VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/08/28(日) 23:46:12.97 ID:x/wBvjtt0<>村長「何を言うか、村の大事な仕事のひとつじゃぞ」

村人「はぁぁ?知らねーよ…薬草なんか俺使ったことねーもん…」

村長「まぁ、薬草は主にワシの腰痛用のものじゃがな」

村人「はぁぁああ尚更めんどくせえ!テメェで採りに行けよ薬草くらいよ!ついでに良いリハビリになるぜ」

村長「っせ、腰いてーんだってんだろ、さっさと採りにいかんか!」

村人「ッ」

村長「舌打ちするでない、…まったく、お、そうじゃ、ならばこうしよう」

村人「?」

村長「無事に薬草をもってこれたらばな、そうじゃな…」


村長「最近隣の村の知り合いからもらった、この琥珀をやろう」

村人「行ってくる、かごをよこせ、早く」<>村人「めんどくせえええええ」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/28(日) 23:48:33.84 ID:x/wBvjtt0<> 村長「ほれほれ、手ぬぐいじゃ手ぬぐい」

村人「っせーわかってる、いや、むしろいらねぇ、必要ない」

村長「何を言うか、山での必需品じゃろが、ほれ持った持った」

村人「あーあーかさばるかさばる」


村長「鎌はもったか?」

村人「薬草ごときに鎌なんざいらねぇ」

村長「魔獣が出るかもしれん、剣をもっていけ!」

村人「もっといらねぇ!どーせいんのはハチか毛玉だけだろ」

村長「……」

村人「…なんだよ」

村長「…村人よ、お前はこの村で随分と成長した…もう酒も飲める歳にもなったの」

村人(また説教か?)

村長「…のう?何が起こるかわからん世の中でな、ワシゃな、それが一番心配でな」

村人「あーあー、はいはい、つまり何が言いたいんだよ、俺もう行くぞ」

村長「…ワシゃな、長年、お前を見てきたワシはな…もうお前を孫だと思うとる」

村長「そりゃもうな、孫だとも、ああ、孫じゃよ、ワシの大切な孫じゃ」

村長「だからの村人、ワシはな…お前に何か、よからぬことがあっては…」


村長「…って」

村長「いねーし」


村長「……ま!あのアホーの心配するだけ無駄な杞憂かの、ほほほ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/28(日) 23:53:08.33 ID:x/wBvjtt0<> 村を歩く。

大きな水辺を近くにもつこの村は春夏は涼しくて良いが、秋からは途端に恨めしいほど寒くなる。

木々が吐き出す湿気も相まって、サンダルで外を数分でも歩こうものならば簡単にしもやけになれる程だ。

何が言いたいかって、まあ、春で良かった。そういうこと。


村人「ったくよぉ、いくら俺が村で一番暇してる男だっつってもよ、そりゃないぜクソジジイ」

村人「…ま、まー琥珀くれるんなら?別に?まーなんつーの?ボランティアっつーか」ブツブツ


??「あ、ちょっと村人ー」

村人「ん?」

村女「ねえね、あいつ見かけなかった?あのガキんちょ」

村人「村女か、お前も暇そうだな」

村女「暇じゃないわよー、今あいつ探してるんだから」

村人「ガキんちょってのはなんだ、子供のことか?またあいつが何かしたのか」

村女「そそそ、子供のやつ、またどっかに行ったみたいで…」

村人「尻拭いお疲れ、じゃ、俺はやることがあるから」キリッ

グイッ

村女「まてい」

村人「うぐあ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:03:00.31 ID:6bhlrIvR0<> 村を歩く。二人で。

ここみたいな辺境の小さな集落だと、ばったり知り合いと出くわしただけでもこうだ。

暇にまかせたこういう奴ほど良くくっついてくる。


村人「俺は薬草採りにいかなきゃならないんだけど」

村女「っさいわね、いいじゃないの、もののついでよ」

村人「もののついでで子供捜しか、あいつはオマケでいいのか」

村女「重要性は似たようなものよ」

村人「まあそうだけどな」ザッ


村人「…で?もう随分と村から離れちまったぞ、いいのか?さすがにこの先は何が出るのかわかんねーぞ」

村女「あいつはよくここまで遊びにくるのよ」

村人「めんどくせえ奴だな…で、こっからどう探す」

村女「ん〜…ここへんは入り組んでるし…どうしようかしら」

村人「さすがに俺も薬草摘みがあるからな、そう長くは付き合ってらんねえぞ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:06:06.43 ID:6bhlrIvR0<> 村人「長くて40分だ、それよりは日が暮れちまう」

村女「別にいいわよ、手伝ってくれるだけでもありがたいし」

村人「おう、まぁそれでも片手間だけどな」

村女「あ…いや、待って」

村人「?」


村女「薬草摘みを2割手伝ったげる、だから探すの1時間でどう?」

村人「もう一声」

村女「…薬草3割!これでどうだ!」

村人「乗った!よし、さっさとあのクソガキを探すぞ!」

村女「ふっきれた時は乗り気が良いわねぇあんた」


そんなこんなで俺らは外れの林道へと踏み入れた。

奥へ行っても何もない林道だが、採れるものは採れることで有名な林道だ。


果たしてこの先にあのガキがいるんだろうか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 00:09:41.17 ID:oTXbB3uCo<> 某所の掲示板で書いてたやつだな
こっちに移ったのか

期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:09:54.32 ID:6bhlrIvR0<> 村人「おーい、どこだ子供〜」

村女「おーい、いたら返事しなさーい」


村女「った」

村人「! どうした」

村女「枝に足ひっかかれたー…」

村人「見せてみろ」


村人「…うん、なんてことないな、だたの擦り傷…ん」

村女「いたたー…まぁ擦り傷くらいなら大丈夫ね、痕残らなきゃいいけど」

村人「…いや、」

村女「?」


ゴソゴソ


村女「! ちょ、ちょっとそれ…さっき採ったばかりの薬草じゃない、別に今ここで使わなくても…」

村人「いや使う」ゴソゴソ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:11:56.86 ID:6bhlrIvR0<> 村人「ひっかけた枝が良くなかった…あの樹木の汁は人体に結構な害を及ぼす」ゴリゴリ

村女「え、そうなの?」

村人「腫れたりはしないが痛みがひどくなるタイプだな」

村女「そ、そうなんだ」

村人「しみるぞ」ピト

村女「あいたあああああ」

村人「いた?子供が?」

村女「ほぉおお……」

村人「なんつー声だ…まぁこれで処置は大丈夫だろうよ、さあ、張りきって探しにいくぜ」ザッザッ


村女「あいたたた…しみる…」

村女「……」

村女「えへへ…」


村人「突っ立ってんなよ、さっさと来い」

村女「わ、わかってるわよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:16:26.95 ID:6bhlrIvR0<> 村女「はぁぁー、ひとやすみー」ポスッ


村女は誰かが随分前に伐採したであろう切り株に腰を降ろした。切り株からやや成長した芽が伸びている。

俺は疲れてないから座らない。


村人「あーいねえ、音沙汰もねえ、なーんも手がかりもねえ…」

村女「ちょっと、この広い山で探すのは無謀だったかもね」

村人「…最初からわかってただろ…」

村女「…まあ、ちょっとは」


子供の体重じゃ目立った足跡も見られないし、何より外れの林道だ。

手入れのない道を適当に歩かれていたりすればそれだけでこっちは追えなくなる。


…まぁとにかく、俺の本分はこっちじゃない。俺の役目は草集めだ。


村人「…薬草は大体…全体の4割、ってところか…?」

村女「思ったよりこの種類少ないわねー」

村人「途中で少し使っちまったからな」

村女「う…ごめん」

村人「別に気にしちゃいねえけどよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:19:35.59 ID:6bhlrIvR0<> 村人「…しかしそろそろ、手分けして探したほうが良い時間かもな」

村女「そうねえ、薬草も、当然子供もね?」

村人「どうする?ここで一旦解散にするか?」

村女「私はなんでもいいわよ」

村人「じゃあ解散、日が輝いたら村の入り口に合流ってことで」


村女「…いいけど、途中で一人だけさっさと帰るなんてしないわよね?」

村人「多分しない」

村女「誓いなさい」

村人「誓います」

村女「よし、じゃあ解散!」


やれやれ、目的が違うのになんでこうも仕切られなきゃいけないんだか。面倒くせえ。

さっさと薬草摘んで帰ってしまおう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:23:24.58 ID:6bhlrIvR0<> 奥へ奥へ足を進める。

枝葉が邪魔になりそうなくらいの茂りが丁度良く下草もあるから、深入りし過ぎは禁物だ。


村人「……」


見回しても特に大きな動体の反応はない。

毛玉の魔獣くらいであれば出てきてもおかしくはない場所だが、まあ静かであればそれに越したことはない。


村人「…子供はどこにもいねえ、薬草も思いのほかねえ、…なんだこれ?だんだんいらついてきた」

村人「あと半分くらいの薬草は摘んでくれるって村女は言ってたが…んー…」


疑問だ。あいつにそこまで薬草を見つけられるだろうか。少し多めに採集しておくべきか…。


村人「ん?」

ゴソッ・・・


村人(…奥の…かなぁーり奥の茂みの向こうで…気配)

村人(子供か?いや…いやいやどうかな、魔獣?かもな…)


村人(あり得なくはない、な) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:27:03.49 ID:6bhlrIvR0<> スッ スッ スッ


村人(…足音を殺して…忍び寄って…)


草を踏まず、土だけを踏む歩き方。長年の山村暮らしが培ってきた、都会暮らしの奴にはできない芸当だ。


村人(へへ、あのジジイよくやってくれた、この剣が役に立ちそうだぜ・・・)


お節介に感謝しなちゃいけないようだ。山を舐めてはいけないってのは良く言うが、やはりその通りだ。


ガサッ


物音。


村人(やっぱり何かいやがるな?それもなかなか大きいサイズ…あの音が子供ってこたぁ、ねえな…なら)

村人(あそこにいるのは魔獣決定!!よし!!)


村人「今日の晩飯はステーキだああああああ!!!」

??「…!!??」


茂みに向かって飛びかかり、翻した件の切っ先をそこへ突き立てる。

腹だろうが足だろうが、当たれば致命傷。そのくらいの思い切りで放つ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:31:17.91 ID:6bhlrIvR0<> ザクッ

――ババッ


土を貫く音と、布か何かが擦れるの音。そして白い残像。


村人(!! 茂みから、ものすごい速さで物影が…!)

??「だ、誰かな!?」

村人(声!、後ろか!)バッ


女「…?…」

村人「……あ」


振り向けば、そこに居たのは人だった。魔族でなければきっと人だろう。

見知らぬ顔だがおそらく人に違いはない。


釣り目はものすごく俺を怪しんでいるような表情で、こちらを見ている。


村人「……」

女「……」


いたたまれない。


村人「なんだ人かよ……チッ」

女「ねえちょっと、君は先に言う事があるんじゃないかなぁっ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 00:34:35.11 ID:6bhlrIvR0<> どこぞに書いたものを書き直すなりしてここに投下する。

そのどこぞにあるものはもう書かないで放置するのでこちらで進める、と。そういうこと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 00:45:31.22 ID:oTXbB3uCo<> こっちのほうが見る人は多いと思うし頑張ってくれ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 01:23:20.79 ID:Ux+UWCzIO<> 期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/08/29(月) 08:32:21.45 ID:6icW7ECG0<> おお、こっちに来てたのか
C <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 19:32:22.62 ID:6bhlrIvR0<> 村人「ごめんなさい」

女「……」

村人「だって普通、この山奥に人なんていないし……」

女「いるときはいるの、あんまり危ないことしないで」

村人「だからごめんなさいと」

女「…反省してるのかな……」


村人「でもなぁ」

女「?」

村人「こんな茂みの中でわざわざ着替えなんてしなくても」

女「う、うるさいわねぇ、しかたないでしょ!上のショウゾクが枝で切れちゃったのよ!」

村人「そんなゆたゆたな格好で山を歩く奴が悪い」

女「いいの、私はこれが好きなの」


ユカタといったか、更に山を登ったところの村では来てる爺さんがいた気がする。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 19:44:00.00 ID:6bhlrIvR0<> 女「…ん?それはなあに?」

村人「え?ああ、これ、薬草だけど」


背負った籠を女の前に出して見せてやる。

独特な形をしているので、ここらの奴でなければ物珍しい野草なのかもしれない。


女「コン…きれい」

村人(俺にはこんなねじ曲がった植物の良さはわからないがなー)


それにしても綺麗とはまた初めてのリアクションだ。


村人「…まあ、次は服を切ったり、斬られたりしないように気をつけな、旅人さん」

女「君も人を斬ったりしないようにね」


村人「じゃ」

女「じゃ」


ザッザッザッ・・・


女(さて、琥珀の村はどこだったかな…もっと上だっけ…?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 19:50:50.01 ID:6bhlrIvR0<>
村人「にしても和服美人か、ここらじゃいないな…」


ここも同じような人種が多いが、あそこまで不便な服を着ようとする奴は多くない。

せいぜいあまり出歩かないジジババくらいなもんだろう。


村人「そもそも黒髪ってなかなかめずらし…ん?」


――ガサガサ


村人(おいおい……勘弁してくれよ、お次はなんだ?)

村人(魔獣か?人か?)


次これに斬りかかってみて人だったら、俺はもう人斬りなんとかって異名がついちまうかも知れん。


村人(なら一度声をかけてみるか?“おーい”って、そうすれば…)

村人(そうすれば……魔獣なら襲いかかってくるな)


……どうしたものか。


――ガサガサ


いっそのこと、向こうで揺れるあの茂みをスルーするっていうて手もアリかもしれない。


村人(いやいやいやいや、もしもあの茂みにクソガキがいたりでもしたらどうするんだ、もうニ度々見つけらんねえかもしれないぞ)

村人(どうする?どうするか・・・?どうすればいい?)


ガサガサと茂みが強く揺れた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 19:58:02.50 ID:6bhlrIvR0<> 村人「(! 茂みから何かが出てくる…!?)」


――ガサッ


魔獣「グルルルルル…」


ずしん、ずしん…


子供「や、離して…!やだぁ…!食べないで…!」


村人(あ、両方っすか…)


パンサーがカモを咥えてやってきやがった。


クマほどもある竜の巨体が小さな子供をその口に加え、のしのしと獣道を歩いている。

淡い水色の体毛、赤い眼、太めに発達した腕。見てすぐにわかった。奴は竜の成長期、まだ多くの餌を求めて地を徘徊する形態だ。

空は飛べないが、それ故に今は地の覇者をやっている。出くわすと厄介な魔獣だ。


村人(まあまあ、なんとも…あのでかい口にくわえられちまって)


可哀そうに、とは上辺で言ってやるが、この時期の山に子供一人で入っては同情もできない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/29(月) 20:02:54.69 ID:6bhlrIvR0<> 獣「クフゥウウゥウウ…」

ズシン ズシン…

子供「や、ゃだぁ…」

ズシン ズシン…


村人(さて、遠目から伺ってはいるが…どうしたもんか)

村人(見たところあのデカい魔獣はリトルかバハかそこら…獲物を見つけては見境無くかっ食らう凶暴な獣だ)

村人(近付けば…っつーか、俺の存在に気付けば、俺も間違なく襲ってくるだろうな…)


村人(子供…お前には悪いが、ちょっとそいつはさすがに無理だわ…諦めてくれ)


村人(……よし!俺は何も見ていない!退散退散!)


カサッ

村人(あ)


獣「! グルゥ」

村人「」

獣「…」ギロッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/08/30(火) 01:15:07.98 ID:+EbGxkYAo<> わりと楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sagee<>2011/08/30(火) 11:02:54.44 ID:Pn2m6BBs0<> しみ
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/08/30(火) 18:45:36.01 ID:tq6ujo460<> 始まったばかりのスレだけど、途中でこういうのが入ると綺麗じゃない。
下部に出るこれが消えるまで、みなみなさまがた話しあいに参加しますよう。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/08/31(水) 01:44:04.24 ID:ebLooEfBo<> ワクテカ


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:21:42.15 ID:WK/wt5Tx0<> 獣「ゥルルル…」

村人「…」


村人(待て落ち着け、焦るな、大丈夫、魔獣と目が合っただけのことだ)

村人(もしかしたらまだ奴は俺に気付いてないかも…)

獣「ゥガァアアアアア!!!」

村人「畜生ッ!ガン見されてンなわけがあるかっ!」


子供「あっ!お兄ちゃん…!」

村人「お前よくもこんな…」

獣「ガァアアァアア!!」

村人「うるせえ!」


観念し腰の剣を抜き放つ。

じいさんが貸してくれた使い古しの長剣だが、くすんだ色の柄は新品よりも手に馴染む。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:26:19.97 ID:WK/wt5Tx0<> 子供「お兄ちゃんっ!助けてっ!!」

村人「ああもううるせえ!わかってる!」


村人(面倒くせえ…ああもうあのクソガキ畜生、面倒な事に巻込みやがって…!)


剣を空で二振り、風を捉えた鋼が小さく響く。

振動が語った剣の性格を瞬時に理解する。これでもう、こいつは己の手足のように扱える。



獣「! …グルルル…!」


幼い竜は俺の剣を見て警戒したか、しかしそれでもゆっくりと近づいてくる。


村人「剣は抜いちまったが、最後に一つだけ話し合いといこうじゃないか…」

獣「…?」

村人「そのションベンくせえガキ置いて、さっさとどこへでも行きやがれ!半竜野郎!」

獣「ゥルォァアアアアア!!!」

村人「オッケー、ステーキだ!!」


人の言葉なんか聞きとれない相手だろうが、それでも馬鹿にされたことは伝わったのだろうか。

竜は鋭い牙を剥き、こちらへ勢いよく飛びかかる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:34:29.03 ID:WK/wt5Tx0<> 獣「グァアアアア!」

子供「わっ」


頭の悪い相手で助かる。

大きく開いた口からは子供が零れ落ち、竜はそれを越えるようにこちらへと跳躍した。



村人「わざわざ人質を解放してくれてありがとうよ」トスッ

獣「がッ…!」


簡単な音と共に、剣は飛びかかって来る敵を貫いた。

幼竜の最もリーチのある打点、最高の武器であろう牙の並ぶ口。


俺の長剣の先は寸分の狂いもなく敵の口内を突いたのだ。



村人「喉元に噛み付こうとでも思ったか?バカが、でけぇ口開けやがって、急所が広がったな」

獣「ギッ…!グェ…!」

村人「ほらよ、痛いかよ、どうだ喉の奥に剣をつき立てられる感覚はよ、ほらほら」グリグリ

獣「ガッ…!? !?」


喉の奥を突いた刃は捩じる毎にその先を柔らかな肉の奥へ奥へと進んでゆく。

さしたる筋肉もなく分厚い骨もない口内は侵す刃に抗うことはできず、飛びかかる勢いで浮いた上半身では地を蹴り後退することもできない。



ドサッ



刃が魔獣の大事な神経の束を切り裂くまで、そう時間はかからなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:41:43.12 ID:WK/wt5Tx0<> 子供「…いたた…」

村人「ようクソガキ、無事か」

子供「う、うん…」


噛まれていたとはいえ、咥えられていただけだ。

牙の痕は残されているが出血するほどの傷ではないようだ。



村人「お前、帰る前に薬草積み手伝えよ」

子供「…うん」

村人「よし」

獣「グガ…ァア…!」


動きを完全に奪ったはずの竜からうめき声が聞こえた。しぶといな。


村人「まだ頭は生きていたか、魔獣ってのは全く大した生命力だな……だがそろそろ終いにしようか」

村人「…“コメット”!」



再び口内に剣を向けて、死の一言を呟く。

人を襲った魔獣の末路などどうでもいいが、せめて痛みを感じないように逝けば良い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:46:46.06 ID:WK/wt5Tx0<> 魔獣を引きずり歩く。

完璧に絶命して抵抗は無いとはいえ、その重さは変わらない。


獣「…」

子供「うぅ…えぐっ…ひっく…」


しばらくは獣と山道が擦れる音と、子供のしゃくり泣く音しか聞こえなかったが、数分もそんな事を繰り返されてはこっちも堪ったもんじゃない。


村人「いつまで泣いてんだ、泣きたいのはこっちだバカ野郎」

子供「うぐっ…だっで…だってさぁ…」

村人「だぁあああ泣くな早く歩け!お前カゴ背負ってるだけだろ!なんだってこのケダモノ引きずってる俺よりおせぇんだよ!」

子供「うっく…ぅう…」

村人「ぁあもうこれだから…」


子供は嫌いなんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/04(日) 21:50:24.10 ID:WK/wt5Tx0<> 村人「…もう森の奥で遊んだりすんじゃねーぞ」

子供「…ぅん」

村人「次こんな事したらお前、村のモモヒシの大木に逆さ吊りにしてやるからな」

子供「ごめんなさい…」

村人「…」


村人「…ま、今日の晩飯は豪華になったのは…お前のせいだが、お前のおかげでもある」

子供「…」

村人「しばらくは捌いた肉で村も楽になるだろう、よくやった、サンキュ」


ぐわしぐわし


子供「痛っ…たい、いたい…」

村人「そんくらいで丁度良い良いんだ」


ガブッと腹から喰い殺されてるよりはマシだろ、とわざと脅すように言ってやって、俺は先を歩く。


子供「…」

子供「…へへ」


あーやだやだ、さっさと帰ろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/09/05(月) 17:11:36.64 ID:uWV8Tn+bo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 21:20:56.95 ID:kCvpyrPN0<> 村長「なんじゃこりゃ」

村人「は」

村長「こりゃただのレイオネ草じゃぞ」

村人「だから薬草だろ」

村長「アホウ!毒消しが腰に効くか!わしが頼んだのはエヅミじゃ!」

村人「知らねえ!」


頼まれたのは腰痛用のものだということを忘れていた、なんて言えない。


子供「…」ジッ


村長「…まぁいい」

蓄えた髭を愛でながら、ボロの木椅子に腰かけ直した。

少なくとも、怒りにまかせて勢いよく立ち上がれる老人には腰痛薬なんざいらないだろうとか思った。


村長「…村としては、彼が無事に帰ってきただけでも充分じゃ」

村人「だな」

村長「アホウ、自分で言うな」

村人「っせ、こっちはそれなりに頑張ってんだよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 21:34:47.76 ID:kCvpyrPN0<> 村長「…全くお前はいつもそうやってひねくれて…」

獣「…」


村長の目が、部屋の端に横たわる幼竜へ移る。

老人の細い目は明らかに面倒臭そうなものを見るようなそれだ。


村長「…で、ありゃあなんだ」

村人「見りゃわかるだろ、肉だよ肉」

村長「ありゃまだ肉じゃない、全く加工されとらん、ただの竜の死体だ」

村人「解体の仕方がよくわかんねーから頼む、久々に肉料理でも食いたくてさ」

村長「え、なんでワシがやんなきゃいけないの」

村人「村の誰も知らなかったんだもん、女に限っては逃げ出す始末だぜ?」

村長「ワシだってそんなん知らんわ、そもそもお前、腰痛めてる老人に頼むことじゃないだろ」

村人「つかえねえなぁ」

村長「つかえねってお前…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 21:42:17.35 ID:kCvpyrPN0<> 村人「…まぁいいや、で?」

村長「ん?…ああ、そうじゃったな」

村人「おいおい都合よくボケてくれるなよ?遣いは果たしたんだ、きっちり貰うぜ」

村長「ふん、ちゃんと覚えとるわい…ワシをそんな薄情者に見るな」


ごそごそとポケットをまさぐる。が、俺に言わせれば“そんな所に入れてるのか!”と叱咤してやりたい動作だった。


村長「…これじゃな?約束のものだ、受け取れ」スッ

村人「! これは…」


しわがれた掌に乗った豆粒ほどのサイズの丸い石。甘い眩しい光を見てすぐに本物であると確信できた。


村長「産出した村でもな、それは滅多に見れないものだそうだ…詳しくは知らんがな、大事にせえよ?」

村人「…鉱物のルリが光ってる。内部でかなり…なるほどこれは人工じゃあない」

村長(やれやれ、また始まりおったわ…) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 21:46:13.08 ID:kCvpyrPN0<> 子供「…おにーちゃん、それなに?」

村人「これか、見てみろ」

子供「…きれい…」

村人「間違いなくコハクだが、ただのコハクじゃない…中の紋様の中にうっすらと茶ヤニのようなものが渦巻いてる」


村長(こやつは何にも興味を示さないが、宝石と天体の話になるとな…)

村人「これは珍しい、いや、市場にもそうそう出回らない逸品だ…サイズも、よくここまでに削り出せたな」


村人「腕のいい奴の仕事だ」

村長(まったく…もう1時間はとまらんかの)

村人「それに中の鉱物も見たことが無い発色をしている…」

子供「へ、へー…すごいんだ…?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 21:55:05.93 ID:kCvpyrPN0<> 夜。

その国の帳は降りた。


皮の靴が石畳を静かに叩く音がほんの近くだけに反響する。

足音だけは立てまいと、着地音に気をつかっているためになお静かだ。

多少の風が起こす水路のさざ波の音も相まって、ほぼ無音に近いのかもしれない。


茶けたローブを羽織る彼女は走っていた。



魔術師「はっ…はっ…!」


その街は、クモの巣のように水路が張り巡らされている、まさに水の都であった。

人の通らない夜のその街には、数多の石橋と石畳を渡る、ニ人の影があった。

二人は急ぎのようであるが、物音は立てずに走っている。


??「はっ…はっ…」タタタ


先頭を走る人影は石畳を忙しく駆けると、その途中で急に方向を転換し、同じく固いレンガ作りの家屋の路地裏へと飛び込んだ。

白いローブの裾は後を続く彼女の目印になったことだろう。



??(こっちだ!来い!)


路地裏に隠れるようにして飛び込んだ人影はわずかに路地に顔をのぞかせ、もうひとりの影を呼び込む。


魔術師(は、はい!)


もう一人の影も吸い込まれるようにして、鼠のように狭いそこへと飛び込んだ。

果物を詰め込むための木箱の山で狭まった路地裏の更に奥へと二人は進む。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/05(月) 22:00:32.46 ID:kCvpyrPN0<> ??「…」

路地裏の奥にいる一人は、はやる心の鼓動を左手でおさえ、空気を欲する腹を理性と恐怖で鎮め、周囲を窺う。


路地裏の真上には満月が輝いていた。実に美しい、白い満月だった。

こんな夜には何かが起こるかもしれない。


わずかな月明かりに照らされて、路地裏に潜む一人の影の姿がうっすらと浮かび上がる。

その影は白いローブを羽織り、暗い中ではわずかであるが、淡い光を帯びていた。


白い影「…よし、ここまでくればなんとかなるだろう」


白い影は安堵の息でさえ殺してはいたが、口元しか窺えないその表情は微笑んでいるように見えた。


魔術師「追っ手は…撒けたのでしょうか」

白い影「…さあ、どうだろうね…いや、ここまでくれば…」


家屋の薄水色の煉瓦壁に背を預ける。

数十分ぶりの新鮮な空気の味を満喫したい気分だったから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/06(火) 11:33:51.62 ID:3FsmwAIjo<> 乙した


ワクテカ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/06(火) 21:35:17.76 ID:5SWnLF7F0<> 白い影「…すまない」

魔術師「…はい?なにがですか?」


暗い路地裏でのふたりの会話は、小声だった。


白い影「あの時…いや、もっと早くに学園を出てさえいれば…」

魔術師「…あなたのせいじゃありませんよ」

白い影「私の決断が早ければこんなことには…」

魔術師「あなたに落ち度はなかった」


歯ぎしりする白の者に対して、彼女は静かに、しかし力強く言って見せる。


白い影「…そうかな」

魔術師「はい♪」

白い影「…ありがとう、レイチェルの優しさには随分助けられるな」


元気を取り戻したように微笑むと、そのお返しとばかりに彼女の頭に手を起き、そっと撫でる。


魔術師「えへへ♪」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/06(火) 21:39:59.61 ID:5SWnLF7F0<> 白い影「…奴もここまでくれば…ここまで逃げさえすれば、大丈夫だろう…さすがに追ってきやしないはずだ」

魔術師「この都は水路の都…川と橋と家が入り組む、迷宮都市ですからね」

白い影「その通り、ここに逃げて良かった…無数にある路地裏を全て探るわけにもいくまい」

魔術師「3時間くらい前の森林での逃走劇よりは安心できますねっ」

白い影「…ああ、そうだな」


白い影「…レイチェル、怪我はないかい?」

魔術師「…え?」

白い影「君さ」

魔術師「え?あ…わ、私ですか?私は大丈夫ですよ、それよりもあなたさまは…」

白い影「無傷さ」

魔術師「…よかった♪ならシャワーも沁みそうにないですね」

白い影「はは」



二人から笑みがこぼれた。

緊張の糸が切れ、思わずふふ、と。

笑みをこぼした。



『はいはァ〜い♪良かった良かった♪』 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/06(火) 21:42:05.21 ID:5SWnLF7F0<> 白い影「!!」

魔術師「!!」


声。笑い声。


それは背後から、それよりももう少し高い位置から。

そう、ちょうど家屋の上あたりから聞こえた。


『いやぁー良かった良かった…ホワッツ、何が?』


目を凝らずとも、屋根の上には月明かりを背に黒い影が仁王立ちしている姿が認められた。


白い影「な…!」

『ミッドナイトチェイスゲームもこれでジ・エンドだなッ!!』



こんな夜には何かが起こるかもしれない。

そう、何か、惨劇か何かが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/06(火) 21:48:05.28 ID:5SWnLF7F0<> 黒い男「ヒャッホォォォォォォウ!!」


家屋の上から、男は跳んだ。

黒いマントを翻し、まるで流星のように、路地裏のそこへと舞い降りた。


魔術師「あっ」


着地点はレイチェルと呼ばれた少女。その腹だ。


――ドゴ


魔術師「ぐっアぁ…!」


男の飛び蹴りが脇腹へと深くめり込んだ。

肋骨が砕かれる音は体内で不吉に響き、まだ若い少女の脳裏には死の一文字だけが過ぎる。


黒い男「さあ、ゴートゥヘル」

白い影「しまっ…!」


白い装束の者には目の前の光景がスローに見えていた。

柔らかいであろう彼女の腹部を貫く、黒マントの男の強烈な蹴り。

声にならないうめき声。


――ズシャッ


白い影「…た…」

白い影(…狙いは私でなく彼女か!くそ!)


蹴られた少女は白いタイルの上をゴミのように転げて路地裏から排出された。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/06(火) 21:53:17.03 ID:5SWnLF7F0<> 黒い男「これだけで終わると思ったか?」

黒い男「終わらせるものか、終わりは…エンドは、お前らのエンドだッ!」


緩慢とした動きで男は少女へ歩みよる。

情けない事に、白い衣の者はあまりにも突然すぎる事態と光景に動けないでいた。


魔術師「く…!早く…詠唱しなきゃ…ゴぼッ…!」


血を含んだ嫌な咳が出た。

折れた肋骨が肺に傷を付けたか。


黒い男「させるかッ!」


詠唱できようができまいが関係ない。男は“何かしようとする相手”を許さなかった。

姿勢を屈め、地を蹴り一気に彼女との距離を詰める。


魔術師「!」

黒い男「イェア!」


黒い風体の男は、とにかく早かった。

彼女に反応する暇などは与えられない。


その嵐のような拳をよける猶予も。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/07(水) 05:07:51.64 ID:6GWbcQNRo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/09/07(水) 21:08:24.28 ID:3vLs++I70<> 魔術師「……」

黒い男「まずは1キル」


実に綺麗な、白い満月。

こんなに綺麗な夜の下で、ひとつの命が欠けてしまった。

彼女の人生は今まさに満ちるところだったのに。


白い影「…な…んで…」


取り残された最後の影は唖然とする。

先程まで照れ臭そうな笑みを浮かべていた彼女が、今はもう指先ひとつも動かしていないなど信じられなかった。


倒れ伏す彼女の傍らで鬼のように立つ黒マントの刺客が次は自分へ向き直ろうと、彼女から目が離せない。


白い影「…レイチェル」


深くかぶったフード越しからでも、その涙の輝きは覗くことができた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/07(水) 21:13:05.24 ID:3vLs++I70<> 黒い男「なんで?今、ホワイと聞いたか?」

黒い男「…ホワイ?それは逆にジェミニが訊き返したいくらいだな?、マジシャン」

白い影「…」


黒い男「ジェミニは!10日だ!10日もお前達を追いかけ続けたッ!」

黒い男「ホワイ!?ジェミニが訊きたいな!」

黒い男「なぜお前達のような子供をキルするだけに、こんなタイムを消費しなければならない!?」


白い影「…なぜ…なんで…」

黒い影「本当ならジェミニの仕事は2日で終わるはずだった…なのに!」

黒い男「ヤブ蚊が刺す程度の術でよくも!このジェミニの手を煩わせてくれたなッ!」


黒い男「さあ今日は何だ!?今日も足掻くか!?どんなマジックを見せてくれる!?」

白い影「…」

黒い男「今日も今日とて目くらましか!?しかしまた昨日のようにうまくいくかな!?」



白い影「…ね」

黒い男「ホワッツ?」


白い影「死ねぇえええ!!!」



振り上げる大きな杖、涙のように溢れ出る魔力。

効率の悪い無詠唱での発動、それに対して発動を悟らせない有利性を打ち消すかのような、殺意の込めた怒号。


しかし発動した術は一般的な理論の道をまかり通らず、反して強大な威力を帯びて浮かび上がった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/07(水) 21:18:46.38 ID:3vLs++I70<> ――ボボボッ


無数の火の玉が白い影の者を囲むように宙に現れ、それは統制のとれた群蜂のように機敏な動きで刺客へと飛び込んだ。

下級術とはいえ詠唱無しの多重発動。回避を許さぬ包囲をかけるような動きで迫る火球を前に、男は動けない。


黒い男「な…! ウワチ!?アッチィッ!?」ボッ


火の玉はもれなく全てが男に命中し、その黒衣を紙くずにように焦がす。


黒い男「あっつ!ヒート!いやホット!ベリーホット!」

白い影「貴様は…貴様だけは絶対に許さない!」

黒い男「あっちぃいいいぃぃぃいい!」


――バシャッ


燃え盛る男は叫んだり転がりしながら、しかし辛うじて脇の水路へと飛び込むことに成功した。

水路の清水が、男の燃える衣服を完全に消火する。


だが鎮火を確認しても、男はすぐには自ら浮かび上がらなかった。


水底で笑みを浮かべているのだ。


黒い男(…ふん、怒れ、もっと怒れ、力の差も忘れるくらいに怒るがいい…)

黒い男(そして戦え!これ以上逃げられても面倒だからな…)


水中で体を冷ますと、男はすぐに肢体を水面へと運んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/07(水) 21:21:28.61 ID:3vLs++I70<> 黒い男「プハッ!!」


水路から勢いよく、男が顔を出した。

赤と青の模様に、笑んだような目と口が切り抜かれた不気味な仮面。

彼は暗殺者。


さあ、今日でもう仕事は終わる。

目の前にいるあの憎きターゲットと戦い、消せば、それで…。


黒い男「…あれ?」


だが水から顔を出した時には既に、白い魔術師の姿は見えなかった。

あれほど戦おうと、怒りに狂い殺気立っていたのに。

まさか全ては演技だったのか?敵のいない今となってはもう、何もわからない。


黒い男「…シット、またしても…逃げられたか!」


路地裏の真上には、満月が輝いていた。実に美しい、白い満月だった。

まるで、涙でもこぼしそうなほど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/09/07(水) 22:26:23.67 ID:NLTjZOC4o<> ジェミニとか懐かしいやつが出てきたな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2011/09/08(木) 09:18:01.88 ID:zFXI6tCuo<> 乙した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)<>sage<>2011/09/08(木) 19:46:03.27 ID:15RwLF9Zo<> おいちょっと待てお前かよ
何年待たせやがったちくしょうめ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 20:29:52.26 ID:Ca1my84n0<> 1、2年くらいなのかな…
忙しくも安定した生活を送ってるから、各々のスレもそうそう絶えることはないはず
ただこれだけはどれほどの長さになるかちょっとまだわからないね
フォション100缶で足りるかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 20:41:07.26 ID:Ca1my84n0<> 依頼の貼りだされた横長の掲示板を左から右へ、小さく横に摺りながら流し見る。

そのたびに青い髪と、それをまとめる赤いリボンが小さく揺れる。

ギルドにはあまり似つかわしくない少女の姿だった。


“暗殺者討伐任務”


少女(……!)


無感情だった目が一瞬わずかであるが期待に見開いたが、


“・・・請負済み”

少女「……」ショボーン


すぐにうなだれた。

いつも以上に賑わう首都のギルド内。

小さな傭兵の少女には、いつもであれば3行ほどの用紙の列を見回せばあるはずの、やりたい仕事が見つけられなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 20:54:20.61 ID:Ca1my84n0<>
少女(…今日はどうしてこんなに、依頼を取られてるのかしら…)

少女(1つくらい仕事がないと、宿代が…)


まだ諦めるわけにはいかない。

掲示板全てを熟読してでも仕事を見つけなければ、近い未来の宿代と食事代が大変なことになるのだ。

どれほど大変かというと、以前やった野林檎摘みのような、低カロリーかつ不味い食事にしかありつけなくなる事態に陥るほど大変なのだ。


続けて掲示板を見やる。


“鉱山にて鉄鉱石採集”

少女(…隣の国じゃない)


少女の未来の空腹は事を急ぐ。


“特産リンゴの収穫手伝い”

少女(…んー…)


少女の空腹はこの程度の低賃金では治まることをことを知らない。


“裏庭の草むしり”

少女(……)


様々な理由で論外。


少女「…今日は駄目みたいね…ここが最後の宛てだったけど」


実はこの最大規模のギルドが最後の頼みだった。

小さいギルドは既にあらかた回ってしまったので、もう行く当てが無い。


行く当てが無いなら仕方ない、明日の事は明日考えようということで、少女は立ち去ることにした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 21:00:07.33 ID:Ca1my84n0<> ??「……ねぇ、ちょっとあなた」

少女「?」


やや不機嫌な面持ちの最中、後ろからの声に顔を向けると、そこには中腰にこちらへ目線を合わせる女が立っていた。

炎のように紅い長髪と紅い瞳。目が痛くなりそうなほど鮮やかな色彩を放つそれらに目を奪われてしまう、そんな美しい女性だ。


紅髪「あ、ごめんなさいね、依頼を決めてた?」

少女「…いえ」


少女「…ないから、帰ろうと」

紅髪「あらあら」

少女「……今日は少ない」ボソッ

紅髪「え?」

少女「……」

紅髪(…聞き取れなかった…なんて言ったんだろ…?)

