VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:09:31.15 ID:rkRztRK1o<>第1話 それはとってもしあわせな
エリー「あっ……/// だめ、ネロ……もっとやさしく……///」
ネロ「えっ……/// えと、こんなかんじ?」
エリー「そう、そんなかんじよ……///」
ネロはとろとろの蜜を丁寧に愛撫していきます。
私はそっとネロの手に手を重ね、ゆっくり動かしていきました。
やさしくかき混ぜるように……
ネロ「いいにおい……」
ネロは上気した顔で、うれしそうにほほえみました。
そんな笑顔を見ていると私の頬まで赤くなります。<>エリー「私と5つの物語……///」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:10:51.16 ID:rkRztRK1o<> エリー「あ、熱い……///」
ネロが愛撫するのに合わせて蜜は熱くなり、甘い香りをたてています。
ネロ「そろそろ……入れていいかな?」
エリー「あっ、待って……/// まだ、だめよ……///」
私はすがるようにネロをとめました……
エリー「火を止めて、冷ましてからでないと……///」
ネロ「えーまだー?」
ネロは木べらで鍋の中のジャムをかき混ぜながら言いました。
テーブルの上にはミルクやお砂糖、ボウルにカップ。
私とネロはいま家庭科室でお菓子を作っているのです。
それは今朝はやくの出来事がきっかけでした…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:11:54.93 ID:rkRztRK1o<> ネロ「あまいお菓子が食べたいー!」
ネロはいつもと違って甘える子供のように言ったのでした。
エリー「どうしたの、急に……」
ネロ「あまいのがいっぱい食べたいの! うまうま棒ばっかりじゃ飽きちゃうー」
コーデリア「でも、お菓子なんて私たちには買えないわよぉ」
ネロ「お菓子がないなら、お菓子を作ればいいじゃんか!」
シャロ「何アントワネットですかそれー……」
エリー「材料もないし……」
ネロ「僕、生徒会長に頼んでくる!」
コーデリア「さすがに無理じゃない?」
ネロ「大丈夫、わかってくれるよ! だって生徒会長も女の子だし!」
ネロは自信ありげにそういうと、部屋を飛び出していきました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:13:27.37 ID:rkRztRK1o<> なんとなく心配になった私は生徒会長室の前まできました。
中からネロの声が聞こえます。
エリー「し、失礼します……///」
控えめにノックをして扉を開き、中をのぞき込みます。
ネロ「あ、エリー!」
アンリエット「ですから、大した理由もなく家庭科室の利用を許可する訳にはいきません」
ネロ「あるよ! ちゃんとした理由」
エリー「ネロ……?」
ネロ「だってだって女の子にとってあまいお菓子ってとても大事なんだよ!
みんなと一緒におしゃべりしながらおいしいお菓子を食べるのってすごくたのしくって幸せなことなんだよ」
ネロはまるでそんな瞬間を想像しているかのような、優しい表情でした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:15:07.01 ID:rkRztRK1o<> ネロ「生徒会長も女の子なんだからわかるでしよ、ね?」
アンリエット生徒会長はあっけにとられたような顔でしたが、次第に表情を緩めました。
アンリエット「……そう、ですわね」
ネロ「でしょでしょー? だから、お願いっ!」
アンリエット「仕方がありませんわね。今回は特別に認めましょう」
ネロ「ほんとに? ありがとう! 生徒会長、大好きー!」
ネロはそういうと部屋を駆けだしていきました。
エリー「あ、ネロ……///」
アンリエット「たしかに、年頃の女の子に屋根裏部屋できのことお芋ばかりじゃ可哀想ですものね」
それはいつにない明るく包み込むような笑顔でした。
アンリエット「必要な材料も手配しておきますわ」
エリー「あ、ありがとうございます……///」
アンリエット「そのかわり、できあがったお菓子、わたくしにもおすそわけしてくださいね」
いたずらっぽい口調でそう言ったアンリエットさんがいつもより幼くかわいく見えたので、私はどきどきしながらほほえみを返したのでした。
生徒会長室を出ると、廊下の窓ガラス越しに晩春の厚い青空が輝いていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:16:28.64 ID:rkRztRK1o<> 瓶に入ったジャムに陽の光が屈折して色とりどりの光が半透明に溶けあっています。
ネロ「まだかなまだかなー」
ネロはオーブンをのぞき込んでいます。
ネロ「よし! 焼っけたー! ねえねえ、どう?」
ネロはエプロンの裾についたフリルをひらめかせて振り向きました。
エプロンとお揃いの可愛いミトンで焼きあがったばかりのタルト生地を乗せた天板を持っています。
ネロ「いい感じでしょ?」
エリー「うん、上手……///」
そうして照れくさそうに笑うネロが本当に可愛くって、私は幸せな気持ちでホイップを泡立てていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:17:18.93 ID:rkRztRK1o<> ネロ「エリーの方はどう? ホイップできた?」
エリー「うん、そろそろいい感じかな」
ネロ「わ、ふわふわだー。ちょっと味見をー」
エリー「だめっ……///」
ネロ「いいじゃん、ちょっとくらい。ね?」
エリー「もう、せっかちなんだから……///」
ネロは小指の先でホイップクリームをすくいとり、なめました。
ネロ「んー! あまーい!」
幸せそうにはしゃぐ姿か愛らしくってすっかり許してしまうのです。
ネロ「ほらエリーも!」
エリー「ええっ!?///」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:18:47.91 ID:rkRztRK1o<> ネロはクリームのついた小指を差し出します。
ネロ「ほら、あーん」
エリー「えっ!/// ちょっと、ネロ……///」
ネロ「ほーらっ」
エリー「うー……あ、あーん」
どきどきしながら私は、ネロの小指の先にそっと唇をつけ、そのかわいらしい先端に舌を這わせ、クリームをなめとります。
ネロ「どう、おいしい?」
ネロはこういうことを全然気にかけていないのか、純粋に輝く瞳で私を見上げます。
エリー「うん、おいしい……///」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:19:32.35 ID:rkRztRK1o<> そしてネロはふと真剣なまなざしをしてひそやかにつぶやきました。
ネロ「エリーってほんと上手だよね」
エリー「えっ///」
一瞬、時が止まったような静けさを感じました。
ネロは一歩踏み出し、体が密着するほどに私との距離を縮め、私が今なめたばかりのその濡れた小指を私の鼻先に突きつけます。
ネロ「ね。ほんとに……」
エリー「なにが……?」
ネロの湿った息を肌に感じます。
しかしネロの表情は次の言葉を言った時にはすでに笑顔に戻っていました。
ネロ「こういうお菓子づくりとか!」
甘える子供のようにネロは抱きついて、そう言いました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:20:31.38 ID:rkRztRK1o<> エリー「えっ、あ、そう……かな?」
ネロ「うん! ほんと、パティシエみたいだもん。きゅうきょく魔法使いかも」
エリー「ふふっ、ネロは苦手だもんね、作るの」
ネロ「はてー?」
開け放った窓から新緑の匂いを含んだ春の風が吹いてレシピの本のページがめくられます。
裾のフリルは円を描き、ネロはふわりと離れてタルト生地を乗せた天板を持って行きました。
ぱたん、と軽い音を立てて本は閉まりました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:21:57.12 ID:rkRztRK1o<> ネロを追ってきた私は家庭科室の扉を開きます。
エリー「ねろー?」
ネロ「みてみて、ほら!」
ネロはテーブルの上の食材を指して言いました。
卵、牛乳、お砂糖、薄力粉、チョコレート、フルーツ……
お菓子づくりに必要な材料がおおかたそろっていました。
ネロ「石流さんが持ってきてくれたんだよ!」
エリー「それで、どんなの作るの?」
ネロ「えっとね、ケーキでしょータルトでしょー、あとあと、シュークリームもいいなー!」
エリー「作り方はわかる?」
ネロ「あ」
やっぱり…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:23:03.45 ID:rkRztRK1o<> 私はため息を一つつくと、お菓子のレシピが載っている本を取り出しました。
こんなことだろうと思って部屋から持ってきておいたのです。
エリー「これ見ながら作ろ?」
ネロ「おおー! ありがとっ、エリー!」
ネロは早速本をめくります。
ネロ「これ、いっぱい載ってるね。どれにしよっかなー迷うなー」
エリー「あと、これ」
ネロ「なに、それ?」
エリー「エプロン」
白と黄色を主調にしたエプロンで、細かいところのフリルやレースまで作り込んであるなかなかかわいいものです。
前からネロに着せたいと思っていた女の子らしいエプロンでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:23:50.92 ID:rkRztRK1o<> ネロ「でもそれ、なんかちょっと……」
エリー「いや……なの……?」
ネロ「や、その……女の子っぽすぎるっていうか」
エリー「えー……」
ネロ「そ、そんなにしょんぼりしないでよ」
エリー「私、手伝うの、やめよっかな……」
ネロ「もう、わかったよ……着るから」
エリー「ほんと!?」
ネロ「何でそんなに嬉しそうなんだよー」
ネロはそういって私からエプロンを受け取ると、しぶしぶ着てくれたのでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:25:00.93 ID:rkRztRK1o<> ネロ「ほらっ、着たよ!」
エリー「かわいい……///」
普段のネロにはなかなか見られない女の子らしい姿ですが、これはこれでとっても似合っていて、非常にかわいらしいのです。
