1 ◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/22(金) 00:21:06.94 ID:Nr8ofJqk0<>特撮ドラマ『牙狼〈GARO〉』と『魔法少女まどか☆マギカ』のクロスオーバーSSです。
まどかは基本的に第10話時点での設定で進めます。
その為、勝手な予想、妄想、設定の改変等が入るかと思います。ご了承ください。

時系列としては、まどかは最初から。
牙狼は暗黒魔戒騎士篇(TV本編)→白夜の魔獣篇(OVA)→RED REQUIEM(劇場版)終了後から更に後、
使徒ホラーをすべて封印した直後くらいと考えています。

牙狼の映像作品はすべて目を通しましたが、小説、設定資料集は未読。
その為、設定と食い違う可能性があります。また、意図的に改変する場合もあります。
進めながら、なるべく購入してチェックするつもりですが、
詳しい方はどんどん突っ込みを入れていただければと思います。
その際、軌道修正できるものは修正。できなければ独自設定ということで補完をお願い致します。

PS2ゲーム、パチンコはプレイしていません。これに関しては今のところ予定はありませんので、
経験者の方、使えそうなネタがあれば是非教えていただければ幸いです。
(ゲーム・設定資料集はプレミア価格なので。
パチンコでは本編に出ていない色んな技名があったりするとか聞いて、気にはなってるのですが……)

以上、長々と前書きを失礼致しました。
<>まどか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 1
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:23:15.13 ID:Nr8ofJqk0<>
 私は知らなかった。
この世界には、とても人智の及ぶものではない、謎めいた存在が数多く潜んでいるということに。

 それはすぐ近くにいるのに、誰も気付かない。気付けない。
 無数の人間が行き交う街の雑踏。
もしも、その中から一人や二人消え、二度と帰ってこなかったとしても、きっと大半の人間は気にも留めないだろう。
周囲の関係者は騒ぐだろうが、それとて一過性のものに過ぎない。日常の波は全てを覆い隠し、世界は無常に流れていく。

 奴らは、そこに忍び込む。世界の隙間、街の隙間、人の心の隙間に。
 じっと暗がりに潜み、手招きしているのだ。獲物がやってくるのを。
 そして夜が来れば動き出す。

 自ら街に繰り出し、狩りを始めるもの。
 使い魔を放ち、それを操るもの。
 不安や恐怖を煽り、縄張りに獲物が踏み込んでくるのを待つもの。
 それぞれである。

 古来より、夜は人の時間ではなく、闇は人の領域ではない。それが本来の在るべき姿。
知らずに来る者には罠が、確信で来た者には罰が与えられる。
いくら作り物の光で照らそうと所詮は偽り。昼のそれに比べれば、闇の全てを照らすにはあまりに心許ない。
 故に、その存在を知る者は夜が訪れる度に怯え、知らない者が知る時、大抵の場合は既に手遅れだった。

 では、人に抗う術はないのだろうか。
 自分の番が来ないよう祈りながら、ただ狩られるのを待つばかりなのだろうか。
 夜毎繰り返される、何千分の一かのルーレットに当たってしまった人間は、己の運のなさを嘆くしかないのだろうか。

 答えは否。
 光の世界から弾き出され、或いは引きずり込まれ、闇に囚われた者にも最後の救いは残っている。
 もっとも、救いの手が差し伸べられるまで運良く生きていられれば、ではあるが。

 私には、その為の力があると思っていた。人を脅かす敵を蹴散らし、闇を祓えるだけの力が。
 最初こそ、この力を他人の為に振るおうかとも考えた。
動機は甘い英雄願望だったのか、恐怖に立ち向かう術を求めたのか。今となっては定かではない。

 だが真実は違った。
 やがて私は知ることになる。私もまた、闇に囚われた哀れな虜囚でしかなかったのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 00:26:21.40 ID:glfpgIDDO<> 期待 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:26:42.15 ID:Nr8ofJqko<>
 私は悲嘆し、絶望に暮れた。大切な人が傷つき、助けを求めていても何もしてあげられない。
無力感に苛まれ、歯痒さから私の心までも黒く諦観に染まりかけた時――

 私を救ってくれた人がいた。
 希望を示してくれた人がいた。

 それは剣という名の牙を持つ狼。
 金色に輝く鎧を身に纏い魔を戒める戦士。
 神々しいまでの威光を背負い、遥か古より闇と戦い続ける勇者。

 その時、私は知ったのだ。真に人を"守りし者"は誰かを。
 もっとも彼にしてみれば、私は救った数多の人間の、ほんの一人であり、
この街に立ち寄ったのも寄り道以外の何物でもなかったのだろうが。

 彼の孤独な戦いは、闇の世界でのみ紡がれる彼の英雄譚は、光の世界の記録にも記憶にも残らない。
それでも彼は戦い続ける。私と出会う前も、そして別れた後も。
その命果てるまで。ごく一部の人間を除けば、誰に知られることもなく。
 彼らの戦いは人がこの世に在る限り決して終わることはないのだから。

 ならば、せめて私は覚えていたい、形にして残したいと思う。 

 故に今こそ語ろう。闇を斬る破邪の剣士の知られざる物語を。

 私と彼女らだけが知るであろう、偉大なる騎士伝説の一頁を。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:29:36.73 ID:Nr8ofJqko<>


第一話「終焉」



 街は夜の帳が下り、すっかり静まり返っている。
時刻は21時を回った頃、都会と呼ぶほど大きな街ではないにしろ、いつもなら往来は人で賑わっていてもおかしくないのに。

 赤い長髪をポニーテールに括った少女は街を歩きながら、そんな感想を抱いた。
少女は街の光景に違和感を覚えながらも、足取りはしっかりしたもので、そこに不安や恐怖は微塵も感じられない。
それもそのはず、少女はこの違和感を知っている。いや、むしろ待っていたとも言えた。

 繁華街の一角、大通りから少し入った辺りに小さな廃ビルがある。自殺や不慮の事故で所有者が転々としている、
いわゆる"いわく付き"の物件だが、少女にとっては知ったことではなかった。
口にポッキーを加えたまま、鼻歌交じりの軽い足取りで開いた窓から不法侵入を試みる。

「ん? この感じ……」

 だが、ビルに一歩入った瞬間、少女は再びの違和感に眉をひそめた。いや、違う。違和感がないことに違和感を覚えた、と言うべきか。
さっきまでの、おどろおどろしい感じ。奇妙な寒気や、肌が粟立つざわつきが今はまるで感じられない。

 おかしい。
 確信したのは、瓦礫や散乱した物を蹴飛ばしながら、暗い階段を三階まで上がってからだった。
 三日前に訪れた際は、ここで結界に遭遇したのに。魔女の手下どもが徒党を組んで襲いかかってきたのに。

「ちっ! やられたか……」

 言うが早いか、少女は階段を二段飛ばしで駆け上がる。今やここはただの廃ビル、もう警戒しながら歩く必要はないからだ。
 一分と掛からず屋上階に達した彼女は、屋上の扉を蹴り開けた。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:31:29.94 ID:Nr8ofJqko<>
「あの野郎……やっぱりいやがった」

 憎々しげに呟いた先には、黒い人影が円い月に照らされ、ぼんやりとした輪郭を浮かび上がらせていた。
背中に刺繍された、二本の連結された剣の紋章が月光を反射している。

 どうやら、ここが戦場であり、始末が着いたのはつい今しがたらしい。
 影は両手に持った銀色に光る剣を振りながら、流麗な仕草で両腰の鞘に収めた。

「おい! そこの黒いの!!」

 キン、と鞘から金属音を鳴らし、黒いのと呼ばれた影が振り向く。

 二十代前半から半ばほどの若い男だった。
 中央で分けた黒髪に、脛まで丈のある黒のロングコート。
おまけにインナーも黒ならパンツも黒だ。これでは黒いのと呼ばれても仕方がないだろう。

「よっ、あんこちゃん」

「テメー……」

 目元の優しげな男は愛想良く、にこやかに笑って手を振る。
 見るからに人の良い笑顔に対する少女の声は重く、低い。明らかに怒りが籠っていた。
 それもそのはず。少女の名前は「あんこ」などではない。

「またその名で呼びやがったな! あたしはきょうこ、佐倉杏子だ! 何度も言わせんな!」

「悪い悪い。呼びやすいもんだからさ。それに、あんこちゃんのがかわいいと思うけどなぁ」

 おどけた上に悪びれない男の態度に少女――杏子は左手をかざす。
中指にはめた指輪、赤い宝石が光を放つと、一瞬で杏子の手の内に槍が握られた。
 杏子は迷いなく男に向け槍を突きつける。しかし事ここに至ってなお、男は微笑を崩さず動揺も見せなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:33:57.27 ID:Nr8ofJqko<>
 ――この男はあたしの商売敵だ。
いや、商売じゃないから商売敵という表現は少し違うか。かと言って、他に適当な表現も見つからない。

 二週間ほど前、ふらりと街に現れたこいつは、ことごとくあたしの先回りをしては結界を潰して回っていた。
駆け付ける頃にはいつも終わった後で、あたしは現場も見ちゃいない。
 あんまりかち合うもんだから、苛ついたあたしは、ある日こいつを問い詰めた。

 結果は今のやり取りが示すように、のらりくらりとかわされ、逆に情報を引き出されてしまった。
 でも、教えてしまったのは名前と戦い方、『魔女』と呼ばれる存在を狩り、
グリーフシードなる黒い石を回収していること。他には何も知られていないはずなのに、
こいつは何を知っているのか、思わせ振りに頷いていた。

 そのくせ自分のことは何一つ語らず、分かっているのは腰の双剣を使って魔女を狩ってるってことだけ。
 いつもニヤニヤして、あたしをからかって、あしらって。

「こないだ関わるなっつったのに……。ここの使い魔はあたしが狙ってたんだよ!」

「ああ、知ってたよ」

 男がにっこり笑った瞬間、あたしの中で何かが切れる音がした気がする。
ああ……そいつはきっと、堪忍袋の緒、という奴だろう。
 今、わかった。あたしは、こいつが大嫌いだ――。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/22(金) 00:34:53.45 ID:fk7C7RHE0<> このクロスを待ちわびていた!
だが零が先に出てくるとは予想外だ
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:37:08.88 ID:Nr8ofJqko<>
「今日という今日は身体で分からせてやんなきゃ駄目みてーだな!」
 
 杏子は槍を突き出して男に突進する。
 殺しはしない。歯か骨の数本も叩き折ってやる程度で済ませるつもりだった。
 これ以上の情報を与えたくないので、戦闘用のドレスは纏わず、槍だけで済ませる。

 まずは勢いに乗った突き。と言っても、流石に貫けば殺してしまう。最初から男が避けるのは織り込み済み。
右か左に避けたところで胴を薙げば、肋骨を折れる。案の定、男は杏子から見て左に動いた。

「もらった!」

 槍を薙ぎ払う杏子。しかし勝利を確信したのも束の間、男は真上に跳んだ。
 杏子の槍は男の胴を狙って振るわれた。それを跳躍でかわすなど不可能――かに思われたのだが、男はやってのけた。
 男の足は今、杏子の頭の高さにある。優に1m50cm以上の高さを、助走もなしに垂直跳び。
両手で大きく空振った槍を戻すことも忘れ、杏子は茫然と呆気に取られた。

 思考停止していた時間は長くはなかった。時間にして約一秒。すぐにやばいと気付き、腰を引く。 
男の足は目の前、顔面を蹴り飛ばすには絶好の位置。

――ちっ! 間に合うか!?

 思考ばかり先走って、身体が思うように動かない。
こんな時、時間でも止められれば便利なのに、などと益体もないことを考えてしまう。

 男の右足が空中で振り被られる。
 バックステップと同時に左手を戻す。
 だが間に合わない。
 蹴られる!

 杏子は目を固く瞑り、来るべき衝撃と痛みに備えた。
 傷付いた肉体の修復は容易にできるし、痛覚の遮断もできないことはない。
それでも痛いものは痛いし、咄嗟の遮断が間に合わないこともある。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/04/22(金) 00:38:03.32 ID:LTYFE8WAO<> いつも気になるんだけど、何でみんなそんなに牙狼好きなの?

俺も好きだけど正直JAM Project関連ってだけでマイナー作品のはずなのに

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:40:01.72 ID:Nr8ofJqko<>
 が、数秒経っても衝撃は襲ってこなかった。
 スタッと軽い着地音。目を開くと、男の顔が間近にあった。

「怖がらなくても、女の子の顔を蹴るなんてしないよ」

 相も変わらずニヤついた微笑みを張り付けた顔。
 図星を突かれたことと、侮られた怒りが沸々と湧き上がり、杏子の顔が見事な朱に染まる。

「テメ……――っ!?」

 杏子の表情が怒りに、続いて驚愕に歪む。
 今、ムカつく顔が目の前にある。杏子は当然、殴ってやろうと槍を振り上げた。振り上げようとした。
 しかし持ち上がらない。男の左手は、しっかりと槍の柄を握っていたのだ。
常人を凌駕する自分の、《魔法少女》の腕力が抑え込まれている。

「使い魔を魔女になるまで育ててたんだっけ? でも、そんなことしてると、一般人が犠牲になっちゃうんだぜ?」

「んなこと知るか! あたしにはあたしの事情ってもんがあるんだよ!!」

 不安を覆い隠すように叫んで、杏子は右腕にありったけの力を込める。そうして、ようやく拘束が解けてきた。
ぐぐっと、徐々に槍が持ち上がる。どうやら腕力では勝ってるようだ。
 男の表情が変わる。笑みは消えたが、焦りや恐れは見られない。
杏子はありったけの力を槍に注ぎ、男の腕を引き剥がした。

「おっと――」

 槍が高々と天を衝く。男は振り解かれる前に手を放したので、その行為は隙以外の何物でもなかったが、構わない。
どうせ、こいつは余裕振って反撃する気はないのだ。杏子はそのまま、渾身の力を込めた槍を振り下ろした。
 起死回生の一撃。それすらも男は回避した。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:42:08.21 ID:Nr8ofJqko<>
 もっとも、いくら威力と速度だけが優れていようと、要はただの打ち下ろし。
避けるのは容易い。そんなことは杏子とて分かっていた。これで退くと考えたのだ。
 砕けたコンクリートの破片が飛散する。そのうちの幾つかが互いの身体を打つが、どちらも退きはしなかった。

「悪いけどそれ、俺も同じなんだよ。使い魔でも人を食うんだろ? そうすると家族や知り合いが騒ぐ。
そんな事件が続くと世間に不安が広がる。結果的に奴らに付け込む隙を与える」

 男は前に前に、息がかかりそうな距離まで接近してくる。槍という武器の特性を理解した動き。
 しかも今度はコンクリートにめり込んだ槍を片足で踏ん付けている。そう簡単には覆せない。

「はぁ!? 奴らって誰さ!」

 槍を縮めるかとも考えたが、随分としっかり食い込んでいる。変身していない今の状態では取り出すのも一苦労か。
 この男の前でソウルジェムを晒すのも抵抗があった為、杏子は戦い方を拳に切り替えた。

 まず左手で拳を繰り出すが、見事なまでに空を切る。
顔は勿論、胴を狙った拳でさえ、男は上半身を動かすだけで避けてしまう。
 如何に身体能力が強化されていようと、目にも留まらぬほどの速さで拳は打てない。
単純なパンチやキックは逆に自分の体勢を崩すばかりで効果がなかった。

 こと格闘戦に措いて、杏子はほぼ素人だった。槍を使う以上、魔法少女の中では優れている方だと自負しているが、徒手空拳となれば話は別。
 魔女との戦いで体術を使うこともあるが、あくまで身体強化の恩恵と、槍と組み合わせて使うことで真価を発揮する。
 それらの条件を排除して単純な技量のみで比べた場合、この男の体捌きは杏子と比べ物にならないほど練達していた。

 特に杏子の場合、槍というリーチに優れた武器を生み出せる上に伸縮自在。三節棍のように鎖で繋いだ柄をばらし、
変則的な軌道も取れる。槍と鎖で、ほとんどの状況に対応できるからこそ、他の戦法を磨いてこなかった。

 それ故の油断があったのかもしれない。殺さないよう手加減していたせいもあるだろう。
 しかし、だからといってこれは――!

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:44:06.08 ID:Nr8ofJqko<>
「そうすると俺の仕事が増えるんだよ。ほら、俺も余計な仕事は増やしたくないし」

「っ! だからあたしの質問に答えろっての! だいたいテメーは何で、いつもいつもあたしの先回りしてんだよ!」

「こっちには優秀なナビがいるんでね」

 男がトントンと指で叩いたのは、左手の甲に付いたアクセサリ。鈍く銀色の光沢を放っている。
よくよく見ると狼の顔が模られていた。

『そういうことよ、お嬢ちゃん』

 突如、そこから女の声が響く。艶のある成熟した女の声だが、電話越しみたく加工されている。
 おそらく、そこに通信機を仕込んでいるのだろうと杏子は考えた。

「ガキ扱いすんな!」

「ま、どっちにしろ俺は今日でこの街から出てくから安心しなって」

「はんっ! せいせいするよ。何処へでも行っちまいな!」

「この街のエレメントは浄化したし、もう奴らの気配もない。だろ? シルヴァ」

『その通りよ、ゼロ。それと、あんまり子供をからかうのはお止しなさいな』

どうやら通信相手はシルヴァ。この男はゼロと言うらしい。

「子供……!」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:46:25.91 ID:Nr8ofJqko<>
 だが、最早そんなことはどうでもいい。

「いや、かわいいからつい、な」

 子供。
 からかう。
  
 それらの単語に、いよいよ杏子の怒りは沸騰し、頂点に達した。
 
「っっざっけんなーーー!!」

 火事場の馬鹿力とでも言うべきか。
 杏子の両手が、コンクリートに埋まり片足で踏まれている槍を男ごと強引に持ち上げた。
 それだけでは終わらない。降りる間もないまま破片と一緒に空に打ち上げる。

 意図した形とは違ったものの、杏子は最大のチャンスを逃さない。
 空中なら逃げ場はないはず。
自由になった槍を伸ばし、更に分割。鎖で繋がれた槍は蛇の如くうねり、獲物に襲いかかる。
 
「取った!」

 柄を引き、狙いを定めた。
十数メートルにまで伸展した槍は、不自然な体勢で落下する男の脇腹を薙ごうとするのだが、

「な――!?」

 直前で男が空中で限界まで身を捩り、素早く回転。錐揉みしながら姿勢を変える。
 結果、槍は僅かにコートの裾を払ったに過ぎなかった。
 今度こそ捉えたと確信した杏子は焦り、一瞬、追撃の判断が遅れた。
その隙に相手は着地、コンクリの床を砕きながら激しく波打つ鎖と柄から連続のステップで逃れてしまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/22(金) 00:49:08.40 ID:4HM9Sz5AO<> JAM関連というよりは雨宮関連じゃないかな
メジャーになったのはパチの影響デカいだろうけど内容はカッコいいし面白いし、見たら好きになるだろう <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:49:57.91 ID:Nr8ofJqko<>
 驚いたのはそこからだ。
 屋上の縁まで逃れた男は、先ほどの再会時と同じ、まるで友人に挨拶するように笑顔で手を挙げたのだ。

「ってことで、そっちが追ってる方は任せたぜ。元々、俺の本業じゃないし」

 追撃の手を止めた杏子は混乱した。
 だったら最初から横取りするな、と怒鳴る余裕すらなかった。

「あ、当たり前だ! 最初からあいつはあたしの獲物なんだかんな!」

 動揺を隠せなかった。まさか、そこから逃げる気か、と。
 その証拠に挙げた手の反対、男の左手は屋上の柵を掴んでいた。

「って、おい!!」

「俺は次のお仕事。ちなみに見滝原って街だ」

「聞いてねーよ!」

 軽いやり取りに男は苦笑すると、二本指で敬礼のような仕草を杏子に向け、

「じゃあな。バイバイ、あんこちゃん」

 またしても聞き捨てならない捨て台詞を放った。

「だからあんこって呼ぶなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 杏子は再び爆発。
 思わず、最初の長さに戻った槍を怒りに任せて投擲した。

(やべっ――!)

 投げた後ではっとなる。
 刺されば即死である。横取りくらいで殺す気はない。投げておいて言うのも何だが、流石に男の身を案じた。
 が、既に杏子の意思を離れた槍は一直線に目標を貫かんと飛ぶ。もう、どうにもならない。

 結論から言うと、槍は男を貫くことはなかった。
 男が胸の高さの柵に手を掛け、その外――夜空に身を躍らせたのだ。
 槍は落下する男の頭上を掠め、闇に消えた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:53:35.51 ID:Nr8ofJqko<>
「あぁぁあああああああ!!」

 杏子は叫んで柵に駆け寄った。
 まさかとは思ったが、男は屋上から飛び降りてしまった。これで死んだら寝覚めが悪過ぎる。
 小さなビルと言っても20mはある。とても生身の人間が落ちて無事な高さとは思えない。

 潰れてやしないかと、杏子はおそるおそる覗き込み――それが杞憂だったと知る。

 眼下に銀色の光が見えた。男の背中にあった双剣の紋章だ。
更に目を凝らすと、ゆっくり遠ざかる黒のコートの輪郭が浮かぶ。

 壁面には所々に雨樋や出っ張りがある。そこに足を掛けて速度を殺しつつ、降下したのだろう。
それでも落ちてから駆け寄るまでの時間を考えても、かなりの速度。取っ掛かりも数えるほどしかない。
足を掛けたのは一瞬で、5〜6mは一足飛びで降りたに違いない。

 あれが本当に人間なのだとしたら、生身の人間の底力を見せつけられた気分だった。
ただの人間でも鍛えればあそこまで行ける、魔法少女にも匹敵し得るのだろうか。

「はぁ〜〜〜〜」

 杏子は長く大きな溜め息を吐いて座り込んだ。もう追う気にもなれなかった。
 酷い徒労感。
 下らない。馬鹿馬鹿しい。
 何で自分があんな奴の心配をしなければならないのだろう。

「何やってんだ、あたしは……」

 気力が萎えて何もする気になれない。
 座っているのも億劫だったので、大の字に寝そべって月夜を仰ぐ。

 今日はもう店仕舞いだ。
 最近グリーフシードのストックが少し心もとなくなってきたので、ここいらで補給したかったのだが。
 それも、もうどうでもよかったのだが、魔力を消費した分、ソウルジェムには少し穢れが溜まっていた。

「ああ……くそっ、無駄な魔力使っちまった。早めに掃除しとくかぁ……」

 寝転んだまま、ポケットから取り出した黒い宝石、《グリーフシード》と、指輪から変化した赤く輝くルビーのような宝石をくっつける。
すると宝石――ソウルジェムの表面に付着していた黒い染みがグリーフシードに吸着された。
 これで安心と、杏子はまた大の字になって物思う。思い浮かぶのは、あの謎の男。
 ゼロと呼ばれた男だった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:56:48.82 ID:Nr8ofJqko<>  
 ――つい二週間前、あいつと出会うまでの間、あたしは誰とも深く関わらなかった。
家と家族をなくしてからというもの、ずっと独りで生きてきた。

 他人に生の感情を剥き出しにしたことも、会話と呼べるほど多くを喋ったのも久しくなかった。
 当然だ。こんな事情、同じ穴の狢でもなけりゃ誰とも共有できるわけもなし。
そこに現れたのが、あの黒いの。

 あたしが使い魔を育てる為に一般人を見殺しにしてると知っても、あいつは叱りもしなければ説教もしなかった。
 あたしは、何も知らないくせに上から訳知り顔で正論を垂れられるのが大嫌いだったから、それだけは少し嬉しかった。
 だからと言って、あいつは賛同もしなかった。

 ただ頷いただけ。
 理解を示しただけ。
 結局、あいつはあたしに先んじて、今夜の分の親玉を残して街の使い魔と何体かの魔女を全て狩ってしまった。

 それが余計にあたしを苛立たせる。
 獲物を横取りされたことにじゃない。
 考えてしまうんだ。

 もしかして、あたしは誰かに救いを求めてたんじゃないか。

 赦して欲しかったんじゃないか。

 教会でするみたく、懺悔がしたかったんじゃないかって。
 あたしは悪くない。生きる為に仕方がないんだと慰めて欲しかったのかも……。

 なんて思ってしまう自分が更にムカつく。

 手の中には、まだグリーフシードとソウルジェムが握られていた。
 このグリーフシードは元々、あたしが勝ち得たものじゃあない。
魔女を狩ったあいつが、

「これが欲しいんならやるよ。俺には必要ないから」

 と言って投げ渡したものだった。癪だったが、貰える物は貰っとこうと受け取ったのだ。
誰が倒してもグリーフシードさえ手に入るなら同じ。いや、自分の魔力を消費しないだけ得なのだが、
やっぱり釈然としない。それは多分、理屈じゃないんだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 00:58:05.39 ID:Nr8ofJqko<>  そもそも、あいつは何者なんだ?
 魔法少女とは違う――大人だし男なのだから当然だが――グリーフシードも必要としない剣士。

「ゼロ……」

 あいつが去った方角を見ながら呟く。

「一発も当てらんなかったな……」

 あいつとあたし、本番となれば、どちらが勝つだろう。
 あたしはまだ半分も本気を出していない。けど、奴も奴で遊び半分だった。
腰の剣も抜いていないし、まだ他にも何か隠している気がしてならない。
 もし全力でぶつかれば、どちらかが生き、どちらかが死ぬか……。

 いや! 違う!!

 あたしは絶対に負けない。あんな太平楽な男とは懸けてるものが違う。
戦う理由が違うんだ――。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/22(金) 00:59:34.58 ID:Nr8ofJqko<>
「見滝原か……そういや、あそこには……」

 杏子は男の言葉を思い出す。
 次の仕事場、見滝原。どこかで聞き覚えのある街の名だと思っていた。

 この街の魔女も、分かっている限りでは残り一体。早々に片付けて河岸を変えるのも悪くない。
どうせ宿なしの身だ。少なくとも、ここよりは退屈しないだろう。

 そうと決まれば、こんなところで寝ていられない。全身のバネを使って勢い良く跳ね起きる。
 頭上には円い月。明日の晩辺り、満月だろうか。
やっぱり戦うなら、このくらい月の奇麗な夜がいい。ここみたく光源に乏しい場所なら尚更。
 もう周りは真っ暗なのに、月のせいか戦い易かった。奴の黒コートが闇に溶け切らず浮き彫りになっていたからだ。

 もちろん、それだけじゃない。円い月を見ていると気分が昂揚する。
こんな美しい月光に、銀の双剣はさぞ映えることだろう。

 ふと思う。自分はこんなにも戦闘狂だっただろうか。
 それはあの男と戦ったせいか、好き嫌いは別として数少ない知り合いに逢えるからか。
先ほどまでと打って変わって、杏子は狩りの前の興奮に酔い痴れていた。

 まるで自分が一匹の獣、満月に狂う人狼にでもなったかのよう。
 ならば狼らしく、獲物の喉笛を噛み千切って勝利の雄叫びを挙げてやるとするか。

 金色の月を見上げて、杏子は八重歯を剥き出しにして獰猛に笑った。



<>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/22(金) 01:06:06.38 ID:Nr8ofJqko<> *

 夜が明けて朝が始まる。ごく普通の女子中学生――美樹さやかは、
いつものように起きて、いつのものように支度をし、親友二人と待ち合わせて登校する。

 既にその一人である志筑仁美は待ち合わせ場所に来ていた。もう一人が来るまで、彼女と適当に雑談で暇を潰す。
 話す内容と言えば、学校の勉強、行事。テレビや雑誌の話題、家族のこと、週末に遊びに行く計画等、極々ありふれたもの。
今日も昨日と同じ、そして明日も多少の違いはあれど、いつも通りの一日が過ぎていくのだろう。

 そう、だから友人の一人である鹿目まどかが少し遅刻してきたことくらい、些細な誤差に過ぎないと思っていた。
彼女のトレードマークのリボンが、昨日までのものと異なっていたことも。
 ただ、そんな些細な変化も、退屈な日常では重要なエッセンスになる。さやかは、そんなまどかをからかいつつ歩を進めた。

「変な夢……見たんだよね」

 話題をリボンからそらす為か、まどかが今朝の遅刻の原因を語り出す。厳密には、それが直接の原因ではないらしいのだが。

「夢? どんな夢?」

「んっと……笑わない?」

 もじもじしながら、顔を赤らめるまどか。
 可愛らしい小さな身体と顔。おまけに無造作にこんな仕草をするのだから、女のさやかから見ても堪らない。
 
「笑わない笑わない」

「……やっぱり内緒」

 まどかは言い掛けてそっぽ向いてしまう。
 しまった、やはりニヤニヤが顔に出ていたのか。と、さやかは心の内で反省する。
だからと言って、気になるものは気になるのだ。


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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:08:15.92 ID:Nr8ofJqko<>
「えー、何それ」

「隠されると余計に気になりますわ」

「だって笑われちゃうもん。私だっておかしいと思うくらいなんだから」

 ここまで言い渋るとは珍しい。よほど恥ずかしい夢なのかと考え、

「はは〜ん、さては気になる男子の夢でも見たんだな〜」

 ピンときた。と言っても、年頃の女子中学生が見る語りたくない夢となれば、
色恋沙汰しか考えられないという、さやかの単純な推理だったのだが。

「ええ!? 違うよ! そんなんじゃなくって……」

「そうかそうか。まどかにもついに気になる男子ができたのかぁ……」

「まぁ……これはお赤飯ですわね」

「だから違うってば!」

 案の定、まどかは真っ赤になってかぶりを振る。どうやら嘘ではないらしい。
 でも、まどかの反応があまりにも可愛いので、もう少しからかいたくなる。

「それじゃリボンを変えたのも何か心境の変化ですの?」

 仁美も乗ってきたようだ。まぁ、彼女の場合は天然なのだろうが。
 まどかはというと、やっぱり必死で否定している。
 あまり弄り過ぎても可哀想なので、さやかはさり気なく助け舟を出した。
 
「色気づいちゃって、このこの。そうだよね、やっぱり仁美みたいにもてたいよねー」

「私……ですか?」

「またラブレター貰ったんでしょ? もてる女は辛いね〜」

「仁美ちゃん綺麗だもんね。誰かに決めたりしたの?」

 まどかも誤魔化しついでに恋愛談議に興じている。


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◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/22(金) 01:10:45.47 ID:Nr8ofJqko<>  矛先が向いた仁美は、やや困り顔で頬を赤らめている。
まどかとは違うタイプだが、こんな姿も絵になるのが彼女だ。

「私は、その……お稽古事もありますし……なかなか殿方とお付き合いする間も……」

「へー、もったいない」

 と、さやかが油断していた時である。

「そういうさやかさんはどうなんですの?」

 不意打ちだった。
 人に振っておきながら、まさか自分に振られると思っていなかったのだ。

「え……あ、あたしは、ほら、別に……」

 しどろもどろになるさやか。心当たりがあるからこそ、思わず照れてしまう。
 脳裏に浮かぶのは一人の少年。上条恭介――今は市内の病院に入院している、幼馴染の少年だった。

「その慌て様、怪しいですわ……。どなたなんですの? さやかさんの乙女心を射止めた殿方は!」

 仁美が逆襲とばかりに食い付いてくる。さやかは、それをかわすので精いっぱいだった。
 にしても、だ。
 その絡みようが、やけに迫真に感じられるのは気のせいだろうか?

「私、悲しいです……。さやかさんだけが一足先に大人の階段を上るなんて……」

 泣き崩れる振りをする仁美。
 まるで、冗談のヴェールの向こうに、何か重大な真実を覆い隠しているかのような……。
疑問に思いこそすれ、さやかが、その真意に気付くことはなかった。

「だから上ってないって! ちょっと、まどかも何とか言ってよ――って、まどか?」

 助けを求めようと彼女を見やると、まどかの視線はまったく別の方向に向いていた。
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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:13:16.17 ID:Nr8ofJqko<>  歩くうちに、いつの間にか三人は公園を横切る十字路に差し掛かっている。
通勤通学の時間帯だが、交差する道から歩いて来ている人間は一人だけ。
まどかの視線は、その人物に向けられていた。

 真っ白な、脛の辺りまで丈のあるロングコートを翻し歩く男性。開いたコートの内側は上下共に黒。
かなり目立つ服装だ。

 歳は二十代半ばといったところか。髪は茶、顔立ちは整っており、美男子の枠に入るのだろうが、
その精悍に過ぎる顔つきは戦士のよう。アイドルのように軽い印象を抱くことを許さない。

 纏っている雰囲気からして常人とは違う男は、やや早足の堂々とした歩き方で三人に近付く。
目は前だけに向きながらも一分の隙もなく、どこか遠くにある目標だけを見据えているふうにも見えた。

 何故だろう、目が離せない。彼の眼に、強い意志の光を放つ瞳に吸い寄せられる。

 まどかとさやかは歩幅を落とし、彼とぶつからないよう道を譲った。
 徐々に接近する距離。
 その時、三人の目と目が合う。初めて彼が、まどかとさやかを視認した瞬間だった。
それも束の間、すれ違った彼は再び前だけを向いて歩きだした。

「どうかしましたか? まどかさん、さやかさん?」

 唯一気付かなかった仁美は首を傾げているが、まどかとさやかは彼が通り過ぎてからも、
背中を目で追っていた。

「不思議な人……」

「て言うか、変な人……」

 彼はその後、道の端に寄って指輪にブツブツ話し掛けている。
そもそも、こんな暖かい季節にロングコートなんて着ていることからしておかしいのだ。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:15:27.22 ID:Nr8ofJqko<>  まどかは、その後も暫く彼を眺めており、釣られてさやかも見てしまう。
このままでは埒が明かないので、

「ああいう人が、まどかのタイプなんだ」

 ぽつりと言うと、まどかはハッとなって、ようやくさやかを向いた。
真っ赤になって手をパタパタ振っているのが、また面白い。
 それはまどかを動かす為の冗談が半分、自分の気持ちを誤魔化すのが半分。
 彼が気になるのはさやかも同じ。だが一目惚れなんてロマンティックなものでは断じてない。

 言葉では形容しづらいが、言うなれば匂い。日常ではまず出会えないスリル。
彼の纏う非日常の空気がさやかの視線を捕らえた。
 住んでいる世界が違う。そこにいるのにいない、存在する時間や世界がズレているような感覚。 
おそらくだが、まどかも同じ印象を抱いたのだろう。

 不安と期待が入り混じった、漠然とだが何かが始まりそうな予感。
さやかはただ、胸の内に湧いた奇妙な感覚に翻弄されていた。 
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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:17:12.78 ID:Nr8ofJqko<> ――運命ってのは確かにあると思う。
もし、まどかが遅刻していなければ、彼とすれ違うこともなかった。

 こんな……本当に小さなきっかけで、僅かな変化で未来は大きく変わる。
もし、彼に出会っていなければ、あたしの人生はまったく違うものになっていた。
 些細な出来事の積み重ねで将来は形作られているんだと、つくづく思う。
なるほど。これが、いわゆるバタフライ効果という奴か。

 全ての物事には発端がある。
 ただし、あたしの場合、始まりを何処に定めるかが難しい。
あたしを取り巻く日常、という意味ならば、この時点ではまだ薄皮一枚で繋がっていると言えるだろう。

 けど、この街の平穏はとっくに終わっていたんだ。ただ、あたし達が気付かなかっただけで。
 いや、正確には知ってはいた。連続する怪死、変死、自殺に失踪――それらは隣の県だったり隣町だったりしたけど、
市内でも数人、犠牲者は出始めていた。

 でも、どこか自分からは遠い場所で起こったものという認識が拭いきれなかった。
 それらの事件を調べると、遠くから少しづつ、でも確実に、この街に近付いていたのに。この街を蝕んでいたのに。
 あたしは、そんなことにも気付かず、のん気に笑っていたんだ。この日、この時までは。

 だから、あたしは始まりをこの時に置こうと思う。敢えて、あたしの日常が消え去る夜ではなく、彼との出会いの朝に。

 きっと逃れられない運命って奴は、遠からず訪れる、あたしという人間の終焉に向けて、この時から加速を始めていたんだ。

 他愛のない話題、温い日常。けれど全部が大切で、掛け替えのない時間だった。
 でも、それを自覚したのはずっと後。もう手を伸ばしても届かないという事実を突き付けられた後だった。
 失って初めて大事だと気付く――なんてありがちで、聞き古した言葉。
 ほんと、バカみたいな話……。


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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:19:02.06 ID:Nr8ofJqko<>  季節外れのロングコートを着込んだ男は、朝の街を歩いていた。
 初めて訪れる街に戸惑う様子もなく、その歩みは堂々たるもの。
 朝露に濡れる公園を抜け、女子中学生の三人組とすれ違った直後。
夜明けから数時間、これまで一度も休まず動き続けた健脚が初めて止まった。

『おい鋼牙、今すれ違った学生なんだが……』

 男――冴島鋼牙は、相棒の呼び掛けに立ち止まる。
渋く掠れた、やや癖のある壮年男性の美声。が、肉声ではない。
機械を通したかのように、くぐもった声だ。

 しかし鋼牙は一人である。周囲には誰の姿もない。
 声は、鋼牙の左手中指に嵌められた髑髏の指輪からだった。

「どうした、ザルバ」

《魔導輪・ザルバ》。それが、この指輪に付けられた名前である。
人知れず使命に臨む鋼牙をサポートする唯一無二の相棒、それがザルバだった。

『あのお嬢ちゃんたち、何かおかしい……。
力を感じる。ホラーとは似て非なる力……あれも魔力と言っていいのかどうか……』

 銀色の髑髏、ザルバは発声に合わせてカタカタ顎を慣らした。
 ザルバにしては珍しく歯切れの悪い答えに、鋼牙も眉をひそめる。

「誰だ? 全員か?」

『いいや、あの小さな赤いリボンの娘だ。とんでもないレベルの力を秘めてる。
それに比べると大分落ちるが、隣の青みがかった髪の女もだな』

「確かなのか?」

 鋼牙は普段、彼の探知能力に全幅の信頼を置いている。
故に疑いの言葉を口にすることなど滅多にないのだが。
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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:20:53.05 ID:Nr8ofJqko<>
『わからん。俺様も初めての感覚だ。だが、おそらくは……魔法少女……とやらじゃないのか?』

「魔法少女、か……」

 言いにくそうにザルバは言葉を濁した。鋼牙自身、未だに慣れない単語ではある。
話には聞いていたが、よもやそんなアニメのような存在がいるとは、俄かに信じ難かった。
そんな鋼牙の心境を察したのか、ザルバが的確なフォローを入れる。

『おいおい。俺やお前も十分、ファンタジーだぜ。ただの人間からすればな』

「それもそうだがな」

 信じ難くはあるが、かと言って、その存在を疑ってもいない。
何故なら、彼女ら魔法少女が敵対していると聞く怪物、《魔女》と鋼牙は戦った経験がある。
夜の街を歩く仕事の特性上、場所によっては出くわすこともあったのだ。
 それは鋼牙の敵、魔獣《ホラー》とはまた別種の魔物だった。

 だが鋼牙は、こうしてここにいる。数体の魔女を屠り、今も生きている。
となれば無論、只人ではない。

《魔戒騎士》。
闇の世界に生き、魔獣ホラーを狩る剣士。魔法少女以上に、宵闇に深く身を沈めている。
 もっとも鋼牙の場合、魔法少女なる存在がいると聞いただけで、直接会ったことはない。
しかし、ホラーとも異なる怪物を目の当たりにしては信じざるを得なかった。

『で? どうするんだ?』

「どうもしない。俺は俺の使命を果たすまでだ」

『言うと思ったぜ。じゃ報告だ。この街にもホラーは既に潜んでいる。複数……はっきりとはわからないが、かなりの数だ』



<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:22:55.59 ID:Nr8ofJqko<>
 魔獣、ホラー。
 魔女よりも凶暴で醜悪な、魔界より来たる獣。人の肉も魂までも喰らう悪食。
 人の天敵。

 万物に存在する闇、即ち《陰我》に寄生――人の欲望や怒り、憎しみ、果ては愛情にまで付け込む。
時には想いの込められた物も憑依の対象になる。

「既に人に憑依しているホラーが複数、という意味か?」

『さぁな。俺は気配を感知するだけだ。何せ、街に入る前から不穏な気配はぷんぷんしていやがる。
どうやら、この街は格別に陰我が濃い。おまけにホラー以外のものまで混じって、ろくに鼻が利かないと来た。
皮肉なもんだぜ、見た目はこんなにも綺麗好きなのにな』

 ザルバの言う通り、この見滝原の街はどこも整備され、真っ白で小奇麗な街並みを誇っている。
だが、中身は他の街と大差ない。暮らしているのは同じ人間。
嫉妬、不安、誰もが心の内に闇を抱えている。故に、どんな街もホラーの餌場であり隠れ家となり得る。

「素体ホラーが何体も現れていれば、とっくに番犬所が察知しているはずだ。奴らに、いつまでも隠れて人を喰らうだけの知恵はない」

『どうかな。気配を断って隠れる場所なら、いくらでもある。結界がそこかしこにあるようだしな。
これほどうってつけの街はそうそうない。しかしなんでまた、この街はこんなにも混沌としている?」

 ザルバの疑問に鋼牙は答えを持たない。
 魔女とホラーの共通点の一つに結界がある。魔女は必ず、ホラーは時折、結界を張る。
こうなると捜索は容易ではない。ザルバの力に頼るにしても、近付いて目視しなければ判然としない場合も多い。

 となれば、結局は足が頼み。
 幸い、時刻は朝。魔女もホラーも活発に動けない。訪れたばかりの街を散策する時間は十分にある。

『一つ、確実に言えるのは――鋼牙、敵はホラーだけじゃないぜ? もう一度聞く、どうするんだ?』

「まずは街を見て回る。エレメントがあれば浄化していく。その過程で得られる手掛かりもあるだろう」

『あの二人は放っておいていいのか?』

「制服は覚えた。曖昧なものなら、まずは様子を見る。この街にも魔法少女はいるだろう。探すなら、そっちが先だ」

『フフフ……ま、どうせお前のことだ。このまま知らない振りで立ち去るとは、俺様も思ってなかったがな』



<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:26:44.49 ID:Nr8ofJqko<>
 最初から答えのわかり切った質問だった。こう答えることもザルバなら百も承知だろう。
これは確認ではなく彼なりの鼓舞であり、彼の好きな軽口だった。

『しかし残念だったな、鋼牙。ようやく指令を終えて帰れるところだったってのに。
使徒ホラー殲滅の次は、偶然に立ち寄った奇怪な街の謎解きとホラー退治か。難儀なもんだ』

 面倒臭そうにザルバがぼやく。

 鋼牙はここ数ヶ月、番犬所からの指令を受けて日本中を飛び回っていた。
つい先日その指令を完遂し、我が家に戻る途中、ふと立ち寄ったのがこの街。

 番犬所とは、鋼牙のようなホラーを狩る魔戒騎士を束ねる協会であり、その指令は絶対。
指令に逆らえば厳しい罰が待っている。
 だが、誰に言われなくとも、元より人を喰らう存在を許す気はない。それがホラーであろうと、なかろうと。

「それと、魔女も見つければ狩っていく」

自身の信念の下、鋼牙は街に留まる決意を固めた。

「やれやれ……仕事でもないってのに。また厄介事に首を突っ込む気か? 鋼牙」

 呆れ声のザルバに、鋼牙は答えなかった。必要がなかったからだ。言葉にしなくても、相棒は誰より知っている。
 冴島鋼牙とは、そんな頑固で不器用な生き方しかできない男。
 誓いと己が正義を決して曲げず、愚直に貫く男だ。

 守りし者となれ。そして強くなれ。

 片時も忘れず、胸に秘めている父の言葉。
人に仇なす敵を打ち倒し、人を守るという約束。
 人には守る価値がある。たとえそれが強欲故にホラーに取り憑かれるような人間であっても。
この世に喰わせてもいい命など、一欠片たりともありはしない。

 だからザルバも軽口で応じる。それが、彼らなりの絆のあり方だった。

「いや、違うな。厄介事がお前を呼んでるのさ。
来るなら来てみろ、ってな。これは無敵の黄金騎士様の宿命か?』

「同じことだろう」

『違いない』

 鋼牙はザルバの応答に初めて苦笑すると、数秒程度の、しかも立ったままの休憩から歩きだした。



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◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 01:28:29.53 ID:Nr8ofJqko<>
 己が無敵だなどと豪語するつもりは毛頭ない。だが自負はある。誰にも負けないという自負が。
それだけの修業を積み、修羅場を潜ってきた。驕りと誇りは別物だ。

 打ちのめされる度に二度と揺るがぬよう成長した心。
 二十年以上の歳月を費やし、実戦の中で研鑚した技。
 ある日を除けば、一日たりとも休まず鍛え抜いた体。
 
 それらは決して裏切ることはない。確固たる自信と経験として鋼牙に宿っている。

 鋼牙には強くあらねばならない理由があった。敗北が許されない理由があった。

 魔戒騎士の系譜は長く、黄金騎士だけでも幾十に亘る先達が、過去すべての騎士を含めれば数百人にも上る。
 ホラーとの戦いの中で斃れていった者。後継者を育て天寿を全うした者。不幸にも魔道に堕ちた同胞に命を奪われた者。
 最期は様々だが、鋼牙は彼らの名を穢さぬよう、英霊の魂に報いるよう、最強でなければならなかった。
 騎士の頂点に立つ称号を得た者として。

 だからこそ鋼牙は戦う。強いからこそ、強者は矢面に立って人を守らねばならない。
 闇より来る魔獣から人々を守護する最後の盾であり、最初の剣であれ。
それこそが魔戒騎士の矜持であり、責任であり、宿命。

 冴島鋼牙。
 亡き父から、黄金の剣と黄金の意志を受け継いだ男。
 そして厳しい修行の末、黄金の鎧の召喚を許された男。

 鋼牙に与えられた、もう一つの名。
光の世界に背を向け、戦いを日常とし、平穏を捨てた対価に得たもの。
 それは闇に光を、絶望に希望をもたらす魔戒騎士中、最高位の称号。
即ち、最強の証。

 その名は――。


<>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/22(金) 01:37:57.31 ID:Nr8ofJqko<>
もうちょい書き溜めはあるけど未調整なので一旦ここまで。中途半端ですが、なんとか最終回放送日に間に合わせたかったので・・・
主題歌、牙狼〜SAVIOR IN THE DARK〜の2番を聞いていたら、何となくさやかを連想したので書いてみました
ということで、さやかメインかもです。成長する分、物語的には鋼牙より主人公っぽい

全キャラに出番を作るつもりですが、全員を上手く動かせる自信もないので、もし差が出るとしたら、
さやか≧鋼牙>マミ=杏子=零≧まどか=ほむら
くらいでしょうか。更新頻度は遅めですが、週一はなるべく守りたいです
牙狼を未見の方にもわかりやすく進めたいと思いますので、よろしくお願いします

>>10
自分の場合は、何となくレンタルDVDを手に取ったのがきっかけで、次の日にはamazonでポチってました
変身前の、しかも役者本人によるアクションが豊富、というのが特に衝撃的でした。それとCGのかっこよさですかね


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 01:41:06.21 ID:9v6MIA+z0<> 乙!
あんたのことずっと待ってたんだから! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/22(金) 01:47:52.11 ID:fk7C7RHE0<> 乙!
9話の轟天初登場回は特撮界でもトップクラスに燃える
異論は認めない!
次回も激しく期待しております!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/22(金) 01:53:44.06 ID:xleVOsHO0<> 乙!!!
この組み合わせをずっと待っていたッ!!
マジで期待させて頂くぜ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/22(金) 02:00:19.48 ID:fk7C7RHE0<> あと書き忘れてたけど、パチンコのオリジナル必殺技は下のサイトのミニゲームで見られるよ(番犬所の指令という所)
でも全部見るのは結構大変かも
ttp://garo-project.jp/index.html <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/04/22(金) 23:38:14.61 ID:Nr8ofJqk0<> 祝、まどかTV放送完結&(今頃知ったのですが)RED REQUIEMのDVD、BD発売決定&スピンオフ「呀<KIBA>〜暗黒騎士鎧伝〜」発表

皆様、感想ありがとうございます。励みになります

>>36
ありがとうございます。参考にさせていただきます。何度かミニゲームプレイしたのですが、やはりそれがパチンコ技だったんですね


>>1で書き忘れたのですが、

【この作品には残虐表現が含まれます(エロもあるかも)】

牙狼ファンの方には言うまでもないかもしれませんが、

【苦手な方はご注意ください】

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/04/23(土) 02:49:05.91 ID:YfEYnqfD0<> >(エロもあるかも)
なん・・・だと・・・
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/04/23(土) 08:17:00.14 ID:BMtjCPcAO<> パチンコしかやってないから原作技しらんけど
原作にしかない技とかあるんだろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/23(土) 14:48:57.67 ID:6fOibl3y0<> >>39
むしろ原作に必殺技らしい技は烈火炎装と轟天の牙狼斬馬剣ぐらいしかない
でもそこが牙狼の魅力でもある
技というよりはCGや殺陣(スーアク、生身両方含む)の業で魅せるのが牙狼だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 15:35:51.24 ID:80Fu7+3zo<> 待ってたぞ、このクロス…! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 19:07:11.73 ID:NVP/6Zc00<> >>32
乙です。
二番の歌詞……愛にはぐれ愛を憎み愛を求める。
僅かな安らぎさえ打ち捨てて修羅の如く戦う孤高の戦士……確かに、さやかと重ならないこともないか。

>>40
技名とか叫ばないしな。そういうとこも渋い。

最終回で魔獣と聞いてホラーを連想したのは俺だけじゃないはず。しかも呪いから生まれる。
あの世界なら魔戒騎士がいてもおかしくないかも。過去から作り変えられたわけだし。
その後のストーリーなら、無理なくクロスできそうな気がする。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/24(日) 00:23:08.08 ID:SFRzdqYAO<> 牙狼のクロスオーバーを見ると他作品勢の力を受けて翼人や鷹麟みたいなその場限りのパワーアップを妄想してしまう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<><>2011/04/25(月) 00:55:21.69 ID:SJD5qkuv0<> 支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/04/25(月) 02:47:41.26 ID:Qs92QckZ0<> 魔界法師ならソウルジェムに込められた魂を元の体に戻す術とかがあっても不思議じゃないな
既に肉体から魂を抜き取るホラーとかも出てきてるし、そういう奴に対する為の術があったとしても不自然じゃない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/04/25(月) 03:26:39.07 ID:WtRg6Tjgo<> 乙乙
カオルとか翼とかは出てくんのかな?
翼は艦隊の守護者だから厳しいかも知れないけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/04/25(月) 03:41:59.34 ID:sLLBNw950<> すげぇ、ここ最近で一番大好きな特撮SSだ
牙狼大好きだから応援してるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/04/25(月) 17:45:29.24 ID:iZjtuWE40<> 乙乙!!
文章も読みやすくていい感じだ!!
更新楽しみにさせてもらう! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 02:38:42.18 ID:jriNszo3o<> 他のスレでもこういう話題あるけど、ワルプルギスの夜と比べて
メシア・キバ・レギュレイス・カルマの強さはどうなんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2011/04/26(火) 05:50:34.33 ID:ZyVV15Wh0<> クリームヒルト・グレートヒェン相手にバイーンされてる牙狼は見てみたいかも・・・

>>1
自分も小説は未読だけど、小説内では牙狼の表記が「ガロ」のようだ。一応ご参考までに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/04/26(火) 09:56:37.26 ID:EXVstJCAO<> >>49
ホラーのヤバい所は強さじゃないぜ。
ちなみにメシアは牙狼と戦った時はまだゲート潜ってないから不完全って聞いた。
多分人間界出てきたら最低でも日本人は一瞬で全滅。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2011/04/28(木) 08:38:20.95 ID:5897Xn5M0<> 失踪? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 08:41:17.59 ID:cRKAJuBs0<> >>52
まだたったの四日だ、気長に待とうぜ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/28(木) 09:20:10.61 ID:jvUmaaH+o<> お待たせしてすいません。今夜あたり、短めですが少し投下したいと思います
諸事情で更新は遅めですが、毎週末の夜には必ず1レスでも進めるように・・・
それさえ無理な場合は生存報告します <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:19:08.02 ID:PbRgPovxo<>
 巴マミ。
 彼女は見滝原中学の三年生である。
 起床後すぐに自分で弁当と朝食を作り、金の巻き髪を丁寧にセットして、時間に余裕があるうちにマンションの一室を出る。

 見送る者はいない。寂しそうに空の部屋を一瞥し、無言で扉を閉めた。
 数年前に事故で家族を亡くして以来、マミはずっと独りで暮らしていた。
もう慣れたとはいえ、時折どうしようもなく寂しくなる時がある。

 交友関係は少なく、親友と呼べる人間は一人もいない。
学内での人間関係は誰とでも、そつなくこなしてはいるが、本心では誰にも心を許していない。

 それは自分でもわかっている。マミの方から、どこかで一線を引いている。
自分と他の人間は違うと。幼い日、両親を喪った事故の瞬間から、何かが決定的に食い違ってしまった。

 日中は学校。夕方から夜に掛けては魔女探し。部活もできないし、ろくに遊ぶこともできない。
今年は高校受験だってあるというのに、勉強時間もろくに取れてない。
 他の中学生みたく青春を謳歌しているとは言い難かったが、それも人々を守る為だ、仕方がない。
 そう自分に言い聞かせて、自分の気持ちに嘘を吐いて誤魔化してきた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:20:33.29 ID:PbRgPovxo<> ――時折、思う。私は一体、何の為に、誰の為に戦っているんだろうって。
 魔法少女として、魔女から人を守りたい。その気持ちは今でも捨ててない。
けど、いつの間にか擦り切れて小さくなってしまったのも確か。

 もう守りたい人なんていない。みんな、然して私に関係のない人たちばかり。
 助けたいとは思うけれど、果たして私の命を懸けるだけの価値はあるのだろうか。

 誰だってそうでしょう?
 人が溺れていれば手を差し伸べるけど、命の危険がある濁流に飛び込んでまで救おうとする?
家族でも友達でもない赤の他人なのに。
 無論、そういう人もいると思う。誰でも一度や二度ならできるかもしれない。でも、私はそれを毎日しているも同然なの。
 だからこそ言える。私には言う権利がある。数年の時を経て、ようやく気付いた。

 使命の為、人の為なんてお題目で、安らぎも温もりも一切合切を打ち捨てる覚悟なんて持てるわけがない。

 少なくとも私の知る魔法少女は皆、自分の為に魔法を使い魔女を倒していた。
 じゃあ、私は何の為なの?
 わからない。
 自分を捨てて戦うなんて本当は嫌。でも、自分の為に周りを犠牲にするほど我欲に正直にもなれない。
 そんな私だから、もしも同じように人の為に毎日毎日、命を懸けて戦う人がいたら聞いてみたいと思ってる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:21:49.83 ID:PbRgPovxo<>  それは本当に、あなたの気持ちと向き合って出した答えですか?
 後悔はしてないんですか? 

 どうせそんな人、いるはずもないけど。
 もしいたなら、会ってみたい気もするし、絶対に会いたくない。

 そんな高潔で、鋼鉄のような精神の持ち主に会ってしまったら、認めてしまったら、私はもう戦えないから。
 何ひとつ決められないまま、言われるがままに戦っている私は、惨めで弱い人間だと認めてしまうから。

……そうだ。敢えて私が戦う理由があるとするなら、彼が望むから、だろうか。
 私を救ってくれた、たった一人の友達。彼が対価として私に望んだのが魔女退治。
 彼は、とっくに終わっているはずだった私の命を長らえさせてくれた恩人。なら、私も一生掛けて恩返しをするのが当然。
言うなれば、それが私の戦う理由。

 でも、それでいいの?
 私が彼を友達と思うように、彼は私を友人として大切に想ってくれてるの?

 無理に自分を納得させようとしても、時間が経つにつれ疑念が頭をもたげる。
しかも、最近はより頻度を増して私を苛んでいた。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:23:28.58 ID:PbRgPovxo<>
 魔法少女になってからというもの、私は人を疑うという嫌なことを覚えてしまった。
 多分それは、孤独に魔女を追い、戦うことに慣れてしまったせい。
独りで魔女と戦い、生き残る為には、警戒心を高めなければならなかった。

 石橋を叩いて渡るくらいの用心でも、全然足りない。常に神経を尖らせ、目に映るすべてを疑うくらいでちょうどいい。
 魔女の作り出す幻惑の異空間では、常識や物理法則なんか何の当てにもならない。
一見無害に見えるオブジェでも、いつ牙を剥くかわかったものじゃない。
今は安定してる床が、いつ獲物を呑み込む口に変わるかもしれないからだ。

 私は自分以外のすべて――いいえ、自分自身すらも疑ってきた。
家に帰っても安息は訪れず、銃を抱いて寝ずに震えていた夜もある。
 流石に今ではそんなことはないが、それも単に慣れたというだけ。
睡眠中でも気配や物音で覚醒、即座に対応できるようになったから必要なくなっただけ。

 休んでいても、頭のどこかは絶えず周囲を窺っている。
 我ながら臆病者だと思う。しかし臆病が故に私は生きてこれたのだ。

 そんな日々を繰り返した結果、昼と夜の切り替えが曖昧になり、いつしか魔女のみならず、
人間相手にも疑惑の目は向けられるようになった。日を追うごとに疑心暗鬼になり、人を容易く疑うようになった。
 だから考えてしまう。彼も本当は私のことなんて利用価値のある道具程度にしか思ってないんじゃないかって。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:24:56.03 ID:PbRgPovxo<>
 でも、それは単なる被害妄想とは違う。
 際限なく膨らむ猜疑心は、私を嘘や秘密に敏感にしていた。
言葉に嘘や隠し事が含まれていれば、ほぼ看破できるようになった。

 無意識に魔法が作用しているのか。それとも経験と注意力、洞察力の賜物か。
確実なものじゃないから後者だと思うが、この際どちらかは重要じゃない。
私の勝手な思い込みがたまたま連続して的中しただけ、という線も捨て切れないし。
 大事なのは、私自身が偏狭な考えに囚われて抜け出せないということ。

 結果的に私は、ちょっとばかり便利な特技を得た。もっとも、魔女退治には役に立たないし、私と周囲との溝をより深めもしたが。
それは感情らしい感情を表さない彼に対しても例外じゃなかった。
 彼に疑問を投げかける度、私の直感が告げていた。根拠こそないが、確信はあった。


 彼は不変の表情の裏に何かを隠していると。

 でも、私は追及しなかった。笑顔を装って、気付かない振りをして彼との会話を楽しんでいる。
否、楽しむ振りをしている。疑念は全部、胸の内にしまい込んで。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:26:35.06 ID:PbRgPovxo<>
 真実を知るのが怖かった。

 私は私が怖かった。

 彼までも疑ったら、私にはもう信じるものが残されていない。
 誰の為でも――自分の為ですらない、魔女を殺すだけの存在。戦うだけのマシンと同じ。
 そんな私は人間と呼べるのだろうか。人間の形をした魔女に等しいのではないか。
そう思えてならなかった。

 だから私は自分よりも彼を信じたい。それは、かつて抱いていた恩愛や友情とは違う。
最早、意地や虚勢と呼んだ方が相応しいのかも。

 別に、彼が契約の為に私を助けたんだとしてもいい。彼のお陰で今の私があるのは事実。
お互いの利益になったんだからいいじゃない。それで何の不満があると言うの……?

 頭では理解しているのに、心のざわめきは消えてくれない。
それはきっと、私自身がそんな欺瞞を信じてないから。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:27:23.88 ID:PbRgPovxo<>  私はたぶん、愛情に飢えている。だから一方通行の愛情なんて耐えられない。
彼が私を利用しているだけだとしたら、私はきっと自分を保てないだろう。
 彼を友達と思えなくなってしまったら、私は……。

 などと、つらつら並べて立ててみたものの、とどのつまり私は疲れてしまったんだ。
 安息もない、孤独を深めただけのこれまでと。
 いつまで続くかわからない、何の展望もない、戦いだけのこれからに。

 十年後、二十年後、私はどうしてるだろう。まだあんな連中の相手をしているのか。
まさか二十歳を過ぎて魔法少女もないだろうに。
 それとも、もうこの世にいないのか――
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:28:52.00 ID:PbRgPovxo<>  マミはそれ以上、考えるのを止めた。深く考えてしまえば、胸の内から何か黒い感情が芽生えてしまいそうで。
 それが何故いけないのかはわからない。
わからないが、倫理や感情とは違う、何か良くないことが身に起こるような気がして、本能が栓をした。

 思索しながら歩くうち、いつの間にかマミは大きな交差点に差し掛かっていた。
平日の朝だけあって、歩道は通勤通学の人混みでごった返しており、車道もかなりの交通量。
 横断歩道でマミと共に信号待ちをする人々は、誰も他人の顔なんて見ていない。気にしていない。
それはマミも同じ。

 魔法少女として守るべき人々?
 そんなものは、どこにもいない。
 いつしかマミの大衆を見る目は変わろうとしていた。
かつては、何気ない日々を過ごす人々を誇らしい気分で見ていたそれに、妬みや嫉みが混じるようになった。

 誰も彼も同じような顔、同じような服、同じような動き。
よく見れば違いはあるのだろうが、彼女とっては些末なこと。さしずめ野菜か家畜のようにしか思えなかった。
何の興味も感慨も湧かない。おそらく、彼らの目にはマミも同じように映るのだろう。
 群衆に埋もれた異分子である彼女が感じるのは、ただただ息が詰まりそうな不快感。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/04/29(金) 00:30:46.15 ID:PbRgPovxo<>
 ここは自分の居場所じゃない。
 早く、早く行かなければ。

 交差する車道の信号機だけを見て、一秒でも早く、この閉塞した状況から脱することを渇望する。

 でも、どこへ?
 自分が最も必要とされる場所、輝ける場所、いてもいいと言われる場所。自分にしかできないこと、という意味であれば、この世界にはない。
どこを探したって見つりっこない。あの、おぞましい魔女の結界の中にしかないのだ。

 しかし求めるのは、あんな毒々しい悪趣味な空間とは違う。もっと美しく光り輝く、陽だまりのような場所だったはず。
 本当に求めるもの。両親と在りし日の自分を取り戻せる安らぎの世界。それはどこかと考え――彼女は思い至った。
 
 それは思い出の中に。でも、もうそんなものでは満足できない。では、どうすればいいというのか。

 意識すればするほど、息苦しさが加速度的に増していく。視界に移る街は色褪せ、目まぐるしく揺らぐ。
今の自分は正常ではないと自覚しながらも、胸を掻きむしるような呼吸困難は耐え難いものになっていた。
 やがて信号が切り替わった瞬間、マミは脱兎の如くかけ出した。もう一秒だって、こんなところにいたくない。
そう思ったら、身体が自然に動いていた。
 
 得体の知れない衝動に突き動かされ、マミは未だ自動車が激しく行き来する車道に飛び出した。
 
 だが、今のマミには、それすら些事に過ぎない。

 その瞬間の彼女の目には、彼女だけに見える安らぎの世界が、確かに手を伸ばせば届く距離まで近付いていた。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/29(金) 00:35:31.88 ID:G8TCDNgk0<> おお!来てたか
冒頭からwwktkだ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/04/29(金) 00:38:16.06 ID:PbRgPovxo<> 短いですが、今日はここまで。土曜か日曜に来れたら来ます。まだAパートも終わってない体たらくですが、お付き合いいただければ幸いです
マミさんはぼっちというネタはよく見かけますが、個人的には自分から寄せ付けない感じがしたので、
気付いたら人間不信みたいになってしまいました。仲良くなれても一線を越えるのが難しそうと言うか、何と言うか

>>42,45
あの世界ならいそうですね。最終話の内容はどう本編に組み込めばいいか迷いますが、特にQBの干渉は数十年前くらいからだと勝手に思ってたので
しかし考えようによっては、これで牙狼お馴染み?のアレが出来るか・・・

>>50
ありがとうございます。どちらにするか迷っていたので、参考にさせていただきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/29(金) 00:44:44.72 ID:G8TCDNgk0<> 乙!
牙狼はたしかに残酷な展開も多いけど、それでもその名の通りちゃんと希望があるのが大好きだ
わかるかね虚淵? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/04/29(金) 00:54:18.06 ID:gUyMSYEAO<> >>66
虚淵ディスってんの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/29(金) 01:04:06.11 ID:G8TCDNgk0<> >>67
自分はハッピーエンド至上主義なのだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 01:06:31.39 ID:osH+N4gT0<> 乙!!

マミさんの摺り切れた感が実に良いですね
正義の味方で在り続けることのむずかしさが良く出ていますな

このマミさんが、『僅かな安らぎ』さえ捨てて戦う魔戒騎士勢と出会った時、何を思うか…

続きに実に期待であります!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/04/29(金) 06:19:04.75 ID:SBM0/Z1AO<> まぁ年齢考えりゃ当然の思考だと思う
そもそも生まれてからの境遇も違うしなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/29(金) 16:21:15.05 ID:pz/dAOBfo<> 雨宮作品ってエログロはあっても後味の悪い展開にはまずならないからな
元々牙狼は子供向けを想定していたんだから尚更だ

こうして見ると見事にまどかと正反対だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/29(金) 21:58:44.19 ID:G8TCDNgk0<> 実は今回のマミさんの描写が小説版の零に少し似ていたりする
だが決定的に違うのは零にはシルヴァという家族が残っていたがマミさんにはそれすらも無い…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/30(土) 21:51:47.73 ID:yLehA0iV0<> まどかと牙狼、それぞれの終わり方に対するスタンス

虚淵:肌触りのいい綺麗事だけで終わるよりは少し歪な方が心に残ってもらえるのかなって
(メガミマガジンより)

雨宮:復讐の物語ではあるが復讐を肯定したくなかった。牙狼の物語のラストは絶望であってはならないのだ
(妖赤の罠より)


ここまで正反対だと、逆にこの二人が組んだらどんな物語が生まれるのか気になるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 04:25:32.45 ID:O4S2Oe0F0<> 零はともかく鋼牙はなるべくしてなったサラブレッドだよね。よくも悪くもマミさんとは違う。

配信おわるからもう一度見直したら魔獣もそうだが、まどかの因果も陰我に変換された
まどかに束ねられた陰我をガロの剣は切り裂けるのだろうか
で、ちょっと気になったのですが、
某所で見た、なのはとのクロスと似た表現がちらほら見られる気がしますが同じ人なんですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 08:52:36.49 ID:4DzR2Bbs0<> >>74
その某所をkwwsk
検索しても小ネタやニコニコのMADしか出てこないんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/01(日) 09:38:15.89 ID:FAkvcoteo<> >>74
俺もkwsk <>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/05/01(日) 23:06:31.16 ID:b3QYlYyoo<> 感想ありがとうございます。
今日、間に合わせたかったのですが無理みたいです。GW中、最悪でも土曜には必ず投下します
余計かもしれませんが宣言した手前ご連絡を。
>>73
貴重な情報をありがとうございます。最終回付近のプロットはできているのですが、指針の一つになりそうです。
妖赤も再販してくれると嬉しいのですが・・・牙狼関連書籍は絶版が多くて
>>74
たぶん同じ人・・・と思うのですが、心当たりはあります。自分のだとしたらLYRICAL GAROってタイトル、といっても牙狼の一話をなぞっただけの単発ですが
色々被るのは語彙が貧困なのと、アイディアの流用と、以前書いたのが記憶のどこかに残ってたと思われます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/02(月) 20:21:20.48 ID:XYXLVBMD0<> >>77
おk、待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/05/02(月) 23:53:41.64 ID:3UItqa1Fo<> なのはの見てきたぜ続きが待ちどうしいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 16:22:53.25 ID:1q5zkUWDO<> 某所がわからない… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/03(火) 17:40:52.48 ID:PiEOWWF30<> >>80
http://www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3429.html
これだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/05/03(火) 23:23:28.19 ID:wijpnQKYo<> タイトル出してくれてるんだからggrばわかるだろ <> ◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/05/07(土) 17:42:44.97 ID:8H2Tz/2Bo<> 上で土曜と言いましたが、日を跨いだ深夜になるかもしれません
ともかく朝までにはキリのいいところまで少々 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/07(土) 18:01:52.35 ID:ARhAENBIO<> >>83
把握した待ってます <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:14:34.59 ID:SvJd1x2Vo<>  マミはアスファルトを蹴り、垣間見えた何かに手を伸ばした。が、

「おっと。ちょっと待った」

 けたたましいクラクションに紛れた声と共に、唐突に引き離された。

「え……?」

 状況に理解が追い付かないマミの口から、思わず零れた言葉。
たった一言だったが、含まれた切ない響きは、まるで親から引き剥がされる子供のよう。
マミは一瞬だが、道の向こうに両親の姿を見ていた。その先には、自分が望んでいた世界があった。

 もう少し、もう少しで手が届いたのに。
 無性に悲しくなり、瞳に涙が滲む。

 最初に悲しみがあり、次にマミが感じたのは怒り。自分を、この穢れた世界に再び引き戻した相手への怒りだった。
 マミが道路に飛び出した次の瞬間、空いた左手が何者かに掴まれ、強い力で歩道に引きずり込まれたのだ。
 背後を振り向き、未だ左手を掴んだ腕の主を睨みつける。

 あっさりとした顔立ちの若い男性だった。歳の頃はおよそ二十歳前後といったところか。
何が面白いのか、口元には微笑みを湛えている。顔だけなら普通の好青年、むしろ美形と言ってもいい。
 だが、マミは即座に男を怪しんだ。理由は男の服装、季節外れの黒のロングコートを羽織り、全身を黒で固めている。

 マミが昂った感情に任せて口を開こうとした、その直後だった。
車道に踏み出したマミの片足、その数十センチ先を大型のトラックが横切った。
急ブレーキを掛ける直前だったのか、運転手が窓からよくわからない罵声をマミにぶつけて走り去るが、
ほとんど聞いていなかった。

 しかし、赤信号に突っ込んでくるとは、なんて危険なトラックだろう。
辛うじて交通事故は避けられたからよかったものの。
 マミの胸に沸々と怒りが込み上げてくる。それは運転手に対してでもあるし、この男に対してでもあった。
憤懣やるかたないマミだったが、この男がいなければ危険だっただろう。なのであまり強くも出られず、
文句の一つも言おうとして、マミは口を噤んだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:17:40.37 ID:SvJd1x2Vo<>  仕方がない。取りあえず軽く礼だけ言って、さっさ走り去ろう。
その為にも、どういうわけかまだ握っている手首を放してもらわなければ。

「あの、もう大丈夫ですから放してくださいっ」

「駄目だな」

「なっ……」

 絶句。
 離したらすぐに横断歩道を渡ろうと思っていただけに、その返事はマミを驚かせるのに十分だった。
 何故、この男は公衆の面前でこんなことを?

 マミの目がスッと細められる。混乱は治まらないが、思考を切り替える。この男は敵だと。
 状況は圧倒的にこちらの有利。未だ周囲には多くの人が立っている。魔法が使えなくても、この場を切り抜けるくらい造作もなかった。
女子中学生の手を掴んで離さない男と、抵抗する少女。大衆がどちらを支持するかは言うまでもない。

「大きな声を出しますよ……!」

「出したけりゃ出してもいいぜ」

 それでも男は動じなかった。その妙に余裕振った微笑が癇に障る。
 周囲に視線を走らせるも、誰もが気まずそうに目を合わそうとしないか、怪訝な様子で主にマミに冷たい視線を送っている。
 世間は冷たい。
 マミはそれを身を以て知っている。けど、これだけいれば誰かしら助けてくれてもよさそうなのに。

 本当の勇気を持った人間は思いのほか少ない。この交差点には現在、数十人が集中しているが、一人もいないかもしれない。
が、半端な正義を振りかざす連中は掃いて捨てるほどいる。そういった輩は、往々にして頼んでもいないのに首を突っ込んでくるものなのだが。
特に味方が多く得られる、こういった状況なら尚更。

 それだけでは終わらない。マミが魔法少女の力を解放し、男の腕を剥がそうと引っ張っても頑として動かなかった。
大の男でも一人くらいなら余裕で引きずり回せる力を以てしても、びくともしない。
 マミの顔が更なる驚愕に歪む。
 そして男は前方――今はマミの背後の信号を指差して一言。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:19:49.89 ID:SvJd1x2Vo<>
「前、見てみなって」

「あ……」

 振り向いたマミの目に映ったもの。

「わかっただろ?」

 それは赤く光る信号。

――何で!?  確かに……確かに交差する車道の信号機は赤になっていたのに!――

 赤信号とは対照的に、マミは青褪めていった。
火照った頭は急速に冷え、車道の信号を見て、はたと気付く。
 この交差点は複数の車線が入り込む為、十字になった信号が赤になったからといって、歩行者の信号はすぐに青にならない。
もう何年も昔からそうだ。

 事実だけを見れば、信号が変わるタイミングを勘違いして急いだ結果、危うく事故に遭い掛けた。
 ただ、それだけ。
 だが、マミには違った。
 顔中蒼白になって口を覆い、全身を襲う震えは止まらなかった。
 毎日毎朝この道を通ってきた。何時何分に部屋を出れば、ここで何分待つか、感覚にまで刷り込まれているくらい。

 なのに、そんなことまで失念するほどに、自分は前後不覚に陥っていた。そして幻覚を見て車道に飛び出した。
それが今さら恐ろしくなったのだ。自分自身すら信じないと言っておいて、本当に信じられなくなってしまったことが。

「はぁ……っ! はぁ……っ!」

 額を抑えたマミは、やがて立っていられず、その場にしゃがみ込んだ。
 周囲の対応も理解できた。何故、誰も助けてくれなかったのかも。
 きっと周りからすれば、ナンパ男に絡まれたか弱い女子ではなく、
危険な行為を咎められている馬鹿な学生か、或いは自殺志願者にでも見えているのだろう。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:22:41.97 ID:SvJd1x2Vo<>
 男はまだマミの手を握っていた。マミに合わせてしゃがみ込んでまで。
 ただし強く捕まえるのではなく、抜けようと思えばいつでも抜けられる優しい握り方。
 しかし何も言わない。大丈夫かと声を掛けることもしなければ、背中を摩るでもない。
 ただ、そこにいて、ただ、手を握っていた。
 けれどマミは確かに、その温もりに救われた。

 一分か二分経った頃、ゆっくり開かれた目に、最初に飛び込んできたのは微笑み。
 赤から青へ、また赤へと信号のように変わるマミの表情を、男はずっと見ていたのだ。
 この一分足らずの間に、代わる代わるマミを襲った感情の波は、ここに来て最後の一波を迎えた。
最初に悲しみ。次に怒りが、やがて恐怖が。ようやく落ち着いたと思ったら、最後に羞恥が湧いてきた。

「っ……!」

 顔が見事な朱に染まる。薄い微笑みが間近にあった為に動転してしまった――のだと思う、たぶん。
そう自分に言い聞かせて立ち上がろうとすると、思うように力が入らず少しふらついてしまう。
 すると男は掴んだ手を引いて、マミをそっと支えた。さながら姫と騎士のように。

「もう大丈夫かい、お嬢さん?」

 気障でおどけたエスコートに、顔の赤みと熱がいや増す。
 立ち上がると、男はマミの手を放した。放しても大丈夫、ということだろうか。
 両目をパチパチ瞬きし、視界を確認するマミ。
 よし、もう大丈夫だ。見えないものは見えない。
あれは何だったのだろうと、少し考えたが見当もつかなかった。

 仕方ない、とりあえずの問題を先送りにし、マミは男に向き直って頭を下げる。
 命の危機を救われ、手を握っていてくれた。お陰で、大分落ち付けた。

「あ、あの……危ないところを助けていただき、ありがとうございました。それと……ごめんなさい」

 この時点で、マミは男に気を許しかけていた。彼女にしては珍しくと言っていいほど。
次の彼の言葉を聞くまでは。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:24:39.60 ID:SvJd1x2Vo<>
「それじゃお礼って言っちゃなんだけど、ちょっと頼みたいんだ」

「……はい?」

「君と話がしたくてさ、付き合ってくれないかな?」

 マミは顔をわずかにしかめる。会って早々に、話がしたいから付き合ってくれ、なんて言う男をどうして警戒せずにいられようか。
 胸の不信の芽がまたもや顔を出す。こんな男を信用するなと警告を発している。

「あの……なんですか? 私、これから学校なんです。急いでるんです。そう、だから今だって……」

「へぇ、じゃ今のは遅刻しそうだから急いでたわけだ。とても、そんなふうには見えなかったけどな」

「ぅぐっ……」

 見透かされて言葉に詰まる。実際は今、思い付いた言い訳だった。
 何故だろう、この男にはどんな嘘も通用しない気がする。

「歩きながらでいいし、手短に済ませる。少しならいいだろ?」

「……ひょっとしてナンパですか? 私、こう見えても中学生なんですけど」

 既にマミの中では、この男の評価がストップ高から一気に最安値まで急落していた。
所詮この男も、そこらの男子と同じなのかと勝手に決め付け、落胆していた。
 中学生にしては成熟した身体を両手で掻き抱く。
そんなマミの反応に男は苦笑した後、あろうことか鼻で笑った。

「悪いけど、俺も子供に興味はないんだよね。自意識過剰だな」

「何ですって!?」

 一笑に伏されて、思わず激昂するマミ。
大人っぽいとは言われても、子供っぽいと言われたことだけは一度もないのが密かに自慢だったのに。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:26:17.47 ID:SvJd1x2Vo<>
 が、声を荒げてから気付く。これでは背伸びした子供だと自己アピールしているも同然ではないか。
男はやはり薄く貼り付けた微笑を崩さない。からかわれたのだと悔しくなるが、怒っては駄目だと、なんとか踏み止まった。

 男は胸を押さえて深呼吸するマミを面白そうに見ていたが、やがてその顔から薄っぺらい微笑が消え失せる。

「それとは別に、君の力に興味がある」

 男がマミに軽く人差し指を突きつける。
 もしペースを乱されていなければ、注意を解いていなければ、確実に男の纏う雰囲気が変わったことを察知していただろう。

 だが下らないナンパかと侮っていたマミは、そっぽを向いて無防備な状態で、続く言葉を受け止めてしまった。

「だって君――魔法少女だろ?」

「えっ……!?」

 唐突に背筋を悪寒が走る。すぐさま男に顔を戻すと、矢のような眼光に射抜かれた。
 鋭い視線に晒された瞬間、マミは声も出せず、静かに戦慄した。
 直感で理解する。
 この男の気障なところも、無邪気におどけた振りも全て演技、まやかしだ。
 冷たく研ぎ澄まされた刃――それが彼の本質にして本性。

 そうと知りつつも、マミは微動だにできなかった。指一本、動かせなかった。
冷や汗だけがこめかみを伝う。
 蛇に睨まれた蛙。
 いや――狼と兎、と例えた方が適当か。
 事実、マミの目には男の姿が狼と重なっていた。
 逃げたいのに逃げられない。動けば即、その爪牙に引き裂かれる。
そう思わせるだけの何かがあった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:29:38.04 ID:SvJd1x2Vo<>
 暫し沈黙が続き、息苦しさと居心地の悪さをマミが味わっていると、やがて男が破顔した。
 ピンと張り詰めた空気が弛緩すると同時に、マミは大きく息を吐いた。
実際は数秒程度だっただろうが、体感はもっと長かった。

「はは、やっぱり驚いた。ごめん、ちょっとやり過ぎたかな」

「なんで……」

「なんで知ってるかって? 俺の話に付き合ってくれれば教えるけど……どうする?」

 この男はどういう訳か、わざと殺気を叩きつけたらしい。
 理由は知る由もなかったが、マミにも確かなことが一つだけ。

 ああ……やっぱり自分は、この呪われた運命から逃げられないのだ。

「あなたは……」

「俺は涼邑零。君は?」

「巴……マミ……」

 頭は真っ白。正常な判断は阻害され、マミは問われるがままに名乗ってしまった。
言ってからハッとなるも、後悔先に立たずである。

 さっきとは別の意味で身体を掻き抱くと、マミは一歩、二歩と後退った。
 背中が何か硬いものに当たる。
 そっと振り向くと、そこにいたのは革のジャケットを着て髪を金に染めた、見るからに粗暴な男。
歳は十代後半といったところか。
 マミが当たったのは、同じく信号待ちの不良の背中だった。

「あぁ?」

 険しい目つきで不良がマミを睨む。
どこか焦点の定まらない目からして、ひょっとするとドラッグか何かキメているのかもしれない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:31:35.63 ID:SvJd1x2Vo<>
「何だ、お前?」

「あの……ごめんなさ――きゃっ」

 謝罪を言い終える前に、マミの肩が軽く突き飛ばされた。不良は口を歪め、下卑た笑い声を発しながら身体を睨め回してくる。
 マミは足をもつれさせながら、未だ纏まらない思考をフル稼働させた。
 恐怖はなかった。もう一人の男――涼邑零に比べれば、こんな不良は小うるさい虫も同然。

 魔法で軽く捻ってやるか。いや、目立つことはなるべく避けたい。
やはり、足を絡め取るかして気を引いてから逃げるのが得策だろう。
 邪な感情をありありと浮かべ、手を伸ばしてくる男を迎え撃とうとマミが構えた。
 その時だった。

「おいおい、危ないな。女の子相手に暴力なんて、かっこ悪いぜ?」

 いつの間にか不良の側面に来ていた零が、その手を取り捩じり上げた。
 不良は見るからに体格も大柄でがっしりとしている。当たった背中の感触からも
それなりに鍛えているらしかったが、それでも零に抵抗できない。
 まるで大人と子供。勝負にすらなっていなかった。

「いてててて!!」

 苦悶の声を上げる不良を見ながら、マミは考える。
 今、零の注意は自分から逸れている。逃げられるかもしれない。
 咄嗟にそう決断するや否や、横目で背後を窺う。今度は同じ愚は犯さない。
 信号はマミが蹲っている間に一度青になり、また赤に。今、再び青になったのを確認してマミは駆け出した。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:33:09.60 ID:SvJd1x2Vo<>  
 さて、どうするか。今から追いかけることもできないではないが……。
 零が立ち止まって思案していると、

『ねえ、ゼロ。少し性急なんじゃない?』

 左手首のアクセサリから女の声が響く。
 狼の顔をした銀細工だが、狼の上顎の下に人間の――それも艶めかしい女の唇と下顎があり、
そこが声に合わせて上下していた。
 魔道具、シルヴァ。
 零の使命を助ける相棒である。

 シルヴァの声は群衆のざわつきに紛れて周囲には届いてない。それを知って語りかけてきたのだろう。
零も雑踏に混じって歩き出すと、シルヴァに答えを返した。

「……かもな」

 零が街を歩いていた際、シルヴァが彼女を発見した。声を掛けようとしたら、どうも様子がおかしい。
赤信号で飛び出そうとしたので、寸でのところで引き戻して今に至っている。

『あなたが脅かすからよ』

 ただ話したいと言っても、まず聞き届けられないだろう。そんな時は示してみせるのが一番、手っ取り早い。
自分達が同じ夜の住人、魔を狩る者であると。
 よって、あのような乱暴な手段を取ってしまったのだ。同業者と面識があるかどうか、本当に魔法少女かどうかも、大凡これで判別できる。
戦い慣れていれば、必ず何らかの反応を示す。
 結果、前者は否。後者は灰色だが、不良への素早い対応とシルヴァの感知からして、まず間違いない。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:35:10.66 ID:SvJd1x2Vo<>
 加えて彼女が、あの良く言えば勇ましく、悪く言えば好戦的な魔法少女と同じかどうか試す腹積もりだったのだが、
どうやら逆効果だったようだ。
 零の知る魔法少女は彼女一人だけだったので、皆ああもギラギラしているのかと思ったら、そうでもないらしい。

『あの調子じゃ追っても無駄でしょうね。一旦、時間を置いた方がいいと思うわ』

「だな……出直すか。まさかナンパに間違われるとはなぁ」

『無理もないわ。外見だけだと、あなたは軽く見えるから』

「おいおい。そりゃ、どっかの誰かさんの仏頂面に比べれば軽いだろうさ」

 苦笑してシルヴァに答えた零は、脳裏に自分とも馴染み深い、白いコートの男を思い浮かべた。
いつもムスッとして無愛想だが、その実力と、愚直とも言える誠実さは零も一目置くところである。

『あら、褒めてるのよ? 色男だって』

「そいつはどうも。にしても……」

 彼女の不安定さは気に掛かる。ただの疲労やストレスとも考えにくい。
何にしろあの調子では、この街の夜に潜む魔獣に付け入られないとも限らない。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:36:38.07 ID:SvJd1x2Vo<>
 あいつなら、こんな時どうするか。問うまでもないだろう。
 守る。
 命懸けで。たとえ本人に疎まれようと、理解が得られまいと。

 それこそが冴島鋼牙であり、自分が憧れた黄金騎士。
 真似る気はないが、鋼牙とは使命を同じくする者でもある。
彼のように命懸けで人を守ることに何ら異存はなかった。

 魔法少女が何者で、敵か味方かも未だ判然としない。だが、ここで追いかけなくとも、
この街で仕事をする限り必ずまた会うだろう。
 その時、彼女が危機的状況にあれば、零は迷わず彼女を助けるつもりだ。
 幸いにして、零には力がある。相手が魔女だろうと魔獣だろうと、遅れを取らないだけの力が。

 何故なら、涼邑零の異名は絶狼(ゼロ)。
 銀牙騎士、絶狼。
 彼もまた、魔戒騎士の系譜に名を連ねる勇士の一人だった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 00:43:14.40 ID:SvJd1x2Vo<> 今回は以上です。もうちょっと進めたかったのですが、なかなか思うように行かず・・・次回でTVで言うApartは終了
次回は同じく土日を期限に投下します。次は短いので、なるべく早めに

【ミスの報告】
wikiを見たら零ってTV本編の時点で18だったんですね・・・
てっきり鋼牙と同じくらいかと思ってました、そんなに年が離れてたなんて・・・
明らかなミスでした。一通り目は通したつもりでしたが、先入観で判断してました。
同じくシルヴァの顔についても、ただ狼の顔と言うより、今回書いたような形が正解ですね。
単に狼と呼ぶには形容し難い顔だとは思っていたのですが。

零はカオル以外の一般人と会話するシーンがほとんどないので少し自信がないのですが、ここでは初期のイメージで書いてます。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2011/05/08(日) 01:09:35.81 ID:mahAJhf60<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/08(日) 01:10:27.71 ID:rY1S9Xhu0<> 投下乙です!!

