VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/05/29(日) 21:57:32.18 ID:ZZs8tIq1o<>
・木原数多と一方通行。
・元ネタはSound Horizon 4th Story CD『Elysion-楽園幻想物語組曲-』
・元ネタを知らずとも読める仕様。というか元ネタの影がありそうで無い。
・禁書、エリ組共に激しい改変・独自解釈が入ります。
・エロ、グロ、鬱、ゲス化要素有り。
・まともな恋愛? ねーよ。
・地の文形式+厨二的AA表現。
とりあえず木原数多が一方通行の研究を一年以上行っている設定です。
木原くン≒アビス、一方さん≒エリスですが、元ネタが示唆するような
親子愛だか情欲だか分からんような爛れた関係は築いていないのでご安心ください。
以上前置き終了。
厨二ソングと厨二ラノベが交差する時、物語は始まる――!
<>一方通行「なァ木原くン。その楽園ではずっと一緒にいられるのか?」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:00:18.18 ID:ZZs8tIq1o<>
-------- Track 01 _Elysion [→side:E→]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:03:43.98 ID:ZZs8tIq1o<>
その濁った灰色混じりの白を、その黒にも似た赤を、あの色に抱いた既視感を、
彼は生涯忘れる事はないだろう。
彼はあんな化け物じみた色を知らなかった。
――だが彼はその化け物の名を知っている気がした。
だから、木原数多はその名を既に決めていたのかもしれない。
彼が生み出すその化け物の名前を。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/29(日) 22:03:59.86 ID:ccDdb8uDO<> なんて組み合わせだ…
期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:06:32.84 ID:ZZs8tIq1o<>
――そして、幾度目かの楽園への扉が開かれる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:09:23.80 ID:ZZs8tIq1o<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
――ここは、ひどく寒い。
底冷えするような寒さの中、少年はまるで愛しいものを抱くかのように己の膝を抱えていた。
白い検診衣の裾から覗くその膝は痩せこけて哀れで、そしてそれを抱く腕もまた朽木のように細い。
少年の周りを取り囲むのはまるで底なし沼のように果てのない闇だった。
どろりと絡みつくように渦巻く黒。
時折思い出したように光るのは彼の体を弄ぶ機械の残滓だろうか。
実験が終わり照明の落ちたこの部屋は実に暗かった。
煌々と灯りが灯されている時に感じる無機質な白はその存在すら感じさせない。
いつもならばこんな嫌な思い出ばかりが残る部屋はさっさと立ち去っているはずなのに。
唇を噛み締めて、だがじっと耐え忍ぶ。
少年は男を待っていた。
この奈落のような残酷な世界で、ただ一人彼の標となる男。
いつだって実験が終わった少年を笑って出迎えてくれる男。
いくら悪態をついても、顔を背けても最後には笑ってくれる男。
今日は未だ、姿を表さない軽薄な男。
身震いをしてよりいっそう強く膝を――折れてしまいそうな心を抱く。
誰かが置いていったのかそっとその小さな双肩にかけられた襤褸い毛布の存在が、今はただただ有り難かった。
・ ・
もしかしたら自分はまた捨てられたのだろうか。
ふと思い浮かんだ妄想に幾度となく首を振って。
そうしてどれくらいの時が過ぎ去ったのか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:12:25.25 ID:ZZs8tIq1o<>
――キィ。
待ち侘びた扉の開く小さな音がようやく少年の耳へと届く。
ピクリと白い睫毛が震える。扉から漏れる光に瞳を細めて、自然と腕の力が抜けてゆくのを感じた。
そして、その先に望む人間を見つけて息を吐く。
顔の左側面に彫られた入れ墨に、短く刈られた金髪。そして鋭い眼光。
それを白衣という記号でかろうじて科学者という枠に押し込めたその男。
少年が待ちわびた存在。
「……遅ェよ」
「あん? 寂しくて泣いちまったかぁ? クソガキ」
「……俺が泣くわけねェだろ。老眼ですかァ?」
子供らしくない口汚さで悪態をついて、それでも体だけは嘘をつけないのか少年はじゃれるように男に纏わり付いた。
少年の小さな頭を男の大きな手の平が手荒く掻き回す。
温かな感触が心地よかった。
酔いしれるように身を預けて安らぎに心を蕩けさせる。
言ってやりたいことはいくらでもあった。
何故今日はこんなに遅かったのか、問いただして困らせてやりたかった。
だけど今はそれ以上に――。
「おい、クソガキ。テメェ、来週から違う施設に移動になるから」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:16:18.62 ID:ZZs8tIq1o<>
「……はァ?」
つかの間の安寧に微笑みを浮かべようとして、何故かひどく無機質に響いたその声に冷水を浴びせかけられる。
男の白衣を掴む手のひらに無自覚に力がこもっていた。
――突然何を?
研究所の廊下のように白く機械的なそれに意図を計りかねて、少年は惚けた表情で男を見る。
しかし彼の瞳はそれには答えずにただ感情の籠らない無色の光を返すだけだ。
不安に揺れてうまく回らない頭脳をフルに回転させて。
そうして数秒の後、ようやっとその意味を理解して縋るような瞳で色のない男の瞳を見つめる。
「移動って、一体どこにだよ?」
おずおずと開いた唇から漏れた声は思った以上に情けないものだった。
ここは奈落だ。
深い闇に塗れたこの街にあってなお、その黒さは比類を見ない。
だがこの場所には男がいる。
どんなに耐えがたい痛みを受けようとも、どんなに耐えがたい吐き気を催そうとも、
どんなに醜悪な光景を見せられようとも、どんなにおぞましい環境に放り込まれようとも、
どんなに蔑まれた目を向けられようとも、どんなに畏怖の目に晒されようとも、
ここには少年が世界で唯一信じている男がいる。
だから少年はここがどんなに奈落であろうとも離れようなんて思ったことは一度としてなかった。
しかし彼の物言いはまるで永遠の別れを示唆しているかのごとく、冷徹だ。
言いしれぬ予感に心がざわめいた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:19:25.32 ID:ZZs8tIq1o<>
黒く硬質な色と紅く脆弱な色が交差して――ふと黒が和らぐ。
「なっさけねぇ顏してんじゃねーよ、馬鹿が。
ここよりマシなとこに決まってんだろ? まあなんだ。楽園ってとこかぁ?」
「はァッ? ……なンだよ楽園ンン?」
「おーう! パラダぁあイスッ! ってヤツだな」
「……大丈夫か、木原くン……。ついに頭イカれちゃったンじゃねェの?」
「おいやめろ、本気でかわいそうなもの見る目で俺を見るんじゃねえ!
まったく、俺の慈悲深さをなめてんじゃねえぞ。
・ .・ .・ .・
来週は俺がこの手で作り出してやった一方通行の誕生日だろーがよ。
そのくらいのプレゼント、やらなきゃ格好がつかねぇだろ。
それともクソガキには絵本でも買ってやるかあ?」
その言葉を聞いた瞬間、さっと顔が熱くなるのを少年は感じた。
「そンなもンいらねェよ!」
覚えていたのか――いや、当たり前か。
彼にとってはその日は、偉大なる実験を成し遂げた記念日なのだ。
それでも嬉しくて、赤く染まった顔を見られぬように俯き高鳴る鼓動を気がつかれぬように距離をとる。
――そして、心底安心した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:22:42.65 ID:ZZs8tIq1o<>
笑う彼の顔はいつも通りだ。
意地悪そうに目を細めて、嘲笑うかのように少年を見る。
だが少年はその笑顔が何よりも温かいものだと知っていた。
その笑顔こそが少年の心を守り続けて来たのだ。
その男が語る、楽園。
ふざけた言葉だった。
一瞬鼻で笑いかけて、すぐに機嫌を損ねてはかなわないと思いついた悪態を呑み込む。
少しその言葉の意味を真剣に考えて、
一瞬で広がった想像の翼が花が舞う庭園を描いていたのは彼の想像力の平凡さを示しているのか。
表には出さずともその想像は思ったよりも甘美に少年の心をくすぐった。
楽園とはどんな所なのだろうか。
楽園には何があるのだろうか。
楽園には奈落で味わうような痛みはないのだろうか。
一度始めた想像は思いの外楽しく、楽園への興味は驚くほど急速に膨らんでゆく。
たまにはこういう子供らしい夢想に耽るのも案外悪くはなかった。
いくらでも湧いてくる疑問に、尽きない楽園への興味に頬がかっと熱くなる。
そうしてあれこれと思いを巡らせて、ふと気がついた。
少年にとって本当に意味があるのはたった一つの疑問への解答だ。
だから少年はまずなによりも先にそれを問わなくてはならない。
ばしょ
「なァ、木原くン。その楽園ではずっと一緒にいられるのか?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:25:30.31 ID:ZZs8tIq1o<>
「……ああ、当たり前だろーが」
無邪気な少年の問いに男が柔らかく微笑んだような気がした。
心が躍って未だ離せずにいた男の白衣を掴む手の平に、再び力を入れる。
「だから、頑張ってここでの残りの実験にも励めよ?」
「うン!」
・ .・ .・
少年が笑えば、男もいつものように小馬鹿にしたような笑顔を浮かべる。
それはいつも通りの平和な風景だ。
――少年は気がつかない。
いつしか男の現実は殘酷な奈落となり、少年の楽園は幽幻な夢想となる。
少年はまだ気がつかない。
その奈落に、気がつかない――。
<>
通行止めちょっとエロい描写あり。注意。<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:28:29.47 ID:ZZs8tIq1o<>
-------- Track 02 Ark
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:31:59.07 ID:ZZs8tIq1o<>
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
深夜のテレビの砂嵐のような不明瞭な視界と、電波の入らないラジオのような不愉快な音。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
――ここはどこだ。
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:35:13.80 ID:ZZs8tIq1o<>
確かに浮かべたはずの疑問はどこか遠く、他人事のように響く。
思考にまで侵入したノイズが混乱する彼の気に障った。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
上手く思考が廻らない。
頭の中を廻る記憶が、脳を廻る電気信号が上手く認識できない。
大量に流れ込んでくるそれはまるで奔流のようだ。
ここは何処だ。俺は誰だ。
疑問はただただノイズとともに蓄積するだけ。
何もかもが虫食いだらけの空間。
現実とはとても思えない不可思議な空間。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
白い無機質な研究所。
イヤミな程に清潔なベッド。
大仰な機械。
紅い液体。
注射器。
毒々しい色のカプセル。
そして――白濁した少年。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
一瞬、砂嵐ばかりを映した視界に何かが映った気がした。
白い天井。白い部屋。白い衣服。
かつての己のような男達。
――かつての己?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:39:17.00 ID:ZZs8tIq1o<>
はっと気がついた瞬間、ノイズが一層強くなったような気がした。
それはまるで悪意をもって彼の思考を邪魔するかのようにジリジリと煩くわめき立てる。
だが不思議にも、今や彼の思考は周囲に蔓延るノイズとは反比例するかのようにクリアになっていた。
バラバラだった脳神経があるべきところに戻ってゆくように、明確なつながりを見せる。
まず自分の名前を思い出した。
否、名前だけではなかった。
自分という人間がいったいどのような道を進んできて、どのような人間になったのかさえ思い出した。
白昼夢のように流れ込んできた白のヴィジョンが、彼だけの現実を明確にしてゆく。
あの白が自分にとって持つ意味はそれほどまでに彼にとって深く根付いているのだ。
皮肉めいた笑みを浮かべて目の前に己の手を掲げる。
骨張って、硬質で、彼の意思で動く温かさの欠片もない手の平は当然のように彼の意思のままに動いていた。
今は見られない短く刈られた金色の毛髪も、左頬に彫られた入れ墨も、似合わないと自覚のある白衣も、
きっといつも通り自分という個体として存在しているのだろう。
そうだ。自分の名前は――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:42:55.45 ID:ZZs8tIq1o<>
「……木原、数多」
確認するように呟いて、じっと手の平を見つめ続ける。
思うままに動くそれには傷一つ存在しなかった。
――自分は生きている?
何故か自分という存在に違和感を感じた気がした。
いや、違和感を感じるようなおかしなことは何もないはずだ。
頭を振って馬鹿馬鹿しい違和感をすぐに否定する。
木原には自分の命を落とした記憶などもちろんないし、これからもそんな予定はない。
そう、おかしいのはこの忌々しいノイズであって、木原自身ではない。
ふと、気がつく。
いつの間にか視界一杯に広がっていたノイズが全て消え去っていた。
嘘みたいにはっきりと見える自分の手の平の向こうに、薄汚れた灰色の床が見える。
現実感を伴うそれは確かに今木原が立っている床だった。
今まで感覚すらなかったはずの足裏に硬質な床の存在を確かに自覚する。
はっと顔を上げて、眩しい光が木原の瞳を焼いた。
やや横の広い長方形の光。
無数に立ち並ぶそれは先程までの木原の視界のように、時折テレビを走るノイズのようなものをその身に走らせていた。
――いや違う。これはそのものだ。
さらに邪魔するものがなくなってゆく視界の中で、徐々に木原は理解する。
そこは暗い部屋だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:46:21.72 ID:ZZs8tIq1o<>
薄汚れた床にドス黒い壁。
出入り口出入り口らしきものは存在するが、鍵が開いているかどうかは定かではない。
ごちゃごちゃと並んだ機械のようなものはコンソールだろうか。
立ち並ぶキィらしきもの妙にレトロで、機械を見慣れているはずの木原でも同じ型のものを見たことはなかった。
そして何より目を引くのは立ち並ぶ無数の画面。
光だと思っていたものはなんてことのないモニターで、ただ彼の瞳が闇に慣れずにそれを光だと認識していただけだったのだ。
だが色も音もないこの部屋で、何かをチカチカと映し出しているそのモニターは異質と表現するほかない。
「研究所、か?」
自分の立場とこの状況を鑑みてそう判断して、しかし拭えぬ違和感に眉を顰める。
最初に浮かべた疑問がリフレインした。
――ここは何処だ。
――何故、ここに俺が?
考えた所でその疑問に未だ答えはでていない。
首をふって、木原はとりあえず現状把握の手段として一番有効であるはずのモニターへと視線を移した。
この部屋からの脱出を試みるのも手だが、彼の研究者としての好奇心がそれを許さなかったのだ。
時折ノイズが走っているものの、しっかりと機能しているそれ。
ぱっと見ただけで映っているのはどれも同じものであるのは明白だった。
必要最低限にそろえられた生活用品に二つ並ぶベッド。
簡素で無機質な部屋。
そして、二つの人影。
一つのベッドで眠るそれは大きさこそ違えど、どちらも子供のようだ。
似たような事をしたことがある木原にはすぐにわかった。
これは監視モニターだ。
どうやら悪趣味なことに、それは一つの部屋を観察する為だけに用意されたものらしい。
二十を超える角度、高さから映されたその部屋に死角はない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/29(日) 22:49:00.12 ID:b72pLIKDO<> まさかのwwwwwwwwww期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:49:23.62 ID:ZZs8tIq1o<>
「しっかし、二人ねぇ……」
しげしげとその光景を眺めて呟く。
あまり例を見ないことだった。
基本的に能力開発は子供個々に対して行われるものであり、特に木原が研究対象に選ぶような被験者はその傾向が強い。
大概が珍しい能力を有する者だったからだ。
特定の対象に対してのみ強い力を発現する例もあるようだが、この研究所もその類の能力を研究しているのだろうか。
この大がかりな設備を見るに、なかなか有用性のある能力なのかもしれない。
しげしげと観察する木原の視線の先でベッドに横たわる子供達が微かに身じろぎしたような気がした。
二人とも顔はシーツに埋められその表情は分からないが、覚醒が近いのかもしれない。
そういえば、今は何時なのだろうか。
脳天気なことを考えた途端、ノイズが走った。
映像が乱れ、画面に色が混じり始める。
「――?」
そのモニターに映るのは、ここと変わらず薄暗い部屋だ。
おそらく明るい光の下であれば確認できる病院のような白いベッドも、白い壁も、白いリノリウムの床も今は灰色に沈んでいる。
そこに有彩色は無かった。
唯一確認できる色はベッドに放射線状に広がる少女の髪。
それは薄暗い闇のなかでなお、その存在を主張できるほどの柔らかい茶を有していた。
そう。そこに存在する色はそれだけ。
少女に寄り添う少年はただひたすら白く――白濁していた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:53:28.27 ID:ZZs8tIq1o<>
ぞくりと肩が震えた。
突きつけられた事実に武者震いのような感覚が足下から上ってくるのを感じる。
木原はこの二人を知っている。
小さな体躯と柔らかな茶色を持つ少女。
寝ているためかいくらか乱れてはいるものの、
最後に見た時と同じ男物の白いワイシャツを羽織り水色のワンピースに身を包んだその姿は間違うはずもない。
彼女のデータはいくらでも頭にたたき込んであった。
学園都市第三位の超電磁砲のクローンにして、量産能力者計画にて生み出された妹達の上位個体。
第一位が傾倒する幼き少女。
――最終信号。
そしてその少女に寄り添う、もう一人は。
「……一方、通行……」
男とも女ともつかない華奢な体躯。
白い、どこまでも白い髪に、血が通っているのかも怪しい白い肌。
彼の身を包むのは最後に見た記憶とは異なる――まるで木原の記憶に存在する過去の姿のような白い検診衣。
学園都市の第一位。
本名は不詳。その能力名を名として冠する最強の化け物。
どう見てもそれはかつて彼の研究対象であった一方通行だった。
今は閉じられている瞼の先の赤がなくとも、木原が見間違うはずがない。
あの白は木原が作り出したものだ。
そこに勘違いなどという浅はかなものが介在する余地はない。
――だが、なぜ彼らがここにいる?
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 22:56:33.13 ID:ZZs8tIq1o<>
あの最強の力が失われた日をきっかけに一方通行はどの学校にも研究機関にも属するのを止めた。
だからといってあの最強が放免になったわけではないが、こうして堂々と軟禁して監視するような機関があるわけもない。
彼が独自に調べあげたデータを見てもそんな事実はないはずだった。
一部の研究者が統括理事会の意向を無視して暴走したのか。
もしやモニターの先は一方通行の寮であって、二人は監視に気がついていないのかもしれない。
いや一台や二台ならまだしも、こんな大量の隠しカメラをあの第一位に気がつかれずに設置するのはいくらなんだって無理がある。
統括理事長がその情報収集に利用しているという滞空回線を利用すれば可能かもしれないが――。
むしろ木原が思い出せていないだけで、これこそが統括理事長の意向なのだろうか?
だが、どちらにせよこうして木原がここに無為に立っていることに対する疑問は解決されない。
ますます状況はわからなくなっていた。
自分は木原数多だ。
それはわかった。
ならばここは何処で、何を目的とする場所で、どういう意図であの二人を軟禁していて、それによって何をしようとしているのか。
己という人間の全てを思い出したはずなのに、それがどうしたって理解できない。
それにそもそも最終信号は、木原自身が――。
ズキリ、と頭が痛んだ。
思い出しそうになった何かは痛みによって強制的に掻き乱され、虚空へと消えていった。
それを追いかけようと思考を廻らせて、しかし再び強くなる頭痛に気力が削がれる。
どうやら木原にはまだ忘れている何かがあるらしい。
それが何なのか思い出そうとすればするほど頭痛は強さを増すようだ。
「ちィッ」
だいぶ収まった忌々しい痛みを舌打ちで捩じ伏せて、木原はもう一度モニターに集中した。
思い出せずともヒントの一つくらいは得られるかもしれない。
自分の中に得体のしれない暗い部分があるのは薄気味悪かったが、今そこを掘り下げたところで徒労に終わるのは目に見えている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:01:56.70 ID:ZZs8tIq1o<>
木原の探るような視線の先でふと少女の腕がぴくりと動いた。
子供らしい動作でころりと転がって、カメラの前にその幼い表情が曝け出される。
――少女のお目覚めだ。
ゆっくりと開いてゆく瞳には微睡んでいるのか未だなんの色も無かった。
ぼうっとただ目の前の少年のことを見つめているだけで、起き上がろうともしない。
まるで確かめるかのように彼の姿を眺め続けて、そして彼女の表情に花のような笑顔が咲いた。
少女の腕がすっと伸びて、少年の顔を覆う白い髪の毛を優しくかき分けてゆく。
それは監視の存在を意識していない自然な動作だった。
表情にも気負いや疲労感はない。
『――、――』
ふいに少女の唇が小さく動いた。
何かを呟いたようだがマイクは特に設置されていないのか、音は無い。
だがモニターの向こうの少年にはしっかりと聞こえていたようだ。彼の白い頭が動きその赤い瞳が露になった。
彼の異質を一番強く感じさせるそれは覚醒直後であるからなのか、微かに潤んでいる。
彼の瞳がじっと少女の柔らかな瞳と交錯して。
白い腕が愛おしそうに少女の頭に伸びた。そのまま優しく梳くように撫で、ゆっくりと引き寄せ――。
――唇が触れ合った。
啄むようなそれに少女の表情が綻び、すぐに続きをねだるように唇を尖らせる。
年齢に合わないその行動は、何度も繰り返され教え込まれたが故の行動なのか。
『――んっ』
再び交わされた二度目の口づけは深い。
熱に浮かされたように互いを見つめ合う二人の睫が触れ合いそうなほどに近づいた。
少女の腕がけして離れぬようにと少年の白い首筋に巻き付く。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:05:30.57 ID:ZZs8tIq1o<>
ザザ、と再びノイズが走った。
キィンとハウリングのような音が空気を切り裂き、木原の鼓膜を震わせる。
そして、聞こえてきたのは聞こえないはずだった部屋の音。
『あ……ふっ、ん、ん』
いやに生々しいそれは、マイクの存在、そしてその起動を木原に知らせた。
ぴちゃり、と水音が響く。
それは恋人同士、もしくはそれに準ずる男女の間でしか有り得ない淫靡な音だった。
深くつながって、互いの一部を交換し合う儀式。
少女の腕がより強く少年の体を掻き抱いた。
それに応えるように少年の白い手が少女の頭を撫でる。
ちゅく、ぬる、ちゅぷ、くちゃ。
『……あ、んっ、一方……通行ぁ……は、ぁっ』
『ン……、打ち、止め……』
一線は越えずともその音は十分に官能的だ。
互いを呼ぶ声が切なげに部屋に響き渡っていた。
そこにある特別な関係に疑う余地などなにも無く――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:08:30.22 ID:ZZs8tIq1o<>
「おいおい……」
呆然と呟いてそれを見続けて、ふいに木原の口元が震える。
目の前では未だ続く痴態。
普通であるならばとても見られない光景。
もっとも、見たいなどと思ったこともない。
「は、はは……」
無性におかしかった。
「ぎゃははははははははははははははッ!!!!!!」
爆発するように笑い出して、こみ上げる衝動を少しでも抑えようと腹を抱える。
だがそんなことで一度切れた箍が直るはずもない。
「……ッひぃー! こりゃあ傑作だわ。ぎゃはっ!!
おいおい、ロリコンは犯罪だぞ一方通行ァー!
欲求不満が行き過ぎて幼女の穴でもいいからブッ込みたくなりましたーってかあ!?
それとももともと幼女の起伏のねえ体じゃなきゃ勃たねえ性犯罪者だったんじゃねえだろーなあ!!」
腹筋がぴくぴくと痙攣した。
まるで質の悪い素人AVでも見せられたような気分だ。
あの一方通行のこんな姿を見られるなどと、いったい誰が予想し得たのか。
化物がまだ年端もいかない少女に欲情しているだなんて、あまりにも愉快で滑稽だ。
あんなに大切そうに触れている姿を見せられたら――奪ってやりたくて仕方なくなるじゃないか。
「ったくよぉ! いっちょまえに色づきやがったと思えば……くはっ!
警備員にでもしょっぴいてもらわなきゃいけねーよなあ!」
木原は身体を折り曲げて笑う。
息を切らせて、涙ぐむ程に笑って、もう一度モニターを見ようと上げた視線が――ふいにそれを見つけた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:11:56.46 ID:ZZs8tIq1o<>
「……あん?」
一瞬で思考が冷える。
コンソールの上に無造作に置かれた白く分厚い冊子。
黒いクリップで留められたそれは、電子化が進んだ学園都市でも未だ見る紙媒体の研究資料だろう。
被検体。
症例。
実験。
曝け出された中身に踊るのは馴染みのある単語ばかりだ。
確かに数秒前まで存在していなかったそれに一瞬警戒心を抱いて、しかし木原は近づいてゆく。
ここが異常な空間であろうことは大方予想のついていたことであったし、
このまま手ぐすねを引いてせっかくのチャンスを潰すのも癪だ。
もう彼の興味はモニターから目の前の紙へと移っていた。
あのままあれを見続けるのもそれはそれで愉快だが、進展を見せるとも思えない。
有益な情報といえば二人が監視に気がついていない、もしくは気にしていないらしい、という情報だけだろうか。
それよりも明確な状況を解き明かすヒントに彼の好奇心が疼く。
「……被検体#一〇九六に被検体#一〇七六の記憶を代入……虚妄型箱舟依存症候群……?」
紙を手に取り、聞き慣れない用語に戸惑いながら視線を進める。
衣擦れの音が響く灰色の部屋に紙をめくる音が静かに混じった。
記されているのは実験の概要と、その結果生まれたとあるケースについての報告書。
行われている実験は学園都市の主流とは外れているものではあったが、それが木原の理解を妨げることはなかった。
「……つまり、記憶操作による擬似的なクローニングは行えるか、ってことか?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:15:18.42 ID:ZZs8tIq1o<>
こんな馬鹿げた実験が、この学園都市でもっとも貴重な実験動物である
一方通行を用いて行われることなどあるはずがないのだ。
統括理事会の後ろ盾さえあればどんな下らない実験であろうともレベル5すら被験者に望むことは可能だが、
それならば第四位あたりを使えばいい。
だが一方通行だけは特別だ。彼には代えがない。
木原一族といえば「実験に際し一切のブレーキを掛けず、実験体の限界を無視して壊す」ことを信条とする一族だが、
いくらその一族の要の一人たる木原数多とはいえ、その辺の分別はついていた。
当然だ。
壊してしまったらあの忌々しい少年をさらに絶望に突き落とすことができなくなってしまう。
ふ、と視線をモニターに移す。
そこにいつの間にか二人の姿はなかった。
それどころか部屋の影すらそこにはない。
いまやモニターはただ砂嵐を写すだけのただのガラクタへと化していた。
なんとはなしにそれを眺めて、木原は脱線しかけた思考を戻す。
「……つまり、だ」
大方機械によって作られた仮想現実といったところだろう。
それを認めることは自分が何らかの方法で拘束されているという事実をも認めることになるが、
直近の記憶が曖昧なことにも合点がいった。
自分を一体何のために。
疑問は尽きないがとりあえずの指針は立ったと言えるだろう。
どうにかして覚醒してこの世界から抜け出す。
可能かどうかはともかくとして、まずそれを判断するためにこの世界について知ることが必要だった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:18:59.03 ID:ZZs8tIq1o<>
――ザ、ザザ――。
ようやく糸口を掴み考察を重ねようとした木原の耳に、いい加減聞き慣れた音が響く。
なんとなく、モニターが写っていないのを確認したあたりから予感めいたものは感じていた。
思えばこの音はいつだって周囲の状況が移り変わる時に聞こえていたのだ。
ならば今回も――。
期待に応えるように視界がノイズにさらわれてゆく。
――どこ――移――――く――!
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
広がるノイズは留まることを知らず、木原の思考さえも侵しはじめた。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
灰色。砂。砂。黒。砂。砂。闇。砂。砂。
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:22:00.92 ID:ZZs8tIq1o<>
――そして、暴力の音が聞こえた。
耳に馴染んだその音。
殴打の音。痛みに呻く声。
革がしなる音。耐え忍ぶような息遣い。
金属が擦れる音。
肉の裂ける音。
骨が砕ける音。
不気味な水音。
絶望の音。
暗闇の中で小さな白い背中が投げ出されているのが見えた。
見覚えのあるその白は所々赤黒く変色させ、果てにはそのさらに奥にある白をさらけ出している。
革が風を切る音が聞こえた。
凶行に走るのは、いつしか一度だけ見たことのある化け物をその腹から産み落とした女。
狂喜に満ちた女の顔はまともな思考が出来ぬ今の木原にさえ不快感を与えた。
ぐちゃ。
皮膚が裂け、肉の繊維が引きちぎられ、血管が弾ける。
白がさらに赤く塗り潰された。
べちゃ。
びちゃ。
音に合わせてびくり、と白い背中が痙攣するように震える。
呻き声すら上げないその少年は果たして生きているのか、死んでいるのか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:25:37.20 ID:ZZs8tIq1o<>
ぐちゃ、びちゃ、べちゃ、ずしゃ、ぶちん、どしゃ、がきん。
ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ、ぐしゃ。
生気の無い瞳が木原を見ている気がした。
濁り光の無いその瞳は絶望をそのまま写し取ったかのように黒い。
――ああ、そ――か――まだ――――――。
脳裏に初めて出会った時の姿が蘇る。
襤褸切れのような姿。
木原を見上げる瞳には今木原を見る瞳のようにまるで生気はなかった。
まともに口もきけず、周囲に興味も示さず。
まるでそれはただの人形。
傷を消すのはたやすいことだった。
学園都市の技術をもってすれば消せない傷など無いに等しい。
懐かせるのもたやすいことだった。
優しくされたことなどない少年はあっという間に染められ、邪気のない笑顔さえ木原に向けた。
だが少年が黒であった頃から彼に沈む澱は、白になった今でも――いや未来永劫取り除かれることは無いのだろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:28:26.98 ID:ZZs8tIq1o<>
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
そして木原数多の意識は再びノイズの奔流に飲み込まれる。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――
―――――ザ
―――
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:31:27.02 ID:ZZs8tIq1o<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
 ̄―===━___ ̄― 痛い― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
==―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ――――  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
 ̄ ̄___ ̄苦しい━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―=====━
―――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―怖い ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― 辛い―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― 哀しい―― ̄ ̄___ ̄―===━
____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
『ミサカも痛いの。苦しくて、怖くて、辛くて、哀しい。
ミサカ達、一緒だねってミサカはミサカはあなたと同じなのを喜んでみたり』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:34:20.86 ID:ZZs8tIq1o<>
無邪気な少女の声がまるで誘蛾灯のようにゆらゆらと少年を誘う。
まるで太陽のような少女の笑顔が眩しかった。
温もりが欲しくなって手を伸ばせば、伸ばされた少女の手と指が触れ合った。
己の痛む背中の代わりに少女の背中をそっと撫でれば、少女の手が優しく少年の痛む背中を撫でた。
もっと深く繋がりたくなって顔を寄せれば、少女も顔を寄せた。
『愛してるよ、ってミサカはミサカは囁いてみる』
少女はいつだって少年の欲しい言葉をくれた。
だから少年も少女の欲しがるいつもの言葉を贈る。
『……俺も、愛してる』
僅かに浮かぶ後ろめたさは気のせいだろうか?