エリー「すっごく似合ってる。とってもかわいいっ……///」
ネロ「そ、そうかな?」
そう言われてネロもまんざらではないようです。
ネロ「エ、エリーこそ、その、かわいい、よ……///」
実はネロの着ているものと同じデザインで色違いのものを私も自分用に用意していたのです。
エリー「ふふっ、ありがとう、ネロ」
いつもは私が恥ずかしくなるけど、今日は恥ずかしがるネロを前にして、何だか素直にその言葉を受け止められます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:25:49.34 ID:rkRztRK1o<> ネロ「もう! じゃあ、本気でおいしいの、作るんだからな、エリー!」
エリー「本気……」
私はレシピの本をぱらぱらとめくります。
ネロ「で、どれ作るの?」
エリー「フランボワーズのフレジエと、ガトー・バスク、シュー・ア・ラ・クレーム、タルト・タタンにエクレール。あと、ミルフィーユかな」
ネロ「ほんとに本気だ……」
背伸びをして肩越しに私の持った本を覗きこむネロを振り返り、ふたりで顔を見合わせて笑いました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:26:37.04 ID:rkRztRK1o<> シュー・ア・ラ・クレームの仕上げをする私と背中合わせに、ネロはフレジエにクリームを飾り付けています。
エリー「ん、こんな感じかな。ネロ、そっちはどう?」
ネロ「あとちょっとー」
ネロは手を動かしながら、振り向かずに私の声に答えました。
そっと後ろからのぞき込むと、なかなかきれいに飾られています。
ネロ「よしっ、できたー!」
エリー「じゃあ、並べよっか」
ネロ「うん!」
白いテーブルクロスの上に並べられたきれいなお皿。
その上に色とりどりの素敵なお菓子がよりどりみどりです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:27:52.31 ID:rkRztRK1o<> ネロ「わー!さっそく食べよ?」
エリー「ちゃんとみんなにあげる分も残してね?」
ネロ「わかってるってー」
ネロはフレジエにフォークを通し、ひときれ口に運びました。
ネロ「んー! おいしいー!」
とろけるような笑顔で、本当に嬉しそうです。
ネロ「ほら、エリーも!」
促されて、私もフレジエを食べてみます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:28:46.69 ID:rkRztRK1o<> エリー「うん、おいしい……///」
ほどよい甘さのクリームと甘酸っぱいフランボワーズがうまく調和しています。
ネロ「なんていうのかな、あれだよね、上品な甘さ」
エリー「上品……///」
それはとても幸福なとき。
ネロとふたりでおしゃべりしながら、素敵なお菓子を食べて、笑って過ごす時間。
私はこんな時間がずっと続けばいいなと思うのでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:29:53.70 ID:rkRztRK1o<> なんだかやけに真っ白な視界をただぼんやりと眺めていました。
穏やかに風が吹いて髪を揺らします。
そしてその風は確実に次に来る季節の香りを運んでくるのでした。
ネロ「僕……やだよ」
エリー「え……?」
不意にネロの声が聞こえました。
ネロは座った私の膝にまたがり、じっと私を見つめています。
ネロ「僕、エリーと離れるなんて、嫌だ」
ネロは私の両手を取り、その手を堅く握ります。
そしてゆっくり体重を私に傾けました。
ネロの瞳がすぐ目の前に迫ります。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:30:54.78 ID:rkRztRK1o<> いきなりのことでしたが、私にはなぜか、ネロの気持ちが分かる気がしました。
エリー「大丈夫、ずっと一緒だから……」
ネロ「ほんとに?」
エリー「だって私たち今こんなに幸せなんだから。たとえこの先なにがあったって、きっと楽しくやっていける」
ネロ「そう、だよね」
ネロは私に抱きつきます。
ネロ「ねえ、お願い」
エリー「なに?」
ネロ「僕のこと、離さないでね、エリー……」
エリー「うん……///」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:31:25.59 ID:rkRztRK1o<> ネロのその言葉に本当にこわくなったのは、私でした。
ネロにはなにか、確かな予感があって、そこからくるなんらかの思いがそう言わせたのかもしれません。
もしかして、ネロは私たちの別れを直感しているのではないかと……
今のこの幸せが崩れてしまう、そんな怖さをふたり感じながら、それでも離れないように、お互いを、ぎゅっと抱きしめあったのでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:33:10.32 ID:rkRztRK1o<> 晩春の光の鈍いまぶしさに目を開きました。
たしか、ネロとお菓子を食べて、紅茶を飲んで、おなかいっぱいになって……
そして、春のあたたかさの中で眠くなってしまったようです。
気づくとネロは床に膝をつき、椅子に座った私の膝の上に突っ伏していました。
私のスカートに顔をうずめるようにして寝ているネロの頭をなでます。
ネロ「ん……」
エリー「ネロ?」
小さく肩を震わせています。
ネロ「たぶん、同じ夢を見たんだ……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:34:53.34 ID:rkRztRK1o<> 私はネロに覆いかぶさるようにしてやわらかいその髪に額を付けました。
エリー「大丈夫。たとえ季節が変わっても、何年経っても、ずっと、ずっと一緒だから」
私たちはしばらくそのままでいました。
開け放った窓からは初夏の空気をかすかに含んだ風がゆっくり吹きこんでいました。
その後、シャロやコーデリアさん、アンリエット生徒会長、G4のみなさんにもお菓子を持って行ってあげたのですが、みなさん大喜びでした。
どうやらお菓子を前にすると、いつも凛としたアンリエット生徒会長やG4のみなさんでも年相応の女の子になるようです。
お菓子を前にみなさんが笑顔になってくれるのがすごくうれしくて、ネロとふたりで、はしゃいで配りに行きました。
ただ、その間ずっと私たちが手をつないでいたことは内緒です……///
第1話 それはとってもしあわせな おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:38:44.52 ID:rkRztRK1o<> ミルキィホームズのエリーちゃんことエルキュール・バートンちゃんが主役のお話を5つ書きました。
エリーちゃんらしいとってもエロキュートな仕上がりになっていると思います。よかったら楽しんでいってください。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:40:31.54 ID:rkRztRK1o<> 第2話 秘密の園
朝の光が空高く、小鳥の歌と一緒に降り注いでいるのを、私は真っ白な心で眺めていました。
コーデリア「あら。エリー、どうしたの?」
朝のシャワーをすませたコーデリアさんがつややかな髪を白いタオルで拭きながら浴室から出てきました。
エリー「いえ、あの……いいお天気だなあって……///」
私はまださっき浴びたシャワーの水滴が残る自分の髪を指先で弄びながら窓の外の晴れた青空を眺めていました。
それにつられるようにして、コーデリアさんも空を見あげて目を細めました。
コーデリア「ほんと、いいお天気ねぇー」
空からの光が部屋に満ちて、すべてが輝いて見えます。
明るい朝の陽射しはコーデリアさんの髪の水滴に反射してきらきらと輝き、髪のお花も鮮やかです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:41:30.38 ID:rkRztRK1o<> 私はただぼんやりと、その清潔できれいな姿に見とれていました。
だからそのとき、不意にコーデリアさんがこちらに振り返ったとき、私はびっくりしてあわててしまったのでした。
コーデリア「ふたりきりなんて……ひさしぶりね」
エリー「えっ、あっ、はい……/// 確かに、そうですね……///」
コーデリア「……そうだ、エリー。たまには私が髪を梳かしてあげる」
エリー「えっ、あの……その……///」
コーデリア「いいからいいからぁ」
櫛を持って満面の笑みのコーデリアさんを、ただ私は上目遣いで見上げるだけでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:42:27.82 ID:rkRztRK1o<> 私は目を伏せて、静かな朝の部屋にかすかに漂う櫛の音を聞いていました。
コーデリアさんは丁寧に私の髪を梳かしていきます。
私の座っている小さないすの足下には光が揺れていました。
櫛は私の髪に入り、やさしく撫でていきます。
コーデリア「エリーの髪、きれいね」
鈴のように澄んだ声が後ろから聞こえます。
コーデリア「つやがあって、なめらかで……」
エリー「あ、ありがとうございます……///」
コーデリアさんの両手がそっと私の肩に置かれ、耳元でその声がささやかれます。
そのせいで、私はどきどきしてしまって頬が熱くなります。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:44:23.40 ID:rkRztRK1o<> コーデリア「ほんと、私のにしちゃいたいくらい……」
頬を寄せたコーデリアさんの長いブロンドの髪が私の頬に触れ、胸の前に流れました。
私はとてもどきどきしていたけれど、それでも、どうしても指が動いてしまうのです。
エリー「コーデリアさんも、きれいですよ……///」
目の前のコーデリアさんの髪に指を通してやさしく撫でると、
コーデリアさんの香りが私を包み、身体の奥までとろけるようなぬくもりを感じました。
その柔らかな美しい束を指先でつまみ、手のひらで頬にあて、その清らかさを感じました。
コーデリア「エリー……そんなことされたら、私……」
いつもより艶のあるコーデリアさんの声が耳元でささやかれ、私の首筋に冷ややかなコーデリアさんの指先が触れるか触れないかくらいの、その瞬間でした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:45:34.18 ID:rkRztRK1o<> ネロ「じゃっじゃーん!」