少女「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 21:12:46.02 ID:Ca1my84n0<> 紅髪「あー、今日はなんというか、依頼が少ないわね?」

少女(さっき私が言った…)

紅髪「いえ、依頼が少ないというより…受理済み、契約済みの依頼が多くて仕事が無い、というところかしら」

少女「…最近はそんなことが多い…どうして」

紅髪「…んー、そうね」


軽くひとつ咳払い。

きちんと少女に向き合い、毅然とした――しかし余裕のある――表情で少女の目を真っ直ぐ射る。


紅髪「最近は特に、大きな事件が多発しているためだと思います」

少女「……大きな事件」

心当たりは大いにある。

紅髪「そう、大きな事件」

少女「…暗殺者」

紅髪「そう、その通り、暗殺者よ…まだ暗殺者の仕業かどうかは確定してないけど、間違いはないでしょうね」


紅髪「どこのギルドでも手に余ってるわ…なにせ暗殺者だもの、生半可な傭兵にそんな大仕事をさせるわけにはいかないしね、依頼数は少ない」

紅髪「かといって傭兵も血気盛んな連中、そんな事件がある最中、それを見過ごして黙っている事なんてできないんでしょう」

紅髪「まるで傭兵達は憂さでも晴らすかのように、次々に討伐任務を請け負っていくわ」


少女「…暗殺者に立ち向かう度胸が、彼らにないだけよ」ボソ

紅髪「え?」

少女「……じゃ、私は帰る」

紅髪「えっ、ちょ、ちょっと」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 23:00:01.15 ID:Ca1my84n0<> 足早に出口を目指して歩く少女の後を紅髪が追う。

ショートパンツから伸びる二本の白く細い脚はか弱そうで、とても傭兵の類に属するものとは思えない。

それ故に大股でも全くふらつかず、確かな足取りで歩行する少女の様は不思議だった。


紅髪「ね、ねえあなた、ちょっとまってくださいってば」

少女「……」


無口な自分を相手によくここまで構うものだ、と少女は脚を止めて顔だけを女性に向けた。

ただしブーツのつま先は出口へ向いており、つまらない世間話ならばすぐに切り捨ててここを去ると物語っている。


少女「…何」

紅髪「やっと止まってくれた…話だけでも聞いてくれると、嬉しいかしら」

少女「話って」


わりと親切に接している大人に対してよくこうも媚びを売らずに無表情のままでいられるものだ。

と、内心紅髪の女性は感心していた。


紅髪(なんだか、扱い辛そうな子ねぇ…) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/08(木) 23:34:55.77 ID:Ca1my84n0<> 少女「…また他のギルドを見て仕事を探さないといけないんだけど」


方便だ。今から見にいっても、依頼掲示板は更新されてはいないだろう。

早く宿へ泊まり、朝市を見て野生の食物も豊富に採れる朝に起きたい、それだけだった。


紅髪「あ、そうなの…ごめんね?引きとめちゃって…でも」

少女「だから帰る」ツカツカツカ

紅髪「あー、待って、待ってってば」


少し回りくどくすればいちいち話を切り上げてしまうのだろうかこの娘は。本当に扱いづらい。

だから女性はもう、前座も建前もなく直入に話す事にした。


紅髪「…あなたに依頼したい仕事があります」

少女「?」

紅髪「いきなりで申し訳ないけどね?でも私のこの依頼はね、どうしてもこうやって、掲示板に張り出すわけにはいかなかったから…」

少女「……詳しく」

紅髪「ん、ありがと…じゃあちょっと、こっちに来て」


やっと話を聞く気になってくれたようだ。

スイッチが入れば、しっかり動いてくれる相手らしい。


少女「どんな仕事?」



紅髪「この世の誰かの人のためになる仕事よ」

少女「そう…良い事ね、それなら問題ないわ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/09(金) 05:39:47.59 ID:qIDoYaU1o<> 乙した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/09/09(金) 20:51:52.49 ID:M7t4TzP80<> 木の香る廊下を歩く。分厚い壁で隔たれるそれぞれの部屋は、任務内容の機密を守るためのものであり、それ故にドア同士の間隔も非常に狭い。

人数確認に粗相が起らぬよう、大きな会議室の入り口もたった1つのために、ギルドの廊下は無駄に長く見えた。

少しでも景観を楽しませようと定間隔で壁にかけられた紅草のプランターが、十五歩ごとに目線の暇を慰めてくれる。


紅髪「もう少しで個室だから、そこまでは仕事の内容については我慢してね?」

少女「…あなたは依頼人?」

紅髪「え?あ、…うーん、ま、代理みたいなものね、ギルドの人間だから」

少女「そう」


先頭を歩く彼女の紅い髪をぼんやりと眺めて、意外にも少女から会話を繋げた。


少女「何故私を誘ったの?」

紅髪「ん、そうね」

考える素振りを見せるが、わずかに微笑む口元は既に言葉を持ち合わせているようだ。


紅髪「なんとなくだけどね、目が、そう…慣れていたからかしら」

少女「目」

紅髪「そう、目よ、人は目を見ればわかるもの」


踵を回して紅髪の女性が少女に向き合う。コウキの赤と無感情の紺が交わる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/09(金) 21:44:58.23 ID:M7t4TzP80<>
紅髪「……」

少女(……目がすごく紅い)


長いまつ毛に縁取られた凛とした目線が瞬きもせずに少女に注がれる。

見るものを焼いて貫くような彼女の魅力的な視線は、しかし深海のように深い濃紺の虹彩に阻まれ、その先に宿る感情や思考を読むことはできなかった。

情熱的なまなざしに、拒みも逃げも許容も悟らせない目を返す。その事実だけが少女を物語った。


紅髪「…そう、目をみればね」

全てを知ったか、のように満足そうに微笑んでみせる。

少女(…私にはあまりよくわからないな)

深く考えない少女には理解不能だった。


適当に“眼が潜在的に持つその者の要素”だとかそんなことを考えている間に、先を歩く女性は止まった。


紅髪「…着いたわ、この部屋よ」

少女「入っても?」

紅髪「ええ、もちろん、どうぞ中へ」


エスコートには眼を向けずに、歓迎された会議室へ足を踏み入れる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/10(土) 02:00:24.98 ID:d3OSy2bEo<> ワクテカ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/09/12(月) 20:16:48.98 ID:WpMG6Z0e0<> 扉の向こう側はいつも通りの窓の無い会議室だ。

部屋に目線を向けるものがないためか、既に中で待機していた傭兵達は開いた扉へ眼を向ける。


少女「…」


普通の子供であればただならぬ雰囲気に逃げ出す所だが、少女は冷静に中を見回していた。

紅髪の女性も部屋に入り、扉を閉めると姿勢を正して一礼した。


紅髪「みなさん、大変お待たせしました…人数が揃いましたので、始めたいと思います」

少女(5、6、…9人か)

少女(私を入れて10人…結構多い)

少女(…こんな大人数で何をするのかしら)

紅髪「あ、どうぞあちらに腰掛けて」

少女「…ええ」


向けられた笑顔に頷いて、指示された椅子に腰を降ろす。

辺りでちらちらと少女を窺う傭兵もいたが気にはかけない。



紅髪「…えー、そうですね、このメンバーの招集は私から直々のものとなっていますが……名義は私ですが、依頼人は別にいます」

「代理ってことか?その依頼人ってのは?」

紅髪「あ、すみませんね、秘密なんです」


有無を言わさない笑顔を投げかけると、話の切り口は見せずに続きを述べる。


紅髪「ご安心を…ここは傭兵斡旋所の中でも世界で最も大きなギルドですから、信用を損なうようなことは一切ありません」

少女「……」

紅髪「では、まずみなさんにやっていただく仕事について、お話しましょうか」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/13(火) 20:23:34.89 ID:W9OYbMos0<> 「ちょっとその前に大前提の質問いいっすか」

紅髪「はい、どうぞ?」


「…危険な仕事ならあまり、したくないんだけど」

紅髪「ああ、その点なら問題はないかと…“あなた方”が“普段やっているような”事よりもはるかに危険性は低いものです」

「日数は?7日以上の仕事は辛いし…故郷の事情もあるので、お断りですけど」

紅髪「ご安心を、この依頼の仕事は3日で終了します…長引いても4日前後でいけます」

「報酬は?金がねえと酒がのめねえ!!」

紅髪「ペルソナを3口いただけるくらいかしら?」

「…ほぉ」


矢継ぎ早の質問を軽く捌ききると、小さな咳払いで締め切った。


紅髪「…話を進めてもいいですか?」

少女「ええ」

紅髪「ありがとう」


余談だが、無駄に口を挟まない少女の姿勢は今に限らず、他のギルド員にも「話が早い」と好評である。


紅髪「あなた達、…そう、普段討伐任務に従事してもらっているあなた方には…」

少女(なるほど、討伐専門に動く傭兵を集めたの)

紅髪「ちょっとした“荷運び”をしていただきたく思っています」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/14(水) 20:28:04.34 ID:mA+Gemau0<> 「荷運び、運搬か」

「どこまでだ?」

「危険なブツじゃねえだろうな」


緊張した空気が少しだけ緩む。

討伐者を結集させた割には随分と温厚な任務だと、気持ちが弛緩したのだ。

気持ちの隙を許さない少女にとっても、少々呆気に取られる程に。


紅髪「大丈夫大丈夫、ほんの近場までよ、国内での運搬です…といっても、結構歩くけどね」

少女「…歩く?」

紅髪「…ええ、徒歩でこの仕事はやっていただきます」

少女「どこまで」

紅髪「別れ街まで」

少女「…別れ街…」


しばし沈黙が流れる。別れ街と称される辺境の土地について、それぞれ考えているのだ。

別れ街とはどこなのか考える者5割、そこがどこにあるのか思い出そうとする者4割、なぜあんな所に届けるのかと考え込む者1割といった具合だ。


少女(…確かにギリギリ国内か…だけどそこまでいくには少し長い…)


確か世界最大の山、仙人の山と称される麓にある小さな町であったか。

街道の果てとも言われる、まさに人間の生活圏の外れ、山への別れ際。別れ街である。


少女(…そうね、確かに3日前後ね) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/14(水) 20:58:59.62 ID:mA+Gemau0<> 紅髪「この時点で降りたいという方は?」


ある程度の説明を聞かされた傭兵達は黙って女性の眼を見ている。

異論はなく質問もない。暗黙の了解だった。


紅髪「ふふふ、ありがとう」

紅髪「…ただ申し訳ないけどすぐにでも出発してもらうから…そうね、だいたい2時間後にはすぐに」

「二時間後?急かしますね」

紅髪「なにせ極秘に近い任務なので…依頼人さんからは馬車を使わないように、依頼も公開しないように…ってね」

少女「…その場で集めて、すぐに動かす」

紅髪「そういうことです」


時々、大金を使ってでもわざわざ面倒な形で依頼を出す者は現れる。

物を運ぶにしても、決して明るみに出してはならない事があるのだろう。

少女もそれはわかっていたし、深く考えることもなかった。


紅髪「…さあ、問題が無ければみなさんには出発していただきますよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/14(水) 21:09:19.95 ID:mA+Gemau0<>
少女「…」


人々の往来が激しいロビーで、少女は馬車が出発する時間を待っていた。

既に任務に備えて装備の修理点検は済ませていたし、ある程度の腹ごなしも終えている。

他のメンバーは慌ただしく準備している頃だろうが、彼女は一人ベンチに腰掛けて観葉植物の葉脈を数えるほど暇なのだった。


紅髪「ねえねえ、リンゴジュースよ、飲む?」

少女「…いえ」


また後ろから声をかけられた。

女性は片手のコップをこちらへ差し出したが、少女は掌で遠慮を示す。


紅髪「そう?さっき到着したばかりの絞りたてなのに…」


女性は突き返されたジュースを一気に煽り、先程のブリーフィングによる口の渇きを癒した。

壁に背を預け、ギルド内の賑やかな往来へ無意味な視線を送っている。


紅髪「…さっきはありがとうね」

少女「?」

紅髪「私の依頼、請けてくれて」

少女「…丁度暇だったから」

紅髪「ふふ、助かったわ、本当よ?」

少女「お礼はいいわ」


紅い目を見やる。


少女「ギルドの長から頼まれた仕事なら、断れないもの」

紅髪「…あら、わかってた」


“ばれちゃったか”とでも言いたげに女性は微笑んだ。

少女は微笑まない。


少女「目を見てわかった」

紅髪「…ふふっ、面白い子ね」

少女「…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/14(水) 21:34:24.61 ID:mA+Gemau0<> 年の離れた美女二人が見つめ合う光景は人種によっては垂涎ものであろうが、生憎紅髪の女性にとっては真剣な眼と眼の語りあいなのだ。


紅髪「…なるほどね、確かに私の眼にも狂いはなかったわ」

少女「何が」

紅髪「審美眼とでも言うのかしら、あなたを選んだこの目がよ」

少女「…」


少女は内心で“随分な自愛だ”と思ったが口には出さなかった。


紅髪「…あの中で一番有能なのは、きっとあなたでしょうね」

少女「そう」

紅髪「なんとなくだけどね?わかるわ、そんな感じがする」

少女「それも目を見て?」

紅髪「…ふふ、そうかも」

少女「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/15(木) 20:14:56.24 ID:IIxpxRPH0<> 時計の針が約束の時間を指した。

同時に少女は立ち上がり、尻を払う。


少女「…じゃあ、出発の時間だから」

紅髪「ええ、がんばってね」

少女「…」


ギルドの入り口が少女を歓迎するように陽光を差している。

眩しい昼の明りを見るに、外は朗らかな陽気に包まれているらしい。


少女「…本当に」

紅髪「…?」

少女「何もない?」

紅髪「…」


女性は含み笑いだけで留めた。

必ずしも、後ろ暗い気持ちが全てであるわけではない。

ただ彼女自身にも、託した任務がどういった意味を持つのかは、いざその場に飛びこんでみなければわからないものなのである。


だから何も言う事はできなかった。


少女「…そう」


ところが。


少女「…いいわ、別に」


沈黙は時に、何よりも明確な答えとして働くことがある。


少女「その方が、暇をしなくて良さそうだもの」


答えを聞いて、少女は微笑んだ。女性に向けた微かな笑み。だが彼女が初めて見せる笑みだ。


紅髪「…!…ふふ」


もはやかける言葉は無い。一度動き出した彼女は止まることはないし、止める必要もない。


紅髪(…期待してる、本当よ?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2011/09/16(金) 02:52:32.44 ID:JrpLEGvbo<> 乙した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2011/09/16(金) 20:54:28.78 ID:Le44HvfV0<> 黒い大理石と灰色の大理石が床を覆っている。

重厚に切り出された大理石は踏めば重々しい感触を足へ伝えるが、椅子に深く腰を降ろした男には関係の無いことだ。

全身を黒い布で覆った椅子の主は、わずかに覗く眼光だけを紅く光らせて、目の前の者を睨む。

所々のマントが焼け焦げている無様な暗殺者だった。


??「…失敗か」

暗殺者「ベリーソーリー、だがワンキルはした」

??「それが貴様の本命のターゲットか」

暗殺者「ノー」

??「それでは全く意味がない」


語調は静かであれど、部屋には重く響く。


??「暗殺ができなければ、貴様はただの使えない男だ」

暗殺者「……」

??「私は何の為にお前に依頼を出した?お前に、あてずっぽうに人を殺させるために私はお前を雇ったのか?」

暗殺者「クライアントは“魔道士を殺せと言ったぞ”」

??「そうだ」

暗殺者「キルしたその一人も魔道士だった」


??「…ほう?どのような奴だ」

暗殺者「フゥム…そうだな、ターゲットとは仲の良さそうな感じだったなぁ」

??「…ほほう、それは良い…ククク」

暗殺者「楽しそうにトークしてたが、ジェミニは合間に入るようにその女をキルしてしまった、ハッハッハ」

??「貴様は笑うな」

暗殺者「オーケイ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2011/09/19(月) 02:09:32.14 ID:dDSAacgk0<> ??「…ふん、そうか…その魔道士はまだ生きているか…しぶとい奴だな」

暗殺者「ザッツライト、そうだ、本当にしぶといんだ」


暗殺者「ジェミニにも少しは、チャイルドだからという面で油断してしまった面があるかもしれない」

暗殺者「だけど今回のターゲットの粘り強さといったら異常だ、まるでカエルの舌だ」

??「…」

暗殺者「クライアント、クライアントは少し、ジェミニに厄介すぎる仕事を回してしまったのかもしれないぞ」

??「…お前の手に余るほど、か?」

暗殺者「かもしれないな、ジェミニにだって相性はある」

??「…ほう」


暗殺者「…できれば、そうだな…もう少し“手段”に融通のきく暗殺者に依頼するべきだな」

暗殺者「ジェミニはあまり頭が良くないからな、次もまたエスケイプされてしまうかもしれない」

??「…ふむ」


暗殺者「どうせジェミニの他にもアサシンは沢山雇っているんだろう?もっと良い術を使える者がいるはずだ」

??「詮索は無用だ」

暗殺者「オゥ、ソーリー…しかし事実だ、そいつらに頼んでくれ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/21(水) 21:49:42.24 ID:he1mH1lh0<> 暗殺者「そして失敗しておいてなんだが、ジェミニには別の仕事を回してほしいんだ」

??「…別の、か」

暗殺者「イエス、もっと単純に多く殺すとかそういうイージーなのを」

??「数を殺すのが楽か、逆ではないのか?」

暗殺者「ジェミニの場合はちょっと違うんだなこれが」


??「…いいだろう、お前には別の仕事をくれてやる」

暗殺者「サンキュー!」

??「お前は表に出る事が半分仕事のようなものだ…が、ただし、今回の失敗は許さん」

暗殺者「オーケー、オーライ、任せろ…ジェミニは失敗しないし、失敗するつもりもない」


暗殺者「で、内容は」

??「ふむ、そうだな」


男が一枚の写真を差し出した。


??「…“この”、少しばかり厄介そうな魔道士を消してこい」

暗殺者「…フムフム…オーケー、アンダスタン」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2011/09/23(金) 00:02:47.05 ID:KGjiVThn0<> 灯りに透かせば輝く黄金色。

浮かぶ紋様。

昨日の晩はずっと眺めていたが、朝起きてみれば感動は再び溢れかえる。

一週間はこの石を眺めるだけでも過ごせそうだ。


村人「…形は良い…艶も良い…」

村人「何よりもこの色だな、この神秘的な着色は普通のコハクでは出ない…」


すっかり琥珀に魅了されている時に限って、無粋な奴は扉を開けて入って来る。


村女「おじゃましまーす…あら、いたんだ」

村人「人の家の扉くらいノックしろ」

村女「ならカギくらい掛ければ良いじゃない…おじゃまするわね」


鍵がかかってなければ入って来るのかこの女は。


村女「…なんだ、まだそれ見てたの」

村人「つまらなそうに言うな、こりゃ相当に上等な代物だ」

村女「ふーん・・・ま、少しは綺麗だけどね」

村人「やらねーぞ」

村女「いらないわよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/03(木) 22:01:39.75 ID:hRuiTBC+o<> まだかね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)<>saga<>2011/11/19(土) 22:33:03.61 ID:BqbEFFVf0<> 村人「…で?」

村女「んー?」


とぼけた顔をしやがるよ。


村人「何か用があって来たんだろ?まさかルーペを持って宝石を眺めてるだけの男を観察しに来たわけじゃないだろ」

村女「…本当にそうだとしたらどうする?」

村人「いいから本題」

村女「はいはい…」


無駄な引きの多い奴だ。

しかし、本題に入った後は割ときっぱりした態度になるので、その点おおざっぱな俺とは相性が良いのかもしれない。


村女「最近、下へ向かう途中の道でね、蜂が多いのよ」

村人「へぇ、蜂ねぇ」

村女「村長さんが言うには、どうもそれは“コロニー”があることが原因みたい」

村人「ほぉ、コロニーねぇ」

村女「それでね、」

村人「その蜂の巣をぶっ潰してこいと」

村女「そ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(東京都)<>sage<>2011/11/26(土) 17:00:18.88 ID:uh5dlXlVo<> 来ないのぅ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/15(木) 10:13:36.73 ID:oLce0KXUo<> 一ヶ月経つよ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/18(日) 01:44:14.44 ID:FrZdN0XAO<> あばばば まずいまずい、忘れがちだこのスレ

書かなきゃ <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>saga<>2011/12/19(月) 20:46:53.53 ID:xT2ND3qj0<> 琥珀を置いて向き直る。

面倒でも、話し半分には聞けない、正面から向かい合わないといけない時ってのがあるのだ。


村人「…なんだそりゃ、俺は傭兵か何かか?なんでも屋か?」

村女「仕方ないでしょ、男手が少ないんだから」

村人「男なら沢山いんだろ、酒場に行って来い、そこの玄関で倒れてるヒゲヅラを引っ張り出せ」

村女「あいつらは剣もなにも知らないでしょー、この村では唯一あんただけなの」

村人「何が」


村女「剣と“魔術”を使える人間」


きっぱりと言い放った。

なるほど決定力しかない言葉だ。反論の余地がない。


村人「独学だ、学校で教わるような規則あるもんじゃねえ、詳しく調べてみりゃ、きっとあれは付け焼刃に近い」

村女「それでも魔獣に対抗するにはね、そういうのが必要なの」

村人「魔術が?」

村女「そ」


村人「…魔術なら、俺よりもっと優秀な奴がいるだろ(ボソッ」


つい口からこぼれ出た。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>saga<>2011/12/20(火) 22:32:44.43 ID:iJTS/PE80<> 村女「あ…」

村人「!」


ほれみろ、“やってしまった”というような顔をされてしまった。

こいつはきっと俺の事を“まだ気にしているのか”とでも思って呆れているに違いない。


村人「チッ…わかったよ、行ってくれば良いんだろ」

村女「…ええ、詳しい話は村長さんから聞けると思うわ」


話題を切り換えようと面倒事に首を突っ込んだ。それでも気まずさは拭い切れない。


村女「ご褒美もちゃんとくれるみたいだから、そこらへんもね?」

村人「…ああ」


わざわざ茶化すような言葉まで挟む。相手の方が気を使っているというのが馬鹿らしい。


俺はこの場の空気に耐えきれず、他人を家に置いたまま出てしまった。


バタン


村女(…あの人が村を出て、もう7年か) <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/21(水) 16:26:01.41 ID:pRn0KuzIO<> 乙
いったい幾つ掛け持ちしてはるんすかー <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>saga<>2011/12/21(水) 23:05:59.27 ID:cSVncdU50<> 珍しい風鳥がつがいでアクロバット飛行を楽しむ田舎村特有の山景色をぼんやり眺めながら歩いていると、芋畑で土をいじっているガタイの良い青年が声をかけてきた。


「おお、村人じゃねえか!久しぶりだな」

村人「あー、久しぶり」


家を出ないから久しぶり。こんな小さな村じゃ、このセリフもなかなか使えるものではない。


「なんだなんだ、面倒くさい友人に出会っちまった時みたいな顔しやがって」

村人「そうだな、その通りだな」

「おいおい……」

村人「冗談冗談……落ち込むなよ」


挨拶代わりに芋をひとつ投げわたしてきたが、道端で食うほど腹が減っているわけでもなかったので、そのまま剣の柄で弾き返してやった。

そんなノリの悪い無作法も慣れているのか特に気にせず、こいつは農作業そっちのけに俺の隣について歩き始めるのだった。


「……で、普段は家で読書しかしていないお前が、なんだって剣を携えて村を歩いているんだ?」

村人「ああ、ちとな、面倒事を根本から叩っ斬ってこようかなと、な」

「おいおい…誰だよ、その面倒事の根本って……まさか俺じゃ」

村人「馬鹿言うな人じゃねえよ、ちょっと面倒なくらいで人なんか殺すか」 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>saga<>2011/12/26(月) 21:45:32.03 ID:YIW/vNML0<> 村人「えーっとな、あれだ、蜂だよ」

「蜂?…ああ、翅に目玉がくっついてるあの蜂か?」


露骨に嫌そうな顔を見せる。

蛇程度なら男衆は嫌な顔も見せないが、あの蜂だけは別格に嫌悪の対象のようだ。


村人「そうだ、そいつの駆除を頼まれた」

「へぇ…そいつはご苦労だな…あんな生き物を…」


確かに翅に目玉が付いてる盲目の蜂ってのは魔獣として見ても珍しかろうが、俺としては虫は虫なので、特別な嫌悪感は無い。


村人「お前も来いよ、二人でやれば労力も半分だ」

「ばっ…嫌だ嫌だ、あの蜂こえーんだもん」

村人「女かよ」

「だってお前…あんなの蜂じゃねえだろ…」


相手が本気で嫌だとわかっていながらも誘う。

これ以上はジジイに怒られた時のことを思い出すのでやめておくけど。


そんなこんなで、のどかな村を闊歩していく。 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>saga<>2011/12/27(火) 23:21:15.64 ID:oNDpeP/e0<> 村人「あー、なんだ、暑いな」

「まだ春だぜ?陽は照ってるけどな」

村人「こんな日に狩りなんてな…ああ面倒くせえ面倒くせえ」

「そう言いつつ、頼まれるとどうしてもあと一歩で断りきれないお前が大好きだ」

村人「キモい」

「すまん」


村人「…つーか、なぁ」

「んー?」

村人「お前、蜂狩らないんだろ?」

「おう!」

村人「どうして俺についてくるんだよ」

「…そりゃ、お前…暇だからだよ」

村人(芋の耕作してただろうが…)


村人「…こっからは村の外だ、いつ蜂に出会うか、わかんねーぞ」

「へへ、出会ったらソッコー逃げる」

村人「お前帰れっ、村に帰れっ、薬草摘めっ」

「はっはっはっ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/10(火) 19:43:37.41 ID:f/xOWgfD0<> 「あーあ〜」

村人「…んー?」

「はぁーあ…」

村人「なんだようっせーな」

「嫌だよなぁ…田舎ってさ」

村人「何が」

「ん?嫌じゃないのか?」

村人「別に」

「マジで?」

村人「なんだそれ」

「いや、俺ずっと、お前は村から出たいもんなんだと思ってた」

村人「ハッ、そんなわけあるかよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/11(水) 19:56:23.11 ID:gd0DyfSD0<> 「えー…いやいや、でもお前さ、いつも薬草摘みとか…収穫とか、こういう狩猟とかさ、いつも嫌がってんじゃんか」

村人「あー、だな」

「だよな?そうだよな?」

村人「いや、それはそれでだな、でもな」

「?」


村人「都会で商人とか、そういうことするよりかは全ッ然楽だし」

「……」

村人「あれだ」


村人「なんだかんだでこっちのが、面倒じゃないからな」

(……全くこいつは…)

村人「たまーに動いて大体のんびり、これが一番だと俺は思う訳だ」

「は〜…もったいね」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/12(木) 19:50:38.27 ID:vbhPB7K90<> 村人「さあ、村の入り口にきたぞ」

「俺らにとっちゃ出口だろ」

村人「山の入り口はいつだって麓方面なんだよ」


村人「…さ、どうする?こっから先は林道だぞ」

「ああ……つまり」

村人「魔獣が出る」

「……」


村人「弱っちいやつばかりだけどな」

「蜂は厄介だろ」

村人「そうか?」

「そうだよ、奴ら、いつもはジロジロとでっけー目で様子見するだけだが……集団だともう、獲物を睨んだように襲ってきやがる」

村人「コロニーを護るための季節的な本能だ、仕方ねーよ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/13(金) 23:22:57.61 ID:1cpckl/C0<> 「…じゃ、俺はここらで引き返させてもらうわ」

村人「おう、じゃあな」

「ああ、間違ってでも蜂に刺されたくはないからな」


「…ああ、そうだ…なあ」

村人「あ?」


「昨日な、…んー」

村人「? なんだよ、昨日どうした?」

「…いや、やっぱなんでもないわ、じゃあな」

村人「面倒臭い奴だな、おう、じゃあな」


ザッザッ・・・



(まぁ、アイツの家の前に誰かが居ただけだし…今さらだし、村人に伝えることでもないか) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/14(土) 10:39:53.68 ID:KY3wuM3/0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/18(水) 08:12:52.52 ID:mjC8AeqIO<> おつんぽみるく <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/26(木) 07:36:36.53 ID:YWOs0pNIO<>             ∧_∧
      ‐――と(´・ω・`)
        ― ‐/  と_ノ
         / /⌒ソ
        -'´
あとはこっちか!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/28(土) 15:04:03.93 ID:AEcDPjRi0<>       ‐――と(*・∀・*)
        ― ‐/  と_ノ
         / /⌒ソ
        -'´
転載元が消えていたので続きを書けなくなりました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/28(土) 15:30:10.29 ID:WP8oJOhNo<> >>95
まてまて大将
転載元が無くったって大将の腕なら続きを書いて投下すりゃええ
あっちも終らせたんだから、肉まんで遊びつつこっちを日課にするんがいいと思うよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/28(土) 22:25:23.48 ID:AEcDPjRi0<> 友達がどういう手段か発掘してくれた、すごい感謝。
肉まんのほっぺをぷにぷにしつつ今まで通り書く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/01/28(土) 22:28:09.99 ID:cL0htbf5o<> ヤッター!楽しみにしてまする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/01/28(土) 22:40:24.79 ID:AEcDPjRi0<> 村人「蜂、蜂、蜂……」

森の中から警戒色を探すのは楽だ。辛いのは森が広いという事だ。

縄張り意識を強めている巨大な虫ほど探しやすい生き物もそうはいないだろうが、俺はそこまで赴くのにも嫌気が差す。


村人「さすがに上の林道よりかは道はしっかりしてるが…」


下り道を歩けば歩くほどに、帰り道は思いやられる。

出てくるのであればすぐに大挙して襲いかかって来て欲しいくらいだ。


村人「この道のどこかに、蜂の大群が巣を作っている…と」


蜂…監視の蜂。ただの蜂ならば村も観光客も気にしなかっただろうが、生憎と繁栄しているらしいそいつらは、魔獣の一種だ。

奴らは翅に目玉を持っている。視力だけはどんな虫より良い連中だ。

なによりもその大型さ。翅を広げた全長は、ウサギほどにもデカい。


繁殖期にはコロニーを守るために広域に監視の目を光らせ、異常があれば襲いかかる厄介な性質を持つ。



村人(だから、こうやって剣を振り回しつつ大股で道を歩いていれば…)ブンッブンッ


――ガサ


蜂「…!」ブブブブブ


土が舞い上がりそうなほどの風圧を帯びた蜂が、草かげから現れた。

目立ち過ぎた愚かなイレギュラーを排除しに来たのだ。


村人「へっ…お出ましだな」



ブブブブブブブブ・・・


翅同士が衝突しないように適度な間隔を保ち隊列を組む蜂の群れ。数はかなりいる。

何にせよ、早く出てきてくれて助かった。総戦力は望むところだ。


村人「面倒事は、さっさと終わらせるに限るぜ」チャキ

蜂「・・・!」ブブブブブブ

村人「いくぜ…甘露煮にしてやる!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/30(月) 19:57:07.79 ID:JE/tWvDA0<> たたたたた…


生徒(はっ…はぁっ…寝坊しちゃいましたっ)

教師「お、…やあ、おはよう」

生徒「あっ、おはようございますっ!」

教師「ははは、廊下は走らないようにな?木のヒールだから良いけど、転んだら大変だぞ」

生徒「あ…はい!えへへ」

教師「はは、今日も勉強、がんばれよ」

生徒「はいっ!」


たたたたた…


生徒(えへへ、今日も良い一日かなぁ…)

生徒(…最近は、学園が騒がしいけど…そんなことないよね)

生徒(きっと大丈夫…だよね)


ガララ・・・


生徒「……」ヒョコッ


ガヤガヤ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/01/30(月) 20:43:57.08 ID:q8ozNgqmo<> こっちに来てたのか!!!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/30(月) 20:49:16.79 ID:GiUYWhxRo<> おつんつ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/01/31(火) 20:10:44.82 ID:3PQ/jYCn0<> 「えーでも丁度にして分岐させると帰還が足りなくなるしさあ」

「火の式の途中に無駄があるってことじゃないのかしら、風の方の理論は正しいもの」

「中級以上は見づらいからね、整理できないとそろそろ難しい頃合いさ」

「先生もよく瞬時に見破れるよなあ」



生徒(…クラスの人、今日も沢山いる)

生徒(みんな…うん、元気そう…まだ誰も…うん)

生徒(良かったぁ…やっぱりこの学園はまだまだ、安全なんですね…ふふ)

「お、見ろよあいつ」

生徒(あっ)


「あぁ…あの子、まだこのクラスにいたんだ」

「…さっさと特進行けばいいのに」

「いつ消えるのかな…」

「楽しんでるんでしょ、俺ら見て」

「趣味悪いよね」


生徒(……)

生徒(…教室は…えへへ、まだ入らなくていいやっ、授業始まるまではロビーにいよっと)


タタタタタタタ・・・


男「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/31(火) 23:26:28.39 ID:PoRGlytIO<> 見ているぞゴゴゴ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/01(水) 20:33:31.51 ID:/ZqitMhI0<> 【ロビー】


生徒(えーっとぉ…たしか先週の授業のまとめはこのページから……わぁ、結構進んでるなぁ)

生徒(でも…うん、基礎ばかりで特に難しい所はないし…次の試験も大丈夫かな)


生徒(でもでも、やっぱり何もしないっていうのは駄目ですよね)

生徒(…よーっし、ここの章を徹底的に研究しよっと!)


コツコツコツコツ・・・


生徒(? 足音……誰だろう、先生かな?)

男「……」

生徒「あっ…」

男「お前…またここにいたのか」

生徒「あ、あの、男さん…授業は出なくても…良いんですか?」

男「…そりゃこっちのセリフだ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/02/01(水) 20:41:10.96 ID:+3NW8fdxo<> この辺ってもう向こうで投稿済みのとこだったよな?
なんか変えてたりする? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/02/01(水) 21:05:16.52 ID:ioityf6AO<> 地味に削ったり表記を変えたりしてる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 07:16:53.11 ID:veQS4PkIO<> 向こうってまだあるの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/02/02(木) 20:27:53.61 ID:lzDGTTQ30<> 男「生徒、お前、昨日も出てなかっただろ」

生徒「…」

男「どうして何も言い返さない?あんな奴らに好き勝手言われたままで良いのか?」

生徒「え…あの…えへへ、でもやっぱり私、勉強しかできないし…趣味悪いのは本当だし…」


生徒「それに…みなさんの言うとおり、ドジだし…そ、それは私もわかってますから…」

生徒「…だから、…それに、私がいると皆さんの勉強もはかどらないだろうし…」

男「そんなの関係あるかよ」

生徒「……」

男「……お前は今のままでいいのかよ」


生徒「…あの…私は勉強できれば、それで…」

男「…」

生徒「こ、ここって勉強するためのところですし…」

男「…」

生徒「…」

男「……はぁ」

生徒「…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/03(金) 23:22:18.64 ID:/3eAS+Nl0<> 男「…ほら、勉強道具しまえ、教室戻れ」

生徒「え、で、でも…」

男「お前は頭が良いんだ、何を恐れる必要がある」


男「ここは学び舎だぞ」

男「お前は堂々と、胸を張って黒板を睨みつけて良いんだ」

生徒「…」

男「こんなロビーの椅子に座って、こそこそと勉強する必要なんかない」

生徒「男さん…」

男「さ、教室行くぞ、明るい所で勉強しないとな、目が悪くなる」

生徒「…はい」


コツコツコツコツ・・・


生徒「…あの…ごめんなさい、男さん」

男「ん?どうした」

生徒「私は良いんですけど…男さんはこのままだと遅刻扱いになっちゃいます…」

男「ああ、そんなことか」

生徒「そ、そんなことかって…」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 01:36:15.04 ID:dj8Qwg7Oo<> うむ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 17:53:56.01 ID:W3FVlZbIO<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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(チベット自治区)<>saga<>2012/02/06(月) 18:05:24.39 ID:LryPwuA30<> 男「俺にはもうな、授業の内容はあまり関係ないんだ」

生徒「えっ、それって…」

男「はは、いやいや、学校を諦めたわけじゃないからな?」

生徒「あ、な、なんだぁ、良かった…」


男「…俺はな、もう仕事を決めてあるんだ」

生徒「仕事…ですか」

男「そう、仕事…生徒はもう決めたのか?いや、お前はまだまだ先か、ははは」

生徒「は、はい…まだ決めてないです…」


男「…理学を勉強したら、魔道士、魔導師…研究分野への道は多い」

生徒「そうですね…」

男「だけど俺には研究分野は合わない…そもそも属性関係に疎かったっていうのもあるし…あまり、頭が良くないしな?」

生徒「そ、そんなことは…」

男「ははは、ありがと」


男「…俺は“護り屋”になろうと思ってる」

生徒「護り屋さん、ですか?」

男「ああ、傭兵ではなく、専門にな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/06(月) 18:59:54.64 ID:/Mnl7re8o<> 来たね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/07(火) 20:51:41.82 ID:ReQZNGRx0<> 男「俺はもう二十歳だ」

生徒「あ、そうなんですか」

男「ああそうだ、生徒とは6つも離れてるな?」

生徒「…そうだったんだぁ…」

男「はは、もっと老けて見えてたか?」

生徒「えっ?い、いいえ!そんなことないです!」

男「ははは」


男「…ま、そんな良い歳だ、そろそろこの学び舎からも離れようと思ってな」

生徒「いなく、なっちゃうんですか?」

男「なに、やめるわけじゃない、仕事に就くからな、ちゃんとした卒業さ」

生徒「…そんなぁ…男さん…」

男「ははは、こらこら」

ゴシゴシ

男「泣くな泣くな」

生徒「ぅう…だって、男さんいなくなったら…私…わたしぃ…」


生徒「今までだって、男さんだけが私に親切で…話しかけてくれて、なのに…」


生徒「本当に…友達がいなくなっちゃいます…ぅぅ」

男「…よーしよし」ナデナデ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/02/08(水) 12:26:01.88 ID:YVHmsXIAO<> 男はロリコンだったのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/02/08(水) 19:44:04.20 ID:4GGIp8Cl0<> 生徒「ぐすっ…」

男「…大丈夫、お前は強い子だ、大丈夫、俺がいなくてもやってけるさ」

生徒「…自信…ないです」

男「めげるなめげるな」


男「…お前はな、生徒…大丈夫だ、守ってくれる人は沢山いる」

男「たとえクラスの奴ら全てがお前を毛嫌いしていたとしても…先生達はみんな、お前の味方だぞ?」

生徒「…」

男「先生たちはみんなわかってるんだ、お前の才能も、優しさもな?」

生徒「…ぅぅ……」

男「こらこら、だから、泣くなっつーの」


コツコツコツコツ・・・

ドンッ


生徒「ふぇぅ!?」

??「オゥ、アイムソーリー」

生徒「あ、す、すみません、こちらこそ前みてなくて…」

??「ははは、気にするな、ユァウェルカム!」


コツコツコツコツ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/09(木) 19:47:37.41 ID:+RL8MuXN0<> 男「…ははは、これからはしっかり、前を見て歩けよ」

生徒「えへへ…はい…」

男「うん…さあ、そろそろ教室だぞ、涙を拭きな」

生徒「…はぃ…」ゴシゴシ

男「…いいか?生徒…大丈夫、俺がいなくてもお前はやっていける」

生徒「…はい」

男「ちゃんと教室で勉強するんだぞ?」

生徒「…はい!」

男「うん、良い返事だ」


ガラララ


男「すいませーん、ちょっと外に用事が・・・」


「きゃぁあああああ!」

「誰か!誰か医者をっ…!」

「どうしたんだ!?いつのまに…いつ、なんで?どうしてだ!?」

「他に異常がある奴はいないか!?怪我は!?」


男「……どう……した……?」

生徒「…!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 06:42:25.09 ID:mn1MdtRuo<> 「!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 14:05:09.74 ID:qsS1CUfIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/10(金) 20:18:44.10 ID:Mt4GOwRA0<> 蜂「ビィィイイイイ!!」ヴヴヴヴヴヴ・・・!


風を巻き起こす羽音が接近してくる。

誤って翅に触れれば、怪我をしてしまう。針以上に厄介な武器が、あの巨大な翅。


だが当然、相手の針より、翅より。先に届くものは、こちらにある。



村人「おら、お前で最後だクソバチ」トス

蜂「び…」

村人「昆虫相手は楽でいい…関節の間に剣を刺せば、こうして簡単に動きを止められるからな」

蜂「ビ・・・ビビビ・・・!」


でっぷりと太った尻の外殻の間は大きい。

近づくそこを狙って剣を刺し込むのは、実に容易い。


村人「お前に恨みはないが、召されてもらうぜ」

村人「火葬でな」ボッ


剣が赤い火を纏う。


蜂「キュイィィイ・・・」


外殻の内側から燃やす炎に対して、夏の暑さにも耐えがたい昆虫が平気であるはずもない。

炎を出してからは、ものの数秒でコンガリだ。


村人「…ふー、一丁あがり」


村人(結構退治したな…70くらいはやったか?)

村人(剣に灯した火に、わざわざ突撃してきやがる…馬鹿な相手で助かったな)


村人「…さて、帰るか…疲れた疲れた、あー、帰って風呂入ろ」


こんがり焼けた死骸を背に、軽く肩を回しながら帰るとしよう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/11(土) 18:42:28.18 ID:/Yoz0KxIO<> シエンタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/13(月) 23:00:19.99 ID:TI3a9sM60<> 村人「オイ、どういうことだジジイ、なんだこのはした金は」


4枚の古い硬貨を弾き、手に取る。ランプの明りを通してみると、鈍い金属の光沢。


村長「見りゃわかるだろ、報酬じゃ」

村人「たった400YENが報酬?はっ、ガキの遣いか俺は。蜂を何匹葬ったと」

村長「仕方ないだろ、この村だってそんな裕福なわけじゃないんだ」


村長「いや、この村はまだ良い方だ…もっとここから北へ行けば、暮らしはさらに過酷なものとなる」

村人「…」

村長「だがここも、同じように厳しい…それは、お前にもわかるじゃろ?」

村人「…まあな」


村長「もはやここも、“コハク”だけではやっていけないのだ」

村人「…チッ」

村長「わかってくれるか」

村人「本買ってくる」

村長「むう」


バタン



村長(…根は素直な奴なんじゃが…どうしてこう、ひねくれて育ったのか…)

村長(両親に会わせる顔がないわい…) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/15(水) 20:38:54.34 ID:8MwmVD5T0<> 家の戸を開ける。

ひと休みしてから、毎月恒例の本の買い足しに行こうと思っていたが、身体がけだるい。今日はやめだ。そのまま寝よう。


村人「ただいまー…」

村人「……」

村人(…誰もいねえよ、知ってるよ)


虚しいながらもやってしまうのが、こういう些細な挨拶だ。

何に対するでもなくやってしまう。


村人「あー…久々に剣を振り回したな…疲れた」


魔獣なんていっそいなくなれば良いのに、と思う。

人や生態系の役に立つ種族なんて限られているんだから、有害な奴らは国を挙げて根絶やしにしちまえばいいのに。


村人(…400YEN…か)


有害魔獣駆除の報酬がこれだ。国相手なら、もっと少なかったのかもしれない。これが妥当なのかもしれない。


村人(わかってる…蜂を駆除しただけで大金なんかもらえない…わかってる、わかってた)」

村人(…俺がわがまますぎるだけなんだろうな)


自分では楽な荷を運んでいるつもりなのだから、不満など言うまい。

なんだかんだで、遊びに大枚を叩く性格ではない。こんな銭でも、俺は満足できる。


村人(400YEN…本が2冊…いや、ひょっとしたら3冊買えるか?)

村人(何を買おうか……地質…天体…鉱石…)

村人(…惑星についての本でも買うかな?)


