◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/08(土) 23:23:49.12 ID:IJ+BMVhAO<>

ポケットモンスター、縮めてポケモン。

この星の不思議な不思議な生き物。草むらに海に空に森に町に洞窟に……はたまた宇宙にまで。

その種類は、100、200、300、400、500、600……いや、それ以上かもしれない。

人間とポケモンはこの星で共に暮らし、互いに支え合い生きている…。





第一章・始まりの町(グレンタウン)



<>イノケンティウス「ポケモンチャンピオンを目指してみないか?」 ステイル「は?」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2011/10/08(土) 23:24:28.98 ID:EOVeGTLAO<> 無敵www <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 23:26:37.50 ID:nxtgPiu50<> グレンタウンの壊滅の理由はまさか <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:27:06.89 ID:IJ+BMVhAO<> ―――――――

――――――――――
―――――――――――

―――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――

「ポケモンの数だけのドラマがあり、ポケモンの数だけの出会いがあり、ポケモンの数だけの冒険がある……」

「…何をブツブツと言っているんだい? イノケンティウス」

カントー地方の南西部に位置する休火山の島、グレンタウン。
その島の外れに位置する、ある施設――ポケモンジムと呼ばれる建物に二人(正式には一人と一匹だが)はいた。

イノケンティウス「いやあな…。ステイル、お前に話があってだな」

ステイル「……話って?」

イノケンティウス「ポケモンチャンピオンを目指してみないか?」

ステイル「……………………………………………」

ステイル「は?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:30:53.38 ID:IJ+BMVhAO<> ――――――――――
―――――――――
――――――――

――――――
―――――

―――


「ステイルー!? ステイルはどこだー!!」

ステイル「ハァ…」

ステイル「ああ! ここにいるよ、親父!!」

「おお! そんなところにいたのか!!」

ステイル「さっきからいただろ…。それで、何か用かな?」

「なんだ、つれないな〜!! 親子なのに用がないと会話してはいけないのか!?」

ステイル「明らかに僕のこと探していたじゃないか…」

「ハッハッハ! まあ実際、用があるんだがな!!」

ステイル「……ハァ」

ステイルの父親、カツラ。

こんなふうだが、この島のジムリーダーをやっている結構エライ人物だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/08(土) 23:32:58.05 ID:qyiTj0uDO<> イノケンさんが普通にしゃべってるシュール
期待 <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:35:08.26 ID:IJ+BMVhAO<>
カツラ「それでな、用というのは…」

ステイル「……」スパー

カツラ「聞いているのか!? ステイル!!」

ステイル「…ああ、聞いてるよ」

カツラ「フンッ! まあいい!!お前にな、行ってほしいところがあるんだ!!」

ステイル「行ってほしい? どこに?」

カツラ「ポケモン屋敷だ!!」

ステイル「ポケモン屋敷…またなんで?」

カツラ「最近あそこが騒がしいそうでな!! お前に見に行ってほしいのだ!!!」

ステイル「んー…。ま、いいけど」

カツラ「頼んだぞ!! ハッハッハ!!!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:40:04.44 ID:IJ+BMVhAO<> ***

ステイルはジムの出入口の前に立っていた。

ステイル「…あれ?」

ドアノブに手をかけるが、ガチャッと音がしただけでドアは開かない。

あぁ、そうだった。とステイルは呟き、自分の部屋へ戻った。

ステイルの父親カツラはあんな性格だが、戸締まりや…『そういうこと』には用心深いのだ。

ステイル(まったく、自分がいる時くらいは開けておきなよ)

ステイルは自分の部屋から鍵を持ってくると、ドアを開けた。あとで父親がうるさいので、出た後に鍵を掛けておく。

ステイル「………」

ジムからポケモン屋敷までの道のりは、結構ある。ポケモン屋敷も島の外れであり、ジムはその反対側の外れだ。
<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:45:47.51 ID:IJ+BMVhAO<>
ステイルはだるそうに歩いていた。

趣味の煙草を吸うため、ポケットの中を捜していると、あるものに手が触れた。―――モンスターボールだ。

ステイルはそのモンスターボールを手にとった。ボールの中には、橙色の犬が入っている。

その中を見つめ、ステイルはイノケンティウスとの話を思い返した。


――

――――

――――――
―――――――

――――――――
―――――――――
――――――――――


ステイル「ポケモンチャンピオンだって?」

イノケンティウス「ああ、そうだ。なってみないか?」

ステイル「……」

ステイル「なんだって、僕がチャンピオンなんかに?」

ステイル「まさか君がそんなことを言うなんてね」

イノケンティウス「分かってる。お前も昔はリーグチャンピオンを夢見ていたってのはな」

ステイル「……」

そう、ステイルはポケモンリーグチャンピオンになりたかった。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:50:21.57 ID:IJ+BMVhAO<>
それはまだ彼が十歳の頃。

十歳になればもう立派な大人。それがこの世界での常識だ。そして十歳になれば、大抵の人はポケモントレーナーとなり、ポケモンを連れて旅に出る。
当時十歳だったステイルもその一人だった。

ステイルはイノケンティウスを連れて旅に出たのだった。


ジムリーダーの息子だけあってか、旅はそれなりに順調に進んで行き、ステイルはついにトレーナー達の目指す、ポケモンリーグへとたどり着いた。

そこからは簡単だ。待ち受ける四天王を順々に倒していき、勝てば晴れてチャンピオンになれる。

ステイルはやはりジムリーダーの息子だけあって、四天王を全員倒しチャンピオンになった。

……が、

ステイルが最後の四天王を倒し、まさにチャンピオンの座に就こうとした時。


もう一人の挑戦者が現れた。


少年だった。ステイルよりは年上で、しかしステイルよりは背が低く、それでいて、その姿は見る人全てに恐怖を植え付けるような――最強を物語っていた。

ステイルはその少年を見ると同時に、思った。この少年から勝利を納めなければチャンピオンなど語れない、と。

そして、両者の戦いが始まった――……。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:54:20.16 ID:IJ+BMVhAO<>

勝ったのは、ステイルより年上で、しかしステイルより背が低い少年。

ステイルは負けた。それもただの負けじゃない。完敗だった。相手のポケモンに触れることすら出来なかった。いや、というよりも、


こちらの全ての攻撃を跳ね返された。


ステイルは本当に何も出来ずに、本当の意味で完敗したのだった。

そうしてステイルは負け、チャンピオンの座から引きずり下ろされた。



イノケンティウス「……それ以来、お前はこのグレンタウンからは出ずに、父親であるカツラの研究を手伝ってる」

ステイル「……」

ステイルの父親カツラはジムリーダーであるとともに、研究者でもある。
ステイルはあの少年に負けてから、夢であったリーグチャンピオンを諦め、カツラの研究を手伝っている。

イノケンティウス「確かにお前は研究者としては優秀だよ。カツラもそう言ってる。だがな、カツラはやはりお前にお前が進みたい道へと進んでほしいんだよ」

ステイル「……僕は、」

イノケンティウス「…まあ、それを決めるのもお前の自由だ。俺がどうこう言えることじゃない。だが…」

イノケンティウス「俺としても、お前にはかつての夢を叶えてほしいと思っている」

ステイル「……」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/08(土) 23:57:39.76 ID:IJ+BMVhAO<> ――――――

――――

―――




ギリッ……

ステイル「…分かってはいるんだ……でも、」

――最強。

あの少年とのバトルはステイルには衝撃的すぎた。
攻撃が当たらない、むしろ跳ね返される。何をしても――勝てない。

その圧倒的な強さは、それまで負けたことがなかったステイルの心に深い傷を負わせた。

そうして、バトルからはなるべく避け、カツラの研究の手伝いをするようになった。

ステイルは皮肉げに笑う。

ステイル「神父の服を着た研究者、というのも可笑しいけどね」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 00:00:52.66 ID:cP0YEfKAO<>
***

グレンの北西にあるポケモン屋敷。
そこは謎の廃屋であり、誰が住んでいたかは謎。なにがあるのかも謎である。

ステイル(騒がしい、ねぇ。野生ポケモンが暴れているのか…それとも、こんな変哲な場所に用がある人間がいるのか……)

ステイル「まあ、どちらにしろやる事は一つだし。さっさと終わらせて帰ろう」

ステイルは屋敷のドアノブに手を回す。

ドアが開かれ、薄暗い空間が広がる。

ステイルがその中へ入ると、そこには……

「貴方は…」

ステイル「! 君は確か、神裂……」

神裂「神裂火織です」


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/09(日) 00:03:09.29 ID:cP0YEfKAO<> とりあえずここまで

地の文は下手くそ
読んでくださる方がいたら光栄です

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/09(日) 00:42:00.94 ID:m8CdM70JP<> スレタイだけで良SSだとわかったわ
全力で支援!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(滋賀県)<>sage<>2011/10/09(日) 02:19:57.41 ID:nHhY6tTOo<> 上条−ピカチュウのコンビかね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2011/10/09(日) 09:36:21.14 ID:ZEd5WYku0<> 期待 <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:30:08.38 ID:cP0YEfKAO<>
神裂火織。セキチクシティのジムリーダー・キョウの娘である。

同じくジムリーダーの息子であるステイルは、神裂とは顔を合わせたことがある。

神裂「ステイル=マグヌスさん、でしたか」

ステイル「ステイルでいいよ。君の方が年上なんだし」

神裂「…それなら貴方の方は敬語を使うとか、そういう礼儀作法は……」ゴニョゴニョ

ステイル「?」

ステイル「…此処が騒がしいと聞いて、見に来たんだけど。もしかして君が原因かい?」

神裂「そもそも私の呼び方から……って、はい?」

ステイル「いやだから、此処で騒がしくしているのは君なのかな。野生ポケモンとバトルでもしていたのかい?子供じゃないんだから、町に迷惑をかけるのはいただけないと思うんだけど」

神裂「……………………………………はぁ、」

神裂「どうやら、貴方に礼儀を弁えるように言う事自体が無謀だったようですね」

ステイル「…? 礼儀がなっていないのは暴れていた君の方だと思うよ」

神裂「私は暴れてなんていませんよ。というよりも、セキチクからわざわざ此処まで野生ポケモンを倒しに来ると思いますか?理由があるのですよ。私が此処に来た理由…」

ステイル「……なんだい、それは」


神裂「ロケット団、という組織の名を聞いたことがありませんか」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:34:35.19 ID:cP0YEfKAO<>
ステイル「ロケット団……?」

神裂「……。その様子だと知らないようですね」

神裂「いいでしょう。ロケット団とはですね…、」


ポケモンマフィア。ロケット団の正体はそれだ。

神裂が言うには、

ロケット団は主にカントー地方で暗躍している金儲けを目的とする悪の組織で、金の為ならポケモンを売買したりポケモンの生体実験をして大量の薬物をポケモンに投与したり何でもするらしい。

ステイル「…ロケット団、か」

神裂「ロケット団の事はすべて父上から聞きました。私はロケット団の話を聞いた時、怒り、悲しみ、…そして決めました」

神裂「私はロケット団を止めてみせる! これ以上好き勝手にさせません!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:39:23.60 ID:cP0YEfKAO<>
ステイル「……もしかして、君が此処に来たのは」

神裂「はい。このポケモン屋敷でロケット団の目撃情報があったんです」

ステイル「騒がしくしていたのは奴らか…」

神裂「そうでしょうね。何やらロケット団は此処で調べものをしているとか…」

ステイル「調べものね……」

神裂「噂によると、ポケモンの生体実験に必要なデータを集めているらしいですよ」

ステイル「生体実験?」

神裂「はい。薬物を投与して無理矢理ポケモンのパワーを上げたり、ポケモンの成長を早めて普通よりも早い時期に進化させる薬を作ったり……ですよ。実感は湧かないと思いますが」

ステイル「…いや、僕も一応研究者だからね。ある程度は理解できるよ」

神裂「そうですか。……まあ、そういうことですよ」

ステイル「…何の話だ?」

神裂「ここで騒ぎを起こしているのはロケット団。恐らく、貴方の言う騒いでいる連中というのも彼ら」

ステイル「…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:44:09.76 ID:cP0YEfKAO<>

神裂「貴方は帰ってください」


ステイル「! なに…」

神裂「相手は悪の組織。それを止めるのは私の役目です。一般人を巻き込むつもりは毛頭ありません」

ステイル「一般人だと? 僕は騒ぎを聞き付けて此処へやって来た。ならばその騒ぎを止めるのは僕の役目だ!」

神裂「そうですね…。でもそれは、その騒ぎが野生ポケモンやトレーナーが暴れている時の場合です。今回は違う。悪の組織が関係している…れっきとした事件なんです!事件はプロである私達が解決すべきなんです!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:48:42.48 ID:cP0YEfKAO<>
セキチクシティのジムリーダーは代々、ジムリーダーと兼ねてカントー地方全体の治安を守る役目を任されている。

それは彼らが忍者であるからだ。どんな事態にも迅速に対応し、戦闘のプロでもある彼らはどんな事件もすぐに収束をつける……まさに適任である。

神裂火織も次期セキチクシティジムジムリーダーで、忍者の血を引いている。彼女の言うプロとはそういう意味だ。

神裂「とにかく、ロケット団に深く関わらない方がいいんです。だから貴方は彼らが現れない内に早くお帰りください」

ステイル「ぐ……、確かに僕はロケット団のことなんて今知ったばかりだ。だがグレンタウンジムジムリーダー・カツラの息子として、僕はグレンタウンの治安を守る義務がある!」

神裂「……!」

ステイル「よそ者の君にどうこう言われる筋合いは…」

神裂「…っ! 危ないッ!!」

ステイル「なに…、」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:52:35.29 ID:cP0YEfKAO<>
…ドガアアアッ!

後ろからの不意の衝撃に、ステイルは受け身もろくにとれずに倒れる。

ステイル「がっは…っ!?」

神裂「っ!」

神裂の前方に広がる灰色の空間、

「ククク。何やら騒がしいと思ったら……、どうしてこんなところにガキが二人もいるんだ?」

現れたのは全身黒ずくめの男。胸のところには赤色で『R』の文字がプリントされている。

神裂「ロケット団…!」

「んん? 俺達のことを知っているのか」


ロケット団員「そうさ。俺は泣く子も黙るポケモンマフィア、『ロケット団』だ」


神裂「…、」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 21:57:55.96 ID:cP0YEfKAO<>
ロケット団員「さあて、どこで嗅ぎ付けたかは知らないが俺達のことを知っちまった時点で運の尽きだ。そこの赤髪のガキも伸してやったし、次はお前だ」

神裂「ステイル…!」

神裂はステイルの名を呼ぶが、ステイルから返事はない。ステイルは気を失っていた。

おかしい、と神裂は思う。ステイルはまだ十四歳だが、このロケット団員を遥かに越す身長だ。なのにロケット団員に後ろから殴られた程度で気を失うだろうか。

……違う。このロケット団員に殴られたのではない。しかし、他の団員がいるようには見えない。少なくとも今は彼一人だけだ。

それなら、誰がステイルを殴ったというのか? 答えは簡単だ。

神裂「ストライク、“きりばらい”!」

神裂の手からモンスターボールが放たれた。出てきたのはストライク。

ストライク「ストライー!」

ビュオオオ…!

辺りの空気が洗浄され、隠れていたものが姿を現す。


ドガース「ドッドッドガースドドッガド」


どくガスポケモン、ドガースだ。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:01:48.59 ID:cP0YEfKAO<>
神裂「“くろいきり”を張っていましたか」

ロケット団員「ほう、気づいたか。たいしたもんだ」

神裂「彼をやったのは、そのドガース。使用した技は“ヘドロこうげき”ですね」

ロケット団員「そこまで分かるか。やっぱりただのガキじゃねえな」

ロケット団員「だがまあ、分かったところで何も出来やしない! ドガース、“ヘドロこうげき”!」

ドガース「ドガース!」

ドガースの口から、ゴミや埃が混じった猛毒のヘドロが出される。

神裂「甘いッ! ストライク、“こうそくいどう”!」

ストライク「ストライー!」

ストライクの素早さがぐーんと上がった。

神裂「ドガースではこのスピードについてこられませんよ」

ロケット団員「ククク、どこに目をつけてやがる」

ストライク「!?」

ヘドロがストライクの頭上を通り越す。その先には、倒れたステイルがいる。

神裂「…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:06:31.00 ID:cP0YEfKAO<>
ロケット団員「これはガキの遊びじゃねえ。殺し合いだ! 普通のポケモンバトルとは訳が違えんだよ!!」

神裂(ストライクでは間に合わない!)

神裂「ハクリュー、頼みます!」

神裂がボールを放つ。

ハクリュー「リュウウ!」

神裂「“しんぴのまもり”!」


キイイイン!


ステイルの周りを神秘のベールが包んだ。

間一髪、ベールがヘドロを弾く。

神裂「危なかった…」

ロケット団員「安心している場合か?」

ステイル「ストライー!?」

神裂「…ストライク!?」

神裂が気づいた時には、すでにストライクは仰向けに倒れていた。

神裂「なにが…」

ぐじゅぐじゅ、とストライクの影がうごめく。

ロケット団員「ククク、ストライクに覆いかぶされ!」

影がポケモンとなり、ストライクに手を伸ばして掴む。

ストライク「ストライ…ッ!」

神裂「そのポケモンは…ベトベター!」

ベトベター「ベトベトー!」

ロケット団員「“かげうち”でストライクの影に潜ませていたのさ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:11:02.33 ID:cP0YEfKAO<>
ベトベターはストライクの身体に纏わり付き、その手で攻撃を浴びせる。比喩のない、正真正銘の毒手で。

ロケット団員「“どくづき”いい!!」

ドスッ!

ストライク「ストライ…っ!」

神裂「ストライク!!」

ストライクが音もなく倒れる。

神裂「…ッ」

神裂(強い…っ!)

圧倒的だった。

敵の力が未知数だといっても、神裂はジムリーダーの娘であり、そう簡単に負けることはない。事実、今までも忍者の仕事で数々の強敵を倒してきた。しかし、その神裂ですら苦戦を強いられる強さを持つのがロケット団だった。

神裂は改めて自分の敵の強大さを痛感する。


……が、

神裂にはそれより気にかけていることがあった。

ステイルだ。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2011/10/09(日) 22:11:25.96 ID:Z0DyplyS0<> また奥深い良作が生まれちまったな… <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:16:02.66 ID:cP0YEfKAO<>
相手は強い。神裂も苦戦を強いられるほどだ。故に、先程のようにステイルに攻撃を仕掛けられたら次は守りきることができない。

それにステイルはドガースの毒にやられ、倒れている。このまま時間が経てば毒が全身に行き渡るだろう。

今すべきことはステイルをこの場から離し介抱することだ。

神裂(…ですが、敵がそれをそう簡単に許すはずがありませんね)

神裂(ここは……)

ロケット団員「何したって無駄だぜ? ベトベター、今度はあの女に“かげうち”だ」

ベトベター「ベトベトー」

ベトベターはストライクから離れ、攻撃の体制に入る。

神裂「今です、ストライク!」

ストライク「ストライー!」

瀕死したはずのストライクが立ち上がり、ベトベターに襲い掛かる。

ロケット団員「なに!?」

神裂「“かまいたち”!」

ザキイイイ!!

ベトベター「ベトオォ…!」

ベトベターの身体が切り裂かれ、ボタボタと辺りにヘドロが飛び散る。

神裂「ハクリュー! この隙にステイルを!」

ハクリュー「リュウウ!」

ハクリューはステイルを抱え、ポケモン屋敷の外へ飛び去った。

ロケット団員「ちっ…瀕死したフリをしていたか。…余計なマネを……」

神裂「これで姑息な手もなし…、正々堂々と戦えます」

神裂「次期セキチクシティジムジムリーダー・神裂火織が、お相手致しましょう!」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:22:52.02 ID:cP0YEfKAO<>
******

気が付いたら、ジムの天井が見えた。


ステイル(ジム……?)

ステイルが起き上がると、いつもの顔が見えた。

イノケンティウス「大丈夫か、ステイル」

ステイル「イノケンティウス……。僕は………」

ステイル「………そうか。ロケット団に……」

イノケンティウス「らしいな」

ステイル「! 神裂はどうした!?」

イノケンティウス「あいつはポケモン屋敷に残っているらしい」

ステイル「何故君がそれを知って…」

ステイル「……『らしい』?」

ステイルはイノケンティウスの言葉に疑問を抱いたが、すぐに思考は中断された。

後ろから誰かに襟首を掴まれ、引っ張られたからだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:25:41.35 ID:cP0YEfKAO<>
ステイル「な、なんだ!」

ハクリュー「リュウウー」

ステイル「君は……まさか神裂の手持ちか?」

ハクリュー「リュウ」コクッ

ステイル「イノケンティウスはハクリューから話を聞いたのか」

イノケンティウス「そうだ。俺はボールの中にいたが、ハクリューがお前を運んでいる途中でボールが落ちて、な」


イノケンティウスはハクリューから聞いた一連の流れをステイルに話した。

ステイル「……クソッ。僕が不意の攻撃に対処出来ていれば、こんなことには…!」

悔しがってももう遅い。

ステイル「……」

ステイルはハクリューの方を見る。

ハクリュー「リュウ…」

とても不安そうだ。

当たり前だろう。いくらジムリーダーの娘であり、忍者の血を引く神裂でも力が未知数で謎の組織の一員を相手するとなると苦戦を強いられるはずだ。あるいは負けることもあるかもしれない。

現に同じジムリーダーの息子であるステイルがこの様なのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:30:30.75 ID:cP0YEfKAO<>
ステイルは考える。

このハクリューはどんな思いで自分をここまで運んできたのか。

少しでもいいから、その場で神裂に力を貸したかったはずだ。ステイルを投げ捨ててでも、神裂の元へ駆け付けたかったはずだ。

一体どんな思いで。


ステイルには分からない。分かるはずもない。なぜなら、ハクリューが運んでいた荷物は紛れも無く自分だったからだ。


ステイルは許せなかった。

ポケモン屋敷に侵入し、神裂と戦っているロケット団員はもちろんだが、何よりもこの状況を作り出した自分自身が許せなかった。

だがステイルはその感情を抑える。

そして立ち上がる。

これは自分自身のけじめのため。自分のせいで危険に身を晒されている少女を助けに行くためだ。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:35:12.07 ID:cP0YEfKAO<>
ステイルはジムのドアに手をかける。

イノケンティウス「お、おい! まさか、お前ポケモン屋敷に…! でも……」

イノケンティウスの言うことは分かる。ステイルはここ数年、カツラの研究を手伝っていた。当然、ポケモンバトルなんて一切していなかった。不意の攻撃に反応できなかったのも、それが原因だろう。

だがそれを理解した上で、ステイルは引かない。

イノケンティウス「相手は悪の組織! 今のお前じゃあ…!」

ステイル「イノケンティウス」

イノケンティウス「…」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:39:38.60 ID:cP0YEfKAO<>

ステイル「何も僕一人で行こうと言うわけじゃないよ。今までどんな危機も乗り越えてきたんだ、君と一緒に」



ステイル「信じてるよ、相棒」



それは久しぶりに聴く言葉だった。

ステイルがまだトレーナーだった頃、ポケモンバトルで追い詰められると必ず言う言葉だった。


イノケンティウスがステイルに『ポケモンチャンピオンを目指してみないか』と話したのは、その言葉をもう一度聴きたかったからだ。

ステイルとまたポケモンバトルをしたい。ただそれだけがイノケンティウスの願いだった。

しかし杞憂でしかなかった、とイノケンティウスは思う。ステイルはポケモントレーナーとしての魂を失っていない。ステイルは今でも自分のことを信じてくれている。

それが分かっただけで、イノケンティウスの心は晴れた。

そしてまた信じようと思った。

自分の相棒(パートナー)を。



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:42:53.39 ID:cP0YEfKAO<>
******

ロケット団員「あーあ…逃げられちまったー……」

ロケット団員はハクリューが飛び出していった出入口の方へ目を向けている。

神裂「よそ見をしている場合ですか?」

ロケット団員「ああ?」

神裂「ピジョン!」

神裂の三匹目が放たれる。

ピジョン「ピジョー!」

ピジョンが翼を動かすことで、強風が吹き荒れる。その風をドガースは真正面から受け止めた。

ドガース「ドッガース」

ドガースは平気な顔をしている。

神裂「やはりですか」

ロケット団員「あ?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:46:50.98 ID:cP0YEfKAO<>

神裂「今のは“ふきとばし”…相手のポケモンを強制的に交替させる技です。しかし例外があります。もし相手のトレーナーが場に出ているポケモン以外にポケモンを持っていないのなら、交替はできません」

神裂「つまり、貴方はドガースとベトベター以外にポケモンを持ち合わせていない!」

ロケット団員「……」

神裂「それに対し、私には場に出ている二匹と手持ちポケモンがいます。どういうことか分かりますよね」

ロケット団員「ポケモンの数で勝敗が決まるとも限らねえぞ? 勝敗を握るのはトレーナーの腕だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:51:02.76 ID:cP0YEfKAO<>
神裂「そうですね…。ですがそちらは既にベトベターが瀕死状態、戦えるのはドガース一匹のみ……戦術で覆せるほど易しい状況ではないのですが」

ロケット団員「……ククク、」

神裂「何かおかしいことを言いました?」

ロケット団員「いやぁ…別におかしいことなんて言ってねえよ。まあ普通ならそう思うわな。だがなぁ、よく考えてみろよ」

じゅくじゅく、と不審な音がする。


ロケット団員「お前のストライクが切り裂いたものは何だった?」


音が段々と近づいてくる。

やがて音は止まり、完全に止んだ時にはピジョンを囲むように紫色の円が出来上がっていた。

神裂「これはヘドロ!?」

ロケット団員「ああ。それにただのヘドロじゃない。ベトベター本体だ」

神裂「…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:54:41.21 ID:cP0YEfKAO<>
ロケット団員「さてと、んじゃサクッと終わらせるか。ドガース、“フラッシュ”!」

ドガース「ドガー」

ドガースの腹の模様が光り、辺りを照らす。

その光を受けてヘドロの円が巨大な影を作り出す。

ロケット団員「“かげうち”!」

円の中心にいるピジョンが影に狙い撃ちされ、崩れ落ちる。

ピジョン「ピジョ…」

神裂「っ! ピジョン、戻ってください!」

ピジョンがボールに戻る。

ロケット団員「ちなみに、ベトベターの持っている“ねらいのまと”。そいつをピジョンに投げつけたから“かげうち”が当たったというわけだ」

神裂「……ストライク!」

ストライク「ストライー!」

ストライクがヘドロの円に飛び掛かる。

ヘドロを斬るためではなく、吹き飛ばすためだ。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 22:59:04.62 ID:cP0YEfKAO<>
神裂「“むしのさざめき”!」

ビュオオオ…!!

ヘドロが辺りに散らばり、円の形が崩れた。

ロケット団員「ほう、考えたな。だがこのヘドロはベトベター本体って言っただろ? ベトベターの身体は材料さえあれば作り直すことができるんだよ!」

ロケット団員「おい、ドガース! ヘドロを補給してやれ!」

ドガース「ドガァース!」

ドガースが吐き出したヘドロを通じて、ベトベターの身体が形成されていく。

ベトベター「ベートベター!」

ロケット団員「一丁あがりだ」

神裂「く……ッ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 23:01:55.41 ID:cP0YEfKAO<>
ロケット団員「残りの手持ちが何匹いるかは知らねえが、とりあえず形勢は逆転したな」

神裂「……、」

神裂(相手方にはドガースとベトベターの二匹。それに対してこちらはストライクと手持ちポケモン、の二匹がいます。数で言えば互角な状況ですが……)

神裂(手持ちポケモンの方はこの間オーキド博士に譲ってもらったばかりでバトルには慣れていません。こんな危険なバトルに参加させるわけにはいきませんね)

神裂(ここはストライクに頑張ってもらいましょう。ストライクの速さなら、二匹相手でも十分張り合えます。…出来ますね、ストライク)

ストライク(ストライ…)コクッ

神裂「行きますよ、ストライク」

神裂(まずはドガースです。厄介なベトベターは後にしましょう)

神裂「“シザークロス”!」

ストライク「ストライー!!」

目にも留まらぬ速さでストライクはドガースの真下に潜り込んだ。

ドガース「…っ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 23:04:57.93 ID:cP0YEfKAO<>
ストライク「ストライッ!!」

ストライクが両腕の鎌を交差させ、ドガースの腹へ振り上げる。

神裂(決まった…!)


ロケット団員「……あー。もう面倒臭くなっちまったなあー」

ドガース「ドガッ」ニヤ

ドガースの周囲に熱が集まる。

ストライク「っ!?」

神裂「ま、さか…ッ!?」


ロケット団員「“だいばくはつ”!」



辺りに黒煙が吹き荒れる。

屋敷中のあらゆる物が吹き飛ばされ、燃やされていく。



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 23:09:06.83 ID:cP0YEfKAO<>

ロケット団員「ククク……」


ロケット団員はこの爆発の中、ベトベターを身体に巻いて難を逃れていた。

ロケット団員「ベトベター、ご苦労だった」

ベトベター「ベートベター」

ベトベターが巻き付きを解く。

ロケット団員「……」

ロケット団員は屋敷の中を見渡す。

屋敷中がドロドロになっていた。“だいばくはつ”の威力を考えたら無理もない。

ロケット団員「…しっかし、この爆発を受けても建物自体は壊れていないのか。大したもんだな」

ロケット団員は横合いに転がっている、役目を終えたドガースを見る。

ロケット団員「お前もご苦労だったな」

しかし、ドガースと一緒におかしなものが目に映った。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/09(日) 23:12:38.90 ID:cP0YEfKAO<>
ドガースが転がっている場所の少し先、気絶している神裂火織とストライクがいた。

“だいばくはつ”を受けて気絶程度で済んだことに驚きだが、注目すべきはそこではない。


気絶している神裂はある人物に抱えられている。


ロケット団員「……あ?」

約五メートル先に、神父服を着た長身の男が立っている。

ロケット団員「…てめえは」

ステイル「ステイル=マグヌス。忘れ物を取りに来たよ」




<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/09(日) 23:15:53.06 ID:cP0YEfKAO<> 今日はこれで終了
一章は次回で終わらせる予定です

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/10/09(日) 23:26:46.00 ID:lIt38IRso<>
>ステイル「ストライー!?」
シュウマイ吹いた
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2011/10/10(月) 15:19:31.75 ID:BzkqerO3o<> おつ! <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:33:51.41 ID:+HcGLdHAO<>

ロケット団員「どうやって“だいばくはつ”の中を…!?」

ステイル「…さて、と」

ステイルは神裂を黒焦げになった床に置く。

ステイル「ほら、起きろ」

ステイルは神裂の頬をはたく。しかし神裂が起きる気配はない。

ステイル「弱ったな」

ロケット団員「おい、てめえ聞いてんのか?」

ステイル「ん?」

ロケット団員「もういい! どうやって爆発の中、無傷でいられたかなんて関係ねえ。お前もここで始末してやる! ベトベター、“ヘドロばくだん”!!」

ベトベター「ベートベター!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:36:30.45 ID:+HcGLdHAO<>
ベトベターがステイル目掛けて猛毒のヘドロを投げつける。

ステイル「…イノケンティウス!」

イノケンティウス「おうよ!」

ロケット団員「…!」

ステイル「“かえんほうしゃ”だ!」

イノケンティウス「ウオオオン!」

炎がヘドロを焼き尽くす。

ベトベター「ベトッ!?」

ロケット団員「ガーディ…!」

ステイル「僕がどうしてあの爆発の中、無傷だったのかって? いいよ教えてやろう」


ステイル「そもそも、爆発って何のことだい?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:39:33.54 ID:+HcGLdHAO<>
ロケット団員「は……?」

ステイル「ふん。自分は身を守って、状況を確認していないからそういうことになるんだ」

ロケット団員「何を言って…」

ステイル「だから爆発は起きていないんだよ。“だいばくはつ”は不発に終わったのさ」

ロケット団員「…何だと!?」

ステイル「僕のガーディが、ドガースが“だいばくはつ”をする前に“オーバーヒート”でドガースを倒しただけのことだ」

ロケット団員「屋敷中を焼き尽くしたのは“オーバーヒート”の炎か…!」

ステイル「その通りさ」

ロケット団員「…いや、でもそんなことが出来るわけがねえ! ドガースが“だいばくはつ”をする前に倒すなんて…」

ステイル「出来るさ。研究したからね」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:45:50.15 ID:+HcGLdHAO<>

神裂「……うっ」

イノケンティウス「!」

神裂「あ、れ…?」

イノケンティウス「気が付いたか」

神裂(ガ、ガーディ…?)

神裂「…私は“だいばくはつ”を受けたはずなんですが……」

神裂「!」

神裂は少し離れた場所でロケット団員と対峙している少年を見た。

神裂「あれは…ステイル!? どうしてステイルがロケット団と!?」

イノケンティウス「お前を助けに、あいつと戦ってるのさ」

神裂「そんな…!」

イノケンティウス「まあ落ち着け」

神裂「これが落ち着いていられますか! 話に聞いたところステイルは数年間バトルをしてこなかったんでしょう!?」

イノケンティウス「ああ」

神裂「それを知っていて落ち着いている貴方はおかしいですよ!」

イノケンティウス「大丈夫だ」

神裂「何故そう言い切れるんですか!」

イノケンティウス「確かにステイルはずっと前からバトルをしていない。だけどな、そのかわりにあいつがしていたことがある」

神裂「…何ですか、それは」

イノケンティウス「研究さ」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:53:56.94 ID:+HcGLdHAO<>

ロケット団員「研究だぁ?」

ステイル「僕はね、これでも研究者なんだ。主にこの町グレンタウンで研究をしているんだけど、このポケモン屋敷に棲んでいるポケモンの生態調査をよくするんだ」

ロケット団員「!」

ステイル「君のそのドガースとベトベター、このポケモン屋敷でゲットしたものだろう?」

ロケット団員「…ッ!」

ステイル「ここのポケモンのことならば、僕はたいていのことは分かる。だから“だいばくはつ”のタイミングも掴めたというわけさ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 17:58:41.63 ID:+HcGLdHAO<>

神裂「研究って……」

イノケンティウス「まあ何を言いたいかは分かる。研究がバトルと何の関係があるのか、だよな」

神裂「……」

イノケンティウス「確かに研究とバトルなんて何も関連性がないと思うのが当然だ。だが、少なくともステイルの研究はバトルに関係があるものなんだ」

神裂「それはどんな…?」

ステイルは幼い頃からバトルと研究の才能を発揮していた。

バトルをすれば草むらの野生ポケモンはもちろん、大人のトレーナーにも簡単に勝利を収め、
研究をすればポケモンの生態を一種類につき一日もかけずに、その分野の研究者も顔負けの速さで理解した。

ステイルはたったの三歳でポケモンの全タイプを覚えるという偉業を果たしたこともある。

イノケンティウス「知っているか? 最近新しくできた鋼タイプと悪タイプを発見したのもステイルなんだ」

神裂「…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:02:36.94 ID:+HcGLdHAO<>
イノケンティウス「あいつの研究はポケモンバトルに通じるものがある。それはバトルと研究、そのどちらの才能も持っているあいつだからこそなんだ」

神裂「カツラ=マグヌス。ジムリーダーであり研究者でもある彼の息子、ステイル=マグヌスだからこそですか」

イノケンティウス「ああ。それに、あいつはポケモンの気持ちを尊重する心を持ってる」

神裂「………。そういえば、貴方は戦わないのですか?」



ロケット団員「くそ…! だが、まだベトベターが!」

ベトベター「ベトベトー!」

ステイル「!」

ロケット団員「もう一度、毒で苦しめ! “ヘドロこうげき”!!」

ベトベター「ベタ〜!」

ベトベターの放つ毒の塊はステイルへと飛んでいく。

ステイル「……」

しかし毒の塊はステイルに当たる手前で弾かれ、バラバラと四方八方に飛び散った。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:07:11.18 ID:+HcGLdHAO<>
ロケット団員「! こいつは…!」

ハクリュー「リュウウ!」

ステイル「ハクリューの“しんぴのまもり”だよ」

ハクリューはステイルを守るようにステイルの周りを自分の身体で覆っている。それはあたかも、気絶していたステイルを神秘の守りで保護した時のような状況だった。

ハクリュー「リュウウ」

ステイルはそんなことを知る由もない。

ステイル「……ハクリュー」

ハクリュー「!」

ステイル「足枷だった僕の指示を聞くのは嫌だろうが、今は協力してくれ」

ハクリュー「リュウウ……」

ハクリューは守りの体勢を崩す。そして今度はステイルの背後に地面に垂直で立つ。

それは攻めの構えだ。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:11:27.47 ID:+HcGLdHAO<>
ステイル「…協力、してくれるのかい?」

ハクリュー「リュウ!」

ステイル「そうだね、あのロケット団員を倒したいのは同じだ」

ステイル「本当は主人である神裂と戦いたいんだと思う。だが今だけ君の力を貸してくれ!」

ハクリュー「リュウ…っ!」

ハクリューの首にある水晶が青白く光り輝く。その光にあてられ、神秘のベールが虹色に輝く。

ロケット団員「なにをしてやがる!」

ビュオオオ!!

ロケット団員「! 急に風が…!?」

ステイル「ハクリューの能力さ」


《ハクリュー、ドラゴンポケモン。ぜんしんが オーラに つつまれるとき まわりの てんきが いっぺんする。》


ステイル「“しんぴのまもり”で身体を包み、首の水晶で天気を操るんだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:17:44.06 ID:+HcGLdHAO<>
ビュオオオ!!

ロケット団員「く…っ!」

屋敷内に強風が吹き荒れる。

ベトベター「ベター…!」

ロケット団員「ちぃっ! だが風を起こしただけで勝てると思うなよ!!」

ステイル「そりゃあ思っちゃいないさ」

ロケット団員「クク、そうだろうよ。まだお前が完全に有利なわけじゃねえんだよ…!」

ステイル「まっ、どう思おうと君の勝手だけどね」

ステイルはポケットから煙草を取り出し、くわえる。

火をつけて煙草を口で上下に揺らす。しかしそれは単なる癖ではない。その煙草はある方向を指している。

煙草の示す方向には力尽きたドガースの姿があった。

ドガース「…、」

ドガースに異変はない。

ロケット団員「?」

ステイル「ドガースというポケモンはね、刺激を与えるとガスの毒素が強まり身体のあちこちから、そのガスを勢いよく吹き出すんだ。それは気絶をしていても関係ない」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:23:42.50 ID:+HcGLdHAO<>
ロケット団員「!」

よく見ると、ドガースのガスの噴射孔から紫色の煙が漏れている。

ロケット団員「“どくガス”か!?」

強風に煽られて、毒ガスはロケット団員を包んでいく。

ロケット団員「ぐ…ッ!」

咄嗟にロケット団員は口に腕をあてた。

ロケット団員「……?」

ロケット団員は腕で鼻と口を塞いだ程度でドガースの毒ガスを防げるとは思わなかった。しかし現に毒ガスを吸っていないし気絶もしていない。

毒ガスはロケット団員を取り囲むようにロケット団員の周りを漂っている。

ロケット団員「…なんの真似だ?」

ステイル「別に。これでトドメを刺すわけにはいかないからね」

ロケット団員「あ?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:26:41.31 ID:+HcGLdHAO<>
ステイル「ハクリュー!」

ハクリュー「リュウウ!」

ハクリューの額の水晶がより強く輝くと、それに呼応して風がより強さを増す。

ロケット団員「ぐぉ…!」

次第に雨が降り豪雨となって、雷がゴロゴロと鳴り出した。

ステイル「さて、今の君の気持ちを表す技はこれだ」

ステイル「“りゅうのいかり”!」

ハクリュー「リュウウウウ!!!」

暴風、豪雨、雷。ハクリューはそれら全てを操り、ロケット団員にぶつける。

ロケット団員「ぐぁ、ああああああっ!?」


ゴトッ、と何かが落ちる音がした。

ステイル「終わったね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:29:31.83 ID:+HcGLdHAO<>
ハクリュー「リュウ…」

ハクリューの水晶の輝きは薄まっていき、やがて屋敷内の嵐も去り、屋敷が静まり返る。

しかし嵐の中心にいたはずのロケット団員の姿がない。

ステイル「!」

代わりに屋敷の床に掘られた、人一人がなんとか入れそうな穴があった。

ステイル「……逃げられたか」

ステイルは奥歯を噛み締める。

ハクリュー「リュウ…!」

ハクリューも同じ気持ちだ。

だが……、

神裂「どうして! “ふきとばし”を当てて、手持ちポケモンがいないことを確認したはずなのに!」

ステイル「神裂…、気付いたのか」

ステイルはバトルに集中していたから気づかなかったが、すでに神裂とイノケンティウスが近くまで来ていた。

イノケンティウス「多分、穴を掘れるポケモンを地中に潜ませていたんだろうな」

ステイル「万一の時、逃げる準備も万端だった訳か」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:33:06.42 ID:+HcGLdHAO<>
ステイルは新しい煙草をくわえる。

ステイル「ふーっ…」

神裂「…………………………………」

ステイル「ん?」

次の瞬間、神裂は目にも留まらぬ速さでステイルから煙草を取り上げた。

ステイル「な、なにをするんだ!」

神裂「貴方こそ、どうしてそんなに落ち着いていられるんですか!」

煙草を握っている神裂の手に力が入る。

神裂「ロケット団員が逃げたなら追いかけないといけないでしょう! 悪の組織の一員である人物を野放しにする謂われはありません!」

神裂は煙草ごとステイルの胸倉を掴む。

ステイル「……」

しかしステイルは眉ひとつ動かさない。

神裂「くっ…、もういいです!」

神裂は手を放す。そしてステイルに背を向け、ロケット団員が逃げたであろう穴の方へ顔を向けた。

神裂「助けてくれたことは感謝しますが、中途半端に投げ出すようならまだ見殺しにしてくれた方が良かったですね」

ステイル「……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:35:43.51 ID:+HcGLdHAO<>
神裂「では私はこれで」

神裂が一歩前へ出る。

ステイル「待つんだ」

神裂「!」

神裂の足が止まった。それはステイルの呼ぶ声に反応したのではない。

他に神裂を阻止する存在がいたのだ。

ハクリュー「リュウウ」

神裂「ハクリュー…?」

ハクリューは神裂の周りを包むように身体を曲げ、神裂の動きを止めている。

ステイル「僕のことをどう言おうと、僕の気持ちとかはどうでもいいけど、そのハクリューの気持ちだけは考えてくれよ」

ステイル「ハクリューは何故ここへやって来たのかな」

ハクリューは身体を神裂の近くへ寄せ、巻き付くように神裂を包む。

攻撃の巻き付くではなく、それは神裂を優しく優しく包み込む。

神裂「ハクリュー…」

ハクリュー「リュウ…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:42:03.72 ID:+HcGLdHAO<>
イノケンティウス「トレーナーにこれ以上傷ついてほしくない。ポケモンなら誰だってそう思うさ」

ステイル「…ましてや、一度気を失った身だからね」

神裂「……」

ステイル「さて神裂。自分のために身体を張って戦ってくれたポケモンの気持ちを尊重するか、それともプロのプライド何ていう下らない意地を張るか……どうする?」

神裂「……はあ。全く、貴方には敵いませんね」

神裂はハクリューに飛び乗る。

ハクリュー「リュウウ!」

ハクリューは上昇した。

ステイル「!」

神裂「貴方がバトルを辞めたと初めて聞いた時は驚きましたが、その調子なら心配ないようですね」

ステイル「? 心配してくれたのかい?」

神裂「べっ、別に心配なんてしてませんよ!」

ステイル「いや、君が言ったんだろう」

神裂「と、とにかく! 私は一度セキチクへ戻ります。ロケット団の方は体力が回復してから臨むことにしましょう」

ステイル「そうかい」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:46:25.66 ID:+HcGLdHAO<>
神裂「では、また会えたら!」

ビュン、という音とともに神裂とハクリューが空へと消える。

イノケンティウス「行っちまったなあ」

ステイル「……」

ステイルは屋敷の奥へ目を向けている。

イノケンティウス「どうした?」

ステイル「…チッ。これを見ろ」

イノケンティウス「?」

イノケンティウスがステイルの元へと駆け寄ると、それが見えた。

イノケンティウス「こいつらは…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:50:54.11 ID:+HcGLdHAO<>
そこにいたのは先程ステイル達と戦っていたロケット団員の手持ちポケモンであるドガースとベトベターだった。先の戦いで二匹とも瀕死寸前だ。

ステイル「あのロケット団員、自分のポケモンを置いて行ったんだ…!」

イノケンティウス「なんて奴だ!」

ステイル達が声を荒げても倒れた二匹はピクリともしない。

ステイル「この屋敷で揃えた即席のメンバーだったんだろうが……」

ステイルは奥歯をより強く噛み締める。先程神裂がステイルから煙草を取り上げていなかったら煙草を噛みちぎっていたかもしれない。

ステイルは今の今まで怒りを抑えていたんだ、とイノケンティウスは思う。

ポケモンを大事に思うステイルはロケット団員の行為に相当腹を立てていただろう。しかしステイルはそれを感情に出さずに、抑えていた。ハクリューのためだ。

ハクリューがトレーナーの感情に流されることなく戦えるようにしていたのだ。相手の力は未知数、そうでもしないと負ける恐れもあった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:54:30.43 ID:+HcGLdHAO<>

ポケモンのことを優先して戦う。それがステイルのバトルスタイルだ。


それは研究の方でも同じで、ステイルはポケモンを研究する時そのポケモンに異常がないか確かめる。異常があるなら研究は後回しにしてポケモンのコンディションを整える。異常がない場合でも綿密にチェックは行う。そして細心の注意を払って研究をする。

誰よりもポケモンのことを考え、行動する。ステイルはそんなトレーナーだ。

ステイル「……イノケンティウス」

イノケンティウス「なんだ?」

ステイル「君の話、とりあえず答えは保留だ」

イノケンティウス「チャンピオンを目指してみないか、って話か?」

ステイル「ああ」

イノケンティウス「イエスでもノーでもないって…、はっきりしないな」

ステイル「だがトレーナーに復帰しようとは思う」

イノケンティウス「!」

ステイル「明日には旅に出て、各地のジムを回るつもりさ」

イノケンティウス「そ、そうか!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 18:58:59.14 ID:+HcGLdHAO<>
ステイル「まあロケット団に対抗するには力が必要だからね。成り行きとはいえ関わってしまったし、僕としても奴らは許せない。ジム挑戦はそのための……」

しかしステイルの声はイノケンティウスには届かない。イノケンティウスは屋敷の出口へ走っていた。

ステイル「イノケンティウス!?」

イノケンティウス「そうと決まったら、さっさと旅の支度だ! ジムに戻ろうぜ!」

イノケンティウスは屋敷を飛び出していった。

ステイル「待て、イノケンティウス! 話を聞いて……!」

ステイルが叫ぶが、イノケンティウスはもうそこにはいなかった。ステイルの声が虚しく屋敷にこだまする。

ステイル「まったく……」

しかしステイルはポケモンのことを第一に考える。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/10(月) 19:02:03.88 ID:+HcGLdHAO<>
ステイル「待つんだ、イノケンティウス!」

ステイルはイノケンティウスの後を追いかける。

その両手にはドガースとベトベター。最近バトルをしないで運動をしていないステイルには堪えるものがあるが、ステイルの足取りは軽かった。




第一章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/10(月) 19:05:49.78 ID:+HcGLdHAO<> これで第一章は終わりです
次回から更新は毎日は無理かもです

>>45死にてえ……

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中国地方)<>sage<>2011/10/10(月) 19:21:11.39 ID:90+/nq5k0<> 乙!
キョウの娘ってことは、アンズとは姉妹になるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/10(月) 21:17:25.65 ID:AxHZP1iAO<> バトルがポケスペっぽくて面白いな、乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/10(月) 21:32:33.81 ID:HC40eP+IO<> インケンティウスってニックネームだったんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2011/10/10(月) 23:29:17.91 ID:LEGLaVmgo<> ベトベターって持てるのか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/11(火) 02:37:37.27 ID:EW1vlEPOP<> 思ってた以上にクオリティが高いでござる……。 <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 17:56:24.98 ID:7iBCYQHAO<>

ステイル「……」

イノケンティウス「…………………………」

ステイルとイノケンティウスはマサラタウンという町にいる。

マサラタウンとは、またの名をマッサラタウン、汚れなき白を特徴とする田舎町のことだ。グレンタウンを北に行ったところに位置する。

ステイルは先日旅をすることを決意し、こうしてグレンタウンを北上してマサラタウンまでやって来たわけだが………。

イノケンティウス「ついで、か……」

旅の開始早々、イノケンティウスがうなだれているのである。

その理由は他でもない。ステイルからある事を聞かされたからだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:00:09.61 ID:7iBCYQHAO<>
イノケンティウス「チャンピオンはロケット団壊滅のついで……。はあ…………」

ステイル「……、」

急にイノケンティウスがこんなことになってしまった訳がステイルにはイマイチ分からない。

ステイル(これはそっとしておいた方がいいだろうな)

とりあえず、イノケンティウスが落ち着くまでマサラを散策することにした。




第二章・新たな仲間


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:05:37.23 ID:7iBCYQHAO<>
***

ステイル「ふう…」

ステイルは煙草をくわえながらマサラを歩いていた。

ステイル(四年前となんら変わりはないかな)

ステイルは四年前にマサラタウンに来たことがある。その時は特に用もなかったので通っただけだが。

ステイル「今回は違うな」

ステイルはとある建物の前に止まった。

その建物は研究所だ。近くに看板が立ててあり、そこには『オーキド研究所』と書かれている。

ステイル「オーキド・ユキナリ。ポケモン研究の世界的権威である博士なら、彼に勝つ方法を知っているだろう」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:08:24.21 ID:7iBCYQHAO<>
ステイルは研究所のインターホンを押す。

リンゴーン、と意外と豪華な音がなった。

ステイル「…?」

しかし、誰かが出てくる様子はない。

ステイル(留守か?)