両手いっぱいにフルーツを抱えたネロがシャロと一緒に部屋に帰ってきたのです。
すべるようにコーデリアさんの髪が私の手元を離れました。
コーデリア「あら、おかえりなさい、ふたりとも。どうしたの、それ?」
コーデリアさんはまるで何事もなかったかのようにふわりと立ち上がってネロとシャロの方へ向きなおり、笑顔ではなしています。
私は座ったままそんなコーデリアさんの後ろ姿を見上げ、さっきまで触れていたきれいな長い髪にどきどきを感じていたのでした。
シャロ「あれ? エリーさん、顔が赤いですよー。熱でもあるんですかー?」
エリー「えっ、あ、ううん……/// 大丈夫……///」
ネロ「そうそう。それに、顔を赤くしたエリーなんていつだって見られるでしょ」
エリー「もう!/// ネロってば……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:46:56.89 ID:rkRztRK1o<> 私たちのそんなやりとりをコーデリアさんは笑顔で見守っていました。
けれども、ふと私と目が合った瞬間、ウインクをしてその唇に白くて長い指を当てる仕草を私に見せたので、私はいっそうどきどきしてしまうのでした。
ネロ「そんなことよりみんなで食べようよ、これ!」
ネロは色とりどりに輝くみずみずしいフルーツを白いテーブルクロスの上に広げました。
コーデリア「それで、これ、いったいどうしたの?」
シャロ「アンリエットさんがくれましたー!」
エリー「生徒会長が……?」
ネロ「そ。シャロが『あたしぃー、だぁいすきなアンリエットさんといっしょにぃ、おいしいフルーツ食べたいですぅー』って言ったら、
『わ、わかりましたわ……今回だけは特別に……』って鼻息荒くしちゃって。そんで石流さんが『やりたくはないがやる』ってくれたの」
コーデリア「目に浮かぶわぁ……」
シャロ「あたしそんな言い方してませんー!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:48:04.86 ID:rkRztRK1o<> エリー「それで、アンリエットさんは……? 一緒に食べたいって言ったんじゃ……」
ネロ「そのうち来るでしょ? そんなことより、たべよー!」
コーデリア「だめよぉ、ネロ。ちゃんと待たなきゃ」
ネロ「えーいいじゃんかー。ケチケチコーデリアー」
コーデリア「ちょっと、なによそれぇ!」
エリー「あの……けんかはやめてっ……なんつって……///」
シャロ「あたしバナナがいいですー!」
ネロ「あ、僕さくらんぼー」
コーデリア「私はマンゴーがいいわぁ」
エリー「コーデリアさん……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:48:52.67 ID:rkRztRK1o<> ネロ「んー? 『エルキュールはコーデリアのマンゴーが気になるのかい?』」
エリー「ええっ!?///」
コーデリア「あらぁ、ネロぉ、今日はモノマネが冴えてるわねぇ」
シャロ「それともエリーさんはこのバナナが気になるんですか?」
エリー「もう……シャロまで……///」
コーデリア「あら、じゃあネロのチェリーが気になるのかしらぁ?」
エリー「フルーツの選択に悪意を感じます……」
ひとり困る私をみてみんなが楽しそうに笑うので、私もなんだかおかしくなって笑ってしまいます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:50:27.36 ID:rkRztRK1o<> 笑い声はみずみずしい果実の明るい色に溶けていきます。
こんな風に、みんなで笑って、楽しい時間を過ごす。
当たり前のようでいて、こんな空間、こんな時間は他には見つけられないような幸せなんだなってふと思うのです。
でも、そんな幸せの中で、私はもうひとつの感情を感じることがあるのです。
それは、ついさっき、コーデリアさんとふたりで過ごした時間……。
みんなで過ごす楽しい時間とはちがう、何か別の世界。
強く魅惑されるようでいて、しかし少しでもふれてしまえば二度とはもとに戻れなくなるような……。
そんな禁じられた誘惑をあのとき感じたのは確かです。
あふれる光は果実の肌に踊り、あざやかな色彩と果実の芳香が、私たちの笑い声にとけて華やぎます。
今のこの4人で過ごす日々は私にとって離れたくない楽園です。
しかし、そうであっても、何かにいざなわれるように、その楽園の外の世界を私は怖々と見つめているのです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:52:13.36 ID:rkRztRK1o<> そんなことを考えつつ、ふと目を上げると、突然コーデリアさんの吸い込まれるように深く澄んだみどりの瞳が私をとらえました。
それはなぜか心持ち目を伏せた、憂いのある、この場に似合わぬ深刻さをたたえて、私の瞳を抱擁するのです。
それはまるで重大な何かを秘めているようでした。
そして、ふと我に返り、私は目を逸らしました。
それまでどれくらいの間、私たちは見つめあっていたのでしょうか。
コーデリアさんの憂いのある光が揺れる濡れた瞳を私はもう直視できませんでした。
まるですっかりあの瞳のもつ魅力に縛られてしまったようでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:53:37.75 ID:rkRztRK1o<> ネロ「んーっ、このオレンジすっごくおいしい!」
シャロ「わ! ほんとですー」
シャロとネロは食べるのに夢中です。
私は目を伏せてフルーツのみずみずしい肌を指先でなでていました。
するとそのとき、花の香りとともに、ついさっき触れていた美しい髪がそばでふわりと揺れました。
そっとコーデリアさんが私の隣に座ったのです。
コーデリア「あらぁ、このラズベリーおいしそうねぇ」
そういってコーデリアさんはつややかに赤いラズベリーの実をひとつ、つまみあげて私に微笑みます。
エリー「そう、ですね」
コーデリア「食べる? あ、でもひとつしかないわねぇ」
コーデリアさんは頬に手を当てて困ったように言いました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:54:33.58 ID:rkRztRK1o<> しかし、私はそれよりもさっきの瞳の意味を知りたかったのでした。
エリー「あの、コーデリアさん? さっき、なんであんなに悲しそうな目……を……」
それ以上は言葉を継げませんでした。
コーデリアさんの濡れた大きな瞳が、どんな果実よりも美しく魅力的に私を捕らえてしまったのです。
そのとき、私にはすべてが無音でした。
そのみどりの瞳にたつ波だけが私のすべての感覚でした。
コーデリアさんは真剣な表情のまま、感情を抑えた小声でささやきました。
コーデリア「エリー……これ、2人で食べましょ?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:55:59.04 ID:rkRztRK1o<> みどりの澄んだ瞳が近づきます。目の端で赤い果実が揺れました。
エリー「コーデリアさん……」
私が後ろに体を傾けてもなお、瞳はせまります。
金の髪がひとすじ流れ、私の胸の上を撫でていきました。
コーデリアさんの香りが私を抱擁していきます。
エリー「コーデリア、さん……」
うわごとのようなつぶやきとなって息は漏れました。
コーデリアさんの白い指に摘まれた小さな赤い果実が私の唇に押し当てられます。
コーデリア「ねぇエリー、いっしょに食べましょう?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:56:44.97 ID:rkRztRK1o<> なおも瞳は近づき、そして私の唇の上のその果実にコーデリアさんの唇が触れました。
すべてが無音です。
私はこの身のすべてをコーデリアさんに捧げているようでした。
コーデリアさんは果実をかじってその半分を口に入れ、私はその残りを舌で絡めとりました。
ふたりの熱い息が混じる中で、ラズベリーのひんやりとした清冽な甘さが広がります。
私は目を伏せてあの瞳を逃れました。
そして、自分たちのしたことを理解すると、とたんに頬が熱くなり、たまらなくなって私は自分の身体をぎゅっと、抱きしめました。
エリー「恥ずかしい……っ///」
コーデリア「エリー、ほんとに可愛い……」
私に迫ったコーデリアさんは私の額に唇を寄せ、艶のある声でそうささやきました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:57:31.94 ID:rkRztRK1o<> ネロ「あーっ!」
ネロが私たちの方を向いて大きな声を上げました。
すっかりコーデリアさんに夢中でふたりのことを忘れてしまっていました。
今までの行為を全部見られていたとしたら、ネロはどう思うだろうか、私は恥ずかしさと焦りでどうしようもなく慌ててしまいます。
ネロ「なにしてんの!」
コーデリア「あらぁ、見られちゃった?」
ネロ「何で僕のラズベリー食べちゃうんだよ!」
エリー「えっ……?///」
一瞬ネロの言葉の意味が分かりませんでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:58:22.43 ID:rkRztRK1o<> しかし、どうやらネロには先ほどの行為よりもラズベリーの方が大事な問題だったようです。
エリー「えっと、その……///」
ネロ「ずるいよ、ふたりとも!」
シャロ「まあまあネロ、まだまだいっぱいあるじゃないですかー」
ネロ「そういう問題じゃないの!」
コーデリア「仕方ないわね……エリー、逃げるわよぉ」
エリー「えぇっ!?///」
コーデリアさんは立ち上がって私の手を取ると部屋の扉を開け、走り出しました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 20:59:21.13 ID:rkRztRK1o<> ネロ「あっ! こらーっ!」
後ろでネロの叫び声が聞こえました。
コーデリアさんは私の手をしっかり握り、前を走っていきます。
コーデリア「ねえ、エリー?」
エリー「は、はい……///」
コーデリア「このままどこか遠くに行ってしまうのはどうかしら? 二人だけで」
コーデリアさんの美しい髪が目の前で波打ちます。
エリー「コーデリアさんとなら、どこまででも……」
