく花飾りの少女。
それに吼える彼女。

逃げるな、と。

御坂「勘違いしないで。アンタの相手は私よ?」

少女の側に転移してくるツインテールの少女。
小声で少女に問いかけた。

白井「お姉様……あの方は」

御坂「詳しい話は後だけど……私、アイツには勝てないわよ」

ツインテールの少女が驚愕する。

白井「そんなまさか!?ではあの方は高位能力者ですの?」

御坂「不思議な事に、レベル0らしいわ……全くデタラメよ」

白井「あり得ませんの――」

亜弥「何喋ってるの?」

彼女の声がして、それはごく低い所から。

地べたスレスレに身を屈めて凄まじい速さで距離を詰めた彼女は、その勢いでツインテールの少女に頭突きをかました。
吹っ飛んだツインテールの少女は、その瞬間テレポート出来なかった事に驚きを覚える。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:54:21.81 ID:564etwNAO<> 白井「(なっ――)」

御坂「この――」

亜弥「前に言ったよね。本気でやっても良いかって」

少女が放つ電撃を蹴って捌き、磁力で飛ばしてくる鉄塊はギリギリで避けて、近寄った先の砂鉄剣は喰らい尽くす。

そうして懐に彼女を招き入れてしまった少女は、先ほどの突進で倒れているツインテールの少女の上に投げ飛ばされる。

御坂「キャッ」

白井「げふっ」

その背中を右足で彼女は踏みつける。
これで二人とも能力を封じられてしまった。
あっという間の、呆気ない出来事。

亜弥「さぁ、まいったか!?ごめんなさいしろ!」

圧倒的。
そう、余りに彼女は場馴れし過ぎてしまっていた。
それはまるで、ありとあらゆる戦闘データを予め知っているみたいに。

白井「な、何の事ですの?」

亜弥「とぼけるな!キミたちが初矢くんを助けなかったからこんな事になったんじゃないか!」

白井「は、初矢くん?話がさっぱり分からないんですの……」

亜弥「この――」

「はい、そこまでじゃん」

彼女の肩に手が置かれる。
振り返ると大人の女性がいた。

黄泉川愛穂。警備員の一人である。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:56:44.15 ID:564etwNAO<> 初春「し、白井さん。大丈夫ですか?」

黄泉川「あの超電磁砲を足蹴にするなんて……お前何者じゃん?」

亜弥「……アナタ、誰?」

足を二人から退け、彼女は新たな乱入者と対峙した。

黄泉川「黄泉川愛穂。警備員じゃんよ」

亜弥「……悪いやつの親玉だなっ!」

ケラケラと女性は笑った。

黄泉川「はははっ、この仕事やって結構経つけど、悪いやつって言われたのは初めてじゃん!」

「黄泉川さん、対象確保しました」

黄泉川「ご苦労じゃん」

他にも何人かいる様で、彼女は男数人に連れていかれる少年を見た。

走る。

黄泉川「おぉ?」

人数が多い。
警備員は戦闘に慣れている。

情報が勝手に彼女の頭の中に入ってきて、最適な戦い方を身体に伝える。
少年を掴んでいた警備員の二人は、かたや壁に叩きつけられ、もう一人は投げられて背中を強かに打ち付けた。

黄泉川「何するじゃん!」

「いってー……このっ!」

壁の警備員が掴みかかってくるが、素早い左ジャブのフラッシュ。
そこから流れるように右アッパーが顎を撃ち抜き、左のフックが腹部を抉る。
よろけた警備員に飛び後ろ回し蹴りを叩き込めば、グロッキーの出来上がりだ。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 00:57:36.56 ID:564etwNAO<> 御坂「ば、バカ!冗談じゃ済まなくなるわよ!?」

黄泉川「ひゅー、子供のくせに見事じゃん」

女性をキッと彼女は睨み付けた。

亜弥「なんで初矢くんを連れてくの?」

黄泉川「そりゃこれだけの事件を起こしたからじゃん」

亜弥「だってそれは風紀――」

介旅「亜弥」

今まで黙っていた少年が、精一杯彼女に話す。

介旅「いいんだ、もう」

亜弥「え……?」

黄泉川「いい心がけじゃん。さ、行くじゃんよ」

少年は、静かに歩いていった。

なんで?
なんで?

意味がわかんないよ。

亜弥「なんで初矢くんを連れてくの――離してよ美琴!」

御坂「大人しくなさいよ!――構いませんから行って下さい」

油断していた彼女は、後ろから少女に羽交い締めにされる。
もがく彼女を尻目に少年は遠ざかっていった。

亜弥「なんで、なんで!?ごめんなさいしたよ!?そしたら仲直りじゃないの!?訳わかんないよ!訳わかんないよ!!」

御坂「そんな、簡単、じゃないの、暴れるなっ」

少年は、見えなくなる寸前に少女を見た。

その口は、確かに『ありがとう』、そして『ごめん』と動いていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/11(月) 00:58:40.47 ID:GhQ0Z48DO<> (上条+禁書+打ち止め)÷3=オリ御坂妹
って感じかな?
上条さんは出してくれた方が面白かった気もするg(ry <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:00:32.39 ID:564etwNAO<> ――――

少年が連れていかれ、暫くしてようやく彼女は大人しくなった。

亜弥「なんで……なんで?」

それを見かねたツインテールの少女が声を掛ける。

白井「あの殿方がどのようなお方かは存じ上げませんが……犯した罪は償わねばなりませんの」

少女は俯いたまま、聞いた。

亜弥「じゃあ、なんで初矢くんをいじめた悪いやつらは捕まらないの?」

白井「それは……私たちも日々努力しておりますですの」

亜弥「じゃあ、なんで初矢くんは助けなかったの?」

白井「……それは、私たちの力及ばず……という事になると思うんですの」

初春「白井さん……」

彼女は再び猛り、叫ぶ。

亜弥「で!!そんなどこかで泣いてる誰かをほっておいて!!助けるお仕事をしている人が!!洋服屋さんで遊んでるの!!?」

初春「ひっ」

小さな悲鳴。

御坂「……そりゃ人間だから、別に良いでしょ。たまには」

亜弥「そんなっ……そんな気持ちでやるなら!!最初からしない方がマシじゃない!!」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:02:31.49 ID:564etwNAO<> 捻り出すような、彼女の主張に誰も声を出せないかと思われた。

だが。

白井「仰る通りですの」

初春「白井さん……?」

白井「ですが、でしたら貴女は全ての人間を救えるんですの?」

亜弥「……困ってる人は、全部助けなきゃいけない……!」

ツインテールの少女は、彼女の目を真っ直ぐ見つめる。

白井「……強いですのね。私たちも見習うべきですの、初春」

ツインテールの少女は頭を下げた。

白井「この白井黒子。一意専心これからも努力していきますの。どうかお許し頂けますですの?」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:04:17.31 ID:564etwNAO<> 亜弥「……わかった。ボクもごめんよ。痛くなかった?」

白井「いいえ全然。よろしければもう一度踏んでいただきゲフゥ」

いい感じのパンチがツインテールの少女に入った。
入れたのは少女。少し頬が赤かった。

御坂「まったアンタは……ごめん、気にしないで」

黒子「で、お姉様。このお方は一体……」

初春「あ、それ私も気になります!」

御坂「あー、えーとね……」

少女は二人に説明を初めた。
彼女はと言うと、地面に妙な袋を見つけていた。
それを見た少女が、その詳細を伝える。

御坂「それ……あの男が持ってたわ。ワンピースなんて悪趣味よね――」

既に彼女はあまり聞いていない。
袋の中には、焼け焦げた水色のワンピースが入っていた。

それは彼女が欲しがっていた物で。

まさか、これ――

亜弥「初、矢くん――」

彼女はそのボロボロになった服を抱き締めて、泣いた。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:05:03.00 ID:564etwNAO<> ――――

家に、帰ると言うよりは辿り着いたと表現した方が的確な様子で、彼女は帰りついた。

芳川「あら、お帰りなさい」

先客兼保護者がいた。
ソファに座って優雅な時間を過ごしていた。気分だけ。

彼女は一つだけ聞いた。

亜弥「ねぇ、芳川おねーちゃん」

芳川「何かしら?」

亜弥「悪い事して警備員に捕まったら、どこに連れてかれるの?」

ふむ、と女性は顎に手を当てて考える。

芳川「この辺りなら――の近くにある収容施設かしらね」

亜弥「そう。ありがとー」

努めて不審に思われないように彼女は言った。

まだ、彼女にとって物語は終わっていなかったのだ。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:06:04.40 ID:564etwNAO<> ――――

少年は薄暗い部屋に居た。収容施設の一室である。
だが、部屋の暗さとは反比例して、少年の気分は澄んでいた。

あんな風に守ってくれる人を、自分みたいな悪人と付き合わせてはいけない。
少年はそう思っている。

少年は本当に嬉しかった。
少しだけ欲を言うなら、もっと早く会いたかったと言う事だろうか。

亜弥「はーつやくーん!」

あぁ、幻聴が聞こえる――

えぇ?

