◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:00:00.75 ID:c4huLTh3o<>
 この物語は愛に生きるバカ、播磨拳児を主人公とする青春ハートフルラブコメディである。



 ※ご注意※

 当スレは『魔法少女とハリマ☆ハリオ』スレで行われたイベント、年末スペシャルにおける

けいおん!とスクールランブルのコラボSS、『はりおん!』の続編です。

 一学期の播磨や唯たちの様子が知りたい方は、下記のスレの

レス番号303〜349辺りをご覧ください。

 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1323598624/



   ● 一学期の復習

 播磨拳児は不良でバカな高校二年生。彼は高校一年の時に一目ぼれした女子生徒、
平沢唯と同じクラスになることができた。

 そこで播磨は、唯の好感度を上げるためにあの手この手を尽くすのだが、
彼の不運とバカのコラボレーションにより、いつもおかしな方向へと進んでしまう。

 はたして播磨は、唯に思いを伝えることができるのか。<>はりおん! 〜播磨拳児はうんたんに恋をする〜
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:02:10.88 ID:c4huLTh3o<>
  ●主要登場人物

 播磨拳児(はりま けんじ)

 本作主人公。基本的にバカで直情的。同じクラスの平沢唯に惚れているが、
その思いは未だに届いていない。

 喧嘩が強く、勉強が苦手。わりと器用に何でもこなすことができる。



 平沢 唯(ひらさわ ゆい)

 播磨は好きな同じクラスの女子生徒。軽音部所属(ギター担当)。頭が少し弱い。


 山中 さわ子(やまなか さわこ)

 播磨の従姉で、現在一緒に暮らしている。基本的にだらしない。あと、怒らせると怖い。



 田井中 律(たいなか りつ)

 播磨の幼馴染で、現在は同じクラス。唯と同じ軽音楽部に所属(ドラム)。

 小学校六年まで彼の家の近所に住んでおり、一緒に雷魚やナマズを獲りに行った仲。

 播磨が唯一気兼ねなく話すことのできる女子生徒である。

 播磨のことは悪友だと思っているけれど、最近は少し気になり始めているらしい。



 秋山 澪(あきやま みお)

 播磨のクラスメイトで軽音部所属(ベース)。

 成績優秀容姿端麗、だがやや人見知りする性格。大勢の人の前に出るのが苦手。

 中学時代のトラウマから、かなりの男性恐怖症であったけれど、

播磨と出会ってから少しずつかわりはじめたようだ。

 播磨のことは、色々な意味で恩人だと思っている。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:04:20.65 ID:c4huLTh3o<>


 琴吹 紬(ことぶき つむぎ)

 愛称「ムギ」。播磨の隣のクラス(二年四組)の女子で、軽音楽部所属(キーボード)。

 長い金髪とタクアンのような奇妙な形の眉毛が特徴。


 中野 梓(なかの あずさ)

 愛称「あずにゃん」。新しく軽音楽部に入ってきた一年生(ギター)。

 当初は真面目だったらしいが、個性的な先輩の影響で次第に大胆な性格になって行った。

 この物語では紬とかなり仲良しである。


 東郷 雅一(とうごう まさかず)

 愛称「マカロニ」。イギリスかイタリアか、とにかくどっかの国の帰国子女。

 やたらアメリカンな文化を愛しているけれども、渡米経験はない。

 暑苦しい長髪、マッチョな肉体、そしてウザイ性格が特徴。

 隣のクラスのある女子生徒のことが好きなようだ。

 なお、琴吹紬とは遠縁。一つ下の妹が同じ学校に通っている。



 真鍋 和(まなべ のどか)

 メガネをかけた髪の短い少女。唯の幼稚園時代からの幼馴染。

 成績がよく性格は真面目。ただ、少し天然なところがある。


麻生 広義(あそう ひろよし)

 二年三組影の実力者。バスケ部の主将であり、女にモテる。

 家は中華料理屋で、料理も上手いらしい。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:04:59.56 ID:c4huLTh3o<>  




    はりおん!

   〜夏休み編〜





<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:07:30.33 ID:c4huLTh3o<>
   夏休み編その1


   カレーと夏休み



 夏休み――

 別に帰るつもりでもなかった播磨拳児だが、親から「帰還命令」が出てしまった。

 なんでも夫婦で旅行に行き、彼の弟の修治が留守番をするから一緒にいろ、ということだ。

 修治はまだ小学生なので、両親もそれなりに心配したのだろう。

 しかし、修治は兄に似て独立心が強く、それなりにしっかりしているので一人でも平気ではないかと

播磨は思う。

 実際、帰ったらウザがられそうだ、とすら思った。

「だだいま」

 昼過ぎ、彼は実家に帰る。

 玄関の鍵は開いていたので、中にいるのだろう。

 耳をすますと、居間のほうから人の気配を感じた。

「おお、すげえ」

「やるな」

 修治と、修治以外の人間の声が聞こえる。

 友達でも遊びにきているのだろうか。

 泥棒でもあるまいし、黙って家に入るのも気が引けるので、とりあえず顔だけでも見せようと
播磨は思った。

 そして播磨は居間を覗く。

「おおい、修治。帰ったぞ」

 居間の戸を開けるとテレビゲームの音が聞こえた。

 そして、テレビに向かう修治と、もう一人……。

(あれ? どこかで見たような……)

「おお、兄ちゃんおかえり」と修治。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:08:47.15 ID:c4huLTh3o<>
「あ、播磨。帰ってきたのか」

 見覚えのあるカチューシャ姿の少女がそう言ってこちらを見た。

「田井中……」

 彼の同級生、田井中律である。

 一瞬男に見えたけれど、正真正銘の女子高校生だ。

「よっ」

 ノースリーブのシャツに短パンという、いかにも夏といった開放的な服装の律はそう言って挨拶した。

「何が『よっ』だ。なんでお前ェがいんだよ」

「そりゃ、こっちにお祖父ちゃん家があるからな。今、そこにいるんだ」

 律と播磨は幼稚園および小学校時代の同級生で、彼女は小学校を卒業するまで彼と同じ街に住んでいた、
いわば彼の幼馴染である。

 律が中学校に上がると同時に引っ越して、高校に入ってからまた再会した。

よく言えば運命的、悪く言えば腐れ縁というやつだ。

「お前ェがこっち来てるのはわかったが、なんでウチにいるんだ?」

「ああ? だって今日、お前んち親御さんいねえだろ? 心配だから来てみたんだ」

「修治なら心配ねェだろ」

「まあ、修治は心配ないけど、アンタのほうが心配かな」

「なんだそりゃ」

 播磨がそう言うと、

「兄ちゃん、あんまし生活力ねえからな」

 と、修治が言う。

「おい、修治」

「ああ、それはどうでもいいけど――」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:09:14.48 ID:c4huLTh3o<>
 播磨の言葉を無視して律が話を変えた。

「しばらく見ないうちに大きくなったよな、修治って」

 そう言って律は修治の頭をなでる。

 すると修治は、

「まあ成長期だからな。それより律姉ちゃんは全然大きくなってないじゃん。特に胸とか」

「なんだとこのガキ」

「ウガガガガ、ギブギブ」

 律は素早く修治の背後にまわり、彼の頭のコメカミのあたりを拳でグリグリと刺激する。

 播磨はその様子を見ながら、もしかして律と修治のほうが本当の姉弟なのではないかと思えてきた。

「んなことより、行くぞ播磨」

「んあ? どこへだ? 俺は今帰ってきたばっかだけど」

「んなもん決まってるだろ、夕食の買い物だよ」

「は!?」



   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:09:55.21 ID:c4huLTh3o<>
 修治の話だと、この日の夕食は律が作るらしい。

 親から金はもらっているので、その金で材料を買いに行く。

「外食でもすりゃいいじゃねェか」

 と播磨は思う。

「アンタ、いつもそんな食事だろう? 実家に帰った時くらいちゃんとしたもの食べろよ」

 スーパーへ行く途中、播磨と律はそんなことを話しながら歩いていた。

「ちゃんとしたものってなんだ?」

「家庭の味ってやつ?」

「そんで、田井中は何を作るつもりなんだ?」

「カレー」

「ふっ……」

「今バカにしたなー!」

「いや、カレーって。俺でも作れるぞ」

「定番な食事ほど各家庭の個性が出るんだぞ」

「肉は入れてくれよ」

「いや、入れるけど。普通入れない?」

「いや、お前ェんちのカレーって、肉の代わりに魚肉ソーセージとか入ってそうで」

「んなわけないだろう! ちゃんと肉入れてるよ、肉」

「肉肉うるせェな」

「あんたが先に言ったんだろうが」

 そんなこんなでスーパーマーケットに到着した。




   * <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/03(火) 20:10:00.84 ID:4SlX3pEY0<> ハリママドカスレからきますた
これは期待支援 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:10:41.38 ID:c4huLTh3o<>


 律は手慣れた様子で買い物カゴをカートに乗せて、生鮮食品を見て回る。

「別に俺が来なくてもよかったんじゃねェのか?」

「この暑い中、あたしに重い荷物持たせようっての?」

「じゃあ修治は」

「修治は塾があんの」

「あいつ、塾なんて行ってんのか」

「そうだよ、あたしも驚いたね。兄貴と違って頭いいらしいし」

「ケッ」

 頭の悪いことは否定しない播磨である。

 生鮮食品前に行くと、ひんやりとした空気を感じた。

 そういえば、こういうスーパーに行くのは久しぶりかもしれない。

「うーん、こっちのほうがいいかな」

 袋に入った人参を手に持って、律は見比べていた。

「わかるのか?」

「あたりまえじゃん。最近練習してんだよ」

「練習?」

「料理の」

「なんで」

「なんでって、食は基本だよ。わからないかねえ、播磨くん」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:12:09.41 ID:c4huLTh3o<>
「そうかいそうかい」

 その後も、律が商品を選び、播磨が買い物カゴを乗せたカートを押して移動させた。

(あれ……)

 不意に、律の後ろ姿を見ながらふと播磨は思う。

(あいつ、まるで――)

 母親みたいだ、と播磨がそう感じた瞬間、

「ちょと奥さん、これ試食していかない? 新商品のウインナーよ」

 スーパーの店員らしき中年女性(おばちゃん)がそう言って律を呼び止める。

「あたし?」

 急に奥さんと言われて律は驚いているようだ。

 まだ高校生なのに。

 そんな律の様子がおかしくて、播磨は笑ってしまった。

「奥さんだってよ、田井中」

「うるさいなあ」律は照れくさそうに怒った。

 しかし次の瞬間、播磨の笑いが止まる。

「ほら、旦那さんもどうぞ」

 おばちゃんは笑顔で播磨にもそう呼びかけたのだ。

「……は?」



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:13:15.09 ID:c4huLTh3o<>

「……」

「……」

 帰り道は双方ともあまり話をしなかった。

 律はなるべくおばちゃんの言葉を意識しないようにしようと考えているのだが、そう思えば思うほど

意識してしまう。
 
(播磨はどう思ってんだろう)

 買い物袋を両手に持った彼の横顔を見ながら律はそう思った。

 自分と夫婦に見られたことを、どう感じていたのか、と。

「一つ持とうか?」

「別にいい……」

 播磨はそっけなく返事をする。

(んだよもう……)

 律は、播磨が元々多弁なタイプではないことを知っているけれど、

こういう気まずい雰囲気の時は何かを察してしゃべってほしいと思うのだ。

(女心がわかんねえのは、昔からかわんないか)

 半ばあきらめの気持ちで、彼女はため息をつく。

「……」

 その時、

「あのよ……」

 不意に話し出す播磨。

「なんだよ」

「悪かったな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:14:30.09 ID:c4huLTh3o<>
「え?」

「お前ェも迷惑だろ」

「何が」

「何がってお前ェ、俺なんかと夫婦に見られちまってよ」

「え……?」

 一瞬、思考が止まる。

「どうして、んなこと言うんだよ」

「お前ェだったらもっとこう、いい男と付き合えるんじゃねェか」

「はあ? 何言ってんだよ播磨」

「だから……、もういい!」

 そう言うと播磨は顔をそむけた。

 播磨の煮え切らない態度に対し、律は逆に質問する。

「なあ播磨」

「なんだ」

 不機嫌そうな声だが、無視することなく答えてくれるのは播磨のいいところだ。

「その……」

 少しためらいはあったが、律は意を決して聞いてみた。

「あたしって、魅力ないのか?」

「誰がんなこと言ったよ」

「だって、スーパーで夫婦と間違えられたとき、嫌がってたじゃないかよ」

「そりゃ、夫婦じゃねェし。まだ高校生だしよ。だけど、お前ェに魅力がねェなんてことは無いだろ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:15:41.05 ID:c4huLTh3o<>
「でも……、あたしは澪みたいに髪がサラサラじゃないし、女っぽくないしさ、
それに胸も大きくないぜ」

 律は自嘲気味に笑う。

(何言ってんだろ、あたし)

 言ってて悲しくなってきた。

 しかし、



「バカか」



 そんな律の澱んだ気持ちを、播磨は一言で吹き飛ばす。

「バカとはなんだ!」

「バカだよバカ」

「はあ!?」

「胸の大きさとか髪の毛がどうとか、んなもん大した問題じゃねェだろう」

「え?」

「お前ェにはお前ェの魅力があんだよ」

「魅力?」

「秋山もいい女だとは思うけど、お前ェだって同じくらい……、いい女だと思うぞ。少なくとも俺はな」

「播磨……」

 律は空を仰いだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:16:07.33 ID:c4huLTh3o<>
 何かがこみ上げてきそうだったからだ。

「おい、田井中?」

 そんな律に、播磨は心配になって声をかける。

「バカなこといってんじゃねえよ、播磨のくせに!」

 そう言うと律は、播磨の背中を平手で思いっきりたたいた。

 バチンと小気味よい音が響く。

「痛って! 何すんだ!」

「ほら、早く帰るぞ」

「おい、なんだよ急に」

「田井中家直伝の、おいしーいカレー、作ってやんよ!」

 律は足取り軽く、播磨の家へと向かった。



   つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:16:41.50 ID:c4huLTh3o<>



   はりおん!
 
  夏休み編その2


   星の音楽




<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:17:23.99 ID:c4huLTh3o<>


 播磨は夏休みの間、自分の思い人である平沢唯とほとんど会えていなかった。

 そのさみしさを紛らわすため、彼はアルバイトにいそしむ。

(無心だ、無心に働くんだ。そして時間が経過するのをひたすら待つ)

「焼きそば上がり!」

「あいよ!」

 彼は今、海の家でアルバイトしている。

「お疲れ様播磨くん。頑張ってるわね」

 海の家の主人であるロングヘアーの女性がそう言ってねぎらう。

「どうもっす」

 この店は家族でやっているらしく、厨房に長女、給仕を高校生の次女と変な三角の帽子を頭に被った

白いワンピース姿の少女がやっている。

 時々サーファーの少女もアルバイトに来るそうだ。

「さすがでゲソ。今度の新人はすごいでゲソ」三角帽子が言った。

「お前も播磨さん見習ってしっかり働け」と、活発そうなショートボブの次女が注意する。

「カレーライスお待ち!」

 播磨は注文の品を出す。

「おお、早いでゲソ」

「チャーハンお待ち!」

「すごいわ、播磨くん」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:18:14.76 ID:c4huLTh3o<>
(無心だ、無心になって働くんだ)

 播磨は邪念を振り払うよに働く。

 しかし、

「オムライスお待ち!」

「あれ? なんか顔が描いてある」

「しまった!」

 無意識のうちに、彼の心の中に平沢唯が浮かび上がっており、それがオムライスの上の

ケチャップアートとなって出てきてしまったのだ。

 ケチャップで描かれた唯は、結構似ている。

(くそ、俺はまだまだ修行がたりねェ)

 そう考えつつ、彼は仕事を続けた。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:18:52.77 ID:c4huLTh3o<>
 そして休憩時間。

 店の近くのベンチでペットボトルの水を飲みながら、播磨はぼんやりと唯のことを思い浮かべる。

(はあ、唯ちゃん……。せめて一目だけでも)

 遠くの雲を見ながらそんなことを考えていると、

「あれ? 播磨くん」

「ぶー!」

 聞き覚えのある声に、播磨は思わず吹き出してしまう。

「あはは。どうしたの? こんなところで」

「ゆ……、平沢!?」

 播磨の目の前には、夢でも幻でもない、正真正銘の平沢唯が立っていた。

「俺はバイトだ。ここの海の家で働いている」

「へえ、そうなんだ。すごいなあ!」

 唯が目を輝かせる。

(か、かわいい……。私服姿も可愛い)

 播磨はそう思ったが、例によって外見は平静を装っている。

「ところで平沢はどうした。遊びにきたのか?」

「いや、違うよ。まあそれもあるんだけど実は」

 そう言うと、唯は1枚の紙を差し出した。

「これは?」

「実はね、今夜これに出るために来たの」

 紙には、『野外フェスタIN由比ヶ浜』と書かれていた。

「アマチュアバンドの大会か……」

「うん。ウチの軽音楽部の出るんだよ。播磨くんも来てよ」

「え? ああ。バイト終わったらな」

「じゃあね!」

 そう言うと、唯はどこかへ行ってしまった。

 一体何しに来たのだろうか。



   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:20:20.30 ID:c4huLTh3o<>


 その日の夕方、アルバイトを終えた播磨は夏フェスへと向かった。

 一種のお祭りなので、バンド以外にもマジックや漫才などのパフォーマンスが行われていた。

 出店もあって結構な賑わいだ。

 播磨が知り合いがアマチュアバンドの大会に参加すると言ったら、店の女主人からお土産と称して
お菓子などの食べ物をもらってしまった。

 なんとなく残り物の処理のような気もしないではないが、差し入れを渡すという大義名分があれば
会いに行くこともできるのではないか、と思い持っていくことにした。

(しっかし、人が多いな)

 人が多いのはあまり好きではない播磨。

 バンド演奏の会場も多くの人でにぎわっていた。

(出場者の控室ってどこだろう)

 そう思いウロウロする。

 このままだと演奏がはじまってしまうのでは、と思った彼は少し焦ってきた。

 仕方ないので、スタッフの一人に聞いてみる。

「あの、すまねえが」

「はい、なんでしょう」

「バンド演奏に出場する連中の控室って、どこにあるんだ?」

「はい?」

 赤い帽子を被った係員の目が鋭くなる。

「失礼ですが」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:20:56.67 ID:c4huLTh3o<>
「ん?」

「どのようなご用件でしょうか」

「ああ、知り合いが出てるんで少し差し入れを……」

「申し訳ありませんが、一般の観客の控室への立ち入りは原則禁止されているのですが」

「いや、ちょっと土産を渡すだけだ」

「規則ですので」

「たかだかアマチュアバンドじゃねえか。そんなに厳しくする必要あんのかよ」

 播磨はだんだんイライラいしてきて、つい口調が荒くなる。

「アマチュアでも人気のバンドはありますよ。例えば、放課後ティータイムとか」

「ん?」

「秋山澪ちゃんとかかわいいですよね」

 にやけるスタッフの顔。実に気持ち悪い。

 そういえば、唯たちのバンドは、その『放課後ティータイム』という名前だったな、
と播磨は思い出す。

「その放課後ティータイムの知り合いなんだ」

「証拠はあるんですか」

「証拠は……、ああくそっ」

 証拠などと言えるようなものは持っていない。

 埒が明かねえ、と思った播磨はスタッフに見切りをつけてどこか別の手段で控室を探そうとした。

 その時、 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:21:39.01 ID:c4huLTh3o<>
「あ、先輩」

 不意に声が聞こえてきた。

「あん?」

 しかし“先輩”なんて日本中どこにでもいるはずだから、自分のことではないかもしれない。

「播磨先輩」

 播磨先輩というのも、日本中にどこでも……、いねえよ!