ここで零の再登場はちょっと意外だった鋼牙の方だと思ってたので……
しかし零が既に見滝原に到達しているって事は、杏子も、本編よりも早めにこっちに来てるのかな?
ほむほむやまどか達、あるいは鋼牙との遭遇に期待

それにしてもマミさん…(´・ω・`)
不安定だなぁ…いや、しかたないんだけどね
ただ、からかわれてテレるマミさんはまじでマミマミ

改めて乙でした

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/08(日) 01:35:58.08 ID:BsCtsA1D0<> 続編乙でした。
にしても零の行動、「※ただしイケメンに限る」を地で行ってるな・・・ww
俺がやったら間違いなくタイーホです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/05/08(日) 02:00:11.84 ID:OJHX7H7h0<> なんというわくわくな展開
鋼牙なら、牙狼ならきっとワル夜であろうと一刀両断だろうぜ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/08(日) 02:15:40.92 ID:SvJd1x2Vo<> 感想ありがとうございます

それと申し訳ありません。文の抜けがありました。以下の文を、>>93と>>92の間に挿入してください



「あーあ、逃げられちまったか・・・」

 遠ざかるマミを見ながら零が呟く。彼は今も右手を捩じり上げ、背中に回して動きを封じていたが、
マミが去った方の信号が赤に切り替わり、人波の動きが変わると共に零は不良を解放した。
 マミが逃げ、彼も泣きを入れた以上、捕まえておく意味はない。何より通行の妨げになる。
 右手を放すと、不良は零を恨めしげに睨みつけた後、ありきたりな捨て台詞を吐いて逃げていった。



と、不良の逃げるくだりが丸ごと抜けています。見直しが足りませんでした。
名もない、考えるのも面倒なチンピラの彼ですが、同時に重要人物でもあるので一応

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/05/11(水) 20:40:35.00 ID:zZZOmc3K0<> ぬるぽ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/11(水) 23:44:07.46 ID:HLVA97bP0<> ガッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/05/12(木) 00:20:40.68 ID:GoY3cu+yo<> ロ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/05/13(金) 23:17:08.85 ID:H0Bnc77AO<> おまいらに大ニュースだ。
牙狼の完全新作がテレビでやるらしいぞ。

と言う事で作者も頑張ってね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/13(金) 23:21:45.71 ID:6EJ113Keo<> mjdk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/13(金) 23:30:19.91 ID:Hcps1JIoo<> 京本さんも牙出るんだってな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2011/05/13(金) 23:31:28.40 ID:4RKxlalAo<> mjd! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/05/13(金) 23:32:53.09 ID:Hcps1JIoo<> 牙
http://kiba-gaiden.jp/
二期
http://www.garo-tv2.jp/ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/05/13(金) 23:36:09.60 ID:HS42f13Go<> >>105
>>109
mjsk!
早速確認してきました。情報ありがとうございます!!
ちょっと思うような表現が出来ず詰まってたのですが、俄然やる気が出てきました
キバもありますし、がんばって情熱をぶつけたいと思います <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/14(土) 14:14:09.43 ID:ExaQYvd2o<> こんな俺得なスレがあったとは
文章も読みやすい上に引き込まれるな。作者さん乙

>>105
>>109
まどかマジカ
あの殺陣とダークな話がまた見られるとは滾ってくるな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2011/05/15(日) 18:17:34.16 ID:VNY8Ja1AO<> 「魔戒騎士がホラーを生むなら…みんな死ぬしかないじゃない!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2011/05/15(日) 18:22:28.29 ID:ymqgQDl4o<> マダカナー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/05/15(日) 21:08:46.97 ID:fyi5JiAf0<> まだかなぁ〜〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 21:09:21.55 ID:fyi5JiAf0<> すまない。上げてしまった <> ◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/05/15(日) 21:24:03.00 ID:atqjWkPdo<> 申し訳ありません
大事な部分なので力が入ってしまい、なかなか切りのいいところまで行かず・・・
11:50までに完成しなければ、できてる分まで投下します
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/15(日) 21:30:22.31 ID:fyi5JiAf0<> >>116
無茶せんでください。
納得のいくようにゆっくりしていってね!!
こっちもゆっくりして待ってますので <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/05/15(日) 23:07:12.04 ID:00k3vqC10<> 待機要請か、了解した <> ◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/15(日) 23:57:53.05 ID:atqjWkPdo<>
【モブキャラのみ】

【残酷描写注意!】



 白く美しく、近代的に開発された都市にも、管理が行き届かない場所はある。
 いや、だからこそだろうか。どこであれ吹き溜まりは自然と形成されるものだ。
 或いは、敢えて放置されているのかもしれない。

 水清ければ魚棲まずと故事にもあるように、街が、世界が、穢れを孕まずにいられない。
人が人を憎み、妬まずにいられないのだから。
 取り分けそこは、そんな澱を溜めこみやすい箇所だった。

 見滝原市中心部に張り巡らされた地下街の一角。明るい通路から一本外れれば、
環境整備された地上とは打って変わって空気は淀み、壁の色もくすんでいる。
 昼でも薄暗く、深夜には不良少年や浮浪者の溜まり場になりがちな、まさしく掃溜め。
近道にも使えるが、住み慣れた者はあまり近付かないエリアだった。
 日中は彼らも各所に散っているので人気が完全になくなるのだが、
そんなところを朝から徘徊する男が一人。彼もまた、世間一般から外れた、つま弾きの日陰者であった。

「ちっ!! なんなんだよ、あの野郎はよ!」

 髪を金に染めた、いかにもな不良青年は憤りを足に乗せて、壁にぶつけた。
蹴られた壁は鈍い音と衝撃を返すのみ。気分は一向に晴れやしない。

 つい先程のことである。横断歩道で信号待ちをしていた彼は、背後から女子高生らしき少女にぶつかられた。
かなりの美人、加えて肉付きも良い少女だった。
 彼は下衆な欲望を刺激され、少女の肉感的な身体を舐めるように見回した後、手を伸ばした。
 とはいえ、その場で手を出そうとか、これを口実にどこか引っ張り込もう、とまで考えたわけではない。
獣性に駆られたことは否定しないが、この時はただ触れたかった。もっとも、他人に話しても信じてもらえないだろうが。
彼は美しく神聖ですらある少女を、自分のようなクズが触れることで貶めたかったのだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/15(日) 23:59:04.21 ID:atqjWkPdo<>
 彼はどこにでもいる、ありふれた不良だった。
 やること為すこと上手くいかず、世間への不満を周囲に当たり散らすだけのろくでなし。
 彼がこうなったのは、本人の自業自得も大いにあるのだが、本を正せば不運がいくつか続いたことが原因だった。
 それは事故だったり、家庭の不和であったり、受験の失敗であったり。
ひとつひとつを取り上げれば、どこにでも転がっている不運。

 しかし彼は絶望し、道を外し、誰彼構わず災厄を振り撒き出した。すべてが憎らしく思え、手に入らないからこそ眩しくもあった。 
 だから壊した。壊して壊して、同じだけ壊された。
 そして誰からも疎まれ、蔑まれ、唾を吐かれて今に至っている。
 そんな力の伴わない破壊欲の塊が、脆く儚く、故に美しい少女を壊したくなるのは当然だった。

 だが、伸ばした手は直前で阻まれた。手を取ったのは、同じように少女に絡んでいた男。季節外れの異様な格好の優男だった。
 ところがこの男、優しげな顔に反して妙に強い。万力のような腕力で締め上げられ、手も足も出なかった。
 結局、みっともなく許しを乞うて逃げた。かといって、このままでは気が治まらず、
しばらく物陰から復讐の機会を窺っていたのだが、まったく隙は見つからなかった。
 挙句、男が拾って無造作に投げた空き缶がゴミ箱の角に弾かれ、隠れていた彼にクリーンヒット。
跳ね返ってゴミ箱に入るなど、何故かついてないことが続く始末。

 渋々、彼は復讐を諦めてここに来た。ここならケンカする相手には事欠かないし、警察に捕まる恐れもまずないからだ。
そう思って来たのに、結果は空振り。満たされない代替行為は、逆に鬱憤を溜めるばかりだった。
 せめて何かないかと周囲を見回す。
 頼りない電灯の光が届かない隅の暗がり、しかも物陰にも関わらず、転がっていたそれは視線を吸い寄せた。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:00:58.64 ID:S2N4PKdpo<>
 それは所々に黒く錆が浮き、刃の欠けた小振りなナイフ。

 おそらく、どこぞのチンピラが古くなって捨てたものだろう。
 何とはなしにナイフを拾い上げる。柄を握ると、流れ込むように言い知れぬ感情が胸の内に湧き起こった。

 それは同情と共感。こんな日も射さぬ場所で、ゴミとして投げ捨てられているのが急に不憫に思えた。
 まだ使える。まだ壊せるのに。

 彼はナイフと自分を重ね合わせた。
 ナイフのように尖ってみたものの、大それたこともできず、半端に人を傷付け、
何ひとつ欲望は満たせないばかりか、自分にも報いは跳ね返ってくる。
 このナイフと同じ。刃が欠け、錆びついて捨てられた、なまくらのような男。
 それが彼という人間だった。

 彼が刃を見つめ哀れんでいると、突如、黒い錆がぼぅっと揺れ、その中に像が映る。
 それは彼と寸分違わず同じ顔をした男だった。

 鏡の男は語りかける。

『壊したいか……?』

 と。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:02:13.14 ID:S2N4PKdpo<>  一瞬面喰ったものの、彼は迷わずこう答えた。

「ああ……壊したい」

 もう手に入らなくてもいい。幸せになれなくてもいい。
 その代わり、全部壊れて皆が不幸になればいい。
 破滅的で分不相応な願いでも、それが彼の嘘偽りのない正直な気持ち。

 次に、

『憎いのか?』

 と問われれば、

「何もかもが憎い」

 と、熱に浮かされたような顔で答える。
 何故、刃ではなく錆に顔が映るのかなど考えもせず。
 彼の答えに満足行ったのか、鏡像はニタリと笑い、霧散して元の錆に戻った。
 ただ一言を残して。

『なら、俺が壊してやる……お前に代わって!』

 そして彼の願いは聞き届けられた。

 直後である。
 黒い錆が広がり刃全体を覆ったかと思うと、ナイフから浮き出し、空中で形を作った。
 錆よりも黒い肌は不気味にぬめって光沢を放ち、瞳のない眼だけが青いくらいに白い。
造形こそ人に近いが、他に類を見ないほど醜悪でおぞましい怪物の形を。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:03:31.60 ID:S2N4PKdpo<>
「うわぁぁぁああああああああ!!」
 
 考えるより先に、悲鳴が喉から絞り出された。
 彼はナイフから手を放そうとしたが、いくら振ろうと手はナイフの柄に張り付いて離れない。
逆に錆が柄から手を侵食し、掌がじわじわ黒く染まっていた。
 
 怖い!
 恐い!
 
 彼の願って止まなかった破壊。そこに自分自身は含まれていなかった。
 だから恐れた。もう願いも何もかもどうでもいい。今はただ、この恐怖から逃れたかった。

 半狂乱で叫び続ける彼の目の前で、怪物が"解けた"。
 解けた、という表現が正しいのかはわからない。
 霧のような煙のような、靄のようでもあり煤のようでもある細い影が、怪物から伸びた。
それは何かの文字のようでもあったが、とても確認する余裕などない。
 影は彼を目掛けて伸びていたからだ。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:04:59.82 ID:S2N4PKdpo<>
 いくら拳を振ろうと細い影の全ては振り払えず、当たったとしてもそこから侵食される。
 走って逃げようにも、ナイフから手が離れないのなら無意味だ。
 幾条もの影は、目、口、鼻、耳、ありとあらゆる穴という穴から体内に入り込み、侵食する。

 そして数秒後、怪物が完全に解けて消えた時、彼はもう叫んでも暴れてもいなかった。
 力なく立ち尽くし、がっくりと項垂れている。あれほど騒がしかった地下は、すっかり静まり返っていた。
  傍目には何も変わらない。しかし、彼はもう彼ではなかった。

 あらゆるものの破壊を願った馬鹿な男。
 彼の願いを聞き届けた魔獣が最初に行ったのは、願った彼自身の破壊だった。


*


 その頃、一人の人間が地下を歩いていた。歳は三十代前半、ここいらに屯する連中とは何の関わりもない女性。
用事に遅れた為、仕方なく近道を通ろうと通り掛かっただけの一介の主婦だった。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:06:37.84 ID:S2N4PKdpo<>
 彼女は運悪く、一帯に木霊する絶叫を耳にしてしまった。
 聞かなかったことにして立ち去るべきだったのだが、ただならぬ空気を感じ、
様子を見に行ってしまったのが運の尽きである。
 声の方に進むにつれ、辺りが薄暗くなってくる。
そろそろ引き返そうかと不安になり出した時、物陰で蹲っている男性を見つけた。
 この男だろうか。後ろ姿は見るからに危険な印象を受けたが、彼女は勇気を振り絞って問う。

「あの……大丈夫ですか?」

 男は答えなかった。ゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと振り向く。

「ひぃっ……!」

 彼女は息を呑み、小さく鳴いた。悲鳴すら出せなかった。
 男は振り向いただけだった。そう、上半身を一切動かさず。 
 男の首は180度回って振り向いたのだ。

 人間ではあり得ない動作。
 その目はぐるんと裏返り、瞳孔が消え失せていた。
あるのは青いまでの白と、血管の赤。

 全身を怖気が駆け抜け、彼女は踵を返し一も二もなく逃げた。逃げようとした。

「誰か――」

 助けを求めようと声を発するも、言い切ることはできなかった。
 言葉は途中で途切れ、不意に視界が回転する。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:07:55.81 ID:S2N4PKdpo<>
「――え?」

 口から出たのは、そんな間抜けな言葉。
 身体から力が失われ転倒、暗い床が迫る。

 二転、三転。頭を強かに何度も床に打ちつける度、顔中に激痛が走る。
 彼女は何故、こうなっているのか理解できずにいた。ただ躓いただけなら、こうはならない。
 よほど速度が乗っている状態ならまだしも、まだ走り出したばかりだったのに。

 何回も顔面を床に擦りながら回転し、ようやく止まった。ひり付く顔をさすろうにも、手足の感覚がない。
指一本動かせなかった。
 ゆっくりと閉じた目を開いた時、そこに彼女が見たもの、それは――。

 やけに高い天井。

 90度回転した景色。
 
 そして首から上がないのに立っている身体。

 身に付けている服も、自分が今朝着てきた服と同じ物。

 男は左手で首のない身体を支え、右手には錆が浮き、刃が欠けた小振りのナイフ。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:09:23.04 ID:S2N4PKdpo<>
 彼女は数秒間、放心状態になり、徐々に状況を把握する。
 無痛故に、彼女の意識は不思議と冴えていた。
それも含めて腑に落ちないことは多々あったが、自分の身に何が起こったのか、その一点に措いてのみ疑う余地はなかった。
 
「あ、あ……」
 
 叫ぼうにも、既に肺と繋がっていない口からは、断続的な呻きしか漏れない。
 代わりに表情は歪み、涙は溢れて止まらなかった。どうしようもなく悲しくて、恐ろしくて堪らなかった。
 信じたくなかったが、信じざるを得なかった。


 自分が、男の持ったナイフによって首と胴に分かたれたのだ、と。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/16(月) 00:10:47.66 ID:S2N4PKdpo<>
今日はここまで。目標達成できませんでした。次こそ近日中に。次回はほぼ食事シーンだけなので更に閲覧注意。
牙狼は毎回誰かが死ぬので重いですね。使い捨てのモブキャラにも少し思いを馳せてみたり。
違和感がないようにモブの台詞を減らそうと思うと地の文が多くなり、悩む時間が増えるので困りもの。


それと少し質問。
ホラーというのは一種一体なのでしょうか? 再生怪人的なものが出せればと思うのですが。
というのも、オリジナルのホラーとその背景を考えるのも楽しいのですが、面倒でもあり
何より絵が無いとわかりにくいと思うので。
陰我に寄生して初めて独自の形を持つなら、同じホラーが複数いるのはおかしいのでしょうが。
情報、希望などありましたらお願いします。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/16(月) 00:14:35.26 ID:zLETZK1Do<> ホラーは倒すと短剣に封印され魔界へ突っ返されるから
多分魔界で復活したホラーがまた現世に来るとかあるんじゃない?
ザルバがアングレイやモラックスの情報を事前に知ってたこともあるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/16(月) 00:25:08.70 ID:RKLCqjaL0<> 投下乙です。
遂に来たか……ホラーーーッ!!
果たして、こいつが最初に邂逅するのは魔戒の騎士か、それとも魔法少女か……

テンション上がってきた!!
人が死んでるから不謹慎かもしれんが…それでもテンション上がってきたッ!!

>>128
自分も>>129に同じ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/16(月) 01:11:45.72 ID:Kf91h17w0<> 乙!

>>129
実際妖赤の罠でハル(17話の魚のホラー)が再び登場したから実際にそういう事は起こるみたいよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/16(月) 17:04:54.98 ID:Bdnl8/eto<> 投下キテター
乙!

牙狼でモブの人が悲惨な目に合うのは宿命だよね仕方ないよね
「偶像」のモデルさんの殺され方が怖すぎてガクブル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/17(火) 00:59:57.40 ID:y8hnKV0Jo<> 牙狼二期で色々回っていたらここに辿り着いたぞ!
それにしても胸が熱くなるクロスすぎるww

そのうち杏子が轟天にまたがる所まで妄想余裕でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/17(火) 17:39:17.39 ID:pYE3V3TIO<> 元々の企画では牙狼も魔法少女モノだったらしいし相性いいのかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/18(水) 16:10:24.84 ID:M+fLWVl7o<> 遅ればせながら乙
まどかと牙狼、馴染む実に馴染むぞおおお

ところで以前勢いで買った心滅獣神ガロの置き場所が
引っ越したら確保できなくなった。どうしようコレ…… <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/05/20(金) 19:58:31.52 ID:o4fO5TrNo<> 感想ありがとうございます。それと遅くなり申し訳ありません。

>>129-131
ありがとうございます!考えが足りませんでした。記録があるってことは、前例があるってことですよね。
そして妖赤ではハルが再登場していたとは……貴重な情報感謝です。
元となる陰我が近ければ……といった感じでしょうか。再登場に支障はなさそうで助かります

近日中と言いつつ金曜ですが、今日の深夜辺りに投下できればと思います

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:29:38.50 ID:7GRlMTbeo<>  
 首のみとなった彼女は考える。何故、こうなったのかを。
それしかできることはなかった。

 自分の首を切ったのは、あの小振りなナイフ。だが、いくら女の細首とはいえ、人の首をあんな欠けた刃で――それも一瞬で切断できるものだろうか?
斬られたことにも気付かないほど素早く、鋭利に。男の右手に握られたナイフには一滴の血も付いてないのだ。
 では、この状況を他にどう説明付けられる? 

 現に自分の首から下の感覚はなく、冷たい床の感触だけが頬に伝わる。
 一切の痛みがなく、あるのは顔を床にぶつけた際の痛みだけ。今も痛みは感じない。
 ここから見える、男に斬られた首の切断面からは骨や肉が露出していたが、やはり血は流れていない。
いくら斬った瞬間に血が流れなくとも、心臓はすぐに止まる訳ではない。本当なら鮮血が噴き出しているはずであり、
やはり何か超常の力が働いているとしか思えない。 
 そのせいか、著しく現実感を損なった光景に思える。いっそこれが夢であることを願うばかりだった。

 しかし男は嘲笑うかの如く、現実を突きつける。
 再びナイフを一振り。抗わない胴体から、右腕が切り離される。

 彼女は、自分の身体が解体される様子を客観的に眺める異常さに震えた。
 切り落とされた腕からも断面からも、血は滲んでこそいるが、滴り落ちてはいない。
 彼女が心底恐怖するのはここからだった。
 男は右腕を口元に持っていく。あんぐり開けた大口に指先から差し入れる。

 まさか――。
 その、まさかである。
 鋭く尖った歯、いや、最早それは牙か。
 男は牙を以て一口で骨ごと手首を食いちぎった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:33:05.36 ID:7GRlMTbeo<>
「ひっ……」

 短い悲鳴を意にも介さず、続けて腕を口に運びつつ噛み切る。骨も筋もなんのその、すぐに腕は男の口の中に収まった。
 バリ、バリ、シャグ、シャグ、と。およそ人肉を咀嚼しているとは思えない音だけが地下に鳴り響く。

 彼女はそれを茫然と見つめる。目を閉じ、耳を塞いで現実逃避できたなら、どれだけ楽だっただろう。
しかし耳は塞げず、目を閉じても音は入ってくる。何をされているかわからない恐怖は、目に見える恐怖に勝った。
 そして何より。
 目を閉じれば、待っているのは絶対の死。

 首を落とされているのに何を、と思われるだろうが、そもそもこの光景が現実とは思えない異常事態なのだ。
もしかしたら、砂漠の砂の一粒でも救いの可能性が残っているかもしれないではないか。
 彼女は、その希望に縋って目を開く。その希望が、最期の絶望を増大させるのだと心のどこかで感じながら。

 ナイフという物体を通したが故だろうか。
手間を掛けずとも食えたにも関わらず、男は――否、男の皮を被った異形はナイフで獲物を解体した。
 特に必要性はない。言うなれば、それが彼なりの拘りであり様式美。
人で例えればステーキの焼き加減程度の意味しか持たないが、譲れない拘りなのかもしれない。
 その割には柔らかい乳房も、硬い骨盤もお構いなしに切り刻み、噛み砕き、淡々と呑み込む。
乱雑な食事風景は、とてもグルメには見えない。

 だが、おそらくはこうだ。
 敢えて痛みを感じさせず生き長らえさせ、自分の身体が食われる様を見せつけることで、恐怖と絶望という調味料をじっくり馴染ませる。
それが彼の好みの味付け。
 好物を最後に取っておくタイプであることは間違いないだろう。
 もっとも、人食いの嗜好などわかりたくもないが。

 壊したいという欲求は、支配欲の裏返し。
 対象を喰らい、自らの身体に吸収することは、ある意味では最大の支配であると言える。 
 一滴の血も余さず、原型すら留めず、魂さえも胃の腑に収める行為は、破壊と支配を両立させる意味もあるのだろう。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:34:22.47 ID:7GRlMTbeo<>
 一滴の血も流さず、黙々と男は食事を続ける。
 その身体の主だった女性は、およそ三分もの間、自分の身体が喰われるのを眺めていた。
 ストッキングと靴ごと足を食べ切ると、後には何も残らなかった。彼女を構成していたものはもう、首から上しか残っていなかった。
その他の全ては、グチャグチャになって男の胃袋の中にある。

 胴体を食べきっても、彼はまだ満足していない。まだメインディッシュが残っているのだから。
期待に舌舐めずりしながら、その足は転がった首に向けられた。

「あ……あぁ……」

 近付いてくる。
 死が。
 絶望が。
 終わりが。
 コツコツと靴音を響かせ、一歩一歩、にじり寄ってくる。

 さっきまで抱いていた僅かな希望は、既に木端微塵に砕け散った。かと言って潔く諦めることもできず、ただ怯えている。
いっそ食われる前に死んでしまいたかったが、恐怖で歯の根が噛み合わず、舌を噛み切ることもできない。

 神でも誰でもいい。助けてほしい。
 がむしゃらに祈る。
 数分前までと異なり、圧倒的な現実の前に祈りは具体性を保てなくなっている。
彼女自身、もうそんなものは信じていないからだ。

 心の中で家族の名を叫んだ。
 父と母と、夫と娘。
 顔を浮かべて別れを告げた。精神を蝕む恐怖に、理性を完全に失う前に。
 居もしない神やヒーローに祈るくらいなら、その方がよほど有意義だと思った。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/21(土) 01:35:06.48 ID:91LhEv5Ro<> 心滅獣身覚悟で99.9秒以上支援せざる得ない <> ◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:36:31.88 ID:7GRlMTbeo<>

 髪の毛が両手で鷲掴みにされ、目の高さまで持ち上げられる。いよいよ、その時が近付いてきた。
 脳裏に浮かべた家族の顔が塗り潰される。どす黒く荒れ狂う恐怖に押し流される。
 眼前には、大きく人間の限界を超えて開けられた口。
 その奥に広がっているのは無限の闇。
 首だけとなってもなお、悪寒が脳天を突き抜ける。
 
 せめて一瞬で終わらせてほしい。口には出さずに願う。
 もう怯えることに疲れた。最後の瞬間くらいは心静かに迎えたいと、諦めを受け入れた。
 だが、彼女の最後の願いすら男は裏切った。

 彼女の首が下から解けていく。
 首が、顎が、数秒も掛けてゆっくりと闇に吸い込まれていく。
 諦めで覆い隠した恐怖が再び顔を出す。

「いや……助け……」

 それが最後の言葉だった。ついに語る唇が解けてしまったのだ。
 次に鼻、次に目と耳、順に感覚が失われる。
 唯一残される思考。
 一つの言葉と一つの感情が彼女を支配する。

 どうして私がこんな目に。

 最期の瞬間、彼女が求めたものは救済ではなく、家族との再会でもない。
 破壊だった。世界すら壊せそうなほどの激しい憎しみが、彼女の内に生まれた。
 死の間際、彼女は呪った。男の姿をした化物を、自分をこんな運命に追いやった世界を憎んだ。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:39:36.77 ID:7GRlMTbeo<>
 そして男が大きく一吸いすると、黒く染まった意識は完全に闇に同化し、消失する。
 あまりに呆気なく、彼女は抱いた憎悪ごと喰われた。彼女という人間は、薄暗い地下で誰にも知られず死んでいった。

 公には失踪、行方不明として処理される。現場には靴や小物はおろか、血痕も残っていない。
遺された家族は帰りを待ち続けるだろう。気持ちに区切りをつけることもできずに。
 男に憑依したモノ――即ち、魔獣に喰われるとは、多くの場合そういうことなのだ。
 
 全ての人間の天敵である魔獣、ホラー。
 陰我のあるオブジェが彼らの世界、魔界と通じるゲートとなり、この世界に現れる。
 陰我とは万物に存在する闇。ホラーは人や物の陰我と引き合い、憑依、同化する。
性質はホラーにより異なるが、多くのホラーに共通する根源の目的は人間の捕食である。
 太古の昔からホラーは人間を狙って、この世界に現れてきた。

 その度、人を陰ながら守り、ホラーを狩ってきたのが魔戒騎士。しかし、彼らとて万能には程遠い。
 結局、彼女に救いは訪れなかった。どれだけ憎もうとも、ホラーの前では無力。
彼女の憎しみはホラーに吸い上げられ、この時は発現することはなかった。
 
 人間を一人平らげ、とりあえず腹を満たしたホラーは歩きだした。
 この場には、もう何の用もない。
行くなら、もっと人の多い場所。そして動くなら夜だ。
 狩りの時間が待ち遠しいと、期待に胸を膨らませながら、人の皮を被った魔獣は歩き去る。
後には何も変わらない、閑散とした地下の薄闇だけがあった。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:41:29.38 ID:7GRlMTbeo<>
*

 私は今だに思う。
 この日、涼邑零と巴マミが出会っていなければ、どうなっていただろうかと。
 青年の運命は確実に変わっていただろう。
巴マミに絡んでいなければ彼は地下を訪れず、ナイフを拾っていなければ彼は死なずに済んだのだから。

 他に引き合う陰我を持つ者が来る前に、涼邑零は魔道具シルヴァの導きでホラーを浄化していた。
 また平時の巴マミなら、青年の首筋に刻まれた印、魔女の口付けと呼ばれるマーキングを見逃さなかった。
 結果、ホラーは顕現せず、魔女の餌食にもならなかっただろう。彼の命は救われていた。

 もしもそうなっていれば、この夜の出来事もなく、後の全ての事象が大きく変わっていたはずだ。
 少女たちは危険に晒されることもなく、その代わり騎士と出会いを果たすこともない。
運命は交わらず、両者はすれ違ったままで終わっていたかもしれない。
 その場合、彼女らは遅かれ早かれ、ホラーの毒牙に掛かっていた。

 言い換えれば、青年の死によって他の誰かが生き延びた。その命は、彼の犠牲の上に成り立っていると言えよう。
 誤解を恐れず言えば、彼の死は少女の生の為に必要な犠牲だった。
 だが、彼がそれを知ることはない。もっとも仮に知ったとしても、何の慰めにもなりはしないだろう。

 では彼女は? ホラーに憑かれた青年に喰われた哀れな主婦の死には、何か意味があったのだろうか?
 私は、その問いに対する答えを持たない。
 ただ一つ確かなのは、人間が牛や豚を食べるのと同じ感覚で、魔獣は人間を食べるということ。
 行為自体はホラーにとってごく自然なことであり、それ以上の意味などありはしないのだ。

 彼らは物語の上では名もなき端役に過ぎないが、それぞれ家族があり、人生があった。
少女たちのそれに比べても、けして軽いものではなかったはずだ。
 命の価値に貴賎はない。だが少女は救われ、彼らは救われなかった。

 では両者の違いとは?
 明暗を分けたものはなんだったのか。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:43:12.77 ID:7GRlMTbeo<>  特別な違いなどないのだ。

 ただの偶然。
 ただの幸運。

 救いが間に合ったかどうかの差でしかない。
 見えざる手に操られたかの如く運命は選り分けられ、二人は死に、少女たちは生き残った。

 そして生き残った少女たちは、その幸運に見合うだけの不幸に見舞われる。
生き残ったが故に希望を持てる彼女らは、絶望もまた背負うことになる。
 それは誰であれ、動かせない摂理。

 
 人の一生の禍福、幸運と不運は等量と言うが、何事にも例外はある。
 幸運が巡ってくる前に、希望を掴む前に、不運にも人生が終わってしまった場合だ。 

 魂を食い荒らされ、人を喰らう魔獣が己の皮を被って成り済ます。
 生きたまま解体され、無痛故に意識を失うこともなく、ゆっくりと喰われていく。
 その絶望と恐怖は如何ばかりか。

 前者――ナイフに喰われた不良青年、彼はまさしくそれだった。
不運に不運が重なり、自業自得とはいえ最後に最悪の不幸に喰われてしまった。
 更に後者、彼に喰われた主婦に至っては不幸だったとしか言い様がない。
彼女は夫と子供に恵まれ、極々平凡で慎ましやかな、それでいて幸せな人生を歩んでいた。
大きな善行もなければ、これといった罪もない。その対価がこれならば、世界は余りに残酷過ぎる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:45:05.46 ID:7GRlMTbeo<>
 この深い恐怖と絶望に釣り合うだけの希望が、果たして二人の人生にあったのだろうか。
 それほどのものを得てきたのだろうか。
 答えを知る術はもう、ない。
 死の間際の絶望は、幸せな記憶も希望も全てを黒く塗り潰してしまった。
最後まで二人は救いを求め、それが得られないと悟った最期の瞬間に、二人はこの世を呪った。
 それは誰しも、生きている限り逃れられない定めかもしれない。魔を狩る少女や騎士とて、決して例外ではいられないのだ。


 ここから約九時間、街は何事もなく流れる。
 太陽が天頂まで昇り、落ちる。
 逢う魔が時と呼ばれる夕暮れが過ぎ、夜が来る。
 暗く、深い闇が街を覆う夜が。

 夜は魔女や魔獣と呼ばれる存在に形を変えて人々を襲う。
 人は魔の者共に抗う術を持たない。
 だが、もし運が良ければ一筋の光明を目にすることもできるだろう。

 そしてこの夜、私は――少女たちは眩いほどの金色の輝きを目にする。
 闇の中に立ち上がる、黄金の狼の雄姿を。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/21(土) 01:52:12.74 ID:7GRlMTbeo<> 今回でTVでいうApartは終了。牙狼の文字と咆哮のアイキャッチが入って、次回からは夜の部。
こんなので最後までいけるのか不安ですが。

牙狼は放送上の都合もあったんでしょうが、あまり血や内臓が飛び散るスプラッタはなかったので、
あまりグロくし過ぎるのもアレかと思い、少し表現を抑えました。ちょっと現実味に乏しい方がらしいかなと。
まどかとの兼ね合いもあるし・・・と思ったらおりこは冒頭からアレでしたが

次から少しは地の文も減ると思うので、来週末には多少纏めて投下できればと思います
今週の日曜にも少しはできるかも

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 01:54:56.14 ID:7F87upYDO<> 乙です!

ホラーのエグぅい捕食方法がそれっぽいですね
ゆっくりとでいいので頑張ってください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/21(土) 01:57:18.99 ID:fQCDrGsr0<> 乙!
とうとう魔法少女と魔戒騎士が出会うのか!!
作中の芸術家達を虜にした魔戒騎士の姿を魔法少女達はどう捉えるのか……今から楽しみでなりません!
次も楽しみにしています <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/21(土) 01:57:45.48 ID:91LhEv5Ro<> 乙〜!
アイキャッチのロゴとSE脳内再生余裕でした

グロという訳ではないけど結構ねっとりと被害者の様子表現されてて良いですな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(茨城県)<>sage<>2011/05/21(土) 02:02:03.54 ID:5qxmVccY0<> 投下乙!
面白かったよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/21(土) 09:09:50.42 ID:q0i3Y3zf0<> 遅ればせながら投下乙です

次回が楽しみで今からwktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<><>2011/05/25(水) 20:20:44.74 ID:BTuuAOuAO<> 支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<><>2011/05/25(水) 20:21:38.13 ID:BTuuAOuAO<> 支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/05/25(水) 22:16:24.21 ID:G86O4NiYo<> ここは支援いらんよー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/27(金) 00:45:41.20 ID:blngWzt80<> 投下乙!本当今更だけど… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/27(金) 14:07:13.44 ID:JE/2lAllo<> このスレ発見して思わず牙狼見返しちゃってるぜ
大河牙狼の赤目がかなり格好いい事に気付いた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/27(金) 23:34:47.09 ID:5z08Ejpto<> 牙狼は遊戯、水槽、魔弾あたりが好きだなぁ
ホラーは使い回しでもいいけど、何故憑依されたかの背景は今後も見せてほしいかも
人間の醜さっていうか、ドラマパートも好きだったから
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/29(日) 02:13:57.02 ID:0zome/qIO<> 魔弾の舞踏・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/29(日) 21:49:00.47 ID:Kl87lDAH0<> マダカナー <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/29(日) 23:58:04.34 ID:U7bQmhEbo<> ギリギリ日曜日、投下します



 見滝原市中心部からやや遠ざかった、郊外に位置するショッピングセンター。
 食料品に始まり、老若男女を問わず様々なニーズに応じた服や靴、家具や家電にペットetc……果ては医薬品まで。
ここに来れば揃わない物はほとんどないとされ、映画館やクリニックも備えた大型モールは、
市民の憩いの場として平日休日の別なく、朝から晩まで人で賑わっている。

 優に千を超える人間が溢れるモールは、午後6時が迫っても全く静まる気配がない。
そんな中を連れ立って歩く女子中学生が三人。彼女たちもまた、その内の一部に過ぎなかった。

「あ〜、疲れた〜」

 美樹さやかは、大きく息を吐いて椅子にもたれた。
 ここはモール内のカフェの一角。さやかの前には、隣り合って座る鹿目まどかと志筑仁美。
三人は学校の帰り、モールに立ち寄っていた。

 珍しいことではない。三人は月に何度か、こうして寄り道しに来ている。
中学からもほど近いショッピングモールは同じ制服はもちろん、近隣の学校の制服も多く見られた。
 とはいえ、流石に午後6時ともなれば大人の目も気になる。あまり長く居座れば補導の対象にもなりかねないのだが。

「もう、さやかちゃんったら。疲れたなんて言っても、ほとんど何も買ってないよ?」

「あはは。だって色々目移りしちゃうんだもん。これじゃ見てるだけでも疲れるよ」
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/29(日) 23:59:27.86 ID:U7bQmhEbo<>
 まどかの言う通り、文房具などの日用品をいくつか買っただけで、かさ張る物は購入していなかった。
 悲しいかな、中学生のさやかやまどかには自由になる小遣いは少ないのである。こうして飲み食いする代金だって馬鹿にならない。
……筋金入りのお嬢様である仁美はそうでもないようだが。
 
 それならいっそのことウィンドウショッピングで我慢して、ゆっくりお喋りに費やす方が楽しいだろうと考えた。
 店内は雑然として、多少声を張らないと向かいの席にも声が届かない。それでも、さやかはこの空気が嫌いじゃなかった。
この心地良い気だるさが好きだった。

 気に入った服を手にしてあーだこーだと言い合ったり、本屋で立ち読みしたり、ペットショップでショーケース越しに動物を愛でたり。
そんな漫然とした、良く言えばのんびりした時間が楽しい。

 そして今日最もホットな話題は、転校生、暁美ほむらについてだろう。
 今日転校してきたばかりの彼女は、才色兼備という熟語が的確に当てはまる、黒髪の美少女。
 それだけでも話題性抜群なのだが、そこへ更に話題を提供したのがまどかだ。
なんとまどかは、暁美ほむらに既視感を覚えたと言う。しかも向こうは笑うでもなく、気味悪がるでもなく、謎めいた忠告を残していった、と。
 
 まるでマンガかアニメの序章のような展開にさやかは一しきり爆笑した挙句、仁美にたしなめられてしまった。
まさか、そんな前世の絆みたいなものが本当にあるとは思えないが、まどかは随分と気にしているようだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:00:52.73 ID:eclCSvPxo<>
 まだ引きつる腹筋を休ませる為、コーヒーを一啜り。それから、そういえばと思い出す。
 今朝すれ違った白いコートの男性。ほむらがまどかの関心を惹いているように、今日のさやかは妙に彼が気に掛かっていた。
授業中も度々、彼の姿が頭をチラついていた。
 と言っても、まどかのそれのような運命だとか奇跡だとかいったものでは断じてない。  
 後にして思えば、自分の中に眠る何かが感じ取った予兆だったのかもしれないが。

 それから話は適当に雑談へとシフトし、それも一段落したあたりで仁美が腕時計を一瞥して席を立つ。

「あ……ごめんなさい。お先に失礼しますわ」

「お稽古の時間? 大変だね、仁美ちゃん。今日は何?」

「ピアノです。昨日はお茶で、明日は日本舞踊。ほんと毎日毎日、嫌になりそうですわ」

 深々と溜息をつく仁美。
 お嬢様にはお嬢様なりの苦労や苦悩がある。しかし、彼女を労わる人間は少ない。
 こういった場合まず家族だろうが、仁美に習い事を課しているのは他ならぬ両親だ。

 クラスや学校の人間にしてもそう、嫉妬や羨望の眼差しで見ても、
彼女がどれだけ努力しているかなんて知りもしない。
 容姿、成績、家柄。彼女は人より一段高い場所に立っているだけに理解もされ辛いのだろう。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:02:14.11 ID:eclCSvPxo<>
 さやかにも、彼女を羨ましいと思うことはある。かつては嫉妬もした。友達の自分ですらそうなのだから、
赤の他人からすれば、憧ればかり先立って同情なんて持ち得ないのかもしれない。
 かくいうさやかも庶民である。共感はできないし、完全に理解もできない。

 昔、「嫌なら止めれば?」と軽々しく言ったら、酷く怒らせた上に泣かれてしまった。
以来、不用意な助言は慎み、彼女の選択を応援している。あと、できることと言えば気晴らしに誘うぐらいか。

「あ、今日もだっけ? ごめん、付き合わせちゃって悪かったかな?」

 それにしても今日は少し遅くなり過ぎた。外はすっかり薄暗い。
そろそろ帰って夕食かという時間だ。これから習い事なんて、想像するだけでげんなりする。
 なのに仁美は、にっこり笑って答えた。

「いいえ、お気になさらず。近くですし、好きで来たんですから。
私としても、お二人とお喋りしたり店を見て回る方が楽しいですもの」

「ん、ありがと仁美」

「でも今日はピアノですから、まだいいですわ。音楽は好きなんですの」

「そっか。仁美ちゃん、音楽の授業でも上手いもんね。他にも色々やってるの?」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:03:56.78 ID:eclCSvPxo<>  仁美は宙に目をやり、指折り数える。片手が全て握られ、また開いていくのを見て、さやかは苦い顔を禁じ得なかった。

「ピアノとフルートとヴァイオリンも少々……手習い程度ですけど。興味がおありでしたら、今度お話しますわ。では、御機嫌よう」

 にこやかに微笑んで立ち去る仁美を、さやかとまどかは手を振って見送る。

「じゃあね、仁美ちゃん。頑張って」

「バイバイ。また明日ね」

 ――また明日。
 何気なく放った一言で、そこに大した意味なんてない。
 だってそう、ずっとそうだったから。これからもそうだと思ってた。
 明日が来ればまた学校で会って、いつも通りの日々を笑って過ごせるって。

 だから考えもしなかった。知る由もなかった。
 夜を乗り越え、朝を無事に迎えられることが、どれだけ大変で幸せなことか。
 あたしがそれを嫌ってほど思い知る瞬間が、もうすぐそこまで迫っていたなんて――。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:05:56.54 ID:eclCSvPxo<>  仁美が帰ってから数分。特にこれといった話題もなく、すぐに両方のカップが空になる。
 先に立ち上がったのはまどかだった。

「それじゃ、私たちもそろそろ帰ろっか」

 仁美もいなくなったし、確かに時間も遅い。さやかも頷いて立ち上がる。
 店を出るなり、さやかは今思い出したかのように、まどかを呼び止めた。

「あ、そうだ。ねえ、まどか。ちょっとだけCD買いに寄ってもいい?」

「うん、いいよ。いつもの?」

 しかし見抜かれていた。だからと言ってからかいもせず、無邪気な笑顔で答えるまどかに、
さやかは照れ臭そうにはにかむ。彼女のそんなところが、さやかは好きだった。

「えへへ……まあね」

 そうしてCDショップに向かうことにした二人。
 その背中を、同じ制服を着た金髪の少女が見送っていたのに、二人は気付かない。
 そして金髪の少女もまた気付いていなかった。その後ろ姿を、雑踏に紛れた男が――革ジャンを着た不良が見ていたことに。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:07:51.58 ID:eclCSvPxo<>
 CDショップに来たさやかは、まどかと離れて一直線にクラシックのアルバムが並ぶ棚に行った。
 自分の趣味かと聞かれれば、そうでもない。
普段なら、まどかのようにJ−POPの棚が似合うさやかだが、今日ばかりは違った。
 真剣な瞳で棚を睨み、一枚一枚を手にとってはジャケットを確認する。
 全ては一人の少年の為。事故で入院している幼馴染への差し入れの為だった。
 
「う〜ん……」

 だが、さやかは棚の前で唸っている。何を選んでいいのか迷っているのだ。
 こうして見ても、良し悪しなんてわからない。知っているのは大まかな彼の好みと、有名な演奏家くらい。
自分の知識なんて、所詮は付け焼刃である。

 クラシックにも造詣の深い仁美の知恵を借りた方が良かったのだろうが、なんとなく気が乗らなかった。
 あくまで自分の目利きで彼に喜んでもらいたい。仁美に頼ったら、負けてしまう気がした。

「何言ってんだろ、あたし……。勝ち負けなんかじゃないのに……」

 仁美か、それとも自分自身か、何に負けるのかは自分でもわからない。たぶん、ただの空意地。
しかし譲れない意地だった。
 結局、その後も数分間、さやかは棚の前で悩み続けた。まどかが思い詰めた表情で店を出ていくまで。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:11:34.42 ID:eclCSvPxo<>
 さやかがCDを物色する間、まどかも適当なCDを見て暇を潰していた。
さやかも一人で選びたいだろう。そう思ってのことだった。
 そうして気になった曲を選び、試聴していた時のことである。
 ふと、ヘッドホンから流れる音楽とは違う声が聞こえた。

『――助けて!!」

 最初は気のせいかと思ったが、

『――助けて、まどか!!』

 二度目は聞き間違えなかった。
 女性のような子供のような声。
 正体はわからないが、ともかく切迫した声が助けを求めている。それも自分に向けて。
 
――行かなきゃ!

 この時の思考は、彼女自身にも上手く説明できないだろう。
 ただただ得体の知れない焦燥感に突き動かされるようにして、まどかは店を飛び出した。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/05/30(月) 00:15:10.12 ID:eclCSvPxo<> 今日はここまで
申し訳ありません、もっと書き溜めるつもりが、共用のPCに触れる時間が減ったのと、PCの不具合で少ないです
しかも、ほぼ原作まんま
水曜までに次のシーンまでは書きたいです

メインはさやかのつもりなので、恭介や仁美も色々捏造して出番や描写を増やしていきたいなと思っています
特に仁美
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/05/30(月) 00:30:15.64 ID:B2dJWSwI0<> 乙!
次回はQBとの邂逅か
さて鋼牙と零はどう出るのか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/05/30(月) 00:32:59.21 ID:II46P1Ruo<> 投下来てたー!
乙〜

魔戒騎士との出会いでさやか救われると良いなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 00:56:39.96 ID:AEVwmF1l0<> 乙だ乙だ

果たして鬼が出るか蛇が出るか
それとも魔女が出るかホラーが出るか

あんこの動向も気になる所。
そして魔戒騎士2人の登場にも期待だ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 15:30:26.55 ID:SsvgPQk8o<> 乙

今後まどかや鋼牙達がどう絡んでどう話が転ぶのか楽しみっすなぁ
まあスレ初っ端の杏子と零の絡みで既にニヤニヤが止まらないんだがww <>
◆ySV3bQLdI.<>sage<>2011/06/01(水) 23:47:01.45 ID:wvca2aqno<> 今日投下の予定でしたが、PCに触れず難しいです
明日には必ず <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/06/02(木) 00:23:43.31 ID:Xmq5kR7Ko<> ラジャー了解

でも無理せず>>1のペースでいいのよ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/02(木) 13:22:42.63 ID:Z1D09RNIO<> >>173
把握した
次があるなら長くても待てるほど面白い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/06/02(木) 15:01:34.42 ID:MOESk7G20<> 乙です!

まどマギ×牙狼乙とかなんという俺得…!
モブキャラやマミさんの描写が丁寧で読みやすいですねぇ…続きが楽しみです。。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/03(金) 13:55:05.48 ID:wdwJvLASO<> >>1さん、十分雰囲気が出てて面白いですよ。
焦らずじっくりやって下さい。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/03(金) 23:56:00.46 ID:y/8cWQbRo<> まだギリギリ金曜日。また遅くなりましたが投下します。

*


 白い影が走る。闇の中を、ただひたすらに。
 逃げているのは猫のように敏捷な小動物だが、追跡者も負けじと追い縋ってくる。
 周囲にはコーンや資材など障害物も多く、非常灯の僅かな明かりしか頼れないにも拘らず、
追跡者は執拗に、そして正確に小動物を追っていた。
 
 紫色の光が小動物の背後から迫る。咄嗟に危険を感じ取って身をよじった。
跳ねてから一瞬遅れて、光弾が直前までいた場所を穿つ。
 辛うじて直撃は避けたものの、光弾が足をかすめた為、バランスを崩した小動物は大きく床を滑った。
 
「あぅっ!」

 血塗れになってもなお立ちあがって逃げようとする彼の前に、追跡者は立ちはだかる。
 非常灯に照らされて浮かび上がった追跡者は、黒髪の美少女だった。
 名前は暁美ほむら。
 まだ中学生ながら、恐ろしく冷酷な目で小動物を見下している。

 左腕には盾のような円盤が付けられており、ほむらは袖と円盤の間に右手を差し入れる。
そして取り出したのは、黒光りする拳銃。彼女は迷わず、それを突き付け、撃鉄を起こした。

「ひっ……!」

 獲物が怯えた声と瞳で見上げてくるが、ほむらは微塵も揺れなかった。もとより、命乞いに貸す耳など持っていない。
 この小動物はキュゥべえ。愛らしい容姿をしていても、ほむらには醜悪なケダモノにしか映らない。
 引き金に指を掛け、狙いを定める。たとえ一時の時間稼ぎにしかならないとしても、逃がすわけにはいかないのだ。
自身の果たすべき目的の為に。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 00:02:07.99 ID:v/l9YJYTo<>
 それに、どれだけ逃げようと、ほむらには暗闇でも苦にならない能力があった。
五感の強化と、培った第六感。
故に、この暗闇でも誰かが忍び寄ってくれば察知できるはずだった。

 しかし狩りを始めた時から、ほむらの注意はキュゥべえを追い詰めることのみに向いていた。
 加えて、狩りに興じる心が全くなかったとも言い切れない。
だが、それは彼女が加虐趣味の持ち主だからではなく、このキュゥべえが憎むべき仇敵だからである。
これは、その場凌ぎだとしても、積もり積もった恨みを晴らす一発だった。
 だからこそ気付けなかった。
 引き金に掛けた指に力を込めるほむら。そこへ闇の中から声が届くまで。

「いい趣味をしているな。こんなところで動物を追いかけて虐めているとは」

「誰!?」

 落ち着いた男の声だった。続いて、カツン、と乾いた靴音。
 やがて非常灯の幽かな光に照らされて、その姿が徐々に明らかになる。
 最初に、闇の中でも目立つ白のロングコート。次に、闇と完全に同化したインナーと靴。
最後に、茶髪だが精悍な男の顔が露わになった。 

 その名を魔戒騎士、冴島鋼牙。
 この時はまだ、互いに目的も名前さえ知らない二人。

 ただ、ほむらは狙いこそ逸らさなかったが、鋼牙を全身で警戒していた。
 いくら狩りに集中していても、この距離まで接近されて気付かないなど考えられない。
おそらくは、先にこちらを察知するまで気配を殺していた。となれば、まず只者ではない。
 ほむらは相手の出方を窺っている。こうして姿を現したということは、すぐに攻撃の意思はないだろう。
会話するつもりがある。仕掛けるなら、先に仕掛けられたからだ。 

 何かあれば、すぐに銃口を向け直すつもりで鋼牙の言葉を待つほむら。しかし、次に喋ったのは鋼牙ではなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 00:09:01.68 ID:v/l9YJYTo<>
『と言うより、狩り立てると言った方が正しいな、これは。銃まで用意して、ご苦労なこった』

 鋼牙の指にはめられた髑髏の指輪。名は、魔導輪ザルバ。
 カタカタ顎を鳴らす喋る指輪に、ほむらの警戒心は否応なく高まる。
魔女や使い魔の中にも人語を操る者はいない。鋼牙の爪先から頭の天辺までを睨め回しても、やはり正体は判然としなかった。

 何故、自分に話しかけた? 
 目的は?
 その喋る指輪は何?

 聞きたいことは山ほどあったが、あえて呑み込んだ。敵か味方かもわからない相手に、
こちらから何の情報も持たないことを教えるのは危険だからだ。
話したからと言って、それが真実という保証はどこにもない。
 だからほむらは動揺を表に出さず、努めて平静を装って、こう言った。  

「あなたに、何か関係が?」

 ザルバを見ても動揺する素振りを見せないほむらを、鋼牙も訝しげに睨んだ。
と言っても、この男、無愛想な性質で、普通にしていても睨んでいると取られがちなのだが。
 寡黙な彼は、自己紹介も状況の説明も求めなかった。ただ、質問にだけ端的に答える。

「ないな」

「だったら構わないで。通報でも何でも、したければするがいいわ」

 ほむらには確信があった。
 自分も、このキュゥべえも、この世界の常識や摂理とは一線を画した存在。証拠はどこにも残っていない。
探しても出てこない。
 警察に通報したとしても、写真や映像でも残っていなければ無意味。少々の面倒はあれど、証拠不十分となるだろう。
その気になれば仮に残っていても、どうとでもなる。
 つまり、恥を掻くのはそっちの方だと。


*

ちょっと重過ぎる・・・
これも重かったら、時間を改めます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/04(土) 00:42:53.58 ID:IxPnWjrL0<> 来てた━━━━(゚∀゚)━━━━!!
そういや、そもそもQBって一般人には見えないんじゃなかったっけ
まあ、魔戒騎士には見えても可笑しくはないが、ほむらはそっちの方を先に訝しむべきでは?
と……まだ全部読んでいないのに突っ込むとのは早計だったか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/06/04(土) 05:05:17.98 ID:87JuRoVNo<> ここで鋼牙か
続きが楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2011/06/04(土) 12:10:49.28 ID:6MHtapQ60<> 乙ですー。
流石の魔戒騎士も宇宙人(人?)であるインキュベーターには精通してないのかな? <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 12:51:59.92 ID:v/l9YJYTo<>
 それにこの男も、こんなところを気配を殺してうろつくのだから、どうせまともな人間ではない。
 ここは大型ショッピングモールの改装中のフロア。一般人は立ち入り禁止の上、事故があったとかで、工事も中断されている。 
電気も落とされ、窓も塞がれている、こんな場所に好んで立ち入る人間は工事関係者でもなければいない。

 思考を巡らすほむらが鋼牙を分析している間、キュゥべえは機会を窺っていた。
そしてほむらが鋼牙に向き、会話が途切れた瞬間、脱兎の如く駆け出した。

「くっ……逃げられた――!」

 一瞬の虚を突かれたほむらは、しまった、と歯噛みする。
 誰よりよく知っていた。忘れたくても忘れるはずがなかったのに。
 アレが見た目に反して恐ろしく狡猾な生き物だと。
 力尽きたように見せかけて、まだ足を残していたのか。

 まだだ、今すぐ追えばまだ間に合う。
 闇に消えたキュゥべえを追おうと、全力でコンクリートの床を蹴って走る。

「待て」

 いや、走ろうとする寸前で、鋼牙に右腕を掴まれた。この状態では能力も使えない。
 初めて苛立ちを露わにほむらは振り向き、

「まだ何か――っ!?」

 抗議の声は眼前に突き出された鋼牙の手で遮られた。
 その手に握られていたのは、鈍色のライター。
全体は楕円に近い形で、側面には大きな赤い目。その他にも複雑な模様が施されている。
 鋼牙は親指で蓋を弾き開けると、ドラムを回して着火した。
 ほむらは、またしても言葉を失う。
何故なら、その炎の色は鮮やかな緑。薬品でも使っていなければ、通常あり得ない色だった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 12:54:26.24 ID:v/l9YJYTo<>
 それでも、ほむらは表情を変えなかった。内心では驚いていたが、あくまで表面上はポーカーフェイスを保つ。
 これまでの全ての事象を含めても、一度たりとも現れていない未知の存在。
 そもそも、常人には見えないキュゥべえが見えることからしておかしい。
初めて遭遇したイレギュラーに、これ以上の隙を見せたくなかった。

 暗闇に突如として点された火。自然とほむらの視線はライターの火に、そして向こう側の鋼牙の目に吸い寄せられる。
 鋼牙もまた、ほむらの目を間近で覗き込む。
 緑の炎を挟んで、ほむらは鋼牙の、鋼牙はほむらの瞳を凝視した。

――嫌な眼をしている。

 互いに同じ感想を抱いた。

 鋼牙から見た少女の瞳は、まるで夜闇のような暗く深い色。
 その色が意味するものは老成――いや、達観か。
 しかし悟りを開いたとか、そういったものとはまた異なる。

 様々なものを諦め、苦痛と喪失に慣れた者の眼。幾多の死線を潜った兵士の眼に近いだろうか。
感情に乏しく、虚無的な印象を受ける。
 それでいて、捨てられない何かを必死に追い求めているような、そんな強い執念の炎も奥深くに宿している。
 彼女が何故、こんな超然とした目をしているのか不思議だったが、この年頃の少女がしていい目ではなかった。


 何者をも恐れず、何事にも動じない。
 いかなる手段を以てしても屈伏せしめることは叶わぬであろう黄金の魂。
 ほむらが見た男の眼光は、そう感じさせるだけの力を持った、鋭く強靭なもの。
彼は、さしずめダイヤモンドの如く純粋で強固な意志の塊なのだろう。

 おそらく、それは一つの使命に何もかも捧げたが故の強さ。
 闇の中で見る彼は、浮世離れどころか人間離れした異質な雰囲気を漂わせていた。
 気持ち悪い、と素直に思った。
 揺るぎない信念なんて、赤の他人からすれば薄気味悪いだけ。
それとも、これは嫉妬だろうか。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 12:57:00.59 ID:v/l9YJYTo<>
 緑の炎――魔導火は偽りを暴き、真実を照らし出す炎。
 それを挟んで対峙した両者は、互いに心の奥底を垣間見た気がした。
 だが、自分が相手に抱いた印象と、ほぼ同じ印象を相手も抱いているとは知らず、二人は睨み合う。

 冴島鋼牙と暁美ほむら。

 どちらも譲れない目的を持ち、ここに立っている。
 誰に何を言われようが、決して曲がらぬ一念を愚直に貫いている。
 そして何より、不器用で無愛想だ。

 その点で、この二人はよく似ていた。

 鋼牙がほむらの瞳を見つめて数秒ほどして、鋼牙はライターを消した。

「ホラーではない、か」

 魔導火は魔獣の姿を焙り出す。ホラーに憑依された人間に魔導火を見せると、魔戒文字が浮かび上がる。
魔戒騎士がホラーを判別する方法だった。
 こんな時間に、こんな場所で異常な行為に及んでいる少女。ザルバを見ても、魔導火を見ても、表情一つ変えない。
可能性は高かったが、鋼牙の勘は最初から否定していた。
 あれは、ホラーにはできない眼、人間だけが持てる輝きだ。

 そうとは知らず、ほむらは鋼牙をまだ睨んでいる。
 当然だ、この男の邪魔のせいでキュゥべえを取り逃がしてしまったのだから。
今からでは、もう追い付けない。このままでは彼女が……そう思うと憎くもなる。
 ホラーとは何かも、緑色の炎の正体も、今は置いておく。
いつだって大事なことは一つだけ。それを邪魔をする者は誰であろうと排除するのみ。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 12:58:54.16 ID:v/l9YJYTo<>
 明らかに怒気を孕んだ声で、ほむらは鋼牙を問い正す。

「何のつもり? 何故、私の邪魔をするの……!」

「一つ、言っておく」

 だが鋼牙は問いに答えず、ライターをしまうと一方的に告げた。
鋼牙もまた、最優先事項である使命を果たす為なら、他人の都合は関係ない。

「お前が何をしようが興味はない。だが、ここでやられると仕事の邪魔だ。さっさとここから逃げろ。さもなくば……」

「さもなくば……?」

 ほむらは言いながら、鋼牙から見えないよう指を伸ばして引き金に添えた。
 一触即発。
 相対する二人は無言で火花を散らす。最早、いつ爆発しても不思議はなかった。
 腕が強張る。全身が緊張している。鋼牙の答え次第では、ほむらは初めて人間を撃つかもしれない。
 殺す気はないが、そんな余裕が通用する相手ではないだろう。
 それはきっと、越えてはならない一線。それでも、彼女は行かなければならなかった。

 そして鋼牙が、答えをを口にした。
 ただ一言――

「死ぬことになる」
 
――と。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:01:32.59 ID:v/l9YJYTo<>
「――ッ!」

 ほむらの目がカッと一際大きく見開かれ、次の瞬間、鋼牙の形相も険しさを増す。
 ほむらの右腕を掴んでいた鋼牙の右腕が弛緩した。掴んでいては鋼牙も右腕が使えないからだ。

 すぐさま、ほむらは拘束を振り解き、銃口を跳ね上げる。
 一撃で決める。でければ、倒れるのはこちらだ。

 連動するように、鋼牙も左手でコートを払い、右手は素早く左腰に伸ばされた。
 左腰には、赤い鞘に収まった《魔戒剣》を帯びている。
 後から動いたにも拘らず、ほむらが照準を合わせるより早く、鋼牙の腕は赤い柄を握っていた。
 
 ほむらの拳銃が火を噴くのと、鋼牙が腰に帯びた魔戒剣を電光石火の速さで一閃するのは全くの同時。

 銃声と鞘走りが鳴り響く。
 この間、僅か一秒にも満たない、まさしく刹那の一撃。

 ほむらの銃火が闇に瞬き、鋼牙の剣閃が一瞬の光跡を残した。 
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:03:15.62 ID:v/l9YJYTo<>
「――ッ!」

 ほむらの目がカッと一際大きく見開かれ、次の瞬間、鋼牙の形相も険しさを増す。
 ほむらの右腕を掴んでいた鋼牙の右腕が弛緩した。掴んでいては鋼牙も右腕が使えないからだ。

 すぐさま、ほむらは拘束を振り解き、銃口を跳ね上げる。

 一撃で決める。でければ、倒れるのはこちらだ。

 連動するように、鋼牙も左手でコートを払い、右手は素早く左腰に伸ばされた。
 左腰には、赤い鞘に収まった《魔戒剣》を帯びている。
 後から動いたにも拘らず、ほむらが照準を合わせるより早く、鋼牙の腕は赤い柄を握っていた。
 
 ほむらの拳銃が火を噴くのと、鋼牙が腰に帯びた魔戒剣を電光石火の速さで一閃するのは全くの同時。

 銃声と鞘走りが鳴り響く。
 この間、僅か一秒にも満たない、まさしく刹那の一撃。

 ほむらの銃火が闇に瞬き、鋼牙の剣閃が一瞬の光跡を残した。 
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:09:06.12 ID:v/l9YJYTo<>
 二人は"横に並んで"各々の得物を構え、微動だにしない。全神経を集中させて闇の深奥に目を凝らす。
呼吸さえ止めていた。
 やがてその先から、

「キキィ……」

「ォォォ……」

 と、甲高い鳴き声と低い唸り。
 常人にも視認できる距離――せいぜい、半径1m程度といったところか――まで来て、
初めて声の主が非常灯に照らし出される。

 片やナイフを両手に持ち、黒いローブを着た影。
 片や蝶から髭面が生えたような奇怪な生物。 
 ローブは真っ二つに両断され、髭面は額を撃ち抜かれていた。

 ふらふらと二人に近寄るが、どちらも届かずに倒れ伏す。
最期に、か細い断末魔を残して霧散、消滅した。
 それを確認した二人は武器を下ろし、目線だけを合わせる。

「……斬られるかと思ったわ」

「お前が撃たないのなら、その必要はない」

 ほむらは小さく溜息を吐く。
 正直、肝が冷えた。
 普段からほとんど使わない表情筋は、こんな時でも固まって動かなかったが、
背中や手に流れる大量の汗は、極度の緊張と重圧を如実に表していた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:13:21.49 ID:v/l9YJYTo<>
 鋼牙が「死ぬことになる」と言った瞬間、ほむらは鋼牙を撃つつもりだった。
だが、撃てなかった。やはり魔女でも魔法少女でもない人間を撃つのは躊躇われた。
彼女の為なら、どんな罪も犠牲も厭わない覚悟があったはずなのに、土壇場で迷いが生じてしまったのだ。

 しかし、動いてしまった身体は止められない。その捌け口が、蠢く微かな殺気だった。
それを感知できたのも、咄嗟に銃口を向けられたのも、ほとんど偶然。
鋼牙が動いた瞬間は、どちらを撃つべきか限界まで悩んだ。
能力も使っていないのに、刹那よりも短く、極限まで圧縮された時間を生きていた。
 かつてなかった感覚。魔女との戦いでも未経験だった。あれこそが、人間同士の生死を賭けた命のやり取りなのだろうか。
 
 そして今、ほむらは命を拾って立っている。
 どうやら、この男。少なくとも、今は敵ではないらしい。
 撃たなくて正解だったと、ほっと胸を撫で下ろした。


 緊張を感じていたのは、ほむらだけではない。鋼牙も、ほむらほどではないにしろ、選択を迫られていた。 
 と言っても彼の場合は、ほむらの発砲をどう凌いで、彼女を庇いつつ敵を迎撃するかが悩みだったのだが。
 魔戒騎士の剣は、人に仇なす者にのみ向けられる物であって、ほむらを斬るなどという選択肢は端から頭になかった。
たとえ、彼女が自分に銃口を向けたとしても。

 迫りくる敵の気配を感じたのは、ほむらが目を見開いたと同時。柄を握るまでは、ほむらへの攻撃も考えた。
 柄頭で鳩尾を突き、返す刀で応戦するか。
 或いは懐に潜り込んで銃弾をかわしつつ、彼女を抱いて敵との距離を取るか。
 だが、鋼牙は見た。
 彼女の瞳は揺らぎ、重心と注意は微妙に敵の殺気に傾いていた。
 だから信じた。
 彼女が既に危険を察知していると。何より、自分が敵でないと信じることを。
 
 最悪、どちらかの足に一発喰らう覚悟はしていた。
 いくら近距離では剣の方が早いと言っても、鋼牙は受け身で、初動の遅れもあった。
 速さで勝っていたのは、根幹での迷いの有無と経験の差だった。
 しかし、こうして互いに無事ならそれでいい。
 重要なのは、少女が何者であるかということだが……。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:17:59.95 ID:v/l9YJYTo<>
 そこへ鋼牙の心理を読んだかのように、ザルバが話し出した。

『なるほどな。やっぱり、お嬢ちゃんが魔法少女って奴か』

「どうして、それを……」

 ほむらは答えるべきか逡巡して、質問で返すしかできなかった。
 その反応は、鋼牙とザルバからすれば肯定したも同然である。

「やはりか……。ザルバ、どうして黙っていた?」

『一度やり合えば、すぐにわかることだ。お前なら言わなくても自分の身は守れるし、お嬢ちゃんも傷つけないだろうしな。
それに話す間もなかった。こうならなきゃ、そのうち俺様から話していたさ』

「調子のいいことを……」

 鋼牙の表情が、若干だが渋くなる。

 ほむらは、そんな鋼牙とザルバのやり取りをじっと見ていた。
 喋る指輪――ザルバは、やり合った末に彼が倒れる危険はおろか、
こちらが斬られる可能性すら微塵にも信じていない。鋼牙も、ザルバの言葉を疑いなく信じている。
 その間にあるものは信頼。自分にはないものだ。信頼する相手も、信頼してくれる相手も。

 それを少しだけ羨ましく思いながら、ほむらは話に割り込んだ。

「そっちの話は後にして。先に私の話を――」

『待てよ、それだけじゃないぜ。お嬢ちゃん、あんたと同じだ。
自分が何を知ってて何を知らないか、よくわからない相手にカードは慎重に切らなきゃならないだろ?』

 だからこそザルバは、ほむらに聞かれるところで余計な情報を与えなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:20:27.94 ID:v/l9YJYTo<>
 ザルバの言に、ほむらは続く言葉を呑み込む。
 情報を要求するなら、こちらも提供する必要がある。
彼らが信用できるか否か、今後も関わってくるか否か、まだ判断できない。

「鋼牙、こいつらは使い魔だぜ。それも魔女とホラー、両方のな』

「ああ、わかっている」

 これで終わるはずがない。言われるまでもなく、鋼牙は理解していた。
 隣の少女も、何やら思い詰めているようだが、同様だろう。
 二人は素早く腰を落とし、身体を開いて身構える。
 場の空気が変わった。歴戦の戦士だけが感じ取れるレベルで。
 何かが接近している。数秒遅れて、周囲の景色が歪んだ。

「こんな時に……!」

 これは魔女の結界だ。こうなった以上、逃げられない。
キュゥべえを追うにしろ、まずはこの場を切り抜けなくては。
 
「話は後だ……やれるな?」

 鋼牙は一歩前へ出ると魔戒剣を構えた。周囲の警戒は絶やさず、声だけでほむらに問う。
 彼女は共闘する気はないだろう。また、その必要も。
 それでも守りながら戦うより楽だ。彼女は魔女と戦う魔法少女であり、十分な戦闘力を持っている。

「……ええ」

 ほむらは一言、そう伝えると振り向いた。図らずも、鋼牙と背中合わせの形になる。
 これは、背中を任せるという解釈でいいのだろうか。
 確認する時間はない。
 ただ今この瞬間だけは、彼の立場や人柄でなく、実力を信頼しようと決めた。
 
 今さら隠れる気はないのか、鳴き声と蠢きが大挙して襲い掛かってくる。

『来るか……! 抜かるなよ、鋼牙!』

 ザルバの声を合図に、鋼牙とほむらは床を蹴り抜いて、同時に飛び出した。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/04(土) 13:23:48.83 ID:v/l9YJYTo<> 結局、また週末になりました。
ですが昨日は午後から空いていたので、自分にしては、かなり加筆したつもりです。
その加筆に今まで手間取っていたのですが。

>>181
お答えします。

1.魔戒騎士には見えるんです。
2.ほむほむは自分には見えるのが当たり前なので、最初はつい失念してたんです。
で、>>185の3行目で気が付きました。
(ぶっちゃけ忘れてて、急遽一文を追加したのは黙っておこう……
どうしよう、見える理由を考えなければ……!)

こういうツッコミは今後も大歓迎です。ありがとうございました。

以上、また来週末を目処に投下したいと思います。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/04(土) 14:49:43.24 ID:OW5Cs1QQ0<> 乙!!
本作ではずっと影の薄かったはむらがいよいよ登場!!
それにしても見滝原における鋼牙の最初の共闘相手がほむらだったのは意外。
マミか、見滝原に来てたアンコだと思ってたから

2人の胸に抱えたモノの対照も実にいいですなぁ〜〜改めて乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/04(土) 18:07:15.76 ID:IxPnWjrL0<> 乙!
見える理由はソウルメタルは魔導輪かどっちかの影響になるかな?
魔戒法師にも存在は感じ取れるぐらいは出来そうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/06/04(土) 21:44:03.39 ID:H5jgXu3B0<> 乙乙乙!!
やべぇ…鋼牙とザルバの再現度がハンパねぇww
お互いの瞳を見て察しあうところの描写が堪らなく素敵でした
次回にも期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 12:16:36.98 ID:H3+9f1qIO<> 乙です
言われてみると鋼牙とほむほむって似たもの同士だな
特に周りを頼らず自分の力でって所が昔の鋼牙と似てる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 14:28:25.39 ID:PnWxkz10o<> 乙!
二人が凄くらしくて良いね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/07(火) 00:38:27.24 ID:N5yxoM8Lo<> >>194
単に魔戒騎士だから見えるんです、でもいい気がする
魔法少女が契約してなくても見えるなら、そういう位相の異なる存在を見る素質があるんだろう
騎士や法師は、そういった素養を後天的に取得した人間、或いは最初から持った人間がなれるとか
ホラーは誰の目にも見えるけど、騎士や法師は結界や気配に敏感だし
ちょっと自分でも何言ってるかわかんなくなってきた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/06/07(火) 01:22:40.95 ID:30YzvP3Ho<> >>200
その解釈を紫煙する <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/09(木) 15:20:56.43 ID:Lo0kLenco<> わぉ、なんだこの高クオリティは・・・
最近再販されたGARO小説版を見たばかりだからかwwktk度がハンパないww <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/12(日) 23:58:35.08 ID:bMirxR0Do<> 2レスか3レスほどですが投下します



 まどかは息を切らしてモール内を走っていた。
耳よりも奥、頭の中に直接語りかける声に導かれるままに。

『助けて――!』

 声はどんどん大きく、切羽詰まったものになっていく。自然、まどかも急ぎ足になる。
 人混みを掻き分けて、辿り着いた先は暗闇の世界。
関係者以外立ち入り禁止の扉を越えた先の、改装中のフロアだった。
 
「大丈夫かな……こんなとこ入って……」

 最初は誰かに見咎められないかと不安になったが、そんな心配は杞憂に過ぎなかった。
工事はされていないらしく、人の気配はない。安心すると同時に、別の不安も湧き起こる。
 夜よりも暗く深い闇。静謐な空間からは生物の活動を感じない。命というものが欠如しているように思えた。

「何これ……変な感じ……」

 しかし、まどかの中の何かは鋭敏に感じ取っていた。
 何かがいる、と。
 命を感じない、というのは変わらない。それなのに、誰かに見られているような感覚。
 矛盾しているようだが、そうとしか形容できなかった。
 ぬるりとした湿気が口から入り込んで吐き気をもよおす。行くなと本能が警鐘を鳴らしている。

 だが、まどかは止まる訳に行かなかった。むしろ心は、もっと早くとまどかを急き立てている。

『助けて、まどか!!』

 名指しで誰かが助けを叫んでいるのだ。今、この瞬間も。
 見捨てられなかった。一歩進むごとに強まる悪寒を、無理やり抑えつけて先を急ぐ。
 非常灯だけを頼りに、ほとんど手探りで進むと、やがて分岐点に差し掛かった。
 どちらに行くか迷っていると、パァン! と乾いた音が耳朶を打った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/13(月) 00:00:19.48 ID:UymGt8syo<>
「ひっ……! 銃声!?」

 突然の銃声に身を竦ませるまどか。
 銃声は連続して響き、その度に人間とは思えない甲高い悲鳴。
 耳を澄ませると、それ以外にも低く轟く唸り声や、金属同士がぶつかる異音まで聞こえる。
 距離は遠いが、確実にこのフロア内だった。
 これまでの漠然とした危機感とは異なる、明確な危険。冷え切った空気を塗り替える戦闘の熱気が漂ってくる。
 
 まどかは分岐の反対に走る。少しでも、異様な戦場から遠ざかりたかった。
助けを求める声が、そちらから聞こえていたのは幸いだった。

「どこ!? どこにいるの!?」

 近づいたと踏んで、力いっぱい声を張り上げる。すると、ガサリと視界の隅で何かが動いた。
 それはまどかを視認するや否や、よろめきながら近付くが、途中で力尽きて倒れ込む。

『うぅっ……』

 白い身体は、闇の中では特に目立つ。駆け寄って目を凝らすと、その白を赤が斑に染めているのが確認できた。
 傷だらけで横たわるのは、猫のような大きさの小動物。両耳の中から更に房が伸びている上に、宙に浮いたリングがそれを囲っている。
 見たこともない不可思議な生き物。それは、暁美ほむらが追っていたキュゥべえと呼ばれる敵だったが、
まどかが知るはずもなく、仮に知っていたとしても関係なかっただろう。

「大丈夫!?」

 拾い上げると、ぬるりとした感触。己の手を確認すると、赤く染まっていた。

「酷い怪我……! 私を呼んでたのはあなたなの?」

 返事はなく、キュゥべえは小さく呻くのみ。当然か。 
 ともあれ、こうしてはいられない。まどかはキュゥべえを抱えた。

「急がなきゃ…………っ!?」

 立ちあがろうとした瞬間、まどかは凍りついた。
 何者かの足音。徐々に近く、大きくなっている。
 音はまどかも来た方向から。ならば、先ほどの戦闘を足音の主も聞いたはず。
それでもなお、ここまで来るなら、まともな人間とは考えにくい。
いや、そもそも人なのだろうか?
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/13(月) 00:02:22.00 ID:UymGt8syo<>  
 まどかは急いでキュゥべえを抱えると、隅に移動して息を殺した。しゃがんで身を縮め、じっと足音が遠ざかるのを待つ。
 心臓の鼓動がやけにうるさい。
 胸に抱えたキュゥべえは荒い息を吐いている。
 それらも相まって、まどかは極度の緊張を強いられた。

――お願い! 早く通り過ぎて!

 今はただ必死に祈る。耳を抑え、目を閉じて、全ての感覚を遮断する。だが意識するほどに、研ぎ澄まされた聴覚は音を拾う。
 数秒が無限にも感じられた。
 やがて足音は、息を殺したまどかの傍まで来てピタリと立ち止まり、

「まどか……?」

 そう呼びかけた。
 それは少女の声だった。それもまどかの聞き慣れた、とても近しい人物のもの。
 まどかが目蓋の裏の闇に思い描いていた怪物や怪人のイメージが消え去り、闇の中に浮かぶのは見知った顔。

「さやかちゃん!」

「ぃたっ!」

 抱いていたキュゥべえごと、現われたさやかの胸に飛び込む。タックル同然の勢いにさやかが声を上げるが、
お構いなしに涙目になった顔を押し付けた。
 
「ふえぇ〜、怖かったよ〜」

「よしよし。で、まどかはこんなとこで何してんの?」

「あ、うん……あのね――」

 事情をさやかに打ち明けるまどか。さやかは大きく息を吐いて、額を押さえた。
 信じたいけど素直に飲み込めない。けれども信じざるを得ないと言った心境か。
 ここで異常な何かが起こっていることは、さやかも薄々感じていたから。
 分岐路の先からは、およそ人のものとは思えない悲鳴。剣戟と銃声は引っ切り無しに響く。
遠くに毒々しい原色の世界が広がり、薄ぼんやり明るかった。それは徐々に広がり、侵食を始めているようだった。

「さやかちゃんは、どうして来てくれたの?」

「まどかが出てったのが気になって――って、そんなことどうでもいいから!」

 再会――と呼ぶほどの時間は経っていないが――を喜び合うのも束の間。
まどかの問いを遮って、さやかはまどかの手を引いた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/13(月) 01:46:07.56 ID:UymGt8syo<>
「ここ絶対ヤバいって! 早く逃げよ!」

 まどかは目を閉じていたので気付かなかった。さやかもまた、まどかを探すことに集中していたが故に、気付くのが遅れた。
 ぐにゃりと周囲が歪み、絵の具を混ぜたように溶け合い、侵食されていく。フラッシュのように光が明滅する度、景色が切り替わる。
 浮かび上がる薔薇と茨の蔦。飛び交う蝶と鋏。無機質なコンクリートの床は、色鮮やかに姿を変えた。
 幻想的ではあったが、それは狂気を帯びた幻想。今にも形を変えて、襲ってきそうだった。

「な、何これ……。あたし、悪い夢でも見てるの!? ねぇ、まどか!」

 さやかとまどかは小さく悲鳴を上げて立ち竦む。逃げようにも、どこへ逃げたらいいかもわからない。
 どこからか耳障りな甲高い笑い声。狂ったように笑っているのは、綿のような雲のような顔に立派な髭だけを付けた怪物。
目も鼻も口もない、生き物なのかも定かでない髭面は、舞い踊る蝶から生えていた。
 彼女たちの不安は、見事に的中した。
 それこそが、この魔女の結界が人間に牙を剥いた姿。魔女の忠実で従順な僕である使い魔だった。

 使い魔共は二人を包囲し、徐々に距離を縮める。思考の処理が追いつかず、さやかたちは震えるしかできない。
 少女を捕らえようとする使い魔は決して強そうには見えないが、
得体の知れない怪物に徒手空拳で立ち向かう度胸は、流石にさやかにもなかった。
 鎖がジャラジャラ鳴り、空間が激しく振動する。二人は抱き合い、いよいよ使い魔が迫る。
 呼吸を止め、互いを掴む手に力を込めたが、それが引き離されることはなかった。
 
 鮮やかなグラデーションの光が、二人の足元で爆発したのだ。
 しかし、二人は爆発で宙を舞うこともなく立っている。何の外傷も痛みもない。
ただただ目を丸くして呆気に取られていた。
 弾き飛ばされたのは使い魔の方。蜘蛛の子を散らすように、包囲を解いて逃げる。 

「危なかったわね。でも、もう大丈夫」

 涼やかな、まどかたちより少し大人びた少女の声。
 現われたのは、やはり結界の中には場違いな、同じ見滝原中学の制服を着た少女。
金の髪を両端で括り、縦にロールした少女は、この異様な空間でも口元に微笑を湛えていた。
 それもそのはずである。
 彼女の名前は巴マミ。マミは魔女と戦う魔法少女なのだから。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/13(月) 01:49:03.77 ID:UymGt8syo<> 短いですが、今日はここまで。
もう言い訳はしません。次の土日までに、もう一回くらいは投下したいです。
今回はほぼ、原作通り。違うのは、二人ともほむらを見ていないことくらいでしょうか。
それにしても、原作まんまのシーンは逆に書くのが難しい……
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/13(月) 02:16:52.70 ID:rLs85YwV0<> 乙です
マミさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
このSSでははマミさんにも救済はあるのだろうか?
その時まで楽しみにしています <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/06/13(月) 21:37:55.80 ID:5sCDK8KC0<> 乙だ
マミさん登場の巻
ここのマミには救われて欲しいけど……マミさん精神的に不安定だから、ホラーに付け入れられそうで……

兎も角乙でござる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/15(水) 16:20:53.21 ID:jqyPlUwgo<> 乙でしたー

原作まんまのシーンは原作のイメージ崩さずに
尚且つダレ無い様に文章化しないといけないし難しいよね
その点、脳内で映像再生余裕な文章書ける>>1はすげぇよ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/18(土) 01:22:10.00 ID:irJ70goGo<> 0時に間に合わなかった……結局、土曜日に
本当にちょっとですが投下します



 闇の中で光が踊る。
 散発的に点と線の光が瞬き、その度に悲鳴や呻きが起こり、誰かが倒れる。
 点は暁美ほむらの銃撃。線は、冴島鋼牙の剣閃が僅かな明かりに反射したもの。
 二人は3〜4mの距離を開け、使い魔の群れを相手取っていた。

 視界はほとんど利かないが、気配だけで大よその位置はわかる。敵味方の区別の必要もなく、周囲の者全てが敵。
そう考えれば楽なもので、後は寄ってくる者を片っ端から斬り捨て、撃ち抜けばいい。
 どうせ即席の不安定な共同戦線を築くくらいなら、好き勝手に戦った方がましだ。狙いを誤る心配もない。
 それでいて絶妙な距離を保つことで、互いの動きを感じられ、挟撃の危険も防げる。
 事実二人は、ほぼ半円状の範囲の敵と戦うだけで済んでいた。壁を側面にすれば、更に半分。
もっとも、結界のせいで壁が壁のままである保証はないし、壁から何か出てくるかもしれない。
行動範囲が狭まって追い詰められる危険もある為、あまりやりたくなかったが。

 ともあれ、ほむらは両手に拳銃を持ち、鋼牙は魔戒剣を両手で握り締め、思うがままに暴れた。
 さながら二人揃って一個の嵐。吹き荒れる暴風は群がる使い魔を蹴散らしていく。
 ほむらは影の使い魔のナイフを掻い潜り、額に銃口を突き付ける。と言っても、フードの内側にあるべき顔は窺えない。
ただただ、ぽっかりと闇が口を開けているだけ。だから正確には額と思しき位置。

 果たして自分の銃でも殺せるのだろうか。
 ほむらは一瞬、考えた。だが、すぐに思い直す。構うものかと。

――どうせ得体の知れない敵であり、なおかつ戦わざるを得ない状況なら……

 躊躇いなく引き金を引くと、タァン! と乾いた銃声と共に、9mmパラベラム弾が射出された。

――撃って駄目なら、その時に考える……!

 魔力を込めた弾丸に撃ち抜かれた使い魔は崩れ落ち、ボフッとローブの中身たる影が塵のように、或いは粉のように散る。
残ったローブは暫し地面に残り黒い水溜りを思わせたが、やがて床に吸い込まれて消えた。
 ただでさえ音の反響する空間。残響が鼓膜を叩くが、すぐに気にならなくなる。
耳あても付けずに撃っていれば通常は耳鳴りに苦しむものだが、ほむらの回復は一秒足らずだった。
 そもそも、それほど重い銃ではないにせよ、少女の細腕で二丁を同時に扱うのは不可能。
ただし、それは普通の少女ならの話。そして、ほむらは普通の少女ではなかった。
 
 右腕に持った銃で正面の影を貫いたほむら。直後、その左手は真横に伸ばされる。
 ほむらは振り向きもしなかった。必要がなかったからだ。
 銃口に伝わる微かな感触。それは髭の使い魔が自らぶつかった際の振動。
 ほむらの拳銃が火を噴いた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/18(土) 01:23:38.84 ID:irJ70goGo<>
 髭面に風穴が開くのを一顧だにせず、銃は次の標的を探る。その眼まで精密な機械であるかの如く、彼女は眉一つ動かない。
動くのは位置取りをする摺り足、狙いを定める腕と引き金を引く指だけ。
 しかし、ほとんど揺れない首から下とは裏腹に、その頭脳は高速でフル回転していた。

 二丁拳銃なんて曲芸、普段なら絶対しない。
激しい動作やパフォーマンスを好まないほむらが、敢えて両手に銃を持った理由は一つ。 
 そうせざるを得なかったから。 

 目の前には魔女の結界により、目に悪い原色の空間が広がる。
真っ暗闇より多少ましとは言え、感覚強化の恩恵を加えても、視界は利き辛い。
音に至っては、銃声や悲鳴が混じり合い、響き合い、全く当てにならない。
 だと言うのに、狙いの付け辛い二丁拳銃で適当に撃っても命中するのは何故か。それだけの敵が密集しているからだ。
 十や二十では足りない数。撃てば向こうから当たりにくると言っても過言ではないだろう。
 
 二丁の拳銃を以てしても押さえるのが精一杯。弾倉を交換する暇も与えてくれない。
 もっと連射の利く火器もあるにはあるのだが、そうそう弾薬の補充ができるものでもないし、なるべくなら節約したかった。
 それに何より……背中合わせで戦っている彼――鋼牙と呼ばれる男に、どこまで手の内を晒していいものか。それも不安だった。
 ほむらは背後の鋼牙を横目で見た。彼は脇目も振らず華麗な剣の舞を踊っている。動きの少ないほむらとはどこまでも対照的に、
全身を使った軽やかな、そして鮮やかな剣技だった。

 その剣の一振りで、使い魔が二、三体まとめて切り払われる。それでいて、まるで息を切らさない。こうして見ると剣も便利なものだと思う。
 攻撃力は互角かそれ以上、速さでは劣っている。彼なら、発射された銃弾を斬るなんて芸当も可能かもしれない。
 と、弾幕を潜って髭の使い魔が足元まで飛び込んできた。

――なら、こっちが勝っているのはリーチと貫通力。それに……。

「ふっ!」

 それを蹴り上げ、ローブの顔面にぶつけてやる。顔もないくせに面喰っている隙に、手近なもう一匹の髭を引っ掴んで投げる。
 三匹の使い魔が一直線上に並んだところへ、狙いを定めて引き金を絞る。たったそれだけで三匹の使い魔が頭部を穿たれて消滅した。
 残りはやはり、労力、だろうか。
 などと余計なことを考えていると、二丁同時に弾が切れた。使い魔はまだまだひしめいている。

「まったく……」

 傍から見れば絶体絶命のピンチにも、ほむらは全く動じない。ただ、呆れ混じりの呟きを漏らした。
 やはり剣の方が、こんな時は便利かもしれない。何せ弾切れがないのだから。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/18(土) 03:14:25.45 ID:irJ70goGo<> *

 鋼牙は手に持った魔戒剣で何匹かの使い魔を薙ぎ払うと、ふと違和感を覚えた。その原因は背後の少女にある。
 彼女の得物はオートマチックの拳銃。鋼牙は銃には明るくない、種類も全く知らないが、これが異常であることくらいは気付く。
 銃声が全く途切れないのだ。ただの拳銃で、ここまで連続した射撃が可能なのだろうか。
 できるのかもしれない。ただ自分が知らないだけで、そういった種類の銃があってもおかしくない。
 しかし、それだけでは片付けられない。
 連綿と続く戦場の空気が、一瞬だが途切れたような――そう、強いて言えば連続した時間が一度、止まったような。

 言い知れない違和感。やはり、あの少女には何かある。
 だが、敵は詰問している時間は与えてくれない。話は後だと言ったのも鋼牙である。元より、そのつもりもなかったが。
 鋼牙の前に現れた影の使い魔。並んだ二匹の、それぞれ左手と右手から、刃が重なるようにして迫る。

「おおおっ!」

 気勢を発して斬り上げ、刺突をいなす。弾かれた使い魔の腕は跳ね上げられ体勢を崩すが、もう片方に残ったナイフが突き出される。
全力で剣を振り上げたばかりの鋼牙に、迎撃する術はないかに思えた。
 ならば、と背後に倒れ、頭上をナイフが通過したのを眺めながら、膝を折り左手をつく。
 そこからの鋼牙の膂力、身体能力は常人を凌駕していた。

 ついた左手を軸に回転。一方に足払いをしつつ、右手の魔戒剣は正確無比に腱に当たる部分を切り裂いた。戻り際に別の足も斬り、
両足を封じられた二体の使い魔は仰向けに倒れた。
 跳ねるようにして起き上がると、間近にいた髭の使い魔と目が合う。
 これは何だろうか。ホラーの使い魔と異なり、攻撃手段も役割も不明。何もわからないだけに、逆に恐ろしい。

――だが!

 考えるより先に、剣の柄がそれを殴る。見た目通り軽い使い魔は、そのまま吹っ飛ばされていった。
 目的だけははっきりしている。明確な敵意だけは感じる。それなら誰であろうと斬って捨てるのみ。
 髭の使い魔を囮にしたのか、正面にはもう次の影が立っている。交差して突き出された二本のナイフを、鋼牙は剣を立てて受け止めた。
 先ほどとは異なり、今度は両手。簡単にはいなせず、拮抗する。カチカチと金属同士がぶつかり合い、音を立てた。

 こんなところでせり合っている暇はない。無防備な背中を刺させるのがオチだ。
 鋼牙は使い魔の腹を思い切り蹴って距離を取ると、すかさず剣を逆手に持ち替え、脇の下から背後を突いた。
 ズブリ、と確かな手応え。それは魔戒剣が、鋼牙の後ろに立つ使い魔を貫いたことを示していた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/18(土) 03:16:14.24 ID:irJ70goGo<> あんまりちょっとなので今日はsage。
日曜も来ます。多分、23:45頃に。
頭の中の殺陣が上手く文章で再現できなくて……分かりにくければ申し訳ありません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/06/18(土) 20:04:21.90 ID:CpkafKxwo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/18(土) 21:41:37.75 ID:9NKsoLeto<> 乙!
描写がらしい雰囲気出まくりだなぁ。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:53:14.15 ID:FHyv0WIto<>
 あの男、背中に目でも付いているのか。
 予め打ち合わせていたのではと疑いたくなるほどの見事な立ち周りに、ほむらは目を見張った。
 まるで、よくできた演武を見ているよう。前後左右、一分の隙もない。
 ほむらは首を振って目を逸らし、自分の戦いに集中することにした。このまま見ていたら、自分の戦いも忘れて見惚れてしまいそうだった。

 ほむらの葛藤など知らず、鋼牙は軽く真上に跳んだ。無論、一瞥もせずに。
 その下を一対の白刃が通り過ぎる。倒れた使い魔は未だ死んでおらず、仕返しとばかりに、左右から鋼牙の足を払ったのだ。
 鋼牙の目は、前後左右のみならず上下をも見通す。
 それは五感の全ての複合に、第六感とでも言うべき直感と、経験からくる洞察力を兼ね備えたもの。
十年以上の長きに亘る修行と死闘の日々が培った第三の目。

 それ故に、側面からの攻撃にも身体が自然と動く。真横から突き出されたナイフが、空中に在る鋼牙を狙っていた。
対して鋼牙は限界まで身体を捻り、身を翻した。ブワッとコートが膨らみ、一瞬だが敵からの死角を作る。
 結果、ナイフは鋼牙のコートの表面を撫でるだけに終わった。
 紙一重の差。あと数秒遅ければ、あと数ミリ近ければ、コートを裂くくらいはできていただろう。
 だが、これは偶然ではない。鋼牙が狙って作り出した紙一重。回避を最小限にすることで、最速での反撃を可能にする。
 それは次の瞬間、明らかになった。

 使い魔の伸ばされた腕が引かれ再び突き出されるよりも、横に薙ぎ払われるよりも早く、一回転した鋼牙の踵は使い魔の胴を抉った。
 一回転からの後ろ回し蹴り。遠心力を加えた一撃を脇腹に喰らい、使い魔はふらつきながら鋼牙の前に引き出された。
使い魔に痛覚があるのは定かでないが、悶絶し、少なくとも咄嗟の反撃どころではなさそうだ。 
 鋼牙は片足が着いた瞬間、その足で床を蹴り、前に走る。剣は腰溜めに構えて刺突の構え。狙うは慌てて体勢を整える使い魔だ。
そんな猶予を与えるはずもなく、鋼牙は全身でぶつかった。魔戒剣は使い魔の腹部を深々と貫通し、背中に突き出した。
握り締めた柄は、ほぼ密着するまでに至っている。

 だが、鋼牙は勢いを緩めない。貫通した使い魔ごと更に前へ前へと突進する。その先には、さっき蹴って距離を開けた、もう一匹の使い魔。
 予想だにしなかった鋼牙の動きに、反撃と回避の判断が間に合わない様子。当然だろう。
迫り来るのは、まだ残っている仲間の身体と、それを貫いてなお余りある剣身。繰り出す刃は肉の盾に阻まれ、避けるにはもう遅い。
 
「っおおおおおおお!!」

 鋼牙が咆哮する。
 使い魔同士で身体が重なる。
 まだ勢いは衰えない。
 二匹目の背中から僅かに顔を出した魔戒剣の切先が、壁に突き刺さった。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/20(月) 00:17:37.15 ID:QCYXacFwo<>
 揃って串刺しにされ、磔にされた使い魔たちの身体は弛緩し、やがて霧散した。
壁に突き刺さった剣を、力を込めて引き抜く。あとは起き上がらんとする残りの影と、転がっていた髭面に剣を振り下ろして終わり。
楽なものだ。
 怒涛の攻勢を凌いだ鋼牙は、ふーっと大きく息を吐いた。それでも息は乱れておらず、肩はゆっくり一定のリズムで上下する。

 一部始終を横目で見ていたほむらは、改めて思う。一時だとしても彼が敵でなくてよかったと。
 鋼牙もまた、彼女の魔法の詳細は知らずとも、その力には一目置いていた。事実、彼女は自分とほぼ同じ数の使い魔を一人で捌いているのだから。
 白いコートの騎士と、黒を基調とした衣装に身を包んだ少女。
 互いに、相手が背中を任せるに足る相手だと、千の言葉を費やすより深く理解する。
 それはフロアが完全に結界に覆われても変わらない。胸には一片の不安もなく、背中合わせに戦う二人は奇妙な一体感と高揚を感じていた。
 
 微妙な均衡ながらも、前後で完璧な役割分担を即興で作り上げる。
 だからこそ、崩れる時も脆かった。
 それは二人が戦いだして数分後、どこか遠くから悲鳴が届いた時だった。

「今の声は!」
 
「他にも人間がいたか……っ!」

 使い魔と戦いながらでも、二人は敏感にその声を捉える。取り分け、ほむらにとっては、よく知った声。絶対に聞き間違えるはずがない声だった。
 それは、助けを求める二人の少女の悲鳴が重なったものだった。

「今の悲鳴は、まさか――!?」

 ほむらは声の方向を睨んで呟いた。
 鹿目まどかと美樹さやか。
 二人は"以前にも何度か"、この日、この場所にいた。今日も来ているとは知っていたが。
――それでも、まさかこんな厄介事が重なった時に結界に入ってくるなんて!!