亜弥「ほら、帰ろ?」

部屋のドアの格子の外に、彼女の茶色い髪の毛を確認できた。
ドアのロックが空く。
確かにそこには彼女が居た。

介旅「え、え?」

亜弥「はい、手!」

手を掴まれ、いつぞやの如く引っ張られた。

介旅「……何故?」

彼女はニッコリ笑っていた。

亜弥「だって約束したもの」

クッ、と少年も笑った。
こりゃあ、いよいよ持ってとんでもないと、心底思ったのだった。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:08:26.56 ID:564etwNAO<> ――――

施設の廊下から天井へと上がり、ダクトから建物の外へ出た。
手際の良さに少年は舌を巻いてものだ。

だが、外に出た途端にサイレンのような音が施設内に響いた。
後はグラウンドを走り抜けて壁を伝うだけだが、そもそも少年は逃げられるとは思っていない。

少年は役割を一つ果たす為に彼女といるのだ。

あっという間に警備員らに包囲される彼女たち。
その輪の中から見覚えのある女性が歩いてきた。

黄泉川「おぅおぅ随分元気じゃん?」

彼女も構えてはいるが、彼女の脳は、この人数を相手にするには重火器が必要だとはじき出していた。

多勢に無勢。
まさしくそれだった。

黄泉川「お前ら下がってるじゃん。久々に血が騒ぐじゃんよ」

パキパキと指を鳴らす女性。
どうやら一騎討ちのようだ。

少女は先手必勝とばかりにお決まりの左ジャブを、容赦無く顔面に入れる。

が、女性は怯まない。

黄泉川「いいフラッシュじゃん。パンチも速いが……」

そして少女の左肩に右ストレートを通した。
肩から吹っ飛ぶ彼女。

亜弥「ぎゃっ」

黄泉川「来るのが分かってれば余裕じゃんよ」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:09:09.02 ID:564etwNAO<> 少女は素早く起き上がり、ローキックを相手の右足に見舞おうとする。
それにも容易く女性は膝を合わせてきた。

亜弥「つっ――」

黄泉川「筋は良いけど素直過ぎるじゃん」

女性は、言うだけあって強かった。
そもそも彼女は能力を打ち消すことによって、能力者に対するアドバンテージがあっただけである。
つまり体術で上回られると言う事は、それはそのまま敗北に繋がるのだ。

黄泉川「ふふん、じゃん」

手をヒラヒラと振り、彼女を挑発する女性。

彼女は生まれて初めて、『負けるかもしれない』と思う。

それは、彼女にとってのバッドエンドの予兆だった。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:09:47.21 ID:564etwNAO<> ――――

黄泉川「ほー、まだ向かってくるじゃん?」

何度も何度も倒れ、その度に立ち上がる彼女。
しかし、身体は打ちのめされ、足はふらついている。

彼女は拳を握り、再び構えた。

それを制したのは少年。

介旅「……もういい、もういいんだ」

亜弥「――よくない!」

もう少年は彼女を見ていられないと言うのに、彼女は決して止めようとはしない。
女性が小さく息を吐く。

黄泉川「こんな頑固な子は久しぶりじゃん……困ったじゃんよ」

「ごめんなさい。通してくれるかしら?」

ふと、その場に相応しくない大人しそうな女性の声色が聞こえた。

警備員たちの輪から中へと入ってきたのは、白衣の女性――芳川桔梗。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:10:48.41 ID:564etwNAO<> 亜弥「芳川、おねーちゃん?」

芳川「事情は知ってるわ。ねぇ、亜弥」

彼女は悪戯が見つかった子供の様な表情をした。
苦虫を噛み潰したようなそれは、悔しさを孕んでいる。

亜弥「……」

芳川「悪いことをしたら、ごめんなさいよね?」

亜弥「……うん」

芳川「でも、そこの男の子は沢山謝らないといけないでしょう?だから、少しだけここで反省しなきゃいけないの。分かるわね?」

亜弥「……」

芳川「ごめんなさいは、一回だけじゃダメな時もあるの。分かって?」

亜弥「……初矢くんは、それで良いの?」

少年は苦笑いしながら答えた。

介旅「……正直に言うと、風紀委員とか不良とかもうどうでも良くなったんだ」

介旅「亜弥を見てたら、そんなちっぽけな事で悩んでる自分がバカみたいでさ」

亜弥「…………でも」

介旅「すぐ帰ってくるから、また遊びに行こう。だから、そんな顔をしないでくれ。頼む」

亜弥「……指切り」

彼女は小指を差し出した。
きっと守られるようにと、願を掛ける為に。

介旅「……あぁ。指切りだ」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:11:21.01 ID:564etwNAO<> ――――

黄泉川「しっかし桔梗が保護者とは思わなかったじゃん……何じゃんそのジト目はじゃん?」

芳川「いや、ね。随分とボロボロにしてくれたわね。もう少しで貴女の首が飛ぶところだったわ」

黄泉川「え」

芳川「あの子、かなり大きい研究に絡んでるわよ?」

黄泉川「マジかじゃん」

芳川「えぇ。じゃ、連れて帰るわね。もちろん、お咎め無しよね?」

黄泉川「ぐぬぬ……報告書作る身にもなれじゃん」 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:12:22.31 ID:564etwNAO<> ――――

一悶着も済み、夜中の街を二人で歩く彼女と白衣の女性。
彼女はずっと考え事をしていた。

亜弥「……芳川おねーちゃん」

芳川「何かしら?」

亜弥「今日は、ハッピーエンドだったのかな? ボク今日色々ありすぎて訳わかんないよ」

芳川「そうね……でも、彼にはまた会えるでしょ?」

亜弥「うん!」

芳川「それが楽しみなら、それはハッピーエンドなんじゃないかしら」

亜弥「うーん……」

彼女は終わらない思考の迷路にハマりながら、家へと帰っていく。

彼女の部屋では、焼け焦げたワンピースが主の帰りを待っていた。 <> 1<>saga<>2011/04/11(月) 01:15:08.62 ID:564etwNAO<> おっしゃ虚爆事件終わった……
次はインデックス拾ってステイルと神裂をあしらいながら幻想御手事件を解決しなきゃならない。やべぇ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<><>2011/04/11(月) 01:17:35.95 ID:8Tk9TLWV0<> 乙でした〜期待してまふ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/04/11(月) 01:20:55.36 ID:jVcwcXYDO<> オリキャラ×既存キャラが好きなな俺が乙

とりあえずどこかでオリキャラのちゃんとした説明設定?を聞かせてくれい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/11(月) 01:47:20.70 ID:m5LZvZOIO<> 上条さんはいないの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/04/11(月) 04:46:27.05 ID:j9o3OeqQo<> オリキャラがいい感じにマッチしてて読みやすくて面白い

乙 <> 1<>sage<>2011/04/11(月) 07:36:03.16 ID:564etwNAO<> >>100

亜弥の現在までの設定って言えば

フルネーム御坂亜弥。
芳川がたまに訪ねてくる。
頭と両足が幻想殺し状態。
腕から微弱な電気が出せる。
やたら不幸と遭遇する。
御坂美琴にそっくり。
ここ最近の記憶しかない。
幼い。

他にも考えてるけどそれは追々と。

>>101
次元の裂け目に取り込まれました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/04/11(月) 15:53:26.50 ID:jVcwcXYDO<> 無限力に取り込まれたか… <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:33:26.66 ID:z/1D3wiAO<> 投下開始 <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:35:29.35 ID:z/1D3wiAO<>


