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HTML化した人:lain.
魔王「異世界でネトゲしてくる」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 13:20:38.67 ID:g2OIaAUDO


「側近よ、わらわは隠居することにした」
「――は?」
敬愛する主君から粛々と告げられた報告に、敵軍指揮官をして沈着冷静と称えられる側近の顔が歪む。
門扉から玉座までを金糸の織り込まれた絨毯が橋渡す、大理石の広間。
絢爛の限りを尽くした王の間には、玉座とその傍らに控える二者だけが佇み、密談を交わしていた。
「……またまた、ご冗談を」
側近は感情味の乏しい表情に戻り、やれやれと首を竦めて言う。
薄々、冗談ではないと察していた。
しかし無理だ。
すんなりと受け入れられない。
皆が思い描く人物像ほど、彼女は物分かりもよくなければ、達観も諦観もできていなかった。
「冗談ではない。冗談は好むが、このように面白味のない冗談は口にせぬ」
絞り出すように、主君は否定の言葉を紡ぐ。
その言葉が、側近の淡い希望を完膚なきまでに打ち砕くと分かっていたのだろう。
王者として悠久を生きたとは思えぬ幼い容貌は悲哀に濡れ、まるで母親に叱られた無垢な幼子のようであった。
「……っ、な、なるほど、隠居したと見せかけて不穏分子を誘き出すのですね。深謀深慮のほど、恐れ入ります」
「違う、違うのだ、側近よ」
希望を断たれてもなお足掻く側近に、一層悲しみを深めた声音が届く。
その瞬間、側近は生まれてきたことを恥じた。
降りかかる火の粉を払うと誓った自らが主君に更なる説得を強き、長引かせた責め苦で苦しめたからだ。
主君の態度を見ればそのような思惑ではないと、すぐに理解していたのに。
ありべからざる失態に呆然とする側近を見つめ、主君は口を開いた。
「宣戦布告してきた人間らと戦端を開いてから幾星霜。
いわれのない悪行で侵略を仕掛けてきた人間も、今や知性ある魔族に傷をつけることも叶わず、破壊衝動しか持たぬ魔獣しか害せぬほど脆弱になった。
最早、わらわは無用の長物であろう。政《まつりごと》においても、な」
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/01/07(土) 14:00:53.74 ID:G90aER/No
セリフは改行してくれ
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 14:07:01.62 ID:g2OIaAUDO
側近は感情味の乏しい〜のところ、
『感情味の乏しい表情に戻り、やれやれと首を竦めて側近は言う』に訂正
細かいことなのでどうでもいい人は流してください



「そ、そのようなことは――」
「ない、とは言えぬであろ?」
「っ……」
先回りして押さえ込まれ、側近は苦しげに呻く。
主君の言う通りだった。
敵軍の脆弱な兵力では、仮初めの命を吹き込まれ破壊と殺戮に酔いしれる魔獣しか、対抗しきれない。
未だ戦争を続けている理由はこちらの意思だ。
かつていた数少ない人間の友と、国の言いなりになるしかない弱き人々。
魔族と人は相容れない。
しかし、彼らが国の思惑で運命を弄ばれ、散っていくさまは筆舌に尽くしがたい感傷を沸き上がらせた。
征討されたふりで終わらすことも考えたが、人間の手で世界が平定された先に待つのは、人間同士の争い。
先見の能力《ちから》を持つ魔族は、皆同じ未来を予測した。
だから、一芝居打つことにしたのだ。
手の足りないところにだけ魔獣を配置し、双方の犠牲を最小限に食い止めた。
それでも戦場で散り、長い年月をかけて積み上がっていく屍の山。
泰然としながらも、主君が胸の内に葛藤を秘めていたことを、側近は知っている。
直接手を下さぬから、生き残るためだからと、[ピーーー]業を誤魔化そうとはしない方だから。
そして、主君の戦闘能力は手心を加えても甚大な被害をもたらす。
政治能力で言えば、主君を凌ぎ、主君の後釜となれる人材が大勢いる。
私情を抜きにすれば、訥々と語られた内容は事実だった。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 14:13:16.36 ID:g2OIaAUDO
うわ、改行しないと見にくいですね
すみませんこれから開けて書きます

あと、「訥々と」って余計な単語入りました
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 14:57:42.34 ID:kapEMJRIO
メール欄にsagaいれとこう
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 14:58:16.65 ID:g2OIaAUDO