ステイルはもう一度インターホンを鳴らしてみるが、やはり誰も出てこない。

ステイル「……」

ステイルは試しにドアノブを回してみる。

ステイル「!」

ドアが開いた。

ステイル「無用心だな…」

これ以上はいけない、とステイルがドアを閉めようとした時。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:12:44.42 ID:7iBCYQHAO<>


ガプ。



ステイルの頭に何かが噛み付いた。

ステイル「な、なんだ!?」

???「がめぇー」

ステイル「ゼ、ゼニガメ…?」

ゼニガメ「がめがめ!」

ステイルのことなど気にせずにゼニガメはステイルの頭をかじり続ける。

ステイル「こ、こら!」

ステイルはゼニガメを振り払おうとするが、ゼニガメは全く離れない。

???「おや。誰かおるのか?」

研究所の外から誰かがやって来た。

ステイル「! 貴方は…オーキド博士!」

オーキド「君は…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:16:50.82 ID:7iBCYQHAO<>
ステイル「初めまして、ですね。僕はステイル=マグヌスといいます」

オーキド「はて、ステイル……。どこかで聞いたような………」

オーキド「そうじゃ! 神裂君が話していた少年じゃな?」

ステイル「神裂を知っているんですか?」

オーキド「うむ。わしの研究を手伝ってくれとるのじゃ」

ステイル「へえ…」

ステイル(あの神裂が研究ね…)

オーキド「この間はお礼にポケモンをあげたんじゃ。ほれ、そのゼニガメと一緒に研究していたポケモンでな……」

ゼニガメ「がめがめ」


ガブガブ。


ステイル「………………………」

ゼニガメに会ってからずっと噛み付かれているステイルの頭部からは真っ赤な血が垂れていた。

オーキド「こっ、これはいかん!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:20:45.32 ID:7iBCYQHAO<>
***

オーキド「これでOKじゃな」

ステイル「ありがとうございます」

ステイルは研究所の中でオーキド博士に頭の怪我を手当してもらっていた。

まだ頭がクラクラする。

ステイル「はあ……」

オーキドは何故かこの手の怪我の手当に慣れているようだ。研究所のくず箱は包帯だらけである。

オーキド「すまんのう。ほれ、ゼニガメも謝るんじゃ」

ゼニガメ「ぜにぃ…」

ゼニガメは顔を下に向け、申し訳なさそうにしている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:23:32.79 ID:7iBCYQHAO<>
ステイル「まあ、別にこのくらいの怪我なら大丈夫だよ」

ゼニガメ「ぜにがっ!」

先程までの落ち込みようは何だったのか、ゼニガメはキラキラと瞳を輝かせて、


ガプ。


ゼニガメ「がめがめ」

ステイル「………………………」

オーキド「ほっほ! 懐かれてしまったようじゃの」

オーキドが笑う。

ステイル「笑い事じゃないですよ!」

オーキド「まあまあ。ゼニガメも悪気があるわけじゃないぞ」

ステイル「それはそうですけど……」

オーキド「ほっほ。……そうじゃな」

オーキドはステイルとゼニガメの顔を交互に見る。面白いものを見ているような目だ。

ステイル(まあいい。本来の用事を済ませよう)

ステイル「オーキド博士、僕は貴方に用があってここを訪ねたんです」

オーキド「わしに用じゃと?」

ステイル「はい」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:26:16.20 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「一体何の用じゃ?」

ステイル「実は……」


ステイルのこの旅の目的、それはロケット団壊滅とチャンピオンになること。優先度はロケット団壊滅の方が上だ。

しかしリーグチャンピオンはステイルのかつての夢だ。イノケンティウスにはああ言ったが、ステイルにとってはどちらも重要なのだ。

だが今回の用とはその二つとは直接的には関係がない。

今回ステイルがオーキドを訪ねたのは、ある人物に勝つ方法を聞き出すため。

その人物とは……、


オーキド「リーグチャンピオン、か」

ステイル「はい」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2011/10/11(火) 18:29:00.91 ID:1EZpqaHBo<> 攻撃が返されるってまんまソーナンスだよな…… <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:30:05.46 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「今のチャンピオンは四年前からずっとチャンピオンの地位を維持しているそうじゃな」

四年前、ステイルが四天王全員を倒しチャンピオンになろうとする時に現れた少年。その少年はステイルに勝利してからチャンピオンの地位を守り続けている。

ステイルはその少年に勝つ方法をオーキドに聞きに来たのだ。

ステイル(彼と再び戦って勝たなければ、チャンピオンなんて語れない。このモヤモヤを取り払わなければロケット団を壊滅させることも夢のまた夢だ)


ステイル「彼に勝つ方法を教えてください!」


オーキド「……」

オーキド「今のチャンピオンの噂ならわしも聞いておる。何でもこちらの攻撃が全て跳ね返される、と…」

ステイル「そうなんです」

オーキド「ふむ……。ステイル君、神裂君に聞いたぞ。君はしばらくポケモンバトルをしてこなかったようじゃな」

ステイル「そんなことまで…」

オーキド「それでは話だけでは分からんじゃろう。実践で教えてあげよう」

ステイル「本当ですか!?」

オーキド「ああ。ついて来るがいい」

ステイル「はい!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:33:03.97 ID:7iBCYQHAO<>
***

ステイル「それで、何をするんですか?」

オーキド「そう急かすでない。まずは戦うポケモンを決めなくてはな」

ステイル「戦うって…」

オーキド「うむ。実践と言ったじゃろう。わしとポケモンバトルをしてもらうぞ」

ステイル「! 博士と?」

オーキド「そうじゃ」

ステイル「なら…ちょっと待っていてください」

オーキド「む?」

ステイル「今手持ちがいませんから、連れに行って…」

オーキド「いや、その必要はない」

ステイル「はい?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:35:53.60 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「ちょうどよいのがいるじゃろう、ほれ」

オーキドの視線はステイルの頭に向いている。

ゼニガメ「ぜに?」

ステイル「ゼニガメ…! ていうかまた噛み付いていたのか!」

オーキド「そのゼニガメで戦うのじゃ」

ステイル「ゼニガメで? しかし、まだ会ったばかりですよ」

オーキド「いいから言うとおりにしなさい」

ステイル「は、はあ」

ゼニガメ「ぜに?」

ステイル「よろしく頼むよ」

ゼニガメ「ぜにっ!」ニコ

オーキド「準備はいいかの?」

ステイル「ええ」

ゼニガメ「ぜにぜに!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:39:14.15 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「それではバトルスタートじゃ。オニスズメ!」

オーキドの放ったモンスターボールからオニスズメが現れる。

オニスズメ「オニー!」

ステイル「オニスズメか。ゼニガメ、頼んだよ」

ゼニガメ「ぜにがっ!」

ステイル「それで、どういう風にバトルをするんですか?」

オーキド「……」

ステイル「博士?」

オーキド「オニスズメ、“つつく”じゃ!」

オニスズメ「オニー!」

オニスズメが嘴をゼニガメにぶつけた。

ゼニガメ「ぜに!?」

ステイル「な…っ!」

オーキド「どうした? わしはポケモンバトルをしろ、と言ったんじゃよ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:42:04.88 ID:7iBCYQHAO<>
オニスズメ「オニー!」

オニスズメが第二撃を繰り出す。

ステイル「ッ!」

ステイル「く…! ゼニガメ、“あわ”で……」

ゼニガメ「ぜに〜!」

ゼニガメは先の攻撃で後ろにひっくり返って、起き上がれなくなっていた。

ゼニガメが手足をジタバタして起き上がろうとしているところをオニスズメが襲う。

オーキド「もう一度“つつく”じゃ!」

オニスズメ「オニー!!」


ドガアッ!


ゼニガメ「ぜにいっ!?」

ステイル「ゼニガメ!」

オーキド「こんなものか?」

ステイル「…っ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:45:03.53 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「やはりな。思った通りじゃ」

ステイル「何がですか?」

オーキド「君はポケモンバトルというものを忘れておる」

ステイル「!」

オーキド「ポケモンバトルは他人の言いなりになってやるものではない。さっき君はわしにどうすればいいか聞いてきた。それでは駄目じゃ」

オーキド「戦い方など人それぞれ、それを決めるのは自分自身じゃ。他人に勝つ方法を聞いて勝ったとしても、それは自分で収めた勝利ではない」

オーキド「そんなことではチャンピオンに勝てるわけがないぞ。わしから言えるのはそれだけじゃな。また出直すことじゃ」

ステイル「……まだだ」

オーキド「なんじゃと?」


ステイル「まだ負けていない!」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:51:02.18 ID:7iBCYQHAO<>
ゼニガメ「がめーっ!!」

ひっくり返っていたゼニガメだが、甲羅に頭・手足・尾をしまい、穴から水を噴射して起き上がった。

オーキド「む…!」

ステイル「“こうそくスピン”だ!」

ゼニガメ「ぜにぜにーっ!」

ゼニガメは超高速で回転する。しかしそれはただの高速スピンではない。

オーキド「“みずでっぽう”をしながら回転か…!」

ゼニガメ「ぜにーっ!!」

オーキド「…じゃが! 大技は時に自分にピンチをもたらす! “オウムがえし”!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:54:04.84 ID:7iBCYQHAO<>
オニスズメ「オニー!」

オニスズメの顔の前に透明なガラスのようなものが出現した。

ステイル「あれは…?」

そのガラスにゼニガメが噴射した水がかかる。

…が、

ゼニガメ「ぜに!?」

水鉄砲が跳ね返された。

ステイル「なに…!」

オーキド「“オウムがえし”は相手の技を真似する技。オニスズメはゼニガメの“みずでっぽう”をこんな形で繰り出したのじゃ」

透明なガラスの正体は水鉄砲を反射させるものだった。

オーキド「これで水は封じたぞ。後はゼニガメに近付いて…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 18:57:11.02 ID:7iBCYQHAO<>
ゼニガメ「…!」

水と水の間を縫うようにくぐってオニスズメはあっという間にゼニガメの目の前に迫る。

オニスズメ「オニー!」

オーキド「“ドリルくちばし”で回転を止めるのじゃ!」

ギギギギ、と嫌な音がなる。

ゼニガメ「ぜにぃっ…!」

ゼニガメの回転が止まった。

オーキド「残念じゃったな。最後の足掻きもこれで…」

ステイル「いいや、これが狙いさ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:02:09.02 ID:7iBCYQHAO<>
ゼニガメ「ぜに!」

甲羅に手が生えた。続いて足、尾、最後に顔。

オーキド「!」

ステイル「オニスズメを押さえ付けろ!」

ゼニガメ「がめ!」

オニスズメ「オニ!?」

オーキド「何をする気じゃ!」

ステイル「もちろん、勝利を収めるんだ。自分で考えた方法で!」

ゼニガメ「ぜにっ」

ゼニガメが大きく口を開けた。その中で鋭く尖った歯がギラリと光る。

オーキド「まさか!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:04:55.91 ID:7iBCYQHAO<>
ステイル「このゼニガメの“かみつく”は痛いぞ! 僕が保証する!!」

ゼニガメ「がーめっ!」


ガプリ。


オニスズメ「〜っ!!?」

オニスズメ「オニー!?」

あまりの痛みにオニスズメは飛び回る。しかしそれでもゼニガメは噛み付くのをやめない。

オニスズメ「オニ〜!?」

ゼニガメ「がめがめ」

ステイル「…ゼニガメ、もういい。離してやれ」

ステイルがそう言うとゼニガメはあっさりと口を離した。

ゼニガメ「がめ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:10:12.36 ID:7iBCYQHAO<>
オニスズメ「オニ〜…」

ゼニガメが噛み付いたのは短時間だったが、オニスズメは大ダメージを負っている。

オーキド「オニスズメ!」

オニスズメ「オニ…」

オーキド「これはバトル続行は無理そうじゃな……わしの負けじゃ」

ゼニガメ「がめ!」

ゼニガメが無邪気にはしゃぐ。

ステイル「……」

オーキド「…ステイル君、ちと話がある」

ステイル「はい」

ゼニガメ「ぜに?」

オーキド「まず…そのゼニガメを君にやろう」

ステイル「え…?」

オーキド「すっかり君に懐いてしまったようじゃしな。…なにか不満か?」

ステイル「い、いえ…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:16:06.39 ID:7iBCYQHAO<>
ゼニガメ「ぜにぃ!」ニコ

ステイル「ふふ、これからよろしく」

オーキド「……ふむ。そのゼニガメとなら勝てるかもしれないのう」

ステイル「え?」

オーキド「いや、ジジイの当て推量じゃよ」

オーキド「…ステイル君、君はまだ若い。若いからこその未熟さが目立つこともある。わしを頼って来たのも若さ故じゃの」

ステイル「……」

オーキド「しかしまあ、そんな君の欠点を補ってくれるのがポケモンのようじゃの。そのゼニガメ然り、君の手持ちポケモン然りじゃ」

オーキド「ポケモン達と互いを補い合えば、きっと君はチャンピオンにも勝てるかもしれん。それにはこれから新しい仲間を見つける必要があるのう」

ステイル「新しい仲間…」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>sage<>2011/10/11(火) 19:19:39.47 ID:7iBCYQHAO<>
ステイルは四年前からイノケンティウス以外のポケモンで戦ったことがなかった。

ステイル(考えてもみなかったな……)

確かにイノケンティウス一匹の力ではチャンピオンには勝てなかった。

しかし他にポケモンがいたら?

手持ちポケモンが増えれば当然戦略の幅も広くなる。

ステイル「新しい仲間と一緒に…」

オーキド「新しい戦術で…もちろん、自分で考えた方法でな!」

ステイル「オーキド博士…、ありがとうございました」

オーキド「ほっほ! 礼はチャンピオンに勝ってから言ってくれ。ここまでがわしからの『アドバイス』じゃからな」

ステイル「アドバイス?」

オーキド「うむ。アドバイスだけなら大丈夫なんじゃ」

言いながらオーキドはゼニガメと向かい合うようにしゃがむ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:22:36.91 ID:7iBCYQHAO<>
オーキド「他の二匹に会ったらよろしく言っておいてくれ。お前さんとは長い付き合いじゃったが、頑張るんじゃぞ」

ゼニガメ「ぜにぃ!」


ガプ。


ゼニガメは今度はオーキドの頭に噛み付いた。

ステイル「オーキド博士!?」

オーキド「むぅ、老体には堪えるな。じゃがこれも今日で最後か」

ゼニガメ「がめがめ」

しかしオーキドは笑っていた。

ステイル「はは、」

つられてステイルも笑みをこぼした。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:25:08.72 ID:7iBCYQHAO<>
******

イノケンティウス「はあ…」

イノケンティウスはまだうなだれていた。

イノケンティウス「いや…でもロケット団をほうっておいたら、旅もろくにできないか。そうだな! ずっと悩んでいても仕方がない! 結果的に旅をすることに変わりはないんだ!」

ステイル「イノケンティウスー!」

イノケンティウス「おう、ステイル。どこへ行っていたんだ?」

ステイル(ようやく落ち着いたようだね)

ステイル「ちょっとね。それより新しい仲間が出来たんだ」

イノケンティウス「仲間? 手持ちポケモンのことか。お前がポケモンを捕まるなんて珍しいな」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:28:12.49 ID:7iBCYQHAO<>
ステイル「ほら、ゼニガメ…」

ゼニガメ「ぜにがっ!」

ゼニガメが元気よく挨拶をする。

イノケンティウス「水タイプか。またもや珍しいな」

ゼニガメ「ぜにぜに!」

ゼニガメが手を振って握手を求めている。

イノケンティウス「ああ、こちらこそよろしく頼……」


ガプリ。


イノケンティウス「…………………」

挨拶もこれらしい。ゼニガメはイノケンティウスの頭に思い切り噛み付いた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/11(火) 19:31:01.68 ID:7iBCYQHAO<>

イノケンティウス「ぎゃああああああああああああああああ」


ステイル「ははっ」

オーキドが笑っていた理由が分かったかもしれない。


イノケンティウスの叫び声がマサラタウン中に響き渡る。

イノケンティウスがまた頭を垂らしたのは言うまでもない。




第二章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/11(火) 19:33:14.70 ID:7iBCYQHAO<> 短いですが第二章はこれで終わり あまり進展はなかったです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(西日本)<>sage<>2011/10/11(火) 21:23:49.73 ID:smUnHWgMo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/12(水) 11:44:55.31 ID:DvRc0qeIO<> イノケン一匹でリーグ制覇手前とかステイルすげぇな <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:30:40.28 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「そこだ、ゼニガメ! “みずでっぽう”!」

ゼニガメ「ぜにがあっ!」

ゼニガメの口から勢いよく水が噴射される。

コラッタ「コラァー!?」

コラッタはたおれた!

ステイル「よし、いい調子だ」

ゼニガメ「ぜに!」

イノケンティウス「お得意の“かみつく”はやらないのか?」

ステイル「まあ、あれはいざという時まで取っておくよ。相手を怒らせるかもしれないしね」

イノケンティウス(バトルの中でストレス発散してもらわないと、こっちが困るんだけどな)

ゼニガメ「ぜにぜに!」

ゼニガメがピョンピョンと跳びはねている。

ステイル「! 着いたようだね」

ゼニガメの近くに看板が立っていた。

看板には『この先トキワシティ』と記されている。




第三章・師匠


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:33:17.27 ID:yCO58JFAO<>
***

イノケンティウス「トキワシティか。久しぶりだなー」

ステイル「そうだね」

ゼニガメ「ぜにぜに〜!」

ゼニガメは初めて見る景色に瞳を輝かせている。

オーキドによるとゼニガメはマサラタウンから出たことがないらしい。

ステイル(見るもの全てが珍しいんだろうね)

…が、ゼニガメの見ているものはトキワの緑豊かな景色ではなかった。

ステイル「せっかくトキワに来たんだから、あの人に会いに行くかな」

イノケンティウス「ああ、あいつか」

ステイル「多分ジムにいるだろう。さっそく行ってみようか」

イノケンティウス「ああ。……って、ん?」

ステイル「どうした?」

イノケンティウス「…ゼニガメがいねえ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:39:15.52 ID:yCO58JFAO<>
***

トキワシティの西にのびる二十二番道路。

トレーナーにとって最後の難関と言われる、ポケモンリーグへ結ぶ道チャンピオンロードへの通過点でもあるこの道路を少年は歩いていた。

「チッ……芳川の野郎、急に呼び出しやがって……何の用だァ?」

しかし少年はトキワからこの道路へ来たわけではない。

「まァ、こっちもヒマだから別に構わねェンだけどよォ」

少年はチャンピオンロードからこの道路へやって来たのだ。

この少年はポケモントレーナーだ。しかしトレーナーの最後の難関であるチャンピオンロードで負けて帰って来たわけではない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:42:58.45 ID:yCO58JFAO<>
この少年はチャンピオンロードからここへやって来た。もっと正確に言えば、


ポケモンリーグからここへやって来た。



「地方最強(リーグチャンピオン)ってのも案外ヒマなもンだからなァ」


少年がしばらく道路を歩いていると何やら近くが騒がしい。

「あ?」

どうやらトキワで祭りをやっているらしい。この二十二番道路にも屋台がいくつか並んでいる。

人だかりが出来て、祭りだからはしゃいでいるのかかなりうるさい。おまけに『ぜにぜにー』とかアホみたいに騒ぐ声も聞こえてくる。

「祭りねェ……」

(ま、俺には関係ねェけどな)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:45:35.24 ID:yCO58JFAO<>
***

ステイル達はトキワシティの外れまで来ていた。

そこには祭りの屋台が立ち並び、人だかりが出来ている。

イノケンティウス「ゼニガメのやつ、こんなところに……」

ステイル「やっぱりか…!」

イノケンティウス「何がだ?」

ステイル「オーキド博士が言っていたんだ。『ゼニガメの困るところは噛み付きだけじゃない』……」

ステイルは周囲を見渡して、あるものを探す。

ステイル「! …あった! あそこだ!」

イノケンティウス「や、屋台い!?」

ステイルが指を差したのはりんご飴の屋台だ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 20:56:49.23 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「あそこにゼニガメはいるはずだ!」

イノケンティウス「なんでそんなことが分かるんだ?」

ステイル「オーキド博士は言っていた! ゼニガメは食べ物に目がないんだ!」

イノケンティウス「なんと!」

ステイル「ゼニガメの食費にはオーキド博士も頭を悩ませていたらしい……。とにかくそれが確かなら、ここらの食べ物の屋台はあそこだけ。行くぞ!」


***

案の定、ゼニガメはりんご飴の屋台にいた。

ゼニガメが迷惑をかけていないか心配していたステイルだったが、屋台に着いた時にはゼニガメは屋台の看板ポケモンとなっていた。

高速スピンやら水鉄砲やら自分の技でパフォーマンスをして客寄せをして、ちゃっかりそのお礼で売り物を貰っていたりした。

ステイル「…なにをしているんだ、ゼニガメ」

ゼニガメ「ぜにぜに!」

店主「おお、君のゼニガメかい? いやあ、この子のおかげで客が集まって助かるよ」

ステイル「それは良かったですね。…行くぞ、ゼニガメ」

ゼニガメ「ぜに〜!」

店主が『ぜひその子をうちの屋台の看板ポケモンに!』とか言っていたが丁重にお断りしておいた。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:18:18.11 ID:yCO58JFAO<>
***

ステイル「…さて。気を取り直して、だ」

トキワシティにはポケモンジムがある。そのジムのリーダーはカントー地方の全ジムで一番の腕前を持つ。

そんなトキワジムの前にステイル達は来ている。

しかし出鼻をくじかれた。

ステイル「…………………………」

イノケンティウス「留守みたいだな」

ジムの扉には鍵がかかっており、ジムにはインターホンがないのでそれすなわち、留守であることを示す。

ステイルの父親であるグレンタウンジムリーダー・カツラは在宅中もジムの鍵をかけているが、彼は例外中の例外だ。

ステイル(こんなことばかりだな…)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:21:11.89 ID:yCO58JFAO<>
イノケンティウス「いつものことだけどなー」

ステイル「それもそうだね。まったくあの人は……」

トキワのジムリーダーは普段からフラフラしていて、挑戦者から『ジムリーダーが不在だ』と抗議が来て、カントーのポケモン協会も度々困っている。

だが実質トキワのジムリーダーは最強のジムリーダーであるので誰も文句を言えない。ポケモン協会側にとって、トキワのジムリーダーがそれで気分を損ねてジムリーダー自体を辞めても困るらしい。

イノケンティウス「ここは諦めて先に進むか?」

ステイル「そうするか。今日中にはトキワの森を抜けたいからね」

ゼニガメ「ぜに?」

ステイル「ゼニガメはモンスターボールに戻っているんだ。また一人でどこかへ行ってもらっても困るからね」

ゼニガメ「ぜにい…」

ステイルはゼニガメをモンスターボールへ戻す。戻る前にゼニガメが少し悲しそうな顔をしていたのにステイルは気付かない。

ステイル「じゃあ行こうか、イノケンティウス」

イノケンティウス「おう」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:25:08.77 ID:yCO58JFAO<>
***

トキワの森。二番道路にある虫ポケモンが多く生息している森だ。

ある程度の実力を持つトレーナーならトキワシティからニビシティまでの通路として利用できるが、一般人や初心者トレーナーにとっては通るのに一苦労する。虫ポケモンが多いので虫除けスプレーを使えば簡単に通れたりはするが……。

ちなみに初心者トレーナーはこの森の虫ポケモンを目当てによくやって来る。

今日もまた、虫ポケモンを捕まえるためにトキワの森へ足を運ぶトレーナーがいた。


「はあっ、はあ……。駄目だあ。全然捕まらない……」

モンスターボールを手に握り、少女は草むらの上にしゃがみ込んでいる。

その周りには使えなくなった大量のモンスターボールが散らばっている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:28:16.44 ID:yCO58JFAO<>
「なんで上手くいかないのおっ……」

少女の名前は佐天涙子。彼女もまたここへポケモンを捕まえにやって来た初心者トレーナーなのだが……。

佐天「もう三年チャレンジしてるけど、全然ダメだ……」

佐天は十三歳。十歳からポケモントレーナーを夢見て、今に至る。

佐天「私才能ないのかなあ…」

そんな佐天の前で呑気そうに昼寝をしているポケモンがいた。いもむしポケモン、キャタピーだ。

佐天「でも諦めない! 絶対にこの子をゲットするんだから!!」

キャタピー「ピイ?」

佐天「えーいっ!」

渾身の力を込めて、佐天はキャタピーに向けてモンスターボールを投げる。

…が、

キャタピー「?」

モンスターボールはキャタピーとは全く逆の方向へ飛んでいった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:31:05.30 ID:yCO58JFAO<>
佐天「な、なんでえ〜!?」

佐天「…まあいいや。もう一度トライ!」


「いだっ!?」


誰かの叫び声が聞こえた。

それは佐天がボールを投げた方から聞こえた。

佐天「……………………………」

佐天(…やばっ!)

佐天「ど、どうしよう……絶対私のボールだよ………怖い人だったらどうしよう………」

佐天「で、でも謝らないとね……」

佐天は声が聞こえた方に近付く。

佐天「す、すみませ〜ん……」

すると、身長二メートルはあるだろう赤髪の長身の男が出てきた。

口には煙草、両手には大量の指輪、耳には毒々しいピアス、極めつけに右目の下にバーコードの形をしたタトゥー。

そんな神父服の男を見て、佐天は思わずたじろぐ。

佐天「ひっ……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:34:07.05 ID:yCO58JFAO<>
「……ッ」

「大丈夫か、ステイル?」

ステイル「ああ大丈夫だよ、イノケンティウス」

男の名はステイルというそうだ。

佐天(ガーディが喋ってるけど怖くてツッコめない……)

ステイル「ん…、君は?」

佐天「へ!? あ、えと…すみませんでしたー!!」

ステイル「は……?」

佐天「いや、あの、さっきのボール私が投げたんです…!」

ステイル「……?」

イノケンティウス「?」

ステイルは首を傾げ、イノケンティウスに目をやるがイノケンティウスも首を傾げる。

佐天「私なんでもしますから、命だけはあ……っ!!」

ステイル「僕は山賊か何かか。というよりボールって何のことだい?」

佐天「え、えっ? 私が投げたボールがあなたに当たったんじゃ…」

ステイル「それは勘違いだ。僕は……」

イノケンティウス「転んだだけだよな。なにもないところで」

ステイル「やかましい」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:37:06.52 ID:yCO58JFAO<>
佐天「……………………………」

ステイル「…ええっと?」

佐天「ふああああ〜っ、よかったあ………」

佐天は膝から崩れ落ちる。

佐天「恐そうな人だったからどうしようかって……。でも、よく見たら意外と優しい顔してますね!」

ステイル「それは褒めているのかい?」

佐天「あっ、転んだんでしたっけ?」

ステイル「掘り返さないでくれ…」

佐天「いやいやどこか怪我してるかもしれないですし……。とりあえず脱いでください!」

ステイル「ぶはっ!?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:40:28.13 ID:yCO58JFAO<>
***

佐天「ほら、やっぱり足怪我してますって!」

ステイル「……」

ステイルはなんとか下着姿になることだけは防いだ。

佐天「ちょっと待っててください。今手当てしますから!」

ステイル「いや別にいいよ。擦りむいただけだ」

佐天「擦り傷を舐めちゃダメですよ。こういう小さい傷からばい菌とか色々入ってくるんですから!」

ステイルの小さな抵抗も虚しく、佐天は手当てを始めた。

ステイル(はあ……)

イノケンティウスの視線が何やら鬱陶しいので、イノケンティウスは服の下りの時点でボールに戻しておいた。

佐天「よし、できた!」

ステイル(やっと終わった)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:43:03.64 ID:yCO58JFAO<>
佐天「これからは気をつけてくださいね! じゃあ私は忙しいんでこれで!」

ステイル「? 何かあるのかい?」

佐天「え…。いやあ、えっと……」

ステイル「ん?」

佐天の後ろに広がる草むら。そこに散らばる使えなくなった大量のモンスターボールが見えた。

ステイル「もしかしてポケモンを捕まえに来たのかい?」

佐天「あ……お恥ずかしい………」

ステイル「そんなことはないさ。僕だって昔は……」

ステイルの声が遮られた。それは大きな音のせいだ。

森中に響く、大音量の羽音。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:48:32.78 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「羽音!?」

音はステイルの背後から聴こえた。

ステイルが振り返るとそこにはスピアーの群れが集まっていた。

羽音は彼らのものだ。

ステイル「スピアー!? 何故こんなにも集まっているんだ!」

佐天「あ、あれ……!」

群れの中心、一匹だけ大きなスピアーがいた。恐らく群れのリーダーだろう。

スピアー大「スピイ……」

そのスピアーの額に傷があった。その大きさはちょうどモンスターボールぐらいだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:50:41.81 ID:yCO58JFAO<>
佐天「私の投げたボールはあのスピアーに当たったんだ!」

ステイル「何だって!?」

スピアー大「…………………………」

ステイル「相当怒ってるな…」

佐天「ご、ごめんなさ〜いっ!!」

スピアー大「スピイイイイイ!!!」

スピアー達「スピイイイイイ!!」

リーダーのスピアーが掛け声をあげると、スピアー達が一斉にステイル達へと向かってきた。

ステイル「なにをしてるんだ! 早く此処から逃げるぞ!」

佐天「は、はいっ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 21:53:08.10 ID:yCO58JFAO<>
***

ステイル「……撒いたか?」

ステイルは茂みの陰から様子をうかがう。

スピアー特有の耳障りな羽音は聴こえない。

ステイル「撒いたようだな」

佐天「はあっ…はああっ……」

ステイル「大丈夫かい?」

佐天「ち、ちょっと休憩……」

佐天は草むらの上にちょこんと座る。

ステイル「そういえば、名前を聞いていなかったね」

佐天「あ、そうだった! 私は佐天涙子、しがない初心者トレーナーです!」

ステイル「僕はステイル=マグヌスだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:00:53.94 ID:yCO58JFAO<>
佐天「ステイルさんですね! 私の呼び方はどんなのでもいいですよ?」

ステイル「じゃあ佐天さんと呼ぼうかな」

佐天「ステイルさんはニビシティに用があるんですか?」

ステイル「ああ。ジムに挑戦しにね」

佐天「へえ〜! すごいですね!」

ステイル「そうかな? 挑戦するだけなら佐天さんもしたらどうだい」

佐天「いやでも私ポケモン持ってませんから…」

ステイル「ああ、そうか……」

ステイル(此処にはポケモンを捕まえに来たんだったか)

佐天「……」

ステイル「どうかしたのか?」

佐天「…ステイルさんも見たでしょう、さっきのモンスターボール。あれだけ投げたんです、でも捕まえられなくって………」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:03:02.92 ID:yCO58JFAO<>
明るい彼女の顔が曇る。

佐天「私……、」

ステイル「……」

佐天「あっ…すみません! 急にこんなこと……」

ステイル「いや、いいんだ」

彼女を見ていると昔を思い出す。

ステイルは昔の自分と佐天を重ね合わせていた。ステイルにもあった、こんな時期が。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:08:29.40 ID:yCO58JFAO<>
ステイルはたった一度を除いてポケモンバトルで負けたことはない。そんな彼だが、ポケモンを捕獲することは苦手だった。

トレーナーが最初に突き当たる壁はポケモン捕獲だ。大抵のトレーナーは初めは上手く出来ない。

ステイルもそうだった。しかしステイルにはそれを教えてくれる人物がいた。その人物に教わり、無事に捕獲を上手くこなすようになれたのだ。

その人物とは、いわゆる師匠。カツラから紹介された実力のある人物だ。

そう。ステイルはその人物に教わってポケモン捕獲が出来るようになった。

ならば……、


ステイル「佐天さん、僕が君にポケモン捕獲のやり方を教えるというのはどうだ?」


佐天「え……?」

佐天は一瞬何を言われたか理解出来なかった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:12:28.35 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「駄目かい?」

ステイルの言葉に佐天は我に返る。

佐天「で、でも悪いですよ……」

そう言う佐天の声は弱々しかった。

ステイル「……」

佐天「こういうのは自分の力で……」

ステイル「そうだね。だがやり方を知らないのなら、自分の力でどうもない」

ステイル「確かに自分の力でやることは大切だ。でもね、時には教わることも大切なんだ」

佐天「で、も……」

佐天はまだ口ごもっている。

しかしステイルの次の言葉で核心を突かれる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:15:56.66 ID:yCO58JFAO<>

ステイル「君は早くポケモンを手にしたいんだろう?」


佐天「…っ!!」

ステイル「ポケモンをゲットして育てて一緒に強くなって、バトルをして勝ったら喜び合い、負けたら励まし合い、また今度のバトルへ向けて共に修練に励む! そんな毎日をポケモンと一緒に過ごしたいんだろう? だからポケモントレーナーを夢見た! 違うのか!?」

佐天「私、は……」

佐天「……たい…」


佐天「ポケモンをゲットしたいっ! だからポケモントレーナーになったんだ!」


ステイル「……」

ステイル「ふっ…いい返事だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:20:30.13 ID:yCO58JFAO<>
佐天はつい力がこもってしまったらしく、いつの間にか立ち上がりステイルに歩み寄っていた。佐天とステイルの顔の距離は十センチもない。

佐天「うわあっ!? す、すみません!」

すぐに佐天はステイルと距離を取る。

一方ステイルは気にしていない。

ステイル「じゃあ早速始めようか。まずはボールの握り方からだ」

佐天「は、はあ。握り方ですか」

ステイル「握り方で投げやすさも違ってくるんだ。佐天さんはどう握っているのか見せてくれ」

佐天「こうですかね」

佐天がモンスターボールを握る。

ステイル「うん、大体いいと思うよ。次は投げてみようか」

ステイル「そうだな……あの木を狙って投げてみてくれ」

佐天「わかりました!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:25:21.81 ID:yCO58JFAO<>
佐天は腕を振りかぶり、

佐天「えいっ!」

ボールを投げた。

ステイル(いいフォームだ)

しかし……、

佐天「ああっ!?」

ボールは狙った木とは全く違う木に当たった。

佐天「いつもこうなっちゃうんです…」

ステイル「……」

ステイル「見たところフォームは悪くない。……まさか、」

佐天「?」

ステイル「佐天さん、君の利き腕はどちらだ?」

佐天「右腕ですけど」

ステイル「……………………………」


先程、佐天はボールを左腕で投げた。


ステイル「…何故左腕で投げたんだい?」

佐天「えっ…あ。えとお……左で投げた方がカッコイイかなぁ〜、ってー」

ステイル「……はあ」

佐天「あはは…」

ステイル「右腕で投げろ」

佐天「ええっ!?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:28:53.01 ID:yCO58JFAO<>
***

佐天「どうですか、ステイルさん? いや、ステイル師匠!」

ステイル「右腕でなら上手く投げられるみたいだね。もう実践に入ろう」

佐天「実践ですか!」

ステイル「最初に僕が手本を見せよう」

佐天「わくわく」

ステイル「さて……」

ステイルは周りの木を見渡す。すると、緑色で丸いポケモンが木の枝に留まっているのが見えた。

ステイル(キャタピーだな)

ステイル「うん。あのキャタピーを捕まえよう」

ステイルは腰にあるモンスターボールに手を伸ばし、それを放った。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:37:55.13 ID:yCO58JFAO<>
ゼニガメ「ぜにぜにー!」

佐天「へえ、ゼニガメだ! 可愛いですねー!」

ステイル「佐天さん、ここで問題だ」

佐天「はい!」

ステイル「キャタピーは虫タイプ。虫タイプに弱点をつけるタイプは何だい」

佐天「えっと…飛行タイプ、岩タイプ、あっ……炎タイプ!」

ステイル「正解だ。僕は炎タイプのガーディを持っているわけだが、どうしてガーディを出さずキャタピーに弱点をつけないゼニガメを出したのか分かるかい?」

佐天「ええと……捕まえるんだから、瀕死にしないように…ですか?」

ステイル「おしいな。それもあるが…」

ステイル「此処は森だ。炎タイプを使ってバトルをして、もし何かの拍子に木や草むらが燃えてしまったら大変だろう。火事になって森は燃え尽きて森に棲むポケモン達の住み処を脅かすことにもなってしまう」

ステイル「要はバトルする場所の環境や状況などを考慮して、出すポケモンや戦法を変えることが大切なんだ」

佐天「なるほど……気をつけます!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:41:38.50 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「問題は終わりだ。ポケモンが逃げ出さないうちに始めようか」

ゼニガメ「ぜに!」

ステイル「ボールを投げる前にダメージを与えて捕まえやすくするんだ。ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

ゼニガメ「ぜにいっ!」

ゼニガメの発射した水が木を揺らす。

ステイル「この揺れ具合ならキャタピーは落ちてくるな」

佐天「本当ですね。すごい威力!」

揺れに反応したのかキャタピーがモゾモゾと動き出した。だがその動きがおかしい。

ステイル「? なんだ…?」

次の瞬間、有り得ない出来事が起きた。

キャタピーが空を飛んだのだ。

揺れで木から落ちたのではない。自力で、飛んだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:43:16.77 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「なっ……」

ステイルはあまりの出来事に声も出ない。

そんなステイルを余所に佐天は空飛ぶキャタピーを観察していた。そしてようやくその正体に気付いた。

佐天「師匠、あれキャタピーじゃないですよ!」

ステイル「! あれは……」


ズバット「ズバー!!」


ステイル・佐天「「ズバット!!」」

そのズバットの体色は緑。

ステイル「色違い、か」

佐天「色違い!? 私初めて見ましたよ!」

ステイル「実は僕もだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:51:11.99 ID:yCO58JFAO<>
ズバット「ズバー!」

ステイル「ま、色違いにしろなんにしろ捕まえ方は変わらないし。続行しよう」

ステイル「ゼニガメ、もう一度“みずでっぽう”だ」

ゼニガメ「ぜにいーっ!」

ズバット「!?」

ゼニガメの水鉄砲がズバットに命中した。

ズバット「ズバ……」

ズバットの翼は水に濡れて上手く動かせなくなっている。

ステイル「このへんでいいだろう」

佐天「ボールを投げるんですか?」

ステイル「ああ。そしてここで気をつけることがある。それはボールをどこに当てるか、だ」

佐天「当てる場所で何かが違うんですか?」

ステイル「捕まえやすさが違うのさ。どのポケモンにもボールの当て所があるんだ。基本的には生命エネルギーが集まる場所がそのポケモンの当て所だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 22:58:44.16 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「ズバットの場合は……額だ!!」

ステイルがズバット目掛けてモンスターボールを投げた。

ボールは見事ズバットに当たり、ズバットはボールの中へと吸い込まれる。

ステイル「ズバットは目がないから額が広い。そこは一番生命エネルギーが集中している…」

ボールは数回横に揺れ、やがて静止した。

ステイルがボールを拾い上げる。

ステイル「ズバット、ゲットだ」

ステイル(それにしても、どうしてトキワの森にズバットが…?)

佐天「やりましたねー! さすが師匠ですよ!!」

ステイル「褒めなくていい。今度は佐天さん、君がやるんだ」

佐天「がんばります!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/12(水) 23:03:23.32 ID:yCO58JFAO<>
ステイル「捕まえるポケモンだけど、何か欲しいポケモンはいるのか?」

佐天「はい! さっきまでキャタピーを捕まえようとしてて…………あ、ああああああああああああっ!!」

ステイル「どうした?」

佐天「キ、キャタピーが危ない!」

ステイル「どういうことだ?」

佐天「スピアーの群れに追い掛けられる前にいた場所……まだあそこにキャタピーがいるんです!」

ステイル「何だって!?」

佐天「は、早く助けに行かないと…。襲われてるかもしれない!」

ステイル「よし、僕も行く。急ぐぞ!」

佐天「はい!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/12(水) 23:05:21.35 ID:yCO58JFAO<> 今日はここまでです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/13(木) 00:25:55.62 ID:islQ4kIZP<> 佐テインなのか?
それはともかくチャンピオンはアクセラのほうか……100%上条さんだと思ってたぜ <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:30:39.16 ID:ao0Jg3SAO<>
***

ステイル達がキャタピーのいる場所まで戻ると、やはりそこでスピアー達が群がっていた。

ステイル「…まずいな」

佐天「あっ! あの木の上にキャタピーがいます!」

佐天が指差した木の上でキャタピーは呑気に昼寝をしていた。

ステイル「まだスピアー達に気付かれていないようだね」

佐天「よかったあ……」

ステイル「ここは僕が囮になる。あの大群の気を引き付けるのは難しいけど、頑張ろう。僕が奴らを引き付けている間に佐天さんはキャタピーを助けるんだ」

佐天「分かりました」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:33:39.80 ID:ao0Jg3SAO<>
ステイル「じゃあ行くぞ」

ステイルが立ち上がる。そのままスピアーの群れの中へと駆け込もうとした時、

一匹のスピアーがキャタピーの存在に気付いた。

ステイル「!」

スピアー「スピスピ!」

キャタピーを見つけたスピアーはリーダーのスピアーに報告する。

スピアー大「スピイ!!」

その報告を受けてリーダーのスピアーは群れに命令をする。

リーダーの言葉を聞いたスピアー達は行動を開始した。

キャタピーの周りをスピアー達が囲む。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:36:05.15 ID:ao0Jg3SAO<>
ステイル「く……っ!」

佐天「危ないっ!」

佐天が走り出した。

ステイル「待て、佐天さん!!」


スピアー達がその鋭い針をキャタピーに振りかざす。

キャタピー「キャタ!?」

スピアー達「スピイイイイイ!!」

スピアー達が針を振り下ろす。

佐天「ダメえーっ!!」

スピアー達が針を振り下ろす直前、佐天が投げた石がスピアー達に命中した。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:39:02.91 ID:ao0Jg3SAO<>
スピアー達「!」

佐天「その子に手を出すな! ボールを投げたのは私だあっ!」

佐天の声は震えている。声だけではない。手も足も肩も唇も…全身が震え、立っているのがやっとだ。

当たり前だ。生身で数十匹ものスピアーの大群を前にして震えないものなどいない。

それでも佐天は前を見ている。スピアーから目を離さずに、しっかりと前を見据えている。

佐天「その子から離れろ!」

スピアー達はキャタピーから離れていく。当然、佐天の言葉に従ったわけではない。

キャタピーから離れたわけではなく、新たな敵へ矛先を向けたのだ。

スピアー達は佐天を先に始末することに決めた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:44:47.49 ID:ao0Jg3SAO<>
スピアー達「スピイイイイイ!!!」

スピアー達は一斉に佐天へ飛び掛かる。

佐天「……っ!」

佐天(もう…ダメ……!)


ステイル「ゼニガメ、“こうそくスピン”!」


ゼニガメ「ぜにがーっ!!」

ゼニガメがその硬い甲羅でスピアー達を一掃する。

スピアー達「スピイイ!!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:46:44.84 ID:ao0Jg3SAO<>
佐天「師匠…っ!」

ステイル「まったく……なんて無茶を!」

佐天「す、すみません……」

ステイル「…だけど無事で良かった」

佐天「師匠…」

ゼニガメ「……………………………ぜにい」

ゼニガメのジトリとした目線にステイルはやはり気付かない。

ステイル「佐天さん、君はキャタピーを!」

佐天「はい!」タタッ

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:49:19.92 ID:ao0Jg3SAO<>
ステイル「…さて、スピアー達。君達が悪くないことは知っている。だが無関係なポケモンを襲うのはいただけないな」

ステイル「今後こういうことをしないように瀕死にならない程度に痛め付けてあげよ……ぬおっ!?」

ゼニガメ「ぜにいっ!?」

ステイルとゼニガメは急に身動きがとれなくなった。

ステイル「な、なんだ!?」

二人の身体には糸が巻き付いていた。動くことができないのはこれが原因だ。

ステイル「“いとをはく”……スピアーといえば、ビードルか!」

ステイルの予想は当たっていた。木の陰からビードルが現れる。

ビードル「ビー」

ステイル「油断した…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:52:48.62 ID:ao0Jg3SAO<>
佐天「ステイル師匠ー! キャタピー保護しましたー、ってどうしたんですか!?」

ステイル「すまない、捕まった」

佐天「ええええええええええええええ!!?」

ステイル「僕は今身動きがとれない! このままだと……、危ないッ!!」

スピアー「スピイイ!!」

一匹のスピアーが佐天の後ろに回り込み、今まさに攻撃をしようとしている。

佐天「わあっ!?」

間一髪で佐天はスピアーの針をかわす。

ドス、と狙いが外れたスピアーの針が木の幹を突き刺した。たちまち木は紫色に変色する。

ステイル「“ダブルニードル”だ! スピアーの針には毒がある、触れたら危険だぞ!!」

佐天「ひっ……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:56:00.62 ID:ao0Jg3SAO<>
一匹、二匹……とスピアー達が佐天を囲んでいく。

ステイル「佐天さん!」

佐天「う、うそ……」

スピアー達「スピイイ…!」

二十匹は超える数のスピアーが佐天へ針を向けている。

この数で攻撃を仕掛けられたら一たまりもない。

ステイル(僕が動くことができたら!)

ステイル(いや……!)