 ほむらの顔が歪む。
 一刻も早く彼女のもとに駆けつけなければという焦燥感が、冷静な思考と判断力をチリチリと焼いた。
 攻撃の手は止めない。けれども、注意はどうしても彼女の方に向いてしまう。
 その焦りが、機械のように精密な射撃を鈍らせた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/20(月) 01:14:24.91 ID:QCYXacFwo<>
 至近距離まで接近した影に発砲するが、弾丸は逸れた挙句、何にも当たらず壁にめり込む。
機敏な目標の動きに合わせて調整する照準が、固定されたまま引き金を引いてしまったのだ。
 即座にミスを修正すべく、もう片方の銃を撃つ。
 ガチン! という撃鉄の音だけが空しく響いた。

「あっ!」

 弾切れ。
 残弾数は感覚で数えていたはずだったのに。
 まどかの悲鳴は、想像以上にほむらを揺さぶっていた。焦りが焦りを呼び、判断を狂わせる。
頭の中に無数の選択肢が浮かぶ。いつもなら、そこから最適なものを選び出して行動に移せるのに、それができない。
 最初に撃った銃はどうか。いや、撃つまでもなく覚えている。こちらも弾切れだ。
 では、一度後退して――駄目だ、それも難しい。ここで退けば押し切られる。下手すれば鋼牙ごと呑み込まれてしまう。 

 混乱して思考がまとまらない。短い時間の内に、ほむらは考えに考え、思い至る。まず真っ先に取るべき、当然の選択肢。
自分だけが得られる、思索し、行動できる時間。リロードの際にも使った自分だけの時間だ。
 ほむらは意識を集中させる。そして左腕に付けた円盤状の盾に目を移し、戦慄した。

「――――ッ!!」

 そこには髭の使い魔が、ほむらを捕えるかのように絡みついていたのだ。細く小さな腕を盾にしっかと巻き付けて、しがみついている。
 大した能力もなく、気配も微弱と侮っていたが、まさか組まれるまで気付かないとは。これでは魔法が使えない。
 その瞬間、ほむらには珍妙な使い魔が酷く恐ろしいものに思えた。
 歴戦の魔法少女として勝利を重ねてきたが故の油断。これらが本来、怖いモノだという認識が知らず知らずのうちに欠けていた。
 恐怖が、足りなかったのだ。

 影の使い魔のナイフが迫る。腕に絡みつく使い魔の力は、思いのほか強く、引き剥がすには時間が掛かりそうだ。
その間に影のナイフは自分の心臓を突き刺すだろう。即死するわけではないが、絶体絶命のピンチには違いない。
 万事休すかと思われた、その時――。

 飛び込んできた白い影が、黒い影を斬り裂いた。銀色に光る剣は影を一刀のもとに斬り捨てた後、ほむらの腕にしがみ付いていた髭面の額に突き立つ。
 ほむらの窮地を救った白い影。その正体は言うまでもなく、冴島鋼牙だった。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/20(月) 01:16:58.00 ID:QCYXacFwo<> ちょっと重いですし、修正したい部分が見つかったので、今日はここまで。
書き溜めがほとんど出来てなかったのもあります。
埋め合わせは明日か明後日には必ず。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/20(月) 01:34:42.03 ID:Mp8Zf1/00<> 乙
相変わらず脳内再生率がパネェっす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/20(月) 16:45:44.26 ID:dBHVszEoo<> キテター!乙!

今回も臨場感ある文章で牙狼の殺陣が脳内再生されるww
ほむほむのピンチをさらっと救う鋼牙さんパねぇ、流石は守りし者やで <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/21(火) 20:12:06.95 ID:4d2N5u8jo<> 深夜か、もしかすると明日になるかもしれません <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/21(火) 20:28:20.16 ID:1gfPEENRo<> おk <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/22(水) 23:51:38.64 ID:s8ZlDB9io<>
 悲鳴を聞いた途端、ほむらの動きが精彩を欠いたのは、鋼牙も感じていた。
その様子から、おそらく彼女の知り合いであろうことも。
 ほむらが、「あっ!」と声を発した瞬間、鋼牙は動きだしていた。
 そして彼女の前に滑り込み、魔戒剣を一閃。振り返り様、その腕に張り付いた髭面に剣を突き刺した。

 剣に刺さった使い魔を振り捨てながら、鋼牙はほむらの目を厳しく見据える。
 その意味は叱責だろうか。非難だろうか。ほむらは、どんな態度でその目を見返すべきか迷った。
 あれくらい、自分一人でも、どうとでもなったと言い返したかった。事実、万策尽きたわけでもなかったのだ。
刺されたからといって致命傷を受けるとは限らないし、痛みは緩和できる。防御が間に合っていた可能性だって。

 時間さえあれば、逆転の方法はいくらでもあった。
ただ、それらの方法はどれも自分の極めて特殊な体質に基づいているのだから、彼が知る由もない。

 しかし、危機を救ってもらったことも事実。
本当はわかっている。全ては落ち着きを取り戻した今だからこそ言えることだと。
 ならば礼を言うべきなのだろうが、久しく他人に感謝などした覚えがなく、素直に礼を言うのも抵抗があった。
 結局ほむらは、ばつが悪そうに目を伏せるしかなかった。

 真実は、鋼牙はほむらを叱責しているのでもなく、非難しているのでもない。
普段からの仏頂面に加え、戦闘時の凶相が表れているだけなのだが。
 
「行け!!」

 うつむくほむらに、鋼牙は言い放った。彼らしく、短い一言で。
 まだ敵は残っており、陰からこちらを狙っている。彼女は銃だ。いつかは弾切れも来る。
 既に均衡は崩れた。乱戦ともなれば、自分の方が有利だろうと判断してのことだった。
 魔法少女が魔戒騎士同様、人を守る為に動くかどうか。
それはわからないが、あの声が彼女の知り合いのものだとすれば、一刻も早く駆けつけたいはず。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/22(水) 23:54:35.35 ID:s8ZlDB9io<>
「……!」

 彼の端的な言葉にほむらはハッと目を見開いたが、すぐにその目は毅然と鋼牙を見返し、首を縦に振る。
 口下手な彼とは行き違いもあったが、今度こそ、ほむらはその真意を理解した。 
 その声には怒気も糾弾も込められていない。単に、現時点でそれが最善の策だというだけ。
助けたとか助けられたとかではなく、それぞれがやるべきことをやればいいだけ。
 
 ほむらの胸に、もう迷いはなかった。
 こちらを窺う使い魔の群れを見やり、盾に手を伸ばす。
左腕と盾の間に手を差し入れ、取り出したのはオリーブ色の卵形の物体。

「離れていて」

 そう言ったほむらの声は低く冷徹で、完全に平静を取り戻しているようだった。
 手榴弾を構えたほむらに従い、鋼牙は距離を取る。その間際、

「敵はこいつらだけじゃあない。危険を感じたらすぐに撃て」
 
 忠告に振り向いた時には既に、彼は離れていた。
 ほむらは軽く頷いて答える。見ていなくても構わない。
 安全ピンを抜き、レバーを放し、投擲。使い魔の群れのど真ん中に投げ込む。
 一拍置いて、激しい爆発に合わせて耳をつんざく爆音が巻き起こり、火薬と飛散した破片が使い魔たちを吹き飛ばした。 

『やれやれ。あんな代物まで用意しているとはな。物騒なお嬢さんだぜ』

 ザルバが呟く。
 まったく同感だったが、頼もしくもある。
 爆煙が晴れ、資材の陰に隠れていた鋼牙が目を開くと、とっくに彼女の姿はなかった。
床や壁は焼け焦げ、抉られ、痛々しい様相を呈している。

 この速さ、手榴弾を投げた直後には走りだしていたのだろう。
これなら道を切り開くまでもなく突破できたのではないかと思うが、おそらくこれは鋼牙の為。
  <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/22(水) 23:56:01.62 ID:s8ZlDB9io<>
――これで借りは返した、か……

 敵の数を減らしておいてくれたのだろう。何せ、敵は随分と大量に放たれているらしい。
今も独りになった鋼牙を取り囲み、妖しく蠢いている。
 だからどうした。
 臆する必要などないと言わんばかりに、鋼牙は堂々と使い魔たちの前に姿を晒す。

 そして左手を軽く突き出し、コートの袖に剣の腹を当て、


「お前らとは俺が遊んでやる」


 ゆっくり引くと、シィィィィと砥石で研がれたように、澄んだ音で魔戒剣が鳴いた。

『だがな、鋼牙。もたもたしている暇はないぜ。早めにお引き取り願うべきだ。
これだけの数の使い魔がいて、ホラーも魔女も姿を見せないってことは……』

「わかっている」

 これは陽動だ。魔戒騎士と魔法少女の存在に気付いた魔女とホラーが、
ここに足止めする為に使い魔を放ったと考えて、まず間違いない。
ホラーは気に掛かるが、こいつらを放置しても面倒だ。全て片付けて後を追う。

 魔戒の剣士は単身、多数の使い魔に斬り込んでいく。
 今は名も知らぬ少女に守りし者の使命を預けて。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/23(木) 00:00:48.59 ID:D6KQr6vAo<> 「ありがとう。あなたたちがキュゥべえを助けてくれたのね」

 そう言って、マミはまどかとさやかに礼を告げる。にこやかな彼女の態度に、二人は戸惑いながら頷くばかりだった。
 今がどんな状況で、ここがどこかも関係ないかのよう。その、あまりに普通な応対も、凄まじく場違いに思える。
この異常な空間で、謎の怪物はまだ遠巻きにこちらを窺っているというのに。
 とりあえず、この小動物はキュゥべえと言うらしい。わかったのはそれだけだった。

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。でも、その前に……」

 二人の心境をやっと察したらしい。
困惑する少女らに優しく笑いかけながらマミは使い魔に向き直り、
 
「一仕事片付けてもいいかしら」

 言うが早いか、懐から輝く手の平サイズの宝玉を取り出し、正面にかざした。
美しく光を放つ黄色の宝玉。それだけでも二人の目を奪ったが、驚きはそれだけでは終わらない。

 足で円を描き、軽くステップを踏むと、同じ見滝原の制服が、下半身から順に変化していく。
 黄色いスカートに細いウエストを強調した衣装。白のブラウスに、胸元には同じく黄色のリボン。
 頭には宝玉をあしらった羽飾りを付け、黒のベレー帽を被る。

 何と形容すればいいか迷うが、やはり変身と呼ぶのが相応しいだろうか。
光に包まれ、突風を起こしながら、マミは数秒とかからず姿を変えた。
 その正面には無数の使い魔が集まっている。おそらくだが、マミを敵として定めている。
 だというのに、マミの表情は変わらない。二人の緊張や恐怖を和らげるような微笑みを浮かべている。

 高く跳び、滞空しているマミの姿は、まるで背中に羽でも生えているようだった。
怖気を誘う結界と使い魔。そこへ現れ、光に包まれ変身した少女。
著しく現実味の欠けた光景が、そう二人に錯覚させる。天使を思わせる頬笑みや、異様に長い滞空時間も手伝った。

「はぁ!!」

 滞空したマミが片手を振ると、次々に何もなかった空間から銃が現れる。
白い銃身に、紋様が施されたマスケット銃だった。その数、ざっと数十――いや、数百あるだろうか。
 それら数百もの銃が、引き金をひく射手もいないのに、一斉に火を噴いた。
 無数の銃弾が、文字通り雨と降り注ぐ。標的となった使い魔の群れは、瞬く間に弾丸と土煙に埋め尽くされた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/23(木) 00:50:35.73 ID:D6KQr6vAo<>
 ツンと目と鼻を刺す、煙と硝煙の臭い。
 もうもうと上がる煙の中、まどかとさやかが目を凝らすと、最初にマミが軽やかに舞い降りる。
 やがて煙が晴れると、使い魔は影も形もなかった。後に残されたのは、無数の弾痕が穿たれた床のみ。
 二人揃って呆気に取られていると、周囲の景色がぼやけ、重なっていたものが分離するように元の景色に戻った。
 
 まどかは、まるで、これまでの出来事が夢だったように思えた。
しかし、キュゥべえは腕の中で荒い息を吐いており、目の前にはマミがいる。
 それが紛れもない現実だと教えていた。

「あなたたち、大丈夫だった?」

「……は、はい!」

 優しい声音でマミが語りかけるが、答えるまでに数秒を要した。
慌てふためくまどかの横で、さやかは目を丸くしている。
 そんな二人が可笑しいのか、はたまた微笑ましいのか、目を細めるマミ。

「あ、あの……ありがとうございました!」

「そんなに緊張しないで。あなたたちはキュゥべえを救ってくれたんだもの。おあいこ」

「キュゥべえって……この動物ですか?」

 さやかが、まどかの腕の中にいる小動物を指すと、マミはそれを拾い上げる。

「ええ、この子は私の大切な友達なの」

 マミが黄色い宝玉をかざすと、漏れ出る淡い光がキュゥべえの傷をみるみる癒していく。
キュゥべえを撫でるマミは、本当に愛おしそうだった。大切な友達というのは嘘ではないのだろう。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/23(木) 00:52:38.44 ID:D6KQr6vAo<>
「自己紹介が遅くなったわね。私は巴マミ、あなたたちと同じ、見滝原中学の三年生。あなたたちは二年生かしら?」

「はい、あの、鹿目まどかといいます」

「美樹さやかです。あの、今のは……」

「そうね、あなたたちもキュゥべえが見えるのよね……」

 おずおずと切り出したさやかに、マミはどう答えるべきか迷っているようだ。
微笑みは消え、目を伏せた顔には、ほんの少し翳りが見えた。
 が、すぐにそれを打ち消すように顔を上げる。

「私はキュゥべえと契約した魔法少女なの」

「魔法少女……」

 まどかが意味もなく反芻した。あまりにも唐突で、未だに実感が湧かない。
もっとも、今の戦いを見せられては疑う余地はなかったが。

「そう、そして……」

 急にマミの目が細められ、声のトーンが落ちる。
彼女の纏う気配がピンと張り詰めるのが、まどかとさやかにも感じられた。
 キュゥべえを癒す手はそのままに、首だけを漆黒の闇に向ける。

「あなたもそうなんでしょう?」

「え?」

 マミにつられて、視線を移すまどか。
 闇の中から靴音を響かせ現われたのは、黒と紫の少女。
 少し息を切らした彼女は、今日出会ったばかりの不思議な転校生。

「ほむらちゃん……?」

 残敵の掃討を冴島鋼牙に託し、群がる使い魔の中を切り抜け、駆け付けてきた暁美ほむらだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/06/23(木) 00:58:58.62 ID:D6KQr6vAo<> ここまで
今回、場面転換がわかりにくかったですね。すみません。
このところ一レス当たりに35〜40行詰めてましたが、少し見た目が重いかなと感じたので
30行前後に戻しました。適当な量が掴みかねているので、不満や要望等ありましたらお願いします。

そして既にgdgdですが、ようやく次回で第一話も終わり(が目標)&黄金騎士、見滝原に見参
日曜の夜か、適当に切れなければ来週中になるかもしれません
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/06/23(木) 01:31:33.29 ID:6XZRFGvb0<> 乙!
とうとう次回には牙狼の出番か!
wwktkが止まらんな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/23(木) 17:08:14.97 ID:9cGcU547o<> 今回も乙でした
いよいよ黄金騎士クルー!!
牙狼と絶狼がいればマミさんもマミられるとこ無くなるはず…!…はず!

1レス辺りの行数はどちらでも気にならないですね
でもあえてどちらかと言うなら30行前後の方が好みかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/06/23(木) 21:32:17.85 ID:w3rtiGpAO<> 激しく乙

遂に黄金騎士が降臨たろうか? <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/06/26(日) 20:02:17.26 ID:fIyjK9fKo<> なんやかんやで書き溜めが全然できていません
申し訳ない
来週中には必ず <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 21:39:14.34 ID:uV0USWBSo<> 生存報告乙です。
毎回濃密だし、その分楽しみにしてます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/01(金) 10:45:29.74 ID:KqV9fVduo<> まどかや牙狼のSSは夏に見るのにピッタリだぜヒャッハー!
ホラーや魔女の姿やなった経緯を考えると薄ら寒くなって涼をとれるよ!

でも鋼牙や零の格好を思い浮かべちゃダメ、絶対 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/02(土) 10:47:32.06 ID:IhPPhYTxo<> いや白は光を反射する色だしきっと意外と涼しいんだよ


零ェ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/03(日) 23:00:37.54 ID:XcZAPEmp0<> 翼「呼ばれた気がした」 <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/03(日) 23:57:27.77 ID:e8voSFyko<>
 目の前には、キュウべえを抱えるマミと、それ心配そうに見つめるまどかとさやか。
現場に到着した瞬間、ほむらは何が起こったのか即座に理解した。

――遅かった……!

 ギリッと、表にこそ出さなかったが内心で歯噛みした。
 まどかの救命、この点に限っては問題ない。誰がやろうとも、そこは無事で何よりだと喜ぶべきこと。
むしろマミが来なければ高確率で手遅れになっていたのだから、感謝して然るべきなのだろうが。

 しかし、事はそう単純ではない。まどかはキュゥべえと接触してしまった。
キュゥべえは間違いなく、まどかを誑かすだろう。その人間が本質的に望むモノを嗅ぎ付け、取り入ることに長けた奴だ、
中学生一人を手玉に取るくらい容易い。

 それだけでも危険なのに、なお助長するのがマミの存在。
何も知らずに甘い英雄幻想を夢見るまどかは、当然の如くマミに憧れるだろう。
その果てに、どんな未来が待ち受けているとも知らずに。
 マミはマミで新たな仲間の出現を喜ぶ。これまでの例を鑑みるに断る理由はない。

 つまりはマミとキュゥべえが合流し、まどかと出会った時点で、ほむらの考えていた作戦は意味をなくす。
妨害しようとすれば、マミは十中八九、反撃してくる。なるべくなら彼女とは戦いたくなかった。
彼女は強力な魔法少女だし、一応は顔見知りでもある。何より意味がない。
 いや、マミがいなくとも結果は同じだったか。見た目は愛らしい小動物を殺めようとするだけで、まどかには悪者と見なされてしまう。
信じてもらえなければ、どれだけ想っていても、正しくとも、無意味なのだから。

 そうしてしばらくの間、黙考を続けていたほむらだが、

「魔女は逃げたわ。仕留めたいなら、すぐに追いなさい」

 マミの言葉でハッと我に返る。
 そうだ。魔女は逃げ、キュゥべえの殺害に固執する必要もなくなった。
故に当初の目的を考えれば、ここに留まる理由はもうない。
 そう、当初の目的では。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/03(日) 23:58:46.74 ID:e8voSFyko<>
 再びの黙考。
 向こうも事を構える気はないようだ。
その余裕は、襲われたとしても自分は負けないという絶対の自信から来ている。
その慢心とも言える余裕振りに従うのも癪だが、僥倖に違いはない。
 ならば答えは――。

「その必要はないわ。私にはまだやることが残っている」

 マミは目を丸くして意外そうな顔をした。ほむらを賢く、計算高い人間だと分析していたからである。
が、その驚きも一瞬。すぐに取り繕い、微笑を取り戻す。

「意外と鈍いのね。見逃してあげるって言ってるの」
 
「勘違いしないで。見逃してあげるのは私の方。心配しなくても、あなたに興味はないわ。そこのキュゥべえにもね」

「なんですって……?」

 挑発とも取れる言葉に、マミの表情がやおら険しくなった。対するほむらは涼しい顔。
 空気が張り詰め、さやかとまどかが剣呑な雰囲気に怯えながら両者を交互に見る。
 ほむらはマミの殺気を真っ向から受け止めた。引けない理由があった。
 まだ、危機は去っていないのだから。

 ついさっきまで戦っていた使い魔。髭と張の使い魔は魔女のそれだろう、いかにもな風貌をしていた。
 だがローブを着込み、ナイフを振り回す影はどうだ? 
攻撃方法といい、意匠といい、魔女の使い魔らしからぬ印象を受けた。

 ここにいた魔女は1体。
 その点はマミが逃げたと言っていること、結界が解けたことからも確か。
ではあの、あまりにも髭と共通点のない影は何だろう。
 思うに、あれは魔女の使い魔とは違う、別の何かではないか。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/04(月) 00:00:27.90 ID:RUYvBfu+o<>
 推測の域を出ないが、裏付けるものはある。髑髏の指輪に『鋼牙』と呼ばれた白い剣士の存在。
 彼は強かった。それどころか歴戦の戦士と呼ぶに相応しかった。だが、それだけではない。
 影との戦いは、日常的に戦い慣れた者だけが為せる業。

 そして、どれだけのダメージを与えれば殺せるか、死ねば死体はどうなるか、特性を完全に理解していた。
 これらのことから推察するに、鋼牙の敵とは奴らではないか。そう、ほむらは考えた。
 極め付けが別れ際の一言。

――敵は魔女だけじゃあない。危険を感じたらすぐに撃て。

 敵が影だけなら、こんなことは言わない。おそらくはあれも使い魔、操る何者かが近くにいる。
 となれば、まどかをマミだけに任せて一人逃げるわけにいかない、絶対に。
 まだ張った気を緩めていないが故に、マミの挑発にも挑発で返してしまった。
 マミの片目がスッと眇められる。同時にほむらも、そっと左腕の盾に手を伸ばす。

 彼女の手の内は知っている。相性は悪いが、先手を取られなければ負けはない。
 無言で睨み合う両者。
 まさに一触即発の静寂に割って入ったのは、近付いてくる足音だった。

「誰!?」

 そう言ったのはマミ。足音に向き直り、マスケット銃を構えた状態で闇に目を凝らす。
 ほむらの反応は真逆だった。心なしか緊張の解けた顔で、マミと同じ方を向く。

――来てくれたの?

 ほむらには心当たりがあった。今、こんな場所に来る人間といえば一人しかいない。
彼が、鋼牙が使い魔を片付けて来たのだと。
 やはり無事だった。そうだろう、彼があんな雑魚に負けるはずがない。
 我知らず口元が綻ぶ。だが胸の内に湧き上がる感情に、ほむら自身は気付いていなかった。
 それは安堵。彼が共にいれば、誰が相手だろうと負ける気がしないという確信。
 一緒にいた時間は10分にも満たないにも関わらず、ほむらは鋼牙に僅かながら信頼を抱きかけていた。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/04(月) 00:34:05.82 ID:RUYvBfu+o<>
 やがて、闇の中から足音の主が姿を現す。
 その時、最も平静に近かったのは、意外にもまどかとさやか。現われたのが人間だったからだろう。
 ほむらは落胆し、驚くと同時に警戒の色を強める。
 そしてマミは目を見開き、驚愕を露わにした。
 
「おい……そこにいるのは人間か……?」

 現われたのは、黒地に派手な柄の入った革のジャケットに、下品な金髪の男。
 おそるおそるといった様子でこちらを窺う顔に、マミは覚えがあった。

「あなたは……!」

 それは紛れもなく、今朝マミに絡んできて、
涼邑零と名乗る謎の男に腕をねじり上げられていた不良だった。

「あぁ? お前……今朝の……」

 向こうも気付いたらしく、マミを指差す。
 マミは黙して答えず、どう応対すべきか迷う。
 不思議な気分だった。数時間前、乱暴される寸前だった不良男が目の前にいる。
嫌悪の対象でしかなかった男が今、どういう訳か異常な空間に迷い込んできている。
 大の男でも、この場では守るべき非力な一般人に変わりはないが――。

 果たして守る価値があるのだろうか。こんな少女に笑いながら掴みかかろうとするようなクズに。

 人を守り希望を振りまく魔法少女として、あるまじき考え方がマミを躊躇させた。
黒く淀んだ感情が、澱のように胸の奥に溜まってつかえる。

「な、なぁ。何なんだ、ここは。いきなり変な化け物がうろついてたから必死に隠れてたけどよ。
壁や天井もおかしくなっちまったと思ったら、急に元に戻るし……」

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/04(月) 00:57:40.10 ID:RUYvBfu+o<>
 男はマミの正体と、何故ここにいるかという疑問をさておいたらしい。思い切りうろたえて四人を見回す。
 その狼狽振りを眺めていたマミは軽く深呼吸。息を落ち着かせ目を開くと、とうとうと語り出した。

「落ち着いて下さい。詳しくは話せませんが、もう安全です。この娘たちと一緒に出口まで送りますから」

「お、おう……」

 マミの事務的で有無を言わさぬ口調に、渋々といった体で男は頷いた。 
 今は遺恨は忘れて、すべきことをしよう。そう決めたマミの行動は素早かった。
 状況に置いてきぼりにされているまどかとさやかにも目を向け、

「さぁ、二人とも歩ける? もう大丈夫よ。念の為に私が先頭を歩くから、その人と一緒に付いてきて」

 男相手とは打って変わって優しく、不安を解すように促す。 

 結界が消滅したことにより、フロアは黒一色を取り戻した。
普通の人間なら明かりなしでは歩くのもおぼつかない闇。
 使い魔共も逃げ出しているだろうが、まだ一匹くらいは残っていてもおかしくない。 
資材の類もそこらに転がっている。念の為、自分が警戒しながら誘導しようと考えた。

「は、はい……でも……」

 まどかはチラリと、突っ立っているほむらを見やる。
 彼女はどうするのかと、色んな意味で気になるのだろう。
 それを受け、三人を従えたマミは列の先頭から、

「あなたも付いてきたら? 一緒に連れて行ってあげてもいいわよ?」

 またも挑発を投げかけた。
 間に挟まれたまどかとさやかは気が気でない。男は何が何やらといった顔をしている。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/04(月) 02:30:26.91 ID:RUYvBfu+o<>
 ほむらは答えない。沈黙を保ったまま、矢の如く鋭い視線だけを向ける。
 マミがそれに応じ、数秒が経っただろうか。ほどなくして口を開くと、ぽつりと一言。
 
「あなたという人は……どこまでおめでたいの?」

「……どういう意味かしら?」

「こんなところを、馬鹿みたいに一列になって歩かせる気かと言っているのよ」

 徐々にほむらの語気と眼光が強くなっていく中、唯一の部外者である男だけはポケットに右手を突っ込み、平然としている。
 マミも、まどかも、さやかも、誰もそれを不思議に感じていない。
 ついさっきまで異様な結界と化していた場所で、少女二人が平気で火花を散らしており、
しかも一人は、指を掛けたマスケットの引き金を今にも引き絞らんばかりの威圧感を漂わせている。

 真に一般人であるまどかとさやかは、板挟みの緊張から身を竦ませてしまっている。これが正しい反応。
 この男は、さも退屈そうに無表情で状況を見守っている。
 ごく自然にその立ち位置をキープしているが、離れて見れば逆に不自然。おかしいと思わないことがおかしい。

 ほむらの視線は、最初から一人に注がれていた。
先頭のマミでも、その後ろのさやかでもなく、まどかの背後に立つ男の動向に。
そうとも知らず、マミは自らの正統性を主張する。

「私は十分ではないけど視界も利いているわ。使い魔が残っている場合に備えて、私が道案内しつつ先頭を歩く。
何かおかしい? あなたもクラスメイトなら後ろを警戒くらいしたらどう?」

 ほむらは軽く溜息をついた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/04(月) 02:32:20.84 ID:RUYvBfu+o<>
 やはり、彼女に期待するだけ無駄、か。それとなくサインを送ったつもりだったのだが。
 マミは優秀な魔法少女だ。その点に措いては一点の疑いもない。
 彼女が気付けなかったのはひとえに疑っていなかったから。
魔女と使い魔という固定観念に囚われていたからだ。可能性を考えもしなかった。

 ほむらとて、影の使い魔と戦い、鋼牙の忠告を受けていなければ見過ごしていただろう。
 正直、現時点でも確証には至っていないのだが。

「そうね、あなたが前しか見てないみたいだから……」

 私が確かめるしかない。

 ほむらは歩きながら、どこからともなく拳銃を取り出し、スライドを引き――

「彼女から離れて。それとポケットから手を出して、両手を上げなさい。ゆっくりと」

 男の後頭部に突き付けた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/04(月) 02:35:43.51 ID:RUYvBfu+o<> ここまで
なんやかんやで全然進んでません
書きながらだと、どうもくどくなりがちですね
水曜か木曜に、戦闘開始くらいまでは進めたいです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/07/04(月) 06:38:32.29 ID:CzMbTjoB0<> 続き期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2011/07/04(月) 07:20:47.47 ID:u2X2GckAO<> GAROとのクロスとは……俺得だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/04(月) 08:57:10.28 ID:Jym//kna0<> 乙

やっぱ鋼牙は格好いいなぁ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/04(月) 20:58:17.29 ID:ZjOgYuT5o<> 乙

ほむほむが鋼牙とあってなかったら速攻バッドエンドだったのか; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/07(木) 09:47:25.76 ID:+Ye6ifr1o<> 乙でしたー

気がつけば1週間に一度ここを覗くのが楽しみになってる <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/07(木) 23:59:17.54 ID:LDnbFkRfo<>
「ほむらちゃん!?」

「ちょっと転校生! あんた何してんの!?」

 まどかとさやかの声が前方から飛ぶ。
 ほむらは敢えてそれを無視して、男に問う。手の内にある鉄の塊を、ゴリッと頭皮に擦りつけながら。

「答えなさい。あの使い魔を放ったのはあなたなの?」

「し、知らねぇよ! 使い魔って何のことだよ!?」

 男は膝と腕をガクガク震わせながら左手を上げた。
声は震えて上擦り、顔中に冷や汗を掻き、全身で怯えを体現している。
とても演技には見えないし、だとしたら大したものだ。
 だからといって勘で判断はしない。それは最後の最後の手段だ。
同じく、いくら危険を感じたら撃てと言われていても、確証なしにはできない。

「私と白いコートの男を襲わせた、ナイフを持った黒いローブの影よ」 

「だからわかんねぇって言ってんだろ!」

「そう、そう言うと思ったわ」

 直接聞いて白状するとは思っていない。
本当に運悪く迷い込んだ一般人でも、黒幕だったとしても、同じ台詞を吐くに決まっている。
 だから、こんな問いは何の意味も持たない。せいぜい間を持たせる意味しか。

 ほむらは拳銃を左手に持ち替えつつ、更に男を恫喝する。

「右手もポケットから出しなさいと言ったはずよ。早く!」

「あ、ああ、わかったよ……」

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/08(金) 00:17:37.97 ID:+cDj65g7o<>
 恐る恐る右手が上がる。
 この男は最初からそうだった。右手は常にポケットの中にあり、何かを弄っているような動き。
 不審に思い、ポケットを探ってみると案の定、

「これは何かしら?」

「拾ったんだよ! 化け物がうろついてたんだ、武器になると思って……」

 出てきたのは錆が浮き、刃が欠けた小振りなナイフ。鞘にも収めず、剥き出しで入れられていた。
かなり古そうな血痕が見られる。拾ったというのもあながち嘘ではないのか。
 こんなナイフでは使い魔はおろか、人を殺傷するにも不十分だろう。
むしろ、こんなものにすら頼りたくなる心理の表れかもしれない。

 本当にこの男、ただの一般人なのかも。
 そんな予感さえ生まれ、信じたはずの直感がグラつく。

「ふん……」

 どの道、警戒するには及ばない。
 ほむらは、鼻を鳴らしてナイフを足元に投げ捨てた。元の持ち主がそうしたように。
 キンッと高い金属音を立ててナイフが転がり、何とはなしに、ほむらはそれを見やった。
 刃の表面はほとんど錆に覆われていたが、一部はまだ周囲の景色を映している。映っていたのは闇と見下ろす自分の顔。

 それともう一つ。
 自身の背後――肩の後から覗く黄色いリボン。

 背筋を冷たいものが走る。
 同時に理解した。正義の魔法少女を自負する巴マミが、銃を出してから一度も制止の言葉を発さなかった理由。
 既に彼女は、自分を敵として捉えている。交渉や会話の余地なしと考えている。
 故に、気付かれないようリボンを背後に這わせた。

 振り向きもせず、ほむらは素早く右手にも銃を握る。そして前方の標的に狙いを定める。

「動かないで!!」

 と、言いながら銃を向けたのは、マミでなく――美樹さやか。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/08(金) 00:49:25.17 ID:+cDj65g7o<>
「動いたら美樹さやかを撃つわ。あなたが私を撃つよりも、縛るよりも早く、私の指は引き金を引く」

 警告の対象はマミ。だが、銃を向けたのはさやか。
 無論、単なる脅し、ハッタリである。マミを止められるとしたらこれしかない。
 狙われたのが一人なら強引に拘束もできる。なら、二人ならどうだろう。
自在に動くマミのリボンも、二丁の銃による狙いを同時に、かつ瞬時に外せるだろうか。

 確信はなかったが、少しでも不安があるなら、マミは動かない。それは彼女が人を守護する正義の魔法少女だからだ。

「お願い。できれば撃ちたくないの。だから、もう少しだけ待って。私に撃たせないで」

「くっ……!」

 どうあれ、脅しとしては効果的だったらしい。マミは悔しげな呻きを漏らした。
 これで三人の印象は最悪だろう。今回はキュゥべえを狙う場面を見られていないから或いは、とも思ったのだが。
これで完全に悪役決定だ。
 それでもいい。たとえ嫌われようと憎まれようと、このまま四人を行かせて全滅するよりはずっと。
 彼女が正義の魔法少女なら、自分は悪でも構わない。

 ほむらは努めて冷徹に、冷酷に声を出す。悪役らしく、冷笑を含ませながら。
 少しでもマミを牽制する為に。

「銃を下ろして、三歩下がりなさい。それと、間違ってもリボンを這わそうなんて考えないでちょうだい。
驚いて指が動いてしまうかもしれないから」

「あなた……どうかしてるわ!」

「そうね、どうかしてるのかも。でも、それはあなたも同じよ。
偶然こんな場所に迷い込んで、運良く使い魔共の目からも逃れて、わざわざ奥まった場所まで来るなんて。
そんな都合のいいこと、あり得るのかしら」
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/08(金) 01:39:49.11 ID:+cDj65g7o<>
 大方、まどかとさやかはキュゥべえに誘われたのだろうが、この男は自らの意思で来た。
このタイミングで、作業員でもないのに、だ。こんな場所、普通なら頼まれたって入りたくない。
 それだけでも疑うには十分なのに、使い魔を隠れてやり過ごし、フロアの奥まで入ってくる。
途中には非常口を示す非常灯だってあったのに。

「あり得ないとは言い切れないわ」

 と、マミが言った。
 そう、有り得ないとは言い切れない。根拠として弱いことは自覚していた。
 だからこそ迷いは拭い切れないが、撃ちさえしなければ間違っていてもなんとかなる。
大事なのは鋼牙が来るまで足止めすることだ。
 彼さえ来てくれれば、きっと何もかもがはっきりする。

――だからお願い……早く来て……!

 マミと、男と、さやか。額に汗を浮かべながら、ほむらは三方に注意を絶やさない。
 マミは敵愾心を隠すことなく、憎悪すら露わにして睨んでいる。
 さやかとまどかも気丈に口を引き結んでいるが、拳銃というリアルな脅威を前に震えていた。
 男は変わらずだ。

 この膠着状態、長くは維持できないだろう。
 ほむらが隙を見せるか、マミが想定外の手段で攻勢に出るか、さやかが恐怖に耐えられなくなるか。
 確かな事実は二つ。
 均衡が崩れれば誰かが死ぬこと。
 そして、すべての鍵はこの両手に掛かっていること。
 呼吸も忘れるほどの緊張。一瞬でも注意を緩めれば、マミか正体を現した男に容易く狩られる気がした。

 ほむらは願いを込めて鋼牙の姿を思い浮かべた。
 白いコート。赤い柄と鞘の剣。ザルバとかいう喋る指輪。
 それらを一つ一つ思い出す過程で、ほむらはハッとなる。
 目蓋の裏に焼き付いた鮮やかな緑の炎。挟んで視線を交わした。
 あの時、彼は何と言った?
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/08(金) 03:42:38.42 ID:+cDj65g7o<>
「ホラーではない、か」

 ホラー。おそらくは、それが彼の敵。
 ホラーが何かは知らないが、あの緑色の炎を出すライターが《ホラー》とやらを見分ける道具。
 それをほむらにかざして確証を得たのだとしたら、一つの仮説が成り立つ。
 即ち、ホラーは人に化ける能力を持っている。

「そう、ホラー……あなたがホラーなのね?」

 ほむらは男に突き付けた銃に力を込めて言った。そう考えれば、鋼牙の忠告もすべて辻褄が合う。

「さっさと正体を見せたらどう? 時間を掛ければ掛けるほど、あなたに不利になるんじゃないかしら?」

「しょ、正体って……」
 
 あくまで白を切る気か。
 だがホラーという単語を口にした瞬間、男が僅かだが反応したのを、ほむらは見逃さなかった。
 これはかなり核心に近いのではないか?
 ここぞとばかりに、一挙に畳みかける。
  
「鋼牙――彼は、あなたの天敵はじきに使い魔を片付けてここに来るわ。それが怖かったから足止めをさせたんでしょう?
でも残念ね。いくら数に物を言わせても、あの程度の雑魚なんて彼の敵じゃない」

 間違っていてもいい。マミを少しでも信用、或いは攪乱させられるなら、今はとにかく喋ることだ。
 珍しく、柄にもなく多弁になるほむら。とにかく男の正体を暴こうと躍起になっていた。
 そこへ、蚊帳の外に置かれていたマミが口を挿むが、

「ちょっと、ホラーっていったい何の話――」

「クッククク……」

 と、不気味な含み笑いに遮られた。
 不様に怯えていた男が一変、さも可笑しそうに何度も頷いている。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/08(金) 03:43:07.79 ID:+cDj65g7o<>

「いや、その通りだ。ちょうど腹が減っていたところだしな。魔戒騎士が来る前に終わらせよう」

 姿は変わらないのに、口調も纏う雰囲気もまるで違う。
 中でも最たるものは声だ。地獄の底から響くような低く、重く、しゃがれた声。
 全身を縛り、絡みつくような空気が流れる。魔女のそれとも異なる重圧を、魔法少女のマミはもちろん、
まどかとさやかも本能で感じ取っていた。
 
「そろそろ我慢も飽きてたんだ。こんなに美味そうで――壊し甲斐のありそうな餌が四人もいるんだからな!」

 声と共に、男の姿が変わった。
 いや、変わったという表現は相応しくない。皮を引き裂いて、肉片を一瞬で振り飛ばし、中から醜悪な怪物が生まれた。

 全身を覆うのは、朽ち果てた建物の壁を連想させる、赤黒く荒れた皮膚。触れただけでヤスリのように削られそうだ。
 腰と肩に見られる黒光りする無数の突起は、一つ一つが鋭利な刃になっている。印象としてはハリネズミに近い。
 人より縦長の髑髏に薄く皮膚を貼ったような顔には、人のものとは思えない尖った歯が並ぶ。
 だらりと垂れた左手は異常に長く触手状になっているが、両端は薄く研がれた――まるで両刃の剣だった。

 そのすべてが脈打ち、この怪物が生き物であると知らせる。
 一言で表すなら異形。
 なまじ魔女よりも認識しやすい形をしているせいか、より怖気を誘った。
 
「――っきゃぁああああああ!!」

「二人とも下がって!」

 まどかの悲鳴をBGMに、飛び退いたほむらはさやかを庇うマミと並び、怪物と対峙する。

「これがホラー……」

 ほむらは無意識に呟いていた。 
 結果を急ぐあまり追い詰め過ぎたのか。唯一、ホラーとの戦いを知る鋼牙はまだ来ていない。
やはり彼が来るまで引き延ばすべきだったのだ。

 自らの不明を悔いるほむら。
 だが、もう遅い。今はマミと二人を守りながら戦うしかない。
 そう覚悟を決めて、両手の銃を構えた。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/08(金) 03:44:27.75 ID:+cDj65g7o<> 今回も短いですが、ここまで。
次も日曜日。次こそは一区切り付ければいいのですが……
十分推敲する時間も欲しいので、ちょっと曖昧です

ほむらとマミの性質上、共通の敵でもいない限り(いたとしても?)簡単には理解し合えないだろうな、
と思ったのでこんな形になりました。
オリジナルのホラーはなんだか、自分でも「これじゃない感」が凄いです。次からは控えようかと。一応、モチーフはナイフ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/08(金) 03:58:54.81 ID:SGOhhqgFo<> 乙です。
オリホラは素体ホラーをアレンジした感じの姿が思い浮かんでる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/08(金) 04:05:26.34 ID:UudKAi3y0<> 乙
まあ、理性がなくて訳がわかんないけど襲ってくる化物よか
理性があってあからさまに「いただきます」してくる化物の方が怖いだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/07/08(金) 04:56:47.23 ID:kRJTCmGH0<> TV版のホラーは全部でないにせよ、キバに食われて、さらに食われてメシアの力に変換されたからな。
まあ、似たような理由で引き寄せられたものならば似たような姿かもしれんけどね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/07/08(金) 06:33:09.89 ID:NHsnuA3AO<> 魔法少女まどか☆ガロか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/08(金) 08:13:31.81 ID:EiXTIPrc0<> 乙

ついにホラーVS魔法少女の本格バトルか
早く来てくれ魔戒騎士!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)<>sage<>2011/07/08(金) 08:36:37.22 ID:umeFsBOAO<> このホラーは何て名前なんだろう
ナイフ+ハリネズミでエッジホッグって名前が浮かんだがこれじゃ仮面ライダーV3のデストロン怪人だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/08(金) 08:53:35.83 ID:ZpgaprKDO<> おつおつ

基本ホラーの名前って悪魔から取られてるよね
ルナーケンとかモラックスみたいなのもあるけど <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/10(日) 23:55:53.09 ID:ha0xKoGlo<>
「何よ……これ……」

 呆然と呟いたのはマミ。
触手を妖しくうねらせる怪物を前に、マミは立ち尽くしていた。
 まさか魔女でもない怪物が存在して、しかも人間に化けているなんて誰が思うだろうか。

――いいえ、こうなってしまった今だから言えるのかもしれないけど、予感はあった。
彼が暗闇から現れた瞬間、言い様のない悪寒を感じた。人間の靴音に銃を向けたのもその為。
よくよく注意すれば、気配といい目つきといい、ほとんど別人だと察知できたのに……!

 それなのに、見す見す思い過ごしで片付けてしまった。原因は今朝の一件にある。
自分に暴行を働こうとした彼に、マミは強い不快感と嫌悪感を抱いていた。

――たとえ一分一秒でも傍にいたくなかったし、なるべくなら口も利きたくなかった。
そうやって関わりを避けたいと思うあまり、自ら発していた危険信号を、ただの悪感情と取り違えてしまった……!
もっと早くに怪しいと思っていればこうはならなかった……今さら言い訳にしかならないけど。

 マミは横目でほむらを見やる。表情は緊張で固まり、こめかみを汗が伝っているが、自分に比べれば遥かに落ち着き払っている。

――それどころか、もし彼女の横槍が入らなければ、開けたここより狭く暗い通路を列になって進んでいた。しかも最後尾は彼。
主に悪い意味でだが彼は男性だ。何かあった時も二人よりはリスクも少ない。私から遠くにも置ける。
まさか、こんな時に妙な真似はすまい、と。
 そうなれば、最初に犠牲になったのは彼の前にいた二人。私の判断ミスで彼女たちは確実に死んでいた……。
私のせいで――

 自責の念に駆られていた時間は長くなかった。すぐにマミはかぶりを振り、思考を切り替える。
今はそんなことを考えている場合ではないと。
 気付くと、ほむらもマミを見ていた。

「反省なら後にしてちょうだい。やるの? やらないの? やるなら不本意だけど協力しましょう。そうでないなら早く逃げて」

 マミの心中を見抜いたような口振り。
 無遠慮な物言いにカチンと来ないこともなかったが、結果を見れば正しかったのは彼女なのだ。ここは従うほかない。
言動に相容れない点は幾つもあるが、二人を守ろうという思いは変わらないと思う。
 多分、おそらく、思いたい。
 ならば、取るべき道は一つ。

「くっ……やるわ! あなたたちは逃げなさい! 早く!」

 まどかとさやかを下がらせ、銃を構える。
 相手は得体の知れない怪物。信用できるかは不安でも、戦力は多いに越したことはない。
 マミもまた、ホラーと戦う覚悟を決めた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/11(月) 00:35:51.12 ID:s3SxdGOe0<> キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
あと本編書く時はsageなくてもいいのよ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/11(月) 00:57:13.34 ID:ebW4Nw1Do<>
 そして、まどかとさやか。ほとんど腰を抜かしていた二人は、マミの指示でやっと我に返ったらしい。

「は、はい!」

 と、ぎこちなく答えて動き出した。
 背後を気にしながらマミは、

「それで? 何か策はあるのかしら?」

「私が囮になる。あなたは攻撃に集中して」

 問うと、すぐに答えは返ってきた。
 マミの戦法としては、動き回るより止まった方が戦いやすい。特に最大火力の必殺技は移動しながらでは厳しい。
それ故に、ほむらの提案はありがたかった。
 しかし、見たところ彼女の武器も銃。負担は彼女の方が大きいが、よほど自信があるのだろうか。

 マミはチラリと背後を顧みる。二人はモタモタと逃げるのに手間取っている様子。
 先の戦闘で床に亀裂が入っていたり瓦礫が散乱している。おまけに非常灯が何個か壊れているせいで、やたら暗い。
魔法少女の自分でも暗いのだから、彼女らは尚更だ。
 射程から逃れるにはまだ掛かるだろう。時間を稼ぐ必要があった。
 
「わかったわ。それで行きましょう」

 マミが頷くと、ほむらは答えずに駆け出した。答えの代りなのだろう、両手の銃を連射しながら突っ込んでいく。
 マミはまず、ほむらの攻撃とホラーを観察する。でないと、的確な援護のしようがないからだ。
 まず、ほむらが撃った銃弾のほとんどはホラーの胸部に命中したが、流石に正面は防御が固いのか、火花が幾つも散っている。
金属音からして、弾かれている可能性が高い。

 それは、ほむらも見抜いている。狙いを手足にシフトさせつつ、側面に回り込む。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/11(月) 01:49:27.99 ID:ebW4Nw1Do<> *

>>268
例の如く書き溜めがあんまり間に合っていなくて、書きながら投下の部分が多々あるので。
終わるまで知られない方がいいかな、と思いまして。




「今ね!」

 攻撃のタイミングを窺っていたマミは、今がその時だと軽く手を振った。
 床から――正確には、戦闘中にマミが床に開けた弾痕から生えたリボンがホラーの四肢を拘束する。
同時に、自身の周囲に召還したマスケット銃を取って引き金を引いた。
一発撃っては捨て、次を手に取り、代わる代わる射撃を繰り返す。

 無数の銃声に紛れて響く、聞くに堪えない醜い悲鳴。
 それでもなお手は止めず、容赦なく撃ち続ける。マミも、ほむらもだ。
 銃声と金属音、そして肉を穿つ音と悲鳴の四重奏。混じり合う音は、否応にも精神を昂揚させる。

 マミは確かな手応えを感じていた。
 やれる。
 倒せる。
 この異形の怪物を。
 
 動きを封じられ、黒い体液を撒き散らしながら仰け反っているホラーを見た瞬間、それは確信に変わった。
 ほむらも射撃の手を止め、力なく棒立ちになった敵を見ている。
待っているのだ、怪物が崩れ落ちるのを。
 為す術なく拘束され、呆気なく全身を蜂の巣にされた怪物を哀れに思わないでもなかったが、考えないことにした。
こんなものに同情したところで、何にもならない。正当防衛だと言い聞かせる。

 だが、いつまで待ってもホラーが倒れることはなかった。いや、それどころか――。
 マミとほむらは揃って目を見張る。
 全身に開いた穴がズブズブ音を立てて塞がり始めた。
逆再生を見ているように、周囲の肉が寄り集まって傷口を埋めているのだ。

 四肢を拘束していたリボンは、銃撃の嵐で破れる度に次のリボンが巻き付くようになっている。
むしろ何重にも巻かれ、強度は上がっているはずなのに。
 それすらも、ホラーが身をよじるとヤスリのような凹凸の皮膚に引き裂かれた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/11(月) 02:46:50.87 ID:ebW4Nw1Do<>
「まだ足りなかったのね……!」

 マミは咄嗟に、再度ホラーを拘束しようと試みる。
手を振り、増えた床の穴から伸びる何条ものリボンが四肢をからめ取った。
 まだだ、まだ足りない。今度は身をよじることも許さない。やり過ぎと思えるくらい、がんじがらめに縛った。
 次々にリボンを増やした結果、今やリボンでホラーの身体が埋め尽くされ、見えなくなっている。
 唯一、左腕の触手を除いて。
 
 ほむらも両手の銃を上げて攻撃に加わろうとするが、

「手を出さないで!」

 マミはそれを制した。
 今、拘束が少しでも緩まるのは避けたかった。
 これから繰り出す攻撃は外せない。大量の魔力を消費するそれは、拘束魔法とセットで使う、云わば必殺の一撃。
 一挺のマスケット銃に魔力を注ぎ込む。オレンジの光が銃身を取り巻き、マミの背丈にも届く巨大な銃身が生まれた。
 
 それだけでも十分な威力だが、マミはさらに魔力を集中させる。確実に葬り去る威力まで高めなければ。
 巨大な銃身をオレンジの光が包み込み、銃身はもう一回り巨大化した。
マミの体躯を遥かに超えた銃身は最早、砲と呼ぶべきか。その巨大さ故に、台座で固定して安定を保っている。

「行くわよ――」

 ほむらは黙って見守っていた。何かあれば、即座に動けるように。
 その時、ホラーの動きに変化が起きた。と言っても、左手の触手が器用にうねり、全身をさっと撫でただけ。
ただ、それだけでホラーを拘束していたリボンはすべて切断され床に落ちた。

「駄目!!」

 マミに向けて叫ぶほむら。巨大な銃身が陰になって、彼女からはホラーが見えていない。
 ほむらの制止でマミも何が起きたかを理解するが、既に遅い。銃口には光が集まりチャージを始めている。
 もう止まれる段階を過ぎていた。今、止めれば込めた魔力が無駄になる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/11(月) 03:12:44.83 ID:ebW4Nw1Do<> 中途半端で短いですが、ここまで
即興は難しいです
明日か明後日あたりに切りのいいとこまで進めて、
今週中には、なんとか最後まで行きたいです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/11(月) 03:23:24.07 ID:s3SxdGOe0<> 乙
大変だろうけど応援してるぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/07/11(月) 13:24:31.29 ID:fAG7iHXAO<> 牙狼の世界だと“ホラーの元ネタが鬼や悪魔”じゃなくて“悪魔や鬼の元ネタがホラー”なんだよな。
ホラーがどんなに危険な存在かよく分かる。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/14(木) 23:58:57.68 ID:LQ9Ei6WSo<>
――撃つしかない!!

 幸い、ホラーは避ける素振りを見せない。一か八か、この一撃に賭ける。
 ほむらもマミを助けるべく、ありったけの弾幕を張る。
 マミの一撃が決まるまで、この場に押し止めなければ。
 再度の銃撃、ホラーは声も上げなかった。どれだけ肉が抉られようと仰け反りもせず、視線はマミを捉えている。
その沈黙に、ほむらは不気味なものを感じずにはいられなかった。

 砲身を形成してから一秒余り。ほむらとマミには永遠にも感じられる一秒だった。
 砲口に光が集束し、

「ティロ・フィナーレ!!」

 マミの掛け声に合わせて炸裂。溜め込んだ魔力をエネルギーに変換した光弾を解き放つ。
 オレンジの光弾は砲口の大きさに見合った巨大なもの。当たれば、たとえ相手が誰だろうと無事では済むまい。
それほどマミは、この技に絶対の自信を抱いていた。

 それと同時、ホラーも動きを見せた。
 腰と両肩にある黒光りする突起。ハリネズミの棘を連想させる無数の刃がすべて光弾に切先を向け、一斉に射出された。

「――ッ!!」

 ほむらの爪先から脳天まで震えが走る。
 これは駄目だ。
 これは絶対に危険だという直感。 

 撃ち出された刃は、さながらガトリング砲の如き連射速度でマミの切り札を迎撃する。
 空中で光弾と刃がぶつかり合い、激しい爆発を起こした。
 ほむらは身を伏せ、盾を前面に構える。耳と目を覆うことも叶わなかった。
 闇をも焼き尽くすような炎。目も開けられない光と衝撃波で、攻防の行方は窺い知れない。己の身を守るだけで精一杯だった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 00:02:59.08 ID:AD0JWSFBo<>
 ただ、爆音に紛れて何かがヒュンと空気を切り裂いた。頭上を掠めた幾つものそれは、カカカカッと壁に突き刺さる。
おそらくは破片だろう。伏せていなければ、どうなっていたことか。想像してゾッとする。
 側面ですらこれなのだ。正面に立つマミは全身を貫かれていても不思議はない。
 マミは、ホラーどうなっただろう。未だ爆煙が立ち込め、なんとか視覚が正常に戻っても両者の姿は見えない。

 ふと、立ち上がって壁を見る。突き刺さった破片の中には原形を留めている物もあった。
手に取って形を確かめ、ホラーの姿、攻撃を思い出す。
 形は小振りだが、ひとつひとつが刃になっていることからも槍の穂に近い。長さはおよそ15cm以上はある。
穂先の反対側は窄まり、刃が付いておらず、柄に繋がるような形になっている。
なるほど、こちら側がホラーの体内に埋もれているのだろう。

 こんな凶器を大量に、少なくとも100や200では利かない数、ホラーは身に纏っているのか。
方向を自由に変えられるなら、迎撃以外にも用途は広い。
 ファランクス――。
 二つの意味で単語が浮かんだ。もっとも、これはミサイルではなく砲撃だったが。
 槍を並べた重歩兵の大軍が、犠牲を払いながらも果敢に砲台に挑み、遂には噛み砕く。
そんなイメージを抱かせる代物だった。

 やがて煙が晴れると二人の姿が露わになる。

「……やったの?」

 巨大な砲台こそ消えていたが、他は変わらず両者は向かい合って立っていた。
 と、思ったのも一瞬。
 マミの足が震え、膝から崩れ落ちた。

 飛ばされた槍の穂がマミの左肩と右足の太股を貫いていたのだ。
当然、白いブラウスは赤く滲み、出血はブーツの中にまで伝い落ちている。
 今も穂が突き刺さったままの傷口は見ていて痛々しい。
特に太股の出血は酷く、いかに魔法少女といえども治療しなければ危険だろう。
 それなのにマミは両膝をつき、右手に持ったマスケットで辛うじて姿勢を支えながら荒い息を吐くばかりだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 00:05:17.18 ID:AD0JWSFBo<>
「嘘……」

 愕然とするマミは力なく項垂れる。
 ティロ・フィナーレが相殺された。
 全力だった。
 絶対の自信を持ち、ありったけの魔力を注いだ切り札だったのに。

 今、マミの戦意は潰えかけていた。胸の闘志の炎は風前の灯火。傷の痛みより何より、目の前の怪物が理解できなかった。
 これでホラーが無傷だったなら、妙な話だがまだ理解できたかもしれない。完全に相殺されたか、かわされただけだと納得もできた。 
次は回避されないよう当てればいい。
 なまじ手応えがあったからこそ、マミは困惑していた。

 必殺のティロ・フィナーレを前に、ホラーも無傷とはいかなかった。それどころかダメージはホラーの方が大きい。
 辛うじて逸らすのが精々だったのだろう。
光弾を相殺しきれず、普通なら――普通という言葉がそもそも彼らに通用するかはともかく――魔女であったとしても瀕死の重傷。

 しかし、眼前の怪物はどうだ?
 焼け爛れた右半身。右腕は吹き飛んで跡形もない。眼窩も抉られたのか、ギョロッとした右眼が半ば露出していた。
 焦げた肉から立ち昇るのは、吐き気を催す異臭を放つ煙。
 右半身の各所から黒い体液を噴き出しながらも――ホラーはなお悠然と立っていた。

 結果だけ見れば痛み分け。いや、ティロ・フィナーレは完全ではないにしろ、十分な効果を発揮した。
 だとしても、マミは膝を屈しホラーは立っている。この現場を見て、マミが優勢と判断する者はいないだろう。
そして最もマミの絶望を煽るのは、ホラーの負った深手が徐々にではあるが確実に再生を始めていることだった。

「化物……」

 今さらわかりきった事実。
 どうすればいい?
 どうすれば、この化物に勝てる?
 知恵を振り絞って考える。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 00:06:54.18 ID:AD0JWSFBo<>
 無理だ。

 この傷で、魔力を大量に消費した状態で、どうやっても勝てる術が見つからない。
 マミの心を支配する恐怖。一たび恐怖が顔を出せば、次に生まれるのは怯懦と相場が決まっている。
 生き残る目があるとすれば手段は一つ。

 逃げるしかない。

 なりふり構わず、何もかもかなぐり捨てて。
 自分以外のすべてを犠牲にしてでも、みっともなく尻尾を巻くしか。
 まだ魔法少女はいる。消耗した自分がいても足手まといになるだけ。後輩二人も逃げ始めている、なんとかなるだろう。
 自分への言い訳なら、幾らでも湧いて出た。

 ホラーは動かない。嬲り殺しにでもするつもりか。
 自然と膝が浮く。
 腰が引け、足が逃げ出す為に後退りを始める。
 太股に激痛が走るが、まるで気にならなかった。

 マミが反転し、駆け出そうとした瞬間――。

「さやかちゃん! 大丈夫!? しっかりして! さやかちゃん!!」

 耳に届いたのは悲痛な叫び。目に映ったのは力なき少女の涙。
 床に倒れていたのは、まどかとさやか。
 何故、彼女らがまだこんなところにいるのか。
 考えるよりも先に、マミの足は意思に反して踏み止まっていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 00:32:21.78 ID:AD0JWSFBo<>
 ただでさえ、腰が抜けかけていたのに。
 逃げようにも暗闇で足下も定かでなく、そこかしこに転がる瓦礫で足取りは覚束ない。
仕方なく、さやかとまどかは円形のフロアの外周に手をついて逃げるしかなかった。
 今もマミとほむらとホラーの激しい戦闘は続いている。
 反響して耳がおかしくなりそうな銃声と、それを上回る咆哮とも思える怪物の悲鳴。
聞こえる度に身体が竦んでしまう。特にまどかは顕著だった。
 
 銃声が聞こえて数十秒、不意に周囲が明るくなった。
 原因はマミだった。
凛々しい顔つきが、巨大な砲台の先から溢れる光に照らされていた。
 光はさやかの元まで届き、ホラーの姿もぼんやり照らし出している。
さやかは恐ろしさと醜悪さに目を背け、まどかに視線を戻すと、彼女はマミに目を奪われていた。
逃げることも忘れて。

 確かにマミは美しかった。それでいて、かっこよかった。
夢見がちなまどかが憧れるのも頷ける。
 あの砲台はいわゆる必殺技というヤツなのだろう。
これで終わってくれるんだろうか。マミが終わらせてくれるんだろうか。
 さやかはそんなことを思い、恐怖を堪えてホラーに目を移すと、

「駄目!!」

 直後に転校生、暁美ほむらが叫んだ。
 ホラーの両肩と腰から突き出す突起。すべてが一斉にマミの砲台に向いていた。

「ティロ・フィナーレ!!」

 掛け声と共に撃たれる光の弾丸。同時に、ホラーの腰と両肩から何がが飛んだ。
 何が飛んだのか、考える間もなく光が爆ぜる。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 01:16:07.26 ID:AD0JWSFBo<>
「きゃっ――」
「うぁっ――」

 まどかの声なのか、自分の声なのかも判然としない。正しく声が出ていたのかさえも。
轟音と閃光と熱風で何もかも曖昧になった。
 キーンと耳鳴りがして頭が痛い。眩しくて目も開けられない。
 さやかにわかったのは、ホラーから撃ち出された何かが、マミの必殺技を迎撃したことだけ。

「まどか! 大丈夫!?」

 返事はない。届いていないのか、たとえ返事があっても聞こえないだろう。
 とにかく、すぐ側にいたのは確かなのだ。
 触感しか頼れるものがなく、さやかは片耳だけ押さえて手探りでまどかを探す。

 向きは変わっていなかったので、すぐに手は彼女を探り当てた。
 制服の感触と、布越しの温もり。間違いない。
感じられる確かなものを離すまいと抱き締めようとした、その時だった。

 ヒュンと耳元を掠める音。耳朶を実際に掠りでもしたのか、耳鳴りの最中でも感じられた。
 何かが飛んできている。疑いはすぐに確信に変わった。

「痛っ!」 

 耳を押さえていた手に感じる痛み。
それが光弾と激突して砕けた刃の破片であると理解するより早く、寒気が駆け抜けた。
 ここは危険だと、本能的に感知する。

「まどか伏せて!!」

 言うが早いか、まどかを突き飛ばして、自分も上に覆い被さる。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 02:03:49.33 ID:AD0JWSFBo<>
 直後、さやかのいた場所を飛散した無数の破片が通り過ぎた。
間一髪――とはいかなかったようで、さやかの左足のふくらはぎに破片が一つ突き刺さる。
 かなり無理な体勢を取ったせいか、右足首が変な方向に曲がったのを自覚する。
どうやら挫いたようだ。

「さやかちゃん……?」

「まったく、鈍臭いんだから……」

 不安そうに尋ねる親友に呆れ顔で、しかし明るく振舞って見せた。
 彼女の性格はよく知っている。
 内気で臆病。それでいて心優しくて友達想い。
人一倍、他人の痛みや苦しみ、悲しみに敏感で、誰かの為に涙を流せるタイプ。
 知っているからこそ、この極限状況で不安にさせたくなかった。

「うん、ごめんね、さやかちゃん。それと、ありがと」

「いいって。それよりも早く逃げよ?」

「うん、そうだね……って」

 そう言ってまどかは立ち上がろうとし、苦笑する。

「さやかちゃんが退いてくれないと私が起き上がれないよぉ」

「あ、うん……そうだった……」

 さやかも苦笑いで返す。ただし、苦し紛れの引きつった笑いで。
 まどかの顔の横に手をついて身を起こそうとし、

「っぐぅっっ――!」

 突っ張れずに、彼女の上に崩れる。思ったより腕の傷が深かったようだ。
 両足を支えようにも、まるで力が入らない。もう全身で痛くない場所などなかったが、
特に両足は今も疼くような激痛を訴えている。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/15(金) 02:55:45.11 ID:AD0JWSFBo<>
「ごめん……ちょっと……無理、かも……」

 笑顔を作ろうとしたが、今度は形にならなかった。

「さやかちゃん!」

 只事ではないと察したまどかが、さやかの下から慌てて這い出る。
 全身は熱いくらいなのに、どこか寒くもあるような変な感覚。
ひんやりしたタイルは心地よかったが、やはりまどかの上の方が柔らかくていい。
 こんな状況で何を考えているのか。
 内心で自嘲しつつ、さやかは火照った頬を冷たい床に当てたまま、動けなかった。

「さやかちゃん! 大丈夫!? しっかりして! さやかちゃん!!」

 揺さ振られても答えられない。
 ぼやけた視界で見たまどかは、目にいっぱいの涙を湛えていた。

――ああ……やっぱり泣かせちゃったか……。

 彼女の泣き顔を見ていると、やるせなさが胸に溢れてくる。
 どうして泣かせてしまうんだろう。
自分には彼女を庇う程度しかできなくて、助けることも涙を止めることもできやしない。
 無力な自分が無性に悔しかった。 

「頑張って、さやかちゃん。今度は私が助けるから……!」

 励ましながらまどかはさやかを背負おうとするが、立ち上がることもできずに潰れてしまう。
 当然だ。彼女はさやかに比べ、小柄で力も弱い。脱力した身体を背負える訳がない。
 だが彼女は諦めない。何度でも腕を肩に掛け、必死に背負おうとしている。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/15(金) 02:58:23.20 ID:AD0JWSFBo<> また中途半端で申し訳ありませんが、一旦ここまで。
明日こそ切りのいいところまで進めます。
ちょっとくどいかなぁ、とは思うのですが…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/15(金) 03:00:01.40 ID:/kVGLGFP0<> 乙
鎧はまだお預けか <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/15(金) 03:30:27.55 ID:AD0JWSFBo<> 追記:また忘れていましたが、>>279と280の間に視点変更があります
わかりにくくてすみません

>>284
もう少しお待ちください。なるべく追い詰めてから出そうかと <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/15(金) 03:51:08.49 ID:Og14GDhs0<> 乙!
魔法少女に対してホラーは完全に天敵なんだね
まあ、基本的には完全に倒す事は出来ずソウルメタルに封印して魔界に強制送還させるしかないような奴らに対してどうしろって話だわな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/15(金) 09:20:04.26 ID:VzdMYOzko<> 乙でした

鎧召喚→処刑タイムな印象あるんで溜めて出したほうがキター!感がありますよねww
まあ牙狼後半にもなると敵がどんどん強くなってきてその感じは薄れましたけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/15(金) 21:28:25.49 ID:/kVGLGFP0<> 99.9秒しかないもんね! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/07/15(金) 21:43:29.53 ID:Dx4El9TU0<> 乙です

ホラー強いなぁ……ここで零が出て来て鋼牙の見せ場を奪ったらワロスwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/15(金) 22:15:41.90 ID:lVs8QskGo<> さやかとの関連フラグ立ってる鋼牙か、マミさんとの関連フラグ立ってる零か。
零も意外と近くにいそうだしねぇ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/07/15(金) 22:26:47.71 ID:58Ccrwxyo<> まさかの弾 <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/16(土) 19:10:21.52 ID:GAx2wn8ro<> コメントありがとうございます。
今日(本当は昨日)のうちに投下するつもりでしたが、諸事情で投下は深夜か明日の夜になりそうです。
書きたい内容が膨らんでいるのもあって、もう少し掛かりそうですが、来週には一区切りつけたいです。
読んで下さっている方には申し訳ありません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/07/17(日) 11:45:10.31 ID:C1zQWC63o<> 魔法少女も追い詰められるけど
鎧はまだか鋼牙はまだかと追い詰められる読者・・・!げ、限界だァァ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:48:10.52 ID:fVXxj72Eo<> 遅くなりました
17時からノンストップで書いてたのに結局いつもの時間
その分、いつになく長いですが投下します
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/17(日) 23:49:51.28 ID:fVXxj72Eo<>
 その横顔に胸が締め付けられた。

――あたしは大丈夫。だから、まどかは先に逃げて。
 そう言えたなら、どれだけかっこよかっただろう。 
 でも言えなかった。どれだけまどかを危険に晒していたとしても、側にいてほしい。

 もし独りになってしまったら、きっと怖くて、心細くて、寂しくて。
 ギリギリで保っている緊張の糸が切れて、子供みたいに泣き喚いてしまう。
 なら、せめて今のあたしがまどかにしてあげられることは――

「まどか、もういいよ」

「え?」

 さやかは顔を真っ赤にして踏ん張っているまどかの腕をそっと解いた。
背中から降りて足を着くと、鈍い痛みで身体が強張る。立っているだけでも辛い。
 でも、まどかに無理をさせる方が苦しかった。
 自由になる右腕だけまどかの首に回して、

「っく……うん、これで大丈夫。さ、行こう」

 そっと口の端を持ち上げた。
 体重の半分をまどかに預けてもまだ足は痛んだが、今度は上手く笑えたと思う。
 まどかも意図を理解したらしく、回された腕の上から、さやかの肩に手を掛けた。

「うん、急ごう」

 生きる為に。
 二人で元の世界に、光の当たる場所に戻る為に。
 少女たちは歩き出した。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/17(日) 23:51:54.10 ID:fVXxj72Eo<>
 一歩一歩、踏み締めるように歩く。ゆっくりではあったが、確実に前に進んでいた。
 二、三歩進んだあたりで、ジャリッと破片を踏む音と気配に振り向く。
 まさか、あの怪物だろうか。マミの必殺技を受けて、生きているのなら――そういえば、マミはどうなったのだろう。
 揃って戦々恐々としていると、

「あなたたち! 何してるの、早く逃げなさい!」

 姿は見えなかったが、強い声は確かにマミのもの。無事だったのだ。
 まどかは、ほっと安堵の息を吐きながら尋ねる。

「マミさん……無事だったんですか?」

「……ええ、大丈夫よ。全然平気。でも、まだ怪物は生きている。
さ、このまま真っ直ぐ行って。すぐ片付けて後を追うから」

「はい、ありがとうございます!」

 マミは爆発に巻き込まれたかに見えたが、力強い声で導いてくれた。
 良かった、本当に良かった。
 不安が一つ解消され、まどかの顔から笑みと涙が一緒に零れる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:52:37.87 ID:fVXxj72Eo<>
――これなら大丈夫かもしれない。
マミさんとほむらちゃんが力を合わせて、あの怪物を倒してくれて、きっと家に帰れる。いつもの日常に帰れる。
 あ、でもその前にさやかちゃんを病院に連れて行かなくちゃ。
 明日になったら、マミさんとほむらちゃんにお礼を言って、それから、それから――

 自分で自分を鼓舞しながら、まどかは歩を進める。足取りは強く、さやかの重みも気にならなかった。
 もちろん、隣のさやかを気遣うことも忘れない。
 
「さやかちゃん、もうちょっとだからね」

「うん、ありがと。って……ねぇ、まどか……」

 顎をしゃくって前を示すさやか。従って目をやると、生き残っている非常灯の前に人影があった。
 進むうち、徐々に明らかになる。長い黒髪と、白と薄紫の服。てっきりマミと一緒に戦っているものと思っていた少女。

「ほむらちゃん……?」 

 暁美ほむらが待っていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:54:42.99 ID:fVXxj72Eo<>
*

「ふぅ……行ったわね」

 二人がゆっくり遠ざかっていくのを確認して、マミは息をついた。
 痛覚を麻痺させることで、痛みはほぼ緩和できた。しかし傷口の、特に太股の出血は如何ともし難い。
当然だ、槍が刺さって穴が開いているのだから。

 動脈を貫いている槍の穂を抜けば出血が酷くなるので、敢えてそのままにしてある。
なので、あまり激しい動きはできそうにない。拘束魔法を使えない相手には致命的と言えよう。大技も二度は通じない。
 圧倒的に不利な状況。だというのに、マミは不思議と落ち着いている。
 腹を括ってみれば意外と心穏やかだった。ただ諦めただけとも言えるが。
 
『君は逃げなくていいのかい?』

「キュゥべえ……もう大丈夫なの?」

 足下に見慣れた小動物。
治療の途中から突発的な事態が続き、まどかたちに託す間もなく、物陰に隠していたのだ。
 あれから気に掛ける余裕もなかったが、どうやら巻き込まれずに済んだらしい。

『うん、なんとかね。動けるようになったのはついさっきだけど』

「何にせよ、無事で良かったわ。あなたも早く逃げて」

 動かないホラーと正対したマミは、ホラーから視線を外さずに答えた。
 果たして動かないのか、動けないのか。再生の為に止まっているのだとすれば、待つのは不利になる。
 逆に様子を窺っているのだとすれば、こちらから仕掛けるのは危険。
 マミは二つの選択肢を天秤に掛け、キュゥべえとの、ひとときの会話を選んだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:56:09.65 ID:fVXxj72Eo<>
 どうせ留まって戦うと決めた時点で、生き残れるとは思っていない。数秒の違いで覆せる戦力差とも。
 足の傷も同じ。治療すれば攻撃に回す分の魔力が減る。
 ならば後先など考えず、この身体が動く限り戦うのもいい。

 そもそも何故こうなったのか、マミは胸中を振り返る。

――倒れた二人を見た瞬間、勝手に逃げ足が止まった。
 その時、私は本心を悟り、身を呈してホラーを食い止めようと決めた。
 鹿目さんや美樹さんの為じゃない。あの子たちにそこまでの愛着はない。

 キュゥべえの為。
もちろん、それもあるけど、最たる理由は意地。或いは妄執。いいえ、呪縛かしら……。

 人を守る正義の魔法少女として戦う。
 それだけが私のアイデンティティ。
 たった一つ、世界と繋がっている証明。
 他には何も残ってないと気づいてしまった。

 けれど、ここで二人を見捨てて逃げれば否定したことになる。
 そうなれば私は死んだも同然。
 だから逃げられなかった。ここで死ぬとしても――
 
『どうして死ぬとわかってて……僕には君が理解できないよ』

「そう……あなたにはわからないでしょうね」

 結局、最後まで彼と真に心を通わせられた実感はない。
 もっとも、こんな自身の恥部を理解してほしくもなかったし、理解できないのも当然。
 高潔な自己犠牲とは程遠い。美談にもならない。これは歪み。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:58:26.77 ID:fVXxj72Eo<>
 人を守ると言いながら、人を見ていない。大事なのは人ではなく役割なのだ。
 魔女と戦う使命に疲れただの、本当は嫌だなどと苦悩していても、執着せずにいられない愚かな自分を知った。
 これを歪みと言わずして何と言おう。

『まどかとさやかを説得して、魔法少女になってもらおう。君を助ける為なら契約してくれるかもしれない』

 本当にそれだけ?
 あなたが契約したいだけではないの?
 問い正したくなったが、止めておく。
 彼とは友達でいたかった。道化でもいい。自分だけでも友達だと信じて別れたかったから。

「無理よ。出会って間もない人間を助ける為に命を懸けられる人間なんていないわ。
それにアレ相手じゃ多分、無駄になるだけ。逃げられる間は逃がしてあげて。
いざとなれば契約せざるを得ないんだもの」

 戦って初めてわかる。あの怪物、強さだけなら、これまで戦った魔女でいえば中の上程度。
 だが、あれは魔女とも魔法少女とも異なる理で動いている気がしてならない。
故に、あれを倒せるとすれば、同じ理の内にある者だけだろう。

「でも、それじゃ君が死ぬことになるよ。それに、まどかなら、きっと――』

「もういいの。あなたも行って。色々あったけど、あなたに会えて良かった。ありがとう……さようなら」

 キュゥべえの言葉を途中で遮り、マミは一方的に別れを告げた。
 あれこれ考え出して、迷いが生まれるのが怖かった。
 ちっぽけなプライドと与えられた役割だけを後生大事に守って死んでいく。それでいい。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/17(日) 23:59:09.74 ID:fVXxj72Eo<>
 キュゥべえは説得を諦めたのか首を横に振り、

「そうか……わかったよ。さよなら、マミ」

 別れを告げると走り去った。途中、一度だけマミを振り向いて。
 すぐに闇に掻き消えた白い身体を見送りながら、マミは寂しく微笑んだ。

――思えば、私の戦いはキュゥべえに捧げる恩返しであり、支払うべき対価だった。
でも、それも今日で終わり。
私は最後の最後まで、あなたのくれた使命を全うするから――

 キュゥべえが去ると、ついにホラーが動き出した。
 マミは周囲にマスケット銃を召喚。一挺を手に取り、クルリと一回転させて言い放つ。

「さぁ来なさい、化物。相手になってあげるわ……!」

 肩と足を貫かれ、血塗れの衣装でありながらも、彼女は堂々と気高く在った。
 その胸に悲壮な決意を抱いて。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:00:44.89 ID:+Mm03LLgo<>
*

 ほむらは握り締めた拳を震わせた。
 満身創痍のマミを見たほむらに、最初に沸き起こった感情。
 それは怒りだった。
 決着を急いだマミへの。何よりも無暗にホラーを挑発し、マミを止められなかった自分への。

「だから駄目だと言ったのに……!」

 回避と防御に専念していれば、防げない攻撃ではなかった。
 引きつけつつ、深く切り込まずに時間を稼ぐだけでよかった。
 待っていれば、必ず彼が来るはずだったのに。必ず、助けに来てくれるはずで――。

「でも、来ないじゃない……」

 ぽつりと呟く。
 ほむらの憤りの、もう一つの理由。
 いつまで待っても現れない鋼牙への苛立ち。
 信じる気持ちが揺らいでいた。

 あと何分何秒待てばいいのだろう。 
 もう一分一秒だって待てないくらい限界なのに。

 鋼牙は当てにせず、自力で対処すべきだろうか。
 そう考える頃にはもう、取れる手段はないに等しかった。
 いつの間にか鋼牙に頼ることばかり考えて、他の対策を講じもしなかった。

 握り締めた拳を開き、額に手の平を勢いよく打ちつける。
 激しい自己嫌悪。
 こんなにも自分を憎んだのは、魔法少女になったあの日以来。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:02:56.57 ID:+Mm03LLgo<>
――私のミスだ。そのせいで、何もかも手遅れになってしまった。
 私はこんなふうに他人に依存する人間だったろうか。
 私は、いつからこんなに愚鈍で他力本願になったの?
まるで昔の私のよう。あの時からまったく変わってないじゃない……!

 巴マミは正しかった。結果はどうあれ自分だけを信じて、敵を倒す為に戦っていた。
 間違っていたのは私。あんな男、最初から信用するべきじゃなかった!
 今日出会ったばかりの人間に勝手に期待して、勝手に失望して……馬鹿みたい――

 額に手を当てて数秒、ほむらは首を振った。
 反省も後悔も後だ。ついさっき、マミにそう言ったばかりではないか。
 今からでもできることがある、まだ一つだけ残っている。

 目的を思い出せ。何故、自分がここにいるのかを。
 ホラーに勝てなくとも、優先順位の一番大事なものだけを守れればそれでいい。

 あの日、決めたのだ。
 もう誰にも頼らないと。
 たった一つの大切なものを――鹿目まどかを守る。
 他のすべてと引き換えにしてでも。

 改めて心に誓うと、ほむらはまどかの前に立った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:04:08.11 ID:+Mm03LLgo<>
*

「あ、ほむらちゃん……どうしたの? マミさんは……」

 何故か待っていた少女に戸惑いながらも、まどかは彼女の名を呼んだ。
 ほむらは答えず、まどかとさやかに近付くと、

「まどか、手を貸して」

 簡潔な一言と共に手を差し延べた。静かなのに語気ははっきりと、有無を言わさぬ雰囲気がある。

「え? あ、うん。代わってくれるの? でも私はまだ大丈夫だから、ほむらちゃんはそっち側を――」

 まどかはさやかに肩を貸す役を交代すると解釈し、もう一方の腕を差す。
 しかし、ほむらはそれを無視。黙ってまどかの首に回されたさやかの腕を外すと、まどかを押し退けた。

「……え?」

「ほむらちゃん……?」

 困惑の声を上げるさやかだったが、抵抗もできず為すがままになっている。
まどかもまた、真意が理解できず混乱するしかない。
 ほむらは掴んだ腕を首に回すことなく、暫しの沈黙の後、手を放した。

 突然支えを失ったさやかはバランスを崩す。
まどかは助けようとしたが、ほむらに手を捕まえられた。
 さやかは両足に掛かった負担で立っていられず尻餅をつく。

「痛ぅっ……!」

「ほむらちゃん、何するの!?」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:05:26.44 ID:+Mm03LLgo<>
 まどかの抗議に耳を貸さず、ほむらはさやかを見下ろした。
 その眼差しは、いつもの如く細波一つ立っていない。
 違うのは、何かを堪えているような微細な手の震え。

「許してとは言わないわ…………ごめんなさい」

 押し殺した声で言うなり、ほむらはまどかの手を引いて走り出す。
同時に左腕の盾に触れ、中心の砂時計を傾けると、ほむらの魔法が発動する。
 魔法の正体は時間操作。
 今、ほむらと手を繋いでいるまどか以外の時間は停止している。

 もっとも、まどかは知る由もなく、ただ転ばないよう足を動かすので精一杯だった。
 立ち止まろうとしても、細腕に似合わぬ強い力で引きずられてしまう。

「待って、ほむらちゃん! どうしてさやかちゃんを置いていくの!?」

 歩くのも困難な怪我人を、こんな場所に置き去りにすることが何を意味するか。
 わからないはずがない。
 だが、ほむらは答えなかった。

「駄目だよ……こんなの酷いよ! 止まって! 止まってよ!!」

 こうしている間も、どんどん距離は開いているのに。
 ほむらは前方を見据え、まどかを見ようともしない。
 唇をきつく噛み締め、ひたすら強引にまどかを連れて走る。
 
「お願い! マミさん……誰か、誰でもいいから――さやかちゃんを助けてぇぇぇぇぇ!!」

 まどかは力の限り叫んだが、静止した時の中で、その声がほむら以外に届くことはない。
 せめてもの祈りを込めた叫びは、空しく闇に吸い込まれていった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:07:17.79 ID:+Mm03LLgo<>
*

 さやかが我に返った時、既にまどかとほむらの姿はなかった。
 何が起こったのだろう。ゆっくりと記憶を辿る。
 確かほむらに組んだ肩を解かれ、バランスを崩して転んだ。そして、ほむらはまどかと手を繋いで――。

「まさか……」

 さやかは両手で身体を掻き抱く。
 背筋が凍った。寒くもないのに震えが止まらない。

――あり得ない。そんなこと、ある訳ない。でも、それならどうして……まどかはここにいないの?
 
