たくま<><>2011/04/23(土) 22:51:45.33 ID:6VJq3Mxf0<>最近pixivに投稿したりしてるたくまと申しますこんばんわ。
なんか畑違いな気がしたのと、人によっては受け付けない内容なのでスレ建てることにしました。

初心者なのでどうかお手柔らかにお願いします。
学校との兼ね合いで、ちょっとスローペースかもしんないです。
誤字・脱字には気をつけますが、見落としあるかもです。


(!)注意書き


・時系列的に、絶対能力進化実験のあたりです。(多少順を入れ替えたりしてます。)
・すんごく再構成です。
・上条さんは記憶を失っていません。でもインデックスを助け出し、一緒に暮らしてます。
・一方さん≠百合子ちゃんです。2歳差兄妹です。
・重要人物のオリキャラが百合子ちゃん含め最低でも4人は出てきます。
・もしかするとオリキャラ無双の恐れがあります。
・MNWネタの妹達の個性を拝借するかもです。
・恐らく上琴です。
・恐らく番外通行です。
・百合子ちゃん×オリキャラです。
・もしかしたらもしかすると黒子×オリキャラかも…。まだわかりません。
・割とシリアスです。
・いろいろと厨二です。
・ssほぼ初心者です。
・視点の切り替えにより、話がとびとびになったりします。


それでもいいよって方以外は見ないことを激しくオススメします。
上記以外で何か気になることがあれば聞いて下さい。
<>上条「だから改めてお前に誓う。俺は御坂美琴とその周りの世界を守る。」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/23(土) 22:56:20.91 ID:q4QH3YGzo<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/04/23(土) 22:58:49.63 ID:stPNaY2Po<> とっと書け太郎 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:01:50.68 ID:6VJq3Mxf0<>



プロローグ




――9年前――




とある、不幸な少年がいました。
まわりの大人達には疫病神と言われ、憎まれていました。

少年に辛い思いをさせたくなかった少年の両親は、少年を科学の街に行かせることにしました。
少年は、小学校に上がると同時に科学の街に一人移り住むことになりました。

ですが、科学の街に来ても、少年は一人ぼっちになるのでした。

人との接し方を――忘れてしまったからです。









とある、妹思いの少年がいました。
その見た目から、親も含め誰も自分に寄りつこうとしませんでした。

少年は、自分と同じ境遇にある妹のためにも、偏見の無い世界を求め、二人で科学の街へやってきました。

ですが、科学の街でも自分達には誰も寄りつきませんでした。

見た目のせいではなく――その強大な力を持つ故に。











とある、寂しがり屋の少年がいました。
その才能故に、輪の中心には立てども、輪の中には入れずにいました。

少年は、才能を伸ばすために科学の街へとやってきたのでした。

誰からも崇められる存在となり、何一つ不自由はありませんでした。

ただひとつ――対等に付き合える友達がいないのを除いて。







ある日不幸な少年は、河原に人だかりができているのを見つけました。
怖そうな大人が輪を作ったその中心には、妹思いの少年と、その妹がいました。
妹思いの少年は息切れをしていて、かなり疲れているように見えましたが、必死に妹を守っていました。
妹は、今にも泣き出しそうな顔をしながら、兄の後ろで震えていました。
不幸な少年は、その兄妹を助けるために輪の中へと入って行きました。
ですが、子供が一人増えたところで何ができるわけもありません。
怖そうな大人達は、各々に好き勝手なことを言いながら迫ってきました。
少年達は、恐怖で目を瞑りました。
しかし、いくら経っても何も起こりません。
恐る恐る目を開けてみると、先程まで自分達を囲んでいた大人達が倒れていました。
その先に、こちらを心配そうに見る、寂しがり屋の少年がいました。

これが、3人の少年と1人の少女の出会いでした。
<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:06:24.05 ID:6VJq3Mxf0<>
――現在――




とある男子寮の一室。


「とうま!起きるんだよ!とうま!」

「んー…もうちょっと…。」

「お腹が空いて死にそうなんだよ!もうお昼ごはんの時間も過ぎてるかも!!!」

「だあああ!?わかった、わかったから噛むな!!」

「わかればいいんだよ!」

「全く、せっかくの休日だから寝てようと思ったのに理不尽な怒りを買うとは…不幸だ…。」

「とうま…いくら私でも朝ごはんとお昼ごはん抜きは怒っていいと思うんだよ?」

「…いや、お前いっつも怒って、って、わぎゃあああ!噛むな!噛まないで!!!!」



上条家の休日は、噛み付きから始まる。
上条はこれを不幸だと思っているようだが、インデックスに言わせれば自業自得、である。
頭蓋骨の痛みに耐えながら台所に立つ。
これが日課になりつつあることに不安を覚える上条当麻。

とりあえず同居人に食事を与える。



「いただきます!」



またたく間に野菜炒めが無くなってゆく。
これが、上条家の財政を圧迫する大きな要因のひとつ…いや、ただひとつの要因だ。



「ごちそうさま!私はシスターだからね、このくらいで我慢しておくんだよ!」

「はいよ、お粗末さま…。」

「どうしたの?とうま。元気無いかも。」

「いや、お前がもう少し食欲を抑えてくれたら上条家の財政も良くなるなあ、と思ってなぁ。」

「む。聞き捨てならないんだよ…。」

「い、インデックスさん?……か、上条さんは用事を思い出したので出かけてきます!!」

「あっ、待つんだよ当麻!?…………逃げ足だけは聖人レベルかも…。」










(しっかし、インデックスから逃げたはいいものの…暇だなぁ。)



せっかくの休日が暇でしょうがない。
嬉しいのか悲しいのかよくわからないところだ。




「いたいた!見つけたわよアンタ!!」

「のあ、電撃!?……お前かビリビリ。」 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:07:16.11 ID:6VJq3Mxf0<> 常盤台の制服を着た少女。
学園都市の超能力者第三位の超電磁砲。
上条当麻の幼馴染。
彼女の名は、御坂美琴。



「だ・か・ら!!ビリビリって言うなっつーの!!」

「だあああ!!だから俺も言ってんだろ!言われたくなきゃいきなり電撃撃つな!!」

「何よ!どういう意味よそれ!」

「出会い頭に電撃撃たれたらビリビリって呼ぶって決めてんだよ!」

「な…!じゃあ何よ!撃たなかったら名前で呼んでくれるわけ?」

「ああ、ちゃんと美琴って呼んでやるよ。」

「ふにゃ!?……み…み…みこ……/////」

「あ…アレ?どうした?…美琴?」

「な…な…いきりなり名前で呼んでんじゃないわよ!!/////」

「ん?なんだよ、昔から美琴って呼んでたじゃねぇか。……ああ、そうか、そろそろ名前は恥ずかしい年齢か……なら御坂って呼ぶか?」

「えっ…………やだ。」

「はい?じゃあ何て呼べばいいんでせう?」

「…………名前。」

「呼ばれたくないんじゃなかったのか?」

「だって…アンタが…その……。」

「………?……とにかくよくわかんねぇけど、美琴、でいいんだな?」

「(ポン////)………うん。///」

「はぁ、全く……。しょうがねぇ奴だな………。」

「……?どうしたの?」

「ん?何がだ?」

「なんか……元気無い。」

「ああ…………。幼馴染が何を考えてるのかよくわからなくてなぁ。」

「ぐむ……悪かったわね!」 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:07:45.92 ID:6VJq3Mxf0<>




本当は違う。

今朝のインデックスとの会話の時だってそうだ。


怖いのだ。

この日常に慣れてしまうことが。


あの日のことを。
あの約束のことを忘れてしまうのが、怖いのだ。






<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(九州)<>sage<>2011/04/23(土) 23:07:58.95 ID:OFdXs7kAO<> ここまで初心者がしっくりくるのも・・・
まあ期待 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:08:34.46 ID:6VJq3Mxf0<> 夜。




「なーンなーンでーすかァ?これはァ。」




彼の通り名は一方通行。
学園都市最強の超能力者。
本名――人間としての名は、捨てた。
彼の本当の名を知る者はほとんどいない。
が、ほんの僅かにいることも事実である。

例えばそう。
目の前でむくれている少女とか。




「なンでもいいじゃン。ほっといてよ。」




白髪に、赤い瞳。
彼女の名は鈴科百合子。
一方通行の2歳年下の妹だ。
ちなみに能力はというと、「一方通行」の大能力者。
彼女は、光と音を除いては視認できる対象にしか能力を発揮できない。
だから、稀有な能力を持ちながらも大能力者止まりなのだった。




「よくないですゥ。なンで毎度毎度人様のお家を荒らすンですかァ?」




一方通行は、あちらこちらで恨みを買っている。
なので、留守中に部屋を荒らそうとする嫌がらせの類も多かった。

そう、多「かった」。

百合子が近所に越してきてからというもの、誰かに荒らされる前に彼女に荒らされる。

一方通行は、妹の奇行に頭を抱えるしかなかった。

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:10:45.51 ID:6VJq3Mxf0<> 「………むかつくンだよね。」

「あァ?」

「何も無かったかのようにさぁ…。全部忘れたようにさぁ。」

「…………。」

「なンだかンだ幸せそうに生きてるの見るとさぁ、むかつくンだよ!」

「……………忘れてなンかねェよ。」

「…………ほんとに?」

「当たり前だ。……忘れてたまるかってンだ。」

「……ならなンで…。」

「『忘れない』ってのは、ずっと過去を引きずることを言うのか?それとも、それを胸に刻み込ンで前に進むことを言うのか?」

「………………。」

「そォいうことだ。」






百合子は黙って部屋を出て行った。
このやり取りは、たびたび行われている。
最後はいつも決まってこうなるのだ。





「それにしてもよォ……。そろそろ俺…戦うよりもお片付けの方が得意になってきたンじゃねェかァ?」




一方通行が床を足で蹴ると、散らかっていたものが元通りになる。
壊れてしまったものなどは、綺麗な放物線を描いてゴミ箱へと吸い込まれていった。




「学園都市最強の家政婦、一方通行ですってかァ?…………悲しくなってくるぜェ……。」




ふと窓の外に目をやる。

『もしも超能力者になったら星空を作る』

夜空を見ていたら、その言葉を思い出した。





ブー ブー





先程剣玉のように充電器にセットされた一方通行の携帯電話が、震えた。 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:11:43.04 ID:6VJq3Mxf0<> 一方通行は、おもむろに電話を取る。


「こちら学園都市コールセンターですゥ。この電話番号は現在使われ…。」

『茶番はよしてもらおうか一方通行。』

「……なンの用かなァ天井くン。」

『白々しいな。実験のことに決まっているだろう?』

「何度言えばわかるンですかァ?拒否するって言ってンだろォがよォ。」

『だが君も絶対能力に興味はあるのだろう?』

「…否定はしねェがあンな方法しかねェなら、そンなもン要らねェ。」

『まぁいずれその気になってくれるとは思ってるさ。』

「つゥかよォ、いい加減にしてくれませンかねェ?ストーカーがウザくてしょォがねェンだけどよォ。」

『……アレに関しては私達も想定外だ。色々な意味でな。』

「……あァそォかい…………話はそれだけか?」

『君が実験を受けるというなら詳細のせつめ』



最後まで聞かずに、一方通行は通話を切る。



「クソッタレが…。」



口直し、というよりも気分直しにコーヒーを飲むことにする一方通行。
携帯を置き、冷蔵庫の方へと向かう。

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:12:28.74 ID:6VJq3Mxf0<>
「…なンだなンだよなンですかァ?!」



冷蔵庫のブラックコーヒーが、全て砂糖・クリーム入りに交換されていた。



「妹ちゃンの可愛いイタズラですゥってかァ?」



口調はハイテンションだが、内心テンションだだ下がりである。
この嫌がらせパターンは初めてだ。
今後に備えて天井裏にでもコーヒーの保管スペースを作っておこうか、と一方通行は考える。

仕方なく、彼は夜のコンビニへと向かう。
が。





「申し訳ございませんお客様、こちらの商品は先程来られたお客様が大量にお買い上げで…品切れです。」

「なンだとォ……。」




一方通行はコーヒー通だ。
いや、正確には缶コーヒー通である。

気に行った銘柄を見つけては買い占め、飽きたら新たな銘柄を試し、気に入ればそれを買い占め…の繰り返し。

今現在彼が気に入っている銘柄のみが綺麗に買い占められていた。

近所のコンビニ3店舗を回ったが、全店舗状況は同じ。




(百合子ォォオオ!!!そこまでするとはいい度胸だぜェエエエ!!!!)



どうやって妹に復讐してやろうか。
そういえばあいつは紅茶好きだったはずだ。
ならあいつの好きな銘柄を…いやダメだ、学園都市第一位として二番煎じは格好悪すぎる。

実に下らないことに最高の頭脳を使っているところに、最近よく聞く声が聞こえてきた。

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:13:14.32 ID:6VJq3Mxf0<>


「やっほう、いじめに来たよ、第一位☆」







「……テメェ………。」



通称番外個体。
一方通行が実験に非協力的なのは、クローンを[ピーーー]ことに抵抗があるからだと天井は考えた。
なので、その抵抗を取り除くため、妹達に一方通行を襲わせ、自衛のために妹達を傷つけさせ、あわよくば殺させてしまおうと考えた。
だが一方通行の力を持ってすれば、彼女らに危害を加えること無く彼女らを無力化することが可能であった。
そこで能力レベルを上げられるだけ上げ、さらに一方通行を戦う気にさせる――つまり「キレさせ」る――ために、対一方通行用の性格に調整した個体を用意した。

それがこの突然現れた彼女の正体である。


ちなみに一方通行が彼女に対し不機嫌になった理由は、口調に腹が立つからでも、彼女の日頃の行いに対する恨みでもない。

彼女が両手に抱える大量のビニール袋の中身。

それが彼を不機嫌にさせた。




「あっひゃっひゃっひゃ!ミサカ随分と待ったんだよ?お陰で手が痛くなっちゃった。ねぇ、責任取ってくれない?第一位〜?」

「オーケーわかったァ。そいつを今すぐ全部俺に寄こせ。そしたらお手々が軽くなってラクだぜェ?」

「ぶっひゃ!何それまじで言ってんの?ミサカがそう簡単にこれを渡してあげると思ってんのかにゃー?」




確かに一方通行からすればとても腹が立つ。
しかし、いくらなんでもこの程度でキレて殺してしまうようなことは決してない。

これは、研究員達の誤算だった。

番外個体の性格を対一方通行用に調整した結果、性格が悪くなる、というよりも何かおかしな方向へと調整されてしまった。
いざ番外個体を一方通行に当てた結果、彼女のしたことの内、彼が本気でキレるような大きな嫌がらせは最初の数回だけ。
ちょこまかとした小さな嫌がらせの方が楽しいことに気づいてからは、そればかり。
本当は「面白い」以外に、もうひとつ理由があるのだが。

ともかく、一応「一方通行を怒らせ、殺されろ」という任務からはギリギリズレてはいないと言えないこともない。
少なくとも彼女はそう考えている。
だが研究員達からすれば大きな誤算だった。


無論、一方通行からしてみれば本当にいい迷惑である。 <> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:14:16.39 ID:6VJq3Mxf0<>
「つゥかよォ。もしかしてあの冷蔵庫…。」

「今更気づいたのかにゃん?もちろんミサカに決まってるよ☆」

「……鍵はどォした。」

「電子ロックなんてミサカの前では無力だし。」




そう言って、バチバチと前髪から紫電を散らせる番外個体。

こういうのは相手をするだけ無駄だ。
なら。




「もォいいや。帰る。」クルッ

「はっ、そうやってミサカを油断させておいてコーヒーを奪おうって作戦?第一位のクセに考えることがセコイよねぇ!」

「……………………。」スタスタ

「…え、ちょっと……ねぇちょっと!ホントに帰っちゃうの?!ねぇってば!」

「……………………。」スタスタ

「ふ、ふん。別に帰ったところでこのコーヒーが手に入る訳でもないし?ミサカの勝ちだけどね!」

「……………………。」スタスタ

「……ほ、ホントに帰っちゃうのかよぅ……。」

「……………………。」スタスタ

「……………ば、馬鹿ぁ!い、いじめさせろよぅ…!構ってよぅ!相手してよぅ!」

「……………………。」スタスタ


「……うぅ………グスン。」




最近覚えた、彼なりの番外個体の対処法であった。
……少し心が痛まないことも無いが、彼女の嫌がらせでチャラ、ということにしておく。

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:15:33.29 ID:6VJq3Mxf0<>

「それで、泣きながら帰ってきた、と?」

「な、泣いてないし!それにコーヒーは奪えたからミサカの勝ちだし!」

「……下らん。実に下らん。」

「下らなくなんかない!一方通行をじわじわとなぶり殺しにしてやる作戦なんだからこれでいいの!」

「………いつから君は[ピーーー]側になったんだ?」

「う……。」

「いいかね。君は[ピーーー]側じゃなくて殺される側だ。どうしてさっさと殺されることができないんだ?」

「……………。」

「死ぬのが怖いか?」

「!!」

「全く、クローン風情が何を人間ごっこしているのだか。お前達はただの実験動物だということを忘れるな。特にお前は逃げようとしても無駄だ。わかってるな?」

「……………。」

「返事が聞こえないが?」

「……………は、い…ミサカ、は、実験動物、です…。」

「…ふん。拒否権など無いんだ、勘違いするな。まぁ拒否しようとしたところで、打ち止めがこちら側にある限りお前達には何もできないんだがな。」

「……………。」

「天井博士!」

「ん?何だ?」

「例のアレがあらかた完成しました。」

「おお、本当か!これでやっと役立たずに振り回されずにすむ…。」

「はい、ただ、細かい調整は我々では無理なので…。」

「わかった、すぐ行こう。……まだいたのかこの役立たず。さっさと自室に戻れ。」

「……………。」

「博士、バイタルに動きが!」

「わかった!すぐ行く!」タタタ…

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:16:39.29 ID:6VJq3Mxf0<>

「もしかして………ミサカ、もう、要らない…のかな…?」





番外個体は、ひとりその場に取り残される。

他の妹達は、実験に影響が無いように調整をされている。
個性は自我を生み、死を恐れる原因となる。
そうならないよう調整されているので、彼女らが逃げ出すことは、今のところはまず無い。

だが、番外個体の場合、一方通行を怒らせるために作られた個体である。
そうなれば当然、一方通行の癇に障るような性格が――個性が必要となる。
そのため、彼女は死を、恐れる。
だから研究員達は彼女に「首輪」をつけた。



番外個体は、スイッチひとつで弾け飛ぶ小さな塊を埋め込まれた後頭部を触る。



「処分……されちゃう……のかな…………。」



声が、震えていた。



彼に届くわけがないとわかっていながらも、彼女は呟く。
泣きそうな声で、呟く。













「……誰か………助けて……………………。」

<> たくま<>sage<>2011/04/23(土) 23:19:21.33 ID:6VJq3Mxf0<> とりあえずここまでにしときます。
書くのってすごく難しいです……orz
まだ書き溜めはありますが、ちょっと加筆したり修正したりしますので。
もしかしたら1時くらいにまた投下するかもです。

こんなんでもお付き合いいただけたら幸いです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/04/23(土) 23:27:41.50 ID:SevEJSOe0<> これは、期待、だな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/23(土) 23:44:45.39 ID:i5E2ykfW0<> なかなかいいと思います。

>>1頑張って下さい!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 00:08:10.31 ID:bAudvM/DO<> これはいい <> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:22:18.36 ID:4Az5UeA+0<> ホントありがとうございます!
正直自信の無さでいろいろガクブルですorz
ちなみに[ピーーー]は 殺 す が入ります。どうやったら[ピーーー]にならなくなるんでしょう……。

最初の方はサラッと終わらせるために結構急ぎ足になってますが御了承下さい。

書き溜めある程度修正したので投下しまーす。 <> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:23:10.37 ID:4Az5UeA+0<>
「幻想御手?」

「そうですの。」

「アレって全部回収されたんじゃなかったっけ?」



美琴は、寮の自室のベッドでくつろいでいた。
ルームメイトが何やら忙しそうにしているので、何をしているのか尋ねてみたところ、「幻想御手」について調べているという。



「ええ、そのはずなんですの。一応例の木山春生の近辺を調べてみたのですが、何も見つかりませんでしたの。」

「ていうかそもそも置き去りの子達は助かったわけだし…。もうあの人が幻想御手を使う理由が無いわよ。」

「まぁ、それもそうですわね。」

「ていうかどうして幻想御手だと思うわけ?」

「風紀委員や警備員が捉えた能力者……また書庫と一致しませんの。」

「……今度こそ書庫が更新されてないとかじゃないの?」

「いえ、最終更新日時や、捉えた能力者の最後に受けた能力測定の結果などを調べたのですが…それは無さそうですの。」

「……幻想御手の時と一緒ね…。」

「……ただ、幻想御手が原因だとしても、ひとつだけ前回と違う点がありますの。」

「違う、点?」

「ええ。今回の幻想御手……前回の用な昏睡ではなくて……別の症状が出るんですの……。」

「……どうなるの?」



「………全身から出血し、最悪の場合死に至りますの。」

<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:23:48.99 ID:4Az5UeA+0<>


その夜、美琴はベッドの中で新たなる「幻想御手」について考えていた。



(全身から血が出るってどういうことよ?)

(脳が出血、とかならまだわかる。でも「全身」ってどういう…?)



考えてもさっぱりわからない。
明日上条に相談してみよう。


幼馴染で面倒見のいいお兄さん、上条。
美琴は、困ったことがあると彼に相談する。

知っての通り、上条の通う高校はあまりランクの高くない学校である。

しかし、勉強こそできない上条であるが、なぜか美琴の知らないことを知っていたりする。
例えば「自分だけの現実」に関しては、美琴よりも上条の方が理解が深い。

一度なぜ異常に詳しい分野があるのか聞いてみたことがある。
だが、上条は「昔、な。」というだけで、詳しいことは話してくれなかった。

美琴がわからないことは大抵上条が知っている。
上条がわからないこと(むしろわからないことの方が多いが)は、大抵美琴が知っているので、上条は美琴から受けた相談をほぼ全て解決している。

つまり、上条が解決できないようなものは、美琴が自分で解決できる、ということだ。


明日どこで待ち合わせ(待ち伏せ)よう。


そんなことを考えながら、美琴は眠りにつく。


<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:24:43.65 ID:4Az5UeA+0<>
次の日。



「初春!次は右と左、どっちですの?」

『次の路地を多分左です!』

「多分ってどういうことですの?」

『あ、いえ、通報のあった場所なんですが障害物が邪魔をして現場が見えないんですよ。なので、通報を信じるならば、という意味で…。』

「なーんかきな臭いですの…。まぁいいですわ、了解ですの!」



彼女の名は白井黒子。
御坂美琴のルームメイトであり、彼女を「お姉様」と慕っている、常盤台中学一年生。
空間移動の大能力者であり、風紀委員に所属している。

現在、同僚の初春のバックアップを受けながら、白井は風紀委員の任務を遂行していた。




『……もしかして、また幻想御手を使った能力者でしょうか…?』

「その可能性は十分にありますの。早めに病院のベッドを確保しておいた方がいいかもしれませんわね。」




最近出回っている可能性が高い、「新型幻想御手」。
個人差はあるが、使用して一定期間を過ぎると、全身から出血を起こし最悪の場合死に至る、という副作用。

最初に副作用が確認されたのは、八人目の「幻想御手を使ったと思われる能力者」の取り調べ中であった。
身柄を拘束していた他の七人の能力者の内、三人が全身から出血を起こし、倒れた。

すぐさま病院に搬送されたが、三人中二人は重体。
残りの一人は、出血のショックにより、病院への搬送中に亡くなった。

その後念のために、取り調べを後回しにして残りの五人も病院へ搬送。
白井黒子の上司である固法美緯の判断であったが、彼女の予感は的中した。
五人の能力者達は、次々と全身から出血を起こしたのだ。
だが病院に既に運ばれていたことが幸いし、五人とも一命を取り留めた。

新たなる幻想御手が出回っている可能性がある。副作用で命を落とす危険性がある。

白井の属する風紀委員の支部は、すぐに警備員へと連絡を取った。
学生達に注意を促してもらうためである。

だが、警備員の上層部の判断は意外なものだった。

幻想御手が再び出回っている、という情報を流してはいけない。
副作用についても、パニックを起こす恐れがあるため、情報を規制すること。
警備員と風紀委員は、至急秘密裏にこの事件を解決せよ。

それが、警備員上層部からの通達である。
当然、風紀委員や警備員は抗議した。
だが、結局それが通ることは無かったのだ。

白井黒子は昨晩この「秘密」を御坂美琴に話したが、それは許可が出たためではない。
誰よりも愛するお姉様であり、前回の幻想御手事件の際に共に戦った仲間。
彼女には、後で咎められようとも話しておきたかったのである。

<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:26:03.81 ID:4Az5UeA+0<> 『白井さん!現場まであと300メート……ガガ、ザザ』

「ん?初春?聞こえてますの?初春ー?」

『ザーーーーーーーーーーーーーーーーー』

「なんですの…?電波障害?」




「正解だぜお嬢ちゃん。」




「……どなたですの?」

「人に名前聞く時は、まず自分から名乗れってママに教わらなかったのかい?」

「ふん、いいでしょう。ジャッジメントですの!ここらで暴れている能力者がいると通報を受けましたの。その能力者とは、あなたのことですの?」

「おいおい、暴れてるたぁ人聞き悪いな。俺はただ新しい力を試してただけだぜ?」

「新しい力……?もしや、幻想御手……?」

「へぇー!もう情報掴んでるのか、すげぇな、風紀委員って!」

「褒められても嬉しくありませんわね。……新型の幻想御手を使っているのなら……本気で行かせてもらいますわよ。悪く思わないで下さいまし!」

「調子に乗るなよ!小娘が!!」



男が、白井に向かって殴りかかる。

だが白井には空間移動がある。

空間移動で男の背後を取った白井は、男の背に手を当てた。




「……ッ?!」

「なんだ、お嬢ちゃん…空間移動能力者か?」

「な、なぜ…なぜあなたを飛ばせませんの?!」




もう一度空間移動を行う白井。
今度は、男の後頭部にドロップキックをお見舞いした――はずだった。
空振り。
後ろから声が聞こえてきた。
<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:26:54.69 ID:4Az5UeA+0<>




「知ってんだろ……?空間移動能力者は、他の空間移動能力者を飛ばせない。」






「…ま、まさ…か…!!」

「ああ……悪ぃが俺も空間移動能力者なんだよ…!」



男が、釣り針のようなものが大量についた紐を取り出す。
釣り針のようなもの……釣り針のような「返し」のついた、針。



「能力上がる前はこれくらいしか飛ばせなくてなぁ…。まぁ精度も低かったから大して使えなかったんだが…。」



そう言って、針の一つに触れる。



「今はかなり的確に飛ばせるからな…?こいつを体内に直接飛ばしたら…どうなるかな?」



背筋に悪寒が走るのを、感じた。
空間移動能力者は、その能力故常に冷静でなければならない。
暴走した時に最も被害が大きくなる能力のひとつだからである。
白井も金属矢を武器として扱うが、それを相手の体内に直接飛ばすことはしない。
脅しをかけることこそあるが、本当にそれをやってしまったら大変なことになりかねないのだ。
だがこの男は。
本気で白井の体内に針を飛ばそうとしている。
まずい。
白井は、空間移動を繰り返し、一定の位置に留まらないようにしながら対策を考える。

手加減は出来ない。
やられる前にやらねば。

足に忍ばせてある鉄矢に手を伸ばす。



不意に、目の前に空き缶が現れた。
突然の出来事に、一瞬頭が回らなく――演算ができなくなる。



「ハッ!止まったな!!!」



左肩に、鋭い痛みが走った。



「――――――――――ッ!!!!!」

「痛くて声も出ねぇかあ!?」



男が、痛みに膝をついた白井の左肩を蹴る。 <> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:28:16.52 ID:4Az5UeA+0<> 「!!がぁああぁああぁあぁあぁ!!!??」

「おーおー、痛そう痛そう!……はは、実験は成功だ!今の俺は大能力者にも勝てる!」

「ゼェ…ゼェ………そ、それ、は……どう、いう……。」

「あ?馬鹿かお前…?『暴れてる能力者がいます』って通報……おかしいと思わなかったか?」

「………?」

「あれな、俺が自分で通報したんだよ。あたかも一般人を装ってな。その証拠に……こんなとこまず一般人は通らねぇだろ。」

「…………!」

「ちなみに電波障害は、そういった機材を使って俺の仲間が起こしてる…。俺はお前とは初めて会うが、他の連中は皆お前に恨みのある奴ばかりだ。」

「……つまり、助けを、呼べない、状況で……ゼェゼェ……殺してしまおう、ということですの……?」

「ま、そういうことだな……。俺の場合は、どれくらい能力が強くなったかの実験のつもりだったがな。」

「人を、実験動物、みたいに……。何だと、思って、ますの……。」

「まぁ恨むんなら自分の不運を恨むんだな。」



そう言って、男は再び針へと手を伸ばす。
白井は、体内の針――正確には、その「返し」の痛みで演算ができない。

もうダメかも。
そう思い、目を閉じた。

声が、聞こえた。


<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:31:43.34 ID:4Az5UeA+0<> 「ならお前も自分の不運を恨めよ。」















「ごッ……?!がッ………?!!!」




白井は、恐る恐る目を開ける。

先程まで優勢に立っていたはずの男が、宙に浮いていた。
正確には――空中に突然現れた水の球体の中に捕われていた。
呼吸ができないせいか、思考が乱れて演算ができないようだ。

ついに、男は意識を手放した。
すると、水は全て霧散し、男が地面に放り出された。

唖然とする白井の耳に、足音が聞こえてくる。


コツン…コツン…


白井は、振り返った。










「強制的な加速演算…。なんで……。」









すぐ後ろに、一人の少年がいた。
ショートとセミロングの中間の長さの茶髪。
ちょうど「お姉様」の髪の色と同じくらいの色だ。
その髪の色と同じ色をした、瞳。
背は165センチ周辺、といったところだろうか。
歳は恐らく白井と同じくらいだろう。
どこにでもいる歳相応の少年の服装だが、ここは学園都市。
私服であることに、逆に違和感を覚える。
どこか、無機質な…というより、周りに興味がない、といった雰囲気を漂わせる少年だ。


少年は白井の怪我に気づくと、手を伸ばす。
<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:32:46.79 ID:4Az5UeA+0<> 「な、何をする気ですの?!」

「黙ってろ。」



肩の中で、変な感じがした。
例えるなら、体の中で風船を膨らませるような、そんな感覚。



「ちょっと我慢しろよ。」



少年が指を軽く振った。



「…?!」



白井の肩から、細くて長い針が飛び出した。
痛くは、ない。
血も出ていなかった。



「何を…しましたの?」

「安心しろ、異物を水圧で押し潰してから外に出しただけだ。」

「異物?」

「ん。」



少年は、倒れている男の持っていた針を指さした。
白井は気づく。
先程までの痛みが、綺麗さっぱり消えていた。
自分の体から出てきたモノを見る。



「……何をどうしたらあの針がこんなに細く潰れるんですの。」

「水圧だよ。」

「す、水圧って……。」




かなり太くて、おまけに「返し」までついていた針。
それが、医療で使われる「モスキートニードル」並みに、いや、それ以上に細くなっていた。
<> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:34:00.88 ID:4Az5UeA+0<> 「水流使い…なんですの?」

「……それに近いかな。」

「よくわかりませんが……助けていただいてありがとうございますの…。正直かなり危なかったですの……。」

「……あっちにも結構人数いたしな。今は伸びてるけど。」




少年は、そう言って横の建物の窓を指さす。
なるほど、あの中に男の仲間がいて、気絶している、ということか。




「御協力、感謝致しますの……。でも一般人がこんなこと……危険ですの!今回限りにして下さいまし!」

「君だって一般人だろ……。」

「わたくしは風紀委員ですの!」




そう言って、白井は腕の腕章を見せつける。



「じゃっじめんと?」



少年は、わからない、といった表情を見せた。



「じゃ、風紀委員を御存じありませんの?!」

「………。何かのごっこするのは構わないけど、こんな危ないとこでやるもんじゃないでしょ……。」

「ごっこじゃありませんの!!仕事なんですの!!」

「…………俺もう行くね。」



少年は、付き合ってられない、といった様子で立ち去ろうとした。



「ま、待ってくださいまし!事情聴取が……。せめて名前だけでも教えて下さいまし!!」

「それはできない。」

「な、なんでですの?」

「あんまり知られちゃいけないからね。」



少年は白井に背を向ける。



「それじゃあ。」

「!! ま、待ちなさ…!」



僅か一瞬の間に、少年は消えていた。 <> たくま<>sage<>2011/04/24(日) 00:35:59.89 ID:4Az5UeA+0<> とりあえず修正したのは以上です。

新型幻想御手編は駆け足で終わらせたい…です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/24(日) 02:15:07.14 ID:8rJntfjVo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage saga<>2011/04/24(日) 04:35:01.23 ID:8e1TnSivo<> >>21
メ欄にsagaっいれればおk
殺す
支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/04/24(日) 05:07:18.48 ID:3ku75zEqo<> メ欄にsage sagaといれるのが一般的

上げるかどうかは任せる
sageをいれなければスレが上がる

期待してます <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:20:03.89 ID:EKeeqMyg0<> sage sagaですね、ありがとうございます!