ステイル「佐天さん! そのキャタピーで応戦するんだ!」

佐天「キャタピーでスピアーを!? 無理ですよ!」

ステイル「無理じゃない。どんなポケモンでも戦い方によっては強いポケモンを倒すことが出来るんだ!」

佐天「戦い方ってどんな!?」

ステイル「それは、…!?」

ステイルはついに話すことも出来なくなった。ビードルが顔にも糸を巻き付けたのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 17:59:46.40 ID:ao0Jg3SAO<>
佐天「ステイル師匠っ!」

佐天がステイルを呼ぶが、耳も塞がれたステイルにはその声は届かない。

佐天「どうすれば……」

キャタピー「キャタ?」

佐天「キャタピー……戦える?」

佐天は腕で抱いているキャタピーに話しかける。

キャタピー「キャタ……」

相手は二十匹を越す数のスピアー。キャタピー一匹に勝ち目があるわけがない。

それは佐天は百も承知だ。キャタピーもそうだろう。望みは限りなく薄い。

しかしキャタピーは佐天の腕から離れてスピアーに向かい合った。

それは戦う意思があることを示す。

キャタピー「キャタ!」

佐天「キャタピー……」

佐天「…うん、わかった。あなたを信じる!」

キャタピー「キャター!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:02:59.89 ID:ao0Jg3SAO<>
佐天(師匠は言ってた。どんなポケモンも戦い方次第で強いポケモンに勝つことができるって。そう、ポケモンだけの力で不可能ならトレーナーが戦略で補えばいいんだ!)

佐天は周りを見渡す。

佐天(その場の環境や状況で戦い方を考える!)

見たところ、周りの木以外にはスピアーの群れと糸を巻かれたステイル達くらいしか目立つものはない。あとはステイル達をあんな風にしたビードルぐらいか。

佐天(! ビードル…?)

ビードルはスピアーの進化前のポケモンである。けむしポケモンのビードルと対をなすポケモンこそが、いもむしポケモンのキャタピーだ。

佐天(師匠達に身動きをとれなくした“いとをはく”。その技をこのキャタピーも使えるんだ)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:07:07.73 ID:ao0Jg3SAO<>
キャタピー「…」

キャタピーは佐天の指示を待っている。しかし後ろにいる佐天へ目を向けることはない。それほど佐天を信頼しているのだ。

佐天(…やってみる価値はある!)

スピアー大「スピイイイイイ!!!」

スピアー達「スピイイイイイ!!」

リーダーのスピアーが掛け声を上げると、スピアー達が一斉に佐天達の方へと向かっていった。

佐天「キャタピー、“いとをはく”!」

キャタピー「キャタアア!!」

キャタピーが糸を吐いた。

スピアー達「!?」

突然前から降りかかってきた糸にスピアー達は怯む。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:10:36.92 ID:ao0Jg3SAO<>
佐天「いいよ、キャタピー。今度は“むしくい”!」

キャタピー「キャタ!」

キャタピーは葉をかじるように周りの木をかじっていく。

そして木はバランスを失い、倒れる。木の落下地点にはちょうどスピアー達がいる。

スピアー達は身体に糸が絡まり、身動きがとれない。

スピアー達「…!」

スピアー達は木の下敷きになった。

佐天「や、やった!」

キャタピー「キャタっ!」

ステイル「んー! んー!」

佐天「はっ! 師匠を早く助けなきゃ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:13:18.28 ID:ao0Jg3SAO<>
***

ステイル「ふう…助かったよ」

ステイル「それにしても、あのスピアーの大群を倒すなんてすごいじゃないか」

佐天「…てへっ。でも師匠から教わったことをヒントにしただけですよ」

ステイル「そうだとしても、これは紛れも無く君の実力……いや、君達の実力だろうね」

佐天「!」 キャタピー「!」

佐天「えへへ…」

キャタピー「キャタあ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:17:49.53 ID:ao0Jg3SAO<>
ステイル「そのキャタピー、もうすっかり君に懐いているみたいだけど」

佐天「え…」

ステイル「捕まえたらどうだ?」

佐天「えっと…。キャタピー、私と一緒に来る?」

キャタピー「キャタっ!」

佐天「…えへへ。よろしくね、キャタピー」

佐天「ううん、『ピーちゃん』…。これからよろしく、ピーちゃん!」

ピーちゃん「キャタ!」

ステイル「形はどうあれ、良かったじゃないか。ポケモンをゲット出来て」

佐天「はい!」

ステイル「…少し遅れたけど。ありがとう佐天さん、君のおかげで助かったよ」

佐天「…あ、……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:22:29.33 ID:ao0Jg3SAO<>
ポタポタと佐天の目から涙がこぼれる。

ステイル「ど、どうしたんだ!?」

佐天「す、すみません……。そういえば私さっきのでバトル初めてで、ポケモンもゲットできて……それに、ポケモンのことで、ありがとうって言われたのも初めてで……」

ステイル「…それでいい。君はもっと強くなるはずだ。そうしたら今度はもっと色んな人を助けられるだろう」

ステイル「そんな弟子がいたら僕も鼻が高い。頑張ってくれ」

佐天「はい…っ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:28:54.81 ID:ao0Jg3SAO<>
***


ステイル達がトキワの森を去った後、一人森に佇む女性がいた。

女性が立っているのは先程までステイル達が戦闘をしていた場所だ。すなわち木々が倒れその下に大量のスピアーが下敷きになっている場所に女性は立っている。

「甘きことね」

女性は一人呟く。

「…キュウコン」

女性がボールを放つ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:30:33.89 ID:ao0Jg3SAO<>
キュウコン「コーン」

現れたのはキュウコン。炎タイプだ。

森の中で炎タイプのポケモンをボールから出すのは危険だ。もし何かの拍子に木や草むらが燃えてしまったら大変だからだ。火事になって、森は燃え尽きて森に棲むポケモン達の住み処を脅かすことになってしまう。

しかし女性にそんな心配はない。

「キュウコン、“かえんほうしゃ”」

キュウコン「コーン!」

キュウコンは一本の倒れた木に火炎を放射した。

すぐにその木全体に炎が行き渡り、他の木々にも燃え移る。……が、


炎は倒れている木々だけを燃やしている。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:34:01.55 ID:ao0Jg3SAO<>
周りに立つ木、草むらに炎が燃え移る気配はない。炎はただ倒れている木々だけを燃やしていく。

スピアー大「スピイイ!」

スピアー達「スピイイ!!」

木が燃えて出来た隙間から、木々の下に埋もれていたスピアー達が飛び出した。

スピアー達は業火に恐れをなして逃げ出していく。

「炎タイプが使いとして炎を制御出来ぬとはまだまだね、ステイル」

木々を燃やしていたはずの炎が消えた。

炎は倒れた木々だけを燃やし、他の木や草むら、スピアー達に被害はない。倒れた木々を燃やし尽くしたらそれで満足したかのように消えたのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:39:13.29 ID:ao0Jg3SAO<>
「されど、またトレーナーになりたりて安心したわ。弟子も出来りけるようね」

「終始戦いは見けれど、私の出りし幕はなし……それでよし、よ」

女性はキュウコンをボールに戻し、その場を去ろうとするが……、


ガプ。


ゼニガメ「がめがめ」

「……………………………………」

「何ぞ。かような仕打ちは」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/13(木) 18:44:15.43 ID:ao0Jg3SAO<>
ステイル「あ、師匠」

「す、ステイル!?」

ステイル「何故ここに?」

「ステイルこそ、どうしてここへ戻りてけるの!?」

ステイル「ちょうど師匠の頭に噛み付いているゼニガメを忘れたんで」

ゼニガメ「がめがめ」


「……………………………………」


ステイル「師匠…?」

「何事!? 何事かこれは!?」

「せっかく師として格好良く決めたるのに! いかようなこと!?」

ステイル「いや知りませんよ」

「これは何者かによりし陰謀よ! また最初からやり直すにつきなのよ! って尺が足りなし、足りなしよステイルぅうう!!」

ステイル「…はあ」

ゼニガメ「がめがめ」




第三章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/13(木) 18:47:14.68 ID:ao0Jg3SAO<> 第三章終わり

>>138
佐テインではないです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/10/13(木) 19:40:21.79 ID:K2BkVJ+fo<> つかステイル、ガーディ一匹で四天王倒したのか…
強過ぎだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/14(金) 00:43:15.18 ID:2qo8MBjIO<> カンナをどうやって通り抜けたのか <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 18:43:38.59 ID:2ETtsyjAO<>

ステイル「…それで、何故こんなところにいるんですか、師匠?」

「モチ、愛弟子を陰から見守りていたのよ」

言いながら女性は右の親指を立てる。

ステイル「……師匠、歳も歳なんでそういうノリはイタいです」

「ううっ! そんなに歳じゃなしよ!」

ステイル(見た目だけならそうですけどね)

ステイルはその言葉は心の中にしまっておく。

しかし本当に見た目だけなら若く見えるのだ。そう言ってもステイルも詳しい年齢は知らないのだが。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 18:46:39.19 ID:2ETtsyjAO<>
そんな年齢不詳の女性、名前はローラ=スチュアート。ステイルの師匠であり、トキワシティのジムリーダーでもある。

ステイル「師匠、ふざけていないで質問に答えてください」

ローラ「そういえば、一緒におりける女の子は何処に?」

ステイル「師匠!」

ローラ「ううっ……ステイルが冷たし、冷たしよぅ……」

ステイル「……はあ。佐天さんなら先にニビシティへ行かせましたよ。だから質問に答えてください」

ローラ「……全く。相も変わらずつれなし男ね、ステイル」

ステイル「師匠が暴走しすぎなんですよ」

ローラ「まあいい。そうね、いかような質問だったかしら」

ステイル「どうしてジムの業務をサボって、こんな森にいるか、って質問です」

ローラ「人聞きが悪しきことね。別に用もなしにトキワの森へ足を運んだわけじゃなしよ」

ステイル「じゃあ何の用ですか?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 18:49:39.59 ID:2ETtsyjAO<>
ローラ「レディーに余計なる詮索はなしにつきよ、ステイル?」

ステイル「…またはぐらかすつもりですか」

ローラ「ふふん。色々とありけるのよ、色々とな」

ステイル「……ま、いいです」

ローラ「ならばこちらからも質問をしようかしら」

ステイル「なんですか?」

ローラ「よくジムを留守にしたることが分かりけるわね」

ステイル「いつものことじゃないですか」

ローラ「…………………………………」

ステイル「…ちょうどトキワに寄ったから訪ねたんですよ。ついでにトレーナーとして旅をすることを伝えるためにも。…どうしてか分かりませんけど、もう知っているようですがね」

ローラ「カツラの奴に聞いたのよ。…くっくっ。カツラの奴、電話越しでも分かりしくらい喜んでいたわよ」

ステイル「……」

ローラ「私も嬉しかるのよ?」

ステイル「もう、いいですよ。その話は…」

ローラ「くっくっ。照れなくてもよしよ、ステイル」

ステイル「ち、茶化さないでください!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 18:54:02.57 ID:2ETtsyjAO<>
ローラ「ふふ。どう取りたるのも自由よ」

ローラ「さあ私はもうジムに帰るとするわ。旅の方、頑張りたるのよステイル」

ステイル「はい。師匠もジムの方、しっかりとやってくださいね?」

ローラ「ふふん、どうかしらね。じゃ、バイビー、よ」

言いながらポーズをとり、ローラは去って行った。

ステイル「あの古いセンス……譲歩しても二十代はないな」

ゼニガメ「ぜに」





第四章・堅い石の男(タケシ)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 18:59:33.43 ID:2ETtsyjAO<>
***

ここはニビシティ。トキワの森を抜けてすぐのところにある街だ。

目立つものと言えばニビ博物館がある。太古のポケモンの化石や月の石が展覧してあり、日々多くの人がそれらを見物しに来るのだ。

しかしトレーナーにとっては博物館よりも訪れたい施設、ポケモンジムがこの街にはある。大抵のポケモントレーナーが最初に挑むことになるポケモンジム、それがこのニビのニビジムである。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:02:06.06 ID:2ETtsyjAO<>
佐天「へえ〜! すごいすごい。博物館がある〜!」

イノケンティウス「おいおい佐天さん。お前もトレーナーなら博物館より真っ先にポケモンジムに食いつくべきじゃねえか」

佐天「えー。でも私、自信ないし…」

イノケンティウス「ステイルも言ってただろ? 佐天さんはもっと強くなれるって。強くなるにはまずジムに挑むのが近道だと思うぞ」

イノケンティウス「そもそもポケモンジムっていうのは自分がどれくらいの実力を持つのか試す施設であって……」

イノケンティウスは得意げに語りだした。

佐天「あー聞こえない聞こえないー」

佐天は勉強とかの類いの長い話は大嫌いだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:06:30.44 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウス「そんなんじゃ到底強くなれないぞ」

佐天「私は根性で戦うタイプだから、難しい話はいいの!」

イノケンティウス「はあ…」

佐天「んじゃ博物館行こーよ、イノちゃん!」

イノケンティウス「イノちゃん? …って待てよおい!」


***

佐天「着いた着いたー!」

イノケンティウス「はあはあ…」

佐天「イノちゃん疲れすぎだって」

イノケンティウス「最近まで身体動かしてなかったからな……」

佐天「もう、先行くからね〜」

佐天は博物館の入口へ向かって走っていく。

イノケンティウス「ちょ……待っ………」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:09:25.88 ID:2ETtsyjAO<>

佐天「ここが入口だよねー!」

佐天は博物館へ入ろうとするが、

「キミ、ちょっと待つんだ」

横から声をかけられた。

佐天「へ?」

「オレはこの博物館の警備員だ。中に入るなら、その前に怪しい物を持っていないか調べさせて貰うぞ」

佐天「は、はあ。別に何も持ってないですけどね」

「………」

佐天は警備員の指示に従ってチェックを受ける。

「うん。特に危険な物は持っていないな。行っていいぞ」

佐天「はーい」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:13:13.02 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウス「はあはあ……やっと追いついた…」

佐天「あ、イノちゃん」

チェックの間に追いついたのか、イノケンティウスは入口のすぐ傍まで来ていた。

「…!」

佐天「それじゃあ一緒に入ろっか」

イノケンティウス「おう…」

「ちょっと待て」

佐天「? まだ何かあるんですか?」

「私事で悪いが…その喋るガーディはまさか……」

ガーディ「ん? あっ、お前ニビジムの……」

佐天「?」

「やはりそうだったか! おのれぇ…このニビへ何故また現れた!?」

イノケンティウス「そりゃあジムに挑戦するからだ」

「またもやジムに!? くそお…! ……いいだろう、分かった」

佐天「な、なにが?」

「オレの岩タイプが炎タイプに負けた…あの屈辱は忘れない! 今度は勝って屈辱を晴らしてやる!!」


タケシ「ニビシティジムジムリーダー・タケシ! このオレと勝負だ!!」


佐天「え、えええええええええええええええ!!?」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:18:45.40 ID:2ETtsyjAO<>
***

佐天「…ってわけなんです」

佐天はステイルと合流し、博物館でのことを全て話した。

ステイル「それはとんだとばっちりだな…」

佐天「なんで私が……」

ステイル「ううん…僕が代わってもいいが、これは逆に良かったんじゃないか」

佐天「えー、何がですか?」

ステイル「君は一度ジムに挑戦した方がいい。自分の実力を試せる良い機会だ」

佐天「イノちゃんと同じこと言ってる……」

ステイル(イノちゃん…?)

ステイル「僕としても、君のバトルを見てみたいしね」

佐天「……あ、ええと…///」

佐天「し、しょうがないなあ〜!」

ステイル「決まりだね」

イノケンティウス「でもニビジムって二匹のポケモンが必要じゃなかったか?」

ステイル「あ……」

佐天「そうなんですか?」

ステイル「あ、ああ」

イノケンティウス「佐天さんは手持ちポケモン一匹しかいないし、挑戦もできないだろ?」

佐天「ううーん…」

ステイル「……」

ステイルはポケットから煙草を取りだし、くわえる。

煙草を上下に揺らし、考える。

ステイル「…そうだな」



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:23:50.83 ID:2ETtsyjAO<>
***

佐天「たのもーうっ!!」

佐天が勢いよくジムの扉を開けた。

ステイル「佐天さん、もう少し静かに入れないか」

佐天「いかにもジム挑戦って感じでいいじゃないですか!」

ステイル「元気があるのはいいことだけどね」


「来たか、挑戦者」


言葉とともに照明が入る。

佐天「!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:26:45.28 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「よくオレに恐れをなさずに挑戦しに来たな」

佐天「そっちがバトルしようって言ってきたんでしょ!」

タケシ「ふ、それでも放棄してもよかったんだがな」

佐天(よかったんだ)

タケシ「…ん? ああっ、お前は!?」

ステイル「ようやく気が付いたか」

タケシ「ガーディがいるということはお前もいると思っていたぞ、ステイル=マグヌス! 炎タイプ一匹でこのオレを負かしたトレーナー!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:31:17.89 ID:2ETtsyjAO<>
ステイル「かつての戦いの屈辱を晴らすのなら僕と戦う方がいいと思うけど、どうする。対戦相手を変えるか?」

タケシ「む……」

佐天「ちょっと、師匠?」

ステイル「まあまあ佐天さん。このバトルは君にとってはとばっちりみたいなものだし、代わることに何の問題もないはずだ」

佐天「そうですけど…」

タケシ「……」

ステイル「どうするんだ、ジムリーダーさん?」

タケシ「…このままで行こう。お前との勝負はそのあとだ!」

ステイル「そうかい」

佐天「ていうか私はウォーミングアップ相手?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:36:23.82 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「こちらが競技場だ、挑戦者」

ジムの奥へ行くと大きな競技場があった。

競技場の床には砂が敷いてある。

佐天「おお〜! ここでバトルするんだあ〜!」

タケシ「驚いたか、挑戦者。ジム挑戦は初めてのようだな」

佐天「はい、この間ポケモンを初ゲットしたばかりですし」

タケシ「ほう、そんな素人同然の実力でこのオレに勝負を挑もうとはな…」

タケシ「…それでは始めようか、挑戦者。二対二の交替戦……バトル開始だあっ!」

佐天「…!!」

タケシが先にボールを放った。

「イラッシャイ!」

タケシの一匹目はイシツブテだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:41:00.10 ID:2ETtsyjAO<>
佐天「よし、こっちもそれーっ!」

続いて佐天もボールを放つ。

ボールから出てきたのは……。

イノケンティウス「…なんで俺が」

佐天「頑張って、イノちゃん!」

タケシ「やはり使ってきたな。オレはそのガーディに負けたわけだが、好都合! そいつが相手じゃないと屈辱など晴らせない!」

イシツブテ「イッシェイ!」

タケシ「行くぞ、イシツブテ。“たいあたり”!」

イシツブテが攻撃の構えに入る。

佐天(“たいあたり”程度なら…!)

佐天「イノちゃん、“とっしん”!」

イノケンティウス「ウォオーン!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:47:00.94 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウスはイシツブテが体当たりを繰り出すより前に走り出した。少し遅れてイシツブテが飛び出す。

ガキイイン、と鈍い音がなる。互いの頭と頭がぶつかり合ったのだ。

イノケンティウス「ぐあ……」

崩れたのはイノケンティウスだ。

佐天「…!」

タケシ「ふ、オレのイシツブテの特性は“いしあたま”。頭の硬さでイシツブテに勝てると思ったか?」

タケシ「甘いな、挑戦者!」

佐天「……っ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:50:10.27 ID:2ETtsyjAO<>

ステイル(始まったか)

ステイルは競技場の観客席で佐天のバトルを見守っている。

ステイル(相手は仮にもジムリーダー。初心者トレーナーの佐天さんには厳しい戦いだ)

ステイルが佐天にイノケンティウスを貸したのはタケシのこと(屈辱とかなんとか)を考慮したからだが、他の理由もある。

レベルの高いイノケンティウスを使うことで、佐天のパーティーのバランスを少しでも良くするためだ。

ステイル(…イノケンティウスを使うことで佐天さんもジムリーダー相手に張り合えるはずだ)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:54:09.37 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウス「……ッ」

佐天「だ、大丈夫? イノちゃん!」

イノケンティウス「ああ…。これくらいの攻撃、屁でもねえ」

イノケンティウスはそう言うが、ダメージは相当なものだろう。

イシツブテの体当たりとイノケンティウスの突進のぶつかり合い、言葉で表すと単なる技のぶつかり合いだが、イシツブテの特性は石頭。実際にはイノケンティウスはイシツブテにわざわざ自分から頭をぶつけに行ったことになる。

タケシ「これで分かったろう。オレの専門タイプがな」

ジムリーダーはエキスパートタイプを持つ。例えばステイルの父親のカツラが扱うのは炎タイプ、神裂の父親キョウは毒タイプ、といったようにそれぞれ自分だけの専門のタイプがあるのだ。

そしてニビシティジムジムリーダーのタケシが扱うエキスパートタイプは……、

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 19:58:56.41 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「岩タイプさ」

佐天「岩……」

タケシ「そう、岩。硬く逞しく凛々しい、砕かれることを知らない屈強なる戦士、岩タイプを扱う『堅い意志の男』とはこのオレのことだ!」

佐天「岩タイプに物理攻撃は食らわない……なら、イノちゃん!」

イノケンティウス「おうよ!」

イノケンティウスの口から業火が放たれる。

業火は空気を焼き裂き、そのままイシツブテの顔面へ飛び込んだ。

タケシ「!」

佐天「イノちゃんの“かえんほうしゃ”! これならこっちがダメージを負うことはない!」

ステイル(そして特殊攻撃なら物理攻撃よりは効く)

だが、相手が悪かった。

イシツブテ「イッシェイ!!」

イシツブテが業火を振り払う。その表情は余裕の一言だ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:02:26.01 ID:2ETtsyjAO<>
佐天「そんなっ!」

タケシ「こんな軟弱な炎じゃあオレの意志(ポケモン)は砕けない」


タケシ「今度はこちらからだ!」


言葉とともにタケシが右の拳を握る。イシツブテも同様に右手を握る。

タケシ「岩タイプの武器は防御としての硬さだけじゃない」

今度は左の拳を握る。イシツブテも同様だ。

そして両の拳を高く上げ、地面へと振り落ろす。

タケシ「硬さとは強さ。岩タイプのパワーは無限大だ」

ガキイイッ!! と地面が割れた。

その地割れはイノケンティウスの足元まで届く。

イノケンティウス「…ッ!?」

佐天「イノちゃん!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:05:03.80 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウスは横に転がりなんとか地割れに巻き込まれずに済んだ。

しかし、今一歩遅い。イシツブテはイノケンティウスが転がり込んだ場所へ回り込んでいた。

イノケンティウス「…っ!」

タケシ「“メガトンパンチ”だ!」

イシツブテ「イッシェイ!」

イシツブテが拳を振り下ろす。

そう、それは地面を砕き割った岩の拳。

イノケンティウス「ぐわあっ!?」

地割れを引き起こすほどの威力がイノケンティウスを襲う。

イノケンティウス「ぐ、がああああっ…!」

イノケンティウスはもがき苦しむ。

佐天「イノちゃん…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:08:40.50 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「ふ、手も足も出ないか挑戦者」

イノケンティウス「っ…、なめるなよ!」

イノケンティウスが後ろ足をイシツブテへ振り上げた。

蹴りではない。イシツブテを押し上げたのだ。

イシツブテ「!」

すかさずイノケンティウスは次の攻撃を放つ。

イシツブテが業火の渦に取り込まれる。

タケシ「これは…“ほのおのうず”!」

イノケンティウス「へっ、これで動きは封じたぜ」

佐天「やったよ、イノちゃん!」

イノケンティウス「どんなもんだ!」

タケシ「…ほう」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:13:36.22 ID:2ETtsyjAO<>
イノケンティウス「あとはタコ殴りにするだけって寸法だ!」

タケシ「そうはいくか! “ロックブラスト”!!」

イシツブテ「アイヨッ!」

イシツブテの手に数十個の岩が出現した。

イシツブテはそれらを投げつけ攻撃する。

佐天「“こうそくいどう”!」

イノケンティウス「ウォオーン!!」

イノケンティウスは降ってくる岩を華麗に避ける。

タケシ「く…!」

佐天「素早さなら余裕勝ちでしょ!」

タケシ「チッ…、なら“ステルスロック”だ!」

佐天「?」

タケシが技の指示を出したが、イシツブテは岩を投げるのを止めない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:18:05.79 ID:2ETtsyjAO<>
佐天(命令無視かな…?)

しかしジムリーダーであるタケシに限ってそんなはずはない。イシツブテはしっかりとタケシの指示を聞き、従っている。

佐天「何だか分からないけど、そのまま“こうそくいどう”で避けて!」

イシツブテがまた岩を投げてきた。イノケンティウスは今まで通りそれを避ける。

イシツブテが次の岩を振りかぶったその時、イノケンティウスが走っているのと逆方向に倒れ込んだ。

正確に言えば、何かにぶつかった衝撃で倒れた。

イノケンティウス「!? なにが…、」

イノケンティウスは前を見るが何もない。ぶつかるものなど何もない。

佐天「何が起きてるの…?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:25:00.75 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「分からないか、何が起きたのか。それはそうだろうな」

イシツブテが岩を投げた。

イノケンティウス「…!」

が、岩は飛んで来ない。

タケシ「イシツブテが岩を投げる中、時々目に見えない岩を投げているとしたら?」

佐天「! 何を言って…?」

タケシ「オレはさっきイシツブテに指示したんだ。『“ステルスロック”』、とな」

ステルスロック。文字通りステルス機能のある岩を使う技だ。

相手の足元に見えない岩を潜ませ、ポケモンが踏んだらダメージを与えるといった技だが。

タケシ「こういう使い方もあるってことだ」

ロックブラストで普通の岩に紛れステルスロックを投げていた。

競技場には見えない岩があちこちに転がっているのだ。

タケシ「つまり、この競技場はトラップだらけ。不用意に動けばダメージを負ってしまうというわけさ」

佐天「…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:28:32.40 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「今度こそ手も足も出せなくなったな。いや、そこから一歩も動けまい!」

イシツブテ「イッシェーイ!」

イシツブテが業火の渦から抜け出した。

佐天「!」

タケシ「“メガトンパンチ”だ!」

イシツブテ「イッシェーイ!」

メガトン級の攻撃が今一度イノケンティウスを襲う。

イノケンティウス「ぐがああああああっ!!?」

佐天「イノちゃ……!」


ステイルが四年間バトルをしてこなかったように、イノケンティウスもまたこの四年間バトルを全くしてこなかった。公式戦でいえばこのジム戦は四年ぶりのバトルとなる。

四年前は四天王のポケモンも圧倒したイノケンティウスだが、四年のブランクは厳しいものがあった。今ではジムリーダーのポケモンに苦戦するほどだ。何故ならこの四年間で体力が落ちてしまったからだ。

だが、四年のブランクがあっても健在するものはあった。

―――技の威力だ。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:32:13.63 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「っ!?」

イシツブテ「イッシェ……、」


イシツブテはたおれた。


その身体は焼け焦げ、所々が黒ずんでいる。

イノケンティウス「へっ……甘く見るなよ」

イノケンティウスは突っ伏したまま、顔だけ上げて言う。しかしメガトンパンチを受けたダメージはやはり相当なもので、

イノケンティウス「く…、」

イノケンティウスはたおれた。

ステイル(その通りだ。そこらのガーディならイシツブテに決定打は与えられないだろう。だが、イノケンティウスなら…)

ステイル(“かえんほうしゃ”、“ほのおのうず”…。イノケンティウスの炎技の数々を真っ当に受けたら誰だって何れ瀕死になるさ)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:35:17.15 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「くそ! 戻れ、イシツブテ!」

佐天「イノちゃん、ありがとう。戻って!」

両者がそれぞれポケモンをボールにしまった。

ステイル(これで一対一の勝負になったわけだが…)

タケシ「ふ、イシツブテを倒した程度で思い上がらないことだ。しかもそちらはガーディを失った。お前に勝ち目はない!」

タケシがボールを掲げる。

ボールの開閉スイッチを押すと、タケシの二匹目が現れた。


イワーク「イワーッ!!」


佐天「でかっ!?」

タケシ「いわへびポケモン、イワーク。オレの切り札だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:38:26.63 ID:2ETtsyjAO<>
ステイル(やはり出してきたか。僕も苦しめられたあのイワーク…!)

ステイル(あの時は旅を初めたばかりで手こずったが、イノケンティウスがいたから勝てた)

だがイノケンティウスが戦闘不能になった今、佐天の手持ちポケモンは……。

佐天「……」

佐天はボールを見つめる。唯一自分が持つポケモンが入ったボールを。

佐天(頑張って、ピーちゃん!)

ボールが放たれる。

光とともに出てきたのは、

ピーちゃん「キャタ」

タケシ「!」

いもむしポケモン、キャタピーだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:43:19.75 ID:2ETtsyjAO<>
タケシ「…く、はは!」

タケシ「ハハハハハっ!!」

タケシは腹をかかえて笑い出した。

タケシ「何だそのチンケなポケモンは!」

佐天「な…!」

タケシ「あのガーディを持っているから凄いトレーナーだと思った。あのステイル=マグヌスを師匠と呼んでいた、つまりアイツの弟子。強いトレーナーだと思った」

タケシ「だが、所詮は弟子! アイツの力には敵わない。ガーディもただ借りているだけで使いこなせていなかった。その上最後に繰り出してきたのはキャタピー! 笑わせる…」

タケシ「拍子抜けだな挑戦者! お前は弱い!!」

佐天「…っ!!」


弱い。

その言葉が佐天の心に深く突き刺さる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:45:59.16 ID:2ETtsyjAO<>
なにも佐天にとって特別珍しい言葉ではない。いつも言われる言葉だ。

『お前は弱い』『ポケモン一匹捕まえられない』『才能がない』……いつも通りの言葉だ。

だが今、その言葉は佐天の心に深く深く突き刺さる。

佐天「う、ぁあああああああっ!!!」

ピーちゃん「キャタアア!」

キャタピーがイワークに突進していく。

イワーク「……」

ぺちん、と情けない音がなる。

ピーちゃん「キャタン!」

タケシ「貧弱な“たいあたり”だな」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/14(金) 20:49:27.01 ID:2ETtsyjAO<>
イワーク「イワ……!」

イワークが攻撃の構えに入る。

タケシ「本物の攻撃というものを教えてやろう。…イワーク、“たいあたり”だあ!!」

イワーク「イワァアアアーッ!!!」

イワークが飛び出した。

同じ体当たりでもキャタピーのそれとはわけが違う。パワーもスピードも何もかもが違う。

ピーちゃん「っ!」

自分の身体の何十倍もの大きさの巨大な岩がキャタピーに衝突した。

勝敗など、火を見るよりも明らかだ。


佐天「ピーちゃぁああああああんっ!!」


佐天の叫び声だけが競技場に響いた。




第四章・完


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◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/14(金) 20:51:50.74 ID:2ETtsyjAO<> 第四章終わりです

タケシの通り名ですが、石なのか意志なのか今だに分かりません

ありがとうございました <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 19:50:35.01 ID:Mb+yzFLAO<>

少女は弱い自分が嫌いだった。


周りの友達は次々とポケモンを持って旅立って行った。しかし少女は旅立てない。ポケモン一匹捕まえることさえできない。

それでもその少女はポケモンが大好きだった。例え捕まえることができなくても、そんな弱い自分が嫌いでも、ポケモンだけは大好きだった。

だが現実は少女に重く重く立ちはだかる。

『お前は弱い』『ポケモン一匹捕まえられない』『才能がない』……。

弱い。

その言葉が少女の心を深く突き刺す。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 19:52:34.78 ID:Mb+yzFLAO<>
三年が経った。少女はまだポケモンを捕まえられないでいた。

もう少女は諦めていた。自分には才能がない。自分はポケモン一匹捕まえられない。自分は……弱い。

本当にこれで最後と決めて、少女は最後のポケモン捕獲に挑戦する。そこで少女はある少年に出会い、少女の人生は大きく変わる。

その少年は言った。『君には実力がある』、と。

その少年は言った。『君は強くなれる』、と。

こんな自分にその少年は言ってくれた。


『ありがとう』、と。




第五章・本当の


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 19:54:44.25 ID:Mb+yzFLAO<>
佐天「……っ!」

イワークの体当たりの影響か、砂が舞い上がり砂埃が辺りに吹き荒れる。

視界は砂で一杯になった。


佐天は思う。

佐天(負け、たく、ない……)

佐天は切実に思う。

佐天(負けたくない…ッ!!)


砂埃は観客席にまで届いていた。

ステイル「どうなった……!」

ステイルは目を凝らして競技場の方を見た。

すると、うっすらと輝く何かが見えた。

ステイル(光……?)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 19:56:32.63 ID:Mb+yzFLAO<>
実際に競技場にいる佐天にはその光がはっきりと見えていた。

佐天「な、なに……?」

今までに見たことがない光。これ以上強く輝き神秘的な光を佐天は知らない。

しかし同じく競技場にいるタケシはその光を知っているようで、

タケシ「あれは……まさか、」

タケシは驚きを隠せない。それほどまでの光なのだ。

石の男をも驚愕させるその光の正体とは。答えはタケシの口から漏れた。

タケシ「進化だとぉ!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 19:58:44.53 ID:Mb+yzFLAO<>
進化。ポケモンがある条件を満たすとその姿を変える現象のこと。

その条件はポケモンによって違うが、大抵のポケモンはバトルの経験を積み重ねて経験値が一定以上になると進化する。

佐天「進化?」

佐天が呟く。

もちろん佐天も進化というものは知っている。だが、実際に見たことはない。どんなものかも実際には知らない。彼女はポケモンを手にしたことがなかったのだから。

なのに、佐天がそう呟いたのはその進化の光がキャタピーの身体から発せられているからだ。

ピーちゃん「キャタ……!」

佐天「ピーちゃん?」

キャタピーが糸を頭上に吐いて、自分の身体に巻いていく。

糸が完全にキャタピーを包み込んだ時、キャタピーはその姿を化えていた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:00:51.60 ID:Mb+yzFLAO<>

トランセル「……」


ピーちゃんはトランセルに進化した。

佐天「!」

ステイル「トランセルだ!」

砂埃が晴れ、競技場の様子を見られるようになったステイルはそう叫ぶ。

佐天「! トランセル…」

佐天がトランセルに目を向ける。

ピーちゃん「……」

トランセルは何も言わない。しかし佐天にはトランセルの思っていることが分かった。

佐天「やれるんだね?」

ピーちゃん「……」

トランセルは何も言わず、ただ前を見据える。


トランセルとイワークの距離はゼロ。すなわち、トランセルはイワークの体当たりを受け止めている。砂埃が晴れたのもトランセルがイワークを静止したからだ。

タケシ(なんだ……?)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:02:18.76 ID:Mb+yzFLAO<>
タケシは思う。なにかがおかしい。

タケシ「どうしてイワークの攻撃を受け止められるんだ!?」

イワーク「イワァ……!」

ピーちゃん「……」

トランセルの技、『かたくなる』。それでトランセルは身体を硬くしていた。

タケシ「“かたくなる”か……だがこんなにも硬くなるものなのか!?」

タケシが吠える。

ピーちゃん「……」

トランセルは何も言わない。何も言わず、ただただイワークだけを見つめ佇んでいる。

佐天「……」

佐天も何も言わない。もう言葉を発する必要もない。ただただ自分のポケモンを信じるのみ。

タケシ「く……、だがこれでは終わらないぞ。岩が効かないというのなら、それより堅いもので叩き潰すだけだ! “アイアンテール”!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:04:20.17 ID:Mb+yzFLAO<>
イワークの尾が硬化する。岩が今より硬くなることで上を行く。岩より硬い存在である鋼に。

イワーク「イワァアアアア!!!」

イワークが鋼を司る尾をトランセルに思い切りぶつける。

ガキイイ!! と鋼と鋼がぶつかり合う音が鳴り響く。

タケシ(鋼と……鋼?)

イワーク「っ!?」

イワークは自分の尾をぶつけた感触に驚く。この鋼の尾に勝るものなどない、絶対にトランセルを殴り潰せるものだと思っていた。

しかし、トランセルは潰れない。傷一つ付いていない。トランセルは何も言わずそこに佇んでいる。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:06:12.48 ID:Mb+yzFLAO<>
勘違いしている人もいるが、トランセルが使える技は『かたくなる』だけではない。もう一つ使える技がある。

ステイル「……“てっぺき”」

ステイルはひとり観客席で呟く。

ステイル「“かたくなる”の上を行く、鋼の守りだ」

アイアンテールと鉄壁。

鋼の尾と鋼の壁。

攻めの鋼と守りの鋼。

勝ったのは……、


ビキイイッ!! と嫌な音が鳴る。

音はイワークから聞こえた。見ると、イワークの尾がひび割れている。

イワーク「……、」

イワークがたおれた。

タケシ「っ!」

佐天「や、やった……?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:08:35.61 ID:Mb+yzFLAO<>
ステイルは弟子の勝利を真っ先に祝うため、高さ五メートルはある観客席から飛び降りた。

ステイル「…そう、勝ったのさ。君の勝ちだ佐天さん」

そう言うステイルは目も当てられない格好だが。

佐天「だ、大丈夫ですか師匠。無理するから……」

ステイル「細かい描写はしてないんだ。そんな言葉はかけないでいいバレる」

ステイルは何とか立ち上がり、

ステイル(……僕の杞憂だったみたいだな)

ステイル「君の『負けたくない』という思いがトランセルに伝わったんだ。やはり、君は強い」

佐天「……てへっ」

ステイル「…………今回は泣かないんだな」

佐天「なっ……泣きませんよ!」

佐天が突っ掛かってきたが、ステイルは無視して煙草を取り出しくわえる。

佐天「もぉ〜。……でもっ、」

佐天「勝ったんだあ〜!!」

ピーちゃん「ヤッタセル! ヤッタセル!」

ステイル「ふふ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:10:42.79 ID:Mb+yzFLAO<>
***

ステイル「それで、彼女の勝利でいいんだよね?」

タケシ「あ、ああ……それはいいんだが…………」

ステイル「なんだ、まだ何かあるのか? 僕とのバトルなら後日改めて……」

タケシ「違うんだ!」

ステイル「?」

タケシ「オレは……本当は……」


タケシ「ジムリーダーじゃあないんだっ!!」


………………………………………………………………………………。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:13:30.53 ID:Mb+yzFLAO<>

ステイル・佐天「はあっ!!?」


ステイル「何を言ってるのか分からないんだが……」

タケシ「いや今のは少し誤りがあるんだが……。とにかく、オレじゃない本当のジムリーダーがいるんだ!」

ステイル「それは誰なんだ?」

タケシ「そ、それは……」


「あー、うるさいわね。タケシい! テメェ、またジム戦やってんじゃねえだろうな!?」


タケシ「ひ、ひぃ!?」

突然、競技場に響く怒声にタケシはひっくり返る。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:15:58.88 ID:Mb+yzFLAO<>
「チッ……あれほど勝手にやるなって言ってただろ……」

競技場の奥から出てきたのは褐色肌の女性。ボサボサの金髪はライオンの鬣を連想させ、それでいて着ている服はドレス。しかしその生地は傷み、白いレースもくすんでいる。

ステイルも人のことをあまり言えないが、この女性の格好はステイル以上にジムの雰囲気に馴染んでいない。

タケシ「姐さん……!」

「おら、タケシ! テメェは何度言っても聞かねえな!」

タケシ「ひいい〜!」

ステイル「君がタケシの言う本当のジムリーダーかい?」

「あん?」

女性はステイルに目を向ける。

「あなたは……挑戦者さん? なら挨拶はしないとね」

シェリー「私はシェリー=クロムウェル。正真正銘のニビシティのジムリーダーよ」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:18:23.39 ID:Mb+yzFLAO<>
ステイル「僕はステイル=マグヌスだ」

佐天「あ、えと。私、佐天涙子です。い、一応トレーナーやってま〜す」

シェリー「へえ、ならあなたも挑戦者だったのね。全然見えなかったけど」

佐天「むぐっ……」

シェリー「今回はこいつが迷惑かけたわね」

シェリーはタケシの頭を掴み、上下に揺らす。

ステイル「タケシ、今のバトルの件だ」

タケシ「そ、そう、だ。姐、さん。そこ、の女の、子がオ、レに、勝っ、たか、ら、ジムバッ、ジを、……っていい加減離してくれないか姐さん!?」

シェリー「チッ……」

タケシを蹴り飛ばした後、シェリーは佐天に歩み寄る。

シェリー「あなた、案外強いのね」

佐天「あ、はは。えへへ……」

シェリー「全く見えないけど」

佐天「なぅ……」

佐天は膝から崩れ落ちた。

そんな佐天はさておき、シェリーは話す。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/16(日) 20:20:40.70 ID:Mb+yzFLAO<>
シェリー「ま、ジムバッジはあげるわよ。タケシが悪いんだし」

ステイル「それは良かった」

シェリー「……で、あなたは挑戦するワケ?」

ステイル「!」

シェリーがギロリとステイルを睨みつける。それは獲物を狙う狩人の目だ。

だがステイルは怯まない。むしろ負けじと睨み返す。それは幾多のバトルを切り抜けてきた戦士の目だ。

数秒の睨み合い。先に切ったのはシェリーだ。

シェリー「……ハン。いいね、気に入った」

ステイル「?」

シェリー「ここは初心者トレーナーが多く挑んでくるジムだ。ま、言っちまえばほとんどが骨のない奴ばかり。もう目が死んじまってる。死んだ目がそいつの弱さを表してるんだ。そういう奴らはタケシに戦わせてるんだけど……」

シェリー「いいね……私は好きだよ、あなたの目」

ステイル「……要するに、僕は挑戦するに相応しいトレーナーだと?」

シェリー「そういうことね」

ステイル「……ふん、随分と舐めた口を利くものだね。君が戦うトレーナーを選ぶ? ふざけるな、ジムリーダーごときにそんな権利はない」

シェリー「……」

ステイル「僕がその口塞いでやるよ。二度とそんな口を利けないようにね」

シェリー「ふふ、トレーナーはポケモンバトルで語るものよ。さっさと競技場に付きな。始めるわよ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/16(日) 20:21:36.52 ID:Mb+yzFLAO<> 終わりです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 20:30:56.00 ID:7MMwWRYSO<> 乙っ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/16(日) 22:27:16.34 ID:wUOdsrlDO<> 乙 シェリーが姐さんとかタケシ裏山 <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 18:51:26.28 ID:c3w7VqTAO<>
***

シェリー「形式は二対二の交替戦。いいわね?」

ステイル「ああ」

佐天「師匠〜!」

佐天が観客席からステイルを呼んでいる。

ステイル「!」

佐天「イノちゃんは返した方が?」

ステイル「いや、いいよ。このバトルが終わったら返してくれ」

佐天「は、はい」

イノケンティウスは先程のバトルで疲労が溜まっている。続けてこのバトルでも戦わせるわけにはいかない。

タケシ(ガーディを出さない……。あいつ、ガーディ以外にポケモンを持っていたか?)

シェリー「ま、なんでもいいけど」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 18:55:30.24 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「バトル開始よ」

両者がボールを放った。

ゼニガメ「ぜにぜに!」

ゴローニャ「ゴロオオ!」

タケシ「あいつ、水タイプを持っていたのか!?」

水タイプと岩タイプ。相性の差は歴然。

ステイル「……」

しかしステイルは余裕の表情を見せない。

ステイル(相性ではこちらが有利……だが、相手はジムリーダー。恐らくタケシ以上の実力だろう。それに相性がいいと言っても、進化前のゼニガメと最終進化形のゴローニャだ。パワーではあちらが上手)

ステイル(それにどこかで聞いたことがある……ニビのジムリーダー、シェリー=クロムウェル。その攻撃は岩より硬い鋼をも砕くという、鋼の女!)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 18:58:41.85 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「うふふ、もう始めちまってもいいわよね?」

ステイル「開始宣言はしたんだ。何処からでもどうぞ」

シェリー「ハン! ならそうさせてもらう!」

シェリーは懐からチョークのような、白くて細いオイルパステルを取り出した。

ステイル「?」

シェリーはオイルパステルで地面に文字を書き出した。それは文字と呼べるのか、何かの絵なのか暗号なのか、言ってしまえば魔法陣のようにも見える。

ステイル(何をやっているんだ?)

ステイルは当然シェリーの行動を疑問に思うが、その疑問の答えはシェリーが書き終えた時に分かる。

ゴローニャ「ゴロオオ!!」

ゴローニャが地面に向かって頭突きをした。

その震動で先程のタケシ達の戦いで競技場にばらまかれた岩が宙を舞う。

ゼニガメ「…!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:01:36.79 ID:c3w7VqTAO<>
その岩はまるで磁石に引き寄せられる砂鉄のようにゼニガメの周りに集まっていく。

ズドドド!! とゼニガメに岩の雪崩が襲い掛かる。

ゼニガメ「ぜにいっ……!?」

ステイル「ゼニガメ!」

競技場に岩の山が出来た。

ゼニガメ「ぜ、ぜに……」

ゼニガメは山からなんとかはい出る。

ステイル「まさか……いや、まさかとは言わない。その魔法陣で攻撃の指示を?」

シェリー「ま、分かるわよね。そうよ、その通り」

ステイル「それは相手に指示を聞かれないようにするためかい?」

シェリー「どうでしょうね?」

シェリーがオイルパステルを走らせる。

描いた魔法陣に従い、ゴローニャが行動を開始する。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:03:09.33 ID:c3w7VqTAO<>
よく見ないと分からないが、今描いた魔法陣とさっき描いた魔法陣は少し違うもののようだ。

ステイル(ということは、指示もさっきのものとは違う)

ゴローニャ「ゴロオオー!!」

ゴローニャが手足を畳み、丸くなった。その状態で地に着く。

そして、転がった。

ステイル「……!」

ゴローニャ「ゴロオオオオ!!!」

ゴローニャは高速回転し、あっという間にゼニガメの目の前へと転がってきた。

ゼニガメ「ぜに……っ!」

なんとかゼニガメはその攻撃をかわした。

佐天「あ、危なかった……」

タケシ「いやまだだ。姐さんの攻撃はこんなものじゃない」

ゴローニャは地面を転がり続けている。

ステイル「しつこいな!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:05:26.03 ID:c3w7VqTAO<>
ゼニガメ「ぜに……」

ステイル(まずい……。二度目となると、かわすのは厳しいか?)

佐天「大丈夫です! ゼニちゃんなら!」

タケシ(ゼニちゃん?)

