VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/01/21(土) 14:00:14.92 ID:MvGhN54no<>「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)

創世と終焉編(三章構成)←今ここの第一章中盤(スレ建て時)

ラストエピローグ


○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。

○過去スレ
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294936389/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295618410/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1306653951/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318583057/

○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1327122014(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>ダンテ「学園都市か」【MISSION 10】 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/01/21(土) 14:00:55.52 ID:MvGhN54no<> ―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなりかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。

また、世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目標としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

―――――――――――――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/01/21(土) 15:54:52.08 ID:at4kGd8ro<> スレ建て乙です。前スレ>>1000でごっつふいたwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/01/21(土) 18:26:52.15 ID:654NvuDRo<> スレ建て乙乙乙。
前スレ>>1000ひでぇwwwwww今までスタイリッシュだったのにwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2012/01/22(日) 00:06:30.06 ID:2R0/8rT90<> とうとう10まで行ったのか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)<>sage<>2012/01/22(日) 00:30:27.30 ID:IjvUS0az0<> おヨネさんカワイイ
そしてスレ数ついに2桁か、ジャッジメントDEATH-NO!が遥か昔に思える <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/01/22(日) 02:45:02.17 ID:FfkHJoXDO<> VIPにスレが立ってからもうすぐ2年だ、すげえな>>1 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/22(日) 12:20:02.39 ID:E3ohFDa80<> スレ立て乙
誘導ありがとうございました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:36:31.00 ID:Q+LCdqD2o<>
―――

堰を切ったかのごとき無数の悪魔の侵入。
その衝撃は、テメンニグルの塔の最下層にして心臓部、礼典室にまで届いていた。

そこは直径50mはあろうかという広い円形の広間。
硬質な壁は仄かに碧さを湛え、高い天蓋からは恐ろしげな彫像の数々が下がり。

床のほぼ全面を覆うは、はめ込まれた一枚の巨大な円形台座。

表面には放射線状に走る溝や文様が刻まれており、
隙間から漏れる淡い白き光が広間全体を下から不気味に照らしあげていた。

五和「…………」

振動はさほど強くなかったものの、独特の重い息苦しさはかなりのもの。
槍を握り締める五和が跳ね上がるようにして天蓋を見上げ、
次いでダンテとレディもゆっくりと上へと目を向けた。

二人は、この円形台座の床中央にはめ込まれている『器』を挟み向かい合って立っていた。
そのダンテの斜め後ろに五和はおり、
そして彼女達三者の周りをせわしなく巡っている巨馬、ゲリュオン。

この興奮した魔馬のけたたましい蹄の音が響く中、
三者はそのまま、塵が舞い落ちてくる天蓋をしばらく見上げていた。

五和「今のは……?!」

ダンテ「悪魔か。かなりの量みたいだな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:41:46.16 ID:Q+LCdqD2o<>
五和「この塔から外に出始めたんですか?」

ルドラ『否、きゃつらはこの塔の住人ではない。何者かが、この塔を触媒として魔界から召喚したとみえる』

「さあな」と肩を竦めたダンテに代わりすばやく答える彼の背の魔剣。

五和「…………」

その瞬間、五和は見てしまった。
ダンテ越しに見えるレディの顔、その眉間が小さく引きつったのを。
まるで、いいや、確実に思い当たる節があるという反応だ。

ルドラ『この塔を基点として能力者が展開した外殻上に、人間界にも侵入しておるようだ』

そんなレディの表情を読み取ってか、それとも気にもしていないのか。
その両方ともとれる調子で、そこでダンテが両手を軽く広げてこともなげに一言。

ダンテ「―――だとよ」

五和の方へも横顔を向け発した。
無論、それが『投げやり』な相槌ではないことを五和もわかっていた。

余計な説明は全て省き、「どうする?」なんて結論を問うてすらもいない。
この一言に篭められている意味はこれだけ、「―――ということでそれぞれやることをやれ」、だ。

五和「……」

今の状況と話を前にして、己の現在の立場にも大きな変化が生じたのを五和は認識した。

上条当麻と聞いて飛び込んだ魔塔だが、ここに身を置く『理由』が『それだけ』ではなくなったのだ。

天の侵略と抗う学園都市に横から侵入しつつある悪魔、己は今その流入の『基点』にいる。
この壮大な流れの転換点の真っ只中、その中心点にいるのだから。

これもまた皮肉であろう。
上条当麻を追って至った立場は―――その優先順位から、彼の追跡という項目を下げざるを得ないものだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:46:46.75 ID:Q+LCdqD2o<>
その自覚によっての衝撃と様々な感情が渦巻く傍ら、
徹底的に鍛えられた戦士としての『頭』は、機械の様に冷静に状況を分析していく。

五和「……」

誰が悪魔を召喚しているかは、いまや五和にも容易に推測できた。
ここまでの道中、ダンテとレディの話の中心にあったアーカムと言う男でまず間違いないと。

そしてこの男がレディの『悪夢』―――『父親』であることも。


またその件について当のレディには、
部外者が『協力者』という名目で踏み篭める隙は一切無かった。

無言のままそそくさと装備を整え始めるレディ、
一見するとそっけなく事務的な挙動だが、醸す空気の質は強烈そのもの。
体に触れようとすると手先が切れてしまうかと思えるくらいに、研ぎ澄まされた殺意。

声にせずとも、それらがレディの意志を明確に代弁していたのである。
『これは何人にも邪魔はさせない、これは己だけの仕事だ』、と。

五和「…………」

何をするべきかはひとまずとして、
この悪魔出現の原因とレディが取り組むという点を学園都市の者達に伝え、それから今後の行動を検討するべきであろう。
そう考えた五和は槍を撫でて、早速ステイル宛てに通信魔術を起動させたが。

五和「…………?」

交信はできなかった。
術式自体は起動するのだが、回線が繋がらなかったのだ。

すると彼女が怪訝な表情を浮べたのも束の間、
レディが顔も向けずに声だけを放ってきた。

レディ「この階層は普通の術式じゃ通らないわよ。外界と交信したいならさっきダンテと合流した回廊まで戻らなきゃ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:48:30.30 ID:Q+LCdqD2o<>
五和「―――……」

来た道を戻ればよい。
レディから告げられたことは『それだけ』、至極単純なこと。
ただ五和にとっては、単純ではあっても―――容易なことではない。

入り組んだ廊下、橋、地底湖、ここに来るまでにも大量の悪魔達と遭遇したのだ。
来る際はダンテとレディの前に屍が積みあがっていくだけであったが、
五和だけとなるととてもそうはいかない。

するとその時、そんな彼女の頭を過ぎった懸念を察したのか。

ダンテ「ゲリュオン。少し小さくなれ」

パチンと指を鳴らしては魔馬を呼び、ダンテがそう命じた。

魔馬は声にする以上に主の意識とリンクしてるのであろう、
一声で承諾するようにいななくと、その巨体をみるみる縮小させ、
一般的な乗用馬と同じ程度の大きさへと変じていった。

ダンテ「乗っていけ」

ルドラ『うむ。悪魔が方々から湧き出しておるしな』

そしてゲリュオンの尻を叩き、五和の方へと進ませるダンテ。
魔馬は軽く跳ねるようにして彼女の傍へつき、鼻息荒く首を大きく振った。

あたかも『さっさと乗れ』と告げているかのように。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:50:22.23 ID:Q+LCdqD2o<>
五和「―――……ッ!」

何事も経験と、乗馬の心得自体は少しばかりはあるも、
魔馬に乗ったことなどはもちろんあるわけがない。
それが神たる大悪魔となれば尚更である。

ダンテの厚意なのだから心配することはないと頭でわかってはいても、
五和は思わず怖気づき一歩下がってしまった。

ダンテ「心配すんな。ちっとばかり暴れたがりだがお嬢ちゃんを食いはしねえさ」

ルドラ『ダンテを主と仰ぐ者に、人間に危害を加える奴はおらん』

五和「ほ、ほんとですか?!ほんとうですね?!」

無論そんなことはわかってはいるも、彼女は己に言い聞かせるためにそう返しながら、
恐る恐る魔馬のたてがみに手を伸ばして。
そして意を決して、逞しいその首に腕をかけて勢いをつけて飛び乗った。

乗り心地は、昔に乗った訓練馬とさして変わらぬもの。
否、それ以上にきわめて乗り易かった。

この魔馬の力による作用なのであろう、
鐙どころか鞍すら無いにも関わらず完璧に安定しており。

五和「……っと、と」

手綱など無くとも意識するだけで自由に、いいや、明確に『意識するよりも前』に的確に動くのだ。
五和は少しその場で魔馬を足踏みさせて、この不思議な感覚を馴染ませていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:52:21.60 ID:Q+LCdqD2o<>
五和「―――だ、大丈夫です!ありがとうございます!」

大悪魔が同伴となれば、
まず同じく大悪魔が現われでもしない限り道中に心配はないか。
しばらく慣らしたのち、五和は門の方へと向けて駆け―――。

五和「じゃあ行ってきます―――って、あのその前にちょっと良いですか?!」

―――出したのも一瞬、3m程進んだころでゲリュオンを急停止させ、
ダンテに振り向きこう声を飛ばした。

五和「上条さんは上にいるんですよね?!」

これもまた情報の確認のためだ。
ここに来るまでの道中で聞いた話を頭の中で確認しつつ彼女がそう問うと、
ダンテは肯か否かもわからぬ仕草で肩を窄めて。

ダンテ「上にいる、って奴が言ってただけだ。本当にこの『塔の上』にいるかはわからねえ」

五和「でもこの塔は門となり目的の場へと繋げる、つまり……もし塔の上にいなくても、
   この門としての機能で上条さんがいるところにも繋がる、という解釈でいいんですね?」

ダンテ「そうだ」

これまた表面上言葉は肯定と受け取れるも、
その調子や表情はどちらか判断がつきにくいもの。

ただ、次の問いの返答は声も仕草も明確なものであった。


五和「……この塔が起動した場合、門の入り口はどこになるんです?」


ただその解釈には、いささか齟齬が生じていたかもしれないが。

彼女の問いに対してダンテは両手の指で真下、
『床』を真っ直ぐに指差して明確にこう告げた。


ダンテ「『ここ』だ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:55:19.42 ID:Q+LCdqD2o<>
結局、この解釈の齟齬について彼女が気付くのはしばらく後になってからだった。
彼女はそのままの意味、つまりは『この地下深くの礼典室』に門が開くと受け取ったのだ。

そうして一通り情報を確認したのち、五和はそこで一呼吸置いて。

五和「それと……」

もう一つの話を切り出した。
聞きたいことではなく、『頼みたい』あることについてだ。

手を広げて先を促すダンテを一瞥して、五和はふと腰の背面に手を回して。
黒い大きな拳銃を引き抜いた。

ダンテ「……」

あのダンテから上条へと贈られた銃を。

五和「…………」

彼女はその手にある拳銃を見て数秒、切なく名残惜しげな色を瞳に湛えて。
そして躊躇いながらも―――パッと面を挙げて、ダンテの方へと放り投げた。


五和「これを―――」


ダンテ「―――いいのか?お嬢ちゃん?」


すかさずキャッチし、人差し指に引っ掛けてそう聞き返すダンテ。


五和「……私なんかよりも、ダンテさんが持っていてくれた方が確かですので」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 01:58:45.86 ID:Q+LCdqD2o<>
『そういう話じゃなくてだな』、と。

五和の返しを聞いたダンテの表情や仕草には、そんな風に言いたげな色が滲んでいた。
もちろん、五和もそんな彼の声なき問い返しははっきりと受け取っていた。
だがそれに対しては答えずに。

彼女はそこでまた数秒、唇を甘く噛んで黙したのち。


五和「どうかそれを…………ダンテさんの手で上条さんに。お願いします」


身の底から声を絞り出してそう告げた。
そして馬上で小さく礼をしては、魔馬に声をかけて足でその腹を叩き。

礼典質の大きな門を蹴り開け、駆け出でていった。

その柔らかな背中には、頑なな気持ちが色濃く滲んでいた。
決して振り返るもんかと。

そんな彼女の消えゆく後姿を、ダンテは涼しげな笑みを浮べながら見送ったところ。

レディ「意地悪ね」

五和が消えて数秒後、ぼそりと呟く、装備を整えていたレディ。
その調子は厳しい緊張に満ちてはいるも、
普段どおりの皮肉染みた声色も混ざっているか。

レディ「あの子が戻ってくる前に起動させるつもりでしょ」

対してダンテは上条の銃をくるくると回しながら、すっとぼけた調子で肩を竦めた。

ダンテ「嘘は何一ついってねえぜ」

そう、確かに嘘は一つも言っていない。
起動して門が開くのも、ダンテが指差した『床の上』だ。

ただし。
この礼典室の床、全面にはめ込まれた台座は、
塔が起動すれば最上層まで昇るということは教えてはいなかったが。

それに―――。

ダンテ「まあ、そのあたりがどうであれ」

ダンテは悟っていた。
少なくとも、彼女はもう『上に行くこと』に執着してはいないであろうと。


ダンテ「お嬢ちゃんの方がなんとなく『そのつもり』だっただろ。あれは」


ダンテはそうレディに返した。
上条の拳銃を見せるように振りながら。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 02:00:40.80 ID:Q+LCdqD2o<>
レディ「へえ」

そんな彼の表情を、ようやく顔を挙げて見たレディはここでぼそりと。

レディ「ダンテでも少しはわかるんだ。ああいう複雑な『乙女心』も」

にやりと声無く笑い返すダンテ。

レディ「じゃあ尚更馬鹿ね。それを少しでも自分のために使えたら、もっと女関係をマシなものにできてたのに」

次いでその笑みは少し乾いたものへ。

ダンテは数度「参った」と喉を鳴らしたのち、
上条の拳銃を腰のベルトに差し込んでこう話を切り替えた。

ダンテ「ところでレディ。お前にいくらツケがあったっけ」

彼女はすでに身支度も終えていた。
ロケットランチャーのベルトの端を引っ張りながら背負いなおしつつ、
この麗しいデビルハンターはまたもや毒を効かせて。

レディ「あらら珍しい。そっちからその話をだすなんて。明日は魔界の住人がみな手を繋いでるかもしれないわ」

そんな言葉をダンテは普段どおり流しながら、
ふとコートのポケットをまさぐり。


ダンテ「―――この際だ。冥土の渡し賃くらいは奢ってやる」


取り出した一枚のコインを、レディに向け指で弾いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/23(月) 02:04:29.82 ID:Q+LCdqD2o<>
レディ「…………」

それは磨り減りに磨り減った、くすんだ1セント硬貨だった。
彼女は掌の上のその小さなコインを一目しては、あからさまに眉を顰めて。

レディ「……ちょっと冗談キツすぎない?縁起悪すぎるわよ」

ダンテ「お前のじゃねえさ。『親父』さん宛てだ」

レディ「ああ……そういうこと……」

『親父』。
その単語で、少し彼女の声が重く濁るも。

ダンテ「『帰り』の駄賃くらいは奢ってやるよってな」

変わらぬダンテの調子か、
それともそんな彼と正反対にここまで硬化している己が滑稽になったのか、
彼女は普段通りの冷笑を仄かに浮べて。

レディ「アホらしい。奢りって言える額面でもないでしょうに」

硬貨を軽く上に弾きあげては、くるりと踵を返して。

レディ「こんぐらいで貸し作った気になられるのも鬱陶しいから」


彼に背を向けて。


レディ「あとで返金させてもらうわよ」


落ちてきた硬貨を掴みとっては門の方へと足早に歩を進め、
そのまま礼典室から去っていった。

『父を狩る』、そんな困難に向かっていく親友の背を、五和の時とは違いダンテは見送りはしなかった。
彼女が去るのと同時に彼もまた一瞥もせずに背を向けたのだ。


まるで後を託して―――背中合わせにするように。


ちなみに。
この時の1セントは結局、レディからダンテに返金されることはなかった。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/01/23(月) 02:05:38.88 ID:Q+LCdqD2o<> 短いですが今日はここまでです。
次は火曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/23(月) 02:28:28.83 ID:MeSJ6+jDO<> うおお、短い! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/01/23(月) 12:50:11.01 ID:ZCKwTBQto<> 乙です。なんだ、最近のフラグのバーゲンセールはなんだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/23(月) 21:28:00.57 ID:0Enhhvkz0<> そういえば、エルシャダイなメタトロンさんや四大天使は登場しましたが
ルシファーさんは今どうしてるんでしょう
出撃待機中? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/23(月) 23:02:40.31 ID:MeSJ6+jDO<> エルシャダイネタ持ち込むのやめてくれよ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/24(火) 00:13:35.31 ID:5WNaM6z/o<> ルシフェルはダンテの魔具になってるだろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/24(火) 08:33:54.01 ID:Zphexf4n0<> まだまだ出てきていない魔具がいるんだよな
ダンテもなかなかのコレクターだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2012/01/24(火) 17:11:20.94 ID:sFAT1Hic0<> そういやイスラムのアッラーさんは? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/01/24(火) 20:57:23.11 ID:RIf6p9rfo<> >>1的にはジュベレウス合天国のイスラム州知事だそうです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:10:54.90 ID:IEJOpem1o<> ―――

ステイル『来たぞ!数は120!場所は第四学区の―――!』

窓のないビルそばの本陣にて、ステイルは悪魔の流入への対応に追われていた。

立体映像の地図上に次々に表示されていく情報をもとに、
各隊へと通信魔術を用い指示を飛ばしていく。

いまや学園都市の方々に悪魔が出現し、要所に配置されていた隊のみならず、
建宮、アニェーゼ、騎士隊長の遊撃隊も早々からフル稼働であった。
ただその侵入の勢いの割には、学園都市の被害は今のところは微少なものであったが。

このような現象は以前の魔帝争乱の際も見られた。
悪魔達はまず一目散に『武装した敵』に向かうのである。

これまた魔界の存在特有の本能であろう、
彼らは『戦いの熱気』という蜜の誘惑にはとにかく従順なのだ。
以前の魔帝争乱時も、悪魔達はシェルター下の大勢の『餌』には見向きもせず、
一目散に学園都市の駆動鎧部隊に群がり、次にはイギリス隊に集中。

悪魔にとっては単なる『食事』よりも『戦闘』が優先なのである。
また下等悪魔は基本的に知能も低いため、尚更その本能に強く従う傾向にある。

そして現在もまた、そのような例に漏れてはいなかった。

学園都市の防衛側は、方々に散る悪魔達を長く追跡する必要もない、
悪魔達の方から彼らへと群がってくるのである。

餌が詰まっているシェルターではなく、その地上を守っている戦士達が狙いなのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:13:53.52 ID:IEJOpem1o<>
ただし、戦況が厳しいのは変わり無かった。

本来この防衛線は、一方通行・風斬その他の手をすり抜けてきた天使達を迎え撃つものだ。
事態の悪化も予測して、それなりの数にも対応できるようにしていたのだが、
それでも―――この悪魔の大軍ほどの数は見積もってはいなかった。

既に現時点で許容を超えかけていた。

主戦力である重装のフォルトゥナ騎士達が、鬼神の如き戦いで悪魔の屍を積み上げてはいるも、
前述の通り、定点配置した隊も遊撃隊も全てが悪魔の対処に追われているのだ。

このまま下等悪魔どころか高等悪魔の数も増えたら、
重装のフォルトゥナ騎士ですらも対処が難しくなってくるのは明白。


さらに恐らく―――いや、いつか『確実』に大悪魔も現れる。


神裂を介して伝わってくる情報を受けて、ステイルは確信した。
この悪魔達はただ魔界からやってきた無法者ではない、十強の影響下にある『軍』なのだ。

ステイル『……ッ』

時間を経れば必ずこの軍を率いる『将』共が現れる。
そう認識して思い出すのは、現に目にしたアスタロトの一派。
アグニに聞くところによると、かの恐怖大公の下には100柱を越える数の大悪魔が仕えていたとのことだ。

そんな強大な戦力を有していても『十』強として内戦が膠着するのならば、
他の勢力も同等の戦力を有していると考えるのが妥当だ。

アスタロトの臣下100柱はダンテによって『ほぼ皆殺し』となったらしいが、
ここにはダンテはいないし、もし彼がいても、この界にはそれほどの戦いを支える『強度』などあるわけがない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:15:26.22 ID:IEJOpem1o<>
そもそも100柱なんて数でなくとも、数体でも出現されてしまったらこちら側は追い詰められてしまうだろう。
大悪魔に対抗しうる戦力は全て虚数学区上で天界勢に釘付け。

もうすぐやって来るイフリートと神裂ならある程度は対処できるも、それも『最初』だけだ。

これまた魔界の存在の性質上、神裂とイフリートが先陣の大悪魔を倒せば、
その力と戦いに魅せられて、更なる強者が次々と挑戦してくるのは明白。
そこまでの規模になった段階では、ダンテなどがやってきても、
敵の殲滅と同時に学園都市のみならず人間界に甚大な被害を残す結果になる。

ステイル『…………』

それらの災厄を免れるためのには、
学園都市、そして人間界をこれ以上『主戦場』にしてはならない。

そしてそれを成し得る手段はたった一つ。


―――滝壺という能力者の到着だ。


彼女がこの街に到着して虚数学区を直接支配下においてしまえば、
虚数学区の穴は全て塞がり、天界勢に対して一切隙間のない完全なる防壁となる。

更にたったいま海原達が行った『簡易分析』によると、
彼女の力で虚数学区を『引き伸ばし』、魔塔の界層の隔離断絶も『恐らく可能』とのこと。

これぞ唯一の手段。
彼女が到着さえすれば状況は一変する可能性がきわめて高いのだ。

ただ、そんな彼女の到着は1時間以上も先の予定であったが。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:16:59.17 ID:IEJOpem1o<>
そう『時間』というどうしようもない障壁を前に、彼が表情を曇らせていたところ。

ステイル『……来たか』

ようやくここで待ちに待った『主』の到着だった。

インデックスと現れ、心配しながらもその場をイフリートに任せて『彼女』がこちらに歩いてくるのを、
意識共有しているステイルはリアルタイムで『見』。


神裂「―――ステイル。あなたに任せます。私にも指示を」


次いで己が瞳と耳でも直接その存在を捉えた。

ステイル『特には無いよ。君自身の裁量で行動してくれ。君の意向に沿うように全隊の直接指揮は僕が行う』

彼は傍に降り立った神裂を一瞥して、
情報もまた共有しているからね、と軽く自身の額を指差しつつそう返した。

神裂「わかりました」

ステイル『おっと、お待ちを我が「主」』

とそうしたのも束の間、ふとステイルは大げさにへりくだっては彼女を呼び止めて。
立体映像の地図上のある光点を指差してこう続けた。


ステイル『まずは「彼」と合流なさった方がよろしいのでは?
     合流した場合は、「彼」への指揮権もあなたに「返還」いたしますが』

神裂「……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:18:17.67 ID:IEJOpem1o<>
彼が指していた光点。
それが何なのかは、ステイルと情報共有している神裂も知っていた。
『己の副官』が指揮する隊である。


神裂「―――了解しました。我が『使い魔』よ」


小さく頷いてみせて、ステイルの調子に合わせて言葉を返す神裂。
そしてすかさず踵を返し、
一気に跳躍してその場へと向かおうとしたところ―――ふと彼女は動きをとめて。

神裂「さっきの件ですが……」

背中越しにステイルへと声を向けた。

ステイル『……』

『さっきの件』、その言葉が何を指しているかは、当然リンクしているステイルは『知っている』。
神裂がここで意に留めたのは、滝壺が到着するまでの時間についてだ。

ステイル『……なるほど』

そしてまた、彼女がこの瞬間に思いついたある策も同時に『知る』こととなる。
その内容は滝壺の到着までの時間を一気に解決するものであった。

これぞまさに救いの一手か。
精神共有している二人は、それぞれの頭でこの策の確実性を確認しては、
すかさず通信魔術を起動して。


神裂「―――あのう、一つ手を貸していただきたいことがあるのですが、よろしいですか?」


ステイル『―――海原、土御門達の現在の座標をここに映せるか?』


この策の実現のため、それぞれの関係者へと声を向けた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:20:17.76 ID:IEJOpem1o<>
神裂「―――本当ですか?!可能なんですね?!―――はい!ではお願いします!!彼らの座標は―――!」

事はスムーズかつ素早く運んだ。
神裂の通信先の相手は快諾し、
その策の実行者としてすぐさま行動を開始してくれるということだ。

そうして自身達の作業を一つ速やかに済ませて、主と使い魔は互いに頷き合ったその時。

五和『―――ステイルさん!聞えますか?!』

そんな一拍の間をさながら狙っていたかのように、
タイミングよく五和の声が滑り込んできた。

神裂「―――聞えていますよ、五和」

五和『ッぷップリエステス!!ご無事で何よりです!!』

神裂「ええ、あなたも」

これは不意打ちであったであろう。
返って来たのがステイルではなく神裂の声で、
五和の驚きは音声のみでもはっきり感じ取れるものだった。

ただそれも一瞬の間だけ。
彼女はすぐに切り替えては戦士としての姿勢に戻り、
ステイルも交えて報告と情報確認を簡潔に行った。


この悪魔の大量召喚はやはりテメンニグルの塔が基点であること、
その首謀者はアーカムという男であること、
そして―――彼はレディの父であり、彼女が対処にあたるということを。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:21:31.00 ID:IEJOpem1o<>
ステイル『……』

ダンテが信頼して一任している以上、
そのレディの狩りにこちらが割り込む余地はまず無いか。
下手な支援は逆に邪魔になってしまうことが容易に考えられるため、

向こう側から何らかのアクションがない限り、こちらもダンテと同じく一先ず傍観しているべきであろう。

ルドラがテメンニグルの塔が基点だと証言した事については、
海原達が行った簡易分析の裏付けとなる好ましい報告だ。
滝壺による魔塔の界域隔離の成功確率が、これでまた確かに上昇した。

隔離さえしてしまえば全てこっちのもの、
魔塔の処理事態はレディやダンテ達にゆっくり任せれば良いだけでなのだ。

そして最後は五和について。

神裂「―――五和。しばらくそのまま、そちらでの情報収集を継続できますか?」

塔側のエージェントとしてこのまま向こうに置くことを、
神裂とステイルは共有意識下で同意した。


五和『もちろん大丈夫です!ダンテさんから馬をお借りしましたし!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:22:53.95 ID:IEJOpem1o<>
ステイル『(馬?)』

神裂「……ではお願いします。それとこちらの判断を待てないような状況となった場合、迷わず自身の裁量で行動してください」

馬という言葉で一瞬ステイルと神裂は顔を見合わせるも、そのまま何事も無く続けた。
すると無視されたことにさながら憤り、より自己主張を強めたかのように。

五和「了解!プリエステス!」

通信終了間際の了解の声に重なって、
確かに馬の大きないななきが響いてきた。

ステイル『……馬、だな』

神裂「ええ、確かに馬ですね」

ステイル『……』

通信終了後、二人は真顔でそう示し合わせるも、
それ以上は特に追求しようとはせず。
ステイルは立体映像の地図へと向き直り。

神裂「では行ってきます」

ステイル「ああ」

神裂は一気に跳躍し、古い『副官』のもとへと向かっていった。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:24:47.14 ID:IEJOpem1o<> ―――

土御門「―――それは本当か?今来るのか?」

学園都市に向かう米軍の超音速輸送機内にて土御門は、
通信魔術の相手、海原に食いつくように問い返した。
少しばかり耳を疑うことを聞いたのだ。

土御門「本当なんだな?可能なんだな?」

ただ悪い話なんかではなかった。
確かな返事に彼は小さく笑みを浮べて、
向かいの結標に頷いてみせてよい話であることを伝え。

土御門「今来るんだな?わかった」

海原との通信を簡潔に済ませると、
今度はすかさず耳元の通信機に指をあてて。

土御門「滝壺」

滝壺『はい』

土御門「全員に伝えろ。今『ここ』にある人物が来るが敵ではないと」

そうして、向かいの「どういうこと?」といった
表情を浮べている結標に向き直り、けたたましいエンジン音に負けぬようにこう声を張り上げた。


土御門「―――魔女だぜぃ!魔女が来る!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:26:23.54 ID:IEJOpem1o<>
その直後だった。
このカーゴ内の空気が、エンジン音がけたたましく響いているにも関わらず、
一瞬しんと静まり返ったかのように思われたのは。

それは突如機内に現れた異物への緊張と警戒によるもの。

前もって土御門・滝壺から伝えられていたとはいえ、
みなの『スイッチ』が思わず入ってしまったのである。

ただ、それも仕方ないことか。

銀白のボディスーツを纏った異様な圧を醸す女が、
カーゴの天井に『逆さま』に立っているという光景を目にしてしまえば。

瞬き一つせず息を殺し、本能的に感覚を研ぎ澄ませる少年少女たち。
そんな彼らを、短い銀髪の女は天井から一通り『見上げて』。

土御門「…………」


「―――土御門か?」


機首側に立っていた彼を認めて、張りのある声色でそう問うてきた。

決して大声ではない、どちらかというと厳かで静かなものであったにも関わらず、
このエンジン音が響く中でもはっきりと聞える不思議な声だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:28:10.53 ID:IEJOpem1o<>
その問いかけに土御門が声無く頷いてみせると、
女はかかとを鳴らしながら優雅に天井を歩き進み、彼の上までやってきて。

ジャンヌ「ジャンヌだ」

土御門「魔女か?!」

ジャンヌ「そうだ。話は聞いているな?」

土御門「ああ!具体的な内容はまだだが!!」

簡潔に自己紹介と確認を済ませると女はふっと小さく笑い、
土御門に向けこう『具体的』に告げた。


ジャンヌ「この機体ごと―――学園都市近辺まで転送させる」


簡潔極まる説明に、
半ば苦笑しつつ頷く形で「なるほど」と示し返す土御門。

土御門「それで所要時間は?!」


ジャンヌ「―――機体に術式を適用するのに1分。移動に要するのは1秒だな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:29:46.66 ID:IEJOpem1o<>
土御門「―――はっ」

これまたなんという数字か、予想を遥かに越える時間短縮っぷり。
あまりにも早すぎて、むしろこちら側が待たせぬよう準備を急がねばならないほどだ。

土御門「どういった形で転送する?!」

ジャンヌ「あくまで空間をつなげるだけだ。機体はこのまま飛ぶだけ、私が進路上の空間を改変する」

土御門「できれば機体からの直接降下は避けたいのだが、その辺りについてはどうだ?!」

ジャンヌ「そうだな、学園都市から約100kmの空域に飛ばすから、そこから減速して空港に降りれば良い」

土御門「わかった!では始めてくれ!!」

すると頷いた魔女は、術式適用の作業のためか光の円に沈んで『機外』に出ていった。

脇で話を聞いていた結標は瞬時に状況を把握し、
機長にも話をつけるために弾ける様にコックピットに向け駆け出していき。
土御門もすばやく通信機に指をあてて、滝壺のネットワーク越しに全隊員へと声を飛ばす。


土御門「聞け!一分後に第23学区へのアプローチを開始する!」


土御門「着陸後はまず付近の安全を確保!滝壺隊は俺と「窓のないビル」へと向かう!他はそのまま待機しろ!」


そうした彼の声によって、みな声も漏らさずに一斉に準備を開始する。
装備類がしっかり留まっているか、
ベルトは締まっているか、と手早くチェックしていく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:31:36.49 ID:IEJOpem1o<>
次いで土御門は個別回線に切り替えた。

土御門「レールガン、お前は待機部隊を保持しろ」

御坂『……了解』

返って来た御坂の声はどことなく張り詰めていたがあったが、
その理由は容易に想像できるものだ。
特にここで指摘することもせずに御坂との回線も閉じて、
今度はちょうどコックピットから戻ってきた結標に向けて。

土御門「話は?!」

結標「ついた!!大丈夫!!」

土御門の向かいの席に座ってベルトを締めながら、
彼女は土御門にならい、通信回線を使わずに声を張り上げて答えた。

土御門「よし!降りたらすぐ俺と滝壺隊を窓のないビルに飛ばせ!お前も一緒にな!」

結標「私がお守りする『あの子』は?!」

佐天涙子のことだ。
一瞬土御門は、結標の力で彼女をシェルター内に放り込むことも考えたが、
それではそもそも連れて来た意味が無い。

佐天だってこの舞台上の役者の一人、
彼女の処遇は彼女自身に決めさせるべきであろう。

土御門「とりあえず一緒に連れて来い!学園都市の地上じゃ今はあそこが一番安全らしいからな!」

結標「了解!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:34:29.25 ID:IEJOpem1o<>
と、その時。

あのジャンヌの1分という見積もりは、相当な余裕をもったものであったのだろう、
魔女は30秒もしない内にまた天井に現れた。

ジャンヌ「準備が整った。いけるぞ」

それを聞いて土御門は自らの座席に飛び込むようにして着き、
手早くベルトを付けて声を返した。

土御門「OK!始めてくれ!」

再び光の円を通ってすうっと機外に抜けていく魔女。

皆は一様に、それぞれの緊張と集中の色を見せていた。
手を握ったり開けたり、大きく深呼吸する者もいれば、目を閉じて静かに佇んだりなども。

土御門「さぁて―――お待ちかねの凱旋だぜぃ!!」

そんな土御門の言葉に反して、少年少女達の様子はどう見ても帰還の色ではなく、
むしろこれから戦地へと出撃するものであったか。

当然、そう見えてしまうのも間違ってはいない。
デュマーリ島における勝利を手にしての帰還であるのも事実であるが、
これから帰る地が、かれら少年少女達の唯一の『家』にして―――


土御門「行くぜぃ!!―――クソッタレ共!!敵は皆殺しだ!!」


―――天と魔が入り乱れる更なる『戦場』であるのもまた事実なのだから。

土御門の煽りに、皆が一斉に声を挙げた直後、
一度やや大きな衝撃が機体を揺らし。

一行は相模湾上空に到達した。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:35:54.19 ID:IEJOpem1o<> ―――

学園都市の一画、闇夜に包まれる街中にて、
建宮が指揮する隊は今まさに悪魔の一群と激突していた。

彼らの数は25名。
対して悪魔達は、下等の者達とは言え100を有に越える数。

この隊に属す15名のフォルトゥナ騎士がその超重装甲に任せて、
戦車でひき潰していくかのように片っ端から悪魔達を屠っていくとはいえ、
やはりこの数の差では優勢とは言い難いもの。

数も数であるため、フォルトゥナ騎士達の手も全てには回らず。
前面に押し進むの騎士達の間を抜けた悪魔達が、
後列の天草式・アニェーゼ隊の者達へと飛び掛ってくるのだ。

この遊撃隊に属すのは天草式・アニェーゼ隊でも特に戦闘に秀でている者であるが、
それでも前列のフォルトゥナ騎士達に比べたらその対魔能力は微々たるもの。

フォルトゥナ騎士達の重装甲に傷一つ与えられない程度の攻撃でも、
彼らにとっては命取りの一撃になり得るのである。


建宮「ッ―――!」

前方の騎士たちの間を抜けてきた黒い猿のような悪魔―――ムシラが二体、
そのおぞましい牙と爪をむき出しにして、彼へと飛びかかってきた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:39:36.66 ID:IEJOpem1o<>
それを認識した建宮は小さくかつ短く息を吐き。
即座に前に踏み出してフランベルジェを横に一振り。

魔界魔術との混同で強化されている刃は、
まず真正面から向かってきていたムシラの体を上下に分離させた。

次いで彼はそのまま長剣の慣性に身を任せ、円を描くようにしながら―――

―――身を瞬時に低く落とし。

飛びかかってきた二体目のムシラが振るう腕の下を潜り、
すれ違いざまにその脇を斬りさばく。

こうして二体目もまたその体の上下を分断させ、瞬く間に見事に斬って捨てた建宮。

だが―――


「―――上だ!!」


脇の仲間からのこの声がなければ、
次の瞬間にはその体は肉塊となっていたであろう。

『上』、警告の声を受けて彼が咄嗟に執った行動は、横へ跳ねての回避。
そしてその行動は正解だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:41:47.87 ID:IEJOpem1o<>

アサルトが真上から飛びかかってきていたのだから。


このアサルトもまた下等悪魔に分類されるとはいえ、
その戦闘能力はムシラなどといった存在とは桁違い。

フォルトゥナ騎士にとってですら、その巨大な爪には集中して警戒せねば成らない代物。

ましてやこのアサルトの全身を使った真上からの飛びかかりなど、
建宮達が真っ向から受け止めてしまったら完全に押し負け、
次なる攻撃に一切対応できなくなってしまう。

建宮「―――ふッ」

一瞬前まで自身が立っていた路上が丸ごと叩き割られ、アスファルトの破片が飛び散っていく中、
彼はその欠片の向こうにアサルトの姿を認めて。

―――このような場合に重要なのは速度。
余裕を持って倒せる相手ではない時は、隙を目にしたら迷わず一気に畳み掛けるのだ。

回避のため飛び跳ねて地面に片手ついたのも束の間。
彼はそのルールに従い、一気に地面を踏み切り―――前に体を切り替えし。

飛びかかり攻撃を外したばかりという、アサルトの一瞬の隙目掛けて突進した。


建宮「―――ッ」

―――狙うは喉元。

半ば滑り込むように懐へと飛び込み。
力を限界まで注いだ刃を、鱗に覆われた喉に押し当てて―――勢いそのまま『すり抜けていく』。

そうしてアサルトが穿った穴の淵を転がり出でて、建宮が反対側へと抜けると、
その数秒ののち。

―――獣染みた咆哮と共に、そこに悪魔の大量の鮮血が溢れ散った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:43:42.05 ID:IEJOpem1o<>
建宮「はッ!」

溜め込んでいた息を短く吐いて起き上がる彼、
その目が次に捉えたのは、このアサルトの最期の時。

天草式の仲間が建宮に続き、
悶えるアサルトの頭部を切り落として止めを刺したのだった。


そのように、アサルトとの一幕の戦いは建宮達の勝利で終ったも、
全く被害なくというわけでもなかった。

この不意打ちとして飛び込んできたアサルトは、
建宮との一瞬の攻防の間に、これまた凶暴な尾で後方にいたアニェーゼ隊の一人を打ち掃っていたのだ。

術式による防護のおかげか、幸い彼女は命は助かっていたものの。
両手前腕の骨を完全に砕かれ戦闘能力を喪失していた。

建宮「一人こっちに来てくれ!」

傍に駆け寄り彼女の応急処置を手早く行う傍ら、
彼は前列の騎士を一人呼び。

建宮「彼女を『本陣』に連れて行ってもらえるか?!」


そのようにこの負傷者を送り出して、
再び正面に向き直っては、騎士達の隙間を抜けてくる悪魔を迎え撃った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:46:17.04 ID:IEJOpem1o<>
休む暇など無かった。

この一団だけではなく、また新たな悪魔の群れがこの戦いの熱に寄せられて集まって来、
悪魔の数はますます増えていく。

それもイギリスで戦った人造悪魔とは違う、生粋の悪魔達の軍勢。
まるで魔界の大気をそのまま引き連れてきているかのように、
辺りの空気の質が急速に魔で淀んでいく。

周囲の世界そのものがこちらに牙を突き立ててくるかのごとき居心地。

まさしく魔帝争乱時と同じ空気、同じ強烈な圧迫感だ。

建宮「(こいつは―――ヤバイのよな)」

本能が、鍛え上げられた戦士としての直感が、この高濃度の『危機』に反応する。
置かれている状況は魔帝争乱時と酷似しつつあるも―――あの時と比べればこちらの『戦力』が違う。

確かにフォルトゥナ騎士達の強さは凄まじい、だがそれでも。

ベオウルフを装備した上条、イフリートを装備したステイル、
そして―――神裂という戦力には並ばないのだ。


―――そんな建宮の懸念は早々に現実化した。

またしても新たな悪魔の一団が現れたのだ。
それも今度は建宮達を完全に包囲するべく―――彼らの真上に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:47:16.03 ID:IEJOpem1o<>
建宮「―――」

飛びかかってきたムシラを斬り掃って見上げると。
目に映るは、怒涛の勢いで崩れ落ちてくる『黒い天蓋』。

その一粒一粒が悪魔。
数はこれまでの群れよりもずっと多く、恐らく1000近くはいるか。

退くには間に合わない、
そう瞬時に判断してすかさず声を張り上げる建宮。


建宮「―――防御円陣ッ!!防御円陣だ!!」

すると即座に天草式・アニェーゼ隊が彼の周りを囲み、
その外周をフォルトゥナ騎士が囲み、堅牢な円陣を敷いた。


ただどれだけ強固であろうと―――あの一団に立ち向かうにはきわめて困難に思えた。
なぜなら数という他にも―――ゴートリングといった高等悪魔がかなりの数混じっているのが見えたから。

―――と、その場にいた誰しもが今一度、ここが死地だと覚悟した時だった。

突然、その悪魔の一団を包み込むように、
空に格子状に細く鋭い筋が走り―――悪魔達をその塊ごと斬り裂いていったのは。


それは建宮他天草式の者達には見慣れた『技』であった。

ただしこの時、格子状を描いていたのは、
彼らの記憶にある『鋼糸』ではなく―――とんでもない力によって形成されていた『青白い光の筋』だったが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:49:36.69 ID:IEJOpem1o<>
みなはしばらくその光景に唖然としていたが、
イギリスから来た者達は次いで更なる驚愕に包まれた。

特に天草式の者は。


建宮「――――――――――――ッ」


なにせ死んだとされ、遺体すら戻ってこなかった―――『主』が、僅か10mほど離れたところに立っていたのだから。
もちろん生きたまま。

厳かで鋭くも、弱き者や友にはこれ以上ない慈愛を見せる瞳。
姿勢正しく、清廉な品を纏う佇まいに。
結い上げられた艶やかな黒髪に、凛として整った顔立ち。

そして手にある―――長大な芸術的業物。


「―――――――――建宮、なんて顔をしているのですか」


この時の天草式の者達の顔は、それはそれはこの状況にそぐわない、
『腑抜けた』ものであったはずだ。


神裂「―――みっともない。私の副官ともあろう者が」


そう、こうして再会した主君―――小さく微笑む神裂火織に向けていた顔は。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:51:36.33 ID:IEJOpem1o<> ―――

土御門達を乗せた機体はもう第23学区にアプローチ中、
あと1分も経たぬうちに彼らは学園都市の地を踏めるであろう。

ステイル『…………』

そうして彼らが学園都市の空域に入ると同時に、
滝壺が早速この街を覆うAIMの層に直接触れることが出来、早々にして虚数学区を全掌握。


なんとすぐさま、虚数学区上の穴を塞ぐことを成功させてしまった。


ステイル『…………』

だが、これほどの喜ばしい結果となったにもかかわらず、
ステイルの顔に笑みは無く、むしろ重く曇っていた。

虚数学区上の穴の封鎖の件とは逆に、その問題と双璧をなすテメンニグルの塔の隔離の件が、
今や『暗礁』に乗り上げて重大な決断を必要としていたからだ。

虚数学区を安定化させていざこの魔塔の件にも取りかかったが。


滝壺の力をもってしても、かの魔塔の界層を正確に認識できないため、
完全に隔離することができなかったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:53:10.40 ID:IEJOpem1o<>
ただしその点の打開策を、滝壺はしっかりと導き出してくれた。

彼女はこう言った。

私をあの界層に連れて行ってくれたら、
向こう側から人間界を閉鎖する形で断絶できると。


つまり『自ら』がテメンニグルの塔に行けば、と。


―――ただ、だからといってそう簡単に送り出すわけにもいかないのもまた事実。

これはリスクが余りにも高すぎる。
虚数学区の顕現には滝壺の力も必要であり、
彼女がもし死んでしまえば―――能力が使えない状況に陥ってしまえば、虚数学区は一気に崩壊しかねない。

最悪の場合、学園都市は天魔両方に対して丸裸になってしまうのだ。

ステイル『……』

だが、とステイルは考える。
ここに召喚されているのは魔界十強の軍勢、
となればこのままではいずれ大悪魔共が現れる可能性も大。
バージルの力を受け継ぐ神裂が現れたことで、尚更それら強者達を刺激するであろう。

悪魔達の召喚の基点であるテメンニグルの塔を隔離しなければ、
これら神域の戦火が学園都市、さらに人間界各地に飛び火していく結果が容易に想像つく。

そうなれば最悪であり。


そして現状では―――滝壺をテメンニグルの塔に送り出すしか、それを確実に回避できる策は無いのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/25(水) 02:56:06.22 ID:IEJOpem1o<>
確かに神裂含め戦力を彼女の守護に集中できるが、
それでも最前線に送り込むことは危険極まりない。

虚数学区とテメンニグルの塔間を隔離するまでには、さすがの滝壺も手は及ばない。


ならば天界の者達に、彼女の存在が『気付かれないこと』を祈るしかないのである。


滝壺が虚数学区の安定化の要であり、その顕現にも一躍買っているとなれば、
必ず天界側は彼女を最重要目標とし何が何でも排除しようとするはず。
同じく悪魔達もだ。


ステイル『―――はッ』

彼は「正気か」と、この策の決行を推す己に何度も自問する。
一歩間違えれば、一気に学園都市と人間界の敗北を決定付けてしまう博打だと。

最終的にこの決断に踏み切る勇気を与えたのは、
精神を共有している主からの「やりましょう」という声だった。

ステイル『土御門、降りたらまずはすぐこちらに来てくれ。作戦を具体化しよう』

決断した彼はすかさず通信魔術で土御門に声を飛ばし、次いで。


ステイル『―――五和、聞えるかい?』


早速この塔側のエージェントへと指令を放った。


五和『はい!何でしょう?!』


ステイル『至急、その塔内で出来るだけ防御に適した場所を探してくれないか?』


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/01/25(水) 02:57:01.51 ID:IEJOpem1o<> 今日はここまでです。
次は金曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/25(水) 03:01:22.20 ID:FnmTsTtDO<> 続きが気になるぜ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/25(水) 07:16:59.81 ID:ilpkEoaTo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/25(水) 08:44:12.43 ID:3Uun6owa0<> 乙乙乙
熱いな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/25(水) 18:57:14.29 ID:L7bM9n6F0<> いつもながらCRA乙Yだ>>1 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/01/25(水) 19:53:32.44 ID:7VMr1REDo<> お疲れ様です。ジャンヌ先生少し元気になったようでなにより。 <> 前スレ626です<>sage<>2012/01/26(木) 09:33:59.29 ID:HJqc0aaX0<> 祝!!20万桁&スレ番号2桁目突破記念!!

http://ux.getuploader.com/tututti/download/3/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%86%E3%80%8C%E5%AD%A6%E5%9C%92%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%8B%E3%80%8D.zip

前スレ626です。

素晴らしい作品を書いてくださる>>1さんに感謝!! <>
◆tSIkT/4rTL3o<>sage<>2012/01/26(木) 18:05:51.73 ID:42pscOyro<> まとめtxtありがとうございます。
それとお気持ちは非常に嬉しいのですが、
そのようなお言葉はとても苦手なのであまり>>1を持ち上げないでいただければ。
すみません、どうかよろしくお願いします。 <> 58です<>sage<>2012/01/26(木) 19:20:15.80 ID:HJqc0aaX0<> >>1さん すみません。自重します。

なぜかwindows環境で開くと文字化けしたので再編集。

http://ux.getuploader.com/tututti/download/4/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%86%E3%80%8C%E5%AD%A6%E5%9C%92%E9%83%BD%E5%B8%82%E3%81%8B%E3%80%8D.zip <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/26(木) 23:01:37.52 ID:cCVfqHiR0<> かつてスパーダの息子のバージルから次元斬を教わって
しかもイフリートの力を借りて転生したステイルを使い魔にした
聖人どころか天使になりかかっている神裂さんの副官やってる建宮さん頑張れ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2012/01/27(金) 01:30:37.24 ID:o7/U46sd0<> 神裂さんは天使になってベヨ姉さんにボコられて悪魔になったんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/27(金) 01:43:33.85 ID:Rpzkjoqbo<> 二転三転してるから色々混ざっちゃったんだろうなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/01/27(金) 09:41:56.23 ID:LW7EDlht0<> かんざきさんじゅうはっさいは
天界の知識と悪魔の力と人の心を持った神魔人エロメイド…

アレ?
まだ天界魔術も使えるんだっけか?? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/01/27(金) 16:58:28.11 ID:Ee7Hh2gOo<> セフィロトの樹を認識して切れるから、天使性は失っていないみたいだけど・・・
バージルの眷属としての力の方が遙かに強いから、天界魔術はお払い箱だろうなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:38:23.91 ID:tLkFxn0yo<>
―――

『自身が愛した上条当麻』はもう『存在しない』。

彼の現在の状態の詳細を、『当人』の次に最も良く知っている小さな魔女、
インデックスは、その『絆』の向こうから垣間見える情報をもってそう結論付けた。

残酷な現実だった。

彼は竜の中に囚われているわけでも、
何らかの力で強引に融合状態を保たれているわけでもない。

『彼』は本来の状態へと『回復』したのだ。

二つに分かれていたこれまでが異常・不完全だったのであって、
こうして『元通り』なった今こそ正常な状態。

フィアンマと上条当麻というパーツをただ繋ぎ合わせたのではない、
この二つを一度完全に溶かして一つに鋳造し直したようなものだ。

フィアンマと上条当麻という二方を隔てる境界は消滅し、
一つの魂として完璧に安定した形を構築。

そうして出来上がった存在は、確かに『上条当麻』本人ではあったが。
『インデックスが愛した上条当麻』ではなくなっていた。


『彼』は『溶けて』無くなってしまっていたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:40:54.30 ID:tLkFxn0yo<>
これではどうしようもない。
救うなんて考えはもはや無意味、『彼』はもういないのだから。
『彼』の現状を知れば知るほど、誰しもが『彼』を救い出すことなんで不可能だと絶望するであろう。

―――たが。

アンブラの叡智の全てを秘める彼女にとっては、そこまで知り尽くしてもなお『不可能』なんかではなかった。
彼女の頭の中には、『自身の愛した上条当麻』に再び触れるための手段が存在していた。

それは特にもったいぶるほどのものでもない、至ってシンプルなものだ。

アンブラの魔女の『強制召喚』の技を使うのである。

これは禁術でも秘儀でもない、
アンブラの者がまず一番最初に覚える召喚術。

対象の位置・認識さえ正確であれば、そこらの物置小屋に置いてあるガラクタから、
『使用可能な者がいない「大衆奥義」』と言われた『魔界の力場』の召喚術―――『クイーン=シバ』まで、

『いかなる物』でも『どこから』でも引き出すことが出来るという技術だ。

単純がゆえに、召喚対象によっては力の消費や負荷も誤魔化しきれないものになるが、
同じく単純がゆえに力と技量さえ伴えばどんな存在だろうと召喚できるのだ。


それこそ、あの竜から―――『インデックスと契約した部分だけ』を召喚することも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:42:28.26 ID:tLkFxn0yo<>
神の一柱たる銀光の魔獣を前にしても、少女は一切気負いすることなく。


禁書「―――手伝ってほしいんだよ。とうまを『強制召喚』するのを」


当然のことのように、強く明確な声でそう声を放った。
この魔獣に捧げられた上条当麻の瞳を、一切の淀みもなく真っ直ぐに見つめ上げて。

助力を請う態度とはとても言い難い、むしろ有無を言わさず命じている風にも捉えられるか。

そんな不遜な物言いに彼女の背後のイフリート、
そして少し離れたところから作業の傍ら横目を向けていた海原に、一瞬緊張が走った。

彼女の態度にこの誇り高き魔獣が怒りを覚え、次の瞬間にはその拳を振り下ろすかもしれない、
鼻からベオウルフを信用できない彼らはそんな懸念を抱いたのだ。

それは杞憂に過ぎなかったが。

対するベオウルフの反応は、ゆっくりとインデックスと右腕を伸ばし。
彼女の胴ほどもあろうかという太い人差し指を、その胸元へと向けて。


ベオウルフ『さあ―――我と「契約」するがいい』


そう静かに促しただけだった。
彼女は無言のまま頷くと、その巨大な人差し指に左手を乗せた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:44:25.04 ID:tLkFxn0yo<>
イフリートにも海原にも、この二者間の話の流れが全く掴めなかった。
それも当然であろう、彼らでなくとも、
当人以外が今の場だけを見てその真意を知ることは不可能である。


『話し合い』は、インデックスがここに『来る前』にすでに完了していたのだから。


彼女はここに来る前からすでにこの魔獣が快諾するのを知っていたし、その逆もまた然りだった。

上条がインデックス越しにローラの意識を垣間見たのと同じく、
ベオウルフもまた上条越しにインデックスの意識とある程度繋がっているのだ。

禁書「……」

そして今、彼女はその『一族』の繋がりを更に強固にするため、
このベオウルフと契約を結んだ。

あの竜の構成内における、
彼女と共にしてきた上条当麻とそれ部分の最も明確かつ確実な区別方法は、
『悪魔化したかどうか』である。

その部分を正確に認識し引き出すには、
自身と同じく上条当麻と魂のリンクを有し、かつ上条の『親』の位置に立つという、
魂の上位権限を有するベオウルフの影響力が必要不可欠だったのだ。

ぱきん、と響く乾いた音と共に光が明滅し、
契約の儀式は速やかに成された。

禁書「ありがとう……」

インデックスは大きな指に手を乗せたまま、魔獣を見上げて微笑んだ。
すると魔獣は「ふん」と喉を鳴らしては、
翼の一端で闇夜向こうのテメンニグルを指して。


ベオウルフ『早くゆけい。聞くところによるとかの魔塔は隔離されるらしいぞ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:45:52.82 ID:tLkFxn0yo<>
そう、次に彼女はテメンニグルの塔に向かう必要があった。
実はもう一人契約をしなければならない者がいたのだ。

その人物の認識抜きにして、『あの上条当麻』の『全てのパーツ』を見出すことはできない。


禁書「―――うん!」


少し前までこのベオウルフの上位に位置し、
上条が悪魔化したのちも、彼の人格にとてもとても大きな影響を及ぼした人物。
彼の力がベオウルフによって育てられたのならば、
精神はこの人物の存在によって鍛えなおされたとしても過言ではない。


禁書「―――スフィンクス!」


彼女の声に、待っていたとばかりに肩から飛び降りた子猫は、
地に着く前に大きな白虎へと変じた。

インデックスはその背に飛び乗って。


禁書「あなたはここで待ってて!すぐ戻ってくるから!」

そう声を放つとベオウルフの返答も待たずに、
自ら浮き上がらせた白銀の魔方陣の中へと消えていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:49:42.96 ID:tLkFxn0yo<>
イフリート『ふむ……これはどのような風の吹き回しだ』

そうして彼女の姿が消えて数秒ののち、炎の魔人が口を開いた。
重く、尋問するかのごとく口調で。

対して銀光の魔獣は、イフリートに向けてかそれともインデックスに向けてかは定かではないも、
はっきりと嘲笑の色を浮べて。

ベオウルフ『人間どもの「情」は理解できぬ。理解したいとも思わぬ』

そう吐き捨てた。
そして少し思案気に喉を鳴らしたのち、「だが」と続けた。


ベオウルフ『あの小僧は我が名のもとにある子。そして我が子はあの小娘と契りを交わした』


イフリート『……』

銀光の魔獣はそれだけ言うと押し黙った。
それだけで充分だろう、言わんばかりにまた喉を鳴らして。
対してイフリートもまた、やや嘲笑した風ではあるも「なるほど」と鼻を鳴らした。


それは人間の情とはまた違う、どちらかといえば感情ではなく本能であろう、
魔界の存在にとっての血、魂、名、誓いの繋がりは、人間世界のそれとは比べ物にならない意味を有しているもの。

それゆえ人間のように誰かを想い、慕い、情を抱くことは無くとも。
知ある悪魔はその魔界のやり方で義を貫くこともあるのだ。

特にこのベオウルフのように、ただ武のみに生きてきた誇り高き存在ならば。

誇りを踏み砕いたスパーダへ向けられた強烈な執念と『同じよう』に、
その誇り高き武名のもとに結ばれた誓いには、きわめて強固な忠義が注がれるのである。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:52:37.05 ID:tLkFxn0yo<> ―――

一方通行が『下界』から矢継ぎ早に送られてくる情報の精査を優先したこともあり結局、
天使達の『お家騒動』、その原因の具体的な話は有耶無耶になってしまった。


もっとも、ラファエルが返したあれだけの言葉でも、
原因は充分想像が付くものである。


そうして知るべき優先順位は低いこともあって、
一方通行はそれ以上この疑問については口にせず、
より優先順位の高い差し迫った問題について話を進めていった。

一方『―――第二の門は、まだ使えねェンだろ?』

不思議な『樹』の下で、その『恩恵』を受けて力を回復させながら、彼は深緑の天使にそう問うた。
虚数学区にて一柱が屠られ、形勢が不利になったにもかかわらず増援が送られてこない、
それを踏まえての質問だ。

ラファエル『形成途中に大きな力を有した者が無理に抜けると、門に大きな傷をつけてしまいます』

一方『つゥとカマエル他の「四匹」はその無理を押して降りてきたってわけか』

ラファエル『はい。彼らの突破で一時完全に使用できない状態にまで損傷したようです』

一方『次に使えるよォになるのは?そォだな、カマエル達のレベルが抜けられるよォになるのはいつだ?』


ラファエルはふむ、と一泊置いて答えた。


ラファエル『人間界の時間で言いますと、早ければもう1分、遅くとも5分以内には確実に』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:54:53.80 ID:tLkFxn0yo<>
一方『……そォか』

強化と莫大な支援を受けている今の滝壺でさえ、
魔塔と学園都市、虚数学区と学園都市という二つの境界の完全隔絶で手は一杯となり、

魔塔と虚数学区間にまではさすがに手が回らない。

虚数学区上の穴は完全に閉ざされたとはいえ、
悪魔という勢力の参戦、そして諸々の事情で滝壺がテメンニグルの塔に身を置かねばならなくなった以上、
可能ならばやはり天界側の行動を封じるにこした事は無いのである。

一方通行は瞬時に今後の己の行動を練り建てていく。

まずこちらがある程度回復次第、ラファエルの案内で第二の門に向かい、
一つ目と同じようにして蓋をしてしまう。

そしてさっさとここにまた退いて来て、
充分回復して万全に整えてからあの四元徳とやらに向かう。

一方『…………』

ここで重要になってくるのは、この恩恵による回復速度だ。
カマエル達のような存在が第二の門を抜けられるようになるまで早ければ1分もないのだが。

現在の回復速度だと、1分では完全な状態にまでは届かない。
だが門を塞ぐだけならば、7割8割程度の状態で向かっても問題は無い―――と。

そのように思考を巡らせて、何気なくこの樹からの『恩恵』に意識を向けたとき。

小さくかすかに、だが確かに。


『―――』


妙な『声』が聞えた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 02:59:20.70 ID:tLkFxn0yo<>
一方通行はふと顔をあげて。

一方『―――……あァ?なンか言ったか?』

すると天使は、その白亜の彫像の如き顔でもわかるほどに、
はっきりと不思議そうな表情を浮べて。

ラファエル『いえ。特に何も』

そう告げて、今度は次第に怪訝な表情に。
その顔を浮べたいのはこちらとばかりに、同じように眉を顰める一方通行。

するとその時。

『―――』

また聞えるかすかな声。

ラファエル『何か……ありましたか?』

一方通行の僅かな反応に気付いてだろう、そう問いかけてくるラファエル。

その物言いから、恐らくこの声は彼には聞えていないのであろうか、
だが一方通行には確かに聞えていた。

何を言っているのかまでは全く判別つかないも、
確実に誰かが『声』を発したのだ。


一方『……』

いや、こうしている今も『発され続けていた』。
それも複数―――大勢の声が、急流のように絶え間なく。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:02:54.51 ID:tLkFxn0yo<>
一度認識しだすと、途端にその存在対象への感覚・認識力が鋭敏化する。

こうして神の領域の力を手に入れた今はもとより、
彼の基盤となっているベクトル操作の能力自体が、もともとそんな働きを持っていたものだ。
(これもアレイスターに風に言わせれば、『力の認識』を短時間で得るにとても都合の良い性質か)

そんな『得意分野』であることもあって、彼はすぐに原因―――声の源を特定する。

一方通行ははっとしたように背を伸ばしては身をよじり、
背後すぐの樹へと半身振り返って。

そっと年季の入った皮へと手をあてがって。

一方『―――…………』

彼は己の知覚が正しかったことを確信した。


声は樹からの『恩恵』―――この身を癒す力から発せられていたのだから。


こうして源を正確に特定しても依然、何を喋っているのかはわからない、
いいや、正確に言えば『意味のある言葉を発していない』と判明した。

大勢の声はただただ喚いていたのだ。


あるものは滅茶苦茶に叫び、
あるものは何かを呪うかのようにぼそぼそと意味の無い声を連ね、

あるものは―――


一方『……』


―――泣き声のような音を。

そう、確かに意味を成した言葉は一つも無かったが。
みな一律してある系統の情感が滲んでいた。


―――物寂しげな『負の感情』である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:04:30.96 ID:tLkFxn0yo<>
それらを聞きながら一方通行が思い出したのは、
ラファエルとの先ほどの話の中でふと悟ったあること。

あの時は、優先事項ではないためひとまず脇に置いていたが。

一方『……』

改めてその考えが今、一方通行の頭の中を占めていった。


この恩恵の癒しの力―――この声の源は――――――無数の『人間の魂』なんだと。


この時点でもはや一方通行にとっては、
この『恩恵』は『ただの癒し』としては見れなくなってしまった。


誰に向けることも無く声を発し続ける魂が、止め処なく身に浸み込んでいき。
耳を覆いたくなるくらいに、その声で内を満たしていく。


ラファエル『……あなたには聞えるのですね』

一方『―――……こィつらは……』

様々なことを脳裏を過ぎ、
思わず樹から手を離して―――立ち上がり離れようとした時、


ラファエル『―――みな亡くなっています』


彼をその場に押し留めるように、ラファエルが鋭い声を発して。
次いではっと身を引いて少し言い淀んでから静かにこう続けた。


ラファエル『どうか彼らを……せめて人界神のあなたの手のもとに………………』


深緑の天使の言葉はそこで口を閉ざし、後にはただただ沈黙を残した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:07:36.02 ID:tLkFxn0yo<>
搾取する天の身でそこから先を言霊にする資格はないと思ったのか、
それとも最初から続ける気が無かったのかは定かではない。