書き溜め投下します。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:22:56.60 ID:EKeeqMyg0<>




「全身から血を噴き出して死ぬ呪いでせうか?」

「ちーがーうー!!!!幻想御手ってのがあって!それを使うと能力が上がる代わりに副作用で全身から出血するの!!!」



幼馴染二人が公園でベンチに座っていた。



「副作用で全身から出血って…そこまでして能力上げたい奴がいるってのか?」

「現に黒子が見たらしいし…。ていうか、情報規制で出血に関しては伏せられてるみたいね。パニックになるとかで。」

「ううん……。」



上条は唸る。



「やっぱり…アンタでもわかんないかな…?」



そんなことは無かった。
確信は無いが、可能性ならある、という程度だが。


全身から出血。副作用。
この二つのキーワードから連想される人物が、上条の知り合いに一人いる。


たしか、多重スパイをやっているあの男。
上条の高校で同じクラスであり、寮では隣の部屋に住む金髪アロハサングラス。


あいつも全身から出血したことがある。


能力者なのに魔術を行使した代償――副作用で。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:23:39.72 ID:EKeeqMyg0<>




「……心当たりが無いことも無いけど……。」

「ホント?!」

「あ、ああ……ただ……すまん、詳しいことは話せないんだ。」

「…何よ、それ……。」

「なんていうか……守秘義務、みたいな?」

「ますますわかんないわよ。」

「まぁとにかく、詳しいことは話せない。けど、その幻想御手ってのについてその線で調べてやることならできるぞ。」

「どうしても教えてくれないの?」

「……すまない。」

「アンタっていっつもそうよね。幼馴染なのにたまにどこにいるかわかんないし。……私達が知り合う前の話してくれないし。」

「ゴメンナサイ。」

「……アンタね、全く悪いと思ってないでしょ?」

「滅相もございません!」

「…まぁいいわ。とりあえず、『その線』ってやつで頼めるかしら?」

「わかった。ダメかもしれないけど、やってみる。」



インデックスは能力関係はわからない。
なら土御門に聞くしかない。
………あいつに借りを作るのは何だかとても怖い。

思わずため息をつく上条だった。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:24:38.53 ID:EKeeqMyg0<>


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




番外個体は、自室で座り込んでいた。


「う……うぅっ……エグ……ヒック………。」


考えれば考えるほど絶望的な状況。
追いつめられた番外個体は、泣く他なかった。
詳しいことはわからないが、番外個体の代わりとなる新たな個体が作られているらしい。
その個体が完成すれば、恐らく番外個体は用済み……つまるところ、処分される。
処分。
ただの肉塊にされてしまうのか、どこぞの男の性処理の道具として生き長らえるのか。

いずれにせよ、番外個体の人間としての尊厳は失われる。
いや、そんなもの始めから無かったのかもしれない。
番外個体は、一方通行に嫌がらせをした日々を思い出す。


(少しの間いい夢を見ただけ、なのかな。)


番外個体にとって一方通行との時間は「人間として」存在できる、幸せな時間だった。
他の誰もが自分を実験動物として見ても、一方通行だけは違う。


怒ってくれる。

呆れてくれる。

嫌がってくれる。

目を見て言葉をくれる。

人間として扱ってくれる。


最後に、彼の笑顔が見てみたかった。
誰かに、人間として笑顔を向けてほしかった。


(もう……無理、だよね。)

(ミサカが生きることができる可能性……。僅かでも生きれる可能性があるとしたら……。)


「首輪」を埋め込まれた後頭部を触る。
彼女が死ぬことに関して思い悩んだ時の癖でもある。
そこに埋め込まれたのは、遠隔操作機能のついた、小型プラスチック爆弾。
スイッチは天井が握っている。
スイッチと爆弾はセットであり、爆弾側とのチューニング無しに新たなスイッチを作ることは、できない。
スイッチからの起爆コードは、例え電磁波であっても爆弾側と同期した状態で高周波と低周波の間を行ったり来たりする。
例えるなら、常に文字列が変化するパスワードのようなもの。
電撃使いの能力で弾こうとしても、一定に定まらない、さらに能力によるものではない電磁波の全てを完全に防ぐことは難しい。
ならば、と、スイッチを奪うことを思いつくが、すぐに無駄であることに気づく。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:25:14.95 ID:EKeeqMyg0<>


上位命令文。


打ち止め――最終信号からの、拒否不可能の命令文。
打ち止めが天井達の手にある限り、番外個体の「首輪」は機能し続ける。

彼女の後頭部の爆弾は、起爆方法が大きく分けて二種類ある。
ひとつは、外部からの遠隔操作による起爆。
スイッチを使っての起爆だ。
もうひとつは、番外個体の意思による、起爆。
電撃使いの能力の応用で、起爆コードを入力することができる。
他の妹達からの電磁波は、同系統の能力者の番外個体の体表面で弾かれてしまい、届かない。
だが、彼女自身の発する電磁波なら。
体内に電磁波を飛ばすことで、起爆が容易にできてしまうのだ。

つまり、もし起爆コード送信の上位命令文を受信した場合。
自らの意思で爆弾を起爆することになる。


番外個体は、決心したように立ち上がる。


(どうせ誰も助けてなんかくれないんだ……。もう……これしかない……。許して……一方通行……。)


自分が生き残ることができる、最後の、たったひとつ残された選択肢。ほんの僅かだが、可能性。
一方通行が実験を拒否しても、実験は止まらなかった。
なら、妹達が実験を拒否しても、当然止まるはずはない。
研究所をいくら潰そうが、新たな研究所に移るだけ。意味は無い。
実験を止めざるを得ない、決定的な理由が必要なのだ。
妹達は、いくら死のうが新たな個体が製造される。
ならば。

もし、一方通行が死んだ場合。
もしくは、能力の行使ができなくなった場合。

代わりはいない。
実験は――中止、いや、完全凍結になるだろう。

だから。





(一方通行を――殺す。できるなんて思ってないけど……もうそれしかミサカには残されてないんだ。)




彼女は、歩きだす。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:26:10.79 ID:EKeeqMyg0<>


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「魔術の反動?それがどうかしたのかにゃー?」


とある男子寮の一室。
ここは上条当麻の部屋……の、隣の部屋。
土御門元春。
何食わぬ顔で学園都市で学生生活を送る、魔術側のスパイ。

上条は、美琴から聞いた新型の幻想御手の話について聞きに来ていた。


「つまり、カミやんは…その幻想御手ってのが、魔術に関係しているんじゃないか、って思うんだにゃ?」

「ああ。あくまで可能性があるかも、くらいにしか考えてないけどな。」

「ふむふむ。なるほどにゃー。」


土御門は、ニヤニヤと笑う。


「……てっきり驚くかと思ったのでせうが……なぜに笑ってるんでせう?」

「いやーカミやん、土御門様を舐めてもらっちゃこまるぜぃ!」


そう言って、土御門は携帯用音楽再生機器を取り出し、上条へ渡す。
上条はそれを右手で受け取る。


「……これがどうかしたのか?」

「知らないのかにゃ?前回の幻想御手も……『曲』だったんだぜい?」

「……はぁ?!曲が幻想御手!?」

「そうだにゃー。前回のは、音を使った共感覚性を利用して脳波のネットワークを構築した……。」

「……上条さんに難しい話はわかりません。」

「はは、たまに異常に物知りなカミやんもこの手の話はわからないか。」

「う、うるせぇ!」

「まぁまぁ。とにかく、今回もどうやら『曲』になってるみたいだにゃー。」

「でも、どうしたんだよ?それ…。」

「学園都市の奥深くならともかく、その辺のスキルアウトでも手に入るんだにゃー。お安いご用だぜい!」

「……胸を張るところじゃないと思うんでせうが…。」

「ところがだ。この幻想御手……。このままじゃ使えない。」

「? どういうことだ?」 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:26:53.46 ID:EKeeqMyg0<>


「カミやん。例えば、この部屋を絵にかけって言われたら……何が必要だと思う?」

「なんだいきなり?そうだな……描くもの…鉛筆とか絵具とか筆とかか?あ、あと、紙だな。」

「そう。絵を描くためには……鉛筆と、紙がいる。」

「……それが?」

「この音楽プレイヤーに入っている曲は…鉛筆だ。この曲の他に、紙として機能する『何か』があるはずなんだ。」

「なんでそんなことわかるんだよ?」

「実は、これを使った連中とこの前バッタリ出くわしたんだが……。」

「幻想御手で強化された集団か。」

「その時に、魔術の気配がしたんだぜよ。」

「それで?」

「だが、この音楽プレイヤーからは一切の魔術の気配を感じない。」

「…………たしかに、俺がさっき右手で触っても壊れなかったしな。」

「『曲』が魔術の場合カミやんの右手が効くのかどうかはわからないが…。少なくとも、魔術の気配を感じないから『曲』自体は魔術とは関係無いはずだ。」

「それで、だ。俺の予想としてはこの『曲』が魔法陣を描く鉛筆の役割を果たし、もう一つの『何か』に魔法陣を書くことで初めて魔術が完成する、と考えてるわけだにゃ。」


実際に魔法陣を描くわけじゃなくてただの比喩だけどな、と土御門は続ける。


「つまり、その『何か』が無ければ幻想御手は機能しないってことか?」

「そういうことだにゃー。」

「……ちなみに曲って何が入ってるんだ?」

「何でもない、ノイズみたいな音だぜい。」

「お、お前聞いたのか!?」

「ああ。でもこれだけじゃ意味無いから大丈夫だにゃー。」

「にしたって危ねぇだろ!」

「ちゃんと専用の機材で安全を確認してから聞いたから大丈夫だぜい。(ホントは暗部で捉えたクズで実験して安全を確かめたのは秘密だにゃー。)」

「ならいいけど…。」

「とにかく、もうひとつ何が必要なのか。これを調べる必要があるな。」

「そうだな…。サンキューな!土御門!」

「カミやんにはお世話になってるからにゃー。これくらい朝飯前だぜい!」


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:27:57.06 ID:EKeeqMyg0<>







町はずれの人気の無い倉庫。

白井黒子を助けた謎の少年。

彼は、倉庫の壁にもたれかかるようにして座っていた。


(お金さえあれば簡単に食べ物が手に入るとは…。便利な世の中だな。)


コンビニで適当に買い込んできた食糧が入ったビニール袋が、手元に置いてある。
彼は、二つめのサンドイッチを口へ運ぶ。


(それにしても。なんで加速演算装置が出回ってるんだ?)


先日あしらった空間移動能力者とその仲間。
彼らの持っていたもの。
「アレ」は、間違いなく自分の知っているものだ。


(でも『アレ』だけあってもどうしようも無いんだけどな……。)


少年は、脳裏に一人の少女を思い起こす。


(あいつはちゃんとオン・オフできるから大丈夫だけど。)

(常時加速演算オンにしておいたら……。)


いずれ全身から出血し、最悪死に至る。


(そもそも『外』ならともかく、どうして学園都市で?加速演算はこっち側独自の技術じゃないだろうに。)


サンドイッチの残りを口の中に放り込み、ペットボトルのお茶を一口飲む。


(こんなことやってる場合じゃないんだけどなぁ…。) <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:28:44.08 ID:EKeeqMyg0<>

少年は、当初の目的を思い出す。


(早く見つけないと……。いろいろ大変なことになる。)


とは言っても、当初の与えられた任務に繋がる情報は一切見付かっていない。


(まぁ加速演算が今のところ一番欲しいものに近い情報なのかな。)

(とりあえずどこからどう漏れたものなのか…。調べる価値はあるかもしれない。)


少年はビニール袋を片手に持つと、立ち上がった。
倉庫から出ると、視界の片隅に人影が見える。

どうやら、何かの取引をしているようだった。

物陰に隠れて様子を見ていると、風紀委員らしき学生が数名現れ、取引中の人間の身柄を拘束していった。


(……風紀委員、ね。)


そういえば、先日助けてしまった空間移動能力者の少女。
彼女も、確か風紀委員だったはずだ。


(てっきり頭が可哀そうな子なのかと思ったけど…。ホントにあったんだね、風紀委員って。)


あの後、一応風紀委員とやらについて調べてみた。
風紀委員というものをきちんと理解した後、彼は先日の自分の世間知らずっぷりをたっぷりと後悔したのだった。


(外じゃ『警察』だし……。学園都市がちょっと変わってるのが悪い…………ああ恥ずかしい……。)


思い出し、頭を掻き毟りたくなる衝動を抑える。
気持ちを落ち着かせ、もう一度冷静に頭を働かせる。


(こっち側の人間は『アレ』を理解することはできない…。当然対処法も…。なら…。)


事件を解決したい者。そしてその事件に関する情報を持っている者。
事件に関する情報が欲しいもの。そして、その事件の解決策を知っている者。


(持ちつ持たれつ、ギブアンドテイクってね。……やってみるか。)



少年は、ビニール袋から取り出したおにぎりを口に運びながら、雑踏へと紛れて行った。



<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:30:21.65 ID:EKeeqMyg0<>






風紀委員第177支部。


白井黒子は、例の茶髪の少年のことを調べるため、書庫へとアクセスしていた。


(あれは少なくとも強能力者以上……十中八九大能力者以上ですの!)


一応強能力者も含め、水流系の高位能力者をリストアップし、目を通していく。
だが、一向にあの少年が見付からない。


(どうなってますの…?まさかあの殿方も新型の幻想御手を……?)


思い立った白井は、能力レベル関係無しに水流系能力者を調べていく。
だが、やはり見付からない。


(そういえば……。わたくしが能力について尋ねた時……。)





『水流使い…なんですの?』

『……それに近いかな。』




(近い…?どういう意味ですの……?)


水流系に近い能力と言えば、演算の方式が似ている、空力使い。
だが、どう見ても彼は水を操っていた。
水流系以外に水を操れる能力……。


(念動力……?)


今度はそっちの線で書庫を調べる。
それでも、やはり見付からない。

白井は、膨大な量のデータに目を通し終え、ため息をつく。


(見付かりませんの……なんかもう見付かる気もしませんの……風紀委員を知らなかった……まさか外の人間?)


彼は一体何者だったのだろう。
白井は、彼とは初めて会った気がしなかった。
だから気になる。
何者なのか、知りたい。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:30:58.28 ID:EKeeqMyg0<>

(それにしても、幻想御手の方も落ち着きませんわね…。なんかもう焼け石に水という感じがしますの。……そういえばあの時……。)


加速演算。
あの少年はそんな単語を口にしていた。


(そんな言葉聞いたこともありませんの……。何か今回の幻想御手と関係が……?)


考えてみてもさっぱりわからない。
加速演算という言葉が、なんとなく演算能力を上げてくれそうな連想を促す。
……しかし、何をどう加速すれば全身から出血するというのだ。
情報が少なすぎる。
せめて、新型幻想御手のサンプルがあれば……。

白井は、本日数回目のため息をつく。



その時、支部のドアが勢いよく開いた。
そこには、同僚の、頭に花飾りを乗せた少女が立っていた。



「白井さん!!」

「なんですの?初春。」

「朗報ですよ!先輩方が、新型の幻想御手の取引現場を抑えました!!」

「取引現場?……ということは、まさか……?」









「はい、手に入りましたよ!新型幻想御手の……サンプル!!」






走ってきたのだろうか。
息を切らせる彼女の手には、あるものが握られていた。


どこにでもあるような携帯用音楽再生機器。



そして。


謎の記号がいくつか描かれた、一枚のカード。



その道に詳しいものなら気づいたであろう。

その記号が、ルーン文字であることに。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 11:33:05.05 ID:EKeeqMyg0<> 以上です!

間に合えばまた夜来ます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2011/04/24(日) 17:09:30.71 ID:11OxxHug0<> >>1乙!
pixivから見てたが、面白いな。
続きも期待してる! <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:11:50.75 ID:QV22E1W50<> >>47
おお、pixivから!
あっちとはちょっとストーリー変更したので、いずれあっちにも修正版載せます。

それでは残りの書き溜めを投下したいと思います。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:12:20.23 ID:QV22E1W50<>

「あとひとつ必要なもの、か…。」


とある自販機のある公園のベンチ。
上条当麻は、土御門からの情報を思い出し、考えを練っていた。
土御門によれば、新型の幻想御手には魔術が関わっている。
必要なものは「曲」と「何か」であり、「曲」は鉛筆のようなもの、「何か」は紙のような役割だ、ということだった。


「ってことは何だ?専用のイヤホンやヘッドホンを使う、とか……?」


つまり、そのような形の「霊装」。
なるほど、そもそも最新鋭の電子データがが魔術の一部として成り立つのだから、イヤホン等の形をした霊装があってもおかしくはない。
どうも「魔術」というと古典的なイメージがあるが、意外とそんなことはないのかもしれない。


「ていうか、魔術だってんなら……その幻想御手ってのを使った人間に右手で触れれば効果が消えるのか?」


上条は己の右手を見る。
幻想殺し。
どういうわけか、上条が生まれつき持っている、力。
科学側でも魔術側でもイレギュラーな存在、ということらしい。


「でも聞いた話じゃかなり出回ってるって話だからな……。キリがねぇ。」


一人ひとり右手で触れて解決することもできるだろうが、どうも現実的ではない。


「となると…。」


やはり、もうひとつの「何か」を見つけ、インデックスに仕組みを探ってもらうのがベストだろうか。
インデックスの脳には、十万三千冊の魔導書が記憶されている。
その知識を応用し、見た魔術の仕組みを瞬時に見抜き、それを乗っ取ることも、解除することも意のままだ。
無論知識のお陰だけではない。
彼女以外の人間が同じだけの知識量を持っていたとしても、彼女のようにはなれないだろう。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:12:49.81 ID:QV22E1W50<>


才能。

たった一言で済んでしまうのだが、インデックスは紛れも無い、魔術の天才なのだった。
元々魔術とは才能の無い者のためのいわゆる「裏技」みたいなものだ、という話を聞いたことがある。
才無き者のために作られた「魔術」の天才。

聖人という奴もだが、なんとも矛盾した話である。


「ちょろっとー。何ひとりでブツブツ言ってんのよ?」

「ん、美琴か。」

「で?幻想御手について何かわかったんでしょ?」


幻想御手の情報が得られた。
そう彼女にメールで伝えたら、直接会って詳しいことを聞きたい、と返ってきた。
そこで、いつもの公園のベンチで待ち合わせをしていたのだ。

いざ会ってみると、魔術のことをどう伏せて話そうか不安になる上条。

ええい、ままよ。

なるようになるだろう。
上条は、割とアバウトである。


「ああ、どうやら……『曲』らしいな。」

「曲……。また曲なのね……。」

「そういや前回のも曲だったんだっけ?」

「うん。共感覚性を利用して、聴覚からの操作で脳波のパターンをいじくるものだったのよ。」

「……イマイチよくわかりませんです。」

「はぁ……。まぁアンタが理解できるとは思ってないわよ…。」

「……中学生に負けるとは……。」

「いつものことでしょ。……今回も曲なら、サンプルさえ手に入ればワクチンはどうとでもなりそうね。前回のワクチンも曲だったし。」

「前回は曲だけだったのか?」

「そうだけど……どうしたの?」

「どうやら今回のは曲の他にもうひとつ必要なものがあるらしいぞ。」

「? なんなのよそれ?」

「それはまだわからないんだけどな。とりあえず聞いた話を説明するぞ。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:13:22.48 ID:QV22E1W50<>



上条は、鉛筆と紙を例に出して今回の幻想御手についての説明をしていく。
もちろん、魔術に関する部分は「なんかそういう能力でもあるんじゃねぇの?」と、適当に誤魔化す。


「曲が鉛筆で、その『何か』が紙、か…。」

「まぁ取引現場とか押えれば、その『何か』の正体もわかるんじゃねぇか?」

「それもそうね。……ワクチン、ちゃんと作れればいいけど……。」

「ああ、それは多分大丈夫だぞ。」

「? どういうこと?」

「あ、いや、なんていうかその……知り合いに、その道に詳しい人がいるっていうかなんていうか…。」

「アンタ研究者の知り合いとかいたわけ?」

「あーいやーまぁ……そんな感じでせう。」

「ふぅん……なんか怪しいわね……。」

「あは、あはははは………。」


インデックスのことを説明すれば自動的に魔術のことも説明することになる。
上条は何とか誤魔化し切り、二人はそれぞれの家へと帰っていった。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:14:16.42 ID:QV22E1W50<>


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



番外個体は、人気の無い路地を歩いていた。
一方通行を殺すとなれば、馬鹿正直にフェアな戦いを挑むことはできない。
自分に取って有利な状況に引き込む。
まずは地形を選ぶことにし、様々な場所を見て回っているのだ。
だが、どんなに準備を万端にしても、勝率は1%にも満たない。
自分の命はそんな細い糸で繋がっている状態なのだな、と、再認識する。


「お姉さん可愛いね!こんなとこで何やってんの?」


不意に二人の男に、声を掛けられた。
スキルアウトだ。
うかつだった。
こんなところで女がひとり。
この手の輩は必ず寄ってくる。


「……何か用?アンタ達には興味も何も無いんだけどな。」


「なんだなんだあ?!ツーンとしちゃって可愛いねぇ!」

「とか言って、実はちょっと怖がってたりして?」


「……ミ……私、これでも……強能力者なんだけど?スキルアウト程度に負けるわけ無いよ。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:14:47.87 ID:QV22E1W50<>


思わずミサカ、大能力者と言ってしまいそうになったが、自分は書庫に乗っていない。
万が一のことを考えて、能力レベルは強能力者ということにしておいた。
大能力者よりも強能力者の方が圧倒的に多い。
いざとなればどうとでも誤魔化せる。


「……おい。お前今俺達を馬鹿にしたか?」

「ああ、程度、っつったよな。」


「……だって無能力者でしょ。どう足掻いたって能力者には勝てない。」


「……ハッ……。どうせこいつどっかのお嬢様だろ?強能力者っつーくらいだしな。」

「そうだな。当然………幻想御手についても知らねぇんだろうな。」


「幻想御手?」


「やっぱり知らねぇか。今の俺達は……強能力者に匹敵する力があるんだぜ?」

「それまでは無能力者だったのになぁ。……女、強能力者二人を相手にしても勝つ自信があんのか?」


「……そんな話、信じると思ってんの?どうせハッタリでしょ?」


「……可哀そうにな。なぁ?」

「違いねぇ。……やっちまうか。」


男達が、能力を使用した。
発火能力と、風力使い。
炎と風の相性を利用し、うまくコンビネーションを取ってくる。
風に乗った炎が、寸前で避けた番外個体の腕をかすめた。


(―――――――ッ?!ほ、ホントに能力が……!?)


番外個体は、神経系統を能力で活性化させ、驚異的な身体能力で攻撃をかわしていく。


「な、なんだこいつ、速ぇぞ!!」

「肉体強化の能力者か!」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:15:31.57 ID:QV22E1W50<>


驚き、攻撃の手数を増やす男達。
だが、番外個体には当たらない。
仮にも戦闘訓練をきちんと積んでいるのだ。
こんな素人の、それも格下の攻撃でどうにかなったりはしない。
一見手数が増えたように見えても、実際にはムラがある。
人が操作している以上、必ず意識の隙、つまり攻撃の隙ができる。
番外個体は、相手の視線を観察しながら、攻撃を先読みして避けていく。


「く、くそ!当たらねぇ!!」

「大丈夫だ!近距離に持ち込めば外さねぇ。それを奴もわかってんだろ、攻撃して来ねぇのはそういうことだ!!」


(二人とも……どう見ても強能力程度の力は、ある。)

(無能力者だったってのが嘘だった?………いや、そんな嘘をつくメリットが無い。)

(なら………もしかして………本当にあるの?幻想御手ってのが………!!)


番外個体は、二人に軽く麻痺する程度の電撃を放つ。


「ッ、ガッ!!」

「のあ?!!」


二人は、てっきり相手は肉体強化の能力だと思っていたので突然のことに対処できず、電撃をまともに食らう。


「いい感じに痺れちゃったかにゃーん?ちょっと聞きたいことがあるんだけれども。」


「……な、なんだ。なんで電撃を……。」

「く、くそ、何しようってんだ!」


「幻想御手。詳しいこと教えて。あと持ってるならちょーだい。」



僅かでも一方通行への勝率を上げる。
例えそれがどんな得体の知れないものでも構わない。
生き残れるなら、それでいい。

効果は期待できる。
現にこの二人の能力が、恐らく上がっている。



目の前の突然現れた「手段」を、番外個体が使わないはずは無かった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:16:27.44 ID:QV22E1W50<>





「白井さん、ホントに行かないんですか?私でいいんですか?」

「さっきから何度もそう言ってますの。」

「わかりましたよう……。それじゃ、行ってきますね。留守、よろしくお願いします。」


初春は風紀委員第177支部から出ていく。
先輩方は取引に立ち会っていた者達の取り調べ中。
他の者も何かしらの用で出払っていて、支部には白井と初春の二人しかいない状況だった。
しかし、警備員側に取引に関する情報を提供するため、警備員の支部までひとり来てほしい、という要請があったのだ。
いつもなら白井が行く所なのだが、なぜか今日に限って行かないという白井に頼まれ、初春が出向くこととなった。


(今はそれどころじゃありませんの…。)


白井は、手に入ったサンプルに目をやる。
初春は警備員側にも見せるために持っていこうとしたのだが、もし紛失した場合大変なことになる、ということで断念したのだった。


(ていうか今回も『曲』なんですわね……。このカードは一体何なんですの?)


よくそういうアニメに出てきそうな、いかにもそれっぽいカード。
見た事も無い文字がいくつか書かれている。


(話ではこのカードと音楽データがセットで取引されていたそうですわね……。何に使うんですの?こんなもの…。)


白井は、カードを手に取りまじまじと見る。


(魔法を使って強くなる、という暗示…とかですの?)


なるほど、暗示に掛かりやすくなる曲を聞きながらこのカードを見ていれば、「自分は魔法の力を借りて強くなった。」と、自己暗示の効果はあるかもしれない。
元々、自分だけの現実というものも言ってしまえば自己暗示のようなものなのだ。


(でも、そんなお遊びみたいなことでレベルが上がるものなんですの?……それに、自己暗示ごときで全身出血を起こしてはたまりませんわ。)


我ながら自己暗示の説はいい線だと思ったが、それでは全身出血の説明がつかない。
白井は、サンプルを引き出しの中に入れる。


「はぁ……。さーっぱりわかりませんの…。こうなったら木山春生……あの研究者に協力してもらって……。」


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:17:22.64 ID:QV22E1W50<>




「それはやめとけ。」







独り言に返事が返ってきた。
驚いて振り返る白井。


「あ………あなたは………!!!」

「よぉ、また会ったな。………風紀委員ってホントにあったんだな。この前は悪かったよ。」


例の茶髪の少年だった。


「な、なぜここにいますの?!あなたは一体何者なんですの!!」

「……いっぺんに質問するなよ……。」


取り乱す白井と、呆れる少年。


「……そうだな、順番に答えていこうか。」

「まずひとつめ。どうしてここにいるのか。」

「君に話があるからだ。」

「話……ですの?」

「ん。君らが今調べている事件についての話だ。」

「幻想……御手……?」

「ああ、そう呼ばれてるのか、アレ。……それについての情報を持ってる。」

「……加速演算……ですわね?」

「ん?知ってるのか?」

「いえ、先日あなたがそうおっしゃっていたのを覚えていまして。」

「ああ、そういえばそんなこと言ったかもな……。」

「それで……どのような情報ですの?」

「アレの仕組み、理論。そしてその解除法も知ってる。」

「……なぜあなたが……そんなことを……?」

「すまないけど詳しい事情は話せない。」

「……とりあえずその情報とやらを聞かせていただけませんこと?」

「ああ……その前にちょっと提案があるんだけど…。」

「?」

「情報の交換をしたい。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:17:48.73 ID:QV22E1W50<>

「……聞きましょうか。」

「俺が加速演算に関する情報を提供する。代わりに『加速演算がなぜ学園都市で広まったのか。首謀者は誰なのか。』という情報が欲しい。」

「……申し訳ありませんの。詳しいことは……まだ何もわかっていませんの……。」

「別に今じゃなくていい。捜査が進んで何かわかったらその都度教えてくれればいい。」

「……理由は教えていただけませんの?」

「……すまないけど、こっちも秘密裏に動いてるもんなんでね。」

「……あなたが書庫に乗っていないであろうことはわかっていますわ。仮にも風紀委員が……身元不明な方に情報を漏らすとお思いですの?」

「思っちゃいない。けど……。現状、俺以外にアテは無いんじゃないか?」

「……書庫に関しては否定しませんのね。それに……首謀者が割れれば解決法もわかるのではなくて?」

「いや、多分無理だ。」

「どうしてですの?」

「アレを開発した研究者は……学園都市の裏切り者なんだよ。」

「……どういうことですの?」

「その研究者は、外にとある欲しい技術、知識があった。外にいるそいつらは学園都市の技術、知識が欲しかった。お互いに利害が一致、手を結んだのさ。」

「つまり……学園都市の技術を外に漏らした、と?」

「そういうことだ。今もそいつは外の機関で匿われてるよ。」

「ならその研究者を捕まえれば……。」

「無理だな。言ったろ。その研究者は『外のとある技術、知識が欲しかった』って。」

「それが?」

「学園都市は世界で一番科学が発達している街だ。……そこにいる研究者が、なぜわざわざ外の技術や知識を欲したと思う?」

「……確かに腑に落ちませんわね。」

「……あるんだよ。学園都市には無い技術、知識が。どっちが上だとかじゃなく、全く異なる世界があるんだよ。研究者を捕まえに乗り込んで行っても返り討ちに会うだろうな。」

「……到底信じられないような話ですの。」

「なら説明できるか?」

「何をですの?」

「加速演算の代償に、なぜ全身から出血を起こすのかを。」

「……そこなんですの。演算能力が上がる理由は思いついたのですが……そこだけがわからないんですの。」

「加速演算は科学側の技術じゃない。だから科学じゃ説明できない。学園都市で何をどう調べようが、物流のルートはわかっても……解決策は見付からない。」

「……あなただけが解決策を知っていると……そうおっしゃいますのね?」

「そういうことだ。俺は物流のルートや黒幕を知りたい。でも情報網が足りなくてそれができない。……お互いに取っていい話だと思うけどな?」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:18:21.99 ID:QV22E1W50<>

「………。わかりましたの。ただし、条件がありますの。」

「……聞こうか。」

「先にあなたから情報を提供すること。わたくしからあなたに流す情報は、他に漏らさないこと。」

「ああ、俺もこっちから先に情報提供するつもりだったし、貰った情報流してもしょうがないからな。いいぞ。」

「あともうひとつ。」

「なんだ?」

「………詳しい身の上は話さなくて構いませんわ。ただ……あなたのお名前、教えてほしいんですの。」

「………………………(今のところこの子しかアテが無い……。仕方無い……か……。)……………わかった。」

「では、契約成立、ですわね?」

「そうだな。」

「それでは……聞かせていただきますわよ。」

「ん。まず……信じられない話かもしれないけど、この世には超能力の他に、もうひとつ力があるんだよ。」

「……?」

「『魔術』と呼ばれてる。まぁ、外における超能力みたいなもんだと思ってくれればいい。」

「……なんか胡散臭い話ですわね。」

「そりゃ科学の街で育っていきなり魔術とか言われればそうなるわな。」

「……とりあえず最後まで聞きましょうか。」

「ん。それでだ。超能力みたいなもの、とは言ったけど、厳密には能力と魔術は全く原理の異なるものでな。」

「もし能力者が魔術を行使した場合……。魔術的に見た体の回路、構造の違いによって、魔力が暴走する。」

「そしてその結果……。全身の組織が破壊され、出血を起こし、最悪死に至る。」

「!!」

「君らが今調べてる事件と……関係あると思わないか?」

「……続きを。」

「魔術の詳しい原理は省略するが、今学園都市で出回ってる加速演算……幻想御手って呼ばれてるんだったか?アレは、魔術をベースにした技術だ。」

「魔術をベース?魔術ではない、ということですの?」

「いや、一応分類は魔術なんだけど……。ちょっとアレンジされててね。アレは『能力レベルを引き上げる』ための魔術なんだよ。」

「ベースとなった魔術は体感時間を操作する術式だ。」

「体感時間、ですの?」

「例えば、時間の長さを今の十倍長く感じるようになったとしようか。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:19:09.82 ID:QV22E1W50<>

「ええ。」

「そうなると、今の十倍、ものを考える……つまり、頭を回転させることができるようになるわけだ。」

「そうですわね。」

「今の例は、意識全体の体感時間を操作した場合の話だ。なら、脳の演算領域にのみそれを使ったらどうなる?」

「今の十倍演算することが……まさか?」

「そうだ。時間単位当たり十倍…。つまり、通常の十倍の速度で演算を行えるようになるんだ。」

「結果として十倍の演算能力を手にすることができる、というわけですわね?」

「その通り。……普通演算能力が十倍になっても肉体が追いつかないから意味が無い。」

「けど能力者の場合は違う。能力と演算能力はほぼ比例するからな。」

「ベースとなった魔術を能力者が使う前提でアレンジ、さらに脳の演算領域にのみ適応するようなデバイスの構築。」

「魔術の要素を除けば、発想といい技術といい、科学側のものだ。」

「だから『魔術をベースにした技術』ってわけだ。」

「………こんな胡散臭い話に納得してしまう自分が怖いですわね。」

「まぁ………これが『加速演算』の原理だよ。」

「しかし能力者が魔術を使えば魔力が暴走するはず……。なぜそんな無駄になるような技術を開発したんですの?」

「………ちょっと詳しい話は言えないんだが……話せるところだけ話そうか。」

「お願いしますの。」

「能力者が魔術を使うと即座に反動が起きることは知られていたんだが……色々あって、体感時間を操作する術式の場合、反動が起こるまでにタイムラグがあることがわかった。」

「そもそも能力者が魔術を行使した際のデータはほとんど無いからな。詳しい理屈はわかっていないようなんだが……。」

「一番有力な説だと、魔力を制御する機構の時間にも影響が出ているんじゃないか、ということだ。」

「……たしかに、幻想御手を使ってからしばらくしてから反動が起きてますわね。」

「一応現時点で知られているデータだと、加速演算は15分以内の使用なら出血を伴うような反動は無いそうだ。理屈は解明されてないけどな。」

「それであの幻想御手……。あれは、強制的に加速演算状態にさせるものでね。それなのに、アレだけじゃ加速演算を終了できないんだ。」

「……それでいずれは反動が起きる、ということですわね?」

「そういうこと。加速演算を終了させるためには解除キーを使う必要がある。」

「解除キー、ですの?」

「脳に加速演算を終了するよう命令を送るのさ。」

「具体的にはどうすれば?」

「んーと……。幻想御手の現物があると説明しやすいんだけど……。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:19:45.29 ID:QV22E1W50<>

「……ありますわよ。」


そう言って、白井は引き出しから入手した新型幻想御手のサンプルを取り出す。


「なんだ、もう手に入れてたのか…。なるほど、道理で研究者にどうのこうの言ってたわけだ。」

「それで。話を続けてくださいまし。」

「よし……。この音楽プレイヤーとルーンだけど。」

「るーん?」

「あ………このカードに書いてある文字、ルーン文字って言うんだ。魔術でよく使う文字なんだけどな。」

「そうでしたの……。」

「使い方は、音楽プレイヤーの中にある『曲』を聴きながらこのカードを見る。それだけ。」

「『曲』が脳に特殊な指令を送る役割を果たしてて……これは科学側の技術だな。」

「で、このカード……厳密にはこのルーン文字を見るわけだが、『曲』が送る指令のひとつによって、視覚情報を神経領域に焼き付けるわけだ。」

「焼きついた視覚情報は、『曲』の他の指令によって、常に『目に見えている』状態になる。」

「だがそれは無意識下の話だ。実際には特に何も見えないはずだ。」

「魔術の発動方法には色々あって……。触れるだけで発動するものもあるし、中には見ることで発動するものもある。」

「こいつもそのひとつってわけだ。ただし、こいつの場合は『見ている間しか』効果が無い。」

「そこで無意識下の視覚情報に、常にルーンを見ているような状況を作り出した。そうすれば効果は永遠に持続される。」

「ただし、永遠に魔術を使っている状態が続くけどな。」

「ちなみにこのルーンを見るだけで魔術が発動するんじゃないか、と思うかもしれないがそれは大丈夫だ。」

「このルーンは不必要なものも混じってる。これじゃ魔術は発動しない。」

「『曲』の指令には、このルーンから不必要なものを排除して焼き付けるようなものも入っているから、『曲』とセットじゃなきゃ意味は無い。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:20:12.23 ID:QV22E1W50<>

「と、ここまでが加速演算の使い方。」

「考え得る解除法は二種類。まずは視覚情報に対しての指令を解除する指令を送る『曲』を聴く、というもの。」

「けどこれはダメだ。ふとした時に焼き付いたルーンのフラッシュバックを起こしてしまうと、それだけで魔術が発動してしまう。……まぁ一瞬なら反動は問題ないかもしれないが。」

「それでもその一瞬、能力レベルが急に上がって能力の暴走を起こす危険がある。」

「確実な方法はひとつだけ。神経領域に焼き付けたルーンを無効化させるルーンを、新たに焼き付ける。」

「そして、その後で視覚への指令を解除。これで加速演算は完全に解除されるはずだ。」


茶髪の少年は、ポケットから一枚のカードを取り出すと、白井に手渡した。


「これが無効化用のルーンだ。加速演算用のルーンと全く逆の性質を持つように作ってある。」

「『曲』は加速演算用のそれで構わない。その無効化用ルーンにも、ちゃんと不必要な情報を加速演算用ルーンの法則に則って混じらせてあるから、問題無い。」

「と、結構駆け足で説明したけど……大丈夫か?」

「……正直やっとついていけてるところですの……。」

「ついて来れてんなら大丈夫だな。」

「本当にこんなもので……。もしこれで解決したら、魔術とやらの存在を完全に信じてしまいそうですの……。」

「あ、一応魔術に関しては秘密にしといてくれないか?俺のことも。」

「訳あり、なんですわよね?わかりましたわ。もしこれで解決できたら、ちゃんと情報は流して差しあげますの。」

「ああ……一応連絡先教えておこうか。」


そう言って少年は電話番号とメールアドレスの書いた紙を手渡す。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:21:08.75 ID:QV22E1W50<>

「了解しましたの。」

「ん。それじゃあ俺はもう行くから。情報の件よろしくな。」

「あ、お待ちになって下さいまし!」

「ん?」

「条件、忘れましたの?」

「………あ。」

「あなたのお名前、伺ってもよろしくて?」

「……………名前、無いんだ。」

「…………ここに来てなんでそんなわかりやすい嘘つきますの。」

「い、いや、嘘じゃないんだ!………名前、とは言えないけど、似たようなものならある。」

「どういうことですの?」

「いつもそう呼ばれてる名称ならある、ってこと。」

「……それが名前なんではありませんこと?」

「とても名前には聞こえないと思うけどな。……まぁ名前ってことにしとこうか。」

「………教えて下さいまし。」

「わかった。俺の『名前』は………」


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:21:34.73 ID:QV22E1W50<>














「『完全個体』(ジ・エンド)だ。」


















少年――完全個体は、そう言い残すと風紀委員第177支部を後にした。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 21:23:13.02 ID:QV22E1W50<> 以上です!

間に合えば日付変わる頃にまた来たいと思います。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:45:41.68 ID:QV22E1W50<> 書けましたので投下しておきます。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:46:14.51 ID:QV22E1W50<>



常盤台中学女子寮208号室。
御坂美琴は、珍しく机に向っていた。
広げたノートには、メモのような走り書きがいくつもある。
新型幻想御手に関する情報を整理しているのだ。


(鉛筆、紙、鉛筆、紙………。)


上条から聞いたキーワードを頭で繰り返す。


(鉛筆、紙…。)


右手のシャープペンシルと広げたノートを交互に見る。


(『曲』が鉛筆なのよね?で、今探したいのは紙の方。)


シャープペンシルを乱暴に机に転がし、ノートを手に取る。
恐らく見付かったところで美琴には仕組みがわからないが、専門家に調べてもらえば解決策もすぐに見付かるはずだ。


(風紀委員の方で何か進展無いのかなぁ。……帰ってきたら黒子に聞いてみよ。)


まだ完全下校時刻まで時間がある。
美琴のルームメイトである白井は風紀委員。
故に、何か事件の調査に追われている時は完全下校時刻を越えて帰ってくることもしばしばある。
もちろん風紀委員はそれが特例として認められているので、その際は罰則を受けずに済むのだ。


(ていうか、別にサンプルを調べなくたって……黒幕を見付けて尋問しちゃえば解決するんじゃないの?)

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:46:54.85 ID:QV22E1W50<>

なんとも彼女らしい発想である。
チマチマと動くより、真っ向から敵にぶつかり解決する。
その方が性に合っているのだろう。

そうと決まれば話は早い。


(黒子は反対するだろうけど……。黒幕の情報が入ったらそっちの方面で攻めてみよう!)


まさか今回の事件の首謀者も、超能力者のひとりに狙われることになるとは思っていなかっただろう。
気の毒、の一言に尽きるが、事件の深刻さを考えれば致し方ないようにも思える。


(ていうか絶対黒子だけじゃなくてアイツも反対するわよね……。)


ツンツン頭の少年が必死に自分を止める姿が目に浮かぶ。
――アイツはそういう奴だ。


(どうしよう、話した方いいのかな……。絶対止められるだろうけど……。でも後でバレたら絶対怒るわよね……。ああもう!仕方ない!)


