◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:02:47.18 ID:GKHRrRnA0<>
こんばんは!
まずはじめに、
この話は他所(ttm://blog.goo.ne.jp/milk-produce)にて既に掲載した作品の加筆がメインとなります。
そうして、第一夜、第二夜、第三夜という3部構成を望んでいますが、
――まぁ3日以上、平気で超えてしまうでしょう。
それでは、まったりとご覧下さい。<>女「we are…」 幼女「てらーざ!」 姫様「ゴースト。」
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:06:11.36 ID:GKHRrRnA0<>
第一夜。 ―六文銭―
―――――――。
うぅうぇ〜〜えぇえぇ〜…!!
どこからか子供の泣き声が聞こえた。
「はぁ…またか…」
女性は溜息を洩らし、この泣き声の主であろう子供を連想する。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:10:13.22 ID:GKHRrRnA0<>
やれやれと首を振り、膝元に手を突いて力を込めた。
女「よいしょっ…と」
年甲斐もない掛け声と共に、足にも力を入れて立ち上がる。
長い時間正座していたためか、足取りはおぼつかない。
そのままで、今の今まで座り込んでいた仏間を出…――
「ぉわっ…と、と。」
――ようとしたところで足が痺れ、たまらず部屋の入り口にある襖の端に掴まる。
「…だから田舎は嫌いなのよ……たくっ…!!」
今度ばかりは歳相応の苦言が出た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋)<><>2011/12/06(火) 23:15:59.05 ID:V6QLTcjy0<> 精神をかそくさせろ <>
名前入れ忘れちゃうなぁ・・・ ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:19:22.43 ID:GKHRrRnA0<>
女性は盆の時期の為、実家に帰省してきた所だった。
誰が好き好んでこのような暑い時期に帰るものかと思ったものの、
親に元気な孫の顔を見せてやらねばと、重い腰を都会から浮かせたのだった。
―しかし、無事実家に着いたはいいが、連絡したにもかかわらず誰も家には居なかった。
女「…誰かの法事とかなんとか言ってたっけ」
最後に親に連絡をした時、たしかそのような事を言っていた気がする。
このタイミングでとは運が無かったか…などと、何に対してでもなく憤りを感じながら、女性は縁側へと出ようとした。
――しかし…
女「……っ!!」
女「………な、なんだ…お隣のお爺ちゃんか……もぉ…脅かさないで下さいよぉ…」
――目の前の庭先には、隣に住む顔見知りの爺が立っていた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:25:20.50 ID:GKHRrRnA0<>
庭先の翁は、ただそこに立って、こちらをねめつける様な視線で見つめていた。
…いや、正確には仏間にある仏壇を見ていた。
女「どうかしました?」
女性は首を傾げながら背中で寄りかかっていた柱から離れ、爺に寄り縁側に出た。
そのとき、
女「ッ?!」
背中を冷たい何かが撫でるような嫌な予感がし、耳元で風を切りながら後ろを振り返る。
女「………」
…今確かに何かが仏間に居たような…
気付けば、仏壇のろうそくの火が消えていた。
「子供」
―無防備な強張った背中に、そのような声が届く。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:32:35.77 ID:GKHRrRnA0<>
女「え…?」
翁のしゃがれた声に振り返り、今一度聞き漏らした言葉を訊ねる。
女「今、なんて…」
グリッ…と、球体間接であるかのように首を巡らし、翁の顔がこちらを向く。
その顔はさび付いたからくりの様に口を開き、鞴を連想させる動きを見せた。
歯と歯の合間を、震えるその声が再度言う。
翁「子供。小川に。」
女「…あ」
―あぁ…なるほど。―
音にはせず女性はそう漏らす。
女「ありがとうございます。」
女性は頭を下げ、翁が言っていたであろう場所へと急ぐ。
多分、そこで件の子供は泣いているのだろう…。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:43:56.18 ID:GKHRrRnA0<> ―――――――。
お隣の爺が言っていた場所は、それほど遠くは無い。
そう感じていた女性の以前の記憶よりも、更にずっと近くに感じられた。
このあたりで小川といえば一つしかなく、そこへ行くには切り立った崖の上につくられたアスファルトの道路を歩いてゆくしか無い。
直線の距離ならば、100も数えない程の位置に、大小様々な岩がごろつく浅瀬川があり、ここで暮らしていた頃はよく仲間たちとそこで集まって遊んだものだ。
しかし、そこに行くまでの道が危なく、舗装されたものは車道しかないため、大人たちは子供らがそこで遊んでいると、崖の上のガードレールから声を張り上げて怒鳴るのであった。
懐かしい記憶に口端を緩ませながら歩いていると、すぐにその崖の上の道路へと着いた。
すると、―
「うぅうぇっ!ぇ〜〜えぇ〜えぇ〜っ!ぇっ!ぅぅ…」
大人達がいつも自分たちを見下ろしていたガードレールの下に、
案の定、泣き叫ぶ子供が居た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/06(火) 23:48:48.31 ID:Jjxqnl3SO<> ブログ版見たほうがいいか? <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:52:22.06 ID:GKHRrRnA0<>
女「もぅ、…」
女「…どうしたの?」
子供を見つけてか、少し気を緩ませながら歩み寄り、飽きれた様に子供に訊く。
己が親に気付き、車道の端から女性のもとへと変わらず泣きながら駆けてくる子供。
身をかがめてその小さな体を首と腕で受け止め、あやす様に抱きしめる。
女「ホラホラ、泣いてちゃわかんないでしょう?どうしたの?」
子供「落ちたぁ…ヒグッ」
近くでの問いに、なきじゃくりながらもガードレールの向こうを指差し必死に応える子供。
ガードレールの向こうは何も無い、かなり下に木々の頭を挟んで例の小川が流れているだけだ。
女「あらぁ、飲み物落としちゃった?」
子供「うん…ヒック」
ちらりと覗き見、改めてその高さに軽く身震いをする。
女性は、子供にこの車道の先にある最寄の自販機で飲み物を買ってくるように頼んでいたのだ。 <>
これより更に拙いですので、おすすめいたしかねます ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/06(火) 23:57:27.65 ID:GKHRrRnA0<>
女「お釣りも?」
子供「ぅん…」
続いて出た当然の問いに、自身の強欲さを感じて少し辟易してしまう。
子供は親のそんな様子にも気付かず、ただただ首元に腕をまわして頷いた。
女「怪我は無い?」
遅れて出た一番の疑問に、――
子供「…ぅぅ…」
子供「…ぅうぇぇぇ!!ぇヒック!ぇへぇっぇ…!!」
嗚咽をさらに強めながらしがみつく子供。
女「ぉお…よしよし。」
それを肯定と受け取り、女性は強くしがみついてくる子供をあやす。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/06(火) 23:58:33.27 ID:Jjxqnl3SO<> じゃのんびりと見るわ
期待 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:02:47.53 ID:Y9LMIm5T0<>
女「また買えるから…」
とん、とん、と、抱えた子供の背を叩きながら、飲み物は親に用意してもらおうと考える。
子供「ヒック…ほんと…?」
しがみつく腕をゆるめ、顔を見つめて訊ねる子供に、女性は優しく微笑みかけ…――
女「本当。ほら…」
――ポケットの中に残っていた小銭、百円玉を二枚渡す。
家に誰か帰ってくるまで、子供と自分だけでも乾いた喉を潤そうと考えたのだ。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:08:17.52 ID:Y9LMIm5T0<>
子供「…これで替えるの?」
子供は泣き止んで、自分の手の中の100円玉二枚と女性を見比べていた。
女性は子供に手渡した額に気付き、考えを改める。
いくら田舎といえども、行く先の自動販売機の飲み物は一番安くて120円だ。
このままでは一つしか買えない。
子供「でも…あと四枚足りないよ?」
女「うん?…」
子供の訊ねに首をかしげる女性。
いったい何を買うつもりだろうかと考えながら、今しがた考え付いた方式を伝える。
女「…あぁ、今度はお仏壇さんの分だけでいいの。お釣りはお小遣いね。」
そういって笑いかけるも、まだ小銭と女性を見比べている子供。
流石に子供も喉が渇いているのだろうか。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:11:59.97 ID:Y9LMIm5T0<>
それから視線を何往復かした後、
子供は手の中の小銭を女性に差し出した。
女「?」
疲れたから変わってほしいのだろうか?と女性は、子供の泣きはらした目を見つめながら小銭を受け取る。
女性が小銭を握り締める光景を嬉しそうに見詰める子供に、何か底知れぬ黒い物を感じ…――
子供?「これで取り替えるんだよね?」
――その言葉を最後に聞き、
次に気付いた時、
女性の魂は地獄に落ちていた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:27:09.90 ID:Y9LMIm5T0<>
第一夜。 ―六文銭 家に居た者視点―
―――――――。
―お隣さんまで…あたしぁまた寂しくなるねぇ……―
流石にこんなにヨボヨボになるまで生きていては、誰かと死別する寂しさも一入。
数年前に自分のつがいを亡くして、それっきり山を下りて町を歩くことも無くなった。
一人娘も、お父さんが元気なうちにひとり立ちしてしまって、当時は死に目にあえなかったと酷く嘆いていた。
婆「あぁ…そういえばあの子も今日くるんかね。」
かわいい一人娘。
お父さんが亡くなった事を皮切りに、都会の若い人達と共に荒れるように仕事に打ち込み始めてしまった。
何度身を案じて連絡をしようと、「忙しい」の一言で片付けられてしまったというのに、
今年は、あの頃より大きくなった孫を連れて来てくれるというではないか。
そうして、嬉々とこの日を待ちわびていたが、お隣さんが突然の訃報で、今日はその法事である。
これも、私が町へと下りなくなった影響なのだろうか。
身も蓋も無いことを考えながら、お隣のお爺さんの法事に向かう準備をしていた時。
女「誰かッ!!誰かぁっ!!」
娘の悲鳴が聞こえた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:35:00.72 ID:Y9LMIm5T0<>
錆付いた身体に無理を聞かせて、急いで玄関へと向かう。
女「誰かっ!!誰かぁッ!!あの子がッ!!あの子がぁ…あぁ…」
玄関先で、娘が錯乱していた。
婆「どうしたの!!ほら!!しっかりおしッ!!!!」
真に正気で居なければならない私が、娘の突然の状態を見ては落ち着いていられなかった。
肩をつかんでどうにか正気に戻そうとするが、娘は目の前の私を見ていないので声が届いていない。
けれども、折れそうな程やせこけた腕に、力の調節すら満足に出来なくなっている娘の指が食い込む。
女「あの子がぁ…あの子がぁぁ…」
―あの子?―
歯を食いしばって痛みに耐えていると、意外なほどに冷静な心を取り戻せた。
そうして、娘の叫びの一端を理解する。
婆「どうしたの!?あの子って…!!」
婆「あの子ってっ、孫の事かい?!!あの子がどうしたの!!」
大切な一人娘が一人で大切に育てた、私の唯一の孫。
その子に何かがあったのは、娘の様子で明らかだった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:40:45.92 ID:Y9LMIm5T0<>
女「私が…私がついて行ってあげればよかったんだ……あの子だけで行かせたからぁ!!」
婆「しっかりしなさいっ!!」
揺すろうと、声を張り上げようと、目の前の娘には届いていない。
私自身にも、娘の叫びは頭にまで至っていない。
女「あの子…いっぱい飲み物抱えて……笑顔で…走ってきて…」
ふらっと、腕に食い込む指の力が弱くなる。
それと重なって、私のなりふり構わず問いただしたい衝動も薄れてゆく。
婆「………!」
今更になって、娘の言葉を理解し、現状を少し見れるようになる。
―この子は今、起こった事を整理しているようだ。―
一つ一つ、口にして自分の中で整理している。
下手に刺激するよりは、この子の言っている事をまとめれば… <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:44:59.31 ID:Y9LMIm5T0<>
女「あの子…前も見ずに走るから……川に…」
婆「川に……っ?!!」
嫌な、予感がした。
女「川に…」
婆「………」
悪い予感は当たるもので…
女「落ちて…」
婆「……ゃ…」
主人が先立つ事も、なんとなくわかっていて…
女「顔が…」
婆「…ゅ…ゃ…」
孫に会えない寂しさもわかって…
女「潰れて…」
婆「…救急車」
――真っ白な頭の中、
皺だらけの骨のような指が、”119”と番号を押す画を垣間見た。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:48:52.76 ID:Y9LMIm5T0<>
―――――――。
婆「あんた…ごめんね…」
私が迎えに行ってさえいれば…
結局、法事には行かなかった。
誰かの死を、誰かの終りを見に行く気にはなれなかった。
あれから半日程たったが、あの後すぐ娘は気を失って今も目を覚まさない。
孫のことは、顔なじみの駐在から伝え聞いた。
その様子は、思ったとおりであった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 00:57:04.76 ID:Y9LMIm5T0<>
娘のガサガサに荒れた手を両手でつかむ。
婆「私を…老い耄れを一人にしないで……」
心から漏れた弱音を、風に揺れる庭先の葉の音がかき消した。
遅れてヒュッ…と風が吹き、仏間を吹き抜けてろうそくの火を消していった。
婆「…あぁ、点けなおさないと。……ごめんよ…」
持ち上げていた娘の手をそっと褥の中に戻し、力の入らない足腰に筋を浮かばせて立ち上がる。
婆「ふぅ………?…」
その際、何気なく庭を見ると、いつも蹈鞴に置いてあるサンダルが無くなっていた。
…代わりに、お隣のお爺さんがいつも履いていたスリッパが、そこに立ってこちらを見ていたかのように庭先に置いてあった。
婆「………」
考える事を億劫に感じ、視線を仏間に敷いた布団に戻す。
婆「……?!」
目の前の光景を受け入れるのに、少し時間がかかった。
娘が、音も無く半身を起き上がらせていたのだ。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 01:02:41.94 ID:Y9LMIm5T0<>
婆「…あぁ……気がついたかい…?」
点けなおしてもいないろうそくの火は弱弱しく燃えていて、目の前の娘はそれに透かされるようにしてこちらを見ていた。
婆「……大丈夫かい?」
どこからか湧き上がる不安に既視感を覚え、自然と娘に手を伸ばしていた。
まだ何か……何か嫌な予感が拭いきれ無い。
そう思いながらも、娘には心配させたくなくて、精一杯の笑顔を向ける。
女「おばぁちゃん?」
――”娘の”その言葉に、
その表情に、
それ以上、手を伸ばせなかった。
女「しゃしんにそっくりだぁー!」
―――――――第一夜終了―――――――
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/07(水) 01:13:05.62 ID:Y9LMIm5T0<> 今夜はここまでですー。
ご質問があれば、お答えいたします。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)<>sage<>2011/12/07(水) 07:54:05.79 ID:glNp2QfSO<> 乙 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 00:57:09.66 ID:f26rTVMt0<> こんばんは!