「……わらわを軽蔑したか」

再び、喉の奥から絞り出すようにして話す主君。
その言葉は二の句を継げないでいる側近、その意識を引き戻し白熱させた。

「何を仰るのですか! そのようなことあるはずがないでしょう!?」

「我らの宿願、我らの悲願。すべてを放り出して逃げ出そうとするわらわは、その場で裏切り者と切り捨てられたとて、文句は言えぬ」

「なっ……!」

側近の顔が驚愕に染まる。
白熱した思考は言葉すら忘れさせ、陸に引きずり出された魚のように、ただただ口をぱくぱくと喘がせるだけ。
思い詰めた顔で力なく首を揺らす主君は、今にも自決してしまいそうなほどだ。
そして、今までの比ではない苦渋に満ちた様子で逡巡して、辛酸を飲むかのように言い放つ。

「異界から流れくる、ビックリマンチョコとやらに付いているシールを全種類集めるという誓い……!
神々との死闘のさなかに結び、そなたらと共に走ったあの懐かしき日々を裏切るのならば、殺されて当然じゃとわかっておる!
しかし……っ、しかし……っ!」

「陛下……」

「アレが流れくる周期は三百年!
それではっ、それでは間に合わんのじゃっ!!」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 15:05:50.92 ID:g2OIaAUDO
メール欄にsagaって入れないとピーされるんですね
ちなみにピーに入るのは「殺戮」です

はじめて書くのでマナーのなってないところがあればぜひ教えてください
>>3>>5助かります、ありがとうございました
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 15:21:53.09 ID:g2OIaAUDO


「なぜ……っ、待つことに飽いてしまわれたのですか!?」

是、と答えようと主君に仇なすなど毛頭考えていない。
だが側近は問わずにはいられなかった。
稀少なビックリマンシールを自慢げに見せびらかしてくる神々から奪い取った時。
異界から流れくるビックリマンチョコを掴み取ろうと、裸一貫で時空の狭間に飛び込んだ時。
神々との死闘で、時空の狭間に飲み込まれて、屈強で強靭な同胞が、フルコンプという志半ばに倒れていった。
その犠牲を、無に帰すというのか。
誰よりも同胞の犠牲を悼んでいた主君が口にした諦め。
信じがたかった。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 16:53:51.78 ID:g2OIaAUDO

「……待てるものなら、待ちたかった」

主君は、万感の思いを噛み締めるようにぽつりと漏らす。

「しかし……もうわらわには時間が残されていない」

「それは、どういう……?」

「寿命じゃ」

その一言は、広大な広間に朗々と響き渡ったかのような錯覚を側近に与えた。

「寿、命……?」

思いもしない理由に戸惑う。
そんな馬鹿な、という思いと、まさか、という思いが混在していた。

「わらわ達はあまりに長くを生きるため、わざわざ齢など教え合わぬ。
そなたらはどうか知らんが、わらわにはお迎えとやらが刻々と迫っておる。
仲間内初の老衰者はわらわであったか……」

感慨深げに呟く主君を、側近はただ見つめることしかできない。
あまりにも無常な現実。
怜悧な刃で突きつけられた衝撃に、言葉を失っていた。

「あ、う……」

ややあって、側近の口から意味を為さぬ呻きが零れ出す。
頬を、大粒の雫が濡らしていた。

「そう悲しむでない。湿っぽいのは好かぬ。逝く寸前にまで、そのような泣き顔を見せてくれるなよ?」

「っ……、はい」

笑って送り出してくれ、と付け足し、悠然と微笑む主君。
しなやかに、しかし力強く聳え立つ大樹を思わせる姿に、側近は歯を食い縛り、不恰好に微笑み返す。
そして、このような主君と巡り合い、臣下となれた幸運を、因果律に感謝した。
その――次の瞬間。

「というわけでな、ちょちょいと異界に飛んで、やってみたいことがあるのだ」

悪戯っぽく相好を崩して切り出す主君に、ぽかんとした。

「ゲーム、というのは知っておろう? 遊戯のことじゃ。
いや、異界産らしき箱の形をした絡繰り品を見つけたんじゃがな?
うんともすんとも言わぬから、動力がないのかと思って魔翌力を注入してみたら、何と動いての。
真っ黒だったところによくわからんものが映し出されたのじゃ!」

