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HTML化した人:lain.
ドイル「敗北を知りたい」QB「それが君の願いなんだね」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 02:51:55.50 ID:VmJfXWWIO
まさかのバキ×まどかッッ
バキキャラはバキも烈も克己も出ません
あくまで死刑囚ドイルオンリーで

じゃあ開始(はじ)めるぜェ〜
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 02:53:41.43 ID:VmJfXWWIO
見滝原市から遠く離れた地、イギリス。
電気椅子に縛り付けられた死刑囚が今まさにその命を散らそうとしていた。

刑務官「最後に何か言い残すことはあるかね、ドイル君」

ドイル「敗北を知りたい」

QB「それが君の願いなんだね」

ドイル「……誰だ?」

刑務官「……?誰と話しているんだ」

ドイル「あんたには聞こえないのか?妙に甘ったるく胡散臭い響きの声が」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 02:55:42.93 ID:VmJfXWWIO

刑務官「フン、死への恐怖でとち狂ったか……」

QB「ぼくの声は普通の人には聞こえないよ。聞き取れるのは資質を持った人間だけだ」

QB「えっと、敗北を知りたいという君の願いだけど………ヘクター・ドイル、今まさに君は死にかけている。これは敗北とはいえないのかい」

ドイル「フフ……こいつじゃあ俺に敗北の味を与えてくれない。なんとなくそういう予感がするんだ」

QB「予感……そんなものに自分の生命を預けるなんてどうかしてるよ。ヘクター・ドイル、ぼくと契約して魔法少女になってよ。そうすれば君の命を助けてあげられるよ」

ドイル「まあ見てなって」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 02:57:32.65 ID:VmJfXWWIO
刑務官「おい、もういい……やれ」

死刑執行人「はい」

執行人が電気椅子に電流を流す。ドイルの身体(からだ)は痙攣し、目・口・鼻・耳と顔面のあらゆる穴から血を流した。

刑務官「もういいだろう」

その言葉で執行人がスイッチを切る。その瞬間、ドイルの拘束がはぜ飛んだ。
刑務官が目を剥くより迅速(はや)く、ドイルは執行人のもとに跳躍し顔面をしたたかに殴打した。

ドイル「やはり……君たちでは俺に敗北の蜜を味あわせてくれない。そんな臭いがしたんだ」

刑務官「〜〜〜ッッ」

そして刑務官が腰の拳銃を抜くより敏速(はや)く、その股間を蹴撃した。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 02:58:20.41 ID:bp63CoTso
これはいい
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 02:58:49.51 ID:VmJfXWWIO
ドイル「さて……俺の願いを叶えてくれるといったのはどこのどいつかな」

QB「あの状況から生き残るとは……ぼくに感情があれば驚愕(おどろ)いたと思うよ」

ドイル「……それはこっちの台詞だ。こんな奇妙な生き物がいるとはな。お前は猫の怪物(モンスター)かい」

QB「ぼくの名前はキュゥべえ。ぼくと契約して魔法少女になってよ。そうすれば君に甘美な敗北を与えてあげよう」

ドイル「ククク……お前について行けば面白くなりそうな芳香(かおり)がするぜ。いいぜ契約しよう。俺に敗北を教えてくれ」

QB「君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ受け取るといい」

こうしてイギリスの地に一人の魔法少女が生まれた。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 03:00:55.70 ID:VmJfXWWIO
和子「今日はみなさんに大事なお話がありま
す。心して聞くように」

和子「ゆでたまごとは、固ゆでですか?それとも半熟ですか?」

和子「はい、中沢君!」

中沢「どっちでもいいんじゃないでしょうか……」

和子「その通り!どっちでもよろしい!」

和子「たかが卵のゆで加減なんかで(ry」

さやか「またかよ…」

まどか「このネタ飽きたね」

和子「はい、あとそれから、今日はみなさんに転校生を紹介します」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 03:02:48.92 ID:VmJfXWWIO
さやか「また転校生かよ!」

ほむら(転校生!?こんなことこのループが初めてだわ)

和子「じゃ、ドイルさん、どうぞ」

さやか「うお、すげーでかい!」

まどか「外人さんだ!髪が茶色いよさやかちゃん」

和子「はい、それじゃあ自己紹介いってみよう」

ドイル「ヘクター・ドイル。男性名だが女だ。イギリスからきた。ゆでたまごの好みは固ゆで(ハードボイルド)。以上だ」

和子「〜〜〜ッッ」

さやか「うおッ、あの転校生飛ばしてるなー」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:04:42.03 ID:VmJfXWWIO
〜回想〜

ドイル「おいQB。契約したのはいいが女になってしまったじゃないか、どういうことだ」

QB「いっただろう?魔法少女になって欲しいって。君は第二次性徴期相当の女性になったのさ」

ドイル「聞いてないぞ」

QB「聞かれなかったからね」

ドイル「これでは敗北が不味くなるじゃないか」

QB「君が少女になることで敗北に貴賤がつくのかい?老若男女だれにとっても敗北は敗北そのものだと思うけど」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 03:05:52.15 ID:VmJfXWWIO
ドイル「敗北を満喫する最良の方法は全力を尽くしたすえに勝利を奪い取られることだ。少女の貧弱な膂力(ちから)で得た敗北などに意味はない」

QB「なんだそんなことか、それなら大丈夫だよ。ちょっと壁でも軽く小突いてごらん」

ドイルは近くにあった手頃な壁を軽く殴った。あくまでも軽く、だ。
しかしその行為は部屋中に轟音を響かせ、壁を粉砕せしめた。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:05:57.21 ID:bp63CoTso
てっきり女装して行ったと思った
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:07:07.47 ID:VmJfXWWIO
ドイル「〜〜〜ッッ、どういうことだ。俺は言われたとおり軽く小突いただけだが」

QB「それが魔法少女の力さ。身体能力が強化されているんだ」

ドイル「なるほどね。しかしこれだけの力の前に、勝利を奪い取ることができる人間がいるとは思えないが」

QB「人間ならね。君はこれから魔女と闘争(たたか)ってもらう」

ドイル「魔女(ウィッチ)と……?それも聞いてない話だが」

QB「聞かれなかったからね」

ドイル「……chiッ!喰えねえ野郎だぜ。で、その魔女とやらは強いのかい」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:09:05.92 ID:VmJfXWWIO
QB「とてもね。魔女との闘争(たたかい)で命を落とす魔法少女は何人もいるよ」

ドイル「いいねえ、俺が求めてたのはそういった命を削りあう闘争だ。やはりお前に付いてきて正解だったというわけだ」

QB「お褒めに与り光栄だよ。ちなみに魔女よりももっと美味しい敵がいるんだけどね」

ドイル「へぇ、なんだいそりゃあ」

QB「……暁美ほむら、君と同じ魔法少女だ。それもかなりの手練れのね」

ドイル「クックック……なるほど、理解(わ)かったぜ。魔法少女同士でヤるのもありってわけだ」

QB「飲み込みがはやくて助かるよ。それじゃあ行こうか、見滝原市、日本に」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:12:42.04 ID:VmJfXWWIO
書きだめが尽きたので今日は以上で
ある程度書きだめてから投下したいので更新間隔は遅くなるかもしれません

バキを読み返してたら婦警ドイルが目に止まって思わず書いてしまった
ヒョウ柄のパンツ穿いてるし、可愛いし、ヒョウ柄のパンツ穿いてるからドイルも魔法少女になれるはずッッ
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 03:14:04.97 ID:+ElQfXzK0
>>1

期待するッッ
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 03:16:06.98 ID:bp63CoTso
乙、期待ッッ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:39:38.61 ID:VmJfXWWIO
眠れなかったんでちょっとだけ投下するわ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:42:19.18 ID:VmJfXWWIO
〜回想終了〜

女生徒A「ドイルさんって前はどこに住んでたの〜?」

ドイル「スコットランドのグラスゴー(の刑務所)に住んでいた」

女生徒B「しゃべり方が男っぽいねー。惚れちゃいそう」

ドイル「日本語にはまだ不慣れだからな」

女生徒C「えー!全然上手だよ〜」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:43:14.09 ID:VmJfXWWIO
さやか「いやー、人気ですなあ転校生二号」

まどか「二号って……ドイルさんってボーイッシュでとてもかっこいいよね。鼻筋が通っててまるで宝塚みたいだよ」

さやか「おッ、まどか!浮気か〜?私というものがありながらこのやろー」

まどか「ち、ちがうよ〜。べつに好きとかじゃなくて」

仁美「ふふふ、でも本当に可憐ですわねドイルさん。まるでモデルみたいですわ」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:43:59.72 ID:VmJfXWWIO
女生徒B「ドイルさん、今日一緒にお茶しない?親睦会も兼ねて」

女生徒A「いいねえ!どう?ドイルさん」

ドイル「いや、遠慮しておくよ。まだ引っ越し後の片づけが済んでいないんでね」

女生徒C「ざんねんだなぁ」

ドイル(ふう、思春期ども〈ティーンズ〉の相手は疲れるな。さて、俺の本命のかわい子チャン〈プッシーキャット〉は……)

ドイル「えっと、アケミさんって知ってるかな?俺と同じ転校生らしいから仲良くしたいんだ」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:45:19.04 ID:VmJfXWWIO
女生徒A「暁美さんならあの子だよ〜。あの黒髪のロングの」

ほむら(……あっちからコンタクトしてくるとは思わなかったわね)

ドイル「よろしく、アケミ・ホムラさん」

ほむら「ええよろしく。でもなんで名前を知っているのかしら」

ドイル含み笑いをしながら、ちらりとソウルジェムの指輪を見せた。

ほむら「〜〜〜ッッ!?」

ドイル「センセイに聞いたんだ。俺と同じ転校してまもなくの生徒がいるってね」

ほむら「………そう、先生に聞いたのね」

ドイル「“そういう”こと。今後ともナニトゾヨロシク」

ほむら「ええ……ヨロシクオネガイシマス」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 05:46:58.90 ID:VmJfXWWIO
〜放課後〜

ドイル「さあて、町でも散策するかね」

QB《ドイル、聞こえてるかい》

ドイル《こいつ……直接脳内に!》

QB《魔法少女どうしで使えるテレパシーさ。考えたことがそのまま伝わるんだ》

ドイル《へぇ、それじゃあ俺の意中の姫にもこの気持ちが伝わっているのかい》

QB《いや、これは秘匿回線と思ってくれていい。それよりも何で今日、暁美ほむらを挑発するようなことをしたんだい?
[ピーーー]ならこっそりと近づいてこっそりと殺せばいいじゃないか》

ドイル《ウェットワークは俺の趣味じゃねえ》

QB《ウェットワーク?》
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 05:48:28.62 ID:VmJfXWWIO
やっちまった……iPhoneだからいちいちsagaを入れ直さないといけないのが面倒くさい

〜放課後〜

ドイル「さあて、町でも散策するかね」

QB《ドイル、聞こえてるかい》

ドイル《こいつ……直接脳内に!》

QB《魔法少女どうしで使えるテレパシーさ。考えたことがそのまま伝わるんだ》

ドイル《へぇ、それじゃあ俺の意中の姫にも気持ちが伝わっているのかい》

QB《いや、この会話は秘匿回線と思ってくれていい。それよりも何で今日、暁美ほむらを挑発するようなことをしたんだい?
殺すならこっそりと近づいてこっそりと殺せばいいじゃないか》

ドイル《ウェットワークは俺の趣味じゃねえ》

QB《ウェットワーク?》
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 05:50:04.20 ID:VmJfXWWIO
ドイル《暗殺のスラングだよ。返り血に濡れるから“濡れ仕事〈ウェットワーク〉”》

QB《なるほどね。しかし暗殺を避けるとしてもわざわざ挑発しなくてもよかったんじゃないか》

ドイル《これは宣戦布告だよ。といっても今すぐヤるというわけでもないがね。まずは彼女の私生活〈プライバシー〉を暴く。
不確定要素は出来るだけ減らしておきたい。そのためには観察をするんだ。闘争(たたか)う相手の観察して、観察して。
そして愛情を抱けるほどに想像するんだよ。そうやって不確定要素への対応力が高められるわけさ》
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 05:51:13.52 ID:VmJfXWWIO
QB《情報収集というわけだね。愛情を抱きながら殺す、というのはなかなかのサド趣味だ。
しかし、それならなおさら宣戦布告はマイナスに働くよ。今後彼女は君を警戒する》

ドイル《それを狙ってのことさ。俺だけに機会が与えられるのは俺の流儀に反する。彼女にも俺を愛してもらいたいのさ》

QB《まったくもって非効率なやり方だね。訳が分からないよ》

ドイル《フフ……感情をもたないお前には逆立ちしても分からんだろうよ》
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 05:56:42.85 ID:VmJfXWWIO
終了

バキ以外にも結構ネタを引っ張ってきてるんでパクリもといオマージュ先を知ってる人はニヤニヤしながら読んでくれると嬉しい

1レスにだいたい200字前後で投下してるけどちょうどいい塩梅かな?
疑問や気になる点があればどんどん突っ込んでくれッッ
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)[sage]:2011/07/10(日) 07:04:18.13 ID:3X730/QTo
バキは知らんけど会話のノリがなかなかよさそうだから期待
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/10(日) 08:01:54.85 ID:PTDaJ7zxo
頼む!ドリアンを出してくれッッッ!!!!
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/07/10(日) 08:24:07.27 ID:6oFioaYAO
じゃあ柳ヨロ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 08:44:31.54 ID:x3xJZEPDO
ドイル(少女形態)を書いてくれる絵師はまだかッッッ!?
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 08:51:44.95 ID:S9fi0dZIO
シコルは別にいいです
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 09:31:47.62 ID:0mGmr7QIO
やべーめちゃ面白いっす

とりあえずオーガが契約したら何秒で地球を滅ぼせるのかな
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2011/07/10(日) 09:57:30.25 ID:g3xpnLyn0
期待ッッッ!!
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)[sage]:2011/07/10(日) 10:57:22.36 ID:eLLsAUJBo
>>32
オーガは生身
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 11:27:27.81 ID:XRHdXTFBo
オーガはシャルロッテをマミる
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/10(日) 12:01:00.88 ID:nO2KNTxFo
>>34
生身でワルプルを瞬殺か…容易に想像できて困る
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 12:20:58.92 ID:b4rED47DO
ドイルってバキ連中の中ではかなり常人な感じがするな。フィジカルもメンタルも弱いシーンの方が目立つ
無双にならなさそうな感じが萌えって事だッ
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/10(日) 13:08:30.84 ID:cvSXZDOoo
ドイル(女)×克己とか、胸が熱くなるな…
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)[sage]:2011/07/10(日) 13:39:42.86 ID:rnzVQzDAO
体内の刃物は健在なんだろうか
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/10(日) 13:45:42.49 ID:Sae1XItPo
最初
ドイツ「敗北を知りたい」
に見えて世界大戦の事後でも書くのかと思った
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 17:20:42.23 ID:ckj61XmK0
>>40
俺だった
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 18:22:52.30 ID:VmJfXWWIO
>>30
バキ12巻に描かれてるじゃないか!

あと、他の死刑囚のことですがぶっちゃけて言うと出しませんwwww
五人も出したら絶対収集つかないだろjk

一応設定とかは妄想してたんだけどね
柳:武器は風神鎌
ドリアン:能力は幻惑、キャンディの魔女になる
みたいな

んじゃあ投下します

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 18:24:00.22 ID:VmJfXWWIO
ドイル《さて、俺は町を散策したいんだが案内してくれるかい?キュゥべえ》

QB《残念だけどそれは出来ないね。ぼくもこれから用事があるんだ》

ドイル《用事?俺みたいな新人〈ルーキー〉をほっぽりだすほど外せない用事なのかい》

QB《ああ、魔法少女の勧誘だよ》

ドイル《そいつはご苦労なこった。じゃあ俺は俺でぶらぶらさせてもらうぜ》

QB《ここの地理には明るくないだろうし、迷わないようにね》

ドイル《俺は、ガキじゃあねえよ。神のご加護を〈ゴッド・スピード〉》

QB《ぼくに祈る神なんてないんだけどね》
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/10(日) 18:25:20.26 ID:VmJfXWWIO
ふう……散策と意気込んで
みたのはいいものの、正直この辺りの地理は分からん。適当に練り歩くか。

ドイル(面倒くせえ……が、無精はできないな。いずれ戦場になる場所だ、地の利は抑えておきたい。
アケミ・ホムラも転校したばっかりでこの辺の事情には暗いだろうが、日本で育ってきたというメリットがある。
俺はまだ日本的な街の様式にさえなれちゃあいないんだ、地の利は今のところ彼女にある)

さてと戦闘が勃発しそうなところは……

路地裏・寂れた建物・郊外……人の寂しいところを重点的に潰すか。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 18:26:40.50 ID:VmJfXWWIO
また、地形を調べるだけじゃなく、アケミ・ホムラの尾行にも注意しなければならない。

ドイル(あれだけ挑発したんだ、俺のことが頭から離れないだろう)

───もっとも、この点については無駄な心配だったのだが───


〜数時間後〜

ドイル「シーット!迷っちまったぜ」

ドイル(キュゥべえについていった方が得策だったかね……あれだけ警戒していた
アケミ・ホムラの影すら見えねえし)

ドイル「愛しの君には嫌われたかね、こりゃあ……ん?」

憮然とした表情を隠しもせずに路地裏を歩いていると、ドイルは不穏な気配を感じた。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 18:28:28.80 ID:VmJfXWWIO
ドイル(嫌な感じがしやがるぜ……まるで空気が歪んでいるような)

次の瞬間、ドイルは結界に取り込まれ、

ドイル「〜〜ッッ!何だ?景色ががらっと変わりやがったぜ」

そ突如、耳障りな音を響かせながら、落書きの魔女の使い魔が飛来(と)んできた。


ドイル「おわッッ……なんだい、あのちびっ子は」

ドイルは寸前で気配を察知し突撃を紙一重で回避(さ)けた。

ドイル「へぇ……これが魔女ってやつかい?楽しませてくれよ」

そして、不敵な笑みを浮かばせながら、グリーフシードをノーマルな形状に戻し───魔法少女に変身した。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 18:31:22.88 ID:VmJfXWWIO
落書きの魔女の使い魔。
その役割は童心。
奇妙な笑い声をあげるのはそれ故だろうか。

ドイル「1、2、3、4……全部で六匹か」

結界に取り込まれ異形と対面するのは、これが初めてだ。
彼は少なからず困惑していた。
“魔女”と聞いたのだ。
人型の敵が出てくると思っていた。

ドイル「まさか、おもちゃの空軍〈エア・フォース〉の相手をするとは夢にも思わなかったぜ。あいつはいつも説明が少ないんだよ」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/10(日) 18:38:07.38 ID:VmJfXWWIO
けれども、困惑の裏に興奮が入り交じっていることも事実であった。
尋常(いつも)と異なった状況〈シチュエーション〉に、喜びを感じていた。

彼は飢餓(う)えていた。
路上にも、軍部にも、裏の世界にも、空腹を満たす要因が存在しなかったから。
だが、しかし……

ドイル「狂ってやがるぜ、この世界はよ」

思わず口から漏れた言葉は喜悦を含んでいた。
この狂った世界が自分を充実(み)たしてくれるかもしれないから。

ドイル「さあ、乱戦〈ドッグ・ファイト〉としゃれ込もうか」

スイッチを入れる。
機構〈ギミック〉が起動(うご)く。
冷えた刃(やいば)が顕現(あらわ)れる。

飢餓(う)えた獣が、その牙を剥いた。


ドイル「フフ……俺に敗北を教えてくれ」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/07/10(日) 19:22:55.03 ID:zxh7+olqo
マジカル仕込み刃なのか
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/10(日) 19:54:08.45 ID:lqmWdWel0
節子それまだグリーフシードちゃう