だがこの天使が何をどう思い、
何を伝えたかったのはその彼の表情、佇まいで充分示されていた。

一方『………………』

一方通行は立ち上がろうとしてたその身を押し留めて。
より近くに、今度は樹と向かい合うようにして座り直し、
再びその硬い皮へと手をあてた。


確かにこのラファエルも含め、天には責任を問い、
その行いへ対して何らかのけじめをつけなければならないであろう。

だが一方通行は悟っていた。
今は天を裁く時でもなければ、それ以前に己には―――天を裁く資格も無いと。

また今更そんなことをしたところで、『彼ら』が再び日の光を浴びることはない。
ここに流れついた『彼ら』は、もう終ってしまった『物語』なのだから。

それに、と。
一方通行は『これ』を、己がやるべき一つの仕事だと認識していた。
アレイスターの言う『人間界の神』になった気などはしていない。

だがこれは力を持つ者としての―――声が聞える者としての義務だろうと。


救いを求める人間に、『生きている』か『死んでいる』かは関係ないのだ、と。


一方『…………』

時間が許す限りのあいだ彼らを受け入れていく中、一方通行はふと思った。

もしかすると―――この中には己が殺めた者達もいるのであろうか、と。

もしかすると―――この中には一万人の同じ顔をした少女達がいるのだろうか、と。



もしかすると―――あの『彼女』もここに―――



――――――この区別の付かない大勢の中にいるのであろうか、と。



一方『…………………………………………』


流れ落ちてくる無数の声は、この身の奥底へと沈むにつれて静かに消えていった。
まるで穏やかに眠りにつくかのように。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:09:52.89 ID:tLkFxn0yo<>
―――

遥か古、この塔が作られた本来の目的で使われていた時代は、
魔女の血が捧げられていたのであろう。

レディの言葉通り、『巨大な力を有した人間の血』だけでテメンニグルの塔は起動した。

激しく振動したのち、
礼典室の床全面にはめ込まれている台座がそのまませり上がっていく。

この円の台座は、実は巨大な棒状の構造物の上辺である。

上にダンテを載せたまま、光り輝く螺旋が刻まれた『芯棒』が塔の中心を貫き昇り、
途中で七つの大鐘を乗せていき―――テメンニグルの塔の最上部へと到達する。


ダンテ「………………Humm」

案の定といったところか。
最上部には竜の姿は無かった。

もちろんそれでも問題は無い、この塔の機能で奴のもとへと向かうだけである。


虚数学区のものか、それとも学園都市のものか、
はたまたかつての日のものを忠実に再現しているのか。

吹き抜ける冷たい虚風にコートをなびかせながら、
ダンテはぶらりと端に歩き進んでいった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:11:12.97 ID:tLkFxn0yo<>
ダンテ「…………中々の眺めだな」

闇夜に広がる街並み。
虚空から出現し雪崩落ちる悪魔達、そして―――戦う天使達と人間達。

そんな複数の界層を見渡せる眺望に、ダンテは小さく笑いながら呟いた。

遥か下からは、この起動によって、
崩れた塔の外殻が地面に激突する音が響いてきていた。


そうやって彼がしばらくその轟音に耳を傾け、
巻き添えになった人間がいないかどうか確認していると。

ルドラ『まずはどうするのだ?バージルのもとへ向かうのか?』


ダンテ「まあな。だがその前にもう『一仕事』ある」


ダンテは背の魔剣の柄を後頭部で、軽く小突いて声を返した。

するとその時、まるで示し合わせていたかのように―――『白虎』が塔の外壁を駆け上がってきて。
大きく跳ね飛び、ダンテの後方へと軽々と降り立った。

そしてその白銀の光を纏う虎の背から―――


禁書「―――ダンテ!」


―――小さな魔女が彼の名を。


ダンテ「よう―――お嬢ちゃん。お急ぎだな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:12:59.61 ID:tLkFxn0yo<>
普段の調子のダンテを認めると、
インデックスはひらりと虎の背から降りては、一度大きく深呼吸し。

禁書「あの……一つお願いがあるんだよ」

緊張でもしているのか少し言い淀んだものの、
確かな声でそう単刀直入に話を切り出してきた。

対して不敵な笑みを浮べたまま、小さく喉を鳴らして先を促すダンテ。
彼女はそこでまた意を決するように深呼吸して、今度は言い淀む事も無くはっきりと声を放った。

禁書「私と魔女の契約を!とうまを引っ張り出すのにあなたの力が必要なの!」

するとダンテは一拍おいたのち可笑しそうに鼻で笑うと、
彼の反応に少し驚いた彼女に向けてこう返した。


ダンテ「そこまで気張らなくても良いぜ―――お嬢ちゃんの『依頼』は生きてるんだからな」


禁書「―――ほ、ほんとっ?!」


ダンテ「で、契約を結ぶには何をすれば良い? ちなみにお嬢ちゃんの年頃は趣味じゃねえから、
    ナニをするようなのはお断りしたいけどな」

禁書「ち、違うんだよ!そそそそんなことはしなくてもいいから―――っ!」

緊張感の無い思わぬダンテの返しに戸惑い顔を赤くしながらも、
彼女はその場で瞬時に術式を組み上げたのか。


魔方陣をいくつも腕輪のように出現させて、その左手を差し出してきた。


禁書「……あ、握手だけで充分なんだよ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:14:53.95 ID:tLkFxn0yo<>
ダンテ「へえ、なるほど、身を捧げるのは一人だけか。貞節なのは良いことだ」

禁書「―――!」

そうお気楽に茶化しながら、
言葉に成らない抗議の表情を浮べているインデックスの手をダンテが掴むと。
ぱきりと乾いた音が響き、魔方陣が少し動いたのちに姿を消した。

どうやら契約が完了したのだ。
その証拠に―――


禁書「―――ッ……だ、ダンテ……」


恐らく頭の中を垣間見たのだろう、インデックスが表情を一変させていたのだから。

ダンテがこの争乱をどんな視点で見、何を考えているのか。
それを知った小さな魔女は大きく目を見開いて、唖然とした面持ちでダンテを見上げていた。

対して彼は普段どおりの調子で笑い。


ダンテ「心配するな。坊やの銃はちゃんと届けるさ」


そうこれまた軽薄な調子で口にして、
彼女の横をすれ違ってはこの最上層の中心点へと向かって歩んでいく。
そんな彼に向け、少女は思わず口を開きかけたも。


ダンテ「早く行きな―――『インデックス』」


その背中を見てインデックスはぎゅっと口を閉じ。
そして何も言わずに白虎の背に飛び乗ると、そのまま塔の端から飛び降りていった。


ダンテ「…………」

ダンテは顔色一つ変えぬまま黙って聞いていた。
柱に吊り下げられた七つの大鐘が奏でる、けたたましい不協和音を。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:16:35.57 ID:tLkFxn0yo<> ―――

土御門「……なるほど」

ステイル『いけると思うか?』

土御門「どちらにせよそれしか方法が無いんだろう。だったらコレでいくしかない」

到着早々、いや、厳密には結標の能力で一足先に到着した土御門は、
(ちょうど今この瞬間に、機体は滑走路上で減速している最中であろう)
窓のないビルそばの本陣にてステイルと話を合わせていた。


例の計画―――滝壺をテメンニグルの塔に設置する件についてだ。


土御門「滝壺。しっかり頼むぞ」

彼の隣で、口をしっかりと結びながら頷き返す滝壺。
土御門に同行してきたのは彼女とその護衛チームである。

結標はある程度部隊の展開が完了次第、佐天を連れてここに来て、
人員の配置をステイルと決める予定だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:17:36.57 ID:tLkFxn0yo<>
土御門「―――よし。じゃあ早速行くか。滝壺、準備してくれ」

ぱん、と手を叩いた土御門は、そうして少し離れた路上に向かい、
待機していた滝壺の護衛チームも呼び。

その彼の隣に滝壺が並び立ち、一同は魔塔突入の位置についた。
ちなみに彼女の背後には浜面と絹旗が立っていた。

ステイル『向こうでは五和が待機してる。彼女と合流して、防御に適した場に向かってくれ』

土御門「OK」

ステイル『神裂と建宮隊をすぐに向かわせるし、可能ならば騎士隊長とアニェーゼの隊もだ』

そして最終確認を済ませて。

土御門「頼むぜぃ。戦力は多ければ多いほど良い。気付かれたら激戦必須だからな―――」


ステイル『―――ああ。天に気付かれないことを祈るばかりだ』


滝壺「みんないい? じゃあ上にあがるよ」

滝壺のその言葉の直後、
彼らの姿はすうっと背景に消えて無くなっていった。

魔塔の界域に昇ったのだ。

そうして土御門たちが消え去った後、
ステイルはふと闇夜の空を見上げて。


ステイル『頼むぞ…………気付かれないでくれ』


『祈る』ように呟いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/28(土) 03:20:34.63 ID:tLkFxn0yo<>

―――だが。


その祈りは届くことは無かった。
『竜』は『全て』を見ていたのだから。

『竜』にとっては、この展開は―――『面白い』ものではなかった。
ただその一方で、少しばかり刺激を与えるだけで一気に『面白くなる』とも。

そうして状況は、、ステイル達にとって最悪の方向へと転がっていく。


『竜』は協力者である四元徳に何もかもの情報を流したのだ。


滝壺という能力者が界域の隔離断絶を行っており―――その彼女がテメンニグルの塔にいると。

また彼女の能力は、打ち止めと言う幼い少女がいるからこそ成り立っているとも。


これが学園都市を守る人間側の『二つの弱点』であると。
このどちらかを排除してしまえば、一瞬にして虚数学区は崩壊するのだと。


そうして四元徳の命により、
第二の門がまたしても激しく損傷するのも厭わずに。


フォルティトゥード『我らが主神ジュベレウスの名の下に命じる。ゆけい―――』



セフィロトを守護する天使達の中でも特に強き―――『元人間』の戦士達が下界に放たれた。



フォルティトゥード『―――メタトロン。サンダルフォン』



―――彼女達を排除するために。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/01/28(土) 03:21:18.34 ID:tLkFxn0yo<> 今日はここまでです。
次は月曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/01/28(土) 03:37:31.10 ID:bzJvrvAno<> 乙
盛り上がってまいりました <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/01/28(土) 03:48:37.03 ID:s7J09bHDO<> 乙乙乙!
ダンテと契約したって事は今のインデックスの強さは凄いことになっているんじゃないか?主契約とか云々で <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/01/28(土) 08:00:56.98 ID:6a3hAiCwo<> 乙です。いい感じで進行してると思ったらこれの有様だよ!竜王マジ竜王。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2012/01/28(土) 09:33:32.79 ID:6OS9iw2po<> 乙
千葉トロンかと思った <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/28(土) 09:43:11.22 ID:63rr2mkQo<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/01/28(土) 10:43:27.97 ID:wCLIKMPe0<> 乙
メガトロンとかやばいよやばいよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/28(土) 10:58:02.12 ID:OrZguXT6o<> 乙乙
お許し下さいメガトロン様! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/28(土) 14:37:03.69 ID:4m5p9saIO<> メガトロン様出て来たら一気にギャグパートだからやめろw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/01/28(土) 15:13:45.83 ID:cldQ0nOao<> メタトロン「一番良い武器を頼む」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/01/28(土) 15:35:24.33 ID:J3rv1aS3o<> イーノック……! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/01/28(土) 23:42:52.85 ID:n8oMHFF10<> カマエル「今からこの俺様がセフィロトのニューリーダーだ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/01/29(日) 09:37:50.56 ID:x17hwPM8o<> この二人とかやばいよ
てかやっぱ天界側なんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/01/29(日) 23:44:34.27 ID:7O1R3SQL0<> マグマダイバーは信頼度低いよな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/01/30(月) 10:54:41.70 ID:wsY/XfyK0<> やっぱ癒しの力の中に麦のんは居ないのかな
悪魔化しちまったし… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:35:10.72 ID:e2mIhRIoo<> ―――

宙空から怒涛のごとく流れ落ちてくる大量の悪魔、
この突然の介入によって虚数学区上の戦いの様相は一変していた。

ちょうどその時の状況は五対四、名だたる天の一柱が欠けたことで形勢が人間側に傾き、
キャーリサ達がここぞとばかりに攻勢に出ようとしていたところだったのだが。

キャーリサ『―――邪魔くっせーなこの野郎共!!』

その攻勢転換も頓挫してしまった。

下等悪魔であれば、どれだけ数がいようと今のキャーリサ達にとっては直接的な敵ではないも、
きわめて厄介な障害物であることは変わりない。

群がってくる一団を一纏めに葬り去ることは出来るが、
そのたびに刃やら拳を振るわなければならず、
必然的に守勢に回ったカマエルら四柱への追い込みが手薄になるのだ。

天使達もまた雑魚の群れを薙ぎ払いながら、
一方で追うキャーリサ達とは対照的に、距離を開けようと下がって行く。

キャーリサ『チッ!来いよ!根性ねー連中だな!―――追え!!』

シェリー『―――はッ!』

キャーリサが一振りから放たれた光筋が、
モーセのように正面の悪魔の群れを割り裂き、その中へとすかさず飛び込むシェリー。

彼女が猛烈な勢いで目指すは、後退する天使達の殿であるハニエルだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:38:27.35 ID:e2mIhRIoo<>
すかさず魔像の右腕に、
タルタルシアンの躯から得た力を集束させていくシェリー。

そうして勢いそのまま半ば体当たりぎみに、
背丈ほどの大槌を持った小柄な天使へ向けて拳を叩き込む。

シェリー『―――』

だが直後、拳の先に走った感触は明らかに防がれたものだった。
混沌とした戦場の中で迸る強烈な衝撃―――その向こうに彼女が捉えたのは、

こちらの渾身の一撃を―――その『細腕』の肘で受け止めていた小柄な天使だった。

本当にその体躯はアニェーゼよりも数センチ背が高いかという程度、
手足も華奢で、纏っている装具類もこじんまりしたもの。

だがそんな見かけでも、正真正銘の神の領域の存在。
所詮『大悪魔もどき』の魔像が放つ拳などものともしない、
とてつもない腕力と頑強度を誇っていた。

小柄な天使はそのまま受け止めているどころか、
一拍置いては、肘を伸ばす形でシェリーの巨腕を押し弾き。

シェリー『―――チッ!』

魔像もろとも彼女を後方に押し下げたのだ。
両者の間に生じた距離は10m程度か、
瞬間、シェリーは周辺にまた群がってきている悪魔達の存在を認識した。

となれば、ハニエルはまたこのどさくさに紛れて更に距離を開ける―――と、
彼女はこの天使の次の行動をそう判断しかけたが。


周囲の状況を認識した中でふと悟った。


ハニエルが次にとる行動はその『逆』だと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:40:25.71 ID:e2mIhRIoo<>
もしシェリーが逆の立場だったのならば、彼女だってそうした。
彼女は今、己は一瞬の『仲間との連携から外れてしまった間』にいると気付いたのだ。

シェリーの背後には風斬が追って来ていたもまだまだ距離があり、
ハニエルにしてみれば軽く四回は大槌を打ち合わせられる余裕がある。

そして『五対四』であれば守勢なだけで―――『一対一』ならば。
ましてや敵が自身よりも明らかに『弱い』のならば、
この小柄な天使が攻勢に出るのは当然だった。

シェリー『―――ッ』

だん、とその細足に似合わぬ地響きを轟かせ、
一気に前へと踏み出してくるハニエル。

振り上げられた、同じく細いもう片腕には―――天に仇名す存在を容赦なく叩き潰す大槌。


ここで迷わずシェリーは判断した―――退くことを。

直後。
魔像が一瞬前までいた空間を、天の大槌が突き抜け、
既に瓦礫の更地となっていた大地を更に叩き沈めた。

咄嗟に後方に跳ね、この強烈な一撃を回避したシェリー、
だが彼女には息を吐き出す間も与えられはしない。

ハニエルは振り下ろしたのも束の間、
その衝撃が周囲空間に伝わっていくよりも速く―――

―――大槌を軽くあげ、そのまま『突き』攻撃を放ってきたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:43:33.83 ID:e2mIhRIoo<>
回避行動に移る猶予は無かった。

いや、そう言うとやや語弊があるか。
ハニエルの攻勢はパワフルで凄まじかったものの、
一方でシェリーもここである種の『しぶとい強さ』を発揮したのだ。

天使の大槌の突きを、彼女は交差させた巨腕で真っ向から受け。
そうする一方で足は踏ん張りはせず、逆に後方へ踏み切る。

シェリーはその強烈な突きの衝撃を利用して、後方に一気に跳んだのだ。

当然ハニエルは、間合いから離脱した相手を一瞬追おうとするも。

そこでようやくシェリーに風斬が追いついたのを認め、
この小柄な天使もまた的確な判断でさっと身を退いていった。

風斬『大丈夫ですか―――?』

シェリー『問題ないわ』

直で大槌を受けた魔像の右腕が、
もう一つ関節を増やしたようにひん曲がってはいたも、この程度はすぐに修復できる。

盾の様に前に立つ風斬の背後にて、彼女は即座にその腕を修復し、
そうしてまた悪魔を掻き分けながらの追い込みを再開。

風斬『―――少し状況が変わりました』

しようとしたのだがどうやら、
この風斬の様子や声によると天使の追い込みは一先ず中断か。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:44:50.18 ID:e2mIhRIoo<>
これ以上どう変わるのか、また変わったのか。
風斬の物言いからして手放しで喜べる方向ではないのは確かか。

シェリー『何があったの?』

彼女は半ば辟易としながらも問うが、
人工天使は彼女に背を向け真っ直ぐ正面を見据えたまま何も言わなかった。

そして代わりに返って来たのは。

ステイル『天界魔術による通信と、天使がいる界域での口頭の情報伝達は控えてくれ―――』

魔界魔術による意識内へのステイルの声。
そうまず前置きすると、彼は簡潔に状況説明の言葉を並べていった。

風斬とアグニは、その様子からすでにそれぞれの情報網で事情を知ったのだろう。

一方、魔界魔術を使用できないキャーリサとヴェントは、
今ここでは詳細を知る術がないか。

シェリーの傍に降り立った彼女達は、
人工天使・大悪魔とは対照的にやや腑に落ちないという表情を浮べていた。
おおかた風斬に後で説明するとでも言われたのだろうか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:46:45.40 ID:e2mIhRIoo<>
ステイル『―――というわけでね。危険な賭けだが、これしか選択が無い』

シェリー『…………』

一通り素早く聞いたシェリーは、同意を篭めて沈黙を返した。
彼の言う通り極めて危険ではあるも、残念ながら今ところこれが最良の策だ。


―――と、彼女が心の中で頷いたちょうどその時。

この危険な『最良』の策が、『最悪』をも兼ね備えてしまった。
新しい局面になったと思ったのも束の間、状況はまた一転。
目まぐるしく変わっていく。

まず反応を示したのは―――風斬。

はっとしたように彼女は顔を上げ、ある一点をじっと見つめ始めた。
この虚数学区と一心同体とも言える風斬は、即座に『体内』に侵入してきた異物を検知したのだ。

そうして打ち止め、海原と介して。

ステイル『―――待て……ちょっと待て……これは―――』

ステイルにまで通じ。
そこでキャーリサが怪訝な表情を浮べながら、風斬と同じ先を見据えて。


キャーリサ『ちッ……援軍、か―――メタトロンとサンダルフォンだ。奴らはヤバイらしーぞ』


カーテナから情報を受け取り、
その侵入してきた『異物』の正体を口にした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:48:57.36 ID:e2mIhRIoo<>
シェリー『…………』

その数秒間の内にシェリーは、
魔界魔術の回線先から漂ってくる空気がみるみる凍り付いていくのを感じ取った。

そして高校制服姿に光剣・翼と頭上の輪という妙な格好の風斬、
その後姿からも同じ色が滲む。

風斬『―――「残念」ながら…………例の件は口にしてもいい状況になってしまったみたいです』

ヴェント『何があった?結局ここで説明できるのか?』

シェリー『いいえ―――まずはテメンニグルの塔に向かってからだ』

そうして一気に飛翔した風斬に続きヴェントも飛びあがり、
魔像は豪快に地を駆け抜けていき。

品などお構い無しに悪態付いて舌を鳴らすキャーリサ、
状況がどうなろうが変わらず「ぬん」と頼もしく覇気を放つアグニもまた続いた。

タイミング同じくして、彼らと併走するように四つの光体―――カマエル達もまた、
悪魔の群れを吹き飛ばしながら魔塔へと突き進んでいた。


そして両組が目指す魔塔、その遥か高空からは―――二つの光体が降下しつつあった。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:50:38.26 ID:e2mIhRIoo<> ―――

ステイル『―――ッ』

これに見合う悪態など、少なくとも彼は知らなかった。
代わりに口角端から漏れ出すのは焔。

言葉に変換できなかった衝撃と憤りを熱として吐きながらも、
彼は必死に激情を抑えて思考を巡らせて行く。

滝壺が魔塔に入った直後のこの更なる天使の侵入。
キャーリサの言によると正体はかのメタトロンとサンダルフォン。
その進路は真っ直ぐテメンニグルの塔。
そして他四柱も守勢から一転、皆この魔塔へ進路変更。

物的証拠はない―――だが状況証拠で明白だった。

『そう』としか思えない。


原因はわからぬも―――滝壺の存在が瞬時に知られてしまったのだ。


ステイル『―――海原ァ!隔離完了までの時間は?!』

内では神裂に声を飛ばしつつ、
彼は声を張り上げて、ビル内にいる海原へと問うた。

滝壺の作業が完了するまでの時間は、と。
完全隔離が完了さえすれば、全ての主要戦力を彼女の防御に集中できるのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 01:51:41.86 ID:e2mIhRIoo<>

海原『―――約2分です!!』


そこで返って来た答えは―――2分。

人間的感覚ならばごく短時間、
だが異界の神域の者達にすれば―――目的を成し得るに十分過ぎる時間。
そして守る側からすればさながら永遠の如き時間。


まさしく学園都市の命運が決定付けられる―――『魔の二分間』。


ステイル『―――ッ』

とその時。
ここで『あるもの』を目にして、ステイルの思考はついに一瞬停止してしまった。
それは立体地図上に出現したあるもの。

滝壺の侵入によって描写されつつあったテメンニグルの塔の界域、
その魔塔の『頂点』辺りに表示された―――


―――『Index Librorum Prohibitorum』という文字が振られていた光点。


海原『―――「禁書目録」が―――!!』

同じく気付いたのであろう、海原の張り上げられた声が聞えた時。
魔塔から降下中の『彼女』は、今にも別の『光点』に接触する寸前であった。

魔塔の真上から猛烈な勢いで降下してきていた内の一つ、


天使であることを示す白い輝きの―――『Sandalphon』と振られていた光点に。


そして刹那。
ステイルの意識内が文字通り真っ白にまっていたその瞬間。


『―――小僧はそこにいろ。「我ら」が向かう』


そんな彼を安心させるかのように確かに、
強く猛烈な『熱』を帯びた『父』の声が響いてきた。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/01/31(火) 01:52:54.28 ID:e2mIhRIoo<> 短いですが今回はここまでです。
次は今晩に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/01/31(火) 07:38:50.09 ID:ksk95CTKo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/01/31(火) 08:38:15.11 ID:FRTH9dnV0<> 乙

天使レベルでこれなら、かの貯金箱たちはどうなるんだよ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2012/01/31(火) 11:39:09.28 ID:jJ99Owgs0<> ネロ坊は今なにしてるんだっけ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<><>2012/01/31(火) 20:02:48.32 ID:mcwAUcF60<> 二日連続投下だと!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/01/31(火) 20:20:31.67 ID:DpDrAZpEo<> 乙です。二夜連続・・・竜王様も満足です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:20:09.97 ID:LAoSMBcIo<> ―――

こればかりは不運だとしか言い様が無かった。

ダンテと契約を終えて、魔塔の頂点から飛び降り。
移動用のための魔方陣を出現させようとしていたその時―――彼女は気付いた。

真上、彼女からすれば『真後ろ』か。

はっと振り返ると―――僅か15mの宙に『彼』がいた。

一見するとその姿は、
古代地中海風のフルフェイスの兜に胴鎧を纏った人間にも見えた。
装具・衣の隙間から覗く肌が完全に人のものなのだ。

だが翼と光を灯す瞳、そして―――


禁書『―――ッ』


―――纏う力は、領域も質も人のものではなかった。

インデックスの『目』にはその目に見える姿以上の情報が見えていた。

その力は紛れも無く神の領域。
大悪魔に並べれば上位の存在に比する領域か。

更にそれだけではない。

彼が振り上げ引いている腕、そして両足には―――妙な力の塊が『絡まっていた』。

それも尋常ではない、
この強大な『天使』にとっても―――不釣合いではないかという位にまで莫大な。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:22:31.26 ID:LAoSMBcIo<>
彼女の『目』はそれをはっきりと捉え、
今や封切られているアンブラの知識がそこを完璧に『説明』する。

この天使の名は―――サンダルフォン。

一般的にこの存在が語られる際は、兄弟とされてるメタトロンと同じく、
そのきわめて桁外れの『体の大きさ』が良く述べられる。

この通り肉体はやや大柄な成人男性程度ではあるも、
実はその伝承はあながち間違ってもいない。

『彼の体』が『とてつもなく巨大』という表現は、不完全な言い伝えが形を変えた比喩である。
その本当の正体は、彼と彼の兄にだけ許されたある『特権』。


彼女が今目にしている―――このサンダルフォンの手足に纏わりついていた力だ。


体がとてつもなく巨大、そう表現されてしまうのも不思議ではない。


この天使の身には―――『天界の一部』が『乗っている』のだから。


その『天の質量』が負荷された拳が、
偶然遭遇した宿敵の生き残り―――アンブラの小さな魔女に振り下ろされようとしていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:25:16.30 ID:LAoSMBcIo<>

           OLPRT
禁書『―――「光を」!』


刹那、彼女はそうエノク語で唱えた。
するとそのすぐ脇に巨大な魔方陣が浮かび上がり。

出現するのは銀髪に巻かれた―――契約したばかりのベオウルフの巨腕。


それが光の中から猛烈な勢いで飛び出で、上空からのサンダルフォンと衝突。
金と銀の閃光が溢れ、強烈な光の爆轟が空間を歪めた。

あまりの衝撃に、
スフィンクスごと一気に党側へと吹き飛ばされていくインデックス。

ただ、あわや叩きつけられるかという勢いではあったが、
白虎の見事な姿勢制御で彼女達は塔の一部へと降り立った。

そこは崩れ割れた外殻の一画。

爪を立てて制動するスフィンクスの背の上にて、
まだ止まりきる前から彼女は例の天使の方を見上げた。


すると例の天使―――サンダルフォンは、翼を広げて彼女を真っ直ぐに見下ろしていた。

探りの一撃を叩き込んでの今は分析中であろうか。
その姿には、ベオウルフの拳と激突したにも関わらず消耗した形跡は微塵も無く。

禁書『―――ッはぁっ……はぁっ……』

対してインデックスは早くも息が上がっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:26:27.92 ID:LAoSMBcIo<>
力を取り戻しているベオウルフは今や大悪魔の中でも上位存在、
本来ならば、アンブラでも歴戦の最高位の幹部達でもないと個別契約できない相手。

そんな存在を実体召喚させるなど、
たったの一度きりで腕だけであってもインデックスの身には荷が重過ぎたのだ。

アンブラの魔女は、そもそも魔獣は『体』で召喚することを大前提にしている。
その方が直感的におこなえるために簡単、かつ精神への負荷がきわめて少ないからだ。

だがインデックスはそれが『できない』。
ベースとなった『妹』はそれら魔女の戦闘修練を受けてはいないため、
どうしても『頭』で全ての作業をやるしかない。


扱える力は多くとも、彼女自身の技術・力量が伴っていなかったのである。


しかも―――その命削る思いで放った今の一撃も効果は薄い。

いいや、それどころか彼女はあの瞬間、
はっきりと見てしまった。

振り下ろされたサンダルフォンの拳と激突する際、
ベオウルフの巨腕が―――歪に曲がるのを。

ただでさえ今のベオウルフと同格程度の身の上に『天の質量』のブースト。
そんなサンダルフォンの圧倒的な一撃は、その魔獣の拳を真っ向から砕いていたのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:28:37.55 ID:LAoSMBcIo<>
禁書『(―――戦ってはいけない!)』

まともに相手をできる存在ではない。
それは明白だった。

選択肢は一つ、移動用の魔方陣を組み離脱するのみだ。

彼女のサンダルフォンの認識が流れ込んだのか、
それとも彼が自身の本能でこの相手の脅威を悟ったのか、
ぞわりと毛が逆立つスフィンクス。

その跨る背をインデックスは叩くと。

禁書『(いくよ―――!)』

迷わずすぐに魔方陣の起動に取りかかった。


そして案の定、その様子を一目見ては、真っ直ぐに宙を切り裂いてくるサンダルフォン。


こうなることを彼女はわかっていた。
到底『足』で逃げれるような相手じゃないのは明らかであったため、
最初から魔方陣による離脱を敢行したのだ。

それしか選択肢が無かったのである。
そう、どちらが速いかもまた―――予想が付いていたとしても。

ただし、サンダルフォンの突進か彼女の離脱か、
どちらが速かったかの結果は明確に示されなかった。


その瞬間―――『二体』の大悪魔がその場に乱入してきたからだ。

まずインデックスの盾となるように降り立ったのは―――炎の魔人、イフリート。
そして魔人の出現に、一瞬驚きの色を浮べかけた天使を―――横っ腹から蹴り飛ばす―――ベオウルフ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:33:20.64 ID:LAoSMBcIo<>
先のお返しとばかりの不意の強烈な一撃によって、
サンダルフォンは遥か先へと吹っ飛ばされていった。
この界域にも溢れている『悪魔の雲』を貫き、遥か見えなくなってしまうまで。


禁書『―――ベオウルフ!』

『一蹴り』終えて、上の外殻にしがみ付いたベオウルフ。
やはり先の召喚の際か、その右腕の先が歪にひしゃげていた。

だが当の魔獣は特に気にしている風も無く、
右腕に注がれるインデックスの視線を目障りだとばかりに喉を鳴らした。

イフリート『ここは「我」に任せろ』

天使が吹っ飛んでいった方向を見据えながらそう告げる炎の魔人。

禁書『―――……』

インデックスはこれは自らに放たれた言葉だと思ったが、
直後にベオウルフの反応を見てそれが違っていたことを知った。
魔獣は意味深に鼻を鳴らしていた。
どことなく嘲笑しているかのような、皮肉めいたものだ。


イフリート『―――何をしておる。さっさとゆけ』


そんなベオウルフに対し、炎の魔人は今度は一際強い声を発して、
今度こそ上にしがみ付いている魔獣へと視線を向けた。
すると魔獣は一転、嘲笑染みた色を潜めて。

インデックスの傍へ地響きを轟かせて降り立つと、
今度は厳かな空気を纏い―――ひと声、短く強く咆哮した。


その一連の意味深なやり取りは、
インデックスの目には、あたかも―――『仲間』へ声を手向けているかのようにも見えた。

だがその真意を確認する暇は、彼女には無かった。
魔獣はすぐに彼女の方に振り向き、魔方陣を起動させるよう促してきたのだ。

禁書『う、うん……』

そうしてこの魔獣と共に光の中に沈んでいく間、彼女は炎の魔人の背をずっと見つめていた。

ちなみにこのイフリートの背こそ、
インデックス・ベオウルフの両者が見た彼―――この炎の魔人の最後の姿だった。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:34:55.31 ID:LAoSMBcIo<> ―――

テメンニグルの塔。

門前の広間に到達した土御門達を出迎えたのは、
蒼い魔馬に跨った五和だった。

その出迎えに滝壺や、絹旗や浜面といった彼女の護衛チームは目を丸くし、
五和を知っている土御門はそれ以上に驚きの色を浮べてしまう。

神裂と共に五和も実は生きていた、とつい数十秒前に聞いたばかりな上、
そんな五和が乗っている魔馬は、慈母の知覚を通すとどう見ても大悪魔。

誰がこんな五和の姿を予想できたであろうか。

あのヴァチカンの一件以来一体何があったのか、もう詳しく聞く気にはならなかった。
状況がここまで切迫していなくとも、
事情を聞くことはもう諦めてしまっていたはずだ。

同じく『細かいこと』は何も言わず、
魔馬をいななかせながら門扉を蹴り開ける五和。


五和「―――こちらに!」


皮肉と呆れ混じりの笑みを浮べながら土御門は、
その五和の横を通る形で、滝壺達を連れて門の中へと進んでいった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:36:26.81 ID:LAoSMBcIo<>
門の先は、巨大な吹き抜けの広間だった『はず』であろう。
『はず』というのも今、この広間の中央を巨大な柱が聳えていたからだ。

直径数十メートルはあろう円柱には、らせん状に溝が刻まれており、
その隙間から不気味に胎動する光。
どうやらこの円柱は、つい今しがたにでも床を突き破って上に伸び上がったのだろう。
割れて久しそうな塵が周囲を舞っており、瓦礫もあちこちに散らばっていた。

そうやってほぼ習慣的に周囲空間を観察する傍ら、
土御門は確認の意を篭めて滝壺の名を呼んだ。

すると彼女はこくりと頷き。

滝壺「もうはじめてるよ。隔離完了まであと2分くらいかな」

土御門「2分か。五和、安全な場所まで誘導してくれ」

五和「はい。それと一つ言っておきますが、完全に安全な場所はここにはないと思います。どこからでも悪魔が湧き出しますので」

それは把握していると土御門が頷き返すと、
五和を乗せた魔馬が門のところから一っ跳び。

五和「ではこちらへ!」

一階上の回廊に飛び乗り、槍を大きく振ってついて来るよう促した。

それを見て、土御門が首を軽く傾げる風に指示を飛ばすと、
まず絹旗が滝壺を抱き抱え、もう片手で浜面のベルトを乱暴に掴み、
五和の傍へと向けて跳躍。

そうして他の能力者たちも後に続いていった。

だが。


土御門「―――……」


当の土御門だけはその場から動かなかったが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:38:22.79 ID:LAoSMBcIo<>
その時、慈母が残し与えてくれた知覚と力が『あるもの』の接近を捉えたのだ。
この塔内や周囲に蠢く無数の下等悪魔共ではない。

次元が違う、桁違いの存在が―――『二つ』。


紛れも無い、上位の大悪魔級の力を有したもの。


土御門「―――……」

彼は身を強張らせた。

五和「―――土御門さん!大丈夫です!」

一方、彼の警戒へと向けられた五和の声は、
明らかにこの『あるもの』の正体を知っている風であったが、
土御門がここでそれを問う必要は無かった。


『相手』がちょうど今、門扉の片側を押し開けつつあったのだから。


土御門「―――はっははっ」

ここでまた、彼は驚きと呆れ混じりの笑みを浮べてしまった。
五和と同じく生きていたとは聞いていたが、これまた同じく―――


神裂『―――土御門』


いや、五和以上に―――神裂火織は変貌していた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:40:32.74 ID:LAoSMBcIo<>
その外見は何ら変わらない、
以前の神裂火織のままであったが、その魂と力の質と規模が豹変していた。

土御門の知っていた神裂は『半天使』だったのだが、
今目の前にいる彼女は『完全な悪魔』だった。

声のエコー、瞳に仄かにゆらめく赤い輝き、
身から発する強烈な威圧感、どこからどう感じ取っても悪魔。

それも正真正銘の大悪魔だ。

建宮「―――い、五和!!五和か?!何だそりゃ、う、馬か?!馬に乗ってる?!」

五和「建宮さん!!!皆さんもご無事で!!」

神裂の後ろに続いていた天草式と上階の五和の再会、
その飛び交う声に挟まれる中、

土御門「はっ……はっはっ、ねーちん一体こりゃぁ……まあ色々あったようだな」

神裂『ええ。土御門、あなたも』

この二人の間で交わされた声は対照的に静かなものだった。
そして再会の言葉はそれだけ、あとは互いに頷くと。

神裂『建宮、五和と共に彼女の護衛を』

建宮「―――了解なのよな!」

神裂『では土御門、あなたも』

土御門「………………」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:42:06.00 ID:LAoSMBcIo<>
土御門はそこで神裂の顔を見つめた。
どこからどう観察しても、五和達に同行するつもりが見受けられないその表情を。

土御門「やっぱり『アレ』は、『こちら側』じゃないんだな?」

そう、土御門がさきほど検知した桁違いの存在は『二つ』だ。
一つはこの『神裂』という頼もしい味方あったが、もう一つはどうやら―――


神裂『―――アレは、あなた達ではどうにもなりません』


その時だった。
建宮隊の最後尾の者によって扉が閉ざされた直後。

その向こうから強烈な『地響き』が伝わってきた。
この塔、そして界域全体を揺るがすほどの。

さながら『空』がそのまま落下してきたかのような『大質量』の衝撃だ。

土御門「―――……」

そして今度こそ土御門は、この扉一枚隔てられた空間に『降り立った存在』、
その力の片鱗を確かに感じ取った。

五和が跨っている魔馬であろうと、この存在には到底勝ち目がないように思われるか。

本領の片鱗どころかその姿すらまだ目にしてはいないものの、
それでもこうして近くにいるだけで明らかになってしまうほどの―――強大な『天使』だ。

神裂が同じ調子で再び口にした。


神裂『―――あなたではどうにもなりません』


真っ直ぐ門扉の方へと向いて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:43:11.49 ID:LAoSMBcIo<>

―――土御門達が五和に誘導されて進んで行ったのち。


神裂は一人、一度大きく深呼吸して、
この門扉向こうの存在に意識を研ぎ澄ませた。

相手『自身』の力量は、大体ステイルの『父』たるイフリートと同程度か。
それだけでもかなりの強敵であるのだが、更に悪いことに。

どうやら相手自身の力とはまた別に、その身に莫大な規模の力が付加されているようだ。


神裂『…………』

この界を沈ませるほどの異常な『質量』はそれによるものだろうか。
彼女は一通りここからの分析をし終え、静かに歩んでは、
ゆっくりと門扉を引き開けた。

重々しい扉の向こうは、魔の氷が隅にこびり残る門前の広間。


その中央に『彼』が立っていた。


右手に短槍とも言える杖、フルフェイスの兜に、
白銀の装具を纏った―――『成人男性』のような姿の。

大量の翼に、頭上には天の言語で構築されている光臨がある『天使』。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:45:20.64 ID:LAoSMBcIo<>
彼の名は神裂はもう知っていた。
ステイルから情報が来ているし、
それに『元人間』の天使となれば―――少なくとも神裂が知る範囲ではそう数も多くない。

神裂『……………………』

『彼』は、神裂が門前の台を降りてくる間、
その兜の眼孔から覗く『人の瞳』で彼女をじっと見つめていた。

そこには少し驚きのような色も見えたか。

それも当然の事かもしれない。
ヴァチカンで『魔女に殺された』以降は、彼らは神裂の動向は何も知らないのだ。

その死んだはずの『天の使い』がこうして生きているどころか、
スパーダ―――バージルの眷属としての身で現れたら、誰だって驚くに決まっている。


そしてどうやら、この天使はここで理解したようだ。

滝壺へとたどり着くには、
まずこの『バージルの使い魔』を打ち倒さねばならないのだと。

天使は杖で一度、戦いを告げるかのように床を叩いた。
すると見た目は軽く打ちつけられた程度でも、響くは界を揺るがす衝撃。

続き一歩、一歩と天使が歩むたびに、同じくとてつもない地響きが轟いていく。
戦鼓の如く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:47:21.50 ID:LAoSMBcIo<>
その緊張を手繰るような『彼』に合わせ、神裂もまた気を研ぎ澄ませながら、
静かに七天七刀の柄に手を乗せて。


神裂『あなたは―――「エノク」、ですね?』


伝承から聞く『彼』の人間の頃の名を口にした。

対する返事は、声としては返ってこなかった。
それに神裂も別に返答を待つ気は無かった。


その瞬間、どちらが先というわけでもなく―――両者がほぼ同時に動いたのだから。


この場を満たしていた極度の緊張は、青と白銀の閃光によって打ち砕かれた。
まず初撃を繰り出したのは白銀の天使、メタトロンによる、

鋭い光刃がある杖の―――神速の突き。

その速度は尋常ではない域。
だが対する青い光を纏った女魔剣士、神裂にとっては見切れぬものでも無かった。

神裂『―――』

彼女は躊躇い無く前に踏み込み、七天七刀を抜刀し。
切っ先が鞘から出でる前から、その刃でそのまま―――メタトロンの穂先を外に流しながら、

すれ違い様に逆袈裟斬り―――それがこの瞬間、彼女が打とうとした一手であったが。

結局それは成せなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:49:04.98 ID:LAoSMBcIo<>

このような『強敵』という相手は、往々にして『型通り』の戦い方をさせてはくれないものだ。


メタトロンの杖に刃が触れた瞬間、彼女は気付かされたのだ。
この天使の穂先に圧し掛かっている桁違いの―――『重量』に。

その『重さ』は、流しざまに斬り抜けていくことなど持っての外、
七天七刀がそのまま『持って行かれそう』なほどである。

いや、それ以前に、その進路を自身の体から逸らすことさえもできない。

喉に受けることはないであろうが、
どれだけ押し出しても―――肩を貫かれるのは必須だった。


そうして刹那、神裂はほぼ反射的に、
この一振りの挙動を『攻防一体』のものから『防御一点』に変更する。

すれ違いざまに逆袈裟で抜けていくことは諦め、
すかさず足を踏み切り、体を半身横へと移動。

メタトロンの穂先は、その肩の僅か1cmの空間を突き抜けていった。
魔刀と擦れ、凄まじい火花と金属的な悲鳴を轟かせながら。


神裂『―――ッ』


―――その穂先の『質量』たるや、なんと凄まじいことか。

触れていないにもかかわらず、神裂は、体がそのまま杖の進行方向に引っ張られる感覚を覚えた。
文字通り空間が『重さで沈んでいる』ようなものだ。


一撃でも体に貰ったら―――致命傷になりかねない。

彼女はそう瞬間的に確信した。
体にあの穂先が『沈めば』、魂まで貫かれ『持って行かれる』。

まさにこの天使の一突きは『必殺』のものだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:50:08.37 ID:LAoSMBcIo<>
だが、と。

神裂は負けじと返す。
確かに重くて強力な攻撃では有るも―――バージルのものに比べたら可愛いものだ、と。

質量も鋭さも速度も全てにおいて彼の刃の方が遥かに上だと。


そして、と。

横に滑らせた足で今度はしっかりと床を噛み、
振り上げる形の七天七刀の柄を両手で握り込み、彼女は力と体と刃を一つにする。


『必殺』の刃なら―――こちらも『同じ』だと。


バージルのように連射もできなければ、
それこそ魔帝の身に溝穿つほどのものも放てやしない。


だが決して模造品ではない、正真正銘の―――『次元斬り』である。


神裂『―――ッシッ―――!!』

瞬間、青き光の満ちた一振りが、メタトロンに向け横から振り下ろされた。
心地良いくらいに鋭い金属の衝撃を響かせて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:52:29.56 ID:LAoSMBcIo<>
やはりバージルの次元斬りというものはとんでもない技・力である。
下位互換である神裂が放った今の一振りでも、どれだけの破壊を刻んでゆくか。

刃の先から『漏れた』光の筋は、その剣線に沿って広間内の空間を切り裂き、
ここを満たしていた力の大気から、異質な力に守られているこの魔塔の天井から壁をも寸断、
その向こうの領域にまで突き抜けていった。

恐らく下等悪魔共が形成する『雲』も分断しただろうか。


ただ―――たった一つ、その刃に狙われていながら、破壊を免れていた存在がいたか。


神裂『―――……』

メタトロンは神裂が振り下ろす直前に―――この刃の力を悟り、すぐに回避行動に移ったようだった。
青き破壊の光がおさまる頃、白銀の天使は神裂から15m程離れた場所にまで退いていた。

その彼の足元には、神裂のすぐ前からレールのように二筋の溝。

神裂の次元斬りを杖で受け流そうとしたが、
予想以上に凄まじくて思いっきり押し弾かれた際に、その足で刻んでしまったものだ。


神裂『…………』

この今の一振りの一部始終を見て、神裂は静かに戦慄を覚えていた。
いくら下位互換とはいえ、セフィロトの樹を容易に切り裂く水準の『次元斬り』を、
曲がりなりにも受け防げるメタトロンの頑強具合にだ。

だが、その気持ちはどうやら相手も『同じ』だったらしい。
彼女はこの天使の底力に驚く一方、彼の人間の瞳にも焦燥・戦慄といった色を見た。


メタトロンもまた、今の神裂の『次元斬り』に戦慄していたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:55:19.51 ID:LAoSMBcIo<>
互いに一振りずつ。
それだけで二方とも確信したのだ。

この相手との戦いでは、刃を打ち合わせてはならない、と。

まともに防ぎ受け止めようとすれば一撃で体制が崩れ、
まともに肉体に受ければ一撃で魂まで破壊されると、と。


神裂『…………』

だがそれは言い換えれば、触れさえしなければよいという事。

神裂はここに勝機を見た。

このメタトロンの力量は己やイフリートと同等な上、
そこに更に莫大な力が付加されているも、付加されているその力はただ『あるだけ』。

メタトロン自身の力となってその速力や能力などに還元されることはなく、
単に破壊力に上乗せされているだけなのだ。
つまり『当たらなければ』、どれだけ『質量』があろうとほぼ関係ないのである。


神裂『―――ふーっ……』

一度七天七刀を納刀し、静かに息を吐く神裂。
その揺るがぬ視線先のメタトロンも、どうやらこちらと同じくこの戦いを決するつもりであろう。

天使は何度か、強張りを掃うかのように杖を握り直し、
足も如何なる動きにも対応できる位置へと静かにずらした。

神裂も手の痺れを軽減させるべく、柄の上にてゆっくりと何度が開きほぐした。

今しがたの次元斬りを行使したことでの負荷もさることながら、
あのメタトロンの杖を受けた際の『質量の感触』が、いまだにこの腕の肉と骨を軋ませていたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/01/31(火) 23:59:33.72 ID:LAoSMBcIo<>
そうして一拍の静寂ののち。

ここで小手調べは終わりとなり。
互いの戦闘能力を図れたところで、ここからが雌雄を決する本番である―――と。

ほぐした手を柄に沿え、腰を留めて、張った戦意を解き放とうとした時。

同じように完璧な姿勢を取っていたメタトロンが突然―――ふっと翼を広げて、
一気に飛翔しては、天井の穴を抜けてこの場から去って行ってしまった。


神裂『―――えっ―――はい?』


予想だにしていなかった事に、彼女は思わず素っ頓狂な声を漏らしてしまった。

明らかにメタトロンもその気だったはずなのに、それに己を倒さねば滝壺には到達できないのに。
あの天使は一体何を理由にこの戦いから去り、一体どこへ向かっていったのだろうか。

―――そんな風に、彼女の頭の中では様々な考えが頭を巡ったものの。


答えは考えるまでも無かった。


神裂『……ッ』


それはテメンニグルの塔と学園都市の境界の隔離完了まで―――あと25秒という時のこと。

この門前の広間へと、
組み合ったサンダルフォンとイフリートが天井を割り砕いて落下してきたのとほぼ同時に。


かのメタトロンが、その標的を滝壺とは別の―――もう一人の少女へ変更したというのを、神裂が悟った瞬間だった。



神裂『―――』



彼女は、再びメタトロンの『姿』を『すぐ目の前』に『見た』。


―――『学園都市にいるステイル』の目を通して。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/01(水) 00:00:37.07 ID:nkWiMSJgo<> 今日はここまでです。
次は金曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/02/01(水) 00:14:02.50 ID:0K2vw+Nlo<> 乙
今から読む <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 01:05:43.34 ID:rCj+7rDDO<> そういえば神裂は悪魔なんだから魔具にもなれるんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 01:14:29.85 ID:g4Z678/DO<> 乳腺に装備してバストアップだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 01:44:21.46 ID:ShETkF5i0<> 乙でした
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/01(水) 07:32:34.66 ID:ETCDketA0<> 半月分まとめ読んだらがっつり満足乙乙乙(´ω`)ノ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 08:00:47.88 ID:2Qb/6nSp0<> >>136-137
それを装着したダンテが「Hoo!」とか「Yeah!」とかはしゃぎながら
30秒ほどスタイリッシュな演武を行うムービーが挿入されるわけだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/01(水) 11:28:49.49 ID:QWQCgL0K0<> 乳揺れスタイリッシュ演武か…文字通り胸が熱くなるな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/01(水) 20:38:34.75 ID:lUKSKRX2o<> お疲れ様です。メタトロンはどうやって学園都市まで跳んだんだろう。
後・・・フラグ成立時の ちなみに って表現。どうしても軽い感じがして・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/01(水) 21:06:32.41 ID:kKX5vNYAO<> >>142
テメンニグル⇔学園都市は隔離25秒前だからまだ抜けられるで <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/02(木) 00:06:34.20 ID:yPbFZ7ZFo<> ん、隔離前なのはわかるけど、こんなマッハでテメンニグル→虚数学区→学園都市と行けるもんかな、と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 00:27:24.37 ID:l7Aacb6DO<> >>144
むしろメタトロンだから余裕で行けると思うんだけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/02(木) 02:21:25.05 ID:eqQgGRaz0<> ほかでも全部ってわけじゃないだろうが、メガテンシリーズとかでもLAWサイドの存在って大抵扱い悪いよね。超強いかませ役というか
こういう思考って、先祖信仰や自然物信仰感の強い日本だからこそ出るものなのかね
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 02:41:46.74 ID:iyTMNAcX0<> 今さらだが「次元斬り」じゃなくて「次元斬」
じゃなかったっけ?
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/02(木) 18:16:14.14 ID:B5zFWBhI0<> >>1CRA乙Y

>>147
俺も思った。少なくともマブカプではそうなんだよな
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/04(土) 00:34:42.02 ID:Nl2Z9k0R0<> >>1乙 日々の楽しみにさせてもらってます。

ふと気になったんだが、DMC4のラスボスの神様は>>1的にどんくらいのランクなんだろうか?
自分は上〜特上の間と勝手に予想 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 00:48:53.80 ID:BCUocKL60<> スパーダの血と魔剣スパーダを使ってやっと起動・制御できるらしいし、結構強かったのかな?あの神様。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/02/04(土) 01:02:06.99 ID:ipevDpbeo<> 4はダンテが強過ぎて霞む <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 01:26:23.56 ID:Q7ZrNfwDO<> 一方→強化一方→義手一方→神一方
アクセラレータさんどんどん変わっていったな…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 01:33:09.01 ID:K1wkZ7FA0<> 学園都市最強から人間界の新たな王だからな…
時代が時代なら一方さんを崇める宗教が誕生してもおかしくないレベル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/04(土) 01:51:42.08 ID:A5iRkL9To<> >>147
>>148
今更恥ずかしい本当にすみません。

>>149
総合的には維持なしアスタロトや今の一方通行と同等、
固さのみなら覇王よりも少し上かなといった具合です。


それと少し前から偽海原が「海原」表記になってますが、
名を呼ばれる時以外は正しくは全て「エツァリ」です。
すみません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 01:54:31.36 ID:A5iRkL9To<>
―――

それは両者にとって予想だにしていない形の再会だった。

佐天「―――なっ?!」

壮大な舞台の上、学園都市と人間界の命運を決する直前に、
巡り巡ってようやく彼女達の運命が重なったのだ。

学園都市、壁を無くした窓のないビル。
結標に連れられて空間を跳んで来た佐天が目にしたのは、
褐色の肌の少年に白衣の女性、隅にてうなだれている『緑の手術衣を纏った女』に、
『小さな御坂美琴』、そして―――

佐天「―――初春?!」

初春「―――さ、佐天さん?!」

無造作に積み上げられている端末に向かっていた親友、初春飾利の姿だった。

佐天「―――なんでこんな所にいるの?!」

初春「―――佐天さんこそ何をしていたんですかッ?!」

名を呼ばれ弾けるように振り返った初春は、
グレーのTシャツに軍用の作業用パンツという格好の佐天を一目見るや、
(血で大変汚れていたため、マクガイル空軍基地で着替えていた)
彼女は座っていた椅子を倒して駆け寄ってきて。

初春「探したんですよ!!探して!!探してッ……!!無事で……良かった……!」

佐天の両二の腕を正面からがしりと掴むと、
涙ぐみながら声を絞り出した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 01:58:50.97 ID:A5iRkL9To<>
佐天「…………うん。初春も……初春もッ!」

そんな彼女につられて佐天もまた声を震わせてしまった。

初春の顔とその甘ったるい声を見聞きして、
やっと学園都市に帰ってきたということを実感したのだ。


彼女と顔を合わせるのはたった一日ぶりであるにもかかわらず、
もうずっと何年も離れていたような気がしていた。

この数時間、とてもちょっとやそっとでは語りきれない体験をした。
前のデパートの時よりも遥かに濃厚で、強烈で、現実離れした出来事。
周りの世界の『現実』の何もかもが変わってしまったのだ。

その中で彼女は、自分自身すらも大きく変わってしまってはいないだろうか、
と不安を覚えていた。
それこそ容姿から何もかも違う別人にでもなってしまったかのように。

だが向こうで再会した黒子や御坂が、そんな不安を押し留めてくれて。


佐天「―――初春、初春だね……初春……」


そして今。
『家』で再会した初春が、決定打となってその全てを吹き掃ってくれた。
現実は変わっていても、ここは学園都市であることは変わりなく、
この『佐天涙子』も何も変わってはいないのだ、と。

そうして佐天は、ひとまずここに至る事情を抜きにして、初春とともに無事の再会を喜び合った。
世界が変わろうとも、変わらぬ学園都市に変わらぬ友ら、変わらぬ絆を祝福して。

ただその傍ら。

こうした喜びでより際立った心痛と共に、佐天の脳裏にはある者の顔が浮かんでいた。
消息が依然わからぬ友―――赤毛の少女の顔が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:01:30.65 ID:A5iRkL9To<>

―――と、それは突然のことだった。

瞬間、奇妙にして強烈な地響きが轟いた。

一瞬大地震に見舞われたように錯覚したが、辺りの地面も建物も一切揺れてはおらず、
一方でその場に立っていられなくなってしまうほどに覚える強烈な『衝撃』。


眩暈にも似ていたか、そんな衝撃によろめき合う二人。
だがその原因が何だったのかと考えるどころか、
この時はこの奇妙な感覚を意識することすらできなかった。

一秒かそれとも二秒か。
瞬きする間ほどの僅かな時間、
彼女達の認知速度を越えた勢いで、場は急変していった。

衝撃から一拍後。

「―――結標さん!!」

まず褐色の肌の少年が、凄まじい形相と半ば怒号染みた声で結標の名を叫び。

結標「―――全員ね!!」


そう確認の声を返した彼女に少年が頷くと。
次の瞬間には、目に移る周囲の光景が一変していた。

佐天「―――」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:05:25.70 ID:A5iRkL9To<>
そこはとあるビルの屋上だった。

初春「―――ひゃっ!!」

佐天「わっわっ?!」

吹き抜ける冬の夜風を受け、
突然のことに跳びあがるようにして佐天に抱きつく初春。

テレポート自体は初春も初体験ではないものの、
それでも不意に視界が切り替われば誰だって驚くものである。
佐天もその例に漏れず、同じく驚き彼女にしがみ付き返した。



そこにはいたのは、彼女達の他にエツァリ、芳川、
打ち止めと皆を運んだ結標、そしてアレイスター。

まず口を開いたのは芳川だった。

芳川「ねえどうしたの?!あの設備が無いと―――」

その声は最後まで続きはしなかったが。
眼下に広がる街並みの向こうにて突如迸った白銀の閃光によって、
彼女の口が止まってしまったのだ。

輝きはちょうど窓のないビルがある辺り。
その閃光を一目見て、芳川も今の状況をある程度悟った。

あそこにはいられなくなったのだ、と。
なにせ光が瞬いた直後、その周囲の街並みが一瞬にして『散り消えて』―――

―――その猛烈な衝撃波の残滓が、
一瞬にして彼女達のもとにまで到達してきたのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:10:19.90 ID:A5iRkL9To<>
ビルのガラスが砕け、壁面には亀裂が走り、
下の道路では小石の様に転がっていく車。

ただそんな爆風も、
彼女達のいる屋上にだけはそよ風程度としてしか届かなかった。

エツァリ「―――皆さん大丈夫ですか?!」

エツァリによって張られた即席の魔術防壁によって。
そして彼はそれぞれ驚きと怯みの色を浮べている皆を一瞥したのち、
(アレイスターは一人変わらぬ様子であったが)
返事を待たずに声を続けた。

エツァリ「ラストオーダー!システムの状態は?!」

打ち止め「だ、大丈夫!『まだ』何とか維持できてる!でもちょっと危ないかも!」

芳川「いくつか設備整ってる所の心当たりがあるから行きましょ!早くしないとシステムがもたないわ!」

せわしなくアホ毛を揺らしながらそう声にする、芳川の腰元にしがみついてる打ち止め。
次いで芳川も、少女の声に続きそう叫んだ。
すると。

結標「―――それどころじゃないでしょ。『アレ』は」


そこで結標が、妙に落ち着いた声色で彼女達の声に割り込んだ。

その声は落ち着いて聞えただけか。
彼女の表情や醸す空気には、極なる戦慄と緊張が滲んでいた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:12:47.32 ID:A5iRkL9To<>
驚きのあまりすっ転んでいた佐天・初春に手を貸しつつ、
光源の方に鋭い視線を向ける結標。

これも能力強化され、更にデュマーリ島で異次元概念に触れて経験したせいか。
彼女はこの場にいる中でただ一人。

この時、かのメタトロンから向けられてくる、
とてつもない『憎悪』に満ちた『殺気』を覚えていた。


結標「―――……」

そのあまりの憤怒の濃さに息を呑んでしまう。

まるで親や兄弟でも殺した『仇相手』に向けるような、
そんな執念染みた苛烈な『怨念』だったのだ。

これまでの仕事上、憎まれ呪われることにはかなり慣れている結標でさえも、
「身に覚えが無い」と思わずその場で釈明したくなる衝動に駆られてしまうほどだった。


その理由は、天界と人界の間の古の歴史を知る者ならばすぐに把握できたであろう。

遥か太古、人界にはどんな神々が君臨していて、
その頃の現生人類の祖達はどれだけ虐げられていたか。
そんな力無き人々を、『当時』の天界の者達はどんな思い出救おうとしたのか。

そしてこの結標淡希の力もまた、その根源が一体どこなのか、を。


結標「早く―――逃げるわよ」

気を奮い立たせた彼女がそう告げた直後、その場にいた全員が空間を跳躍する。
その一瞬後、そのビルの上半分が天の一撃によって吹き飛んだ。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:17:22.43 ID:A5iRkL9To<> ―――

遡ること僅か。

ステイルはその瞬間、自身の横15mの虚空に出現する魔方陣を目にした。
彼から見て、窓のないビルの反対側の位置だ。


魔方陣の中からまず姿を現したのは『杖だった』。


光刃のついた杖がぬっと突き出でて、
そして続く腕、肩、フルフェイスの兜を被っている―――メタトロンの頭部。

その肉体が現出すると同時に、莫大な『天の質量』が空間を押し沈めていく。

ステイル『―――』

そうして半身ほど現れたところ。
かの天使はステイルの姿を一瞥するや、即座にその杖の先を向けた。

いいや、厳密には彼を見ていたのではない。
彼の背後にある窓のないビル、そこにいる幼い少女へ向けられたものだった。
もちろんその杖の狙いも同じく。

対してステイルの行動は、鍛え抜かれた戦士としての咄嗟の反応だった。
驚くよりもまず先に通信魔術でエツァリへとこのイメージを放ち。

己が力を解き放ち、前面に集中させる。
かの天使が放とうとしている一撃を少しでも遮るために。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:18:57.64 ID:A5iRkL9To<>
遠くからでは、僅かな炎の煌きすらも見えなかったことだろう。

杖に集束していた光が解き放たれた瞬間、ステイルの業火の防壁は、
その構築とほぼ同時に光の奔流に押し潰されて飲まれてしまったのだから。

放たれた光の衝撃波は、一帯を『砂地』に変えてしまった。
『瓦礫』として残っているだけまだマシか、大半の構造物が細かな粉状にまで砕かれ、
遥か先へと吹き飛ばされていく。

だがその破壊の爪痕も、僅かに漏れた『余波』によるものにしか過ぎない。
集束された力が飲み込んだ窓のないビルは、
その原子を一つも残さずにこの世界から消滅していた。

ステイル『――――――…………』

次にステイルの意識が戻ったのは、そんな砂地の一画だった。

意識が再起動しても視界は暗転したまま、肌の物理的感覚もマヒ状態。
そうした人間時代からの知覚が軒並み機能停止している中、
まず最初に取り戻した知覚は悪魔のものだった。

100mほど吹っ飛ばされたのだろう、そのぐらいの距離のところにメタトロンの存在を捉えた。
そして次に覚えるのは、想像を絶するほどの激痛だった。

思わずステイルは顔を歪め―――ようとしたも、ここで彼は気付いた。


歪める顔が『なかった』ことに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:21:34.40 ID:A5iRkL9To<>
瞼もなければ頬も唇も無い。
眼球から鼓膜、顔も含め、全身前面があの衝撃波で叩き潰されたのだ。
声帯も喉ごと抉り飛び、肺も他の臓器もろともシェイク状態になっているのだろう、呻き声すら出せない。
漏れる音は、だらしなくごぼごぼと零れ落ちる体液のものだけ。