『泣いた赤鬼合戦』



<> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:36:12.55 ID:z/1D3wiAO<> ――――

亜弥「ふにゃーん!!」

彼女はボロボロと涙を流していた。
手に持っている本のタイトルは『泣いた赤鬼』。
内容はご存知だろうか。

赤鬼は人間と仲良くしたかった。
しかし、人間はそんな赤鬼を疑い、簡単に心を許したりはしない。
そこで、赤鬼の友人の青鬼が一芝居打つのだ。

青鬼は人間を襲い、それを赤鬼が撃退する。
人間は感謝し、赤鬼は人間と良い関係を築くが、青鬼はいなくなってしまった。

自分が居ては赤鬼がまた疑われてしまう、と。

赤鬼は豊かな環境と引き替えに親友を失ってしまう。
そういう物語なのだ。

亜弥「こんな辛いお話誰が得するのさー!!」

そう叫んだ後、彼女は静かになった。

亜弥「……このお話は――」

介旅『待ってて――』

亜弥「――誰が悪いのかな」

ぽつりと彼女は、成長の証を口ずさんだ。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:37:33.37 ID:z/1D3wiAO<> 彼女の目線から見れば、意地悪な人間が悪。
だが、人間が今まで悪事を働いてきた鬼を怖がるのは必然じゃないか、と彼女は考える。

――じゃあ、悪いのは『世界』じゃないか。

世界に、『不幸』が満ちている。

頭をガシガシと、彼女は掻いた。

亜弥「難しいなー。やっぱり、こういう方が好きだな!」

彼女がそう言って手に取った本は『さるかに合戦』。
これは分かり易く、蟹を騙した猿を皆で懲らしめるお話である。

亜弥「悪いやつはやっつける!これにまちがいはないね!」

パタン、と絵本を閉じ、立ち上がった。

出掛ける用意を整え、

亜弥「よーしっ、いってきます!」

玄関のドアから飛び出した。
朝日が彼女を送り出し、ドアは静かにオートロックして、仕事を終えたのだった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:38:06.53 ID:z/1D3wiAO<> ――――

亜弥「もっきゅもっきゅ……もきゅ?」

偶然見つけたクレープ屋の屋台で買ったバナナクレープを頬張る彼女が、何か良からぬ気配を感じ取る。

亜弥「もっきゅもっきゅ(こういう時は)」

亜弥「もっきゅ(悪い)……やつ!」

残りを胃袋に叩き込み、手に着いたクリームを舐めとった。

彼女は、予感に任せて廃ビルの方へと走り出した。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:39:15.94 ID:z/1D3wiAO<> ――――

白井「くっ……応援はまだですの!?」

能力者1「何だ何だ、レベル4って言っても大した事ねぇな!」

能力者2「ま、俺たちに掛かればこの程度よ」

能力者3「さて、覚悟しやがれ」

人気の無い、工事中のビルの一階で、ツインテールの少女が三人の男に囲まれていた。

白井「(……おかしいですの。初春の調べでは、この方たちはそんなに強い能力者ではないはず)」

白井黒子はレベル4の『空間移動』である。
ある程度の物をテレポートさせる事が出来、応用範囲は広い。
冷静である限り、圧倒的な能力であるはずだった。

能力者3「どうだ?」

しかし、能力者の内の一人に視覚を操る者がいてしまった。
ツインテールの少女の能力は繊細な演算を必要とし、故に視覚情報が曖昧になるという事は、敗北に繋がりかねない。

白井「くっ……」

こうなれば、隙を突いてビルごと倒壊させてやる――そう考えたタイミングで、

亜弥「どっせい!」

勢い良く一人、蹴り飛ばした彼女が割り込んできた。

能力者2「ほむぅっ!?」

運が悪いその一人は、壁に強かに身体を打ち付けて伸びてしまう。

ふわり、と着地する様が――

白井「――ぁ」

美しくて、強く。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:41:28.39 ID:z/1D3wiAO<> 亜弥「下がって!」

能力者1「てめぇ!」

能力者が風の刃を飛ばしてくる。
その刃を一枚一枚彼女は蹴り弾いていった。

能力者3「な……」

彼女は能力者たちを一瞥し、言い放つ。

亜弥「――キミたちが、世界を不幸にするのなら」

能力者の視界操作は彼女に効かない。
その事に動揺したその者は、腹部を強く蹴られて崩れた。

能力者1「コイツっ!!」

四方八方から彼女を切り刻もうと鎌鼬が走り寄ってくるが、彼女は踊るようにそれらに足先をなぞらせてゆく。

亜弥「――まずは、そのバッドエンドをぶっ壊すよ!」

ありったけの力で、足を下から振り上げた。
深く爪先が胃の辺りにに刺さり、その能力者は文字通り悶絶した。

能力者2「この野郎――」

亜弥「っ!?」

終わったと思って油断した彼女に、その能力者は何かの能力を使おうとしたが、急に頭を抱えて苦しみ出した。
彼女は呆気に取られてしまう。

能力者2「う、うわぁぁぁぁっ――――」

亜弥「な、なに?」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:41:54.77 ID:z/1D3wiAO<> 白井「またですの……気をしっかりなさい!……駄目ですの。病院に連絡を……」

ツインテールの少女は手際良く何処かへと電話しているようだ。
目の前で苦しみ出した能力者は、今は気を失っていた。

亜弥「……どういうこと?」

奇しくも、彼女はまた厄介な事に巻き込まれてしまった。

後の『幻想御手事件』である。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:45:32.04 ID:z/1D3wiAO<> ――――

白井「……事後処理終了、ですの。さて、貴女」

亜弥「御坂亜弥だよ」

白井「存じ上げておりますの。お姉様とは何の関係も無い……とは些か信じられませんが、事実は小説より奇なりと申しますしね」

亜弥「キミは……白井ちゃんだった、よね?」

『よね?』を強調しつつ、上目遣いで彼女はツインテールの少女の顔を下から見上げた。

白井黒子の精神に大きなダメージが入る。
割りとシャレにならないレベルで。

白井「もふぅ」

亜弥「もふ?」

ヒョコッと彼女は首を傾げた。
ツインテールの少女の精神にジャブが連打で叩き込まれる。

白井「――――っ。……Be coolですの白井黒子」

亜弥「うん、間違ってないね!」

輝かしい笑顔が少女にザクザク突き刺さる。

白井「(あぁっ、もう正直たまらんですの!)……それはともかく、貴女の強さは私も存じておりますが……これは風紀委員の仕事ですの。軽い気持ちで乱入されては困りますの」

コホン、と咳を一つついて、少女は何とか落ち着きを取り戻した。

亜弥「だってピンチだったよ?」

白井「うぐぅ……それを言われると反論出来ませんの」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:46:05.86 ID:z/1D3wiAO<> 亜弥「うん、まぁ白井ちゃんが無事で良かった。じゃねー!」

そう言って、手を振りながら彼女は元気に走り去っていった。
クスリ、と微笑んで少女は見送る。

白井「全く、元気な方ですの……さ、私も書類をパパッと上げて午後の授業に出ますの……あら?」

そういえば平日。
今は午前。

そして彼女。

白井「――ま、待ちなさいですのー!」

何処の学生か知りはしないが、サボりであることは少女にとって火を見るより明らかだった。

テレポートを使う少女に、彼女はあっという間に捕まってしまい、

亜弥「学校なんか行ってないよー!?」

白井「嘘を仰るのはおよしなさいですの!」

襟を引っ張られながら風紀委員の支部に連れていかれるのであった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:46:43.95 ID:z/1D3wiAO<> ――――

そして支部。

亜弥「むー……」

白井「全く……強情ですの」

亜弥「だーかーらー、学校にはいってないのー!」

白井「はいはい、分かりましたの。初春ー、調べ終わりましたのー?」

彼女の主張は無視して、ツインテールの少女は話を進めていっていた。

カタカタと、デスクからキーボードを叩く音が聞こえる。
ディスプレイ越しに、頭の花飾りが見え隠れしていた。
初春飾利その人である。

初春「――おかしいです。学生登録はおろか、バンクにも載ってないなんて……」

白井「……何ですって?」

亜弥「もーいーかい?」

モーイーカイモーイーカイモーイーカイモーイーカイモーイーカイモーイーカイ……

白井「――〜っ!少々お黙りになって下さいませ!……それで初春、それは何かの間違いではありませんの?」

初春「いえ……信じがたいですが、確かです」

白井「……亜弥さん、貴女何者ですの?」

亜弥「? 亜弥だよ?」

白井「埒が空きませんの……」

彼女はしょんぼりと項垂れた。

亜弥「だって、ホントに知らないんだもの……」

白井「……事情がお有りのようですね。詳しくお聞かせ願えますですの?」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:47:31.68 ID:z/1D3wiAO<> ――――