美琴は、携帯電話を手に取る。
アドレス帳から「上条当麻」の名前を探し出し、メール作成画面を開く。


(『幻想御手のことだけど、サンプルを待つより黒幕を見付けだす方が手っ取り早いと思う。だから私、そういう感じで調べることにするわ。』と……よし。)


とりあえず一言言っておけば後で怒られることは無い。
止められたら止められたでなんとか説得してみよう。

送信が終了すると、携帯を閉じベッドに放り投げた。
机の上を軽く整理すると、自分もベッドの上に倒れ込む。

ひとまずはあの子の帰りを待とう。

考えがまとまったところで、美琴はしばしの眠りにつくのだった。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:47:32.89 ID:QV22E1W50<>



風紀委員第177支部、事情聴取部屋。
ここは、支部とは少し切り離された造りになっている。
取り調べ中の人間が何かのはずみで支部の資料を見てしまうのを防ぐためだ。

ひとつめのドアをくぐると、まずは小さな会議室のような部屋がある。
その奥にもう一枚ドアがあり、そこが取り調べを行う部屋だ。
人数は事件の深刻度によって変動するが、取り調べは基本的に時間交代制で行われる。
自分の担当した時間にわかったことをまとめたり、単に休憩したり、もしくは他の担当者と意見交換をしたり。
小さな会議室のような部屋は、そのような目的で使用されている。


「時間です。よろしくお願いします。……なかなか口を割らなくて困りますね。」

「わかったわ。……まぁ、副作用を知らなければホントに素晴らしいシステムに見えるだろうし……。取り締まられたくないんでしょ。」


固法美偉は、ソファから腰を上げると事情聴取部屋へと向かう。
他のソファに座っていた同僚から、がんばって、と声を掛けられる。
取り調べが始まってからかれこれ5時間。
未だ有力な情報は得られていない。
新型幻想御手の使い方さえ、わかっていないのだった。


「入るわよ。」

「…………。」

「……何か言ってくれないとこっちも困るんだけど?」

「………………一体取り調べに何人使ってんだよ……。」


今回の事件の深刻度は、相当なものであると判断されている。
例えるなら、「栄養剤」と称して毒をバラ撒いているようなものだ。
取り調べの担当に、支部のほとんどの人員を割いていた。
重要な取り調べ、なおかつそれが長引く恐れがある時は、冷静、かつスムーズに処理するために人員を増やす。
長時間の取り調べは、調べられる側はもちろんのこと、調べる側の神経をすり減らし、頭の回転が鈍るからだ。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:48:02.01 ID:QV22E1W50<>

「今回はそれだけ深刻な事件なのよ。」

「……確かに、努力して能力上げた連中からすれば深刻だろうな。こんなに簡単に能力レベルが上がったんじゃな。」

「そういうことではなくて……。その副作用で命を落とす危険性があることが深刻だって言ってるのよ。」

「まだ言ってんのか。だいたい、どこにもそんな証拠はねぇじゃねぇかよ。もしそんな危険があるならとっくに公表されてるはずだろ!」

「それは……警備員の上層部が情報規制を掛けたから……。」

「はっ、作り話ならもうちょっとうまくやれってんだよ。」

「作り話なんかじゃ!」

「……怖ぇんだろ?能力者としての地位が……脅かされるのがよ。」

「そ、そんなこと……。」

「みんながみんな同じだけ能力使えるようになれば……優越感なんか味わえなくなるしなぁ。」


そんなことは無い、と否定したかった。
しかし、一部の能力者……いや、割と多数の能力者が無能力者を見下しているのが現状だ。
自分がいかにそう思おうが、世の中みんな自分と同じ考えではない。
目の前の無能力者がそう悪態をつくのもわからなくもなかった。


「……確かにそういう能力者はいるわね。それも結構な数。」

「なんだぁ?開き直ったか?」

「そうじゃないわよ……。綺麗事に聞こえるかもしれないけど、少なくとも私はそんなこと思ってない。」

「ホントにただの綺麗事だなおい。」

「…………私ね、昔スキルアウトの一員だったことがあるのよ。」

「は?………………風紀委員の、あんたが、か?」

「ええ。ビッグスパイダーって……聞いたこと無い?」

「あ、ああ。割と有名な組織だったし……名前は知ってる。」

「その一員だったのよ、私。」

「…………とても信じられねぇ話だな。」

「信じる信じないはあなたの自由だけど……無能力者が世間でどういう風に見られてるか……これでもわかってるつもりよ。」

「………………。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:48:33.88 ID:QV22E1W50<>

固法は目を逸らさずに言う。
彼女の目は、とても嘘を言っているような目には見えなかった。
固法は続ける。



「もう一度言うわ。これ以上被害者を出したくない、それだけなの。」

「被害、者………。」

「お願いだから話して……。あなたの情報が、事件の解決に必要なのよ。」

「………………………………わかった。」

「……!」

「………幻想御手のことは、噂とか曖昧なモンじゃなくて……スキルアウトの組織を通じた情報として知ったんだ。」


男は語り始めた。


「俺の属してる組織は小さくて……。他の大きな組織の傘下に入ってるんだ。」

「それで、その上の組織もさらに大きな組織の傘下にって感じで……まぁ一種の勢力図みたいなもんがあるんだが。」

「ええ、それは知ってるわ。」

「で、だ。どこの傘下にも入っていない、つまりスキルアウトの頂点の組織がいくつか存在し、均衡状態を保ってるわけだが。」

「ある日、一番上の組織に幻想御手に関する情報と、幻想御手の現物が届いたらしいんだ。」

「どうやら他の頂点の組織にも同じように情報と現物が届いたらしい。」

「けど上側は活動資金を確保するために売買…取引をすることを始めた。」

「頂点勢力は均衡状態を保ってる。どれかひとつの組織の力が抜き出ると、下手をすればスキルアウトの社会は崩壊する。」

「だから、あくまで金儲けの道具に留め、戦力として使わない、という締約を結んだらしい。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:49:11.94 ID:QV22E1W50<>

「つまり……スキルアウトは幻想御手を使ってはいない、ということ?」

「いや、中には使った者もいるって話だ。主に末端の奴だけどな。」

「主な顧客は、能力レベルが伸び悩んでいて、それに不満を持つ学生。」

「………確かに学生の被害者が多かったわ。でもあなたも末端の方よね?どうしてそんなに事情を知ってるの?」

「俺の組織の縄張りは結構取引が多くてな。だから、幻想御手に関してはなかなか重要なポジションだったんだ。」

「……なるほど、それで色々と内部事情を知ったわけね。」

「そういうことだ。」

「なら……幻想御手の解除法は知ってる?」

「解除法?」

「副作用で倒れた人達…。ほとんどが一命を取り留めて病院にいるけど、定期的に発作のように副作用が起きてるの。」

「な………!」

「副作用が起きて『はい終わり』じゃないのよ。根本的な解決には、ワクチンとなるものが必要なの。」

「…………知らねぇ。」

「…………ここまで来て嘘をつく理由が無いものね。本当なのね。」

「すまない……。だが、もしかすると上は知ってるかもしれないぞ。」

「上、というと……スキルアウトの上層部、ってことね。」

「ああ。最初に幻想御手の情報が入ったのもそこだからな。開発者とかのこと、知ってるかもしれねぇぞ。」

「なるほど………。一理あるわね。」

「………俺にわかるのはこれで全部だ。」

「わかったわ。ありがとう。この情報、無駄にはしないわ。」


固法は立ち上がると、ドアノブに手を掛ける。


「…………………俺でも、誰かの役に立てた………のかな。」


固法に言っているのか、独り言なのかは、わからない。
固法は男に優しく微笑みかけると、事情聴取部屋を後にした。




<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:49:45.75 ID:QV22E1W50<>






外の小会議室に戻ると、先程までいなかったはずの人間がいることに気づく。

白井黒子だ。


「固法さん、事情聴取どうだった?」


同僚のひとりが、尋ねる。


「ええ……。話してくれたわよ。」

「ほ、ホントですか!……固法さんすげぇ。」

「それで……白井さん、あなたどうしてここに?」

「ああ、なんか話があるとかで……。ついさっき来たんすよ。」


白井の代わりに、他の同僚が答える。


「話?」


室内の全員が、白井のを見る。


「大事なお話が……ありますの。」


白井は、新型幻想御手の解除法について話した。
もちろん、完全個体のこと、魔術のこと、加速演算のことは伏せる。
しかし、それらを伏せてしまっては「結果」しか伝わらない。
どうしてそれが解除法になるのか。
あの副作用は何だったのか。
一切の「理由」、「理屈」が説明できなかった。


「………このカードを見て『曲』を聴けば解除されるって言うの?」

「そうですの……。」

「どうして?」


<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:50:46.78 ID:QV22E1W50<>

ほら来た。
絶対に聞かれるであろうことはわかっていたが、やはり話せない。
それが、彼、完全個体と交わした「契約」なのだ。


「………話せませんの。」

「……?『わからない』じゃなくて、『話せない』?………白井さん、なぜ話せないのかしら?」

「申し訳ありません………。でも、どうしても話すことはできませんの。」

「……理由も教えてくれないのね。」

「申し訳ありませんの…………。」

「…………危険は無い、と言い切れる?本当にこれでが『ワクチン』だと、言いきれる?」

「はい、それは間違いありませんの!きちんと解除されることは間違いありませんの。」

「……随分とハッキリ言い切ったわね……。」

「あ、それと、ひとつ注意がありますの!」

「注意?」


白井は、完全個体が去り際に残した言葉を思い出す。





『加速演算終了後は能力が一時的に使用できなくなるけど……別に後遺症とかじゃなくて、ただの反動だから。三日もすれば治るよ。』





彼は、思い出したようにそう言い残し、去って行ったのだった。


「かそ……幻想御手解除後は、三日ほど能力が使用できなくなりますの。ちゃんと治りますので、それを頭に入れておいてほしいんですの。」

「………なるほどね。………わかったわ。………あなたたち!これをすぐ病院に回して!」

「わかりました!」


数人、「ワクチン」を持って部屋から出ていく。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:51:29.63 ID:QV22E1W50<>



「もしこれでうまく行けば万事解決ですね!よかった……。」


同僚の一人が、言う。
だが、固法はそれを否定した。


「いや、まだよ。」

「え?」

「物流を止めない限り解決はしないわ……『ワクチン』が見付かったところで、今の被害者達が苦しみから解放されるだけ。」

「つまり……これからも被害者は出る、ってことですか?」

「もちろんよ。根本を解決しない限り、この事件は終わらないわ。」


固法は振り返る。
部屋の全員が、固法を見た。


「物流のルートの情報は手に入ったわ。まずは物流を全て抑えること。そして……黒幕を見付けて、叩くわよ!」


全員が、無言で、頷いた。




<> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:52:20.10 ID:QV22E1W50<>


夜。

常盤台中学女子寮、208号室。


(お姉様ったら……制服のままお休みになられて……。)


軽くため息をつく。
この方には、もっとエースとしての自覚を持ってほしい。


(さてと……シャワーでも浴びましょうか。今日は色々と疲れましたの。)


いつも通り、脱衣所にテレポートしようとする白井。
だが、いつまで経っても彼女はその場から動かない。


(………………、そういえばそうでしたわね………すっかり忘れてましたの。)


歩いて脱衣所まで行く白井。


(普段能力に頼りっぱなしだと……こういう時に不便を感じますわねホント。)


脱衣カゴの前に立ち、服を脱ぎ始める。




(あと三日……。何事も無いことを祈りますの。)




白井は、浴室へと消えていった。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/24(日) 23:53:24.02 ID:QV22E1W50<> 以上です。

設定懲り過ぎたろうか……。
今更ながら心配orz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 01:28:34.72 ID:vbxFnc8Ho<> 先が気になる・・・
乙です! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/25(月) 17:36:48.09 ID:n+yRog7SO<> 追いついた。おつ。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/25(月) 22:01:39.74 ID:EfaNA8Dr0<> すいません、今日ちょっと時間取れなくて書けませんでした;;
明日来ますので、待っていて下さいな!

申し訳無いです; <> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:30:12.08 ID:JDXIYTRW0<> 寝れない!

ってことで書いてたら書けました。
投下します。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:30:50.91 ID:JDXIYTRW0<>


翌朝。

常盤台中学女子寮208号室。
今日は休日なので学校は休み。
この部屋に住む二人も、休日の朝はいつもより遅い起床となることが多い。


「ふにゅ…………?………朝……?」

「やっとお目覚めになりましたのね、お姉様。」

「ふわっ?!く、黒子!!アンタいちゅ帰ってきたのよ?!」


美琴はベッドから勢い良く跳ね上がる。


「(噛みましたわね。)………、昨夜の11時過ぎですの。風紀委員の仕事が予想外に長引いてしまいまして。」


肩が凝っているのか、軽く腕を回す白井。


「ふぅん……。大変だったのね…………って、そうじゃなくて!」

「?」

「ねぇ黒子、風紀委員の方で何か進展あった?」

「あー……………そうですわね、一気に解決しそうな勢いですわよ。」

「え、ええっ?!一体何があったって言うのよ?!」


驚くのも無理は無い。
美琴と白井が最後に会話した時点で、まだ何一つ情報は得られていなかったのだ。
昨日のたった一日で一体何が起きたと言うのだ。
朝から冷水をぶっかけられた気分である。


「昨日の昼過ぎに幻想御手の取引現場を風紀委員が押さえましたの。事情聴取した結果、物流のルートの情報が手に入りまして……。」

「首謀者が見付かったってこと?」

「いえ、まだそこまでは……でも正直それも時間の問題、という感じがしますの。」

「なるほどね……。これで『ワクチン』もなんとかなりそうね。」

「あー…………その、『ワクチン』なんですけれども。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:31:18.45 ID:JDXIYTRW0<>

「?」

「『ワクチン』、もう手に入りましたわよ。」

「………………………はい?」

「既に病院の被害者達に使用しましたの。次々に症状が回復していってるそうですわ。」

「え、いや、ちょっと待って、え?どっから出てきたのよその『ワクチン』……。」

「…………物流のルートがわかったんですわよ?『ワクチン』が手に入ってもおかしくないのでは?」


無効化ルーンの存在を知られるわけにはいかない。
風紀委員はなんとか切り抜けたが、お姉様なら必ず全てを聞き出そうとするだろう。
なんとかうまく誤魔化さねばならない。


「おかしいわよ!前回だって『ワクチン』は木山先生が持ってたじゃない!」

「前回と今回は違いますわよ、お姉様。」

「でも首謀者以外に『ワクチン』持ってる人なんて考えらんないわよ。」

「どうしてそうお思いですの?もしかすると『ワクチン』も一緒に出回っている地域があったかもしれない、とはお考えになりませんの?」

「それは無い。」

「なぜですの?」

「『ワクチン』が必要ってわかってるってことは、副作用も知ってるってことになるでしょ?」

「副作用を知ってる連中がいるのに、副作用に関する噂が全く無いなんておかしいわよ。」

「つまり、『ワクチン』が出回ってる可能性はゼロ!」

「……………、ちなみに幻想御手のサンプルも手に入りましたの。それを参考に『ワクチン』を開発した、というのは?」

「それも無いわね。サンプルが手に入ったのも昨日なんでしょ?そんなすぐに『ワクチン』ができるわけ無い。できたとしてももうちょっと慎重になるはずよ。」

(…………、まずいですわ、誤魔化せませんの。)

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:31:56.37 ID:JDXIYTRW0<>


恐らく何を言っても無駄だろう。
全て理論的に跳ね返されてしまう。
なら、どうすれば。
そこで白井は、逆転の発想を思い付く。


「……実は、新型の幻想御手は……『魔術』なんですの。」

「昨日突然風紀委員の支部に魔術師さんが現れまして。『ワクチン』をわたくしに下さったんですの。」


「…………………………、……………。」


美琴が無言で白井を見つめる。
わかる。
きっとこのお方は今「この子頭大丈夫だろうか?」と思っているのだろう。
自分に向けられているこの目は、そんな目だ。


「冗談はさておき……………正直、わたくしにも詳しいことはよくわかっていませんの。」


これが、白井の策であった。
真実を述べてから、一転して「わからない」方向に持っていく。


「………どうもホントにわからないみたいね。……まぁ、『ワクチン』が手に入ったなら良かったわ……。」


真実の内容がぶっ飛んでいるだけに、効果は抜群だった。
「事実は小説より奇なり」という言葉があったな、と、白井は思う。


「あ、そうだ。」

「ど、どうなさいましたの?」


誤魔化しきれなかったか?
白井は焦る。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:32:28.61 ID:JDXIYTRW0<>


「今回の幻想御手って、『曲』ともうひとつ『何か』がセットになってるんでしょ?」

「な………なぜそれを知ってますの………。」


誤魔化しは成功していた。
だが今度は別の所に焦る。


「ちょっとねー。私にもそれなりの情報網はあんのよね。」

「……………上条さんですわね?」

「えっ//////」

「はぁ……。お気付きになられていないようですが、お姉様が自信有り気に持ってくる情報は大抵あの殿方からの情報なんですのよ?」

「そ、そ、そ、そんなこと……////」

(お姉様……顔真っ赤ですわよ……。……いくら幼馴染とは言え、そろそろどうにかしてしまいそうですのあの殿方……もとい、類人猿。)


白井の脳内で「上条当麻」が「類人猿」にランクダウンした瞬間である。


「………それでさ、そのもうひとつの『何か』って何だったのかなー、って……。」


まずい、と感じた。
あのカードの話をしたところで、仕組みを理解できるはずが無い。
そうなれば美琴はとことん調べるだろう。
……危険を冒してでもだ。
それは食い止めなければならない。
問題は、現時点で美琴がどこまで情報を掴んでいるかだ。
場合によってはまだ誤魔化せる。


「……るいじ……上条さんは何かおっしゃっていませんでしたの?」

「るいじ?………アイツが言うには、『曲』が鉛筆みたいな役割で、『何か』が紙みたいな役割だって。」

(鉛筆?紙?………何のことですの?)


新型幻想御手。
正式名称は「加速演算術式」。
『曲』が脳に指令を送り、ルーンを脳に焼き付けて視覚に固定する、という仕組み。


(……確かに『曲』は鉛筆みたいなものかもしれませんが……どちらかと言えば紙は……脳の方ですの。)

(ルーンはこの例で行くと『被写体』ですわね。……あの類人猿、中途半端なところまでしか情報を掴んでませんのね。……なら。)

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:33:06.32 ID:JDXIYTRW0<>

「申し訳ありませんの。セットになっている、というところまでは知っているのですけれど……具体的に何なのかはわかりませんの。」

「そっかぁ。……まぁ『ワクチン』のことも知らなかったし、しょうがないっか。」


なんとか誤魔化せた。
だがこれもその場しのぎだ。
いずれ美琴が風紀委員の支部に顔を出すことがあれば、そこから全て明るみになってしまうだろう。
あとで風紀委員側にも何か対策しておかねばなるまい。


「まぁサンプルとかワクチンの話はもういいわ。問題は、首謀者ね。」

「根本的な解決、という意味ですわね?」

「そういうことね。でもそこまで解決してるならなんとかなりそうよね。もし妨害とか入っても黒子がいるなら大丈夫だろうし。」

「……………………そうですわね。」

「……?どうしたの?元気無いわね。」

「い、いえ、何でもありませんの!」

「?……無茶はしないようにしなさいよ?」

「わかってますの。」

「じゃあ私アイツんとこ行ってくる!」

「え?!あ、わかりましたの!」


話しながらいつの間にか準備を終えていた美琴は、上条の元へと出かけて行った。


「申し訳ありませんのお姉様…………無茶は………とっくにしてますの。」


白井は、残された部屋でひとり呟いた。






<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:33:39.30 ID:JDXIYTRW0<>





とある男子寮の一室。


「カーミやーん!」

「のわっ?!前触れも無しに突然部屋に入ってくんなよ土御門!!」


隣人が突然部屋に乱入してくる。
慣れた光景だが……いや、これは慣れない。心臓に悪い。


「まぁまぁそう言うなよカミやん。朗報だぜい。新型幻想御手のサンプルの情報、そして物流ルートの情報が入った。」

「ほ、ホントか!」

「ああ。できればもうひとつの『何か』もわかったんだにゃー。」

「それって何だったんだ?」

「ルーンのカードだったんだにゃー。ステイルが使ってるような感じの奴だ。」

「ルーン?……それが紙の役割を果たすのか?」

「………実はまだよくわからないんだにゃー。」

「はぁ?……魔術はお前らの専売特許だろ?……もしかしてお前ルーンがわからないとか?」

「いや、そういうことじゃないんだにゃ。確かに俺はルーン苦手だけど……ステイルにもわからないようなんだ。」

「ステイルも?」

「ああ。イギリスの方に情報を送ったんだが……あのルーンの天才でさえ完全に理解はできてないんだにゃ。」

「ステイルでも、か……。」

「どうやら新たに作られた……というより、アレンジされたものだ、というところまではわかってるんだにゃー。」

「けど、何をアレンジしたのか、どうアレンジしたのかがまだ解明されて無いんだぜよ。」


「…………そのルーン、ちょっと見せて欲しいかも。」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:34:07.55 ID:JDXIYTRW0<>


突然幼い女の子の声が間に割って入った。


「い、インデックス?」

「二人とも私を無視して話をトントン進めちゃって……。ちょっと酷いかも。」

「……そうだ、禁書目録なら……。」


土御門は、ポケットを探ると、一枚の紙を取り出す。


「これだにゃー。オリジナルをコピーしてある。」


インデックスはそれを受け取ると、まじまじと見つめる。
何やらブツブツ言っているようだが、何を言っているのかは聞き取れない。


「…………確かに何かをアレンジされてるのはわかるんだよ。でも……ところどころにフェイクが混じってる。」

「フェイク?」

「そうだよ。本来意味のある文章に適当に文字を挟んで文章の意味をわからなくするようなフェイク……。」

「そういえばステイルも似たようなこと言ってたぜい。」

「うーん、インデックスでもわからないとなると……。」


ブーン、ブーン

突如部屋に携帯のバイブ音が響いた。


「ああ、すまんすまん。俺のだにゃー。」


そう言って土御門は携帯を開く。
どうやらメールだったようで、彼は携帯の画面を見つめながらボタンを操作している。

突如、彼の表情が変わる。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:34:41.39 ID:JDXIYTRW0<>

「…………ッ!!!インデックス!!これを見てくれ!!」

「ど、どうしたんだ?土御門?」

「?何なのかな?」


インデックスは、土御門から手渡された携帯の画面を見る。
そこには一枚の画像が表示されていた。
上条が横から覗き込む。


「これは……ルーン?」


先程見たものとは、少し違うように見える。
しかし上条には何が違うのかわからない。
インデックスは、携帯の画面を食い入るように見つめている。


「……つちみかど、これは何?」

「新型幻想御手の『ワクチン』となるルーンらしいにゃ。」

「ワクチン?な、なんで?インデックスやステイルでもわからないものなのに……誰が?」

「それはわからないにゃ。わかってるのは、風紀委員が突然これを持ち出したことだけだ。ちなみに、ちゃんと『ワクチン』としての効果はあったらしい。」

「どういうことだ……?」


「わかったんだよ!!」


「インデックス?」


「これは、さっきのルーンの無効化用ルーンだね。全ての性質が逆になるように作ってある。」

「でも、『フェイクだけ』は性質が全く同じになってるんだよ。」

「だから、この二枚のルーンを比べればどれがフェイクかわかって……ルーンの意味がわかるんだよ!」


「……どういう意味だったんだ?」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:36:21.03 ID:JDXIYTRW0<>

「うん。ベースとなった魔術は、体感時間を操作する魔術だね。」

「体感時間?」

「例えば……何か危ない目に会った時って、時間がすごく長く感じたりしない?」

「………そういえばそんな感じするな。」

「それを人為的に起こす術式なんだよ。逆に時間を早送りもできるけどね。」


インデックスは、原理の説明をしていく。
上条は半分くらいしか理解できなかったようだが、土御門はほとんど飲みこめたようだった。


「と、なるとだ。色々おかしい部分が見えてくるわけだぜい。」

「何がでせう?」

「とうま。能力者っていうのは……魔術を使える?」

「いや、使えないはず……ん?さっきの説明だと、これって能力者が使う前提の魔術なんだよな?」

「そうだぜいカミやん。この術式は魔術師が使っても……実際何の効果も恩恵も無い。それに、これは『曲』という科学があって初めて成り立つように作られてる。」

「そんな魔術を、魔術師が作ったりするわけ無いんだよ。」

「確かに……。どういうことだ?」

「こればっかりは黒幕に問い詰めてみないとわからないぜよ……。カミやん。」

「ん?なんだ?」

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:37:03.95 ID:JDXIYTRW0<>
「俺はそろそろ退場させてもらうぜよ。」

「え、どうかしたのか?」

「いやあ、俺が風紀委員に関わるわけにもいかないしにゃー。黒幕捕まえるのはカミやんに任せるぜい。」

「え、え?いや、それは構わないけど……なんでたいじょ……おい、そっちベランダだぞ?」

「いやー、魔術についての情報があまり広がると困るからにゃー。……インデックス、ちょっと一緒に俺の部屋でお留守番だにゃー。」

「え!?ど、どうしてなのかな?理由を聞かせて欲しいかも!」

「……舞夏の作ったシチューがまだたくさん余ってるんだけどにゃー。」

「い、行く!行くんだよ!!」

「……土御門?インデックス?」

「……カミやん。お姫様の登場だ。お邪魔虫は退散するとするぜい。」


土御門はそう言い残すと、インデックスを連れて部屋から出て行った。
……なぜかベランダ経由で。


「……どういうことでせう?……なんであいつらベランダから……。」



ピンポーン



上条の部屋のインターホンが、鳴った。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 04:38:30.33 ID:JDXIYTRW0<> 以上です!

あ、ちなみにエンゼルフォールはもう終わってる設定です。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:43:46.53 ID:K7P2xInw0<> 投下します。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:44:27.15 ID:K7P2xInw0<>


「はーい。」

「私よ!」

「………新手のオレオレ詐欺か何かで?」

「………早く開けないと超電磁砲ぶっ放すわよ。」

「だー!!ま、待て、すぐ開ける!申し訳ございませんでしたあぁあああ!!」


訪問者は、美琴だった。
ちなみに上条家のインターホンを押すのに五分ほど悩んでいたのは内緒である。


「入ってもいいかしら?」

「……ダメっつっても入るんだろ?」

「そんなことしないわよ!………『良い』って言うまで粘るだけよ。」


同じようなもんだろ、と上条はため息をつく。
それをOKの返事と受け取った美琴は、ズカズカと上条家に入ってゆく。


「ふーん。てっきりまた散らかってるかと思ったけど、ちゃんと綺麗にしてんのね。」

「……誰かさんがうるさいからな。」


美琴は時々上条の部屋に遊びに来る。
ひとり暮らしの男の部屋なんて散らかってなんぼ、である。
美琴は、その度に小言を言いながら片付ける。
しばらく来ていなかったのでかなり散らかっているのを想像していた美琴。
しかし、どうも以前とは違い、きちんと綺麗にしているようであった。

美琴は、ベッドに腰掛ける。


「ふーん。…………まぁ散らかったら片付けてあげるから別にいいんだけどね。」

「どっちなんだよ?!いっつもすごい言われようなのに……。」


上条の部屋に来る口実がひとつ減ってしまった。
こんなことなら小言なんて言うんじゃなかった。
内心落ち込む美琴。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:44:59.70 ID:K7P2xInw0<>

「………って………………何これ。」


上条のベッドの枕に、上条のものではない髪の毛を見付ける。
長めの銀髪。


「…………………………………ねぇ。どうしてアンタ以外の人間の髪の毛がここにあんのかしら?しかもこれ………女性の髪よね?」

「あ、いや、えっと、その、それは違うっていうか、なんていうか……………。」

「そうね、アンタの髪の毛とは違うわよね。」

「あ、いや、そういうことではなくてですね?いや、その、ほら、ね?」


まるで浮気がバレた夫婦のようなやり取り。


「ちゃ・ん・と!説明してもらえるかしら?」

「あ、えーと、その……実は、以前助けた女の子が倒れてしまいまして、それでちょっと看病してたと言いますかなんと言いますか……。」


まさかシスターと同居してますなんて言えない。


「………………まぁ、アンタならやりそうなことよね……。」


適当に納得してくれたようだ。
……嘘がバレたら殺されるんじゃなかろうか。
上条は、軽く身震いする。

それにしても、なぜこの幼馴染は女性関係でこうも目くじらを立てるのだろう?
それが全く理解できないのが、上条クオリティである。


「………それで?昨日の今日で『遊びに来ました』とか言うんじゃねぇだろうな?」

「……アンタ私を何だと思ってんのよ……。幻想御手の件よ。」


美琴はワクチンの件、首謀者の件について話す。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:45:32.69 ID:K7P2xInw0<>

「……なるほど、物流を根元から断ち切るってことか。」

「そういうことね。風紀委員であらかた目星がついてるみたいだし……早ければ今日にでも詳しいことわかるんじゃないかしら?」

「それにしても……一体どこから『ワクチン』が湧いて出たんだ?」

「それなのよねー……。黒子も詳しいことは知らないって言ってたし。やっぱサンプルを元にどっかの研究者が一晩で仕上げた、とかなのかしらね?」


それはあり得ない。
アレは魔術だ。サンプルがあっても、学園都市においてどうにかすることなどできやしない。


「(詳しい部分は魔術が関わってる。………美琴には言わない方がいいな。)……確かにそれが一番有力かもな。それくらいしか考えられねぇし。」

「やっぱそうよね。まぁ……今度風紀委員の先輩にでも聞いてみるわ。」

「ああ、それがいいかもな。それで……首謀者のことなんだが。」

「?」

「お前……首突っ込むつもりだろ?」

「ギクッ!」

「ったく………『ワクチン』見付かったから大人しくなるかと思ったんだが……結局首は突っ込むんだな。」

「だ、だってぇ……。」

「あのな。遊びじゃねぇんだからもうちょっとちゃんと考えて行動しろよ。風紀委員や警備員がいるんだ。お前が出しゃばるところじゃない。」

「うぅ………。」

「はぁ……。(それに今回は魔術が絡んで………ん?待てよ?)」


そういえば、風紀委員や警備員が魔術師とやり合ったしたことってあるのだろうか?

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:46:44.05 ID:K7P2xInw0<> ↑
最後の文、「やり合ったりしたこと」ですね。すいません。 <> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:47:30.47 ID:K7P2xInw0<>

土御門は、黒幕の件は上条に任せる、と言った。
わざわざインデックスを連れ出してまで、美琴と上条が話す時間を作った。
そして、「自分が風紀委員と関わるわけにもいかない」とも言っていた。


(つまり……土御門、そういうことなんだな?)


何かを悟った上条は、美琴を再度見る。


「美琴。」

「にゃ、にゃによ!」

「(……噛んだ……。)やっぱ今回は俺達も風紀委員に協力しよう。」

「え?!い、いきなりどうしたの?」

「いや、多分……俺達の力が必要だと思うんだ。」

「………?スキルアウト相手なのに?」

「あー………もしかしたらとんでもない能力者とか……いるかもしんないし、な?」

「なんかよくわかんないけど……。アンタがそう言うなら私もそうするわ。」

「ああ。多分白井繋がりで協力はできるだろ?」

「そうなるわね。あ、ちょっと黒子に電話してくるから待ってて!」


美琴は、ベランダへと出る。
「何よこれ!?」とか聞こえた気がしたが、上条は気にしない。
………多分土御門の奴が仕切りの板ぶっ壊して部屋に帰ったんだろう。

上条は、ひとり考える。


(今回は魔術に対して風紀委員が表から動きすぎてる。)

(そこに裏から土御門達が動くことはできないってことだな。)

(となると、風紀委員との繋がりがあって、なおかつ魔術を知っているのは……。)

(俺しかいない。………美琴を巻き込むのは気が進まないけど、今回ばかりは仕方無い、か……。)


ベランダの美琴が、電話を切りこちらに戻ってくるのが、見えた。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:48:04.53 ID:K7P2xInw0<>



――――――――――――――――――――――――――――――


とあるコンビニ。


(おォ……やっと入荷しやがりましたかァ。待ちくたびれたぜェ……。)


学園都市第一位の男は、ひたすら缶コーヒーを買い物カゴへと突っ込む。
彼が手に取るのは、ある一種類の銘柄のブラックコーヒーのみだ。

店員が妙な視線を向けてくるのだが、彼は気にしない。
とりあえずちゃんと代金を支払えば文句は無いだろう、と考えているのだ。

レジを済ませると、彼は大量の缶の詰まったビニール袋を両手に、自宅へと向かう。


(そォいや最近番外個体見かけねェな。どォしたんだ?)


いつかの缶コーヒー事件を最後に、彼女の姿は見ていない。


(風邪か何かか?アイツ暇さえあれば嫌がらせしてくるからなァ。なンかあるンだろォな。)


通行人が、珍しいものを見る目で一方通行を見る。
果たして、珍しいのは大量の缶コーヒーなのか、彼の見た目なのかは、わからない。
慣れたことなので、第一位は特段気にしない。


(見舞いにでも行ってやるかァ?……………そォいやアイツって普段どこで何してンだ?)


考えてみると、番外個体が普段どう過ごしているのか、知らない。
もしかすると一方通行に嫌がらせをするのが彼女の日常なのかもしれないが、敢えて一方通行はその考えを無視する。
………そんな恐ろしい話があってたまるか。


(まァ……今度会ったら聞いてみっかァ。っと……着いたか。)


一方通行は、ビニール袋を手にぶら下げたまま、器用にポケットから部屋の鍵を取り出した。


<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:48:41.13 ID:K7P2xInw0<>


その頃番外個体は、割と人通りの多い道を歩いていた。
対一方通行戦に備えての場所選び。

人気の無い所もいいが、逆に人気の多い所にもチェックを入れている。
これだけの人がいれば、一方通行は能力を全力で行使しない……いや、「できない」だろう。
なんだかんだ彼はお人良しなところがある。
無関係な一般人を巻き込むような真似はすまい。


(それにしても……ホントにこんなんで能力上がるのかなぁ。)


手には、音楽プレイヤーと一枚のカードが握られている。


(場所のチェックが全部終わったら試しに使ってみようかな。)


自分は大能力者だが、これで能力が上がれば超能力者になるのだろうか?
スキルアウトから奪った幻想御手の一式を、懐にしまう。


(まぁ、なったところで……結局お姉様も一方通行には勝てないって計算結果が出てるんだけどねぇ。)


恐らく一方通行に勝てるのは一方通行だけなのではないだろうか。
……正攻法で正面からぶつかれば、の話だが。

例えばこれだけの人ごみで、彼に向けて銃を乱射したら?

恐らく、流れ弾を恐れて反射を切るだろう。
それか、弾を全て安全な位置に飛ばすような演算をするか。
いずれにせよ、彼のポテンシャルを引き出せない状況に陥るはずだ。
ここまで用意周到な準備をして彼に挑めば、彼はどんな顔をするだろう?

少し、胸が痛くなった。

番外個体にはなぜだかわからなかったが、一歩通行の悲しそうな顔が脳裏に浮かんだ。
彼のこんな顔は、まだ見たことが無い。
そして、彼のこんな顔を考えると、なぜか胸が締め付けられるような感覚になる。

彼女は、胸のあたりをギュッ、と、握った。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:49:07.89 ID:K7P2xInw0<>

ドン!



「う、うひゃ?!」

「あ、あたっ!?す、すいません!」


何かがぶつかったと思ったら、中学生くらいの少年だった。
制服は、着ていない。
番外個体と同じ髪の色だ。


「あ、こっちこそごめんね!ちょっとぼーっとしてて……。」

「ん、いえ、こっちも考え事して………え?」


「え?」

「お前イ………………………ッ!!あ、いや、なんでもないです!!ただの勘違いでした!すいません!!」


「え?あ、うん……。」

「そ、それじゃ!すいませんでした!」


少年は慌てて走ってゆく。


「……行っちゃった。何だったのかな?」


番外個体は、少年の去って行った方をしばらく見ていた。




――――――――――――――――――――――――――――――



<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:49:46.41 ID:K7P2xInw0<>


風紀委員第177支部。


「白井さーん、携帯鳴ってますよー。」

「あ、今行きますのー。」


白井は書類の束を机に置くと、携帯を取りに行く。


「えーと……………お姉様でしたか。っと………。」


すでに着信は止まっていたので、すぐに掛け直す。


『プルルルルルル、プルルルルルル………ブッ!……もしもし、黒子ー?』

「ちょっと手が離せませんでしたの。どうかなさいまして?」

『あ、えっとねー。幻想御手の首謀者を捕まえる件なんだけど、私達も協力してもいいかな?』

「私『達』、ですの?」

『あ、うん。と、とっ当麻も一緒よ!』

「……お姉様、いつになったら噛まずにあの殿方の名前を言えますの?」

『べ、別にいいじゃないのよ!それに……今アイツん家にいるから緊張するっていうか……///』

「…………、いろんな意味で胸やけがしますの。」

『はぁ?………それで、協力してもいいの?』

「………構いませんわよ。」

『え、ホント?!っていうか、いいの?固法先輩とかに確認取らなくて……。』

「もう昨日の段階で取っておきましたの。」

『え、ええ!?アンタいつもは一般人がー!って言ってるじゃない、どうしたのよ?』

「………気分、ですの。」

『き、気分って……。まぁわかったわ!後で詳しいこと話ましょ!それじゃ!  ブッ……プー、プー、プー』

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:50:19.08 ID:K7P2xInw0<>


白井は、携帯を折りたたむとポケットに入れる。


(あの類人猿までついて来るとは予想外でしたわね。まぁお姉様がいれば安心ですの。……風紀委員側にも手は打ったことですし、大丈夫ですわね。)


美琴を風紀委員に一時的に招き入れるに当たり、白井は「ワクチン」の情報が美琴に漏れないよう手を打ったのだった。
とは言っても、固法にひたすら頼み込んだだけなのだが。
「ワクチン」に関して何も話せない以上、頼み込む以外に手は無い。
なぜそうしてほしいのか、という理由も話せないのだ。


「白井さーん、電話終わりました?」

「……初春、わたくし少し休みたいのですけれど……。」

「ダメですよー!固法先輩からの言いつけなんですから!」


理由を何一つ話さない代わりに、ということで、白井は多大な量の仕事をこなさなければならなかった。
ちなみに、この頭に花飾りを乗せた同僚も、「ワクチン」と白井の関係は知らない。
昨日は警備員の支部へ行っていたため、事情を知らないのである。


(まったく……。こっちもこっちで色々大変だというのに……。)



チャララ チャーララーラ チャーララーラ チャーララー チャラチャララ チャーラーラーチャーラーチャ!チャ!