第二夜ですが、昨夜とは打って変わってハートフルなストーリーになっております!
加筆も特に必要そうでないので、ぽいぽい投下してゆきます。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 00:58:24.95 ID:f26rTVMt0<>
第二夜。 ―十三回忌―
―――――――
幼女「あたしが、あなたのおねぇさんです!」
俺「あ?」
この河辺の原っぱでよくみる子供が、突然俺の目の前で姉宣言をはじめた。
<>
”俺”には特に深い意味はございません ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:00:10.96 ID:f26rTVMt0<>
俺「誰が?」
女の子「あたしが!」
左手の親指を自身の首に指す。
俺「誰の?」
女の子「あなたの!」
右手人指し指で俺を指す。
俺「………。」
女の子「………。」にまにまと笑顔
失礼な子供だ。
それだけは確実だ。 <>
”俺”には特に深い意味はございません ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:03:22.14 ID:f26rTVMt0<>
俺「悪いけど勉強中なんだ、かまってあげらんないよ。」
女の子「いいよ?ここでみてるから。」
"にまにま"という音が似合いそうな笑顔で見つめられる。
俺「………。」
鬱陶しくてたまらなく、参考書を片して帰ろうかと本を握っている手に力を入れた。
俺「………。」
しかし、浮かしかけた腰を再び降ろし、
『ポストイット』を貼ってある参考書のページを開き、黙々と読み耽った。
不思議と、そこに写された文章がいつもより頭に入っていた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:05:26.56 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
俺「ただいま〜…」
結局、完全に日が落ちるまで読書に耽ってしまった。
あの子供も、それまでずっと俺を見つめていた。
―送ろうか?―
そう訊いたけれど、
―ここでまってるの!―
と、断られてしまった。
何を待っているのかは教えてもらえなかったので、その子の横で同じように立って待っていたが、
気付くとその子は居なかった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:08:08.78 ID:f26rTVMt0<>
俺「変態だと思われてなきゃ良いけど…ぁふわぁっ…」
朝からずっと本を読んでいたので、流石に眠い。
母「誰が変態だって〜?」
俺「うわあっ!?」
今自分が入ってきた玄関から、母さんがぬっと出てきた。―…いや、入ってきた。
母「そこでずぅ〜っと掃除してたのに、まさか気付かれないとはねぇ」
俺「こんな時間まで表の掃除してる人がいるなんて思わないよ…」
母「あら、失礼な。あんたが中々帰ってこないから心配してたんで…しょっ!」
俺「うわっ!?」
言い終わるか否かの頃合で、気合いと勢いを込めて、俺を右手の浴室の着替え場所兼、洗面所兼、洗濯機置き場に突き飛ばす。
とっとと靴を脱いでいて正解だった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:10:55.63 ID:f26rTVMt0<>
俺「なにすんだよっ?」
洗濯機に手を突いて振り向く。
母「ちょっと前にご飯仕掛けたから、あんたは先にお風呂入っちゃいなさい!」
俺「……別にいいよ…」
”仕掛けた”ってなんだよ。
うちのご飯は爆弾かなんかか。
母「また河原で勉強してたんでしょ〜?もぅ…」
母「説教は今日の締めに回してあげるから、その泥だらけの格好をなんとかなさい。」
俺「………。」
母「そのすぐに黙る癖もやめなさい。」
俺「説教は今日の締めじゃないのかよ。」
ご飯が爆発したりしないかと案じながら、服を脱いで浴室のお湯に浸かった。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:13:01.33 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
やっぱりというか、説教は今日の締めにはならなかった。
母さん、父さん、俺の三人で四つ席のテーブルをかこみ、
母さんが左向かいに、
父さんが真向かいの椅子に座る、
いつものように俺の左隣の椅子は空いている。
―俺に彼女でも連れて来いと訴えているのだろうか、いい加減にしてくれ。
年末に目に付いたら、流石に温厚な俺でもきれるんじゃないか。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:14:21.41 ID:f26rTVMt0<>
母「この子ったらまた獣医学の参考書を買っているんですよ?」
父「まだ獣医なんか目指してるのか…」
俺「………。」
両親は、俺が獣医を目指している事を快く思っていない。
理由は知らないし、知りたくもない。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:16:33.44 ID:f26rTVMt0<>
母「また黙って…」
父「なんとか言いなさい。」
俺「…何言われようと、俺は獣医になる。あむっ」
やけに隣の空席が目について、それもまとめて誤魔化すために、受け皿代わりのおわんに並々注いだポン酢へと落としたがんもを頬張った。
俺「………。」
父「…どうした?」
俺「……しゅっぱい…」
呆れたように父さんは、俺のポン酢の受け皿に、だまって鍋の出汁を淹れて薄めてくれた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:17:49.32 ID:f26rTVMt0<>
俺「ありがと。あ、そういえば」
父「なんだ?」
俺「いや今日、河原でへんな子に会ったんだ。」
母「へんな子?」
俺「うん、なんかいきなり俺を指差して「わたしがあなたのおねぇさんです」とか言われたよ。」
ハハハと笑い話にするつもりだったのに、二人が心配するような目で俺を見ていた。
俺「えっ…?なにそれ、ハハハ。俺が言わせたわけじゃないよ?」
断じて言うが、そんな犯罪者趣味はない。
母「…そぉ?」
父「…本当かぁ?」
俺「え、なんで俺ホームなのにアウェイなの?」
その日の夕飯は、酸っぱくてしょっぱかった。 <>
「しょっぱかった」と『葉っぱカッター』って似てる。 ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:19:39.75 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
俺「そらっ!!」
紙飛行機がうまく河の風にのって飛んで行く。
幼女「うぉー!弟くんすごいっ!!」
「おねぇさんまけらんないなー!」と叫びながら、俺の姉(自称)は明らかに飛行機ではなく手裏剣を模して折った紙を投げる。
俺「おー、あんなに飛ぶもんなのか。……あ」
緩やかに滑空していた紙飛行船俺号が、怒濤の勢いで飛ぶ紙手裏剣に撃墜された。
女の子「いぇあー!!んひひっ弟くんはよわいなぁー!」
俺「まさか激突式とは…よし、次は負けないぞ!」
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:21:07.10 ID:f26rTVMt0<>
あの姉宣言から数日経った。
未だに両親からの怪しい視線は消えない。
故にこの子を無視しようかとも思ったが、家では獣医学の勉強なんてさせてもらえないし、
外だと必ずこの子を見つけてしまうので、結局は一緒になってしまう。
流石にいつも本を読んでいる姿を観察させるのもどうかと思い、たまにはこうして一緒に遊ぶのだ。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:23:21.87 ID:f26rTVMt0<>
幼女「弟くーん!」
俺「なにー?」
幼女「む……おねぇさんってよんでもいいんだよ?」
俺「ハハごめんごめん。で、どうしたの?」
幼女「もーっ……ほらあそこっ!わんちゃんっ!」
俺「お、おー、ほんとだ。…あー、でも犬は苦手なんだよなぁ…。」
結構近くに犬がいたから、少したじろいでしまう。
幼女「おいでー」
俺「ぉぃぉーぃ。話を聞いていますかー?」
耳ざとい犬様は人懐っこくもあるようで、呼ばれてすぐにとっとことっとこやってきた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:26:15.53 ID:f26rTVMt0<>
俺「大型犬……」
少し…いや、かなり怖かったが、思わず姉っ子を庇うように前へ出ていた。
幼女「だいじょーぶだよ!」
俺の股の間を潜って、女の子は犬を撫でていた。
間抜けな構図だ。と、空を仰いだ。
犬をみる。
撫でられて気持ち良さそうに目を瞑っている。
ゴワゴワで薄汚れた白い毛並みに、首輪をしていないところを見るとすぐに野良だとわかる。
瞼は綺麗で鼻も良く湿っている、危険な感染症は特にないようだ。
向こうのバーベキューをしている方から来たということは、そこで色々もらったのだろう。口の周りが少し汚れている。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:28:23.16 ID:f26rTVMt0<>
犬を撫でていた手を止めて、俺を見上げる女の子。
その姿勢で首が痛くないのか。
幼女「弟くんにもなぜてほしいって!」
犬も、舌を出しながら俺を見上げて尻尾をバタバタ振っている。
―本当にそうみたいだ。―
恐る恐る手を出すと…――
―ヒュクッ―
俺「うひゃあっ!?」
――その手を犬に舐められた。
幼女「あはははっ!"うひゃあっ!?"だって弟くん!」
犬「ウォンッ!」
俺「おっ前らぁ〜〜…」
恥ずかしさをまぎらわそうと、犬と女の子の二人を撫で回す。
俺「うりうりっ!」
女の子「や〜ん!!ベタベタする〜!!」
俺「文句ならこいつに言うんだなっ!」
犬「クゥーン…」
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:30:05.19 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
夕食。
俺「なぁ…」
父「んー?」
味噌汁を啜りながら話を促す父さんに、俺はいつもの空席を見ながら、…―
俺「俺って、なんかすっごく大切なことを忘れてる気がするんだけど。」
父「………。」
母「学校じゃないの?」
学校は長期の休み中だ。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:31:14.63 ID:f26rTVMt0<>
俺「うーん…」
父「お前が何を忘れているか知らんがな、」
そうめんを啜り、飲み込む父さん。
父「…無理して思い出すってのは、大抵良い展開にはならない。」
俺「……覚えとくよ」
父「いや、忘れろ。」
ズズッと味噌汁を啜る。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:33:20.79 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
家にあった青色のフリスビーを持って、いつものようにあの犬や女の子と遊ぼうと河原に来ると、…――
女の子「ダメだよっ!!」
狂犬「ワウッ!ワウッ!ワウワウッ!!」
女の子「ダメだってばっ!!」
――あの子が、犬に襲われていた。
よくみると、後ろに庇っているあの白い野良犬が怪我をしている。
―ゾクッ…
―おねぇちゃんっ!!―
頭の中の叫び声と同時に、気付いたら走り出していた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:36:48.80 ID:f26rTVMt0<>
―おねぇちゃんっ―
―おねぇちゃん!おねぇちゃん!―
―おねぇちゃん!おねぇちゃん!おねぇちゃん!おねぇちゃんっ
!―
俺「ねぇちゃぁぁぁぁぁんっ!!」
犬が姉に飛びかかる。
しかし、大きな身体は小さな姉の幻を通過し、その後ろに居た白い野良犬へと矛先を変える。
俺「っぅおらっ!!」
フリスビーを投げる。
姉程ではないが、コントロールは良いのだ。
噛みつこうと大口あけた狂犬のその牙に当たった。
犬「キャウンッ!!」
小さな石のようなものを口から散らしながら、狂犬はすばやく身を引いた。 <>
>>43の「女の子」は「幼女」に脳内変換願います。 ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:39:37.41 ID:f26rTVMt0<>
フリスビーが跳ね、姉がそれをキャッチする。
俺「おねぇちゃんっ!それっ!あのときの手裏剣よりは強いと思うよっ!!」
幼女改め 姉「うんっ!そこで見ててねっ!弟くん!」
肩越しに構えて、犬の足下に向かって投げる。
石を撥ね飛ばし、ヨーヨーの様な軌道で姉の手に納まるフリスビー。