そうして振り向いたコーデリアさんの優しい幸せそうなほほえみに、私はすべてを捧げてしまいたい衝動に駆られるのでした。
第2話 秘密の園 おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:14:52.50 ID:rkRztRK1o<> 第3話 記憶
光は蝶のように舞い、私の頬をかすめました。
風にゆれるやわらかい草のなかの一本の木の下に、白いワンピースを着た少女。
そして、その白く柔らかな大きな帽子についた青いリボンが不安げに風に揺れます。
きれいな細い足を延ばし、ひとり草の上に腰を下ろして本を読んでいる彼女は私よりもだいぶ幼く見えます。
その様子を眺めているうち、私はどうしてだか、かなしくなってきました。
風が吹くとそらいろのリボンはゆれ、初夏の木々の葉からこぼれるみずみずしい光は少女の上でにじんでいきました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:15:29.69 ID:rkRztRK1o<> エリー「夢……?」
五月のまぶしい光が白いカーテンを透かしてベッドに落ちてくる朝、そんな夢を見たのでした。
隣で眠るネロは静かに寝息をたてています。
私はわけもなく、ほんのりとかなしいきもちを感じました。
先ほどの夢のせいかもしれません。
そんなことを考えつつ、ネロの頬をそっと指先で触れると、ネロは小さく声を漏らし、ぼんやりと目を開きました。
ネロ「……エリー?」
エリー「おはよう」
ネロ「おはよ……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:15:57.31 ID:rkRztRK1o<> ネロは薄く目を開きベッドの上を見回しました。
ネロ「あれ、シャロとコーデリアは……?」
エリー「さあ……どこかなあ」
ネロは眠そうな目をこすってから、じっと私をみつめました。
ネロ「ねえ、エリー……どうかした?」
エリー「え……? ううん、なんでもない」
ネロの唇が少し開き、ためらいがちに再び閉じられました。
そして、幸せそうに微笑んだのでした。
ネロ「ふーん……そっ、かぁ……」
ネロはその言葉を言い切らないうちにまた眠りに落ちていきました。
私は目を細め、そっとネロの柔らかな髪に指をすべらせました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:16:53.43 ID:rkRztRK1o<> 野にはちょうどだいだい色のやぶかんぞうの花が咲く季節。
私は本を片手に、読書に向いた場所を探して歩いていました。
そのとき、そんな花の中をシャロが小動物のように、ぴょこぴょこと走っていくのが向こうに見えました。
エリー「シャロ?」
シャロが走っていった方は学院の敷地のはずれのほう。
私はシャロの後を追ってそこまで歩いてきましたが、あまり人通りはなく、私自身来なれないところです。
やっぱり見間違いだったのかな……
そう思って引き返そうとしたとき、いばらの蔦が絡む古い石のアーチがふと目を引いたのです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:17:46.69 ID:rkRztRK1o<> それはロマネスクの石造建築のような重々しさの中に、この場に似合わない異質な雰囲気を漂わせていました。
そっと中をのぞき込むとアーチは意外と長く、遠くに光が見えました。
私はなぜかこのアーチの向こうに不思議な世界が広がっていて、そこにシャロがいるような、そんな気がしたのでした。
もう一度覗きこんで息をのみます。
おそるおそる、薄暗い石のアーチの中に足を進めました。
足音がトンネル状の円筒アーチの中に反響して広がります。
石の床に転がる透明な瓶に、天井から水滴が落ちてはじけました。
アーチを抜け、光の中に立つと、まぶしい空に一匹の蝶が舞いあがりました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:18:54.36 ID:rkRztRK1o<> そこは小さな庭でした。まるでおとぎ話に出てくるような不思議な庭。
芝生には朝日がこぼれ、小さなてっせんの花が咲いています。
そして、広い空が見えます。
風が吹けば、豊かな花々の芳香。短い草が揺れると表面の朝露に陽の光がきらめきます。
細部に彫刻装飾の施された古いけどきれいな白い木のベンチが庭の端に置いてありました。
エリー「素敵……」
静かな夢のような庭園。
私はそれらに余りに夢中になってしまい、シャロを追ってきたことを忘れてしまっていたくらいでした。
ふとそのことを思い出して辺りを見まわしましたが、シャロはいないようでした。
とりあえずベンチに腰を下ろし、膝の上に本を置きます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:20:04.44 ID:rkRztRK1o<> 栗色の布で装丁された古い本。私が子供の頃から繰り返し読んでいるものです。
最近はあまり読むことがなかったのですが、今日はなんだかこの本を読みたい気分だったのです。
シャロ、ここにきたのかな……
野ばらの花に舞う、うすい紫の蝶を眺めながらぼんやりとそう考えます。
そのとき、後ろから声がしました。
シャロ「エリーさんっ」
エリー「ひゃっ……!///」
私は思わず身を縮めました。
そっと後ろを振り返ると、うさぎの耳のような大きなリボン。
シャロが花の中に立って笑っていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:20:51.56 ID:rkRztRK1o<> エリー「シャロ……///」
シャロ「エリーさん、シャロですよー」
エリー「やっぱりここにいたんだ」
シャロ「ここ、素敵なところですよね」
エリー「そうね、ほんとに……」
私たちは夢の世界のような明るい庭を眺めました。
エリー「シャロはなんでここに?」
シャロ「花を、摘みにきたんです」
シャロは手に持った数輪の小さな白い花と一輪の野ばらを私に見せました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:22:02.67 ID:rkRztRK1o<> エリー「きれいね」
シャロ「あ、あと、エリーさんに、これ」
シャロが差し出したのは様々な色の折り紙でした。
その数枚には透かしの模様が入っていました。
エリー「素敵ね。でも、どうして?」
シャロは夢見るような嬉しそうな表情でした。
シャロ「きれいだったから、誰かにあげたくて」
私も微笑みを漏らします。
エリー「そっか。ありがとう」
シャロ「じゃあ、あたし戻りますねー」
シャロは踊るように数歩歩み出ると、振り返りました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:24:26.07 ID:rkRztRK1o<> シャロ「そういえば、エリーさんはなんでここに来たんですかー?」
エリー「シャロを追ってきて……」
シャロ「あたしをですか?」
エリー「うん。でもここ、ちょうど本を読むのによさそうだから私はしばらくここにいるね」
シャロ「わかりましたー」
風がふいて、ばらのにおいを運んできました。
シャロは柔らかく微笑んで、そしてそのままの表情で、しかし、声だけはまじめにこう言ったのでした。
シャロ「エリーさん、……遠くに、行かないでくださいね」
いきなりそう言われたので少し驚き、シャロの顔をじっと見つめました。
でも、なんとなく、シャロの気持ちが分かる気がするのでした。
シャロ「あたし、エリーさんの悩みも苦しみも、わかってあげたいんです」
ゆっくりと蝶が舞いました。
エリー「大丈夫。私、シャロのそばにずっといるから……」
少し間をおいてから、シャロは嬉しそうにうなずき、石のアーチの向こうに駆けて行きました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:28:21.17 ID:rkRztRK1o<> 初夏の朝、花咲く庭で私は膝の上の本を開きます。
これはとても不思議な、ある少女の物語。
好奇心旺盛な彼女は不思議なうさぎを追って、花咲く草原からうさぎの巣穴に落ちてしまうのです。
そして、おとぎ話のような世界でいろいろな動物やものに出会います。
たとえば、森の中で出会った芋虫からもらった、食べると背が伸び縮みするきのことか……
そのとき、石の上を歩く足音がして、私は顔を上げました。
アーチを抜けたところにネロが立っていました。きのこを抱えています。
ネロ「あれ……エリー?」
心なしか愁いを帯びた声。その目に浮かぶ水滴に朝の日差しが光を宿しました。
エリー「泣いてるの……?」
ネロ「えっ……泣いてないよ……」
その言葉に全く説得力はなく、ネロはただ力なくつぶやいただけでした。
私は立ち上がり、そっとネロのそばに立ちます。
顔を伏せたままのネロをそばでそっと見守ります。
ネロ「これ、あげる」
ネロは私にきのこを押しつけました。
エリー「……どうしたの?」
ネロ「いいから」
視線を合わさず、うつむいて立っているその姿はまるで悲しみを一人背負って立っているようでした。
そのとき、私はネロの手に2本の黄色いリボンが握られていることに気がつきました。
エリー「それ、可愛いリボンね……」
ネロの肩が震えました。
ネロ「これは、コーデリアが……っ」
ネロはそれだけ言うと、いきなり私に抱きつき、子供のように泣きはじめました。
エリー「ネロ?」
ネロ「コーデリアが、これっ、結んでくれて……」
エリー「うん……」
ネロは嗚咽混じりに語り始めました。
ネロ「それで……嬉しくって、僕もお返しに……コーデリアに、これ、あげようとしたんだけどっ……」
エリー「きのこ?」
ネロ「うん……でも、きのこ採ってきた僕の手、土だらけだし……それに、きのこなんかもらっても、嬉しくないと思って……」
エリー「……どうして?」
ネロ「だって、コーデリアはリボンくれたのに、きのこなんて、こんなの全然女の子らしくないし……」
エリー「でも、コーデリアさんはきっと喜んでくれると思う……」
ネロ「でも、……でも、僕はもっと女の子らしいプレゼントをあげたかったのに……」
エリー「ネロ……」
ネロは声をかみ殺して涙を流しました。
ネロ「だから……それで……」
エリー「リボンをほどいて飛び出してきちゃった?」
ネロ「うん……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:29:35.08 ID:rkRztRK1o<> ネロは子供のように私の胸にしがみついています。