背徳感から逃げるように距離を縮めれば、同じように寄せられた唇が触れ合い理性を塗りつぶした。
僅かに空いた咥内に舌を滑り込ませ、同じように少年を求める少女と深く繋がる。
『ふ……っ、ん……』
吐息を重ね、歯列をなぞり、交わされる水音に酔いしれた。
少女の中は酷く熱い。
『……ミサカ、ずっとこうしたかったんだよ、ってミサカはミサカは胸の内を吐露してみたり。
あなたはミサカ達に自分を見せてくれなかったから、こうしてあなたと同じ傷を貰えて嬉しいな、
ってミサカはミサカはあなたに手を伸ばしてみる』
触れて欲しい箇所にいつだって触れてくれるその小さな手の平が愛おしかった。
この薄暗い空間の中でもなお輝く笑顔が羨ましかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:38:48.35 ID:ZZs8tIq1o<>
『……機嫌が悪ィとすぐ殴られて』
『動けなくなったら舌打ちされて放置されたね、ってミサカはミサカは思い出してみたり』
『見つめても』
『見るなと殴られて』
『呼ンでも』
『答えてくれなかった』
『……でも、どンなに言い付けを守っても』
『結局はミサカを見てはくれない、ってミサカはミサカは……寂しく笑ってみる』
―――ザ――ザザ――。
響き合うことに甘えて、溺れて。
無邪気な少女の微笑みに身を預けて。
同じ黒を持っているはずなのに、彼女の笑顔は奇妙な程に白く穢れがなかった。
『ミサカはずっとあなただけを見てるよ。
だからあなたもミサカだけを見ていてほしいな、ってミサカはミサカはお願いしてみたり』
だがその笑顔がどうしたって彼女と少年との違いを克明に描く。
少女は笑う。
巣食う闇が深すぎる少年はとても笑うことなどできないのに。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:41:31.47 ID:ZZs8tIq1o<>
――最低だ。
本当は気がついていた。
どんなに近くなろうとも結局少年と少女は違う人間。
響き合う以上の何かになれるわけではないのに。
本当の意味での同一になれない以上、これ以上少女を闇に連れ去ることになんの意味があるのだろうか。
『……打ち、止め……』
名前を呼ぶだけで背徳感が疼いた。
だが少女は名前を呼ばれて嬉しそうに笑うだけ。
これが少女と少年の決定的な違い。
少年は少女が何よりも大切で、何よりも愛しい。
少年の情愛も、共感も、執着も、羨望も、畏怖も、全てのものが少女のものだ。
だからこそ、その歪みは徐々に隙間を広げて、いずれきっとどうしようもないほどの崩壊を招くのだろう。
そして――少年は嘘を吐く。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:45:39.40 ID:ZZs8tIq1o<>
『ごめン、な。――――――』
―――ザッ――ザザ――ザ―――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――
――――――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――――――――。
『ねぇ――どうして? ってミサ――は――――――』
ザザ――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――ザザッ。
『オマエとは、もう一緒にいられない』
ザ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:48:32.98 ID:ZZs8tIq1o<>
『あはっ、あはははは……あははははははははははは、あははははははははははははははははは!!
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!
あははっ! あははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:51:38.33 ID:ZZs8tIq1o<>
少女の哄笑が虚しく薄暗い部屋に響き渡っていた。
狂ったように笑う少女の瞳に写るのは一体誰なのだろうか。
一見無邪気にも見えるその暗い瞳は深い闇を周囲に知らしめる。
幼気な狂気は残酷なまでに少女を蝕んでいた。
『そうだよね。あなたがミサカにそんなこと言うわけないもん、ってミサカはミサカは確信してみたり』
ぴたりと笑うのを止めて、だが、まるで誰かと会話をしているようなその声を聞くものは誰もいない。
少女の瞳がうっとりと細められた。
彼女の瞳には誰よりも愛おしい少年の姿が見えているのかもしれない。
花が綻ぶような微笑がその顔を彩った。
『楽園へ帰ろうよ、一方通行』
そして、ぎらついた狂気の光が瞳を焼き――。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:54:38.59 ID:ZZs8tIq1o<>
気がつけば木原の視界は赤で埋め尽くされていた。
「――ッ!」
己の息を飲む音で正気に戻って体を硬直させる。
――ここはどこだ。
乖離していた意識と体の邂逅に戸惑って周囲に視線を這わせれば、どうやらそこはモニターの向こうの部屋であるらしい。
噎せ返るような鉄の臭いが鼻のさらに奥にある脳神経を刺激する。
たぶん、それは生存本能というやつなのだろう。
鉄以上に嗅ぎ慣れた濃い臭いに首筋の裏がちりちりと刺激された。
馬鹿みたいに音のない空間にねとりと粘度を感じさせる水音がやたらと大きく響いている。
「……これで、ずっと一緒だね、ってミサカはミサカは喜んでみたり」
この空間に似つかわしくない無邪気な声だった。
これまでモニターの、ノイズの向こうでしか聞こえなかったはずの少女のクリアな声が木原の鼓膜を刺激する。
木原の二歩前に立ち尽くすのは少女――打ち止めの小さな後ろ姿だ。
「……」
少女はこちらには気がついていないようだった。
そういう『設定』なのかもしれない。
だがもし仮に彼が外からも認識されるような存在であったとしても、今の彼女はおそらく木原に気がつきはしなかっただろう。
「あはは……あはははははははははははは!!!!!!」
彼女はただひたすら赤かった。
闇の中ですら輝いていた柔らかな茶色の髪の毛は今や赤黒く染まり、明るい空色のワンピースもその大部分が赤に侵蝕されている。
手にぶら下がった赤い塊は吸った血を吐き出して、その先に小さな赤い泉を形成しつつあった。
そしてその泉から伸びる赤い川が行き着くのは、深く赤い海のような血溜まり。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/29(日) 23:58:04.50 ID:ZZs8tIq1o<>
濃密な死の臭いが漂うそこには赤に染められた白が倒れ伏していた。
全てのものを反射できるはずの最強はもうぴくりとも動かない。
隣で幸せそうに笑う少女にとっては相手が生きていようが死んでいようが、もうどちらでも良いのだろう。
だが例えこの空間が仮想現実に過ぎないとしても、木原の目の前に存在するこの死は現時点において紛れも無い真実だった。
「は……、ははっ」
微かに漏れた渇いた笑いはいったいどんな意味を持っていたのか。
彼にとって明確なのはただ一方通行が死んだという確定事項。
知るはずのない事象が脳裏をかすめた気がした。
ひたすらに深い黒と眼前を塗り潰す赤のイメージ。
自分に迫る全てを超越した浮遊感。
知るはずもないのにいやに克明に思い浮かぶその幻想。
それは端的に表現するならば、正に死と呼べるものであるのだろう。
「は……はは。ぎゃはっ、ぎゃはははははははははははははははは!!!!!」
それは何故か今目の前で飲み込まれている一方通行の側よりも、己の側でこそ強い存在感を示すものであるような気がした。
見てもいないくせに不思議と強い確信が心も体も縛ってゆく。
そもそも何故自分がこのような訳のわからない仮想現実世界に囚われているのか。
何故、『自分』がここにいるのか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/30(月) 00:02:10.31 ID:YWPhNgQ+o<>
「……殺されたのか」
それが一番すとんと納得できる答えだった。
木原数多は一方通行に殺されたのだ。
見覚えなんてないはずの見たことのある赤がそれを確信へと変えてゆく。
ずくずくと己の中に存在する負の感情が育ってゆくのを感じた。
どす黒くどろりとしたその感情に名前を付けるならば、おそらくそれは憎悪という名前だ。
殺された。何一つ塵一つ残さずに、木原数多という存在を抹消された。
「俺を殺すなんざ、いい度胸してんじゃねえかあッ!!!」
木原は言うなれば一方通行の親のようなものである。
何も持たず、ただ白い澱だけを漂わせていた折れそうな少年に力を、その名前の元となる力を与えたのは他ならぬ彼だ。
木原には誰よりも彼を知っているという自負がある。
だから、彼は彼にしかできないものをあの少年に与えなくてはならない。
「俺も殺してやるよ、一方通行ぁ……ぎゃはッ!」
疼く胸にミミズのような憎しみがのたうち回っているようだった。
殺す。
なんて愉快で分かりやすい言葉なのか。
ふと見れば赤に染まった少年が死を漂わせた虚ろな瞳でこちらを見ていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/30(月) 00:06:11.63 ID:YWPhNgQ+o<>
「そんな瞳ぇしてこっち見んじゃねえよ、クソガキ。俺がきっちりかっちり地獄に送ってやるからよお!」
死んでいるはずの少年が笑った気がした。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
視界をノイズが埋め尽くしてゆく。
今までのどの奔流よりも激しいそれは一気に木原を呑み込んで――笑う少女も、赤に染まる少年も、全てを灰色に染めた。
そして後に残るのは、砂。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/30(月) 00:07:43.18 ID:YWPhNgQ+o<> 以上本日の投下終了。
ありがとうございます。
ごめんなさい、一レス抜けてることに気がつきました。
間抜けめ。
>>25と>>26の間にこれが入ります。
--------------------------
DNAの全く異なる二つの検体に、信号化した同じ記憶を代入する。
過ごして来た経験や記憶が全て同じならばなにも同一DNAを持つ個体でなくとも同一個体と呼べるのではないか。
つまりわざわざ金をかけてクローンを作らなくても個体Aは複数作り出せるのではないか、という試み。
『自分だけの現実』はDNAではなく経験や人格に起因するものだという考えに基づく実験。
これならば頓挫した量産能力者計画よりも良い結果を出すことができる。
だが目の前の監視対象に限って言及するならば、
実際行われた記憶の代入は入れ替えではなくせいぜい追加であったらしい。
当たり前だ。
学習装置で人間の記憶や経験を全てインストールするなど、あまりに実験体に不可が掛かりすぎる。
その結果が――これ。
「……くだらねえ」
しばしば学園都市にはこの手の研究者が存在する。
子供の妄想レベルの学説を主張し人体実験を繰り返しては貴重な実験動物を無駄にする輩。
どういうツテを辿ってここに来たのかはよくわからないが、
外では許されない類の実験にあっさりと許可が下りるこの学園都市は、彼らにとって天国と言えるのだろう。
木原はあっさりと興味を失って紙の束を放り投げた。
ばさり、と虚しい音を立てて薄汚れた床に白い紙が広がる。
だがこの馬鹿げた紙切れは木原にたった一つ有用な確信を与えた。
――ここは現実の学園都市ではない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/05/30(月) 00:12:46.87 ID:YWPhNgQ+o<> 次回は一週間以内にTrack03、04が投下できれば。
需要あると嬉しいんだけど、いかんせん。
まったり書いていきたいと思います。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/05/30(月) 00:13:55.94 ID:wpC9JI8AO<> 乙です
需要はここに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 00:17:37.46 ID:RDO6BD4W0<> お...乙だ...
なんか...すげえもんを見た気分だよ......
とりあえず、がんばってください期待してます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 07:53:04.53 ID:Jx5g7mgR0<> これは期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 09:27:05.87 ID:qnwoGaHIO<> スレタイみてもしやと思ったら、予想通りサンホラだった
超期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 12:13:42.92 ID:E8fWyShg0<> 一方さンとサンホラとか混ぜるな危険レベルの厨二コラボじゃねェか・・・むしろ需要しかないぜ!
すでにwwktkが止まらない。超期待。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 13:04:44.31 ID:T8RiuG6Ko<> サンホラーな俺得スレ発見 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/30(月) 16:12:53.65 ID:I85mXDq30<> サンホラとやら見てない俺にはちと難解
だがすごい期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 12:48:38.27 ID:a1AQaIaOo<> >>50
Sound Horizon
っつーアーティストのアルバムで一曲一曲が物語りっぽくなってるのが特徴 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/05/31(火) 13:25:49.72 ID:hXPQjRCIO<> >>1です。
レスありがとうございます。
嬉しさのあまり興奮してえずいたのも良い思い出。
かなり舞い上がっているので、明日の夜にTrack03+αを投下しにこようと思います。
10レス程度の短いものですがよろしければご覧ください。
期待に答えられるかはともかく、微力を尽くすぜ。
>>50
元ネタはもともと明確な解答のない、自分で答えを見つける系の作品なのでかなりアレンジを加えていくつもりです。
難解なのだとしたら>>1の描写不足かも。
ツッコミ・質問はいくらでもどうぞ。
答えられる範囲で答えます。
それではまた明日に。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2011/06/01(水) 20:13:43.06 ID:QcRRUIBro<> これはいい厨二コラボ <>
>>1<><>2011/06/01(水) 20:47:18.94 ID:YopRJJL3o<> 投下、はじめます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 20:50:36.34 ID:YopRJJL3o<>
-------- Track 03 _Elitism
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 20:53:46.09 ID:YopRJJL3o<>
時折、何故研究者になったのかと問われる事があった。
木原数多はその手の類いの質問が好きではない。
だが彼はその質問を投げかけられた時、決まってこう言うことに決めていた。
それが一番自然であったからだ、と。
祖父も、父親も、母親も、兄弟も、顔も知らないような親戚さえも分野こそ違えど研究者だった。
彼はそういう一族の血を受けて産まれた。いわばエリート、と呼べるだろう。
つまり彼の環境は非常に恵まれていたのだ。
少年時代の木原が抱いた疑問に答えてくれる大人はいくらだって存在していた。
彼は一つ知れば、十を求めた。十を知れば、今度は百を知りたくなる。
いつしか木原数多は学ぶことへの、知ることへの快感を深くその身に刻むようになり、
いずれその疑問は誰にも答えられないものへと到達してゆく。
だから木原は研究者を目指した。
知ることを止めない為に。
その身に走る快感を貪り尽くす為に。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 20:56:52.87 ID:YopRJJL3o<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
モルモット
伸びた電極が実験動物に突き刺さり、無機質な音楽をその母体である機械に奏でさせていた。
それは少年にとって流行のポップスよりも、壮大なクラシックよりも心を揺さぶる至上の歌だ。
光がディスプレイに描く波形に至ってはどんな絵画にも勝る芸術ですらあった。
青白い光を背景に尾を引く光芒は何よりも美しい。
学園都市の中央にほど近いこの研究所は能力開発分野で一二を争う規模の大きな研究所だった。
充実した設備に、溢れかえる研究員たち。科学者ならば誰もが憧れる巨塔。
そして、少年――木原数多の父がそのを全てを掌握している場所。
木原数多が父の研究所にこうして足を運ぶのははじめてのことではない。
彼は研究所の空気が大好きだった。
白い清潔感のある色彩で統一された内装。
出歩く人間たちもその殆どが白衣に身を包み、壁に溶け込むようにひっそりと歩いている。
どこまでも白い空間。
無垢な色。
精錬潔白の色。
学園都市が謳う『安全かつ人道的な実験』を行うに相応しい色。
だがその汚れ無き色であるはずの白を一枚捲れば、漂うのは赤い幻想に彩られた濃い鉄の匂いだ。
人間を切り開けば、すぐに噎せ返るように広がるその隠された匂い。
少年の知識欲をくすぐるその甘美な匂いは、魅惑的な秘密を暴くときの匂いに他ならない。
いつだって彼はこの白い空間に足繁く通っては、貪るように知識欲を満たした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:00:13.86 ID:YopRJJL3o<>
「数多、おいで」
父が遠くで少年を呼んでいる。
透明なガラスで隔離された空間――父が立つのはこの研究所で一際設備の充実した実験室の前だった。
彼がこうして己の息子を呼ぶのは、いつだって自分の功績を誇る時だ。
父の節くれ立った指が指し示したのは一匹の実験動物。
檻の中の珍獣でも指すようなぞんざいな手付きではあったが、
その実験動物が彼の実験にとって重要な役割を持っているのは疑いようもない。
実験動物――少女を取り囲む機材の物々しさはその事実を淡々と周囲に知らしめていた。
少年は父の呼ぶままに近づき、そっとガラスに触れる。
大きな部屋をたった一人で占領して横たわるその少女は、木原数多とあまり変わらない年齢であるように見えた。
儚げな印象を与える顔つきには苦悶の表情を浮かべている。
熱に潤んだ瞳でただ宙を見つめる姿はいっそ哀れですらあった。
もっとも観察する少年にそれを哀れに思うような感情は存在しない。
大抵の実験動物たちはああいった表情を浮かべて科学者たちの同情を誘おうとするのだ。
モルモットが哀れに鳴いてみたところでそれを気にする研究者が存在するとも思えないのに、なんと浅はかなことか。
「彼女の力を目覚めさせることができれば、我々の実験は多大な評価を得ることになるんだ」
父の瞳が熱に浮かされたように輝いていた。
それは知識を欲する時の少年の表情とまったく同じもので、血筋というものを見る者にまざまざと見せつける。
幼い木原には父をここまで昂らせる少女の力を理解することは叶わなかった。
木原は息子に己の功績をひけらかしながらも、根底に関わるような深い話をしようとはしない。
今回もそれは然り。
その理由は息子に流れる科学者の血を、異常なまでの知識欲を警戒しているからなのか。
・ ・
だが、少年は少女を見た瞬間、狂おしいくらいに理解してしまった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:03:56.83 ID:YopRJJL3o<>
彼女を彩るのは異形。
精神的な苦痛故か元は黒々としていただろう髪の毛は、
その殆どが白く透き通った色に姿を変え灰色とも白ともつかない奇妙な色合いを光の元に晒している。
たったそれだけでも幼い少女としては異常な容姿。
しかしそれがあってなお目を惹くのは――暗く輝く赤い瞳だった。
鮮やかな赤ではなかった。
どちらかと言えば血液が外気に晒され黒く酸化したような薄気味の悪い赤。
だがその色は確かに褐色などではなく赤以外の何物でも無くて。
それは化け物の姿だった。
見る者の怖気を誘う異形の姿。
――だけど、何故だろうか?
その赤は何故がひどく木原数多の五感を揺さぶった。
どこかで見たことがあるような気さえした。
らしくもなく鼓動が喧しく鳴り響き、成す術も無く口の中が干上がってゆく。
少年の心を揺らすのは焦燥感にも似た既視感だ。
だが、そんな記憶は木原数多の脳内のどこを洗っても存在しない。
彼の記憶などたかだか数年間のもの。洗う所すらろくに存在しなかった。
だけどその色はどうしたって彼の心を引きつけて止まなくて。
「数多?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:06:36.02 ID:YopRJJL3o<>
気がつけば木原数多は駆けだしていた。
父の制止の音も聞かずに走り、出入りする研究員の隙をついてガラスの扉をくぐり抜ける。
目指すのは少女の横たわるベッドだった。
父が熱の籠った瞳で語っていた話を思い出す。
――学園都市最強の超能力者を作り出す。
神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。
それはこの学園都市でもっともシンプルでスタンダードな目的。
多くの科学者がその命題に挑み肩を落としてゆく。
それはもしかしたら父が辿る道であり、木原数多も辿る道であるのかもしれない。
だが――。
駆け寄る少年を少女の昏い瞳が出迎えた。
まだ何かに興味を示すような気力があったのか、突然駆け寄って来た己と同世代の少年に興味をそそられたようだ。
絶望に落ちたはずの瞳に僅かな光が宿っていた。
それはもしかしたら突然現れた少年へ抱いた希望と呼ぶものであったのだろうか。
だとしたらなんと滑稽なのか。
木原数多は笑う。
彼にはよくわからない確信めいた思いがあった。
父が研究しているこの少女の能力は確かに最強に連なる道筋に在るのかもしれない。
この少女の持つ色は化け物の色だ。
確かに学園都市最強の名は化け物にのみ許される名であるのだろう。
――だがそれはこの少女ではない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:09:39.76 ID:YopRJJL3o<>
この少女は父の実験動物だ。
だから神の意思に到達するのはこの少女では有り得ない。
何故なら序列第一位を――レベル6を生み出すのはこの木原数多であるからだ。
最強の化け物が持つ白は、一体どれ程のものであるのだろうか。
自分が生み出す化け物はどれ程の力を持つのだろうか。
木原数多はどうしてもそれが知りたかった。
彼の根底にある知識欲がどうしようもない程にぞくぞくと疼いた。
だから木原数多は嘲笑う。
――この少女を利用しよう。
それは幼い少年にしてはおぞましいまでに残酷な発想。
父の立場を利用して、彼女を知らぬ所がないほどに知り尽くして。
そして礎にしてやろう。
きっとこの実験は成功しない。
だからせめて、礎にしてやろう。
少年が静かに手を伸ばした。
戸惑う少女は、しかしその力強い手から視線を逸らすことはできない。
木原が浮かべた笑みは邪な思いとは裏腹にとても無邪気で、少女が何年も前に捨ててしまった何かを彷彿とさせた。
少女はそれが自身を利用しようとする者の笑みであることを知るはずも無く――。
そして、少年の手と少女の手は優しく触れ合った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:12:39.04 ID:YopRJJL3o<>
.
. <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:16:39.02 ID:YopRJJL3o<>
-------- Track ?? [地平線の外側 一 Outside_of_Horizon_01]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:20:27.58 ID:YopRJJL3o<>
「ひゃっひゃっひゃっ! マジであれはケッサクだったよ。
なすがままに殴られて宙を舞うモヤシボディには芸術性さえ感じたね」
和やかにテレビの音が響くリビングに下品で喧しい笑い声が響いていた。
ケタケタと笑う姿は実に楽しそうで、実に結構だ。
「……」
何度も投げかけられた罵倒に怒る気力はすでになかった。
何が楽しいのか今朝から番外個体はやたらとテンションが高い。
ずっとこの調子で絡まれ続けて、正直一方通行の体力は限界に達しようとしていた。
不幸なことに現在彼女の相手をしてくれるような人間はこの家にはいない。
「ボロ雑巾みたいになってるときのあなたの顏って超イケてるし、
学園都市第一位よりサンドバッグの方が向いてんじゃない?
ねぇねぇ、ミサカにも殴らせてよ☆」
「……はァ」
――まあ食傷気味になりつつある己の気分のことなどどうでもいい。
「……」
それよりも一方通行にとっては彼の視線の先で不機嫌そうに揺れているアホ毛の方が気がかりだった。
最初のうちこそ番外個体の相手をいくらか引き受けてくれていた打ち止めだったが、
少し前からテレビの前を陣取りいっさいこちらを見なくなってしまった。
いい加減ぎゃあぎゃあと喚き続ける番外個体の相手をするのに疲れたのだろうか。
いや、この少女は一方通行よりもよっぽど寛大な性格をしている。
彼がこうしてまだ耐えている以上、先に打ち止めのほうが根を上げることなど有り得ないだろう。
そうして思考を巡らせて。
――そういえば、今やっているのはあの少女のお気に入りのアニメではなかっただろうか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:23:32.37 ID:YopRJJL3o<>
はっと気がついて眉を顰める。
「――おい」
一方通行はなおも罵倒を重ねようとする番外個体を止めようと口を開きかけて??。
「ちょっとあなた、ミサカの話真面目に聞いてんの?
脳味噌ブッ飛んだ時に耳まで遠くなっちゃったんじゃないのー? ぎゃはっ!!」
「うるさい、うるさーいッ!!!
ってミサカはミサカはカナミンの声が良く聞こえないことに激しく憤慨してみたり!!!!」
――ついに悲劇は起きた。
その声が一番大きい気がするのはけして気のせいではないだろう。
口を半ば開きかけたまま、震える鼓膜に顔を顰める。
「――ッ!?
けっ! うるさいのは最終信号の方でしょ。何? アニメ見てんの? ええー??
まったくアニメなんかにマジになっちゃうなんて、最終信号ってばお子ちゃまー」
「きいぃー!! ミサカの至福のカナミンタイムを邪魔するだけに飽き足らず、
カナミンを馬鹿にするなんて信じられないってミサカはミサカは怒りに震えてみるっ!」
「だって所詮アニメでしょ?」
「はあぁあ?? カナミンの素晴らしさを理解できないとか、
心が貧しいとしか思えないよね、ってミサカはミサカは鼻で笑ってみたり」
「だってミサカ、最終信号みたいにお子ちゃまじゃないし。理解できないのもトーゼンでしょ。
そろそろ最終信号もお子ちゃま趣味を何とかしないとミサカみたいなワガママボディになれないよん☆」
「別に番外個体みたいな腹黒ボディになりたくないもんってミサカはミサカはつーんッ!」
「ぎゃはっ、負け惜しみってみっぐるしー!」
「負け惜しみ!? なんだとぉっ! よしならば戦争だ!! ってミサカはミサカは拳を振り上げてみるっ!!」
「けっけっけ! 望む所だねっ! かかってきなよぉッ!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:26:39.94 ID:YopRJJL3o<>
「……くっだらねェ」
一方通行はソファに寝転がりながらその光景を眺めて、小さく嘆息した。
喧しく不毛なやりとりに、自らに課せられた能力の制限を恨めしく思う。
先程の大声にやられた鼓膜の痛みはようやく収まって来たが、そもそも昔ならば騒音は反射し放題だった。
なんと素晴らしき時代。
失って初めて惜しくなるものの価値――今となってはもう遠い。
もっとも、後悔などしていなかった。
ごろりと寝返りをうって、天井を眺めながらなんとはなしに番外個体の言葉を思い出す。
何度もあの目付きの悪い少女にほじくり返されて、そうでなくとも彼の記憶に強く根付いた黄泉川とのやり取り。
ごく端的に説明するならば彼はこの家の家主に殴られたのだ。
出会い頭にかまされた一発に一方通行が対策などしているはずも無く、
不自由な足は油断もあったのか踏ん張りなど利かない。
標準体型より間違いなく軽い体は標準よりよっぽど力のある女の拳を受けてあっけなく吹っ飛んだ。
これが反射が常に発動していた時代だったら。
それはぞっとしない想像だ。
しかし暗部で数々の修羅場をくぐり抜け第三次世界大戦で天使とさえ闘ったはずの学園都市の第一位が
たかだか一介の警備員、しかも女性に殴り飛ばされるなどなんという茶番なのか。
正直、番外個体に笑われても仕方がない。
――だが。
一方通行はちらりと今も喧嘩を続ける二人に視線を向ける。
少女達は相変わらず姦しいし自分は無能力者に殴り飛ばされる程に弱くなった。
だが、この世界は今――例え束の間のものでしかないとしても――平和であった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:30:27.25 ID:YopRJJL3o<>
ロシアでの瞬く間に流れていった激動の後。
黄泉川も芳川も突然押し掛けて来た得体の知れない少女をあっさりと受け入れ、
そしてこの自分さえもその家に迎え入れた。
それを平和に酔った人間の甘さだと笑うこともできただろう。
だが一方通行はそれをしなかった。
それはすべての昏い幻想をぶち壊してゆく少年にぶつけられた言葉のせいかもしれない。
自分を殺す為に作られたはずの少女の手の平の温かさのせいかもしれない。
守ると決めた少女の、ずっと傍に在り続けた柔らかな好意と太陽のような笑顔のせいかもしれない。
だがその理由がなんであれ自分は迎え入れられることを選んだ。
例え物好きな少女に泣きつかれたからといっても。
例え腹の立つ少女に臆病だと罵られたからといっても。
例えやたらと威圧感を放つ保護者が拳を握りしめたからといっても。
例え自分にも他人にも甘いはずの研究者が本当の意味での優しい笑顔を浮かべていたからといっても。
・ ・
一方通行は再びこの家に帰ることを自ら選んだのだ。
「やるね、最終信号」
「番外個体もね、ってミサカはミサカは意外な健闘を讃えてみる」
険悪なムードであったはずの二人の少女の顔にはいつの間にか笑顔が浮かんでいた。
まるで仲の良い姉妹のようである二人が、学園都市の暗部が生み落とした結晶とはどう見たって信じられない。
いや、例え生まれた場所が暗い闇の底であろうとも、
彼女たちは自身の輝きを持ってして光の中で生きることができるのだ。
「けッ……柄にもねェことを……」
悪態をついて瞼を下ろす。
闇が落とされた世界は、何故だろうか。
昔のように寒々しくはなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/01(水) 21:38:18.82 ID:YopRJJL3o<> 本日の投下は以上。
なんかオリキャラっぽいのがいますが、今後は一切登場ナシ。
次は土日のどっちかに、歪んだ真珠を投下する。
では。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/01(水) 21:50:55.29 ID:+HXPkeKk0<> タイトルぼんやり眺めてたらふとサンホラだと気付いて思わず読んで来たぜ……
超期待
エル=一方通行だけどアビスの五人も一方さんなの?