また携帯が鳴る。


(今度は誰ですの?……ッ!)

「初春!申し訳ありませんが少し席を外しますの!」

「え、ちょ、白井さん?!」


白井は、走って建物の中で人気の無い場所へと移動する。

<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:50:47.00 ID:K7P2xInw0<>

「……もしもし?完全個体ですわね?」

『ん、白井か?ちょっと聞きたいことあるんだけど……。』

「なんですの?物流に関しては昨晩話したままですの。まだ進展してませんわよ?」

『あ、それとはちょっと別の話なんだけど……。』

「? なんですの?」

『なぁ。学園都市って……人間のクローン作ってもいいのか?』

「……何をどうしたいのかよくわかりませんけれども、国際法で禁止されている以上、学園都市も例外ではありませんわよ?」

『そっか、そうだよな、うん……。』

「どうかなさいまして?」

『あ、いや、ちょっと気になっただけだから。』

「まぁいいですわ。……完全個体、今のは契約『外』ですわよね?」

『えっ。あ、まぁそうだけど…え。』

「まぁいいんですのよ。その代わり、わたくしからもひとつ質問がございますので、答えていただけませんこと?」

『……答えられないこともあるよ?』

「あ、そういう質問ではないので安心していただいて結構ですわよ。」

『なら聞こうか。』

「加速演算のルーンについてですの。」

『ああ。』



<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:52:06.54 ID:K7P2xInw0<>


…………………………………………………。







『――――――――――ってくれよ?』

「……わかりましたわよ。」

『ん。それじゃ、何か詳しいことわかったらよろしく頼むな。』

「了解ですの。」


白井は、電話を切り、またポケットへと戻す。


「白井さん!もー、探したんですよ!こんなとこにいたんですか!」

「初春……。電話だったんですのよ。申し訳ありませんの。」

「電話……御坂さんですか?」

「あー…………そうですの。」

「はぁ……全く白井さんってばいつも御坂さん御坂さん、ですね……。」

「当たり前ですの!お姉様はわたくしの生きる理由ですの!」


喋りながら、二人は支部へと戻る。


「さて、わたくしはこの書類を片付けてしまいますの。」

「がんばって下さいねー。」


白井は机に向かい、初春はパソコンへと向かう。



(そろそろ24時間ですわね。……あと二日………。このまま書類に向かっているべきかもしれませんわね。)



白井は、膨大な書類の山に手を伸ばした。
<> たくま<>sage saga<>2011/04/26(火) 22:52:58.32 ID:K7P2xInw0<> 以上です。

あと2〜4回くらいで新型幻想御手編を終わらせたいと思います!
途中の脱字すいませんorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/26(火) 23:05:06.04 ID:w2tfwWPqo<> 並列で事件が進行してるな・・・続きが気になるぜ <> たくま<><>2011/04/27(水) 22:33:53.96 ID:JLHPvHpr0<> >>106
ワーストちゃんと幻想御手の関わりを書きたかったんですよ笑

ちょっと短いのと、あと駆け足ですが投下します。 <> たくま<><>2011/04/27(水) 22:34:35.16 ID:JLHPvHpr0<>


「で?白井、何だって?」


とある男子寮の一室。


「協力してもいいって!説得に苦労すると思ってたのに……どうしちゃったんだろ、黒子。」

「まぁ、それだけ厄介だってことかもしれねぇぞ?」


風紀委員はどこまで掴んでいるのだろう。
というか、もし「魔術」に関する情報を掴んでいるとしても、風紀委員は学園都市の人間だ。
そんなオカルトまがいのもの、信じるわけがない。

……油断していなければいいのだが。


「ていうか何度も言うけど、スキルアウトよ?そもそも黒子がいる時点でどうにかなったりしないでしょ。」


確かに、白井は空間移動の大能力者だ。
彼女に勝てる人間なんて、ほんの一握りだろう。

あくまで、学園都市においては、の話だが。


「まぁ備えあればなんとやらってやつだろ。仮にも美琴は超能力者だしな。」

「仮にもって何よ、仮にもって!」


美琴は頬を膨らませ、拗ねる。


「ははは、悪かった悪かった。」


上条は、美琴の頭を軽く撫でてやる。


「………………ふにゃー///」
<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:35:10.66 ID:JLHPvHpr0<>
こういう行動が、フラグ成立に繋がってゆくことを上条は知らない。
あちらこちらで上条に好意を向ける女性が次々と現れるのは、こういった上条の態度、行動が原因だ。
もちろん、自分に好意を向ける女性が存在するなどということは、上条は夢にも思っていない。

ところで、フラグが一度成立したからと言って油断ができるわけではない。
好意というものに段階があるように、フラグを二度、三度、と立てて行くことにより、より強力なフラグとなっていく。
つまり、気になる、が、好き、になり、好き、が、大好き、になっていくわけだ。

上条当麻の幼馴染の少女、御坂美琴。
上条当麻という男と、一番一緒にいる時間が長かった、少女。

―――上条にフラグを立てられた回数は恐らく世界一だろう。

漏電は、しない。
もはや漏電なんて壁はとっくの昔に越えている美琴だった。


「まったく……幸せそうな顔しやがって………そんなに頭撫でられるのが好きなのかコイツ。」


撫でているのが上条だから、という発想は、当然無い。
上条は、手を止める。


「それで?詳しいことはまだわかんねぇのか?」

「(あ…………シュン)……そうね、今晩にでも話してみようと思う。」

「そうか。んー………。」


時計に目をやる上条。


「なぁ…………腹減らねぇか?」

「あ…………そういえば、今日まだ何も食べて無かったわ。」


お腹を押さえる美琴。


「よし、じゃあ何か作ってやるよ。」

「うん!」


上条は、台所へと向かう。
そういえば美琴と二人での食事は久しぶりだ。

何かうまいモン作ってやろう。

そう決めると、上条は冷蔵庫の扉に手を掛けた。


<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:36:06.81 ID:JLHPvHpr0<> ――――――――――――――――――――――――――――――


『プルルルルルル、プルルルルルル………ブッ……はいもしもし。』

「俺だ。」

『あ、完全個体か。どーしたの?』

「ん。そっちはどんな感じだ?」

『全然ダメね。ていうか必要悪の教会のガードが固すぎて何も調べらんないわよ。』

「それはこっちも似たようなもんなんだけどね……。」

『大変だったわよー!顔にバーコードのタトゥー入れた神父に街中追っかけまわされたんだから!』

「………、それホントに神父なのか?何だよバーコードのタトゥーって………。」

『アタシが聞きたいわよ!……まぁ炎を扱う魔術師だったから大丈夫だったけどね。』

「………………、似た者同士戦って火事とか起きなかったのか?」

『大丈夫よ………多分…………見てないけど……。』

「……………、お前なぁ…………。」

『しょうがないじゃない!いきなり聖人が出てきたんだもん……。一目散に本気で逃げたわよ。』

「…………逆によく逃げられたな。」

『お陰できっちり反動期入っちゃったけどね。』
<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:36:41.96 ID:JLHPvHpr0<>
「あー、加速演算使ったのか……そういえば、いくつか報告があるんだけど。」

『? 何か掴んだ?』

「二つほど、な。まず一つ目だけど、学園都市で加速演算の外部デバイスが出回ってる。」

『はぁ?!…………またなんで?』

「知らねーよ。まぁでも一応風紀委員の子に解除法と引き換えってことで情報もらう約束したから……そのうち何かわかるかも。」

『…………アンタ、余計なこと話してないでしょうね?』

「んー…………さすがに魔術ってのがこの世には存在するよってのは話したけど……。」

『まぁ……そのくらいならいいわよ。』

「ああ、あと……個体コード教えちゃった。」

『……………アンタ今度燃やしてあげるわ。寝てる時に。』

「え。いや、そこは起きてる時にしましょうよ、ね?………ね?」

『だってアンタ水流系でしょー。燃やせないじゃない!』

「いや、本気で燃やそうとすんなよ。」

『まぁ冗談はさておき……。個体コード教えたのはひとりだけ?』

「ん。風紀委員のその子だけだね。他言しないよう言っといたから多分大丈夫だろ。」

『まぁ、今後は気をつけなさいよ?………ていうか……あのさ、じゃっじめんとって何?』

「…………そうだよね、やっぱそうなるよね、俺がおかしいわけじゃないよね。」

『?』

「あー……『外』の警察みたいなもんだよ。」

『ふーん。学園都市って変わってるわね。』
<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:37:12.00 ID:JLHPvHpr0<>
「だよね、うん、やっぱそうだよね、うん。」

『……何かあったの?………それで?もうひとつってのは?』

「あー………『超電磁砲』のクローンらしき人間を見かけた。」

『は?…………『超電磁砲』を見かけた、じゃなくて?』

「うん。」

『…………どういうこと?』

「そっちは全然わかんない。」

『…………一応そっちも調べてみてくれる?加速演算の方も重要だけど、そっちも何か引っかかるわ。』

「まぁ言われなくてもそのつもりだよ。」

『あーあ。そっちは動きが早くていいなぁ。アタシ魔術はわかんないからこっちで動くのかなり辛いのよね。』

「やっぱ人選ミスったかな?」

『今更文句言ってもしょうがないけどね。……ローマ聖教じゃなかっただけ良しとするわ。』

「……………、アイツ生きてるかな?」

『……………。』

「……………。」

『ま、まぁ……お互いがんばろ?』

「そ、そうだな!それじゃ!……ブッ……プー、プー……。」



―――――――――――――――――――――――――――――― <> たくま<><>2011/04/27(水) 22:37:49.93 ID:JLHPvHpr0<>


夜。

風紀委員第177支部。

普段は割と人がいないこの支部。
だが、今は支部中の人間が一部屋に集まっていた。
人が輪を作った中心にいるのは、固法だ。


「全員揃ったかしら?」


固法は、周りを見回す。


「……揃ったみたいね。じゃあ、説明を始めるわよ。」


一同、頷く。


「まずは制圧地区のスキルアウトの組織図からね。」


そう言って、手元の紙を広げ、ホワイトボードに磁石で張り付ける。
紙には、トーナメント表のような図が書き込まれている。


「この地区のスキルアウトの頂点は、この三チーム。」


固法は、トーナメント表でいう「優勝」に当たる部分を三か所、指さす。


「それで……三チームとも、新型幻想御手に関する重要な情報を持っている可能性が高いわ。」


昨日の取り調べ、そして今日風紀委員数名が捜査して手に入れた情報を吟味した結果だ。
<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:38:15.54 ID:JLHPvHpr0<>

「一か所ずつ、というのはダメね。残りの二か所に逃げられてしまうわ。」

「だから、班を三つに分けての行動を取ることにするわ。バックアップは別ね。」


そう言うと、プリントの束を取り出す。
近くのひとりに束を渡し、一枚取って横に渡すように言う。
固法は、全員にプリントが行き渡るのを待つ。


「………全員回ったかしら?」


どうやら、行き渡ったらしい。


「これは名簿よ。」


プリントを、指さす。


「名前の横に書いてある番号が、班番号。」

「何も書いてない人はバックアップ。」

「数字に○がついてる人が、各班の班長よ。」


ちなみに△は副班長よ、と、付け加える。


「それじゃあ各々、班に分かれてくれる?これからの全体の決定事項は、班長経由で伝えるから、よろしくね。」


そう言われると、全員動き出す。
班長なのだろうか、「○班こっち!」と、手を上げる者もいる。



<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:38:45.03 ID:JLHPvHpr0<>

「えーっと、一班はこれで全部かな?」


さわやかな感じの男子。
どうやら、彼が班長のようだ。


「しばらくの間、みんなよろしく!……御坂さんも、どうぞよろしくお願いしますね!」

「あ、はい……。」


実は、夜に白井と話そうと思っていた美琴だったが、直接風紀委員の支部に呼び出されたのだった。
知ってる人間が班内にいない。
ちょっと気まずい。
美琴は、上条の方にチラリと目をやる。





「二班の班長は私が勤めるわ。よろしくお願いします。」


二班の班長は、固法だった。


「今回は……一般人なのに付き合わせてしまって申し訳ありません。」

「あ、いえ、こっちからお願いしたことですし、むしろ無理言ってごめんなさいと言いますか…。」


上条も二班だった。


(あ、アイツ……早速女の人に……!!……やっぱ同じ高校生の方がいいのかなぁ……固法先輩胸大きいし……。)


軽くため息をつく美琴。


<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:39:25.09 ID:JLHPvHpr0<>


「三班の班長は俺だ。よろしくな!」


ガタイのいい男子。
男子、というよりは、男性、のイメージに近い。


「普段前線に出てる白井がいるし、うちの班は白井中心で作戦を組もうと思う。いいかな、みんな?」

「「「はい!」」」

「うむ。白井、よろしく頼むな!」

「は、はい……ですの……。」

「? どうした?元気が無いが……。」

「あ、いえ、その………書類の山を片付けるので疲れ切ったといいますか……。」

「ああ、そういえばすごい量だったしな。きちんと休んでおけよ?」

「はい、ですの。」



ちなみに、初春はバックアップ班だった。


全体の決定では、二日以内に突入することが決まった。
ちなみに、風紀委員が誰ひとり街からいなくなるため、その日は警備員が風紀委員の通常業務を担当する、ということだ。



各班の作戦会議が終わると、各々帰路へとつく。


<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:39:54.36 ID:JLHPvHpr0<>

「黒子ー、帰るわよー。」

「はいですのー。」

「それじゃ、アンタも気をつけて帰りなさいよ?」

「上条さんは心配いりませんのことよ。不幸はいつものことですからね!」

「……、まじで気をつけて帰りなさい。」

「……はい。」


上条とも別れ、美琴と黒子は寮へと向かう。


白井はひとり歯を食いしばる。



(二日以内……。もしかすると、間に合わないかもしれませんの……。)



いざとなれば。



(風紀委員で動きにくくならないためにも……………手を貸して下さいますわよね?)



だって。


『契約』、ですものね。
<> たくま<><>2011/04/27(水) 22:40:51.30 ID:JLHPvHpr0<> 以上です。
ちょっと駆け足ですがご了承くださいな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 00:57:25.74 ID:RJ80WdyDO<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/04/28(木) 11:22:19.40 ID:1ZwlctEdo<> 美琴の一喜一憂っぷりがかわええのぅ <> たくま<><>2011/04/30(土) 01:14:43.63 ID:kw9hNLrr0<> ありがとうございます!
書き込みがあるとすごく励みになります。

それでは投下します。 <> たくま<><>2011/04/30(土) 01:15:14.72 ID:kw9hNLrr0<>


とある研究所。
何台も並べられたスーパーコンピュータ。
樹形図の設計者にアクセスするための専用の端末。
ただ、数週間前に樹形図の設計者が原因不明の攻撃で破壊されてからは端末は使われていない。

それらのコンピュータよりもさらに目立つ、数台の培養器。
ほとんどが稼働していないが、一台だけ稼働した形跡がある。

それらの培養器フロアの横のフロアは、学習装置のフロアとなっている。
学習装置は全部で三台。
今のところ、特に数は必要無いのだ。

その中の一台に、茶髪の少女がいた。
その横では何やら科学者が話し合いをしながら、コンピュータを操作している。
と、画面に「Install Fin」の文字が表示された。

少女が、目を覚ます。


「やぁ。無事に終わったのかな?」


声を掛けたのは天井亜雄だ。


「問題ありません。と、ミサカ十三号は検体番号を添えて返答します。」


茶髪の少女は、自らを「ミサカ」と名乗った。


「ふん。さて、十三番目(サーティーン)。お前のすべきことは、わかってるな?」


天井は、少女を「十三番目(サーティーン)」と呼ぶ。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:15:41.77 ID:kw9hNLrr0<>

「はい。ミサカの使命は、一方通行を激昂させ、殺されることです。と、ミサカは己の使命を再確認します。」


少女は顔色ひとつ変えずに答える。


「ふ……いい答えだ。方法は……わかっているな?」

「もちろんです。今の一方通行を本気で激昂させる方法は、たったひとつです。と、ミサカは説明します。」


天井は、少女の返答を聞くと口元を歪ませる。


「くくく………一方通行、いよいよだぞ……。」


彼はモニターを見た。
いつの間にか、二つのモニターが起動している。
どうやら衛星からの情報を受信しているようだ。
その片方には一方通行が映っていた。


「一方通行……ついに絶対能力者がこの世に生まれるのだ……。く……ククク……。」


そして、もう片方のモニターに目をやる天井。


「最期くらい、ちょっとは役に立てそうだぞ?よかったな、出来損ない。」


もう片方のモニターには、ひとりの少女が映っていた。


必死に街中を掛け回る少女。


ついに新型が完成したことを、少女――番外個体は、知らない。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:16:09.34 ID:kw9hNLrr0<>




御坂美琴は、公園の木の下に立ちつくしていた。
彼女はかれこれ十五分ほどここから動かない。


「もう……こういう時ってホント電撃使いってダメよね!」


彼女はずっと上を見上げている。


「ニャー……。」


木の上には、小さな仔猫がいた。


「ああもう……こういう時に限って知り合いみんな電話に出ないし!」


どうやら、彼女は木の上の仔猫を助けたいらしい。
なるほど、十五分もここから動かない理由は、子猫を助けるためだ。

当の仔猫は、美琴に対し完全に怯えきっている。
美琴の位置からでも、仔猫が震えているのがよくわかった。


「……やっぱ電磁波のせいなのかなぁ……。」


彼女は、落ち込む。


(いつ突入するかわかんないし……できれば帰って休みたいんだけど……。)


スキルアウトへの一斉突入は間近に迫っている。
それに備えて体を休めておくのは大事なことだ。
美琴に至っては超能力者であり、間違いなく主戦力となる。
だからこそ体力の温存は必要なのだが。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:16:36.57 ID:kw9hNLrr0<>

(でもだからって仔猫を見捨てていいことにはならないわよ!)


長年一緒にいた誰かさんの正義感が移ったのか、どうしても仔猫を助けたい美琴。


(……せめて誰か通りかかってくれればなぁ……。)


なぜか今日に限って人っ子ひとりも通らない。
彼の不幸が移ってしまったのだろうか?
色々な意味で上条の影響を強く受けている美琴。

もうこうなったら風紀委員でも呼んでやるか。

恥も何も無しにそんな考えが浮かんだ時。




「………その木の上の四足歩行動物がどうかしたのですか?と、ミサカは尋ねてみます。」




やっと人が通りかかったようだ。
よかったよかった。


(…………みさか?)


美琴は、振り返る。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:17:03.41 ID:kw9hNLrr0<>

「………おや、お姉様でしたか。と、ミサカは予期せぬ事態に驚きを露わにします。」




「……………………………………………………………………は?」




とても見慣れている顔。
でも、鏡や写真でしか見たことのない顔。
一度も直接は見たことのない顔。
どこかで聞いたことのある声。
髪の色。
瞳の色。
全部。

自分自身が、そこにいた。





「? どうかしましたか、お姉様。と、ミサカは突然固まってしまったお姉様を心配してみます。」





お姉様。
こいつは今お姉様と言ったか。
……アレか。なるほど、自分には生き別れの双子の妹がいたのだ。
それはそれはびっくりだ。
なるほど、でも双子なら仕方ない。
……どこか現実逃避であることに美琴自身気付いている。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:17:31.17 ID:kw9hNLrr0<>


「あ、ああ、あ、い、妹!ご、ごめんごめん、い、いや、突然のことで驚いちゃったっていうか!アハハハハ!」


「! お姉様は我々クローンを妹として見て下さるのですね、と、ミサカは思わぬ展開に歓喜します!」



くろーん?
くろーん。
くろーん。
くろぉん。
くろん。


「くろん?」

「発音が違います。クローン、ですよ、お姉様。」


ああ。
クローンか。
あの体細胞からどーたらこーたらという。
そのクローンか。


誰が?



誰の?


<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:18:00.61 ID:kw9hNLrr0<>

「クローン………?」

「はい、それが正しい発音です。と、ミサカは懇切丁寧にレクチャーしました。」




頭が回らないとはこういうことを言うのだろう。
クローン?
いったい何のために?どうして?

美琴の頭には疑問ばかりが浮かんでくる。




「ところでお姉様、その木の上の四足歩行生物はよろしいのですか?」

「うぇっ?!あ、え、あ、ね、猫……。」




なんとか自己を取り戻す美琴。



「そ、そうよ、仔猫よ!今は仔猫!他は全部その後!」


とりあえず問題を先延ばしにすることにした。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:18:49.49 ID:kw9hNLrr0<>

「こねこ?とは……あの四足歩行生物の名前でしょうか?と、ミサカは質問します。」

「へ?………アンタ猫知らないの?」

「? ねこ、なのですか?こねこ、なのですか?」

「いや、子供の猫だから、仔猫、よ。」

「ああ、そういう意味だったのですか。と、ミサカは納得してみます。」


何普通に会話してるんだ私は。
美琴は、軽くゲンナリする。


「……あの仔猫助けるから、アンタ手伝いなさい。」

「わかりました。と、ミサカは快く承諾します。」

「でもどうしたもんかしらね……。」

「では、ひとりが土台になり、もうひとりがその上に乗る、というのはどうでしょうか?」

「あ、それいいかもね。」

「では早速そうしてみましょう。と、ミサカは行動を開始します。」



<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:19:35.88 ID:kw9hNLrr0<>







(え?なんで私が下?え?)

「お姉様、もう少し右です。」

「う、うるさいわね!だいたいなんで私が下なのよ!」

「にゃ、ニャー!」

「!!」


仔猫は、足を滑らせて落下してしまった。
ミサカと名乗る少女は、思い切りジャンプする。
………美琴の背中を思い切り蹴っ飛ばして。


「あだぁ?!な、なにすん……!」

「どうやら無事なようです。と、ミサカは両手で持ったスカートを……。」

「だあああ!!私の姿でそんなことするんじゃないわよ!!」

「ですが現状これが……あ、猫が、と、ミサカは……。」


仔猫はスカートから飛び降りると、早々に逃げ去ってしまった。


「あー……アンタ、もしかして電撃使いだったりする?」

「はい、せいぜい異能力程度ですが……。」

「電撃使いって、体から微弱な電磁波出てるのよ。それが動物に取っては怖いみたいね。」

「だから逃げてしまったのですね。と、ミサカは少し落ち込みます。」

「まぁしょうがないわよ。元気出しなさいよ!」

「……はい、と、ミサカは近付けないならせめて遠くから見つめよう、と心に秘めてみます。」

「いや、秘めれてないでしょそれ。」

「はっ!と、ミサカは………。」


<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:20:05.81 ID:kw9hNLrr0<>



数時間後。



(って、何やってんのよ私!!!!!)


何事も無かったかのように自分のクローンと楽しく過ごしてしまった。

一緒にお茶したり。
ゲーセンに行ったり。
ファーストフードを買い食いしたり。



美琴は、家族というものをあまり理解できていない。
学園都市に来たてのころの初めての帰省がその始まりだ。

父と母の雰囲気が、それまでとは少し違うものになっていた。
娘を遠くに住まわせたことによって何か変わってしまったのだろうか。
美琴の記憶にある両親とはまるで別人。
否、自分への接し方がガラリと変わったのだった。
冷たくなったのではない。
むしろ、とても甘やかしてくるようになったのだ。
だが正直、とても怖かったのを覚えている。
それ以来、どこか親に対して他人行儀になってしまう美琴。
気付けば、家族というものに対してどこか一線を引くようになっていた。

そこへ、自分のクローンが現れた。
まるで本当に妹ができたみたいだった。
両親に一線を引いた美琴に取って、この少女とまるで家族のように過ごす時間が「楽しくない」と言ったら、それは間違いなく嘘になるのだ。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:20:31.32 ID:kw9hNLrr0<>
いつの間にか夕方になっていた。
それだけ夢中になっていたのだろう。


「お姉様、ミサカはそろそろ帰らなければなりません。と、ミサカは残念そうに報告します……。」


その無表情な顔からはわからないが、彼女もまた楽しかったのかもしれない。
ただ、彼女はまだそれが「楽しい」という感情であることを知らないのだが。


「え、あ……。そ、そういえばアンタってどこに帰んのよ?」


ここに来てようやく素性の詮索を始める美琴。


「第○学区の研究所です。」

「……そこって確か筋ジストロフィーの……。」

「はい、表向きは。と、ミサカは裏がありそうな物言いをします。」


どういうことだろう。
筋ジストロフィーとクローンと、何の関係があるというのだ?
それに、もうひとつ疑問もある。

超能力者とおなると、DNAマップが簡単に漏れないように細心の注意がはらわれている。
となると、美琴のクローンを作る場合、美琴自身の協力が必要となる。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:21:07.28 ID:kw9hNLrr0<>


だが、彼女はクローンの協力はおろか、クローンに関わること以外でもDNAを提供したことなど、無かった。




なら、一体彼女らはどうやって作られたというのだろう?
現に実物が目の前にいる以上、「いるものはいる」のだ。

美琴が思考の迷路に迷い込んでいると、


「それではお姉様。今日はありがとうございました。と、ミサカは本日のお礼を述べながら立ち去ります。」

「え、え?!ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

「お姉様、ミサカはもう帰らないと……それに。」


ミサカが、美琴を向き直る。


「しばらくは、また会えますから。その時に。と、ミサカは今度こそ立ち去ります。」


ミサカは雑踏へと消えていった。




「あ、行っちゃった………。」


<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:21:34.03 ID:kw9hNLrr0<>

美琴の頭の中には疑問しかない。
聞きたいことが、たくさんある。
知りたいことが、たくさんある。


その時、美琴の携帯のバイブが、震えた。
メールを見る美琴。


(―――――――――ッ!)



『突入は明日。昼食時で警備が手薄になる時を狙う。集合は各班からまた追って連絡があるので、そちらに従うように。』



携帯を折りたたんでポケットに入れる。




(そうね……。まずはスキルアウト。また会えるって言ってたし……とりあえずやらなきゃならないことをやり切るわよ!)



美琴は一度頭を振ると、迷いの無い目で――迷いに蓋をした目で――雑踏へと紛れて行った。
<> たくま<><>2011/04/30(土) 01:22:11.18 ID:kw9hNLrr0<> 以上です。

連休中はちょっと忙しくて来れるかわかんないです; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2011/04/30(土) 08:34:42.72 ID:tMy879aF0<> 乙! <> たくま<><>2011/04/30(土) 23:09:29.22 ID:GdsDDqDA0<> こんばんわ!
かなり展開駆け足ですが、投下します。 <> たくま<><>2011/04/30(土) 23:10:02.51 ID:GdsDDqDA0<>

イタリア。

ひとりの少女が人をかき分けながら走っている。
息も切れ切れ、体中のいたるところから汗噴き出ている。


「待ちやがれって言ってんでしょうが!!」

「し、シスターアニェーゼ!目標が裏通りに……。」

「好都合ですシスターアンジェレネ。これで一般人を巻き込まずに済みます。」


少女の後ろを、大勢のシスター達が追いかける。
とても異質な風景だが、なぜか人々は気付かない。
認識阻害の術式。
人々は、自分達のすぐ近くで騒動が起こっていることなど、知る由も無いのだ。


「……………………ッ!」


少女の入った路地の先は、行き止まりだった。


「はぁ、はぁ………やーっと追いつめましたよ、このネズミが!」


アニェーゼは、息を切らしながら不敵な笑みを浮かべる。

少女が、振り返った。


茶色の髪。
そして同じ色の瞳。
長さはショートからセミロング。
ごく一般人が着るような服装。
<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:10:36.09 ID:GdsDDqDA0<>

「……なるほど、この状況を『追いつめた』とおっしゃるのですわね?」


少女は、言う。


「は、どー見たって追いつめられてんでしょう?さっさと観念しちまって下さい!」


アニェーゼは勝利を確信している。


「この状況を私が待ち望んでいた、と言ったらどうなさいます?」


今度は、少女が不敵に笑う。


「! し、シスターアニェーゼ!向こうには何か思惑が……!」

「シスターアンジェレネ。どうせハッタリです。構うことはありません。」


大勢のシスター達が、少女を取り囲む。


「ふふ……計算通りですわ。」


バチッ。


少女の前髪から、深紅の電流が飛び散る。
<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:11:04.11 ID:GdsDDqDA0<>
「何をする気かわかりませんけど……こっちには防御術式があるんです。並大抵の攻撃は効かねぇんですよ!」


アニェーゼは笑う。


「それを聞いて安心しましたわ。なら遠慮なくいかせていただきますわね?」


少女の周囲に、円形に深紅の電流が流れる。


「はん、ただの電撃なんか効きゃしな……!」


爆音と共に、シスターが「ひと塊」吹っ飛ぶ。


「ただの電撃じゃありませんわよ?陽電子……とは言っても、科学に無知なあなた方お馬鹿さんにはわかりませんわね。」


少女の周囲数メートルが、吹き飛んだ。


(まったく……加速演算が無かったらどうなっていたことやら。)

(それにしてもやはり至近距離で使うものではありませんわね……対消滅の制御はまだまだ未熟ですわ。)

(では今のうちに退散するといたしましょうか。)


爆発の煙が収まり、シスター達が体を起こした頃には、すでに茶髪の少女の姿は無くなっていた。



<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:11:40.95 ID:GdsDDqDA0<>




昼時。

白井は、風紀委員臨時第三班と共にスキルアウトの根城への潜入準備をしていた。
全員通信機を耳に装着して、バックアップ班の指示を受けている。


(……結局間に合いませんでしたの。)


白井は、ひとり頭を抱える。
完全個体に連絡したはいいが、「あまり期待するな」と言われてしまった。
もしこれで失敗すれば……どうなってしまうのだろう。


「こんにちは!第○学区の方から要請を受けてやってきました、遠藤と申します!」

「ん?増員の話なんて聞いて無いが……。」

「え?ホントですか?……どうしましょう、詳しい指示はこちらで聞けと言われたもので……。」

「もしかして急に決まったのか?……まぁいい、せっかく来てくれたんだし、今日はよろしく頼むよ!」

「はい!よろしくお願いします!」


どうやら急な増員があったらしい。
が、白井はそれどころではない。
完全個体を頼れないかもしれない現状、どうにか自分ひとりの力で切り抜けなければならないのだ。
ひたすらに頭を悩ませる白井。


「あ、この子が今日中心になって動く白井だ。空間移動の大能力者でな。一応挨拶しておくといい。」

「わかりました、ありがとうございます!」


増員された少年が白井に近づいてくるが、白井は気付かない。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:12:09.35 ID:GdsDDqDA0<>

「白井さん、今日はよろしくお願いしますね。」


声を掛けられた。
が、白井の耳には入っていない。


「白井さん?」


再度、声を掛ける少年。
白井は反応しない。


「……………おい、白井。」


少年が白井の肩を掴み、無理やりに白井の視界に入る。
なんと強引な少年だろう。
おまけに、ついには白井に対する敬称が無くなっている。


「ッ、何ですの、このいそが……!!!!」


「よぉ。せっかく人がお手伝いに来てやったってのにスルーかこの野郎。」


「じ……………完全個体ォォォオオオオオ??!!」


遠藤ではなく、完全個体だった。


「ん?なんだ、白井と知り合いだったのか?遠藤君。」

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:12:38.12 ID:GdsDDqDA0<>

尋ねる班長。


「…え、遠藤?……は、はい、そうなんですの!」

「ははは、すいません、言い出しにくかったもので……。」

「いや、いいさ。白井、遠藤君はどう配置すればいいだろう?俺が決めるよりも白井が決めた方が彼を生かせるんじゃないのか?」

「!そ、そうですわね、わたくしと共に二人で最前線、ということでいかがでしょう?」

「さ、最前線?!し、白井、彼はそんなにすごい能力者なのか?!」

「え、えーと……。」


何と答えていいかわからない白井。
そういえば、完全個体がどのくらいの強さなのか知らない。
というより、彼は魔術師なのではなかったろうか?


「一応、水流操作の大能力ですよ。」


完全個体が、答える。


「大能力か!それは心強い…!」


場の士気が高まる。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:13:09.74 ID:GdsDDqDA0<>







「ちょ、ちょっと!どういうことですの!?」

「手伝うったって、こうでもしなきゃ手伝えないだろ。」

「だからって!いくらなんでもここまでするなんて!」

「大丈夫だよ、案外堂々としてればバレないもんだよ。」

「………確かに現にそうなってますの。」

「だろ?それに大能力者なら即戦力になるしな。」

「………そういえば、貴方は魔術師なのではないんですの?」

「……いつそんなこと言った?」

「だって……魔術について詳しかったので……。」

「…………一応俺は水流操作の大能力者なんだけどな?」

「え!?そ、そうでしたの!?」

「ん。だから嘘は言ってないよ。」


「二人とも!突入するぞ!配置についてくれ!」


班長の指示を受け、二人は配置についた。


<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:13:43.90 ID:GdsDDqDA0<>





とある廃倉庫群の中のひとつ。
スキルアウトは、ここを根城にしている。


「それにしてもよぉ、最近幻想御手の売り上げ悪くね?」

「それ俺も思った!……風紀委員とかが調査してるって話だぜ?」

「まじかよ!でもまぁその前にトンズラしちまえば……。」







「ジャッジメントよ!大人しく降伏しなさい!」






突如、倉庫の扉が勢いよく開かれた。
まるで白井のように腕章を強調したポーズを取る、美琴だ。


「?!な、なんだぁ?!」

「な、なんで風紀委員が……!」


うろたえるスキルアウト達。


「!!お、おい!!こいつ……第三位の超電磁砲じゃねぇか!!??」


ひとりが、美琴の存在に気づく。


「さっさと観念して幻想御手の情報をよこしなさい!」


美琴は、電撃を放つ。
<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:14:12.25 ID:GdsDDqDA0<>

「わぎゃっ!?」

「く、くそ、アレだ!アレを使え!!」


「? 何をするつもりか知らないけど……並大抵の武器じゃ私は倒せないわよ!」


磁力操作でそこら中の鉄筋を操作する。


「く、くそ!化け物め!!」

「アレは、アレはまだなのか?!」

「こんなとこで終わってたまるかよ!!」


「ったく、さっさと降参しなさいよ!」


拳銃などの武器を片っ端から磁力で遠くに飛ばしてゆく。


「! 準備できたそうです!」

「そ、そうか!早くしろ!」


「いったい何の準備が……?!」


突然、キーンという耳触りな音が鳴る。

キャパシティダウンだ。


「が………あ、うっ……!!」
<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:14:44.59 ID:GdsDDqDA0<>

頭を抱えて倒れ込む美琴。


「は、能力者なんてこうやって封じちまえばこっちのもんなんだよ!!」

「超能力者だからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


スキルアウト達が、武器を手にし、美琴に襲いかかる。


突如、耳障りな音が消える。


「は?」

「ん?」

「え?」


何が起きたのかわからないスキルアウト達。


「………、はぁ。超能力者といえ、ホントにひとりで突っ込んで来てると思ったわけ?」

「ど、どういうことだ?」


倉庫の扉から、数人のスキルアウト、そしてそれを拘束した風紀委員が現れる。


「御坂さん以外の者は全員後方支援……要はキャパシティダウンの対策に回っていたんだ。」


班長は、言う。


「御坂さんは本命であり、陽動でもあった。……超能力者が出てくれば、自然にそれしか目に入らなくなるからね。」

「な……ま、まさか……。」


班長は、ニヤリと笑う。


「残りの全員でこの建物を包囲していたんだよ。……お陰でキャパシティダウンの位置も電源も、全部すぐにわかったよ。」


美琴が、向き直る。


「さて、この状況でまだ奥の手があるんなら見せてもらおうかしら?」


<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:15:12.59 ID:GdsDDqDA0<>




「一班も片付いたみたいだわ。」


固法が、言う。
すでに二班もスキルアウトを制圧済みだ。

ちなみに上条はというと、特段何かの役に立ったわけではない。
だが、二班には決定打となる能力者がいないため、単純な肉弾戦の頭数にはなった、というところだ。


「お疲れ様です。……無理させてしまって、ごめんなさいね、上条さん。」

「いえいえ、これくらい大丈夫ですよ!」


これでもかというくらいあっさりした解決。
しかし、上条の不幸センサーは、「まだ何かあるぞ」と、訴えかけていた。


(スキルアウトは完全に制圧した……。となると、魔術師……か?)