震える背中を優しくなでます。
エリー「気持ち、わかるよ……」
私はネロの繊細な肩を抱いて髪をなでながらそうつぶやきます。
他人にはほんの些細なことのようだけど、きっとネロにとってはとても大切なこと。
普段はあまり見せないけど、ネロにはそんな繊細な心があります。
そう考えるとネロがとても愛しく思えて、なんとかしてあげたい、と思うのです。
エリー「そうだ、それなら……」
私はさっきの折り紙を数枚取り出しました。
ネロ「これは……?」
エリー「折り紙。これで何か作ってあげたらいいんじゃないかな」
ネロ「何かって?」
エリー「うーん、たとえば……お花、とか?」
ネロ「お花……」
ネロは少し考えるようにつぶやくと、少し表情を明るくしました。
ネロ「いいかも、それ」
笑顔でそういったネロに私は微笑みました。
エリー「でしょ?」
ネロ「うん。ありがと、エリー! 僕、早速作ってみるよ」
大事そうに折り紙を持ち、戻ろうとするネロを私は呼び止めました。
エリー「待ってっ」
ネロ「え?」
エリー「リボン……貸して?」
ネロ「うん……」
ネロから黄色いリボンを受け取ると、ネロの髪にそれを結びます。
ネロ「あっ、ちょっと、エリー!」
エリー「いいから。じっとして?」
ネロ「うー……」
エリー「はい、できた」
リボンを結んだネロはいつもと違って女の子らしく、照れて上目遣いで見上げる姿はとても可愛く見えます。
ネロ「どう? やっぱり似合ってないよね……」
そうつぶやいて少し涙を浮かべました。
エリー「そんなことないよ」
ネロ「……ほんとに?」
エリー「うん。すっごくすっごく可愛い」
ネロ「……あ、ありがと///」
私はそっとネロの目じりに手を伸ばし、指で優しく涙を拭いました。
ネロ「んっ……」
エリー「ね、こんなに可愛いんだから、涙は似合わない」
ネロ「エリーのバカ……///」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:30:07.52 ID:rkRztRK1o<> こんなネロがすごくいじらしくって、すごくいとしいのです。
ネロ「じ、じゃあ、とにかく。これ、ありがとう!」
ネロはそういうと駆け足で戻っていきました。
エリー「がんばってね」
そのつぶやきがネロに届いたかはわかりません。
駆けていくネロの後姿を、アーチの向こうの光に消えて見えなくなるまで見送りました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:31:35.75 ID:rkRztRK1o<> また読書に戻ります。
次に少女が出会うのはトランプの王様たち。
たくさんのトランプが人のように行進しているのです。
そして、少女はいきなり飛び散るトランプに包まれて……
突然、強い風が吹き、私はとっさにめくれるページと髪を手で押さえました。
すると、鳥の羽音のような音とともにたくさんの紙片が舞い降りてきたのでした。
エリー「きゃっ!」
それはまるで物語の少女を包むトランプのようでした。
コーデリア「あら、エリー?」
エリー「こ、コーデリアさん?」
舞い落ちる紙片の向こうに見えたのはコーデリアさんでした。
手には折り紙を持っています。
コーデリア「ごめんなさい、いきなり強い風が吹いたから……」
ふたりで折り紙を広い集めると、一緒にベンチに座りました。
コーデリアさんはうれしそうに庭を眺めていました。
コーデリア「ここ、すてきなお花畑ね」
エリー「ほんと、ですね……」
コーデリア「でも、そのきのこはここには不似合いじゃないかしら?」
コーデリアさんはネロが置いていったきのこを見て言いました。
エリー「あの、これはネロが持ってきて……」
コーデリア「……ネロのことなんだけどね、さっきリボンを結んであげたんだけど、様子が変だったのよねぇ」
コーデリアさんは横目で私をみました。
コーデリア「なにか、わかった?」
エリー「えっ? あの、えっと、気にしてる、みたいです……」
コーデリア「えー? なにを?」
エリー「ネロ、自分には似合わないって思ってるみたいで……」
コーデリアさんは意外そうな表情でしたが、ふと笑みを漏らして言いました。
コーデリア「ふーん、そっかぁー」
エリー「どうか、したんですか?」
コーデリア「あれね、昔ネロがくれたものなのよ」
エリー「えっ、そうなんですか?」
そのとき高くひらめいた蝶を見上げるコーデリアさんの横顔を、私はじっと見つめました。
コーデリア「ええ。そういえばそのときも、『こういうのはコーデリアの方が似合うから』って言ってたわね」
エリー「ネロは、そのこと……」
コーデリア「覚えてないみたいね」
コーデリアさんは、ふふっ、と穏やかに笑いました。
コーデリア「それで、きのこ」
エリー「あげられなかったみたいです」
コーデリア「なるほどね。あの子、普段は見せないけどそういうとこ気にしてるのよねぇ」
エリー「はい……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:32:18.24 ID:rkRztRK1o<> やっぱりコーデリアさんって、ネロのことよくわかってるなあ……
それから、コーデリアさんは私の方に向き直りました。
コーデリア「それに、エリー、あなたもね」
エリー「わ、私ですか……///」
コーデリア「そ。何かあるんなら、ひとりで悩んでないでお姉さんに任せなさいっ!」
自信たっぷりに、冗談めかして、そう言ったのでした。
その優しげな笑顔を見ているとなんだかすべてを見通されているようで、でも全然嫌じゃなくて、むしろ心がやすらぐのでした。
私は目を伏せます。
エリー「大丈夫、です……///」
コーデリア「そう?」
コーデリアさんは私の横顔をじっと見つめました。
コーデリア「そっか。じゃあ、私はそろそろ行くわね」
そういって立ち上がった瞬間の柔らかな髪の流れに朝の光が躍り、この庭のどんな花々よりも美しく輝きました。
そして、コーデリアさんは身を屈め、座った私と同じ高さに視線を持ってくると、耳元の髪を少しかきあげて小声でささやきました。
コーデリア「大丈夫だからね。あまり遅くならないうちに帰ってくるのよ」
エリー「はい……///」
コーデリア「待ってるからね」
私はやはりコーデリアさんにはすべてがわかっているような気がしたのでした。
私の答えにただやさしくほほえみで返し、コーデリアさんは戻っていきました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:33:34.43 ID:rkRztRK1o<> 私はまた本を開きました。
物語も終盤。トランプは空に舞って少女に降りかかります。
そして、それをきっかけに、少女は現実の世界に戻ります。
気がつくと、少女はお姉さんの膝の上で眠っていて、全てが夢なのでした。
不思議な世界をたったひとりで冒険したヒロインも、物語の終わりには、ちゃんと帰る場所があったのです。
物語はこれでおしまいです。
私は子供のころ、このお話が好きでした。
恥ずかしがりやで内向的だった子供の頃の私は、不思議な世界を冒険するこのヒロインにあこがれ、、自分自身を重ねて見ていたのでしょう。
でももうひとつ、本を読むのは好きだけど、ひとりでいるのは、寂しいことです。
だから、ほんとうのことを言うと、この少女のする冒険よりも、帰る場所があること、一緒にいてくれる人がいることが何よりもうらやましかったのです。
それで、寂しいとき、私はいつもこの本を読んでいました。
この本の栗色の装丁には、子供の頃の私の涙の跡が残っています。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:34:18.25 ID:rkRztRK1o<> 風が吹き、光の断片が舞います。
顔を上げると、風にゆれる草のなかの一本の木の下に、白いワンピースを着た少女がいます。
その白く柔らかな大きな帽子についた青いリボンが不安げに風に揺れていました。
彼女は栗色の装丁の本をかかえ、こちらを見ていました。
エリー「あなたは……」
少女「あの、その……大切な人、いますか……? ひとりじゃないですか……?」
少女の瞳に不安げな光が揺れます。
少女「あの……いま、幸せですか……?」
間違いありません、この子は……
舞う花びらのような光がふたりの間に流れます。
エリー「うん、幸せよ。大切な人もいるし、ひとりじゃないし、とってもとっても幸せよ」
そう云いながら、どうしても私は涙がこぼれます。
あの時の寂しい涙じゃなくて、いま、幸せな涙。
そのとき、少女がすこし、嬉しそうに笑ったような気がしたのでした。
視界はにじみ、まぶしい光に何も見えなくなりました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:35:57.40 ID:rkRztRK1o<> そして気がつくと、さっきのベンチに座っていました。
優しい風がほほをなでます。
指先で涙を拭うとなんだかみんなに会いたくなりました。
エリー「シャロ、ネロ、コーデリアさん……」
するといきなり後ろから抱きつかれました。
コーデリア「呼んだ?」
エリー「ひゃっ……!///」
シャロ「なかなか帰ってこないから心配しましたー」
ネロ「そうそう。しっかりしてよね!」
エリー「みんな……///」
そっか、私には帰る場所があるんだ……
そう思うと、また不意に涙があふれてきます。
ネロ「もー泣き虫だなあ。泣かないでよ」
ネロはそう云いながらハンカチで私の涙を拭きます。
エリー「ごめんね……」
コーデリア「ふふっ、さっきまでネロも泣いてたのにね」
ネロ「う、うるさいよ……///」
シャロ「リボンかわいいですよー、ネロー」
ネロ「もう、シャロまでっ……///」
いつもどおりのみんな。でもそんないつもどおりが、一緒にいられることがとっても幸せなのです。
ネロ「コーデリアこそ、いつまでエリーに抱きついてんのさ!」
コーデリア「えー、だってエリーかわいいんだものー! あと、いいにおいするしぃ……」
エリー「あっ……/// ちょっと、コーデリアさん……///」
コーデリアさんはそう云いながら頬ずりします。
シャロ「エリーさん?」
エリー「なに?」
シャロ「エリーさんのおかげでみんな仲よしです。だから、これ」
シャロはそういって、さっき摘んでいた白いてっせんの花を私に差し出しました。
コーデリア「あらぁ、かわいいお花ね」
ネロ「あ、そうだ。コーデリア、ちょっとその折り紙貸してよ」
コーデリア「これ? どうするの?」