 必死に言い聞かせても疑念が拭い切れない。
 意識が途切れたのは一瞬。と言っても、まどかの姿を探すまでに数秒のラグはあったかもしれない。
 こっそり遠ざかる時間は十分にあった。

 非常灯があっても視界が利くのは数メートル。
 近くではマミがホラーと戦っていて、銃声がひっきりなしに聞こえてくる。
 視界から消えれば、多少の足音はわからない。 

 すべての状況証拠が、ある一つの事実を示している。唯一、理由だけを除いて。
 それでも、どうしても信じられなかったし、信じたくなかった。


――まどかが……あたしを見捨てて逃げるなんて。


 さやかは首を振って馬鹿げた想像を振り払おうとする。
 けれども恐怖は正常な判断力を奪い、侵食する暗闇は振り払った疑念ごとさやかを押し潰す。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:08:28.26 ID:+Mm03LLgo<>
 強引に連れ去られたのだとしたら、どうして悲鳴の一つも聞こえないのか。
ほむらがそんなことをする理由も思いつかない。
 やはり、二人して足手纏いを捨てて逃げたのでは――。 

 もしそうだとしても、誰にも責められない。頭ではわかっているのに。

「どうして……こんなの嘘だよね?」

 涙が溢れて止まらない。
 呪文のように呟く「嘘だ」は、次第に嗚咽に変わる。

「行かないで……あたしを独りにしないでよ……まどかぁ……!!」

 二人だから辛うじて保てていた緊張の糸が、ついに切れてしまった。

 悲痛な叫びに応える者はいない。
 残ったのは暗闇だけ。
 聞こえるのは銃声だけ。
 
 さやかは、か細い明りに縋るように壁にもたれ、膝を抱える。

 もう何も見えない。
 もうどこへも行けない。
 
 顔を伏せ、すべてを拒絶すると、後はもう泣きじゃくるだけだった。



一人は使命に殉じ、一人は救いを待たず自らの力で足掻き、一人は絶望に暮れ、一人は救いを求めた。
いずれにせよ、その先に希望など待っていないことは誰もが予感している。
そして、希望の名を持つ騎士はまだ、現れない。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/18(月) 00:12:05.49 ID:+Mm03LLgo<> ここまで。次も日曜夜を目標に。

鋼牙は使い魔と戦っています。決して出待ちではありません。
一話目から無理やり詰め込んでいますが、サブタイトル通り、いろいろ終わるところから始めたかったのです。
それと牙狼本編は基本的に鋼牙の視点で進行していますが、鋼牙が知らないところでも人は喰われてるんですよね。
この話では鋼牙がいなければ(来なければ)どうなるかを書きたかったので。そんな視点で読んでいただければ幸いです。
でも今回は強引だったかも……次回こそ

>>286
ということで、陰我と融合したホラーは鎧を召喚した魔戒騎士でないと倒せない(一部例外を除く)
というルールを独自に設定しました。

>>293
すみません。次回を乞うご期待です

たくさんのコメント、ありがとうございます。
ホラーの名前はいろいろ考えたのですが、なかなかそれっぽい名前が浮かびません。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/18(月) 00:26:08.07 ID:S/lBnj2n0<> 乙!
しかし今の所全速力で虚淵ルートを走っている気が……
雨宮ENDへの希望は存在しないのか…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/07/18(月) 02:19:51.03 ID:ZxEbMS0A0<> 投稿乙です!
鬱フラグクラッシャー鋼牙に期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/07/18(月) 07:03:22.09 ID:Jv0Rv5270<> 乙
終わるところからかぁ
終わったっぽいもの……さやかとまどかの友情
まどか、さやか→ほむらの好感度、ほむら→鋼牙の信頼度
人間関係のもつれまでは牙狼にも断ち切れないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2011/07/18(月) 08:16:02.92 ID:QxlyCX7z0<>
乙だぜ

、事は鋼牙はマミさんが死んでから現れるのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2011/07/18(月) 10:58:14.20 ID:q2iQXeYv0<> 乙です

マミさんには死なないで欲しいけど……さやかも悲惨な事になりそう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/18(月) 19:36:14.33 ID:Fjp4hnuDO<> 乙です。

現状悪化しかしていないな……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/07/18(月) 21:26:14.30 ID:+tZvxcuio<> 乙
現状悪化の原因が8割方ほむほむのせいな件 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/18(月) 21:54:49.67 ID:m9htl0bko<> だがほむほむが気づかなければホラーのせいでデッドエンドまっしぐら。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/19(火) 02:01:24.70 ID:6u/p8hS00<> 良かれと思った行動がどんどんマイナスに……まさに虚淵テイストだねぇ
このまま人間関係がどんどん悪くなって陵辱されたりビッチになったりで最終的に一人二人ぐらいしか生き残らないのが虚淵の鉄板なんだが、はてさて <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/20(水) 00:48:18.50 ID:KXrLmyzzo<> それでも鋼牙なら……鋼牙ならきっと何とかしてくれる…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/07/21(木) 03:57:48.21 ID:OCl2rPTa0<> ハッピーエンドになる気がしない……
大丈夫なのかこの物語は? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 07:44:39.29 ID:DiDduIEEo<> 大丈夫だ、そのための牙狼成分じゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(島根県)<><>2011/07/21(木) 15:56:37.28 ID:LTXdEl6M0<> おいおい、あいつらは守りし者だぜ?
必ず助けるさ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/07/22(金) 02:38:27.81 ID:pptepkzl0<> ガルムが肉体をとっかえているから、魂に関する術とかはありそうだからソウルジェムを肉体に戻すこともできそう。

ただ、それまで生きていられるか。
魔戒法師を連れてこられるか、日常で生きられるか(とくに身寄りがない杏子)、周囲に鋼牙がロリコンと言いたそうな白い目で見られるか。
とかが問題になりそう。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/24(日) 23:45:02.22 ID:p/nmQMuUo<>
 闇の中、ほむらは走っていた。手を握っているまどかが悲鳴を上げるも、顧みることはない。
 今は一刻も早くここから逃げる。
 それがすべて。
 しかし思う。一体、何から逃げているのか。何を振り切ろうとしているのだろうと。

 ホラーから。
 それもあるが、奴はすぐには追ってこないはず。
 では、他に何があるというのか。

 あるとすれば、それは見捨ててきた二人の少女と、自身の罪。
 さやかとマミが追ってくる訳ではない。おそらく、彼女らとの生きて再会はあり得ないだろう。
まどかを安全な場所まで送り届けた後は戻ってくるつもりだが、到底間に合うとは思えない。

 だからこそ幻影はいつまでも付き纏ってくる。ほむらが記憶している限り。
 何もかも覚悟の上でやったこと。だが、ほむらは実行に移せる程度には冷徹だったとはいえ、
心まで無感動でいられるほど割り切れてはいなかった。

「待って、ほむらちゃん……! ハァ、お願いだから……」

 まどかが息を切らして、声を涸らして、なおも懇願する。
既に抵抗らしい抵抗はなく、声には疲労が色濃く出てきている。
 消耗しきったまどかを見ても、ほむらは速度を落としこそすれ、止まりはしなかった。

 ホラーは追ってこなくとも、罪悪感は追ってくる。どこまでも、どこまでも。
止まれば呑み込まれる気がした。この深い闇の奥の奥まで引きずり込まれて。
 想像して寒気が走り、ぶるっと身震いした。

 ここは嫌だ。潜在的な恐怖を引き出すから。
 きっと、あのホラーに自分も恐怖していたのだろうと冷静に分析するが、
それで恐怖が払拭できるものでもない。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/24(日) 23:46:38.50 ID:p/nmQMuUo<>
 子供の頃、訳もわからず怯えていた。
 例えば星も月もない夜。
 押し入れのような閉じた暗闇。
 黒一色に塗り潰された空間。
 何もいないと理性で理解していても、本能が凌駕する。意識した瞬間、何かが生まれる。

 人は、本能的に闇を恐れる。
 足を止めれば、穴という穴から闇がぬるりと這入り込んで、身体を内側から腐らせる。
 まるでこの空間そのものがホラーの体内であるかのような、自分が溶けて消えていく錯覚。
 
 だからこんなことを考えてしまうに違いない。ほむらは、そう言い訳した。

――連れて逃げられるのは一人だけ。背負ったとしても追い付かれる可能性が高いと判断した。
 だから、私はまどかを選んだ。
 たとえ何を犠牲にしてでも、まどかだけは絶対に守る。私とまどかを含む、すべてを裏切ってでも。
 
 足手まといになるから。二人を連れて逃げるのは困難だから。
 切り捨てるしかない。神ならぬこの身には限界がある。私は悪くない。
 でも、本当にそれだけだろうか。

 巴マミは歪んでいる。薄々感付いてはいた。
 彼女は死よりも孤独を恐れ、生よりも使命を優先させるきらいがある。
 故に魔法少女としての信念を曲げようとはしない。
 ここに美樹さやかを残して行けば、巴マミは彼女を守らんと最後まで抵抗を続けるだろう。

 巴マミは時に御しにくく、障害になる危険性も秘めている。強いからこそ厄介だった。
そんな彼女を、ここで捨て駒として使う。逃げるまでの時間は十分に稼いでくれるだろう。

 美樹さやかはまどかの親友。直情故に精神的に追い詰められやすい彼女は、自ずと身を滅ぼす。
 それならここで死んでも同じ。そして彼女が消えれば、まどかの信頼と親愛を勝ち得るのは私。
 最初は憎まれたとしても、他に頼れる存在がいないのなら……。
   <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/24(日) 23:48:47.54 ID:p/nmQMuUo<>  
 私自身にも否定できないのだ。
 そんな薄汚れた魂胆と、悪魔のような打算が、心の奥底に潜んでいるかもしれないことを。
 まどかを連れて逃げた瞬間は意識していなかったものの、決してないとは言い切れない。
 私は今、考えてしまったのだから。意識した瞬間、それは生まれる。
 目を背けたい私の醜い部分が、この闇と引き合っている。
 
 私は、まどか以外の死に対して鈍麻している。
 見ず知らずの他人はもちろん、深く関わりを持つ魔法少女三人も例外ではない。
いずれ、まどかの死でさえも軽くなっていくのだろうか。

 こんな私は、巴マミ以上に歪んでいるのだろう。
 だからまどかを救えないのかもしれない。歪んだ欠片と正常な欠片は嵌まらない。
 私が最も恐れているものは、振り切ろうとしているものは、己が心の闇。
 私の中に確かにある陰――

 心の内面に潜ることに没頭するあまり、ほむらの注意はまどかから逸れていた。
 泣いていた彼女も、今は黙ってほむらに従っている。
 二人が分岐路まで差し掛かった、その時。
 ガクンッと、引いた手が突っ張り、後ろに力が掛かる。
振り向くと、まどかがつんのめり倒れるところだった。

「――うぶっ!?」

 止められなかった。突然の衝撃でほむらも面食らい、繋いだ手を放してしまう。
 急停止すると、まどかは顔面から派手に床を滑った。

「まどか! 大丈夫!?」

「いたたた……。うん、なんとか。ほむらちゃんは大丈夫……?」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/24(日) 23:49:54.88 ID:p/nmQMuUo<>
 助け起こすと、鼻と膝を赤く擦りむいたまどかが笑った。
 まどかは引きずられる覚悟で、力を抜いて全体重を預けた。
そんな状態で手を放されれば転ぶに決まっている。
 何故、そんなことを――決まっている。そうでもしないと止まらなかった。

「ほむらちゃん、やっと止まってくれたね」

「どうして……どうして笑えるの? 私を憎んだり怒ったりしていないの?」

 ほむらが戸惑いがちに問うと、まどかはキッと見返し、

「怒ってるよ! すっごく怒ってるけど……ほむらちゃん、とっても辛そうな顔してたから……」

「っ……」

 最後には切なそうに目を伏せた。
 ほむらは何も言えず、押し黙る。きっと、今は何を言っても言い訳になってしまう。
 まどかはふっと表情を弛緩させると、立ち上がって言った。

「ありがとう。私だけでも逃がそうとしてくれたことは嬉しい。
でも、ごめんね。私、やっぱりさやかちゃんを見捨てていけないよ……」

「無駄よ、あなたが行っても何もできない。二人揃って殺されるのがオチ」

「そうかもしれない。でも、行かなきゃ。マミさんが戦ってる、
こっそりさやかちゃんを助け出すくらいできるかもしれないし……」

 いつものおどおどした内気な少女の面影はない。さっきまでの泣き叫んでいた彼女でもない。
 膝から血を滲ませて、全身は小刻みに震えているのに。
 一しきり泣いた今のまどかは、怯えながらも凛としていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/24(日) 23:50:50.31 ID:p/nmQMuUo<>
「駄目よ。行かせないわ」

 だからと言って、死ぬとわかりきっている場所へ戻らせはしない。
彼女の意志がどれだけ強かろうが、現実は変えられない。
 手を掴み直して、まどかを引き留めるほむら。必然、見つめ合う二人。

「鹿目まどか。美樹さやかを助けたいなら方法はあるよ」 

 沈黙に割って入ったのは、女性のようでもあり少年のようでもある声。 
 まどかにとっては助けを求めてきた庇護の対象。ほむらには憎むべき敵。
 二人の間から見上げる形で、いつの間にか白い小動物が座っていた。
 
「あなた……確かキュゥべえ?」

「まどか……君には力がある。さやかやマミを救い、あの怪物を倒せる力が」

「私に……力が?」

 ほむらは一瞬で、キュゥべえの企みを見抜いた。
 いつもそう、こいつは最も効果的なタイミングで現れ、少女を誑かす。
取り分けこれは最高の、ほむらには最悪のタイミングと言えた。


「そうさ。だから……僕と契約して、魔法少女になってよ!」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/24(日) 23:52:21.14 ID:p/nmQMuUo<>
「黙りなさい」

 キュゥべえに拳銃を突きつける。これ以上、こいつに喋らせてはいけない。
 ほむらにとって、まどかの死と同じく絶対に防がねばならない事態。
それが、まどかとキュゥべえの契約。
 銃口を向けられても、キュゥべえは顔色一つ変えない。

「待って!」

 理由はすぐにわかった。
 まどかが腕に飛びついて拳銃を押さえてくる。
 これを予測してのこと。黙っていても、悪者になるのはほむらだ。

「ほんと? ほんとにさやかちゃんもマミさんも助けられるの?」

「もちろんさ。何でもいい。君が一つ願い事を決めれば、僕がそれと引き換えに君を魔法少女にしてあげる」

「私にも、私でも誰かを救える……」

「マミみたいに魔女と戦ってもらわなきゃいけないけどね。でも心配いらない。
君には素質がある。きっと最強の魔法少女になれる。無限の魔力、世界のすべてを変えてなお、あり余るほどの力だ」

 無機質に光る赤い目が、まどかを見据え、甘く囁く。
 まどかは目に見えて揺れていた。もう一押しで頷いてしまう。
 もう撃つしかない。
 ほむらはまどかを振り払い、引き金に指を掛けた。

 まどかが息を呑む。
 キュゥべえは動かない。命乞いもしなかった。
 沈黙は勝利を確信した余裕か。
 撃つがいい。彼女の信用を完全に失うだけだ。
 言外に宣言しているようでもあった。 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/24(日) 23:53:17.96 ID:p/nmQMuUo<>
 素早く連続した足音を耳が拾う。
 視界の端を、韋駄天の如き速さで白い影が駆け抜けた。
 こちらに気付いていないのか、気付いていて構う暇もないのか、分岐路から高速でほむらたちが来た方向へ去っていく。

「あれは――!」

 一瞬だったが、見間違うはずがない。
 腰に携えた赤い鞘、脛まであるロングコート。
 暗中を疾駆する剣士は、ほむらが待ち焦がれ、遂には待つのを止めた、あの男。

「どうして今さら……!」

 もう誰も頼らない。
 皮肉にも、誓った矢先に彼は現れた。
 何故、もっと早く来てくれなかった。そうすれば、こんなことをしなくてもよかったのに。

 忌々しく思うと同時に気付く。強く思えば思うほど、それが期待の裏返しだったのだと。
 それでいて撃つ寸前の緊張が解けているのは、まだ心のどこかで彼を待っていた証なのだと。

――捩じれて縺れた糸は、一度どこかで切らなければ正しい形に戻すことはできない。
それはまどかも、彼女たちも、この世界も、私自身も同じ。

 私は、待ち望んでいたのかもしれない。

 終わらない世界の旅を。
 絡まった因果の螺旋を。
 我(わたし)の陰を。
 心の闇を切り裂いてくれる存在を――

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/24(日) 23:56:41.71 ID:p/nmQMuUo<> 一旦ここまで。深夜にもう少し行ければ行きます
でなければ明日か明後日
土日と体調が優れず(というか単にずっと眠気が取れず)全然進んでなくて申し訳ありません
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/07/25(月) 00:06:13.50 ID:6Gywjl960<> 乙。体調不良ならば仕方が無い。御大事に <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/25(月) 00:15:52.46 ID:V7uWZQRQo<> 乙乙。
この時期体調崩すと大変だからお大事に。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/25(月) 01:09:08.97 ID:K+hgXWFWo<> お気遣いありがとうございます
それと、またコピペミスです。
>>328と>>329の間に

*

ほむらは指に力を込め――しかし、銃声が響くことはなかった。

*

て感じの一文が入ります
ご迷惑おかけします <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/25(月) 01:44:13.55 ID:DRi4o5rSO<> 作者殿乙であります。

何事も体が基本、無茶は禁物ですよ。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/07/29(金) 02:03:01.48 ID:2E9O0+Rlo<> 月曜か火曜と言っておきながら、ちょっと今日も投下できそうにないので業務連絡。
一番面倒な部分は越えたので、早ければ明日。遅ければ土日になってしまうかもしれません。
現時点で約5800字で8レス分なんで、多分15レスくらいは行くかも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/07/31(日) 22:08:03.11 ID:HA39iPaM0<> っまーつーわー
いつまでもまーつーわ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/07/31(日) 23:59:52.88 ID:sf8nTwBJo<> *

 もう何分経ったろうか。時間の感覚は、とうになくなっている。
 時間に意味はない。意味があるのは、耳を塞いでも入ってくる音だけ。

 パァン、と音がして、ブツッという音が続く。ひたすら、その繰り返し。
 マミのマスケットによる銃声と、ホラーの肉を穿つ音。
 時折、苦痛に喘ぐ声を伴った。ただし、それはホラーではなくマミの、である。

「くっ……いい加減、倒れなさいよ!」

 珍しく意味のある言葉が聞こえた。
 マミが戦っている。一秒でもホラーを押し止めるべく奮戦している。
 が、どうやら形勢は不利らしい。少しずつ音が近付いてくる。押されているのだ。
 マミの戦いは自分を逃がす為。知りながら、さやかは逃げようとしなかった。

 俯き膝を抱えても、現実は変わらない。そんなことはわかっている。
 絶望が心を覆っても、恐怖は消えはしない。でも逃げられない。
這ってでも逃げられるのに、すべて足の痛みのせいにして、震えながらうずくまる。
 涙で濡れた目蓋は閉じられたまま。どうせ映るものが暗闇なら、目を開くこと自体が無意味だ。

 この音は死へのカウントダウン。
 止んだ時が死ぬ時。
 着々と忍び寄る死を予感しながら、さやかは動かない。
 心が折れて、逃げる気力も叫ぶ気力も尽きた今、できることは現実を拒絶するのみ。
 心の底では来もしない救いを求めながら、殻に籠るしかなかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:04:00.90 ID:xyazy6L6o<> *
 
 マミは背後で静かに絶望する少女に気付かない。
 ありとあらゆる感覚は目前の敵に向けられ、背後を振り返る余裕などない。
一瞬でも目を逸らせば、ホラーの左腕に切り裂かれる。

 薄く平たい、剃刀の刃のような触手は広範囲をカバーしており、ホラー自体はほとんど動かない。
本体は俊敏な動作を必要としないのだ。射程に優れた触手がスピードも補っている。 
 運良く潜り抜けて懐に入ったところで、槍衾が待ち構えていて、しかも離れた敵には撃ち出せるのが厄介だ。
 攻撃は最大の防御を体現している。

 相性が悪い上に機動力を奪われ、切り札を使い果たしている絶望的な状況。
 できることといえば、紙一重で回避しつつ射撃しかない。
 しなやかな触手が、鎌首をもたげる蛇のような予備動作を経て襲い来る。
 マミはギリギリまで引き付け、横転。跪いた姿勢で射撃後、すぐさま銃を捨て、次の銃を取る。
 
 弾丸の一発は頭部を貫き、一発は人間なら心臓のあるべき位置に。いずれも黒い血液が舞うが、それだけだった。
 一撃が軽い。ダメージは与えているのだから、斉射すれば効果も望めるだろうか。
 思いついて即、首を振って否定する。

 理由は三つ。
 魔力の消費が大きい。
 下手に追い詰めれば手痛い反撃が返ってくると、身を以て知っている。
 攻撃に特化している奴は、確かに防御力は低い。しかし自分たち魔法少女の攻撃では、止めは刺せない。
マミは経験からそう推察した。せめてティロ・フィナーレが使えれば話は別だろうが。

 結局はこうして、ささやかな抵抗を続けるしかない。
 それでいい。捨て身の突撃は最後まで取っておく。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:06:08.32 ID:xyazy6L6o<>
 勝利条件は撃破でも生還でもない。二人の少女が逃げ切るまでの時間稼ぎなのだから。 

 彼女――ほむらと呼ばれていた魔法少女は逃げたのだろうか?
声が聞こえず、周囲にもいない。どうやらそのようだ。
 賢く、計算高い少女に見えた。
 責める気はない。生き残ることを優先する、人として当然の心理。

 流れ出る血液。
 募る徒労感。
 一歩一歩迫る敵。

 この有様を見れば、誰もが思うはず。無駄な努力だと。
 構うものか。馬鹿な奴だと笑いたければ笑えばいい。
 マミはいつになく充実していた。

 触手がしなり、地を這いながら薙ぎ払いにくる。
かわすには跳ぶしかないと、咄嗟の判断に従う。
 それが狙い。肉体の一部である触手は、僅かな筋肉の動きで容易く軌道を変化する。
 床で跳ねた触手は、空中で逃げ場のないマミの胴を再び薙ぐ。
 避ける術はないかに思えたが、

――今!

 マミの身体が、不自然な体勢から更に高く跳躍。
 跳んだというよりは、何かに引っ張られたかのような。
 天井から生えた黄色いリボンがマミの腹に巻き付き、引き寄せていたのだ。

 変幻自在な触手に対応し、なおかつ足に負担を掛けずに回避する為に生れた発想。
 これなら空中でも、如何なる体勢からでも機動性を得られる。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:08:43.89 ID:xyazy6L6o<>
 天井間近まで上ったマミだが、追撃は止まない。
猛追する触手に向かい銃撃するも、触手は器用に避けつつ、マミの死角となる真下から伸びる。
 胴に巻かれていたリボンが解け、代わりに足首に巻き付いたリボンが急速にマミの身体を引っ張り、
 目標を失った触手は軌道修正が利かず、そのまま天井に突き刺さった。

 床に激突する寸前で、マミは握っていたマスケットの銃把を叩きつけ、衝撃を軽減する。
 自分の身体を物として操作するのは、あまり試した経験がなかったが――悪くない。
 マミは死線に臨み、より一層、意識と戦闘スキルが研ぎ澄まされていくのを感じていた。

――不思議……。
 死んでもいいと覚悟して、最後まで使命に身を捧げると誓ったのに。
 それどころか、死ぬ為に戦っているようなものなのに――

 身体が勝手に動く。
 脳内麻薬が分泌され、心臓が忙しなく脈動する。
 滾る血液と共に、生の充足が全身に漲る。
 快感すら覚えていた。

――勝敗も、生死すらも関係ない。考える必要がない。
 戦って戦って、戦い抜いて、ただそれだけでいい。それが望む結果になり、成果になる。
 生きている。私は今、生きていると教えてくれる。
 私の人生は数年前に終わっているのに、今以上に実感したことはない。

 例えば時代小説の侍や、西部劇のガンマンというのは皆、こんな境地に立っているのかしら。
 生と死の境。
 これまで懐疑的だったけど、そこでのみ得られる何かがあると、今ならわかる気がする……。
 煩わしい何もかもから解放され、とても自由な気分。
 
 或いは、それは独りで戦って、独りで死んでいく寂しさを紛らわしたいだけなのかもしれないけど――
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:10:24.04 ID:xyazy6L6o<>  
 数十秒間、触手は自ら貫いた天井から抜けずにもがいていた。
 もがく間も、戻ってからも、マミは孤軍奮闘を続けた。
 リボンで自分を操作する戦法は有効だった。触手同様、変則的な動きを可能とし、予測が付き辛い。
難点は、強引に身体を引っ張るので少々の痛みが残ることと、衝撃を殺す必要があること。
 それでもホラーをかく乱するには十分。数分の時間は稼げたのだが。

 満ち足りた時間は長くは続かない。
 何度目かの攻防、マミは側転した直後、目頭を押さえる。立ち上がると視界が揺れ、霞むのを感じた。

「っ……! 血を流し過ぎたかしら……」

 朦朧とする意識を気力で支えるが、体力的にも限界に近く、最早マミはリボンなしでの回避が困難になっている。
 あと何回も持たない。おそらく二回か三回。
 八つ裂きか串刺しか、死に方の違いはあれど、死という結果は揺るがない。
 だが。

「まぁ……わかり切っていたことだわ」

――この程度では私は絶望しない。私は為すべきことを為したのだから。ここで斃れても悔いはない。

 そう自分に言い聞かせて、マミは毅然と銃を構えた。
 最後の瞬間まで生を輝かせる為に。
 ホラーを迎え撃つ。

 戦っている間もずっとマミは分析していた。奴の学習能力は低くない。むしろ高い。
 リボンの動きを捉えられず、かなり焦れているはず。
触手に対抗すべく編み出した戦法だが、完全に封じられるとは思えない。
そろそろ攻撃を線や点から、面を潰すように切り替えてきてもおかしくない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:12:11.57 ID:xyazy6L6o<>
 マミの危惧は現実になった。
 ホラーの触手が激しく波打ちながら床に穴を穿ち、コンクリートを抉り取りながらマミに迫る。
この苛烈な攻撃、間違いない。これで決める気だ。
 迎撃は無理。防御は論外。生半可な回避も通じない。

 しかし攻撃に専念しているなら、逆に切り抜ければ勝機はある。
 ありったけの銃を召喚して一斉射撃を喰らわせる。
成功してもどれほどの傷を負わせられるか、したとしても捨て身の一撃になるだろうが。
 
「やるしかない……!」

 ガガガガガッと道路工事のドリルを思わせる騒音。飛散する破片。
 すべて目くらましだ。恐怖を煽り、動きを鈍らせる為の。
 どれだけ素早くても、激しくても、触手は一本。
 でも潜り抜ける隙は一瞬。

 マミは天井から伸ばしたリボンで身体を吊り上げさせた。
 床を削りながら来るなら、まずは上から越える。
当然、触手は追い縋る。また天井に刺さって抜けなれば良かったが、流石に同じ手は二度と通用しない。  
 逃げるように、床から引いたリボンで急降下。

 前方に撃った弾丸から、さらにもう一本。
身体を引かせるが、触手とリボンでは、マミの体重も加わって前者が速度で勝る。
 しかもリボンは本来、拘束魔法である。引く力は強いが、拘束した物を多方向に動かす力は然程でもない。
なんとかして触手を離さなければ、追い付かれて背中から串刺し。

 斉射を狙うなら、全弾命中できる至近距離から。それにはまだ距離が足りない。
 触手が、マミの背中を一直線上に捉えた。
 徐々に距離を縮め、突き刺さる間際。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:14:17.61 ID:xyazy6L6o<>
 マミの身体が斜め後ろに飛んだ。

 腰にはリボンが巻き付いていた。この一本を引っ掛けた状態で、マミは移動していた。 
 リボンは無数に生やし使い捨てられるが、触手は一本。
 方向転換させた分だけ僅かながらロスが生じ、速度も落ちる。引き剥がすにはこれしか思いつかなかった。

 次が正真正銘のアタック。
 左腕には金糸が巻かれている。糸を辿った先は、ホラー近くの床に穿たれた弾痕。
最初は気取られぬよう細い一本だけだったが、その一本を伝って次々と本数は増え、
左足で床を蹴る頃には縄ほどの太さに到達していた。

 太さの分だけ、高速でマミを引き寄せる糸束。
翻弄された触手は完全に出遅れ、マミを刺すには至らない。
 後は金糸に身体を運ばせ、ホラーの眼前まで来たところで、急制動と同時に集中砲火を叩き込むだけ。
槍の放射と相討ちになるかもしれないが、二人を逃がす目的を果たせた今、
一矢報いることができたならそれでいい。勝利と同じ意味を持つのだ。

 後方から触手が追ってくるが、構わず金糸の根元を通過。
左腕はまだ糸と繋がり、右手は銃を取り出すタイミングを窺う。
 勢いを殺さず糸を伸ばす。全弾をぶち込むには、至近距離まで近付かなければならない。

 後少し。
 コンマ一秒が待ち遠しい。
 自ら死に向かっているというのに、マミの気持ちは前へ前へと進んでいた。

 ホラーの2〜3m前まで接近する。
 考える最適の距離。  
 ここでブレーキを掛け、銃を召喚する――はずだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:16:10.14 ID:xyazy6L6o<>
 突如、マミの身体はバランスを失い、床を滑る。
 ホラーの前を大きく逸れ、フロアの壁まで転がり、

「ぁぐっ!」

 後頭部を強かに打ちつけた。転がる間に太股の槍が深く刺さったことも相まって悶絶する。
 どこが痛いのかもわからず、全身で痛くない箇所はなかった。
 何が起こったのだろうか。苦悶しながらも状況を確かめると、明滅する視界に映ったのは左腕の切れた糸。

 一瞬で理解できた。
 ホラーは金糸の根元を切ったのだと。
 迂闊だった。これまでの傾向から、リボンによる身体制御が気取られていないものと勝手に思い込んでいた。
 何度か切断されても、それらは囮であったり、密かに予備を仕込んでいたりと備えはしていたのだが。

 とっくに見抜かれていた。
 それどころか待っていた、誘っていたとすら思える。
マミが余力のすべてを攻撃に回す時を。リボンや糸を切るだけで容易く姿勢を崩せる瞬間を。

「駄目だった……か」

 諦め混じりに呟く。
 もう身体に力が入らない。魔力も体力も気力も使い果たしてしまった。
 ギョロリと血走った眼がこちらに向く。どうやら、ホラーのほぼ真横の壁に激突したようだ。

――あぁ……やっぱり悔しいわね……。
 
 どうせなら力尽きるまで翻弄して、一矢報いてから「どうだ」と勝ち誇って死にたかった。
 そんな想いとは裏腹に、やり切った満足感もある。心地良い脱力が全身を支配していた。
まるで眠りに落ちる直前。この怪物に食われることだけは嫌だったが、他に不満はない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:17:59.20 ID:xyazy6L6o<>
――でも、これでいい。これで十分。私はやるべきことをやったのだから。安心して、胸を張ってパパとママの許に逝ける。

 緩やかに閉じた目から一筋の涙が伝う。口許を綻ばせるマミの表情は安らかだった。
 絶命の瞬間まで、幸せだった頃の想い出に浸ろう。
 これが最後なのだから。

 けれど、いつまで待っても最期の瞬間は訪れない。  
 不審に思い目を開くと、ホラーはマミを無視して歩を進めていた。
 時折、立ち止まってマミを見る。行かせていいのかと。あたかも挑発しているかのように。

「そんな……!」
 
 愕然とするマミ。顔色が見る見る蒼白に変わる。
 何故なら、ホラーの進む先には幽かな明かり。

 そして側には、親からはぐれた子供のように美樹さやかが膝を抱えていた。

「美樹さん、何をしているの! 早く逃げて! 逃げなさい!!」

 マミは叫んだ。声を振り絞って、喉を涸らして、力の限り。
 戦いよりも必死になって叫ぶのは、それが死よりも恐ろしかったから。
 彼女を助ける為に命を懸けた。すべてを投げ出したのだ。死んでもいいとまで決心したのに。
彼女に死なれては何の意味もないではないか。

 さやかは動かない。
 マミの叱咤も、さやかの心を動かすには至らなかった。
 こうなれば頬を張ってでも立たせたかった。身を盾にしてでも逃がしたかった。
 この身体さえ動いたなら。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:21:26.37 ID:xyazy6L6o<>
「待ちなさい! 私はまだ動ける! 戦える! 殺すなら私からに――」

 無様に這いずりながら、右手でマスケット銃を撃つ。放った弾丸は、ホラーの腹部を貫いた。
にも関わらず、ホラーはマミを一瞥すると再び歩き出す。
 
 ならばと、もう一発。次は斜め後方から下顎を撃ち抜く。やはり歩みは止まらない。
 両足、胸、頭。マミは半狂乱になって撃ち続けた。
 本来は意地と信念を誇示する最後の一撃にと温存していた魔力。
こんな形で、みっともなく使い切るはずのものでは断じてなかった。

 それでも認められない、こんな終わり方は絶対に。自分の人生を全否定された気分だった。
 見返りなんて期待していなかった。感謝してくれなくてもよかった。
 助けたかったから助けただけ。その命をどう使うかは本人の勝手。 

 だとしても言わずにいられない。
 それはないだろう、と。 
 最後に何かを成し遂げて、満足して死ぬことすら許されないのかと。
 
 マミが何発撃ち込もうとも、一向にホラーは倒れない。それどころか止まる気配もない。
そして十数発目、マミの手から不意にマスケット銃が零れ落ち、床に乾いた音を立てる。
その手は数秒ほど宙を彷徨うと、身体ごと糸の切れた人形のように倒れ伏した。 
 薄れゆく意識の中で、マミは思う。

――私の戦いは……全部、無意味だったの……?

 嘲笑うように。絶望を煽るように。
 ホラーは牛歩の如く、ゆっくりとさやかを目指す。
 マミを振り返る視線は言っていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 00:23:10.90 ID:xyazy6L6o<>
 絶望のない死など許さない。
 絶望だけの死もつまらない。
 死を恐れ、生を渇望し、叶わず泣き叫びながら死んで行けと。

 破壊の陰我を具現化した怪物は、命だけでなく不屈の意志までも粉々に壊さずには気が済まないのだ。
 故に、マミが最も恐れる選択をした。
 無力を悟ったマミは力なく横たわり、目を覆うこともせず、虚ろな瞳で縮まる距離を眺めている。
と言うよりも、最早その目は何も移していなかった。

 そしてマミの髪留めになっている黄色い宝石に変化が起きる。
 それは魔法少女の力の源、ソウルジェム。
 魔力の大量消費によって輝きを鈍らせ黒ずんでいたソウルジェムが、
徐々にではあるが目に見える速度で黒く染まっていった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 01:01:08.64 ID:xyazy6L6o<>
*

 音が止んだ。
 決着が付いた。
 マミか、怪物か。勝ったのはどちらだろう。
 何度かの怒声と銃声の後、すべての音が消えた。

 マミの逃げろという声にも耳を貸さず、さやかは俯いていた。
 逃げることは留まることと同じくらい恐ろしく、この暗闇は独りで進むには暗過ぎた。
 仮に逃げられたとしても、まどかと会って真実を確かめる勇気が持てない。
 この場で膝を抱えて神頼みする他なかった。

 やがて、ひたひたと足音が聞こえた。
 マミだろうか。まさか怪物が音もなく忍び寄ったりはしないだろう。
 一縷の望みに賭けて、さやかはゆっくりと顔を上げる。
 
「ひぃっ……!」

 儚い望みは呆気なく砕け散った。
 明りに照らし出されたのは、全身に開いた穴から黒い血をしぶかせながらも悠然と立つ魔獣。
 左腕の触手を奇妙にうねらせるホラーだった。

「い、いや……」

 瘧のように全身を震わせるさやか。背後が壁であることも忘れ、後退ろうとする。
 今さら湧き起こる後悔。こんなことなら這ってでも逃げればよかった。
何故、そうしなかったのだろう。自分は、なんて馬鹿だったんだろう。

「マミさん……」

 呼んでも答えは返らない。マミは死んでしまったのだろうか。
 わからない。
 わからないが、こいつがここにいるということは、恐らく――
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 03:32:32.50 ID:xyazy6L6o<>
「助けて……誰か……」
 
 来るはずがないと知っていても、求めずにいられない。
 父、母、次々に近しい人間の顔が浮かんでは消える。
或いは、それは走馬灯だったのかもしれない。
 
「仁美……まどか……恭介」

 涙を流して首を振るさやかの姿は、ホラーの嗜虐心をくすぐったらしい。
口の両端を吊り上げ、ニタリと笑った気がした。
 ホラーはさやかから少し離れた、それでいて触手の届く距離で停止するなり、触手を持ち上げると、 
これ見よがしに尖った剣状の先端をさやかに向ける。ぐぐっとしなり、鋭い刃が光を反射する。
 それが次の瞬間には自分の身体を貫くのだと、さやかにも予想できた。

「いやぁああああああ!!」

 せめて両腕で顔を庇う。
 直後、自身が発した悲鳴に紛れて二つ、何かが空気を切り裂く音が聞こえ――。


 ギィィィンッ!!
 と、金属同士が激しくぶつかり合うような音が響いた。


「え…………」

 突然の音に戸惑いながら、さやかは恐る恐る目を開く。
 最初に飛び込んできたのは、白い背中と三角形の紋章。
さっきまでの醜悪な怪物の姿は、遮られて見えない。

『どうやら間に合ったようだな――鋼牙』

「ああ」

 目の前には一人しかいないのに、どこからか声がした。
 やや掠れて癖のある、けれどもどこか色気のある中年男性の声。電話越しみたく、くぐもって響く。
 それにたった一言で返したのは間違いなく、白いロングコートの、この男。背後からで顔までは窺えない。

 だが、男が両手で構えているのは飾り気のない細身の長剣。柄は赤く、鍔のない両刃の剣が銀色の光を放っている。
 面食らっていたさやかだが、一拍遅れて理解した。突然飛び込んできたこの剣士が、触手から自分を救ってくれたのだと。

 
 男の名は鋼牙。 
 古来よりホラーの討伐を使命とする魔戒騎士。
 冴島鋼牙だった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/01(月) 03:33:25.03 ID:xyazy6L6o<> 本当は鎧まで行きたかったのですが、どうにも眠いのでここまで……今日中にはたぶん行けるはず
戦闘が難しくて遅くなりました。画がない分、戦い方は凝ろうと思ったのですが……うーん
マミの能力は、こんなこともできそうかな、と受け取っていただければ

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/01(月) 10:31:47.70 ID:+y7JTg9n0<> 乙乙乙!!!
まさか最後の書き込みから1時間以内に投下があったとは…
相変わらずの脳内再生率乙です!次の投稿楽しみにしてます!! <>
◆ySV3bQLdI.<><>2011/08/02(火) 02:38:52.15 ID:aqnl21vao<> 今日、もとい昨日投下する予定でしたが間に合わず・・・
できないこともないと思うのですが、これまでで一番大事なシーンなので
推敲をして仕上げたいので今日23:30〜明日深夜1:00頃に
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<><>2011/08/02(火) 04:56:47.13 ID:XJHvdjBM0<> 何人も同じこと言ってるけど無理せず自分のペースでええのよ
完結させてくれれば俺はなんでもいいしなww
毎週楽しみにさせてもらってるよ、頑張ってくれ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:06:16.09 ID:n4+Hp9KVo<>
 さやかからすれば、鋼牙もまた謎の存在。ホラーの前に平然と立ち、生身で攻撃を防いだ。
危険かもしれない。得体が知れないと言えるだろう。
 しかし人間だ。それだけで頼る理由としては十分。こっちは藁にも縋る思いなのだ。
それに何より、助けてくれたことは確かな事実。

「あの――」

「怪我をしているのか」

 さやかを遮って、鋼牙が顔半分だけ振り向く。
 声からおおよそ察しはついていたが、若い。では、あの中年の声は何だったのだろう。
 戸惑いながらも、さやかは何とか、

「え? あ……はい……」

 とだけ。
 ほぼ思考停止状態にあるさやかは、問われるがまま答えるしかなかった。
素性も事情も、こちらから問う余裕はまったくない。
 了解した鋼牙は顔をホラーに戻し、一言。

「そこを動くな、後は俺が片付ける」

 有無を言わせぬ口調は、簡潔にして明快。労りも気遣いもまるでなし。
 だが、その自信に満ちた宣言が。堂々たる態度が。
 さやかに安心感を与え、僅かでも心に平静をもたらした。
 従っているだけでいい。この人が何とかしてくれる。そんなふうに信じさせる力を持った言葉。
 だからこそ、こちらの返事も一言でいいのだろう。

「はい……」

 それきり鋼牙はさやかを顧みず、さやかからも問いはしなかった。
言われた通り、固唾を呑んで見守る。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:10:08.19 ID:n4+Hp9KVo<>
『鋼牙、奴は破壊狂のホラーだ。何がそんなに憎いのか知らんが、とにかく何でも壊したがる。
人間を食う場合も、徹底的に嬲り尽くして絶望のどん底まで追い詰めなきゃ気が済まない悪趣味な奴だ』

 と、またしても男とは異なる声。
 鋼牙に講釈するのは、左中指に嵌められた髑髏の指輪――魔導輪・ザルバ。
 もっとも、さやかからは見えず、見えたとしても名前までは知る由もなかったが。

 初めて相対するホラーだったが、ザルバの説明に鋼牙は、道理でと納得する。
この開けた円形のフロアの惨状を見れば当然だろう。床は砕け、焦げた壁と天井の至るところに穴が。
槍の穂先があちこちに突き刺さり、改装中のフロアは戦場の如き様相を呈していた。いや、実際に戦場だったのだろう。
 背後の少女も、よく生きていたものだと感心する。

 おそらく、それもこれも――。

『そのせいで結果的には食われる前に間に合ったがな』

「いや、それだけじゃない」

 ザルバの言を否定した鋼牙は、フロアの隅に視線を移す。
そこには傷つき横たわっている少女が一人。巴マミである。
 果たして生きているのか死んでいるのか。一見してわかり辛いが、
現れた鋼牙に微弱な反応を示していることからして、まだ息はある。 

「必死で時間を稼いでくれたようだ」

『なるほど、な。だが、あの様子じゃ長くないぜ』

 彼は気休めも希望的観測も挿まない。あくまで冷徹に観察し、分析する。
だがザルバは声を落とし、鋼牙にだけ聞こえるよう囁いた。そこだけは、さやかには聞かすまいとの配慮だろう。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:12:26.67 ID:n4+Hp9KVo<>
 事実、マミは虫の息だった。遠目から見ても、かなり危険な状態だと言っていい。
この光景と合わせて考えれば、彼女がさやかを守って戦ったことは想像に難くない。
 彼女は魔法少女でありながら勇敢にホラーに戦いを挑み、敗北。死に瀕している。
本来ホラーと戦うべき魔戒騎士の自分が、つまらない足止めを食っている間に、だ。

 鋼牙は両手で持った剣を固く握り締め、

「すぐに終わらせる……」

 その感触でザルバは彼の内に秘めた怒りを察し――しかし沈黙を守った。
 為すべきことは一つ、ホラーの浄化。
 鋼牙は寡黙ではあるが義に篤く、その内面は熱い男である。

 ここからは彼女に代わって鋼牙が戦い、ホラーを討ち、背後の少女を守るだろう。
そこに、これ以上の言葉は必要ないのだ。また、その時間も。
二十年来の付き合いであり、彼の相棒である魔導輪は、誰よりも戦いに臨む冴島鋼牙を理解していた。

 感情を押し殺して絞り出した声は空気を介し、さやかの背筋を震わせた。
静かな怒気が青い炎のように鋼牙を包み、揺らめいている気さえした。 
 そして鋼牙の放つ怒気を、敵する者にとっては殺気を受けて、ホラーが初めて身構える。

 さやかにも感じ取れた。表情は変わらなくとも、余裕が消え、怯えのようなものが滲んでいる。
恐れているのだ。これまで蹂躙する立場だった怪物が、マミをも凌駕した脅威の存在が、
たった一本の剣しか持っていない彼一人に恐怖している。 

「やはり……魔戒騎士か……!」

 正体を晒して以来、初めてホラーが口を開いた。その声は変わらず地獄から響くようなおぞましいもの。
しかし、どうしてだろう。それほど怖く感じないのは。
 決まっている。この人がいるからだ。
言葉の意味はわからなかったが、彼の立ち姿はまさしく騎士と呼ぶに相応しかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:14:43.94 ID:n4+Hp9KVo<>
 鋼牙は魔戒剣を左手に嵌めたザルバの口に咥えさせ、ゆっくりと引き、滑らせる。
静寂の中、ザルバの歯で研がれた剣がシィィィィィと清澄な音を立てる。

 その音が燃え盛る怒りを、冷たく、鋭く研磨する。精神集中を促し、鋼牙自身を一本の剣に変えていく。
 剣を振った鋼牙は静かに、なおかつ明確に言い放つ。

「ああ。お前らの天敵だよ」

 言うなり魔戒剣を振り上げ、高く、高く、天を突いた。
 掲げた腕が円を描くように動く。
 剣は光の尾を引き、上も見ずに走らせたというのに、コンパスで引いたように真円を形作った。

 いったい、何が起こっているのか。痛む傷をおして、さやかは腕だけで横に動いた。
言いつけに反さないよう、斜め後方から顔が見える程度にだが。

 鋼牙の頭上に生まれた光の輪。黒一色に浮かんだ白い輪に、さやかは皆既日食を連想する。
 が、それも一瞬。
 輪は紋章の描かれた陣へと変わり、闇が塗り潰された。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:16:06.59 ID:n4+Hp9KVo<>

 既に時刻は夜。
 窓は塞がれ、照明もろくに点いていないモールの改装フロア。
 圧倒的な暗闇が支配する空間に太陽が昇る。

 まるで暁の光。
 夜よりも暗く深い漆黒の闇を余すところなく灼き尽くす太陽が、そこにはあった。
 

 鋼牙の頭上から燦々と降り注ぐ光に、さやかは堪らず手をかざした。
それは彼だけを包んでいたが、暗闇に慣れた目では直視できない。 
 腕の下から見た鋼牙は剣を下ろし、静かに光を全身に浴びている。

 やがて途切れたかと思いきや――。

 金色の光が瞬く。
 眩しさに目を瞑り、開いた時、そこにはもう白いコートの剣士はいなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 01:59:54.04 ID:n4+Hp9KVo<>

「黄金の……狼……」

――あたしは、思わず声に出して呟いていた。言葉にして、ようやく起こった事実を認識する。
今日は信じられない出来事の連続だったけど、これはその中でも最高だ。
 そこに立っていたのは狼。それも黄金の鎧を身に纏った狼の騎士だった――。

 狼は牙を剥き、獰猛にホラーを睨んでいる。
それは兜でありながら、鮮やかな緑の瞳は生きているかのような強い意志を帯びていた。

 獣面の騎士が纏うのは煌びやかな黄金の騎士甲冑。
 ともすると酷く下品に見えるだろうが、鎧自体が発する神秘的な輝きは、一切の卑しさを感じさせない。
  
 背後には炎の紋章が大輪の花の如く広がり、騎士の雄姿を飾る。
 いつしか、さやかの胸中から恐怖は完全に消えていた。
あれほど恐ろしかった異形の怪物が、今はとてもちっぽけで弱々しい。
その神々しいまでの威光に晒された闇の住人は儚く霞み、憐れみすら感じる。

 その時、狼が吼えた。
 高く澄んだ遠吠えではない。
 低く重い、目の前の敵に向けた威嚇。
 闘志に満ちた雄叫び。

 それが黄金の狼が発した物かは定かではない。
 だが狼の哮りは恐怖と絶望しかなかった世界に響き渡り、黄金の輝きは見る者を魅了した。
 さやかはもちろんのこと、追ってきたほむらとまどか、絶望に染まり掛けていたマミの心にまで光を差した。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 02:51:09.68 ID:n4+Hp9KVo<>
――どこからともなく轟く狼の咆哮を聴きながら、あたしは黄金の騎士に見惚れていた。
 この音を何と表現すればいいんだろう。どれも言葉にした途端に陳腐になってしまう。
 でも敢えて言葉にするなら、たぶん――

「あ、あれ……?」

 両の頬が熱い。
 さやかは、そっと自身の頬を撫でてみる。
 何故だか、そこは涙で濡れていた。

「何であたし……涙なんか……」
 
 拭っても拭っても、涙が流れ出て止まらない。
 どうしてだろう。もう泣く必要なんてどこにもないのに。
 自分でも理解できない感情の奔流が堰を切って溢れ出す。

 「うぅっ……ふぇえぇ……」

――気付いたら、あたしは子供みたいに泣きじゃくてた。でも、さっきまでとは真逆の意味で。
 きっと安心したんだ。
 出口の見えない暗闇を迷って迷って、ようやくお日様の下に出られた。
 例えるなら、そんな気持ち。

 言うなれば予定調和。お約束。
クライマックスで、ピンチに駆けつけてくるヒーローみたいな安心感。
 でもここは紛うことなき現実で。なのに黄金の騎士は、あたしの不安と恐怖を一瞬で拭い去って。
 もう大丈夫。絶対に誰にも負けないと、理屈抜きで心に直接語りかけてくるみたいだった。

 この怪物の正体。
 転校生の目的。 
 マミさんの安否。
 まどかの本心。

 わからないことだらけで頭はパンクしそうだったけど、この瞬間だけは全部どこかに置き忘れていた。
 今はただ、この騎士の名前を知りたい。
 そう、あたしは強く思った――
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 03:05:53.68 ID:n4+Hp9KVo<>
 奇しくも、答えは既にさやかの内にあった。

 冴島鋼牙が受け継いだ、魔戒騎士中最高位にして最強の称号。

 旧魔戒語で、《希望》を意味する名。

 騎士の名はガロ。

 黄金騎士、牙狼。


――この時、あたしは直感した。

 きっとすべての邪悪は、この騎士の剣に斃れる運命なんだと――

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/03(水) 03:08:06.37 ID:n4+Hp9KVo<> 皆様、長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。
散々引っ張りましたが、ようやく鎧が召喚できました。
次回こそ終わりです……1話が。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/03(水) 03:17:32.38 ID:vgoxXbdho<> 乙です

牙狼原作見たことないんだけど、鎧召喚かっこよすぎる
マミさんからはどう見えてるんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/03(水) 06:32:24.18 ID:goxIXdKho<> 乙です。

とうとう来たワァ!今までの悲愴な雰囲気が完全に霧散してしまったww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(石川県)<>sagasage<>2011/08/03(水) 08:06:28.57 ID:vlaKGJI20<> 乙です!!

キタァァァァァァァァァーーーー!!
ホラーフルボッコタイムの始まりだ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2011/08/03(水) 17:24:42.70 ID:5YWWZqj30<> 本編終了後のザルバなら記憶がある分の付き合いは短いんじゃないっけ? <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/03(水) 20:38:23.51 ID:n4+Hp9KVo<> はい、記憶のリセットはもちろん把握しています

ただ、白夜では阿門法師と親しげでしたし、零や邪美にも言及がない、鋼牙との関係も以前と遜色ないようでしたので、
変わらない絆は構築されていると考え、あのように書きました

そのあたりが公式設定でどうなっているのか、わからなかったので、
その後いろいろと話を聞いたり、或いは記憶が蘇ったりしたのかなと勝手に想像していました

ですが確かにザルバ視点からの文だと語弊はあったと思います
ご指摘、ありがとうございました


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/04(木) 09:34:18.68 ID:vuGQrMoj0<> 乙です!
ヒャッハー!ホラー狩りの始まりだぜぁあああああ!!
やっぱ絶望→希望の相転移は最高だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/04(木) 14:15:53.38 ID:a43AvzZlo<> 乙〜
テンション上がって来たああああああ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/08/04(木) 22:18:20.46 ID:6VRSUsD80<> 乙。
魔法少女がホラーに対抗するには
・法師の技術を得る。
 一朝一夕にはできない。
・ソウルメタル、またはその素材のホラーの爪の武器を使う。
 爪の方は分からないが、持つまでが大変。コントロールできないと無我夢中で使ったとかでない限りは持てないし

サポートに回った方がよさそう。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/07(日) 23:57:53.66 ID:ASp9P10ho<>
――いったい何なの、あれは……。 

 ほむらが心中で呟く。口にこそ出さなかったが、彼女も黄金の狼の姿に圧倒されていた。
 鋼牙には何かあると思っていたが、予想は裏切られた。いや、大きく上を行っていた。

 鋼牙とすれ違った後、ほむらは一も二もなくまどかの手を引いて走っていた。
鋼牙の去った方向、即ち自分たちが来た道を。
 この機に乗じて、まどかの契約をうやむやにする。
それもあるが、彼の行動が気になったのが一番の理由。

 隣のまどかを見ると、彼女は息を切らしながらも、素直に目を輝かせていた。
 黄金の鎧もさることながら、さやかの命が救われたことが嬉しいのだろう。
 そうだ、鋼牙は疾風のように現れて救ってしまった。自分が救えないと見捨てた彼女を。
 そんなほむらが鋼牙に抱いた感情は、期待と苛立ちが入り混じった妙な気持ちだった。

 もう誰にも頼らないと決めた。独りでも、彼女を助けると誓った。
 その為に様々なものを犠牲にしてきた。今日も、二人の知り合いを切り捨てたばかりだ。
 なのに彼は唐突に現れて、すべてを救おうとしている。
いくら彼がホラーとの戦いを専門とする戦士だとしても、
自分が苦渋の末に選んだものを、彼は丸ごと手に入れられるのだ。

 それが何となく不満で。
しかし、助けてほしい、身を委ねてしまいたい自分がいるのもまた事実で。
そもそも、そんなふうに考えてしまう自分も嫌だった。
 この気持ちは何だろう。
 嫉妬。或いは羨望。どれでもあり、どれでもない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/07(日) 23:59:55.93 ID:ASp9P10ho<>
 ほむらの葛藤など無関係に、黄金騎士は剣を抜き放つ。
 鎧が金なら、柄も鞘も金。鍔もなく、細身で見るからに地味だった剣が、豪華な長剣に変化している。
 三日月形に反り返った鍔。柄の中心には赤く三角形の紋章。
剣身は厚く幅広になり、波打つような紋様が施されている。
 美術館に飾られていても不思議でないほど見事な芸術だった。

 しかし勇ましく剣を構えるガロに、ほむらは言い知れぬ胸騒ぎを覚える。
 誰もが魅せられ、畏怖する黄金の光は、何人たりとも近付くことを許さず、触れた途端に焼き尽くされそうな――。
 頼もしく思うと同時に、強過ぎる光で己の姿まで掻き消されるのではないかという、漠然とした不安。
 負けじと思えば思うほど、心の抵抗は頑なになってしまう。
 光が強ければ強いほど、影が濃くなっていくように。

――影……そう、彼が光だとすれば、私はきっと影。だから闇に打ち勝てない。
 彼に助力を願えば、何かが変わるかもしれない。でも、彼に期待して、またさっきみたいになったら……。
 助けられることばかり考えて後で後悔するくらいなら……。
 それならいっそ一人の方がまし。少なくとも、これ以上弱くなりはしないのだから――

 答えの出ない問いと感情を持て余しながら、ほむらはガロを目で追う。
 身勝手な解釈と知りつつも、眩い黄金の輝きは、持たざる者の苦悩を遥か高みから見下ろしているように思えてならなかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/08(月) 00:04:08.91 ID:HSklnx0Jo<>
*

 ほむらとは対照的に、まどかは純粋にガロへ驚きと憧れの視線を送っていた。
 颯爽と現れて友の危機を救ってくれたヒーロー。戸惑いながらも疑いはしない。
悪いものとは、とても思えなかった。

 さて、一時の興奮が治まると、色々なことが見えてくる。
まどかの位置からさやかは見えていたが、マミの姿が見当たらない。
 探しにいこうとしたのだが、ほむらの手は今まで以上に固く握られている。
視線を送ると、彼女は無言で首を振った。

 やがて、ガシャリ、と重厚な金属音。重々しく鎧を鳴らしながら、ガロが動いた。
同時に、ホラーの触手も唸る。戦いが始まってしまった。
 祈るしかないのだろうか。
 この常人には見通せない闇のどこかで、マミが無事でいると。
 そして、黄金騎士が勝利してくれると。

 まどかは、またしても自身の無力さを痛烈に噛み締めた。

*
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/08(月) 00:39:42.36 ID:HSklnx0Jo<>
 最初は、ギィィン!! と、低く重く、大きく響いた。
 そこから間髪入れずに、キン! キン! と軽く高い音が絶え間なく続く。
 その音はマミの耳にも届いていた。
  
 ガロとホラーの触手が、今まさに剣戟を繰り広げている。
 妖しくうねる触手は、先端の刃を幾度となくガロに向け、ガロはそれらすべてを牙狼剣で弾き返す。
 しかしガロが前進を試みようとも、ホラーは決して許さない。何故なら、懐に入られては敗北は必至。
だからこそ剣の間合い外から仕留めんと躍起になっている。
 それは誰の目からも、まして実際に戦ったマミからすれば明らかだった。

 黄金の狼が轟と吼えた瞬間から、ぼやけていた意識が徐々に覚醒していった。
霞み掛かっていた視界が鮮明になっていった。
 身体は相変わらず泥沼にはまったように指一本動かせないガラクタだったが、確かに感じる。
剣を振るう黄金騎士が見える。そして、その背後には泣きじゃくる美樹さやかがいた。

――美樹さん……!

 生きていた。
 生きていてくれた。
 あの黄金の騎士が守ってくれたのだ。

――なら……私の戦いは無駄じゃなかった……。

 虚ろな瞳に光が戻り、涙が零れる。
 嬉し泣きだった。
 まだ終わっていない。黄金騎士が戦っている限り。
 
 この身体はもう戦えない。それどころか、後数分と待たずに死ぬかもしれない。
 それでも、命を捨ててまで守りたかった彼女が生きていたことが嬉しい。
自己満足に過ぎなくても、自分の人生には意味があったのだと思える。

 たったそれだけで、絶望に暮れていたマミの心に一条の光明が差し、
ほぼ完全に黒く染まっていたソウルジェムに一点の光が宿った。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/08(月) 01:21:36.51 ID:OaiRnrOv0<> 改めて全文見返したけど、この文章量も去ることながら質がハンパなく高いよな
コミケかどっかで完全版売り出してくれないかね… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/08(月) 01:22:49.09 ID:OaiRnrOv0<> なんか続き来てた。
邪魔しちゃってスンマセン
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/08(月) 02:40:03.37 ID:HSklnx0Jo<>
 後はすべてを黄金騎士に託す。
 彼の正体はわからない。だが他に為す術はない。しかし、不安もなかった。
彼が、さやかや自分を守る為に戦ってくれていると信じられる。

 闇=恐怖であり敵、と徹底的に本能にまで刷り込まれた今だ。
ようやく見えた光は、救いと断じるには十分。
 この時のマミにとって、ガロはまさしく希望の象徴であり、救世主にも等しかった。



 三者三様。
 それぞれの想いが、ガロ――冴島鋼牙に向けられる。
 ある者は秘めた嫉妬と羨望。ある者は純粋な憧憬。ある者は絶対の希望として。
 しかし誰一人として、彼の本質を捉えてはいない。
 この場でそれを知るのは唯一、魔導輪ザルバのみ。

 冴島鋼牙は呼べば必ず応える正義の味方ではない。
全てを救える無敵の救世主でもない。
 あくまで己が使命に全身全霊を懸ける一介の騎士である。
 数で見れば、救えなかった人間の方がよほど多い。

 呼んでも来ないことがある代わりに、呼ばなくても駆けつける場合もある。
望んでもいないのに助けに来る場合もある。
 たとえ正義でなくとも、危機に陥っている者が社会的に悪だったとしても、彼は一命を賭して戦う。

 ただ、それだけのことなのに、彼に希望を見出す者たちは過度な期待を寄せ、時に嫉妬し、果ては失望さえする。
 彼の素性を知る者は限られているが、それでもままあることだ。
まったく身勝手な、だが、それも牙狼の称号を持つが故の宿命か。
 
 鎧を纏う前と変わらず左手中指に収まっている魔導輪は、少女たちの視線を感じながら思った。  
 もっとも主は、そんなことには微塵も関心はないのだろう。
 いつだって彼が気に掛けているのは、討つべき敵と守るべき人間だけなのだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/08(月) 02:45:54.09 ID:HSklnx0Jo<> 短いですが、ここまで。続きは今週中
一話は鋼牙が全部持って行く形になりましたが、>>32で書いたように伸び代の多い少女達が主体と考えています
今回のパートはちょっと余計かなとは思ったのですが、そんな意味で

>>375
そんな大層なものではないです。量も多ければいいというものでもないですし
推敲は足りないと自覚してはいるのですが、遅筆で怠け者なので、期限を決めないとエタってしまうので
ですが、気に入っていただけたことは大変嬉しく思います。ありがとうございます
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/08(月) 06:34:28.87 ID:fkjjxonZo<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/08(月) 15:58:37.47 ID:RADzAzxko<> 遅れたが乙!

焦らしに焦らしただけに黄金騎士が来ただけでこの盛り上がり
ヒャァ!もう我慢できねえええ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/08(月) 20:47:31.75 ID:wDpKDdxK0<> 乙!鋼牙がブレのなさが素敵すぎて濡れるわー
彼の生き方は魔法少女にどう映るんだろう、これからも期待

>>378
そうなのかー…できれば紙媒体で見たいって気持ちはあったんだけどね
まぁ、楽しめるだけ満足なので贅沢言っちゃいけないか
これからも楽しみにしてやす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/10(水) 16:30:19.04 ID:6yJ15yQLo<> 乙です
マミさんのソウルジェム皮一枚繋がったか、鋼牙様様だ
今後もマミさんガンバレ超ガンバレ。そして生き残ってくれえええ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/12(金) 00:58:04.98 ID:BU2BsIPC0<> そいや翼人はでるのかな
なんにせよ、次も期待 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/13(土) 23:58:37.70 ID:uDrqOZUno<> まだ今週!
ということで投下します <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/13(土) 23:59:40.72 ID:uDrqOZUno<>
 ホラーの刃と牙狼剣がぶつかり、火花を散らす音は途切れる様子がない。
 牙狼剣と互角の強度を持つ刃を褒めるべきか。
 変幻自在の軌道を見切り、確実に剣で迎えるガロの技量が凄まじいのか。

 いずれにせよ、この場でただ一人戦闘力を持ち、戦闘の様子を正確に観察できる少女。
暁美ほむらであっても、この戦いに介入できなかった。
 読めない訳ではない。けれども演武のように完成された、それでいて危うい均衡に割り込むのは憚られた。

 生半可な手助けは、どちらにとっても命取り。鋼牙と共に戦った時も共闘しなかったほむらである。
黄金騎士と息を合わせて戦える自信は皆無だった。

 既に十合を超える打ち合い。体力的にも、触手を動かすだけのホラーと、
剣を振るガロでは、どちらの消費が激しいかは明らか。
 しかし、その程度で疲弊するガロ――冴島鋼牙ではない。
むしろ体力が消耗するまでには、とっくに癖を読み、難なく斬り込めるだろう。

 問題は別にあった。制限時間である。
 黄金の鎧を現世に召喚していられる時間は99.9秒。
よほど特殊な状況下でもない限り、この制約は揺るがない。 

 既に召喚から30数秒は経っている。悠長にしていられる時間は残っていなかった。
 何より、倒れている少女は一刻を争う。
ザルバに答えたばかりなのだ、「すぐに終わらせる」と。

 ガロは意を決して振り回される触手に向き直り、これを迎え撃つ。
 正面から貫かんと迫るそれに対し、最小限の動きで左に軸をずらし、腋の下を潜らせる。
 剣のように鋭く硬化しているのは、先端の数十センチ。そこから上は、ただの肉の鞭に過ぎない。
先端が背後から刺すよりも早くガロは触手を掴み、手に巻き付け、力の限り引き寄せた。

「ぐっ……おおお……!」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:01:13.79 ID:oxbcMeAQo<>
 牙を剥いたままの狼の口から、くぐもった声が響く。
 平たく、しかも暴れ狂う触手を捕まえておくのは容易ではない。
 拮抗は長くは続かず、踏ん張った両足が徐々に引きずられる。

 ガロの鎧は、あくまで鎧。
 鉄壁の防御は得られるが、所詮そこまで。
ヒーローの特殊スーツのように、身体能力を劇的に向上させる類のものではない。

 短時間でもホラーと押し引きできる腕力。高速の触手を正確に弾き続ける反射神経。
ほとんどは、鋼牙が長い時間を経て造り上げた自身の肉体に宿る力。
 それでも膂力では魔界の怪物、ホラーに分があった。

 圧倒的な素材の差。
 鍛えに鍛え、常人を超えてもなお、人の身では決して到達できない領域。
 生物として根幹から人と一線を画す魔獣たちは、遥か高みから人間の限界を嘲笑っている。

 だが、被食者に過ぎない人間にも意地がある。矜持がある。何より生きたいという意志がある。
 生き残る為には、たとえ相手がどれだけ強大であろうとも抗わねばならない。

 その力が鋼牙にはある。
 それこそが黄金の鎧であり、朱塗りの剣であり、鍛え上げた肉体。
 それこそが牙なき人に代わって剥く牙。

 そして今。
 牙は右手にある。
 黄金の狼こと、黄金騎士・牙狼の牙である剣が。

 ガロは右手に持った牙狼剣で、ピンと張られた触手の中心を突き上げた。
さしたる手応えもなく、ずぶりと剣は食い込み――。

 改装中のフロア全体を大音量で震わせる、金属同士を思い切り擦り合わせたような悲鳴。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:03:26.08 ID:oxbcMeAQo<>
 おぞましく苦痛に満ちた悲鳴に、さやかとまどかは耳を塞いで目を瞑り、ほむらは僅かにたじろぐ。
手を動かせないマミは顔を顰めていた。
 貫いた瞬間に噴き出した黒い体液が黄金の鎧に飛散するも、たちまち蒸発。
一点の染みや汚れも残さない。

「おおおおおおお!!」

 裂帛の気合を込め、両手で牙狼剣を握り締めて突進するガロ。それも触手を縦に切り裂きながら、である。
 ホラーは悶絶しながら牙狼剣を振り解こうとするが、もがけばもがくほど、剣は深く食い込む。
 傷口が抉られ、黒い血を撒き散らす。

 ようやく剣が外れた時。
 つまり、牙狼剣が触手の左半分を斬り抜けた時。
 ガロは、剣の間合いまで一歩の距離に迫っていた。

 切られた半分はベロンと捲れて垂れ下がり、床に黒い染みをいくつも作る。
自由になったとしても、最早使い物にはなるまい。
 だが、まだだ。ほむらとマミは知っている。ホラーはまだ奥の手を残している。  

 両肩と腰回りを覆う黒光りする突起。無数の槍の穂。
 いつの間にか再生していた槍の穂先が、一様にガロを狙う。
 ほむらとマミに緊張が走った。

 あれは危険だ。
 黄金の鎧が見た目通りの耐久性としても、
機関銃に匹敵する速度と連射性を持つ槍を至近距離で受ければどうなるか。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/14(日) 00:03:35.56 ID:Try2Yjt40<> 待ってたぜ <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:04:45.96 ID:oxbcMeAQo<>
――攻めるしかない――

 あと一歩の距離なのだ。
 危険を承知で飛び込む。撃たれる前に斬る。
 それが、ほむらの考える最善策。

――かわせる――

 先の打ち合いを見れば一目瞭然だ。
 鈍重なようで、あの騎士は驚くほど機敏。となれば、鎧は見た目に反して薄いとしか思えない。
 実際に相対し、攻撃を受けたマミだからこそわかる。半端な防御は間違いなく突き破られる。

 同時に思い出した。
 奴は滅多に方向転換をしない。必要なかったのかもしれない。
ほぼ360度の中近距離をカバーできる便利な触手があったのだから。
ならば、連射であれ放射であれ、近距離なら逆に回避は容易。側面に回り込めば楽に倒せるはず。

 ほむらとマミ。二人が見守る最中、無数の槍が発射される。
 が。
 ガロは剣を振ることも、避けることもせず――。

 両腕を広げ、無防備にも大の字になって受け止めた。

 発射された槍の大半が、黄金の鎧の表面で弾け、夥しい火花を炸裂させる。
 ガロは激しい衝撃に押され、大きく仰け反った。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:07:53.02 ID:oxbcMeAQo<>
「なっ……あ……!?」

「どうして……!?」

 マミは絶句し、ほむらも一言疑問符を発するのが限界だった。
 それも一瞬。二人の少女の驚愕は、すぐに凄まじい轟音と閃光の乱舞に掻き消される。

 まどかは小さく縮まって怯え、ほむらとマミも混乱に支配されていた。
黄金騎士の行動が、まったく理解できなかったのだ。

 攻撃でも回避でもなく、防御ですらない。
 あり得ない。愚行という罵倒すら生温い。自殺行為に等しい。
 彼は、いったい何故こんなことを。

――まさか!

 数秒の思案の末、ほむらは思い至った。
 自分で決めつけたのではないか、彼はすべてを救う騎士なのだと。

 槍は正面に向け、放射状に発射された。ホラーの背後に倒れているマミ、
十分な距離を取っている自分とまどかは被害を受けない。
 そう、一人を除いて。 
 
 ガロの背後を見やる。
 そこには、小さくなって震えている美樹さやかの姿。
 さやかがもたれ掛かっている壁には無数の槍が突き刺さっているが、彼女の周囲だけは綺麗なまま。
 納得した。彼は発射を止めるのは不可能と判断し、背後のさやかを守ったのだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:11:50.25 ID:oxbcMeAQo<>
「でも……だからって……」

――あなたが死んだら、何の意味もないじゃない……!
美樹さやかが助かったとしても、あなたが死ねば同じこと……。
今、あいつに勝てるとしたら、あなたしかいないのに――

 ほむらはギリと歯噛みして、ガロを睨みつけた。
 馬鹿だ。この男は大馬鹿だ。何で、こんな男なんかに。
 ガロは仰け反り、狼の顔は天を仰いでいる。左足は半ば浮き上がり、今にも後ろに倒れそう。

 睨む目に初めて、薄らと涙が滲む。

 悲しいよりも、憎いよりも、ただ悔しかった。
 彼なら活路を開いてくれるかもと、一瞬でも期待した自分が。
 黄金の騎士に希望を見出した自分が。

 何度裏切られても、繰り返してしまう。どうせこうなるのなら、戻らずに逃げておけばよかった。
 そもそも期待することが間違いなのだろうか。
 しかし希望は捨てられない。
希望を追うことを否定しては、自分が望む未来の可能性をも否定してしまうのだから。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。迷っている暇はない。今からでも逃げるべきだ。
 まどかの手を取る直前、ほむらはホラーとガロに視線を移し、違和感に気付く。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:18:18.17 ID:oxbcMeAQo<>
 白煙を立ち昇らせるガロの鎧。
 しかし直撃を喰らった胸の装甲は、貫かれても砕けてもいない。
 否、それどころか傷一つ付いていなかった。発射前と何ら変わることなく、黄金の輝きを放っている。
 広げられた右手はまだ、確と剣の柄を握り締めている。

 直後、天を仰いでいた顔がホラーを見据え、緑の瞳が一際輝いた。
 ガシャリ、と重々しい音を立てて鎧が鳴る。

 ふらつく右足を突っ張り、身体を支え。
 左右に広がった両手は頭上で組み合わされ。
 宙を彷徨う左足を大きく一歩、コンクリートが砕けるまで強く踏み込み。
 振り下ろす。

 剛剣一閃。

 大上段の構えから、牙狼剣がホラーを袈裟斬りに切り裂いた。
 何の抵抗も許さず、断末魔さえ上げさせず、一息で。

 振り抜いた牙狼剣の切り口がオレンジの光を放ったかと思うと――。
 閃光。同時に爆散。
 火薬による爆発とは違う。
斬られた傷口から溢れるエネルギーに耐え切れず、内側から破裂したような。

 大量の肉片が床に散らばる。それは黒く砕けたガラス片にも似た形状をしていたが、
すぐに使い魔と同様、靄とも煙ともつかぬ気体に変わり、跡形もなく霧散した。
 
「終わったの……?」

 呟いたのはまどか。
 と言っても、全員が同じ心境だった。驚きの連続に、ただただ呆気に取られるばかり。
 当然だ。打ち合いからガロが反撃に出て決着まで、十秒と経っていない。
驚きの連続に思考が付いて行かなかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/14(日) 00:26:57.04 ID:oxbcMeAQo<>
 歴戦魔法少女であるほむらも、さやかを庇ったガロの行動には驚きを隠せず、
ホラーが爆散した時には、他の二人と同じく呆然とガロを眺めていた。
消滅した後も残心を保っているガロに、揃って魅せられていたのだ。 

 そしてマミは。

――綺麗……これが人生最後に見る景色なら悪くないわね……。

 戦いの結末を見届け、さやかとまどかの安全も確かめたのだ。
 だから、これでいい。思い残すことはない。
 今度こそ、これで。

 唇の端だけで微笑むと、満足感を抱きながらそっと目を閉じた。

* <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/14(日) 00:31:17.25 ID:oxbcMeAQo<> 申し訳ありませんが、切りのいいところで一旦席を外させていただきます
一時間くらいで戻れなければ、明日の22:00頃に続きを <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/14(日) 00:34:06.94 ID:Try2Yjt40<> 乙
ホラー斬った!と思ったらなんかマミさん死にそうなんですけど… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/14(日) 04:59:54.40 ID:ruSRdfl+0<> 死にそうなのはマミじゃない、
外付けのハードウェアさ。(◕‿‿◕) <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/14(日) 22:02:31.62 ID:oxbcMeAQo<> やっぱり、いつもの時間に投下します
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/14(日) 23:58:54.36 ID:oxbcMeAQo<>
 やがて直立の姿勢に戻るガロ。精神を集中させて鎧を送還する。
 鋼牙から黄金の鎧が上に抜けると同時に掻き消えた。
 装着を解除した鋼牙は、ふっと短く息を吐く。

『今回は中々の綱渡りだったな』

「いつものことだ」

 軽口を叩くザルバをあしらう。
 ザルバに答えた通り、この程度の危機、いつもとは行かないまでもよくあること。
いつ何時、どんな形で死ぬかわからない。
その為、戦っている時はいつだって全力だ。
 結果として楽勝だったとしても、常に死と隣り合わせという意味では日々が綱渡り。

 特に今回は鎧に大きく助けられた。
 魔戒剣も黄金の鎧も、ソウルメタルという金属で造られている。

 ソウルメタル。
 持つ者の心の在りようで重量を変える特殊金属。
 主である鋼牙には羽根の如き軽さであり、防御力と機動力を同時に得られる魔法のような材質だ。
その分、扱えない人間には途轍もない超重量となるのだが。

 身体の具合は問題ない。
 肋骨が痛むが、折れてはいない。一晩休めば痛みも治まるだろう。
 ホラーの浄化という目的は果たした。だが、まだやるべきことが残っている。

 鋼牙はコートを翻し、フロアの隅に倒れている少女に駆け寄った。
 鋼牙が動くと、ほむらもハッとなって駆け出し、訳も分からずまどかが続く。
更に白い小動物も、まどかの足下を掠めて抜き去った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/15(月) 00:13:38.52 ID:CdG5GgvOo<>
「マミさん!!」

 まどかの上擦った、悲痛な叫びが響く。
 無理もない。彼女の視線の先にあるものは、倒れた巴マミと床に広がる血溜まりだった。
 状況を理解していた鋼牙とほむらは取り乱さず、いち早く駆け寄って抱き起こした。

「おい! しっかりしろ!」

『まずいぜ、彼女はもう……』

「っ……」

「そんなぁ……」

 手遅れだ。
 ザルバが皆まで言わずとも、続く言葉は誰もが理解している。
 鋼牙は眉間にしわを寄せて渋面を表し、ほむらは唇を噛む。まどかは膝をついて泣き崩れてしまった。

 マミの症状は、それほど深刻だった。
 顔面は蒼白。呼吸は微弱。脱力した身体を揺さ振り呼び掛けても、目蓋を微かに震わせるだけ。
 槍で貫かれたままの太股は今も出血が続いており、心なしか出血は増しているようにも見えた。
 どの道、彼女が既に致死量に近い血液を体外に出しているのは確かだろう。

 魔戒法師なら術者によっては治癒の術も使えようが、戦闘に特化した騎士である鋼牙には扱えない。
 修行の過程で人体の仕組みは熟知している。多少の医学知識も習得しているので、一般的な応急処置ならできるのだが。
逆に言えば、その程度しかできない。

 なまじ知識があるからこそ、わかってしまう。人の世界の摂理では彼女は助けられない。
 応急処置と言っても、現状では止血が精々。
ここが設備の整った病院で、今すぐ手術に入ったとしても助かるかどうか。
  <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/15(月) 00:26:39.61 ID:CdG5GgvOo<>
「マミさんは私たちを逃がそうとして、こんな……お願いです! マミさんを助けて……!」

 涙ながらに胸に縋りつくまどかに、鋼牙は答えられなかった。
ほむらと共に、沈痛な面持ちでまどかの慟哭を受け止めるしかできない。
 こんな時、つくづく自分の力足らずを痛感する。

 無敵の黄金騎士。
 牙狼の称号。
 どんな称号も栄誉も無意味だ。どれだけ力を付けようと、命は零れ落ちていく。この手をすり抜けていく。
 目の前で命が奪われることは防げても、消えゆく命を救うことはできない。
 
 もう、手の打ちようがない。
 まどかが悲嘆に、二人が途方に暮れているところに、

『方法はあるよ』

 と、キュゥべえが声を上げた。
 この状況で何を言うつもりか。ほむらは瞬時に察しが付いた。

「まどか。君が僕と契約して魔法少女になってくれれば、マミの命は救えるよ。それだけじゃない。
どんな運命も、不条理だって覆せる。どんな不幸も撥ね除けられるんだ』

「こんな時にまで……!」 
  
『こんな時だからこそさ。まどか、決めるのは君だよ。
僕にできるのは、その方法を提示し、君が望むなら実行するまでだ』

 またしても、キュゥべえは的確なタイミングで誘惑を仕掛けてくる。
 どうする。撃つべきか?
 だが、ここで撃ったとして鋼牙を敵に回すかもしれない。

 結果的にまどかの気持ちがキュゥべえに傾くかもしれない。
 確かなことは、そんな小競り合いをしている間にマミは確実に死ぬ。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/08/15(月) 00:39:23.31 ID:CdG5GgvOo<>
――私は巴マミの命よりも、まどかを優先する。これは変わらない。
 でも、切り捨てずに済むのなら助けたい。死なせたくないと思う。
 私も、彼のように……――

『でも、あまり時間はないよ。マミの命はもう消えかけている。救えるのは君だけだ。
もっとも、君なら死者の蘇生も容易いだろうけどね』

「私は……」

 まどかは暫し逡巡していたが、時間の猶予がないというのが効いたのか、躊躇いがちに頷く――

「うん……。わかっ――」

「待って! まだ彼女は生きている。彼女は治療の魔法が使えたはず。呼び掛ければ、まだ間に合うかもしれないわ」

 直前で、ほむらは制止した。
 完全な思いつき。マミの意識はとうに混濁している。成功確率も、そもそも可能かどうかも度外視の提案。
 それでも賭けるしかない。
 まどかとマミ。双方を生かす為に。

 しかし、ほむらの提案をキュゥべえはきっぱりと否定する。

『無理だね。彼女のソウルジェムを見てみなよ』

「――ぁっ……!」

 ほむらは髪飾りのソウルジェムを取り上げてみる。
 黄色かったはずのジェムは九割以上が黒く染まっており、小指の先程度の面積が弱々しく光っていた。
 魔力の消費過多。或いは、心的要因か。どちらもだが、おそらくは後者が強い。

 魔法を使えば使うほど、ソウルジェムは黒く濁る。こんな状態では、とても治癒魔法は使わせられない。
そんなことをしてジェムが黒く染まりきっては、すべてが台無しだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/15(月) 01:00:13.51 ID:CdG5GgvOo<>
『グリーフシードがあれば可能かもしれないけどね。君はグリーフシードを持っているのかい?』

「私は……今はグリーフシードの持ち合わせがないわ……」

 グリーフシードがあればソウルジェムが浄化でき、魔力が回復する。
魔法少女には必須のアイテムなのだが、ほむらは持っていなかった。
 やはり、もうどうにもならないのだろうか。
 昏い心持ちで、ほむらは瀕死のマミを見下ろした。

 ふと、ほむらは妙に思った。
 マミとホラーの戦闘がどれほど激しかったのか、正確には知らないが、フロアの惨状を見れば大凡の察しはつく。
マミが槍を受けた際の傷の様子も鮮明に覚えている。あの時点で、既に彼女は多量の出血をしていたはずなのに。

 少ないのだ。
 彼女の衣服に付いた血や、床にできた血溜まりを見ても、絶対に出血量が少ない。 
傷を押して、これだけの激しい戦闘を繰り広げたにも関わらず。

 大腿動脈が貫かれた状態で、痛覚を緩和した身体を酷使して、この程度で済むだろうか。
あの時のマミの心理状態を予想するに、治療に専念するとは思えない。
 治療していないことは、最初の太股と肩の傷以外に目立った怪我がないことからも明らか。
 もっとも、戦闘の詳細が不明では断言はできないし、いくらでもイレギュラーは起こり得るのだが。

もう一度、今度は手中のソウルジェムに目を落とす。
 ジェムが発する光は弱い。けれど、闇に染まるまいと懸命に抗っている。
私はまだ生きていると、伝える為に明滅している。まるで心臓の鼓動のよう。

 そうか、と唐突に理解した。

――魔力はすべて戦闘に回していたようだけど、出血を抑え、最低限の生命維持に必要な魔力は無意識に使っていたのね……。
 命を捨てて戦っていた彼女が抑え込んでいた僅かな未練……なのだろうか。 
 最後まで、一秒でも長く戦う為のものかもしれない。実際、それもあるだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/15(月) 01:08:48.50 ID:dfQE0Wn90<> また展開が虚淵ってるな… <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/15(月) 01:14:49.49 ID:CdG5GgvOo<>
 けど、私にはこうも思えた。
 彼女は生きたいのだ、と。格好つけて使命に殉じるよりも、生きてまだまだやりたいことがある。
何を好き好んで、こんな場所で死にたいものか。

 上辺を取り繕って。
 自分の心まで誤魔化して。
 そうやって綺麗に生きようとする巴マミ。

 本人も気付かなかった本当の望みを、ジェムは正直に語っている。
 彼女のソウルジェムは、まだ死を受け入れていない。

……そうだ、私はきっと信じたくないのだと思う。
 魔法少女の未来が、戦いの果ての死か、死よりも恐ろしい末路の二択しか用意されてないなんて。
 もっと、人並みの幸せがあってもいいはずだと信じたいのかも。
 
……なんて。
 馬鹿馬鹿しい。私らしくもない――

 もう救えないのだ。まどかを契約させられない以上、マミには死んでもらうしかない。
結局は"今回も"切り捨てる他ないのだ。
 自嘲しつつ、ほむらが残酷な命の取捨選択をしようとした瞬間。
 置いてけぼりにされていた鋼牙が横から口を挿み、

「グリーフシードとやらはこれのことか?」

 差し出したのは、禍々しい気配を放つ黒い宝石。
 グリーフシード。直訳すると、悲しみ、嘆きの種。
 ほむらはよろめきそうになった。
 なんて間の悪い男だ。どうやら彼とは、とことん相性が悪いらしい。
 これで何度目だろう。諦めそうになった時に限って、彼は決まって横から希望を示してくる。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/15(月) 01:37:09.32 ID:CdG5GgvOo<>
 ほむらの胸に、沸々と苛立ちの感情が湧き起こる。
と同時に、一抹の希望と期待が芽生えるのも感じていた。

「貸して!」

 ほむらは鋼牙の手からグリーフシードをもぎ取ると、すぐさまマミのソウルジェムと重ねる。
 するとソウルジェムから黒い穢れが浮き、グリーフシードに吸着され、ソウルジェムが元の輝きを取り戻した。

「これがあれば助かるのか?」

 マミの頭上で額を突き合わせた姿勢で、鋼牙が尋ねる。
 元々は魔女を狩った際に落ちていた物を、ザルバが残留思念と魔力を感じると言うので拾っておいた。
 話の内容は理解できなかったが、名前とグリーフシードから受ける印象、
それと魔女、魔法少女に関連した物ということで差し出したのだが正解だったようだ。

「……理論上は」

『理論上は、だと? どういう意味だ?』

「彼女が死んだと自覚しなければ、まだ望みはあるわ。肉体は損傷しても、ギリギリまで持たせられる。
後は彼女に生きたいという強い意志があれば……」

 鋼牙とザルバに見向きもせず、マミを睨んだまま答える。
 さて、ここからどうするか。
 それが思案の為所だった。あまり時間はないが、慎重にならざるを得ない。

『マミは自分で覚悟を決めて死を選択したんだろう? 目的が果たされた今、
苦痛に喘ぎ、足掻いてでも生きようとする意志があるのかな』

 自信あり気に問うてくるキュゥべえ。
 こいつは最悪のタイミングで巧妙に契約を迫ってくるが、そのくせ人間を何もわかっていない。
 今なら自信を持って言える。

「あるわ。絶対にある」


<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/15(月) 02:11:00.92 ID:CdG5GgvOo<>
 隠しているだけ。
 押し込めているだけ。
 ソウルジェムが黒く染まっていなかったのは、彼女が一片の希望を抱いている証拠。

 自分がまどかを連れて逃げた後、何があったかは想像に難くない。
 マミは死を覚悟して残った。二人を逃がす為に。ならば、死=絶望にはならない。
 マミは敗北し、美樹さやかが残った。マミが生きているということは、ホラーはさやかを嬲り、マミの絶望を煽ろうとした。   

――そうまでされて、どうして彼女のソウルジェムは抗っていられるのか。
 決まっている。
 彼に、闇を切り裂く黄金の騎士に希望を見出したから。
 私にはわかる。何故なら、遺憾ながら私も同じだからだ。

 こんなもの、想像の域を出ない。人の心なんて、そう簡単に読めるものではないから。
 でも、本当は彼女も思っているはず。
 こんな暗黒の世界で、人生に満足したと思い込んで、自分を慰めながら孤独に死ぬなんて御免だと――

 自分でも不思議だった。
 どういう訳か、今回は知らず知らずマミに同情的になっている。
これまで、こんなにも彼女に固執したことがあっただろうか。

 これまで何度もマミの死を見てきたが、自分から能動的に手を伸ばせば救えた例はなかった気がする。
 思い返せば、マミには恩もあったし、好意もあった。けれど、激動の中で傷つけられることもあった。
次第に優先順位を決めるようになり、視野を狭めていく内に忘れていった。
 
 今、マミを救えるのは自分しかいない。そして、マミを救うことと、まどかを守るという大前提は相反しない。
むしろ必要なこと。だから、自分はマミを救ってもいいのだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/15(月) 02:39:52.40 ID:CdG5GgvOo<> 一旦ここまで。
膨らまそうと思ったら、書き溜めが間に合いませんでした。
明日こそ終わりまで行けるはず。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2011/08/15(月) 05:56:37.43 ID:MWw7+VbAO<> 乙なんだよ!
いつも更新を待ち遠しく思ってみてるよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/15(月) 10:53:43.82 ID:poGKj4+Ko<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/15(月) 23:52:18.89 ID:dfQE0Wn90<> 乙!
見届けたんで俺はもう寝る <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/16(火) 03:28:18.81 ID:+YKeuCKio<> 今日の予定と書きしたが、投下できません。今回はブツ切りにしたくないので
明日こそと言いたいところですが、確実ではないので、近日中とさせていただきます
もしも期待して下さっている方がいらっしゃったなら <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/08/16(火) 09:19:51.10 ID:6zkq+gyo0<> 楽しみにしてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/17(水) 01:01:00.52 ID:STmNnisU0<> おk、楽しみにしてる

>これで何度目だろう。諦めそうになった時に限って、彼は決まって横から希望を示してくる。
まるで鋼牙さんがKYみたいじゃないですかーヤダー!!
まぁ、QBにとっては最大のKY相手になる気がするけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/17(水) 02:08:15.54 ID:gmPRffS10<> 自分も楽しみにしています
ついでに遅いけど呀の劇場公開決定だヒャッハー! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/08/18(木) 02:16:56.81 ID:1/CTVxGj0<> 投稿乙です!
近所のGEOで新作劇場版のDVDが六枚くらい置いてあるのに全巻借りられてるorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/08/18(木) 02:33:54.92 ID:Cuy6ppj20<> 乙。
>>415
借りようと思っていた白夜の前篇だけ借りられていた時なんて…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/18(木) 10:49:41.07 ID:ytqhEIZmo<> オーオーオオオオオー♪オオオーオーオーオー乙ー♪ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/19(金) 00:10:22.76 ID:SeUSTfRl0<> 本日Red Requiem見た俺にご褒美なスレだな
頑張ってください、楽しみにしてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/21(日) 02:07:21.36 ID:L3nzS3d50<> 定期的に鋼牙の活躍読まないといけない体になってしまった <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/21(日) 23:58:01.38 ID:vwOOnE7Bo<> 沢山のコメント、ありがとうございます
結局いつもの時間になってしまいましたが、投下します
今回の投下分は、多分に想像が含まれます。予めご了承ください

RED REQUIEMは色々あってしばらく買えなさそうです……呀も同様
欲を言えばコンプリートBOXで欲しいのですが、3DTVじゃないし……
この際、根幹を揺るがすような新設定でもない限り、完結まで願掛けの意味で断とうかなとか考えたりもしてます
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/21(日) 23:59:31.74 ID:vwOOnE7Bo<>
 そう考えると、ふっと胸の痞えが取れた気がした。
幾分か気持ちが軽くなり、最初にマミに抱いていた憧れを思い出す。 

 屈折した自己犠牲の精神で、本心では無理をしているとしても。
 キュゥべえを友達と信じ、彼の言葉を鵜呑みにして、踊らされているだけだとしても。
 見ず知らずの人間を守る為に命を捨てられる。その行為、崇高な志は敬意を表するに値する。
自分には絶対にできないことだ。

『まどか。君はいいのかい? こんな不確かな方法に賭けても』

 ほむらを揺さ振って無意味だと判断したのか、キュゥべえはまどかに向いた。
突然話を振られ、会話についていけないまどかは困惑するばかり。
 仕方がないので、再び釘を刺す。

「まどかなら死者の蘇生も容易いと言ったのはあなたよ。なら失敗してからでも遅くない。黙って見てなさい」

 今度こそキュゥべえが黙ったのを確認し、まどかにも。

『言った通りよ。余計な手出しは考えないで、あなたは巴マミを信じていればいい。
祈る以外に、できることなんてないのだから。
それと、ここからは見ない方がいいわ」

 私を信じろ、とは口が裂けても言えない。そんな資格はない。
 横で、まどかが悲しそうに目を伏せる。胸にチクリと刺すような痛みを覚えた。
 でも、今は振り向かない。見るべきはマミ。

 深呼吸。
 おもむろに右手を振り上げ――。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 00:17:57.59 ID:1d4m86gBo<>
 パシィィン!

 と、乾いた音が響く。ほむらがマミの頬を張った。
 一拍置いて、マミの耳元で呼び掛ける。

「聞いて。これから太股に刺さった槍を抜くわ。ソウルジェムは浄化した。
死にたくなかったら、治癒魔法を使って止血しなさい」

「え……あ……」

 閉じられたマミの目蓋がピクリと動いた。弱々しく、曖昧な様子でマミが返す。
 良かった。意識は朦朧としているが、失われてはいない。それで十分。
 ごくりと唾を飲んで、いよいよマミの右太股を貫く槍の穂に手を掛けた。

「ふっ……!」

 ぐっと力を込めて引き抜こうとした瞬間。

「っああああああああああ――!!」

 マミの口から絶叫が迸った。
 背を限界まで反らせてブリッジを作り、ビクンビクン!! と、陸に上げられた魚みたく跳ね回る。 
 目はカッと大きく見開かれるが、焦点はどこにも合わされていない。
 
 痛覚が緩和、ないし無効化されていないのだろう。
 一瞬どうすべきか迷うが、今さら止められない。始めてしまった以上はやるしかない。
 これで意識が覚醒するなら、いっそ好都合。
 なのだが、

「くっ……」

――思ったよりきつい……!
 それにさっきから、ぬるぬる手が滑る……!
 私が緊張している? いいえ、違う。
 これは汗じゃなく――

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 00:32:00.50 ID:1d4m86gBo<>
 血だ。
 槍を根元まで濡らしているマミの深紅の血が、ほむらの手を真赤に染めている。
 裏股(もも)まで貫通している槍の持ち手は短く、十分な力が込められない。
マミが暴れるせいも相まって、時間だけが空しく過ぎていく。
 
――落ち着いて……でも、急がないと彼女が……

 わかっていても、気ばかり急いてしまう。
 歯を食い縛っているのに漏れてくるマミの悲鳴。
 覚醒しているにも関わらず喘いでいるのは、緩和できる許容量を超えている為か。
多少は緩和されているのだろうが、今のマミはとても魔法に集中できる状態にない。

 こちらの冷静さまで削り取られそうだ。
 緊張しているのも確かだった。一刻を争う無力な命を手の内に握っている。
改めて、その重みを意識する。

 血塗れの手を衣装で拭い、もう一度ほむらが穂を握り締めた時だった。

 その小さな手に、大きくがっしりとした手が重なった。
 黒い袖口と白い袖口が触れ合い、共に朱に染まっていく。
 ほむらが驚いて見上げると、揺れる視線が鋭い視線に捕らえられる。

 鋼牙が無言で頷くと同時に、重なる手が強く、固く握られた。
 力を逃がさないように。
 決して外れないように。
 ほむらも瞬時に意図を理解する。そこに一切の言葉は要らなかった。

 鋼牙はまどかを一瞥して、

「足を押さえろ!」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 00:46:27.81 ID:1d4m86gBo<>
「は、はい!」

 と、まどかが急いでマミの足に飛び付く。
 戸惑いながらも、役割を与えられたことに意気込んでいるようで迷いは見られない。
もがくマミの右足を必死で押さえている。

 額を汗が伝うのを感じる。
 熱い。
 自分の熱と、鋼牙の手の熱と、マミの血の熱が混じり合って。
 握った槍が焼け付くように熱い。灼熱のマグマかと錯覚するほどに。

 ほむらからも鋼牙に視線を送り、今度こそと頷き返す。
 そして。
 二人で握った槍を、渾身の力で、かつ慎重に。
 引き抜く。

「ぅああああああああああっっっっ!!」

 どこにこんな力が残っていたのか、残るすべての体力を振り絞るような叫喚。
麻酔もなく、緩和されているとはいえ痛みは相当なものだろう。
その痛みは想像するしかできない。

 かと思っていたのだ、が。

 片膝をついていたほむらの左足首が突如、がしっと鷲掴みに握られる。いや、潰される。
 ギリギリと締め付ける力。万力のようなとは、まさにこれ。
足首から先が痺れ、血流が止まるのを感じる。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 01:00:45.10 ID:1d4m86gBo<>
「あっ……ぐっ……!」

 ほむらの口から苦悶の呻きが漏れる。痛みこそ鈍いが、骨をも砕くのではないかと思えた。
 その凄まじい握力に振り向くが、襲撃者の正体は確かめるまでもなく察しが付いていた。

 ホラーのような想定外の敵が、前触れもなくいきなり現れるなんて、そうそうありはしない。
往々にして、そこにいるべき者が可能なことをしているだけ。
ほむらの足首に手が届き、それだけの力を持つのは彼女一人だった。

「はぁっ……くっ、ぐぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 歯を食い縛り、固く身を閉じ、かぶりを振るマミ。彼女の右手が足首を掴んでいた。
 害意はない。無我夢中で掴む物を探して、たまたま探り当てた物を掴んだ。
 それだけのこと。

 魔法少女の全力で足首を握り潰される激痛がほむらを苛む。
 だが振り解きはしない。そんな暇はない。
 それに、これはマミの痛みなのだ。この身に刻まれる痛みを通して、
彼女の想いが、必死が、少しでも伝わるような。
 そんな気がした。気がしただけだが。

「大丈夫か?」

 鋼牙の問いに顔を上げると、マミの左手は彼のコートの裾も引っ張っていた。
 こちらは足首で、向こうはコートの裾なんて不公平。
などと思わないでもなかったが、まあいい。口を開けば不満より痛苦の声が飛び出そうだ。
 ほむらは視線で答えると、注意を戻した。

「抜くわよ……!」

 メリメリと肉を掻き分けながら、次第に貫通していた槍が持ち上がり――。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 01:16:58.23 ID:1d4m86gBo<>
「はぁぁぅっ!?」

 ついに抜ける。
 マミは上擦った声を上げて大きく跳ねた後、糸が切れたように弛緩した。
 ほむらの頬には飛散した血が赤い点を残すが、気にしてはいられない。

 まず、真赤に染まった手握られた槍を観察する。
間近で見ると刃は分厚く、結構な太さだ。これが骨を砕き、動脈を貫いた。

 こんな代物が刺さった状態で激しく動けるのは魔法少女だからこそ。
そのせいで命を危険に晒している訳だが、最後の一線で踏み止まっていられるのもまた、
魔法少女である証左。

 では刺さっていた場所はどうか。ほむらは傷口に目を移す。
 未だ滾々と溢れ出る血。栓がなくなった分、勢いは増している。

「うっ……」

 と声がしたと思うと、まどかが口を押さえて顔を背けた。目尻には涙の粒を浮かべている。
 だから見るなと言ったのに。
 と呆れるが、かくいうほむらも、慣れているとはいえ知人の痛々しい姿には若干の抵抗があった。

 抜く際にまどかも見ただろう。割れた肉の間から覗く白い骨、黄色い脂肪、ピンク色の筋肉、
その他諸々がグチャグチャに掻き回され、何もかも深紅に塗り潰され、ぬらぬらと光っている様を。
生々しい光景に、まどかが顔を背けるのも頷けた。
 まどかは顔をマミから逸らしたまま、おずおずとほむらを見る。

「マミさん……大丈夫なの?」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 01:31:53.13 ID:1d4m86gBo<>
 まどかの問いに、ほむらは答えない。答えはわかり切っていたし、答える価値のある質問でもない。
 すべては彼女次第。
 しかしマミの右手は今も足首を締め付けており、彼女が意識を保ち、痛みに耐えているのは確か。
 そうこうする内、次第に変化が見られた。

「何だ、これは……」

 驚きの声を発したのは鋼牙。
 当然の反応だ。ほむらが清潔なハンカチで傷口の血を拭うと、出血は止まっていた。血管が塞がっていたのだ。
 神経が繋がり、砕けた骨の欠片が折れた骨に同化し、大腿骨が両端から伸びて継ぎ目もなく再生する。
 その間も、マミは断続的な激痛に喘ぎ続けているようだった。

「はぁ……はぁ……うぅっ! っあぁっ! はぁ……」

 魔法の使用は多分に感覚に因るものであり、理屈で説明するのは難しい。
ましてほむらは治癒魔法なんて使えないのだから、感覚を理解するなんて無理な話だ。

 考えられるとすれば、痛覚の緩和と同時には使えない、使う余裕がない。意図的に魔力を節約している。
 もしくは治癒――というよりも、最早、修理に近い行為に際し、
神経や毛細血管の一本一本にまで感覚を張り巡らせる必要があるという可能性。 

 だとすれば、痛みを消してしまっては精密な肉体操作ができないのかもしれない。
勝手な推測に過ぎないが。

 苦しむマミを傍で見ながら、ほむらは考えていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 01:42:39.16 ID:1d4m86gBo<>
――巴マミは生きている。
 涙、涎、鼻水。顔面を様々な液体で汚しながら。
 苦痛にのたうち回りながらも、彼女は懸命に生きようとしている。

 そうまでして治癒を続けるのは、彼女自身も生きたいと願う意志があるからだろう。
……その先に何が待ち受けているかも知らず。

 唐突に不安に駆られる。後悔と言ってもいい。
 本当に……これでよかったの?

 安らかで潔い死。

 苦痛に満ちた不様な生。

 どちらが彼女にとって幸せだったのだろうか。
 いっそ、ここで死んでいた方がましと思えるほどの苛酷な現実が待ち受けているかもしれない。
いや、きっとそうなるだろう。私は、それを知っている。

 仮初だとしても満足して死ねるのなら、それはそれで幸せだったのかもしれない。
それを私が苦痛を与えて、無理やり引っ張り戻してしまった。
 果たして私のやったことは、正しかったのだろうか。
 私の行為こそ自己満足であり、偽善に過ぎないのではないか。

……らしくないことをしてしまった――
 
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 02:01:54.22 ID:1d4m86gBo<> *

 暫くして太股の割れ目が閉じ、最後にはスゥと皮膚が張って、少女の艶めかしく白い肌が戻った。
元通り、傷跡すら残っていなかった。

 奇跡の生還。
 普通ならば諸手を挙げて喜ぶべき場面。
 しかし、だ。見せつけられたのは、本物の奇跡と呼べる現象。
 瞠目する鋼牙の前で、目を開いたマミが身を起こす。

「う……ん。ふぅ……終わったわね……」

 立ち上がると同時にふらつくマミを、まどかが支える。

「マミさん! まだ休んでいた方が……」

『無理をしない方がいいよ、マミ。今の君は血が絶対的に不足している。常人なら、とっくに生命維持に支障をきたしてる量だ』

 続くキュゥべえの言葉で驚愕は更に加速する。
 瀕死――どう考えても手遅れだった人間が、一命を取り留めた上に、数分で傷を完治させ、立って歩いた。
そもそも、とっくにショック死していてもおかしくない出血量だったのだが。

――彼女は……本当に人間なのか?