だが、一向に魔術師が攻撃してくる気配は無い。
気のせいだったか。

上条は、踵を返す。


「そういえば三班の方はどうなってるんですか?」

「あら、白井さんが心配なのかしら?」

「まぁ、知り合いですしね。」

「そういえば……三班についての連絡が来ないわね。どうなってるのかしら?」

『ガガガ……固法先輩!!大変です!!』

「初春さん?どうしたのかしら?」

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:15:39.72 ID:GdsDDqDA0<>


『さ、三班が……全滅しました!』


一同、唖然とする。


「ぜ、全滅?ど、どういうことかしら?初春さん、落ち着いて説明してくれる?」

『は、はい、まずスキルアウトを制圧したんです!』

「え、スキルアウトは制圧したの?」

『そうです、そうなんです。でもその後……。』

「その後?」

『……わからないんです。いきなりものすごい音がして……通信が一切取れなくなって……。』

「映像は見れないの?監視カメラの!」

『ダメでした!その辺りはスキルアウトが監視映像の対策を取っていて……映像が見れないんです。』

「衛星の方は?」

『衛星の方も詳しいことはわかりません。でも、ものすごい煙が出てます……。』

(……爆弾?スキルアウトが自爆した……とか?)


固法は、瞬時に予測する。


「初春さん。一班の三割をこっちに寄こしてくれるかしら?」

『え、一班を、ですか?』

「ええ。こっちのスキルアウトを拘束しておくための人員よ。」

『って、どういうことですか?』

「私が直接指揮を取って、二班の半分で三班の援護に向かうわ。……距離的にも一班よりこっちの方が近い。」

『!わかりました! ブッ………』

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:16:08.33 ID:GdsDDqDA0<>

固法は、二班の班員達を見る。
一同、既に状況は飲みこめているようだった。


「……二班の半分はここで待機よ。この人達を拘束していてちょうだい。」


残る者を指名していく固法。


「……、あなたも残っていただけますか?」


上条に、問う。


「……ダメだ。それはできない。」


上条は、首を横に振る。


「ですが……一般人を巻き込むわけには……。」







「いいねぇ、これが美談ってやつですか?」




<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:16:41.36 ID:GdsDDqDA0<>


突如背後から聞こえた声に、一同驚いて振り向く。

物陰から、男が現れる。
黒のローブに身を包んでいる。
胸には、十字架の――否、逆十字のネックレス。


「……、あなた、何者かしら?」

「通信で聞いてたんでしょう?私の連れが何か粗相を起こしたようですね。」

「じゃ、じゃあ………。」

「ええ、そうです。あなた達の仲間は……私の連れが皆殺しにさせてもらいましたよ?」


皆殺し。
ローブの男は、そう言った。
風紀委員の者達は、その一言で凍ったように固まってしまう。

が、ひとり、男に突進する者がいた。


「……んのヤロォォォオオオオオオオ!!!!」


上条は、叫びながらローブの男へと殴りかかる。

ローブの男は、ひらりと身をかわした。


「はっ……当たりませんよ、そんな攻撃!」


ローブの男は、懐から金貨を取り出す。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:17:09.15 ID:GdsDDqDA0<>

「『純金を対価に。欲するは炎。』」


金貨が、一瞬で灰に変わる。

ローブの男の手から、炎の剣が現れる。


「………、やっぱり魔術師が絡んでやがったか。」


上条は、呟く。


「ほう、学園都市にいながら魔術を知っているとは……あなた、何者です?」


ローブの男は、炎の剣を上条に向ける。

上条は、右手を突き出す。



上条の右手が、ローブの男の炎を打ち消す











はずだった。

<> たくま<><>2011/04/30(土) 23:17:36.52 ID:GdsDDqDA0<> 以上です。
もっと密度濃く書けるようになりたいですorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/01(日) 01:34:15.33 ID:j3QG2qEvo<> おおう・・・白井さんと遠藤さんどうなっちゃったのだ・・・
乙です <> たくま<><>2011/05/01(日) 03:00:53.39 ID:sMtIUiEX0<> >>154
遠藤さんの方は特にバトル的な展開はありません笑
遠藤さんのバトルシーンはもっと先になってしまいますorz


なんか続きが一気に書けたので投下します。
新型幻想御手編、終了です。 <> たくま<><>2011/05/01(日) 03:01:30.01 ID:sMtIUiEX0<>


「?!あ、熱ぃ!!!」


上条は、思わず仰け反る。


「? 何をしたかったんです?」


ローブの男は笑う。


(どうなってんだ?!どう見ても『異能の力』なのに……右手で消せない……?)


異能の力であれば何でも打ち消すことができる右手。
なのに、ローブの男の炎を打ち消すことができなかった。

ローブの男は、さらに金貨を取り出す。


「『純金を対価に。欲するは爆炎。』」


突然、爆発が起きた。
建物が崩れる。

上条は、風紀委員と完全に分断されてしまった。


(何なんだよ……!また防げなかった……!)


爆発に向けて手を伸ばしたのだが、また消せなかった。


「お前……今の何だよ?………魔術……じゃないのか?」

「おやおや、魔術と一緒にされてはこちらとしても心外ですね。」


ローブの男は顔をしかめる。


「?!魔術じゃないってのか?……でも能力でもねぇよな……。」

「もちろん、能力でもありませんよ。」

「な、なら何だってんだ!?」


声を荒げる上条。
ローブの男は、答える。
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:02:10.47 ID:sMtIUiEX0<>


「黒魔術……と、我々は呼んでいます。」






「黒………魔術………?」

「ええ。」

「魔術……とは違うのか?」

「これ以上お答えする義理はありませんね。……どうせあなたはここで死ぬのですから。」


ローブの男は、また金貨を取り出す。
今度は、金貨に混じって銀貨もある。


「『純金、純銀を対価に。欲するは汝の膂力。』」

「……?」


今度は何も起こらない。


「さて……行きますよ?」


ローブの男が一瞬で上条との間合いを詰める。


(は、速い!!)

「考え事をしている暇がおありなんですか?随分と余裕ですね。」


ローブの男は、上条の腹に肘打ちを食らわせる。


「ぐっ……うぁっ…………!」


モロに攻撃を受けた上条は、膝をついてしまう。


「おや、もう終わりですか?」


ローブの男は余裕の笑みを見せる。


「それでは早いですが……終わりにしましょう。もう少し楽しみたかったですよ……。」


その時、瓦礫の向こうから一筋の閃光が走った。

<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:02:41.12 ID:sMtIUiEX0<>



「当麻に……当麻に何してくれてんのよ!!」






「み………美琴………!」


瓦礫の向こう側から美琴が超電磁砲を撃ったのだ。


「ほぉ……新手ですか。楽しませてくれるんでしょうね?」


ローブの男はまたもや、笑う。


「余裕ぶってくれちゃって……!後悔させてやるわよ!!」

「み、美琴!待て、こいつの力は得体が知れない……!だからお前は……。」

「何言ってんのよ!アンタあちこち火傷してるし……ボロボロじゃない!」


その通りだった。
上条は、右手を始めとしてあちらこちらを火傷している。

なぜ上条の右手が火傷を負っているのか疑問に思いながらも、美琴は彼を守るために立ち塞がる。


「さてと……当麻を傷つけたこと……たっぷりと後悔させてやるわよ……!」

「望むところです。さぁて、始めましょうか!」


美琴と黒魔術師の戦いが、始まった。





<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:03:12.18 ID:sMtIUiEX0<>



「今の爆発は何でしたの?」

「わからない……。周りに警戒しとけよ。」


第三班。
突然起きた謎の爆発により、ほとんどの風紀委員が死亡。

のはずだったが、咄嗟に完全個体が展開した防御壁のお陰で死者は出ていない。
ただ、爆発の衝撃を完全に防ぐことはできず、あちらこちらで風紀委員やスキルアウトが気絶している。


(今の爆発………。いや、違う、アイツのじゃない………。なら………?)


完全個体は、考える。








「あら?何よこれ、誰も死んでないじゃない!これじゃ血の対価が集まらないわ!」







「! 出ましたわよ、完全個体!」

「わかってる!」


女が、煙の向こうから現れた。
黒いローブに身を包んでいる。
首には、逆十字のネックレス。


「あら………これは意外だったわ。」

「何がですの?」
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:03:41.05 ID:sMtIUiEX0<>
「なるほどね、道理で加速演算の解決が早いわけね……完全個体が動いていたのなら納得だわ。」

「………………ッ!!」

「あら、そんなにあなたのことを知ってるのが意外?」

「当たり前だ!!……俺達のことを知ってるのは………。」

「研究所の人間だけ、って?」

「研究所、ですの?」


白井には何のことやらわからない。


「………どこまで知ってるんだ……。」


警戒しつつも尋ねる完全個体。


「そうね……『――――』から得られる情報全て、かしらね?」

「(――――だと……ッ!?ビンゴだ……!とするとやっぱ加速演算もそこから……!!)――――はどこにいる?」

「教えると思う?」


ローブの女はクスクスと笑う。


「………いいさ、力づくで吐かせてやる!!」

「じ、完全個体?」


白井は全く話について行けない。


「そう熱くなっちゃダメよ?私がそうしたければ今すぐにでもあなたの恐れてることができるんだからね?」

「…………ッ!!くそ!!!」
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:04:12.61 ID:sMtIUiEX0<>
「……それじゃあいくつか質問に答えてもらえるかしら?」


ローブの女は目を細める。


「『――――』の件で……この学園都市で何人の――――――――が動いてるのかしら?」

「………、俺ひとりだ。」

「他の――は?」

「…………――――が必要悪の教会、――――がローマ聖教だ。」

「なるほどね。いい情報が手に入ったわ。」


ローブの女は、嫌味な笑みを浮かべた。


(くそ………情報を得るつもりが逆に情報を聞き出されるとは……。)


完全個体は、悔しさで拳を握りしめる。


「完全個体……?」


白井が心配そうに完全個体を見る。


「……さてと、私だって本気の完全個体とやり合いたくはない、し……。」

「?」

「ここは引かせてもらうわ。……また会いましょう、完全個体。」


ローブの女は、再び煙の中へと消えていった。
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:04:40.34 ID:sMtIUiEX0<>

「……………………くそっ!!!」


完全個体は、壁を殴る。
拳からポタポタと血が流れ落ちた。


「完全個体…………。」


白井には、ただ彼を見ていることしか、できなかった。

完全個体は、不意に携帯を取り出すと、どこかへ電話を掛け始める。



『もしもし?』

「俺だ、完全個体だ。」

『どーしたの?元気無いけど……』

「――――の情報が手に入った。」

『!! 聞かせなさい!』

『私にも聞かせていただけますか?』

『?!い、いきなり回線割り込んでくんじゃないわよ!!ていうかアンタ無事なら連絡くらいしなさい!』

『だって面倒なんですもの……。回線は度々傍受しておりましたので、お二人の近況は把握しておりましたわよ?』

『……だったらアンタの心配してたのも知ってるでしょ。……で?完全個体、どうなったの?』

「学園都市の加速演算外部デバイスの件でスキルアウトって奴らの根城に突入したんだ。」

『うん。』

『はい。』

「そしたら爆発が起きて……黒いローブを着た、逆十字のネックレスを掛けた女が現れた。どうやら加速演算の黒幕だ。」

「で、そいつは俺達のことを全て知っていた……――――から得た情報らしい。」

『!!』

『そ、それは……。』

「つまり、今――――はそいつらの手にあるってことだ。」
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:05:08.00 ID:sMtIUiEX0<>
『それで?』

『続きを。』

「…………ごめん、これ以上はわからない。」

『はぁ?どういうことよ!』

『……もしや――――の件で脅されたのでしょうか?』

「正解だ。……すまない、それで二人の居場所まで吐かされちまって……。」

『………まぁその場合は仕方ないわね。』

『そもそも私達はそれを止めるために動いてるわけですしね。』

「とりあえず報告は以上だ。……キーは『逆十字』だろうな。」

『は?なんでよ?』

『……、魔術というものを本当にわかっておりませんのね……。』

「魔術は神や天使の伝承をモチーフにしてるから……間違っても逆十字なんて使うことは無いんだよ。」

『だったら能力者なんじゃないの?』

『能力者が黒いローブなんて着るとお思いですか?それと加速演算の黒幕であるという所はどう説明をつけるおつもりですか?』

『う………まぁとにかく、それが重要なポイントってことね!』

「うまくまとめたつもりかよ……あ、それと……『血の対価』って言ってた。」

『血の対価、ですか?』

「ああ。『血の対価が集まらないじゃない!』とかなんとか…。」

『……何のことかしら?』

「さぁ……俺にもさっぱりだよ。」

『……どうしましょう?居場所も割れてしまったことですし……ひとまずどこかに集まって話し合った方がいいのではありませんこと?』

『それが良いわね。現状一番情報に近いのは学園都市だし……学園都市に集まろうかしら?』

「おい、お前な……。」

『自分で何を言ってるかわかっていまして?』

『大丈夫よ。超電磁砲のクローン、見かけたんでしょ?』

<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:05:38.82 ID:sMtIUiEX0<>

「ん?あ、ああ。」

『ならいざという時はそれで通るわよ!』

『そんな無茶な……。』

「……さすがに色々まずいだろ。」

『……ちょっと気になることがあんのよね。』

「はぁ?」

『まぁそれはおいおい、直接会ってから話すわ!』

『結局行くんですわね、学園都市。』

『それじゃあ各々学園都市に集合ってことで。着いたら完全個体に連絡ね!』

『はぁ…………わかりましたわ。』

「………………わかったよ。」

『それじゃ! ブッ……プー、プー……』


完全個体は、携帯を折りたたみ、ポケットへと入れる。


「あの……完全個体?」


白井が、不安そうに声を掛ける。


「………………白井。」


完全個体は、力の抜けた目で白井を見る。
白井は、驚いた。
付き合いがまだ短いとは言え、完全個体のこんな姿を見るとは思わなかった。
何かを決心したかのように、白井は口を開く。

<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:06:08.25 ID:sMtIUiEX0<>

「………何があったのか、わたくしにはわかりませんの。恐らく、聞く権利も、ありませんの。」

「………………。」

「でも、わたくしでもあなたの力になることはできますの。完全個体……事情を教えろとは言いません。頼れる時で構いません。わたくしを……頼っていただけませんか?」

「…………………!」

「元はと言えばわたくしがこの大事な時期に能力を手放したのがいけませんの……。今回のことは、恐らくわたくしにも責任がありますの。」

「白井…………そんなことは……。」

「………もしそれが心苦しいのであれば………事情を、話してほしいんですの。今でなくて構いません………でもいつか、話してくれれば……それでいいんですの。」

「……………………すまない……ありがとう、白井。」

「! か、構いませんの!乗りかかった船ですの!」


二人の契約は、続く。





<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:06:35.12 ID:sMtIUiEX0<>




「……おや?」


ローブの男は、首を傾げる。


「はぁ、はぁ………何よそ見してくれちゃってんのかしら!」

「いえ、申し訳ないんですが……撤退のようですね。」

「はぁ?!」


ローブの男は、ローブを翻す。


「それではまたお会いしましょう。」

「ちょ、ちょっと待ちなさ……!!」


ローブの男は、消えていた。

美琴は、呆然と立ち尽くす。


「何よ……好き放題やっていきなりいなくなるなんて……。」


怒りが、収まらない。


「美琴、大丈夫か?」


上条が声を掛ける。


「私は大丈夫、疲れてるだけだから……それよりアンタその火傷大丈夫なの?」

「ああ……確かに痛いけど、そこまで酷くなさそうだから大丈……。」

「痛いなら病院!!あの先生ならすぐ治してくれるでしょ!!」

「あ、ああ、わかった、わかったから!」





全く公になること無く学園都市に蔓延した新型幻想御手。
正式名称加速演算術式。

この日を持って、事件は収束することとなる。


だが、新たなる脅威が、上条、美琴、そして一方通行と番外個体へと迫っていた。
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:07:14.21 ID:sMtIUiEX0<> 以上です!
が、行間として過去編を少し投下いたします。 <> たくま<><>2011/05/01(日) 03:07:53.73 ID:sMtIUiEX0<> 9年前。
河原。
大人達はいなくなっていた。
四人の少年少女だけがいる。



「………大丈夫?」


茶髪の少年が、尋ねる。


「………………。」

「………………。」


黒髪の少年と白髪の少年は、答えない。


「お兄ちゃン!助けてくれたンだからお礼言わなきゃダメだよ!……ありがとね、助けてくれて……私達は大丈夫だよ。」


代わりに、妹が答える。


「そっか、よかった……。」


茶髪の少年は、ホッと、胸を撫で下ろす。


「まだ能力うまく制御できないから……巻き添えになってないか心配だったし……よかった。」

「………オイ。」


白髪の少年は、彼を睨みつける。


「テメェ、もし百合子に何かあったらどォするつもりだったンだよ……。制御できねェ能力なンか使うンじゃねェ。」

「う……。でも僕だってほっとくわけにはいかなかったし……。」

「お兄ちゃン!助けてくれたのになンでそういうこと言うの!」

<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:08:30.06 ID:sMtIUiEX0<>


「…………もしそうなったら僕が右手で何とかしてたよ。」


黒髪の少年が、口を開いた。


「あァ?右手ェ?」

「……僕の右手は、能力とかそういうの全部打ち消せるから……。」


人見知りなのか、オドオドと話す、黒髪の少年。


「………それ、ほんと?」


白髪の少女が、尋ねる。


「………オイ。そこのオマエ。」

「……僕?」


白髪の少年は、茶髪の少年を指さす。


「オマエ、こいつの右手に能力使ってみろ。」

「え、でも……大丈夫なの?」


茶髪の少年は、黒髪の少年を見る。


「………うん。ほんとに打ち消せるから大丈夫。」

「なら……ちょっと右手を突き出してみてよ。」 <> たくま<><>2011/05/01(日) 03:09:03.02 ID:sMtIUiEX0<>
黒髪の少年は、言われた通り右手を突き出す。


「じゃあ……いくよ?」


茶髪の少年の前髪から、電撃が放たれる。


パキィン!


黒髪の少年の右手に電撃が当たった途端、電撃はかき消される。


「……すげェな。ホントに能力が打ち消されてンぞ。」


白髪の少年は、感心する。


「……………でも、この右手………『幸せ』とかも打ち消しちゃうみたいなんだ。」


黒髪の少年は、顔を曇らせる。


「『幸せ』を打ち消す?どういうこと?」

「能力だけじゃないの?」


茶髪の少年と、白髪の少女が尋ねた。


「うん……。僕、『不幸』なんだ。だから地元では『疫病神』って呼ばれてて……。」

「なるほどなァ。それで……オカルトなンて信じない学園都市に来たってわけかァ。」

「うん。だから、僕にはあまり関わらない方が……。」


「何言ってンのよ!そンなわけないでしょ!」


白髪の少女が言う。 <> たくま<><>2011/05/01(日) 03:09:31.60 ID:sMtIUiEX0<>

「私とお兄ちゃンだってこの見た目だもン……。ずっと『外』で怖がられてたの。」

「……白い髪と、赤い目のこと?」

「たしかに、アルビノって珍しいかもね。」

「…………………………オマエらは俺達のこと怖くねェのか?」


白髪の少年が、黒髪の少年と茶髪の少年に聞く。


「……………珍しいとは思うけど、『疫病神』よりずっと人間らしいと思うよ。」

「アルビノなんて世界中探せばゴロゴロいるしね。それだけで怖がるわけ無いよ。」

「…………………けどよォ。学園都市に来てからは……今度は俺のこの能力のせいで怖がられてンだよ。」


そう言って、白髪の少年は地面を軽く蹴る。
すると、少し離れた位置の地面が軽くえぐれる。


「……………すごいな。」


茶髪の少年がその光景に唖然とする。


「ハッ………結局俺はどこにいようと恐怖の対象になる運命なンだなァ。『疫病神』なンかよりよっぽど怖ェだろォな。」

「お兄ちゃン……。」


白髪の少年は黒髪の少年を見て、言う。

<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:10:00.26 ID:sMtIUiEX0<>

「なァ。『疫病神』さンは俺からするとちっとも怖くねェンだけどよォ。俺がオマエ以上の化物だってことなのかァ?」

「そんなこと……僕よりもずっと人間らしいよ。」

「………俺もオマエに対して同じこと思うンだがなァ。」


二人は顔を見合わせる。
気のせいか、二人ともほんの少しだけ、笑っている。


「…………二人とも僕よりもずっと人間らしいよ。」


茶髪の少年が言う。


「あァ?」

「才能があるって周囲に崇められて……尊敬の眼差しで見られて……。でも周りが見てるのは僕の『才能』。誰も僕なんか見ちゃいない。」

「…………茶髪のお兄ちゃン……。」

「だから友達なんて出来やしない。だって誰も僕を人間として見てないからね。」


自傷気味に彼は言った。


「………ハン、どうせオマエの才能ってのも大したことねェンだろ?」

「お、お兄ちゃン!」

「あくまで人間としての『才能』だろォが。………俺みたいな化物とは違ェ。」


白髪の彼もまた、自傷気味に言った。
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:11:00.36 ID:sMtIUiEX0<>

「………君は自分を化物だと思うの?」

「当たり前だァ。俺を倒せる奴なンかいねェ。」

「でもさっき危なかったみたいだけど……」

「アレは殺さないよう手加減してたからだァ。そもそも誰も俺に触れることなンか出来ねェ。」

「なら……僕と戦ってみる?」


茶髪の少年の体が、帯電を始める。


「あァ?オマエ話聞いてたか?俺に触れられる奴なンか……。」

「なら触れてやるよ。そうすれば君は化物じゃないんだろ?」


黒髪の少年と白髪の少女は空気を察知し、二人から離れる。


「カカカ、面白れェ…。やれるもンならやってみやがれ!」

「言われなくても!」


茶髪の少年と白髪の少年の能力バトルが、始まった。
<> たくま<><>2011/05/01(日) 03:11:59.05 ID:sMtIUiEX0<> 今回の投下は以上です。

大事な部分は色々隠させてもらいました。
まぁ……気付く人もいそうですが笑 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(石川県)<>sage<>2011/05/01(日) 18:56:11.72 ID:ak49PvNuo<> 隠し方が不自然すぎて萎える。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/05/02(月) 20:00:33.40 ID:iqJQbJMgo<> 隠すだけなら誰でもできる
うまい明かし方を期待してるよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/05/02(月) 22:36:26.42 ID:7ei85/xPo<> 黒魔術だとしても異能の力じゃないのか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)<>sage<>2011/05/02(月) 22:56:55.68 ID:JHFniAkm0<> 火炎放射器とかならともかく黒魔術の炎なら打ち消せると思うんだがなぁ <> たくま<><>2011/05/03(火) 03:01:08.92 ID:CTWcUH0T0<> >>175
>>176
まだまだ初心者ですね、ごめんなさい;;
でもがんばります。

>>177
>>178
異能の力で合ってますけど、打ち消せないのにはちゃんと理由があるんで大丈夫ですb


こんばんは、投下します。
今回から「絶対能力進化実験編」になります! <> たくま<><>2011/05/03(火) 03:01:50.07 ID:CTWcUH0T0<>


「まったく……結局また入院してんのね。」

「返す言葉もございません……。」


もはや上条の私室と化しつつある病室。
黒魔術師との一戦で火傷やら怪我やらを負った上条は、いつもの如く入院する羽目になっていた。


「それにしても……アンタの右手どうしちゃったわけ?」

「……そういえば……。」


黒魔術師の放った炎。
異能の力なら何でも打ち消せるはずの右手が通用しなかった。


「アンタでも打ち消せないものがあるってことかしらね?」

(そんなはずは……能力も魔術も打ち消せるのに……なんでだ?)


上条は、包帯でぐるぐる巻きになった右手を見る。


「なあ美琴、この包帯取れたらちょっと頼みがあんだけど……。」

「? なに?」

「軽くでいいから、俺の右手に電撃撃ってみてくれねぇか?」

「………あー……。」

<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:02:20.29 ID:CTWcUH0T0<>

なるほど、もしかすると右手の力が失われたのではないか、と上条は考えているのだろう。
察した美琴は言う。


「別にいいけど……生まれた時から持ってる力がいきなり無くなるわけないじゃないの。」

「まぁそうなんだけど、それくらいしか原因思い付かねぇんだよ。」


確かに、上条の右手は得体の知れない力だ。
前例が無いのだ。
原理がわかっていない以上、何が起きても不思議ではない。

もし本当にその力が失われていたら。

美琴は、上条の右手から目を反らす。


「……そういえば、さ。」

「ん?」

「ちょろっと気になってることがあんのよね。」

「………なんだよ?」


黒魔術師のこと、だろうか。
状況的にも、アレが能力でないことを知っているのは上条だけ。
もしや、勘付かれたのだろうか。


「三班のことなんだけど……。」

「! あ、ああ。」
<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:02:52.05 ID:CTWcUH0T0<>

どうやら違ったらしい。
上条はほっと胸を撫で下ろす。


「現場の破損状況と班員の怪我の度合い……明らかに釣り合ってないのよ。」

「? どういうことだ?」

「死者が出てもおかしくない……ううん、生存者がいるのが奇跡なくらいの規模の爆発だったみたいなのよ。」


現場の廃ビル。
コンクリートの壁で仕切られていたフロアは、壁が全て吹き飛んだことで吹き抜けと化していた。
辛うじて生きていた鉄骨のお陰で崩れなかったものの、下手をすれば建物が倒壊してもおかしくなかった。


「誰かが能力で防いだんじゃないか?」

「でも………みんな、気付いたら病院にいたって。」

「白井もか?」

「うん、黒子も同じこと言ってたわ。」


それと、と、美琴は言葉を続ける。


「班員達の記憶がちょっと変なのよ。」

「記憶が変?」

「うん。曖昧になってるとかそういうんじゃなくて……所々ピンポイントで記憶が抜けてんのよ。」

「どういうことだ?」

「抜けてる個所は人によって違うみたいなんだけど……共通して、爆発の瞬間の記憶が無いのよ。ひとり残らず。」

「ひとり残らず……。」

「全員全く同じようにそうなることってあると思う?」
<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:03:21.91 ID:CTWcUH0T0<>
「……なんか人為的なものを感じるな。」

「でしょ?」

「でも……手掛かりが無い以上どうしようもないんじゃねぇか?」

「んー……あ、あともうひとつ。」

「今度は何だ?」

「……黒子、ワクチンが手に入った日から一度も能力使ってないみたいなのよ。」

「は?突入の時もか?」

「うん。」

「あいつ作戦の中心だったろ……どうやって制圧したっつーんだよ?」

「それもわからないのよ。」

「?」

「さっき言ったでしょ、班員の記憶が所々抜けてるって。」

「ああ。」

「要所要所の記憶はあるのに、その残ってる記憶を辿っても……どうやって制圧したのかわからないのよ。」

「…………なぁ。」

「なに?」

「白井………もしかすると何か知ってるんじゃねぇか?」

「え……いや、黒子も記憶が」


上条は美琴の言葉を遮り、続ける。
<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:03:55.34 ID:CTWcUH0T0<>
「今回の事件は明らかに不可解な点がある。そもそもワクチンがどっから出てきたのかわからない。三班の班員の記憶の謎もある。」

「……それが?」

「仮にだが……ワクチンの出所、そして班員の記憶の件。この二つの事柄が何か関係あるとしたら。」

「うん。」

「それに連動した変化がひとつだけ、ある。」

「…………黒子が能力を使わなくなった日、ってこと?」

「そういうことだ。そしてあいつは三班だったしな。両方の事柄に接点がある。」

「………でもいくらなんでも無理やり過ぎない?ワクチンと記憶は何の関係も無いと思うんだけど……。」

「でも可能性はゼロじゃねえ。調べてみてもいいんじゃねぇか?」

「………、そうね。」


あまり後輩を疑いたくはない。
だが、上条の言うことも一理ある。
なぜ彼女は能力を使わなかったのだろう。


「私………黒子に能力の件、聞いてみるわ。」


疑っているからではない。
確かに、白井を疑ってしまう自分がいる。
だが、納得できる理由を聞ければこの疑念を晴らせるかもしれない。
美琴が抱くのは疑心ではなく、希望だった。


「それじゃ……私、そろそろ戻るわね。」

「ああ、今日は見舞い来てくれてありがとな!」

「! べ、別にアンタのことが心配だったわけじゃないんだから!////」


美琴は、そそくさと病室を去った。



<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:04:30.77 ID:CTWcUH0T0<>


「もー!何なのよアイツのあの笑顔!あんなの反則じゃない!」


道行く人は皆美琴を避ける。
今の彼女が、関わってはいけない空気を全開に放出しているからだ。


「何が反則なのですか?お姉様。と、ミサカは話しかけたことを今更ながら後悔してみます。」

「! あ、アンタ!」


クローンが、いた。


「どうやら言語中枢に異常は見られないようですね。と、ミサカは暗に先程のお姉様は明らかにおかしかったということを伝えてみます。」

「う、うるさいわね……。ていうか!アンタ結局何だったのよ!?」

「何、と言われましても……ミサカはクローンですが?」

「そ、そういうことじゃなくて……とりあえずここじゃアレだし、移動するわよ!」


ただでさえ目立つ常盤台の制服。
それで双子ともなれば注目の的だ。
そんな状況で平気でクローンの話をしようものなら、どうなるかわかったものではない。

美琴はクローンの腕を掴むと、急ぎ足で引っ張ってゆく。


「お姉様?」

「いいから来なさい!」

<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:05:01.22 ID:CTWcUH0T0<>

どこか人気の少ないところ。
そう考えあちらこちらを歩き回る。


「あの……まだでしょうか?と、ミサカは……。」

「いいから黙ってついてきなさいよ!って、アレ、ここって……。」


気付くと、河原に出ていた。
実は美琴のお気に入りのスポットだったりする。
該当する記憶は無いのだが、思い出の場所のような懐かしさを覚えるのだ。


「……まぁ、ここまで来れば大丈夫でしょ。」

「はぁ……。」

「それで?アンタが作られた理由を聞いてみようかしら?」


美琴は、クローンに向き直る。


「申し訳無いのですが……実験の詳細を説明することはできません。」

「実験?」

「…………しまった、と、ミサカは盛大に口を滑らせたことを後悔します……。」


そう言いながらもクローンは表情を崩さない。


「実験って何よ?どういうこと?」

「………詳細は機密事項です。」

「……オリジナルの私にも言えないような内容ってわけ?」

「………詳細は機密事項です。」

「……あくまで黙秘すんのね……わかった。アンタ、ちょっと手貸しなさい。」

「? なんでしょう、と、ミサカはとりあえず言われたことに従ってみます。」

<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:05:30.61 ID:CTWcUH0T0<>

クローンは美琴に手を差し出す。
美琴は、クローンの手を握る。


「ねぇ。アンタは私のクローンかしら?」

「はい……どうしたのですかお姉様?………やはりどこかに異常が……。」

「今の生体電気の流れが、アンタの『肯定』ね。」

「………………はい?と、ミサカ………え?」

「じゃあ質問するわよ。別に『はい』でも『いいえ』でも無回答でもいいわ。どうせ生体電気で全部わかるから。」

「……………………、……………ミサカ、用事を……。」

「ふうん、今のが『嘘』の生体電気ね。わざわざサンプルをありがと♪」

「!!!」


無表情だったクローンの表情が、焦りの表情に変わる。


「さて、質問ね。………アンタ、アイスよりクレープの方が好き?」

「は、はい………。…………??」

「次。温かい紅茶より冷たい紅茶の方が好き?」

「…………いいえ。」

「仔猫は可愛いと思う?」

「……はい。」

「雨の日より晴れの日の方が好き?」

「はい。」

「この河原結構いいとこだと思わない?」

「はい。」
<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:06:01.84 ID:CTWcUH0T0<>

「実験って何か危険なことするの?」

「!!!!」


美琴は一気に表情が険しくなる。


「…………『肯定』、ね。」


美琴が実験とは関係ない質問を数回行ったのには、二つ理由があった。
ひとつは、サンプル数を増やすことによって測定の精密度を上げること。
もうひとつは、クローンに不意打ちをかけること。
不意打ちをかけられれば、人なら誰しも正直な反応をしてしまうものだ。


「…………危険なことって何なのよ……。」

「…………詳細は………機密事項です……。」


美琴は、クローンの手を握る力を強める。


「…………いいわよ、なら……帰さない。」

「……どういうおつもりですか?と、ミサカはお姉様に問いかけます……。」

「アンタが帰れば危険な目に合うんでしょ?なら帰さない。」

「……お姉様が危険な目に合うわけではありませんよ?」

「それでも、よ。正直クローンだとか何だとか……わけわかんないけど……でも、アンタをこのまま帰らせちゃいけないってことだけはわかるわよ。」

「………なぜ、ですか?ミサカには……お姉様の思考が理解できません……。」

「………危険な目に合うってわかってんのに、はいそうですかって帰すわけないでしょ。」


クローンは、戸惑う。



<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:06:33.43 ID:CTWcUH0T0<>

同時刻。


(………なーんかさっきから誰かに見られてる感じがするなぁ……。)


キョロキョロと辺りを見回すのは、番外個体。
一方通行戦に備えた準備諸々はあらかた終わり、今はしばしの休息と言ったところだろうか。

それにしても、先程から時折感じる視線は何なのだろうか。


(……ひょっとして研究所の奴らに目をつけられた?……いや、それはないか。)


研究員は尾行のプロではない。
視線を感じると言っても、一般人ならまず気付かないレベルだ。
ただデータとにらめっこしているだけの連中がこんなマネをできるはずがない。

と、突然視線を感じなくなる。


(……? 何だったの……?気のせい……?)


一方通行戦のことでピリピリし過ぎていたのだろうか。
神経過敏になっていたのかもしれない。

<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:07:02.16 ID:CTWcUH0T0<>
こんなんじゃ気疲れで倒れてしまいそうだ。
もっと肩の力を抜こう。
そのための休息なんだから。

番外個体は、数回深呼吸する。
もう一度神経を研ぎ澄ませると、先程までの視線は感じなくなっていた。


(やっぱり気のせいだったのかな?)


しばらくその場に留まってみるも、やはり何も感じない。
どうやら気のせいだったようだ。

番外個体はほっと溜息をつくと、再び歩を進めた。



番外個体の一キロ後方、蠢く影があったことを彼女は気付かない。

<> たくま<><>2011/05/03(火) 03:09:32.00 ID:CTWcUH0T0<> 以上です!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/03(火) 03:10:39.47 ID:5P1P3ZVgo<> おつおつ
少しずつ話が動き始めてる感じだなぁ・・・ <> たくま<><>2011/05/11(水) 12:26:23.06 ID:VDUmWvsY0<> 先週今週とレポートやばいのでちょっと書けなそうです;;

来週までには投下したいと思います、すいません; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岩手県)<>sage<>2011/05/11(水) 21:21:23.08 ID:rH7aYC22o<> 頑張れー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/19(木) 14:57:40.27 ID:uPXGIF6IO<> やっと追いついた
期待 <> たくま<><>2011/05/23(月) 22:04:50.46 ID:Pggv7GK00<> まじ間あいてごめんなさい!やっとある程度書けたので投下します! <> たくま<><>2011/05/23(月) 22:05:23.63 ID:Pggv7GK00<>



学園都市の空港。

厳重なセキュリティの元、毎日大勢の人が出入りする学園都市の「門」のひとつだ。
研究関連で出入りする研究者や、観光目的の者まで多種多様な目的で、外の人間はここを訪れるのだ。
フロアには、まるで壁がガラスでできているかのような大きな窓がある。
親を待つ学生らがちらほら、その窓から外を眺めている。

それに混じり、完全個体もまた飛び交う飛行機を眺めていた。

彼は一瞬時計に目を向けるが、また空を見上げる。
ふと、とある国際便が滑走路に着陸を始めた。

完全個体は飛行機の着陸を見届けると、到着ロビーへと向かう。

ベンチがあったので、彼はそこに腰掛けた。


(……しっかし行動早いよなぁあいつ……。)


"あいつ"が学園都市に来る宣言をしてからまだ一週間も経っていない。
こんなに早く行動を起こすとはさすがに予想外だ。


乗客達がちらほらとゲートから出てき始めた。
完全個体は、人の流れを目で追う。

と、見覚えのある顔がひとり、ゲートをくぐるのが見えた。

向こうも完全個体に気づいたのか、ゲートからまっすぐこちらに向かってくる。


「いたいた!久しぶりかしらね?完全個体!」

<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:05:57.40 ID:Pggv7GK00<>

茶色い瞳――完全個体と同じ色。
髪もまた同様の茶色で、長さはロング。
後ろ髪を留めてアップにしている。
年齢的には高校生と中学生の境目と言ったところだ。
背は完全個体よりも少しだけ低い。


「よぉ。………あいつは?」

「へ?…………え、一緒じゃないの?」

「は?…………いや、お前と一緒に来るって話だったから……。」

「アタシは先に向かうって聞いたけど……。」


二人は顔を見合わせる。


「……やられたわね。」

「ん……まぁいつものことなんだけどな……。」


茶髪の少女は頭を抱える。


「……仕方ないわね。あの子はほっといてアタシらでとりあえずいろいろ考えとくわよ。」


頷き、立ち上がる完全個体。
二人は空港の出口へと向かう。


「学園都市って初めて来たけど……すごいわね。」

「ん、俺も最初そう思ったなぁ。」

「わっ?!何コレ?!」


茶髪の少女は、動くドラム缶のようなものを指さす。
清掃ロボットだ。
<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:06:25.79 ID:Pggv7GK00<>

「あー、清掃ロボットだよ。勝手に掃除してくれんのさ。」

「へー……必要悪の教会も予想外なこと結構あったけど、ここもここですごいわね。」


茶髪の少女は目をキラキラさせながら辺りを見回す。


「ここは空港だからあんまりそれらしいものは無いけど……街中に行けばもっとあるぞ。まぁ楽しみにしてろよ。」

「ふぅん……あ、乗るバスってあれ?」


ちょうどバスが停留所に来たところだった。


「ん、そうだな。」

「じゃあ乗っ……え、運転手さんは?!」

「あー………無人なんだよ。」

「なにそれ!え、すごい!なにそれ!」

「自立運転するからな。運転手いらねーんだよ。」

「……外と中で三十年以上技術の差があるって話だったけど……ホントね。」

「まー無くても生きていけるものも結構あるけどな。」

「早く街中歩きたい!楽しみだなぁ……。」

「はぁ……。」


こいつ当初の目的を忘れてるんじゃなかろうか。
ため息をつく完全個体。


(はぁ……先が思いやられるな……。)


二人を乗せたバスは、学園都市の市街地へと向かって行った。


<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:07:03.01 ID:Pggv7GK00<>









「離して下さいお姉様、と、ミサカは懇願します。」

「嫌よ。」


同じ顔をした二人の少女は、先程から似たようなやり取りをひたすら続けていた。


「離してほしかったら実験の概要を説明しなさい。」

「ですからそれは機密事項で……。」

「んなこと知らないわよ!そもそも言えないようなことやってる時点でどうなのよ!」


美琴は、声を荒げる。


「………別にお姉様が危険な目に合われるわけではないのですよ?」

「だから何なのよ。自分が無事ならそれでいいとか言うとでも思ってんの?」

「……………、ミサカは………。」


クローンの少女は黙りこむ。


「せめてヒントだけでも教えなさい!」

「………、絶対能力……。」

「……れ、レベル6ってこと?」

「そうです。それに関係する実験、とだけ、ミサカは言っておきます。」

「そ、そんな馬鹿みたいな話あるわけないじゃないの!だいたい絶対能力なんて存在するわけ……。」

「絶対能力者を作り出す実験、ということです。」

「……まさかアンタにいろんな薬品を投与したりして絶対能力者にしようっての?」

<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:07:37.26 ID:Pggv7GK00<>

超能力者のクローンにあれこれして絶対能力者を作り出す。
あながち的外れとも言えない。


「……そういうわけではないのですが……。」

「……じゃあ何だってのよ。」

「……仮に危険があるとしても、それは今日ではありません。というか……いつになるかまだわかりません。と、ミサカは実験の日取りが全く決まっていないことを伝えてみます。」

「……ホントなの?」

「本当です。」


美琴は考える。


(なら……話そうとしない以上しょうがないし……今はこの子を帰して調べてみようかしら……?)