ネロは数枚の折り紙を丸めてその中にシャロの摘んできた花をさし、髪のリボンを1本取って結びつけました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:36:51.42 ID:rkRztRK1o<> ネロ「じゃーん」
コーデリア「あら」
シャロ「素敵なブーケですねー!」
それは小さな一輪ざしのブーケ。
つつましいものですが3人の気持ちの詰まった、それはとってもとっても素敵なもの。
ネロ「はい、エリー」
エリー「ありがとう……」
コーデリア「あらあら、エリーはほんとに泣き虫さんね」
シャロ「さあ、帰りましょう、エリーさん」
エリー「うん……///」
帰り際、アーチの手前でもう一度この不思議な庭を振り返りました。
初夏の光が小さな花々にあふれ、若い草木の緑が輝きます。
ねえ、私、いま幸せよ。いまはもうひとりじゃなくて、ほんとに、ほんとにすてきな友達がいるから。
届くかどうかわからないけれど、心の中で確かにそうつぶやく。
ネロ「何してんのー? 置いてくよー?」
エリー「うん! 今行くっ」
そう云ってからもういちど庭を振り返り、小さなブーケを胸に抱いてみんなの所へ駆けて行きました。
大好きなみんなのもとに帰るために。
第3話 記憶 おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:38:50.22 ID:rkRztRK1o<> 第4話 初恋
まだ夕暮れにならない昼下がりには、一日の終わりを前にしたやさしい静けさがあって……。
そんなときのこと。
窓辺で読書をしていた私はいつのまにか、庭で動物と戯れるネロを眺めながら、近ごろ感じるふしぎなこのきもちについて考えていました。
それはまるで、そろそろ梅雨も明けるこの時期の、うっすらとした今日の雲のような、それでいて重さのある、ふしぎなきもち。
わけもなく、ため息がもれるのでした。
私はふと、本をながめます。
エリー「プルミエ・アムール……」
初恋。きっとこんな気持ち……。
私は本を閉じます。
エリー「ねえ、シャロ……///」
シャロ「なんですかー、エリーさん」
ベッドに寝転がっているシャロはかまぼこを抱いたまま無邪気に私を振り返りました。
エリー「あの……恋って、どんなかんじなのかな……///」
シャロ「恋ですか?」
エリー「うん……/// どんな、かんじなのかなあ……」
窓辺の椅子から見える外の庭では、曇り空の下で木々が眠っています。
なにも音はせず、鳥の声だけが遠くに聞こえます。
シャロ「んーと、なんだか奇妙な現象らしいですねー」
エリー「うん……」
シャロ「好きな人のことを考えると、胸がきゅんきゅん勝手にするらしいです!」
エリー「好きな、人……///」
胸がきゅんきゅんするとき。
それはたとえば、ネロと目があったり、言葉を交わしたり、そして時には肌がふれあったり……。
そんなとき、私はふしぎなどきどきを感じることがあるのです。
なぜだかわからないけれど、それは、とってもしあわせで、それでいて、どうしようもなく苦しいような、そんなどきどき。
鳥の声がかすかに空高く聞こえます。
シャロ「エリーさん」
シャロは不意に真面目な目で私を見たのでした。
シャロ「エリーさんは、ネロのこと……」
私は眼を伏せてシャロから視線をはずし、そして眠った灰色の雲を見上げてつぶやきました。
エリー「そうね……」
無音の中で、それでいて確実になにかが終わろうとしている、そんな気がしたのでした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:39:46.72 ID:rkRztRK1o<> かすかな雨がふりはじめました。
梅雨のなごりのような、別れを惜しんで涙をながすような、そんなしずかな雨です。
白糸のような雨をながめつつ、私は本の一節をくちずさみます。
エリー「……イル・プルール・ダン・モン・クール、コーム・イル・プル・スュール・ラ・ヴィル……」
庭にいたネロは何処かへ行ったのでしょう、姿が見えません。
彼女もこの雨を見ているのでしょうか。
部屋の中は私とコーデリアさんのふたりだけ。
雨の音だけが部屋を満たしています。
ふと私は、机に向かって書き物をしているコーデリアさんの背中に声をかけます。
エリー「あの……コーデリアさん」
コーデリア「なぁにー?」
コーデリアさんはゆっくりとふりむき、やわらかくほほえみました。
しなやかにブロンドの髪が流れます。
エリー「恋って……どんなかんじなんでしょう?」
コーデリア「んー……恋、ねえ……」
コーデリアさんは間延びした声でそういうとぼんやり窓の外を眺めました。
霧のような、ささやかな白い雨です。
コーデリア「どきどき、かしら?」
思いついたように私に向きなおってそう言うと、楽しそうに微笑みます。
エリー「どきどき……ですか」
コーデリア「そうよ。どきどき、よ」
ささやくような雨音が聞こえます。
エリー「それって……どんな、どきどきなんですか?」
コーデリア「そうねぇー」
コーデリアさんは幼い子供のような、いたずらっぽい笑顔をみせました。
コーデリア「とってもうれしいどきどきと、どうしようもなく泣きたいような、そんなどきどき」
コーデリアさんが楽しげに言ったので、つい私もつられて微笑みます。
エリー「どっち、ですか」
でも、私はその答えを、なんとなくですが知っている気がしたのでした。
コーデリア「どっちもよ。喜びも悲しみもみんな恋。仕方ないわよ、好きなんだから。でも、好きだからそういうのがみんな幸せなのよ」
エリー「好きだから、幸せ……」
その瞬間、私の胸に総てが、ネロの肌の感触、声のつや、きれいな横顔、手の温もり、やさしい笑顔、総てが蘇るのでした。
そして、いとしさが、その総てを包み込むいとしさが心の奥から熱いほどのあたたかさで湧き出てくるのです。
この泣きそうになるくらいのきもちを確かなものとして、いま私の中に感じました。
そうだ、これがそのきもちなんだ……。
コーデリア「好きなら好きって、言わなくちゃ」
座っている私の足下にほのかな光が射しました。
雨はあがっていたのです。
コーデリア「だって、恋……してるんでしょ?」
エリー「はい!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:41:13.92 ID:rkRztRK1o<> 雨上がりの空は夕暮れの色を淡くにじませ、うすく散らばった雲は濃緑の山々からひとつひとつはなれていきます。
こちらに背を向けたネロは空を見上げていました。
鳥たちと遊んでいるようです。
私はしっとりとしてさわやかな空気の中を、雨露に光る草を踏み、歩きます。
確かに何かを予感しながら。
エリー「ネロ……///」
ネロの手から雲雀が、淡い光の漂う空へ高く舞い上がります。
まるですべてがわかっていたかのように、ネロはふりむきました。
ネロ「エリー」
私はふしぎと落ち着いていて、自然にその言葉を口にしました。
じっとネロの目を見つめて、ずっと胸の中にあったその言葉を。
エリー「ネロ、私、あなたが好き。大好き。ずっと……ずっと前からネロのこと、好きだった……///」
私がその言葉を言いきると、ネロは優しく目を細めました。
ネロ「うん。僕もエリーのこと、好きだよ」
雲間から薄い光が射し、あたりを包みます。ネロは私に両腕を広げました。
ネロ「おいで、エリー」
私はたまらなくなってネロに駆けより、彼女の体に身を寄せました。
ネロは私を抱いて、頭をなでます。
エリー「たぶん……ほんとにずっとずっと前から好きだったんだと思う……」
ネロ「そうだね。僕も、ずっと、前から」
私はネロの身体にそっと腕をまわし、ぴったりと寄り添いました。
エリー「ねえ、ネロ? これが私の、初恋よ……///」
ネロ「エリー……」
ネロはぎゅっと私を抱きしめ、私の髪に顔をうずめました。
すぐ近くにネロの熱い呼吸を感じます。
雲雀のうたう声が空高くかすかにきこえるだけの、なんとなく、でもとっても幸福な、そんな時間でした。
第4話 初恋 おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:42:30.95 ID:rkRztRK1o<> 第5話 祈り
それはいつも通りの、ある三月の朝でした。
コーデリア「た、大変ーっ! 遅刻よ!」
眠気の抜けない春の朝のお布団の中でコーデリアさんの声を聞いていました。
コーデリア「ほらっみんな起きて! 遅刻しちゃうわよぉ」
シャロ「ちこくってなんですかー……」
ネロ「あまいの? おいしいの?」
コーデリア「もう……みんな起きてってばぁ……」
お願いするようなコーデリアさんのその声に、ネロが目をこすってゆっくり起き上がりました。
ネロ「んー……コーデリア、よだれついてるよ」
コーデリア「えっ!?」
シャロ「あたしは好きですよーよだれ」
エリー「わ、私も好きです……コーデリアさんのよだれ……/// あまくて、おいしくて……」
コーデリア「もう、変なこと言わないでよエリー……///
ほら、みんなちゃんと起きてるんなら早く着替えてっ!」
白くて柔らかなベッドの上でみんな着替え始めました。
春といっても三月はまだまだ寒く、肌を空気にさらすと身が縮むようです。
そんな理由から、私は服を脱ぐのを億劫に感じて、脱げかかったパジャマのままでぼんやりとみんなを眺めていました。
ネロは眠いとごねながらしぶしぶ着替えています。
春の朝日が輝くネロの白い素肌、華奢な肩。
その健康的な美しさについぼーっと見とれてしまいました。
そのまま私は半ば無意識に、肌を露出するように、パジャマを脱ぎます。
コーデリア「ほら、エリーも早く着替えてっ」
エリー「ひゃっ……///」
コーデリアさんは私の服を脱がせ、制服を押しつけました。
コーデリア「急いでっ!」
エリー「は、はい……///」
きれいな髪をくくりながらそう言ったコーデリアさんはもうほとんど準備ができていました。
ソックスをはいて、ばってんの髪留めをつけて……
私がそろそろ着替え終わろうとする頃、ふとシャロの方をみると、制服を頭からかぶってもぞもぞしています。
どうやらうまく着られないようです。
私は見かねてシャロの近くによって手伝ってあげることにしました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:43:29.20 ID:rkRztRK1o<> エリー「ほら、シャロ、しっかりっ……///」
シャロ「じゃん! 着られましたー! ありがとうございます、エリーさん!」
エリー「ほら、ちゃんとタイも結んで……」
シャロの首もとに手を回し、タイを結んであげます。
シャロ、いいにおいがする……///