ステイル(……そうだ、ゼニガメはあの“ころがる”をかわした。なら二回目も……)

しかし次の瞬間、ゼニガメが宙を舞った。

ゼニガメ「ぜにいいーっ!?」

ステイル「なっ……」

ゼニガメは何も出来ず地面に落ちる。

ゼニガメ「ぜにいっ……」

シェリー「ふ。うふふ。うふふうふ。甘かったわね」

ステイル「!」

シェリー「ゴローニャを見てみな」

ステイル「……?」

ゴローニャ「ゴロオオオオオ!!」

ゴローニャは今も地面を転がり続けている。

しかしそれはさっきの転がるとは違った。

明らかに先程より転がるスピードも地面を切り裂くパワーも桁違いなのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:08:20.33 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「“ころがる”って技は転がり続けることでそのパワーを増す。そしてスピードは回転の摩擦で身体の岩が削れ、上がった……ま、技で言う“ロックカット”ってところね」

確かにさっきのゴローニャの転がるならゼニガメは一度かわした。

しかし今のゴローニャの転がるは全く違う、パワーもスピードも先程とは桁違いの転がるだ。当然ゼニガメにかわせるはずがない。

ステイル「あの魔法陣でこれだけの指示をしていたのか……!」

シェリー「そう、そして対戦者にはその指示は知られない。私は幾多の魔法陣を描く術を持っている。それすなわち、私には星の数だけの戦略があるってことよ!」

ステイル「星の数だけの戦略……」

シェリー「あなたは幾億の戦略を前に敗北する。平伏させてあげるわ、坊や?」

ステイル「……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:10:22.20 ID:c3w7VqTAO<>
シェリーが魔法陣を描いていく。

ゴローニャが方向転換をする。

ステイル「!」

ゴローニャ「ゴロオオオオ!!!」

再びゴローニャがゼニガメに襲い掛かる。

ステイル「“みずでっぽう”で動きを止めるんだ!」

ゼニガメ「ぜにがぁっ!!」

ゼニガメがゴローニャに水鉄砲を噴射する。が、あまりの高速回転に弾かれてしまう。

ゼニガメ「…っ!」

ドガアアアアッ!!! 強烈な一撃がゼニガメを貫く。

ステイル「ゼニガメぇえええ!!」

ゼニガメは力無く倒れる。

ゼニガメ「…、」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:12:39.10 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「大したことないわね」

ステイル「!」

シェリー「威勢だけは良かったけど。……思い出した。あなた、カツラの息子ね」

シェリー「聞いたところ、この数年間バトルをしてこなかったって? はあ……それでよくジムに挑戦しようと思ったわね」

ステイル「なに……?」

シェリー「だってそうじゃない。チャンピオンまで上り詰めた時もあったようだけど、数年間バトルをしないだけで実力も体力も落ちる。そんな状態でジム……それに私に挑戦なんて身の程をしれ、って思うでしょう?」

シェリーの言葉にステイルは何も言い返せない。

シェリー「さっさとゼニガメをボールに戻しな。ジム戦を受けた以上は最後まで戦って……、!」

ゼニガメ「ぜ、に……」

ゴローニャ「ゴロ?」

ゼニガメはゴローニャの右足にしがみついている。ボロボロの身体で、それでも諦めずに必死にまだ戦おうとしているのだ。

しかしその目はゴローニャではなくステイルを見ている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:14:42.36 ID:c3w7VqTAO<>
ステイル「ゼニガメ……?」

ゼニガメ「ぜに……、ぜに!」

ゼニガメはステイルに何かを訴えている。

『諦めないで』

『私はまだ戦える……』 『すている!』

イノケンティウス「……だとよ」

ステイル「! イノケンティウス!」

佐天「いつの間に!?」

イノケンティウス「……へっ。ゼニガメ、最初はとんでもない奴だと思ったが……」

イノケンティウス「気に入ったぜ。ここからは俺に任せろ!」

ゼニガメ「!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:17:50.13 ID:c3w7VqTAO<>
ステイル「イノケンティウス……大丈夫なのか?」

イノケンティウス「後輩がこんな目にあってるのに先輩の俺が弱音を吐いていられるかよ」

イノケンティウスはゼニガメを庇うようにゴローニャの前に立ち、

イノケンティウス「来いよ。岩っころ程度、この俺が焼き負かしてやる」

シェリー「……ここからが本番のようね」

ステイル「ゼニガメ、ほら」

ステイルはゼニガメを抱き抱える。

ゼニガメ「ぜ、ぜに!?」

ステイル「心配はない。イノケンティウスならやってくれる」

ゼニガメ「…………ぜに、」

ステイルなりに気を遣った言い方だったのだが、ゼニガメは何故か浮かない顔をしている。

ステイル「?」

ステイル(まあいいか……)

シェリー「それじゃ、再開するわよ」

ステイル「ああ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:20:45.87 ID:c3w7VqTAO<>
シェリーがオイルパステルを持ち直す。

しかしステイルはシェリーが魔法陣を描くより早く、イノケンティウスに指示をする。

ステイル「イノケンティウス、“ほのおのキバ”だ!」

イノケンティウス「おう!」

シェリー「……!」

イノケンティウスは一瞬のうちにゴローニャとの距離を詰め、

イノケンティウス「喰らいやがれ!」

炎を纏った牙をゴローニャに突き付けた。

ゴローニャ「!」

牙はゴローニャの身体をかみ砕いた。

タケシ「なんて牙だ!」

ゴローニャ「ゴロ……、」

ステイル「これでそちらは残り一匹だな」

シェリー「うふふ。そう見える?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:22:57.92 ID:c3w7VqTAO<>
ゴローニャの身体が完全に砕けた。

否、砕け散った。

イノケンティウス「っ!?」

ゴローニャは全身が岩で出来ている。その身体が砕けるということは、岩が砕け散ることと同じだ。

シェリー「ゴローニャの仕事は砕けることよ。指示なんてしなくても必然的なコト」

ゴローニャの岩の雪崩がイノケンティウスを袋だたきにしていく。

イノケンティウス「ぐっ……ああっ!?」

シェリー「そして、これだけじゃあ終わらない」

岩が一点に集まり、膨大な熱を発している。

ステイル「! しまっ……」

シェリー「うふうふふ。“いわなだれ”からの“だいばくはつ”」


ボオオオオオオオオオオン!!!!


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:24:24.26 ID:c3w7VqTAO<>

しばらくの間、競技場は爆風に包まれていた。

次第に風は収まり、競技場が晴れていく。

ステイル「っ!」

イノケンティウス「……、」

イノケンティウスはたおれた。

ステイル「イノケンティウス……!」

シェリー「ゴローニャも戦闘不能だ」

ステイル「大丈夫か、イノケンティウス!?」

イノケンティウス「くそ、大口叩いといてこのザマだ……。ブランクがなけりゃあな……。あとは頼んだぜ、ゼニガメ……」

ステイル「……くっ、」

ステイルはイノケンティウスをボールにしまう。

佐天「大丈夫かな、師匠……」

タケシ(流石シェリー姐さん。あのガーディを倒した……)

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:26:26.49 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「残りはその弱ったゼニガメだけ。まだやるつもりかしら?」

ステイル「……当たり前だ。イノケンティウスの頑張りを無駄にはしない。そして、ゼニガメを信じている」

ゼニガメ「ぜに……!」

ゼニガメはボロボロの身体を引きずりながら競技場に上がっていく。

シェリー「その姿勢は認めてやるよ。でも、あなたにこの子が倒せるかしら?」

シェリーの最後のポケモンが姿を現す。

シェリー「出てきな、ドサイドン!」


ドサイドン「ドサーイ!!」


ステイル「ドサイドン……!」

佐天「なにあのゴツいポケモン!?」

タケシ「姐さんの切り札、ドサイドンだ。あれを姐さんに出させるとは……オレに勝っただけのことはある」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:31:27.51 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「手加減はしない。全力で行くわ」

シェリーはオイルパステルで魔法陣を描いていく。

ドサイドンは魔法陣の通りに動く。

ドサイドン「ドサーイ!」

ドサイドンは地面に転がっている岩を手の平の穴に入れて、発射した。

ギュオオオ!! と風を切る音が鳴る。

砲弾はゼニガメの左頬をかすり抜けていった。

ゼニガメ「……っ!」

ステイル「“ロックブラスト”か!」

シェリー「ドサイドンが“ロックブラスト”を使うとこんな威力の高い技になるってワケ。お誂え向きに大量の岩が競技場中にあるし、撃ちまくりね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:33:10.09 ID:c3w7VqTAO<>
ドサイドンが二つ目の岩を穴にはめ、発射する。

三つ目、四つ目、五つ目、………、と次々に岩を飛ばす。

ゼニガメ「ぜに……っ!」

ステイル「かわすんだ!」

ゼニガメ「ぜ、ぜに!」

ゼニガメはかろうじて全ての岩をかわした。

シェリー「へえ、やるわね。だが岩はまだ沢山ある」

ドサイドンは次の砲弾を放つ。

ステイル「“みずでっぽう”で軌道をずらすんだ!」

ゼニガメ「ぜにーっ!!」

ゼニガメは水鉄砲で飛んで来る岩の軌道をずらす。しかし、ずらせるのは多くても三個くらいだ。

残りの岩はゼニガメを攻撃する。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:35:22.48 ID:c3w7VqTAO<>
ゼニガメ「ぜにいっ……!?」

ステイル「……ッ!」

シェリー「体力が限界のようね。ま、その体で頑張ったわ」

シェリーがオイルパステルを地面に滑らせる。

ステイル(新たな指示! 何をしてくる!?)

魔法陣は先程のものと違うようだが、ドサイドンは岩を手の平にはめ発射するという先程と全く同じことをした。

ステイル(……? 何にしても、かわすしかない)

ステイル「ゼニガメ、岩は二個だけだ! “みずでっぽう”で打ち落とせ!」

ゼニガメ「ぜにいー!!」

ゼニガメも先程と同じように飛んで来る岩に水鉄砲をする。

しかし、岩が有り得ない軌道を描き、水鉄砲を避けた。

ゼニガメ「ぜにがっ!?」

その岩はただの岩じゃない。自分の意思で動く岩、つまりはイシツブテ。


『ドリルポケモン、ドサイドン。いわを てのひらの あなに つめて きんにくの ちからで はっしゃする。 まれに イシツブテを とばす。』


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:38:11.77 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「ドサイドンが飛ばすものは岩だけじゃないわ!」

二匹のイシツブテがゼニガメを空中で拘束する。

ゼニガメ「ぜに!?」

ステイル「しまった……ッ!」

シェリー「もう終わりよ。ドサイドンの最大級の技でドタマぶち抜いてやる」

シェリーが最後の魔法陣を描き終える。

ドサイドンが岩を手の平にはめる。そして全身の筋肉を膨張させて、最大級の攻撃を放つ。


その名も、岩石砲。


砲弾は空気を切り裂き、もの凄いスピードでゼニガメへと向かい飛んで来る。

佐天「あんな攻撃喰らったら……!」

ステイル「くそ……っ!!」

ステイル(……いや、まだチャンスはある。あの攻撃はドサイドンの最大級の技。あれをどうにかすれば勝てる!)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:41:42.16 ID:c3w7VqTAO<>
岩石砲にはある欠点がある。それは放ったら最後、途中で軌道を変えられないということだ。岩石砲だけでなく、ロックブラストなどもそれは同様だ。

ステイル(シェリーははっきりと言った。『ドタマをぶち抜く』、と)

ステイル(なら話は簡単だ)


ステイル「首を引っ込めろ、ゼニガメ!」


ゼニガメ「ぜ、ぜに!」

言われる通りにゼニガメは首を引っ込めた。イシツブテに手足は拘束されているものの、頭だけは自由だ。

シェリー「……!」

ゼニガメが首を引っ込めたことにより、ゼニガメの頭を狙っていた砲弾はゼニガメに当たらずジムの天井に衝突する。

タケシ「あの状態でかわしただって!?」

ステイル「かわしただけじゃない」

ゼニガメが『首を引っ込める』、これはある技をする合図。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:45:11.03 ID:c3w7VqTAO<>
ステイル「“ロケットずつき”。指示なんてしなくていい。必然的なことだからね」

ゼニガメがロケットのごとく、空中を突き進む。

イシツブテはそれでも振り落とされず、必死にゼニガメの甲羅を掴んでいる。

ステイル「“こうそくスピン”をしながら“みずでっぽう”だ!」

ゼニガメが縦に高速回転し、甲羅の穴から勢いよく水を放出する。

そうして出来るのは、巨大な水の渦。

ゼニガメ「がめめめめめ〜!!」

さすがにイシツブテは手を離し、渦に巻き込まれた。イシツブテだけでなく周りの岩も。

大量の岩を飲み込んだ渦がドサイドンへと向かう。

ステイル「君の幾億もの戦略の中に、この“うずしお”に対処出来るものがあるかな?」

シェリー「くそッ……!!」

シェリーがオイルパステルを構えるが、

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:49:06.93 ID:c3w7VqTAO<>

ドサイドンは反動で動けない。


これでは幾億もの戦略があっても、それらを使うことなど出来ない。

岩石砲という最大級の技が幾億もの戦略を水の泡とする。

巨大な渦はドサイドンを飲み込み、弾けた。

勝敗は言うまでもなく、

ドサイドン「……、」

ドサイドンはたおれた。

ゼニガメ「ぜにがあっ」

ゼニガメは安心したのか、その場で尻もちをつく。

ステイル「よくやった、ゼニガメ」

ステイルはゼニガメの頭を撫でてやる。

ゼニガメ「!」

ゼニガメは一瞬だけ笑顔になるが、すぐに何かを思い出したようにその笑顔は不気味なものとなり、


ガプ。


ステイル「な、なんでだああああああああああ!?」

ゼニガメ「がめがめ」

イノケンティウス「やれやれ……」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:51:28.33 ID:c3w7VqTAO<>
***

佐天とタケシが観客席から下りてきた。

佐天「いやー、すごかったです師匠! あんなに激しいバトル初めて見ましたよ!」

ステイル「そ、それはよかった」

ステイルの顔は血まみれだ。

佐天「……何かあったんですか?」

ステイル「いや、何でもない」

ステイルを血だらけにしたゼニガメはボールにしまわれたが、どうやら不満たっぷりなようで、次に出す時にはまた血まみれになるのを覚悟しなければいけない。

ステイル「はあ……」

佐天「何にしてもおめでとうございます、師匠!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:54:12.24 ID:c3w7VqTAO<>
タケシ「ね、姐さん!」

シェリー「……」

タケシ「姐さん……」

シェリー「負けるのは久しぶりね」

タケシ「あ、ああ。というより姐さんがジム戦すること自体が久しぶりだ」

シェリー「……ふん。タケシ、挑戦者にあれを」

タケシ「わ、分かった」

シェリー「持っていきな!」

シェリーが何かをステイルに投げた。

ステイル「! ジムバッジ……」

シェリー「グレーバッジだ。大切にしろよ」

タケシ「ほら、君にも」

佐天「あ、ありがとうございます」

佐天「……こ、これがジムバッジ……。ジムリーダーが実力を認めたトレーナーだけが貰える……」

佐天(そうだ、私……。ポケモントレーナーになったんだ……! ジムリーダーにも勝ったんだ……!)

佐天はステイルを見て微笑む。

佐天「ふふっ」

ステイル「?」

イノケンティウス「……」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/18(火) 19:56:10.27 ID:c3w7VqTAO<>
シェリー「ああ、まったくイライラする。それじゃあな。もう用はないだろ」

シェリーはボサボサの髪を掻きながら、ジムの奥へと戻っていく。

タケシ「じ、じゃあ。シェリー姐さんはいつもあんな感じだから気にしないでくれ」

シェリー「何か言ったか、タケシ?」

タケシ「ひいっ!」

ステイル「じゃあ帰らせてもらおうかな」

佐天「そうですね」

シェリー「……そうだ。ちょっと待ちな」

ステイル・佐天「「?」」

シェリー「あなた、ロケット団って知ってるかしら?」




第五章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/18(火) 19:57:47.54 ID:c3w7VqTAO<> 第五章終わりです
やっと一つ目のジムバッジ……ペース遅いかな

ありがとうございました <> このスレは われわれロケットだんが せんきょした<>sage<>2011/10/18(火) 20:01:40.10 ID:jyE5JGzAO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/10/18(火) 20:19:35.56 ID:Wm/DBzeBo<> ポケスペっぽくって好きだぜ
おつおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/18(火) 21:08:29.39 ID:QnLokkSDO<> ゼニガメはインさんか……
やっと気付いた

進化はしないでいてほしいな、ビジュアル的な意味でw <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 19:56:54.15 ID:Wsn1kfOAO<>

佐天「ロケット団?」

聞いたことのない単語に佐天は首を傾げる。

しかし、ステイルはそれを知っていた。

ステイルは驚愕する。

ステイル「……!!」

ステイルの旅の目的の一つは、ロケット団壊滅だ。しかしステイルはここまで大してロケット団を気にすることはなかった。

何も今まで忘れていたわけではない。ジム制覇という違う目的に捕われていたわけでもない。

ステイルは今まで通ってきた町は安全だと確信していたのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 19:59:23.98 ID:Wsn1kfOAO<>
マサラタウンは汚れなき白の町と言われ、今まで事件など一切起きたことがない。トキワシティはステイルの師匠ローラ=スチュアートが守る町だ。このニビシティもジムがあり、ジムリーダーが町を守っている。

そのニビシティのジムリーダーの口から『ロケット団』なんて単語が出てくるなんて思ってもみなかった。

だからこそ、ステイルは驚愕した。

シェリー「……その様子、知っているみたいね」

佐天「ホントですか? 師匠」

ステイル「あ、ああ」

シェリー「……んじゃ私はこれで」

ステイル「ま、待て!」

シェリー「あん?」

ステイル「君は、知っているのか? ロケット団を!」

シェリー「ええ、知ってるわ。知らないなら言わないだろ」

シェリー「ま、言ってみただけだけど」

ステイル「教えてくれ! ロケット団のことを!!」

シェリー「……」

シェリー「チッ……」




第六章・謎の少女


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:02:05.79 ID:Wsn1kfOAO<>
***

ステイル達はジムを出た。

ステイル「……」

佐天「あ、あの」

ステイル「なんだい?」

佐天「さっきの話……、本当に行くんですか?」

ステイル「ああ。悪の組織ロケット団……奴らに関わることなら行かなければならない」

佐天「じ、じゃあ私も!」

ステイル「駄目だ」

佐天「……っ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:04:14.20 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「君を連れては行けない」

佐天「……、ですよね」

ステイル「……すまないな」

佐天「いえ! 私が頼りにならないのが悪いんですし!」

ステイル「それは違う。君には……」

佐天「私、強くなります」

佐天「師匠の役に立てるように……ううん。師匠に頼りにされるよう、もっともっと強くなりますから!」

ステイル「……ああ。頑張ってくれ」

佐天「それじゃあ、また!」

佐天は手を振りながら去っていく。ステイルが見えなくなるまで、その手は下ろさなかった。

イノケンティウス「……もういいか?」

ステイル「……ああ。行こうか、イノケンティウス」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:06:03.43 ID:Wsn1kfOAO<>
***


ガ、ガガ――ガガガ。

『こちらAポイント』

「こちらBポイント」

『異常は?』

「何もない。……、ん?」

『どうした?』

「誰か入ってきたみたいだ」

『……トレーナーか?』

「分からないな。見たところ、女のようだが」

『……』

「どうする?」

『相手がトレーナーだろうと一般人だろうと、男だろうが女子供だろうが俺達の邪魔をするなら……排除だ』

「オーケー」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:08:29.95 ID:Wsn1kfOAO<>
***

ステイル達はお月見山に来ていた。


お月見山。

三番道路と四番道路の間にある山で、内部はハナダシティへと抜ける洞窟になっている。

ニビとハナダを結ぶ唯一の通り道でもあるこのお月見山。ステイル達ももちろんハナダへ行くためにここを訪れたのだが、ステイル達にはここに別の用もある。

ステイル「……ここにロケット団がね」

イノケンティウス「みたいだな」

ニビジムを出る前にシェリーから聞いた話だ。

何やらシェリーによると『このお月見山にロケット団がいた』という。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:10:17.35 ID:Wsn1kfOAO<>

シェリー『この間タケシがお月見山へ行ったら黒づくめの連中に会ったらしくてね』

タケシ『怪しい奴らだと思って声を掛けたんだが、いきなり攻撃されてな……』

シェリー『情けないことにやられて帰ってきて、私にそのことを報告してきたんだ。そのあと私もお月見山に行ったんだけど』

ステイル『どうなったんだ?』

シェリー『タケシがやられたって相手は倒したわ。そいつらからロケット団だとか聞いたのよ』

ステイル『……それだけか』

シェリー『あなたの方が詳しいみたいね』

ステイル『ま、僕も似たようなものさ』


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:12:34.57 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「……」

イノケンティウス「まだいるとは限らないぜ?」

ステイル「調べる価値はある。奴らはここで何をしていたのか、何か跡が残っているかもしれないし。それにこのお月見山はどうせ通る場所だ」

イノケンティウス「俺はハナダに行ってジム戦できれば何でもいいけどな」

ステイル「まずはポケモンセンターへ寄るか」

イノケンティウス「ここまでトレーナーも多かったしなー」

ステイル「ああ」

ステイルはボールの中を覗く。

ステイル(確かに苦戦したかな。……しかし、ポケモンセンターか)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:14:05.88 ID:Wsn1kfOAO<>
***

「ようこそ、ポケモンセンターへー!」

聞き慣れたBGMとともに見た目小学生くらいの女性が現れた。

もちろんここは『トレーナーズスクール』ではない。ポケモンセンターである。

ステイル「……」

そして現れたのは、『小学生くらいの女性』である。

「あっ、神父さんじゃないですかー」

ステイル「ここに来るのは四年前以来のはずなんですがね」

四年前から彼女の容姿は変わらない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:17:48.36 ID:Wsn1kfOAO<>
彼女の名は月詠小萌。ポケモンセンターのナースをやっている。年齢は不詳。一応成人はしているらしい。

小萌「また会えて先生は感激なのですー」

ステイル「ついこの間、トキワやニビのセンターで顔を合わせましたよ」

小萌「その人達は別の先生なのですー」

小萌先生は楽しそうに話す。

小萌「このカントー地方には十の町、十二のポケモンセンターがあります。それぞれのセンターに『月詠小萌』という名前のナースさんがいますが、全員まったくの別人なのですー」

小萌「トキワの月詠小萌、ニビの月詠小萌……えとせとら。そして先生は、お月見山前のポケモンセンターの月詠小萌なのです!」

小萌先生は高らかに宣言するが、

ステイル「四年前も聞きましたよ、その話。確か全員が親戚か何かだとか」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:19:57.95 ID:Wsn1kfOAO<>
小萌「もうっ、覚えているのならどうしてあんな質問をするんですかー」

小萌先生は少しむくれるが、すぐに機嫌を直し、

小萌「でもこの質問はよくありますからねー。実は今の説明はテンプレートとして用意してあったのですー」

ステイル「大変ですね、先生も」

小萌「そう思うなら早く用を済ましてほしいのですー。仕事は山積みなのですよー」

それでもここのセンターは他よりも仕事が少ないんですけどねー、と小萌先生は喋り続けている。

ステイル(ちっとも本来の用件に進まないのは、この人が話をやめないからなんだけどね)

そんなステイルの心を知ってか知らずか、小萌先生はようやく仕事に入る。

小萌「今日はどんなご用件ですー?」

ステイル「ポケモンの回復をお願いします」

小萌「了解しましたー」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:22:27.57 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイルが三つのモンスターボールをカウンターに置いた。イノケンティウスもすでに収納済みだ。

小萌「あれー? マグヌスちゃん、三匹もポケモンを持っていたのですー?」

ステイル「捕まえたんですよ」

小萌「珍しいですねー。ステイルちゃんはガーディちゃんだけで戦ってきたです?」

ステイル「……気が変わったんですよ。ていうか先生、僕の呼び方を統一してください」

小萌「ふふふー。では回復の方、始めちゃいますねー」

小萌先生はカウンターの奥にある回復マシンに体を向ける。

ステイル「まったく……」

ステイルはポケットに手を突っ込むが、


小萌「マグヌスちゃん、ポケモンセンターは禁煙なのですー?」


ステイル「…………………………………」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:24:54.55 ID:Wsn1kfOAO<>
***

とりあえずステイルは回復が終わるまで、ポケモンセンターの外で煙草を吸いながら待つことにした。センター内で煙草を吸うと小萌先生がうるさい。

まあ、外で吸うにしても『未成年が煙草を吸うのはダメなのですー!』とか言ってきそうだが。

喫煙者には厳しい世の中だ。

ステイル「ふーっ……」

回復が終わるまでは結構時間がある。

現に、すでに一本目の煙草が切れようとしている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:26:01.29 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「んー、少し歩いてみるか」

痺れをきらしてステイルは歩き出すが、何かが足にぶつかった。

ここはお月見山の近くなので、イシツブテが地面に埋まっていることがある。

恐らくそれを踏んだのだ。

しかしステイルが地面を見下ろすと、まったく予想外のものが足元にあった。


人だ。


巫女装束に長い黒髪の少女。彼女は俯せに倒れ、顔は地面に思いっ切りついている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:28:19.15 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「………………………………」

明らかに何かあったのだろうが、心配よりも『怪しい』の一言に尽きる。

だが見てしまった手前放っておくわけにもいかず、

ステイル「な、何をしてるんだい?」

「……」

少女は答えない。

気絶しているのかもしれない。

ステイル(どうする?)

「……ぃ」

少女の身体がピクリと動く。

ステイル「!」

少女は一言だけ、


「行き倒れた……」


パタン、と力なく倒れ、今度こそ少女は完全に停止した。

ステイル「………………………………………………………」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:34:48.68 ID:Wsn1kfOAO<>
***

小萌「マグヌスちゃん、お帰りなさいなのですー。って! ど、ど、どうしたんですかその女の子は〜!?」

ステイルの背中で気を失っている少女を見た途端、小萌先生はアタフタと慌て出す。

ステイル「外で倒れていたんです。確かこのセンターには人間用のベッドがありましたよね?」

小萌「あわわ……。き、救護ブースが空いてますけど……」

ステイル「構いません。貸してください」

小萌「こっちなのですー!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:36:22.13 ID:Wsn1kfOAO<>
***

小萌「うー……」

小萌先生はベッドで気を失っている謎の巫女少女を見つめている。

小萌「うー……」

小萌先生が試しにツンツンと少女の頬をつつく。

うーん、と少女が唸ると小萌先生は『あわわ』と情けない声を出している。

ステイル「……先生、」

小萌「は、はい?」

ステイル「その……異状がないか、診たりとかしないんですか?」

小萌「先生は回復マシンでポケモンを回復させることしか出来ないのですよー。無力です……」

ステイル「? じゃあ……」

この人間用の救護ブースは何故あるのか? 人間用のブースがあるなら、その人間を診る者がいるはずだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:38:05.58 ID:Wsn1kfOAO<>
小萌「でも大丈夫なのですー。一般的には知られていませんが、ポケモンセンターにはもう一人の先生……お医者さんがいるのですよー」

ステイル「それは初耳ですね」


「まあ、僕みたいなのがカウンターに立っていたらトレーナーさん達も警戒しちゃうからね?」


ステイル「!」

背後からの声にステイルは振り返る。

そこには白衣を着たカエル顔の中年男性が立っていた。

小萌「来てくれましたー! このお方がカエル先生ですー!」

なんか小萌先生がいきなり失礼な事を言ってるが、カエル顔の医者はあまり気にしていないようだ。

むしろそれを自覚しているのか、胸元にあるIDカードに小さなニョロトノのシールが貼り付けてある。

カエル医者「その子が患者さんだね?」

小萌「そうなのですよー。お願いしますー、先生」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:39:53.92 ID:Wsn1kfOAO<>
カエル医者「……」

カエル顔の医者は少女を一瞥する。

カエル医者「気を失っているようだね?」

小萌「はいー。マグヌスちゃんが倒れていたこの子を連れてきてくれたのですー」

カエル医者「マグヌスちゃん、というのは君かな?」

ステイル「はい」

カエル医者「じゃあ目撃者の君には話を聞きたいから、傍にいてくれるかな?」

ステイル「分かりました」

小萌「むむー。ナースの先生を差し置いてマグヌスちゃんがカエル先生のお手伝いをするのですか〜」

カエル医者「もちろん君にも手伝ってもらうよ?」

小萌「当然なのですー!」

ステイル(愉快な職場だな……)

また煙草を吸いたくなってきたステイルだが流石にやめておく。

というより手を動かす度に小萌先生から感じる視線が痛い。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:42:22.38 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「はあ……」

結局、外でも一本しか吸っていない。

ステイルはため息をついた。

そんなステイルを他所にカエル顔の医者は診察を始めていく。

ステイルがそれを見ていると、何かいきなりカエル顔の医者は少女の服を脱がし出した。

ステイル「……っ!」

二人の先生様方にとっては仕事として普通のことなのだろうが、素人のステイルとしてはやはり目のやり場に困る。というか気まずい。

ステイルは慌てて後ろを向くが、

小萌「マグヌスちゃん、よそ見をしてはダメなのですよー?」

ではどうすればいいのか。

というより、女性である小萌先生が率先して気を配るべきだろう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:44:03.16 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイルがどうするか悩んでいると、こんな音がした。


ぐううううぅぅぅー。


………………………………………………。

三人の視線は一点に集中する。

服のはだけた巫女少女から奇妙な音が聴こえる。

ステイル「……確か、『行き倒れた』とか言ってましたけど」

音は少女の腹から聴こえる。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:47:02.93 ID:Wsn1kfOAO<>
***

「はふっ。あむ。むひゅっ」

少女はベッドの上に並べられた料理を片っ端から口へ放り込んでいく。

とてつもなくお腹が空いていたのだろう。何品かあった料理がもうなくなりつつある。

どさくさに紛れてゼニガメも参戦している。

少女とゼニガメはお互いの食べ物を取り合っている。少女の方が取ろうとしているのはポケモンフーズなのだが、(あれは人間が食べても)大丈夫なのだろうか。

救護ブースにはそんな二人と、二人を見つめニコニコ微笑んでいる小萌先生、そしてその後ろで呆然と立っているステイルの四人がいる。

カエル顔の医者は診察を終えて、さっさと出て行ってしまった。

ステイル(ま、この様子じゃあ大丈夫だろうけど)

さっきまで気を失っていたとは思えないくらい少女は元気だ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:49:23.78 ID:Wsn1kfOAO<>
小萌「ふふふー。そんなにおいしそうに食べてくれると先生も嬉しいのですよー」

「ん。私。料理を作るのも好きだけど。食べるのも好き。こんなにおいしい料理は久しぶり」

病院食ですけどねー、とか小萌先生が身も蓋も無いことを言う。

それでも聞こえないのか気にしていないのか、少女は病院食をひたすら口に運んでいく。

小萌「そうです、名前は何て言うのですかー? ちなみに先生は月詠小萌、と言いますー」

姫神「ん。私。姫神秋沙」

小萌「姫神ちゃんですねー」

小萌「それでこの子がステイル=マグヌスちゃんですー。ポケモントレーナーで、倒れた姫神ちゃんをセンターに連れてきてくれたのはマグヌスちゃんなのです!」

姫神「……そう。ありがとう」

ステイル「構わないさ。改めて、ステイル=マグヌスだ。よろしく」

姫神「こちらこそ。よろしく」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:51:11.42 ID:Wsn1kfOAO<>
小萌「それで、姫神ちゃんはどうしてあんなところで倒れていたのですかー? マグヌスちゃんが言うには『行き倒れた』とかなんとか……」

姫神「それは……」

姫神は少し俯き、考え込む。

そして顔を上げてステイルの方を見てから小萌先生へ顔を戻して口を開いた。

姫神「私。ニビの博物館にいた」

小萌「博物館ですかー?」

姫神「そう。博物館にある『つきのいし』を見るため」

姫神「でも。そこに月の石はなかった」

小萌「なかった……?」

姫神「正確には。『本物の月の石』はなかった。博物館にあったのは。ただのレプリカ」

姫神「私が見たいのは。本物の方だから」

ステイル「……君がどうしても月の石を見たいのは分かったけど、それがどうして行き倒れるなんて事態に繋がるんだい?」

姫神「違う」

ステイル「?」

姫神「私は月の石が見たいのではなく。欲しいの」

ステイル「……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:53:14.26 ID:Wsn1kfOAO<>
小萌「先生は『つきのいし』がどんなものか知らないですけどー。マグヌスちゃんは知っているのですかー?」

ステイル「ええ、まあ」


月の石とは月のエネルギーが秘められた石のことだ。

ある日、ある山に宇宙から降ってきたのがこの月の石。原理は不明だがポケモンのパワーを高める力を持つという。


小萌「はー。それで、その『ある山』っていうのはどんな山ですー?」

ステイル「お月見山ですよ」

小萌「ふぇ?」

ステイル「だから、貴女が勤めているセンターのすぐ傍にあるお月見山に月の石が落ちたんです。そもそも、それが理由でお月見山なんて名前が付いたそうですが」

小萌「…………………………………………」

小萌先生が硬直した。

小萌先生はお月見山前のセンターに勤めているのに関わらず、お月見山に月の石が落ちたことを知らないようだった。

ステイルの話があまりにも衝撃的だったのか完全にフリーズしている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:55:29.04 ID:Wsn1kfOAO<>
そんな使い物にならなくなった小萌先生はさておき、ステイルは姫神に向き直る。

ステイル「月の石が欲しい理由は何なのかな?」

姫神「それは言えない」

ステイル「そうか」

すぐに断られたがステイルは特に深く追及はしない。答えの予想は大体ついているからだ。

ステイル(彼女もトレーナーなんだろう)

ポケモンをパワーアップさせるという月の石。それはトレーナーにとって、喉から手が出るほど欲しい代物だ。

自分のポケモンを強くするため。トレーナーが月の石を欲しがる理由なんてそれしかない。

姫神「……」

ステイル「この話はいい。続きを話してくれ」

姫神「今度は。月の石が落ちたと言われるお月見山へ行った。でも……」

ステイル「……道に迷って行き倒れた、と」

姫神「正解」

ステイル「はあ……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:57:03.83 ID:Wsn1kfOAO<>
姫神「……でも。もう平気」

姫神がベッドから起き上がる。

ステイル「お、おい!」

姫神「大丈夫」

ステイル「大丈夫、じゃない! まさかお月見山へ行く気じゃないだろうな!?」

姫神「行く」

ステイル「駄目だ! その身体で行くなんて!」

姫神「大丈夫と言った」

ステイル「……っ、小萌先生!」

小萌「……はっ!?」

ステイルが叫んで、ようやく小萌先生は我に返る。

姫神「お世話になった。私はもう行くから」

小萌「だ、ダメなのですよ〜!」

姫神「どうして?」

小萌「だから、あなたはさっきまで倒れていて……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 20:59:31.19 ID:Wsn1kfOAO<>
姫神「私にも都合がある。これは譲れない」

ステイル「……」

小萌「で、でも……」

ステイル「……いいじゃないですか、小萌先生」

小萌「え、ええ〜!?」

ステイル「好きにさせましょう」

小萌「な、な、な、何を言っているのですかマグヌスちゃん〜!?」

さっきまで先生側だったのです〜!?、と小萌先生は叫ぶ。

姫神「物分かりがいい」

ステイル「だが、僕も同行する」

姫神「!」

ステイル「君の身は僕が守ろう。……それでいいですよね? 小萌先生」

小萌「う、うー……」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:01:03.60 ID:Wsn1kfOAO<>
***

小萌先生はたっぷり五秒間考えて、

『しょうがないです……。そこまで言うなら……』

『姫神ちゃんを頼みます、マグヌスちゃん!』

と、認めてくれた。



ポケモンの回復も終わったので、ステイルは姫神の要望通りお月見山にやって来た。

ステイル「相変わらず暗い洞窟だ」

しかしどこか神秘的なものを感じる。それはここが月の石が落ちた山だからなのだろうか。

姫神「別について来なくても。良かったのに」

ステイル「僕がいたら嫌かな」

姫神「そうじゃないけど……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:03:38.89 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「ま、何も起こらなければいいけどね」

気休めだ。

ステイルは知っている。ここに悪の組織ロケット団の目撃情報があることを。

ステイル(もし奴らがここにいるのなら、この子はすぐに帰らせよう)

姫神「……ん」

ステイルより前を歩いていた姫神が急に立ち止まった。

ステイル「どうしたんだ?」

姫神「あれを見て」

姫神が指差す方へ視線を向けると、そこにはズバットの群れがあった。

ステイル達に気付いたのか、ズバット達が一斉に洞窟の侵入者に襲い掛かる。

ステイル「洞窟のお約束か……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:07:38.80 ID:Wsn1kfOAO<>
姫神「私。あのズバット達に襲われた」

ステイル「ああ、ここは僕に任せておけ!」

ステイルがモンスターボールを投げる。

ズバット「ズバーット!!」

ステイル「ズバットにはズバットだ」

ステイルのズバットと野生のズバットには決定的な違いが二つある。

姫神「色違い……!」

通常のズバットの体色が青であるのに対し、ステイルのズバットの体色は緑だ。つまり色違いのポケモンである。それが第一の違い。

そして第二の違いは、その格好だ。

ズバット「……」

ステイルのズバットは常に逆さまの状態を保っているのだ。

姫神「あれには。何の意味があるの」

ステイル「別に意味なんてない。ただ僕のズバットが特殊なだけさ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:09:51.92 ID:Wsn1kfOAO<>
ズバット「ズバーット!!」

ステイルのズバットが野生のズバット達に特殊な音波を放つ。

ズバット達「……!!」

そしてそれを受けとった野生のズバット達は、

ズバット達「ズバー!!!」


平伏した。


姫神「……!」

色違いであるが故のカリスマ性。

ステイルのズバットは野生のズバット達を完全に服従させる。

野生のズバット達は散り散りになって洞窟のあちこちへ飛び去っていった。

恐らく他の仲間達にステイルのズバットのことを伝えに行ったのだろう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:11:25.14 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイル「これで洞窟のズバット達は制したね」

姫神「でも。洞窟のお約束はズバットだけではない」

地面がまるで絨毯のようにめくれあがった。

地面だと思っていたものはポケモンだったのだ。


『イシツブテ、がんせきポケモン。やまみちに おおく せいそくする。からだの はんぶんを じめんに うめ とざんしゃの ようすを みている。』


イシツブテ達「マーマー!!」

ステイル「イシツブテ……!」

姫神「相手は岩タイプ」

ステイル「それなら……」

姫神「この子が。有効」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:13:11.87 ID:Wsn1kfOAO<>
ステイルと姫神はモンスターボールを同時に投げた。

ゼニガメ「ぜにい!」

フシギダネ「ダネフシ!」

ステイル「! 君も戦うのか?」

姫神「相手がズバットでないのなら。私も戦える」

ステイル「じゃあ二匹でイシツブテを……」

姫神「待って」

ステイル「なんだ?」

姫神「二匹が……」

ステイル「?」

見ると、ゼニガメとフシギダネが楽しそうに話している。

ゼニガメ「ぜにぜに!」

フシギダネ「ダネダネ!」

その様子はまるで旧友との再会を喜び合っているように見える。

ステイル「まさか……?」

姫神「あのフシギダネ。オーキド博士にもらったの。名前は『フシ。』」

ステイル「僕と同じか。ゼニガメもオーキド博士からもらったんだ」

姫神「二人は幼なじみ」

ステイル「息もピッタリってわけだね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:15:11.56 ID:Wsn1kfOAO<>
イシツブテ達「マーマー!!」

ステイル「ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

姫神「フシ。“つるのムチ”」

ゼニガメ「ぜにがあっ!」

フシ。「ダネダネー!」

二匹の技が重なり合い、大きな力となる。

イシツブテ達「……!?」

水と草のエネルギーが爆発した。

イシツブテ達は次々と倒れていく。

姫神「すごい。力……」

ステイル「二匹の友情パワーといったところかな」

何十匹ものイシツブテが一瞬のうちに全滅した。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2011/10/20(木) 21:17:44.60 ID:wLWAFSOfo<> ナースは同じ顔ってことから妹達かと思ってたけど違ったか <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:17:46.95 ID:Wsn1kfOAO<>
ゼニガメ「ぜに!」

フシギダネ「ダネ!」

姫神「よしよし」

姫神は二匹を撫でて褒めている。その顔は無表情だが。

その後ろでステイルは、

ステイル(へえ……)

ステイル(月の石を使うまでもない。十分な実力を持っているじゃないか)

姫神「……」

姫神「友情の。パワー……」

ステイル「? 何か言ったかい」

姫神「ううん。何でもない」

ステイル「そうか」

姫神「……ステイルくん」

ステイル「なんだい」

姫神「私のこと。おぼ……」

しかし姫神はそこで言葉を切った。

ステイル「?」

姫神は驚いたような顔をしている。それはステイルに向けてではない。

ステイルの後ろ、そこには黒ずくめの男が立っている。

ステイル「……!」

気配に気付き、ステイルは後ろを振り返る。

「ウハハ、ここに何の用だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:20:03.36 ID:Wsn1kfOAO<>
黒ずくめ。そして胸にある『R』のマーク。一目でその正体は分かった。

ステイル「ロケット団……!」

ロケット団員「ウハハ、我々を知っているとはな」

ステイル(油断していた……!)

ステイルは姫神を庇うように姫神の前に立つ。

姫神「!」

ステイル「姫神、彼はロケット団という悪の組織の一員だ。ロケット団がここにいることは知っていたんだが、やはり君を早く帰らせるべきだったな」

姫神「帰らせる?」

ステイル「もう宝物探しをしている場合じゃないってことさ。それに君は月の石がなくても十分……」

姫神「私は帰らない」

ステイル「なっ!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/20(木) 21:22:46.03 ID:Wsn1kfOAO<>
姫神「これは譲れないと言った」

ステイル「馬鹿な! なんでそこまで月の石を欲しがるんだ!?」

姫神「確かに。私は月の石が欲しいと言った。でも本当に欲しがっているのは。ロケット団の方」

ステイル「何を言って……、!?」

ステイルは先程の姫神の顔を思い出す。


姫神はロケット団員を見て、驚いた顔をしていた。


姫神「ごめんね。私の話したことには。嘘がある」

姫神「私。ロケット団が月の石を欲しがっていると聞いて。ここまでやって来た」

姫神「ロケット団を阻止するために。私はここにやって来た」

ステイル「……っ!」




第六章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/20(木) 21:26:18.43 ID:Wsn1kfOAO<> 第六章終わりです

まだ禁書キャラ出します(なるべく原作で出番あるキャラを)

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2011/10/20(木) 21:56:47.34 ID:Ng2l4ZQAO<> >>278
あいつらいとこはとこ系列にいたるまで全員同じ顔らしいからな <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:35:01.60 ID:BcVzKfrAO<>

『うんうん。君には力があるようだ』

『力……?』

『ポケモンを上手くバトルで活躍させることができる力さ』

『……それは。どんなもの?』

『うん? そうだね……。この力があればポケモンと仲良くなれるのはもちろん、ポケモンを使って困っている人を助けることが出来るんだ』

『困っている人を。助ける……。……いい力』

『うん。でもそれにはポケモンを扱う君の気持ちが重要になってくる』

『私の気持ち?』

『ポケモンという生き物は実は恐い生き物だ。人間に危害を加えるものや、町を破壊してしまうもの……。とても恐い力を秘めている』

『……』

『当然、悪い人がそんなポケモンを使えば恐ろしいことになる』

『うん……』

『だが、』

『!』

『優しい人間がポケモンを大事に育ててあげれば、ポケモンは優しい生き物になるんだ』

『優しい……』

『君は大丈夫だ。君が育てたポケモンはきっと優しいポケモンになるだろう』

『……私。立派なポケモントレーナーになって。優しいポケモンをたくさん育てて……うまく言葉にできないけど……』

『……。じゃあ約束しよう』

『約束?』

『僕とまた会う時までに君は優しいポケモンを育てて、困っている人を助けられるような立派なポケモントレーナーになる。そういう約束さ』

『約束……』

『ああ、約束だ』




第七章・守るべきもの


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:37:43.48 ID:BcVzKfrAO<>
ステイル「何故、君がロケット団のことを……?」

姫神「噂で聞いたの。ポケモンを悪用して金儲けをしている組織があるって」

姫神「それが。ロケット団」

ステイル「……」

姫神「私はロケット団を阻止すると決めた。昔。ある人と約束したから……。困っている人を助けるって」

姫神はステイルから少し目を逸らし、

姫神「……その人は。もう覚えていないかもしれないけれど」

ステイル「……そうかい」

ロケット団員「貴様ら、お喋りはそこまでだ」

ステイル・姫神「!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:42:13.04 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「お月見山に何の用かは知らないが、今は我等ロケット団がここを占領している。さっさと出て行ってもらおうか」

ロケット団員「痛い目に遭いたくないのならばな!」

ステイル「……ッ」

ステイル(どうする……。ここで下がるわけにはいかない。だが、姫神を守りながら戦うのは厳しい)

素直に姫神に引き返してもらうのが吉だが、『この手の女トレーナー』は意地でも退かないというのをステイルはこの間思い知った。

ステイルが悩んでいると、姫神が一歩前へ踏み出した。前にはロケット団員がいる。

姫神「……」

ステイル「姫神っ!?」

ロケット団員「逃げない、ということだな?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:47:21.77 ID:BcVzKfrAO<>
姫神「私。月の石を探しているの」

ロケット団員「……!」

姫神「どこにあるか。あなたは知ってる?」

ロケット団員「女ァ……!」

姫神「あなた達の目的は月の石。違う?」

ロケット団員「……ッ!」

ステイル「!」

ステイル(ロケット団が月の石を欲しがっているのは本当のようだな。だが、姫神がどうしてそのことを?)