白井「記憶……」

初春「喪失ですかぁ……」

亜弥「うゆ」

二人の少女は神妙な顔つきに変わった。
軽い話では無い。

白井「それは……心無い事を致してしまいましたの。謝らせてほしいですの」

亜弥「いーよー」

初春「しかしこれは……ますます匂いますね」

白井「えぇ。少し調べましょう。亜弥さん……はもう少しお付き合い願えますか?」

亜弥「えぇー!ボク遊びに行きたかったのに!!」

今にも癇癪を爆発させてしまいそうな彼女を、ツインテールの少女は必死に宥め空かした。

白井「な、なら私がお相手しますから、それで妥協しては頂けませんですの?」

ダラダラと汗が少女の頬を伝う。
凶暴な子供とはこれほど扱いに困るのか、と痛感した。

亜弥「白井ちゃんが遊んでくれるの?」

白井「――(これはイケる!)えぇ、勿論ですの!」

亜弥「やたー!じゃねじゃね、何する何する?」

両手を上げて彼女は体一杯喜びを表現した。
彼女にとって『誰か』と遊ぶ、ということは特別なのだ。

しかし何をするかなど少女は考えてはいなかった。
結果、慌てる羽目になる。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:48:15.25 ID:z/1D3wiAO<> 白井「え、ええと……な……と……く、く――」

亜弥「く?くすぐりっこ?」

白井「そ、そうですの。いつでもオッケーですのよ!」

彼女の助け船に安易に乗っかる少女。
だから地雷を踏むのだ。

亜弥「だったら、うぉりゃー!」

白井「ひっ、アハハハハッ!!や、いきなりはナシですの!!アハッ、アハハハッ!イヒヒヒッ!」

亜弥「そーれそれーぃ!」

彼女は少女を逃げられないようにきっちり身体を密着させ、両手を使って横腹や首、脇を擽っていった。
これには少女も堪らない。

白井「あっ……ハァッ……くぅん」

二つの意味で。
地雷は踏み抜く物だと誰か言っていたような気がしなくもない。

初春「うわぁ……」

亜弥「おりゃー!まいった?まいった?」

白井「あぅん……この程度では私参ったりしませんのよ」

亜弥「そいやー!」

暫く続けていると、少女の身体が不自然に跳ねた。

白井「はぁ……」

初春「(あ)」

力が抜けて倒れそうになる少女を、彼女は慌てて支えた。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:50:38.34 ID:z/1D3wiAO<> 亜弥「あ、あやや?やり過ぎちゃった?」

白井「いえ、大丈夫ですの……用を足したいので暫しお離し頂けますの?」

亜弥「あ、うん?」

彼女は様子のおかしい少女から手を離す。
ヨロヨロと覚束ない足取りで少女は御手洗いへと向かった。

初春「白井さん、消臭剤はそこの棚の一番上ですよ」

亜弥「?」

初春「……気にしないで下さい」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:51:26.47 ID:z/1D3wiAO<> ――――

学園都市の放課後は賑やかである。
学生が街を彩る、幸せな時間だ。

風紀委員の支部も例外でなく――

御坂「おーい、黒子いるー?」

佐天「ヤッホー、佐天さんですよー!」

二人の少女の訪問から物語は展開するのであった。

白井「あら、お姉様。今日はお早いですのね」

御坂「今日午後無かったじゃない……ってアンタ!?」

レベル5の少女の目線の先には、鏡を見るように似ている彼女がいた。

亜弥「松切って……ワンチャンス!――やたー、七短!」

白井「ああぁぁぁ……またですの。正直赤短とゾロやられた時点でそんな予感はしてましたの……」

御坂「えぇー……」

佐天「風紀委員の支部で花札ってアリなんですか……ってかそこの御坂さんそっくりな人はこないだの」

軽快な効果音が付きそうな様子で、彼女はもう一人の――黒いロングヘアになかなかのスタイルの――少女の方を向いた。

亜弥「……ボク? ボクは御坂亜弥だよ!」

佐天「おぉ……」

亜弥「涙子ちゃんだったよねっ!」

ニパッ、と彼女の眩しい笑顔を直視してしまったロングヘアの少女。
こうなっては些か手遅れかもしれない。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:51:56.08 ID:z/1D3wiAO<> 佐天「キャー!何この御坂さんを可愛くしたような生き物ー!!前は気付かなかったけどー!!」

亜弥「わにゃーっ!?」

抱き締められ、彼女はその豊かな肢体に埋もれてしまった。
後ろでは不満気なレベル5の少女が腕を組んでそれを見ている。

御坂「それって私が普段可愛くないみたいな言い方じゃないの……」

白井「いじけてるお姉様は凄まじい可愛さであらせられますのー!」

テレポートでダイブしてくる後輩は華麗に回し蹴りであしらった。

亜弥「えへへっ」

沢山の優しい人達――いや、彼女にとってはもう友達なのだろうか――それらに囲まれてこの場所に居て、彼女は少し、幸せだった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:52:43.95 ID:z/1D3wiAO<> ――――

初春「やっぱりダメですね……」

御坂「アンタ――」

亜弥「?」

御坂「――言っても分かんないわよね……はぁ」

レベル5の少女は深く溜め息を吐いた。
華飾りの少女が身体を伸ばして、一仕事終えた我が身を労う。

白井「まぁ……仕方ありませんの。証拠不十分ですが、貴女みたいな無害――とも言い切れませんが、一応もう拘束は致しませんの」

亜弥「わーい」

初春「うーん。最近はバンクも当てにならないですね」

佐天「何かあったの?」

初春「最近高位能力者が起こす事件が増えてきているんですけど、バンクに登録されているレベルと合わなかったりするんです」

白井「全く、こっちも厄介な事ですの」

ロングヘアの少女が頭に指を当てて暫し思考する。

御坂「……佐天さん?」

佐天「それ、アレじゃないですか?ほら、都市伝説の『幻想御手』」

亜弥「れべるあっぱー?」

佐天「何と使うだけで能力レベルが上がるとか……私も欲しいなー」

初春「佐天さん……」

華飾りの少女がじと目で見つめてくる。
ロングヘアの少女は苦笑を返した。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:53:25.18 ID:z/1D3wiAO<> 佐天「じょ、じょーだんだって。でも、能力には憧れるな」

亜弥「なんで?」

佐天「え……」

御坂「……亜弥」

多少空気が重くなったのを感じ取ったのか、ロングヘアの少女はすぐさま手をふって否定した。

佐天「あ、いや……構いませんよ御坂さん。亜弥さん、私は無能力者でして……その、あんまり良い思いはしたことはないんですよ」

彼女はキョトンとした表情を向ける。

亜弥「ボクもレベル0だよ。お揃いだねっ!」

そして無邪気に笑いかけた。

佐天「……本当ですか?」

御坂「さぁ……自己申告ではそうなんだけど」

亜弥「見ててっ!」

彼女は両手の人差し指を向かい合わせ、その指先に力を込めた。

亜弥「むむむ……それっ」

一瞬だけパチンと音がして火花が散った。
静電気を起こしたのである。

亜弥「これだけ!」

佐天「はは……何か、亜弥さんを見てると、悩んでるのが可笑しくなりますね」

御坂「まぁ、ね……」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:55:36.20 ID:z/1D3wiAO<> ――――