それぞれ違う√なのかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)<>sage<>2011/06/01(水) 22:25:07.18 ID:YS9RtWiv0<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/01(水) 22:46:49.67 ID:lvTAayuAO<> 乙
面白い <>
1<>saga<>2011/06/05(日) 00:33:27.87 ID:30YllznRo<> レスありがとうございます。
やる気の源です。
>>69
一応話は時系列の違いこそあれど、同軸で全てつながっています。
フラーテルが一方通行だった理由も作中で明かされるはずなので
とりあえずあくまでエル≒一方さんってことでごまかしてみたり。
それではTrack04、投下
一応ちょっと前置き
・オリジナルの妹達が出てくる。
・1は理系はおろか文系ですらないただのバカ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/06/05(日) 00:37:55.93 ID:30YllznRo<>
-------- Track 04 Baroque
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/06/05(日) 00:40:32.28 ID:30YllznRo<>
_ ̄―===━___ ̄― ―――― = _ ̄― ―
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―ザザ――ザ――___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
「――ったく、な――ってんだよ」
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
視界を覆うノイズの中で、木原は悪態をついた。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
初めてここで目覚めたあの時とまるで同じ状況。
目障りなノイズに、ここがどこかも分からない曖昧な感覚。
唯一違う点をあげるとすれば、限りなく木原の意識がはっきりしている点だろうか。
幸運だった。
この妙なノイズに飲み込まれる度、意識が混濁していたのでは目的も果たすこともままならない。
意識が呑み込まれる前に感じた燃え盛るような憎悪は今も木原の心の底で暗く燻っていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/06/05(日) 00:43:47.74 ID:30YllznRo<>
「……ちィッ」
徐々に晴れてゆく視界の中で、憎々しげに舌打ちをする。
水を差された気分だった。
あのノイズの濁流に呑み込まれた際に、彼の狂ったような激情もその殆どが流されてしまったのだろう。
木原数多は優秀な科学者である。
自らのことを客観的に見ることの大切さは身に染みるほどに理解しているつもりだ。
「……くそッ」
もう一度舌打ちを重ねて、嘆息する。
どんなに息を吐き出そうともこの苛立ちの諸悪の根源はどうしたって彼の身の内から出て行こうとはしない。
――彼は今の心理状態を好機だととらえることにした。
思考は驚く程に冷静で、もはや数刻前に慟哭していた様は欠片も見られない。
目的は決まった。
だがそれからどう動けばそれが叶うのか、未だ当てはない。
だからこそ木原数多には冷静な行動が要求されているのだ。
―――ザ――ザザ――。
音の奔流と共にノイズがまた薄らいだ気がした。
予兆を感じる。
次に目の前で展開される茶番はいったいどんなものなのだろうか。
彼の脳裏に浮かぶのは薄暗い研究所で見せられた三文芝居だ。
くだらないことこの上ないものだったが、あんなものでも重要な――唯一の手がかりであることには代わりがない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 00:48:39.55 ID:30YllznRo<>
――せめて有意な手がかりが得られればいいのだが。
だるそうな体をとりながらも忙しなく視線を動かして周囲の状況を観察する。
ふとノイズの隙間から宝石のような光が漏れているのに気がついて、木原は目を眇めた。
きらきらと煌めくそれは砂越しであろうともその柔らかな輝きを主張している。
それは見慣れないものではなかったが、何処かで見たことがあるような形を模していた。
徐々に晴れてゆく視界の中でまじまじとそれを見つめて呟く。
「教、会?」
最初に目に入ったのは巨大な十字架だった。
敬謙な信徒でなくともすぐにそれと認識できる馴染みのある形。
その後ろで輝く宝石のような光はどうやらステンドグラスであったらしい。
それは微かな光を受けてぼんやりとした灯りをあたりに振りまいていた。
砂の向こうで見た時よりも地味なものであるような気がするのは気のせいだろうか?
「……」
そこは、誰もいない教会だった。
雨でも降っているのか、ノイズに似た雑音が薄ら寒いほどの静寂を打ち消している。
薄暗い無気味なこの場所がどうやら十字教の教会であるらしいことは
宗教にまったく興味のない木原でもすぐに理解できた。
――もっともそれがどこの宗派に属するものであるのかは皆目検討もつかないのだが。
「神にでも祈れってか?」
どう考えても自分には似合わないロケーションについぼやきのような独り言が漏れる。
――意図が分からない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 00:51:37.58 ID:30YllznRo<>
この場所に自分がいる理由には、誰かしらの思惑が絡んでいるのだと木原はほぼ確信している。
もしあのとき感じた『自身の死』が木原の妄執などではなく事実起きたことだと仮定して、
この状況にはいったいどんな意味があるのだろうか。
自分に一度確約された死を覆す方法にならばいくつかの候補が挙げられる。
例えば死にさえしなければどんな患者でも黄泉の国から追い出すという冥土帰しの存在。
例えば脳の欠片にさえ利用価値を見出す学園都市の暗部の存在。
例えば――。
「……そういや俺の死に様ってなぁ、どんなんだったんだろうな……?」
ふと浮かんだ疑問にちりり、と以前にも感じたことのある脳の痛みを覚える。
都合の悪いことは思い出せないようになっているのか、それとも心的外傷でも負ってしまったのか。
わかりやすい己の反応に糸口の手応えを感じる。
もし自分の死に様を思い出すことができれば自分の状況に予想が付くのも実に魅惑的であった。
だが頭の中に浮かぶ記憶は断片的なものが多く、木原にはその時系列がはっきりと分からない。
それは新しいものになればなるほど顕著で。
痛みとともに脳裏に倒れ伏す一方通行が見えた気がした。
「くそっ……」
モニターに映される最終信号。
嗤う一方通行。
イカれた黄色い女。
硝煙。
倒れゆく猟犬部隊。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザザザザッザザザザザザザ!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 00:55:28.46 ID:30YllznRo<>
ノイズ、ノイズ、ノイズ、ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ。
―――ザ――ザザ――。
――ため息を吐く。
ずきずきと痛むこめかみを抑えて木原は思考を一旦中断することにした。
少なくともこの世界で目覚めてすぐの時分よりはよっぽど記憶の反芻に伴う痛みが小さい。
今焦る必要は無いのだと己に言い聞かせて、必死で自分を納得させる。
木原はこの彼自身がこの世界にいる理由には誰かしらの思惑が絡んでいるのだと確信していた。
もしそこに思惑が介在していないとすれば――。
おそらく、木原がここから抜け出すことは一生叶わないのだろう。
「――!」
その時だった。
ギィィと木の軋む音が教会に鳴り響く。
重量のあるものをゆっくりと押すような速度のそれは、木原の背後から聞こえて来ていた。
あまりに油断していた己の神経をすっと研ぎすませて、いつでも殴り掛かれるように構えをとりながら振り返る。
ぞくりと震えた心臓が、興奮ゆえの昂りを訴えた。
木原は人間の血を見るのを好む。
それが知の宝庫であることを知っているからだ。
ぎらりと瞳を光らせながら音の発生源を睥睨すると、背後の両開きの扉がゆっくりと開いてゆく所だった。
古い木の音は耳障りな響きをもってその存在を主張する。
木の隙間から柔らかな茶色の髪の毛が揺れて見えた気がした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 00:59:53.51 ID:30YllznRo<>
「超電磁、砲……?」
警戒心の込められた呟きはすぐに教会の清閑とした空気に溶け込んで消えてゆく。
教会に足を踏み入れた少女は、この学園都市の第三位の名を冠する超能力者の容姿を持っていた。
雨に濡れて水の滴り落ちる明るい髪の毛が肌に張り付く様は哀れだ。
寒いのか血色の良かったはずの肌は病的に青白い。
透けたワイシャツと水を吸って重く垂れ下がるサマーセーターが
彼女の細いながらしなやかな肢体をくっきりと浮び上がらせていた。
そしてその中で異質の存在感を放つ暗視ゴーグル。
木原に目もくれずただ前を向く瞳は虚ろで生気がなかった。
そうだ、この少女は御坂美琴ではない。
「……欠陥電気か」
木原は声を出さぬよう口の中でだけ呟いて、襲撃するか否かを逡巡する。
雨に打たれ全身を濡らした少女はどうやらこの悪天候の中を駆け抜けて来たらしい。
息を切らして肩を揺らしている姿に余裕はない。
おそらく木原ならば彼女をすぐに組み伏せることができるだろう。
だが。
木原に欠片も気がつかずに笑っていた最終信号の姿を思い出す。
彼女がこの世界の住人なのか、それとも木原のように外部からアクセスしている人間なのか。
それは判別がつかなかったが、木原には彼女に自分が干渉できるという確証がなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:03:47.25 ID:30YllznRo<>
そして迷うように視線を彷徨わせて、気がつく。
・ .・ .・ ・ .・
木原の足に教会のずらりと並ぶ椅子が食い込んでいた。
痛みはない。
感覚すらない。
ぞっとしてすぐに足の位置を動かす。
まるで立体映像のような彼の足は何事も無かったかのように椅子と分離を果たし、ただそこに存在していた。
ザザ、と体にノイズが走ってゆく。
「……っ!」
――そうか、この世界では自分こそが異質なのだ。
唐突にそれを理解して戦慄する木原の横を、ノイズ一つ走らぬ少女が通り過ぎてゆく。
咄嗟に伸ばした手は予想通り何も掴まずに虚空を切っただけだった。
「ちッ……」
木原はすり抜けた手をまじまじと見、そこに異常が無いことを確かめるとあっさりと構えを解く。
ここは聞き役に徹して少しでも情報を得るのが得策だと判断しての行動だった。
内心の腹立たしさは語るまでもない。
「主よ――」
少女の感情の籠らない声が、がらんどうの教会に響き渡った。
人形が神に祈るなどどうしてなかなか皮肉めいたものだ
その声を果たして神は聞き届けるのだろうか。
そして、少女の声は告げる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:06:45.14 ID:30YllznRo<>
ひと
「主よ、ミサカは人間を殺めました。
ひと
ミサカはこの手で大切な女性を殺めました、とミサカは懺悔します――」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:10:00.75 ID:30YllznRo<>
人を殺した。
その言葉に何の感慨も湧かず、ただ人形が人間を殺すという事実に違和感を感じて木原はその言葉を受け入れる。
「たく……今度はなんだ……快楽殺人でもやらかしちまったのか?」
見れば確かに少女の体は薄汚れていた。
流れ落ちる液体には透明でも黒でもない、赤いものが混じっているような気がした。
薄く笑う彼女の懺悔はなおも続くようで、堰を切ったような唇の動きは止まらない。
彼女の前にそびえ立つのは神の象徴。
ミサカ
「……そもそもこのミサカと彼女は同一の存在であるはずでした。
ミサカ ミサカ
この個体が認識している世界と、他の個体が認識している世界。
ミサカ ミサカ
この個体が感じている感覚と、他の個体が感じている感覚。
それが『違う』ということは、このミサカにとって耐え難い恐怖でした。
それがいづれ『拒絶』に繋がるということを、無意識のうちに知っていたからです。
……しかし拒絶されるわけがなかった――同一であったはずのミサカたちに
あの日から歪みが生じました、とミサカは反芻します」
――上条当麻。
少女の唇が微かに動いてその名前を紡ぐ。
その名前は木原も知っていた。
幻想殺し。
木原の最高傑作をその拳一つで倒した無能力者の少年。
彼の存在が残り一万弱の妹達にとって特別な意味を持っているだろうことは、木原でも理解している。
だが、この人形が彼に向ける感情は果たして木原が知っているものと同一なのだろうか。
彼女の表情はただ能面のような無表情を保っているはずなのに、何故か苦みが走っているように見えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:13:50.70 ID:30YllznRo<>
ミサカ
「――あの日からミサカと他の個体は他人になってしまったのです、とミサカは事実を淡々と述べます。
恐怖を覚えました。楽しそうな会話の輪にさえ、加わることは恐ろしく思えました。
いっそ空気になれたら素敵ですね、とミサカはいつも口を閉ざしていました。
ミサカ
そんなこのミサカに初めて声を掛けてくれたのが彼女だったのです、
とミサカは今でも昨日のようにあの日のことを思い出します」
少女の口元に笑みが浮かんだ。
その表情は人形らしくない柔らかなもので。
ミサカ ミサカ
「美しい少女でした、優しい少女でした。
ミサカ
月のように柔らかな微笑みが印象的な少女でした」
彼女は今自分自身がその表現に価する笑顔を浮かべていることに気がついているのだろうか。
ミサカ
「最初こそ途惑いはしましたが、私はすぐに彼女が好きになりました。
ミサカ
彼女はこのミサカに多くのことを教えてくれました、とミサカは陶然と語ります。
『違う』ということは『個性』であり、『他人』という存在を『認める』ということ。
大切なのは『同一であること』ではなく、お互いを『理解し合うこと』なのだと。
ミサカ
彼女はミサカに他人と交わることの素晴らしさを教えてくれました。
ミサカ
事実、他人となってしまったはずの彼女との交わりはとても楽しいものでした、とミサカは思い出します。
ミサカは次第にミサカたちに芽生える個性を受け入れられるようになりました。
ミサカ
しかし、ある一点においてミサカと彼女は『違い過ぎて』いたのです、とミサカは首を振ります」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:17:58.10 ID:30YllznRo<>
唸るような雷鳴がとつとつと語る少女の声を打ち消す。
光る雷光がステンドグラスを通して少女の体に青白い光を落とした。
ぽたり、と微かな音を立てて髪の毛の先から水滴が滴ってゆく。
「……あの感覚をどう表現したら良いのか、とミサカは己の表現力のなさを恨みます。
狂おしい焔が身を灼くような苦しみ。胸を焼けた串が突くような痛み。中心が燃え盛るような熱さ。
ミサカはあのような感覚を今まで感じたことはありませんでした、とミサカは思い起こします。
それは単なる『個性』だというには余りにも苦しく、倒錯的で。
ミサカ
おそらくミサカは自分でもどうする事も出来ない程、『彼女を愛してしまっていた』のです。
ミサカ
ミサカはこの想いを自覚し、すぐに伝えようと思いました。彼女が教えてくれたのは『理解し合うこと』
ミサカ
それを教えてくれた彼女ならば受け入れてくれると、そう思ったのです、とミサカは浅慮な己を自嘲します。
ミサカ
しかし、ミサカの想いは彼女に『拒絶』されてしまいました。その時の言葉は――」
耐えきれなくなったかのように少女の繊細な手の平が自身の胸を掻きむしった。
その言葉はその小さな胸にどれほどの傷を植え付けたのか。
ろくに動く事のない表情からそれを読み取る事は不可能に近かった。
しかし、皮膚を突き破ってしまいそうに忙しなく動く手の平の表情は悲痛で、痛々しい。
「その決定的な『違い』は、到底『解り合えない』のだ、とミサカは知りました」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:20:45.52 ID:30YllznRo<>
ザザ――ザ――ザッ――。
「ミサカは――」
嘆き、神に祈る少女の横でノイズが走った。
「クソが……こんなん本当にヒントになるのかよ。クソくだらねぇ……」
そして、例外なく木原の意識もノイズに落ちてゆく。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
「本当はずっと……同じでよかったのです。ずっと同一でよかったのに、とミサカは――」
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_――ザザッ ̄___ ̄
――ザザ――ザ――ザッ――――ザザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:23:32.20 ID:30YllznRo<>
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雨の中を二人の少女が駆けていた。
雨故か市街地であるはずのそこに人影はない。
彼女たちの頬を打つ雨はけして強くはなかったが、残酷なほどに冷たいそれは確実に体の熱を奪っていった。
――だが追いかける少女の体は熱い。
ぐるぐる廻る思考はまるで自分のものでは無いようだった。
狂ってしまったかのように冷静さを失っているはずなのに、
その自分をどこかで客観的に見ている自分も存在している。
二律背反。
彼女を愛おしいと思う気持ち。
彼女を憎らしいと思う気持ち。
だがその全ての感情を内包して、己の中の焔は激しいまでに燃え上がってゆく。
自分の吐く息が煩いくらいに響いていた。
手を伸ばせば彼女の短い手であろうともきっとすぐに、あの身を焦がす後ろ姿に手が届くのだろう。
脳裏で少女の笑顔が弾けた。
自分と同じ顔をしているはずなのに、自分では持ち得ない笑顔。
・ ・
いち早く他人と化した個体。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:26:28.81 ID:30YllznRo<>
それでも彼女の声は優しかった。
同一であることにしがみつく自分にもまるで女神のように道を示してくれた。
だから彼女が欲しかったのに。
拒絶の言葉とは、その存在自体が残酷だ。
心が軋むように痛んだ。
そして少女は躊躇いながらも手を伸ばして――。
「……ッ!」
血の気が失せた手の平が少女の細い肩をつかんで、そのまま組み倒す。
アスファルトで出来た硬い地面が容赦なく少女達の体を打った。
だが追いかける少女にとってそんな痛みなど胸を襲うそれに比べたら大したものではない。
彼女の華奢な両肩を掴んで、少女は叫んだ。
「何故……何故ですか……! 何故!!」
問いかける少女を見る彼女の目はただ恐怖に彩られていた。
頬には涙の後すら見える。
ネットワークに繋いでも彼女の声は欠片も聞こえなかった。
・ ・
そこにいるのはただ純然たる他人。
「な、ぜ……」
違いを拒絶された時から本当は少女は自分が持つ狂おしい程の歪みに気がついていたのだ。
バロック
そう。言うなればそれは性的倒錯性歪曲。
それでも少女は現実を素直に受け入れることもできずに、一縷の望みをかけて問う。
「……教えてください、とミサカは懇願します。
この歪な心は、この歪な貝殻は、ミサカの紅い真珠は歪んでいるのでしょうか?」
彼女は答えなかった。
答えぬ代わりに、肩を掴む少女の振り払おうと暴れ、そして――。
――眼前には階段があった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:28:05.15 ID:30YllznRo<>
――ダン、バキン、ゴ、ぐちゃ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:30:19.51 ID:30YllznRo<>
近くで聞いていたそれは驚く程に生々しく、だというのに現実味のない音。
「ふっ……ふふふ、ふふ……」
首が有り得ない方向に曲がっていた。
潰れて穴の空いた脳からはどろりとした液体が流れ落ちていた。
白い何かが覗き見えていた。
ぐちゃ、くちゅ、びちゃ。
手を動かせば、その死はより濃く確定されてゆく。
その肉塊は少女の体に戦慄を呼び起こした。
自分と同じ容姿をした死体ならば幾度となく見たはずだというのに、
その戦慄は少女の体をどうしようもないほどに竦ませた。
何個もの肉塊に弾け飛んだのは何号だったか。
全身がそれこそ操り人形のようにバラバラの方向に曲がっていたのは何号だったか。
内側から破裂したのは何号だったか。
それとこの死体は何一つ変わらないはずなのに。
ミサカ
だが他でもないこの個体の死は少女をどうしようもなくたたき壊してゆく。
「ああ……」
だから少女はそれを見て笑う。
これ以上なく幸せそうに笑う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:33:08.08 ID:30YllznRo<>
「――この罪は、ミサカとミサカの一生消えない絆ですよね、とミサカは微笑みます」
その瞳に赦しを乞うような色は欠片も存在しなかった。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:36:44.29 ID:30YllznRo<>
―――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
― ̄ ̄___ ̄―===━_ ――― ミ―カは ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━ ̄___ ̄―==
―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ―ミサ― ̄___ ̄―ミサ――
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ミサ――ザ――。
ザ――ザザッ――ミ――ザザザ――ザ――。
ザラザラとノイズに攫われようとする意識の中で、木原数多は何かの声を聞いた気がした。
それはきっと木原にとって絶対に逃してはいけない何かだ。
確信に似た感情を抱いて、それを掴もうと必死で思考を巡らせる。
頭に浮かぶのは眼前で上演された二つの茶番。
最終信号に一方通行。そして二人の欠陥電気。
走るノイズに、干渉できない木原数多。
そして。
― ̄ ̄___ ̄―===━_ ――― ミ――カは――しま―― ==  ̄―― ̄ ̄___==___ ̄―==
――あの声が聞こえた。
「何だってんだよ……」
聞き覚えのあるそれはノイズに微かに混じり木原の幽体のような体に混ざり込んでくる。
痛みがあるわけではなかったが、あまり気分のよいものではないのは確かだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:39:25.27 ID:30YllznRo<>
― ̄ ̄___ ̄―===━_ ――― ミサカは―― ==  ̄―― ̄ ̄___ミサ==___ ̄―==
またノイズが走った。
「ミサカ……?」
今度ははっきりと音を紡いだそれに、ぴくりと木原は反応する。
聞き覚えがある以前の問題だ。
それは他でもない、ついさっきまで彼の側にいた妹達の声。
「ミサカ、ミサカ、ミサカねぇ……」
ふと、彼の脳細胞をとある単語が駆け抜けていった。
「……いや、まさかな」
否定するように首を振る所作とは裏腹に、彼の声音はまるで何かを掴んだときのように明瞭に響く。
確証はない。
彼の知っている知識はそんな事ができるはずがないと必死に訴えていた。
だが。
だが、もしあの茶番が彼女たちの心の声を具現化したものだとしたら――?
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
「――ッ!」
走る痛みに顔をしかめる。
――そして彼の脳内に閃くのはとある光景。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:43:32.15 ID:30YllznRo<>
そこは見覚えのある――木原がつい最近まで使っていた研究室だった。
まず視界に入ったのは自分の体から伸びる電極。
そして必死に何かを記録しているコンピュータ。
メディア
目の間に無造作に放り出された記録媒体を見て笑う自分自身。
そこに入っているデータの中身をこの木原は知っている。
あそこに入っているのは彼が攫うべき少女と、それを絶対に阻もうとするであろう少年のデータだ。
彼はあの日学園統括理事長から命令を受け、そのチップを受け取ったのだ。
そして――。
「――思い、出した」
戦慄が電撃のような衝撃を伴って体を貫いたような感覚だった。
次々とまるで走馬燈のように浮かびゆく記憶。
走馬燈とは本来死の直前に見るはずのものだというのに、おかしな話だ。
一方通行についてまとめられたデータ。
本当はそんなものを貰わなくたって――少女はともかく――少年について木原は誰よりも深く知っていた。
だからこそ、木原はある種の覚悟をしていた。
あの化け物を誰よりも深く知っていて、誰よりも確実に殺せると知っていた木原だからこそ、その覚悟をしていた。
もしあの化け物が、自分が作り上げた化け物が自分の予想以上の化け物であったとき――。
――おそらく木原数多は死ぬのだろう、と。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:47:56.43 ID:30YllznRo<>
それは猛るような怒りを生み出す可能性だ。
しかしそれ以上に木原の知識欲がどうしようもなく刺激される可能性だった。
木原数多は一方通行という化け物を生んだ。
しかし彼が生み出した化け物は最強であろうとも所詮レベル5。
研究者が望んでやまない『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』には到底及びつくものではない。
だが、もしあの化け物が木原との戦闘を経てそこに到達するとすれば。
なにより彼が戦闘によってその能力の精度を上げることができるのは
絶対能力進化の存在そのものこそが証明しているではないか。
だから木原は己のバックアップをつくることに決めた。
人間の記憶を含めた全てのデータを記録媒体に保存する。
理論上はとっくに可能とされていた技術だった。
今までそれが実現されなかったのは偏にそれを人間にインストールする洗脳装置、
およびその負荷に耐えうるような素体を作り出すことが今までできなかったからだ。
結局こうして記憶が混乱している己の惨状をみやれば、それは成功とは到底言えないのだろうが。
だが木原はそれを選んだ。
この光景は確か、最終信号を確保してあの憎らしい少年にラブコールをしてやった後だっただろうか。
木原数多は今、全ての記憶を思い出した。
「……く、くくッ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:50:23.36 ID:30YllznRo<>
その記憶が示すのは即ち――こうして木原がここにいる事自体が、彼の死を証明しているということ。
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:52:12.58 ID:30YllznRo<>
「ぎゃはっ――ぎゃははは――ははははははは――はははははははははははは――!!」
芽生えた殺意の衝動はけして幻想などではなかった。
ひたすらに深い黒と眼前を塗り潰す赤のイメージ。
自分に迫る全てを超越した浮遊感。
これは幻想。
それを知るはずのない木原にとっての幻想。
だが、どうして自分はその幻想をこうまざまざと思い浮かべる事ができるのか。
――最終信号に一方通行。そして二人の欠陥電気。
ここには木原が完膚なきまでに消滅させられる姿を見た者がいる。
それは他でもない、木原を殺した張本人。
彼は言うなればこの場所の主ではない。しかし彼の痕跡がそこかしこに転がっているのは確実だ。
だから木原は知っていたのだ。
他でもないノイズの奔流に呑み込まれた木原は、きっと無意識にそれを拾っていた。
ここは、おそらく――。
「……ミサカネットワーク」
妹達の持つ欠陥電気の能力を利用して形成され、現在一方通行の失われた言語機能、演算能力を補助する為に
代理演算を行っている脳波リンク。
それは本来ならば同じ脳波を持つ妹達しかログインできないはずの、
言わば最高のセキュリティが施されたネットワークである。
だがどうしてだろうか。
木原にはそれが不可能ではないような気がしてならなかった。
ネットワークである以上介入する隙は確実にあるはずで、
実際に冥土帰しは一方通行と妹達の波長を合わせる技術を成功させている。
そして脳を持たず、ただ電子データとなった自分。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:55:17.85 ID:30YllznRo<>
まだ弱い。判断しきるにはどうしたって情報が足りない。
だが。
「――あ、なんだぁ? って――は――、妹達の妄想ってことかよ! そりゃあケッサクだな!!
ぎゃははははははははは――ははははははははははははははははははははッ!!!
――ったくよ、妹達ってぇのはどいつもこいつも痴女の集まりってか?
化け物相手にケツ振るロリビッチ――、自分と同じ顔に欲情する倒錯レズ、お――なんだぁ?
頭突っ込まねぇと満足しないガバガバ――コのド淫乱とかどうだ?
ちっとは俺を満足させるようなもんを見せろよ、この変態どもがぁッ――!!」
木原は確信した。
なぜならばそれは彼にとって余りにも都合の良い事実であったからだ。
「ぎゃは! ――ったく――セキュリティ甘――ぞミ――――ワーク!!!」
ミサカネットワーク。
一方通行の代理演算を行うネットワーク。
ここからならば、彼の精神を破壊することだって不可能ではない。
木原数多は冷静だった。
抉るような憎悪の痛みはすでにない。
あるのはただ痛みを伴わない混じりけの無い憎悪のみだ。
「あのクソ――気なクソガキを嬲って弄んで痛めつけて削ぎ落として抉って――けて――して、――て――て
――て――て――て蔑んで――て――て突き刺して――て――て貶めて――て――て――て――て殺してッ!!!」
そして、またノイズがやってくる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:58:06.93 ID:30YllznRo<>
「だから、テメェに逆算する糸口を絶対に探し出してやる」
_ ̄―===━___ ̄― ―――― = _ ̄― ―
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄―ザザ――ザ――___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___
 ̄―
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__ ____ __
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<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/05(日) 01:59:30.98 ID:30YllznRo<> 以上で今日の投下は終了です。
投下中にちょっと思ったんだけど、もしABYSSサイドのお相手が全部一方さんだったら
確実に百合子化しなきゃならない話がバロック含めて二つあるね。
それもおもしろかったかもしらん。
一方さんマジ便利。性別不詳的な意味で。
次回も土日のどちらかには確実に投下しにきます。
それでは。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/06/05(日) 02:51:30.51 ID:n05zrvRc0<> 乙
次も楽しみにしてる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/05(日) 09:44:48.46 ID:4IHxBbKAO<> 乙!
いいよいいよー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/05(日) 14:24:08.02 ID:uBPD3Ygyo<> / ヽ ヽ ヽ \
// ヽ ヽ ヽ \
/ ,′ l ヘ ヘ ∨ ヽ
/ / , / ! .| l ヘ l ヘ l .∨ ∧
/// ! / / ! l ! l、! l ヘ ∨ ',
.//./ ,' / l l !l l lヘト, l ! ヽ ∨ l .,
/,イ/ !/ l l ! .l.ハ ! l l _l,,マ !´! ̄ .\∨ !l ! 木原くン……
//! l レ / ! _!__ハ__ハ l ハ、!,イ!´ノイ `ヽト l ヽヽ! ト.',
.l/ l .l ./ / ´! ',_,! リ!ヽ! l リ !.,´_'__リ ヾ ! l 、、!!ヽ
リ l .l/イ .l !イ' !___ヽ. ! / l/l´ ̄ ̄` ! l | | lヽ、
!イ l ', .ト、'´ ̄``.l/ l .lイ l ! l トリ
' ハ l', ', ',l、 ! ヽ リ! ,ハ .l .l l
!ハ !ヘ ヘ l ヽ _, | .,' .l/l .lリ
'lヘ ∨ ト、!、 丶-  ̄ l /! l:jl ル'
ヘ∨l、ヽヽ、 イ ! ハ !
ヽ!、ハ ./! .l>. / | l/ l!
l/ ヽ.!ヽ ヽ> / !/lリ
\! ¨ リ
', ,′!
,ィ ', ,′ ヽ、
_,,/ l ヘ l ` 、_,,
, イ:::::::::::`::::::-....____!___,, ィ:::::::::::::::`::::..., 、__
__,, ィ:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /:`::::.-....、
, イ::::::ヘ ∧::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/ /:::::::::::::::::::::ヽ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/12(日) 07:54:58.75 ID:ftAm8s1DO<> まだかなーまだかなー⊂⌒_∪・ω)_ <>
1<><>2011/06/12(日) 20:14:36.95 ID:1mA3+qdeo<> お待たせしましたー。
今からTrack05+αを投下開始する。
いつもとちょっと投下環境が違うから、変なんなってたらごめんなさい。
レス本当にありがとう。いつも楽しみにしてる。
一方さんの笑顔にドキッとしちまったぜ!