ソウルジェムや
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/10(日) 19:55:13.79 ID:nO2KNTxFo
>>50
魔法少女じゃなくて魔女っ子かもしれない
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2011/07/11(月) 03:12:13.34 ID:hedpQ55Qo
スペックならもっと良かった
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:29:30.26 ID:o/BSsb1IO
>>50
やっちまったぜ
それじゃあ投下します
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:31:06.97 ID:o/BSsb1IO
ドイルは使い魔と空中戦を展開していた。
肘、手首、手の甲、膝、かかと……身体中から飛び出る鉄製の刃を爪のように使い、壁から壁へと跳躍(と)びはねていた。

上下左右に。
縦横無尽に。
四方八方に。

あたかも獣が行う狩りのような光景だった。
そう、まさにドイルは獣であった。
餌に飢餓(う)えた一匹の豹であった。
均整のとれた肉体の上に、理想的に装備された筋肉群。
脱力時にはマシュマロのような柔らかさに。
しかし、力を込めると鋼のように堅く。
それらを効率よく動員し空を駆る姿は、感動的ですらある。

使い魔が獣に襲いかかる。
獣は跳躍(と)ぶ。
すれ違いざまに、爪をたてる。
銀色に光るそれは、死に行くものへの道しるべのようだった。

まずは一匹を切り裂いた。
空中で制動がとれないうちに、二匹めが飛来(と)んできた。
突撃する瞬前、獣は身体をねじった。
まるでアクロバット飛行のように、その“機体”を旋回させ、肘から生えた爪をたたき込む。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/15(金) 01:32:21.78 ID:o/BSsb1IO
向かいの壁に“着地”したあと、二匹の敵機がまとめて襲いかかってきた。
獣は、次のアクションを考える。
静止し、敵を迎え撃つことにした。
後ろ足の爪を壁に食い込ませ、それのみで立つ。
結果、自由になった両前足の爪で、二匹を撫ぜる。
命を摘み取る。

一挙手一投足で四匹の獲物を狩り終えた獣は、次へと狙いを定める。
そのとき、悪寒を感じた。
本能のままに、壁から跳躍(と)ぶ。
獣のいた位置に、槍が突き刺さる。
穂先から柄へと、眼を滑らせる。


杏子「あんた……人の縄張り〈テリトリー〉で何をしてんだい」


───赤い少女がそこにいた。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:33:35.53 ID:o/BSsb1IO
ドイル「………」

杏子「だんまりかい?人の狩り場で暴れるわ、使い魔を狩るわ……アンタにルールって奴をたたき込んでやろうか?」

ドイル「驚いたな、魔法少女にもルールが存在したとはね」

杏子「人をなめてんのかい」

少女はドイルを睨(ね)め付ける。

ドイル「スマナイ、気を悪くしないでくれ。魔法少女には最近なったものだから……槍をひいてくれないか」

ドイルの一言で、伸ばしていた槍を縮める。

杏子「ルーキーって訳か。通りで使い魔をポンポン狩ってると思ったよ」

ドイル「使い魔……?あれは魔女じゃあ無いのかい」

杏子とにらみ合っているうちに、結界は消えていた。
使い魔が逃走したのであった。

杏子「は!?そんなことも知らないのかい?キュゥべえは何をやってんだ」

ドイル「全くだ」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/15(金) 01:35:09.21 ID:o/BSsb1IO
杏子「いいかい、使い魔っつーのはね、平たく言えば魔女の手下みたいなもんだ。こいつを倒してもグリーフシードは手に入らない。無駄な労力ってわけさ」

ドイル「すると君は俺が骨折り損をするのを止めてくれたというわけだ」

杏子「ちげえよ。使い魔はね、人を喰って魔女になる。私からすれば農場を荒らされてるようなもんさ。だから止めたんだ」

ドイル「なるほど……それはすまないことをした」

杏子「分かればいいんだよ。ほらさっさと消えな」

ドイル「その前にお願いがあるんだが」

杏子「なんだい……」

ドイル「見滝原にはどうやって行けばいいのかな」

場の空気にそぐわない間抜けな質問。
少女はあきれて答える。

杏子「アホか、お巡りにでも聞きな」

ドイル「つれないね」

杏子「用が済んだならもう行きな」

ドイル「いや、もう一つお願いがある。非常に言い辛いんだが……君の狩り場を俺にくれないかい」

空気が固まった。
少女の眼を昏い炎がなめた。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:37:06.33 ID:o/BSsb1IO
杏子「……あんた、それがどういう意味か理解(わ)かってるのかい」

ドイル「君と俺がヤるってことだろう」

杏子「舐めるなよ。魔法少女になりたてのアンタが、私に勝てると」

ドイル「思うよ」

杏子「そうかい、後悔するなよ。身に降りかかる火の粉は払わなきゃね」

───少女は槍を構えた。


おもむろに、ドイルは壁から降りたった。
少女から放たれる殺気に反応して、身体の奥からふつふつと何かが沸いた。
歓喜か、闘気か、それとも狂気か。
少女を観察した。
かなり“出来る”と思った。
下手に手を出すと噛み千切られそうな、そんな雰囲気をまとっている。
そのくせ、眼光は冷静(つめ)たかった。
相当の実力者だと推測した。
命を懸ける舞台を何度も経験した、そんな者にしか出せないものを持っている。

杏子「どうしたんだい?来なよ」

構え、重心、目線……様々な挙動を観察し、少女の狙いを定めようとした。
しかし、少女は限りなく自然体で、それを読むのは難しかった。
にらみ合いながら一分ほど経過した。
もちろん、ドイルも少女も何もしなかったわけではない。
自分に有利な間合いを探り、じりじりと微動(うご)いていた。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:38:28.32 ID:o/BSsb1IO
この女は相当なものだ、と佐倉杏子は考えた。
ただの新米〈ルーキー〉と考えてはいけない、と理性が警鐘をならした。
事実、さっきの使い魔との空中戦は、ド素人の挙動(うごき)ではなかった。
ふと、自分と女との空間が、歪むような錯覚を覚えた。
闘気と闘気がぶつかり合っているのだと解釈した。
身体に緊張が走る。
しかし、悪い緊張ではなかった。
ほどよい“それ”は、むしろ彼女の感覚をクリアにした。
女の動きを観察する。
両手を下げ、構えをいう構えはしていない。
いや、これが構えなのかもしれない、と思った。
その挙動に針の穴ほどの隙も見当たらなかったからだ。
獣じみた構えが、この女にとっての標準〈スタンダード〉だと確信した。
自分の得物は伸縮自在の槍。制空圏ではこちらに分がある。
しかし、あまりに伸ばして闘うのも考え物だった。
一の太刀を回避した敵は持ち前の瞬発力で、一気に間合いを詰めてくるだろう。
となれば……

杏子(中距離……が一番良さそうだね)

体中から暗器をだしているような女だ。近距離は危うい。
この間合いで闘うのは薄氷を踏むようなものだ。
何があっても対処できる中距離が、彼女の最高の間合いだった。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:39:50.60 ID:o/BSsb1IO
ドイル(〜〜ッッ……来ねえな)

ドイルは焦らされていた。
少女は徹底して待ちにまわるらしい。
この緊張をもう少し味わっていてもいいのだが、人が来ておじゃんになるのも忍びない。
自分から行くか、と思った。
少女の得物は伸縮自在、間合いが計れないのがやっかいであった。

ドイル(まあいい。ウダウダしてても始まらねえ。こちらから掛かる)

ドイルが動いた。
ゆるりとしたその動きはまるで花びらのようだった。
ひらりひらりと、桜花が舞い落ちるように、風と圧を捲きながら距離を縮めた。
制空圏が触れあう。
いまだ火蓋は落とされない。
静静(しずしず)と間合いが詰まる。
刹那、杏子の槍が消える。
否、そのように錯覚するほどの速度で槍がうなった。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:41:15.10 ID:o/BSsb1IO
ドイル(下段ッッ!!)

反射的に飛びあがる。
瞬間、槍が中天(なかぞら)へと軌道を変えた。
獲物をとらえた猛禽類のような旋回だった。
宙に浮くドイルの正中線を、正確に狙っていた。

ドイル(〜〜〜〜ッッッ!!)

襲いかかるそれを左足で踏みつける。
危機は回避した。自由は奪った。
あとは己の拳をぶち込むだけだった。
踏みつけた左で加速した。
ふと違和感を覚える。
蛇に絡みつかれたような。
そして実際、その蛇はドイルの自由を奪っていた。

ドイル(多節槍ッッ!?)

幾つにも割れた穂が、左足に絡みついていた。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:43:55.59 ID:o/BSsb1IO
杏子(掛かったッッ)

少女が巡らせた罠に、獣が落ち込んだのだ。
そして少女は、迷わずにとどめを刺そうとした。

杏子「〜〜〜ッッッァァア!!」

少女を起点にしてドイルが回転する

獣が壁や床にぶち込まれる。

ドイル「ッッッがぁ!!」

一回、二回、三回、四回。
五回目といく寸前に、ふと手にかかる重量が消えた。
穂と穂を繋ぐ鎖が断ち切られていた。

杏子(〜〜ッッ!?)

砂埃がたつ。
標的を見失った少女は混乱に陥る。
ふと背筋に鳥肌が立つ。
本能に身を任せ、回避行動を起こす。
背中に熱さを感じた。

杏子「〜〜ッあ!!」

少女の柔肌に一筋の赤い線が走った。

ドイル「よく回避(かわ)したな。今のはこれ以上ないタイミングだったんだが……」

杏子「あんたこそ……よく槍(これ)を断てたね。けっこう頑丈なんだけど」


攻防は比喩なく瞬間であった。
まばたきの間に決着する、そのような死合であった。
彼女たちは、激烈な瞬きのなかに生きていた。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/15(金) 01:45:00.91 ID:o/BSsb1IO
今日はここまで
思った以上に投下ペースが遅くて
申しわけない
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 01:48:25.80 ID:SsKZXhnP0


最期の武器はおっぱい爆発ですね分かります
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/15(金) 01:49:21.46 ID:Q7gmV4Pdo
乙本部!
……良いねぇ、達人同士のガチ勝負
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/15(金) 03:00:55.97 ID:BwRwffuS0
このドイル・・・・・・女の子だとッッ!?
まどマギ知らんがとりあえずブクマッッッッ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/17(日) 19:12:36.08 ID:PGWCRnuIO
このドイル…美少女なんだろうな?!おい!
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/18(月) 23:52:21.98 ID:Kimfkg5IO
>>67
ははは、ドイルは原作でも美少女じゃあないか

それじゃあ投下します
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/18(月) 23:54:48.64 ID:Kimfkg5IO
死合はそのまま接近戦へともつれ込んだ。
佐倉杏子がイメージする、もっとも最悪な展開であった。

肘。

踵。

掌。

膝。

掌。

掌。

甲。

ドイルの暗器が少女を襲う。
それらをギリギリで回避(かわ)す。
アスファルトに染みが出来ている。
自分の血か、と少女は思った。
肌には幾筋もの傷が走っていた。
猛攻を総ては防げない。
致命傷を避けるためにあえて受けたのだ。
取捨選択で動きに余裕をつくるのである。

杏子(チッ……厄介な展開になったぜ)

本来、近接は少女の間合いであった。
だが、同じくドイルも近接戦闘を得意としていた。
いや、近接に限ればドイルの力量は杏子のそれを上回っている。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/18(月) 23:56:35.81 ID:Kimfkg5IO
それでもなお、少女は負ける気がしなかった。

杏子(不思議だな……今日はいつもより身体が軽い)

普段の数倍身体がよく動くのだ。
いまなら機械のような身体操作も可能であろう。
視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚……身体感覚も加速されていた。
死地を前にして身体が反応しているのか。
それとも好敵手との死合を経て、己の技量が進化しているのか。
どちらでもいい。
少女は己の発達を感覚(かん)じていた。

杏子(この猛攻にも必ず隙が出来る。攻撃が一瞬だけ中断(と)まればいい……)

──そこに全力を叩き込む。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/18(月) 23:57:51.21 ID:Kimfkg5IO

ヘクター・ドイルは興奮していた。

もしも男のままであったなら、思わず射精していたかもしれない。

それほどの快楽が、少女との戦闘には存在した。

ドイル(まだ敏速(はや)くなるのか……!!)

少女の強さは、先ほどの使い魔とは比べものにならないほどであった。
使い魔との戦闘がつまらなかったわけではない。
あれはあれで楽しめた。
しかし、あれは一種の娯楽のようなものだった。
使い魔との戦闘は、快楽を提供する娯楽施設〈アミューズメントパーク〉を思わせる。
対して、この少女と織りなすそれは、深みを帯びている。
冬……雪化粧にそめられた家、暖炉の前で紅茶〈ティー〉を啜りながら小説を読む──そんな悦楽(たのしみ)がそこにあった。
これほど神に感謝したくなったのは、生まれて初めてであった。
いままではむしろ、神を恨んで生きてきた。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/18(月) 23:58:39.29 ID:Kimfkg5IO
人を壊す味を占めて以来、ドイルは土を舐めたことがなかった。
常に捕食者の側であり続けた。
そのうちに、退屈を感じるようになった。
己を倒す者……捕食者を求めだしたからだ。


なぜ神は、俺にこのような退屈な人生を歩ませるのか。


──しかし今、神は己に素晴らしい出会いを与えたもうた。

素晴らしい出会いを、素晴らしい強敵を、素晴らしき“捕食者”を。
そして少女は一瞬ごとに成長している。なんという素晴らしきか。

ヘクター・ドイルは、幸福に満たされていた。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/18(月) 23:59:56.93 ID:Kimfkg5IO

数分が経過しいていた。
尋常の戦闘では、これほどに均衡状態が続くことはない。
魔法少女の身体能力……無尽蔵のスタミナがこれを可能にするのだ。
杏子が跳躍(と)び、ドイルが追う。
ドイルが切りつけ、杏子が回避(か)わす。
無論、回避するのみにあらず、反撃も加える。
二人の身体から染み出る“絵の具”が、路地裏に奇妙な赤い絵を描いていた。

杏子は必死で隙を探っていた。
己の五感を総動員し、攻撃にフェイントを加え、“命を刈り取る瞬間”を捜していた。

杏子(〜〜ッッ……堅え!!)

それでも相対する女はチャンスを与えてくれなかった。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/19(火) 00:01:28.61 ID:P+f7xISIO
魔法少女の“相手”をしたことは幾度となくあるが、これほど苦戦した事は指で数えるほどであった。

己の力で、家族が死んだ。
この力は総て自分の為に使う……
そう決意してからは、たとえ同族であろうと、殺すことも厭(いと)わなかった。

今までに相対した少女には、そのような覚悟を持っている者は少なかった。
しかし、この女は違う。
目の前の敵は自分と同じく、他人を殺してきた者なのだろう。

ふと、親近感が沸いた。
殺し合いの最中にこんな感情を覚えるのは、奇妙なことだった。

杏子(へッ……なんだか楽しいな。命を取りあってるっつーのに、おかしなもんだ)

少女にとって闘うことは、生きるために必要なことであった。
それゆえに、闘いを楽しむということは考えもしなかった。
しかし今、ドイルと同じく、杏子は闘いに悦楽(たのしみ)を感じ始めていた。
鍛錬(きた)えた身体で、研磨(と)いだ技で、人を倒すことの味を。
……そして闘いは佳境を迎える。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/19(火) 00:02:59.96 ID:P+f7xISIO

最初に動いたのは杏子であった。
ドイルの右肘がテレフォン気味に引かれる。
強烈な拳を繰り出すために。
常人から見ればわずかな“ため”であったが、今の杏子には十二分な間隙(すき)であった。

瞬時に攻撃プランが練りあがった。
先ずは左足を腿(もも)から切りと飛ばす。
間髪あたえずに心臓を貫く。

命を狩るために槍が振るわれた。



───その瞬間。



───ガシャンッッ。



───無機質的な音が響き、機構〈ギミック〉が作動した。



───ドイルの左腕が伸びた。



───杏子の顔面に拳が刺さった。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:04:54.51 ID:P+f7xISIO

杏子(〜〜ッッ!!?)

あまりにも不可思議(おかし)な一閃に、杏子は思考能力を奪われた。

スプリングによる拳の“発射”機構。
ドイルの切り札のひとつであった。
その本質は威力にあらず。
むしろ威力ある拳を求めるなら、地に足を着けて、体重を乗せて撃つほうがよい。
この拳の利点〈メリット〉は、無機質的───機械的なことである。

拳を撃つには気配が生じる。
拳打のみにあらず、投げ、極めなどにも予備動作が生まれる。
攻撃とは本来、有機的なものなのだ。

しかしこの攻撃は違う。予備動作が存在しない。無機的な拳なのだ。
挙動なく突飛に撃ち出される拳は、意識の外より飛んでくる。
思いも寄らぬ攻撃は相手に一瞬の混乱を与える。これがこの機構〈ギミック〉の本質なのだ。

そうして生まれたわずかな間隙(すき)を縫って───ドイルは少女の右腕を切り落とした。 
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:07:06.45 ID:P+f7xISIO

杏子「ッッがぁぁああああ!!?」

少女は悶絶した。
右腕から脳天まで、痛みが疾り抜ける。
激痛であった。煮えた鉛を血管に流されたような辛苦(いた)みだった。
少女の頭部に蹴りがとんだ。
もろに喰らって吹き飛ばされる。
勢いよく壁に叩きつけられ、穴をあけた。

ドイル(これで終いだな)

ケリをつけようと杏子のもとに跳躍する。
その瞬間、大穴から槍が伸びる。
意外な一撃を紙一重で避ける。

ドイル「……それほどの怪我でまだ動けるのか」

杏子「舐めるなよ。魔法少女ってのは、その気になれば……痛みすら消しちまえるんだ」

ドイル「それでも君に勝機はない、これで終わりだ」

杏子「ほざけえッッッ!」

どこにそのような力が残っているのであろう。少女は高速で突進してくる。
槍を振るう。
しかし、右腕の欠損によりバランスが崩れる。
攻撃には以前ほどの速度も重さもない。
ドイルは槍を回避(かわ)し、少女の正中線に拳を放り込む。

眉間。

人中。

水月。

カウンター気味に決まったそれは、僅かに残った少女の意識を……闘志を吹き飛ばした。
───決着がついた。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:08:41.34 ID:P+f7xISIO

ドイルは倒れ込んだ少女のもとに向かい、脈をとった。

ドイル(脈はしっかりしている、生きているな。魔法少女ってやつはまったくタフなもんだぜ)

ここでこの少女を[ピーーー]つもりはなかった。
久々の好敵手なのだ、生かしておけばまた相まみえるかもしれない。
そう考えて服を破り、少女に止血を施した。

ドイル(俺がここまで追いつめられたのはいつ以来だろうな)

そう思いながら左足を見る。
腿のあたりに深い切り傷があった。

ドイル(もし機構〈ギミック〉の発動が一瞬でも遅れていたならば……そこに倒れているのは俺だっただろう)

そして魔法少女のコスチュームから、見滝原中の制服姿に戻る。

ドイル(今日は疲れた、さっさと家に戻ろう。しかし……)

制服の少女が切り傷だらけというのは、とても目立つものであった。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/19(火) 00:09:41.11 ID:P+f7xISIO
あ、やっちまった


ドイルは倒れ込んだ少女のもとに向かい、脈をとった。

ドイル(脈はしっかりしている、生きているな。魔法少女ってやつはまったくタフなもんだぜ)

ここでこの少女を殺すつもりはなかった。
久々の好敵手なのだ、生かしておけばまた相まみえるかもしれない。
そう考えて服を破り、少女に止血を施した。

ドイル(俺がここまで追いつめられたのはいつ以来だろうな)

そう思いながら左足を見る。
腿のあたりに深い切り傷があった。

ドイル(もし機構〈ギミック〉の発動が一瞬でも遅れていたならば……そこに倒れているのは俺だっただろう)

そして魔法少女のコスチュームから、見滝原中の制服姿に戻る。

ドイル(今日は疲れた、さっさと家に戻ろう。しかし……)

制服の少女が切り傷だらけというのは、とても目立つものであった。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/19(火) 00:10:32.84 ID:P+f7xISIO

佐倉杏子が目を覚ましたのは夜なってからであった。
身体中に刻まれた傷はもうすでに塞がっている。
魔法少女の回復力が成し得る業であった。
切り飛ばされた右腕は止血されていた。

杏子「あたし……負けたのか」

負けたくなかった。
なぜかは分からないが、この勝負だけは絶対に負けたくなかった。
その上、負けた自分は生き残っている。
情をかけられたのだ。

そういった事を考えているうちに、胸の奥からいろいろな感情がこみ上げてきた。

杏子「ひぐっ……畜生ッッ!畜生ッッッ!!」

涙が流れる。

杏子「うわあああああああああああああああ」

少女は敗北に慟哭した。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:15:24.54 ID:P+f7xISIO
はじめてのお使い魔&vs杏子編終了

あんこちゃんの右腕切り飛ばしちゃったよ
ファンの方には誤っておきます御免なさい

「敏速(はや)い」みたいなバキ風のルビ頻用してるけど読み辛いかな?
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:18:04.03 ID:DiCYcP4e0
やべえこれたのしいwwww

>>81
全然気にならないです
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/19(火) 00:18:22.20 ID:L0YbFyR9o
全く問題ありませんっ!