ロケット団員「……。ウハハ、そうだよ。我々は月の石を探しにここへやって来たのだ」

姫神「……どうして。月の石が必要なの?」

ロケット団員「それはもちろん、ポケモンの力を高めるエネルギーが秘められている月の石は高く売れるからだ」

姫神「やはり。金儲けのためなのね」

ロケット団員「それがどうした? 金儲けこそが我々ロケット団の本来の目的!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:54:53.12 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員が指をパチンと鳴らす。

姫神「!」

洞窟の奥から一匹のポケモンが出てきた。

ニドリーノ「グルル……」

ロケット団員「やれ」

ニドリーノ「ガウウッ!」

ニドリーノが尖った角を姫神へ向け、突進してくる。

姫神「フシ。」

フシ。「ダネフシ!」

姫神「“つるのムチ”」

フシギダネが背中から二本の蔓を出して、ニドリーノに打ちつける。

しかしニドリーノは止まらない。

姫神「っ!」

ステイル「ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

ゼニガメ「ぜにい!」

ニドリーノ「っ!?」

真横から受けた衝撃にニドリーノは倒れた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 20:57:43.17 ID:BcVzKfrAO<>
姫神「ステイル君」

ステイル「あまり無茶をするな。相手はロケット団だ」

姫神「う。うん」

ニドリーノ「ニドォ……」

ロケット団員「怯むな、ニドリーノ! “つのでつく”だ!」

ニドリーノ「ニドオオッ!」

ニドリーノはすぐに起き上がり、第二撃を繰り出す。

ステイル「く……ッ」

ニドリーノの攻撃をステイルは何とか避ける。

姫神「フシ。“はっぱカッター”」

フシ。「ダネエエ!」

フシギダネの葉っぱカッターがニドリーノに炸裂する。

ニドリーノ「ニドオオッ!!?」

ステイル「今だ。ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

ゼニガメ「がめええっ!!」

ニドリーノ「……!?」

ロケット団員「……!」

ニドリーノはたおれた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:04:36.95 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「……ッ!!」

ゼニガメ「ぜにっ!」

フシ。「ダネっ!」

ゼニガメとフシギダネはハイタッチをする。

ステイル「他愛ないな。まだポケモン屋敷で戦ったロケット団員の方が強かったよ」

ロケット団員「! ポケモン屋敷だと?」

ステイル「何か調べ物をしていたようだったけど。ま、軽く追い払ってあげたよ」

ロケット団員「……」

ステイル「?」

ロケット団員「そうか、そこまで知っているのならば……なおさら帰すわけにはいかないな」

ロケット団員がポケットから何かを取り出した。

注射器だ。中には何か液体が入っている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:06:59.70 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「……ッ!!」

ゼニガメ「ぜにっ!」

フシ。「ダネっ!」

ゼニガメとフシギダネはハイタッチをする。

ステイル「他愛ないな。まだポケモン屋敷で戦ったロケット団員の方が強かったよ」

ロケット団員「! ポケモン屋敷だと?」

ステイル「何か調べ物をしていたようだったけど。ま、軽く追い払ってあげたよ」

ロケット団員「……」

ステイル「?」

ロケット団員「そうか、そこまで知っているのならば……なおさら帰すわけにはいかないな」

ロケット団員がポケットから何かを取り出した。

注射器だ。中には何か液体が入っている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:08:54.14 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「ウハハ……」

ロケット団員は注射器をニドリーノに刺した。

ステイル「何を……?」

ロケット団員「我々の研究の成果だ」

ニドリーノ「ニ、ド、ォオオオオ……!」

ニドリーノの全身の筋肉が膨張していく。

姫神「……っ!」

ニドリーノの身体の皮膚は真っ赤に腫れ上がり、その姿は常人なら直視できないくらい悍ましい。


ニドリーノ「ニドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:12:47.96 ID:BcVzKfrAO<>
ドシン、と洞窟が揺れた。

洞窟を丸ごと揺らすほどのエネルギーが爆発したのだ。

ステイル・姫神「…………っ!?」

エネルギーを発したものを、ステイルと姫神は見て驚愕する。


ニドキング「ニドオオッ!!」


ステイル「馬鹿、な……! ニドキングに進化した!?」

姫神「……っ。まさか。あの注射器で……?」

ロケット団員「ウハハハハハハハハハッ!」

ロケット団員は笑う。心の底から喜々として笑う。

ロケット団員「実験成功だな。この『ポケモン成長促進剤』の効き目はバッチリみたいだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:20:26.28 ID:BcVzKfrAO<>
姫神「ポケモン成長……」

ステイル「……促進剤、だって!?」

ロケット団員「ウハハ、そうだ。我々ロケット団は金儲けが目的だと言っただろう? そこで金儲けのため、新たにポケモン用の薬を作って売ることになったんだ」

ロケット団員「問題はどんなものを作るかだが……。提案されたのが、この『ポケモン成長促進剤』。つまりはポケモンの成長を科学的に促して進化させるという薬だな」

ロケット団員「これは試作段階なのだがニドリーノにも効くとはな。恐らく、お月見山のエネルギーも相まっての成功だろう」

ステイル「ポケモンを薬で進化させる……?」

ロケット団員「ん? なんだ? 何を怒っている」

ロケット団員「トレーナーにとっても悪い話ではないだろう?」

ステイル「……本気で言っているのか?」

ロケット団員「いたって本気だが」

ステイル「ポケモンを薬で……そんなもの、副作用がないわけがない! そもそも、人間の都合で無理矢理ポケモンを進化させるなんて言語道断だ!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:26:50.66 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「……。副作用がなければいいのか?」

ステイル「そういう問題じゃない!」

ロケット団員「あるさ」

ステイル「っ!」

ロケット団員「あるに決まっているだろう。貴様が言った通り、ないわけがない。だがそれで? 何か文句があるのか?」

ロケット団員「貴様らもトレーナーなら分かるだろう。ポケモンは強いほどいい。それなら副作用がなんだろうが人間の勝手な都合だろうが関係ない。強ければそれ以外は要らない」


ロケット団員「ポケモンは所詮、道具なんだからな」


ステイル「……ッ!」

頭に血が上りすぎて血管が切れるかと思った。

ステイルは確信する。こいつは人間じゃない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:30:52.27 ID:BcVzKfrAO<>
ステイル「……ふざけるな」

ステイル「君にトレーナーを語る資格なんて……!」


姫神「資格なんてない!」


ステイル「!」

姫神「あなたに。トレーナーを語る資格なんてない!」

その声はステイルの声を掻き消した。

何もそこまで大きな声ではなかった。しかしその叫びは痛烈なもので、ステイルを黙らせた。

その声を発した姫神の身体は震えている。それは恐れからではない。

姫神を支配しているのは怒りと悲しみが混じり合った複雑な感情だ。

ロケット団員「……いい目だ」

姫神の心からの叫びですら、ロケット団員には響かない。

ロケット団員「だが、そんな目を見ていると……踏みにじりたくなる」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:35:06.89 ID:BcVzKfrAO<>
ニドキング「ニドオオッ!!」

ニドキングが姫神へ向かって突進する。進化前とは比べものにならないほどのスピードで。

姫神「!」

ステイル「ひめっ……!?」

ドシャアアッ!! ニドキングの強烈な一撃をまともに受け、姫神が吹き飛ばされる。

ステイルが気付いた頃には姫神は洞窟の壁にたたき付けられていた。

ステイル「姫神いいいいいいい!!!」

ステイルは姫神に駆け寄る。

姫神「……」

姫神は応えない。気を失っているのだ。

抵抗もなしにそのまま壁に打ち付けられたので、かなりの重傷だ。頭から出血していて骨も何本か折れたかもしれない。

ステイル「……ッ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:37:40.06 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「ウハハ、所詮トレーナーも生身の人間。脆いものだ」

ロケット団員「次は貴様が死ぬか?」

ステイル「……」

ステイルは腰に手を回す。

腰にあるモンスターボールの開閉スイッチを押した。

イノケンティウス「おう、ステイル。どうした?」

ボールの中にいたイノケンティウスはこの状況を知らないのか、呑気な声を出している。

ステイル「……イノケンティウス。彼女を頼む!」

ステイルは走り出した。

イノケンティウス「は、彼女? って、おいステイル!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:41:16.14 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「……逃げたか」

ロケット団員は姫神の方を見て、

ロケット団員(この女はいつでも始末できる。優先すべきはあの小僧か)

ロケット団員「行くぞ、ニドキング」

ニドキング「ニドオオ!」

イノケンティウス「あいつは……ロケット団か?」

ゼニガメ「ぜにぜにっ!」

イノケンティウス「! ゼニガメ?」

ゼニガメが必死に今までの経緯をイノケンティウスに説明する。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:47:09.35 ID:BcVzKfrAO<>
イノケンティウス「そうか……説明、ありがとうなゼニガメ」

ゼニガメ「ぜに……」

いつも陽気なゼニガメも、この状況には気が気でないようだ。

イノケンティウス「まずはこの姉ちゃんの手当をしなくちゃな」

ゼニガメ「ぜに」

ズバット「ズバー!」

ステイルの色違いのズバットも駆け付けてきた。

イノケンティウス「おお、お前が新しい仲間か。ステイルから聞いて……、?」

イノケンティウスの動きが止まる。

今この場にいるのは、倒れた巫女少女とその手持ちであろうフシギダネ。

――そして。ステイルの手持ちであるイノケンティウス、ゼニガメ、ズバット。

イノケンティウス(ステイルの奴、手持ちを置いていった……?)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:49:28.28 ID:BcVzKfrAO<>
***

ステイルはイノケンティウス達がいる場所から少し離れた所を走っていた。

ステイル「はあ、はあ……!」

しかしそこは行き止まりだ。

ステイル「ッ!」

ニドキング「ニドオオッ!」

ドガアアアッ!! ニドキングのタックルでステイルが吹き飛ばされる。

ステイル「がっ、は……ッ!」

ロケット団員「追い詰めたぞ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 21:51:22.03 ID:BcVzKfrAO<>
ステイル「……、」

ロケット団員「? ポケモンで戦わないのか?」

ステイル「ふん、随分と親切なものだね」

ステイルは両手を挙げる。

ステイル「この通りさ。手持ちは全て置いてきた」

ロケット団員「そうか。どういうつもりか知らないが……むしろ、好都合ッ!」

ニドキング「ニドオオッ!」

ロケット団員「何の抵抗も出来ず、無様に朽ちるがいい! ……、!?」

ステイル「……くく、」

ロケット団員「何がおかしい!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:01:31.05 ID:BcVzKfrAO<>
ステイルがポケットに手を入れる。

ロケット団員「……っ!」

ロケット団員は警戒するが、ステイルがポケットから取り出したのは煙草だ。

ステイルはそれを一本くわえ、吸いはじめた。

ステイル「自分で言うのもなんだけど。僕はさ、ヘビースモーカーなんだ。常に大量の煙草を服に備えている」

ロケット団員「何を言っているんだ?」

ステイル「ま、僕は未成年だし。煙草が身体に有害なのを理解して吸っている。でもさ、やっぱり怒ってくれる人はいるんだよ、これが」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!! とロケット団員の足元の地面が揺れる。

ロケット団員「どうなっている……!?」

ロケット団員はようやく気付く。自分の周りに火の点いた煙草が大量に吐き捨てられていることに。

ロケット団員「この煙草は!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:05:49.39 ID:BcVzKfrAO<>
ステイル「あの人が管理しているセンターの近くの山のポケモンなら、当たり前のことなんだろうけどね」

地面に埋まっていたイシツブテ達が飛び出した。

イシツブテ達はロケット団員を取り囲む。

ロケット団員「や、やめろ! 煙草を捨てたのはオレじゃないッ!」

イシツブテ達は聞かない。その姿は不良生徒を更正させようとする教師そのものだ。

ステイル(恐ろしい……)

ステイルは吸い殻を拾い集め、大量のイシツブテにがっちり拘束されているロケット団員に歩み寄る。

そして、くわえている煙草を手にとり、ロケット団員の頬に押し付けた。

ロケット団員「ぐああああっ!!?」

ジュウ、とロケット団員の頬が音を立てる。

ステイルは言う。


ステイル「君は一から人間性を更正しろ(やりなおせ)」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:09:14.56 ID:BcVzKfrAO<>
ロケット団員「貴、様ァ…!?」

ロケット団員「覚えていろ……! 貴様は我がロケット団のブラックリストに載るぞ……!」

ロケット団員は低い声で唸るが、ステイルは聞いていなかった。

今の吸い殻が地面に落ちた。ステイルは慌てて拾うが、もう遅い。

一匹のイシツブテがステイルを睨み、突進してきた。

ステイルは逃げる。

ステイル「く……!」

違反は違反。誰が相手だろうと関係ない。



ロケット団員「……」

イシツブテの山に埋もれ、その中でロケット団員は憤怒の表情を浮かべている。

彼はたいそう忌ま忌ましそうに呟く。

ロケット団員「……このままで帰らせると思わないことだな」


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:12:49.24 ID:BcVzKfrAO<>
***

ステイルはイシツブテのお仕置きを受け、ボロボロになった身体を引きずりながら歩いていた。

ステイル「ぐ……、相変わらず手厳しいな……」

それでも懲りずに煙草はくわえている。

ステイル「姫神は……イノケンティウス達が付いているから大丈夫だろうけど、急ぐことに越したことはないな」

ステイルは壁に手をかけ先を急ごうとするが、手を滑らせた。

ステイル「っ!」

ステイルは壁に背を向け倒れ込む。

ステイル「……?」

ステイルは怪訝な顔をする。

自分の身体のことは自分が一番分かっている。確かに全身ボロボロだが、誤って手を滑らせるほどフラついてはいない。

違う。これはステイルが手を滑らせたのではない。壁がステイルを避けたのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:16:41.02 ID:BcVzKfrAO<>
当然、壁が自分から動くわけがない。壁は外部からの衝撃で動いている。壁だけではない、洞窟全体がそうなのだ。

ステイル「地震……!?」

大きな地震が洞窟全体を揺らしている。

ステイル「何が起こって……。まさか、ロケット団か!?」

あのニドキングなら、この位の地震を引き起こせそうだが……。

今はそれは問題ではない。誰がこの地震を起こしたなど、大した問題ではない。

ステイル「まずい……」

ステイル「姫神達が……」

地震の衝撃に耐え切れなくなった壁や天井が崩れ始める。

ステイル(……ここまでか、)

天井が剥がれ落ち、壁が倒れ、洞窟は完全に崩れた。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:20:25.91 ID:BcVzKfrAO<>
***

そこは洞窟の中にある広場だ。

中央には大きな岩があり、天井には穴が開いて月光が差している。

ステイルは眩しい光を顔に浴びて、目を覚ました。

ステイル「? 僕は生きて……?」

ステイル「!」

ステイルの近くにイノケンティウス、ゼニガメ、ズバットが倒れている。

少し遠くに姫神とフシギダネも同様に倒れている。

ステイル「どこだ、ここは……」

ステイルが周りを見渡すと、何匹かのピンク色のポケモンを見かけた。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:22:26.67 ID:BcVzKfrAO<>
「ピッ」 「ピピッ」 「ピィ〜」

ポケモン達は何やら姫神を心配そうに見つめている。

ステイル(姫神を知っているのか?)

姫神の出血は止まり、フシギダネの痺れ粉を麻酔代わりにして眠っているようだ。特に危険な様子はない。

「ピッ」 「ピピッ」 「ピィ〜」

ポケモン達は姫神の無事を確認して気が済んだのか、姫神から離れていく。

そして広場の中央にある大きな岩へと飛んでいく。そこには数十匹という同様にピンク色のポケモンが集まっている。

彼らは踊り出した。

月光を背景に跳躍し、大きな岩を中心に踊る。

ステイル(ようせいポケモン、ピッピか)

ピッピ達の踊りは何かの儀式なのか、ただ遊んでいるだけなのか、ステイルには分からない。しかしそれはとても神秘的なものに感じた。

ステイル(そうか……。姫神はこのポケモン達をロケット団から守ろうとしていたのか)

ステイル(月の石を探して、偶然ここに現れたロケット団にこの場所を荒らされないようにするために)

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:25:53.55 ID:BcVzKfrAO<>
「ピッ」 「ピッ」 「ピピッ」 「ピピッ」 「ピッピッピィ〜」

ピッピ達は優雅に踊る。

月の光に照らされて、大きな岩が月のようにも見える。

このピンク色のポケモン達も、輝く月光も、神秘的な岩も、一人の少女に守られた。

ステイル「……ふっ。こういう景色を前に吸う煙草は格別なんだ」

くわえた煙の先に、少女の守った全てが見えた。



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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:28:20.76 ID:BcVzKfrAO<>
***

姫神「ん……」

ステイル「! 目を覚ましたか」

姫神「ステイル君……。あっ。こ。これは」

ステイルは姫神を背負って、お月見山の出口を目指している。

姫神「結構。恥ずかしいかも」

姫神が珍しくアタフタと慌てている。しかし身体は動かないらしく、声だけで抵抗を示している。

ステイル「?」

諦めたのか、姫神が急に大人しくなった。

そこでステイルは話を切り出す。

ステイル「……これをあの子達から預かった」

姫神「それは。月の石?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:33:53.63 ID:BcVzKfrAO<>
ステイルは姫神に月の石を渡す。

ステイル「この月の石を守ったのは君だ。これは君のものさ」

姫神「……私は受け取れない」

ステイル「なに?」

姫神「ステイル君が持っていて。私は月の石が欲しくてこんなことしたんじゃないから」

ステイル「そうかい。なら有り難く貰っておこう」

ステイル「……だが、あのピッピ達や広場を守ったのは他の誰でもない君なんだ。彼らはとても感謝している。だから月の石をくれたんだ」

姫神「……うん」

ステイル「……約束、か」

ステイルの口から唐突に出た言葉に姫神は思わず声を漏らす。

姫神「へっ?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:38:56.57 ID:BcVzKfrAO<>
ステイル「いや……君が言っていた約束さ。僕も似たような約束をずっと前にしたような……」

姫神「! ステイル君。やっと。思い出して……」

ステイル「ところで姫神」

姫神「な。なに?」

ステイル「僕達って、前にどこかで会ったことがあるかい?」


姫神「……………………………………………………………………」


ステイル「……、姫神?」

姫神「……知らない」

姫神はぷいっとソッポを向く。

ステイル(何か怒らせるようなことしたかな?)

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/22(土) 22:44:46.57 ID:BcVzKfrAO<>
ステイルは疑問に思いつつも、違う事を気にかけていた。

ニドキングを使うあのロケット団員以外のお月見山にいるロケット団の存在。

ピッピ達の広場からここまで結構な距離を歩いてきたが、それらしき人物はいなかった。

しかしその代わりに洞窟には大量の花びらが散らばっていた。

ステイル(あの花びら、どこかで見たような……)

あの花びらは何を示すのか。

もしかしたら、ステイルや神裂や姫神以外にも、ロケット団を食い止めようとしている人物がいるのかもしれない。




第七章・完


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◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/22(土) 22:49:56.62 ID:BcVzKfrAO<> 第七章終わりです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<><>2011/10/24(月) 12:38:20.03 ID:vm3qYIOAO<> お疲れ様〜
続き楽しみにしてます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<><>2011/10/24(月) 12:38:46.20 ID:vm3qYIOAO<> お疲れ様〜
続き楽しみにしてます! <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 19:55:04.09 ID:fhFSVfoAO<>
少年はハナダシティを歩いている。

「……」

この町には少年の知り合いがいる。

「よォ。そういや此処はオマエの町だったな」

「貴様か。職務をサボってこんな何の変哲もない場所に何の用であるか」

「別に。ただ通っただけだ」

「そうであるか」

「それに職務っつっても何もやることねェだろうが。現にオマエだってサボって此処にいるンじゃねェか」

「私はまた別の仕事である」

「……ハッ。まァ、こっちも暇だからよ。少し体を動かしてェところだな」

「私で良ければ受けて立つである。かつて貴様に負けた身としては再戦願いたいからな」

両者は睨み合う。

二人の殺気で周囲が静まり返る。

「………………」

少年は鼻で笑う。

「ヤメだ」

「……なに?」

「暇潰しといやァあそこだ。『ゴールデンボールブリッジ』」

「……」

「端っからオマエに用はねェって言っただろうが。ンな辛気臭ェ顔すンじゃねェよ」

少年は再び歩き出す。

「じゃあな、格下」


「……。全く、相変わらず生意気な少年である」




第八章・水勢のアックア


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 19:57:04.01 ID:fhFSVfoAO<>
***

ステイルは姫神をハナダシティのポケモンセンターへ運び終わり、今は診療室の前で彼女を待っているところだ。

ステイル「ふう……」

イノケンティウス「ステイル」

ステイル「なんだい、イノケンティウス」

イノケンティウス「色々言いたいことはあるが、まあ結果オーライで目をつむってやる。だが、一つ聞きたい」

ステイル「なんだ?」

イノケンティウス「あの姉ちゃんって姫神だよな?」

ステイル「……どうして君が彼女を知っているんだい?」

イノケンティウス「いや……ちょうど四年前、お前が旅を出る前にカツラが面倒を見るように連れてきた女の子が姫神じゃなかったか?」

ステイル「……………………………………………………」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 19:59:03.16 ID:fhFSVfoAO<>
そういえば、そんなことがあった気がする。

そして、昔した約束はちょうどそのくらいの時期にした覚えがある。

ステイル「……………………………………………………」

イノケンティウス「……ま、言っちゃあ悪いが、あの姉ちゃんは影薄いし。でもだからって忘れるのはひどすぎじゃないか?」

イノケンティウスは約束のことを知らない。だから、約束のことを言っているんじゃないのだが、

ステイル「……………………………………………………」

ステイルの顔からダラダラと滝のような汗が流れ出す。

ステイル(まずい)

診療室のドアがスライドする。

出てきたのは例のカエル顔の医者だ。小萌先生同様、この医者も各センターに一人ずついるらしい。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:01:03.83 ID:fhFSVfoAO<>
カエル医者「もう大丈夫だ。彼女のフシギダネの“しびれごな”、麻酔の代わりだけじゃなく、止血の効果もあったようだね?」

カエル医者「おかげで出血多量による死亡は防げたようだ。彼女の血液は少し特殊なものみたいだし、スペアも少ないんだね? 運の良いことに骨折もなかったしね?」

ステイル「は、はあ、そうですか」

本来なら嬉しい報告なのだが、ステイルは気が気でない。

カエル医者「? 何かあったのかな?」

ステイル「い、いや……」

ステイルに診療室を覗く勇気はない。何かとんでもない暗黒オーラが室内を漂ってる感じがする。

ステイル「……、姫神にこれを渡しておいてください」

ステイルはフシギダネの入ったモンスターボールをカエル顔の医者に手渡し、逃げるようにポケモンセンターを出ていった。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:03:08.64 ID:fhFSVfoAO<>
カエル医者「んっとっと……。どうしたんだろうね?」

ガララ、と診療室のドアが開く。

姫神「逃げられた」

カエル医者「……。とりあえず手に持っている花瓶を下ろしたらどうだい?」

姫神「……でも」

カエル医者「?」

姫神「思い出してくれて。良かった」

カエル医者「……」

カエル顔の医者は姫神の肩に手を置き、

カエル医者「さあ、ここにいては身体に障るよ?」

姫神「……」

カエル医者「彼が気になるのかな?」

姫神「そ。そんなわけじゃ」

カエル医者「はは、肯定も否定もしなくていいさ。僕にできることなら、お願いを聞いてあげるよ?」

姫神「……。なら。これを彼に」

カエル医者「! ……。了解したね?」


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:05:03.39 ID:fhFSVfoAO<>
***

カントー地方北東部に位置する町、ハナダシティ。

高台にある町で、ニビシティ・クチバシティ・タマムシシティ・ヤマブキシティの四つの町にそれぞれ道が通じている。

青をイメージカラーとするこの町にもポケモンジムがある。


ステイル「ハナダジム。ここも久しぶりだね」

イノケンティウス「そうだなー。ジムリーダーはカスミってヤツだっけ?」

ステイル「ああ。『おてんば人魚』のカスミ。彼女も手強い相手だったよ」

イノケンティウス「あいつのスターミーには手こずったよな」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:07:30.04 ID:fhFSVfoAO<>
ステイルはジムの扉に手をかける。

ステイル「頼もう!」

勢いよく扉が開かれた。

ジムの中はプールになっており、プールの水にはいくつかの足場が浮かせてある。

「……ん?」

プールサイドで準備運動をしていた海パン野郎がステイル達に気付く。

海パン「おっ、挑戦者か?」

ステイル「君は……」

海パン「ぬおっ! お前はカスミさんを敗ったガーディ使いのトレーナー!」

ステイル「覚えているものだね」

海パン「忘れるはずがないだろう。当時最盛期だった先代のカスミさんに炎タイプのガーディで挑んで勝利したトレーナーなんだからな」

ステイル「…………先代?」

海パン「ん?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:09:09.54 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「先代、って……。まさかジムリーダーが変わったのか?」

海パン「なんだ、知らなかったのかよ。知った上で挑戦しに来たかと思ったんだがな」

海パン「そう! 先代のカスミさんは引退し、そのあとを継いだ人が」


「説明は不要である」


言葉とともに、プールの水が真上へ舞い上がる。

海パン「!」

水が再びプールへと収まった時には男は海パン野郎の真横まで来ていた。

「海パン。貴様は下がっているである」

海パン「ウィリアムさん……!」

「本名で呼ぶな。ここでもあの場所でも、私はこう呼ばれているのである」

アックア「『水勢のアックア』。挑戦者よ、この私がお相手致そう」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:11:03.55 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「水勢の、アックア……!」

アックアは自己紹介を終えると、すかさずステイルに殴り掛かった。

アックア「ふんッ!!」

ステイル「ぐばあっ!?」

ステイルは空中を三回転し、地面に落ちた。

アックア「……。弱いであるな」

ステイル「な、ぁ……」

海パン「待て待て待て待て!」

アックア「なんだ、海パン。下がっていろと言ったはずであるが」

海パン「ウィリ……アックアさん! 挑戦者が訪れる度に挑戦者を殴らないでください!」

アックア「確かに挑戦者はポケモンバトルをしに、ここに来たのである。しかし私としてはポケモン同士だけでなく、トレーナー同士が拳で語り合うのも大切だと思うのであるのだよ」

海パン「はあ、…………」

アックア「つまりはトレーナー同士の戦いも含めてポケモンバトル。まずは私の一勝ということである」

アックアはステイルを見下ろして言う。

ステイル「……っ」

アックア「来るのである、挑戦者。借りを返したければ次のポケモン同士の戦いで勝つことであるな」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:13:11.25 ID:fhFSVfoAO<>
***

プールの競技場に二人は向かい合い立っている。

アックア「使用ポケモンは三体。形式は交替戦である」

ステイル「構わないよ」

アックア「では、バトル開始である!」

アックアがモンスターボールを投げる。

しかし、ボールに入っているはずのポケモンは姿を現さない。

ボールは水中へ投げられたからだ。

アックア「相手が見えないというのは、中々スリリングであろう?」

ステイル「……」

アックアに続いて、ステイルもモンスターボールを投げる。

イノケンティウス「ワオオオン!」

イノケンティウスはプールの足場の上に立つ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:15:10.04 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「イノケンティウス、敵はどこから出てくるか分からない。気をつけるんだ」

イノケンティウス「おうよ」

イノケンティウスは顔を地面へ向け、鼻で匂いを嗅ぎ始めた。

アックア「!」

ステイル「と言っても杞憂だろうね。姿を隠そうと、イノケンティウスの前では無意味だ」

イノケンティウスは匂いを頼りにアックアのポケモンの居場所を探しているのだ。それすなわち、かぎ分ける。

イノケンティウス「!」

ステイル「見つけたか、イノケンティウス! その場所に“かえんほうしゃ”だ!」

イノケンティウス「ウオオオオン!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:17:07.93 ID:fhFSVfoAO<>
イノケンティウスの口から業火が放たれる。

ゴオオオオオッ!! と業火は音を立て、プールの水を弾きとばす。

アックア「む……っ!」

プールに穴が開いた。

その穴にポツンと一匹のポケモンが佇んでいる。

アックア「なるほど。水タイプを扱う私に炎タイプで挑んでくるとは、どういうつもりかと思ったが……中々どうしてそのガーディ、強大な力を持っているのである」

ステイル「イノケンティウスの力に気付いた君も、実力のあるトレーナーだとお見受けするよ」

アックア「ふっ。……しかし、私のポケモンはその上を行く」

ギュオオオッ!! と空気を切り裂く音がする。

それはイノケンティウスの業火の音ではない。

プールにぽっかりと開いた穴に佇む一匹のポケモン、その名はアズマオウ。

アズマオウの額にある鋭く尖った角こそ、その音の正体だ。

ステイル「“つのドリル”っ!?」

アズマオウ「マオオウッ!」

アズマオウの角は高速回転して、業火を弾き飛ばした。

イノケンティウス「……っ!」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2011/10/24(月) 20:18:10.39 ID:icQUQ2eMo<> うわつまんね <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:19:21.58 ID:fhFSVfoAO<>
すぐにプールの穴は埋まり、再びアズマオウの姿が消える。

アックア「地の利を得ているのはこちらである」

瞬間、イノケンティウスの立っている足場が砕けた。

イノケンティウス「っ!?」

足場を貫いたアズマオウが水中から飛び出す。

アズマオウ「マオオウッ!」

ステイル「あの角……ッ!」


『アズマオウ、きんぎょポケモン。ドリルのように とがっている ツノで いわはだを くりぬき じぶんの すを つくっている。』


アックア「その角で岩をも砕くアズマオウにとって、そんな足場などコイキング同然である!」

イノケンティウス「ちっ……!」

イノケンティウスは別の足場へ移動しようとするが、

アックア「見逃すと思うであるか?」

アズマオウ「マオオウッ!」

アズマオウは次々と足場を壊していく。

イノケンティウス「く……ッ!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:21:24.06 ID:fhFSVfoAO<>
アズマオウ「マオオウッ!!」

アズマオウが最後の足場を破壊した。

イノケンティウスは水の上に取り残される。

イノケンティウス「ぐぱあっ!?」

イノケンティウスは水中へと落ちた。

ステイル「イノケンティウスっ!」

イノケンティウス「ぐ、ぶあっ……」

イノケンティウスは水中でもがく。何とか溺れずにすんでいるようだが、

そこへアズマオウが襲い来る。

ステイル「……ッ!」

アックア「抵抗が出来なかろうが容赦はしない。それが相手への敬意である!」

アズマオウ「マオオウッ!!」

アズマオウは一度宙を舞い、水中へダイブする。

そして今後こそイノケンティウスへと狙いを定め、

アックア「“たきのぼり”!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:23:09.72 ID:fhFSVfoAO<>
アズマオウは水中を飛び出した。

いや、飛び出したのではない。空中を泳いでいる。

アズマオウはプールの水を使い作った滝を上り、イノケンティウスへ激突した。

イノケンティウス「……ッッッ!!?」

イノケンティウスはプールサイドに打ち上げられた。

ステイル「イノケンティウス!!」

イノケンティウスはたおれた。

ステイル「っ! 戻るんだ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:28:02.20 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「……」

ステイル(強いな。イノケンティウスに四年のブランクがあると言っても、あのイノケンティウスが何の抵抗も出来ないとは……)

アックア「挑戦者、これで貴様は残り二体。この水の上である、その二体が水タイプか水上で戦えるポケモンでなければ貴様の敗北は確定するわけであるが」

ステイル「その心配には及ばないよ」

ステイルが二匹目を繰り出す。

ゼニガメ「ぜに!」

ゼニガメはプールに入る。

アックア「水タイプがいたであるか。良かった、これでつまらない勝負にはならないであるな」

アックア「敬意を払ってどんな相手にも全力で向かう、私はそれをポケモンバトルで信念としているのであるが……あまりにも実力が違う圧倒的な試合となると、それはやはりつまらないのである」

ステイル「……」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:30:14.62 ID:fhFSVfoAO<>
アックア「貴様は私を満足させてくれるであるか?」

ステイル「ふっ……」

ステイル「愚問だね。何故なら、僕もそれを望んでいる!」

ゼニガメ「ぜにいいっ!」

ゼニガメが水上を駆けぬけ、アズマオウとの距離を詰める。

アックア「……! それは先制技の……」

ステイル「“アクアジェット”だ!」

ゼニガメがアズマオウに頭突きした。

アズマオウの身体が揺らぐ。そこへ、ゼニガメは追撃する。

ステイル「“かみつく”!」

ゼニガメ「ぜにがああっ!」

ガブリ、とゼニガメがアズマオウの腹にその鋭利な牙で噛み付いた。

アズマオウ「マ、オオウッ!!?」

アックア「……!!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:32:13.15 ID:fhFSVfoAO<>
アズマオウは暴れるが、ゼニガメは離れない。

ステイル「そのまま“こうそくスピン”だ!」

ゼニガメ「ぜにっ!」

頭だけを残して、手足尾を甲羅にしまったゼニガメは横に回り始めた。

アズマオウ「マオッ……!」

遠心力でアズマオウは飛ばされ、壁にたたき付けられる。

アズマオウ「……、」

アズマオウはたおれた。

アックア「……っ!」

ステイル「これでそちらも残り二匹だね」

アックア「……面白い」

アックアはアズマオウをモンスターボールにしまい、二つ目のボールを投げる。

ニョロゾ「ニョロ!」

ステイル「ニョロゾか。続けて行くぞ、ゼニガメ!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:34:04.37 ID:fhFSVfoAO<>
ゼニガメ「ぜにが!」

ゼニガメは再び水上を猛スピードで滑り出す。

ニョロゾ「!」

しかし、止められた。

ゼニガメ「ぜに!?」

アックア「アズマオウとは違い、陸地でも生活できるニョロゾには腕と脚がある。先程と同じ戦法で勝てるなどと思わないことである」

ゼニガメ「が、がめえ……!」

ゼニガメは逃げられない。ニョロゾの腕はゼニガメの甲羅をガッチリと掴んでいる。

何も出来ないゼニガメにニョロゾは片手を上げ、

アックア「“おうふくビンタ”である!」

ビンタが炸裂した。

ゼニガメ「……っ!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:36:48.03 ID:fhFSVfoAO<>
ニョロゾの攻撃はそれでは止まらない。ビンタした手を往復させ、今度は手の甲でゼニガメの頬を叩く。

今度はまた手の平、次は甲、それを五往復したところでニョロゾの手はようやく止まった。

ゼニガメ「ぜに……!!」

一撃でも物凄い威力のビンタを計十回も食らったゼニガメは後ろへ十メートルも吹き飛んだ。

そこは水の上だ。当然ゼニガメは水中へ沈むはずなのだが、

ステイル「なっ……」

ゼニガメは水上で仰向けになっている。

水に浮かんでいるのではない。頭も甲羅も手足も尾も水についてすらいない。

ゼニガメは水に乗っかっているのだ。

ありえない。いくら水タイプと言えど、水の上歩けたりできるわけがない。

ステイル(とすれば、あのニョロゾの仕業か)

ステイルはニョロゾに目を向ける。

そして、気付いた。ボールから出た時から、ニョロゾがその場で立っていることに。

ニョロゾは水の上で足をつき、直立している。

ステイル「思った通りのようだね……!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:38:48.68 ID:fhFSVfoAO<>
アックア「ふむ。何を驚いているのであるか。この程度で驚かれては、張り合いがないである」

ニョロゾが水の上を走り出した。

ステイル「……ッ!」

確かにステイルのゼニガメも、アクアジェットを使い水上を駆けることが出来るが、それとはわけが違う。

何の比喩もない。ニョロゾはその脚で水上を走っている。

ステイル「なんだ、これは!?」

ステイルは叫ぶ。

しかし、どういう理屈でニョロゾが水上を走っているのかなんて今はどうでもいい。

そんなことよりも、まずはニョロゾの攻撃を対処することに全力を注ぐべきだ。

ステイル「ゼニガメ!」

ステイルはゼニガメに起き上がるように指示をする。

ゼニガメ「ぜに、?」

指示の通りにゼニガメは身体を起こそうとするが、全く身体が動かない。

甲羅が水に張り付いている。

ステイル「あれは……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:40:26.40 ID:fhFSVfoAO<>
ステイルが気を取られている間に、ニョロゾはゼニガメの目の前まで迫っていた。

ニョロゾ「ニョロ!」

ゼニガメが再び殴り飛ばされる。

ゼニガメ「がめがああっ!?」

ゼニガメは水上を転がっていく。

ステイル「……分かったぞ、この不可解な現象の正体が」

ステイルはプールに入っているものが水だと思っていた。

もちろんその通りなのだが、入っているのは水だけではなかったのだ。

ステイル「ニョロゾの“れいとうビーム”で水面を凍らせていたのか」

アックア「そうである。だから水の上を走ることが出来たのである。……いや、滑ると言った方がいいであるか」

ステイル「ゼニガメの甲羅が張り付いていたのもこれのせいだね」

アックア「しかし、分かったところで何も出来なければ意味はないである」

ニョロゾが水上を滑る。

アックア「“れいとうパンチ”!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:43:11.51 ID:fhFSVfoAO<>
ニョロゾは冷気を発する腕をゼニガメへ振りかざす。

ステイル「二度は通じない! “からにこもる”だ!」

ゼニガメ「ぜにい!」

ゼニガメが甲羅に篭る。

ガキイイッ!! とニョロゾの腕が甲羅を殴った。

ニョロゾ「……ッ!!?」

甲羅はパンチの衝撃で数メートル飛んだだけで、傷一つ付いていない。

ステイル「今度はこちらの番だ」

ゼニガメが甲羅に篭ったまま、ニョロゾを中心に氷上を回り始めた。

アックア「……それで惑わしているつもりであるか?」

ニョロゾ「ニョロ!」

ニョロゾの口から冷気が放出される。

ゼニガメ「ぜに……!?」

その凍える風に当てられ、ゼニガメの滑るスピードは次第に落ちていく。

プールをちょうど一周したところでゼニガメはその動きを完全に止めた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:45:08.02 ID:fhFSVfoAO<>
アックア「“れいとうビーム”!」

氷のビームがゼニガメを凍結する。

ゼニガメ「……、」

ステイル「ゼニガメ!」

ゼニガメはこおってしまってうごけない。

アックア「戦闘不能であるな」

ステイル「……よくやってくれた、ゼニガメ」

ステイルはゼニガメをモンスターボールに戻す。

アックア「こんなものではないであろう? さあ、最後のポケモンを出せ」

ステイル「言われなくても、だ!」

ステイルが最後のボールに手をかける。

ステイル「頼むぞ、新たな仲間(ルーキー)!」

ステイルの最後のポケモンが姿を現す。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:46:58.17 ID:fhFSVfoAO<>
ズバット「ズバーッ!」

体色が緑の色違いのズバットはジムの照明に逆さまに留まる。

アックア「ズバットであるか。水上でも氷上でも戦えるタイプ、飛行を持つポケモンであるな」

ステイル「よそ見をしている場合かな?」

アックア「?」

ニョロゾ「……、」

ニョロゾはたおれた。

アックア「! なに……」

ステイル「こんなものではないだろう? 君も最後のポケモンを出すんだね」

アックア「……、ふふ」

アックア「ふはははははははははッ!!」

アックアがモンスターボールを投げる。

ゴルダック「ゴバアッ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:49:16.60 ID:fhFSVfoAO<>
アックア「いいである! 貴様は今まで戦ったトレーナーで……あの少年と並んで一番手強い相手である!!」

ゴルダックが氷上を滑り出す。

アックア「“ハイドロポンプ”!!」

ゴルダック「ゴルバアアッ!!」

ズバット「……っ!?」

ゴルダックが放った水の砲撃を受けて、ズバットは氷の上に墜落した。

ゴルダックはすぐに追撃に走る。

ズバット「ズバ……」

ズバットは空中に逃げようとするが、翼が水に濡れて動けない。

アックア「“きりさく”である!」

ゴルダック「ゴルダアッ!」

ゴルダックが爪を尖らせた時、


プールの角が着火した。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:51:15.50 ID:fhFSVfoAO<>
ゴルダック「っ!?」

アックア「炎だと……!?」

ステイル「ようやく、だね」

アックア「何をした?」

ステイル「うん? 思い出してごらんよ。僕の一匹目のポケモンを」

アックア「……あれがガーディの炎だと言うのであるか?」

ステイル「そうだよ。僕のイノケンティウスの炎は特殊で、相手を焼き尽くすまで消えないものなんだ」

アックア「馬鹿な……」

ステイル「驚くのも無理はないだろうさ。何せ、これはイノケンティウスだけの能力だからね」

不滅の炎は氷のプールをみるみる溶かしていく。

アックア「く……、プール全体が水に戻るのは時間の問題か。それならそれより早く、ズバットを仕留めるである!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:54:18.36 ID:fhFSVfoAO<>
ゴルダック「ゴルバアア!!」

ゴルダックが攻撃に戻るが、その動きは止まった。

ゴルダック「……、!?」

ゴルダックが頭を抱えて、ヨロヨロと不自然な歩き方をする。

アックア「どうしたである!?」

ゴルダック「ゴ、ル……」

ステイル「二万Hz、って何の数字か知っているかい?」

アックア「……?」

ステイル「人間が聞き取れる周波数の大体の上限さ。たまにそれより上のものを聞き取れる人間もいるみたいだけどね」

アックア「何の話であるか」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 20:58:14.44 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「じゃあ次に聞くけど……」


ステイル「超音波、は知っているよね?」


アックア「……ッ!!」

ステイル「人間に聞き取れないほど高い振動数の音波のことだけど。それを出せるのが、ズバットなんだ」

ズバットはこうもりポケモンである。故に蝙蝠と同じく超音波を出せる。

しかし、その超音波を聞き取れる生き物は数少ない。

だが、ズバットはポケモンでもある。故に同じポケモンなら、超音波を聞き取れるのだ。

ゴルダック「ゴルダアッ……!?」

ゴルダックがもがき苦しんでいるのは、その超音波を聞いているからだ。

アックア「ニョロゾが突然倒れたのも、まさか……?」

ステイル「ま、気づかないのも当然だろうね。君にも僕にも超音波は聞こえないんだから」

アックア「……ッ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 21:02:11.73 ID:fhFSVfoAO<>
ステイル「そして、いい位置に誘い込めたようだ」

ゴルダックがフラフラの足で一歩踏み出した途端、氷のプールが崩れた。

ゴルダック「ゴバアッ……!?」

ステイル「さっきのゼニガメの行動は無駄じゃなかったんだ」

ゼニガメはプールを回りながら、その牙で氷に穴を開けていたのだ。

そしてゴルダックが立っていたのはちょうど先程までニョロゾがいた場所、つまりゼニガメが回るのに中心としていた位置だ。

ただでさえ穴だらけのところを、ゴルダックが中心に来て重みに耐え切れなくなった氷は一気に崩れたのだ。

アックア「だが、下は水である! 氷がなくなってもゴルダックは……!」

ステイル「どうかな。ゴルダックを苦しめているのは何だったかい?」

超音波が水面に入射して、大きな波を引き起こす。

ゴルダック「……!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 21:05:03.45 ID:fhFSVfoAO<>
ゴルダックは波で真上に打ち上げられた。

その下には不滅の炎。

アックア「ぐ……ッ!!」

ステイル「チェックメイトだ」

ゴルダックが炎へと飛び込む。

不滅の炎はゴルダックを焼き尽くすと、あっさり消えた。

ゴトッ、と黒い物体が転がる。

ゴルダック「……、」

ゴルダックはたおれた。

アックア「……!」


ステイル「ふう……」

ステイルはポケットから煙草を取り出し吸いはじめる。

ステイル(危ないところだったな)

アックア「ご苦労であった、ゴルダック」

アックア「……ふ。これで少年に負けるのは二度目であるな」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/24(月) 21:07:41.54 ID:fhFSVfoAO<>
アックアはステイルに近寄り、

アックア「見事であった。受け取るである。ブルーバッジだ」

ステイル「ああ。いいバトルだったよ」

アックア「うむ、久しぶりに白熱したバトルであった」

二人は握手を交わす。

ステイル「……ところで、質問なんだが」

アックア「なんであるか?」

ステイル「先代のジムリーダーのカスミはどうして辞めたんだい?」

アックア「それは男と、かk……」

海パン「あーあーあー!!」

アックア「……なんだ、海パン。騒々しいである」

海パン「いやー! 勝ったんだなー、挑戦者ー!」ハハハ

ステイル「あ、ああ」

アックア「ちなみに、私はカスミの実のあn……」

海パン「あーあーあーあーあー!!」

ステイル・アックア「?」




第八章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/24(月) 21:08:56.92 ID:fhFSVfoAO<> 第八章終わりです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2011/10/26(水) 03:34:15.48 ID:/2iYRhvIo<> >>1乙

なんか雰囲気がポケスペっていいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2011/10/26(水) 23:04:43.33 ID:VUDIRB9Jo<> >>1乙 <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:26:55.35 ID:vAmHYC7AO<>

少年は橋の上にいる。

橋の名はゴールデンボールブリッジ。ハナダシティの北にある、トレーナーが集う橋だ。

この橋ではポケモンバトルが盛んに行われており、トレーナーを連続五人抜きしたら賞品が貰えるというイベントもある。それがトレーナーが集う所以なのだが。

「あはは」

今日も沢山のトレーナーがこの橋に集まっている。しかし、そこに立っているのは少年だけだ。

「うう……」

地面に突っ伏している一人のトレーナーが呻く。

少年は気にしない。トレーナーの服のポケットを適当に漁る。

いくらか紙幣の入った財布を見つけた。

「やめてくれ……。バトルの賞金なら渡しただろ……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:29:33.82 ID:vAmHYC7AO<>
トレーナーの言葉にようやく少年は口を開く。

「あァ? あの程度の金額で済ます気か、オマエ」

少年はトレーナーの顔を踏み付け、

「舐めてンじゃねェぞ。こっちはテメェみてェな凡人と違って、遊び気分でこンな場所に来てンじゃねェンだよ」

「うぅ……、なさい…………」

「あァ?」

少年が踏む足に力を入れる。

「うぅっ。ごめんなさい……、金は全部渡すから……」

「……ハンッ」

少年はトレーナーを蹴り飛ばし、紙幣だけを抜いて空になった財布は川に放り投げた。

「こいつで最後だな」

少年の手には大量の札束があった。

少年はそれを全てポケットに入れる。

「……まァ、この金は手土産にでもするか」

橋に倒れているトレーナーはおよそ二十人ほど。

その中心で少年は笑っていた。




第九章・地方最強(リーグチャンピオン)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:32:27.33 ID:vAmHYC7AO<>
***

ステイルはとある民家の前にいた。

「ごめんねぇ。ここ、泥棒が入ったらしくてただいま出入り禁止なんだ」

巨乳の警察官はそう言う。

ステイル「でも、クチバシティへ行くにはここを通らなければいけないんですが」

「それはこっちも分かってるんだけどねぇ。まあ、事情聴取とかが終わったら通れるようになると思うじゃん」

ステイル「それはどれくらいかかるんですか?」

「んー、もうちょっとかかるじゃん。だからそれまではハナダシティを見物したらどう?」

ステイル「そうするかな……」

「悪いねぇ。そうだ、また来たらすぐに通してあげるように私から言っておくからさ。一応名前だけ聞いておきたいじゃん?」

ステイル「ステイル=マグヌスです」

黄泉川「オッケーオッケー。ちなみに私は黄泉川愛穂、よろしくじゃん!」

ステイル「は、はあ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:35:03.75 ID:vAmHYC7AO<>
***

ステイル(ハナダシティで見物といったら、ここくらいしかないな)

ステイルはゴールデンボールブリッジを歩いている。

ステイル「……?」

だが、何かがおかしい。

ステイル「これは……!」

二十人ほどの人間が橋で倒れていた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:38:31.23 ID:vAmHYC7AO<>
「……ぅ」

その中の一人の男が呻く。

ステイル「! 大丈夫か!?」

「ぐう……あんた、は?」

ステイル「誰でもいい。一体何があった?」

「ポケモンバトルに負けて……」

どうやら男はトレーナーらしい。しかし、

ステイル「ポケモンバトルで、こんなになるものなのか……?」

「違うんだ……。あいつが一方的に、トレーナーの俺にも攻撃をしてきて……。財布も盗られて……」

ステイル「……そのバトルの相手は誰なんだ?」

「あそこにいる……」

トレーナーの指差す方向には一人の少年が立っていた。こちらには背中を向けている。

その姿にステイルは見覚えがある。

ステイル「あれは……!!」

少年が振り返る。

「あン?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:41:10.19 ID:vAmHYC7AO<>


ステイル「一方通行……ッ!!」



一方通行。カントー地方のリーグチャンピオンで、実質カントー最強のトレーナー。ステイルが四年前に敗北した相手でもある。

一方通行「……ぶっ、」

一方通行「ギャハハハハハ!!」

一方通行はステイルの顔を見た途端、吹き出した。

一方通行「久しぶりだなァ、クソ神父ゥゥゥゥうううううう!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:44:09.91 ID:vAmHYC7AO<>
ステイル「本当だね。四年ぶりか」

ステイル「だが、今は感動の再会をしている場合じゃない。君はここで何をしているんだい」

一方通行「トレーナー狩りだな」

一方通行はあっさりと答える。

ステイル「……君は相変わらずのようだね」

一方通行「何怒ってンだァ? まさか、トレーナーから金を奪い取ったことじゃねェだろうな」

ステイル「自覚はあるようだね」

一方通行「ンで? 何か文句があるンなら聞いてやる」

ステイル「文句だと?」

ステイルはモンスターボールを振りかぶる。

ステイル「ありすぎて困るんだけど?」

ステイルが投げたボールからイノケンティウスが飛び出す。

イノケンティウス「ワオオオオン!!」

イノケンティウス(……って一方通行!?)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:47:04.11 ID:vAmHYC7AO<>
ステイル「“かえんほうしゃ”だ!」

イノケンティウスが業火を放つ。

一方通行「ハッハァ!」

一方通行がモンスターボールを取り出し、開閉スイッチを押す。

すると、業火が跳ね返った。

イノケンティウス「……ッ!!」

一方通行「俺に向かって攻撃するなンざ、こいつの能力を忘れたンかよ」

一方通行の前には青いポケモンがいる。

がまんポケモン、ソーナンスだ。

ソーナンス「ソーナンス!」

ステイル(そううまくはいかないか)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:52:00.54 ID:vAmHYC7AO<>
一方通行「っつかよォ、オマエも相変わらずだな。相変わらず、垢抜けてやがる」