さながらスプラッタ映画の惨状のような姿か、
人間ならば痛みを感じる以前にとっくに即死だ。

いや、今の一撃は、この悪魔の身であっても、
かの『主の加護』が無ければ即死していたほのどのものだった。

ステイル『…………』

ステイルはふと実感した。
また彼女に救われたのだと。
この魂は、主たる神裂の生命力によっていまだに繋がっていられるのだと。

しばらく待っていれば、神裂からのその影響で損傷した魂も肉体もまた元通りになるであろう。
これぞ使い魔として隷属する代償の恩恵だ。

早くも元通りになっていた悪魔の知覚は、
かの天使の全身がやっと魔方陣から出で終ったのを捉えた。


とてつもない力の質量で界を揺らして、ここにメタトロンは『里帰り』を果したのだ。

だが彼は、その故郷の地には感傷の色は示さなかった。
ステイルにも見向きもせず、
降り立つと同時にまっすぐと彼方の一点、あるビルの方角へと顔を向けて。

大きく翼を開き伸ばしては、凄まじい勢いで飛翔していった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:23:13.11 ID:A5iRkL9To<>
ステイル『……………………』

間違いなく彼女達を追ったのだ。
直後、メタトロンが向かった方向でまた力が放たれたのを覚えた。

どうやら感じからして今の二撃目も仕留め損ねたか。
結標の能力は瞬間移動系だと聞いていたが、かなりの水準の持ち主なのであろう。

だがそれでもいずれ追いつかれるのは目に見えている。
どれだけ強力な能力者であろうと、神域に達していない者が、
神域の上位に属す者の手から完全に逃れられるわけが無いのだ。


―――だから急いでくれ、と。

ステイルは『繋がり』を介して声を放った。

ちょうど今、メタトロンが出現した時と同じように、
今度は悪魔の魔方陣の中から降り立った神裂に向けて。

彼女はその声を受けると、ステイルのところには来ずに、
メタトロンの向かった方向へと一気に跳躍して行った。


ステイル『……』

そうして神裂が向かったのを確認して少し糸が緩んだのか、
意識がまたもやおぼろげになってきた。

神裂からの情報を認識することさえ厳しくなってきたか。
彼女の側で受け取る情報も、中身の無いおぼろげなものになってしまっているであろう。

この時死は免れたものの、さすがに魂の損傷が激しく、
より回復を速めるための『冬眠』状態に入りつつあったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/04(土) 02:25:53.18 ID:A5iRkL9To<>
ステイル『―――……っ』

そんなその薄れゆく意識の中でも、
完璧に稼動している悪魔の知覚だけは更なる存在をここで捉えた。

数は三人ほど。
すぐ足元に立っていた。

「うわっ…………『これ』、本当にス、ステイルさんなの?」

そして。
鼓膜ではなく悪魔の知覚が捉えた、まず一番最初の声は若い女のもの。
こちらの凄惨な姿を見て戦慄しているのであろう。

「…………ま、まだ……本当に生きて……おられますの?」

そして同じくやや怯みがちに続くもう一人の女の声。
するとそんな二人とは対照的に。


「―――生きてるさ」


静かで確かな男の声が響いた。
その有無を言わせぬ心地よさと力強さに、
おぼろげな中でもこの人物の身元はすぐに特定できた。


「ステイル。今からお前の魂を覗かせて状況を教えてもらうぜ。少し痛むが我慢してくれ」


そんな声に続きずぶり、と。
ステイルは屈強な腕が胸に沈み込んでくる感触を覚えた。

指の並びからして右手か―――それは妙なことだった。
不思議なことに、その腕は『普通の人間のもの』と同じ形をしていたのだ。

ステイルが知る限りこの声と空気の持ち主は、右手が『異形』だったはずなのだが。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/04(土) 02:26:26.94 ID:A5iRkL9To<> 短いですが今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 02:48:18.21 ID:Q7ZrNfwDO<> 最強の『人間』のネロさんキター! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 04:34:54.26 ID:eWqNJutDO<> 乙乙乙tylish!!!
>>152
今の一方通行と同レベルの神を相手にほぼ遊び感覚でフルボッコにして余裕綽々の4ンテさんマジパネェッス…
そしてスパーダ一族が与える安心感の高さは相変わらず異常、何かもう何とかなるんじゃね?感が漂ってるww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/04(土) 16:52:17.21 ID:mHnvk41yo<> ステイル・スプラッタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 23:19:22.39 ID:78zEeTXCo<> 熱い。ずっしりクルぜぇぇ。乙!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/05(日) 07:06:35.15 ID:BfzXgDN10<> >>169

スプラッテイルか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/05(日) 07:21:29.03 ID:BNjiya4r0<> ステイルがネロの魔具になったらやっぱり篭手かナックルなんだろか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/02/05(日) 09:42:19.74 ID:GTT6b6hf0<> きっと煙草とかバーコードとか赤毛のウィッグとかだろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/05(日) 14:37:04.15 ID:R7p4UJ/go<> >>172
表記は魔具ヌスさんになってしまうん? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/05(日) 14:40:23.22 ID:TWZXkCVdo<> ・・・・・・・・どんな機能が・・・・・・・・・・・・。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/05(日) 21:37:17.38 ID:S6fuJGtPo<> ……劣化イフリート? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)<>sage<>2012/02/05(日) 22:38:05.82 ID:VvhdINy30<> 1 いつでも好きなときにタバコに火をつけられる
2 装備中常にそこはかとなく香水のにおいがする

元がイフリート以下で現在の主がダンテ以下だから劣化しかないかな?
もしくは炎でできたドッペルゲンガーか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/05(日) 23:30:13.15 ID:V7b0Yv5DO<> >>177
ダンテの影響でステイルは煙草吸わなくなってるから1はないな <>
◆tSIkT/4rTL3o<>sage<>2012/02/06(月) 13:05:03.20 ID:BCzhHNtmo<> すみません。
諸事情によりしばらく投下できなくなりました。
次は2月11日の夜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/06(月) 14:45:29.27 ID:UWVoO9vio<> ネロさんはお預けかその旨を良しとする。我々は落ち着きがあり、我慢強い。
・・・我慢できるもん・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/06(月) 16:15:47.55 ID:hEUla1ebo<> 把握 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/06(月) 18:06:55.00 ID:H9WWDEZc0<> メタトロンの心情は坊主(人界神)憎けりゃ袈裟(残骸)まで憎いとかな感じなのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)<>sage<>2012/02/06(月) 18:12:09.82 ID:Ow3gXmX5o<> メタトロン「打ち上げまだぁ?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/06(月) 22:03:00.38 ID:aCxj50CDO<> >>182
そういえば重度のメタトロン侵食状態になったノウマンさんも人類の週末…もとい終末を望んでたな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/06(月) 22:43:12.98 ID:X4MABDbAO<> >>184
ここのメタトロンの目的は現生人類種(同族)の保護だと思うけどな
ラファエルも違うのは手段で理由は同じって言ってるし
元人間ってこともあって人界神は親の仇みたいなもんなんだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)<><>2012/02/06(月) 22:57:26.68 ID:br450jRz0<> これもまた>>1の演出 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/02/07(火) 02:19:37.04 ID:0rproFxEo<> >>184
あっちは中二病だから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/02/07(火) 12:28:57.20 ID:gB3oTzoGo<> >ステイル『―――海原ァ!隔離完了までの時間は?!』
で鳥人間思い出して吹いたわwwwwww
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/07(火) 13:11:40.78 ID:G8RxxZm/o<> ドボォ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/02/07(火) 18:18:14.03 ID:uyQXuZjUo<> 海原ァ!今何キロォ!? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/07(火) 19:54:34.85 ID:dIMrPP/DO<> 13キロや <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/02/08(水) 07:15:42.70 ID:pI/W6VdA0<> (;゚Д゚)色々混じって来てんぞオイ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/02/08(水) 19:51:27.33 ID:6tNqS5BF0<> ん〜?新聞の勧誘だったら、間に合ってるぜ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/11(土) 16:54:10.48 ID:cSMaUgcjo<> すまないんだが教えて欲しいことが。
このURLのまとめってMISSION9の途中で切れてる?
http://horahorazoon.blog134.fc2.com/blog-entry-2209.html
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 01:59:25.62 ID:YhzyF4dBo<> ―――

『座標移動』。

今や強化され、暫定的とはいえレベル5としての出力この能力は、
一度で最大約4000mもの距離を跳躍することができる。
その移動速度は、演算ラグを考慮しても実に秒速12kmにも達するほどだ。

ただしこの数値はあくまで瞬間最大出力のもの。

結標「―――ッはっぁ!」

とても常用できるような水準ではない。

先ほど立っていたビルから西へ4000m、灯火管制が敷かれている学園都市の上空にて、
結標は悲鳴にも似た息を吐き出した。

頭の中にガラス片を放り込まれそのまま茹で上げられるかのような、独特な能力過負荷の痛み。

それもこれまでに経験した事がないくらいに強烈で、
一瞬意識が飛びそうになってしまうかというほどだ。

しかも強化されている今は、このなんとも形容し難い『第六感』、
『力』の『認識』が更に拍車をかけてくる。

一方通行に言わせればまだ自身のは『きっかけを掴んだだけの未熟なもの』とはいえ、
AIMといった『力』の存在や動きが確かに感じ取れるのだ。

濁流となって身に流れ込んでくるAIM、それにもまれ悲鳴を挙げる―――『魂』とでもいうか、この自分自身の軋む音。
そしてそれらの何よりもずっと強烈で、遥かに眩しく巨大な存在。

結標「―――ッ」


御伽話でも比喩でもない本物の天使―――メタトロン。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:01:29.73 ID:YhzyF4dBo<>
あの4000m先の輝きから放たれてくる圧力に晒されていては、
負荷に蝕まれる己が身を案じている余裕などとても無かった。

この身が過負荷で破裂しても構わない、とにかくあれから逃れなければ、
半ばそんな強迫観念で結標は即座に次の演算に入る。

夜空高くに放り出された佐天と初春、
目に映る情景に顔を引きつらせる彼女達に悲鳴をあげさせる暇すら与えずに、
一気に最大出力で空間を跳躍する。

更に西へ4000m。

結標「―――っふッ!!」

そうしてまた高く投げ出された冷たい夜空、そこから望むのは、
西の方には学園都市の外縁部の高い壁。

そして東の方角には、相応に小さくなっている輝きだ。
かの天使はあの位置からまだ動いていないのだろう。

だが逃れられたわけじゃない。
こちらに真っ直ぐに向けられてくる圧力は何ら変わっていないのだから。

一般人の芳川や佐天、初春でさえも、頭の理解は追いつかなくとも本能的に悟ったのだろう、
この二度目の跳躍直後にはもう、その引きつった表情は、
『乱暴な空の旅』にではなくあの光に対してのものだった。

そして結標は彼女達以上にわかっていた。

はっきりと覚える、こちらの『力』―――AIMを手繰り寄せるような『敵意』を。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:03:09.02 ID:YhzyF4dBo<>
メタトロンは今、その圧倒的なプレッシャーで妨害しつつ、
こちらの位置と動きの全てを特定しようとしているのだ。

更に遠ざからなければならない、少なくともあの圧力に押しつぶされない程度にまでだ。

瞬間にエツァリと目配せして、結標は更に空間を飛んで行く。
こうなれば行けるところ、体力が持つところまでと立て続けに何度も何度も。

更に西へ西へ。

回数を重ねるたびに、負荷はその激しさを増していく。

頭骨の中がまるで「かまど」になってしまったかのような感覚。
煮えたぎった血で全身がはち切れるかの如く暴虐的な刺激。

結標「―――ぁぐッッ!!」

朦朧というよりも点滅か、限界のラインを意識が上下し、回復と断絶を小刻みに繰り返す。
もはや意識を失っては痛みで覚醒するといったものだ。

もし打ち止めと滝壺の支援が無ければ、
この過負荷衝撃の一発で二度と目を覚まさない『廃人』となっていただろう。

彼女達と、その向こうに更に繋がっている一方通行、
更に彼によって『味方になっている虚数学区』が、『加護』とも呼べる働きをしてくれているのだ。

ただそれに守られてはいても、この強行軍はやはり無茶なものであった。

森に覆われた峰々を越え、甲府盆地の夜景を下に望み、
そしてその街明かりの海をも遥か越えて。

聳える赤石山脈の裾野に差し掛かったところで、彼女はついに己の限界を悟った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:05:26.63 ID:YhzyF4dBo<>
結標「―――くはっ……」

これまで激しく点滅を繰り返した意識、
その覚醒の仕方が今度こそ朦朧としたものだった。

現実なのか夢なのかその境界線すらも曖昧。
あれだけ拷問染みていた痛みも、不気味なくらいに静かに退いていく。
五感がおかしくなり、夜なのに眩しく思えたり、高空を抜ける風の音が突然消えたり。

そしてその静寂の中、これは幻聴か。
ぱちん、ぱちん、というさながら魂の糸がはちきれていくかのような音が聞えてきていた。


結標は皆を地面に降ろした。

そこは雪に埋もれた深い森の中。
幸い天気は荒れてはいないものの、都会的服装のままではきわめて過酷な環境に変わりは無かったか。

冬の高山の冷気は身に突き刺さるほどで、撫でるたびに体温をごっそりと奪い取っていく風、
雪に膝まで埋まってしまい、一気に冷えた足先の血が全身をめぐり内からも熱をもぎ取っていく。

佐天と初春はその冷感にひっと軽く悲鳴しては飛び付き合い、
芳川は打ち止めが雪に触れぬよう抱き上げ。
屈んでいるせいで、全身が雪に沈むんでいるかというアレイスター。

エツァリ「―――結標さん!」

そんな彼の肩を取り押さえるように掴みながら、結標へ声を放つエツァリ。
そしてその先の彼女は。

アレイスターと同じようにどっぷりと雪に埋まり。
ゆらゆらと虚ろに揺れながら鼻と口、耳から零れる鮮やかな滴で、
下の雪を朱に染めていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:06:24.03 ID:YhzyF4dBo<>
エツァリ「結標さん!!」

二度彼が声を張り上げたところで、
結標はやっとゆらりと顔をあげ。

結標「ごめん……つ、次で最後よ……森の中に隠れて……」

エツァリ「―――ッ」

その彼女の言わんとしている事をエツァリは即座に悟った様子だった。
彼女の身を案じつつも、駆け寄ろうとしていたその身を再び落として。

彼女へ向けて意を決するかのように小さく頷き返した。

そして直後、最後の空間跳躍によってエツァリを含め皆の姿が消失した。
そこに結標ただ一人を残して。


結標「……」

ゆらりと虚空を仰ぎ見、夜の天板に白く息を吹きかける。
デュマーリ島の件を皮切りにおかしくなってしまったこの世界、その空にはいまだ、
晴れているにもかかわらず星が一つも見えなかった。

静寂と雪に覆われた森の中でただ一人。

生きてるのか死んでるかもはっきりしない曖昧な領域で、
彼女は不思議な居心地の中にいた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:07:41.52 ID:YhzyF4dBo<>
この強行移動の中、これは少し前から感じていたことだ。

一度の跳躍に要する時間はコンマ数秒程度か、だが結標にとっては、
活性化した脳の労働密度からすればその数百倍にも感じる時間だった。

そんな奇妙な『加速感覚』に、
過負荷を省みない過剰な能力使用が更に拍車をかけていき。

例の『第六感』に引っ張られるように、精神の一部が次第に物理領域からも外れ始め。
そうして今度は『引き伸ばされる』のではなく、より『細分化』していく時間感覚。

時間経過の感じ方自体は変わらなぬも、
一方で1ナノ秒単位を確かに意識できるような、そんな奇妙な『世界』。

結標「……」

そして過負荷が『肉体』の臨界点を越えた瞬間、
魂の糸がはち切れていく『幻聴』と共に。

彼女は今、垣間見ていた。


既存の時間に囚われない、力の濃淡強弱で『時間の幅』が決まる―――『神の領域』の片鱗を。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:10:35.54 ID:YhzyF4dBo<>
不思議と言うしか無かった。
まるで対岸に死の世界を覗き見ているかのようだった。

だがこれまた奇妙なことに、これを認識した瞬間を境に、
意識は消失していくどころか―――むしろ明瞭に鋭敏化していく。

虚数学区と魔塔の界域といったこの世界に重なる別次元の層をはっきりと認知し。
隣接し今や境界があいまいになりつつある魔界と天界の存在も感じ。
空間を満たす力と、生きる魂の気配を肌ではっきりと感じ取れるようになり。

4000m先に飛ばしたエツァリ達と、その彼らを飛ばした際の力の『跡』もはっきりと見えた。

結標「は……あはっ……」

そうして一つ、あることに気付いて彼女は乾いた笑いを漏らした。

こちらへと、今もピンポイントで強烈な圧力を向けてきているかの天使は、
この転送の力の痕跡を辿ってきているのだと。

逃亡者がご丁寧にしるべを残していくなんて、メタトロンからすればなんとも滑稽な様であろうか。

ただし、今更そこを嘆いても無意味であろう。
その跡が自身でも見えるようになったのはたった今のことなのだから。

結標「……」

転移物が行き先で原型を留めているかどうかは『ともかく』として、
ただ飛ばすだけならば今でも充分に可能だった。

そこで彼女は周囲の雪片を無秩序に広範囲に飛び散らし。
一体に自身のAIMを染み渡らせる形で、その痕跡を片っ端から消していった。

するとその直後。

ちょうど追ってきていたところなのか、
それとも突然痕跡がぷっつりと途絶えたからやってきたのかは定かではないも。


圧倒的な衝撃と共にメタトロンが現れた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:12:04.74 ID:YhzyF4dBo<>
物質ではなく魂を直接揺さぶる、耳鳴りにも似た異様な質量の轟き。

覚えるのは世界が沈み込み、大きく歪んでいく錯覚だ。
いや幻ではなくここの領域が実際に凹んでいるのだ。

結標はその『死に際に得た』奇妙な知覚で、
今しがた自身がばら撒いたAIMの層が軋むのをはっきりと見ていた。

ただしそれほどの衝撃にもかかわらず、物質領域にはほとんど影響を及ぼしてはいなかった。

結標の前方15m程に舞い降りたメタトロン。
その着地による周囲への影響は、
積もったばかりなのであろう、周りの粉っぽい新雪がぶわりと舞い上がる程度。

結標「…………」

その様は癪だがきわめて美しかった。

周囲の雪にメタトロン自身が纏う光が反射し、
なんとも壮麗で幻想的な光景だ。

更にその光と姿が、この世界の『ただの光』ではない、『生きている力』に乗せられて伝わってくるせいか、
目で見える以上に精神の中に圧が押し寄せてくる。

結標は明確に認識していた。

文字通り、自身たちとは存在している次元が異なっているのだ。
デュマーリ島で見た『神たる怪物』たちもぶっ飛んではいたが、
この『天の戦士』もそれに劣らずの存在だ、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:13:39.67 ID:YhzyF4dBo<>
現にここに来るまでの行動だけで、そのかけ離れた差が浮き彫りだった。

結標の知覚が確かならば、ここに彼女たちが降りた時はまだ、
あのメタトロンは70km以上も離れている学園都市にいたはず。

だが次の瞬間、彼はこうして目の前に舞い降りてきた。

位置さえ特定してしまえば文字通り一瞬。
この存在にとっての『距離』とは意識と認識の遠近であって、
単なる物質領域における空間など障害にはならないのであろう。

ただ、そこまで存在の格がかけ離れていても。
一つ『コケ』にすることは可能だった。

メタトロンはそこから動かず、じっと結標を見つめていた。
フルフェイスの兜の眼孔から、猛烈な怒りに満ちた瞳を覗かせて。


結標「……あはっ……あはははは……わからないでしょ……」


そんな彼の様子を見て、結標は静かに笑った。
彼女が半径4000m一帯の力を滅茶苦茶にかき回したせいで、
この強大な天使は打ち止めたちの位置を特定できずにいたのだ。

この彼女の声により憤りを覚えたのか、メタトロンの雰囲気がさらに張り詰めた瞬間。
そこでまたしても結標は先手を打った。

彼女は軍用ライトを自らの喉元に当てて。


結標「……私の『頭の中』を見ようたってそうはいかないわよ」


そう警告した。
自らの身を、『暴走した能力』で『不完全』に転送する直前の状態に置いて。

自身の意志により、もしくは意識が途絶えた瞬間に、
弦のように張っているAIMによってその身が弾け飛ぶように。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:14:50.54 ID:YhzyF4dBo<>
普通はライトを喉に当てる様など警告にはなりようもないが、
力が見える者ならば、その本質の意図を明確に捉えられるものだ。

当然メタトロンも、結標の中に形成された『爆弾』を見たのだろう。
一瞬、一気に距離を詰めてくる空気を醸したも、彼は動かなかった。


ただし。
例のこちらに差し向けてくる憤怒は更に色濃くなっていったが。

結標「―――……っ」

あの怒りだ。
身に覚えが無い、こちらに対する強烈な『憎しみ』。

しかも神域の意識によるためか、どうしても目を背けられない。

畏怖か、畏敬か。
圧倒的な存在感を直に受けてしまい、あらゆる感情が湧き立ち、
心の底が抉られ照らし出されていく感覚。


結標「―――なんなのよ……私たちが何をした…?何をしたっていうの?」


そうしてこのメタトロンの激情にあてられ、飛び火でもしてしまったのか。
彼女は打ち付けられた心情に耐え切れずに言葉を吐いた。
朱の滴とともに。

このこちらの何もかもを憎み、全てを拒絶しているかのような。


結標「……私たちは……存在しちゃいけないの?」


そう、まさに存在そのものを否定するかのようなメタトロンに向けて。


結標「―――…………生きてちゃ……いけないの?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:16:44.06 ID:YhzyF4dBo<>
詰め寄り懇願するように絞り出された、一人の人間の少女の言霊。
対するメタトロンはただ沈黙。

しかし何も答えなかったわけではない。
少なくともこの沈黙こそが、結標にとって答えだった。
そしてその後のメタトロンの行動も、その解釈の裏付けとなる。


沈黙の次の瞬間、メタトロンは一気に真上へと飛翔していった。


ただもちろん、それは結標を見逃したわけではない。
彼女はその手に入れたばかりの第六感で、渦を巻いて舞い上がる粉雪の上に見た。
メタトロンが持つ杖の先に、莫大な力が集束していくのを。

彼が何をしようとしているのかは一目瞭然だった。

こちらの能力使用を観察していたこともあって、
付近に打ち止めが潜んでいることは知っているのであろう。
だが位置が特定できない、ならば、と。


彼はこの一帯を『消去』するつもりなのだ。


結標「……」

自身の小細工で少しでも時間稼ぎになればと思ってはいたが、
どうやらあまり役には立たなかったらしかった。

その第六感の知覚で、彼女は大まかにメタトロンが撃とうとしている力を目算。

結果、どう足掻いても自身はもちろん、
打ち止めたちも、あの光の破壊から逃れる術が無いと理解した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:19:23.74 ID:YhzyF4dBo<>
あれが拡散して放たられてしまえば、少なくとも30km四方、
この南アルプスの半分の地域が消滅するであろう。

『爆発』で吹き飛ぶのではない、文字通り『消滅』だ。
原子の一粒も残さずに、
そして力や魂といった非物質領域のものも何もかもが消え去ってしまうのだ。

彼女はただ呆然と見上げているしかできなかった。

結標「……」

凄まじい憎しみで焼かれ、圧倒的な意志で存在を否定され、
学園都市の命運も打ち止めの消滅で尽きることとなる。

そして彼女の最大の戦う理由、少年院にいる仲間たちの命運もその学園都市と共に。


彼女の頭から雪に毀れる滴の中に、いつしか『透明』のものが混じっていた。

その透き通る滴は皮肉にも、頭上で一際強くなった光によって宝石たる輝きを放っていた。


そうした中、彼女は恐らく最期となる外部情報を知覚する。
頭上で猛烈な力が迸るのを。

結標「……」

だがいつまでたっても意識は断絶しなかった。
周囲の森も雪も山々もまだ残っていて。


頭上のメタトロンの光には、『青い光体』が激突していた。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:21:12.88 ID:YhzyF4dBo<> ―――

遡ること『一瞬』。
学園都市にて。

神裂は一気に飛翔していくメタトロンを見た。
理と空間を捻じ曲げて猛烈な速度で、遥か空の彼方へと消えていくのを。

神裂『―――』

それを一目見た神裂もまた、
かの天使を追って即座に大地を蹴って跳躍し後を追った。

その足に集束する規格外の力が彼女の身を運んでいく。

幸いメタトロンという存在は、見失いたくても見失うことが出来ないくらいに圧倒的だった。
目を瞑ってでも正確に追跡できるくらいだ。

それに相手は空という、周りに何も無い空間を通っているため、
移動の余波で周囲を巻き込む心配もなく全速力で向かうことが出来る。


その最初の『一歩』で、彼女の体はすでに学園都市外縁から20kmも離れていた。

神裂『―――』

夜空高くにて今一度、意識と全知覚をメタトロンへ向け集中させていく神裂。

普通の人間だったら到底如何なる情報も捉えられない距離だ。
だが神の領域の大悪魔にとっては別段難きことでもない。
対象を明確に認知しその位置さえ把握していれば、まるでその場にいるかのように情景を知ることが出来る。


瞬間、神裂の大悪魔の瞳は、かの天使とその前にいる人間の少女の姿を捉え。
大悪魔の聴覚はその場の言霊をはっきりと聞き取った。


『―――……私たちは……存在しちゃいけないの?』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:22:32.92 ID:YhzyF4dBo<>
それは『問答』だった。
声にしているのは片側だけであったが、確かに問答だった。

神裂は、その大悪魔としての知覚と―――セフィロトの樹といった天の類を認識できる知覚を併せて、
あの場の声にはなっていない意識を『聞いた』のだ。

圧倒的な存在によって、自らたちの存在を真っ向から拒絶され、
失意と絶望と虚無感に苛まれる人間の少女の言霊。


『―――…………生きてちゃ……いけないの?』


そして彼女に対する―――メタトロンの『無言』の返答。

いや、神裂にとって正確には『無言』ではなかった。

少女には聞き取れてはいなかったであろう。
ノイズ音としてどころか、一切の音としてすらも認識していないかもしれない。

だが神裂ははっきりと聞えた。
かの天使が飛びあがる際にこう呟いたのを。



『許せ』、と。



それを認識した瞬間、
神裂は自らの頭の中で何かが切れる音を聞いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:24:21.56 ID:YhzyF4dBo<>
その一言に、メタトロンの心情の全てが乗っていたように受け取れた。

人間界の古の神々に対する並々ならぬ憎しみと怒りと―――『恐怖』。
そして人間達への保護者ではなく血の繋がった家族としての愛情と―――『使命感』。

神裂『―――』

敵に感情移入してしまうのはきわめて危険なことである。
特にこのような殺るか殺られるかといった状況では尚更だ。

揺ぎ無い信念と完璧な覚悟を有する者達は、
このような状況に立っている時点でやることは一つ、『戦う』しかない。

和解なんて到底無理な話、それができなかったからこそこの状況なのだから。


スパーダの一族や上条当麻ですらも、どうしても避けられない戦いがあり、最終的には刃と拳を振るうのだ。


彼らほどではない者にとっては、戦いが終ったあとに偲ぶことはあっても、
戦いが決する前に相手の心情を考える行為なんて無駄でしかないのである。

だがそれでも、と。
無意味なことだとわかっていても。
どうしても素直でお人好しで優しすぎる神裂火織は、
恐ろしい敵であろうとも、その内に少しでも善性を見つけてしまうと、心を震わせずにはいられない。

特に上条と出会い天使となりバージルの使い魔となった今では。
ステイルの蘇生と自らの傀儡化を主に突き付け懇願したときの様に、魂の慟哭が抑えきれない。

メタトロンが敵として戦っている理由は大方予想が付く。
もはや『知っている』としてもいいくらいに確かにだ。

だがそれでも神裂は、この憤りと共に問わずにいられなかった。


何が『許せ』だ、と。

どうしてだ、。

なぜだ、と。

お前は何のために―――誰がために刃を振るうのだ、と。


より力が篭った足で『空を蹴り』もう一歩。
更に速く、神裂はかの天使へとむけ空間を引き裂いていき。

その今にも一帯を消し飛ばそうとしていたメタトロンへ、飛び蹴りを叩き込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:26:05.33 ID:YhzyF4dBo<>
白銀と青の光が衝突し、もつれ合い、
彗星のごとき光筋となって数キロ先の山肌へと激突していく。

閃光が迸り、木々をなぎ倒しては、雪はもちろんその下の土砂をも吹き飛ばし、
周囲に飛び散っていくビルほどもある大量の『山の欠片』。

その強烈な輝きは遠く学園都市からも望めたであろうか。
衝撃と輝きを見て、この大戦でついに核兵器でも使用されたのかと思う者もいたことであろうか。

だが実際はそれよりも遥かに危険で、圧倒的で、大規模なものだった。
この輝きに集束している力の前には既存の核兵器などちっぽけな火花にしか過ぎず。

そしてその光もまた、それら『持ち主』達のほんの片鱗が漏れ出しているにしか過ぎないのだから。


山肌が穿たれ、新たな谷間が誕生しつつある中。

その大破壊の中心点に着地していた神裂は、
吹き飛びあがりかけていた大量の土砂の向こうに見た。

同じように姿勢低く着地していたメタトロンが、
構わずに杖の先から一帯を抹消すべく一撃を放とうとしていたのを。

神裂『―――ッ』

―――させるか、と。

刹那、神裂は神速で抜刀。
次元斬によってメタトロンの砲撃を撃ち掃った。

杖から放たれた光は即、更に凄まじい一閃の前に霧散。
跡形も無く消え去った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:27:41.30 ID:YhzyF4dBo<>
それを見、槍のごとき視線をむけてくるメタトロン。
兜の眼光から覗く瞳には、やはり『人』の苦痛と憤怒が複雑に入り混じってはいたも。

それよりも何よりも色濃かったのは、戦士としての厳然たる闘気。


揺らぐことの無い芯が貫いている戦意と―――殺意。


それを見て、神裂は今一度当たり前のことを認識する。
やはり無意味で無駄なのだ、と。
このメタトロンがどんな信念をもっていようがもう関係ない。
ここで何を問い何を理解しようが、やる事は何も変わりはしないのだと。


神裂『―――なぜだッ??!!』

わかっていながらも刹那に声を放つ神裂。
そしてこれも同じくわかっていた、メタトロンはその問いには一切反応を示さず。

その殺意のみなぎった杖の穂先を彼女へ向けた。

宣戦布告であり死の宣告であり挑発のようなもの。
少なくとも神裂はそう受け取り、そして応じる。

抜き掃った七天七刀を腰に寄せて脇構し。


神裂『―――おおおおおぉぉぉぉぉッ!!!』


メタトロンのものに負けぬ熱を吐きながら、
彼女は一気に突進した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:30:30.15 ID:YhzyF4dBo<>
舞い上がりかけていた近場の土砂や瓦礫は、結局どこかに『落ちる』ことは無かった。
この瞬間に漏れた力の衝撃波で『消滅』したのだ。

―――そこは神域の力の激突点。

メタトロンの杖と神裂の七天七刀が、物理領域を超えた圧力の空間を形成。
白銀と青の光が凄まじい摩擦を起こしながら、余波が周囲を滅茶苦茶に破壊していく。


そして両者は『まとも』に互いの一撃を受け止めた。


避けられるものでもなければ避ける気も無かったか、
両者とも滾りに駆られ、真っ向から刃を押し付けあったのである。

神裂『―――ッッ』

凄まじい衝撃を受け軋む腕。
柄を握る掌から、手首が劈き、肘と肩を抜けて全身に強烈な波が圧し掛かっていく。
だがそれは相手のメタトロンも同じだった。
彼女は自身の身が軋むのと同時に、刃からメタトロンの身も軋むのを感じた。


そう、その天の質量が載せられた杖も、バージルの力を継ぐ七天七刀も、
互いにまともに受けてはいけない一撃。


触れずに回避するのがまず前提、最悪でも打ち流す程度。
押し止め、ましてや鍔迫り合いに持ち込むなんてもっての外。

互いに受けていては身が持たない、防いだはずなのに『重さ』のあるダメージを蓄積してしまうのだ。

それは互いに、魔塔の門前の広場で認識した事であった。
だがメタトロンはそうとわかっていながらも、あえて神裂の攻撃を真っ向から受け止めた。
ここに神裂は今のメタトロンの意思を悟る。


この天使は己が身の損傷を省みずに、ここで早急に勝負を決するつもりなのだと。


全てはできるだけ早く、そして確実に―――――あの幼い人間の少女を殺すために。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:33:10.18 ID:YhzyF4dBo<>
神裂『―――ッ』

ぶつり、とまた。
『静』という感情の糸が弾け切れ、『怒』の炎が激しさを増す。

そこまで許せないのか。
そこまでして殺したいのか。
そこまでして学園都市を―――あの街の子供達の存在を否定するのか。

歯をかみ締め、刃越しに魔の光が燃える瞳で睨み返して、
彼女はこうその目で問うた。
もちろん答えが返ってくるわけでもなく。
そして当然、答えはもう知っていたが、それでも―――



緊張が現界に到達し―――互いに刃を弾き合い。

そこから至近距離の真っ向からの打ち合いへと転じる。
のらりくらりと回避しあうのではなく、真っ向からの力のぶつけ合い。

勝負に要する時間は長くないであろう。

彼らにとってもほんの一間、普通の人間にしてみれば『一瞬』ですらない。


棒術に似た動きで杖を捻りまわし、横から振り抜いてくるメタトロン。
その一撃を彼女は真っ向から刃で受け止め、弾き、

そして手首を切り返して上段から振り下ろす。
その刃に滾る激情と、殺意と、戦意と―――『無意味』な問いの言霊を乗せて。

問いの答えはすでに知っていた。
メタトロンの戦う理由はたった一つ。


―――現在の人類を守るためだ。


半天使となった身の神裂だからこそはっきりとわかる。

彼らは本当に人間達を愛しているのだと。
むしろこのメタトロンは、元人間ということもあって『愛しすぎている』ほど。

間違いなく彼は人間界を『守るため』に、セフィロトの樹の責任者の座を受けたのだ。
かつて魔女狩りの際、四元徳が欧州全域を一度『洗浄』しようとしたのを説得して抑えたのも、
その第一の声はヤハウェだろうが、直接働いたのはセフィロトの樹の責任者であるこのメタトロンであるはず。

きっと数千年にわたり、あの手この手で巧みに人間達の世界を保持しようとしてきたのだろう。
おぞましい魔界から、そして暴虐なる人間界の古の神々たちから。

そう、彼がこうして戦う理由は、このように至極当然かつ単純明快なものなのだ。

そして単純明快だからこ。
いまさら刃を止められるような迂回路も抜け穴も存在していない―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:36:29.55 ID:YhzyF4dBo<>

人間界はもう保護も管理も必要ない、人間界の力場の問題もバージルが対処するため、
天界と完全に切り離されても問題は無い―――と。

メタトロンが未だ知りえていないこれら事情を、今ここで言ってももう『無意味』だ。
これらの言葉が大きな力を有していた時はもう遥かに過ぎた。
戦いが始まっている今では何もかもが遅いのだ。

神裂がその力の祖たるバージル、そしてスパーダの名を盾にしたところでも意味は無い。


バージルの使い魔だと把握した上でこうして戦っている時点で、
メタトロンの覚悟と信念は明確にされているのだから。


例えバージルやダンテが直接立ち塞がったとしても、彼は決して刃を止めやしないだろう。


いや―――そもそも彼自身にはもう『止められない』。


彼のこの行動はある種の誓約の上に成されたもの。


神域の存在による魂の声に従った戦いは、一旦始まると途上で止めることは不可能。

スパーダに復讐を挑む悪魔達の戦いが、
力によって叩き潰されるまで永遠に終ることが無いのと同じく。

また神裂にとってのバージルとの繋がりと同じように―――『絶対的』なものなのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/12(日) 02:37:51.97 ID:U21+bVWDO<> 神裂の魔人姿ってどんな感じなんだろ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:39:52.06 ID:YhzyF4dBo<>
『それ』こそ、この神裂の激情の最大の火種であり、
そして彼女もまた彼女自身の『誓約』によって憤怒を更に滾らせるのだ。

メタトロンそのものは善人で崇高な戦士。
彼が抱く望みには、人への無上の愛と高潔な使命感が溢れている。

だが神裂の側とは状況の解釈が異なり。
そして知りえる情報も成せることも力も限られていて。

結果、彼女の立場からすれば『障害』であり『敵』―――守るべき人間を手にかけようとする紛れも無い『悪』だ。


神裂『―――はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


わかっている。
このような戦いも初めてではなく、何をすべきなのかもわかっている。


昔から性格上、無意味だとわかっていても、
一旦気付いてしまうとどうしても感情移入してしまうことがあっても。

そこまで心を震わせておきながらも、刃に載せられた殺意と戦意が淀むことはない。

神裂もまたメタトロンと同じだった。
戦士としての生き様、魂、そして今はバージルの戦いに身を捧げる誓いも上乗せされているため、
刃を自ら止める事も出来なければ、そもそも止める気すら欠片もない。

唯一のその刃が止まるのは、他者に捻じ伏せられ敗れた時だけである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:41:45.77 ID:YhzyF4dBo<>
刃に乗せられた彼女の問いは、
やはり戦いの趨勢には一切影響を及ぼしえない無意味なものだった。

わかりきっている事を再確認し、無駄にその『人の心』を振るわせるだけ。
しかもその感情も、『戦士の神裂』の刃には良くも悪くも一切影響を及ぼすことが無い。

ただそれでも彼女は、メタトロンを『心で捉える』ことも止めなかった。
これもまた、神裂火織が神裂火織であるがゆえに。


神裂『―――つぁ゛ッ!!』

メタトロンの強烈な一撃を押し弾き。
今や柄握る手から血が滴っていながらも、神裂は全力で刃を振り下ろす。
それを真っ向から受け止めるメタトロン。

彼の手も赤く染まっており、衝撃が迸るたびに、装具の隙間から滴がこぼれ散っていく。

一撃も身に受けてはいないにもかかわらず、
いまや二人ともその姿を真っ赤に染め上げていた。

退きもしなければ、踏み込む必要も無い間合いを維持しての、
真っ向から向き合って刃の応酬。

一撃打ち合うたびに、互いの肉と体が軋み歪むのを覚え。
一撃打ち合うたびに、魂が悲鳴をあげひび割れていく。

それでも両者は手を緩めなかった。
相手を叩き伏せるべく、己が身を蝕むほどの力を刃に注ぎ振るっていく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:43:23.38 ID:YhzyF4dBo<>
周囲の地形は大きく変貌していた。

青い斬撃による数多の溝が、谷をこえその向こうの山肌にまで走り。
白銀の光による衝撃波が、まるで『皮』を剥いでいく様に木々や雪、
土砂を吹き飛ばして峰々を丸裸にし。

一番近くにあった頂は大きく削り取られ、地図上から姿を消してしまっていた。

そしてその破壊の元凶の二柱、彼らの手数はいまやに三桁の半ばに届くあたりか。


神裂『―――ッ』


刹那に同じタイミングで振りぬかれた一手が、再び重なって膠着した。

刃の激突点から発した一際強い光の爆風で、周囲領域が一気に晴れ渡っていく。

砕けた光の欠片も、塵も渦を巻いていた『力のかす』も、
それによって変動していた法則や界の歪みも何もかもが消失する。

そして訪れる静寂の中で響いたのは、
腕が痙攣しているせいで奏でられる小刻みな刃の音と。


―――両者の荒い呼吸音だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:45:20.22 ID:YhzyF4dBo<>
互いの刃越しに、二柱は再びその瞳を向け合った。

神裂『―――ふっっ!』

交差する杖と七天七刀の向こうから覗き込んでくる、古代地中海風の兜。
その下からは肩の上下にあわせて荒い息が漏れ、
眼孔の奥には血走った瞳が光っていた。

神裂は無言のまま、その瞳を真っ直ぐに見据えた。

瞬き一つせず、一切逸らすことも無く。
心をどうしようもないくらいに揺らしながらも、
それとは完全に切り離されている明確な戦意も突きつけて。

メタトロンはその心情を理解しているはずだった。
何をどう思っているのか、神裂は隠すことも無く刃に言霊を載せたのだから。

それを理解した上で彼もまた無言に徹して、絶対に揺らがない戦意を滾らせる。
数秒間、両者にとっては数時間にも思えるような間、そんな膠着が続いた。

凄まじい膂力で押し付け合う刃の、
がちがちと小刻みにぶつかる音と呼吸音のみが響く。

神裂『―――』

そんな圧と負荷による魂の悲鳴を聞く中、彼女は悟っていた。

もう更なる衝撃には耐えられないと。
柄を握る手の感覚も、もうほとんど消えて久しい。
いまや力で結びつけて固めている状態。

―――つまり次の一手が最後、それで勝負が決するのだ、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:46:29.13 ID:YhzyF4dBo<>
メタトロンも同じ結論に至ったのか。
その瞳がぎらりと鼓動し。

それが合図となった。

直後、互いに弾きあがる七天七刀と杖。
解き放たれた極限の緊張が、光の欠片となって周囲に飛び散っていく。

神裂『―――』

上へと跳ねた七天七刀を引き戻している暇はない。
彼女は一気に力を篭めて、弾きあがった上段からそのまま―――振り下ろす。

だが遅かった。
次元斬が直接乗る刃がメタトロンの肩に沈むかという直前。


彼女の胸を白銀の杖が貫通した。


メタトロンは杖が弾きあがった瞬間、
そのままくるりと回して―――逆の先端を突き出してきていたのだ。


僅かな差で放たれた杖、先端の光刃が神裂の胸の中央に沈み―――その魂を貫いた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:49:09.78 ID:YhzyF4dBo<>

神裂『――――――』

直後にメタトロンの肩に沈んだ七天七刀。
本来ならば上半身を切り落とし、その魂をも分断していたであろう一振りだが。

その圧倒的な威力を示すことは叶わなかった。

メタトロンの肩、鎖骨を切り裂いて15cmほどまでめり込んだものの、そこで止まる刃。

魂にも到達し、致命傷としてもおかしくないほどに切り裂いたも、
行動不能に追い込むまでには至らぬ一撃に終った。


神裂『――――――がっ―――ぁっ―――』


ごぼりと食道を込み上げてくる熱流を覚える中、彼女は自らが敗れたことを認識した。


全身の触覚はもとより、力の感覚がすうっと消えていく。
圧倒的な衝撃による痺れが嘘のように消え去り、腕の痙攣ももう止まっていた。

口から溢れる体液。
それとは逆に、その顔に噴きかかってくるのは、向かい合うメタトロンからの熱い飛沫。

彼の右の鎖骨の端あたりからから胸部まで、
七天七刀が切り裂いた胴鎧の割れ目から、鮮血が大量に溢れでていたのだ。

また朱の滴がそこに食い込む刃を伝い、柄を握る神裂の腕にまで滴り、
彼女の血と混ざって二人の間に落ちていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:51:22.76 ID:YhzyF4dBo<>
メタトロンはその神裂の刃を、掌が切り裂かれるのも構わずにぐっと握り。
一度大きく息を吸ったのち、自らの杖と同時に引き抜いた。

『支え』を失い、その場に膝と手を付き倒れこむ神裂。

そんな彼女など一瞥もせずに、メタトロンはすぐに踵を返して、
消耗のせいで酷くぎこちないながらも、ゆっくりとこの場から立ち去っていった。


神裂『うぅ゛…………あぁ゛ぁ゛ぁ゛っ……!』

その背に向けて、彼女は叫んだ。
心の内に渦巻くあらゆる感情が素のままで宿った、血に塗れた無様なうめき声を。

神裂『―――………………な……ぜ……!』

そしてまたしても無意味に問うた。
彼に向けてのみならず、この戦いそのものにも問うた。
その意味も理由もわかっているのに。

事実をどうしても受け止めきれない、わがままな子供のように。


当然、そのペースはゆっくりとしながらもメタトロンの足は止まらなかった。

自らも歩くのがやっとなくらいに消耗している以上、
これ以上不用意に近づこうとはしないのは、戦士としては当たり前の判断。

メタトロンにとって彼女は、打ち止めの抹殺という目的の前に立ちはだかった『障害』。
この状況下においてそれ以上でも以下でも以外でもない。
完全に戦闘不能となったことで、彼女を意識外から弾くのは当然のこと。

もうここまでくれば、彼女の生死など一切関係ない。
それは神裂も自覚していた。

己は完全に舞台から脱落し、
何を叫ぼうが何をしようがこの状況に波を立たせることはもう不可能なのだと。


神裂『―――あぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――!!』


だが頭でそう理解していても、時に抑えられないのが人間の心というもの。
彼女は呻き叫び続けた。
破壊の谷間から出で、そのまま姿を消していくメタトロンの背に向けて。

敗北したという自責の念と憤怒と、メタトロンを『含む』全ての『人間』への悲嘆を篭めて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:52:11.72 ID:YhzyF4dBo<>
神域の力の嵐が過ぎ去ったことで、周囲空間が元の物理領域に戻りつつあった。

高空を抜ける風の音が聞え始め、この破壊の谷間の中を、さあっと細かな塵が抜けていき。
そして静かに雪が舞い降り始めてきた。

この調子なら、きっと『いつか訪れる朝』までには、
山脈一帯に刻まれた神域の爪痕も、白く覆い尽くされてしまっている事だろう。


神裂「…………」

いつしか声を発することもやめていた神裂は、ひゅーっと息を漏らしながら前のめりに蹲っていた。

バージルが繋がっているため、死にはしないであろう。
ステイルのようにこのまま『冬眠』に入り、魂をゆっくり癒すのだ。


ただし、バージルが見限らなければの話しだが。


無意味に稚拙に心を揺らし。
その影響は無かったとはいえ結果的に敗北した己を。

果たしてここまで無様な敗者に、バージルはどのような処遇を与えるのか。
いまだ繋がりの向こうから、それを告げる明確な声は聞えなかった。


いつも通り―――冷たい沈黙のまま。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/12(日) 02:53:57.78 ID:U21+bVWDO<> メタトロン強すぎ格好いい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:55:36.81 ID:YhzyF4dBo<>
神裂「……」

どれだけの時間が経過したか。
大きな轟音が響いたのでその面をぎこちなく上げてみると。

『うろこ状の毛皮』を有した、4mほどの大きな『狼』の姿をした―――大悪魔が立っていた。

もしかしてテメンニグルの塔の隔絶が破られ、
学園都市どころか人間界全域に魔界がなだれ込んだのか。

虚ろな意識の中で彼女はそう考えたが、それは誤りだった。

目の前の大悪魔はまず『学園都市の敵』ではないは確かか。
その魔狼の背に能力者の少女達が乗っていたのを、神裂は虚ろながらも捉えた。

まず目に入ったのは一番先頭で酷く衰弱してうなだれている、
ここまで逃れてきた瞬間移動能力者の少女。

その彼女を後ろから抱き支えていたのは、同じく能力者でレベル5の御坂美琴。
そして彼女の後ろにも、能力者と思しきツインテールの小柄な少女。

その三人目の少女もまた瞬間移動能力者だった。
パッと姿を消すと同時に、次は神裂のすぐ脇に姿を現したのだ。


「しっかり!!」

少女はそう呼びかけながら、神裂の体をゆっくりと起こして。
その傷を見て一瞬言葉を無くしていた。

ただ、その程度で動揺するには至らぬ経験があるのだろう。

胸に思いっきり大穴空いてても生きている時点で、
そんな体には一般的な応急処置など意味がない、と判断したのか、
すぐに顔をあげて。

まず神裂の硬直した手から七天七刀を『剥ぎ取り』、
その長さに少し苦労しながらも鞘に差込むと、次に彼女の肩に手を当てて。

「飛びますの!」

次の瞬間、神裂は魔狼の背の上にいた。
前には御坂、後方にはあのツインテールの少女がこちらの腰にしっかり手をまわして座していた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 02:57:28.80 ID:YhzyF4dBo<>
御坂「神裂さん?!」

ぐん、と一気に跳躍する魔狼。
横顔向けてそう声をかけてきた御坂に対して、
神裂は途切れ途切れながらも声を絞り出して、打ち止めの危険を報せようとしたが。

神裂「……メ……タトロン……が……―――」



「大丈夫!ネロさんが向かいましたの!」



神裂「―――…………」

後ろからのそんな返答で、
もはや神裂は何も言えなくなってしまった。


確定的な『結末』が見えたのだ。


これは『幸い』と言えるであろう。
ここでの自身の敗北は何とかカバーされたのだ。
学園都市を守る者達にとっては、ほっと胸を撫で下ろす結果だ。


ただ神裂にとってはそれと『同時』に――――――心が酷く痛んだ。


前の御坂も、後ろのツインテールの少女も、
神裂が肩を震わせている本当の意味はわからなかったはずであろう。


魔狼はそんな神裂をのせて、ネロのもとへと向かっていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 03:00:40.97 ID:YhzyF4dBo<>

魔狼が目的地に到達し、一向は打ち止め達が問題なく生きているのを見た。
森が途切れた、少し開けた雪の野に彼女達はいた。


打ち止めを抱いている芳川の左右に、
二人に覆いかぶさるようにしている抱き花飾りをつけている少女と黒髪の少女。

その前にアステカの魔術師が息荒く立ちはだかっていた。
彼は一戦交えたのか、肩から血を滴らせていたものの命には別状無い様子だ。

そしてその彼の前に。

いかなる力も衝撃も通さぬ極なる防壁―――赤い大剣が聳えていた。

                                        レッドクイーン
フォルトゥナの紋章が刻まれた『魔剣』―――『赤の女王』が。


神裂「…………」

その魔剣の主は、これを背にして一番前に立っていた。
冬の山風に、紺色のコートとこめかみの一部だけが『赤く』なった髪を揺らし。

圧倒的な余裕に満ち溢れながらも、
一切の隙も油断も無い瞳を―――前方15m程に立っているメタトロンに注いでいた。


その立ち姿は、消耗したメタトロンが対比となったこともあってまさに圧倒的だった。
一見すると涼しげな面持ちなのに、その身から迸らせている圧は焼き焦がされるかのようなもの。
戦意抱いてその間合いを抜けられる存在なんてどこにもいないであろう。

その姿を一目見て神裂は思った。
あの風格は―――バージルそっくり、彼やダンテと並べても遜色無い、と。
そしてもう一つ、逆に父や叔父とは大きく変わっていた点。


今のネロは魂からその血肉まで―――全てが『本物の人間』だった。


『最強の人間』が立っていたのだ。


愛する人類達が生き延びるには、
天界の管理と保護が必要だと信じて―――それが己の使命だとして―――

―――ここまで突き進んできた天の気高き戦士の前に。


彼はもとより、天界にも魔界にももはやまともに戦える存在がいない―――『超越した人間』が。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 03:03:28.65 ID:YhzyF4dBo<>
メタトロンもこの時、確実にわかっていたはずだ。

スパーダの血筋の力を捻じ伏せて、
そっくり『人間のもの』にしてしまったネロ、今の彼の存在が示す事柄を。


スパーダの孫であり人類を愛する『最強の人間』が、学園都市側についているということの意味を。


戦いの結末は決まった。
結局、どちらが『正しかった』のかもここで決定付けられたのだ。

神裂「…………」

だがその『戦い』自体はまだ―――終ってはいない。

『結末』が『現実の確定事項』となるには、戦いに完全に終止符が打たれる必要があるのだ。
それも武力によって片側が敗北する形で。

そしてそれこそが魂の戦いを終らせる唯一の手段。



ネロとメタトロン、言葉は一切交わさぬもこの瞬間、両者の間には確実に『了解』があった。

互いに理解し、互いに成すべきことを成すのだと―――『この戦い』を終らせようと。

この時点でメタトロンが天の加護で復活する可能性はまず確実に無くなった。
ネロと了解した事で、ここでの彼の行動がどうであれ、その真意は完全に四元徳に反するものなのだから。


血塗れた体をぐっと低くしては杖を構えついに、メタトロンが地を蹴った。

ぶわりと舞い上がる粉雪、その中を突き抜けていく速度は、
先ほど神裂と戦っていたときに比べたら止まっているに等しいものであった。


ネロ「―――目を閉じてろ」


対するネロは、背後の女性陣に向けてそう告げながら。

後ろのレッドクイーンの柄を逆手で取り―――


向かってきたメタトロンへ向け一閃―――容赦なく振りぬいた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 03:06:51.99 ID:YhzyF4dBo<>
神裂「―――や……め…………―――」

瞬間、思わず心の底から言霊が漏れかかったものの、まともな音には鳴らなかった。
またもしちゃんと声になっていたとしても、確実に何も変わりはしなかったはず。


それにもしここで自身がネロの立場だったなら、口ではこう声を漏らしながらも、
まず間違いなく彼と同じく一切手加減なしに刃を振っている。


これはどうしようもなく無力な声であり、無意味な言霊でありでり、
もともと『場違い』な情感なのだ。

神裂だけが勝手に思い、一方的に心を揺らしただけで、
当のメタトロンにとってもそもそも知ったことではない。

現に神裂の言霊を受け続け理解しながらも、彼はただの一度も反応することは無かったのだから。


ただそれでも、と。


ここで彼女は恥じることなく―――こう確かに心の内で声にした。


例え無意味、無駄で甘くて稚拙だとしても。


一人くらいは、彼のために涙する『人間の心』があっても―――良いではないか、と。



偉大な天使の首は宙を舞い―――地に落ちて。

静かに雪に沈んでいった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/12(日) 03:10:44.76 ID:YhzyF4dBo<>

打ち止め「――――――……天使たち、降伏したって」


芳川の腕の中で、
虚数学区と魔塔の界域の状況を告げる幼い少女。

これもまた、メタトロンの『ケジメ』によるものだ。
旗印である彼が倒されることで、彼に付き従った兄弟達はみな『敗北』したのだ。


こうして―――『生きたまま』で。


ネロ「……とりあえず戻ろう。皆、グラシャラボラスに乗ってくれ」

ネロがレッドクイーンを背負いながらそう告げると、魔狼は彼の傍にまで跳ね、皆が乗りやすいよう姿勢低くした。
まず打ち止めと芳川が、次にアステカの魔術師は黒髪の少女の手を借りて、
続けて一番後ろにいたアレイスターが、花飾りをつけた少女の手を借りてその背に乗っていく。

魔狼の体躯は大きかったも、さすがにこの人数ではその背はやや狭い様子か。

そうして皆が乗ったのを確認したのち、ネロが魔狼の首に右手を当てて。
狼の頭上に飛び乗る直前に。

神裂「…………」

ぼろぼろに泣いている神裂の顔を見やった。
そうして周りの者達とは違い、彼だけはその涙の意味を理解したのだろう。

ネロはふっと小さく、呆れた風ながらも優しげな笑みを浮べながら。



ネロ「……お前らしいな。神裂。お前らしいよ」



二度、そう口にした。


神裂「………………」

そのネロの言葉で、神裂ははっと悟った。

バージルがなぜ―――この神裂火織という無様な人格の存在を許し続けるのか。
直後、それを裏付けるかのようにやっと―――繋がりの向こうから『主』の言霊が聞えてきた。


あのメタトロンの死の際に心の中で発した声、それに返してくる形で。


『それでいい。それでこそ愚かな人間だ』、と。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/12(日) 03:12:19.13 ID:YhzyF4dBo<> 今日はここまでです。
次は火曜に。

>>215
ステイルと同じく肉体の姿はそのままです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/02/12(日) 03:17:09.41 ID:6/40cOQZo<> 乙
おれも機械天使で出撃するか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/12(日) 08:49:21.45 ID:cLCeI2XXo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/12(日) 10:51:01.12 ID:/NaeCtR6o<> 乙でした。待った分以上に楽しめました。
神裂さんはエンジェルったりデビルったりしても、ネロとバージルに認められるまでの人間なのかー・・・
・・・あれ?神裂さんカールおbsnに乗れてない・・・? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/12(日) 13:20:10.34 ID:DTmrG0kDO<> まだ口があるじゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/02/12(日) 20:17:09.62 ID:L+sJYYSio<> 神裂さん熱ぃなおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/02/13(月) 01:36:22.10 ID:orn6ZDas0<> 正義の反対はまた別の正義、なんだろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/13(月) 16:28:45.68 ID:xCh/7faIO<> 原作でいうLevel6ってネロのことなのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/02/13(月) 16:57:23.82 ID:gxkFV3olo<> 一方さんの事を考えるに新しい人間界の神がレベル6なんじゃないかな
人類最強はネロで確実だけど力の由来が悪魔なのは事実だし何処か違う気がする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/13(月) 17:02:39.79 ID:f0mpNPUBo<> LEVEL6がどういうものか明言されてないからねぇ。
このネロさんはスパーダの血族としての力、創造主の『破壊』に連なる力を、純粋に「ネロ」という存在で加工?した結果なのかな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/14(火) 03:23:07.14 ID:kE7N+dVDO<> LEVELってあくまで能力者の括りじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:47:42.76 ID:qn1b5W7Uo<>
―――

遡ること少し。

一行は、冬風が吹き荒む山の中を進んでいた。

先頭からエツァリ、彼に肩を掴まれ引かれているアレイスター、
その後ろを初春、打ち止めを抱いた芳川、佐天らが一塊になるようにして続く。
頬や鼻先、耳を真っ赤にしながらも膝まで埋まる雪をかきわけ、懸命に前へ前へと。


天候は荒れてないとはいえ、
厳冬期の南アルプスの冷気は身を切り裂くほどのものである。

服装は芳川も打ち止めも着の身着のまま、
アレイスターは薄い手術衣、佐天なんかは上はTシャツのみ。
(彼女はもともとジャケットを羽織っていたのだが、
イフリートの熱気が残る窓のないビルに到着した際に脱いでしまっていた)

ジャッジメントとして野外作業を行っていた初春の服装は幾分マシだったとはいえ、
やはりこのような環境下では焼け石に水か。

初春はその能力『定温保存』によって、
打ち止め・芳川と佐天にも手を回してその体温をなんとか保持していたも、
それら服装と所詮レベル1ということもあって、一定に保つことはやはり困難であった。


またエツァリもとある理由で、ここに降り立ってからは一切の魔術を起動していなかった。
今の彼の手にかかれば周囲気温を上げるなんて易いことではあるが、
ここで魔術の類を使用したら位置が特定されてしまうかもしれないと考えたのだ。

彼の魔術に使われる力、その出所を考えれば当然の判断であろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:49:20.53 ID:qn1b5W7Uo<>
ただしその制限はすぐに解除されることとなった。

一行が強張らせて雪に埋もれ進んでいると。
突如後方の上空から、日が昇ったというほどに光が差し始めてきた。

エツァリ「―――ッ」

驚き足を止め、半ば吸い寄せられように振り向く一行。
だがそう見やったところで、彼らには特に意味が無い行動だった。

この瞬間の出来事に対する理解は、のちの一段落ついた時に断片的に推測できた程度。
今ここではその一部ですら思案することは不可能だったのだから。

天空で青と白銀の光が迸った風に見えた次の瞬間には、
より激しく迸った光が、峰向こうの遠くの頂を消してしまっていた。
こうして結標、メタトロン、神裂という三者の『問答』は、
彼らの意識が『追いつかない速度』どころか、そもそも『認識できない領域』で展開し終結したのだ。

エツァリ「……っ!」

何が起こったのかは見当もつかない、だが一つだけ、
この時エツァリは周囲環境の変化を感じ取った。

場を満たしていたあの圧倒的なプレッシャー、『力の層』が忽然と消えていたのを。
辺りが完全に『晴れ渡っていた』のだ。

刹那、彼は自分達の存在が浮き彫りになるような感覚を覚えた。
白亜のキャンパスに墨で示されるかのごとく明らかに。


その感覚は間違ってはいなかった。


二柱の激突によって実際、エツァリ達の存在を隠していたベール―――
―――拡散された結標のAIMは、全て吹き掃われてしまっていたのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:51:20.37 ID:qn1b5W7Uo<>


佐天「―――……っ?!」

振り返った先の空に見えたのは、
少しばかり前にデュマーリ島で見たのと同種の眩い輝きだった。

覚えるのは精神が潰される異様な威圧感、夜の大海に投げ出されたかのような不安と卑小感。
そして脳裏に蘇るのは真新しい記憶、デュマーリ島で目にした凄惨な光景。

芳川達の体を外気に触れさせないように庇っていたその腕に、佐天は反射的に力を篭めてしまった。

だがそれでも。
彼女の我が揺らぐことはもう無かった。
デュマーリ島で体験した世界、その圧倒的な戦慄は耐え難いも、
一方でそれらが重石となり、彼女の意識を刺激して押し留めるのだ。

かの島にてこの戦慄を前に彼女は立ち、歩を進めた時点から。
もう彼女はただただ恐怖に打ちひしがれる子羊なんかでは無かった。


力が微塵も無くとも、その心は屈しはしない。


彼女は弾けたように芳川と打ち止めの方を振り返り、その意識が保たれているのを確認し。
次に初春を見やると。


佐天「―――初春っ!!」


友は凍り付いていた。
比喩ではなく文字通り冷気によって凍りついたのでは、
と一瞬思ってしまうくらいに蒼白な顔に、大きく見開かれたまま固まっている目。

そして明らかに寒さによるものではない震え―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:52:38.15 ID:qn1b5W7Uo<>

―――同じだ、と佐天は思った。

デパートにおける一件で、初めて異形の存在に遭遇し、
これまで経験した事の無い恐怖に駆られ、
次第にそれらが積もり積もっていき、最終的に弾けてついに意識が飛ぶ―――まさにあの時の自身の姿か。