「誰だ?」

 播磨は周囲を見回す。

 すると、声のした方向にやや小柄な少女が立っていた。黒髪を2つに縛った髪型には見覚えがある。

「お前ェは確か……」

 よく部室で平沢唯と一緒にいる一年生の女子生徒だ。

「中野梓です!」

 ツインテールをピョコピョコ動かしながら梓は自己紹介した。

「ああ、俺は播磨」

「知ってますよ。先輩からよく話を聞いてますし」

「なに? その、先輩っていうのは、もしかして平沢――」

 播磨の心拍数が上がる。

「律先輩です」

 そして一気に下がった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:22:11.02 ID:c4huLTh3o<>
「あいつか……」

「こんなところで何してるんですか? ライブ、見に来てくれたんですか?」

「ああ。それもあるんだが、これ」

 そう言って白いビニール袋に入ったお菓子などを見せる。

「平沢たちが出るって聞いたから、ちょっと差し入れを」

「本当ですか?」

 梓の顔がパッと明るくなった。

「お前ェも一緒に出るんだろ? ライブ」

「はい。私にとっては正式なデビューステージです」

「そうか。じゃあこれ、あいつらに渡してやってくれねェか」

「ほえ? どうしてですか? 直接行って渡してきたらいいじゃないですか」

「部外者が勝手に控室に行っちゃまずいだろ。さっきも係員にそういわれたぞ」

「バレなければいいんですよ。こっちです先輩」

「……」

「どうしました?」

「いや、なんかお前ェすごいなと思って」

「そうですか。あの個性の強い先輩方の影響かもしれません」

 そう言って梓は笑った。




   *

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:22:52.26 ID:c4huLTh3o<>

 今回の野外フェスは、屋外の会場にもかかわらず控室はしっかりしていた。

 他のバンドと共用とはいえ、大きな天幕の中には机や椅子なども用意してある。

「しっかし、梓のやつ遅いなあ」

 ステージ衣装に身を包んだ律が、緊張のためかイラつきながら言う。

「律っちゃん。まだ時間はあるよ」

 と、唯は相変わらずマイペースだ。

「そういえばお茶菓子がありませんね」

 紬はそれ以上にマイペースだった。

 そして、

「うう……」

 澪は相変わらず緊張していた。

「澪ちゃん、大丈夫?」

 唯が心配して声をかけるけれど、まともな返答ができない。

「だ、大丈夫大丈夫」

 そうは言ってはみたものの、実際大丈夫ではないことは本人が一番よくわかっている。

「澪は未だに慣れないねえ」と律が苦笑しながらに言う。

「屋外で、しかも夜なんて初めてだし……」

 寒くもないのに澪はガクガクと震えはじめた。

「あ、そうだ澪ちゃん」

 すると、唯が何かを思い出したように言った。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:23:31.89 ID:c4huLTh3o<>
「な、なに?」

「今日ね、播磨くんと会ったんだよ」

「え? どこで」

 不意に澪の表情が明るくなる。

「実は近くの海の家でバイトしてたんだって」

「そうなの?」

「うん。この夏フェスのチラシも渡しておいたから、今日は見に来てくれるんじゃないかな」

「播磨くんが見に来る……」

「へえ、播磨が見に来る前で下手な演奏したらみっともないよなあ」

 と、律は言った。

 その言葉に澪は過剰に反応する。

(播磨くんの前でみっともない演奏)

「ああ、だめだ……」

 澪の思考がどんどんマイナス方面に落ちていく。

 その時、

「ただいまです」

 特徴的なツインテールが戻ってきた。

「遅いぞ梓」と、律。

「すいません。ちょっといいものを見つけたもので」

「いいもの?」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:24:50.96 ID:c4huLTh3o<>
 全員の視線が、一斉に入口に集まる。

「よ、よう……」

「播磨くん?」

 Tシャツにハーフパンツ姿の播磨拳児であった。

「何やってんだよ播磨」

 心なしか声を弾ませた律が聞く。
 
「差し入れっつうか、お土産持ってきたんで渡そうと思ったんだよ」

 そう言って播磨は持っていた白いビニール袋を差し出す。

「え? 気が利くな」

「何が入ってるんです?」紬も興味があるようだ。

「みんなの好きなお菓子です。あと飲み物もです」

 なぜか自分が得意げに説明する梓。

「すまねェな。焼きそばとかもあったんだが、冷えると美味くねェし、こっちのほうがいいと思ってよ。
終わってからも食えるし」

「サンキュー播磨」律が笑顔で受け取る。

 それを見た唯は、悪戯っぽいう笑みを浮かべて聞いた。

「律っちゃん、ダイエットは?」

「明日から明日から。今日は精いっぱい発散するから栄養が必要なの」

「うふふ」紬は笑っている。

「ところで――」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:25:26.31 ID:c4huLTh3o<>
 播磨は何かに気付いたようだ。

「あいつ、どうしたんだ」

 テントの隅でうずくまっている澪に気が付いたようだ。

「ああ、あれはいつものことだから気にしなくていいよ」

「いつものこと?」

「プレッシャーに弱いんだよな、澪は。ライブの前はいつもあんな感じ」

「そうなのか……」

 播磨は澪を見て少し考える。そして、ゆっくりと彼女に近づいてきた。

「秋山」

「……播磨くん」

「大丈夫か」

「ごめん」

「なんで謝る」

「せっかく来てくれたのに、こんなんで」

「いや、いい。それより」

「ん?」

「緊張をほぐすいい方法がある」

「え?」

「忍者が使っていた方法だ。怖いときなんかは昔、やっていたらしいぞ」

「どうするんだ?」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:26:21.21 ID:c4huLTh3o<>
「九字護身法って知ってるか?」

「なんか、時代劇で見たことがある」

「そう、こうやんだ」

 播磨は両手を合わせる。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 播磨は掛け声に合わせて、手の組み方を次々に変えた。いわゆる、印を結ぶという行為だ。

「見たことある」

「そうだろ?」

「もう一回、見せてくれないか」

「ああ、よく見とけ」

 そう言って播磨は再び九通りの印を結んだ。

「こうかな。臨、兵、闘、者……」

 澪も、播磨の真似をして印を結ぶ。

 しかし、幼いころ忍者ごっこをするような性格でもなかった澪は、上手く手が動かない。

「こうだ、兵の形はちょっと難しいが」

 そう言って播磨は、澪の手に触れる。

「あ……」

 不意に手を触られた澪は、思わず声を出してしまった。

「すまねェ」

「いや、いいんだ。私が悪い」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:27:21.26 ID:c4huLTh3o<>
 そんな二人の様子を眺めるほかのバンドメンバー。

「青春ですねえ、ムギちゃん」

「若いっていいわね、唯ちゃん」

 唯と紬の二人はニヤニヤしながら澪と播磨の様子を眺めていた。

「いやいや、ムギ先輩も澪先輩と同い年でしょうが」と、的外れなツッコミを入れる梓。

「聞こえてるぞ!」

 恥ずかしくなった澪はそう言って立ち上がった。

「あれ? 澪ちゃん緊張ほぐれたんじゃないの?」

 そんな澪の姿を見て唯は言う。

「そ、そういえば……」

 先ほどまでの不安が嘘のように消えたようだ。

 そして、

「とう!」

「うわっ!」 

 次の瞬間、律が播磨の背中にダイブしていた。

「何すんだ田井中!」

「播磨、澪ばっかズルいぞ。あたしにもおまじない的なものを教えてくれよ」

「ああ? お前ェは別に必要ねェだろう」

「いや、必要だね。緊張しまくりだから」

 律は播磨の背中から降りて胸を張る。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:29:32.18 ID:c4huLTh3o<>
「そうか、じゃあ教えてやるよ」

「澪のやったのは難しそうだから、もっと簡単そうなの頼む」

「簡単なの? わかった。よく見てろ」

 そう言うと、播磨は律の前に両手を出し、右手の拳を握りグーの形に、左手は人差し指を一本だけ
立てた。

「人差し指の――」

 播磨は右手と左手をぶつける。

「大移動」

 そして、ぶつけると同時に左手をグーにし、右手の人差し指を立てた。

「なんだそりゃあ!」

「おまじない」

「そりゃあたしが幼稚園の時にやった芸じゃねえか!」

「そうだったか」

「指芸ですらねえよ」

「うるせェ、そんなにネタなんて持ってねェんだよ」

「まったく」

 播磨と律のやり取りに影響されたのか、唯たちも指芸を始めていた。

「見て見てあずにゃん、親指がズレるよ」

「あ、それ見たことあります」

「ええー?」

「うふふ。懐かしいわ」

 そうこうしているうちに係員から呼び出しが来た。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:30:51.86 ID:c4huLTh3o<>
「放課後ティータイムさーん。時間です、準備お願いしまーす」

「はーい」と、返事をしたのは紬だった。

「バカなことやってる場合じゃねえ。そろそろ行かなきゃ。なあ、澪」

 そう言って律は片目を閉じる。

「あ、ああ……」

 返事をした澪は、その視線を播磨に移す。

「俺は観客席から見てるぜ。頑張れ」

 澪と目が合った播磨はそう言った。

「うん。わかった」

 播磨は足早に出口に向かおうとする。

「あの、播磨くん」

 そんな播磨を、澪は呼び止めた。

「どうした」

「その、ありがとう。すごく、心強かった」

「そりゃ言いすぎだろ」

「そんなことはない」

「そうか。そりゃよかった」

 播磨はそう言って笑った。

(本当にありがとう)

 澪は、心の中に何か熱いものを抱えつつ、ステージへと向かう。




   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:31:40.04 ID:c4huLTh3o<>
 
 バンドのメンバーと別れた播磨は、一般客と同じように観客席に向かった。

 アマチュアバンドのライブにも拘らず、すごい人だかりである。

 夏だからだろうか。

 会場にある強い光の照明のまわりには無数の虫が飛びまわっていた。

(唯っちゃん、まだかな)

 そんなことを思いつつ、人の中を歩いていると、

「お、播磨じゃないか」

 不意に声がした。

 この心底うっとおしくなるような声の主は、

「東郷か?」

 東吾雅一こと、マカロニであった。

「なんでお前ェがこんなところに」

「ふふ、知れたことよ。平沢唯のステージを見に来たのさ」

 Tシャツの袖がはちきれんばかりの太い腕を身体の前で組んだ東郷は自信たっぷりにそう言った。

「なに?」

 バント名の放課後ティータイムではなく、平沢唯という個人名を出している。

「お前ェまさか、平沢のこと」

「ふっ、愚問だな。お前もそうだろう」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:33:05.79 ID:c4huLTh3o<>
「なぜそれを……!」

「この俺がわからんとでも思ったか」

「くそっ……」

 気分が悪いので今すぐにでもこの男の傍から離れたかった播磨だが、
人が多すぎて身動きが取れないのと、ここで立ち去ったら負けのような気がしたので
その場にとどまることにした。

「おい、東郷(マカロニ)」

「なんだ」

「俺は負けねェぞ」

「ふっ、望むところだ。俺はいつでも相手になる」

 東郷がそう言ったところで音楽が鳴り、唯たち放課後ティータイムのメンバーがステージ上に現れた。

(唯ちゃん。やっぱかわいい)

 平沢唯を見るとき、播磨の視力は6.5くらいに上昇する。

 前奏がはじまると、唯もギターを弾き始めた。

 唯の姿が輝いて見える。それは決して、照明のせいだけではない。

(音楽か……)

 播磨はこのとき、ふと少し前に自分でもギターを弾いていたことを思い出すのだった。




   つづく
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:33:46.97 ID:c4huLTh3o<>

    はりおん!

  夏休み編その3


    予 兆

  <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:34:58.35 ID:c4huLTh3o<>
 夏休みもあとわずかになった八月の後半。

 播磨は山中さわ子のマンションに戻っていた。

 時々、実家から持ってきたギターを弾きつつ、唯のことを思い出す。

 夏の終わりを惜しむように、外からアブラゼミの声が聞こえてくる。

 まるで狭い部屋の一角を間借りするように、播磨はギターの音をセミの鳴き声の中に混ぜて、
心を落ち着かせている。


 居間のテーブルの上には、さわ子が書いたと思われるメモが残されていた。

 学校は夏休みでも、教師は仕事などがあるので学校に行くのだ。

 だから、遅くまで寝ている播磨に対し、こうして時々メモを残していく。


『拳児くんへ。ちゃんと宿題はやりなさいよ

                            さわ子』
  

 
 夏休みには宿題という忌々しいものがある。

 一体誰が考えたのか、と言ったところで始まらない。

「宿題ね……」

 別にやる気はなかったが、もしかしてそれをやると平沢唯の好感度が上がるかもしれない。

 そう考えた播磨は、とりあえず残った課題を手に取ってみる。

「……」

 しかし、無言のギターに目が行く。

(唯ちゃん……) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:36:27.45 ID:c4huLTh3o<>
 ギターを見ると思い出す唯の姿。

 とてもここではやる気は起きない。

 そう思った播磨は、とりあえず勉強道具を鞄に押し込み外に出ることにした。

 家の中にいたところで出会いは限られているのだ。

 もしかして、外に出たら唯に会えるかもしれない。

 微かな希望を胸に抱えて。



   *



 同じころ、平沢唯を含む軽音楽部の面々は学校で練習に勤しんでいた。

「暑いよおー」

 だが昼間の暑さから集中力はそう長くは続かない。

「あんまダラダラすんな唯」

 Tシャツの袖をまくった律がそう注意する。

「でも暑いもん」

 唯はパイプいすを反対向きにして座り、突っ伏していた。

「確かに、こう暑いと長時間の練習は難しいな。少し休憩にしよう」

 そう言ったのは、同じく汗まみれの澪である。

 彼女の特徴ある長い黒髪は今、後ろで束ねられている。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:37:42.79 ID:c4huLTh3o<>
「でも困りましたねえ。アイスティーの作り置きが無くなってしまいました」

 軽音楽部のお茶係、ではなくキーボード担当の紬が言う。

「しかたない。何か買ってくるか。こういう時は一年生の出番なのに」

 律はそう言って立ち上がる。

 一年生の中野梓は、この日の練習には出ていない。

「あずにゃんも今頃頑張ってるよ。お祖父ちゃんのところで修行とか、よくわからないけど」

 と、唯は言う。

「遊びに行ってるとしか思えないけどな……。唯、立てるか?」

「ふぎゅう……」

「仕方ねえ。あんたの分も買ってきてやるよ」

「本当? 律っちゃんありがとう」

「急に元気になるなよ……。で、何が欲しい?」

「レモネード」

「冷やしぜんざいな」

「ひどいよ、律っちゃんのいじわる―」

 律が行こうとすると、澪もベースを置いてそれに続く。

「律、私も行こう。購買前の自動販売機に行くんだろ?」

「え? ああ」

「私はムギの分も買うから」

「そうか。じゃあ行くか」

「いってらっしゃ〜い」

 唯とお茶係の二人に見送られて、律と澪は自動販売機のある場所までジュースを買いに
行くことしになった。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:38:54.50 ID:c4huLTh3o<>


 この日、バスケ部の新しい主将となっていた麻生広義は練習の休憩時間中に、
親友の菅柳平と一緒に自動販売機コーナーで飲み物を買っていた。

「珍しいな、麻生が学校の自販機使うなんて」

 菅はそう言いながら自販機のボタンを押す。

 ガタンという音とともに、缶に入ったジュースが出てきた。

「たまたま、何も持ってきてなかっただけだ」

「しかしまあ、ずっとあの糞暑い体育館の中にいるよりはマシだよな。マジなんとかならないかね、
あそこ」

「そうだな」

 単にジュースが飲みたければ後輩の一年生に買いに行かせればいい。

 それをしなかったのは、体育館やその周辺から離れて気分転換をしたかったからだ。

「お、麻生くんじゃないか」

「ん?」

 声のした方を向くと、Tシャツにジャージ姿の女子生徒が手を振っている。

 同じクラスの田井中律だ。

 その隣には、髪を束ねた秋山澪もいる。

「田井中、軽音楽部の練習か?」

「え? うん。麻生くんたちもバスケ部?」

「ああ。少し気分転換にな」

「へえ、そういう時もあるよね。あたしらもちょっとジュース買いにきたの」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:41:04.16 ID:c4huLTh3o<>
 そう言いながら、律と澪は自動販売機の前に立つ。

「ええと、冷やしぜんざいは……」

「律、唯のリクエストはレモネードだぞ」

「あ、そうか」

 麻生と菅は、一歩下がって二人の様子を眺めていた。

「ああ、やっぱりいいよな。秋山さん……」

 菅は鼻の下を伸ばしながら、澪のことを見ていた。

「そうかな」

 しかし、麻生の視線の先は違った。

「よっと、これだな」

 やや短めの髪の毛に黄色のカチューシャ。そして汗をかいて火照った頬。腕まくりした袖から見える

二の腕も健康的だ。

「ん? どうしたの?」

 麻生の視線に気づいた律が聞く。

「いや、何飲むのかと思って」

「あはは、ただのスポーツドリンクだよ」

 ガタンッ。

「律、それは冷やしぜんざい!」澪の声が響く。

「しまったー! ってか、誰だよこんなの置いたやつは! どこに需要があるんだ!」

(相変わらず元気がいいな)

 と、麻生は思う。

 そしてその元気な姿を見ると、彼は安心する。

(まるで太陽のようだな)

 その後、ジュースを買い終えた女子二人は、部室に戻るようだ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:42:56.13 ID:c4huLTh3o<>
「じゃあね、麻生くん、……と菅」

 ジュースを買い終えた律がそう言って手を振る。

「なんで俺はついでみたいな扱いなんだよ田井中」

 菅は律の態度に抗議をした。

「うるせえ。バスケ部の足引っ張んなよ」

「けっ、次の試合じゃあ活躍してやるよ」

「じゃあの」

 律は笑った。

「じゃあまた」

 麻生も返事をする。

「それじゃ、頑張ってください……」

 律と一緒にいた澪も、遠慮がちに挨拶をしてその場を去って行った。

 律がいなくなった空間は、なんとなく寂しく思える。

「いやあ、いいよなあ。秋山さんは」

 顔を赤らめながら菅は言った。

「そうか?」

「いいじゃねえか。普段のロングヘアーもいいけど、練習中のあの後ろで束ねたのも捨てがたい!
 しかし、何と言ってもあのスタイルは他の女子生徒では――」

「さっさと行くぞ。もう休憩は終わりだ」

「え? おい待てよ」

 秋山澪について熱弁する菅を置いて、麻生は体育館へと戻る。

(田井中律か……)

 体育館へ続く渡り廊下を歩いていると、不意に涼しい風が吹いてきた。

 夏休みの終わり。

 少し気の早い秋の気配を感じつつ、麻生は元気のいい同級生の笑顔を思い出していた。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:45:12.34 ID:c4huLTh3o<>

 
 残暑のためだろう。空調の効いた市内の図書館は中高生たちで混んでいる。

 午前中、生徒会の仕事で学校に来ていた真鍋和は、その仕事を終え午後には近くにある

図書館へ来ていた。

 もちろん、真面目な彼女はすでに夏休みの課題を概ね終わらせており、

あとは休み明けに実施されるテストの準備をする程度である。

「そういえば、まだ読んでない本あったかな……」

 今更急いで勉強をする必要のない和は、ふとこれまで読みたかったけれど、

色々忙しくて読む暇のなかった本の存在を思い出す。

 少し見てみよう。

 そんな軽い気持ちで、彼女は目的の本の場所へと歩いていく。

 しかし、

(届かない?)

 和が手を伸ばすが、本のある棚の上段にはギリギリ届かなかった。

(もう少し)

 まったく手が届かなければ諦めるところなのだが、もう少し手を伸ばしたら届きそうなので、

彼女は思いっきり背伸びをする。

(うぬぬぬ……)

 しかし、結局取れそうになかったため、和は大人しく踏み台を探そうとした。

 その時、

「これか?」

 ふと、彼女の後ろに大きな影が現れたかと思ったら、彼女が取りたかった本をあっさり

手に取ってしまった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:47:00.16 ID:c4huLTh3o<>
「ほれ」

「え?」

 振り向くと、そこには180センチ以上ありそうな大柄な男性が立って、本を持っている。

 和が見上げると、その顔には見覚えがあった。

 黄色のカチューシャにサングラス、そして髭。色黒の肌。

「播磨くん?」

「あん? なんで俺の名前を」

「え、だって同じクラスだし」

「そうだったっけな。それより――」

 そう言って播磨は本を差し出す。和がさっきまで懸命に取ろうとしていた本だ。

「ありがとう」

 本を受け取った和は礼を言う。

「どうってことねェ。それじゃあな」

「うん、それじゃあ」

 播磨は背中を向け、どこかに行ってしまった。手には大き目の鞄があったので、
彼も勉強に来たのだろうか。

(初めて話をしたけど、わりと親切なところもあるんだな)

 ふと、和は遠ざかっていく播磨の背中を眺めながらそんなことを思った。





   夏休み編

   お わ り
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:47:43.55 ID:c4huLTh3o<>



   【次回予告】

 夏休みを終えた播磨拳児は、平沢唯との幸せなスクールライフを期待していた。

 そして、夏休み明け最初の大イヴェント、学園祭がやってくる。

 学園祭で行われるライヴに向け張り切る唯たち軽音楽部のメンバー。

 しかし、そこに予期せぬアクシデントが発生!?

 この時、播磨はどうする!

 次回、はりおん! 学園祭編。

 堂々スタート!! 
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/03(火) 20:51:24.63 ID:c4huLTh3o<>
 夏休み編は、少し長いですが、全体のプロローグのようなもの。

 特に三番目は、これから出るキャラクターの紹介編のような形にしました。

 まあ、本当の学校生活でもそうですが、はりおん! も二学期からが本番。

 はりまどに比べると、全体の量は少ないのですが、楽しんでいただければ幸いです。

 それでは、短い間ですがよろしくお願いいたします! <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/03(火) 21:20:11.12 ID:4SlX3pEY0<> 面白かった、乙です <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/03(火) 21:54:24.05 ID:/nIzNTPAO<> ものすごく乙 <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/03(火) 22:16:12.38 ID:XhLE1INH0<> 別スレ作ったんなら言ってほしかったな

なんにせよ支援 <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 14:24:42.62 ID:N2UQPmNYo<> 乙

激しく期待 <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 18:16:00.59 ID:c36S3cKDO<> おつおつ
スクラン懐かしくてもう
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:11:04.97 ID:AxuxTz+Ao<>  はりまどが終盤のシリアス展開のため、雰囲気を壊さぬよう作者コメントは控えております。

 では、こっちも二学期スタート! <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:12:14.89 ID:AxuxTz+Ao<>



         は り お ん !


    〜播磨拳児はうんたんに恋をする〜


          学園祭編



          ♯1 躓 き


<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:13:17.02 ID:AxuxTz+Ao<>



 新学期。

 それはすがすがしい響き。

 まだ夏の残り香の漂う校舎の中で播磨拳児は希望に胸を膨らませてきた。

(新学期来たぜ! これで唯ちゃんとまた一緒にスクールライフをエンジョイすることができる!)