流石に戦闘のプロ(グレートマジンガーは関係ないだろ、訴訟)のドイルにはあんこも敵わんか
まぁ刃牙世界で武器に頼ってこの程度で済んだのがむしろ幸い?
しかし……隻腕と言うオリジナル、か
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2011/07/19(火) 00:22:02.47 ID:LlUKMnkAO
>>83
おま………ッ!!
全く気づかなかったのに
杏子ちゃんのポジションに気づいちゃったじゃないかッ!!
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 00:27:17.38 ID:DiCYcP4e0
>>83
当てない打撃か……関節がかなり増えるな
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/07/19(火) 01:10:12.63 ID:tKp5uDQAO
こういうの待ってた
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 02:32:06.30 ID:P9R2xkp6o
魔法少女の身体ならマッハ突き出し放題だな
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 11:03:52.75 ID:EoKZzwEDO
しかしバキ住人とまともにやりあえるなんてすげえな杏子ちゃん。
いや、まどか勢全員バキ住人になっているのか…
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 11:45:03.29 ID:ohtpePzDO
この文章スタイルだったら、無理してセリフの前に名前書かなくてもいいんじゃない?
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 11:54:52.82 ID:tEVUzPxIO
乙っちまどまど!
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/19(火) 18:34:44.91 ID:A09MyilDO
杏子ちゃんはたとえ隻腕になってもかわいいと思います(キリッ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/07/19(火) 21:00:13.96 ID:GwxffXDAO
杏子の隻腕ペロペロ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/19(火) 21:03:10.87 ID:Yws/Wo57o
花の慶次思い出しちゃダメだぞ?
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/19(火) 21:44:33.54 ID:FqkmAz05o
隻腕の少女の刃は骨を断つことができるのか?


元死刑囚の新米少女の刃は対手に触れることができるのか?


出来る 出来るのだ





……すまん、こりゃチャンピオンはチャンピオンでも赤い方だ
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/07/20(水) 00:03:44.85 ID:w2jHDsYAO
>>94
まどかマギカ×シグルイだと
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/20(水) 00:45:24.57 ID:hufKBLuy0
ドイル「所詮、魔法だな」


コレが出ると思ったんだが。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/07/22(金) 00:30:12.69 ID:K+n4WmAAO
面白い期待
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/07/22(金) 00:30:38.82 ID:K+n4WmAAO
面白い期待
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/22(金) 18:19:30.17 ID:/3f112v70
>>98
エラーが出ても気にしちゃあダメだ
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 22:49:59.65 ID:iU8diVCIO
>>89
ss初めてなんでよく分からんかったんですよ
途中で変更するのもあれだしこのssではこの形式でいきます

んじゃ投下します
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 22:53:24.54 ID:iU8diVCIO

ドイルが家に着いたのは、日も落ち夜空に月が昇り始めた頃だった。
まったく知らない街であることに加え、家路の途中で警官に傷のことを尋ねられ、さんざん時間を喰ってようやく玄関をくぐれたのである。
六畳ほどの部屋であった。
スチール製のベッド、簡素な机と椅子、家電製品、調理器具……生活に必要な物以外すべて削ぎ落とした部屋づくりは、シンプルな空間を形成していた。

ドイル(ふう、今日はまいったぜ。次からはキュゥべえを引っ張っていこう。しかし……)

昼間に刻まれた傷がもう回復(なお)っているのは驚きであった。

ドイル(これも魔法少女の能力か。これならあの少女も大丈夫だな)

QB《お疲れのようだね、散策は楽しかったかい》

ドイル《キュゥべえ、いるのか?》

白い、猫のような生き物が壁をすり抜けてあらわれた。
ぬいぐるみのような身体をもつ来訪者は、ベットの上に飛び乗りドイルに話しかけてきた。

QB「やあ、ごぶさただね」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 22:54:58.48 ID:iU8diVCIO
ドイル「へえ、壁をすり抜けられるんだな。怪物(モンスター)というよりお化け(ゴースト)だ」

QB「お化けとはひどいなあ、愛らしいって評判なんだよ。で、収穫はあったかい」

ドイル「ああ、豊作だぜ。強いんだな、魔法少女ってやつは」

QB「魔法少女と闘ったのか。どんな少女か覚えているかい」

ドイル「たしか……全身赤いコスチュームで、それと奇妙な槍を使ってたな。伸びたり、多節棍になったり」

QB「それは佐倉杏子だね。殺したのかい」

キュゥべえは少し怪訝な声を出した。

ドイル「いや止めは刺さなかったよ」

QB「それはよかったよ。佐倉杏子ほどの魔法少女を失うのはイタいからね」

ドイル「へえ、魔法少女を失うのはイタいのかい。じゃあ何で俺をけしかけたんだ」

QB「暁美ほむらは別だよ。彼女はイレギュラーだからね」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 22:56:20.85 ID:iU8diVCIO
ドイル「イレギュラー?」

QB「そう、イレギュラー。彼女はぼくと契約せずに魔法少女になっているんだ」

ドイル「へえ……不穏分子だから排除して欲しいと」

QB「それもあるけどね。彼女はぼくが少女達と契約するのを邪魔するんだよ」

ドイル「なるほどね。それで俺を利用したわけだ」

QB「いいじゃないか。君は強い相手と闘いたい、ぼくはイレギュラーを排除したい。君とぼくはギブアンドテイクの関係だよ」

ドイル「詐欺師みたいな奴だな、お前は。ま、確かに利害関係は一致してる」

QB「暁美ほむら以外の魔法少女を殺されるのはいただけないけどね。できれば生かして欲しいんけど」

ドイル「保証はできんぜ。といってもあのタフさだ、殺しても死ぬかどうか」

QB「殺しても死なないっていうのは的を射た表現だね」

ドイル「どういうことだ?」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 22:59:02.55 ID:iU8diVCIO
QB「魔法少女の肉体はとてつもなく頑丈だってことだよ。心臓を貫かれても、脳漿をこぼしても、ソウルジェムさえ無事なら死なないのさ」

ドイル「なるほど、通りで傷が塞がるのが早いわけだ。逆に言うとソウルジェムが壊れたら無事じゃあすまないってことかい」

QB「そうだね。ソウルジェムは君たちの魂そのものだから。魔力を使うとソウルジェムが濁るからそれにも気をつけて欲しい」

ドイル「まさしく魂の宝石〈ソウルジェム〉というわけだな」

QB「あまり驚いていないみたいだね。たいていの少女はこの事実を知ればショックを受けるんだけど」

ドイル「ショックを受ける?なんでだい?これほど戦闘に適した“あり方”はないぜ」

QB「君みたいなタイプは珍しいよ」

ドイル「ありがとよ。まあ女子供にはショックだろうがね。死んでも死なないなんて怪物みたいなもんだ」

そう、まさにフランケンシュタインのような。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 23:00:53.15 ID:iU8diVCIO
ドイル「ひどい奴だな、お前も」

QB「ひどい?願いを叶えた対価じゃないか、こっちも慈善事業でやってるわけじゃあないからね」

ドイル「どうせ事前には説明しないんだろ」

QB「聞かれたらちゃんと答えるよ」

ドイル「またこれだ。やっぱりお前は最高の詐欺師になれるぜ」

QB「騙しているつもりはないんだけどね」

ドイル「なおさらたちが悪いな」

QB「まったく人間の価値観は理解(わか)らないよ」

ドイル「理解(わか)ってたらいまごろ良心の呵責に押しつぶされているだろうよ。で、そっちは収穫はあったのかい?今日も詐欺に勤しんでたんだろ」

QB「それが暁美ほむらに邪魔されちゃってね。君の方に行ってくれれば良かったんだが」

ドイル「へえ、暁美ほむらはキュゥべえにお熱ってわけかい」

QB「正確に言えばぼくじゃあないんだけどね。彼女は鹿目まどかにつきっきりなんだよ」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 23:02:41.82 ID:iU8diVCIO
ドイル「レズビアン?」

QB「それは知らないよ」

ドイル「なんにせよ俺のアプローチは失敗に終わったってことか」

QB「これからどうするんだい」

ドイル「そうだな……“He that would the daughter win, must with the mother first begin.” 娘さんが欲しければ、まずお袋から攻めろってね」

QB「将を射んと欲すればまず馬を射よ、ということかい。つまり鹿目まどかに接近するんだね」

ドイル「そういうこと」

QB「それならついでに、彼女に魔法少女になるように諭してくれないかい」

ドイル「知らねえよ。自分のことは自分でやりな」

QB「ケチだね。わかったよ」

ドイル「んじゃ、俺はシャワー浴びて寝るぜ。お前は床で寝るか、どっか行け。ベッドは俺が使うからな」

QB「まったくひどい扱いだなあ」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 23:05:52.99 ID:iU8diVCIO

さやか「おっはよ〜」

まどか「おはよーさやかちゃん」

仁美「おはようございます」

まどか「ふふ、今日はさやかちゃんが最後だね」

さやか「いっやーごめんごめん」

仁美「でも、ゆっくり歩いても十分間に合う時間ですわ」

まどか「そうだね……って、さやかちゃんあれ!」

まどかが何かを指さす。
さやかが目を向けた先には、茶髪で身長の高い少女がいた。
イギリスから来た転校生である。

さやか「おっ、転校生二号じゃん」

まどか「そうじゃないよ!ドイルさんの肩に……」

さやか「げえっ!キュゥべえ!!」

異常な光景に、さやかは思わず叫んでしまった。
転校生の肩の上に、あのキュゥべえが乗っていたのである。

仁美「キュゥべえ?」

まどか「いっいや、何でもないよ」

仁美は早とちりをし、顔を赤らめて声を出す。

仁美「……二人だけの秘密なんて
、もうそんなに進展(すす)んでいましたのね!」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 23:07:28.24 ID:iU8diVCIO
さやか「え!?違うよ違う!」

仁美「いえ、分かっていますわ。おじゃま虫は退散いたします。ごめんあそばせ〜〜」

さやか「おーい!……あー行っちゃった」

まどか「あはは……」

QB《おはよう。朝から元気だね、まどか、さやか》

すると、キュゥべえがテレパシーで話かけてきた。

まどか「キュゥべえ!」

ドイル「やあ、おはよう……えーと」

まどか「あ、鹿目まどかです。おはようございます」

さやか「私は美樹さやかです。えっと……ドイルさんの肩に乗ってるそれは」

さやかも思わず敬語を使ってしまう。
普段は人見知りをしないさやかも、外国人であり、自分たちより一回り大きい身体をもつドイルに萎縮してしまったのだ。

ドイル「キュゥべえのことかい」

まどか「やっぱり見えてるんですね。ということはドイルさんも」

QB「うん、ドイルも魔法少女だよ」

まどか「そうなんだ」
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/22(金) 23:09:03.01 ID:iU8diVCIO
さやか「でもドイルさんってイギリス人ですよね!日本に来てから契約したんですか?それともイギリスで?」

ドイル「こいつに会ったのはイギリスさ」

QB「ちょっとイギリスまで行ったとき契約したんだよ」

まどか「はは……イギリスまでってちょっとした距離じゃないと思うけど……」

QB「ドイルはまだ日本に慣れていない。だから魔法少女について知っている君たちが友達になってあげて欲しいんだ。お願いできるかな」

さやか「ぜんぜんオッケーだよ!よろしくお願いします、ドイルさん」

ドイル「ドイルでいいぜ。友達なんだから敬語はいらねえよ」

まどか「私もよろしく!えっと……ド、ドイルちゃん」

さやか「あはは、ドイルちゃんって似合わねー」

まどか「だってさん付けは嫌だって言うし、でも呼び捨てはちょっと……」

ドイル「まあ好きに呼べばいい。よろしくな、サヤカ、マドカ」

───そして、影でこちらをうかがっているアケミさん。

ほむら「………」
110 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/22(金) 23:12:02.32 ID:iU8diVCIO
今回はここで投下終了
あとトリップつけます
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/22(金) 23:15:46.70 ID:U+PIa6hp0
>>1乙っっっ


ドイルさんは家を爆破して殴り倒されないと
友達作れないんじゃなかった?
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/22(金) 23:19:27.02 ID:Cc32fI5Jo
乙あん



そういえば杏子の傷ってどれくらいの程度なんだい?
鋭利な刃物でやられたなら行きつけの闇医者に駆け込めばくっついたり……

……やだなぁ、そんな虎殺しあんこ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/07/23(土) 00:05:47.52 ID:OVrhUNTAO
何これ面白い
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/23(土) 00:08:42.20 ID:0Ke6PxSio
ドイルとQBの会話がなんかいいな
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/07/23(土) 02:26:54.10 ID:+pXJlzD1o
乙っちまどまど!
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/23(土) 19:15:03.32 ID:nCO9Ax+I0
乙ッ
勘違いしないでよねっ!これは巨大アナコンダなんだから!!
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/23(土) 19:18:42.53 ID:aiwpYEHro
>>112
虎殺しじゃなくて竜殺しになるかもしれん
118 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:33:52.93 ID:wNc4wg8IO
それじゃ投下します
119 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:34:37.06 ID:wNc4wg8IO

放課後、まどかとさやかはドイルと一緒に街を巡ることを提案してきた。
まだ見滝原になれていないドイルに対する計らいである。
仁美も誘ったのだが、例のごとく“お稽古”があるらしく、都合があわなかった。
そういったわけで、三人は見滝原の街を練り歩いていた。

ドイル「しかし……日本の街はずいぶんと発展してるんだな。俺の居たところからすれば未来都市みたいなもんだ」

さやか「見滝原は最近急激に発達した都市だからね。なにからなにまで新しいんだ」

まどか「それに緑も多いしね。私はすきだな、この街」

ドイル「たしかにここはいい環境だ」

見滝原には緑や小川、自然が多かった。
人間たちと自然とが見事に共存していた。
綿密に計画を練り上げて造られた街なのだ、とドイルは思った。
120 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:35:25.79 ID:wNc4wg8IO
まどか「まあでも郊外には工場もたくさんあるんだけどね」

ドイル「それでもいい街さ。これから見滝原で過ごせるのは幸運だよ」

さわさわと吹いてくる風が、緑や小川に色づき、自然を運んでくる。
近代化した都市でこのような芳香(かお)りを楽しめるとは思ってもいなかった。

さやか「そういえば、ドイルってマミさんのこと知ってるの?」

青髪の少女が尋ねた。

ドイル「マミ?」

QB「見滝原を縄張りに持つ魔法少女さ。君のほかにこの街にはあと二人魔法少女がいるんだ」

まどか「マミさんとほむらちゃんだね」

ドイル「へえ、知らなかったな」
121 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:36:22.44 ID:wNc4wg8IO
見滝原に暁美ほむら以外の魔法少女がいる、ということはドイルにとって吉報であった。
佐倉杏子と享受した愉悦を───血肉を沸騰(わ)かせる闘争(たたかい)を、また味わえるのかと思った。
身体の中で、闘気が奮い立つ。

ドイル《なあキュゥべえ?巴マミともヤっていいだろう?》

キュゥべえに秘匿回線を繋ぐ。

QB《駄目だ。マミと闘ったらせっかくまどかと築いた信頼がふいになるじゃないか》

ドイル《ちっ》

確かにここで暁美ほむらとの繋がりがチャラになるのも勿体ない。
仕方なく今回はあきらめることにした。
あくまで“今回”は。

ドイル(まあいい……運が良かったらヤりあおうぜ、巴マミ)

そう、暁美ほむらに殺されなければ。
122 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:37:16.79 ID:wNc4wg8IO
QB「マミにはもう君のことを伝えているよ。君にもマミのことを教えるつもりだったんだが……」

ドイル「そういうことは早く教えろ」

QB「ごめんごめん」

キュゥべえは邪気のない声を発する。
内心は邪気だらけなのにな……いや、感情がないのだから罪悪感も持っていないのか、とドイルは思った。

まどか「まあまあ。ドイルちゃんも今度いっしょにマミさんに会わない?いま魔法少女体験ツアーをやってるんだよ」

ドイル「なんだそりゃ」

QB「まどかとさやかのために、マミが魔法少女の仕事を見せてあげているんだ。魔法少女がどういうものか、ちゃんと見定めて契約して欲しいからって」

ドイル「俺のときはそんなご大層なもんは無かったけどな」

QB「君は二つ返事だったじゃないか」
123 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:38:10.49 ID:wNc4wg8IO
さやか「そういえばドイルってキュゥべえにどんなお願いをしたの?」

しん、と
さやかが何気なく発した言葉で、場の空気が重くなる。
ドイルが纏う雰囲気が変質(か)わったのだ。
ぽつりとドイルはつぶやく。

ドイル「知りたいかい」

さやか「……いや、やめておく。魔法少女になってまで叶えたい願いなんてそう簡単に話したくないよね。ごめん」

ドイル「いや、いいよ」

まどか「そ、そういえばさやかちゃん今日もCDショップに寄るんでしょ」

さやか「あ、うん。今日も恭介に差し入れもってかなきゃ」

ドイル「恭介?」

まどか「ティヒヒ、さやかちゃんのボーイフレンドなんだ」

さやか「ち、違うよ!恭介とはただの幼なじみで」

まどか「またまた〜」
124 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:39:03.02 ID:wNc4wg8IO
ドイル「へぇ……で、その恭介くんは音楽が好きなのかい」

さやか「うん……恭介はヴァイオリンの天才なの。でも、事故で怪我しちゃって……いま左手が動かないんだ」

ドイル「……そうか。悪いな、嫌なこと思い出させちまって」

さやか「いや、こっちこそ辛気くさいこと話してごめんね」

再び、場の空気が重くなる。
それに居たたまれなかったのか、さやかが声を出した。

さやか「よし!今日はドイルのためにアイスをおごっちゃうぞ!!まどかにもおごってあげるからね」

まどか「ええ!わるいよ〜」

さやか「まあまあ、こういうときは素直におごられなさいって」

QB「うーん、でももう寒いからクレープがいいなあ」

白まんじゅうが図々しいことを言う。

ドイル「心配すんな。誰もお前におごるなんて言ってない」
125 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:40:03.67 ID:wNc4wg8IO