村人(よし、決めた、明日行こう、明日…山を下りて)

村人(下山…あー…面倒だ…)


布団に顔をうずめる。やれやれ。考えたくもない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/02/16(木) 01:59:46.46 ID:a2bgBFMCo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/16(木) 07:18:46.28 ID:J+qsKsdIO<> 惑星一択! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/02/16(木) 22:04:34.25 ID:BYhGflVj0<> 傭兵「…よし、ここらで休憩入れようか」

「つ、疲れた…」

「さすがに休まずではな…」

「あ、足がひでえや」

「食事にしよう、レトルトバンゴならあるぞ」

「げえ」


少女「……」

傭兵「…よお、お疲れさん」

少女「?」

傭兵「ほお、大した奴だな、ここまでうんざりな距離を歩いて来たってのに…汗一つ流していないとは」

少女「…汗はかく、乾いただけ」

傭兵「そうか」


ボスン

傭兵「ふーっ…さすがに俺は、もう歳だ…いやーつれぇつれぇ」

少女「そう」

傭兵(…無口な奴だな) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/16(木) 22:39:17.49 ID:Lbw4GSneo<> コンスタントになってきたね♪ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/02/16(木) 23:13:24.12 ID:a2bgBFMCo<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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(チベット自治区)<>saga<>2012/02/20(月) 19:32:33.55 ID:sk3c8Zav0<> 少女の隣で、男は白黒まばらな顎髭をぐしぐしと撫でさする。

数日間の手入れもなければ、髭は音を立てる程度には伸びるものだ。


傭兵「これで荷物の護衛運搬は2日目…そろそろ、目的の町についても良いはずだがな」

少女「……」

傭兵「なかなか、うまい具合に運べないもんだ」

少女「…みんな、遅いもの」ボソ

傭兵「うん?」

少女「……」


少女の抑揚のない小さな声は、とにかく通らなかった。隣に居ても聞きとれない。


傭兵「…まぁ、なんだ」


傭兵「人気の無さもこの調子なら、盗賊に出くわすこともないだろうしな……安全なんだ、気長にいこうぜ」

少女「……」コクリ


口数は少なく表情も動かない。が、意思表示をしないわけでもない。


傭兵「はっは、お前おもしれーな」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/20(月) 22:05:12.78 ID:dkx14CALo<> はっは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/21(火) 21:42:57.32 ID:2rjOf9RI0<> 少女(やっぱり……ぬるい)

少女(周りの人間が……仕事の仲間が使えない、遅すぎる)

少女(…足手まといと仕事するのは、疲れるな)


傭兵「なあ、お前も食うか?」

少女「……?え?」


男はむしゃむしゃと、良い音を立てて何かを咀嚼している。

肝心の“何か”がわからない。



傭兵「これだよ、コレ…さっき採ったやつだがな、ほらよ」ポイッ

少女「?」パシッ


手に収まったのは、小ぶりな赤い果実。


傭兵「腹減ってんだろ?なに、全員分あるんだ、遠慮せず食え!はっはっはっ!」

少女(……リンゴ…)


彼女の表情は、フルーツを見るものとは思えないくらい静かにひきつっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/22(水) 19:12:51.98 ID:vYvGwQQ90<> 少女「……」ヒュッ


無言の投球にやや焦ったが、男は無事取りこぼすことなく捉えた。

赤いリンゴ。


傭兵「どうした?食欲無いのか?」

少女「……ええ」

傭兵「食欲無いってもなぁ……朝から何も食ってないだろうが、食わないと途中でダウンすんぞ?」

少女「大丈夫」

傭兵「……そうか」


読みとれない表情は気になるが、見た目に無理している雰囲気はなかった。


傭兵「ま、任務中だ…お前はまだ若いが、体調管理だけはしっかりしろよ?」

少女「……」コクリ


頷く様は静か。人付き合いが過度に下手というわけでもないし、こちらに反発しているわけでもない。

本当に食欲がないのだろう。思う所はあるにはあったが、男は気にしないようにした。


少女(…リンゴが苦手なんて、言えない)


実際、わりとどうでもいいことであるし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/02/22(水) 22:46:04.74 ID:cTJVwvjAo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 11:44:55.65 ID:NDKlGbUIO<> 深い理由があるとおもたwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/02/23(木) 20:00:04.29 ID:l+04cvwE0<> 傭兵「よーし、そろそろ出発だ!みんな立てー、さっさと運搬すんぞー!」

「「「おおー」」」


少女(やっと再開か……)


気持ち気だるく立ち上がる。休み疲れは疲労以上に辛い。


傭兵「よし、点呼…はいらないな?…8、9、10…全員いるな?出発!」


二十分前より待ちわびた行軍が再開する。先導する中年の男の後ろにつき、歩調に合わせる。

遅い方に合わせるのは苦痛でしかないが、仕方ない。


少女(…陣形は人の護衛と同じ…前後左右に人を配置し、中央の物資は更に堅固に人を配置…)

少女(この人達はあまり慣れていないみたい……一応それなりの戦闘経験はありそうだけど)

少女(……でも) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/24(金) 07:11:41.09 ID:MYhAQFjIO<> オレ(……でも) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/24(金) 19:51:49.09 ID:fR59Owp60<> (*ノ∀・*)ゝ デモ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/24(金) 19:59:45.08 ID:pSa0KCSfo<> ミクちゃん兄弟スレまで出没するとはwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/02/28(火) 20:29:07.58 ID:H8SiFhdE0<> 「なぁ、この報酬はどうするよ」

「使い道?あー…まあ酒だな!酒!酒が全てよ!」

「はははは!馬鹿な野郎め」

「んだとてめえ奢るぞ」

「ああん!聞き捨てならねえな!じゃあ酒が全てだ!」

「はっはっは!」



少女(……十分な人員ではない)

少女(私にはこのメンバーが、ベストのようには…決して思えない)


少女(ギルドにいたあの女は、人選には気を使った…そう言っていたけど)

少女(…私から見ればこれは、烏合の衆)


少女(彼らは集まるだけで何もできない)

少女(……信念が無い)


不満を声にも表情にも出さず、少女は歩を進めていく。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/28(火) 22:15:46.99 ID:Saw0R1nDo<> 傭兵っぽいなその他は <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/02/29(水) 18:21:12.17 ID:3Q+QmE8m0<> 傭兵「……」


喧しく歩く集団。先頭と最後尾だけが沈黙している。


少女(……いや)

少女(このチームのメンバーはほとんど素人…でも)


傭兵「おっ、町が見えてきたな…んー、いや、あれは別の町か…おお、あれもあれで元は遺跡ってんだからすげえ…やっぱりもう少しかかるな」

「あー没落貴族の?」

傭兵「王族じゃなかったか?」

「わっかんねえなあ、知りたくもねけど」


少女(あの、リーダー格の男…あの男だけは、まだ他とは違う…別格さは感じる)

少女(……)


少女(なんだろう…この気持ち)

少女(何か、……ひっかかる)

少女(なんとなくだけど…何か)



――ガサ


彼女の思索は想定外の物音によって掻き消された。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/01(木) 18:06:39.44 ID:CjmctOg80<> 傭兵「……ッ!」


先頭の男も気配を察知した。

小さな物音だが、それだけに悟ることのできたはっきりとした“狩人”の気配。

足が止まる。



「ん?」

「おい、どうした?急に止まってよ、具合悪いんか」

「何かあった?」

少女「……」


状況を察知できず不思議そうに佇む者達をよそに、少女の動きは機敏だった。


少女「獣の気配」ボソ

「え?」


一応は発してやった小声の後に、すぐに荷物をいれた袋を地面に落とす。荷物は全て捨ておく。

可能な限り身軽な態勢を整える。


少女「ふ」


近い。



傭兵「みんな、右の茂みから来るぞ!気をつけろッ!」


少女と中年の男だけがそれに気付いた。大人数でたったの二人だけが、外れの茂みと向き合った。

そして茂みの者は奇襲を諦め、威圧でもってして優勢を取らんとした。



獣「ゴォオオオオォオッ!」


水色の毛並みの幼竜。

唾液混じりの咆哮が群衆に吹き抜ける。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/01(木) 20:22:57.02 ID:E3nJvnpbo<> 同時進行乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/01(木) 21:35:10.26 ID:Pl17PVjqo<> 肉まん侵攻乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/02(金) 19:16:29.11 ID:xQgiIB7a0<> 獣「ウォオオオオ!!」


「ひ……ひいっ!?」

「ま、魔獣だッ!逃げろッ!」

「荷物は!?そうだ、みんなで荷物を守れ!荷物持って逃げるぞ!」


竜の思惑通り、少しの威嚇だけで大半の者が戦意を喪失した。


少女(……やっぱり、誰も戦おうとしない)

少女(腰抜け)


さっさと逃げる傭兵達が少女の肩にぶつかる。

些細な衝撃だが腹立たしい。逃げるわが身が何よりも優先か。


獣「ガアアアアアッ!」


魔獣は念押しとばかりに足音を立てながらにじり寄る。

接近する殺意に残った傭兵も崩れかけている。


「く、来る……早く、逃げるぞ!荷物の安全が第一だ!」

「お……おう!」

「走るぞ!走れ!」


誰も腰の剣や得物を取ろうとは考えなかった。


傭兵「お、おい…」

少女「……」


緊迫する状況の中で残されたのは二人。

そこそこ大きな魔獣一体に対し、中年の男とか細い少女のたった二人だけだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/02(金) 20:12:35.03 ID:zAwfbdr9o<> わりと烏合の衆だなwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/02(金) 22:42:12.35 ID:Siz3IAAbo<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/03/03(土) 00:52:40.34 ID:fNOFDo7Ko<> 村人は結構な強さなんだなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/05(月) 19:46:04.12 ID:+TCqopWK0<> 傭兵「し、信じられん…」

少女「良いじゃない」

傭兵「良いって…奴等め、我先にと逃げていきやがったんだぞ」

少女「定石じゃない?少人数で殿を、他の大勢は任務遂行のために先を行く」

傭兵「……ハッ…奴あいつらがそんな事、考えてるかどうか知らねぇがな」


獣「ゥルルルルル……!」


傭兵「…残ったのは俺ら二人か…どうする?俺は戦えるぜ」


腰から幅の広い剣を抜き放つ。

よく手入れの届いた、砥ぎ代が年季を感じさせる剣だ。


傭兵「久々にこの剣も、強敵を前に武者震いしてやがるぜ」

少女「…」

傭兵「お前はまだ若い…それに、あの獣はもうかなり成体に近いリトルだ…先に逃げたあいつらと合流しとけ」

少女「…」


言葉を発しない。


傭兵「…?どうした?早く…」

少女「見くびらないで」

傭兵「!」


前に出た男の更に前へ出て、魔獣を睨む。

その目に怯えの色など微塵もない。


少女「……そう、運ぶだけの仕事じゃ退屈……良かったわ」

獣「! …グルルルルル…!」


狩人である竜も少女を相手にして悟る。自分と同じだと。


少女「こんなイベントを…ずっと待っていた」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/05(月) 20:18:04.79 ID:kax+CQFyo<> 村人との合流が楽しみだ

この話は時代的にはいつなんだろなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/05(月) 22:07:57.01 ID:colzD6OHo<> この話の事を詳しく教えて頂きたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>saga<>2012/03/05(月) 22:15:54.04 ID:9RbiFfgAO<> 二年前。または四年前。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/06(火) 07:50:22.20 ID:A2YaLj4IO<> 151です。
携帯から回答感謝。
三つの流れ同じ時間軸と思ってたら、まだ過去話の最中なのか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/06(火) 13:41:45.87 ID:pFkjmIERo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/06(火) 19:59:04.80 ID:T2FKrKRn0<> 少女「狩りの時間よ」ジャキン


腰から二つのナイフを抜き放つ。

正面で二度峰を打ち合わせ、火花を散らす。


傭兵(あれは……双剣か?)

少女「手出しはしないで……ここは私の狩り場」

獣「グルルルルル……!」


シンプルな作りの双剣。しかし長さはやや長めのナイフといったところ。

目の前の大きな魔獣相手に扱う代物ではなかった。


少女「……だから、ここはあなたが狩る場所ではない」

少女「私が狩る」

獣「ガァアアァアアッ!」


緊張感と空腹に痺れを切らした魔獣が飛びかかる。

顎を大きく広げ、なまくら以上に鋭く肉を切る歯列を突き出した。


傭兵「き、きたッ!」

少女「“来る”よりも私が“行く”」

傭兵「!」


飛びかかる竜以上の素早さで、少女の影は前へ出た。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/07(水) 09:33:23.32 ID:1u3lV21IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/07(水) 18:18:19.76 ID:/HC+TtHN0<>
獣「ガ……?」


額にかかるわずかな重量。


少女「獲物に飛び掛かったつもり?獲物はあなたよ、私が飛び掛かる」


竜が敵の接近を感知したのは、少女の双の剣を左右から振り降ろそうとしたその寸前だった。

それほどまでに少女は早かった。


少女「“ギロチン”」

獣「! ギッ……!」


反射で身体を飛び退かせた竜が土に転がる。


獣「ぎ」

獣「ギァアアァアアアァア!?」


そして絶叫。


少女(……外した…首を刎ねるつもりだったのに)


傭兵(な、なにが起きた?)

傭兵(獣があの少女に飛び掛かったかと思えば…逆に少女が獣に飛び掛かって……)


獣「ウグゥァ……ォオオオ…!」

傭兵(目にも止まらぬ速さで……あの魔獣の耳を切断した!?)


痛みにもがく竜。距離を置き、流れる血を振り乱している。


少女「…狙われた獲物には……2つの選択肢があるわ」

獣「……!」


向けられた双剣。狩人の目。


少女「そのまま狩られるか…戦って、狩られるか…!」


竜はしばらく味わうことのなかった、追われる側の恐怖を堪能することになる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/07(水) 18:31:25.38 ID:CbP+20mIO<> 投下が日課になるといいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/07(水) 19:24:12.25 ID:1u3lV21IO<> 乙
面白いよ
自分のペースでのんびりどうぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/12(月) 17:59:11.72 ID:P7WpNlAY0<> 血みどろの巨体が一歩二歩と覚束なく歩き、ついに倒れた。


獣「……ォ…」


息もじきに絶える。

全身に刻まれた決して浅くはない傷が物語っていた。


少女「……成敗」


馴れた手さばきで血を振った双剣が、腰の左右のホルダーに収まる。


傭兵「……ほぉお」

少女「早く、任務に戻らないと」

傭兵「……ああ、そうだな、早くあいつらに追いつこう」


男も動揺を隠しきれない。

自分の人生で双剣を扱う傭兵など数えるほどしかいなかったが、その中でも屈指といえるほどに美しい剣捌きであることは間違いない。


傭兵(なんて戦いだ……一瞬だった)

傭兵(こんな小柄な少女が、あの大きな獣を……たった、2本だけの短刀で仕留めるとは……)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 19:00:23.18 ID:ZJGtz6HIO<> 短刀だったの!
長剣二刀流かと…すげぇ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/13(火) 02:13:08.10 ID:5srZb+SDo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/13(火) 18:15:47.29 ID:YUeJNYji0<> 傭兵(引き込まれそうになる、流麗な双剣捌き……)

傭兵(あの戦いはまるで、カマイタチが一方的に獣を切り刻むような……そんな戦いだった、演武といってもいい)


斬りつけ、刺し、そして蹴り。

回る身体。止まらぬ新たな傷からの血飛沫。


思い出しただけでも寒気がする動きだった。

それに加えて、彼女は返り血を全く浴びていない。


綺麗な戦いを、あの場でやってのけたのだ。

野生の、幼かろうが、正真正銘の竜に対して。



少女「……速く歩かないと、追いつけないわ」

傭兵「お、おう」


先を行く少女に促される。何の興奮も感慨もない、冷めた目をしている。


傭兵(この少女は一体……)


どのような生き方をすれば、この歳にしてここまでの武人になれるというのだろう。

男はそう考ようとしたが、すぐにやめた。


傭兵(……よし)


彼にはこの集団傭兵としてではない、また別の目的がある。


傭兵(……決まった……この編隊の中で、最も強い傭兵……!こいつしかいない!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/14(水) 01:17:46.62 ID:hvJubPdlo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/14(水) 07:00:23.32 ID:SI8LsaAIO<> おっつん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/14(水) 19:24:55.29 ID:tnN7Mmgs0<> 傭兵「おいおい、俺らはチームなんだぞ、あまり軽率な行動は慎んでもらえないか?」

「……すみません」

「だって……なぁ?」

少女「……」


言い訳がましい傭兵たち。命の次に心配するのは報酬の減額。

呆れたものだが、彼には収穫があった。


傭兵「だって、じゃないだろう、危うく俺らは死ぬところだったんだぞ」

「・・・」


沈黙。


傭兵「もしもあれが魔獣ではなく盗賊だったならば、本当に死んでいたかもしれない」

傭兵「いかなる犠牲を払ってでも遂行するのが任務だ、それには同意しよう」

傭兵「だが軽々と仲間を捨てては、そもそもチームの意味が……」

少女「もういいわ」


痺れを切らした少女によって説教は終わる。


傭兵「いや……だが、」

少女「任務最優先、私も、それには同意する」

傭兵「しかしだな」

少女「先を急ぎましょう……説教は任務を終えてから、ギルドでして」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/14(水) 19:30:26.88 ID:ZbbModPIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/15(木) 18:19:45.63 ID:KqLud5wd0<> 歳不相応な言葉で突き放し、少女は集団を置いて歩きだした。

ほぼ単独で魔獣と戦った事実は、有象無象の傭兵達を沈黙させる。


傭兵(……全く、もっと協調性というか、人間味があってもいいんじゃねえのかな)


果たしてこいつで良いのか。いや、こいつしかいないのだが。

男は頭を掻く。

ともかく、彼女の言う通りだ。先に進んで、話はそれからとしておこう。


「……あんのぅ」

傭兵「ん?」


真っ先に逃げた若い傭兵が口を開いた。


「本当に、申し訳ない事をしました」


うなだれるように下げられた頭。一人に倣い、二人三人と頭を垂れてゆく。


傭兵「…ああ、別に良い」

傭兵「次からは、逃げるなよ」

「……はい!」


荒々しい連中も多いギルドの傭兵連中だが、根は素直だ。

男はそれを知っている。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/15(木) 22:19:04.35 ID:n0piwkDIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/19(月) 18:18:29.71 ID:4VXniTWV0<>
少女(……ぬるい)


歩くペースが速くなる。疲れなど無い。

この場ではただただ、苛立ちだけが不快だった。


少女(チーム?仲間?優先……?)

少女(全て言い訳…後付けばかり)


少女(傭兵は任務のために、その内容の評価は依頼主やギルドがすること、傭兵での論議なんて無意味)

少女(傭兵としての最善を尽くしたいのであれば、任務中は粛々と内容を遂行すべきだわ)


誰かが手を出さなければ、自分が手を出す。

そうして貢献することで、その分の正当な評価を報酬として受け取る。

逃げた人員のことなど、彼女は気にしていなかった。

正当な評価と、それに応じた結果さえあれば。


少女(……やっぱり)

少女(一人で討伐する方が……私には向いてるな)


彼女はチームプレーに向いていなかった。

あまりにも若く、それ以上に、傭兵として厳格すぎたから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/20(火) 11:23:06.77 ID:Hs6oiRG20<> 傭兵「……おっ」

少女「?」


後ろで歩く男が声をあげた。


傭兵「おい、見ろ」

少女(?……あ、)


俯きながら歩く少女には見えていなかったが、前方にそれは、ぼんやりと見えていた。


傭兵「みんな、見えるか!あれが俺らの目指す山…」

傭兵「その裾に、赤くきらめく屋根の集落が見えるか!」


巨大な山はかなり前から見えていたが、その下に見える街はなかなか見えてこなかった。

わずかに曲がった街道を歩いているうちに、小高い丘の陰にあったそれは姿を現しはじめたのである。


少女「……ああ、もしかしてあれが」

傭兵「そうだ、あれこそが俺らの目的地」


傭兵「この国の端、“別れ街”だ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/21(水) 17:34:59.86 ID:lv5H29Qg0<> 「や、やっと着いた…」

「もうすぐゴールなんだな?そうなんだな?」

「酒だ、酒を飲むぞ、酒が飲めるぞ」

「よしよし、早くあそこに行こうぜ!走れば今夜中に到着するかもな!」

傭兵(よしよし……もうすぐ、任務も終わりだな)


連日の徒歩は脚にも精神にもくるものがあったが、なんとか無事に終えることができた。


少女「……」

傭兵「よお、ご苦労だったな」

少女「……油断」

傭兵「ん?」


応答はあったが、声は小さすぎて聞きとれなかった。

少女にとってそういったミスコミュニケーションは日常茶飯事なので、別の言葉で返す。


少女「まだ任務の最中」

傭兵「…あ、ああ」


少女「まだまだ、距離はあるから……明日の朝方までは、まだ」

傭兵「そうだな、もう少しだな、がんばろう」

少女「ええ」


少女は浮かれ気味な傭兵達を抜いて先頭を歩き始めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/21(水) 21:26:14.60 ID:T/SI04v5o<> 少女は淡々としてるなあww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/22(木) 17:51:10.53 ID:aMpS1JU/0<>
傭兵(……間違いない、こいつはなかなかの玄人だ)


小さな少女の背中。大柄の男達の中に連ねれば、更に小さく、か弱く見える。

だが人間は見てくれでは決まらない。

魔術も気術も、見た目だけでは判別できない。


力自慢な一部の小さな子供が拳でレンガを砕くなどは、幼い頃はよくある光景なのだ。


傭兵(あとは……こいつに託せば)


この集団で最も強い人間は彼女だ。


傭兵(……俺の“任務”は達成される)


傭兵「……これで」ボソ

少女「?」


傭兵(本当にこれで良いんだな?団長)


不可解な個人指令を思い出す。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/23(金) 19:45:48.46 ID:ahebLvVa0<>
傭兵『もうひとつの任務?』

紅髪『ええ、あなたにはまた別に、違う仕事もやってもらうから』


傭兵『……変なものじゃないですよね?』

紅髪『変なものって?』

傭兵『……法を、犯したり』

紅髪『あはは』


紅髪『まさか、このギルドは法に触れるような仕事なんて頼まないわよ』

傭兵『そ、そうですよね』

紅髪『故意にはね』

傭兵『……』


紅髪『で、あなたにやっていただくもうひとつの仕事の内容だけど』

傭兵『……はい』


紅髪『あなたたち他の9人の中からね……“一番強い傭兵”に、最後の仕事を託すこと』

傭兵『はあ……?』


傭兵『すいません、いまいちよく解らないのですが』

紅髪『あ、ごめんなさいね、言い方が悪かったかしら』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/24(土) 07:33:26.88 ID:uMEWPOVfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/24(土) 08:45:04.32 ID:6JJtEyS1o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/26(月) 18:33:12.78 ID:3WG7oR/50<>
紅髪『内容は極めて単純。ただ、この荷物の運搬任務……この荷物をね、街に運ぶ』

傭兵『はい、ま、そうですね』

紅髪『荷物を銀行に預ける……その最後の仕上げをね、その人に託して、あとは解散してもらいたいの』

傭兵『……は、ええっと、それはつまり』

紅髪『簡単よ、街に入ったらあとの仕事を、全てその人に託す……それだけ』


傭兵『……なんですかそれ』

紅髪『さあ?大人数で預けるよりも、少人数の方が目立たないし、狙われにくいからじゃない?』

傭兵『……なるほど、慎重を期しての事なわけですか』

紅髪『少なくとも依頼書の書面にはそう書いてあったわ』

傭兵『書面?え、つまりこの指示だけが、もうひとつの依頼なんですか?』

紅髪『そういうこと』

傭兵『……他人に仕事を投げるだけなのに?』

紅髪『ええ』


微笑む。焦げた紅茶色のまつ毛が美しい女性だった。


傭兵『……』


美しい女の笑顔には最大限気をつけろ、とは傭兵の酒場でのひとつの訓戒だが、目の前の女性はギルド長。

胡散臭い任務に怪しげな笑顔だが、信用に足る人物だ。


傭兵『わかりました、その仕事、引き受けましょう』

紅髪『ありがとう、恩に着るわ』

傭兵『簡単な遣いですからね、それで追加報酬がいただけるんなら、全然構いません』

紅髪『ええ、しっかりね、お願いよ?』

傭兵『はっ』


かくして、彼は運命の歯車の調整役を担うこととなった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/26(月) 19:27:28.15 ID:LfkKQGeIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/27(火) 18:15:42.82 ID:WIjP7yxN0<> 涼しげな虫の音が響く水辺。

夜光虫が飛び交い、水面を叩く。


彼ら傭兵達の足を休めるための腰掛けやすい芝の起伏は、虫のつかない葉を湛える木陰にあった。


傭兵「……」

「おーい、水汲んできたぞー」

「おお、飲ませろ飲ませろ」

「ちゃんと分けろよ、一人では飲むなよ」


焚き火がふたつ。火を囲む傭兵達の仲は良い。

暗闇の水辺で獲った小魚でもあれば、尚更機嫌は上々である。


傭兵(……街に着いたら、少女に木箱を託す)

傭兵(その後はパーティ解散……報酬は各々で現地のギルド支部から支給……)

傭兵(……あの少女だけは、報酬を後から受け取ることになるな)


傭兵(いや、そんなのはどうでもいい)

傭兵(だが、んー……イマイチ、解せない任務内容だな)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/27(火) 22:16:36.17 ID:7wFa/lBDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/27(火) 22:40:56.87 ID:VRbji+Epo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 07:31:04.53 ID:0s+Cn6rIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/28(水) 18:23:41.31 ID:vYwpCx2u0<>
少女「……」


篝火を遠目に眺める少女は、露出の多めな身体に薄手のケープを纏い、ぼんやりと闇をながめていた。


傭兵(……本当に、あの子供に最後の任務を託して良いのか?)

傭兵(いや、良いんだ……これが任務だ、俺の任務…)

傭兵(これを遂行するだけで、今回の報酬が倍になる……十分すぎる額だ)

傭兵(後ろめたくとも、法に触れるわけではない……機会を逃す術は無いだろう)


「おーい、リーダーさーん」

傭兵「ん?……ああ、なんだ?」

「食べますか?そこで採れた小ぶりのリンゴなんですけど」

傭兵「……ああ、いただこうかね、サンキュー」


傭兵(まぁ良いさ…とにかく、任務は明日で終了だ)

傭兵(明日になれば…しばらくはバカンスだ!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 19:16:07.22 ID:BtyqX3iIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 01:01:39.52 ID:evwH/Lkbo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/03/29(木) 20:10:06.81 ID:ZPtFU5uZ0<> チュンチュン・・・チチチ・・・チチ・・・


村人「……すぅー……すぅー……」

村人「んん〜…ダイヤ…よっしゃ、ダイヤもーらい…」

村人「…ん…ん〜…」

村人「が、ガラス玉だとぉおおおおお!?」ガバッ


村人「……あれ?」


チュンチュン・・・チチチ・・・


窓の外で、小鳥が合掌している。

おかしい。俺はさっきまで地下坑道博物館に…。


村人「…ふぅー、あぶねえあぶねえ、夢だったか…焦ったぜ」


やれやれ、鑑定をミスして紛いものを掴まされたかと思ったが、夢で良かった。

夢じゃなかったらクビにされていたところだぜ。


村人「…あーくそ、もう朝か、早いな…昨日なんもしてねーぞ」

村人「さっさと朝食作って、どこへでも出かけるか……ああ、そうだ本屋に行く日だ」

村人「この家にいたらまた、村女が俺に仕事押し付けてきそうだしな…さっさと準備して、」


ドンドン


村人(……っておいおい、まさか)


「村人ー!おきなさーい!」

村人「……おいおい、勘弁してくれよ…起きぬけだぞ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/30(金) 00:11:08.60 ID:o4bdRlgDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/30(金) 00:19:58.61 ID:JxxufWv4o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/03/30(金) 18:07:37.65 ID:tPJhQPqF0<>
古いドアノブがうるさくまわり、うるさい他人が我が物顔で家に踏み入る。


村女「やっほー」

村人「……やっほー」


芋っぽい装束の娘が軽く手を挙げたので、俺はそれ以上に控えめに手をあげた。


村女「なんだか冴えない顔してるわね?寝起き?」

村人「ああ、寝起きだよ……ついでに言うなら機嫌も良くない」

村女「そ、じゃあ上がらせてもらうわねっ」

村人「おい」


この村に交番があったら突き出してやりたいところだ。


村女「あら、朝食の準備もまだだったの」

村人「寝起きっつったろーが」

村女「私が作ってあげようか?」

村人「いらねぇ」

村女「いいからいいから」

村人「聞いちゃいねえ」


お節介な上にやかましい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/30(金) 19:35:15.64 ID:gQQ0x2OIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/02(月) 19:22:07.41 ID:VA6uBrjt0<>
村女「……〜♪」


キッチンでジュウジュウと何らかが焼ける音がする。

目玉焼きだろう。シンプルで美味い。


村人(……ま、料理を作る手間は省けたし・・・いいか)

村女「ふんふんふーん♪」


村人(なんだかんだで、俺が作ると大体が焦げるからな……)


シンプルなはずの目玉焼きを作るのでさえ、焼き加減を誤るというのがこの俺だ。

適当に焼くのであれば得意なもんなんだが、デリケートなものとなるとまた別だな。


村女「この中にある野菜も使っていい?」

村人「好きにしろ」

村女「ん、わかったー」


村女「……って、これいつの野菜よ?萎えてるのばっかりじゃない」

村人「いちいち文句の多い奴だな」

村女「うっさい」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/02(月) 22:24:37.64 ID:pbjzhjXIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/04(水) 19:41:29.52 ID:vGSY1lW30<>
村人「ごっそさん」


器をテーブルの上に置く。しぶしぶ食いでも、出された物は残さず食う。


村女「早っ」

村人「あー食った食った、うめえうめえ」

村女「ほんと?」

村人「ん?何が」

村女「いや、なんでもないけど」


人との会話は脳味噌の無駄の部分を使うようで疲れるが、こいつとの会話ではより一層疲れる。


村女「…ねえ、今日は何か予定ある?」

村人「あ?」

村女「予定が無いならさ、ちょっと」

村人「あーあー、今日はな、山を下りて本を買いに行かなくちゃいけないんだ」


前々から決まっていた事だ。恒例行事とも言える。

だいたい月のこの日くらいには新しい本を買うからな。


村女「……本?」

村人「ああ、本だ」

村女「…そう、また天体の本?」

村人「んー、まぁそんなとこだな」


地質でも石でも良いけど。

そういえば先月はあのエセ学者がトンデモな魔石論文を出していたな。どんな反論が出るか楽しみだ。


村女「…そ、いってらっしゃい…蜂には気をつけてね?」

村人「昨日あれだけ狩ったんだ、さすがにもういねぇだろ」

村女「わからないわよ?いつ大量発生するかわからないもの……剣くらいはあった方がいいわ」

村人「神経質だな」

村女(……何よ、もう) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/04(水) 21:05:45.23 ID:RjDyWKioo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/04(水) 22:51:02.00 ID:DDh5p3SDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/05(木) 08:19:06.13 ID:51GdJhBIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/05(木) 22:50:44.90 ID:0sX+XT640<> 村人「……」

剣掛けにある二つのうち、下の段にある剣を手に取る。

両刃の長剣。刀身は薄目ではあるが、鋼の質は良く、構造も折れに強い。斬るよりも突きに適した、俺好みの剣だ。


村女「……おー、その剣懐かしい〜」

村人「まあ、愛剣だからな」

村女「あ、まだそれ柄にコンパス付いてるんだ?」

村人「まあな」


刀身、唾、柄。それぞれの中心に埋め込まれたコンパスがある。

この剣を象徴する奇抜なデザインだ。世界を練り歩こうとも、これと同じ剣など存在しないだろう。


昔は良く、この剣を己の臨む方角に差し向けていたものだ。


村人「本当はあっちに置いてある剣を使いたいが……昨日の狩りで刃がボロボロだからな」

村女「……ふふぅん、その剣は大切にしてるんだ」

村人「当たり前だ」

村女「…そ」


そう。この剣はとても大切なものだ。

できればずっと観賞用としていたいものだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/06(金) 00:57:06.61 ID:mlDy3VIDo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 06:56:16.30 ID:q08A2cBIO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/06(金) 18:29:28.25 ID:TvFVhfAN0<>
村人「じゃ、俺は出かけてくるからな」


小さい綿のポーチをベルトの上から括りつけ、剣を腰に携える。完璧だ。


服は上から下まで秋風味の自然色。

この村独特の地味な染め方だが、灰色だか茶色だか赤だかわからない染め色は、汚れをうまく隠してくれるので気に入っている。


村女「ええ、行ってらっしゃい…気をつけてね?」

村人「……」


何こいつは呑気に手なんぞ振ってやがる。


村女「……?な、なによ」

村人「いや……」



村人「お前、ここは俺の家だからな」

村女「あ」


コントはもういいからさっさと出よう。

疲れる疲れる。これから下山して、ただでさえ疲れるというのに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 19:17:47.43 ID:uJ4iuF0IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 21:35:12.57 ID:znMig7WVo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/09(月) 18:30:16.23 ID:Bm6Pf+8o0<>
村人「あっちー……」

村人「くそあちぃ……死ぬ、ああくそ、上着置いていけばよかったかな…」


通気性が良いはずの上着も、思いもよらぬ高温高湿では気持ちばかりの効果しか発揮しない。

暑い時は木陰で休むが吉というが、目の前に目的がある場合はその限りではない。さっさと下山したいところだ。


町に降りたら何を買おうか。天体…いや、天体よりも地質か…鉱物か…。

理学の本は…読むのが面倒だからいいか。性に合わない。


まぁ、向こうに行ってから決めれば良いだろう。背表紙も見ずにここで考えることではない。


村人(紅葉、清流……)


この村も、景色だけは一人前だ。

もっとも観光客は、ひとつ下の村までしか登ってこないのだが。

棚水田なんて見たって、何が面白いのか。そりゃあ冬くらいは凍りついて、ある意味風情がある場所かもしれないが。

春や夏にそこを訪れる神経は、俺には解りかねる。


村人「……ふぁぁああぁぁ…」


ああ、山を降りるのも面倒くさい。面倒すぎて頭が破裂する。

なんでこの世はこんなに面倒なんだろう。もう少し楽になんねーのかな。


あー、もう、俺の家の横に本屋でもできりゃいいのに。


村人「あっちー……」


とにかく歩く。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/09(月) 19:28:32.30 ID:yWMV8rm4o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 06:58:47.38 ID:9NRh8tgIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/10(火) 19:10:07.48 ID:9lF7rWIo0<> ??(……あの男か)



歩きながらなんともないことを考える。

すると、細い道の上に人影が見えてきた。

この辺では珍しい旅人だろうか。


村人「あーもうなんかこう、楽して金を稼ぐ方法とかねーかな)

村人「家で寝てるだけで、ちょっとずつで良いから金がたまったり……」

??「少年、若いうちの苦労は買ってでもするべきだぞ」

村人「……へえ」


歩いているうちに、道の向こうの男と鉢合わせた。

男は動こうとしていない。


男「若い時の苦悩や経験は、未来を生きるための明るい知恵となる」

村人「はぁー……で、お前は誰よ」

男「いや、突然すまない」


三枚重ねの黒いケープの胸元の中から、何かをまさぐる。


男「私はとあるギルドの者だ、今回は、君に用件があってやってきた」

村人「……ギルド?」

男「そうだ、ギルド……まさかギルドを知らないのか?」

村人「知ってるさ、なんでも屋だろ?」

男「私の所は限定的ではあるがそんなものだ、知っているならば話は早い」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 20:24:20.58 ID:+WEPy8gIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/11(水) 19:32:54.33 ID:Xc6OUb7/0<>
男「実は今日は、君に渡したいものがあって……」

村人「おい、待て待て」

男「……なんだ?」

村人「俺には親戚も家族もいないぞ、友人もほとんどいない」

男「なんだ突然、悲しいカミングアウトだな」

村人「いや、だから俺に何か荷物あるとお前は言うが、そんな相手は俺にはいない」

男「そんなはずはない、現に私はこうして、君宛のメッセージ便を預かっている」

村人「メッセージ便?んな馬鹿な」


俺宛のメッセージ便だと?そんなはずはない。俺にはもう両親いないし。

それに、俺の知り合いでメッセージ便という、高度な技術を用いて物を伝えようなんて輩はいない。


冥土から寄こされる物はあっても、現世で寄こされるものはないはずだ。


男「さあ、受け取ってくれ、これで私の任務は終了する」

村人「ま、まてまて、せめて本人確認くらいしたらどうだ」

男「本人確認?」

村人「そうだ、本当にその宛先は俺で合っているのか?」

男「ん?お前の名前は“村人”ではないのか?」

村人「……合ってるけどさ…」


心当たりが無さ過ぎて怖くなってくる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/12(木) 01:27:53.26 ID:7s1YVXZDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/12(木) 07:10:01.07 ID:+bvM9VSIO<> 冥界からのお届けものか…ゴクリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/12(木) 09:23:24.20 ID:sGeHDpggo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/12(木) 19:25:57.95 ID:HVPr+Huf0<> 村人「いやいや、待てよ、送り主は誰だよ」

男「すまないがそこは極秘だ」

村人「はあ?見ず知らずの怪しい奴から荷物を受け取りたかねーぞ」

男「安心したまえ、私の所属ギルドは“黒猫”だ、ここに証拠のバッヂもある、ほら」

村人「……」


重ねたケープをまとめて留めるバッヂは、黒い猫が丸まったデザインのものだった。


男「わかっていただけたか、さあ、受け取れ」

村人「……送り主はどんな奴なんだよ」

男「さあ、知らないが…知っていても私は黙秘しなければならない。依頼人からの要望で極秘となっているものは、そういう扱いなのだ」

村人「……怪しすぎる」

男「さあ、受け取れ!」

村人「いやいやいやいやいや」

男「ええい、いい加減にしろ、受け取れ、それだけだろう」


相手の言い分もわかるのだが、気は進まない。

何もプラスになる要素のある話ではないので、尚更だ。

なんとか文句をつけて拒否したいのが俺の本音だった。


村人「……そうだ、どうして俺の名前だけで、俺が“村人”だとわかったんだ」


これだ。ここから真相を突きつめていけば、法を犯すようなボロが出るのではないか。


男「ああ、そういうことか、それはだな……ええと」


男「ほら、ここに依頼人から預かった、昔のお前の写真が」

村人「……そういうのは先に出せよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/13(金) 07:27:25.88 ID:jakrlX70o<> 乙マム
警戒しまくりwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/13(金) 08:03:41.83 ID:G8pvEeN8o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/16(月) 18:24:50.36 ID:RiAviqKM0<> 男「……よし、確かにサインも頂いた、さあ、受け取れ」

村人「…おう」

渡されたのは質の悪い紙切れだった二つ折にすればポケットにも楽に入る程度の紙だ。

これをここまで届けようってんだから、運び屋は大変だ。


男「ついでにお前の写真もそのまま渡すように頼まれている、受け取れ」

村人「……ん、どーも」


男から褪せた写真を受け取る。

そこには確かに幼い頃の俺が映っており、隣の半分は白く灼けて見えない。


村人「ん?待てよ……この写真、見覚えが」

男「では、さらばだ」

村人「おい、ちょっと待…」

男「“黒猫は地図の果てにも「イエス」の一言を届けます”!さらば!」


よくわからない宣伝文句を吐いた男は、山を滑るように翔け降りていった。

強い傾斜すら、木の幹を足場に移動している。


村人「はええ……」


メッセンジャーというのはあそこまで脚が速くなけりゃやっていけないのか。

じゃあ俺には無理な仕事だ。


まぁ配達の男のことはどうでもいい。とにかく受け取った以上、不可思議であろうがこれらのものに目を通さなくては。


村人「……この写真、確か4年くらい前に撮ったやつだな」

村人「それで……それでこれ、どうしたっけ?」


撮ったことは覚えている。自分でもむかつくニヒルな笑顔。

嫌いな子供の笑顔だが、それなりに楽しそうな笑みだ。


村人(この写真は、確か…そうだ、誰かに送ったんだ)」

村人(誰かに……)


――ははは


村人「……“あいつ”だ」

村人(そうだ、この写真は……手紙と一緒に“あいつ”に送ったものだ)

村人(ということは、この手紙の主も……)


メッセージに目を通す。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/17(火) 08:34:03.45 ID:yWpIfOdfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 12:58:46.07 ID:BFOoUR/IO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/18(水) 18:03:08.69 ID:udoHXQB10<>
『山を下りてくれ、そう、この手紙が届く今日だな

 別れ町へ行くんだ、そこに君へのプレゼントを用意した

 君への、そうだな、

 私からのサファイアとでも言っておこうか

 厳重に、木箱に包んであるはずだ

 それをおそらく、一人の傭兵が持っているはずだ

 それを取りに行ってほしい

 なにせ高価なものだからね、君へ直接送るわけにはいかなかったんだ、すまない

 面倒だろうけど、頼んだよ

 別れ街だ、急いでくれ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 19:16:18.20 ID:Whd68Z7IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/19(木) 00:16:40.27 ID:Cs9v3+QDO<> 手紙が怪しすぎるwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/19(木) 19:33:51.82 ID:TW94epNp0<>
文面の一行目で送り主はわかった。

いけすかなさの漂うキザっぽいこんな口語を使う奴はあいつしかいない。


しかし、そのキザっぽさに余裕が見られない。


村人「……考えながら書いたような文章だな」


頭に浮かんだそのままを文字にしたようなメッセージだ。


村人(あいつはもっと構文が上手かったよな)


だが何よりも気になったのはその内容だ。


村人「……」


俺宛てのサファイア。

直接送らずに、逆に取りに行かせるというのだから、憎いもんだ。


村人「面倒っつっても、サファイアと聞いちゃ、黙ってるわけにはいかねえな」


俺の重い腰はそんくらいでしか上がらないだろう。

ギルドの送料をケチるためかは知らないが、どうしても取りにいく必要があるらしい。


村人「もののついでだ、貰ってやろうじゃねえか、そのサファイアとやらを」


よし、行くか。

本だけに留めようかと思ったが、嬉しい予定変更だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 01:18:44.28 ID:wP8B+TZDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 07:05:55.64 ID:7/IszweIO<> ついに合流か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/04/20(金) 08:07:14.25 ID:/qQXZBtoo<> まだまだ向こうでやってた時のままだよな?
追加されてるところある? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 11:01:08.44 ID:ipyW8UyIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/04/20(金) 12:10:48.49 ID:BUGzI2TAO<> 地味ぃに整合性が図られている <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 12:18:32.63 ID:ueo02Hrio<> >>228
mjd
まだだなーって思ってスルーしてた…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/20(金) 19:31:18.98 ID:+d0P4cKf0<> 【別れ街 入り口前の林の中】


少女「……どういう意味?」

傭兵「言ったとおりだ、この木箱はお前に託す」

少女「……?」

傭兵「いや、突然ですまないが……これはそういう指示なんだ」


傭兵「たとえばこの物々しい木箱、これを10人の傭兵が運んでいる……」

少女「……」

傭兵「もしもそれを盗賊が見ていたら、どう思う?」


少女「……盗賊は、10人もの傭兵が守っている荷物は狙わない、それに町にいるとは限らない」

傭兵「そうだな、確かに10人も警備いるんだ……大抵の引け腰な盗賊は狙わないだろう、町にいるかもわからん」


傭兵「だが10人で歩いていれば目立つ、それは確かだ」

少女「用心深い」

傭兵(……俺だってそう思うさ)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 20:19:31.51 ID:ipyW8UyIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/21(土) 13:56:17.11 ID:Bsp4AXwXo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/23(月) 19:43:17.06 ID:NLCqTPpu0<>
傭兵「盗賊は狂犬だ、近頃じゃあ治安の悪さに調子に乗ってやがるだろう?お前もわかっているよな」

少女「……」

傭兵「今の奴らは、どこで何をしでかすか解らん」

少女「……確かに、盗賊は何をするかわからない」


悪名高き機人盗賊。

彼らの名を知らない彼女ではなかった。


人の身より秀でた鉄の身体で悪事の限りを尽くす、この世の害虫だ。


傭兵「ああ……奴らに出くわした場合、そいつらに勝てるか?このメンバーで」

少女「そうね……少なくとも9人は死ぬわね」

傭兵「……それは俺も数に入っているのか」

少女「ええ」

傭兵「……」


力の序列としては確かにその通りだったので、何も言うことはできなかった。


傭兵「とにかく、ここは見つからないように荷物を届ける作戦でいきたい」

少女「……それを私に頼む理由は」

傭兵「そりゃあもちろん……」


口から出まかせを言うだけで、ここまで神経を削るとは。彼はしみじみと思う。


傭兵「お前が一番、この中で強いからな」

少女「……」

傭兵「いざという時でも、お前ならなんとかしてくれそうな気がする」

少女「……そう」


それだけは本心だった。

何かあっても大丈夫だろう。それだけは。


傭兵「まあ、俺らも何もしないわけではないしよ」

少女「?」

傭兵「ほれ、ここにあるダミーの木箱だ」


街道の脇に棄てられていた商人用の木箱を軽く叩き示す。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/23(月) 21:54:55.12 ID:qCeGc2Ddo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/24(火) 20:29:51.82 ID:ee+aBcZ50<> 少女「……なるほど」

傭兵「俺と、そうだな、もう一人はこのダミーの木箱を持って、町へ入る」

少女「囮ね」

傭兵「そういうことだ、仮に町に盗賊がいたとしても、これでお前への危険も少しは減るだろう」


厳重すぎるけどな、と男は付け加えて薄く笑った。


傭兵「……いいか?この木箱を持ったらまず、銀行へ入るんだ」

傭兵「銀行の場所は別れ街の中央、階段を上がってすぐの場所にあるらしい」

少女「随分と、慎重ね」

傭兵「……まあな、我ながら神経質すぎるだとは思うがよ」

少女「この荷物は、そこまで重要なものなのかしら」

傭兵「さあな、中身は俺にもわからん」


傭兵「とにかく、この運搬には多額の金がかかっている……失敗すればギルド側も信頼を失うだろう」

少女「……」

傭兵「だから……仕上げは、頼んだぞ」


少女は無言で頷き、受け取った小さな木箱を脇に抱えた。


傭兵「よし……じゃあ行くぞ、運搬が終了したら、ギルドで各々報酬の手続きをしてくれ」

少女「……ここで解散、ということ?」

傭兵「ああ、そうだ」

少女「……」


腑に落ちない点は多いが、シンプルな任務であることには変わりない。


少女「そう」


金の絡む事を考えるのは得意ではなかったので、彼女は考えることを放棄して、仕事に臨むことにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/24(火) 22:17:12.00 ID:afpZp05IO<> wktk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/04/25(水) 00:15:29.28 ID:73nHJHBMo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/25(水) 20:08:57.24 ID:Ogr+Itwv0<>
「やあやあ、お嬢ちゃん!美味しいスパイスパンがあるよ!焼きたてだ、どうだい!」

少女「……」


良心的な値段設定の屋台の男を無視して、中央路地を進む。

別れ町の中央道は賑わいを見せてはいるものの、都会のそれとは路幅も人混みも比べ物にならない。


少女(この辺境の町に、盗賊なんているはずがない……盗賊はもっと、都会にいるもの)

少女(依頼人は一体、何を警戒しているのかしら、ここまで手を回す必要はないのに)


かさばる木箱を抱えていても、少女は人とはぶつからずに道を進めた。


少女(この木箱は、そんなに重要なものなの?)