ステイル「そうかな? 弱者から大金を巻き上げる君よりかはマシだと思うよ」

一方通行「敗者は勝者に賞金を渡す、それが弱肉強食のポケモンバトルのルールだろォ。地方最強として、そのルールには従わねェとな?」

ステイル「ふん。よく言うよ」

一方通行「まァ、ちょうどいいかもなァ。こっちも退屈してたところだ」

一方通行は橋を下りる。

ステイル「!」

一方通行「少しは骨のある奴と戦える」

一方通行が完全に橋から下りたその時、ゴールデンボールブリッジが大きく揺れた。

ステイル「……なっ!?」

橋の周囲には風が吹き荒れている。

何もそこまで強い風ではない。こんな風に橋が大きく揺さぶられるはずがない。

しかし、橋は揺れている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:55:04.55 ID:vAmHYC7AO<>
一方通行「こンな話知ってるか? 何処だかの世界トップクラスの大きさを誇る巨大な橋が、風速二十メートルだかの風で揺れて崩落したらしい」

一方通行「たった風速二十メートルだァ。台風にも劣る微弱な風ごときが世界クラスの橋を破壊するなンて驚きだよなァ? っつか、フツーじゃ考えられねェ」

ステイルは一方通行の話など聞かず、橋を下りるため走り出す。

一方通行「でもよォ。あるンだな、これが。弱い風が大きな橋を崩壊させる方法が」

ステイルは何とか橋から飛び下りた。

しかし、今更ながら思い出す。あの橋の上には大勢の人間がいる。


一方通行「なァ、オマエ。共振って言葉ぐれェ、聞いた事あるよなァ?」


直後、ゴールデンボールブリッジが崩壊した。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 21:58:35.22 ID:vAmHYC7AO<>
ドシャアアアッ!! と大きな音を立て、橋は根本から崩れ落ちる。

木の破片が空中に散らばる中、ちらほらと人間らしき姿が見えた。

ステイル「……ッ!!」

ステイルは直ぐさま助けに向かおうとするが、もう遅い。

ステイル「くそ……!!」

一方通行「……はは、」

ステイル「っ!」

橋の破片と大勢の人間が川に飛び込む光景を前にして、笑っている人間がいた。

一方通行「ははハハハひひひあひゃヒヒあははははははははッ!!」

一方通行「滑稽だねェ!! チンケな橋でイキがって群がってた奴らが、今度は川に飛び込んで山を作ってやがる! 凡人どもにはお似合いの姿だろうがなァ!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:01:35.75 ID:vAmHYC7AO<>
ステイル「……一方通行ぁあああああ!!!」

ステイルは一方通行へ向かって走り出す。

イノケンティウス「ステイル!?」

一方通行「……!」

ステイルは一方通行との距離を一気に詰め、その拳を振り上げる。

ステイル「う、おおおおおおおっ!!」

だが、一方通行はそれをスルリとかわす。

ステイル「……っ!?」

そして右足でステイルの腹を蹴り上げた。

ステイル「ぐば、ぁ……ッ!?」

一方通行「芳川が贈ってきた『ランニングシューズ』が役に立ったみてェだな」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:04:27.61 ID:vAmHYC7AO<>
ランニングシューズとは最新型のシューズで、側面に付いているボタンを押すとダッシュするという機能を持つ。

その機能を使い、一方通行はいとも簡単にステイルの攻撃をかわしたのだ。

ステイル「がっは……!!」

一方通行「トレーナーならポケモンでかかって来いよ、格下」

イノケンティウス「大丈夫か、ステイル!?」

イノケンティウスがステイルに駆け寄る。

ステイル「……平気だ。蹴りは浅かったからね」

イノケンティウス「なんで一方通行が?」

ステイル「偶然会って、成り行きでバトルになったわけだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:07:24.65 ID:vAmHYC7AO<>
一方通行「ゴチャゴチャ言ってンじゃねェよ。四年ぶりのバトルだ、十分と腕を上げてきたンだろうなァ?」

ステイル「それは戦う中で君が確かめてくれ。……行くぞ、イノケンティウス」

ステイル「何にしても、四年前の借りをここで返せるんだ」

イノケンティウス「そうだな……。よし、乗ったぜ」

ステイル「行け、イノケンティウス!」

イノケンティウス「おうよ!」

イノケンティウスが走り出す。

一方通行「ソーナンスう!」

ソーナンス「ソーナンス!」

ステイル「“ほのおのキバ”だ!」

イノケンティウスの牙に炎が纏う。

イノケンティウスはその炎の牙をソーナンスの頭に突き付けた。

一方通行「……だからよォ、ソーナンスの能力を忘れたンかっつの」

イノケンティウスの首がガクンと後ろへ反った。

イノケンティウス「……ッ!!」

イノケンティウスが地に落ちる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:10:21.66 ID:vAmHYC7AO<>
ステイル「“カウンター”か」

ソーナンスの技、カウンター。それは相手の物理攻撃を跳ね返すというものだ。今のイノケンティウスの炎の牙はこれを使われて、跳ね返された。

ミラーコートという特殊攻撃を跳ね返す技もソーナンスは使う事が出来る。イノケンティウスの火炎放射を跳ね返したのがこれだ。

カウンターとミラーコート。この二つの技を駆使して、ソーナンスは全ての物理・特殊攻撃を跳ね返す事が出来る。

そう言うと、ソーナンスというポケモンは最強のポケモンなんじゃないかと思う人もいる。しかし、どんなポケモンにも欠点がある。

例えば、防御に優れているイワークは対して攻撃力が低く、特殊攻撃に弱い。
ゴルダックというポケモンは能力のバランスはいいが、突出したものがない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:14:53.15 ID:vAmHYC7AO<>
ソーナンスにもそのような欠点があるのだ。

それは、自ら攻撃ができないことである。

カウンターとミラーコートを除けば、ソーナンスが覚えられる技は限られ、その中に攻撃技はない。つまり、相手が攻撃するまでは何もできない。まあそれが『がまんポケモンたる所以』なのだが。

相手の攻撃を跳ね返す、という能力と引き換えに自ら攻撃する手段を失ったポケモンがソーナンスである。

一方通行「……だがよォ、」

一方通行は言う。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:18:11.58 ID:vAmHYC7AO<>

一方通行「その自ら攻撃、ってのが出来たらどうなるンだろうな?」


ソーナンスの周りに風が吹き荒れる。

「す、」

ソーナンスが腕を上げると、風は上へと吹く方向を変える。

「すさ、」

ソーナンスが腕を横に振るうと風も横に。ソーナンスが腕を下ろすと風も下に。ソーナンスの腕の動きに従い、風は吹いている。

見れば分かる。風は明らかにソーナンスに操られている。

「すさし、」

ソーナンスの能力は相手の攻撃を跳ね返すものだ。自ら攻撃は出来ない。

一方通行「確かに自分から攻撃はできねェ。だが、この能力を応用すると……」

「すさしせそささしすせししそささしすそそすせせせそしすさすせせそさすせしさそせししすすすししさしすそすすせすさしすそせすせすしすしそしさささ――――――ッ!!」

轟ッ!! と風の流れが渦を巻く。

イノケンティウス「ぐおっ……!!」

暴風がイノケンティウスにぶち当たった。

イノケンティウスは耐え切れず、十メートルほど後ろへ飛ばされる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:23:05.62 ID:vAmHYC7AO<>
ステイル「……!!」

一方通行「どうしたァ? ポッポが豆鉄砲食ったような顔してよォ」

ステイルは前に一方通行と戦ったことがある。負けはしたが、一方通行の戦術はある程度把握しているつもりだった。しかし、

一方通行「あれから四年も経ってンだ。そりゃァあの時使えなかった力も使えるようになンだろ」

そう、一方通行は成長していた。より強く、最強に。

ステイル(あの時とは違う力……!)

一方通行「応用っつっただろ? この風を操る力は“カウンター”と“ミラーコート”の賜物だ」

ソーナンスのカウンターとミラーコートは相手の物理・特殊攻撃を跳ね返す技だ。

それを相手の攻撃ではなく、他のものへ向けて使ったらどうなるだろうか。

一方通行「例えば、周りに吹いている風……とかなァ?」

ステイル「……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:26:58.41 ID:vAmHYC7AO<>
ソーナンスは自分に向かって吹く風をカウンターとミラーコートで跳ね返していたのだ。

ステイル「……だが、それだと『跳ね返すだけ』で風自体は操れないはずだ」

一方通行「あァ、そうだな。確かに普通のソーナンスには出来ねェ。だが……俺のソーナンスには出来る」

ソーナンス「すさし――ッ!!」

再び強風が吹く。

イノケンティウス「ぐっ……!」

ステイル「イノケンティウス! “こうそくいどう”だ!」

イノケンティウス「! 分かった!」

イノケンティウスが走り出す。

風の流れに逆らわず、横に跳ぶ。そこには風が届かない。

ソーナンス「っ!」

ステイル「君のソーナンスが特別なポケモンだろうと、生き物である限り体力に限界がある。力を使う度に体力は消耗するんだ」

ステイル「“カウンター”と“ミラーコート”の応用……その風を操る力なら、尚更だ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/28(金) 22:28:46.98 ID:vAmHYC7AO<>
イノケンティウスとソーナンスの距離は五メートル。

イノケンティウス(この距離なら“かえんほうしゃ”の射程圏内だ!)

ステイル「“かえんほうしゃ”!!」

イノケンティウス「ウオオオオオオオオオン!!!」

イノケンティウスの放った業火がソーナンスへと向かい、空気を焼き裂く。

業火はソーナンスを取り囲んだ。

イノケンティウスの炎は相手を焼き尽くすまで消えることがない不滅の炎だ。その中にいるソーナンスは無事では済まないだろう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/28(金) 22:29:34.80 ID:vAmHYC7AO<> 中途半端ですが今日はここまでです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2011/10/29(土) 12:47:54.56 ID:PVl7xR9+0<> 今来た
遅くなったけど乙

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/10/30(日) 17:54:56.73 ID:+lYfmVgVo<> うんこまんこちんこ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2011/10/30(日) 18:36:12.31 ID:Olhx1DHAO<> >>362
赤毛のステイルさんが垢抜けてないとはこれいかにw <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:12:28.06 ID:PbD853nAO<>
ステイルは炎の先にいる一方通行を見た。


一方通行は笑っている。


ステイル「……っ!?」

一方通行「あはギャハっ! 愉快だねェ!! オマエ、こンな弱火で俺のソーナンスを燃やせるとでも思ったンかよ!?」

ソーナンス「すさ、」

一方通行「甘ェンだよ、格下がァ!」

ソーナンス「すすししさしすそすすしさささすさしすささ――――ッ!!」

ソーナンスの周囲の炎が消し飛んだ。風が炎を消し去った。

ステイル「なにっ!?」

一方通行「何度も言わせンなよォ! 俺のソーナンスはそンじょそこらのソーナンスとは、格が違ェンだっつのっ!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:14:28.39 ID:PbD853nAO<>
ソーナンスが腕を前へ突き出す。

それに従い、風はソーナンスの前方、イノケンティウスの方へと進行方向を変える。

イノケンティウス「ぐぉあああっ……!?」

三度、イノケンティウスに風が襲う。

今度は真正面から食らって、避けられない。

ステイル「イノケンティウス……!!」

一方通行「ま、それだけが理由じゃねェ。避けられねェのはソーナンスの特性『かげふみ』のせいでもある」

影踏み。その効果は、『相手は決して逃げられない』。

イノケンティウス「っ!?」

自分の体が地面に縫い付けられているような感覚がして、イノケンティウスは思わず下を見てギョッとする。

イノケンティウスの影がソーナンスの方へ伸びて、それをソーナンスが踏んでいる。

どういう原理なのか、恐らくそのせいでイノケンティウスは身動きがとれない。

ステイル(これも新しい力か……!)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:15:48.22 ID:PbD853nAO<>
一方通行「……」

ソーナンス「すさ――ッ!!」

風がより強くなる。

ソーナンスがイノケンティウスの影から足を離すと、イノケンティウスが吹き飛んだ。

イノケンティウス「ぅおあああああああっ!?」

ステイル「っ! イノケンティウス!!」

ステイルがイノケンティウスへ駆け寄る。

それを見て一方通行は舌打ちし、

一方通行「……どういう事だ?」

ステイル「!」

一方通行から戦意が消えていた。

一方通行「確かに俺は地方最強で、俺に敵う奴はいねェ。オマエに俺と対等に渡り合える力を求めるのも野暮ってモンだ。だが……」

一方通行の目が多大な失望感に染まる。


一方通行「四年も経って、全く強くなってないっつうのはどういう事だ?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:18:10.19 ID:PbD853nAO<>
カチッ、と一方通行のランニングシューズのスイッチが入る。

一方通行は風を切り、あっという間にステイル達の前に現れる。

ステイル「……ッ!」

一方通行「あァ!?」

一方通行はランニングシューズの加速機能で威力が増した蹴りをステイルの顔面に叩き込む。

ステイル「ご、ふ……っ!?」

金属バットで殴られたような衝撃にステイルの脳は揺れ、ステイルは後ろへ跳び、頭から地面に崩れ落ちた。

一方通行「あひひアハハひひははははははははッ!」

一方通行は止まらない。今度はイノケンティウスの頭を狙い、足を振り上げる。

イノケンティウス「…………っ!」

イノケンティウスは思わず目を瞑る。が、いつまで経っても頭に衝撃は来ない。

イノケンティウス「……?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:21:39.37 ID:PbD853nAO<>
不思議に思い、目を開けると、

一方通行「くっだらねェ」

一方通行は憎らしくイノケンティウスを睨みつけていた。

一方通行「……チッ、興醒めだ」

一方通行はステイルの方へ顔を向け、

一方通行「じゃあな、格下。まァ、暇つぶしくれェにはなったンじゃねェの」

一方通行は橋の方へ歩いていく。


ステイル「く……っ!」

ステイルは地面に突っ伏したまま、歯を食いしばる。

――最強。その言葉が胸に染みる。

やはり、自分には勝てないのか。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:24:07.61 ID:PbD853nAO<>
ステイル「くそ……ッ」

ステイルはより強く歯を噛み締める。

すると、何処かからビチャビチャと水の音がした。

ステイル「……?」

「おうい! ステイルやないか!?」

そう言うのは、

ステイル「君は、マサキ!?」

マサキ。ポケモンマニアでポケモン転送システムにも通ずる人物だ。

ステイルとは四年前にこのハナダで知り合った。

マサキ「どないしたんや、ステイル!?」

ステイル「少し、ね……」

マサキ「……さっきの橋を壊した少年か?」

ステイル「! 何故君がそれを?」

マサキ「ワイも巻き込まれたんや。ちょうど通り掛かったところ、いきなり橋が壊れてな。落ちる寸前に見たんが、白髪の少年とお前さんが対峙しとるところだったんや」

ステイル「ということは、君も川に落ちたのか!?」

マサキ「あ、ああ。そやけど」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:27:00.97 ID:PbD853nAO<>
ステイル「一体どうやって川から上がって……?」

マサキ「それは、こいつのおかげや!」

マサキの後ろにいたから見えなかったが、そこにはポケモンがいた。

「ココココっ!」

ステイル「! コイキングか!」

マサキ「そや。こいつの“はねる”がなかったら、今頃溺れてたでー。おおきにな、コイキング」

マサキはコイキングの頭を撫でてやる。

コイキング「コココっ」

マサキ「それよりも、や。あの少年はどこ行ったんや?」

ステイル「……帰ったさ。僕じゃあ相手にならないみたいでね」

マサキ「そ、そうか」

ステイルはそう言うが、マサキにはステイルが満足していないように見えた。

マサキ「な、なあステイル……」



「それでいいのかよ?」



すぐ近くから、そんな声が聞こえた。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:29:41.12 ID:PbD853nAO<>
ステイル「!」

イノケンティウス「お前はそれでいいのかよ、ステイル?」

ステイル「イノケンティウス……」

イノケンティウス「俺の力が足りなかったのは認める。……だが、お前はこの結果に満足しているのかよ?」

ステイル「負けたのは君のせいじゃない。僕が君の実力を引き出せなかった……それだけだよ」

イノケンティウス「そんな訳あるかよ! 今までどんな困難も乗り越えてきたんだ、お前と!」

ステイルが何か言おうとするが、イノケンティウスはそれを許さない。

イノケンティウス「それに、負けてねえッ! 相手が最強だろうが無敵だろうが、俺達なら勝てる!!」

イノケンティウス「水臭いこと言ってんじゃねえ! 何年お前といると思ってんだ。俺は知ってるんだぞ、お前のこの旅の目的の一つが『一方通行に勝つこと』だってよ!!」

ステイル「……!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:33:05.56 ID:PbD853nAO<>
イノケンティウス「それをここで諦めるのかよ!? お前はそれでいいのか、ステイル!!」

ステイル「……、僕は…………」

何がポケモンのことを一番に優先する、だとステイルは思う。

パートナーであり、幼なじみでもあるイノケンティウスの気持ちも理解していなかった。

自分の事しか考えていなかった。

ステイル(いや……、)



ステイル(その自分の気持ちも貫き通せていないじゃないか……!)



ステイルは拳を握る。

ゴギリ、と指輪が指に食い込み激痛が走る。しかしステイルはそれをものともしない。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:35:04.33 ID:PbD853nAO<>
コロコロと服のポケットからモンスターボールが転がり落ちた。

ステイル「!」

モンスターボールは二つある。中にいるのはゼニガメとズバット。新たな仲間達。

そのどちらも、自分から転がってきた。

ステイル「……、そうか」

ステイルはモンスターボールを拾い上げる。

『ポケモンの欠点はトレーナーが、トレーナーの欠点はポケモンが、互いに補い合う』

ステイル「忘れるところだった。大切なことを」

イノケンティウスだけじゃない。ゼニガメ、ズバット。多くの仲間が自分には付いている。

ステイル「新しい仲間と一緒に……新しい戦術で……もちろん、自分で考えた方法で!」



ステイル「僕は最強(チャンピオン)を超える!」



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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:37:34.85 ID:PbD853nAO<>

マサキ「高らかに宣言するんはいいんやけど……」

ステイル「マサキ、君に頼みがあるんだ」

マサキ「な、なんや?」

ステイル「君のコイキングで川に落ちた人達を助けてほしいんだ」

マサキ「お安いこっちゃ! 最初からその気やったしな!」

ステイル「それと」

マサキ「?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:40:01.03 ID:PbD853nAO<>
***

今はない橋の前で一方通行はため息をつく。

一方通行(そういやァ、橋がねェと通れねェンだったか)

ソーナンス「ソーナンス」

ランニングシューズで空中を翔けるか、ソーナンスの操る風に乗って渡るか、一方通行が数秒間考えていると、



「待つんだ、一方通行」



呼ぶ声に一方通行は振り返る。

一方通行「あァ?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:42:10.57 ID:PbD853nAO<>
そこにいたのは、先程完膚なきまでに潰してやったトレーナー、ステイル=マグヌスとその相棒である喋るガーディ、イノケンティウスだった。

ステイル「このまま帰しはしないよ」

言葉に、一方通行は鼻で笑う。

一方通行「……はン。テメェにもう用はねェよ、格下」

一方通行はしゃがみ、ランニングシューズのスイッチを押そうとするが、



ステイル「止まれ、三下」



直後、水が飛んできた。

一方通行「!」

すぐにソーナンスが前に出てミラーコートで跳ね返すのだが、一方通行は納得がいかない。

一方通行(“みずでっぽう”だァ?)

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:47:32.87 ID:PbD853nAO<>
一方通行の記憶が正しいなら、ステイルはイノケンティウス以外のポケモンを所持していなかった。

しかし、一方通行の目には三匹のポケモンが見える。

右からガーディ、ゼニガメ、ズバット。

その三匹の後ろでステイルは言う。



ステイル「新たな仲間とともに、僕は君に勝つ」



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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:49:16.21 ID:PbD853nAO<>
「……ははは、」

一方通行は笑う。

「あははぎゃはあはははひひひぎゃははあはアハあははははッ!!」

狂笑。

よだれでもこぼしそうなほどバックリと口を開けた笑み。


一方通行「前言撤回だァ…………」



一方通行「最っ高に面白ェぞ、オマエ!」



言い終わると、一方通行は構える。ステイルも同様だ。

三度、二人がぶつかり合う。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:51:31.15 ID:PbD853nAO<>
先に仕掛けたのはステイルだ。

イノケンティウス「ウオオオオオン!!」

イノケンティウスが火を放つ。

ソーナンス「ソーナンス!」

ミラーコートを使い、ソーナンスはイノケンティウスの攻撃を跳ね返した。

一見先程のバトルと同じだが、

一方通行(違ェ。こいつァ……)

ドオオオンッ! とソーナンスの足元の地面が崩れた。

ソーナンス「ソーナンスっ!?」

一方通行「チッ!」

一方通行が周囲を見渡す。イノケンティウスの姿がない。

一方通行「“あなをほる”か」

ステイル「よく分かったね」

イノケンティウスがソーナンスの周りの地面を掘り進み、大きな穴を開けたのだ。

ステイル「まずは足場を崩す」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:53:20.99 ID:PbD853nAO<>
穴の直径は三メートルで、深さは二メートルほど。そう早くは抜け出すことが出来ない。

ソーナンス「ソーナンス……」

地面からイノケンティウスが顔を出し、

イノケンティウス「後は任せたぜ、お前ら!」

ゼニガメが攻撃の体勢に入る。

一方通行「あァ!?」

ステイル「“みずでっぽう”だ!」

ゼニガメ「ぜにがああっ!!」

ゼニガメが穴へ向かって、水鉄砲を繰り出した。

ソーナンス「……っ!」

みるみるうちに、穴が水で埋められていく。

一方通行「……!!」

やがて穴に完全に水が貯まり、ソーナンスが生き埋めにされた。

ステイル「やはり君のソーナンスも生き物だ。呼吸が出来なくなれば窒息死、水中で溺死も有り得る」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:55:55.27 ID:PbD853nAO<>
水面に泡が浮いてこない。それはすなわち、ソーナンスが呼吸をしていないことを意味する。

ステイル「そろそろ限界のようだね。ズバット、“ちょうおんぱ”!」

ズバット「ズバーッ!」

今度は色違いのズバットが超音波を穴に向けて発する。

イノケンティウスが相手の足場を崩し、ゼニガメが相手の動きを封じて、ズバットがトドメを刺す。

これは三匹のコンビネーションによるもの。三匹がいないと絶対に成立しない。イノケンティウスだけでは出来なかった戦い方。

新たな仲間達による、新たな戦法。

ステイル(僕はこの三匹とともに、自分だけの戦い方で勝つ!)

ステイル「いけええええええええええええッ!!」

超音波により、穴の水が打ち上げられた。

水深二メートルはあった穴が空っぽになる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 20:58:16.22 ID:PbD853nAO<>
だが、穴から飛び出したのは大量の水だけだった。

ステイル「! ソーナンスはどこに!?」

キョロキョロと辺りを捜すステイルに対し、一方通行は喜々として笑う。

一方通行「イイねイイね最っ高だねェ!」

それは誕生日にプレゼントを貰った子供のように、

一方通行「ちゃンと俺と張り合ってンじゃン! 正直今のは俺も焦っちまったなァ。確かにソーナンスは生き物で、酸素が足りなくなったり呼吸困難に陥ったら最悪死に至る。まァ、最強である俺のソーナンスの唯一の弱点を突いてきたンだな。でも残念」

ステイルは穴の中をチラリと覗く。そこにはソーナンスがいた。

ソーナンスは何事もなかったかのように、穴の中で立っている。しかも、その体には(水中にいたにも関わらず)水の一滴すら付いていない。

一方通行「簡単に言えば、風を操れるっつうことは、水も操れるっつうワケだ」

ソーナンスは水を反射し操り、呼吸していられる空間を作っていたのだ。水面に泡が浮いてこないのも当たり前だ。
故に、ズバットの超音波で水だけが打ち上げられた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:00:05.13 ID:PbD853nAO<>
ステイル「……ッ!!」

ステイルは絶句する。

最強。その言葉が脳裏に過ぎる。


新しい仲間が加わった戦法をもってしても、一方通行には敵わない。


しかし、そんな考えはすぐに吹き飛ぶ。

ステイルは自分のポケモン達を見る。

イノケンティウスもゼニガメもズバットも諦めていない。むしろ勝つ気で、次の指示を待っている。

ステイル(……そうだ)

今一度、ステイルは意志を固め、

ステイル(僕はこの仲間達を信じる!)

ステイルは一方通行を見据える。

一方通行「はは、イイねェ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:02:05.66 ID:PbD853nAO<>
ソーナンス「ソーナンス」

ソーナンスがようやく穴から脱出した。

一方通行「こンな面白ェバトルは久しぶりだァ。感謝称賛してやるよ。だが、」


一方通行「勝つのは俺だ」


グチャッ、と何かを踏む音がした。

イノケンティウス「こいつぁ……っ!」

イノケンティウスは身動きがとれない。ゼニガメとズバットも同様だ。

ソーナンスの足元には三つの黒い影が伸びている。

一方通行「“かげふみ”。三匹相手にも有効ゥ」

一方通行の目がギラリと輝く。

一方通行「さァて、タノシイタノシイポケモンバトルもこれで終わりだ」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:04:15.38 ID:PbD853nAO<>
***

時を同じくして、マサキは今はなきゴールデンボールブリッジの下にある川に来ていた。

マサキ「派手にやらかしてくれたもんやなあ。ワイもさっきまではこの中にいたんやけど」

マサキがここに来た目的は、川に落ちたトレーナー達の救助である。

マサキ「頼むで、コイキング」

コイキング「コココっ!」

コイキングの技、跳ねる。普段は意味のない技もこういう時は役に立つ。

コイキング「コココーっ!」

溺れているトレーナー達をコイキングは跳ねるで岸まで引き上げた。

マサキ「ご苦労さん」

マサキはコイキングの頭を撫でる。

コイキング「コココっ!」

マサキ「せや。もう一つ頼まれたんやった。コイキング、もうひと頑張りや!」

コイキング「コココっ!」

コイキングは川に飛び込む。

マサキ「“とびはねる”や!」

コイキング「コココーっ!!」

コイキングが跳びはねた。川の水もそれと一緒に真上へ打ち上がる。

マサキ(それにしても、『出来るだけ高く川の水を打ち上げてくれ』、なんて……ステイルはどないしてこんなことを頼んだんや?)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:06:34.25 ID:PbD853nAO<>
***

一方通行「アッハァ!!」

ソーナンス「すさし――ッ!!」

轟ッ!! と風が渦を巻く。

強風が動けないイノケンティウス達を一方的に攻撃する。

イノケンティウス「くう……っ!」

ゼニガメ「ぜにいっ……!」

ズバット「ズバ……!」

ステイル「イノケンティウス! ゼニガメ! ズバット!」

一方通行「ンンーう? 流石にこンな微風じゃァ倒れねェかァ?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:08:13.76 ID:PbD853nAO<>
吹く風がより強くなる。強風から暴風へと。

ソーナンス「さしすせすさししせすさささ――――ッ!!」

暴風は地面を崩し、砂利を巻き込み、それをイノケンティウス達へぶつける。

ステイル「く……ッ!!」

一方通行「ハッハァ! ンだァ? その不服そうな顔はよォ!!」

一方通行は獰猛に笑う。

一方通行「オマエ、もしかしてカトウとしてる? そりゃァそうだわなァ。そうじゃなきゃ、こンな戦いは出来ねェ。けどよォ、身の程を知れよ格下」

一方通行「視力検査ってなァ、二・○までしか測れねェだろ? それと同じだ。今の時点で最上の位がチャンピオンまでしかねェから、仕方なく俺はここに甘ンじてるだけなンだっつうの」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:10:28.45 ID:PbD853nAO<>
一方通行「地方最強にもなれなかったテメェと俺じゃあ、何もかもが違ェンだよ三下がァ!!」

そう吠える一方通行の声はステイルには届いていない。

ステイル「……」

ステイルはソーナンスを見つめている。いや、観察している。

ある違和感が、ステイルの顔をしかめさせる。

ステイル(おかしいと思っていた)

何故今まで気づかなかったのか、とステイルは思う。

最強のソーナンス。普通のソーナンスには出来ない『自ら攻撃すること』が出来て、『疲れを知らない』、『相手の動きを封じる』能力を持つ、完全無欠の特別なソーナンス。

だが、本当にそれは『特別』で済む存在なのだろうか。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:13:08.56 ID:PbD853nAO<>
例えば、高い防御力を持つイワークが攻撃力も高くなり、ゴルダックのバランスのいい能力に加えて突出した能力が出来たら、それは『特別』と言えるのか。そのポケモンの『才能』で収まる話だろうか。

違う。

それはもはや、『特別』とも『才能』とも言えない。

言うならば、『人為的なもの』。

ステイル(一方通行のソーナンスの才能は確かだ。だが……)

その『最強』は幻だ。

研究者のステイルの目には、そう見えた。

ステイル(あのソーナンスは何か、自身の能力を高める道具を使っているんだ)

今思えば、ソーナンスの動きは最強の威力の攻撃を持つ割に鈍い。

ステイル(“きょうせいギブス”、と言ったところか)

素早さを下げる代わりに全能力を高める道具、恐らくそんなもの。

そう聞くとにわかに信じ難い話だが、何も有り得ないことではない。ステイルはそんな『奇妙な道具を作る組織』を知っている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:14:58.51 ID:PbD853nAO<>
一方通行「ナニ考え込ンでンだァ? 今更ナニしても無駄だっつうの!」

ソーナンスが影を踏む足に力を入れる。


イノケンティウスはもう口も利けなくなっていた。

イノケンティウス(…………)

そんな中で、イノケンティウスは思う。

イノケンティウス(『四年も経って、全く強くなってない』、ね……)

ついに言葉も発することが出来なくなった状況で、それでもイノケンティウスは笑う。

イノケンティウス(俺は知ってるんだよ。何年あいつと一緒にいると思ってんだ)

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:17:07.54 ID:PbD853nAO<>
ソーナンス「さしせしすさしせそそささしささ――――ッ!!」

ソーナンスが両腕を上げ、最後の攻撃に入る。

一方通行「これで終わりだ。まァ、オマエはよくやったよ」

ソーナンスが手を下ろしたら、攻撃が放たれ、イノケンティウス達が倒れる。

一方通行「オマエの負けだ」

一方通行は笑う。バックリと大きく口が裂かれた満面の笑みで



その口元に一滴の水が垂れた。



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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:20:59.37 ID:PbD853nAO<>
一方通行「あ?」

一方通行が視線を横にやると、ちょうどゴールデンボールブリッジがあったところで一匹のコイキングがジタバタと跳びはねていた。

それに川の水も巻き込まれていて、辺りに水を撒き散らせる。

頭やら服やらを濡らされた一方通行は、

一方通行「くっだらねェ」

本当につまらなそうに吐き捨て、コイキングから視線を外して再度バトルの方へ目を向けるが、そこで有り得ない光景を目撃する。


ソーナンスがずぶ濡れで倒れていた。


一方通行「あ……?」

一方通行はそれを見て理解するのに数秒かかった。

そして、改めて驚愕する。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:22:12.88 ID:PbD853nAO<>
一方通行「なにが……?」

この状況を信じられない一方通行に、ステイルは言う。

ステイル「君はソーナンスの習性を知っているかな」


『ソーナンス、がまんポケモン。ひたすら がまんする ポケモンだが しっぽを こうげきされる ことだけは がまん できない』


そう、ステイルはこの四年間何もしていなかったわけではない。

イノケンティウスは知っている、ステイルが一方通行の手持ちであるソーナンスについて調べていたことを。

ステイル「その敏感な尻尾、ソーナンスにとっては最大の弱点だ」

一方通行「ナニ言ってやがる? 尻尾に触れることもできねェはず……、!!」

言う前に気付いたのか、一方通行は固まる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:24:08.07 ID:PbD853nAO<>
ステイルは一方通行の話を引き継ぎ、

ステイル「……そう。“かげふみ”で影を踏んでいたのは、その黒い尻尾だ。尻尾が直接影を踏む時だけは、尻尾に触れることができる。そこだけ“カウンター”と“ミラーコート”の息がかからなくなるからね」

ソーナンスの尻尾を見ると、しっかりと水に濡れていた。

ステイル「ま、普通のソーナンスなら水がかかった程度で倒れないだろうが、君のソーナンスは違うんだろう。何せ、体を変な道具に任せてるんだからね」

一方通行「テメェ……!」

ステイル「……しかし、流石は『がまんポケモン』と言われるだけある」

ソーナンスの体力は多分限界だったのだろう。その体力すら道具で高めていたものの、やはり水をかける程度で倒れてしまうほどまで衰弱しきっていた。

ソーナンスはもう立ち上がれない。

影踏みが解かれ、イノケンティウス達が動き始める。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:26:52.53 ID:PbD853nAO<>
一方通行「ははは……ふざけンな!」

イノケンティウスがまず穴を掘り、相手の足元を崩す。

一方通行「こンな事があってたまるかよ、俺を誰だと思ってやがる……」

次にゼニガメがその穴に水を貯めて、相手の動きを封じる。

一方通行「ただ水をかけた程度でやられるだァ……?」

最後にズバットが水溜まりに超音波を発し、トドメを刺す。

一方通行「天下の地方最強だぞ、くそったれがァあああああああッッ!!!」


三匹のコンビネーション。

相手の足場を崩すイノケンティウス、動きを封じるゼニガメ、トドメを刺すズバット。

そして、指示を出すステイル。

一人と三匹のコンビネーション。

誰か一人でも抜けたら絶対に出来ない戦法。

新たな仲間とともに新たな戦法で、ステイルは四年越しの勝負に終止符を打った。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:29:14.20 ID:PbD853nAO<>
ソーナンスは高く打ち上げられ、そのまま地面に落ちて転がっていく。

一方通行「……ッ!」

一方通行はソーナンスに巻き込まれ、ゴロゴロと地面を転がり、やがて止まった。

カクンと首を曲げ、一方通行は気絶した。

ステイル「……」

ステイル(彼も僕と同じか)

一方通行は実質カントー最強のトレーナーだ。

そして、当時一度も負けたことがなかったステイルを敗り、それからチャンピオンの座を守り続けている。

ステイル(そう、彼も一度も負けたことがなかった)

一方通行に負けるまではステイルも無敗だった。

あの時、ステイルは驕っていたかもしれない。

ステイル(『最強』を手にして、ね。彼もそうだろう)

だが、今は違う。

ステイルは一方通行とのバトルで敗北を知った。

ステイル「だからこそ、かな」

ステイルは敗北を知り、それを乗り越えた。

そして、ステイルには最強の相棒(パートナー)と仲間達がいる。

ステイル「僕と君の違いはそれだけだよ」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:31:46.41 ID:PbD853nAO<>
「おおーい、ステイルー!」

そう叫ぶのはマサキだ。

川に落ちたトレーナー達の救助を終え、帰ってきたみたいだ。

早々に倒れている一方通行を見てマサキは、

マサキ「決着……ついたんか?」

ステイル「ああ」

マサキ「……にしても、」

マサキは一方通行を一瞥して、

マサキ「こいつをどうするかやな。橋を壊したんや。とりあえず警察にしょっぴいて……」

マサキはプンスカ怒っている。

しかしステイルは気に留めず、その場を去ろうとする。

マサキ「ま、待てやステイル!」

マサキはステイルの肩を掴み、

マサキ「こいつをこのままにするんか!?」

ステイル「……彼なら大丈夫だろう」

マサキ「なっ……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:34:00.58 ID:PbD853nAO<>
ステイルはイノケンティウスとゼニガメをボールに戻し、ズバットの足を掴む。

ステイル(彼は僕よりもずっと強い。この敗北で、きっと彼は変われるだろう。かつての僕がそうだったようにね)

ステイル(僕は四年もかかったが、彼なら……)

ズバットが羽ばたき、ステイルの体が浮く。

マサキ「お、おい! ステイル!」

ステイル「コイキングの事、礼を言っておくよ。でも彼を警察に突き出さないでほしい」

マサキ「なんでや!?」

ステイル「さあ。何となくだよ」

ステイルが言い終わると、ズバットは飛び上がった。



マサキ「……まったく」

ついにステイルの姿は見えなくなった。

マサキ「でもまあ、ステイルは四年前にワイがポケモンと入れ替わってもうたところを助けてくれたし……」

マサキ「恩人の頼み事は聞くもんや」

マサキは一方通行とソーナンスに近寄る。

マサキ(とりあえずはワイの家で看病して……、ん?)

ソーナンスの傍に小さな機械が転がっているのが見えた。

マサキはそれを拾い上げるが、

マサキ(なんや、これ?)

その機械からブスブスと煙が漏れている。

マサキ(ま、ええか。これも一緒に持っていこうっと)


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/10/31(月) 21:39:30.13 ID:PbD853nAO<>
***

ステイルはゴールデンボールブリッジが架けてあった川の上空を飛んでいた。

ステイル「……」

その口には煙草がくわえられている。

本来なら勝利の余韻に浸りたいところなのだが、そういう訳にもいかなかった。

ステイルは先程の違和感を思い出す。

『無理矢理ポケモンの能力を高める道具』、『ポケモンの成長を科学的に促す薬』。

両者に共通するのは、人間の勝手な都合の為に、ポケモンに害をなすということだ。

ステイルは奥歯を噛み締めるより拳を握るより何をするよりも早く、ある組織の名前を心に浮かべた。

ステイル(ロケット団、か)

その名前を強く、胸に刻み込む。




第九章・完


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◆1.3Lm5W0kc<><>2011/10/31(月) 21:40:28.75 ID:PbD853nAO<> 第九章終わり

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<><>2011/10/31(月) 23:21:30.57 ID:MbYZQBqk0<> これルール無視じゃん
納得いかねえー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2011/11/01(火) 00:08:36.11 ID:/bKNwAWoo<> 実際コンビネーションっていうか一対多数でボコッただけだしな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 11:12:18.41 ID:aMw67wBIO<> 3匹を素早く入れ替えてたのさ!



無理があるな

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 13:17:13.52 ID:s28R1Ajvo<> イノケンノのセリフが上条さんかと
まぁアレだろ。原作でも上条美琴妹で戦ってたし

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 18:13:24.55 ID:e+w0aucIO<> トリプルバトルで一方通行は1体しか持ってなかったんだよ、たぶん。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/01(火) 20:09:49.12 ID:fB9yL2VDO<> つーかこれソーナンス倒したのはコイキングじゃね

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(長崎県)<>sage<>2011/11/01(火) 22:16:34.90 ID:ACgWB/V+o<> と言うことは今ごろコイキングはギャラドスに……?

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(長崎県)<>sage<>2011/11/01(火) 22:34:02.74 ID:ACgWB/V+o<> と言うことは今ごろコイキングはギャラドスに……?

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(鳥取県)<>sage<>2011/11/06(日) 11:58:39.92 ID:BsOUaNWKo<> 待ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/07(月) 04:43:41.67 ID:8n50I94nP<> ルール無視というか、ポケスペベースなんだろ <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:18:13.31 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「ご苦労さま、ズバット」

ステイルはズバットをボールへ戻す。

ズバットに空を飛んでもらい、ようやくハナダシティへ戻ってきたところだ。

ステイル「もういい時間かな」

ステイルはゴールデンボールブリッジを訪れる前に、ハナダシティからクチバシティへ繋ぐ唯一の通路である民家に行った。

そこは泥棒に遭い立入禁止になっていて、黄泉川愛穂と名乗る警察官が言うには、「作業が終わるまで少しかかるから、それまでブラブラしてくるといいじゃん」とのこと。

ブラブラし過ぎた気はするが、

ステイル(流石にもう終わっているだろう)

ステイルは民家へと歩き出す。




第十章・ディグダの穴


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:19:57.08 ID:0NTL/yaAO<>
***

黄泉川はまだ民家の前に立っていた。

ステイル「……。おかしいな」

ステイルはとりあえず、素通りしていく訳にもいかないので彼女に話し掛けてみる。

ステイル「まだ終わらないんですか?」

黄泉川「おぉー、やっと来たじゃん! 待ってたじゃんよー」

ステイル「待ってた?」

黄泉川「そうじゃんそうじゃん。仕事は終わったんだけどさ、さっきカエルに似たお医者さんがここに来て、これを君にって」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:21:36.75 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「!」

黄泉川はモンスターボールを差し出した。

ステイル「これは……」

黄泉川「私は特に誰から、とか聞いてないじゃん」

しかし、ステイルには分かった。こんな贈り物、しかも回りくどい渡し方からしてあの少女からだろう。

ステイル「また新しい仲間が増えたね」

黄泉川「? 何か言ったじゃん?」

ステイル「いえ、何も。それでここは通れるんですよね?」

黄泉川「あ、うん、悪いねぇ。お待たせじゃん」

ステイル「はい。それと、モンスターボール」

黄泉川「ん?」

ステイル「ありがとうございました」

黄泉川「ふふん、お安い御用じゃん。じゃあ頑張るじゃんよー!」


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:24:19.49 ID:0NTL/yaAO<>
***

クチバシティ。カントー地方東部に位置する港町だ。町のシンボルカラーは橙。

この町にあるクチバジムをステイル達は訪れたのだが、

ステイル「……」

イノケンティウス「……」

ジムには鍵がかかっていた。

ステイル(この仕打ちも久しぶりだな)

イノケンティウス「はあ……」

ステイル「そう気を落とすなよ、イノケンティウス」

イノケンティウス「そう言うけどな……」

ステイル「ここに来たのも四年ぶりだし、色々と見て回れるいい機会だよ」

イノケンティウス「ま、他にすることもねえしな」


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:26:42.17 ID:0NTL/yaAO<>
***

少女は看板にもたれかけて、唸っている。

「……遅いわ」

「おそーいッ!!」

極度のイライラで、少女の前髪からは青白い火花でも散りそうだ。

「……って、叫んでも変わらないわよね。ストレスが溜まるばっかりで」

彼女の背後には『ディグダの穴』と呼ばれる洞窟がある。

というより、彼女はここで人を待っているのだ。

「しっかし、とは言っても何分待たせる気よー」

少女は、かれこれ二時間もここに立っている。

「もう帰ろうかしら。まあ、そんなわけにもいかないんだけど」

ふと彼女は自分がもたれかけている看板に目を向ける。そこには大きく、『ディグダの穴』と書いてあった。

「『ディグダの穴』ね……。暇つぶしに入るかー」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:28:34.25 ID:0NTL/yaAO<>
***

洞窟を入ってすぐにある梯子を下りて、少女はディグダの穴へたどり着いた。

「うーん、なんか新鮮ねー。平和なところなのに何で誰も立ち寄らないのかしら」

少女は手軽な岩に座り、伸びをする。

ちなみに彼女はポケモントレーナーで、

「……ん?」

服のポケットがブルブルと震動する。中にはモンスターボールが入っている。揺れているのはそれだろう。

少女は呟く。

「私だけこんな堪能してちゃズルイか」

彼女はポケットに手を回し、

「出てきて、ピカチュウ!」

ポン、とモンスターボールが開いて中からポケモンが飛び出した。

ピカチュウ「ピカー!」

「アンタはここに来るの初めてよね」

ピカチュウ「ピッカ!」

ピカチュウは目を輝かせ、初めて見る景色に夢中になっている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:31:27.10 ID:0NTL/yaAO<>
「ふふ、まだまだ子供ねー」

ピカチュウ「ピカピカー!」

あまりに嬉しいのか、ピカチュウのほっぺたからバチバチと火花が散っている。

「あはは、興奮しすぎだっ……」

少女は軽い調子で言うが、突然その口が凍る。

「……て、……」

ピカチュウのすぐ後ろに数多くの影が差している。

ただの物陰なら問題ないが、そうではなく、影は野生ポケモン達のものだ。

ピカチュウ「?」

肝心のピカチュウは気付いていないようで、表情を固めた少女を見てキョトンとしている。

次の瞬間、野生ポケモン達が一斉にピカチュウへと飛び掛かった。

「ピカチュっ……!」

少女は一歩遅れた。助けに行こうにも、間に合わない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:34:32.88 ID:0NTL/yaAO<>

ビュンッ、と少女の横を何かが通り過ぎた。


「!?」

身長二メートルはあるだろう神父服の男が少女の前に立っている。

「まったく、観光に来てみたらこれだよ」

「ちょ、誰よアンタ!?」

少女は男の顔を覗き込む。

すると、(煙草をくわえてはいるが)案外男は幼い顔をしていた。男というより少年、恐らく少女と同じくらいの歳だろう。

「誰でもいいさ。とりあえず今は、君のピカチュウを心配するべきじゃないかな」

「! そうだ、ピカチュウ……!」

野生ポケモン達とピカチュウの距離はもう三メートルもない。

「相手はディグダの群れか。なら、君に決めた!」

少年がモンスターボールを投げる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:36:54.62 ID:0NTL/yaAO<>
ゼニガメ「ぜにがっ!」

「地面タイプには水タイプだ。ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

ゼニガメ「がめーっ!」

ゼニガメが水を放ち、ディグダ達を牽制する。

ディグダ達「……!!」

「ズバット、君の出番だ!」

続いて少年が投げたモンスターボールからはズバットが飛び出した。

その体色は緑、つまりは色違い。体は逆さまを保っている。

ズバット「ズバーッ!」

ディグダ達はゼニガメの攻撃に気をとられ、隙が出来ていた。
それをズバットは見逃さない。

色違いのズバットはディグダ達の頭上を飛び抜けていく。

ディグダ達「っ!」

そして、ディグダ達の中心にいるピカチュウを掴んだ。

ピカチュウ「ピカ!?」

ズバットはピカチュウを連れ、ディグダ達から離れた。

「ゼニガメ、“みずでっぽう”!」

ゼニガメ「ぜにいいいーっ!!」

ゼニガメの最大威力の水鉄砲を恐れ、ディグダ達は地中へと逃げていった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:38:56.78 ID:0NTL/yaAO<>
「なんとか逃げてくれたようだね」

ズバット「ズバーッ」

ズバットがピカチュウとともに戻ってきた。

ピカチュウ「ピカー!」

ピカチュウは主人である少女の元へ駆け寄る。

「よ、よかった……」

「戻れゼニガメ、ズバット」

少年はポケモンをボールに戻すと少女に顔を向け、

「ここは地面タイプのディグダ達が多く生息する場所だ。電気タイプを連れて歩くには少々危険だよ」

暗に少年は『気をつけろ』と言っている。

「て、ていうかアンタは誰なのよ?」

「人に名前を聞く時はまず自分から。親に習わなかったのかい」

「……っ」

普段なら少女はここでぶちギレるところなのだが、ついさっきピカチュウを助けてもらったため、ここは抑える。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:40:05.16 ID:0NTL/yaAO<>
そうして少女は不満げに自己紹介をした。

御坂「私は御坂美琴。で、アンタは?」

ステイル「ステイル=マグヌス。ポケモントレーナーさ」

御坂「ふーん。それで? アンタはこんなところで何してるワケ? まさか困った少女に託つけてナンパ?」

ステイル「ひどい言われようだな……。これでも君のピカチュウの恩人なんだけど」

御坂「はーん。最近はポケモンを利用するのが流行り?」

ステイル「……君は礼儀というものを知っているのかな」

御坂「冗談よ」

ステイル「……………………………………………………」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:41:51.90 ID:0NTL/yaAO<>
御坂「でもアンタただでさえガラが悪いんだから、そういう誤解させないように気をつけたら……ふぐぅっ!?」

御坂の言葉が切れたのはステイルが御坂の口を塞いだからだ。

むがむが暴れていた御坂はようやくステイルの手を払い、

御坂「ちょ、いきなり何すんのよ! そんなに怒らなくったって……!」

今度はステイルが手を御坂の顔の前に回し、制止する。

御坂「……、?」

見ると、ステイルは洞窟の奥を見つめている。

御坂は流石に真剣に尋ねる。

御坂「どうかした?」

ステイル「静かにするんだ」

御坂「は? だから何があったのよ?」

ステイル「どうやら、あのディグダ達はただ洞窟の侵入者に襲い掛かってきた訳ではないらしい」

御坂「何を言って……?」

ステイルの言葉に御坂は首を傾げる。

しかし、御坂を置いてきぼりにしたまま時間は経過していく。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:43:15.72 ID:0NTL/yaAO<>
ボコボコボコ、と辺り一面の地面が盛り上がる。

御坂「!」

地面から無数のディグダが顔を出した。

ディグダ達「ディグーっ!!」

その中心にはディグダ達を統べる親玉がいる。

ダグトリオ「ダグーッ!」

御坂「ディグダにダグトリオ! なんでこんなにたくさん!?」

ステイル「あれを見るんだ」

ディグダ達はステイルと御坂を見ていない。

御坂「?」

ステイル「ディグダというポケモンは普段は地中で過ごしているんだ。それが、しかも群れで一斉に顔を出しているとなると何かあるんだろう」

御坂「私達を襲いに来たんじゃないの?」

ステイル「それもあるんだろうが……」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:44:07.36 ID:0NTL/yaAO<>
ステイルはディグダ達を見る。

ディグダ達「……」

ディグダ達は鼻を地面に付けてモゾモゾと動いている。

ステイル(何かを探している……?)