その友の姿を見て、佐天の顔からも一気に血の気が失せていく。

彼女は飛ぶようにしてその側へ向かい、その初春の肩に手を当てて大きく揺さぶり、
喉が張り裂けるくらいに思いっきり呼びかけた。
すると。

佐天「―――初春!!初春!!」

初春「―――あっ―――」

幸い、彼女の意識は『まだ』飛んでいなかったか。
放心状態ながらも視線を彼女の方に向け、
言葉にならないとはいえ反応の声を漏らしたのだ。

佐天「初春!大丈夫!大丈夫だから!!」

佐天は彼女の頬に手を当てて、
なんとか剥離しかけた友の意識を繋ぎとめようとした。


―――あの時、白いシスターの少女にやってもらったように。


頬を撫でながら何度も何度も呼びかけて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:54:52.04 ID:qn1b5W7Uo<>
打ち止め「―――来るよ!!」

その時、芳川の腕の中の少女が血相を変えて声を張りあげた。
空や彼方を満たしていた光が収まった直後のことだった。

そうして少女の声が放たれた瞬間。


エツァリ「伏せて!!―――」


彼が大きくそう叫びながら一行の最後尾、
佐天の側へと人並みはずれた身体能力で跳ねて。

殿に立つと一方の手を前方に伸ばし、
なにやら日本語でも英語でもない言葉を素早く口走った。


すると―――彼の胸元から一気に伸び、周囲に展開する黄ばんだ包帯のような『帯』。


初春を抱き寄せて、芳川と共に雪に埋もれるほどに伏せながらも佐天は横目に見た。
その次の瞬間、帯が一気に光り輝き。

彼の前方に『浸透』し、
空間を満たしてさながら―――『城壁』のような分厚い光の塊になったのを。

そして直後。

彼とその『城壁』越し、向こうの森の奥できらりと『別の光』が瞬いたかと思うと。

一瞬聴力が喪失するほどの耳を劈く激音と。
五臓六腑が一回転するかというくらいの衝撃が周囲に迸った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/15(水) 23:57:02.99 ID:qn1b5W7Uo<>
佐天「―――っ!」

この時はもう横目で見てはいられなかった。
腕の小刻みに震える初春、その頭に顔を押し付け、
彼女もできるだけ小さく縮こまるしかなかった。

この猛烈な『嵐』が過ぎ去るのを待って。


衝撃は断続的に何度も響いた。
そのたびに呼吸どころか、意識が実際に一瞬だけ『点滅』する。
この強烈な刺激に耐えられずに、自己防衛としてシャットアウトでもしているのか。

だがこの猛烈な『連射』はそう長く続きはしなかった。

佐天「―――っ!」

終了の時が唐突に報される。

どさっという、背に圧し掛かる重くも柔らかい衝撃で。
瞬間、とてつもなく不吉な予感を覚えながら佐天が勢い良く顔をあげると。

その予感は『完全的中』はしなかったものの、八割方は当たっていた。

首、胸、腹を真っ赤に染め上げて、
エツァリが倒れこんできていたのである。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:02:02.83 ID:/isA60jto<>
佐天の背に仰向けにぶつかると、
そのまま横の雪面に転げ落ちるエツァリ。

佐天「あぁっ―――!」

佐天は上半身を上げると、片腕は初春に回したまま、
もう片腕をエツァリの胸に咄嗟に押し当てた。

デュマーリ島にて傷の手当の際、彼女自身が唯一手伝えたのと同じく、
シャツの下から滲み上がって来る血を押えようとしたのだ。

ただこの時に限っては、彼女の手は必要なかった。
エツァリはまだ生きており、そして次の瞬間にはすぐにそのための魔術が起動され、
かろうじて止血されたのだ。

もっともそれも、あくまで気休めであるが。

エツァリ「……行ってください!!早く!!」

彼は己の容態など眼中には無かったようだった。
佐天の手首を取ると、強く握っては自らの胸から離し、
怒号染みた声でそう叫んだのだ。

その言葉の意味は佐天もすぐに悟った。

デュマーリ島における経験もあって、このような場での理解が早くなっているものだ。
自分達が今どんな状況に置かれているか、それが今やすぐに推測できるようになっていた

佐天「―――っ」

そしてまたもや不吉な気配とでもいうか、悪寒を覚えて反射的に面をあげると。
その『一目』で推測は確信に進化した―――自分たちは『絶体絶命』なんだ、と。


木々が倒れた向こう、闇を満たす雪煙の中にそれが立っていた。
『鎧を着込んだような人』の姿をした『災厄』が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:04:15.21 ID:/isA60jto<>
その見た目は、一見すると酷く傷を負っている様子だった。
鎧が肩辺りから胸元にかけて大きく割れ、
そこから真っ赤な液体が大量にこぼれており、手先も真紅に染まっている。

だがそれでも、と。

佐天は直感と経験的に悟っていた。
いくら手負いであろうと、『あれ』が脇に倒れている彼をこんな風にしたのだと。


そして彼の言からも受け取れる通り、つまり今や自分達は―――あれに抗う術は皆無だと。

佐天「―――」

そう認識した瞬間、どくんと自らの鼓動が大きく聞え、思考が一気に加速していく。

行け、と脇に倒れている彼は言うも、もはや逃げ切れるわけがない。
最初、『あれ』のものであろう光はずっと遠くにあったのに、
衝撃が轟いた一瞬ののちには30m前方なのだから。

どう考えてもこの足で走ってなんとかなるものではない。

こちらが走り出そうとする前、この今の次の瞬間にも、
『あれ』はここに手を届かせているだろう。

それに、走ること自体がもう無理だ。
打ち止めを抱いている芳川も消耗しており、初春は恐らく立つこともできやしない。

そう、無駄なのだ。
何をしたって無駄。

己がどう行動しようが、この状況に波紋を起こすことなど決して出来ないのである。


―――と、佐天涙子はここに理解するも。


彼女はいまや『大ばか者』だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:06:45.53 ID:/isA60jto<>
一度、誰かに身を挺して守られてしまうと。

二度目は大きな葛藤が生じ、ここで自らの生存本能を押しのけて行動してしまうと、
晴れて『大ばか者』の仲間入りだ。

そして三度目以降は、考える前に体が動いてしまう。


物事や場合によっては、『諦めること』もまた正しい選択である。
分別をつけていかなければまともに生活することすらできやしないものだ。

だがただ一つ、絶対に諦めてはいけないことがある。
どんなに絶望的状況に面しようが、これだけは決して妥協してはいけない。


――――――『大切な人を守る』ことだけは。


佐天「―――」


かの島の地下トンネルで一線を越えていた佐天には、
恐怖に直面して『諦め』や『降参』という行動が結びつく回路がもう存在していなかった。


思考するよりも、覚悟を決めるよりも早く、彼女は素早く立ち上がり前に踏み出していた。
真っ直ぐ『己達の死』を見据え、反抗的な炎を燃やして相対。

ここでようやく思考が追いつき彼女は自らの行動の意味を認識する。
今の己はさながら線路上に立ち、突貫してくる新幹線に挑んでいるようなものだと。

それでも彼女はもう怯みはしなかった。
人並みに恐怖して汗を噴出しながらも、一分も気圧されはしないのだ。


瞬間、正面の『あれ』の手元がきらりと光が瞬いた。
その輝きが何なのかも、佐天は目にする前から知っていた。

『死』だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:08:24.79 ID:/isA60jto<>
佐天「―――」

煌きを見た次の瞬間、その白銀の光が視界を覆った。
一瞬の激音を伴ってすぐに消え去る聴覚、そして触覚も薄れていき。

意識も消え去る―――それが現実的な結末であろう。

―――しかしこの後の展開について。

土御門元春がもし詳細を知れば、
彼はこの佐天涙子という人物についての己の解釈が正しかったと確信したであろう。

確かに力は皆無に等しいも、やはり彼女は『舞台』の上の人物だった、と。

佐天の行動は、彼女にしか成せないことを成してしまう。
それも運命の女神からもたらされたような『受動的な恵み』なんかではない。

彼女自身の『行い』がここに帰結したのだ。


彼女とある少女との―――ごく短い期間ながらも、強くしっかりと紡がれた『絆』がここに。


佐天涙子はここで『再会』した。


目が眩んでしまったせいか、視界はいまだに真っ白に塗り潰されていたも、
すぐに回復した視覚以外の五感で佐天は―――



佐天「――――――――――――ル……シアちゃん?」



―――不意に彼女の存在を覚えた。
ふわりと彼女の香り、気配とでもいうか。

あの少女が目の前にいるような気がしたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:10:59.02 ID:/isA60jto<>
ルシアが生きていた―――来てくれた―――瞬間的に湧き立つ喜びを押え切れずに、
こんな状況であるにもかかわらず思わず手を伸ばす佐天。

まだ視覚は眩んだままで、雪と夜闇といったくらいしか判別できなかったも、
彼女はルシアの存在をはっきりとすぐ前に覚えていたのだ。

しかし。

伸ばした手が触れたものは、『熱』は篭っていたも―――『人の体』ではなく。

佐天「―――」


指から伝わってくるのは硬い硬い―――金属の触感。


ようやくベールが解け、元の状態に戻った視覚が捉えたのは、
銀色の刃に、柄と刃の腹が鮮やかな赤色の巨大な『剣』だった。

ちょうど一歩先の雪面に突き刺さり、
柱のように聳えているこの大剣は見覚えがあった。
忘れもしないデパートの件の時、あの奇妙な鏡の世界でシスターと己を守ったネロのものだ。

そうしたこの状況を見れば、この大剣が皆を『光』から守ったのは明白か。
だがこの時、彼女の思考はもうそこまでまわらかった。

大剣に手をあてがったまま、佐天涙子は呆然と立ち尽くした。


なんでこの剣から―――あの子の気配がするのか。
なんでこの剣に触れていると―――あの子に触れている感覚がするのか。


それが理解できなくて。
そして『なぜか』不意に―――『理解したくない』とも感じてしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:13:00.39 ID:/isA60jto<>
佐天「……あっ……」

不快に高鳴る鼓動。
『なぜか』胸も急激に締め付けられ、息苦しくなっていく。

自分でもわからないしわかりたくもない。
頭の中は真っ白だった。


初春「―――佐天さん!!」


硬直した意識に飛び込んできたのは、悲鳴にも近い親友の声。

初春が後ろから腰に抱きついてきて、
血相を変えて揺さぶり目一杯に締め付け引っ張っていた。
それ以上先に行かせないとでもするかのように。

エツァリ「……下がっ……て!」

そんな初春に次いで
ふらつきながらも立ち上がったエツァリによって肩を押され、
ついに佐天は後方に尻餅をついてしまった。

呆然と目を見開く佐天に、彼女を押し留めようとする初春、
その光景は少し前とは完全に真逆のものだったか。

固くまわされる初春の腕に抵抗を示すことも、起き上がろうともせず。
佐天涙子は背の初春に覆いかぶさるような姿勢で、
エツァリ越しにあの大剣をずっと見つめていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:15:28.05 ID:/isA60jto<>
数秒後か、そんな風に思考停止したまま目を見開いていると。

大剣の向こう側に、空からたんっと軽く降りてきた大きな後姿。
紺色のコートを纏った大柄な銀髪の青年の背が視界に飛び込んできた。

佐天「―――」

そのなびく銀髪の彼の姿に魅せられて、反射的にきゅっと収縮する心。
ただこの時、佐天はまたもう一つ別の感情も覚えた。

またもや―――ルシアの気配を。
大剣からのと同じく彼―――ネロ自身からも。


更に数秒後、ネロが背後の佐天達に横顔を向け。
大剣の柄を逆手で握りながらぶっきらぼうに呟いた。


ネロ「―――目を閉じてろ」


佐天「―――」

ここでついに佐天涙子は『それ』を目にした。
ネロの前髪端のひと房が―――燃えるような赤毛だったのを。

あんなに鮮やかで綺麗な色の髪は見間違えるわけが無かった。
あんな髪の持ち主はきっと、きっと世界に一人しかいない。


一人しかいないはず、それなのに―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:17:33.90 ID:/isA60jto<>
空や遠くの峰々を覆った輝きの奔流や、
エツァリとの壮絶な『光の激突』に比べれば、あっけない幕切れだった。

鎧を着込んだ『あれ』は、ネロの一振りによって首を飛ばされて。
頭なくした体が彼の前に吹っ飛び倒れ、雪に埋もれ沈んでいった。


名だたる天使、メタトロンの死の瞬間である。
ただこの相手が何者かなんて知る由が無い佐天涙子にとっては、
いや、もし知っていたとしても、この時は彼の死に意識が向くことはなかったであろう。


彼女の意識はずっと―――ネロに注がれていた。


彼は一度、舞う雪を掃うかのように大剣を振るうと、
脇の雪面に突き立てて、何事もなかったように振り向いて。

涼やかな面持ちのまま一度、皆を一通り一瞥して、立ち構えていたエツァリの肩をぽんと叩いた。
褐色の肌の少年はその一手で、
凍結が解けたかのように大きく安堵の息を吐いてはその場に屈んだ。

そしてネロは数歩進み、彼の横を通って。

佐天「…………」

何も言わずに彼女の前に屈んだ。
その佇まいは涼しげで、やけに落ち着いていて。
一方で冷たさは微塵も無く、むしろ包まれて暖かな感覚。


佐天「………………な、なんで……」


その温もりに引き出されるように、彼女の口からこぼれる言葉―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/16(木) 00:21:01.05 ID:/isA60jto<>
そこにはなぜルシアの気配が、という意味も篭められてはいたが、
もはやそれだけに留まってはいなかった。

今目にして感じている事、その何もかもが理解し難かった。
彼女自身でも、その問いの全ての意味は完全にわかっていなかったかもしれない。


だがここでネロによって示された『答え』―――それはそれは抽象的で、
答えと言うよりも「ただ仄めかしている」と表現できるものであったも―――によって。

彼女はここでようやく『理解』する。

ネロは何も言葉を発しなかった。
彼は目をやや細めてはほんの微かに笑みを浮べると、ゆっくりと右手を差し出して。

佐天の手を取った。


佐天「―――っ……」

静かに、優しく浸透してくる温もり。
不快に高鳴っていた鼓動もみるみる収まり、凍えきっていた体の芯も穏やかに柔らかになっていく。

そこで佐天ははっきりと確信する。
ルシアの気配を覚えたのは、決して勘違いではなかったのだと。
かの小さな女の子の身に、具体的に何が起こったのかは想像がつかなかったも。


その『意味』は理解した。


わかってしまうのだ。
理由はしっかりと言えなくとも、間違いないと断言できてしまうのだ。
この心が、魂がはっきりと告げてくるのである。

前髪の端が赤毛のネロ。
彼の手から伝わってくる温もりは、恋焦がれるひとのものであると同時に。


あの小さな友『本人』の温もりであるのだと。


そうしてネロの手に支えてもらいながら立ち上がり、
ある程度意識が確かに戻っていた初春に、今度は自分が手を差し伸べて立ち上がらせて。
エツァリに肩を貸し、異形の大きな狼の背に乗り。

後ろから腕をまわしてくる初春の暖かさで最後の緊張の欠片も溶けて、
ここでようやく彼女は『意味』を受け止めた。


空へと一気に跳躍した魔狼の背にて、佐天涙子は静かに涙した。


最期にもう一度、こうして救ってくれた―――あの無垢な友を想って。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/16(木) 00:21:43.79 ID:/isA60jto<> 今日はここまでです。
次は金曜か土曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/16(木) 00:24:07.02 ID:wq6fZotXo<> 乙です。そうか、ネロの髪が赤くなったのはそういう・・・くそう、そういうのいいなぁ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/16(木) 00:24:43.25 ID:1GC3QvXDO<> 寝る前に来てくださった!
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/16(木) 00:29:58.35 ID:Er8XbWeP0<> 切ないけど乙乙乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/16(木) 00:54:41.66 ID:gUUqGRHDO<> >>258
……?何故今更? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/16(木) 01:18:07.54 ID:uh8ItCspo<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2012/02/16(木) 02:06:02.34 ID:9qGGDiKDo<> ネロのコートは原作のとはちがうもんになったのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2012/02/16(木) 02:15:38.78 ID:cC0TTRcAO<> >>263
原作も紺色コートやん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2012/02/16(木) 12:39:50.89 ID:9qGGDiKDo<> >>264 あれ・・・なんか紺色と緋色を見間違えてた・・・・
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/16(木) 23:47:58.14 ID:0TtKRkUI0<> メタトロン
人で人を愛して人から天使になって人を守って守って守って幾年月
でも最後、万年単位での久しぶりの里帰りでその人間から向けられたのは
恐れ憤怒諦め絶望
かつて自らとその同胞が「人界の神に向けていたものと同種のもの」
どんな気持ちだったのか
全て飲み込んで分かった上で選択した行動だろうけど、涙が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/02/17(金) 02:22:34.75 ID:OKhGNsero<> 宇宙の意思が!
人類の無意識が!
週末を望んでいるのだ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/17(金) 03:27:36.95 ID:/nQ+q5Uoo<> メタトロン中毒さんは火星にでも行っててください <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:10:47.59 ID:xwBrSy4do<> ―――

『兄弟』達の戦いは終焉した。

メタトロンが『自ら』幕を引き、この戦い『意味』の全てを持ち去ったことにより、
彼を長としていた者達は刃を置きざるを得なかった。

結果的に示され確定した自らの選択と手段の過ちと、完全なる敗北。
そして何よりも『このネロがいる結果』は、自らが掲げていた理想に最も近きもの。


彼らにはもう、この戦いを継続する理由は微塵もなかった。


テメンニグルの塔、門前の広場にて。
学園都市側についた戦士達を前に、
この防衛線を突破しようとしていたカマエル、ラジエル、ザドキエル、ハニエルそしてサンダルフォン。

偉大なる五柱はそれぞれの武器を地に突き立てては手放して、
膝をつき厳かに頭を下げていた。
裁定を静かに待つ罪人のように。

その突然の行動に学園都市側の戦士達は一瞬、訝しげに警戒を強めたも、
風斬が数秒遅れで打ち止めからの事情を口にして、
天使達の意図を理解した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:12:30.59 ID:xwBrSy4do<>
キャーリサ『…………』

断罪を求める彼らにふさわしき答えは一体どのようなものか。

イフリート『……』

アグニ『ふむ』

まずこの大悪魔達は、悪魔の道理に従った判断を下した。

敗者の末路は滅ぶか力の糧となるかの二択のみ、
なんとも悪魔らしい『ぶれ』の無い考え方であろうか。

アグニは本体たる大剣を肩に載せ、イフリートは全身から熱を滾らせて、
両者は歩を進めて、当たり前のことのように悪魔流の『敗者の断罪』を行おうとした。

するとその時。


キャーリサ『―――待て』


獅子たる姫が口を開いた。
大悪魔達はこの戦いの主役が誰なのかを理解していたのだろう、
刃と拳を一旦退かせては彼女に場を譲った。

そんな二柱の間を、
負傷してる主を横から支えようとしていたシェリーの手を振り払いながら、
血と同じ色のマントを靡かせて抜けていくキャーリサ。

光り輝く抜き身のカーテナを手にし、向かうは―――サンダルフォンのもと。

彼女はかの天使の前に立つと、
あたかも斬首を宣告するかのように彼の肩に刃をのせて。


キャーリサ『面を上げろ―――「エリヤ」』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:16:03.45 ID:xwBrSy4do<>
その響きは、かつてこの天使が人間界の大地を踏みしめていた頃の名。
たった今このカーテナの『向こう』から伝えられてきたものだ。

キャーリサ『……』

この剣からは今、ここにいる天使達の事情の何もかも伝えられてきていた。
いかなる結論で父と兄弟と道を分かち、こうして戦う側を選んだのか。

どんな気持ちで人間達に刃を向けていたのか。
そして今、どんな気持ちで完全なる敗北を喫したのか。

兄弟を奪っていったネロや人間達を恨むことなんてもってのほか、
自らたちを憎むこともできず、称えることも貶すことも、
哀れむことも怒ることさえも叶わない、どうしようもなく『惨めな』敗残戦士たち―――


―――しかし。

実のところ、その辺りはキャーリサにとっては『どうでも良かった』。
むしろこのような『主』からの懇願とも受け取れる声には、その生温さに辟易してしまうくらいだ。


―――甘すぎる、優しすぎる、めでたすぎるとキャーリサは心の中で吐き捨てた。


そんな事だから、こうして一部の子達が袂を分かつことになってしまうのだ、と。

こんな甘ったるい考え方よりも、キャーリサはどちらかといえば
『敗者は死して勝者の糧となるのみ』という悪魔流の徹底された道理の方が好きだった。

だが気に入らないからといって、
このカーテナからの甘ったるい声を無下には出来ないものまた事実である。
現にこうして多大な力の支援を行ってくれているのだ。

ここで悪魔流なら『それとは別だ』と、
『行い』には等しき『代償』を求めるであろうが、
真っ当な人間ならば、たとえ同情はしなくともパトロンへの『礼』の気持ちはある程度はふまえるものだ。

そしてそのような心は人間が人間たる感情の一つ、
『慈悲』に繋がりゆくものである。

キャーリサ『…………』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:21:08.36 ID:xwBrSy4do<>
同情はもちろん許しも与えはしなかったが、
ここにキャーリサは慈悲を示した。

騎士の儀式のように、サンダルフォンの肩を軽くカーテナで叩き。
そして同じく反対側の肩も叩き―――与える。


キャーリサ『―――立て。「守護天使」よ』


もう一度、彼らが『人間のため』に戦える機会を。

カーテナは彼らに新たな魂の『絶対的な契り』を交わさせ、
分かれた家族をまた一つに戻し、ここに再び誓わせたのだ。


―――『人間の手』によって。


天界と人間界の関係はもはや保護でも管理でもない、対等な―――『友』となる証だ。


さすがはダンテを通して人間の考え方に触れていたせいか、
アグニとイフリートもこのキャーリサの判断を理解し納得した様子だった。

サンダルフォンの肩から剣を離してキャーリサが一歩下がると、
この天使は静かに立ち上がり、そこで初めてキャーリサに向かい合った。

キャーリサ『……』

身長は騎士団長と同じくらいだろうか、肉付きは彼よりもやや逞しい。
古代地中海的な、オリエントとギリシア、ローマ文化が混ざったかのような趣の装具類、
それらの隙間から覗くのは、健康的な血色の人とまったく同じ肌。

顔はフルフェイスの兜で覆われていたも、
その兜の眼孔からはのぞくのは―――ブラウンの瞳。

淡く天の光が衣となっていたも、間違いなく人間のものだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:23:38.53 ID:xwBrSy4do<>
キャーリサは、以前悪魔について学ぶ中で聞いた、
『物理領域に縛られているこの世界の生命とは違い、魔界では精神が外見を形作る』という事柄をふと思い出していた。
おぞましき意思を持つものは、目にするのも憚れるくらいに醜く、
武人たる高潔な意志をもつものは、相応の威厳に満ちた姿になると。

それを耳にした時、まず彼女の脳裏を過ぎったのはステイル=マグヌスだった。
悪魔化したあとも、肉体の形状は一切変わらぬステイル。

彼の姿を頭にして彼女は一つ、こう推論を置いた。
人の心を持ち続ける限り、悪魔となろうとも姿は『人間』のまま存続するのでは、と。

キャーリサ『…………』

そして今、彼女はその推論は天使にも適用されるのだと悟った。
確定的な証拠は無い、全て状況証拠であるのだが、
キャーリサには断言できる確信があった。

ステイルと同じく神裂火織も、光の翼やら何やらを出現させようが肉体は人間のまま。
そしてメタトロンとこのサンダルフォンもまた人間の肉体。

これは人間の心のままだからだ。
そしてその点が、彼らが父と道を違えた最大の原因だ。
メタトロンやサンダルフォンも、己と『同じ』なのだ、とキャーリサは確信した。

このカーテナの向こうから覚えた父の『甘さ』に、自身と同じように完全に同調できなかったのだ、と。
そこで彼らは父に従わずに、自ら行動に打って出たのだと。

結果的には、彼ら兄弟の選択は『誤り』と決定付けられたものの、
硬直した状況を変える意志、彼らの人間たる心の力は猛烈なものだったに間違いない。
兄弟達の一部がこうして彼らに賛同し、
壮絶な覚悟で付き従ってきたのもそれがあったからこそだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:25:56.47 ID:xwBrSy4do<>
ここで皮肉なものだ、と。

キャーリサはサンダルフォンの瞳を見つめながら思った。

魔界天界そして人間界を交えたこの戦争、
想像を絶する規模・想像が届かぬ未知なる争乱ではあるが、
実際蓋を開けてみればなんてことはない。

『人間同士の戦い』という、きわめて慣れた要素も色濃くあるではないか、と。

アリウス、学園都市、清教、正教、
メタトロンとサンダルフォン、そして―――ネロ。


ここまでのほとんどの戦いの根底には、『人間』同士の意志の激突があったのだ。


キャーリサ『……』

―――と。
こうして皮肉を覚えたものの、キャーリサは特に笑いはせず、
この解釈を誰かに示そうとも思わなかった。

きっと全て終ったあとにでも、土御門やステイルあたりがしっかりここに気付いて皮肉に笑い、
神裂辺りが報告書という名の分厚い戦記、それも恐らく三分の一が彼女の的確な注釈という、
自身よりもはるかに正確に解釈したものを書き留めるであろうから。


キャーリサは少し冷ややかに目を細め、小さくサンダルフォンに向けて頷いた。

彼がそれに同じように頷き返すと、背後の四柱も立ち上がり、
それぞれが武器を再び手にしていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:29:13.72 ID:xwBrSy4do<>
一つの戦いは終わりをみたも、以前世界を跨ぐ大戦は激しく蠢いていた。

キャーリサと天使達がそうして刃並べるにいたるまでにも、
続々とこの界域に侵入してくる悪魔達。

学園都市側についた天使と悪魔と人間達が、
そこで握手し意を確認する暇なんてものは無かった。


キャーリサ『それでどーする?―――「大将」』

すばやく天の五柱を一瞥したのち、キャーリサは肩にカーテナを乗せ、
背後の風斬に声を飛ばした。

すると、虚数学区から引きつづきこの場の指揮と責任を担う人界の天使―――風斬は、
その大人しげな顔を引き締めこう告げた。

風斬『滝壺さんの守護を最優先とし、悪魔の掃討に専念します』

イフリート『うむ。それがよい。これは十強のkdajuskhyyaの軍勢だ』

そこに賛同の声を添えるイフリート。


イフリート『お前達が「ベルゼブブ」という名で呼んでいる存在だ。じきに配下の猛将どもが現れるはずだろう』


彼はノイズの部分を言いなおすと上を見上げ、
割れ落ちた天蓋向こうの蠢く空を示した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:30:38.67 ID:xwBrSy4do<>
キャーリサ『……』

悪魔ベルゼブブ。

一般的に人間が知っているこの悪魔についての記述のうち、
魔界に君臨する圧倒的な王者であるという部分については正しいようだ。

イフリート『覇王がスパーダに敗れた直後、早々に「魔皇」と名乗り自らこそ統一玉座に相応しいと宣言した王だ』

かの存在を語る炎の魔人の声には、
緊張した滾りと鋭い警戒の色が滲み上がっており。
アグニの方は同じ空気を全身から放ちながら、まるで彫像のように押し黙っていた。

このような神たる『つわもの』達にまで、その体に力みを覚えさせるほどの力。
恐らく本物のベルゼブブを知っているのであろう、
五柱の天使たちにも同じような緊張の様子が見て取れた。

それ対し、風斬は特に調子も変えずにこう返した。


風斬『―――ネロさんがここに来ます』


その短い声で、この場の空気に一矢が叩き込まれた。
スパーダの孫である名が、
この場の絶望的な緊張を希望と勝利の確信へ一気に変えて行く。

風斬は同じく淡々とした声色で「それと」と続け。


風斬『「上」のアクセラレータさんの支援に向かいます。私と、天使の皆さんの中から案内役をもう一人―――』


するとその彼女の言葉が終りきらぬうちに赤き天使―――カマエルが一歩、前に進み出た。
その長方形の大盾で床を打ち鳴らし、大剣を堂々と肩に叩き乗せて。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:33:01.90 ID:xwBrSy4do<> ―――

一方『……』

打ち止めの危機とその回避。
突然始まり一気に終結した一連の戦いに、
彼は目まぐるしく気を巡らし、最終的には一先ずの安堵に落ち着いていた。

この戦争はやはり一人で戦えるものではない、と改めて実感し。
仲間達の奮闘とネロの到来に一縷の歓喜を抱きつつ、
彼は横―――安堵と悲嘆を入り混じらせた表情の天使を見やった。

ラファエル、その彫像のような肌から滲ませるのは物憂げな空気。
奥のもう一つの木の方に座っていた二柱も同じ色を醸していた。

一方『……』

一方通行にとってはもはや、
わざわざそんな彼らの心境を聞く必要も無かった。

救われた大勢の人間の命、ネロがその刃をもって明確に宣戦布告したことによる、
決定的となった人類側の優勢。
ラファエル達の安堵は間違いなくそれによるものだ。

そして悲嘆の方は―――失われた『兄弟達』へのものであろう。

一方『……』

かける言葉は一つも無かった。
つい今に事情を知ったばかりの己の言葉なんか、いかなる重みも持ちやしない。

一方通行はただじっと黙した。
彼らの静かな弔いを邪魔しないように。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:33:49.86 ID:xwBrSy4do<>
とその時だった。
そうして喪に服していた三天使の様子が突然変わった。

ラファエルは目を大きく開いて硬直し、
瞑想のように佇んでいたガブリエルとウリエルも、
何かに気付いたかのように顔をあげて互いに見合わせている。

一方『……』

天使達のその様子からは、良きか悪いかは判別紙がたいが、
予期していなかった何かが起きたのは明白か。

今度は、一方通行は迷わず口を開いた。

一方『何があった?』

ラファエルはすぐには答えなかった。
まずガブリエルに頷いて合図、次の瞬間、
彼女が光の魔方陣の中に姿を消してからやっと一方通行へ向き、こう問い返した。


ラファエル『インデックス、と呼ばれている少女はご存知ですね?』


一方『……あィつがどォした?』

その名に一方通行は訝しげに目を細め、
押し殺しながらも鋭い声色で問いに重ねた。
すると深緑の天使は少し思案気に一拍置いて。


ラファエル『……彼女がプルガトリオの、天界の近層に入り込んできました。「出陣の野」という階層です』

なぜ、とは一方通行は聞かなかった。
ラファエルの顔にもはっきりと、同じく「なぜ」といった表情が浮かんでいたのだから。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:35:33.23 ID:xwBrSy4do<> ―――


『彼』はここからやって来たのだ。


小さな魔女は、かの想い人の運命が始まった地を踏みしめていた。

禁書「……」

大気は柔らかい光に満ち溢れて空は澄み渡り、
豊かな草木と花に覆われた原―――『出陣の野』。
彼女は目一杯、小さな胸を芳しい大気に満たして、この牧歌的な情景を瞳に注いだ。


強き絆、あらゆる記憶、そして運命の始点たる場所。
ここに、完璧な上条当麻を引き出すために必要な全ての要素が揃った。

彼女は白虎―――スフィンクスの背から飛び降りると野に屈み、
早速召喚のための準備を行い始めた。


地に左手を当てて、頭の中で専用のアンブラの術式を一気に組み上げていき、
それらは金と銀が入り混じる光の紋様となって周囲空間に構築されていく。

そして彼女の真正面、少し離れた場所にベオウルフはどかりと腰を落ち着けた。
同じく神々しくも、この世界のものとは対照的に硬質で強烈な魔の光が、
周囲の草花を乱暴にかき乱していった。

そんな自らによる『環境破壊』には目もくれず、
白銀の魔獣はインデックスに声を向けた。

ベオウルフ『ここは天の領であろう?すぐにその手の者共が現れるのではないか?』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:39:32.57 ID:xwBrSy4do<>
禁書「うん。でもあなたが守ってくれる」

するとさも当然といった調子による即答。
頭を下げて頼むのでも顎を向けて命令でもない、単なる『事実』といった具合に述べるインデックス。

そう、これは聞くまでもない事であったろう。
証拠に魔獣は、この不敬に不機嫌になるどころか、
かっと短く、愉快気な笑いを漏らした。


―――とその時、突然―――ベオウルフの表情が豹変した。

白銀の魔獣は、敏感にこの階層への侵入者を検知したのだ。
だが彼が立ち上がりその牙を露にする前に。

禁書「大丈夫!」

インデックスがそう声で押し留めた。


そしてその直後―――天使が一人、インデックスの斜め前方5mほどのところに現れた。


ゆったりとした衣を纏った、女性型の天使だった。

『彼女』は二度、白銀の魔獣と小さな魔女を交互に見やっては、
驚きと困惑に満ちた表情を浮べたも、そこに敵意は欠片も無かった。

対面したのは始めてであるも、彼女はインデックスの身元を知っているのだ。
一方でインデックスの側は、彼女を昔からの馴染みのようにもっと良く知っていた。
なにせ上条当麻が良く知っているのだから。

小さな魔女は一旦作業を中断しては、その左手を天使に差し出して。
柔らかく微笑んで口を開いた。


禁書「あなたからすれば、私は初めまして、かな―――ガブリエル」


そうしてここでインデックスの口から語られる、この魔女の目的。

それを耳にしたガブリエルの顔は驚愕の次に―――希望に彩られ、
その情報はラファエルをはじめとして家族兄弟の間に一気に伝達していった。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:43:13.57 ID:xwBrSy4do<> ―――

一方『―――おィ、なンだってンだ?』

みるみる明るい表情に変わっていったラファエルを見、
一方通行は目を細めながら問うた。

すると天使は今にも弾けんばかりという勢いで。

                     ミ カ エ ル
ラファエル『彼を―――上条当麻を竜から引き出すのだと!』


一方『―――っ……本当か?確かにやれるのか?』

耳を疑う返答だった。
一瞬、その言葉の理解と確認に時間を要してしまうほどだ。
だがその程度の頭脳労働など、この喜ばしい意味の前には屁でもない。

ラファエル『少なくとも彼女は自信に満ちています!私は信じますよ!』

確かな証拠も根拠も無いも、
これには一方通行も賛同したくなってしまった。

これぞまさしく『希望』と言えるものだ。

上条当麻が帰ってくる―――その響きだけで、
一方通行は心が勇み漲って来るのを感じた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:45:22.85 ID:xwBrSy4do<>
と、そうしていたところ。

はちきれんばかりに歓喜の色に染まっているラファエルとウリエルが、
更に大きく翼を羽ばたかせ、文字通り飛びあがるようにして立ち上がった。

一方『―――?』

嬉しさの余り本当に跳ねてしまったのか、
天使と言うものは案外俗っぽくて子供っぽいのかもしれない、
そんな風に考えてしまうところであったが、どうやらそういうわけでは無かったらしい。

別の事情があったのだ。

瞬間、3m程離れたところに出現した光の魔方陣。


赤く、悪魔的な輝きを発しているも―――ふと一方通行は気付いた。
その紋様・文字が、これまで見てきた天使の頭上にあった光輪と同じ系統のものだということに。

ラファエル達の様子を見る限り、襲撃者ではないようだった。
驚きと緊張に満ち溢れながらも、そこに警戒の色は欠片もなかったからだ。


そうして皆の視線が注がれてる中、魔方陣から姿を現したのは。


鰐皮のコートに、サングラスにスキンヘッドという、
どこからどう見ても天使とは思えない―――大柄な黒人男だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/19(日) 02:48:18.94 ID:xwBrSy4do<>
一方『……』

その余りにも場違いな風貌に、
一方通行は無意識のうちに思いっきり眉を顰めてしまった。

湿った夜の路地が似合う、ハードボイルド映画にでも出てきそうな男が、
この牧歌的な世界に立っている光景といったら全くとんでもない。

そんな風に唖然としている彼とは対照的に、二人の天使は男の姿を一目見た瞬間。
今度は素早く片膝をつき―――頭を下げて。


ラファエル『お久しぶりでございます―――「閣下」』


そんな厳かかつ敬意に満ちた声を発した。

一方『(……閣下ァ?)』

姿勢も喋りも明らかに目上に対しての―――それも最高級の態度。
それも上辺だけじゃない、心の底からの敬意に満ちているものだ。

その一方、彼はこの頃にはもう、
天使達の態度とは対照的な、男の異様な雰囲気を敏感に嗅ぎ取っていた。

容姿に起因するものとはまた別のこの異質な威圧感、
この系統のオーラは以前から良く知っている。

間違えるわけが無い。


――――――『ダンテ』と同種のものだ。


「―――おう坊主共、元気だったか?」


男は大またでこちらに向かってくると、天使たちにそう言葉を返した。
そのいかにもな姿に相応しく、荒っぽくて低い声だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/19(日) 02:49:16.77 ID:xwBrSy4do<> ぶつぎりですが今日はここまでです。
次は火曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 02:58:34.99 ID:YBpgMILDO<> ここで終わるとか生殺しにも程があるぜ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/19(日) 07:34:34.75 ID:zyDRYqGB0<> 乙乙乙

閣下と呼ばれるほどなのか…
ただのコスプレ屋さんじゃなかったんだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/19(日) 08:16:31.40 ID:LzZH/MXfo<> お疲れ様です。ゲイツオブヘルヘブン支店でマスターに酔い潰される四大天使−1・・・か。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/19(日) 08:51:24.32 ID:iEzBFHNco<> ん……閣下、……え、閣下? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/02/19(日) 11:25:34.35 ID:jYs7hbnG0<> 閣下って10万50歳くらいのあの閣下か… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/19(日) 11:52:24.92 ID:6EI96lFAO<> >>289
あの人なら魔界の10柱に入ってそうだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/19(日) 12:30:52.13 ID:LzZH/MXfo<> 創造主の力の欠片、「聖飢魔II」か。いまいち語呂が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 14:05:43.94 ID:sKtZzNQ90<> 相手を蝋人形にするんですねわかります <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 15:24:34.49 ID:qB8bhFgAo<> 魔界の勢力争いよりも角界の賜杯争いほうに関心がありそうなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/19(日) 16:24:27.78 ID:mWAfKgBDO<> ロダン唖呆みたいに強いからなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/02/19(日) 21:22:10.85 ID:h4hFMF+Ko<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/21(火) 13:07:11.01 ID:/TL8tZ8a0<> そういえばルカ出てきたっけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/21(火) 13:32:54.91 ID:AF01DggDO<> 出てない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 01:43:00.17 ID:2uaprI4Lo<>
最上級の敬意を全身で示す二柱。
そんな彼らとは対照的な態度で、分厚いコートを靡かせて来る大男。


ラファエル『―――閣下もお変わりなく、お元気なご様子で何よりです』


「やめてくれ。そいつは皮肉か?今の俺は『残りカス』でしかねえぞ」

ラファエル『滅相もない!決してそのような……!』

「冗談だ。だが頭を下げるのはやめてくれ」

男は軽く笑い飛ばしながら天使達の面を上げさせると、
一方通行へと目を向けて「ほう」と一声漏らし。

「坊主、お前さんが新しい人間界の王か」

一方『……そォらしィな』

ロダン「俺はロダンだ」

そう名乗った。
名乗られたからには名乗りかえすのが最低限の礼儀か、
様々な疑問が脳裏を渦巻いていたも、一方通行もひとまず名を口にしようとしたが。

ロダン「―――おっと細かい話は後にしてくれ」

その名乗りのあとに数多の『問い』が控えているのを悟ったのだろう。
ロダンは状況はわかっているだろ、と身振りで示すと、
再び天使たちの方へと向き単調直入に告げた。

             VI ZILODARP
ロダン「―――『第二天征門』はスサノオの軍がひとまず押えたぜ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 01:46:20.17 ID:2uaprI4Lo<>
ラファエル『―――なんと!』

一方『……そィつは例の二つ目か?』

天の言葉のその響きによると、
恐らくこれから塞ぎに行こうとしていた第二の門の正式名称であろうか。


ロダン「ああ。お前さんに塞いでもらう必要はねえ。今は復旧作業中だ」

そうした一方通行の確認の声に対して、
ロダンは平然とした口調で数手先の答えを返してきた。

一方『…………』

塞ぐつもりだったんだろと聞きもしない、明らかにこちらの行動を把握している言葉。
ダンテと同種の雰囲気を有するこの男は一体何者なのか、
そしてどこまで、またどうやってこちらの事情を知っているのか。

ここでまた様々な疑念が湧きあがるも、
一方通行はとりあえず意識の向かう先を、直面する問題に関する線に絞った。

一方『復旧作業ォ?直してどォすンだよ』

ロダン「―――お前さんも見ただろう?フォルティトゥードの野郎を。テンパランチアもじきにああなるぞ」

再びいくつか会話の段階を飛ばして答えるロダン。
間の何文も省略されているも、一方通行はその彼の言わんとしている事を的確に理解した。

つまりこういうことだ。

限界まで強化した四元徳が二柱、
それらに対するほどの戦力は、今の天界の中には無いのだと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 01:54:04.62 ID:2uaprI4Lo<>
確かに一方通行は、最終的にはあのフォルティトゥードと勝負に出るつもりだった。
だがそれも、例え全快で挑んだとしてもきわめて厳しい戦いであるのは確実。
しかもそこをなんとか勝利しても戦いは終るわけじゃない。

ようやく折り返し地点であり、次には同じく強化したテンパランチアが控えているのだ。

戦いというものは最終的に、どんな苦境だろうと決して諦めない精神力がものがいうのを一方通行は知っている。
あの上条当麻から教えてもらったことだ。
だが同時に『それだけ』では勝てないということも彼の姿に見た。

精神力が重要になってくるのはあくまで『最後の粘り』の時であって、
力が足りなければそもそもそこまで達し得ないのである。


四元徳は二人いる、一方通行は少し前からここを懸念していた。

四元徳との連戦はまず無理である。
そもそも一体ずつ順番に戦ってくれるとも限らないし、
二体同時に相手にしてしまえば、こちらは嬲り殺しとなるであろう、と。


―――そこでこのロダンの話である。

どうやって一対一に持ちこみ、そして連戦にならないように間を開けられるか、
一方通行はこのための具体的な案を必要としていたのが、
この大男が示した内容は、その諸問題をそっくり丸ごと解決しようというものだったのだ。

一方通行は少し思案の間をおいて、この大男に問い返した。


一方『―――そォか、ネロを呼ぶのか?』


そう、四元徳に確実に勝てる者をこちらに連れてくるのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 01:57:28.45 ID:2uaprI4Lo<>
ロダンがニヤリと笑いながら頷き、一方通行の解釈が正しいことを示した。


四元徳に勝てる存在、一方通行が思い浮かぶかぎりならばネロが一番近いか、
修復した第二の門を通過させて、かの最強の一人を天界に呼んで四元徳を倒してもらう。

内容自体は申し分ない。
となれば次に重要になるのは成功率・確実性である。

一方『それでいつ通れるよォになるンだ?』

ロダン「メタトロンの強行突破でひどく損傷しちまってな。ネロあたりが通るにはまた時間がかかる
     確実にとは言えねえが、まあ5分以内には大丈夫だろう」

一方『……』

五分、一般的にはごく短い時間ながらも、
今のこの状況下では何もかもが覆るに充分な間―――『長い』。

一方『メタトロンみたく強行突破はできねェのか?』

ロダン「無理だ。カマエルと人工天使のお嬢ちゃんならなんとか通れるが、
     ネロほどに力がデカイ奴だと、今通れば門が完全にぶっ壊れちまう」

こちらの新行動すら抑えている口調だったが、そこはもうあまり気にならなかった。
一方通行の頭の中を占めていたのは、もっぱらこの門の問題である。

今はネロを連れてくることが出来ない。
これは現状に置いてきわめてマイナスな要素だ。

状況は常に変化しているためこちらがネロを呼ぼうとした時に、
彼の側ではちょうど手が離せなくなってしまっている可能性だってある。

むしろ風斬・打ち止めを介して聞くところによると、
『多くの大悪魔を引き連れた王者たる大悪魔』という耳にするだけで辟易してしまうような一団が迫っているらしいのだから、
いずれそうなると考えるべきか。

このような事情により、ネロに四元徳の最終的な対応を託すというのも、
これまた不安が残る確実性に乏しいものに思えてしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:00:54.85 ID:2uaprI4Lo<>
そんな一方通行の懸念をまたもや見事に読み取り、
ロダンはあたかも忘れていたかのように付け加えた。

ロダン「おっと心配するな。『アテ』はネロ以外にもいくつかある」

「俺は顔が広いんでな」、とわざとらしく微笑む大男。
あえて相手の不安を煽って反応を楽しむような、その軽い意地の悪さもダンテに似ているか。

一方『……チッ。そのアテとやらは誰だ?ダンテか?それともまさかバージルって言ゥンじゃねェだろォな?』

ロダン「いいや、今やっこさん達は手が離せねえだろう」

一方『だったら他にいるのか?』

苛立ち混じりの息を吐きながら、一方通行が投槍に問い返した。
するとロダンはするりと答えた。


ロダン「いるぜ」


ふん、と愉快気に鼻を鳴らして。


ロダン「スパーダ一族にも負けねえくれえ、とびっきりぶっ飛んでるアホウがな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:03:45.25 ID:2uaprI4Lo<>
一方通行には、スパーダの一族の三人以外にそんなレベルの味方は心当たりが無かった。
そもそも敵か味方か以前に、
魔帝を含めた彼ら四人の他にもその域の存在がいること自体がある種の驚きだった。

だが横の天使たち―――ラファエルとウリエルは、
ロダンがアテにしている人物のことを知っている様子だった。
かつその存在は、彼らにとってはきわめて不穏な印象を与えるらしかった。

一方『……』

彼らの気配の変化にふと気付きそちらを見やると。

ラファエルとウリエルがひゅっと佇まいを萎縮させていた。
白亜の彫像のごとき顔が、真っ青に思えてしまうほど。

圧倒的な四元徳に向ける畏怖畏敬といったものではなく、純真無垢な幼子が怪談話に身を竦めているような印象だ。
あまりの急激な戦慄っぷりに、一方通行はあえて聞こうとも思えなかった。


ロダン「大丈夫だ。相手が天使だろうと、敵と味方を区別するアタマはある。天界まるごと滅ぼすような真似はしねえさ」

すっかり縮こまってしまった二柱に向け、ロダンは軽く笑い飛ばしたも、
その最後にふっと笑みを潜めて真顔でこう呟いた。


ロダン「多分な」


それを耳にした天使達の顔は、哀れなくらいに引きつっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:06:08.18 ID:2uaprI4Lo<>
そのあと一方通行は、
居心地の悪い話や空気を切り返る際、そのきっかけに天使も咳払いを使うことを知った。

彼らの口ぶりからしてもずっと大昔から人類と密接に関わってきていたらしいのだから、
類似点が多いのも頷けるか。

言葉は通じるのに完全な意思疎通ができない、
感情と呼べるものはあるがその根底が全く別物、といった不気味な齟齬を覚える悪魔達とは違い、
天使達は物事の考え方・価値観も非常に近く感じる。

特にこのラファエル・ウリエルは、
肌色の体を手に入れれば難なく人間の中に混じりこめそうな印象だ。

もっともあまりに純真無垢すぎて、人間社会では少し浮いてしまうであろうが。


ラファエルが咳払いをして場の不安を振り払うと、
横のウリエルが口を開いた。

ウリエル『ところでスサノオ様が動かれたということは……』

その面長の姿に合った、ラファエルより少し細くて高い声か。
ロダンは「おう」と一声漏らしては顎をさすりながら彼に答えた。

ロダン「ちょうどついさっきな、天津族とアース神族が中心となって反乱を起こした。お前さん達も加わるか?」

ウリエル『おお!喜んで!』

ラファエル『もちろんですとも!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:10:17.27 ID:2uaprI4Lo<>
上条の話で歓喜したと思ったら『ロダンのアテ』の話で縮こまり、そして今また歓喜する。
ぽんぽん切り替わっていく天使達を見て、一方通行はこう思った。

小さな子供みたいな―――それこそ打ち止めみたいな連中だな、と。
さっきの萎縮した時も思ったが、今ますますこの印象が強くなっていく。


そして比較となって脳裏に浮かぶのは、『狩人』の『人間の天使』―――メタトロンの瞳。

長きの年月経過が色濃い、苦闘苦難を携えた憂いの色。
良くも悪くも成熟しきり、現実を粛々と受け止めてきたあの『大人の目』である。


ウリエル『私は至急みなを集め体勢を整えてきましょう!』

ウリエルが立ち上がり、一先ず本拠へと戻ろうと魔方陣を出現させた。
その今にも姿を消す瞬間の彼に向けて、ロダンが早口でこう添えた。

ロダン「お前さんとこの『おやっさん』にとりあえず『アマノイワト』に来いと伝えてくれ。あそこが本陣だ」

ウリエル『わかりました!』

一方『……』

アマノイワト、その響きで真っ先に思い出すのは『天岩戸』だ。
日本神話に登場する、天照が引きこもったとされる『洞窟』の名である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:15:48.25 ID:2uaprI4Lo<>
悪魔・魔界といったものが現実に存在すると知って以降、
世界各地の有名どころの神話から三流のオカルト書物まで、
そういったものを読み漁り丸暗記してきたが、まさか当時はこんな形で役立つとは思いもしていなかった。


ラファエル『アマノイワトですか―――?』

そうした一方通行の心の中の言葉を反芻するように問い返すラファエル。
またもや一転、今度は不安気に陰りをのぞかせて。

ロダン「ああ」

ラファエル『……あそこを今から使っているということは……』

ロダン「そうだ。『粛清』が始まった」

ロダンは「悪い話だ」と告げるように喉を低く鳴らして続けた。

ロダン「俺達が蜂起したすぐ後に、まずヴァナヘイムがテンパランチアの軍に攻め込まれて陥落した」

ラファエル『……ということはヴァン神族の皆さんも反乱に加わったので?』

ロダン「いや、連中は一切関与してなかったんだが、テンパランチアの野郎、連中には一切事前通告せずに乗り込みやがった」

ラファエル『前線拠点の確保、のためですね……』

ロダン「そうだ。あそこは大半の民もろとも『更地』にされたぜ。フレイアがなんとか生存者を纏めてアースガルズに退避した」

ラファエル『フレイ殿は?』

ロダン「フォルティトゥードに一騎打ちを仕掛けに行ったとさ。ブチギレちまってて誰も止められなかったらしい」

ロダンはそこで「奴はそれっきりだ」、と肩を竦めた。

ロダン「そのアースガルズも時間の問題でな、トールもアース神族本陣をアマノイワトに移した」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:17:44.55 ID:2uaprI4Lo<>
ラファエル『…………やはり今のフォルティトゥード公閣下は、閣下でも止められないのですか?』

ロダン「今の俺じゃ無理だ」

一方『……』

まるで『今の俺』じゃなければ倒せたかのような口ぶり。
そのロダンの言葉によって、一方通行の中で脇に寄せていた疑問が、
湧いた関心と共に戻ってきた。

一方『おィ、聞いていいか?オマエは何者なンだ?』

この一瞬の会話の間を逃すまいと、すかさず一方通行は問うた。
するとはっと気付いたようにラファエルが礼儀正しく手で指し示して、
ロダンの身元を紹介しようとした。


ラファエル『申し訳ございません。まず私がご紹介すべきでした。この御方は、主神ジュベレウス様の―――」


だがその声は途上で遮られてしまう。
素早くロダンが手で制し、強引に言葉を重ねたのだ。


ロダン「―――バーのマスターだ」


一方『………………マスター……?」

ロダン「そう、バーのマスター。それだけだ」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:19:52.37 ID:2uaprI4Lo<>
その返答は、明らかに何かの事実を包み隠したものだった。
そしてその事実を平和的に知ることも無理だった。

こうした形の答えを返されたということは、
その事実を知るには相手の意に反して問いただすしかないのだ。

一方『……そォか』

一方通行はここで波風を立てるつもりは無かった。
それにこの男がここで隠すということは、
現状において特に知る必要の無い事柄であるのだろう。

重要なことならしっかり教えてくれているはずだ。
知り合ってまだ一瞬であるが、それでもこの男の芯を感じることが出来たし、
ラファエルの姿勢からも、彼が信頼にたる人物であると伺えた。

だが。

まるでそうした一方通行の分析にも突きつけるかのように、
ロダンはラファエルに向き合って。

ロダン「おい、忘れるんじゃねえぞ」

天使の胸を刺すように指さし、
厳しく威圧的な態度でこう戒めた。


ロダン「―――俺は裏切り者のクズだからな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:22:15.25 ID:2uaprI4Lo<>
その鋭い言葉にラファエルは顔を引き締め、
しかられた子供の様にじっと身を強張らせた。

対照的にロダンは「ということでな」とまたころりと軽めの調子に戻ると、
会話の流れも状況説明へと引き戻し。

ロダン「テンパランチアはアースガルズへの侵攻準備中、フォルティトゥードは一つ目の門の蓋を割ろうと躍起になってる」

一方『二つ目の門が直るまでもちそォか?』

ロダン「さあな。そいつはなんとも言えねえ。だがもし間に合いそうも無かったら―――その時は今ある手勢で勝負をかけるしかねえな」

一方『もちろン俺も含めてだな』

ロダンは声にせずに小さく頷いた。
今交わされたのは最悪の事態についてなのに、やはり妙にどこか楽しげな表情だ。
彼はそんな様子で、ここで話の区切りがついたと思ったのかパッと手を上げて。

ロダン「さて、俺は行かせてもらうぜ。シヴァやオメテオトルあたりとも話をつけてえからな」

だがその言葉とは対照的に、
一方通行はもう少し彼をここに留めようと意味ありげに沈黙した。

一つ気になったことがあったのだ。
今の状況説明の中である事柄が、一切話題にならなかった。
状況的に知っていたら触れないわけがない、きわめて重要なものが。


―――上条当麻についてである。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:26:35.13 ID:2uaprI4Lo<>
ラファエルも同じく気になったのだろう、
深緑の天使もふと怪訝な面持ちで一方通行へと見合わせた。

ロダン「おう、なにかあるのか?」

下の動向詳細のみならず風斬の正体までカバーしていても、
やはりインデックスの行動については彼は把握していなかったようだった。

ラファエルが簡潔に素早く事情を説明すると、ロダンの顔色がみるみる変わっていったのだ。


純粋な驚きに加え―――不穏な陰を滲ませて。


その陰りは、ラファエルの説明の途中で急に割り込んできていた。
恐らくこの最中に意識へ通信か何かが入ったのだろう。
深緑の天使が一通り声を終えると、ロダンはすかさずそのリアルタイムの新事実を口にした。


ロダン「―――たった今、テンパランチアがヴァナヘイムから姿を消したとよ」


説明の直後にこのような情報を告げる、その意味は一つしかない。
一方通行もラファエルもその意図を明確に悟り、そして表情を引きつらせた。


インデックスが出陣の野に侵入したことが四元徳に知られたのだ。


そしてそれを知った上でかの存在達がどのような対応をするかは、
笑みが消えたロダンの顔が明らかに示していた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:28:20.14 ID:2uaprI4Lo<>
ロダン「―――テンパランチアは俺が何とかする」

ラファエルが心配そうな表情を浮べたが、ロダンはこう続けた。

ロダン「奴はまだ強化前だ。俺でも充分だ。だがフォルティトゥードはな」


一方『―――俺が行く』


一方通行は即答した。
今更言葉に出すまでも無い、ここにいる三者が理解していた当たり前の答えだった。
確かにまだに全快はしていなかったものの、このロダンの出現と第二の門へ向かう手間が省けたことで、
いまや9割方は回復しており充分に戦える水準だ。

最高とは言えぬも、好ましいコンディションであるのは間違いなかった。
目まぐるしく状況が変わっていく中で、これ以上の勝算がある瞬間はもう訪れないかもしれないのだ。


ロダン「フォルティトゥードはまだ一つ目の門にいる。そこから逃がすな」

倒さなくとも釘付けにし時間を稼いでくれれば充分、という言葉だ。
一方通行もその意味をしっかり受け取り、意識の奥に刻んだ。

手を抜くつもりは無いも、己が命を落とすこともとにかく避けなければならない。
己が死ねば虚数学区は消えてしまうし、それ以前に―――これは『生きるため』の戦いなのだ。


打ち止めのもとへ帰らなければならない。


敗北が許されないのと同じく、決して死んでもならない。
生き残ることが最優先、そこを押えて初めて『勝った』と言えるのだ。

ロダン「無理はするなよ坊主。冷静にな」

一方『わかってる』


だが。

そのような『落ち着いた覚悟』が続いたのもほんの僅かな間だけだった。
すぐさまラファエルの導きで、再びあの第一の門の階層へと戻った瞬間。

彼の内は、灼熱の激情で埋め尽くされることとなる。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:29:36.05 ID:2uaprI4Lo<> ―――

神儀の間。

ここで人間界の未来を紡ぐ大いなる作業していた二人は、とある問題に直面していた。

天界に依存しない完全なる人間界の力場の再起動、
その下準備はすでに完了し、あとは『点火の火種』を灯すだけ。

だがもう一方の作業、魔界の大門の再封印については思うように進んでいなかった。

ベヨネッタ『―――……やっぱり妨害されてるわね。ここからじゃ無理』

バージル『……』

七天七刀の柄頭に手を添えるベヨネッタが、その柄を握る向かいのバージルに告げた。

問題の内容はいたってシンプルだった。
魔界の大門の封印作業を横から邪魔している者がいるのだ。
その『愚かな者』の身元も居場所も判明している。

二人は無言のまま視線を重ねて、互いの意図が同じであることを確認した。
内容がシンプルなのと同じく、それへの対応もまたシンプルだ。


簡単なこと、その『愚か者』を排除すればいいのである。


ベヨネッタ『……』

だが今のベヨネッタには、
この常道である手に出るのにいささかの躊躇があった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:32:58.77 ID:2uaprI4Lo<>
先ほどから覚えている、時間が経つほど強くなってくるこの違和感。
それは今やこの『死人』の排除という仕事にまで不気味な息を吹きかけていた。

果たしてここで己が出るのが正しいのか、何が正しいのか、何もかもが曖昧。

バージル『さっさと行け』

ベヨネッタ『……』

しかしただ一つ。
このバージルを『死人』の排除に行かせてはならない、という点だけはなぜか『確信』できた。

人間界基盤の時間軸を押さえ込む―――魔界の侵食を抑えるためにはここにバージルがいなければならないが、
5分程度ならばなんとかベヨネッタが代わりを努められるため、彼でも席を外すことが可能だ。

つまりここであの『死人』の排除を断れば、バージルが「ならば俺が行く」と言い出すわけである。

そしてそれは避けなければならないと確信する以上、
やはり己が行かなければならないのだ、とベヨネッタは認めざるを得ないか。

ただこの時。
そのような不納得を飲み込むのは、『幸運』なことに少しの間先送りになった。

いや―――これは『不運』と言うべきだったのかもしれないが。


この神儀の間には、バージルの了解なくして何人も侵入することができない。
そのはずだったのだが瞬間、そんな存在しないはずの『侵入者』がここに立っていたのだ。

その『侵入者』によって聖域の空気が豹変する。
アイゼンとローラ、戻ってきていたジャンヌも身を硬直させ、ベヨネッタもその瞳を鋭く『彼』に向け。
バージルもその表情を変えぬとも、全身からはこれまでとは桁違いの鋭い空気を放ち始めた。


「よう、バージル。俺も来たぜ―――」


ただそんな中でも、当の『侵入者』だけは『普段通り』の調子だった。
身から溢れる軽薄なノリが、周囲と対比となってより『異物感』を際立たせているか。


赤き魔剣士は、その場で「さてお次は?」と煽りからかうように両手を広げて。


ダンテ「―――お前の立ってるところまでな」


兄に向けて笑った。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/22(水) 02:37:25.27 ID:2uaprI4Lo<> ―――

自らの力を押し固めて形成させた黒い蓋。
その上に『アレ』が立っていた。

光に満ちて煌びやかで、途方も無く荘厳で神々しい『双頭のドラゴン』。
四元徳が一柱、『勇気』、フォルティトゥード。

一方『……』

金色の稲妻が飛びかうその巨体からは、強化された圧倒的な力が放たれていた。
そのあまりの圧力に、隣のラファエルが退き気味に喉を鳴らす音が聞えた。
だがそんな天使の悲痛な声も、今の一方通行の意識には残らなかった。


フォルティトゥード『ふむ―――その瞳。その輝き。おお、なんと穢らわしき竜の眷属共よ』


逆さの巨顔から放たれる言葉さえにも彼は反応しなかった。

それよりももっと大きく。
もっと痛烈な『声』が、フォルティトゥードの『全身』から聞えていたのだから。


あの『木』からのものよりも遥かに大勢の、そしてずっと悲壮に満ちた人間達の『ざわめき』が。


そうした無数の人々の叫びが彼の心を滾らせる。
自覚無くとも人間界の神―――王としての存在基盤が大噴火を起こし、その内は灼熱の窯と化す。


一方『―――おィ。さっさと行け』

一方通行は横のラファエルへ告げた。
重く熱くエコーがかかった、鼓膜が擦り切れそうな声色で。

追い立てられた子供のようにこの場から去っていく深緑の天使。
彼は、この若き人界神が何に激昂しているのかはわかっていただろう。
そして時間稼ぎに甘んじるつもりももう微塵もないことも。


一方通行の胸中には、憤怒の業火でこう焼き刻まれていた。


ここで今、己が手で―――この無数の魂を貪り喰らった―――天の神を殺してやる、と。


天界の支配者たる四元徳と人界神の新王、その決戦がここに始まる。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/22(水) 02:39:30.32 ID:2uaprI4Lo<> これにて第一章は終了です。
次の投下、第二章開始は土曜の予定となります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/22(水) 03:28:02.44 ID:QFu+giQDO<> 土曜か……待ちきれん……。あ、そういえばあともう少しでこの物語は2周年を迎えるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/22(水) 06:46:07.10 ID:Lc6N9YEDO<> 乙乙乙
いよいよパーティーも本番、クライマックスか。
しかしダンテさんの非常識なお宅(神域)訪問っぷりマジパネェッスww