 夏休み中は思うように会えなかった彼の思い人、平沢唯と親密になるべく、
彼は今日も学校に通う。

 新学期一日目は授業もないので、始業式とホームルームが終わると、学校は開放的な空気に
包まれた。

 部活に所属している者は部活に行き、播磨のように特に何にも所属していない者はさっさと家に
帰らなければならない。

「やっほー播磨くん!」

(な! 唯ちゃん)

 家に帰ろうとして、廊下を歩いていた播磨に、平沢唯が声をかけてきた。

「平沢か」

 心の中のはしゃぎっぷりを隠すように、彼は低い声で返事をする。

 こんな風に、唯のほうから声をかけてくるなんてことは去年までありえなかったことだ。

(くう、同じクラスになれて本当によかった)

 播磨は自分の幸福を改めてかみしめるのだった。

「随分楽しそうだな、平沢」

「そうかな、久しぶりにみんなに会えたからかな?」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:13:56.39 ID:AxuxTz+Ao<>
「そうか」

「でもそれ以上に楽しみなのは――」

「ん?」

「学祭! 学園祭だよ」

 播磨たちの通う、八神桜高校の文化祭、正式名称「八桜祭(はちおうさい)」は、
市内でもかなり注目される学園祭の一つだ。

 体育大会と同様、本来播磨は学校行事に対する関心は低かった。

 しかし、今回は違う。

「わたしたち軽音楽部も、もちろん出るよ!」

 そう言って唯はビシッと親指を立てた。

「そういえばそうだな。夏のライブ、かっこよかったぞ」

「えへ、ありがとう」

(可愛い……、クソッ)

 播磨は内から湧き上がってくる衝動を抑え込む。

「私、学園祭のためにたくさん練習するから、播磨くんも応援よろしくね」

「お、おう」

「じゃ、練習行ってくるね!」

 普段ボーっとしているのに、この日の唯はいつになくやる気を見せていた。

 ただ、そのやる気はある種の危うさも持っている、と播磨は感じた。

(気をつけろよ)
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:15:51.45 ID:AxuxTz+Ao<>
 不意に、彼はそう言いたくなった。

(何を気を付けるんだ?)
                      、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 自分でもわからなかったけれど、そう言わなければならない気がしたのだ。

 そして、

「きゃああああああああ!」

 女子の悲鳴が聞こえた。

「な!」

 声のした方向は、先ほど平沢唯が向かった先だ。

 彼女に何かあったのか。

 彼の胸中に黒いモヤモヤが湧き出る。

 駆けつけた先には階段があり、その踊り場に横たわる唯の姿があった。

「平沢!」

 播磨は駆け寄る。

「何があった!」

 播磨は近くにいた女子生徒に叫ぶ。

「あ、あの。その人が階段から落ちて……」

 名も知らぬ女子生徒は震えながら答えた。

「何? おい、平沢」

 播磨は唯を抱き上げる。

「う、痛い」

「頭打ったか」

「手が痛い」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:16:24.76 ID:AxuxTz+Ao<>
「何?」

 よく見ると、唯は左手首を押さえていた。

 どうやら階段から落ちた時、変な方向にひねったらしい。

「手が、痛いよおおおおお」

「落ち着け!」

 播磨に抱かれたまま、唯はおいおいと泣き始めた。まるで子供のようだ。

「しかたねェ」

 そう言うと、彼は唯をそのまま抱き上げる。

「痛いよお、播磨くん」

「しっかりしろ。すぐ保健室連れて行く」

 播磨は、唯を抱えて素早く一階の保健室へと向かった。




    * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:17:04.53 ID:AxuxTz+Ao<>


 結局、唯の怪我は保健室では対応できず、近くの総合病院に運ばれることになった。

 そこには播磨だけでなく、律や澪、それに紬など軽音部の部員が集まる。

 一応部外者なので、診察室に入るわけにも行かず、彼らは受付のロビーで待つことになった。

「……」

 重苦しい時間が続く。

 そこに会話は一切ない。

「みんな、お待たせ」

 暗い表情でトボトボと歩いてきたのは唯の所属する軽音部顧問の山中さわ子である。

「さわ子」

「さわちゃん」

 そこにいる全員が一斉に彼女に注目する。

「お医者さんから話を聞いてきたんだけど、唯ちゃんの怪我……」

「ああ」

「左手の骨にヒビが入ってるみたいなの」

「骨折……」

「それほど重傷じゃないのが、何よりの救いなんだけど」

「けど?」

「治るのに一か月以上かかるって」

「それじゃあ学園祭は」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:17:31.91 ID:AxuxTz+Ao<>
「少なくとも、ギターは弾けそうにないわね」

「そんな」

 澪の顔が青ざめる。

「唯のやつ、あんなに楽しみにしてたのに」

 そう言ったのは律だ。

「……」

 いつもニコニコしている紬が、この日は暗い表情でずっと俯いている。

(そうすりゃいいんだ)

 暗い表情の軽音楽部の面々に対し、播磨は何も言うことができなかった。




   *



<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:18:25.74 ID:AxuxTz+Ao<>
 翌日、澪や律たちは一年生の梓などを連れて全員で唯を見舞った。

「ごめんねみんな、迷惑かけちゃって」

 手をさすりながら唯は言った。

「気にすることはない、今は怪我を治すことに専念してくれ」と、澪はできるだけ優しい口調で言う。

「そうだぞ。怪我を治すのが仕事だからな」と律も続く。

「唯先輩、大丈夫ですか?」

 梓は身を乗り出して聞いた。

「うん。大丈夫だよあずにゃん。怪我自体は大したことないから、すぐに退院できるよ」

「そうなんですか」

「でも、ギターは弾けないんだよね」

 ふと、悲しげな表情をする唯。

「唯……」

 今まで泣いたり笑ったり、色々な唯の表情を見てきた澪だが、こんな寂しげな顔をする
彼女を見たのは初めてであった。

(なんとかしなくちゃ)

 そう思った澪は、唯の怪我をしていないほうの手を握り締める。

「学園祭のほうは大丈夫だ。唯は歌のほうに専念してくれ」

「でも、ギターは」

「大丈夫、それはこちらでなんとかする。だから、今は怪我を治すことを考えて」

「うん、わかったよ澪ちゃん」

 澪の言葉に、唯は笑顔でうなずいた。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:19:17.84 ID:AxuxTz+Ao<>

 しかし、そうは言ったものの、優れた解決策があるというわけでもない。

 見舞いを終えた軽音楽部の部員たちはいったん学校に戻ってその後の対応を協議した。

「今更編曲をやり直すというのもなあ……」

 律が両手を頭の後ろに回し、天井を眺めながら言った。

「しかし、唯がいないのだから、当然彼女の分のパートを削らなければならないだろう」

「私、唯先輩の分も頑張りますよ」と、梓。

「しかし……」

「迷っていても仕方ありません、早く練習しないと」

 おっとりとしている紬が、珍しく強い口調で言う。

「確かに、もう時間がない」

 澪がそれに続く。

「やっぱパートの変更かあ。サイドギターないと、物足りなくなるけど――」

 律がそう言った瞬間、声が聞こえた。


「その必要はないわ」


「え?」

 全員が入口付近に注目する。

 そこには軽音部顧問、山中さわ子の姿があった。

「さわちゃん、どこ行ってたんだ?」

 律は驚いたように聞く。

 確かに、この日は姿が見えなかった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:20:00.59 ID:AxuxTz+Ao<>
「ちょっと色々ね。それより、学園祭でやる曲のことだけど」

「え?」

「編曲をやり直す必要はないの」

「どういうことですか?」

 と、聞いたのは澪だ。

「代役を連れて来たのよ。唯ちゃんのギターパートを弾いてくれる人」

「本当ですか? まさか先生本人とか言わないですよね」

「ああ、それもいい考えなんだけど、ちょっと違うわ。ほら、早く」

「あれ?」

「実はもう本人連れてきてるの」

「……!?」

「ほら、こっち」

 さわ子に促されて部員達の前に姿を現した大柄な人物……。

「播磨くん!?」

「よう……」

 播磨は遠慮がちに挨拶する。

「さわ子先生、代役って」

「そうよ、わが従弟の播磨拳児くんです」

「……」

 一瞬、澪たちは顔を見合わせる。

 そして、

「えええええええ!!???」

 一斉に大声を上げた。


   つづく

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/04(水) 20:23:49.21 ID:AxuxTz+Ao<>  播磨も原作ではギター弾いてたんですがね。


 さて、次回は播磨拳児が軽音部の部員たちと一緒に練習します。

 ギターの経験はあるとはいえ、バンド経験のない播磨に、果たして唯の代理演奏は
勤まるのでしょうか。

 学園祭までの時間が迫る。

 どうする播磨、そしてどうする軽音楽部。 <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 20:30:54.88 ID:YSDmHl+Zo<> 別の人が混ざってますよ、さわ子先生

乙です <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 20:37:30.00 ID:eOqnfvkAO<> うんたんうんたん <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 22:50:16.90 ID:N2UQPmNYo<> 乙

俺のいとこから俺のさわ子へ <> 以下、あけまして<>sage<>2012/01/04(水) 23:29:02.13 ID:yDNpu2ps0<> >>64
俺の従妹が俺の絃子って勘違いされてたんだから
そうはならんだろ
俺のさわ子とはいわんだろ
マジレスごめん <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:23:17.58 ID:WeDrulQLo<> 行きます <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:24:10.53 ID:WeDrulQLo<>


   はりおん!

   学園祭編


 #2 代理演奏


<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:25:34.58 ID:WeDrulQLo<>


 軽音楽部顧問、山中さわ子が唐突に連れてきた唯の代理演奏者とは、
澪たちと同じクラスの播磨拳児のことであった。

 音楽とはあまり縁がないと思っていた彼が、果たしてギターを弾けるのか。

 澪にはわからない。

「先生」

 澪は手を挙げて質問する。

「はい、なに?」

「播磨くんはその、ギターが弾けるんですか?」

「あたりまえよ、だって私の親戚なのよ」

「本当に?」

 澪は播磨のほうを向いて直接聞く。

「ああ、まあな。さわ子にめちゃくちゃ叩き込まれて、ちょっと嫌いになりかけたけど」

「夏休みの終わりくらいから、ちょくちょくギター出して弾いてたから、
これはちょうどいいと思って連れてきたの」

「ちょ、さわ子。それは言うなって」

「いいじゃない」

「……」

「みんな、代役が拳児くんでいいかしら」

 さわ子は、そういって全員に呼びかける。

「いいんじゃないかしら。よく知ってる方のほうが合わせやすいですし」

 真っ先にそう言ったのは紬であった。

「私もいいと思います。播磨さんは力が強そうなので、機材を運ぶのに便利だと思います」

 梓も、なんだか微妙な理由で賛成する。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:26:33.10 ID:WeDrulQLo<>
「おい猫娘、俺は運送屋じゃねェんだぞ」

 さらに律も、

「あたしもいいと思うぜ。久々に播磨のギター、聞きたくなった」

 律は、播磨がギターを弾けることを知っていたのだ。

(私は、どうすれば……)

 澪は迷う。答えはもう決まっているのに、それでも迷ってしまう。

「澪ちゃんは?」

 さわ子がそう言うと、全員の視線が澪に集中した。

「私は……」

 不意に播磨と目が合う。

「秋山、別に無理しなくていいぞ……」

 播磨が澪を気遣うようにそう言う。

「大丈夫、無理なんてしてない。ようこそ播磨くん、わが軽音部に。歓迎する」

 澪がそういうと、一斉に歓声が起こった。

「まあ、一か月だけの臨時部員だからな。さわ子ともそういう約束だ」

「そうか……」

「それじゃ、早速練習しようぜ!」

 律はそういって手を上げる。

「珍しいですね、律先輩が自分から練習しようと言うなんて」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:27:12.80 ID:WeDrulQLo<>
 梓は本当に珍しいものを見るような目で言った。

「なんだと? あたしだってやるときはやるんだよ。さあ、時間がねえぞ」

「うむ。さっそく練習しよう」

 こうして、長いようで短い学園祭までの時間がはじまった。



   *



 澪の見立てでは、播磨の実力は中級クラスといったところ。

 基礎はそれなりにできているので、後は楽譜を覚えていけばいい。

 ただ、播磨は譜面読みが苦手のようだった。

「このパートからはじめようか」

 澪は、播磨と向かい合って練習する。

「秋山はベースなのに、ギターも教えられるのか」

「ギターも一応はできるんだぞ」

「そうなのか。なんでギターをやらなかったんだ?」

「それは……」

「ん?」

「ぎ、ギターは目立つからな。そういう立ち位置はちょっと」

「はは、秋山らしい」

「笑うな。これでも結構悩んだんだ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:28:11.15 ID:WeDrulQLo<>
「でも、ベースもうまいよな、秋山は」

「そうかな。と、とにかくはじめよう」

 譜面の読めない播磨のために、澪が音を出す。

 それに合わせて播磨も演奏し、音を覚えた。

(なかなか上手いな)

 練習を見ながら、澪はそう思う。

 音楽の知識はあまりないようだが、それなりにセンスはあるようだ。

「悪いな、秋山」

 不意に謝る播磨。 

「どうしたんだ播磨くん。急に」

「俺の練習に付き合っちまったら、お前ェの練習ができねェだろ?」

「それは、別に気にしなくていい」

「でもお前ェ、ギターじゃなくてベースじゃねェか」

「それは……」

 澪は少し考える。

「そうだ」

 あることを思いついた澪は、立ち上がった。

「ん?」

 澪は急いで自分のベースを持ってくると、そのまま播磨の前に座る。

「おまたせ」

「どうすんだ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:28:50.78 ID:WeDrulQLo<>
 と、播磨が聞くと、

「さっき覚えた曲のパートを私と一緒に弾こう。私はベースを弾くから、播磨くんはギターだ」

「お、そういうことか」

「これなら私の練習にもなるからな」

「そりゃいい」

 再び練習開始。

 今度は澪がベースパートを弾き、それに合わせるように播磨はギターパートを弾いた。

「今の音、ちょっと違ってるぞ」

「そうか?」

「もう少し高いほうの音」

「こうか?」

「そう、それだ」

「もう一回頼む」

「うん。いいぞ」

 澪はベースを弾く。

 そのリズムに乗せて播磨がギターを弾く。

 決してうまくはないけれど、それはとても心地の良い音色だと澪は思った。

「いいな、播磨くん」

「秋山のベースがよかったからだろ」

「そんなことない」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:29:26.60 ID:WeDrulQLo<>
「お前ェのベース、合わせやすい」

「そ、そうか?」

「ああ。案外俺とお前ェは、相性いいかもしれんな」

「え?」

『相性いいかもしれんな』

『相性いいかもしれんな』

『相性いいかもしれんな』

 播磨の言葉が脳内で繰り返される。

(私と、播磨くんの相性がいい……)

「ど、どうした秋山」

(相性がいい……!)

「おい」

 ボンッ

 澪の頭の中で、何かが弾けた。

「おい、秋山! どうした」

 がっくりうなだれる澪。

「ああ! 大変です! 播磨先輩が澪先輩にセクハラです!!」

 その様子を見て騒ぐ梓。

「ちょっと待て、猫娘! これのどこがセクハラだ」

「だって澪先輩顔が真っ赤じゃないですか!」

「こら播磨! 澪に何をした」

 騒ぎを聞いて、律もやってきてしまう。

「若いっていいわね」

 紬はそう言って笑っていた。




   *  <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:30:46.01 ID:WeDrulQLo<>
  
 澪が顔を洗いに行っている間、播磨は一人で練習を続けていた。

 そんな播磨の前に来て、椅子に座る律。

「田井中、邪魔すんなよ」

「しねえよ。そんなの」

「じゃあなんで俺の前にいるんだよ」

「播磨、ちょっと左手の動きが硬くないか?」

「あん?」

 確かに、さわ子から借りたエレキギターに慣れていないということもあるのだが、
久々に本格的な練習をしたから疲れてきたのだろう。

「マッサージでもすっか」

 播磨は、左手を開いたり閉じたりしながら言った。

「あたしがマッサージしてやるよ」

 と、律が手を上げる。

「断る」

「遠慮すんな」

「また何かたかる気か?」

「あたしがんなことするわけないだろう」

「どうだかね」

「播磨、一時的とはいえ、あんたは仲間なんだよ。同じ軽音部のな」

 そう言って、律は播磨の左手を強引に開かせ、マッサージを始めた。

「播磨」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:31:40.02 ID:WeDrulQLo<>
「なんだ」

「あんた、手がおっきくなったな」

「そうか?」

「うん。ごつごつしてる」

「お前ェの手は、柔らかいまんまだな」

「へ?」

「だから、昔のまんま。なんか柔らかい」

「……」

「どうした田井中」

 播磨の左手を通じて、彼女の震えが伝わってきた。

「ああ! 播磨先輩、今度は律先輩にセクハラしてるです!」

 再び騒ぐ梓。

「なんでそうなんだよ!」

「見境ありませんよ、ムギ先輩!」

「あらあら」

「はあ……」

 播磨は、だんだん相手をするのが億劫になってきた。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:33:20.20 ID:WeDrulQLo<>

 その後も播磨は遅くまで練習をしてから帰路についた。

 彼は今も山中さわ子のマンションに居候している。

 鍵を取り出して、マンションの部屋に入ろうとすると、玄関前でさわ子が立っていた。

「どうしたさわ子。家に入んねェのか?」

 と、播磨が呼びかける。

「拳児くん。行くわよ」

「行くってどへだ? 俺は今帰ったばっかだぞ」

「とにかく行くの! 修行よ」

「はあ? 修行?」

「ええ、学校の練習だけじゃ足りないわ。スタジオを借りてるからそこへ行くわよ」

 さわ子の目がマジだ。

「俺、疲れているんだが」

「時間が無いの。疲れてる暇なんてないわよ!」

「うおい! ちょっと待てさわ子!」

「さわ子じゃないわ! 師匠と呼びなさい!」

「ちょっと待てええええ!」

 播磨の抗議もむなしく、彼はさわ子によって地獄の特訓に連れて行かれてしまうのであった。




   *  <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:34:13.98 ID:WeDrulQLo<>

 数日後、無事に手術を終えて退院した唯が部室に顔を出した。

「みんな、本当に迷惑かけてごめんね」

 唯はそういうと、深々と頭を下げる。

 左手の包帯が痛々しい。

「ギター演奏は播磨がやってくれるから、安心だぜ唯」

 そう言ったのは律であった。

「ありがとう、播磨くん。本当に」

「別に、たいしたことじゃねェよ」

 播磨が照れながら目をそらす。

「ねえ、播磨くん。今、ギターは何を使ってるの?」

「ああ? さわ子から借りた中古のやつ。種類はあんましらねェけど」

「それじゃあ」

 唯はとてとてと歩いて、部室の隅に立てかけてあるギターケースを持ってきた。

「これを使ってくれないかな」

「ん? それは」

「うん。ギー太だよ」

「ギー太?」

「わたしのギターの名前」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:35:00.85 ID:WeDrulQLo<>
 そう言いながら唯はケースからギターを出す。

 播磨は遠くから見たことはあったけれど、彼女のギターを間近で見るのははじめてである。

「それって、ギブソン・レスポール・スタンダードか」

「そうそう。よく知ってるねえ」

(確か25万くらいするぞ、これ……)

「播磨くん」

「あん?」

「これを私だと思って、弾いてくれないかな」

 そう言ってギターを差し出す唯。

(これを私だと思って……?)

 この時、久しぶりに播磨の脳内コンピュータが計算を始める。


 これを私だと思って → 私を持って → 私をあなたのものにして!!


「!!」

 播磨はギターを受け取り、それを構えた。

「平沢、最高の演奏を聞かせてやる。それまで借りるぜ!」

「うん!」

 播磨にとって、唯の笑顔は何よりも眩しかった。



   つづく  <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/05(木) 20:36:36.52 ID:WeDrulQLo<> 次回、ついに学園祭。

はたして播磨は上手く演奏できるのか。

ついでに恋の行方は!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>sage<>2012/01/05(木) 20:55:12.48 ID:unMZvAKS0<> 播磨と澪の思い込みがいつも通りで安心した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/06(金) 05:32:35.98 ID:yEd+7NUDO<> おつー
いいねえこういうのは <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/06(金) 08:57:32.11 ID:mwTao2bz0<> 澪は八雲だが、律はミコチン
そうか。本家スクランと何が違うって、お嬢が居ないんだ。
これはこれで新鮮だな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/06(金) 10:21:27.27 ID:xsds79sIO<> ギー太を構える播磨が脳内再生されたw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/01/06(金) 12:35:43.05 ID:rWZb10IAO<> 晶は和……無理かな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/06(金) 16:57:22.24 ID:OpyM5a61o<> 久々に読みたくなったぜ <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:47:09.56 ID:9e1wVLifo<>  ポテトチップスコンソメパンチを食ったら何だか胸が痛くなってきた。

 これは……! 毒……?

 では投下。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:47:43.91 ID:9e1wVLifo<>


   はりおん!