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:18:00.92 ID:1mA3+qdeo<>
-------- Track 05 _Elaboration
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:21:21.85 ID:1mA3+qdeo<>
それは貧弱な子供だった。
「木原数多。今日からクソガ、……オマエの担当になる科学者だ」
「……」
――本当に可愛げの無いクソガキ。
木原数多は彼の最大限の笑顔を以ってしても一言も言葉を発しようとしない少年を見て、内心でこっそりと悪態をついた。
どうせ長くは続かないだろうが――彼としては異例なことに――気に入られようと最大限努力した結果がこれである。
彼の嘆きも当然だった。
改めて出会ってから口を噤んだままの少年を見遣る。
黒い髪に黒い瞳。
見た目を裏切らず外で遊ぶような子供ではないのだろう、その肌の色は不健康に白かった。
顔はまあまあ整っているのかもしれないが、まだ完成されていない子供の頃の容姿など意味を成さないのも同然だ。
なまえ
そして、珍しくも面白みもない五文字の識別名。
特別な何かを感じるでもない、どこにでも――少なくともこの学園都市では――転がっていそうな平凡な子供。
あえて特徴をあげるならばその折れそうなほどに細い骨張った身体と、その身体のあちこちに刻み込まれた傷痕。
そして世界のすべてを跳ね退けるようなぎらつく視線だけ。
だがその身に刻み込まれた不幸でさえこの都市に蔓延る闇には遠く及びつかない。
だが木原数多の胸中は未だ、彼を初めて見た時の衝撃で満たされていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:25:07.02 ID:1mA3+qdeo<>
木原が素養格付で筆頭に名を連ねる子供を任されることになったのは、つい最近のことだ。
天才と持て囃されていた。
その若さと才能に嫉妬されていた。
それに見合うだけの自負心を持ち合わせていた。
だから上からその話を持ち掛けられたとき、木原は当然のようにそれを受け入れた。
幼い頃から抱いてきた、自分が最強を生み出すのだという確信は彼の中に留まり続けている。
その夢に一歩近づいた。彼にとってはたったそれだけのことだ。
だがあの身に走った戦慄をいったいどんな風に表現したらいいのだろうか。
平凡な子供。
平凡であるはずの子供。
だが、非凡な才能を秘める子供。
その子供は体を小刻みに震わせながらもその小さな部屋に一人佇んでいた。
きっとその様は彼の病的な細さも相俟って、酷く哀れな姿に他人の目には映るのだろう。
しかしその瞳の奥の拒否の色は濃く、深淵の闇を湛える。
深く昏いその闇は一瞬にして木原の心を捕えた。
そこには化け物が持っているはずの白も赤も存在していない筈なのに、何故だろうか、
彼は瞳を逸らす事ができず――。
多分木原を支配する戦慄の正体は近づく運命の鼓動だったのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:28:09.90 ID:1mA3+qdeo<>
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「……おい、ガキ」
内心の動揺を気取られないように努めて冷静に、木原はもう一度少年に話しかけた。
その声につい先程まで確かにあった筈の遠慮は既に存在しない。
名前は聞いていたが、こちらが名乗ったと言うのに名乗りもしない子供の名を呼んでやる気はさらさらなかった。
「……」
狭い部屋の中。
小さな机を隔てて落ちる沈黙はあまり居心地のいいものではない。
「……ちッ」
随分無口な子供だ。
虚ろな黒い瞳はこちらをちらりとも見ずに、何処かを一心不乱に見つめ続けている。
――まるで、何かを期待するように。
こういう反応を示す子供は珍しくはなかった。
特に木原が今まで弄くり回して来たような子供達は大概が訳ありで、
精神が壊れてしまっているものだって少なくはない。
だが今回はいつものように使い潰してしまっていい実験動物ではないのだ。
それが悦ばしいことでもあり、面倒なことだとも思う。
木原は少年の視線を追うように小さな部屋の入り口を見、そして気がついた。
「……なるほど」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:31:25.33 ID:1mA3+qdeo<>
多分、少年が見ているのはつい先程消えていった母親の背中。
彼の母親は今、『大事な話』をする為に別室で学園都市の理事会が派遣した男と共にいる。
少年にとってはおそらく久しぶりに会った母親の姿だったはずだ。
どんなに幼い子供であろうとも、この学園都市では親と離れて暮らすことになる。
表向きではこの都市の進んだ科学技術でお子様の安全は完全保証、全寮制なのは勉学に集中してもらう為。
そんな綺麗事を吐いているこの都市だが、実際の所は親に知られては面倒な後ろ暗い事情が跋扈しているから、
それだけのことである。
だからこうして学園都市側――特に普通の学校ではない研究機関が子供の親を呼ぶのは異例のことだ。
――素養格付というものが存在する。
学園都市にやって来る子供達を対象に例外無く行われる検査。
何十年もの間、異能の力を研究してきたこの学園都市では、すでにたった一日の検査でその子供の素養を知る方法がある。
その検査で過去と照らし合わせても異常な数値を叩き出した少年。
その注目度は凄まじいものであった。
多くの研究機関が彼を欲しがったし、実際に理事会への上申が殺到した。
誰もが天上への道を欲した。
自分の出した開発方法がそれを生み出すのを望んだ。
だが最強の能力者を生み出すような実験がまともで有り得る筈がなかった。
非人道的な実験をくり返せば当然のように子供は表に出せなくなり、その傷痕は到底隠し果せるようなものではない。
結果、外との遣り取りが途絶えがちになり、それはおそらく不審を呼ぶ事になるだろう。
もし少年が置き去りの子供であったのならば問題はなかった。
だが現実問題、彼の親は存在する。
だから理事会は彼の親を、親である権利を捨てさせるためにこの学園都市に呼んだ。
要するにこの少年は親に売られたのだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:34:22.60 ID:1mA3+qdeo<>
――もっともその必要も無かったかもしれない。
木原は先程廊下ですれ違った女の姿を思い起こして考える。
虐待されたような傷痕を持ってこの都市にやってきた少年の母親は、それに相応しいだけの昏い色を持っていた。
そこにあったのは既に捨てた筈の子供に係うことへの厭わしさだけ。
正直どうして『置き去り』にしなかったのか、疑問に思うレベルだ。
もっとも理事会側は彼の母親がこちらの要求を撥ね除ける事などないと見越していたのだろう。
だが皮肉なものだ。
どんなに酷い母親であろうともきっと、彼女は少年にとって唯一の親。
――木原には、興味のないことだが。
だから科学者は笑う。
「ガキはまだママのおっぱいが恋しいですぅ、ってか?」
「……」
「口が利けねぇのかよ、おい。イヤなガキだな」
「……どうせ」
子供らしくない平坦な声だった。
黒い瞳が初めて木原を映す。
感情の籠らないそれは何も期待していないように見えた。
だが語る言葉は少年の願望を如実に表す。
「……どうせおれの事、捨てるンだろ。なら口聞く必要、ない」
傷つきたくない。
多分、彼が求めるのはたったそれだけ。
「ばっかじゃねえの?」
だから科学者は嘲笑う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:37:27.05 ID:1mA3+qdeo<>
「何で俺がテメェの事捨てねぇといけないんだよ。
いいか、こちとら血反吐吐くような努力してテメェみたいなクソガキ勝ち取ってんだ。
そうそう簡単に捨てちまってたまるか」
「……っ!」
その言葉を一体どんな風に受け取ったのか、少年の瞳が動揺に揺れる。
それは戸惑っているようでも喜んでいるようでもあった。
――そうか。
科学者は嗤う。
悪くない反応だ。
きっとこの少年は今でも人への未練を捨てきれていない。
実験を被験者の同意を得られずとも進めていくことは可能だった。
だがなによりも『自分だけの現実』を重んじる能力開発に置いて、協力を得られるに越した事はない。
つまり少年の信頼を勝ち得て損する事はないのだ。
心中に巣食う打算の心がむくむくと膨らんでゆく。
らしくないことだったが、大義の為に自分を演じてみるのもなかなか面白そうだ。
「おい、クソガキ」
「なン、だよ」
「テメェは今日から俺と一緒に頂点を目指すんだ。
泣き言吐いたら殺す。実験について来れなくても殺す。だがな、テメェが頑張ったら褒めてやるぜぇ?
ご褒美、欲しいだろ?」
「……そンなの、いらない」
「……さっきも言ったように、俺はテメェに出会う為だけに生きて来たようなもんなんだよ。
甚だ心外だがな。
俺の期待に答えろよ、クソガキ」
嘘はついていない。
ただそれが、残酷なまでに言葉通りであるだけ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:40:43.45 ID:1mA3+qdeo<>
「……」
少年の瞳が迷うように揺れていた。
何度も裏切られてもなお信じるべきか否か、迷っているのだろう。
黒い瞳の奥に光る鋭い光が一瞬陰りを見せた気がした。
だから木原は立ち上がり、手を伸ばす。
触れた髪の毛は子供らしく繊細で柔らかだ。
悪くない障り心地だった。
そのままわざと乱すように掻き回して、少年の瞳を見据える。
睫毛が僅かに震えた気がした。
「行くぞ、ガキ。今からテメェの世界を見せてやる」
科学者は微笑う。
そして少年は一つ、首を縦に振った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:43:21.02 ID:1mA3+qdeo<>
――それから数ヶ月後。
木原数多は一方通行の能力を発現することに成功する。
実験のショックからだろうか、それともその化け物じみた能力の弊害か。
少年の姿はたった一夜にしてすっかりと変わり果てていた。
黒かったはずの髪の毛は白く、もともと白かった肌も病的なまでに白い。
そして瞳を彩るのは何処までも純粋な赤。
だが、その奥に閃くぎらつきだけは失われず。
白と赤。
いつか見た少女のような濁りは存在しない、究極の完成形。
偶然か必然かそれは少年の八歳の誕生日。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:46:23.82 ID:1mA3+qdeo<>
A accelerator
この日、 少年 は 化け物 との出会いを果たした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:50:09.94 ID:1mA3+qdeo<>
-------- Track ?? [地平線の外側 二 Outside_of_Horizon_02]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:53:22.46 ID:1mA3+qdeo<>
能力を失った時から――正確に言うならば暗部落ちした時から
いつ襲われても良いように気は張っていたつもりだった。
実際どんな些細な音でも目覚める自信はあった。
だが居心地悪くも心地良い時間にその警戒心が侵蝕されていたとすれば?
杖を握る手に力が籠る。
手に残るノブのひんやりとした感覚だけが妙に現実味を帯びてそこに存在していた。
「クソッ……」
わかっている。
こんな不安感は単なる杞憂に過ぎない。
首を振って嘆息する。
一方通行は自分がこの平和な空間に侵されてなどいないことを知っていた。
彼の奥底でずっと燻り続けている居心地の悪さは未だ健在だ。
もし異常事態が起きればすぐにでも彼はまたあの赤が支配する世界に戻る事ができるだろう。
そしてその自信があるからこそ、この家に帰って来たのだ。
「……らしくねェ」
こんなものはいつものようにお気に入りのコーヒーを飲んでしまえば消えてなくなるはずだった。
自嘲気味に呟いて、ドアを開く。
開けてすぐ目に入ったソファに見慣れたアホ毛が揺れていた。
呆気なく見つかった少女の姿に詰めていた息を吐いて、何事も無かったかのように冷蔵庫の元へと向かおうとする。
――が、違和感を感じて立ち止まる。
<>
ごめん、ミス >>116は無かったことに<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:55:27.23 ID:1mA3+qdeo<>
寒い朝はどうしたってベッドが恋しくなる。
それは学園都市最強の能力者である一方通行でも例外ではない。
もともと朝が強い方ではなかったが、
温かな布団にくるまれてあと五分、十分と惰眠を貪り続け、気がつけば昼。
昔は当然の光景であったが、黄泉川家に再び居候し始めてからは多少改善されたはずだった。
原因はわかっている。
何故かいつも起こしにくるはずの妹達の姿がなかったからだ。
――そう言えば、番外個体は朝から調整だったか。
のそりとベッドから起き上がり、部屋を出、台所へと向かう課程で思い出す。
家は珍しい事に随分と静まり返っていた。
もともと広い家ではあったが、普段ならば有り得ないしんとした空気に
がらんどうのような雰囲気さえ漂っている。
基本女ばかりのこの家にあるまじき光景だ。
「……ったく」
静かであるにこしたことはないはずなのについそんなふうに考えてしまう自分に、
嫌気がさして嘆息する。
一方通行はリビングに続く扉を開けようと金属製のノブを掴み――。
ふと嫌な予感を胸の辺りに感じた。
あまりにも、静か過ぎやしないか?
黄泉川は仕事に行っているからいないのは当然だ。
番外個体は冥土帰しの病院。
芳川は確か珍しいことに昨日の夜に出かけるのだと言っていた気がする。
――ならば打ち止めは?
「……ッ」
這い寄るような黒いものの正体を一方通行は知っていた。
それは不安だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 20:58:07.74 ID:1mA3+qdeo<>
能力を失った時から――正確に言うならば暗部落ちした時から
いつ襲われても良いように気は張っていたつもりだった。
実際どんな些細な音でも目覚める自信はあった。
だが居心地悪くも心地良い時間にその警戒心が侵蝕されていたとすれば?
杖を握る手に力が籠る。
手に残るノブのひんやりとした感覚だけが妙に現実味を帯びてそこに存在していた。
「クソッ……」
わかっている。
こんな不安感は単なる杞憂に過ぎない。
首を振って嘆息する。
一方通行は自分がこの平和な空間に侵されてなどいないことを知っていた。
彼の奥底でずっと燻り続けている居心地の悪さは未だ健在だ。
もし異常事態が起きればすぐにでも彼はまたあの赤が支配する世界に戻る事ができるだろう。
そしてその自信があるからこそ、この家に帰って来たのだ。
「……らしくねェ」
こんなものはいつものようにお気に入りのコーヒーを飲んでしまえば消えてなくなるはずだった。
自嘲気味に呟いて、ドアを開く。
開けてすぐ目に入ったソファに見慣れたアホ毛が揺れていた。
呆気なく見つかった少女の姿に詰めていた息を吐いて、何事も無かったかのように冷蔵庫の元へと向かおうとする。
――が、違和感を感じて立ち止まる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:01:06.29 ID:1mA3+qdeo<>
いつでも喧しいこの少女が挨拶を欠かすことなどないはずなのに、今日はそれがなかった。
彼に気がついていないわけがない。
扉とソファの距離はそうそう離れていないし、音だってしっかりと響いている。
ましてや杖をつかねば歩けない一方通行である。その特徴のある足音を彼女はしっかりと聞き分けていた。
かといって寝ているのかと思えば、テレビと対面するような形で座る打ち止めの瞳はしっかりと開かれている。
そもそもテレビなどついていないのに、少女は一体何を見ているのか。
一方通行は訝し気に打ち止めの横顔を見つめ――気がつく。
「……っ! おい、クソガキ!」
どこか虚ろで、僅かに額に汗を浮かべたその表情は何かを連想させた。
忘れもしない八月三十一日。
天井亜雄に打ち込まれたウィルスコードに侵された少女の姿。
「おい!」
ぞくりと背筋に悪寒が走った。
ぐちゃぐちゃと重苦しい何かが胸の奥を圧迫する。
自分はまた何か大切なものを見逃していたのか。
そう考えるだけで、どうしようもないような吐き気がこみ上げてきた。
一体誰が、何の目的で、どんな風にして、どうすれば。
学園都市一を誇る頭脳があらゆる可能性と対処法を演算してゆく。
だがその演算が終了するよりも前――打ち止めの異常に気がついた瞬間に一方通行は動いていた。
杖で強く床を弾いて少女の元へと文字通り跳んでゆく。
そして打ち止めの小さな肩を掴み、その感情の籠らない瞳にぞっとして――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:04:12.95 ID:1mA3+qdeo<>
「――あれ、どうしたの? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」
「――」
能天気な声に、がくりと一方通行の肩が落ちる。
「おい……おいィィ……」
もう何も言えなかった。
とりあえず呻くようにそれだけを呟いて首を横に振る。
感じた不安に比例するように心中の疲労感は大きかった。
「え? え?? 本当にどうしたの? ってミサカはミサカは様子のおかしいあなたを心配してみたり」
「しん――ッ!」
心配したのはこちらの方だ。
思わずそう叫びかけて、それが自分の柄ではないことに気がついて口を噤む。
「……オマエの様子がおかしィのが悪いンだろォが……」
代わりに出たのはいつも通りの愛想のない悪態。
「ちょっとぼけっとしてただけだもん、ってミサカはミサ――あっ!!」
だがそんな見え透いた誤摩化しなど、この少女の前ではなんの力も発揮しない。
打ち止めは一方通行の悪態など意にも介さずに笑い、そして声を上げた。
「もしかしなくてもミサカのこと心配してくれたのね
ってミサカはミサカは過保護なあなたに愛を感じちゃったりしてキャー☆」
「はァ?」
「いつもと違う様子のミサカに不安で不安でしょうがなくなっちゃったんでしょ
ってミサカはミサカはミサカに都合のいい願望を口にしてみたり」
「うるせェぞクソガキ! また面倒なことになるのがウゼェだけだろォが!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:07:17.26 ID:1mA3+qdeo<>
――間違っていないだけ、悔しかった。
すでにいつもの調子を取り戻し、一秒ごとにくるくると移り変わる表情から一方通行は視線を逸らした。
あくまで一方通行は主張したいが、これはけして照れ隠しなどではないのだ。
嬉しそうにみょんみょん跳ねるアホ毛が煩わしかったので、ついでに頭を小さくはたいておく。
「やーん、いったぁ! もうっ、馬鹿になったら責任とってくれて構わないんだからね、
ってミサカはミサカは遠回しに願望を主張してみる」
もはや今の打ち止めの姿にはつい先程まで見せていた弱々しい様子は欠片も存在しなかった。
特に無理しているような様子も見受けられないし、元気なのは間違いないだろう。
――だが、ぼんやりしていた理由はどう考えても嘘だ。
いくら鈍い人間だろうと汗を浮かべた少女の姿が異常であることくらい、確信できる。
「……おい、オマエ本当に体の調子がおかしかったりしねェのか?」
打ち止めは確実に何かを隠している。
だが、一方通行は煙に撒かれるのを承知で問うた。
「大丈夫だよ。
あなたの心配するようなことはないから、ってミサカはミサカはあなたを安心させる為に笑ってみる。
ミサカのこと信じて欲しいなってミサカはミサカはお願いしてみたり」
対する打ち止めの柔らかな色の瞳は意外にも真摯な色を宿していて。
一方通行は少女が見た目よりもずっと大人である事を知っている。
もちろんまだまだ子供である彼女を放っておく事などできないが、
こうして信頼を問われてしまえばそうそう口出しできなくなってしまうのも事実だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:10:19.28 ID:1mA3+qdeo<>
「……早めに言えよ。また面倒なことになるのはごめンだからな」
「やだ……あなたがそんなにミサカのことを心配してくれてるなんて……」
少年の普段ならばありえない言葉に、少女の瞳が感激に潤んだ。
もともと大きな目を零れそうな程に見開いて、じっと一方通行の赤い瞳を見つめる。
居心地が悪くなって視線を逸らせば、柔らかな色がとろんと蕩けるように瞳の湖を揺らした。
打ち止めは何かを耐え忍ぶかのようにぎゅっと拳を握りしめ、そして――。
「とっても幸せ! ってミサカはミサカはミサカネットワークで自慢してみたりっ!」
とんでもないことを言い出した。
――いやいや、自慢?
自慢ということは、流すわけだ。
この一連の会話を。
ミサカネットワークに。
「……」
「……」
はて。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:13:22.08 ID:1mA3+qdeo<>
「待てェッ! おいクソガキ、オマエ俺に無許可でなに流そォとしてンだよ!
なンだかわからねェけど、すげェムカつく会話が聞こえる気がするンですけどォ!!!」
いや、けして気のせいではないだろう。
その実体を知る事は叶わないが、チョーカーでミサカネットワークに繋がっている一方通行には確信に近い何かがあった。
いつの時代だって女が寄れば姦しい。
きっとロリコンだのセロリだのモヤシだのペロペロだのめちゃくちゃ言われているに違いない。
「見て皆! ミサカはこの人にこんなに愛されてるんだよ! ってミサカはミサカは――」
「おいいィィ、やめろォォォ!!!」
リビングに悲痛な叫びが木霊する。
黄泉川家は、今日も平和だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/12(日) 21:17:45.80 ID:1mA3+qdeo<> 以上で今日は投下終了です。
ぐおおおォォォ!!!
もう投下ミスはしないと誓ったのに!
ごめんなさい…。
次回も土日のどちらかに投下しに来ます。
ちょっと投下量が少なくなるかもしれません。
それでは。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/12(日) 21:37:12.03 ID:neZZDB6DO<> おつおつ
嵐の前のなんとやらってやつだな…
平和な通行止めがここまで不安を煽るとは <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/12(日) 22:48:55.71 ID:hZDVAqYAO<> 乙
ドキドキだわ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/06/16(木) 01:42:10.11 ID:LQklT9FKo<> とんでもないスレを見つけちまったようだ
被検体に実験のArk、限りなく同一であるBaroque、
そして病的に白いA・・・めちゃくちゃたぎった
続き楽しみにしてます <>
1<><>2011/06/17(金) 20:37:24.40 ID:Wv5WTvQto<> 毎回レスありがとうございます!
ちょっとスレタイ失敗したかなと思っていたので見つけて貰えると嬉しいです。
いつもは地味な話ばかり書いているので嵐が起こせる超不安ですが、
生暖かい目で見守っていてください。
とりあえず>>126は糸を紡ぐ老女に気をつけて。
今日たまたまお休みが貰えたので、思ったより早く書き上がりました。
どうも一回の投下量が多いかなと思ったので、試験的に二日間に分けて投下するよー。
※ ! ! CAUTION ! ! ※
今回の投下内容には濃厚(にしたかった)エロが含まれます。本番有り。
とくに飛ばしても問題無いはずなので、ダメな人はスルーすることをオススメします。
名前欄にわかるように明記しておくのでよろしく。
それではTrack06前半戦行きます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:39:30.71 ID:Wv5WTvQto<>
-------- Track 06 Yield
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:42:32.73 ID:Wv5WTvQto<>
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
_ _____ ̄ ̄ ̄ ̄‐  ̄ ̄ ‐―― ___ ̄ ̄―― ___―― ̄ ̄___ ̄ ==
―― ̄ ̄___ ̄ ===━___ ̄ ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄ ===━
__ _____ ̄ ̄ ̄ ̄‐ ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄
ノイズの向こうに、ささやかに光る金色が見えたような気がした。
__ _____ ̄ ̄ ̄ ̄‐  ̄ ̄ ‐―― ___ ̄ ̄―― ___―― ̄ ̄___ ̄ ==
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
―― ̄ ̄___ ̄ ===━___ ̄ ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄ ==
寄せるだけの人の波が、木原の周囲を取り囲むように流れていた。
肩口を、足先を無遠慮にすり抜けてゆく人の群れ。
それはまるで幽鬼の百鬼夜行だ。
――ざざ、ざざ、ざざ。
雑踏がまたやってくる。
ノイズにも似たそのざわめきは、不思議なことにいくら集中してもその内容を聞き取ることはできなかった。
ただただ、無為に発生してゆく音
それはもしかしたら、この世界が幻に過ぎないことを証明しているのかもしれない。
だが、意味を成さないただの騒音は、不快な澱だけを木原の耳に落としてゆくだけだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:45:20.63 ID:Wv5WTvQto<>
――ざざ、ざざ、ざ。
このざわめきにも、この人の多さにも木原には覚えがあった。
ここは見慣れた学園都市。
確か、第七学区の繁華街の一角だったか。
とはいえ、ここは木原に馴染みのない場所だった。
あくまでこの都市は学生の街。
それが建前上のものだけであるにせよ、この街にあるのは学生のために作られた施設がほとんどで
木原のような科学者が出歩くような場所はあまり多くない。
この繁華街もそういう施設ばかりを集めた場所なのだ。
だが馴染みがないはずのその場所で、鋭い視線が木原を貫いていた。
「――なぜ」
感情の篭らない、だが清涼な声質。
その声を聞いた瞬間、またか、と思った。
その茶色は既に見飽きている。
その色はここにやって来てからもう幾度も巡り合った色だ。
だが、それ以上にかつてなかった事実が木原の体をどうしようもないほどに震え上がらせる。
それはけして恐怖からくる震えではない。
これは――そう、いうなれば快感だ。
新しい知を得るときに感じる快感。
木原がもっとも好む快感。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:48:27.60 ID:Wv5WTvQto<>
レディオノイズ
「よお、 人形 。ったく、待ちわびたぜぇ?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:49:06.52 ID:Wv5WTvQto<>
――ついつい嘲弄めいた口調になってしまったのは悦び故だろうか。
木原の黒い瞳が歪に笑った。
学園都市の第三位のクローン体、妹達。
やはり彼女はこの世界において木原とは根本的に扱いが違うらしく、
木原をすり抜ける雑踏はしっかりと彼女を避け、人のクレーターが出来上がっていた。
すでに二度も果たされた邂逅。
だが今までの個体とは別個体であるのか、その胸元には見覚えのないネックレスが揺れている。
表情は相変わらず無表情だったが、かなり動揺しているのだろう、
彼女が体を震わせるたび、安い金色を放つオープンハートが揺れるのが愉快だった。
だがそれだけではない。
何よりも木原を悦ばせたのはその瞳だ。
彼女の目はこの世界ではあるまじきことに、しっかりと――木原数多を見据えていた。
「クククッ……」
思わず笑い声が唇から漏れ出す。
――愉快だ。実に愉快。
パターン化し始めた展開に投じられる新たな石。
自分にとってけして悪くない展開に木原はその笑みを止められない。
「おいおい、そんなユーレイ見ましたみたいな目ェして俺を見んなよ。
意外とデリケートなんだぜ? 傷つくだろうが」
「――ッ!」
「ま、感謝してやるさ。……ようやく見つけてもらえたんだからなぁ。
こちとら聞きたいことがありすぎてビンビンなんだよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:51:10.33 ID:Wv5WTvQto<>
だが、木原が求める回答の一部はすでに少女の態度が如実に語っている。
――どうやらこの妹達も木原と同じく、電波の迷い子であるらしい。
木原を警戒しながらも周囲を見渡す視線には明らかに観察の意が込められていて、
立ち尽くす姿には落ち着きが無いようにも見えた。
「もっともテメェもここに関しちゃあ処女同然みたいだがな」
「……。木原、数多。何故あなたがここにいるのですか、とミサカは警戒しながら問います」
少女は自らが口にした言葉通り警戒心が滲む表情で木原を見据える。
馬鹿馬鹿しいが、わかりやすい口調だ。
木原はますます笑みを深めた。
「俺の仮説を証明するのに協力してくれよ、欠陥電気。
テメェが妙にオドオドしてやがるのが気になるとこだが……。
ここはミサカネットワークの中、だろ?」
――それは一瞬だった。
木原が全てを言い終わるより前に、青白い光が少女の手から放たれ意思を持って空中を走る。
空気を裂くような音ともに襲い掛かるそれは雷撃の槍だ。
おそらく木原が木原数多でなければ、微塵も動くことはできなかっただろう。
しかし木原は視界をそれが掠めた瞬間、動いていた。
それは多くの能力開発を手がけてきた故の研究者としての『異能』。
だがそれこそ高速で放たれる槍を避けきれるはずもなく――右半身に走る違和感。
「ッ! ゴキゲンなご挨拶だなあ! このクソアマがあぁアア!!!」
「!!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:51:49.24 ID:Wv5WTvQto<>
――動ける。
木原の判断は早かった。
雷撃の槍が直撃したのを見届けた少女が腕を下げた隙を狙って、飛び掛る。
〇.一秒以下の隙間を縫うことができる木原の身体能力は伊達ではない。
――少女は動けなかった。
鍛え上げられた彼の拳は確実に少女の華奢な体を捕らえ――文字通りその腹にめり込んだ。
生暖かい何かに包まれるような気持ちの悪い感覚が腕を包み込む。
――ザザッ――。
「!?」
「ちィッ!!!」
またか。
すり抜ける自分の腕を見て、木原は腹立たしげに舌打ちをした。
自身の体に走ったわずかな痛みにもしやと考えたが、やはり木原はこの世界に干渉できないようだ。
だが――。
腹部を押さえてこちらを睨み付ける欠陥電気と視線を合わせる。
木原と同様、まったくダメージがなかったわけではないらしい。
それは互いに認識したが故の変化なのか。
それとも、他の何かの要素が絡んだ結果なのか。
「……これは、喜ぶべきかねぇ」
ぼそりと呟く木原の声は低い。
しかし少女は木原のように落ち着いてはいられなかった。
彼女はかつての一方通行との戦闘時を思い起こさせるかのような色を、薄くその瞳に乗せたようだった。
いや、それは一方通行に向けていたものとは多少毛色の違うものといえるだろう。
その名前は――おそらく、敵意。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:52:57.84 ID:Wv5WTvQto<>
「……あなたは何者ですか、とミサカはもう一度強く回答を求めます」
「そんなに怖い声だすんじゃねぇよ。ちびっちまうだろーが」
「答えてください、とミサカは実力行使を辞さない強硬な姿勢を示します」
「あぁん? さっきお得意のビリビリが効かなかったの、もう忘れたってか?
だいたいよぉ、俺が誰かってさっき自分で呼んでただろーが。ったく痴呆ってのはこえーなあ! ぎゃははッ!」
緊迫した雰囲気のまま、対峙した二人の間に木原の哄笑が響き渡る。
「……このミサカが知る木原数多は九月三十日に一方通行の手によって殺されたと記憶しています、
とミサカは警戒を解かず続けます。
仮に木原数多が生きていたと仮定しても、ここにいる理由に説明がつきません。
どうやってここに、とミサカはもう三度目になる質問の答えを促します」
「ククッ。そりゃあ俺の方の質問には答えてもらったって思っていいのかねえ?」
「……」
「はいはい。沈黙は肯定、っとぉ」
「質問に――」
「教えて欲しいのはこっちの方だっつぅの。ま、あえて言うなら幽霊、だな」
少女の声を遮るようにして、木原が出した解答は予想以上にふざけたものだった。
それを馬鹿にされたのだと判断した少女の無機質な瞳に、心なしか冷たさが増してゆく。
「これ以上無為な時間を割くというならこちらにも考えがあります、とミサカは警告します。
はやく答えを――」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:53:47.02 ID:Wv5WTvQto<>
ジリ、とこめかみに砂を噛みしめたような不快な感覚が襲った。
これは――前兆だ。
「待てよ」
「? 何か――」
ザザ――ザッ――――。
木原の声に数竣遅れて、ノイズが走った。
空間ごと歪ませてゆくそれの空気を、既に彼は読めるまでになっていたらしい。
ぞくぞくと足先から上るような快感に身が震える。
それは何故か何かを引き寄せる感覚に姿を変え――。
「来るぜぇ?」
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――ザザザザ!