初春「ん……?白井さん、これ」

ツインテールの少女はパソコンの画面を覗き込んだ。

白井「これは……犯人たちが昏睡?それに、他にも似た症状が多数……これは調べてみる価値がありそうですわね」

初春「病院は……割りと近いですね。行きますか?」

白井「勿論ですの。さて、お姉様がたー!」

奥で遊戯と洒落こんでいる三人にツインテールの少女は声を掛けた。

亜弥「ツモ!断公九清一二盃口!」

御坂「それを筒子でやったら役満よチクショオォォォォォォ!!?」

佐天「あートンだ……」

白井「なに麻雀やってらっしゃいますのぉぉぉっ!!?って言うか何処から用意しましたのぉぉぉ!!」

流れる様なツッコミはまさしく芸術の域に達していた。うん。

亜弥「ちょうど終わったよー。なに?」

白井「あ、スルーですのね……私たち今から事情聴取に参りますの。病院――」

言い切る前に、彼女はパソコンの画面を見てしまった。
彼女の顔がふっと暗くなる。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:56:12.08 ID:z/1D3wiAO<> 初春「……亜弥さん?」

亜弥「初春ちゃん、この表何?」

底冷えするような低い声。
華飾りの少女は僅かに震えを感じた。

初春「いえ、あの……最近意識不明になって目覚めていない能力者のリストですが……」

ガタンッ、と彼女は勢い良く立ち上がった。
目には僅かに力が込もっている。

亜弥「行こう。ボクも着いていくよ」

白井「ちょ、ちょっとお待ちになられて!?」

彼女は急いで支部を後にした。

パソコンには、長い名前の羅列の中に一人。

『介旅初矢』とあった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/04/30(土) 11:56:50.58 ID:z/1D3wiAO<> レベルアッパー編は長くなりそうだ……

投下終了。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2011/04/30(土) 13:36:05.79 ID:Ibdz4Djh0<> おっつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/05/23(月) 22:26:45.85 ID:bLl6bMVa0<> テスト前だというのに良スレ見つけちまった・・・
勉強手につかん

1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/23(月) 22:27:13.38 ID:bLl6bMVa0<> テスト前だというのに良スレ見つけちまった・・・
勉強手につかん

1乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/05/23(月) 22:29:32.41 ID:bLl6bMVa0<> >>127-128
あれ、なんで? <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>sage<>2011/05/25(水) 13:17:29.00 ID:198FihiAO<> たまにあるから気にしなさんな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>sage<>2011/07/11(月) 11:53:26.21 ID:R6KsD69AO<> ほ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<><>2011/08/16(火) 12:48:10.43 ID:OnjD0TQF0<> 当麻の役目を持つミサカか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/08/16(火) 17:11:40.65 ID:djFbTJw00<> なぜか亜弥を打ち止めで想像してしまう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2011/08/17(水) 07:28:46.73 ID:XwiotXeg0<> 書かないならHTML化依頼しときなよー <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>sage<>2011/08/17(水) 22:30:13.71 ID:XCSmECkAO<> 書く、書くから待って…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/08/21(日) 00:17:51.48 ID:7YOtzwGW0<> 早く書けよ <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:53:25.82 ID:7xaxggtAO<> 投下開始する。 <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:54:00.25 ID:7xaxggtAO<> ――――

彼は、病院の一室で眠っていた。
時折苦しそうな呻き声を上げる以外に、反応は無い。

亜弥「……初矢君」

名前を呼んで、彼女は少年の頬を撫でた。
ふと思い付き、少年のおでこと自分のソレを合わせる。
少年の苦しそうな様子が、幾分か落ち着いた。

亜弥「……待っててね。きっと助けるから」

彼女にとって友を助ける事は、偽る事無き正義だった。

強く揺るがない意思を持つに相応しい、正しい行い。

亜弥「またね」

部屋をゆっくりと後にし、ドアが閉まって――ロックはかからなかった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:54:50.89 ID:7xaxggtAO<> ――――

病院のホール。そこに据え付けられたテーブルに、御坂美琴と白井黒子、そして初春飾利が座っていた。
表情はみな、真剣。

御坂「脳波パターン……か。確かに奇妙だけど、原因は何?」

白井「共通点と言えば幻想御手の使用……でしょうか」

初春「幻想御手に、特定の脳波に固定する効果があるんでしょうか?」

御坂「……能力の強度を上げる為に脳に細工をするのは、確かに間違っていないわ。でも、何か引っかかるのよね」

亜弥「レベルアッパー?が悪い事をしてるとしてさ」

亜弥が後ろから声をかける。
初春の隣に深く座り込んだ。

亜弥「誰が作ったんだろうね?何のために?」

御坂「確かに……幻想御手を金銭で売買するにしても、足が付かないのは不自然……」

初春「ネットの情報を整理するに、どうやら無料でダウンロードする事も出来るようですけど……」

白井「なるほど。拡散されていて出所が正確にわからない、ですわね」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:55:29.70 ID:7xaxggtAO<> 初春「その通りです。けれど、つまり」

亜弥「お金目的じゃないよね?」

御坂「……学生のレベルを上げて得をするのは……誰かしら?」

「ほぉ、なかなかに賢そうな子供たちだね。私にはそこまで考察する事が出来なかったよ」

不意に女性の声がする。
全員が振り返った。

「キミが例の風紀委員かな?」

白井「意識不明者に関する資料を纏めている方ですの?」

「そうだよ。木山春生、脳科学を選考している」

白井「白井黒子ですの。こっちは初春、わたくしと同じく風紀委員。こちらは――」

木山「――ほう。超能力者の御坂美琴、かな?」

御坂「そうですが……」

白衣の女性がひらひらと手を翳す。

木山「いや、すまない。有名なモノだからつい、ね」

何気ない会話。
だがしかし彼女は敏感に何かを感じ取った。

亜弥「ねぇ、木山おねーちゃん」

木山「はは、お姉ちゃんと言われる年では無いよ――」

亜弥「なんでそっちが美琴ちゃんだって分かったの?」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:56:43.25 ID:7xaxggtAO<> 一同が、確かにといった反応をする。
亜弥と美琴は、黙っていれば区別が付かない程に似通っているのだから。

木山「――なに、私は科学者だからね。見ればなんとなく分かるさ。例えば髪」

御坂「髪?」

木山「御坂美琴くんの髪の毛は先端まで良く整っている。それに対してキミの髪は先に僅かなウェーブがかかっているだろう?」

初春「あ、ホント……」

木山「普段から人の目線を気にしているであろう、そっちの子が御坂美琴と判断しただけだよ。キミは……妹さんかな?」

御坂「あー……はい、そうです」

御坂が素早く回りに目配せをした。
それを受けた風紀委員二人は小さくうなずく。

亜弥「……そっかー」

彼女はとりあえず食い下がった。
が、しかしその心の内での疑いは晴れていない。



彼女は、木山春生に『悪いやつ』の気配を感じ取っていたのだから。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 22:57:22.70 ID:7xaxggtAO<> ――――

木山「と、まぁこんな所かな。奇妙なデータが取れたモノだ。不謹慎だが、興味深いよ」

初春「ふむふむ……こうして見ると確かに意識不明者の脳波は似ていますね」

御坂「乱れるタイミングも同じ……プログラムみたいなモノが脳に上書きされているのかしら」

少女たちは皆一様に机の上に置かれた書類を眺めていた。

共通点はありそうだが、これといった決め手になる意見は出ない。

白井「これは一体どういう意味なんですの……?」

亜弥「……のうはがおんなじって事は、考えてる事がいっしょって訳?」

白井「まぁ、いや……そうとも言い切れませんが、大体はそうですの」

亜弥「夢を見ているのかな……」

少女も足りない頭を使って考えている。
慣れない行動だったが、不思議と思考は冴えていた。

木山「ふむ……私も色々な点から研究をしてみるよ。何かあったら、連絡をする」

初春「あ、なら私の番号をどうぞ……これです」

木山「ありがとう。良い報告が出来れば、研究者冥利に尽きるよ」

そう言って、女性は一息つく。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 23:10:25.79 ID:7xaxggtAO<> 木山「しかし……ここは暑いな……汗ばんでしまうよ」