 日頃から異常の中に身を置く鋼牙をしても、度肝を抜かれる光景だった。
 魔法。
 便利な言葉だが、果たして、その一言で片づけていいものだろうか。
魔法少女――どうやら彼女たちには大きな秘密があるようだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 02:16:29.95 ID:1d4m86gBo<>
 そう睨んでいるのは相棒である魔導輪も同じだったようで、

『どう思う、鋼牙』

「さあな。今のところ確証はない。お前は?」

『大体は……たぶんお前と同じだろうぜ。ま、詳しくは、あの白いのと黒い女が知っているみたいだ。しかし――』

 不意にザルバが言葉を切った。
 闇の中を何者かが這い寄ってくる気配。ズリ、ズリ、と床を擦る音が追い付いてくる。
 鋼牙はほむら共々、瞬時に身構えるが、

「さっき凄い悲鳴が……マミさん……まどかぁ……」

 すぐに警戒を解いた。
 不安げな、今にも泣き出しそうな声。ずっと置き去りにされていた美樹さやかだった。
全員がマミの救命に必死で、それどころではなかったのだが、さやかはそれを知らない。

 マミは姿を見せず、白い剣士も走って行ってしまった。暗闇と静寂が戻り、また独りぼっち。
何秒かして、まどかとマミらしき悲鳴が聞こえた。
 近くにいるはずなのに、誰も見てくれない。探してくれない。
ずっとこのまま忘れられるのかと思うと、取り残されるのが堪らなく怖かった。

 今度こそ、何が起こっているのか確かめずにいられない。
たとえ恐ろしいことだとしても、見て見ぬ振りはできない。その為に傷付いた身体で這ってきたのだった。

「さやかちゃん!」

「まどか!」

 姿が見えるや否や、まどかが真っ先に走り寄って、さやかの表情もパァッと和らぐ。
 お互いに生き残ったことを喜び、両目から涙を溢れさせ、いざ感動の抱擁――とはいかなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 02:30:46.72 ID:1d4m86gBo<>
 手を伸ばす直前、さやかの脳裏に忘れかけていた疑念が蘇り、
まどかとほむらが手を繋いで逃げる光景がフラッシュバックする。

 何もかも思いだした。
 あの時、突きつけられた絶望。

――もしかして、まどかはあたしを見捨てて逃げたんじゃ……。

 あり得ないと信じたい、本心では信じているのに、理性がそれを許さない。
 まどかは裏切った。親友だと思っていたのに。
 途端に、彼女の笑顔も温かい手も、すべてが偽りに思えて。
 
 パシッと――まどかの手を振り払っていた。

「あっ……」

 と、言ったのはどっちだったろう。気付いた時にはもう遅かった。
 血の気が引き、青褪めていくのを自覚する。
 これは違う。
 そう喉まで出かかったが、振り払ってしまった以上は言い訳もできず、

「……〜〜っ!」

 さやかは苦虫を噛み潰したような顔で押し黙るしかなかった。
 手を叩かれたまどかは一瞬さやかと同じ表情を浮かべたが、

「あ……ごめん。さやかちゃん……怪我してるもんね。ごめんね……」

 ぎこちない作り笑顔で言ったきり俯いてしまった。
 見ていたほむらもマミも言葉を発することができず、重苦しい沈黙が支配する。
 ほむらは原因が自分にあると勘付いたが、ここで釈明すれば、
自分がまどかに執着する理由も話さなければならない。なるべくなら避けたかった。

 マミも詳しい事情を知らず、口を挿めないでいた。
ほむらがまどかだけを逃がしたからだろうと察してはいたが、
だからと言って何を言える訳でもない。

 部外者であり、飛び入りの鋼牙は尚更である。
 わかっているのは、まどかとさやかの間で、何らかの確執があったことだけ。 
 少し離れた位置から少女たちを眺めていると、左手のザルバがカタカタ顎を鳴らした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/22(月) 02:41:46.82 ID:Ksi6W86L0<> おう、来てるwktk <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 02:46:39.39 ID:1d4m86gBo<>
『陰我とは、これ即ち因果。だが、こっちは流石のお前も手に負えるものじゃないか』

「因果……か」

 少女たちの視線を観察すると、ザルバの言葉の意味が実感できる。
 さやかの視線は気まずそうにまどかに向き、まどかは切なげにさやかを見ている。
マミがほむらを見る目には、警戒と困惑、二種の感情が込められているように思う。
 ほむらの鋭い眼光は、いつの間にか鋼牙を見据えていた。 

『やれやれ……人間同士を結ぶ因果ってのは面倒だな。
切っても切れず、迂闊に切っていいもんでもない。そうだろう?』

 視線は複雑な感情を秘めて絡み合っている。
 だが、鋼牙にはその視線の意味が、彼女らを結んでいる因果の糸が見えてこない。
 この心境をどう説明したらいいものか。
そこへいくと、ザルバの言葉は実に的確だった。

「ああ……まったくだ」

 そして最も面倒なのは、その因果の絡まりに既に自分も編み込まれていること。
 一日の疲労がどっと押し寄せてきて、鋼牙は軽く溜息を吐いた。
ホラーとの戦いよりも、その後の出来事が神経を擦り減らしている。

 しかし不可解である。
 ホラーと魔女が同じ場所にいた。
 互いの使い魔が一緒になって襲ってきた。
 この場に、魔法少女と魔戒騎士が居合わせた。

 本当に偶然に過ぎないのだろうか。
鋼牙には何者かの作為があるように思えてならなかった。
 何者かはわからない。そんな何者かが存在するのか否かも。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 02:54:06.16 ID:cL18UnQ0o<> 犯人はこの中にいる <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:01:05.39 ID:1d4m86gBo<>
 因果という言葉の意味を改めて思い知らされる。
今日のすべての出来事に原因があり、この結果が導かれたのだとしたら――。
 嫌な予感がする。この街そのものが底なしの泥沼であるかのような、得体の知れない不快感。
とにかく、ホラーを浄化して終わりとは行かないことは確かなようだ。

「とりあえず……美樹さんは怪我をしているのでしょう? 私が治療するわ」

 物思いに耽っていると、マミが最初に沈黙を破った。
 助けもなしに歩けるようになっているが、さやかの前まで来て崩れそうになり、近くにいたまどかに支えられる。

「無理しないで、マミさん……」

『そうだよ、マミ。さっきも言ったけど、君は最低限身体を動かすのに必要な血液さえ足りていない。
魔力で無理に補っている状態だ。傷は塞がっても魔力は消費され続けているから、他に回す余裕なんてないよ』

「でも……」

「あ、あたしは大丈夫ですから……痛っ!」

 あくまで食い下がるマミに、手を振って答えるさやか。
立ち上がろうとして右足に力を込めるが叶わず、痛みにうずくまる。
 
「さやかちゃん!」

 まどかが叫ぶ。
 助けたかったが、肩を貸しているマミを放っては行けない。それに、拒絶されたばかりで行っていいのか、
また拒絶されるのではないかと思うと足が動かなかった。
 
 関わってしまったからには見過ごせない、か。
 ほむらが動こうとするより早く、鋼牙はさやかの身体を軽々抱き上げる。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:11:59.55 ID:1d4m86gBo<>
「きゃっ――」

 突然抱き上げられたさやかは身を固くするが、それが鋼牙だとわかると大人しくなった。
 名前も知らない男性。それでも、彼が信用に足る人物だという点は一切疑う余地がない。
故に気恥かしさを感じながらも、素直に従っている。

 彼は黄金の騎士。命の恩人であり、真っ暗闇の中で唯一の光、希望そのものだから。

「俺が運ぶ。まずは、ここから出るのが先決だ。話はそれから聞かせてもらおう」

 そう言って、鋼牙は三人の少女たちを促す。
 この瞬間、魔戒騎士と魔法少女が交錯したのだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:13:34.90 ID:1d4m86gBo<> *

 その頃。
 空に満月が輝く下、夜の街を練り歩く少女が一人。
 服装はパーカーにショートパンツ。赤い髪をポニーテールに束ね、口にキャンディを咥えた少女だ。

「見滝原……か」

 懐かしさは感じなかった。愛着があったとすれば、それは友であり、帰るべき家であり、家族だ。
 しかし、この街にはどれもない。かつてはあったが、今はない。
 この街には自分の居場所はない。ならば自力で獲得するのみ。たとえ、誰かから奪い取ることになっても。
それが少女の生き方だった。

「さて、あの黒いのはどこにいるんだか……」

 ぼやきながら当座の目的を果たすべく街を歩くのだが、一向に成果はない。
手に赤いソウルジェムを握り、廃ビルに廃工場等、
魔女のいそうな場所をしらみ潰しに当たるのだが、捜しているのは魔女ではない。

 残る一人の魔法少女。
 佐倉杏子は一人の剣士を捜して街を訪れていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:25:02.78 ID:1d4m86gBo<>
 そして彼女の捜し求める剣士――涼邑零は、彼女の足下にいた。
 そこは滅多に誰も寄り付かない、まして夜となれば踏み入る者は絶無の、地下を流れる水路。

 夜の地下水路は真に暗黒の世界だ。光と闇の割合は10対0。
 しかし零の周辺に限っては、その比率は逆転していた。
地下水路には電灯もなく、月の光も街の光も差さないというのに。

 白い光が降り注ぎ、零は銀色の光を放つ。
 例えばその身から。
 交差する双剣から。
 誰に照らされる必要もない。さながら自ら光り輝く恒星の如く。

 今の彼は、厳密には涼邑零ではない。
 其の名はゼロ。
 銀牙騎士・絶狼。
 反りを持つ双つの牙を操る狼。冴島鋼牙と同じく、銀色に輝く鎧を纏う魔戒の騎士。

 尖端が釣針のように鉤状の返しがついた双剣が、闇に閃いた瞬間。
 魔女は十字に切り裂かれ、断末魔が地下に木霊した。

 鎧の召喚を解いた零は、黒い衣装もあってすぐに闇に同化する。
視界は再び暗闇で塗り潰されたが、仕事柄、闇の中で活動する零には然して苦ではない。
 悠々と帰路に就く零は、手の中で黒い宝石を遊ばせる。
そこへ語り掛ける女の声。しかし、姿は見えない。

『また手に入れたのね、その宝石』

「ああ。マミちゃんって言ったか……今度、彼女に会った時にでも土産にあげるさ」

『手土産の一つでもないと、彼女は話を聞いてくれそうにないから?』

「ま、それもあるけどな」

 手首に付けた魔導具・シルヴァに答える零。
 黒い宝石、グリーフシードは魔法少女に必要なアイテムらしい。
どう必要かまでは知らないが、それも含めて調べるのがいいだろう。

 その為にも、この街で出会った魔法少女――巴マミ、彼女とはまた会いたい。
いや、会わなければならないだろう。

 強さと弱さが危ういバランスで同居している。
 それが今日、彼女に感じた第一印象。
 まるで昔の誰かを見ているようで、因縁めいたものを感じずにいられなかった。 
 だが、知らぬ内に因縁を結んだ魔法少女がもう一人、すぐ側まで来ているとは考えもしなかったのだが。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:39:34.38 ID:1d4m86gBo<> *

 街を訪れた二人の男と少女たちは出会い、互いの戦いに巻き込まれていく。

 冴島鋼牙。

 涼邑零。

 共に、闇に潜み人を喰らう魔獣、ホラーを狩る使命を持つ魔戒騎士である。
彼らが邪悪な気配に誘われたのは当然の帰結と言えるだろう。
 しかし邪悪な気配はホラーだけのものではなく、魔女と呼ばれる怪物とも融け合い、混じり合い、既に形を成すまでに至っていた。
 やがて街を覆う、どす黒く淀んだ闇は、二人の騎士をも呑み込み渦巻いていく。
 だが案ずることはない。彼らの鎧と剣は、闇の中でこそ燦然と輝くものなのだから。

 魔戒騎士とホラーに関する諸々の伝承と闘いの詩を記した古文書、《魔戒詩篇》の一節に、このような記述がある。


 光あるところに、漆黒の闇ありき。

 古の時代より、人類は闇を恐れた。

 しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ――と。


 故に私は、この伝説の語り部として断言しよう。
 
 黄金騎士・牙狼と、銀牙騎士・絶狼。

 黄金の狼と双剣の銀狼。

 夜の街を駆け抜ける二頭の狼。その軌跡は眩い剣閃となり、少女たちを絡め取る闇を切り裂く。
 鎧を纏う二人の騎士。その甲冑は絢爛にして勇壮、下卑た偽りのメッキなどでは断じてない。
 一点の曇りもなく、見る者を圧倒し、同時に魅了する真実の輝き。
 その輝きが、気高き狼の咆哮が、闇の中を彷徨う魂を導く道標になるのだと。

 出会いは偶然か、はたまた運命か。それとも奇跡だったのか。それは今もってわからない。
 しかし、これだけは言える。黄金と白銀の騎士はまさしく、私たちにとっての希望の光だったのだと。
 私は今も信じている。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/22(月) 03:46:06.93 ID:1d4m86gBo<> ここまで第1話
全10〜12話くらい?、
地の文を削るなりしてペースアップを図りたいところですが、どうなるかは未定です
『私』は牙狼TV本編における、カオルの語りのようなものと思っていただければ。なので仰々しくしました
牙狼verとまどかverの次回予告を作りたいと思っていましたが、本編だけで必死だったので今日の夜あたり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 03:52:30.95 ID:cL18UnQ0o<> 乙です。
もう4ヶ月目か……長くて熱い30分だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/22(月) 06:26:33.63 ID:ygG26uYPo<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/22(月) 09:45:24.26 ID:Ksi6W86L0<> 薫に言いつけるぞ!うらやましい! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/22(月) 10:22:00.62 ID:RicYMNqYo<> 乙すぎる
いやーマジ濃厚な1話だった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/08/22(月) 21:26:17.50 ID:RcwIWvfS0<> お疲れ様です
続き楽しみにしてます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<><>2011/08/22(月) 22:02:55.98 ID:ZWLAigq50<> 乙
1クール終わるのに3年以上かかりそうですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/23(火) 02:15:11.34 ID:mcgeo4mf0<> 乙!!
これで1話か・・・カロリー高すぎるだろ <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/23(火) 02:23:47.34 ID:J59K1HLBo<>
次回予告(まどか☆マギカver)

*


マミ「あなたの口から聞かせてほしい。あなたの言うことなら、私……信じるから」
キュゥべえ「わかったよ、マミ。君に本当のことを話そう」


第2話
キュゥべえ「君にその勇気があるのなら」


* <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/08/23(火) 02:25:25.03 ID:J59K1HLBo<>
次回予告(牙狼ver)

*


魔戒騎士と魔法少女。二つを分ける決定的な違いがわかるか? 答えは戦いの中にのみ存在する

次回! 『牙城』

闇の世界へ、ようこそ


* <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/23(火) 02:27:43.50 ID:J59K1HLBo<> 以上、それぞれの作品のマスコットによる次回予告でした。皆さんはどちらがお好みでしょうか
来週はお休みして、たぶん2週間ほど間が開きます
というのも、2話がなるべくスムーズに進められるよう、今後も含めて構成を固めておきたいのが一つ
それと上で出てたかもしれませんが、他で書いてるのが(そういうえば、あっちも一応虚淵作品?)進んでないので少し進めておきたいのが一つ
再来週の日曜を目標に書き溜めたいと思います。できなければ経過報告を

いつもコメントありがとうございます
>>446
年内……は無理かもですが、ペースアップはしたいと思います。面目ない <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/08/23(火) 02:29:02.11 ID:J59K1HLBo<> 「闇の世界へ〜」は本編予告からの流用です
好きな予告であることと、これ以上にしっくりくる言葉がなかったので <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 03:53:04.48 ID:Vv+fcRBDo<> あと三年間、無理しないで頑張ってください

上は冗談、でも日常パートくらいは台本形式にしたら? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/23(火) 04:48:38.39 ID:zazA2NsCo<> 予告乙。とっととソウルジェムバレがくるのかコレは。まどさやの亀裂含めて大変そうだし、ゆっくり待ってる。
後、>>1さんの他の作品も見てみたいが……一応って事はFateかブラクラ辺りだろうか。

自分は台本形式じゃない方が好きかな、と。無茶言ってる気もするけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/23(火) 07:49:24.64 ID:40M80UYwo<> 俺も台本形式じゃない方が好きだなァ

この濃さで1クールは大変だろうケド、がんばって
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/23(火) 19:23:11.64 ID:loL6KK0Vo<> 濃厚な話、一気にいったぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/24(水) 01:32:13.39 ID:r+z+tMTYo<> 1クールなのにもう4ヶ月経ってる件 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)<>sage<>2011/08/24(水) 23:03:42.54 ID:fTz6plIl0<> やっぱまどかverのBGMはポッピッポーで
牙狼verはsaviorinthedarkのアレンジなのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2011/08/24(水) 23:52:14.49 ID:JlsYzXbXo<> >>456
待て、TV放送で1クールとは一言も言っていない、内容も30分にしては長いし
OVAや劇場版で10〜12話なら1話ごとに数ヵ月や一年単位もあり得る・・・

他のって>>81のブラスレイター?
脚本はメインじゃなかったけど、折り返しの一番熱い回は虚淵だったな。最終回は監督と隊長のせいでアレだったが・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/25(木) 09:58:11.55 ID:L8JS5fgH0<> 予告乙乙
やっぱザルバの語りは痺れるよな。
個人的には“水槽”と“英霊”の語りが凄く好きだわ〜
何にせよ、次回に期待。無理せず執筆してください。楽しみにしてます

>>458
ブラスレの折り返し回は熱かったな、あそこがピークだったよ・・・
何が「凌駕した」だ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 14:03:43.44 ID:NroCwu8mo<> ザルバの語り予告良いよな
特に次回のサブタイを言った後の一言がタマラン
なんというかボトムズの予告に通じる良さがある <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/08/25(木) 15:40:06.44 ID:4kP3lF27o<> 牙狼新シリーズ詳細きたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/25(木) 18:04:17.58 ID:yp/bKB+b0<> 乙です
これ、『私』の語りが後日の回想ってことはつまり、
全部終った時に最低でも『私』だけは確実に生き残ってることになるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/08/27(土) 22:24:53.58 ID:t4QEeAPY0<> >>462
つ「シン・シティ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 17:50:33.63 ID:L4t2cSsto<> >>463
シン・シティ知らないからググってあらすじを把握したけど、やっぱりよく分からない
どういうこと? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/08/29(月) 18:50:46.10 ID:/UUd3Xid0<> >>464
その映画でも「後から思い返すと」って感じのモノローグがあるけどそれを言ってたキャラが最後まで生き残れなかった。
ってことを言いたいんだと思う。まあそうならないのを祈るけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 23:35:21.25 ID:cmpjSdY4o<> >>465
なるほど、把握した
語りだからといって油断してはいけないということか
サンクス <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/09/01(木) 21:56:05.24 ID:Is+u279P0<> FF10では最初は主人公の回想だけどこれは終盤はじめでの別れになるかもしれないからみんなにしている思い出話で
この場面に追いついても語りがなくなるだけで物語は終わらないし、語り部だった主人公は消滅する。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/04(日) 00:16:14.64 ID:8YxF58DK0<> 日曜日がやってきた…
>>1が降臨する予言の日だ!!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/04(日) 23:55:51.06 ID:7v+1S+Owo<>
 闇に潜む魔獣、ホラー。
 口の中で呟いてみるが、どうにも馴染まない響き。
しかし疑う余地はない。一夜明けてみると現実味は薄れているものの、あれは紛れもない現実。

 思い出そうとすると身震いする。本能が思い出すことを忌避しているよう。
 それほど恐ろしい怪物だった。取り分け、無力な少女にとっては。
同じく人を脅かす魔女と戦う魔法少女ですらそうだったのだ。

 少女――美樹さやかも、無力な側の人間だった。
今でこそ、こうして普段通りに登校できているが、昨夜は本当に死が一歩手前まで迫っていた。
泣いて喚いて、傷付いて。何事もなかったかのように、お日様の下を歩けることが嘘のようだった。
 嘘といえば、足と腕の傷と捻挫も、すっかり完治している。これも現実感の欠如に拍車を掛けていた。

 一条の光も差さぬ暗闇で、自分を喰い殺さんとする絶望の権化。さやかがそれに屈服し、呑まれかけた時。
 同時に救いの手も差し伸べられた。
 白いコートの剣士――冴島鋼牙。もっとも、その名を知ったのはモールに戻ってからだった。

――店が立ち並び、過剰なまでの光と音が混じって溢れる世界は、ほんの数十分前と何も変わらない。
閉じられたフロアで何が起こったのか、誰も知らない。
それが凄く不思議で、それでいて数十年振りみたいに懐かしい温かさもあって。気付いたらまた涙が出ていた。
 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだと思う。
あんな人混みであの人にお姫様だっこされている状態なのに、人目も憚らず泣きじゃくってしまった。

 今思うとかなり恥ずかしい。でも本当に死ぬかと思ったのだ。それを、あの人は救ってくれた。
 ホラーとあたしの間に割って入った剣士は、剣を天に突き立て、光の円を描く。
そこから漏れ出る眩い光に照らされた直後、狼の顔をした黄金の騎士に姿を変えたんだ――
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 00:11:27.26 ID:UlScQPtlo<>
 瞬間、魂が震えた。
 黄金の鎧の輝きはどんな美辞麗句を並べても足らず、その感動たるや筆舌に尽くしがたい。
 太陽よりも燦然と。
 満月よりも妖しく、美しく。
 記憶と目蓋に、鮮烈なイメージとして焼き付いている。

 ホラーが絶望の具現なら、黄金騎士は希望の象徴。
 だというのに、さやかは未だ黄金騎士の名を知らず、悶々とした気分が抜けなかった。
 そのせいで昨日も疲労は極限に達していたのに、なかなか寝付けなかった。

 取り留めのない思考を巡らせていると、いつの間にか足はいつもの待ち合わせ場所に来ていた。
 陽光が降り注ぐアスファルトの照り返しを逃れて、木陰に佇む人影を見つける。
そこには親友の志筑仁美が一人、ぽつんと立っていた。こちらに気付いた仁美に、さやかは軽く手を挙げる。

「はよー、仁美」

「おはようございます。まどかさんは今日も遅刻みたいですわね」

「ふぅん……」

 視線を外し、努めて平静を装うさやか。
 さやかを悩ませている事柄。その一つは魔女と魔法少女について、もう一つはホラーと黄金騎士、
最後は親友――だったはずの鹿目まどか。

 混乱の最中、さやかはホラーの前に取り残され、まどかは謎の転校生、暁美ほむらと手に手を取り合って逃げた。 
傷付いて走れないさやかを置いて。その傷だって、まどかを庇って負ったものだ。
 信じていたのに。
 裏切られたと感じた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/05(月) 00:22:26.66 ID:nTMi3sJm0<> 寝る前に来たら投稿されてた
明日の朝読もう… <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 00:25:44.06 ID:UlScQPtlo<>
 でも冷静になって考えると、色々おかしい。
 確かに状況証拠からは、まどかが転校生と連れ立って逃げた推理が導き出される。
 だが、ほんの一,二の間に視認できない、足音も届かない距離まで忍び足で逃げられるだろうか?
他にも、まどかの直前の言動と噛み合わない等、不審な点は多い。
 そして何よりも――。

 さやかの知るまどかは、あんな極限状態でも、他人を見捨てられない少女だ。
 元々、さやかは小難しい理屈よりも感情に従って生きてきた。
だから、これだけは断言できる。過ごした月日、築いた想い出、結んだ絆はどんな理屈も飛び越える。
 そのはずだったのに。

「あの、さやかさん? どうかなさいましたか?」

 気付けば、仁美が顔を覗き込んでいた。さやかは斜めに下がっていた視線を上げ、

「え? 何が?」

 首を傾げる。
 とぼけたのではない。仁美が何を疑問に思っているのか、本当にわからなかった。

「いえ……とても思い詰めた……浮かない顔をしていましたので」

「あ……」

 と、漏らしてまた俯く。
 まどかがそんなことするはずない。そう信じていたのなら、どうしてあの時、手を振り払ってしまったのだろう。
 今なら自信を持って言える。何度だって言える。
 それだけに悔しい。たった一度、まどかを信じ切れなかった自分が悔しくて仕方なかった。

――だとしたら、裏切ったのはあたしの方かもしれない……

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 00:40:48.59 ID:UlScQPtlo<>
 自責の念が胸の内側から滲み出てきて、嗚咽となって込み上げそうになる。涙が溢れてきそうだった。
さやかが痛みに押し潰されまいと懸命に堪えていると、

「ごめん! 遅くなっちゃって――」

 声の方に向くと、小柄な身体にピンクのツインテールが揺れていた。
 息を切らして、小走りで駆け寄ってくるのはまどかだ。その肩には、昨日見た白い小動物。名前は確か、キュゥべえ。

「あら。おはようございます、まどかさん。そんなに急がなくても、まだ大丈夫ですのに」

「なんで……」

 キュゥべえの存在に驚くさやかをよそに、仁美はごく普通に挨拶を交わしている。
 まさか、見えていないのだろうか。

『(あの……さやかちゃん……)』

「うわっ……なにこれ……」

 頭の中に直接まどかの声が響く。さやかは耳を押さえると、思わず口に出して驚いた。
隣では仁美が怪訝な顔をしている。

「(なんか、頭で考えるだけで会話できるみたい……だよ)』

「(そ、そうなんだ……)』

 いわゆる念話――テレパシーというやつだろうか。が、念話そのものよりも、
まどかと会話したことに動揺してしまい、素っ気ない返事をしてしまう。声が上擦るのを隠せなかった。
 まどかの返事も、どこかぎこちない。きっと彼女も同じ思いを抱いているに違いない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 00:56:48.55 ID:UlScQPtlo<>
 しかし何故。と思っていると、

『昨日、ちょっと話しただろう? さやか、君にも魔法少女の素質があるって』

「(それじゃ何? あたしはもう魔法少女になっちゃってるの?)」

 今度はキュゥべえが割り込みを掛けてきた。
 マミはかっこいいと思うし、尊敬に値する。が、それはつまり命懸けで戦う使命を課せられる訳で。
昨夜のマミのように、恐ろしいモンスターとの戦いを意味するのだ。
 勝手にそんなものにされては堪ったものじゃない。

『いいや、今はまだ僕が中継しているだけだよ。君たちも契約すれば単独で使えるようになる』

「(ふぅん、何か変な感じ……。ね、あんたの姿って仁美には見えてないの?)』

『そうだよ、僕がそうしない限りね。声も聞こえない』

「(でも、昨日の人……冴島さん。あの人はキュゥべえが見えてたみたいだけど……)」

 まどかの言に頷く。
 昨日、5人と一匹は落ち着ける場所で軽く今後の相談をした。当初、鋼牙は素性を明かすのを躊躇っていたが、
思案の後、情報交換を提案した。その場で、鋼牙ははっきりとマミとほむら、キュゥべえを相手に指名した。
もっとも、ほむらは明言せず立ち去ってしまったが。

 しかしマミの体調がすぐには戻らず、さやかの為に治癒魔法も使わせてしまった。
結局、時刻も午後の8時を過ぎていたので、明日の約束をして別れたのだった。

『それは僕にはわからない。けど僕が考えるに、彼らは異なる存在を視る訓練をしていると思うな。
或いは違う世界の生物、魔獣ホラーと戦ううちに耐性が付いたのか』

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 01:10:37.08 ID:UlScQPtlo<>
――ん? 彼ら?

 キュゥべえの発言に僅かだが引っ掛かりを覚える。
 鋼牙のような戦士が複数いて、キュゥべえはそれを知っている?
 言い間違いや推測の可能性もあり得るが、ともあれこの場で深く追求するのも面倒だ。
さやかは一旦キュゥべえの発言を聞き流した。

『これは忠告だけど、あまり彼に関わらない方がいい。彼は危険な存在だ』

「(そんな! あの人はそんなんじゃないよ!)」

「(違う! あたしたちのこと助けてくれて、ちゃんと事情を話すって約束したじゃん!)」 

 これには黙っていられなかった。
 さやかがキッとキュゥべえを睨むと同時に、まどかも声を――といっても心の声を、だが――荒げた。
 いくら命の恩人とはいえ、つい昨日出会ったばかりの人間を、何故こうまで庇うのか。
自分でも不思議だった。

 それでも、マミもまどかも、あの場に居合わせて彼を疑う者は一人もいない。
いや、ほむらだけはどうだかわからないが。
 彼が単なるホラーの敵対者なら、さやかに声を掛ける理由もない。
何より、槍の嵐から危険を冒してまでさやかを守る必要などあろうはずがない。

 少なくともあたしだけは知っている。白と黄金、二つの背中を間近で見ていた、あたしだけは。
あの人の剣は、人を守る為にあると。そう、さやかは信じていた。

 さやかとまどか、二人からの吊るし上げと視線を受けてキュゥべえは慌てて弁解する。

『わわ、落ち着いてよ! 言い方が悪かったね。彼個人の問題じゃなく、彼と深く関わることは、
ホラーとの関わりも意味する。彼がホラーを追っているのは確かなんだ。
奴にはマミですら勝てなかった、ある意味、魔女よりも厄介かもしれない』
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/05(月) 02:11:40.17 ID:UlScQPtlo<>
 キュゥべえの言う通り、ホラーは恐ろしい。できることなら二度と関わりたくない。
でも、それは魔女だって同じ。キュゥべえは契約して自分たちにも魔女と戦えと言っているのに。
 何か釈然としないものを感じながらも、さやかは語尾を濁した。

 二人から反論がないのを確認して、キュゥべえは更に続ける。
 
『同じく暁美ほむら。彼女にも警戒すべきだ。君たちは見てないけど、僕を狙っていたのは彼女だよ。
魔法少女が生まれるのを阻止したかったんだろうね』

「(えぇっ、ほむらちゃんが!? だって、ほむらちゃんは……)」

 まどかがほむらを庇う。さやかは、それが何となく面白くなかった。
 そりゃあ、まどかにとっては彼女は自分を守ってくれたかもしれない。でも、ほむらはさやかに銃を向け、マミを脅した。
あまつさえまどかと組んだ肩を振り解き、闇の中に置き去りにした。
 認められるはずがない。キュゥべえを狙ったのも頷ける気がした。彼女はきっと、そういう類の人間。

「(でも……ほむらちゃんは私たちを守って……。魔法少女が邪魔なら、何で私たちを助けたの?)」

 違う。
 守ったのはまどか、ただ一人。他はついでに過ぎない。現に、いよいよ危ないとなれば、まどかだけを連れて逃げ出した。
 理由なんか知らない。どうでもいい。確かなことは一つだけ。

「(だったら、マミさんはどうして? ほむらちゃんはマミさんを助けたんだよ?)」 

 また、ほむらか。
 さやかは自分の内で黒く淀んだ感情が生まれるのを感じていた。
 まどかの言葉は正論。ほむらの行動原理は善悪どちらかで説明できるものではない。理屈ではわかっている。

 それでも。
 さやかには他に術がなかった。まどかを憎みたくないが故に、その捌け口はほむらに向けるしかなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/05(月) 02:44:59.91 ID:UlScQPtlo<>
 心なしか息が苦しい。膨らんだ黒い感情が気道を塞ぎ、内臓を圧迫しているかのよう。
人を憎むのは多大なエネルギーを消費すると聞いた覚えがあるが、今なら実感できる。
 いや、それとも――莫大なエネルギーを生んでもいるのだろうか。
この、自らの意志とは無関係に身体を突き動かし、暴走を促すような、全身に行き渡る力の源は。

『彼女の本当の目的はわからない。でも、僕を狙ったのは事実だ。とにかく心に留めておいて』

 キュゥべえにも構わず、まどかとさやかは視線をぶつけ合う。
 まどかは悲しそうに、さやかは疎ましそうに。
 どちらも口は開かない。思考すら交さない。交すのは視線のみ。
一たび開けば止まらない、感情に任せた言葉の応酬になりそうだった。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/05(月) 02:46:29.32 ID:UlScQPtlo<>
ああ……タイトルコールまでも行きませんでしたが、あんまり書き溜めができなかったので、ここまで。
できれば明日……明後日……水曜までにもう少し進めたいです。
一応、二話は零と杏子とマミが中心になる予定。

気持ち地の文を減らしました。いきなり減らすと違和感がありますので。減ったでしょうか。
慣れてくれば、もう少し要約できるはず。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/05(月) 06:39:49.15 ID:TvdgMwvV0<> 乙
おお、実に虚淵だねぇ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/05(月) 12:14:50.53 ID:vR6LNgFxo<> 乙です

まあほむらはさやかから見たら本当に嫌な奴だしなあ
というかまどか以外から見たら(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/05(月) 19:42:04.68 ID:k5gSMfcAo<> 乙です。

そしてほむらがああなったのは別世界のマミやさやかの影響という……世界ってどこまでも意地が悪い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/09/07(水) 23:36:47.05 ID:aUW3ZYzAO<> キバ見たがパネェ
第2期に出てきそうな伏線いっぱい出てきた
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:29:44.44 ID:TlUijr0yo<>
「あの〜……、お二人ともさっきから何を見つめ合っているんですの?」

 いつまでも動かないまどかとさやかの間に、仁美が割って入った。
 傍目からは、二人が無言で見つめ合っているようにしか見えないのだ。
ようやくそれに気付き、揃って返答に困っていると、

「はっ!? まさか二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですの?」

 何を勘違いしたのか、仁美は赤らんだ頬を押さえ、身体をくねらせながら首を振る。
 彼女らしい愉快な冗談。
普段ならここでさやかのツッコミが入り、まどかは引き気味に笑っているような、そんな場面。
 しかし、彼女の言うところの禁断の恋中の両者はピクリとも笑わず、気まずそうに視線を彷徨わせている。

「でも、いけませんわ。女の子同士でそんな……それは禁断の恋――なんて……」

 流石に空気の読めない場違いな冗談と自分でもわかっていたのか、仁美はコホンと咳払いをして、表情を引き締める。
 彼女なりに空気を変えようとしてくれたのは嬉しいのだが、そんな程度でどうにかなるレベルではなかった。
まどかもさやかも、とても笑い合うような気分にはなれなかった。

「こんな剣呑な雰囲気で、それはありませんわね。それくらい、私にもわかりますわ。
あれから喧嘩でもなさったんですか? 私でよろしければ相談に乗りますけど……」

 一転して真面目な顔になった仁美が親身な態度で尋ねるも、二人は口を噤んだ。
 天然の割に見るべきところは見て、察するべきところは察してくれる彼女は、
今回も親友同士の確執を早々に見抜いた。

 その気持ちは嬉しかった。涙が出るくらい。だからと言って話せる訳がない。
 魔女の使い魔、マミという魔法少女、転校生の正体、そしてホラーと黄金騎士。
上手く説明できる自信もなければ、信じてもらえるとも思えない。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:33:23.57 ID:TlUijr0yo<>
 結局は、

「仁美ちゃん……」

 まどかのように迷った挙句に沈黙するか、

「仁美……ううん、何でもないよ。本当に、何でもないから」

 さやかのように笑って誤魔化すかの二択しか用意されていないのだ。
 何でもない。その台詞が上滑りしているのは自覚していた。
 あたしは上手く笑えているだろうか。誤魔化せているだろうか。

「そうですか……」

 不安は、寂しそうに目を伏せる仁美を見た瞬間に確信に変わった。
 仁美は気付いている。そして自分だけ除け者にされる疎外感に傷付いている。
 本気で心配してくれる友達に嘘を吐いて隠し事をするのは心が痛い。
それでも何でもないと答えた手前、今さら真実は打ち明けられない。

「さ、早くしないと遅刻しちゃうよ。今日も頑張っていこー!」

 せめて動揺を悟られないよう誰より前を歩き、声を張り上げる。
 空元気と空虚な笑顔を振り撒きながら。
 しかし隠しきれない僅かな不安と罪悪感が、揺れる瞳に湛えられていた。
 昨日の朝とまったく変わらない快晴の空を見上げて、さやかは思う。

――もう取り戻せない。

 この世界の裏側なんて知らなかった。知りたくもなかった。
けど、知ってしまった。そして、あたしも変わってしまった。
 だから戻れない。もう昨日までの自分にも、昨日までの親友にも。
 もう戻れないんだ、そう心のどこかで漠然と予感していた――

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:33:52.52 ID:TlUijr0yo<>
*

まどか「黄金の……狼……」

 第2話

 君にその勇気があるのなら

*
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:40:28.80 ID:TlUijr0yo<>
 見滝原中心部、駅前に位置するシティホテル。
一等地に位置するホテルは外観も立派で内装も豪奢、それなりに上等なホテルである。
 時刻は朝の9時を回った頃、ロビーから出てきたのは、酷く場違いな男だった。
と言っても、彼の服装ならどこに居ても浮いてしまうだろう。だのに、男に恥じる様子は一切見られない。
 
 もう季節は春なのに、上下とも黒のインナー、脛まである白のロングコート。
 男の名は冴島鋼牙。
 昨日、見滝原を訪れたばかりの魔戒騎士にして、
ショッピングモールで少女たちを助けた黄金騎士・牙狼。

 少女たちと別れた後も明け方まで街の探索をしていた割に、足取りは確か。
寝惚け面を晒したりもしない。いつも通りの仏頂面である。
 鋼牙は起床後、コーンフレークと簡素な朝食を平らげて、準備を整えるとすぐに街に出た。

 ホラーの活動は基本的に夜である。魔女も然り。
 魔戒騎士の昼間の仕事は、ホラーのゲートになる場所を探し、影に潜むエレメントを浄化すること。
陰我のあるオブジェが魔界と顕界を繋ぐゲートとなるのだが、これによってホラーの出現を未然に防げる。
 すべての浄化は不可能でも大分楽になる。何よりホラーが人に憑依すれば、
その時点で確実に一人犠牲者が出ている。憑依された人間だ。故に地味でも必要な仕事だった。

 当座のねぐらと定めたホテルを出るなり脇道に逸れると、左手中指にはめたザルバが口を開く。

『鋼牙、本気か?」

「ああ」

 質問の内容も確認せず、即答する鋼牙。
 昨夜も同じ問答があった。それを敢えて繰り返すのは、相当に重要な問題であるという意味。特に彼らの仲では。
 ザルバが鋼牙に食い下がるなど常なら滅多に起こり得ない。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:42:05.95 ID:TlUijr0yo<>
「あのお譲ちゃんたちにホラーと魔戒騎士の情報を明かすなんざ掟に触れる罪。
牙狼の称号を持つお前なら尚更だ。番犬所どころか、元老院のお偉方だって黙っちゃいないぜ』

「必要な措置だ、深くは話さん。どうせ知ったところで、何ができる訳でもないだろう」

『そりゃそうだ。ま、バレなきゃ問題はないだろうが……』

 ザルバはやや呆れ気味に答えた。鋼牙は頑として考えを変える気はないらしい。
 まぁ、記憶を失っているといえども長年の付き合い。
鋼牙が決断を簡単に翻す人間でないと、本当は問う前からわかり切っていた。

 掟や制約など軽々と踏み越えていく。
 何より最優先すべき大前提。
 それは魔戒騎士に課せられた使命。

 人に仇為す者を討ち、人を守る。

 その為に邪魔になるなら、掟だろうと構わない。自由を縛る鎖はいらない。
 数年前、一人の女性と関わった頃から鋼牙は変わった。
魔戒騎士として命を賭してホラーと戦う生き方は同じ。けれども、顔もない誰かの為ではない。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:43:51.35 ID:TlUijr0yo<>
 世界で一番大切な人と、そこに繋がる数多の人が。
 更に、そこから無限に枝分かれしていく人々の絆が。
 今の鋼牙には、はっきりとイメージできている。

"大衆"や"一般人"なんて名前ではなく、彼らにも友や家族や恋人がおり、分岐を辿ったどこかで自分と繋がっている。
 だからこそ以前にも増して、守り抜くと誓った意志が、確固たるものとして鋼牙の両足を支えている。
 時に無用な敵も作る。楽な生き方ではないだろう。
 だが、人の営みの中で何かを変える人間とは、総じてこんな愚直な人間――言い換えれば馬鹿なのかもしれない。

 鋼牙が一人の女性を救う為に掟を破ったように、彼女の想いが窮地の鋼牙に比喩でなく力を与えたように。
自らを信じ貫く一念が、掟や常識、法則や摂理、果ては運命すらも塗り替える。

 もしもこの世に奇跡なんてものがあるとすれば、それを言うのだろう。
ザルバはそれを誰より間近で見てきた。鋼牙の戦いと、彼が起こしてきた奇跡を。
奇跡などという陳腐な言葉、鋼牙はきっと否定するだろうが。

 最早、何も言うまい。
 ザルバは魔導輪の役割に徹すべく、エレメントの探索に意識を集中させる。
 元より鋼牙がどんな選択をしようと、付き合う覚悟はとうにできている。
共に過ごした長年の記憶が朧げだろうと、それが彼の"ザルバ"である証なのだから。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:44:22.04 ID:TlUijr0yo<>
*

牙狼―GARO― 魔法少女篇

 第二話

 牙城

*
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/09(金) 02:54:06.28 ID:TlUijr0yo<>
短い上に一日遅れましたが、ここまで。次回はいつも通り日曜深夜に。
せっかくサブタイトルを二つ考えたので、タイトルを分けてみました。

またまたコピペミス。>>475と>>476の間に、さやかの

「それは、そうかもしれないけど……」

という台詞が入ります。申し訳ありません

魔戒騎士は北や東と大雑把に管轄が分かれているようですが、遠方の街はどうしているのでしょう。
騎士が各街に細かく割り振られているのか、魔戒道を使って通っているのか、
各地にセーフハウス的なものがあるのか、普通に宿泊施設を利用しているのか……

最初の選択肢はともかく、どれもあり得ると考え、ある程度は各人に任せているのだろうとしました。
小説、資料集等で描写があるかもしれませんが、都合上ここではこういうものとご了承ください。

皆様、コメントありがとうございます
呀見たい……が、敢えて我慢……! 完結まで願でも掛けてみようかと
でも、もしも衝撃の新設定とかあれば、それとなく教えていただければ助かります
二期は絶対見たいと思います。これまでのキャストが大勢出るようなので、シチュエーションが被らないことを願うばかりです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/09(金) 03:52:51.36 ID:hgBd8ZO60<> 乙
鋼牙ならこの険悪になってしまったまどか達に希望をもたらしてくれるはずだ!

あとどっかで見たけど、番犬所は東西南北の4ヶ所あるらしいよ
ついでに妖赤の罠では海外にもちゃんと魔戒騎士が存在してる事が明言されてるし、サバックっていう魔戒騎士同士の決闘大会の為に多数の魔戒騎士が参加してたから、
個人的な予想ではあくまでも東西南北の番犬所は日本の番犬所に割り振られた番犬所で、それぞれの所属番犬所の地域でそれぞれの魔戒騎士の担当区域が決められてるんだと思う
んでもって、海外では海外ごとに番犬所が割り振られていて、同じように魔戒騎士が担当区域のを守ってるんじゃないかと
まあ、全部自分の予想ですが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/09(金) 08:33:26.83 ID:O2Ovbi/s0<> 乙!!
人間不信になってるぞ…鋼牙何とかしてくれよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/09(金) 11:50:43.99 ID:yfYH/DCNo<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/09/09(金) 23:52:30.43 ID:E/ynfocd0<> 乙です。
以下キバで出てきた2期で出てきそうな伏線。
















ネタバレ注意!!









メシアの牙と呼ばれる「ギャノン」というホラーの骸が何者かによって掘り起こされていた。ホラーの死体が消えずに残っているという異常事態でしかも犯人不明。
しかもキバで出てきたメシアの「我は影」という発言、メシアの「牙」という単語から、メシアは本気ではなかった?
カオルに憑依した状態でキバに術をかけ、キバと戦う時のメシアの強さが異常。

以上の点から2期にもメシアが出る可能性が高いと思われる。
ギャノンを吸収して真の姿になるのか、それともギャノンのみが復活するのかは不明だけど、出る可能性は高いと思う。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/10(土) 10:48:36.04 ID:AoJ1rQJHo<> 今日は休みだああああ
やっと前回前々回の投下合わせて読めるよ!読めるよ!

牙狼2期楽しそうだなぁ、早く見たいわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/09/10(土) 14:15:53.55 ID:o4P+XOXJo<> 鋼牙の人が名前変えたことを今知った <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/11(日) 23:55:15.32 ID:NI8OO6Wwo<>
 昼間は退屈だ。何をすべきか迷うことが多々ある。
 街を歩いて運悪く警官にでも見つかれば面倒だし、かといって大抵が不法侵入である寝床にいつまでも留まっていられない。
 そして身体は常に空いていても、常に心に余裕があるとも限らない。

 ただ生きているだけというのは楽な面もあれば、なかなか大変な面もある。
 こんな生活になって、佐倉杏子はそれを実感した。
 学校や仕事があれば、日々の合間合間に余暇ができるのだが、彼女の場合それがない。
生きること自体が目的では、スイッチの切り替えが難しいと言うべきか。

 他人の物を掠め取るにせよ、時に強引に奪うにせよ、コツを掴めば生きる糧を得るのは難しくない。
慣れれば単純な作業。
 例外は夕暮れと夜の時間。この時間に杏子は魔女を探して倒している。
好きでやっている訳ではないが、敗北は死を意味するのだから否応にも刺激はある。
 だが、それだけだ。

 既に生活の一部と化している夜毎の魔女狩りは、生きる為には必要なこと。
魔力が枯渇して魔法が使えなくなれば少女一人で生きていくのも難くなる。
 故に魔女との戦いは命の危険もあってか、やはり生きることの延長であり、暇を楽しむ余裕はない。

 その点、今は僅かだが充実していると感じていた。明確な目的があるからだ。
 ゼロと呼ばれた黒コートの男の捜索。
 その為だけに杏子は見滝原に戻ってきたと言っても過言ではなかった。
 
 目的の合間に休憩を取ったり、魔女を探したり。
やっていることはいつもと同じでも、気の持ちようで変わるものだと思った。
 顔見知りと会うのはできれば避けたかったので、
目的の人物を探し出して用を済ませたら立ち去るつもりだ。その時には、ちょっとした休暇ができるだろう。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/12(月) 00:45:42.26 ID:J5M2j+xZo<>
 無論、あの男が気に食わないのも大いにある。
なのに、彼の何がこんなにも自分を苛立たせるのか、今でも判然としない。
 杏子は今日までそれを考えていた。

――思い当たる可能性は一つある。
 たぶん、あいつにあたしの弱さを垣間見せてしまったことが原因。
感情を爆発させて向きになるなんて、家族を除けば奴が二人目だ。

 あいつと出会って一週間と少し経った頃。
 あたしはあいつに向かい合って、魔法少女についての情報を教えた。
いや、正確には上手い具合に引き出された。

 自分たち魔法少女がグリーフシードを必要としていること、それは魔女が持っていること、
使い魔が人を喰って魔女になればグリーフシードを孕むこと。
 そして、自分が人間を見殺しにして使い魔を育てていること。

 あいつは驚きもせず、ただ黙って聞いていた。
 その余裕染みた沈黙が、感情の籠ってない無表情が無性に腹立たしくて、あたしはいつしか感情を昂らせてた。
 語る声色は平坦なものから悪ぶったものに、最後にはほとんど怒鳴るような調子に。
 
 止めようにも止まらなかった。腹の底から熱い情動の塊が喉を突き上げてきて、
あたしは何とか奴の仮面を剥がそうと躍起になっていた。
 殊更、偽悪的に振舞ってもみた。同情や哀れみなんて御免だと思った。
あたしは間違っていないと自分の正当性を説いた。自己を必死で肯定するみたいに。

 正直、あまりはっきりとは覚えていない。
けれど語り終えた時、あたしは顔中に汗をびっしりと掻いていた気がする。
 そして、あいつはただ一言「なるほど」と。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/12(月) 02:15:12.65 ID:J5M2j+xZo<>
 顔は相変わらず平然としていて、声にも澱みはなかった。
 口から出るのが同情や説教の類だったら、その場で半殺しにしてやろうと思っていたから、
その反応は意外だった。あたしは暫く拍子抜けしてて、その間にあいつは姿を消した。

 何故、あんなことを言ったのか。思い出すと顔から火が出るくらい恥ずかしくて、激しく後悔した。
いっそ消せるなら消し去ってしまいたいくらい。

 これもたぶんだけど、初めて他人に話したから調子が狂ってしまったのだと思う。
 そう、断じて理解者を求めていたのでもなければ、赦してほしかったんでもない。 
 とにかくそれからだ。あたしとあいつの間に因縁が生まれたのは。
 
 会ってどうしたいのか。それすらも決まってないけど、会わずにいられない。
戦いになったらなったで、それもいいだろう。
 あいつに勝って振り切れるなら。
 あたしの生き方の正しさを証明できるなら――

 胸中に様々な想いを渦巻かせながら、杏子は見滝原の街を歩く。
杏子は昨日の昼に見滝原に着き、かれこれ約一日ゼロと呼ばれた男を捜していた。
そうしてふと街中の時計に目を遣ると、気付けば午後2時を過ぎている。

 男が何者で、見滝原のどこに、何をしに来て、何時までいるのか。そういえば何も知らない。
 かつて住んでいた街といっても、見滝原市全体だと捜索範囲はかなり広範囲に亘る。
もしかすると、もうとっくに用事を済ませて街を去ったのかもしれない。そんな予想も脳裡を過ぎる。

 来るまでは会えなかったならそれでもいいと思っていた。
たまには目的を作ってみるのもいいと、それだけだった。
見つからなければ、この街がどれだけ変わったか適当に散策して帰ろうと。

 なのに、あれこれ考えていると会わないと気が済まなくなっていた。
こういうところが気まぐれだと自分でも思う。
 魔女が出そうな場所は粗方探したのに、一向に見つからない。まだ探していない区域が一つだけあるにはあるのだが。
 歩き詰めで疲れた足を引き摺りながら、そろそろ休憩しようかと道端のオープンカフェに目を移すと――。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/09/12(月) 03:18:27.51 ID:J5M2j+xZo<>
「はぁっ……!?」

 素っ頓狂な声を上げて、杏子は目を見開いた。
 何故なら、オープンカフェの椅子に腰掛けているのは黒いコートの背中。
 顔は見えないが間違いない。こんな暖かい季節にコートってだけでも怪しいのに、
雷の紋章と双剣とドリームキャッチャーの刺繍となれば、もう間違いない。

「ぁんの野郎……!」

 杏子は憎々しげに呟くと、早足で向かう。
 自分が足を棒にして見当違いの場所を探している間に、奴はのんびりくつろいでいたのだ。
理不尽な恨みだが、杏子の怒りは燃え上がった。ちょうど手持ちのお菓子も切らしていたし。

 しかしカフェに向かう途中、不意に背筋に寒気が走る。熱せられた怒りが水を掛けられたみたく冷めた。
 きな臭い、不穏な気配は歩道に沿って建っているビルから。
 廃ビル――なのだろうか。見た目は綺麗だが人気が感じられず、今はどこも使っていないらしい。

 まるで何者かに見られているような錯覚。魔法少女としての勘が、ここは危険だと告げる。
 杏子は一瞬迷ったが、すぐに視線を正面に戻す。今はこちらが先決だ。
 ソウルジェムが幽かに光るのにも気付かず、杏子は先を急いだ。

 近付くほどに明らかになる。男の髪型も、テーブルの上を埋め尽くしている物も。
 ケーキにパイ、アイスクリームやパフェ等々、色とりどりのスイーツが所狭しと並んでいた。
 自身でも大食いを自覚している杏子でも胸焼けがする光景。
いったい、どこにこれだけの量が入るのか。どうすれば、これだけのエネルギーを消費できるのか。

 無邪気にケーキを頬張るのん気な横顔に口の端が獰猛につり上がる。
 杏子はテーブルの対面、僅かに手が置ける程度に空いたスペースに、

 バン!!

 と力の限り掌を叩き付ける。
 皿が跳ね、ぶつかってガチャガチャ音を鳴らす。
 そして手元のケーキに向けられていた男の顔は杏子を見上げ、口を開いた。

「よっ、あんこちゃん」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/12(月) 03:21:37.69 ID:J5M2j+xZo<> ここまで。少ないので、できれば明日か明後日も来たいところ
地の文を減らすと約束したな、あれは嘘だ。キャラが一人だと、つい地の文や独白を書きたくなります。
次回は杏子VS零。もうちょっとスムーズに進むはず。

>>491
貴重な情報、ありがとうございます!
妖赤はサバックやオリジナルの騎士の概要程度しか知りませんでしたが、やはり大勢いてそれぞれの担当は狭いのでしょうか。
零が掛け持ちしてたり、鋼牙がフットワーク軽いようだったので、それが当然かと思っていましたが……
牙狼、絶狼、打無以外はあまり強い騎士がいないと聞いて、層が薄いイメージでした。

>>494
同じく情報ありがとうございます!
完全ではないと思っていましたが、メシアにはまだ謎があるんですね
ますます二期が楽しみです。とりあえず、これを進めるに当たって致命的な新設定は無さそうで一安心。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/12(月) 03:24:26.20 ID:J5M2j+xZo<> すいません、>>499は午後二時でなく三時のつもりでした
三時のおやつ
まあ、どっちでもいいのですが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/12(月) 03:49:30.97 ID:kfft9OvS0<> >>501
あいつらは現存してる魔戒騎士の中でも最強クラスな連中なんで……
サバックでも早々に鋼牙と当たった翼以外では鋼牙と零とそのオリジナル魔戒騎士が余裕で準決まで上がったくらいですから
牙狼、絶狼、打無以外にあまり強い騎士がいないんじゃない、あいつらが強すぎるんだ
まあ作中の大ボスはそのくらいに強くないとまともに戦うことすら出来ないような連中だから仕方ないね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/09/12(月) 11:59:30.78 ID:WmYOyQZj0<> そもそも、ホーラーが自然発生すること自体まれだから100体倒しているのはかなり少ない。
普通は発生を未然に防ぐことが多いらしいし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/12(月) 20:09:19.93 ID:Hnz4o57mo<> 乙です。

本編であんだけホラーが連続で発生したのは番犬所とキバが仕組んでたからだしねぇ。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/13(火) 02:44:37.62 ID:ZDCvMyGmo<> >>503-505
後で見返して、書き方が悪かったかなと反省しています。申し訳ありませんでした
それら設定は把握しているつもりでしたが、ご指摘を受けるのはやはり理解・認識が足りなかったと思います
ご指摘ありがとうございました。牙狼を見直して勉強し直してきます
ですので、今日明日の投下は少し難しそうです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 16:27:11.21 ID:lXTJNpyIO<> アマチュアなのに素晴らしいプロ根性だな(皮肉ではないよ)
色んな分野で見習って欲しいプロが何人も思い付いた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/14(水) 23:38:37.00 ID:o8ZzWP4Yo<> 乙
まあ、ちょっと突っ込まれたくらいで神経質になることないと思うよ。間違ってるわけじゃないし
鋼牙のコーンフレークやら零の甘い物やら、本編やwikiを細かく見てるのは分かる
ただwikipediaも完全じゃないからなあ。鋼牙の少年時代からの髪色の変化が母親の加護だとか誤情報も載ってるし
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/18(日) 23:59:37.17 ID:iyGutwzEo<>
「よっ、あんこちゃん」

 涼邑零は佐倉杏子の突然の襲来にもまったく動じず、微笑を浮かべ挨拶を交わす。それこそ友達にでもするかのように気安く。
 またしても彼の仮面は剥がれなかった。意表を突いたつもりだったのに。その事実が、ただでさえ苛立っている杏子をさらに苛立たせる。
 それともう一つ。

「何度言やわかんだ! あたしはあんこじゃねー!」

 言いながらテーブルに身を乗り出して牙を剥く。
 バンバン!!
 と、繰り返し手の平を打ち鳴らすが、

「まぁ、とにかく座ったら? みんな見てるよ」

 零はこれもあっさりとスルー。憤る杏子に、向かいの席を差し出す。
 言われてハッとなる杏子。現状を頭の中で整理して、自分たちが奇異の目に晒されていることに初めて気付く。
 ただでさえ、コートを着込んでテーブルいっぱいにスイーツを並べている変態は目立つ。
そこへ少女が現れて騒ぎだした、今度は何事かと周囲の視線が痛いくらいに突き刺さっている。

「……ちっ!」

 舌打ちして勢いよく着席する。
 段々わかってきた。怒鳴っても暴れても、こいつにはどこ吹く風。これでは暖簾に腕押しである。
 腹いせに足をテーブルにでも乗っけたかったが、まだ手も付けられていないスイーツが数多く残っているので諦めた。 

「で? あんこちゃんはこんなとこまで何しに来たんだ?」

 またしてもその名で呼ばれ、杏子は鋭い目つきで一睨みする。しかし零は意にも介していないようだった。
柔和な――杏子からすればムカつくにやけ顔でしかなかったが――顔を更に綻ばせながら続ける。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/19(月) 00:25:08.76 ID:lIJcFTago<>
「もしかして、俺に会いに来たとか?」

「はぁ? 何言ってんだか。バッカじゃないの?」

 実は正解である。正解ではあるのだが、零に言われるまま頷くのは癪だった。
こいつのことだ。調子に乗ってからかってくるに違いない。
 杏子はだらしなく背もたれに肘を掛け、片足を椅子に乗せると、

「あたしがどこで何しようが、あたしの勝手じゃん」

 そっぽ向いて返事をした。
 自分の事情を詮索されるのは好きではない。彼と和やかなお喋りをしに来たのでもない。
 では、何をしに来たと言うのだろう。それを自らの胸に問うのもなんとなく嫌だったので、

「あんたこそ、こんなとこで何やってんのさ」

 杏子は逆に問い返した。
 この方が会話の運びが楽だったし、ずっと気になっていたのだ。咄嗟に気の利いた切り返しが思いつかなかったのもある。
 なのに、この男ときたら――。

「俺がどこで何しようと俺の勝手、だろ?」

 杏子が再び、ちっ! と舌を鳴らした。
 まるで話が進まない。イライラが募る一方だった。
 不機嫌さを隠さない杏子に、零は仕方がないといったふうに苦笑する。

「言っただろ。仕事だって」

「だから、その仕事の内容を聞いてんだろ!」

 子供をあやすような態度が腹立たしい。自然、杏子の態度も険しくなる。
 もう2,3回テーブルを叩いたところ、ようやく零は断片的にだが吐き出し始めた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/19(月) 01:10:29.24 ID:lIJcFTago<>
「あんこちゃんと似たようなもんかな」

「はぁ? あたしと一緒?」

「化物退治」

 化物――それが何を意味するか、わからないはずがない。
まさか魔女を狩る者が魔法少女以外にも存在したのか。しかし零の次の台詞が、杏子を益々煙に巻く。

「もっとも、俺の本業は魔女じゃないけどね」

「え……?」

 唖然となった。予想を覆す意外な回答に、思考が止まりかける。
魔法少女になって数年になるが、魔女でない化物など見当もつかない。
 暫く首を傾げていると、こちらを見ている零の口元が歪んでいるのに気付く。反応を楽しんでいるのだ。
今の自分は、きっと目をこれ以上ないくらい丸くしていたから。 

 頭を振るなり、スッと目を細める杏子。
 相手の話を鵜呑みにはできない。ブラフの可能性も大いにある。ここは冷静に対処すべきだろう。

「あたしを馬鹿にしてんのか? 魔女じゃなかったら何だってのさ」

「秘密。こっから先はタダじゃ教えられないな」

「タダじゃって……金でも払えっての?」

 こんな下衆な男とは思わなかった。
 自慢じゃないが金も物も持ってない。けど金品を要求するような輩なら、そもそも話を聞く価値もない。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/19(月) 02:31:03.56 ID:lIJcFTago<>
 半ば失望混じりに零の答えを待っていると、

「まさか。家なき子のあんこちゃんに金や物なんて催促しないって」

「――な!?」

 絶句した。
 周囲の客の目が一斉に二人に向くが、気にしていられなかった。
 辛うじて平静を取り繕うと、低く声を落として言う。

「あんた……どうしてそれを……」

「それくらい、見てればわかるさ。いつも同じ服だし、深夜でも平気でうろついてるし。何より――」

 零はワッフルにかぶりつきながら、杏子に人差し指を突き付ける。
心まで覗き込むみたいに上目使いで睨めつけてくる。

「その眼かな。ギラついてて、いつも何かに飢えてるような――時々してるぜ、そんな野良犬みたいな眼」

 正直、驚きを隠せなかった。
 たった数回の顔合わせで、自分の何もかもがとっくに見抜かれていたのかと。
 自分が彼を観察していたのと同じく、彼も観察していたのか。それも遥かに深いレベルで。

 この男は商売敵で、鬱陶しくて、嫌な奴。
 でも、それだけじゃない。いつも飄々としているのに、ふとした隙を見せた途端、
冷徹に切り込んでくる底知れなさも併せ持っている。
 遠巻きに窺って、一瞬の隙を逃さず喰らい付いてくる、まるで獲物を狩る狼。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/19(月) 03:23:22.72 ID:lIJcFTago<>
 杏子は零に一抹の恐怖を抱いたが、

――いや、待てよ……?
 
 はたと気付く。
 
――いくら同じ服、深夜にうろついてるからって、それだけで家がないなんてわかるもんか?
昔だって貧乏だったし、この歳でもあいつみたく一人暮らしってこともあり得るし……
眼の下りで動揺しちまったけど、つまり結局は――

「テメー、鎌掛けやがったな……!」

「ハハ、バレた?」

 悪戯っぽく笑う零には、悪びれる様子も後ろ暗く感じる様子も、まったくない。
 先に彼が見せた鋭い目つきや洞察力は、今の彼には欠片も見出せない。 
人間離れした身体能力に至っては、夢だったのかと思うほど穏やかな笑顔。
 
 だから何だと言うのか。
 杏子が零に抱く感情には一分の揺らぎもなく、
後に掌の上で踊らされていたと気付いた時には最悪の状態に達した。
 その引き金となる提案が、零の口から発せられる。

「ま、俺の質問にも答えてくれたら教えてやるよ。情報交換。どう?」

 やっぱり、こいつは嫌な奴だ。
 すぐにでも槍を手に飛びかかりたい衝動に駆られたが、怒りよりも興味が勝った。

「上等じゃねーか……」

 押し殺した声で杏子が応じる。
 以前にもこうして、まんまと乗せられ、情報を引き出されたことも忘れて。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/19(月) 03:25:24.07 ID:lIJcFTago<> なんやかんやで書き溜めが全然できてません。話も進んでいません。
ご迷惑おかけします。明日もまた来たいと思います。
零の口調はなかなかイメージが掴めず難しいのですが、
書いた通り、ちょっとした含みやニュアンスの違いで微妙に変化するものと捉えています。
特に初期のように心を許していない相手には。

>>512の零の台詞は ×催促 ○要求 でした。
即興だとこういうことが起きがちですね。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/09/19(月) 12:37:48.01 ID:LEzjnES30<> お疲れ様です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/20(火) 01:36:54.66 ID:BdqqhmPMo<> 乙です。
やっぱり歳と経験の差で手玉に取られちゃうか。性質も似たようなもんだし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/20(火) 11:35:56.33 ID:Ahw8tHego<> 杏子が感情ぶつけたもう一人ってマミさんのことかな?
だったら杏子とマミさんの再会したときの反応が楽しみだ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/21(水) 00:22:12.99 ID:9vvDtdc3o<>
「そうこなくっちゃ。それじゃ、一つ聞いたら一つ答えるってことで。さ〜て、何から訊こうかなっと」

 これ見よがしな伸びをして上機嫌な零と反対に、杏子は面白くない。
 それでも椅子を回して反対に座ると、背もたれの上で両腕を組む。大股を開いて椅子を挟み、両腕に顎を乗せた。
相当だらしないが、一応聴く姿勢にはなっている。
 特に反対意見もないので、同意と受け取った零はまず、

「じゃあ俺から。あんこちゃんのその力、魔法はどうやって手に入れた?」

「キュゥべえって変てこな白い動物と契約したんだ」

 予想通りと言えば予想通りな質問に、杏子は滞りなく答えた。
 別に知られたくない内容でもないし、秘匿義務がある訳でもない。
誰も信じないだろうし、話す機会もなかっただけ。
 その目で見たからだろうが、彼がすんなり頷いているのが少し意外だった。

「へぇ、それで契約ってのは?」

「おい! 一つって言ったろーが!」

「これくらいサービスしてもいいだろ。それだけじゃ、どうやって手に入れたかわからないぜ」

「都合良く解釈しやがって……あたしの願い事を何でも一つ叶える代わりに、魔法少女になって魔女を倒せだとさ」

 上手く乗せられている気がしないでもなかったが、素直に教えてやる。怒ってばかりだと話もろくに進まない。
 そう思っていた。零が続きを口にするまでは。

「なぁ、願い事の内容――」

「――っ! テメーに関係ねーだろ!!」

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/21(水) 01:08:18.88 ID:9vvDtdc3o<>
 動く唇を見つめ、言葉を認識した瞬間、杏子は吠えていた。
 上半身を跳ね上げ、零に射るような視線を送る。間髪入れない、ほとんど反射に近い反応。
 だが熱くなったのも束の間、すぐに冷静さが戻り、渋面になる。

 聞かれるかもと内心で恐れていたが、ここまで過敏になってしまうとは思わなかった。
過剰な反応は、その質問が最も触れられたくない部分だと、認めたも同然。
 また一つ、こいつの前で自分を曝け出してしまった。それが何より腹が立つ。

 また、からかわれる。
 零の性格からして充分にあり得ると身構えたが、彼は落ち着き払った顔で、

「わかったよ、質問を変える。じゃ、そいつはどうやって魔法を使えるようにした?」

 深く追求することはなかった。
 拍子抜けして呆然としていた杏子だったが、正気に戻ると軽く着席した。
 再び背もたれに腕を乗っけて、そこに顔を伏せると一言。

「……知らないね」

「どういう理屈で魔法少女になったかはわからないって訳だ」

 顔を伏せたまま首肯する。赤いポニーテールと黒いリボンだけが僅かに揺れた。
 今の顔を見せたくなかった。自分でも、どんな顔をしているかわからない。

――そういや、こいつはあの時も茶化したり馬鹿にしたりしなかった。
 ただ黙って頷いて……。
 いつもやたら軽いノリで絡んでくるくせに、そうやって適度な距離感を保ったり。
 その場しのぎで謝ったり、人の心にズカズカ踏み入ったりしない。
こいつからは時々、近いものを感じる。独りの気持ちを知ってるような――

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/21(水) 02:04:05.86 ID:9vvDtdc3o<>
 落ち着いた杏子は顔を上げ、ぽつり、ぽつりと語り出す。
 
「あいつがあたしの胸に長い耳? をかざして、光が溢れて気付いたら――これがあった」

 左手を前に突き出すと、中指にはめられた指輪から赤い宝石が現れた。
ちょうど手のひら大の宝石を器用に転がして手中に収めると、零に見えるよう摘まみ上げた。

「それ……ソウルジェムだったっけ?」

「ああ」

 ルビーよりも鮮やかに赤く輝く珠玉の宝石。その輝きは見る者を魅了する。
 零が手を伸ばそうとしたので引っ込めた。他人に気安く触られては困る。
 寸前でお預けを喰らった零は、しかし気にも留めず、

「ソウルジェムとグリーフシードの関係は?」

「待てよ。流石にこっからは別の話じゃねーか」

 杏子に睨まれると、零は片手のひらを広げて上げて見せた。
それがお手上げの意味なのか、質問を促したのかは定かでない。
何にしろ、今度は引っ掛からずに済んだ。

「だな。じゃ、次はあんこちゃんの番。言ってみなよ」

「あたしが知りたいのは、あんたが――」

 言い掛けて、杏子は自分が彼の名前も知らないことを思い出す。
 ゼロ、と呼ばれてはいたが、本名だろうか。
これまで散々会話してきたのに、まさか最も基本的なことも知らないなんて。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/21(水) 03:19:32.36 ID:9vvDtdc3o<>
 しかし情報交換という名の腹の探り合いで、貴重な一手を無駄に消費したくない。
 あんたやテメーでも会話できなくはない。現に、これまでそうしてきた。
 どうしたものかと思案していると、

「俺は涼邑零。よろしく、あんこちゃん」

 彼が先に名乗った。
 穏やかな微笑みを浮かべていたが、杏子の目には余裕綽々の笑みとしか映らない。
だから言わずにいられなかった。

「今のは勝手に名乗ったんだからな。カウントしないからな!」

「もちろん。さ、続けろよ」

「う〜……」

 見透かされていた。後で向きになって念押しするところまで、すべて。
大人と子供みたいで――実際、そうなのだが――途端に恥ずかしくなる。
 こうなったら質問内容はよく吟味しないといけない。
これ以上、舐められない為にも一発で核心を射抜いてやると誓い、知恵を絞る。

「さっき言った仕事だけど、魔女とは違う化物って何だ?」

 そして最適と考えた質問がこれ。
 さっきの続きになるが、おそらくこれについて詳しく語らせることで、
零の目的も正体も見えてくるはず。

 零との問答で気付いたことが一つある。
 これは、なるべくアバウトに問うのがポイントだ。
関連し派生する疑問が多いほど、一度に多くの情報を引き出せる。あまり抽象的でもはぐらかされるが。

 どうだ! と自信を持って突き付けた質問にも、零は然して驚きもせず答え、

「魔獣、ホラー。魔界から現れ、人に憑依し人を喰らう怪物、ってとこかな」

「魔獣……に……魔界だって?」

 逆に杏子の方が驚かされてしまう結果になった。 <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/21(水) 03:22:47.58 ID:9vvDtdc3o<> ここまで
次は明日か明後日にも
フラグ管理が面倒で、会話だけなのになかなか進みません <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/21(水) 15:10:57.65 ID:Xo7lv6UHo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/21(水) 20:11:31.70 ID:5jHe2pXNo<> 乙
……というかこの二人が会話してる近くにいるっぽいフラグが立ってたような。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/22(木) 09:33:13.50 ID:dxPUs3YSo<> 乙
杏子と零の会話でなんかニヤニヤしちまったぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/09/22(木) 15:01:02.55 ID:3qeq15a60<> お疲れ様です
続き楽しみにしてます <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/23(金) 02:04:21.94 ID:cn2nlWXso<>
「いるんだよ、そういうのが。ずっと昔……それこそ千年や、もっと古からこの世界と魔界は繋がってる」

 杏子の反応を楽しむかのように、零は口元から笑みを絶やさない。
笑顔そのものは変わらないのに、今度は不愉快さを感じなかった。

「それだけで説明になると思ってんの?」

「奴らは人や物の陰我に寄生する。陰我ってのは万物に宿る闇。主に怒りや憎しみなど負の感情、欲望なんかがそうかな」

「何だよ、それ……」

 突拍子もない説明に首を傾げる。
 もし、ホラーとやらが零の説明通りだとすれば、とっくに明るみに出ていてもおかしくないはずだが。

「それじゃ陰我を持たない人間なんかいねーじゃねーか」

「そういうこと。あんこちゃんも悪いことは程々にしとかないと、度が過ぎるとホラーに取り憑かれるぜ?」

「……余計なお世話だっての」

 零の忠告は、温かい過去の記憶を思い起こさせた。
 夜更かししてるとお化けが出るぞ、なんて――昔、母親に言われたっけ。
特に父がしっかりした人だったので、うるさく言われた記憶がある。

 夜の孤独に包まれていると寂しさに押し潰されそうにもなるのに、今は苦しくない。
ただ懐かしさと優しさだけが溢れてくる。こうして陽の下で誰かと話しているからだろうか。
 察しのいい彼のことだ。自分が生きる為に手段を選んでいないのもお見通しだろう。
そうと知りながら、この程度の反応で済ませる、受け入れるなんて。

 いつしか杏子は、この距離感と会話が心地いいと感じ始めていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/23(金) 02:04:55.35 ID:cn2nlWXso<> 「で? そんな化物が何で誰にも知られてないのさ」

「明るみに出ないように、俺みたいな魔戒騎士が陰で動いてるからね」

「魔界騎士……?」

「魔を戒めると書いて魔戒騎士。夜に人気のない場所を頻繁にうろついてて、
ホラーに出くわさなかったのは運がよかったな」

――魔戒騎士。
 口の中で反芻してみる。不思議な響きだけど、違和感はない。
それどころか妙にハマってる気さえする。

 コートの紋章も、双剣も、なるほど……言われてみれば騎士だ。
騎士と言うからには、こいつはホラーと戦い、倒せる力を持っているんだろう。
一人で魔女を倒せたのも、あたしの槍をことごとくかわしたのも頷ける。

 そこからホラーの戦闘力も大まかにだが推し量れる。こいつは結構な数の魔女を倒してるから、
ホラーは魔女よりも強いのかもしれない。個体差はあるけど、少なくとも弱くはないだろう。
 何より、小競り合いといえ実際に戦った感触からして間違いない。
こいつはそんじょそこらの魔女より遥かに強い。

 なのに、どうして――

「おーい、あんこちゃん?」

 零の呼び掛けで我に返る。思考に没頭するあまり会話を忘れていたようだ。
気付けば、零の顔が間近にあった。

「大丈夫かな? 他に質問は?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/23(金) 10:19:40.75 ID:MMR4iVWP0<> 出張から帰ってきたら進んでる!
乙乙!! <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/24(土) 03:16:19.92 ID:uR1Ezc2po<>
「え……あ……っと」

 知りたい情報は山ほどあるのに、なかなか質問が纏まらない。
 杏子は顔を背け言葉を詰まらせるが、

「それとも、次は俺のターンでいいのかな?」
 
「いいや、ちょっと待った!」

 零が話そうとすると間際で遮った。
 それから唸ること数秒、おもむろに顔を上げる。

「あんたはホラーを倒しに見滝原や前の街に来たんだろ? ホラーってのは、そんなにあちこちに出るのか?」

「まあね。けど出現を予防してるから、そうそう出くわすこともないと思うぜ。
それぞれ管轄はあるけど、俺は色々行ってるから」

「この街のホラーはどれくらいいるんだ? 前の街では二週間で終わったって言ってたじゃん」

 とりあえず、差し当たって自分に関係しそうな問題はこの辺りか。
杏子が言い切ると、零は考える素振りを見せた。話していいものかどうか迷っているのかもしれない。
 
「まだ何とも言えないかな。でも、ここは他の街とは違うから。
既に潜伏してるホラーも、魔界とのゲートの数も半端じゃなく多い。あんこちゃんも気を付けた方がいいよ」

「気を付けろって……どうすりゃいいのさ」

「人気のない場所や怪しい気配のする場所に近付かない。なるべく夜は出歩かないってとこ」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/24(土) 03:18:19.53 ID:uR1Ezc2po<>
「ハッ、そんなの無理に決まってるよ。どれも魔女のいそうな場所・時間じゃないか」

 零の注意を一笑に伏す。彼は、だろうね、と言って肩を竦めた。
 そう、そんなことは無理な話だ。自分が生きていく為には魔女退治は必要不可欠なのだから。

「ま、今言えるのは、この街が異常ってことだけかな。
魔女が多いのと何らかの因果関係があるかもしれないから、調べてみないと」

「なぁ、だったら魔法少女の協力が要るんじゃないか?」

 杏子が身体を起こして提案する。目に光を宿し、心なしか快活な様子で。

 零に対する悪感情は、いつの間にか薄れていた。
 彼と行動を共にしてみるのも面白い。このまま帰るより退屈はしないだろう。
 条件次第では協力してやってもいい。そうだ、三度の食事と寝床ではどうか――とまで思っていた。

 しかし、それを口にしようとした瞬間、

「あたしが――」

「ああ、この街の魔法少女にはもう当たってるから、そこらへんは大丈夫かな」

 杏子は身を起こした姿勢のまま固まった。身体だけじゃない、思考まで止まっていた。

「ん? どうかした? あんこちゃん」

「別に何でもねーよ……」

 言ってまたうつ伏せに戻る。

 この街の魔法少女。
 たぶん彼女しかいない。
 あれから一度も会っていないが、死んだという話は聞かないし、彼女がそう簡単に死ぬとも思えない。
 
 杏子は躊躇いがちに、その名を問う。

「おい、この街の魔法少女って……」

「巴マミって娘だけど……知り合い?」

 零の答えた名前は案の定、杏子に因縁深い少女の名前だった。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/24(土) 03:20:34.94 ID:uR1Ezc2po<> ここまで。もう少しで説明回は終わり。次は日曜夜。
昨日は久々に寝落ちしてしまい、更に起床後すぐに外出したため、中途半端なところで終わってしまいました。

前回フラグと書きましたが、別に杏子と零のフラグではなく、
「誰が」「何を」「どこまで」知っているのかという情報の管理が、
プロットが大雑把なのもあって面倒という意味でした。念の為。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/09/24(土) 07:46:03.11 ID:TO/i/z78o<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/09/24(土) 11:08:13.00 ID:M6sEyUeAO<> 乙!あんた何者だ…凄すぎるぜ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/24(土) 15:48:40.74 ID:+Td+meWro<> 乙でした
相変わらず杏子はあんこかわいい

しかし零また管轄ガン無視し活動してんのか、怒られんぞww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/09/25(日) 16:55:34.61 ID:RljX0PlAO<> 乙。


先行上映見たがパネェ!!
カッコ良さやグロとか色々パワーアップしてる!! <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/26(月) 00:11:36.64 ID:aUcBu5eMo<>
「ああ……まあね」

首を傾げた零に、杏子は投げやりに応対する。

「へぇ、ひょっとしてあんこちゃん、前にもこの街に来たんだ?」

「……何でそう思うんだよ」

「いや、何となく、さ」

「どうでもいいじゃん、あたしのことなんか……」

 なんだか一気に気分が盛り下がった。この会話も、そろそろ切り上げたくなる。
 でも、このままじゃ終われない。自分自身、捨てた故郷までわざわざ戻った理由を見つけるまでは。
すっきりしない。ここで帰ったら、この先もずっと心の隅に引っ掛かっていそうだった。
 
 なのに気分が乗らないのが困りものだった。
 だが零はそうでもないようで、考え込みながらも表情はどこか嬉々としている。
 
「じゃ、次は俺の番だね」

「めんどくさくなってきたなぁ……」

 だらしなく寝そべる杏子が思い浮かべていたのは旧知の少女、巴マミ。
彼女がいるなら、きっと自分なんて必要ないだろう。
 ケンカ別れに近い形で袂を分かったマミ。単純な個々の戦闘力ならいざ知らず、探索や案内、
戦闘のサポートやコンビネーションなら彼女は自分より遥かに長けている。

 見滝原は盛んに都市開発が行われている街だ。数ヶ月もすれば街は様変わりしている。
その点、杏子にはない今の土地勘がマミにはある。どちらが役に立つかと言えば、どう考えてもマミだ。
 故に総合力ではマミには敵わない。それが悔しいと言うか、胸のモヤモヤした気持ちの正体だった。
 

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/09/26(月) 01:34:56.77 ID:aUcBu5eMo<>
「そう言わずに、もう少しだけ付き合ってほしいな。あ、このスイーツどれでも好きなの食べていいよ」

「いらねーよ」

 食い物で釣れるとでも思っているのか。確かに空きっ腹に彩り賑やかなスイーツは魅力的ではあったが。
 手を出したら負けた気がする。もう零の前で弱みは見せたくないと、つまらない意地で誘惑を振り切った。

「じゃあ、俺は食べさせてもらおうかな」

 これ見よがしに零はオレンジのゼリーを口に運んだ。
腹の虫が鳴かないよう顔を伏せて乗り切ろうとする杏子に、突然声が降りかかる。

「あ、それと質問の前に言っておきたいんだけど、あんこちゃん、暫くは魔女退治は控えた方がいいぜ」

「はぁ?」

 顔を上げると、いつになく真面目な顔で零が覗き込んでいた。
 ついさっきまでパフェに舌鼓を打っていた男とは思えない顔。
 心情を吐露した、あの夜と同じ顔。

「言ったろ、今のこの街は異常だって。魔女探しの途中でホラーと出くわす可能性は大いにある。
それに、これは俺の推測だけど――奴らは魔法少女に魅かれてるかもしれないからな」

 ホラーが魔法少女に魅かれる?
 どんな根拠があって言っているのか謎だが、思い当たる節がないこともない。

 一昨日まで自分と零がいた、あの街。零が現れてから2週間、行く先々で彼を見つけた。
 その内の何回か、ソウルジェムの反応を見ず、勘を頼りに不穏な気配を追ったことがある。
 その時、零はやけに消耗していた。そして、闇の中で彼が一瞬、銀色の眩い光に包まれていたのを目撃した。
あれはホラーと戦っていたのだろうか?
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/26(月) 02:50:28.96 ID:aUcBu5eMo<>
――もし、もしもだ。
 あの時、あたしが行った先にいたのが魔女じゃなく、ホラーだったとしたら。
 あたしの縄張りを知り、行きそうな場所を読んでたとしたら。
 そして、こいつが先回りして、それを倒してたんだとしたら……!

 あたしは、こいつに守られてたってのか……!?

 なんて……決めつけるのは早過ぎる。
 けど、こいつが初めて出会った魔法少女はあたしらしい。だったら、あたしを通して知ったのは確実なはず――

 杏子はグッと湧き起こる屈辱を抑えて、余裕を装った。

「……別に構わないよ、ホラーが出てこようが。そんときゃ倒すまでさ」

 自惚れではない。経験と実績に裏打ちされた自信。
 戦いに慣れてから数年、苦戦と言うほどの苦戦はなかった。杏子の見立てでは、零と自分の力量はほぼ互角。
零に倒せる相手なら勝てないことはないと判断した。

 しかし――。

「止めとけよ。あんこちゃんの手に負える相手じゃないぜ」

「何だって……?」

 訊き返す声は微かに震えていた。
 声に秘められた感情は紛れもなく怒り。
 もう何度目か。杏子の八つ当たりを受けたテーブルが激しく揺れ、軋みを上げた。

「あんたには倒せて、あたしには無理って言いたいの!?」

 張り上げた声に周囲の目は二人のテーブルに集中するが、その程度でこの男が動じるはずもなく。
 むしろ杏子の神経を逆撫ですらできるのだ。当然、故意に。
 今の杏子の導火線に火を点けるには、たった一言で充分。
 
「そういうこと」

 その一言を、零は迷わず言い放った。またしても、にっこり笑って。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/09/26(月) 02:59:21.58 ID:aUcBu5eMo<> ここまで。ちょっと難航してますが数日中にもう一度
零の口調も悩みがちですが、杏子の口調も何気に難しい気がしないでもない
杏子やマミ相手の零は、基本的に初登場時の気持ち悪い喋り方をイメージ

コメントありがとうございます
二期までにどれだけ進めるか……
自分の地方では10/12からですので、それまで出来るだけ進めたいと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 10:32:56.65 ID:xiZHeyJ4o<> 乙でした

零は喋りとかテンションとかコロコロ変わるからなぁww
まあその辺も魅力の一つなんだろうけど
あと2期楽しみっすな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/26(月) 20:33:27.92 ID:CMwOzS4uo<> 気持ち悪いってwwwwwwwwwwwwあの喋り方も結構好きだったんだけどwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2011/09/27(火) 00:03:00.20 ID:hoQ91tFAO<> 乙です。






今から2期のとんでもないネタバレを書く!