ノイズが笑う木原の姿を覆い隠した。
「ぎゃっはははははははははははははは!! なるほど、なるほどなぁアア!!」
そして周囲をただ歩くだけの群集を散り散りに裂き――そこに現れたのは一人の少年。
不明瞭な視界の中で崩れてゆくクローンの無表情を見て、木原は嘲笑した。
無造作に立てられた黒い髪に、黒い瞳。なんの変哲もない学ランに身を包んだ少年。
――幻想殺し。
少女の心を掴んでけして離さないその少年の姿は、時折立体映像のように揺らいでいた。
だが、きっとそれは少女にとって紛れもないリアルとしてそこに存在している。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:55:42.92 ID:Wv5WTvQto<>
「あなたは……」
自らが生み出した幻想に息を呑む少女の姿はなんと滑稽で哀れなのか。
またノイズが世界を掻き乱す。
繁華街を明朗な笑顔で歩く少年の傍らには『女』の姿。
『女』は銀色の髪の毛を風に靡かせ、熱に潤んだ茶色の瞳を傍らに向け、
艶やかな黒髪を少年に掻き回され、小さな手の平で学ランの裾を掴んでいた。
それはノイズが走る度移ろいゆく、具現化された嫉妬の的。
それが単なる幻想であるのは明白であるはずなのに、少女の表情は硬い。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
「何故――ミサカではいけないのですか? とミサカは――。
ザザ――ザッ――――。
ミサカは何を――今は木原数多――。
――ザザザ――ザ――――。
あなたに、ミサカを見て欲しい――
もっと早く、もっと早く出会えていれば――。
ザザ――ザッ――――。
違います。ミサカは――。
ザ――ザザッ―ザ――ザザ――――――。
ミサカは――ミサカは――――」
それは異様な光景だった。
ノイズが強くなる度、平常から異常、異常から平常へと変わる少女の表情。
じわじわと広がってゆく歪みは少女のそれを徐々に、徐々に黒く染め上げてゆく。
それはネットワークの正式な住人ですらこのノイズからは逃れられないのだという事実を示していた。
「難儀だな」
木原は理解する。
このノイズはネットワークに巣食うバグなのだ。
一万弱もの脳を繋いだ蜘蛛の巣に寄生し、邪な願望を具現化する歪な蟲。
そして少女の声からノイズが消え失せ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:56:12.17 ID:Wv5WTvQto<>
「――それでもミサカは幸せになりたいのです、とミサカは――」
世界は少女と共に、ノイズの海へと沈んでいった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:56:54.43 ID:Wv5WTvQto<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
お願いします。
お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。
お願いします。お願いします。お願いします。
お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。
ザザザザ――ザザ――――ザ。
お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。
お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。
お願いします。
「……お願いします。今夜だけ――ミサカを、抱いてください」
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:58:12.63 ID:Wv5WTvQto<>
その大きな右手に触れられた箇所だけが、異様な熱を持っていた。
「あ……はぁ……ぁ、んん……」
するすると内股を這い回る手の平はまるで少女を焦らすかのようだ。
核心に触れてもいないそれは、初心なはずの彼女を確実に昂らせてゆく。
じわじわと快感が下腹部に広がった。
「あ、ぁんっ」
「……かわいいな」
――こんな感覚を人形であるはずの自分が知ることなど一生ないのだと、以前の自分ならば思っていただろう。
だがその幻想を突き崩した少年自身の手によって、少女はどうしようもなく感じさせられてゆく。
触れられるたびに、幸福が募った。
募った幸福は、胸に空いた隙間を暖かい何かで埋めていった。
そして埋められた心はより深い安らぎと快楽を求めて少年に溺れてゆく。
「こっちも、かわいい……」
右手が腿をなでる傍ら、左手が少女の慎ましやかな双丘を愛撫する。
起伏のあまりないそんなものに触れて何が楽しいのだろうと疑問に思いながらも
くすぐったい感覚が妙に気持ちが良くてされるがままに身を預ける。
きゅ、と勃ちあがりその存在を主張する桜色の突起を摘まれれば、思わず声があがった。
「は……っ、あ」
その反応がよかったのか口元に愉しそうな笑みを浮かべた少年は、
そのままその突起を口の中に含み、舌で飴玉のようにそれを転がしてゆく。
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 20:59:51.88 ID:Wv5WTvQto<>
ちゅ、くちゅ、ぬちゃ。
舌でびちゃびちゃに濡らされて、優しく歯をつきたてられる。
ビリビリと電気のような感覚が全身を走った。
「んく、うっ」
それでも少年の愛撫は止まらない。
ずくん、と下半身に広がる快感が強さを増して、
くちゅり、と快楽を湛えた陰部が卑猥な音を立てて淫水を零れていった。
「あ……」
濡れてゆく感覚を追うように少年の指先が滑り、少女の羞恥心を煽る。
「は、あ……やめて、くださっ……」
その指先に自分が淫乱だと教えられているような気がして、いやいやをするように首を振っても、
少年はただ小さく笑っただけだった。
それが酷く腹立たしいはずなのに、どうやら自分の中心はその指先に蜜を掬われることを喜んでいるらしい。
触られてもいない陰核が小さく震えたような気がした。
――ああ、触って欲しい。
欲望に塗れた自らの願望に頬が熱を持つ。
だがそれに耐え切れず少年の黒い瞳を見つめれば、彼は笑顔を以ってして少女に答えてくれた。
ぐちゅ、ちゅ、ぐり。
「あ、あ、あああああ、んっ」
指が無遠慮に秘部に触れ、快楽の中心を摘む。
くり、ぐちゃ、ちゅく、ちゅぷ。
「もっと足、広げろよ。見てやるから」
中心を掻き乱される感覚に少女は震えた。
自分ですら触ったことのない場所に走る異物感は、ただ気持ち悪いだけのものであるはずのなのに、
それが少年の指であると思えば、どうしたってもっと欲しくなる。
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:00:38.47 ID:Wv5WTvQto<>
誘われるがままに足を広げ少年に赤く腫れ上がった陰部を見せた。
そのまま自らを押し付けるように腰を振れば、少年はくすりと笑う。
「あ、ん、んっ!」
「……意外と積極的なんだな。恥ずかしがってたくせに」
恥ずかしかった。
だが、それ以上に見て欲しかった。
ぬらぬらと光るそこは今、少年のためだけに存在しているのだから。
「ん、むぅっ……ふ、は、恥ずかしい、です……んんっ、はぁ……っ。
せ、積極的な子は、嫌いですか? とミサカは、ひゃ、んっ」
陰核を中心に責めていた指先がそのまま濡れそぼった穴へと伸びてゆく。
「もちろん大好きですよ?」
「ひゃ、ううっ、いっ……ああ!」
濡れていてもなお、狭い穴は一本の指でさえ挿入に痛みを伴った。
だけど、下腹部に広がる熱さは心地よくて、確かだ。
「……っ、っ!」
一本、二本と指を増やされて解されてゆく感覚がもどかしくもあり幸福でもあった。
胸を揉みしだかれて。
首筋にキスを落とされて。
指を入れて、掻き乱されて。
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:01:27.24 ID:Wv5WTvQto<>
少女はどうしようもなく幸せだった。
「あ、あああ! おね、お願いします……っ」
――だが、少女が本当に欲しいものはけして手に入らない。
「挿れてください、とミサカは……あ、ん! 懇願します……っ」
「……でも」
一瞬翳った少年の表情は見なかったことにした。
挿れられたままの少年の指を掴み、そのまま深く中へと沈みこませる。
深くなればなるほど、じゅくじゅくと愛液が零れ落ちてゆくのが淫猥だった。
「あ、ああっ! ミサカは、あなたが、ぁ……欲しいのです」
じっと、少年の黒い瞳を見つめて、少年の下半身へと手の平を伸ばしてゆく。
指先に触れた張り詰めた感覚は、少女を酷く安心させた。
「……」
もう少年は少女を止めようとはしない。
ジリジリと音を立てて下げられてゆくファスナーの音が、赤い少女の耳朶をくすぐった。
そのまま、下着ごとジーンズを下ろし、屹立し外気に晒されたそれを目にする。
知識では知っていた。
だが、特に感情を抱いていなかったはずの男性器に妙な愛おしさを感じるのはなぜだろうか。
思わず指を這わせて、意外な熱さに身体が震える。
「……っ」
きゅう、と蜜口が少年の指を締め付けた。
それは糸を引きながら離れ行く彼の指先を名残惜しんでいるかのようで。
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:02:27.57 ID:Wv5WTvQto<>
少年の熱に浮かされた真剣な瞳が少女を射抜いた。
「……もう、無理だから」
何が、とは言わなかった。
何を、とも聞かなかった。
だから少女は黙ってひとつ、頷いた。
途端、腕を掴まれて胸に舌を這わせられる。
舌先から感じる体温は信じられないほどに熱かった。
「行くぞ……」
少年の喉仏が忙しなく動くのを見つめたまま、あてがわれた熱い塊に肩を揺らす。
「ふ……」
一瞬の間を置いてゆっくりと挿入って来たそれは、
指を受け入れた時とは比べものにならないほどの痛みを少女にもたらした。
だけど、それは彼女に現実感を伴う幸福感をも与える。
「く、ん! んん!」
漏れそうになる悲鳴を必死で抑えたのは、少年に躊躇って欲しくなかったからだ。
それに、痛みには慣れている。
むしろ縋りつくように首に手を回して、距離を縮めて――。
「あっ、ああ……っ」
「狭いな……。痛く、ないか?」
「はっ……だ、大丈夫です……と、ミサカは……ん、あ、いあッ、んん!」
身じろぎすると同時に痛みが走る。
気持ち良さなど感じる余裕は今の彼女にはない。
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:04:26.22 ID:Wv5WTvQto<>
だけど、彼の熱はその存在感を少女の中で十分に主張している。
深く深く入り込んだそれは、少女の中をぐいぐいと押し広げていた。
だけど――足りない。
「う、くぅ……う、動いて、ください、とミサカは、お願い、ン、あ……お願いしますっ……」
「……わかった。動くぞ」
腕を掴んでいた手の平が優しく腰を撫で、掴んだ。
気遣うようにゆっくりと、しかし自らの欲望をも満たすような深いグラインドに少女の腹部が痙攣を起こす。
「あっ、ああ、んっ、んっ、んっ、んっ……んん! ん、んぁ、あ、ああ!」
抜き差しする度に喉から悲鳴は痛みによるものなのか、それとも忍び寄る快楽によるものなのか。
「んっ、あっ、あっ、はっ、んん! あ、も……っと、もっと、もっと欲しい、です……ぁ」
だけど近くに愛しい少年の匂いを感じて、少女の視界は明滅した。
少年の吐息が耳をくすぐる感覚がたまらない。
少年自身が奥を突く感覚がたまらない。
痛みは徐々に少女の感覚を麻痺させて、蕩けるような一体感と幸福感を彼女に与える。
秘部から血とも淫水ともつかぬものが泡だって溢れ出した。
少年の硬い中心が奥に届くたび、ぞわぞわと内側のヒダが震えた。
少女の意思とは無関係に入り口が痙攣するように収縮を繰り返す。
ぐちゅ、ぱんっ、ちゅく、ぱんっ、ずちゅ、ぱんっ、ぬちゅ。
「あっ、あんっ、んんっ、あぁっ、ひうっ、あんっ、んくっ、う、うう、ああぁん、ん、ん!」
<>
上条×御坂妹 R-18<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:06:44.28 ID:Wv5WTvQto<>
捲れあがった陰部は腫れ上がり、それでも彼の陰茎を銜え込んで離さない。
粘液の混じった血が白い肌を赤く染め上げる様はまさに淫靡。
潤んだ瞳はただ少年だけを見つめ、半開きになった唇からは喘ぎ声と共に飲み込めなかった唾液が零れ落ちていた。
「あ、や、あ」
乱れる少女の姿は少年の欲望を牽引し、その昂りをより確かなものへと昇り詰めさせてゆく。
「んっ、射精す、ぞ……!」
「あ……くださ……い……!」
そして中で蠢く少年の陰茎はより一層その質量を増し――。
「あ、あ、ああああぁあぁぁあ!」
――吐精。
広がってゆく生温い感覚に下腹部が満たされてゆく。
その暖かさに身を委ねながらも少女は確かに微笑んだ。
「あ、ああ、ああぁぁ……」
心地良い疲労感に、ふわふわと意識が乖離して少女を蕩けさせる。
おそらくこの感覚を人は幸せと呼ぶのだ。
ゆめ
例え、それが一夜限りの情事であろうとも――その瞬間、少女は幸せだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/17(金) 21:10:06.63 ID:Wv5WTvQto<> とりあえず今日の投下はこれで終了。
エロとかろくに書いたことないからごめんねごめんね。
そしてほぼエロだけでごめんね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/17(金) 21:16:39.29 ID:Qy8lradAO<> 乙!超乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/17(金) 21:24:37.34 ID:Wv5WTvQto<> あっ。思わず投下予告忘れました。
一応明日に来るつもりだけど、明後日になったらごめんね!
>>149
おお…人がいた!
乙ありがとうございます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/06/17(金) 21:29:04.77 ID:6K62ZrhF0<> ふぅ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/06/18(土) 04:33:26.31 ID:Y3k4qZbDO<> >>1乙 <>
1<><>2011/06/19(日) 02:25:39.38 ID:+Aiw1AKko<> 深夜にこっそり投下開始
レス、ありがとうございます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:26:38.32 ID:+Aiw1AKko<>
--------
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------------------------------------------------
――それはそもそも少女自身が望んだ行為だった。
彼女にとって上条当麻という存在は特別な意味を孕んでいる。
ただ命の恩人というだけではない。
生きる理由すら与えてくれた彼は、もしかしたら特別という枠ですら収まりきらない程の存在なのかもしれない。
だからいくら感情の育ち切っていない妹達であろうと、
彼女が彼に淡い恋心を抱くことになったのは別段不思議なことではなかった。
――きっと、周囲の人間からは不毛な恋だと笑われているのだろう。
彼の周りにはいつだって少女たちの笑顔が華やかに咲き乱れていた。
彼女たちのような笑顔を少女――御坂妹と呼ばれるその個体は浮かべることすらできない。
最初から勝ち目のない戦いなのだ。
きっと彼には、御坂妹にとっての上条当麻のような人間が存在していて、
少女はいつまでも根雪の下で春を待つような日々を過ごす他ない。
だが、それでも少女は幸せになりたかった。
それゆえ望んだのだ。
一夜限りの幸福な夢。永久の幸福を手に入れる一度きりの機会を。
だからこれは、全て彼女の計算通りであるはずだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:27:23.62 ID:+Aiw1AKko<>
はる
一夜限りの夢で植え付けられた種は夏を経て――いずれ実るだろう。
それは女としての至上の悦びだ。
もう望むものはこれ以上無い。そのはずだった。
――だというのに、この胸を満たす感情はなんなのか。
欲しい。
欲しい、欲しい。
どうしても彼が欲しい。
心を苛む痛みが乾きなのだと知ってしまえば、水音を求めてさ迷い歩くことを止められない。
一度満たされてしまった欲望は、どうしたって二度目の雨を渇望した。
「ですが、あの人には……」
――未だ見たことのない、女の幻想。
三。
忌々しい数字。
割り切れぬ不安定なその数字は少女の胸を打ちのめした。
もし少女がごく普通の少女であれば、立ち向かうことだってできただろう。
三人目である自分にもいつか長い春が訪れるのだと、自らを鼓舞することだってできただろう。
だが少女はクローンだ。
いくら彼女の大切な人々がそんなもの関係ないのだと言葉を重ねたところで、世間はそれを認めない。
彼の傍を許されるのは二人目の人間だけ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:28:37.75 ID:+Aiw1AKko<>
三。
なんと残酷な数字。
まるで自分を表すかのような数字。
第三位のクローン。
彼にとって三人目の同一DNA。
レベル3の欠陥電気。
皮肉にもその数字は己の検体番号にすらその存在を主張していて。
「ああ! 早く……早く!!」
少女の心を苦しめるのはかつてないほどの圧迫であり焦燥であり重圧であった。
飢餓であり焦慮であり喪失であり懊悩であり煩悶であり飢渇であり悩乱であり
憤悶であり憂慮であり憤懣であり饑渇であり欠落であり――。
だから彼女の世界は安定を求めた。
全ての苦しみから逃れるための安定を望んだ。
それは模範的な――実に単純な数式。
3−1
「――早く、どれか一つを引かなくては、とミサカは切望します」
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:29:47.46 ID:+Aiw1AKko<>
――気がつけば少女の手には大きな軍用ナイフが握られていた。
手のひらにしっかりと感じるごつごつとした感覚は、何よりも少女に安心感を与える。
結局一度も使われなかったそれは、彼女が産まれてすぐに支給されたものだった。
少女は歩く。
実った果実を手に入れるためには、収穫が必要だった。
問題となるのは個の性質ではなく、ただ記号としての数量。
だから引くのはどれでもいいはずで――しかし彼を残せば果実が実った後に再び忌まわしい数字が蘇る。
「……三。それでは駄目なんです、とミサカは確信します」
三の先にあるのは崩壊。
崩壊すれば、ただ破滅が待つ。
三、参、3、さん。
大嫌いな数字で歌うようにリズムを取りながら、少女は彼の元に急いだ。
三、参、3、さん。
出会い頭に歪んだ彼の顔は、きっと百年の恋も醒める程に醜く歪んでいるのだろう。
それでもやはり、欲しくて、欲しくて。
三、参、3、さん。
「ミサカがここにいてはいけませんか? とミサカは答えのわかりきった質問をします」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:30:35.17 ID:+Aiw1AKko<>
三、参、3、さん。
困る、だとか、頼む、だとか、多分彼はそういう言葉を口にしていた。
三、参、3、さん。
だから少女は笑った。
なぜ最初からこんなに簡単なことを思いつかなかったのかと、そう呟いて笑う。
三、参、3、さん。
「もぎ取れないのなら――刈り取ればいいんですね、とミサカは答えを導き出します――」
3――2。
真っ赤な果実が鮮やかな果汁を撒き散らしながら、宙を舞っていた。
びちゃっ、ぼたぼたっ、ぴちゃ。
あまりに瑞々しいそれは少女の全身を赤く染めて、その周囲すら赤で塗りつぶしてゆく。
黒い瞳が彼女だけを見ていた。
褐色の瞳が彼だけを見ていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:31:03.91 ID:+Aiw1AKko<>
――ドサッ。
落ちた果実。
引かれる音。
物言わぬそれは――首。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:31:36.58 ID:+Aiw1AKko<>
「ふふ……――ふふふっ――――」
―― ̄ ̄_ふふ__ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄――あはっ ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―ふ― ̄ ̄___ ̄―==
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― _ふふふ__ ̄ ̄――― ___―
―― ̄はは ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄_ふ__ ̄―===
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
ザ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
バチン、と全身に電気が走ったような気がした。
「え?」
自分のものとは思えないほどに間抜けな声が、何もない空間に響き渡る。
力の抜けた手のひらから落ちたナイフは、床と衝突して無機質な音を立てるはずだった。
しかしそれはノイズに飲み込まれるように忽然と姿を消す。
そこには何もなかった。
彼も、赤も、首も。
そして、確かに孕んだ筈の果実も――。
何も、なかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:32:03.96 ID:+Aiw1AKko<>
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:33:19.68 ID:+Aiw1AKko<>
--------
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ただひたすら黒だけが存在する空間に、その少女は呆然と立ちつくしていた。
夢から醒めたばかりのようなその表情で彼女はいったい何を思っているのだろうか。
どうせくだらない事だ。
嘲るように鼻を鳴らして、木原はゆっくりと手を上げる。
「よう、欠陥電気。随分な喜劇だったなぁ。なかなか良かったぜぇ?
昔見たC級ポルノ映画よりはマシだったわ。
どっちにしろ金払って見るようなモンじゃねーけどな」
響くものなど何もない空間で、ありえないほどに大きく聞こえる拍手。
当然のように馬鹿にするために行われたその行為に、少女――10032号の肩が小さく揺れた。
虚ろに何も写していなかった瞳がわずかに動いて、木原をその視界に納める。
「――これは、あなたの仕業ですか? とミサカは無駄と思いながらも質問を続けます」
「けッ。無駄だってわかってんなら聞くんじゃねーよ、クソアマが」
10032号は冷静であるように見えた。
だがそれは彼女の最大の特徴である無表情に依存したものだ。
その実、得体の知れないものに侵食された自身の脳波に恐怖を抱いているに違いない。
小さく震える手のひらを認めて、木原は唇を歪ませた。
暗部が生み出したクローンとはいえ、所詮は一年も生きていない子供だ。
その組し易さは考えるまでもない。
こうして自分を認識できる存在が単なる小娘であったことは、彼にとって何よりの僥倖であった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:34:36.48 ID:+Aiw1AKko<>
「……俺だってな、何も自分の意思でこんな場所荒らしてるわけじゃねーんだよ」
少女の瞳が警戒に揺れる。
「気がついたらここにいただけであって、別にテメェらに危害を与えにきたわけじゃねぇ。
わかるか、クローン?」
――俺たちは協力し合えるんだ。
黒に混じるような声。
僅かに孕んだ狂気を敏感に感じ取ったのか、少女の瞳の警戒の色がさらに濃くなった。
「……あなたがここから抜け出すのに、協力しろというのですか、とミサカは確認します」
「ま、最終的な目的はそれだが、その前にやりたいことがあるんだよ」
木原は少女に近づくように一歩、前へと足を踏み出した。
よろける様に半歩、10032号が後退る。
「なあ、妹達」
もう一歩、木原は近づく。
そして10032号の足は――動かなかった。
「一方通行の代理演算をしてるテメェらなら、アレの脳波に干渉する方法だって知ってるんじゃねぇか?」
不可能ではないはずだ。
あの化け物が妹達の脳波ネットワークを利用して演算ができるなら、その逆もまた然り。
ネットワークの稼動状況を見れば奴の行動を先読みすることも可能だろう。
だがやろうと思えばもっと積極的なことだってできるはずだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:37:11.69 ID:+Aiw1AKko<>
例えば、演算を止める。
それだけで化け物はただの廃人と化す。
例えば、脳にハッキングをかける。
そうすれば奴の血管を千切ってやることだってできるかもしれない。
もちろん冥土帰しがそれなりの対策をとっているのは間違いない。
言うなれば互いの脳波に必要以上に干渉できないアクセス制限のようなものが存在するのだろう。
まして妹達はその全てが電気信号の操作に長けた発電能力者である。
脳波をいじる方法だって心得ているのだ。
――だが、本当にそのアクセス制限を解除する方法はないのだろうか?
いや、存在する。
木原は確信していた。
問題があるとすれば、おそらくあの化け物におぞましくも傾倒しているであろう最終信号の存在。
だが逆に言うならば上位個体である最終信号さえ掌握できれば、あの化け物を殺してやることができる。
「ぎゃははッ! なぁ、憎いだろ? テメェらをプチプチプチプチ、一万以上も殺してきた化け物がよォッ!!
だから俺と一緒に殺してやろーぜ! 絶望を見せてやるんだよッ! あの怪物に!!!」
「……ミサカはその必要性を感じません、とミサカはあなたの言葉を拒否します」
「イイコちゃんぶってんじゃねぇよ!! 本音で語り合おうぜぇ?」
「拒否、します」
少女は頑なに首を振った。
あくまで部外者である木原が目的を達成するためには、どうしたって妹達の協力が必要である。
だが木原の余裕の表情は崩れない。
――彼には勝算があった。
「じゃ、力ずくでいくわ」
にやりと笑みを浮かべ、木原はおもむろに手を振り上げ、引き寄せるようにそれを呼んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:40:27.26 ID:+Aiw1AKko<>
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザザザザッ!
「っ!?」
ただ無秩序にくすぶっていただけのノイズが突如意思を持ったかのように10032号へと襲いかかる。
その荒々しい奔流はとっさに避けた少女の腕を掠め、そこに掻き抉ったような傷跡を残した。
「ぐうっ!!」
何が起きたのか、10032号には理解ができない。
「キタぜ、キタぜ、キタぜええええ!! やっぱりなぁああ!!」
箍が外れたような叫び声は、彼の思い通りに動いたその力への陶酔故か。
なんとなくその気配を読めるようになった時から、予感はしていた。
このノイズはネットワークにとってイレギュラーの存在であり、齎したのは確実に木原数多だ。
だから彼がそれをある程度操る術を持つのは、なんらおかしいことではない。
つまりそれは、この仮想現実じみた世界のみで発現する、
木原数多の『自分だけの現実』が生み出した限定的な超能力のようなものだ。
どうやらこのノイズにはそこに存在する情報をバグらせることができるらしい。
そして先の実戦が示す通り、そこにある程度木原の意向を組み込むことも可能。
今までは無差別に周囲の要素を取り込んで三流の茶番を上演するだけの代物であったが、
使いようによっては妹達の脳内をバグらせ木原の思い通りに動く人形を作り出す事だって可能だろう。
クラックノイズ
「電気改竄ってかぁ? シャバならレベル3くらいは余裕でイケんじゃねーの!?
けけけッ。俺ちょーカッコイイ! ってなぁ!!! ぎゃははははははは!!!
頭ん中に電極突っ込まねぇで使う超能力ってのはサイッコーだぜぇええ!!!!」
脳波で繋がっている妹達はどうしたって、ネットワーク内の総意に引きずられるのを回避することはできない。
いまいち精度にかける方法だが、これを利用して一方通行への悪意で満たしてやれば――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:41:30.42 ID:+Aiw1AKko<>
バチ、と音を立てて、視界の隅に紫電が走った。
目を灼くそれを木原は片手で煩そうに受け止めて、ニヤリと笑う。
「……ッ!」
「残念でしたぁああ!! ケケケッ! テメェが俺にろくな干渉できねーのはとっくに証明終了してんだろ?
痴呆もほどほどになぁッ! 一万人もキチガイ抱えるハメんなったら流石に超電磁砲が泣いちまうだろぉが」
戯れるように、木原は手の平の上でノイズを走らせる。
「さて、お遊びはここまでだ。
きっとすぐに協力したくてたまんなくなるだろーよ」
「くっ――!」
次の瞬間、10032号は駆け出していた。
彼女とて一方通行との戦闘を伊達に一万回以上繰り返してきた訳ではない。
時には撤退することの重要性を十分に理解していた。
「おいおい。逃げんのかよ! それともバックからガンガン突っ込まれるのが好きなのかぁッ!?」
だが木原はそれを許さない。
ざりざりと襲いかかるように走るノイズは、発生した傍から情報を崩し意味不明な極彩色のピクセルを生み出してゆく。
得体の知れないその色に、飲まれたいと思うものはいないだろう。
ザザッ――ザザ!
まるで細胞分裂のように徐々に侵蝕範囲を広げてゆくノイズがついに少女のスカートを捕えた。
チャコールグレーのチェックのスカートが、不気味なグリーンに分解されてゆく。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:43:26.86 ID:+Aiw1AKko<>
ザザザザ――ザザザ!!