ステイル「……まあいい。とりあえず、真相を明らかにしないことには始まらない」

すると、ステイルは走り出した。

御坂「ち、ちょっと! 待ちなさいよアンタ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:45:38.88 ID:0NTL/yaAO<>
***

そこはディグダの穴を奥に行ったところで、

ステイル「これは……」

ステイルは目の前の光景を見て、確信する。

ステイル「そういうことか」

御坂「はあはあっ……ていうかアンタ、人がせっかく追いかけてんのに何スルー決め込んでんのよ……」

ステイル「別に付いてこなくてよかったんだけど?」

御坂「むかーっ!」

ステイル「ま、でもこれでディグダ達の目的は分かったよ」

御坂「なにが……、!」

御坂は気づく。

御坂達が立っている場所の周り、壁一面に引っかいたような傷があった。

御坂「な、なによこれ……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:50:23.40 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「大方、野生ポケモンが付けた傷だろう。ディグダ達は自分達の縄張りを汚されて怒っている、といったところか」

御坂「それである意味の侵入者の私とピカチュウを襲ってきたのね」

ステイル「さあ、そうと分かったら犯人を探さないと」

御坂「……アンタもお人よしね」

ステイル「そうかい? 僕はこれ以上ディグダ達に勘違いをし続けて、過ちを犯させたくないだけさ」

御坂「それがお人よしって言ってんの」

ステイル「どう思われようと構わないよ」

ステイルは来た道を帰ろうと一歩踏み出すが、

御坂「待ちなさい」

御坂はこれを止めた。

御坂「私、ここクチバに住んでるんだけどさー」

ステイル「?」

御坂「この辺の道には詳しいわよ?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:53:34.25 ID:0NTL/yaAO<>
***

クチバシティは港町だ。

その港では豪華客船『サントアンヌ号』や、『シーギャロップ号』など色々な船が行き交う。

男はそんな豪勢な船の横で、小型のボートから降りてきた。

「あー、やっぱりBOATじゃ海を感じられねえな。軍艦に乗ってた頃が恋しいぜ」

そんな独り言を言う男は、かつてとある軍隊の少佐を務めていたことがある。

「今となっちゃあ、昔の話だけどな」

男はボートを停めて、町に向かう。

その途中で、見慣れた洞窟を見た。

「ディグダの穴、か。最近は全く行ってねえが、トレーナーに成り立ての頃はよくあそこで鍛えたもんだ」

「……っと、駄目だな。歳をとるとすぐに昔のMEMORYに浸っちまうぜ」

男がディグダの穴から目を離したその時、異変は起きた。

バチイイイイッ!! と激しい火花がディグダの穴から飛び散ったのだ。

いや、あれは火花ではない。正真正銘の電流だ。

「……!」

男は少し目を見開くが、驚く様子はない。

何故なら、彼はあの電流を知っているからだ。

「……Really。だが、何であそこに」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:55:07.33 ID:0NTL/yaAO<>
***

御坂「みぃー、つ、け、たあーっ!!」

「にゃー!?」

御坂が例の犯人を捕まえた。

犯人は、ばけねこポケモン・ニャース。

御坂「もう逃がさないわよー?」

御坂はニャースの腕を掴み、自身の身体で拘束する。

ニャース「にゃにゃー!?」

ニャースは逃げられない。

ステイル「お手柄だね」

御坂「この美琴サマにかかればこんなものよ! っていうか、やっぱアンタだったか馬鹿猫!!」

ニャースが身動きがとれないのをいいことに、御坂はニャースのほっぺたやらヒゲやらミミやらを引っ張ってやりたい放題だ。

ちなみにこのニャース、金ぴかに光る額の小判の下に青いサングラスをかけていて、若干普通のニャースとは違う。とは言え、ステイルのイノケンティウスのように人語を喋れたりはしないが。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:56:31.44 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル(クチバはこんなに変わった町だったか)

ニャース「にゃー、にゃにゃー!」

ニャースの激しい抵抗も気にせず、御坂はニャースに『お仕置き』を続ける。

しかしステイルは見兼ねて、

ステイル「その辺でやめたらどうだい」

御坂「はあ?」

ステイルの言葉に御坂は呆れ果てて、

御坂「アンタ、バカ? このニャースはいつもいつも悪さやいたずらばかりしてる常習犯! 見かける度に捕まえようとしてたけど毎度逃げられてたのをやっと捕まえたの。やめろって何よ、こいつを逃がせっての? どういう理由で?」

ステイル「今回は何かワケがあるかもしれないだろう」

ステイルの言葉を聞いたニャースは御坂の拘束を振りほどき、ステイルへと駆け寄った。

御坂「あっ、……」

ニャース「にゃー!」

ステイル「君の話を聞こうか」

御坂「……はあー」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:57:43.10 ID:0NTL/yaAO<>
ニャース「にゃ……」

ステイル「ちょっと待った。……イノケンティウス!」

ステイルはニャースの口を片手で制して、もう片方の手でボールを投げた。

イノケンティウス「どうした、ステイル?」

御坂「??」

御坂が首を傾げる。

ステイルが何故ガーディを出したか、御坂には分からない。

いや、たった今分かった。

御坂「な、なんでそのガーディ喋ってるのよ!?」

御坂が当然の疑問を口にして叫ぶが、

ステイル「そのネタは使い古されてる。説明は面倒だからどうとでも解釈してくれ」

イノケンティウス「んー、大体状況は分かったぞ」

ステイルと御坂が話してる間にイノケンティウスはニャースの話を聞いていたようだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 21:59:37.11 ID:0NTL/yaAO<>
ニャースには妹がいるらしい。

その妹が空腹で倒れ、今すぐに食べ物が必要らしいのだ。

イノケンティウス「そういうわけで、ディグダ達の住み処にある食べ物を狙って、ディグダ達を誘導するために壁に傷をつけたらしい」

そう、『らしい』。

この話はニャースが言ったことをイノケンティウスがそのまま伝えたものだ。

ニャースが嘘をついているかもしれない。話の信憑性はない。

御坂「嘘っぽいわね」

御坂は言葉にするのも馬鹿らしいほど、呆れた様子で言う。

御坂「そもそも何度も言ってるように、この馬鹿猫は今までも何度も何度も悪さをしでかしてるのよ。そんなヤツの話を誰が信じるワケ?」

本当に本当に、当然で必然で当たり前のことを御坂は言っている。

しかし、ステイルはそれに対しこう答える。

ステイル「僕は信じる」

御坂「っ!!」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:00:49.33 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「確かにニャースの話が本当かどうかは分からない。だが、僕は信じたい」

御坂「……、」

イノケンティウス(……ステイルのヤツ)

ステイルはついこの間、一方通行とバトルをした。そのバトルを通じて、よりいっそうポケモンのことを気にかけるようになったのだろう。

イノケンティウス(俺もニャースの言う事は引っ掛かるが、ここは自分の主人に従うか)

ステイル「ニャース、今からディグダ達の所へ行こう」

ニャース「にゃにゃっ?」

ステイル「どんな理由があったにしても、ディグダ達に悪い事をしたんだ。それは謝らないとね。そして、事情を話して仲直りといこう」

ニャース「にゃ……」

ニャースは一度俯き、

ニャース「にゃーっ!」

元気良く返事をした。

ステイル「いい返事だ」

ステイル達は洞窟を戻っていく。

御坂「あ、ちょっとアンタ! ……ったく、どうなっても知らないわよ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:02:45.31 ID:0NTL/yaAO<>
***

ディグダ「ディグダ、ディグダ」

ダグトリオ「ダグダグダグ」

ディグダ達は今だに犯人を探していた。

ダグトリオ「ダグ……、」

かれこれ昨日の夜から捜索を続けている。
群れのリーダーのダグトリオが諦めかけたその時、一匹のディグダが『匂い』を感知した。

ディグダ「!」

匂いも何も、ディグダ達に向かって歩いて来る者がいた。

ステイル「うん? やっぱりここにいたな」

ダグトリオ「ダグ……!」

ダグトリオがステイルを睨みつける。

ステイル「落ち着くんだ。犯人なら見つけたよ」

ダグトリオ「?」

ステイル「さあ、ニャース」

ニャース「にゃ……」

ステイルの後ろからニャースが出てくる。

ダグトリオ達は察する。ニャースのあの爪が壁を傷つけたのだ、と。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:04:58.34 ID:0NTL/yaAO<>
ダグトリオ「……ッ!」

ステイル「待ってくれ。気持ちは分かるが、ニャースの話を聞いてほしい」

ステイルはニャースの背中を押す。

ステイル「ほら、ニャース」

ニャース「にゃー……」

ニャースはダグトリオ達に事情を話す。

懸命に懸命に、自分の気持ちを伝えた。

ダグトリオ「……」

ディグダ達「……」

ダグトリオ達は黙って聞いていた。すると、

ダグトリオ「ダグ!」

ディグダ達「ディグ!」

笑って許してくれた。

ニャース「にゃあ……?」

ニャースは驚く。

多分、今まで自分の話を信じてもらえたことがなかったのだろう。
悪さやいたずらを重ねて、誰の信用も無くした自分が信じてもらえるなんて。

ニャース「……にゃー」

サングラスに隠れて、ニャースの表情は読み取れない。

だが、きっとニャースは笑っている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:06:07.46 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「……ふ、」

御坂「信じて……もらえたんだ?」

いつの間にか、御坂が追いついてきていた。

ステイル「結局、気になって来たのかい?」

御坂「そっ、そんなんじゃないわよ! 私はただあの馬鹿猫を見張りに……」

ステイル「あのニャースがそんなに悪いポケモンに見えるかい?」

御坂「……そうね。私もまだまだみたい、ジムリーダーとして」

ステイル「さらりと何か大変な事を言った気がするんだが」

御坂「は?」

ステイル「今なんて……って、うん?」

ニャースがステイルの服を引っ張っている。

ニャース「にゃー」

ステイル「うんうん。良かったじゃないか。快く迎えてもらえ……」


ザシュッ、とステイルの顔面に三本の線が切り込まれた。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:08:09.01 ID:0NTL/yaAO<>
ステイル「は……、?」

見ると、ニャースは可笑しそうに笑っている。

ニャース「にゃにゃにゃー!」

ニャースは洞窟の出口へ向かって走り去っていった。

ステイル「…………」

ステイルは混乱している。

その近くで御坂は呟く。

御坂「あーあ」

ステイル「……………………………………………………」

次の瞬間、ステイルは弾丸のごとく出口を突き抜けていった。

ステイル「まあああああああてぇええええええええええええええええええええええ!!」


御坂「……はあ。ほんっと、お人よしの馬鹿だったわね」

御坂は壁にもたれ、モンスターボールからピカチュウを出す。

ピカチュウ「ピカー」

御坂「それで? アンタはいつまでそこで隠れてるワケよ」

三メートルほど離れている岩の方に、御坂は話しかける。

「Whoops、バレていたのか。流石はミコトちゃんだぜ」

岩陰から現れたのは迷彩色の軍服を来た、日本語ペラペラの金髪外人の男だ。

御坂は男を見た瞬間、前髪から火花を散らすかのように、

いや、本当に火花が電流が飛び散っている。

ピカチュウが電気を発しているのだ。

御坂「やっと姿を現したわね、こんの馬鹿父いいいいっ!!」

ピシャアアッ!! と洞窟に再び電流が走った。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:09:14.72 ID:0NTL/yaAO<>
***

ステイルはニャースを追いかけていた。

ステイル「くそ、どこまで走るんだ。ていうか何で僕はニャースを追いかけているんだ」

ステイルは煙草をポケットから取り出し、くわえる。

と、ステイルが立ち止まる。

ニャースが逃げていったのは港の方だ。

ステイル「しまった! 船に乗り込まれたらまずいぞ!」

ステイルも港へ走り出す。
ニャースが馬鹿でかい船に上っていったのが見えた。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/07(月) 22:10:50.09 ID:0NTL/yaAO<>
***

ある船の甲板に女はいた。

メガネをかけていて、女の表情は見えない。

女の目にはメガネ越しに神父服を着た赤髪の少年の走る姿が写っている。

(あの子は……)

(フフ、あの煙草は例の…………)

(まったく、相変わらず脳みそまで筋肉ね。あの筋トレ馬鹿)

「さて、と」

「この船に乗ったからには、二度と外には出られないわよ」




第十章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/11/07(月) 22:11:33.10 ID:0NTL/yaAO<> 第十章終わり

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/08(火) 00:11:00.42 ID:6wf2FHaDO<> 背中刺す刃さんw

ズバットはヘタ錬なのか……? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)<>sage<>2011/11/09(水) 21:55:41.87 ID:oP51MdiDO<> おつ!

ズバット、逆さが強調されてるからアレイスターだと思ってる
服緑だし <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:39:46.45 ID:picJgWKAO<>
「ここは……」

ニャースを追ってステイルがたどりついたのは豪華客船『サントアンヌ』だった。

もう、何もかもがデカイ。
天井はステイルの身長の五倍以上はあり、廊下は曲がり角までがやけに遠い、その廊下には多くの客室がある。船は二階あり、一階は壁を取っ払えば軽く避難場所に使える程の広さを誇っている。

とにかく、バカ広い。

ステイルがいるのは一階で、甲板からニャースを追いかけてここまでやってきた。

「……?」

ステイルは口元の煙草を上下に揺らし、その場で立ち止まっている。

(何だ?)

少し眉間にしわを寄せ、ステイルは廊下を見渡す。

人の気配がない。この広い廊下には乗客や乗組員やその他一切の存在が感じられない。

客室に誰かがいる様子もなく、ここまでに通った甲板にも二階にも誰ひとりとしてステイルは見かけた覚えがない。

「どういうことだ……」

唯一この船で姿を見たニャースも見失ってしまった。




第十一章・サントアンヌ号


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:42:07.46 ID:picJgWKAO<>
***

「ようやく現れたわね、この馬鹿父いいいい!!」

ピカチュウの十万ボルトが軍服外人男に炸裂した。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」

外人男は仰向けに倒れた。

しかし、すぐに起き上がり、

「ったく、実の父親に電撃を浴びせるなんてよ……」

迷彩色の軍服には傷ひとつ、焦げ跡ひとつすらついてない。

「電撃を浴びてヘラヘラしてる人が父親なんて思いたくないわね」

「まったく、そんなふうに育てた覚えはあるぜ」

軍服の外人男、名前はマチス。クチバシティの元ジムリーダーで、ついこの間ジムリーダーを辞めて、娘の御坂美琴にその後を継がせた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:44:45.24 ID:picJgWKAO<>
「ま、コイツがなかったら感電していただろうがな」

自分の着ている迷彩色の軍服を指差してマチスは言う。

「コイツは対電気用のRUBBER・SUIT! そしてオレのエキスパートは『でんき』! 自分のポケモンが最高の実力を出せるよう、トレーナーのオレにとっちゃなくてはならないのがこのSUITだ!」

「別になくても困らないでしょ」

「ハハハ! そういう割には、オレがあげた『制服型』SUITを着てるんじゃねえか!」

「そっ、それはあれよ、その、」

「そんなことより、ミコト。何でお前はこんなところにいるんだヨ?」

「……!」

マチスの言葉に御坂はピタリと止まる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:47:04.83 ID:picJgWKAO<>
「あん?」

「……分からないの? 待ってたのよ、アンタをずっとね」

御坂の声は低い。

御坂の言葉の意味を理解したのか、マチスは目を見開いて言う。

「お前、まさか!?」

「悪の組織を潰しにいくんでしょ?」

「……っ!」

マチスは元クチバジムジムリーダーだ。今はジムを御坂に任せ、彼の方はクチバの治安を守る役目に徹している。

最近、クチバの港である組織が悪事を働いているという噂があった。

それを聞いて、マチスは町の平和のためにその組織を潰そうとしていたのだ。娘の美琴には内緒で。

「何て言ったかしら? その組織の名前……。ま、どうでもいいわ」

「……ミコト、お前」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:49:04.00 ID:picJgWKAO<>

「私も付いてく」


御坂はいたって軽く、友達と遊びに行く約束をするような、それこそ親子で出かける約束をするような口調で言った。

それにマチスも同じように答える。

「駄目だ」

「なんでよ?」

「相手は悪の組織。お前は連れて行けねえ」

「…………そんなベタな理由じゃ納得できないわ」

「納得出来なくても、お前の親として連れて行くことは出来ねえって言ってんだ」

御坂はマチスの言葉に唇を噛む。

「分かってるわよ。でも、」

御坂はクチバシティのジムリーダーである。

「私はクチバで悪事を働くヤツらを許せない! 私だって……私だって、この町のために戦う!!」

ついこの間なったばかりと言っても、やはり彼女はジムリーダー。町の平和のために全力を尽くす。

ましてや、ジムリーダーを引退してなおクチバを守っているマチスの血を引く彼の娘なのだ。

「私だって、アンタの力になれる!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:52:26.68 ID:picJgWKAO<>
御坂はモンスターボールを放った。

「ビィーッ!」

ボールから出てきたのは、じしゃくポケモン・レアコイル。

「レアコイル、ピカチュウ!」

御坂の言葉に従い、レアコイルとピカチュウはマチスの前に立ちはだかる。

「何なら、ここで親子の縁を切ってでも私はアンタと行くわ」

ピカチュウとレアコイルの十万ボルトがマチスに襲い掛かる。

しかし、マチスに電撃は効かない。

どんなに威力の高い技も、彼のスーツの前では無力と化す。

御坂の全力の攻撃は、マチスに届かない。

「……!」

マチスは御坂の方を見ずに言う。

「空回りしすぎだ、馬鹿」

娘を取り残し、彼は敵地へ向かう。



<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:54:57.53 ID:picJgWKAO<>
***

ステイルはサントアンヌ号の一階を探索していた。

「あの悪戯ニャース、どこへ行ったんだ」

長い廊下を歩きながらステイルはぼやく。

ステイルがいくらポケモンを大事にすると言っても、あんな問題児は別だ。

時には鬼となる。あのナースや、彼女に似たお月見山のポケモン達のように。

「うん?」

ステイルが下に目を向けると、床にきのみが落ちているのが見えた。

どうやらこの近くに食堂があるらしい。

「確か、ニャースの特性で……」

言いながらステイルはきのみを拾うが、きのみは異常に冷たかった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:57:51.15 ID:picJgWKAO<>
「っ!?」

ステイルは反射的にきのみから手を離す。

すると、きのみはバラバラに崩れ去った。

塵の山が風で吹き飛ばされて散り散りになるように、きのみは粉々に散った。

「な……、」

驚くステイルの後ろから、女性の声がした。

「あら、きれい」

冷たい声だ。聞くだけで背中が震え上がるような、凍った声。

背中を突然冷たい手で触られるような感覚に、ステイルはその声の方へ振り返る。

「……!!」

そこにいたのは女性だ。声も女性のものだったから、当然なのだが、彼女はただの女性ではなかった。

彼女は全身黒ずくめで見るからに怪しい。他に特徴と言えばメガネをかけていることだが、そんな事はどうでもいい。

ステイルが一番に目にいったのは彼女の胸元。
別にいやらしい意味ではない。確かに女性の胸は大きいが、それよりもステイルが注目したのは胸元にあるマークだ。

女性の服の胸元には『R』の文字がプリントされている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 21:59:45.60 ID:picJgWKAO<>
「ロケット団……!」

ステイルがそう叫ぶと、女性はニヤリと笑った。

冷たい笑いだ。その氷の笑みは見た者全てを凍り付かせる。

かくいうステイルもその一人だ。

「……ッ、」

ステイルは動けない。

それを良いことに、女性はステイルに近づいていく。

「ウフフ、知っているわ。貴方の名はステイル=マグヌス」

「何故、僕の名前を……!?」

「ポケモン屋敷、お月見山、その両方で貴方は私達の邪魔をした。貴方の名はロケット団のブラックリストに載っているのよ。知らない方がおかしいわ」

ロケット団の女はすでにステイルの目と鼻の間にいる。

「今回も貴方は私達を邪魔しに来たの?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:02:19.15 ID:picJgWKAO<>
ロケット団員はステイルを蹴り飛ばした。

「ぐはぁ……!?」

「アハハッ! 偶然よね、知っているわよ」

「……くっ、」

「いくら貴方だって、こんな船で私達が悪事を働いているなんて夢にも思わないだろうし」

ロケット団員は楽しそうにステイルを見ながら、

「そうそう。もう一人……いや一匹? あの子猫ちゃんも勝手に人の船に入ってきてさあ。トレーナーならちゃんと仕付けなくちゃダメよ?」

「まさか、ニャースを……! ニャースはどこだ!?」

「ウフフ。会いたいならいいけど、お勧めはしないわね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:04:30.10 ID:picJgWKAO<>
ロケット団員がパチンと指を鳴らすと、彼女のポケモンだろうか、シェルダーが現れた。

「シェル!」

シェルダーの頭の上にぶら下がっているのはボロボロのニャースだった。

「ニャース!!」

ステイルは起き上がり、叫ぶ。しかしニャースはピクリとも動かない。

「……っ!」

ステイルはロケット団員を睨みつける。

それでも、むしろ面白そうに彼女は笑う。

「アハハ、だから言ったのに。なあに? 見たところ、貴方はこのニャースに腹を立てていたようだったけど?」

「そんな事はどうでもいい。これは君がやったのか?」

「ウフフ。他に誰かいて?」

「……イノケンティウス!」

ステイルの手からモンスターボールが投げられる。

ボールからイノケンティウスが飛び出した。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:07:18.40 ID:picJgWKAO<>
「まったく……血の気が多いこと」

ロケット団員は構えるが、ステイルの目的は攻撃をすることではなかった。

「!」

「ウオオオン!!」

イノケンティウスが向かったのはシェルダーの方だった。

ステイルはまず先に、傷付いたニャースを助けることを優先した。

イノケンティウスはニャースを掴み、シェルダーを蹴り飛ばす。

「シェル……!?」

「チッ!」

予想を外したロケット団員には少しの隙が出来ていた。

すかさず、ステイルは第二の目的を果たす。

「ズバーッ!!」

ステイルが放ったボールから色違いのズバットが出現した。

ズバットは逆さまのまま、ロケット団員へ飛び掛かる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:09:48.51 ID:picJgWKAO<>
「“きゅうけつ”だ!」

「ぐ……!」

ズバットの攻撃でロケット団員の服が切り裂かれ、辺りに真っ赤な血が舞う。

「不意打ちとは……やるわね」

「どうとでも言うんだな。君はこの僕が焼き殺す」

「ナメた口を……! シェルダー!!」

イノケンティウスの攻撃を受け、倒れていたシェルダーが起き上がる。

「……!」

「あんな緩い蹴りでやられる程、私のシェルダーはヤワじゃないわ」

「ダイヤモンドより硬い殻、だったか……」

「そう、詳しいわね。この最硬の殻がある限り、貴方のポケモンの攻撃はシェルダーの核には届かない!」

「……、」

ステイルは口元の煙草を適当に吐き捨て、イノケンティウスとズバットをボールに戻す。

「フフ、ニャースはボールに入れないの? 鬼畜ねえ」

ステイルはロケット団員の言葉に一々取り合わない。
そもそも、彼女の言う事は的外れなのだ。ニャースはステイルの手持ちではないし、だから戻すボールがない。まあ彼女は知らないのだろうが。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:11:31.65 ID:picJgWKAO<>
(まずはあのシェルダーをどうにかしない事には……)

ステイルは思考を巡らす。

(イノケンティウスは……駄目か)

四年前のイノケンティウスならあの硬い殻をも貫く威力の攻撃を繰り出すことが出来ただろうが、今のイノケンティウスでは到底無理だろう。

イノケンティウスをボールに戻したのも、それを見越してのことだ。

では、他にステイルの手持ちポケモンはゼニガメ、ズバットがいるが彼らはどうだろう?

というより、その二匹で駄目ならもうなす術がない。

(いや……)

ステイルは四つ目のボールに手を伸ばす。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:16:21.67 ID:picJgWKAO<>
そう、四つ目。

それにはイノケンティウス、ゼニガメ、ズバットの三匹に並ぶステイルの新たな仲間が入っている。

「新たな仲間(ルーキー)、君に決めた!」

ステイルの四匹目、


「モンジャー!」


ツルじょうポケモン・モンジャラが姿を現した。

「ウフフ、どんなポケモンだろうと私のシェルダーの殻は砕けない」

「そうかな? 見せてやれ、モンジャラ。君の力を!」

「モンー!」

「“つるのムチ”!!」

モンジャラの身体のツルが狭い廊下を駆け巡る。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:18:37.28 ID:picJgWKAO<>
「なにを……、!?」

すぐに廊下はモンジャラのツルで一杯になった。

それは蜘蛛の巣のように廊下一面を覆っている。

「『蔓糸(ワイヤー)』、と言ったところかな」

ツルは素手で触れば、簡単に薄い肌なんて切ってしまいそうな程に鋭い。

ロケット団員にはそう見えた。

「小賢しい……ッ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:21:51.77 ID:picJgWKAO<>
ツルに周りを囲まれたロケット団員とシェルダーはその場から動けない。

「……フフ、」

「!」

「蔓糸? それが何だって言うのよ。私のシェルダーの殻はダイヤモンドより硬い。つまりは、そんな拙い糸なんて恐れるに値しないわ!」

ロケット団員は片手を掲げ、雄々しくシェルダーに指示をする。

「そんな糸、“からではさみ”なさい!」

「シェール!」

指示に従い、シェルダーは蔓糸の巣に噛み付いた。

すると、思いの外ツルは簡単にちぎれた。

「シェル……?」

その脆さは噛みちぎった本人であるシェルダーさえもが呆気にとられるくらいだった。

「アハ、」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:24:14.00 ID:picJgWKAO<>
ロケット団員は思い出したように笑い出す。

「ハハ、アハハハハハハッ!!! なにそれ! 大笑いよ、こんなに脆いなんてね! こんなもので私に勝てると思ったの!?」

周りの蔓糸を腕でちぎりながら、ロケット団員は高らかに笑う。

それを見て、ステイルも同じように彼女を嘲笑う。

「うん。うんうん? モンジャラのツルは元々簡単に切れるものなんだけど。鋭い、なんて思い込んでいたのかな?」

「ハハ、……?」

「ま、そう思い込ませるのが狙いだったんだけど」

次の瞬間、ちぎれたはずのツルが動き出しシェルダーに巻き付いた。

「シェル!?」

「!!」

「これで完全に動きは封じたよ」

「……。フフ、でもシェルダーには殻が……」

「まだそんなふざけたことを言っているのかい。シェルダーの天敵草タイプの技。たとえ最高の防御力を誇る殻に篭ろうが、この技の前では無意味だ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:26:03.37 ID:picJgWKAO<>
ロケット団員は見た。廊下に広がる蔓糸全てが一本のツルで繋がっていて、それはモンジャラの身体から伸びているのを。

「“メガドレイン”!!」

ツルがシェルダーから体力を吸い取る。

たとえダイヤモンドより硬い殻が間にあろうが関係ない。ツルはシェルダーの体力だけを吸い取って内の核を殺すのだから。

「……シェ……、」

シェルダーはたおれた。

「シェルダー!」

「さて、これで終わりかな?」

「……!」

「こんなものじゃないさ。君がニャースを傷付けた分と比べたら、下らない」

じりじりとモンジャラがロケット団員に近づいていく。

「……っ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/14(月) 22:29:03.93 ID:picJgWKAO<>
「“つるのムチ”!」

今一度、モンジャラが蔓糸を廊下に張り巡らすが、


一瞬にしてその全てが凍って砕けた。


「……!?」

砕け散った蔓糸の先でロケット団員は笑い、

「ウフフ、きれいでしょう?」

「っ!!」

ステイルは先程見た。こんなふうにバラバラになり空気に溶けていったものを。

ロケット団員の背後にポケモンがいる。ジュゴンだ。恐らく、ジュゴンの技で蔓糸は凍らされた。

「氷……!」

「ウフフ、そう」

口に右手の人差し指を押し当ててロケット団員は言う。

「『凍てつく氷の女(フリージングビューティ)』。あの場所ではそう呼ばれているわ」




第十一章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/11/14(月) 22:31:40.10 ID:picJgWKAO<> 第十一章終わりです

ゼニガメやらズバットやらニャースやらのモデルはその通りです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(長屋)<>sage<>2011/11/14(月) 23:21:17.25 ID:1kAnYzUyo<> 乙 <> ◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:38:14.02 ID:vjMkz9VAO<>

「『凍てつく氷の女(フリージングビューティ)』。あの場所ではそう呼ばれているわ」


「氷タイプのエキスパート……!!」




第十二章・凍てつく氷の女(フリージングビューティ)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:39:54.57 ID:vjMkz9VAO<>
***

マチスはクチバ港へ向かって走っていた。

「何だか嫌な予感がするぜ」

彼が目指しているのは悪の組織ロケット団のいる船だが、今だにどの船に彼らが潜んでいるかは見当がついていない。

「とにかく奴らの船を探さねえとな。奴らも馬鹿じゃねえ、人の多いところにはいねえだろ」

マチスは辺りを見渡す。

「……この中から見つけ出すのは相当苦労するよなあ」

クチバ港には何隻もの船が泊まっている。

「ウダウダ言ってても仕方ねえ! やったるぜ!」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:41:50.80 ID:vjMkz9VAO<>
***

「う、おお……ッ!」

ジュゴンの吹雪がステイルとモンジャラを襲う。

「アハハッ! 凍り付けになりなさい!」

「モンジャ、……」

モンジャラは凍り付けになった。

「モンジャラ!」

モンジャラは凍ってしまって動かない。

「……戻れ!」

ステイルはモンジャラをボールへ戻す。

「ウフフ、前哨戦の結果で勝ち誇るなんて、まだまだ子供ね」

「ジュゴーン!」

「“ふぶき”!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:43:43.50 ID:vjMkz9VAO<>
ゴアアアアアッ!! と目の前が真っ白に染まる程の大雪が廊下中に吹き荒れる。

「ぐ……!」

ステイルは近くにある部屋のドアを開けて飛び込もうとするが、

「! ニャース……!」

床に転がっていたニャースは吹雪を正面から受けて、吹雪の思うがままに廊下を飛び回っている。

ステイルは走り、何とかニャースを助け出そうとするが、

「ウフフ、だから戻せって言ったのに」

吹雪が方向を変え、ステイルの行方を阻んできた。

「くそ……! ニャース!!」

ステイルはニャースに手を伸ばすが、後一歩のところで届かない。

ジュゴンがその角をステイル達に向けて構える。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:50:08.24 ID:vjMkz9VAO<>
「!」

「粉々になりなさい! “つのドリル”!!」

ドゴオオオオオオッ!! と天井が破壊された。

ジュゴンがステイル達の懐に入り、ドリルとなった角と一緒にその頭を振り上げたのだ。

「ごあああああああああああッッッ!!?」

ステイルの身体に骨まで響く激痛が走る。

角ドリルは一階二階の天井を貫通し、ついには甲板まで穴を開けてしまった。

甲板で仰向けに倒れているステイルは呻く。

「ぐ、ぁ……」

角ドリルは腹に打ち込まれたが、ステイルが普段から持ち歩いている服の内ポケットにある大量の煙草の箱がガードになったのか、重傷はなく打撲程度で済んだようだ。

しかしそれでも痛みは相当なもののようで、ステイルは腹を押さえたままうずくまっている。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:51:44.55 ID:vjMkz9VAO<>
「いや、僕よりも……」

ステイルは激痛の中、隣にいる手足が投げ出されたまま起き上がらないニャースを心配していた。

「ニャース……」

ステイルはニャースを見つめ、そして気づく。

「!!」

ニャースの身体の傷の数がさっきより多くなっている。

いや違う。そうではない。


ニャースの傷はステイルが角ドリルで負った傷より相当深い。


「まさか、僕を庇って……」

ニャースのか細い腕がぴくりと動いた。

「ニャース!」

「にゃー……」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:53:19.67 ID:vjMkz9VAO<>
ニャースが顔を上げた。

その口からは血が垂れ、額の小判は薄暗く光っていて、青いサングラスは右目の方に亀裂が入っている。

しかしニャースのその顔は、ステイルに向けているその表情は、笑顔だった。

「……っ!」

やはり、理由があったのだ。

御坂の言う今までの悪戯も、ディグダの穴での悪行も、ステイルの顔を引っ掻いたのも。

「嘘ではなかったようだね。君の話」

ステイルは覚悟を決める。

ステイルはポケットから空のモンスターボールを取り出した。

そしてそれをニャースに差し出して、

「これを持ってここから逃げろ。誰か人間に会ったら、このボールでゲットしてもらいポケモンセンターに連れていってもらうんだ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:55:10.06 ID:vjMkz9VAO<>
「にゃ……」

ニャースはボールを受け取り、立ち上がって甲板を走る。

「逃がさないわよ!」

ロケット団員はジュゴンにニャースを攻撃するよう指示をする。

「“れいとうビーム”!」

「にゃ……!?」

「……ッ、イノケンティウス!!」

ステイルがボールを投げ、イノケンティウスが飛び出した。

「“かえんほうしゃ”だ!」

「ウオオオオオオオオオオン!!」

氷が炎に溶ける。

「早く行くんだ!」

「にゃー……!」

ニャースはボールを抱えてタラップを下りていった。

ステイルはそれを見送り、胸を撫で下ろす。

「いいんだ、それで」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:57:32.98 ID:vjMkz9VAO<>
その前でイノケンティウスは戦闘体勢をとり、火を吹く。

「よっしゃ。久しぶりに暴れてやるぜ!」

ステイル達と向かい合うように立っているロケット団員は、炎で溶けた氷の跡を追いながら笑う。

「フフ、どうやら私の勘違いだったみたいね。まあ何でもいいわ。今度こそ、凍り付けの粉々にしてあげるわ!」

「ジュゴーン!」

ジュゴンの放つ吹雪が再びステイルに襲い掛かる。

しかし、ステイルは悠然としている。

「っ!?」

「イノケンティウス、“こうそくいどう”だ」

ステイルの指示にイノケンティウスは動く。

その眼前には吹雪が降ってくる。

しかし、イノケンティウスはその吹雪をかわした。

「なに……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 20:59:56.80 ID:vjMkz9VAO<>
そもそも、先程のような狭い廊下では吹雪をかわすなんてことは不可能だったのだ。

見れば分かる。今のバトル場は甲板で、当然廊下より広い。その面積は廊下の比ではない。

「フィールドが広くなったことで、回避率が上がったわけだ」

「……っ!」

イノケンティウスはジュゴンの頭の上に飛び付いた。

「ジュゴオオオ!?」

「へへ、頭への噛み付きはあいつの専売特許なんだが……今だけ借りるぜ!」

ガブリとイノケンティウスはジュゴンの頭に噛み付いた。

ジュゴンの悲鳴が甲板に響く。

「“ほのおのキバ”は効かないだろうし、君にはこれだ!」

バチイイイ!! とイノケンティウスの牙から電気が発する。

その電気は牙を通してジュゴンの身体に流れ、ジュゴンは感電した。

「ジュゴオオオオオオ……!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:01:48.98 ID:vjMkz9VAO<>
「“かみなりのキバ”!?」

「そう。炎タイプだからといって、炎技だけじゃあ芸がないってわけさ」

イノケンティウスは後ろ脚を使って高く跳躍し、再びジュゴンへと落下していく。

「今こそ、俺の新しく覚えた技を披露する時だな!」

イノケンティウスの身体に電流が走る。

全身に電流が行き渡り、イノケンティウスの周囲に電気の塊が出来る。それは炎技でいう火炎車、フレアドライブといったところか。

「“ワイルドボルト”!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:03:26.08 ID:vjMkz9VAO<>
バチイイイイイイッ!! と辺りに青色の火花が散った。

先程の攻撃より大きな振動で船が揺れる。

「ジュゴ……、」

ジュゴンはたおれた。

「見たか!」

ジュゴンから離れたところに着地したイノケンティウスだが、新しい技を制御しきれていないのか、まだ体毛から火花が散っている。

「僕達も、昔より進歩しているということかな」

四年前のステイルとイノケンティウスなら、炎技で押し切るところだった。

「いやー、俺が電気技をする日が来ようとはな」

「中々どうして似合っているんじゃないかい、イノケンティウス」

「へへ、そりゃあ結構!」

その掛け合いの余所でロケット団員は笑う。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:06:26.41 ID:vjMkz9VAO<>
「……ウフフ」

「?」

「やはり、あの脳筋(バカ)に勝っただけあるわね。でも忘れたわけじゃないわよね?」

ロケット団員は不敵に笑うが、ステイルにはいまいち彼女の言っている事の意味が分からない。

「何の事だい……?」

「アハ、忘れてるなら思い出させてあげる!」

そう言ってロケット団員は服のポケットから注射器のようなものを取り出した。

普通の人間なら、何だと呆気にとられるだろうがステイルは違う。

こんな全身黒ずくめが取り出した注射器からなんて、連想出来るものは一つしかない。

「まさか、『ポケモン成長促進剤』……!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:10:28.78 ID:vjMkz9VAO<>
「そう! 私達の組織の名は、ロケット団!!」

ロケット団員は注射器をジュゴンの背中に突き刺した。

「ジュゴ……ッ!!」

ジュゴンの身体からブチブチと嫌な音がなる。

「ジュゴンはこれ以上進化はしない。それならこの薬の本来の効果は発揮されない……なんてことはないのよね」

「ジュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

ジュゴンが咆哮する。

しかし、それはもはや獣のように猛々しく雄々しいものではない。

その声は悲痛で、悍ましい。

「く……ッ!」

ステイルは拳を握り締める。

(また守れなかった……!!)

「ステイル!!」

「!」

凶暴化したジュゴンはステイルへ迫ってきていた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:12:22.86 ID:vjMkz9VAO<>
「駄目じゃない、感情に惑わされちゃ!」

「しまっ……」

ジュゴンの頭の角がドリルとなってステイルへ振り下ろされる。


しかし、ドリルはステイルを串刺しにしない。


「……っ!」

見ると、ステイルとジュゴンの間にイノケンティウスがいた。

つまりはジュゴンの攻撃を受けたのはイノケンティウスだった。

「がはあァ!?」

ステイルはイノケンティウスの名を叫ぶが、それもままならない。

角ドリルの衝撃で、ステイルはイノケンティウスごと吹き飛ばされた。

「うォおおあっ……!」

何とか船から落ちないところでステイル達は止まった。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:15:38.77 ID:vjMkz9VAO<>
「ぐ、……」

「大丈夫か、イノケンティウス!?」

いちげきひっさつ。イノケンティウスのダメージは相当なんてものではない。

「バカヤロウ……。俺の心配より自分の心配をしろよ、ステイル」

「だが!」

「……へっ」

イノケンティウスの瞼は落ちるとこまで落ちかかっている。

「後はルーキー達に任せたぜ……」

イノケンティウスはたおれた。

「……くそ!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:16:57.76 ID:vjMkz9VAO<>
ステイルは右手で甲板を殴り、左手に持つボールの中へイノケンティウスを戻す。

しかしステイルに悔しがっている時間はない。

今まさにジュゴンがステイルに襲い掛かろうとしている。

「ジュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

「ゼニガメ、“からにこもる”!」

ステイルがモンスターボールを投げた。

「ぜにー!」

ボールから出てきたとともに、ゼニガメは甲羅に篭った。

ジュゴンは尾ひれをゼニガメにぶち当てるが、ゼニガメは平気な顔をしている。

「……!」

違う。

ジュゴンは尾ひれを使い、ゼニガメを真上へ上げたのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:18:32.62 ID:vjMkz9VAO<>
「その甲羅もこの技の前では無意味」

ギラリとジュゴンの鋭い角が光る。

その矛先は甲羅に篭ったまま落下してくるゼニガメにある。

ジュゴンはジャンプし、ゼニガメに角を押し当てる。

「“つのドリル”!!」

「ぜに……っ!」

ゼニガメは甲羅の中で身体を縮める。

この硬い甲羅があれば岩の拳も高威力の電撃も炎技も、中にいるゼニガメには届かない。

しかし、一撃必殺・角ドリル。この技にかかればゼニガメの硬い甲羅を砕くことなど、赤子の手を捻るより細い木の枝を折るよりちり紙を破くよりも容易い。

バギッとゼニガメの甲羅がひび割れ、ドリルが中まで侵入する。

「ぜに、が……!?」

ぐじゅぐじゅ、と傷口をえぐるような音がする。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:19:49.72 ID:vjMkz9VAO<>
「ゼニガ……!」

ステイルが叫び終わる前にゼニガメは甲板に落ちた。

「ゼニガメええええ!!」

ゼニガメの元へステイルが駆け寄ると、その惨状は見えた。

ゼニガメの甲羅には穴が開いている。

甲羅が全てバラバラに砕かれているということはないが、穴からは真っ赤な液体が流れている。青色の彼女の身体も、それで真っ赤に染まっていく。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:22:49.01 ID:vjMkz9VAO<>
「は、……?」

ステイルは目の前の光景に言葉が出ない。疑問すら頭に浮かぶ。

彼の後ろでロケット団員は嘲笑うかのように、

「ウフフ、初めて見たかしら? それがポケモンの死体よ」

彼女の声の調子は軽い。軽すぎる。

「…………ッッッ!!!」

ステイルの目が憎悪で染まる。

「アハハッ、冗談よ。そんなに簡単にポケモンは死なないわ。重傷だけど命はあるでしょうよ」

そういう問題ではない。

ステイルは駆け出す。

「おおおおおおおおッ!!」

「あらら、だから感情に動かされちゃ駄目だって言ってるでしょ?」

ズゴオオッ!! とジュゴンが尾ひれでステイルをたたき付ける。

「がはッあああ!!?」

無駄だ。ステイルではジュゴンには勝てない。

人間ではポケモンには敵わない。ポケモンと渡り合えるのはポケモンだけ。

だからこそ、ステイルはボールを取り出すが、

「……、」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:24:51.88 ID:vjMkz9VAO<>
ステイルは開閉スイッチを押すことを躊躇った。

ステイルの近くに倒れているゼニガメはステイルのせいで傷付いた。次のポケモンを出しても、またあの角ドリルの餌食になるだけだ。

もちろんステイルはポケモンを信じている。しかし、ポケモンを信じ大切に思うからこそ、戦わせることが出来ない。

「……、そうだ」

ステイルはゼニガメを見てボールへ戻さないといけない、と思った。

普通なら倒れた時に戻すものだが、彼はそれをするのも遅れてしまうほど混乱している。

ようやくゼニガメを戻すためにボールを取り出すステイルだが、

「ジュゴン、“オーロラビーム”」

ビシュッ、とステイルの手からボールが飛んでいった。

「……!!」

慌ててステイルはボールを追うが、ジュゴンがそれを許すはずがない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/11/21(月) 21:28:17.04 ID:vjMkz9VAO<>
ステイルはジュゴンにはたかれて甲板を転がる。

「……ッ、ぁが……」

ゼニガメを戻すボールと一緒に残りの手持ちのボールもポケットから出て、ステイルから離れていってしまった。

もう彼になす術はない。

甲板に無様に倒れているステイルを一瞥して、ロケット団員は冷たく言う。

「さよなら、よく頑張ったわ」

ジュゴンが走り出し、その角をステイルに向けて突き出す。

その一刺しでステイルは死ぬ。



はずだった。



「っ!?」

ステイルが目を見開くと、彼の前にライチュウが立ちジュゴンの角ドリルを受け止めていた。

ステイルの横から男が話し掛ける。

「こんな場面(ところ)で再会するなんてな、ステイル=マグヌス!」

迷彩色の軍服を着こなす金髪外人を見て、ステイルは男の名を叫ぶ。

「マチス!!」

「さぁーてと。オレが来たからには悪の組織程度、簡単にぶっ潰してやるぜ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/11/21(月) 21:28:56.10 ID:vjMkz9VAO<> 今日はこれで終わりです

ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/21(月) 23:33:16.49 ID:T3+ie3WSO<> 乙!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/11/22(火) 05:49:13.37 ID:HucdftVZo<> 乙乙! <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 23:49:13.05 ID:WNV6Wh9uo<> 乙 <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/10(土) 21:06:03.44 ID:sKmQtlubo<> 面白かった
乙!
いつかレッドとかがでてくれるのを期待してる <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:39:07.15 ID:zwHGBipAO<>
「貴方は……」

「オレの名はマチス! このクチバシティの治安を守ってる!」

「マチス、なんで君が?」

「はん。決まってんだろうが、オレはクチバを汚すクソ野郎を潰しに来たのさ」

マチスはステイルの前方、ライチュウとジュゴンの方に目を向ける。

「ライチュウ、そろそろ押し合いも疲れたろ。いっちょ、決めるぜ!」

マチスは右手の親指を立てて前へ倒す。

すると、ライチュウの頬袋から火花が激しく散り始めた。

「ジュゴ……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:41:05.89 ID:zwHGBipAO<>
「オレのSUITは電気を防ぐだけじゃなく、電気を貯める機能も備えてんだヨ」

マチスはスーツにあらかじめ貯めておいた電気をライチュウに渡したのだ。

ライチュウの力はみるみる漲っていく。

「最大威力の“10まんボルト”だーッ!!」

ピシャアン!! と雷が打たれたような音がなると、ジュゴンが身体から煙を立てて倒れた。

「……チッ。元ジムリーダーか」

「ハハハ! 今度はテメーに電撃のシャワーを浴びせてやるヨ!」

マチスはモンスターボールを取り出し投げようとするが、その手を止めた。

「……っとその前に、ステイル=マグヌス」

「?」

「何をぼけーっとしてやがる。それでもこのマチス様を負かしたトレーナーかよ?」

マチスが手にあるモンスターボールの開閉スイッチを押す。

「ビーッ!」

じしゃくポケモン・コイルがボールから現れた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:44:36.29 ID:zwHGBipAO<>
「じしゃくポケモン・コイル! コイツの両腕(UNIT)は強力な磁石になってる」

コイルは前にならえをして両腕の間に磁界を作り出す。


『コイル、じしゃくポケモン。さゆうの ユニットは きょうりょくな じしゃく。はんけい 100メートル いないの てつを ひきよせるほどの つよい じりょくを だす。』


ステイルが落としたモンスターボールが次々とコイルの磁石に引き寄せられていき、一点に集まった。

「コイルの両腕(UNIT)の磁力は遠くの鉄を引き寄せるほど強力だ。モンスターボールも金属を含む、例外じゃあねえぜ」

マチスはモンスターボールを掴み、ステイルへと投げる。

「ほらよ」

「!」

ステイルはボールを拾い、すぐにゼニガメを戻して他のボールと一緒にポケットへしまう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:46:24.80 ID:zwHGBipAO<>
「ありがとう、だが僕は……」