   学園祭編

  #3 ステージ




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◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:48:42.99 ID:9e1wVLifo<>

 八桜祭当日――

「い、いらっしゃいませ……」

 秋山澪は、クラスの模擬店で給仕(ウェイトレス)をやっていた。

 昨年までの彼女ならば考えられないことだ。

 それは何より澪自身が一番驚いていたことでもある。

「ああ、ありがとうございます」

 ぎこちないながらも接客をこなす澪。

「きゃー、澪せんぱーい」

 澪ファンの後輩たちが声援を送る。

「あ、ありがとう」

 それに対し、澪は手を振って応える。

「キミかわいいね。メアド教えてよ」

 また、他校からやってきたと思われる男が声をかける。

「はいはーい、ご注文承りまーす」

「な、なんだお前は!」

 そういう輩相手には、律が割って入るのであった。

「澪ちゃん、律っちゃん、そろそろ時間だよ」

 クラスメイトの一人が、そう教えてくれた。

「おう、もうそんな時間だ。澪、行こうぜ」

「お、おう……」

 もうすぐ軽音楽部のステージがはじまる。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:49:18.96 ID:9e1wVLifo<>


 舞台裏の空気はすでに張りつめていた。
 
 それはある意味懐かしい緊張感。

 体育館独特のにおいが弥が上にも緊張感を高める。

「……」

 そんな中、一人の大柄な男子生徒がじっと一点を見つめていた。

「播磨くん、大丈夫か?」

「お、おう……」

 サングラスの播磨に、澪は声をかける。

 心ここにあらず、と言った感じだ。

 顔色もよくない。

(緊張してるのか。無理もない。彼にとっては初めてのステージなんだからな)

 澪は彼の緊張をほぐす方法を考えてみる。

(うむむ……)

 だがいい方法が思い浮かばない。

 緊張感に弱いのは澪とてかわりない。ただ、今まで彼女は播磨に何度か助けられてきた。

 だから今度は自分が助ける番だと思った。

「は、播磨くん」

「どうした」

「手、見せて」

「ん?」

 播磨は少し不思議そうな顔をしながら、手を出す。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:50:09.25 ID:9e1wVLifo<>
 澪は、播磨の左手を両手で抱えた。

 かたくてゴツゴツした彼の手のひらは、皮が破れ、それが治ってさらに固くなっている。

「たくさん頑張ったね」

「そ、そうだな」

「だから大丈夫」

「……そうか」

(少しは力になれただろうか)

「秋山」

「どうしました、播磨くん」

「俺、実はオメーのことが」

「播磨くん、お願い、下の名前で呼んで」

「澪、俺は――」

「コラー! ムギと梓!!」

 澪は、播磨の後ろで勝手に寸劇をやっている紬と梓の二人を怒鳴る。

 近くにいる唯も、それを見て笑っていた。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:50:46.08 ID:9e1wVLifo<>


 だがその時、田井中律だけは笑っていなかった。

(澪、変わったな。模擬店とはいえ、ウェイトレスなんてやれるタイプじゃなかったのに)

 ライブのたびにガタガタと震える澪の姿が彼女の脳内に浮かび上がる。

(あいつも、播磨と会ってから変わってきたな。やっぱ、あいつも播磨のこと……)

 そこまで考えて、胸が痛みはじめる。

「律先輩!」

「な、なんだ梓」

 律の思考を遮るように梓は顔を出す。

「実は律先輩と播磨先輩のやり取りも考えてきたんです。やりますか? 
今ムギ先輩がいないので、律先輩は本人役で――」

「やるか!」

 律は梓にチョップを食らわせた。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:51:22.97 ID:9e1wVLifo<>

 そして軽音楽部の時間がやってくる。

 幕が上がると同時に歓声が上がった。

 しかし、

 その歓声の中からどよめきが起こる。

 それもそのはず、観客にしてみれば、そこにはあるはずのない“異物”が混ざりこんでいるからだ。

  
 その異物が自分であることを、播磨は十分認識していた。

「なんでゴツイのが混ざってんだ!」

「ひっこめー」

「澪さまから離れろおー!」

「みおちーん!」

「ムギをもっと前に出せええ!」

「なんであずにゃんがヒロインじゃねえんだよ!」

 普段の播磨だったブチ切れて暴言を吐いたやつを一人残らずぶっとばしてやるところだが、
今は唯の前なので自重する。

《みんな、聞いてください!》

 演奏を前に、唯が声を出す。

《実は私、二学期のはじめに手首を怪我してしまったんです。それで、今もギターを弾くことができません》

 会場がざわめく。

《だから、私のギターパートをここにいる播磨拳児くんが弾いてくれることになりました》

(唯ちゃん……) <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:51:59.30 ID:9e1wVLifo<>
 周囲から文句を言われようとも、唯一人が味方してくれるのならば、播磨はそれでよかった。

《播磨くんはとっても素敵な演奏をしてくれるの。私にとっても、もちろんこの放課後ティータイムに
とっても恩人なんです。だから、今日だけの放課後ティータイムを聞いてください》

 唯の必死の呼びかけに、会場は静まり返った。

 そして、唯は律に目で合図する。

 律は、その合図を受けてスティックを叩く。



   *



 
 播磨は無心でギターを弾いた。

 さわ子や澪から叩き込まれたメロディを奏でる。

 そしてそれは、澪のベース、律のドラム、紬のギター、梓のもう一つのギターと絡み合って
大きなうねりを作り出す。

 最後にその思いは、ヴォーカルの唯によって押し出されるのだ。

《うおおおおおおお!!!!》

 さきほどまで文句ばかり言っていた観客が一番盛り上がっていた。
 
(どうだ!)

 技術で野次を黙らせる。

 それは力(チカラ)で相手を屈服させるよりもはるかに快感であった。

 汗まみれになりながら播磨は曲を弾ききる。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:52:34.32 ID:9e1wVLifo<>
 不意に澪と目が合う。

 すると、彼女ははにかみながら親指を立て、播磨に向けた。

《みんな、ありがとう。すごく盛り上がって、最高のステージだよ!》

 唯がそう言うと、会場の観客はそれに声援を送る。

《新学期に怪我をしたとき、今年はもう、こんな風にステージに立てないかと思ってたんだ》

 唯は、とつとつと話を続けた。

《でも、みんなの協力もあって、今日みたいな素敵なライブをすることができたよ。
私一人は全然力がないけど、みんな、ありがとう》

 そう言うと、唯は観客に向けて大きくお辞儀をした。

《それから播磨くん》

(ん?)

 不意に唯は振り返り、播磨のほうを見た。

《素敵な演奏、ありがとう》

 唯は軽く会釈をすると、目元を拭う。

 その時、播磨は梓の前にあるコーラス用のマイクの前に立った。

《平沢》

 マイク越しに、播磨の声がこの日はじめて会場内に響く。 

《まだ泣くのは早ェえぞ》

《……そうだね!》

 唯がそう言うや否や、律がスティックを叩いた。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:54:14.34 ID:9e1wVLifo<>

 最後の曲も終わり、幕が閉じられる。

 播磨たちは幕の下りたステージの前に出てきて、横一列に並んだ。

 演劇と同じように、最後の挨拶だ。

「れいっ」

 唯の号令で、全員が頭を下げた。

 同時に、大きな拍手と歓声が響き渡る。

(これで終わりか)

 播磨の脳裡に一抹の寂しさがよぎる。だがその直後、緊張感から解放されたせいで
どっと疲れが押し寄せてきた。

(早く帰って寝たい)

 そう思いながら歩いて、ステージの袖に入ろうとする。

 しかし、物凄く疲れているのは播磨だけではなかった。

「う……」

 播磨の前を歩く、澪の様子がおかしい。

 足元がふらついていた。

 そして、足がもつれた澪が倒れそうになる。

(危ねェ!)

 そう思った播磨は、驚異的な反射神経で澪の胴体を抱えて助ける、

 はずだった。

 しかし彼の両手は、彼女の大きな胸を鷲掴み……。

「あ」

 とても熱く柔らかい感触。

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 マイクも入っていないのに、澪の叫び声はかなり大きく体育館内に響き渡った。

 なお、その後しばらく播磨は、秋山澪ファンクラブの会員から命を狙われたことは言うまでもない。




   学園祭編  おわり <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:55:54.68 ID:9e1wVLifo<>  オチを付けずにはいられなかった。

 秋山澪ファンクラブの人たちには悪いことをしたな、とは思うが仕方ないよね。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 20:59:32.29 ID:9e1wVLifo<>  さて次回は新シリーズに入ります。

 新しいシリーズでは、播磨以外にもスクランのキャラが何人か出てきますよ。

 そして、新しいヒロインも誕生か!?

 ヒントは言えませんが、明後日に会えると思います。


???「そうなんだ、じゃあ私生徒会行くね」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/06(金) 21:13:04.05 ID:9e1wVLifo<> いけね。また余計なこと書いちまった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/01/06(金) 21:55:32.65 ID:YF5L6/Dno<> 乙
かっこよく終われないあたりが播磨らしい

新ヒロインっていったい誰なんだ(棒) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>sage<>2012/01/06(金) 22:17:22.69 ID:e2qxxTPL0<> やべえ
新ヒロインって誰だ…
わかんねえ…(棒 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/01/07(土) 00:06:51.96 ID:n933i7XAO<> 生徒会……曽我部先輩か <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/01/07(土) 11:34:46.32 ID:XojOvLzbo<> ダリナンダイッタイ <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:28:15.75 ID:rjWT9VOTo<> はりまども終わったことだし、やるぞお! <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:28:42.92 ID:rjWT9VOTo<>



        はりおん!       

    〜恋と選挙とハリケーン!〜

     ♯4 選挙対策部長

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:29:39.10 ID:rjWT9VOTo<>

 学園祭も終わり、一息ついたところでやってくるのは生徒会長選挙である。

 このころになると、三年生のほとんどが部活動を引退するので、いわゆる世代交代の時期
とも言える。

 当然、生徒会長選挙など播磨には縁のない話題である。

 自身が出るわけでもないし、誰かを応援するつもりもない。

 ただ、季節と同じように行事のはじまりと終わりを眺めるだけである。

 しかしながら、今年は少し違うようだ。

 自分の教室に向かうため、廊下を歩いていた播磨は隣の四組の前で長髪マッチョな男に
声をかけられた。

 衣替えもはじまり、みんな長袖を着ているのに、この男だけはなぜか半袖シャツである。

「ふふ、よう。播磨拳児」

「なんか用か東郷」

 東郷雅一、愛称マカロニ。四組のリーダー的存在であり、また平沢唯が好きな男。

 つまり播磨にとっては恋のライバルだ。

「今度、生徒会長選挙があるな」

「だからなんだ?」

「俺も出る!」

「ああ?」

「ふっふっふ、どうだ」

「どうだって。出りゃあいいだろう」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:30:30.35 ID:rjWT9VOTo<>
 播磨の関心は急に萎む。

 彼は平沢唯関連の話題以外は特に興味を持たないのだ。

「俺が生徒会長になったあかつきには、平沢唯さんを生徒会執行部に迎えたいと思っている」

「な!」

 平沢唯という名前に播磨は反応した。

「そして、遅くまで生徒会室で二人で仕事をし、その夜……」

「なんてハレンチな野郎だ」

「フッフッフ、何とでも言え。合法的に仲良くなれるのならば、何でもする」

「……」

 播磨は表面上は平静を装っていたが、内心かなりあせっていた。

(マズイな。非常にまずい。万が一、多分ないとは思うがマカロニの野郎が当選でもしちまったら、
本当に唯ちゃんはやつのところに……)

 ちなみに、二人とも唯本人の気持ちはまったく考慮していない。

(何とかして東郷の当選を阻止しなければ。しかしどうすればいい? 俺が立候補したら……、
いやダメだ。生徒会なんてそんな面倒くさいことやってられるか。くそ……)

 播磨は悶々としながら自分の教室に戻る。

 すると、ある席に人だかりができていた。

 主に女子生徒が集まっているのだが、その中に播磨の好きな平沢唯もいた。

「あ、播磨くーん。こっちこっち」

 唯は播磨の存在に気付くと、そう言って手を振った。

(な! 唯ちゃんのほうから誘ってくるとは。これは本格的に脈があるで)

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:31:04.82 ID:rjWT9VOTo<>
 興奮のため、ついつい心の中の口調がおかしくなる播磨。

「どうした平沢」

 だが表面上は冷静である。

「こっちこっち」

 唯に連れられるまま、女子の輪の中に入る播磨。

「よう、播磨」

「播磨くん……」

 そこには、唯と同じ軽音楽部の田井中律や秋山澪もいた。

「どうしたってんだ?」

「実はね、ここにいる真鍋和ちゃんが今度生徒会長に立候補するの」

「ほう」

 播磨の目の前には、赤縁のメガネをかけたいかにも真面目そうなショートヘアの女子生徒が
座っていた。

「ちょっと唯、あんまり騒がないでよ」

 和は少し照れながら言う。

「ダメだよ和ちゃん。選挙には“チメイド”が大事だよ」

 唯が言うと、“致命度”に聞こえて少し背中が寒くなる播磨である。

「そういや、平沢と真鍋は仲良かったな」

「うん。和ちゃんとは幼稚園時代からの付き合いなんだ」

「腐れ縁ってやつね」唯に続いて和は言った。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:32:10.48 ID:rjWT9VOTo<>
(わりとはっきり物を言うタイプなんだな)

 播磨は、和の一言でふとそんなことを感じる。

「和ちゃんが生徒会長になってくれたら、あたしたちも大助かりだよ」

「助かる?」

「うん、学祭では生徒会役員の和ちゃんにお世話になったからねえ。だから来年は、
私たち軽音部の演奏時間も長めに――」

「しないわよ、そんなこと」

「んもう、和ちゃんのいけずぅ」

(見た目と同じように、性格も真面目なのか)

 播磨は、少ない会話の中で彼女の人となりを無意識に観察していた。

「和が出るのなら、私たちも協力しよう」

 そう申し出たのは澪だ。

「わお、澪ちゃんが応援してくれるなら百人力だよ。ねえ、和ちゃん」

 澪の申し出に喜んだのは、和よりもむしろ唯のほうだ。

 澪は校内に多数のファンを有しており、播磨はとある事件(学園祭編を参照)により命を
狙われたこともあった。

 彼女の応援を受ければ、少なくともファンクラブ会員の票は確実に集まる。

 しかし、

「ごめんね澪。せっかくの申し出なんだけど、澪の応援は遠慮してもらいたいの」

「どうしてだ? め、迷惑なのか?」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:33:01.08 ID:rjWT9VOTo<>
 澪はショックを受けている。

「ううん、そうじゃないの。澪が応援してくれたら、多分澪のファンも投票してくれる」

「え? それでいいんじゃないの?」

 唯は言った。

「ダメよ。選挙っていうのは、一時の人気投票じゃいけないの。確かに団体票はありがたいけど、
その人たちのために生徒会をやるつもりはないわ」

「そんなの気にしなくてもいいんじゃないのか?」と、澪。

「私が気にするわ。今回の選挙は、私の実力で勝負したいの。私の、真鍋和のやりたいこと、
やろうとしていることを皆に訴えて、それで選挙を勝ち抜く」

「うーん」

 唯は首をひねっていた。

 今の話は彼女には難しかったようだ。

 当然ながら、唯ほどではないがあまり頭のよくない播磨にも彼女の言っていることは半分も
理解できなかった。

 ただ、人気者の応援で当選するのではなく、実力で当選して生徒会長になりたい。

 その思いだけは受け取った。

 ここで播磨の脳内コンピュータが動き出す。



 真鍋和の立候補 → 真鍋の選挙を手伝う → 唯の好感度もアップ+東郷の野望も阻止



(これだ!)

 そう思うや否や、播磨は和の前に進み出る。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:34:21.02 ID:rjWT9VOTo<>
「真鍋」

「え? 播磨くん……? どうしたの?」

 和は突然播磨が自分の前に出てきたので驚く。

 当然、周囲の人間も唯を含めて全員驚いていた。

「お前ェの考え方、嫌いじゃねェぜ」

「ども……」

「秋山がダメなら、俺がお前ェの選挙を応援する」

「はい?」

「今から俺が選挙対策部長だ!」

「え? え?」

「真鍋!」

「はい!」

「絶対お前ェを生徒会長に当選させる!」

「は、はい」

 近年まれに見ぬ強引さで、播磨は真鍋和の選挙対策部長に就任したのであった。


 
 
   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:34:55.32 ID:rjWT9VOTo<>

 その日の昼休み。

 真鍋和・生徒会長選挙対策本部の初会合が軽音楽部の部室で開かれた。

 ちなみになぜ部室かというと、他に場所がなかったからである。

「それじゃあ、会合をはじめるか」

 一応、本部長の播磨が音頭をとる。

「とりあえず、メンバーの自己紹介をしなくちゃいけねェな。ええと、お前ェ誰だっけ」

「冬木だよ、冬木武一! 写真部の冬木。同じクラスメイトの名前くらい憶えてよ」

 メガネをかけてカメラを抱えた男子生徒がそう抗議する。

「おおそうだった。エロカメラマン」

「エロは余計だよ。というか、なんで僕が真鍋さんの選挙を応援するの?」

「そりゃお前ェ、俺はあんまり頭がよくねェからな。頭のよさそうなのをその、参謀として使うのさ」

「僕はそんなに頭よくないよ」

「ウソ付け、メガネかけてるじゃねェか」

 播磨にとっては、メガネをかけている=頭がいいという認識である。

 そして、部員はもう一人いた。

 一年生の担当者だ。

「一年二組、天文部所属の東郷榛名です」

 髪の長い、やや細見の少女がそう言って自己紹介した。

「東郷っていやあ、マカロニの」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:35:57.59 ID:rjWT9VOTo<>
「はい、雅一は私の兄です」

 マッチョな兄とは似ても似つかぬ清楚な外見である。

「しまったな、お前ェもしかしてスパイか」

「いえ、違いますよ。むしろ兄を“当選させないため”に、真鍋先輩に協力しにきたんです」

「そうなのか」

「ええ。兄は多分、碌でもないことを考えていると思いましたので」

「そうだな」

「はい」

「メンバーは以上だ」

「あの、播磨くん」

「どうした、真鍋」

 ここではじめて、この会合の本来の主役である真鍋和が口を開いた。

「このメンバーは、どうやって集めたの?」

「いや、まあ何となく声をかけて」

「それだけ? どうして三人?」

「作者が書くのを面倒くさがったから。あとはまあ、時間がなかったから」

「滅茶苦茶じゃない!」

 和は頭を抱える。

「悩んでても仕方ねえ、やるぞ」

「悩ませてるのはあなたよ、播磨くん」

 こうして、真鍋和の選挙対策本部は発足し、本格的な選挙戦に入るのだった。 




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:36:57.42 ID:rjWT9VOTo<>


 ふと気が付くと、播磨は濃い霧の中にたたずんでいた。

 とはいえ、周りは暗くない。とても明るい霧である。

「播磨くん♪」

 聞き覚えのある声が空間に響く。

(こ、この声は!)

 播磨は声の主を探す。そして、

「播磨くん」

 そこにはショートボブの髪型に、黄色い髪留めを付けた平沢唯の姿が。

「うんたんうんたん」

(ゆ、唯ちゃん!)

「播磨くん、私を捕まえてみて」

 笑顔でそんなことを言う唯。

(ようし、捕まえてやる)

 播磨はそう思って、唯のもとに走ろうとするがいくら走っても追いつけない。

 それどころかどんどんと遠くなっていく。

(待ってくれ、唯ちゃん!)

「は!」

 気が付くと、身体が誰かに揺らされていた。

「え?」

 彼の視線の先には、メガネをかけたさわ子、ではなく――

「真鍋か」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:37:32.41 ID:rjWT9VOTo<>
「播磨くん。早く起きなさい」

 周囲を見回すと、そこは彼の部屋である。

 朝の光の差し込む部屋で、制服姿の真鍋和が立っていた。

「真鍋、なんでいるんだ?」

 急いでサングラスをかけた播磨はそう言って質問する。

「もう、昨日言ったでしょう? 今日から朝立ちをするの」

「アサダチ……」

「変な想像しない」

「してねェよ!」

「朝立ちっていうのは、校門の前とかで挨拶をするの」

「そういや、言ってたな」

「早く準備して」

「おう。着替えるから、部屋の外で待っててくれ」

「うん」



   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:38:06.84 ID:rjWT9VOTo<>


 和が居間へ行くと、そこにはテーブルの上に突っ伏している山中さわ子がいた。

「先生、早く起きないと遅刻しますよ。先生が遅刻したら洒落になりませんし」

「もうちょっともうちょっと、エヘヘヘ」

 さわ子はまだ夢の中と現実を行き来しているようだった。

「待たせな」

「早っ!」

「早着替えはウチの一族の伝統だ」

「そうなんだ」

「じゃあ行くか」

「待って、播磨くん」

「ん?」

「朝ごはん、まだ食べてないでしょう?」

「ああ。まあいいさ別に。時間ねェだろうがよ」

「ダメよ、朝はちゃんと食べないと」

「そりゃそうだが」

「ちょっと待って」

「ん?」

 そう言うと和は自分の鞄から何やらゴソゴソと取り出す。

「なんだ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:38:33.61 ID:rjWT9VOTo<>
「はいこれ」

 和は、ハンカチにつつまれたタッパーを取り出す。

「おにぎり作ってきたの。これならすぐに食べられるでしょう?」

「いいのか?」

「倒れられたりしたら大変じゃない」

「倒れりゃしねェよ」

 播磨の大きな背中を見て、確かに簡単に倒れそうにはない、と和は思った。




   *



<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:39:26.12 ID:rjWT9VOTo<>

 そして朝の学校。

「真鍋 和」と大きく書かれた幟を持った播磨拳児が和の左後ろに立ち、右後ろには冬木が
立つ。

 何だかんだ言って、冬木武一も協力してくれたようで、選挙用のポスターも作ってくれた。

「おはようございます。真鍋和をよろしくお願いします」

 校門の前でそう言って挨拶する和。

 あまり知名度が高くないので、こうして地道に顔を覚えてもらうしかない。

 生徒会執行部で役員をしていたころも、こうして立っていたことはあった。

 けれども、こんなふうに注目されるのは今までになかったことである。

 原因はおそらく、彼女の左後ろにいる生徒だろう。

 播磨拳児。身長180センチ以上の男子生徒がピンクの幟を持っていたら目立つ。

 とても目立つ。

 かつての秋山澪のように、人前に出るのが苦手、というわけではない和だったけれど、
こういう注目は決して慣れるものではなかった。

「おはようございます!」

「おはよう和ちゃん」

 知り合いの生徒が声をかけてきた。

「唯、今日は早いね」

 平沢唯である。ちなみに彼女は和のクラスに二人いる遅刻常習犯の一人だ(もう一人は播磨拳児)。

「うん、和ちゃんの活躍が見たかったからね。それと播磨くんも」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:40:16.81 ID:rjWT9VOTo<>
「ん?」

 唯の声に、播磨が少し反応する。

「どうしたの?」

「なんでもない」

 唯と別れた後も、しばらく和は挨拶を続けた。

 遠くのほうでは、同じく立候補した東郷雅一が何かをアピールしている。

 彼の周りにはたくさんの生徒たちが集まっていた。

 評判はともかく、知名度の点で和は東郷に大きく引き離されている状況だった。



   つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/08(日) 20:41:31.92 ID:rjWT9VOTo<> 知名度に欠ける真鍋陣営に勝ち目はあるのか!