「は、はあ」

嬉々として語り出す主君に相槌を打つ。
気圧されてしまいそうな勢いだ。

「それでな、それとよくわからんもので繋がっていたどことなく鼠を思わせる絡繰り品と、平べったい板状のものを使うとな、動きおるのよ! 映し出されたものが!」

その時の感嘆が蘇ったかのように、身振り手振りで感動を伝えようとする主君。
いま、玉座で足をじたばたとさせてはしゃいでいるその姿は、年端もいかない女児そのものだ。
王者としての風格は霧散してしまっているのに、側近はそんな主君も嫌いではなかった。
むしろご褒美だった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 17:45:46.78 ID:23ht4dEDO
中身は面白そう
書き方はやや冗長な気もするけど
そのあたりは好みだから問題は特になさそう


ただ 書きためはある程度して欲しいとおもう
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 17:50:07.04 ID:ldvJ9edE0
スレタイの割にシリアスだと思ったらやっぱりギャグだった
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 18:50:02.07 ID:g2OIaAUDO


「動かし方を悟るまで随分と苦しめられてしもうたが、箱形の絡繰りに映し出されたものはそれはもう!
文字が読めぬから有意の抽出を図る魔法を使って、見た!
そこにあるのは、どれもこれもわらわの認識を改めさせられるものばかり!
いんたーねっとえくすぷろーらー、とやらや、いくつか使えぬものも混ざっておったが、その中で一際目を引いたのは“ねっとおんらいんゲーム”じゃ!
わらわはそれがしてみたい!」

ということで異界に行ってくる。
そう言い残して、主君は嵐の如く慌ただしさで術式を紡ぎ、忽然と消えた。




「――――ということがあったのよ」

大理石の広間に居並ぶ同胞の前で、側近は見聞きしたことを語り聞かせていた。
王の間であるにもかかわらず、玉座は空席。
玉座には、すがりついて泣き崩れている幾多の同胞。
積み重なり過ぎて、巨大な芋虫が蠢いているようであった。

主君の去った後、ほぼ全ての同胞が決起して、選出された幾人もの同胞が捜索に赴いた。
しかし、主君の行方はようとして知れない。

「今頃、どこで何をしているやら」

語り聞かせている間から、居並ぶ同胞らの大半が放心していた。
彼らに向けて小さな溜め息をひとつ。
啜り泣く声の絶えない大広間、一戸建ての住宅十棟にも及ぶ高い天井を仰ぎ見て、溜め息交じりに呟いた。
城の宝物すら持たず、無一文なのではなかろうか。
主君の力をもってすれば、金の問題など大抵は解決してしまうだろう。
だが、行き先は異界。
この世界の常識が通じず、また未知数な世界も多い。
あまりあちらの世界に迷惑をかけてほしくないものだ。
そもそも、普通の神経なら望んで関わろうとはしないのだけど。

何をかいわんや、主君は普通ではない。
そんな見ててはらはらするところも好ましくて、しかしやっぱり心配だ。
――ああっ、心配だ心配だ心配だ心配だ。
傍目には呆れているように見えて、心中穏やかではない。
冷血、鉄面皮、などと揶揄される彼女だが、主君に関しては壮絶な葛藤を繰り広げている。内心で。
――どうしようどうしよう、あんなに可愛い魔王様がひとりいたら確実に狙われるわ。
少女趣味の変態男だけじゃなくて、同性ですら魅了してしまうかもしれない!
あの方の同性への危機意識が薄いことをいいことに、調子に乗る輩が出るとも限らないんじゃ……!?
くゥゥゥゥッ! 犯罪者予備軍めがァァァァァァァッ!!
そのようなこと、絶対に! 絶対に許さんぞ!
ああでも、あの方を力づくでどうにかできるなんてまず……。
いやいや、聡明なようでいて案外抜けておられるところがおありにあるし……。
常人の感性を持つ私ですら、十人に分身したら十人があの方を狙うもの! いつも襲いかかるのを我慢してるくらいだし……。
変態ならどうなってしまうことか!
ああ、変態の毒牙からあの方をお守りするにはどうすれば……。
心の中で頭を抱え悶絶して――唐突に閃く。
そうだ、あれを使えば……!
側近は大広間を辞して、競歩で長大な廊下を進んでいく。
使わなくなったからと処分するよう渡された廃棄品。
もしもの時のためにとっておいた古い下着!
他にも、あの方が長く身につけていたものを使えば、探知できるはず!
辛抱たまらずほくそ笑む。
――変態は近づかせない。
決意を胸に、側近は大理石にこつん、こつん、と足音を響かせていった。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 18:59:42.53 ID:g2OIaAUDO
書き溜めに専用の場所ってないですよね?
やっぱりメールかメモ帳にかな

今のところ、無一文で現代っぽいとこに行ってパソコン代やら何やらを工面するのに奔走する、という話は飛ばしてネトゲ部分から始めるか
飛ばさずに書くか迷っているんですがどちらの方がいいでしょう?