まだまだ先は長いだろうけど今作の次がもしあるなら初期の頃みたいな笑いの要素強めの荒ぶる中年の姿がまた見たい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/22(水) 06:57:13.04 ID:+kTyjkuuo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/22(水) 07:48:07.26 ID:3SUJ0wMDO<> >>1バージルとベヨネッタが触れてるのって閻魔刀だよな?神崎の刀になってるけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/02/22(水) 10:40:01.91 ID:QlIaSiQFo<> 第一章お疲れ様です。その内竜王対新王のステゴロが再開しそうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/22(水) 17:32:50.32 ID:ADb5xHsC0<> さすがジュベレウスを葬っただけありますね
ベヨ姐さんに四大天使もドン引きしとるがな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/22(水) 18:21:31.38 ID:2uaprI4Lo<> >>319
すみませんミスです。
その通りここでは閻魔刀です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/23(木) 21:16:12.55 ID:7dj+Hh7Q0<> 乙
軽いダンテさん見ると相変わらずで安心する <> 乙<>乙<>2012/02/25(土) 15:31:10.06 ID:8dvIOjdy0<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:44:43.05 ID:l841wWYio<>
―――

学園都市へ戻ってきた一行は、窓のないビルが立っていた場所へ一度戻ると、
『冬眠中』のステイル=マグヌスを回収(そのまま持ち歩くと『分解』してしまうため死体袋に詰めて)

そこで悪魔を迎え撃つために『上』に行くネロと別れ、
新たな『本陣』を構えるため、魔狼の背に乗ったまま芳川の誘導でとある施設へ向かった。


行き先は第二学区の中ほどにある、
横倒しになった墓石のような恐ろしく無骨で無機質な巨大な建物だ。
デュマーリ島強襲のため、人員の能力強化その他もろもろの準備を行った、
黒子や結標にも見覚えのある施設である。

高空から敷地内へ、
その勢いと図体に不釣合いなくらいに穏やかに降り立つ魔狼。
そしてこれまた軽やかな足取りで敷地内を進み。

施設の厳重な扉の前へと行き着くと、
御坂と芳川がその背から飛び降り扉横の端末に向かった。

芳川「……だめね。非常事態だから、私の権限でも開かないわ」

打ち止め「ちょっと待ってて。ミサカがここのシステム書き換えるってミサカはミサカは―――」

そこで一足遅れで魔狼の背から飛び降りてきた打ち止めが、
芳川の腕の間から覗き上げてそう言ったも。
彼女の声は、強引にかぶせられた『姉』の声で最後まで続けさせてはもらえなかった。

そして彼女の目論みそのものも。


御坂「―――こっちの方が早いわよ!下がってて!」


その声に振り向いた芳川と打ち止めは、慌てて御坂の背後へと下がった。
なにせその御坂が電光を迸らせながら、
扉へ向けその大砲を腰だめに構えていたからだ。

御坂の背後で、芳川が打ち止めを抱くようにして屈んだ次の瞬間、凄まじい砲音が轟いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:46:43.02 ID:l841wWYio<>
ダンテお手製の大砲に加え『なぜか』最高に能力の調子が良い今、
レディ製の魔弾でなくとも御坂の『砲弾』は圧倒的な火力を誇っていた。

打ち止め「お姉様、やりすぎってミサカはミサカはストレートに呆れちゃう」

戦車砲の直撃でもびくともしなそうだった扉は、
周囲の壁ごと黒く歪な塊へと分裂していた。

御坂「いいの非常時だし。ほら入って」

御坂は得意げに鼻を鳴らすこともなく、打ち止めの簡潔明瞭な批判にも全く気にも留めず、
咆口を上に向け待機位置に戻しながら平然と皆に促した。

芳川は打ち止めを抱き上げ足早に、
いまだ高温の光を灯している『穴の淵』を跨いで施設の中へ入っていった。

その後を黒子が結標を、佐天が神裂を、初春がエツァリを、
それぞれ魔狼の背から降ろしては支えて続き。


御坂「ほら。アンタも入りなさいよ」

さながら戦争捕虜への荒い対応か、
御坂がアレイスターを砲口で突っつき、施設の中へと押し込んでいった。

そしてネロに皆を守るよう言いつけられた魔狼は、
ステイルの入った死体袋を背に乗せたまま『穴』のすぐ傍に屈み、待機の姿勢をとった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:48:24.31 ID:l841wWYio<>
施設内はしばらく警報が鳴り響いていたが、
打ち止めがシステムを書き換えたのだろう、
一行が長い通路を抜ける間にけたたましい音は途絶えた。

彼女達はこの広く巨大な施設の中を、芳川の先導のもとどんどん進んでいった。
長い通路を抜け、非常用のエレベーターで地下に降り、更に長い通路を抜け。

そして到着したのはとある一室。

壁のある一面には『鏡』がはめ込まれ、
そのほかの壁三面には機材が並び、中央に『学習装置』付きのベッドがある、
デュマーリ島への強襲の前に打ち止めの調整を行った部屋である。

芳川はここを二つ目の『本陣』に相応しいと考えたのである。


そうして着いたのも束の間、言葉数少なく打ち合わせると皆がそれぞれ動き出した。

神裂と結標を廊下に座らせると、
黒子は佐天をつれ応急処置のための物資を取りにいった。

芳川は途中、負傷者達を医務室に連れて行くことを考えていたが、
エツァリがそれを拒否したため、結局彼らもここで共にすることとなったのである。


エツァリ「……システム立ち上げには……どのくらい……」

芳川「バックアップは全部この子の中にあるからすぐよ!」

エツァリは部屋の中の壁際に座り込むと、
息も絶え絶えながら魔術通信の回線接続を試みる他、『立体地図』用の術式も再起動、
芳川はベッドに打ち止めを乗せると、初春を従えてせわしなく周囲機器の調整に入り。

御坂は廊下にアレイスターを座らせると、水やタオルといった物資を探しに向かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:51:16.69 ID:l841wWYio<>
場は、瞬く間に慌しい空気に満ちた。

医療用のベッドの上に物資満載にさせて戻ってきた黒子と佐天は、
神裂の状態を見て一瞬硬直してしまった。

神裂はすでに意識を喪失、死人のように肌を蒼白にして、文字通り死んだように『眠っていた』のである。
ネロが別れ際にこの『冬眠』のことを告げていなかったら、本当に死んでしまったと思っただろう。

二人は気を取り直すと、まず結標の処置に取りかろうとしたが。
黒子はすぐに己ができることは無いと悟った。

結標には、外傷といった類の応急処置が施せる傷はほぼ皆無。
彼女の容態を悪化させている原因は内部器官の損傷だったのである。
吐血と耳からの出血がそれを明確に示していた。

芳川「―――その子は能力過負荷ね!こっち済ませたら私が看るわ!」

機器の調整の傍ら声を飛ばしてくる芳川。

それを聞き黒子は、ひとまず結標の体を引っ張ってきたベッドの上に載せるとそこに佐天を残し、
ちょうど業務用の水ボトルとタオルの束を抱えて戻ってきた御坂を連れ、
次はエツァリのもとへと向かった。


彼は結標の状態とは対照的だった。
外傷がきわめて酷かったのだ。

周囲の床は彼の血糊で惨憺たる様相、
職務上ある程度の医療知識がある黒子は、その光景を見てまたもや悟った。
少し別の意味合いで、「できることはない」と。


彼の失血量は、人としての限界をすでに大きく越えていたのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:53:58.00 ID:l841wWYio<>
同じく医療知識を有していた芳川もまた、一目で悟ったようだった。

一通り機器の調整を済ませた彼女は、エツァリの方を見やって一瞬硬直したのち、
すっと一度目を瞑っては廊下の結標の方へと駆けていった。

部屋の中央では今度、
打ち止めがベッド上から初春に指示をし、システムの立ち上げを試みていた。


黒子「―――……」

黒子は諦めなかった。

一瞬愕然としたも、すぐさま血漿パックと機器を取り出し、
学園都市製の腕輪状の点滴機器を彼の腕へと嵌めた。

そこからあとは止血のための応急処置を施していく。
外科手術が可能な者なんてここにはいないため、それしかできないのだ。

もっとも黒子は、外科手術が可能な者がいたとしても意味が無いことはわかってた。
ざっと状態を見る限り、彼の運命を決定付けた直接要因は、
どうやらこの肉体の損壊ですらなかったのだと。


目に見えない力が―――彼の魂を破壊した、とでも言えるか。


それはエツァリ自身が一番明確に認識していた。

当たり前ことだ。
いくら他所からの大きな力で保護されてるとはいえ、
『普通の人間』の身で神の領域の力を受けて無事でいられるわけがないのだ、と。

ゆえに彼は、『無駄』に医務室に行って『残り少ない時間』を消費したくなかったのだ。


エツァリ『……アニェーゼさん……騎士隊長殿……ここをお任せします……』


エツァリは魔術の回線を開き、彼らに預ける形で―――ここに『最期』の仕事を終えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:55:57.34 ID:l841wWYio<>
ハサミですばやくシャツを切り裂いていき、
血でひっついた部分を丁寧にはがしていく黒子。

御坂はその脇から、水で濡らしたタオルで傷周りを拭き取っていった。

御坂「……」

思わず目を背けたくなる光景だが、御坂は何とか堪えて、
黒子の手の合い間に彼の血を拭っていく。

―――と、そうしていたところ。


御坂「………………えっ―――?」


彼女は瞬間、目を疑ってしまった。
あまりに信じがたい『それ』に無意識の内に声が漏れ、体も硬直してしまう。

褐色の肌の少年の体、シャツが取り除かれて露になった胴、
そこにあったのは、先ほど負ったものと思われる傷の他に、
真新しくも今日のものではない―――『剣に突き刺されたかのような傷』があった。


そしてその傷を閉じるため―――『ホチキス』状に捻じ曲げた『鉄筋』を刺した跡も。


この目にするものを御坂は説明できなかった。
理解を進めることができず、半ば思考が停滞してしまう。
そんな呆然とする彼女に向け、
褐色の肌の少年は朦朧とした声でこう告げた。


エツァリ「……あなたに……こうしてもらうのは『二度目』ですね……御坂さん」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 00:58:14.82 ID:l841wWYio<>
『あれ』は違う―――あそこでバージルを前に己の盾となってくれたのは、『海原光貴』である。

目の前の少年は彼とは違う。
肌の色も、人種も、身長も、目つきも、声も、雰囲気も、何から何までが違う。

それなのに―――なぜ。

忘れもしない、自身があの時処置した傷は今でも鮮明に覚えている。
『ホチキス』状に捻じ曲げた『鉄筋』で塞いだ剣の刺し傷。
それがこの別人の少年の胴にあった。


信じられなくとも、この傷そのものが指紋照合のようにここに明確に示していたのだ。


『コレ』はあの日、御坂美琴が処置した傷である、と。


御坂「―――」


―――『表の自分は知らないんです』

不意に思い出される、あの時『海原』が口走った言葉。
その意味がなんとなく、なんとなくだがわかったような気がした。

あの一件のあと、『海原光貴』という名を方々で探したところ、
彼は日常生活に『戻っていた』ため、御坂はこの言葉を本人にも含め一切『他言するな』という意味だと認識し、
『海原光貴』に会いに行くということはしなかった。

そしてミーティングで初めて顔を合わせたと『思っていた』、車椅子に乗っていた褐色の肌の彼のことは、
一方通行や土御門の同僚、暗部の幹部だと思っていた。


恐らくそれらの解釈も、一面としては正しかったのであろう。

だがもう一面、もっとも重要な点に気付いていなかったのだ。
その事実を彼女はここでようやく、ようやく知った。
現実を認めざるを得なかった。


この少年は、あの日バージルから守ってくれた―――『裏』のもう一人の『海原光貴』だったのだ、と。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 01:00:49.06 ID:l841wWYio<>
エツァリ「―――ですが……今回は……もう必要ありません……」


彼はそう声を漏らすと、震える腕で黒子と御坂の手を押し退けた。

その言葉の意味を知っていた黒子ははっとしたように息を止めると、
抵抗することも無く作業の手を静かに離した。

そんな様子を見、御坂もこの瞬間にある程度悟ってしまう。
呆然として思考が半ば停止してしまっていても、
彼女にとって黒子の表情や佇まいは直感的に読みとれるものだ。

御坂「―――必要ないって……どういう―――!黒子―――ッ!」

エツァリ「―――お願いします」

そこで彼女は、生来の気質から反射的に抗議の声を放ちかけたも、
腕を強く掴んできた彼によって強引に遮られてしまった。

少年の声はその状態から信じられないほどに確かで強く、覇気に満ちた言霊。
一声で御坂は圧倒され、ただただ聞き手に回ることしか出来なかった。


エツァリ「……これを『彼女』に…………『彼女』を……決して死なせないでください……!」


彼は血走った瞳で告げると、
ぼうっと光を灯す、古めかしい紙の帯を御坂の手に押し付け。
そして両手で彼女の手を覆うように、帯を握り締めさせた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 01:03:15.62 ID:l841wWYio<>
『彼女』とは一体誰なのか。
例え呆然としていなかったとしても、御坂はそれを聞き返すことは出来なかったであろう。
どのみち彼はまともに答えられなかったはずだ。

今の言葉で残る生気の全てを使ってしまったようだったから。

御坂の手を握る力はふっと弱まっていき、
彼の全身からも一瞬見せたその覇気がすうっと滲むように消えていき、
表情も瞳も虚ろになっていく。


エツァリ「…………ああ……すまない……すまな……い…………」


直後にはもう彼の意識はここには無かった。
口からぼそぼそと漏れる声は、まどろみの淵にて幻の中にいるうわ言。



エツァリ「……許して……くれ……ショチト……ル…………許し…………」



人の名前だった。
それも恐らく女性の名前。


きっと―――彼が先に告げた『彼女』―――恋人だろうか、もしくは家族であろう名。


大事な大事な―――約束でもしていたのであろうか、
彼は残る生気の全てを使って何度もその者へ謝り続け。

そしてそれも潰え、声が途絶えて。
ひゅっ短く、か細く息を吸って彼はついに動かなくなった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 01:05:16.62 ID:l841wWYio<>
中途半端で、どうしようもなく哀れで、
そしてあっけなくあっという間だった。

叙事詩的でなければ劇的でもない。
最期まで大義、世界のことを思うような英雄的なものでもない。


己の血の海の中で溺れながら、ただただ大切な人のことを縋るように胸にして。

その者への謝罪の言葉を残し、未来への気がかりと、
使命と約束を果せなかった無念の中で少年は事切れていった。


ただ御坂は知る由は無いも、彼にはこの瞬間、
たった一つだけ幸せな点があったかもしれない。
何せ惚れた女性に看取られ、そして彼女の涙の声で送り出されたのだから。

後に響いたのは、御坂の叩き起こさんばかりの悲壮に満ちた怒号と、
電気ショックのたびに迸る電空音。

しかし少年の鼓動が再び刻まれることは無かった。



彼が最期の灯火を使って設置した魔術は見事に正常起動し、
おぼろげな光となって宙に立体地図を映し出していた。

そこに表示されている魔塔の界域には、
ぎらぎらと強烈に輝く大悪魔の赤い光点がいくつも出現、その数はすでに30以上に達しており。

『最強の人間』率いる戦士たちによる、
それら十強配下の魔将達を迎え撃つ壮絶な戦いが始まっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 01:08:59.32 ID:l841wWYio<>


テメンニグルの塔の麓にて。

キャーリサ『―――ッ……!』

キャーリサは脇の傷に顔を歪めながら、
ネロが半ば飛翔し魔塔の壁を駆け上がっていくのを見ていた。

空には何体もの大悪魔が滞空しており、
また魔塔の上辺にも、ネロを迎え撃とうと降り立っている一団がいる。

そこへネロは上等とばかりに殴りこんでいった。
迸るのは青とも赤とも黒とも、そして混ざった紫色とも見える不思議な光。

そうした彼に続き、強大なサンダルフォンとイフリートも飛び込んでいき、
更なる光の彩りを加えていった。


猛烈な力の爆轟、衝撃がたて続けに拡散していく。
そのほとんどがネロの力だ。

あそこで激突している力の強大さといったら、
虚数学区からここまで繰り広げられた名だたる天使達との戦いが、
幼児のお遊びに思えてしまうくらいに圧倒的なものだ。


キャーリサ『……』

己の程度では到底あの中に飛び込めない、キャーリサには確かにそう見えた。

イフリートやサンダルフォンですら、邪魔にならないようについて行くのがやっとな有様だ。
ただもちろん、それで彼女がお役ご免になるというわけではない。
あそこに加われない者にも役割はしっかりあるのだ。

アグニと他の三天使は、この門前の広間に陣取って第二の防衛線を布き、
キャーリサら三人の人間勢はその背後につき扉そのものを守り、
万が一の時には滝壺達の直接護衛に回れるようにもする。

つまり上でネロが狩れるだけ狩り、そこをなんとか抜けてきた者をアグニたちが迎え撃ち、
最後にキャーリサ達が『残りカス』を処理するというわけである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/26(日) 01:11:04.70 ID:l841wWYio<>

キャーリサ『……』

今のところはネロ達の戦火を抜けてくる存在はいなかった。
というよりも、大悪魔達の関心はもっぱら『スパーダの息子』に注がれているのであろう。

しかしいつまでもそう続くわけでもない。
必ず矛先をネロから、この魔塔と人間界の境界を塞いでいる『核』に変更する者が現れるはずだ。

それはアグニや天使達の佇まいが如実に物語っている。
悪魔のやり方を知っている彼らはみな戦意をみなぎらせ、
虫の一匹たりとも見逃さぬように気を研ぎ澄ましていたのだ。


シェリー『―――キャーリサ様、お下がりください』

ふと横から、心配そうにシェリーが申し出た。

キャーリサ『大丈夫だ』

シェリー『しかし……』

キャーリサ『黙れ。休んでも意味など無い』

キャーリサは言葉鋭く撥ねつけた。
これにはシェリーも返す言葉も無かったようで、
不満に顔を染めながらも彼女は静かに脇に下がっていった。

休んでも意味がない、その事実をシェリーもわかっていたのだ。

本物の天使の一撃、その神域の力は、
いくら主の力で守られていようと、
『普通の人間』の身にとってはあまりにも強烈過ぎて手が施せないものなのだから。



キャーリサ『……』

そうしてシェリーを背後に下がらせると、
キャーリサは脇を抑えながらも威厳に満ちた佇まいで、静かに上を見上げ再び聞き入った。


『最強の人間』―――人類史上最高の『英雄』が奏でる刃の音に。


――――――――――

  創世と終焉編


第二章『英雄と反逆者』


―――――――――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/26(日) 01:11:44.65 ID:l841wWYio<> 今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 01:36:39.63 ID:Sv65YWRSO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/26(日) 01:37:16.58 ID:fYvmE/4qo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 01:50:06.41 ID:5msi2GQDO<> エツァリ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<><>2012/02/26(日) 03:09:15.78 ID:RXGC7kHD0<> 乙

この話を読んでる人ってどれぐらいいるんだろうか
まとめも含めレスしてないだけで結構いるのかな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/26(日) 03:16:43.92 ID:IKuzTUhao<> お疲れ様です。英雄はともかく・・・反逆者?スパーダ一族じゃないだろうけど。
ところで>>336の三行目。息子じゃなくて孫でいいんですよね・・・? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 10:04:21.11 ID:j4AU2D4z0<> エツァリが変態じゃない貴重なSSだったのに… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 14:12:40.58 ID:Slb4ZKcH0<> ずっと読んでるけど、あんまり雑談みたいになると荒れたりするし
スレ主もイヤだろうと思ってロム専 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/26(日) 14:22:58.82 ID:lYYbMzZco<> 各々が自分だけが知ってる名作、ぐらいの方が平和に楽しめていいよね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 14:59:35.78 ID:eZ8vJYiAO<> nipの中でもここはrom専率高い印象かな
普段は静かでも山場きたりすると一気にレスつくし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 17:41:53.39 ID:n6P/08C50<> ショチトル、エツァリ両方に面識持っていた奴って御坂に近くにいたかな
遺品とどかなそうな気が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 17:58:22.20 ID:5msi2GQDO<> >>347
御坂が探して届けるんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/26(日) 19:54:33.74 ID:aUmdPEAh0<> 乙でした。
エツァリ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/02/26(日) 21:17:23.65 ID:4tBDNzC7o<> 乙

……本にしていいレベル…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:44:38.86 ID:tlLmcdr0o<>
―――

『出陣の野』。

この天界の領地たるプルガトリオの一画にて今、
許されざる魔女の紋が浮かび上がっていた。


金と銀が混じる光の魔方陣の直径は20m近く。
インデックスはその中央に屹然と立ち、
さながら祭司のようにこの召喚の儀を支配していた。

光満ちる銀髪が伸び広がり、一見無秩序ながらも波に揺れる海草のごとく
一定の統率を保って揺らいでいる。

そのリズムは彼女の鼓動である。
落ち着いた心拍に魔方陣の輝きも同期し、重い振動音を伴ってゆるやかに明滅していく。


すぐ正面3mのベオウルフ、そのすぐ隣にこの魔獣と同じ姿勢で座している白虎―――スフィンクス。
そして魔方陣の淵にいる緊張した面持ちのガブリエル。

三者が静かに見守る中、インデックスは着実に作業を進めていった。

禁書『…………』

上条との繋がりに意識を集中させ、この召喚術を正確にリンクさせていく。
一本ずつ紐を結んでいくように慎重に。

ここで一つでも認識や作業を誤ってしまえば、
召喚した上条当麻は不完全なものになってしまう。

しかも今はまだ準備段階、難関はこの先にも山済みだ。
ここから起動させ『検索』、『選別』、『構築』と、更に複雑極まる手順が待ち構えているのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:47:29.09 ID:tlLmcdr0o<>
理論上は召喚可能とは言えても、現実には不可視のイレギュラーが常に付きまとうもの。
相手は創造、具現、破壊をそろえた屈指の怪物、
この先には何があってもおかしくないのである。

いいや、それこそ確実に何かがが―――『妨害』があると考えるべきだ。


こちらの意図が竜に把握されないよう、
意識が向こうに流れ込まないようにしてはいるも、それも限度がある。

最終的にはこちらから喚びかける必要がある以上、必ず知られてしまう。
その時になれば、どのような形では想像はつかないものの竜は必ず妨害してくるはずだ。

インデックスが構築する『上条当麻』には『幻想殺し』という因子も含まれているため、
それが引き抜かれるということは、竜の力に何かしらの減退が必ず生じることになるのだ。

いくら想定外の問題も娯楽になるとはいえ、かの竜がこれをみすみす放っておくことはまず無いであろう。
そのせいで『全能』という最高の楽しみが潰えかねないのだから。


禁書『…………』

これは一か八かの勝負だ。
それも一度きりの。

成功を約束する確証は一つも無い。

だがインデックスは信じていた。
己と上条との絆、ベオウルフ、そして―――ダンテの力を信じていた。

そして誰しもが希望を失い、彼の帰還を絶望しても。
彼女だけは信じ続けるのだ。


願いは―――祈りはきっと届くのだ、と。


小さき魔女はその場にゆっくりと跪くと、左手を胸元に寄せ。
『存在しない右手』と組み、静かに術式を起動。
その精神をついに繋がりの向こうへと投じていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:49:42.14 ID:tlLmcdr0o<>
そんな厳粛な場に大波紋が生じたのはその直後だった。


今やインデックスは、事が終わるまで移動もできなければ、
自らの力でその身を守ることも出来ない。
外部からの脅威に対しては、ベオウルフとスフィンクス、
そしてガブリエルに全て託すしかない状態だ。

とはいえこれほどの存在が身辺にいれば、
よっぽどの事態とならない限り脅威はまず及びはしないものだ。


そう、例えば『今この瞬間』のように―――四元徳が一柱―――テンパランチアが現われでもしない限り。


直径数百mもの金色の魔方陣が天空に浮かび上がり、
暴風が渦となって吹き荒れ―――降臨するのは城の如き姿。


テンパランチア『―――おお、小さき魔女よ。穢らわしきアンブラの卑術で何を企む』


『節制』を冠する『神たる天使』は、一目インデックスとその魔方陣を見下ろすと、
途方もない巨体に相応しい地響きのような声を放った。

その口調からは、こちらの目的は把握していないと伺えるか。
だがベオウルフとスフィンクス、そしてガブリエルはその点に甘んじようとはしなかった。

瞬間。
インデックスが何かを言うよりも早くスフィンクスが駆け寄り、
彼女の脇にて頭低く身構え。
翼を大きく広げ光剣を手にしたガブリエルがその二者の前に降り立ち盾となり。


そしてベオウルフは一気に跳躍して、テンパランチアに真っ向から突撃した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:52:39.63 ID:tlLmcdr0o<>
対してテンパランチアにも、わざわざ彼らに問答するつもりなどなかったらしかった。
『魔女と悪魔が天の領を侵犯した』と、問答無用で排除するに足る理由が揃ってるのだ。

降臨した時に言葉を向けはしたも、それはただの独り言のようなもの。
ベオウルフが跳び上がったのとほぼ同時に、この四元徳は巨腕を振り上げていた。


次の瞬間、両者が激突して迸る光と衝撃。


その激突は『対等』なものではなかった。

両者の間ではあらゆる要素が不釣合いだった。
ベオウルフの巨躯でさえ、この城の如き四元徳を前にすれば『小動物』にしか見えないほど。
そして力の差も見事にこの体格差に比例していた。

テンパランチアの振り下ろした巨腕はベオウルフには当たらなかった。
白銀の翼を広げた魔獣は、見事に巨腕を飛び抜けていき―――テンパランチアの顔面に突貫。

体当たりと同時に猛烈な牙と爪を叩き込んだ。


見事な一撃だった。
テンパランチアの石のような肌に亀裂が走り、間から鮮血が噴き出し、
魔獣の身を赤く染め上げていく。


だがこれに対してテンパランチア本人は、煩わしそうに喉を鳴らしただけだった。
少し苦痛の色が滲んではいるも、それもごくごく微小なもの。


テンパランチアの巨顔にベオウルフが牙と爪を立てるその様は、
『顔に子猫がしがみ付く』といった光景か。

節制にとっては、この魔獣の一撃も『その見た目』の印象通りの程度でしかなかったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:55:16.43 ID:tlLmcdr0o<>
野を震わせ、原を捲りあげて大地に降り立ったテンパランチア。
彼はすばやく巨腕を自らの顔に寄せ、張り付いている魔獣を潰そうとした。

四本の管のような指、その一本一本がベオウルフの胴よりも太く、
この魔獣の巨躯を片手で握りこむには充分な大きさ。
しかもその巨体に相反して振るわれる速度も猛烈。

だが黙って叩き潰されるほどベオウルフも愚鈍ではない。

魔獣は巨手が向かってくるのを察知した瞬間、
すぐさま節制の顔面を駆け上がり一気に頭頂部―――テンパランチアの場合は『胴頂部』と言うべきか、
巨体の頂に昇り立った。

結果、テンパランチアは自らの顔面を叩いてしまう。


だがそのとてつもなく強大な一撃でさえも、節制本人にとってはただの『平手打ち』だ。
テンパランチアはまた煩わしそうに声を漏らしたも、
それ以上ベオウルフへの追撃は行おうとはしなかった。

ベオウルフなど意の中に無かったのだ。
彼の関心は小さき魔女に向いていた。


魔獣が『胴頂部』で再び牙と爪を叩き込むも、テンパランチアは特に気にする様子も無く、
(叩き込まれるたびに身を震わせているため、ダメージが皆無なわけはないようだが)

ゆっくりとインデックスの方角へと向き。


テンパランチア『―――祈るか。何に祈る、忌まわしきアンブラの魔女よ』


彼女へ向け、その地響きの如き声を放った。


テンパランチア『魔のおぞましき神々か。それともその身を偽っていた間の信仰主―――ヤハウェか』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 00:58:34.10 ID:tlLmcdr0o<>
数百mは離れているが、例えこれが『ただの音』だったとしても、
空と大地を奮わせるこの声にはその程度の距離など無きに等しいか。

そして言霊としてならば、恐らく界を隔てていても対象に届くほどの圧を有している。


聞く者を圧倒し、無上の畏怖を本能の底に植えつける天の声。


今やこれより先は無い、最上の天の意志。
人間のみならず、悪魔や同郷の天使にだって、
神の領域に達していない者には基本的に『個』としての認識は向けない、下々とは隔絶した頂点の支配者。

そして神域の存在では無いにもかかわらず、こんな存在から直接言霊を向けられるということは、
友にとってはこの上無き救いであり。


敵にとっては絶対的な『死刑宣告』に相応しいものである。


その強烈な『死刑宣告』にインデックスは身を強張らせながらも、
怖気づくことはなかった。
彼女は真っ直ぐに巨顔を見上げ、確かな声色で答えた。


禁書『私は―――私自身の「希望」に祈るんだよ』


直後、山をも砕きかねない笑い声が響いた。
滑稽さと嘲りに満ちた笑いが。


テンパランチア『―――笑わせる。穢れたその口で何を抜かすと思えば―――「希望」だと』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:01:41.95 ID:tlLmcdr0o<>
その時。

インデックスが反論の言葉を放つよりも早く。
その場に割り込んできた声があった。


「―――何がおかしいんだ」


表面上は『人間の声』に聞えるも、その底には途方も無い『何か』が潜んでいる音。
弾ける様にインデックスがその方向に向けると―――横5mほどのところに、『黒人の大男』が立っていた。

一旦テンパランチアから離れ、
この男にも警戒の色を示してインデックスの背後に降り立つベオウルフ。
スフィンクスも同じく牙をむき出しにし威嚇。


「お前さん達が創世を望んでいたのも同じだろ?」


一方で鰐皮のコートを纏った男は、そんな『獣達』になど目もくれず。
この城の如き姿を前にしても悠然とした様子だった。


テンパランチア『…………「創世」とは世の必然』


対してテンパランチアの調子は明らかに変化していた。
一瞬前までのインデックスへの態度は、卑下し虫でも見ているかのようなものだったのが。


テンパランチア『主神の御意志を、魔女如きが企む俗念と同列視するのは冒涜が過ぎますな』


この男には、敵意を覗かせながらも一定の『敬意』を払っていたのだ。
それも目上の存在に向ける形で。
テンパランチアは一言ずつ慎重に選ぶような口調で続け。


テンパランチア『さすがにその御口であろうと許されることではない』


男の『古の照合』を口にした。


                 ファーザー・ロダン
テンパランチア『―――副神閣下よ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:07:00.89 ID:tlLmcdr0o<>
その『名』で、インデックスはこの男の身元を即座に特定できた。


魔女の記録の中に、僅かな記述が残っている。

ジュベレウスが魔界の三神に敗れた直後、
かの主神の腹心であったにもかかわらず魔界に堕天した『天界の長』。

反魔界の連合をジュベレウスに代わって率いるはずだった彼の裏切りによって、
連合はあっという間に崩壊、果てしなく続いた大戦争は魔界の勝利としてあっけなく終結。

更に彼に続いて多数の神々が堕天した事で、天界そのものの凋落も加速した。

これがアンブラの記録に残る、『彼』が明確に登場する唯一の記述。
魔女が起つ遥か昔の出来事であるため、
史料の少なさは仕方ないもののその信憑性は確かなものである。

その上、今のインデックスにとっては間違えようの無い事実だ。
上条当麻の古の記憶が裏付けてくれるのだから。


テンパランチア『―――なるほど。此度の反乱、裏で手を引いていたのは閣下ですかな。
          ならば我が軍が各地で苦戦しているのも頷ける』

節制はふむと喉を鳴らすと、そう納得した様子で声を向けた。
敬意を篭めながらも、同時に裏切り者への侮蔑も滲ませて。

ロダン「当たり前だ。誰がお前さん達に武器を与え戦う術を叩き込んだと思ってるんだ」


テンパランチア『ふむ……副神たる責務から逃げ、あまつさえその力も失った閣下が、今頃なぜ介入するのか』


副神、かつてそのような称号を冠していた男―――ロダンはその問いには答えなかった。
代わりに静かに葉巻に火をつけながら、遠くへと囁きかけるように告げた。


ロダン「……目を覚ませテンパランチア。世の中は変わった。ジュベレウスは死んだんだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:09:40.65 ID:tlLmcdr0o<>
その紛れも無い事実を語った声にテンパランチアが返したのは。
笑いでもなければ沈黙でもない。

巨腕を大地に打ちつける轟音。

それが『返答』だ。

テンパランチアはこれ以上言葉を交わすつもりは無かったのだ。
大地を割り砕いてロダンの言霊を断ち切った節制は、より声に力を篭めて。


テンパランチア『―――時間稼ぎのおつもりですかな、閣下』


その声で佇まいは変わらぬも、ロダンの空気が確かに変わった。
一瞬で焼き付けるような圧力に、インデックスは確信した。


今―――この二者間の張り詰めた糸が弾けとんだのだ、と。


テンパランチア『その魔女の所業、きわめて重大事と見える―――』


ロダン「―――お前さんはさっき、俺が力を失ったと言ったな」


テンパランチアの言葉尻にかぶせるようにして、やや早口に声を放つロダン。
相変わらず悠然と葉巻を燻らせてはいたも、
彼の全身からは猛烈な戦意が湧き出しており。


ロダン「それは間違ってはいねえが、実は『まだ』―――『全て』を失ったわけじゃあない」


そして次の瞬間、火蓋が切られた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:12:01.94 ID:tlLmcdr0o<>
先手をとったのはロダンだった。

いや―――恐らくテンパランチアは、
目の前の光景に圧倒され―――そして畏敬の念を覚え、動けなかったのだろう。

もっとも動けたとしても、どのみち結果は変わりはしなかったはずだ。


光が展開する。
インデックスの魔方陣に重なり、ロダンを中心として浮き上がるのは、
天の文字でありながら魔の赤き光で構築された巨大な魔方陣。

そして彼の姿が迸る白金の光に包まれ。
一瞬ののち中から現れたのは、


白と金の装束を纏い―――孔雀のものに似た壮麗な羽を有する―――古の『天界の長』の姿だった。


この出陣の野にいた誰しもが、この規格外の力に圧倒されていた。
インデックスやガブリエルはもちろん、ベオウルフや―――テンパランチアまでもが。


『それ』は一瞬にして一方的だった。
皆が硬直した刹那、ロダンは眩いほどに光り輝く右手をかざし、
テンパランチアに向け飛翔。


猛烈な勢いでその腕を巨顔の眉間に叩き込み―――


―――インデックス達が認識できたのは『ここまで』であった。
その直後に何が行われたのか、ベオウルフにさえもそれは認識できなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:13:35.19 ID:tlLmcdr0o<>
『速い』、と思える片鱗さえ認識できなかった。
フィルム抜けがあったかのような、光景展開に納得がいかない感覚を覚えてしまうくらいだ。


禁書『―――ッ!』


光が明滅し『何十』にも重なった衝撃波が『一瞬』で過ぎ去り。
刹那の嵐の先にインデックスが見たのは、さきほどの人間の姿に戻っていたロダンだった。

何事も無かったかのように葉巻を燻らせている彼の姿だけをみると、
いいや、先ほどの『天界の長』の姿は幻で、実は彼は変じていなかったのだ、
と思ってしまいかねない。

あの姿を目に出来た時間は、見間違いか現実かの判別がつかないほどに短かったのだ。

だがあれは現実だった。
幻なんかではなかった。

かつての天界の長としての力は僅かな一瞬だけ、今ここに君臨していたのだ。

ロダンの向こうに聳えているものを認識して、
インデックスは思わず息を呑んでしまった。


テンパランチアと『思われる』―――巨大な『肉塊』のオブジェが聳えていた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:15:44.36 ID:tlLmcdr0o<>
石のような外殻の大半が砕け落ち、露になった『中身』から鮮血が滝のように溢れ、
巨腕は肩の基部が破壊されて地に落ちており、上半分が凹んでいる顔。

先ほどまで屹立していた圧倒的な姿は、どうしようもないくらいに歪に成り果てていた。

しかしその口から漏れるうめき声には、苦悶の色は一切滲んでいない。
敗北の念も覗かせず、それどころか。


テンパランチア『―――……す……素晴らしい……!』


ある種の感動を覚えているようだった。

『素晴らしい』、その簡潔にして最上の形容が、
このロダンの力に向けた一言だ。

そんな彼に対して、ロダンはふんと軽く笑うと。


ロダン「―――これで『全て』だ」


そう告げながら、葉巻を放り捨てた。

その直後、超大な肉塊のオブジェ―――テンパランチアは破裂した。
木っ端微塵に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:17:55.84 ID:tlLmcdr0o<>

ロダン「―――どうせすぐ復活するぜ。それに今度は強化してくるはずだ」


圧倒的な勝利も束の間、ロダンはインデックスの方へ振り返ると、
前置き抜きにそんな容赦の無い現実を告げた。
だがそれでもインデックスはこの上ない笑顔を返し。

禁書『ううん、ありがとう!助かったんだよ!それに時間を稼いでくれたんだね!』

ロダン「あれだけでも役に立ったか、そいつは良かった。早く済ませな。俺はもう戦えねえぜ。今のでスッカラカンだからな」

ベオウルフ『復活に要する時間は?』

そこで単刀直入にベオウルフが問うた。
魔獣は未だに、ロダンへの警戒姿勢を解いていなかった。
ベオウルフは彼のことは知っているのだが、これは知っているがゆえの警戒である。
『憎きダンテの仲間』、それだけで無二の敵意を向けるには充分な理由なのだ。

一方ロダンは特に気に留めていない様子だった。
彼は跪いているガブリエルに向け、起つように手で示しながらこう答えた。


ロダン「もう復活してるだろうさ」


直後、彼のこれまた絶望的な言葉を裏付けるかのように、
この階層に猛烈な轟音が響いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:19:58.72 ID:tlLmcdr0o<>
ロダン「あの野郎、俺がまだ力残してると思ってビビってるみてえだな」

空を見上げ、不敵に含み笑いながらそう呟くロダン。
そしてぱちんと指を鳴らしてインデックスに向き直ると。


ロダン「―――この階層を外から丸ごとぶっ壊す気らしい」


禁書『―――』

その言葉にインデックスは凍りついた。

この『出陣の野』という地もまた上条当麻の召喚に必要不可欠な要素。
ここが破壊されてしまったら、彼の完全構築は不可能なものになってしまうのだ。

そんな不安に駆られたインデックスの表情を的確に読み取って、
ロダンはまたこともなげにこう告げた。


ロダン「俺がもう一度向かって、あの野郎を邪魔して来よう。充分時間稼ぎになるはずだ」


禁書『でもあなたはもう戦えないって―――!』

それに真っ先に抗議の声を放つインデックス。

ロダン「なあに。俺はハッタリが得意でな。それにあの野郎が怖気づいてるなら効果は抜群だろ」

禁書『―――でも―――!』

だからといって、テンパランチアが手を出さないとは限らない。

いいや、むしろ必ず戦うことになるはずだ。
インデックスの知っている限り、四元徳といった上位の存在は、
例え相手が己よりも遥かに強くとも相対すれば絶対に退かないのだ。

すでにロダンとテンパランチアは『開戦』しているため、
二度目は余計な会話無しに戦いに突入するかもしれない。


そしていざ戦いが始まれば―――今のロダンに勝ち目は無い。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:21:34.99 ID:tlLmcdr0o<>
ロダン「心配するな。死ぬつもりはねえ」

嘘だ。
確かにまず最初は死ぬ気は無いものの、
必要となれば迷うことなく投げ込むつもりだ。

そのように的確に彼の意図を読み取ったインデックス。
『それ』を彼女の表情から読み返したロダンは、降参したように手を広げ。

ロダン「じゃあどうするつもりだ。他に誰が行くんだ、お嬢ちゃん」

そのまま仕草で、この階層を満たす轟音に耳を向けるように示した。
着実に迫ってきている『崩壊』の秒読みに。

ロダン「ベオウルフは死なれちゃ困るんだろ、そしてガブリエルだけじゃ時間稼ぎになりやしない―――」


『―――我々が』


その時。
そんな風に会話に割り込みながら―――彼らの前に天使の一団が現れた。

数は十五体ほど。
そのどれもが神たる力を有した存在で―――『完全武装』していた。

そして一団を率いていると思われる、
分厚く見るからに頑丈そうな兜を被った―――ラファエルが一歩進み出でて。


ラファエル『我々が向かいましょう』


インデックスとロダンに向けそう告げた。
静かに、穏やかに。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:24:01.81 ID:tlLmcdr0o<>
ラファエルの後ろにはサリエルやラミエルといった面々の他、
人間界には名が知られていない天使もいた。

どれもこれもが神域の力を有した歴戦の強者たち。

だがそれでも明白だ。
この十五体が束になってかかろうと、テンパランチア相手では―――それも強化状態ならば、
『ただの時間稼ぎ』しかできない。


『十五体が死に要する時間』の分しか。


禁書『―――ッ―――』


ロダンにもそうしたのと同じく、
インデックスはこの天使たちの身もまるで『彼』のことのように案じるも。
彼女が声を放つよりも先に、ラファエルが静かな調子で告げた。

ラファエル『忘れてはなりません。「彼」は人と天のみならず、この世の全ての運命を握っている』

インデックスを真っ直ぐに見据え、半ば戒めるかのような声色で。


ラファエル『彼の復活もまた、竜の討伐に必要不可欠な鍵でしょうから』


それは暗にこう告げていた。

あなたには成さねばならない絶対的な『責任』がある、と。
『いかなること』があろうと決して放棄してはならない責務が、と。


この件についてはもう、インデックスが返せる言葉は無かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:27:51.28 ID:tlLmcdr0o<>
不満はあるも何とかインデックスは引き下がった、
と見たラファエルは、さっと踵を返すと今度はロダンの前に跪き。

ラファエル『閣下、恐れ多くもお願い申し上げます』

そう静かに切り出した。
他の十四体もまた、彼の後ろで同じように跪いていた。


ラファエル『父上とアマテラス様、トール様が、自らが出陣し他の御二方には残るようにと、
       互いに激しく言い合っておられるのです」


そこで一度咳払いし、
素直にも困った様子を滲ませて。

ラファエル『スサノオ様が説得のためにお戻りになる予定ですが、
       恐らくそのスサノオ様も、今度は自らが四公閣下に向け出陣すると仰るはずです」

それを聞いてロダンは大きくため息を漏らした。
言葉にはしないも、乾いた呆れ笑いからも彼の言いたいことは誰しもがわかるくらいだ。

ラファエル『今ここでは一柱たりとも長達を失うわけにはいきません。ですからどうかお願い申し上げます。
       閣下のお言葉ならば、父上達みなが思いとどまることでしょう』

これにはロダンに選択の余地はなかったことだろう。
彼は諦めたような口調で応じた。


ロダン「わかった。俺が話をつけてくる」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:31:00.17 ID:tlLmcdr0o<>
そうしてロダンの確約を受けると、
ラファエルは素早く立ち上がって今度はガブリエルに向き。

ラファエル『君は閣下と共に父上のもとに』

だが彼女はすぐには応じなかった。
なぜか、その理由は一目瞭然だ。

武具の類を現出させ、ラファエルたちと同じ『完全武装』となっていたその姿を見れば。
彼女もまた、ラファエルら兄弟達と共にテンパランチアに挑もうとしていたのだ。


ラファエル『ガブリエル。今の閣下には護衛が必要なのでしょう?』

だがこの言葉で彼女はようやく折れることとなる。
これにはあえてロダンも何も言わなかったのも、
更に彼女を折れざるを得ない状況に追い詰めたか。

口を引き締めて、無言のまま頷き返すガブリエル。
ラファエルはそんな彼女を引き寄せて家族の抱擁を交わした。

そうして彼女が他の兄弟たちとも『最後の抱擁』を交わしていく間、
ラファエルはもう一度一同を見回して、最後にインデックスに向くと。


ラファエル『彼をお願いします』


禁書『―――あなた達のために祈ります。常に―――とうまと一緒に』


インデックスはガブリエルと同じ表情で、微かに震える声でそう返した。

ラファエルは小さく微笑み返すと、
他の兄弟たちと共に軽く一礼し―――姿を消した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/02/29(水) 01:38:06.25 ID:tlLmcdr0o<>

天界のとある一画。
四元徳の『私有地』とも言えるその階層に、十五体の天使達は侵入していた。

天高く聳える巨大な柱、延々と続く白亜の石畳。
本来ならばまず許しを得ねばならないその回廊を、彼らは許可無く猛然と突き進んでいく。

だがあえて止めようとする者はいなかった。

四元徳お抱えの最精鋭―――上級三隊の者達が、
両脇の列柱の隙間から覗きながら平行してついてきているも、
彼らが向かってくる気配は一行も無い。

彼らはわかっているのだ。
わざわざ奥に向かうのを止める必要なんて無い、と。

そして笑っているのだ。
絶対的な主に歯向かう愚か者達、その先に待ち構えている結末を。
その点については、十五の天使たちも充分に理解していた。



そう遠くない未来のこと。

アンブラの魔女が『義妹』になり一族に名を連ねるという、前代未聞にして素晴らしき日が訪れるだろうが。
ここにいる十五の兄弟達は、その日を目にする事はまず叶わない。

しかしそれに関して悲観はしていても、退く理由に結びつくことは無かった。
むしろより前に進む原動力となる。

当然である。
彼らが何よりも恐れているのは、その日が訪れる『未来』が幻想に終ることであり。


そしてその『未来』を実現させるには―――この先に進まなければならないのだから。


回廊の突き当たり。
先頭の一人がこれまた超大な門を斬り飛ばしては、玉座の間へと飛び込み。


彼らは四元徳が一柱、『節制』へと向かって行った。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/02/29(水) 01:38:56.62 ID:tlLmcdr0o<> 今日はここまでです。
次は金曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/29(水) 01:41:20.31 ID:hP+2icFIo<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/29(水) 01:44:50.33 ID:DaOizt6DO<> 家族思いの良い奴等だ。自己犠牲過ぎるのは天使故か

http://www.youtube.com/watch?v=IwThasT3C8E <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/29(水) 07:13:00.05 ID:bybAU5+l0<> 乙乙乙
天使たちに泣いた

テンパランチアさん、ただの貯金箱じゃなかったのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/02/29(水) 14:34:15.24 ID:YbPxfT/c0<> テラパンチラさん・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/29(水) 14:44:22.66 ID:LxaMv/6DO<> 作業感覚で蹂綾してたおよねさんェ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/29(水) 14:49:24.00 ID:zHlZDjoAO<> さすがはロダンアニキや
アニキの瞬極殺にゃテラパンチラ様も即KOやでえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/02/29(水) 15:35:55.34 ID:8MkhZck7o<> お疲れ様です。
このSS的に全盛ロダンは単体では覇王、魔帝どころかスパーダより上に位置してそうだ。
ジュベの右側だからそれくらい有り得そうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/03/01(木) 01:54:16.36 ID:tsNxHE0+o<> スパーダといいロダンといい右腕は裏切り者ばっかりだなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/01(木) 22:38:13.22 ID:6nLweD8DO<> スタイリッシュゴキブリ(スパーダ)さんとリアル浮翌遊小林幸子(ロダン)さんは魔界でかち合ったりしたんだろうか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/01(木) 23:54:06.89 ID:mgH4Z5K50<> 間違いなくあっただろうな

後々のコスプレ趣味から考えると、
おそらくスパーダの「伝説の魔剣士」コスチュームは
ロダンが用意した服だったんだよ!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/02(金) 00:21:39.29 ID:mkfcl/AAo<> な、なんだっt(ry <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/03/02(金) 05:49:51.81 ID:/MVYxmd40<> (`・ω・´)スタイリッシュ三次創作の素材には事欠かないこのスレです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/03/03(土) 00:09:07.38 ID:/xfa02TZ0<> 最盛ロダンは頭上のヘイロウがジュベ様と同じだから相当強いことは間違いないだろうね。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:33:25.66 ID:wZv9+IAwo<>
―――

バージル『ここに立っているのならばわかるはずだ』

それが挑発的な弟に向けた兄の第一声だった。
身はそのまま、顔だけを少し向けているバージル。

その視線は首を一突きするかのごとく殺人的な鋭さだ。

これに対して、ダンテは挑発的な笑みを返して。
ベヨネッタやアイゼンが静かに見守る中、恐れもせずに単刀直入に告げた。


ダンテ「―――『それ』、俺にやらせてくれねえか?」


一際強く張り詰める空気の中、
この場の者はみなダンテが指した事柄をすぐに把握した。

ここでこのタイミングでこの言い方となれば一つしかない。


新たな人間界を完成させる―――バージルの最後の『役目』である。


ダンテの要求は特に複雑なものではなかった。
むしろ単純明快、言葉通りそのまま―――かの『役目』を寄越せということだ。

だが内容は単純でも、成すにはきわめて難きことだった。

バージルとは一体どんな男なのか、
彼がどのような考えでここに立ちかの大役を引き受けたのか、
それを知っている者の耳には困難極まる要求にしか聞えなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:35:51.70 ID:wZv9+IAwo<>
アイゼンがはっと息を吐く音が静かに広がった。

不意に胸に一撃加えられたようなものだ。
この極度の緊張空間の中に、更にこんな『無理難題』が投げ込まれた拍子で、
思わず吐き出してしまったのだ。

ジャンヌも同じように緊張と焦燥が入り混じった表情を浮かべており、
ローラにいたっては子供のようにこの『長』の背後に隠れていた。


だが―――ベヨネッタだけは、高まる緊張に気圧されていくどころか。

むしろダンテが現れた瞬間よりも、今や呼吸も穏やかに落ち着き払っていた。
彼女はある種の安堵を覚えていたのだ。

ダンテに『あるもの』を見て。



バージル『―――……もう少し利口だと思ったが』


永遠にも思われた一幕ののちバージルが口を開いた。
沈黙を破る声だったが、緊張を緩和させるどころか空気を硬化させる強烈な言霊。
もはやこの空間の大気は、喉に詰まらせて呼吸困難に陥ったと言っても信じれてしまうほどのものだ。

ただ、誰しもが己の存在を消したいと思ってしまうそんな環境の中でも、
この男は全く自重せずに突っかかっていく。


ダンテ「そいつは俺の台詞だ」


更に挑発的に、語気を徐々に強めて。


ダンテ「お前はどうしようもねえ大バカ野郎のクソッタレだ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:37:43.69 ID:wZv9+IAwo<>
ダンテの顔からも薄ら笑いは消えていた。
彼はいかにもとげとげしく空気を放ちながら首を傾け。

ダンテ「おいバージル。なんでお前がそれをやらなきゃなんねえんだよ」

バージル『……わかっているはずだが。これが俺の「使命」。スパーダの遺した「宿命」だ』

熱を帯びるダンテとは対照的に、
不気味なまでに冷徹な声を返すバージル。
だが次の弟の言葉で彼の佇まいにも変化がし生じていく。

ダンテ「そうだろうな―――『昔』のままだったらな。だがお前は変わった」

バージルの『心』を突く言霊。


ダンテ「ムンドゥスをぶっ殺したあの日にお前は―――『スパーダの使命』だの『血の宿命』だのとは決別したはずじゃねえのか?」


兄は鋭く見返すとこう返した。

バージル『己が―――この俺を救い変えたとでも思ってるのか?ダンテ』

尋問するかのごとく、
『冷ややかな熱』が滲む声で。

ダンテ「―――そう思っているのはお前の方だろう」

すると弟は「何を馬鹿なことを」とでも言うかのように、
間髪入れずにたたき返した。


ダンテ「俺はただ手を伸ばしただけ、掴んだのはお前だ。お前自身が選択したじゃねえか」



ダンテ「なによりも―――『生きること』をよ」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:40:43.55 ID:wZv9+IAwo<>
そこで数秒、しばしの沈黙が訪れた。
バージルは一瞬僅かに目を細めて沈黙。
ダンテは彼が今の言葉を噛み締める間を与え、そして返される声を待った。

だがバージルは黙したまま。

ダンテ「……いい加減にしろよ」

そんな兄に呆れ、弟はまた自ら口を開いた。

ダンテ「―――お前は生きなきゃなんねえんだ。ネロと同じ世界で同じ時間を生きて、
     いつかデキルあいつのガキのお守をしなきゃなんねえんだよバージル」

身の底で滾る衝動が漏れ出したのか、
ダンテは強くコートを叩き掃い、その手でバージルに突きつけるように指差して。


ダンテ「それともなんだ、お前は―――あいつを俺達と『同じ目』にあわせるつもりなのか?」


ダンテ「父が消え、子が英雄になり、英雄は父となり、ある日―――子の前から消える。これを繰り返そうってのか?」


バージル『―――それが最善の策ならばな』

そこでバージルが声を発した。
さも当然といった声色で、半ば吐き捨てるように。
対してダンテもまた更に熱を帯びて。

ダンテ「どこが最善だバカ野郎。お前はろくに人間として生きることができないまま死に、ネロは俺たちと同じく父親を失い、
     『誰しもが望むとおり』のスパーダの血の業を背負った『英雄』になり、『父親のように消える』まで宿命が引き寄せる戦いに明け暮れる」


ダンテ「何もかも同じだ。時代と敵が違うだけで、筋はまるっきり同じじゃねえか。お前はこれを繰り返すってのか?」


低く重く、兄を押し潰そうとしているかのごとく言霊で吐き捨てた。


ダンテ「お前だって見えてるんだろ。俺達を躍らせてるこの―――『レール』が。お前はこんなもんに従うってのか?」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:42:53.92 ID:wZv9+IAwo<>
この場は表面的には、
ダンテによる一方的なものに見えたかもしれない。

だが水面下では確かに、彼らの声にならぬ精神が激しくぶつかり合い、
そして確実に―――『何か』が変化していた。


ダンテ「想像してみろ。バージル」

弟が少し声色を和らげ、手を広げて促していく。

ダンテ「週末にネロと一緒に悪魔狩りにでもくりだして、徹底的に痛めつけて、
     まだまだだなと小馬鹿にして、ワインを飲みながら世継ぎの孫をさっさと作れとチクチク言う」


ダンテ「お前にはそういうくだらなくて当たり前の『人間としての未来』がある」


ダンテ「たった一人で戦い続けて、仇に負けて人形にされ、挙句に弟に殺される、
     そんなお前のクソみてえな30年の中には無かった世界が今あるんだ」


そこでダンテは一度、静かに息を吐いて。
「なあバージル」と、この極限の場にはあまりにも不釣合いな、
穏やな声で呼びかけて。


ダンテ「お前は今―――『母さんと一緒に失った』と思っていた世界に立っている」


ダンテ「お前はこれを―――『捨てよう』ってのか?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:45:48.14 ID:wZv9+IAwo<>

バージル『―――「たかがその程度」のために、この俺の代役となるつもりか?ダンテ』


そこでバージルが変わらぬ静かな声で問い返した。


バージル『兄の「俗物的な未来」のためならば、喜んで命を差し出すと?』


ダンテ「喜んで差しだしはしねえよ。俺だって死にたくねえし、やりたいことも腐るほどある」

するとダンテはコートをもう一度叩き掃うと、
穏やかな声色からまた熱く攻撃的に吐き捨てた。

ダンテ「だがこのクソッタレな『筋書き』に従っちまえば、お前はまた『負債』を全部背負ったまま消え、
     『後始末』しただけでのうのうと生き残った俺が『英雄呼ばわり』される―――」


ダンテ「―――これにはウンザリなんだよバージル。もうウンザリだ」


そうして次いで制するように掌を向けて、半ば諦めたような声色で。

ダンテ「お前の性格は知ってるさ。一度決めたことは絶対に曲げやしない」


バージル『―――ではどうする。刃で俺を退けるか?』


するとバージルは先読みしたのか、そう問いかけた。
冷徹な調子は変わらぬも、握る閻魔刀に明らかに焦げ付くような意識を向けて。

そんな静かにして明確な『挑発』に応じたかのように短く笑うと、
ダンテは素早く背の柄を握り。
リベリオンを振り下ろし、豪快に床に突き刺し。

ダンテ「『いつも通り』のやり方か。俺としてはそれも好きだが―――」


そのように喧嘩を買った上で―――


ダンテ「―――だが―――その『いつも通り』じゃダメだって言ってんだよ」


―――否定した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:48:23.85 ID:wZv9+IAwo<>
その行動とは裏腹のダンテの言葉。
己を体現している刃を突き降ろし、『これまで通りの解決法』を拒絶した男、
そんな言霊が場の空気を静寂で満たした。

突き立てられたリベリオンが震える涼やかな音が尾を引き。
数秒かそれとも数十秒経ったころか、


ダンテ「……ネロはスパーダを折ったが、それだけじゃ足らねえ。お前もここで『変わる』必要がある」


ダンテはそう口にすると、そっと突き立てたリベリオンの柄から手を離して。



ダンテ「バージル、人生に一度くらいは―――『妥協』しちまえよ。人間の子ならな」



兄へ向けて笑いかけた。
軽く、さながら他愛も無い掛け合いのごとき調子で。

この時にはもう、沈黙は沈黙でも、
場の空気には先ほどのような一触即発の極限の緊張は漂っていなかった。


ダンテ「……これが。ここに運んできた俺の答えだ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:50:58.60 ID:wZv9+IAwo<>
そしてこの時―――ダンテは兄の僅かな変化を見逃さなかった。

己がリベリオンから手を離したのと『同じ』ように、
バージルの強烈な意識が閻魔刀から解けていったのだ。

瞬間に覚える『成功』の期待。
この一か八かの『交渉』が功を奏し、
頑固な兄に全面的に応じさせるという最高の結果を引き出せた、と。


だがそれは束の間の勝気でしかなかった。


バージル『―――……お前の話も道理に適ってはいるが。一つ、どうしても気に食わん点がある』


忘れてはいないも、このバージルという男がいったどんな人物なのか、
ダンテは再度嫌と言うほど思い知らされることとなった。


バージル『俺の代役として、一人の「愚か者」が死ぬことだ』


やはり負けず嫌いで―――ひと筋縄ではいかぬのだ。


バージル『―――悪いがダンテ、俺はこの役目を降りるつもりはない」


このバージルという『愚か者』は。


バージル「なぜならば俺も、その「愚か者」と全く「同一」の―――「愚かな理由」があるからだ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:55:59.61 ID:wZv9+IAwo<>
それはダンテの道理を逆手に取った返しだった。
『同一の理由』を盾にされてしまうと、ダンテの側は八方塞になってしまうのだ。

己と同じ理由で頑なに役を降りようとしない兄に、
悔しさと憎たらしさそして―――嬉しさを覚えながらも、弟は反撃の言葉が思いつかなかった。

一方でバージルは、
そんな弟をがんじがらめにするだけじゃ飽き足らず、更に追い討ちをかけてくる。


バージル『―――この女が何か言いたいらしい』


これまた事も無げな、冷静で落ち着いた声色。

ただし兄がこんな顔をしている時は、その内はダンテですら全く掴めない。

傍にいる不敵に微笑しているベヨネッタの様子に気付いたのが、
はたして本当に今なのか、
それとも『交渉』の途中からすでに意識していたのか。


はたまた―――最初から『この選択』も用意していたのか。

ダンテにそれを知る術がなければ、
直後にこの女の提案を耳にした時にはもう特に重要でもなかった。



ベヨネッタ『―――二人でやれば良いんじゃない?半々なら、魂も使い切らずに死なないと思うけど』



魔女は平然と告げた。
半ば二人を小馬鹿にするような色を含んで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 00:59:36.56 ID:wZv9+IAwo<>

ベヨネッタ『―――それに火種がバージルだけじゃ新しい人間界は堅苦しくなりそうなのよね。それって私的にはあまりね。
       神裂をさんざん揺さぶって「柔い人間性」も補充してるけど、やっぱりまだまだ全然足りないし』


そしてこの声に―――相変わらずなんと『卑怯』で『負けず嫌い』なのか―――バージルは鼻を鳴らす形で同意を示し。
さも当たり前のこと・特に思い悩みもしないといった調子で。


バージル『―――ダンテ。この女の案に「妥協」しろ』


これにはダンテは心の中で悪態をついてしまった。
これではまるで、こっちが丸め込まれたようではないか、と。
ただしそれとは裏腹に、彼の顔にはいつもの不敵な笑みが自然と浮き上がっていた。



バージルという男。

真っ向から挑んでくる者に対しては、
そこらの子供だろうが、魔界の覇者であろうが―――弟であろうが関係ない。

相手の身分や力関係なく、相応の態度で受けて立ち、
一切卑下せずにその言葉に耳を傾け、それが正しければ己が過ちを容易に認める。

しかしその一方で負けず嫌いで、不器用で、貪欲で、強欲で、どうしようもないくらいに頑固。


そんな兄を見てると、ダンテは呆れて、悔しくて、憎たらしくて、そして―――嬉しくてたまらなかった。


将来の気質からか、恐らく無意識の内にであろう。

彼はあたかも自らが勝者のように振舞っているが、
ことを整理すれば、『有り得ない妥協』を呑んだのはバージルの方である。
彼は今、その人格からは考えられない判断を下したのだ。

『己だけの仕事』、それを頑として突きつけていたこのバージルという世界屈指の頑固者が、
憎たらしい弟の言葉に耳を貸し、
息子と弟が生きるこの世界・時間に愛着と未練があることを認め、
そして納得し、自らを戒めていた覚悟を解いたのだ。


―――それも一切刃を使わずに、音による対話だけで。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 01:02:12.67 ID:wZv9+IAwo<>
ダンテはそんな兄に向け、ハっと乾いた笑いを捧げた。

クソッタレな筋書きが突きつける血の宿命ではなく、
己自身の心に耳を傾けられたことへのささやかな称賛と。

あたかも自分が勝者であるかのように・何事も無かったかのように振舞う、
どうしようもないくらいに負けず嫌いなその姿への皮肉を篭めて。


そしてダンテはふと、『腕時計を見る』ような芝居がかった仕草をとり。


ダンテ「―――わかった。それで妥協してやるよ」


この憎たらしい兄の態度に合わせて、
あたかも敗者のように『妥協』してみせた。


ダンテ「そろそろ『王子様』のお目覚めタイムなんだ」


ただし「仕方なくだからな。この予定が押してるからだ」と言うかのように、
腰から引き抜いた黒い拳銃を見せ付けながら。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/03(土) 01:03:33.64 ID:wZv9+IAwo<>
こうしてネロに続き、バージルも『選択』し『変わった』。
宿命を跳ね付け、己の心に従い本当の意味で『自力』で踏み出した。

だが―――これで解決したわけではない。


ダンテはわかっていた。


―――次は己の番だ、と。


そして自覚していた。
スパーダの血の宿命、その因果は―――己にもっとも強く集束している事を。



流れに生じたこの大きな歪み。

ここに『筋書き』は、全てが『過去』をなぞり―――『繰り返し』になるように、
更なる『修正』を加えていく。


それもより強烈で、鮮烈で、狡猾で、どうしても『逆らえない』ような形で。


しばらくののち、ついにその番が回ってきたとき、
スパーダ息子ダンテは生涯最大にして『最悪』の決断を迫られることになる。


彼が筋書きを完全拒絶するには―――己が信念の何もかもを捻じ曲げて―――


―――『絶対にやれない事』を成す必要があったのだ。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/03(土) 01:04:21.82 ID:wZv9+IAwo<> 短いですが今日はここまでです。
次は月曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/03(土) 01:05:27.33 ID:C8TWTQT5o<> 乙!