美琴は、手を離す。


「お姉様?」

「……アンタが何も話さないならしょうがないわよ。だったら私はどんな手を使ってでも実験の概要を調べ上げてやるわ。」

「……………………。」


<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:08:03.43 ID:Pggv7GK00<>


「アンタは迷惑に思うかもしれない。けど、危険なことするってわかっててほっとけるわけないじゃない。」

「お姉様………。」

「……アンタもう少し自分を大事にしなさいよ。」


その後、クローンの少女は何か悩ましい表情をしながら去って行った。
とは言っても、無表情であることに変わりはないのだが。

美琴は、早速PDAを手に取った。


(っと、キーワードは「絶対能力」よね。)


唯一手に入れた鍵。
突然現れたクローンを妹だなんて思えない。
そこまで美琴という少女は大人ではなかった。

だが、そんなことは関係無い。

誰かが危険な目に合おうとしている。
理由はそれだけで十分だ。

美琴は、"捜査"を開始した。



<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:08:36.11 ID:Pggv7GK00<>




とあるマンション。


「ケホッ、コホッ………うー……。」


ベッドに横になり、本来なら真っ白であるはずの肌を赤くしている少女。
鈴科百合子だ。


(うわぁ……三十九度もある……。このまま死ンじゃったらどうしよう……。)


風邪。
ただの、風邪。

彼女の能力は、「一方通行」の大能力である。
光と音以外は視認したものしか能力の支配下に置くことができない。
毒やウイルスも例外ではない。
つまり、単なる風邪菌も、彼女は反射することができないのだった。


(お兄ちゃンはいいなぁ、何でも反射できるから。)


ちなみに単なる風邪で高熱が出ているのは、彼女の免疫力が低いからではない。
何でも反射する兄よりも高い、むしろ常人並の免疫力は持っているはずなのだ。


(熱の出やすい体質……。どうしてアタシは病原体を反射できないンだろう……。)


そう、体質。
こればかりはどうしようもない。

百合子は、自分の額に手を当てる。

<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:09:08.98 ID:Pggv7GK00<>

(……、熱量の操作できないかな?)


すぐに後悔した。


(……!!あ、あうあうあうあう!!!)


例えばこれが、炎が発する熱であったなら成功しただろう。

訂正しよう。
彼女は光と音以外に関しては、視認できるもの以外は"正確に操作することができない"のだ。

つまり、何らかの変化は起こるということ。


(あ、熱い!!あ、あああ、し、死ぬ、死ンじゃう!!)


彼女は熱を体外に逃がしたかった。
だが「見えない熱」は逆に手のひらを当てた個所に集中、意図したのと逆の結果になってしまった。




ピンポーン




インターホンが鳴った。

が、百合子には玄関まで行くことはおろか、インターホンに出ることすらままならない。


<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:09:37.51 ID:Pggv7GK00<>




ガチャ





しばらく経ってから、ドアの開く音がした。


(………あれ?鍵閉めたはず……。)


そもそもここはオートロック。
鍵が無ければ入れない。

ということは、兄だろうか。


「誰もいない……よね?」


女の声。
知らない女の声だ。


「よかった……。第一位が時々来るこの部屋……何か得るものがあれば……。」


百合子の部屋のドアが開いた。


<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:10:10.55 ID:Pggv7GK00<>







「………………………、………………………。」


「………………………、………………………。」




百合子は固まった。
誰だこいつは。


茶髪の少女、番外個体もまた固まった。
何だこいつは。




二人の少女は、固まったまま動かない。






<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:10:58.63 ID:Pggv7GK00<>





とある研究施設。


「た、大変です博士!!!」

「どうした、騒々しい……。」


若手の研究員が、血相を変えて天井の部屋に飛び込んできたのだ。


「超電磁砲のDNAマップが……消失しました!!」

「な、なんだと!!??」


それを聞いた天井もまた血相を変え、部屋から飛び出す。


彼らはデータベースのある部屋へと飛び込む。


「一体どうしたというのだ?!」


天井は声を荒げた。
女性研究員が取り乱しながら答える。

<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:11:31.89 ID:Pggv7GK00<>



「そ、それが……突然跡形も無く……。」

「み、見せてみろ!!」


天井はコンピュータの画面を凝視する。


「馬鹿な……何が起きたというのだ……。」


この研究施設は、外からのアクセスを遮断するため、ネットワークは施設内でしか構築されていない。
つまり、外部からの侵入は考えられない。
しかし、ログを見る限り、施設内からの操作履歴すら見当たらない。

まるで神隠しのように、データが消失していたのだった。
マスターデータも、コピーも、バックアップも。
全てが跡形も無く消え去っていた。


すでに"十三番目"は動き出している。
早急に新たなDNAマップを用意しなくてはならない。


(……!そうだ、クローン共からまたDNAを採取すれば……!)


天井の脳は即座に解決策を導き出した。


「おい!どれでもいい、クローン共から新たにDNAマップを用意するんだ!!」


研究員達もハッと顔色を変える。


「そ、そうだその手が……すぐ用意してきます!」


若手の研究員は部屋から飛び出して行った。


<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:12:10.05 ID:Pggv7GK00<>




その頃、とある茶髪の少女は血まみれになりながら廃ビルの壁にもたれていた。


「ハァ……ハァ……、生体、電気……治癒力、を………。」


息も切れ切れ。
全身からの出血が酷い。


(何が……何が筋ジストロフィーの治療よ……!)


その茶色の瞳には怒りがふつふつと込み上げている。


(ふざけんじゃないわよ……。絶対能力進化実験……二万回の殺害……。)


少女は、拳をコンクリートに叩きつける。


(でもこれで二度とクローンを生み出せないはず……。実験は……破綻、ね。)

(しかし……我ながら考えが幼かったわね。能力者の遺伝情報なんて善意に利用されるわけがないのに……。)

(ていうか、もし二万人も娘ができたらお父さんとお母さん大喜びだろうなぁ。)


茶髪の少女は、クスリと笑う。


(あの子達のこと……ちゃんと守ってあげて下さいね……美琴。)



茶髪の少女は、治癒に専念するため、目を閉じた。

<> たくま<><>2011/05/23(月) 22:13:07.16 ID:Pggv7GK00<> 以上です!
ちょっとややこしいかもですね。


次はもっと早く来れるようがんばりますが、実験とレポートやばーいので結構投下速度遅めになりそうです。
ごめんなさい;; <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:08:07.25 ID:4CXIBKC/0<> 投下します! <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:08:39.61 ID:4CXIBKC/0<>

「ど、どろぼー……?」

「なっ!ミサカ泥棒じゃないし!ただ第一位を……ってあなた誰?第一位そっくりだけど……。」


百合子の部屋。


「(御坂……?)第一位ってお兄ちゃン……一方通行のこと?」

「そう!って……何、あいつ妹いたの?!」

「それで……あなた誰?」

「あー……ミサカはそのー……。」


ポリポリと頬を掻く番外個体。


「……言わないならいいもン、お兄ちゃンに聞くから。」

「えっ、ちょ、それはダメ!!」

「?……なン……!ゲホッ、ゴホッ!!」


咳き込む百合子。
本来会話をするのも辛いほどの体調なのだ、無理も無い。


「だ、大丈夫?」
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:09:06.54 ID:4CXIBKC/0<>

心配そうに百合子を見る番外個体。


(……この子、顔赤くない?)


番外個体は、百合子の額に手を当てる。


「あっつ!!!ちょっと、かなり熱あるんじゃないのこれ?!」

「うー………。」


見るからに辛そうな百合子。


「………………………。」


番外個体は、無言でキッチンの方へと向かった。


(まったく……こんなことしてる場合じゃないんだけどなぁ……。)


冷凍庫の扉を開く。


(お、氷発見!あとは、と……。)


適当にボウルを手に取り、中に水を溜める。
水を出しっぱなしにして、彼女はタンスへと向かう。


(おっと、初っ端下着かよ。と………ここも違う……ここは……わっ!!///)
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:09:33.69 ID:4CXIBKC/0<>

男物の下着。
ごくごく普通のものなのだが。


(こ、ここにあるってことは……一方通行、の……?)


これを身につけた一方通行の姿を想像してしまいそうになり、番外個体は必死にブルンブルンと首を振る。


(こ、こんなもん入れとくなよぅ……あ、あったあった!)


探していたのはタオル。
数枚それを手に取り、キッチンへと戻る。

ボウルから水が溢れていた。
水を止め、適量にボウルの中身を調節する。

冷凍庫から氷を取り出すと、いくつかボウルの中に放り込んだ。


番外個体はボウルとタオルを抱え、百合子の所へと戻る。


「うー………うぅぅ……。」

(うなされてるなぁ。)


タオルを氷水に浸し、軽く絞って百合子の額に乗せる。


「うー…………う?」 <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:10:04.70 ID:4CXIBKC/0<>
「知識でしか知らないけど……これで合ってるのかなぁ……?」

「……ち…い………。」

「え?」


百合子の声を聴き取ろうと、耳を近付ける番外個体。


「きもちいい……。」


見ると、百合子の表情から辛そうなモノが消えていた。


(………キモチイイの?)


番外個体は他のタオルを氷水に浸し、絞り、自分の額にくっつける。


「……………冷たいだけじゃん。」


百合子が、スヤスヤと穏やかな寝息を立て始めた。


<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:10:39.35 ID:4CXIBKC/0<>





風紀委員第177支部。


「はい白井さん、お茶ですよー。」

「どうもですの初春。」


手渡された茶を一口飲み、白井は作業を続ける。
ちなみに、彼女のやっている作業はとある期間の監視映像のチェックである。


「それにしても白井さん、何日も何日も何してるんですか?」

「見てわかりませんの?」

「いや、わかりますけど……。なんでそんなことしてるのかなーって……。」

「今回の件で取り逃がした無能力者は若干名ですが存在しますわ。外に逃げられては厄介ですの。」

「あ、なるほど、そういうことだったんですか……。」


納得し、自分のデスクへ戻って行く初春。


(まー、ホントは逆ですのよ。)

<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:11:10.44 ID:4CXIBKC/0<>

あのローブの女。
見るからに学園都市の者ではなかった。
が、どの記録を見ても、あんな女が学園都市に入った記録は見付からない。


(となると、セキュリティを破っての侵入ということになりますの。)


ありとあらゆる映像をチェックし、例のローブの女を探していた。
さすがに侵入の瞬間の映像は見付からないだろう。
が、常に監視の目を潜って生活しているとは考えにくい。
そのため、学園都市内に入ってからの行動は映像に残っている可能性が高い。


(そこから位置を逆算していけば……。)


おおよその侵入位置がわかる、ということだ。
白井は、完全個体の言葉を思い出す。


『大体でいい。あの女の侵入位置を割り出せないか?学園都市のセキュリティを破るために……恐らく魔術を使ってるはずだ。その魔翌力から現在位置を探知できる可能性がある。』


完全個体がいつになく険しい表情だったのを覚えている。
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:11:40.56 ID:4CXIBKC/0<>

(現状できることといったらこれくらいしかありませんのね……。)


彼はこちらの問題の解決に協力してくれた。
だから今度は自分が協力する番。

白井は茶をもう一口飲むと、作業を続行した。






「白井さん、がんばってますねー。」

「ホントね。他の三班の班員達はまだみんな休養中なのにね。」


固法はマグカップに牛乳を注ぐ。


「ていうか本当に何だったんでしょうね?」

「ああ、例の記憶障害ね?」

「はい……。やっぱり不自然ですよ、全員記憶障害だなんて……。」

「そうは言っても、あり得なくもない話だし……。初春さんも牛乳飲む?」

「あ、いや、私はお茶で……。でもなんで今回に限って…。」 <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:12:38.64 ID:4CXIBKC/0<>

初春は自分の分の茶を淹れると、固法と共に奥のソファへと向かう。
支部の方と少し距離があるため、白井からは二人の会話は聞こえない。


「……正直、私にもわからないのよ。」

「固法先輩……。」


軽くため息をつくと、固法はマグカップを口元に運ぶ。


「……白井さん。」

「え?」

「あなたはまだ知らなかったわね……。例の『ワクチン』のことなんだけど……。」

「どうかしたんですか?」

「あれを持ってきたの……白井さんなのよ。」

「えっ?!」

「事情を聞こうとしても『話せない』の一点張り。未だに詳しいことはわからない始末。」

「そ、そんなことが……。」
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:13:43.65 ID:4CXIBKC/0<>

初春は拳をギュッと握る。
何も知らなかったことに対する悔しさなのか。
白井が自分に何も話してくれなかったことに対する怒りなのか。
それかまったく別の何かなのか。


「……今回の件は不可解な点が多すぎるわ。」

「そうですね……。」

「……でもね、全ての『不可解』に関わっている人物がいるのよ。」

「白井さん……ですね?」

「ええ……。」

「……でも私、思うんです。」

「え?」

「例え何か隠してたとしても、白井さんは悪いことを企むような人じゃありません。」

「……そうね。」

「だから……きっと本当に何かあって……事情があって……何も話せないんだと思います。」

「……初春さん。」

「はい?」

「勘違いしてほしくないから言っておくわね。」 <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:14:19.56 ID:4CXIBKC/0<>
「はい……?」

「私は白井さんを疑ってるわけじゃないの。ただ、何か危ない橋を私達に黙って渡ろうとしているのなら……。」

「なら……?」

「それを止めるのが……彼女を守るのが、仲間、でしょ?」

「固法先輩……!」

「白井さんが悪事を働こうとしてるなんて思ってないわ。でも、ひとりで突っ走りやすい子だし……ね?」

「そうですね……私達がサポートしなくちゃ!」


初春の拳は握られたまま。
ただし、それは仲間を守るという決意の表われだった。



<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:14:48.89 ID:4CXIBKC/0<>




(ん……?これ………。)


白井はモニターのひとつを食い入るように見つめる。
映っているのはごく普通の繁華街の映像。
しかし白井は、画面の端を凝視している。


(やっぱりそうですわ……見間違うはずありませんの!)


傍目には誰だか全くわからない。
一瞬、画面の左下に茶髪の人物の後頭部が映っているだけ。


(これは……お姉様ですの……。)


これだけで美琴だとわかるのは、さすがは白井、といったところだろうか。
白井は、モニターの時刻を見る。


(……どうなってますの?)


モニターが表す時刻。
これは、常盤台中学女子寮の夕食の時間。
この日、美琴と並んで食事を取っていた記憶がある。


(記憶障害……ではありませんわね……!!そういえば…!)



『なぁ。学園都市って……人間のクローン作ってもいいのか?』



(ま……まさか…………。)


白井は携帯電話を手に取る。
目的の電話番号を探し出すと、白井は支部をそっと抜け出した。
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:15:17.22 ID:4CXIBKC/0<>




「はわー……すっげー………。」

「……お前は何しに来たんだよ……。」


完全個体と、後ろ髪を留めた少女。
広場の噴水前のベンチに腰掛けていた。
ここからは学園都市の科学力を詰め込んだ街並みの一部がよく見える。


「だって!こんなの普段見れないんだから今見ておかないと!」

「だから完全に観光になってんだろそれ?!」


頭が痛い。
完全個体は頭を抱えた。


「それにさぁ……今アタシ達ができることなんて……ほとんど無いようなもんじゃん。」

「まぁそりゃそうなんだけど……。」

「アンタに協力してくれてる風紀委員の子……その子頼りになっちゃうけど……それしか、ね。」

「……まぁな。」


ブルルルルル
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:16:38.01 ID:4CXIBKC/0<>

「ん?あ、悪い、電話だ。」

「はいはーい。」


完全個体は携帯を手に取ると、広場の隅の方へ移動した。


「もしもし?」

『私ですの。』

「ん。どうした?何かわかったか?」

『いえ、そっちはまだ全然ですの……。』

「そっか。頼んどいてアレなんだけどあんま無理するなよ?」

『大丈夫ですのよ、あんまり見くびらないで下さいまし。』

「それならいいけど……で、どうしたんだ?」

『前にあなた、クローンがどうこう仰っていましたわね?』

「ん?……あ、あれな。……うん。」

『何を見たんですの?』

「え?」
<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:17:32.07 ID:4CXIBKC/0<>
『何か見たか……聞いたか。それで私に電話してきたのではなくて?』

「……確かに見たけど……それがどうしたんだ?」

『単純に伺いたいだけですの。ちょっとこちらでも気になることがありまして……。』

「あー……学園都市の超能力者のひとりのクローンを、恐らく見かけたんだよ。」

『それは第三位の超電磁砲、ですの?』

「……お前、何見たんだ?」

『当たりですのね。ちょっと映像を見ていたら気になるものがあったんですのよ。』

「……なるほどな。でもよくクローンってわかったな。」

『まぁ、同じ時間に人は二ヶ所に存在できませんもの。』

「……おい、お前が見たのって……超電磁砲と同じ年齢だったのか?」

『え?そうですが……あなたが見たのは?』

(う……まずった……。)


完全個体は頭を掻く。

<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:18:34.53 ID:4CXIBKC/0<>

「あー……その……。」

『何ですの?』

「年上の超電磁砲、かな?」

『と、年上の……!!』

「ど、どうした?何か声上ずってねーかお前……?」

『……………はっ!な、何でもありませんの!』

「………?」

『と、とにかく、とりあえずわかりましたの。私は引き続き作業に戻りますわね。』

「あ、ああ……。」

『それでは。……ピッ……』


完全個体は携帯をしまう。


(やれやれ……墓穴掘るところだった……。)


彼は、後ろ髪を止めた少女のいる噴水前のベンチへと向かう。


「………?」


ベンチには誰も座っていなかった。
辺りを見回しても、それらしき人影がいない。


(…………?あれ?)


完全個体は首を傾げた。

<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:19:04.01 ID:4CXIBKC/0<>




とある自販機のある公園。
額にゴーグルを装着した少女がひとり、歩いている。
御坂美琴のクローンの少女だ。


「………そろそろ姿を現してはどうですか?と、ミサカは先程から尾行している人物に向かって話しかけます。」


と、物陰から、後ろ髪を留めた少女が現れた。


「ふうん。やっぱり気がついてたか……。」

「で、あなたは一体何者なのでしょう?」


クローンの少女の目が鋭くなる。


「……何者に見える?」


後ろ髪を留めた少女が不敵に笑う。


「わからないから聞いているのですが?」

「アンタこの顔見てそれは無いんじゃないの?」

<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:19:59.61 ID:4CXIBKC/0<>

後ろ髪を留めた少女は、自分の顔を指さす。


「……妹達の中で肉体年齢がお姉様と異なるのは二個体のみ。そのどちらでもないとなると……ミサカにはわかりかねます。」

「(妹達……?)なるほどね、ちゃんと考えてはいたのね。」

「それで……なぜミサカを尾行していたのでしょう?」

「……ちょっと話をしたかったからよ。」

「話?」

「そ。話。……ちょっと時間、いいかしら?」


二人は、公園のベンチに腰掛けた。

<> たくま<><>2011/06/01(水) 04:21:25.14 ID:4CXIBKC/0<>




百合子の部屋の近く。
建物の陰に身を潜めた少女の肩が、ピクリと動いた。


(検体番号六号に何者かが接触……。)


彼女は目を閉じる。
共有している記憶データの映像が見える。


(……彼女は何者なのでしょう?一応副上位命令文で接触を断つように命令すべきでしょうか……?)

(……まぁ作戦の遂行に支障は無いでしょうし放っておきましょうか。)


彼女はポケットの中のモノを探る。


(引き続き作戦を続行します。と、ミサカ十三号は再び気配を消すことにします。)


ミサカ十三号、通称十三番目は、動かない。 <> たくま<><>2011/06/01(水) 04:22:03.88 ID:4CXIBKC/0<> 以上です!
できるだけ早く来れるようがんばります;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 07:21:43.23 ID:i/yAnRNCo<> ふぬぬ・・・続き気になる
おつおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 11:34:21.06 ID:qUrBI/XDO<> 乙でやんす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 13:17:24.60 ID:623vdHy0o<> 乙なんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 15:20:13.33 ID:K4sX5orIO<> 乙! <> たくま<><>2011/06/05(日) 02:20:14.27 ID:1OcWYKkZ0<> 書き込みもらえるとホント励みになります……!

それでは投下します。 <> たくま<><>2011/06/05(日) 02:20:42.78 ID:1OcWYKkZ0<>


「むにゃ………?」


目を覚ます百合子。
気のせいだろうか、だいぶ体調も良くなっている、気がする。


「ありゃ、目が覚めたかな?」


誰?
誰かいる。

そこで百合子は全てを思い出す。


「そ、そうだ!あなた結局誰なのよ!」

「わお、お目覚め第一声がそれかよ。」


むかつく顔でニヤニヤしているこの女は一体誰なのだろう?
どこかで見たことある気がする。でも思い出せない。


「………もしかして看病してくれてたの?」

「そうだよ。あなたかなり高熱で大変だったんだよ?」


百合子は額に手を当てる。
熱はかなり引いていた。


「………ありがと。」

「まったくだよ。どうしてミサカがこんなことしなくちゃいけないのさ。」

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:21:28.14 ID:1OcWYKkZ0<>

御坂。
御坂ってあの御坂だろうか。
……いやきっと人違いだろう。


「そういえば……お兄ちゃンの知り合いなの?」

「あー………まぁ一応そうなるのかな。」

「一応?」

「あんまり深く考えなくていいよ。」

「そう……。」


あの兄はあんな偉そうなこと言っておきながら女の知り合いを作っていたのか。


「……やっぱりむかつくわ、お兄ちゃン。」


百合子は布団に隠れて顔をしかめる。


「ところでお腹、空いてないのかな?」


言われてみれば食欲がなくてほとんど何も食べていなかった。
だいぶ体調が戻った今となっては……。


クーキュルル


百合子は顔を赤らめながら布団に隠れる。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:22:06.30 ID:1OcWYKkZ0<>

「どっから返事出してんのさ。……おかゆ作ってみたけど、食べる?」


番外個体が、お盆に乗った食器を指さす。


「……食べる。」

「はいはい。」


番外個体から手渡された食器を受け取る百合子。
とりあえず一口、口へ運ぶ。


「………まずい。」

「せ、せっかく作ってやったのになんだよぅ!は、初めてなんだからしょうがないじゃない!」


あたふたする番外個体。
まずいと言いながらも百合子はおかゆを口に運んでゆく。
空腹のせいだろうか。


「……結局全部食べるんだね。」

「ごちそーさま。」


あっという間におかゆは無くなった。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:22:47.98 ID:1OcWYKkZ0<>

「そういえばあなた何ていう名前なの?やっぱ第一位みたいに『名前は無い』感じなわけ?」


食器を片づけながら番外個体が尋ねた。


「お兄ちゃンと一緒にしないでくれる?アタシの名前は『鈴科百合子』よ。そういうあなたは?」


百合子からも尋ねる。


「番外個体。」

「みさかわーすと?」

「そ、番外個体。」

「………類は友を」

「呼ばない!!第一位と一緒にすんな!!」


番外個体が叫ぶ。


「ならホントは何ていう名前なのよ。親からもらった名前、覚えてないわけじゃないでしょ?」


百合子が呆れたように言う。


「……ミサカ親いないもん。」

「え?」


番外個体の表情が少し曇る。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:24:12.30 ID:1OcWYKkZ0<>

「ミサカ……クローンだもん。」

「クローン……。」


百合子は何かを考える。
まさか。
まさか……?


「……なンか……ごめン、辛いこと話させちゃって……。」

「ううん、普通人見てクローンだなんて思わないし。あなたは悪くないよ。」

「ワーストちゃン……。」

「………ワーストちゃんて何かな?」


番外個体がジト目で百合子を見る。


「名前が無いならあだ名つけちゃえって感じ?ワーストちゃン。」

「……ならミサカはあなたのことゆーちゃんって呼んでやるし。」

「………ゆーちゃンって」

「おっと異論は認めないよ!先に言い出したのゆーちゃんなんだからね?」


ぐぬぬ、と、百合子がたじろぐ。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:24:59.97 ID:1OcWYKkZ0<>

「まぁあなたがミサカの呼び方を改めるのなら考えてあげてもいいかにゃー?」

「う、変えない!絶対変えないもン!」

「ならあなたはゆーちゃん、ね☆」

「う、ううう、ワーストちゃンの馬鹿!」

「うぐっ、やっぱワーストちゃんやめろよぅ……。」

「! ふ、ふふ、どーしたのかな、ワーストちゃン?」

「うう……なかなかやるね、ゆーちゃん!」

「うっ、ワーストちゃンもなかなかやるじゃないの!」


「オマエら何してンだァ?」


反射的に振り向く二人。

そこには、呆れ顔の一方通行が立っていた。


<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:25:30.06 ID:1OcWYKkZ0<>








とある公園。


「ああ……やっと退院できた……。」


不幸の星、上条当麻だ。
普通ならひと月は入院が必要なのだが、たった数日で退院できてしまうのは彼の生命力からか、冥土帰しの腕からか。


「あっ、アンタ……!」

「しかしインデックスの奴……餓死とかしてねぇよな?」

「ちょ、ちょっとアンタってば!」

「まぁ一応神裂に連絡しといたし……大丈夫か?」

「………呼んでんのが聞こえないのかゴルアァア!!」


突然(上条的な意味で)電撃が飛ぶ。
咄嗟に右手でガードする上条。


「わっと……!お、お前かよ、危ねーだろいきなり!」

「二回!!二回呼んだわよ!」


今にも噛みつきそうな美琴がいた。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:26:04.05 ID:1OcWYKkZ0<>

「え?あ、悪ぃ、考え事してて……。」

「……、まぁいつものことだから別にいいけど。」

「んで?どうしたんだ?」

「え。」

「何か用があったんだろ?」

「え、あの、その、えっと……。」


モジモジする美琴。
上条には何が何やらである。


「えっと……あ、アンタ、体はもう大丈夫なの?」

「ん、だいぶな。まだ包帯取れないところもあるけど……。」

「それにしても相変わらず反則的な生命力よね……あ、そう言えば……。」

「?」

「アンタさっき右手で私の電撃防いでたわよね?」

「ん、ああ。」

「………………アンタ自分から頼んでおいて忘れたの?」


病室でのやり取り。
右手の包帯が取れたら、電撃を右手に撃ってほしい、というもの。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:27:13.39 ID:1OcWYKkZ0<>

「あ……………。」

「まぁさっきの様子じゃ大丈夫そうね。」

「…………できればもう少し軽めがよかったんでせうが。」

「何よ、呼んでるのに無視する方が悪いんじゃない?」

「べ、別にいいんじゃなかったのかよ!?っていうかビリビリすんな!帯電してるから!」

「ビリビリって言うなぁ!!」

「だー!なんで退院早々こうなんだよ!!くそ、不幸だ!!」


全力で美琴から逃げる上条。
本当に先程まで入院していたのかも疑わしいほどの機敏さである。




ドン




「う、うおっ?!」

「!」

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:27:46.39 ID:1OcWYKkZ0<>

走っていたら誰かにぶつかり、そのまま倒れ込んでしまった。




ムニュ




何か左手に柔らかい感触がある。


(むにゅ?むにゅってなんでせう?)


よくわからないので感触を再度確かめる。




ムニュ ムニュ




何だろう。とりあえず上条の日常の中で感じたことの無い感触である。


「………いつまで人の胸を触っているつもりなのですか?と、ミサカは問いかけてみます。」


胸だった。


「!!ご、ごめんなさいぃいい!!!」


反射的に、かつ瞬間的に上条は土下座モードに入る。
後ろから美琴が追いつく。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:28:44.60 ID:1OcWYKkZ0<>

「…………、……………。」


無言になるのも無理は無い。
なぜ自分のクローンに上条が土下座しているのだ。


「あの、頭を上げて下さい、と、ミサカは促します。」

「いえ!女性の胸を揉みしだくなんて紳士にあらず!とんだ御無礼を!」


胸を揉みしだく?


「ア・ン・タ・は…………。」

「!!」

「おや、お姉様?」


美琴が帯電を始める。


「こんのド変態がああああああ!!!」

「うおぁあああ!!!美琴、落ちつけ!!!」


美琴の怒りを上条は右手で鎮める。


「ハァ、ハァ……で?なんでアンタここにいるわけ?」

「少し野暮用がありまして、と、ミサカはお茶を濁します。」

「ん?お姉様?って……!!」


美琴がもうひとり。
上条でなくとも驚くのが当たり前だ。


「……っ!」

「こんにちは。妹です。」

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:29:22.12 ID:1OcWYKkZ0<>

「妹………?」


もうひとりの美琴は、妹だ、と言う。


「あー……そ、そうなのよ。そういえばアンタに言ったこと無かったわね、ごめんごめん!」

「まぁ妹とは言っても実際はたいさ」

「そう!妹なの!」


美琴の顔が引きつっている。


「…………そっか、初めましてだな、妹!」


どうやら上条はうまく納得してくれたようだ。


「あー……アタシちょっとこの子に用事があるから、そしたらね!」

「お姉様?ミサカは野暮用が……。」

「いいから。来なさい。」


美琴は妹を引き連れ去ってゆく。
上条に背を向け、美琴はホッとした顔になる。
うまく誤魔化せたようでよかった。
彼を自分の問題に巻き込みたくはない。



美琴らが去った後も、上条はその場に立ち尽くしていた。


「……どうなってんだ……?…………いや、これも………そういうことなのか?………御坂。」


独り言を呟くと、上条は腹ペコシスターの待つ男子寮へと帰って行った。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:29:56.74 ID:1OcWYKkZ0<>








「どこ行ったんだよあいつ……。」


完全個体は噴水前から市街地まで移動していた。
彼には探査能力は無い。
よって、しらみつぶしに探していくしかないのだ。


(ついにあいつまで個人行動するようになったか……なんかいろいろと頭が痛いな。)


電話やメールでも反応が無い以上、完全に勘で探すしかない。
それにも頭を抱える完全個体。


(……迷子か?………まぁ迷子ならそのうち電話してくるだろうけど……。)


先日のローブの女の件がある以上油断はできない。
もしかすると何者かに攻撃を受けた可能性がある。
その結果連れ去られたか。
それとも逃走している最中なのか。


(けどもしそうなら広場はパニックになってるよな。)


それでも疑念は捨てきれない。
人目を盗み、一瞬の間に事を済ませた可能性だってある。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:30:44.40 ID:1OcWYKkZ0<>

(もしこれで何も無かったらどうしてやろうな?………ん?)


完全個体が足を止めた。
建物の壁にもたれかかり、暇そうにしている、帽子を被った少女。
帽子のつばで顔はよく見えない。
これだけ見れば、何のことはない、普通の光景だ。

少女に近づく完全個体。


「君、こんなところで何してんの?」


これじゃナンパじゃないか。
完全個体は心の中で密かに言葉のチョイスを後悔する。


「あなたこそ何のつもりでしょう?と、ミサカは問いかけます。」

(ん?ミサカ?)


帽子の少女が顔を上げた。


「………!!その顔……!」

「……お姉様の知り合いでしたか。」


超電磁砲の顔。
もしやこいつが白井の見たクローンだろうか?


「……ちょっとね、異様な光景だったから声を掛けてみたんだよ。」

「……ミサカは壁にもたれていただけですが?」

「それで気配が微塵も感じられないのはおかしいんじゃねーの?」

「!!………何者ですか?と、ミサカは警戒します。」

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:31:41.16 ID:1OcWYKkZ0<>

クローンの少女の目が変わる。
警戒の色だ。


「安心しろよ、取って食おうってわけじゃない。ただホントに気になっただけだ。」

「………機密ですのでお教えすることはできません。」


少女は警戒を解かない。


「機密、ね……。昼間っからクローンが動いてるとなりゃそりゃ機密だろうな?」

「………………あなた、本当に何者ですか?なぜミサカがクローンだと……。」

「簡単な話だ。超電磁砲に姉妹はいない。表面上な。」

「表面上?」

「なに、こっちの話だ。で?一体何を……!!」



「オ、オイ、待て番外個体!」

「うるさい!今ミサカに構うな!!」



若干離れた建物のやり取り。
一見すればただの痴話喧嘩にも見えるが、あの女の方には見覚えがある。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:32:17.59 ID:1OcWYKkZ0<>

「……あっちにもクローン、こっちにもクローン。これは関係ありそうだな?」

「……………(まずいですね。ここで番外個体を追えばこの人に要らないことを知られてしまう……。)」


クローンの少女、十三番目は考える。


「……偶然ですね。関係ありません。」

「ん、そうか?んー………。」


完全個体は首を傾げると、カバンから水筒を取り出す。
一口、水筒の中身を飲んだ。
水筒から、ポツリ、と、水滴が落ちる。


(またとないチャンスでしたが……。ここは仕方ありませんね。今日の作戦は中止です。)


目の前の男に情報を握られるくらいなら今日のところは諦める。
十三番目は慎重な結論を出した。
が。


「そっか。まぁ俺も人探しで暇じゃないし……会えたらまたな。」


水筒をしまうと、そう言い残しそそくさと去って行く完全個体。
あっという間に見えなくなってしまう。


(………何だったのでしょう?……まぁいいです。これは好機……!)