そのグリーンは徐々にその範囲を広げ、ブレザーの裾へと辿り着き――
しかし確かに彼女を捕えたはずのノイズは10032号には届かない。
「あぁッ!?」
突然消え失せた極彩色に、ノイズは虚しく黒だけを掻き乱す。
そして砂の流れゆくような音の後、再び黒にもどったそこにはもう誰も存在していなかった。
「……ちッ。ネットワークへの接続を切りやがったか」
無かった手応えに一つの推論を導き出し、納得する。
どうしても向こうに地の利があることは突き崩せそうにもなかった。
それに能力の制御、威力、範囲が思ったよりも振るわないのも問題だ。
無意識に漏れた舌打ちの音が逆に木原自身の気分を不愉快にさせる。
もう少しいけそうな気もするが、能力を使うという感覚に慣れぬ木原にはその先に行く方法がいまいち掴み辛い。
――しかしまだ焦るような時間ではない。
今回の件で、木原の存在はミサカネットワーク内で知れ渡ることになっただろうが、
どうせ妹達の個体全てをネットワークから切断させることなどできないのだ。
そんなことをすれば一方通行の代理演算が行えなくなってしまう。
ぐずぐずしていれば何らかの対策を打たれる可能性もあるが、すぐにどうこう出来るような問題でもない。
最終信号が何もして来ないのを鑑みても、あちらも今は有効な打開策を持っていないのだろう。
今のうちならいくらだって先手を打つ事が出来る。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:44:04.34 ID:+Aiw1AKko<>
「くくく……ッ」
何も無い空間に木原の笑い声が響き渡った。
ターゲットはこの空間内にいくらだって存在しているのだ。
その一人一人を確実に、悪意を吐き出すだけの人形にしてやれば良い。
ザザ――ザ――。
嘲笑のような雑音が静かに黒に溶けていった。
悪意は確実にその空間を侵蝕しつつあった。
このノイズにはその力があるのだから。
ザザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:48:31.11 ID:+Aiw1AKko<> 投下終了
読んでくださった方、ありがとうございます
これでちょうど折り返し地点
アビスっ娘もあと二人
残りの二人はだいたい予想付くと思うけど、予想通りであってるよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 02:49:20.08 ID:+Aiw1AKko<> また一週間以内にやってきます
それでは <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/19(日) 06:25:01.88 ID:T1ZcuTgIO<> 乙‼ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)<>sage<>2011/06/19(日) 08:45:52.43 ID:UZWYxFBAO<> 乙
木原くンKOEEEEE
MNWは、一方さんはどうなっちゃうん?とwktkとgkbrが止まらない
打ち止め逃げて超逃げて <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/19(日) 09:03:47.60 ID:Uq7/lKJAO<> 乙
wktkが止まらない <>
1<><>2011/06/19(日) 23:10:21.95 ID:+Aiw1AKko<> レスいつも本当にありがとう
wktkされてこっちがwktkなんだぜ
考えてみれば今日は元ネタSound HorizonのRevo氏の誕生日
ということで敬愛する元ネタにおめでとうの言葉を贈るとともに
本家も更新しているので、せっかくだからTrack07投下します
間にあわなかったので+αはまた今度 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:11:09.33 ID:+Aiw1AKko<>
-------- Track 07 _Elenchus
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:12:33.23 ID:+Aiw1AKko<>
「……はぁ?」
落ち着いた調度品で整えられた小さな、けれど落ち着いた部屋。
その部屋に響き渡った木原の不機嫌そうな声に、す、と相手の男の瞳が眇められた。
隙のない仕立てのスーツに身を包んだその男の視線は
まるで彼の心の奥に巣食う反逆心を見透かすかのようで、実に気分が悪い。
もしかしたら暴れたら殺せ、だとかそんな物騒な命令でも受けているのかもしれなかった。
「何度も言わせるな。一方通行は次の研究機関に引き継ぐ事になった。異議は認めない」
「……ははあ。つまり俺は用済みってことか」
「そうだ」
躊躇いもない男の声に殴りたい衝動を抑える。
この都市で研究者として生きる以上、上に逆らうと面倒な事になるのは木原とて充分身にしみていた。
大体、下っ端の研究員が突然の来客を告げた時から、胸糞の悪い予感はしていたのだ。
しかし統括理事会からの使者であると名乗られてしまえば、無碍にすることもできず――。
わざわざコーヒーまで出してやった結果が、これ。
木原はため息を吐いて、部屋の灰色の壁を見つめた。
座り慣れないソファの頼りない感覚が気持ち悪い。
さっき、男はなんと言っていたか。
僅かに身動ぎしながらもそれをゆっくりと反芻する。
研究所の移動。
一方通行を次の段階へシフトする。
レベル6への到達するのに必要な課程。
突然の来訪者である男が告げたのは端的な言葉だった。
そしてそこに木原の席は当然のように――無い。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:13:32.70 ID:+Aiw1AKko<>
「訳は」
「君の提唱する進化法はあまりに時間がかかりすぎる。
それに彼に協力してもらいたい実験はいくらでも後に控えているんだ。
このまま君だけの玩具にしている理由はない」
「――」
納得などできるわけがなかった。
彼の築き上げてきた矜持にヒビが入る音が聞こえる。
あの化け物を生み出したのは他でもない自分で、それをうまく扱えるのも自分以外にいないはずだった。
それを認められたからこそ彼はこの場にいるのだと思っていたし、その場所をこんなあっけない一言で
奪われようとしているこの事実には忸怩たる思いを抱くより他にない。
無意識に食いしばっていた歯がぎりり、と小さな音を立てた。
――それに木原はまだ怪物の先にあるものを見ていない。
こんなものではないのだ。
あの化け物はたかだかレベル5などというちっぽけな枠に収まるようなものではない。
すぐ目と鼻の先にはレベル6があり、さらにその先に想像の及びつかないものが存在し得るのだろう。
想像したもの全てを実現させてゆく人間が、どうしても侵せぬ領域。
そこに辿り着くのがあの化け物なのだ。
それは白い化け物との邂逅を果たしたあの日から、木原の奥底に根付く楔。
だと、言うのに。
「……ちっ」
荒々しく立ち上がって、スーツの男に背を向ける。
あからさまに不機嫌そうな仕草はどう見ても平和的な行動には見えなかったのだろう。
「どこへ行く」
警戒するような声を発した男を、木原は鼻で笑った。
「お涙頂戴の茶番を演じてくるに決まってるだろーが、クソ野郎」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:14:48.56 ID:+Aiw1AKko<>
――本当は激しい拒否を叩き付けることだってできた。
それが出来なかったのは、木原が賢しい人間であり、浅ましい人間であったからだ。
逆らう勇気がなかったのではない。
自分の命と天秤にかけるほどのメリットを、拒否という選択肢に見いだせなかっただけ。
木原に矜持はあれども、ご大層な信念などない。
他にあるとすれば、知への激しい欲求だけだ。
「……いずれ、取り戻してやるさ」
白い無機質な壁に四方を囲まれた廊下を歩きながら、木原は呟く。
空気を少し揺らしただけのその小さな声は、リノリウムの床が立てる音にかき消され、
色のない空気に溶け込んでゆく。
それに少し興味があった。
おそらくこれから少年はさらなる奈落へと、その身を――本人の意思とは無関係に――投じることになるだろう。
その絶望が彼の心を灼いた時、信頼を寄せる木原に捨てられたと気がついた時、
彼の自分だけの現実はどのような変化を遂げるのか。
――信頼。
その言葉を己の中で実感するたびに、学園都市一位の頭脳などという肩書きは分不相応なのではないかと
笑い飛ばしたくなる。
自分のような下卑た人間を信頼できるなんて、頭のネジがぶっ飛んでいるとしか思えない。
怪物でありながらも子供でしかなく、愚かで御しやすい。
そうなるように仕向けたのは木原自身だというのに、彼はそのような評価をあの少年に下していた。
自分が騙されていることにも気がつかない、浅慮で脳天気な子供。
箱庭の中の人形遊びに、ただ自覚もないまま興じる哀れな子供。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:15:32.14 ID:+Aiw1AKko<>
頭を撫でてやれば、頬を染め拒否の言葉を口にしながら――それでも木原に身を寄せた。
面倒になって冷たい態度で突き放せば、顔色も変えず――手の平を震えるほどに握りしめていた。
冗談を言って笑わせてやろうとすれば、冷静な切り返しで悪態をつき――顔を背けて不器用に笑っていた。
外に連れて行ってやれば、大人ぶりながらもその瞳を輝かせ――最後には帰ろう、と木原の白衣を掴んだ。
哀れで滑稽で馬鹿な子供。
一度ふと興味がわいて、何故自分には反射を適用しないのかと聞いてみたことがある。
警戒心の塊のような少年は能力を手に入れたその日から、一つずつ反射するものを増やしていった。
だけど、いつまで経っても一番近くにいるはずの木原はその中に入ることはなくて。
――反射する必要、ねェだろ?
さも当然、というような口調だった。
きょとん、という形容詞をそのまま擬人化したような無防備な表情が、今でも脳裏に焼き付いている。
有害なもの全てを弾く少年は、数少ないホワイトリストに木原数多をあっけなく組み込んだのだ。
何もかもが木原の思い通りに進んだ結果だった。
「……クソ」
腹の底から沸き上がる奇妙な感情をねじ伏せて、木原は白い壁に拳を突き立てる。
もやもやした苛立ちはきっと研究者としての矜持が不満に声を上げているからに違いなかった。
――そう、ただそれだけのことだ。
「ふざけんなッ、クソがぁあ!!」
唐突な苛立ちの波を感じて、もう一度壁を叩き叫ぶ。
対面からこちらに向かって歩いてきていた研究員の方がびくりと揺れていた。
それがさらに気に障って、相手の眼鏡の奥の怯えた視線を睨め付ける。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:16:37.65 ID:+Aiw1AKko<>
「違ぇんだよ。違ぇんだわ」
ブツブツ呟きながら震える研究員を放置し、木原は進む。
目指すはあの子供のいる実験室だ。
あの少年は突然の来客に遅れた木原がやってくるのを今でも待っているに違いない。
暗闇で膝を抱えて方を震わせながら。
――さらに苛立ちが増したような気がした。
「クソ、クソクソクソッ。違ぇだろうが、木原数多ァ……。見せてやれよ、見せてやるんだよッ!」
絶望を、更なる地獄を。
それが実験動物に対する木原のやり方だった。
手元からあの素晴らしい知の宝庫が去ってしまうのが苛立つというのならば、
腹いせに壊れてしまわない程度の絶望を見せつけてやればいいだけの事。
「……ケケッ」
安心させて、喜ばせて――最後に捨ててやるとき、あれはどんな顔をするのだろうか。
それを想像すると、ぞくぞくと背中に快感が走った。
これまでさんざん持ち上げたやった分だけ、その衝撃は大きいはずで、
きっと化け物はまるで人間のように驚き、嘆くに違いなかった。
「くはは!」
そうだ、もっと克明に描け、木原数多。
見開いて、戦慄かせて、暗い色を浮かべさせて。
突き放すだけでは物足りない。
出会ったあの日、浮かべていた絶望より――あの女が与えた絶望より、ずっと深い深淵を見せてやろう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:17:12.32 ID:+Aiw1AKko<>
視線の先に、小さな扉が見えた。
白い廊下に一際目立つ、銀色の扉。
そして木原はその冷たいノブに指をかける。
開かれた扉の先には――白。
「……遅ェよ」
それは少年の中に存在していた『優しい研究者』が『死ぬ』前の最後の日。
その日少年は楽園への切符を永遠に喪った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/19(日) 23:21:40.02 ID:+Aiw1AKko<> 短くてすまんのよ
以上です
読んでくれた方、ありがとうございます
投下量落ちるかもと言っておきながら全然落ちないね、ふしぎ
それではまた一週間以内に <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/20(月) 01:00:38.50 ID:TYlHzsGAO<> きてたー
乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/06/22(水) 20:52:35.19 ID:mrxBMwTXo<> >>183
レスありがとうございます!
すごく嬉しいー
という訳で+α投下しにきました
ちょっと今回台詞が長いので読みにくかったらごめんね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:53:10.78 ID:mrxBMwTXo<>
-------- Track ?? [地平線の外側 三 Outside_of_Horizon_03]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:53:53.71 ID:mrxBMwTXo<>
『ミサカ16416号が捕まったようです、とミサカ12029号は報告します』
『ミサカ19852号も加えてください。
ミサカ16416号と感覚共有していた為、引きずり込まれたようです、とミサカ15978号は報告します』
『感覚共有は全て解除した方がいいのでは、とミサカ18022号は提案します』
ザザ――ザッ――――。
『ミサカ14625号が――』 『――――報告――』
『ミサ――――53号が――』
ザザ 『ミサカ19520号は――と――』
『――――外部から呼びかけても――』 ザザッザ――
『――悪意をはき出すだけの――』
ザザ――ザザザ――ザザッ――。
『――これで100件目です、とミサカはあまり良くない状況を憂慮します』
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:55:15.55 ID:mrxBMwTXo<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
「で? 今そっちはどーなってんの」
ここ最近ではあまり聞かなかったような苛々とした声を出して、番外個体は打ち止めに状況を聞いた。
彼女は今ミサカネットワークの接続は解除しているはずだから、短気なのは元々の性分なのかもしれない。
軽く痛む頭を持て余しながらも打ち止めはそんなことを考える。
ふと脳裏にオリジナルの姿が閃いて、少女は小さく笑った。
「あまり……よくない状況かも、ってミサカはミサカはため息をついてみる。
一日で100を越える個体がバグにやられちゃったみたい、ってミサカはミサカはその速度に戦いてみたり。
今は感染した個体を隔離したりして事なきを得てるけど、このままの早さで増え続けたら……、
ってミサカはミサカは最悪の事態を想定してみたり」
「…へぇ」
返事をする番外個体の顔にはありありと不満が現れている。
本当はミサカネットワークを勝手に荒らす不届き者を今すぐにでも始末しに行きたいのだろう。
表情にはどことなく獣じみた戦意が見え隠れしていた。
だが彼女には今、ミサカネットワークへの接続を控えてもらっている。
それを提案したのは打ち止めだ。
ミサカネットワークに流れる悪意を汲み取りやすい彼女のこと、
下手に接続すればすぐにあの鬱陶しいノイズに呑み込まれてしまうのは明白。
彼女が特殊な個体であることも含めて、バグに侵されてしまうのは得策ではないと判断した結果だった。
「それで、お願いしたことだけど……ってミサカはミサカは番外個体をちらりと伺ってみる」
「ああ、うん。ちゃんと調べてきたよ。
まったく、このミサカをこき使うなんてとんでもないおちびだよ、最終信号は」
ブツブツ言いながらも彼女がテーブルの上に投げ出したのは一枚のメディアだ。
二人しか存在しないこの広い家で、その小さなチップがガラス製のテーブルを叩く音が妙に大きく聞こえた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:55:59.56 ID:mrxBMwTXo<>
「木原数多……学園都市の科学者にして一方通行の開発者。
五年前から猟犬部隊の隊長として暗部に在籍していたが、九月三十日、仕事中に交信が途絶え――行方不明。
まあデータ上は行方不明になってたけど、実際死んだと見なされていたみたいだね。
死体の回収はしようとしたみたいだけど死体どころか細胞の一つすら回収されずって感じ。
――ま、こんな情報はとっくに知ってるか」
本題はここから。
番外個体の瞳にす、と陰が落ちた。
「……木原数多はいつでも自分の複製品を作れるように常に自分の記憶のバックアップを作っていた。
よっぽど自分という人間に価値を見出してたのかな。
けけけっ。気持ち悪いナルシスト野郎だったみたいだね。
実際対一方通行用に木原の複製品を作るため、
体細胞クローンに記憶を代入しようとした動きがつい先日あったみたい。
とはいえ最終信号も知っての通り、学習装置で人間の記憶をいっぺんに数十年分
まるまる入力するなんて事をすれば脳の方がイカれちゃう。
ま、結果は失敗。
木原数多のクローンは原因不明の意識不明。未だ目覚めず、夢の中、と。
――それが、三日前のことだよ」
三日前。
それは初めてミサカネットワークに異常が検知された日と同じだ。
「一応木原数多がいる研究所のセキュリティもチェックしてみたけど、ちょっと厳しいね。
ネットワークが正常に動いていない以上、物理的に叩くのは難しいと思う。
――ねえ、最終信号。ミサカには信じられないんだけどさ。
ミサカネットワークに偶然、脳波の違う人間がアクセスしちゃうとかありえんの?」
番外個体の疑問も当然だ。
実際現在進行形で惨状を目の当たりにしている打ち止めでさえ信じられぬ思いは未だ抱いている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:57:05.77 ID:mrxBMwTXo<>
だが、と打ち止めは考える。
「あり得ないことじゃないかも、ってミサカはミサカは思案してみたり。
人の脳波の波長を変えることは可能だよ、ってミサカはミサカは過去にお姉様が関わった事件の資料を
参照してみる。
そもそも膨大なデータを短時間で書き込むなんて無理なことをすれば、
脳波が揺らいで不安定な状態になるのは当然で、
それが偶然ミサカネットワークのチャンネルと合っちゃう可能性はゼロじゃないよね?
ってミサカはミサカは番外個体に同意を求めてみたり。
あとは学習装置でインストールしようとしていたことも要因のひとつだと思うの。
同じモデルを使えば、自然と機械の癖みたいなのがあるし、それが脳波に影響したっておかしくないよ、って
ミサカはミサカはお姉様がミサカネットワークにアクセスできない理由の一つを上げながら考察してみる」
「確かにあのおっさん、第一位と妹達にただならぬ執着持ってそうだもんね。
根性で脳波合わせてきても不思議じゃないかも。
ショタコンとロリコン併発してるなんてミサカ怖ーい☆
――で、最終信号としては打つ手はないわけ?
最終信号ならアク禁食らわせてやることだってできるじゃん」
当然の番外個体の問いに、しかし打ち止めは首を振ることしかできなかった。
「……それが、繋がり方が微弱すぎて手が出し辛いの、ってミサカはミサカは意気消沈……。
ブロックするにも相手の情報が必要なんだけど、脳波が希薄すぎて情報が取得できなかったの、
ってミサカはミサカは苦い思い出を思い起こしてみたり。
それに、今となっては下手にコンタクトをとればバグに飲まれちゃう、
ってミサカはミサカはこのミサカが取り込まれることのリスクの大きさを考慮してみる。
本当に幽霊みたい、ってミサカはミサカはキハラが自称した言葉を引用してみたり……」
打ち止めは最終信号だからこそ今回の件の危険性をしっかりと理解しており、同時に焦りも感じていた。
万が一ネットワークを掌握されるようなことになれば、最終信号の権限が悪意を持った人間に移動するのも同じ。
被害は一方通行と妹達だけにとどまらない可能性だってある。
――それを防ぐ手立てが無いわけではない。
だがその手段のどれもが、少女にとって代えがたく思っている何かを失うものばかりだ。
例えば、妹達の無事。
例えば、一方通行の無事。
例えば、少女と少年の繋がり――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 20:58:54.36 ID:mrxBMwTXo<>
「苦い思い出? ああ――」
と、シリアスにまとめていたはずの打ち止めの耳に意地悪そうな番外個体の声が届いた。
さりげなくスルーしたつもりの単語を繰り返され、少女の肩がびくりと震える。
「ちょ、ちょっとそこに食いつくの? ってミサカはミサカは嫌な予感に慌てて番外個体の言葉を――」
「……いやあ、そういやすっかり忘れてたけど。
しっかりバックアップ見せてもらったよん、最終信号ぁ☆」
人をおちょくるような、実に楽しそうな声色だった。
にやりと笑う番外個体の表情に、背筋にぞくりと這い回る何かを感じる。
「ちょ、ちょっと繋ぐのは控えてってお願いしたじゃない! ってミサカはミサカはぁあああ!!!」
「だってあんなおもしろそうなの見逃す訳にはいかないじゃん。
いやでも最終信号……あれはないんじゃないの?
あのノイズってそこにある情報を元にしてんでしょ。普段からあんな妄想してるとか、さすがのミサカも引くわ。
ていうか何? 何なの、あの設定。
ロリビッチって言われても正直否定できないし、最後の方のくだりには鳥肌とまんなかったもん。
なんだっけ。
――愛してるよ、ってミサカはミサカは」
「ぎゃあああああああ!! 違うもんッ!!!
アレはこのミサカの妄想じゃないもんってミサカはミサカはうわああああああ!!!」
「いやあ、あんな妄想してるのが上位個体とか……。
まぁ、あの人には言わないでいてあげるからさ、あんまり気に病まないでよ、最終信号」
「だぁかぁらぁ!! 違うのっ! ってミサカはミサカは大否定!!
アレは妹達だけじゃなくて、イレギュラーであるキハラの影響の方が強いんだよ!
そもそもバグが生み出した幻想みたいなものなんだもんっ!!!!
ってミサカはミサカはどうせからかわれるだけだろうけど弁解してみる!」
「いやー、でも、ねぇ? 最終信号の影響だってゼロじゃないんでしょ」
「うう……違うもん、違うんだもん、違うんだからぁってミサカはミサカは……」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 21:01:14.71 ID:mrxBMwTXo<>
いち早く手を打とうと不審なユーザーにコンタクトを取ろうとした結果だった。
今思えばなんと迂闊なのか。
まだあのノイズの性質すらわかっていなかったというのに、愚かな行動だったと思う。
「うう……」
現実のそれと同じ、柔らかな彼の体温を思い出す。
妙にリアルだった唇の感触を思って赤面する。
痛みに引き裂かれそうになっていた彼の表情に、心が痛む。
滅多に口にすることのない名前を呼び、愛を囁いてくれた掠れた声に、耳朶が熱くなる。
そして――鮮血。
すとん、と興奮していたはずの気分が深く暗く沈んでゆく。
「ミサカが……あの人にあんなことしたいと思ってるわけない、ってミサカは……ミサカは……」
理解したいと思っていたのは事実だ。
書庫に登録されている程度の経歴は知っていても、
時折苦しそうな顔で眠っている彼がどんな奈落を見てきたのか、語ってくれたことは一度としてなかった。
開発者である木原数多の記憶を多分に孕んだあの幻影は――事実起こったことなのだろうか。
傷だらけの背中が打ち止めの脳裏にフラッシュバックする。
歪められた表情は、月明かりの下で見た表情に似ている気がした。
いや、事実であれどうであれ、彼が奈落の底を這って生きていたのは事実だ。
――その苦しみを少しでも分けてくれればいいのに。
ラストオーダー
最終信号としてではなく一人の少女として、幾度となく感じた願望。
彼が妹達にした仕打ちを背負うと言うのならば、打ち止めは彼がそれをするに至った闇を背負いたかった。
それは『仕方なかったんだね』だとか、『彼も被害者だったのだ』だとかそんなくだらない台詞を吐くためではない。
そんなものを彼は認めないだろうし、実際そんな言い訳がまかり通るわけもないだろう。
だけど思考を停止し、ただ殺され続けることを選んだ妹達の一員としての責任を果たしたかった。
ただの自己満足だ。
だがそれは今からでも遅くないと、そう打ち止めは思う。
――それはおかしな感情だろうか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 21:02:42.06 ID:mrxBMwTXo<>
最近多くなったため息を、もう一度吐く。
視線の先で、わざとらしく顔をしかめていた番外個体の表情から色が消えた。
その表情はどこか打ち止めを思案げに見ているようで。
「……ねえ、最終信号。
あのおっさん、第一位に泣きつけば研究所ごとぶっ潰してもらうことも出来るんじゃないの?」
「……それは駄目。あの人に心配かけちゃうもん、ってミサカはミサカは首を振ってみる」
それはミサカネットワーク内でも何度も出た提案だった。
打ち止めとて、もちろんその方法は一番に思いついたことだ。
だが――。
「ごめんなさい」
ぽつり、と呟いた謝罪に、番外個体は何も言わなかった。
沈黙が広いリビングにゆっくりと落ちてゆく。
耳の奥で、あの不愉快なノイズの音が聞こえた気がした――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/22(水) 21:06:04.00 ID:mrxBMwTXo<> 短いけど、以上今回の投下分は終了
次回の投下分はほぼできあがっているので、
そうそう遅くはならないと思います
遅くとも土曜日には来れるかと
残り投下はあと三回の予定
もしよろしければどうかおつきあいくださいませ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/22(水) 21:48:33.80 ID:LJt1NUdAO<> 乙!
あー、あともう少しなのか…
曲数忘れそうになったぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/06/23(木) 00:15:13.65 ID:PQLC5rdAO<> 乙
このスレは安定してるから安心して見られるなぁ
是非他のアルバムも期待したい
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2011/06/24(金) 22:09:56.60 ID:e2ApnLJio<> 投下しにやって参りましたー
まず前回投下はあと三回!とかほざいてましたが、あれ嘘でした
あと二回にします
展開的にTrack10から最後までいっぺんに投下してしまった方がいいと判断したので
>>194
レスありがとう
Track数は45です
実はまだ5分の1も終わってないよ!
>>195
うおおぉ
安定しているかなぁ
文章にムラっ気があると本人は思ってるのでありがたいです
実は構想練るときに一通り考えたんだけど、
これは行けると思ったのがエリ組だけだったりする
メルヘン繋がりで復讐を唄わせる屍揮者のていとくんとかどうなの
そして禁書には圧倒的に双子要員が足りない
クロスは難しいし…
おもしろいクロス書ける人は尊敬するわ
というわけでTrack8、9+αを投下します <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:10:47.14 ID:e2ApnLJio<>
-------- Track 08 Sacrifice
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:11:31.93 ID:e2ApnLJio<>
暗闇に燻るノイズを、木原数多はじっと見つめていた。
時折輝る光芒のようなものが妹達の電気信号だと気がついたのはほんの少し前のことだ。
時間の経過が曖昧なこの空間で、それからどのくらいの時が過ぎたのかと論じるのはナンセンスなことだが、
少なくともそれに気がついてから妹達の捕獲効率は格段に上がった。
考えてみればネットワーク内のやり取りを、容量の多い映像形式で行うなど実に非効率。
今まで出会ってきた妹達は木原の周囲を取り巻くバグにより、無理矢理視覚化されたに過ぎない。
つまり状況確認に走る妹達は木原が思っているよりもずっと多く存在しており――。
「見ぃつけたっと」
視界の端を掠めた光の筋を掴む。
瞬間走ったノイズが音を立てながら色を滲ませた。
荒々しい解像度が徐々に細密さを増してゆく。
手の中で風船が膨らむように生まれた感触は少女の華奢な肩だ。
そのまま床とも何とも判別のつかない黒に、その体を押しつければ、
やたらと強く輝く茶色の瞳がギラギラとこちらを睨みつけていた。
「……気になって様子でも見に来たか?