そんなことを考えてひとりどきどきしているとシャロは私の耳元でささやきました。
シャロ「エリーさん、いいにおいがしますね……」
エリー「もう、シャロ……///」
結んだタイを整えます。
シャロ「ありがとうございますー エリーさんはいいお嫁さんになれますねっ!」
エリー「お嫁さん……///」
ネロ「はいはーい、そこいちゃついてないで、行くよー」
コーデリア「百合も素敵だけど、それはまた夜にお姉さんといっしょにしましょうね」
気がつくとネロもコーデリアさんも準備ができていました。
エリー「あ……ごめんなさいっ……!」
シャロ「今行きますー!」
シャロはそういって飛び出そうとしました。
エリー「あ、待って、シャロ!」
私は振り向いて立ち止まったシャロにピンクの傘を渡しました。
エリー「今日は雨が降るらしいから……」
シャロ「ありがとうございますー」
そして私はシャロのリボンが少し曲がっていたのをなおしてあげました。
エリー「うん、かわいい……///」
シャロ「えへへ……」
そんな私たちの様子をネロはあきれたようにみていました。
ネロ「だからさあ……」
エリー「ご、ごめんなさいっ……!」
いつもマイペースなシャロをみていると、つい手伝ってあげたくなってしまうのです。
コーデリア「ふふっ、ほんとにマイペースなんだから、ふたりとも。早くいくわよぉー!」
でも、手伝っているつもりの私もマイペースに見えてしまうようです……
走り出すネロとコーデリアさんの後ろを、シャロと手をつないで走り始めました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:44:07.09 ID:rkRztRK1o<> 午前の授業は春のふわふわした空気で満たされて、時間が止まったように静かです。
窓の外は芽生え始めた草や木に光が揺れています。
天気予報では雨って言ってたけど、全然そんな感じじゃないな……
そんなことをぼんやり思いつつ、ふと横を見るとシャロが真剣な目で私を見つめていました。
私はシャロに尋ねるように小首をかしげます。
するとシャロは慌てたようなそぶりを見せたあと、おずおずと顔をよせ、ささやきました。
シャロ「あのあの、エリーさんの好きなものって何ですかー?」
エリー「好きなもの?」
私の好きなもの……
私がほんとうに好きなのは、友達。
シャロ、ネロ、コーデリアさんが一番大切です。
エリー「好きなのは、シャロかな」
ちょっとからかってみます。でも、嘘はついていません。
シャロ「えっ、あ、ありがとうございます……/// えと、他にはありませんかー?」
エリー「他には……」
遠くを見ながら考えます。
晴れた空には雲が流れています。
ネロは本に隠れてお菓子を食べていて、その隣のコーデリアさんはまじめに授業を受けようとしていますが、半分眠っています。
コーデリアさんの横顔が揺れるたびに髪のお花はふわふわ揺れます。
エリー「お花……かな」
シャロ「お花ですかー」
シャロは満足そうに微笑みました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:44:47.85 ID:rkRztRK1o<> ネロ「くっそーまたじゃがいもだけー?」
ネロは憎らしげに目の前のじゃがいもを見つめていました。
コーデリア「仕方ないじゃない……いつものことよ……」
エリー「授業が終わったら、きのこ探しましょう……」
お昼の食堂は活気のある喧騒に満ちていますが、私たちの前にはじゃがいも、4つ。
それでも、食べられることはありがたいのでみんなでじゃがいもをかじります。
むしろ最近ではじゃがいもひとつでさえ幸せな食事に思えてきます。
コーデリア「あら、どうしたの、シャロ?」
シャロ「えっ?」
エリー「なんだか、元気なさそう……///」
シャロ「いえ、あの、大丈夫ですっ! ちょっと考え事してただけなんでー」
ネロ「考え事ー? その時点でシャロらしくないんだけど。風邪なの? クラリス王女なの? 変なもの食べたの?」
シャロ「ひ、ひどいですー……どいひーですー……」
そしてみんなで顔を見合わせて笑い出しました。
じゃがいも1個の食事でも私たちは結構この生活を楽しんでいるのです。
でも、目が合うとすぐに視線を逸らしてしまうのですが、やはりシャロは何かを考えている風な表情で私を見つめているのでした。
アンリエット「楽しそう、ですわね」
そんな折、アンリエット生徒会長がやってきました。
シャロ「アンリエットさん! どうしたんですかー?」
エリー「わざわざこんなところまで……」
アンリエット生徒会長はなんといっても注目される存在で、ここにやってくると隔離されている私たち4人のところにも自然と食堂にいるみなさんの視線が集まります。
アンリエット「あなたたちにお話があります」
ネロ「話って?」
コーデリア「なんか嫌な予感が……」
アンリエット生徒会長は周囲をすこし気にする素振りを見せてから、言いました。
アンリエット「そうですわね。今お話するのも何ですから、放課後に生徒会長室にきてください。よろしいですか?」
シャロ「はいですー!」
そういうとふわりと向きを変えて戻っていきました。
コーデリア「なにかしら?」
ネロ「さあ?」
エリー「でも、あまりいい予感はしないような……」
ふと窓をみると、空にはだんだん雲が重なっていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:47:08.98 ID:rkRztRK1o<> 午後の授業が始まる頃には雨が降り始めました。
春の雨はささやかに、繊細で静かな雨音を漂わせています。
隣でシャロは外を眺めながら退屈そうに足をぷらぷら動かしています。
私はぼんやりと雨の音を聞きながらシャロの足が揺れるのを眺めていました。
シャロ「あ」
ぴたっ、と足が中空で止まります。
シャロは外を向いたままぴったりと静止しています。
その視線の先にも特に変わった様子はなく、ただ雨がしとしと降っているだけです。
そして、シャロはまた足をぷらぷら動かし始めました。
理由はわかりませんがその様子が楽しそうだったので、私はなんだか満足したような気分でシャロの足を眺めていました。
私は瞼を閉じました。
生徒会長室のドアをおそるおそる開きます。
シャロ「失礼しまーす……」
アンリエット「どうぞ」
生徒会長室は掃除が行き届いていて無駄なものがなく、いつ来ても背筋の伸びる思いがするところです。
いつものように厳しい表情をしたアンリエット生徒会長の前に私たちは横一列に並びました。
コーデリア「それで、お話というのはー……」
アンリエット「最近のあなたたちについてです」
シャロ「最近のあたしたちですかー?」
アンリエット「どうですか。トイズは戻りそうですか?」
エリー「それは、その……まだ……///」
アンリエット「退学の期限が迫っているのに、トイズを取り戻す手がかりをつかめず、のんきに暮らしている。
しかも、しょっちゅう遅刻してくる……本当にダメダメすぎです」
ネロ「きょ、今日は遅刻してないよ! しそうにはなったけど」
シャロ「一生懸命がんばりました!」
コーデリア「そうです! 私たちがんばってるんですっ」
アンリエット「ですが、あなたたち……」
エリー「のんきなように見えるかもしれないですけど、4人一緒だから、頑張れるんです……/// だから、その……」
アンリエット生徒会長はため息をひとつつきました。
アンリエット「……わかりましたわ。あなたたちがよく頑張っていることは」
エリー「あ、ありがとうございます……///」
シャロ「あたしたち、もっともっとがんばります! 立派な探偵になるために!」
アンリエット「ですが、あまりわたくしに心配をかけないようにしてくださいね」
シャロ「はい!」
私たち4人が笑顔で答えると、アンリエット生徒会長も表情を緩めて、包み込むようなほほえみを見せてくれました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:47:48.45 ID:rkRztRK1o<> 雨上がりの帰り道、私たちはそれぞれの傘を片手に並んで歩きます。
シャロ「雨、あがりましたね!」
ネロ「生徒会長にも怒られずに済んだし!」
コーデリア「遅刻もしなかったし!」
エリー「良かった、です……///」
雨上がりの雲は夕焼けの色に映えて、暮れようとする群青の空に浮かびます。
みんなと歩く何となく優しい空気。
きょう一日のいろんなことがきらきら輝いて思い出されます。
シャロ「あ、エリーさん!」
エリー「なに?」
シャロは私を見上げます。
シャロ「エリーさんの好きなお花って何ですか?」
エリー「えっと……」
私は少し考えて、じっとシャロの姿を見つめました。
エリー「なずな、かな」
シャロ「なずな?」
エリー「ちっちゃくて、かわいくて、そばにあるとうれしいような、そんな感じがするから」
シャロ「素敵ですねー」
シャロは楽しそうに言いました。
コーデリア「私が好きなのは百合よ!」
ネロ「それは他意を感じる」
みんなで帰るいつもの道、それでいて大切な時間。
私はこんな時間がずっと続けばいいなと思うのです。
そして、それはきっとみんな同じ。
4人の影は仲良く並んで長く私たちの後ろに延びていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:49:24.40 ID:rkRztRK1o<> 暗い窓に映る私の顔。
すっかり日が暮れると、また雨が降り始めました。
窓ガラスに映る部屋の中を眺めています。
ネロはベッドの上でかまぼこと遊び、コーデリアさんは机に向かっています。
コーデリア「あら、シャロは?」
ネロ「そういえば、いないね」
その夜、シャロは12時を過ぎても帰ってきませんでした。
さすがに心配になった私たちはアンリエット生徒会長に相談に行くことにしたのでした。
夜の学院の廊下は普段見慣れているものとは違った印象です。
エリー「コーデリアさん、大丈夫ですか?」
コーデリア「うん……怖いけど、大丈夫」
ネロ「シャロ、一体何やってんだろ……」
廊下のガラス窓の向こうの闇では雨音が不気味な音を立てていました。
生徒会長室の扉をノックしてそっと開きます。
アンリエット「一体どうしたのですか、こんな時間に」
生徒会長は事務仕事をしていたようで、まだ起きていました。
部屋は明るく、私たちは少しほっとします。
コーデリア「実は、シャロが帰ってこなくて」
アンリエット「シャーロックが? 心当たりはないのですか?」
私たちは顔を見合わせましたが、思いあたることはありません。
アンリエット「それは気がかりですわね。雨もこれから強くなるようですし……」
ネロ「もし、シャロに何かあったら……僕……」