十三番目は番外個体らの追跡を続行した。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:33:07.41 ID:1OcWYKkZ0<>








「で、あなたは一体何者なのですか?」

「堅苦しいわねー。タメ口でいいわよ全然。」

「申し訳ありませんがこれがミサカのデフォルトですので。」


クローンの少女と、後ろ髪を留めた少女だ。


「デフォルトねぇ……。で、アタシが何者なのか、だっけ?」

「はい。ミサカ達の知らない個体か何かでしょうか……?」

「んー、当たりのようで外れのようで。」

「……じらさないでくれませんか?」


無表情ながら苛立ちを見せるクローンの少女。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:33:38.36 ID:1OcWYKkZ0<>

「何よー、つれないわね。……先に聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」

「………何でしょう?と、ミサカは少し警戒します。」

「妹達って………何?」


クローンの少女はさらに警戒する。


「………どこの誰かもわからない人間にそれを話せ、と言うのですか?」

「アタシが何者なのか知りたくないの?」

「………どういう意味でしょう?」

「アナタがアタシの質問に答えてくれたら、アタシのこと教えてあげるわ。」


後ろ髪を留めた少女はニヤリと笑う。


「あなたが何者なのかミサカが知るメリットは無いかと思いますが……。」

「あら、同じ顔した知らない人間がいて『はいそうですか』って帰せるわけ?」

「そ、それは……。」

「アナタ達のいる研究所の職員も、アタシのことは知りたいんじゃない?」

「………なぜミサカが研究所にいると?」

「だってアナタ、クローンでしょ?」

「………やはり他人の空似ではないようですね。」

「で?どうする?話す?」
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:34:14.40 ID:1OcWYKkZ0<>

クローンの少女は少し考える。


「………わかりました。乗りましょう。」

「そうこなくちゃね。」

「妹達とは、超能力者第三位超電磁砲……御坂美琴のクローン達の総称です。ある実験のために二万体の製造予定があるのですよ。」

「に、二万……。この学園都市に二万人もいるわけ……。」

「いえ、現在は事情により十三体までしか製造されていません。」

「事情?」

「それは機密事項です。」

「………実験ってのも話してはくれなさそうね。」

「はい、機密事項です。」

「まぁいいわ……。妹達が何なのかは一応わかったし。」


後ろ髪を留めた少女はため息をつく。
小声で「二万体って……。」と聞こえる。


「それで……あなたは一体何者なのでしょう?」


クローンの少女は尋ねる。

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:34:55.46 ID:1OcWYKkZ0<>

「……アナタ達クローンは、きっと自分を人間だと思ってないんでしょうね。」

「………唐突に何を?」

「実験動物か何かだと思ってるんじゃないの?」

「何だか話をそらされた気がするのですが……まぁそうです。」

「それは違うわよ。」

「?」

「生まれ方が異なるだけ。同じ命……人であることは変わらないのよ。」

「…………。」

「いきなりこんなこと言われても理解はできないと思うわ。でも覚えておいてほしいのよ。」

「何を……でしょう?」

「アナタから見て、アタシってどう見える?」

「テンションが高いんだかシリアスなんだかよくわからない、一般人です………容姿を除けば。」

「アタシもね、昔は自分のこと……実験動物だと思ってたのよ。」


後ろ髪を留めた少女が、少し影のある表情になる。


「………ではあなたも………?」

「………、でもね、今は違う。アタシは、『人間』よ。」

「……………。」

「覚えておいて。アナタ達は人間よ。代わりなんていない、たったひとつの命なの。」

「………ですがミサカ達は記憶を能力の応用で共有しています。死んだとしてもその個体の記憶は……。」

「じゃあ、今ここでアタシと話してるアナタは誰なの?アナタが死んでも……アナタはその先の世界を見れるの?」

<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:35:38.31 ID:1OcWYKkZ0<>

後ろ髪を留めた少女の目つきが鋭いものになる。


「誰……ミサカは………ミサカは………?」

「ね?記憶なんてただの記録よ。例え人の記憶を全て記録したコンピュータがあっても、それはその人じゃない。」

「ミサ………カは………。」

「アナタが思い、感じ、生きていくことは……アナタにしかできないのよ。アナタはアナタ以外の何物でもない。アナタしか、アナタにはなれないの。」

「………………ではミサカが死んだら……。」

「確かにアナタの記憶は残るでしょうね。能力の応用?で。でもアナタ自身は……どこにも残らないのよ。」

「……………………。」

「だからアナタ達は実験動物なんかじゃない。『人間』なのよ。」

「……あなたは……なぜそんなことを………?」


クローンの少女が、戸惑ったように聞く。


「放っておけないのよね………不憫な妹を、ね。」

「いもう、と?」

「そ、妹。」
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:36:07.11 ID:1OcWYKkZ0<>
後ろ髪を留めた少女が、言う。







「アタシは『試験個体』(ミサカゼロ)。アナタ達のお姉さんよ。」







試験個体は、やさしくクローンの少女に微笑んだ。
<> たくま<><>2011/06/05(日) 02:37:19.91 ID:1OcWYKkZ0<> 以上です!
オリキャラ二人目の名前が出ました。


ところで、ペース遅いですかね?
投下ペースの話じゃなくて、物語の進行速度の話です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/06/05(日) 02:45:00.55 ID:SW5eT7uuo<> ここは落ちないからゆっくりやればいいさ
つかフルチューニングじゃないのね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/06/05(日) 11:58:18.87 ID:YUkYGQGxo<> フルチューニングはクローンだった気が
この場合だと美琴がフルチューニングなのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 12:54:05.55 ID:j+sCkLmQo<> フルチューニングって名前もチラッと出てきただけだしこの話に、もしくはこのオリキャラと関係あるのかはまだ不明だな・・・
とりあえず続きを震えて待つぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 15:20:54.99 ID:neA9G3Gm0<> 番外個体・百合子
美琴・上条・(100)31号?
完全個体・13号
??号・試験個体

の順か。今回は楽だったけど、同時進行が4つかつ美琴に似てるのだらけなので、
場面の繋がりがこんがらがるなぁ
わざとじゃなければ場所だけでも前書きしてくれると助かる

完全個体とフルチューニングの関係ありそうな気がするが謎、先を楽しみにしてるよ <> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:27:33.65 ID:HrAJHY9W0<> こんばんわ、投下します!

ペースはこのままでいきますねー。
場面の移り変わりに関してはちょっと気をつけてみましたが、まだ読みにくかったら教えて下さいな。

読み方は「ミサカゼロ」ですね、残念ながら「フルチューニング」ではないのですよ。

では行きますね。 <> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:28:04.73 ID:HrAJHY9W0<>


番外個体は走っていた。
全力で。


(くっそ、よりによってあそこで第一位登場かよ……。)


なんとも間の悪いタイミングである。
番外個体としては一方通行を殺すつもりなのだ。
殺し合う相手とどうして平和にお喋りしなくてはならないのだ。


(やっぱり柄にもなく看病なんてするんじゃなかったかなぁ。)


それもこれも、全ては百合子の看病をしていたため。
百合子を無視してもっと早く撤退していれば一方通行と会うこともなかっただろう。


(でも……待って、これもしかしてチャンス?)


対決場所の下見は終わった。
道具も揃え、既にあちらこちらに隠してある。
あとは、さらに勝率を上げるために、裏をかくために、一方通行自身を調べるだけだったのだが……。


(今ミサカ、ゆーちゃんの家飛び出して第一位に追われてるんだよね……?)


ついさっきまで妹の看病をしてくれていた人間に殺される。
どう考えても普通起こり得ないことだ。
しかも、標的がわざわざ自分を追ってくれている。
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:28:35.59 ID:HrAJHY9W0<>

(正直どうやってあそこまでおびき出そうかと思ってたんだよね……。)


ご丁寧に自分を追ってきているのだ、誘導も容易いなんてものじゃない。
番外個体は、突如進路を変える。


(………、何悩んでるのかな、ミサカ。いつかこうなるってわかってたじゃん……。)


番外個体の胸にまとわりつくのは、迷い。
本当にいいのか?
他に方法は無いのか?
妹達の中でも群を抜いて感情が豊富な彼女であるからこその、迷い。


(……………覚悟を決めろ、番外個体。もう……これしかないんだよ!!)


迷いは、消えない。
だから彼女は、迷いに蓋をした。
もしかすると後でとんでもなく後悔するかもしれない。
それでも、今の彼女にはこれしか残された道は無い、いや、これしか見付からなかったのだ。



<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:29:16.60 ID:HrAJHY9W0<>

(……ン?なンだ?アイツ急に速度上がってねェか?)


一方、番外個体を追う一方通行。
追っている理由は、二つ。
ひとつは、百合子に「追いかけて!」と言われたこと。
もうひとつは、いつもの番外個体らしからぬ雰囲気。
どちらかと言えば、後者の方が大きな理由だ。


(しばらく見ねェと思ったら……一体どうしやがったってンですかァ?)


一方通行からすれば何が何だかわからない、というところ。
しかし、学園都市第一位の頭脳が、「彼女をこのまま放っておいてはいけない」と警告している。
いや、もしかすると頭脳ではなく本能なのかもしれない。
だから一方通行は、追いかける。


(なンだ……?何が引っかかってンだ……?なンでこンなにも空気が痛ェンだ?)


当然、本当に空気が痛いわけではない。
彼には絶対の反射がある。
雰囲気が、刺すように痛いのだ。


(………まさか……実験のことで何かあったンじゃねェだろォな……?)

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:30:01.39 ID:HrAJHY9W0<>

十分にあり得る話だ。
むしろ、なぜその考えが浮かばなかったのかに疑問すら感じる。


(だがよォ……そンな緊迫した状態でなンで百合子の看病してたンだ?……考えすぎかァ?)


一方通行に気づくまでの番外個体に、どこにもそんな気配は感じられなかった。


(……まァいい。何にせよとっ捕まえて直接話を聞けばわかることだ。)


一方通行は、番外個体に意識を集中する。
それ故か、自身を追う存在には気付かない。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:30:39.00 ID:HrAJHY9W0<>





同じく速度を上げた一方通行に番外個体は驚いた。

(う、嘘、これでもついてこれるのかよ!?)


目的の場所に誘導するまで、決して捕まってはならない。
だからこそ番外個体は能力を使ってまで速度を上げたのだが……。


(……やっぱり第一位は第一位か、でも……。)


片や命賭けの鬼ごっこ。
片やとりあえずの鬼ごっこ。


(第一位がミサカの目的に気づかない限り……きっと大丈夫。)


事実、目的地まであと少し。
百合子の家がそこから近かったのが、運がよかった。


(今日のミサカ、ついてる?……やっぱり今日やるしかないみたいだね。)


番外個体は、ビル群の中のひとつに転がり込む。


(さてと……第一位がここにたどり着くまで一分も無い。)


それも想定の内。
最初から全ての準備は整えてある。


(っと、ミサカの位置配置もこれでおっけー。………許してね、一方通行。)


番外個体は、胸の痛みを堪え、戦闘態勢に入った。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:31:34.00 ID:HrAJHY9W0<>







(ンだァ?ここは……?)


一方通行は、番外個体の入って行ったビルへと足を踏み入れた。
一階のフロアはほとんど廃ビルのようになっている。
コンクリートの床には所々水溜まりがある。
さらにフロアにはチラホラドラム缶が置いてある。
火気厳禁の文字。
ここは倉庫として使われているのだろうか?
だが、このビルは八階建てであり、どうやら五階から上にはオフィスやら何やらがあるようだ。
当然、今日も人がいる。


「オイ、番外個体?」


当然、返事は無い。


(……いねェのか?)


どう考えても彼女が上のオフィスに用があるとは思えない。
なら、単にこのビルの中を近道として使っただけなのだろうか?
一方通行は、入ってきたのと逆側を見る。


(向こうに扉のようなもンはねェ……が、窓ならある、か……。)
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:32:04.82 ID:HrAJHY9W0<>

窓、と言ったが、ガラスも何も無いただの穴。
きっと以前はここに窓があったのだろうな、という程度のもの。
一方通行は、穴の空いた壁に近づく。


(まァもし逃げられてたら見失っちまったってことに………ッ!?)


反射的に手で鼻と口を覆う。
鼻を突くような刺激臭。


(お、オゾン……?クソ、風で…………!?)


突如辺り一面が火の海と化す。
当然一方通行には反射があるため炎でどうこうなりはしないのだが……。


(オイオイオイオイ!!ちょっと待て!!)


乱雑に置かれたドラム缶。
だがよく見ると、このビルを支える重要な柱のそばには「必ず」ドラム缶がある。
壁際にも、だ。
しかもご丁寧なことに、今燃えている箇所はドラム缶から離れているため引火の危険性はない。


(燃えている箇所……恐らくあの水溜まりは無臭の発火性の液体だ。つまり……。)
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:32:40.77 ID:HrAJHY9W0<>

風を起こせば、もれなくドラム缶の中の危険物に引火、爆発。
このビルは、間違いなく倒壊する。
上の階にはオフィス。
誰か、死ぬ。


(く、クソ、意識が朦朧としてきやがった!!)


一方通行は膝をつく。
だが、これだけでは終わらない。



バチン!



突如、鉄釘が飛んできた。


「ぐォっ………ア………!!」


鉄釘は一方通行の右肩に突き刺さる。
反射が効かなかったのではない。
反射しなかったのだ。
意識が朦朧としている今、もし少しでもベクトルの操作を誤ったとしたら。
もし、鉄釘をドラム缶にぶち当ててしまったとしたら。
誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖が、一方通行を縛り付ける。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:33:14.28 ID:HrAJHY9W0<>
鉄釘が、今度は別の方向から飛んできた。


「っ……!!」


オゾンのせいで、もはや声も出ない。
今度は左脚の太ももに突き刺さる。
鉄釘の痛みが、ギリギリで一方通行の意識を保っている。
なんとも皮肉な話だ。


(く……クソ……待て、もしかするとダミーってことも……?)


ドラム缶のことだ。
いや、もしかすると上の階に感じた人の気配すらダミーかもしれない。
そもそもこんな奇襲をかける輩が、人気のある場所を選ぶとは思えない。
一方通行は風を操作しようと手を頭上に突き出す。


『もーやだー!なんで残業なのよぉ……。』

『しょうがないでしょ、この前の事件で商品売れなくなっちゃったんだから……。』

『ホントいい迷惑だよな。俺達の作ってるモンまでイメージダウンなんてよぉ。』


なんのことはない。
スピーカーから流れた、音。
だが、その音が、一方通行の動きを止める。
人が、いたらどうする?
人が、本当にいたらどうする?
ドラム缶が本物だったら、どうする?


<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:33:51.56 ID:HrAJHY9W0<>





番外個体は様子を窺っていた。

(出来は上々みたいだね。ちょっと……ていうかものすごく卑怯なんだけどね。)


ドラム缶の中にはダミーも混じっている。
ということは、当然本物もあるのだ。
番外個体は、ダミーのドラム缶の陰に潜んでいる。


(さてと……そろそろトドメ………だね………。)


狙うのは、脳天。
番外個体は、床に引かれた大量の線のひとつに手を当てる。
この電導性質のある線はフロア全体に張り巡らされている。
あちこちに設置した鉄釘を、ここから操作しているのだ。
照準を定める操作用の線や、発射するための線など、準備に抜かりは無い。
一方通行の位置は電磁レーダーでわかるため、目視の必要は無い。
物陰から身を隠し、狙いを定める。


(…………っ、………………ごめん。)


番外個体は、鉄釘を射出した。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:34:31.59 ID:HrAJHY9W0<>



カランカラン



鉄釘は、一方通行の脳天を貫くことは無かった。
彼の頭に直撃した鉄釘は、そのまま床に落ち、転がる。


(……………え?)


「………再設定完了。危なかったぜェ……。」


一方通行が、立ち上がる。


(なんで?なんでなんでなんでなんで?!)


番外個体は混乱する。
彼は何をしたのだ?
そもそもオゾンで意識朦朧としていたのではないのか?
何がどうなっている?
番外個体は、もう一発鉄釘を射出する。


「無駄だァ。」


先程と同じ。
鉄釘は、一方通行に当たった後、また床に落ち、転がる。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:35:07.92 ID:HrAJHY9W0<>

「でェ?…………オマエなンだろ?………番外個体。」


一方通行が、番外個体の隠れている場所に真っ直ぐ向かってくる。


(え、ええ?!なんでミサカの居場所までばれてるわけ?!ていうか……え?!)

「電磁レーダー使ったのが間違いだったなァ。逆算ですぐに居場所がわかンだよ。」


気付くと、番外個体の正面に、一方通行がいた。


「あ、あ、一方通行……!!」

「…………やっぱ………オマエだったか。」

「な、なんで?なんで反射してないのに攻撃が効かないのよ!?」

「反射の設定を半分だけにしたンだよ。」

「は、半分……?」

「ベクトル量を全て逆方向に向ければ反射が起きる。ならベクトル量の半分だけ逆方向に向けたら?」

「!!」

「二つの真逆のベクトル同士で力を相殺、実質的な運動量はゼロになるわけだァ。」

「お、オゾンはどうしたのよ?!」

「あンなもン反射のフィルターに加えちまえばいいだけだろォが。まァ……結構ギリギリだったけどなァ。」

「う、うう……。」

「さァて、どォしてこンな愉快なことしてくれたのか……キッチリ説明してくれるよなァ?」


一方通行がニヤリと笑う。


「く、くそ!!」


番外個体は鉄釘を取り出すと、ドラム缶のひとつに照準を合わせる。


「!!オ、オイ馬鹿やめろォオオオ!!!」


鉄釘が、ドラム缶を貫いた。



<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:35:56.43 ID:HrAJHY9W0<>






その頃。
完全個体は走っていた。
あの不穏なクローンを追っているのだ。


(どう考えても怪しいだろ!関係無いわけが無いっつーの!)


ちなみにクローンの少女とはかなりの距離を取って追跡している。
彼に探査能力は無い。
だが、彼には追跡能力が、ある。


(まー怪しまれなかったみたいでよかったけど……。)


彼は少女の前で水筒を口にした。
その時、わざと一滴、液体をこぼした。
そして能力を使って水滴を操作し、彼女の服の一部に染み込ませたのだ。


(あの水はちょっと『特別』だからな……どこにいたって場所が………っ?!)



突如、辺りに轟音が鳴り響いた。
これは、爆発音。


「な、なんだ?!」


若干距離があるが、近くのビル群から煙が上がっているのが見える。
完全個体は、能力で移動速度を上げる。
足の裏に水を割り込ませることで、まるでスケートのような高速移動が可能となるのだ。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:36:32.67 ID:HrAJHY9W0<>

「く、くそ、通れねぇ……。」


現場付近では人だかり……野次馬ができていた。
完全個体は、野次馬のひとりであろう、爽やかな雰囲気の学生に話しかける。


「あ、あの、何があったんですか?」

「い、いえ、自分にも詳しいことは分かりかねるのですが……どうやらその奥のビルが倒壊したようです。」

「と、倒壊?」

「ええ。なんでも突然何度も爆発したとかで……。偶然にも人はいなかったようなんですが……。」

「(何度も?)…………そうですか、ありがとうございます!」

「あ、はい、どういたしまして。」


完全個体は裏から回ることにし、その場を離れた。
爽やかな学生もまた、どこかへと消えていった。


(何度もってことは……人為的なものか?)


先程クローンの少女が向かった先での爆発。
偶然だろうか?


(いや……この状況で偶然だって方がおかしいんじゃないか?なら……。)


完全個体は進路を僅かに変える。


(倒壊したビルに行くよりあのクローン追った方が早いよな!)


クローンの元へ、完全個体は急ぐ。



<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 00:37:58.97 ID:HrAJHY9W0<> 本日は以上になります。

読みにくかったら遠慮なくゆってくださいね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 20:08:02.78 ID:AaiTAs8DO<> 番外個体は星になっちゃったの? <> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:12:37.12 ID:nrEzHla/0<> 投下しまーす <> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:13:46.27 ID:nrEzHla/0<>

倒壊したビルの近く、倉庫群。


「オイ待て番外個体!!テメェ何したかわかってンのか?!」


一方通行は、怒鳴り散らす。
番外個体は、足を止める。
一方通行もまた足を止めた。


「……大丈夫だよ、人なんていないから。」

「!」

「ふん、第一位を殺すのに一般人を巻き込みたくなんてないからね。卑怯だけど偽装だよ。」

「そ、そォか……。」


ホッと胸を撫で下ろす一方通行。


「………、何かなその反応。ミサカがあなたを殺そうとしてるところはスルーなわけ?」

「ン?なンだよ、聞いたら理由教えてくれンのかァ?」

「いや、教えないけど。」

「……どォしろってンだよ……。」


一方通行はジト目で番外個体を見る。
当の番外個体は、突然音楽プレイヤーを取り出す。
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:14:12.24 ID:nrEzHla/0<>

「………なァにしてンですかァオマエ……。」


何を考えてるんだこいつは。
頭でも打ったんだろうか。
本気で一方通行はそう思う。
番外個体は、一枚のカードを取り出すと、音楽プレイヤーの再生ボタンを押す。


「いや、何、ちょっとした『仕込み』かな?」

「仕込みだァ?」


僅か数秒後、番外個体はイヤホンを耳から外すと、自分の手を見つめる。


「いや、マジで何してンだよオマエ……。」


だんだんと一方通行の目が哀れみのそれに変わってゆく。


「さっきのが失敗しちゃったから……もうこれしか勝算ないんだよね、ミサカ。」

「あァ?」

「第三位は第一位に勝てない。そんなこと知ってる。」

「ン?あァ、まァ……。」

「でもミサカはお姉様じゃない。」

「いや……まァ……うン。」

「今のミサカとお姉様、どっちが強いのかな。」

「…………オマエどォしたンだ?」

「もし今のミサカがお姉様よりも強ければ……僅かだけど勝算はある。」

「…………、…………。うン。」

「一か八かだね。……………いくよ、一方通行!!」
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:14:44.39 ID:nrEzHla/0<>
番外個体の体が帯電し、周囲に電撃が飛ぶ。
だが、肝心なのはそこではない。
ここは倉庫。
そこら中に鉄骨が積んである。

番外個体は、それらの鉄骨を大量に操り、一方通行に攻撃を仕掛けた。


「なっ?!」


無論、一方通行に攻撃は届かない。
だが、彼は驚く。
当然だ。


「その威力……どォなってやがる?!」

「だから言ったじゃないのさ、『仕込み』って!!」


空中に舞った鉄骨の向こう側に、番外個体が見えた。
手には、一枚のコイン。
彼女は、コイントスをするかのように、右手でコインを弾く。


(超電磁砲はコインを弾丸にするって聞いたことが……まさかァ?!)


番外個体が、落ちてくるコインを狙い、手を構える。
手のひらを上向きに、人差し指と小指を立て、中指と薬指を親指で押さえる形。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:15:18.73 ID:nrEzHla/0<>

「……吹っ飛べ!」


左手で右腕の肘を固定すると、番外個体はコインを弾いた。
紫の軌道を描き、番外個体の「超電磁砲」が一方通行を襲う。


「ぐオォォォオオオオ?!」


一方通行は全力で避ける。
もちろん彼に超電磁砲は届かない。
が、反射により彼女を傷つけてしまう恐れが……。


(あ、そういや反射の設定切ってたンだった。)


一方通行はため息をつくと、何気なく後ろを見た。


「………オイオイ、マジかよ……。」


倉庫がひとつ、ほぼ瓦礫の山となっていた。


<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:15:50.28 ID:nrEzHla/0<>



――――――――――――――――――――


倉庫群周辺、路地。
十三番目は、いらついていた。


「あなたは一体何なのですか?邪魔をしないでいただけませんか?」

「その焦り方……マトモじゃないこと企んでんだろ?何する気か教えたら考えてやるよ。」


立ちはだかるのは完全個体。


(全く尾行に気づきませんでした……このミサカが……。何者……?)

「だんまりかよ。まぁそれならそれで行かせないからいいけどな。」

「(こうなったら……。)では力ずくでどいていただきましょう。」


十三番目が、構えた。


「行きますよ!」

「やれるもんならやってみな!」




――――――――――――――――――――





<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:16:29.99 ID:nrEzHla/0<>



再び倉庫群。
半壊した倉庫を見て、一方通行は思う。


(元々この辺の倉庫は造りが荒いとは言え……こりゃァ間違いなく『超電磁砲』だ……。)

「………すごい……ホントにレベル上がってる………。」


番外個体は自分の両手を見つめる。


「レベルが……?どォいうことだ?」

「ふん、あなたには関係ないよ!」


缶を、番外個体は取り出す。


「次はこれだね。」


缶が弾け、中から黒い何かが飛び出てきた。


「これはァ……砂鉄か!」

「正解。」


空気中を舞っていた砂鉄が、形を成し始める。


(うわ、これ結構難しいんだね……。)


心の中で文句を言いながらも、番外個体は砂鉄を操作する。
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:17:07.31 ID:nrEzHla/0<>

「………一応言っておくが……俺に攻撃は……。」

「これでも?」


番外個体が、砂鉄を一方通行へ飛ばす。


「なンのつもりだァ?」

「こっからだよ!」


砂鉄が、一方通行の周囲を回り始めた。


「ン?」

「まだまだぁあ!!」


砂鉄はどんどん加速してゆく。


「こ、こいつは……!」


砂鉄の動きが気流を作り出した。
番外個体は、人為的に竜巻を起こしたのだ。
酸欠を起こせば一方通行は演算に集中できなくなるはずだ。


「攻撃を防げても……酸素が無くちゃ何もできないでしょ。」

「………、舐めンな。」


一方通行が地面を蹴る。
と、砂鉄が四方に飛び散り、気流も止んだ。


「う……嘘………。」


番外個体は、絶望に立ち尽くす。
仮にも今の自分は超能力者級の力があるのに。
同じ超能力者でも、ここまで歴然とした差があるものなのか。


<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:17:36.01 ID:nrEzHla/0<>




――――――――――――――――――――


「チッ、煙幕かよ……厄介なもん持ってやがるな……。」


完全個体は水を霧雨状にし、煙幕を落ち着かせる。


「ふん、今の内に奇襲かけるのがセオリーだったんじゃないか?」


煙幕の向こうに、十三番目がただ呆然と立っていた。
と思った。


「えっと……何の話でしょう?と、ミサカは見知らぬ人に問い返してみます……。」

「……………は?」

「このミサカは上位命令でここに来ただけなのですが……?」


上位命令?
「この」ミサカ?
完全個体は「特別」な水の反応を探る。


「………やられた。」


反応は既にこの場を離れている。


「くそっ、何する気か知らないけど逃がすのはまずい!」


完全個体は、十三番目を追う。


「…………何だったのでしょう?と、ミサカは置いていかれます……。」




――――――――――――――――――――



<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:18:02.39 ID:nrEzHla/0<>




「う、うあああああああ!!!」


番外個体は、再び超電磁砲を一方通行に放つ。
無論彼に攻撃は届かず、コインはその場に落ち、転がる。


「く、くそ!!なら!!」


周囲全体に電撃がほとばしる。


「……、この辺一帯オゾンだらけにしよォってか?俺はオゾンを弾くように設定したし、仮に酸欠狙いでも……。」


一方通行は頭上に手を伸ばす。
突風が起き、番外個体の作りだしたオゾンは飛んでいき、新鮮な空気と入れ替わる。


「こンな開けた場所じゃァ意味ねェンだよ。」

「あ……う……。」

「なァ、もォ止めにしよォぜ?オマエじゃ俺に勝てねェよ。」


言い切る一方通行。
番外個体がワナワナと震え始める。


「………す…な……。」

「あ?」
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:18:31.54 ID:nrEzHla/0<>
「馬鹿にすんな!!!」

「どォしたンだよいきなり……。」

「ミサカはあなたに勝たなくちゃいけないんだ!!」

「なンだァ?それが新しい『実験方法』だとでも言うンじゃねェだろォな?」

「あ、あなたに勝たなくちゃっ……みっ………、ミサカは………!!」


一方通行は、番外個体の目が潤んでいるのに気がつく。


(………泣いてンのか?)

「みっ………ミサカは……グスッ……処分っ………殺されちゃうんだっ!!!」


番外個体の頬を、涙が伝った。


「……………待て、どォいうことだ?」

「ミサカの……、生まれた理由は……あなたを激昂させて殺されること……。」

「………そォらしいな。」

「でも……っ、ミサカがいつまで経っても成果を上げないから……っ……。」

「処分されるってのか?」

「そうだよ………もうミサカに代わる新しい個体もいるって話、だし……もうミサカは……。」

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:19:11.67 ID:nrEzHla/0<>

驚くしかなかった。
何も知らなかった。


「嫌だ……嫌だよ、死にたくない……死にたくないよ………。」


番外個体は頭を抱え、しゃがみこむ。
一方通行から表情は見えないが、番外個体の足元が、ポツポツ、と、水滴で濡れていく。


「勝てない……一方通行に勝てない……ミサカ……ミサカは……勝たなきゃ……勝てない……。」


錯乱しているのか、何やらブツブツ呟く番外個体。


(………………クソッタレ………………俺は……………。)


一方通行は、番外個体をそっと抱きしめた。


「!……あくせら………れーた?」

「………どォして俺に言わなかったンだ。」


番外個体は目をパチクリさせる。
何を言ってるのだろうこの白いのは。


「え?だって……え、どうして?」

「俺がオマエを守ればいい話だろォが。」

「守る?…………誰が、誰を?」

「だから……俺が、オマエを、だ。」

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:19:39.70 ID:nrEzHla/0<>

一方通行が何を言っているのか本当にわからない番外個体。


「な、なんで?そんなことしてあなたに何の得が……。」

「損得なンてどォでもいいンだよ。俺はオマエを守らなきゃなンねェンだ。」

「………?」

「だから頼れよ。俺に黙って守られろ。」


番外個体は、考える。
信用して、いいのだろうか?
何か企んでいるのではないだろうか?


「………、信用できなきゃ俺を撃ち抜け。俺が死ねば実験は白紙になる。」


一方通行が、半反射を解いた。
いや、番外個体を抱きしめた時から、既に彼は半反射を解いている。


「一方通行………。」

「……俺、不器用だからな。無傷で、とはいかないかもしれねェが……オマエの未来は絶対に守ってやる。」


番外個体は、一方通行にしがみついた。


「死にたくない……死にたくないよ………助けて…………一方通行………。」


<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:20:08.95 ID:nrEzHla/0<>












「さて、やっとミサカの出番というわけですね?」













「!!」

「!?」
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:20:43.58 ID:nrEzHla/0<>

そこに立っていたのは、十三番目。
手には、リモコンのようなものが握られている。


(……なンだ?あのリモコン……。)

「こんにちは。ハイエンドのミサカです。と、ミサカは言うなれば最新型であることをアピールします。」

「っ!!!」


番外個体が十三番目に向けて、否、リモコンに向けて電撃を放つ。


「! いきなりですね。お陰でリモコンが壊れてしまいました。」

「!! こ、これでミサカは……!」


十三番目は、笑う。


「そうですね、これであなたの『首輪』の起動方法はひとつだけになりました。」

「!……上位命令……。」

(首輪……?なンのことだ?)


だが、あのチビスケはそんなことをする性格ではない……はずだ。
研究所の連中に洗脳されれば話は別なのだが……。
その傍ら、一方通行は「首輪」の意味を考える。


「ひとつ、いいことを教えてあげましょうか?」


十三番目が、言う。
<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:21:16.69 ID:nrEzHla/0<>

「な、何よ……?」

「実はこのミサカ、ここに来るまでに部外者に絡まれまして。」

「………それが?」

「仕方ないから煙幕を張り、その隙に他の妹達と入れ替わったのですが。」

「…………?」

「困ったことにミサカは新入り。簡単には他の個体が救援に応じてくれるとは思えなかったのです。」

「何が言いたいの?」

「ですので、『副上位命令文』を使用したのですよ。」


番外個体の表情が凍りつく。


「副……上位……命令文………?」

「ええ。上位命令文の次の優先度の上位命令機能がこのミサカには備わっています。……もうおわかりですね?」

「あ………あ………………。」


番外個体が震えだす。


「オ、オイ、どォした?番外個体?」

「や……やだ……いやだ!!!死にたくない!!し、死にたくない!!死にたくない!!死にたくない!!!!」


番外個体は涙で顔をグシャグシャにしながら、喉が裂けそうな程叫びながら、一方通行にしがみつく。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:21:54.11 ID:nrEzHla/0<>













「で は さ よ う な ら 。 出 来 損 な い の 乱 造 品 。」














十三番目の声と共に、とても小さな爆発音と共に、一方通行の胸に鮮血が飛び散った。

<> たくま<>saga<>2011/06/06(月) 20:22:52.85 ID:nrEzHla/0<> 以上です。
>>279
ごめんなさい、ちょうど投下準備してて投稿被ってしまいました;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/06(月) 20:55:18.32 ID:GlcK+Rz0o<> oh...
頑張れ一方さん! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)<>sage<>2011/06/06(月) 21:40:27.18 ID:43O/4E+Oo<> 番外個体が弱気可愛い <> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:03:17.08 ID:7ga5R8020<> 投下しますー <> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:03:51.53 ID:7ga5R8020<>

※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※注意。少し残酷な描写が入ります。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※









「…………番外…………個体………?」


胸が、生温かい。
腕が、何かでヌルヌルする。
視界が、何かで赤い。


「…………番外個体ォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」


一方通行の腕の中で、番外個体の後頭部が真っ赤に染まっていた。


「おや?おかしいですね。聞いた話では首が飛ぶくらいの威力はある、とのことでしたが……。」


十三番目は、首を傾げる。


「番外個体……、番外個体!!」


一方通行はひたすらに腕の中の少女の名を呼ぶ。


「ヒュー、ヒュー……。」

「!!」


僅かに聞こえる呼吸音。


「ま、まだ生きてンのか?!なら……!!」

<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:04:27.92 ID:7ga5R8020<>

一方通行は番外個体の後頭部に触れる。
この出血量なら、今から病院に向かえばまだ助かるかもしれない。


「死なせてたまるか……!!」


番外個体の血流を操作する一方通行。
ひとまずはこれ以上の出血は防げる。


「……ああ、なるほど、と、ミサカは納得します。」


十三番目は、手をポン、と、叩く。


「一方通行が触れている状態での爆発でしたからね。爆発のベクトルを操作した、ということですか。」


そう、爆発の瞬間、一方通行はそのベクトルを操作していた。
しかしそれは無意識で、「運がよかった」としか言えない代物。
十三番目は二人に近づく。


「しかし、まだ生きているのは困りますね……。それ。」


番外個体を思い切り蹴り飛ばす十三番目。


「!? テメェ何しやがンだ?!」

「いえ、まだ死んでいないようでしたので……。」


怒りに我を忘れそうになる一方通行。
しかしここで怒り任せな行動を取っては、番外個体は助からない。
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:04:57.65 ID:7ga5R8020<>

「それにしてもあなたはなぜこの乱造品を守ろうとするのでしょう?」

「うるせェな、黙ってろ!!」

「困りましたね………なら。」


十三番目が、番外個体の後頭部の傷口に、指を突っ込もうとする。


「!? は、反射ァ!!」

「!?」


ボキン、と音を立て、十三番目の指があり得ない方向に曲がる。
十三番目はキョトン、とした顔で、折れ曲がった指を見つめる。


「……?………?」

「何考えてンだテメェ!!」

「……いえ、ですからまだ死んでいないようですので……。」

「つゥかそもそもテメェの姉妹だろォが!!ワケわかンねェことしてねェで助けンの手伝え!!」


一方通行の言葉に、十三番目が答える。


「何を言っているのですか?ミサカはその乱造品を殺すつもりで爆弾を起爆させたのですが……。」

「…………………………は?」


一方通行の思考が停止する。
何を言っている?
いや、そもそもどうして番外個体はこうなった?
誰のせい?
誰の差し金?
誰の?


「わかりませんか?番外個体をそうしたのは、このミサカだと言っているのですよ。」


プツン、と、何かが切れる音がした。
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:05:25.74 ID:7ga5R8020<>



「お兄ちゃン、こっちでなンかすごい音が……わ、ワーストちゃン?!」




百合子が駆け寄ってくる。
百合子の存在が、一方通行の理性を、ほんの僅か復活させた。


「百合子。オマエ血流操作は?」

「え、血が見えてればある程度はできるけど……。」

「ならコイツ頼むわ。早く病院連れてけ。」

「え?お兄……。」


百合子は一方通行の顔を見て絶句する。
機械のように凍りついた、無表情。


「わ……わかった……。」


百合子は番外個体を抱え、走り去ってゆく。


「おや、逃がしてしまうのは癪です。」

「オマエ。」

「はい?」

「コロス。」


一方通行の凍りついた表情の中で、口元だけが、不気味な笑みで歪んだ。
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:05:52.99 ID:7ga5R8020<>

「………え?」


十三番目の右腕が、突然肘の他にも数か所で折れ曲がった。


「あ………え?………。」

「ひゃはっ。」


一方通行は落ちている鉄骨を蹴り飛ばす。


「!!」


鉄骨が、十三番目の腹に直撃した。


「ぐ………あ…………?!」


十三番目は咳き込む。


「!?」


顔を上げた十三番目が見た物は、次々飛んでくる鉄骨であった。
ものすごい音を立て、十三番目は鉄骨の下敷きとなる。


「う………あぁ…………。」
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:06:21.50 ID:7ga5R8020<>

一方通行は、鉄骨の山を蹴り飛ばす。
すると、鉄骨は全て吹き飛んでゆく。
………十三番目ごと。


「ぐぁあっ!!」


背中をアスファルトに強打する十三番目。
何をされているのかわからない。


(な、何ですかこれは……?体に未知の感覚が………。)


普通の人間なら子供でも知っているその感覚は、「痛み」。
初めて経験するそれは、十三番目に取ってもやはり苦痛でしかなかった。
一方通行が、十三番目の足首を踏みつける。
ゴキリ、と、鈍い音が響いた。


「あ、ああああああああああ!!!!!」


何だろう。
目が熱い。
何か液体が目から溢れているようだ。
……これが「涙」?


一方通行は鉄骨をひとつ拾い上げると、十三番目の左肩に振り下ろす。
ゴシャリ、と、何かが潰れた音。


「あ、ひあっ、あ、あ、ああああああああ!!!!!」


十三番目の顔が歪む。

ここまでしながら、始終一方通行は無表情。
まるで感情を失った化物のように、彼はその力を奮う。


<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:06:59.18 ID:7ga5R8020<>





倒壊したビル周辺。


「ああもう!逃げられた……。」


地団太を踏むのは美琴。
クローンをとっ捕まえて再び実験の概要を聞き出そうとしたのだが、逃げられてしまったのだった。


(でも収穫はあったわ!)


クローンの少女の口にした文字列。


『はぁ……では一応パスの符丁を取ります。』


えらく長いパスだったが、学園都市第三位の頭脳。
一度聞いただけで暗記など朝飯前だ。
美琴はポケットからPDAを取り出し、回線に接続する。


(あんだけ長いパスならこっちも探しやすいのよね……。)


だがとんでもない機密情報であれば、さすがの美琴も手が出せない。


(まぁダメならまたクローンとっ捕まえて……って、嘘?!入った?!)