反射的に身を引いていたので、冷静なのかと思ったが、狂犬は完全に怯えていた。
俺「あいっかわらずどうやってんだっ!」
―とはいえ、このままならあの犬も逃げ出してくれる。
そう思った時、…−
飼い主「なにしてるんですかっ!!」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:41:51.81 ID:f26rTVMt0<>
俺「…えっ?」
―気のせいか、聞き覚えのある声がきこえた。
飼い主「そこでみてたら、なに家の犬をいじめてるんですかっ!警察呼びますよっ!?」
俺「お宅の犬ですか…?」
白い犬を指す。
飼い主「そんな薄汚い犬じゃないですっ!あなたが子供に苛めさせているそっちの子ですっ!」
俺「………」
なんだ…?このイライラする感じ。
腹の中が、ドロドロとした感触に飲み込まれる。
昔、おんなじような感情が溢れた覚えが…――
飼い主「きいてるんですかっ!?」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:43:11.09 ID:f26rTVMt0<>
――あ、
俺「あ、」
飼い主「あ?」
俺「ぁぁああんたはまた狂犬をリードもつけずにほっぽりやがってぁぇぇぇああああっ!!」
拳を固く握り締めて、つかみかかる…―
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:44:46.57 ID:f26rTVMt0<>
――ことは叶わなかった。
俺「あだっ」
頭にフリスビーをぶつけられる。
姉「ごめんなさい!」
狂犬の飼い主に頭を下げる姉。
俺「……え?」
飼い主「ふん、ガキに謝罪を押し付けて、自分は逆ギレか!!」
飼い主「……まぁいい、今回は大目にみてやる。」
そうして、狂犬とその飼い主は、リードも付けずに去っていった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:45:45.99 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
姉「ごめんね」
俺「なんで……なんで…?」
姉「おねぇさんはね、弟くんをまもらなきゃなの。おねぇさんらしくしないといけないの。」
俺「だからって……あんなやつに…あんなやつに…」
姉「…もう帰ろう?」
俺「……ぅ…ん」
涙で前が見えなかった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:46:57.37 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
母&父「………。」
俺「おねぇちゃんです。」
姉「ただいま、パパ、ママ。」
母&父「……おかえり。」
俺「わんちゃんです。」
犬「ウォン」
母&父「ちょっと待ちなさい。」
何故犬は駄目なんだ。
いや、まぁ考えなくてもわかるけど。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:48:20.89 ID:f26rTVMt0<>
俺「俺、全部思い出したよ。」
空席の理由、獣医の理由、犬嫌いの理由、
この子が、おねぇちゃんである理由。
俺「なんでこんな……大切なこと…」
散々泣きながら帰ってきたので、もう涙は出ないと思っていた。
おねぇちゃんはずっと俺を心配してくれていた。
今も、必死に手を伸ばして、俺の頭を撫でようとしている。
そんなねぇちゃんの頭を撫でて、大丈夫。と伝えた。
ねぇちゃんは笑ってくれた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:50:03.07 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
昔々、近所の河原で紙飛行機や紙手裏剣を飛ばしながら遊んでいたぼくとおねぇちゃん。
一緒に飛行機を追いかけたり、撃ち落とそうと躍起になっていたりした。
そんなぼくらを、あいつは”すぐに壊れるおもちゃ”としかみていなかった。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:51:40.52 ID:f26rTVMt0<>
―泣きながら、襲ってくる犬に石を投げつける僕。
狂犬はぼくに向かって牙ををむき出し、噛みつこうとした。
間一髪、おねぇちゃんの投げた紙手裏剣が犬の口に入り、ぼくの手を少し噛んだ程度で、犬は口を放してもがいた。
続けてぼくを庇うようにして前にでるおねぇちゃん。
もがいていた犬は、すぐに迷わずおねぇちゃんのお腹に噛みつき、――― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:53:11.37 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
飼い主「うちの子のせいにする気かっ!!」
あのいやな大人が、何か吠えている。
あの狂犬みたく。
飼い主「うちはちゃんとリードに繋いでるっ!!どうせ野良犬に咬まれたんだっ!!」
医師「院内で騒がないで下さい!」
飼い主「お前まで疑う気かっ!!」
おねぇちゃんが死んじゃうかも知れないのに、この人達は関係の無い話を騒いで吠えて、
お父さんとお母さんはぼくを抱き締めて離さない。
ぼくは大丈夫だから、おねぇちゃんを、
飼い主「そこのガキのせいで!うちの子は保健所なんかに連れてかれたんだっ!!謝れっ!!」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:55:34.02 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
俺「あれから、しばらく考えてたんだ。…――」
俺「――人の都合で、良い動物も悪い動物もいっぱい死んでいくんだ…って。」
くいっ…と俺の袖を心配そうに引くおねぇちゃん。
大丈夫、おねぇちゃんとの約束、思い出したから。
―わんちゃんを、うらんじゃ、ダメだよ?―
恨めるわけ、無いじゃないか…
俺「あの犬は、明らかに病気だった。―」
俺「顔があんなにも膿みと瘡蓋でうめつくされてたのに、あの飼い主は放ってたんだ。」
俺「――動物を買う資格なんか…ないよ。」
あの飼い主を思い出すと、自分が人であることが恥ずかしくなる。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:57:34.17 ID:f26rTVMt0<>
――でも、
俺「だから、そんな虐待にあってる動物を少しでも減らしたいんだ。」
母「………。」
父「…そうか」
母「お父さん!」
父「いや、見守ってやろう。母さん。」
母「………。」
父「………。」
母「………はぁ、お父さんばっかり甘やかして。」
父「すまんな、俺の分も頼むな。」
母「はいはい…貴方は優しい人ですからね…」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 01:58:36.85 ID:f26rTVMt0<>
ふと、左隣の椅子に座る姉を見た。
姉「………。」
―父さんと母さんを見つめながら、にまにまと微笑んでいた。
犬「ウォン!」
俺「あー、はいはい。お前も忘れちゃいねーからなー。」
後で、おねぇちゃんと一緒に犬を洗ってやろう。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:00:02.41 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
俺「ただいまー」
言いながら玄関にあがる。
母「おかえり」
俺「うぉあっ!?」
いつかのように、俺の後に母さんが玄関から入ってくる。
俺「なにしてたの……?」
母「掃除よ。」
両手に握ったナスときゅうりを見せてくる。
あー、そうだったっけ…? <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:01:16.62 ID:f26rTVMt0<>
……あ、
俺「あれ?……今年って―」
母「十三回忌」
俺「あぁー、だから?」
母「弟っ子だからねぇ」
俺「…そうだったんすか」
恥ずかしいような、誇らしいような。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:02:23.39 ID:f26rTVMt0<>
母「あの子、何て言ってた?」
―またねっ!―
俺「だってさ。」
母「そっか」
俺「…なぁ、見送りは俺で良かったの?」
母「良いのよ、私たちはあんたより早くあの子と会えるだろうしね」
縁起でもない…
母「冗談よ。―嘘じゃないけど。」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:05:24.34 ID:f26rTVMt0<>
父「ただいまー…って何してんだ?」
父さんが、カバンと枯れた仏華を持って帰ってきた。
母「ご飯はどうしようかと思いましてね」
父「まだなのか…?なら鍋はどうだ。あいつは鍋が好きだったろう。」
母「鍋をこの子に食べさせるのが好きだったんですよ。」
今夜は鍋で決まりみたいだ。
まだ冷え込むには季節を一つまたがないといけないっていうのに。
シロ「わふっ」
俺「はいはい、お前にもすぐ餌やるからな。」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:06:41.47 ID:f26rTVMt0<> ―――――――。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:08:33.95 ID:f26rTVMt0<>
第二夜。 ―??回忌―
―――――――。
私「やぁ、おねぇちゃん。久し振り。」
姉「あれっ?弟くん?」
私「あぁ、随分変わってしまったよ。」
姉「そっかぁ、まっしろいね。」
私「うん、さっき思い出してね。急いで迎えに来たんだ。時間がないから、すぐついてきて欲しいのだけど…?」
姉「あやしいひとにはついてっちゃダメっておしえらるてりの!」
噛んだね、今。
私「患者と書類が待っているから、おねぇちゃん!とってこーい!」
紫外線に色をやられ、シロの咬み痕でぼろぼろになった紫色のフリスビーを、私の来た道へと投げる。
姉「弟くんはそんなにフリスビーうまくなかったよっ!」
叫びながらもフリスビーを追いかけるおねぇちゃん。
ははは、シロの遊びたがりは伊達じゃないんだ。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:10:34.84 ID:f26rTVMt0<>
―――――――。
私「お父さんやお母さんには会ったのかい?」
姉「うん!向こうで会ったよ!」
母の言葉は嘘にはならずに済んだようだ。
…良かったけれど、やはり寂しく思う。
私「あぁ、そうそう。あのお爺さん、……いや、あの犬の飼い主さんが来たよ。」
姉「かいぬしさん…?……あ、…あのこわいひと…?」
視線を震わす姉、その頭をポムポムと撫でる。
私「犬の体調が悪いから治してくれ。って、泣きながら頼んできたよ。」
姉「え…?」
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:13:05.63 ID:f26rTVMt0<>
私「なんでも、8年近く前に、二匹前の犬を殺した女の子の亡霊を見たそうだよ?」
私「―そうしたらどうだい、…その時飼っていた犬も死んでしまったそうだ。」
姉は首を捻っている。亡霊の心当たりを探しているようだ。
きっとわからないだろう。
私「ただの夏バテだったよ。だから薬と、最初に読んだ動物の医学をあげたよ。」
姉「……つよいねぇ、それにやさしい。おねぇさんうれしいよ。にひひっ」
屈託なく笑う姉に、後悔と誇らしさを感じる。
私「ねぇちゃんのお陰だよ…ありがとう。」
シロ「わふっ?」
私「シロ、どうした?」
女「先生!急患ですっ!」
私「容態は?…ごめん、ねぇちゃん。シロと遊んでいて。」
姉「うん、がんばって!」
シロ「ウォン!」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:16:00.99 ID:f26rTVMt0<>
女「…先生、今の人は?」
私「私の保護者だよ、話すと長い。…それより患者と飼い主は?」
飼い主「先生っ!!走り回るあの子の亡霊をみたんじゃっ!!それで家に戻ったらこいつが熱を出して倒れておって…っ」
私「落ち着いてください、すぐに診ますから。…―」
私「―…薬の量を間違えてますっ!二日分も飲まさないと、半日でこうはなりませんよっ!!すぐに胃を洗います、君、マッサージを。」
女「はいっ」
姉「おぼんのうちにあそべるかなぁ?」
シロ「わふっ?」
―――――――第二夜終了――――――― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/08(木) 02:17:07.14 ID:f26rTVMt0<> おつかれさまでした!