「ああん? 戦えない、とか言うんじゃねえだろうな」

「…………」

図星だ。

ステイルを見てマチスは舌打ちする。

「……チッ、戦いたくても戦えない奴もいるのによ」

「?」

「何でもねえよ。まっ、とにかくオレはお前に構わずにアイツを倒すが、OKだよな?」

マチスの質問にステイルは答えない。

「どうせ何と言われようが潰すけどな」

「言ってくれるわね」

「!」

「貴方の攻撃、効いていないわよ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:48:24.85 ID:zwHGBipAO<>
先程効果抜群のライチュウの最高威力の十万ボルトを喰らったはずのジュゴンがモゾモゾと動いている。

「What……!?」

「ロケット団の科学を舐めないことね」

ジュゴンがライチュウに飛び掛かる。

「ジュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

「ライ……!」

ライチュウの尻尾とジュゴンの尾ひれがぶつかり合う。

さっきライチュウがジュゴンから受けた技は角ドリル、あの一撃必殺技に比べれば何ともない攻撃だ。

何ともない攻撃のはずだ。ライチュウはこれより強力な角ドリルを受け止めて押し勝ったのだから。

だが、

「ライぃい……!?」

「ライチュウ!」


その下らない攻撃にライチュウの方が押されている。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:50:36.23 ID:zwHGBipAO<>
「ジュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

ついにジュゴンがライチュウを押し飛ばした。

「ライっ!!」

「Unbelievable……! 何でそんな力が残っているんだ!?」

「だから、貴方の攻撃は効いていなかったからよ」

「んな訳ねえ! ライチュウ、もう一度食らわせてやれ。“10まんボルト”!!」

ライチュウの頬袋から青白い火花が散り、それは絶大な電気となってジュゴンに迫る。

ジュゴンに十万ボルトが炸裂した。

「今度こそ戦闘不能に……、…………!?」

見ると、ジュゴンが電流が走る空間の中心に立っていた。

ジュゴンの表情は余裕だ。

「なっ……!」

有り得ない。水タイプのポケモンが電気に包まれて平然としていられるなど。

マチスが電気タイプのエキスパートだからではなく、常識的に考えてそんな事は絶対におかしい。

マチスはここに来てようやく知った。自分の敵の強大さを、自分の追う組織の絶大さを、思い知らされた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:52:04.10 ID:zwHGBipAO<>
愕然としているマチスの前でジュゴンはその身体を動かす。

ジュゴンが動くと電流がまるでジュゴンの身体に触れないようにするためにその場を離れる。

そして、行き場をなくした電流は甲板の上空へと集まっていく。

そこにポケモンがいた。

「……ッ!!」


――四年前、マチスはある無人の発電所へ訪れたことがある。

なんでも、謎のポケモンがその発電所を根城にしているという噂があり、彼はそれを確かめにそこを訪れたのだ。

そこで彼はステイル=マグヌスと知り合ったのだが、成り行きで彼はステイルと発電所の中を調べることになった。

そうして、見た。

無人発電所を根城にしているという謎のポケモンを――――。


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:54:52.99 ID:zwHGBipAO<>
「ダァアアアアーッ!!」

甲板の上空で、電流が集まる空間で、そのポケモンは黄色い身体を輝かせて佇んでいた。

「アイツは……あの時のッ!!」

違う。そのポケモンは甲板の上を飛んでいて、そのポケモンが電流を操っているのだ。

そんな芸当が出来るのは唯一、このポケモンだけ。

「伝説の鳥ポケモン、サンダー!!」

「ウフフ、知っていたのね。流石は電気タイプの専門家(ジムリーダー)」

「……っ!」

ロケット団員の話などマチスは聞いていられない。

目の前の光景にただただ驚愕するしかない。

「Why……なんでサンダーが……」

「何故って、私(ロケット団)のポケモンだからよ」

「……!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:57:00.82 ID:zwHGBipAO<>
サンダーの操っている電流がサンダーのお腹の辺りに収束していく。

「ダァァアアアアーッ!!」

バチイイイイイッ!! とサンダーの全身が光ると、雷が落ちた。

「う、ぉおお……!?」

マチスの服は電気を通さないゴムスーツだ。雷も所詮は電気、だから雷はマチスの身体を貫けない。

しかし、

「……っ、Are you joking!?」

その雷は防げた。

だがこの一撃でスーツが焼け焦げて穴が開いてしまった。

「こんな事が……!」

四年前にもマチスはこのサンダーと戦った。

しかしあの時とパワーの桁が違う。

思いたくないが、ロケット団の手にいったことでより力を高めたのだろう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 22:59:03.93 ID:zwHGBipAO<>
「もう一度、“かみなり”よ」

ピシャアアアアアン!! と今度こそマチスに雷が襲う。

「がァァァァああああああああああああああああああああああッ!!!」

バタリとマチスは膝から崩れ落ちた。

「アハハッ、どう? 自分のポケモンの電気でやられるのは! サンダーは貴方のライチュウの出した電流を操って雷にしたのよ」


『サンダー、でんげきポケモン。かみなりぐもの なかに いると いわれる でんせつの ポケモン。カミナリを じざいに あやつる。』


「雷を操るというサンダーに、たかがライチュウの電流程度操るのは造作ないってね。……って、聞いてないか」

「…………ぐ、」

「!」

マチスは膝を立てて倒れないでいた。

「な……っ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 23:00:54.65 ID:zwHGBipAO<>
「……駄目なんだヨ、オレが倒れたら」

スーツはボロボロで、一発でも殴ったらすぐ倒れてしまいそうな満身創痍で、マチスはそれでも目を開き、

「お前らにオレの町(クチバ)は汚させねえ!!」

マチスは立ち上がった。

「……タフなのね」

「ああ。蹴られても踏まれても殴られても切られても殺されても、オレは屈しねえ……てめぇらを潰すまではなあ!!」

「いいわ。そこまで言うなら、本当に殺してあげるわ!!」

ロケット団員が片手をあげると、マチスと対峙するようにサンダーが甲板へと降り立つ。

「ダァァァァアアアアーッ!!!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 23:03:13.66 ID:zwHGBipAO<>
雄叫び。

ロケット団員の薬漬けされ凶暴化したジュゴンの咆哮なんて目ではない。

凄まじく、猛々しく、雄々しい獣の叫び。

ピリピリと肌で感じられる程のサンダーの威圧感に、それだけでマチスは倒れそうになる。

だが、彼は倒れる訳にはいかない。

「ライチュウ、最初っからラストスパートだァァああああああ!!」

マチスの指示にライチュウは電光石火の速さでその場を飛び出す。

「ライいいいいっ!!」

「“かみなり”いいいいい!!!」

バチイイイイイイッ!! と周辺の海を揺るがす衝撃が船を暴れさせる。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 23:05:04.03 ID:zwHGBipAO<>
ライチュウの本当の最高の攻撃、雷。それを直に受けたサンダーは、

「ダァァァアアアアアアーッ!!!」

揺らがない。

暴れない。動じない。物怖じしない。

サンダーはその場でただ先程と同じように雄叫びをあげている。

それこそ、我こそが最強と言わんばかりに。

カッ!! とサンダーの身体がオレンジ色に光った。

途端にライチュウは吹き飛ばされ、マチスも尻もちをつく。

「今のは……“フラッシュ”!? 全然別の技に見えたぞ……!」

それも違った。

サンダーはフラッシュをしたのではなく、もちろん別の技を繰り出したのでもない。

ただ、そこにいただけ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2011/12/14(水) 23:07:03.39 ID:zwHGBipAO<>
サンダーが太陽の光に照らされて、ただ身体が光って、ただマチス達はその反射光に当てられただけ。

「畜生が、ッ………………!」

マチスはサンダーと戦ったことがある。そして彼は勝った。

しかし、それはその時あの少年が一緒にいたからこそだった。

「……っ」

マチスは戦意を喪失したステイルの方を見る。

「ステイル=マグヌス……!!」

その少年が背中を合わせて戦ってくれるだけで、何かが違ってくるかもしれない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2011/12/14(水) 23:08:03.27 ID:zwHGBipAO<> 遅れました
とりあえずここまで ありがとうございました <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/18(日) 15:22:38.14 ID:aR6/KEFJo<> jp?やむは、た、す、そはへすなかそそそとなら荷ガタガタ間、なあ間傘っ祖なめた間、て安蘇祖祖祖祖祖祖a.wwタフアヤな <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sageらすな?ま<>2011/12/18(日) 15:23:45.19 ID:aR6/KEFJo<>  、はかこここか <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sageらすな?ま<>2011/12/18(日) 15:24:38.41 ID:aR6/KEFJo<> 無空いてる たかる宇津木!!wwな?ち??経編み <> SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/20(火) 21:46:14.56 ID:wknO632Mo<> 乙でした <> SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)<>sage<>2012/01/02(月) 13:43:33.24 ID:QgEqBPOK0<> すごく面白いのにスレタイで損してる気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 10:05:07.12 ID:3BlJ3aLEo<> まだか <>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:22:00.68 ID:qPGwoxCAO<>
***

「…………」

ステイルは茫然とその戦いを眺めていた。

ロケット団員とマチスが戦っている。

ロケット団員の方にはかつてステイルとマチスが共に相手取った伝説の鳥ポケモン、サンダーがいる。それに対しマチスの身体はボロボロで、彼はライチュウ一匹で応戦している。

無謀だ、とステイルは思う。

サンダーはステイルとマチスの二人がかりで何とか倒せた、しかも昔より強くなっている。そして、サンダーのトレーナーはあのジュゴンを使うロケット団員ときた。

マチスに勝ち目はない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:24:23.11 ID:qPGwoxCAO<>
「……いや、」

勝つ方法があると言えばある。

それは、ステイルが参戦することだ。

あの時と同じようにマチスと共にサンダーを倒す。

「無理、かな……」

実はステイルは戦意喪失などしていない。

今すぐにでもロケット団員を倒すため、マチスの力になるために戦いたいと思っている。

だが、ステイルはボールを握ることができない。

「…………くそ……」

初めて見た。ポケモンが血を流しているところを。

「あの時も…………」

ステイルはこの間の一方通行とのバトルを思い出す。

「あの時も……」

今度はお月見山でのロケット団とのバトル、

「……あの時も」

ロケット団とのポケモン屋敷でのバトル、

「あの時もっ!!」

人生で初めて負けたバトル。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:26:30.86 ID:qPGwoxCAO<>
「僕はっ……」

傷つけたくない。その気持ちが戦意を凌駕する。

彼の優しすぎる心が、ポケモンで戦うことをやめさせる。

「すまない。イノケンティウス、ゼニガメ、ズバット、モンジャラ。僕は……戦えない…………!」

パリリとステイルの近くで火花が散る音が鳴った。

「……?」

ステイルはマチス達の戦いの音かと思うのだが、違った。

音はステイルの後ろから聞こえる。

「なんだ?」

すると、ステイルの腕に何かがぶつかった。

「これは……」

空のモンスターボールだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:28:02.87 ID:qPGwoxCAO<>
ステイルはそのボールに見覚えがある。

「……まさか」

ボールと一緒にステイルの横にいたのはニャースだった。

額の金色の小判は色あせ、その下にかけた青いサングラスの右目の方は割れている。

「にゃー」

「ニャース……! 君、なんで!?」

ニャースがステイルの方へ近寄ってくる。

「ポケモンセンターにも行かなかったのか……!?」

ニャースが頷く。

ポケモンセンターどころか、ニャースは誰か助けてくれるような人にも会っていないようだ。

「……どうして、」


「それはアンタが一番分かってるんじゃないの?」


「!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:32:14.62 ID:qPGwoxCAO<>
その声はステイルの後ろから聞こえた。

「ったく、いきなりその馬鹿猫が泣きついてきたからどうしたかと思ったら……」

声の主は御坂美琴。

彼女は前髪から火花を散らしながらステイルとニャースに並ぶ。

もちろん御坂が自分で火花を散らしているわけではなく、その火花は彼女の肩に乗っているピカチュウが出している。

「君は……!」

「で、どういう状況なワケ?」

御坂はサンダーとロケット団員、マチスの方を見て、

「ははーん。そういうことねえ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:34:35.49 ID:qPGwoxCAO<>
御坂は歯を出して笑い、肩のピカチュウは放電する。

誰が見ても、それは戦意ある行為。

「! やめるんだ、どんな相手か分かっているのか!?」

「別にアンタに関係ないでしょ。これは私の意思だし。それに、戦うのはそっちも同じなんだし」

「は……?」

「気付いてなかったの? その馬鹿猫、アンタと戦いたいって」

御坂はふざけた口調で言うが、次のステイルの言葉でその口を止める。

「僕は、戦わない」

「……はあ!? 何言ってんのよ、アンタ!」

「……僕はもう戦えない」

傍から聞いてもステイルのその言葉は本心ではないと分かる。

御坂だってそう感じた。

「アンタ……」

気がついたらピカチュウが放電をやめている。

御坂の顔にも笑みはない。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:36:03.85 ID:qPGwoxCAO<>
「なんでよ?」

御坂が聞く。

「僕はこれ以上ポケモンを傷つけたくないんだ」

「……っ!」

ステイルの答えに御坂は手を握り締め、

「アンタは……自分のポケモンを信じてないわけ!?」

御坂が怒鳴る。しかし、それにステイルも声を荒げる。

「信じているっ!!」

「……!」

「信じているに決まっているだろう!」

「じゃあ、何で……」

「だからこそ、」

信じているからこそ、傷つけたくない。

自分の都合でポケモンを危険な目に遭わせたくない。

「……僕はっ!」

「ならアンタは!!」

「!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:38:18.62 ID:qPGwoxCAO<>

「アンタは、ポケモントレーナーじゃないの!?」


御坂の言う意味がステイルには分からなかった。だが、その言葉はステイルの胸に突き刺さる。

「アンタは自分のポケモンを信じてる、それは分かる! むしろ野生の悪戯馬鹿猫までも信じるようなお人よしよ!」

何を言ってるんだと御坂は思う。

見ず知らずの他人に、さっき会ったばかりの他人にこんなに真剣に言葉を当てるのはどういうことだろう。

それでも、御坂はステイルに言葉を投げ掛ける。

なぜなら彼女もお人よしだからだ。

「でも……アンタは勘違いしてるわ。ポケモンを傷つけたくないから戦わない? 笑わせないでくれる? そういうことを含めて、承知した上でアンタもトレーナーをやってるし、ポケモンもアンタと一緒にいるんじゃないの!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:40:48.62 ID:qPGwoxCAO<>
お人よしだとステイルは思う。

どうしてさっき会ったばかりの他人にここまで必死に言葉を浴びせられるのだろう。

いや、ステイルは納得した。

彼も御坂の立場だったら、彼女と同じような行動をとる。なぜなら彼はお人よしだからだ。

彼らは互いに知らないが二人ともジムリーダーの子供である。

しかし、その共通点以上に彼らは同様にお人よしだった。

「……、」

だからこそ、ステイルは御坂の言葉をすぐに聞き入れた。

ステイルは立ち上がる。

「!」


ステイルは立ち上がる!


「……問題ないようね?」

「ああ」

立ち上がったステイルは御坂を少し見ると、気付いた。

今だからこそか。御坂もたった今何かを乗り越えたような顔をしている。

「……ふ、礼を言っておくよ。ありがとう、御坂」

「いいわよ、別に」

「そして」

「……?」



「僕はポケモントレーナーだ」



ステイルは地面に落ちている空のモンスターボールを拾うと、ニャースの方へ向けた。

「あっそ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:42:10.69 ID:qPGwoxCAO<>
***

「サンダー、“かみなり”よ!」

ドシャアアアアッ!! と船を真っ二つにするような雷がマチスを襲う。

「畜生が……」

マチスはまだ倒れていない。

「もう諦めたら?」

「だから……諦める訳にはいかね、…………!?」

マチスは後ろを振り向く。

そう、今の声はロケット団員のものではなかった。

マチスの視界に映ったのは、彼の実の娘の姿。

「随分と可哀相な戦いじゃない」

「ミコト……ッ!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:44:03.81 ID:qPGwoxCAO<>
ロケット団員は御坂を一瞥すると、

「へえ。現・クチバジムリーダーね」

「詳しいのね」

「ええ。ここで働くには知っておかないと」

ロケット団員が右手を掲げる。

「早速だけど、死んで。“かみなり”!!」

ピシャアアアアッ!! とサンダーが打ち出した雷が御坂の頭上に落ちる。

「ミコトォ!!」

御坂はマチス特製のゴムスーツを着ている。なので電気は平気のはずだが、マチスはすでに体験している。

サンダーの雷にはそれも無意味なのだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:46:54.07 ID:qPGwoxCAO<>
が、御坂は無事だった。

「なに!?」

御坂の肩にいるピカチュウが火花を散らして雷を受け止めていた。

「嘘でしょ、伝説のサンダーの雷をたかが火花で防ぐなんて!」

「私に言わせれば、アンタのサンダーの攻撃は……たかが“かみなり”なんだけど?」

ドオオッ!! 火花が爆発して雷も吹き飛んで消えた。

「ピカー!!」

ピカチュウがサンダーの元へ駆け出した。

「く……、避けなさいサンダー!」

サンダーがロケット団員の指示通りに上空へと羽ばたこうとするが、

「させないわ」

御坂がモンスターボールを投げた。レアコイルが現れる。

「ビィーッ!」

レアコイルが全ての腕(ユニット)を前にならい、磁界を作る。

そしてその磁力に導かれて船にあった金属を含む物が全て空中を飛んだ。

それら全てがサンダーの身体に纏わり付いた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:48:21.86 ID:qPGwoxCAO<>
「っ!?」

サンダーはあえなく落下した。

「サンダー……!」

唖然とするロケット団員を尻目に掛け、御坂は言う。

「さて、と。あとは任せたわよ」

「ああ」

次に現れたのは長身の神父服を着込んだ少年、ステイルだ。

「! お前……!」

「すまないな、マチス。また君と共闘させてくれるなら喜ばしいよ」

ステイルはマチスに手を差し出す。

「……へっ」

マチスはその手を叩く。

「ったり前ェよお!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:50:38.47 ID:qPGwoxCAO<>
「……ってか、アンタ達知り合いだったのね」

「そういう御坂とマチスはどういう関係なんだい」

「FAMILYに見えないかヨ?」

「なんだと」

「……どうでもいいけど、」

御坂はステイルの背中を殴り、

「早くアイツをぶっ倒しに行きなさい。あの鳥は私達がなんとかするから」

「おいおい、私達って……」

「何よ、馬鹿父。文句ある?」

「ないデス」

(ファミリーって、親子だったのか)

兄妹かと思ったが、とかステイルが考えているとロケット団員がついに痺れを切らしたようで、

「私を無視して仲良くお喋りとはね。いいわ、三人まとめてかかってきなさい」

「そのつもりよ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:52:21.27 ID:qPGwoxCAO<>
御坂の言葉を合図にステイル達は動き出した。

「サンダーは私と父でやる! アンタはアイツを任せるわ!」

「いいだろう」

御坂とマチスは身体に色んな物が纏わり付いて飛べなくなったサンダーの方へと走る。

「そうはいかないわよ……、!」

「君は僕が焼き殺すと言ったはずだよ」

ロケット団員の行く手をステイルが阻む。

「ウフフ、さっきまで絶望していたくせに」

「……そうだね」

ステイルがモンスターボールを取り出し、中からポケモンを出す。

「にゃー!」

「!」


「僕は僕が信じているだけでなく、僕を信じてくれる仲間と共に戦う!」


バチイイイイイイ!! と激しい音がなる。

「! なに?」

音はちょうど御坂達がいる方から聞こえた。

「……ウフフ、サンダーが貴方のお仲間さんを倒しているところね」

「それはどうかな?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:54:17.52 ID:qPGwoxCAO<>
ロケット団員のその言葉も苦し紛れだった。

「ピカー!」

ピカチュウが放電し、サンダーを威嚇する。

「ダァ……、」

「……へっ、流石ミコトちゃんだな」

マチスは分かっていた。御坂はロケット団と戦える実力が十分あることを。

現にあれだけ脅威だったサンダーに対し、恐れもなさずに彼女はむしろ押している。

だが、マチスは御坂の父親なのだ。自分の娘が悪の組織と戦うことを許すなんて出来るはずがなかった。

「After all、子離れ出来てなかっただけかもなぁ」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:56:05.99 ID:qPGwoxCAO<>
「何か言った?」

マチスから少し離れたところから御坂が聞く。

マチスは傷薬をライチュウに塗りながら、

「何でもねえよ。……とりあえずはこれでいいな」

「ライ!」

ライチュウの体力は満タンになった。

「ダアアアアアァーッ!!!」

サンダーが身体から電気を放ち、纏わり付いていた物を取り払った。

「……っ!!」

「ま、そうなるわよね。伊達に伝説のポケモンじゃないってところかしら」


『サンダー、でんげきポケモン。でんきを あやつる でんせつの とりポケモン。ふだんは カミナリぐもの なかで くらしている。カミナリに うたれると ちからが わいてくる。』


「サンダーは電気を吸収して自分の力にしてるんだ。オレのライチュウの電撃も全てDRAINされちまった」

「……ていうか、いちいち英語交えて話すのやめてくれない? BEATINとする」

「イラッとする、な。しょうがねえだろ。外国人だし、普通だろ」

「さらりと全ての外国人巻き込んでんじゃないわよ」

御坂はさっきからジャラジャラと右手で何かを転がしている。

「お、そいつはオレがあげたヤツじゃねえか」

電気玉。マチスが開発した道具の一つで、ある特定のポケモンのパワーを高めるものだ。

「ま、まあ、これのおかげで私も実力以上の力を発揮できるのよ」

「ハッハッハ、嬉しいねえ。お役に立てて光栄だぜ」

マチスは頬を人差し指でなぞりながら笑う。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 18:58:39.26 ID:qPGwoxCAO<>
「そいつがあるってことは、アレをやるんだよな?」

「決まってるでしょ」

御坂が電気玉を指で弾くと、電気玉はピカチュウの手に渡る。

ピカチュウが電気玉を手にした瞬間、ビリリと空間が痺れた。

「……っ!?」

サンダーは身震いした。

それを見て御坂は笑い、

「“かみなり”を吸収して力に変える、か。ならそれ以上の電力ならどうなるのかしら?」

サンダーは野性の勘か、危険を察知したのか空中へ逃げようと翼を広げる。

しかし、

「逃がさないわよ」

サンダーの注意の払うところとは別の方向から電撃が来た。

「……!」

「ビビィーッ!」

レアコイルだ。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:00:18.32 ID:qPGwoxCAO<>
サンダーがピカチュウに気をとられている間に、レアコイルは死角に回り込んでいたのだ。

「“でんじほう”!!」

ビガアアアアッ!! とレアコイルの三つ目が輝いた時、三つの電気の玉がそれぞれ目から飛び出した。

玉は直径十センチくらいだろうか。割と小さいがスピードは速い。

玉は一気にサンダーとの距離を詰め、サンダーにぶつかりそのまま拡散した。

「ダアアアアッ!?」

玉がぶつかったのは翼だ。焼けるような痛みにサンダーは絶叫する。

しかし何故、雷も効かないサンダーに電気技が効いたのか。いや効いた訳ではない。

先程レアコイルがサンダーに付けた金属、今はサンダーが吹き飛ばしたおかげで付いていないが、それは見かけ上での話だ。

そう、わずかな金属の粉末がサンダーの身体に付いたまま残っていた。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:02:03.31 ID:qPGwoxCAO<>
全て振り払ったつもりのサンダーだったが、自身が莫大な電力を発生する身体だ。たったの一振りで全ての金属を取り除けるわけもなかった。

残った金属粉をレアコイルの電磁砲がサンダーの身体に食い込ませたのだ。

「……ダァっ……!!」

サンダーはその場に倒れた。

「これならライチュウの攻撃も喰らうかもなあ」

マチスは両手を広げてライチュウに指示をする。

「“エレキボール”!!」

バビュンッ!! とライチュウの尻尾から電気の弾が放たれる。

「……ッ!!」

「ソイツは自分のSPEEDが相手より上の場合に効果を発揮する技だ。今のお前は身動きがとれねえ、Because、電気技でもお前に効くはずだ」

ましてや、今のサンダーは身体を守る役目の毛が傷ついている。

今なら電気技を受け止めたら普通にダメージになるだろう。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:04:24.32 ID:qPGwoxCAO<>
「さて、と」

御坂がピカチュウに指示をする。するとピカチュウは頬から放電する。

「やってやれ! ミコトちゃん!!」


「ピカチュウ、“ボルテッカー”!!」


「ピィカチュウ――――ッ!!」

「ダァ……!?」

バリイイイイッ!!! 放電したままピカチュウがサンダーに突撃した。

「…………ッ!!?」

身体から煙を出してサンダーは音もなく倒れる。

「へっ、電気タイプ最強の技“ボルテッカー”。強い技だが、使い手は限られる。……流石はミコトちゃんってところだな」

「サンダーは倒した。……あとはあいつだけね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:06:14.18 ID:qPGwoxCAO<>
「……どうやら、サンダーは倒されたみたいだね」

ステイルは今だに電流が走る甲板の向こう側を見て言う。

「…………ッ!」

ロケット団員は絶句する。伝説のサンダーが倒されたのだから当然だ。

「馬鹿な、どうしてあんな奴らが……片方はさっきまで私に手も足も出なかったのに……!」

「一人で出来なくても二人でなら伝説のポケモンを倒せる。そして、三人でやれば君にも勝てる!」

「……絆ってヤツ? 私それ大嫌いなのよね。所詮は誰もが一人じゃない!」

「一人じゃないさ。僕には仲間がいる!」

ステイルの思いを受け取り、ニャースは駆け出した。

ロケット団員はそれを見て笑い、ジュゴンを繰り出す。

「ジュゴオオオ!!」

バシインッ!! ジュゴンの尾鰭がニャースの頬を叩いた。

「にゃぁ……っ!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:07:59.11 ID:qPGwoxCAO<>
「“ひっかく”だ!」

反撃をしようとするも、ニャースの攻撃はジュゴンに軽くかわされてしまう。

「あははっ! 無駄無駄! “れいとうビーム”!!」

「ジュゴオ!!」

「っ!」

凍てつく氷がニャースの顔面にぶち当たった。

「ニャース!」

「……にゃあ、」

ニャースはなんとか持ちこたえたようだ。

しかし体力は残り少ないはずで、あと一度でも攻撃を当てられたら戦闘不能になるかもしれない。

「……いや考えるんだ」

ステイルは考える。


(僕には知識がある!)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:12:18.87 ID:qPGwoxCAO<>
「今更何を考えたところで、状況は覆せないわよ!」

ロケット団員がジュゴンに指示をする。ジュゴンが動く。

ドガアアアッ!! ジュゴンの凄まじい威力の攻撃がニャースに炸裂した。

「アハ、終わったわね!」

ゆらりとジュゴンはニャースから離れてステイルの方を向く。

「今度は貴方。ここで始末してあげる」

ジリジリとステイルに迫るジュゴン。互いの距離は三メートルもない。

しかしその緊張した空気の中、ステイルはポケットから煙草を取り出し呑気そうにそれを吸いはじめた。

「ふうーっ……」

「どういうつもり……!?」

「いや、今日はあまり吸っていなかったし。せっかくだからね」

「せっかくって……最後の一服、って感じ?」

「まあそんなものかな。ただし……」


「最後は君の方だが?」


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:13:48.36 ID:qPGwoxCAO<>
ザキイイッ!! 斬撃がジュゴンの身体を切り裂く。

「ジュゴオオオ!?」

「なにぃ……!!」

ジュゴンを切り裂いたのはニャースの鋭い爪だ。

「にゃあー!」

「どうして!?」

倒れてぴくりとも動かないジュゴンを信じられない顔で見ながら、ロケット団員は言う。

「さっきのジュゴンの一撃でニャースは完全に瀕死になったはずでしょ!」

「確かにそうだが、そうとも言えない」

「どういう……、!」

ロケット団員は気付いた。ニャースの身体から傷がなくなっていることに。

「先程までの傷付いたニャースなら倒れていた! だが傷が癒えた今、瀕死になるはずはない!」

「バカな! どうやって回復を……!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:15:49.24 ID:qPGwoxCAO<>
「にゃー!」

ガブリとニャースが何かをかじっている。

「あれは“オボンのみ”……!?」

「うん? 正解さ。ニャースの能力、『肉体再生(ものひろい)』だよ」

「肉体再生……!!」

ニャースは甲板に落ちていた木の実を拾い、それを食べて体力を回復したのだ。

そんなことかと思うかもしれないが、普通のポケモンには体力を回復できる木の実とできない木の実を区別することはそう容易ではない。

これは『肉体再生(ものひろい)』を持つニャースだけが出来る芸当といえる。

「お誂え向きにここは船だし、食料はいくらでも積んでいるだろうしね」

先程、食堂の前でバラバラになった木の実を見たばかりのステイルの予想だ。

「く……、こんなことで!」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:17:09.17 ID:qPGwoxCAO<>
「そうそう。どうやら木の実には体力を回復するもの以外にも色々なものがあったようだ」

シュンッ! ニャースが目にも留まらぬ速さでジュゴンの目の前へと飛び込んだ。

「ジュゴ!?」

「素早さが上がってるですって!?」

「それだけじゃない」

ザキイイッ!! ニャースはその鋭い爪でジュゴンの腹を引っ掻いた。

「ジュゴオオオオ……!!?」

「ニャースはオボンの実に混じって、チイラの実やカムラの実も食べていたみたいでね」

「く…………」

ロケット団員はこの船にそれらの木の実が積んであったことを思い出す。

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:19:07.90 ID:qPGwoxCAO<>
「そろそろトドメといこうか」

薬を注入したジュゴンももう立ち上がれない。

ロケット団員はその場で後ずさる。しかし、ここは船だ。その後ろには海が広がっている。

「どこに逃げようと逃がしはしない! 君は僕が焼き殺すと言ったはずだ」

俊足になったニャースが爪を立て、ジュゴンごとロケット団員に飛び掛かる。


「“つじぎり”だ!!」


「にゃあああああ!!」

ドガアアアッ!! 船体ごと切り裂く斬撃がロケット団員達を吹き飛ばす。


「がァああああ――――ッ!?」


そう、後ろに広がる海へと。

「ちぃっ……!」


(ステイル=マグヌスぅ――――――――ッッ!!)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:20:37.05 ID:qPGwoxCAO<>
甲板に水しぶきがシャワーのごとく降り注ぐ。

それを浴びるステイルは腰を落として尻餅をついて、

「か、勝ったのか……?」

その背中を後ろから殴られる。

「バーカ、何いってんのよ」

「相変わらずどこか抜けたboyだぜ」

戻ってきた御坂とマチスは笑い、ステイルに手を貸した。

「ありがとう。御坂、マチス」

「わ、私は別に……」

「お前なら一緒に戦ってくれると信じてたしな!」

「……ふ、そうだね」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:22:16.45 ID:qPGwoxCAO<>
ステイルは再び腰を落とし、今度はニャースにお礼を言うと自分のモンスターボールに戻した。

「馬鹿猫はそのまま持っていく気?」

「ああ。ちゃんとコイツの仲間には挨拶に行くけどね」

「へえ、律儀ね」

ステイルは甲板を見渡し、

「これは……後始末はどうしようか?」

「そいつはオレ達に任せとけ。大船に乗ったつもりでよ!」

「……沈みかかってるが」

まあ何にしてもよかった、とステイルは煙草をくわえなおす。

「じゃあ僕は行くよ。二人とも、世話になった」

「待ちなさい」

「……?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/06(火) 19:24:23.47 ID:qPGwoxCAO<>
御坂の手から何かが飛んできた。

ステイルはそれを何とか受け取る。

「! ジムバッジ?」

「オレンジバッジよ、あげるわ」

「あ、あー。ありがとう。………………ジムリーダーだったのか」

「今更!?」

ふうっ、と御坂は溜息をつく。

「まったく……」

それにステイルは笑い、再び御坂達に背中を向けて歩き出した。


「ありがとう」




第十二章・完


<>
◆1.3Lm5W0kc<><>2012/03/06(火) 19:25:50.51 ID:qPGwoxCAO<> やっと投下できました また見てくださる方がいればありがたいです
ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/06(火) 19:27:39.90 ID:fkJsgOTC0<> 乙
ものひろいワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/06(火) 21:05:09.18 ID:IQI2A/fDO<> 乙、まってた!
もぐもぐしてるニャース可愛いよニャース
きっと腹筋割れてるよニャース <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長崎県)<>sage<>2012/03/06(火) 21:30:02.34 ID:6XFXs7+Vo<> 乙!
このニャ―スがどう化けるか楽しみ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/06(火) 22:28:32.39 ID:DU6Q0v4go<> おつにゃんだよ!
<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:00:38.06 ID:6sDchYWAO<>
ハナダシティの外れ、ハナダ岬。

ポケモンマニアのマサキはここに住んでいる。

「いやー、今日もいい天気やなあ!」

マサキは庭に出て、朝日を浴びて言う。

「絶好の旅立ち日和やな!」

それは独り言ではない。彼は少し遅れて家から出てきた少年に話し掛けている。

「な、一方通行!」

「あァ?」




第十三章・一方通行(アクセラレータ)


<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:02:04.11 ID:6sDchYWAO<>
「今日帰るんやろ?」

「だからなンだよ」

「それなら天気のいい日の方がええやないか!」

マサキの言葉に一方通行は呆れた顔で、

「……はァ。関係ねェよ、ンなモン。天気なンて何だっていいじゃねェか」

「なんやなんや、ワイがお前の歳ぐらいの時は天気のいい日に探険とか色々……。最近の子供はお天道様の有り難みを知らんなー。外で遊べ、外で」

「…………もォ行くぞ」

「なぁあああ! 早くないか!?」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:04:05.36 ID:6sDchYWAO<>
「俺にも都合ってモンがあンだよ」

「そうか……。寂しくなるなあ」

「はン。俺にとっちゃァ万々歳だな」

一方通行はマサキに背を向ける。

「ああ、待った待った!」

「あァ?」

「ソーナンスとソーナンスの近くに転がってた機械や」

マサキはモンスターボールと小さな機械を一方通行に手渡す。

「……」

「これで旅立つ準備は完了やな」

「俺は遠足前の小学生かヨ」

「もう弟みたいなもんや!」

マサキは一方通行の背中を叩く。

「……クソったれが」

「それじゃあ元気でな、一方通行」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:06:03.65 ID:6sDchYWAO<>
「……、っ」

一方通行は物凄い形相で眉をピクピクと動かしている。

「?」

そして、ボソリと一方通行は呟いた。

「……チッ、世話ンなった」

「! ……おうっ!」

「じゃァな」

「そ、そや。これ持っていきな!」

マサキが一方通行に何か投げつけてきた。

一方通行がそれを片手で受け取ると、

「缶コーヒー。新発売のヤツやで」

手にコーヒーの温もりを感じながら、一方通行は呟く。

「……クソったれが」

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:08:24.07 ID:6sDchYWAO<>
***

一方通行はハナダシティを南下している。

「……チッ」

彼は忌ま忌ましそうに舌打ちする。

(……いつから俺はこンなに甘くなっちまったンだろォな)

ハナダ岬から随分歩いたが、缶コーヒーはまだその温もりを保っていた。

「いつまでもつのかねェ」

彼が目指しているのはハナダシティを南に行ったところにあるヤマブキシティという町だ。

そこには地方最強(リーグチャンピオン)である彼がよく訪れる家がある。

家、と言っても一方通行自身の家ではない。一方通行は居候の立場にある。

(だがまァ、結局最終的には帰ってきちまうンだ。俺の居場所はここだからな)

<>
◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:10:10.32 ID:6sDchYWAO<>
一方通行は足を止めた。

目の前には一軒の家がある。傍目から見ればごく普通の二階建ての家なのだが、一方通行は知っている。

ここに住む人間でまともな人間はいない。

(ここが本来の俺の居場所。少し真っ当な人間に触れただけで今更何も変わりはしねェ)

一方通行は悪の組織ロケット団の一員だ。彼の『最強』も、ロケット団から譲り受けたものだった。

偽りの最強。

どうしてあんな組織の手を借りたのか、と一方通行は思う。

「……はン」

一方通行は右手にある缶コーヒーを握る。缶コーヒーはまだ温かい。

「後悔でもしてンのかよ? ガラじゃねェっつの」

一方通行は空いた左手で家のドアを開ける。真っ黒に染まったその闇の扉を。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:12:51.78 ID:6sDchYWAO<>
家の中も案外普通だ。入ったすぐに玄関、廊下、その先には幾らか部屋があり、トイレや二階に繋がる階段がある。

いたって普通の家だ。しかし、それがより不気味さを引き立てる。

一方通行はリビングに向かい、ドアを開けて中に入る。

入ってすぐにこんな声が聞こえた。

「あら、帰っていたの」

芳川桔梗。声の主は彼女だ。

いたって普通の女性だがその服装はというと、こんな家の中で白衣なんか着ている。

彼女はポケモン研究者で、一方通行の『同業者』だ。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:14:37.54 ID:6sDchYWAO<>
「っつか呼び出したのはオマエだろォが、芳川」

「そうだったわね」

「ンで? 何の用だァ?」

「そもそも用があるのは私だけじゃない。あの人もそうよ」

芳川はリビングにあるソファーの方に視線を向ける。

そこにいるのは男性だ。

彼も芳川同様白衣を着込んでいて、もちろん一方通行と芳川の『同業者』。

男性の名は天井亜雄。天井はソファーに腰を掛けてなにか分厚い資料を読んでいた。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:16:05.52 ID:6sDchYWAO<>
天井は数秒手を止め、一方通行の方へは向かずに話す。

「何だ。遅かったな、一方通行」

「…………」

一方通行の返事はない。

続けて天井は話す。

「何故、こんなにも遅くなったのだ?」

その質問にようやく一方通行は口を開いた。

「白々しい。もう知ってンだろ?」

「それは『あのバトル』のことか?」

天井は一方通行を見ていない。

「あの少年にお前が負けた、というバトルだな」

天井は全く一方通行のことなど視界に映さない。

それが余計に苛立たしさに拍車をかける。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:18:13.83 ID:6sDchYWAO<>
「……ッ、」

一方通行は天井の襟元を掴み、ソファーに天井を押し付けた。

「テメェ、言葉には気をつけろ。いくら『同業者』だからって俺は容赦はしねェ」

しかし天井は嘲笑うかのように、

「ハッ。手持ちのポケモンが戦えないというのに、どうやって私を倒すというのだ?」

「……ッ!!」

カチッ、と一方通行はランニングシューズのスイッチを入れて、天井の腹に蹴りを放り込んだ。

天井の身体が減り込み、ソファーからブチブチと音がなる。

さらに天井の脇腹を一方通行が蹴るとソファーごと天井は吹き飛び、そこへ一方通行が飛び込んで踵落としを決める。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:22:24.70 ID:6sDchYWAO<>
「天井亜雄ォォォォォォォォォォォォ!!」

叫びながら一方通行は天井に飛び掛かろうとするが、その身体が押さえられた。

「……!」

芳川だ。

芳川は一方通行に抱き着くように一方通行の身体を制している。

「やめなさい、一方通行」

「離せ芳川ァ!」

一方通行は暴れるが、芳川は全く離れない。

それを見て、ソファーにもたれて倒れている天井は笑う。

「……くくっ。地方最強とは笑わせる。お前はポケモンがいなくては何もできないただの人間だよ」

「…………テメェ、」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:24:26.96 ID:6sDchYWAO<>
「あっ!」

一方通行は芳川の腕を振り払い、ズボンのポケットに入れた缶コーヒーを手に取って口へと運ぶ。

冷えたコーヒーが喉に染み渡り、段々頭が冴えてきた。

「クールダウンだ。そこの馬鹿に感謝しなァ」

一方通行は缶コーヒーを投げ捨て、

「おかしいンだよ。何でかアイツはあのバトル以来動かなくてよォ。だからついでにオマエに聞こうとしたンだが、どうやら最初から分かってやがったみてェだな」

「ああ、知っていたとも。そもそも私達の所属は何処なのだ?」

「クソ野郎が……。あの機械、副作用があるなンて聞いてねェぞ」

「人聞きが悪いな。私達はお前が望んだから、あの機械をお前にあげたのだ」

天井は薄く笑う。

「全てはお前の責任だよ」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:27:40.18 ID:6sDchYWAO<>
一方通行の返事は意外なものだった。

「……そうだなァ」

一方通行は薄々気づいていたのかもしれない。あの機械に副作用があることを。

しかし、彼は最強を求めた。

自分のポケモンの身の安全より、『最強』になることを選んだ。

(っつか、ポケモンと強さっつう二つを天秤にかける事自体が間違ってンのかもなァ)

それが後になって返ってきた。

最強になったところで、戦えなくなったら意味がない。

最強を求めたことで全てが台無しになった。

「…………クソったれが」

一方通行は本当に忌ま忌ましそうに舌打ちする。

天井はそんな一方通行をジロリと眺め、

「それでお前はどうするつもりなのだ?」

「あァ?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:29:44.14 ID:6sDchYWAO<>
「無様に私達に請うか、みっともなく奴らを引っ掻き回すか、どちらを選ぶ」

「…………」

最悪の二択だ、と一方通行は思う。

どちらを選ぼうと、ろくな未来にはたどり着きはしない。

しかし、一方通行の頭にはすぐに答えが出た。

「どっちもお断りだ。テメェらに面下げンのも、クソ野郎の相手すンのもくだらねェ」

一方通行の答えは前者でも後者でもない。そもそも彼が選択可能な行動は二択ではない。

彼の取るべき行動はただ一つ。



「全部、潰す」



一方通行の後ろでクスクスと笑い声が聞こえる。

芳川が可笑しそうに笑っていた。

「あァ?」

「あら、ごめんなさい。でも良かったわ」

「何が……」

「君らしい選択よ」

「はァ?」

芳川は部屋のドアを開ける。

「おい、どこ行くンだ」

「言ったじゃない。奴らを潰しに行くんでしょ?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:30:58.43 ID:6sDchYWAO<>
***

一方通行、芳川、天井の三人はヤマブキシティのとある通りを歩いていた。

「ンで、どういう訳だよ?」

「今からロケット団のアジトに行くのよ」

「だから何で……」

「奴らは知っているのだよ」

天井は相変わらずニヤつきながら言う。

「お前があの少年に負けたことを。そしてソーナンスの『きょうせいギプス』が壊れてしまったこともだ」

芳川が天井の言葉を引き継ぎ、

「君の性格から判断して、君がロケット団に歯向かうことは予想できる。ロケット団は一刻も早く、君を処分しに来るでしょうよ」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:33:58.84 ID:6sDchYWAO<>
「それより前に奴らを潰す、やられる前にやれってか」

「そんなところよ。それと君のソーナンスの『きょうせいギプス』、応急処置はしておいたけど……やっぱり間に合わせ」

「時間制限(タイムリミット)があったンだったな」

「ええ。もって十五分といったところかしら。それに使用制限もあって、それは一回きりなの」

「何……?」

一方通行が芳川の言葉の真意を聞き出そうとした時、前を歩いていた天井が立ち止まり、

「着いたようだ」

天井の視線の先を追うと、一方通行の視界は大きなビルで埋まった。

十階はあるだろうか、とても大きなビルだ。近くに立ててある看板には『シルフカンパニー』と書いてある。

ついその大きさに一方通行がビルを見上げる。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:36:06.68 ID:6sDchYWAO<>
「そちらじゃない」

「?」

天井の視線は大きなビルには向いていなかった。

よくそれを追えば、天井の視線は大きなビルの隣にある五階建くらいの建物に向いていることが分かる。

そして、一方通行はその建物に見覚えがあった。

「奴らのアジトだよ。お前も見たことがあるだろう?」

「あァ。嫌って程にな」

一方通行は昔よく通ったその建物を睨みつける。

しかし、その目に戦意も殺意もない。あるのは軽蔑。

「はン。こンな小っせェアジトなンて潰してどうすンだよ。狙うは大物。本部にしか価値はねェよ」

「あるわ、価値なら」

「あ?」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:37:28.74 ID:6sDchYWAO<>
「確かに本部の方が潰す価値はあるでしょうけど、本部を潰すことは無理ね。君も知らないのでしょう? 本部の場所を」

「…………」

一方通行は黙る。それを良いことに、芳川は話を続ける。

「君のソーナンスの『きょうせいギプス』を作った所がこのアジト。それは君も知っているわよね?」

「あァ」

「そんなこのアジトには予備の『きょうせいギプス』がある。まあ、君が持っている物と比べたら少し性能が劣っているのだけど。でも、今よりはマシよ」

「……酷だねェ。また同じ事を繰り返せってか?」

「そうね。でも扱いに気をつければ大丈夫よ。性能が劣る分、リスクも減るわ」

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:39:04.22 ID:6sDchYWAO<>
「……変わンねェよ」

そう言う一方通行の声は死んでいる。とっくに諦めた言いようだ。

しかし、そんな彼の言葉を芳川は否定する。

「変わるわ。いえ、変えてみせる。私と天井がそれを成し遂げてみせる」

芳川の否定的な言葉に一方通行は鼻で笑い、天井の方をちらりと見ながら、

「コイツがかよ? 信じらンねェな」

「ふふ、そうでもないわ。彼も君と同じよ。本来は、こうではなかった」

「……クソったれが」

一方通行が呟いたその時、


近くに停めてあっただろう車が爆発した。


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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:41:19.35 ID:6sDchYWAO<>
「あァ?」

「来たわね。本当、こういう事は早いわ」

バラバラになった車から数匹のブーバーが現れた。

どうやら、彼らが車を爆発させたらしい。

その光景を前に天井が口を開く。

「ふむ。どうするのだ、芳川」

「二人でアジトに入って。ここは私が何とかするわ」

芳川の言葉を最後まで聞かないで、天井は一方通行の肩を叩いて合図をして走り出した。

「だそうだ。行くぞ、一方通行」

「おい!」

一方通行は天井に向かって叫んだのではない。

今、ブーバー達と対峙している芳川の背中に向けて叫んだのだ。

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◆1.3Lm5W0kc<>saga<>2012/03/08(木) 20:44:00.21 ID:6sDchYWAO<>
「テメェ、大丈夫なンかよ!?」

我ながら似合わない台詞だと一方通行は思う。

しかし、彼がそう言うのも当然だ。

理由は単純で、芳川は研究者でありトレーナーではない。ブーバー達と渡り合える程の実力を持っているとは思えない。

そんな一方通行の思いを知ってか知らずか、芳川はくすりと笑いながら、

「らしくないわね。君が人の心配をするなんて。あのバトルから君は変わった。いや、私達が気付いていなかっただけなのかもしれない。君が本当は優しいってことを」

「何言ってやがる。ふざけたことほざいてンじゃ……」

「だからこそ、行って」

「!」

芳川は一方通行を見ようともしない。

その右手にはモンスターボールが握られている。

「たまには私達(おとな)に頼りなさい」

一方通行は一度舌打ちをして、先に行った天井を追いかける。


「…………クソったれが」




第十三章・完


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◆1.3Lm5W0kc<><>2012/03/08(木) 20:44:41.38 ID:6sDchYWAO<> 第十三章終わりです
ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/08(木) 21:15:57.97 ID:s0lrJrZDO<> 乙

シリアスで天井が味方って新鮮 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2012/04/08(日) 16:05:06.38 ID:YX+zopdmo<> マダカヨ・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<><>2012/05/12(土) 14:08:00.66 ID:6pFG0AhZ0<> まだかなー <>