鋼牙が免許持ってたw教習所通う鋼牙を想像してフイタwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/27(火) 01:51:46.03 ID:RooWg+mGo<> 冗談だろキバヤシー!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/09/27(火) 20:26:15.14 ID:eds8BGNbo<> 乙です

想像して吹いたwwwwwwwwせめてバイクの免許だと言ってくれェ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 10:24:44.63 ID:bRDNadh4o<> 乙
初登場時の気持ち悪い喋り方ワロタww
でもまあ確かに怪しさ大爆発でしたよねww

>>543
う、嘘だろ承太郎! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 19:07:28.08 ID:OyxKXS/DO<> ザルバ「コウガ、後ろの二輪とニアミスだ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/09/28(水) 23:35:42.16 ID:BwpyhURo0<> 正にサーキットの狼 <> ◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/02(日) 23:57:11.87 ID:drxTsnxno<>
 この男は、いつもこうやって平然と受け流す。柳に突きを繰り出しているような感覚。
どうせ怒っても無駄だとわかっているから、逆に冷静になれた。
  
「どうして……あんたにそんなことが言えんのさ」

「だって、あんこちゃんはホラーのことを何も知らないだろ?」

「んなもん魔女だって同じだ。同じ魔女は二人といない。性質だってそれぞれ違う。
いつだって出たとこ勝負、テメーだってそれくらい知ってるだろーが」

「そんな問題じゃない。もっと根本的な違いがあるのさ。
だから、あんこちゃんはホラーには勝てないんだよ、絶対に」

 あくまで勿体ぶる零。乗せられていると知りつつも、

「……じゃあ、どんな違いがあるのか言ってみなよ」

 杏子は自ら問う。
 零は問われて答える形にしたかったのだろう。やれやれと言ったふうに頭を掻くと、
コートを捲り、隠れていた腰の剣を覗かせた。

「ホラーは完全には殺せない。何百年も連中の相手をしてる魔戒騎士でさえ
剣に封印して魔界に送り返すのが精々。だから、封印すらできないあんこちゃんじゃ無理ってこと。
わかった?」

――この自信あり気な顔を見ていると、言ってやりたくなる。
 確かにあんたはあたしより、もっともっと広い世界を知っているのかもしれない。
あたしには想像もつかない、この世界のずっと暗くて深い場所を見て、修羅場を潜ってきたんだろう。
 でも、あたしだってあんたの知らないものを見て、修羅場を潜ってきた。それだけは誰にも否定させない。
 だから、あたしは――
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:01:04.04 ID:Hlrx5e4jo<>
「どうせ、そんなことだろうと思ったよ。でも……その程度じゃ止まれないね」

 杏子が不敵な笑みを浮かべると、逆に零の顔からはわざとらしい笑みが消えた。
 やった! と内心でガッツポーズ。初めて、この男の意表を突いた瞬間だった。

「あんただって魔法少女の……いやさ、あたしのことをちっとも理解しちゃいない。
知ってるかい? 魔法少女は希望を振り撒くもんらしいよ。ホラーが人を喰う化物だってんなら、それだって……」

 無論、ハッタリである。杏子自身、そんな妄言は欠片も信じていなかったが。
 この際、零を見返してやれるなら何でもよかった。畳み掛けるように零の眼を上から睨みつける。

「試してみればいいじゃん。魔法少女がホラーに通用しないかどうか、
何の使い道もない役立たずかどうかをさ」

 捻り出した屁理屈は、ささやかな抵抗。ほとんど意地だった。
 鼻で笑われるだろうか。
 舐めるなと怒るだろうか。 
 返ってきた反応はいずれでもなかった。

「ふぅん、なかなか面白いかもな」

 零はまた微笑んだ。ただし今度は嘲弄を含んだ作り物のそれではなく、僅かに昂揚を帯びた、本当の笑顔。
 意外に好感触なのか、と思いきや。
 
「でも、あんこちゃんの言う通り、俺はあんこちゃんの腕を知らないしなぁ。
あんこちゃんが使い物になるかどうか、正直まだ疑問視してたり」

 明らかな挑発とはいえ、少なからず本心も混じっているだろう。
 こちらは零の力量の一端を知っている。向こうも同じだと思っていたのに、彼は物足りないとでも言うのか。
 ならば思い知らせてやるしかないのか。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:07:04.49 ID:Hlrx5e4jo<>
「それに、あんこちゃんはこの街の魔法少女じゃない。何で、そんなに拘るんだ?」 

 最初は、この男とのケリを付けたら、後は適当に余暇を過ごし、いつもの日常に帰る気でいた。
 誰も自分を知る者がいない街で送る、孤独と罪と戦いの日常へ。
 だが――たった今、気が変わった。

「教えてやるよ。あたしがこの街に来た理由はね……この街を縄張りにして魔女を狩ることにしたんだよ。
あの街は誰かさんが片付けちまったし。だから邪魔なんだ、使い魔でも見境なく殺っちまうあんたはさ」

 衝動的に言ってしまう。もう後には退けなかった。
 
「そうまでしてグリーフシードが欲しい?」

「ああ、欲しいね。あれがなきゃソウルジェムの濁りを浄化できない。
濁りをグリーフシードに移さなきゃ魔法も使えないんだ」

「多分そうだろうと思ってたけど、やっぱりね。おかげで聞く手間が省けた」

 零に乗せられて口が滑ったのではない。敢えて教えてやった。
 今ならまだ間に合う。話し合いで戦いを避けられるならと、心のどこかに甘い考えがまだ残っていた。

「これでわかったろ、あたしにはグリーフシードが必要なんだって。わかったら魔女から手を引きな」

「悪いけど、関係ないな。俺には必要じゃないし。
……俺がこの街に居るのも二週間かそこらだろうぜ。それくらい待てない?」

「どうだか。あたしもあんたの腕を知らないからね。
あんたに任せて、いつまでも待っても片付かないなんてこともありそうだ」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:10:20.17 ID:Hlrx5e4jo<>
「奇遇だな、お互い同じこと考えてるなんて」

「ああ……まったくね」

 互いに微笑を浮かべながら、見えない刃の切先を打ち鳴らしているよう。
 身体が疼く。
 どちらも同じことを考えている。知りたがっている。
目の前の相手の本気。あんな小競り合いじゃない、実戦での全力を。
 こいつの思惑は知る由もないが、この一点に於いて嘘はないと眼を見ればわかる。

「大体さぁ、使い魔だけ倒せばいいんだよ。どうせ死にたがる奴は死ぬ。
あたしらが命張ってまで助ける価値があるのかね。
いいじゃん、グリーフシードの元になるんだから」

「そう思うんなら、あんこちゃんは好きにしたらいいさ」

「何で、そうまでして……。あんたはホラーだけ狩ってりゃいいじゃん。魔女は本業じゃないんだろ」

「それが俺の、魔戒騎士の使命……だからかな」

「使命? 馬鹿馬鹿しい」

 杏子は鼻で嘲笑った。
 使命や自己犠牲なんて言葉、信用できない。それを理由にする人間も。
 が、杏子の嘲笑を聞いた零は一つ頷き、

「だろうね。要は俺らがホラーを狩ることは人を守る為なんだよ。それで飯を食ってるんでね。
だったら同じ人を喰う化物だ、魔女も使い魔もついでに狩っとけばいい。
使命って言うと固いけど、要は仕事だからかな。全うするのが責任ってモンだろ?」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:13:26.28 ID:Hlrx5e4jo<>
 そういえば、零は一昨日にも言っていた。
 使い魔でも人を喰う。結果、世間に不安が広がれば余計な仕事が増える、と。
今思えば、心の闇に憑くと言うホラーを指していたのだ。

 仕事の利害の不一致。人の道を説かれるよりは、よほど納得できる。
 できるはずなのに――。

あんこ「っ! それはテメーが気軽に力を使えるからだろ! あたしはやらなきゃなんないんだよ!
それに、やったからって誰に褒めてもらえる訳でも、ご褒美をもらえる訳でもないんだよ! あんたとは全然違うんだよ!!」

 杏子は激昂していた。
 自分でも何がムカつくのかわからない。何もわからないほどイラついている。何もかもが気に食わない。
 目の前でこれだけ怒鳴っているのに涼しい顔のこいつも、チクチク刺さる奇異の視線も、
テーブルに並んだ甘ったるいデザートの数々も。
 けど何より腹立たしいのは、思考に反して零の答えに落胆し、制御を離れた自分自身の心。

「俺もリスクがないわけじゃないけど……ま、概ね同意だな、特に後者は。
"あいつ"ならともかく、普通は仕事としてそれだけに専念できて報酬を得られるのと、無償とじゃあ天と地の差だし。
けど……」

 零はまったく動じず、人差し指を突き付けてきた。

「俺が訊きたいのはそこ。何で、やんなきゃならない? 
一人で生きていくのに魔法があれば便利、それは理解できる。
けどさ、命懸けて戦うことと秤に掛けて、果たして釣り合うもんかな?」

「何が言いたいんだよ……!」

「そこまでグリーフシードに拘るからには、何か他に理由があるんじゃないのってこと。
例えばさ、願い事だけ叶えてもらって、「はい、さようなら」ってのはできないのか?
ソウルジェムが濁って魔法が使えなかろうが、もう戦わないなら必要ないよな?」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:15:00.27 ID:Hlrx5e4jo<>
「うっ……それは……」

 思わずたじろいでしまう。
 こうなると急所を晒したも同然。今がチャンスと、零が更なる攻勢に出る。

「知らないんだ?」

「っせーな!」

「命懸けで化物と戦うんだ。口約束や使命感だけで続けられるもんじゃないだろ」

 杏子は答えられなかった。無知故の素朴な疑問に、ただ沈黙して俯くのみ。
 魔法少女は全国に何人いて、どのように戦い、どれだけ死んでいるのか。
自分が何も知らないことに気付く。

「願いだけ叶えてもらって後から反故にするなんてことが起こるかもしれない。
何か戦わなくちゃならない理由を作るはず。
強制的に契約を履行させる仕組みとか、事前にそのキュゥべえって奴から聞いてる?」

「んなもん……聞いてねーよ」

「だと思った。じゃ、話したら契約してくれなくなるようなシステムってことだな」

 縦にも横にも繋がりのない杏子が知る魔法少女は巴マミただ一人。
 少なくとも彼女は他人を救う為に戦っていた。
では他もそうなのか、零の言う通り、願いだけ叶えてもらって反故にする、
戦いを恐れて途中で放棄する少女はいないのか。それすら知らない。

 だから零を否定も肯定もできない。
 ただ、キュゥべえがいけ好かない奴で、何かを隠しているのはわかっている。
零の推理も、あながち根拠のない妄想と切り捨てることはできない。
 けれども、零にも誰にも相談できないなら、自分で抱えるしかないのだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:16:39.89 ID:Hlrx5e4jo<>
「本当は薄々でも勘付いてるんだろ? ただ考えないようにしてるだけで」

 図星だったからこそ、杏子は口を噤む。
 ジェムを浄化するのは魔力の回復だけが理由ではない。
本能が訴える漠然とした恐怖に衝き動かされてだった。

 何かはわからない。しかし怠れば恐ろしいことが起こる気がしてならなかった。
それを考え、キュウべえに確かめることも同じ。

「魔法を使えばソウルジェムが濁る。魔力の源はソウルジェムだ。
そして魔女を倒せば、グリーフシードを落とす。ソウルジェムを浄化するのはグリーフシード、黒い宝石……」

 途中から零は自問自答を繰り返している。
数秒が経ち、やがて結論が出たのか、杏子を向いた。

「あんこちゃん、ひょっとして、グリーフシードからは魔女が生まれたりするんじゃないか?」

「なん……で……それを」

 喉が酷く渇いている。辛うじて絞り出した声は、発声の仕方を忘れたかのように掠れ、引きつっていた。
 零は答えることなく、したり顔で続ける。

「魂の名を持つ美しい宝石の輝きが失われ、黒く染まった時に何が起こるのか……何となく想像がつくよな」

 彼の唇が言葉を紡ぐ度、身体は金縛りに掛かったように動けなくなっていく。
呼吸は荒く、動悸は激しさを増すばかり。
 ソウルジェムが黒く染まった時、何が起こるのか――封印していた疑問が呼び起こされ、
噴出した不安が胸中を圧迫する。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:17:58.75 ID:Hlrx5e4jo<>
「死ぬか」

 一つ、零が親指を折り曲げた。

「廃人になるか」

 二つ目、指折り数える。ゴクリ、と唾を呑み込んだ。

「……それとも」
 
 心の闇に付け込まれ、その闇に喰われて身を滅ぼした人間を厭きるほど見てきた。
人が化物に変わる瞬間も。
 零は、それが"決してあり得ない事象ではない"と知っていた。
 故に行き着いた一つの仮説。

――止めろ……。そっから先を口にするんじゃねぇ……

 唇が動いても声は出ない。
 彼が次に何を言うのか、見当はついていた。
 なのに怖くて仕方がない。どれだけ頑なに否定しても、言葉にされたら認めてしまいそうで。
 心を鎧い、衝撃に備える。でないと、精神がバラバラになってしまうかもしれなかった。

「魔女になっちまうか……な」

「――――っ!」
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/03(月) 00:20:00.38 ID:Hlrx5e4jo<> 急遽外出しなければいけなくなったので、切りのいいところで一旦中断します
もう少しあるのですが、今日中に全部投下できるかは未定 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/03(月) 00:53:35.49 ID:uK272RmO0<> やべぇいい展開だ!
確かに魔戒騎士も時間切れになると化け物(心滅)になるしな
魔法少女も同じような存在と推理することはできるか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2011/10/03(月) 00:59:44.64 ID:vy7EpDIJ0<> そういや魔戒騎士たちってどうやって稼いでいるんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/03(月) 09:12:16.79 ID:6PLSRqSAO<> ザルバ「行け〜♪風のごとく〜♪」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 10:05:06.59 ID:vDRA1r7DO<> たぶん、政府とか国連とかから金が出てるんだよ。
公務員な魔戒騎士とかちょっとイヤだけどw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 11:06:30.51 ID:rA8AtrSbo<> 履歴書に魔戒騎士って書くんだろうか・・・ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/03(月) 11:21:54.27 ID:uK272RmO0<> >>562
面接官「経歴欄に魔戒騎士とありますが…コレはなんでしょうか?」
鋼牙「ハイ、人の心の闇に救うホラーを狩る仕事をしておりました。しかし、99,9秒しか変身できません」

みたいな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 15:01:44.96 ID:Ch8/pNsMo<> 乙!
凄い良い所でオワタ\(^o^)/
こりゃ続きが気になるww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/10/04(火) 00:09:12.69 ID:nSyM1OQM0<> 鋼牙は財閥の頭だから、一応表でも無職ではないと思う。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/10/04(火) 01:43:37.98 ID:9eqWzgHX0<> そう考えると鋼牙って凄えよな。
社長&最強&クール&熱血漢&イケメン&彼女有…なんだ俺らとのこの差は。
中二最強物主人公の特性をこれでもかという程持ってるのにアンチがほぼ無しでここまで愛されてるとは…
それもこれも雨宮監督という料理人の腕がいいからだな。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 13:17:21.78 ID:YhduitrDO<> ところで、冴島財閥ってよく聞くけど、その情報の出所ってどこ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 13:18:29.65 ID:YhduitrDO<> ところで、冴島財閥ってよく聞くけど、その情報の出所ってどこ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 15:58:33.98 ID:2mgqu70Qo<> 乙乙
杏子にゴンザの料理食わせてあげてください… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 18:43:40.75 ID:YhduitrDO<> >>568

二重にコメしてしまった。 すみません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 19:38:55.01 ID:nv+cO/tIO<> 出どころもなにも公式設定ですし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2011/10/04(火) 19:39:13.89 ID:yIsNiSToo<> 出どころもなにも公式設定ですし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 19:39:22.00 ID:nv+cO/tIO<> まあ出どころもなにも公式設定ですし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/04(火) 21:29:20.68 ID:YhduitrDO<> 冴島財閥の描写って本編中に出てきましたっけ?
それとも小説版や設定集とかに載っているんですか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/04(火) 22:08:44.52 ID:vkT9k13S0<> 本編のどっかでも言ってたと思うけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2011/10/05(水) 10:44:54.84 ID:1I2rtQiAO<> 普通に本編で触れてたと思うんだが……
カオルが屋敷訪れたときにゴンザが言ったんだっけ?
またDVD借りてくるか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/05(水) 12:03:09.30 ID:Ab+iiQUDO<> >>576
ありがとう。
確認してみます。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 01:21:12.28 ID:ISn5s9jjo<> なんやかんやで、前回も今回も間が開いてしまいました
これからちょっと外出して、2時.30分を目途に投下したいと思います

零の口調は他に表現が思いつかなかったので、ああ書きましたが、私も好きです
鋼牙とは違う魅力を書いていければと

魔戒騎士の収入は、「番犬所が国と繋がってる」みたいなことを監督がコメントされていた……ような気がする
後始末や揉み消しは協力が無ければできませんし
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/06(木) 02:35:02.33 ID:XKzyPRPAO<> ワクワクさん <> ◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:36:42.08 ID:ISn5s9jjo<>
 囁きに、ハッと息を呑んだ。
 零は身を乗り出し、口元だけを歪ませた微笑を浮かべている。
その後、ゆっくりと身体を背もたれに戻すと、

「何にしろ、ろくなことじゃないのだけは確かだろうさ。
それを後になっても明かさないのは、妙と言えば妙だけど」

 また滔々と語り始める。返事がなくても一向に気にしない。

「だってそうだろ? 知らないまま戦いを放棄されたら魔女を倒す人間がいなくなる。
いや……となると、ソウルジェムが濁り切って、魔法少女の身に何かが起こっても構わないと考えてるのかもな。
たぶん、まだ他にも秘密がある……どう転んでも損をしない理由が……」

 一人で、ブツブツ考え込んでいる。
 零はこちらを見ていなかった。
 今の彼にとって自分はいてもいなくてもいい存在。
訊きたい事柄はだいたい訊いたから、もう用済みだとでも言うのか。
 
 問題を解くように淡々と他人を分析することより。
 当事者である自分の気持ちなんてこれっぽっちも考えていないことより。
 敵としてすら見てもらえない。それが許せなかった。

「るっせぇえええええええ!!」

 杏子が吼えると同時に、テーブルが激しく叩かれ、揺れる。それどころか上に乗った皿の大半が右手で払い落された。
 耳障りな音を立てて次々に割れる皿、皿、皿。ガラスや陶器の破片がタイルの地面に散乱する。
どれも食べ終わった物だったのが不幸中の幸いだった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:39:26.85 ID:ISn5s9jjo<>  
 これまでも充分に騒々しかったのだが、いよいよ周りの席が何事かとざわめきだす。
 だが、杏子にはどうでもよかった。今、目に映っているのは涼邑零のみ。
 ソウルジェムの秘密だとか、契約の実態だとか。そんなことは聞きたくない。
 聞きたい言葉は一つだけ。

 杏子は人差し指を突き付け、

「言ったはずだ! 今日からこの街はあたしの縄張りだ。
金輪際、魔女にも使い魔にも手を出すな! これが最後だからな!」

 強い調子で捲し立てる。この上なく身勝手で強引な脅迫と自覚しながらも顧みない。
 そもそも理詰めで挑もうとしたのが間違いだったのだ。最初から交渉の余地などなかった。
他人の事情なんて知ったことか、自分さえ良ければいい。それが自分の生き方だったはず。

 心のどこかで零が頷くことを期待していた。自分の事情を汲んでくれるかも、と。
しかし、頷くはずがないとも思っていた。彼の飄々とした態度の内には揺るぎないものがあるように感じたから。
 そして予感した通り、零は変わらぬ無邪気さで杏子を仰ぎ、

「あれ? 俺も言わなかったっけ? 俺は俺の好きにやるって」

 さらりと突き放した。
 予想していたとはいえ、若干のショックは隠せない。まさか、ここまであっさりと断るとは。
 動揺は態度にも表れる。

「テ、テメーが言ったんだろうが! ソウルジェムが浄化できなきゃヤバイって、あたしを脅かしておきながら――」
「おいおい」

 初めて、零が話を遮った。駄々をこねる子供に呆れるような苦笑で。
 ただ、眼だけは真摯に杏子を見据えていた。
  
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:42:08.10 ID:ISn5s9jjo<>
「自分だけの為に生きるんなら、端から他人の理解や同情なんか期待するなよ」

「うっ……」

 小さく呻きが漏れた。
 ずっと他人なんて当てにせずやってきた。それが零との一連のやり取りで、気弱になっていた。
まだ甘えが残っていたのだ。

 徹底して利己的に生きると決めたなら、ここで迷ったりしなかった。
 力尽くで従わせる。従わなければ殺してでも。最初から取るべき選択肢なんて、これしかなかったのに。
 それでもまだ、迷いは燻っていた。戦うかどうか決め兼ねていた。
 神妙な顔つきで俯く杏子を見て、零は破顔する。

 そして――。


「あ、もしかして本当は独りぼっちで心細いのかな? お望みとあらば頭でも撫でて慰めてやるけど?
寂しがり屋で可哀想なあんこちゃん」


 運命の言葉を放った。
 瞬間――ピシリ、と音が聞こえた気がした。
 それは自分の中で何かが壊れた音だったのか。
 或いは、両者の間に入った修復不可能な亀裂の音だったのかもしれない。

 杏子は暫し呆けていた。やがて意味を理解するにつれ、
煮え滾った憤怒が湧き上がり、抑えられなくなっていった。
 杏子の小刻みな身体の震えに呼応して髪が広がり、逆立つほどにざわめく。
沈みかける陽の光を浴びて、赤髪が燃え上がっているようだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:44:31.49 ID:ISn5s9jjo<>
――あれ? こいつ意外といい奴かも?
なんて下らないことを一瞬でも考えたあたしが途方もない馬鹿だった……!
 ペラペラ情報を明かすのは認めているからかも、なんて間抜けにも程がある。
知ったところで、どうにもできないと侮ってるんだ。
ちょっとでも気を許しかけた自分を殺したくなる……!

 今ならわかる。
 受け入れてくれたんじゃない。
 受け流していただけ。
 単に興味がなかっただけ――。

「くっ、くっ、くっ、ははは……」

 何故だか乾いた笑いが込み上げてきた。
 自分の馬鹿さ加減に呆れて、だろうか。
自分は今、どんな顔をしているのだろう。きっと酷い凶相をしているに違いない。
 右手で己の顔面を鷲掴みに覆った。その時だった。

「あの……お客様――ひっ」

 近寄って来たウェイターが、杏子の顔に怯えを露わにした声を上げ、零に軽く手で制される。
 
――ああ……危険だから近付くな、という意味だ。でも誰が……って、あたししかいないか……。
 この冷静な反応。やっぱり、こいつわざとあたしを挑発したんだな――

 零は故意に杏子の逆鱗に触れた。しかも杏子の性格を知りながら。
だからこそ杏子は堪えた。いや、堪えようとした。
 情ではない。こいつは狼だ、隙を見せれば喰われる。頭を冷やせと戦士の自分は諭す。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:47:58.39 ID:ISn5s9jjo<>
 しかし、そんなことは到底不可能だった。
 背筋から脳天まで駆け上がる熱い奔流が、冷静さや自制心を押し流していく。
ドロドロに熔けた鉄のようなそれは、理性も迷いも羞恥も呑み込み、焼き尽くす。

――まるで一匹の獣。こいつの言ったまま、野良犬そのものだ。
 手当たり次第に噛み付いて、誰も近付けないし、誰にも近付かない。
 あたしはこいつが狼だと感じ、こいつはあたしを野良犬と例えた。

 近いものを感じたのも、きっとそのせい。
 同じ臭いを嗅ぎ取ったんだ。
 孤独と言う名の臭いを。

 なのに……!

……いいさ。
 こいつが狼なら、あたしは野良犬でいい。
 喉笛に喰らいついて、噛み千切ってやらなきゃ、あたしの気が済まない――

 決意を固め、ゆっくりと開かれる杏子の面。
 泣くでもなく。
 怒り狂うでもなく。
 ただ虚無だった。

 逆に向いた椅子の上に乗り、テーブルの縁に片足を乗せる。
手はパーカーのポケットに突っ込み、高みから零を見下ろす。 
 見下ろす眼は据わり、それ以外は人形を思わせる無表情で皺一つ寄らず、個々のパーツは微動だにしない。
底冷えするような凍てつく眼光は、ひたすら零に注がれていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:50:23.82 ID:ISn5s9jjo<>
 それは嵐の前触れであり、濁流がすべてを押し流した後でもあった。
 一見冷静に見えるが、心中では変わらず炎が燃えている。獣は今にも檻を破って飛び掛からんと暴れている。
椅子に上がったのも、もしもの場合に先手を取れるから。この場で襲いかからないのは精一杯の分別。

 誰にも邪魔されず戦うこと。願わくば、どちらかが倒れるまで。
最早、自分の内にはそれしか残っていない。
その為なら、抑え難い感情の爆発も薄皮一枚で抑え込んで見せる。

 杏子は数秒前とは一変した、至って穏やかな声音で語り始める。

「面白そうじゃん……そのケンカ、買ってやるよ」

 それとも、これは自分が売ったことになるのか。それすらどうでもよかった。
 どうせ、こいつもやる気なのだ。どちらが先でも関係ない。

「あたしとあんた、決着を付けたいと思ってたんだ」

 やっと、この街に来た本当の理由を明かせる。そして決着の付け方は、最も単純で、最も得意とする方法。
これで良い。最初からこうすれば良かったんだ。
先の不安や魔法少女の秘密、自らも気付かなかった気持ち――真実なんて考えるだけ無駄。
思う様、衝動に身を委ねればいい。戦っている瞬間だけは、何もかも忘れられるから。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:51:45.34 ID:ISn5s9jjo<>
 テーブルに目を落とすと、まだ一個だけショートケーキが残っていた。

「それ食い終わるまでは待ってやるよ……さっさと食っちまいな」

「そいつはどうも」

 言うなり、零は何事もなかったかのように皿を手に取り、三口で食べ切った。
いつでも斬りかかれる位置で杏子が殺気を放っているというのに、とても落ち着き払った仕草だった。
 最後に紅茶まで飲み干すと、おもむろに立ち上がる。

「ただ、ここじゃ人目につきそうだ。場所を変えようか」

 正確には、とっくについている。現に客の何人かはただならぬ雰囲気を察して、早々に逃げていた。
 零は隣で立ち尽くしているウェイターの肩を抱き、無防備にも杏子に背中を晒して話し込み、やがて振り向く。 
 
「来いよ、教えてやる。俺とあんこちゃんの違いって奴をな」

 そう言って手招く彼の口端は不敵につり上がり。
 応じる杏子も嬉しそうに獣の牙を剥いた。 

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/06(木) 02:54:44.89 ID:ISn5s9jjo<> ここまで。次はたぶん日曜日
これくらいしないと本気で怒ってはくれないかなぁ、
ってことで回りくどくなりましたが次からバトル
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<><>2011/10/06(木) 03:07:17.86 ID:XKzyPRPAO<> 乙あん!
緊迫感有って良いねぇ
微妙に牙狼側が贔屓されてる気はするけどww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2011/10/06(木) 08:40:34.52 ID:r05FKINAO<> 乙なんだよ
続きが楽しみだ

まあ陰我に宿るホラーに人間の心の闇を知りつつも使命を背負って戦う歴戦の魔戒騎士と、多くを知らず様々な出来事に揺れながら戦う多感な年頃の魔法少女じゃ、文字通り大人と子供だからねぇ
経験や理知性、肝の据わり方、視野の広さ、何より実力という面で魔戒騎士が秀でるのはある意味当然だわな
むしろ魔戒騎士と触れ合うことによって魔法少女にどういう変化がもたらされるのかが肝なのかもしれん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/06(木) 10:08:11.78 ID:n7Jh6sXDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/06(木) 10:15:43.26 ID:Kzu0d9OCo<> そだね
戦闘能力はともかく、交渉能力や精神力じゃ百戦錬磨の魔戒騎士には勝てないだろうなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/06(木) 10:30:02.28 ID:tkGIdSKOo<> 乙

零は相変わらず相手を煽るのが上手すぎワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/07(金) 01:12:25.77 ID:ZUYr/UQN0<> 乙乙!!
あんこはやっばい相手に喧嘩売っちまったなー
善戦はするかもしれないが相手は百戦錬磨の魔戒騎士…どう見ても心身のスペックが違いすぎるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 01:17:48.53 ID:/5wHvRWio<> 乙です
最近、更新頻度が高いのが嬉しいです
でも無理だけはしないでください <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/10/07(金) 01:33:31.35 ID:yuczI38Qo<> たくさんのコメントありがとうございます
早い所は二期直前ですが、一つお願いがあります

当スレは基本的にまどかと牙狼に関する話題なら何でも歓迎
ですが二期――『牙狼<GARO>〜MAKAISENKI〜』につきましては放送日時が各地方で異なることもあり、
というか私の地域の放送日が最速から約一週間遅れな為、
大変申し訳ありませんが、それまで最新話のネタバレはお控えください

これまでも詳細は伏せられているようなので杞憂かと思いますが、念の為 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 02:46:05.84 ID:/5wHvRWio<> 切実でワロタw
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/10/07(金) 02:53:23.97 ID:rrbq0zYd0<> 見られるならまだいいじゃないか!!
こっちなんか映んないんだよ…!!
GAROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/07(金) 16:12:51.31 ID:rbjdvUg6o<> こっちでは昨日放映でした。これで
もうなにもこわくない。ネタバレ的な意味で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 00:07:32.81 ID:sSB2VO1ko<> こっちは今日放映だがチューナー買ってないせいで1話見れないぜ
あたしって、ホントバカ... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/08(土) 09:42:39.37 ID:wIrBa/Lfo<> 放送始まってたのか……見損ねたorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/10/08(土) 23:08:01.84 ID:URMSHKO7o<> トルネで撮ったの今日見たよ
鋼牙出てきたとき懐かしすぎてウルっと来たんだぜ…

よく考えてみると此間レッドレクイエム見たばかりなのに凄い久しぶりの気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/08(土) 23:45:21.09 ID:yrQBWD730<> ネタバレ:黄金騎士カッコいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2011/10/09(日) 00:18:25.55 ID:ctK+ns1D0<> 放送されないうちみたいな地域はDVDが発売されるのを待つしかないんだぜ…
全国ネットで放送しろよJK <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/10/09(日) 04:26:14.41 ID:0mHkhP3J0<> せめて、USTみたいなところで放送してほしいなあ。 <> ◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/10(月) 00:12:13.33 ID:SwIMn3Ggo<> すみませんが、今日の投下は明日に延期します
なんやかんやで書き溜めが間に合っておらず、即興で書く体力も無いので
明日には多少投下できると思います <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/10(月) 01:33:02.96 ID:dERa79flo<> 桶 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/10/10(月) 03:13:40.14 ID:1qkr5fpG0<> 続き期待してます。頑張ってください。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2011/10/10(月) 03:14:08.19 ID:1qkr5fpG0<> 続き期待してます。頑張ってください。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2011/10/10(月) 03:15:02.94 ID:1qkr5fpG0<> 続き期待してます。頑張ってください。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2011/10/10(月) 07:58:45.87 ID:PZ+xqYUAO<> >>603
ですよねー('A`) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/10/10(月) 08:04:11.43 ID:PZ+xqYUAO<> >>603
ですよねー('A`) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/10/10(月) 08:05:11.83 ID:PZ+xqYUAO<> すまん、重複した <> ◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/11(火) 03:03:01.49 ID:BJAUkungo<>
 陽が傾きかけ、街並にオレンジが差す。
高い建物に囲まれた裏路地を歩く二人の影は、その濃さを増していた。
 しかし二人の影が色濃くなっているのは、何も時間と場所だけが問題ではない。

 両者が纏う異質な雰囲気。取り分け杏子のそれは、どんな鈍感な人間でも戦くであろう殺気、そして鬼気。
両手はポケットの中にあっても、剣呑な気配は、前を歩く零を背中から刺さんばかりに絶えず発散されている。
 そんな状態が、かれこれ10分は続いていた。

 零は軽快な足取りで振り向きもしない。だが、杏子にはわかっていた。
何故なら、ずっと彼の背中を見つめていたから。
 店で挑発された時点で、とっくに我慢の限界だったにも関わらず、大人しく従う理由とは何か。
 
 それも零の背中が物語っている。
 切り込む隙がないのだ。
 突く、斬る、払う、打つ。
 いかなる手段を用いようとも、軽く返されるヴィジョンしか浮かばない。

 前を向いても背後に神経を集中させている。
無防備に見えるが完全な防備。背中に目があるかのような錯覚さえする。
 ならばしない方がまし。面と向かって戦い始めて、後手から反撃の糸口を掴むしかない。

 そもそも不意打ちで勝っても意味がなかった。よしんば倒せたとしても、きっと気は晴れないだろう。
 零に舐められた怒りだけが、今の杏子を衝き動かしていた。
 生きる為の戦いとは真逆な、まったく無益で無駄な戦いだと自覚している。だからといって無意味ではない。
こいつに負けたくない、自分の意地を貫く為に――その程度の意味はある。
 ならせめて、最低限の意味だけは失くしたくなかった。

 ここで己が強さを証明できなければ、その意地は砕け散ってしまう。
 たかが意地。されど意地だ。善悪も正否も、その前では力を失う。
 ただ気持ちの赴くままに。意味など後で考えればいいし、或いはなくていいのかもしれない。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/11(火) 03:04:12.92 ID:BJAUkungo<>
 しかし、流石にそろそろ焦れてきた。杏子は足を止め、零の背中に言葉を投げる。

「おい、どこまで行く気だ?」

 声に零も足を止めた。止めたが、振り向きはしない。

「この先に行っても、人のいない場所なんてないよ」

 今は薄ぼけた記憶を辿りながら杏子は続けた。
 歩いているうちに思い出した。この先はたぶん繁華街だったはず。人の多さはさっきまでの通りの比ではない。

「ま、ここら辺でいいか」

 と、零が振り向く。相変わらず何が楽しいのかニヤついている。

「実は人目を避けられるなら、どこでもよかったんだよ。別に完全じゃなくても」

「はぁ? どういうことさ?」

「ここなら、あんこちゃんがいつ襲ってきてもよかったんだけどな」

 零が手を広げて、周囲を見回した。
 騒ぎから逃げるように入った路地裏。2,3分も歩けば、随分と人気は少なくなった。

 道幅はざっと3m少々。オフィス街のはずが、不自然なほどに人も音もない、都会のエアポケット。
条件だけを見れば、槍使いの杏子に些か不利な条件と言えなくもない。とはいえ、零の得物は短めの双剣。
接近を許さなければ、回り込んだり、大きく避けるほどの空間がない分、リーチが物を言う。
小柄な少女なら振り回すのにさほど不便はないだけに、地の利は杏子にあった。

 その程度のこと、零が気付かないはずがない。知りながら、この場を選んだ。
と言うよりも、どこでもよかったのだろう。それだけでも軽く屈辱だが、この言葉の真の意味は別にある。
 十分も歩かせたのは、どこかに向かっていたのではなく、
いつ杏子がキレて背後から仕掛けてこようが構わない、対処する自信があった、と言外に語っていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/11(火) 03:05:38.97 ID:BJAUkungo<> いくら多少と言っても、もうちょっと投下したかったのですが……
今日明日の間くらいに書き進めます
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/11(火) 10:52:20.38 ID:yciOkTJlo<> キテター!乙

絶狼といえば衝撃波を空間に設置して時間差で飛ばす攻撃が格好良かったな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/12(水) 01:56:00.04 ID:r91ZVIgco<> 乙。
零もことさら怒らせるような言動してたのはなんか思惑あるのかな

>>616
轟天を手に入れる時の試練で現れた牙狼も似たようなのつかってたな
攻防一体で便利だなあの技 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州・沖縄)<>sage<>2011/10/12(水) 11:22:56.57 ID:5aFVATSAO<> 牙狼の技はパチンコにオリジナル技が沢山あるが、どれもかっこいいよな
竹馬はどうかと思うけど
パチンコやらない人はニコ動とかYouTubeに上がってると思うからそっちで見れると思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/12(水) 22:01:23.69 ID:2HB2FdkIO<> 烈火炎装っすな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/14(金) 12:17:00.80 ID:6F0I/p3Go<> 後半、コダマとかキバとかメシアとか敵強すぎワロタwwwwだったんで忘れてたが
普通のホラーにとっては鋼牙が牙狼に変身=俺オワタ\(^o^)/なんだよな
1期前半の見返したら圧倒的な強さでまさにホラーの天敵って感じだったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/14(金) 20:04:17.50 ID:oKw76RpWo<> 魔戒騎士の中でも最上位の金と銀だから、並ホラー相手は圧倒的でないとなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/10/15(土) 23:47:02.45 ID:zP1jkHNa0<> >>620
しかも牙狼の称号に指令が行く=並の魔戒騎士では危険なホラーって事だからな。
使徒ホラーの一角を雑魚同然に始末できる鋼牙さんマジ最強。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/10/16(日) 00:40:27.10 ID:/zy57Ewa0<> べビルがカルマと同じ最凶ランクの使徒ホラーなのが謎だ。
特殊能力が戦闘向けじゃないけど相当性質が悪いとかかなあ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(島根県)<><>2011/10/16(日) 23:02:15.56 ID:uGWdvpqJ0<> >>623
恐らくだが、ベビルは『ホラー食いのホラー』だからキバと同じように食えば食うほど強くなるホラーだったんじゃね?
早い段階だったから割と簡単に倒せた的な感じ。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/17(月) 00:00:54.38 ID:DTAKjFNQo<>
「なら、さっさと始めようじゃん。ほら……抜きなよ」

 抑揚のない声で言う。
 十分も無駄に歩かされた挙句に、この反応。頭に来ないではなかったが、ここで怒れば零の思うつぼ。
 怒りは槍で返す。事、ここに至っては言葉など何の意味も持たないのだから。
 だが、零は違ったらしい。

「いいや。俺はこのままでいいよ」

「はぁっ――!?」

 杏子の口から素っ頓狂な声が出た。
 すぐに間抜けに開いた口を手で覆い、我が耳を疑う。零が自分を挑発しているのも、侮っているのも知っている。
けど、まさかここまでとは。
 こいつはムカつくが、計算高く腕も立つ。悔しいが只者じゃないのは認めざるを得ない。

――だったら何で……!

 彼我の戦力差を予想できないのか。そこまで侮って、虚勢を張って、無事でいられると思っているのか。
これは一昨日の小競り合いとは訳が違う。少なくとも、杏子は殺す気である。
 怒りを通り越して不思議だった。それとも、まだ駆け引きをしているつもりなのか。こちらが本気じゃないとでも?
 だとしたら――。
 
「馬鹿だね、あんた。……救いようがないくらい。あたしが手加減するとでも?」

「思わないな」

「だったら抜きな。これがほんとのほんとに最後通告だよ」

「どうしてもって言うなら……抜かせてみな」

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/17(月) 00:30:17.21 ID:DTAKjFNQo<>
 杏子は、もう何も問わなかった。静かに左手を突き出すと、指輪から赤い宝石が出現。
軽く跳躍しつつ、左手を振る。ソウルジェムが眩い赤の光を放った直後、杏子の身体を同色の光が包んだ。
首から下を覆い隠す光は、年相応に華奢な身体の線を浮き彫りにする。
そして足から順に赤いドレスが纏われ、胸にはソウルジェムが輝いた。

 文字通り、瞬きする間の出来事。しかし一瞬とはいえ、零の動体視力は一部始終を完全に捉えていた。
 魔法少女の戦装束を纏い終えて降り立つ杏子に零は、
 
「へぇ。大したもんだな。けど、人前ではやらない方がいいと思うぜ」

 と手を叩いて茶化す。
 しかし杏子は以前のように赤面することも、向きになることもしない。
酷く冷めた、つまらなそうな視線を送るのみ。

「ふぅん……ま、いいさ」

 言いながら、いつの間にか手に持っていた槍を頭の上で回す。
やがて、慣れた手捌きによって高速回転する切先は振り下ろされ、完全に零に定まった。

「そんなに死にたいなら手伝ってやるよ。自殺は大罪だって言うしね」

「そいつはご親切にどうも」

 言い終えるが早いか、杏子の姿が零の視界から掻き消えた。
一瞬にして5mはあった距離を縮めたのだと気付いた時にはもう、槍は杏子ごと突き進んでいた。
 更に零の腹に穂先が届く直前、槍が"伸びた"。
その爆発的な加速は例えるならロケットブースターの2段目の噴射。
一切の予備動作もなく、走る勢いも殺さず、踏み込みと共に握っていた右手を伸ばしたのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/17(月) 00:40:02.06 ID:+wigPj9q0<> おおう?投下始まってた!!? <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/17(月) 01:06:49.82 ID:DTAKjFNQo<>
 杏子の胸には確かな自信があった。
 ただの突撃、ただの刺突であったならば避けられるかもしれない。だが、これならばと。
決して慢心ではなかったが、杏子は忘れていた。つい一昨日も、取ったと確信した瞬間に覆されたことを。
 
――!?

 刹那の時の流れの中で、杏子は驚愕する。
 突き出した槍が、不意にもう一度伸びたのだ。
 当然、踏み込んで腕を突き出した以上、伸びることはあり得ない。
あり得ないが、現実に意思とは無関係に槍が手繰られている。

 視線の先にも、槍の先にも零はいなかった。穂は空を突き、代わりに加わったのは根元を握る腕。
 杏子は考えるより早く、悪寒と言う名の危険信号に従い、空いた左手を側頭部で固める。
直後、ゴッと激しい衝撃が襲い、視界が揺さ振られた。
 やがて揺れが治まると、そこに立っていたのは、左手で槍を掴み右足を上げた零だった。

 刺突の際、零は左半身を引き、同時に右足を跳ね上げた。
軸足を動かしつつ回し蹴りを放つのは身体のバランスを崩す危険があるが、その点は問題なかった。
何せ握って身体を支える棒が、向こうから提供されている。

「女の顔を蹴ったりしない……なんて言ってたのは、どこのどいつだったかな」

 腕に感じるのは硬いブーツの感触。走るのは痛みと痺れ。
 この程度で済んだのは僥倖だった。
咄嗟の防御が間に合わなければ、一撃で蹴り飛ばされ、意識を刈り取られていただろう。
 それでもなお、杏子は皮肉を飛ばす。未だ治まらぬ緊張と痺れを癒す時間稼ぎの意味もあった。

「随分と紳士的な奴もいたもんだな」

「あたしの記憶が確かなら、つい一昨日あんたが言ったと思うんだけど」

「言ったっけ? そんなこと」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/17(月) 01:23:03.56 ID:M0Crm12Oo<> 寝ようと思ったら投下キテター!
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/17(月) 02:17:25.71 ID:DTAKjFNQo<>
 しれっと答える零に、杏子もまた笑い返す。
 零の方も、自分が時間稼ぎをしているとわかっていて応じている。
零も緊張を解す時間を欲しているのか、待ってやると余裕の表れなのか。

 どちらにせよ、この行為の意味は好きなタイミングで返してこいということ。
 観客などいないのに、殺し合いの実戦なのに、まるでプロレスみたいに暗黙の了解で通じ合っている。
戦いが激化すればそうもいかないだろうが、この開幕の攻防だけは、そんな挨拶に近い意味合いを持っていた。

 これでいい。こうでなくては面白くない。飄々としているくせに強く、それだけに憎たらしい。
こんなあっさりと自分に殺されるような男ではないはずだ。
 あれほど思考を灼いていた怒りが、今はすっかり鳴りを潜めていた。なのに理性は帰らない。
もっと、もっと楽しませてくれと、昂揚と熱狂が怒りを超えて燃えている。 

 ふと思う。思い上がりかもしれないが、自分たちは互いにこの状況を楽しんでいると。
 少なくとも杏子はそうだ。脳髄が痺れるような緊張が心地良い。ずっとこうしていたいとさえ。
 でも、それが叶わないこともわかっている。

 杏子は感覚の戻ってきた左手を軽く内側に倒し、

「そんなんじゃ、折角教えてやったことも忘れてそうだね――っと!!」

 満身の力を込めて跳ね起こす。
 少女でも魔法少女の全力だ。裏拳で強打された右足は力に逆らうことなく元の位置に戻る――かに思えた。
 だが零はすかさず左足を捻り、右足を地に着けず回転。踵を杏子の右側頭部へ送る。

――こいつ、弾かれた勢いを利用して……!?

 まるで振り子だ。勢いに逆らわず、逆方向から返ってきた。
遠心力を乗せた後ろ回し蹴りに、態勢を立て直そうと考えていた杏子は面食らう。
 もっとも、それも一瞬。二度目ともなれば驚きは少ない。しかも、今度は頭を下げて避けるだけの時間は充分にあった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/10/17(月) 03:06:15.73 ID:+wigPj9q0<> む、投下終わってたか
寝落ちしてた <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/17(月) 03:24:46.89 ID:DTAKjFNQo<>
 踵を引き付けながら零の動きを窺う。このまま回避しただけでは、槍を押さえられている状況は変わらない。
何かひっくり返す好機を探し――見つけた。

 槍を押さえる零の左手。蹴りが目眩ましになっていたが、回転する際に順手から逆手に持ち替えられている。
しかも槍を跨ぎながらだから、相当に無理のある姿勢だ。力も満足に入らない。

――今ならいける!

 杏子は握った柄に魔力を集中し、槍をバラす。鎖で繋がれ、多節状に分かれた槍は、零の手の内でうねり、滑る。
そして、ついに零の手が放れた。放さなければ鎖に指が絡まり、最悪千切れていただろう。

 杏子の頭上を右足が通過するのと、解放された槍を再び繋げたのは、まったくの同時。

 結果、零は右足を上げた不格好な状態を晒すことになる。ピンチが一転、杏子に絶好のチャンスが生まれた。
 後はガラ空きの身体に槍を突き込めばいい。それですべてが終わる。
 次は油断はない。最後まで気を抜かず、貫くことだけに集中する。

 まさか、それが仇になるとも思わずに。

 突如、杏子の手から槍が吹き飛び、夕空に舞った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/17(月) 03:25:37.80 ID:DTAKjFNQo<>
「なっ――」

 口から呻きが漏れた。 
 しっかりと槍を握りしめていたはずの手にそれはなく。
 そこにはただ、数秒前に感じたのと同じ痺れが。

 何が起こったのか理解が追い付かなかった。
 杏子の眼に映った零の身体は不自然に開き、両足とも目の高さまで上がっている。
特に左足は高々と天を指していた。

 数瞬の後に理解する。零は後ろ回し蹴りを空振った体勢から、左足で槍を下から蹴り上げたのだと。

「ちぃっ……!」

 そうとわかれば呆けていられない。落ちてくるのを待たず、杏子は跳躍、槍を取り戻す。
 降り立った時、零は既にバックステップで逃げていた。その距離、およそ5メートル。
奇しくも最初とほぼ同じ距離は、戦いが振り出しに戻ったことを示していた。

「さっきのは冗談。あんこちゃんなら、これくらいは避けるだろうと思ったからさ」

 零の軽口に、どちらからともなく笑みが零れる。
 杏子は手のひらに滲んだ汗を服で拭い、槍を握り直した。
 ここから仕切り直しだ。戦いはまだ始まったばかりなのだから。


<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/17(月) 03:28:35.82 ID:DTAKjFNQo<> ここまで
作品外で立て込んでいまして……今度こそは日曜までに来たいと思います
アクションを文で表現するのも難しいですね
人体的な意味で、おかしいことになっていないといいのですが

>>631
申し訳ありません。sageながら投下してる時は大抵、即興でgdgdなので構わずお休みください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/17(月) 04:00:31.04 ID:HtehhHRy0<> 乙
相変わらず読み応えあるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/10/17(月) 04:49:38.91 ID:0jxQJUlL0<> お疲れ様です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/10/17(月) 06:58:14.28 ID:cXyb7ltzo<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 12:28:54.40 ID:7Xp/ompvo<> 乙です
零はともかく杏子ちゃんがあの超アクションしてると思うとなぜか噴く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 14:22:30.04 ID:qa99xVq6o<> 乙です
相変わらずの臨場感。素晴らしい

ところで零さん、もう少しだけでもいいので杏子ちゃんに優しくしてあげてください…
と言った所で基本スパルタな魔戒騎士には無駄だろうかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/17(月) 17:31:30.10 ID:yM/Cl17ro<> 杏子ちゃん、せめてロッソ・ファンタズマが使えないと零の相手になりそうも無いのぅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/17(月) 20:19:14.10 ID:VH2T79AIO<> 杏子は牙狼のキャラでいうと誰くらいのレベルの強さなのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/10/17(月) 22:03:37.17 ID:26PbDioCo<> 邪美や烈花よりはるかに劣るだろうし、せいぜいアングレイやイシュターヴを死に掛けになりながらようやく倒せる程度だろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2011/10/17(月) 22:29:02.53 ID:tT5tIo4C0<> >>642
あれ雑魚に見えるけど黄金騎士に指令が行く時点で雑魚じゃないからね。
ザルバもイシュターヴの時に「憑依した人間をあそこまで操れるとは…。鋼牙、本気を出したほうがいいぞ」って言ってるから。
番犬所や元老院が直々に命じたホラーを毎回雑魚同然に倒せる鋼牙が異常なまでに強すぎるんだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/18(火) 10:16:26.26 ID:n6viq5ZUo<> ふと思ったが杏子ちゃん魔戒馬に乗ったら絵になりそうだ。得物が槍だし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/18(火) 20:50:51.10 ID:en/fXCoSo<> >644の書き込みを見て
何故か零に肩車されて、子ども扱いすんなーと顔を真っ赤にする杏子と言う光景が浮かんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/18(火) 23:51:28.74 ID:MpAScf+jo<> 俺はそこまで弱くないと思うけど、ただ魔女は図体が大きいから高速戦闘はやや不慣れな印象か
まぁ、クロスの強さって結局は書く人のさじ加減だから
差が大きすぎても反発が出るし、ホラー戦で役立たずになってしまうと話も創りにくいしな
あまり言い過ぎると>>1さんが書きにくくなる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/19(水) 00:37:57.48 ID:KZJbFEIDO<> >>645
まどか「子連れ…狼…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/19(水) 01:12:44.33 ID:WSgN8cwdo<> くそwwwwこんなんでwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/10/21(金) 02:23:39.23 ID:Mijy/feWo<> だいたい舞台に乗り込んで行く側が贔屓されるって某学園都市が言ってた気がする

ところで魔戒騎士の剣って穢れが溜まり切るとどうなるの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/21(金) 13:56:16.42 ID:49QI6Px/o<> 乗り込む以上は、そっちが動いて何かを変えなきゃ意味がないからかな
このSSの場合、強さは魔戒騎士が上だけど、描写や出番は魔法処女がずっと多く
話の中心は後者にあるからそんなに気にならないが

剣は穢れが溜まると切れなくなる、浄化できなくなるんじゃないかなぁ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/10/22(土) 02:40:04.04 ID:QWDTgKUAO<> 魔法処女…胸が熱くなるな

まぁ強さ云々の設定は>>1次第だけども
基本的に牙狼の力は絶対なんだよね
その設定活かしてるだけじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/22(土) 03:13:18.68 ID:BJGPa8KY0<> 関係ないことだけど実況スレで変身時間短すぎってコメントがあってそういえばそうだと思って
全話ざっと見直してみたら、そもそも鎧を着る事そのものが必殺技なんだと今んなって気づいたorz
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/10/23(日) 00:38:47.94 ID:o3gxY1xU0<> そりゃ制限時間99.9秒ってウルトラマンより短い設定あるし <> ◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/23(日) 01:05:39.65 ID:dIUFb4PMo<>
「さぁて、次はどっちから行く? あんたから来るかい?」

 真剣勝負でこんなことを問うのも変な話だ、と杏子は思う。気分が乗っていたので、つい訊ねてしまった。
 まぁいい。どうせ訊こうが訊くまいが大した違いはない。
 腕を組む零は軽く首を傾げて、

「うん? 俺はどっちでも」

 と言いつつ動こうとはしない。
 こいつの狙いは見当がつく。カウンターから一気に接近、勝負を決める気だ。
攻撃力もリーチも劣るなら、先手を打つより後手の方が断然楽。
 一度でも接近を許せば、格闘戦に長けた零のことだ、一撃で意識を奪う術も心得ているだろう。
 となれば、こちらの出方も自然と決まってくる。

 ヒット&アウェイ。決して深く斬り込まず、常に槍の間合いである中距離を保つ。
今度はそう易々と掴ませはしない。慎重に、じわじわ削るように戦えばいい。
 至近距離で勝ち目がないのはとっくに自覚している。勝ち目があるとすれば、それしかないことも。

 だが、自分がそんなふうに器用に振舞えないこともわかっていた。

「じゃあ……あたしから行かせてもらうよ!」

 杏子は槍を振り被りながら、力強く地面を蹴って飛び跳ねた。 
 二人の間に横たわっていた5メートルは、やはり一秒にも満たず縮まり、その時には既に刃は振り下ろされている。
 肉食獣を思わせる獰猛で荒々しい身のこなしは、慎重とは無縁のもの。

 零が大きく後ろに跳び、空振った槍は地面と接触。
しかし槍は止まることなく、菱形模様のタイルを削り取りながら、激しく火花を散らした。
 なおも攻勢は衰えない。地面で跳ね上げられた刃先は執拗に零を追う。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/10/23(日) 02:22:24.75 ID:dIUFb4PMo<>
 絶えることない攻撃は荒ぶる心を表すように、今この瞬間も杏子の心は叫ぶ。

――手堅く? 利口に? 
 駄目だ駄目だ! そんな小賢しいやり方で勝てる奴じゃねー!
 ただ気持ちの赴くままにと、そう決めたばかりだ。
 とことん意表を突く。攻めて、攻めて、奴の想像を凌駕する。そして土壇場で、今度こそ奴の度肝を抜いてやる。
 あたしに勝ち目があるとしたら、たぶんそれだけ――

 零は反撃しなかった。できなかったのだ。
 いくら斬撃を紙一重でかわそうとも、すぐに柄が払われ、石突が打ちにくる。
 間隙を縫うことすら許さない猛攻。いくら慎重さを欠こうとも、杏子は槍の間合いで戦っている。
距離を取られるよりはマシにせよ、迂闊に手は出せない。

 刃は無論、薙ぎ払う柄は掴むのも受けるのも難しい。たまに繰り出される突きを拳で弾くと、
槍は力に逆らわず身体ごと回転し、捕らえようにも伸ばした手は空を掴む。そして反対方向から槍が飛んでくるのだ。
 意識か無意識かはともかく、杏子は零が初手で見せた動きを完全に自分の物にしていた。

 無駄なく途切れることのない円運動を基本とし、隙の大きい突きは、ここぞという時にだけ放つ。
 彼女の戦闘スキルは、これまでの小競り合いどころか、つい一分ほど前からも目に見えて進化している。
経験と野生の勘が為せる業なのだろう。杏子の短時間での成長ぶりは目を見張るものがあった。

 槍を振り回す手は止めず、杏子は考えていた。
 これまでならとっくに反撃されているはずが、今は逃げる一方。間違いない、零は攻めあぐねている。
確信が杏子の闘争心を更に燃え上がらせる。

 手の中には確かな手応えがあった。
 身体が軽い。零の呼吸に合わせて慣れたダンスのステップを踏むかの如く、脚も手も自然に動く。

 だが、同時に不安も芽生え始めていた。一見押しているように見えるが、こんなに攻めて一撃も決められないのだ。
残った体力では明らかに不利。では、どうすれば勝てるというのか。
自分を懐に誘い込み、虎視眈々と反撃の機会を窺っている零に。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/10/23(日) 02:25:58.54 ID:dIUFb4PMo<> ほんの少しですがここまで
結局土曜(日曜)になってしまいました
続きは明日(今日)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(高知県)<>sage<>2011/10/23(日) 02:50:27.73 ID:uRPuecWwo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2011/10/23(日) 11:55:36.27 ID:IZS1RpHQ0<> 乙 <> ◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/10/23(日) 23:57:17.83 ID:dIUFb4PMo<> 今日の投下は遅くなります
最悪できないかも…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/24(月) 06:05:09.31 ID:U1rCH8X1o<> やっと追い付いた
あんこちゃんから負け臭しかしねぇwwwwww
結界や多節槍の出番はあるのか! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/24(月) 07:39:22.66 ID:26l3Izj10<> リアルタイム見逃した……
雰囲気でてるしキャラに性格のズレがないから面白いけど
やっぱり地の文がくどい気もするな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/24(月) 11:13:50.44 ID:LBu1sY0no<> このくらい地の分を濃くしないと牙狼の殺陣っぽさが出ないんじゃないかなあ、
と二期一話を見ながら思ったり

竹中直人かっけー <>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/26(水) 00:52:58.97 ID:1614KIITo<> 一昨日、昨日と投下できず申し訳ありませんでした
なんやかんやありましたが少しでも進めます
途中から書きながらになると思いますが02:00頃から

今回は少しエロい? シ−ンもあるかも
一応、不快な方はご注意ください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2011/10/26(水) 00:59:37.89 ID:sclB7yMr0<> ほう… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/26(水) 01:22:09.53 ID:Yu/v+72Ro<> エロだと、楽しみだが寝る
明日よみます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/26(水) 01:23:24.88 ID:8Mz+iPGXo<> あんこちゃんの凌辱シーンときいて <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/26(水) 02:03:26.45 ID:1614KIITo<>
――……そうか! 

 唐突に脳裡に閃きが走った。
 零がしているように自分も誘い込んでやればいい。
 零が待っているのは疲労と、それに伴うミス。ほんの一瞬でも隙を見せれば怒涛の攻めに転じるだろう。
 
 ただ、それだけに半端な誘いには絶対に乗ってこない。フェイントに引っ掛かれば敗北は必定。
見極めには慎重になるはず。何せ上手く逃げていれば勝手に敵は自滅してくれるのだ。
 正直、駆け引きや騙し合いでこの男に勝てる気がしない。自分に向いているとも思えないので気乗りしなかった。

 フェイクでは確実に見抜かれる。なら正真正銘、本物の隙ではどうだろうか?

 これだけ激しく動いていれば、遠からず、必ず綻びが生まれる。身体が限界を迎え、態勢を崩す。
 望むところだ。それでこそ零は確実に踏み込んでくる。
 自分でも思いもよらなかった虚を突かれるかもしれない、それでも。
 その瞬間、たった一度だけ動けばいい。反応さえできれば、ピンチは最大のチャンスに変わる。

 一か八かの大博打。できれば打つことなく終えられればいいのだが。
 息を切らし、槍をがむしゃらに振り回しながら、杏子は待つ。
 自分に決定的な隙が生まれる瞬間を。

 そして一分後。
 ついに、その時が訪れた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/26(水) 02:17:37.61 ID:1614KIITo<>
「はぁっ――!」

 両手で振り上げた槍が零の顎をかすめ、空を切る。まだ一分程度しか動いていないというのに、
いつ訪れるかわからない己の限界と零の動きに注意しながらの全力戦闘は、思う以上に杏子の消耗を早めた。
 すぐさま槍を振り下ろすか、回転しつつ刃で払うか、持ち替えて柄を使うか。如何様にでも追撃はできた。

 しかし、常に緊張状態にあった身体は直後、槍を振り上げたままピタリと硬直し、制御を失う。
脳と肉体を結ぶ神経が断たれたかのように。
 その間、わずか一秒。たった一秒であっても一瞬の判断が明暗を分ける死闘においては致命的となる。
 だというのに、乖離した意識で杏子は狂喜していた。
 何故ならば。

――来た……!!

 狙い通り。零が漆黒のコートを翻し、距離を詰めてきているからだ。
 身体が制御を失っている時間よりも遥かに短い、圧縮された時間感覚の中で。
 注意が己の身体に向かっていた、まさしく刹那。
 零は回避から攻撃へと切り替えていた。

 流石と舌を巻くが、感心してもいられない。

――動け! あたしの身体!!

 弛んだ神経に喝を入れ、今こそ動けと指令を飛ばす。
 零の右腕はすぐ目の前まで迫っていた。

 槍を振り下ろすか?
 いや、間に合わない。リーチが違う。槍は伸縮自在だが、縮めている間に零は勝負を決める。
 考えている時間はない。 
 杏子は槍を振り上げたままの姿勢で、軽く地を蹴った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/26(水) 02:34:46.66 ID:1614KIITo<>
 その身体は背後へと倒れていく。瞳に空が映り、追い縋る零の右手が遠ざかる。
 カシンッと頭の上で響く金属音。鋭利に過ぎる槍の穂先は、タイルの床にさしたる抵抗もなく吸い込まれ、
半ばほど埋まったところで止まった。

 杏子は槍の安定を確認もせず全体重を預け、グッと身を折り畳む。
即興の割に槍が外れたり、バランスを崩して転倒しなかったのは奇跡に近い。
それは魔法少女の身体能力と天性の勘の賜物か、或いは執念が呼び寄せた必然だったのか。


 狙いを定める必要はない。両腕にあらんかぎりの力を込め、縮めた両足ごと溜めた力を解放する。
 上下が逆なら、さぞ見事なカエル跳びになっただろう。踏み締める大地を両腕と全身のバネで補ったが故に、
不安定な体勢からでも、その蹴りは凄まじい爆発力を持って放たれた。

 驚愕したのは零だ。顔面目がけて、さながらロケット砲の如きキックが発射されたのだから。
 逃げ場はない。おそらく当たれば骨をも砕く威力がある。
まず後退は不可能、左右どちらに首を振ろうと、頬が削ぎ落されるのは覚悟しなければならない。


 ただでさえ杏子を追って右腕を伸ばしている状態。身体に回避が伝達されるまで、数瞬のラグが生じる。
 杏子がそうだったように、零もまた刹那の取捨選択を突きつけられた。

 左右と背後が塞がれた危機に、零を救ったもの。
 それは彼女と同じ、たった一人で誰に頼ることもなく戦い抜いた経験と、培った戦士の勘。
 死中の活は探すまでもなく、目の前にあった。 

「――――っ!!」

 大きく息を吸い、一歩を踏み込む。
 唯一の活路は杏子の左足と右足の間、数センチ程度の幅。零はそこへ滑り込んだ。 
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/10/26(水) 03:18:36.30 ID:R1Bvh6rq0<> おいwwwwwwwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/26(水) 03:21:18.84 ID:u3SojxS60<> 左足と右足の間……
おい……おいwww <>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/26(水) 03:33:24.96 ID:1614KIITo<>
 両足を揃える間もなく、その必要もなかったのだろう。
そんなところへ首を差し入れる人間など考えられず、零も考えていなかった。
 しかし現実に、首筋をブーツの踵で浅く裂き、頬に爪先でかすり傷を負いながらも、
零の首は杏子の太股の間に収まっていた。 

 そしてお返しとばかりに、零は伸ばした右手を杏子の首にあてがった。

「か……は……っ!」

 少女の細首が絞めつけられ、濁ったうめきが漏れる。気道が塞がれ、表情が苦悶に歪む。
いくら首を振っても抜けだすどころか緩む様子もなく、零はぐいぐい突き進んでくる。
 このままでは遠からず窒息してしまう。
 ならば、と杏子は零の首に絡ませた足に力を込めた。
 
「……っっ!!」
 
 零の口から息が吐き出された。
 白く、滑らかな太股が首筋に絡みつく。
 並の男なら至福の恍惚を味わうであろう瞬間。
しかしそれは、幸福感に浸っている間に文字通り昇天してしまう、死と引き換えの快楽。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/26(水) 03:34:17.48 ID:1614KIITo<>
 何故なら見た目とは裏腹に、その行為は確実に相手を死に至らしめんとする意志があった。 
 吸いつくような質感ながらも、適度に跳ね返す蠱惑的な弾力を持った柔肉は今、凄まじい圧力を以って零の首を絞めている。
しなやかな筋肉が硬さを増すにつれ、零の顔も苦悶で歪んでいく。

 容赦ない絞めつけから杏子は悟っていた。零にも余裕はなくなってきていると。
 だが、彼はまだ手加減をしている。本気を出せば喉を握り潰すことも可能で、そもそも右手で腰の剣を抜けばすべて片がつく。
抜けば両足を切り落とすのだって造作もないこと。
 それでも、彼は腰の剣を抜こうとしない。

――いいさ、そっちがその気なら……!

 槍を支えに、思い切り身体を捻じる。それは窒息よりも早く、首の骨をへし折るのに充分な威力を持っていた。
 零は咄嗟に首と太股の間に差し入れた左手で、どうにか堪えている。それがなければ、とっくに折れているだろう。

 杏子のスカートは捲れ上がり、太股は付け根まで露わになっている。
それが零の眼前に晒されているにも関わらず、どちらの顔にも照れはない。
互いに頬は紅潮しているが、見つめているものは自分と相手、どちらが先に限界を迎えて落ちるかということだけ。

 やがて十数秒が経ち、膠着状態が続く最中、零の唇が動いた。

「シルヴァ」

 と。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/10/26(水) 03:35:55.25 ID:1614KIITo<> ここまで。次はたぶん日曜日ですが、もっと早くできればその時に

普通の格闘は異能の力でのバトルより書くのが難しいと改めて実感します
「美貌」みたく、もっとエロい情景を想像してたけど、別にエロいってほどじゃなかったかも
色気が足りなかったのか……期待した方はごめんなさい
邪美や烈華、女ホラーらのアクロバティックかつエロチックで華麗なアクションも牙狼ならではのもの
少しでも、そんな感じが出せたらいいなと思うのですが
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/26(水) 03:41:20.09 ID:iBra0kHAO<> いやいや、十分雰囲気有るっすよ!
描写濃いのに上手いから羨ましいわ
続き期待してます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/10/26(水) 16:36:10.59 ID:IQblIWCm0<> 乙でした
「これがやりたいだけだろ」と思わないでもないけど、直接描写を避けたのは逆にGJ
>色気が足りない。まあ邪美とかに比べると……(二次と三次比べるのもアレだが)
スタイルで言えばマミさんだけど、派手なアクションは似合わないし、となるとさやかか
杏子は食生活や生活環境が乱れてそうだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北陸地方)<>sage<>2011/10/26(水) 16:58:48.55 ID:vXH3vpaAO<> 第二期、一話からおっぱい丸出しだったな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/27(木) 00:22:05.62 ID:1K+1cjh1o<> 乙、相変わらず濃いなぁ。
しかしエロって言われなければそのままスルーしてたかもしれないww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/27(木) 23:11:52.58 ID:KnjUMyh4o<> 乙
あんこちゃんのふとももに挟まれる・・・だと・・・?
もしそれで死んだとしてもご褒美です

聞く所によると零は2期でもエキセントリックな性格は変わって無いようだね
まだ時間が無くて1話しか見れてないので登場が楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2011/10/28(金) 19:22:48.20 ID:K+AtoKLf0<> まあ、まどマギは中学生メインの話だし
それぐらいの子は色気よりも可愛げというか、未成熟の果実的な甘酸っぱさというか、動的な何かというか。
でも、最近は大人っぽい中学生も結構珍しくないしな……。

……あんまり色欲だすとアングレイあたりのホラーに憑かれるな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/10/28(金) 21:11:29.87 ID:n5IzOzlW0<> 杏子ちゃんと零の手合わせでニヤニヤするとは思わなかった…おい俺と代われと自然に考えてた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/28(金) 22:14:35.06 ID:ZtCzbuRFo<> まあ静香の容姿、性格からして杏子とは似ても似つかぬタイプだし問題無いな
しかし小説読んでないんだが、妖赤の罠では翼と邪美ができてるとか聞いたんだけどマジ?
鋼牙にはカオルだし、零だけ独りじゃないか・・・
亡き婚約者を想い続けるってのもかっこいいけど、零にもそんな人ができるといいな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2011/10/29(土) 00:51:37.33 ID:Z8Z9zhF3o<> と、そこでシルヴァが肉体を得て云々というエロゲ的展開が! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/29(土) 15:52:10.04 ID:gFoO3dcEo<> シルヴァの人間態ならザルバとお茶してたよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/10/30(日) 01:21:30.04 ID:rB5aDtto0<> 景山とお茶するとか裏山だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/10/30(日) 23:59:35.62 ID:ZovtKtNzo<>
 魔導具、シルヴァ。
 零の唯一の家族であり、最も信頼している相棒の名。
鋼牙にとっての魔導輪ザルバと同じ、公私に亘ってかけがえのない存在。
 彼女は師から受け継いで以来、常に零の傍らに、今も杏子の太股に埋もれた左手の甲に在った。

 そして呼べば応える。答えるでなく応える。
 零が何を望んでいるかを考え実行に移せる。長年付れ添った者同士だからこそできる阿吽の呼吸。
 例えば零が口を塞がれている場合、口に出して命令しては意味を失う場合。
 そう、たった今のように。

 それは零が彼女の名を呼んだ直後。

「あぅっ――!」

 どれだけ零に抓られようと引っ掛かれようと解かれなかった拘束が、
初めて内股からの予期せぬ痛みに跳ね上がった。
 自分ではどうしようもない身体の反応。痛みの原因から逃れようと太股が勝手に緩む。

――まずった!

 と思ったのも束の間。太股が内からこじ開けられ、零が下に抜けた。
これによって喉輪が外れたのはいいものの、状況はむしろ悪化している。
 杏子の身体は支えを失い、身体は地面に落下しようとしていた。そうなれば好きに料理される。
それどころか片足だけでも捕らえれたら。

 焦燥感が胸に湧き起こる。そうなったらすべて終わりだ。
 零は自分を殺しはしないだろう。だとしても戦いは終わってしまう。この時間が途切れてしまう。
負けることよりも、それが何より惜しい。
 故に杏子は――。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/31(月) 00:31:49.66 ID:27EeKanHo<>
「っっぉおおおおお!!」

 喉から気勢を振り絞る。
 五体を余すところなく駆動させる。
 杏子の脚が、屈んだ零の背中を蹴った。しかし足の裏で蹴ったそれはダメージを与える為ではない。

 跳ぶ為だ。
 掴んだ槍は離さず、そこを支点に身体を跳ね上げた。
 空を見ていた視界がぐるりと回転。天地が逆になった路地の景色が映る。
 
「伸びろおおおおおお!!」

 意図に気付いた零が捕まえるより早く、伸びた槍が逆立ちになった杏子を打ち上げた。
杏子は4〜5メートルの高さで身体を前に倒し、槍を引き抜きつつ元の長さに戻す。
 着地地点には既に零が走り込まんとしている。

――間に合うか!?

 こればかりはどうしようもない。せめて足掻くしかできない。
 地に足が着く前に槍を突き出す杏子。
 駆ける零。
 杏子の着地と同時、二人は激しくぶつかり、二つの影が重なった。

 息がかかる距離まで顔を接近させているが、どちらにも言葉はない。
ただ絡み合い、荒い息を吐くばかり。

「さっきのは眼福……と言いたいけど、折角ならもう3,4年して出直してほしいとこだな」
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/31(月) 01:31:01.89 ID:27EeKanHo<>
 先に口を開いたのは零。

「残念だけど、あんたみたいなスケベ野郎に見せることなんて二度とないだろうさ」

 片足を零の足の間に割り込ませ、僅かに仰け反った状態で杏子は答えた。
 まるでダンスシーンのひとコマを切り取ったよう。

 ただし男が彼女の手に指を絡ませ、少女も彼に身を任せていれば。
 男が震える手首を強引に掴むのではなく、少女が左手に槍を握っていなければ。

「へぇ、それって――」

 愛想笑いを貼り付けた零の左手は杏子の顔の横、彼女の右手を捕まえていた。
対照的に忌々しく表情を歪ませる杏子の左手は、やはり彼の顔の横で掴まれている。

「あんたはここで死ぬから、なんてお決まりな台詞?」

「さぁね……!」

 杏子は肯定も否定もせず、その視線も間近にある零の目ではなく、
肩越しに暴れる左手に注がれている。
 ある程度の予想はしていたが、零の腕力は思いの外強く、振り解けない。
それでも杏子は抗う。闇雲に暴れ続けるしかない。
 
 万策尽き、それしかできないのだと思わせる為に。

「でも、多分――」

 不意に杏子の口元が歪む。屈辱ではなく得意げに、してやったりと言ったふうに。
 連結をバラし鎖で繋がれた槍は、充分な距離を取った後、切先の向きを変えていた。
杏子の操作に従い、無防備な零の背中へと。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/10/31(月) 01:37:31.52 ID:27EeKanHo<> 言い訳になってしまいますが、今後に響くかもしれないので報告します
先週末から、夜たまに右腕や指が痛いような痺れるような違和感があって、作業が捗らないでいます
長引くようなら病院に行きますが、今回はここまでとさせていただきます
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/10/31(月) 01:39:41.33 ID:nJp+Mo4n0<> 乙ー
無理せずにね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/31(月) 19:30:23.92 ID:Z8Jm5c4zo<> 乙
身体をいとえよー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/05(土) 09:29:24.77 ID:qX4wjZpso<> 乙です
御自愛ください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/11/05(土) 23:48:14.09 ID:70QSoy72o<> 痺れと痛みって腱鞘炎か何かかな
お大事に <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/11/07(月) 01:18:05.69 ID:AR0V/iFqo<> お気遣いありがとうございます
おそらく腱鞘炎ではないかと思われます
まだ調子は戻りませんが、明日には多少投下したいと思います
このところ遅れがちで申し訳ありません <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/11/07(月) 09:48:20.67 ID:PnTDdhv20<> 久々に来てみたら>>1が体調不良とか
無茶すんなよー <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/11/08(火) 02:39:49.54 ID:C0ImJjrBo<>
 背後で響く微かな鎖の音を耳が拾う。零はすぐに杏子の狙いを看破した。
 彼女の多節槍は一度目にしている。だからこそ鎖の音が何を意味するのか、
自分の背後に迫る物が何かも容易に察知できた。

 振り向きはしない。早々に気付いていると勘付かれたら、軌道を変化される。
どこまで伸びるのか、加速できるのか、微調整が利くのか、など詳しい情報を知らない以上、
慎重になって足りないということはない。

 故に零は杏子の瞳を覗きこんだまま、暴れる少女を押さえつける。
 この勝負、相手の意図を見抜き、なおかつ気付かない振りで騙せた方が勝つ。
 そして数秒、いよいよ槍が零の背中を貫く寸前で両者が動く。

 最初に動いたのは杏子。
 がしっ、と。
 右手が拘束する零の左腕を逆に捕まえた。

「おっと、逃がさないよ……!」

 ここまで来れば知らない振りは必要ないと、杏子はぎらついた笑みを送る。
 いくら魔法少女と言えど、腕力で魔戒騎士を捩じ伏せるのは簡単ではない。
いや、そもそも異能の補助を受けた魔法少女の全力と拮抗できる彼が異常なのだ。
 加えて体勢はこちらが不利。腕尽くで振り回されれば抗うのは不可能だった。

 だが杏子には勝算があった。彼が絶対にそれをしない確信が。

 情けを掛けられて、手加減をされて。
 余裕を気取っているが、だからといって本気を出せと促す理由もなければ、
こちらが手加減する理由にもならない。
 また、利用しない手も。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/08(火) 02:57:34.26 ID:C0ImJjrBo<>
 しかし不愉快極まりないのも確か。
 奴の化けの皮、もとい分厚い面の皮が剥がせるなら、そして本気の素顔が引きずり出せるなら。
 多少の無茶や無理は承知の上。

 それだけの決意を持って、杏子は勝負に出た。
 なのに――それでも零は仮面を取らなかった。

 零は杏子の軸足を払うと、体重を預け、押し倒した。

「うわっ――」

 想定外の事態に思わず漏れた声も、ジャラリと揺れる鎖の音で中断される。
 タイルに叩き付けられた痛みと衝撃と、上から落ちてくる顔に、

「んっ……!」

 ビクンと全身を強張らせ、杏子は咄嗟に目を瞑ってしまった。
 必然、微調整を行っていた左腕が大きく動いたことで穂先はコントロールを失い、
操者が目を閉じれば軌道の修正もされなくなる。
 そこからの零の行動は実に迅速だった。緩んだ拘束を振り解くと、杏子の顔の横に両手をつき、
両足で地を蹴る。

 直後、キィンと澄んだ音が鳴り、ビルの谷間に残響がこだまする。
 その音に杏子が目を開いた時、目の前には変わらず零の顔。
 違ったのは、自分に重なっていた身体が、今は自分に対して直角になっていたこと。
 何が起きたのか理解が追い付かない杏子の頭上に、ブーツの踵で弾かれた槍が突き立った。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/08(火) 03:13:08.36 ID:C0ImJjrBo<>
 徐々に状況を把握するにつれ、杏子の頬は見る見る朱に染まる。

「っ! この!!」

 カッとなって拳を繰り出したが、当然そんな単調な拳は空を切る。
零の顔は遠ざかって、すぐに視界から消えた。
 杏子が槍を連結しながら跳ね起きると、背後に彼はいた。
追撃もせず、槍の間合いの外――最初と同じ5メートルほどの位置に立って。

「テメー……!」

 わなわなと、声と身体を震わせながら、杏子は零を睨みつけた。
腸が煮えくり返るとはまさにこれ。怒りのあまり続く言葉もろくに紡げなかった。

 なんのことはない。
 零は単に杏子がしたことを返しただけなのだ。前転で跳び起き、ついでに槍の腹を蹴っただけ。
問題は、その為の隙の作り方にあった。
 
 零は確かに許せない。だが、それ以上に杏子の激しい怒りの矛先が向いているのは、誰よりも己自身。

――くそっ! くそっ! 何であたしはあんな……!

 悔やんでも悔やみきれない。最も見せたくない表情を、最も見せたくない相手に見られた。
 暴力や恐怖に耐性を付け、予め痛みに備えていた精神は、まったく別方向からのショックには驚くほど脆かった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/08(火) 03:21:49.38 ID:C0ImJjrBo<>
 目を閉じてしまったのは全身の痛みのせいでも、予想される攻撃に怯えたのでもない。
 異性に押し倒され、顔が間近に迫ってくるということ。
 それが何を意味するのか。初心(うぶ)な少女でもわからないはずがない。いや、だからこそ反応してしまった。

 嫌悪や恐怖を抱く余裕はなかった。
 ましてや期待など断じてあろうはずもなかった。
 ただただ衝撃だった。

 汚れ擦り切れてはいたものの、僅かに残っていた少女故の純粋さ。
 即ち、思春期特有の少女性。
 そこを零は突いてきた。
 未知の体験に反射的に目を閉じてしまい、心と身体に一瞬でも大きな隙が生じた。

 杏子は何を言おうか迷って、結局何も言えず静かに槍を構える。
 こんな俗な言い方は反吐が出そうだが、平たく言えば、この男は乙女の純情を玩んだのだ。
もっとも、それが狙っての行為かまでは定かでなかったが、杏子にはどうでもいいことだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/08(火) 03:28:05.89 ID:C0ImJjrBo<> ここまで。次は日曜までにもう一回
何回目かの仕切り直しですが、次こそ決着のはず

いろいろあって返信できていませんでしたが
>>661
自分でもいい加減くどいかなとは思っているのですが、ついつい書き加えてしまいます
ですが、今後はなるべくテンポ良く進められるよう心がけます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/08(火) 07:23:20.63 ID:FetHF3cLo<> 乙です

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/08(火) 07:35:51.73 ID:WLu6AgP00<> 乙
まぁ好きに描いたら良いんでないの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/08(火) 10:37:07.45 ID:/IhG22mSo<> 乙
自分ではそうは思って無くてもあんあん可愛いよあんあんww
相手を炊きつける事に関してはマジ天才だな零さんは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/11/08(火) 21:25:34.56 ID:Q9BHxvUho<> 乙でした。
相変わらず零さんアオリストやでぇ……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(新潟・東北)<>sage<>2011/11/09(水) 18:20:17.03 ID:iIhBbsTAO<> 続きは楽しみにしてる
そして相変わらずの零の煽りww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/11(金) 02:35:11.90 ID:6EIVSKzF0<> お疲れ様です。 <> ◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/11/12(土) 23:53:01.96 ID:00phLTLho<> 日曜までにと言ったのですが、間に合いませんでした
数レス投下できる程度はあるのですが、またブツ切りでもつまらないので
切りのいいところまで書いて、できれば明日、もしくは明後日にまとめて投下したいと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/16(水) 02:22:41.82 ID:bT7KrWLo0<> 来ないなー・・・ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga sage<>2011/11/16(水) 03:14:06.91 ID:xKUYExbVo<> 申し訳ありません
つい報告を怠っていました
30行×15レス〜20レスくらいと、予想外に長くなりそうで、少し手間取っています
明日(今日)か明後日(明日)には必ず
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/16(水) 10:31:36.01 ID:z6TAmD6uo<> 締め切りに追われた方が気合が入って良いなら別だけど
>>1の書き易いペースで良いのよ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/16(水) 14:21:49.60 ID:lSoka12x0<> まーつーわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/11/16(水) 22:28:37.57 ID:HYAzE2lJo<> ゆっくり待つよー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/17(木) 10:44:00.27 ID:KihL54kmo<> 待つよ
息子の帰りを待つ老夫婦のようにお茶を用意してじっと待つよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/17(木) 22:39:58.62 ID:m5MFoAcB0<> 寒いけどどうってことないぜ <>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 01:05:14.25 ID:a7u3xc3Yo<> 遅くなりました
1:30頃から投下したいと思います
途中から即興になるかもですが、決着までは行けるはず

>>710
お気遣いありがとうございます
今でも充分マイペースでやっていますが、その結果が現状なので
多少締め切りに追われた方が間延びしなくていいかなと
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 01:32:03.13 ID:a7u3xc3Yo<>
 眼光鋭く殺気を放つ杏子に、零は臆するどころか意識する様子すらなく、軽く腕を組んで佇んでいる。

「さっきのはなかなか危なかったぜ、あんこちゃん」

「ふん……心にもないこと言いやがって」

「いや、本当だって。ただ、ひとつ知りたいんだけど――」

 零は苦笑しながら、人差し指をピンと立てて尋ねる。
 無視しても良かったのだが、今は少しでも呼吸を整える時間が欲しい。
 どうせ訊きたいことなどひとつしかない。何故、己が身を危険に晒すような戦法を取ったか、だ。
零が激しく抵抗していれば、貫かれていたのは杏子だった。

「ああ。どうせ、あんたは温い手加減してくるだろうからさ、あたしが巻き込まれる無理な引っぺがしはしない。
ま、もし仮に当たったとしても、生憎こちとら頑丈にできてるんでね」

 いざとなれば直前で致命傷は避けられる。
 そう杏子が得意げに語ると、彼女をからかうように零の口から漏れる含み笑いは増す。

「違う違う。俺が訊きたいのはそうじゃないぜ。そんなことは知ってる。
あんこちゃんが、あられもない姿を二度と見せてくれない理由。"でも多分"……の続きが知りたいんだけどな」

 全部了解した上で助け、挙句の果てに、あんなセクハラ染みた――実に下らない会話の続きを気にするなんて。
得意顔で語った自分が馬鹿みたいだった。おまけに冷静に思い出すとかなり恥ずかしい。
 すべてが杏子の怒りを煽るには充分だった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 01:42:22.82 ID:a7u3xc3Yo<>
――乗るな、挑発だ。

 込み上げる激情をぐっと堪え、冷静な自分の声に従い、息を整える。
 それでも、聞きたいと言うなら教えてやろう。
 杏子は両の足を地面に根を張るように確と踏み締め、槍を振りかぶった。

「そりゃあな……単純にあんたが大っっ嫌いだからさ!!」

 吠えながら溜めた力を解き放つ。
 一歩も動かず、完全な間合いの外から振るった槍。しかし槍は魔法の力でどこまでも伸展し、
鎖で繋がれた柄は曲線的な軌道を可能にする。

 しなり、うねり、さながら得物目がけて跳びかかる蛇。横に狭い路地裏にのさばる長大な蛇だ。 
 蛇の最初の一撃は、斜め上からの打ち下ろし。これを軽く背後に跳び、難なく回避する。
 すぐさま攻勢に出んと距離を詰めようとする零。これだけの長さなら、懐に入りさえすれば無手のこちらが有利になる。
もっとも、そんなことは杏子とて承知しているだろうが。

 零の思考を読んだのだろうか、杏子は、

「まだまだぁ!」

 と、身体ごと回転させながら槍を振り抜く。零の足下を薙ぎ払った穂先は、タイルを削り取りながら壁に激突。コンクリートの破片が舞う。
 飛礫をかわしても、前進は叶わない。更なる後退を余儀なくされる。
バウンドした柄が勢いを落とさず、むしろ速度を増して零を狙っていた。 

「おっと――」

 柄にせよ刃にせよ、当たれば致命傷は免れない。顔面を打ちにきた槍を屈んでやり過ごしても、狭い路地裏である、
すぐに跳ね返ってくる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 01:53:38.68 ID:a7u3xc3Yo<>
 ただの長槍ならば狭さは障害にもなろうが、杏子の槍は鞭に近い。狭さを逆手に取って存分に振り回されていた。
 常識で考えれば、異常に長大な槍が勢いを衰えず暴れ続けるなど考えられない。
重量を考えても、どんな屈強な男であれ不可能。それを言うなら、そもそも伸びること自体があり得ないのだが。

 それを現実に10代半ばの少女が覆している。
 常識、条理、摂理、法則。
 これらの単語を振りかざすことを虚しいものとしているのは、

――魔法、か……。

 心中で呟く。
 初めて彼女の魔法に脅威を覚えた瞬間だった。
 とてもじゃないが迂闊に近付けない。必要以上に伸びた槍は、ひとつかわしたと思いきや次が襲いかかってくる。
それをかわしても、前にかわしたものが軌道を変えて戻ってくるのだ。

 まさしく巨大な蛇が路地を塞いで身を波打たせているよう。
 そして蛇を意のままに操っている少女は、嵐の中心で指揮棒を振るかのように堂々と槍をさばき、
輪舞を踊るかの如く優美に回っていた。

 その様は可憐で、それ故に恐ろしい。

  槍は周囲の壁をことごとく破壊しながら、既に目視できない速度にまで達している。
 ガガガガガッ――と道路工事のドリルにも劣らない騒音が戦場を支配する中、零は声を張り上げた。

「あんまり派手にやると人が来るぜ、あんこちゃん!」

「知ったことじゃないね! 来たとしても、割って入れる奴はいないだろうさ!」

 確かに。
 幸いと言うか、残念ながらと言うか、前後の見通しは良く、裏口らしき扉も見当たらない。
 誰かがひょっこり顔を出して巻き込まれる心配はなさそうだ。だからこそ、杏子も無茶をしている。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:03:52.45 ID:a7u3xc3Yo<>
 どうしたものか。涼邑零は考える。
 だいたいのテストは終わった。と言っても、はしゃいでいる今の彼女の理解は得られそうにない。
こうなれば逃げてもいいのだが、後ろから狙われれば厄介だ。

 となれば方法はひとつ。
 隙を作る。まずはこの状況を打破しない限り逃げられそうにない。
 何より、黙って逃げるのも少々癪だった。

 零は未だ吹き荒れる嵐に向き直り、

「それじゃ行くぜ、シルヴァ」

 と、左手首の相棒に語りかける。行楽にでも行くかのような、まるで緊張感のない軽い調子で。

 しかし、

『本気なの? ゼロ』

 彼女の艶めかしい唇から発せられたのは憂慮の言葉。
 シルヴァは理解していた。いつだって勝手に向かっていく零が、
こうやって自分に確認するということは、相当な危険を意味するのだと。

 口調こそ乱暴だが、杏子は零相手に本気になれない側面があった。
おそらく他者を殺めた経験がないのだろう、非情に徹し切れていなかった。
 そこに零が火を点けてしまった。今の彼女なら、躊躇なく零を殺せる。
加えて、これならば直接刺すより人を殺す手応えが少ない。

 最早、からかいや小競り合いでは済まない。
 正真正銘の殺し合い。
 こうなればホラーと同等かそれ以上、人外の脅威に等しい。
 零と言えど気負わない訳がない。

「やるだけやってみるさ」

 答えて一歩を踏み出す零。
 だが、彼が何の為に、こんな使命と無関係の私闘に命を懸けるのか。
唯一それだけは、いくら考えても腑に落ちなかったのだが。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:12:41.36 ID:a7u3xc3Yo<>


「さて……と」

 戦法は変わらない、懐に潜り込んで制圧するのみではあるのだが、正面突破は自殺行為。
 路地を完全に塞いでいる彼女に近付くにはひとつしかない。
 上だ。

 零は壁に向かって走り、軽いジャンプから壁を蹴る。続けざまの跳躍、今度は斜め前に反対の壁へ。
 壁面に着地した零は、落ちるより速く壁を蹴り、杏子の射程内――彼女の支配する領域内に突入する。

 重力に逆らい壁を疾駆する零に杏子は目を丸くしたが、すぐに狙いを切り替える。
 超人的な身体能力は何度も目の当たりにしている。今さら彼が何をしようと驚くには値しない。
状況はまだ自分に有利なのだ。

「のろい!」

 その言葉通り、零の動きは地上と比べて明らかに遅い。
 彼が駆ける壁面は平らではない。大小様々な凹凸や配管が張り巡らされ、一直線に走るには障害となる。
ただでさえ雑多な障害がある上に、槍は容赦なく足場を抉った。

 コンクリートの飛礫を次々に生み出し、飛礫は時に身体を打ち、時に視界を妨げる。
しかも、必ずしも槍は壁に強度で勝るとは限らない。
凹凸や障害物に跳ね返って軌道を変化させ、零はもちろん杏子自身にも、どう変化するか読めなかった。

「ほらほら、どうしたのさ! あんたらしくないね!!」

 右へ左へ上へ下へと走る壁を替え、なかなか接近できずにいる零へ、杏子は嘲りの言葉を投げる。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:22:46.00 ID:a7u3xc3Yo<>
 返事はない。

 僅かではあるが息を切らし、汗を散らし。
 零は目に見えて疲弊していた。壁を交互に跳び移る速度も心なしか落ちている。
遠からず足を滑らせるか、回避が追い付かず切り刻まれるだろう。

 圧倒的優位は揺るがないと言うのに、杏子の表情には油断も慢心もなく、
目は零の一挙一動も見逃すまいと追い続ける。
 余裕から生じた一瞬の不覚を幾度となく突かれてきたのだ。
だから今度は間違えない。すべてが終わるまで勝利の確信は得られない。

 現に零は徐々にではあるが、着実に近付いており、それだけでも充分に驚嘆と称賛に値する。
そして幾多の防衛網を掻い潜り、遂に一足飛びの距離に迫った時。

「そこだっ!!」

 杏子が手の内の槍を手繰った。
 ただし狙いは零ではない。
 杏子から見て右の、彼が跳び移らんとしている壁。
 そこに張り巡らされている配管のひとつ。

「――!?」

 穂先が突き刺さった瞬間、零の目が大きく見開かれた。
 刃がパイプを突き破り、おびただしい量の水が噴出した。

 壁には無数の管が這っている。当然、その中には水道やガスの管もある。
むしろ、これまで起きなかったことが不思議だった。
 しかし、このタイミングで偶然に刺さったのでも、これまで偶然に避けられていたのでもない。
 すべて必然、計算の内だった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:33:15.79 ID:a7u3xc3Yo<>
「ちぃっ!」

 面食らったのは零だ。
 既に身体は宙にある。どれほどの身体能力を持とうとも、
翼もない人間では元の足場に戻ることなどできはしない。先に待ち受けるものが確実な死あろうとも。
 水の溢れる壁に突っ込むしかない――かに思えた。

「もらったぁ――……っっ!?」

 最後の攻撃を加えようとした杏子の手が、一瞬止まった。
 その一瞬の間、まるで走馬灯のように、あの日の光景が脳裏に蘇る。

――この感じ、前にどっかで……

 強い既視感の正体。 
 あれは、つい一昨日のこと。記憶に新しいはずなのに、もう何ヶ月も前の出来事のようにも思える。
 
――「もらった!」

 その台詞の直後、彼は驚異的な身のこなしを見せ、

――「取った!」

 その台詞の直後、彼は想像の遥か上を行った。

――そうだ……これは、あの時と同じ……

 あの日、彼は不可避の空中で槍を見事かわした。
 そして今日も。
 全身のバネを駆使して、空中で体勢を変えた。

――この……バケモノが……!

 無理やり身体を捻じり、体勢を崩しつつも着地点をずらした零に、胸の内で毒づく。
その時、杏子は牙を剥いた獰猛な笑みを浮かべ、その声には確かな喜びの色が混じっていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:41:43.66 ID:a7u3xc3Yo<>


 杏子自身、薄々だが知り始めていた。
 本心では届かないことを望んでいるのだと。
 零は、どこまでも想像を凌駕する。それが憎らしいと同時に、嬉しくもあった。

 戦いを通じて杏子は確実に成長していた。肉体も技量も、判断力、洞察力も。
 彼に刺激されて、どこまでも昇っていける、強くなれる確信を得た。
 強くなった先に何があるのか、何の為に強くなるのか、そんなことはどうでもいい。
 ただ、日々上達していく実感は悪くない。
 どうせ彼はからかっているだけで、鍛えようなんて酔狂な意図はないのだろうが。

 友も家族もなく、ただ生きているだけの日々に目的ができた。
 初めて、色のない世界に色が生まれた。
 真赤に燃える炎の色。

 彼を倒し、彼を超える。
 それが今の自分が生きる意味であり目的。

 故に簡単に越えられる壁では困る。より高く、より遠い壁であってもらわなければ。
 そうでなければ越え甲斐がないではないか。

 たとえ果たした瞬間に、再び景色が色褪せるとしても。
 また戦いだけの虚無な日常に引き戻されるとしても。
 全力で追わずにいられない。少なくとも追っている間は集中できる。
 他の不安に目を向けずに済むから。
  <>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 02:52:18.01 ID:a7u3xc3Yo<>


 槍を固く握り、零を見やる。
 まだ、勝負は付いていない。
 彼を認めているからこそ勝ちたい。持てる力のすべてを振り絞りたい。

 そして零が跳んだ。
 足を止めれば即座に全身を打ち砕かれる鋼の暴風の中。
 手を伸ばし、杏子へと。
 
 どう転んでも、これが最後。
 次の一撃で決着が付く。
 杏子も覚悟を決めて迎え撃つ。

 まずは槍を操り、零の前方から攻める。
 常人なら為す術なく直撃を喰らうか、できて防ぐのが精々。
 しかし零は違う。振り下ろされる鎖と棍を、身を捩って回避する。
回転に伴い、黒いコートが翻った。

――やっぱり、らしくないね……。同じやり方が何度も通用するとでも?

 零も勝負を急いでいるのだろう。
 流石にこう立て続けに見せられれば、嫌が応にも学習し、対策を講じる。

 直後、零の四方八方から棍が迫った。
 あんな避け方が連続してできるとは思えない。そう踏んでの連撃だった。

――さぁ……潰れな!!

 打つでも斬るでも刺すでもなく、人ひとりの空間を埋めて潰していくイメージ。
どれだけ頑丈な人間だろうと、空中で一撃喰らえば地に墜ちる――はずだった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 03:05:50.97 ID:a7u3xc3Yo<>
「ふっ……!」

 と、短く息を吐いて零が動いた。身を縮めるでもなく、大きく回転して逃れるでもない。
緩やかに、四肢をそれぞれの方向に対応させる。

 ひとつは右腕に滑らせて逸らし、ひとつは左拳で叩き落とす。
 ひとつは左足で蹴り飛ばし、ひとつは右足の裏で受け止めた。

 槍の嵐は網の目のようなもの、子供でも通り抜けられないだろう。
 しかし実際は網ではなく高速で跳ね回っているだけ。隙間を縫うのも理論上は不可能ではない。

 などと口で言うのは簡単だが、同じことを遣って退ける自信はなかった。
 次々と襲いくる打撃の軌道と距離を瞬時に見切り、自分に近い物から順に、すべてをさばく。
 あたかも槍が零を避けているような、流麗な動作。

――こいつ……!

 衝撃に言葉もない。
 杏子は戦慄し、思い知らされた。
 この期に及んでなお、自分が彼を甘く見ていたと。
 杏子が潰そうと考えたように、零は最小限の動作で"人ひとりの空間"を維持することだけを考えていたのだ。

 そして零は見事に猛攻を突破した。
 ある地点を境に、攻撃はピタリと止む。台風の目に――即ち、使い手の至近距離にまで飛びこんだからだ。
 後は着地して倒すのみ。

 もう打つ手はない。
 認めるしかなかった。
 杏子の腕から力が抜け落ちる。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 03:12:32.93 ID:a7u3xc3Yo<>

 完敗だ。


 負けを認めた瞬間、杏子は無意識に槍のコントロールを手放した。
元の状態に戻すのではなく、単に集中を切った。
 槍は勢いに任せていたように見えて、その実、膨大な集中力と繊細なコントロールを要していた。
 自分に害が及ばないよう敵だけを仕留める為に。

 その軛から解き放たれた時、意思を持たない武器は無差別に破壊を振り撒く。
 それは誰もが予想だにしなかった結果を引き起こした。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 03:24:17.81 ID:a7u3xc3Yo<>
*

 先に察知したのは零だった。
 杏子が気付いたのは、かつてなく緊迫した表情を彼が浮かべてから。
 どこかで跳ね返ったのだろう、槍の穂先が零の斜め後ろから迫っていたのだ。

 刃はどちらの認識からも完全に外れた存在だった。
 しかも折り悪く、攻撃を凌いだばかりの零の体勢では防げない方向。
 それでも零は、辛うじて避けることもできた。
 
 避けた後、刃の向かう先に少女の顔がなければ。

 制御を失った槍は主だろうと構わず貫く。
 杏子は気付いていない。つまり、避ければ彼女が死ぬ。

 己の命か、杏子の命か。

 零は刹那の決断を迫られ――そして選択した。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 03:31:12.31 ID:a7u3xc3Yo<>
*

 その頃、杏子は迷っていた。

 このまま待っていれば勝てるだろう。
 たぶん、いや、きっと。
 零が避ければ自分が死ぬが、何故だか零は避けない気がした。

――けど、本当にそれでいいのか?