今晩はこれまでになります〜
ご質問があれば、お答えいたします。 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 08:03:45.68 ID:UKqaHUESO<> ああこれ一話完結の短編か
よし期待乙 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/08(木) 12:16:50.46 ID:wlGcKAD2o<> ハートフルだけどなんか切ない感じもする <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 00:54:07.61 ID:jZcGHUfU0<>
さて――こんばんは。
いよいよ第三夜です。
”第三夜”と銘打っておりますが、明日以降も第三夜が続きます。
何故なら途中までしか書けていないから!
―御託はこの程度で、ぽいぽい投下させていただきます。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 00:55:42.41 ID:jZcGHUfU0<>
第三夜。 ―輪廻―
―――――――。
―あぁ、神に想いが届かなかった・・・―
牢屋の如き空気を纏った寝室が、朝の日に侵されてゆく様を眺めながら、私は世界を呪った。
―夜が明けなければ良かったのに―
みっともないほどに顔を歪め、歯を剥き出しにして噛み締める。
祈るように結んでいた両掌に、薄く痣がつく程に力を込めた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 00:56:35.92 ID:jZcGHUfU0<>
―最期に一目だけでも彼を・・・―
そう思い立ち、虚ろな足取りで窓際を立つ。
寝室の入り口を押し開き、回廊へと進む。
「あぁ!姫様・・・!!」
入り口の前に居た侍女が、扉から現れた私を見つけ、すぐに駆け寄ってくる。
「はしたないですよ。」
「も、申し訳ありません・・・」
つい口を突いて出てしまった冷たい言葉に、優しい侍女は頭を垂れる。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 00:57:50.63 ID:jZcGHUfU0<>
「顔を洗いたいわ。タオルを持って、・・・出来るだけ長いものを。」
「えっ・・・・・・はい」
言うや否や、いそいそと駆け出した侍女。
―彼女が消えた廊下の角の先から、鳥の羽ばたく音が聞こえた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:01:27.35 ID:jZcGHUfU0<> ―――――――。
侍女が用意したカーテンなどの布を結い合わし、洗面室の物に絡ませて、端を窓から外へと垂らす。
―下には、馬を引かせた執事を待たせていた。
執事は私の姿を見上げると、腕に乗せた白い伝書鳩を何処かへと飛ばす。
その鳩はたちまち召使達の詰め所へともどっていった。 <>
名前打つの忘れてた ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:03:08.71 ID:jZcGHUfU0<>
―――――――。
執事「姫様のお転婆ぶりは相変わらずの様で安心です。」
私を馬へと引き上げながら、そんなことを言う。
姫様「無駄口を叩かないで。それに、馬なら私一人でも・・・」
執事「馬小屋の鍵は私が管理しておりますゆえ、あまりこの駿馬を姫様一人で駆られては困ります。」
執事は言いながら、愛でるように馬の黒い毛並みを撫でる。
執事「では、少々揺れますぞ。」
撫でる手を止め、手綱を引いて馬を回す。
姫様「・・・えぇ」
執事の胸に、体を預けた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:04:53.99 ID:jZcGHUfU0<>
―――――――。
走る最中、呼吸も儘ならなかったというのに、馬から降りてすぐ、息をするのも億劫に走り出す。
しばらく走った先、森の中にポツンと塗り立てられたブロック小屋の牢屋が見えた。
小屋というよりも、一面のみ引き剥がし、そこに鉄の檻を嵌め込んだ大きな箱のよう。
走る勢いそのままに、音を立ててその檻にしがみつく。
司書「姫様・・・!」
檻の中の彼が走り寄ってきた。
彼は、私を見た途端に目を剥き、言葉が見つからないと言ったように口からただ息を漏らしていた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:06:22.05 ID:jZcGHUfU0<>
同じ様に檻を掴んだ彼の手を、思わず握る。
姫様「寒くは無かった?お腹は空いていない?怖くは・・・ない?」
声を震わせて、言葉を繋ぐ。彼の分まで。
しかし彼は、わたしの気持ちを察してか、ほほえみを携えて言った。
司書「・・・姫様が下さった本のお陰で、あまり」
檻を掴んでいない方の手を掲げて、その中の本を見せてくる。
―私があげた?―
どの本のことか頭の中で探りながら、彼の手中にある大きめのしかし薄い本の名を見る。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:07:57.23 ID:jZcGHUfU0<>
姫様「―・・・・・・ふふっ!」
思わず笑ってしまった。
司書「あぁっ!酷いなぁ、姫様が下さったんですよ?」
確かに、昔贈り物としてあげた本だ。
―けれど、
姫様「だって、ふふっ、絵本だなんて、」
司書「良い話なんだけどなぁ」
溢れた笑を抑えながら、過去に想いを馳せる。
姫様「えぇ、良い話だったわ。共感して欲しくて差し上げたのに、」
司書「良さに気付くのが遅すぎたね・・・」
『101回生きたねこ』・・・・だったかしら。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:09:11.22 ID:jZcGHUfU0<>
姫様「あなたの好みそうな本も沢山差し上げましたでしょう?」
私の言葉に、彼は優しく絵本の表紙を眺めながら
司書「お陰で、お城の司書試験にも受かったよ。」
胸の奥がチクリとした。
―こうなってしまったのは、やはり私のせいなのかもしれない。―
枯れぬ後悔を少しづつ押し殺し、そのホンの少しのみ吐露した。
姫様「私が・・・本を差し上げなければ、こんな事には・・・」
コンッ
姫様「あてっ」
彼に絵本で小突かれた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:10:42.44 ID:jZcGHUfU0<>
司書「姫様が本を下さらなくても、僕は司書になってたさ」
頭を押さえながら、私は少しだけ笑みを作る。
姫様「そうですわね、あなたは本のムシだもの。」
彼は微笑みを濃くして、私の手を強く握り返した。
司書「・・・そろそろ戻らないと、人が来るよ。」
あぁ、そうだ。もう時間がないのだ・・・――
姫様「・・・・・・・。」
堪らず顔を伏せる。
司書「・・・・どうしたの?」
――時間が・・・・・ないのだ・・・ <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:12:19.40 ID:jZcGHUfU0<>
彼が俯いた私の顔を覗き込む。
―もう時間がない―
姫様「・・・ッ!」
気付くと泪が溢れていた。
歪んだ視界がそうさせるのか、
彼の顔は寂しそうだった。
姫様「もっと」
司書「ん・・・?」
酷い涙声を、尚も絞り出す。
姫様「もっと、一緒に・・・・・居たかった。」
鼻の奥で、自分の声がこだます。
彼は今日、断頭台に立つ。
王立の図書館に、この国の黒い部分について記された書物を展示した為、王への反抗ととられてしまったのだ。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:13:44.93 ID:jZcGHUfU0<>
司書「うん・・・僕も、君ともっと一緒に居たかったよ。」
私達はお互いを抱き締め合い、はやる寂寥感を少しでも埋めようと躍起になった。
けれど、檻の冷たさが、それを許さなかった。
司書「僕は・・・・・もう一度生きてみせる。」
抱き合ったまま頷く。
司書「もう一度生きて、必ず君を見つけてみせる。」
姫様「うん・・・」
司書「約束だ」
姫様「うん・・・・・約束」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:15:53.78 ID:jZcGHUfU0<>
―――――――。
結局、父様とその従者に見つかるまで、私達は抱き締め合っていた。
言葉をかわさず、父様に連れられてお城へと戻った。
戻る途中に、馬小屋を見た。
普段と代わり映えもせず、放牧している馬を撫でている執事がいた
城に入る途中に、あの洗面室の窓を見た。
他の部屋同様に窓が開け放たれ、洗濯物が干されていた。
部屋に戻る最中、花瓶を磨いているあの侍女とであった。
侍女「あれっ?姫様!お部屋にいらしたのでは?」
王様「また抜け出しておったよ。」
侍女「い、いつの間に・・・」
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:17:49.44 ID:jZcGHUfU0<>
寝室に戻り、父様と話をした。
彼の処刑は、王である父様にももうどうにもならないそうだ。
父様に仕える賢者達が、悪に憚る諸行を企てているそうだが、私には絵空事であり、彼以上に重要な話とは思えなかった。
王様「あの若い司書は聡明だ、それにお前とも仲の良い付き合いであった。」
寂しげな笑みで語る父様。しかし、次の瞬間には歯噛みをし。
王様「"世の後継ぎに"などと考えたのがいけなかった。彼奴らはそれに感付いたのだ・・・」
聡明な彼は、抵抗は無駄だと考えたのだろうか。
王様「気を付けろ、彼奴らはお前を利用しようとしている。世には、お前だけは巻き込まぬように尽力したつもりであった、だが彼奴らの思惑通りであったようだ・・・・・。無力な王を許してくれ・・・。」
そう言って部屋を後にする父様。
―神よ、この後に、救いはあるのですか。― <>
次かその次のレス、グロ注意。 ◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:19:57.79 ID:jZcGHUfU0<>
―――――――。
昼の席も食が進まず、遂には何も口にしなかった。
わだかまりを抱えたまま自室に戻り、窓から馬小屋を見下ろした。
間も無くギロチンが鳴るからだろうか、小屋は閉じきって、放たれている馬は一頭も見当たらない。
森へと視線を向けるも、彼が見えるわけもなく―
侍女「失礼致します。」
扉越しゆえにこもった声が響く。
扉を引いて、その隙間に立つ侍女。
姫様「どうかなさって?」
窓の外に視線を戻しながら訊く。
侍女「刑の執行です。御覧になりますか?」
ギリッと奥歯が鳴る。
―そんな質問をしないで―
恐ろしい声色で、そんな事を言いかける。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:21:26.58 ID:jZcGHUfU0<>
侍女「失礼致しました」
無起伏な声で言い、何も訊かずに部屋を出てゆく侍女。
開いたままの扉を閉めに行き、次いで鍵をかける。
私はベッドに腰掛け、昼食の時に持ち出したナイフを取り出し、そこに写る自分自身を見つめる。
―虚像だ。―
そんな感覚を抱いた。
恐ろしい権力を持ち生まれたというのに、その力を使うのは私ではなく、父様の従者達。
私の意思が届かぬ私の力など。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:22:30.94 ID:jZcGHUfU0<>
心の中で、あの言葉が繰り返される。
―僕はもう一度生きてみせる―
私は、
今、
生きているの?