スローペースな書き方で申し訳ない
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/07(土) 20:02:44.92 ID:XWLFBtlM0
現代編お願いします
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国・四国)[sage]:2012/01/07(土) 20:19:29.94 ID:2eI/jb6AO
>>13
PCならメモ帳で充分。

携帯ならヤフーみたいなフリメだと携帯の容量気にしないで済むのでオススメ。

ただし、文字数制限に気を付けて
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 21:13:05.04 ID:OiQcDmGDO
ドコモなら無料のテキストエディタのiアプリがあるが
置換機能とか閲覧モードとかあって多少便利
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 21:21:34.18 ID:g2OIaAUDO
>>14
わかりました!

>>15
携帯だからフリメか、16さんの言うアプリでやってみます
教えてくださってありがとうございました!

>>16
そういうアプリもあるんですね
ここ最近までずっとauでドコモは中学以来だったから助かりました
ありがとうございます!
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/07(土) 22:18:08.19 ID:g2OIaAUDO
「それにしてもあの箱形の絡繰り品には、妙齢の女子《おなご》が裸でおるものや、中には性交の最中を映し出すものもあったが……やたらと多かったな。
妙に写実的な女子もおれば、戯画的な女子もおったし……持ち主は余程好色だったのか。
それとも、そうせねば絡繰りに何らかの支障を来すのか……?」

都心にほど近いオフィス街。
高層建築物が森のように連なるそこを、魔王は白昼堂々練り歩いていた。

「まあそれはひとまず置いておくとして、この格好は慣れんな」

最初は外套やローブといった衣装、しかも華美な装飾の施されたものを着ていた。
しかしあまりに衆目が集まったので、周りの服装を参考にした。
といっても、薄手の白いワンピースだ。
着ていた服の一部を元に魔法で誂えたから、生地は上質。
フリルを控えめにあしらった。
これならどうだ、とばかりに胸を張り、歩いてみる。

「う、むぅぅ……。先程よりは幾らか減ったような、しかしまだちらちらと見られておるな……」

通りざまに一瞥していったサラリーマン風の男を凝視すると、彼は足早に立ち去っていった。
芳しくない成果。
はあ、と肩を落とす。
臀部まで届くふんわりとした銀の艶髪が揺らめき、陽の光を照り返して刹那煌めいた。
髪の色や碧眼が奇異に映っている、とはまだ思い至らない。
この近辺では見かけないな、とは感じているが。

「む、わらわとしたことが小事を前にして大事を忘れておった」

それよりも、ぴーしーやぱそこんと呼ばれている絡繰り品を見つけねば、と思い直す。
独力では情報収集もままならない。
聞き込みでもしようかと考えていると、

「お嬢ちゃん、ちょっといいかな」

警官が話しかけてきた。
無論、魔王は警察機構のことなど知る由もない。

「何じゃ、わらわに何ぞ用か」

「わ、わらわ?」

壮年の警官は面食らって「最近の子はそういうもんなのかな」と勝手に納得して、
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 22:32:43.33 ID:g2OIaAUDO

「お母さんかお父さん……それか一緒にいる人はいないのかい?」

まさに子供相手、といった感じの声色で訊いてきた。

「わらわはひとりじゃ」

何か問題でもあるのか、と視線で訴える。
警官は困ったように苦く笑う。

「あぁ〜、そうなんだ。えっと、自分のお家がどこかわかるかな?」

「家? ……なぜそのようなことを訊く?」

怪訝そうに聞き返す。
警察の知識が欠片もない魔王にとって、その反応は自然なものだ。
警官の質問には腹を据えかねていた。
詰問調でないとしても、いきなり尋問紛いのことをされて気分はよくない。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 22:47:41.75 ID:g2OIaAUDO