小さな木箱だ。短刀や細い花瓶を厳重に保管すれば、こういった箱になるのだろうか。

片手で持つには余る大きさではあるが、背中に括るほどではない。中途半端な木箱。


少女「……関係無い」


中身など気にはしない意志を、言葉にて発する。


少女(私はこれを届けるだけ、それだけで良い)


粛々と任務を遂行すれば良い。それが傭兵なのだから。


「なぁなぁ、どうしてまだ警察は駆けつけないんだ?ギルドの自警団だけでは……」

「ギルドからは何の説明も無いんだろう?」


しばらく歩くと、中央道が混んできた。

往く人も、立ち止まる人も増え、手で退けながら進まなくてはならないほどだ。


少女(人が多い……進みにくい)

少女(もう少しで銀行なのに……邪魔)


それでも不満は眉根にも寄せない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/04/25(水) 20:25:35.56 ID:73nHJHBMo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/26(木) 06:41:52.01 ID:K5IY1vxmo<> おつんぽ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/04/26(木) 19:38:26.46 ID:6/xV+LzB0<> 「まだ盗賊は見つかっていない?」

「一人もか……結局どのくらいの人数だったんだ?」

「まだこの町に?」


少女(……?何の話?)


賑わいは活気づいたものとはまた別の雰囲気を漂わせていた。

ほぼ密集する人込みを強引に掻き分け、抜けたその先に答えはあった。


少女「ここが、銀行……っ!?」


簡易な細い金属杭とロープによってつくられた結界。

立ち入り禁止の文字と、その中で動く褐色のローブ姿の作業員たち。


「おいおい、説明してくれよ!金庫は無事なんだろうな!?」

「俺の預けたものは!?!」

「復旧はいつなの!?早く窓口を開いてよ!」


怒声や不満の飛び交う中で彼女が見たものは、半壊した銀行だった。


少女「これは…何が……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/26(木) 22:24:49.40 ID:havxBtxIO<> 半壊ってすげえな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/04/27(金) 18:35:06.95 ID:vrfJwBQb0<>
少女(何?一体何があったの…!?)


良く耳を澄ませば騒然とした通り。

当然だ。閑静なはずの田舎の町で、このような大事件が起きているのだから。


少女(…!銀行が…屋根が、破壊されてる)

少女(さっきの通行人の話はつまり……)


破壊された屋根。

法律上、他人の家屋であっても、その屋根の上に登ることは禁止されていない。機人警官が屋根の上を巡回するからだ。

だから、身体能力にある者が屋根の上に登ること自体は珍しくないし、それを特に怪しいと思う者は少ない。


そのため、盗賊は屋根に集い、屋根を破壊して一気に階下に侵入する。


少女(銀行が……襲われた)


機人の盗賊か、魔道士の盗賊か。とにかく、ここまで建物を破壊することができる能力と、度胸がある。

危険な奴らに狙われたことは間違いなかった。


少女(……どうすればいい…この荷物は?預ける?この状態の銀行に?)

少女(いえ、それは不可能……銀行は機能していない)

少女(だとすれば、この荷物は……)


少女(……ギルド)

少女(そう、ここにも支部ではあるけどギルドが存在している……ギルドに預ければいい)


少女(……ギルドへ行こう!)


少女は人込みを抜けて、ギルド方面へ駆けだした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/28(土) 00:01:35.14 ID:M3OuYDlDO<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/28(土) 00:51:00.26 ID:hSztdY+SO<> 俺と>>244しか読んでないのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/28(土) 01:44:36.23 ID:2H0ciKydo<> スッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/04/28(土) 02:27:59.86 ID:OPymSsVso<> ノシ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/04/28(土) 02:32:34.38 ID:a98XlFfGo<> >>245
そういうのいらないって
ここはひっそり進むんだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/04/29(日) 06:00:20.32 ID:hJaX0nFAO<> 10年ぐらい前にオンザルーフとかいう泥棒が世間を騒がせたのを思い出した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/29(日) 09:29:06.61 ID:ZzrQW+JIO<> >>245
マムの投下以外の乙等のID見て>>244,245のもしもし経由以外も読んでるの分かる。

こちらはマムのを支援書きしてるiPhoneだが、ひっそり読んでる人とても多いから、覚えておかんと荒れるぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/01(火) 18:26:55.88 ID:iqKfw5/80<>
別れ町全体を見下ろせる岩場がある。


山側にある岩石の崖は、朱金の採掘場として重宝されていたものだった。

しかし、戦時もあっという間に終わり、それどころか戦時中の需要も中途半端に終わったため、資材はまだ残っているが廃止されている。

相次いだ落石事故のせいもあるのだろう。


昔の錆びたトロッコすら残る高い岩場に、複数の機人が密かに集まっていた。

町の全貌を度数入りの目で眺め、おもしろげに機械音声で笑っている。


『ケケケ、おい、見つけたぞ。大事そぉーに、木箱を抱えてる賊ガキだ』

『マジで?……お、本当だ…いやぁ、お互い景気の良いこってなァ』


先の尖ったグリーンメタルの指が示す先には、機転を利かせて踵を返す少女の姿があった。


『いやまて、あっちにも2人、木箱を持ってるな』

『アン?……ああ、あいつらはダミーだな、囮だ……持ち方がぞんざいだ』

『演技かもな』

『ハハッ、どうだか……まぁ、全員襲っちまえばいいんだろ』


機人達は笑う。

世に機人盗賊多しといえど、彼らのような後ろ暗い者達ばかりでないことを、機人達の名誉にかけてここに弁明したい。


彼らは“盗み”という明確な悪意をもって、顔の割れにくい機械の身体を選んだ、特異な存在なのだ。



『しかし、これで真実味を帯びてきたな…こんな警察もろくに配備されてねえ町に、国宝級の品が運ばれてくる、っつうのはよ』

『どっからの情報源だ?矮賊の密輸だったけか?』

『さあな、ガセの噛まされにくい、頭の良い奴らからの情報ってのは聞いたが』

『おう、そりゃあ良い知らせだ、とっとと奪っちまおう』

『ケケ、そーしますか……』

『楽しもうぜ、どうせ同業者の奪い合い、邪魔者はいないんだからな』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/01(火) 19:34:04.88 ID:KqKOA/tIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 00:02:13.79 ID:w+WSR3EDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 07:47:18.47 ID:85uZBv5IO<> おついち <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/02(水) 19:54:34.76 ID:b/ZWV7Sa0<>
少女「……!」


人だかりを抜けた先には、もうひとつの人だかりが立ちはだかっていた。


「ギルド責任者はどこだ!早く出せ!」

「今回の事件の真相は!?何故この町の銀行を奴らが襲った!」

「銀行の警備が甘すぎたんじゃないのか!?どうなんだ!」


少女(……なんてこと、ギルド支部も銀行と同じくらい混雑しているなんて……)

少女(それに、盗賊がいる……?つまりこの町は危険ということ?)


少女(何故こんな小さな町を?いえ、それよりも荷物……これをどうすれば)

少女(この状態のギルドに預けても大丈夫なの?これを保管する能力がここにあるの……?)


少女(どうするべき……?銀行?ギルド?どちらも危険……まだ盗賊がいるかも)

少女(……そうだ)


少女(……しばらく宿に泊まれば良い……ほとぼりがさめるまでは宿に泊まって、それから後日、荷物を預ければいい)

少女(幸いギルド側からは1日遅れてもいいと言われている……なら、大丈夫……)


少女(……それにしても、まずはギルドからの指示を仰ぐべき……?いえ、でも元々銀行に預ける任務、ここの支部のギルドが荷物を保障するかどうかなんて)




「ぐぁああああああ!」


少女「!!?」


遠くで小さな叫び声が聞こえた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 22:38:46.48 ID:w+WSR3EDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/03(木) 11:29:30.16 ID:uu3jlY+Go<> 機人盗賊って>>233唐突に出てきたけど、盗賊ってのはずっと機人盗賊の事だったの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/07(月) 19:12:26.25 ID:2+ol8XUh0<>
別れ街の路地裏、採石場貯蔵広場。

広場とはいえ、今はもう使われていない採石場の施設の一つだった場所。


空間の広さの割に人気は少なく、背の高い遮蔽物はここでの出来ごとの全てを秘匿する。


傭兵「ぐぁ……ぐぉおおお……!」


彼の腕に刻まれた一筋の傷も、その叫び声の大部分も、別れ町の大通りからは隔絶されていた。


傭兵「……くっ……き、貴様ら!」


『ケケケ、なんだなんだ、近頃の賊ってのは弱っちいな?』

『ちっと刃が肌にかすっただけじゃん』

『オーバーリアクションも過ぎると冷めんぜ?ケケケ』


男を囲む機人は3人。

腕の側面から伸びるナイフをちらつかせ、これでもかと威嚇している。



傭兵(まずい……まずすぎる!まさか本当に、盗賊がいたなんて!)

傭兵(くっそぉ……俺は速やかに任務を終えて、さっさと金を頂いて帰ろうと思ってたのに……!)

『おら、剣をおろせよオッサン、殺すぞ』

傭兵「……」

『なんだその目は?いや、俺らは良いんだぜ?おたくの命がどーなろうが関係ないし』

傭兵「……!」


傭兵の男の心はそこで折れた。

長年連れ添ってきた愛剣を手放し、地面に預ける。


『へっへっへ、素直は良いことだぜ、オッサン』

『おい、じゃあ次は早くそっちの木箱を渡しな、ほら』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/07(月) 19:46:20.57 ID:DqUUxboIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/08(火) 01:39:50.68 ID:X1JKx45wo<> 機乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/08(火) 18:52:19.61 ID:5lkL6quP0<> 傭兵「……!」

傭兵(まずい……木箱の中は空!そんなものを渡してみろ、どうなるかわかったもんじゃない……!)

『おい、どうした?早くしろ、オイ』

傭兵「……」

『あっあああぁああっ、面倒くせっ!てめぇら、こいつ殺すぞ!もういいや殺して奪う!まどろっこしい!』

傭兵「ま、待ってくれ!渡すから!」


狂った気迫に押された男は、本能的と言っても良い降伏の姿を見せた。

木箱を放り投げて、手を上げる。


『……』

『……』

傭兵「な、なぁ…逃がしてくれよ」


『……ケケ』

傭兵「!」


盗賊の一体は笑った。投げられた木箱を鋭いつま先で小突き、また嗤う。


『なあ、おっさんよ……これさぁ』

傭兵「……」

『カラ、なんだろ?』

傭兵「!」

『おい、こいつはやっぱハズレだ、殺せ』

傭兵「あ……ああ…!や、やめ」

『ハッハァ、やだね』


ざん、と鋭く踏み込む音と共に、刃は振り下ろされた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/08(火) 19:29:37.73 ID:66SaZnvIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/09(水) 22:30:09.55 ID:2zDSswuW0<> 剣とアームナイフが激しくぶつかる。

振り下ろされた“剣”は、盗賊のナイフによって辛うじて防がれた。


村人「サファイアは俺のもんだぜ」

『ァアン…?最近にしちゃ珍しく威勢の良いガキだな?』


傭兵の男の運命が今ここで断たれようとした時だった。

駿馬のようにその場に現れたのは、男の悲鳴を聞きつけてやってきた彼、村人。


男が、なにやら木箱を奪われそうになっている。

それだけで、面倒臭がりな村人の脚は素早く動いた。



音もなく剣を抜き放ち、盗賊による公開処刑に強制介入したのだ。



村人「なんだなんだ、盗賊かよ……面倒な相手に手ぇ出しちまったな」


刃同士が軋む。


『そう思うならさっさと剣をおろせ、俺だってガキの血は流したくない、社会的に面倒だからよ』

村人「へぇ、体を機械化して、しかも腕にナイフまで仕込むような奴らが、まだ世間体を気にしてたのか、驚きだな」


刃が離れ、距離を置く。

村人は片手で長剣を構え、囲む三人の盗賊の動きを気配で見張った。


『おい賊ボウズ、正気か?こっちは3人だぜ』

村人「こっちは2人だぜ、たった一人の穴くらいそいつが埋めてやる」

傭兵「……え、俺が?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/10(木) 00:37:26.51 ID:NwH8LuMIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/10(木) 07:04:52.62 ID:6MfQsmoIO<> 俺が俺が <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/10(木) 18:51:02.24 ID:HauxyI4q0<>
今にも強盗殺人に及びそうな盗賊がいやがるもんだから、焦った俺はついつい手を出してしまった。


村人(機人三人か…人間相手にするよりはやりようもあるが…)

『おい、ボウズ』

村人「あ?」


『何の真似かは知らねえが、ヒーローごっこは10歳までがいいとこだ』

『そうそう、さっさと帰って畑でも耕してな、よぼよぼのジジイになるまでな』

村人「ぁあ?ンならカツアゲだってせいぜい15までだろ?おっさん共よ」


剣を翻す。風を斬る音が懐かしい。

やっぱりこいつはしっくり馴染む。


『…じゃあよう、ボウズ……人生ってのは何年までか、知ってるかよ』

村人「ああ、知ってるぜ、50年だろ」

『そいつはちげぇな』


『俺に!喧嘩を売った時までだクソガキィイイ!』


両腕のアームナイフを抜き放ち、三人は大きな口を開けて地を蹴った。


傭兵「来る…!」

村人「見りゃわかるって!」


リーチではこっちの有利だ、先手は取れる。当てれば勝ちだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/10(木) 19:21:01.32 ID:NwH8LuMIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/10(木) 21:12:38.30 ID:6MfQsmoIO<> 村人の本領発揮 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/11(金) 19:17:06.88 ID:ui/cWIgH0<> 剣は片手で振るうものだ。

魔力によって身体能力を強化した状態でなら、素人だって出来る芸当。

そこにある程度の技術があれば、“当てる”だけなら簡単だ。


俺はその“当てる”が得意だった。


村人(遅い上に読みやすい動きだ、獣の方が遥かに鋭いぜ)


盗賊のアームナイフは、腕に格納されているスライド式の物。

肘から側面が開き、鞘は手首まで伸ばし、その先20センチほどまでのナイフが出てくる。


短いリーチ、身体の軸に近い得物。身体の動きを見るだけでも、攻撃のモーションが読める武器だ。


――カッ


『な……!』

軽く剣の先でナイフの側面を弾いてやっただけで、すぐ驚いたような反応を示した。

想定外の反撃に固まる身体。ここまで素人な動きだとは俺も思わなかった。


しかし素人盗賊相手でも、俺の剣は無慈悲に動く。


村人「ほっ」


ナイフを逸らし、素早く剣先を敵の腹部へ。

機人相手に刃物の攻撃は有効ではない。巨大な昆虫だって同じだ。外骨格は鎧も同じ。


だからこその弱点がある。


盗賊『グァ!?腹に……剣が!?』

村人『“プロミネンス”』


相手の腹部、丁度わき腹当たりに深く刺し込まれた剣。

そして素早く、たった一言の呪文を呟く。


それだけで、威勢の良かった盗賊は支えを失ったかのように、がくりと地に落ちた。



(た……立てない?いや…動けない!?)


一人目は開戦から一瞬での決着だ。

わずか2撃。そらして、刺す。終わり。

何の手ごたえもなくて逆に油断しちまいそうだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/11(金) 19:26:44.65 ID:aSTQW7GIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/11(金) 22:47:35.83 ID:h5ghSGfDO<> こっちが強すぎなのか
あっちが弱すぎなのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/12(土) 08:53:52.12 ID:/qHcQRqJo<> 乙
まだまだ前哨戦だ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/05/13(日) 12:50:12.36 ID:PbsVuhRfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/14(月) 02:01:28.25 ID:NNoNJhqU0<>
村人「外骨格が金属でも隙間はある……隙間なく全て守られてる鎧なんて、虫でも持ってねえ」

『!』

村人「屈強な機人の関節は何でできてると思う?熱に弱いただのゴム質だ」

『! 背骨、か……!?』

村人「ああ、背骨の関節のゴム質を焼き切った」

『なんだ……って……!』

村人「メカ人間相手だろうが関係あるか、関節が外骨格ならてめぇらも虫と同じだ」


人形の身体だろうが、魂は人間の身体を覚えている。

神経、その感覚、全てを記憶している魂は、例えモノにすぎない背骨だろうと神経の役割を担わせている。

背骨が動かなくなれば、下半身はダウンする。

焼き切るってのはちとエグいだろうが、修理すれば問題ないだろう。


村人「……さて」

『!!』

『!!』


早々に決着のついた一体の盗賊をしり目に、剣を空で振るう。

複雑な軌道で振り回し、正眼の構え。


村人「どうする?」

『……どうするって……』

『そりゃ……』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/14(月) 07:07:35.58 ID:D8xtzeMIO<> TUEEEEEEE!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/14(月) 08:24:02.82 ID:2O2GZVCso<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/14(月) 18:15:10.68 ID:NNoNJhqU0<>
『覚えてろ……!』


目にも止まらぬ速さでダウンした仲間を回収し、二体のトカゲ盗賊はすたこらと逃げていった。

その速さを攻めに転じていれば勝てたんじゃあるまいか。


村人「あーあ、かっこ悪ぃ」

傭兵「……」


対峙する人数が同等になった途端に逃げ出すとは、噂に聞いた悪名よりも随分大人しい奴らだ。

盗みのためなら人殺しもいとわない、くらいには聞いていたが。


村人「負傷した仲間を担いでってまぁ、盗賊にも健気な面があるんだな」


次に出会ったら情が沸きそうでいけねえ。


傭兵「お、おい」

村人「……あ?」


剣を持たない傭兵らしき中年の男が声をかけてきた。


傭兵「助かった……剣、すごい腕だな」

村人「関節に差し込んで急所をついただけだ、誰でもできる」


転がっていた剣を靴で踏み、跳ね上げてキャッチする。


村人「ほらよ、あんたのだろ」

傭兵「……」


おっさんは複雑そうな顔で剣を受け取った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/14(月) 21:39:08.64 ID:1XwBYi1IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/14(月) 23:04:32.38 ID:La0NjsQDO<> >>277

これで傭兵とおっさんが別人だったらおもしろいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 00:19:37.37 ID:vDpa8OUIO<> 面白い方に一票ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/05/15(火) 02:08:51.92 ID:73l0f7doo<> 展開を希望する類のレスをするやつはしね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 07:04:16.70 ID:QUQbJkBIO<> 同意 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 07:18:13.48 ID:n1zA/YBFo<> 1レス投下ごとに乙だけ書き込む人いるけど、
>>182-184みたいなのはさすがにやり過ぎだと思った <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 08:19:38.86 ID:1oC+QFpIO<> >>283
何が言いたいかわからん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 13:55:23.82 ID:QUQbJkBIO<> >>283
ここの>>1はマイペースなんだから、一投下毎に支援したいと思う人は「乙」が的確なんだろな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/15(火) 18:56:58.38 ID:XdcxJ1oL0<> 村人「なあ、それよりもこの木箱」

傭兵「え?あ……ああ、これか」


砂利の上に雑に置かれた木箱を指す。

俺の予想が正しければ…。


村人「これは今日、ここに届けにきた物か?」

傭兵「? そうだが……」

村人「よっしゃ、そうかそうか、いやー良かった」


予想は的中らしい。

町中の銀行やギルドが騒がしい事になっていたから心配だったが。


村人「じゃあこいつ、いただいてくぜ」


箱を蹴り上げて脇に抱える。


傭兵「え」

村人「あばよ」

傭兵「ちょ……ちょっとまて!いや、待て!」

村人「? なんだよ、良いだろ助けてやったんだから」

傭兵「い、いや違う……そういう意味じゃない」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/15(火) 18:58:05.70 ID:1oC+QFpIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/16(水) 11:19:18.79 ID:ovImYMpIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/16(水) 18:46:13.58 ID:aHCv2zuz0<> 傭兵「その木箱は空だ」

村人「何?」


剣を返して握り、斧の要領で横たわる木箱に振り下ろす。


村人「はっ!」


ずとんと落ちた剣と木箱の蓋。

足で踏み、箱の中身を見てみると……。


村人「……確かに何もない」

傭兵「この箱はダミー、本物は別にある」


面倒なことをしてくれるじゃねえか。

しかし、面倒なことを仕掛けるということは、それだけ用心しているということ。

これで信憑性は高まった。


村人「……そうか、じゃあその本物はどこにある?」

傭兵「い、いや、だから待て!どうしてそうなるんだ!」

村人「どうして?そんなの知るか、サファイアだぞ、サファイア」

傭兵「……?サファイア……?」


この国に居たんじゃ絶対に手に入らない宝石だ。

いいとこの大通りの露店を何日も何日も、根気良く巡回していれば出会えるかもしれないが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/16(水) 22:27:06.77 ID:DOfZxz6IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/17(木) 07:03:46.59 ID:zyt9toYIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/17(木) 21:27:24.76 ID:cRaUoU7N0<> 村人「その様子からすると、サファイアじゃないってのか?」

傭兵「え?」

村人「この、本物の箱の中身だ」

傭兵「……中身は俺も知らん」

村人「なんだそりゃ」

傭兵「俺は、俺らはただ運ぶように頼まれただけで……中身は極秘で俺らは誰も知らないんだ」

村人「……」

傭兵「いや本当だって」


村人「……中身はサファイアらしいぞ」

傭兵「……お前、さっきからサファイアサファイア言ってるが……何故サファイアなんだ」

村人「この手紙を見てろ、読んだら燃やして捨てといてくれ」

傭兵「え、ちょ、ちょっとお前」


手紙を押し付け、剣を振って鞘に納めて歩きだす。


村人「なるほどな、プレゼントが欲しけりゃ自分で取れってか……良いぜ、取ってやる、いつものお宝探しだ」


まだ俺の持ってないコレクションを把握しているとは、あいつも抜け目の無さだけは流石なものだ。


村人「さーて、木箱はどっこっかなー」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/17(木) 22:04:09.52 ID:vyZSEU7zo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/17(木) 23:48:35.86 ID:GzjDxZXIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/18(金) 20:21:55.97 ID:Y7d+0+ft0<>
少女「く……!」


相手のアームナイフを紙一重でかわしつつ、短剣を素早く振るい、敵に傷を付ける。

傷を付ける。それだけに留まった。


盗賊『痛ってぇ〜……ォオイ、俺の装甲をよくもやりやがったな』

少女(……やっぱり機械相手は、上手く狩れないな)


木箱を脇に抱えた少女は、三人の盗賊と遭遇した。

人気の無い場所を通った瞬間に、躊躇なく襲いかかってきた機人盗賊。


片手の短剣で応戦するには、あまりにも分が悪い相手だ。


少女(なんとか他の2人を撒いたはいいけど、まだ一人残っている……しかも左手は木箱で封じられている)

盗賊『おいおい、チョロチョロ逃げるのもいい加減にしてくれよ……俺は短気なんだぜ?』


木箱は手放すのはリスクが高い。一時的に置いてしまえば戦いは楽になるが、相手の狙いをわざわざ無防備な場所に晒したくはない。


少女(……状況は良くない……)

盗賊『聞いてンのかガキィィイイイイ!』

少女「!」


痺れを切らしたアームナイフが、瞬きする間もなく少女の腹へと飛び込んでくる。

刃が深くまで突き刺さった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/18(金) 20:24:32.39 ID:1N7J1cPNo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/18(金) 23:59:15.21 ID:oBGDMMNDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/19(土) 22:17:40.19 ID:vu2q7DI0o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/21(月) 22:15:45.73 ID:D1Aikygb0<>
(よし、刺し……岩!?)


盗賊の刃は壁面に突き刺さっていた。


(背後の壁に刺さっただけか!すばしっこい野郎め……)


アームナイフを抜こうと腕に力を入れた時、背中を強く掠める衝撃が襲った。

一度ではなく、一瞬で何度も訪れる細い火傷のような痛み。

機人特有の、神経がリンクした装甲へのダメージ


『ッ…!っつぅぇ〜…テメェ、効かねぇ攻撃を何度も何度もッ!』

少女「そうね、剣はやめる」


振り向こうとした瞬間に、盗賊の視界の半分が暗くなる。


『がっ!』


ブーツによる蹴りが頭部を強打し、盗賊の身体を大きくよろけさせた。

たまらず地面に手をつくが、少しの間は視界が揺れ、直立は難しい。それでもなんとか精神で持ちこたえる。


『いっ……ってぇな……!』

(くそっ……そうか、蹴りか……あのクソガキ!)


受けたダメージから状況を把握するまでに費やした時間は、彼女を相手にするには余りにも長すぎた。

顔を上げると、そこにはもう誰の姿も見えない。


『……逃げやがった!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/05/21(月) 22:18:17.34 ID:ceZ9XJLno<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/21(月) 23:30:07.21 ID:gYDywL07o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/22(火) 17:23:37.84 ID:ub1fBhbIO<> オツ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/22(火) 20:32:51.12 ID:oM4AAQd+0<>
別れ街、今は使われていない採石場の屋外に、盗賊達はねぐらを作っていた。

岩場だらけの仮のアジトではあるが、鋲で打ちつけられたハンモックや炭のキットなど、多少の生活をするには困らないほどの設備が整っている。

それはひとえに、置き去りにされた道具達のおかげでもあった。


『シルルルルルルルル……』


機械の吐息を特徴的な音で吹きながら、一人の盗賊が戻ってきた。


『おうおう、そんなに眼ぇ光らせて、どうした?』

『盗みに邪魔が入った』

『そうか……それは残り二人のうち、どっちだ?』

『残り?』

『ここで一人、寝てんだろ』


ハンモックに揺れる盗賊が、岩場の壁を指差した。

ズタ袋かと思われたそれは、首の無い人間の死体である。


『なんだこりゃ、オイオイ、首から上が無いじゃねーか』

『あんまりにも醜い顔だったから、川に捨てちまったよ、ケケ』

『へへへ、よくやるねぇ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/22(火) 22:33:02.11 ID:ub1fBhbIO<> 夜も乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/22(火) 23:29:42.30 ID:P1JwsyXDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/23(水) 22:14:00.68 ID:jI2y2lE60<>
『……で、ブツを運んでいる奴らは結局は何者なんだ』


背中のかすり傷をさすりながら尋ねる。


『ん?何者?俺らと同じじゃねえのか』

『にしては随分と……匂いが違わねぇか』

『そうか?』


どうもそれぞれ温度差が違う。出会った相手によるのだろうか。


『……俺らのとこに来た話では、こいつら……“宝石を運びに来た賊”らしいじゃねえか』

『ああ、情報ではそうだ……こいつらの過敏すぎる警戒から見て、ギルドってこたぁない』

『本当か?』


目線を上に過去を思い描く。



『……確かに不可思議な点は多い…ギルド側に明け渡し、それからギルドが銀行に預ける、それが常だが』

『奴らの動き、明らかに“転がす”って感じだろ?』

『……ああ』


(……いや、待て、本当にこいつらは盗賊か?)

(さっき俺が相手した小娘は…?あの歳で盗賊?そうは思えねぇ)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/05/23(水) 22:36:26.53 ID:Y5sKFFhko<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/24(木) 00:34:06.31 ID:X9EdEQDCo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/24(木) 15:11:26.20 ID:lYUkX33Po<>
      /⌒)
  /\/ /
  (_人|/
   /‥\
  ミ(_Y_)ミ
   >  <
  (/ \)
  _(    )_
 (_>―<_) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/25(金) 08:15:39.70 ID:+mI1VzVIO<> おもしろ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/28(月) 19:20:24.55 ID:apCJLQRj0<>
土ぼこりが舞う。


『はぁ、はぁっ!』


落ちついたねぐらに、三体の機人が飛び込んできたのだ。

舞いあがった埃を鬱陶しそうに見つめる盗賊の一人が、片手を振りながら三人組の方に顔を向け、顰める。


一人の盗賊は、肩を担がれていた。



『オイ、あいつらやっぱ賊だ!間違いねえ!』

『どうした?何があった?』

『中年のジジイから奪おうとしたが……くそ、ダミーな上に、やられた』

『そっちも失敗したのか?』

『第三の勢力かもしれねえ、わかんねえが闖入者が来やがった』


第三。それを聞いて、場は落ちついた呼吸を待った。


『…とんでもねぇ剣士がいやがった、助太刀だか横取りだか知らねえ、とにかく奪いに来た!』

『なるほど、他にも同業者がいりゃあ間違いねえ』


(そうか、なら……小娘ェ、仕返ししてやるぜ……)

(必ず!テメェらから奪ってやる!)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/28(月) 19:35:13.81 ID:J/sIo7WIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/29(火) 06:41:02.24 ID:bJUdvz7IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/29(火) 19:20:50.92 ID:nt9xZ+aj0<>
傭兵「助けてもらったのは恩に着るが、それは困る…!」


さっきからうるさいおっさんだ。


村人「俺当ての荷物だぞ、俺が直接受け取って何が悪い」

傭兵「こんな日付も何もない手紙一枚で証明できるほど、我々の世界は甘くはないんだっ!」

村人「うるせえな、じゃあ自分で取りかえしてみせろよ」

傭兵「ぐぅぬぬぬ……」

村人「……あー、もうとにかく盗賊が狙ってきてる事は間違いねえんだから、良いだろ?そん時くらいは共闘でもよ」

傭兵「…一度!必ず銀行へ納品させてもらうぞ!」

村人「はいはい」

傭兵「絶対にだぞ!」

村人「うるせえ!」


本物の木箱は、こいつら傭兵の別の奴が持っているのだとか。


今はそいつの命も盗賊に狙われていると考えておかしくない。

さっさと加勢して、盗賊でもなんでも倒してやろう。


なあに、サファイアの為なら些細な仕事だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/29(火) 19:44:26.79 ID:kpEtMFxIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/29(火) 22:07:02.98 ID:UOcUJcpDO<> 乙!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/05/30(水) 20:18:17.87 ID:8//8ahH90<>
少女「!」ザザッ


走る最中、音もなく横へ跳び込む。

細い路地の向こうからは、ケープに身を包んだ一体の機人が。


『……』


黄色い眼光が暗がりの中で妖しく光る。


樽「……」

『……チッ、何かいると思ったが』


『どこかへ逃げた……?町の外……や、見張りは要所につけてある……それはない』


呟きごとを残して、足音は遠ざかっていった。

大きな樽の蓋が開き、少女の双眸が周囲を確認する。


少女(……危ない、見つかるかと思った)

少女(それにしても、町の要所に見張り……動き辛い)


樽の中に篭り、隙間から入るわずかな明りを見つめて考えに耽る。


少女(……どうすればいい……この町は小さい、木箱を抱えて行動するのは目立ちすぎる)

少女(それに、ここに隠れていてもいずれは見つかる……長居はできない)


少女(……戦う?少しは戦えるかもしれないけど……さっきの話を聞く限りでは、かなりの盗賊がまだ町に残っている) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/30(水) 20:20:33.20 ID:RxFmwOQMo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/30(水) 23:15:47.16 ID:6sT7BJ5IO<> ナイフだと機人は竜より苦戦? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/05/31(木) 20:31:48.27 ID:5twmNKC90<>
少女(何故盗賊がここに?)


少女(あいつらはこの木箱の存在を知っている……狙っている……ちょっと、おかしな話ね)

少女(到底、ギルドから情報が漏れているとしか思えない)


少女(!……まさか……あの赤い髪の女にはめられた…?)

少女(傭兵の男もグル……?いえ、でもついさっきあの男の悲鳴が……)


少女(……?何?どうすればいいの……?わからない…)


悩んだ末に少女は樽から出た。盗賊の気配はしないが、大きな通りに出る勇気は出てこない。

だが、食料もままならぬ現状でこのまま盗賊が去るまでやり過ごす、というのも難しいだろう。


少女(……とにかく、この場から動いて……宿に入るか、町を出るか、盗賊を全滅させるか……どれかしかないわね)


彼女としては現実離れした目標ではあるが、盗賊の全滅を心の奥底で狙っていた。

やり過ごすにしても、悪を見過ごすことは出来ない性分なのだ。


少女(……となると)

少女(極秘の品物とはわかっている……けど)


少女(この木箱の包装は邪魔ね……取って、中身をそのまま持ち運ぶしかない)


中身にもよるが、ギルドの目立つ刻印の刻まれた木箱は持ち歩くに適さない。どこかへ隠すにしても、不安の残る大きさだ。


少女(任務遂行、安全のため……許して)


一般レベルの封印が張られた蓋を強く蹴り、こじ開ける。



少女(……え?)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/31(木) 21:21:33.04 ID:u/UoNtjIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/01(金) 00:05:04.82 ID:+D17ud+DO<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/01(金) 13:44:17.89 ID:VQaZR+aIO<>
…え? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/01(金) 20:04:38.35 ID:XxsQs/uZ0<>
村人「……オイ、銀行前にはいねぇぞ」

傭兵「なんだと?くそ……なんてこった」


騒々しい中を見渡しても、それらしきガキの姿は見当たらない。

大手を振って探すわけにもいかなかったが、慎重にじっくり眺めてみてもそれらしき影は無い。


村人「おい、他に思い当たる場所は?言え!」

傭兵「言えってお前……なんでそんなに」

村人「良いから、言・えッ!」


サファイア奪われました、で納得できるもんか。

本のついでとはいえ、かなり期待してるんだぞ。この期待が裏切られたら、きっと俺は家に帰る気力を無くすだろう。


傭兵「なんだってそんな必死に……そうだな、まてよ……」


おっさんは髭をいじりながら考えた。


傭兵「……ギルドか?だとしたら既にギルドで報酬の手続きをしているかもしれない」

村人「……チッ、だとしたら」

傭兵「残念だが……荷物は預けられてるだろうな、銀行だか、倉庫だか」

村人(……ん銀行?)


村人(ちょっとまてよ……それ以前に届け先が銀行?俺に口座なんてもんはねえ……なのに銀行に預けた?となると)


その荷物は……俺宛のものじゃない?


村人(いや落ち着け、だが待て、俺がここに来る前に出会ったあの男は確かに、俺に言ったぞ、手紙だってくれた)

村人(ここに、俺宛の品物がある……と)


村人(? どういうことだ?俺への品物ってのは、こいつらが運んできた木箱じゃねえってのか?違うものなのか?)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/01(金) 21:46:37.50 ID:utOoIAjIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/01(金) 23:40:55.80 ID:+D17ud+DO<> 乙

箱の中身が気になる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 22:20:00.08 ID:j0u37JeIO<> 乙

村人はめられたのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/04(月) 19:37:00.03 ID:zvC9e0ut0<>
柄にもなく小難しいことを考えている最中に、よく聞く鳥のような羽音が聞こえた気がした。

いや、それはむしろ虫や、蝙蝠の類かもしれない。


鋭くこちらへ飛来するものの音だ。


傭兵「! よけろ!」

村人「!」


声とほぼ同時に俺の身体は翻った。

服の一番下の木ボタンを掠め取るようにして飛んできたナイフは、さくりと地面に刺さった。


それはかなり深くまで、刺さっていた。



村人「投げナイフか…!」

傭兵「気をつけろ、崖の上から来た……奴らはあそこにいる…!」

村人「先にこっちが見つかった……ってことか、なるほどな」

傭兵「どうするんだ!奴らは盗賊……狙われたら木箱を探す余裕なんかない、殺されるぞ!?」

村人「は?殺されてたまるか」

傭兵「なら早く逃げないと……!」

村人「馬鹿野郎」

傭兵「な」


逃げる?馬鹿を言っちゃいけねえ。背中を見せた奴ほど獣に襲われる。

狙われた獲物は喰われるだけ。人間はそこまで単細胞に出来ていない。


村人「俺の獲物に群がる奴らは……たとえ盗賊だろうが、容赦はしねえ」

傭兵「ば……馬鹿か!?」

村人「おい、ナイフで奴らの場所はわかった……上等だ、攻め込みに行くぞ!」

傭兵「なっ、おい、待て待て!」


この俺相手に投げナイフとは良い度胸。

当時11歳の俺に石を投げてきた隣村のクソガキが、俺に何発殴られたのか、奴らはわかっちゃいないみてえだな。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/04(月) 19:55:02.26 ID:Qi/VXXsIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/05(火) 19:41:29.14 ID:YcvHoPCV0<>
『おい、奴ら……こっちの位置に感づいたようだぞ』

『そりゃ、挑発したからな』


塒のすぐそばからは町が見下ろせる。

盗賊達は集い、別れ町の全景を見ていた。


『向かって来るたあ随分肝が据わってやがるな?よしよし……じゃあ上等ってもんだ、迎え撃つとすっか!』

『わざわざトカゲの巣窟に飛び込んでくるとはな……ケケケ、かわいい子蜘蛛だぜ』


高い位置にある岩山の採石場。少し降りれば、やってくる者とはかち合うことになるだろう。


『油断するな!』


一体の声が穴ぐらに響いた。


『……ぁん?』

『…俺は、あのガキと戦った……戦ってわかった、あいつは強ぇえ』


落ちついた調子で言うのは、地に座りこむ機人。背骨の関節部を損傷した者だった。


『ケッ、てめぇはただ勝手に故障しただけじゃねえか、しっかり油挿しとけポンコツが』

『ち、違う!これは故障なんかじゃねぇ!』


『……あいつは狙って……たったの一撃で、俺を機能停止にさせやがった』

『ほぉ?』

『あれはかなりの手練れだ、もしかしたらあのガキ、俺らを狩る訓練でも受けていたのかも』

『うるせぇッ!!』


怒号は洞穴を響かせ、壁面の小石をからりと落とした。


『いいか?負けたのはテメーが弱いからだ』

『……』

『あンの、ションベンくせえ小僧に負けやがって……それはなんだ、言い訳か?ん?』

『……』

『お前は黙ってそこで寝てやがれ』

『へへ、そういうこった……じゃ、俺らはあのガキをぶっ殺してくるぜ』

『ちゃっちゃと終わらせてくらぁ、帰ってきたらまた、たっぷり笑ってやるぜ?ケケケ!』


集団は去ってゆく。

採石場の入り口付近へと、迎撃へ出るために。


『……後悔するぜ?』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/05(火) 21:00:43.39 ID:xrv9S13IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/06(水) 19:21:15.81 ID:GLwwf9ta0<>
別れ町の外れに、採石場へ入る細い道があった。

そこだけでも随分と寂れていたが、奥まったその先には動物の気配も少ないのだろう。


村人(人気なければ、奴らも……)


深入りは危険だ。

奥まった場所まで歩き、しばらくそこで立っていると、向こう側から列を成す足音が響いて来た。


傭兵「ひっ……」


砂利を踏みならす、プレートの脚。

明らかになってくる細身なシルエット。


アシのついた肉体を捨て、機人となった筋金入りのワル。



『……よぉ?俺の仲間がどーも、具合悪いようだが……』

『やったのはお前か?小僧、ケケケ』

『同じことを俺らにもやってくれよ?ん?』


黄色く光る目が俺らに向いた。

この世の悪を挙げるとするならば、五指の中に入るであろう奴らとの対面だ。


村人「具合が悪い?ああ、俺が動かなくさせたあいつの事か、悪いな」

『ほぉ、その口ぶり、どうやら本当らしい……だが本当だとして、同じことを二度も、はたして出来るかな?』


『ケケケ……』

『シルルル……ケケ……』


村人「!」


続々と足音が来る。

奴らはまだまだ、向こうからやってきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/06(水) 23:49:36.43 ID:RQ4IAmmDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/07(木) 07:13:14.63 ID:9CgWkqFIO<> やっと来れた
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/07(木) 07:56:18.82 ID:R/xqAtCto<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/06/07(木) 07:57:48.16 ID:R/xqAtCto<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/07(木) 18:36:32.93 ID:T96GaoCa0<>
『この人数!……既に15人のトカゲ(盗賊)がお前を囲んでいる』


ざりざりと砂利を蹴る足音は、俺達を囲むように展開される。


『……何も持っちゃいねえようだが、お前ら関係の奴は全員皆殺しにさせてもらうぜ?』

『助けを呼ぶか?呼べねえよなぁ……ケケケ、同業者だからなぁ?ケケケ』


村人(……ん?同業者?)

傭兵「お、おい、本当にこの数……!大丈夫なのか!無闇に攻め込んで……!」

村人「うっせ、今考え中だ」


同業者、奴らは今同業者といった。なんだ?俺らは盗賊か?

勘違いも甚だに……ん?勘違い?