そしてごく自然に服を脱ぎ出した。
上着だけでは無く、下着が見えるレベルまで。

御坂「――ぅえ?」

初春「――ひゃいいぃぃ!?」

白井「な、ななな何をしているんですの!?」

黒子が咄嗟に脱がれた上着を木山に被せた。
ブラが紫色だった事に微妙に衝撃を受けていたが、彼女は努めて冷静だった。多分。

木山「酷いな……何をするんだい」

白井「こ、こっちのセリフですの!!自宅ならいざ知らず、淑女たる者公共の面前で下着姿を晒すなんて言語道断ですの!」

木山「しかし……私の、起伏に乏しい身体を見て劣情を催す異性がいるとは……とても思えないが」

白井「男性は女性の肌なら何でも反応しますし、劣情を催す同性だっていられますのよ!?」

初春「……無駄な説得力ですねぇ」

御坂「笑えないから止めて……」

亜弥「暑ければ外で脱いでもいいの?」

御坂「ダメよ、絶対」

御坂は大きく溜め息を吐いて、その場はお開きになった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 23:11:11.53 ID:7xaxggtAO<> ――――

玄関のロックが開いて、部屋は主を迎え入れた。

亜弥「ただいまー」

芳川「あら、お帰りなさい。今日は少し遅かったのね」

ソファーには優しい表情の保護者が座っている。
少し気だるそうにコーヒーを飲んでいた。

亜弥「ねぇ、芳川おねーちゃん。脳波について詳しいかな?」

芳川「……どうしたの?」

芳川が怪訝な表情を浮かべる。

亜弥「レベルアッパーって言うのを使った人たちが、眠ったまま起きないの。その人たちは脳波がそっくりなんだって」

芳川「……また厄介な事かしら?」

その言葉に少女は慌てた。

亜弥「あ、いや――ううん、何でもないよっ」

それだけ言い残して彼女は自室へと籠ってしまう。
一人のリビングで、芳川が遠くを見ていた。

芳川「……運命って言うのは、奇妙なモノね」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 23:11:57.21 ID:7xaxggtAO<> ――――

亜弥「ふわぁ……おはよー芳川おねーちゃん……あれ?」

彼女が朝目覚めると、家の中に芳川の姿は無かった。
代わりに、書き置きが一つ。

亜弥「えーと、なになに……『しばらく忙しくなりそうなので、家に寄れないかもしれません』『何をやっているかは知らないけど、根を詰めない様に頑張りなさい。芳川』……か」



亜弥「ぅよっし、がんばるっ!」

頬をピシャリと叩いて活を入れる。
少女は確かに事件の事で焦りを感じていた。
落ち着かなければ、と気付く。

亜弥「……朝ごはん食べて、絵本読んで……風紀委員の支部行こう。また何か分かるかもしれないし!」

亜弥「やるぞぅーっ!!」

えいえいおー、と掛け声を上げて、彼女は朝のプランに取りかかった。

一通りを終えて家を出る彼女に『いってらっしゃい』を言ったのは、オートロックを掛けた玄関のドアだけだった。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/22(月) 23:13:21.29 ID:7xaxggtAO<> 何だかいきなり上がったからびっくりして書いた。後悔はしていない。

投下終了。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/22(月) 23:36:53.14 ID:PBWmx84po<> やっぱり面白いな

さすがだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 01:11:41.11 ID:NTqqJFiDO<> 乙

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/08/26(金) 02:24:30.39 ID:GSVD9AlAO<> キュベレイスレから来たぜ!
なかなかに面白くて一気読み。
亜弥の行動はちょくちょく上条さんをなぞってきたし、ポジションも大体同じだけど、考えかたというか、何を思って行動してるかとかが全然違ってておもしろいな。
上条さんも大概アレだけど、亜弥は独善的というか、全く違う価値観の生き物みたいで、そげぶの位置やら妙な強さやらも相まってなんか微妙に狂気と寒気すら感じる時がある。
なにをどうやってこういう考え方が育ったのか、早く知りたい。
<> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:04:25.66 ID:/ti5uj1AO<> キュベレイスレからの読者もいるみたいだね。
あのスレはかなりの練習になってるから、書く感じが昔と変わってる感じがするよ。

投下開始。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:07:52.27 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「あやや、誰もいないや」

風紀委員の支部に来てみたものの、そこには誰もおらず、当然建物も閉まっていた。

亜弥「……あ、がっこーだ」

今は平日の午前である。
当然、学生はその本分を全うしている最中であった。

亜弥「うーん、困ったなぁ……よし、何か役に立つ情報を探そう!」

亜弥「そうと決まったら早速しゅっぱーつ!」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:09:14.94 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「とか言ってたら悪い人につかまりました」

黄泉川「誰が悪人じゃん誰が」

首根っこを掴まれてブランブランされてしまった。
何という事でしょう。

黄泉川「全く……今日は授業無くて見回りだけだってのに……厄介な落とし物を拾ってしまったじゃんよ」

女性は疲れた息を吐く。
心底ついてない、と言いたそうな顔付きだった。

黄泉川「一応聞くじゃん……学校はどうしたじゃんよ?」

亜弥「行ってないよー?」

黄泉川「……こちら黄泉川じゃん。学生一人補導、今から連れてくじゃんよ」

亜弥「……ヤバい?」

黄泉川「ヤバいかもじゃん?」

亜弥は初めて大人の笑みがイヤらしいと思った。

亜弥「やっちゃったー!?」

黄泉川「やっちゃったじゃーん」

こんなにウキウキしながら補導する警備員が居て良いのだろうか。
惜しむらくは、その問いに答える者も、況してや問い詰める者も、その場には居なかった事だ。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:10:19.10 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「ゆーかいはんだぁー!」

黄泉川「人聞きの悪い事言うなじゃんよ……」

警備員の支部に連行されてしまった亜弥。
日中に街中を闊歩する危険性を、彼女は薄々感じ始めていた。

鉄装「また随分と厄介そうな子を連れて帰ってきましたね。例の子ですか?」

メガネをかけた女性が、亜弥の前のテーブルにコーヒーを置く。
ミルクと砂糖も添えられていた。

鉄装「飲むかな?」

亜弥「……ありがと」

ミルクも砂糖も入れずに、亜弥はそれを飲んだ。
途端に顔が青くなる。

亜弥「まどぅい……」

黄泉川「はっはっは、そりゃそうじゃんよ。ミルクと砂糖を入れなきゃ、お子様には飲めたもんじゃないじゃん」

ケラケラと快活に笑う女性に、少しだけ警戒心が解けた。
敵意を感じない。

亜弥「だって始めてじゃんよ……」

黄泉川「経験が足りないじゃん。ほら、ミルクと紅茶いれるじゃん」

亜弥「分かったじゃん……」

鉄装「え、何これ自然過ぎて怖い」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:10:59.99 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「――おいしいじゃん」

黄泉川「そりゃ良かったじゃん」

新しい発見に喜ぶ子供を見て、女性は小さな笑みを浮かべた。
一息ついたあたりで、幾つかの質問を投げ掛ける。

黄泉川「何で平日の昼間っからウロウロしてたじゃん?」

亜弥「風紀委員の支部に誰も居なかったから……」

黄泉川「……ん?何でお前が風紀委員の支部に用事あるじゃん?」

彼女は少しだけ頬を膨らませた。

亜弥「お前、じゃなくて亜弥だよ」

黄泉川「む、これは悪かったじゃん。亜弥、私は黄泉川愛穂じゃん」

鉄装「鉄装綴里です、亜弥ちゃん」

亜弥「よろしくね、鉄装おねーちゃん」

メガネの女性の表情が、若干柔らかくなる。

鉄装「(……悪くない)」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:11:49.09 ID:/ti5uj1AO<> 黄泉川「で、何で風紀委員じゃん?」

亜弥「みんなで悪いやつを探してるの」

黄泉川「悪い奴?」

亜弥「レベルアッパーをバラまいた人のせいで、皆が気絶しちゃってるの」

黄泉川「――おい、亜弥。それは、あっさり警備員に言っていいことじゃないじゃん」

女性の雰囲気が急に神妙になった。

黄泉川「……まぁいいじゃん。でも、学校サボるのは頂けないじゃん」

亜弥「だって行ってないんだもの……」

黄泉川「ん……?行ってないって、そういう意味じゃん?」

亜弥「そうだよ?」

亜弥が小首を傾げて答えを返した。
黄泉川は口に手を当てて思考する。

黄泉川「……鉄装、バンク見るじゃん」

鉄装「は、はい――」

亜弥「あ。それなら、そこにボクの名前は無いらしいよ」

黄泉川「名前が、無い?」

黄泉川の顔が若干険しくなる。

亜弥「みんなボクの事おかしいって言って調べるのだけれど、みんなよく分からないって」

黄泉川「――――」

芳川『大きな実験に――』

黄泉川「(……嫌な予感がするじゃん。芳川と、飲みに行かないといけないじゃんよ)」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:13:28.82 ID:/ti5uj1AO<> 鉄装「弱りましたね……どうします?」