 と、誰かの声が聞こえた。

 さっき自分の身を囮にした時とは状況が違う。
 あの時は、どちらも致命傷には至らない、決着にはならないとわかっていた。頭に血が上っていたのもある。
 だが、最たる理由は自分で決断したか否か。前は作戦だったが、今は自分の浅はかなミスで互いの命を危機に晒している。

 皮肉な運命の悪戯を幸運として捉える者もいるだろう。運も実力の内と受け取る者も。
 だが今は、とても素直に喜べる気分ではなかった。

 少女が独りで生きる為には魔法が必要で、魔法を使うには魔女と戦わなければならない。
 即ち、生きることとは戦うことで、勝たなければ生き残れない。
 その理屈で言えば勝利を求めるのが当然。

――でも、これは魔女との戦いじゃない……。

 生きる為でなく意地の為。
 それが決心を鈍らせる。命を賭け金にしてまで勝利を求める必要があるのかと。
 もっと大事な何かが懸かっているのかもしれないのに。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 03:42:34.91 ID:a7u3xc3Yo<>
 こんな呆気ない、つまらない偶然で勝利を得てしまっていいのか。
 実力で彼を捩じ伏せ、超える実感をこそ求めていたのに。
 納得できない勝利と納得できる敗北では、後者の方が価値があるのではないか。
そして、前者の場合は決してやり直しが利かないのだ。

――いや、待て……。

 そもそも零が命を奪わない確証など、どこにもないのだ。
 それなのに何故、後者ならやり直しができると思った?
 最初から零の情けか気まぐれで生かされていたのに、どうせ死なないからなどと温いにも程がある。
いつの間にか状況に甘んじて、お遊戯気分で戦いを楽しんでいた。

 ならば殺られる前に殺るべきか?
 その結果を受け止められるのか?

――ああっ! 駄目だ!!

 心は千々に乱れ、考えがまとまらない。

 ちょっと待って。
 考える時間をくれ。

 そんなことも言いたくなったが、時は止まるはずもない。
 現実は惑乱する杏子に無慈悲な決断を突きつける。

 結局、杏子は迷いに迷った挙句、選択できなかった。

 救いを求めるように零を見た、その時。
 腰に回った零の両手から銀色の閃光が疾った。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 04:17:34.31 ID:a7u3xc3Yo<> *

 夕陽の反射が眼に差し、咄嗟に目を瞑る。
 キィン――と、高音が耳に遠い残響を残す。

 杏子が目を開いた時、一歩の距離に彼は立っていた。
 両手には逆手に握った剣。身長の割に少し短く、取り回しやすい長さ。
 剣を顔の高さまで上げ、荒い息を吐いている。

 右眼は剣で隠れて見えなかったが、それは紛れもない涼邑零。
 しかし、その面に余裕の微笑はなく。
 あったのは凍てついた眼光と冷徹な狼の顔。
 
 背筋を震えが駆け抜けた。
 その眼力の鋭さときたら、数分前に自分が彼に送ったものの比ではない。
 軽薄な仮面の下に隠されていた、これが、この男の素顔。
 この男の本性。

 杏子は暫し呆けていたが、切断された槍の穂が地面に突き立ったのを合図に動く。
 本能の警告に従い、素早く後退ると持った槍を捨て、新たに作り出した槍を構えた。

 逃げれば死に、立ち向かっても死ぬ。
 猟犬にセットされた野鳥。それとも狼の群れに囲まれた獣か。
 どちらにせよ、射竦められて動けないのは確かだった。

 戦闘態勢を維持したまま、睨みあうこと数秒。

「……やめた」

 言いながら零が剣を下ろすと同時に、張り詰めた空気が弛緩する。
 呼吸も止まっていた杏子は吐息と共に、

「はぁ……?」

 と、間の抜けた声を漏らしてしまった。
 零はくるくる剣を回しながら腰の鞘に収めると、両の手のひらを開いて見せる。
表情には憎たらしい微笑が戻っていた。

「降参。俺の負けだ」

 最初は何を言っているのか訳がわからなった。
 ただ膝から崩れ落ちないようにするのが精一杯だった。
 やがて理解が追い付くと、腹の底から沸々と言葉にならない感情が込み上げてくる。

「ふっ……ふっ……」

 震える肩と声は果たして笑っているのか、怒っているのか。
 おそらくは後者だろうが、怒り過ぎて笑うしかないのかもしれない。
 ともあれ、言いたいことはひとつ。

「ふっざっけんなあああああああ!!」

 最大級の感情の爆発を解放するかのように、杏子は力の限り叫んだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga <>2011/11/18(金) 04:20:34.51 ID:a7u3xc3Yo<> ここまで。もう1レス投下するつもりでしたが、明日に
長引きましたが、これで一応の決着
やっぱりくどいような気がしますが
今後とも精進しますので、お付き合い頂ければと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/18(金) 04:23:26.16 ID:XSuao6LY0<> 乙!
俺はこの文体好きだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/18(金) 10:12:41.82 ID:Ht7N+Ro90<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/18(金) 16:12:40.01 ID:6bBDpK5Xo<> >>1の大量投下キテター!
相変わらずの濃密アクション描写に乙せざる得ない!

あんこちゃんドンマイ☆(ゝω・)v
零にはやはり何か思惑あるっぽいな

ところで昨晩の牙狼は凄さまじかったわ・・・ <> IPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<><>2011/11/19(土) 22:29:21.29 ID:Kri8joVm0<> 乙であります。
語彙が単調にならないように綺麗に描写されていて自分はこの文体が大好物であります。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 02:49:48.78 ID:zPrMvViko<>
 路地裏に轟く絶叫。
 魔法少女は肺活量も常人以上なのか、凄まじい怒号は、ビル上方の窓ガラスと零をビリビリ震わせた。

「はぁっ……はぁっ……」

 思いの丈を吐き出した杏子は、膝に手をついて肩を上下させる。見つめる地面に汗が滴り落ち、吸い込まれた。
 少しは楽になったものの、まだまだ怒りは収まらない。
だのに怒りの対象はというと、軽く耳を塞いで顔をしかめ、ひょいと無防備に覗き込んでくる。

「大丈夫か、あんこちゃん?」

 その仕草は怒りを益々燃え上がらせる。身体が動くなら、すぐにでも攻撃したかった。
 杏子は息を整えると、ギロッと下から睨めつけ、視線だけでも零を射抜く。

「テメー、またあたしをからかって……!」

「いいや、今度は本気さ。あんこちゃんは強い。大したもんだよ、誇っていい」

 ポン、と頭に手が置かれた。
 子供をあやすような優しい手つき。声音からも小馬鹿にしているとは思えなかった。
 すぐに振り払おうと顔を上げ、躊躇して再び顔を伏せる。

「そんな訳あるか! あたしは、あの時……」

――負けを認めちまったんだ。

 言いかけて口を噤む。
 心で認めても、言葉にするのは、どうしても嫌だった。
 たとえ本気の攻めをすべてさばかれ、剣を抜いた零を相手に無様に怯もうとも。
 口にすれば闘志が折れて二度と立ち向かえない気がしたから。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 02:51:51.39 ID:zPrMvViko<>
「っ……ともかく!」

 手を振り払い、代わって槍の先端を突きつける。

「もう一回だ! テメーも剣を抜いたんなら、これで条件は同じ。さぁ、抜きな。それであたしと戦え!」

 まるで駄々をこねる子供だと自嘲しつつも、このままでは気が治まらない。
 もう一回、今度こそコテンパンに負ければ、潔く認められるだろうか。
 それとも、また噛み付くだろうか。

 しかし零はまたしても、

「悪いけど、俺の剣はこんな場末のケンカで抜いていいもんじゃない。
けど、素手でもあんこちゃんに勝てそうにない。
だから降参。簡単だろ?」

 両手を上げて降伏の意志表示。
 カッと顔が熱くなる。
 それは言い換えれば――。

「剣を抜いたら勝てるって言いたいのかよ!」

「さぁて、どうだかな」

 そんな仮定に意味も興味もないとでも言いたげに、零は肩を竦めた。

「じゃあ、あたしの勝ちでいい。だったら認めるんだな? もう使い魔に手は出さないって」

 募る苛立ちを必死に抑えながら、杏子は念の為、問いかけてみる。
せめて何か対価がなければ、退く訳にはいかない。また、退く言い訳にもできない。
 答えは訊く前からわかりきっていたのだが。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 02:53:52.68 ID:zPrMvViko<>
「そんな約束はしてないよ」

 答えたことによって空気が変わった。弛緩した空気から、物々しい空気へと。
 もちろん原因は、杏子が殺気を放ったせいである。
 零はゆっくりと距離を取り、杏子と何度目かの対峙をした。

「……そんなに納得がいかないのか?」

「当たり前だ!」

「どうしても?」

「どうしてもだ!! 来ないならこっちから行く! 人を巻き込もうが警察が来ようが知ったことか!」

 あくまで譲る気のない杏子の態度に、零は深々と溜息を吐く。
 疎ましいというより、酷く残念そうに。

「ふぅん――なら……仕方ねぇな」

 言葉を切り――口調が変わった。
 変わったのは口調だけではない。目つきが、声色が、纏う雰囲気が、身のこなしまで。
 何から何まで別種のもの。
 そこに居るのは杏子の知る零であって零ではなかった。

 剣を抜いた時と同じ。
 死線に臨む剣士の立ち姿。

 魔女とは違う明確な殺気。
 相手を死に至らしめんとする絶対の意志。
 一歩、二歩と、自然に足が後退る。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 02:55:46.92 ID:zPrMvViko<>
 もしや自分は、どこかで彼の逆鱗に触れてしまったのか。
 一度でも気圧され、呑まれたが最後、総毛立つ身体は主の意思を離れる。 

――いいや!

 屈しそうになる心を奮い立たせ、両足に力を入れて踏み込む。
腰を落とし、槍を両手で握り締め、どんな攻撃にも対応できるよう気を張る。
 これでいい。これこそが望んだ形だ。

「あくまで、どっちかが死ぬまで殺り合わなきゃ気が済まないってんなら……いいぜ、付き合ってやろうじゃねぇか」

 深く息を吸って吐くと、手足の感覚が戻ってくる。

――大丈夫だ、戦える。
  
 杏子は頷き、身構えた。

「行くぜ……!」

 と言った零の右手は、予想に反して腰ではなく懐に潜り込んだ。
 そこから何かが引き抜かれたのを杏子は見逃さない。
 手の大きさに少し余るそれは、どうやら短剣のようだった。しかし短剣と言っても、形状は矢尻、苦無が最も近いだろうか。
 零は引き抜いた短剣を、頭の横で振り被った。

 見え見えのスローイングフォーム。いつ、どれほどの速度で投げ放たれるか容易に想像がつく。 
 案の定、真正面から真っ直ぐに短剣は飛来する。

「こんなもんに!」

 避けて姿勢を崩すのも馬鹿らしい単調な攻撃を、杏子は槍を振って弾き飛ばした。

 そして動転する。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 02:59:23.76 ID:zPrMvViko<>
 何故なら、弾いた短剣の後ろから続いて飛来する物体があった。

「なっ!?」

 頭の中はたちまち疑問符で埋め尽くされた。
 しかし鋭く研ぎ澄まされた思考は、そんな中でも回答を導き出す。

 零の動きには細心の注意を払っていたはず。だが、一本目が投げられた後は、そちらに注意が向く。
 その瞬間、零はノーモーションで、まったく同じ軌道で二本目を投げた。
 だから一本目に隠れて見えなかったのだ。

 正確に視認できなかったが、一本目の短剣とよく似た形、きっと同じ物だろう。
 首を振れば避けられる距離と速度だった。
 それを一本目を弾いて防いだからか、それとも気持ちが先走ったのか。
 杏子は同じく槍で防ごうと試みた。

 それこそが最大のミス。
 一本目よりも速く迫る二本目に、槍はタイミングを外された。

 そして悔やむ間もなく、投擲された物体は眉間に吸い込まれ――

「あっ――――」

小さく呻き、それきり杏子は言葉を発さない。発せるはずがなかった。
突き立った瞬間、痛みと衝撃が脳天が貫き、意識は遠のいていく。

杏子の頭は命中の勢いに逆らわず、弾かれて天を仰いだ。
両腕はだらりと垂らし、その目は信じられないものを見るように、見開かれたまま固まっている。


数多の魔戒騎士の命を奪い、常人ならば掠り傷であっても、ものの数分で死に至る恐るべき暗器。

それが今、涼邑零の手から佐倉杏子に放たれた短剣の正体。

名を『破邪の剣』と云う。

だが、杏子がその名を知ることはなかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/20(日) 03:00:59.05 ID:zPrMvViko<> ここまで
1レスのつもりが、気付いたら長くなっていました
もうちょっとで杏子と零も終わりなので、明日も来れたら来たいと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(高知県)<>sage<>2011/11/20(日) 03:02:25.18 ID:KzcgEoPTo<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/20(日) 03:53:33.24 ID:p78N/kgO0<> お疲れ様です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<><>2011/11/21(月) 01:14:23.31 ID:WbFtrmeSO<> どういうことだ、おい…
あんこちゃんが死んでるじゃねぇか……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/21(月) 10:35:01.82 ID:7ssuQLZCo<> 乙!
ちょ、杏子ちゃんがああ!凄い気になる所で次回に続いたww
零さん相変わらず行動が読めなくて怖いっす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)<>sage<>2011/11/22(火) 00:50:02.51 ID:BjvxuJD4o<> 乙です
とんでもない所で終わったww
ヒャッハァー!もう次回までまてねぇ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/22(火) 05:34:00.53 ID:IBG5JBN80<> 破邪の剣とはまたww
figuartsの牙狼と大河verと絶狼いじりながらwktkして待ちます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/11/22(火) 09:50:09.53 ID:stiZ0ntx0<> おおおう!久々に覗いてみたらなんという大量投下ww
勝てない勝負に臨むあんこかわかわ

ってか相変わらず切る場所うめぇな!!!ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)<>sage<>2011/11/23(水) 22:15:35.70 ID:ZV271Eix0<> それにしても一歩間違えば死ぬのに零も危ない賭けをするもんだなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)<>sage<>2011/11/25(金) 03:03:30.10 ID:PBoSGDhI0<> 今回の話の大友康平と杏子ちゃんのイメージが
重なってる気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)<>sage<>2011/11/25(金) 22:44:08.05 ID:dNHpNgN8o<> 2話連続で神回とは二期舐めてた
ちょっとカヲルの料理食べる苦行を課してくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/25(金) 23:30:27.32 ID:INhLhZKE0<> とりあえず>>1が一周遅れの地域だからネタバレは避けるが。
少し前のなだぎ回は怖すぎだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/26(土) 00:10:17.03 ID:QcNjpblG0<> なだぎ回はたしかにトラウマになるかと思った…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都)<>sage<>2011/11/26(土) 00:32:33.79 ID:BbDuZHA30<> 今期はアクションも然ることながらドラマ部分もなかなかに面白いよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県)<>sage<>2011/11/26(土) 00:34:02.80 ID:eVms+3ep0<> あの話を見て本当にあの世界はなんでもアリなんだなと思った。
なんかもう制作側が二次創作どんとこいって姿勢でいるような気がほんのちょっとする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 00:35:24.70 ID:YZ/uCSPMo<> 俺が怖かったというかぞっとしたのは手塚回だったな <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:02:46.42 ID:EH1OJZ2Zo<> 遅くなりましたが、1:30から投下します

いつもコメントありがとうございます
実はなだぎ回から、録画してもまだ見れてなかったり……
明日にでも、まとめて見たいと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/26(土) 01:12:42.49 ID:xpIkL7e10<> >>757
全裸待機。
あとなだぎ回は夜中には見ないことをお進めする。 <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:32:51.31 ID:EH1OJZ2Zo<>
 明滅する視界。
 ゴッと鈍い音が脳に響く。
 ふっと意識が遠のき、痛みも覚醒を促すには至らない。

――あれ……あたし、どうなったんだ……?

 膝から力が抜け、このまま倒れたくなる。

――やっぱり死んだのかな、あたし……。

 身体が支えを失う寸前、

「っ……くぅっ!」

 ふらつく足をどうにか踏み締め、頭を振りながら、杏子はやっと声を発した。

――なわけねーか、死んだら考えることもできやしない……

 生きている。
 まだ生きている。
 では、あれは何だったのか。
 恐る恐る眉間に手をやってみる。

「っだっ!? 痛ぅ……!」

 指で触れると、そこは盛り上がって瘤になっており、ズキズキ痛む。
 痛む額を一撫でして手のひらを見つめるが、血は一滴も付いていない。

「ってことは……」
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:43:43.40 ID:EH1OJZ2Zo<>
 足下に目を落とすと、どことなく宗教的で複雑な紋様が彫り込まれた、
青銅の短剣らしきものが転がっていた。
見たところ、道の端に転がっている短剣と長さ、大きさ共にほぼ合致する。
違いと言えば先端が丸みを帯びているくらい。

 となれば、これはおそらく――。

――鞘……。

「こいつっ!」

 ここでようやく正面に視線を戻す。

「――あれ?」

 が、数秒前まで立っていたはずの彼は、そこにいない。
 路地を黒い背中が遠ざかっていく。稲妻の紋章と、双剣とドリームキャッチャーの刺繍が。
 ほんの数秒で50メートルは距離を開けられていた。

「あっ、おい! 待ちやがれ、テメー!!」

 まだ脳が揺れている感じがしたが、杏子は構わず声を張り上げた。

 しまった。こいつはこういう奴だったのだ。
 さっきまでのはすべて演技。真面目に戦おうなんて気はさらさらなく、自分の負けで勝手に完結して
納得しなかったので、とっとと逃げようと。
 どこまでも自分勝手で、人をからかうばかりの嫌な奴。
 大方この額の一撃は、隙を作るのと、ささやかな復讐を兼ねてといったところか。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:52:45.82 ID:EH1OJZ2Zo<>
 杏子が立ち直ったと気付くと、零は足を止めて振り返る。
その顔は笑みを湛え、実に"したり顔"と呼ぶに相応しい。

「流石! 自慢するだけあって頑丈な石頭だな、あんこちゃん!」

「はぁ!? 誰がそんなこと……」

 と、言いかけて言葉に詰まる。
 思い出したのだ。あれは自分を囮に、遠隔操作で零を仕留めようとした際。

――「生憎こちとら頑丈にできてるんでね」

「……言ったか」

「そいつは俺に勝ったご褒美に預けとく! ホラー相手の護身用くらいにはなるだろうさ!」

「いるかよ! こんなもん――」

 零が投げた破邪の剣を投げ返してやろうと思い、拾い上げようとするが、

「何だこれ、重っ……!?」

 持って振れないほどではないにせよ、破邪の剣は大きさの割に異常な重量だった。
いったい、どんな金属でできているのか。純金製だとしても、ここまで重くはならない。
 杏子がもたついている間に、零は右手をこめかみに当て、

「じゃあな、あんこちゃん! そうそう、あんこちゃんが割った皿の代金も一緒に貸しにしとくぜ!」

 敬礼とも取れる気障な仕草を送って走り去っていく。
杏子が剣を拾って振り被った時には、既に大通りへの道を曲がっていた。
 杏子は暫し呆然と見送っていたが、やがて肩を震わせ始める。
 挑発を受けた時のように、零が降参を宣言した時のように。

「ふっざっけんなあああああ!!」

 そして喉から絞り出される叫びも、やはり同じだった。

 あそこを曲がっても一本道が続く。今ならまだ間に合うかもしれない。
 杏子は重りでしかない破邪の剣と鞘を持ったまま全力で追いかけたが、
路地を曲がっても憎い男の姿はどこにもなかった。
 ひとり立ち尽くす杏子の激情は頂点に達し――。

「ぁんのやろぉおおおおおおお!!」

 やり場のない怒りを空に吐き出し、それでもなお走り出す。
しかし結局、それからも零を捕まえることはできなかったのだが。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:54:44.26 ID:EH1OJZ2Zo<>
*

「っと……行ってくれたか」

 猛烈な勢いで走っていく杏子を、ビルの上から見送りながら零が呟く。
ビルの屋上から見る街は赤く染まり、もう陽が遠くに沈みかけていた。
 路地裏は静寂を取り戻したが、すぐに騒がしくなるだろう。それだけ彼女は派手にやり過ぎた。

 なのに、零はその場を動こうとはしなかった。
 エレメントの浄化で消耗した体力の回復と、夜の戦いを前にした一時の精神の休息。
杏子に邪魔された時間を取り戻すように、夕陽を見つめている。
 その沈黙を破ったのはシルヴァだった。

『……あれで良かったの?』

「良かったんだよ、"あれで"。なかなか使えそうだぜ、あんこちゃんは」

 上手い具合に手のひらで転がされた少女に同情を覚えつつも、
その対価に命を懸けるのは、どう考えても割に合わない。
 今日に限らず、どうにも彼女に対する零の態度は不可解だった。
杏子が零のお気に入りなのは疑うべくもないが、果たしてそれだけだろうか?
 だいたいの予想は付くが、今ひとつ釈然としない。

『ねえ、ゼロ? 結局、あなたは何がしたかったのかしら』

 尋ねるべきか迷ったが、シルヴァは単刀直入に訊くことにした。
今さら、自分たちの間柄で隠し事もないだろう。
 シルヴァの問いに、零も素直に答える。

「ああ、あんこちゃんをちょっと試してみたかったんだよ。結果は俺の負けだったけど」

『あれは、あなたが面倒になってついた嘘じゃなくって?』
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:57:15.94 ID:EH1OJZ2Zo<>
 きつい質問に少々苦笑しながら零は、

「嘘なんか言ってないよ。負けたのは本当。理由がどうあれ、剣を抜いた時点で俺の負けだったんだ」

 と、別段悔しがる様子もなく言った。
 ああ、なるほど――と、シルヴァの中でパズルのピースがカチリと填まる。
これでひとつの疑問に得心がいった。

 彼は掟破りはしでかしても、騎士の根本は踏み外さない男だ。
 ホラーを狩る魔戒騎士が、その剣で人間を傷つける。
 それは重大な掟破りであり、如何なる理由があろうとも騎士として恥ずべき行為。

 故に、零は彼女に勝てなかった。

 もしも剣を抜いて戦っていたら、もしも鎧を召喚していたら――そんな仮定は何の意味も持たない。
 絶対に、あり得ないからだ。
 杏子が人間であり、零が魔戒騎士である限り。

 戦闘力とは様々な内的、外的要因によって常に大なり小なり流動するもの。それは相手によっても異なる。
 何があろうと覆えらない前提がある以上、あれが零の杏子に出せる全力であり、言い訳しようもない敗北だった。
 そもそも人を守護すべき魔戒騎士が、人である魔法少女と力を比べることに意味はない。
サバックのような試合ならいざ知らず、殺し合いなら尚更である。

 魔戒騎士と、魔法少女と、ホラー。
 単純な強弱で量れるものではないし、また個人差もあろうが、さしずめジャンケンのように三竦みの関係か。

 杏子が素手の零にも劣るようであれば、力尽くで屈服させて、ホラーを避けるよう徹底させたかもしれない。
 だが彼女は、偶然も手伝ったとはいえ、零を凌駕して見せた。
 協力者としては合格だろう。彼女にやる気があれば、だが。

 しかし、もうひとつ解せない点がある。零は何故、破邪の剣を渡すような真似をしたのだろうか。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 01:59:42.12 ID:EH1OJZ2Zo<>
「なら、どうして……」

「破邪の剣か? この街の夜を歩くんなら、お守りくらいにはなるさ」

「あれが一般人にどれだけ危険な代物か、あなたが一番知ってるはずよ。あの娘が盗みにでも使ったら……」

 零の前だとああなってしまう杏子だが、彼女の名誉の為に忘れてはいけないのが、彼女は決して単純な馬鹿ではないということ。
詳しい事情は知らないが、彼女は世の辛酸を嘗めているだけあって、むしろ聡い。
 零のにこやな面と同じ、彼女も二面性――独りで生きる為の、狡知に長けた冷徹な面を持っている。
 それだけに頭を冷やせば零の思惑を汲めもするが、お構いなしに破邪の剣を悪用する危険もある。

「大丈夫。あれだけ挑発して、ようやく本気になったくらいだ。根本に迷いがあるんだよ、あいつは」

『それならそうと説得して……聞く性格ではないわね』

「だろ?」

『だからって……』

 発覚すれば良くて称号の剥奪、悪ければ抜剣と合わせ技で粛清は免れない。
 それほどの重罪。
 しかし渡さなければ、杏子は躍起になってホラーに挑む。説得しても従うとは思えない。

 零は魔法少女の力がホラーを浄化できるか興味がある様子だったが、シルヴァは懐疑的だった。
よほど運が"良くなければ"、十中八九、彼女は命を落とすだろう。
 その可能性が高いと考えたからこそ、零も破邪の剣を託した。
 それにしても、もう少し説明や説得ができなかっただろうか。
 
『あんなふうにおちょくったんじゃ、彼女また怒ってあなたを狙ってくるわよ。次はもっとしつこくね』

「ま、その時はその時に考えればいいさ。糸は付けてあるよな?」

『ええ、あなたの言った通りに』

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 02:02:33.43 ID:EH1OJZ2Zo<>
 分身を破邪の剣の柄に仕込んだ。破邪の剣を持ってる限り、居場所は追跡できる。
 これに関しては、持ち逃げされないよう当然の処置である。では、あるのだが。

「逃げたことなら、あれでいいんだよ。あれが俺とあんこちゃんの――魔法少女と魔戒騎士の違いってとこ」

『違い?』

 今度は訊き返しても、零は答えなかった。
 やはり解せない。
 何ゆえ、零は杏子にああも肩入れするのか。いくら騎士だとしても度を越えてはいまいか。

 シルヴァは思う。
 零とは長年の付き合いだが、未だ読めない部分がある。だからといって彼を信じる気持ちに微塵の揺らぎもないが。
まだまだ、この街での波乱は続く、そんな予感はしていた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 02:06:24.28 ID:EH1OJZ2Zo<>


 暮れる夕陽を眺めながら、零は物思いに耽っていた。

 杏子にとっては聖戦でも、自分にとっては下らない諍いに過ぎない。
 だが、意地に命を張る杏子の気持ちを愚かと笑うこともできない。
 かつての自分と同様、いつだって感情は理屈を上回る。
 命を懸けたのは、彼女の本気に僅かでも報いる為でもあった。

 魔戒騎士と魔法少女の違いは多々あるが、それらは思うに、あるひとつの差異から派生している。
 魔法少女について、すべての謎が解けてはいないが、魔法少女と魔戒騎士で決定的に違う点が、少なくともひとつある。
 善悪でも正否でも強弱でもなく、ただ単純に違う。

 剣を抜く直前の互いの決断も、その一部。

 杏子は迷っていた。
 それは杏子の未熟の証。
 そして心の脆さの証。
 だが、自由の証でもある。


 刹那の瞬間、自分は迷わなかった。
 二つの選択肢から、どちらかを捨て、どちらかを取ったのではない。欲張って両方を毟り取ったのとも違う。

 第三の選択肢――否。
 選べるのは、いつ如何なる場合でも、たったひとつ。
 選ぶべきは己の命でも、杏子の命でもない。
 魔戒騎士の宿命。
 使命でなく宿命(さだめ)。
 それだけしかないのだから。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/11/26(土) 02:18:39.30 ID:EH1OJZ2Zo<> ここまで。零と杏子のパートもここまで。日曜日にも少しは進めたいと思います

破邪の剣とは何なのか、本編中でも断片的な情報しか出ていませんが
この作品では独自に考察し、いろいろ勝手に捏造しています
本編中で判明しているのは、たぶん以下の4点かと

・魔戒騎士が何人も死んでいる
・常人なら数分で死ぬ
・魔戒騎士にしか扱えない
・傷を負った鋼牙はリバートラの刻?を飲んだ後、魔導火で治療した

ということで、以下のように解釈しました

・破邪の剣と言うからには対ホラー用の武器
・力が強すぎて常人では耐えられない
・魔戒騎士にしか扱えない=100%ではないけどソウルメタル製
・作中では鞘及び鞘に類する物は出てないが、そんな危険な物なら鞘があってもいいだろう

おそらく違う点もあるかと思います
ですので今さらですが、資料があれば教えていただければありがたいです
特に、どういった経緯で何人もの魔戒騎士の命を奪ったのか、については想像が付きませんでした
騎士同士の殺し合いとか、懐から投げる時に、うっかり指を切ってリバートラが無かったとか……?

>>758
ご忠告ありがとうございます
別の意味でもホラーだとは聞いていますので
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(愛知県)<>sage<>2011/11/26(土) 02:35:28.13 ID:xpIkL7e10<> 乙。
この作品のおかげで今期の牙狼は2度楽しめる。映らないからネットで見てるけどね。

破邪の剣はあれじゃない?刺さると血が止まらなくなるって感じの奴。
剣で斬られてもあそこまで出血や消耗しなかった鋼牙が大量出血しながら帰還したところを見ると、特殊な力で魔戒騎士の回復力を阻害してるとかそういう感じのように思えた。
それか刺さった場所から一気に血液を吸い上げる的な…
魔戒騎士も人間だから大量出血して、それを回復できる手段がなければ死に至ると思う。

あくまで自分の考えだが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/26(土) 04:52:14.68 ID:BbDuZHA30<> 乙!零に絡むあんこちゃんが可愛い
あまり深くは考えないけど破邪はまぁ、バラゴの顔に大河が付けた傷みたいによくわからない力で死ぬんじゃないかな。
精神で質量が変わり超振動してるソウルメタル掴めるあんこちゃんか…イイな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(神奈川県)<>sage<>2011/11/26(土) 10:48:15.40 ID:DE2TwdyRo<> >>768
今期のアニメにそんな感じの武器が出てたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 12:35:03.04 ID:Oobm+QUlo<> 乙でした
あんこちゃんが逝っちゃうううう!と思ったけどなるほど鞘かww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 15:08:15.57 ID:loJTRykC0<> 乙。

主役たちの話は一期で殆ど終わらせているから、
二期はホラーや騎士などの世界に踏み入れてしまった人、かかわる人達の話が中心だな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/26(土) 19:56:50.20 ID:RQFo2JkDO<> 乙!


あんこ×零いいな
シルヴァが猛烈に嫉妬しそうだが…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/11/27(日) 15:25:13.29 ID:OOM9FsrOo<> >>770
癒えない傷を与える呪いの槍? <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/11/27(日) 23:44:02.26 ID:rvB1HmD0o<> すみません。書き溜めが2レスほどしかなく、今日は投下できません……
それと環境が変わって、前ほど夜更かしもできなくなるので
投下頻度も少し落ちるかも
水曜までには投下したいと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/28(月) 00:30:05.39 ID:IhbPqaHDo<> 自分のペースで頑張るのが一番なんだぜ!

読者にとって最悪の結末である未完さえなければ、どんなにゆっくりでも俺は構わない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/28(月) 00:53:34.62 ID:+2x0QVsK0<> いつも楽しませてもらってるんだ
感謝こそすれ文句はないよ、あんまり締切に追い込まれないようにしてね
投下なくても生存報告してくれたりすればこちらだって待っていられるし
完結楽しみにしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/28(月) 15:14:52.04 ID:leE10aYC0<> 速度はあんまし気にせず続けてくれれば喜んで読みに来ますよ
細かな状況説明と読みごたえのあるボリュームが堪らなく嬉しい! <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/12/01(木) 00:08:35.29 ID:BmDlpRodo<> ちょっと落ち付くまで平日は難しいかも
土日で挽回します
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/05(月) 00:43:01.18 ID:bNQpT2Zbo<>  
 夕焼けに染まる通学路を、連れ立って歩く人影が五つ。
 見滝原中学の制服姿の少女が四人。
離れて歩くもう一人は、彼女らとは酷く不釣り合いな白いコートの男。
 校門近くで待ち合わせ、巴マミのマンションに向かう道中だった。

 口を開く者はおらず、その顔色と心境はそれぞれ異なっている。
 まずは巴マミ。
 彼女は道案内として当然ながら先頭を歩く。

 表情はやや硬い。
 初めて自宅に客人を招くことに委縮しているのもあれば、
これから鋼牙に聞かされる昨夜の真実に不安を感じているのもある。
 それともうひとつ。鋼牙とほむらを信用してもいいのか測りかねてもいた。

 マミに続いて鹿目まどか。
 彼女は後ろを歩く美樹さやかと、今日一日どうにか話す機会を窺っていたが、とうとう果たせず今に至っている。
 自分自身、混乱していたし、何を話していいのかもわからない。
 ひたすら沈黙するほかなく、俯き加減で気まずさに耐えるばかりだった。

 さやかもさやかで気まずさを抱えていたが、それ以上に背後の少女に対する苛立ちの方が大きい。
 まどかが勝手に彼女を誘い、彼女が頷き、マミが了解しても、唯一さやかだけは頑として納得しなかった。
時折、背後を警戒しながら顔をしかめている。
 当初は「こいつが来るなら行かない」とまで言ったが、マミに諭されて渋々同行したのだった。
 

――何でマミさんは、こんな奴を……。
 こいつは……暁美ほむらは、あたしを殺そうとしたのに!

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/05(月) 00:44:32.25 ID:bNQpT2Zbo<>
 朝からムカついた気持ちで登校して、教室に入るなり掴みかかった。でも、こいつは無言で振り払った。
 謝罪よりも弁解よりも、それが許せない。あたしの恐怖も、苦悩も、涙も。
まったくの無価値だと言われたみたいで。

 そして今も。
 どれだけ敵意を込めた視線を送っても、こいつは涼しい顔で受け流している。それも気に食わない。
 こいつのすべてが、何もかもが気に食わない。

 足の傷が消えても、刻まれたトラウマは消えない。
そのトラウマの原因はホラーだけじゃない、こいつのせいでもあるんだ。
 教室で同じ空気を吸うのも嫌だけど、冴島さんの話は気になったし、あたしだけ除け者にされるのはもう沢山。
だから付いてきたのに……まどかも、マミさんも、どうしてわかってくれないの……?――

 さやかは鬱屈した気持ちを抱えて歩く。胸には鋼牙を除いた全員への不信感、疎外感が募り始めていた。

 ほむらは先頭の三人を見失わない程度に距離を開けて付いてきていた。
ポーカーフェイスを崩さず、感情の色は読み取れない。少なくとも表面上は。
 だが表情に反して、心中は穏やかとは言い難い。マミが自分の同行を許可するという予想外の状況に、
少なからず戸惑いはあった。

 しかし最も戸惑っているのは、状況に流されている自分。
 ここで同行することで何か変わるかもしれない、どこかで淡い期待に胸を躍らせる自分にだった。 
 その度、さやかの目に思い知らされる。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/05(月) 00:45:51.29 ID:bNQpT2Zbo<>
 温い期待など抱くなと。
 どうせ今回も何も変わらない、孤独な戦いをせねばならないのだと。

 昨日マミの命を救ったせいか、マミの態度は幾らか軟化している。でなければ、マミが許可するはずがない。
 代わりに、さやかの敵意が凄まじい。嫌悪を通り越して憎悪に近い。
彼女を闇の中に置き去りにした張本人であり、銃口までも向けたのだから当然だろう。

 構わない、憎まれ役は慣れている。
 自分に言い聞かせて、ほむらは行く。
 ホラーとは何か、魔戒騎士とは何か。この先には、知りたい答えが待っている。いや、語られるのだ。
背後を歩く魔戒騎士、冴島鋼牙の口から。
 その為に、自分は今ここにいる。

 鋼牙もまた、魔女と魔法少女の情報、そして自分なりの推論を確かめるべく、必要ならば掟を破る覚悟を固めていた。
 何があろうとも、この街の謎は突きとめなければならない。
 すべては、己が使命と宿命を全うする為に。

 やがて一行は、マミのマンションに辿り着いた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sagesaga<>2011/12/05(月) 00:48:39.68 ID:bNQpT2Zbo<> かなり少ないですが、ここまで
遅くなって申し訳ありません
一週間でも書いてないと感覚を取り戻すのに手間取っていますが、
近日中、遅くとも来週末にはまた投下したいと思います <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/05(月) 02:08:42.75 ID:CnB7YHIDO<> 黄桃 青 黒 金
ぐらいの距離かな?
鋼牙さんストーカー疑惑で職質されかねんよw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(長屋)<>sage<>2011/12/05(月) 08:18:34.97 ID:t+5IBl1Ro<> ほむらのコミュ障っぷりは見ててイライラするレベル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋)<><>2011/12/05(月) 19:01:44.93 ID:C9N95MpD0<> まあ、さやかに銃口向けたのは状況的に止むを得なかったけど、
ホラー目前にして怪我をしたさやかを見捨てたのに関しては、
「憎まれ役」なんて偽悪的な言葉で済む問題じゃないよなあ…ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/12/06(火) 03:07:20.32 ID:0Co/10K50<> 鋼牙は見た目の浮き方が半端じゃないからなww
一応財閥だからそこは有名だったり…しないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/06(火) 08:58:46.94 ID:bpweUtUKo<> 一応普通の服は持ってるらしいけどなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(チベット自治区)<>sage<>2011/12/06(火) 21:49:32.67 ID:dyJxUKkh0<> ほむほむはコミュ障と言うよりは人間不信だよね

まぁ、キュゥべえを始めとして、
真実を知った瞬間に皆殺しを行うマミ、
真実を言っても信じないうえに魔女化して事態を悪化させるさやか、
ついでに何度忠告しても契約するまどか、って言うそうそうたる面々だからなww

だからこそ、信頼を裏切らない人が居た時のほむほむの変化を楽しみにしてるよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/12/07(水) 00:16:19.21 ID:svCNMJ54o<> 一話を見返すと、鋼牙とほむら、零と杏子は対になってるんだな
シチュエーションも。迷う少女と迷わない騎士

良くも悪くも魔戒騎士はブレないんだろうな
二期6話でも、あれだけのことをした夫婦を「俺が斬るのはホラーだけ」でスルーだし
想像だけど、あの後、夫婦がああするのも零は予想してたと思う
俗世のことは助けを求められない限り関わらないイメージ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/07(水) 14:50:35.27 ID:bXCHRAiIO<> 2期8話でもホラー化したことでようやく剣を抜いたし <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 19:04:08.44 ID:t8nVsSySO<> 魔戒騎士が剣で人を傷つけたら、やっぱ重罪なのかな
このSSみたく粛清されるとか?
鋼牙も水槽で、ホラーの飼い主を傷つけたらヤバかったのかも <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/09(金) 00:52:19.92 ID:78e401Xe0<> ホラー以外の人に剣使っちゃだめみたいな掟なかったっけか?たしか公式で <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/12/12(月) 00:55:40.15 ID:GVdnZI4Bo<> どうにも遅れ気味ですが
明日にはちょっとだけでも投下します、必ず

<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/12(月) 01:21:38.14 ID:6KeNHpY/o<> 了解
ゆっくりでいいからね <>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/13(火) 00:17:29.42 ID:KCCPJiKoo<>
「どうぞ。適当に座ってちょうだい」

 部屋に入るなり、マミは他の面々をリビングに通し、三角の低いテーブルを囲んで座るよう促した。
 どう座るか顔を見合わせるさやかとまどか、構わず腰を下ろす鋼牙とほむら、それぞれ左右に分かれる。
結果、まどかとほむらが向かい合い、さやかと鋼牙が向かい合う。
 隣り合う者同士でも、それぞれの心の距離を表したような、不自然な隙間が目立った。

 マミは向き合う四人の中間を自分の席と定め、すぐに立ち上がる。

「お茶を入れてくるわ。少し待ってて」

 マミがキッチンに向かうと沈黙が流れる。
 マミが戻るまで、勝手に話を進める訳にもいかず。かと言って、世間話ができるほど気安い関係ではなく、雰囲気でもない。
 まどかとさやかは耐え難い気まずさに居た堪れなくなる。これも、右の二人は一向に気にしていないようだったが。
 しかし、残った二人はそうもいかない。仕方なく、室内をキョロキョロと落ち着きなく見回す。

 殺風景な部屋。それが第一印象だった。
 内装はそこはかとなくお洒落で小物等も散見されるが、何故か空虚で寒々しい。
一人暮らしには広過ぎる、埋めようのない空白と寂しさ。
普段から綺麗に掃除、整頓しているのだろう、それだけに余計に目立っていた。

 数分が何倍にも感じられた頃、ようやくマミがティーカップとケーキを持って戻ってきた。
ほむらはともかく、屈強な剣士である鋼牙の前にケーキが並べられると、何だか不釣り合い――と言ったら偏見だろうか。
 などとさやかが思っていると、
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/13(火) 00:19:09.06 ID:KCCPJiKoo<>
「俺はいい」

「私も遠慮するわ」

 二人してケーキと紅茶を断った。淹れる前に言えばいいのに、と思わないでもない。
 昨日から思っていたが、この二人は揃って無愛想と言うか、常に端的で率直らしかった。
 それが鋼牙に対しては"沈着"や"厳格"。ほむらには"無礼"や"陰気"。
同じ事実であっても評価は真逆に変換されることに、さやか自身も気付いていない。

 きっぱりと言い放つ二人に、マミは然して気分を害した様子もなく、にこやかに微笑む。

「そうですか。まあ、無理強いはしませんけど、結構な距離を歩かせてしまいましたから。気が向けば、お茶だけでもどうぞ」

 ほむらにも目配せして、紅茶だけを目の前に置く。その大人な対応にまどかは尊敬と憧れの眼差しを送っていた。
 さて、マミが着席したので、いつでも始められるのだが、誰も口を開こうとはしない。
 ほむらはカップに手も付けず目を伏せ、鋼牙は微かな音も立てず、紅茶を口に運んでいる。
武骨な印象の剣士だが、その所作は見惚れるほど上品で優雅だった。

「如何ですか?」

「美味い」
 
 お世辞ではない。鋼牙はお世辞を言えるほど器用な性格ではない。
 事実、これまでの彼の人生で二番目に美味しい紅茶だった。
 そもそも冴島家では高級品を使っているので、等級はさておき。
淹れ方も倉橋ゴンザには劣るが、執事として長年仕えている老紳士と少女を同列に語るのも酷だ。
それも経験の差のみで、時間と共に埋まるだろう。

「まぁ、ありがとうございます」

 簡潔だが、それ故に明快な賛辞。マミは心から嬉しそうで、誇らしげだった。
 かぐわしい香りに誘われて、さやかも口に含んでみる。
鋼牙の言う通り、よくはわからないが美味しい。今まで飲んだ物とは違う気がした。気がしただけだが。
 チラッとほむらを見遣ると、いつの間にか彼女もカップを傾けていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/13(火) 00:22:50.10 ID:KCCPJiKoo<>  
 再び、沈黙が場を支配する。しかし、さっきまでとは明らかに違う、どこか穏やかで優しい静寂。
 全員が喉を潤したところで、切欠を得たマミが最初に、鋼牙に頭を下げた。

「まずは昨日のお礼をしなければいけませんね。改めて、昨日はありがとうございました」

「あたしも! ありがとうございました!」

「わ、私もありがとうございました!」

 マミに出遅れてはならないと、まどかとさやかが続く。
 鋼牙は一言、

「礼には及ばん」

 とだけ答えた。
 マミはほむらにも向き直り、

「それと、あなたもね。色々と聞きたいこと、言いたいことはあるけれど、まずはありがとうと言わせてもらうわ」

 もう一人の命の恩人に、鋼牙に比べると幾らか浅くだが頭を垂れた。
 が、ほむらは答えない。軽く首を揺らしただけだった。
 とはいえ、マミもまともな返事は期待していなかったらしく、それ以上の追及はなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/13(火) 00:23:46.55 ID:KCCPJiKoo<>
 マミは全員を一瞥して、

「改めまして、巴マミです。見滝原中学の三年生です」

「美樹さやか。見滝原中学の二年です」

「鹿目まどかです。さやかちゃんとは同じクラスで……」

 もう一人――と言いかけて、周囲を窺う。一人だけ名乗っていない少女に、視線が集まる。
口をつぐんだのは、さやかの表情がやおら険しくなったからだった。
 少女は暫し沈黙を保っていたが、言わなければ進まないかと観念して口を開く。

「暁美ほむら。二年よ」

 彼女らの自己紹介は、すべて自分に向けてのもの。ならば、自分も名乗らねばなるまい。
 最後に残った鋼牙も、改めて伝える。自らの名と、その使命を。

「冴島鋼牙。魔戒騎士だ」

『それと、俺様が魔導輪ザルバだ。よろしく頼んだぜ』

 鋼牙の了解を待たず、左手の髑髏の指輪も軽快な調子で名乗り、

「指輪が喋った!?」

と、ほむらを除く全員を大いに驚かせた。

<>
◆ySV3bQLdI.<>saga<>2011/12/13(火) 00:28:23.73 ID:KCCPJiKoo<> ここまで
もうちょっとペースアップしたいですが、たぶん次も週末あたりかも
特に意味のない部分でしたが、自分なりに鋼牙の人となりを
財閥の総帥なので、きっと博識で社交界のマナーとかも完璧なんでしょうかね
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/13(火) 01:09:46.42 ID:YnqwCBsl0<> 乙―
こういった描写は雰囲気でて良いですね
重苦しい雰囲気で軽口を叩いてくれそうなザルバはさやか達にはありがたいだろうねww <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/13(火) 17:56:02.12 ID:nn+Zf0d1o<> おおおキテたああ乙!

ザルバは癒し <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/12/13(火) 21:00:45.97 ID:yx+rquFmo<> 乙ー
空気が重すぎてザルバが救世主に見える。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/13(火) 21:39:14.20 ID:hpFzBgeDO<> 乙
ケーキを前にしたときの鋼牙と零の違いって面白いね
渋い顔するか幸せそうな顔するか <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 18:30:52.55 ID:JYGGhXpSO<> 魔戒騎士って馬鹿じゃなれなそう。
零も鋼牙も頭はいいと思う。
しかし鋼牙は完璧超人だなぁ。欠点は無愛想くらいか <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/16(金) 19:03:28.29 ID:jqPnBfk50<> 昨日の牙狼もそうだけど回を追うごとに魔戒騎士が無敵に見えてくる…色々効かないとかもうねかっこいいよね <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/18(日) 06:34:19.03 ID:CdiyicHa0<> >>805
妖赤の罠にはバカ丸出しの筋肉ダルマな魔戒騎士とか出てきたけどな <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/12/23(金) 00:58:24.33 ID:5P13bb5xo<> 連絡もなしに遅くなってすいません
近日中には必ず <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 02:11:58.41 ID:Lkdon7Nv0<> まってるよー
今回の牙狼…また多摩セン撮影かあの辺使うの好きだなぁ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/23(金) 02:51:06.11 ID:/50nEdUAO<> HDDがいっぱいになってるの気づかなくて録画失敗してた……orz <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<><>2011/12/23(金) 20:32:33.59 ID:nBI0Be7A0<> あせらないで。

待っているから、黄金騎士にあの可哀想な少女達を救ってやってくれ。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/26(月) 11:19:26.09 ID:lvLLKH2Uo<> ほーい赤酒飲みながら待ってるよー

牙狼2期は話のバリエーションが豊かだな <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/12/27(火) 23:46:18.29 ID:/7Ng4WFMo<> こんな作品でも待ってて下さってありがとうございます
近日中と言いながら木曜か金曜になりそうです、目標は年内にあと2回
12月はいろいろあって、かなり陰我が溜まってますが、1月からは多少ペースを取り戻せるはず
<> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/28(水) 01:03:18.64 ID:lmxeNJ77o<> 陰我が溜まってるのはまずいww
新年前に清めてください <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/28(水) 09:41:53.98 ID:9u7+GnCIO<> >>813から邪悪な気配が <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/28(水) 20:47:21.43 ID:wEHrqkZ4o<> 魔戒騎士がそっちに行ったぞ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/29(木) 23:05:42.93 ID:hUIrIEtwo<> かっけぇ
ttp://blog-imgs-11-origin.fc2.com/s/u/b/subcultureblog/20111229163017b0b.jpg <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/30(金) 00:28:01.18 ID:Dms1mlxBo<> >>817
すげー
汗だくなんだろうな <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/30(金) 02:05:16.31 ID:PbRfiSGFo<> >>817
やべぇカッコイイww

・・・そこ陰我溜まりそうだし魔戒騎士忙しいんだろうな <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 01:14:28.01 ID:wBn9Y2uto<>
 さやかは昨夜の記憶を手繰る。
 そして、ホラーの触手から助けられた際、あの場には鋼牙しかいなかったにも関わらず、彼とは違う声があったのを思い出す。
あの声がザルバだったのだ。

 まどかも、マミの重傷のショックで気にも留めていなかったが、ザルバの声を確かに聞いていた。それどころか、会話まで。
 が、それでも改めて喋っているのを見ると動揺は禁じえない。
 ほむらだけが落ち着き払っている中、ザルバは驚く三人にやや不満げに言った。

『おいおい。指輪が喋るのが、そんなにおかしいか?』

「え? だって……」

「そりゃあ、おかしいと思うけど……」

 戸惑うさやかとまどかに、ザルバは言い返す。

『昨日、散々あり得ない化け物を見たんだ。それに比べりゃ、喋る指輪くらい可愛いもんだと思うぜ』

「う〜ん。そう、かもしれないけど……」

 と、言ったのはまどか。
 なんとなく丸めこまれている気がする。とはいえ確かに、昨日あれらを見るまでの自分なら、もっと驚いていただろう。
ひょっとして免疫ができてきているのだろうか。
 マミを見ると、彼女も最初こそ驚いていたが、今はすっかり平静を取り戻していた。

「言われてみればそうね。魔女や魔獣がいるんですもの。それに関わる者も同じく普通ではない。
喋る指輪ぐらい可愛いものよ、何ら不思議ではないわ」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 01:16:52.41 ID:wBn9Y2uto<>
「はぁ、そういうものですか……」  

 マミが言うと信憑性があるというか、妙な説得力があった。でも、髑髏の指輪は可愛くはないと思う。

「そういうものよ、美樹さん、鹿目さん。これまでの常識なんて当てにならない。何が起こっても不思議はない。
それくらいの心構えでちょうどいい。魔法少女になるってことは、そんな世界に足を踏み入れ、自らも非常識の一員になることよ。
どうしたって普通ではいられない」

 それが魔戒騎士や魔法少女。人に見えないものを見て、不思議な物を不思議と思わなくなる。
他人と違う世界を生き、違う景色を見ている。
 さやかには何の変哲もない退屈な日常の風景も、彼らの瞳には、いったいどう映っているのだろうか。

 そんな世界に興味はある。彼らが見ている物を見てみたいと思う。けれど、それは幸せなことなんだろうか。
 マミの真剣な眼差しを見ると、考えずにいられなかった。 
 さやかとまどかが二の句を継げずにいると、

『こっちのお嬢さんは話が早くて助かるぜ』

 そうザルバが答えた。しかし、

「ザルバ、話の腰を折るな」
 
 すぐに彼の頭上から生真面目な主の注意が飛んだ。そう言えばと、自己紹介から脱線していたことに気付く。

『おっと、悪い。続けてくれ』

 と言っても、全員の自己紹介が終わったところで、会話が途切れてしまった。
 主にマミが、何から話そうか迷っているのだ。
彼女が主導権を握らなければ、知識の足りないさやかとまどかはもちろん、無口なほむらと鋼牙も言葉を発さない。
 そんな中、切っ掛けを作ったのは、意外にもほむらだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 01:25:54.83 ID:wBn9Y2uto<>
「指輪が喋るのは不思議じゃない。でも、理由もなく指輪が喋ったりもしない。喋るからには何か役割を持っているはず」

「まぁな。俺様はホラーの気配を感知して、鋼牙に位置を伝えるのが主な仕事。後はまぁ、喋ってできる範囲ってとこだ』

「ん? どういうこと?」

 さやかはほむらの言葉が今ひとつ理解できなかった。そこへ助け船を出したのがマミ。
 
「何事にも必ず意味はあるってことかしら。そうね、例えば……」

 顎に指先を当て、考える仕草をすると、ティーカップを持ち上げて見せた。

「ティーカップに取っ手が付いてるのは何の為? ないと熱くて持ちにくいからよね。その他にも、熱い紅茶が飲みやすいよう形が工夫されているの。
要は、それと同じ。きっとザルバさんも喋る理由があるから喋れるようになってるのね」

『ま、そんなところか』

「そうやって考えると、不思議なことも少しは見えてくるかもしれないわね」

「なるほど……」

 さやかはマミの説明を聞いて、ようやく合点がいった。と同時に、最も根幹の疑問にぶち当たる。
こればかりは、考えても答えどころか予想すら立てられない。そもそも、今日はそれを聞きに来たのだから。

「でも、あたしたちまだホラーが何かも知らないんですけど」

「は、はい。私も知りたいです」

「そうだったわ。では、話していただけますか? 冴島さん」

 全員が一斉に鋼牙に向く。
 鋼牙は彼女らを一瞥し、おもむろに口を開いた。

「ホラーとは、異なる世界、《魔界》からこの世界に現れる魔獣だ。奴らは人や物の陰我――内なる闇に憑依、寄生する」

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2011/12/31(土) 01:33:10.98 ID:wBn9Y2uto<> またも短いですが今日はここまで。明日にも少しは投下したいと思います
このあたりで情報の整理をしたいのですが、自分でもこんがらがってしまい、手間取っています
牙狼の設定は分からないことが多く、独自の解釈が含まれることをご了承ください
また、注釈やミスの指摘はどんどん頂けるとありがたいです <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/31(土) 01:37:28.86 ID:V5Yp+4F8o<> ザルバたんマジ天使、ホラーだけど <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/31(土) 02:04:09.89 ID:om7P0yHj0<> 昔は魔界からホラーが出ずっぱりで魔戒法師達が頑張ってたけど、それだけじゃあまりにも力不足で魔戒騎士が生まれた
けどホラーの中にもザルバやシルヴァみたいな穏健派的な連中がいて、
「もうこんな不毛な戦いは止めよう」と話し合いで危篤状態な人間の1日分の命などをかき集めて魔界に配給する代わりにホラーは人間を襲わないという契約が成された
けれども「ふざけんな、こんなんで足りるか!俺はもっと腹いっぱい人間を食いてえんだよ!」と契約を破って地上に出たがるホラーが後を絶たず今も魔戒騎士は戦い続けている

という感じの世界観だったっけ? <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 23:36:16.13 ID:wBn9Y2uto<> *

 それから数分掛けて、鋼牙はホラーとは何か、魔戒騎士とは何かを掻い摘んで説明した。
 ホラーが遥か古よりゲートを通じて顕界に現れ、人を喰い続けてきたこと。
 それに対抗するべく人知れず戦ってきたのが、魔戒騎士や法師と呼ばれる人々であること。
 
 ひとつ事実が明かされるたび、少女たちの表情は曇っていった。

 そんな怪物が何百年も前から現れて、多くの人間が犠牲になって。
そして、一握りの人間を除いて誰も知らずに、のうのうと過ごしていること。
 ホラー自体もさることながら、それら異物が世界に溶け込んでいるのが恐ろしかった。

 きっと、自分たちがあの場で喰われていたとしても、何も変わらない。
 行方不明を不審に思いこそすれ、いつも通り、何も変わらずに。

――自分が特別な存在だと思い込む時期は過ぎたつもり(っていっても……つい昨日、他人とは違う資質があるって言われたんだけど)。
 あたしが死んでも世界は回る。そんなことはわかりきってる。
 けどあたしが喰われたら、或いは憑依されたら、今度は家族や友達が襲われるかもしれない。
その時、ホラーはあたしの皮を被っているかもしれない。

 気付かれないうちに、一人、また一人と消えてく。
 それでも世界は変わらないんだろうな……って思ったら無性に怖くなって――

 気付けば、さやかはまどかと一緒に、身を乗り出して声を上げていた。

「なんで、そんな……恐ろしい奴らがいるのを誰も知らないんですか!? みんな知らないまま喰われてるなんて……」

「そうです、公表したら――」

 それを遮ったのは語り手の鋼牙ではなかった。

「無駄よ」

「そうね。残念だけど無意味、いいえ、逆効果だわ」

 既に魔法少女として、非日常に足を踏み入れている二人の少女だった。
 二人の反応は、一般人の二人とは真逆。鋼牙が話すほど冷静になっていった。
まるで別の何かとの共通点、類似点を見出したかのように。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 23:39:04.23 ID:wBn9Y2uto<>
『ああ、話したところでどうにもならないぜ。ゲートを潰さない限り、ホラーの出現は防げない』

 と、ザルバが言った。
 そして鋼牙は一笑に伏してもいい、鼻で笑ってもいいほど愚かな少女の意見にも真摯に答える。

「夜はなるべく出歩かず、暗闇や怪しい場所には近寄らず、過ぎた欲望を抱かず、他人を恨まず、妬まず、己を律する。
ならば、ある程度は憑依を防げるだろう。だが到底完全ではなく、ホラーに襲われる危険はまた別問題だ」

 目の前が暗くなる気がした。
 いったい、世界中の何人がそこまでできるだろうか。

 この世のどこにも逃げ場はない。
 常人には防ぐ術もない。逃げることすらままならない。
 まして陰我――心に一切の闇を持たない人間などいない。
 誰もが例外ではいられない。皆が被害者であり、加害者たり得る。

 真実を知った人々は、ホラーへの恐怖から陰我を生むだろう。
 隣人や家族がホラーではないかと恐れ、疑心暗鬼に陥る。果てに待つのは社会の崩壊。
世界は正常に回らなくなる。それこそ、ホラーの思う壺なのだ。

――そうか……みんな、知らないから普通でいられるんだ……。
 だから冴島さんたちは事実を隠し、誰にも知られず戦ってるんだ――

 最悪の事態を想像し、理解した二人は今度こそ言葉を失った。
 顔を青くして俯く二人に構わず、鋼牙は話を続ける。

「奴らは殺せない。浄化・封印して、魔界に送還する。まして、普通の武器では傷も付けられない」

「それで、私たちの攻撃では倒せなかったのね……」

 マミが受け答えする間、ほむらは沈黙していたが、思考は忙しなく働いていた。

 傷は負わせられても、止めは刺せない。
 そして人と融合したホラーは見た目では判別できず、魔女と違って知能も高い。
魔女が低いとは言わないが、ホラーはより狡猾で悪辣で――まるで人間の悪い面のみを伸ばしたかのような。

 鋼牙から聞いた限りでは、憑依とは支配であり融合でもある。
 良心や人間性は消え去って、意思もホラーに乗っ取られているとしても、
その肥大化した陰我自体は、紛れもなく本人のもの。その性質は、憑依された人間とまったくの無関係ではないのだ。

 魔女と似ているが、魔女よりも遥かに厄介な敵。どうやって戦えばいいと言うのだろう。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2011/12/31(土) 23:48:10.56 ID:wBn9Y2uto<> ここまで。次はなるべく来週中に。
残りレス数も少ないので、試験的に40行を目安に詰め込んでみました。
しばらく説明会みたいな感じです。

>>825
正直、2〜3行目は把握していませんでした。情報ありがとうございます。
やはり資料集を買うべきか……。
まどかも雑誌やインタビューのみの情報まで拾い切れませんし。

今年は4月から始め、スローペースにも関わらず、ここまで読んで下さってありがとうございました。
来年中には終わらせるよう努力したいと思います。
皆様、良いお年を。
<> SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)<>sage<>2012/01/01(日) 03:29:24.08 ID:DPJ1NaYd0<> 改めて考えてみるとホラー怖すぎるな

今年もがんばってください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/01(日) 04:03:48.86 ID:gDBo14wMo<> 乙
[ピーーー]事ができないから送り返すしかない、って
同じ存在知れたら社会崩壊モノなデビルマンのデーモンやファイズのオルフェノクより性質悪いよね。 <> SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)<>sage<>2012/01/01(日) 08:13:48.93 ID:BLerPeA/0<> 魔戒閃騎で憑依したホラーを乗っ取った重蔵はマジで規格外だったんだな。
そこから考えるに、ソウルメタルを操れるくらいの精神力じゃないとホラーは防げないってことか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/10(火) 08:18:55.41 ID:v/eZmToG0<> 急がなくてもずっと見てるよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2012/01/10(火) 13:17:32.20 ID:YXUnzRLu0<> 期待してまってます <> ◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/01/12(木) 00:52:56.62 ID:wMPZD+x3o<>


 ほむらの心中など知らず、マミは鋼牙への質問とも、自問とも取れる言葉を口にする。

「それにしても、何故そんな存在がいたのに私が気付かなかったのかしら……」

 当然の疑問。
 この街で数年、マミは魔法少女をやってきた。
裏路地のようなところはもちろん、人や動物の気配も皆無な廃墟に立ち入ったことも一度や二度ではない。
 この街の夜の姿なら隅まで熟知していると言っても過言ではない、なかったつもりだ。
 それが何ゆえ昨日まで知らずにいたのか。

「魔戒騎士がホラーの出現を未然に防いでいたからだろう。
昼間、邪悪なエレメントを浄化さえしていればゲートは出現せず、そうそう出くわすことはない。
特にこの程度の街ならばな」
 
 誰にともなく呟いた独白にも、鋼牙は律義に答えた。
 そして、ここまで聞けばマミにも大凡の予想はつく。
 見滝原は近年になって開発こそ盛んだが、大都市と呼べるほどではなく、人口もそれなりである。犯罪発生率も少ない。
 必然的に街に潜む陰我も多くはなく、その魔戒騎士が予防に努めていれば出現は稀、という訳だ。

 鋼牙が言うのなら、嘘や気休めではない。
 さやかとまどかは僅かに表情を和らげた。
 魔法少女になれば、また巻き込まれるかもしれない。
それも、この時は忘れていた。ただホラーと出会わなくて済むことを喜んでいた。
 それほどまでに、ホラーは二人――特にさやかの心に深いトラウマを残していた。
 
「なら、昨日は偶然出会ってしまっただけなんですか?」

「いや……」

 マミに聞かれて、鋼牙が初めて言葉を濁した。
 いつも渋い顔が更に渋面になり、眉間にしわが寄る。
 これを言っていいものか。
 とでも言いたげな顔は、本気で思案しているようだ。

 組織に属する人間として、まして秘密裏に重い使命を背負う者として、線引きがあるのは当然。
言い淀んだ理由は、つまりそれに触れる内容なのだろう。
 それならそれで、無理に話す必要はない。魔法少女として、共に秘密を抱えている二人はすぐに察した。
 残りの二人も、鋼牙が躊躇っていると薄々勘付いてはいるらしく、判断を待った。

 しかし目を閉じた鋼牙は、十数秒の逡巡の後、口を開く。

「この街を担当していた魔戒騎士と連絡が途絶えたらしい。おそらく生きてはいないだろう。
相手がホラーか魔女か、それ以外の何かかは不明だが」
 
 放たれた言葉は、さやかとまどかの内に芽生えかけた希望的観測を、一瞬で、容易く握り潰した。
 全員の表情が硬化する。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/01/12(木) 01:01:40.88 ID:wMPZD+x3o<>
「じゃあ、そのせいで……!?」

『いいや、既に何体かのホラーが街に潜んでいるからな。
いくら掃除ができてないと言ったって、たかが数日でこの数は異常だ。ただの偶然とは思えないぜ』

 ザルバがしたマミへの返答に、さやかは怯えをありありと青ざめた顔面に浮かべた。

 ホラーが既に街に潜んでいる? あんな恐ろしい化け物が、それも何体も?

 想像しただけでゾッとする。
 身体が勝手に震えだす。
 両手で掻き抱いても、震えは止まらなかった。
 だが鋼牙は、彼女の異常を横目で見ながらも、マミと会話を続けた。

「これほど陰我の濃い渾沌とした街になった原因が他にあるはずだ。
以前と比べて何か違和感を感じないか? どんな些細なことでもいい」

「え……と、一週間くらい前からかしら。どこか街の空気が変わったような……。
魔女が増え、奇妙な事件――失踪や犯人の捕まっていない猟奇殺人が増えたのもその頃です」

「連絡が途絶えたとわかったのも五日前。
やはり、この街がこうなったのはごく最近――それも、一週間前後の可能性が高い」

 彼らは何を話しているのだろう。
 さやかは呆然と鋼牙とマミの会話を聞いていた。
 耳には入っていても理解とはほど遠い。未だショックから立ち直れずにいた。

 わかっているのはひとつだけ。
 これは目を閉じ、耳を塞いでいれば、通り過ぎてくれる災厄ではないということ。

 他人事ではない。遠いどこかで起こっている事件ではない。
今日明日にでも、自分や周囲の人間がいなくなっても不思議はないのだ。
 関係ないと知らない振りはできない。今さら忘れることも。
 でも、だからって、自分に何ができると言うのだろう。

「この街で、何かが起きようとしているのかもしれない……?」

 ポツリと呟いたのはほむら。
 答える者はいなかった。
 誰もその答えを持たず、それでいて誰もが漠然とした不安として抱いていたからだ。 

 無音の部屋に重苦しい雰囲気が漂う。
 まどかなどは、居心地の悪さからか身動ぎもできずにいた。あのザルバでさえ黙っているのだ。
 さやかも然り。理解できる者は、それ故に口を閉ざし、理解できない者は、それ故に口を挿めない。

 マミも、ほむらも、何も言わない。
 誰か、何か言ってほしい。気休めでもいいから大丈夫だと言ってほしい。
 だが、現状を最も把握している彼は平然と言うだけだった。

「俺の話はここまでだ。次はそっちの話を聞かせてもらおうか」

 鋼牙は気休めも慰めも言わない。ただ彼の真実を口にするのみ。
 それが彼の人柄だと、合わせて一時間にも満たない関係でも伝わっている。
 だからこそ信用と信頼に値するのだが、この時ばかりは少し恨めしく思わずにいられなかった。


<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/12(木) 01:04:32.22 ID:wMPZD+x3o<> 遅くなった割に少ないですが、取り急ぎここまで。次は日曜には必ず
もうちょっとサクサク進めるようにしたいです
と言う訳で、次回は説明は軽めに流して、マスコット対決の予定
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(高知県)<>sage<>2012/01/12(木) 01:07:54.53 ID:odXTo8Dwo<> 乙っした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/01/12(木) 04:43:52.46 ID:5+xtGC1Bo<> マスコット対決ってザルバvsキュゥべえ?
ザルバってマスコットになるのかな?w <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/12(木) 06:42:37.24 ID:0gphTgIDO<> 牙狼が好きでずっと気になっていましたが昨日一気に読ませていただきました
読みごたえがあり牙狼への愛を感じます
次回の対決ですが牙狼のマスコットは轟天だと思っています
まどかの方は観たことがなくクロス物を読んだだけでなんとも言えませんがこれからも頑張ってください

あと大分前にザルバの記憶が白夜で戻ってると書き込まれてましたが偶然見つけた前後編が1つになってカットシーンを加えたのを観ると阿門法師の事はまだ思い出せていないと言っていましたよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/12(木) 07:01:22.72 ID:Qd5nUKJt0<> ホラーとインキュベーターの会話か… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/12(木) 20:57:40.25 ID:EYHTD5kqo<> 乙でした
因果な陰我が…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/12(木) 22:38:38.51 ID:tsamNr86o<> >>838
むしろQBよりよっぽど可愛げあるだろww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/13(金) 09:45:02.51 ID:nikXlovYo<> 乙です

今年に入って忙しくて来れなかったが、やはりこのスレは我が癒しだ
いや話自体は癒しとは程遠いけどww
ハッピーエンドに向けて今年も鋼牙には頑張って貰いたい <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/15(日) 23:57:55.76 ID:gMrQwrRto<>
 マミの返事を待ちながら、鋼牙は思い出していた。


 数年前、鋼牙とも因縁深い暗黒騎士が企んだホラーの始祖、メシアの顕現。
一連の事件の際もホラーの出現が多発したことを。
 後で判明したのだが、それらは暗黒騎士に屈し、魂を売り渡した三神官の協力もあってのことだった。

 久方ぶりの指令が下った、あの日。
 思えば、あれが始まり。
 メシア召喚の企みが鋼牙と直接交わった最初の日。また鋼牙と、
そして彼女の運命が交差し、激動を始めた日でもある。
 だが、当時は知る由もなかった。それが始まりだったとも、後に彼女と自分の人生に大きな影響を与えるとも。

 つまり、ある事象が起きる時、ほんの微小でも予兆はあるのだ。ただ見逃しているだけで。
 例えば火山の噴火だろうと大津波だろうと、大きければ大きいほど、動こうとすれば必ず変化はある。
 もう二度と、どれほど些細だろうと、変化を見逃す訳にはいかない。たとえ目に見える形でなかろうとも。
 それこそが鋼牙が牙狼の称号を持つ意味なのだから。


 やがて説明を求められたマミは、鋼牙を見返しながら小さく頷き、

「そう……ですね。これ以上話しても結論は出ないでしょうし……では」

 一同――特にまどかとさやかを見ながら、咳払いをひとつ。

「鹿目さん、美樹さん、これから魔法少女と魔女について私が知っていることを話すわね。
あなたたちにも関係することだから、しっかり聞いていて」

「はい……」

 ごくり、と喉を鳴らし居住まいを正す二人に微笑むマミ。
一歳しか違わないはずなのに、穏やかな笑みは年齢よりぐっと大人びている。

「まずは昨日も見たと思うけど、ソウルジェム。これは魔法少女の証であり、魔力の源でもあるの――」

 そしてマミは美しく輝く黄色の宝石を掲げて見せると、ゆっくりと語り出した。
 彼女の知る、魔法少女と魔女の真実を。

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/16(月) 00:57:09.39 ID:oMWjRI4do<>
*

 マミの説明にさやかとまどかは、相槌を打ちながら感心したり、身を強張らせたりと、様々な反応を見せた。
 対して鋼牙は黙って耳を傾け、ほむらに至っては聞いているのかいないのか、終始無表情だった。

「と……とりあえずはこんなところかしら」

 話し切ったマミは紅茶を飲んで息をついた。
 マミの話をまとめるとこうなる。

・魔法少女は願いと引き換えに魔女と戦う使命を課される。その契約の証がソウルジェム。
・魔法少女は願いから、魔女は呪いから産まれる。魔法少女は希望を、魔女は絶望を振り撒く。
・魔女は通常その姿は見えず、負の感情を人に植え付け、自殺や犯罪に追い込む。
・魔女は結界を作り、姿を現すことはない。

 鋼牙はマミの説明を反芻しながら、ずっと考えていた。
 腑に落ちないことが多過ぎる。
 昨夜から抱えていた疑問のいくつかは解消されたが、代わりにより多くの疑問が生じてしまった。
 それでも、さやかやまどかのように、説明の途中で質問を挿んでいては話が進まないので黙っていたのだ。
 
 鋼牙は質問をまとめてマミに尋ねようとしたが、そこへさやかが割って入った。

「ねぇ、マミさん。放しに出てきたキュゥべえって、昨日いた猫みたいな動物のことだよね?」

「ええ。本当はキュゥべえも居ると良かったのだけど。
私の部屋を選んだのは、ここなら確実にキュゥべえが捕まると思ったからなの」

 でも、いないなら仕方ないわね。
 そう言ってマミが締めようとしたところへ、

『僕を呼んだかい? マミ』

 中性的な声が届いた。 <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/01/16(月) 01:31:22.38 ID:oMWjRI4do<>
 突然の声に全員の視線が集まる。
 声は開け放たれた窓の傍から。白いカーテンが夕陽でオレンジに染まりながら揺れている。
その窓際に、ちょこんと白い小動物が座っていた。

「キュゥべえ。来ないかと思ったわ」

『すまない。もう話は終わったみたいだね』

「ええ、あなたが遅いから。二人にはゆっくり考えてもらうつもりよ。
冴島さんから聞いた話は後で私が――」

『いいや。その必要はないよ、マミ』

「え……?」

 マミが疑問符を発するのと、鋼牙が怪訝な顔をしたのは同時。
 そして直後、

『君たちのことは知ってるよ。正確には魔戒騎士とホラーについて、ね』

 怪訝な顔は鋭く変わり、空気が張り詰めた。
 鋼牙が重く、低い声で問う。

「……どういう意味だ」

『簡単さ。君たちの仲間――魔戒法師と呼ばれる者たちの中にも、過去に数人の魔法少女がいたからね』

「魔戒法師にだと……!?」

 鋼牙が初めて動揺を見せた。
 もしもキュゥべえの言うことが本当だとしたら、番犬所にも魔女や魔法少女の情報が伝わっているはず。
 だが、鋼牙はここに来るまで魔女についても魔法少女についても、ほとんど何も知らなかったのだ。
 無論、書物などで調べもした。それでも情報が得られなかったのに。

 キュゥべえはどこまでも飄々とした無表情、感情の籠らない平坦な声で続ける。
 
『そうさ。みんな優秀で強力な魔法少女だったよ。だからホラーについても、彼女たちから多少の情報は得ている』

「お前はいつから魔法少女と契約している? いや、その前に……お前は何者で、どこから来た?」

 鋼牙はキュゥべえを敵――とまでは行かないものの、油断ならない存在だと認識を改めた。
 さやかもまどかも、マミやほむらでさえも戸惑っているが、一顧だにしない。
 既に戦いは始まっている。剣を抜かない、立ち上がりすらしない、しかし一瞬の油断も許さない静かな戦いが。
 鋼牙の射抜くような眼光に晒されてもなお、キュゥべえは平然と答えた。

『僕が何者で、どこから来たか……それはそんなに重要なことかい?』

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/01/16(月) 01:48:29.27 ID:oMWjRI4do<> ここまで。続きは今週中
たくさんのコメントありがとうございます
マスコットの定義を調べたところ、語弊があったと思います
両作品を代表する人外のキャラクターということで、どうかひとつ。いくつか共通点もありますし

>>839
ご指摘ありがとうございます
憶測で書いて恥を晒してしまいました……
ですが、自分でも曖昧だった部分が定まって助かりました
今後とも、よろしくお願い致します
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<><>2012/01/16(月) 01:57:22.18 ID:tzDlOceE0<> 乙です
まさか魔戒騎士のルーツにもインキュベーダーが関わって
番犬所もそれを知ってるから手を出さないって可能性もあるか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/01/16(月) 02:07:03.39 ID:UUhMzwDAO<> 乙。

14話に出てきたアレならインキュベーターの事知ってそうだよね。
アレの前じゃザルバがガチでビビってたし。多分アレが騎士や法師を生み出したんだろうな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/16(月) 02:17:49.66 ID:fKrD9OHM0<> 乙です。

QBお馴染みの、嘘はつかないけど都合の悪いことは全部煙に巻くという嫌らしいやり口か……。
まあ鋼牙やザルバには通用しないと思うけどww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/17(火) 10:04:51.59 ID:185w3B3fo<> 乙
これは次回、今後の鍵になりそうな話クルー?

牙狼二期なかなか見れず溜まっていく…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮崎県)<>sage<>2012/01/20(金) 13:43:00.04 ID:z5Fj5ipK0<> >>850
劇中見る限り、必死な人間か警戒力のない子供しかひかからないしな。
まあ、子供でそんな判断力があるのは希少だけどね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/20(金) 16:30:54.29 ID:liSnr0tFo<> おりこやかずみを読んでも、すがる物を必要としていて必死で手を差し伸べてる子にしか契約迫らないんだよな。ヤツは
まァその子たちにとっては、一時的な救いになるのは確かだけど、最終的には救われないからねぇ
もっとも、それを全部救っちゃうのが、まどかの願いなんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/20(金) 19:22:33.20 ID:OLECleeK0<> 最新話で鋼牙にとっての“友”がどれだけ大切な物かわかった気がする。
あんな事があれば一期初期みたいな性格になるわな…

だからこそ鋼牙にはまどかを含めた全員救ってほしい。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/22(日) 23:57:08.58 ID:NJolIKaSo<> すいません
火曜日頃から体調不良で、回復はしたのですが、まだ鼻詰まりと咳で集中力が……
明日か明後日には投下します
台詞が多いのでそこそこの量にはできそうです
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/23(月) 02:49:01.84 ID:8/pb7smvo<> お大事に。この時期は風邪にかかりやすいですし。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/25(水) 01:08:42.42 ID:03Y/uUrVo<>
 キュゥべえの物言いは、鋼牙にはとぼけているようにしか思えなかった。
この小動物、愛らしい外見とは裏腹に、途轍もなく狡猾なのかもしれない。
 鋼牙がさらに問い詰める早く、左手から声がした。

『重要なことか、だと? 本気で言ってるのか?』

『だってそうだろう? 君たちの使命はホラーを狩ること。僕の素性が何か関係あるのかい?』

「当然だ。お前の正体を知ることは、魔法少女の力の正体を知ることに繋がる。引いては魔女の正体もな」

 ザルバと一緒になって畳み掛ける鋼牙。
 置いてきぼりの状態にある少女たちの中から、 

「え? それって、どういう……」

 と、さやかが言いかけた。
 彼女はまったく理解していないからこそ、素直に疑問を口にできた。

『鋼牙が言ってるのはな、ソウルジェムとグリーフシード――この二つは近い関係だろうってこった。魔法少女と魔女もな』

 今度は鋼牙はザルバが勝手に話しても諫めようとはしなかった。
 寡黙にして実直な鋼牙にとって、腹芸は最も不得手とする行為。
 だが、この魔導輪と一緒ならそれも補える。
 
「この街の謎を解明するには、ホラーだけを追っていては不可能だ。場合によっては魔法少女の協力を要するかもしれない。
得体の知れない相手とは組めん」

 まして、誰かに踊らされて戦っているような輩ならなおのこと。
 魔戒騎士と行動を共にするということは、必然的にホラーとの遭遇も避けられない。
たとえ力量は申し分なくとも、そんな相手は信頼できないし、共に死地に臨んでくれなどと言うのは忍びない。

『なるほどね。魔女と魔法少女の相似については否定しないよ。両者は近く、それでいて相反する関係にある。
マミから説明がなかったかい? 魔女は絶望と呪いから産まれ、魔法少女は希望と願いから産まれると』

『共に感情から産まれる、か。しかし希望と絶望、願いと呪いと言うのが、どうにも曖昧ではっきりしないぜ。
結局、魔女とグリーフシードはどうやって出現するんだ? 突然、無から産まれるとでも?』

『グリーフシードは魔女がある程度の数の人間を喰った時、それと使い魔が人間を喰って魔女に進化した時なんかに
宿すんだ。何人食べればグリーフシードを孕むのかは、はっきりしないけど』

<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/25(水) 01:10:57.95 ID:03Y/uUrVo<>
「それと絶望、呪いとが、どう関係する?」

『これはあくまで推測だけど、君たちの追うホラーと同じだと僕は考えている。ただでさえ人は誰しも心に闇を、君たちで言うところの陰我を秘めている。
それに、怪物に喰われる時に心安らかでなんていられない。もう助からないとわかった時、人は絶望し、魔女を、
或いは誰かや世界を呪いながら死んでいく。そんな陰我を吸収し、結晶化しているのかもしれないね』

 話し、聞き取り、次に紡ぐ言葉を考えながらも、鋼牙は気付き始めていた。
 もっとも、それがキュゥべえの意図したものか、単なる油断かどうかは不明だが。

『それに君の言う無から有だって、あり得ないとは言い切れない。君たちの知らない未知の法則や理だってあるだろうさ。
自分たちの常識だけがすべてだと言うのは傲慢だよ』

『言ってくれるぜ。どうやらこいつは俺以上のお喋りだな、鋼牙』

「ああ。だが、傲慢な俺たちに未知の理とやらを教えてくれたようだ」

 半分は皮肉。
 キュゥべえの発言は煙に巻いているようでいて、そこかしこに真実の断片が紛れ込んでいる。
鋼牙はそう見ていた。

 無論、発言すべてが虚言という懸念は捨てきれない。だが、バラ撒かれたヒントと思しきキーワードと自身の内にある疑問、
そこへひとつの仮定を加えれば、パズルのピースはほぼ完成に近い形まで組み上がる。
少なくとも、全体の形が捉えられる程度には。

 また、半分は本音でもあった。
 キュゥべえの言葉で思い出したのだ。
 自分が踏み込んでいる世界が、本来ならどれほど理解し難いものかを。

 傲慢になっていたつもりはない。しかし心のどこかに慣れ――数々の経験を積んできたが故に、
魔戒騎士の尺度で事態を測ろうとしていた。
 経験を基に共通点を類推するのは間違いではない。が、それだけでは行き詰まる。
 これは鋼牙にとっても未知の世界であり、そこには未知の理があるのだ。

「あの……いいですか?」

 それきりキュゥべえも鋼牙も沈黙していたところに、さやかがおずおずと手を上げた。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/25(水) 01:16:27.06 ID:03Y/uUrVo<> 短いですが、ここまで。次はなるべく近日中(水木金の内には)
上でも言われていますが、
鋼牙なら突っ込みそうだけど、まだバラされたくないですし
QBの上手い逃げ方が難しくて悩みます
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/25(水) 02:03:33.95 ID:E5vP9rwuo<> さすがのQBも鋼牙とザルバ相手では少々分が悪いか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/25(水) 21:16:10.71 ID:SAoqw2jY0<> 腐っても美少女専門のカリスマ詐欺師QB。
一番厄介な「自分が何者で、何処から来たか」の質問から話を逸らしやがった……。

まあ鋼牙もザルバも、逸らされたって分かってて敢えて話に乗ってるみたいだけど。
それどころか、もう核心に近い所までたどり着いてる鋼牙(と零)やっぱ凄え。

歴戦の魔戒騎士と魔導輪を舌先三寸で丸め込むのは不可能に近いだろうし、
窮地に立たされたQBがどう逃げるか見物ですわwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/25(水) 23:20:19.75 ID:JwnUdTyt0<> 今から魔戒語で感想を書く。

ロクゲツ。
ソルザバナキザリアスシュゥペレイコッケタリラスオトユダリガアww
ナキザリアスボヌマリヂョルイワッサリガモルチ。

↓分からない人の為の日本語訳

乙です。
鋼牙は間違いなくキュゥべえにとって最悪の存在だなww
間違いなくほむら以上に厄介だろうし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/26(木) 10:35:02.13 ID:K1di/2TDO<> >>862
ここではリントの言葉で話せ


でもとりあえず鋼牙の眉間にはいつも以上に深いシワが出来てるんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/28(土) 11:33:48.43 ID:SuNlq13vo<> 乙でした
腹の探りあいは戦闘とは又違った緊張感があって良いものですな

>>862
お前も乙だww <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/29(日) 23:58:42.12 ID:1cKoHRuSo<>
 割り込んでいいものか迷い、話が途切れるのを待っていたのだろう。
 例えるなら、授業内容が難解で理解できない生徒のような、羞恥と困惑の入り混じった表情で鋼牙を見る。

「何だ?」

「あの、あたし気になったんですけど、魔法少女の力が願いとか希望なら、
魔戒騎士は……冴島さんの、あの黄金の鎧の力の源は何なんですか?
ソウルメタルってソウルジェムと何か関係があったりするんですか? 
話を聞いただけじゃ、あんまりイメージ湧かなくって……」

 鋼牙はさやかから目線を外し、思考を巡らす。
 あれからキュゥべえは黙ったままだ。その不遜な態度からして、最初の質問に答える気はないらしい。
 まぁいい。こいつの場合、話したとして真実かどうかも怪しい。
それに、隠すということは知られたくない理由があると言っているのと同じ。

 結局、真実は己で探すしかない。近日中にも知り合いに連絡を取り、
自らも番犬所、いや、元老院に出向いて調べる必要があるか。
 しかし、とりあえずは――。

 と、さやかに便乗して、まどかも苦笑いを浮かべながら手を上げる。
 
「イメージが湧かないって感じなら、私も実は……。
ホラーを間近で見たのって、ほんの何秒かくらいだったから……」

 要は二人とも、さっきの説明で端折った部分を詳しく聞きたいのか。
とはいえ、イメージが湧かないと言う相手に、口頭で説明しても理解は得難いだろう。
 鋼牙は少し考え、 

「そうだな……」

 手元に置いていた魔戒剣を手に取り、さやかに差し出した。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/30(月) 00:38:28.85 ID:et0NFenTo<>
 テーブルの上から差し出せば早いのに、何故か避けるように側面から。

「持ってみろ」

「あ、はい」

 理由はすぐにわかった。
 さやかは中腰で柄に手を伸ばし、鋼牙の手が放れた直後――。

「うわぁっ!?」

 と小さく叫んで倒れ伏した。
 ゴンッ! と鈍く大きな音をフローリングの床に立てて。

「ちょっ――!? 何コレ重っ……! 誰か取ってぇぇぇ」

 這いつくばるさやかの右手は今、床に落ちた剣の柄の下にある。
うんうん唸りながら必死に右手を抜こうとするが、剣はピクリとも動かない。
 重くて持ち上がらないのだ。鋼牙が軽々と差し出した剣は、凄まじい重量でさやかの右手に圧し掛かっていた。 
 そうこうするうちに、鋼牙がまたも軽そうに剣を拾い上げる。

「わかっただろう。これがソウルメタルだ」

さやかは痛む右手の甲を撫でさすりながら、

「いたた……わかったって何が……?」

「黄金の鎧も剣も、ソウルメタルという金属でできている。ソウルメタルは心の在り様で重さを変える。
修練を経て、ソウルメタルを扱うに足る心を身に付ければ軽く。でなければ重くなる」

「ふぇぇ……そんなことがあるんですか」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/30(月) 00:43:47.09 ID:NBnO7jrS0<> キターーー!!
確か鎧は女が触ると全身の皮膚が張り裂けるんだっけ?
だから女は魔戒騎士になれないんだっけ? <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/01/30(月) 01:39:52.15 ID:et0NFenTo<> もう少しだけ書き溜めはあるのですが、急遽中断します。再開は明日か明後日に

>>867
女がなれない理由がちゃんと明かされていたんですね
まったく知りませんでした。恥ずかしい限りで、かなり動揺してます
22話の会話はてっきり一般人だからだとばかり……

今後の構想が大きく揺らぐことになるので、暫く考えてみていい代案が浮かばなければ、
「ここに限っては忘れて下さい」となるかもしれません
原作の設定を無視するのはファンとしても非常に心苦しいのですが、続行不能になるかもしれないので

それと、よろしければ情報源を教えていただけませんか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/01/30(月) 01:43:57.79 ID:AfTgth0qo<> >>868
女は騎士になれない云々は小説の暗黒魔戒騎士編でザルバが邪美に言った台詞が最初だったと思います 理由は物理的に不可能とだけ
同じく小説の妖赤の罠でさらにその辺は掘り下げてあります <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/30(月) 02:06:55.46 ID:NBnO7jrS0<> >>868
自分の発言のせいでご迷惑をおかけします。
ソウルメタルの設定については自分もそこまで詳しくないのですが、22話の会話と劇場版での女は魔戒騎士になれないという発言、ネタバレになるかもしれませんが魔戒閃騎13話での邪美と轟天からそう思っていただけです。本当に申し訳ない。

お詫びと言ってはなんですが自分が知る限りのソウルメタルの設定を。

「ソウルメタル」最大の特徴は、月の満ち欠けで比重が変化し、 扱う者の心や感情に共鳴するという不思議な性質。
そのため、刀身に自らの姿を映すことは危険を伴う。
いついかなるときも、平常心を保ち、決して、悪意に満ちないとは限らないからだ。
「ソウルメタル」は、穏やか・慈悲等の善の場合には、羽根のように軽くなる。
怒り・憎悪等の悪の場合には、この世の物とは思えないほどの重さとなる。
また、どちらの感情を持ち得ない場合でも、基本的にとても重く、普通の人間に扱える代物ではない。
例えば、クレーン車等の重機でも持ち上げることは不可能なのだ。」


この作品は自分にとって楽しみですので、これからもがんばってください。

因みに女性が魔戒騎士になれない一番の理由は雨宮監督曰く、鎧を着ると女性のボディーラインがわからなくなるから。だそうです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/30(月) 04:09:29.63 ID:bm1x/x4b0<> 乙です。

鎧は、「白夜の魔獣」で鎧に触れたホラー(元人間のヤツ)の皮膚も破ってたし、
男女関係なく耐性無い奴が触ったらアウトかと。
騎士でなくても、ソウルメタルを扱える者なら触れるのか?と聞かれると、正直分かりませんがww

あと、「ソウルメタル自体、男しか扱えない」って話も聞いたけど、ソース不明。
じゃあ邪美が普通に持ってた鷹麟の矢はソウルメタルじゃないのか?って話だし、この説はかなりアヤシイかも。

お客様の中に、設定資料集持ってる方はいらっしゃいませんかー!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/01/30(月) 09:17:02.91 ID:ZikARmPAO<> 理由をつけるなら純度が高いと負担が大きすぎるとか、制限時間が男より短すぎるとかでいい気がする。
剣を持つのと全身に纏うのでは文字通り負担も違うだろうし。


あと小説ではらんま1/2みたいなキャラが鎧を纏ってたね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/01/30(月) 14:16:59.85 ID:OZS0sPNQ0<> 確か女が魔戒騎士になれない理由は妖赤の罠で明かされてた。
女には先天的に魔戒騎士になる能力がないらしい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/01/30(月) 15:30:00.17 ID:ZikARmPAO<> >>873
ならそれを逆手にとって突然変異とか何万分の1の確率で魔戒騎士になれる女の子がいても面白そうだ…
…このネタで3期やれんじゃないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/30(月) 18:46:19.56 ID:pUUO07Coo<> >>874
雨宮監督が設定とは別に「女性が鎧を着るとボディラインが隠れるから」
男しか魔戒騎士になれないことにしたって言ってたはず
だから設定がどうあろうと、根本的に女の魔戒騎士はありえないだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/30(月) 19:47:06.80 ID:ovYgaPyDO<> 別にビキニアーマーの騎士がいたっていいじゃない!

鋼牙が出会ったら引きながらムスッとした顔になる姿は簡単に想像付くな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/30(月) 22:25:16.25 ID:qBKQhI4DO<> >>874
mixiの牙狼の二次創作コミュの管理人が女の魔戒騎士の話書いてたぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/31(火) 17:25:20.75 ID:zAS7hIbIO<> >>875
某騎士王みたいな胸を強調する鎧で… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/31(火) 20:11:14.82 ID:QxuxrepO0<> 女性の体の柔らかさを魔戒法師はよく表現している <> ◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 01:40:41.52 ID:weY8SMNVo<>
 目を丸くする二人。
 二人の少女からすれば、剣一つ振るにも長い修業が必要な魔戒騎士は異質に感じるのかもしれない。
 それには自分と同年代にも関わらず、立派に魔女と戦っている巴マミや暁美ほむらの存在も大きい。
 彼女たちとて、修行や実戦を通しての成長もあるのだろうが、今の戦闘力を得るまでに掛かった時間は他の比ではない。

 鋼牙に言わせれば魔法少女の方がよほど異質だった。
 どんな力を使えば、言葉ひとつの契約で魔女と戦うだけの戦闘力を得られるのか。
 時間を掛ければ人は強くなる。必死で学び、知恵を働かせれば、短時間でも強さを補う術はあるだろう。
もっと手っ取り早い方法なら、金を払って銃を買えばいい。

 では、魔法少女は?
 時間でも労力でもない。巴マミは魔法や魔法少女の全貌を理解している風でもない。
当然、金銭でもないだろう。
 ならば何を代償に差し出せばいい?