村人(……)

『さあ……覚悟は!できてるんだろうなァ!?』


盗賊達の腕の側面が開かされる。アームナイフが勢いよく飛び出ると、考えをまとめているわけにもいかなくなった。


村人「…ああ、きやがれ!」

『良い覚悟だ』


『……かかれッ!!』


『キェェエエエエ!!』

『キェエエェエエエエ!!』


姿勢を低く、一斉に走り寄る、まずは5体。

されど2に対しての5。搦め手としても、十分猛攻と言える勢力だ。


傭兵「おい、来るぞ!構えろっ!」

村人「チッ……釈然としないが、いくぜ!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/07(木) 21:32:06.96 ID:2LTrDrNmo<> バトルウゥゥ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/07(木) 22:41:18.70 ID:T96GaoCa0<> 加速ゥ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/07(木) 22:48:32.57 ID:T96GaoCa0<> 金属の刃が衝突する。

薄暗い岩場が一瞬の火花に照らされた。


『シャァアアアアッ!』

村人「うるせえ!競ってるときに無意味な威嚇すんな!」


声だけでかい人間相手に怯むことはない。

こちとら田舎の厄介な獣相手と何度も戦っているんだ。

酔っぱらった観光のゴロツキの相手だって、何度か経験はある。


『シィイイイッ…』


刃が弾かれ、距離を置くと共に、剣を振り回して他方から近づく盗賊を牽制する。


奴らの腕に備わってる仕込みのナイフ。リーチはほとんど無いが、しかし腕に直接固定されているだけに、近接での威力はすさまじいだろう。

一突きされれば、奥まで刺さって引き裂くに違いない。


『シルルル……!さあどうだ小僧、命乞いついでにあの小娘の居場所も吐いてもらうぜぇええ……!』

村人「小娘・・・?」


奇妙なワードに気を取られた。


『ッシャァァア!隙だらけなんだよッ!』

村人「ん?」


だが剣を握った臨戦状態の俺の身体は、あまりにも自然に動いた。

ほぼ反射の動きで剣を背面へ突き出す。


『ギッ!』

村人「あ、悪ぃ、目に刺しちまったか……いきなり襲いかかってくんなよ」

『ギ……ェエエェ…!』


無言で襲いかかればよかったものを、凄むだけの奴らの攻撃はどうも甘い。


『……まぐれか、テメェら、数で畳むぞ!四方から攻めれば剣如き!脅威でもなんでもねえ!』

『シャァアアアアァア!』

『キェエエェエエ!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/07(木) 22:51:51.57 ID:pjJXTx/IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/07(木) 23:00:58.07 ID:T96GaoCa0<>
村人「いちいち鳴き声あげんなっつーの、トカゲ野郎共が……黒焼きにすんぞ」


やっぱり数の暴力ってやつはおそろしい。

リーチが長くとも、長剣だけでは優位には立てないようだ。


村人「なら……“プロミネンス”!」


そうと決まれば奥の手を使うしかないだろう。

剣を大きく振り、背にまで構える。


今まさに凪ごうという、対人の構えとは思えない、隙だらけの体勢だ。



『ケケケ!ただ剣を振り回すだけ……』


それは、不用意に接近した相手に向けて振られる一撃。

剣のリーチから考えればあまりにも早い振り。剣先は敵に掠りもしないだろうタイミング。


だが、ごう、と雄たけびをあげて伸びる炎が、もうひとつの刀身として姿を現すのだ。


『な! 火!?』


燃える赤い輝きに眼を奪われたならば、もうそいつは避けることなど叶わない。


『ぎ、ぁあああああ!?』

『暑い!?熱いぃぃいいっ!?』


二人の盗賊は炎の輪に飲みこまれ、砂利の地面に転がった。

服も何も着ない身体は幸か不幸か、メタルグリーンの塗装を剥がすだけで済んだようだ。


『火だと!?剣から巨大な火が……!』

村人「弧を描く白熱の炎、実際のモンじゃなくて助かったな?」


本物に巻き込まれたらそりゃあもう、俺ら全員どころじゃない。

この星が掻き消されるほどのものとも言われている。


『ぎぁああぁあああぁ!』

『け、けしてくれ!熱い!熱いぃいい!』


炎を全身に受けた盗賊二人は、未だに土の上を転がっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/06/07(木) 23:01:47.99 ID:T96GaoCa0<> ツクールでこのSSのゲームができたらどうするね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/07(木) 23:13:13.31 ID:NKB1TVvso<> 乙
ツクール買ってきます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/07(木) 23:17:24.15 ID:R/xqAtCto<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 00:29:13.22 ID:laVV4OO3o<> 乙乙乙
今日は筆が進んだのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 00:29:52.29 ID:laVV4OO3o<> >>343
絶対やる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 08:25:10.50 ID:xCNKmDyDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/06/08(金) 18:13:54.45 ID:RfOtABzr0<> VXでモンスターのグラフィック描いてくれる人がいればなーチラチラ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/08(金) 19:11:13.28 ID:RfOtABzr0<>
『なんだ…!?お前ら、火はもう消えて……!』

村人「おいおい、金属は熱を伝えやすいんだぜ?肉体よりも遥かにな」

『!』

村人「炎は奴らの内部の駆動部にも伝わった……熱は装甲を伝い、中のパーツにも影響を及ぼす」

『……クク、そうか、なるほどな……まさか術も使えるとはな』


出鼻は挫いた。ここからは相手の調子を崩していくばかりだ。

剣を正眼に持っていく。


村人「さあ、来いよ……15対2なんだろ?あ、既に3人は減ったか」

『……上等だ、楽には殺さねえ…地獄を見せてやる』

村人「おう、見せてみろ、……俺は“星”でも見せてやるか」


魔力が剣へ伝う。


『言ってくれるッ!だが俺の体は、てめえの炎如きじゃ潰せねぇぞッ!!』

『いけぇえええ!』

『殺せ!まずはあのガキからだッ!』


予定通り、複数のトカゲが俺に標的を絞った。

一対複数はちと厳しいが、術さえ使えれば問題ない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 19:41:53.74 ID:WGvo7qlIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/09(土) 01:00:42.29 ID:IKzHz5MDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/09(土) 08:27:59.80 ID:zZQuPqy9o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/11(月) 18:37:08.23 ID:oI3VdPPJ0<>
剣を地面すれすれ、浅く振る。

魔力を込めた刀身が僅かに地面と接触した時、短い詠唱を叫ぶ。


村人「“デブリ”!」


弾ける砂利。

そこには無かったはずの灰色の輝石が無数に炸裂する。


『ぎあっ』

『ぐげえッ!』

『うがッ、ご……!小石!?これも術かぁッ!小賢しい!』


接近を試みた盗賊達は投石の壁によって後退した。

その加速度、その威力は、人が受けるにはあまりにも酷なものだ。


『ごは、く…装甲が歪む…!』

『ひるむな、相手は生身、一撃でも入れれば……!』

村人「一撃?入れてみろよ」


怯んだ隙を突いて懐へ跳び込む。

眼光が警戒色を強める前に、剣は敵の頭部を打ちつけた。


『ゴはッ!?』

村人「安心しろ、峰……あ」


外装にまずい傷をつけた盗賊は地面を転がって動かなくなった。



村人(……峰ねえわこれ、まあいいか)

『く…なんて野郎だ!岩の術も使えるとはな……』

村人「岩?へっ、岩だけだといいな?」

『何……』


火とか水とか岩とか、小難しいことは解らねえが、いいだろう。見せられるだけ見せてやる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 19:04:02.85 ID:pNwnAeG9o<> 久々に良い峰打ちをみた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 19:20:43.79 ID:ZK25OlzIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 20:45:32.80 ID:mp+MbfZHo<> さすが村人五右衛門ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 23:05:33.98 ID:Bvtc8x8DO<> 峰がないなら仕方ないよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/12(火) 18:39:57.12 ID:5zBGsWM10<> キンッ、キンッ

傭兵「お、ぅぉおりやぁあああああ!」


おっちゃんの方も大丈夫のようだ。

なりふり構わない野良戦法では、傭兵も負けてはいないらしい。


『ギェエ……!』


剣の合間に繰り出した重量級の蹴りは、盗賊の一体の胸部を凹ませてダウンさせた。


傭兵「はっ、はっ…くそ、キリが無い!」

『おらこっちだぜオッサン!?』

傭兵「ぬう!!」

村人(!)


ピンチのようだがこっちも手は貸せない。

なんとか気張ってくれ。


傭兵(うぐ…奴の爪が腕に…!)

『ヒャハハハハ!動くなよ!?動けばその肉はズタボロに…』

傭兵「く……うおおおおお!」ブチッ

『! なに!?痛みで動けないハズ…』

傭兵「傷の治療と二日酔いには慣れてんだ!素人がァ!」


ベキ


『ぐぇ!き、機人の脛を蹴り折るだと…』

傭兵「キャリア30年を舐めるなぁあああああ!!」


剣戟が鳴り響く。

しかし30年もその道にいたとは思わなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/12(火) 18:47:56.06 ID:uN6V+fSIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/12(火) 22:37:55.14 ID:XYCjZndDO<> おっさんガンガレ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/06/12(火) 23:11:48.90 ID:seNVVz9po<> ということはおっさんアラフィフかぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/13(水) 12:22:39.68 ID:G7tGus2IO<> おっさん△ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/13(水) 19:10:02.98 ID:Nwz+Zfx10<> 村人「ほいさァッ!」


剣先が盗賊のアームナイフの胴に衝突した。

敵の得物は腕ごと後退を余儀なくされ、こちらに攻め手の番が回る。


『くっ!っそ、また弾かれ…!』

村人「ナイフと剣、どっちが勝つかなんて目に見えてんぜ!“コメット”!」


胴体めがけて突きを繰り出す。

だが剣は、機人ならではの“刃物を掴む”という荒技によって捉えられた。


『ケッ、ただの突き……俺らの体は機械だぜ?こんな刃、両手で受け止めちまえばなんてこと……』

村人「へえ?」


剣を覆っていた水分が凍てつき、氷の結晶が巨大化する。

ぱきぱきと音を立てて成長する剣の氷は、掴む盗賊の手も飲みこんだ。


『な……!?』

村人「“コメット”は水の突き……突くと同時に、水は氷になる」

『う、腕が動かねえ……!?固められた!?』

村人「“プロミネンス”!」



凍結を裏切り、剣が高熱を発する。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/13(水) 19:22:56.09 ID:P/e7+C/IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/13(水) 23:28:33.61 ID:KbcEUfEDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 18:53:53.83 ID:XboOibSIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/14(木) 19:33:08.73 ID:fQYtCsPq0<>
(くそ、なんてガキだ、火、岩、水……3種も属性を使いこなすとは)

(いや、3種か?もしかしたらもっと……)


鋼鉄の躯がまたひとつ、地に落ちる。


『ぐぇ……』


その邪魔な脚を蹴っ飛ばし、残党の前へ進み出る。


村人『さて、あとは……んっんー、6人か、半分は片づけちまったな』

『……この野郎』


傭兵「ふっ、ふっー……俺も2体、のしてやったぞ!」

村人「へー」

傭兵「え、それだけかよ」


もうちょっと奮闘してもらいたかったが、まぁ死んだり死にかけてたりしないだけマシなもんか。

ここまで戦えれば、残りの覇気少ない奴らなど相手にならないはずだ。


村人「どうする?逃げるなら今のうちだぜ?」


剣を振って風を鳴らす。

イシリエの唱、第四小節が虚空に響いた。


村人「俺らは半分倒せる、つまりもう半分だって同じように倒せるってこった」

『舐めるな……俺をそこらに転がってる奴と一緒にしてくれるなよ』

村人「見た目が一緒なら力も一緒だ、俺はお前を、お前の仲間と同じように、一撃で倒してやる」


剣を構える。

肩の調子が良い。相手が何をしてこようが、いつでも対応できる気分だ。


『やってみるか?ガキ』

村人「やってやるぜ、トカゲ野郎」

『いいだろう……ケケケ!お前ら!捕まえろッ!』

村人「!」

『がぁあぁあっ…!』


迂闊。としか言えなかった。

足下に転がる鋼鉄の機人達が、最後の力を振り絞って俺らの脚にしがみついてきたのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/14(木) 20:34:45.01 ID:QviH3+lxo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/15(金) 12:34:48.67 ID:RCcmz/xIO<> あら <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/15(金) 20:22:57.22 ID:TeyHPAWx0<> 村人(このヤロ、脚を……!)

『ケ…ケケ……倒したと思ったか?』


這いずるだけのトカゲの最後の力か、俺の脚を抱きかかえて離そうとしない。


傭兵「く、なんだこいつ!?離れろ!離せ!」

『シルルル……道連れだ……!』


迂闊だ。

表情の無い死体が牙を磨いてやがった。


『お前らよくやった……そいつらを離すなよ』


脚を噛まれた俺らの下に、劣勢だった盗賊共が悠々と歩み寄って来る。


村人「……」チャキ

『ケケケ……身動きできない状態で剣を握っても、それこそ無意味な威嚇ってやつだぜ』

村人「へっ、なら……」


剣を振ろうとしたその時、足首に硬い感触が当たる。


『おっと、妙な真似をするな……このナイフが見えるだろう?』

村人「……死にぞこないが」

『少しでも何かすれば……良いな?今の俺らでも、斬り落とせはしなくとも刺すくらいはできる…』


参ったな。剣で術も使えない。

足下のクズ鉄を一掃してやろうかと思ったが。


村人「死んだフリ……さすが、トカゲで名が通っているだけはある」

『ケケ、お褒めの言葉どうもううさて』

村人(……!)


向こうの岩場の陰で、それは獣の眼のように爛と光った。


『随分と手を煩わさせてくれた……が、それもここまで』


目の前の盗賊がアームナイフを撫で擦る。

……今すぐに突いて来ても不思議ではない。


それだけはまずい。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/15(金) 20:45:45.65 ID:+mTHsUOBo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/16(土) 00:20:27.15 ID:Hvz3j0EDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/16(土) 13:44:07.35 ID:ibtsMiCIO<> ピンチ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/17(日) 22:00:04.14 ID:TtqVPGx/0<>
『さあ、死ぬ前に言いたい事を……』

村人「うるせぇ、緑ハゲ」

『……』


右腕を前に向けたまま、ぴたりと動きが停止する。

俺の言葉は、反動の揺れを殺すこともできないほど、頭にずんと刺さったようだ。


村人「集団で、機人になって、不意をついてやっとのことで、このガキとおっさん二人を殺れるってか?情けねえ」

『……』

村人「得意げになる方がバカバカしいと思わねえのか?…思わねえか、そのハゲた緑の格好じゃあな…」

『なあいい加減に黙ろうぜクソガキ』


語調が余裕を無くした。

感情は怒りに塗りつぶされ、そのままに腕を俺ののど元に差し出す。


『どうやら!お前は!?自分の立場ってもんをわかっちゃいねぇらしいな!?』

村人「…へえ?」

『いけすかねえ、いけすかねえよお前……とことん苦しませてやるぜ……生きてきたことを後悔するくらいになァ!?』

村人「……やれるもんならやってみたらどうだ」

『少しは大人しくなったな?ん?だが俺の怒りは鎮まらねえ』


鋭い刃が俺の上着に触れた。


村人「……」

『まずは手始め、その右腕から……!』


地を蹴り前へ出る。

すぐさま蹴って、横へ跳ぶ。


それは地上に存在する、おおよそほとんどの生物以上の速度と機動性でもって、複雑な軌道を描き、戦場の中心へと躍り出た。



少女「落とさせてもらうわ、“ギロチン”」

『あ?』


二枚の短剣が十字を成して擦れ合う。

滑らかに動く刃が重なった時、二乗の力は隙だらけの鋼鉄のそれを、容易く切り裂いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/17(日) 22:06:28.57 ID:TtqVPGx/0<>
『は』


腕が宙を舞う。


村人「ナイス、誰かさん」


俺がにやりと微笑めば、


少女「時間稼ぎありがとう、誰かさん」


まだ浅く滞空するその子供は、大人びた笑みを返した。


『な?』


薄着の女が着地するのとほぼ同時に、盗賊の右腕はがしゃんと音を立てて地に転がる。


『にぃいいいいい!?』

村人「うっせ」


生まれた隙を逃さず、まずは正面で悶える手負いのトカゲの胴を斬りつけた。


『げァッ!?』


内部にまで喰い込む刃。

容赦を忘れた俺の剣は、盗賊を浮かせて凪ぎ払い、場外まで叩きつける。


その間、何秒だろうか。いちいち数えていないからわからないが、奴ら全員が現状を把握するまでは、まだ数秒かかるだろう。

今こそ切り返しの時。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/17(日) 22:13:43.77 ID:TtqVPGx/0<>
傭兵「! お、お前」

少女「助ける」

『ま、待て!一歩も動くな!動けばこの足を』


常人ではない動きで素早く予備ホルスターの柄を拾い上げ、抜き放つ動作とほぼ連動して、鋭い鉄片が空を切った。


『ぎェ』

『うご』


二本のナイフが寸分も狂わず、足下の盗賊二人に突き刺さった。


少女「ナイフを投げただけ、動いてない」

傭兵「あ……ありがとう」

村人「ふー、何が何だか……が、しかし」


『!ひ……』

『や、やるってんなら』


構えが怯えているのは、脚を見ればすぐにわかる。


村人「あと3人、こっちも3人になった」

『だ、だから…』

村人「選べよ、このままやりあって3秒でゼロ人になるか、尻尾を持ち帰って逃げ帰るか」


剣で隅の鉄塊を示す。


『痛ぇええ……腕が、腕……俺の、腕……』

村人「リーダーもなんだか意気消沈のようだが……どうする?どっちでも構わねえけど?」


『……』

『……そりゃ、もちろん』

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/17(日) 22:27:58.19 ID:KLYG/9+ao<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/18(月) 12:14:04.29 ID:bjQ6AklIO<> ワクワクワクワク <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/18(月) 18:20:26.09 ID:mprgYDms0<>
村人「すっげー、やべぇなあの足の速さ」


仲間を抱えて、瀕死状態の奴も這いずるようにして逃げかえっていった。

本来ならば逃がしちゃならない相手なんだろうが、面倒事はごめんだ。


傭兵「に、逃げていったか……良かった…治療に専念できるぜ、いたた」

少女「…刃が少し、潰れた」


誰にしたって、これ以上敵対するのは宜しくなかったようだしな。


村人「仲間まで尻尾切りにしない、そこはトカゲと違うところか」

少女「……」


盗賊の情けない後ろ姿を見送っていると、ふと、べたつくような視線に気付く。


村人「ん?どうした」

少女「……」


小さな女が俺を見ていた。俺よりも2、3は年下であろう、紺髪の少女。


少女「……あなた、チームにはいなかったけど」

村人「チーム?何の」

傭兵「あ、ああ…少女、よく聞いてくれ、こいつはだな」


おっさんの口から、今までの複雑な状況説明がなされた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/18(月) 23:44:51.05 ID:AgMiXVbyo<> おもしろいな
展開が気になる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/19(火) 03:09:52.93 ID:7MhY1Vhoo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/19(火) 18:26:17.82 ID:UvjoF3pM0<>
少女「……木箱の宛先?」


無表情が傾げた。


村人「多分な、というかほぼ確実か」

傭兵「確証は何もない、こいつがただ自分からそうだと言っているだけで…」

村人「うるせえ、しつこいぞ」

少女「……何故そう言えるの」


訝しむ女の全身を見て、俺はふと気付いた。重大なことに。


村人「……待て」

少女「先に答えて」

村人「まずお前、木箱はどこだ?」

傭兵「あ!そうだ、少女!木箱はどこにやった!?本物はお前に持たせたはずだぞ!」

少女「……それは」

村人「それはってなんだよ、オイ」


女は口もとに手を置いて、じっと考え始めてしまった。

何から話そうか、というようなしぐさだ。


少女(……ややこしいことになってきたわ)

村人(……面倒な事になってきたぞ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/19(火) 21:25:23.08 ID:ou8mMRXDo<> 俺(……楽しい事になってきたぞ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/20(水) 13:59:03.65 ID:Vk/2ldqIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/20(水) 18:50:50.58 ID:BuiB7qti0<>
別れ町の中央は人でごった返していたので、外れの奥まった路地にある、少々埃被ったテーブルを中心にして、俺達は腰を落ち着けた。

放置したんだろう、コーヒーか何かを飲んだ後のカップらしきものが、黒い汚れをつけたまま机の上に取り残されている。


ここはまだ人が少ないが、すぐ路地を出れば、市場に近い通りがある。

商人の声やら往来の声やら、とにかく聞き慣れない声が多くてやかましい。



村人「ったく、うっせーな町ってのは…日中なら黙々と仕事でもしてろってんだ」

傭兵「日中だからこそ、じゃないのか?」

村人「俺の村は日中でも静かなんだよ、夜には酔っ払いが徘徊するからな」

傭兵「……なるほど」


そして再び、じめっぽい視線に気付く。


少女「……」

村人「…なんだよ」


ものを言わないくせに、眼だけは逸らさない。変なタイプの人間だ。


少女「……確かに、この町の近くの人間ではなさそう」

村人「オイ、俺の服見て決めつけやがったな」

少女「違うの?」

村人「そうだけど」


こいつは絶対に、俺の棒ボタンを見て決め付けた。間違いない。

そんな小娘は、悪びれた風もなく腰のポーチをまさぐっている。マイペースな奴だ。


少女「これ」

傭兵「?」

村人「ん?」


テーブルのカップの横に、手紙らしきものが差し出された。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/20(水) 19:04:50.91 ID:Vk/2ldqIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/21(木) 18:49:29.97 ID:9fChro+S0<> 傭兵「この手紙は何だ?」

村人「ギルドの通達か何かか?」

少女「……いえ」


面持ちはそのままに、


少女「それが、木箱の中身」

村人「!」


随分と衝撃的なことを言ってくれた。


傭兵「な、なんだって!じゃあお前、木箱を…!」

少女「仕方なかった、あの箱をどうにかしなければ、戦えない状況だったから」


弁解する彼女の暗い顔など、今の俺にとってはどうでもいい。

サファイアじゃない。その事実だけで、俺の小躍りする心はがらがらと音を立てて崩れた。


少女「私は外装をはがしただけ、中身は見ていない」

傭兵「……極秘なんだがな」

少女「奪われるよりマシだと思ったから」

傭兵「…ま、良いさ、そうでもなけりゃ、早く駆けつけることもできず、俺らは盗賊共にやられて死んでいただろうからな」

少女「……」


そうかい。良いのかい。

全員死ねばよかったのに。畜生。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 18:58:08.81 ID:bKFrSgYIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 22:58:56.17 ID:AJphrziDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/22(金) 07:10:54.82 ID:z5x7C3HIO<> 村人なにげに酷すww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/22(金) 19:41:56.38 ID:3N+1HuYa0<>
村人「はー……」


テーブルにうなだれる。脱力。このまま寝れる。


傭兵「どうやら、箱の中身はサファイアじゃなかったようだな?」

村人「見当違いで骨折り損かよ」


ため息がテーブルの上の小さな虫を吹き飛ばす。

なんてバカな一日だったんだろう。何の見返りもない事に剣を抜いちまうとは。


傭兵「気に病むなよ、俺はお前に感謝している……ありがとうな」

村人「感謝だけでサファイアが返ってくるか、畜生」


金も出せねーくせに感謝なんかすんな。


少女「……?サファイア?」

傭兵「ああ……この男はな、この町に自分宛の荷物が届くと…そういった旨の手紙が届いていたらしくてな」

少女「それで私たちが運んでいた荷物と……」

傭兵「そう、つまりは勘違いだな」


本当になんでこんな事になってしまったんだろう。


思えばあいつのことだ。

気ままに「そうだ、嘘でもつくか」といった閃きの流れで、俺にこんなメッセージを送ってきたのだとしても、何も疑問は無い。

まんまとやられたわけだ。いつになく悪質なイタズラだなオイ。


少女「……ということは」


少女「……やはり、あなたがこの木箱の宛先ということになるわね」

傭兵「え?」

村人「は?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/22(金) 23:28:39.84 ID:SS6zQaSDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/23(土) 02:29:23.98 ID:NveAuIS0o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/23(土) 21:59:21.82 ID:8VCacpKAo<> な? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/25(月) 20:03:01.52 ID:tkDm5WRo0<> テーブルの上にころりと転がる、半透明な石。

不格好でいて小さいそれは、淡い青の輝きを放つ。


傭兵「こ、これは」

村人「見せろ!」

傭兵「早いな!」


すかさずその石を奪い取り、一周回した後に真上の太陽の明りに透かし、内部も観察する。

結論はすぐに出た。


村人「……サファイアだ、しかし低質だな、そこまで鉄の純度が高いわけでも……しかし…」

少女(何かはじまったわ)

傭兵(さあ……宝石には目が無いんだろう、血眼で木箱を探していたからな)


結晶の根元を見る。特徴的だ。

ある程度の加工がされているが、粗い。


村人「……これも木箱に?」

少女「ええ、手紙と一緒に入っていた」

村人「なるほどな、そうか……じゃあ、手紙を見ても?」


俺が当然のようにそう訊ねると、


少女「……」

傭兵「……」

村人「……なんだよその顔は」


二人は深く考えるような顔つきになった。

何故だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/25(月) 22:18:51.80 ID:y1OCSy4IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/26(火) 06:40:29.07 ID:ugvq8dabo<> 乙
なんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/26(火) 19:05:22.62 ID:Zyidc4Ka0<> 傭兵「……俺らの任務は確かに、これを送り届けることだが」

村人「俺へだろ?なら見てもいいんじゃねえか」

傭兵「違う、この荷物はお前にじゃない……銀行に預けるものなんだ」

村人「……細けぇ奴だな……最終的には俺のものだろ?」

傭兵「細かいものか!そうしなければここまでの報酬が全く無くなってしまうんだぞ!」

少女「任務失敗、木箱の行方についても説明が面倒になる」

傭兵「そうだ、ギルドへの報告がややこしくなってしまう……ただでさえ色々なことがあったんだからな」


二人とも真剣な目だ。

なるほど、金が絡んでいるとなれば境遇は同じようなものだろう。


村人「……そうか」

傭兵「わかってくれたか」


だが俺は、テーブルの上の手紙の封蝋を破った。


傭兵「! こ、こら、聞いていたのか!手紙を開くな!」

村人「読んだら返してやる、適当に接着して、それをギルドに届けりゃいいだろ」

傭兵「……そ、そうではあるが……」

村人「あ、木箱の包装は自分でやれよ」

傭兵「……くそ、なんて奴だ」

少女「……」


愚痴るおっさんをよそに、手紙を読む。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/06/26(火) 20:27:29.27 ID:5V4xr3hFo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/26(火) 23:27:27.11 ID:NFRAotkDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/26(火) 23:30:06.78 ID:ugvq8dabo<> おつん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/06/27(水) 10:05:58.80 ID:mGIc+Ka9o<> 短いのに毎回気になる引きだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2012/06/27(水) 15:31:12.74 ID:2oh3Yn3AO<> おっさんがなんかかわいい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/06/27(水) 18:18:25.67 ID:3izCZ2960<> 『露店で買ったサファイアだ、喜んでいただけたかな?

 新鮮で安かったものでね、ついつい衝動買いしてしまった

 筆が荒い事を許してくれ、今はとても忙しいんだ

 そう、忙しい

 いや、すまない

 君には包み隠さず伝えるべきだったのかもしれないね

 すまない、申し訳ない事をした

 本当はもっと別の話をしようかと、いや違うね、すまない

 君がこの手紙を読んでいるということは、君は相当に大変な事に巻き込まれてしまったのだろう、まずはそれを詫びよう

 そして厚かましいが、もうひとつお願いがある

 私からの頼みだ、聞いて欲しい

 どうか、頼むよ

 これは本当だ、信じてくれ


 助けてほしい』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/27(水) 20:08:30.89 ID:BgGJQt5IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/06/27(水) 22:56:28.21 ID:8VN2hesUo<> やっとここまで来たな
もうちょっとで追いつくぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/27(水) 23:47:45.92 ID:g5qin/4DO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/28(木) 19:06:45.25 ID:Q7A0yNH+0<> 村人「・・・」


傭兵(……なんだあいつ?さっきから手紙見たまま黙りっぱなしで)

少女(さあ……)


少女(読むのが遅いんじゃない)

傭兵(さすがにあの一面を見るのに4分は長すぎるだろう)


村人「……そうかよ、そういうことだったのかよ)

傭兵(お、閉じた)


手紙を畳む。息も零れる。


少女「……あ、手紙の裏に、何か」

村人「ん?何かひっ付いてんな……なんだコレ」


上質そうな薄い紙が一枚、のり付けされていた。

どうにも難しい言葉が書いてあるようで、何が何だか俺にはわからない。


少女「それ……」

村人「あ?なんだこりゃ」

傭兵「!それは……」


“紅ギルド 任務依頼用紙”


傭兵「……依頼用紙じゃねえか、なんだってこの手紙に?」

村人「依頼用紙?」

少女「見せて」

村人「おい、勝手に取んな」


すごい力で横取りされた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/06/28(木) 19:33:49.38 ID:85cG2PcAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/28(木) 21:35:12.05 ID:hF9eD00IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/28(木) 23:13:46.56 ID:FIZj2fTDO<> 乙
色々出てくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/06/29(金) 19:10:30.51 ID:3KrbriPf0<> 傭兵「依頼用紙ってのは、ギルドで依頼を出すために必要な書類のことだ」

村人「へー、で?」

傭兵「……普通はこの用紙は、ギルドで書いてそのまま提出、そして請け負う傭兵を募るってのが普通なんだが」

村人「で」

傭兵「……いちいちムカつくなお前」

村人「続きを」


傭兵「で、まぁそれだけだな」

村人「それだけなのかよ」

傭兵「俺も詳しくは知らん、傭兵はだいたい、依頼申請の手続きなんかしたことないからな」


なるほど言われてみればその通りだ。


少女「……!ちょっと、これは何?」

村人「あ?」

傭兵「どうした」

少女「変、色々」

傭兵「変?何が」

少女「……色々」


細い指先が指し示した紙の内容は、俺でもわかる。

明らかに“依頼”と呼ぶにはアバウトすぎるものだった。


“内容……村人の護衛、及び同行

 難度……紅

 期間……彼の目的を果たすまで

 定員……1名

 資格……そこにいる最も強い傭兵の君

 報酬……君が守った平和に応じた多額の紙幣および貨幣

 備考……彼をよろしく頼む、あとはこれを提出すればOKだ


 依頼人……魔導士”
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/06/29(金) 20:36:55.26 ID:AxGjOgkwo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/30(土) 01:13:35.60 ID:qc8gKWHDO<> SPの募集か
村人VIP待遇だね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/02(月) 07:06:15.30 ID:OV0xg0AIO<> 乙
魔導士が困ってるのに村人は来るだけで危険とは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/02(月) 18:48:18.11 ID:9zM496R80<> 傭兵「……」

村人「……」

少女「……」


沈黙の妖精が別れ町を通りすぎていった。

全くもって、何が何だかわからない。

まだ理学の教科書の方が覚えが良いぜ


傭兵(資格……“そこにいる最も強い傭兵の君”、だと?)

少女(……これって)

傭兵(これって……おいおい、もしかして……おいおいおい)


傭兵(まさか……ギルドの団長が俺に直接出した任務の依頼人とこれ……まさか)

傭兵(つながっている?ここにきて?)


少女「……どういうこと」

傭兵「!」


鋭い目がおっさんを刺していた。二回り以上も年上相手に向ける目線ではない。


少女「……こういうこと?」

傭兵「な、なにがだ」

少女「私を最後の仕上げに、選んだ理由」

傭兵「……」


だがその目は、確実におっさんの動きを痺れさせていた。


村人「なあ、その紙切れは一体なんだ?説明してくれよ」

傭兵「……」

少女「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/02(月) 19:55:03.43 ID:8uzVE3BIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/02(月) 23:36:19.85 ID:3oPohTrDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/03(火) 00:30:32.94 ID:bVAd3KLzo<> おつん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/03(火) 18:20:33.01 ID:1Nkvzi7l0<> 傭兵「……俺は、さっさとギルドに帰らせてもらうぜ」

少女「! ちょっと、まだ話…」

傭兵「いいや、帰らせてもらう……俺はこの場には不釣り合いのようだ」

村人「……」


傭兵(……なんてことだ、ははっ…俺はただの、この状況を作りだすだけの“手駒”に過ぎなかったってわけだ)

傭兵(騙されていたぜ……とんでもねぇ奴……いや、とんでもねぇ奴らによ)

傭兵(付き合いきれねぇ)


少女「この依頼用紙は」

傭兵「それはお前宛のもんだぜ、少女」

少女「私?…何故?」

傭兵「さあな、ここまでの込み入った計画…そんな奴の考えることは、頭の悪いオジサンにはちょっとな」


おっさんは靴底を引きずって歩きだした。


傭兵「俺はさっさと報酬を受け取って、帰らせてもらう…まぁ、ギルドの解放がいつになるかはわからんが…そいつを受けるかどうかは自分で決めりゃあいいだろう」


少女「……」

村人「……? ?」


取り残されたのは無口な少女と、俺。


なんのこっちゃ。

俺への手紙を取り巻くこいつらの状況は、全く掴めていない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/07/03(火) 18:56:10.11 ID:JtvPiD3ro<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/04(水) 00:01:38.31 ID:mE9luMYDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/04(水) 07:16:31.11 ID:ZX4UgzrIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/04(水) 18:46:02.87 ID:KLCtTD490<> 白服(……そろそろ…村人が気付いてくれた頃だろうか?)


洞窟の中で一人、白いローブを身に纏った人間が、ひっそりと座り込んでいる。

鋭利な何かでで突き刺された痕跡のある岩肌を眺め、その人物はただ物思いに耽っていた。


フードの隙間からは、少しの間手入れを欠かしたが故に乱れた秋色の髪が、草のようにはねていた。


白服(これでうまく動いてくれればいいのだが……そう上手くはいかないか?)

白服(だがそれでも私は信じるしかない、か……なんということだ)


白服(今、動けない……何もできない自分が、とても歯がゆい!)

白服(もっと私に力があれば、あの時、彼女の命を守ってやることもできただろうに…!)


闇に浮かんだ白い歯がカリカリと軋む。

その歯は洞窟の闇を噛むには至らなかった。


白服(…まだ、私に出来ることがあるはずだ) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/04(水) 19:53:27.65 ID:aGE85smIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/05(木) 07:33:52.06 ID:Kzjp5OgIO<> 乙ェミニ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/05(木) 18:49:55.73 ID:3NYGgxNS0<> ハッ、と、何かに気づいたように、人影は肩を揺らした。


白服(……まだ、手は回せるはずだ……まだ、何か)

白服(力はなるべく、一点に集中させた方が良い……そう、調整させる、誘導するしかない)


白服(……)

白服(私は……本当に、最低な人間だ……ひどい人間だ)


白服(全ての、あらゆる人々から軽蔑され……嫌われるだろう)

白服(……また、今度は本当に、一人になってしまう)


白服(……)


白服(いや、私のことなどどうだっていい……やるしかないんだ!)

白服(もう私しかいないんだ……私しか!)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/05(木) 19:18:28.74 ID:3XeYqMwIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/06(金) 00:32:25.62 ID:H55mJfD2o<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/06(金) 20:26:44.61 ID:AUq4itZZ0<> 【雷の城 王室】


騎士「良くない報告が次々に入ってきてますね」


書簡を全て開けると、そこには分厚い紙の束ができていた。

臣下により重要なものだけ厳選させたが、それでも指ほどの厚みをもつそれらに見向きもせず、寝巻きの男は書を読んでいる。


王「そうなのか……」

騎士「ええ、一週間前からですが」

王「……そうか」

騎士「そうか、 じゃないですよね、どうして私に任せきりなんですか」


書が埃を煽り上げ、ぱたりと閉じる。


王「…俺には俺の仕事がだな」

騎士「城を脱走することがですか?」

王「おっ、雷鳥が飛んでる」

騎士「それは縁起の良い事ですね、さあ、こちらへいらしてください」


寝巻きの襟をつかむと、鎧姿の女は王を椅子から引きずりだした。


王「こ、こら……ひっぱるな!」

騎士「こうでもしなきゃ王は仕事をしそうにないので」


若き王と、若き将軍のいつもの姿である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/06(金) 20:56:24.33 ID:izPzjcvqo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/07(土) 09:06:10.67 ID:19mF5m5Ao<> 仲良しだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/09(月) 19:12:35.01 ID:RYGWwL010<> 騎士「見てください、この報告書の数を」


机の上に勢い良く束を投げると、それは机の端まで勢い良く展開された。

端に見える目が痛くなりそうなほど小さな文字が、書類達の情報量を示している。


王「すごい」

騎士「感嘆の声を漏らしている場合ではないです、これは全て凶報です」

王「……なんだと」


まず上の一枚を手に取り、題を眺める。

確かに、穏やかではない。


王「これ、見ても良いか?」

騎士「それがあなたの仕事です」

王「いや、だからごめんって」


一枚、二枚。三枚目からは手が早まり、それぞれに浮かぶ数字と日時を追った。

頭の中に足し溜めた数値に、冷や汗が流れる。


王「……」

騎士「…おわかりいただけましたか?」

王「……将軍、これは本当なのか?」

騎士「ええ、もちろんです」


あくまで冷静に将軍は肯定する。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/09(月) 19:41:31.47 ID:ifJ9aaNQo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/10(火) 01:09:44.79 ID:Wafkn3yio<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/10(火) 19:37:37.40 ID:r313pVjX0<> 騎士「……これが、今巷で起きている現状です」

王「……なんということだ」


死者、行方不明者。その総数は世界規模で見ても偶然とは言えない。


騎士「世間が、この一連の“事件”の規則性に気付いたのは一週間ほど前です……王は知らなかったでしょうが」

王「知っていたさ、だが……」

騎士「ここまでとは?」

王「ああ、思っていなかった」


重い表情が重厚な艶を放つ端由のテーブルに映り込む。


騎士「……私もです」

王「……」

騎士「…どうして、こんなことに…?」

王「……ふむ……」


“魔導士連続暗殺・失踪事件 被害者名簿”
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/10(火) 20:26:33.33 ID:Wafkn3yio<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/10(火) 21:51:16.60 ID:u91m29/IO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga sage<>2012/07/12(木) 18:51:53.74 ID:F5UHtPqd0<>
王「どうするべきだろうな?」

騎士「早急に対策すべきです、ていうか、もう対策は打ってあります」

王「おお、仕事が早いな、さすが我が将軍」

騎士「勝手に王の私物にしないでください……こちらを」

王「……」


不穏な報告書の他に、将軍の胸当てから取り出されたのは、一枚の真新しい紙である。

そこにある最も大きな文字は、“魔導師及び魔道士 緊急避難所”と踊っている。


王「これは?」

騎士「見ての通り、魔導士らを守る為の対策です」

王「…彼らを一時的に避難させ、暗殺者の凶刃から守る?」

騎士「まあ、そういうことですね」


騎士「とはいえ、魔導士ら全てをかくまえる施設はこの国といえど、そう多くはありません」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/12(木) 19:52:09.71 ID:+1n8YkWIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/12(木) 20:24:09.88 ID:ZnejFmhIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/07/12(木) 22:46:29.45 ID:hdw4W3TOo<> 乙
胸当てから取り出されるというのは…つまり…? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/13(金) 20:55:00.61 ID:eteYOAkN0<>
王「そうだな、そんな大規模な場所といえば、この城くらいしか……」

騎士「……」

王「……まて、まさか」


目を見る。いつもの凛々しい青が輝いている。


騎士「ええ、この城を」

王「ああもう、なんてことだ……正気か?」

騎士「ええ、正気です、彼らをこの城に置いておけば安全です」


満ち溢れる自信のおこぼれに与れず、王は長い金髪を掻いた。


王「城の安全はどうなる?この城の警備は、正直に言わせてもらうが、かなり緩い……警備を強化するというのか?」

騎士「はい、今後の安全面も考えて……」

王「……なんという…」


普段はごく能天気な若き王が落胆する表情は、見ていて心地の良いものではない。


騎士「…落ち込まないでください、王」

王「……」

騎士「確かに、痛ましい事態です……ですが、いずれは」

王「警備が厳重になったら脱走できないじゃねえか……」

騎士「……」


抜刀。金属の鋭い音が響く。


王「待て、短剣を抜くな」

騎士「そういえば、最近は剣の稽古をしていませんでしたね、さあどうぞ、こちらへ」

王「待て待て、今俺は剣を持ってなぁああああああぁあ!!」


今日も王室に雷鳴が轟く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/14(土) 16:06:07.37 ID:GNF6xEbIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/17(火) 20:53:44.71 ID:UzvlYXTq0<> ―――


騎士「はっ、はぁっ…それで、魔導士保護の件と併せてですが…はっ」

王「い、痛い、しびれる……謀反だ、これは謀反だ…」

騎士「はぁっ…保護しているだけでは、おそらく、埒が……あかないのでッ」


一気に息を吸い込み、吐く。


騎士「……こちらから何か、攻める策を……ふうっ、考えてるところです」

王「……攻める」


襟のこげをはらりと落として、王の顔が将軍を見上げる。


騎士「はい、攻めます、守るだけでは敵を倒せません」

王「敵?敵とはなんだ」

騎士「もちろん、今回の事件の裏で暗躍する……“何か”です」

王「何か」

騎士「はい」


ふむ、と煙混じりの咳をつき、下向きに考え込む。


王「……“何か”が何か、お前はわかっているのか?目星は?」

騎士「何もわからない、だから“何か”なのですよ、王」

王「全く尾も雲も霞みも掴めん相手だ、攻めようがない」

騎士「はい、なのでまずは……」

王「探す」

騎士「その通り」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/17(火) 20:54:59.60 ID:HjvVW46IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/18(水) 06:41:52.00 ID:MdLJi3n9o<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/18(水) 18:35:48.14 ID:vBdpquJu0<> 水のように静まりかえった王室に、一人の衛兵が駆けてくる。

全身をプレートに包んだ重装備の衛兵。彼らは常日頃から装備の重量に慣れることで、滅多に訪れることのない緊急事態に備えている。


兵士「……」


部屋をひとしきり見回した後、王の焦げた寝巻き姿を見て訊く。


兵士「ものすごい音が聞こえたのですが」

王「ああ、ただの謀反だ、気にするな」

兵士「……ああ、はい、なら良いのですが」

騎士「さがって頂戴」

兵士「はっ」


鳴れたもので、それだけで衛兵は持ち場へ帰っていった。

去る足音を見送りながら、王は息を吐く。


王「…そのうち、俺も将軍に寝首を掻かれるのだろうな……それが一番の心配だ」

騎士「ふふっ……ご安心を、私はそんなことしません」

王「ははは」

騎士「斬るときは正面から堂々と斬ります、それが騎士道です」

王「ハハハ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/07/18(水) 18:51:22.29 ID:7kGTV+Uao<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/07/18(水) 21:28:08.26 ID:EiABElMMo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/19(木) 07:25:31.32 ID:rayPyMpIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/19(木) 20:10:06.53 ID:G3wyB3gq0<>
王「探すとなると、相手のほころび……“尾”を掴む必要があるだろうな」

騎士「尾、ですか」

王「ああ」


端由に肘をつき、口元を覆う。


王「……相手は強大だ……世界中に暗殺者を遣わせ、着々と魔導士を消している」

騎士「忌々しき事態です」

王「かなり大きな人物、または組織でなければ、ここまで暗殺者を動かせないだろう」

騎士「財力的に?」

王「地位的にもな」


将軍はふむ、と頷く。


騎士「ですが」

王「うむ」

騎士「……この世で巨万の富を手にしている者など、多くありふれています」

王「それでも数は限られる」

騎士「ですが、魔導士を消すことの意味がわかりません」

王「そいつは魔導士を消すことで利益を得ようと考えているか?」

騎士「あり得ません、ここまでの大事を暗殺者を動かすことで成す財力、資本で言えば頂点にあるはず」

王「ではそいつは頂点に立ち、しかし何故?魔導士を消す?」

騎士「……」


王「謎だな」

騎士「謎ですね」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/19(木) 21:06:20.18 ID:qT2GqC28o<> 乙
こう繋がってるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/20(金) 19:01:30.60 ID:zikkeRTJ0<>
王「動機は俺にもわからん、しかしそいつを突き止める方法が無いわけじゃない」

騎士「暗殺者を巣穴まで追跡する」

王「その通りだ、聡いな将軍」

騎士「無理です」

王「え? 何故?」

騎士「それができないから“暗殺者”なんですもの」

王「……え?なんだそれ」


端由の椅子に腰を落とし、将軍も肘をついた。


騎士「奴ら暗殺者は凄腕の隠者です、追跡しても何里も振り回された揚句に見失うでしょう」

王「タフだなぁ」

騎士「ええ、既に城の兵に追跡させようとしました……」

王「振り切られた?」

騎士「いえ」


騎士「それどころか、相手を見つけることすらできませんでした、と」

王「……尾を掴むもなにもないじゃないか」

騎士「ええ、忌々しき事態です」


追跡にまでこぎつけられない騎士。

暗殺者とは、そういうものだ。


騎士「……しかし、我々は攻めなければなりません」

王「……」

騎士「でなければ、多くの魔導士達が……いえ、全ての魔導士達が、」

騎士「……この世から、消えてしまいます……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/20(金) 20:02:21.56 ID:rJdugw9IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/07/21(土) 21:43:58.31 ID:ofGgEEkgo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/23(月) 13:42:27.96 ID:+Ea7xwaIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/23(月) 19:56:20.59 ID:ZTtF6R700<>
咳きこみそうになるほど埃臭い、どこかの地下。