黄泉川「……下校時刻来たら帰してやれじゃん。はぁ、疲れるガキんちょじゃんよ」

亜弥「あーやー!」

黄泉川「はいはいじゃん……」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:16:17.54 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「黄泉川おねーちゃんはどっかいっちゃったね」

鉄装「まだパトロールの時間だからね、昼前には帰ってくると思うけれど」

亜弥は支部の部屋で鉄装と二人だった。
こんな事をしている場合では無いと思って、ここが警備員支部である事に気付く。

亜弥「鉄装おねーちゃんは警備員なんだよね?」

鉄装「うん、そうよ」

鉄装はコンピュータのキーボードを叩きながら質問に答えていた。

亜弥「警備員なのに、やな感じしないや」

鉄装「あはは。噂通りだね、亜弥ちゃん」

鉄装が軽く笑う。

鉄装「そりゃあ、警備員だから……としか言えないんだけど」

亜弥「黄泉川おねーちゃんは、ちょっぴりやな感じだよ?」

鉄装「あはは……まぁあの人は豪快だからねぇ……」

鉄装「でも、きっと警備員の中では一番子供たちの事を考えている人だと、私は思うな」

亜弥「うそだぁー。だってボクボコボコにされたよ?」

鉄装はディスプレイから目を離し、彼女をまっすぐに見た。

鉄装「あの人は、強能力者程度なら素手で制圧できるんだ。キミなんか本気でかかられたら赤子同然だと思うよ」

亜弥「え、ホント……?」

亜弥の頬を嫌な汗が伝う。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:18:34.00 ID:/ti5uj1AO<> 鉄装「嘘じゃないよ。凄い強いんだから。まぁ……だから嫁の貰い手も無いんだけれど」

黄泉川「余計なお世話じゃん」

鉄装「あいたっ!?」

鉄装が後ろを振り返ると、そこには若干の怒りを露にしている黄泉川が居た。
小突かれた鉄装は涙目になっている。

鉄装「いたた……酷いですよー」

黄泉川「一応気にしてるじゃん。自業自得じゃんよ」

亜弥「あやや……」

何やら不穏な様子の亜弥に怪訝さを感じるが、気にせず椅子に座る黄泉川。

黄泉川「ほら、午後は鉄装じゃん。さっさと言ってくるじゃん」

鉄装「分かりましたよ……」

そして、黄泉川に近付いて小さな声で話した。

鉄装「……一応調べてみましたが、『御坂亜弥』の情報は不自然なほど全くありませんでした」

黄泉川「隠匿じゃん?」

鉄装「おそらくは……じゃあ、行ってくるね亜弥ちゃん」

鉄装は小さく手を振った。亜弥も負けじと振り返す。

亜弥「行ってらっしゃい、鉄装おねーちゃん!」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:20:47.22 ID:/ti5uj1AO<> ――――

黄泉川「ほら、飯買ってきたじゃん」

亜弥「パスタだー!食べていいの?」

黄泉川「おぉ、食うじゃんよ」

亜弥の前には、コンビニなどで売っているような出来合いのパスタが置かれていた。
彼女はそれをプラスチックのフォークで器用に食べていく。

亜弥「おいしいっ!ありがと、黄泉川おねーちゃん!」

黄泉川「お姉、ちゃん――」

かく言う黄泉川は感動に打ち震えていた。
好感度うなぎ登りである。

黄泉川「さて、私も食べるとするじゃん」

割り箸を割る音が、気持ちよく響いた。 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:21:47.26 ID:/ti5uj1AO<> ――――

亜弥「黄泉川おねーちゃんは、警備員だよね」

黄泉川「? 当然じゃん?」

食べながらの会話。
黄泉川は話の意図が掴めず疑問を返す。

亜弥「じゃあ、レベルアッパーの事について、何か知らないの?」

黄泉川「……非合法で危険なドラッグとは聞いてるじゃん。だけど、上から細かい通達は無いから……詳しくは知らんじゃんよ」

黄泉川「それに、知ってても教えないじゃん」

亜弥はムッとした顔になった。

亜弥「なんでそういうイジワルするの?」

黄泉川「教えたら、亜弥は犯人を探しにいくじゃん?」

亜弥「そりゃ……うん」

黄泉川「子供を危険に晒す訳にはいかないじゃん」

黄泉川はパスタを啜る。

亜弥「じゃあ警備員が犯人を捕まえてくれるの?」

黄泉川「指示があれば、じゃん」

亜弥「……指示がなかったら?」

黄泉川「動けないじゃん。辛い所だけど、こればっかりは仕方ないじゃん」

黄泉川「子供たちを守りたくて警備員になったはずなのにな……大人ってのは難しいんじゃんよ」

亜弥「…………」

亜弥は食べる手を止めて考え込む。

黄泉川「亜弥?」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:22:50.71 ID:/ti5uj1AO<> 亜弥「黄泉川おねーちゃんは、大人だから、悪いやつをやっつけたくてもやっつけられないの?」

黄泉川「まぁ……そういう時も確かにあるじゃん」

亜弥「そうなんだ……」

黄泉川「やりたくない事だってあるじゃん。でも、命令ならやらなきゃならないじゃんよ。例え相手が子供だろうと、撃てと言われれば撃たなきゃならないじゃん」

黄泉川「でもそんなの御免じゃん。だから極力素手で確保してるじゃんよ」

黄泉川「おかげで始末書とかから逃げられないじゃん」

黄泉川は自嘲気味に笑った。
亜弥は俯いていて、表情が見えない。

亜弥「……ごめんなさい」

黄泉川「どうしたじゃん?」

亜弥「黄泉川おねーちゃんの事、誤解してたから……ごめんなさい」

黄泉川「はっはっは、別に構わんじゃんよ!」

亜弥の目に宿る強い意思が、数を増した様に見えた。

亜弥「黄泉川おねーちゃんの分は、私がやるよ!」

黄泉川「……バカ言ってるんじゃないじゃん。ほら、冷めちまうじゃん。さっさと食べるじゃんよ」

亜弥「うんっ!」

パスタをかきこむ少女を見て、黄泉川は柔らかい笑みを浮かべた。

黄泉川「(バカかと思ってたけど、ただ純粋なだけみたいじゃん)」

黄泉川「(まるで生まれたての子供のような……)」

黄泉川「(御坂美琴と瓜二つの外見……こりゃ、厄介な事になりそうじゃん)」 <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>saga<>2011/08/27(土) 07:23:21.73 ID:/ti5uj1AO<> よし投下終了。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2011/08/27(土) 10:32:42.33 ID:8TnwINzW0<> とりあえず、ニートの活躍に期待 <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>sage<>2011/09/25(日) 15:12:05.15 ID:YZZqAYFAO<> こっちでも一応生存報告 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国)<>sage<>2011/10/28(金) 12:17:01.54 ID:lg6M80cAO<> 維持 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/30(日) 16:37:59.42 ID:oh/BgDW+0<> 書かないなら依頼しろよ
SS速報はお前だけのものじゃねえんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/10/31(月) 17:51:30.72 ID:c0Bc4T4d0<> >>166
まだ三ヶ月経ってねえだろ <> 伊吹
◆LPFQRD/rxw<>sage<>2011/11/16(水) 00:12:55.60 ID:rMfQ8UaAO<> 生きてるー <> 伊吹 ◆LPFQRD/rxw<>sage<>2012/01/08(日) 01:32:32.71 ID:k99QWoGAO<> いい加減サルベージしなきゃならない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/01/11(水) 19:18:35.75 ID:7jiLmZKT0<> はよせんか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/06(月) 23:50:49.27 ID:Uert9mw7o<> 誰も読んでないしつまらないから消えていいよ <> 伊吹 ◆fJ3KTPFnIUC/<>saga sage<>2012/03/02(金) 13:05:39.13 ID:zTfLNPiAO<> 生存報告 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/03/18(日) 03:31:24.27 ID:MpC+F2PCo<> キュベレイ終わったしそろそろ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/04/05(木) 13:30:15.36 ID:VWspJy9S0<> てす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/04/05(木) 13:30:24.84 ID:bLohNVT30<> tesu <> 伊吹 ◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/02(水) 23:42:04.03 ID:6CiGo+lAO<> 再開 <> 伊吹 ◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/02(水) 23:43:07.19 ID:6CiGo+lAO<> ――――