白熱の(?)選挙戦は次回に続く! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/01/08(日) 21:01:36.76 ID:5gM98D47o<> 乙

ハナーイはいないのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/08(日) 21:02:43.02 ID:2ao45Ta7o<> はりおん、と聞くと

貼る!温湿布! を思い出すな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/08(日) 21:41:54.93 ID:j98kHXzIO<> >>120
ハナーイは修行中な気がする

そして>>1乙
もう一つの方も完結おめ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>saga<>2012/01/08(日) 23:09:19.97 ID:NOgCzD720<> はりまどおもしろかったよー

こっちがどうなるのか楽しみだ <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:04:13.47 ID:XiWN0eTro<> ちょっと遅くなったけど投下します。
何かを書いてたかって? フフフ……。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:04:39.22 ID:XiWN0eTro<>



       はりおん!

   〜恋と選挙とハリケーン!〜

      ♯5 対 話

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:05:37.72 ID:XiWN0eTro<>


 その日の対策本部会議。なお、場所は例によって軽音部の部室だ。

 会議のテーマは、知名度の上昇であった。

 知名度では圧倒的に東郷陣営に劣る真鍋陣営をどうするか、という話し合いである。

 さすがに外見をいじれとか、屋上で叫べ、などというキワモノ的な発想は出てこなかった
けれども、どうやって伝えていくかは悩みの種だ。

「冬木先輩の作ったポスター、とてもいいと思います」

 そう言って東郷榛名は、和の選挙用ポスターを広げてみせる。そこには、
和の顔も写真がしっかりと写っている。

 和はそれを見るたびに恥ずかしくなるので、なるべく校内では見ないようにしていた。

「へへ、いいでしょう? 俺の自信作なんだ」

 冬木は得意げだ。

「でもこれだけじゃ足らないとおもうんですよね、やっぱり」

 榛名はやや不安そうな表情で言う。

「どういうこと?」

 和は聞いた。

「こっちが兄のポスターなんですけど」

「うわ……」

 全員の顔がゆがむ。

 榛名は、東郷(兄)のポスターを見せた。やたら派手な色が使われたキラキラのポスターである。

 しかもなんか、そのポスターの中で東郷は、全盛期のプレスリーのような服装をしている。

「確かにこりゃ、インパクトの点でも負けてるな」

 と、冬木は言った。

「でもだからといって、今更ポスターのデザインも変えるわけにもいかないし……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:06:40.83 ID:XiWN0eTro<> 「そうですよね」

 対策本部の空気が重くなる。

「……」

 そんな中、本部長であるはずの播磨拳児は腕を組んでじっと黙ったままであった。

「播磨くん、どうしたの?」

 少し心配になった和が聞く。

「別に色々あるけどよ……」

 と、播磨は控えめに声を出す。

「俺は、真鍋が東郷に負けてるとは思えねェ」

「どういうこと?」

 と、冬木は聞いた。

「だからよ、その考え方とかリーダーとしての資質とか、そういう点で真鍋が東郷に負けてるとは
思わねェってことだよ」

「そう……、なの?」

 改めてそう言われた和は少し、いやかなり照れくさくなってきた。

「少なくとも真鍋の考え方はまともだし、それを支持してくれる奴はいると思う。

だが、俺みてェな頭の悪いやつには伝わりにくいかもしれねェ」

「じゃあ、どうするんですか先輩」そう聞いたのは榛名だ。

「もっとこう、身近で質問できれば」

「身近?」

「辻立ちね」

 和は思い出したように言う。

「辻斬り?」

「いやいや、辻立ちよ。選挙なんかでは基本的なことよ。路上に立って直接有権者に訴えるの。
身近にいるから、檀上で一方的に話しかけるよりも効果は高いと思う」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:07:15.26 ID:XiWN0eTro<>
「そうだな」と、播磨。

「そうです、自信持っていきましょう先輩」榛名も応援する。

「確かに、真鍋さんの考え方に賛同してくれる人は多いと思うよ。集会よりは効率悪いけど、
急がば回れというし」冬木も同意した。

「それじゃ、早速行くぞ」

 そう言って播磨は立ち上がった。

 正しいかどうかはともかく、彼の行動は早い。その点は和も見習いたいところである。




   *




「実りある学校生活を送るにはどしたらいいでしょうか。私は次のように考えます――」

 その後、和は中庭や広場など、比較的広い場所で辻立ちという名の対話集会を開くことにする。

「自動販売機の種類をもっと増やしてほしいんですけど」

「現状ではこれ以上、台数を増やすのは難しいですね」

「ええ? じゃあダメじゃん」

「で、でも、種類を厳選することはできるんじゃないでしょうか。人気の高い種類を優先的に入れて
もらえるよう、メーカー側に打診することはできると思います」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:08:41.32 ID:XiWN0eTro<>
「冬場はストーブが欲しいな」

「灯油の管理や修繕費、それに置き場所などの問題が出てきますね」

「でも寒いし」

「冬場でも暖かいように、窓を工夫するなど、色々な改善点を学校側に提案したいと考えてます」

「テストが難しい」

「補修の授業を増やすよう、先生側に提案してみましょう。また、生徒同士でも教えあえるように、
勉強会の企画も考えています」

「ちょっとメガネとってみて」

「それはちょっと……」

 和の辻立ちに集まる人は決して多くはないけれど、それでも活発に意見を言ってくれる。

 それは和にとってありがたいことでもあった。

 また明らかに冷やかしや、からかいにくる生徒たちは、播磨が追い払ってくれた。

 和は選挙期間中に受けた要望や意見などをメモ帳に書いて、自分の中の考えとすり合わせていく。

 それを後からノートにまとめていくと、かなりの量になる。

 気が付くと、外はもう暗くなっていた。

「お疲れ」

 そう言って彼女の前に缶コーヒーを置く播磨。

「ありがとう、播磨くん」

「どうだ、調子は」

「こっちは大丈夫。冬木くんと榛名ちゃんは?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:09:47.80 ID:XiWN0eTro<>
「あいつは帰らせた。もう遅いからな」

「播磨くんも帰っていいよ。私はもう少し」

「お前ェ一人残して帰れるかよ」

「でも」

「俺に遠慮すんな。お前ェを当選させんのが俺の役目だ。お前ェは自分が当選することだけを
考えりゃいい」

「そういうわけにはいかないわよ。でもありがとう」

 そしてしばしの沈黙。

 播磨にもらった缶コーヒーがぬるくなったところで、不意に彼は声を出す。

「でもよう」

「ん?」

「お前ェも、本当真面目だな」

「え? どうして」

「だってよ、生徒と話をしてる時でも、あれが欲しいとかこれが欲しいとか言ってるときさ」

「うん」

「素直にはいって言っときゃいいじゃんか。やりますって、支持が欲しけりゃ」

「……」

「でもお前ェは、その時その時で、色々考えて意見を言ってるしな」

「そうね、性格かもね」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:10:18.52 ID:XiWN0eTro<>
「性格か」

「無責任なことは言いたくないの。やるからにはちゃんとできることをやりたいなって」

「そうか……」

「そして学校のためになることをやりたい。もちろん、学校と言っても生徒たちのことよ」

「だな」

「うん」

 そして時計を見る和。

「もう遅いし、帰ろうか」

 和のほうからそう切り出す。

 すると、

「よし、送っていくぞ」

 と言って播磨は立ち上がった。

「別にいいよ、そんな……」

「こんなに暗いんだぞ。もしものことがあったらどうすんだ」

「大丈夫だよ」

「いや、対策本部長としては最後まで責任をもたなきゃな」

「え……、うん」

 少々強引だが、和は播磨に送ってもらうことになった。




   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:11:29.87 ID:XiWN0eTro<>

 帰り道は本当に暗い。

 確かにこれでは少し心細いかもしれない。

「ねえ、播磨くん」

 今度は、和のほうが話しかける。

「どうした」

「ずっと気になってたんだけど、なんであなたは私の選挙を手伝おうと思ったの?」

「ん?」

「だって播磨くんと私は、そんなに接点がなかったと思うけど」

「そ、そりゃ……」

 播磨は少し焦る。

 よくよく考えてみたら、和にとってこれが一番不思議なことなのだ。

「本当言うと、最初は四組の東郷の野郎が立候補すんのが許せなかったんだ」

「え? どうして」

「あの野郎、生徒会長になったら好きな女の子と一緒に生徒会室でどうたらこうたら、
とか言いやがって」

「アハハ……」

 それを聞いて、反応に困る和。

「でもよ、今は少し変わってきた」

「え?」

「お前ェと話をしてよ、少しお前ェのことがわかってきたら、なんか応援したくなっちまった
っていうか、これは嘘じゃねえぞ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:12:25.35 ID:XiWN0eTro<>
「そう、なの?」

「ああ」

「本当に?」

「そうだ。それより――」

「え?」

「なんでお前ェは生徒会長になろうと思ったんだ? 色々面倒なことも多いと思うが」

「それは……」

 和は少しだけ考えた。

「播磨くん」

「ん?」

「八桜祭のステージ、かっこよかったよ」

「なんだいきなり」

「いきなりじゃないよ。播磨くんみたいに頑張ってる人を応援するのが好きなの」

「俺は別に、そこまで頑張ってはねェよ。ほかの連中のほうがよっぽど頑張ってんだろ」

「それはそうだけど。でもね、そういう人たちも一人でやってるわけじゃないよね」

「そうか?」

「スポーツ選手だったら、ほかのチームメイトもいるし、審判の人や係員なんかもいる」

「ああ、確かに」

「一人のすごい人がいても、必ずそれを支える人たちがいる。私は、そういう人たちを支えようと
思うのよ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:13:21.66 ID:XiWN0eTro<>
「……」

「すごくなくても、地道に頑張っていく人たちを応援したい」

「応援する?」

「うん。生徒会長っていうと目立つから、主役みたいに思うかもしれないけど、私はそうは思わない。
スポーツでも勉強でも、それを頑張っている人はたくさんいる。
私は、学校生活をする上で、そういった人たちを支えていければいいなって思ってるの」

「それが立候補の理由か」

「うん。……変かな?」

 和は恥ずかしくなってきたので、少し目を伏せながら聞いてみる。

「確かに変だな」

「ええ!?」

 播磨はあっさりとそれを肯定する。

 だが、

「だけどよ、お前ェは間違ってねェと思う」

「……」

「そして俺はお前ェを応援できて、よかったと思った」

「播磨くん」

 暗い道の中、播磨と二人で並んで歩いていた和は、彼に気付かれないよう少しだけ近づいて
歩くことにした。



   つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/09(月) 21:14:32.83 ID:XiWN0eTro<>  次回、播磨に大きな試練が!?

 生徒会長選挙、ついに決着! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<><>2012/01/09(月) 21:33:54.61 ID:4dDyP8Ffo<> +(0゚・∀・) + ワクテカ + <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/09(月) 21:34:24.56 ID:1An0PH8qo<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)<>sage<>2012/01/09(月) 21:41:03.97 ID:jKzmRcSno<> 天然フラグメーカーすぎんぞ・・・・乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/01/09(月) 21:53:29.17 ID:ghoLvPXZ0<> でも播磨なら許せる! 不思議! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/01/10(火) 00:12:14.50 ID:+ZU1cMKno<> 乙

脳内再生が容易で助かる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/10(火) 07:35:25.19 ID:QUJHNVmIO<> まさに原作通りのフラグ立てっぷり <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/10(火) 12:06:14.04 ID:+KjS5XlIO<> 俺得スレ発見 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/10(火) 18:41:45.47 ID:TlsK418DO<> でも播磨ってフラグ立てた人数自体は八雲とお嬢の2人くらいだよな。この2人の印象が強いから立てまくってた感じするけど
イトコとか妙さんはフラグ立てたって感じでもないし <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:54:06.93 ID:9ZYvhkCEo<>  さて、生徒会長選挙も今日で決着。

 播磨に迫りくるピンチとは?

 今日も行くぜ! <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:54:50.76 ID:9ZYvhkCEo<>


        はりおん!
      
     恋と選挙とハリケーン! 

      ♯6 応 援

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:55:33.75 ID:9ZYvhkCEo<>


「ぬわんだってえええええええええええええええええ!!」



 選挙対策本部(仮)に播磨の声が響く。

「おいおい、選挙対策部長ならそれくらい知ってると思ってたのに」

「いや、でもよう」

 対策本部には、いつものように和、播磨、冬木、そして榛名という四人のメンバーが
集まっていた。

「ど、どうしたんだ?」

 叫び声を聞きつけた澪が和に聞く。

「いや、選挙の投票前に候補者による演説があるんだけど」

「うん」

「立候補者だけじゃなく、その推薦者も応援演説をやることを彼は知らなかったって」

「ええ!?」

 それは彼にとって大きな試練であった。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:57:06.71 ID:9ZYvhkCEo<>
 播磨拳児は焦っていた。

(どうすんだ俺、演説なんてしたことねェぞ)

 こう見えて彼は人前でしゃべるのが苦手である。ゆえに彼は拳で語り合ってきたのだ。

 しかし今回は応援演説。

 それも全校生徒の前で檀上に立たなければならない。

(何を言やあいいんだよ)

 ただ単純に応援をすればいい、というわけでもないことを彼は知っている。

 しかも投票前の大事な時期だ。

 下手な演説をやれば、これまで和に集まってきた地道な支持が雲散霧消してしまう
危険性もある。

(俺が前に出て喋っちまったら逆効果なんじゃねェか。

くそ、ここは冬木か榛名に代役を頼もうか――)

 播磨がそう思っていたその時、

「播磨くん」

(はっ、唯ちゃん!)

 播磨の思い人、平沢唯の登場である。

「ど、どうした平沢」

 いつものように本心を隠し、クールを装う播磨。

「播磨くん、明日の投票日に和ちゃんの応援演説をやるんでしょう?」

「ん、ああ。そのことだが」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:57:51.67 ID:9ZYvhkCEo<>
「楽しみだなあ。和ちゃんも応援してるけど、播磨くんにも期待してるよ」

「俺に……、期待してる?」




 応援演説で活躍→ 唯「播磨くん素敵!」 → 好感度アップ!!




「任せろ平沢。最高の応援演説を聞かせてやるぜ」

「おお、播磨くんカッコイイ」

(カッコイイ……)

 播磨はその言葉に興奮した。

 しかし、

(どおすりゃいいんだあ……)

 唯に「任せろ」とか言った手前、今更逃げるわけにはいかない。

(そもそも応援演説ってなんだ。何を話しゃいいんだ)

 播磨にはわからないことだらけである。

 
「お、応援演説? それを私に聞かれても……」

 困ったときの秋山澪と言いたいところだが今回ばかりはミスキャストである。

「すまねェ、他に聞けるやつがいなかったもんで」

「うう……」

 澪は元々人前に出るのが苦手だったから、演説などというものからもっとも遠い生活をしていた。

「仕方ねェ、誰か慣れてるやつに聞くか……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:58:56.53 ID:9ZYvhkCEo<>
「あ、待って播磨くん」

 不意に播磨を呼び止める澪。

「どうした」


「演説って言っても、そう難しく考えなくてもいいと思う」

「え?」

「播磨くんが思ったことを素直に言えばいいんじゃないか」

「俺が思ったことを、素直に……?」

「うん」

 秋山澪のアドバイスはわかったようでわからないような感じであった。

(俺が思ったことを素直に言って、それが本当に真鍋のためになるのか)

 播磨は考える。

 でも答えが出てこない。

 答えが出ないまま、一日が終わろうとしていた。

「播磨くん」

「お……」

 放課後の辻立ちが終わり、下校時間になろうとしていた。

 ぼんやりと考え事をしていたところを和に声をかけられて正気に戻る播磨。

「大丈夫? 体調悪い?」

「いや、大丈夫だ。問題ない」

「そう。じゃ、一緒に帰ろ」

「ん、ああ」

 いつの間にか和は、自然に一緒に下校しようと言うようになっていた。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 20:59:56.82 ID:9ZYvhkCEo<>


 帰り支度を終えて校門を出る。

「生徒会長の選挙も明日で終わりだね」

 夕闇に染まる街並みを見ながら、和はふとそんなことを口にした。

「そうだな」

「そうなったら、こうして播磨くんと一緒にいられることもなくなるのかな」

「別にそうでもねェだろう。同じクラスなんだしよ」

「そっか、そうだよね」

「……」

「頑張らなくちゃね。最後の最後まで」

 和はそう言って笑顔を見せる。

 播磨にはその笑顔を見るのがいたたまれなくなった。

 大好きな唯の前でいい格好をしたくて、応援演説をすると宣言した播磨。

 だが、和と話をしているうちに、罪悪感が湧いてくる。

「播磨くん――」

「すまねえ、真鍋」

 帰り道、急に立ち止まって謝る播磨。

「どうしたの播磨くん、一体」

「明日の応援演説のことだ」

「え? それがどうかしたの?」

「正直、まったく自信がねえ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:02:38.73 ID:9ZYvhkCEo<>
「え……」

「今更こんなことを言っても迷惑だってわかってる。

だけどよ、俺はお前ェに当選してもらいてェんだ。

だから、応援演説は他に代役を立ててくれねェか。

俺じゃあお前ェを応援できる自信が……」

 和への罪悪感から顔を伏せたまま謝る播磨。

 そんな播磨に和は近づく。

「播磨くん。顔を上げて」

「真鍋……」

「演説が上手いとか下手とか、そういうのはどうでもいいの」

「……」

「私はね、あなたに応援してもらいたい」

「……」

「私はこれまで、色んな人を応援してきた。そしてこれからも応援したいと思う。
でもね、明日は、明日だけは私を応援してほしいと思う」

「真鍋、だから――」

「私は、あなたに応援してほしい。これが私の望み」

「でもよ」

「結果がどうなっても構わない。これは私が決めたことだから」

 和は播磨の顔をはっきりと見据えて言う。

「お願いします」

「……」

 播磨はぐっと拳を握りしめる。

 ここまで言われた状態で尻尾を巻いて逃げる、なんてことはできるはずがない。

「わかった。どうなるかわからねェけど、やれるだけのことはやる」

「ありがとう、播磨くん」

(くそっ、絶対に負けねェぞ)

 播磨はこれまでにないほどの気合を、心の中で燃やした。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:03:55.98 ID:9ZYvhkCEo<>
 翌日の午後。

 体育館には全校生徒約720人が集まっていた。

 改めて見ると物凄い人の数だ

 澪ほど人前に出るのが苦手というわけでもない和でも、演説の前は緊張してきた。

「……」

 しかも隣にいる播磨は一言も喋らない。

 さっきからじっと一点を見つめている。

 くじ引きの結果、和たちは候補者の中で一番最後の演説となるようだ。

 彼女のすぐ前には、知名度ではナンバーワンであり、今回一番の強敵と目される
東郷雅一(通称マカロニ)が控えていた。

「ふっ、俺の演説を聞いて腰を抜かすなよ」

 片手にギターを抱えた東郷が飛び出す。

 なんか知らんがギター付きの演説をするらしい。

 いや、もうまったくわけがわからない。

 何を言っているのか、和には上手く聞き取れなかったけれども、体育館はどうやら
盛り上がっているようだ。

 最後の最後までインパクトでは勝てそうになかった。

「……」

 舞台袖で待っている最中も、播磨は一言も話さない。

 あの時――

 強引に和の選挙対策部長に就任したときのような勢いはなりを潜め、

 気弱な少年の面影がそこにあった。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:05:26.82 ID:9ZYvhkCEo<>
 こんな時、どんな言葉をかけたらいいのか和には見当もつかない。

 でも、一緒に戦ってきた身としては何か言いたい気持ちもある。

(どうしよう)

 迷った結果、一つの言葉を発する。

「播磨くん」

「ん?」

「大丈夫だよ」

 和は精いっぱいの笑顔を見せた。

「おう」

 ふっと、彼の顔が明るくなった気がする。

 これが正解だったのか、和にもわからない。

 でも、何かせずにはいられなかった。

 そして前の演説が終わる。

 大きな拍手の中、東郷は満足そうな表情を浮かべ檀上を後にしていた。

 前の組が終わり、いよいよ出番である。

 演説は応援者(推薦人)が先に話し、その後候補者が話をすることになっている。

 応援者が応援演説をしている間、候補者はそのすぐ後ろに座って待つ。

 つまり、播磨のすぐ近くにいるのは和一人ということになる。

 和の前に、三分間ほど播磨の演説の時間だ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:06:54.33 ID:9ZYvhkCEo<>
 時間は短いけれども、大切なアピール時間。

 和は、自分の時以上に緊張してその時を待った。

 ゆっくりと登壇し、マイクの前に立つ播磨。

 すぐには喋り出さない。

 そして深呼吸をした後、話しを始める。




《 俺は――


 学園祭でここと同じ場所に立ったとき、周りのことを気にする余裕なんか全然なかった》


 型どおりの応援演説など、端から無視して播磨は話をはじめる。


《 ただ必死に、ギター弾いて、そんで終った。緊張して、頭ん中真っ白で、終わったら
終わったって感じだった 》


 ざわめく会場。

 それが生徒会長の選挙と何が関係あるのか、という雰囲気だ。


《 でもそんな中で、周りのことを考えて色々動き回ってくれるやつがいた。

 そいつは全然目立たなくて、俺もほとんどその存在に気づいていなかった。

 でも、今は違う。

 見えないところで、色々と細かい仕事をしていたから、学祭のライブは成功したし、

 何より学祭自体が実りの多いものになったと思う 》 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:08:08.55 ID:9ZYvhkCEo<>

 播磨は訥々と話を続ける。

 決して話し上手というわけではないし、聞きやすい声でもない。

 それでも彼の声に聴衆は耳を傾け始めている。


《 真鍋和は、お世辞にも目立つようなやつじゃない。

 映画とかでは決して主役級の役者ではないかもしれない。

 でも、俺は真鍋が物語にとって必要不可欠な存在だと信じている。

 短い間だったけど、一緒に選挙の活動をして俺は真鍋の人となりをずっと見てきた。

 派手なことは言わない。無責任なことは言わない。

 そして、俺たちの言うことをしっかりと聞いてくれる。

 一般の生徒から要望があれば、あいつは一つ一つきちんとメモを取ってそれを検討した。

 どれも俺にはとてもできねェことだ 》

 不思議だった。

 播磨は別に特別なことを言っているわけでもない。

 でも、彼の言葉は和の心を包み込む。

《 他のどの連中が気が付かず、通り過ぎて行っちまうようなものでも、

 真鍋は気が付いて声をかける。応援する。

 だから俺は信じる。

 真鍋は、誰よりもこの学校のことを考えているし、この学校のためになることをしてくれると。

 本当に、本当に必要なことがなんなのか、俺たちに気づかせてくれるんだと 》
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:09:01.82 ID:9ZYvhkCEo<>
 そこで、播磨は一息入れる。

 しかしすぐに言葉が出ない。

 そんな中、

「頑張れ!」

 静まり返った会場で女子生徒の声が聞こえた。

 秋山澪の声だ。

「播磨くん、頑張って!」

「おら播磨頑張れ!」

「いいぞ!」

 会場の声援に押されるように播磨は再び話はじめる。

《 俺は、ほかの連中がどう思ってるのかわからねェけど、

 どんなことがあっても、真鍋和を支持する!