やっぱ良いわこの似た者兄弟ww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/03/03(土) 01:23:18.29 ID:uVr6uB2Wo<> 乙乙!バージルマジバージル
しかしダンテがやれない事か…借金返済とピザとサンデー我慢位しか想像できない
種明かしが待ち遠しくて仕方ない、次も楽しみに待ってます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/03/03(土) 02:00:29.72 ID:mCEF8YKdo<> と言うか二人でやるって考えは鼻っから頭にないのかw
さすが兄弟、頑固な馬鹿だw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/03(土) 02:08:51.13 ID:zl51qrkao<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/03(土) 02:38:09.27 ID:ofEeU3YDO<> 兄弟に思わずニヤリとしたが、不穏な空気がまたあるな……。つかトリッシュが兄弟の基本である人間の姿はいずれ朽ちて、悪魔の姿が基本となるだろうって予想してたが……で、ネロとかその子孫もそういう感じになるとしたら、スパーダ一族はいずれは凄まじい数になりそうだな。それはそれで面白いが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/03(土) 07:38:19.81 ID:XLVQsWVR0<> 血や力だけ引き継いでも
真の意味でスパーダの一族にはなれないんだぜ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/03(土) 10:16:47.43 ID:ofEeU3YDO<> >>402
そうだった。悪魔なるの前提で考えてたわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/03/03(土) 10:32:02.56 ID:cDPze0FN0<> 乙ー

ピザとストロベリーサンデー、どちらかを己の人生から
永久に諦めなければならないという苦渋の決断に
迫られるのか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/03(土) 14:54:01.49 ID:gg2zJGbro<> お疲れ様です。でもこれ以上フラグを建てられると読者のSAN値がマッハでブレイクダーンしてしまいます。
ていうかピザとかサンデーとかおまえらダンテをなんだと思ってるんだ!まだあるだろ!・・・まだ!なんか!・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/03/03(土) 16:25:09.04 ID:1r22s3hko<> 財布の中身 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/03(土) 18:08:59.21 ID:ofEeU3YDO<> >>406
やつは借金まみれだぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/03(土) 21:17:58.86 ID:WEF73hjbo<> 3の若い双子だったら即血みどろの喧嘩だっただろうな・・・と思った
それぞれ「らしさ」は残しつつのこういう変化はなんか胸熱 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2012/03/04(日) 09:59:45.58 ID:SSWZdYzZ0<> バーヅル「俺がやる」

ダソテ「俺もやる」

ネロ「じゃあ俺も」

双子「どうぞどうぞ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/05(月) 02:13:52.07 ID:cWoquBnJ0<> 乙でした!
この二人ならコントローラー無操作でエアギターデュオが拝めそうだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/05(月) 11:56:38.06 ID:sGauvg0w0<> 敵がギューンって来たらブレイクダァゥンして、ダンテェーィとか言ってる隙にホォーゥしてバババババってする。
そのままシュバっと跳んだ瞬間にヒヤ!ヒヤ!ヒヤ!ヒヤして、ブラストォ!の直後にレッツローック!
でスウィート!ベイベーッになったらゴーマリソーンになる前にバヒョッで周りの相手にカムヒヤッミ。
けどそれだけやってもまだ敵がベリカッベリカッベリカッならフッフンヤッホウッからカーマボーコーして、
最後にソノゲンソーヲブチコロース!クコケクケクキクキクキコキカカカ――ッ!!してれば大抵のバッボーイは
ハハハハハ!マミーユアベスト!で倒せる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/05(月) 22:15:46.34 ID:HsteW7DAo<> すみません。
今日の投下は諸事情によりありません。
できれば明日に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/06(火) 00:03:01.72 ID:QvZjUgGDO<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/03/07(水) 03:01:40.28 ID:muySB24m0<> 今日もないのかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:34:27.13 ID:LuGI4XwTo<>
―――


『―――父上はもうお戻りに?』


そんな涼やかで礼儀正しい声に『青年』が振り向くと、
野の少し離れたところに、兄弟のうちの一人―――ラファエルが立っていた。

甲冑を纏うその身は、こちらよりも頭二つ分も高いという長身男だ。
細くしなやかな、それでいて逞しい手には、
鮮やかな『人間界のリンゴ』を持っている。


そんな兄弟の姿を見、『青年』は片方の目尻を細めては小さく笑んだ。


『ああ。ガブリエル達も持ち場に戻ったぜ』


そう返してはまた手元に視線を戻し、『青年』は作業を―――『出陣準備』を続けた。

魂を暖め、力を練りこみ、現出させた装具を確かめ。

そして『右手』と―――そこに宿る『聖剣』の状態を何度も確認する。

と、そうやって右手の確認に差し掛かったところ、
リンゴを齧りながらしばらく黙って見ていたラファエルが口を開いた。

ラファエル『それですか?例のは』

関心がありそうにも聞えるも、それほどこれ自体には執着もない、
会話を紡ぐためにきっかけにしているだけのようにも伺える。

『青年』はふと手を止めると、
今度は身も向けて右手を兄弟にかざし見せて、軽く告げた。

          フィアンマ
『そうさ。これで「竜王」を討つ』 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:36:24.71 ID:LuGI4XwTo<>
ラファエル『なるほど……』

振り向かせて話のきっかけを作ったは良いものの、
どうやって言葉を繋げていこうか思いつかない、といった様子だ。
そして苦闘の末にひねり出すは他愛も無い言葉。

ラファエル『私がその役を担っても良かったのですがね。それに今日は特に仕事もありませんし』

前一つは本心であり事実であろうが、
二つ目は場を繋ぐために今思いついた嘘であろう。

現在、名だたる兄弟たちはみな軍団を率い、戦闘配置についていなければならない。

これからの竜王との一閃を皮切りに起こる大きな情勢変動、
その際に発生するかもしれないあらゆる不足の事態に、今や天の全軍が備えているのだ。

それなのに彼がここにいるということは大方、
軍団指揮を無理やり下の者に任せて舞い戻ってきたのであろう。
そうして正式な見送りの列に同席することは叶わなかったも、
こうしてなんとか出陣前に会うことが出来たわけだ。


青年は、そんな兄弟の『嘘』に軽口を返した。

『残念だな。お前が俺以上の「悪人」だったら、四公閣下もお前をご指名なさっただろうさ』

もちろん冗談である。
確かに天の中でも問題児と名高いが、
青年は『追放ついでに』といった形でこの役目を貰ったわけではない。


―――人間のことを誰よりも知っていたから指名されたのだ。

無論、指名される前に自ら立候補もしていたが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:38:54.58 ID:LuGI4XwTo<>

ラファエル『時々、あなたが人間に似たのか、人間があなたに似たのかがわからなくなります』


手にあるリンゴをふと眺めながら、そんな事を言う深緑の天使。

このラファエルという天使は、ときたま出し抜けに妙な事を言う。
哲学的な比喩を含ませているのか、
それとも心に湧き出した言葉をそのまま放出しているのか、判別し難い言霊だ。

人間が似たのか、それとも―――なんて、言葉通りに受け取れば随分とおかしな問いだ。

現実的にはど、ちらかがもう片方に影響されたなんてことはまず無い。
『偶然』にして『必然』的に似ていただけだ。


強いて言うならば、主神ジュベレウスの『趣味』、
もしくは『今回の創世』の『テーマ』の一つを人間と共有している、という程度だろう。

知恵ある種の大半は、主神ジュベレウスと同じ一対の手に一対の足というの基本的造形、俗に言う『人型』となる。
(そして恐らく主神ジュベレウスの気分次第で、創世のたびにその『主流の造形』は全く別のものになるのであろう)

人型でなくとも牙ある獣から木々、
翼に至るまで、その他の生命種の造形にも大体似たパターンがあるものだ。

また文化面も、成熟すればどの世界のもある程度似てくるもの。
例えばかつての魔帝の宮も四元徳の宮も、
壮大な列柱に見事な石畳といった根の建築様式は同一といったように。


―――と、これが言葉通りに受け取った場合の答えである。

だがラファエルは、
この問いにそれとは別の何かを含んでいたのは確かだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:41:25.11 ID:LuGI4XwTo<>

ラファエル『―――私もあなたと同じく人間を愛していますが、私はあなたのようには人間が「わからない」』


兄弟の言葉を図りかねて返す声に困っていた青年に向け、
ラファエルは続けてそう告げてきた。

その誉れと讃えに満ちた言霊の中には、無垢な嫉妬のような色も僅かに覗いていた。


その嫉妬は言葉通り、青年が自分よりもよく人間を理解している点に向けたのか。
それとも彼が天の家族と『平等』に人間を愛していることに、一欠けらの不満を抱いていたのか―――


―――これまで家族が占有していた強い絆までもが、異世界の無数の者に向け『ばら撒かれた』ことへの。


ただその感情を敏感に悟ったも、
青年はそこを深く言及しようとはしなかった。

ラファエル自身が、この自らの『揺らぎ』に困惑している節も見て取れたからだ。

青年の側としては、その『揺らぎ』に水を差し無下にしたくなかった。
ラファエル自身はまだ気付いてはいないものの、
その『揺らぎ』こそが人間を理解するにもっとも重要な要素なのだから。


『―――心配ないさ。これからだ。今後はみんな、もっと人間界に触れるようになるからな。お前も必ず人間達が理解できるようになる』


ラファエル『そうでしょう。理解を深めることは叶うでしょう。しかしあなたほどには決して……』

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:44:19.26 ID:LuGI4XwTo<>

ラファエル『…………ルーメンの使者達が今朝届けてきてくれたもです』

そこで話の切り替え時と悟ったのか、
ラファエルはふと手元のリンゴに目を落としそう告げたも。

それを聞いて少し苦笑いする青年の顔を見て、
同じようにばつが悪そうに微笑み返した。

ラファエル『……ああ、確かあなたはあまりルーメンのことを……』

『長のマハラレルのことは信頼しているよ。彼は文句なしの指導者さ。俺が気に入らないのは長老院の方だ。
 どうせそれ届けた使者ってのも長老院のやつだろ』

ラファエル『……まあ、はい』

『あいつらセトの血筋の追放し、カインの復権とメホヤエルの長擁立を目論んでるからな』

それを聞いてラファエルは一転、
ばつが悪そうに陰らしていた顔を驚きと嫌悪の色で満たした。

ラファエル『まさか!カインの血筋は、アベルの件で永久放逐されたでしょう?四公閣下御自ら裁定なされたはず。
       長の就任には四公閣下の承認も必要ですし、メホヤエルが長になるなんて不可能でしょう?』

『そうなんだけどな。でも四公閣下は、カインの血筋の力を高くご評価しておられる。
 今後は勢力強化のため貪欲な発展力が必要だが、セトの血筋は穏健・慎重すぎる、ってのが四公閣下のご見解だ。
 アンブラがやけに勢いづいているのに警戒なさってるのさ』

ラファエル『つまり……四公閣下もすでに承諾なさってると?』

『ああ。救済はさすがにしないだろうが、
 今後ルーメンの全てを四公閣下が直接管理なさることが条件で、恐らく復権が許可されるはずだ』

ラファエル『直接管理、ですか……』


『……四公閣下の庇護の下に約束される繁栄だ。長老院も全会一致で条件を呑むだろうぜ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:46:55.79 ID:LuGI4XwTo<>
偉大なる四元徳のご意向ならば、そこに間違いなど有り得ない。
そう確信はしてはいるも、一方で微かに漂う不穏な気配―――


―――何か、何か嫌な予感がする、と。


そんな静寂を二人はしばらくかみ締めた。

ラファエル『…………父上も当然ご存知ですよね?』

『もちろん。セトの一族が追放されちまったら、父上があいつらを支えると約束もしてくれた』

ラファエル『そうですか。では一先ず安心ですね。彼らは失うにはあまりにも惜しい「逸材」です』

『ああ。中でもヤレドの子は特にすげえぞ』

ヤレドの子、そう青年が嬉しそうに口にすると、
ラファエルは再び先と同じ僅かな嫉妬を滲ませた。

ラファエル『知ってますよ。エノクでしょう?あなたが特にほれ込んで教師役になっている事はみんな知ってます』

『あいつは才も人徳も申し分ない。何もかもが完璧さ』

ラファエル『ですが少し心配ですね。あなたに教えられたという点が。あなたの性格がうつってなければいいのですが』

次いで称賛の言葉に、ラファエルは意地が悪そうに目を細めた。
そんな兄弟に向け、青年は同じ調子で目を細め笑い。


『思いっきり心配するがいいさ。その心労の損はさせない大物になるだろうぜ』


ラファエル『それは今後が楽しみです』

そして今度ばかりは、この深緑の兄弟は涼やかに返した。
未来への期待に満ちた、翳りのない素直な微笑で。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:48:47.37 ID:LuGI4XwTo<>
そんな屈託の無い笑顔を見て、
青年は少し申し訳なくなってしまった。

『…………悪いな。見送りに来てもらったってのに、こんな話ばかりで』

ラファエル『かまいませんよ。そもそも私がここにいるのは「非公式」ですから』

会えただけで充分。
そんな言葉が後に続いて聞えそうなくらい、この素直な顔から滲んでいる。
その穏やかな雰囲気に誘われるようにして、
ふと青年はここであることを思った。

『…………打ち明けることがある』

この非公式の場を利用して、
今まで誰にも告げたことが無いある胸の内を、彼に遺して行こうと。

青年は臆面も無くするりと告げた。


『俺は人間が羨ましいんだ』


その瞬間、ラファエルの顔が引きつった。
驚愕と困惑と疑念、そしてある種の失望も抱いたのか。


ラファエル『……ど、どういった点が……?』

理解し愛することはできる。
だが普通は誰も『人間になりたい』とは思わないものだ。
むしろ人間への羨望は、まさに魔界的な極めて危険な思想と疑われる場合もある。

天界と魔界、その性質の共通点といえば憤怒くらいだ。
だが人間界と魔界は、その他に傲慢、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲も共通させているのである。

恐る恐るといったラファエルの問い。
何かの間違いであることを期待している彼に、青年は心の内で謝りながら告げた。


『特に人間のような―――愛情が羨ましく思う』


嫉妬と色欲の権化を。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:50:18.40 ID:LuGI4XwTo<>
ラファエルの表情が驚愕から憤りに変わった。
それも当然の反応であろう。
猛烈な嫉妬と色欲が引き起こした、人界の神々の行いを知っているのだから。

『―――確かにあれはいき過ぎだ。俺だっておぞましく思う』

放ち返される言葉を予期して、青年はすぐに付け足した。

『でもよ、「青銅の種族」のアンブラやルーメンはそうじゃないだろう?慎ましくも豊かな人間界の愛情の形がある』


ラファエル『―――愛は天にもあるでしょう?!』

『違うんだラファエル。人間界のと天界のは根本的に違う……』

ラファエルは一時声を張り上げてしまったも、
今更ここで言い合ってもどうしようもないと察したのだろう。
己を自制し、ゆっくりとため息をついた。

ラファエル『……全く……あなたという天使は……』

『どう説明すればいいのか……俺たちと同じ愛情とは別に、人間はまた別の形の―――特別なものを持っている』

ラファエル『私達には無いものですか?』

『ああ。天界には無い。人間界の混沌が生み出す輝きさ。それが人間、特に「青銅の種族」の弱点でありそして強さの源だ』

ラファエル『愛が……強さ、ですか?癒しではなく?』


『そうとも。確かに「青銅の種族」は非力だけど、計り知れない潜在能力もあるんだ。「あれ」は他のどの世界でも見たこと無い』


ラファエル『なるほど…………それが羨ましいと?』

もはや諦め笑いを含んだ声。
続く青年の言葉は、そんな彼を更に呆れさせてしまった。


『―――ああ。はっきり言うと、俺はそれを理解するためにも―――人間になりたい』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:53:11.68 ID:LuGI4XwTo<>
『もちろん最大の目的は、竜王の討伐による「青銅の種族」の解放だからな』

一気に呆けるラファエルの顔を見て、慌てて付け足す青年。
深緑の天使は更に大きく息を漏らした。

ラファエル『そうでしょう。そんなことを言い出してしまうのも、人間を愛しすぎた末路でしょう』

どうしようもないですねあなたは、と皮肉篭められたいつもの小言を言われ、
ニヤリと笑って流す青年。

これは今に始まったやり取りではない。

このようなものはラファエルのみならず、兄弟みなと毎度のごとく交わしている。
ここぞという時にくる「いい加減自重なさい」というガブリエルのお叱りが加われば、
それで日々の会話は完成だ。

こちらの突拍子もない行動と言動に呆れずにいてくれるのは、
一緒に笑ってくれる豪胆なカマエルか、もう何もかも諦め通り越している父上くらいである。



そろそろ時間だった。

ラファエル『……あなたが行ってしまうと、また一段とここは静かになってしまいますね』

準備と再点検を終えた青年の様子を見てのラファエルの言葉。
それで青年はふと『偉大なる大逆者』達の姿を思い起こした。

この天の世界から『積極性』というものを丸ごと持ち去ってしまった、勝気な荒くれ者達を。

『……トールさんも随分お固くなっちまったし、アマテラス様も最近はご散策なさらないしな』

そしてその『積極性』の一翼を担っていたも、
協調や責任のため自重せざるを得なくなった残った者達のことも。


ラファエル『―――平和そのもので言う事無しです』


ラファエルの笑みには、
懐かしさと憂いも篭められていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:54:15.52 ID:LuGI4XwTo<>

『―――だがそれもいつまでもつか』

そんなラファエルに向けて、ここで青年は思わせぶりにそう言葉を挟んだ。
そして言い逃げるかのように彼に背を向け、


ついに出現した光の『門』に向き合い。


『覚悟しとけ。きっと―――何もかもが変わるぜ』


確かな声を放った。

『しっかり目を開いて彼らを見ていてくれよ。抑制から解き放たれた「青銅の種族」の世界は、
 爆発的な速度で「鮮やか」になっていくはずだ』

ラファエル『……』

『それを見てれば必ずわかるはずさ。より深く人間のことも。俺がなんでこんなことを言ったのかも。必ずな』

そして横顔向けて。


『そして人間界だけじゃない、世の全てが変わる。人間界を中心として、天界と魔界も含めて全ての世界が動く』


豪語した。

ラファエル『……どうしてそこまで確信できるのですか?』


『―――俺がそう願うからさ』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:55:35.39 ID:LuGI4XwTo<>
自分で口にしていても、なんと身の程知らずな言葉なのかと思ってしまう。

だがこれは本心だ。
愚かにも「青銅の種族」を解放するというだけに留まらず、
その先の未来にも己の理想を当て嵌めようとしているのだ。

今更この本心を隠してどうなる。
今生の別れたる場で、心の内を包み隠してしまう方が無礼というものだ。

少なくとも愚直で衝動的な青年にはそう思えた。


ラファエル『随分な独り善がりっぷり!これはもはや大義を隠れ蓑にした個人的野心追求ですね!』


はっと笑い、そう評するラファエルを横目に見、
青年はこれ見よがしに口角を上げて不敵な笑みを浮べて。


『大義と俺自身の充実、どっちも本気だし、俺にとってはそもそも―――その二つは「同一」だぜ!』


ラファエル『ああ!最期の時までそんな!あなたという天使は!なんと愚かで―――利己的な英雄でしょうか!』

もう笑うしかない、そんな様子だった。
嘆きの言葉とは裏腹に、ラファエルの声色には楽しさと期待に満ち溢れていた。
そして門が開いたのを確認すると、すぐにまた落ち着いた表情に戻り。


ラファエル『―――ご武運を。我らが破格の兄弟――――――ミカエルよ』

静かに告げた。
別れの言葉は含まずに。
青年の方もまた同じく、まるで散歩にでも出かけるような調子で答えた。


ミカエル『おう。一発暴れてくんぜ』


そうして光の門を潜り、『野』から『出陣』していった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/07(水) 23:58:09.17 ID:LuGI4XwTo<>
はるかな界の境界を越え、
向かうは人間界の最上層にして最深部、黄昏色の王の領域。

天界にも魔界にも共通する権力の象徴たる様式、
巨大な列柱回廊とどこまでも続く石畳。


そして金銀煌びやかな玉座には―――人間界の王。


人界の混沌の権化たる竜に、天の戦士はこうして相対した。






――――――これが『彼』の終わりにして始まりである瞬間。

この『過去の記憶』が突然蘇った瞬間、潜んでいた魔女の術が爆発した。

『彼』にとってはまさに不意打ちだった。
ここを始点にし、『彼』の分離再構築が開始された。


不意打ちによる驚きからは、今後の展開への期待感が生じ。
魔女の目的に気付くと、その期待感からは『全能化』に水を差す行いへの『敵対心』と、
救出への『希望』に分離する。


猛烈な勢いの分離の先に生じたのは、紛れも無い自己認識、
明確になる『自分だったもの』と『そうではなかったもの』の区別。

そして救出への『希望』を抱いた側にて、
彼は『己が己である』と唐突に認識した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:00:56.13 ID:0lPWXHGSo<>
「―――……っ!!」

信じられない。

ここからどうすればもっと『楽しくなる』か、
いかにして希望を打ち砕き、どれだけ辛らつな悲劇とし、
絶望の底で嘆く様を目にする事が出来るか。

今やそういった『悪意』を『おぞましい』と嫌悪することができ、
これらを自らが抱くことはなく、心は純粋に歓喜に溢れている。


「…………は……はははっ……!」

嬉しくてたまなかった。

これまで大切だとしてきた存在を、
邪悪な見方無く再び『大切』だと断言でき、

そして―――インデックスへの感情がもう一切陵辱されていない。

透き通った心で、彼女へ愛情を向けることが出来るのだ。




「…………」

そうした歓喜の中、少年は面を上げて。
正面、黄昏の玉座の前に立っている―――『もう一人の自分』に向かい合った。
『こちら』とは逆に、歓喜ではなく『純粋な悪意』を抱いている『己』に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:02:56.34 ID:0lPWXHGSo<>

「―――……」

その『もう一人の自分』を目にして、少年は気付いた。

思い出した。
『あの自分』に初めて会ったのは、
『あれ』が神の右席としてインデックスを拉致に来た戦いではない。

初対面は、もっと前の『ある日』の朝の『夢の中』だ。


そして二度目はそれと同じ日―――『デパート』で『頭を撃ち抜かれて殺された』直後だ。


そのように認識した瞬間、周囲の光景が一変した。
在りし日の黄昏色の王域から―――漆黒の空と延々と続く浅い血の海へと。

そこもまた、少年にとっては大いなる意味のある空間だった。
ここでついに一線を越えたのだ。
千の生死を経て、再びその右手に『器』を与えたのだ。

ここで力を求めて―――『あの自分』と共に―――『悪魔の器』に乗り込んだのだ。


「…………っ」


少年は敵意と憤りが入り混じる瞳で、『もう一人の自分』を見据えた。
そんな彼とは対照的に『もう一人の自分』は不気味にほくそ笑む。


『まさか―――別れるつもりなのか?』


舌ですくいなめるように、
静かながらも纏わり付く言葉を吐き連ねて。


『そして再び―――戦い続ける気なのか?決して成せぬ「幻想」を追い求めて』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:05:39.76 ID:0lPWXHGSo<>
『―――エドワード=アレグザンダー=クロウリー』


もう一人の自分は、静かにその名を口にした。


『「ミカエル」が遺した「幻想」に翻弄された哀れな男』

ある英雄に心打たれ、
その理想を実現させようと足掻いた―――『幻想』の『犠牲者』にして、
より大勢の犠牲者を生み出した『加害者』でもある罪深き人間。


『それなのに―――その「幻想」をまだ紡ぎ続けるというのか?
 更に多くの哀れな者達を陥れていくのか?』


もう一人の自分の言霊はどうしようもなく辛辣なもの。
重く圧し掛かる、否定しようの無い『過去』。
そしてそれだけじゃない。


『その狡猾な罠は、こうしている今も尊い存在を奪っているというのに』


もう一人の自分がそう示した瞬間、強烈な『現在』が更に加わっていく。
瞬間に意識の一部がある方向へと向き、その先に見えたのは―――今繰り広げられている『ある戦い』。
いや、それはとても『戦い』と呼べるものではない一方的な『殺戮』だった。


『友のため、家族のため、未来のため、気高き戦士達が自らを犠牲にしていく悲劇が展開されているというのに』


「―――っああああああああああっ!!」


少年は叫び、その場に崩れ落ちた。
兄弟達が次々と死んでいく様を、四元徳―――テンパランチアの視点から覗き込んで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:08:15.71 ID:0lPWXHGSo<>
強化状態のテンラパンチアはもはや圧倒的だった。
戦士達はこの神に傷一つ与えることが出来ず、一柱また一柱と倒れ。


愛する―――懐かしい顔が次々と血に沈んでいく。


「―――ああああああああああ―――!!!」


それも―――己のために。


『英雄という存在は絶対的かつ不可侵でなければならないのだが、
 「ミカエル」という英雄像はあまりにも「中途半端」だ』

もう一人の自分がほくそ笑みながら言葉を続けた。
容赦の無い真実を淡々と。


『なぜか、それは「ミカエル」自身が―――流れを引き起こすことは出来ても、流れを制する力は無い半端者だからだ。
 そこに弱き者達は親しみと憧れを抱き、共感し惹かれるのさ。そして近しく思えるからこそ―――手を差し伸べようともする』


完全完璧な英雄になど助けはまず必要なく、
万が一にそれほどの英雄が助けを求めていたとしても、自らがその役に足ると思う者などまずいない。

だが英雄が完全でなければ。
その戦いが、他の者達も手が届くと思える距離にあるのなら、
皆が皆その手を差し伸べてくる。
本当は、その介入がもたらす結果がわかっていないのに―――

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:10:50.56 ID:0lPWXHGSo<>
―――しかし。


このような『理屈』は少年にとっては『今更』のものだった。


わかっていた、痛いほどわかっていたとも。
そして今一度突きつけられたところで、どうしろというのだ、と。

少年は決して変わろうとはしない、いや―――変われないのだ。


彼が彼である以上、それは不可能なこと。


「………………うるせえ……うるせえよ。んなこたあわかってる。でもよ―――んな理屈はどうだっていい―――」


浅い血の海を拳で叩き、その飛沫かかった顔を静かに上げながら。
声を震わせながらも一語一句はっきりと告げた。


「大勢のバカ野郎共が―――俺の『泥舟』に乗り込んで―――戦って―――死んでんだ!!」


こんな光景を見ているにもかかわらず―――薄ら笑いを浮べているもう一人の自分へ。


「これだけの信念が!記憶が!生き様が!―――『心』がぶち込まれてて―――今更止まれるかってんだよォォッ!!』


誰もかれも、天の父も、兄弟も、そして人間世界の友も、同志も。

アレイスターも―――インデックスも。

そして特に自分自身でさえもが、この『バカ野郎』に希望、理想、愛といった様々な形で『心』を載せてるのだ。
ゆえに今更、歩みを止められるわけが無かった。


「どいつもこいつも俺の『幻想』に縋りやがるってんのなら―――」


            ハート
常に理屈ではなく『心』で動いてきたこの人格が。



「―――この『幻想』の終点まで連れて行ってやる!!それが俺にできる唯一のことだ!!』

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:13:23.55 ID:0lPWXHGSo<>
天にいた頃から人間となるまで、そして一人の魔女に出会うに至るまで、
そしてもちろん―――これからも。

少年はその生き方を変えるつもりも無ければ、
そもそも変えるという選択肢すらない。

魂にそう行動原理が刻み込まれているのだ。

どうしようもなく直情的で浅はかで、独り善がりなことは承知だ。
客観視すれば、行いが過ちである可能性が常に纏わり付いているのも承知だ。

善だからその結果を求めるのではない。
己が望む結果を善にしてしまう利己的な偽善者だということは、遥か太古から知っている。


だから今更だと言うのだ。
何を言われようが、結局は己の願望を叶えるためだけに戦うしか能が無いのだ。


『「全能」という未来を捨て、半端な英雄になるのか?』


「―――んなもん知るか」

もう一人の自分に少年はすかさず吐き捨てると、
ゆっくりと立ち上がり。


「俺があの日―――『ここ』で何を願ったかは覚えてるだろ?」



――――――『アイツ』を殺そうとする『世界』なんざ―――全部―――ぶっ壊す――――――



「なんで『力』を求めたかはわかってるだろ?!なあ『俺』よぉッ?!―――なにも大げさなもんじゃねえ―――!」


そして『もう一人の自分』を右手で指差し、宣言した。



「ただ―――――――――『てめえ』みてえな野郎をぶっ殺すためだ!!!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:16:36.58 ID:0lPWXHGSo<>
それは宣戦布告にして『甘き己』との『決別』―――全てを受け入れ肯定する誓いだった。

かつてのミカエルとして行い、そこから派生した凄惨な結果、
そして人間として戦い、挫折し、力を求め、魔に堕ちて血塗れた闘争を選んだ手。


少年はそれらを、もう誇りもしなければ悔い改めもしない。


『自業自得』の行いの全てに『開き直り』―――全ての責任を身の内に飲み込み、
全てに『ケリ』を―――『幻想』に幕引く覚悟をここに示したのだ。


「そうとも――――――『俺』と『お前』は違う―――」


そしてその瞬間、全ての因子が剥離し、
二つの思念は完全に独立し。

―――彼の『視覚』が断絶する。

『見えなくなる』相手の心、
それが別なる個体であることの証明にして。



上条「―――俺は―――『上条当麻』だ」



『上条当麻』であることの最たる証し。

彼は落ち着きながらも、熱の篭った自らの『名』を正面に放った。

容姿を映像として捉えていなくともわかる。
この声ゆく先の相手の姿は、もう己と同一ではない―――『赤毛の華奢な優男』なのだと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:18:17.13 ID:0lPWXHGSo<>
『良い心意気だな』

竜は尊大かつ鋭く刺すような声を返した。
小首を傾げては顎をむけ、滑稽だとばかりに笑みを浮べながら。


『―――だがわかっているだろう?「筋書き」がその展開を望んでいない。
 俺様は完全無欠の「全能」となり、新たな創世主としてスパーダの一族の前に立ち塞がる』


そして細くしなやか腕をゆらりと伸ばし、上条を指差した。


『その舞台に「お前」の出番など存在しない―――』


その瞬間、彼の身に伸びるは『筋書きの手』。

「―――っ」

足元回り一帯から『影』がどっと溢れ、一気に上条の全身を包み込んでいく。
さながら泥山に埋まっていくかのように。

そしてその影から流れ込んでくるのは怒りと憎しみ、そして『悪意』。

『殺戮』と『破壊』の『衝動』と『快楽』。
そういった猛烈な感情が、上条の皮膚と魂を一気に焼き焦がしていく。
逃がしはしない、と。
これも全て『お前』なのだ、と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:21:15.54 ID:0lPWXHGSo<>
これは因果の渦だ。
過去からありとあらゆる事象を複雑に絡めている『鎖』、
それに囚われるのは、もちろん上条当麻でさえも例外ではないのだ。


そしてこれもまた例外なく―――絶対的なこの『筋書き』の前に、上条当麻に抗う力は無かった。


『上条当麻』一人の力なんて、そもそも微々たるもの。
所詮、他者の力と心が寄せ集められた―――『半端者の英雄』に過ぎない。

だがそれこそが、この『大バカ者』の最大の強みでもあった。
彼という袋の中に詰め込まれている心、
その中にはとんでもないものまで混ざっているのだ。


『筋書き』を真っ向から捻じ伏せるほどの者から受け継いだ―――『心』だ。


蠢く影の中で、上条は徐に左手を伸ばした。
指先に触れるのは慣れた金属の質感。
重く頼もしく、ひんやりとした外装の下に篭められているのは熱き魂の声。

彼はその『心』の先からの『贈り物』を『受け取り』、しっかりと握り締めて。


上条「知ってるさ―――だからこの『筆』で書きかえて―――」


『人差し指』を引き絞った。

次の瞬間、影を撃ち掃って噴出するのは白銀の『砲炎』。
その輝きが蠢く影の山を一瞬にして薙ぎ払い、上条当麻の全身を再び光の下に曝け出す。


そして露になった彼の左手には、この『一発』の源たる―――



上条「―――俺の拳を叩き込んでやる」



―――『黒い拳銃』が握られていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:23:55.17 ID:0lPWXHGSo<>
その黒がねの異物を見、竜は煩わしそうに目を細めた。
予想外の展開への期待感も混じってはいたが、
より楽しみな舞台が邪魔される嫌気の方が勝っていたようだ。


                                     ガ ラ ク タ
『なるほど、魔獣から授かった力と盲たる目と―――その「ミカエルの右腕」で宿命に挑むつもりか』


それは声にも明らかに滲んでいた。


上条「ああ。やってやるさ」

その口へ向けて、そのまま銃口を差し向ける上条。
それを挑発と受け取ったのだろう、竜は歪んだ笑みを浮かべて。

『良いだろう、もう一度お前を喰らってやるさ』

もう約束された―――決定されている未来であるかの如き声色で、
尊大堂々と言い放った。


『―――だがその思念は吸収などしない。俺様の腹底の窯で焼き尽くし、一片も残さずに抹消してやる』


対照的に上条は、落ち着いた静かな調子で言葉を向けた。
一言一言確実に。

上条「上等だ。おとなしく待ってやがれよ」


そして口と同じく、左手も確実に狙い定め―――引き金を絞った。



上条「全部ケリをつけてやるからな――――――『フィアンマ』」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/08(木) 00:26:31.39 ID:0lPWXHGSo<>
迸る二度目の閃光の瞬間、空間が一気に後方に向かって伸び広がり、
上条は竜から猛烈な勢いで引き離されていった。

これは『異物』へ対しての拒絶反応だ。
竜の力が、内なる世界からこちらを追い出そうとしているのだ。

もはやこの内なる世界を構成する因子は何も『見えない』。
もう『己の事ではない』のだから、わからなくて当然の事だ。


上条は静かにその流れに身を委ね、竜の領域から離脱していき。

そしてすぐだった。
再び外の現実世界に降り立てられたのは。

いいや、厳密には降り立ったのではなく『叩きつけられた』。

上条「―――っ」

背中前面にぶち当たる硬い衝撃。
そして肺をすぐに満たすは、むせ返るような凄まじい力の密度の大気。
辿りついた空間には、肌が擦り切れていくかのようなプレッシャーが渦巻いていたのだ。

だが上条は、そんな場に飛び込んでも特に身を強張らせたりはしなかった。
むしろ安堵の息を吐きつつ、冷たい石畳の床に後頭部をつけて身から力を抜いた。


何を恐れることがあろう、すぐそばに『彼』がいるのだ。

姿はもはや映像として捉えることができなくともはっきりとわかる。
彼は今、その自らの大剣に肘掛ながらこちらを見下ろし、

いつもの気だるくて関心がなさそうな薄笑いを向けてきている、と。


上条「…………わりい。いつも世話ばかりかけちまって」


上条はゆっくりとそんな彼を『見』上げて、苦笑いしつつ告げた。

するといかにも面倒臭そうな声で―――これまた普段通りの調子で、
彼はこう返してきてくれた。


               シゴト
ダンテ「なあに。これも『契約』の内さ」


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/08(木) 00:27:36.30 ID:0lPWXHGSo<> 今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/08(木) 00:28:20.87 ID:qoq56S9yo<> お疲れ様でした <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/03/08(木) 00:29:22.61 ID:dKy2Upjho<> 乙!
しかし石畳って事はインデックスの所じゃないのか
一方さん達やダンテ達がこの間何してたか楽しみで仕方ないです <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/08(木) 04:41:22.78 ID:HhFkLAtDO<> ダブル主人公だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/09(金) 02:24:33.55 ID:1OFvCQtd0<> 少し前にロダンでてきたけど、一方への紹介時に匂わせた話はこのSSオリジナル? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/03/09(金) 18:52:32.09 ID:qkI7kSoX0<> 乙
>>425を見るまでネロの話だと思ってたわ・・・

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/09(金) 19:04:29.69 ID:HHHGt9vQo<> >>442
オリジナルです。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/09(金) 21:32:52.83 ID:1OFvCQtd0<> >>444
ありがとうございます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/09(金) 23:01:45.09 ID:jcpEhRaa0<> 文中ミカエルとラファエルの、人間に対する愛情が違うという描写がありますが
ラファエル→人間が蝶、草花に向ける愛情
      (種が絶えれば悲しむが毎年1世代寿命やらで全滅するのはスルー)
ミカエル→友人、隣人、同胞へ向ける愛情と同一
という感じなのかなー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<>sage<>2012/03/11(日) 19:30:49.72 ID:0xNYpKMko<> 上条さんもダンテもかっけえ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/11(日) 23:14:42.40 ID:47xeNY+DO<> スパーダさんの二人の倅の牽引力の高さは異常、DMC4のラストのダンテの背中は格好良すぎだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 00:56:07.24 ID:q5TFD8qDo<>
―――

遡ること少し、
プルガトリオの天界近層、出陣の野にて。

禁書『……』

竜王とミカエルの同一思念が分化し、
再構築されていく『上条当麻』と『フィアンマ』という全く別の精神体。

その過程が滞りなく進むのを『見』、
インデックスの胸中は一気に期待感に満ちていった。
極度の緊張と喜びが絡み合い、祈り手が震えてしまうほど。
衝動を抑えるのに精一杯、武者震いにも似た感覚だ。

だがその期待感も一転、
直後に急激に冷めていくことになる。

やはり相手が相手、そうするりと成功させてくれる訳が無かった。

上条当麻を繋ぎとめている最後の一つにして最大の鎖を認識して、
インデックスは凍りついてしまう。

そしてこの上条当麻という存在が、
己が知っていた以上に―――この戦いの中でどれほど重要な立場にいたかを知って。

竜王や全能といったこの戦いの火種の一つにして、
結果を左右する中心的存在、という『だけ』では無かったのだ。

彼は約束された―――指名された『役』の一つだった。


本来は、何人も存在すら認知できない大いなる世界の流れ―――竜王が『筋書き』と呼んでいた存在によって。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 00:58:43.59 ID:q5TFD8qDo<>
上条当麻という思念はすでに完全に分離しているのに、
この鎖が彼を竜の中に留め続けているのだ。

禁書『―――っ』

これには、インデックスはどうしようもできなかった。
ベオウルフの『上位権限』をもってしてもこの縛を解くことはできない。

そしてこの時、上条の側のみならず、
彼女側においても時間が尽きようとしていた。


湧き出した衝動にようものだろう、その時突如ガブリエルが翼を広げ、
光が迸る疾風を巻き起こした。
そして何事かと顔を向けたインデックス・ベオウルフへと。

ガブリエル『もう―――ここはもちません!』

その言葉が終る頃にはもう、彼女は戦士の顔に戻っていたも、
インデックスは見逃さなかった。

ガブリエルの表情に一瞬、悲壮に満ちた陰が滲んでいたのを。

彼女の言葉とその表情、それらが物語っている事は明白だった。
テンパランチアに対する『時間稼ぎ』が終ったのである。

そしてガブリエルの声の直後、
それを裏付けるかのように、この領域が砕かれゆく轟音が一気に激しくなった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:02:24.39 ID:q5TFD8qDo<>
禁書『―――!』

インデックスの目には明らかだった。
今や崩壊は目前。
すぐにでもここから脱出しなければ、虚無の中に落ち込み二度と出られなくなるだろう。

しかし、だからとすぐに離れられるわけも無い。

確かにこの場が必要だった理由、記憶の起点はすでに過ぎたものの、
複雑な召喚式はここに敷いているのだ。

竜の内なる世界で『上条当麻』という状態を維持できているのは、この召喚式があるからこそ、
つまり作業途中で式を断ち切ってしまったら、
上条当麻とフィアンマは再び融合し『竜王』となってしまう可能性が高いのだ。

それに相手が相手、二度目の機会もまず無いと考えられるため、
この機になんとしてでも成さねばならなかった。


ガブリエル『すぐに離脱を!』

だが、打開案を模索するインデックスを嘲笑うかのように、
変化はすぐに訪れた。

風景が『落ち込み』、跡形もなく消え去っていく。
影に次々と沈んでいき、この世の外―――『無』となり虚空の果てに。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:04:01.29 ID:q5TFD8qDo<>
ベオウルフ『行くぞ小娘』

拳を地に打ち付けて、有無を言わせぬ声を放つベオウルフ。
スフィンクスも急かすように彼女の回りをうろつき、鼻先でその背を突いた。

禁書『待つんだよ!あと少し―――!』

二頭の『獣』に急かされる中、
インデックスは最後の一手をなんとか済まそうとしていた。

『筋書き』には、己との絆もベオウルフの親としての上位権限も通用しない。
だがそれ以外にもう一つ―――もう一人、彼女には『契約者』がいた。

『筋書き』にも対抗しうる存在が。

彼女は素早く専用の術式を組み上げていき、
その者に作業の『締めくくり』を任すべく準備を整えていく。


『彼』に上条当麻を召喚させるのだ。


『彼』は魔術については疎いも、その心配は無い。
そのための準備を彼女はいま突貫で行っているのだ。
構築できた術式を彼に送り、そして起動さえすれば。


あとは彼がただ一声、『喚び』さえすればいい。


そうすれば―――上条当麻は彼の下に現れる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:05:59.76 ID:q5TFD8qDo<>
ガブリエル『早く!』

禁書『待って!―――今―――!』

目前に迫る消失の波。

風景を飲み込んだ『無』が、
この召喚魔方陣の淵に虚無が達しかけた時。
陣が破壊される直前に、その『契約者』へ繋がりを利用して召喚術式を送った。

一縷の希望と共に。

禁書『(お願い―――!)』


ベオウルフがインデックスを掴み上げたのはそれとほぼ同時だった。
少女の身を巨腕が鷲掴み、その魔獣の肩に白虎―――スフィンクスも飛び乗り、

そして魔獣によって形成された光の陣に、三者の身は沈んでいった。

行き先はひとまず人間界だ。
学園都市のどこかに降り立ち、そしてそこから神儀の間に飛べばいい。
もし万事上手く運べば、到着は上条当麻の帰還の一足遅れになるだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:07:20.82 ID:q5TFD8qDo<>
―――と、この時。

インデックスは目にしてしまう。
ガブリエルもまた移動用の光陣を形成し、姿を消しつつあったが、
『禁書目録の目』は、その光陣の『内容』を理解してしまった。

その行き先は―――ついさっきここを離れていったラファエル達と『同じ』だと。


彼女は―――兄弟達を『取り戻し』に行こうとしていたのだ。

彼らの『生死』は関係なく、そう―――きっと上条当麻もそうしたように。


禁書『だめ―――だめだよ―――!』


その最後の呼びかけが届いていたか否かはわからなかった。
もっとも届いていたにしろ、結果は同じだっただろう。

互いに姿を消す際、ガブリエルは小さく微笑み返しただけだった。
彼によろしく、と。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:10:20.47 ID:q5TFD8qDo<> ―――

ダンテ「―――そろそろ『王子様』のお目覚めタイムなんだ」

手にある黒き拳銃に注がれる、「なんだそれは」と言いたげな兄の視線。
兄よりも認識の優位に立っているというささやかな優越感に浸りながら、
ダンテはそっけなく答えた。


ダンテ「ネロと同じだ。『筋書き』には無かったはずの――――――人間の『未来』さ」


ベヨネッタはそれなりに興味がありそうに喉を鳴らしたも、
バージルは僅かに眉を細めただけだった。

反応がいまいちな兄にダンテは「見てろよ」と声を投げながら、
石畳に突き刺さっているリベリオンに寄りかかると。

その瞬間、白銀の刃面に浮かび上がる光の文様。

今度は本心から興味深そうに声を漏らすベヨネッタ。
彼女の関心を引くのも当然か、浮かび上がったのは魔女の術式だったのだ。

術式の輝きが増し、起動した直後。
ダンテはバージルとベヨネッタにこれみよがしにニコリとすると、
軽く摘み上げていた拳銃を手放した。


すると拳銃は落下し、
固い石畳にぶち当たって甲高い音を鳴らす―――はずだったが、
そうはならなずに。

虚空から出現した少年―――上条当麻の手の中に納まった。

そして響いたのは、
少年の身が石畳に落ちた鈍い音だった。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:13:09.37 ID:q5TFD8qDo<>




上条「…………わりい。いつも世話ばかりかけちまって」

               シゴト
ダンテ「なあに。これも『契約』の内さ。つっても俺は特に何もしてねえんだけどな。礼はお前の『お姫様』に言いな」

だからノーギャラでいい、というダンテの言葉が終るのを待たずに、
上条当麻はすぐに跳ね起きた。


彼は『お姫様』、その言葉が指す彼女から送られてきたある情報に、
黙っていられなくなったのだ。

上条「―――」

上条はまずは、インデックスに会い彼女に触れたかった。
繋がっているため常に存在や認識を共有してはいるも、
やはり人間、肌で直接体温を感じたいものだ。

しかし―――今はゆっくり再会を喜んでいる暇は無かったのである。

至急やらなければならないことがある、と。


それはもちろん―――ガブリエルとラファエル達だ。


手遅れになるのかもしれない、いや、その可能性が極めて高い。
もはや絶望的と形容してもいいだろう。
しかし生憎、上条当麻は『その程度』で止まるような男ではないのだ。

彼はそこまで―――物分りが良い方ではない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:16:11.19 ID:q5TFD8qDo<>
上条「―――『フィアンマ』についてだが全能化はしていない!俺がいなきゃ完全体になれないんだ!
    でも創造・具現・破壊は完璧に機能してるからヤバイぜ!」

上条は立ち上がると、その場にいた他の者達への挨拶も抜きにして、
拳銃を素早く点検しながら一気に言葉を連ねた。

上条「―――悪い!詳しい事はインデックスに聞いてくれ!今来る!」

そして彼の足元に魔女の魔方陣が出現、そこから銀髪が溢れ、
一気に上条の体を包んでは飲み込み引き摺り込んでいった。

顔を見合わせ肩を竦め合うダンテとベヨネッタ、
まるで何事も無かったかのように微動だにしないバージル。

上条当麻の怒涛の帰還と出陣の締め括ったのは、入れ違いで戻ってきた少女、
彼を飲み込んだのと同じ魔方陣からの、白虎に跨ったインデックスの登場だった。




上条当麻はインデックスの魔女の技で一気に界の壁を越えて人間界、
学園都市上の虚数学区に到達した。

ベオウルフ『―――小僧、戻ったか』

幾多の激戦による廃墟のただ中に待ち受けていたのは、
『第三』の父たるベオウルフだ。

上条は魔獣に向け頷くと、
前もって打ち合わせていたかのように彼の大きな右腕に飛び乗った。
両者は言葉解さなくとも意志疎通できるため、話し合わせる必要は無いのである。


上条「―――手加減無しで一気にやってくれ!」


魔獣は速やかに上条の望みを叶えた。
一度、全身から上位の大悪魔たる圧倒的な力を放出すると、少年が乗っている右腕に集束させ。

そして彼の身を―――空高く投げ飛ばした。

第二の『天の門』めがけて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:19:24.45 ID:q5TFD8qDo<>
上条の前世は高位の天使だ。
ゆえに天の門の構造は当然把握しており、
その状態も『一目』で判断が可能だ。

第一の門はどういうわけは機能を完全に停止していたが、
第二の門は酷く損傷してはいるも、どうやら己程度なら通過できそうだった。

ベオウルフの凄まじい力で打ち出された砲弾となり、
上条は一気に第二の門の回廊を突き抜けていく。

天界の内域に入ってしまえばあとはこっちのもの。
内部の地勢ももちろん覚えているため、
テンパランチアの宮まで最短で乗り込むことが出来るはずだ。

回廊の中を打ちあがっていく上条当麻。
興味深いことに、その間一度も妨害を受けることが無かった。

機能していながらも、今は何らかの理由で通行禁止となっているのか、
それとも―――出口でこちらを待ち受けているのだろうか。

そんな事態に備えて、上条は左手の拳銃を今一度意識し、
ベオウルフから受け継いだ力も再点検し一層研ぎ澄ませてゆく。

だが幸いなことに、その『罠』に飛び込むような事態にはならなかった。

第二の門の出口に到達した瞬間、
大勢の天の者達が現れたが―――彼らに受けたのは歓迎だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:22:33.35 ID:q5TFD8qDo<>
上条「―――!」

古代日本のものに似たその装束からすると、どうやら天津族の者達か。
みなこちらの姿を一目見るや、剣や槍を空に突き立てて歓声を上げている。

『凱旋』したような気分だ。
上条は頭の端で、むず痒い戸惑いと共にそう感じた。
このような視線と声に晒されるのは苦手であり、
また性格上、無下にしてしまうのも後ろめたさを覚えてしまう。


しかしこの時、『喜ばしいこと』に、
歓声に丁寧に応えていくような暇は当然なかった。

上条「―――悪い!!またあとで!!」

広大な空を跳躍して、近くの『浮遊城塞』の一つに降り立つと、
上条はすぐに足元に移動用の光陣を出現させた。

と、その光の中に消える際、
ここを取り仕切る将らしき者が何かを伝えようと叫びかけていたが、
すでに時遅し、その言霊を聞き取ることはできなかった。



そうして到達したテンパランチアの宮は、不気味なほどに静まり返っていた。
警衛の天使すらもおらず、一切の気配が無い果てしなく巨大な列柱廊。

潜入を試みるのならば、これは好都合だったであろうか。
しかし今の上条当麻にとっては、どうしようもなく凶兆でしかなかった。
最悪の結果を示す、ただただ残酷な印でしか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:25:52.37 ID:q5TFD8qDo<>
上条はこみ上げる絶望感に抗いながら、
長い長い回廊を疾駆した。

周囲は静か、静か過ぎるくらいだ。
響くのは自身の足が石畳を打つ音だけ。

延々と続く先からも、『戦いの音』なんかは一切聞えてこなかった。

この先にいるはずの、
ガブリエルやラファエル達兄弟の『生』の音も。


上条「―――っはっ!」

焦燥と絶望の中、脳裏を過ぎたのは、
つい先ほど思い出したばかりの鮮明な情景、
かの出陣の時にラファエルとに交わした最後の会話だった。


己はあの時、初めて他者に自身の人間への認識を告げた。


己と他の者達の間にあった、人間達への認識と理解の違い。
その『危険思想』に返されてくる反応はわかっていた。

天の誰もが―――こよなく人間を愛していた『父上』でさえ、
後に知った時は、あの時のラファエルのように顔を曇らせたはずだろう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:28:31.70 ID:q5TFD8qDo<>
しかし上条は確信していた。
いや、『願っていた』と形容するのが相応しいか。

きっと他の天の者達も己に追いついて、己と同じ視点で人間を理解し、
人間達の心の中にしかない唯一の存在を認めるであろうと願ったことだ。


そしてあれから幾万年の月日が経った。
人間界と天界の間には数多の出来事があり、世の在り方は大きく変動してきた。
その変化が齎した結果は、決して上条が期待したものではなかったものの、
それでも今、上条当麻は在りし日の願いが叶っていると信じたかった。


天の全ての者とはいかなくとも、それでも。
古巣の一族達や、人間界に慈しみを抱いていた派閥の者達の、
人間への認識と理解が己に追いついている、と。

知りたかった、聞きたかった。
彼らが今、どういった視点で人間達を見ているのか、
いつか直接聞いて回りたかった。


まずは兄弟達に、そしてその中でも最初に聞くべきなのは―――最初に告げたラファエルだ。


上条「――――――――――――っ…………」


だがこの時、その機会はもう永遠に失われていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:31:57.82 ID:q5TFD8qDo<>
ようやく辿り着いたテンパランチアの玉座の間。
この四元徳の体格に相応しく、『広間』ではなくもはや『広場』呼ぶに相応しい広大で壮麗な空間。

かの巨腕が叩き砕いた跡が生々しく残るその場には、
動いている存在は一つも無かったも、


生存者は一応、一人だけそこにいた。


ただ『彼女』の存在は、
その身が無事だった喜びよりも、ここで繰り広げられた惨劇と、
それによる大いなる悲しみをより引き立たせていた。


上条「―――ガブリエル!!」

『広場』の中央にて、こちらに背を向け、
座り込み、彫像のように佇んでいる彼女へと
喉がはちきれんばかりに叫び、駆け行く上条当麻。


彼女は泣いていた。

柔らかく光る翼を静かに揺らして、
そこでただただ悲しみに打ちひしがれていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:33:56.28 ID:q5TFD8qDo<>
ガブリエルが瓦礫の中から拾い集めたのだろう。
彼女の前には、並べられている『十五』の武器。

剣、槍、斧、その種類や形状はさまざまだが、
どれもこれも―――完全に壊れきっていた。

砕け、ひん曲がり、折れ、潰れて、
もう二度と使えないと一瞬で確信できるくらいに。

そして使い手たちの身を襲った破壊が、
一体どれだけのものだったのかをも明確に示していた。


誰がどれを使っていたかは、
上条は今でもはっきりと覚えている。

インデックスを介して『見た』、ここへ乗り込んだ十五の天使、
その全員分がそこにあった。

もちろん、刃半ばで折れ、柄もひどく捻じ曲がっている―――ラファエルの剣も。


上条「―――あああああああああああああああ!!」


次の瞬間。
ガブリエルの横に立ちすくむ上条の口からは、叫びが噴出した。
静かなガブリエルの分も、というくらいに猛烈に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:36:21.60 ID:q5TFD8qDo<>
わかっていた。
この結果はわかっていたとも。
彼らがここに踏み込み、かの存在に戦いを挑んだ時点ですでにその『生』は潰えていたと。

だが頭ではそう理解が出来ても、
心というものはそう簡単に物事を飲み込んではくれない。

上条「―――てめえら―――なんで死んじまうんだよ!!」

膝を地に打ち付けた少年は、
その拳を放るかのように、目の前の武器へと叩きつけた。

上条「戻ってきたっつーのによっ!!すれ違いで逝きやがってよおおおおお!!」

彼らが死んだ理由は、頭ではわかっていた。
インデックスの作業のため、つまり己の復活の時間稼ぎのためだ。

だがどうしても心では飲み込めない。
あんなに躊躇無く行って―――死ぬなんて。
無感情の人形でもないのに、そしてこの世をこよなく愛しているくせに。

なんて『愚か』な者達か、まるで―――


上条「―――なんでそんなに―――『俺みてえ』に馬鹿な……―――」


―――『己』みたいだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/12(月) 01:40:44.75 ID:q5TFD8qDo<>
『俺みたい』に。
上条は自らが発したその言葉で、
心の内に大きな波紋を起こされてしまった。

ここに至るまでの彼らの行動は自分そっくり。
インデックスが己を見ているような、まさにそんな感覚だった。


上条「………………馬鹿野郎どもが……ちくしょう……」

上条はもう一度、悪態をつき直した。

そして彼らの永久の安寧を祈り、
己に重なる彼らの姿に想い馳せて―――かつての願いが叶っていたことを、とより強く胸に願った。

己とここまで同じ『馬鹿』なら、きっと、
きっと認識も理解も己に追いついていたのだろう、と。


己と同じような視点で―――人間を愛し、人間だけが持つものの尊さを知っただろう、と。



ガブリエル『………………早く…あなたのご友人が危険です……』

露っぽくも澄み渡る声。
今や悲壮も含まれ、一際儚く美しい言霊
それで告げられたのは、ある同志の少年の危機だった。

ガブリエル『テンパランチア公閣下は、フォルティトゥード公閣下の加勢にお向かいに。
        人界神の「新王」をお討ちになるべく……』


死した友らへと、悲しみに暮れている暇は無かった。
上条当麻は戦わねばならない。

『理由』はラファエル達と同じ。

生きている友らために、愛する全ての者達のために。
そしてその未来のためにだ。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/12(月) 01:41:57.60 ID:q5TFD8qDo<> 今日はここまでです。
次は水曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/03/12(月) 01:48:15.58 ID:pVmS5kmho<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 02:10:22.22 ID:s7lviGbV0<> 乙乙乙!!!

勇気・節制vs上条・一方のタッグマッチか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 09:51:44.45 ID:V+uA0jmPo<> 乙!!