黄泉川「もう来るなじゃんよー?」

亜弥「連れてきたのは黄泉川お姉ちゃんなのに……」

放課後の時間になって、漸く街へと解放される。
窮屈ではあったが、彼女にとっては有意義であった。

亜弥「……大人って、やだな」

自分のやりたい事すら自由に出来ないのは、とても煩わしいだろう――と彼女は結論付ける。

そういう意味では、黄泉川もまた、彼女にとっての弱き者であった。

街を練り歩きながら、通り過ぎていく人々を眺める。
学生や、大人たちが歩いていた。

亜弥には、それらが全て、鎖を引き摺っているような印象を受ける。
手に足に枷を嵌めた人々の中、彼女は自分の手のひらを見て――一際強く決意したのだった。 <> 伊吹
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/02(水) 23:51:13.26 ID:6CiGo+lAO<> ――――

当てもなく街を歩いていても、それが徒労に終わるというのは予想に難くない。
その例に漏れず、彼女も空かされた肩を持て余していた。

亜弥「あやーん……手がかりがないよぅー……」

丁度あった街路のベンチに深く腰掛けて、小さいが長い溜め息を溢す。
そよ風が、彼女を慰めるように傍をすり抜けていった。

と、そこに呼びかける声が一つ。

佐天「お、亜弥さんじゃないですか」

亜弥「佐天ちゃん?」

俯いて鬱向く頭を上げると、そこには長い黒髪を靡かせる少女が、腰を下ろしてこちらを心配そうに覗き込んでいた。

佐天「どうしたんですか? 何だか元気がないみたいですよ」

亜弥「手がかりが見つからないよー……」

佐天「手がかり……って、まさか今日ずっと?」

亜弥「ううん」

一部始終を話すと佐天は苦笑いで、

佐天「あはは……お疲れ様です」

とだけ言う。
くそう。すっごく大変だったんだぞ。

佐天「でも、そうまでしなくても……その内警備員が犯人を捕まえてくれますよ」

それは確かに明確で的確な一般論。
しかし、だからこそ、亜弥は首を横に振った。 <> 伊吹
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/02(水) 23:52:52.33 ID:6CiGo+lAO<> 亜弥「黄泉川お姉ちゃんは言ってた。警備員は警備員だから、自由に動くのが大変だって」

亜弥「助けたくても助けられない……そんなの、ボクなら耐えられない」

亜弥「だから、ボクが代わりにもっと頑張らなきゃ」

それは心からの言葉だった。
『頑張りたい』や『頑張りろうと思う』ではなく、断言。

同じ無能力者と言っても、彼女の在り方はそのそれではない、と佐天は思った。

佐天「凄いですね」

確かな感心と――ちょっとだけの皮肉。
言ってから、とても自分が矮小に見えて――佐天涙子は軽く唇を噛んだ。

亜弥「それほどでもー」

擬音が聞こえてきそうな程に、亜弥は照れて頭を掻く。

佐天「亜弥さんは、やっぱり御坂さんの妹ですね。そういう所、そっくりです」

亜弥「そうなの?」

佐天「……妹なのに知らないんですか?」

そこまで言われて、漸く顛末を理解して焦り出す。
取り繕いは、間に合うか――

亜弥「あぁうん、分かるよ、アレだよね、うん!」

ダメだ。亜弥自身がそう感じる程なダメ弁解だった。
が、神妙な顔の彼女には怪しまれ無かったらしい。ほっと胸を撫で下ろす。 <> 1
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/02(水) 23:58:00.92 ID:6CiGo+lAO<> 佐天「……まぁ、御坂さんにとって覚える程の事をした訳ではないんでしょうけど」

佐天「私はそんな事できないから、凄いなって」

その寂しそうな顔は、見覚えがあった。
介旅を警備員に連れていかれた時の自分を、鏡で見た時の顔とよく似ている。

だから声をかけた。
彼女なりの激励を、彼女なりに稚拙に。

亜弥「佐天ちゃんだってできるよ!」

佐天「……私には無理ですよ。だって、無能力者ですから」

佐天「何の価値も無い……そんな一般人ですから」

亜弥「私だって無能力者だよ?」

投げ掛けられる――嫌悪感は感じない、乾いた笑い。
そういう事ではない、と暗に含んだ意思を読み取れる程、亜弥は聰い少女ではなかった。

佐天「そうですね……あはは、何だかおかしいです」

亜弥「?」

まだ、彼女がそうやって誤魔化して笑う理由を――亜弥は知らなかった。 <> 伊吹
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/03(木) 00:01:32.44 ID:wShZRXFAO<> ――――

佐天「はい、亜弥さん」

亜弥「おごりー!」

佐天が労いにアイスを奢ってくれるという誘惑にコンマ2秒で飛び付き、今に至る。

アイス屋の近くにテーブルを見つけ、据え付けの椅子に座って冷たい甘味に舌鼓を打った。

亜弥「おいふぃー♪」

佐天「それは良かった」

満面の笑みと、それを優しく見守るような微笑み。
精神的には、遥かに佐天の方が年上らしく、また佐天自身もそう感じていた。

亜弥「よっし、これ食べたら幻想御手の情報を探しにいくぞー!」

糖分が頭に回り、急速に稼働し始めたのか、亜弥はやる気に魂を燃え滾らせていた。

佐天「レベルアッパー、か」

意味深な呟きに、亜弥はその表情を伺う。
――複雑で、読み取れない。

佐天「確かに、強度が上がるなら――そんなモノがあるのなら、手を出す気持ちは……分からなくもないです」

佐天「無能力者を認めない……この学園都市は、そういう場所ですから」

亜弥「――そんな事ないよ!」

彼女は必死で叫んでいるのに、佐天自身は自嘲気味に笑っていて。
それは確かに――諦感だった。 <> 伊吹
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/03(木) 00:04:54.89 ID:wShZRXFAO<> 佐天「亜弥さんだって知りませんか? 強度が低いってだけで、虐められたりするんですよ」

亜弥「それ、は――」

脳裏に過ったのは、ある友人。

介旅『――――』

亜弥「――そう、だけど」

佐天「なら、強度が上がれば解決します。誰も損をしない――いや、という事は」

少し考え込む佐天。
暫時の後、手を叩いて閃いたような様子で言った。

佐天「幻想御手をばらまく事で得をする人って、誰なんでしょうね?」

亜弥「……んゆ」

考えてみても分からない。
そもそも配布者が分からないのだから、その思惑も分からなくて当然と言えばそうなのだが。

佐天「幻想御手かぁ……ちょっと興味あるなぁ」

亜弥「――ダメっ!!」

佐天「ひっ」

亜弥「――あ……ゴメン」

余りに無神経な言い様に、思わず罵声が口をついて出てしまった。
だが、怯えた顔を見て、その怒りも急速に冷える。

何となしに、思い至った。

亜弥「佐天ちゃんも……?」

佐天「…………」

無言は、肯定。

亜弥「…………っ」

歯が鳴る音が聞こえる程、亜弥は強く苦虫を噛み潰した。

彼女は薄々感じ始めている。

この街は、悪だ。
この街全てが、悪意に満ちている。

佐天「……多かれ少なかれ、低強度の学生は『そういう』経験がありますよ」

佐天「大丈夫です。大分慣れてますから」

泣きそうなその顔に、何と返していいか分からなくて――亜弥は初めて、自分の無知を悔いた。




結局、その日は別れるまで、何も言葉を返せなかった―― <> 1
◆fJ3KTPFnIUC/<>saga<>2012/05/03(木) 00:07:06.64 ID:wShZRXFAO<> 投下終了 <> 名無しNIPPER<>sage<>2012/05/03(木) 00:44:55.49 ID:BueyWs7AO<> あやあやの鳴き声がかわいい
待ってます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/05/03(木) 03:05:24.89 ID:xLO4Gq5Lo<> コンマギもいいけどこっちも楽しみにしてるので
乙! <>