街を巡ったあと、さやかにつき合ってドイルたちは見滝原総合病院に来ていた。

さやか「おまたせー」

まどか「あれ?早いね。上条君に会えなかったの?」

さやか「都合悪いんだって」

ドイル「そりゃ残念」

さやか「んじゃ帰りますか」

さやかはぶつくさと文句を言いながらロビーから出る。
まどかはキュゥべえを肩に乗せてその後を追う。
ふとドイルは違和感を覚えた。本能的にソウルジェムを基本形態に戻す。
宝石が何かに反応していた。

ドイル「おいキュゥべえ」

QB「なんだい?」

ドイル「これは?」

ソウルジェムをキュゥべえに見せる。

QB「これは……ソウルジェムが魔力に反応してる!」

まどか「え!ってことは魔女が近くにいるの!?」

さやか「うそ……ここ病院だよ。こんなところで暴れられたら……」
126 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:41:22.30 ID:wNc4wg8IO
QB「こっちだ!」

そう叫ぶとキュゥべえは走り出し、その後を三人は追う。
すると、壁が怪しく光っているのを発見した。
病院の壁に寄生しているグリーフシードである。

QB「これだ、孵化しかかってる」

ドイル「じゃあ俺の出番ってわけかい」

QB「そうだね、お願いできるかな」

まどか「ドイルちゃんひとりで大丈夫?」

QB「危ないかもね。ドイルはまだ魔女狩りに慣れていないから……」

さやか「よし!まどかはマミさん呼んできて。わたしはドイルと一緒に行く」

持ち前の正義感からか、恭介のことが頭にあるのか、さやかはドイルと共に結界に入る気であった。

ドイル「いや、ここは俺ひとりでいい」

さやか「でも……!」

ドイル「正直言うとな、さやかを守りながら魔女と戦える自信がないんだよ。だからさやかも一緒にマミさんを呼んできてくれ」
127 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:43:02.40 ID:wNc4wg8IO
さやか「……わかった!無茶したら駄目だよ、ドイル」

ドイル「心に留めておくよ。よし、いくぜキュゥべえ」

かけ声と共にドイルは変身し、機構(ギミック)を作動させた。
機械音と共に磨かれた刃が顕現(あらわ)れる。
その刃で何もない空間を切り裂く。
───結界への入り口が開けた。

まどか「ドイルちゃんがんばって!すぐにマミさんを連れてくるからね」

まどかの言葉に背中で答え、ドイルは結界に侵入した。
128 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:44:37.93 ID:wNc4wg8IO

キャンディ、クッキー、紅茶にコーヒー、板チョコにプディング、ホールケーキと結界の中はまるでお菓子の国とでもいうような様相であった。

ドイル「こりゃあすげえな。どうだキュゥべえ、ちょっと喰ってみろよ」

おどけるようにキュゥべえにチョコを差し出す。

QB「ぼくを毒味に使うのは止めてくれないかな」

ドイル「不思議生物だから何喰っても大丈夫だろ」

QB「まったく……それで、どうしてあんな嘘をついたんだい」

ドイルの冗談に辟易しながらキュゥべえが尋ねる。

ドイル「嘘?」

QB「さやかを守りながら魔女と云々ってあれさ。君ほど資質をもつ魔法少女なら、一般人のひとりやふたり守りながら戦えるだろ」
129 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:45:52.05 ID:wNc4wg8IO
ドイル「ああ、あれね。ひとつは他人を気遣いながら闘うのが鬱陶しかったから」

QB「他には?」

ドイル「魔法少女同士、積もる話もあるかと思ってね。出てこいよ!尾行(つ)けてきているんだろう」

ドイルの声に答えて黒髪の少女が姿を現した。

QB「暁美ほむら!」

ほむら「……いつから気づいていたの」

件の少女は尋ねる。

ドイル「最初からさ。登校中に観察(み)られていたところから、病院まで尾行(つ)けられていたところまで」

QB「なんでぼくに教えなかったんだい」

白い生き物は尋ねた。

ドイル「聞かれなかったからな」

若干の茶目っ気を含ませて答えた。

QB「……意趣返しのつもりかな」

ドイル「どうとでもとりな」
130 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/07/26(火) 05:47:09.04 ID:wNc4wg8IO
キュゥべえを適当にあしらったあと、ドイルはほむらを観察した。
夜のような女であった。
───そう、身体から夜気が染み出しているのだ。
立ち振る舞いからくるのか、それともその長い黒髪からくるのか……少女からは陰鬱な印象が与えられた。
しかし、ただ陰鬱であるだけではない。
双眸は仄(ほの)かに光を発している……意志の強い眼だ。
夜気の中に滲(にじ)む微光は、まるで朧月を思わせる。

ドイル「あんた……月みたいな女だな」

考えていたことが思わず口を衝いた。

ほむら「ほめ言葉と受け取っていいのかしら」

月の少女が答えた。

ドイル「どうとでもとってくれ」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/26(火) 05:48:35.11 ID:wNc4wg8IO

事態は奇妙な進行を見せていた。
ドイルは暁美ほむらと共に結界の中央部を目指していた。
どちらが提案したというわけではなく、自然にそういう流れとなったのだ。
少女は口数が少なかった。
ドイルはなにかと彼女に話しかけてはいるのだが、会話を続けるという気がないらしい。

ドイル(まさか彼女がこんなに口下手とはな……仲良くなれそうな気が全くしないぜ)

そういった事を考えていると、不意に少女は話しかけてきた。

ほむら「あなた……何の目的で鹿目まどかに近づいたの」

真っ直ぐな質問であった。
目的をいっさいオブラートに包まず問いかけてきた。

ドイル「君と仲良くなりたかったから……じゃダメかな?君は鹿目まどかとずいぶんと仲がいいらしいから」

少女を試す思いで、会話に少しの皮肉を織り交ぜてみる。
しかし反応は相変わらず冷ややかなものだった。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/26(火) 05:50:05.36 ID:wNc4wg8IO
ほむら「そう……別にあなたの目的がなんだってかまわない。でもまどかを巻きこむというのなら話は別」

ドイル「へえ、どういった話になるんだい」

月の少女は楯の中から何かを取り出した。
デザートイーグル───数ある拳銃のなかでも比類なき威力を誇る近代兵器。少女の手にはいささか物騒な物である。
その鉄塊の照準をドイルの眉間に合わせた。

ドイル「へえ、銃火気(バーナー)を使う魔法少女とはな。“ほむら”って名前と掛けてるのかい」

ほむら「おしゃべりは趣味じゃないわ。もしあなたがまどかを魔法少女の道に引きずり込むなら、“調理”して使い魔に喰わせてあげる。忘れないで」
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2011/07/26(火) 05:51:00.16 ID:wNc4wg8IO
ドイル「おお、こわいこわい。俺はまどかなんてどうでもいいんだがね……この白まんじゅうがどうしてもって」

ちらりと横目でキュゥべえを見る。

QB「ぼくに話をふらないでくれるかな」

白い生物は冷たく返答(かえ)した。

ドイル「いいじゃないか相棒」

QB「いつどこで、ぼくが君と相棒になったんだい」

ドイル「けッ、つれないな」

そのやりとりに呆れたのかほむらは拳銃をしまい、歩き出す。

ほむら「さっさと行きましょう。……この魔女は巴マミが来る前に片づけたいわ」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/26(火) 05:51:52.43 ID:wNc4wg8IO
本日は以上で
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/26(火) 06:07:23.26 ID:cX8OkZQG0
乙〜
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/07/26(火) 08:05:23.30 ID:ZCY13bVF0
ヤバイ、面白い
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/07/26(火) 08:07:23.90 ID:RC+OOi9Lo
どいつもこいつもかっけえな。乙乙
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2011/07/26(火) 08:33:27.55 ID:8oomtSQAO
>仁美も誘ったのだが、例のごとく“お稽古”があるらしく、都合があわなかった。

なんで括弧付きで書かれてんだ…
どこで、何の稽古をしてるのか気になってくるじゃないか…
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/26(火) 09:26:08.22 ID:dhAfaswoo



神○会か、白○寺か……本○流柔術だと拍子抜けかな
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/26(火) 13:23:27.90 ID:JUKxXUIPo
ここはあえて天○流格技を推薦
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2011/07/26(火) 13:27:51.39 ID:GX3cm80Po
上条との密会
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/07/26(火) 13:31:10.59 ID:dhAfaswoo
色を知る歳かッッッ
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/26(火) 17:50:47.23 ID:D4nxWWiM0

それにしても随分バキキャラっぽくない言い回しをするドイルだな
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/07/26(火) 22:16:59.78 ID:eGlN6Xh1o
乙っちまどまど!
次はバトルか
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/07/27(水) 13:33:31.00 ID:s0C+LzV/0
>>141
密会中に勇次郎が乱入して来るんですねわかります。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/07/31(日) 01:10:56.41 ID:4u58DGzvo
乙乙
>>145
お前それだと上条くんがカマキリとシャドーボクシングすることになるだろww
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/01(月) 00:44:42.47 ID:B/7W50mDO
>>145
あの人なら病室の窓の外にいても何らおかしくない
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/08/03(水) 06:28:19.54 ID:LwboLMDAO
>>146
そっちがバキかよ
149 : ◆Nd7psmIIt2[saga]:2011/08/06(土) 04:56:09.15 ID:ij7QMR9IO
悪い、かなり遅くなった
今回はめちゃくちゃ難産だったわ
待たせたぶん、量は書いてきたんでバキ3倍祭りということで許してくれw
150 : ◆jZWXi8L9Ck[sage]:2011/08/06(土) 04:57:07.14 ID:ij7QMR9IO
トリップ間違えた
151 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 04:57:58.62 ID:ij7QMR9IO

道中、ドイルたちは使い魔を狩りながら歩いた。
卵が孵っていないため使い魔は攻撃性を帯びていない。魔力を使って早く魔女を現出させたいと、ほむらが狩り始めたのだ。
当然、反撃という反撃もないので準備運動さえならなかった。

ドイル「しかし何でこう魔女どもはグロテスクなんだ?大量の菓子と相まってまるで百鬼夜行(ハロウィン)の夜みたいだぜ」

QB「魔女の性質かもね。魔法少女が願いから生まれる存在なら、魔女は呪いから生まれる存在だ。魔法少女が希望の使者とすれば魔女は絶望のそれなんだよ」

ドイル「希望ねえ……俺はそんなもんを振りまいた覚えはないがな」

QB「魔女を倒すことで救われる人もいるんだ。君の利己的な行動も、結局は利他的な側面を兼ねているわけさ」

ドイル「そんなもんかね」
152 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 04:58:39.40 ID:ij7QMR9IO
ドイルとキュゥべえの会話をほむらは疎ましく睨めつける。
それに気づいたキュゥべえが口を開いた。

QB「なにか気に障ることでもしたのかな。さっきから視線が気になるんだけど」

ほむら「気に障るといえばあなたの存在そのものが疎ましいわね」

ドイル「ははっ、嫌われたなキュゥべえ」

QB「暁美ほむらに嫌われるようなことをした覚えはないんだが……」

ドイル「どうせお前が悪いんだ。謝っときなキュゥべえ」

QB「謝ることなんてなにもないよ」

ほむら「謝罪はいらないからその臭い口を閉じなさい。縫い止めるわよ」

ドイル(よっぽど嫌悪してるんだな……)

しかし分からないでもない、とドイルは思う。
昨日の夜、ソウルジェムについて尋ねたときことを考えると、どうせこいつが悪いのだろう。
いたいけな少女を騙して恨まれないはずもない。
153 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 04:59:44.70 ID:ij7QMR9IO
ドイル「そういえばソウルジェムの事だが……」

QB「なんだい」

ドイル「昨日こいつの汚れに注意しろって言ってたじゃないか。汚れをため込めば具体的にはどうなるんだ」

QB「そうだね……まず魔法が使えなくなる。そして身体能力も格段に落ちるだろう。それでもやはり一般人よりは強いが、魔女の相手をするには心許ないね」

ドイル「最高のパフォーマンスを発揮するには最高の状態を保っておくことが大事なのか」

QB「そういうことだ。それと重ね重ねいうけどソウルジェムを壊されないようにね」

ドイル「壊されない……つってもなあ」

キュゥべえに言われて、自分のソウルジェムを触ってみる。
ドイルのソウルジェムは髪留めの形をしており、ちょうどこめかみあたりに位置していた。
154 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:00:13.81 ID:ij7QMR9IO
ドイル「テンプルにいいのを一発もらったらお終いじゃねえか。どうしてこんなところに付いてんだ」

こんなもの心臓が剥きだしになっているようなものだ。

QB「さあね?どこに位置するかは魔法少女によって個人差はあるけれど。とにかく戦闘の際はソウルジェムを一番に考えた方がいい」

ドイル「飲み込めねえかな?これ」

そういって“髪留め”をはずしてもてあそぶ。

QB「どうなるかは保証できないね。止めた方がいいんじゃないかな」

ドイル「そうするよ。消化されてお陀仏なんて滑稽な死に方はしたくねえからな」
155 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:00:55.13 ID:ij7QMR9IO

QB「ここが結界の最深部だよ。もうグリーフシードが胎動(うご)き始めている!」

キュゥべえの言うとおり、黒く禍々しい卵が、とくん、とくん、と脈をうっていた。
魔女が生まれる寸前なのだ。

ほむら「それは何よりだわ」

ことさらに焦る様子もなく少女はつぶやいた。
マミが来る前に全てを終わらせたい彼女にとっては、まさに予定通りといったところである。

ドイル「なあ、この魔女はどっちが狩るんだい。見つけたのは俺が早かったぜ」

ほむら「別に……あなたが戦ってもかまわないけど、助けないわよ」

ドイル「んじゃヤらせて貰おうか」

そうつぶやいた瞬間にグリーフシードが孵化した。
ドイルは少し拍子を抜かす。生まれた魔女の外観があまりにもファンシーだったのだ。
戦場には似つかわしくないその見た目からは、とても恐怖というものは感じなかった。
156 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:02:00.69 ID:ij7QMR9IO
ドイル「なんだこりゃ、すごく弱そうなんだが」

QB「魔女の強さは外観とは関係ないよ。油断しないでね」

ドイル「はあ……」

全身の機構(ギミック)を起動する。

掌。
甲。
肘。
膝。
踵。

ドイルの全身から刃が顕現(あらわ)れる。
魔力に濡れて、妖しく光る刃が。
157 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:03:07.99 ID:ij7QMR9IO

ドイルが纏う空気が変質(か)わるのを、ほむらは嗅ぎとる。
発せられる雰囲気は、飄々としたそれから一変して、鋭利(するど)く、重圧(おも)いものとなった。
触れた物を全て切り裂いてしまいそうな、危うい美貌がそこにあった。

空気を削りながら、ドイルは魔女のもとに跳躍する。
しなやかに伸縮する筋肉群は、まるで獣のそれだ。
餌を見つけ歓喜した獣が、今まさに狩りを行おうとしているのだ。
しかし……

ほむら(この魔女もまた“爪”を隠している……)

どこまでやれるか見物だ、とほむらは思う。
ドイルに舞台を譲った理由も、まず彼女の実力を測りたかったからだ。
戦闘方法、基礎性能、固有能力……そういったものを収集しておきたい。
そして大切なのは、ループ抜け出す要因になるか否か、である。
158 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:03:39.38 ID:ij7QMR9IO
ほむら(まあ、別にここで死んでくれても構わないのだけど)

もし、ドイルが魔女に破れたとしても、ほむらのプランに影響はない。
むしろ、魔法少女の現実(リアル)をまどかに叩き込めるいい機会だ。
戦い、死にゆく、残酷な運命を。
159 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:04:48.33 ID:ij7QMR9IO

全身のバネを使った跳躍により、ドイルは魔女の元に飛来する。
周りの景色がまるで矢のように飛んでいき、風圧がドイルの頬を撫でた。
獲物が射程圏内に入ると同時に、刃で切りつける。
魔女の反応は鈍く、されるがままとなっていた。

ドイル(へッ、大したことないな。これなら昨日の使い魔のほうがまだヤルぜ)

実際、この魔女からは昨日の“おもちゃの戦闘機”ほどの脅威を感じられない。
それに赤い魔法少女、佐倉杏子に比べれば数段劣ると、拳足を叩き込みながらドイルは考える。

右のアッパーカットで魔女が宙に浮く。
返しの左足が、綺麗な弧を描いてその顔面にめり込んだ。
小さな体が、勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられた。
160 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:05:37.48 ID:ij7QMR9IO
ドイル「そろそろ終わらせるぜッ」

追い打ちをかけるべく、ドイルは跳躍する。
強化された脚力が、ドイルを一瞬で獲物の元に運ぶ。
起きあがろうとする魔女に、踵の刃で切りつけようとした。
その瞬間……

小さな魔女に巨大な、“ぬめり”とした圧力を感じた。
ぞくり、と───なにかおそろしいものが、ドイルの体を疾り抜ける。

魔女の口から何かが這い出た。
黒く、嫌悪感を感じさせる、蛇のような外観の化け物が。
ニタリと笑い、意表を衝いて、勢いよく、その白い牙をドイルに突き立てた。

───それはまさしく予備動作のない、“無機的な”一撃であった。
161 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:06:17.37 ID:ij7QMR9IO
ドイル(〜〜〜ッッッ!!?)

必死に回避を起こそうとするが、

細胞はすでに攻撃に移っており、

意識の外より来る牙は、

その思考を十分に揺らし、

僅かに体を捻ることが、

精一杯の生存活動であった。

ドイル「ぐぎゃあああああああああああッッッ!!」

───魔女の牙がドイルの胴にめり込んだ。
162 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:07:20.23 ID:ij7QMR9IO

みしりみしりと、万力のように、魔女はドイルを締めつける。
みちみちと、筋肉が断裂(さ)ける音が聞こえる。
ドイルの口からは、血のあぶくがあふれ出し、「ひゅう、ひゅう」とかすれた呻きが漏れ出す。

ドイル(〜〜〜〜〜〜ッッッ!!?)

灼熱にも似た、熱い辛苦(いた)みが、腹部より神経を通って脳に響いた。
頭の中は白く明滅し、まともに思索できる状態ではない。
無我夢中で肘を叩きつけるが、魔女はひるむ様子も見せず、さらに力強く締めつけてくる。

ドイル(ヤバいッッ!!!!これはッッ!!マズいッッ!!!苦痛(くる)しいッッ!!)

様々な思考が脳内を駆けめぐる。

ドイル(死ぬ……ッッ!敗北(ま)けるッッ!!?ここで……死ぬ!?傷口が灼熱(あつ)い……)
163 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:08:21.22 ID:ij7QMR9IO
ふと、ある考えが頭をかすめた。
この状況を打破する策が。

ドイル(熱い……!!?あれだッッ!!!頼むッッ……“生きていて”くれ!!起動(うご)いてくれッ)

震える手を必死に動かして、ギミックを起動しようとする。
必死の思いで左手親指を折り曲げる。
その瞬間、魔女の口内に火炎が疾った。
胸部の指向性爆薬、ドイルの暗器が炸裂した。
地を震わすような衝撃が、魔女の顎を吹き飛ばす。

ドイル「ゲハァッッッッ!!!」

しかし、ゼロ距離での爆発は、ドイル自身にもダメージを与えていた。
密着状態では、衝撃がモロに伝わるのである。
なんとか立とうとするが、震える体には、ドイルを支える力は残されていなかった。

ドイル(チッッ……抜け出せたのはいいが、もう……立つ力すら残っちゃいねえ)
164 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:08:50.89 ID:ij7QMR9IO
牙と爆発によって内蔵器官に与えられたダメージ。
それに伴う大量出血。
ドイルの体は、魔法少女の力をもってしても、とても戦闘(たたか)える状態では無い。
そして、無情にも、目の前で魔女が再生する。
薄れてゆく意識、遠くなる耳、景色がかすれる。

ドイル(これで、終いか……)

ふと、遠くで、轟音が鳴り響いた気がする。
目の前の魔女がはぜ飛ぶ。
ぼやけた景色のなかに、三人の少女を見つける。
さやか、まどか……そして、黄色い魔法少女を。
───ドイルの意識はそこで途切れた。
165 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:09:29.58 ID:ij7QMR9IO

───暖かい。
───体がふわふわする。
───どこだここは?
───心が安らぐ。
───まるで母胎にいるみたいだ。
───頭がぼんやりとしている。
───なんでここにいるんだ?
───たしか……闘争(たたか)っていたはずだ…………
───そうだ!戦闘(たたか)っていたはずッッッッ!!!