「うーん、お嬢ちゃんのことを心配するのが僕のお仕事だから、かな」

「何とも奇妙な職業じゃな。まあよい、わらわの心配は無用。それよりそなた、ぴーしーかぱそこんというものに聞き覚えはないか?」

「え、心配は無用と言われてもなぁ……。PCかパソコン? たぶん同じものだと思うけど、それがどうかしたの?」

「おおっ、知っておるのか!」

魔王は目を輝かせた。
期待に胸が踊る。

「して、それらはどこでどうすれば手に入る? 重ねがさねすまぬが、おんらいんゲームとやらも知っていたら教えてほしい」

口調はともかく、やはり子供らしからぬ言葉遣いと感じたのか。
首を捻っていたが、すぐにはっとして、

「あ、ああ……。パソコンが欲しいのかい? そうなら電気屋さんってわかるかな?」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 22:56:31.45 ID:g2OIaAUDO


「でんきや……とは?」

電気、という概念がそもそもわからない。
魔王の世界では、未だに雷は神鳴り。
神の怒り、あるいは準じたものとして捉えられている。

「そうだなぁ……お家にあるテレビやビデオデッキ、電子レンジ、オーブントースターとかが売っているところなんだけど」

「む、むぅぅ……」

さっぱりわからなかった。

「……質問を変えよう。この近くにでんきや、とやらはあるか?」

「」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/07(土) 23:27:44.85 ID:g2OIaAUDO

「ここはオフィス街だからねぇ……。繁華街……お店がいっぱいあるところまでいかないとないねぇ」

「駅を挟むし、難しいかな」と言って、やにわに「あっ」と零す。

「そういえばお嬢ちゃん、何に乗ってここまで来たんだい?」

「乗る……? いや、歩いてしかおらぬが」

世界を渡り、出た先がこのオフィス街だ。

「歩いて? 地下鉄じゃなくてか……。もしかしてここの近くにお家が?」

「うむ。そうじゃ」

真っ赤な嘘であった。
何やら迷子の疑いを持たれている気がしてならず、方便で誤魔化す。
とりあえず、電気屋に行くには繁華街、繁華街に行くには地下鉄。
ということを聞き出して知り、大まかな行き方も教わる。
そして、

「色々世話になった。せめてものお礼じゃ、受け取ってくれ」

慇懃に謝辞を述べ、華美な外套を手渡す。
着の身着のまま来ているため、衣服しか渡すものがないのだ。

「え、いやいや、受け取れないよ。それに一応交番まで連れていって、親御さんに連絡を――って、あれ!?」

職務中の警官は当然返して「その気持ちだけで十分だよ」とでも言いたげだった。
だが、時既に遅し。
魔王は目にも止まらぬ早さで――衝撃波を撒き散らさないよう加減して――遁走していた。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/07(土) 23:29:15.37 ID:g2OIaAUDO
今日の投稿はこれくらいにして後書き溜めます
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)[sage]:2012/01/08(日) 10:40:56.59 ID:9Cvx+qR7o
おつ 面白かった
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/09(月) 16:38:01.71 ID:Szi3hrtDO
投下します



「お金が……現金がいるのか」

「ああ〜、まあそりゃあねぇ」

地下鉄の構内。改札口。
改札機を通ろうとして、当たり前のように阻まれた魔王は、困り果てていた。

「どうしたものか……」

この世界の交通機関、というものを甘く見ていた。
魔王は嘆息を零す。
経験こそないものの、人間の国や魔族領の交通機関――馬車や牛車については、知悉《ちしつ》していたのだが。
運賃の代わりに物品で賄う、という事例を聞き及んでいた為、文化の違いに直面した。
切符売り場の駅員から注意を受け、容姿や言動、二の腕に被せた長衣で構内の人々に注目されて。
無用心な親御さんだなあ、と感想を漏らした駅員から、幾つか教えてもらった。
お金を稼ぐには、仕事。
小金を稼ぐならアルバイト、安定した収入を得たいなら就職。
短期で働くなら、と訊いたらアルバイトだと言われた。
アルバイトについて出来る限り聞き込み、履歴書とはどのようなものか、という話題になった。
駅員は「今朝、同僚が息子のアルバイトがどうたら言って、履歴書持ってきてたな」と独り言を呟くと、同僚からもらってきた履歴書を一枚、魔王に渡した。