闇の灯りをわずかに反射する黒の大理石の上に、更に暗いフードを被った者が一人。

その者を覆う外套は、深い藍。黒よりもより闇に近い濃紺である。だが、闇の中でそれは黒にしか見えなかった。



黒衣「おい、今度はなんだよ」


フードの奥の表情は、長く垂れた前髪でうかがえない。


黒衣「こっちはまだ、ターゲットが2人残ってる」


その者は影の向こうに潜む何かに言った。

口調は感情を露わにはしていないが、怒りの色が薄く滲み出ている。


大理石の最も深い位置に座す相手は答える。


??「変更だ」

黒衣「変更だと?理由を言え」

??「ジェミニがターゲットを変更し、“狐”もそれにあわせて変更となった」

黒衣「あのクソ野郎が変更?……チッ」

??「ジェミニの手にも負えないターゲット、だそうだ」

黒衣「どうせポカしただけだろ?ただの言い訳だ」


丁寧なことに縁のない奴だ、と付け加えて悪態を零す。


??「その変更を鑑み、ジェミニのような、ターゲットとの相性も考慮することとした」

黒衣「丁寧なこった、間違いなく他にはねえ依頼人だよ、アンタは」

??「お前のターゲットも同じく変更となった、次は砂嵐も吹かない穏やかな地域にしてやる」

黒衣「……で、次は誰だよ」

??「本来ならばこれは“狐”に回す仕事だったが、」

黒衣「さっさと言え、オレを待たせるな」


黒の前髪の向こうの目が睨んだ。

わずかに見えたその双眸は、たとえではなく、まさに“黒曜石”だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/23(月) 21:08:15.26 ID:kmjLzjcDo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/23(月) 21:08:51.86 ID:cvjsqeozo<> 乙
女の記者まだかなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/24(火) 06:29:59.68 ID:ypQktTAjo<> 青の国はここに絡むの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/07/24(火) 08:14:57.79 ID:rNPIfpUUo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/24(火) 18:31:04.64 ID:f7/bLCen0<>
??「“魔剣士”を殺せ」


一枚の紙切れが無風の風に乗り、暗殺者の手元で翻る。

乱暴に受け取ったその者は、興味なさげにそれを見て一言。


黒衣「今度は魔導士じゃないのか」

??「ああ」


紙の半分に描かれた白黒の乱暴なショートスケッチ。

暗殺対象の俯瞰が描かれた体格を見るに、研究者肌には見えない。


黒衣「趣向を変えたか?」

??「詮索は無用だ」

黒衣「気になるね」

??「貴様も師匠に似たな」

黒衣「あ!?」


一歩踏み出し、結晶が割れる音がした。

だがこれ以上は怒りに任せてはならない。踏み留まった。


??「……そうだな、こいつは確かに魔剣士……魔導士ではない」


??「だが殺す」

黒衣「へぇ」

??「少しでも“可能性のある異端”は潰さねばならない」


含めた言い方に突っかからないのは職業ゆえ。


黒衣「で、場所は」

??「説明しよう、あまり近場ではないが……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/24(火) 19:08:30.57 ID:14wtHhCIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/25(水) 00:18:07.63 ID:jTKVUE9IO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/25(水) 18:26:30.98 ID:BlPC/bB30<>
少女「はぁ」

“紅ギルド 任務依頼用紙”


用紙が息に倒れる。


少女(不可解な任務、敵襲、そして、それらを全て予期していたかのような……これ)

少女(依頼用紙の内容は、この男を守ること……)


横で辺りを見回す彼を見やる。

視線は泳ぐが、注目しているというわけではない、無気力な眼差しだった。


少女(……何よりに気になるのが……この)

村人「“平和に応じた紙幣および貨幣”、“難度紅”か」

少女「!」


興味がこちらに向いたらしい。

上から楽々と覗き込む男に、思わず一歩退く。


村人「よう、なんなんだよ、この“難度紅”って」

少女「……それは」

村人「こっちの、平和に応じた紙幣および貨幣〜ってのはいかにも意味不明って感じだが、まぁ多分歩合制とか、そんな感じなんだろうが」

少女「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/25(水) 20:21:14.07 ID:gojhwxuIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/26(木) 18:56:36.92 ID:TekFnmvf0<> 少女「ここのギルドのシステムについて……知ってる?」

村人「ん?いや、さっぱり」

少女「……任務には難度があって、この“紅”っていうのは、そのひとつ」

村人「へー、どんくらい?」

少女「最高」

村人「なるほど」


淡白な口調の女だが、わかりやすい答えは好感触だ。

そんな彼女に用紙を差し出す。


少女「?」

村人「返す」

少女「え……でも、これは私のものじゃない」

村人「少なくとも俺のでもない、見てみろよ、これを」


わかりやすく指で示す。黙して促す“読んでみろ”に、少女は面倒くさそうに行を読み上げる。


少女「資格、そこにいる最も強い傭兵の君……」

村人「お前のことなんじゃねーの?これは」

少女「……さあ」

村人「まあ、好きにすりゃいい」

少女「好きにすりゃいいって……」


少女「……あなたはどうするの」

村人「あ?俺か?」


頷く。


村人「本を買う」

少女「……それで」

村人「さあな」


村人「ちょいと、人探しをするかもな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/07/26(木) 20:34:18.01 ID:WQVcloaTo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/27(金) 06:40:09.74 ID:yyzor78eo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/07/30(月) 19:13:56.19 ID:hbw5TAXH0<> 少女「人探し……」

村人「こいつだよ」


手元の紙を振る。


少女「手紙の、主?」

村人「ああ、ちょいと、お困りのようだからな」


その深刻さといえば、きっと今までにないほどのトラブルなのだろう。

形振り構わない奴の姿を見てみたい気持ちもあるが、それ以上に手助けしなくちゃいけないだろう。

サファイアも貰ったことだし。


村人「おい、おばちゃん、この黄色いリンゴ、2つくれ」

「あいよー、24YENだ」

村人「たけえ、まけろ」

「23YEN」

村人「サンキュー」


投げ渡す小銭達を、深い皺を顔に刻んだ老婆がざるで受け止める。

ざるの中身を訝しげに睨むその露店から離れ、俺たちは歩き始めた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/30(月) 19:29:12.65 ID:4qHNvMXIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/07/31(火) 18:40:18.09 ID:ZePEes6U0<>
少女「……その人、一体何者」

村人「あー?何者って……そうだなぁ」


ただものではない事は確かなんだが、どう表そうか。


少女「あなたが行くというのなら、私も行く」

村人「……」


リンゴをかじる。


村人「……行ってどうすんだ?」

少女「任務を遂行する」

村人「好きにすりゃあ良いけど、本気で言ってんの?お前」

少女「ええ」

村人「まだまだ小さいガキじゃねーか、家に帰ってリンゴ食ってな、ほれ」


あまったリンゴを1つ投げる。子供は片手で受け止めた。


少女「……どうも」


少女「でも、私はついていく」

村人「目的もよく見えてない、自分で言うのもなんだが、結構無茶苦茶な旅だぞ、いつ家に帰れたもんか……」

少女「私には家が、無いから」

村人「……」

少女「あと、仕事も……近頃はなかなか請け負えないの」


何の煽りが俺の方に来たのやら。それとも、ここまで読んで奴は誘導したのだろうか。

後者である可能性が決して低くはないのが怖いところだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/31(火) 19:25:57.39 ID:yYOounhIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/01(水) 22:15:43.54 ID:xS9HV1lm0<>
黄色いリンゴにかじりつく。

見誤ったか、まだ青い味だ。ここいらのリンゴの味はたかが知れているとはいえ、それなりの外れくじを引いてしまったらしい。


少女「ねえ、あなたの名前は」

村人「そこに書いてあんだろ」

少女「……“スバル”」

村人「ああ」

少女「スバル、あなたについていく」

村人「そうかい、別にいいぜ」

少女「そしてあなたの目的を果たすまで、私はあなたを守る」

村人「ご自由に、いつになるかは知らないけどな」

少女「……」

村人「……なんだよ」


表情の薄いこいつの無言からは、どことなく威圧を感じてしまう。


少女「あなたの目的って……?」

村人「あ?決まってんだろ」

村人「この手紙を送ってきた奴を探し出して」

少女「探し出して」

村人「一発文句言う」

少女「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/01(水) 22:18:00.87 ID:uttyPM1wo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/02(木) 06:28:52.96 ID:efxes97xo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/02(木) 22:12:38.08 ID:Mm+eWNpQ0<> 別れ町の宿屋はそれなりに人もいるようだ。

受付に座る眼鏡の女性が無言の威圧感を放っているためか、狭いロビーの客達もおとなしく縮こまっている。


店員「いらっしゃいませ」

村人「一泊、一人」

店員「かしこまりまs」


入り口が大きく開き、玄関から陽が差し込んできた。


少女「待って」

村人「……2人で」

店員「お部屋はご一緒でもよろしいですか?」

村人「ああ」

店員「…ベッドは1つの部屋しかご用意できませんが」

少女「構わないわ」

店員「……はい、かしこまりました」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/02(木) 22:36:14.43 ID:PhgHPBzgo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/03(金) 00:04:39.86 ID:tbXEjCEDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/03(金) 06:44:02.49 ID:jtDTN9MSo<> 乙ん

これからラブコメ⁈…ないかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/08/03(金) 20:14:37.44 ID:YJaVxv8Do<> どっちが床で寝るのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/03(金) 21:03:43.59 ID:RcXUQH3e0<>
ドアが閉まる。

一人分としては十分な広さの部屋。

主人の性格からか、安くとも綺麗に整えられた室内には、目立つ汚れは一つもない。

心おきなく鞄を置けるというものだ。


少女「どうして置いていくの、それと一人って」


一緒に部屋に入ったこいつも腰の皮ホルダーを外し、荷物の上に投げ置いた。

双剣は結構な重量なためか、大きめの音を立てて落下する。

商売道具だろうに、乱暴な奴だ。


村人「悪いな、正直忘れてた」

少女「困る」

村人「すまん」


他人の事なんか気にかけずに生きてきて、随分と経つ。

思いやりが万人に共通する時期など、いかに進んだ文明だろうが5歳が限度だ。


大人になった俺が他人を再び気遣えるようになるまでには、かなりの時間と俺自身の努力が必要だろう。

つまり俺はもう手遅れということだ。


村人「あー、眠い眠い、今日は疲れた」

少女「……」


固めの毛布すら心地良い。

他人の温もりのない、ひんやりとした生地には慣れないが、次第に身体に馴染むだろう。


少女「……あなたは、剣士?」

村人「ただの“村人”だよ」

少女「ただの村人が“魔術”を?」


魔術…というと。つまりどういうことだ。


村人「オイ、お前今日の、どこまで見てた?」

少女「……少し」

村人「じゃあなんだ、あの岩陰から俺らの方に走って来た時よりも前に……」

少女「……ごめんなさい、戦っているところ、少し見てた」

村人「なんて奴だ、加勢しろよ……」

少女「……ごめんなさい、見とれていた」

村人「あ?」


少女「魔術……私は、使えないから」

村人「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/04(土) 00:35:55.01 ID:9JRZa3z6o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/04(土) 00:57:00.48 ID:IqAvU471o<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/08/04(土) 11:20:38.77 ID:0KpLzVtlo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/06(月) 18:56:51.39 ID:A6tw7uwF0<>
村人(魔術が使えない……ああ、そうか、それが普通なんだよな)


知らないわけではない。魔術は本来、俺なんかよりも頭の良い、日々努力を重ねた者だけが行使できる理学技術だ。

魔術を使える人間と、使えない人間。

差別区別というわけではないが、その大きな違いにコンプレックスを持つ奴は少なくない。



少女「魔術があれば楽そうね、狩りも」

村人「ああ……狩り?」

少女「そう、狩り。私は狩人だから」

村人「狩人?その歳で?」

少女「……何、その目」


見たところ十なんぼ。体は都会育ちと言っても良いほど華奢。

いでたちは動きやすく狩人といえなくも無いが、山は歩けないほど無防備な露出の多さ。


少女「馬鹿にしないで、これでもプロ」

村人「プロ」

少女「そう、もう何年もこの生活を続けている」

村人「へぇー……大変そうだな」

少女「……それなりに」


この年で狩人。

にわかには信じられないが、間近で見た剣技は紛い物ではない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/06(月) 19:21:40.03 ID:BpqxsmrIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/06(月) 19:32:43.80 ID:vZVPX0xIO<> 乙
村人も見た目で判断するやつかいww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/07(火) 14:34:11.43 ID:phHhP46Eo<> 紅髪の話ってどっかで見れない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/07(火) 18:48:38.99 ID:pvbyqZKH0<>
少女「火の魔術だけでも使えれば良いんだけど……」

村人「習えば良いじゃん、5年もすれば使えるようになるんじゃないか」

少女「……」


唇に指を当てて、考え込んでいる。


少女「やっぱりいい」


どっちなんだよ。

途切れた会話をくっつけなおす気力も無く、ベッドの上に倒れこむ。


村人「……だるー…」

少女「……」


暖色に近い灯り、傍らで俺の買った本を読む少女。

ページをめくる音がまぶたを重くする。


村人「あー眠い……何も考えたくないくらい眠い……」

少女(何この本……難しい)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/07(火) 18:52:51.88 ID:Iq/Jz9pIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/08(水) 07:25:10.34 ID:QhPNH48IO<> >>491
暇つぶしか七罰の
父「メリークリスマス!」◆
を探すと女記者や紅髪、ジェミニ等の関連作品が見つかる
どれも珠玉の名文 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/08(水) 21:38:31.45 ID:uLghTFN20<> 少女(太陽系……太陽、水星、金星、地球、火星、木星、土星……)

少女(…こんなに大きさが違うのね)

少女(月はここまで小さいの…)

少女「……ん」


村人「くかー……すかー…」

少女「……寝てる」


少女(……ちょっと待って)

少女(私はどこで寝ればいいの?)

少女(……どうしよう、考えてなかった)


村人「くかー……くかー……」

少女「……」


少女(雑魚寝……どうして私が)ゴロン

少女「……」


少女(おやすみなさい、お母さん)

村人「くかー……くかー……」

少女(……うるさい)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/08/08(水) 22:33:29.23 ID:9Yl9tojDo<> 乙
村人はそこらの主人公とは違うなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/08(水) 22:46:13.29 ID:EadAM1zno<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)<>sage<>2012/08/08(水) 22:46:59.71 ID:/ORiumpXo<> >>494
記念碑のやつとか見れない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/09(木) 06:25:05.44 ID:Y0rX6XSao<> >>498
タイトルggr <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟県)<>sage<>2012/08/09(木) 08:02:26.20 ID:REJgRh3go<> >>499
女「・・・記念碑・・・か」がggrても見れるとこが見つからない
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/08/09(木) 08:07:40.19 ID:HOqfYS2Io<> >>500
それ暇つぶしにしか無かったやつだろ?
そんで、暇つぶしは何か知らんがジェミニの人の項が消えちゃってるんだよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/08/09(木) 10:31:44.76 ID:pYvtuR7oo<> 乙乙!
少女の方が雑魚寝かww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/09(木) 18:05:35.09 ID:x0GzmHYIO<> 確かに暇つぶしの記念碑は見れないな
せっかく面白いのに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/09(木) 19:16:40.36 ID:7ZE3Uf2IO<> まとめの話題は荒れる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/09(木) 21:00:38.75 ID:ACbr0wo10<>
あっという間に夜になった。

そう、何も知らずに生きる者にとっては、普段と変わらない一日だっただろう。
 

過半数が普段を謳歌する今日は、懸命に生きようとしていた者たちにとっては、それはとても長い1日であった。

今、水辺で休んでいる彼女と彼も、その内の人間だ。


地味な色のケープで体を覆い、露店の古着を羽織った二人のシルエットは、うまく闇に溶けている。


生徒「うう、疲れました……」

男「ああ、そうだな」


二人は逃げ、隠れていた。

遠距離馬車は使わず、船には乗らず。可能な限り自らの足で逃げていた。

漠然と思い浮かんだ経路であるものの、それは見えないながらも、図った通りの成果を上げた。

いくつかの地点で今夜の待ちぼうけを食らっている暗殺者数人の退屈が、その証明である。


生徒「もう、今日は歩けません……ごめんなさい……」

男「いいんだ、今日は休め……ゆっくり休んでいい」


覆う布の上から脚を撫で摩る。


辺りに光と人影は無く、水辺で虫が鳴くだけの、真っ暗な場所。

静かな風に重く月明かりたゆたう川が、少し不気味だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/09(木) 21:19:44.03 ID:0aAp4M4So<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/08/09(木) 22:55:33.04 ID:pYvtuR7oo<> 乙乙…? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/09(木) 23:12:08.63 ID:x0GzmHYIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/08/10(金) 09:26:35.20 ID:E6hDkwaro<> 最近、突然別のSSをコピペするあらしがはやってるのか・・・?
どちらにしろ、死んでいいよそういうアホは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/10(金) 10:13:03.30 ID:hPJ7r5c3o<> ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/10(金) 20:02:50.43 ID:DcluSRzIO<> 505 のことなら、場面が変わっただけじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/10(金) 20:06:05.27 ID:hPJ7r5c3o<> >>118の続きだね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/10(金) 20:36:53.46 ID:iaNsPjZ9o<> >>509
>>505の事ならこれであってるから大丈夫 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/11(土) 09:47:19.01 ID:i9pd2Jx/o<> >>509
勘違いは誰にでもあるさ!
気を取り直して一緒に支援しようぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/16(木) 22:52:20.68 ID:bD74RXoIO<> とりあえず>>1はトリップつけた方がいいよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/17(金) 19:33:10.21 ID:Vp6mKuzIO<> >>1は酉あるよ
ただ、創作家ってのは気まぐれなもんさ
そこはファンなら分かってるさ

>>505が>>1の文に読めないなら、ROMが絶対的に足りてない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<><>2012/08/18(土) 10:47:02.10 ID:T7ovCDVYo<> まだー? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/08/18(土) 13:15:11.08 ID:a0NGiXK5o<> はぁ、来たかと思ったら埼玉かよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/18(土) 21:58:17.08 ID:GDvRgR3q0<>
生徒「……やっぱり私は、もっと早くに学園を出ていればよかったんです」

男「……思い詰めるな」


震える頭を擦る。


生徒「だって、だって私のせいで」

男「お前は自分の勉強をしてた、それだけだ……」

生徒「……」
 
男(……これからどう逃げるか……どう、守るか)


目を赤くした少女の隣に寄り添う青年は、首を傾げて悩んだ。

櫛牙から零れた一総の髪が目に垂れる。


直そうと考えた。が、やめることにした。


これからはもっと過酷な逃避行が続くだろう。

休める時に最大限休んでおく必要がある。


目を閉じて考える。

 
この小さな少女に、これからの生活は耐えられるものだろうか。

自分にとっても初めての護衛、彼女を守りきれるだろうか。
 

彼の苦悩はまだ、始まったばかり。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/19(日) 00:27:57.92 ID:hWrj7w3DO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/08/19(日) 01:14:13.46 ID:9sQj1jyuo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/20(月) 07:04:50.51 ID:cwnEtCZio<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/20(月) 20:11:44.67 ID:u/jYlFx30<>

黒い男「ふー、まったくミステイクだ、ジェミニとしたことが」


街灯のない暗い道をゆく大男。

全身を包む漆黒に対し、フードで覆った顔からわずかに覗く赤と青の仮面が、やけに浮いていた。


黒い男「まさかあの時、スクールの廊下ですれ違った奴がメインのターゲットだったとは」

黒い男「シット、ここまで探すはめになるなら、あの時すれ違い際にキルしとけばよかったな」


ひゅんひゅんと空気が鳴る。

歩む男の両腕が、幻影の相手を殴る仕草だ。


赤と青模様が入った不気味な仮面以外は闇に溶けるが、浮き彫りとなる笑みは不気味さをかもしだしている。

奇妙な者の道中だが、周囲に人はいない。

居たならばそれはそれで、彼の素性を知っていようとも何ら荒立てず、彼を避けるのだろうが。


ともかく彼は一人。それはこれからもずっと変わらない。


黒い男「さぁーて、ターゲットまであと何キロメートルかな?」


砂利を踏む音が、蛇行のようにじわりと近づく。

一歩一歩と、確実に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/20(月) 20:39:56.04 ID:8lbE/6fNo<> 久々にジェミニきたな
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/08/20(月) 22:13:15.28 ID:jdd36Yzuo<> 今日これだけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/08/21(火) 07:35:36.62 ID:Y8QGov+Ro<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/21(火) 20:58:12.73 ID:unb/ZBLe0<>
村人「ん〜……」

村人「ダイア……ダイア」

村人「くっ……くそ、また偽物……!親油性が……!」


村人「ち、違う!それは俺の……!か、返せ……」


村人「返せッ!!」


跳ね起きると、「わ」という短い叫びと共に、ちっこい女は床の毛布に倒れた。


村人「あれ?」

少女「な、何……?」


うなじを掻いて部屋を見回す。見慣れぬ木造の静かな一室だった。

そうだ、ここは宿だ。泊まっていたんだった。


相変わらずの寝起きの悪さに平常を感じ、安心する。

そして何よりも、ああ、夢で良かった。


村人「ふー……」

少女「すごい……うわ言のように呟いていたけど」

村人「あ、ああ、なんでもない……すまん、悪い夢を見てただけだ」

少女「……」


顔を掌でゆする。

顔と一緒に、夢の後味の悪さを漱ぎにいくか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/21(火) 21:11:20.91 ID:80VGHjHIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/08/21(火) 21:35:54.86 ID:5kQFRmIuo<> キター
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/22(水) 19:57:26.68 ID:jEhOSrRK0<>
村人「ん〜っ……」


窓から溢れる陽光をいっぱいに受け、伸びる。

今日もイカロスだかマリアだかは、煌々と天上で活動しているのだろう。

頭の真剣なところじゃ、神様なんぞは一切信用してないがね。


少女「とても長い時間寝ていたわ」

村人「んあ?」

少女「もう朝よ」


そういえば、と窓の外を見る。目線の奥、蒼天の果てに光源は昇っていた。


少女「もっと開けよう」


更に雨戸を開けると、光はより一層部屋に入り込み、網膜を刺激する。


村人「うわ、まぶし」

少女「7時くらいね……寒くもないし、出かけるには丁度いい時間だわ」

村人「ああー……そうだな」


暗い街道は歩けない。長旅を「いざ」と始めるならば薄明るい夜明けが一番だが、今からでも十分だろう。

これからは寝起きの悪さも改善する必要があるだろうか。


村人「あれ?お前はどうした、寝てたのか?ベッドは……」

少女「……寝たわ、床で」

村人「……すまん」

少女「別に……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/22(水) 22:33:46.04 ID:5c1Nn+sDO<> 乙!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/22(水) 22:55:02.17 ID:4BCMzANxo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/23(木) 07:05:14.21 ID:LEEkfScIO<> 乙
少女たんペロペロ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/23(木) 20:30:40.03 ID:dji38qMQ0<>
村人「ん、ん〜、明るい時に見ると、なかなか良い部屋じゃねえか」


明らかに不機嫌そうな目を逸らさせる。


少女「……そうね、木製が主体の宿は居心地が良い」

村人「木製じゃない宿なんてあるのか」

少女「あるわ、沢山……練り石、絨毯、草の宿なんていうのもあったわ」

村人「うげ」


草で編まれた円錐のテントをイメージする。

隙間風に、耳元を煩わしく歩く虫。最悪の気分だ。


少女「どれも居心地は悪くは無かったわ」

村人「あーあー、やだね、俺は木製に限る……これから多くの宿に泊まるだろうが、俺は木の宿以外はお断りだ」

少女「……わがまま」

村人「ぁあ?」


小声で何かを言われた気がするが、聞き取れはしなかった。


少女「ねえ、あなたは旅をすると言ったけれど」

村人「ん?言ったな」

少女「どこへ行くの?」

村人「……どこ、って」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/08/23(木) 20:55:49.87 ID:pR9n+NXzo<> 乙乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/08/23(木) 22:11:00.04 ID:ocXN5DvOo<> 乙
全然話進まんな完結はいつになるのか
急かしてるわけじゃないが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/08/23(木) 22:45:54.64 ID:N5peinOgo<> この作者の作品は気長に待つもんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/08/23(木) 22:55:31.21 ID:ocXN5DvOo<> もうすぐ一年だしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/24(金) 06:57:45.85 ID:xUgHE98IO<> >>1はマイペースなお人
毎日投下が習慣化してくれれば未完にならないから支援しようず
一投下、一投下クオリティ高い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/08/24(金) 16:36:03.88 ID:dFGLAHGX0<> ほう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/27(月) 19:20:40.75 ID:MBggc25S0<>
少女「あなたは人を探しに行くと言った……それはもちろん、その人の居住地を目指して、という意味?」

村人「いや」

少女「違うの?」

村人「ああ、俺はそいつを良く知っているが、どこに腰を据えているかは知らん、手紙にも送り先なんてものは書いてなかった」

少女「不親切な手紙ね……探しようがないわ」

村人「そうだな……俺以外には、なんだけどさ」

少女「……?」


手の上で石を転がしてみせる。


少女「これは昨日の」

村人「ああ、サファイアだ」

少女「……これが何?」

村人「実はこの小さな石ころが、奴の居場所を示している」


少女は唇に指を当てて考えた。


少女「……まさか、産出地?」

村人「その通りだ」


傭兵も馬鹿ばかりではないようで助かる。少しは頭も回ってくれないと、一緒に行動するのは疲れるのだ。


村人「俺が知る限り、この斑に黄がかったサファイアが採れる国はそう多くない」

少女「……?」

村人「水の国だな、そしてこの石が安く大量に出回る地域となりゃ、さらに場所は限定される」


村人「目指すは遥か遠くの島国、水路街付近の沿岸部……そこの洞窟郡だ、詳しく知りたければメンシン著の“水と鉱石”を読むんだな、お勧めだ」

少女「……」

村人「さあ、出発するぜ!道のりは長い、旅の準備を整えるぞ!」

少女「……あ、う、うん」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/08/27(月) 19:47:53.09 ID:bUQYWToYo<> 村女… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/28(火) 07:10:55.18 ID:dh+P/i0IO<> 乙ん
冒険の話だからなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/28(火) 19:54:17.58 ID:bvhWtoFW0<> 【別れ町 市場】


少女(この男は何者……?)


村人「おいおっさん、このヒバシ石が50YENはねーよ、20に負けろ」

商人「ああん?ケチつけんじゃねー、この店にゃ掛値はねぇ」

村人「嘘だね、こいつはひどく中身が薄い……赤岩が詰まってるようじゃ価値は半分以下だろ」

商人「何を根拠に、冷やかし値崩しなら帰んな」

村人「いーや、帰らねえ、こいつをよく見ろ、外側に付着した赤岩のかけらだ」


少女(……私はこの男の護衛を、何者かに頼まれた)

少女(……誰が依頼した?この男の行き着く場所は?……同じ?)

少女(つまり)

少女(私が……ギルドで受けた木箱の護送任務を請け負った時点で、全ての運命が決まっていた……ということになる)

少女(……)


少女(ということはまさか、盗賊も、そいつが回した刺客……?)



村人「おら行くぞ、次は食糧だ、メシがなきゃ飢え死にしちまう」

少女「! そうね……いくらで買ったの?」

村人「15YEN」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/08/28(火) 21:06:35.32 ID:6nEjId4Io<> 商人良いやつだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/08/28(火) 21:12:00.21 ID:C3/1A1luo<> 50が15とかしょうばいにならんだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/28(火) 23:00:02.46 ID:zxrT4atIO<> >>546
こういうのは勉強料とかでまけてもらえるとかなんとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/08/28(火) 23:33:23.45 ID:MakFIB5So<> これ元々どっかに掲載されてたの?
パクり? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/28(火) 23:35:25.70 ID:9l7+MNkCo<> 長屋は黙ってしんどけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/28(火) 23:38:40.98 ID:X+KANPgXo<> もともとSSまとめサイトの掲示板で連載してたけど掲示板丸ごと消えたから少しずつ加筆修正してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/29(水) 07:33:55.59 ID:fu3kM5zIO<> 無礼な質問に丁寧な回答でリスペクト <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/08/29(水) 08:03:14.08 ID:MXiQHSqko<> 他の掲示板でやってたけどそこが潰れてこっちでやりなおしてんの <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/08/29(水) 19:23:11.22 ID:CppyIENK0<>
【別れ町 中央―広場】


買い物を終えた旅人やら傭兵やらが集まる広場は、疎らなグループがいくつかあり、混雑しているといえば混雑していた。

人数の割には掻き分けやすい人並みを潜り抜け、俺たちも荷物を整理する事とした。


町の中では綺麗な部類のタイルに袋たちを置き、息をつく。


村人「いやー買った……こんなに買い込んだのは引きこもりを決心した3年前以来か」

少女「冬眠」

村人「そんな感じだな」

少女「……自堕落」

村人「あ?今なんて言った?」


今からこの大量の荷物を整理するわけだが。


村人「……干し肉燻製、保存豆、ヒバナコショウ、水筒、安物のケープ、ベルトポーチ……」

少女「これでは少ないわ」

村人「何、これでもか?十分過ぎるくらいだろ」

少女「旅路では何が起こるかわからないわ、災害だって起こるかもしれない」

村人「んなもん起こらねぇって、モアの懸賞で1等取るよりあり得ないね」


少女「私は今までに6回くらい、そんな事故に遭遇して路上での足止めを食らった」

村人「……マジで?」

少女「できれば野辺でキャンプなんてしたくはないけど、キャンプ並みの装備でなければ危ない、孤立する」

村人「……そうか」


それを聞いちゃ弱るもんだ。備えってのは好きではないんだが……。

長旅とあれば、危険も増すだろう……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/29(水) 19:27:43.15 ID:EuGtms1IO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/29(水) 22:52:58.93 ID:6TSMzCoRo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/08/30(木) 01:44:31.93 ID:rMHSQDNzo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/08/30(木) 01:47:43.06 ID:Kj0Sw1L2o<> 安定して面白い
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/30(木) 03:13:14.18 ID:Rzg+pMEIO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/08/30(木) 19:15:33.13 ID:5fn8CPVv0<> 少女「できればこの他にも厚手のローブ、ナイフ、砥石、縄……」

村人「待て待て」

少女「?」

村人「そんな金がどこにあるんだ、俺はもう天体の本買っちまったし一文無しだぞ」

少女「私が買う」

村人「……買える金があるのか、その小せえ鞄に」

少女「ええ、昨日ギルドで報酬を貰ったから」

村人「ああ……」

少女「報酬は高かった」


一体どれほどの額だったのかは不明だが、今日の買い物を見るに、なかなかのものらしい。


少女「もう一度買いに行きましょう、一緒に品物を見て、あと」

少女「できれば値切って」

村人「お前は俺をケチな奴だと思ってるな?」

少女「……違うの?」

村人「そうだけどさ」

 
ガキの割にはしっかりした奴だ。俺がこいつくらいの歳の時はひどいもんだったが。


少女(あ……こっちの干し肉の方が安かった)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/30(木) 22:56:19.82 ID:N1bXV2mXo<> 少女逞しいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/08/31(金) 07:30:58.25 ID:5rkr11Dao<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/31(金) 07:37:58.75 ID:QE0mpLcIO<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/01(土) 22:49:36.56 ID:+tiF/E5y0<>
村人「……よし、こんくらいで十分だろう」


今度こそ買い物は終わりだ。これ以上詰め込んでは、俺の肩がどうにかなってしまうだろう。


少女「待って、あとカンテラを買わないと」

村人「俺を殺す気か」

少女「え?」

現時点でも買い過ぎなくらいだというのに。


村人「このでかい鞄を見ろ、今にも張り裂けそうだろうが」

少女「そうでもないけど」

村人「そうでもなくても重いんだよ!肩が潰れる」

少女「……そんなに?あまり買ってないはずだけど」

村人「お前にとっての買い物って一体どんくらいの規模だよ!いいから持ってみろ、両手でやっとだぞ!」


肩に掛けた大荷物を地に下ろす。

タイルに砂埃を吐いて、中の荷物はずしりと垂れた。その姿からでも、重さは伺い知れようというもんだ。


村人「はっ、はっ……さすがに買いすぎだろ……無尽蔵な金もそうだが、よくこんなに買いたいと思えるもんだ」

少女「そんなに重かったの……?」


女は肩掛けに手を伸ばし、ぐいと引っ張った。


村人「!」


それは、俺が馬鹿であるかのように、スイと持ち上がったのだ。


少女「……そうでもないけど」

村人(こいつ……片手で持ってやがる)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/02(日) 01:33:42.30 ID:d6sW9x/lo<> 村人が運動不足…ではないよなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/02(日) 10:24:26.87 ID:mEJe4nzeo<> 両方じゃないかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/03(月) 19:57:25.83 ID:ECEBcieX0<>
少女「……重かったら私の方に分けていいから、大丈夫よ」

村人「!」


体全身がぴくりと硬直した。この感覚はまさにあれだ。

村の小僧に喧嘩を売られたときの、一瞬の血流の加速だ。


村人「……いいや」

少女「?」

村人「こんな軽装備、全っ然いけるから」

少女「え?でもさっき……」

村人「ジョークだ、お前が片手で持てて俺の双肩が背負えないはずがない、カンテラだ?バッチこいだクソったれ」


乱暴に荷物を奪い、背に乗せる。

型に食い込む布の面積が広いだけ、良しとしよう。


少女「そう……」

村人「おうよ」


少女(……私はそういう体質だから、気にしなくてもいいのに)

村人(俺がこんなチビより腕が弱いわけがないだろうが……仮にそうだとしても、認めたくはないぜ)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/09/03(月) 21:23:01.43 ID:YPJYJNiTo<> 乙
どっちが小さいかわかんねえな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/03(月) 22:07:06.64 ID:5w13WyuEo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/04(火) 06:40:11.22 ID:Tgyd1FK2o<> 村人ちっちぇえwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/04(火) 18:59:17.68 ID:7JRac9RJ0<> 少女「石灯式以外のカンテラで安いものは?」

商人「んー、中古で良いならこっちの理学式のものがあるが……」

少女「式を使うの?」

商人「そりゃちょっとはね、型も古いし融通は利かんよ、ある程度使えないと駄目だな」

少女「……じゃあ石灯式のもので何か良いものは……消えにくいものがいい」

商人「持続時間てことかい?そうだな、こっちのカンテラなんかは特に持ちが良いと思うが……しかし、ちと高い」

少女「見せて」


村人「……ふぁぁあぁあ……女の買い物は誰でもなげーんだな……」


俺がすることといえば、荷物持ちくらいのものだった。

買いたいものはこいつの頭の中で全て決まっているらしく、財布も握られているときた。

不思議な構図ではあるが、わざわざ他人の旅についてきて、実費で荷物を揃えようという懐の広さには感謝しよう。

あいつの依頼には、それ相応の見返りがあるということなのだろう。


村人(……そうだ、家のカギをかけるのを忘れてたような……どうするか)


暇をもてあましてふと気になるのは、村の事だ。


村人(それに村の奴らに出かけてくるとも言ってないし……)

村人(村女は心配するだろうな……村長も……)


思えば本を買いに降りただけの、気軽な下山だったのだが。

俺も俺で、随分面倒な目にあっちまったものだ。


村人(……ま、しかし、この山をまた登り直す時間は無い)

村人(いっか、別に)


わざわざ報告のために山を登る気力はなかった。


少女「ねえ村人」

村人「んあ?」

少女「……出番」

村人(……いつの間にか、値切りが俺の仕事になってやがる)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/09/04(火) 19:36:18.67 ID:APjZZtGVo<> 村女死亡フラグじゃね?やだー
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/04(火) 20:02:30.24 ID:ECHg1+sIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/04(火) 23:37:09.66 ID:yP+E5ziDO<> 戸締まりは大事だぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/05(水) 07:04:06.97 ID:+kwV/ziIO<> フラグとかwwwwwwwwプフッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/05(水) 19:29:52.98 ID:L9asSwjG0<>
少女「あなたはどうして、その“手紙の主”を助けにいくの?」


と、人ごみの中で訊かれた。


村人「……どうして、か」

少女「ここから水の国まではかなりの距離がある、ただ会いに行くにしても……それなりの覚悟がなければ決心できないわ」

村人「そうかね」


そうなんだが。


少女「そんなに大事な人物なの?」

村人「大事っつーかな……まぁ、そんなところかもな」


大事なんだがね。


村人「昔は色々世話になったからな……宿題やってもらったり、写させてもらったり、教科書借りたり……」

少女(学校ばかり……)

村人「まぁ結局はその宿題も全部中途半端だったんだが」

少女「……」


地が無表情でも、この時ばかりは呆れ顔が前面に出ていた。


村人「ま、それなりにも、恩はあるしな」

少女「……それだけ?」

村人「ああ、色々と仲は良かったんだんだよ」

少女(……それだけで動けるものなの?遠い国まで)


少女(……危険が多くあるかもしれないのに)

村人「あいつ今どんな風になってんのかな……久々に会うからな……」


性格は変わっていないとして、背丈も重さも変わっているだろう。

お互いに成長期、なかなか想像はできなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/05(水) 20:48:04.68 ID:geW5AStPo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/06(木) 19:37:05.46 ID:eqrO3G5l0<>
村人「よーし、出発するかー」

少女「ええ」


町外れに到着。

お互いフェアな荷物を背負ってのスタートだ。狡賢い自覚のある俺としても、それについて文句は無かった。


村人「とりあえず最初に目指すは隣の町……や、村か?いずれにせよかなり距離がある、長い街道を歩くばかりだ」

少女「着く頃には夕時かしら」

村人「……」

少女「……?どうしたの?」


村人「……なぁ、思ったんだが」

少女「?」

村人「馬車は使わないのか?」

少女「は」


眉にちょっと皺が寄っている。

そこまで的外れな意見を打ち出したつもりはないんだが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/07(金) 22:37:31.93 ID:fcLhzvJFo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/10(月) 00:52:16.65 ID:0XTy+9Gko<> はは
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/10(月) 19:07:46.18 ID:0dQ2usjR0<>
村人「ここから徒歩で隣町なんてバカけてると思わないか?」

少女「そう?」

村人「馬車を使って、ひゅっと渡る……何倍も早いし、野宿の準備なんて必要も無い、最速だろ?」

少女「……馬車は結構高い、路銀が保たないわ……乗ったことある?」

村人「ないけどさ」


顔が“やっぱり”と俺をあざ笑う。


少女「この町にそんなに多くの馬車は出ないし、目的地まで急げるかどうか」

村人「……とりあえず港のある国までは馬車を使いたい」

少女「国を跨ぐとなると今持っているお金では30倍ほど必要ね」

村人「……」


三十倍。そのスケールには、さすがの俺も閉口する。

そして次に継げられた少女の言葉は、黙った俺を諭すような口調だった。


少女「歩きましょう」

村人「……チッ」

少女(……面倒くさがり)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/10(月) 21:19:02.78 ID:H/GEBr8Xo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/10(月) 23:55:34.36 ID:QRDj1uUDO<> 舌打ちイクナイ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/11(火) 07:33:22.95 ID:gj4fFESIO<> ボウヤダカラサ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/09/11(火) 16:39:50.96 ID:H6M33jSIo<> まあタイトルでわかってたことだからな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/11(火) 19:55:14.54 ID:UI5kruNM0<>
生徒「あ、ちょうちょー」

男「それは蛾だぞ」

生徒「えっ!?」

男「泣くな泣くな」

生徒「あう」


背の高い葦が並ぶ細い道に二人はいる。

まだ幼い少女と、一人の青年。二人は兄弟のように仲良く並び、歩いていた。


足はそれなりに急いでいるが、明るい陽気と安らぐ青葉の香りが二人の心に安息を与えているようである。

夜とは違う長閑な雰囲気に、気も緩む。


だがいかなる時も油断してはならないと、青年はその歩を道の先に急がせていた。


生徒「ちょ、ちょっと早いですよー……」

男「急がないとだめだ、明るいうちこそ、距離を離さないとな」

生徒「……やっぱり」

男「ん?」


生徒「やっぱりまだ……暗殺者さんは、追ってきているのでしょうか……」

男「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/11(火) 22:37:00.27 ID:gm/ONEXIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/12(水) 19:38:39.79 ID:x+0EgCna0<>
暗殺者。

それは、二人が理学学校を出て、旅を始めたきっかけである。


突如学校に現れた暗殺者が彼女を狙っていたのだ。

いいや、彼女だけではない。暗殺者は学校の者全てを狙っているようでもあった。


何故暗殺者が学校を狙ったのか。

目的はわからなかったが、最近話題となっている魔道士暗殺事件にかかわっている事は間違いない。


となれば、その中でも“神童”と云われる彼女の命も危ない。


そういうことで、彼女を実家の兄の家に疎開させるべく、男は旅路を付き添っているのだった。


男「……もう既に、暗殺者を撒いたのかもしれない」

生徒「……ほんとですか?」

男「希望的観測だよ、だったらいいな、っていうだけで……追ってきてる可能性もある」

生徒「うぅ……」

男「……大丈夫だ、安心しろ、俺がついてる」

生徒「怖いです……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/12(水) 21:30:35.41 ID:9jVWEnUVo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/12(水) 23:17:54.97 ID:sObORhIDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/13(木) 21:31:02.17 ID:qMuYSzMs0<>
生徒「あの人は、クラスの人を、2人も……」

男「……ああ」

生徒「……彼は、人なのでしょうか……?」

男「……」


一切の肌を露出させない装いを思い出す。

異質。違和感。なのに気付けない。

まるで飛びかかるまでは気配を見せない、野生の動物のような……。


生徒「人なのに……どうして心が痛まないんですか?」

男「……」

生徒「怖いです、怖いんです……あの暗殺者さんが、いまだに私を追っていると思うと」


生徒「……まるで、黒い毛並みのオオカミさんに、追いかけられているみたいで……」

男「……そうだな、怖いな……俺だって怖いさ」


彼女の恐怖は誇張でもなんでもない。自分もその恐怖心を抱いている。


男「暗殺者は怖いが……安心しろ、大丈夫……俺がついてる、俺が守ってやる」

男「海を越えて……そうして、隣の国までいけば大丈夫だ」


男「いや、海を渡ればもう大丈夫だろう……暗殺者でも、容易く対岸までは追ってこないはずだ」

生徒「……」

男「……さ、行こう」

生徒「……はいっ」


一歩踏み出す。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(島根県)<>sage<>2012/09/14(金) 01:55:56.78 ID:w8BPVqESo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/09/14(金) 03:45:57.80 ID:8Sf0JFbyo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/14(金) 18:52:35.11 ID:UktcteMh0<> 黒い男「ジャジャーン」

男「!」

生徒「!」


声がした。それは遥か後方であった。

二人の後ろではあったが、その大きな声はしっかりと耳に届き、その人物がすぐ背後にべったりと密着しているような、そんな嫌悪感を与えた。


男は更に、一歩前の砂利を踏む。


黒い男「やっと追いついた……一晩かけてダッシュし続けた甲斐があったというものだ、いや、疲れた疲れた」


黒服の男の息は切れていない。

しっかりとした歩みにも重さなどは感じられない。


男「…!ッ、逃げろ!」

生徒「は、はい!」


二人には状況を考える暇も、振り向く余裕もなかった。

背の高い葦をかき分け、本能的にそこへと逃げた。

迷いのない逃走一択の動きは、頭の中に浮かんでいた黒い獣のイメージのおかげだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/14(金) 18:54:47.04 ID:GphX1FKIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/14(金) 21:44:54.35 ID:wGvv/W8vo<> 乙ぇみに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/15(土) 00:19:14.80 ID:gBd8XlmDO<> 乙
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/18(火) 21:05:26.35 ID:BhuY7Cu/0<>
黒い男「オォウ?茂みに逃げられてしまった……シット、そのまま忍び寄ってキルしときゃよかった」


黒い手袋に包まれた両の手の拳を打ち付けあう。

石をぶつけたような音が、ガツ、ガツ、と。


黒い男「まあ良いさ、ここは葦の草原、隠れる場所など、そうそうない……草の中を逃げれば音もする」

黒い男「ジェミニはその音を追うだけだ、ベリーイージー……そして、チェックメイトだ」


黒いマントの男は耳をすませる。


野鳥の鳴き声が聞こえる。

遠く川のせせらぎが聞こえる。

風が葦の間を切るように抜ける。

そして、草をかき分ける音が聞こえる。


黒い男「ハッハッハ!ジェミニから逃げられると思うなよ!?」

黒い男「俺は不死身の暗殺者ジェミニ!ジェミニは疲れないし、疲れてもジェミニはお前らを追い続ける!」


男が草の合間を走りだした。

並みの獣以上に強い脚は、視界を埋めるほどの草など、そこらの空気のように凪ぎ倒してゆく。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/18(火) 21:50:12.19 ID:EgRLeLNSO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/19(水) 01:37:25.47 ID:H5LfmH3Zo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/20(木) 18:41:36.92 ID:ujIxtWI70<>
黒い男「ははは、視界はバッドだが、お前らがいる場所ははっきりとわかるぞ!」


言う通り、彼の足に迷いは無い。

草を踏み倒し、蹴り倒し、全身を覆える外套は纏わりつく草を受け流す。


黒い男「さあ、追いつかれたらどうするつもりだ!?」

黒い男「反撃するか?それでもまだ逃げるか?」

黒い男「好きにしろ!ジェミニはどちらでも構わないぞ!」

黒い男「あ、でもやっぱり戦ってくれたほうがありがたいな、チェイスする手間がはぶけるし……」


息を切らさずに叫んでいると、草の揺れる音がした。

彼自身も、草の中では大きな音を立てながら動いている。それでも聞き取れた敵の気配。音源の違いからくる違和感だ。


黒い男「!」


草の合間から人影が現れた。

人影は両手で頭上高く剣を掲げ、黒い男の目の前にいた。


浅い跳躍、振りかぶった剣、それはあとコンマ1秒で振り下ろされる。


だが、黒い男の拳はそれよりも速かった。

握り拳が風と音を切り、人影の腹部を捉える。


黒い男「メテオシュートナックルッッ!!」


内部から爽快に砕け散る破壊音が、辺りに強く響いた。




※【メテオシュートナックル】…ボディーブロー。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/20(木) 18:54:47.16 ID:5QHRUR1ro<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/20(木) 19:10:02.66 ID:QeweYRZyo<> なっこーだよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/09/21(金) 11:31:56.44 ID:nKqrEb3F0<> おっつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/21(金) 18:09:15.96 ID:2V+SMA5W0<>
人影は文字通りに、音を立てて崩れ落ちた。

がらんがらんと、破片は次々に砕けて土に積もる。


黒い男「……何?」

石像「ゴ……」


折れた生首。仕留めたと思ったその人影は、白い石膏の塊。石像であった。

腹部が砕け散り、下半身と上半身は分離され、辺りに転げている。地に倒れた後は一度だけ呻いたのみで、再び動く気配は無い。


黒い男「……スタチューだと?なんだこれは……」


騎士らしき風体の石膏像は手に剣を持っている。純度は低かろうが、厚みはある鈍器だ。

この石像がひとりでに動き、彼に襲いかかってきたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/22(土) 20:15:44.87 ID:cpjsHIxIO<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/23(日) 15:29:17.49 ID:M4MWZgAIO<> さすがはメテオナックルww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/24(月) 07:02:50.93 ID:5NbF12tIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/09/24(月) 18:14:56.42 ID:q/nZCmpR0<>
黒い男「!」


砕かれた石像の出現を皮切りに、闖入者は草を割って姿を見せる。


石像「……」

石像「……」

石像「……ゴ」


草陰から次々に、白く背の高い騎士が歩いてくる。

剣を持ち、槍を持ち、盾を持ち、男を囲むように現れた。


横に逸れて走ればやり過ごせるだろうか?