こんなにも早くヒットするとは思わなかった。
美琴は、実験の詳細データをダウンロードする。

<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:07:31.32 ID:7ga5R8020<>

(……………な……………何よこれ………!!)


そこに書かれていたのは、学園都市第一位「一方通行」の絶対能力への進化法。


(二万通り………殺害………?………はは、冗談とは言え流石に傷つくわね。こんなことあるわけ………っ?!)


遠くから轟音が聞こえる。


「な、何?何なのよ?!」


方向的に倉庫群の方。
だがおかしい。
通行人の誰も、そちらに興味を示さない。
ふと、美琴は警備員が立っているのを見付ける。


「あ、あの!」

「ん?どうかしたのかい?」

「今すごい音がしましたけど……?」

「ああ、何でもどこかの研究団体が実験やってるって話でね。」

「じ、実験………ですか?」

「うん、急な話だったんだけどちゃんと申請も取ってあるみたいだし……ここら一体立ち入り禁止なんだよ。僕らを含めて、ね。」

「そ、そうなんですか……。」


美琴は警備員に礼を言うと、もう一度音のした方を見る。


「…………あるわけ……無い………わよ…………ね………?」


美琴は、警備員の目を盗み能力を使用する。
警備の死角に入ると、恐る恐る倉庫群へと歩を進めた。



<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:08:05.84 ID:7ga5R8020<>









倉庫群近くの路地。
百合子は、番外個体を抱えて全力で走っていた。


(け、血流操作しながら運動エネルギー操作とか……!!)


彼女は今、限界まで能力を行使していた。
さらに言えば、彼女は病み上がり……いや、少し回復しただけである。


(すごい音がして気になって出てきてみれば……ワーストちゃン………。)


まさかこんな事態になっているとは想像もしていなかった。
と、その時。


「?! ちょ、ちょっと待て!!」


男の子の声。


「何よ?!今急いでるンだけど!!見てわかンないの?!」


振り返る百合子。
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:08:41.05 ID:7ga5R8020<>

「…………………………え?」


固まる百合子。
呼び止めたのは、完全個体。


「そ、その子!多分新型の幻想御手を使ってる……!解除しないと後で全身出血起こすぞ!!」


息を切らした完全個体は、カバンから音楽プレイヤーと解除ルーンを取り出す。


「数秒で済む!」


完全個体は、番外個体の耳にイヤホンをねじ込み、無理やり瞼を開かせる。


「よし、解除!」

(?! ワーストちゃンの体から出てる電磁波が……止まった?)

「もう大丈夫だ。ていうかその子……大丈夫なのか?」


完全個体が心配そうに尋ねる。

<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:09:22.43 ID:7ga5R8020<>

「え?あ……第七学区のお医者さンは腕がいいから……。」

「そ、そうか。引き止めてごめんな。」

「ていうかあの……え?あの………み」


轟音が響いた。


「?! ごめん、行かなきゃ!!」

「あ、ちょっ………!」


完全個体はすぐにいなくなってしまう。


「………………どういう……こと?」


百合子は呆然とする。


「……! そ、そうだよ、病院!急がないと!!」


百合子は、再び駆け出した。





<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:09:57.02 ID:7ga5R8020<>








倉庫群。
いや、もはや辺りは瓦礫の山だ。


「あ、あ、ああ、あ………。」


もはやボロ雑巾のようになった十三番目。
顔は元がわからないほどに腫れあがり、体中の骨が砕け、あちこちから出血を起こしている。

体中の骨が砕けているため、立つこともままならない。
それでも、彼女は必死に這いながら一方通行から逃げようとする。

一方通行が彼女の足を掴む。


「?……!!あ、あああああ!!あ、ああああああ!!!!!!」


嫌な音を立て、十三番目の左脚が千切れた。


「ひっ……あ、ああ………あ、うああああああ!!!」


まるで子供のように、震え上がりながら泣きじゃくる十三番目。
<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:10:35.19 ID:7ga5R8020<>



――ああ、そうか。これが「痛み」か――




白い悪魔がユラりと、近づいてくる。
その手には、「壁」。
一方通行は倉庫の「壁」を引きずりながらユラユラと十三番目に迫る。
あんなものの下敷きになれば、轢かれた蛙のようにペシャンコになることだろう。




――ミサカ、死ぬんだ。
死ぬ?
今ミサカは何を思った?
死ぬのがミサカの任務であり、生まれた意味。
ならそれでいいじゃないか――





でも体は言うことを聞かない。
逃げろ、と、告げる。
ガタガタと、震え上がる。

いや、心も言うことを聞かない。
頭の奥がピリピリする。
何か、必死に言い訳を探している。
何の?何の言い訳?
混乱する。
グチャグチャになる。
逃げたい。
助けて。
逃げたい。








―――ああ、そうか。これが「恐怖」か―――



<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:11:02.84 ID:7ga5R8020<>




「ひっ、い、あっ、ああ!!ご、ごべんなざい……ごめんなざい!!許じて下さい!!し、死にたぐない!!!!」





苦痛と恐怖に顔を歪ませながら、十三番目は必死に懇願する。
一度自覚してしまった「感情」。
初めて知った「感情」が、十三番目の体を、心を、欠片も残さず支配する。
十三番目の目に、まるで一方通行が恐怖の象徴であるかのように映る。
彼女の全身が、得体の知れないヒヤリとした感覚で、ガタガタと痙攣を始める。

だが、一方通行は足を止めない。
もはや彼の耳には何も届いていないのかもしれない。
一方通行が、「壁」を振り上げた。









「何してくれてんのよアンタぁぁぁあああああああ!!!!!」










御坂美琴の放った超電磁砲が、一方通行の振り上げた「壁」を粉々に砕いた。

<> たくま<>saga<>2011/06/12(日) 11:11:32.78 ID:7ga5R8020<> 以上になります! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage saga<>2011/06/12(日) 11:34:01.66 ID:BexE0/eo0<> >>1乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2011/06/12(日) 11:41:55.17 ID:NZ2UgEqMo<> 乙!!
すれ違いが辛いぜ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/12(日) 21:32:48.21 ID:agJt7UDwo<> 乙
この後また完全個体が来たら混乱するな
美琴っぽい容姿だったよな <> たくま<>sage<>2011/06/23(木) 02:07:06.10 ID:ofudzFMz0<> ごめんなさい、またレポートラッシュなので今週は来れません;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/24(金) 21:22:43.75 ID:riVNc7uDO<> まぁ無理はしないでくれよ <> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:13:44.39 ID:0VsVjw/B0<> 投下します!
時間空いて申し訳ないです! <> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:14:15.21 ID:0VsVjw/B0<>


「お姉…………様…………?」

「この子から離れろぉおおおおお!!!!!」


ありったけの能力を使い、美琴は一方通行に攻撃する。
そこら中の鉄骨が宙を舞い、砂鉄が牙を剥く。


「ハァ……ハァ……。」


普通の人間なら跡形も残っていないかもしれない。
だが、恐らく相手はあの第一位。
この程度で死にはしないはずだ。


「…………うそ………。」


死んでしまったわけではない。
全くの無傷。
服に塵ひとつつかずに、第一位は寸分違わず君臨していた。


「今ので……傷ひとつ……そんな………!」


もう一度砂鉄で攻撃を仕掛ける美琴。
今度は相手の出方を探るような攻撃。
が、一方通行は動かない。
一歩も。


「どういうつもりよ……って……!!」


一歩も動かず、何もしていない。
少なくとも美琴の目にはそう映っていた。
が、やはり彼には傷一つ無い。
美琴の顔が、絶望で曇り始める。
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:14:46.33 ID:0VsVjw/B0<>

「お、お姉様……こうなったのはミサカの責任です、お姉様は……。」

「! 黙ってなさい!」


美琴の顔に意志が戻る。


「……ねぇ、アンタさ、動ける?」

「え?」

「少しでも動けるなら……逃げなさい。」

「え……でも、お姉様は……?」

「………私が勝てるなら……よかったんだけどね……。」

「…………!」

「残念だけど時間稼ぎにしかならないみたいよ……ほら、早く逃げなさい!!」


美琴は、一方通行に向き直る。


「い、いけませんお姉様!そ、そんなの……!」

「早く行けっつってんでしょうが!!」


一方通行にもう一撃超電磁砲を放つ美琴。


「!?」


が、超電磁砲はそのままそっくり美琴へと跳ね返る。


「………っ!!」


反射的に生体電気を強化し、回避する美琴。
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:15:26.31 ID:0VsVjw/B0<>

「な、何よ今の……?」

「お姉様!一方通行の能力はベクトル操作です!と、ミサカは攻撃は全て自動で反射されてしまうことを伝えます……例外無く、です!」


例外無く全ての攻撃を反射。
それではどうしろと言うのだ。
もしや、時間稼ぎにもならないのではないか?
美琴の中で、不安が渦巻く。


「お姉様……いいんです。」

「な、何言ってんのよ?!」


十三番目は、どこか嬉しそうに語る。


「死ぬのは怖いです。でも……ミサカの代わりにお姉様が死ぬのはもっと怖いです。」

「…………!」

「きっと以前ならこんなこと思わなかったでしょうが……こんな状況でもミサカを守ろうとしてくれる人を死なせたくありません!」

「あ、アンタ……。」


そうしている間にも、一方通行は美琴らへと近づく。


「……逃げて下さい、お姉様。」

「い、嫌よ!何馬鹿なこと言ってんのよ!!」

「お姉様は何も悪いことはしていません。……ミサカはこうなって当然のことをしたんです……仕方ありません。」


十三番目は、番外個体の悲痛の叫びを思い出す。
きっと彼女も、怖くて、痛かったのだろう。
そうさせたのは他の誰でもない、このミサカなのだ。

ふと一方通行の動きが止まる。
が、二人は気付かない。

<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:16:17.87 ID:0VsVjw/B0<>

「……ふざけんじゃないわよ。」

「お、お姉様?」

「自分可愛さに妹捨てて逃げられる程……私は大人じゃないのよ!!」


美琴は一方通行に向け、コインを構える。


「ダメだってわかってても……守るために戦う。それが私、御坂美琴よ!」





「ミサカ………ミコト?」





一方通行の目に、光が戻った。


「……?(な、何?いきなり……どうしたってのよ?)」

「ン……?………あ?」


一方通行は、辺りをキョロキョロと見回す。


(ンだこりゃ……?………!……そ……そォだ……お、お、俺が………!)


一方通行の体が小刻みに震える。


「ォ…………ォォォォオォアアアアアアア!!!!」


一方通行は、叫びながら瓦礫の山を蹴り上げる。
たちまち、辺りは粉塵で覆われる。


「な、何する気よ?!」


美琴は砂鉄を操作し、風を起こす。
粉塵が、止んだ。


「………い、いない……?」


忽然と、一方通行の姿が消えていた。


「あ、一方通行は……?」


十三番目が周囲を見る。
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:16:55.07 ID:0VsVjw/B0<>

「待ちなさい……って、嘘……レーダーにも引っかからない……?」

「……ということは?」

「どうやら………助かったみたい……よ?」


十三番目が、ボソッと何かを呟く。


「え?」

「たす………かった?」

「………そうね、助かった。」

「助かった………ミサカは………助かった………?」


十三番目の体が、激しく震え始めた。


「い、生きてる……生きてる………!」


ボロボロと、涙を流し始める十三番目。


「…………、怖かったのね。ごめんね……遅くなって。」


美琴は、優しく十三番目を抱きしめた。


「うっ……うっ……ミサカは……ミサカは……!」


美琴にしがみつく十三番目。
ふと、美琴の目にある物が止まった。


「……そうだ、アンタの脚……。」

「うぁ……そういえば……。」

「そういえばじゃないでしょ!……う……こういうのは早い内が勝負、病院行くわよ!」

「は、はい……。」


美琴は十三番目の脚を拾う。

<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:17:27.24 ID:0VsVjw/B0<>

(………?あれだけ塵とか舞ったのに何でこんな綺麗なの?)


疑問が浮かんだが、今は時間との勝負。


「ほら、背中乗りなさい。」


美琴は十三番目を背中に乗せる。


「じゃ……ちょっくら飛ばすわよ。」

「え?おね………っ!!!」


生体電気を強化した美琴は全速力で駆ける。
十三番目は始終言葉を発することが無かった。
否、発せなかった。


「大丈夫そう………なのか?」


美琴の駆けて行く様を、物陰から眺める完全個体。


「洗浄は一応しといたけど……。肝心なとこで役に立たないな、俺。」


瓦礫を殴りつける完全個体。
拳から、血が滴り落ちた。

出会うわけにはいかない。
それだけはしてはならないのだ。




<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:18:18.05 ID:0VsVjw/B0<>











とある公園、ベンチ。
試験個体とクローンの少女が座っている。


「あ……あ、ああ………!!」


ガタガタと震える、クローンの少女。


「ど、どうしたの?大丈夫?」


心配そうに顔を覗き込む試験個体。


「わ、わかりません……わからないんです……………恐怖?………これが恐怖、なのですか……?」

「落ち着いて。ゆっくり息吸ってみなさい。」

「は、はい………。」


クローンの少女は、深呼吸する。


「………何があったの?」

「………検体番号十三号が……超能力者第一位に殺されかけました。」

「は、はぁ?!」

「痛い……これが痛み……。痛くて……怖くて……!」

「! す、ストップ!落ち着いて、ね?」

<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:18:57.22 ID:0VsVjw/B0<>

再びクローンの少女を落ち着かせる試験個体。


「………死にたく……ありません……。」

「!」

「嫌……嫌です……。怖いです……死にたくないです……!」


クローンの少女の目元が、潤む。


「……死ななきゃいけない義務なんて……どこにも無いのよ?」

「………しかし、実験が………。」

「ならそんな実験逃げ出しなさい。」

「…………!」

「死ぬ義務も無ければ……実験に参加する義務だって、無いんだからね?」

「しかしミサカは実験のために……。」

「そんなの研究者の勝手な言い分よ。生まれた時点で……アナタには何よりも優先して、『生きる権利』があるのよ。」

「生きる………権利……?」


クローンの少女は、顔を上げる。


「そう。アナタが生きてる限り……アナタは生きてもいいのよ。」

「………試験個体………。」

「『お姉ちゃん』もしくは『お姉さん』もしくは『お姉様』!」

「え、えぇ?…………………プッ………。」


クローンの少女は吹き出しかける。


(………今この子笑った?もしかして………?)

「………?今のは……?」
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:19:55.37 ID:0VsVjw/B0<>

首を傾げる、クローンの少女。


「今、面白かったんじゃない?」

「面白い?」

「笑った、でしょ?」

「今ミサカは笑ったのですか……?面白いとそうなるのですか?」

「じゃあ今どんな感じだった?」

「そうですね……何か、ムズッとして……口元が勝手に動いて………少し気持ちよかったです。」

「きっとそれが、『面白い』とか、『楽しい』って気持ちよ。」

「これが……。……『面白い』のって……いいものですね。」


クローンの少女は笑顔で、言う。
まだほとんど無表情に近いが、自然な笑顔。


(間違い無い……感情を自覚したことで……まだ少しだけど……自我が強まってる。)

「みさ……お姉様もクローンなのですか?」

「アタシ?まぁアタシもそんな感じね。」

「なぜ……なぜそんなに人間らしくいられるのですか?なんだか羨ましいです。」

「アンタも羨ましいとか言ってる時点で人間らしくなってきたんじゃないの?」

「……あ、とミサカは……ププッ。」


「笑ってる場合ですか、六号!」


クローンの少女が、もうひとり現れた。

<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:21:11.11 ID:0VsVjw/B0<>

「うわー同じ顔……。」

「いえ、お姉様も十分我々と同じ顔だと思いますが……で、どうしました?三号。」

「……、あなたはネットワークの会議を聞いていなかったのですか?」

「え、会議?」


六号はキョトンとする。


「まぁそちらのお姉様と話していたのなら仕方無いでしょうね。……実験についての会議ですよ。」

「実験の、ですか?」

「ええ。……十三号のこと、それと、六号。あなたとそこのお姉様の会話を聞いて、妹達で話し合ったんです。」

「ありゃりゃ、何か大事になってるわね。」

「会議の結果、今のところ反対ゼロで……実験を拒否することが決定しました。」

「!」

「!」

「まだ意見を聞いていないのは、十二号、十三号。そして六号、あなたです。」

「その二人にはどうして聞かないのよ?」

「十二号は今病院で手術中のようですね。十三号も病院へ行く途中のようです。どうやら近くにはオリジナルがいるようで……。」

「ああ、それでうまくネットワークが繋がらないのですね。しかし上位個体も賛同してくれたのですか?彼女は……死ななくてもいいのに?」

「ええ。上位個体と言えどまだ子供、相当刺激が強かったようで……ちなみに十二号は最初から死ぬのを怖がっていたようですね。」

「ああ、そうらしいですね。プロテクトのせいで上位個体しか十に号とネットワークを繋げませんでしたが……。十三号はどっちなのでしょうね。」

「十三号は記憶を見る限り賛成してくれるでしょう。……さて、六号。」

<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:22:14.04 ID:0VsVjw/B0<>

三号が、六号に向き直る。


「あなたは実験の拒否、賛成ですか?反対ですか?」


試験個体も六号を見る。
六号は、答えた。


「そんなもの決まっています。反対する理由がどこにもありません!」

「なら決まり、ですね。………起こしますよ。クーデターを!」


決意した妹の姿を見て、試験個体は静かに微笑んだ。






<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:23:30.35 ID:0VsVjw/B0<>







とある研究所。


「くそ……まさか自我が芽生えるとは……厄介なことになった……。」


険しい顔つきで爪を噛む天井。


「十三番目は特にプロテクトを掛けていませんでしたからね……。どうします?」

「他の全個体にも自我が芽生えたと考えて間違いないだろう。………こんなんで本当に実験が成り立つのか?」

「どうします?実験中はネットワークとの接続を断たせるようにしましょうか?」

「そうだな、それがいい。だがまず……現存する全個体をどうするか、だ。」


一同、無言になる。
と、若い職員がひとり、手を上げる。


「あの……一方通行はもう妹達を殺すことに抵抗が無いと思いますか?」

「ん?どうだろうな……結局十三番目は死んでいないし……。」

「なら……現存する妹達全員で番外個体を襲わせるのはどうでしょう?」

「ん?どういうことだ?」

「上位命令ですよ。それなら妹達も従わざるを得ません。」

「ああ、そうだが……。」

「そして現存する妹達全員で番外個体を襲えば、一方通行だって手加減の余裕は無くなるはずです。」

「! そうか、今度こそ一方通行に妹達を殺させ……なおかつ妹達の処分方法、ということだな?」

「はい。DNAマップさえもう一度できてしまえばクローンはいくらでも作れるのですから。」


天井がニヤリ、と笑う。


「そうか……そうだな、それがいい……!」

「お待ちください天井博士。」


別の女性職員が、言う。
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:24:13.35 ID:0VsVjw/B0<>

「ん?何かな?」

「学習装置で再インストールという手段もあります。それに……もしこちらが動く前にクーデターなど起こされたら……。」

「あれらを一体一体再インストールするのは骨が折れそうだと思わんかね?それとクーデターの件だが……。」


天井は、電話を手に取る。


「博士?」

「何、クーデターが起きたところで問題無い状態にしてしまえばいいのだよ。」


電話を掛け始める天井。


「……ん、天井だ。……そう、絶対能力進化実験の……ああ。………ああ、仕事を頼みたい。………ああ、うん……。」

「………博士、どこに電話掛けてるんです?」

「さあ………?」

「………何、原子崩しが?そ、そうか……まぁでも……ああ、そうだな……よし、それで頼む。」


もう二言三言話すと、天井は電話を置いた。


「博士?どこに電話してたんです?」

「いやなに、ちょっとした用心棒さ……フ、フハハ……。」


天井は、堪え切れない、と言った様子で笑い声を上げた。








<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:24:42.68 ID:0VsVjw/B0<>









その頃、倒壊したビル周辺。


「お、お、俺は……なンてことを………!!」


罪悪感に震える、一方通行。


「あ、アイツ、生きてんのかァ……?思わず逃げ出しちまったが……。」

「生きてるわよ?」


そこに現れたのは、高校生ほどの女性。


「オマエ……はァ……?」

「こんにちは、一方通行。」

「確かァ……布束っつったかァ?」

「あら、覚えててくれて嬉しいわ。」

「で、ホントに生きてンのか?」

「ええ。becouse 今病院にいると連絡が入ったところ。」

「! そ、そォか……。」


ホッとする一方通行。


「by the way あなたに伝えなくてはならないことがあるわ。」

「あァ?」

「今しがた研究所の方で決まったのだけれど……妹達全員に番外個体を襲わせる計画を立てているそうよ。」

「な?!まだ懲りねェのか?!」

「妹達の意志じゃない。強制的に妹達の行動を制御する『上位命令』を使うのでしょう。」

「そォいやあのクローンもそンなことを……。」

「じゃあ伝えたわ。私は帰らせてもらうわね。」

「………オイ、オマエ実験の関係者だろ?」

「そうだけど?」
<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:25:24.10 ID:0VsVjw/B0<>

一方通行の表情に、疑心のそれが現れる。


「なぜ俺にそンなことを?」

「………。私には、あの子達が実験動物だと……思えないのよ。」

「………?」


布束は、あるひとりのクローンを初めて外に連れ出した時の話をした。


「下らないかしら?」

「いや……そンなことねェよ。」

「そう……。maybe あなたなら信じてもよさそうね。」

「ハッ……。」

「あ、伝え忘れるところだったわ。」

「ン?」

「どんどん予定が変更されてるけど……最新での実験開始日と場所はわかってるかしら?」

「あァ。明日の夜二十時。例の操車場だろォ?」

「ええ。明日その時間、そこであなたを待っている人がいるわ。」

「はァ?」

「どうしても話したいことがあるそうよ。それじゃ……伝えたわよ。」



そう言い残し、布束は去って行く。

一方通行は、しばらくその場で言葉の意味を考えるのだった。



<> たくま<>saga<>2011/06/27(月) 18:25:57.78 ID:0VsVjw/B0<> 以上になります!
たまに更新遅くなりますがどうかご容赦下さい;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/27(月) 18:29:11.68 ID:XipvUUtuo<> おつおつ
少しずついい方向に転がりつつある・・・のか?
みんながんばれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/27(月) 19:50:12.92 ID:Vo0GZnFDO<> 乙
ゆっくりでもいいから完結してほしいな <> たくま<>sage<>2011/07/15(金) 16:57:43.52 ID:ijwSI8Ey0<> テストとレポートラッシュです。
もうすぐ夏休みなのでそれまで待っていただけると嬉しいです;;

ゆっくりでも必ず完結させます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/07/21(木) 23:50:37.35 ID:yoVc1aSMo<> いつまでも待ってるんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2011/08/26(金) 14:17:19.48 ID:OJnZNIpQ0<> 夏休み・・・・・・もう、終わるんだよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/27(土) 12:42:41.42 ID:AEelsPlu0<> 俺は終わっちまったZE☆
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/27(土) 18:36:23.19 ID:vSY0zos+o<> 夏休み?
おいしいのそれ? <> 1<>sage<>2011/08/27(土) 23:52:55.70 ID:uFyVccPP0<> 言い訳はしません。
ただ、もうちょっと来れません。
もしかしてもう見てる人いないのかもと思って書きませんでしたすいません。

まじですいません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/08/28(日) 16:18:33.59 ID:Qlpgmp4U0<> じゃあ今から正座で待機しとくなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/28(日) 21:42:24.79 ID:SrdLD8CUo<> 超見てます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/29(月) 00:44:55.59 ID:zck7Jmggo<> とりあえず寝る
全裸で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/07(水) 23:42:03.51 ID:uREFZzNI0<> まだー?? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/10(土) 19:40:48.44 ID:TKtRiKqj0<> 正座待機が限界に近い…ww
>>348 とか風邪引いてんじゃね??
とりあえず…まだー? <> 1<>sage<>2011/09/17(土) 23:58:48.47 ID:bUXpf5l00<> 実はですね、今PC無いのです;;
夏休み入った瞬間から帰省してまして……

28日に戻るのです。申し訳ありません;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/20(火) 19:48:51.12 ID:zMJx0obn0<> そんな>>1 を私は応援してる… <> 1<>sage<>2011/09/20(火) 22:13:05.41 ID:TXhzD/eV0<> PCあるにはあるんですが自分のじゃなくて実家のなので……。

しばしお待ちください; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/28(水) 04:28:59.45 ID:8N6k1Tbzo<> 28日になったんだよ! <> 1<>sage<>2011/09/30(金) 04:11:26.39 ID:mju6JHSb0<> やっと落ち着いた!
書き溜めまする。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/09/30(金) 07:56:48.58 ID:vrjhStgAO<> さ、寒い
早く… <> たくま<><>2011/09/30(金) 13:07:15.30 ID:EAWVGAC+0<> 投下します。ちょっと短いかも。 <> たくま<><>2011/09/30(金) 13:07:45.39 ID:EAWVGAC+0<>



第七学区。
とある病室。


「………、さっきのは何だったんでせう?」


窓の外に目を向けながら硬直しているのは、上条当麻。
もはや病室を「私室」と言われるまでに入院慣れしている男。

ちなみに、現在彼は入院しているわけではない。
退院後の体調の検査に来ているのだ。


「さっきの……美琴……だよな?」


十数分前、たまたまふと窓の外を見た時、全力で走ってくる美琴が見えたのだった。
何かを背負っていたようにも見えたが、残念ながら確認する前に視界から消えてしまった。


「うん、君の予想通り、ここに駆けこんで来たのは彼女だったね?」


上条の独り言に答えたのは、カエル顔の医者。


「う、うお!せ、先生……びっくりするじゃないですか!」

「ん、悪かったね?いやいや、それにしても今日は重症者ばかり……まるで君がたくさんいるみたいだね?」

「せ、先生……?俺を何だと思ってるんでせう……?」


カエル顔の医者は、クスリと、笑う。


「ま、今回の場合……たくさんいるのは『御坂美琴』の方みたいだよ?」

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:08:17.17 ID:EAWVGAC+0<>

上条が、表情を変える。


「………どういうことですか。」

「うん、彼女がここに連れてきた人間……あの子は彼女のクローンだったようだね?」

「………美琴の………!」


数日前の出来事を思い出す上条。
やはりクローンだったか。
あの子に、何かあったのだろうか?


「だ、大丈夫だったんですか?」

「僕を誰だと思っている?先程手術を終えて、今はスヤスヤ眠っているよ。」

「そ、そうですか……。ん?『たくさん』って?」

「実はね、あの子が運び込まれるちょっと前にも運ばれてきたんだよ……彼女のクローンが、ね?」


ひとりではない?
てっきりクローンはひとりだけだと思っていた上条。
どうなっている?


「もちろんその子も無事だよ?……ああ、そうそう。その子を運び込んで来たのは彼女だったね。」

「かのじょ?」


上条は首を傾げる。

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:08:45.67 ID:EAWVGAC+0<>

「百合子さんだよ。」

「!!」

「今は彼女も眠ってしまっているね?能力をフルで長時間使用したみたいでね……。」

「……、百合子が………。」

「何があったのかは知らないが……”何か”は、あったようだね?」


上条は、決心すると部屋を飛び出す。


「先生!ありがとうございました!」


残されたカエル顔の医者は、頬をポリポリと掻く。


「やれやれ、僕も随分とお節介になったものだね?」



<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:09:15.26 ID:EAWVGAC+0<>








(クソッ……何やってんだよ俺!!)


上条は走る。


(何かあったってことは風紀委員に話が行ってるはずだよな?なら……。)


向かう先は、風紀委員第177支部。


「………ん?」


が、上条は足を止める。
路地に見覚えのある人物を見付けたからだ。


「………、美琴?」

「!!…………何かしら?」


そこにいたのは、御坂美琴。
手には地図を広げている。
地図には、ところどころ赤いペンで「×」がついている。

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:09:45.97 ID:EAWVGAC+0<>

「お前何してんだ?こんなところで……てっきり病院にいるかと……。」

「……別に私、怪我なんてしてないけど。」


いや、お前の話じゃなくて……と、頭を掻く上条。


「……、それ、何してんだ?」


美琴の持つ地図を指さす。


「……別にアンタに関係無いでしょ。」


はぁ、と、ため息をつく美琴。


「それ……クローンに何か関係あるのか?」

「!!」


美琴が、反射的に上条を見る。


「……アンタなんでそのこと知ってんのよ……?」

「ちょっとな。で?どうなんだよ。」

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:10:19.08 ID:EAWVGAC+0<>

美琴の表情に、焦りの色が浮かぶ。


「よっと!」

「!か、返しなさい!」


美琴の手から、地図を奪う上条。


(明日夜二十時……操車場?)

「返しなさいってば!」


地図を奪い返す美琴。


「……お願いだから関わらないで。」

「なんでだよ……俺はお前の……!」

「……!……、こうなったのは私のせいなのよ……全部……私が甘かったから……。」


俯く美琴。
地図をしまいながら、彼女は言う。


「……もう一度言うわよ。関わらないで。じゃないと……。」
<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:10:56.58 ID:EAWVGAC+0<>

構えた手から、電撃が散る。
深紅の電撃。


「吹っ飛ばすわよ。」


電撃が、上条に牙を剥いた。


「!!」


咄嗟に右手で打ち消す上条。


「………!え……効かない……?」


美琴は唖然とする。


「………、なあ、美琴。ひとつ聞いていいか?」

「……何かしら?」






「お前誰だ?」





<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:11:30.02 ID:EAWVGAC+0<>











廃倉庫付近。


「なんですの……これ……。」


半分消し飛んだ「元」倉庫。
散らばり、グニャグニャに折れ曲がった鉄骨の山。


「そこらの爆弾使ってもこんなことにはなりませんの。」


上層部からの、意味不明な通達のあった場所。
実験をするため関係者以外の立ち入りを禁ず。


「どう考えてもロクな実験じゃありませんの……。というかこれは……。」


白井は、半分消し飛んだ「元」倉庫に歩み寄る。


「この感じ……お姉様の……?」


足元を見ると、不自然に散らばる黒い粉。


「これは………砂鉄?」

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:11:59.07 ID:EAWVGAC+0<>

そして、嫌でも目につくのは、血痕。


「何が……ありましたの………。」

「超電磁砲のクローンが第一位に半殺しにされたんだよ。」


物陰から、声。


「……完全個体?」

「ん。まぁその前にも色々あったみたいだけど……。」

「超電磁砲のクローンが……半殺し……?お姉様の……お姉様の……?」

「ど、どうした?」

「ぶ、無事なんですの?!その方は無事なんですの?!」


声を荒げる白井。


「お、落ちつけ!……超電磁砲が病院に連れてったし……多分大丈夫だ。」

「お、お姉様が?!」

「……おねえさま?」

「御坂美琴お姉様は私のお姉様ですの!」
<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:12:26.54 ID:EAWVGAC+0<>
「……、……あー……。」


お姉様、というのはよくわからないが、知り合いだったか。
頭が痛くなる完全個体。


「お前美琴の知り合いだったのかよ……。」

「!?み、みこと?!完全個体、あなたお姉様とどういう関係ですの?!」

「な、何だお前?!目がマジだから!落ち着けって!!」


白井をなだめる完全個体。


「いいから!どういうことなのか教えて下さいまし!」

「別に何でもねぇよ!な、なんとなくだなんとなく!」

「なんとなくで天下の"超電磁砲"であるお姉様のお名前を……!それも呼び捨てしたと言うんですの?!


「……、まぁいいですわ。あなたの身の上が読めないのは今に始まったことではありませんの。」

「はぁ……。」



ブー、ブー



「ん?電話……。」

「はっ、まさかお姉様からの……。」

「違うわ!ちょっと待ってろ。」


完全個体は、携帯を手に取る。
<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:12:54.95 ID:EAWVGAC+0<>

(それにしてもお姉様……なぜ黒子には一言も相談して下さいませんの……?)


白井は俯く。
自分だって力になりたい。
ただ守られるだけは嫌だ。


(……事情を知った今、例え後で咎められることになっても……黒子は……。)


互いに助け合う。
つまりはパートナーでありたい。
陰ながらでもいい、何かできないのか。


「……、おい、それ………わかったよ……。ん、それじゃ。」


完全個体は電話を切ると、白井に向き直る。


「悪いな、ちょっと用ができたみたいだ。」

「用……ですの?……それはもしや、お姉様のクローンに関すること、ですの?」

「…………だったら?」

「私に……私にも、何かできることはありませんの?」


完全個体は顔をしかめる。
<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:13:24.79 ID:EAWVGAC+0<>
(……、ホントにいいのか?………仕方ない。)

「何とか言って下さいまし!」

「……、悪いけど、今回お前に拒否権は無い。」

「私だってお姉様の……!…………え、”拒否権”?」


目をパチクリする白井。


「どうしても人体を飛ばせる空間移動能力者が必要なんだ。」

「………えーと………え?」

「ということで、だ。一緒に来てもらうぞ?」


完全個体はそう言うと歩き始める。


「…………お役に………立てますの?」


白井は目をパチクリさせながら完全個体の後を追う。






<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:13:55.67 ID:EAWVGAC+0<>











とある公園。



「いいから!今回はどうしても空間移動が必要なのよ!わかった?!……それでいいのよ。それじゃ。」


試験個体は電話を切ると、妹達に向き直る。


「お姉様、一体どなたとお電話を……?と、ミサカ六号は問いかけてみます。」

「ああ、ちょっとねー。ホントはあと一人も呼びたいんだけど……。」


あと一人。
澄まし顔の少女を思い浮かべ、試験個体はため息をつく。


「もしやお姉様の仲間、でしょうか……?ミサカ達だけで十一人……いや、上位個体は戦えないとして、十人。人では少しでも多い方が安心です。」

「……六号、また会議を聞いていませんでしたね?と、ミサカ三号は呆れてみます。」

「………、会議……?」

「実際にクーデターに参加するのは八人です。五号と、六号。あなたにはちょっと別の仕事をしてもらいます。」

「…………??」

「よく考えて下さい。もうひとり、絶対的な戦力を持ち、なおかつ味方になってくれそうな人がいるではありませんか。」

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:14:26.36 ID:EAWVGAC+0<>

ミサカ六号は首を傾げる。
そんな都合の良い人間などいただろうか?


「……なるほどね。」


試験個体が口を開く。



「お姉様はもうお分かりですか?と、ミサカ三号は問いかけます。」

「学園都市第一位……一方通行、ね。」


ミサカ六号は目をキョトンとさせて言う。


「………へ?一方通行?……なんで、ですか?」

「そもそもなんで十三番目はあんな大怪我をしたと思っているのですか?」

「それは……えっと………あ!」

「六号も気付いたようですね。一方通行は番外個体を傷つけられたことでああなったのです。と、ミサカ三号は補足説明します。」

「なるほど……あれ?五号とこのミサカの仕事、というのは………?」


ミサカ三号は、口調と全く合わない笑顔で、言う。

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:14:56.43 ID:EAWVGAC+0<>

「ええ。一方通行と会って、説得してきて下さい。」

「え。………………………え?」

「何かわかりませんでしたか?」

「いや、ちょっと待って下さい、あの光景を見た直後だと言うのにアレと会ってこい、と?いや、待って下さい、ホント待って下さい!!」

「大丈夫ですよ、六号。」

「! な、何か安全策が……?」

「いえ、勘です。」

「…………………………………死にたくないと思った矢先にこれかよ。と、ミサカ六号は言葉がありません!」


「大丈夫よ。本当に、ね。」


試験個体が横から口を挟む。


「お姉様?」

「一方通行は……『この顔』に敵意を向けてくることは無いわ。十三番目の場合は例外よ。」

「………勘、ですか?」

「違うわよ!ちゃんと理由があるわ。……言えないんだけどね。」

「お姉様……?」

「…………よし。色々準備もあるし、行動開始するわよ!」

「「は、はい!」」


クーデター開始まで、あと二十六時間。

<> たくま<><>2011/09/30(金) 13:16:18.01 ID:EAWVGAC+0<> 今回は以上です。

めっちゃ遅れてごめんなさい;; <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/09/30(金) 15:44:00.80 ID:MPNCYgrho<> うぉぉぉぉぉ
昼間っからきてたーーーーーーーーーーーーーーーーー
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2011/09/30(金) 21:27:24.84 ID:Nx/Dx93q0<> 待ってた…そしてGJすぎるぜぃwwww
これからの展開が楽しみすぐる!! <> VIPにかわりまして統括理事会がお送りします<>sage<>2011/10/03(月) 12:45:49.10 ID:YTMyS+aR0<> とある魔術の禁書目録劇場版公開決定!!!!!
更に新約とある魔術の禁書目録3巻は12月10日に発売決定!!!
劇場版の詳細は10月11日発売の電撃文庫マガジンで! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/22(土) 17:25:36.81 ID:tZUOK8Rdo<> 待ってるんだよ! <> 1<>sage<>2011/10/27(木) 23:45:00.20 ID:2mdd9h+g0<> 忙しいんだぉ……(T_T) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/06(日) 01:04:26.36 ID:1fImY8vdo<> 月に1回くらいでも来てくれると嬉しいんだよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/06(火) 22:45:02.39 ID:Nh6Oot3Vo<> 待ってるんだよ! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/10(土) 15:04:47.18 ID:QxzWXrtV0<> 待ってますww <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/03(火) 23:33:30.24 ID:H9c8R3dgo<> 生存報告だけでもしてほしいかも <>