今朝、神様は居なかった。
それは今も同じだろう。
今、彼は居なくなる。
それは今までと違う。
彼は、神様と同じになる。
ここでは彼に二度と出会えない。
「バイバイ」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:23:57.76 ID:jZcGHUfU0<>
ナイフを逆手に持ち、両手で握り締める。
フッ・・・!と力を込めて胸に突き立てる。
衣を裂き、皮を貫き、固い何かに当たる。
「ギィッ!!」
これが骨だろうか、
一度失速すると、痛みのあまり力が込められない。
胸と、手が熱い。
足先と頭は段々冷たく…― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:24:27.56 ID:jZcGHUfU0<>
腕にありったけの力を込め引き抜く
「 ! !」
声にならない痛みが、胸と腕の間接を襲う。
それでもナイフを突き刺す。
今度は固いものにも当たらず深々と刺さる。
先程の傷から、ぬるりとした熱い何かがが溢れる、
自分の息が少しでもかかるたび、体中が千切れそうになる。
突き刺さったナイフが、ぬるぬると滑って掴めない。
もがくほどに深く沈むナイフに、お腹の中を圧迫されてゆく感覚。
視界が白黒と明滅し、歯をむき出す。
身体中が熱くなり、指先、足先、頭の先からゆっくり冷えてゆく。
限界まで研ぎ澄まされた痛覚が曖昧になってゆく中で、ゴロンと何かが落ちる音がした。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:25:25.43 ID:jZcGHUfU0<>
その音と共に呼び起こされたイメージは、しなやかな細木で作られたかごの中に、何か大きな玉のようなものが落ちてゆく様。
血溜まりの中から浮かぶ、彼の頭。
感情が、時の感覚も曖昧だ。
―寒い―
そんなことを思いながら、彼とであった時の事を思い出していた。
―あの時、私は。―
一目見て、確かに、運命の神様を信じた。
泪が溢れた。
そして、父に、
母に
侍女に
執事に
彼に
愛しき民たちに―― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:26:22.04 ID:jZcGHUfU0<>
「――ば・・・い・・・・・ばぃ・・・」
―――――――第三夜、続く。――――――― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:28:04.43 ID:jZcGHUfU0<>
あいっ!今夜はこんなもんで。
途中稚拙な文章でのスプラッタがございましたが、
無警告で申し訳ございません。
ご質問があればお答えいたします! <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/09(金) 01:34:19.39 ID:jZcGHUfU0<> ―申し訳ありませんが、本日の夕方以降は投下ができませぬ。
どれくらいいらっしゃるかはわかりませんが、見てくださっている方にはしばらく待っていただきます。
よろしくお願いいたします。 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/09(金) 07:53:08.54 ID:xDA/9P4SO<> 乙
名前欄の警告見たから構えていたが、司書のかと思ったらまさかの二人 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:14:26.27 ID:KLX0v68c0<> こんばんは!
今宵は皆既月食にございました、
なんどもわくわくした!
それでは、投下してまいります。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:16:41.99 ID:KLX0v68c0<>
第三夜、二篇。 ―輪廻―
―――――――。
―ここはどこ・・・?―
暗闇のなかで、意識が覚醒してゆく。
けれども夢見心地のようなまどろみから抜け出せない。
―・・・・・あたたかい。―
よくみると、明るいところに自分がいる。
逆毛羽立ったように荒んだ気持ちが、澄んだ水面のように落ち着いてゆく。
周りを覗う余裕が生まれ、心が凪を伴い動き出す。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:17:39.89 ID:KLX0v68c0<>
―暗い・・・でも明るい、それに、やさしさに包まれてる。―
私のそばに、誰かがいる気がした。
あるいはその逆、私がその人の側にいるのかも。
―・・・音?―
お城に居た楽士が、私に教え聴かせてくれたようなピアノの旋律。
子を身ごもった女性に、その女性の中の子供に聴かせてあげる為の曲とも聞いたことがある。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:18:49.17 ID:KLX0v68c0<>
―声だ・・・声がする。―
女性の声、それに、少し遠くから男性の声もする。
不意に、とても大きな手に撫でられている感覚。
私にではなく、私がそばにいるこの人へ向けられたものだろう。
その人は、あたたかい暗闇の中をふわふわと漂いながら、膝を抱えて丸くなっている。
私もこのような姿ですねて塞ぎこんでいたことがある。
けれどもこの人の姿は暖かく、まるで胸のうちに溢れる優しさを大切に抱えているかのよう。
―ここは・・・とても心地良い場所ね・・・。―
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:19:52.18 ID:KLX0v68c0<>
ある秋の日、侍女が天日のもと干してくれているベッドのシーツにくるまれながら、楽士達のオケを遠くに聴いていた事を思い出した。
シーツ越しのこもった旋律が心地良く、布の擦れる音すら音符のようで、涼しい日の温かい陽射しに照らされながら、ほのかな幸せをかみしめていた。
―あぁ、この場所はあの時とよく似ているのか。―と、口端を緩ませながら思う。
やがて、優しき悠久の時は終を告げ、羊水の波にのり新たなる始まりがやってくる。
―――――――。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:20:53.15 ID:KLX0v68c0<>
永遠にも感じたまどろみの中、私は二つのことに気付いた。
一つは、ここが母親の胎内であるということ。
不意に大きな手に撫でられたりする感覚は、母親か父親の物なのだろう。
もう一つは、私が側にいてなぜか離れたくないこの人は、胎児なのだという事。
この人は、いつか必ずここから生まれ落ちてしまう。外には非道な現実が待っているというのに。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:22:09.90 ID:KLX0v68c0<>
常にそのようなことを考えていると、よく恐ろしい考えがよぎる。
―私も、いつかここから出てゆくのだろうか・・・?―
もしくは、
出て行けないのだろうか。
―ドンッ―
胎児が突然暴れだした。
近頃は稀にこうしてこの人は暴れる。外に出る時は近いのだろう。
―だが、また今回ではないのだろう・・・。―
しかし、今回はいつもと違った。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:23:49.75 ID:KLX0v68c0<>
胎内全体が、いや、母親が揺れていた。
周りに緊張の根が張り巡る。温かい空間が熱く血走る。水の流ができはじめる。
これは・・・
母親「生まれるッ・・・!!」
足元から声が響く。
私のいた国とは言語が違う、なのに何故理解できてしまうのか。
いや、今はそんなことどうでもいい。
外から大仰な鈴の音のような騒音がジャラジャラと響く。
私の頭上から針の穴程の光が見える。
その穴はゆっくりと、だけど確実に広がっている。私たちがそこに流されているだけなのかもしれない。
ドクドクと水の鼓動の間隔も短くなる。
人の声が四方からあふれ出す。
―この人が生まれるんだ・・・!―
私にできることは無いか、何にも触れることができないのに。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:24:38.19 ID:KLX0v68c0<>
―・・・祈るしかない―
自分の中の、殺したかった無力な自分が声をあげる。
―何に・・・?―
確かに、何に祈れというのだ。
神はいなかった。
無力な私を救うものはいなかった。
私自身・・・
母親「私を・・・クッ・・・・この子を・・・信じてっ・・・ハァ・・・クッ!!」
一際大きな声が響いた。
母親の声だろうか。
私への言葉ではないと薄々わかってはいたけれど、その言葉を信じてみたくなった。
傍のこの人に手を伸ばす。
触れることは叶わなくとも、少しだけ勇気をもらえた気がした。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:25:49.11 ID:KLX0v68c0<>
―・・・元気付けようとしたのに、私が貰うなんて。―
無力な私が、私に優しく微笑んでくれた気がした。
―さぁ、行きましょう。私も一緒に行くわ。―
幼き人を胸に抱き、優しい時間にさよならをした。
―――――――。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:26:51.60 ID:KLX0v68c0<>
白い部屋に、たくさんの人・・・赤子が居た。
皆一様に、小さなベッドの上で戯れている。
一方の壁にはめ込まれた、透き通った大きなガラスの向こう、私とこの人を産み落としてくれた女性とその番の男性が微笑ましくこの人を眺めている。
私だけ部屋の中から眺められるのは特権だろうか?
触れられない頬をなでながらそんなことを思う。
―不思議だ・・・―
触れた感触は常に無いのに、"触れた"と思えるたびに感情があふれる。
しかもその感情は触れようとするたびに違う感情で、―
母親「やっと一段落だね」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:28:19.61 ID:KLX0v68c0<>
なぜか耳にすると落ち着く声色で、ガラスの向こうにいる女性は言う。
これも不思議なもので、彼女の中に居たときと今とでは、聞こえる声色が違う。なのに私たち二人は、その声に安心するのだ。
父親「そうだねぇ」
その隣に居た、先ほどからだらしない顔で微笑むままの男性が声を返す。
彼女の中から生まれた時、彼は彼女と対照的に、不安そうに顔をクシャクシャにして、右手を彼女に握りつぶされていた。
そして私が共に生まれたこの人がひとつ産声をあげると、更に顔をクシャクシャにして、しかし安堵の表情を浮かべていた。
そのときは私もこの人も、見知らぬ世界にただただ戸惑っていた。
苦しそうに泣き出したこの人を、私はどうすることもできずにただ慌てた。
身体を無力な私に支配され、なんとか動かした右手で、白い女性に抱きかかえられたこの人の頬に触れようとして、寂しさがあふれた。
―やはり私には、何も変えることはできないのか。―
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:29:55.48 ID:KLX0v68c0<>
母親「でも、忙しいのはこっからだよ。」
父親「えぇ〜・・・」
男性が表情以上にだらしない声を上げて、手すりに両肘をついて腕を組み、その中に顔を伏せる。
母親「がんばれお父さんっ!」
満面の笑みで、女性が男性の背中をバンッと叩く。
父親「・・・仕事やめようかな・・・」
母親「馬ぁ〜鹿言ってんなよぉ!」
笑顔はそのまま、今度は頭を叩く。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:32:16.71 ID:KLX0v68c0<>
男性は組んだ腕の中にうずめた顔持ち上げ、女性に向く。
父親「だって・・・」
母親「だって?」
父親「仕事にかまけてる間に彼氏でもできたら・・・」
スコーン!
予備動作無しにまたも頭を叩かれた男性。
母親「気が早いっつの」
そんな二人のやり取りを眺めていると、笑顔は絶えなかった。
―必要以上に、自分をせめても仕方ないかもしれない。―
私に何かできることが見つかるまで、この人を見守ろう。そうぼんやりと考えて、頬を撫でる。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:34:56.18 ID:KLX0v68c0<>
―言い知れぬ不安が溢れた。
―――――――第三夜、続く。――――――― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/11(日) 02:38:29.72 ID:KLX0v68c0<> あいっ!今晩はこんなもんで。
今回はなんだか短くなってしまいました。
次回更新で第三夜は終了となりますが、
――第四夜を書き溜めなしで書かせていただます。
よろしくおねがいします。 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/11(日) 09:09:01.01 ID:PqEey17SO<> 乙 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:32:02.55 ID:HKlYzKeV0<>
こんばんは!