ドイル「〜〜〜ッ!!!」

さやか「ドイルッ!」

まどか「ドイルちゃんっ!!」

ドイル「あッ……え……?」

状況が理解(わか)らない。
どうやら自分はベッドに寝かされているようだ。
どこだここは?なぜここに……
そう思索していると、少女たちが飛びついてきた。

さやか「ううぅ……心配したんだよお」

まどか「生きててよかったあ……」

涙を浮かべながら、さやかとまどかはドイルに抱きついた。
166 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:10:11.72 ID:ij7QMR9IO
ドイル「俺は確か……魔女と戦っていて……」

そして、奇襲を喰らって……大けがを負って……

マミ「そして、死にそうになっていたところを私が助けたのよ」

部屋の入り口から声が聞こえた。
そちらを振り向くと、声の主がいた。
見滝原中の制服、金髪の縦ロールが特徴的な少女である。

ドイル「あんたが……助けてくれたのか?」

金髪の少女は頷いて、ドイルに近寄ってくる。

マミ「傷、見せてくれないかしら」

そう言われてハッとする。腹部の痛みがないのだ。
服を捲り上げて、腹の傷を見る。

ドイル「治癒(なお)ってる……」

マミ「そう、よかった。かなり深い傷で上手く治療(なお)せるか分からなかったから」

ドイル「傷の手当てもあんたが……」

その問いを、金髪の少女は微笑みで肯定した。

ドイル「スマナイ……」

マミ「困ったときはお互い様よ」

マミ「私は巴マミ、見滝原の魔法少女よ」
167 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:10:45.06 ID:ij7QMR9IO

ドイル「俺は……どのくらい眠っていたんだ?」

まどか「えっと……だいたい半日ぐらいかな」

さやか「ドイルが魔女にやられた後、マミさんが手当して、そんでマミさん家に運んだんだ」

ドイル「魔女は……」

マミ「私が退治したわ。結構“くせ”のある魔女で手こずっちゃたけど……暁美さんが手伝ってくれたから」

ドイル「暁美ほむら……」

まどか「ほむらちゃんは……結界がとけたらどこかに行っちゃった。『これが魔法少女になるってこと』って言って……」

さやか「……冷たい奴」

まどか「そんなことないよ。魔女を倒すの手伝ってくれたし……」

さやか「そりゃそうだけどさあ」

不満げに口をふくらませながらさやかは言った。

マミ「無口で何を考えているかは分からないけど……悪い子じゃないみたいね」
168 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:11:22.85 ID:ij7QMR9IO
ドイル「そういえば……キュゥべえは?」

まどか「キュゥべえもどこかに行っちゃった……私が魔法少女になるのを渋ったからかなあ」

申し訳なさそうに、まどかは眼を伏せた。
それをマミがフォローする。

マミ「あなたは何も悪くないわ。一緒に戦う仲間が欲しいってのは確かだけど、今日みたいなこともあるものね。後輩を危険な眼には会わせられないわ」

しかし、彼女の眼にもまた、一抹の寂しさが浮かんでいた。

さやか「マミさん……」

マミ「大丈夫、ひとりで戦うのは慣れてるから」

そのやりとりを聞きながら、ドイルは体を起こそうとする。

まどか「だめだよ!まだ寝てなくちゃ」

ドイル「……もう大丈夫だ、そろそろ帰るよ」
169 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:11:58.21 ID:ij7QMR9IO
まどか「で……でも」

うろたえるまどかを手振りで制して、マミの方に向き直る。

ドイル「今日は本当にありがとう。あんたは俺の恩人だよ」

マミ「よかったら……泊まっていってもいいのよ。私は一人暮らしだし……まだムチャできる体じゃないでしょ」

ドイル「いや……遠慮しておくよ。これ以上迷惑はかけられない」

そういって、ハンガーに掛けられていた制服を着る。
部屋を出て、玄関に向かう。
まどかとさやかは、まだ心配そうな眼をこちらに向けていた。

さやか「よかったら送ろうか」

ドイル「ありがとな、でも大丈夫だ」

そうして玄関を出てゆくとき、おずおずと、まどかが声をかけてきた。

まどか「ドイルちゃん!」

ドイル「何だい」

まどか「私が言うのも何だけど……マミさんとね、コンビを組んでみたらどうかなって」
170 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:12:32.36 ID:ij7QMR9IO
マミ「鹿目さん?」

まどか「だってそのほうが絶対いいですよ!ドイルちゃんはまだ新人だし」

───なによりマミさんにパートナーが出来る。もう、ひとりで戦わなくてもいい。
そう思い、まどかは続ける。

まどか「私がね、こんなことを言うのは間違ってると思うんです。今日ドイルちゃんが酷い目にあったのを見て、魔法少女になんてなりたくないって思っちゃったから」

───マミさんを裏切っちゃったから。一緒に戦うって約束を破っちゃったから。

まどか「でもね、ドイルちゃんはもう魔法少女なんだし、それなら一緒に戦ったほうがいいんじゃないかなって……」

そうやってどぎまぎと言葉を結んだまどかに、マミは答えた。
171 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:13:25.72 ID:ij7QMR9IO
マミ「そうね、幸か不幸か見滝原は魔女がよく出没する地帯だし、グリーフシードが不足(た)りなくなるなんてことは無いわ」

そしてドイルの方に向き、

マミ「もし良かったら私とコンビを組まない?……いえ、組んでくれないかしら?」

まどかの気持ちはよく理解(わか)る、マミにも恩義がある。

───それでも、ドイルの出した答えは

ドイル「コンビは……組めない」

───NOであった。

さやか「な、なんでさ!ふたりで戦った方が絶対いいよ。効率いいし
、安全だし」

さやかが口を挟む。

ドイル「効率とか、安全とか、そんなのは問題じゃない」

さやか「じゃあなんで!何が問題なの?」

ドイル「俺は……ひとりで戦うのがいいんだ。たとえそれが危険な“道”でも」
172 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:15:04.53 ID:ij7QMR9IO
まどか「そんな……」

マミ「……人ぞれぞれですものね。ひとりぼっちが寂しいと思う人もいれば、ひとりが良いって人もいる」

ドイル「……スマナイ」

マミ「いえ、こっちこそ無理に誘っちゃってごめんなさいね」

ドイル「じゃあ、今日は本当にありがとう」

そういって、ドイルは踵を返し、昏い照明の中にとけ込んでゆく。

まどか「……ッ、ドイルちゃん!」

その背中に、まどかは呼びかけた。何か漠然とした不安を感じたからだ。
ドイルとはもう会えなくなってしまうのではないか、という根拠のない不安を。

───それでも、ドイルは振り返らない。
173 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:16:14.46 ID:ij7QMR9IO

帰り道、ドイルはひと気のない公園を歩いていた。
整然と植えられた緑が、大気を染め上げている。
移り香と、夜気を含んだ風を愉しんでいると、白い獣に声をかけられた。

QB「やあ、ドイル」

ドイル「キュゥべえか……」

QB「お疲れさま。今日は散々だったね」

ドイル「ああ」

皮肉ともとれるそれを、ドイルは受け流す。
こいつは感情が希薄なのだから、わざわざ皮肉を口走るわけもない、と。

QB「どうしてマミの誘いを断ったんだい」

ドイル「聞いていたのか」

QB「ああ」

ドイルは回答(こた)える。

ドイル「なんでって……敗北にケチが付くからじゃないか」

QB「敗北……ね」

ドイル「なにか言いたいことでもあるのか」

QB「いや、さっき負けたばっかりなのにすぐにまた敗北を求めるなんて、マゾヒストなのかなって思っただけさ」
174 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:16:47.18 ID:ij7QMR9IO
ドイル「負けた……?いつ?」

QB「いつって……君は今日、病院で魔女に負けたじゃないか!……もしかして、記憶障害になったのかい」

いぶかしげにキュゥべえは尋ねる。

ドイル「はッ!俺は健康だよ、マミのおかげでな」

QB「それはよかった。しかし、それなら疑問が残る」

ドイルの方を向き、核心に迫る。

QB「なぜ君は敗北を認めないんだい」

ドイル「俺はこうしてここに立っている。それじゃあダメかい」

QB「どういうことだい?」

ドイル「つまり、俺はまだ死んでいないってことさ。今日はイイところまで行ったんだが……邪魔が入っちまった」

QB「つまり、君は死ぬまで敗北を認めないってことかい?」

ドイル「違うな、戦闘(たたか)って闘争(たたか)って……その先に“ある”のが敗北なんだ」

一呼吸おき、ドイルは続ける。

ドイル「認めるとか、認めないとかそんなものじゃない」
175 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:17:34.73 ID:ij7QMR9IO
そう、ドイルにとって敗北とは認めるものではなく、たどり着くものなのだ。
闘争の末に迫り来る死、それこそがドイルが求める敗北であり、ゆえにいま健在しているドイルは負けていないのだ。
それを屁理屈と言う者もいるであろうが、別にドイルは反論する気もない。
それはそれで真実であるからだ。勝敗の基準とは各々により異なるものである。

ドイル「自分だけが知っていればいいのさ、自分だけの敗北を」

QB「なるほど、君は“死にたがり”なんだね」

ドイル「自殺志願者ってわけではないがね……確かに俺は死にたがっているのかもしれないな」

QB「君はサディストだと思ったんだが、マゾヒストでもあったわけだ。君みたいな人間は本当に珍しいよ」
176 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:17:59.49 ID:ij7QMR9IO
ドイル「人間みんな、サディストでマゾヒストさ」

そう締めて、ドイルは後ろに振り返る。

ドイル「そら、そこにもサディストでマゾヒストがいるぜ」

目線の先のシルエットには、右腕の手首より先が無かった。
その双眸からは殺気がほとばしっている。

杏子「よう……ちょいとツラ貸しな」

───赤い少女がそこにいた。
177 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:18:50.45 ID:ij7QMR9IO

QB「杏子!」

ドイル「リベンジマッチかい?」

杏子「そんなもんだ……捜したぜェ」

ニタリ、と杏子は笑う。
粘着質なものを含んだ、昏い笑みであった。

QB「魔法少女どうしで殺し合うなんてやめた方がいい。君たち魔法少女の敵は魔女だろう?」

そう諭すキュゥべえに、杏子は穂先を突きつける。

杏子「黙ってな。コレはお前の出る幕じゃない」

ドイル「だな」

ドイルと杏子との空間が、ぐにゃりと歪む。
双方から発せられた圧力が、大気から移り香と夜気を吹き飛ばす。
眼光を通して、ぴりぴりと紫電が疾った。

杏子「ついて来な」

ふと、杏子が踵を返す。

───その刹那、ドイルが爆発的に跳躍する。

ドイル(ガッカリだぜッッ)

───手首より顕現(あらわ)れた刃が、深々と杏子を切り裂いた。

ドイル(佐倉杏子ッッッ)

───振り返る杏子の顔面に右ストレートが突き刺さる。

───よろける杏子に左のローキックをぶち込み、

───そのままの流れで、右後ろ回し蹴りを再び顔面に叩き込んだ。
178 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:19:25.69 ID:ij7QMR9IO
どさりと、倒れる杏子を見下し、暗器を体内にしまう。
ぬらりと、真っ赤な体液が、杏子の頭部から這い出でた。

ドイル「……目を合わせた瞬間からファイトは開始(はじ)まっているんだよ」

まるで哀しむかのように、顔を歪ませる。

ドイル「戦闘(たたか)っている最中に敵から眼を離すとは、愚の骨頂だ」

そう言った瞬間、
トン、と音がした。
左胸からであった。
肉を割る音であった。
後ろから、
何かが突き刺さっている。
赤々と血を吸い込んだ、
槍の穂先であった。
ゆっくりと後ろを振り向いた。

───赤い少女がそこにいた。

ドイル「な……なにが」

杏子が槍を引き抜くと、ドイルの心臓から血が吹き出した。
あたかも噴水のように。

ドイル(ワケがッッ……ワカらねえ……)

───そこで、ドイルの意識は途絶える。この日二度目の失神であった。
179 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:19:59.59 ID:ij7QMR9IO

小鳥がさえずる声でドイルは目を覚ます。
周りを見回すと、飾られた十字架が朝日に照らされていた。
廃屋である。どうやら、もとは教会であったらしい。
ドイルは長いすに寝かされていた。

杏子「よう朝だぜ、目は覚めたかい」

ドイル「〜〜ッッ」

即座に跳ね起きて、反射的に身構える。

杏子「落ち着けよ。まだ事を起こすつもりはねえよ」

声の主はドイルと反対側の長いすに、悠然と寝ころんでいた。

ドイル「俺は……たしか」

公園で、目の前の少女と戦って……圧倒していたはずなのに……

ドイル「あの奇妙な技はなんだ?」

そう、奇妙な技を使われて殺されかけた。
まるで瞬間移動のような技で。

杏子「はッ、答えるわけないじゃん。あんたと私は敵どうしなんだぞ」
180 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:20:45.38 ID:ij7QMR9IO
その言葉に反応して、ドイルは静かに構えをとる。

杏子「だから待てッつってんだろ。まずは腹ごしらえだ」

そういって杏子はドイルにコンビニ袋を投げてよこした。

杏子「食うかい?」

袋の中を調べる。
紅茶、総菜、おにぎり、そして……

ドイル「これは……グリーフシード?」

杏子「使用(つか)いなよ。だいぶ穢れがたまってるんじゃない?」

ドイル「どういうつもりだ」

杏子「別に、全力のアンタと勝負したいだけさ」

そう言って、杏子は口角をあげる。

杏子「敗北を知りたいんだろう?」

挑発的なその言葉に、ドイルは思わずコンビニ袋を投げ捨てた。
その瞬間、杏子から殺気を叩きつけられる。

杏子「食べ物を粗末にするんじゃねえッッ……殺すぞ」
181 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:21:22.01 ID:ij7QMR9IO
ドイルを睨みつけた後、芝居がかった仕草で言葉を紡いだ。

杏子「ったく、敵からの施しは受けられないってわけかい?」

生意気に白い八重歯をのぞかせる。

杏子「それとも、敗北(ま)けたときの言い訳でもつくってるのかい?あのときの自分は万全じゃなかったって。ソウルジェムさえ綺麗なら私に勝てたって」

ドイル「貴様ッッ私を侮辱する気か」

杏子「へえ、じゃあ私と喧嘩でもしてみるかい?魔法も魔力も武器も使わず、拳だけで殴り合うんだよ。まあアンタは武器を使うと思うけどね」

ドイル「……やってやろう」

杏子「なんだって?」

ドイル「ヤると言ってるんだッッ!拳だけで!!」

くっくっくっと、激昂したドイルをあざ笑うかのように杏子は声を漏らした。

杏子「いいぜ、来なよ」
182 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:21:55.83 ID:ij7QMR9IO
その言葉を合図に、ドイルは杏子に飛びかかる。
左拳を顎にぶち込み、返しの右拳をボディに叩き込もうとした寸前、

───杏子が消滅(き)えた。まるで煙のように。

ドイル(〜〜ッッ!?嘘ッッ!魔法!!?)

同時に背中に戦慄が疾り、次の瞬間熱さを感じた。
深々と、ドイルの背中を杏子の槍が切り裂いた。

ドイル「〜〜〜ッッがぁ!!」

わけも理解(わか)らず、痛みの中でドイルの思考は明滅する。
薄れゆく意識の中で、杏子の言葉を聞いた。

杏子「へッ……魔法少女が魔法使って、何が悪いんだい」

───三度、ドイルの意識は闇に落ちた。
183 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:22:30.75 ID:ij7QMR9IO

夜の帳が降りた頃、冷たい空気の中ドイルは目覚めた。
室内といえど廃屋である。あちこちに空いた穴から、すきま風が吹き付ける。

杏子「よう、目覚めたな」

相変わらず、杏子は長いすに寝そべっていた。

杏子「敗北……認めるかい?」

ドイルは無言で立ち上がり、ギミックを作動させた。

杏子「だろうな……ソウルジェムは浄化しといたよ。結構ヤバかったんでな」

そう言って、杏子もまた、構えをとった。
ドイルと杏子の間に、闘気がほとばしる。
夜気を含んだ風が、圧力に渦巻く。

ドイル(迂闊には出れない……またあの“魔法”で回避(か)わされてしまう)

その思考を見抜き、杏子は語りかける。

杏子「安心しな。あの魔法は使用(つか)わねえよ。ま、信用するかしないかはアンタ次第だが」
184 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:23:49.33 ID:ij7QMR9IO
じりじりと間合いを取り合ううちに、行くしかないのだ、とドイルは考えた。
杏子が魔法を使おうと使うまいと、攻めなければ勝機は見えない。
よしんば防禦に徹してカウンターをとるにしても、あの魔法の前では無力に等しい。

ドイル「シャァッッ!!」

喝を飛ばし、ドイルは飛びかかる。
間合いに入ると同時に、右拳を放り込む。

───杏子は槍で拳を防禦(う)けた。

しかし、拳はフェイント、本命の左足が美しいラインを描いて、杏子の腹に襲いかかる。

───杏子は右足を上げ、その蹴撃を受け止めた。

ドイルがギミックを起動させる。
左拳が“機械的”に伸びる。
しかし次の瞬間、ドイルの体は宙を舞う。

───槍で拳を受け止めると同時に、杏子は手首に鎖を絡ませていた。

大半径で、勢いよく、ドイルは床に叩きつけられる。
185 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:24:15.86 ID:ij7QMR9IO
ドイル「ぐおッッ!!」

衝撃を受けながらもすぐに体勢を立て直そうとする。
だが、すでに杏子は距離を詰め、鎖を外し、槍を構えていた。

ドイル「〜chiッッ!」

すぐさま、爆薬のギミックを起動させるが、杏子の突きが一瞬早かった。

杏子「ッッらぁ!!」

穂先がドイルの胴を貫通する。そのまま、槍を伸ばす。
胸部爆薬が炸裂するが、すでに射程圏内を外れている。
───そしてドイルは轟音と共に、十字架に打ちつけられた。
186 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:24:53.05 ID:ij7QMR9IO

翌朝、ステンドグラスに色づいた光の中、ドイルは目覚めた。
佐倉杏子は相変わらず隣の椅子で寝ころんでいた。
いや、眠っているのだろう、いびきすらたてている。

ドイル(今なら勝てる……)

そう思っても、なぜか寝込みを襲おうという気にはなれなかった。
ドイルが寝かされていた長いすには、やはりコンビニ袋が置いてある。
中には、紅茶、総菜、おにぎり、そしてグリーフシード。
ドイルは素直にそれを食べ、ソウルジェムを浄化する。
半時間ほど過ぎてから杏子は目覚めた。
伸びをしながら、彼女は声をかけてくる。

杏子「おう、早いね。寝込みは襲わなかったんだ。まあ襲われても返り討ちにするけど」

八重歯を光らせながら生意気に笑う。

杏子「で……敗北、認めるかい?」
187 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:25:27.77 ID:ij7QMR9IO
ドイルは無言でその質問を否定する。
ゆらりと、筋肉を弛緩させ、両手を下げて“構え”をとる。
───合図という合図もなく、ドイルは唐突に加速した。