好奇心は身を滅ぼすってこと、身を持って知った方がいいぞ」
「……」
その個体は口を開かない。
抵抗は無駄だと、すでに知っているようだった。
ザ、ザザ――ザザ。
ノイズの音と共に、まるで潮が引くように瞳から意志が消え失せ――代わりに虚無が色素の薄い瞳を支配する。
ゆっくりと動きはじめた小さな唇が、恨み言に穢されてゆく。
「はい、完了ーっと」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:12:13.61 ID:e2ApnLJio<>
これで何体目か。
まるでゴミでも放るように投げ捨てると、それは虚空に溶け込むように消え、ただそこに光芒だけを残した。
たったこれだけの作業で悪意を吐き出す人形は完成する。
ついでにこの人形にアクセスする間抜けな個体がいれば、バグはその個体にまで波及するだろう。
「トラップまでついてこのお値段、ってな」
実に簡単な作業だった。
やりがいはないが、その先にある報酬は喉から手が出るほどに欲しい。
退屈ではあるが、やめようとは思わなかった。
また、近くで何かが光る。
妹達にはどうやら木原を知覚できるものとできないものがいるらしい。
無防備に近寄る光を見るに、多分後者。
――余裕だな。
ザ、ザザ――。
そうほくそ笑み、伸ばした指先をノイズが攫った。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――――――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
「……ちっ」
木原の意思とは無関係に、世界を侵食してゆくノイズ。
久々の登場に思わず舌打ちが零し、滲む世界を睨み付ける。
とっさに引いた手の平はジリジリと形を不安定に変えながらも一応はその形を保っているようだった。
「めんどくせぇ……」
呟く。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:12:52.54 ID:e2ApnLJio<>
木原でさえ思うままに行動できないこの奔流は、彼にとっても好ましいものではなかった。
だが未だ抵抗する術を知らない木原は、力を抜いて傍観するより他ない。
赤、緑、青。
ノイズが三色の光を放ち、複雑に組合わさって様々な色を形成してゆく。
足元から広がる灰色はコンクリートだろうか。
遠くにはすでに生い茂る木々が構成されつつあった。
細胞分裂のように使用するピクセル数が増え、空やそこに飛ぶ鳥、コンクリートを這う蟻までもが
命を吹き込まれてゆく。
鳴り響いた合成音のような不快な音は、すぐに鳥たちの可憐な囀りへと調整され、
ただ通過してゆくドットの塊であった茶は、翼を広げる鳥そのものへと変質してゆく。
ノイズが走るたびそれは移ろい、揺らぎ――。
――ついに世界は完成した。
頬に感じる穏やかな風に、首を廻らせる。
のどかな空気を漂わせるそこは、公園だった。
立ち並ぶ街灯や自動販売機を見れば、そこが学園都市内の公園であることは明白だ。
どこかで見たような気もするが、学区は定かではない。
さて、次はどんな茶番が始まるのか。
「っつってもな」
いい加減飽きてきた展開に木原は肩をすくめる。
あの忌々しい少年でも出てくればそれなりに楽しめる自信があったが、
もう量産型の妹達が重ねる妄想に興味はなかった。
「ほら、コレあげるわ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:13:49.24 ID:e2ApnLJio<>
退屈そうに――しかし油断無く周囲をを観察していた木原の耳に、快活な少女の声が届く。
聞き慣れた妹達の声と同じ――だが決定的に何かが違うその声に木原はふと動きを止めた。
少し考え込んで、頭をがしがしと掻きむしってからゆっくりと振り返る。
「……オリジナル、かぁ?」
果たしてそこには、予想通りの姿が存在していた。
学園都市第三位。
超電磁砲――御坂美琴。
髪を風に揺らし確固たる存在感を放つ彼女は、常盤台の制服に身を包み
確かに木原の知る姿でそこに存在していた。
しかし妹達のオリジナルたる彼女はミサカネットワークにアクセスすることはできないはずだ。
首を少々傾げながらも大方のあたりをつける。
おそらく彼女は一方通行や幻想殺しと同じ、ノイズが作り出した幻影に過ぎないのだろう。
イレギュラー
それでも他の 幻想 よりも姿がはっきりとしているような気がするのは、同じDNAを持つが故だろうか。
現実の彼女と同じようにくるくると変わる表情をなんとなしに眺める。
「よろしいのですか? とミサカはお姉様の顔を窺います」
そして相対するのはこの幻影の主であろう、妹達。
同じ顔で、同じ服装をした少女達が身を寄せ合いベンチに腰掛ける姿は、ある意味でシュールですらあった。
「当たり前じゃない。私たち、たった二人の姉妹なんだもの。
お姉ちゃんが我慢するのが当然でしょ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:14:42.77 ID:e2ApnLJio<>
御坂の手に握られているのはなんてことのないクレープだった。
どうやら二人の話題の中心はクリームが目一杯盛られたその菓子であるらしい。
二つ買えばいいものを、何故か一つしか無いそれと少女達の会話が持つ意味を考える。
――たった二人の姉妹、か。
有り得ない言葉を口にする御坂を見れば、大体の設定は把握できた。
ある意味で姉妹なのは間違いないだろうが、両者の間にはもっと複雑な隔たりがあるはずだった。
この幻想の主は、きっとそれを厭わしく思っていたのだろう。
哀れな。
偽物の愛情に縋る人形を冷めた目で眺めながら、木原はノイズを呼ぼうと手をあげ――気がつく。
「……ちっ、やっぱりか」
そこに手応えはなく、時折穏やかに揺らぐ風景があるだけだった。
予想はしていたことだ。
さしたる衝撃も受けずに腕を組んで待ちの姿勢に入る。
大がかりな幻想を生み出す規模のノイズの渦中にあっては、どうやら木原は力を使えないようだった。
「ったく、グズグズしてられねぇってのによ」
悪態をつきながらも抜け出すこともままならぬ以上、やることは一つ。
即ち、身を預けること。
こうしている内に最終信号に対策でも見つけられてしまえば厄介だが、
焦れば冷静な思考力を失うだけでろくなことはない。
少し苛立ちを覚えながらも、仕方なしに傍観者の立ち位置に納まった木原の視線の先で、
仮初めの姉妹は仲睦まじく笑っていた。
彼の鼓膜を震わせるのは、柔らかな声で紡がれる問答。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:15:12.83 ID:e2ApnLJio<>
「いい? アンタは私の大切な妹なんだから、何かあったらすぐに言うのよ」
「はい、お姉様」
「アンタは安心して私の側にいればいいの」
「はい、お姉様」
「アンタを傷つけるやつは許さないんだから」
「はい、お姉様」
「もし傷つけるような奴が現れたら……
殴って、蹴って、刺して、絞めて、裂いて、ちぎって、切って、
壊して、もいで、潰して、痺れさせて、燃やし尽くして
――殺してあげるから」
「はい、お姉様」
「だから、ずっと側にいなさい」
「はい、お姉様」
「約束よ。絶対に、約束」
「はい、お姉様」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:16:01.34 ID:e2ApnLJio<>
どこか奇妙な姉妹の姿は、どこかが決定的に壊れていた。
それはノイズが生み出した歪みなのか、それとも幻想の主である少女の歪みなのか。
生気に満ち溢れているはずの御坂の瞳が放つのも、どこか虚ろな光。
「……ごめんね」
ザザッ――ザザザ――ザ――――。
風景の揺らぎがふと、強さを増した。
ノイズの向こうに、クローンを蔑んだ目で見るオリジナルの影がちらつく。
―――ザッ――ザザ――ザ―――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――
――――――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――――――――。
ザザ――――――――――――――――――――――ザ―――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――ザザッ。
『もう……私の前に現れないで……ッ!』
ザ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
それはまるで白昼夢のようだ。
御坂の表情が悲しみに染まってゆく。
その言葉は彼女が発したものであるはずなのに、何故か少女はひどく傷ついた顔をしていた。
「――違うの」
飛び交う幻に彼女は首を振る。
その空虚に光る瞳に映るのは赤い閃きだ。
ザザッ――ザザザ――ザ――――。
「――ごめんなさい、あれは嘘なのよ――」
ザッ――ザザザ――ザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:16:31.60 ID:e2ApnLJio<>
――白い陰が見えた気がした。
それを振り払うかのように強く首を振る少女を、ゆっくりとノイズが浸食してゆく。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
朗らかに鳴いていた鳥の声が歪んだ。
揺れていた緑の木の葉が、薄気味悪い紫色へと変色していった。
空がバラバラと霧散して、隙間からは灰色が覗いた。
「……大丈夫です。わかっていますから、とミサカは微笑みます」
「本当?」
「ええ、お姉様はミサカの大切な存在です、とミサカはお姉様の言葉を求めます」
「ええ、私もアンタが大切よ」
崩壊し始めた世界で、しかし姉妹の会話は止まない。
お互いだけを見て、崩れゆくことにも気がつかずに確かめ合われる偽りの愛情。
「――お姉様」
ザッ――ザザザ――ザ――。
姉と妹とノイズとの境界は次第に曖昧なものになり――。
ついにすべては一つになる。
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:17:06.57 ID:e2ApnLJio<>
__―__欠陥___ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
 ̄―===━___ ̄― 気持ち悪い― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
==―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ――――  ̄ ̄ ̄ ――_同じ顔―― ̄___ ̄―
 ̄ ̄___ ̄クローンなんて━___ ̄― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―=====━
―――__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― __気味が悪い ̄___ ̄―==
__―_人形__ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ただの複製品―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― クローンの癖に―― ̄ ̄___ ̄―===━
____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
「私が、絶対にアンタを助けてあげるから」
__―===━ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:17:51.04 ID:e2ApnLJio<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
ずしゃ、と人間がモノのように吹き飛ぶ音がした。
赤黒い染みをいくつも体中に作って、まるで壊れた人形のように倒れ伏す少女は超電磁砲だ。
『――廃棄――』 『――災いの種――』
『――哀れな子――』 『――神への裏切り――』
『――悪魔の産物――』
男とも女ともつかぬ声が囁く、断片的で断罪的な罵声。
彼女を取り囲むのは群像のイメージだ。
研究者達が、学生達が、無機質な表情で悪意の輪を作っていた。
少女の腕が、地面を掴んで震える。
砂利が皮膚へと食い込み、新たな傷跡を作っていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:20:13.85 ID:e2ApnLJio<>
「誰が悪魔なのよ……! アンタたちこそ悪魔じゃない……!」
ノイズに侵され、その曖昧な存在を揺らがせて、だけど少女はゆっくりと起き上がる。
その瞳に写るのは紛れもない意志の光。
常盤台のエース、レベル5の超電磁砲として妹達の心に根付く、確かな存在感。
ゆらりと、だが確かに二本の華奢な足が地面を踏みしめた。
光を持った茶色の瞳が暗闇をしっかりと見据えていた。
ザザッ――ザザザ――ザ――――。
いつの間にか風景は移り変わり、そこにはもう誰も存在していない。
敷き詰められた砂利。
薄汚い巨大なコンテナ。
歪んだレール。
寒々しい風景の中、少女の肩がぶるりと震える。
そこは、どこかで見たような風景だった。
ザッ――ザザ――ザ――ザザザッ――。
風が凪いだ空間に、ただ少女は一人立ち尽くす。
つい逃げ出しそうになる足をしっかりと大地に根付け、少女はそれを待った。
彼女はこれからやってくる人物を知っていた。
ザザッ――ザザザ――ザ――――。
空気を裂くノイズ。
「オマエ……」
闇を這うような、愉悦に満ちた声。
そしてついに白い悪意は舞い降りる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:21:00.13 ID:e2ApnLJio<>
「……オマエ、オリジナルかァ」
闇から這い出るようにいつの間にかやってきた少年は、濁った白を、狂った赤を携え、
その端正な顔立ちを歪ませていた。
針金のような細い体はある意味で弱々しくすら見えるというのに、
その存在は禍々しいまでの絶対的な恐怖を周囲に振りまく。
べちゃっ。
赤い血のイメージがノイズとともに走り抜けた。
裂かれた腕が、足が、首がぼとぼとと積み重なってゆく。
――だが、少女の存在は揺らがない。
き、と御坂の眦がつり上がった。
その壮絶な光は少女が初めてその恐怖に邂逅した時の光と同じそれだ。
紫電が空気を裂いて、少女の周りを取り巻いてゆく。
ビリビリと空気が悲鳴を上げた。
「一方、通行……!!」
澄んでいた瞳が憎しみに濁る。
視線の先にいるのは狂ったように笑う白い少年。
ザッ――ザザ――ザザザッ――。
「私が犠牲になって、アンタを止められるなら――!」
そして少女の指先がコインを掴み、
「やめてください!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:21:36.65 ID:e2ApnLJio<>
__―_ザザザザザザ____ ̄ ̄ ̄ザザッ ̄ ̄―ザザ――ザ――___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄ザザッザッザザ ̄―==
__―___ザザ――ザザッザザッ ̄‐― ―――ザザ― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄__
ザザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:22:08.44 ID:e2ApnLJio<>
闇。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:23:23.29 ID:e2ApnLJio<>
ザッ――ザザ――ザザザッ――。
「違います……ミサカは、お姉様に犠牲になって欲しいわけではないのです、とミサカは嘆きます」
――暗い闇の中で、少女が力なく座り込んでいた。
表情は手の平で覆われてろくに窺い知ることはできなかったが、その声は暗い。
「おかしいでしょうか? とミサカは問いかけます」
一瞬、話しかけられたのかと思った。
ごちゃごちゃとノイズに掻き乱され、夢から覚めたような感覚が抜けきらないのがもどかしい。
虚ろな呼びかけに少女を見やれば、その瞳は誰も見ておらずただ虚空を見つめているだけだった。
震える手の平は彼女の未熟な感情の発露だろうか。
「お姉様に見て欲しかった。
お姉様に認めて欲しかった。
お姉様に愛して欲しかった。
お姉様に助けて欲しかった」
淡々と、だが狂おしく告げられる少女の望み。
「……でも、お姉様が犠牲になるのは耐えられません、とミサカは痛む胸を押さえます」
白い指先が己の胸をまさぐり、掻きむしるような動きをしていた。
喉がひくりと震えて、唇から嗚咽が漏れる。
強く、自分を深く愛する姉を夢見て、しかしその想像上の姉すら犠牲にすることを躊躇う少女は
確かにこの場にいる誰にも知られずに犠牲になろうとした少女と同じ遺伝子を持つのだろう。
誰も預かり知らぬ事実に、だが少女の瞳の奥に宿る光が雄弁に物語る。
すすり泣きが、止まった。
顔を覆い、心の傷を押さえつけていた手の平が、ゆっくりと地面に落ちてゆく。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:24:19.76 ID:e2ApnLJio<>
無機質な――けれどしっかりとした視線が闇を貫く。
それは少女に現れた変化だった。
肉体変化のように確かな、幻術使いのように現実味のない変化。
「――犠牲になることは許さず、けれど助けを渇望する」
ビリ、と少女の毛先から青白い光が放たれた。
「ミサカはなんと自分勝手なのでしょうか、とミサカは己の浅ましさに失望します」
下ろされた指先に力が入り、すっと関節から柔らかな白が広がった。
「……ならば答えは簡単です」
ゆっくりと地面を踏みしめて立ち上がる姿は、まるで先ほどの超電磁砲の再現だ。
その堂々たる立ち姿からは、妹達特有の生への稀薄さは一切感じられなかった。
また、バチ、と小さな雷光が閃く。
それは少女の瞳に光を生み、瞳孔を収縮させた。
「……ミサカがお姉様になります」
頭にその存在を主張していた暗視ゴーグルがノイズに分解され、姿を消した。
紫電の閃きが勢いを増してゆく。
風など無いはずなのに、柔らかな茶の髪の毛が虚空を舞い、スカートがばさりとはためいた。
「ミサカがお姉様になり――代わりに助けになります、とミサカは決意します」
一際大きな電撃が空気を引き裂き、空を鳴らす。
いつの間にか少女の指には小さなコインが握られていた。
そこに立っているのはもはや欠陥電気ではない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:25:33.12 ID:e2ApnLJio<>
レベル5
それは紛れもない、超能力者――超電磁砲。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
少女の足元に一陣の風が巻き起こり、世界が再構成されてゆく。
幾度見ようとも常軌を逸脱したその光景は、瞬く間に完成された。
そこには悪意を向ける群集と、それを統べる白い悪意がいる。
悪意の顔が狂喜に歪んだ。
「……絶対に」
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
「……絶対に、許さないから」
指先が微かな金属音を立てて、コインを弾いた。
少女が放つ紫電の光を受け、煌めくそれは揺れる炎のようだ。
そして音も立てずにコインは少女の指先に再び舞い戻り――激しい光芒が世界を焼き尽くす。
音速の三倍、否、それ以上の速度で打ち出されたそれは、御坂美琴がレベル5である所以、超電磁砲。
そこにはもう何かが存在できる余地などあるはずもなく。
そしてそれは、少女の幻想すらも例外ではない。
光が偽りの手を飲み込んだ。
偽りの肩を、偽りの体を、偽りの顔を、偽りの瞳を、偽りの足を――全て飲み込んだ。
そして――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:26:26.11 ID:e2ApnLJio<>
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
ザッ――ザザ――ザザ――ザ――ザザッ――ザ――――ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
傷だらけの欠陥電気が、静かに横たわっていた。
死の臭いすら感じさせるその姿を、側で眺めるのは木原だ。
彼の視線にはひたすら哀れみだけが漂っていた。
自分の中に存在する復讐心すら、思うままに表現できない人形は
幻想の姉にすらその思いを託すこともできぬまま静かに朽ち果ててゆくのだろう。
「かわいそうに」
同情心など微塵も感じさせない平坦な口調だった。
口元には冷笑すら浮かんでいた。
しかし彼の目元に浮かぶ哀れみはぐっと深くなり、そして直後幻であったかのように霧散する。
「……安心しろよ、妹達」
きっと彼女たちは誰かが自分たちの復讐をしてくれることを望んでいるのだろう。
それは確かにミサカネットワークの総意ではないかもしれない。
だが、この個体のように恨みに身を焦がすものも確かに存在していて。
何が楽しくて復讐する相手の代理演算などしなければならないのか。
す、と手を伸ばして少女の小さな頭を掴む。
「憎いよなぁ、ぐちゃぐちゃにしてやりてーよなぁ……」
だから。
木原はゆっくりとノイズを呼び寄せる。
「俺がテメェの代わりに――」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:29:44.68 ID:e2ApnLJio<>
「それは、少し……違います、とミサカは訂正を……求めます」
ふと少女の瞳が開かれ、木原をじっとみつめていた。
絶え絶えに、だがはっきりと響いた言葉は彼をしっかりと認識している。
声を遮られ――思わず掴んだ手を緩めて木原は眼を見開いた。
まだ意識があったことへの驚きと、言葉を否定されたことのへの驚きがない混ぜになったような表情だった。
「……このミサカは、一方通行ただ一人を許せないわけではないのです、
とミサカは、整理し切れていない……己の思いを語ります」
しかし少女はそんな木原の表情など意にも介さずしゃべりだす。
まるで彼女の方こそ木原を憐れんでいる、そんな表情だった。
形容しがたい苛立ちに襲われて眉が跳ね上がる。
「はぁ?」
「今になって、助けて欲しかった、と……そう思うのは事実です。
しかし助けを求めてよかったのは……ミサカたち、だけなのでしょうか?
と、ミサカは同時にそんなことを……疑問に、思います」
「……」
「それにこのミサカは……まだ、答えをだして……いません。
あなたに、遂げてもらうような……っ、復讐などありません、
とミサカは……力なく首を……」
この後に及んでいったい何を。
――もう聞く必要はない。
そう判断して鼻で笑う。
一瞬浮かんだ不快な何かは気がつかなかったふりをした。
そして木原は瞳から全ての感情を消し去り、再び指先へと力を込めてゆく。
欠陥電気が、悲しげに笑った気がした。
「残念です……、と……」
少女の奇妙な語尾が空気を震わせることはもうない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:30:27.25 ID:e2ApnLJio<>
代わりに紡がれるのは恨みの言葉。
憎い。殺してやる。憎い。化け物。死ね。憎い。復讐。殺す。居なくなれ。悪魔。殺す。
死ね。憎い。殺す。憎い。殺す。殺す。憎い。殺す。殺す。殺す。殺す。憎い。殺す。
殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。殺す。
――少女は、虚空へと消えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:31:07.94 ID:e2ApnLJio<>
-------- Track 09 _Elegist
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:31:36.85 ID:e2ApnLJio<>
木原数多が転落の一途を辿るのは、栄華に辿りついたのがそうであったように、あっという間のことだった。
理由は簡単だ。
たった一回、してはならないミスをした。
もっとも実験中に死者を出しただとか、そんなベタな理由ではない。
そんなものこの学園都市ではミスのうちには入らないし、
実際取り沙汰されたのはそのポイントではなかった。
――問題だったのは、その事実が外部に漏れたことだ。
その頭脳と同じく立ち回りも一流であった木原らしくないミスだった、
というのは彼を知る者が囁いた言葉。
とはいえ原因などどうでもよいことだった。
例えば、お気に入りの実験動物を奪われたことだとか、
例えば、当時の木原が悩まされていた原因不明の無気力感だとか、
例えば、すべてを思い通りに絡めとる学園都市理事長の存在だとか、
そんなものは全てどうでもいい。
結果、木原は研究職を追われることになり、拾ったのは学園都市の裏に巣食う暗部。
その事実が彼にとって全てであったし、その処遇に不満はなかった。
・ ・
アレが居ない以上、研究の場に未練などあろうはずもない。
聞けば楽しいと思っていた少年の奈落を這うような実験内容も、
結局は自分が関われぬことを目の当たりにすれば、ただただ不愉快なだけだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:32:08.07 ID:e2ApnLJio<>
だが、運命は木原を見捨ててなどいなかったのだ。
その仕事の内容を聞いたとき、彼の狂喜はいかほどのものであっただろうか。
あの白と赤に再び見えることがわかったとき、彼の正気は保たれていただろうか。
資料を貪るように読んだ。
彼の知らない六年間を、余さず知った。
――しかし久しぶりに見た化け物は、木原の知らない目をしていた。
相変わらず細い体つきは病的で白い。
確かに背は伸びているはずなのに、未熟な印象は未だ消え去っていなかった。
首輪のように巻かれたチョーカーと、地面に縫い留めるかのような杖が嘲笑を誘う。
積もった澱は、もしかしたらその濁りを増したのかもしれなかった。
化け物は、所詮化け物。
例えその手を離れようとも木原が作り出した本質は何一つ変わっていない。
だがその目は、希望にただ醜く縋っている瞳は――
同じように木原に縋っていた頃のそれとは違っていた。
彼が見ているのは、たった一人の少女だ。
どんなに狂気を孕んだ赤が木原のことを憎々しげに睨めつけようとも、その先に存在する色は一つ。
木原はそんな赤を知らなかった。
――そして、過去と幻想はついに邂逅を遂げる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:32:35.92 ID:e2ApnLJio<>
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― __―‐―_ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄―‐―___ ̄―
オジョウサン
「ごきげんよう、かわいそうな 人形 。 楽園パレードへようこそ!」
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ――――‐―― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:33:36.90 ID:e2ApnLJio<>
果てしない狂笑と、世界を汚すノイズ。
その男が歩く道筋には悪意に染まった人形たちが累々と並び、倒れ伏していた。
時折走る青白い光は、少女達のせめてもの抵抗。
「ぎゃははッ!! そんなんで止められるとでも思ってんのかよぉ!! この粗悪量産品どもがぁ!!!」
倒れた少女達の唇から漏れる恨み言はまるで歌のようだ。
そしてその声に合わせて笑う男の入れ墨が歪み、それ自体が嘲笑しているかのような形を作っていた。
どこからやって来たのか、どこへゆくのかもわからない男の辿る道は、言うなれば葬列。
これから殺しに行くあの少年のために用意したものだった。
今でも脳裏に鮮烈に蘇るあの白と赤を思えば、心に沸き立つのは激しい憎悪だ。
気に入らない色を浮かべた瞳を思う。
知りもしない、命を奪われた瞬間の光景を思う。
胸の底から蛆のように這い出る泥は、男の中をぐちゃぐちゃに掻き回し、苛烈な熱量を生み出した。
――かつて男の側をけして離れなかった少年に、もしかしたら違う感情を抱いたことがあったのかもしれない。
だがそんなもの、とうの昔に過ぎ去った幻影。男の全てを染め上げるのはたった一つのシンプルな感情だった。
また、眼前に紫電が走る。
男はそれを笑いながら跳ね退けた。
彼が見ているのは――目指すのはただ一人の少年。
だが男がどこへゆくのか、それは誰も知らなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:34:09.20 ID:e2ApnLJio<>
そのパレードは、どこまでも続いてゆく。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:34:33.90 ID:e2ApnLJio<>
-------- Track ?? [地平線の外側 四 Outside_of_Horizon_04]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:35:00.70 ID:e2ApnLJio<>
ザ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/24(金) 22:38:06.67 ID:e2ApnLJio<> 本日の投下は以上です
サクリファイス、元ネタの「も」の字も消え失せました
残ってるのは姉ってことくらいかな
てへぺろっ!
次回は最終投下になります
事情により完成を急ぎたいので、投下日は明日目標です
明日これなかったら来週です
あと残すところ一回となりましたが、どうぞよろしくお願いします
それでは! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/24(金) 22:39:18.58 ID:YLUiDIY8o<> 1おつ
楽しみに待ってますね! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/25(土) 07:02:59.38 ID:LJlEb9iAO<> 乙!
やっぱ一度はメルヒェンていと君考えるよな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2011/06/25(土) 11:34:20.05 ID:nwlHSmZU0<> 乙
wwktk
スターダスト楽しみ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/25(土) 12:50:48.88 ID:TW2OLY44o<> >>228
メルヘンだしな、エリーゼ役は心理定規か? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2011/06/25(土) 14:44:19.63 ID:2Oyp4dEAO<> >>230
外見は似てるっちゃ似てるか?
金髪と幼児体型だし
<>
1<><>2011/06/25(土) 21:09:13.11 ID:gtJzxbtMo<>
わー書き上がったよー!
という訳で今から最終投下始めます
みんなのレス、本当にいつもありがたいです
心理定規お人形さんになっちゃうのか…胸熱
その場合テレーゼとエリーザベトの配役に頭が痛くなるな
ていとくん交友範囲狭いよ
というわけで今回の投下の前置き
・しょっぱな2レス目から首を絞めれば締まるに決まってるエロが4レス分入ります
あんまりエロく書けなかったけど、ちょっと痛い系なので苦手な人は注意
一応名前欄に↓入れとくわ
※※ Caution ※※
じゃあ投下、始めます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:10:18.69 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 10 StarDust
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:10:51.11 ID:gtJzxbtMo<>
戯れにその星空を、綺麗だ、と表現した。
「……オマエの方が綺麗だよ」
――嘘吐き。
その甘い言葉が嘘だなんてことはすぐにわかった。
彼の瞳は彼女を見てなどいなかったし、そもそもそんなことを真面目に言うような柄ですらない。
それでも彼女はその言葉を信じた。
否、正確に言うならば彼女は信じていなかった。
例え嘘を吐かれようとも彼を信じ続けた、と表現するほうが的確だろう。
「……だって、そっちの方がミサカ好みだから」
そんなものはただ自分が傷つかぬための言い訳に過ぎないのに、少女は笑う。
彼の横で見上げた星空はいくつも同じような輝きが埋め尽くしていて
学園都市の灯りに塗りつぶされその輝きすらも弱々しかった。
それはまるで妹達のようだ。
浮かぶのは自嘲。
「あの中にミサカがいるとしたら……その星は――」
はたして、すでに滅んでいるのだろうか。
それとも今もまだ滅びに向かって輝き続けているのか。
だがどちらにせよ滅びるのだとしたら、せめて激しく輝く星になりたい、と、
そう思うのだ。
――たとえ、それが刹那の輝きであろうとも、少女はそう思うのだ――。
<>
※※ Caution ※※<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:11:57.05 ID:gtJzxbtMo<>
--------
------------------------
------------------------------------------------
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
「ぁ……っ、く、あ……ッ!」
――苦しい。
首に食い込んだ白い指が、喉をぐいぐいと絞めつけていた。
薄くなってゆく酸素に視界が明滅し、意識が落ちそうになる。
手放しそうになるそれを繋ぎとめようとシーツを強く掴もうとしても指に力は入らなかった。
虚ろな瞳が窓から差し込む月光に優しく、だが確実に灼かれていくのが分かる。
慣らさずに穿たれた穴はその異物感に悲鳴を上げているはずなのに、苦しさのせいで感覚は何もなかった。
それでもまるで縋り付くかのようにそれを締め上げてしまうのは何故なのだろうか。
じゅぷと、得体の知れない水音と共に体が揺れる。
「……っ、その顔、クるわ」
半ば落ちかけた意識の中で、その囁きは驚くほど甘く響いた。
「――ぁ、ぐぅ」
「アハッ! いいねェ、最高だわ」
苦しいはずだった。
痛いはずだった。
気持ちよくなんて、けしてないはずだった。
「……はッ、う、う」
――いや、実際気持ちよくなどないのだ。
陰部から滴る淫水の音など幻聴に過ぎず、徐々にスムーズになってゆく抽挿など、単なる慣れに過ぎない。
<>
※※ Caution ※※<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:12:32.03 ID:gtJzxbtMo<>
「……すげェ、イイ」
だけどその掠れた声は、熱い吐息だけは駄目だった。
こうして彼の過虐が激しくなる前から、その声だけは必ず彼女の芯を熱く蕩けさせる。
「ふ、ん、ん――っ!」
滲み揺れる視界の中で、ルビーのような瞳が自分を見つめているのを自覚しただけで、
性器がはしたなく収縮した。
じゅく、と一際大きな水音が響き渡り、打ち付けるような音と共に腹部の圧迫感が増す。
激しい痛みにどうしたって涙が零れた。
「あぐ……っ、く、苦し……ッ!」
「……ァ……ン。ごめン、な」
オマエが可愛い顔をするからいけない。
それなのに、そんな簡単な言葉でごまかされてしまう自分はなんと惨めなのか。
――いつから――いつまでこんなことを繰り返せばいいのか、彼女にはもうわからなかった
最初二人の間に流れていた空気は、もっと殺伐としたものであったはずだ。
本来なら殺しあうべきであり、かろうじて利害のみで繋がった関係。
だけど何故か今はこうして体を重ねている。
その関係に至った道筋が、今となってはどうしても思い出せなかった。
「は、ぐぅっ!」
――また最奥が固く屹立した陰茎で深く穿たれた。
<>
※※ Caution ※※<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:13:10.13 ID:gtJzxbtMo<>
「……今、意識飛ばしてただろ。
ヤってる最中に俺以外のこと考えるなンざ、許されねェぞ。
お仕置きが必要かァ?」
「あ、あぁッ! はっ、はっ、はぁッ……んくっ!」
首にかけられた手が緩み、急激に流れ込んできた酸素に脳が酔いそうになる。
だが空気を求めて喘ぐ唇は、理性とは無関係にぶざまな醜態を晒していた。
「……あっ、く……っ! あなたが……下手くそだから、悪いんじゃない?
――っ、ぁ!」
せめてもの抵抗とばかりに憎まれ口を叩けば、信じられないような優しい舌使いで首の痕を舐められ、
思わず甘い嬌声が漏れた。
「馬鹿言ってンじゃねェよ」
卑怯だ。
頭の中の冷静な部分はそう怒りに震えているはずなのに、そのまま落とされた口吻に唇を緩く開いてしまう。
口の中を這い回る熱い塊に脳が蕩けそうな程にぐらぐらと揺れた。
「ん、んんっ」
じゅぷ、ちゅ。
ろくに味わえることのない優しい感覚に、入り口を擦られる感覚に理性が崩れ落ちてゆくのを感じる。
たっぷりと流し込まれた唾液はそのまま熱をもって体中を駆け巡った。
「はっ、んん……あく、あ、あぁ、んッ」
思わず掻き抱くように柔らかな白に腕を伸ばせば、そっと掴まえられてそのまま指を舐られた。
薄い唇が半月のようにつり上がり、体中に口吻を落とし始める。
<>
※※ Caution ※※<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:14:08.24 ID:gtJzxbtMo<>
耳朶を熱い舌が優しく撫でた。
また首筋に熱い吐息がかかった。
鎖骨を強く吸われて、いくつも所有印を刻まれた。
胸を揉みしだかれて、勃ち上がった一点を口の中で転がされた。
「ひうっ……う、あ」
駄目だ。駄目だ。駄目だ。
首を振って耐えようとするのに、腰は熱く重くなった。
陰核を堅いもので擦られるような感覚に、先ほどとは違う意味で意識が飛びそうになる。
ごぽり、と溢れ出す愛液の量が増えた気がした。
「あ……ァ、あ、はは」
じゅく、ちゅく、ぬち。
「んんっ、ああ……っ! ふ、……」
どろどろに溶け合い始めた理性をもう止める術はない。
駆け上るような快感の中で朧気にる世界で、月光に透ける白が異常なまでに美しかった。
また、首筋を白い指が這い回る。
「は……ッ!」
徐々に込められてゆく力に、子宮がひくひくと痙攣して中を侵す熱を強く締め上げてゆく。
再びあの痛みが、苦しみがくるのだと分かっているはずなのに。
すでに少女に抵抗するような理性は欠片も残されていなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:14:51.97 ID:gtJzxbtMo<>
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
―― ̄ ̄___ ̄―===━___ ̄― ―――― ==  ̄―― ̄ ̄___ ̄―===━
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ―――― ==  ̄ ̄ ̄ ――_―― ̄___ ̄―
__―_____ ̄ ̄ ̄ ̄‐― ̄ ̄―‐―― ___ ̄ ̄――― ___―― ̄ ̄___ ̄―==
<>
※※ Caution ※※<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:15:32.73 ID:gtJzxbtMo<>
――目の前を颯爽と歩く赤があった。
見慣れた姿にさらに二年ほど齢を重ねたその少女を木原は知らなかった。
「なるほど、番外個体、ね」
しかし徐々に掌握されはじめたミサカネットワークは、その情報を断片的に木原に与える。
彼の死後に作られた少女を目の当たりにして木原はにやりと笑った。
限界までいじられた脳は大能力の強度を叩き出し、
体に埋め込まれたシートやセレクターは上位個体の命令文すら跳ね退ける。
そして悪意を汲み取りやすいようあえて組み替えられた回路は、
ただ一方通行を打ちのめすためだけに作られたものだ。
第三次製造計画。
できることなら是非とも参加したかった。
「いいねぇ、俺好みだわ」
笑い、少女の後に続く。
・ ・ ・ ・
彼女の行く先に一方通行が居ることを、見ていた木原は知っていた。
赤い服を身に纏い、赤い靴で地面を叩き、赤い紅で唇を彩り、左手に持った真っ赤な薔薇を揺らす。
赤に染まったその姿は完全に狂女のそれだ。
思考能力を持たぬ雑踏ですらその姿に奇異の視線を送る。
やくそく
右手に光る指輪と拳銃はきっと彼のために果たされるもので、何をしに行くかなんて聞くまでもなかった。
少女の唇に赤い笑みが閃く。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:16:01.55 ID:gtJzxbtMo<>
――ザザザ――――ザザッ――ザ。
雑踏の向こうに垣間見えた寄り添う白は、白い少年と幸せそうに笑う無垢な少女であったかもしれない。
ザザ――ザ――――ザザザ――ザザッ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:16:38.12 ID:gtJzxbtMo<>
――嘘吐き。
音もなく、だがはっきりとその言葉を刻む唇。
責めるような台詞であったはずなのに、浮かんだ表情は星のように輝いていた。
幻想の住人である少女は、幻想を垣間見て、その意識を幻想へと落とす。
星空よりも綺麗だと、そう言ったのに。
一番だと、唯一だと、そう言ったのに。
嘘だとわかっていたはずの言葉は嫉妬を孕み、狂気を育てた。
赤い足取りが人込みを割るが如く、描いてゆくのは崩壊への軌跡だ。
彼と腕を組んで歩いた道を遡った。
笑い、同じ時を過ごしたカフェを通り過ぎた。
一緒に眺めたショーウインドーに鮮やかな赤が写り込んだ。
その全てがただの幻想に過ぎないのに、ノイズに取り込まれた少女には現実以外のなにものでもない。
そして約束に取り憑かれた女は彼の家へと向かう。
何度も逢瀬を重ねたその場所を、彼女の足は完全に覚えていた。
そして彼が今家に一人でいることも確認済み。
彼女を阻む扉など、あってないようなものだ。
発電能力を所有するものにとって、電子錠によるセキュリティなど紙も同然。
不法侵入した理由はもちろん、気の利いたサプライズだなんてことは有り得なくて。
高鳴る鼓動はまるでその恋を自覚したあの時のもののようだった。
彼と彼女とを隔てる扉を前にして、笑う。
こんな気持ちは久しぶりだ。
開いた扉の先で、白い服に身を包んだ赤い瞳が少女を待ち受けていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:17:04.82 ID:gtJzxbtMo<>
「……やっほう、第一位。ミサカとお揃いになってよ」
そして――銃声。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:17:34.39 ID:gtJzxbtMo<>
ザザ――ザッ――――ザザ――ザ。
やたらとローテクなその銃の声は大きく鳴り響き、木原の鼓膜を未だに揺らしていた。
漂う硝煙の匂いは心地よい死の香りだ。
人を確実に殺したいのならば、もっと性能のいい武器をおすすめしたいところではあるが、
雰囲気作りとしては悪くない。
「ククッ。なるほど、お揃い、ねぇ。
いいセンスしてるわ。嫌いじゃないぜ、そういうの」
銃を構えたままの少女を通り過ぎて、徐々に赤に染まりゆく少年の前に立つ。
ぐらり、と崩れゆく少年は今まさに意識を手放した所のようだった。
しかしやはり木原の手は彼に触れることは適わず、
少年はかつての時のように伸ばされた手をすり抜けるかのように倒れ伏す。
溢れ出す赤は少女が身を包む深紅と同色。
彼女は彼の死を持ってして永遠を手に入れる幻想を抱いたようだった。
涌き水のように溢れ出す血が、雪のように白い髪をも赤く染め上げていく。
――こんなものは所詮幻だ。
しかし木原は表情を歪めて少年へと語りかける。
「……あの女も反射しねぇんだなぁ、クソガキ。
ケケッ。化け物がいっちょ前に人の温もりが恋しいってか?