再び禁書の二大ヒーローが並び立つのか!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/03/12(月) 14:03:41.55 ID:0WLefYi9o<> 乙
>>469
浜面ェ… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/12(月) 14:29:38.20 ID:lpS4M69C0<> いいじゃないか浜面はデュマーリ島でがんばったんだから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/12(月) 17:04:13.62 ID:mp4WXSwj0<> >>471
だよな。これ以上頑張らせたら死亡フラグが立っちまう。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/13(火) 06:47:57.75 ID:GtWaT5Xl0<> なに、浜面ならそのうちVFXパワーを身につけるさ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/13(火) 07:19:25.13 ID:2AhDZyyz0<> 乙
シルヴィアもいるしなw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:20:29.89 ID:oQVrDKK6o<> ―――

遡ること少し。
ラファエルら十五の天使達が、かの『節制』の宮に乗り込んだ頃。

第一の天門の上では、
四元徳が一柱『勇気』と人界神の『新王』の決戦が繰り広げられていた。


開幕の一撃は『新王』、一方通行による鮮烈にして躊躇の無いものだった。


この『新王』に相対したフォルティトゥードは、
最高位同士の決戦に相応しき言霊を続けようとしたも、
猛烈な憤怒に塗れた少年は、そんな冗長な声など待ちはしなかった。


『勇気』がその逆さの巨顔の口を開きかけたのも束の間。
ぐんっと姿勢を落とし、翼を弓の弦のようにしならせ張る一方通行。

足場である巨大な『蓋』の、黒き表面に片手を打ちつけ、
黄昏色の光を宿す瞳で、天の『勇気』を司る双頭のドラゴンを睨みあげ。

その身を一気に『射出』した。

次の瞬間、その跳躍の衝撃が黒き地盤を歪めるよりも速く。
黒き手による極なる一撃が、フォルティトゥードの眉間に叩き込まれた。


迸る光の爆轟、地盤が震え、歪む空間。

そして巨顔の眉間に走る―――亀裂。


仰々しく言霊を紡ごうとした逆さの口から漏れたのは、
海の底から響いてくるようなうめき声だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:23:23.88 ID:oQVrDKK6o<> 巨顔に『降り立って』一方通行は、
改めてこの『勇気』の大きさに圧倒された。

巨顔の幅は10m以上、目尻から目頭までの間は人がすっぽり入るほど、
双頭の牙も人ひとり分の大きさ、雁首部も太さ3mはあるだろうか。

更にそんな物理的な大きさに相応しい、尋常ではない力の量。

一方『―――ッ』

石のごとき外皮に突き刺さっている黒き腕、
そこに生じた血を湧き出させている亀裂。

その奥、腕の先に覚える熱圧に、一方通行は思わず顔を歪ませてしまった。

直に触れることでより強く感じる、このフォルティトゥードの果てしない力、
そして―――その糧と成る人間達の魂。

彼らの声がよりはっきりと聞える。
その悲痛な叫びが、耳にさらに深く突き刺さってくる。

この『勇気』の中で彼らは渦を巻き、貪られ、
その力へと変じ、消費されていくのだ。

弾倉に押し込められ、次々と放たれていく弾丸のように。

その事実が一方通行の形相をより変じさせていく。

ひたすらにただ人間としての―――憤怒を覚えて。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:26:09.80 ID:oQVrDKK6o<> そんな少年の怒りを悟ったのだろう。

フォルティトゥードは巨大な口を震わせて笑い声を発した。
眉間への強烈な一撃に呻きながらも、滑稽さと嘲りを含んだ声を。

そして頭上の双頭は、対照的に殺意に満ちた咆哮を上げ、
片方が一気に一方通行へと襲い掛かった。


牙を向いて彼の上に覆いかぶさるように向かってくる、
自動車を丸呑みできるほどの顎。

即座に察知しては腕を引き抜き、巨願の額から跳ね飛ぶ一方通行。
一瞬の差だった。
少年の身と入れ違いに顎は巨顔に激突、
獲物を逃すばかりか、自らの額に牙立てる結果となってしまった。


だがフォルティトゥードは、それも想定済みだとばかりに一切怯まず、
すぐに次の手へと転じた。
前フリ抜きの一方通行による開戦に、
『勇気』の側ももう一拍の余地も与えないつもりになっていたのだ。


一方『―――』


斜め上方に飛びあがった一方通行、瞬間彼の瞳に映ったのは、
もう一方の双頭から放たれた―――『火流』だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:28:57.59 ID:oQVrDKK6o<> 凄まじい速度で迫ってくる業火の濁流。
これを目にしたのは二度目だ。

つい少し前に同じ場所で、初めて遭遇した瞬間にこの『勇気』が放ってきたのだ。

ただし何もかもが同じではない。
その時とは上下の位置が逆であったし、
何よりももう一つ、一方通行の側に違う点があった。
今の彼は酷く消耗してはいない、ほぼ全快している近い点である。

先のようにただ耐え忍ぶ必要は無い。
今や回避も可能であり、そして―――そのまま攻勢に転じる余裕だってある。

一方『―――カッ』

短く息を切って力を躍動させ、先と同じように翼を張り。
そして身を射出、一方通行は一気に滑降した。

それもこの『火流』目掛けてすれ違い、業火に触れるか触れないかという線を。

その光景は炎の坂を滑り降りているようにも見えたか。
もっともそうと認識できるほどの存在はそういないであろうが。


すれ違う互いの圧で削り取られた力片たちが、火の粉の渦となって散っていく。

そうして一気に滑降した一方通行は、今度は爪先に力を集束させ、
火流射出もとの直下、あの巨願の眉間へと再び『突貫』。

一方『―――ッアァァッ!!』

先ほど穿ったあの亀裂へと、渾身の飛び蹴りを重ね叩き込んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:31:35.09 ID:oQVrDKK6o<> 再び噴き荒れる二度目の光の爆轟。
一方通行の蹴りは見事、一撃目が穿った亀裂に直撃し、
更にその傷を巨大化させた。

そしてフォルティトゥードの中に叩き込まれた集束した力が、その魂に破壊を刻んでいく。

一方『―――チッ!』

しかし。

明らかに決定力に欠けていた。

ここまでの二撃で判明したのは、このフォルティトゥードの頑強さだ。
この図体の見た目の印象通り、勇気はとんでもなく硬くタフだ。

肉体損傷度は0.1%にも満たないか、
魂の損傷具合もそこまで小さくは無いものの、これではとても埒が明かない。

より効果的な攻撃方法を見出さなければ、
もしくは単純に攻撃力を増強しなければ、勝利を引き寄せるのは困難である。

ただし単純に攻撃力を増強するのは、
他の要素と引き換えにするという博打的戦法になってしまうため、
まず一方通行の思考が向こうとしたのは効果的な攻撃方法の模索であった―――のだが。

集中して思考するなど、この『勇気』が中々許してくれなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:33:57.82 ID:oQVrDKK6o<>
滑降による飛び蹴り。
その衝撃でフォルティトゥードの巨体が大きく後方に傾き、
転げ倒れる―――と思いきや。

『勇気』は即座に体勢を掌握し、そのまま身を回して―――翼を薙ぎ振るってきた。

巨躯に似合わぬ猛烈な速度で、
20m以上はあろうかという片翼が空間を切り裂いていく。

一方『―――ッ』

速やかな反撃に、一方通行は紙一重のところで身を下降させた。

フォルティトゥードの翼は少年の幾本かの髪先を切り裂き、
逃げ遅れた黒き翼の一本を中ほどからへし折って、彼の上方を突き抜けていく。

回避は成功、だがこれで一拍置けるかというとそうではない。
次いで間髪入れぬ二撃目が彼を襲ったのだ。

下降し黒き地盤に乱暴に着地した一方通行、その目に次に映るは、
回転する『勇気』から伸びてくる―――太さ5m以上はあろうかという長大な尾。


その尾に集束している力―――圧倒的な威力は、一目にして判断できるものだった。


もらってしまったら、一撃で致命傷になってもおかしくない―――

回避に転じる猶予は無かった。
半端に動いて、間に合わずに備えのない体勢で受けてしまうよりも、
一方通行はその場での防御に即断した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:35:39.46 ID:oQVrDKK6o<>
腰を落としつつ両腕に力を集中、
その腕を頭の前で交差させては突き出し。

そうして一方通行は、強大な一撃を受け止めた。

一方『―――ぐッッ!!』

それは金属の塊同士の激突に似ていたか。

尾を覆っている装具と最硬度の黒腕の衝突、
そこからは莫大な量の火花が飛び散り、
そして響くはいかにも金属的な激音。

衝撃で一方通行の身が後方に押し込められ、
彼の足裏が黒き地盤と擦れたことで、その騒々しいしらべはさらに尾を引いていった。


耳鳴りに似た残響と鈍痛が身を軋ませる中、一方通行は痛感していた。

意識を思索に裂く余裕は無い、と。

全身全霊をもってこのフォルティトゥードの動きに集中させねば、
あの攻撃を捌ききれないのは明白だ。

つまりここでの戦い方は、自ずと一方に絞られることになった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:37:38.20 ID:oQVrDKK6o<>
攻撃力を増強しなければならない。
だがこの方法はそう易々と行っていいものではない。

一方通行の攻撃、その出力は現段階でもすでに全力である。
そこから更に増強するとなれば、
今度は他の要素から力を裂かなければならないのだ。

ステータスで形容するとすれば、
『持久力』はもちろん『防御力』などといった面からだ。

それはすなわち、攻撃力を得るのと引き換えに短所・弱点を生み出すことになる、
きわめて危険で不安定な戦い方である。

特に攻撃防御速度の三拍子のバランスが見事な、
このフォルティトゥードのような相手なら尚更だ。

だからこそこの戦い方は『博打』なのである。

一方『(クソッ―――)』

思索に集中さえできれば、より効率的な戦術を見出せただろう。
今でもヒントがそこら中にあるのはわかる。
しかしそれらを精査する余裕は無い。

選択の余地は無かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:39:13.64 ID:oQVrDKK6o<>
一方通行は己が身に意識を集中させ、
許す限りの力を手足の先端に集束させていく。

その身は超攻撃特化型に変貌。

一方『―――ッ』

身を劈くのは、耐久度を上回る力による鋭い痛み。
その強烈な衝撃が騒音を伴って意識を揺さぶり、知覚を鈍らせようとしてくる。

巨大な竜巻に飲まれ、針山の中にその身を叩き込まれるような感覚だ。


しかしこのような事は、一方通行にとっては今に始まったことではない。

程度の差こそあれ、暗部に身を置く能力者は大体経験しているもの、
彼にとってはこうした過負荷の苦痛は昔からの馴染みである。

ゆえに限度というものも正確に把握している。

どのラインから意識が遠くのか、手足が再起不能になるのか、
そして自身の命が危うくなるのかも。
状況が許しさえすればそのラインを越える選択もあったかもしれないが、
今は『残念』なことに―――『生きて』勝たなければならない。

博打的戦い方に挑むとはいえ、
その命を賭けることは許されないのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:41:01.79 ID:oQVrDKK6o<>
一方通行は『馴染みの作業』を一瞬にして済まし、
超攻撃特化型の状態を構築した。
知覚を全て鋭敏の極に保ちつつ、肘と膝から先の強度は自身最高。

その代償は防御力と持久力であるが、
防御については、この極限にまで力が集束している手足で防げば良い。

最大の問題は持久力だ。
この点についてのカバーはただ一つ、短期決戦しかない。


先の尾の一撃で、いまだに後方に押し退けられている最中、
一方通行は拳を打ち鳴らすと、黒き地盤を強く蹴り。

フォルティトゥードに向け地を這うほどの低姿勢で突貫した。

振り向き直った『勇気』は依然、嘲笑的な呻き笑いを漏らしながら、
今度は双頭の両方の顎を開き。

先ほど以上の業火の濁流を吐き出した。
今度は柱状ではなく、一面一帯を飲み込むべく扇状に。


こればかりは回避できるものではなかった。
一方通行はより背を落とし、前方に手を翳し盾としながらそのまま飛び込んでいく。

拡散されているせいか先までの『火流』より威力は低いも、
それでも強度が下がっている手足以外の部位には強烈なものだった。

業火に炙られ悲鳴を放つ体。
自らの肉が焼ける香で鼻腔を満たす中、少年は一気に灼熱の壁を抜けては、
『勇気』巨躯の直前で斜め上方に踏み切り。

聳える巨大な顔面に、超強化された拳を叩き込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:42:46.78 ID:oQVrDKK6o<>
今度こそは圧倒的な手応えがあった。

光の爆轟の中、大きく軋み歪む巨顔。
響くは金属的な破砕音、煌びやかに飛び散る装具の欠片。

そしてそんな幻想的な一幕に混じる、
『勇気』の身から零れ落ちた人間達の『叫び』。


一方『―――』


鈴なりに似た音の中のその悲鳴に、一方通行の心はさらに強く揺さぶられる。


フォルティトゥードにダメージを与えるたびに、
この悲壮な言霊に塗れることを彼は覚悟しなければならなかった。
こみ上げる憤怒に気を乗っ取られぬように。

この強烈な一撃でもフォルティトゥードの身を転げ倒すことはできなかった。
だが与えたダメージは一目瞭然。
割れた装具や外皮の間から鮮血が迸り、そして―――あの笑い声はもう消えていた。


深海から轟くような呻きに混じっていたのは、忌々しげな声だった。


そして繰り出されるは、一際勢いの激しい翼の薙ぎ払い。
だが今度もわずかな差で翼は獲物をとり逃した。

一方通行は間髪入れずに巨顔を駆け上がり跳躍、
その勢いのまま―――双頭の一方の顎を、下から蹴り上げたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:45:23.46 ID:oQVrDKK6o<>
仰け反るドラゴンの頭部、今にも千切れそうなほどに張り詰める雁首。
装具の欠片が再び舞い散り、牙も幾本かが折れ、煌きながら吹っ飛んでいく。

だがフォルティトゥードの側もやられてばかりではなかった。

一方『―――』

蹴り上げた直後、一方通行へと襲い掛かかるもう一方の首。
彼は間一髪のところで、黒き翼で脇へ飛び牙を回避したも、
完全に避けることはできなかった。

続く、太さ3m以上はあろう首が彼に激突したのである。


一方『―――ッぐッ!』

今度は一方通行の翼から、砕かれた黒き破片が飛び散っていく。

彼は叩き落とされつつも、
なんとか体勢を立て直し地に強行着陸。
手足と地の影同士の激突で、金属的な激音と共に火花が散っていく。

なんとか身を制動しつつ面をあげる一方通行、次の瞬間彼は見た―――のではなく、
『見えなかった』。

前方にあったはずのフォルティトゥードの巨体が消えていたのだ。
ただ、その状況を理解するに時間を要することは無かった。

上方から『聖なる光』が指してきたのだから。
強烈な圧と共に。

光源たる『勇気』は斜め上方に跳躍していた。
今にも滑降攻撃をしかけるべく。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:46:33.33 ID:oQVrDKK6o<>
視覚で確認しなくとも、彼は瞬時に場を把握した。

翼を広げ、巨大な鉤爪のある両足をこちらに向け、
一気に急降下してくるフォルティトゥード。

一方通行は見上げもせずに、手でも地を叩き後方に飛びのいた。
まさに紙一重だった。

一瞬前まで彼の身があった空間が、
僅かな差でフォルティトゥードの巨体によって叩き潰されていく。

黒き地盤に食い込む二本の巨足。
天門の蓋を一気に軋ませ、火花散らし、轟くは鼓膜を貫く金属の悲鳴。

だがその声に傾けている間は無かった。
足による踏みつけは回避したも、
一拍遅れで、双頭が回避先の一方通行むけて振り落とされたのだ。


一方『―――カッ!』

回避の猶予は無かった。
がちりと歯をかみ締め、彼は腕をかざしてその場に身を固めた。
次の瞬間、これまで以上の衝撃が両前腕を襲った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:48:19.93 ID:oQVrDKK6o<>
一方『―――ッッァアッ!!』

瞬く閃光に散弾となって飛ぶ火花、
そして舞い吹く火の粉。

とんでもない膂力の『二撃』だった。
強化状態の肘から先はびくともしなかったも、
それを支える身が今にも砕けそうに軋んでいく。

身の内から組織が断絶する音が聞え、
吹き上がってくるはあの重傷を追った際特有の苛烈な『熱』。

一方『クソッ―――』

両腕で双頭の顎裂きをがっちりと受け止めた一方通行は、
すかさず負けじと悪態を飛ばし。

一方『―――がァ!!』

足を踏み切り、身を一気に捻って―――ドラゴンの頭の一方を横から蹴り飛ばした。

玉突きのように吹っ飛ぶ双頭たち、
錘のついた紐のようにばちんと張り伸びる雁首、
そしてまたしても飛び散る装具の破片と。

心を打ち震わせる―――毀れた魂達の悲鳴。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:49:57.84 ID:oQVrDKK6o<>
一方『(―――…………―――)』

何度耳にしても、どれだけ聞いても、この言霊には慣れなかった。
そもそも慣れてはいけないものなのかもしれない。

一方通行はもはや、ここに使命感に似た衝動を覚えていた。

この悲鳴を引き出し、耳を傾けることも己が成すべき仕事の一つではと。
『彼ら』はもう終った物語、してあげられるのは、正式な幕引きを与えることだけ。
ならば一刻も早く、そして全員をそうしてやらなければならないと。


彼らの最期の言霊を残らず聞き。


そして安らかな終幕へと『導いて』やらねば。


一方通行はその場に、さながら地盤を割り砕かんとばかりに足を置いた。


人間を虫のように見る『勇気』へのただ純粋な憤怒と―――
―――無意識のうちに『人間の王』としての責務にかき立てられ、
目的を果すまでは、勇気の前から退かぬという意志をもって。

そうしてフォルティトゥードと向かい合い、
彼は更なる攻防へと身を投じていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:52:51.31 ID:oQVrDKK6o<>
息付く間もなかった。

振るわれる超大な尾の上を飛び越え、逆さの巨顔に拳を叩き込む一方通行。
漆黒の細腕が、巨躯を軋ませ押し退けていき、
石のごとき外皮が砕け散っていく。

『悲鳴』と共に。

しかしその直後、毀れた悲鳴は一瞬にしてかき消されてしまう。
巨大な翼が少年を横から叩き飛ばしたのだ。

一方通行の身は、遥か彼方へと吹っ飛んでいった。


一方『―――かッッはッ!!』


めきりと不快な音が響き、強烈な衝撃が身を揺さぶる。
思わず漏れた息に、赤き飛沫が混ざり飛んでいく。


その苦悶を断ち切るかのように歯を打つと、
彼は宙で身を切り返し―――翼を使い矢の様に飛翔、
フォルティトゥードへ向かって再突貫。

対する『勇気』も体勢をすぐに立て直し、
その漆黒の『砲弾』を正面から向かい撃った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:54:26.45 ID:oQVrDKK6o<>
放たれるは火流。
勇気は対空砲火のように、二つのドラゴンの顎から交互に業火を乱れ放つ。

その灼熱の弾幕は、被弾無しで抜けるには到底不可能なほどに苛烈だった。

縫い飛んでいく一方通行、
一翼が被弾し吹き飛び安定を一時的に失うも、すぐに体勢を立て直し、
向かってきた火弾の一つを脇に蹴り弾き、更に空間を切り裂いていく。

強化された手足はまだびくともしなかった。
過負荷による酷い消耗はともかくとして、
外域からの『勇気』の攻撃には見事に持ちこたえていた。

ただそれも時間の問題であることを、
誰よりも一方通行自身わかっていたが。


『まだ大丈夫』だ。


そして『今のうち』に勝負を決めなければならない


常に必殺の一撃を。


一方通行は一際強く、限界近くまで力を集束させ、
フォルティトゥードの鼻先に突撃、渾身の膝蹴りを叩き込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:57:02.69 ID:oQVrDKK6o<>
もはや呻きと言うよりは怒号か。
フォルティトゥードの苦痛に喘ぐ声は、おそらくその物理的な大気振動だけで、
人間界の山脈を砕きかねないものだ。

一方通行はその怒号を最高の席、勇気の『鼻の中』で耳にした。

膝のみならず彼の全身が弾丸の様に貫き、
フォルティトゥードの顔の中にまでめり込んだのだ。

そしてこの特等席で聞える声がもう一つ。
いいや、『無数』の声だ。

一方『―――』

渦を巻く大量の死者の言霊。

あまりのざわめき、その衝動に、
一方通行の憤怒は一瞬振り切れてしまう。

怒りに染まった彼は『勇気』の顔の中を、
上へと向けて引き裂いていき口から外に飛び出し。

更に勢いそのまま、雁首の一方を駆け上がり顎に腕を突き立て―――


一方『―――オオオオアァァァァァ!!!』


―――そして一気に引き寄せて―――力と怒り任せに『背負い投げた』。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 01:59:01.72 ID:oQVrDKK6o<>
それは遠くから見ると、少し奇妙な光景だったであろう。
一方通行の身が小さすぎて、
フォルティトゥードが透明な相手に投げ飛ばされたようにも見えたはずだ。


巨躯が一瞬にして浮き上がり、加速しながら一方通行の上方を突き抜けていき。
そして彼の前方の地盤に叩きつけられた。

文字通りの地響きが轟いた。
猛烈な衝撃を全身に受け、軋み歪む巨躯。
漏れる声には一際濃く苦悶の色が滲む。

だが一方通行の怒りはそれだけでは収まらなかった

叩き落したのも束の間、
少年は、巨大な顎に手を刺したまま地に降り立ち、
全ての翼を展開してフォルティトゥードの身を押さえつけて。


一方『―――ッ―――ッオオオオオオオ!!』


そして腕に『限界のライン』を越えた力を集束させ――――――双頭の片方を引き千切った。


次に響いたのは、ドラゴンの悲痛な咆哮だった。

放り投げられ蛇のようにのた打ち回る首、
そこから雨のように飛び散っていく鮮血。

そして本体の口から迸る怒号――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 02:00:54.62 ID:oQVrDKK6o<>
一方『カカッ―――!』

無様な勇気の姿を身、
普段通りの『邪悪な笑み』を零す一方通行。

心なしか、今のであふれ出た魂達の言霊にも少し『喜び』が滲んでいたようにも感じた。
おそらくただの気のせいであろう。
彼らは終った『物語』、今更何かの感情を抱くことなんてないはず。


憤怒に身を任せ、発散させた快楽で少し麻痺しかかっているのだろう。
現に今の一連の行動で、一方通行自身が大きな過負荷に蝕まれていた。

一瞬怒りに耐えかねて、力の限界のラインを超えてしまったのだ。

手の肉にもそこに宿る力にも、
今や一方通行は酷い痺れを覚えていた。


しかし手を休める理由にはならない。

むしろ徹底的に追い込めば、
このまま一気に勝負を決することができるかもしれない―――


―――そう、すぐさま次の手を放とうとした矢先だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/15(木) 02:04:26.93 ID:oQVrDKK6o<>
一方通行は聞き、そして見てしまう。

まず聞えたのは更に増える『声』。
『勇気』の身の内に囚われている魂の言霊が、急激に数を増したのだ。

次いで見えるのは、『補充』されていくその力。

それらが示す事実は明確だった。

フォルティトゥード自身の強化容量は上限に達していたも、
貯蔵している『燃料』はまだ残っていたということだ。


一方『―――なッ』


首をもぎ取った。
こちらの身を蝕むのを引き換えにとんでもないダメージを与えた。
フォルティトゥードを酷く損傷させた。

それが無意味だったとは言わない。

しかし今、一方通行の目の前で。
彼が穿った穴がみるみる埋められていた。
どこかに貯蔵している人間達の魂をどんどん流し込んで。


束の間の隙を見逃さず、翼羽ばたかせて飛び上がるフォルティトゥード。

片首を失ったその姿を見上げながら、
一方通行は更なる怒りで打ち震えると同時に。
突然『終わり』が見えなくなった戦いに、強烈な焦燥を覚えつつあった。


この場に集う声達が、いっそう悲壮な色を強めて渦を巻いていく。
終幕という名の救いへと、『誘導』しなければならない魂達が。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/15(木) 02:05:09.68 ID:oQVrDKK6o<> ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は土曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/15(木) 07:57:51.71 ID:HRCh4kxH0<> 乙乙乙

一方さん早くパターンを覚えるんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/15(木) 17:52:51.99 ID:963HoWGEo<> 乙乙。
改めてフォルティトゥード見ると超デケェのな。強化状態だから更に・・・?
経験が足りない神方通行さんは強化勇気に苦戦。となると維持アスタロトと超強化&復活勇気で対等くらいか。ブーストパネェ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/16(金) 02:15:54.07 ID:VE3V3OAL0<> >>498
対等でも戦ったら途中で強化勇気が息切れしそう。
維持アスタロトは痛みを我慢できればノーダメージっぽいけど、強化勇気は制限あるし。
しかも強化状態だと完全に殺されたら復活できないんだっけ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/03/16(金) 02:29:50.83 ID:WXKyEd8AO<> マゾ大公を泣かして維持切らせるにはベヨ級の拷問じゃないと無理そう
最初は互角でもそのうち勇気がガス欠してマゾ大公の圧勝だろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/03/16(金) 02:37:02.01 ID:HsipD7pNo<> やっぱジュベの力の一片でも持ってるとかなり優勢だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/03/18(日) 00:15:42.77 ID:j924+hhKo<> まぁ実際戦うとなると維持でチートだけど、力の格的にはどっこいまで行きそうだ。
そういや悪魔サイドも、トリグラフみたく配下悪魔をドレインしてブーストできるのかな。それとも血袋が限界か。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/18(日) 02:35:27.37 ID:nOAhwO/ro<> すみません。
少し手間取ってます。
投下は明日の日中に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/03/18(日) 13:59:12.24 ID:3GAPqmod0<> >>503
(´ω`)無理しないペースでよいですよ乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:34:17.10 ID:Y70RMztfo<>

一方通行が思い描いていた勝利条件、それが根底から瓦解した。


明らかになる、
己の立ち位置が想像以上に劣勢だったという点。

想定外の問題が湧き出てくるということ自体には、一方通行は特に驚きを感じなかった。
初めての強敵との戦いとは大概そういうもの、
かなりの率で未知の要素が絡んでくることは覚悟していた。

だがその内容が、
それまでの大前提を叩き壊すほどのものとなれば、
覚悟していたとしても心折れかねないものだ。


一方『―――ックソッッタレがッ!!』


こういうことならば、もう短期決戦を狙うのは厳しい。
このペース・この戦い方では勇気よりも己が先に消耗してしまうのが明らかだ。
別の打開策を早く打ち出さねばならない。


しかし思考はむなしく空回り、焦燥感と抑え難い憤怒がより強まるだけ。

もはやまともな思考を行える状態ではなかった。
打開策を模索する以前の問題だ。

こめかみを破城槌で突かれたかのような衝撃と、
よりざわめく死者の悲鳴によって乱されたその心を、
まず鎮めるところから始めなければならない。

だが当然、そんな余裕などこの戦いには無かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:36:02.96 ID:Y70RMztfo<>
形勢は一気に逆転した。
いや、単に一方通行が優勢だと思い込んでいただけであって、
実は何一つ変わっていなかったかもしれないか。


フォルティトゥードは待ってはくれなかった。

飛びあがったのも束の間、一気に急降下してくる勇気。
集中が乱された一方通行は回避に精一杯だった。

二足の鉤爪に今や一つとなったドラゴンの顎は、獲物を取り逃して地に激突した。
一方通行は踏み潰される瞬間、前に飛び込むようにして足の隙間を抜け、
勇気の後方になんとか抜けていたのだ。

だがもはや彼は後手後手、
最悪の事態に集中が薄れ、守勢にまわってしまっていた。

一方『―――』

気付いたときにはもう遅かった。

フォルティトゥードは降り立ったのとほぼ同時に、
彼の行動を予期していたかのようにその場で振り向き―――翼で薙ぎ払いをしかけてきていたのだ。

大型旅客機のような翼が、
火花と激音を散らして黒き地盤を削り行き―――そして受身が間に合わなかった少年に襲い掛かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:38:12.26 ID:Y70RMztfo<>
一方『―――ッァァァッ!!』

タンカーの舳先に轢かれる、そんな比喩が相応しい。
全身まるごと強く打ち付けられ、吹っ飛ばされてしまう一方通行。

すぐに翼と手足で制動したも、300mほども地と擦れて筋を穿ってしまう。

しかも止まりきらぬ前に、そして彼が今の一撃に喘ぐことすらも許さずに、
次の一手が容赦なく襲い掛かった。

前向く一方通行、その前方の視界を覆っていたのは、
僅か50m前に迫っていたフォルティトゥードだ。

その巨体に不釣合いなほどの爆発的な加速と踏み込みで、
吹っ飛んだこちらを間髪いれずに追いかけてきていたのだ。


勇気はその勢いのまま地に腰つけ―――滑り込んでの体当たりを敢行してきた。

まさしく超巨大ブルドーザーのよう。
地とその巨体の隙間に飲み込まれればどうなってしまうことか。

横に回避する猶予はもう無かった。

咄嗟の判断で一方通行は『前』、勇気目掛けて踏み出し―――その巨顔の額部分を蹴り込み、
その反動を利用して飛び退き。

そのまま更に後方へ―――距離を開けようとしたが、そこにも勇気による一手が立ち塞がった。


飛びかけた直後の一方通行に、待ち構えていたかのように振り下ろされるドラゴンの顎。

一方『―――ッカッ!!』

回避できないとなれば、攻勢に転じて防御とする。
今の額への一蹴りと同じく、一方通行はこの顎に対しても拳で迎え撃った。

自動車を丸呑みにできるほどの顎、その先と激突する黒き腕。
煌く装具がひび割れ、またもや魂達の悲鳴とともに飛び散っていく。


一方『―――!?』


そしてそれらとともに―――腕からも、黒き破片が散っていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:40:02.88 ID:Y70RMztfo<>
ひび割れは僅かだった。
小石程度の粒が数個飛んだだけ。

だが『ひび割れた』、それ自体が一方通行にとっては衝撃だった。

この光景が示す事実に、思考する必要は無かった。
見たとおりそのまま―――腕の硬度が低下してきているということ。

勇気に唯一勝っていた点である瞬間的な出力すらも、
今や互角近くにまで低下しつつあるということだ。

無理を押し通しての手足の強化、それによる消耗は想定していたとはいえ、やはりきわめて早かった。
しかも、今度はこちらの番だとばかりに畳み掛けてきた勇気、
その猛攻が消耗をより加速させている。


そんな更なる状況悪化の兆しに一方通行が衝撃を受けた瞬間にも、
フォルティトゥードは親切に待ってはくれない。


彼の腕が受け止める顎から、即座に火流が放出されたのだ。


一方『―――ぐッッッあァ!』

一方通行には今度こそ、攻勢に転じて防ぐ術さえもなかった。
至近距離から放たれた業火に呑まれ、
そのまま直下の地に叩き落されてしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:43:09.72 ID:Y70RMztfo<>
まともに着地すら出来なかった。

纏わり付く『ゲル状』の炎とともに、彼は肩から黒き地盤に激突、
全身を強く打ち付けて更なるダメージを負ってしまう。

しかも起き上がる暇すら与えられない。
地に激突した直後、彼の無防備な身を横から叩き飛ばす超大な尾。

そうして弾き飛んだ先にて彼は、
ここまで浴びた一連の衝撃と、それによる痛みをようやく『味わう』ことができた。


一方『―――ッァァァァァ!!ガッ……ぐァ……!!』


先の首をもぎ取った流れの仕返しか、猛烈な追い込みだ。
勇気には『遊ぶつもり』は一欠けらも無い。

早急にこちらを殺す気なのだ。

殺意のみが宿った傷が、そんな相手の意図を明確に示していた。

全身が痺れながらも感覚は明確で、
この焼かれ溶かされる悪夢のような刺激をしっかりと堪能させてくれる。

手を付き起き上がるも、どろりと口から毀れいでる熱き体液、
そしてまた一つ、ぴしりとひびが入る黒き腕―――『時間切れ』が迫っていることを示す兆し。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:45:01.72 ID:Y70RMztfo<>
一方『―――ッ……!』

戦わなければならない。

こうして受身に甘んじていてはならない。
こちらも攻勢に出て、この勇気を追い込まねばならないのだ。

可能だ、今からでもフォルティトゥードに対して攻勢に立つことは可能だ。
瞬間的な攻撃力はこちらの方が『今のところ』は上なのだから。


だが―――その先は?


そのままでは末路は明白、こちらが先に消耗してしまい―――敗北を喫する、ただそれだけだ。

ではどうする、体勢を持ち直すため一度退くか。

否、それは許されない。
何があっても、この勇気をインデックスの方へと向かわせるわけにはいかない、
ここで釘付けにしなければならない。

では考える必要も無い策、
その命と引き換えに、爆発的に出力を上げて一気に叩き潰すか。

否、これも許されない。

己が滅んでしまうと、防壁たる虚数学区も消え去り、学園都市―――そして人間界が丸裸になってしまう。

滝壺によるテメンニグルの塔の隔離にも、虚数学区の一部が引き伸ばされて使われているため、
己の消失は、多数の大悪魔たちをも学園都市に招き入れてしまうことを意味する。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:47:32.34 ID:Y70RMztfo<>
この場で新たな打開策はもちろん、一つの選択肢も見出せなかった。

代わりに鮮明になっていくのは、
死亡願望ではなく『生存願望による闘争』、それがどれだけ過酷で困難かということ。


そして『生きるための戦い』の中で、より痛烈に突きつけられる―――己の『弱さ』だった。


死者達の叫びが、そんな己を責め立てるようにさらに耳に集まってくる。

少年は自ら思った。
戦闘能力ではない、それを使う『人格』の問題だ。
ここまで強大な力を手に入れていても、一方通行という人物はどうしようもなく弱い、と。

もはやまともに打開策を模索することなんてできなかった。
一方通行にはただただ、この自らの不甲斐なさに苛まれるしか。



羽ばたき飛んでは、再び滑降してくるフォルティトゥード。
その踏み付けをなんとか脇に転がり回避し、次ぐ尾の薙ぎ払いに間一髪のところで受身を取る。

超大な尾の重みを受け止める黒き腕、そこからまたしても散る―――破片。
時間と手数のたびに少しづつ脆く砕けていく力。

そう、脆かった。


一方『―――ぐッ!』


力は強くとも、それを扱う者が弱ければこのザマだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:49:40.42 ID:Y70RMztfo<>
弱い。
どうしてこうも己は弱いのか。

経験や力以前の問題だ。
決定的に要たるが人格弱く、存在性そのものに負け犬の印が刻まれている。


死者の悲鳴、フォルティトゥードの強さとこの劣勢に心が乱され。
どうしても悲観的に傾き、意志が挫きかけてしまう。

以前の己ならば、最期には完全に気圧されて戦意喪失するか、
全てを投げうって自暴自棄になってしまっていたか。

そこに至らぬだけ、自覚があるだけ進歩したのかもしれないが、
まだ決定的に『何か』が足らないのだ。


一方『―――チクショウがッ!!』

尾を弾きあげながら、一方通行は自らに悪態を叩き付けた。
勇気にもひけを取らぬ膂力はいまだ健在、だがこれもいつまでもつか。

しかし打開策は何も見つからない。
爆発一歩手前にまで感情が滾り、焦燥感で心臓が潰れてしまいそうになるだけ。
死者達の悲鳴で、その重さで、精神が砕けてしまいそうになるだけ。

そして具体的な案が見出せない意識は、
いつしか縋るように―――『逃避』するかのように、ある人物達の姿を思い描く。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:52:11.40 ID:Y70RMztfo<>
それは彼がこよなく心酔し憧れる、夢にまで見た本物の英雄達。

どんな苦境でも絶対に諦めず、自暴自棄にもならずに、
揺ぎ無い芯でとことん邁進し続ける『大馬鹿者』―――上条当麻。


そして心身力全てが絶対的な、まるで映画の中から飛び出してきたかのようなヒーロー、ダンテ。


どうすれば―――彼らのようになれるのだろうか。


困窮の果てに、少年は漠然とそう考えてしまう。

具体的な戦い方や勝利のコツが知りたいのではなく、
『勝者の立ち位置』への付き方が知りたいのだ。

己はそんな身分じゃないと格好つけたりも、罪びとだと卑下もしない。
もう昔とは違う、今の一方通行は純朴な幼い少年のように想いを馳せた。


―――彼らと『同じ』―――正真正銘の本物のヒーローになりたい、と。


己の生存願望を認め、素直に受け入れた。

『生きる』、ということを初めて理解し、受け入れた。
だがそれだけじゃ足らない、決定的に何かが足らないのだ。
彼らと己の残る違いは一体何なのだろうか。

しかし問いかけても無駄だった。
自問しても、自らから答えが返って来るわけも無いし、
そもそもこれは、誰かに聞いて教わるものではない。


―――自ら気付かなければならないこと。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:54:34.91 ID:Y70RMztfo<>
一方『―――オオオオオオ!!』


我武者羅に戦うしかない、彼は自らにそう鞭打った。
答えを考えることは無駄、もう眼前の戦闘に全身全霊で集中するしかない。

余計に思考を残していれば、この死者達の悲鳴に押し負け、
憤怒に乗っ取られてしまうだけだ。

この劣勢を覆す策も見つからず、選択肢も見出せないのならば、
あのヒーロー達のように諦めないこと、戦い続けること、それだけをただ模倣するしかない。

例え末路がわかっていても。

今の『何か』が欠けたままでは、
『本物のヒーロー』にはなれないとわかっていても。


少年は怒号を放っては、巨大な尾に腕を突き刺し。
一気に持ち上げて振い―――勇気の巨体を地に叩き付けた。

だがそのまま引き千切るまでにはいかなかった。
即座に勇気の翼で、全身を強く叩き潰されたからだ。

一方『―――がッ―――!』

意識が明滅し、鈍くなってくる思考。
死者の叫びが耳鳴りのように、身の内に響いてくる。
奮い立たせようとしているのか、それとも死の世界へ誘おうとしているのか。

『眠り』に導く子守唄のようでもあれば、励ましの声にも聞えるその合唱に、
フォルティトゥードによる衝撃が戦鼓のように轟き混じった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:56:34.88 ID:Y70RMztfo<>
翼の一撃に続き、尾が彼の上に叩き落された。
黒き地盤と尾の間、うめき声すら漏らせないその中で少年は、
またもや身の内から組織が砕ける音を聞いた。

今や、肉体の損壊が直接的に命に関わることは無い。
しかしその逆は当たり前に起こること。

最高出力状態における肉体の崩壊は、
力が実体の保護に及ばなくなってきている証拠。
間接的に魂の損傷度合いを示していることになる。


一方通行がこの時聞いた音は、文字通り―――近づく『死』の足音だった。


聞える無数の死者の声、己もそんな彼らの仲間になりかけているという兆し。


そう認識した少年は戦慄した。


もう無駄だとして閉じていた思考が、
勝手にまた再稼動してしまう。

『生きたい』と願ってから初めてわかる―――目前に迫った『死』への『真の恐怖』に。

『生きること』を受け入れた上で初めて理解できる、本物の『死の重さ』。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:58:10.34 ID:Y70RMztfo<>
己は今まで、『これ』を無数の人間達に軽々しく与え続けてきていたなんて。

『これ』と常に肩並べながら、上条当麻やダンテはあんな風に戦い続けてきたのか。



そして今聞えるこの声達もみな―――『これ』を体験してきた成れの果てだというのか。



一方『―――ぐッがァァァァァアアアアアア!!』


魂たちを、こんな『死』を経ても尚苦しめるフォルティトゥード。
そして大勢に死を与え、快楽に浸ってきた己。
更に燃え盛る憤怒に、加わる途方も無い死の恐怖。

一方通行は勇気の尾を拳で叩きあげ、この抑えがたい衝動を放った。

もう意識は真っ白、いや、灼熱の赤に染まってしまっていた。


この戦いが、この勇気が憎くて、そしてとにかく―――怖くてたまらなかった。


死ぬわけにはいかない、死にたくない。
脳裏に蘇るのはこれまで目にしてきた人間世界、これまでは蔑んで恨んできたその光景達が、
今や懐かしくてたまらない。

こんな自分を認めてくれて、同志としてくれた者達が恋しくてたまらなかった。
黄泉川、芳川、土御門、結標、海原や。


本物のヒーロー、上条、ネロ、ダンテ。


そしてもっとも大切な家族―――打ち止めと。


この心に刻み込まれた一輪の花――――――麦野沈利。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 17:59:36.48 ID:Y70RMztfo<>
一方『―――ッァ!!』

自信に溢れた、あの狡猾そうな薄笑み。
だがいつかの酒の席でふと見せた―――弱さを湛えた儚げな顔。

彼女のその顔が目に焼きついている。
今でも鮮明に残っている。

だが記憶だけじゃだめだ。
それだけじゃ気が済まない。

もう一度見たかった。


もう一度彼女に―――会いたい。


だが彼女は『死んだ』。
そう、この恐怖の源たる『これ』が彼女を連れ去ってしまった。


―――己は遺されたのだ。


こうして一方通行はようやく、極なる戦いの真っ只中にて完全に『受け入れた』。


『死ぬ』、ということを。


死者たちの声の中、己の死の淵にて、
ある女性の死にようやく心の底から打ちひしがれることで、その本当の意味を知り。

これこそが彼に足りなかった『何か』であった。
生きることと死ぬこと、その両方を受け入れたことにより、
彼は『あらゆる条件』を満たすことになる。



次の瞬間、一方通行の『見る世界』は変わり――――――――――――彼は本物の『英雄』になる。



一方『―――』


今や彼の瞳には、はっきりと死者たちの魂が『見えていた』。
声を聞いてその存在を認めるのではない、

勇気の体内で蠢く『魂そのもの』を『一つ一つ』―――正確に認識できるようになっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:01:10.39 ID:Y70RMztfo<>
生と死の両方を理解したことによるその認識昇華は、
偶然ではなく必然だった。

アレイスターがそう設定しておいたのだから。

かの魔術師は人間界の力場、すなわち人間の魂が還りゆく領域を統べる存在として、
この一方通行の『器』を育て上げた。

彼の力のベースになぜ、アレイスターはハデスを設定したか。
その理由はかの存在が俗になんと形容されるかが、実に正確に現している。

一般的な俗説の中にも時には真実が隠れ潜んでいるものだ。


ハデス、その通称は『冥府の王』、もしくは――――――『死者の王』である。


アレイスターの目論み通り、その力はこの通称に相応しい形へとついに昇華したわけである。
だがただ一つ、彼の唯一にして最大のミスがあった。

この消去するはずだった未熟な人格が、『王』たる基準を満たしたことだ。


一方『―――』

尾を叩き上げた拳、その表面に纏わり付く、勇気の身から毀れ落ちた人間達の魂。
それらの『触感』に、一方通行は馴染みのある感覚を覚えた。


死者の王たる権限によって―――その『流れの向き』を操作できたのだ。


すなわち、これまでの―――『ベクトル操作』と同じ要領で。


一気に空が晴れ渡るような感覚だった。
嘆きの果てに一縷の希望を取り戻した少年の思考は、すぐにこの状況を把握、
そして唯一にして最高の打開策を見出した。

直に触れさえすれば―――フォルティトゥードの体内で渦巻く無数の魂の塊、
それと己のAIMをリンクさえ出来れば。



その莫大な力を――――――『支配下』に置ける、と。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:02:22.57 ID:Y70RMztfo<>
消耗限界はすでに目前、傷もあまりにも酷く、
いつ動けなくなってしまってもおかしくはない。

一方通行はすぐに動いた。

触れさえすればいいのだ。
もう一度この腕を巨顔に叩き込み、外皮を割り、その下の魂達に触れさえすれば。

一方『―――ハァァァァァァ!!』

そう前に踏み出し、勇気にへと猛然と飛びかかった少年。

だが相手が相手、望み通り事が運ぶわけがなかった。
その拳を叩き込む前、巨顔の額に5mのところまで差し掛かったとき―――少年の身は、
上方からのドラゴンの顎で叩き落された。


一方『―――ッぐ!!』

幸いなんとか受身はできた。
足で地に着き、振り下ろされた顎を腕で支える一方通行。

かざす黒腕からは、ガラスのような破砕音と共に一際大きな破片が落下、
それが示しているのは―――時間が無いことだ。

しかももう全く余裕が無い。
『秒読み』段階だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:04:31.09 ID:Y70RMztfo<>
もうある程度のダメージは覚悟の上で畳み掛けねばならない。

一方『らァァァ!!』

一方通行は瞬時に顎を弾きあげ、
今度こそ拳を叩き込もうと前に踏み出した。


しかし―――ここに来てだった。
ここに来てフォルティトゥードは突然戦い方を変えた。


一方『―――!?』

一方通行の体当たりとも呼べる一撃はむなしく空を切っただけだった。
勇気は直前に上方へと飛びあがったのだ。
しかもこれまで通りならすぐに滑降攻撃を仕掛けてきたはずなのに、
この時は上へ上へと、距離置くように飛びあがっていく。

なぜ―――何が目的なのか。

こちらの目的を悟ったのか?その危険性を敏感に検知したのか?
それともこちらの消耗限界が目前であることを知って?そのための時間稼ぎか?

脳裏に様々な憶測が湧き上がるも、
それらを検分している暇など無い。

一方通行も翼をしならせ瞬時に飛翔、勇気を猛然と追った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:05:52.94 ID:Y70RMztfo<>
そんなこちらを認め、すかさず上方から火流の弾幕を張る勇気。
距離を置こうとしているのは明らかだった。

一方『おおおおおォォォォォォォォ!!』

もうなりふり構ってはいられない。
一方通行は被弾するのも省みず、無我夢中で業火の滝を昇って行く。
だが勇気もまた猛烈な速度で飛翔を続け、この弾幕もせいもあって中々距離が縮まなかった。

一方『クソッタレがァ!!』

埒が明かないと、
一方通行は翼を振るい―――その先端を砲弾のように撃ち放つ。

放ったのは4発―――猛烈な勢いで飛翔し、弾幕を抜け、うち2発が勇気の巨顔に命中。

しかしやはり無駄だった。

この状況で、穿った傷穴に命中させることはもとより困難、
固い外皮に当たった2発は僅かなヒビを刻んだだけ。

かの存在の力を貫くには、やはりこの強化した手足による一撃でなければ。


一方『―――クソッ!!待ちやがれッ!!』


だがそんな彼の事情を嘲笑うかのように距離は縮まなかった。
減少するのは残り時間だけ、逆に増大していくのはダメージだ。


一方『―――逃げンじゃねェ!!それでも天のアタマかクソッタレ!!腰抜けがァァァァ!!』


一方通行は叫んだ。
挑発し、罵り、戦意を誘う言霊を腹の底から放った。
だが勇気は一切反応しない――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:07:06.82 ID:Y70RMztfo<>
そうだ。
最初から徹底してそうだった。

あの存在は、『人の声』など虫の鳴き声のようにしか認識しない。
どれだけ意志を乗せようが、四元徳は耳を傾けようとはしない。

最後の最後までこのフォルティトゥードという存在は、人間の全てを軽視し続けた。


一方『―――来ィよ!!来やがれってンだよクソがァァァァァァァァァ―――!!!!』


打開策、それも決定的な策が見出せたというのに、
ここで潰えるわけにはいかない。


絶対に勝たねば、そして生きて還らなければならないのだ。


手足から、ぱきり、ぱきりと大きな力の破片が落ちていく。
六本ある翼もじわじわと砕け、残るはもう3本。
こんな『追いかけっこ』はもうやってはいられない―――もっと大胆な手に出なければ。


次の手に移る際、一方通行にはもう迷いはなかった。

身の硬度、つまりは防御を全て―――己の速度に耐えられるだけ残し、その他の力を『速度』に集束。
手足を強化していた分も、右手だけを残し自らの加速へと向け。


そうして生み出された最速にして最後の右拳に、彼は全てを委ねた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:08:35.19 ID:Y70RMztfo<>
必要最低限以外の全ての力を注がれ、
彼の身は爆発的に加速した。

そして一撃貰えば死ぬ、今やそんな脆くなってしまった身で、
弾幕の中を縫い飛んでいく。

あと1000m。

全知覚を前方に集中させ、数多の火弾を紙一重のところで避け。

あと500m。

翼の一本が焼かれ、砕かれながらも怯みはせず。
炎の滴が脆くなった肩を焦がしても、一切意識を向けたりはせず。


そしてついに―――追いつく。


少年は振るわれた最後の一撃たる、巨大なドラゴンの牙を潜り抜け―――



一方『オオオオオオォォォォォォォ!!!!』



―――逆さの巨顔、その眉間に右拳を叩き込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:09:49.13 ID:Y70RMztfo<>
聞えるフォルティトゥードのうめき声に、
腕から全身に伝わってくる衝撃と触感は、全てが彼の期待通りだった。

砕ける外皮、穿たれ引き裂かれる肉、そして―――その下にある人間達の魂。


だが魂達の量はあまりにも莫大なものだった。
今の彼でもすぐに全掌握とはいかないほどに。
とは言ってもそれは僅かなもので、さほど問題は無かった。


―――あと一秒、一方通行が追いつくのが早ければの話であったが。


一方『―――』


一秒、遅かった。
なんというタイミングだろうか、ここで時間切れが訪れたのだ。


ついに消耗限界、スタミナ切れた彼の力は一気に崩壊していった。

一瞬にして砕け散る翼、髪色は黒から白に戻り、
その他の部位も全ての戦闘態勢が解けていく。

もちろん―――右手も。

黒き破片が飛び散り、現れるはもとの華奢な細腕。
そんな状態ではもはや、フォルティトゥードの体内に留めてはいられない。


―――その右手は成すすべなく―――勇気の肉に押し出されてしまい。


完全掌握を目前にして、接続が切られてしまった―――――――――のだが。



一方通行が理解する間もなく、その接続は即座に復旧する。



―――とある『死者』が、離れかけた彼の右手を握り返したことで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:12:15.76 ID:Y70RMztfo<>
フォルティトゥードにはもちろん、他の何人であれその姿は見えなかっただろう。
唯一、今の状態の一方通行を除いて。


それは死者の王たる彼にしか見えない、触れられない『幻』。


死者の王たる彼にだけ見えるその腕を―――その『相手』を前に、
彼は二重の意味で驚愕し、二重の意味で心が震えた。


接続がなんとか保たれ、勝利が確定したことと――――――この思いがけぬ『再会』に。


もう二度と目にすることも声聞くこともできなければ、
一度も触れられることさえできなかった、そう思っていたのに。


『彼女』は目の前にいた。


『彼女』はここにいて、見てくれていた。


フォルティトゥードの傷口から腕を伸ばし、しっかり握ってくれている手。
しなやかな指にきめ細かい肌はこれ以上無いくらいに暖かくて、柔らかくて。


緩やかにウェーブがかかった『栗色』の髪からは、心地の良い香りがして。


その相変わらずの狡猾そうな微笑が、最高に愛おしかった。


一方『―――――――――』

この刹那の一幕、彼は返すべき言霊が思いつかなかった。
どうしようもなく潤んだ瞳で、不慣れで無様な笑みを返すしかなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:14:21.81 ID:Y70RMztfo<>
この時にはもう完全掌握は完了していた。


フォルティトゥード『―――ッお―――おおおお―――?!』


勇気は今や、反旗を翻した魂たちによって内から縛され硬直、
処刑の号令を待っている段階だ。

あとは『引き金』を絞るだけ―――それでこの戦いが決する。


ただそれは同時に―――彼女の完全なる消失も意味している。


わかっている、一方通行はわかっていた。
どうにかなるものではない、これは必然だ。
生者と死者、それは絶対に交わることのない出来ない領域。


生と死、そこには『一方通行の流れ』しか存在していない。


―――だがこのまま―――何も告げずに彼女の手を放してしまえるわけがない。


何か言葉を向けなければ―――そうして彼は、この戦いの中、
心の奥に常ありつづけたある感情を声にした。


一方『―――オマエが好きだ』


もっと気の利いた事を言いたかったのに、
口から飛び出したのは、陳腐で単純すぎる言葉だった。


だが彼女は、今度は文句なしの笑みを浮べてくれた。

驚きと恥ずかしさ、
そして目を細めては冗談交じりに見下げるような、冷やかしを交えながらも―――柔らかく穏やかに。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/18(日) 18:16:52.11 ID:Y70RMztfo<>
一方通行はその笑顔に完全に目を奪われた。
打ち止めの笑顔が太陽ならば、彼女はその光の下に揺れる最高の『一輪』だ。

ここまで心惹かれ、目が逸らせない存在は他にありやしない。

絶対に忘れはしない、少年は誓った。
いや、自らそう望んだ。
未来永劫、意識が存続する限り、この麦野沈利の笑顔は目に残り続ける。
彼女が他の何よりも美しかったことを、この魂が記憶し続ける、と。



―――別れの時が来た。

今度こそ永遠の別れだ。
フォルティトゥードを滅ぼし、
そして無数の死者たちと彼女を―――ここから解放し―――安寧に導く。


―――それが己が望みにして、果たさなければならない使命。

一方通行は最後にもう一度、穏やかに告げた。
今度は不器用ではない、自然な素直な笑みと共に。


一方『―――――――――好きだ。麦野―――』



解き放たれ、消え去るその瞬間まで、麦野沈利はこちらを見、微笑み続けていてくれた。
もちろん一方通行も同じく、最期まで見届けた。
彼女の姿が完全に消え去り、そして彼女含む莫大な数の魂たちが、
フォルティトゥードを内から葬り去るその瞬間まで。



フォルティトゥード『―――我らが主神ジュベレウスよ!!栄光あれ!!永久の栄光をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


それが四元徳が一柱、勇気の最期の言葉だった。

次の瞬間。
一方通行の操作によって、その巨体は木っ端微塵に砕け散った。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/18(日) 18:17:18.99 ID:Y70RMztfo<> 今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 18:25:47.19 ID:QIEHq3UNo<> おぉ…と思わず声が出るほど魅入らされた
乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 18:29:12.99 ID:tPTjS3hu0<> カッコ良すぎだろ白モヤシ…
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/18(日) 19:20:50.60 ID:v0HlPOJ0o<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 20:38:22.89 ID:k0mIfxUDO<> 一方さん報われて良かったな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 22:55:55.79 ID:uCim9+vDO<> 乙ぅぅぅぅ!!

麦野出てきた所で涙出た <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/18(日) 23:09:42.25 ID:j924+hhKo<> 乙でした。
むぎのんは死んだ・・・だが消えてはいなかった! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 01:55:08.93 ID:pzEwEZJw0<> 禁書の次巻表紙に銀髪赤コートが載っていてももう驚かないレベル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/19(月) 14:23:27.45 ID:lYpWgz5U0<>
DMC5に白もやしが出てきてももう驚かないレベル <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/19(月) 20:42:00.31 ID:tk3khRBDo<> 麦野おおおおおおお
一方通行ああああああああ
カップルウウウウウウウ
イヤッッホォォォオオォオウ!
感動した!!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 22:55:18.78 ID:GRmyA/X5o<> たまんないなもう。乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/20(火) 13:14:25.47 ID:cxaR+YJm0<> 来たな
来たな
なんか晴れ間が出来たみたいだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/03/20(火) 18:58:22.12 ID:yd1Wy91Qo<> 涙出てきたわこんちくしょー
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/20(火) 20:41:16.14 ID:7JcssAsz0<> Are you crying? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2012/03/20(火) 22:16:27.32 ID:59rV9rtTo<> 今回は今までで一番感動したわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/21(水) 09:45:05.59 ID:n0jEh49K0<> It's only the rain <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/03/21(水) 15:47:39.50 ID:xVu//XVJ0<>    ,        ,..__,..-、__,,..,,_
   |`:、      ゝ:: ::: ::..`:、_,,.へ`ヽ.
   };; ヽ  ,..,_/.:.にニ=-─ー;:-'`Y' `:、__,/~~)
   l;;;,  `:、 y`ー--'`ー-=-'~:::.ヽ.::::;/`' /`'  __,.,
   ヽ.;;,,  `';;;, `ー'"`-'" ,,,,.....  >'`-'─'''~  ト
    `;;;;,,  ;;;;;;,,    ;;;;;;;r-,,..--'"~,,;;;,,, /.:::  ∫ _,,..
     l;;;;,__  ;;;;;;,,   ;;;;;;/      ''''';;/.::::   l r',/
   ∧(,..-ニヽ.''';;;;,,  ;;;;/        ;;;;|::::::  ///
   ヽヽ.`:、 ゝヘ'';;;;, ;;;;/        ;;;;;|:::: ,//
    \,..ヘ `ゝ ヽ;;: ;;/        '';;l-'",/
      \ゝ ヘ__  } ;く      ,;;;;;, /''/
       `ヽゝ< レ ヽ    ,,;;;;;;;/'〆
         `ゝ_ `ヽ`ー-`,.,___,,-''_,ゝ
           `ー-,,.._../ `y.  ..:::`ー--..,,_
              ヘ.:  / `ー‐-‐''~ ̄~ ̄
               /.: /
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              /.: /
             /.: /
             /.: / <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:04:47.62 ID:mXbgQFH4o<>
―――

風斬『―――いた!』

そのすぐ後、十秒も経っていない頃。
第一の天門の領域に到達した風斬は、勇気を打ち破ったばかりの一方通行を発見した。

果てしなく続くこの空を自由落下していた彼は満身創痍、
一目でほぼ全ての力を使い果たしているとわかるほどに疲弊しきっていた。

そんな彼を見、風斬はカマエルを後ろに従えて全速で一方通行に向かい、
紫電の翼で掬うようにして回収。
そしてひとまずと近場の浮遊城塞の広場に降り立ち、
より状態を調べるために彼の身を降ろした。

風斬『……っ!』

一目見た瞬間から覚悟はしていたが、それでもあまりの彼の状態に彼女は言葉を失ってしまった。
肉体の外見のみなら、出血はしているもそこまでではない。
だが内面の魂、力、器、どれもがボロボロ、もはや自力で立つこともできないだろう。


―――と、ここでもう一つ、彼女を驚かせる要素があった。

この状態を見たような衝撃的なものではなく、
どちらかと言えばふと首を傾げたくなるような驚きだ。


彼の表情は、その身の状態とは逆に―――穏やかなものだったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:05:54.50 ID:mXbgQFH4o<>
風斬『……っ』

打ち止めを介して、つい先ほど彼が四元徳に勝ったとは知っていたが、
とてもその勝利の喜びによるものとは思えない。
もしその歓喜もあったとしても、それとは別の情感を含んでいたのは間違いなかった。

悲しげながらも朗らか、憂いを湛えながらも充実している、そんな表情だ。


風斬『……大丈夫、ですか?』

一方「あァ」

どことなく眠たげにも見える彼は、落ち着いた声を返してきた。
夢と現実の狭間、うたた寝していたところを静かに起こされたような調子でもある。
一体何が彼の精神をここまで『清めた』のだろうか。

風斬『……』

とはいえ、風斬はひとまず彼の様子に安心した。

苦痛に喘ぐこともなく、酷い消耗も幸いなことに命には別状は無い。
しっかり休養すれば後遺症もなく回復するだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:07:51.29 ID:mXbgQFH4o<>
胸を撫で下ろしながら、風斬はそっと彼の胸に手を当てて、
彼の調子に合わせるようにして穏やかに促した。

風斬『じゃあ……帰りましょう』


戦いはまだ終ってはいない。

しかしこんな状態である以上、彼が天界に留まっている理由はもう無いのである。
それは一方通行も自覚しているようだった。
特に抗する様子もなく、「あァ」とまた同じような調子で頷いた。

彼に頷き返した風斬は、傍にいた重装の赤き天使へと目配せ。
すると天使はすぐに石畳に大剣を突き立て、
二人を第二の門の領域へと送り届けるべく移動用の陣を構築し、

この場から皆を連れて離脱―――しようとしたのだが。


風斬『―――』

カマエルの様子を見ていただけで風斬は、彼がこの時抱いた不審の念を敏感に悟った。
なにやら重大な問題が発生したのだと。
そして一拍あと、その原因が目に見えて顕在化した。

彼の移動用の光陣が正常に稼動しなかったのだ。

起動はしていたのだが、門が開いていなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:09:29.56 ID:mXbgQFH4o<>
だた、風斬にわかるのはそこまでだった。
門が開かない原因は皆目見当もつかない。

そこで彼女はすぐさま問い放った。


風斬『―――どうして開かないんですか?!』

一方通行とネットワーク上で繋がっているため、
ある程度の情報がフィードバックされてきているおかげでもあるだろう。

一方通行のように情感豊かに聞き取れるまでにはいかないにしろ、
今の彼女もある程度、天使の声を『言葉』として認識できるようになっていた。

風斬には機械的に聞える声で、赤き天使は告げた。


カマエル『この階層は「封鎖されていた」』


風斬『―――封鎖されていた?』


カマエル『四公閣下によって行われた。侵入は可能だが、離脱は困難だ』


明確にして簡潔。
その言葉で風斬はすぐに己達の置かれている状況を認識した。

一方通行はここからフォルティトゥードを逃がす気はなかったが、
勇気の側も同じつもりだったのだ。

ここで人界神の新王を確実に葬り去るため、決して外に出られないようにしたのだ。
そして進入路を封鎖しなかった理由はもちろん―――

―――必要と有れば『増援』が来れる様に、だ。


直後。
三者はこの大空の方々から、天の進軍ラッパが鳴り響いたのを耳にした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:10:55.10 ID:mXbgQFH4o<>
風斬『―――!』

目を向けるまでもなかった。
その瞬間全方位から覚えるは、夥しい数の存在―――出現した天使の軍勢。

彼方に『金色の雲』となって無数の軍団が次々と現れていく。
しかも雑魚天使だけではない、かなり高位の存在もおそらく総動員されているのだろう、
あちこちに強大な力の存在が見える。

四元徳の親衛隊である上級三隊と思われるものも多数。

風斬『っ―――』

下位の天使だけならば、どれだけの数が押し寄せてきても、己やカマエルが倒されることはまずない。
しかし上級三隊といった高位の存在達となれば話は別だ。

一対一なら圧倒できるも、数に任せて押しかけて来られれば―――多勢に無勢である。


風斬『―――別の方法は?!何とかしてここから出られないんですか?!』


返って来たのは絶望的な無言の答えだった。

大剣を引き抜き戦闘態勢に入るカマエル。
それだけで意図は明確だ。


離脱する方法は無い―――戦うしかないのだと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:13:34.92 ID:mXbgQFH4o<>
他に策は無いかと思考を巡らせていく風斬。

しかしどう見繕っても有効性は乏しいものばかり。
唯一具体性があるように思えた案、ここの下にある第一の門を抜けるということも、
考慮の余地なくすぐに却下されてしまう。

あの黒き蓋をなんとか通り抜けられないか、その問いへ一方通行はこう返してきた。

一方「悪ィ……無理だ」

彼は、この第一の門を二度と使用できないように封鎖した。
再び解除することはもともと念頭に入れてはいない。

それでも万全状態の彼ならば、なんとか制御して解除できたかもしれなかったも、
自力で立つことすらできない今では無理だ。

そして力ずくで突破するなんて到底不可能。
強化状態のフォルティトゥードと一方通行、その激戦の足場として完全に耐えている程なのだ。

己やカマエル程度では軋ませることすらできない。

風斬『―――』

風斬自身には、この問題に対処する力はなかった。

彼女の今にできること、及び義務は二つ。
一つ目はこの情報をネットワークの向こうに拡散させ、外部の助力を求めること。

そして二つ目は、その支援の手が届いてくるまで―――この少年を守ることだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:15:04.19 ID:mXbgQFH4o<>
フォルティトゥードが倒されているだけ望みはまだあると喜ぶべきか。
敵方の予定ではかの勇気が自らこれらを指揮し、
こちらを圧倒するつもりだったのだろう。

その予定が崩れ去ったことで、少しばかり天使達の間に動揺が広がっているのか、
攻撃はすぐには始まらなかった。

これは風斬達にとっては良い兆しだった。
時間が延びるだけ外部の者が手を講じる余裕が生じ、こちらの生存確率が上がるのだ。


風斬は一翼で再び一方通行の身を包み、他の翼の付け根に挟み込むようにして背負い。
そして間に彼を挟む形で、風斬りと背中合わせにカマエルが立ち、
この膨大な数の天使達を見据えた。


そうして数秒ののち、ようやく敵勢も動き出す。

一斉に向かってくるその光景は、
金色の壁が全方位から迫ってきているようだ。


無論、接触まで待つ必要は無い。
風斬もカマエルもすかさず刃を振るい、盛大に力を放った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:19:26.74 ID:mXbgQFH4o<>
拡散して放出された光の衝撃波が、天使の一群丸ごと吹き飛ばしていく。
金色の雲を薙ぎ払い、あとに残るの高位の存在達のみ―――のはずなのだが、

向かってきた群れの中には高位の天使達は含まれてはいなかった。
どうやら下位の天使達のみを向かわせてきているようだ。

これも勇気の死による影響か―――だがこの時点では、
あの軍勢にはもう動揺の色は見えなかった。

彼らは怖気付いているのではない、計算した上でこうしているということ。

時間稼ぎでもしているのか、
勇気が死したことで狂った作戦の修正を試みているらしい。

そしてその修正は、風斬達にとっては不運なことにすぐに完了してしまった。

風斬『―――っ』

その時、突然向かってくるのをやめ一定の距離を置き始める天の軍勢。
一体何が起こったのか、その答えはすぐにはわからぬも、
きわめて悪いことであると彼女は悟った。


―――背後にいるカマエルが凍りつくのを感じて。


次の瞬間、この歴戦の戦士すらをも強張らせてしまった存在が現れる。


天の軍勢による歓待の音色の中、
凄まじい暴風を纏い出現するは―――四元徳が一柱、『節制』を司る―――テンパランチアだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:21:51.60 ID:mXbgQFH4o<>
1000mほど上空に現れた城の如き姿はまさに圧倒的、
その力は見た目以上に強大。

風斬『―――』

あまりの強大さに、思わず風斬も息を呑んでしまった。
とても己やカマエル程度では相手にならないのは明白だ。

あの巨大な腕にかかれば、己程度なんで一撃で跡形もなく叩き潰されてしまうだろう。

と、そのように圧倒されている中、
彼女は背のカマエルにはまた別の感情が滲んでいたのを感じた。

己と同じく圧倒されつつ、天の者としてのであろう畏怖と畏敬も覚える中。


この赤き天使は、深い『悲しみ』と猛烈な『怒り』に打ち震えている、と。


その理由についても、風斬は敏感に悟った。
原因は恐らく、テンパランチアの管のような指先にところどころある、『赤い染み』である。

虚数学区に降りてきていたカマエル達と非常に似た力の『香り』が、
そこに見て取れたのだ。

これだけで彼が身を震わせている理由は大方想像が付く。
そして一方通行にも、同じく何か思うところがあったのだろう。


彼が静かにため息を漏らしたのを、風斬は背中越しに聞いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:24:20.02 ID:mXbgQFH4o<>
一方でテンパランチアは、こちらの心情など気にも留めなかった。