それでは早速、ポイポイいかせていただきます。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:33:08.31 ID:HKlYzKeV0<>
第三夜、三篇。 ―輪廻―
―呆れた・・・。―
あの時の赤子は少女となり、周りに様々な人が増えた。
そんな中私は、私が見守り続けていた少女の行いに落胆を隠せないでいた。
私の姿は人には見えていない様なので、感情を隠す必要もないのだけれど、人の見ていない所で努力する心情の私は、今も王女然たる立ち居振る舞いを心がけている。
・・・それでも、極稀に私が見える人もいて、ついついはしゃいでしまう。
それに比べて目の前の少女は・・・
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:35:12.01 ID:HKlYzKeV0<>
父親「くぉらぁっ!また猫に餌やってないでしょ!毎朝ちゃんとやりなさいっつってるでしょうが!!」
少女「はいはい」
父親「なんて返事の仕方なの!しゃんとしなさいっ!」
少女の投げやりな態度に、そのお父さんがさらに激昂する。
母親「お父さん・・・私がちゃんとやってるから良いじゃない」
仲裁し宥めようとするも、少女とお父さんら二人の感情の矛先が割って入ったお母さんに纏まってしまう。
父親「お母さんがそうやってなんでも甘やかすから…―」
お父さんは変わってしまった。
窓ガラスに張り付いていつもだらしがない笑顔をしていた彼のその瞳は、最早昔の赤子と未来の少女しか見ていない。
―今の少女は不満そうであるが、気付いているのだろうか。
少女「その猫、私の…」
お母さんの足下にじゃれつく仔猫を、寂しそうに睨み。そんなことを漏らす少女。
母親「あぁ…ごめんなさい」
いつか窓ガラス越しに見た仲睦まじい夫婦は、いつの間にかお互いの立場が入れ換わってしまっていた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:36:54.52 ID:HKlYzKeV0<>
少女「……。」
少女は踵を返し、足音をたてて自室へと向かう。
父親「こらっ!お母さんに謝りなさい!」
会話は無駄と言わんばかりに、お父さんの怒鳴り声にも耳を傾けず…―バタン
後ろ手に廊下と自室を繋ぐ扉を閉め、そのまま扉のノブにもたれる。
少女「はぁ…悪いことしちゃったなぁ」
―嘆息。
少女は親の言う通りに勉強し、沢山の知識を身につけた。しかし、その身につけた知識から周りの友達と差をつけようとするお父さんに疑問を持ち、親嫌いへとなってしまったのだ。
少女の気持ちもわかる。けれど…――
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:39:45.45 ID:HKlYzKeV0<>
―親へのあてつけで猫を拾ってくるなんて―
少女「もうっ!うるさいうるさいっ!」
私の思考に少女は、やっかみで返す。
彼女は私の声が聴こえるのだ。
しかし姿は見えないようで、――
少女「あぁ…"思考のサラダ"めっ」
――私を自身の中の人格の一つと考えているのだ。
身につけた知識が、このように都合よく働くのは稀である。
ほとんどの場合、役に立つはずの知識が歳不相応であるが故に、空回りして少女自身を傷つけてしまうのだから。
少女は頭を抑えて「あ゛ーあ゛ー」と唸りながら覚束ない足取りでベッドへとうつ伏せに倒れる。
少女「うぅ…知恵熱出そう…」
―出たことなど無いと言うのに―
少女「へへっ…まぁそだけどさ」
自嘲気味に笑う。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:41:47.91 ID:HKlYzKeV0<>
彼女は自身が頭脳明晰だと過信しているのだ、
―だから親へのあてつけなど考え、だからこそ失敗したときの事は考えていなかった。
少女「まさかすぐに「飼っていい」ってくるなんて」
数日前、猫を拾ってきたのも親へのあてつけのつもりだった。
「飼えない」と言わせ、泣く泣く諦めたようにみせてそれを後々、親への文句にとしようとしたのだ。
―結果、
思わぬ形で家族が増え、少女は落ち着かない心持ちで猫の世話をする事になった。
けれど、心から嫌といったわけではなく…
―カリカリ―
小さく、小さく扉をひっかく音に、少女は頭に「?」を浮かべて首をかしげている。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:43:20.39 ID:HKlYzKeV0<>
ベッドに座り直し、横着にも右腕をついて前のめりになり、左手をノブに伸ばす。
少女「ふ、ぎ、ぎ、〜っ」
だらしなく苦悶の声を出す彼女。
―歩いてゆけば良いのに…―
少女「うっっさい」
プルプルと震える身体で軸のとれない左手をグルグルとぶれさせながらノブを握り閉め、
「んふ、ぎぃ〜!」と手首をひねり扉を小さくあけると、小さな黒い毛玉がトトトっと部屋に入ってきた。
その毛玉はベッドの横、彼女の正面の床に座ると、「ミィ」と小さく鳴いた。
少女「あぁ、はい。ベッドはさすがに高いねぇっと。」
少女はノブを投げるように扉を閉め、改めて座り直して猫を抱き上げる。
赤子にするそれの様に抱き抱えると、猫は安心したように目を細くし、自らの手を舐めてから顔を洗いだした。
少女「クロ、明日は雨?」
"クロ"とはこの猫の名前。
安直かとは思ったようだけれど、それでもこの真っ黒の容姿にはピッタリだった。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:45:38.82 ID:HKlYzKeV0<>
クロ「ミィ」
「そうだ」と言いたいのか、もしくは「邪魔をするな」と言いたいのか、クロは自信満々といったように鳴いた。
少女「ふぅ、明日は雨か。」
今度は苦く微笑む。
不意にその目が遠くなり、何かを懐古するようにポツリと漏らす。
少女「お前を家に連れてきた時も雨だったねぇ」
その言葉と共に、ありもしない傘が少女と重なる。
―雨の中この子を見つけ、この猫を拾ってきたあの日の姿だ。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:48:55.15 ID:HKlYzKeV0<>
少女の思い出の懐古は少し時が進んだようで、
少女「―なんでお母さんはあんな酷いことを…」
と口を尖らせていた。
"あんな酷いこと"とは、きっと飼うことを許した後に聞かされた言葉のことだろう。
―あなたの初めてのワガママだから聞いてあげる―
―けど、もしロクに世話もしないでこの猫を殺したりしたら、二度とワガママを聞きません。―
少女「飼い始めるって時になんて不吉な事言うのさ!」
顔をあげて怒る少女。
両親も殺すつもりは無いだろう、しかし毎日のあの少ないエサの量は気になる。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:51:17.35 ID:HKlYzKeV0<>
そんな事をもらしながら猫を抱えたまま立ち上がり、机に向いて椅子に腰をそぉっと下ろす少女。
すっかり眠ってしまったクロをももに乗せて、しまい忘れている舌をつつきながら、目の前の棚から一冊の本を取り出す。
"はじめての動物の医学"と題されたその本は、背表紙に、紫色のフリスビーで白い大きな犬と遊ぶ、少女のお父さんと同じかそれ以上の年齢に思える白衣の男性の写真がプリントされている。
思わずクスリと笑みながら、少女が決してあてつけという目的のためにのみでクロを拾ったわけではない事を思い出す。
―ただ至極単純に、ずぶ濡れのクロが心配だったんだよね。―
少女「"しごく"ってどういう意味だっけ?」ーなんて首をかしげながら本に目を落とす。
その下で幸せそうに眠るクロは、両前足で少女のお腹を交互にふにふにと押している。
クロを撫でる振りをしながら、私は再び少女の読む本に目を落とす。
背表紙の男性を模したのであろう独特の絵が、胸の前に動物の餌皿をかかげて空いた手は注意を促す様に人差し指のみを立てていた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:53:27.13 ID:HKlYzKeV0<>
この時代の絵は不思議なものが多い。
私の時代の絵は今で言うところの写真に近かった。
物と景色の境界は黒色ではなく、周りの景色に溶け込むような、
―けれども浮き出るような光の照り返しを表現するために、物の大まかな輪郭は決して一色で描いたりしてはならなかったのだ。
…彼も、とても絵が上手だった。
二度と会えない人を思うことは、今となっては哀しい事だ。
お父様もお母様も、
―侍女達や執事も微笑む民も、
―彼も、
この世界が私の居た時間と地続きであると知ったとき、必死に皆を探した。
この少女の傍を離れられず、思う場所に行けぬ制約も、私の声を伝えてうまくかわした、そうして街まで赴き、様々な場所で様々な人を眺めた。
けれど、私のように一人の生者から離れられぬ者すらみつからなかった。
―今は、諦めている。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:54:00.66 ID:HKlYzKeV0<>
心なしか、
生前の記憶にも靄がかかるように思い出せなくなっている。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:56:13.34 ID:HKlYzKeV0<>
―――――――。
少女「さてー、明日の時間割りはなんだっけ?」
―国語、体育に社会科、それと道徳よ。―
少女「…うむ、やはり私は天才だ。完全に暗記しているぞ。」
ムフーと鼻を鳴らす少女に、ほんの少しばかり自責の念がつのる。
彼女がおマセさんなのは、私のせいかも知れない。なんて…――
少女「さてー、予習ふくしゅー。」
――それと彼女を本の虫にしてしまったお父さんの。
そうして何年も習慣となっている、教科書の読書時間である。
彼女の勉強癖のお陰で、私もこの時代について様々な知識を得ることが出来たけれど、…
―同級の子らよりも頭一つ飛び出た知識量が枷になり、爪弾き者にならなければ良いが…。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 01:57:05.23 ID:HKlYzKeV0<>
―――――――
【社会科の教科書】
―ある王様が滅ぼした国。―
今から数百年近く前に、ある王国(王様が国民の人々を纏める国※12)の王様が自身の国を滅ぼしたという話を記した文献が見つかった。
大まかなその内容は、王様が忠実な部下に陰で操られていたというもの。
大切な人達を奪われた王様は、その部下達に剣を向けて国を率いて戦った。戦争には負け、王様は張り付け(図7)にされて晒し者にされたが、その姿に国民は怒りを顕にして王様を守ろうと戦った。
そうして国民も王様の部下達もいなくなってしまったという。
尚、この書物の執筆者である王選書記官(王様に選ばれた国立図書館の司書)の名は、他の文献からはその時代には居なかったとされるため、いまだに真実性の検証が続いている。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:01:46.45 ID:HKlYzKeV0<>
―――――――。
【教室】
―コレは…―
社会科教師「アレ?時間ちょっと余っちゃったなぁ。」
男子生徒「じゃあ先生面白い話してよ!」
男子共「おぉー!」「面白い話!」「「先生!先生!」」
社会科教師「ハードル高いなぁ…あ、じゃあ今のページでやった話、モチロン覚えてるよね?」
男子生徒「全然!」
社会科教師「こらこら……で、"王様が奪われた大切な人達"の中に、この文献の執筆者も含まれているそうだよ。」
女子生徒「え、でも先生。この書き方だと全部終わった後に書かれたみたいですけど、――」
女子生徒「――それだと書いた人はその時もう死んじゃってるって事に……アレ?」
社会科教師「おぉ!鋭いっ!そうそう、先生の友達から聞いた話なんだけどね、――」
社会科教師「――王様はその司書さんをお姫様の為に次の王様にするつもりだったんだけど、――」
社会科教師「――それじゃあ都合が悪いってんで、王様の部下…―つまり裏切者に殺されちゃったって話。」
社会科教師「-そいでこの文献を書いたのは、その司書さんが怨念となって自分の血で書いたそうなぁ〜…―」
―キーンコーンカーンコーン―
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:05:10.57 ID:HKlYzKeV0<>
社会科教師「―お、じゃあ今日は宿題ナシだから!そい…」
男子共「「「宿題ナシっ?!うぉっしゃあーっ!!」」」
社会科教師「―うぉらー!聞けよ!宿題ナシだから!質問ある人は今すぐ訊いて下さい!」
男子生徒「ハイッ」
社会科教師「おぅ、なんだ?」
男子生徒「"ぶんけん"って何?」
―ゴツッ―
男子生徒「あでっ?!」
社会科教師「授業中説明したろうに…」
―訊きたい―
少女「え?…――あ、あの!先生!」
社会科教師「おぅ、なんだ。」
少女「えーと、あの、さっきの文献の執筆者の名前ってわかります?」
社会科教師「ん?あぁ、そりゃ確かな…―」
―……あぁ―
その名前
やっぱり―
―地続きの世界か―
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:06:53.46 ID:HKlYzKeV0<>
―――――――。
少女「―あちゃ〜…クロの予報大当たりかぁ〜…。」
その日の授業を全て消化し、少女が靴を履き替えて帰路へ着こうとしたところ、
―外は突然の豪雨で白く靄がかかっていた。
グラウンドは土砂降りにかき混ぜられる巨大な泥溜りになり、
傘を忘れた大勢の生徒達は思い思いの品を頭の上に掲げて走りゆき、
ザーザーとうるさい雨音に負けないぐらいの非難の声を叫んでいた。
少女「よくやるよ……図書室で雨宿りしてましょう。」
そう言って少女は、今しがた履き替えた上履きをもう一度履きなおした。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:08:35.70 ID:HKlYzKeV0<>
幾つかの友人と手を振り合いながらまばらな生徒の流れを逆流し、図書室へと足を向ける。
この学校には知識欲旺盛な人が少ないのか、図書室の利用者は日に2、3人といったところである。
とりわけ少女も利用するということでもなく、誰よりも早く登校して、暇なときに覗きに行く程度だ。
人の居ない廊下の突き当たり、"開館"と札が下げられた扉をガラガラと音を立てながら開く。
その中に身を入り、履きなおしたばかりの上履きを脱ぎながら視線を軽く巡らす。
―珍しく人が居た。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:09:34.96 ID:HKlYzKeV0<>
分厚い本を机に立てかけるように開き、両端を持つ指以外はすっぽりとその本の影に隠れていた。
少女「……へぇ…」
少女も、いつもと少し違う風景に驚いたのか、そんな言葉を漏らす。
本を探すふりをしながら、大回りをしてその珍しい利用者を横から盗み見る。
―ッ!!―
少女「…お?」
私の声に違和感を感じてか、少女が疑わしく声を出す。
少女「なんだったんだ…?―」
腰とあごに手を当て、悩ましげにうなる少女。
<>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:11:20.39 ID:HKlYzKeV0<>
少女「―どっかで見覚えあったっけ…?」
少年「―あの……何か?」
―ッ!!―
少女「――あ…」
私が驚くのも無理はなかったはずだ、
だってそこには―
少年「えと…どこかで会った事ありましたっけ…?」
――求め焦がれた彼が居たから。
―――――――第三夜終了――――――― <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 02:12:42.87 ID:HKlYzKeV0<>
さて!今回はここまで!