ドイル「キャオラッッ!!」

暗器も、フェイントも使用(つか)わない、小細工なしの攻撃であった。
自分が出せる最速を、左拳に乗せた一撃である。

杏子「シャァッッ」

───杏子はこれを、右腕で受ける。

ドイルが胴に左拳をぶち込む。

───あえてブロックせず、タイミングよく、槍の柄尻を胴にぶち込む。

ドイル「ぐッッ」

カウンターの要領で、ドイルの腹筋に多大な衝撃が襲いかかった。
思わず怯み、垂れた頭を、右足で蹴飛ばされる。

───杏子はそのまま飛びかかり、マウントをとった。槍を突きつけ、言葉を放つ。
188 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:26:00.85 ID:ij7QMR9IO
杏子「いい加減に、敗北(ま)けを認めろよ。……死ぬまでやるつもりかい」

ニヤリ、と笑いドイルは肯定した。
死ぬまで闘争(たたか)い続けることを。

杏子「〜〜ッッ!バカ野郎ッッ!!」

哀しそうに顔を歪め、杏子は槍を振り下ろす。
深々と、左胸に、鋭利な穂先が突き刺さった。

ドイルが気を失うのを確認してから、杏子は教会を後にした。
庭に出るとき、何者かに言葉をかけられる。

QB「もうやめるのかい?」

白い獣、キュゥべえであった。

杏子「ああ、やめにするよ。あいつはどうしても敗北を認めなさそうだしな」

QB「殺さないのかい?君らしくもない」

杏子「なんでかなぁ……アイツは殺したくねえんだよ」

青空を見上げながら言葉を紡ぐ。

杏子「アイツが目覚めたら伝えてくれ。この勝負、私の負けだって」

───朝日に照らされた杏子の顔は、まるで憑き物が落ちたように、清々しいものであった。
189 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:26:44.87 ID:ij7QMR9IO

月明かりが十字架を照らす頃、ドイルは目覚める。
隣の長いすには、少女の姿はなく、代わりに白い獣が居座っていた。

QB「やあお目覚めかい」

ドイル「キュゥべえ……佐倉杏子はどこだ?」

QB「そのことについては佐倉杏子から伝言を預かっている。『私の負けだ』ってさ」

ドイル「負け?冗談だろう?いつどこで俺が杏子に勝ったんだ」

QB「杏子は君のことを殺せないそうだ」

ドイル「……」

QB「君の言う敗北とは闘争の末に死ぬことだろう?君はちゃんとここに立っている、実に健康的にね。君の勝利じゃないか」

ドイル「〜〜ッッ!だがッッ……」

QB「まあ杏子の考えることなんて僕はよく理解(わか)らないけどね。理解(わか)る必要も無いけど」

キュゥべえは続ける

QB「自分だけが知っていればいいんだろう?自分だけの敗北を」

その言葉で、ドイルの心中に複雑な感情が入り乱れた。
やっとの思いで、ドイルはキュゥべえに話しかける。

ドイル「頼みがある……杏子の居場所を教えてくれ」
190 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:28:06.94 ID:ij7QMR9IO

太陽も昇りきった昼時、佐倉杏子はゲームセンターで暇を潰していた。
最近はDDR、いわゆる音ゲーにハマっている。
タイミングよく、軽快なステップを踏みスコアを伸ばしていると、“人の気配”を感じた。
特別何かをしてくるというわけでもなさそうなので、そのままゲームに没頭する。
曲が終わり、パーフェクトというアナウンスが流れるとともに、後ろを振り返る。
そこには、死闘を尽くした相手、ヘクター・ドイルがたたずんでいた。

杏子「なんだ、アンタか。何の用だい」

ドイルはゲームの舞台にあがってくる。
これと言った圧力も発していないので、杏子はそれを許した。
目を合わせること数瞬、ドイルが“アクション”を起こした。
杏子の前にひざまずいたのだ。

杏子「お、おい」

うろたえる杏子をよそに、ドイルは彼女の左手をとり、その甲にキスをした。
191 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/08/06(土) 05:28:54.04 ID:ij7QMR9IO
杏子「〜〜ッッ」

ドイルの奇行に固まる杏子。
咄嗟のことに言葉も出なかった。

杏子「な、何すんだ!お前レズなのか!!?」

顔を紅潮させ叫ぶ杏子に、ドイルは言葉を放った。

ドイル「……俺の負けだ」

杏子「へ……」

ドイル「アンタの勝ちだ、佐倉杏子」

そういってドイルは杏子を見上げる。
杏子も事態が飲み込めたらしく、得心のいった顔になる。

杏子「へッ……そうかい」

杏子はポケットから菓子を取り出し、ドイルに差し出す。

杏子「食うかい?」

ドイル「ああ、頂くよ」

それを受け取り、ドイルは微笑む。
憑き物が落ちたような、すっきりとした表情であった。

───初めて“認めた”敗北は、

───意外にも、

───ドイルの心に清々しい風をもたらした。
192 : ◆jZWXi8L9Ck[sage]:2011/08/06(土) 05:30:32.27 ID:ij7QMR9IO
vsシャルロッテ〜杏子ラウンド2投下終了
いやーほんとシャルロッテ戦は書くのが難しかった
長々と待たせてすいません
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/08/06(土) 05:46:19.06 ID:+f52Ke1AO
乙っす
ちょうど更新中に出くわしたwwww
杏子が克己ポジ有りだな
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/08/06(土) 06:09:04.96 ID:7qd7i1uxo
乙っちまどまど!
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/08/06(土) 08:56:25.86 ID:O0rFLww/0
乙!女体化しているとはいえ杏子つええなオイ!
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/08/06(土) 10:39:54.75 ID:smq4gFy40
アソコ・・・ゲフンゲフンアンコが独歩かと思ったら克巳になってた。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/08/06(土) 12:10:06.13 ID:Z8iTfUfno
乙乙!


日に4度の敗北……恥を知れィッッッ
……と、あの親ばかが居れば言うんだろうか


一人称が「俺」から「私」になったり何気に順調に女体化してるんだねヘクターちゃん
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/08/06(土) 14:32:49.05 ID:lJrdFfaAO
くっっっそ面白い
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2011/08/06(土) 20:01:30.77 ID:k+9/Kl4Go
あんこちゃんの手は治ってるんだろうか
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2011/08/06(土) 22:42:40.77 ID:59nUg0c30
やっぱドイル好きだわ
バキキャラで勇次郎の次に好き
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/08/11(木) 15:56:13.86 ID:YWsL5HcM0
難産だな。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/08/11(木) 17:33:13.98 ID:E7cer7Ruo
なーに、俺なんかもう二週間……
俺はサムワン海王以下の屑
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/08/17(水) 21:44:32.34 ID:jbIegv6q0
まだかなまだかな。
204 : ◆jZWXi8L9Ck[sage]:2011/08/22(月) 04:04:37.54 ID:QBnobteIO
すいません最近リアルが多忙なのでしばらく投下できません
2週間ほど時間をいただけないでしょうか
それ以上投下期間が伸びればhtml化を依頼しますので
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/08/22(月) 23:51:43.18 ID:VwbPXKTS0
いっこry
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/08/23(火) 02:57:32.22 ID:yfsHrqNAO
構わん続けろ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)[sage]:2011/08/23(火) 07:29:53.00 ID:rwgVjJsf0
「わたしはいっこうに構わん」
「みんな、この先を見たいか?・・・ワシもじゃ。ワシもじゃ、みんな・・・」
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/08/30(火) 18:17:57.42 ID:dH/WbVUP0
あと一週間か・・・・・・

(以下略は見なくていい。自治スレ宣伝だから。)






自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
209 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:50:55.44 ID:ESVWSeCho
すんません待たせました
じゃあ続きを投下します
210 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:52:04.94 ID:ESVWSeCho

ゲームセンターで杏子に別れを告げてから、ドイルは家路に就いた。
帰宅するや否や、ベッドに倒れ込み仮眠をとる。
杏子との死闘に極限まで疲労した体が、休息を欲していたのであった。
部屋が夕焼けに染まる頃、ドイルは目をさました。
特に見たいわけではないが、BGM代わりにでもとおもむろにTVのスイッチを入れる。
するとニュースキャスターたちが慌ただしく言葉をまくし立てている映像が流れていた。
電子音と共に画面上部にテロップが流れる。

───自衛隊・米軍の兵器紛失問題に関して、防衛大臣による緊急記者会見が本日20:00に行われる模様───

これにはドイルは少なからず驚いた。
仮にも一国の軍事組織が兵器を紛失させるなど、あってはならない事態である。
ニュースによれば拳銃、手榴弾、軽機関銃、対戦車ロケット、地対地ミサイル等、相当数の兵器が自衛隊、在日米軍より紛失したとのことだ。
TVの中ではニュースキャスターと知識人が言葉を繰り広げていた。

曰く、これだけの兵器を紛失させるとは言語道断であると。

曰く、この事件による影響は国内外を問わず凄まじいものになると。

曰く、紛失事件ではなく言わば流出事件、自衛隊・米軍内部に何らかのテロ組織・テロ国家と繋がっている人間がいると。
211 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:52:43.18 ID:ESVWSeCho
『だってそうでしょうよ。これだけの巨大な兵器を誰の力も借りずに盗めるわけがありません。
 それはもう魔法や超能力でもない限り』

『……本当に大変なことになりました。私も大いに怒りを感じております。これからも続報が入り次第
 詳細をお伝えします。本日はどうもありがとうございました』

『次のニュースです。失踪中の美国織莉子さんが、本日未明死体となって発見されました。
 美国織莉子さんは経費改ざんなどの不正疑惑の調査中に自殺した美国久臣議員の娘であり、警察は義憤に駆られた犯行という線も含め捜査を進めて───』

ブツンと言う音と共にモニターが色を失う。
シャワーを浴びるため、ドイルが消したのであった。

ドイル(日本の軍隊は優秀だと聞いたがな……)

ドイルはそう思いながらシャワーを浴びる。
暖かい水流を体に這わせているうちに、何かが頭の隅に引っかかっている感覚を覚えた。。

ドイル(ニュースでは“魔法でも使わない限り盗めない”などと言っていた……
    まさかコレにも魔法少女が噛んでいる……?)

そう思い至り、ある少女の顔が思い浮かぶ。
夜気を纏い、まるで月のような眼光を持つ魔法少女。
212 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:53:31.38 ID:ESVWSeCho
ドイル「アケミホムラ?……はッ、まさかな」

少し逡巡し、この突飛な考えをドイルは打ち消した。
対戦車ロケットや地対地ミサイルを使わなければ勝てないほど、魔女は強力ではないはずだ。
先日、不覚をとったお菓子の魔女も、せいぜい手榴弾数発で片が付く程度のものであろう。
わざわざ危険をおかしてミサイル等の巨大兵器を盗み出すメリットは見いだせない。

だがもしかすると……

ドイル「存在するのか……?軍事兵器を持ち出さなければ勝てない程の、強大な魔女が」
213 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:53:59.39 ID:ESVWSeCho

翌朝、目覚ましの音にドイルは目覚める。
窓を開けて外の大気を吸い込む。冷えた気体がドイルの体に染み込んだ。

《ドイル、私だ》

脳内で声が響いた。
佐倉杏子からの念話であった。

ドイル《どうした?》

杏子《ちょっとつきあいな》

ドイル《いまから学校があるんだが……》

杏子《へッ!そんなもんサボっちまえ》


ドイル《……わかった、少し待っていろ》

このところ連続で休んでいて、これ以上の欠席はマズいのだが……
まあいい。佐倉杏子といた方が何かと面白そうだ。
214 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:54:34.62 ID:ESVWSeCho
十数分後、ドイルは玄関を出て、ドアに鍵をかける。
動きやすさを考慮して、ジャージにTシャツというラフな格好であった。

ドイル「よう、待たせたな」

杏子「いや、それほど待ってねえよ。朝早く悪いね」

ドイル「気にすんな。で、何処に行くんだ」

杏子「私ん家さ」

そういって杏子は何かを放り投げてきた。リンゴであった。

杏子「朝飯はまだだろう?食っときな」

ドイル「どうも」

杏子「おう」

肩を並べ歩いて数分、ドイルは杏子に尋ねた。

ドイル「そういえば……この前俺に使ったあの魔法は何だ?瞬間移動みたいに、いきなり消えるやつさ。あれが気になって仕方ないんだよ」
215 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:55:35.61 ID:ESVWSeCho
杏子「あれは私の固有の魔法だよ」

ドイル「固有の魔法?そんなものがあるのか?」

杏子「そうだ。キュゥべえによると、願った内容によって自分だけの魔法が備わるらしい」

ドイル「なるほど、杏子は瞬間移動が発現するような願いをしたわけか」

杏子「いや私の能力は瞬間移動じゃない」

ドイル「なら何なんだ」

杏子「込み入った話になるけど……聞きたいかい」

これ以上踏み入ってもいいものか、とドイルは逡巡したが、やはり知りたいという欲求を抑えられず聞くことにした。

ドイル「ああ」

杏子「わかった。もうすぐ目的地だからそこで話すよ」
216 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:56:01.40 ID:ESVWSeCho

半時間ほどで、ドイルたちは目的地に到着した。
つい最近、杏子と死闘を尽くした場所、教会跡地である。
鬱蒼と茂ったツタが建物の外壁を覆っており、まさに廃屋といった外観だった。

杏子「到着!」

ドン、と扉を蹴飛ばし杏子は廃屋に入る。
舞い散るホコリと、ツタから染み出す青臭さが混じり、教会内はなんとも言えない臭いが立ち込めている。
だが、ステンドグラスを通した朝日は、荒れた屋内に色を与え、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

ドイル「この前の廃屋じゃないか」

杏子「ああ、このボロ教会が私ん家なんだよ」

ドイル「へえ」

杏子「あんた……私の魔法について聞きたいって言ってたね」

ドイル「ああ」

杏子「じゃあ少し話をしなきゃいけないね……私の身の上を聞いてくれるかい」
217 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:56:28.80 ID:ESVWSeCho
そう言って杏子は神妙に語り出した。
彼女の家族のことを。
彼女達の貧困のことを。
彼女が叶えた願いのことを。
彼女の願いが生んだ能力のことを。
──そして、願いが破滅を引き起こしたことを。


杏子「そういうわけでさ、決めたんだ。魔法の力は全て自分のために使用(つか)うってな。これは呪われた力だから」

ドイル「そうか」

杏子「ああ」

沈黙が場を支配する。
どことなく宙を見つめていた杏子が口を開いた。

杏子「ただ、不思議なことがあってね」

ドイル「不思議なこと?」
218 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:57:08.39 ID:ESVWSeCho
杏子「私の能力、幻惑のことさ」

ドイル「ふむ」

杏子「私さ、最近まで能力が使用(つか)えなかったんだよ」

ドイル「どういうことだ?」

杏子「トラウマ……っつーのかな?家族が死んでから……私の願いが家族を殺してから、能力を使えなくなってたんだ」

ドイル「でも、俺に使用(つか)ったじゃないか」

一回目は深夜の公園。
奇襲で杏子を倒したと思ったら、背後から刺突されたこと。
二回目は教会。
コンビネーションが完璧に決まったかと思えば、煙のように消え去ったこと。

ドイル「アレは幻惑だったんだろう?」

杏子「そう!そこが不思議なところなんだよ。なんでいきなり使用(つか)えるようになったのか……」

QB《それはドイルの能力が関係してるんだ》
219 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:57:42.16 ID:ESVWSeCho
頭の中に声が響く。
ドイルと杏子が振り返ると、白い獣がいた。

杏子「キュゥべえ……」

ドイル「なんだお前か」

QB「話は聞かせてもらったよ」

ドイル「また盗み聞きかい」

若干の皮肉を込めてキュゥべえに声をかける。

QB「人聞きが悪いなあ。声をかけるタイミングが見つからなかっただけだよ。ふたりの邪魔をしちゃ悪いからね」

特に気にする様子もなく、キュゥべえはひょうひょうと言葉を紡ぐ。

ドイル「ふん……で、どういうことだ?俺の能力が杏子の幻惑に関係してるんだろう」

QB「そうだ。君の能力……“強化”とでも言えばいいのかな。それが杏子の眠っていた能力を呼び覚ましたのさ」
220 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:58:34.55 ID:ESVWSeCho
杏子「強化……?」

ドイル「身体強化とは違うのか」

QB「それとは別物だよ。わかりやすく言えば、君は他者の能力を上昇させることが出来るんだ」

ドイル「他者の力を底上げする能力……」

杏子「ずいぶんとお優しい能力じゃねーか。アンタも他人の幸福を願ったクチかい」

ドイル「いや、俺の願いは徹底徹尾、自分のためのものさ」

杏子「へえ……知りたいね」

ドイル「敗北を知りたい……これが俺の願いだ」

杏子「敗北を知りたい……ねえ。ずいぶんとまたおかしな願いだな」

QB「確かに、ドイルみたいな願いをする人間は珍しいね。過去にいなかったわけじゃないんだけど」

ドイル「ありがとよ。で、何で俺の願いが他人の強化に繋がるわけだい」
221 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:59:05.24 ID:ESVWSeCho
QB「敗北を知りたいというのはより強大な敵を求めているということだろう?だから他者を強くするという能力が発現したんじゃないかな」

杏子「だから私もまた能力が使用(つか)えるようになったのか」

QB「そうだ。ドイルの能力が君のリミットを外したってことさ」

ドイル「なるほどな」

杏子「そういえば思い当たる節もある」

そういって杏子はドイルと初めて戦ったときの違和感、感覚の鋭敏化や身体能力の急な向上のことを語る。

QB「それも多分ドイルの能力の影響だと思うよ」

杏子「やっぱりな」

納得して杏子はうなずいた。

ドイル「……俺の能力は魔法少女以外にも効くのかい?たとえば、魔女や一般人とか」

そろり、とドイルは疑問を尋ねる。

QB「うーん……確証はないけど効果はあるんじゃないかな」

それに答えて、キュゥべえは押し黙る。
話の区切りがついたとみて、静かに杏子は切り出した
222 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 21:59:59.97 ID:ESVWSeCho
杏子「ところでだ、話はかわるが……いや、私にとっちゃコレが本命なんだがね」

ドイル「なんだ」

杏子「いやさ、最近狩り場(テリトリー)を広げたいと思っていてね」

ニヤリと、赤い少女は牙を見せた。
奪い取るものだけが持つ、獣の笑みであった。
体内に押し込められている獣気が漏れ出しているような錯覚をドイルは受けた。

杏子「ドイル……私と組まないかい?一緒に見滝原を取ろうぜ」

───少女は闘争に見入られていた。
223 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:00:32.07 ID:ESVWSeCho

夜の繁華街を、少女は歩いていた。
ロングブーツにホットパンツ、シャツの上にパーカーを羽織っている。
見た目から推測すると年齢は13〜4歳ほどであろうか、その割には少し大人びて見える。
ぶらり、ぶらりと夜の街を闊歩する姿はどこか不敵で、その雰囲気が少女を大人びてみせる原因かもしれない。
腰まで届く長く赤い髪をリボンで纏めており、歩くたびに左右にゆれるそれは、見るものの目を惹いた。

ドイルと別れた後、佐倉杏子は夜の街を練り歩いていた。熱を冷ますためだ。
ドイルと戦って以来、粘着質な炎が体の芯を焼いているのだ。
不思議な感覚に少女はいても立ってもいられず、夜気を浴びに街へ出たのであった。
しかし、いくら夜を纏っても彼女の熱は消えなかった。悶々と、彼女の内側でくすぶり続けるのである。