「これを参考にするといいよ」

必要事項を埋めればいいと教わった魔王は、謝礼に宝石の散りばめられたローブを置き――そして今、履歴書と格闘している。
外套やローブを質に入れよう、という発想は魔王にない。
いや厳密には、駅員から情報を貰い受けるまではあった。
しかし、受けた恩を返す手段があるのに返さない、という選択肢は思考の外だ。
もし仮に、恩返しで臣下の大事なものを脅かす、というのなら恥を忍んで不届き者ともなろう。
だが、自らの懐具合を理由に返さぬくらいなら、汗水足らす労働を選ぶ。
安易には元の世界に帰れない魔王にとって、この気性は厄介なものだった。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/09(月) 16:40:07.17 ID:Szi3hrtDO
「む、筆記具がない……」

インクを精製し、宙に浮かばせる。
これで自動書記する腹積もりだ。
しかし、

「えっ!?」
「あ、あれ浮いてない? 手品……?」

周囲が途端にざわめき立つ。
当然の帰結であった。
オフィス街とはいえ、日中の道端でやれば、嫌でも人目につく。
瞠目する歩行者、車から顔を出す人、様々な人の視線を集める。

「な、なんじゃ?」

四方八方から痛烈な視線が浴びせられ、たまらず路地へと駆け込む魔王。
空飛ぶインクも後を追う。

「……まったく面倒な」

嘆息に合わせてひとりごちる。
奥行きのある路地だった。
広くもなく、狭くもなく。
横に三人は並んで歩ける広さ。
密集する建造物の屋根に日光を遮られ、一見して日陰しか見当たらない。
あたりに人気はないようだ。

「人間らしき者達からも魔力を感じぬし……魔法はない? 魔法に似たようなものがあれば驚かぬであろうし……随分と勝手が違う」

わかっていたことであるが、と心中で付け足す。
魔王から見ればこの街自体魔法のようなもので、驚かされてばかりだ。
しかし、魔王の世界だと人間でも当たり前に思う光景すら、ここでは珍事らしい。
こちら特有の驚愕すべき利器もあって、益々基準が分かりづらい。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/09(月) 16:43:08.25 ID:Szi3hrtDO
「それにしても、ぴーしーがあそこまで高価とはな……」

件の駅員から絶望的な事実を聞いたこともあって、気が重い。
この世界に於ける金銭感覚の備わっていない魔王。
とは言え、地下鉄の運賃とパソコンの代金を比較すれば、物価に多少なりと推量はつく。
それでも、やるべきことさえ分かっていれば。
ひたすら邁進できる気質の魔王は、すぐに普段の調子を取り戻す。

「さて、人もおらぬようであるし書くか」

ふよふよと浮かぶインクを危なげなく操り、すらすらと履歴書に書き込んでいく。
名前、魔王。

性別、女。

住所、魔王城。

郵便番号、たぶんなし。

生年月日、不明。たぶん創世時から。

年齢、八(以下略)一三七八(中略)四八九七(ここから先は省略されました)四三六五(こっから先も省略)一九六六(はいはい、省略しますよ)七七六四(後略)歳。

資格、免許、検定、なし。

学歴、なし。

職歴、魔王。

志望動機、この溢れんばかりの勤労意欲で社会に貢献したく、志望致しました。

自己アピール、どんなに堅牢な砦も魔法ひとつで吹き飛ばす自信があります。

口を割ろうとしない頑固者に、割らせてくれと懇願させる経験も豊富。躊躇しません。

配偶者、なし。

扶養家族、(臣下すべて)

「うむ、これなら磐石であろう」

書き上げた履歴書を掲げ、満足げに一言。
一体どんな仕事に就くつもりでいるのか。
甚だ疑問であったが、勝ち気に吊り上げている唇から、懸念という言葉は連想できない。

因みに。
解読、筆記、発声、聞き取りに関しては、世にも便利な翻訳魔法である。
名詞や独特の動詞、概念といったものさえ掴めれば、現役の通訳や翻訳家のお株を奪いかねない代物。
言語の壁は粉微塵だ。

閑話休題。
残る問題は証明写真だった。

「えきいんから聞いた話では、これにも金がいると申しておったな」

しかし先立つものがない。
働くにも金銭が必要とは。
世知辛い世の中、という見方がすっかり定着してしまっている魔王。
その瞳が、路地の奥に落ちている何かを捉えた。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/09(月) 16:44:39.21 ID:Szi3hrtDO
「――あれは」