コーデリア「落ち着いて、ネロ」
不安げな表情のネロをコーデリアさんは後ろからそっと支えます。
アンリエット「わかりました。わたくしが何人かを同行して探しに行きます」
ネロ「それなら僕たちも……!」
アンリエット「気持ちはわかりますが、あなたたちは部屋に戻ってください」
ネロ「でも……!」
コーデリア「トイズのない私たちが行っても足手まといになるだけよ。
ここはアンリエット生徒会長にまかせて私たちはおとなしく待ちましょう」
エリー「ね、そうしよう、ネロ?」
ネロ「……わかった」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:50:27.23 ID:rkRztRK1o<> そこは学院内にある教会でした。
ゴシック様式の高い塔と尖頭アーチが暗い空に延びています。
雨の中に黒くそびえたつ姿は怖いというよりも、むしろ守ってくれそうな印象を与えます。
重い扉をそっと開きます。
教会の中は暗く、ほのかな光でようやく近くが見えるほどでした。
私は身廊をまっすぐ歩きます。
石の床を歩く音は反響して広い教会の空間に不安げに漂いました。
そして私はアプシスの前に立ち止まり、もっとも奥にあるステンドグラスを見上げます。
ステンドグラスには神様と聖母と、真っ白な天使が描かれています。
いつもは天から降り注ぐような強い光も、今日は頼りないかすかな光です。
シャロ……
心に浮かぶのはただシャロのことだけ。
いまどこにいるのか、どうしているのか。
思えば、シャロはずっと近くにいました。
朝起きるときも、夜寝るときもずっと一緒。
今朝だって、起きたときには、手が届くところにシャロがいて……
そう考えた瞬間、私は不意にとても怖くなりました。
ついさっきまで、すぐそばに、触れられる距離にいたのに、もういない。
今朝、制服を着るのを手伝ってあげたシャロ。リボンをなおしてあげたシャロ。退屈そうに足を揺り動かしていたシャロ。
そして、うれしそうに笑うシャロ。
そのすべては、当たり前のようでいて、私が心の底から愛していた大切な人。
もしも……もしも、その笑顔が見られなくなったら……
私にとってそれはあまりにも怖く、想像すらできないことでした。
ただ胸に手を当てて、不安な思いを抑えつけるのがやっとです。
どうか無事でいて……
目を閉じ、苦しくて切ない祈りに似たその思いを私は胸の中で一人抱きしめていました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:51:14.14 ID:rkRztRK1o<> それからどのくらいそうしていたでしょうか。
背後から重い音がしてうっすらと光が射し込みました。
開かれた扉のむこうのかすかな光を背にした聖母像のような姿。
私はその黒いシルエットをただ無心に見つめていました。
アンリエット「こんなところにいたのですか……もう夜もかなり遅いのですから、部屋に戻りなさい」
雨は激しさを増しているようで、開いた扉から雨音が流れ込みます。
エリー「シャロは……」
アンリエット「シャーロックは……」
表情は見えません。
アンリエット「ヨコハマ大樹海付近で目撃されたという情報が入りました。何かを探していたようです」
エリー「探して……」
シャロの探していたもの……
アンリエット「とにかく、あなたは部屋に戻りなさい。あとの二人が心配するでしょうから……」
アンリエットさんのその言葉はもう私の耳には入ってきませんでした。
それは……お花。
確証はありませんが、私には間違いなくそうだと思えたのです。
シャロはなずなを探しに行って、道に迷い、遭難した。
私に花を贈るために。
いつの間にか再び闇に閉ざされた教会の冷たい石の床に私はひざをつきました。
もうなにも考えられませんでした。
ただ自分の身体をぎゅっと抱きしめ、目を堅く閉ざします。
それはたとえば、私のせいで行方不明になったとか、そんな問題ではもはやないのです。
私のためを思っていてくれたシャロのそのまっすぐな思いだけが、私の悲しみをただ増幅させるのです。
ステンドグラスに描かれたかみさまと聖母を見つめました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:51:45.28 ID:rkRztRK1o<> エリー「かみさま……どうか、シャロを助けてください。
シャロは本当にまっすぐで、優しくて、いい子です……。
私は、……私は、シャロが大好きです。愛して、います。
だから、シャロがいなくなったら、シャロと会えなくなったら、私自身が消えてなくなるよりもずっとずっとかなしいんです……。
……だから、シャロを守ってください。そのためなら私のすべてを捧げたってかまいません。
たとえこの身が消えてなくなっても、たとえこの心が朽ち果てても、かまいません。
私のすべての存在を、すべての時間を捧げてもいいです。どうか、シャロを守ってください……!
かみさま……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:52:38.68 ID:rkRztRK1o<> これ以上の声は音にならず、息の流れとなって空虚に漏れました。
冷たく堅い床の上で自分の身体を強く抱き、目を堅く閉じます。
私の中の力のすべてを、思いのすべてを祈りに変えて、ただ大切なシャロだけを思い続けていました。
地響きのような雷の音。稲光は一瞬のひらめきで私を照らします。
雨音は激しさを増していきます。
私の大事な愛する人が、どうか、無事でありますように……。
そしてそのとき、悲しみも苦しみも痛みもありませんでした。
それはただひとつの祈りだけでした。
やわらかなまっ白なひかり。
目を開き、見上げると、ステンドグラスの透過光は輝いて私を包んでいました。
まるで私は天使が舞い降りるのを幻視しているようでした。
そして、その天使のような、真っ白な光の中に確かにシャロを見たのです。
エリー「シャロ……!」
声にならない声。
私は両手を伸ばしました。
私がのばした両手の先には、ステンドグラス。
幻覚……?
なにもない中空に触れる指先。
しかし、そこから射す光は確かに暖かく、包み込むような白い光でした。
夜は明けていたのです。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:54:27.63 ID:rkRztRK1o<> 後ろで扉を開く音がしました。
振り返ると、まぶしいほどの白い光が射し、そのなかにふたつの影が見えました。
私はふるえる足で立ち上がり一歩踏み出しました。
エリー「シャロ……?」
目の前の存在が現実なのか、幻覚なのか。私にはわかりません。
ただ、私は長い身廊を、その姿だけを見つめてゆっくりと歩み続けました。光の射す方に向かって。
教会の外、明るい朝の光があふれる野に、アンリエットさんと一緒に、そこにたしかにシャロがいたのです。
エリー「シャロっ……!」
シャロ「エリー、さんっ……」
私はこれ以上なにも言葉がでませんでした。
いままで出なかった涙が急にあふれだして止まりません。
ただ、シャロに歩み寄り、ぎゅっと抱きしめます。
いま確かな現実として、暖かさを持った存在として、シャロを抱きしめます。
シャロも涙を流して私の身体を抱きしめてくれます。
そして私たちは雨のしずくが残るやわらかい草の上にふわりとひざをつけました。
ふたりとも力が抜けてしまい、お互いを抱いて泣くことしかできなかったのです。
エリー「よかった……よかった、シャロ……」
シャロ「エリーさん……ごめんなさいっ、心配……かけて……」
エリー「ううん……戻ってきてくれて、ほんとに、ほんとに嬉しい……」
胸の中に思いつづけていた言葉をやっとの思いで伝えます。
シャロ「エリーさん、これ……」
そういってシャロが差し出したのは……なずな。
天使の翼のように白い可憐な花がその手にあったのです。
シャロ「エリーさんに、ありがとうを伝えたくて……」
その白が涙で滲み、何も見えません。
エリー「ありがとう、シャロ……」
その花を受け取り、シャロをぎゅっと抱きしめました。
シャロ「エリーさん……」
いちばんしあわせなこと。
それはとってもかんたんなことで、だいじな人と一緒にいられること。
いちばんかなしいこと。
それはだいじな人と会えなくなること。
私はシャロをしっかり抱きしめながら、もう二度と、私のだいじな人を離さないと、強く思うのでした。
第5話 祈り おしまい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2011/08/05(金) 21:56:11.48 ID:rkRztRK1o<> 以上です。ありがとうございました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/08/05(金) 21:58:53.90 ID:D5SA3h+Po<> 乙〜
>>1を見て全裸待機した俺は穢れているのかな
この雰囲気良いね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<><>2011/08/05(金) 23:46:06.81 ID:re+FcUVAO<> 乙乙
まえにVIPでスレ立ててた人? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2011/08/06(土) 02:03:53.58 ID:VliDPdWgo<> 乙!!
絵本みたいな雰囲気でとてもよみやすかった! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/06(土) 02:32:57.13 ID:KTpqzMXTo<> 乙
ところで小林先生は? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/07(日) 21:23:02.48 ID:RIID+NAho<> 乙です。
これは素晴らしいエリーSS。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/08/07(日) 22:59:10.83 ID:gQRXA0rAO<> 全体的に温かい雰囲気がとても素敵でした
素晴らしいSSをありがとうございます <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2011/08/08(月) 10:26:20.87 ID:0sLesnaDO<> 素敵だったので晒しageさせていただく <>