一度だけ熱が消えたことがある。二度目にドイルと戦ったとき、廃教会での死闘を終えたときであった。

あの時は体の奥に住むこわいものがすっと消えた。
憑き物が落ちたように晴れやかな気分になったのだ。

だが今またこうして杏子の体に何かが住み着いていた。
気を許すと内から彼女を食い破り、取って代わるのではないかと、杏子本気でそう思った。
それはとても恐ろしい気がするが、そのまま身をゆだねてみたいという気持ちもある。
224 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:01:00.84 ID:ESVWSeCho
杏子はこの熱の正体を何となく理解(わか)っていた。
闘いたいと、細胞が鳴いているのである。

生き残るために戦いはすれど、闘いのために戦わない、それが以前の杏子であった。
しかし、今は違う。誰かと戦いたくてしょうがないのだ。
血肉が沸き躍らせて、命を削りあう、そんな快楽をドイルとの戦いに見いだしてしまったのである。

杏子「はあ、どうしたもんかね」

仰々しくため息をついて独白する。
いざ街に繰り出してみても杏子の熱は冷めず、こんなものを抱えていては夜も眠れないと杏子は悩む。
そんなことを考えながら歩いていると面白そうなものを発見した。

「ちょ〜〜っといいですかァ?」

「な、なんだ」

鼻にピアスをつけた不良が黒髪の少女に絡んでいるのであった。
不良は少女の首に腕をまわして執拗に絡む。

「君のために5〜6時間だけ祈らせてもらえますかァ?」

「結構だ!」

「まあそう言わずに」
225 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:01:36.32 ID:ESVWSeCho
別に人助けをする気はないが、こいつはおあつらえ向きだ。
杏子はそう思い二人の間に割り込む。

杏子「ちょっと」

「あァ?」

杏子「私のためにさ、時間割いてくれないかな」

そう言って、杏子は不良の肩をドンと押した。

杏子「祈ってくれるんだろう?」

「あッ!?舐めてんのかてめえ!」

杏子のあからさまな挑発に不良は顔を歪ませる。

「どしたんマーちゃん?」

喧騒を聞きつけB系ファッションの男がピアスの男に声をかけた。
どうやらピアスの男の仲間らしく、ピアスの男、B系ファッションの男、そしてスキンヘッドの男が杏子をぐるりと囲んだ。
226 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:02:09.89 ID:ESVWSeCho
「どうもこうも、このガキが人のこと舐めてんのよ」

「ふうん」

スキンヘッドの男が答える。

「さっさと謝れよ。今なら財布だけで許してやるぜ」

ピアスの男が言う。

杏子「ごちゃごちゃうるせえな、さっさとかかって来いよ」

「てめえッ!舐めてると食らわすぞコラァッ!!」

ピアスの男は激昂する。
その瞬間、杏子の右足が綺麗な弧を描き、ピアスの男の頬にめり込んだ。

「ぎょいッッ」

杏子「あーあー、ペチャクチャ喋るから舌噛んじゃった、なァッッ!!」

追撃の左拳が鳩尾で爆ぜる。
ピアスの男は呻きながら倒れこんだ。
227 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:03:21.95 ID:ESVWSeCho
「て、てめえッッ!!!」

スキンヘッドの男が杏子の顔に右拳を疾らせる。
それに向けて杏子も右拳を放り込んだ。
拳と拳がぶつかり合う。
繁華街の喧騒の中にメキリという音が響いた。
拳が割れる音であった。

「いぎッッ!」

激痛にスキンヘッドの男はうずくまった。
拳が割れたのだ。
杏子の拳も同じようにぶつかり合ったのだが、男のそれとはまるで強度が違った。。

いや、杏子のそれは拳とは言えないかもしれない。
彼女の右手には指がないのだ。
親指は第一関節のあたりまで生えている。しかし、残りの四本は無い。
生命線から上にあるべき骨肉が無いのである。
228 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:04:39.54 ID:ESVWSeCho
杏子「おい」

残った一人に声をかける。

杏子「見逃してやるから財布置いていきな。三人分だ」

「ひゃ、ひゃい!」

B系ファッションの男は三人分の財布を杏子に渡して、一目散に逃げていった。

杏子(けッ!暇つぶしにもならなかったな)

まあ思わぬ小遣いは手に入ったが。
そう思いながら杏子はその場を後にしようとうした。

「ま、待ってくれ!」

杏子「あ?」

しかし、杏子は黒髪の少女に引き止められた。
229 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/05(月) 22:05:17.15 ID:ESVWSeCho
「助けてくれてありがとう。少々やり過ぎな気はしないでもないが」

杏子(そういえば絡まれてたっけ)

少女が絡まれていたことなど、杏子の頭からはすっかりと消えてしまっていた。
別に人助けをしたかったわけではなく、暴れたかっただけなのだから。

杏子「ああ、気にすんなよ。じゃあな」

手を挙げて今度こそ立ち去ろうとした杏子を、少女はしがみついて止めた。

「だから待てって!」

杏子「なんだよ!」

「お礼をさせてくれ恩人」

杏子「いい」

「君がよくても私がよくないんだ」

杏子「お前が消えるのが一番のお礼だよ」

「そんなつれないことを言わずに。私は呉キリカ、さあお礼をさせてくれ恩人!」

杏子「だぁ!鬱陶しい!」
230 : ◆jZWXi8L9Ck[sage]:2011/09/05(月) 22:06:40.29 ID:ESVWSeCho
投下終了
いやあ長々と待たせちゃってすみませんでした
今日からは安定して投下できますんで、またよろしくお願いします
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/05(月) 23:08:52.04 ID:u4VcUGzpo
こんな事したって強くなれねェけどよぉッッッ
とりあえず>>1乙ッッッ うりゃッ ケイッ



……白い子死亡後でも不思議ちゃんモードの黒い子が生きているとな
こりゃクロス要素以外にも期待が持てそう
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/09/06(火) 21:29:52.97 ID:jvt4bheAO
>>1乙ッ!
杏子ちゃんマジ主人公
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/09/06(火) 21:56:01.57 ID:HDdWz8G/0
いち乙ッッ

日本にある強大な兵器ってまさか・・・
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[sage]:2011/09/07(水) 03:01:27.21 ID:km41Zvxto
乙っちまどまど!
恩人呼びとくれば、奴か
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/09/09(金) 21:55:08.36 ID:hqRJHAMOo
>>233
遺憾の意だな
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2011/09/10(土) 04:08:06.44 ID:rPQa50HAO
幻惑の杏子
強化のドイル
遅延のキリカ
ティロフィナーレマミ
無限の弾薬子ほむら
なんと恐ろしい魔法少女達だ
237 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:16:39.74 ID:RVUZnj2uo
投下します
238 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:19:03.81 ID:RVUZnj2uo

ドイルが帰宅すると郵便受けに書類があふれていた。
ドイルが休んだ間のプリントが届けられていたのである。

コンビニ弁当の夕食をとりながらプリントを整理していると、可愛らしい便せんが紛れていた。
さやかとまどかからの手紙であった。
傷は大丈夫なのか、学校に来ないのはそのせいなのか、授業のノートはちゃんと取ってあるから見せてあげるね……と、そういった内容である。

ドイル「そろそろ学校に行かなきゃまずいな」

さやかについて病院に行った日依頼学校には通っていない。
正直学校に通うのは面倒なのだが、こう何日も休んでしまうと問題になるかもしれないとドイルは思う。

ドイル(いったん目を付けられたらこの先やりにくくなる……明日は登校しないとな)

そう思いベッドに潜り込んで照明を落とすと、今日の杏子との会話を思い出した。

ドイル(一緒に組まないか、か……)

手を組んで見滝原を奪い取ろうと、杏子は持ちかけてきたのだ。
ドイルはその場で返事をせずに、少し時間をくれと言って杏子と別れた。
杏子は不満気な、不思議そうな、そういった感情が入り交じった顔をしていた。
ドイルなら見滝原を奪うことを即断するであろうと、杏子は信じていたのだ。

ドイルの闘争心が消えたというわけではない。
杏子に敗北したとはいえ、闘いに満足したというわけではない。
己の鍛えた技や肉体を、存分に発揮する機会を欲している。
やはりドイルは獣であった。

それならば何故、杏子の誘いを断ったのか。
見滝原を巡っての抗争など、力を存分に発揮するにはこの上ない舞台である。
ドイルの心の奥にわだかまりがあったのだ。
見滝原を奪い取るとなれば、巴マミとの戦いは免れないであろう。
彼女には恩がある。それを鑑みて、見滝原奪取を躊躇したのだ。

ドイル(どうしたもんかねえ……俺も丸くなったな)
239 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:19:47.09 ID:RVUZnj2uo

翌朝、気持ちよく目覚めたドイルは久しぶりに通学路を歩んでいた。
小川や草木の芳香が心地よく鼻孔を撫ぜる。
朝の空気を楽しみながら歩いていると、前方にに勝てる見覚えのある後ろ姿を見つけた。
まどか、さやか、仁美の三人が並んで歩いているのである。

ドイル「よう」

後ろから声をかける。

さやか「へっ……ドイル!」

まどか「ドイルちゃん!」

まどかとさやかは心底驚いた顔をした。

仁美「あら、お久しぶりですわね。体調の方はもうよろしいのでしょうか?」

一方、仁美はマイペースに挨拶する。

ドイル「大丈夫だ。心配かけたな」

さやか「ほんと心配したんだよ。昨日家に行ったけど会えなかったし」

ドイル「ああ、ちょっと外に出てたんだ」

まどか「本当に体は大丈夫なの?無茶してない?」

心配そうにまどかが尋ねてくる。

ドイル「ああ」

さやか「そりゃよかった」

合流した四人はとりとめもない話をしながら、学校に向いて歩いていった。
240 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:20:48.01 ID:RVUZnj2uo

和子「それじゃあ、次からはちゃんと連絡してくださいね」

ドイル「はい、すいませんでした」

放課後ドイルは職員室で和子にたっぷり絞られた。
無断欠席の件についてだ。
連絡も取れないし会いに行っても留守にしているので、もう少しで警察に相談しようとしていたところらしい。

ドイル(危なかったな、ギリギリセーフだ)

他にも「体は大丈夫?」だとか「友達と上手く行ってないの?」だとか、そういったお話を延々と聞かされてやっと解放されたのだ。

ひとり寂しく校門を出る。
まどか達はは待ってくれると言っていたのだが、用があるから先に帰りなと断った。
無理しないでねと、まどかとさやかが別れ際に言ってきた。
どうやらよっぽど心配されているらしい。

ドイル「さて、これからどうしようか」

ドイルはそう独りごちた。
久しぶりにほむらの様子を見ておきたかったのだが、残念ながら帰ってしまったであろう。
今日も教室にいたのだが、むこうはこちらに微塵の興味も示さなかった。

ドイル(魔女でもさがすか)

最大限の能力を発揮するにはソウルジェムの浄化が不可欠である。
まだ余裕のあるうちにグリーフシードをストックしておきたい。
そう思い、ドイルは学校を後にした。
241 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:23:14.75 ID:RVUZnj2uo

廃墟、路地裏、交通量の多い交差点……ドイルは魔女の好みそうな場所をしらみつぶしに探していた。
しかし、ドイルのソウルジェムに反応は無い。

ドイル(チッ、今日はハズレかな)

そう思い路地裏を歩いていると悲鳴が聞こえた。甲高い、少女の声であった。
次いで破裂音が耳を衝いた。発砲音だと気付いた。

ドイル(かなり近いッ!北西、30メートルほどか)

音がした方向を向き、ドイルは口角を上げてつぶやく。

ドイル「面白そうじゃないか」

言い終わるや否や、ドイルは音の元に駆ける。
現場にたどり着いたときには、既に犯人は逃走していた。

ドイル(人の気配は……しない。かわりに血と硝煙の臭いは漂っているが)

匂いの元に足を進めると、人が倒れているのを発見した。
バイタルサインを測定(はか)らずとも、死んでいることが理解(わか)る。

ドイル(頭部と腹部に一発ずつ……驚いたな、うちの制服じゃないか)

死体が着ていたそれは、間違えなく見滝原中学校の制服であった。

ドイル(血で顔が汚れてよく解らねえが……俺の知り合いではないな)

中肉中背、見滝原の制服、―――そしてミディアムほどの黒髪、ドイルの知り合いにこのような少女は居ない。

ドイル(どうやら……“犯人”には逃げられたかな)

 骨折りだなと思い、ドイルは立ち上がる。
 現場をはなれようと死体に背を向けた瞬間、殺気を叩きつけられた。
242 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:24:11.31 ID:RVUZnj2uo
ドイル「〜〜ッッ」

振り向いて臨戦態勢を整えようとするが、殺気の主の方が一枚上手であった。
ドイルの眉間を、照準が狙っていた。暗く、深い、地獄の淵のような銃口が向けられている。

ほむら「動かないで」

少女がいた。
夜気をまとった、月のような少女であった。

ドイル「……殺気を消すのが上手いんだな」

ほむら「なぜあなたがここにいるの?目的は何?」

ドイルの言葉などお構いなしと、ほむらは質問を投げかける。

ドイル「魔女を捜してたら、面白い現場に出くわしたんだ。魔女はこんな辛気臭い場所が好きだろう?」

ほむら「……」

ドイル「敵意はない。銃を降ろしてくれよ」

ゆっくりと少女は銃を降ろした。

死体に目を向けて、ドイルはつぶやく。

ドイル「あんたがやったのかい、コレ」

ほむら「……」

ドイル「そう身構えなくてもいい。別に誰かに話そうだなんて思っていないさ」

ほむら「ええ……私が殺したわ」

ドイル「そりゃまたなんで」

ドイルの問いに一拍おいてほむらは答えた。

ほむら「まどかを殺すかもしれないから」
243 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:25:06.12 ID:RVUZnj2uo
ドイル「“しれない”……?どういうことだ」

ほむら「そのままの意味よ。その子はまどかを殺す可能性がある。だから殺したの」

くすり、と笑いながらほむらは言った。。

ドイル「可能性……ね。あんた、月みたいな女だとは思っていたが……なるほど文字通り“狂気的(ルナティック)”だった
    というわけだ」

ほむら「なんとでも言えばいいわ、まどかを害するものは全て私が排除する。あなたも気を付けておきなさい」

ドイル「気を付ける……ねえ。俺には願ったりかなったりなんだが」

ほむら「どういうこと?」

いぶかしげにほむらは尋ねる。

ドイル「あんたと戦いたいってことさ」

ほむら「あなたと戦う理由がないわ」

ドイル「理由なんて幾らでも作れるさ」

ほむら「……死ぬわよ」

ドイル「どうかな?」

ニヤリと笑いドイルは答える。
その瞬間、ほむらがドイルの視界から消え去った。
冷たい銃口が背中に押し当てられる。

ドイル「〜〜ッッ!」

ほむら「これがあなたと私の戦力差よ、舐めないことね」

ドイル「……知ってるかい、イギリスには死刑制度って奴がないんだ」

ほむら「……?」
244 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:27:50.43 ID:RVUZnj2uo
ドイル「ただ、例外があってな……海賊行為、国家反逆罪、それとあとひとつ……」

不意にドイルが素早く体を回転させる。
振り向くと同時に、射線をずらす。

ほむら「ッッ!」

左腕を折りたたんで、銃をもったほむらの右腕の自由を奪った。

ドイル「ッッシャアッ!!」

同時に右肘をほむらの顔面に、次いで右足を股間にぶち込む。
思わぬ奇襲にほむらのグリップが緩む。
それを見逃さずドイルは右手で銃身を掴み、一気に銃を奪い取った。

ひとつ、ふたつと銃口をほむらのこめかみに打ちつける。

ほむら「〜〜〜ッッ!」

怯んだほむらに銃口を向け、弾丸をぶち込んだ。
胴に向けて一発、二発、三発、四発……
残弾を全て撃ち尽くした後、ほむらに向かって銃を投げ捨てた。

ドイル「最後のひとつは軍内部においての犯罪……ガンディフェンスはお手のものってわけさ」

ほむら「かッ……ド……イルッッ」

ドイル「無理に喋らないほうがいいぜ。魔法少女とはいえ50口径弾を四発もぶち込まれたら堪えるだろう。これは挨拶さ」

口の端を吊り上げて、ドイルは言葉を放つ。

ドイル「覚えておけ。次に出会ったとき、俺たちは殺しあう」

気を失ったほむらを後に、ドイルはその場から立ち去った。
245 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:28:54.65 ID:RVUZnj2uo

喧騒の中で、少女は人を待っていた。
学生や親子連れ、チラホラと老人、老若男女が集まるショッピングモールに佐倉杏子はいた。

杏子「遅い!」

杏子はかなり気が立っていた。
待ち人がなかなか来ないのである。
昨日、繁華街で助けた黒髪の少女がどうしてもお礼をしたいというので、ここで落ちあうことにしたのだ。

杏子(……もしかして何かあったのかな)

不吉な考えが頭をよぎる。
まさか昨日の今日でまた事件に巻き込まれるとは思えないが、あいつならありえそうな気もする。
そんなことを思っているうちに人の気配を感じた。

杏子「ったく!お礼がしたいッつって人を待たせるとはどういった了見だい!」

待ち人が来たと思い話しかけるがすぐに別人だと分かった。

ドイル「……は?」

杏子「なんだ……あんたか」

肩を落とし杏子はつぶやく。
246 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:29:33.74 ID:RVUZnj2uo
ドイル「あんたか、とはまたずいぶんなご挨拶だな。……人を待っていたのかい」

杏子「ああ、ドイルは何でここに」

ドイル「ちょっと買い物があってな」

杏子「ふうん」

ドイル「だが、ここで杏子に会えたのは運がいい」

杏子「どういうことだい」

ニヤリと笑いドイルは言う。

ドイル「考えが決まったよ。見滝原……取ろうぜ」

杏子「やっとその気になったのか」

杏子も笑って答える。

ドイル「ああ。いろいろ考えることもあったけどな。やはり俺は獣のようだ」

杏子「獣?」

ドイル「いや、なんでもない」

杏子「そうか。……んじゃあ同盟結成を祝って飯でも食いに行くか!ちょうどフードコートもあるしな」

ドイル「人を待ってたんだろう?いいのかい」

杏子「ああ、結局来なさそうだしな」

――寂しそうな表情を浮かべ、杏子はつぶやく。

杏子「あいつとは……縁がなかったんだよ」

ドイル「縁?」

杏子「なんでもない。さあ、さっさと行こうぜ」
247 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/12(月) 22:32:47.64 ID:RVUZnj2uo
投下終了
ちなみに死刑制度うんぬんはバキ死刑囚編が連載されてたころのお話で今は違ったはず
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2011/09/13(火) 02:50:37.12 ID:3ZrqUPuAO
乙!
ほむら息してるかな
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/13(火) 05:19:51.64 ID:ccIfu15X0

ほむほむ相手見ずに喧嘩売るから・・・
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)[sage]:2011/09/13(火) 21:04:47.74 ID:Coy08GnWo
私はほむほむ派です
だかそれ以上にバキ信者だったみたいだ 正直胸がすっとした
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)[sage]:2011/09/14(水) 01:44:24.92 ID:yRaHgwbAO
考えてみたらドイルって死刑囚の中では不意打ちはした事なかったよな

逆に不意打ちされた方だし
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/09/14(水) 03:17:40.70 ID:M3UN0fq5o
烈ちゃんに不意打ちしようとして鏢で蜂の巣にされたことならあった
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/09/14(水) 05:55:54.93 ID:Ft6INxbAO
やっぱりおもしれーわ
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)[sage]:2011/09/14(水) 10:00:00.49 ID:dvG4TiJD0
キリカ退場はええ・・・
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/09/15(木) 01:48:44.62 ID:dx9nYjMW0
投下乙っす
少女の股間に攻撃を加えるとは・・・流石バキ勢は他とやる事が違う
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/22(木) 09:47:30.33 ID:jhd/MLAW0
キリカェ・・・
257 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:09:14.42 ID:uMmNTYLeo
どうもお久しぶりです
それじゃあ投下します
258 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:10:59.76 ID:uMmNTYLeo