 だから……、できれば真鍋が皆を応援してきたように、

 皆も、真鍋のことを少しだけでも応援してくれたら……、

 少しでもいい、真鍋和を応援してくれ。

 ……以上だ 》

 播磨が話し終えると、会場は大きな拍手に包まれた。

 すぐそばで聞いていた和も、涙を抑えようと必死に我慢していた。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:10:21.47 ID:9ZYvhkCEo<>



《それでは、第四十二回、八神桜高校生徒会長選挙の結果を発表します》

 演説の後、すぐに投票が行われ、即日開票された。

 放課後の教室など、それぞれの場所で結果を待つ候補者たち。

 和たちも、播磨と一緒に二年三組の教室でその結果を待っていた。

《生徒会長に当選したのは――》


 一瞬の緊張。


















《 真鍋和さんです 》





 次の瞬間、教室が歓声に包まれる。

「やったああああ!!!!」

「やったよ和ちゃん!!!」

 なぜか本人以上に大喜びする唯や律。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:11:30.83 ID:9ZYvhkCEo<>
 騒ぎまくる周囲に対して、和は平静を保とうとしたが、播磨の顔を見た時には無意識のうちに
席から立っていた。

「真鍋、おめで――」

 播磨がそこまで言いかけた時、

「……!」

 和は播磨に抱き着いていた。

「お、おい!」

 焦る播磨。

「あ!」

 和も自分のしたことの重大さに今更ながらに気づいたが、すぐに播磨から離れられなかった。

「きゃああああ!!」

「何やってんの!」

「やるねえ、新生徒会長!」

 周囲に驚きやら混乱やら冷やかしやらで少々パニックになってしまう和。

 そんな和を播磨はゆっくりと抱き上げ、そして床の上に立たせた。

「ご、ごめん播磨くん」

「いや、いい。それより、応援してくれた皆に挨拶したらどうだ、新生徒会長」

「う、うん」

 播磨に促されるように、和は教壇の上に立つ。

「皆、ありがとう」

「おめでとう!」

「和ちゃんおめでとう!」

 拍手と歓声に包まれた教室の喧騒はしばらく止みそうになかった。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:12:07.43 ID:9ZYvhkCEo<>


 数日後、選挙の熱狂も冷めてまた学校は普通の時間を取り戻しつつある。

 高校の生徒会室。

 和は、生徒会長として再びこの場所に戻ってきた。

「おめでとうさん、生徒会長」

 そう言ったの播磨拳児だ

「もう、そういうのはやめてよ」

 照れながら和は言う。

「だって会長だろ?」

「そうだけどね」

 昼休みの生徒会室。

 そこに和は播磨を呼び出していた。

「ねえ、播磨くん」

「ん?」

「この前の話なんだけど」

「生徒会に来ないかってやつだろう?」

「え? うん」

「悪いが、お断りだ」

「でも」

「俺の仕事はお前ェを生徒会長にすること。それが終われば、これまで」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:13:17.88 ID:9ZYvhkCEo<>
「播磨くん。私――」

「頑張れよ、会長。俺は応援してるから」

「え……、うん」

 和はそれ以上言えなかった。

「ほかに、用はねェのか?」

「うん」

「じゃあ、俺教室に戻るわ」

「うん。またね」

「おう、また」

 播磨が生徒会室のドアを開けると、入口に見覚えのある人影があった。

「おう、秋山」と播磨が言う。

 秋山澪がいたようだ。

「真鍋に用事か?」

 と、澪に話しかける。

「そ、そうだけど」

「あいつなら中いるから、じゃあな」

「うん。また」

 そう言うと、播磨は帰って行ってしまった。

 そして入れ違うように入ってくる澪。

「澪、どうしたの?」和は聞いた。

「いや、その……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:14:07.56 ID:9ZYvhkCEo<>
 澪の表情を見て和は気付く。

「大丈夫だよ、澪」

「え?」

「私なら今、振られたところだから」

「え? なに?」

 澪の顔が真っ赤になる。本当にわかりやすい子だ、と和は思う。

「そうそう、実はね。前の会長から生徒会長以外の役職も引き継がされちゃって」

「へ?」

 そう言うと、和はポケットから澪の顔写真の入ったカードを見せる。

「これは」

「秋山澪ファンクラブの会長」

「はい?」

「これからは、私が澪を応援するわ」

「ちょっと、それって」

「もちろん恋のほうもね」

 そう言うと、和は軽く片目を閉じてウィンクした。




   *  
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:14:35.28 ID:9ZYvhkCEo<>
 

 播磨が教室に戻ると、教室内はいつもよりも騒がしかった。

「何があったんだ?」

 播磨がそう聞くと、

「播磨くんすごいよ! この校内新聞」

 平沢唯がいつも以上に騒いでいる。

「なに!?」

 生徒会長選挙の結果を知らせる校内新聞。

 そこには播磨に抱き着いた真鍋和の写真が大きく掲載されていたのだった。




   恋と選挙とハリケーン!

     お わ り <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:15:55.35 ID:9ZYvhkCEo<>



 生徒会長選挙投票結果

   (開票率100%)

 真鍋和・・・・・・・・610票(当選)



 東郷雅一・・・・・・・84票

 花井春樹・・・・・・・17票

 無効票・・・・・・・・・10票

 欠席者・・・・・・・・・・3名
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:17:54.39 ID:9ZYvhkCEo<>  まさかの二段オチ。

 花井も実は一学期に出てたんだよね。ちょっとだけ。


 それにしてもメガネ、ではなく真鍋のヒロイン力は高かった。

 彼女凄いね。

 次回からはまたいつものはりおん! に戻ります。といっても、もうすぐ終わりだけどさ。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/10(火) 21:18:53.65 ID:9ZYvhkCEo<>  なお、明日は作者筋トレ日のため、投下はお休みします。

 筋トレは大事です。筆者も播磨のようにムキムキになりたいです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)<>sage<>2012/01/10(火) 21:24:03.37 ID:aREJHTjAO<> なん……だと……


そういえば仮にマカロニが当選しても、唯を生徒会に引き込んだらHTTの活動ができなくなる可能性があるから(大抵、生徒会役員は部活動に参加できない規則がある。なくても忙しい)、唯を諦めるか生徒会長から引きずり下ろされるかになる見込みが高いんだよな
負け戦だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>sage<>2012/01/10(火) 21:42:58.06 ID:j21Efav10<> 筋トレするならジム行って専門家の言うとおりにしたほうがいいぞ

と、スポーツトレーナーがマジレス <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/01/10(火) 22:14:52.32 ID:+ZU1cMKno<> 乙

花井いたのかよwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/10(火) 22:19:29.88 ID:ujj3eVHIO<> 乙
毎回楽しみに見てる
>>1は原作をよく読んでると思うようん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/01/11(水) 01:01:26.24 ID:YE9S2mh7o<> 164 名前: ◆tUNoJq4Lwk[saga] 投稿日:2012/01/10(火) 21:17:54.39 ID:9ZYvhkCEo
 まさかの二段オチ。

 花井も実は一学期に出てたんだよね。ちょっとだけ。


 それにしてもメガネ、ではなく真鍋のヒロイン力は高かった。

 彼女凄いね。

 次回からはまたいつものはりおん! に戻ります。といっても、もうすぐ終わりだけどさ。




最後の1文が見えない
みえない          見たくない
オワラナイデエエエエ <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/11(水) 19:56:12.91 ID:BkHMbTNwo<>  こんばんは。

 予告ですが、次回も含めて残り三話です。

 もっと読みたいと言ってくれる方ありがとうございます。

 ですが、そんなことをしている場合でもないのです。

 今年こそ芥川賞を目指す(筋トレしている場合じゃないのでは? という質問は却下の方向で)。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/11(水) 20:43:42.98 ID:WcmKBZUIO<> >>171
通りで読みやすいと思ったらモノホンの物書きさんだったのか
頑張ってください <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/11(水) 22:14:06.05 ID:BkHMbTNwo<> >>172
誤解しないでください。筆者はただの会社員です。

でも会社員が芥川賞を目指してはいけないという法律はありませぬ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/11(水) 23:07:24.37 ID:5277Vpalo<> ああ、俺もノーベル賞をめざしてるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/12(木) 07:48:41.26 ID:+5cVVr+e0<> ノーベル最強賞とな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)<>sage<>2012/01/12(木) 19:19:31.49 ID:hfxiRByv0<> 芥川賞と直木賞の何が違うの? <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:11:24.78 ID:B2Dkg7who<> はい、それでは時間になりましたので投下したいと思います。

ノーベル賞は、平和賞以外なら頑張ってください。

なお、直木賞は大衆文学(エンターテイメント作品)、芥川賞は純文学を対象にしている賞です。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:12:08.25 ID:B2Dkg7who<>

 
      は り お ん !
 

   ♯7 クロスデート〜前編〜



<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:12:50.50 ID:B2Dkg7who<>

 放課後の軽音楽部部室。

「うむむ……」

 A4の紙に印刷された文章を読みながら中野梓はうなっていた。

「どうかな、今度の歌詞は」

 緊張した表情で尋ねるのはその作詞した本人、秋山澪である。

「正直ドン引きです」

「ええ?」

 想像以上の辛口批評にショックを受ける澪。

「メルヘンが許されるのは中学生までと言われませんでしたか?」

「メ、メルヘンとはなんだ。私なりにリアルな恋愛を考えてきたんだぞ」

「澪先輩。クリスマスにふさわしい、恋人同士がいい雰囲気になるような曲が欲しいのですよ」

「そんなこと言われても」

「それこそ、世の中の毒男や独女どもを闇の底に突き落とすくらいの歌詞を書いてもらいたいです」

「いや、いくらなんでもそれは」

「澪先輩ならそれができるはずです」

 梓は怒っている。

「れ、恋愛小説ならたくさん読んでいるぞ」

 澪は反論した。

「あらまあ。でも頭で考えてもダメってこともあると思いません?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:13:19.05 ID:B2Dkg7who<>
 それに対し、紅茶を持ってきた紬が言う。

「う……」

「澪先輩は頭でっかちになっているのです。経験が必要ですね」

「経験?」

「『理論は経験を保証し、経験は理論を保証する』とクラウゼヴィッツの『戦争論』にも
書いてあったです」

「高校一年なのに何を読んでいるんだ梓は」

「澪先輩に必要なのは経験です」

「そんな……」

「そこで私にいい考えがあるです」

「へ?」

 悪い予感がする澪。

 そしてその予感は当たっていた。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:13:55.12 ID:B2Dkg7who<>


 同じころ、律は同じクラスで、バスケ部に所属している麻生広義という男子生徒と会っていた。

「すまん、田井中」

「あ、麻生くん。どうした?」

 切れ長の目にサラサラの髪の毛。そしてバスケ部のエースである麻生は女子人気も高い。

 そんな彼が田井中に話があると言って、校舎の隅に呼び出してきたのだ。

「今度、遊びに行かないか」

「へ?」

 予想外の誘いに律は動揺する。

「いや、そんな。急に言われても。あたし麻生くんのことあんまり知らないし」

「知らないからこそだ。その……、これをきっかけに、色々知ることができたらと思って……」

「でも……」

 いきなり二人きりというのもハードルが高い。

 少し考えさせてくれと言って、律は一旦麻生と別れた。




   *  <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:15:03.97 ID:B2Dkg7who<>

 そして、軽音楽部の部室に向かう律。

 とりあえず誰かに相談しようと思ったわけだ。

 しかし律は軽音楽部の面々の顔を思い出しながら思う。

 顧問も含めて、あまり恋愛関係で頼りになりそうなのがいない。

 そして、部室のドアを開けた。

「あら、ごきげんよう」ティーカップを持った紬はそう言って軽く会釈をする。

「どうしました? 律先輩。今日は遅いですね」

 まんま肉まんにかぶりつきながら梓が言う。

「梓、食いながら喋るなっていつも言ってるだろう」

「ごめんなさいです」

「今日、唯は病院か。あれ? 澪はどうした?」

「それが……」

 紬が口ごもる。

「ちょっとキツく言ったら帰ってしまったです」と、梓。

「ああ? あれだけ澪をいじめるなって言ってるだろう? メンタル弱いんだから」

「歌詞のことなんですけど」

「歌詞?」

 律はテーブルの上に置かれている用紙を見る。

「澪先輩の歌詞、あんまりこれが良くなかったんで」

 梓がそう言う歌詞を、律もざっと目を通してみた。

「うへっ、確かに良くないな。小学生みたいだ。それで、これを酷いっつったら帰ったのか?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:16:18.34 ID:B2Dkg7who<>
「いや、まあほかにも理由はあるんですけど、それより」

「なんだよ」

「どうして律先輩は遅くなったんですか?」

「そ、それは……。ちょっとクラスメイトに呼ばれてただけさ」

「ほほう」

 梓の目が鋭くなる。

「麻生広義くん。なかなかカッコイイ人ですよね」

 そう言って紬は笑った。

「なんで知ってんだよ! お前たちここにいただろう?」

「さあ、なんででしょう」

「どんな話をしたんですか?」

 梓たちは興味深々だ。

「関係ないだろう?」

「律先輩、迷っている顔をしています」

「う……」

「何か相談したいことがあるんでしょう?」と、紬。

「それは……」

「さっさと言うのです」

「くっ……!」

 とりあえず観念した律は麻生から遊びに誘われたことを白状する。

 正直、どうしたらいいのか迷っていたのは確かだ。

「これは……」

「チャンスですよムギ先輩」

 その話を聞いて目を輝かせる二人。

「おい、何がチャンスなんだ?」

 その後、澪の知らないところで梓と紬はとある計画を立てたのであった。




   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:17:34.83 ID:B2Dkg7who<>

 それから数日後、軽音楽部の部室で澪と律の二人は椅子に座らされていた。

 ちなみに唯は中間テストの点数が悪かったため、和が主催する勉強会に呼ばれていた。

「澪ちゃんは、デートの経験をするべきである。また、律っちゃんはデートに誘われている。

しかしこの二人、こんなにかわいいナリをしているのにデートの経験がない!」

 やたらテンションの高い紬。こんな紬を見たのは久しぶりだと、律は思った。

「そ・こ・で、デート初心者の二人でもやりやすいように、ダブルデートを提案したいと思いまーす」

「この前澪が帰ったのは、デートをしろって言われたからか……」

 律は疑問が解けたようで、少しすっきりした。

「こういうバラエティ番組みたいなノリでデートを企画するのが前から夢だったの〜」

「デデデデデート?」

 まだ行ってもいないのに震えだす澪。

 それに対し梓は、

「落ち着いてください澪先輩。普通最初のデートはキスくらいしかやりませんから」

「キキキキキキスゥゥゥゥゥ!?」

 澪の頭が沸騰する。

「ダメよ梓ちゃん。嘘言って澪ちゃんを困らせちゃ」

 そう言って紬が梓をたしなめる。

「ごめんなさいです」

「かわいいから許すわ」

 紬は梓の頭を撫でた。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:18:12.83 ID:B2Dkg7who<>
「お前たち、くだらん茶番はいいから、さっさと話を進めろ」

 ややイライラしながら律が言う。

「そうね、じゃあ話を進めましょう」

 そう言って紬は四枚の紙を取り出した。

「これは?」

「とあるテーマパークのチケットよ。ここに四人で行ってもらうわ」

「ちょっと待てよムギ」

「なに?」

「四人って言ったけど、今のところあたしと澪と、麻生くんの三人しか名前が出てないじゃないか」

「ええそうね」

「もう一人は?」

「実はもう四人目のゲストは決まっているの」

「まさか先輩、横山さんですか?」

 梓は驚いたように言った。

「横山さんって誰だよ!」

「そうねえ、横山さんはちょっと急用でその日は」

「はあ、残念です」

「いやいや、勝手に話すすめるなよ! 横山さんって誰!? 新キャラ?」

「というわけで、四人目は播磨くんです。澪ちゃんのエスコートをしてもらいます」

「いや、横山さんスルーか。って、播磨!?」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:19:19.58 ID:B2Dkg7who<>
「はっ!」

 播磨という名前を聞いて正気に戻る澪。

 まるで魔法の呪文だ。

「お、澪先輩気が付きましたよ」

「あらあら。澪ちゃん。相手が播磨くんなら安心でしょう?」

「え? 播磨くんが私のデートの相手なのか……?」

 澪は再び顔が赤くなる。

「落ち着け澪! ってかそのデートっていうのは、演技というか、練習なんだろう?」

 律が紬に確認するように言う。

「確かに、デート経験のない澪ちゃんに経験を積んでもらうために企画したのだけど……」

「そのまま行くところまでいってもいいと、昨日澪先輩のお母さんから許可を貰ったです!」

 携帯電話を握りしめた梓が叫ぶ。

「ママ! 何してんのよ! ってか、勝手に人の家に電話しないでよ」

 両手で顔を隠して恥ずかしがる澪。

「まあ、澪先輩はともかく、問題なのは律先輩です」

 不意に視線が律に集まる。

「な、なんでだよ」

「先輩は麻生先輩のことをどう思っているんですか?」

「どうって?」

「付き合いたいとか?」

「いや、別に」

「嫌いですか? 虫唾が走るほどに」

「べ、別にそこまでじゃねえよ。麻生くんはカッコイイと思うよ」

「だったら、色々話し合ってみたらいいじゃないですか」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:20:11.39 ID:B2Dkg7who<>
「話し合うって、何を」

「だから気が合うかどうか、趣味が合うか、みたいな」

「どうかって」

「コスプレの趣味も重要です」

「そこは重要じゃないよ!」

「ナースとか好きだったらどうするんですか」

「知らねえよ!」

「ちなみに私は、和服とかも好きです」

「帯を回されて、あーれーってクルクル回るのよね。やってみたいわ」

 笑顔でそんなことを言う紬。

「でもやっぱり注射ぷ――」

「いい加減にしろ!」

 暴走気味の梓たちを、律はチョップで止めた。

「時間は今度の日曜日よ」

 と、頭を押さえながら紬が言う。

「澪先輩のためでもあるんですから」

 そう言ったのは梓だ。

 親友である澪のため、と言われれば律も弱い。

「う……」

(しかし、デートか……)

 律は、ふと横で恥ずかしがる澪の姿を見る。

(あいつの初めてのデート相手は、播磨ってことになるのかな)

 そう思うと、少し羨ましく感じる律であった。



   つづく <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/12(木) 20:23:08.68 ID:B2Dkg7who<>  次回、澪と律のダブルデートはどうなるのか。

 澪、律、そして麻生とそれぞれ複雑な心情を抱えつつデートの日を迎えるのだった! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/01/12(木) 21:36:49.16 ID:klazAqBzo<> +(0゚・∀・) + ワクテカ + <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)<>sage<>2012/01/12(木) 23:15:15.02 ID:TLp80fEdo<> 乙ー   梓が色々はっちゃけてるなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)<>sage<>2012/01/13(金) 00:37:50.17 ID:OSv3E7IIo<> 麻生・・・なんと報われぬ恋に生きる漢よ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2012/01/13(金) 13:45:56.21 ID:Csu0SGPAO<> 俺も播磨とデートしたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/01/13(金) 17:48:35.06 ID:vTnlcoVco<> あのさぁ… <> ◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:29:57.72 ID:teW5OHYno<> 花の金曜日。そしてはなきんデータランド。

投下します。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:30:30.18 ID:teW5OHYno<>


       はりおん!