だが終始に渡って愚鈍な動きであるとは限らない。


取らなくてはならない手段は、正面突破だ。


黒い男「なかなか珍しいマジックだ……時間稼ぎのつもりか」

黒い男「丁度いい、前哨戦だ……トレーニング相手になってもらおう!」


石の得物が宙にうねり、空を鳴らす。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/24(月) 19:19:01.47 ID:SRAN5Nbfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/24(月) 20:54:36.99 ID:veMd5lmJo<> 乙ん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/25(火) 07:16:24.15 ID:dIZv8zWIO<> おちゅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/25(火) 19:46:38.89 ID:btvJDrJW0<>
男「はっ、はっ……」


魔道士にあるまじき帯刀であるが、草をかきわける今は幸いした。


生徒「はっ、はっ……!」


体力の無い彼女も、なんとか最低限に切り開かれた道を進むことができている。

だがそれもここまでだ。これ以上先まで切り開くとなれば、暗殺者に逃げ道を教えるようなものだ。


男「“ポーン”!」


左手に巻いた駒のブレスレットが光を放ち、人影を作る。

光が収まるときには、人影は石像となって現れていた。


石像「……」


石像は戦棍を掲げながら、ズシンズシンと足音を立てて、来た道を歩いていった。



男「……応戦はしているが、たかがポーン程度じゃあいつを倒せるとは思えないな」

生徒「はっ……はっ……うう、種が服にくっついて離れない……」

男「そんなこと気にしてる場合か!」

生徒「す、すいませんっ……!」


と言いつつも、ケープにへばりついた種を取りながら走るのであった。


生徒「そ、それにしてもっ……便利な術ですねっ!」

男「ああ、俺はこれしかできない……“ポーン”!」


再びブレスレットが輝き、石像が生み出される。


石像「……」


今度の石像は両手に剣を持って、赴いてゆく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/25(火) 21:29:24.56 ID:16DT8r6Qo<> 何体でるかな
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/09/25(火) 23:46:54.14 ID:fO1Lp6oLo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/26(水) 20:14:17.87 ID:ETtxPvYo0<>
男「なるべく広範囲に歩かせて、奴の聞き耳を撹乱する……その間に俺らは」

生徒「ど、どうするんですかっ……?」

男「港まで行くしかない!」


港。そして船。

足跡か痕跡かを辿って追い詰めていく暗殺者を撒くためには、海という隠れ蓑に賭ける他なかった。


目的地の通過点としての海であるが、その道中で襲われる危険性はないと考えると、価値は大きい。


生徒「や、やっぱり走るしかないんですねっ!」

男「ああ、走るぞ……今日も走るぞ!」

生徒「は、はいっ……!」


背の高い草原に、白い石膏像が40体。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/26(水) 21:33:23.04 ID:xYzqspXDo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/27(木) 19:56:25.37 ID:xNllZymd0<>
――――――――――――



広く、長い剣が横に振られた。

青年は剣を辛うじて避けた。


「……!」


枝葉が宙に舞う。

それらが勢い良く回って落ちる様を見るに、刃物の切れ味は悪いようだ。


魔道士が反撃に打って出るには距離が近すぎる。

だが、剣を大振りした上半身裸の暗殺者。この男を仕留めるチャンスに、遠いも近いもないと悟る。


腰に備えたマジックダガーを右手に構え、素早く暗殺者の胸元へ突き出す。



「……」

「くそっ」


一瞬に賭けた突きだったが、暗殺者の地肌はほんの1mm程度しか傷ついていない。

青年は近距離は圧倒的に不利であると頭を切り替え、ナイフを捨てて距離をとった。


(強化してないとはいえ、ダガーが刺さらないってどういうことだよ……化け物め)

「……」


刺されても暗殺者は動じない。


右手へのさび付いた剣を再び構えなおし、“×”傷のついた鉄仮面を魔道士へ向ける。


鍛えられた巨躯。一糸纏わぬ上半身には、修羅場を潜り抜け続けてきた無数の傷跡。

逆立つ短い黒髪。表情の読めない×印の仮面。


林道だろうと街道だろうと出会うことのない、異質な姿だ。


(鉄の魔術でないと、大人しく倒れてくれなさそうだな)


ある程度距離を取った青年は、タクト状のコンパクトな杖を前に構える。

青年は様々な魔術をバランスよく扱える、熟練の魔道士だった。

得意な術は特に無いが、全ての術を平均以上に使いこなす。

術の不発はありえないし、命中精度が極端に悪くなることもない。


攻撃範囲は狭く、扱いに多少難度のある鉄魔術でも、青年は問題なく発動できるだろう。



×「……×(コロス)」


鉄仮面の暗殺者が突撃してきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/09/28(金) 01:23:21.30 ID:Mdx02ZoSo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/09/28(金) 19:05:44.61 ID:bbEUxixu0<>
狙いは正確。

誤差は速さが補うと信じて術を放つ。


「“スティー・ボー”」


タクトの先に込められたイメージの式に魔力が駆ける。

長い鉄銛の射出。返しは無くとも、その貫通力だけで標的を射止め殺すことは容易だ。


弓とは違い、術は固形物を当てるという事に特化していない。

炎や風、水ならば深く集中も必要ないが、鉄だけは別問題なのである。


が、彼の銛は正確に標的を捉え、矢のごとき速さで飛び出した。


右へ、左へ避けようとも遅い。

脇腹を貫くか、胸骨を貫くかの違いに過ぎなかった。


そのどちらかの結果が来るであろうと、青年は予見していた。



×「―――×(ヨワイナ)」


男は避ける素振りも見せない。

ただ大きな剣を下から振り上げた、それだけだった。


射出された銛の威力は高い。剣で受けようとすれば、それなりに後退せざるを得ないだろう。

青年はその後の追撃も想定して、この威力の高い術を選んだのだ。


――ジャリ


が、刃こぼれの多い剣は、銛を弾くに留まらない。

切れ味の悪い切断音を鳴らしながら、銛を裂いているのだ。


「なッ……」

×「―――」


声を上げる頃には、粗く両断された銛が二手に左右へ飛び、消滅した後であり、


×「×(シネ)」

「あっ」


青年の胴に、大きく深い×印の傷が刻まれた後であった。



×「……○(カンリョウ)」


剣を近くの幹へ斬りつけ、乱暴に血糊を拭う。

暗殺者は去っていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/28(金) 19:51:37.38 ID:Yh41bGXIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/30(日) 16:53:38.13 ID:MX5pszoIO<> おつん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/01(月) 19:24:26.17 ID:paqY8j4T0<>
――――――――――――――


「……」


どこか遠くで、気のせいかのように幽かに鳴った笛の音に、女性は目を覚ました。

疑うように天井のぼろついた梁を見流し、起き上がる。


ベッドの中でも、金色の髪は括られたままであり、衣服も返ってきた装いそのままである。

女性は腰掛け、耳を澄ませることに徹した。


が、すぐにそのような甘い考えは振り払う。


(すぐにここを発たなきゃ)


気のせいならば休息を。などと気を抜いて、寝ている間に死ぬなど、冗談ではない。

女性は眉の薄く、しかし眉間の皺のでき易さが疑い深さをよく表すように、慎重な人物だった。


疎開・逃亡の旅に供も連れずに遠距離を渡り、国を2つ跨いでここまでやってきた。

応戦は控え、目くらましや混乱程度のために魔術を行使する、切り札は伏せるようなタイプの人間だ。



(もとの屋敷の持ち主には悪いけど、荒っぽい脱出をさせてもらうわね)


長年の湿気でカビついた窓を蹴って開き、扱いやすい長さのワンドを片手に、そこから飛び降りる。

4mはあろう一階の屋根に着地すると、瓦は砕けたが、つきぬけはしなかった。

魔力で強化された脚は衝撃にも怯まず、そのまま体を地上へ投げ出した。


その時、声は聞こえた。



「アォオオオオオォオオオン……」

「……!」


耳をそばだてずに正解だった。

窓から出て正解だった。


遠吠えの反響の具合を確かめる前に女性は走った。そして、その行動もまた正解であった。


狼は近い。一刻も早く、逃げなくてはならなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/01(月) 20:37:58.15 ID:pqONWfh7o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/01(月) 23:46:49.09 ID:xzoybADDO<> 乙!!
逃げてる奴多すぎ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/02(火) 16:08:54.15 ID:YwbjupKIO<> テーマ エスケープ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/02(火) 19:54:15.87 ID:k/tWTwTW0<>
女性の足は、早くも遅くもない。

ただ、最短距離を導く頭の冴えはあった。


彼女は斜面を降りるように逃避していた。

およそほとんどの獣は、斜面を駆け上ることは得意でも、下ることにかけては不得手だ。


聞こえてきた狼の遠吠えから、女性は大通りのルートとはまた違った、多少逸れていても、安全に狼達を振り切れるルートを選択したのである。


(……それにしても、猟犬のような獣なのかしら)


女性は余った思考回路でごちる。

十何日にも及ぶ移動生活の中、突然現れた獣達の群れ。


奴らは宵闇に紛れて忍び寄り、連携の取れた動きで襲い掛かってくる。

最初こそ野犬かとも思ったが、似たような獣に何度も襲われるのだ。


魔術で撃退したのは最初だけ。二度目以降は逃げに徹している。

慎重さは、それらの不自然さと、例の事件からきていた。




「アォオオンッ」

「え」


鳴き声が近い。

いいや、近すぎる。


滑るように走っていたはずだ。追いつかれるようなヘマをした覚えはない。

しかし。


「ォオオンッ」

「アォオオン」


鳴き声はやまない。

それどころか、近くにいくらでもいるかのように、そこら中から聞こえてくる。


後ろからではない。

横からも。前からさえも。遠吠えが遠吠えを呼ぶ。



「や、やだ……!」


歩みをやめた女性が耳にするのは、狼達の合唱。

ひとつの山中に響く、恐ろしい唱だった。



「おっと、もう終わり……もうちょっと粘ってくれると思ったのに」


高い木の上で、ポンチョ姿の男がため息をついた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/02(火) 20:37:18.29 ID:5veV9aVIO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/03(水) 18:24:45.28 ID:YtFYUpvQ0<>
――――――――――――――


逃げられる者ばかりではない。

踵を返すこともできず、その場に斃れる者の方が、むしろ多い程であった。


「……!」


体中を穿つ尖った宝石は深い青色で、下向きの端には血が伝い、紫に輝いている。

真昼に行われた殺人は方法も場所も大胆だったが、周囲に人はいなかった。


「うが……」

「うっせな、とっとと死ねよ」


無慈悲なサイズのサファイアは額を貫き、それきりうつ伏せに倒れたまま、身動き一つすることはなくなった。

大概の場合は彼のように、暗殺者の姿を見ることなく絶命する。

そして暗殺者は、親しみすぎてほんの少しに軽減した達成感を手に、依頼主のもとへ帰るのだ。



「ウロチョロと宿を変えやがって」



遂行さえすれば気がかりなどはない。



――――――――――――――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/03(水) 23:00:34.07 ID:xcW8aKiDO<> 場面転換についていけないorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/04(木) 20:20:29.21 ID:58/SMwvy0<>
街道とはいえ、道中にすれ違うのは道を我が物顔で走る横柄な商人の馬車程度。

徒歩でここを往こうなんて輩とはなかなか出会わない。

当然、同じ歩調で道を進む奴らと、そうそう追い抜け追い越せするはずもなかった。


つまりは、歩きの最中は暇なのである。


村人「お前、家が無いっつったな」

少女「ええ」

村人「両親は?」

少女「死んだ」

村人「そうか」


人が珍しく気を利かせてみれば、これだ。

家族は何やってんのかという、聞いた俺自身すらあまり興味のない話題の切り出しに、まさか本気で斬りかかってくるとは、誰が想像できるだろう。

ともあれ、踏み所の悪かった質問だったが、相手の表情は動かぬままで良かった。

本人の中では整理がついている事なんだろう。


だから俺は、むしろ追求してみることにした。


村人「それまたどうして?」

少女「お父さんは知らない、お母さんは誰かに殺された」

村人「……なんだか血生臭い話だな、盗賊か何かにやられたのか?」

少女「わからない」

村人「それとも暗殺者とか?ねえか」

少女「……そうかもしれないけど、違うかもしれない」

村人「はぁー……」


踏みどころの悪い位置を的確に踏みにいく俺の話術は、今までの素行が悪かったせいなのか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/10/04(木) 20:38:13.24 ID:LG8wjMFgo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/05(金) 18:56:52.08 ID:Unt8/QGS0<>
少女「……でも、何だって別に良い」

村人「?」

少女「誰が殺しただとか……私はそれを突き止めようとは思わないわ」

村人「ほお」

少女「逐一それを調べて、復讐しようとも思わない」


意外だ。

この寡黙さや年不相応な剣捌きに至るまでの源泉は、全て復讐心から来るのものかと想像してしまったが。


しかし、続けて少女の口から出た言葉は、俺の安堵を殴り消すようなものだった。


少女「私はただ、悪という悪をひたすら狩り続ける」

村人「……」


誰が聞いたって、一拍でも閉口せざるを得ないだろう。


村人「……それまた、壮大な話だな」

少女「かもしれない」


かもしれなくもなく、壮大だと思うがね。


少女「けど、その生き方こそ、死んだお母さんに対する最大の供養だと思うから」

少女「個を恨んでの復讐を、悪に向けている、のかもしれない……でもそれは最初だけ、今は違う」

少女「今の私は、正義のために戦い、生きていたい……それだけ」


村人(正義だけど猟奇的……か、いやこういうのは猟奇的とは違うか?)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/05(金) 20:56:41.53 ID:PwbYkFA/o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/09(火) 20:32:01.07 ID:AtRTMfbu0<>
木々に挟まれた街道を歩く最中のことだった。

少女は突然に立ち止まり、神妙な顔でブーツの鉄を眺めたのだ。


少女「……」

村人「ん?どうした、立ち止まってる暇なんてないぞ」

少女「……しっ」

村人「?」


目だけを横に向けて、獣がそうするように姿勢を低く構えて、犯罪者のような小さな声で呟く。


少女「声がする」

村人「誰のだ」

少女「……わからない、林から、何か」


――けて


村人「ん?」

少女「聞こえた?」

村人「“たすけて”」

少女「やっぱり、空耳じゃない」


少女「……あっちの林の中で何かが起きている……早く行かないと」

村人「ああ、そうだな、行こう」

おれ俺たちの意見はすぐに統合し、二人は歩みを進め始めた。

が、それはほんの数歩だけの事だった。



村人「ん?」

少女「え?」


少女「……どうして街道を歩いているの」

村人「お前こそ、どうして林の方に行くんだ」


少女「……え?」

村人「え?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/10/09(火) 20:36:32.90 ID:a2GrUxbso<> 村人はブレないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/10/09(火) 21:20:42.26 ID:CUD6Gc7go<> 助ける気ねぇのかよw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/09(火) 22:42:57.21 ID:/CfHnCiIO<> 乙
逆だと思ったwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/09(火) 23:16:07.32 ID:1tQvs2FDO<> だよなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/10(水) 20:41:08.50 ID:LMc3ipvZ0<>
少女「……どうして助けにいかないの?」

村人「え、なんで助けんの?」

少女「……え?」

村人「ん?」


砂利道と林道。

二人を分ける地面を眺め、しばらくは二人の何が食い違っているのかを考えていた。


少女「……誰かが助けを求めているのよ」

村人「どうして俺が、道行く先で困ってる奴らをいちいち助けないといけないんだ?」

少女「何故?私には理解できない」

村人「え?俺の方が理解できねーんだが」


反抗的な、侮蔑的な目で見られ、少し頭にくる。


少女「崖からあと右手を離しただけで落ちてしまいそうな人がいるなら、迷わず手を延べるべきではないの」

村人「どうして俺が、腕を掴まれて一緒に谷底に落ちるリスクを負わなきゃならない?」

少女「ここは崖じゃない、下に谷底はないわ」

村人「だがあそこは林だ、何もないのに助けを求めている、そこには何かがある」


林や森には危険がある。誰かの悲鳴が聞こえるってことは、ただ毒キノコを踏んだとか、足場を踏み外しただとか、そんな生ぬるいものではない。

 
村人「本来何もない場所で何かが起きている、何なのかはわからない」

村人「あーあー、やだね、俺の一番嫌いなパターンだ、リスクがなんだかわからない、ギャンブルと同じだ」

少女「ギャンブルと一緒にしないで、人を助けることにリスクなんて関係ない、命だって賭けられる」

村人「俺はやだね、降りてやる、命と安全を賭けるなら一人で刺し狙いしてろ」

少女「……“審判”」

村人「引かねえ、先に行ってる……」


俺は少女を置いて、街道を進み始めた。


少女「……」


あいつはずっと、俺の後ろ姿を見ていた。

が、思い出したように林の中へ消えていってしまったらしい。


お互いに足音は遠ざかってゆく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/10/10(水) 20:48:51.77 ID:CpnRgn3zo<> この辺からの展開忘れたわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/11(木) 19:32:01.67 ID:YMby6OAK0<>
少女「……村人!」

村人「……」


後ろから張り上げたような声が聞こえる。

出そうと思えばこんな声も出せたのかと驚く反面、今は鬱陶しくも思う。


少女「……私はあなたを護衛する……そういう任務を請け負った」

少女「けど、あなたが往く道は、私の信じる信念の道とは大きく逸れ過ぎているみたい」

村人「あっそうかい」


勝手な話だし、どうでもいい話だ。


少女「何故助けないの、その剣は何なの?ただの……」

村人「飾りかもなぁ」

少女「……」


現に柄と刃の境目には、コンパスが埋め込まれている。

こんなもん、飾りも飾りだ、狩人の剣などではない。


村人「レティーとやら、お前はどうやら俺の事を剣士か何かと勘違いしてるみてーだが……」

村人「俺はただの、剣を持った“村人”だ」


村人「俺ぁ最初から中途半端なんだよ、この性格が嫌いなら仕方ねーことだ、俺は咎めも軽蔑もしねえよ、どこへでも行きゃいい」

村人「ただ言っておくぜ、俺は俺自身が決めた道をそれる事は無い」


村人「……リスクは大っきらいだ、あばよ」


どいつもこいつもまったく、面倒くせえ。



少女「……村人……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/10/11(木) 20:16:50.13 ID:8fPwBBoWo<> 乙
村人ツンデレちゃんめw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/11(木) 23:02:01.21 ID:fjlzeDvDO<> 宝石があればあるいは… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/15(月) 07:56:17.08 ID:gxcvhMQIO<> 村人の安定感に安心 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/15(月) 18:59:16.72 ID:3jgvQ1Xi0<>
少女「村人!」


幼い喉に歳不相応の付加がかかる。


少女「私も自分の信念は曲げられない!」

少女「あなたを護ると契約した……けど、」

少女「私の信念は……」


その信念からはあまりにも。

だからこそ、自分の引き金とはいえ、不本意な結末に歯噛みをするしかなかった。


少女「早いけど……ここでお別れ」

少女「勝手な言い方かもしれないけれど、私は村人、あなたを見損なった」

少女「……いえ、やっぱり勝手……私のわがまま、それだけだもの」


少女「さようなら」


別れを告げた後は、少女は未練も後悔も反省も、全てを今から切り取っていた。

いくつもの過酷な狩猟を潜り抜け続けた凛とした目は、まっすぐ林の奥へ向いている。


少女(助ける!誰かはわからない、そこに何があるかはわからない)

少女(それでも私はあなたとは違う、私は手の届く全てを助ける!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/10/15(月) 19:05:23.27 ID:kcChkg1Do<> ギルドから最高難易度として依頼されている物を受諾したのに、その依頼の護衛対象を見限って任務放棄とか
ギルドの資格剥奪物じゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/10/15(月) 19:40:23.50 ID:+z03MsKro<> 少女ドライでクールかと思ってたけど、ええ娘や... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/16(火) 22:02:02.18 ID:WPko8kf70<>
乾いた足音は間もなく湿り気を増し、足腰は慣れた自然への脅威に備える動きとなる。

脛まで覆うブーツは下草を跳ね除け、わずかに残った露を弾きながら目的の先を目指す。


少女(声はどこから聞こえてきた?だいたい、ここをまっすぐ……よりも少し左……)


――助けてくれ!


少女「!! こっちか……!」


生まれつき、耳も鋭敏だった。かすれつつある声にも反応し、走る方向をわずかに修正する。

そうしてしばらくもしないうちに、大きな声は聞こえてきた。


「助けてくれぇー!」

少女「はっきり聞こえる……大丈夫、今すぐ行く」


阻むように横へ伸びた枝が白い頬を掠める。

が、頬は何事も無かったかのようにかすり傷ひとつも付けなかった。

それでも目元にかかりそうになるものは邪魔であるらしい。目は反射で瞬きする。


少女「ッ……枝、邪魔」


腰の両脇に備えた双剣が回り、交差し、進行方向の細い枝を切り刻んでゆく。

走る間に斬ってしまう技術だけでも達人であるが、恐るべきは切り刻んだ枝葉を峰で払い退ける、斬りの後の剣さばきにもあるだろう。


少女(何があるかわからない……双剣は抜いておこう)

少女(村人の言う通りなのが癪だけど、何かのリスクがあるかもしれない……!)


林が開ける。


少女「……!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/17(水) 23:10:53.87 ID:kmPp4WTDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/18(木) 00:27:22.91 ID:y/1vT4Lp0<>
竜「……ォん?」

少女(竜……!)


白い巨躯は2.5mにも達するであろう、その姿。

人型にも見える竜の両腕には、側面に薄く突起した角質の刃が備わっている。


農民「た、助けてくれ……!脚をやられた……!」

少女「! 大丈夫……!?」

竜「ォおオおオオオン」


駆け寄ろうと大きく土を踏んだ少女に反応し、竜は飛び掛った。

小さめの口からは無数の細かい牙を覗かせ、腕の刃は光沢がなくともその切れ味を予感させる“恐ろしさ”をちらつかせていた。


敵の威圧感のおかげもあった。

だからこそ、少女の双剣は敵の攻撃を受け止めることができたのだ。


少女(く……まさか、斬竜とは…!危なかった、なんとか剣で受け止められたけど……)

竜「ォおおオオン」


両腕が軋む。

自分よりもはるかに大きな竜の力に押しつぶされそうだ。


少女(負けない……!)


が、底力で跳ね返す。

100%効率の異常なまでの肉体強化が、竜を跳ね除けたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/10/18(木) 06:57:12.90 ID:dDJTU8qGo<> 乙
敵暗殺者とかじゃないんかいw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/18(木) 11:21:07.01 ID:KRnG543Co<> 乙

踏んだ場所は卵が埋まってたりする人間が悪いパターンとか
竜しゃべれるくさいしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/18(木) 19:26:20.53 ID:y/1vT4Lp0<>
少女(両腕の側面に、刃のような鋭利な角質……双剣でなかったら両腕を受け止められなかった……!)

竜「ォおオン?ォおおオオン!」


自分よりも遥かに体格の小さな生き物に身体を弾き飛ばされる。

通常ありえない現象に、竜は何が起こったのか、しばらく理解できなかった。


その隙を見て、少女は柄を握り直す。


少女(しかし斬竜か、ランクはCだっけ……Cならギリギリ倒せる……?)

農民「気をつけろ……くっ……そいつは、俺の家まで上がりこんで……」


少女の後ろで、傷を負った男が震える声で続ける。


農民「壁も、天上も、瓦も……!何もかも、切り刻んでいきやがった!」

少女「わかってる、こいつは残忍な竜……!腕の角質が薄く研ぎ澄まされるまでは何にでも斬りかかる……!」

竜「ぉん」


再び竜は近づき、少女を挟みこむように腕を交差させる。

双剣はそれらを受け止めた。


が、敵の腕の角質は刃物相手にも引けをとらず、さして刃こぼれもしていない。

鋭く硬い凶器は既に仕上がっているらしかった。


少女「くっ……さすがに、野生動物相手に力勝負は部が悪い……!」

竜「ォおおおおオオン……!」


小型とはいえ竜対人間。力の差は歴然だった。

内側へ押し込まれる刃を寸前で食い止めるだけで精一杯だ。


少女(春……そうか、斬竜の発情期……求愛のための刃を研ぐために襲ったのね)

少女(でも……生き物に斬りかかった時点で、あなたは“人斬り”!私にとっての悪!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/18(木) 23:38:39.47 ID:rbD6+Nsoo<> 盛り上がってまいりましたあ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/10/19(金) 18:23:05.07 ID:gRHCP78+o<> ここでスレタイか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/19(金) 19:39:59.69 ID:Qtudy0Kz0<>
少女(相手は竜!この悪名高い“斬竜”の最も強い武器は、刃のついたその鋭い“腕”!)

少女(けど竜は竜、牙も立派な武器になる!)

少女(顎が若干退化しているとはいえ、噛みつかれれば致命傷……!)


少女(いつまでも鍔競り合いしてはいられない、強引に受け流す!)


上から体重をかけつつ左右から狭めてくる腕の刃。

持ち前の身体の小ささを利用し、姿勢を低くすることによって、竜の捕縛から一気に脱出する。

目にも留まらぬ速さで竜の足元を飛び抜け、去り際に剣先で脚を掠める。


竜「おぅごおおおオオン!」


前傾に土を抉るように倒れ込んだ竜が野太い悲鳴をあげる。

脚につけた傷は出血もわずかで、大したダメージもないようだ。


少女(……刃こぼれはしていない、さすが高級品)


あれほどの体重がかけられていても、ナイフは歪まず、刃は光っていないようである。


竜「ぉ……ォオおおぉン!」

少女(……また来る)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/19(金) 19:41:29.81 ID:a4JAvPJro<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/22(月) 02:32:49.78 ID:8sjEOBmPo<> 乙
これは記者の話の前の時系列の話かな
なんにせよ楽しみだ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/22(月) 03:32:37.86 ID:KNWJNYoSo<> 村人だけじゃなくすべてのキャラがいい味出てて魅力的だなぁ。続きが楽しみです! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/22(月) 18:40:55.72 ID:TTgqoRf20<>
竜「ォっ」


長い腕が遠心力を付けて振り下ろされる。

その一撃は剣で防ぐのはあまりにも難しい、野生の強烈な一撃であることは、狩人の経験抜きにしてもわかることだった。


少女「ただ腕を振り回すだけでは、一般人しか倒せないわ」

竜「ぉん?」


狩人のカンが活きるのは、振り下ろした後。

どの程度の速さで振りぬかれたそれが、どの程度の反動を持つか。野生生物の激しい動きを何度も見てきたからこそわかる、竜の隙である。


少女「丈夫な腕ね、良い足場になる“クロスステッチ”」


竜の腕に片足を置き、双剣を左右から構える。

足が着かないことから生じる剣の威力の軽減。

たとえ大きな剣であっても、空中では野生生物を斬ることは難しい。

刃物は、主に西洋の刃物は、強く振りぬくことで威力を発揮する。


しかし、少女の双剣は空中であっても威力を保つ。

それは左右からの挟むような攻撃方法にある。地面を踏ん張ることが不要な、力の逃避を許さない2本の剣の挟み撃ちこそが、彼女の狩人としての必殺の技だった。


竜「!ォおおおォン!」


普通の魔獣ならばそのまま首を貫かれ、斃れているところである。

しかし、魔獣は首を刺される前に、自らその頭部を前に突き出した。


少女「! いたっ」

竜「おゴッ」


頭と頭が衝突する。

頭蓋骨の損傷が危ぶまれる大き過ぎる音と共に、両者の距離は一気に離れた。


少女(頭突き……!)

竜「ォおお……!」

少女(一気に仕留めようとしたのが感付かれた……そこまで頭は悪くない、ということね)

竜「ぉ……ォおオん!」


横に歩み、両者とも機を伺う。


竜「……」

少女「……」


隙を伺えば伺うほどに隙を隠そうとする竜の立ち振る舞いに、少女の額を汗が流れた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/23(火) 20:44:10.19 ID:abgv8H8X0<>
少女(呆れるくらい隙が無い……さすがは斬竜と呼ばれるだけのことはある)

少女(きっと長い二足歩行生活が脳おの容量を育んだのね……いえ、今はそんなことどうでもいい)


余計な思考を排除して、目の前の敵を討つ策を練らなくてはならない。時間がないのだ。


少女(……両腕に備わった鋭い刃、あれをどうにかしないと近づけない)

少女(武器のリーチは、相手の腕が長い分こちらが不利……ただしこちらは防御さえできれば相手の隙をついて接近攻撃に持ち込める点で有利)

少女(……けど、やっぱり後手は辛い……相手の先手の一撃で決まってしまうかもしれない)


少女(先手の一撃をまともにもらえば、私は死ぬ)

少女(それを避けて、踏み込んで……この双剣で相手の首元でも“狩る”ことができれば――)

少女(――勝てる、それしかない)


考えがまとまった瞬間に、竜の痺れは切れた。


竜「ぉお、ォおおォオオおん!!」


飛びかかる巨体は素早く、逃げる事は叶わない。

対処はただひとつ。迎え撃つのみだ。


少女(やるしかない!)

少女(相手の攻撃をどうにか対処できれば……私の勝ち!)


竜の凶器の腕が振られた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/23(火) 20:52:08.88 ID:Q3ePEUNno<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/24(水) 20:19:52.72 ID:0AcPNW3o0<>
少女(! 下からの振り上げ!)

竜「ニィッ」


避けた口角が上がる、竜の笑み。


少女「腕に乗らせないつもり?それで勝ち誇れるなんて、気楽でいいわね」

竜「!?」


少女を足元から襲う一瞬の攻撃は、しかしスマートなステップひとつで回避された。

刃はあと1センチのところで、しかし単なる空を斬ったのだ。


少女(縦の攻撃なんていくらでも避けられる、横に一歩踏み込むだけ)


彼女はいとも容易くやってみせたが、動きが速すぎれば途中で悟られるし、遅すぎれば当然のように真っ二つになる、シビアなタイミングだ。


少女(腕は勢いに任せて相手の頭上に振り上げられた、もう片方の腕からの攻撃がくる)

少女(いえ、このチャンスは逃さない!来る前に刺す!)


片方高く上がった腕。もう片方はすぐにでもこちらに刃を向けるだろう。

しかし、少女の手は既にナイフを握っている。



少女(まずは顔に1本投げて一撃分だけ怯ませる!そしてもう1本で、喉!)


双剣のうちのひとつを手放す行為。しかし時として、両者の間合いを関係無しに攻撃する手段も必要だ。

相手が容易に近づけない竜であればなおさらだ。


最低限の動きで剣の先を摘み、肘の先だけで、しかし力強く投擲する。


少女(“スピット”!)


空を貫いて疾走するナイフ。竜は頭を動かそうともしていない。


竜「ぐぎ、ガっ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/24(水) 20:21:59.84 ID:C6M6DRi0o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/25(木) 19:40:15.05 ID:Wlo9tvYx0<>
竜「ぐぐグ」

少女(! 怯んだ)


仰け反った身体を見てからの反応は素早い。

竜の首めがけて飛び掛り、最後の一本の剣を強く握り締める。


一本であろうとも、勢い良く喉に突き立てれば十分な殺傷能力を誇る切れ味は持っている。



竜「ぎィ」

少女「!!」


問題は突き立てることが、可能であるかどうかだ。


少女(こいつ、歯で投げナイフを……!)


青ざめる。普段は滅多に汗をかかない体質だが、冷や汗は流れた。

仰け反ったように見えた体はフェイク。実際はダメージなどなく、万全に迎え撃つ準備ができていた。



竜「ギィイいいイイいィ!」


もう一本の腕は容赦なく降りかかる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/25(木) 21:47:26.33 ID:spM+4tOio<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/26(金) 23:55:58.41 ID:8TO5DpFM0<>
少女(……これは死んだか?)


やけにゆっくりと流れる時間の中で、少女は後悔の念だけを渦巻かせていた。


少女(なんてこと……村人の言う通り、本当にリスクだった!)

少女(いえ、これは私の油断でもある……言い合いで意地になって、急ぎ過ぎた)


少女(そんな精神状態で戦うべきではなかった……もっと冷静に考えておくべきだった)


少女(……まだまだ、私は……まだまだ、未熟だったのね)

少女(……お母さん)



「“コメット”!」

竜「ご、ォオオオオオォおォお!?」


彗星の如き一閃が、全ての動きより速くたどり着き、竜の身体を吹き飛ばした。

突きは先端に水を生み、水を凍らせる。


氷結と刺突による破壊力は、竜の強靭な肉体を突き放すには十分な威力だった。



少女「……? え?」


死の諦観に伏せた瞼を開ければ、そこには無数の氷の粒が、陽の光を受けて宝石のように煌いていた。

そして宝石を引き連れる先には、彼の姿があった。


村人「まだまだぁあああああ!」

少女「!」

村人「終わっちゃ……ねーだろうがぁぁああ!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/10/27(土) 00:23:34.83 ID:dUb9aJdjo<> 乙? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/27(土) 01:26:55.80 ID:hfA2sJ8DO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)<>sage<>2012/10/27(土) 16:30:06.09 ID:EchIYBceo<> スレタイか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/28(日) 12:34:25.86 ID:9D2cmFQUo<> 王道だ!
だがそれがいい! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/28(日) 23:17:56.88 ID:A2F7CkSJ0<>
少女「村人!?」

村人「テメェもステーキかぁああああああ!!」


竜の硬い皮膚が氷結し、破壊される。

彗星の突きは早く、障害となるあらゆるものを凍てつかせ、砕いてゆく。


竜は腕に決して浅くはない傷を負い、後方へ飛んだ。


竜「ォオおおぉンっ!」

村人「斬竜か!クソ野郎が、お前確か俺んちの玄関、一度両開きにしやがっただろ!」

竜「ォ……おおおン……!」

村人「とぼけるな!“プロミネンス”!」


距離は離れている。

頭のいい竜は知っている。鉄の棒切れを握った人間の攻撃範囲というものを。

頭がいい、方法がわかっている、だからこそ油断していたのだろう。


一片も想像などしていなかっただろう。離れた場所から剣を振り、巨大な炎がこちらに向かってくるなど。


竜「ギィイいぃイィ……!」


顔に降りかかる熱を、地面に転げることで逃がす。

巨体が転がることにより、下草は折れ、小さな木は大きく撓み、砕けかかった。


少女「……」

村人「おい、大丈夫か」


呆然とする片手剣の少女に話しかける。彼女は刃物を持たない片腕で額の汗を拭い、少し微笑んだような顔で俺を見た。


少女「……大きさのわからないリスクは、嫌じゃなかったの?」

村人「そりゃ嫌だ、嫌に決まってる」


村人「けど人に死なれんのは後味が悪い」

少女「勝手」

村人「どうとでも言え、折れは適当なんだ、面倒くさがるのは適当だからだ、中途半端だからだ」


村人「中途半端だからこそブレんだ。だから、いつでも好き勝手にやるんだ、見損なったんだろ」

少女「見直した」

村人「……よし」


頬をかき、剣を振る。


竜「……ォおおん」

村人「なあ、あいつとっ捕まえれば、金をもらえたりすんのかな」

少女「少しは貰えるかもね」

村人「よーしよしよし……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/29(月) 00:23:55.88 ID:C3HLTGVDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/10/30(火) 19:18:12.80 ID:FjxE9a5+0<>
農民「く、血が……」

少女「!そうだ、早く介抱しないと……」

村人「あんくらいで死にやしねぇ」

少女「……かもしれないけど、油断はできない出血量よ」

村人「手当てする暇は無いぞ」


なんてったって、目の前には殺気立った竜。

背中を見せようもんなら、竜の生態なんざこれっぽっちも知らねえが、問答無用で音も無く襲い掛かってくるに違いない。


少女「誰か一人が介抱、もう一人が戦う」

村人「俺は不慣れな治療はしたくはねえし、一人で戦いたくはない」

少女「そう、じゃあやっぱり二人で戦うしかないわね」


少女は短剣を一本構える。


村人「おう、行くぜ」


俺は適当に握り、一歩前に踏み出す。


竜「!」


斬竜は頭が良いらしい。俺がまた何かよからぬ魔術を使うんじゃないかと警戒し、手で顔を覆った。

だがそれじゃあダメだ。それじゃあ人間並みの「頭が良い」には程遠いぜ。


村人「“デブリ”!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/30(火) 19:58:59.09 ID:Qf70gEN/o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/10/31(水) 19:32:28.68 ID:NSJtf5+c0<>
地面からか、その境目からか、どこの石かもわからないその群れは、まっすぐ竜の腹を目掛けて飛んでいく。


竜「ォおおオオン」


が、気にした風も無く、ただ何歩分かの足を緩めただけでこちらへの突進は止まらない。


村人「効かねー……」

竜「ニィ」


走る勢いから、かなりの間合いを開けて腕は振り下ろされる。

斧の先端だけを掠らせるような、そんな当たるか当たらないか、つい“避けられるんじゃないか”と考えてしまうくらいの距離。


村人「っとお!」

竜「ォおおオオぉおン!」


が、俺は油断をせずにオーバーに避けた。

刃の腕は俺に当たるかどころではなく、背後の木が真っ二つに叩き斬られるほど食い込んでいた。


避けていなかったらどこかしらが飛んでたに違いない。


竜「ォオオン!」

村人「何度もそっちに優先権を渡せるかよ!“デブリ”!」

竜「ゥぐぁ!?」

村人「さすがに顔面は効くだろ!」


斬竜の間合いには近づかず、投石による効果的なダメージを狙う。

これこそまさにリスクの少ない戦いってやつだ。


少女「ナイス村人、後は任せて」

村人「そんな短い剣1本で何をするつもりだよ」


小さな女が俺の脇を抜けて、顔を抑える竜に飛び掛った。


少女「重要なのは長さじゃない」

竜「!」


小さな身体が跳び、風を切りながら近づく音で、竜はやっと気付いた。が、もう遅い。

剣は見事に、竜の喉元に深く突き刺さっていた。


少女「重要なのは、仕留められるかどうかよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/10/31(水) 19:38:15.33 ID:KjFBHoemo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/02(金) 13:37:43.38 ID:b+x3jzaIO<> こんなに面白いのになあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 00:17:42.94 ID:vxVmOFcQo<> 乙を言うのをつい忘れてしまう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/11/04(日) 22:12:52.24 ID:iq90nbLh0<>
少女「大丈夫?」

農民「あ、ああ……なんとか……」


竜の死体は捨て置き、怪我を負った男の脚の応急処置にあたる。

少女には流石、そこらの知識はあるらしく、マミー男になることもなく、無事に男の出血は止まった。


少女「止血はしたけど……これは医者に診てもらわないと駄目ね、近くの診療所は」

農民「いや、ありがとう、もう大丈夫だ」


汗のにじむ顔で痛みに耐える男は、すっくと何事もないように立ち上がる。


農民「命が助かっただけでもありがたい……俺も大人だ、あとは自分でなんとかするさ」

少女「駄目よ、その脚ではまともに」

農民「通りかかった馬車に乗せてもらうとも、わりとよく通るんだ……町まで行ったら、医者に診てもらうよ」

少女「いいの?」

農民「ああ、本当に感謝している……君たちのおかげで……家は、もうこんなんだが」


見上げれば、あちこち乱雑に斬られた屋根。補修するにせよ、かなりの手間をかけなくてはならないだろう。


村人「ひゅー、こりゃひでぇ、半壊だな」

農民「奴が腕の刃でそりゃもう、布を裁つように斬っていったからな……壁をから屋根から、修理しなきゃならん」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/04(日) 23:07:11.47 ID:LGmdb0PDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/05(月) 22:19:36.27 ID:SQlL/RFa0<>
農民「脚が治っても、まだまだやることは多そうだ」