杏子とドイルはフードコートで夕飯をとりながら今後の展望について話し合うことにした。
ラーメンに箸をつけながら杏子は話す。

杏子「見滝原を取ると決めたのはいいが……まずは状況を確認しないとね」

ドイル「状況?」

杏子「見滝原には何人魔法少女がいて、どんな能力を使用(つか)うのか、それぞれに関係(パイプ)はあるのか……知っておきたいのはそんなところだね」

ドイル「俺の知っている限りでよかったら話そう。とはいっても俺も見滝原に来てから浅いんだがね」

ステーキを口に放り込みながらドイルは答える。

ドイル「まず魔法少女だが、俺の知る限りでは二人、暁美ほむらと巴マミがいる」

杏子「……マミのことは私も知ってるよ」

どこか懐かしげな顔をして杏子は答えた。

ドイル「驚いたな、知り合いだったのか」

杏子「まだケツの青かった“新人”のときの知り合いさ。私の師匠みたいなもんだ」

苦笑いを浮かべ杏子は答える。

ドイル「杏子の師匠となれば……やはり強いんだろうな」

杏子「折り紙付きだよ、甘ちゃんだけどね」
259 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:11:58.76 ID:uMmNTYLeo
ドイル「いいのかい?」

神妙にドイルは尋ねる。

杏子「うん?」

ドイル「見滝原を取るってことは……巴マミと事を構えるってことだぜ」

杏子「それで?」

ドイル「“心の準備”はできているのか?」

杏子「“殺す覚悟”はできているさ」

スープを啜り、杏子は続ける。

杏子「マミは確かに昔なじみだけどね、それだけさ」

ドイル「ふうん……」

杏子「マミの事はあとであんたに教えてやるよ。暁美ほむらについて教えてくれ」

ドイル「彼女も俺と同じく余所者さ。もっとも魔法少女歴はかなり長そうだが」

杏子「ベテランか」

ドイル「さっきも彼女と事を起こしてきたところさ」

少し驚いて杏子は尋ねた。

杏子「ここにいるってことは勝ったのかい?あんたの方が力量は上ってわけだ」

ドイル「いや、あのときは不意をついただけだ。彼女に慢心がなかったら俺は今頃この世にいないだろうよ」
260 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:12:43.40 ID:uMmNTYLeo
杏子「謙遜……ってわけじゃあなさそうだね。かなりの手練れってことか。能力は?」

ドイル「それがよく理解(わか)らないんだ。まるでコマが落ちたみたいに目の前から消失(き)えて、気がついたら背後をとられていた」

杏子「瞬間移動……」

ドイル「なにか他の能力でそう見せているのかもしれない。杏子の幻惑みたいに」

杏子「うーん……」

杏子は眉をひそめ頭を捻る。
どうやら彼女にもほむらの能力は理解(わか)らないらしい。

杏子「まあこの話は後回しでいいか。マミと暁美ほむらは協力関係なのか?」

ドイル「いや違うな。しかし邪険というわけでもない」

杏子「ならスピード勝負だね。それぞれ一人でいるところを二人がかりで襲っちまえばいい。チームを組まれたらやっかいだ」

ドイル「そうだな……そういえば後二人、魔法少女候補生がいたな」

杏子「候補生?」

ドイル「キュゥべえが目をつけているのさ。鹿目まどかと美樹さやかっていう名前だ。巴マミとは仲がいい」

杏子「ま、そいつらは放置でいいだろ。たいして邪魔にならなそうだし。まあ……魔法少女になったときには」

言葉に含みを持たせて、杏子はドイルを見た。
ドイルは応えるように、ニヤリと口の端をつり上げる。

杏子「だいたい話しておくのはこんなものかね。細かいことは後にしよう」

ドイル「そういえば杏子に頼みがあるんだが……聞いてくれるかい」
261 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:13:18.58 ID:uMmNTYLeo
杏子「言ってみな」

ドイル「しばらく杏子のところに泊めて欲しいんだが」

杏子「そりゃまたなんで」

ドイル「安眠をむさぼるためさ。暁美ほむらと敵対した以上、いつ寝込みを襲われるか分からんからな。今日も野宿に必要な道具を揃えにきたんだ」

杏子「買い物ってのはそれだったんだな」

ドイル「そういうこと」

杏子「しっかし野宿って……ホテルに泊まればいいじゃんか」

ドイル「金の都合もある。そんなに頻繁には利用(つか)えないだろう」

杏子「金なんてどっからでもかっぱらってきたらいいじゃん。あたしはATMを襲ってるよ」

ククク、と笑って杏子は言った。

ドイル「……なるほどね」

感心して、ドイルはうなずいた。
262 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:14:38.52 ID:uMmNTYLeo

「そうだよ、俺は、駄目なんだ。こんな小さな工場一つ、満足に切り盛りできなかった。今みたいな時代にさ、俺の居場所なんてあるわけねぇんだよな」

作業衣を着た男はつぶやいた。
四十路をすぎたあたりであろうか、その背中には哀愁が漂っていた。
目に光は映らず、代わりに絶望が潜んでいた。

寂れた工場に人が集まっていた。
工具や機具の類は見えず、それが廃工場である事を暗に示していた。
集まった人々の目も、やはり絶望を見つめていた。

一人の女がバケツに何かを注いでいる。
それぞれ種類の違う液体洗剤であった。

こういった薬品は混合させると非常に危険なものもある。
そして、女の行為はとても危険なものであった。

彼らは死を欲していた。
あるものは経営に失敗し、あるものは家族を失い……
しかし、何の理由もなく死に向かうものもいた。

何が彼らを終わりに向かわせるのであろうか。
263 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:15:20.19 ID:uMmNTYLeo
答えは単純であった。
彼らは魔女に魅入られているのだ。

突如、金属がこすれる音がした。
降りていたシャッターが開く音であった。

その場にいたもの達が虚ろな目をそちらに向ける。
街の光が逆光となり、人の影が映し出されていた。
見滝原中学の制服を着た少女である。
──まるで小麦のごとくなびく金の髪が特徴的な少女であった。

マミ「ここね……」

QB「危ないところだったね、危機一髪だ」

マミ「そうね」

「あんた……誰なんだ」

突然の来訪者に作業衣を着た男が尋ねる。
264 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:16:24.29 ID:uMmNTYLeo
マミ「私は巴マミ、あなた達を助けにきました」

毅然として少女は答えた。

「助ける……?」

眉をひそめて男はつぶやいた。

「放っておいてくれ……俺たちはこれから旅立つんだから」

男の言葉に一人の少女が同調する。

仁美「ええ、これは旅立ち。私たちは、みんなで、すばらしい世界に旅に出ますの」

ぱらぱらと、少女の言葉に拍手が贈られた。
緑のウェーブがかかった髪を持った少女であった。
名前を志築仁美という。
まどかとさやかの親友であった。
265 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:17:21.47 ID:uMmNTYLeo
マミ「あなた、見滝原の生徒ね……待っていて、絶対に助けるから」

そう言うとマミは素早く駆け出し、薬品の混合(ま)ざったバケツをひったくる。

マミ「えぇいっ!」

そしてそれを勢いよく、窓から外に放り投げた。

その行為に怒りを覚えたのか、虚ろな群れがゾンビのようにマミへと殺到した。

マミ「ごめんなさい、すぐ終わらせますからっ!」

言うや否や、彼女のソウルジェムからリボンが伸びる。
絶妙な力加減で、苦痛を与えないように優しく人々を拘束した。

マミ「さてと……」

マミはあたりを見回した。
元凶となる魔女がいるはずである。
彼女はその魔女を狩りにきたのだ。
──そう、彼女は魔法少女であった。
266 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:18:00.61 ID:uMmNTYLeo
マミ「いるんでしょ。出てきなさい……私と一緒に遊びましょう」

高々と叫ぶと、その言葉に反応したように少女のような声が聞こえてきた。

QB「こっちだマミ」

キュゥべえが向かった先には小さな部屋があった。
中に入ると魔女の結界が出来上がっている。

マミ「ここね」

つぶやいて、マミはソウルジェムを握りしめる。
すると、まばゆい光が彼女を包み、次の瞬間にはマミの衣装が変わっていた。
魔法少女としてのコスチューム。
魔女を狩るものとしての戦闘衣。
戦う準備が完了したのである。

QB「気をつけて」

マミ「分かったわ」

キュゥべえの声に微笑んで答える。
彼女は魔女の巣に足を踏み入れた。
267 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:18:34.81 ID:uMmNTYLeo

結界の中はたいして複雑ではなく、そのまま魔女の元に通じる道が一本あるのみだった。
羽の生えた人形の使い魔が、絶えず彼女の周りを飛び交っている。
マスケット銃でそれらを撃ち落としながら、マミは魔女の元へと向かった。

マミ「パソコン……?」

その部屋には、ぽつんとパソコンが一つ安置してあった。

QB「あれが魔女だ!」

「キャキャキャキャキャ!!!」

突如そのパソコンが金切り声をあげる。

マミ「ッッ!行くわよ!」

一発、二発、と生成したマスケット銃を使い捨てにしながら、魔女に弾丸を撃ち込んでいく。
268 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:19:22.62 ID:uMmNTYLeo
しかし、使い魔が素早く射線に割り込んだ。
体で弾丸を止めて、隙あればマミに攻撃を加えてくる。
そして、背後から飛来した使い魔にマミは体を触られた。

マミ「きゃッ」

ふわりと、マミの体がまるで羽のように体が軽くなった。
ひょいと掴まれてそのまま壁に叩きつけられる。

マミ(〜〜ッ!体重を操った!?これが使い魔の能力?)

体に重量が戻り、素早く起きあがりマミは体勢を整える。
ふと、頭の中に声が響いた。

『今日は本当に楽しかったねぇ』

マミ(何の音!?)
269 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:20:19.71 ID:uMmNTYLeo
『また行きたいねぇ』

マミ(なにか聞き覚えのあるような……?)

『今 度 は ……』

マミ(まさか……私の!?)

『お 弁 当 も』

マミ「やめてッッ!」

QB「マミ!?」

『持 っ て 行 こ う ね』

マミ「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

──悲鳴と共に、マミは記憶の海に引きずり込まれた。
270 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:20:49.15 ID:uMmNTYLeo

軽自動車の中で、少女は家族と談笑していた。
──まるで小麦のごとくなびく金の髪が特徴的な少女であった。

「今日は本当に楽しかったねぇ」

満面の笑みを浮かべて少女は言った。

「ええ、そうね。ママも遊び疲れちゃった」

優しげな面持ちの母がこれに答えた。

「パパもくたくただ、あのジェットコースターには参ったよ」

「マミも乗りたかったなぁ」

「ふふ、もっと大きくなってからね」

「やめておきなさい、あんなもの。まったく怖いもの見たさで乗るんじゃなかったよ」

大げさに父が言う。
271 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:21:41.14 ID:uMmNTYLeo
「ふふふ」

おかしくてたまらないといった表情で、母は声をこぼした。

「また行きたいねえ」

そんな父と母を見て、マミは嬉しくなった。

「ええ、また行きましょうね」

「今度はおべんとう持って行こう!」

「おっ、それはイイなぁ〜」

マミの提案に、父が笑顔で答える。

──小さな空間には微笑みが満ちていた。

「あなた!前!!」

──家族は幸福で繋がれていた。

「〜〜ッッ!!うあああああああああああああああああああああああ」

──そして少女に災厄が降りかかった。
272 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:22:11.38 ID:uMmNTYLeo

痛い……熱い……何が起こったの……?

パパ……ママ……どこにいるの?

赤い……なんだろう、これ……マミの体から流れてる……

血?……これは血だ……死んじゃうのかな……

怖い……怖い……怖い怖い怖い怖い怖い!!

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!

「やあ、生きてるかい」
273 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:22:46.70 ID:uMmNTYLeo
誰……天使さん……?

「天使じゃないよ。ぼくの名前はキュゥべえ、君の願いをなんでも一つ叶えてあげる」

願い……

「そのかわり、ぼくと契約して魔法少女になってよ」

──助けて……

「それが君の望みなんだね?」

──助けて助けて助けて助けて助けて!!!

「君の願いはエントロピーを凌駕した。受け取るといい、これが君の運命だ」
274 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:23:20.23 ID:uMmNTYLeo
──マミ、助かるんだ。

──死なないですむんだ。

「人殺し!」

え……!!?

「人殺し!」

パパ!?ママ!?

「自分の為だけに願いを使って!あなたが私たちの為にも願っていたら」

「あのとき俺たちは死なないですんだ!!!」

いや!近寄らないで!
275 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:23:48.52 ID:uMmNTYLeo
「人殺し!!」

ごめんなさい!!

「人殺し!!!!」

ごめんなさい!!

「人殺し!!!!!」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!!
276 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:24:15.93 ID:uMmNTYLeo
『……ミッ!……マミッ!起きるんだッッ!!』

許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して!!!

『早……起きるん……!……そ…は幻想だ!』

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!!

──助けてよ天使さん!!!!!

『マミッ!……ミッ!ぐあッッ!!』

いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
277 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:25:17.44 ID:uMmNTYLeo

マミ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

突如、少女は現実に引き戻された。
呆然と自分の体を見ると使い魔が群がっていた。

マミ「いやッ!いやッ!!いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

がむしゃらに体を動かして使い魔を振り落とす。
体のあちこちから血が流れていた。

マミ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

マスケット銃を作れるかぎり創造し、展開した。
278 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:25:53.08 ID:uMmNTYLeo

マミ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

必死に魔女を捜す。視界の端にその影をとらえた。
画面に一つ穴が開いており、そこから紫煙をあげていた。

マミ「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも!!!」

展開したマスケット銃から、まるで豪雨のように弾丸が撃ち出された。
射線と魔女の間に使い魔が割り込むが、圧倒的物量の前には心もとなく、魔女の体は蜂の巣となった。

金切り声のような断末魔をあげ、黒い何かを排出する。
厄災の源、グリーフシードであった。
279 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:26:32.52 ID:uMmNTYLeo
マミ「はぁ、はぁ、はぁ」

崩壊する結界の中、マミは肩で息をしていた。

マミ「そうだ……キュゥべえ!!」

必死にあたりを見回すと、白い獣がうずくまっているのが見えた。

マミ「キュゥべえ!?」

QB「ま、マミ……」

マミ「大丈夫!?怪我してる!」

QB「大丈夫……たいしたことないさ」

マミ「な、なんで!?」
280 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:27:48.06 ID:uMmNTYLeo
QB「精神攻撃に捕らわれた君が、辺り一面に銃撃を行ったのさ。運良く魔女に当たって幻覚から抜け出せたみたいだね」

マミ「じゃあ……私が……!」

QB「気に病むことはないよ。かすっただけだ」

マミ「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

QB「マミのせいじゃないさ。謝らなくていい」

マミ「ごめんなさい……」
281 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:28:20.51 ID:uMmNTYLeo

志築仁美が目を覚ましたのは、ざわざわとした喧噪の中であった。

仁美「……ここは?あたしは……何を?」

マミ「大丈夫?」

仁美「っ!は、はい!」

突然話しかけられ、驚いた仁美は思わず背を反った。

仁美「あの、これはいったい」

上目遣いで目の前の少女に尋ねる。
同じ見滝原中学の制服という事もあって、この少女といることに安心を覚えた。
282 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:28:57.57 ID:uMmNTYLeo
マミ「気にすることはないわ……これは夢よ」

仁美「夢?」

怪訝そうに仁美は聞き返す。

マミ「そう、これは悪夢。すぐにお家に帰りなさい」

寂しそうに少女は答えた。
その目は、どこか遠くを見ているようであった。

仁美「はい……あの、あなたは?」

マミ「名乗るほどの者じゃないわ、それじゃあ」

仁美「あ……」

去っていった少女に、仁美は強く惹きつけられた。
この奇妙な出来事の顛末を知っているのではないか、という思いから。


そしてなにより……

仁美(なんて……寂しそうな背中)

──その少女の哀愁から。
283 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:29:37.63 ID:uMmNTYLeo

中空に下弦の月が昇る夜、暁美ほむらは覚醒した。
腹のあたりに手を添えてみると、パリパリと乾いた血が割れた音がした。
制服には穴が四つ、しかし彼女の体に傷はない。
魔法少女の治癒力が生命を死守(まも)らんと、傷を塞いだのであった。

立ち上がろうと地面に手をつくと、何かに触れた。

──死体である。
呉キリカ、自分が殺した少女であった。
284 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:30:03.99 ID:uMmNTYLeo
ほむら「ドイル……」

眉間に皺をよせ、夜空を見上げる。

ほむら「〜〜ッッッ!ドイルッッッ!!」

咆哮が冷えた大気に木霊した。

夜空を睨んだ双眸は、爛々と光を放っていた。

そう、まるで……

──“月のよう(ルナティック)”に。
285 : ◆jZWXi8L9Ck[saga]:2011/09/23(金) 02:35:12.84 ID:uMmNTYLeo
投下終了
いやあ長らくお待たせしてしまってすみません

ちなみに「お弁当うんぬん」ってのはエリーちゃんの声を逆再生したときに聞こえる言葉です
マミさんのトラウマにしたら面白いかなってあえてマミさんの発言として使いました
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)[sage]:2011/09/23(金) 03:02:13.50 ID:pfIIvMKAO
乙乙
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/23(金) 09:08:52.32 ID:oBFC4pbL0
さぁ楽しくなって参りました
乙です
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/23(金) 14:04:16.03 ID:C8DmjvyDO
誰かドイルの魔法少女ver書いてみてくれ…自分には想像できない
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/24(土) 07:53:00.09 ID:c5iGncP/0
青は今のところ未契約か
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2011/09/24(土) 09:54:50.52 ID:JsKIs0mH0
乙 
原作ドイルがフリフリの魔法少女コスで
暗器振り回しところを想像すると酷くシュールな感じだった・・・orz
    
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2011/09/24(土) 10:37:22.06 ID:Crz0E3nwo
乙彼様



不思議ちゃんふっつーに殺られてるのね……
そしてやっぱりキルスティンさんはマミさんに相性抜群
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2011/10/13(木) 23:14:05.15 ID:7+wy8eDy0
難産?
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)[sage]:2011/10/13(木) 23:49:12.94 ID:kmnrpHrQ0
無事に取り上げろ。失敗は許さん。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)[sage]:2011/11/03(木) 11:41:27.63 ID:Z+o56QY7o
続き気になる。。。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(空)[sage]:2011/11/04(金) 22:01:20.41 ID:z1GUr9wF0
やばい・・・やばいぞこれは・・・
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県)[sage]:2011/11/07(月) 22:36:40.08 ID:RLDdF/wO0
次帰ってくるのはいつになるのだろう・・・
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/07(月) 22:42:18.30 ID:/QYbg7OZo
岩塩層の氷で眠ってるから後一億年くらいかな
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)[sage]:2011/11/08(火) 06:52:07.18 ID:KjDIOMkg0
原作のドイルの如く行方不明
299 :オリバ[sage]:2011/11/08(火) 20:12:58.22 ID:v7y3vmqS0
シリアスプロブレムだぜ
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海・関東)[sage]:2011/11/17(木) 21:52:42.53 ID:Dx2AzBTAO
ここって落ちないだろうけど、作者の書き込みなくても平気なんだっけ?
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空)[sage]:2011/11/28(月) 15:04:32.65 ID:yGTvLrMj0
おいドイルしっかりしろッッ

お前の友達のスレは既に復活しているぞッッッッ



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