   #8 クロスデート〜後編〜




<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:31:29.46 ID:teW5OHYno<>


 さっきから二時間くらいずっとこの調子だ。

 付き合わされる律はいい加減うんざりしていた。

「これ、どうかな」

 試着室のカーテンを開けた澪が、その姿を律に見せる。

「いいんじゃないか」

「ああでも、こういうの子供っぽいって思うんじゃないかな」

「ああもう、いい加減にしろよ!」

 秋山澪は、明日の日曜日に出かけるダブルデートに着ていく服を選んでいるのだ。

 これまでデートなどしたことがない澪にとって、男と会うために私服を買うというのは経験の

ないことだ。

 それは律にもわかる。

 しかし、服でもなんでも直観に任せて「ハイッ」と買ってしまう律にとっては、こういう迷い

まくる行為に付き合うのはあまり好きなものでもない。

 だが、イライラの原因はそれだけではなかった。

(やっぱ、あいつはこういうタイプの服が好きなのかな……)

 陳列されている様々な商品を見ながら、律が思うと再び胸が痛くなってくる。

(くそっ、なんであいつのことばっか考えてるんだよ私)

 律は頭の中にいる播磨拳児のイメージを必死に追い払った。

「律〜」

 不安げな声で澪の声が聞こえてくる。試着が終わったらしい。

「ああ、わかった。今行くよ」

 律は早足で試着室のある場所へと向かった。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:32:46.85 ID:teW5OHYno<>

 そして日曜日である。

「おい、こりゃあ一体どういうことだ」

 県内のテーマパーク前で播磨拳児は戸惑っていた。

「あれ? 播磨、何も聞いてなかったのか」

 私服姿の律が不思議そうに聞く。

「琴吹のお嬢から、美味しいカレー屋があるから食べに来ないかって言われたからよ」

「あいつ、完全に騙したか……」律は小さくつぶやく。

「だからどういうことなんだ」

「いや、実はな」

 律はダブルデートのことなどを簡単に説明する。

「ぬああにいいいいい!??」

 物凄く驚く播磨。

 主人公なのに、この日まで何も聞かされていなかったらしい。

「お嬢め、ふざけやがって……!」

「まあ落ち着け、澪が怯えるだろ?」

「あ?」

 播磨と律の視線の先には、涙目になる秋山澪の姿があった。

 白とベージュを基調としたシックな服装は、秋の空にとても映えるものだ。

 というか、澪の場合はスタイルがいいのでどんな服を着ても似合うわけなのだが。

「すまない、播磨くん。私なんかと……」

「いやいや、違うんだ秋山!」焦る播磨。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:34:11.40 ID:teW5OHYno<>
 女の涙に弱いのは昔から変わっていない。

「おら播磨! 謝れ」律はそう言って怒った。

「くっ……」

 播磨は澪の前に行く。

「秋山……」

「なに? 播磨くん」

「その服、よく似合ってるぜ……」

「え……」

 澪の顔が一瞬で真っ赤に茹で上がる。

「おい! 秋山!」

「ふしゅうう……」

「コラ播磨! 悪化させてんじゃねえか!」

 そんな三人のやり取りを見ながら、一人の男子がつぶやくように言う。

「なんか楽しそうだな」

「あ、麻生くん」律は振り返る。

 今回のダブルデートのもう一人の主役、麻生広義だ。

「ご、ごめん。無視するつもりはなかったんだけど。手のかかる連れが二人もいるもんで」

「播磨とも仲がいいんだな」

「え? まあアイツとは幼稚園から小学校まで一緒に通った仲だしね。
中学校は別々だったんだけど、高校からまた一緒の学校になった。
ま、ほかの男子よりは多少は知ってるって程度さ」

「そうなのか」

「え、うん」

「おい田井中、さっさと行くぞ!」

 遠くから播磨の声が聞こえる。

「うるせえな、わかってるよ! じゃ、麻生くん行こうか」

「ああ」

 秋の終わり、四人によるダブルデートが始まる。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:34:54.27 ID:teW5OHYno<>


「やっぱ遊園地と言ったらこれだよねえ」

 律たちはジェットコースターの前にいる。

「おお、これか!」

「こいつは……」

「高いな」 

 絶叫マシンを前にやたら興奮しているのは、澪であった。

「秋山、お前ェは高いところとか苦手じゃねェのか?」

「私はこういうのは平気だぞ?」

「そうか」

 先ほどまで緊張していた澪が少し落ち着いてきたので律たちは安心する。

「座席のバーはカチリというまでしっかり装着してくださいね」

 係員の指示で、マシンに乗り込む四人。

 前二人が播磨と澪、そしてうしろ二人が律と麻生だ。

「田井中、大丈夫か?」

 ふと、隣の麻生が気にする。

「ああ、うん。大丈夫大丈夫」

 本当はあまり得意なほうではない律だが、子供でもないので強がって見せる。

 発車のベルが鳴り、マシンが動き始めた。

 じわじわと、高いところまで登っていく。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:35:52.23 ID:teW5OHYno<>
 周囲を見回すと、遊園地が一望できる。

「なあ、田井中」

 再び話しかける麻生。

「な、なに? 麻生くん」

「お前、播磨のことは、どう思ってるんだ?」

「え? 播磨?」

(ど、どうしてここでそんなことを……)

 律はすぐ前にいる播磨の後ろ頭を見た。

「どうって言われても、アイツは――」

 そこまで言いかけた所でマシンがガクンと揺れた。

「あ……」

 そして一気に急降下。

「みぎゃああああああああああああああ!!!!」

 結局、麻生の問いに答えられないまま律は絶叫マシンをグルグル回る。

 そして、マシンの時間が終わってもしばらくの間グルグルが止まらなかった。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:36:36.20 ID:teW5OHYno<>
「おい、しっかりしろよ」

「ふみゅう……」

 播磨に抱えられてベンチに連れて行かれる律。

「お前ェ、こんなに弱かったか? 絶叫マシン」

「うるせえな、アタシは女の子なんだからもっと優しくしろバカ播磨」

「何怒ってんだよ」

 あきれた調子で播磨は言う。

「だ、大丈夫か田井中?」

 そんな様子を見て、麻生が心配そうに声をかけた。

「大丈夫だよ麻生くん。平気へーき」

 律は腕を上げて笑顔を見せた。

「播磨、なんかジュース買ってきて」

「なんで俺が」

「俺が買ってくる」

 すかさず動く麻生。

「ああ、いいっていいって。麻生くん待ってよ!」

 律は立ち上がって麻生を止めた。

「お前ェ、動けんじゃねェか」

「人に気ィ使わせるの、慣れてねえし」

「俺にも気遣いしろ」

「バカ」

「ああ?」

「待って麻生くん」

 律は麻生を呼び止めに行った。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:37:42.07 ID:teW5OHYno<>

「次はおとなしめのにしような」

「最初からそうしとけよ」

 次に向かったのはコーヒーカップだった。

 まあ、定番と言えば定番だ。

 組み合わせは言うまでもなく、播磨と澪、そして麻生と律だ。

 コーヒーカップのハンドルをグルグル回しながら、律は楽しそうに昔を思い出す。

「懐かしいな、これ」

「実は俺、これに乗るのは初めてなんだ」と、麻生は言った。

「へ? そうなの?」

「ああ。なんか恥ずかしくて」

「まあな。子供のころならそうかもしれないね」

「田井中は乗ったことあるのか?」

「ああ、うん。小学校のころにね」

「そうなのか」

「あん時は播磨と一緒に乗ったんだっけ」

「播磨と?」

「ああ。あいつ、昔は乗り物とか弱くてさ、あたしがグルグル回したら凄い苦しそうにしてたよ。

まあ、その後調子に乗って、あたしも一緒になって苦しんだんだけどね。アハハハ」

「楽しそうだな」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:38:29.25 ID:teW5OHYno<>
「そう?」

「さっきの話の続きだけど」

「え?」

「その、播磨のことはどう思ってるんだ」

「べ、別に。ただの幼馴染さ。それ以上でもそれ以下でもない」

「でも田井中、播磨のことを話しているときは楽しそうだぞ」

「へ? そ、そりゃああいつバカだし。ちょっとは笑える話も多いだろうしさ」

「そうなのか」

「うん。はい、この話おしまい。はい」

「ああ……」

 律がそう言ったところで、コーヒーカップは止まる。

「次はゴーカートにしようか」

「そうだな」

 なんだかんだ言って、律たちは遊園地を楽しんでいた。

 しかし、

「こ、これは」

 遊園地の定番中の定番、観覧車の前で澪は尻込みをする。

「澪、高いところは平気じゃなかったのか?」と、律が聞く。

「いや、まあ平気なのは平気なんだけど……」

「どうした」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:39:09.51 ID:teW5OHYno<>
「男の人と密室で二人きりなんて、レベルが高いぞ」

「レベルって。今更どうすんだよ!」

「おいどうする、後ろ並んでるぞ」

 播磨も後ろからそう声をかけた。

「あのお、お客さん?」

 係員も心配そうに声をかけてくる。

「くそ」

 その結果――




   *




 観覧者のゴンドラには麻生と播磨の二人が乗っている。

「何が悲しゅうて男二人で観覧者乗らにゃいかんのだ……!」

 播磨は怒りと悲しみの入り混じった声で言う。

「同感だ」

 と、麻生もうなずいた。

 ちなみにもう一つのゴンドラでは、澪と律が乗っている。

「それで、ええと。お前ェ名前なんだっけ」

「麻生だよ。麻生広義。お前は同級生の名前くらい覚えたらどうなんだ播磨」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:39:58.52 ID:teW5OHYno<>
「ああ、悪い。いまだにクラスの半分以上は名前がわからん」

「そうなのか」

「あんま必要ねえしな」

「そうか……」

「……」

 そして沈黙。

 男二人。それも大して話をしたことがない二人が一緒の空間にいたとしても、
話などできるはずもない。

「なあ、播磨」

「あん?」

 そんな中、話を切り出したのは麻生のほうだった。

「お前は、田井中律のことをどう思ってるんだ?」

「なんでんなこと聞くんだよ」

「なんでって、田井中はお前の話をよくしていたからな」

「俺の話?」

「小学校の時の話とか」

「ああ、そういうのか。あいつ、余計なこと言ってなかったか?」

「いや、そこまで聞いてなかった。つか、余計なことってなんだ?」

「いや、何でもねえ。ちょっと墓穴掘っちまった」

「播磨。それで――」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:41:32.15 ID:teW5OHYno<>
「田井中とはまあ、悪友っつうか、腐れ縁っつうか。まあそんな感じ。しばらくは全然接点なくて、
最近またよく話すようにはなったけど、その――」

「ん?」

「全然変わってねえな。昔から」

「昔から?」

「あいつといると、小学校のころに戻ったような気になっちまう」

「……」

「まあ気兼ねなく話ができる女ではあるがよ」

「そうか……」

「なあ、麻生」

「なんだ?」

「お前ェが気になるんだったらよ、俺、あんまりあいつとは話さねェようにするから」

「どうして」

「どうしてってお前ェ、気になる女子がほかの男子と話してるおは嫌だろうがよ。
言わせんな恥ずかしい」

 そう言って顔をそらす播磨。

 麻生はそれを見て、少し彼のことを誤解していたと思った。

「別に――」

「ん?」

「別に気にしなくていい」

「どうした」

「播磨は、これからもいつも通り田井中に接してくれないか」

「へ?」

「そっちのほうが、田井中にとっては幸せな気がする」

「幸せ?」

「ああ」

 麻生は笑顔でうなずく。



   *

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:42:52.02 ID:teW5OHYno<>

 一方その頃、別のゴンドラでは。

「おいおい澪。ここに来て怖気づいてんじゃねえぞ」

 律が先ほどまで震えていた澪をなだめる。

「ごめん、律」

「まあ、いいけどさ。実はちょっと助かった面もあるし」

「助かった?」

「ああ、うん。澪が泣きださなきゃ、あたしと麻生くんが一緒に乗ってたからな」

 そう言って、律は播磨と麻生の乗ったゴンドラを見上げる。律から見ると、
今は上方にあるゴンドラなので、中の様子はわからない。

「どうして、麻生くんと一緒になったらダメなんだ? 嫌いなのか?」

「いや、別に嫌いじゃないよ。カッコイイし、やさしいし、あのバカと違って気遣いもできる」

「『あのバカ』って、播磨くんのことか?」

「え? ああ……。それより澪だって」

「え? 私がどうした」

「播磨と二人きりは嫌だったのか」

「いや、そうじゃない。むしろその、いや……」

 澪の顔が真っ赤に染まる。想像の中で何をやっているのか。

「なあ、澪」

「なんだ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:44:11.21 ID:teW5OHYno<>
「播磨のこと、好きか?」

「はっ!?」

「今年になってから、あいつとよく話をするようになったじゃねえか。
去年まで、男子と話すなんて考えられんかったけど」

「いや、それとこれとは……」

「なんだよ」

「……播磨くんには、感謝している」

「感謝?」

「私を縛り付けていた鎖みたいなのを、断ち切ってくれた気がする」

「縛る鎖……」

「私は、あまり精神的に強くはないからな。でも播磨くんと会ってから、もっと強くなろうと
思えた」

「思えた?」

「うん。今までも思っていはいたけれど、なかなか踏み出せなかったんだ。
でも、なんていうかな。近くにいるだけでも力が湧いているというか」

「澪……」

 先ほどまで涙目だった澪が、播磨の話をするたびに元気になっていく。

(澪、そりゃあ間違いなく恋だよ……)

 律はそう思ったけれど、それを口にすることができなかった。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:45:12.84 ID:teW5OHYno<>


 時間はあっという間で過ぎて行く。

 特に空きが深まるにつれて日照時間も短くなるので、昼間の時間がとても短く感じる。

 テーマパークの広場で、麻生と律は二人きりでいた。

 播磨と澪は、気を使って別の場所に行ってくれたのだ。

 ここで、二人きりの話ができる。

 夕日に照らされる麻生はカッコイイな、と律は思う。

 ただ、それを見て彼女の胸が高鳴るかと言われれば別問題だ。

「今日は楽しかったよ、麻生くん」

「田井中……」

 麻生は何か言おうとする。

 しかし、律はその言葉を止めるように言った。

「でもごめんね。やっぱり、あなたとは付き合えない」

「そうか」

 麻生は、少しがっかりとしたような顔をしたけれど、思ったほどショックは受けているようには
見えなかった。

 そして、

「やっぱりな」

 と言った。

「やっぱり?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:45:59.23 ID:teW5OHYno<>
「ああ。田井中、やっぱりお前、播磨のことが――」

「ど、どうしてここで播磨の名前が出てくるのさ!」

「いや、いい。わかってる」

「ちょっと麻生くん!」

「田井中はもっと素直になったほうがいい。そっちのほうが可愛い」

「か……、可愛い!?」

 律は赤面する。

「じゃあな、田井中。俺は先に帰らせてもらう」

「え? 麻生くん帰っちゃうの?」

「俺には、お前を送る権利はないようだ」

「権利って」

「さよなら。“田井中律さん”」

 そう言うと、麻生は背中を向け歩いて行った。

 律はその場に取り残される。

 走ればすぐに追いつける距離。

 でも律は、追いかけなかった。その場にとどまり、彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送った。




   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:46:51.29 ID:teW5OHYno<>
 律が電話をかけようとすると、不意に声がかかる。 

「おい、田井中」

 播磨の声だ。

「律」

 澪も一緒にいる。心なしか、播磨と澪の距離が縮まっているように彼女には見えた。

「おい、麻生はどうした」

 播磨が周囲を見回す。

「麻生くんなら帰ったよ」

「帰った?」

「うん。急用があるって……」

「そうなのか、残念だな」澪は少しだけ悲しそうに言う。

「残念か……」

 ふと、律は何かを思いついたように播磨の腕に巻き着いた。

「り、律!?」

 驚いたのは播磨よりもむしろ澪のほうだ。

「おい、どうした」

 しかし律は気にせずに話しかける。

「なあ播磨」

「あン?」

「お前にあたしを送る権利をやる」

「はあ?」

「ありがたく受け取れ!」

「ちょっと待てよ!」

「その前に飯だ!」

 律の突然の行動に播磨も澪も混乱した。

 でも、

「仕方ねェ」

「まったく律は」

 すぐに平静を取り戻し、帰るために歩き始めるのだった。




   クロスデート! 

    お わ り <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/13(金) 20:49:18.33 ID:teW5OHYno<> 切ない。だが麻生は振られてもイケメン。

そして次回で最終回です。

クリスマスイヴに播磨が立てた作戦とは?

短い間でしたがありがとう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/01/13(金) 21:56:37.80 ID:Csu0SGPAO<> 乙!
もう終わっちゃうのか……寂しいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/01/13(金) 21:57:20.86 ID:OSv3E7IIo<> 金髪お嬢様=お嬢

相変わらず麻生はイケメンだなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/14(土) 18:04:48.37 ID:x327hhBIO<> 麻生はやはりイケメンだな。
次回で終わりとは寂しいな、また何か書いてくれるよな?

>>1乙 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:40:37.79 ID:49+vdMn5o<>  はじまりがあれば終わりがある。

 基本的に思いつき企画なので仕方ないのでございます。

 それでは、行きましょう。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:41:10.05 ID:49+vdMn5o<>


        は り お ん !


   ♯9 クリスマスにはラヴソングを

<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:41:53.26 ID:49+vdMn5o<>


 12月のはじめ。冬の訪れを告げる木枯らし一号が吹いたころ、期末試験を前にした学校は年末

の様相を見せていた。

 寒さを感じさせる冷たく乾いた空気はまた、妙に気分を高揚させる効果もあるようだ。

「おいーっす」

 テスト期間の始まる直前に、播磨は軽音楽部の部室に呼び出されていた。

「遅いぞ播磨」

「播磨くん」

「播磨先輩」

「あ、いらっしゃい」

「ごきげんよう、播磨くん」

 軽音楽部のメンバーである、律、唯、梓、澪、そして紬の五人が楽器の前で待ち構えていた。

「どうしたんだ珍しい。お前ェらが楽器かまえてるなんて」

「何が珍しいだよ。あたしらは軽音部だよ」

「そうだったな」

 最近あまり演奏している姿を見なかったので、忘れるところだった。

「で、今日はなんだ?」

「うん。新曲ができたから播磨くんに聞いてほしくて」

 ギブソンのギターを持った唯が言う。

 新学期早々怪我をした左手も、今はすっかり治っているようだ。

「新曲?」

「そうだぜ。澪が作詞した新曲」

「う……」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:42:32.47 ID:49+vdMn5o<>
 律がそう言うと、ベースを持った澪が顔を伏せる。

「今回の詞は、わりとまともですよ先輩」

 嬉しそうに言うのは梓だ。

「やっぱり経験者は違うのかしらね、ふふ」

 そう言って紬が笑う。

「経験ってなんだ?」

 播磨が唯に聞くと、

「さあ」

 唯は首をかしげる。

「そんなことより、さっさとそこに座れ。あと寒いからドア閉めろ」

 律はスティックで播磨に指示を出す。

「うるせえな。ちょっと待ってろ」

 播磨は言われた通り、ドアを閉めて部室にある椅子に腰を下ろした。

「じゃあ、行くよ」

 律がスティックを叩く。

 播磨は懐かしいと思った。

 そういえば、軽音楽部としての演奏を目の前で聞くのは久しぶりな気もする。

 小気味よいドラムの響きが腹に届くようだった。




   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:43:21.15 ID:49+vdMn5o<>

 一曲、約三分間の演奏が終わる。

「どうだった?」

 最初に声をかけてきたのは唯である。

「よかったぞ、平沢」

「そっか」

 演奏中、播磨の視線は唯に釘づけてあったことは言うまでもない。

「播磨くんには今年色々とお世話になったから、やっぱり一番に聞いてもらいたかったんだ」

「そ、そうか……」

(うおっしゃあああああああああ!!!!)

 播磨は心の中でガッツポーズをした。

「まあ、一番聞いて欲しいのは、澪の歌詞についてなんだが」

 そう言って身を乗り出したのは律だ。

「歌詞? ああ、秋山が作詞したんだよな」

「え? うん」

「よかったぞ、秋山」

「あ、ありがとう……」

 澪は、播磨から少し離れた場所でベースを抱えたまま、恥ずかしそうにモジモジしていた。

「期末テストが終わったらすぐにクリスマスだからねえ」

 唯はすごく楽しそうに言う。

「クリスマス?」

「だってもう12月だよ」

「そういえば」

「クリスマスにふさわしいラヴソングだよ、播磨くん」

「そうか。平沢」

「なに?」

「クリスマス、楽しみか?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:44:42.07 ID:49+vdMn5o<>
「そりゃあもちろん。楽しみだよ。播磨くんもそうでしょう?」

「ん、ああ」

 播磨の脳内コンピュータが久しぶりに動き出す。


 クリスマスは楽しい → クリスマスに告白 → ロマンティックが止まらない


(これだ!)