次回更新からは第四夜となりますっ!
ご質問があれば、お答えいたします。 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/12(月) 14:37:54.26 ID:vC1qD9vSO<> 乙
姫様は佐為みたいな奴なのか <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2011/12/12(月) 22:46:41.01 ID:HKlYzKeV0<>
第四夜。 ―私達は 幽霊を 語り合う。―
――は、今晩以降の更新になります。
おまたせいたします。
<>
文体の突然の変化にお気をつけ下さい。 ◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/15(木) 23:37:36.49 ID:+bNPlwDa0<>
―――――――。
少女「うぅむ…」
唸り、
少年の全身をを舐めるように覗う少女。
少年「…?……??」
少年はその少女の行動に戸惑いを隠せず、
落ち着き無く肩を浮かせ、両手で胸元に大きな大きな本を抱き寄せていた。
少女「うぅぅぅぅ〜むぅぅ…」
少年「えっ、えっと…あの…?」
―はぁ…―
私は、とても―
―とても大きなため息を吐いた。
少女「――まさか、こんな2枚目が”女の子”とはねぇ……」
<>
”少年”という単語には女児も含まれるので名前はこのまま。 ◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/15(木) 23:53:56.81 ID:+bNPlwDa0<>
少年「えっと、よ、よくわかりませんが…―」
少年「―ごめんなさいっ!」
勢いよく腰を折り曲げる少年。
―そう、彼は……いや彼女は、
女の子だったのだ。
勢いがつきすぎたのか、大きな本の装丁を太ももにぶつけていた。
少年「っ、あいたぁ…」
痛みの余り低頭の姿勢をといて、よろよろと2歩3歩後退する少年。
見かねて歩み寄り、少年のももの付け根に手をあてて痛みを何処かへと飛ばすおまじないをする少女。
少女「はい、大丈夫。あと、同い年みたいだし敬語もやめよ?」
少年「あっ、ありがっ…あ、いやいや、ごめんなさ―」
少女「―意味無く謝るのも禁止。」
少年「―っ……あ、ありがとう…」
少年がそういうと、少女は困ったように首を振り、よいしょと声を出し立ち上がった。
そうして姿勢を正し、あらためて間近でその顔を睨むようにみつめる。
くっきりした鼻筋と瞼、
鋭いまなざしながら、何処か優しさを孕んでいるような雰囲気、
確かに中性的ではあるけれど、”男前”と呼んで差し支えない姿である。
―本当に似ている…―
少女「本当に男前だよねぇ…」
少年「み、みないで…」
しかし、性格はこうである。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 00:06:04.66 ID:2raG/6lo0<>
少し時間は遡り…
少年に声をかけられた少女は、自分達は以前に面識がないか?と訊ねた。
少年は瞳を丸くし首を振ったが、その後に互いの名前を教えあい、
そのせいで今、少女の雨宿り時の暇つぶしのように扱われてしまっているのだ。
少女「少年君も雨宿り?」
少年「うぅ…”くん”って、やめてよぉ……」
今にも泣き出しそうな少年に、今度は少女が慌てる番であった。
どこか嬉しそうに話し合う二人を眺めて、私は憂う。
―彼かと思ったのに…―
少女以外には届かない声色で、そんなことをつぶやく。
―ふと窓の外を眺めると、どんよりとした雲の合間から、青い切り紙を散らしたように空が覗けていた。
少年「――…うだけど、通り雨だし、ちょっとの間だけと、思って…」
少女「うぇ〜?!あの土砂降りが今日中に止むのぉ〜?」
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 00:14:31.57 ID:2raG/6lo0<> ―――――――。
姉「シロ!行くよっ」
シロ「うぉんっ!」
叫んで、シロといっしょにはしの下からかけだした。
いつもの原っぱでシロといっしょにフリスビーで遊んでいたら、
とつぜん、雨がいっぱいふってきた。
まっ白くなった弟くんが、「いつ降るかわからないから、外で遊ぶなら気をつけるんだよ?」と教えてくれたいみがわかった。
シロと二人でぐしょ濡れになりながら、はしの下におじゃまして、少しの間あまやどりをしていたら、
こんどはとつぜん雨がやんだ!
お空もさっきより青くって、思わず草の水をはじきながらお空の下にとびだした。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 00:27:34.00 ID:2raG/6lo0<>
姉「あはっあははっ!!あははっ!!」
シロのまわりをグルグル回りながら、せの高い草の水をはじいていく。
パシャン
パシャン
水てきがぶつかる度に、シロはくすぐったそうに毛をふるわせる。
姉「ほら、シロっ!おまえもやり返してきていいんだよっ?」
シロ「うぉんうぉんっ!!」
「ぬれないくせにっ!!」だって?
姉「へへ〜ん!やってみなくちゃわからないよ〜ん!」
シロの首に抱きついて、白い毛なみをモフモフとくすぐる。
ゆびで体いっぱいについた水てきをぬぐってやる。
シロ「うぉふ…」
そーかそーか、きもちーかー。
姉「うりうりうりうり!」
ガサガサとごうかいに毛をかきまぜて、空気をいっぱいまぜてやる。
かわけー・・・かわけー・・・
?「おねぇちゃ〜ん。傘忘れてったぞ〜!」
夢中でシロをかわかしていると、大好きな弟くんのよぶ声がきこえた。
シロ「あぅん?」
姉「んひっ」
姉「―行こっか、シロ!」
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 00:56:57.11 ID:2raG/6lo0<>
―――――――。
命とは、なんだろうか。
―なんて、とり止めも無い事を考えてしまうのは、医者の手伝いだからだろうか。
私の唯一の上司であり、仕事のパートナーである先生と、その保護者とかいう小さな女の子。
彼らの組み合わせはとてもよろしく無い。
―幼児性愛といった意味ではない。
むしろ、そちらの方面では一切心配要らないだろう。
傍から見ればただの仲のいい親子連れにしか見えないし、実際そのようなものだからだ。
……厳密には、保護者と被保護者が反対だが。
閑話休題。
何がよろしくないかというと、―
―”彼岸と此岸”といった関係であることだ。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:06:00.09 ID:2raG/6lo0<>
私の見立てでは、先生の白衣に引っ付いている彼女、―お姉さんらしいが、彼女はこの世の者ではないはずだ。
以前、本人らに訊ねてみた所、―
先生「そうさ、この人は私の幼い時に亡くなっていてね」
―やら
幼女「弟くんを守れたから、あんまり後悔してないよ!女さんっ、弟くんをおねがいしますっ!」
―などなど、期待以上の返答を得られた。
…たまに、彼らのデコボコなやりとりを見せられて、自分がおかしくなったような気持ちにさえなってしまうが、――
――私も元来、そっちの人なので、思い悩みすぎることはない。
私自身、彼岸の…――あの世の者なのだ。 <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:21:11.26 ID:2raG/6lo0<>
―数年前、母親の訃報により実家に帰省した時。
地元民の皆が危ないと知っている場所で、私の子供は見てわかるほどの大怪我を負い、
それを目にした私自身も半狂乱になり、親子そろって生死の境を彷徨う昏睡状態になったそうだ。
―そして、その当時の私の記憶にあるのは、闇の中の河だった。
小銭を握り締めて、ゆらゆらと一人揺れる木船の上で気がついて、
墨汁などよりも尚黒く、どろどろとした河の水を見下ろして心がとても冷えてしまった。
どこからか砂嵐のような音が聞こえ、じりじりとスピーカーの焼け切れていくような音が耳の中を木霊し、
視界が、フィルムが焼け落ちるようにただれ、そこから様々な腕が伸び、私に掴み掛かってきた。
何故だか、片手に握り締めた小銭を絶対に離してはいけない気がして、体全体でその片腕を包み込んで守った。
ひた…っと、一つ、小さな手が触れた。
―赤い水のしたたる、私の子供の腕だった。
そこで私の記憶が途切れ、気付いたときには病院のベッドの上。
何があったのかを詳しく聞いても、納得のいく話をしてくれる者はだれもいなかった。 <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:29:49.31 ID:2raG/6lo0<>
―あぁ、いけない…命がどうとか考えちゃうと、どうしてもあのときの記憶が…―
病院のベッドの上で目覚めたとき、確かに、私の腕や体は”子供のものだった”。
その後の記憶はあやふやである。
先生「おねえちゃん、シロに乗って草むらからいきなり飛び掛らないでほしい。」
幼女「んひひっ、ごめんね!」
シロ「うぉんっ」
しばらくその場で立ち尽くして考えていると、件の二人…――と二人と一匹が戻ってきた。
先生は確か、休憩の合間に、そこの幼女に傘を持たせに来たのだが、…
未だ手に持っているということは、晴れるまでに間に合わなかったのかしら。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:48:03.20 ID:2raG/6lo0<>
先生「やぁ、待たせたね。」
女「いえ、それほど。…しかし」
先生「あぁ……白衣がずぶ濡れになってしまったよ。」
薄く、向こう側の景色が見受けられるほどに濡れた白衣を少しつまむ。
女「クリーニングに出しておきますね。」
先生「うむ、ありがとう。」
先生「それじゃあまた他の患者をみにいかないと。
」
女「はい、お手伝いします。」
私の前を歩いて先導する先生の背後に、一瞬、タキシード姿の老人がいた。
突然だが…私には、霊視能力がございます。
守護礼、背後礼、まん
で見言いやがれ <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:52:33.07 ID:2raG/6lo0<>
先生「やぁ、待たせたね。」
女「いえ、それほど。…しかし」
先生「あぁ……白衣がずぶ濡れになってしまったよ。」
薄く、向こう側の景色が見受けられるほどに濡れた白衣を少しつまむ。
女「クリーニングに出しておきますね。」
先生「うむ、ありがとう。」
先生「それじゃあまた他の患者をみにいかないと。
」
女「はい、お手伝いします。」
私の前を歩いて先導する先生の背後に、一瞬、タキシード姿の老人がいた。
突然だが…私には、霊視能力がある。
守護礼、背後礼、なんでもござれである。
之も彼岸の影響なのか、シロには家政婦らしき女性の霊を連れていて、先生は、執事のような人 <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:55:26.96 ID:2raG/6lo0<>
―――――――。第四夜、つづく―――――――
もうしわけございません、今回の更新はおいしいんだろうか <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 01:55:53.10 ID:2raG/6lo0<> 眠すぎて文字がおかしくなっている・・・w <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 21:40:20.92 ID:2raG/6lo0<> はいこんばんは!