アスファルトの上に転がされた冷蔵庫。
青空へ向けて大口を開けているそれの下敷きになった、一枚の紙切れ。

冷蔵庫まで悠然と歩いていき、冷蔵庫の接地面を掴んで宙に浮かす。
そのまま、僅かな隙間から下敷きになっていた紙切れを引き抜いた。

「やはり。えきいんに見せてもらった通貨とよく似ておる」

再び寝そべる冷蔵庫を前に、魔王は指の間に挟んだ一万円札をまじまじと観察する。
紛れもなく一万円札だ。

「雨が降ったら使い物にならなくなっていたであろうに。この紙幣とやらにとってもぎょう幸じゃな」

魔王は躊躇うことなく一万円札を頂くことにした。
疑う余地なく拾得物横領、もといネコババである。
しかし、落ちているものは基本的に拾った人のもの。
親しい誰かや、権力者のものでもなければ返す必要はない、という常識がまかり通る世界で魔王は暮らしてきた。
そのため、良心の呵責というものは起こらなかった。

「よし! 証明しゃしんとやら、待っておれよ!」

証明写真と地下鉄の代金が一瞬で解決。
幸先の良い出だしに、上機嫌で証明写真機へと駆けていく魔王であった。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/09(月) 16:46:44.73 ID:Szi3hrtDO
「さあ記念すべき初陣じゃ!」

(当人の感覚では)ばっちりと仕上げた履歴書を抱き抱え、繁華街にある喫茶店へと駆けていく魔王。
証明写真機に悪戦苦闘しておろおろしたり、財布を買うために右往左往したり。
はたまた、候補となる働き先の多すぎる繁華街でしかつめらしく唸ったり。
様々な苦労を経て、魔王は今、面接デビューを飾ろうとしていた。

「いらっしゃいませー」

「ここの責任者はおらぬか!?」

自動ドアの近くにいる店員に訊く。
何名様ですか、とでも続けようとしていた店員は、戦場で名乗りを上げるような声に驚いた顔を見せる。

「しょっ、少々お待ち下さい」

「……しまった、気合いを入れすぎたやもしれぬ」

外見からは想像できない威厳を漂わせる言に従い、慌ただしくカウンターの奥に消えていく店員と、威圧してしまったことを反省する魔王。
ややあって、

「お待たせしました」

カウンターの奥から店長と書かれた札をつけた男が出てきて、丁寧に謝罪した。
魔王は鷹揚に頷いて返すと、

「わらわをここで雇ってはくれぬか」

単刀直入に切り出す。

「へ……?」

泡を食って、刹那あんぐりとした店長であったが。

「あの……お嬢ちゃん? 親御さんはいるかな?」

すぐに平静を取り戻し、柔らかな物腰で尋ねかけてくる。

「おらぬ」

「そ、そうなんだ、あはは。困ったなぁ……」

見た目小学生のような魔王と、店長が対峙するという不思議な構図は、店内の関心を引いていた。
彼方此方でひそひそとした話し声が生まれている。

「履歴書はきちんと持ってきておるぞ」

両腕で大切そうに抱えていた履歴書をワンピースの白い布地から離し、ふふんと自信ありげに見せつける。

「あー、うーん……。じゃあ、面接……してみようか?」

「おお、もちろんじゃ」

30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2012/01/09(月) 16:48:03.59 ID:Szi3hrtDO
そして面接。

「魔王ちゃんか。住所は……魔王城。郵便番号はたぶんなし、年齢は……うん(数えるのを諦めた)。
職歴は魔王で……あ、志望動機しっかりしてる。
自己アピールは……あ、あはは(喫茶店でどうやって活かすつもりなんだろうと思っている)。
扶養家族は臣下すべてかぁ……うん、臣下思いで偉いね(自棄になってきている)」

「もちろんじゃ! 臣下を蔑ろにする主なぞ主の風上にも置けぬからな!」

なだめすかされた挙げ句、お帰り願われました。



「なぜじゃ……」

喫茶店の店先で消沈する魔王。
本人としてはかなり脈ありと踏んでいたらしい。

「ええいっ、次じゃ次! 」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/01/09(月) 16:48:43.52 ID:Szi3hrtDO
今日はここまで
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/01/09(月) 18:44:18.39 ID:uRGQrfILo
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/01/20(金) 22:45:20.10 ID:5KmYxoIAO
まだー?
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)[sage]:2012/02/26(日) 23:05:52.14 ID:qkbp8fKDo
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
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  バン    はよ
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35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/03/05(月) 07:32:01.62 ID:/PEx3FvIO
やめたか



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