 疑問を頭の片隅に浮かべながらも鋼牙の口は自然と動き、

「ソウルジェムとの関連性は俺にはわからないが、ソウルメタルは精神が深く関わってきて……」
 
 不意に止まった。
 ほとんど無意識に喋っていたら、突如電流が走ったように閃いた。
 天恵と言ってもいいかもしれない。
まったく予期しないタイミングで、パズルのピースがカチリとはまった。

 さやかはわかったような、まだ納得できないような顔で首を捻っていたが、鋼牙は構わずまどかを見る。

「ホラーについて知りたいと言ったな」

「え? は、はい」

「ホラーならここにいる。直接聞けばいい」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 01:51:21.75 ID:weY8SMNVo<>
「えぇ!? ど、どこにホラーが……」

 まどかはもちろん、自分の思考に没頭していたらしき他の三人も一斉に鋼牙に注目する。
 特にさやかの反応は顕著で、一瞬で顔色を青くして、じりじり後退った。

『おい、いいのか鋼牙?』

「構わん」

 ザルバの問いに鋼牙が短く答えると、ザルバは暫しの沈黙の後、語り出す。

『……わかった。その通り、俺様はホラーだ。指輪になっちゃいるが、本当の身体は魔界にある。
俺は鋼牙と契約し、魔導輪の役目を果たす対価として鋼牙の命を喰ってるのさ』

「命を食べてる……」

 震える声で、まどかが反芻する。
 さやかが、また少し遠ざかる。
 マミが僅かに腰を浮かせ、ほむらは声もなく目を見開いた。
 各々、反応は違えど一様に怯えを表している。唯一、キュゥべえを除いては。

『ホラーを探すにはホラー。魔界の怪物を倒すには魔界の金属、ソウルメタル。
蛇の道は蛇ってな』

 ならば、魔女を倒すには――いや、決めつけるのは早計だろう。
 ザルバの話を聞きながら、鋼牙は脳裏に浮かんだ予想を振り払う。
自分の常識だけで考えるのは危険だと思い直したばかりだ。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 02:00:39.92 ID:weY8SMNVo<>
『一口にホラーと言ったって、人間を餌としか見ない奴もいれば、
魂を奪うんじゃなく分けてもらう形で共存を考える奴もいる。俺様のようにな』

「えっと……じゃあザルバさんは、いいホラー……なんですか?」

『さぁな。ひとつ言えるとしたら、俺も昨日の奴も、等しく人間の魂を糧として必要としてるってことだ。
お前ら人間が牛や豚を食うのと同じ。それ自体に、いいも悪いもない』

「だからって冴島さんの魂を……その、食べるなんて……酷い……」

 まどかは弱々しくも、やけに食い下がる。
 大人しく臆病で、はっきり意思表示をしない。それが鹿目まどかに対する第一印象だったのだが。 
 誰かの為なら毅然と立ち向かえる、意外な芯の強さも持っているのかもしれない。たとえ相手がホラーでも。
 もっとも、鋼牙からすれば余計なお世話には違いない。

『大した量じゃないし、お互いに納得尽くだぜ。
魔戒騎士なんて仕事は、天寿を全うできる奴の方が少ないくらいだからな。
何か与える代わりに何かをもらう。だいたい契約ってのはそういうもんだろう、なぁ?』

「それは……そうかもしれないけど……」

 まどかが答えたが、ザルバが同意を求めたのは彼女ではない。
 この場でそれを理解していたのは鋼牙と、おそらく問われた本人だけだろう。
 まさに以心伝心。口裏を合わせた訳でもないのに、ザルバは鋼牙と同じことを考えていた。
 背中に追い風を受けた気さえした。

 そして鋼牙は意を決し、揺さ振りを掛ける。

「魔女と同じだ。千差万別、"元となった人間"によっても変わる。人に限らず、陰我の数だけホラーは存在すると言えるだろう」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 02:08:02.56 ID:weY8SMNVo<>
「……っ!」

 ハッと息を呑む音がふたつ。
 マミとほむらだった。
 前者は驚きに目を見開き、後者は鋭い目つきで鋼牙を睨んでいる。 

 その反応こそ、両者がどこまで真実を把握しているかを物語っていたが、
鋼牙はどちらも、理解の追い付いていない他二人も見ない。
 ただ一直線に、無表情のキュゥべえを見据える。

「もうひとつ聞きたい。お前の狙いは何だ? 魔法少女に魔女を倒させて、お前は何を得る?」

『契約と言うからには、お前にも利益があるんじゃないのか?』

 魔法少女に力を与え、願いを叶える代わりに、魔女と戦わせる。
 これが、彼が魔法少女と取り交わした契約。契約内容だけなら問題ないように思える。
 が、どうにも解せない点がひとつ。

 キュゥべえの目的である。
 利益と言い換えてもいい。

 魔戒騎士も魔戒法師も、ホラーから人々を守る為に現れた。
 戦ってホラーを封印すれば、秩序が保たれる。
 社会を、友人を、家族を、己の身を守ること。
 存亡が懸かっているのだから利益などと言っていられないが、敢えて言うなら、それが鋼牙を含む魔戒騎士の利。
ザルバら一部のホラーはそれに協力して魂を得ている。

 魔法少女は願いを叶える為。もしくは魔戒騎士同様、自分や周囲の人間の安全と平穏を求めて契約する。
 しかし、キュウべえの求めるものが見えてこない。 
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 02:14:39.63 ID:weY8SMNVo<>
 もし、人ならぬ彼が人を守ると言うなら、それなりの理由があるはず。
 自らと同族の安全であれば、正体を語らない以上わかるはずもない。
 或いは、他に魔女を倒させることで得られる利益でもあるのか。

 ただ、偏見かもしれないが、キュゥべえは単純な善意で動くようには見えなかった。
 何らかの合理的理由が必ずある。
 根拠はなくとも、確信はある。

「質問に追加だ。お前がどうやって人間を魔法少女に変えているのか。願いを叶えているのか。
それだけの力を持っていて、どうして自分で戦わないのか」

 幾度となく切り結びながら、相手の思考を読み、最適のタイミングで攻撃を繰り出す。
 舌戦も、この点においては剣を用いての戦いと同じ。

 どこまで斬り込んで、どこまで斬り込ませるか。
 退くか、進むか。
 攻めるか、守るか。
 そして今、鋼牙は深く斬り込んだ。しかし――。 

『君たちに理解できる言葉で説明するのは不可能だろうね。
僕は彼女たちの内なる力を引き出しているに過ぎないよ。願い事も、彼女たち自身の素質に依るところが大きい』

『つまり、お前はお膳立てをしているだけ、と言いたいのか?』

『そう取ってもらって構わない。僕自身に戦う力は備わっていない』

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/01(水) 02:21:00.37 ID:weY8SMNVo<>
 おかしい。
 まるで手応えがない。
 正体のわからないホラーと戦っているような、いや、
相手がホラーかどうかもわからないのに戦っているような感覚。
 
 ここまで来ると、逆に誘い込まれているのではないかと疑いたくなる。
 こいつは隠し事が暴かれても構わないのか。
 それとも、隠している前提が間違っているのか。

 思考の迷宮に入りそうになる寸前で、鋼牙は迷いを振り切る。 
 戦いの最中に迷いを抱くのが、どれほど危険か知っていたからだ。

「内なる力を引き出すだけ、と言ったな。つまり、ソウルジェムも魔法少女の内から生まれた訳だ」

 キュゥべえはまたも答えない。
 故に鋼牙は続けざまに言葉を放つ。

「そうか。やはり……」

――やはり……ソウルジェムは人間の魂そのものだな?
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/01(水) 02:26:17.46 ID:weY8SMNVo<> ここまで。次は日曜深夜
そろそろ会話だけのシーンも終わりたい

>>869-873
貴重な情報ありがとうございます!
やっぱり小説も読まないといけませんね、面目ないです
という訳で小説二冊を注文しました

多分お察しの通り、女性がソウルメタルを使う場面を重要に考えていました
まぁ、女×鎧に関しては頭を捻りまして、強引な解釈で何とかなる……かも
小説を読み込んでみないと、どうなるかわかりませんが

さやかが既に持っていますが、柄だからOKということでどうか
ゴンザも持ってますし
そもそも鞘に収めてても重いのかどうかは悩んだのですが

ところで、どこかで烈花がソウルメタルを使えるという記述を見たような、
見てないような気がするのですが、どなたかご存知でしょうか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 02:50:57.55 ID:ddq6lbfq0<> 乙です。
やっぱり鋼牙すげえwwほぼノーヒントでここまで見抜くとかww

あとソウルメタルの鎧は、最初は色の無い灰色らしいです。剣を扱えるようになる→鎧召喚できるようになる→鎧に色がついて、初めて一人前みたいな感じだそうです。
ソウルメタルの事はこれだけしか分らなかったけど、使徒ホラーの全容を見つける事が出来たので参考にどうぞ。

・魔鏡ホラー カルマ
鏡に憑依し、鏡から鏡へと移動する。魔鏡空間を作り、人間世界に出てくることはない。

・魔塔ホラー べビル
ホラー喰いのホラー。赤ん坊に擬態し、母親役のホラーを従えている。最悪の場合、母親役を捕食するつもり。

・魔塵ホラー ダロダ
全身が微粒子の集合体。地上にある砂や埃を集結させることにより、いくらでも体積を増やせる。

・魔翌雷ホラー バクギ
雷鳴の如き速さで移動する。古の時代は雷鳴と共に出現していたが、現代では電気を伝ってどこにでも出現する。

・魔紙ホラー パルク
自らが持つ魔紙に描いたものを実体化させ、それを用いた罠を張り巡らせる。

・魔針ホラー 二ドル
特殊な針を打ち込むことで他の生物を操れる。人間を利用し人間を集めて捕食する。

・魔音ホラー ユニゾ
美しい歌声を奏で、人間に心地よい幻覚を見せて捕食する。その声に反して姿は醜い。


…明らかにダロダとかバクギの能力が他と比べておかしい。
しかもこの2体、映画が始まる前に倒されてるらしい。
7体倒すのに探索期間も含めてたった2か月とか、鋼牙さんマジ無敵。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/02/01(水) 03:07:22.98 ID:Vc5s8JPAO<> おつです。
鋼牙がいるだけで色々安心感スゲーな。この時点でソウルジェムが魂って見抜くとか、流石。
あと牛や豚にしてみれば人間の方がホラーだよな…

>>887
多分打ち間違いだと思うけど魔翌翌翌雷ホラーじゃなくて魔翌雷ホラーじゃない?
こうやって文章で見るとあんなに強かったカルマが大したことないホラーに見える… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/02/01(水) 03:13:24.01 ID:Vc5s8JPAO<> ぎゃあああああああ!コピペしたのミスったああああああ
正しくは“魔翌雷ホラー”ね。

指摘しといて恥ずかしい…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/02/01(水) 03:15:29.57 ID:Vc5s8JPAO<> どうなってんだコレ…
普通に打ちこんだはずなのに… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage saga<>2012/02/01(水) 03:30:14.86 ID:bQWawcI3o<> 魔雷だろ 翌はパー速の仕様
メール欄にsagaっていれろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 03:37:54.43 ID:GSWQ7693o<> 悪役スキー且つ第三者スキー且つ無感情スキー且つ、なによりQBスキーの自分としては
圧倒的な迫力をもつ鋼牙に対して、彼らQBがどう口八丁手八丁するのかが楽しみでしょうがない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/01(水) 04:06:21.53 ID:5v8XnXTQ0<> 設定はあまり映像作品自体で語られてないし最初に断ってるから多少解釈が入ってもいいと思うよ
魔戒騎士以外がソウルメタルを全く操れないわけじゃないみたいだし議論スレでもないわけだし気にしすぎなくていいかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 20:14:56.01 ID:13rlfBASo<> 乙
感情がないQBを相手にしては鋼牙も自分の中の疑心と戦わざるを得ないんだな。
それでもここまでたどり着くなんて……本来ならまだ2日目なのにww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/02/01(水) 21:48:40.57 ID:QQE4IyBwo<> おいついた!
おかげで今夜はぐっすりと眠れそうだ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/02(木) 01:24:11.33 ID:zOnc7Swr0<> 乙です。

俺も>>1さんと同じく、魔戒剣は鞘に収めた状態でも重いと思いますわ。
ソウルメタルって、基本重量がアホみたいに重い金属らしいので、
鞘に収めた状態(重量を操作してない状態)だったらそりゃあ重いだろうなあと。

まあ鎧やソウルメタルの設定は、他の方も言ってる通り、ある程度>>1さんの独自解釈入ってOKかと。
設定準拠に縛られて更新止まっちゃう方がずっと悲しいですし……。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/02(木) 14:12:40.16 ID:KvFylZ2ho<> しかし、真実に辿り着いたとしてもソレを話せばマミさんはブチ切れかねないし、
さやかも落ち込むだけだろうし、話すに話せないよなぁ

最近読んでるまどマギ外伝が絶望に向かって走り始めたので、
せめてここでは幸せな少女達の姿がみたいものだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 15:20:07.77 ID:M+asrKdL0<> 乙
小説購入したんですね
二冊ともなれば安い買い物ではないですが、値段分の価値はあると思います

>>897
本編のは、さやか魔女化のショックもあっただろうから
冷静に考える余裕があればいきなり切れはしないと思うけど、どうなんだろう
あるいは、ほむらとかが、ゆまみたいに説得できれば
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/02(木) 20:55:22.71 ID:/WSAm7Oc0<> >>897
ここのマミさんはQBの本性……とまではいかなくても、
何かを隠してる事や、自分の事を友達とも何とも思ってない事に薄々感付いてるし、
何処か冷めた一面も持ってるっぽいので、案外耐性あるかもよ。
少なくとも、いきなりブチ切れ発狂は無い…はず。

今隣りで鋼牙の話を聞いてるほむらは、気が気じゃないだろうけどww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2012/02/03(金) 10:02:12.32 ID:LrJ1uDzy0<> ついに斬りこんだか!
マミさん大丈夫かな、その・・・精神面的な意味で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/03(金) 12:20:04.34 ID:gFpZhGxa0<> どんどん面白くなってきた。更新無理せずがんばってください。

読んでて思ったけどこの小説にキャッチコピー的なものをつけるとしたら「我が名は牙狼」の「辛苦に迷う世界の希望になれ」の歌詞がしっくりくる気がする。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/06(月) 01:20:32.47 ID:19KAOI+lo<> 申し訳ない
書き溜めが捗らないので今日は見送り
明日には投下します <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/07(火) 01:48:07.28 ID:DylvrvT4o<>
 しかし、鋼牙が口に出すことはなかった。
 すんでのところで言葉を呑み込む。
 咄嗟に直感がブレーキを掛けた。その先を口にするな、と。

 そこに強いて理由を付けるとしたら、まだ憶測の域を出ないからだ。
 もしも推測通りだとしたら、ほむらやマミには重い宣告になる。
迂闊な発言で動揺させたくない。
 そう、魂が抜き取られ、宝石に変えられているなどと。

 魂。
 人によって呼び名や概念は様々だが、
脳や心臓とは別に人間の生命活動と精神の中核を成す存在――それを魂と呼ぶ。
 宗教や文化ごとに捉え方も異なる曖昧なそれは、本来、目に見える物ではない。
それどころか一般には存在すら怪しまれている。

 しかし、その存在を自覚する者は、そこから力を引き出すこともできる。
 力は《気》や《魔力》、《霊力》などの名を持って振るわれ、その用途は無限に等しい。
 鋼牙の知る限り、魂の存在を認識しているのは魔戒騎士と魔戒法師、
さらに干渉する術を心得ているのは法師だけである。

 だが、目の前のキュゥべえは法師よりもむしろ、魂を喰らう怪物――ホラーに近い。
 見た目ではない。その得体の知れなさ、底知れなさが、どうしようもなく鋼牙の危機感を刺激するのだ。
 魂を取り出して宝石に変えるなど、最早ホラーの如き所業。
 そんな相手なら、真実が定かでない以上、手札をすべて切らない方がいい。
と言っても、こちらが察し始めていることなど相手も見抜いているだろう。

 ここで何も言わなければ、さやかやまどかが真実を知らぬまま契約してしまうかもしれないが、
まどかもさやかも、キュゥべえが何か隠しているのは気付いているだろう。
 知った上で契約するなら、鋼牙には止める気も、そんな権利もない。

 そこまで踏み込むつもりもなかった。どこまで踏み込むか、彼女らに関わるか、鋼牙は決めあぐねていた。
 ずっと傍にいて守ってやることも、監視しておくこともできはしない。
 結局は彼女ら自身が選択し、決断すべきだ。
 命を懸けてでも叶えたい願い、守りたいものがあるのなら。

『やはり……なんだい?』

「……いや、なんでもない」

 キュゥべえに問われ、鋼牙は言葉を濁した。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/07(火) 01:50:37.55 ID:DylvrvT4o<>
 今度は鋼牙が口をつぐむ番。これ以上、キュゥべえを問い詰める意味がなかった。
 あとは精々、二人に警戒するよう忠告するくらいか。

「旨い話には裏がある。怪しむのは当然だ」

『何せ、そうやって乗せられて破滅した連中を嫌ってほど見てきてるからな』

 そしてもうひとつ。
 嘘や隠し事には必ず利が絡むということ。
それ故、大事なのは真実よりも、真実を隠す理由だと鋼牙は考えていた。

 キュゥべえはそれきり何も語らない。ただ、無表情で尻尾を揺らめかせている。
 他の面子にも目を移すが、それぞれ胸中に戸惑いが渦巻いているようだった。
 特にマミの様子は酷い。平静を装っていても、その顔には隠しきれない悲痛と恐怖と驚愕の色。
 
 鋼牙は理解した。マミは鋼牙の推理と呑み込んだ言葉のほとんど、或いはすべてを察したのだと。

 気遣っていては何の為に集まったのかわからない。真実には手が届かない。
 たとえ彼女たちを傷つけたとしても、謎の糸口だけでも掴んでみせる。 
 覚悟はしていたが、焦り過ぎたのも確かだった。

 結果、魔法少女と魔女の関係はかなり掴めた。確証は得られていないが、絶対に近付いてはいるはず。
 そして、キュゥべえが信用ならない相手だとも。
 まず間違いなく、奴は何かを隠している。協力者である魔法少女にもだ。
 
 それが掴めただけでも来た甲斐は充分にあった。
 だが、鋼牙は眉間に深く皺を刻み、目を細める。
 あの時、鋼牙の言葉が刃と化して斬り込んだのはキュゥべえではなく。
 巴マミ、彼女の心だったのだ。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/07(火) 01:52:31.72 ID:DylvrvT4o<> 短いですがここまで。次は土曜までに
もっと進めたいのですが、思うように進みませんでした
できれば明後日頃もう一度
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/02/07(火) 02:01:50.63 ID:42KJf1o9o<> 乙です

なるほど
QB=メシア
魔法少女=暗黒騎士か
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東)<>sage<>2012/02/07(火) 05:05:47.04 ID:oFQ0Ph3AO<> 乙です
マミさんどうなるか……ここのマミさんは耐えてくれそうだけど……


ぶっちーのインタビューによると、
さやかほむら杏子のギスギス人間関係の調停に腐心してたから、さやか☆マジョカでああなったそうな
流石にこの場で高速拘束心中はしないよね……マミさん……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/07(火) 16:00:40.95 ID:8NEHdKzDo<> 乙!

ホラーとの初戦で生還を果たした
ここのマミさんならトウフメンタルじゃない!・・・と良いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/07(火) 20:47:48.66 ID:G2PCN1Jd0<> 乙です。

ここでとうとう第2話の予告(まどマギ版)につながるのか!?

>>908
豆腐メンタルには変わりないかも知れないけど、ホラー戦を経て
絹ごしから木綿くらいにまではランクアップしてるはずだ!多分。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2012/02/08(水) 00:08:23.97 ID:CXlrOvZi0<> 乙です
マミさんやべええええええええええええええええ!!!
壊れないといいがなぁ、本編見ると…うーん… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/09(木) 14:29:51.12 ID:dGVAa73Ho<> 流石の鋼牙も他人のメンタルケアは得意じゃないからな

そうだ、心理カウンセラーとして高名な龍崎駈音センセイに見てもらおうず <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/10(金) 22:53:13.01 ID:b4BWnAKxo<> 乙でした
いかんマミさんの豆腐メンタルがピンチよ!
零ー!早く来てくr…と思ったけど零が来ると状況が悪化する未来が見える

>>911
マミさんがメシア召喚のゲートにされちまうじゃねぇかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/11(土) 10:51:01.70 ID:r8rheCLuo<> >>912
絵面が容易に想像出来てしまうからやめろwwwwww <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/12(日) 23:58:02.38 ID:IOcAkzU5o<>
 沈黙が続く中、声を発したのはほむら。

「これでお開きかしら? それなら私は失礼させてもらうわ」

 と、涼しい顔で言い放つ。
 ほむらの態度に、鋼牙はふとした引っ掛かりを覚えた。

 彼女は歴戦の戦士さながらに冷静だ。 
 だからと言って、自分とキュゥべえの問答を聴いて、ここまで平静を保てるだろうか。
 マミが瀕死の重体に陥った時、まどかとさやかの悲鳴が聞こえた時、ほむらは動揺を見せた。
知り合いの危機――マミやまどかの言によると昨日が初対面らしいが――を前にして、
冷静でいられない程度には歳相応に少女の部分を残している。
 
 気付いていないとは思えない。一日にも満たない関係でも、背中合わせで共に戦った。
だからこそ、わかる。会話の端々からでも、ほむらが同年代の少女に比べて頭抜けて聡いということが。
 魔女と魔法少女に関して、彼女は自分よりも鋭い嗅覚と確かな判断力を持っている。

 マミの説明にも出てこなかった情報を握るほむらが動揺を見せないなら、考えられる理由はひとつ。
 鋼牙が語ったことなど、ほむらにはとっくに既知の事実なのだ。

 立ち上がるほむらに鋼牙は構わず、まどかやさやかの反応は追い付かない。
 しかし、誰もが予想だにしなかった方向から伸びた手が、去ろうとするほむらの手首を捕らえた。

「……待って。あなたにはまだ訊きたいことがある」

 手の主はマミ。
 誰よりショックを受けていた彼女に、他の事に気を回す余裕があったとは意外だった。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 00:12:05.60 ID:LOsz4KcLo<>
「っ……放して」

 ほむらは身を捩り手を抜こうとするも、マミはきつく捕まえて放さない。
 ほむらを見据え、やや厳しめの口調で問い質す。

「答えて、あなたの目的は何? どうして昨日、私を助けたの?」

「別に……理由なんてないわ」

 マミの様子に動揺したのだろうか。ほむらの声音に微かな乱れが生じた。
 黙秘を許さぬマミの雰囲気に、咄嗟に上手い逃げが思いつかなかったかのよう。
 ほむらの答えを聞いたマミの唇が小さく開き、たった一言を紡ぐ。

「嘘」

 この瞬間、鋼牙はマミを直視した。正確には、手以上にほむらを捕らえて放さない、その目を。
 ほむらを見つめる瞳は揺れ、どこか焦点が定まらず、虚ろでありながら強い意志と感情を湛えていた。
 矛盾しているが、そうとしか形容できない。

 どろりと濃く粘った、原色の感情が複雑に混じり合ったような瞳。
 追い詰められた人間の放つ静かな激情。
 一言で表すなら――狂気。

 ある種、異様な迫力を感じさせる。ほむらが圧倒されるのも無理からぬことと思えた。
 やがて、ただならぬ空気を察したまどかが仲裁に入る。

「嘘ってそんな……ほむらちゃんも魔法少女なんだし、困ってたら助けるんじゃ……」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 00:28:50.90 ID:LOsz4KcLo<>
「人命救助に理由なんかいらない――とでも言うのかしら。
悪いけど、あなたって人道的意識で人を助けるようなタイプには見えないわ。
まして一般人ならまだしも、魔法少女である私を。
言ったでしょう、鹿目さん。魔法少女はグリーフシードを奪い合うライバルにもなるって」

 鋼牙はマミの説明を思い出し、同時に考える。

 グリーフシード。
 魔法少女が魔法を使って消費した魔力を回復させる為の道具。
 魔女を生み出す漆黒の卵。

 思えば、魔法とやらも曖昧で捉えどころのない単語である。
 魔法の種類や使い方次第では富や名声、権力を得るのも容易い。
一回限りの願いと違って、グリーフシードさえあれば継続できる。

 仮に魔戒法師がそんなことをしようものなら、即懲罰――死の制裁もあり得る。
それほどまでに厳しい掟で雁字搦めに縛られているのだが、魔法少女はどうだろう。

 キュゥべえは戦う力は備わっていないと言ったし、強制力はないのだろうか。
 だとすれば、彼女たちが道を外れた時にブレーキを掛けられる存在はいない。
出来て、他のまともな魔法少女に協力を求めるくらいだ。

 或いは、最初から魔女と戦いさえするなら他に制約はないのかもしれない。
 力をどう使おうと自由。そう、殺そうが奪おうが、自らを美しく変えようが、
私利私欲を満たす為に好きに使って構わない。欲望を思うさま解放できる。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 00:43:24.34 ID:LOsz4KcLo<>
 鋼牙からすれば正気の沙汰とは思えないが、だからこそ効果がある。戦い続ける動機になる。
 思春期の精神的に未熟な少女には、この上なく甘美な誘い。
 契約の際、殺伐とした戦いの世界に引き込む為の餌としても充分に魅力的だ。
対価として戦いの宿命を背負うとしても、望む少女はいるだろう。

 キュゥべえが意図して制約を設けなかったのかどうかはともかく、
魔法少女にとってグリーフシードとは、あらゆる意味で必要不可欠な物。
 同じ魔法少女は、これを巡る敵ともなり得る。

 それを暁美ほむらは助けた。その日、出会ったばかりだと言うのに。
あろうことかグリーフシードを消費してまで。おそらく、グリーフシードのすべてを知りながら。
 その理由とは。

「ただの気紛れよ……」

 答えるまでに数秒の間があった。
 その挙句、口から出たのは明らかな嘘とわかる、随分とお粗末な回答だったが、

「……そう、まぁいいわ。そういうことにしておきましょう。気まぐれでも助かったのは事実だし」

 マミはひとまず引き下がった。
 口調は落ち着き、瞳に渦巻く狂気はなりを潜めているように見える。
 すると今度は別方向から、抑えた、けれども今にも爆発しそうな怒りを秘めた声。

「……よく言うよ、あたしのことは殺そうとしたくせに……」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 00:56:50.13 ID:LOsz4KcLo<>
「さやかちゃん……」

 さやかから憎悪をすら感じさせる視線を向けられても、ほむらは眉ひとつ動かさなかった。
代わりに、まどかが心配そうに呟く。
 それでも、さやかは止まらない。その程度で堰を切った呪詛は止まるはずがなかった。

「絶対忘れないからね、あんたがあたしにしたこと……あれも気紛れだったって言う気!?」

 やはりほむらは鉄面皮を崩さず、見向きもしなかった。
それがさやかの神経を逆撫ですると気付いていてもなお。
 昨日、あの場で繰り広げられた人間模様について、鋼牙は詳しい経緯を知らない。
ホラー討滅とも、魔女の秘密とも何ら関わりないからだ。

 ただ、手を繋いで逃げていたまどかとほむら、負傷して一人暗闇に取り残されたさやか。
さやかはほむらを露骨に敵視し、まどかとは気まずくなっている。あの極限状況で何が起こったか、想像に難くない。
 道中から険悪な空気を漂わせていたが、会話の流れで我慢していたものが噴出したのだろう。
 放っておけば更にヒートアップし、激昂していたであろうさやかを止めたのは、鋼牙でもまどかでもない。

「美樹さん。気持ちはわかるけど堪えてもらえるかしら。今は私が彼女と話してるの。邪魔しないで」

 マミだった。
 数秒前のさやかと同じ抑えた調子ではあるが、決定的に違うのは温度。
 さやかが火なら、こちらは氷。
酷く冷たい声は、さやかの熱を一瞬にして奪い去り、背筋を縮み上がらせ、顔面まで凍りつかせた。 
 鋼牙は直感する。やはり、今の彼女はどこか普通ではないと。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 01:13:14.27 ID:LOsz4KcLo<>
 小さく息を呑んで固まるさやかをよそに、マミは続ける。

「もうひとつ。どうしてあなたは鹿目さんだけを連れて逃げたの?」

「ホラーは強力で、勝ち目は薄いと思ったから。足手纏いを連れていては逃げられないと判断した」

『なるほど。合理的だ』

 と、頷くザルバ。
 それは皮肉なのか、心から納得しているのか。おそらく両方だろう。

 勝てないと判断したら一目散に逃げる。その為に誰を踏み台にしてでも。
 良くも悪くも賢い選択だと思う。肯定はしないが否定する気もない。
自分には許されない生き方だが、戦う義務を持たない少女なら決して罪ではない。
 
 それでもまだ、マミは食い下がる。

「そこだけ切り取れば筋は通ってるけど……合理的と言うにはどうかしら。
あなた、キュゥべえを襲ったりして、新しい魔法少女が生まれるのを阻止したいみたいだけど、
その割に私という魔法少女を排除しようとは考えないのね。あの時の私なら、手を下すまでもなく簡単に死んだのに」

「それは……」

 マミの怜悧な思考は、ほむらの矛盾を暴きたてていく。
言い淀むほむらは、どこかそれを恐れているようにも感じられた。

「もっとも、そうすると鹿目さんが私を救う為に契約したかもしれない……なんて思うのは自惚れかしら?」

 言いながらマミは流し目をまどかに送った。半ば閉じられた目蓋から覗く瞳の妖しさと威圧感に、
まどかはしどろもどろになりながらも、何とか答えた。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/13(月) 01:17:25.07 ID:LOsz4KcLo<>
「あっ、いえ、そんなこと……私も……そうしたかもしれません。いえ、した……と思います」

 緊張するまどかに、ありがとう、と言った口元には薄く伸ばした笑みが貼り付いている。
ただ、その目は笑っていなかった。
 マミは視線を戻し、

「あなたは、そっちの方が都合が悪いと考えた。違う?」

 答えはなかった。が、沈黙は認めたも同然。
 マミは見抜いたことで気を良くしたらしい。
薄笑いで紅茶をすすり、カップに口を付けたまま、ほむらを睨め上げる。

「当然よね。彼女が類稀なる凄まじい潜在能力を秘めていると気付いてないはずないもの」

 得意げに鼻を鳴らすマミだったが、直後、瞬時に真顔に戻った。 <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/13(月) 01:24:23.80 ID:LOsz4KcLo<> ここまで
土曜と書いたのに遅くなりました
もう少しで長い会話パートが終わりそうだったのと、自分の中でもこんがらがってきていたので
たぶん、たくさん穴があると思うので指摘していただければ幸いです
書く方も読んで下さる方もダレていると思うので、お茶会?は次回で終わり
文章と頭の中を整理して次こそ今週中に

私のイメージとしましては、自分にも他人にも厳しい鋼牙の言うことはだいたい正しい
でも、正論を受け止められない人の弱さには疎いんじゃないかと思ったりします
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2012/02/13(月) 01:25:52.88 ID:f6M/lVXQ0<> 乙です
マミさんコエー
そりゃほむらもビビるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/13(月) 01:40:46.33 ID:dj19wI6Yo<> 乙です
マミさんが爆発寸前の爆弾にしか見えねぇ

鋼牙は強すぎるからな、第一期の頃ならともかく今となっては中身までしっかりしてるし>疎い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/13(月) 13:33:51.04 ID:r/op1WMSO<> 二期の鋼牙でも>>921で言う点は変わらないと思うな
例えば俺みたいな矮小な人間は鋼牙の前だと卑屈になってしまうだろうけど、
それを理解しても受け止めてくれるほど甘くもないと思うんだよ
鋼牙の優しさは父性的というか厳しい優しさだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/16(木) 00:01:09.23 ID:sQ+ah3tLo<> 乙でした

今のマミさんは巨大な不発弾、自爆誘爆ご用心 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/17(金) 00:03:15.79 ID:L8Gd8Nt90<> 鋼牙の飲むマミの紅茶は、苦い <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/18(土) 23:58:59.56 ID:fBvZgKKzo<>
 まるでさっきまでの苦悩も笑顔も、何もかも最初から演技だったみたいに。

「でも、それだけじゃない」

 そう、それだけではない。鋼牙も考えていた。

「あなたの行動には矛盾がある」

 グリーフシードの競合を避ける為にまどかを魔法少女にしたくないのだとすれば、一応筋は通る。
 だが、鋼牙には他に隠された理由があると思えてならなかった。
ほむらが悲鳴を聞いた瞬間に見せた動揺も、それを裏付けている。

 ほむらの狙いはグリーフシードとは別にあると、マミも疑っているらしい。
 ほむらを捕まえた手が小刻みに震えているのは、確信には至らない曖昧な洞察に不安を感じているのか。
 それとも、自らの推理そのものの恐ろしさに慄いているのか。
 真実が明らかになるのを恐れているのか。

「だって……あなたは何かを隠している。とても重大な秘密を……」

 さっきまでの迫力はどこへやら。マミは消え入りそうな声で言った。

「それに、あの時のあなたなら、ばれないよう二人を排除することもできたのに……」

 揺さ振り。
 鎌掛け。
 いや、直感か。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/02/19(日) 00:17:30.98 ID:O5lP9xfAO<> キタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 00:17:32.59 ID:EDRg/9KT0<> 面白い <> ◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/19(日) 00:28:02.21 ID:thheYmzFo<>
 新たに魔法少女を生みたくないなら、彼女の知る真実を明かし、契約を拒否するよう促すべき。
それをしないのは、つまり出来ない理由がある。
 でなければ近くで契約させないよう見張るしかないが、
常人に見えないキュゥべえは、いつ、どこで契約を迫るか知れない。

 となれば四六時中、いつも近くで見張っていなければならなくなる。
 それは流石に非現実的過ぎる。しかし始めてしまったなら、途中で止めては意味がなくなる。
 強力な素質を持つまどかを契約させたくないなら、もっと簡単な方法があるというのに。

 あのドサクサに紛れて背後から気取られぬよう、拳銃で彼女の頭を撃ち抜けばいい。

 一番確実で、絶対に契約の暇は与えない。鋼牙が来なければ、死体も残らなかっただろう。

 だが、ほむらはそれをしなかった。
 何故か。
 無論、人間とはそこまで簡単に冷酷になれないし、合理的に動くものでもないが、鋼牙はこう考えていた。
 彼女にとって、鹿目まどかだけが特別な存在なのではないかと。故に彼女を殺すなど以ての外。

――だとすれば、まるで過保護な母親か何かだな……。

 ふと浮かんだ自らの考えにハッとなり、頷く。
 その通り、ほむらはまどかを保護しているつもりなのだろう。
 できるなら何も知らぬまま、あらゆる災厄から遠ざけたいと。

「あなたの目的は……本当にグリーフシードなの……?」

 マミの問いに、ほむらは明らかに答えあぐねている。
 答えれば洗いざらいぶちまけなくてはならない。
内容如何によってはマミを更に追い詰め、結果まどかにも危険が及ぶ。
 答えなければ、マミは激昂し、この場で魔法を使った戦闘に発展しかねない。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/19(日) 01:09:06.78 ID:thheYmzFo<>
 ほむらにしてみれば、どちらに転んでも予測の難しい事態。答えに窮するのも当然。
 沈黙が続く中、鋼牙は右手をそっと魔戒剣に伸ばした。もしもの時は誰より早くこれを抜き放つ。
 しかしマミはいつまで経っても動かなかった。

「……いいわ」

「え……?」

 それから数秒、マミがほむらの手を放す。同時に重苦しい空気がふっと弛緩した。
 マミから放たれていたプレッシャーが消えたのだ。これには、ほむらも当惑している。

「帰りたければ帰っていいと言ったの。この場は見逃してあげる。
動機がどうあれ、あなたには借りもあるしね」

 この場で事を構える気はなさそうだが、恩でなく借りと言うあたりに根底にある不信感が窺える。
 その証拠に、まだ何か言いたげなほむらを黙らせた視線は鋭い。

「わかってる。もちろん、これで借りが返せたとは思ってないわ。
いずれ必ず返す。その時は徹底的に吐いてもらうから」

 あっさりほむらを解放したマミを鋼牙は訝しむ。
 攻撃的な態度の割に退くのは妙に早かった。もっと食い下がるものと思っていたのだが。
 そして、最も驚いたのは彼女の態度の変わりよう。
あれほど怯えていたのが、一瞬で当初の高飛車とも取れる態度に戻っている。

 いったい、彼女の内でどんな思考の変化があったのだろう。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/19(日) 01:50:29.31 ID:thheYmzFo<>
 と、マミは部屋の時計を一瞥するなり、

「あなたたち、これから少し時間はあるかしら」

 まどかとさやかに向けて言った。最初に見せた、穏やかで優しげな物腰で。
 突然の問いに二人は顔を見合わせ、ぎこちなく首肯した。
 するとマミは両手を合わせ、

「それなら魔女退治を見学してみない? 魔法少女の戦いを直接見ておいた方がいいと思うの」

 まるで買い物に誘うみたく気軽に声を掛けた。

「えぇっ、これから……ですか?」

「そんな急に言われても、あたしも心の準備が……」

 怖気づく二人にマミは苦笑した後、安心させる為に微笑んだ。

「なんて……いきなり言われても驚くわよね。無理にとは言わないわ。心の準備も必要でしょうし。
でも、危険だという認識さえあれば、あなたたちは付いてくるだけでいいのよ」

 二人は暫し考え込んでいたが、判断に迷っているようだった。
 そのうち困り果てて意見を仰いだのか、まどかはほむらを、さやかは鋼牙を見る。

「どういうつもり……?」

 語気を荒げることこそなかったが、ほむらは強くマミを睨んでいた。
 まったくの同感だった、ほむらが訊かなければ、鋼牙が訊いていた。

「あら? あなた、まだ居たのね。聞いての通りよ。
どうするにせよ、一度見ておかないと判断もつかないでしょう?」
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/19(日) 01:57:44.47 ID:thheYmzFo<> 今回の一度で終わらせるつもりでしたが、続きは明日にさせてください
もう2,3レスですが、充分推敲したいので
明日(今日)23:50頃から再開します
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/19(日) 02:16:29.87 ID:TaMr0k2po<> 乙ー。
毎回、楽しみにさせていただいております。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 02:48:30.58 ID:6LoXhwSF0<> 乙。
鋼牙にしてみたら何が起こるかわからない戦場へ一般人を連れてくなんて理解しがたいよな〜。
実際自分も勝手にとはいえついてって父親が目の前で死んじゃったんだし。
どうなるマミさん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/19(日) 08:06:02.07 ID:ANzi9dQJo<> 乙です

マミさんこええww <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/19(日) 23:53:24.80 ID:thheYmzFo<>
「ふざけないで。あなたは――」

「私はふざけてなんかいない。至って真面目よ。
だからこそ誘ったの。私に言わせれば、あなたの方がよほどふざけてるわ」

 マミはほむらの言葉を遮ると、反論を待たず再度まどかとさやかの方を向く。
 そこに、さっきまでの優しい笑顔はない。

「今日じゃなくてもいい。でも、どんなものか二人は知っておいた方がいいと思うの。
誤解しないでほしいのだけど、私はあなたたちに魔法少女になってほしいんじゃない。
ただ見て、考えてほしいだけ。魔法少女になって魔女と戦うとはどういうことかを」

 あったのは真剣な眼差し。
 凛々しく力強く、それでいて脆く壊れそうでもある。
 まるで独りにしないでと、訴えかけているようでもあった。

 先達としての戦士の顔と、一人のか弱い少女の顔。
 どちらかが仮面ではなく、どちらも彼女の一部。
 それでも鋼牙は口を開く。言わねばならない。たとえ彼女を傷つけたとしても。

「待て、一般人を魔女との戦いに連れていく気か? 
魔女の結界がどれだけ危険な場所か、お前が一番知っているだろう」

 ほむらに代わり、マミを咎める鋼牙。隣では、ほむらも無言の抗議を示している。
 一人での戦いと、誰かを守りながらの戦い。後者が数段困難なことくらい、わからないマミではないはず。
 なのに敢えて誘うのなら、そこには相応の意味がある。
 だからとて、鋼牙も黙って見過ごす訳にはいかなかった。

「足手纏いになるだけだ。二人の命はおろか、自分の命まで危険に晒す。
そして、お前が倒れれば……それは二人の死だ」

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/20(月) 00:44:09.43 ID:rYHTtXRBo<>
 もしくは、キュゥべえが傍にいたなら契約か。だとしても本末転倒に違いない。
 鋼牙がよどみなく告げていく間、マミは徐々に項垂れていき、表情も窺えなくなる。
俯く肩が震えていた。しかし、今度は恐怖からではない。
 やがて勢いよく跳ね上げた顔に刻まれていたのは――。


「……あなたに何がわかるって言うの!?」


 怒りだった。
 憤怒に歪んだ形相で、きつく噛み締めた歯を鋼牙に剥いている。
鋼牙の忠告は、マミを逆上させるには充分だった。

「この娘たちはもう知ってしまった! 私が巻き込むんじゃない。
もう巻き込まれているのよ、望むと望まざるとに関わらず!」

 渦巻く感情の嵐を解放するかの如く、マミは胸中を吐露していく。
 あまりの勢いに止められる者はいなかった。静まり返った場で、一人興奮状態のマミはまくし立てる。

「今、危険を冒してでも見なくちゃいけない。見ない振りで知らなかった頃には戻れないの!
二人にその気がなくても、素質がある以上は逃れられない。
自分や誰かを守る為に、譲れない願いを叶える為に、危険も不条理も承知で契約する時も来るかもしれないわ!」

 鋼牙を睨み据える怒りの瞳は変わることなく、揺らぎもしない。
それでも両目から涙は溢れ、目尻を伝って流れていた。

 一気に言い放ったマミは息を荒げている。
 食い縛った歯の隙間から息を吐く音だけが部屋を満たす。
 誰もが驚きに言葉を失っていた。
 
 鋼牙も同じ。
 ただし、驚いたのはマミの怒り様にではなく、心の有様に。
 言葉を失ったのは自らの不明故。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/20(月) 01:23:25.51 ID:rYHTtXRBo<>
 激しかったマミの呼吸はやがて落ち付き、同時に視線が下がっていく。
興奮して喚いたのが恥ずかしいのか、袖で涙を拭うと深呼吸。
 火が消えたように小さくなりながら、ぽつりぽつりと語り出した。

「……だから、その目で現実を知り、覚悟を持っておくのが大切なんです。
できるだけ、多くの判断材料を遺したい。
知ってることを全部話した私にできるのはもう、それくらいしかないから……」

 最後に一度だけ、上目遣いで鋼牙を見て。


「魔法少女じゃないあなたにはわからないし、わかってもらおうとも思いません」


 完全に視線を外すと、また俯いて洟を啜り始めた。
 
 わからなかった。
 今の今まで、どこかで軽く見ていたのかもしれない。彼女の心の内に入り乱れる強さと弱さを。
 常に守る側に立つ鋼牙だからこそ気付けなかった。
 狭間に立つ、どちらにも転び得る曖昧な少女の苦悩に。

「取り乱してごめんなさい、恥ずかしいわね……。
ちょっと居心地が悪いし、あなたたちもそうでしょう? これでお開きにしましょうか」

 目を赤くしたマミは弱々しく自嘲気味に笑うと、一同を見回して言った。
 全員のティーカップが空になっているのを確認し、立ち上がってリビングの扉を開く。

「勝手で悪いけど、お引き取り願えるかしら。私、これから魔女退治に行こうと思うの」

「あの、私たちは……」

「あなたたちの安全は最優先に全力で守るつもりだけど、絶対じゃない。
もしもや万が一がないとは言い切れないわ。それでもいいなら付いてきてちょうだい」
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/20(月) 02:19:30.49 ID:rYHTtXRBo<>
 あんなやり取りを見せられて、行くとも行かないとも即答できる訳がない。
 案の定、二人の少女は大いに迷い、しかしマミは彼女らを急かすでもなく、ドアノブに手をかけたまま立っている。
 独り寂しく、ぽつねんと佇む背中は儚く、頼りない。誰かが追わなければ、闇に消えて二度と戻ってこないだろう。
そう思わせるほどに。

「私……行きます」

 最初に立ちあがったのはまどか。
 はっきりと通った声にマミが振り向く。
四人から様々な感情を込めた視線を受けても、その目は毅然とマミだけを捉えていた。
気丈に唇を引き結んではいるものの、全身の強張りは隠せていない。
 怖くないはずがない。けれども凛と振舞うのは、きっと潤んだ瞳で見返す年上の少女の為なのだろう。 

 この鹿目まどかという少女が、ようやくわかり始めてきた気がする。
 そして、彼女を見ていると鋼牙も明確に自覚できた。
 いつだったか、番犬所の三神官の前で啖呵を切ったように、己の志す魔戒騎士とは何たるかを。
 そうだ、魔戒騎士とはホラーを狩るだけの存在ではない。

 相手がホラーでなかろうと、迷うことなど何もないのだ。

 鋼牙は左手に魔戒剣を携え、

「俺も行こう」

 立ち上がった。
 すると、向かいに立つまどかの表情がパッと和らぐ。
呆気に取られた目で見てくるマミに、鋼牙は仏頂面で答える。

「邪魔はしない。俺は後ろを守る、お前は戦いに専念しろ」

 言われるがまま、マミは首を縦に振った。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/20(月) 02:45:15.53 ID:rYHTtXRBo<>
 そして、まどかの隣に座る少女も。

「まぁ……冴島さんが来てくれるんなら」

 頭を掻きながら、さやかが呟く。
 数秒の逡巡の後、すっくと立ち上がった。

「あたしも行きます」

「さやかちゃん……」

 心強い味方を得て口元を綻ばせるまどかに、
さやかは気まずそうでもあり、照れ臭そうでもあった。

「二人とも……ありがとう」

 マミは再び目尻を拭い、震える声で礼を言った。
 しかし、最後の一人はマミの横をすり抜けて玄関に向かう。

「私の用は済んだから失礼するわ……ごちそうさま」

 傍らのマミにそう言い残して。
 ガチャリと玄関のドアが開いて閉まるのを、まどかは悲しげに、さやかは舌打ちで見送る。
 唯一、読めない複雑な視線を送るマミを見て、鋼牙は思う。

 彼女が混乱の中で、ほむらを引き留めた理由。
 また、ほむらを厳しく詰問しながらも、あっさり引き下がった理由。
 嬲って楽しんでいるように見えたのも、それでいて答えを恐れたのも、その後の変わりようも。
 すべては彼女の抱える矛盾――相反する心情に由来するのだろう。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/20(月) 03:24:44.98 ID:rYHTtXRBo<>
 不吉な魔法少女の未来を予想してしまったマミは、逃げ場を求めた。
それがほむらだった。

 あまり詳しく推し量るのも、マミの心中を盗み見るようで憚られる。
ともかくマミが矛盾したふたつを同時に求めたのは、見たくない、
けれど知らなくてはならないと思っているからだろう。

 それ故に、ほむらが答えないことに一抹の安堵を感じた。
 自分の意思に関わらず保留にできるから。
 貸し借りの話は言い訳に過ぎない。

「さ、それじゃ私たちも行きましょうか」

 すっかり落ち着きを取り戻したマミに促され、まどかとさやかが玄関に向かい、鋼牙も後に続く。
 横を通る瞬間、マミと目が合う。マミは目を伏せ、お辞儀をひとつ。
手振りだけで鋼牙を促すと、リビングのドアを閉めた。 

『まったく。面倒な状況になってきやがったな』

 外に出るなり、ザルバが呆れ混じりに言った。
 だいたい同意するが、これも魔戒騎士の宿命だ。
 それにしても――。

 鋼牙の後すぐに出てきたマミは手早く部屋を施錠する。
 面倒と言えば、こちらもだろう。
 恩人であり、友達だと言ったキュゥべえに、彼女は今どんな感情を抱いているのだろうか。
いずれにせよ、不信感を抱き始めているのは確かだ。

 何故なら、マミはリビングを出る際、残っているキュゥべえに構わずドアを閉め、最後まで振り向かなかった。
<>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/20(月) 03:29:22.10 ID:rYHTtXRBo<> ここまで。次は日曜
結局gdgdになってしまいましたが
説明パートはここまでで、次からは原作通り魔女戦を
最後のマミの胸中はまた後ほど
零パート以降は正直、手探りでした。わかりにくくなったことをお詫びします
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/20(月) 05:05:38.26 ID:s0BOAXvAO<> 乙です
マミが凄まじいメンヘラだなとしか言いようがない…
3周目でもほむらに似たような事をやってそうな感じだ
これでSGの秘密の一端に感づていたとさやかが知ったら、更なるドロドロの予感… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/20(月) 19:59:00.16 ID:fZFKbYjIO<> 乙

ガロしか知らないでここの話読んでたけど、今更マドマギを観たぜ…
このスレも改めて読み直そうと思います
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/21(火) 01:16:58.23 ID:Rjzh9rDK0<> 乙です!

マミさんの言ってる事も理解できるし、間違ってないと思うけど、
今は、まどさやの心配よりも、「私のやってる事を知ってほしい。褒めてほしい。
たった一人で、誰にも知られないまま消えるのは嫌!」って感情の方が大きいよなあ。

鋼牙はその真逆で、
「自分のやっている事なんて誰も知らなくていい。名誉も賞賛も要らない。
たった一人になろうと、命落とすその瞬間まで戦い続ける」だから、
まさに>>56〜>>57で語ってた、「絶対に会いたくない、高潔で鋼鉄のような精神の持ち主」。
……コレ、>>57の「もう戦えなくなる」直前まで来てねえか?

こりゃあ、ひと波乱あるぜよ……
頼むぞ鋼牙。さやかじゃないけど、アンタが頼りだ。
BAD ENDに怒りの刃を叩き付けて、時代に輝いてくれ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/02/21(火) 07:02:20.65 ID:JRf8xFOAO<> >>946
下手したら、本編のさやかの様に魔女化する可能性もあるよな
魔女に殺される前に… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/23(木) 00:25:09.59 ID:6fGRfkr5o<> 乙

文面から現在のマミさんの情緒不安定っぷりが伝わってくるな
ここは一つ鋼牙にしばらくは見守って貰いたいところ <>
◆ySV3bQLdI.<>sage saga<>2012/02/27(月) 02:15:59.45 ID:DgEBDqcQo<> 明日には4〜5レスくらいで戦闘開始まで投下できる……はず
面目ないです
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/28(火) 01:50:11.63 ID:8y1+43mEo<>
 時刻は五時を回り、落ちかける夕陽に四つの影が色濃くなる。
 街を歩くのは、少女たちと男性一人の、やや不自然な集団。
数十分前、マンションを訪れた時と違うのは、そこに少女が一人欠けていること。
 魔法少女と、その候補二人。そして魔戒騎士は言葉を交わすことなく、微妙な距離を保って歩いていた。

 先頭を行くマミの表情は険しい。せめて彼女が和やかであったなら、
まどかとさやかも気が楽になったろうが、マミはマンションを出て先導する間、
真剣な――思い詰めたとも言える様子で、ただ前だけを向いていた。

 背後の男は端から朗らかな態度など見せるはずもない。
 これから向かう先は戦場で、冒険気分など以ての外と理解していても、
板挟みになったまどかとさやかは居た堪れなくなっていた。

 二人が陰鬱とした空気に耐えかねた頃、三叉路でマミの足が止まった。
 手に握ったソウルジェムを、それぞれの方向にかざして何かを確かめる。
 興味津々といった感じで覗き込む二人に、マミはやや得意げに答えた。

「ソウルジェムが光って反応するのは、魔女の魔力を捉えているの。
つまり、光の強い方角に魔女がいる可能性が高いって訳。
魔法少女はこれで魔女を探しているわ」

「へー、綺麗……」

 言う通り、黄色のソウルジェムは方向によって発光が淡くなったり強くなったり変化している。
 トクン、トクンと、振る度に一定のリズムで明滅するソウルジェムは心臓の鼓動のよう。
幻想的な輝きに、少女は揃って目を奪われている。
 にも関わらず、後ろから追い付いてきた男――冴島鋼牙は目もくれず、髑髏の指輪に話しかける。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/28(火) 01:52:16.39 ID:8y1+43mEo<>
「ザルバ、どうだ?」

『ん? ああ……たぶん間違いない。魔女の気配だろうぜ』

 ザルバから魔女の気配を確認した鋼牙はマミに視線を送り、眼と眼が合う。
 その視線は、行かないのか、と暗に語っているように感じられた。
 マミはぷいと視線をかわして、ジェムの輝きが示す方に進んでいく。

 まどかとさやかが自分のソウルジェムを綺麗だと言ってくれたことが嬉しくて、誇らしかった。
 だからこそ、鋼牙がソウルジェムにまったく興味を示さなかったのが面白くなかった。
 確かに、鋼牙からすれば今さら驚くほどでもないかもしれない。
魔女退治では一日の長があると言えど、戦士としての経験ではマミが圧倒的に劣っている。

 未知の敵だった。
 相性が悪かった。
 言い訳はいくらでも浮かぶものの、ホラーに惨敗を喫したのは紛れもない事実。
 そんな相手と何度も何年も戦い続け、勝利してきたのだ。
鋼牙が己が信頼の置ける道具だけを信じ、頼るのも当然と言えば当然。
 
 魔女の捜索にしてもそう。
 逐一方角を確かめながら探すソウルジェムと、目標まで一直線にナビゲートしてくれる魔導具。
 どちらが便利かは一目瞭然。

 被害妄想の可能性もあるだろうが、その目には鋼牙とザルバの態度が自慢と余裕に映った。
 自分が戦士として劣っているのか――疑念が首をもたげ、心が掻き毟られる。
 苛立ちで我知らず歪む顔を後輩に見られたくないと、マミは黒い感情を振り切るように歩き出した。
すべての鬱憤を魔女にぶつけるべく。

 鋼牙は鋼牙で眉をひそめていた。ザルバの受け答えに、である。彼にしては珍しく歯切れの悪い答えだった。
 この場で訊き返したかったが、マミが異様な早足で細い路地を進んでいく為、仕方なく後にして追うことにした。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/28(火) 01:54:42.24 ID:8y1+43mEo<>
――この気持ちは何なのだろう。
 憤怒。恐怖。不安。嫉妬。憎悪。愉悦。
 頭の中はグチャグチャで。
 考えないようにしても、どうしても考えてしまって。
 でも考えるだけで頭が軋むみたいに痛い。
気を張っていないと、今にもバラバラに崩れてしまいそうなくらいに。

 私は何故、冴島さんにあんな態度を取ってしまったのかしら……。
 彼が私のソウルジェムを信用せず、自分のザルバを信じたから?
 自慢げに感じられたから?

 違う……自慢して、見栄を張りたかったのは私の方。
 ソウルジェムを褒めてほしかった。
 それは魔法少女であることが私にとって唯一確かな誇りであり、自信であり、ジェムはその象徴だから。
 もうひとつは、たぶん……これが私だから。

 このちっぽけな宝石が、私の魂そのものだから――

 逃げるように歩を進める。
 逸る気持ちは止まらない。駆け足で付いてくる足音も、呼び止める声も耳に届かなかった。
 ただジェムの示す反応だけを頼りに進み、そうこうする内に目的地にたどり着く。

 周囲から隔絶されたように建つ廃ビル。
敷地内には車が打ち捨てられ、壁面には蔦が這い、窓ガラスはすべて割れている。
もう随分と長く使われていないようだった。

「かなり強い魔力の波動……ここで間違いないわ」

 警戒を促すかの如く強く発光するソウルジェムをかざし、呟くマミ。
 しかし鋼牙は見向きもしない。彼の視線は屋上に向けられていた。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/28(火) 01:57:39.13 ID:8y1+43mEo<>
「あれはっ!?」
 
 屋上の縁に、誰かが立っている。逆光で顔までは見えないが、どうやら女性のようだ。
 全員が視認した次の瞬間、その身体が宙に踊った。

「きゃあああああ――」

 と、まどかが悲鳴を上げる。
 その間にも、飛び下りた人間は重力に従って落下する。
 鋼牙が真っ先に駆けだそうとしたのを、

「私に任せて!!」

 マミが大声で制した。
 マミは一瞬で魔法少女の装束に姿を変え、素早く腕を一振り。
壁面から伸びた幾多のリボンが飛び降りた女性に巻き付き、交差し、網状に形成される。
魔法のリボンで出来た網は強靭かつ、適度に掛かる衝撃を殺す。

 やがて、女性の身体はゆっくりと地面に下ろされた。
リボンが完全に衝撃を殺した為、傷ひとつない。
 女性は完全に気を失っており、身動ぎもしない。

 マミは彼女の身体を抱き起し、改めて容姿を確認する。
 年齢は二十代前半から半ばほど。
服装は、どこかの会社の制服――おそらく、OLか何かだろう。
 だが、何よりマミの目を奪ったのは首筋に刻まれた紋章。

「魔女の口付け……やっぱり……」

「え……何ですか、それ?」

「魔女の呪いを受けた証よ。魔女さえ倒せば元に戻るわ。
取りあえず、寝かしておいて先を急ぎましょう」

 言うなり、マミは彼女を入口の壁に立てかけ、ビルに入っていく。
 まどかとさやかも、彼女を心配そうに見ながらも、マミに続いた。
 そして鋼牙も。
彼女の脇に立ち、詳しく調べるべきか迷ったが、後からでもできると思い後を追う。
漠然とした、奇妙な違和感に後ろ髪を引かれながら。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/02/28(火) 02:01:54.21 ID:8y1+43mEo<> ここまで。次もなるべく早く
魔女戦まで書きたかったのですが、道中も少し書き足そうと思い一旦ここまで
杏子の魔女画像を見たら、ここでも早く馬を出したくなりました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/28(火) 04:13:14.32 ID:IzzorNg90<> 乙
ってあかん!
あんな神々しいもん見せたらマミさんがさらに自身無くしてまう! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/28(火) 06:25:32.75 ID:ktpIpVRDO<> 下手すれば持てるものが持たざるものに見せつけるだけの嫌みになってしまうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/28(火) 11:17:13.50 ID:3O9Mpk81o<> 乙でした

鋼牙はその辺りの機微に疎そうだしね
やばい今後も胃の痛い展開が続きそうで楽しみだな。タメ的な意味で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/01(木) 00:14:00.83 ID:kF5LFjb40<> 乙!
マミさんの空回りっぷりがヤバい。自慢と余裕なんて、鋼牙から最も遠い言葉だよ…。
見せびらかす為に戦うなんて事は絶対無いし、周囲に気を使って抑えるのも然り。
いつだって全力なだけ。ただ、周りがどう受け取るかは別なんだよなあ。

GARO本編で鋼牙と肩を並べて戦うキャラは、何やかんやで凄いヤツばっかなので、
こういうコンプレックス持ちが鋼牙の事をどう受け取るかは新鮮かも。
俺だったら、嫉妬心すら湧かずに卑屈になるか、
シグトやさやかみたいに「黄金騎士すっげー!」みたいな感想しか出て来ないと思うww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/01(木) 12:43:25.05 ID:HD5ndvKEo<> マミさんは魔女と戦うっていう魔法少女の使命にプライドを持とうとしてる節があったからなぁ
だから、魔法少女の存在を根底から覆す、魔法少女=魔女って真実を知って崩れちゃう
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/01(木) 22:04:09.48 ID:IxG1yZeDO<> 世代的に同じぐらいの鈴とかと交流すれば、鋼牙ってか守りし者の本質が少しでもわかるかもしれんな。



そーいや鈴役の子ってもう高校生ぐらいか?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/05(月) 20:48:37.94 ID:x6Xt+97p0<> >>960
あー、2期で鈴が出ないのは、その辺が理由か…。
そこまで育っちゃってるとマスコット的な扱いも出来ないだろうし。 <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/07(水) 02:41:57.02 ID:Tb2qcXMRo<>
 ビルに入ってすぐ、階段を上がった場所に、魔女の結界は口を開けていた。
 赤い紋章を浮かべた、いかにも禍々しい空気を放つゲートの前に、マミは臆することなく立つ。
 マミは息を切らせながら付いてきた二人と、しきりに背後を気にする鋼牙を振り向き、

「ここから先が魔女の結界よ。気を引き締めて、それと絶対に私の傍を離れないでね」

 改めて釘を刺す。"私たちの"と言わなかったのは、せめてもの意地。
 どの道、前列のまどかは自分から離れはしないだろうし、
後列のさやかは敢えて言わなくても鋼牙に擦り寄る。
そして何より、頼まれなくても彼は二人を守り通すに違いないから。悔しいが、そこだけはマミも認めていた。

 二人は神妙な面持ちで頷き、鋼牙は腰から魔戒剣を抜いた。

「行くわよ……!」

 マミの号令を合図に、四人は結界に足を踏み入れる。
 外から中を窺えないゲートを勇気を奮い立たせて潜る際、歪む視界に目をつむり、再び開くと――。
 
「うわぁ……」

「何コレ……気持ち悪……」

 眼に飛び込んだゲートの先は完全に異界だった。
 そこかしこが寓意的で、大半が悪趣味で意味不明な装飾。
 派手で毒々しく、目に良くない彩色は薄ぼんやりと明るく。
 それでいて名残を留めるビルの壁面はくすんだ色調。

 異様としか言いようのない光景。
 結界の主たる魔女の性質を表しているのだとしたら、
魔女の精神とはこれほどまでに渾沌としているのか。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/07(水) 02:43:59.84 ID:Tb2qcXMRo<>
 だが、それだけではない。
 薔薇と荊と鋏、そして蝶。結界と使い魔の多くを構成している要素。
 魔女と化してもなお、いや――だからこそか。
 凄まじいまでの妄執が、ひしひしと伝わってくる。

 マミは結界内の景色には慣れていた。
 慣れていたつもりだった。
 個々の魔女で大きな違いはあれど、虎穴という点ではどれも同じ。
警戒こそすれ、それが示す意味を考察する必要はなかった。
 ましてや、感情移入するなど。

 しかし、魔女の正体に疑問を抱いてしまった今となっては、まったく違う景色に映ったのだ。
 考えずにいられなかった。
 彼女は何を想って戦い、どのようにしてこのような渾沌を生み出すに至ったのかと。

 他人事だと思えなくなった。
 いつか自分も、こうして心の奥底まで曝け出すとしたら。

――その時、私はどんな景色を以って、私に殺されに来た、或いは私を殺しに来た客人を迎えるのかしら……

 想像してみるが、見当もつかなかった。
 すべての音も光も遮断して自らの内に潜ろうとすればするほど、頭を締め付ける痛みがいや増す。
 そうしてマミは物思いに耽っていた。

 ここが、とびきり危険な空間だと後輩たちに忠告したことも忘れて。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/07(水) 02:45:38.61 ID:Tb2qcXMRo<>
「――ミさん! マミさん!! 前!!」

 耳をつんざいたのは、まどかの声。
 我に返ると、シャキン、シャキンと鋏を鳴らす音。
そして正面には、蝶の羽を背に生やした髭の使い魔が迫っていた。

「っっ――!!」

 息を呑んで戦慄するマミ。
 しかし、右手は反射的に突き出された。
手の内にマスケット銃が握られ、人差し指は迷わず引き金を引く。

 鋏の音を打ち消し、銃声が響いた。
 一発で撃ち抜かれた使い魔は雲散霧消する。が、まだ終わりではない。
むしろ、ここからが始まり。

 使い魔が奏でる鋏の音楽は未だ鳴り続けている。
見える範囲だけでも十数匹の使い魔が、侵入者を迎え撃たんと集まり始めていた。
 それだけではない。

「きゃっ!」

 と、背後から聞こえた声に振り向くマミ。
 声は鋼牙に肩を掴まれ、抱き寄せられたさやかが発したものだった。
 彼の胸の内で怯える瞳が見つめる先には、一匹の使い魔の姿。
先程までさやかが立っていたであろう位置で蝶の羽を広げているが、その額は魔戒剣で貫かれている。

 鋼牙の足下には、残っているだけでも4,5匹の骸が転がっていた。いずれも真っ二つに両断されている。
 既に側面や背後から迎撃を始めた使い魔から、鋼牙はさやかとまどかを守っていたのだ。
 ほんの数秒とはいえ、戦場で棒立ちで呆けていたマミの代わりに。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/07(水) 02:47:47.24 ID:Tb2qcXMRo<>
 もし、彼がここにいなかったら。
 激しい後悔と恥ずかしさと自己嫌悪が込み上げてくる。
 すぐにでも二人に詫びて、それから自責の念で何時間も塞ぎ込みたくなった。
 だが、そんなものは後でいい。

「ごめんなさい! さぁ、急ぎましょう!」

 まどかの手を取って駆け出すマミ。
 その前方を三匹の使い魔が塞いだ。
 マミは新たな銃で中央の一体を撃ち、右の使い魔を蹴り飛ばす。
残った左を、逆さに持ち替えた銃身でゴルフボールのように遠く打ち上げた。

 振り返ると、鋼牙に軽く背中を押されたさやかが付いてきていた。
 周囲をあらかた片付けた鋼牙も後に続く。
 ふと目が合ったが、気まずさでマミの方から視線を外す。
 
――どうして何も言わないの? あんな酷い失態を犯した私を……。

 彼もきっとわかっているのだ。そんな余裕ありはしないと。
 入ってしまった以上は退くのも簡単ではないし、
魔法少女が侵入したとなれば、昨日のように移動されてしまう。
 そうなれば、また誰かが犠牲になる。
 故にマミは進むしかなかった。
 今はすべての迷いを振り切って。

 それからの探索は順調に進んだ。
 マミは的確に障害を排除し、鋼牙は側面や背後、上からの奇襲に対処するだけで充分だった。
 二人を怯えさせるようなこともない。終いには喝采を送る余裕さえできたようだ。
 
 そしてソウルジェムの反応を頼りに走ること十分少々。
 数多の使い魔を蹴散らし、いくつもの扉を開いた最深部に、それはいた。
 ドーム状の広大な空間に待ち受けていたのは、
やはり少なく見積もっても十数メートルはあるであろう巨大な魔女。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/07(水) 02:48:41.98 ID:Tb2qcXMRo<> 遅くなりましたが、ここまで
次こそ日曜か、遅くても月曜に
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/03/08(木) 19:31:07.16 ID:y6hU4Qv2o<> いつの間にか来てるじゃねーかぁー!
乙です

マミさん大丈夫か……鋼牙が傍にいるとは言え不安が拭えなくてドキドキする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/08(木) 21:08:03.14 ID:K1HghkOz0<> 乙。

さやかちゃん安定のヒロインぶり。
他のSSでは、調子に乗って他キャラに突っかかる損な役回りにされる事が多いので、
こんなにしおらしい(鋼牙に対してのみだけど)さやかちゃんは素晴らしい!

マミさんは…まあ、あんまし鋼牙に対抗意識燃やさないように。ドツボに嵌まるだけDAZE! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/03/09(金) 02:19:15.73 ID:JEXjFNNCo<> ホラーに立ち向かうほどのマミさんならメンタル大丈夫かと思ったけどやっぱダメそう… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/03/10(土) 09:37:26.81 ID:a+AuVKs5o<> マミさんは、メンタル弱くてなんぼってイメージがあるからな
逆にメンタルの弱さを補ってくれる人がいれば、どこまでも強くなれそう

フェアウェルとか、おりことか……って、どっちも杏子がパートナーだw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/10(土) 16:00:50.23 ID:4rGwnAzro<> つまりゴンザ×マミさんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/10(土) 19:41:15.35 ID:1DZT/ubSO<> ややネタバレになるけど、最近のかずみを読んで、
レッドレクイエムの「本当に愛した人なら、ホラーになどできるものか」(だっけ)
を思い出した。生き返らせたい気持ちは分かるんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 09:48:32.65 ID:ciCuKSHCo<> 遅ればせながら乙

なんか今回の戦いでマミさんの未来が決まりそうな予感が・・
読むのコエエエエ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 11:47:25.37 ID:EZTqPMfAO<> 鋼牙視点から見たらすごい嫌な奴だなマミは…
最も鋼牙は気にしてないだろうけど <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 03:53:31.53 ID:KNKF5ZZmo<>
「あぁ……」

「うっ……グロい……」

 魔女の姿に圧倒されたまどかとさやかは、嫌悪感も露わに後退る。
あまりの異形にマミも圧倒され、鋼牙ですら眉間のしわを深くした。
 もっともマミが驚いたのは、単に醜悪な外見にたじろいだ訳ではなかったのだが。

 下に広がる白っぽい胴はキノコの柄を連想させる。
 その先端には黄緑色の粘液に塗れ、薔薇を散りばめた顔。否、顔らしき物。
 背中に巨大な黒蝶の羽を生やし、足は巨体を支えられるとは思えぬ細い触手。

 その姿は人とはかけ離れた、およそ魔女という言葉から受ける印象とは程遠い。
 人でも獣でもない、虫や魚も違う、自然界に近似の種は存在しない真のモンスター。
人に近い形を取ったホラーとは、また別種の恐怖を呼び覚ます。

 魔女はマミらを認識しているのかいないのか、静かに身を蠢かせている。
彼女の領域に踏み入らない限り、向こうから攻撃を仕掛けてくることはなさそうだ。
 魔女の待つドーム状の空間は、一行の進んできた細い通路から急に開けている。
これなら細い通路の出口さえ塞いでしまえば隔絶は容易く、巻き添えも気にせず戦いに専念できる。
 おあつらえ向きの戦場だ。

 マミが分析しつつ戦法を組み立てていると、

「マミさん、あんなのと戦うんですか……?」

 背後から、まどかが不安げに問う。
 弱々しく揺れる瞳。
心配してくれることを嬉しく思うと同時に、改めて自分がここにいる理由を再確認する。
 彼女を守らなければ。そう、思わせてくれる。それが何よりの力になる。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 03:54:55.20 ID:KNKF5ZZmo<>
「すぐ戻ってくるから、ここで待ってて。大丈夫……負けるもんですか」
 
 彼女を安心させられるよう、マミは穏やかに微笑んだ。
 そして一発、銃弾を床に撃ち込み、弾痕にマスケット銃を突き立てる。
そこを中心に光が溢れ、光は壁を形成して通路を塞いだ。
 
 戦闘中に魔女や使い魔の狙いが二人に向かないとも限らない。
だが、これで二人が狙われる危険は完全に消えた。
 内外両側からの干渉を防ぐ魔法のバリアは、術者が解除するか死ぬまで解けない。
 それに、もしも自分がここで死んだとしても、彼ならきっと――。
 考えかけて、マミは首を振った。 

――ダメね。戦う前から弱気になってるようじゃ……。

 自嘲気味に含み笑いを浮かべるが、それでも言っておかなければならない。

「冴島さん。この娘たちをよろしく――」

 言いながら振り向き、マミは絶句した。
 いない。
 後事を託そうと思っていた冴島鋼牙は、二人の少女の背後にいなかった。
さっきまでは確かにそこに立っていたはずなのに。
 さやかとまどかが、どうしたのかと怪訝そうに見ているだけ。

――じゃあ、いったいどこに……?
後ろにいないとなれば……前!?――

 予想通り、鋼牙は前にいた。
バリアを張る時だろうか、いつの間にかマミの脇をすり抜けていたのだ。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 03:56:53.06 ID:KNKF5ZZmo<>
「冴島さん! どうしてあなたが……」

「もしもの備えだ。こちらから手出しはしない」

 言うなり足を踏み出し、その姿が消えた。
 違う、跳んだのだ。
 マミたちのいた通路と魔女の空間の床とは、ざっと見ても10メートル以上の高低差がある。
それ故、魔女の全貌が見上げなくとも把握できていた。

 そんな高所から飛び降りても、鋼牙は平然と着地している。
 今さらながら常人離れした身体能力に驚きつつ、慌ててマミも飛び降りる。 
 鋼牙の横に並び、視線は魔女から逸らさずに言った。

「流れ弾に当たっても知りませんよ?」

「自分の身は自分で守る。お前は戦いに集中しろ」

 何が起ころうと対処できるという自信の表れ。
 余裕と感じ取ったマミは少々カチンとこないでもなかったが、口論している暇もない。
 鋼牙は一歩下がり、マミは一歩前に進み出た。
 マミは社交場での挨拶のようにスカートの裾を摘まみ、僅かに持ち上げる。
と、スカートの中から左右二挺のマスケット銃が落ち、地面に突き刺さった。

 不思議なことに、ここだけが元の廃ビルのコンクリートでなく、緑の地面。
それ故の利点かもしれないが、仮に違ってもどうとでもなった。
 ともあれ、止まっていた魔女が奇妙に身をくねらせ始めた。
 それが戦闘開始の合図。

 直後、魔女がこの世のものとは思えぬ唸りを上げる。
それが威嚇か攻撃直前の咆哮であることは誰の目にも明らかだった。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 03:59:23.16 ID:KNKF5ZZmo<>
 黒い触手を大きく振り上げ、マミ目掛けて叩きつける。
かなりの速度だったが、大振りだけに避けるのは難しくない。
マミは後ろに跳び、難なくかわす。

 むしろ一番の脅威は砕けた地面の飛礫。
 いくつかはマミの頬を打ったが、彼女は目を閉じも逸らしもせず魔女を睨む。
気にしていては、みすみす追撃の機会を敵に与えるからだ。
 
 若くとも、その眼、その姿勢は紛うことなき戦士。
 やはり、魔法少女の戦いの苛酷さと凄烈さは魔戒騎士にも劣らない。
 鋼牙は足にまとわりつく小型の使い魔を踏み潰しながらも相対する両者から目を離さず、
改めて実感する。
 
 彼にしては最大級の賛辞を送られているとは露知らず、マミの認識から鋼牙は既に消え失せていた。
 誰に頼るつもりもない。自分だけの力で勝ってみせる。
 いつしかマミの思考は、それ一色に染め上げられていた。

 プライドで曇る視界。だが、却って都合がいい。
 魔女の姿を曇りなき眼で直視してはいけないと、頭のどこかで理解していた。
 これは敵。倒すべき敵なのだと、自分に思い込ませる。

 その視界を、不意に巨大な物が覆った。

「――はっ!」

 何かを確認するより早く、小さな掛け声と共に、左右のマスケットをほぼ同時に発砲する。
二発の銃弾に貫かれたそれは勢いを失う。
 どうやら巨大な椅子か何かのようだった。椅子はマミを傷つけるには至らなかったが、
地面を砕き、更なる飛礫と塵を巻き上げ、轟音が一時的に聴力を奪った。

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◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:00:59.93 ID:KNKF5ZZmo<>
 完全に視界が塞がれた。
 それこそが狙いだと看破したマミは、すかさずベレー帽を手に取り眼前で振る。 
 手品のように、いくつもの銃がベレー帽から落ち、地面に突き立った。

 銃を手に取り、撃っては捨て、撃っては捨てるマミ。
 魔女はその巨体が仇となった。これだけ大きければ、適当に撃ってもどこかに当たる。
 数多の銃火が閃く。
 視界が晴れた時、魔女は堪らず上に逃げた。

「逃がさないわよ!!」

 魔女はドームの壁をなぞるように蝶の羽を羽ばたかせる。
 ドームの壁面を飾る紋様は、非常口を示すピクトグラムと蝶。
このふたつがそれぞれ逆方向に流れている。
 マミが撃つ度に、それらが砕け抉れた。

 図体に似合わず機敏な魔女は、マミの射撃技術をもってしても捉えきれない。
 躍起になるあまり、マミは気付くのが遅れた。
 足下に纏わりつく小型の使い魔が、いつの間にか連なり、胴まで這っていたことに。
 
「っ……あっ!?」

 戸惑うマミの身体を這う使い魔が、黒い触手に変じた。
 束縛されたマミは触手に吊り上げられ、振り回される。

 鋼牙は咄嗟に身構えた。が、駆け出しはしなかった。助けるべきか判断に迷ったのだ。
 これが自分より弱い者であれば一も二もなく動いただろう。
明らかに抗う術を持たないとわかるからだ。 
 だが、マミは相応の実力者だ。加えて、まだ手の内をすべて見せていない。
下手に動けば逆に窮地に陥るかもしれなかった。

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◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:02:19.32 ID:KNKF5ZZmo<>
 鋼牙がマミと共闘しなかった理由もそこに起因する。
 銃と剣という武器の特性上、鋼牙とマミの相性は一見悪くないかのように思えるが、
それは互いに呼吸を合わせられることが前提である。
 事前に入念な打ち合わせをするか、言葉を交さずとも意思の疎通が図れるほどの関係でなければ、
足を引っ張り合うだけ。

 一瞬の逡巡の末、鋼牙は様子見を選択した。
 そう決めさせたのは、何よりもマミの瞳。
 すぐにでも脱出しなければ、散々振り回された挙句に壁か地面に叩きつけられるだろうに、
敵を射抜くギラついた眼光は未だ死んではいない。それどころか一分の揺らぎも見られない。

 マミは振り回されながらも、魔女目掛けて何度も発砲する。
 しかし、そのほとんどが地面を穿つだけに終わる。
 抵抗空しく、マミの身体が壁に叩きつけられる。
壁は衝撃の度合いを示すように大きくへこみ、蜘蛛の巣状にひびが入った。

「マミさん!!」

 観戦していた二人の少女がマミの名を叫ぶ。
 背骨が折れてもおかしくない衝撃。それでも鋼牙は動かない。
 気が気でなかった。二人の敗北が自分たちの死に直結することも今は頭になく、
ただただマミの身を案じていた。
 それしかできなかった。

 再度、逆さ吊りにされたマミ。その表情は穏やかだった。
まどかとさやかに微笑みを向けさえした。
 そこにあるのは諦観ではない、勝利を前にした余裕。
 魔女にも少女二人にもその意図は読み取れず、しかしすぐに理解した。

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◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:03:27.43 ID:KNKF5ZZmo<>
 苦し紛れに放ったと思われた銃痕から、金色の糸が伸びた。
糸はみるみる魔女に巻き付き、幾重にも拘束する。
 か細くとも魔法で編まれた糸。魔女が暴れようとビクともしない。

「惜しかったわね」

 鷹揚に言い放つと、マミは襟元のリボンを解いた。
 リボンの先端は鋭利な刃となり、マミを縛る触手を断ち切る。
 空中で器用に身を翻し、魔女を正面下方に捉えた。

 手に持ったリボンが螺旋を描き、マミの背丈を超えた輪郭を形成。
 巨大な銃が手に握られた。
 必殺の光弾、"ティロ・フィナーレ"。
 あのホラーには通じなかったが、魔女になら。

 つい数秒前までマミがそうだったように、魔女は縛られて動けない。
 いい気味だ、と思った。
 外しようもない距離。充填された魔力は万全。後は発射の時を待つだけ。


 マミは引き金に指を掛け――――だが引かなかった。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:04:38.09 ID:KNKF5ZZmo<>
「なにっ……!?」
 
「え……?」

 絶好のタイミングを外したマミはそのまま落下、着地した。
 予想外なマミの行動は鋼牙を動揺させ、ガッツポーズを準備していたさやかが固まった。
 誰もがマミの勝利を確信していた。この局面で撃たない選択肢などあり得なかった。
 いくら首を捻っても理解できなかった。

 マミは引き金を引くはずだった右手を見つめ、愕然とした。
 何故撃たなかったのか、自分でもわからない。
 しかし撃つ寸前、苦しみもがく魔女と眼が合った。
 正確には気がしただけ。顔に付いた薔薇の花がそう見えただけ。

 だが、マミにはそれで充分だった。
 醜悪な外見も、低い苦悶の唸りも人とはかけ離れたもの。
にも関わらず、自分が銃口を向けた魔女の顔がブレて、大人しそうな少女の顔に映った。 
 更には、それが自分の顔と重なった瞬間、人差し指が引きつってしまった。 
 
 マミが土壇場で生じた迷いに翻弄されている間も、敵は止まらない。
 魔女の身体に無数の髭の使い魔が飛び付く。
手に手に鋏を持った使い魔は、魔女を縛る金糸を断ち始めた。
 魔力の糸は一本でも相当の強度を持つが、使い魔も鋏も魔女の魔力で出来た物。
 原理が同じなら、断てない道理はない。
 
「何をしている! 戦え!!」

 鋼牙の声にマミがハッと我に返るのと、魔女が戒めから解き放たれたのはほぼ同時。
 再び振り下ろされた触手を横に転がってかわす。 <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:05:29.52 ID:KNKF5ZZmo<>
 ほんの一秒か二秒とはいえ、またしても意識が乖離していた。
 そして、それを鋼牙に指摘された。
 頭が沸騰するくらい熱くなるが、魔女は悔しむ暇すら与えてくれない。

 そういえば、左手がやけに重い。
 ティロ・フィナーレの為に巨大化した銃を持ったままだった。
 
――くっ……動きにくい……!
どうしよう、どうすれば……――

 ぎこちなく回避を何度か繰り返してから気付く。

――馬鹿な……重いなら捨てればいいんだわ。

 放り投げた銃がリボンに戻った。
 空手になっても、マミの動きは冴えなかった。
 追い詰められ、徐々に後退する。
その間も魔女の触手は狩りを、獲物を嬲るのを楽しんでいるようだった。

 そして、マミがバックステップを踏んだ時、それは起こった。
 足の裏に異なる感触。地を踏み締めるのとも、使い魔のとも違う。
 見ると、両足は落ちていた薔薇の花を踏み潰していた。

「ォオオオオオオオオオ――!!!!」

 突如、魔女の唸りが空間を震わせる。全身が激しく躍動する。
 言葉でなくとも理解できた。その唸り声には明らかな感情が籠っていたから。 
 それは怒号。
 
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:06:33.92 ID:KNKF5ZZmo<>
 魔女の触手が凄まじい速さで伸びる。
 振り下ろしではなく直線。
さきほどまでの嬲るようなものでなく、直接マミを打ちに来た。
 
「きゃぁぁっ――!」

 動きに精彩を欠いたマミは避け切れず、殴られ、バウンドしつつ転がった。
 最早、魔女に容赦はない。
起き上がる間もなく、殴った触手でマミは捕らえられた。
 今度は万が一にも逃げられぬよう、両手足まで雁字搦めに縛りつけて。 

 大切な薔薇を踏みにじられた怒りを、踏みにじった者にぶつける。
 その勢いは初撃とは比べ物にならない。たった一撃で、結界全体を揺らすほどだ。
 
「かはっ……!!」

 叩きつけられたマミの目は見開かれ、唾液と肺の空気が絞り出された。
 当然、その程度で許すはずもない。何度も何度も、同じ場所に叩きつける。
 全身に巻き付けられた触手は、到底クッションの役割を果たさない。
 その内、吐き出されるのは唾液から血反吐に変わった。
最初は懸命に触手を振り解こうとしていた両腕も、だらりと垂れ下がっている。

 如何に魔法少女といえど、こうも強く、連続で打撃を喰らっては、遠からず全身の骨が砕ける。
 それでも、普段のマミならば辛うじて反撃できたかもしれない。
けれど、今のマミの精神状態は平常とは程遠かった。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:06:59.50 ID:KNKF5ZZmo<>
「もう止めて! マミさんが死んじゃう……」

 子供に手荒く弄ばれる人形のように扱われるマミを直視できず、
まどかは顔を覆い、震える声で懇願する。
 それが神であれ魔女であれ、聞き届けられることはないと知っていても。

 さやかはそれを知ってか知らずか、祈りはしなかった。
 懇願するなら神ではない。頼れるのは彼しかいない。

「冴島さん!!」

 さやかが呼ぶまでもなく、鋼牙は走りながら魔戒剣で宙に円を描く。
 空中に浮かんだ輪から溢れる光は鋼牙を包み――。

 どこからともなく、狼の咆哮が轟く。
 涙に濡れた瞳に映るのは、昨夜も自分を救ってくれた黄金の光。
 闇の中で唯一の希望。
 黄金騎士が、そこに降臨した。

<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:07:57.20 ID:KNKF5ZZmo<>
 鋼牙はマミが再び捕らえられた瞬間、弾かれたように飛び出した。
 垣間見えたマミの顔に、戦士のそれは既になく、あるのは恐怖と混乱のみ。
すぐさま鋼牙はマミを助けるべく、鎧を召喚した。
 
 しかし、その行く手を使い魔の群れが阻む。
 昨夜の一件から、鋼牙が脅威であると認識しているのだろう。
 雑魚も束になれば、数秒の時間稼ぎにはなる。それでなくとも距離が足りないというのに。

 こいつらを蹴散らし、一刻も早く駆けつけるには。

 ガロとなった鋼牙は意を決し、使い魔の群れに突っ込んだ。
四方八方から襲われようと意にも介さず牙狼剣で紋章を描き、高く高く跳ぶ。
 そして、黄金騎士が叫んだ。


「轟天!!」


――と。

 紋章は光で溢れ、ゲートと化す。
 ガロの呼び声に応え、高らかな蹄の音が木霊する。
 ゲートの内より現れ、素早くガロの下にその身を滑り込ませたもの。

 それはガロと同じ、全身に神々しいまでの黄金の光を纏った馬。
 全身に黄金の鎧を纏い――いや、生物らしき素肌は見えない。
まるで全身が黄金で出来ているかのようだった。

 当然、少女たちは知る由もない。
 それは黄金騎士、牙狼の愛馬。
 100体のホラーを封印した暁に得た、赤い鬣をなびかせた魔導馬。
 名を轟天と云った。
<>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:09:01.47 ID:KNKF5ZZmo<> ここまで。次もできれば来週日曜か月曜。でも、少し遅れるかもしれません
ほぼ原作まんまです
ゲルト戦はあまり脚色できませんでした
マミさんを下げる様な形になってファンの方には申し訳ないです
でも2,3話は本編同様マミが主役なので
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/13(火) 04:10:17.79 ID:SoQDXY0go<> 乙! <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/13(火) 04:10:24.68 ID:KNKF5ZZmo<> 忘れてました
次の投下の際は次スレを立てようかと思います
もしくは残りで収まる量で投下か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/13(火) 11:43:18.54 ID:efLxVp8eo<> 乙でした
轟天ちゃんキタああああ!
もうやめて!マミさんのライフは生命と精神、両方の意味でとっくにゼロよ!

そしてついに次スレか。実に濃厚な1スレだったな
今後も楽しみにしております <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/13(火) 16:10:11.67 ID:KiZ/6J9Ho<> マミさんここで苦戦しておけば、シャル戦で慢心して殺されることもなさそうだなー
とメタな推測をして安心してみたり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/14(水) 01:49:42.56 ID:lybr8zA90<> 乙
だからマミさんの前で轟天を出すなとアレほど(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/14(水) 22:28:28.39 ID:b5+EpCzY0<> 乙
マミさん…鋼牙への対抗意識が、RED REQUIEMの頃の烈花並みか?
その内、過去に死んだ魔法少女たちの魂として呼び出され、雄叫び上げながらワルプルに突撃する役とかにならなきゃいいがww
焦るなマミさん。お前の時代は、まだずっと先だ。……生きてればの話だけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/16(金) 13:29:25.57 ID:nk/Ykjmzo<> それでいいのかマミさんよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/03/16(金) 23:29:41.73 ID:sN1D1M5co<> まどポやってたら、マミさんがそうとう寂しがりやで切なくなる
TV本編のまどかたちの前では強がってたんだなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/03/17(土) 17:18:41.19 ID:9y+aS+sN0<> 乙

魔法少女の窮地を颯爽と魔戎騎士が救うというのはやはりいいね。
牙狼とまどかの相性のよさはやはり異常だわ。挿絵描いてくれる人いないかしら <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 19:12:35.40 ID:gRwkIp3n0<> 乙。

牙狼もまどかも“友”が色んな意味でキーワードだからね。
鋼牙もこの小説の後でMAKAISENKIに突入すると思うと辛いな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/03/17(土) 20:09:19.96 ID:9y+aS+sN0<> わたしの最高のザルバたち

というサブタイが頭をよぎった

そして「サブタイが」と入力して変換したら「サブ大河」になって吹いた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 21:34:05.73 ID:NvX93S6Yo<> 1000は>>1が建てる次スレの案内しとけ
環境によったら次スレを探すのがめんどくさい人もいるだろう <>
◆ySV3bQLdI.<> saga<>2012/03/26(月) 00:02:59.30 ID:3kJPE1Eho<> なんやかんやで大変遅くなり、申し訳ありませんでした
このスレでは長い間お付き合い頂きありがとうございました
次スレでもよろしくお願いします
それでは

次スレ
さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi?bbs=news4ssnip&key=1332687612&ls=50
<> 1001<><>Over 1000 Thread<>      (ヽ、 _ヽ、  )\     ヽヽ
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     )ヽ           |  /  /  ( ((|   ) ヽ
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 (_ ノ     )(  ( (    / /^)  ) )  )
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  .ト、.  /ヽ |\  /ヽ  /”゙ォv' .// // /
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 ̄/   ,llll!!'    lllllllllllllllll!!!l_      :ll!!!゙゙゜   <_
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   .__⊥_    <こんなおわらせかたじゃあ、
  (____)     あとがこまるじゃないか!
  |_ノ_ヽ  ヽ
  | 3 | ◎| ̄ ̄6)  なんというむせきにんなわしだ!!
  ( ̄○丶   .|
  ヽ_◎__/)
  (
                                               SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>さやか「黄金の……狼……」 牙狼―GARO―魔法少女篇 第二夜 @ 2012/03/26(月) 00:00:12.97 ID:3kJPE1Eho
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【理想の妻と】妹に告白された!!!50【一途な紳士】 @ 2012/03/25(日) 23:48:44.90 ID:G2mL664IO
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【兄が】ベーコンさんの免許取得を見守るスレ【知的障害者ですが】 @ 2012/03/25(日) 23:19:37.35 ID:3PbmrJ470
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就職活動、受験、合格スレ。君なら合格できる @ 2012/03/25(日) 22:51:35.52 ID:J8I9c84DO
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僕と彼女の話を書きたい思います。 @ 2012/03/25(日) 22:45:14.00 ID:2LwZ9J8X0
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ひなティとまったりスレ @ 2012/03/25(日) 22:33:10.91 ID:9Z6FI70Wo
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【A雑】ストライクウィッチーズ【(・×・)ムリダナ】 @ 2012/03/25(日) 22:13:26.71 ID:7J8+Hn0yo
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怪我を負わせた女性に惚れた。 @ 2012/03/25(日) 21:52:29.96 ID:gLNOzkFDO
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