今回は、先日の最後のレスから書き直させていただきます。 <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 21:51:46.17 ID:2raG/6lo0<>
先生「やぁ、待たせたね。」
女「いえ、それほど。…しかし」
先生「あぁ……白衣がずぶ濡れになってしまったよ。」
薄く、向こう側の景色が見受けられるほどに濡れた白衣を少しつまむ。
女「クリーニングに出しておきますね。」
先生「うむ、ありがとう。」
先生「それじゃあまた他の患者をみにいかないと。
」
先生はこの辺りでは珍しい獣医なので、近所の人たちに重宝されているのだ。
勤め先である病院の院内には、今も数匹のペットを預かっている。
短い休憩の合間に、そこの幼女と一緒に遊ぼうと思った矢先、夕立に降られてしまった先生は、なんとも運の無い…。
女「はい、お手伝いします。」
言いながら、先を行く先生の後を歩く。
この人と一緒に働いていれば、先ほどの”命とはなにか”という答えに近づける気がするのだ。
私を先導する先生の横に、黒いタキシード姿の執事のような老人がいた。
その更に少し前、幼女と共に歩く白い犬…シロの横には、召し使いのような出で立ちの女性が、微笑みながら連れ添っていた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 22:13:57.89 ID:2raG/6lo0<>
突然だが、私には霊視能力がある。
以前の田舎での経験が影響しているのか、稀に、彼岸の者がくっきりと見えるのだ。
今見えている彼らのように、現代とあきらかに時代が違う姿なら戸惑わないのだけれど、…―
幼女「えっへへ〜」
シロ「あぅん」
―あの子供のように、比べて最近亡くなった者は、生きている人と何の違いも見受けられない。
その幼女は今、シロにまたがり、背中に抱きついて運ばれている。
召し使いのような女性は、執事のような老人と見合って、その光景を微笑ましくみつめていた。 <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 22:35:32.42 ID:2raG/6lo0<>
後ろからそんな彼らの様子をしげしげと眺めていると、
執事のような老人が、ふと立ち止まった。
何事かと感じた召し使いのような女性も立ち止まり、シロも不思議そうに歩みを止めた。
先生「…?どうした、シロ。」
シロ「くぅぅん…」
先生と見つめあい、もの言いた気に鼻を鳴らしたシロは、そのまま老人と女性に顔を向けた。
シロの背中にのる幼女も、不思議そうに顔を上げて二人を見る。
…先生以外の皆が二人を見つめてから、しばらくたっただろうか。
老人が、ゆっくりと今まできた道を振り返る。
振り返りきったところで、彼の視線はほんの少し強張った。
つられて、女性もその視線の先を見る。
同じく、彼女も目をむいて固まってしまった。
シロと少し見合い、その視線の先、私の背後へと振り返った。
その先では、少女と少年が二人連れで歩いていた。
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 22:37:30.25 ID:2raG/6lo0<>
―――――――第4夜、 「私達は」「幽霊を」「語り合う。」―――――――
<>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/16(金) 22:39:01.36 ID:2raG/6lo0<>
短いですが、今晩はここまでとさせていただきます。
本当は、前回のうちにここまで書きたかったのですが・・・
それでは、次回もよろしくおがいいたします。 <>
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)<>sage<>2011/12/19(月) 14:58:37.62 ID:zR4XsWRSO<> これは全てのストーリーが一つになったのか? <>
◆N1RGqRourg<>saga, sage<>2011/12/30(金) 18:28:41.83 ID:rl9hEd060<> こんばんは
まずは大変間が空いてしまった事をお詫び致します。
不肖私、ノベルゲームに手を出してしまい、未だにクリアできておりませぬ故…
年末のうちに終わらせたかったのですが、年を跨いでしまうかも知れませぬ。
次回更新を気長にお待ちくだされば幸いです。
>>154
そのとおりでございます。
政治だのなんだの出てきますので、ストーリーの細かい部分が荒くなってしまうかもしれませぬが、大目に見てくだされば幸いです。 <>
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)<>sage<>2012/01/02(月) 00:23:34.06 ID:tPfiISXSO<> ふむ <>
トリップの付け方忘れました ◆.CzKQna1OU<>sage, saga<>2012/02/01(水) 22:16:25.21 ID:2W3swdg00<> てすてす <>
◆ghx.LybNWuqh<>sage, saga<>2012/02/01(水) 22:19:08.12 ID:2W3swdg00<> OK、これでよいはず。
大晦日から年始にかけての周りの空気に参ってしまい、どうにもこちらのスレッドからも離れがちでございましたが、
また細々と更新させていただきます。
大まかな流れでもメモしておくんだった…orz
<>
◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/01(水) 22:20:17.86 ID:2W3swdg00<> あれっ?こうかっ! <>
ボクっ娘大好き ◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/01(水) 22:40:13.09 ID:2W3swdg00<>
―――――――。
大きな大きな図鑑、
それを胸の前で抱え込み、未だ雨の臭いをのこす川原の道を歩く。
―今しがた出会った、同じ年頃の女の子を覗いながら。
少年「えっと……」
少女「う〜む…」
少女はお腹を抱きこむようにまわした片腕に、反対の肘をのせて顎を押さえていた。
痛む太ももを隠すようにさすりながら、言葉を選ぼうと無理をして声をかける。
少年「み、見てもいいですから……だまらないで下さい……うぅ」
目の前の少女は、進行方向に目も向けず、器用に横歩きのままボクをねめつけていた。
先ほどの「本当に男前だよねぇ…」 発言以来、ずっとこのままだ。
少女「へっ?!あ、あぁ!ごめんごめんっ!つい考え込んじゃった」
破顔一笑――本でよくみる一節が、こういうことなのかと思わず感じ、柔らかなその笑顔に見惚れてしまう。
少年「――っ………はぁ…」
少女「えっ?!」
自分でもわかるほど不自然な間呆けてしまい、その最中、”ボクもこんなに可愛ければ”と考えてしまい、吐息が漏れた。 <>
ボクっ娘大好き ◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/02(木) 00:25:37.26 ID:hqoOevI20<>
少女「えっ、や、なんかしちゃった?!わ、わたし何かしちゃったの?!」
少年「ううん、違うよ……はぁ…」
今更かもしれないけれど、情け無いところを見せたくなかったので言葉を選びもせず濁す。
立場が逆転してしまったようにも感じたけれど、同性でもやはり性格の違いか、すぐに打開策らしきものを提案する少女。
少女「”意味もわからずにあやまる”ってのはアリだよね!」
少年「う、う〜ん…?」
その場凌ぎだなぁと思いながら、冷静に考察。
少年「………ナシ。」
少女「うっ…やっぱし……」
自分でもそう思っていたようだ。
少年「少女ちゃんってさ」
少女「うぅ〜ん……あ、うん?なになに?」
少年「いや……ふふっ!」
コロコロと変わる表情が可笑しくて、つい笑ってしまった。
そんなボクの素にも、少女ちゃんはまたコロコロと表情を替え、頬を膨らませた。
少女「ちょっ?!なんだよー!」
少年「あぁ、いや、かわってるなぁって思って。…くふっ!」
少女「また笑ったー?!」
余りある元気さも、無鉄砲気味な知りたがりも、過ぎた無垢さも、ボクの苦手なクラスメイト達と同じなのに、
ボクが気を抜いて離していても、首をひねることなくすんなり理解してくれる。
本ばかり読むボクを、怖がらずに接してくれる。
<>
◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/02(木) 00:39:37.83 ID:hqoOevI20<>
本を抱きしめる腕の力を少し強くする。
それはいつものクラスメイトのからかいから本を守るためじゃなくて、
胸のなかでぽっぽっと火照る何かを放したくない、離したくないが為の独占欲のようなものだったのだけれど――
少女「…ふむ。少年君って、わらうとかわいいよね。」
少年「ふへっ?!」
――意表を突いた言葉に、胸の中にあった火照りが、身体中―主に顔―に廻って更に熱くなった。
抱きしめていた本を取り落とし、こんどは靴にぶつかった。
少年「〜〜〜〜〜ッ???!!」
けれどそんな痛みを感じないほどに身体が熱くて、今にも火を噴きそうな顔を見られたくなくて、両手を挙げて走り出した。
少女「っちょ?!前前っ!」
後ろから響く少女の声が耳に届いたけれど、理解するまで駆ける足を止めることはできなかった。
そうしてそのまま走り続――けることは出来ず、人にぶつかる。
少年「きゃっ?!」
白衣の男性「おっと!」
ドンっと遠慮なくぶつかってしまい、小さな体躯のボクは弾かれた。
けれど、すぐにそのぶつかってしまった人がボクを抱きとめる。
白衣の男性「大丈夫?」
少年「えっ、えぇ。」
<>
◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/02(木) 01:00:43.71 ID:hqoOevI20<>
初老を迎えたような落ち着いた物腰の白衣を着たその男性は、優しくボクを立たせて、軽く土を掃ってくれた。
転んでいないのでそんなに汚れてはいないのだけれど
幼女「弟くん、ふちゅういだよ〜?」
白衣の男性「あぁ、ごめんごめん。シロも姉さんも見てくるもんだから、呆けちゃってね。」
腰を屈めてボクの視線の高さにあわせて話しかけていた男性は腰を上げ、その際に軽く頭を撫でられた。
少女「少年く〜ん!」
うしろからの大きな声に振り返ると、少女ちゃんがボクの落とした本を持って走りよってきていた。
大仰に手を振り、その内にある本もぶんぶんと振り乱れている。
近くまで寄ると、土を撒き散らして目前で急停止し、ボクの肩を掴んだ。
少女「大丈夫?!」
少年「だ、ダイジョブ…」
少し気圧されてしまう。
ボクの目を必死の形相で覗き込んでいた瞳が、何かを思い出したかのように揺れて、白衣を着た男性へと顔を向けた。
少女「ご、ごめんなさい!お怪我は?!」
白衣の男性「あぁ、大丈夫だよ。それよりそっちの男の子の方が心配だ。」
女性「そうですね。」
少年「おっ…」
男の子って……
少年「…うぅ」
女性「…すぐに診た方が良いかもしれませんね。」
白衣の男性「そうだね。ちょうどいい、一緒に来てもらえるかい?」
少年「へっ?…え、えぇ。」
言葉に詰まり、反射で答えてしまう。
白衣の男性「よし、それじゃあおぶって行くからね。君もきてくれるかな?」
少女「あっ!はい!」
呼ばれた少女ちゃんが、一瞬くらい顔をしていたような……、多分、気のせいだと思う。
そんなことを呆然と考えていると、ボクはいつのまにか白衣の男性におんぶされていた。
少年「……へっ?」
白衣の男性「よし、みんな行くよ。」
視界の端で、白い大きな犬が「わぅん!」と鳴くのが聞こえた。
<>
◆N1RGqRourg<>sage, saga<>2012/02/02(木) 01:02:55.55 ID:hqoOevI20<> 今回はこんなものです!
ロリコン体育教師が出るまで書きたかったのだけれど……w
これまでの間がございますので、いつになるかはわかりませんが次回もよろしくお願いいたしますm(_ _)m <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2012/02/02(木) 01:07:10.76 ID:hqoOevI20<> 台詞と地文の間にも空白を設けていますが、
台詞と台詞の間にも設けたほうが見やすそうですね。
噴出し前のキャラ名も長さが不規則ですので、そのあたりも整えて見易く出来たらよいのですが。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 08:21:46.19 ID:K0EgTrFSO<> やっときたか
乙 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2012/02/03(金) 01:41:40.10 ID:Jt50hMuq0<> 一月以上の間を覚えていてくださってとても嬉しいです。
おかげさまで書きたい気持ちが膨れ上がっております!
と、はりきって腰を居直したら、抱き枕が破れた… <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2012/02/03(金) 02:04:35.50 ID:Jt50hMuq0<>
―――――――。
はじめに感じたのは、違和感。
少年君がお医者さんのような男性におぶられて連れられてゆく後ろを、てくてくとつい行く。
けれど、私の視線はその背中を見ていなかった。
少女「………」
なんなんだろう、このモヤモヤする感じ。
幼女「ねぇねぇ弟くん!」
医者?「うん?」
この、小さい女の子に、視線が縛られてしまう。 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2012/02/03(金) 02:51:40.75 ID:Jt50hMuq0<>
白く大きな犬 ――話を聞く限り、”シロ”という名前みたい――を連れて、
白衣の男性の袖を掴み前へ後ろへぶんぶんと振り回す小さな女の子。
無邪気な一挙手一投足に、この景色を巻き込み見えない陽炎が揺らめくような。
視界に入れるまで気付かなかったはずなのに、ただ傍に居ただけで不安な気持ちがどこからか湧き上がって…
幼女「シロも洗ってあげたほうがいいかなぁ!」
医者?「あぁ、そうだね。みんなのグルーミングと一緒に洗ってあげよう。」
シロ「わう?」
あっとほーむな二人と一匹、
そうしてその横でクスクスと笑う、カーディガンを羽織った女性。
女性は気のせいか、何も無いところを時々見つめているような……
傍の女の子以外をまともに見ていないので、あまり確かなことは言えないけれど。
そうして、男性の背中でおどおどとしながらも、決して暴れることはせず私に助けを懇願するような視線を向ける少年君。
少女「(こういうところは女の子だよなぁ)」 <>
◆N1RGqRourg<>saga<>2012/02/03(金) 03:00:36.50 ID:Jt50hMuq0<> 失礼、抱き枕が破れたショックが大きすぎました。
今晩は2レス分で勘弁してください。
せめて動物病院には着きたかった… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 10:20:08.25 ID:4DNFw2ISO<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 14:24:14.02 ID:omJuXKbSO<> まだか <>