村人「災難だったな」

農民「いいや、それでも不幸中の幸いだった……なにか恩返しでもできればいいがね、あいにくヤマムギしかないんだ」

村人「恩返ししてくれるってんなら金を……」

少女「村人」

村人「ん?」


服の裾を引っ張られ、少女の眉を少し吊り上げた顔が俺を睨んでいた。

一切曇らぬ抗議の意思が、そこにははっきり表れている。


少女「がめつい」

村人「何?当然だろう、感謝の気持ちを受け取って何が悪い」

少女「それこそ気持ちだけで十分、早く行こう」

村人「なっ、お前自分から寄り道したくせに何を」

少女「寄り道に付き合ってくれてありがとう、おかげで助かった」

村人「……そうかい」


いの一番に助けようとしたこいつが謝礼はいらないと言うんだ。

それを差し置いて、俺が欲しいなんてことは言えるはずもない。


まぁ、こんな羽虫の多い林の中でヤマムギをせがむのもバカらしいことだ。


俺たちはさっさと踵を返し、街道の先を往くことにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(茨城県)<><>2012/11/05(月) 22:24:04.94 ID:EIthi7doo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/11/06(火) 18:15:13.80 ID:vBhDDnnb0<>
角質の塊を宙に放り、捕る。緩慢に歩きながら、それを繰り返す。

斬竜の硬い角質は生き物としての武器ではあるが、栄養価が高く旨みも凝縮されているのだとか。


とはいえ燻して削らなくてはとても食えないものだそうで、それまではただただ、役立たずの塊である。


林に飛び込んで死闘を繰り広げて、手に入ったものは結局これだけだ。

やれやれだ。これだから嫌なんだ。


村人「……」

少女「良かった」

村人「何が」

少女「私はあなたのことを誤解していた」

村人「だから、何がだよ」


少女「あなたは良い人」

村人「当然だ」

少女「いいえ、そういう意味ではない」

村人「……お前と話してると、何か面倒くせぇな」

少女「そう?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/11/07(水) 00:11:04.28 ID:xBlLANCto<> 前途切れたのってこの辺だっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/11/07(水) 18:11:56.24 ID:AFExRYG20<>
少女「あなたも私と同じ、正義の下、その道の上にいる」

村人「はいはい」

少女「困っている人を放っておけない、そうでしょ?」

村人「はいはい、そうですよ」


それでも半分以上は、中途半端に力があるからそうなってるだけだ

力が無けりゃ助けはしない。それに。


村人「人なんだからしょうがねぇだろ」

少女「?」


村人「俺も人だ、人が困ってたらそりゃ、善の心ってもんはあるさ」


良心の呵責。慈悲の精神。

とにかく俺は“普通”。ただの村人Aだ。

普通なら、そんくらいの心は当然のように、人並みにあるものだ。


少女「それはとても立派で、誇らしいことよ」

村人「どうだか、いまどきお人よしなんざ流行んねぇよ」

少女「……」


拗ねたような顔だけを見せて、少女は黙った。

それは決して、完璧な沈黙ではない。言葉数は少ないが、こいつにも歳相応の感情はある。


黙する双剣の狩人。しかし俺と同じように、普通の人間の一人なのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/07(水) 23:45:58.16 ID:mrFOOajDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/08(木) 20:24:14.88 ID:bF6iaV+IO<> おつん
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/10(土) 02:11:30.65 ID:W/yi8QML0<>
どこかの国のどこかの街道。

商人のための街道には、無数の大きな鳥の足跡が刻まれ、深く太い轍がどこまでも続いている。


隣には、徒歩の旅人のために設けられたまっさらな道もあるのだが、そこは馬車道とは違い、ほとんど荒れてもおらず、綺麗なままだった。


前にも後ろにも人影のない、どこまでも続く歩道。


歩道を侵食する半分紅の差した芝を左足で踏みながら、一人の旅人が歩んでいた。



青年「……」


異様な男だった。

足取りは重く、何度も土を摺りながら、さながら砂漠をゆく水を求める者のような危うさで、ゆっくり歩んでいる。

背中には長い棒を背負い、その先端は古い包帯で厳重に巻かれている。それはおそらく槍であろう。

白い短外套の裾はゴーストを連想させるようにボロボロにほつれ、歩くごとに揺らめいた。

そして、艶のない白い髪。様々な要因が、彼の「只者で無さ」を表していた。


また、危うい足取りは、通りかかった商人の馬車を止めるほどにも目立っていた。

今も一台の馬車が停まり、中から鹿撃ち帽を深く被った男が顔を出す。


商人「おい、あんちゃん大丈夫か?」

青年「……」


白髪の彼は言葉に応えず、ただ何かしらぶつぶつと呟きながら、変わらず虚ろに歩き続ける。


商人「なんだあいつは……下向いて、うわ言みてえに」

商人「違法薬でもやってんのか?……ったく、最近の若い奴はすぐに薬に逃げるのか」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/10(土) 10:59:32.12 ID:W/yi8QML0<>
「それは違う」

商人「ん?」


後ろの歩道からやってきた者が、独り言に口を挟んだ。


「あの男は、ポーションや薬に手を出してるわけじゃねぇ」

商人「そうなのか?」

「ああ、奴の髪を見てみろ」


遠目に眺める。揺れる細い、ウェーブした白髪。


商人「……白髪だな、見事な白髪だ」

「ただの副作用や精神疲労だけでは、あそこまでの白髪にはならない」

商人「へぇ?」

「あれは“憑き物”が原因だ」

商人「なんだそりゃ、ゴーストか何かかい?」

「教えてやりたいとこだが悪いな」


言葉を言い終わると同時に、黒い外套の中から腕が伸びた。


商人「ぐッ……!?」

「オレと口訊いた奴は生かしちゃおけねぇんだ、悪いな」


彼が握っていたものはナイフ。青く、半透明の宝石のようなナイフだ。

その半分以上が男の心臓に突き刺さり、真っ赤な血を溢れさせている。


商人「な……なぜ……」

「知らねぇのか?最近有名なんだぜ」


黒衣「暗殺者」


深く被ったフードの下の顔は定かではない。

だが、僅かに覗く目は、黒く塗りつぶされている。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/11(日) 22:20:15.54 ID:Yc/pE/7Q0<>
青年「!」


目を開き、青年は振り返る。

隈だらけの目。蒼白な表情は今の凶行に対するものではないだろう。



暗殺者(静かに殺したつもりだが……気付いたか)


黒目の暗殺者は口元を歪めて笑い、悠々と青年に歩み寄る。


青年「……」

暗殺者「オレは面倒な前置きが嫌いでな、あいつとは違ってね……率直にやらせてもらうぜ」


右手に握った、血の滴る宝石ナイフ。先が白髪の青年へと向けられた。


暗殺者「てめぇを殺す」

青年「……そうか」


殺人の宣言を受けての顔面の蒼白。しかしそこに一切の焦りも驚きもなく、彼は腰に差した剣の柄に手をかける。


ざりざり、じゃりじゃりと、不快な摩擦音を立てて剣は抜かれてゆく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/12(月) 20:06:38.12 ID:rUtVEKgW0<> あれ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>saga<>2012/11/12(月) 20:21:15.95 ID:rUtVEKgW0<>
暗殺者(随分と古い剣だな……抜刀の音だけでわかる、野ざらしにしていたみてえに酷く錆ついてやがる)


宝石のナイフを手の中で弄び様子を伺う。

依頼人から聞いた情報では、この白髪の男は「魔剣士」。剣が見た目で錆びていようと、魔剣士であるならばそこから魔術を放つことも可能だ。


剣を基点に魔術を発動しつつ近接戦に持ち込む魔剣士、その物珍しさ自体が、その戦闘形態の優位性である。

街道の先にいる男のように、錆びついた剣で相手を油断させ……という手段も、有り得なくはない、むしろ現実的な狡猾な戦術といえる。


もっともバレていれば無意味なのだが。


青年「…俺を…殺す…だと?」

暗殺者「そうだ、死んでもらう」


黒衣の者の職業は暗殺者。ならば相手が命乞いをしようとも、完全に抹殺しなければならない。

ターゲットの抹殺は欠伸が出るほど当然な、確定事項なのだ。


青年「……そうか」

暗殺者「覚悟は良いな?」

青年「……」

暗殺者「よし、死ね」


暗殺者は口をゆがめ、ナイフを頭の上にまで掲げて振りかぶった。

ぱきぱきと、石が砕けるような、氷が出来上がるような怪音がナイフから発せられる。


直線上からまっすぐ放たれるであろうその凶器に対し、白髪の青年の構えは剣を持つ割に、あまりにも無防備すぎた。

両腕は垂れ、剣先は地面につき、目は緊張も覚悟もなく虚ろのまま。



青年「……お前がな」


ナイフが手から飛び出した時点でようやく青年の腕は動き、相手に聞こえないほどの小声で何かを呟いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/11/12(月) 21:28:01.32 ID:fXcWPUXwo<> >>692
どうした?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/11/13(火) 08:02:15.01 ID:fh0ysUGmo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/13(火) 17:57:27.66 ID:tT6S3cEI0<> >>694
勘違い 問題無し <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/13(火) 18:14:09.32 ID:tT6S3cEI0<>
黒衣「“ジェム”」


ナイフは意外にも、青年に向かって直線ではなく、かなり上の方向へと投げられた。

そのままの勢いが保持されれば青年の2人分の真上を通過するだろう。


投擲を誤ったわけではない。全ては計算の上。


青色のナイフが粉みじんに割れ、無数の煌めきが宙に散らばる。

その破片達が反射する太陽の光は七色に砕かれ、見る者を一瞬だけ魅了する。



青年「……危ないな」


上向きで無感動な小声は、相手にまで届かない。


黒衣「……“ドロップ”!」


ナイフの破片が更に炸裂する。

水晶の砂が光を浴びて光となり、それらの大半は奇妙にも青年の立つ場所に向かって降り注ぐ。


青年「……来ると思った」


迫り来る光の粒は、現代に蘇った散弾銃。

一粒一粒の威力は弱くとも、多数を受ければ重傷は免れないだろう。


宝石の粒が着弾する。

青年だけでなく、周囲の地面にも無数に命中し、一帯からは砂埃が舞った。



暗殺者「……」


煙の晴れた光景に、目にかかる黒髪を僅かに掻き分けてしまう。


青年「ただ石を飛ばすだけか?」


そこには剣を片手に、悠然と同じ位置から動かない青年がいた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/14(水) 19:57:40.37 ID:82XwCJrh0<>
黒衣(防がれた……剣を振ったようだが、あの量を防げるか?)


詠唱を唱えた動きは見られなかった。

大量の宝石の破片が生み出す乱反射光で姿はよく見えなかったが、剣を振った事は確かだ。


青年「……芸がそれだけなら、やめておけ」

黒衣「ァア?」

青年「俺は殺せないから」

黒衣「……ククク、安心しな、まだまだとっておきは沢山あるからよ」

青年「……そうか」


掠れるため息を吐き出して、重い動きで軽やかに剣を振る。

全体の鈍重な動きからしばらくは気付けなかったが、それは剣舞の流れだった。


片手の剣を正眼に向けて言う。


青年「来い」

黒衣「“ジェム、……ポール”!」


勝負ではなく殺し合いだ。

無粋であろうと、暗殺者に改まりきった宣言などは必要ない。


蒼い結晶が、地面から足元へと伸びる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/18(日) 19:21:49.22 ID:PprRaynY0<>
小さな宝石の散弾では曖昧だったが、地面から突出した結晶体の姿が露となり明らかとなった。


青年(宝石…!しかも結晶、間違いない……!)


土を食い破ったのは、人間の身の丈ほどもありそうな紺色の水晶。

尖った先端に直撃すれば、その硬度と質量でもって貫かれることは間違いなかった。


青年「ふッ」


二足のブーツが、鏡のように滑らかな水晶を挟み込む。

青年の体は突き刺されることなく、そのまま水晶に跨っていた。


黒衣(身軽な奴だ、患ったような顔はマジで薬か?)


彼の見事な退避に賞賛の鼻息を鳴らして、黒皮の右グローブを突き出し握りこむ。


黒衣「“ドロップ”」

青年「!」


足場の宝石が爆発する。

無数の煌きがフラッシュとなり、街道の辺りを蒼く染めた。


巨大鉱石の爆発。その爆心地が無事であるはずもなかった。



黒衣「なんだこいつァ?」

青年「……」


だが光が収まり、抉れた地面のそこには、無傷の青年が立っている。

剣を抜き放ったそのままで。


黒衣「オーケェ、キレたぜポーション・ジャンキー、オレはタフな野郎が大嫌いなんだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/19(月) 00:18:07.71 ID:EVAwCIRDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>saga<>2012/11/19(月) 22:53:40.40 ID:/LTY95t40<>
宝石の破片が土の上に無数に散らばっていた。

それらは濃淡に違いはあれど、どれも鮮やかな透き通る青系統の色だった。


踏めば“じゃり”とガラスのように鳴って、砕けた石たちは魔力に還元され掻き消える。


二人が立つ場所は、そんな不自然な街道の真ん中だった。



黒衣「はあッ……ちっ、しぶとい野郎め……」


片や顎から零れ落ちそうな汗を、宝石を握った手で拭い、


青年「ごほっ……どうした、他の技も見せてみろ……」


片や不健康そうな咳をしながらも、毅然と錆びた剣を相手に構える。

こうした宝石と錆びた剣などによる戦いは、数分も続いていた。


黒衣「……」


暗殺者が数分間も戦闘行動をするなど、通常は有り得ない。

当たれば即死の魔術同士でならば即決着がつくのが当然であるし、剣同士の斬り合いでも分とまではいかないはずだ。


だが魔術対剣の対決でこの体たらく。これはまさに異常だった。



黒衣(振れば巨大な盾のように攻撃を防いじまう剣……こいつはなかなか……“今”戦うには難しい野郎だな)


街道に刻まれた無数の戦闘の傷跡を一瞥し、暗殺者のほうは身を引く覚悟を決めた。


青年(宝石を出し、爆発させる術……やはり、覚えはない……)


一発勝負が売りの暗殺者を相手に膠着状態に縺れ込んだ彼も、今までの殺し合いの異常性を理解していた。

単純な詠唱で無尽蔵に生み出される宝石、それによる攻撃。

防ぐことは辛くもできているが、未知の領域に踏み入る決心を固めるにはまだ、情報が少なすぎる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 22:10:56.67 ID:Q7kQAsdYo<> ?? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/03(月) 22:21:08.56 ID:bPSS2E8yo<> あれ、Twitter垢きえてる? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/04(火) 07:31:57.75 ID:Y++Kml2IO<> そろそろ戻っておいで〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 14:37:28.74 ID:fH6yHcfEo<> まだですかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/05(水) 15:15:27.57 ID:FFnstj/No<> 垢あったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/07(金) 22:57:11.68 ID:k3HRWfQ8o<> まじで、どうした? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/09(日) 22:28:04.98 ID:zCIQCu0o0<> あーまいくてすまいくてす
今ここまでの範囲を頑張って作ってるからちょっと待ってて
あんまり台本を進めすぎるのも、げえむの展開を調整するのによくないから
ひまなひとは「無垢」から始まるスレでも読んでて <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/09(日) 23:08:14.44 ID:t1QMLrNBo<> そういやこの話のゲーム作るとか言ってたな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/10(月) 09:22:30.02 ID:Fy/J4roKo<> まじかよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 21:59:32.25 ID:3v+pbZ7fo<> >>709
kwwsk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/11(火) 22:33:05.22 ID:wMQgSRA4o<> >>711
>>343って言ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/22(土) 20:06:11.54 ID:3b4kUBFy0<> 追いついた バランスが難しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/22(土) 20:17:03.39 ID:3b4kUBFy0<> 黒衣「……チッ、仕方ねぇ」


外套が翻り、暗殺者の背が向けられる。


青年「逃げるのか?」

黒衣「また殺しに来る」


戦闘によって乱れた黒髪を整え、外れたフードを被り直す。


青年「俺はお前の都合など知らない……わざわざ逃がすものか……後々、また蚊のように来られても迷惑だからな」

黒衣「ハッ、やれるもんならやってみろ」

青年「ああ」


背を向けて歩き出す暗殺者の態度に気を悪くすることもなく、白髪の青年は剣を握って走り出した。


青年「変な奴だ、追いかけられても背を向けたまま、逃げないとは」

黒衣「必要ないしな」


剣がフードの首を目掛けて振り上げられ、同時に黒い暗殺者は手元の切符を引き千切った。


青年「!?」


切符の破損と同時に黒い暗殺者の姿はぼやけ、煙よりも静かに、速やかに消えてしまった。

錆びた剣は宙を斬り、目の前の光景に思考を埋め尽くされた青年は反動に振り回される。


青年「……?」


よろける足を四歩で立て直し、髪を振り乱して周囲を見回す。


青年(俺は今、確かに剣を振り下ろした)

青年(……消えた?)


見える範囲の街道に、黒い暗殺者の姿はない。

恐ろしげな気配もない。



青年「……叩き損ねたか」


“また沸きそうだ”と呟いて、錆びた剣を納め歩き出した。

青年の旅は、まだ続く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/22(土) 22:01:47.07 ID:tqbeWQHIO<> 久々
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/24(月) 01:09:11.03 ID:Ra4NH0h40<>
不自然な重低音と共に、黒衣は闇の間に翻った。


黒衣「戻ったぞ」

??「わかっている、終わったか?」


街道の延長を進むように、大理石の床を依頼人の前まで歩き、立ち止まった。



黒衣「まだ殺ってない」

??「お前の仕事とは何だ」

黒衣「……暗殺」

??「ではお前は今日、仕事をしたか?」

黒衣「達成していないな」

??「そうだな、お前は仕事をしていないな」


闇の奥から響く声が静かな迫力を込める。

語気は荒げなくとも、不機嫌は伝わった。


が、沈黙の中で1ページがめくられると、依頼人も機嫌を納めたらしい。

呆れたような息を吐いて、言葉を続ける。


??「どうするつもりだ、顔を見られたのではあるまいな」

黒衣「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/24(月) 01:21:46.15 ID:Ra4NH0h40<>
??「何があった?言ってみろ」

黒衣「チッ……一時撤退しただけだ、しくったわけじゃない」

??「同じことだ」

黒衣「今夜また出かける」

??「是非ともそうしてもらおう」

黒衣「ああ」


黒衣の暗殺者は依頼人が発する不穏な気配を避けるように踵を返そうとしたが、言うべき事を思い出して足を止めた。


黒衣「……だが、どういうことだ」

??「ん?」

黒衣「あの魔剣士、ただの魔剣士じゃないぞ」

??「どういう意味だ」


黒衣「奴は魔道具を使いこなせていなかった」

??「……ふむ?魔剣士には違いないが、使いこなせていないはずはないぞ」

黒衣「噂話をオレに掴ませたんじゃねえだろうな」

??「ブックに登録されているわけではない、新顔の警戒人物だ……奴の情報が少なかったのは事実だな」

黒衣「契約違反だぞ、ターゲットの情報が曖昧じゃあ困んだよ」

??「……ふむ、そうか、それもそうだな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/24(月) 01:31:29.93 ID:SRbQnhHio<> ほう2つとは珍しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/24(月) 20:05:12.65 ID:Ra4NH0h40<>
??「しかし、奴は魔道具を使いこなせていなかったと……ならば、なおのこと、容易なのではないか」

黒衣「……」


足を組む衣擦れの音が聞こえた。


??「半端にしか魔道具を使えない男に負けて帰って来た……では仮にその魔剣士が、魔道具を使いこなせていたらどうだ?」

??「今よりもさらに惨めな姿で帰って来たということか?仕事の失敗理由とするには厳しすぎるものだな」

黒衣「勘違いするな、オレは負けてない、ドローだ」


男は静かに苦笑した。


黒衣「……それと、オレはさっき魔剣士は魔道具を使いこなせていないと言ったけどな」

??「うむ」

黒衣「“5個全て”という意味だ」

??「! 5個だと?」

黒衣「ああ、奴は5つの古代魔道具を持っていた、どれも使い込みは不完全だが、全て操っていた」

??「バカな、そんな情報は無かったぞ」

黒衣「こっちのセリフだクソ野郎、ざけんな……5つもわけのわかんねー古代魔導具を扱う輩となんかと戦えるかよ」

??「……持つだけで生気を吸うとされている古代魔道具を5つ・・・死ぬ気か?」

黒衣「さあな」


黒衣「目は死んでたけどな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/26(水) 18:19:08.85 ID:rzkOt5nA0<>
船頭「おお、良い風だ」

男「そうですね、波も無く良い追い風です」

生徒「わぁー」


朝市場の生臭さが残る桟橋を離れると、心地よい潮風を受けて船が進んでいた。


船頭「これなら、予定よりも早く港につけそうだ、良かったな」

男「ええ、ありがたい限りです……急ぎの用なので」

船頭「海の機嫌が良かったんだ、礼なら海に言え」

男「はは、ええ」


ぶっきらぼうに返す船頭の耳が赤くなっているのを、男は見逃していなかった。


周囲に人の目などはあるわけもなく、ならば当然、暗殺者もいない。

ただこの場の雰囲気に和まされるだけの、微笑ましい船旅だった。


生徒「……」

男「こら、あまり覗いていると海に落ちるぞ」

生徒「あ、すいません……水にお魚さんいないかなって」

男「全く、のんきだな」

生徒「……ごめんなさい」

男「いや、良いんだ」


男(……最近はバタバタしていたからな、丁度いい休息だ)

男(なんとか港に辿り付けた……そして船に乗って、国外へ……)


男(暗殺者はなんとかなったが、疎開先への道のりもバカにはならないなぁ)

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/27(木) 00:22:41.52 ID:jDCUjesDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/27(木) 20:48:29.92 ID:h/gbCxCY0<> 【竹林の村】


途中から道の左右に背の高い竹が見えてきたので、目的地が近いことを悟った。

竹林の村と呼ばれているそこは別れ町への中継となる場所のひとつで、竹の群生地として有名だ。


そのうちに伺えてくる集落では、家屋も響紋台も竹製。

青い匂いが心を落ち着かせてくれる。


少女「町についたわ」

村人「見りゃわかる」

少女「夜になったわ」

村人「知ってる」

少女「到着が予想よりも遥かに遅れた」

村人「それはお前のせいだぞ」


着いて早々にこれだ。

不機嫌なのはこっちの方だ。長い道を歩いたり、林に入ったりでズボンの裾が土まみれだってのに。


少女「あなたがもっと早く助けに来ていたら、戦闘は長引かなかったわ」

村人「あの叫び声を無視していればさらに時間は短縮できていただろうな」

少女「それだとこの地球上から掛け替えのないひとつの命が消えてしまうわ」

村人「どうでもいいね」


少女「……なら、どうして助けたの」

村人「」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:22:32.40 ID:zkKjw94DO<> 乙

村人パート久しぶりだね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/28(金) 00:47:57.29 ID:wQH3YZVGo<> 夫婦みたいな会話
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/28(金) 23:18:31.58 ID:SfFCDnRy0<>
少女「……とにかく、宿に入りましょう……暗くなってきたし、眠い」


ついさっきまでは眠気も疲れも感じさせない無表情だったが、控えめに表れたな欠伸を見るに、そろそろ真剣に休む必要がありそうだ。


村人「いいや、寝るのは後にしよう」

少女「?」


村人「まずは風呂、そして飯だろう」


田舎暮らしとはいえ、水の豊富な俺の村だ。風呂はほとんど毎日欠かしたことがない。

寝る前に熱い湯船で希釈シードルを一杯。良いもんだ。


少女「……」

村人「……なんだよ、その目は」

少女「オヤジ臭い」

村人「あ?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/30(日) 12:27:26.35 ID:qJyAPv7/0<>
夜の露店は少ない。

元々閑散としている狭い道は二人が横に並んでいても通りやすく、時折桶を抱えて歩いている風呂帰りらしき人とすれ違う程度だ。


暗い道にも点々と民家の灯りが繋がり、向こうまではっきりと見ることが出来る。


村人「んー、良い灯りだ」

少女「この村は夜になると、筒状に切った竹の中に灯りを入れて、戸口に飾る風習がある」

村人「ほう?しかし生えてるやつと表面の色が違うみてーだが、飾ってあるものも同じ竹なのかね」

少女「薄く削った竹の皮から灯りが透けて、ぼんやりとした光になっているの」

村人「なるほど」


少女「……近くに住んでいるんじゃないの?」

村人「いや、こんな遠くまでは滅多に来ないんだわ」

少女「……そう」

村人「おい、その顔やめろっつーの」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/12/31(月) 22:33:47.60 ID:zDM6pHYA0<>
宿らしき看板を見つけ、扉にを押す。

が、何度か押しても動かなかったので、舌打ち交じりに横にずらしてみると、滑らかに扉が動いた。


明るい宿の奥に控えていた白髪の爺さんが扉の音に気付き、長年培ってきた笑顔で俺たちを出迎えた。


村人「部屋は空いてる?今日だけ一泊なんだけど」

爺「ありますとも、どうぞどうぞ」

村人「そうか、ベッドは2つある部屋が良いな」

爺「申し訳ございません、この宿は布団、となっておりまして……」

村人「ああ、そういうのは気にしないから大丈夫」

爺「でしたら2つの部屋をご用意できます」

村人「お、いいねぇ……じゃあここに風呂は?」

爺「広い露天が、ございますとも」


村人「良い奴だな」

爺「開業300年、由緒ある宿屋でございますから……」

村人「サンキュー、泊まらせてもらうぜ、2人だ」

爺「はい、かしこま……」


爺さんの目線が俺の肩の向こうへ泳いだ。


少女「……?」

爺「……ええと、布団は2つでよろしかったでしょうか」

村人「そういう気遣いはいらねえ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 22:45:43.05 ID:9bxdAULko<> 村人可愛い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/31(月) 22:48:23.58 ID:X3bB2ugro<> 村人の職業は賢者か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/01(火) 02:13:37.43 ID:wefuGuKfo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/03(木) 17:16:41.66 ID:UiLg88LJ0<>
少女「……ねえ、さっきの話はどういう意味だったの?」

村人「お前は知らなくていい」

少女「? 気になる」

村人「気にならなくていい」


木札と同じ番号が記されている戸を開けると、そこは古い木の香りがする部屋だった。

滅多に拝めない畳が敷き詰められている。夜に暖炉無しでも、なかなか暖かそうである。



村人「ここだな……ん、良い部屋だ」

少女「そうね、手狭だけど十分」

村人「寝るには十分過ぎるだろう、適度に飯を食うスペースもありそうだ」

少女「ええ」


適当な場所に重い荷物を下ろし、肩が大きく息を吐いたような気がした。

まったく、チョウイモの収穫でもここまで肩は痛くならんだろうに。

旅ってのはままならないもんだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/04(金) 13:01:58.00 ID:SibfR8Ip0<>
どうしても鳴らしたい肩を三回ほど鳴らすと、少女が声をかけてきた。


少女「まずはどうする?」

村人「どうするって?」

少女「食事か入浴か」


腹も減ったし、身体の汗も流したい。が。


村人「もちろん風呂だな、汗かいて気持ち悪い」

少女「そうね、同感……じゃあ行きましょう」


汚い格好でメシを食うのもあれだものな。

体を温める意味でも、先に湯に漬かっておこう。


村人「あ、ちょっと待て」

少女「?」

村人「卵もってくわ……えーっと、割れてねえだろうな……お、あったあった」

少女「……」


熱い温泉といえばこれだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/04(金) 17:50:23.32 ID:TK/QdJZKo<> 夫婦みたいな会話しとる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/06(日) 19:23:56.38 ID:sDC6YHp00<>
“入湯所はこちら→”


看板の癖のある古い字体が、宿の年季を感じさせる。

床は毎日綺麗に掃除されているのだろう。奥まった場所に置かれている水桶の縁に、雑巾が掛かっているのが見えた。


村人「綺麗でもあまり儲かってないみたいだな、全然人がいねぇ」

少女「場所があまり良くないから……」

村人「良い宿ではあるんだけどな」

少女「ええ」


矢印通りに床を軋ませると、新たな看板にかち合った。


村人「……ん」

少女「? どうしたの」


“入湯所”


村人「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/06(日) 19:29:08.02 ID:5EWB5r0do<> 入浴シーンに期待せざるをえない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/07(月) 18:58:05.88 ID:ah7fNTCs0<>
少女「どうしたの、早く開ければ?」

村人「……嫌な予感がする」

少女「?」


曇りガラスの窓がついた引き戸に手をかける。

躊躇はあったが、とにかく進むしかない。

俺はもはや確固たるものと疑わない嫌な予感を抱きつつも、それを開いた。


村人「……」

少女「……」


そこは小さな松の木を中央に飾った、これまた古臭い部屋だ。

両脇にいくつかの棚があり、中には竹の編み籠が置かれている。


村人「ここは脱衣所だな」

少女「……そうね」


湯煙に曇ったひとつしかないガラスの扉をしらけた目で見やり、その上の染み付いた看板を読んで“ああ”とでも言っておこうか。


“混浴”


村人「……らしいな」

少女「……らしいわね」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/07(月) 23:00:47.76 ID:CcLRvsMTo<> ほぅ・・・・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 01:16:10.80 ID:SmAuFV0ko<> ……ほぅ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/01/08(火) 18:16:02.28 ID:XrX8CKqV0<> ッ・・・・・<●><●> <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 18:32:24.27 ID:kKXV9xGu0<> |壁|∀・*)=∀・*) モソソ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/08(火) 19:05:43.19 ID:kKXV9xGu0<>
村人「……」

少女「……」


男女共同の脱衣所に立ちすくみ、しばらく二人して看板を見上げていた。


村人「どうすりゃいいんだ……?いや違うな、どうなんだ、っていうのか……」

少女「どうして脱衣所まで一緒なのかしら」

村人「設計ミスか?」

少女「……開業300年、そういう風潮だったのかしら」


当時の風潮がどんなもんかは知らないが、そろそろ現代風の考え方を取り入れてみたらどうだろう。

……って、ここの経営の行く末なんかはどうでもいい。


村人「……お前先入れよ」

少女「……私は良い、村人こそ先に入れば」

村人「いやあれだ、レディーファーストだ、入れ」

少女「……調子良いこと言ってるけど、本音ではあまりこの風呂に入りたくないんでしょ」

村人「ああ」


図星を突かれることなど承知の上だ。


少女「……」

村人「……だって、風呂場に何がいるかわかったもんじゃねーし」

少女「……」

村人「仮に女が居たら困る」

少女「私だって、既に男が居ても困るわ」



村人「……お互いまだ若いな」

少女「……そうね」


結局、先に先にを押し付け合うことなく本音を吐露するだけに終わった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/08(火) 22:44:36.12 ID:ou+knhnDO<> 二人一緒に入ろうよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/09(水) 00:41:44.40 ID:H3kT7pnro<> 村人が先に入って男がいなければ呼んで一緒に入ればいいんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/09(水) 19:14:21.09 ID:8AHFVVqn0<>
かぽーん。

どこからともなくそんな音が聞こえてきそうな露天風呂。


体の疲れも汚れも、全て湯の中に溶け出してしまいそうな、寒空の極楽。

だが、しかし。


村人「どうしてこうなった……」

少女「……」


横長の岩に背を預け、三人分ほどの間を空けて、俺たちは湯船に浸かっていた。


村人「二人一緒に入る意味がわからない」


何故こうなったのか。それは、どちらとも部屋に引き返そうとしなかったためだ。

何故どっちかが部屋に戻らなかったのか。それは知らん。


少女「恥ずかしいの?」

村人「ああ」

少女「私も恥ずかしい」

村人「素直でよろしい」


何故恥ずかしいのに一緒に入ったのか。

もう知らん。


村人「……まぁ助かったのは、こう、湯気がものすごいって事だな」

少女「お互いの姿はおろか、脱衣所がどっちなのかすらわからないけど」

村人「まさか風呂への戸を空けた瞬間に湯けむりに覆われるとは思わなかった」

少女「着替えには困らなかったし、良いじゃない」


それを見越しての混浴ではないだろうけどな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/10(木) 01:53:22.90 ID:S100zwbDO<> 湯けむりなんか無くなればいいのに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/10(木) 18:08:18.92 ID:KM50Vgvg0<>
村人「……この湯、熱くないか」

少女「……そう?」


岩に背を預け、できるだけ上半身を出すようにはしている。

それでも頭に熱が回ってくる。


村人「かなり……茹だる」

少女「ゆだる?」

村人「いや、ちょっとまて……これは本当に……熱い」


心なしか眩暈まで襲ってきた。

盗賊よりも竜よりも、今は湯の方が恐ろしい。


少女「どこかに水を入れるための仕掛けがあるはずだけど……」

村人「見回して探しちゃいるんだが、なんも見えねえぞ」

少女「……」


水音がする。

少女が湯の中を歩いている音だろう。


少女「……村人、今どこにいるの?」

村人「ここだここ」

少女「そこか」

村人「なんかこう、下の岩が入り口付近よりもごつごつしてる」

少女「わからない」

村人「だよな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/11(金) 00:25:19.14 ID:jMMvM7XOo<> エロいことが起こりますように <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/13(日) 12:17:38.63 ID:JIHgNcJN0<>
村人「お?」


かこん、と、木の仕組みが動く音がした。

丁度手を着いた場所がそうだ。


少女「? 今の音は?」

村人「なんかこれ傾くぞ……おっ、冷たい水が少し出てきた」

少女「ならそれが仕掛けかも」

村人「なるほどな……じゃあこれを思いっきり傾ければ、水で程良い湯になるってわけか……おらよっと」


木の何かを強く押してみる。

すると、茹だった頭を正気に戻す冷水が一気に流れ込んできた。


村人「お……おおおお!こりゃいい!丁度いいぜ!」

少女「……すごくうれしそうね」

村人「あー、最高だわ……脚伸ばせる風呂なんて何年振りだろ……」

少女「……」


溢れ出る水の隣に腰を落として深く一息。

こんな気分が味わえるなら、旅をするのも悪くはないと思えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/13(日) 23:44:17.57 ID:9RYycx/Ro<> 見えてきた? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/18(金) 21:50:15.30 ID:DW8tfdPX0<>
少女「前にも訊いたけど」

村人「ん?」

少女「その、今会おうとしている人は……どんな人なの?」

村人「……どんな人、か」


温くなった水の中に肩まで浸かり、今一度目指している奴の顔を煙の上に思い描いてみる。


村人「……セコい」

少女「……セコい?」


湯煙に描いたあいつの顔が“どこがだよ”、と俺に苦笑いした。


村人「とにかく嘘をつくのが好きな奴でよ、田舎の学校に居たころはそれでもうな、詐欺師のような真似をよくやってた」

少女「……詐欺……」

村人「嘘をつくのがとにかく上手い、褒めれば計算高い奴だな」

少女「……あまり、好きになれそうなタイプじゃない」

村人「そうだな、あいつに多くの友達はできなかった」

少女「……」


村人「俺は友達……いや、親友だったけどな」

少女「……親友」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/19(土) 01:22:08.27 ID:ecSSOtMDO<> 湯けむりはよ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/19(土) 22:53:11.29 ID:TCkAR4EZ0<>
村人「そいつの家と俺の家が近くにあったってのもあるけどな、なんとなくウマが合うんだ」

少女「……どんな風に」

村人「一緒になって悪戯をするような……悪友っつーのかな」

少女「……」


教師、長老、同い年の友達から年上の奴らにまで、分け隔てなく悪さをしたもんだ。

あいつは魔術を使って金属棒を生み出し、チョークの束に巧妙に偽装して混ぜ込んだりしていたな。


村人「主な実行犯は俺だったから、悪戯がバレたらほとんどが俺の責任になってたけどな、あいつは責任を避けるのが上手かった」

少女「悪友ね」


こってり怒られた後、あいつはそんな俺に励ましているんだか、バカにしているんだかわからない笑顔で迎えてくれる。

共犯者の痛み分けとしてくれてやるのは、軽い肘打ちだった。



村人「でもまぁ」

村人「なかなか楽しい奴だったよ」

少女「……」

村人「星座の話や……宝石の話、色々したなぁ」

少女「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/20(日) 00:18:22.17 ID:/oiHoSM0o<> そんな友達私もほしいです
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/20(日) 12:04:45.00 ID:XSRv3bin0<>
村人「なあ、お前は傭兵とかやってると、そういう友達とか……」


首を横に向けて、異変に気付く。

少女の顔が薄ぼんやりと見えていたのだ。


村人「!」

少女「!」


相手もそれに気付いたか、肩までざぶんと湯の中へ沈み込んだ。

俺はそっぽ向いた。


村人「湯けむりが薄くなってやがる」

少女「水を入れて少し冷えたのね……」


ぶくぶくと水を吹く音が聞こえる。

少々機嫌が悪くなっているようだ。


村人「いや、見てない」

少女「……肩までしか出してなかったから」

村人「そうか」

少女「そろそろ、あがるわ」

村人「おう、そうか……じゃあ先に着替えてろ」

少女「……ええ」


水を蹴りながら、少女は先に露天風呂を退散していった。


少女「……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/20(日) 23:46:30.03 ID:y40GLWHDO<> そうじゃないだろorz <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/21(月) 18:23:42.80 ID:JIlU0Nh90<>
少女(あっつい……入りすぎた)


背中から湯気を立たせながら脱衣所へと戻った少女は、思いのほか熱かった湯加減に足をふらつかせながらも着替えを始めた。

体を大雑把に拭き、入湯所の入り口を横目に手早く服を着てゆく。

髪などは乱暴に拭い、水分を取るだけである。


少女(髪留め、髪留め……あった)

少女「……」


昔に母が似合うと褒めてくれた赤いリボン。

思い出の品を眺めていると、彼女は自然と自分の過去を振り返っていた。


少女(友達か……意識したことがなかった)

少女(友達も親友も、悪友もいないな)


少女(けど必要とは思わない……今までも必要なかったもの)

少女(……これからも?)

少女「……」


少女(……考えるだけ無駄なことだわ)

少女(彼には友達がいる、私にはいない、それだけ)

少女(……渡り歩く傭兵に、友達は必要ない)


少女「早く部屋に戻ろう、なんだか……眠い」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/21(月) 22:16:40.98 ID:bx0ZOjL2o<> ちょっと少女と友達になってくる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/22(火) 18:11:36.12 ID:pbNKH9L00<>
村人「ふんふんふーん」

少女「あら、あがったの……」

村人「おむ」

少女「……何を食べてるの?」

村人「たぁご」


少々堅くなったタマゴだが、ちょいと塩をつければ味は変わらない。

贅沢を言えばちょっとだけ魚醤のダシか何かをつけて食いたかったが、そりゃあ本当の贅沢なので何も言うまい。


村人「ぷはー、うめぇー」

少女「そういえば、持ち込んでいたわね」

村人「こういうでっかい風呂に入ったら卵を入れておくのが常套ってもんだな?」

少女「……そうなの?」

村人「おう、気前よく2つほど入れときゃよかったぜ」


高級品だからぽんぽん食うのはバチ当たりではあるが、一度腹いっぱいにタマゴを食いたいもんだ。


村人「布団は敷かれてるのな」

少女「ええ、宿の人が準備してくれた」

村人「ご丁寧に、ありがたい」

少女「本当」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/23(水) 08:04:37.82 ID:purPUJzIO<> 今夜はおた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/23(水) 23:06:15.34 ID:F/wtOTIw0<>
膨らんだ布団に倒れこみ、顔を押し付ける。


村人「あー、いいわこれ」

少女(子供……)

村人「気持ちいい……あーもうだめだ、眠くなってきたー……」

少女「……私も、そろそろ寝る」


布団1つ分空けた隣で少女が潜った音を聞いて、俺も自分の毛布へと収まった。

何度も剣を振ったせいか、久々に右腕が重い。


肩の違和感をそのままに、今はとにかく竹編みの天井を眺めるばかりだった。


少女「……」

村人「……」


障子の外では静かに虫が鳴いている。

蛍の幽かな灯りが薄く横切るのを、紙越しに見ることが出来た。


村人「なんつーか」

少女「うん」

村人「変な気分だな」

少女「……そうね」

村人「あんまよく知らない奴と一緒に寝るなんて初めてだ」

少女「……」


あまり知らない場所、あまり知らない奴。

慣れない気分っていうのは、むず痒いものだった。


むず痒さを大人しく受け入れられない俺は、静かに眠りについた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/23(水) 23:12:42.84 ID:7/dICNjlo<> 変な気分か
乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/01/24(木) 18:04:30.62 ID:il+2cUyT0<> 村人「くかー……くかー……」

少女(……眠れない)


村人「んん〜……カットが甘い……むにゃ……」

少女(何の夢を見ているんだろう……)


少女「……」


少女(……旅が始まった……きっと、長い旅になる)

少女(この任務の難度は“紅”だった……今まで受けたこともない危険な任務、ということになる)

少女(でも、私は選ばれた……私が選ばれた)

少女(何故私なのか……これは偶然?必然……?)


少女(……どちらにせよ、これはただの護衛任務ではない)

少女(そしてこの任務は……きっと)


少女(……関係している。絶対に)


村人「くかー……くかー……」

少女「……」


少女(あなたはきっと……まだわかっていないのね)

少女(この旅は、あなたの想像以上に、とても“面倒”であることに)
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/01/28(月) 22:13:10.94 ID:wfkiwJnno<> 着々とフラグを建てていく村人さん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2013/02/02(土) 18:03:25.93 ID:1plXeE3p0<> ランボー怒りのイラスト待ち <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/12(火) 19:45:11.39 ID:cMAa7T8M0<> ( *・∀,';,';,',... サラサラ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 02:21:07.81 ID:DKyvDuTko<> 崩れたァァァ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/13(水) 09:36:19.91 ID:iS+2d3K+o<> >>1の霊圧が…消えた……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/19(火) 14:42:29.12 ID:lPen2pBIO<> >>765
風化すんな!風化すんなああぁぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/01(金) 13:45:05.42 ID:YgENmNCxo<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/11(月) 23:50:11.17 ID:ph55S6pxo<> >>1生きてる? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/12(火) 11:12:57.33 ID:XoR/Bg9AO<> あっちのスレで生存は確認した
やがてこっちにも来てくれると信じておるよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/12(火) 19:00:50.95 ID:P+zUegYao<> あっちってどこだ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/12(火) 19:20:30.73 ID:2m/RixbBo<> あっちはあっち <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/12(火) 20:17:24.01 ID:2eg1u8eZo<> こっちはこっち <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/03/31(日) 08:32:39.68 ID:RZRinzvAO<> まだかなあ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/04/11(木) 18:13:13.78 ID:/ZCpI+jpo<>      ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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