昔を思い出すぜ、一方通行ぁ……」
木原を反射する必要などないのだと首を傾げた少年。
再会後、憎悪するような瞳で木原を睨みつけ、反射した少年。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:18:49.82 ID:gtJzxbtMo<>
「でもあの女どもはテメェを殺したいらしいぜ?」
結果、二度も血に染まり、地に伏せることになった少年を嘲笑う。
後に本物の彼を手にかけるとき、この幻想の世界の事を聞かせてやったら、
いったい少年はどんな顔をするのだろうか?
彼に希望を与えた少女達。
その彼女たちに幻想の中とはいえ、二度も死を与えられたのだと知ったら。
絶望するだろうか。
それとも悟ったような顔で諦めるだろうか。
未だ奈落を這い回る彼を見るのは実に愉快だった。
その細い首に手をかけて首を絞める振りをする。
触れられぬ幻ではあるが、木原の手の中で朽ちゆく絵面は悪くない。
心の奥底に潜む嗜虐心に火がついた。
ぞくぞくと体が震えて、自らの手で殺しているような感覚に陥る。
思わず指に力を込めて――。
――ふと、ぬるりとした感触が指先を濡らした。
「あ?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:19:57.61 ID:gtJzxbtMo<>
一瞬何が起きたのか、まったく分からなかった。
ぽかん、と間抜けな声を出して、続いて伝わる鼓動のようなリズムに呆然と指先を見つめる。
まさか。
まさか、そんな――。
動揺に指先が震える。
一瞬目の前が暗くなりかけて、木原は慌てて首を振った。
「……ッ!?」
これは幻だ。
そんなのはとうの昔に確信し、それで終わっていた議題だった。
ミサカネットワークをただ外部から利用しているだけに過ぎない彼は、
この空間に存在できるだけのアクセス権を持たない。
だから超電磁砲も、幻想殺しも――一方通行も妹達が生み出した単なる幻に過ぎない。
だがこの指を押し返す感触はいったいなんだ?
奥に確かな体温を隠す冷たいそれにぞくりと体が打ち震える。
それは恐怖かもしれなかった。
それは悦びかもしれなかった。
そして――気がつく。
ただひたすら赤に染まった色の中で、一際輝く赤が木原を睨みつけていた。
「――っ!!」
心臓が止まりそうな思いに息が詰まり、喘ぐように空気を求める。
乖離してゆく現実の中で、赤く染まった唇が微かに動いたのが見えた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:20:23.52 ID:gtJzxbtMo<>
「 」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:21:02.43 ID:gtJzxbtMo<>
「は?」
音にならない声の代わりに届いたのは――熱。
腹部に広がるその熱さの正体を確かめようとすれば、床に広がる赤に違う赤が混じり合ってゆくのが見えた。
「は? は? はぁッ?」
呆然とそれを眺める木原の耳に下品な冷笑が届く。
「ぎゃははっ! ばっかじゃねぇーのぉぉおお!?
いつミサカが見えてないなんて言った? ねぇ、言わなかったよね。言わなかったよねぇえ!?
ぎゃははははははは!! ちょー無様だよ、おっさん!!
ミサカたちのこと、オモチャにして玩んだ報い、思い知ったぁ??」
――木原に穴が、開いていた。
文字通り腹部に穿たれた穴は、ただひたすら赤を吐き出している。
「これでも手加減してやったんだから、感謝してね。
ほら、胴体繋がってるでしょ? ミサカやっさしー☆」
振り向けばそこには木原をしっかりとその双眸に写し、嘲るように笑う番外個体が立っていた。
トチ狂ったかのような赤い衣装はそのままに、だが少女は確かに現実を見据えている。
木原のことを認識した個体はこれまでも何体か存在していた。
だからそれは不思議ではない。
「――ッ! なに、しやがったテメェ……!!」
解せぬのは、この体から流れ落ちてゆく血潮だ。
木原と彼女たちとは唯一ノイズを介してのみ干渉できるはずで、
それ以外の接触はただ軽い違和感を生むだけの揺らぎのようなものであるはずだった。
なのに、何故。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:21:30.87 ID:gtJzxbtMo<>
疑問に塗れた彼の視線を、番外個体はたいそう気に入ったらしかった。
「ミサカのこと、ちょっとは調べてくれたんでしょ?
第三次製造計画製のこのミサカはちょっとココの出来が他の個体とは違ってんだよね」
見るからに余裕を無くし始めた木原をそれはそれは楽しそうにニヤニヤと眺めて、
番外個体は頭をトントンと指で叩く。
――どうやら、脳波の事を言っているらしい。
「それを頭に埋め込んだガラクタでムリヤリ調整してるからさ。
応用してちょっと自分の脳波弄ってやれば、あなたの方に合わせてあげることも出来ちゃうってわけ。
ほら、ミサカってば能力も特別優秀でしょ?
他の個体と一緒にされちゃ困っちゃうんだにゃーん☆ ケケッ」
――木原の預かり知らぬことではあるが、こうして番外個体が立っているのは
様々なリスクを背負う覚悟と打ち止め、そして意識を残す全個体のバックアップがあってのことだった。
だが木原にしてみれば、全ての計画がたった一人の小娘によって呆気なく折られたも同然。
狂ったように暴れ回りたくなる衝動を抑えつけて、なおも溢れる疑問をさらにぶつける。
「クソガキも……! この化け物もテメェが動かしてんのか?」
「はぁ? 何言ってんの? その出来の悪い偽物、とっくに死んでんじゃん。
痛みで頭おかしくなっちゃった? ぎゃはっ、もうとっくにおかしいか!」
未だ受け入れられぬ現実に理性が瓦解してゆくのを感じた。
比例するように、ようやく自覚し始めた痛みに身体が崩れ落ちてゆく。
赤は男の全てすら塗りつぶしていた。
もう、抑えきれるはずがなかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:22:00.79 ID:gtJzxbtMo<>
「クソが……ッ! クソがぁあああああ!!」
飛びかかろうとした木原の足を、光の筋が貫いた。
――鉄釘だ。
ようやく自分を穿ったものの正体に気がついて、増えた痛みに苛立ちも増す。
ノイズを呼び寄せようとしても集中できていないのか、空間は歪みすらしなかった。
「無駄だよ、無駄ァッ! 今、なんかしようとしたぁ?
アンチウィルス
こっちだって数分間バグを抑えるくらいの 対策 は作ってあるっつーんだよ!」
「――ッ! いいか!! この俺は今からテメェらの恨みを晴らしてやろうとしてんだぞ!?
テメェらみたいなザコが邪魔だてしてんじゃねぇよ!!」
「ミサカたちの恨みを晴らすぅ?
ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!!
これ以上笑ったらミサカもうイっちゃうぅぅ☆
あなたなんて、所詮たまたまミサカネットワークにアクセスできたバグでしょ。
ただの小さなワームが第一位に手出しできるわけねーんだよ!」
吼えるように叫んだ言葉はただ番外個体の失笑を買うだけだった。
状況を打破しようともがくように立ち上がろうとしても、血を失いすぎた体は無様にも欠片も動こうとはしない。
こんな体など、ただの電気情報が生み出した幻でしかないはずなのに、
重くなってゆく感覚はまるで本物のようだ。
――動け、動け。
そう何度命令しても体は重く、視界は霞む。
初めて体験するはずの自らの死はどうしようもないほどの既視感を木原に与えた。
「だいたいさ、そんなの誰が頼んだワケ?
第一位に復讐するのも、殺すのもミサカたちだけの特権だから。
イレギュラー
あなたみたいな何も知らない 他人 にそんなことやらせてたまるかっつーの」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:22:28.10 ID:gtJzxbtMo<>
しかし少女の言葉はなおも木原の中に激高の熱を生む。
「は……? 何も……知ら、ない? 他人だぁ?
あのガキを作ったのはオレだ。育てたのはオレだ! テメェらこそ――」
「でもさぁ、あの人を見捨てたのもあなたでしょ?
紙の上のスペック読んで羨ましくなっちゃった? 一度捨てたものを今更惜しんでんじゃねーよ」
「違う――ッ!」
「何が違うの? 惜しむんだったら、最初っから手放すんじゃないよ」
「――っ! がッ!! ……は、ぐ!」
どうしても否定したかった。
あの化け物に唯一を齎すことが出来るのはたった一人、木原だけであるはずで、そこに誰かが介在する余地はない。
怒りに震える脳の回線はもう焼き切れてしまいそうだ。
だが代わりに口からこぼれ落ちたのは鮮血。
ひゅうひゅうと漏れる空気はもう音にはならなかった。
びちゃ、と再び血反吐を吐いて。
番外個体の冷たい瞳が、かつての木原がそうであったように憐れみの色を湛えて見下ろす。
――違う、違う違う違う違う違う。駄目だ、こんなところで終わるわけにはいかない。
「――バイバイ、おっさん。なかなかおもしろいもの、見せてもらったよ」
少女の手に鉄釘が現れた。
しなやかな腕がそれを構え、ゆっくりと放つ。
光芒が瞳を焼いた。
微かに走っていたノイズが暴れ狂うかのように世界を裂くのを、落ち行く視界の端で認識する。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:23:08.86 ID:gtJzxbtMo<>
――そして、木原数多の意識はノイズに攫われるのではなく今度こそ真なる闇へと沈んだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:23:47.67 ID:gtJzxbtMo<>
ザ――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:24:16.15 ID:gtJzxbtMo<>
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ザ――ザザッ――ザザザ――ザ――。
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
男が消え去った空間は、その殆どが崩れ落ち、ノイズともに溶けゆこうとしていた。
「……ミサカも、最終信号のこと笑えなくなっちゃったね」
刹那の世界の中で、立ち去ろうとしない少女は少年を見下す。
もうそこに彼らを阻むものは誰も存在していなかった。
なのに。
倒れ伏し赤に染まっていたはずの白は、酸素に触れ、いつの間にか黒へと変質しつつある。
その色は残酷な現実を少女に突きつけていた。
「空気読んでよ……一方通行。そんなにミサカとお揃いになるのが嫌なの?」
木原の残した奇妙な言葉に期待を寄せて、少女は問いかける。
しかしその言葉に答える者は誰もいない。
「――ムカつく奴」
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
世界からついにノイズは消え去った。
それは幻想の崩壊。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:24:49.25 ID:gtJzxbtMo<>
あとに残るのは――漆黒の闇。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:25:22.84 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 11 _Elysion [→side:A→]
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<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:25:52.53 ID:gtJzxbtMo<>
「木原くン? どうしたンだ?」
は、と気がつくと、目の前にはきょとんと首を傾げる少年の顔があった。
白い検査衣の裾から覗く手足は枝のように細く華奢だ。
幼い顔立ちを縁取る髪はどこまでも純粋で、どこまでも無垢な白だった。
その中でルビーのように輝く赤が美しく煌めいている。
「……え?」
唇から漏れた間抜けな声をクスクスと笑うように、鳥の囀りが和やかな空気の間を冷やかして去ってゆく。
ぽかん、と空を見上げればそこには雲一つない澄み渡った青空。
流れる風は穏やかで、そばに咲き乱れる花が柔らかい香りを放っていた。
赤、青、緑、黄色、白、紫、藍、緋、浅葱、翠……。
それはまるで色の洪水。
風が吹く度、奏でられる木々のざわめきはきっとこの世の栄華を誇る歌だ。
柔らかく落ちる木漏れ日がきらきらと星のように輝いていた。
学園都市では珍しい程に緑に溢れたそこを、木原は知らなかった。
あえてその場所を言葉で表現するならば――楽園、と呼ぶのが正しいだろう。
「……おい、ガキ。ここはどこだ?」
何故自分がこんな所にいるのか理解できず、ぼんやりとする思考の中で木原は少年に問う。
少年はその白い髪を揺らして、それから笑った。
それは過去の光景ですら見たことのない花が綻ぶような笑みだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:26:19.33 ID:gtJzxbtMo<>
ついその笑顔に手が勝手に伸びて、小さな頭をぐしゃりと掻き乱す。
「わっ、おいィ! それやめろって言ってンだろォ!」
少年はいつものように少しだけ顔を赤くして、それからまた楽しそうに笑った。
――違和感。
――過去に一度も見たことがない?
そう、過去。
出会ってから一年と数ヶ月。
その中で一度も見たことがない笑顔だ。
「なンだよ、木原くン。また俺のことからかってンのか?
木原くンが楽園に連れて行ってくれるって言ったンだろ」
「楽、園……」
確かにここはその名にふさわしい場所だった
だけど、少年の言うようにここに彼を連れてきたのは木原ではない。
「しっかりしろよ、木原くン。どうしちゃったンだよ」
「いや……」
「楽園だぞ、らくえン! ここではもう痛みもないし、苦しみもねェ。
ずっと一緒にいられるンだぞ。もっと楽しそうな顔しろよ」
「あ? ああ……」
ずっと一緒に、それはかつて自分が言った戯れ言ではなかっただろうか。
にこにこと笑って、馬鹿正直に信じて――。
――そもそもなんで自分はここにいるのだったか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:26:48.76 ID:gtJzxbtMo<>
ザザザッ――ザザ――ザ――ザッ――――――。
どこかでノイズのような音が聞こえた気がした。
聞き覚えのあるその音に頭が苛まれる。
一瞬、眼前に赤いイメージが閃いた気がした。
それがいったい何であるのか、思い出せなくて、それがもどかしくてまた頭痛が木原を襲う。
木原はこんな風に笑う少年を知らない。
木原はこんなに美しい楽園を知らない。
木原はこんな世に居る自分を知らない。
痛みに耐えるように頭を抑える木原を、少年の不思議そうな赤い瞳が見上げてきた。
「木原くン? なンでそンな顔してンだ?」
「……うっせえ、クソガキ。黙ってろ」
「ここは楽園なンだから、苦しむ必要なンてあるはずねェだろ」
平坦な声だった。
その声も、木原が知っている少年のどの声とも違っていて。
また、違和感がちりりと胸を灼く。
はっと振り返り顔を見れば、浮かんでいた笑みはもうすでにそこには無く、
暗い表情を浮かべたいつも通りの少年がいた。
そっとそんな少年を見つめて。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:27:23.88 ID:gtJzxbtMo<>
「じゃあ、楽園なンて、やっぱり嘘だったンだな」
――本当は、知っていたのだ。
赤い瞳に澱が落ちていった。
空気に溶けるように消えていった言葉は気のせいだったのだろうか。
少年を取り巻いていた違和感が憑き物のように落ち――ノイズと共に虚空へと消え去る。
「は?」
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
狂ったような笑い声が耳の奥で聞こえた気がした。
ザザ――ザッ――――ザザ――ザ。
その声の元を探し首を廻らせて、気がつく。
――いつの間にか空が割れていた。
渦巻く濁流のような色をしたそれはどろりとノイズを生み出し、世界を壊してゆく。
爽やかだった風はねとりと絡みつくような不快感を肌に残し、溢れ出した腐臭を漂わせていた。
色取り取りの花々はその全てが腐り落ち、醜い原色を晒す。
そこはまるで腐海。
風が吹く度、上がる悲鳴はきっとこの世の滅びを嘆く声だ。
刺すような光がただその崩れゆく世界を鮮烈に浮かび上がらせていた。
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
「ああ……、そうだ。そうだったわ」
その光景を呆然と眺めながら木原は全てを思い出し――全てを自覚する。
もうすぐこの束の間の幻想は終わりを告げるのだ。
. <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:28:22.82 ID:gtJzxbtMo<>
「後悔、してる?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:28:53.26 ID:gtJzxbtMo<>
ザッ――ザザザザ――ザ――ザザッ――ザ――。
立ち尽くす木原の背に呼びかける声があった。
木原は振り向かない。
振り向かずとも、その聞き覚えのある声の正体などすぐにわかった。
崩れかけた世界の中で、木原はそっとため息を吐いて気怠げに答える。
抵抗は無駄だと知っていた。
番外個体にしっかりとその存在を掴まえられた今の木原は、
少女がたった一言空気を揺らすだけで虚空へと消え去るのだろう。
「……はぁ? 後悔? 何にだよ」
El
「現実を受け入れなかったことだよ、ってミサカはミサカは答える必要のない問いにあえて答えてみる」
少女らしい、だか無機質なその声はまるで木原を断罪するかのようだ。
大きなお世話だと、そんな風に悪態をついてやりたくなる。
「現実? 俺が死んだことか? 受け入れてんだろうがよ」
だからこそ木原は復讐を望み、化け物を沈めに行こうと奔走したのだ。
しかしその言葉に少女は首を振る。
髪の毛が緩く空気を切る音が木原の耳にも届いていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:29:24.61 ID:gtJzxbtMo<>
「それは違うよ、ってミサカはミサカは否定してみる。
……ねえ、気がついていないの? 今まで見てきたものを見て、何も気がつかなかった?
ねぇ、キハラ。
あの幻想は、あなたがもたらしたバグが生み出したものなんだよ、
ってミサカはミサカはあなたに気がついて欲しくて言ってみたり。
A r k
箱船に望んだ人間だけ乗せて楽園に行こうとしたこのミサカも、
B a r o q u e
歪んだ懸想に赦しすら必要としなかったミサカ11170号も、
Y i e l d
不安定な数字に負けて、収穫を誤ったミサカ10032号も、
S a c r i f i c e
姉を犠牲にすることに耐えきれず、自分を犠牲にしようとしたミサカ14450号も、
S t a r D u s t
たった唯一の一番輝く星に手を伸ばそうとした番外個体も、
みんな、その核に存在していたのは好きだって、大切だって思う気持ちだよ。
El
ねぇ、あなたにも……その間に確かに愛情があったんじゃないかな、
ってミサカはミサカは……一縷の望みをかけてもう一度問いかけてみる。
あなたには、本当に憎しみしかなかった?
AccElerator A
それ を受け入れれば、違った世界があったかもしれないのに、それでも幻想を望むの?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:29:54.68 ID:gtJzxbtMo<>
「……はは」
とんでもないクソガキだと、そう思った。 ラストオーダー
詭弁を弄し、悪鬼のような男にすら光を見出す最後の希望。
「くははははははッ! ああ、そうかもなぁ……」
脳裏に浮かぶのは狂気に笑う白でもなく、
憎しみに煌めく赤でもなく、
出会った頃の弱々しい黒。
笑いながら木原はゆっくりと振り返った。
そこに居たのはただ木原に慈愛の眼差しを向ける、最終信号。
狂った白に、ぎらつく赤に、怯える黒に、木原の知らない色を根付かせた少女。
その色に木原までもが染まるのはきっとナンセンスだ。
あの少年が奈落の底から這い上がろうとしているのならば、自分はそれを引きずり下ろす奈落の管理人。
今更、光を望むような――望んでいいような立場でもない。
もし仮に望んだところで、彼女の言うように、彼は少年を愛せただろうか。
「そんなもん、もう誰にも分からねぇな」
くだらない妄想を頭から追い出すように、首を振る。
もう暗闇すら崩壊し始めた空間で、木原は酷薄な笑みをその唇にそっと乗せて――。
「……それに、俺には奈落がお似合いだ」
「――っ! 待って、ってミサカはミサカは――」
それを『消す』方法を木原数多は知っていた。
ゆっくりと瞼を下ろし、自身を闇の底へと沈めてゆく。
もう彼には何も聞こえず、何も見えない。
そして――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:30:26.33 ID:gtJzxbtMo<>
El
挟み込まれた四つの《過去》に惑わされずに堕ちれば――
A r k
┌──┘
↓
B a r o q u e
\
↓
Y i e l d
└─┐
↓
S a c r i f i c e
__/
↓
S t a r D u s t
ABYSS
――そこは《奈落》――。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:30:54.44 ID:gtJzxbtMo<>
何処から来て、何処へ逝ったのか。
ノイズ
その幻想が世界を揺らがせることは――二度と無かった。
. <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:31:23.82 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 12
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-------- Track 13
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-------- Track 14
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-------- Track 15
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-------- Track 16
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:31:53.69 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 17
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-------- Track 18
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-------- Track 20
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:32:43.51 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 22
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:33:16.87 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 27
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:33:48.98 ID:gtJzxbtMo<>
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:34:29.04 ID:gtJzxbtMo<>
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:34:55.03 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 44
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<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:35:29.02 ID:gtJzxbtMo<>
風がゆっくりとカーテンを揺らすリビングで、ソファに腰掛けたその少女は頬杖をつき
何もない空間をただ見つめていた。
比較的感情の波が激しいはずの瞳にも色はない。
「おい、何ぼォっとしてンだよ」
その姿はもう一人の居候である小さな少女の数日前の姿を連想させた。
どうにも気になって、肩を揺らす。
顔は似ていても、性格の上ではいろいろと首を傾げる部分の多い二人の類似点だが、
こういうふとした瞬間に、やはり同一DNAを持っているのだとはっとさせられる時があった。
「ん……? ああ、なんだ。……何か用なの?」
気怠げに返される返事はまったくいつもの番外個体らしくない。
暗い瞳は何かを憂いているようで、一方通行に居心地の悪さを与えた。
「……オマエが珍しく沈んでるから、笑いにきてやったに決まってンだろォが」
――たぶん、それは一方通行なりの気遣い。
その意図をどうやら完璧に把握したらしい少女は少年の赤い瞳を見つめ、
それから自らの瞳を半月型に歪める。
「……」
「なンだよ」
「ええー? もしかしてあなた、ミサカのこと心配しちゃった?」
「……ンなわけねェだろォが」
その反応もやはり数日前の上位個体のものと一緒だ。
なんとなく予想のついた展開に身を引きかけ――裾を掴んだ番外個体に阻まれる。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:35:57.89 ID:gtJzxbtMo<>
「けけっ! 何それ、ツンデレ? あなたのツンデレとか誰も得しねーっての!!」
「……」
「ねぇねぇ、ミサカがどうなっちゃうと思ったの? ねーえー!」
「……」
「もしかしてミサカに陰のある美少女の空気を期待しちゃった?
やーん! あなたってば童貞臭しすぎー! ひゃはっ☆」
さっきの表情はどこへやら。
どうやら心配する必要はないらしいその様子に、なんだか損したような気分になる。
とうとう番外個体は一方通行の肩を掴んで揺さぶり始めた。
いい加減面倒になってきた彼女への対応に、一方通行は電極のスイッチを入れることを検討し始める。
とそこに、どかん、と扉の開かれる音が響き渡った。
――救世主だ。
朝からなにやらどこかに出かけていた打ち止めである。
「ただいま、あなたー! って、ミサカはミサカは元気に帰還を告げてみたりっ!」
「うっせェぞ、クソガキ! 扉はもっと丁寧に開けやがれェッ!
黄泉川ンちが傷つくだろォが!」
とはいえ、少女の行動はいただけない。
ちょっとした行儀の悪さをダシに番外個体の手からするりと抜け出す。
ち、と視界の端で番外個体が舌打ちをしていたのは見なかったことにした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:36:27.40 ID:gtJzxbtMo<>
「ひゃっ、ごめんなさいっ! あなたって意外と律儀なのね、ってミサカはミサカは驚いてみる。
って、はっ!! ちがうのー! ミサカに言うべきもっと違う言葉があるでしょ、
ってミサカはミサカは催促してみたり!」
「はァッ!?」
「だーかーらー! ミサカはただいまーって言ったんだよ、ってミサカはミサカはほぼ答えを言ってみる!」
異様なテンションだった。
いつになく押しの強い少女に戸惑って助けを求めるように番外個体を見るが、
彼女はいつものようににやにやと笑うだけで助ける意思は微塵もないようだった。
「……」
視線を泳がせて、小さなため息を吐く。
――自分のような人間が、少女の帰る場所などになっていいのだろうか。
そんな、ご大層な事を思っているわけではなかったが、なんとなくそれを口にするのに抵抗があった。
一方通行はなおも往生際が悪く口を閉ざして、
行き場を無くした視線は、とうとうワクワクと瞳を輝かせる少女のそれとかち合う。
それでもしばらく迷った後に、一方通行は覚悟を決めて口を開く。
「……おかえり、打ち止め」
その言葉は小さな花を、優しく綻ばせた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:36:53.46 ID:gtJzxbtMo<>
Elysion
楽園
幾度となくその扉は開かれ、奈落に堕ちた少年を迎え入れるだろう。
なぜならば楽園への道筋は、一つではない。
少女達が笑う世界は、きっと楽園なのだから。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:37:38.58 ID:gtJzxbtMo<>
-------- Track 45
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VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:40:34.12 ID:gtJzxbtMo<>
以上でこの地平線は終了です
ループ? させねェよ
今までおつきあいいただいた方は本当にありがとうございました
みんなのレスにやる気が沸いて、思ったより早く書き上げられたよ、マジで
最後まで読んでくれた人でサンホラ知らない人とか居るのかな
そういう人にもおもしろさが伝わればと思って立てたんだけど、
もうちょっと書きようがあったかも、といろいろ反省してる
あとかなりスレタイ詐欺だったな、と途中で気がついたのも反省点
一方さん殆ど出てきてないよね
一応他にスレタイ候補は
木原「ただいま、一方通行」 一方「おかえり、木原くン」
一方通行「なァ、木原くン。その楽園ではどンな花が咲くんだ?」
とある科学の楽園組曲《エリシオン》
などありました
どれが一番よかったんだろ
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◆TW2EzQWlQc<>sage saga<>2011/06/25(土) 21:47:08.30 ID:gtJzxbtMo<>
とにかく初めて立てたスレで、滞りなく終了させていただき感無量
せっかくなので今更無駄とは知りつつも記念にトリップとかつけてみます
他にも書きたいものがあるので、また見かけるようなことがあったらよろしく
サンホラネタは思いついたら書きたいけど、多分期待に添えないや
すまんのよ
あとなんか余韻を楽しみたいので、HTML化依頼ちょっと経ってからします
数日たったら責任をもって自分でするので気にしないでね
それではー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/25(土) 21:58:08.56 ID:IzaxZwT2o<> 完結乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)<>sage<>2011/06/25(土) 22:20:59.36 ID:d19piNIP0<> 完結乙です
このスレの木原くンいいですわあ
サンホラ知らなかったのでスレの題材になってるCD聴きますた
聴いたことのある曲がいくつかあって感心しましたわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2011/06/25(土) 23:10:07.48 ID:LJlEb9iAO<> 完結超乙!
上手く混ぜてて面白かった <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 00:34:29.68 ID:MA1ZVGuLo<> 完結乙!
サンホラは知ってるけどこの曲?アルバム?は聞いたことなかったからちょっとわかりずらい部分もあった
けどすごく面白かったし読んでる時はふわふわした心地になれてよかった
一方通行を取り巻く話なのに一方通行が話に関わらないってのが面白かったなぁ
このスレの木原くン好きだなー
元ネタCD聞いてみたくなったし
またサンホラ×禁書書いてみてほしいわ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/06/26(日) 02:53:22.36 ID:ZHI3ztER0<> 完結乙!
この木原君好きだなー
ひょっとして総合スレに投下したことある? <>
◆TW2EzQWlQc<>sage<>2011/06/26(日) 08:59:54.43 ID:nZwM09DIO<> 浮かれて全レス
>>281
ありがとう!
>>282
ありがとう
木原くンの愛憎みたいなのが一番表現したかった部分なので、好きって言ってもらえると嬉しい
CD聞いてくれたのか
正直エリ組が一番上級者向けな取っ付きにくいストーリーだと思うので
良かったら他のも聞いてみてください
>>283
超ありがとうございます!
構成考えながら一人でニヤニヤした甲斐があったわ
>>284
乙ありがとう!
分かりづらいとこあったか…正直すまんかった
面白かったって言ってもらえて本当に嬉しい
主人公が一人蚊帳の外っていう構成の話が好きなんだ
まあでもこの話の主人公は多分木原くン
サンホラ×禁書はネタが降臨すればきっと!
>>285
ありがとう
こんなに真面目に木原くンの事考えたの初めてだったから、木原くン褒めてもらえて嬉しいわ
総合どころか初レスがこのスレだよ
読み専だったので
もしかして総合でサンホラネタ投下した人いたのかな
読みたいから良かったら教えて欲しいかも <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 12:28:30.60 ID:evFOJpzDO<>
初めてでこのクオリティ…だと…?
一番好きなアルバムだからwktkが止まらなかったよ
ミサワさんかっけえし
最後には救いがあったし!
何が言いたいのかっていうと
1乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/06/26(日) 13:02:13.01 ID:dT9ktuteo<> 完結乙乙
何故stardustで何故なのよおおおおおおおおおお!!がないのだ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2011/06/26(日) 23:49:38.64 ID:bxg4/CHwo<> 無事完結おつ!
エリ組の退廃的な雰囲気と、底にある愛情、空気感が素敵でした!
楽園側の曲も欲しかったけどまとめるには難しかったかな
木原くン「残念だったねぇ
☆「最終信号さえ無事に戻るならばそれでよい 男の方などバラしてもかまわんわ
↑っていう幻視をしたが打ち止めが葡萄酒作りする羽目になりそう
うんこりゃだめだ
何はともあれ面白かったですありがとー! <>
◆TW2EzQWlQc<>sage<>2011/06/27(月) 08:38:51.95 ID:jmkc//9Bo<>
>>287
読んでくれてありがとう
ミサワ好きだからかっけーって言ってもらうとマジ滾る
>>288
あっ
すまん 素で入れる発想がなかったわ
乙ありがとう
>>289
なんてもったいない言葉…
楽園側は悩んだ挙句ああなりました
やっぱり禁書でやるからには禁書の設定にある程度沿ったものがやりたかったので
打ち止めロレーヌ!呆気なく木原くンに沈められる第一位ェ…
てか別にアルバムに拘らなくてもいい事に初めて思い至った
檻花三部作とか
星屑→零音とか自由度が結構高くてパロりやすそう
三毛の毛皮の猫を従え、エメラルドの瞳で残酷な神を見る少女…ねーわ
別に誰か別の人が書いてくれても構わないんだからね!
それでは、HTML化もお願いして来たのでこの辺で
本当にありがとうございました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2011/06/28(火) 22:39:50.92 ID:nZVJEAlG0<> おつ。
なんかメルヘンていとくんとか面白そうだからみたいなぁww <>