 播磨は立ち上がった。

「どうしたの? 播磨くん」

「いや、ちょっと思い出しちまってな」

「思い出す? もしかして期末試験のこと?」

「な……!」

(しまった、そっちもあったか)

 言うまでもなく播磨は勉強が苦手である。

「まあ、それもある。じゃあ、俺行くな」

「うん」

「練習頑張れよ」

「あいっ」

 唯の笑顔の見送りに、播磨は胸を熱くする。

(クリスマスイヴの告白、決めてやるぜ)




   *
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:45:50.92 ID:49+vdMn5o<>


 それから二週間、テスト期間に入る。

 播磨は真鍋和が主催する勉強会などに参加して、なんとか及第点を取れるほどの学力を
身に着けつつ、クリスマスイヴに向けて動きを加速していく。

(絶対に唯ちゃんと幸せなクリスマスを迎えてやるぜ)

 播磨はいつになく燃えていた。

 家に帰ってからも当然勉強だ。

「あの拳児くんがあんなにも頑張って勉強するなんて。さわ子はうれしい」

 そんな播磨の姿を見て、同居人であり教師でもあるさわ子はうれし泣きしていた。

 しかし、今の播磨にそんなことを気にしている余裕はない。

 知り合いの喫茶店を借り切って、パーティー会場にする段取りをつけると、
パーティーへの参加者を募った。

 もちろん、平沢唯だけを誘うと目立つので、他の軽音楽部の部員や、数少ない知り合いも誘う。

 ちなみに麻生にも声をかけたが、これは断られた。

「クリスマスパーティー? 行く行く!」

 パーティーの話をすると、唯は素早く食いついてくれた。

「珍しいなあ、播磨がそんなこと企画するなんて」

 一緒にいた律がそんなことを言う。

「田井中、お前ェはこなくてもいいぞ」

「なんだそりゃ! 行くよ、あたしも行く」

「わ、私も行ってもいいのか?」

 遠慮がちに聞いてきたのは澪だ。

「ああ、もちろんだ。店は割と広いから、あんまり少ないと寂しくなるぜ」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:46:26.50 ID:49+vdMn5o<>
 そのほかにも、紬や梓、それに生徒会の役員も誘ってみた。

 パーティーに参加するメンバーを数えながら、播磨はふと思った。

 一年前の自分のことだ。

 昨年はたった一人でクリスマスを過ごしていた気がする。

 しかし、二年生になってから一気に知り合いが増えた。

 それも、単なる表面上の付き合いではない、それなりに大切な関係だ。

(いかんいかん、感傷的になるのはまだ早ェ)

 播磨は期末テストが終わると、テストの採点に目もくれず、クリスマスパーティーへと
突き進んだ。





   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:48:26.24 ID:49+vdMn5o<>

 クリスマスに平沢唯に告白する。

 この一つを実行するためだけに播磨はクリスマスパーティーを企画し、そして実行するのだ。

 二学期の終業式が終わると、彼は素早く会場となる喫茶ランブルへと向かう。

 店はすでに片づけられており、オカマっぽい(ただし、身体はマッチョな)店長が待ち構えていた。

 店内がわりと広かったので、田井中律の希望で軽音楽部がバンド演奏もしてくれるという。

 これは播磨にとってうれしい演出だ。

 すでに前日までにバンド用の機材が店内に運び込まれており、店のスペースをかなり
占拠していた。

(店長、アンタの商売これでいいのかヨ)

 播磨は店の心配を少ししてみたけれど、別に自分が心配してもしかたないと思ったので忘れる
ことにする。

(とにかく今はパーティーの準備だ)

 飲食店のアルバイト経験もある播磨にとって、宴会の準備はお手のもである。

 播磨がパーティーの準備に夢中になっていると、不意に、入口のドアに取り付けてあるベルが
鳴った。

「あ、スンマセン。今日は貸切なんっすよ」

 そう言って顔を上げると、そこには見知った顔が二つ。

「田井中に、秋山」

「よう、播磨」

「播磨くん」

 制服の上にコートを着た田井中律と秋山澪である。澪は、背中にソフトケースに入れたベースを
背負っている。
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:49:23.02 ID:49+vdMn5o<>
「お前ェら、まだ早ェぞ」

「へへ。あんたが急いで学校から出るの見てるからさ」そう言って律は笑った。

「私たちも手伝おうと思って」

 澪もそれに続く。

「ん、そうか」

「ま、演奏の準備もあるし。ほかの人に機材触られるのもなんだし」

 そう言うと、律は店の隅に積んである演奏用の器材を見る。

「そういやお前ェはドラムだから、セットには時間かかるな」と播磨。

「ギターやベースも、音合わせとかあるから早めにやっておいたほうがいいんだけどね」

 澪もそう言って笑う。

「よっしゃ、とりあえず何やろうか」律はコートを脱いで腕まくりをしようとする。

「別にそこまで焦らんでいいだろうが」

「ああそう。じゃあコーヒー淹れて、播磨」

 そう言うとドカリと椅子に座る律。

「そりゃ寛ぎ過ぎだ」

 こうして三人でのパーティー準備が始まった。

 料理のほうが、基本的に店長が全部作ってくれるのだが、できるものは自分たちでやろう、
という播磨の方針のもと、澪や律も手伝うことにする。

 しばらくすると、梓や紬、それに妹を連れた唯もやってきた。

「おお、すごいね。なんかパーティーっぽいね」

 準備のできつつある会場を見て唯が興奮する。

(私服姿の唯ちゃんも可愛い)

 唯の私服姿に感動する播磨。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:49:52.75 ID:49+vdMn5o<>
 すると、彼の前に唯にそっくりな少女が現れた。

「あの、播磨先輩。姉がいつもお世話になってます」

 目元や顔の輪郭がよく似ている。

「お前ェさんは確か」

「はい、平沢唯の妹、平沢憂です」

 そう言って、憂は笑った。

「そうか。妹さんはお姉さんそっくりだな」

「うふふ。よく言われます」

 播磨の言葉に、憂はかなり喜んだようだ。

 夕方になって日が暮れてくると、人がどんどんと集まってきた。
  
「拳児くん、料理できたあ?」

 仕事を終えた山中さわ子が入ってくる。

「おっす、播磨。お招きありがとう」

 メガネをかけて、カメラを持った男子生徒もやってきた。

「お前ェ誰だっけ」

「冬木だよ冬木! 忘れたの? あんだけ選挙頑張ったじゃん」

「ああ、いたな」

 冬木はそう言って怒ったが、すぐに機嫌を直す。

「いやあ、可愛い女の子いっぱいきてるなあ。今日はいい写真が撮れそうだ」

「ネットに流したらコ●スからな、メガネ」

「やだなあ、そんなことしないよ」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:50:42.33 ID:49+vdMn5o<>
 再びドアのベルが鳴る。

「こんばんは先輩」

 長い黒髪の少女が入ってきた。

「おう、榛名。久しぶりだな」

「はい、ご無沙汰してます」

 一年生の東郷榛名だ

 彼女とは、冬木と同じく生徒会長選挙で一緒に戦った“戦友”でもある。

 しかし、

「いよう、播磨」

「お前ェは呼んでねェぞ……」

「ごめんなさい、勝手に付いてきちゃって」

 黒髪ロングヘア、ただしマッチョでウザイ榛名の兄、東郷雅一(愛称マカロニ)も
一緒についてきてしまった。

「ついでに私も一緒だ」

「お前ェ誰だ」

 今度は金髪の男。

「私は二年四組、ハリー・マッケンジー」

「ああ、そう」

「認めたくないものだな、出番が一切なかったことを」

「いや、そこは認めろよ。今日初登場だろ」

「ふっ、気にしなければどうということはない」

「勝手にしろ」

 そしてまた招待客がくる。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:51:10.01 ID:49+vdMn5o<>
「こんばんは」

「おう、真鍋か」

 生徒会長の真鍋和である。

「ああ、メガネが」

 入ってくるなり、和のメガネが曇る。

「おっとっと」

 急に前が見えなくなった和は、バランスを崩してしまった。

「おっと」

「あっ」

 倒れないように、前から和の身体を支える播磨。

「あ、ありがとう」

「いや、どうってことねェ」

 播磨は和の身体を抱えて、しっかりと立たせる。

「播磨くんには支えられてばかりだね」

「そうか?」

「うん」

 その時、

「あー!」

 今まで大人しくしていたはずの梓が叫ぶ。

「なんだ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:52:09.02 ID:49+vdMn5o<>
「播磨先輩が、生徒会長にセクハラですー!」

「なんでそうなるんだよ!」

 わりと広いと思っていた店だが、十人以上入ってくると狭く感じる。

 その後も、クラスの連中や生徒会の役員などが合流して、パーティーは結構な人数となった。

「それでは、今日のパーティーの主催者(ホスト)である播磨拳児さんより挨拶をして
もらいたいと思いまーす」

 飲み物の入ったコップが全員分行きわたったところで、律は叫んだ。

「え? 俺かよ」

「他に誰がいるんだよ」

「ぐ……」

 播磨はコップを持った状態で、参加者の前に立つ。

 全校生徒の前で演説をしたことがあるといっても、こういう人前で喋ることは苦手である
ことに変わりはない。

 かつての澪のように、ガタガタ震えることはないけれど、それでも少し緊張した。

「今日は、集まってくれて、ありがとよ」

 播磨はそう言って、店内にいる顔ぶれを眺める。

 みんな、知っている顔ばかりだ。

「今年は色々あったけど、なんか、お前ェらと会えたことが、その……」

 上手く言葉が出ない。

「とにかくっ! 今年一年お疲れさん。来年も、頑張ってくれ」

「先輩も頑張ってください!」

 梓がそう言うと、パーティー会場は笑いに包まれた。

「まあいい、とりあえずさわ子」

「へ? 私?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:52:53.94 ID:49+vdMn5o<>
 すでにビールを飲んで顔が赤くなっている山中さわ子の名前を呼ぶ播磨。

「ここで一番年長なんだ。とりあえず乾杯の音頭を取ってくれ」

「そう? しかたないわねえ。もう私飲んでるけど」

 そう言って、台の上に上るさわ子。

「それじゃ、今年一年お疲れ様! メリークリスマスでカンパーイ!!」

 酒が入っているので、さわ子の乗りも良かった。

 こうしてクリスマスパーティーが始まる。

 特にゲームなどを用意していなかった播磨だが、その代わり紬がビンゴゲームと商品まで
用意してくれた。

 また、バンド演奏も好評であった。

 唯や澪が歌い、そして静かな演奏からノリノリの歌まで聞ける。

 とても楽しい時間。

 そこで播磨は危うく、その目的を忘れそうになっていた。

(いかん、いかん)

 パーティーの終わりに、播磨は本来の目的を思い出す。

(今日はチャンスなんだ)

 播磨はそう決意し、唯に話しかける。

「ひ、平沢」

「ふえ?」

 クリスマスパーティーを全力で楽しみ、満足げな顔をした唯の顔がそこにあった。

「実は少し話があるんだ」

「話?」

 心拍数が上がる。

 それでも言わなければならない。



   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:54:05.94 ID:49+vdMn5o<>
 夜の公園は寒かった。

 このままじっとしていたら、いくら平沢唯でも風邪をひいてしまいそうだったので、
播磨は急いで気持ちを込める。

「どうしたの? 播磨くん」

「ひ、平沢」

 心臓の高鳴り。

 夏休みのあの野外フェス、

 文化祭の演奏、

 選挙の応援演説、


 胸がドキドキしたことはいくつもあったけれど、今夜ほど緊張したことはない。


「平沢!」

「お、おれ。お前のことが……」

「……」

「す、好きなんだ」

「好き?」

「ああ」

「私も好きだよ? 澪ちゃんや律っちゃんと同じくらい」

「いや、そういう好きじゃないんだ」

「へ……」

「だから、愛してるのほうの、好きだ」

「それは、パパとママのような?」

「お、おう」

「……播磨くん」

「あ、ああ」
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:54:59.16 ID:49+vdMn5o<>
「私、播磨くんにはすごく感謝しているよ。色々協力してもらったし、今日のパーティーも
楽しかった」

「ああ」

「私も、播磨くんのこと好きだけど、その……」

「え……?」

「そういうのとは、違うかな」

「ち、違う?」

「うん。ごめん。本当に。付き合うとか、そういうのは、ちょっと考えられない……」

「そんな」

「ごめん」

 そう言うと、唯は播磨の前から足早に立ち去って行った。

(嘘だろ……)

 播磨はその場に膝をつく。

 全身の力が抜けたようだ。

 播磨は今までのことを思い出す。

 平沢唯と同じクラスになってから、とにかく色々頑張ってきたけれど、

(あれ? もしかして)

 そこで播磨は気付く。


(あんまり唯ちゃんの好感度って、上がってなかったんじゃね?)


 播磨はこの時ほど、自分の愚かさを呪ったことはなかった。

 ふと、自分の手の甲に冷たいものを感じる。

 最初雨かと思ったけれど、顔を上げてみると違った。

 ふわふわと、白いものが舞い降りてきている。 

(雪か)

 公園の外灯に照らされた雪は、ゆっくりと地面に舞い降りていた。





   * <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:55:50.64 ID:49+vdMn5o<>

 
 しばらく公園のベンチでボーっとしていた播磨だが、このままだと本気で凍死してしまいそう
だったので、仕方なく帰ることにした。

 唯に振られたショックから、このまま凍死するのも悪くないと思った播磨だったが、
残念ながら生きようとする本能が強く働いたらしい。

 芯まで冷えた体に鞭打つように、ヨロヨロと歩き出した。

 ふと、携帯電話を見る。

 そこには着信と、いくつかのメールが入ってきた。


『メリークリスマス、楽しいパーティーをありがとう』


 他愛もないと言えばそれまでだが、そんなメールがいくつも入っていた。

 冬木、榛名、和、東郷、紬、梓、澪、律、そのほか、色々な人からのメッセージ。

 自らの愚かさゆえに好きな人の心をつかめなかった播磨。

(だけど、俺が唯ちゃんを好きになったことは、決して無駄なことじゃねェ)

 播磨はそう自分に言い聞かせるようにして、再び歩き出す。


















<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:56:33.45 ID:49+vdMn5o<>

   エピローグ





 大晦日。

 播磨はコタツの中に入ってぼんやりテレビを見ていた。

「ねえ拳児くん」

「なんだ?」

 播磨と同じようにコタツに入ってテレビを見ているさわ子が聞いてくる。

「今年は実家、帰らないの?」

「ああ。さわ子こそ、帰らねェのかよ」

「私は……、ほらね」

「なんだよ」

「まあ、それはともかく、初詣行こうよ拳児くん」

「ああん? なんでだよ」

「だって、お正月よ? もうすぐ十二時だし」

「一人で行きゃあいいだろう。俺はパス、面倒くせェ」

「もう、クリスマスパーティーの時のあの情熱はどうしたの」

「クリスマスの話はすんな!」

「もう」

「……」

 播磨はすっかり拗ねてしまい、そのままテーブルにもたれるようにしてテレビを眺めていた。

 その時である、 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:57:01.96 ID:49+vdMn5o<>
《ピーンポーン》

 呼び出しのチャイムが鳴る。

「ねえ、拳児くん」

「なんだよ」

「人が来た」

「さわ子が出りゃいいだろう」

「わたし、無理」

「何でだよ」

「だって今、スカートはいてないし」

「履けよスカート! 何やってんだよ」

「てへへ、コタツが熱くて」

「つか、今から履いて行きゃいいだろ」

《ピンポンピンポンピンポーン》

 チャイムが激しく鳴る。

 どうやら連打しているようだ。

「ほら、拳児くん」

「ったく、面倒くせェなあ」

 そう言いつつも、播磨は立ち上がる。

《ピンポンピンポンピンポンピンポン!》

「ああわかったから連打すんな!」

 播磨はそういいつつ、玄関のドアを開ける。

 すると、
<>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:58:07.28 ID:49+vdMn5o<>
「あ……」

「遅いぞ播磨! すぐに開けろよ、寒いんだから」

「こ、こんばんは」

 田井中律と秋山澪であった。

「お前ェら、なんでここに」

「はあ? なんでって、播磨が一人寂しい年末年始を過ごしてるって聞いて、
こうして美少女二人が冷やかしにきてやったんだぞ」

「美、少女……?」

「あたしを見て疑問形にすんな!」

 と、怒る律。

「ご、ごめん。迷惑だったかな」

 そして申し訳なさそうにする澪。

「いや、別に。みかんくらいしかねェけど」

「さっさと中に入れてくれ、寒いんだから」と律はせかす。

「お前ェは帰れ」

「なんでさ」

 何だかんだ言いつつも、播磨は律と澪を部屋の中に入れた。

「あら律っちゃん澪ちゃん、あけましておめでとう」

「先生、まだ早いですよ」

「そうだっけ?」

 居間ではスカートを履き終えたさわ子が出迎える。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:59:14.35 ID:49+vdMn5o<>
「まあまあ、外は寒かったでしょう? ほら、コート脱いで」

「へへ、すいません」

「どうも」

 言われるまま、律と澪は上着を脱ぐ。

「ああ寒っ」

 律たちと違って部屋着の播磨は寒くなったのでコタツに入りなおす。

「あたしたちも入っていいか?」

 と、上着を脱いだ律が聞いてくる。

「勝手に入れよ。ほら、秋山も」

「は……、はい」

「どこに入ってもいいんだな」

「ああ……」


 そして、


「おい」

「なんだよ」

「……」

「何やってんだ」

 律と澪の二人は、播磨を挟むようにして隣に座っている。

「狭いんだからあっちのほうに座れよ」

 そう言って播磨はコタツの対面や側面を指さす。 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 21:59:45.44 ID:49+vdMn5o<>
「どこに入ってもいいって言ったじゃねえか」

「俺の隣は狭いだろ。いくら長方形の天板だからって、ここは二人並ぶのが限界だぞ」

「じゃあ澪、向こう行ってくれ」

「嫌だ、律が向こうに行け」

「だったら俺が出る」

 そう言って立ち上がろうとすると、律が播磨の服を引っ張った。

「あんたが出て行ったら意味ないだろう?」

「そうだ、播磨くんはここにいろ」

「なんなんだよお前ェらは」

 その時再び、

《ピンポーン》

 呼び出しチャイムが鳴る。

「誰か来た」

 先ほどまでコタツを出るのを渋っていた播磨だが、今度はすぐに抜け出す。

「あー」

 律の残念そうな声が聞こえてきた。

「誰だ?」

 玄関のドアを開けると、そこにはメガネをかけた髪の短い少女。

「真鍋」

「来ちゃった」

「へ?」 <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 22:00:36.75 ID:49+vdMn5o<>
 真鍋和が来たことにより、播磨の年越しは例年になくにぎやかなものになった。

「和、私のことを応援してくれるんじゃなかったのか?」

「それとこれは別だよ、澪」

「播磨、あたしの雑煮はモチ二つ」

「うるせえぞ田井中!」

「若いっていいわねえ」

(来年一年もまた、色々ありそうだ)

 いつも以上ににぎやかなマンションの光景を見ながら、播磨は少しずつ元気になっていく
自分の心を感じた。












   は り お ん!


      完    <>
◆tUNoJq4Lwk<>saga<>2012/01/14(土) 22:06:07.94 ID:49+vdMn5o<>
 これにておしまい。

 オジサンには、アニメ版のま○ろ色みたいに誰かを泣かすことはできなかった(麻生のことは言うな)。

 さて、この先どうなるんでしょうか。

 澪と一緒にいれば、天然ラブラブ空間ができるし、律と一緒なら夫婦漫才。

 和と一緒なら、公私ともによきパートナーになれるか?

 色々な可能性を残しつつ、物語は終わります。

 今まで応援してくださったかた、ありがとう。

 結局、横山さんって誰だったのかな。

 それでは、またいつかどこかでお会いしましょう。



   追伸

 まだはりまどオルタナティブが残っているけれど、とにかく芥川賞目指して頑張ります。

 それでは、さよなら!


 ◆tUNoJq4Lwkイチジクでした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>sage<>2012/01/14(土) 22:29:53.18 ID:2Q5P9dM50<> がんばって
ペンネームとか教えてくれたら
いつか見ることができるかも <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/14(土) 22:53:36.65 ID:WjBi5L2DO<> おつ!
いやーよかった。こういう普通のラブコメ、なんか久しぶりだったよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)<>sage<>2012/01/14(土) 23:20:05.62 ID:uT9mnynGo<> ふぅ、楽しかったぜ   乙様 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/01/14(土) 23:31:48.42 ID:009S4nmwo<> 乙ッ!!
>>1乙ッ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/01/15(日) 00:26:00.25 ID:8xywqZ/5o<> 乙

大団円だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/15(日) 01:59:30.03 ID:FfFBolLFo<> 圧倒的乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/15(日) 09:58:48.82 ID:zf+KE2cIO<> 限りなき乙
けいおん見た事ないけど楽しめたわ。
播磨も良く書けててしっくりきた。
お疲れさまでした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/01/15(日) 10:26:42.64 ID:UzyKKiw7o<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/01/15(日) 12:10:28.78 ID:imEqBhNB0<> 予想以上に唯が空気だった

和ちゃんとくっつくところまで書いてくださいm(__)m <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/15(日) 16:42:39.21 ID:LtFZnXM2o<> 憂の絡みもっと欲しかった
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/16(月) 04:33:25.83 ID:Om+y4+TN0<> 俺得なクロスでとっても楽しめました。
お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)<>sage<>2012/01/16(月) 19:52:38.85 ID:JDv4MMbHo<> 唯は天満ポジだから空気になりやすいかもなぁ

俺はてっきり憂が八雲になるのかとばかり・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/17(火) 01:35:10.40 ID:JB3VuZbEo<> とりあえず乙です
天満と八雲の関係と唯と憂の関係が出来る妹とちょっとアホな姉で同じだし憂と播磨の絡みも見てみたいなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中国・四国)<>sage<>2012/01/18(水) 10:20:54.16 ID:1LPvuZIAO<> 終わったか <>