名乗りすらもしない、要職にいるであろうでカマエルにすら一声も投じることなく、
すぐに手を下してきた。


節制はその巨腕をことらに向け降ろすと、
管のような指先から―――『ミサイルのようなもの』を放った。

それも連続で雨あられとばかりに。


風斬『―――!』

極度の緊張に面していたとはいえ、
身は戦士としての機能を喪失してはいなかった。

風斬とカマエルは即座に回避行動に転じた。

彼女はさらに翼で一方通行を覆い固め、カマエルが彼女を守る体勢で、
二人は爆発の嵐の隙間を一気に抜けていく。

ミサイルにはある程度追尾機能もあるらしく、すべてを回避しきるのは不可能、
それら直撃してくるものは、カマエルが的確に大盾で防いでいく。

しかし両者が完璧な連携を果しても尚、節制の砲撃を潜り抜けるのは至難だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:26:37.82 ID:mXbgQFH4o<>
風斬『―――あッくッ―――!』

浮遊城塞を覆う無数の爆轟、その衝撃と炎の威力は直撃を免れたとしても猛烈。
余波で翼の表面がはぎ飛ばされ、皮膚には焼ける痛みが一面に走っていく。

そして直撃してくるミサイルによって、カマエルの大盾の表面がみるみる砕け、焼き溶けていく。
虚数学区上の激戦でもびくともしなかったあの大盾がである。


爆発の嵐を抜け、より下にあった別の浮遊城塞に降り立ったころには、
彼の大盾は原型を留めていなかった。

四隅は溶解して丸くなってしまい、厚さも半分以下、
盾の前面にあった荘厳な文様も跡形もなくなり、いまや歪な表面を晒しているだけ。

盾のみならず身を覆う甲冑も酷く損傷し、彼自身もかなりのダメージを負っているのも確実。


―――だがどうしようもできなかった。

風斬が彼の身を案じる表情を浮べたも、
カマエルはそんな気遣いは無用とばかりに、彼女の背を押しては逃げ続けるように急かした。


そう、反撃などできるわけがない、ただ逃げるしかなかった。

圧倒的劣勢下でも攻撃が防御になる場合もあるが、
ここまで力の差があれば無駄な行為でしかない。

これはもう『戦い』ですらない、一方的な『狩り』だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:28:31.34 ID:mXbgQFH4o<>
頭では無意味だとわかっていたも、
一方通行の手によるものがあるという点に、漠然と縋る心理的要素によるものだろう。

風斬達は下にある、あの『黒き蓋』へと向かった。


いくつもの浮遊城塞を経由し、
これら『浮き島』をできるだけ盾にしつつ最大速にて降下していく。


だがテンパランチアの追撃もまた苛烈なものだった。

ミサイルの雨は止むことなく降り落ちてきて、先々の浮遊城塞に叩き込まれていく。
そのたびに構造物が吹っ飛び、区画ごと割れ落ち、そして『浮き島』全体が崩落。

テンパランチア自身もまた、猛烈な勢いで降下してきていた。
戦車が自動車を踏み潰すように、浮遊城塞を軽々と砕き散らしながら。


風斬達よりもずっと速く。


風斬『(―――追いつかれる!!)』


迫り来る危機に圧倒された刹那、
追いつかれる前に『狩り』の終わりが訪れた。

ミサイルの猛撃によりついにカマエルの大盾が、盾持つ左腕ごと砕け―――『蒸発』した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:30:33.40 ID:mXbgQFH4o<>
風斬『―――ああッ!!』

次の瞬間には彼の左腕は肩から消え去り、
胴鎧も左半身が砕け、翼の幾本かも根こそぎ焼き飛ばされていた。

糸が切れた人形のようにぐったりとするカマエル。

風斬はそんな彼を何とか掴み、半ば落下するように降下、
そして―――『黒き蓋』の上に強行着陸した。


風斬『―――しっかり!!しっかりしてください!!』


長き付き合いの友に対するようにカマエルに寄り添う風斬。
カマエルの方もまた、親しき戦友に抱かれているように彼女の腕に身を委ねているその様子は、
つい先ほどまで二人が殺し合っていたようにはとても見えないだろう。

カマエルは生粋の武人らしくいまだに大剣を握り締めてはいたも、
もはや戦える状態ではなかった。

風斬『―――……』


そしてもう一つ、この状況にて明確な点があった。

もう逃げることさえもできなかったことである。

先回りでもしていたのだろう。
上級三隊と思しき強大な者達によって、周囲をぐるりと取り囲まれていたのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:31:49.58 ID:mXbgQFH4o<>
巨大な鉤爪を有した黒と金の天使、艶かしい雰囲気のある女性型の天使、
そして虚数学区でも見た十字槍を持つ巨大な天使などがずらりと100体以上、
100mほどの距離をおいてこの黒き地に立っていた。

そして上空にも、同じく虚数学区上で見たあの蛇のような天使が何体も泳いでおり。


その上には、テンパランチアが滞空してこちらを見下ろしていた。


風斬『……』


包囲は完璧なもの、突破は不可能だった。


風斬は翼を開くと、一方通行を身を起こしているカマエルの前に横たえた。
赤き天使は屈んだままながらも、大剣握る隻腕を突き出し、
力尽きるまで少年を守る意志を明確に示した。

風斬は両手に光剣を出現させ、周囲の天使たちを見回しては戦意を放ち。
徹底的に抵抗する意志を突きつけた。


さあ来い、最期の最期まで戦ってやる、と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:33:19.47 ID:mXbgQFH4o<>
風斬『……』

しかしそう無言の啖呵を切る一方で、彼女は恐怖と未練に苛まれていた。
眼前に迫る死と、使命を果せなかった後悔、この現実世界との別れ、そして――――――

風斬『…………あの、すみません、一つ聞かせて下さい』

耐えかね、彼女は構えたままふと口を開いた。
後方に横たわっている一方通行へ向けて。


風斬『私は―――「人間」になれたんでしょうか?』


何の脈絡も無い、唐突にも聞える問いだ。
だが一方通行の側はなぜ彼女がそんな事を口にしたのかは、
しっかりと理解している様子だった。

彼は弱弱しくもハッと笑い飛ばしながら、こう返してきた。


一方「…………なれたも何も……オマエは最初から人間だろォが」


何を当たり前のことをとでも続けたそうな声色で。
だがそんな『当たり前』のことこそ、風斬が求めていた最高の答えだった。


風斬『…………ありがとう』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:35:32.28 ID:mXbgQFH4o<>
その直後。
テンパランチアの一声により、周囲の上級三隊の者達が一斉に動き、
三者に飛びかかる―――ところだったのだが。

彼らの足は、踏み切る寸前で再び停止してしまった。




「―――待てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



節制の号令に重ねられた―――ある少年の怒号によって。

そして次の瞬間、
風斬の目の前に―――以前にも見たことがある背が降り立った。


その『黒髪の少年』の登場に風斬はもちろん、
周囲の天使達たちも驚愕に包まれていた。

単に第三者が割り込んできたというだけではない、もっと別の『何か』―――

そしてその『何か』に対してカマエルは豪胆な笑い声を放ち、
歓喜に満ちてこう続けた。


カマエル『――――――我らが「不埒者」が帰ってきたぞ!!』


風斬『―――』


その通り、『彼』が帰って来た。
上条当麻が帰って来たのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:38:24.47 ID:mXbgQFH4o<>
かのテンパランチアさえも、彼の帰還にはいささか驚いている様子。
そこに生じた僅かな隙を見逃さず、上条当麻はすぐに動いた。


上条「―――みんな固まれ!!早く!!」

再会を喜ぶ暇など無い。
風斬もすぐにその声に従ってカマエルと一方通行の傍に行き、二人を翼で掴み。


当の上条は彼らのすぐ前に屈み―――『右手』を黒き地盤に当てていた。




一方「―――まだ……使えるのか?その右手」

上条「俺を誰だと思ってんだ」


一方「――――――クソ野郎だ」


そして互いにニヤリと笑みを浮べた次の瞬間。


『幻想殺し』が発動した。


独立稼動している黒き蓋、その基幹の『プログラム』を破壊し、
莫大な力による―――自己崩壊を引き起こす。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:40:41.20 ID:mXbgQFH4o<>
凄まじい激音と共にヒビが走り、
蓋全体が爆風に割れるガラスの様に砕け飛んだ。

それとほぼ同時に風斬が皆を引っ張り、
黒き破片の雨に混じりながら―――第一の門へと飛び込んでいく。

そうして光の回廊に身を投じて数秒後、上方、天から響いてくるのは。


テンパランチア『―――おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


節制の怒りに満ちた咆哮だ。

そしてかの存在もこちらの後を追い猛然と下降、この回廊に飛び込んできた。
上級三隊の者達もそれに続き、この黒き破片の雨の間を抜けて向かってくる。


上条「―――止まるな!行け!下まで降りるんだ!!」


カマエル『だがどこまでも追ってくるぞ!どうするつもりだ兄弟?!』


風斬『―――!』


そのカマエルの懸念は風斬も抱いていた。

下ではみな悪魔達にかかりきりだ。
ネロならばテンパランチアを倒すことが出来るが、
彼が魔塔の戦線から抜ければあそこは確実に圧倒されてしまう。

そして他の者では節制には到底及ばない。
虚数学区にまで到達したとしても、どうやってこの存在に抗うのか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/22(木) 03:45:37.02 ID:mXbgQFH4o<>
上条「―――心配するな!!大丈夫だ!!」


だが上条は自信たっぷりにそう叫んだ。

彼がそう断言するのならば、
何か有用な『策』が整えられているのだろう。

風斬は彼を信じ、背後に迫る圧倒的なプレッシャーを覚えながらも、
皆を連れて全力で降下。


ついに―――この回廊を抜け切り、虚数学区の空にまで到達したとき。


彼女が目にしたのは『有用な策』どころではない、
文字通りの『怪物』だった。


風斬『―――』


虚数学区の街に降り立った一行の目の前に、いつの間にか一人の女が立っていた。


黒縁のメガネにボディスーツを纏った、黒髪で抜群のスタイルの妖艶な女だ。
テンパランチアなど敵ではないと一目でわかるほどの圧を醸して。


『はぁ〜いボクちゃん達。あとはそこら辺で良い子にしてなさい』


スーパーモデルのように完璧な立ち姿で、女はにっこりと―――わざとらしく微笑んだ。
手にある銃の先でメガネの端を上げながら。



『ここからはお姉さんの――――――ディープなオシオキタイムよ』



―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/22(木) 03:46:16.08 ID:mXbgQFH4o<> 今日はここまでです。
次は日曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 03:52:14.36 ID:jmKig6xa0<> ピュアプラチナ展開だな
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2012/03/22(木) 04:01:42.63 ID:rWcyDAiUo<> 上条ちゃん全世『界』で人気者だなww
そういや目って触れてないけどそのまま?復活? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 06:49:24.62 ID:VY+zNIwDO<> >>566
いや、触れてるから。復活してないから <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)<>sage<>2012/03/22(木) 07:10:18.42 ID:JJD3C6EAO<> さあ、ベヨネッタのダンスの始まりです! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/03/22(木) 08:47:28.95 ID:CqQ2KYdC0<> 乙 

ダンテと言いベヨネッタと言いコイツがいればっていう安心感があるな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/03/22(木) 09:14:36.16 ID:RcGG3bTl0<> スタイリッシュ痴女による
貯金箱フルボッコタイム始まるよー! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/03/22(木) 09:29:05.46 ID:mExY6GkU0<> いかん…今日はHDダンテで狂うつもりだったのに
ベヨ姉で踊りたくなってきたじゃないか! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 09:38:28.70 ID:KCdG+r8Go<> 乙!!

ここにきてベヨ姉タイム!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 09:48:22.29 ID:h+Ef7rbN0<> Temperantia Must Dieキタアアアあああ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/22(木) 10:24:26.98 ID:1yjEUuMXo<> お疲れ様です。音声さーン、四元徳のテーマと処刑用BGM用意しといてー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2012/03/22(木) 13:29:56.58 ID:FudcjfU10<> ここまで来たらせっかくだからアマ公にも一つデカい見せ場が欲しいと思うのは贅沢だろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2012/03/22(木) 16:28:01.18 ID:XbOBwy82o<> ここでベヨさんは一方さんの活躍が霞む・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<><>2012/03/22(木) 21:58:19.81 ID:O2oMfaMq0<> うおおおおおおおおおおお <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 02:11:30.20 ID:3A8LmrOz0<> 乙!
ベヨ姉さん来たあああああ!!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 03:16:52.39 ID:n0xQNI+Ro<> いいぞおおおお!乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/23(金) 13:52:42.19 ID:j2vzGDHr0<> ジョイさん達が横一列に並んで同時に三角木馬で責められるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/03/23(金) 14:24:16.03 ID:wSoKWf+V0<> いいなぁテンパランチアさんそこ代わってwwwwww
ねぇさんにオシオキされたいんすwwwwwwwwww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/24(土) 00:49:01.22 ID:Fx/EDyuD0<> お前らベヨ姐が出た途端に勢い増しやがってwwwwww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/03/24(土) 16:25:16.10 ID:cQ53cNDx0<> スタイリッシュBBA登場でおっきした
<>
◆tSIkT/4rTL3o<>sage<>2012/03/24(土) 23:46:53.83 ID:zHakeiIro<> すみません。
諸事情により2、3日遅れます。
本当にすみません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/25(日) 07:22:11.02 ID:NNITcAHB0<> なに、お預けなど我々の業界ではご褒美も同然さ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/25(日) 09:59:42.34 ID:NnGxBb86o<> 皆喜べ、>>1がベヨ姐さんに放置プレイを習いに行くそうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県)<>sage<>2012/03/25(日) 12:11:37.13 ID:sFJR17g80<> このスレ、いつもは静かなのにベヨ姐さんが出た途端騒がしくなったなwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/03/26(月) 19:25:48.63 ID:FLOFywha0<> 年度末だしお行儀良く待つとしましょうかね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/26(月) 20:52:19.53 ID:A3jeqp3DO<> 爆死爆死言われてるけどファンは多いしな
アクションお手軽だし難易度調整いい感じだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/03/26(月) 20:57:13.75 ID:mHpTN4Cv0<> >>587

そりゃエロメガネBBAなら興奮せざるを得ないだろww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:32:48.72 ID:v9X8Zlsio<>
―――

巨大な地底湖、そして碧い洞窟をぬけた先にあったその劇場は、
酷く荒んだ―――『こうもり』でも住んでそうな陰湿な様相だった。

一行はテメンニグルの地下深くの洞窟、
掘りぬかれた空洞をそのまま利用した劇場に落ち着いていた。

浜面「……」

舞台の段の淵にはかた膝立てて屈んでいる浜面と、その横に座りこんでいる滝壺。
彼女は彼にしがみつくように寄り添い、能力過負荷に汗にじむ顔をその脇に埋めていた。

絹旗はその二人に背をむけ盾となる位置で仁王立ちし、周囲には他の滝壺の護衛メンバー、
さらにその周りには合流した天草式の一団が結界をしき警戒姿勢をとっており。

そして外へと通じている扉は、
一際強力な結界―――土御門によって『墨汁で描いたような紋』が印されていた。


土御門は絹旗の少し前、この劇場のちょうど中央あたりに立ち、
魔術による立体映像を見つめていた。
今は消えてしまった窓のないビルの『本陣』にあった地図と同じものである。

その青白い光で形成された地図をはさんで建宮、
となりには魔馬を背に控えさせている五和が立っており、
土御門と同じように立体映像を見つめながら黙していた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:33:42.86 ID:v9X8Zlsio<>
聞えるのは、ここにいる仲間たちの緊張した息遣いと、魔馬が荒々しくならす鼻の音。
そして地上、魔塔の周りで繰り広げられている戦いの地響きである。

土御門「……」

ただその恐ろしげな轟音とは対照的に、
土御門には状況はひとまず落ち着いていたように思えた。

滝壺による作業も完了し、学園都市とこの魔塔間の界域は完全に隔絶、
学園都市への悪魔達の侵入を防ぐことに成功。

そこからの土御門達の仕事は、滝壺を守護し状態を維持することであるが、
その件についてもある程度の安定が確立されていた。

魔塔の外の防御にキャーリサ達に名だたる天使たちが加わり、さらにそこへネロの増援だ。

依然悪魔達の攻撃は苛烈ながらも、彼の参戦がここの戦況を一変させた。
その戦いっぷりはまさに鬼神、怪物である。

土御門「…………」

表示されている立体映像、
そこに描かれていく外の戦いの様相に、土御門は希望とともに『寒気』を覚えていた。

大悪魔が次々と屠られていくその様は、
彼が絶対的な味方であることがわかっていてもなお本能的に背筋が凍ってしまうもの。
次々と砕け散っていく赤い光点、その一つ一つが人知が及ばぬ神たる存在だと知っていると尚更にだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:35:14.39 ID:v9X8Zlsio<>
そうして誰も一言も発さず、外の激戦の行く末を見守っていたところ、
この劇場の扉が不意に開かれた。

ただし土御門にとっては不意ではなかった。
扉には彼の結界が敷かれているため、
そこを通るということは前もって彼の任意が必要なのである。

そのようにして今入ってきた者は、堂々屹然とした一人のある女だった。

真紅の甲冑にマントを纏い、
触れがたい鋭利な美しさに、獅子のごとき荒々しさをあわせ持つ王女、
英国女王エリザードの次女キャーリサだ。

彼女は土御門達を認めると悠然と向かってきた。

そうしてすれ違っていくそのキャーリサへと、
天草式の者達は頷くように軽く頭を下げ、戦時における簡略された礼をしていく。

また能力者たちも、話こそしないも横目で彼女の姿を追っていた。
クーデター事件の際に大々的に報道されていたために記憶に新しいのだろう、
それでなくとも目に留まるはずだ。

良くも悪くもこの第二王女はカリスマの塊である。

力強くも品に満ちた柔らかい佇まい。
そこには王室育ちという要素の他にも、彼女自身の気質から来るものがある。

その姿を目にして抱くのは、荒々しさへの警戒心か、
それとも高潔な勇ましさへの追従心かは人によって異なる。

しかしどちらにせよ、この女が持つ格はそう簡単に無視できるものでもなければ、
単に王室の権威によるものとも捨て置けないものである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:37:10.68 ID:v9X8Zlsio<> そんな彼女特有の存在感は今、一際強くなっていた。
聖人どころではない、神の右席をも上回る『聖』の因子をかね備えて。

土御門「……」

その理由については、慈母から授かった『瞳』によって土御門にははっきりと見えていた。
彼女の全身に宿る―――『主』の力が。

腰に下げているカーテナがアンテナの役割を果して、
そこからの主の力によって彼女の持つ要素が底上げ。

そうしてキャーリサは、神の領域とも刃を交えられるほどの武力を手にしているのだ。

だがだからといって文句なしに喜べるほど都合の良いものではない。
何事にも当然、相応のリスクが伴うものだ。

現に土御門自身、つい少し前にこの身をもって味わったことだ。

聖人でもなければ魔神と称されるような魔術師でもない、
そんな者がこの水準の力を手にしてしまったら、よっぽど上手く―――運良く立ち回らない限り、

その先にあるのは―――破滅だ。

慈母や主がどれだけ傷つけまいと気を回してくれていても、
象がその巨足で小さな子供に点滴針を刺そうとする、そんな関係となんら変わらない。

そしてそんな状態で、神たる存在と戦い―――その一撃を受けてしまうなんて。

土御門「…………」

土御門だけには見えていた。
この悠然として苦痛の欠片も滲ませないキャーリサ。
だがそんな彼女を確かに蝕む、脇への一撃による『内なる損傷』を。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:40:44.01 ID:v9X8Zlsio<>
キャーリサ『問題ないか?』

自分の目で確かめに来たのだろう。

この第二王女は昔から下々の働く現場によく顔を出すことがある。
時には汚らしく危険な場にまで赴き、自らの五感で直接確認しようとするのだ。

前触れもなくふらりと現れ、厳しくも父のように最前線の者達に接する、
そこがまた軍や騎士派の忠誠心を滾らせていくのである。

ながらく犬猿の仲でありクーデター時に実際に激突した清教派でさえ、
この数ヶ月間の対魔共同線でおおきく彼女への見方を変えた。

上層部の老人達は依然警戒の色を強くしているも、
シェリーをはじめ愛国心・忠心・大義を胸にする実働部隊の者達はみな、偽りのない忠誠を捧げるようになった。
行動指針の根底がきわめて私的な理由であったステイルすらも、
ある程度の本心からの敬意を払っていたほどである。


「キャーリサ様……!お怪我が……!」

そうした者達が、彼女の甲冑のわき腹に空いた穴を見て慌てふためくのは当然の事だった。
一人がそう声を挙げた途端、天草式の皆が知るところなりざわめきが伝播していく。

キャーリサ『見た目ほどじゃない。ほら、このとーりピンピンしてるだろ』

しかし一方で節度もわきまえている。
キャーリサが甲冑の胸板を叩きそう声を張ると、ざわめきはすぐに収束していった。


土御門「…………」

その通り、彼女の傷は見た目ほどじゃない。
見た目ほど―――『軽く』は無い。

他の者達が『見るからに』元気なキャーリサの姿にひとまず安心する傍ら、
土御門だけはそう正確に捉えていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:43:06.82 ID:v9X8Zlsio<>
一通り近場の面々、能力者も天草式の者区別なく声をかけたのち、
キャーリサは土御門達のそばまでやって来た。

キャーリサ『どうだ?』

建宮「ここは今のところは安定しております」

キャーリサ『あの娘が例の能力者?』

視線で奥の滝壺を指したキャーリサ、
建宮が頷き、土御門がそこにさっと言葉を加えて、簡潔な説明を行った。

そのあいだ彼女は堂々とした佇まいを保持していたものの、
やはり土御門の目には色濃く疲労の色が見えていた。

彼女にはわずかでも休息が必要だ。
五和も気が気でない表情を浮べている事もあって、土御門は進言することにした。
姿勢正しく完璧な所作で、厳かに頭を下げながら「ところで」と申し出た。

土御門「少し、ここでお休みになられては?」

しかしキャーリサはこの物言いが気に食わなかったようだ。
彼女は隠そうともせずに眉間に皺を寄せて。

キャーリサ『お前が礼節をわきまえるのは似合わねーな』

土御門「そんなこと仰られましても。これでも英国にも忠誠を誓った身ですよ」

キャーリサ『やめろ気色悪い。その口で忠誠と言われると虫唾が走る』

そして一蹴されてしまった。

無論、これは本気ではなく一種の軽口だ。
この手厳しい言葉に、土御門は普段どおりの薄い笑みを返し、
キャーリサはふんと鼻を鳴らした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 20:51:53.54 ID:v9X8Zlsio<>
NOと言えばNOである、この女が一度断言した事は、
そうせざるを得ない場合を除きまず覆らないものだ。
それは性格からくるのはもちろん、頂点に立つものに揺らぎは許されないという、
その身に刻まれた帝王学によるものでもあるだろう。

これ以上休息を勧めるのは無意味と判断し、土御門は「では」と話を切り替えた。

土御門「お出でになられた用件はこれだけで?外の状態はどうです?」

キャーリサ『ネロがあの調子で、敵は私のところまではこない。それで手持ち無沙汰でシェリーがうるさくって。
       だから怠けてないか暇つぶしがてらにここまで来た』

土御門「それは心外です。ご覧の通り、みな全身全霊で励んでおりますよ」

キャーリサ『それは知ってる。建宮達は確認する必要は無い。だけどお前はそーとは限らねーからな』

土御門「ははあ、それもごもっともですにゃー」

ここでキャーリサは再び不機嫌そうに目を細めた。
礼節をわきまえようが普段通り無礼に接しようが、どちらにせよ彼女は気に入らないのである。

有能か・信頼に足るか否かという実利的な面は別として、
彼女のような大義・忠誠に生きる者は、土御門のような人格を大概嫌っているものだ。

キャーリサ『それでこれはいつ終る?まさか、悪魔を殺し尽くし絶滅させるまで続くわけじゃないだろーな?
       まああのネロの調子なら、それもあながち不可能でも無さそうだけど』

声を鋭くした彼女の問い、
それが指しているのは悪魔達の侵入の事だ。

土御門「いえ。レディが開門の首謀者を排除すれば止まるはずです」

キャーリサ『その排除の進行状況は?』

否定的な意味を篭めて肩を竦める土御門を見て、
キャーリサはまたもや不機嫌そうに目を細めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 21:00:26.04 ID:v9X8Zlsio<>
これまでの立場上、きわめて拒絶的な視線に毎度晒されてきた土御門にとっては、
この程度の彼女の態度など気にもならない。

同じく、長らく『副官』、いわゆる現場実働部と指揮統率部の板ばさみの立場であった建宮も、
このような上の『嵐』を受け流す術をもっている。

しかし真っ当で至極善良な五和は、そうはいかなかったようだった。

忠誠対象にはいかなる苦労も抱かせてはならないと刻み込まれているのだろう。
彼女は少し思案気な表情を浮べたのち、『空気を読まず』に申し出た。

五和「……では私が見てきましょうか?」

そんな五和の進言を耳にした瞬間、
土御門にはあることがひらめいた。

キャーリサもこの五和の言葉から向かうある結論に勘付いたのだろう、
ニヤけた土御門へと、これまた苛立たしげに一瞬横目を向けた。

土御門「ああ、そう頼みたい所なんだが、しかしそうするとここの防備が手薄になる……」

そんなプレッシャーもなんのそのと、土御門はわざとらしくそう言葉を発した。
ごほんと気まずそうに咳払いする建宮を見て、
ようやく五和も己の言葉がどういう結果を招いたか気付いたようだった。
はっとした表情を浮べているも後の祭りである。


キャーリサ『……あー……まあいい。仕方ない。私がここに残る』

そうするに足る合理的理由があれば、この第二王女の言だって覆ることもある。
そのようにして、キャーリサはここに残らざるを得なくなった。

五和「で、では行ってきます!」

不本意ながら前線から引き摺り下ろされるなんて、キャーリサにとってどれだけのストレスか。
それを知っている五和は槍を手に蒼炎の魔馬ゲリュオンに飛び乗ると、
逃げるように駆け、扉を蹴り開け出でていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 21:04:30.49 ID:v9X8Zlsio<>
土御門「ではごゆっくり。キャーリサ様」

これでもかというくらいに礼を保ち、丁寧に声を向ける土御門。
対しキャーリサは一言も返さずにむすっとし、かかとを打ち鳴らしながら歩み、
奥の舞台の段にどかりと腰を落ち着けた。

浜面「……」

遠くもなければそれほど近くも無い、浜面から2mほどの距離のところだ。

異様な圧とカリスマ性を纏った英国王女、普通は気になるものだ。
この時浜面もその例に漏れず、横目でこの気高き女を見やっていた。

キャーリサ『なんだ?』

浜面「い、いやっ……なんでもないです……すんません……」

だがそのささやかな関心も、不機嫌な彼女に気圧され一蹴。
浜面は正面へとすぐに目を逸らした。

キャーリサはますます不機嫌そうに舌を鳴らし、
カーテナを手に取ると切っ先で床を小刻みに叩きはじめた。

みなの戦いは続いているというのに、そこに加われないどころか前線から下ろされた、
それが彼女にとってどうしようもなく苛立たしかった。
己は戦いに来た、子羊たちのあらゆるものを背負ってこの刃を振るいに来た、
行動不能になっていないにもかかわらずぬくぬくと腰を下ろすために来たのではない、と。


だがそんな彼女の苛立ちも、そう長くは続かなかった。
そのストレスは彼女にとってはもちろん、皆にとっても『最悪の形』で解消されることとなったのだ。


しばらく後に―――まさにここが『戦場』になることで。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/03/27(火) 21:06:17.32 ID:v9X8Zlsio<>
土御門「これは―――」

事態は再び新たな変化を迎えた。

立体映像上には突然、新たな光点の大群が表示された。

天の門から虚数学区上に突如落下してきた一団である。

先頭にはこちらの仲間たち、それを追うのはとんでもない天の存在とその軍勢。
それらを示す光の粒子が滝のように虚数学区へと雪崩落ちてくる。

そしてそれだけじゃない。
彼らが落下していく先、その着地点には、ほぼ同時にどこからともなく突然現れた―――『未知の怪物』。


この瞬間、土御門は二つの点に驚愕した。
一つ目はこの怪物が、スパーダの一族と見紛うほどの力を有していたこと。



土御門「―――か、かみやん?」


二つ目は、天から雪崩落ちてきた先頭、
そこにいた仲間の内の一人が―――上条当麻であったことだ。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/03/27(火) 21:08:31.92 ID:v9X8Zlsio<> 短いですが今日はここまでです。
それとまたしてもですが一週間ほど投下できません。
次のベヨは来月三日の予定です。
すみません。

来月一週目を過ぎれば余裕が出てきますので、ペースを少し上げられるかと思います。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/27(火) 21:17:11.44 ID:hl+DFP3DO<> 乙。一週間くらいなんてことないさ。ベヨ戦が楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/03/27(火) 21:19:42.93 ID:RVjbgBK+o<> 乙です。
>ペースを少し上げられるかと
見るんだ、これがベヨ姐さんに放置プレイを習いに行った成果だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/03/27(火) 22:41:58.56 ID:l5qYDLk9o<> ちょっと百裂中佐で節制の顔蹴り潰してくるわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)<>sage<>2012/03/27(火) 22:47:36.33 ID:l5qYDLk9o<> 一つ前の読んで風呂はいって更新せずに書き込んだら投下きてたでござる
乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 01:50:50.82 ID:iM2Zptvb0<> 乙です。
無理せずにねー。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 01:59:53.13 ID:vs9y62eDO<> 乙乙!
気長に待ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/03/28(水) 04:43:18.49 ID:9GCwdI+z0<> (`・ω・´)>>1の頑張り具合を何年も見てきたここの読者諸氏の忍耐力と礼節と士気は高い <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/28(水) 09:19:22.71 ID:LKyssyio0<> 大丈夫だ
皆で金色のフラフープ回して舞ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 14:00:02.91 ID:NI9dvRxIO<> DMCHDでもやってるのか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/28(水) 14:38:11.49 ID:WEhbdNzAO<> 年度末で忙しいんじゃね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(徳島県)<>sage<>2012/03/31(土) 17:15:32.56 ID:JJg1BI230<> 第四次世界大戦?の次に対悪魔戦だから一般の軍はかなり疲弊してるよね
しかも自分たちの兵器が悪魔になってるんだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)<><>2012/04/02(月) 20:52:32.32 ID:Azy25MCJ0<> それは大惨事じゃないか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/04/03(火) 01:31:40.94 ID:Y8POCBTyo<> 最近3やったけどベオウルフぶせぇな
魔具はかっこいいけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:00:17.27 ID:fTqt1u+3o<>
―――

準備はすぐに整った。

もともとベヨネッタは、気乗りしないながらもレディ・アーカムの件に対処するために
人間界に降りようとしていた。

その時ちょうど現れたダンテとバージルの邂逅、
これによって計画にいくばくかの変更が加えられ、ベヨネッタに課せられる仕事内容も変わることとなった。

いや元通りに修正されたと形容するのが相応しいだろう。

本来アーカムの対処などは想定外の事案だ。
元々彼女が次に行う予定だったのは、人間界に入りこんだ敵性因子の排除―――『大掃除』である。


インデックスが上条の代理となることで打ち合わせも即完了、
そのようにして人間界に降り、虚数学区へと侵入したベヨネッタは彼らを出迎えた。

廃墟とかした陽炎の街の中、目のまえに降りたった上条当麻と風斬、
この人界の天使の翼に守られている一方通行とカマエル。


そして『お馴染みの敵』を。


ベヨネッタ『―――んふっ』

見あげると、真上はるか先には大勢の上級三隊の天使たちと。

―――率いる四元徳が一柱、テンパランチアが雪崩落ちてきていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:02:10.63 ID:fTqt1u+3o<>
その姿を一目捉えるや、
彼女は至福の熱っぽい息を漏らし、
身をしならせては艶やかな黒髪を解きはなち。


ベヨネッタ『―――この時を待ってたのよ』

妖しく笑みを浮べて一気に跳躍、
落下してくる一群の先頭にいる―――テンパランチアへと向かった。


対するテンパランチアは彼女を認識するや即。


テンパランチア『――――――ベェェヨネタァァァァァァァァ―――!!!!』


放つは烈火のごとき咆哮。

常に節度をたもち慎み深い、そんな天の『節制』を体現するこの存在でさえも、
ここでの彼女の出現には憤怒が限界点を越えたのだ。

以前のような事前に仕組んだ戦いではなく、
正真正銘の邪魔者にして最大の障害、そしてなによりも―――主神ジュベレウスの仇。

宿敵どころではない、まさしく天の失墜の象徴にして怒りの原因である。

怒りに燃えるテンパランチアは、
勢いを緩めることなく巨体を彼女に突貫させていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:04:16.15 ID:fTqt1u+3o<>

ベヨネッタ『んまあ嬉しい―――私も会いたかったわダーリン!!!!』


ベヨネッタはこの熱烈な呼びかけに熱い息で応じ、そして彼の熱烈な『ハグ』には、
両足に物々しい『ロケットランチャー』を出現させて―――


ベヨネッタ『これでやっとアンタ達を――――――イカせられるッ!!!!』


―――『蹴り上げて』受けた。


巨顔の中央、ちょうど眉間へと叩き込まれる『かかと』。
そして足に添えられているロケットランチャーから同時に発射される弾頭。
さらに連動する特大のウィケッドウィーブ。

ここまでの一セットで一蹴りだ。


テンパランチア『――――――おおおおおおお!!!!』

閃光と激音を迸らせて、
この『一撃』は100mはあろうテンパランチアの巨体を大きく打ちあげ返した。

節制は爆炎の尾をひいて、顔面から外皮の破片をまき散らしながら上昇、
降りてきた軌跡を猛烈な勢いでもどり、後続の天使達をひきとばしていく。

そこへベヨネッタはすかさず『光の鞭』―――クルセドラを振るいはなち、
節制のひび割れた鼻先に引っ掛けては、一気に身を引き寄せ。

そしてもう一度、巨顔へと追い討ちの踏みつけ。

この『二連撃』により、
テンパランチアの巨体は更に上へと押し戻されていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:06:37.90 ID:fTqt1u+3o<>
そうしてテンパランチアの胴に『逆さ』に降りたったベヨネッタ。

上下が反転したその場にて、
彼女は身をくねらせては大股開き、熱い息を交わらせて。


ベヨネッタ『―――Heeey!! Come on booooys!!』


その挑発に、周囲の天使達は即座に応じる。
おなじく上下逆に節制の胴に降りたち、彼女へと向けて一斉に襲いかかった。

まず先陣を切ってきたのは、二体一組の双天使―――グラシアス&グロリアス。

上級三隊の中でもっとも攻撃的な、四元徳直属の『殲滅要員』である。

体躯は4m近くと人間と比べればかなり大きいも、
その行動速度は上級三隊でも屈指のもの。

くり出されるは、人間の腕ほどもある爪による目にもとまらぬ攻撃。
そして一切死角のない二体の完璧なコンビネーションだ。

だがそれほどの彼らの刃でも、相対するのがこの魔女というのは相手が悪すぎた。
完全に力を解き放ってる彼女ならなおさらだ。

彼らは肉を裂くどころか、その間合いにすら踏み込めなかった。


ベヨネッタ『―――Yeeeeah-Ha!!』

真下、『地』から突き上がってきた『巨大な足』―――
最高出力のウィケッドウィーブが、双天使の腹もとを蹴り上げたからだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:09:33.99 ID:fTqt1u+3o<>
装具と血をまきながら仲良く宙に吹っ飛ぶ双天使。
挙動が一糸乱れないのと同様にやられっぷりまでまるで同じか。

ベヨネッタ『―――YeeHA!!』

次いでベヨネッタはすかさずその場で回し蹴りを放った。

双天使への距離は10m以上、
もちろん彼女の生身が届くわけが無い。

双子を蹴り掃うのは、そんな距離などものともしない特大のウィケッドウィーブである。

瞬間、虚空から現れた巨大な足が双子をまとめて薙ぎ―――粉砕した。


ベヨネッタ『―――Bang! Bang! Booom!!』


足から放たれるロケットランチャーの連弾も重ねて。


とこの時、別のグラシアス&グロリアスの一組が彼女の背後へと迫っていた。
仲間の犠牲を無駄にはしないと、ほぼ同時にベヨネッタの死角を突こうとしたのだ。

だが彼らもまた、彼女に触れることはできなかった。
起動された『世界の目』を有するベヨネッタにはもはや死角など存在しない。


ベヨネッタ『―――がっつき過ぎよボーヤ!!順番を待ちなさい!!』


ベヨネッタがくるりと身を翻して、闘牛士のように回避。
そして双天使が突っ込んだ先に待ち構えていたのは、パックリ蓋を開けた拷問具―――『鉄の処女』。

血錆びおぞましい棺おけへ、哀れな双子は自ら飛び込んでしまうこととなった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:12:39.28 ID:fTqt1u+3o<>
髪をとき放ち絶頂の腕飾りも装着している今、彼女の力は極限に達していた。
グラシアス&グロリアスという高位の天使でさえ一瞬にして貪ってしまうほどに。

次の瞬間、隙間から悲鳴と共に鮮血を噴出させる二つの棺おけ。
その壮絶な断末魔と末路には、周囲の上級三隊ですら明らかに怯んでいた。

一瞬動きが止まる天使たち。

そんな彼らを見、ベヨネッタは鉄の処女の一つに寄りかかりながらふと、
思い出したよう冷めた声を放った。

ベヨネッタ『あら、そう遠慮しないで。悪い子たちの分はみんな予約済みなんだから―――』

そしてニコリと微笑みさらりと告げて。


ベヨネッタ『――――――すっきりさっぱり皆殺しにしてあげる』


鉄の処女を二つとも、軽やかに蹴り飛ばした。


ベヨネッタ『―――それと予約キャンセルは受け付けないわ!!』


弾き出された鉄の処女は砲弾のように吹っ飛んでいくと、
それぞれ滞空していた蛇の如き天使―――インスパイアドの頭を叩き潰した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:15:51.25 ID:fTqt1u+3o<>
この二撃により空気の凍結も打ち砕かれたか。

天使達は、己が背水の陣にいることを今一度覚悟したようだ。
次の瞬間堰を切って動きだした彼らからは、半ばやけくそ染みた戦意が放たれていた。

そんな彼らを見、ベヨネッタは「そうでなくちゃ」とほくそ笑む。

徹頭徹尾意志を貫く敵、
その鉄のごとき覚悟を―――無残に砕くのは最高に楽しいものだ。

そうして彼女は意気揚々と、嵐のように押し寄せてくる天使たちへと飛び込み。
自らがそれ以上の殺戮の『嵐』を巻き起こした。


ベヨネッタ『―――Ho-hu-Ha!!』

両手に出現した魔具―――ドゥルガーの三又の爪が、天使達を切り裂き。
解放状態のウィケッドウィーブが一纏めに薙ぎ払っていき、
『地面』―――テンパランチアの腹の上にも溝を刻んでいく。

ベヨネッタ『―――YeeYA!!』

次いでかけ声で魔方陣から飛びだす巨大な足、
『マダムバタフライ』の鋭いかかとが複数体をまとめて圧砕。

轟くのは凄まじい激音と天使たちの断末魔、
そして腹の外皮を剥がされた節制の呻き声だ。

それらが眩い閃光とともに盛大に飛び散っていき、この殺戮の嵐に彩を添えていく。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:18:35.55 ID:fTqt1u+3o<>
刹那、ベヨネッタの腕に絡む『鞭』―――艶やかな女性型の天使、ジョイの一振り。

ベヨネッタ『―――っふん!』

その縛に彼女は動じるどころか、勇み踏ん張り―――強引に引っぱり返した。
今のベヨネッタには、この程度など縛の役割など果さないのだ。

ベヨネッタ『―――Ha!』

そして一閃。
引き寄せたジョイの身を、その手に出現させた魔刀―――修羅刃により腰元を破断。

ベヨネッタ『―――ha! hu!』

上下分断された天使が己の死に気付くよりもはやく、ついで彼女はすばやく踏み込み、
動きを止めることなく他の天使たちも斬り倒しいく。

それもウィケッドウィーブの応用術、10m近くのも巨大な光刃を伸ばし、
一振りで複数纏めてだ。

そんな斬り乱れる彼女を止めるべく、立ち塞がり猛然と十字槍を薙いでくるブレイブス。

だが当然その程度では止まりはしない。
いや、修羅刃の使用という限定的な意味では成功したと呼べるかもしれない。

彼女はブレイブスの刃を跳んで回避すると、巨躯の天使の頭上まで舞い。


ベヨネッタ『―――Ya-Yeh!!』

修羅刃を振り下ろし―――兜割り。

―――脳天をかち割り華麗にフィニッシュを決めた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:23:40.93 ID:fTqt1u+3o<>
絶命し倒れるブレイブス、
その巨体の背を優雅に滑り降りたベヨネッタ。

天使から噴き上がる鮮血が舞台装置のように花を添え、、こうして修羅刃の舞は一連の区切り。

しかし彼女の狂乱そのものがとどまることはない。

彼女が地に足をつけた途端、爪先に魔方陣がうかび。
息つく間もなく現れる『凶器』は―――『三角木馬』である。

その背にある見るからに痛々しい刃、そこにこびりついている天使の血には
覚悟を決めた上級三隊であっても戦々恐々もの。

これの突然の登場に、周囲の天使たちの動きが一瞬とまってしまう。

そんな者達の中へと、「決めた」とばかりに伸びる鞭クルセドラ。
一体のジョイがすかさず囚われ、公開処刑の憂き目にあうこととなった。


ベヨネッタ『Hi-YA!』

きわめて軽快なかけ声とともに、哀れな彼女は一気に引っ張り寄せられ。
この木馬の上に激しく据え付けられ、鎖で固定。

そして瞬時に締め上げられていった。
放つは歓喜とも悲鳴とも(状況的には間違いなく悲鳴なのだろうが)聞える叫び声。


ベヨネッタ『あら嬉しい!そんなに喜んでくれるなんて!』

木馬の頭部に立つベヨネッタは、そんな彼女の反応に心のそこから嬉しそうに微笑むと、
両腕を宙にかざし次なる凶器を召喚した。

その腕に現れるは―――見るからに歪で恐ろしげな『チェーンソー』。
魔女はそれを旗印のように掲げ、戦慄的な駆動音を轟かせて。


ベヨネッタ『―――これは特別サービスよ!!』


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:26:01.74 ID:fTqt1u+3o<>
―――その時だった。

屈辱的な茶番に耐えられぬとばかりに、
一体のブレイブスが雄たけびとともに突貫してきたのは。

それによって、この哀れなジョイはチェーンソーの凶歯から辛うじて逃れることができた。
ただし次の瞬間、ブレイブスの一振りで木馬もろとも叩き潰されてしまったが。

その一撃は哀れな仲間の命を奪っただけ。

標的だった当のベヨネッタは―――くるりと跳躍して、
ちょうど振り下ろされた十字槍の切っ先前に降り立っていた。


ベヨネッタ『―――アンタも試したいの?!いいわ!!』

そしてニッと笑い返すとチェーンソーを手にしたまま、
ブレイブスへと即座に踏み切った。

かの天使もすぐに槍をひき抜き、迎え撃とうとしたも―――間に合うわけがない。

次の瞬間には、この巨躯の天使の股ぐらをベヨネッタは滑り抜けていた。

両膝をつき身を仰け反らす、リンボーダンスのような姿勢で、
股に添えたチェーンソーを『男性の象徴』のように立たせたまま。

彼女のが抜けて一拍ののち―――ブレイブスの股から噴き毀れるおびただしい量の鮮血。


ベヨネッタ『―――これで少しは足が長くなるかしら!!そぉらっ!』


天使の苦悶に満ちたうめき声が発されかけたのも束の間、
彼には更なる苦痛の追い討ちが訪れる。

滑りながら立ち上がり、振り向き片目を瞑るベヨネッタ。

彼女が爪先で地を叩くと、巨躯の天使の直下から、
ブレイブスの身の丈にあわせた特大の三角木馬が現れ―――彼を突き上げてその背に乗せた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:27:52.71 ID:fTqt1u+3o<>
ジョイのものとは違い、それはそれは猛々しい咆哮だ。
だが滲んでいるのは同じ極なる苦痛。

ベヨネッタ『―――Humm』

そしてそれが中断され―――彼が『楽にさせられた』のも、さっきと同じ。
ベヨネッタ謹製の『悲鳴放つオブジェ』、それをぶち壊しにしたのはテンパランチアだった。

振るわれてきた超級の拳が、この哀れなブレイブスを木馬ごと叩き潰した。
周囲にいた多くの者達を全員巻き添えにして。

ただし即座に駆け抜けた『黒豹』―――ベヨネッタを除いて。


黒豹は目にもとまらぬ速さで節制の胴から肩、そして背面へと疾駆しては跳びあがり。
身を翻して人型へと戻ると、振りむきテンパランチアの巨大な背を見おろして。


ベヨネッタ『まだよ、まだこれからよ―――アンタ達のツケはこの程度なんかではチャラにならない―――』


ぎゅんと足を振るっては、弓の弦を張るようにひき締め。



ベヨネッタ『―――――――――楽に死ねると思うなよ』


そして笑みの消えた顔で鋭くそう告げると、
溜めに溜めた『蹴り』を解放した。


ベヨネッタ『―――YeeeeeeeeeYAAA!!』


その一蹴りと連動して放たれるのは、通常の脛のみならず―――


―――マダムバタフライの『ふともも』までも引き出した特大のウィケッドウィーブ。


極限の一撃だ。

それを受けて一転直下、
テンパランチアの巨体は今度こそ『正式な下』へと落下していった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:30:19.56 ID:fTqt1u+3o<>


そのテンパランチアの転落を、
上条達は500mほど離れた場所から見ていた―――どころか『巻き込まれた』。

節制の巨体が虚数学区の廃墟に激突し、
大地には一瞬にして亀裂がはしり、そして宙にまう地殻のかけら。

それぞれが巨大なビルほどの大きさがあるか、
その一つの上で、上条達は粉塵混じりの爆風に晒されることとなった。

上条「―――っ!!」

虚数学区が割れてしまうかのような衝撃だ。
だが上条と風斬は、圧倒される暇もおしいとばかりにすぐ次の行動に移ろうとした。

この大破壊をわざわざ観戦する必要は無い。
むしろこんな危険領域に長居は無用である。

今の最重要課題は一方通行の安全の確保であり、それは人間界に降りさえすればひとまず達せられるのだ。

大小無数の瓦礫の雨のなか、
一方通行とカマエルを翼に包み背負った風斬と上条は、
そうして人間界に降りるべく―――移動用の陣を出現させようとしたのだが。


このようなあと一歩という状況に限って、しばしば執拗な妨害が入るものだ。


風斬『危ない!!』

移動用の陣の構築、その作業はすぐに中断させられてしまう。

咄嗟に叫んだ風斬の声で、彼女とともに上条が跳躍すると、
今まで立っていたビルほどの『地殻の欠片』が、裏側から一瞬にして砕かれた。

飛び散る瓦礫の向こうから姿を現したのは―――ブレイブスだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:33:02.36 ID:fTqt1u+3o<>
もともとこの天使の位階は中級三隊だが、
三体が合体した今の巨大化状態ならば、上級三隊のに属するほどのものになる。

―――だがそれでも一対一においては、風斬ほどの存在には及ばない。

風斬『―――はぁ!!』

瞬く間の出来事だった。

飛び退きざまに風斬が光剣で一閃。
その刃が一気に伸び―――ブレイブスの大きな首を飛ばして勝負は決された。

ただその勝利も、あくまで局所的なものに過ぎない。

上条「来たぞ!!」

節制の墜落で巻き上がった大小様々な瓦礫の雨のなか、
その隙間を縫い方々から、大勢の天使達が向かってきていた。

こちらを数で圧倒するべく。


風斬『―――!』

天から降りて絶望的な場を脱したものの、状況は依然きわめて切迫していた。

上級三隊が相手となれば、一度に相手に出来るのはせいぜい5、6体か。
だが今この時、瞬間的に認識できるだけでも周囲には30体以上もおり、
もはや人間界への移動を試みる以前の問題か。

一方通行の命の保持すらも危ういのが明らかだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:34:31.30 ID:fTqt1u+3o<>
そうと判断すると、上条当麻もすぐに力を解き放った。

白銀の光を纏っては、左手と両足は獣的な造形へとなり鋭い爪を携え。
そして盲目の瞳は赤く煌々とし、髪はたてがみのように伸びては黒から白銀に変じていく。

そうした上条の姿を見、風斬の背から一方通行がぼそりと。

一方「ハッ……俺みてェだな」

上条『うるせえ黙ってろ!!』

風斬『怪我人は黙ってて!!』

二人はこの緊張感のない声を同時に一蹴しつつ、
別の大きな地殻片の上に降り立ち。

上条『―――俺の後ろに!!』

二人のけが人を持つ風斬の盾となる位置で、
上条は上級三隊の天使たちを迎え撃った。


まず飛びかかってきたのは―――グラシアス&グロリアス。

雷光放つ金と白のグラシアスが左から、業火噴く金と黒のグロリアスが右から、
それぞれ一糸乱れぬ動きで襲いかかってきた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:36:39.93 ID:fTqt1u+3o<>
上条『―――ッく!!』

凄まじい速さで乱れ振るわれる三又の巨大な爪たち、
その壮烈な攻撃はまさに嵐のよう。

上条も負けじと回避しては弾いていくも、やはり左手一本では捌ききれるものではないか。
後に退きざるを得ないほどの猛攻、しかし背後にもあまり余裕も無かった。

背後の風斬にも別の天使が向かい、
彼女の方でもはやくも手一杯の状態となっていたのだ。

上条『くそッ!!』

左腕と天使の爪が激突し、火花閃光をちらしていくも防戦一方。
弾く左腕には痺れが蓄積していき、爪が重なるたびに感覚が欠落。

修復よりも速いペースで左腕に傷が生じていく。

そんな形勢を打開するべく上条はもう一つ、
この悪魔の力とはまた別のある手を使うことにした。

以前まではとても出来なかったことだ。


彼は素早く『幻想殺し』を腰に回し―――黒き拳銃を抜いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:38:58.27 ID:fTqt1u+3o<>
以前ならば、弾薬精製・自動装填などの術式を破壊してしまうため、
この銃を右手では持つことができなかったも、
『幻想殺し』の制御が可能な今なら問題なかった。

今の召喚された上条当麻は、インデックスが知る最新の形、竜王に統合される直前の状態だ。

ゆえにこれまで通りの『幻想殺し』としての運用はもちろん可能であり、
さらに『竜王の顎』としても稼動状態であるために、制御が可能になっていた。

またこれこそが、今の竜王が全能には達しえない理由でもあった。

顎を上条が持ち去ってしまったため、現在の竜王は『喰らう』ということが出来ない。
すでに飲み込んである創造・具現・破壊は、完全稼動している『行使の手』によって使用できるも、
その三つを統合させること―――『再咀嚼』はできないのである。


そして上条の方もまた、
『胃袋』は竜王が有しているため、
『竜王の顎』の主たる力―――際限なく喰らうという行為は行えない。

それでも幻想殺しが制御可能であることは、今の状況の中でも非常に役立つ。
ダンテから授かった銃が右手で扱える、ただそれだけでも大きな力である。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:43:21.49 ID:fTqt1u+3o<>
上条『―――シッ!』

素早く拳銃をひき抜いた上条。
天使の爪を外に弾きざまに、開いたグラシアスの胸元へと放つは銀の魔弾。

形勢を覆すには充分な一発だった。

装具の欠片と鮮血を散らせて仰け反るグラシアス。

そこに生じた双天使のコンビネーションの遅延は、
上条にとっては一気に畳み掛けるに充分な隙だ。

直後、すかさず踏み込んできた相方のグロリアス。
これまでは、ここにまたグラシアスの攻撃がすぐに重なるために上条は防戦一方であったが、
この時はもう違っていた。

グロリアスの薙ぎ払いを、身を落として左腕で撃ち流すと同時に、
低くした右手からグロリアスの膝元へと発砲。

そして体勢を崩したその瞬間を逃さずに、すばやく喉もとへと蹴り上げを叩き込んだ。

グロリアスの仮面の下部が砕け散り、覗くはこの衝撃で歪んでいる異形の口。
次の瞬間には、その軋む牙達がこの圧力から解放―――される、
この上条の一撃が『通常の蹴り』だったのならばそうなっていただろう。

だがこの時は違っていた。

上条は蹴り『飛ばす』ことはせず、
異形の爪先でこの天使の喉を『鷲掴み』にしていたのだ。

そうして彼は、そのまま引いては地に叩き伏せ。
―――踏みつけて―――すかさず頭部に止めの魔弾を撃ち込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:46:17.84 ID:fTqt1u+3o<>
一瞬の出来事だった。

胸に魔弾を受けたグラシアスがようやく体勢を立て直した頃には、
彼の相棒は躯と化していた。
そして彼もすぐに相棒の後を追うことになった。


グラシアスが反撃に転じてくる暇すらも与えずに、
上条はすばやく踏み込んでは天使の腕を蹴り弾いた。

瞬間、金属的破砕音とともに根元からへし折れ、宙を舞う一本の天使の爪。

その剣のごとき爪を、たんと跳ねた上条が『爪先』で『掴み』取り。
もう一度身を翻して―――回し蹴りの動きでグラシアスの顔面に突き刺し―――葬り去った。


―――と、このように一瞬の隙をついて双天使を倒したのも束の間。

上条『―――っ』

次の瞬間、上条は後ろから勢い良く弾かれてしまった。

しかしそれに対して彼は特に抗おうとはせず、
押されるがままに身を委ね、それどころか自らも地を蹴った。

背を押したのは風斬の翼だったからだ。

そうして一気に跳躍した直後。
二体のブレイブスの突貫により、今しがた立っていた地殻の欠片が粉砕された。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:48:49.27 ID:fTqt1u+3o<>
双天使の一組を屠ったも、
それだけではこの戦いの状況はほぼ変わらなかった。

むしろあそこで押しとどめられていた間に、より天使たちの包囲が強くなってしまっていたか。

飛び散る瓦礫の雨の中を縫い、ようやく大地に降り立った上条と風斬。
だが息つく間もない、二人への上級三隊の攻撃はさらに勢いを増していく。


上条『ッ!』

まずは離れたところを滞空していた蛇のごとき天使、
インスパイアド達からの火弾の雨が押し寄せてきた。

一斉砲撃によるとんでもない密度の弾幕だ。

風斬『―――伏せて!』

回避する余地がない、そう悟った刹那に背からひびく風斬の声。
上条は半ば反射的にそれに従い伏せるように身を落とすと、入れ違いに上方に風斬の翼が展開。

盾の傘となり、この火弾の雨を防いだ。

また上条もただサポートされてばかりではない。
この時ほぼ同時に手首だけを返して後方に発砲。
風斬の前に降り立ったブレイブスの膝を的確に撃ち抜いていた。

そうして支援を交差させた直後。
翼の傘が消えた先、上条の真上に女性型の天使―――ジョイが姿を現した。


そして上条が反応する間もなく彼の脳天へと、そのしなやかな足による蹴り下ろしが放たれた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:50:57.27 ID:fTqt1u+3o<>
上条『―――がっっぐ!!』

―――明滅する意識。

鮮烈な衝撃のあとに浸み込んでくる鈍痛。
したたかかつ額が割れそうなほどに鋭い一撃だ。

そんな衝撃の中、意識の端にて上条はあることに気付いた。

いや『思い出した』。

上条『っ―――』


今の一撃を放ってきた『この個体』―――『彼女』を覚えていると。


人間などには個体の区別などつかないであろうが、
それはジュベレウス派の者達が人間の個を認識しないのと同じだ。

上条にはそれぞれが当たり前のように識別でき、懐かしく―――覚えのある者もいた。
皆それぞれ個があり、感情もあり、誇りと固き信念もある者達。

中には派閥の垣根を越えて笑いあった者すらも。


―――だが今この瞬間の再会には―――穏やかさなど微塵もなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:53:06.48 ID:fTqt1u+3o<>
前世の同族であろうが、顔見知りであろうが今は『敵』である。
それ以外の何ものでもない。

相手が『旧友』だろうが『女』だろうが、
どちらも意志が覆ることがない以上、そこには容赦が割り込む隙は無い。


殺しに向かってくる強者に対する手段はただ一つ、こちらも無比の殺意をもって対することだ。


上条『っく!』

上条はなんとか踏ん張り姿勢を保つと、一切の躊躇いなく反撃に出た。

低い姿勢から一気に手を伸ばし、
彼女の頭から伸びている髪にも見える―――『翼』のひと房を掴み。

千切れんばかりの勢いで引っ張り寄せては、
ジョイの頬に半ばぶつけるように銃口を押し当てて―――すぐに引き金を絞った。


耳を劈く発砲音と同時に、女天使の頭部が消滅した。


また一つ、それが自然の摂理のように灯火が消えていく。
今の上条当麻にとっては人間のそれと等価値である魂が。

だが彼には、その手に掴んでいた亡骸を無造作に投げ捨てることしかできなかった。

死者への礼節を手向ける暇など与えられない。
戦いはまだまだ続いていくのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:54:33.47 ID:fTqt1u+3o<>
ブレイブスの10m以上もあろう十字槍が、握る主の肘先をぶら下げたまま宙を舞った。

風斬が斬り飛ばしたそれが、ヘリコプターの分離したローターのように暴れ回り、
地に激音を奏でて突き刺さり。

そして本体は残ったもう片方の腕を振るい、
風斬とその背後にいる上条もろとも叩き潰そうと一気に突進。

だがその捨て身の攻撃は空振りに終る。

跳躍した風斬によって踏み倒され、
倒れながら振り下ろされた拳は、上条の僅か30cm前の地を穿ったのみ。

このブレイブスが最後に目にしたのは、
低く振り向きざまに銃口を向けてくる上条当麻、そして禍々しい悪魔の銀光である。

次の瞬間、その彫像のごとき顔の額が撃ち抜かれた。


上条『―――!』

とその時―――ブレイブスの巨体を踏み潰す『更なる巨体』が突如現れた。
圧倒的な力を有す存在だ。

ただし敵ではなく―――喜ばしいことに上条の『肉親』であった。

飛びあがっていた風斬のすぐそばを突き抜けるようにして、
豪快に着地してきたのは白銀の魔獣。


ベオウルフ『―――小僧!!難儀しておるようだな!!』


上条『ベオウルフ!!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:57:58.12 ID:fTqt1u+3o<>

ベオウルフが加わったことにより、戦いは一気に好転していった。

依然天使たちの猛攻が続き、移動用の光陣を布く隙はなかったが、
それでも戦いながらも移動できる程度の余裕は生じ。

風斬『―――テメンニグルの塔に!!』

どこに向かうかもすぐに決定した。


かの魔塔の界域はここよりは防備が調ってる。
天使たちを引き連れ戦場ごと移動するにせよ、この天門直下で戦い続けるよりはずっとマシだ。

それにベヨネッタとテンパランチアの戦いからも遠ざかりたい。
巻き込まれるのを回避するのはもちろん、彼女の邪魔にもなってしまいかねないから―――なのだが。

その点についてはもう遅かった。

すでに彼女の戦いに水を差してしまっていたのだ。


上条『―――』

これは前世からの天使としての知覚によるものだろう。
最上の意志にはきわめて敏感なのも当然だ。

瞬間、上条は己の方にまっすぐに向けられている意識にすぐに気付いた。


瓦礫の雨の向こうのかの存在―――テンパランチアが、こちらを見据えていたのだ。


相対しているベヨネッタを脇に置いて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/03(火) 23:59:03.54 ID:fTqt1u+3o<>
ベヨネッタから意識を逸らしてまでこちらを注視する、
そのテンパランチアの狙いは、上条にとっては考える間もなくわかることだった。

竜王がこの虚数学区のシステムを四元徳に流したのは、
上条も自分の行いとして『見ていた』。

人間界を守るこの目障りな虚数学区の壊し方、
それを知っているテンパランチアは、今こそそれを達すべきだと考えたのだ。

一方通行の排除により虚数学区を破壊、戦いの場を学園都市―――人間界に移そう、と。


理由は簡単だ。

学園都市を守る者達とベヨネッタが仲間であることは、テンパランチアの目からも明白。
そこで人間界に戦禍に及ぶことで、
ベヨネッタに対する大きなアドバンテージが生じると考えたのだ。

周囲への損害が気になって全力を使うことを躊躇い、戦いに完全に集中できないだろう、と。

かたや四元徳としては、
セフィロトの樹も切断された今、現行の人類世界を滅ぼすことを躊躇う必要も無い。
そもそも人間界の『浄化』も、最初から選択肢の一つにあったのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/04(水) 00:01:19.10 ID:DxrDg9bpo<>
かの史上最強の魔女とまともに戦えば敗北は確実、
その点を考えれば、テンパランチアの選択はきわめて道理に適っていた。

もはやジュベレウス派の立場は絶望的、
これも苦し紛れに近いとはいえ、節制はまだ勝負に諦めてはいないのだ。
その『名』に反するほどに怒りに震えながらも決して自暴自棄にはならず、
僅かな可能性に賭けて勝ちに行こうとしてる。


大木のごとき両腕を打ちつけて身構えているテンパランチア、
そのひび割れた巨顔はまっすぐに上条達の方に向いていた。


上条『くそっ―――くそったれが!』


上条はその敵ながらに天晴れな姿勢に称賛―――悪態を捧げた。


上条『行くぞ!!早く!!』

そして上条は踵を返すと、仲間とともに地を踏み切った。


状況はまたもや一転、これは悪化と言えるだろう。
結果としてテンパランチアを魔塔まで引き寄せてしまうことになろうが、とにかく進むしかない。
追いつかれれば一貫の終わりだ。

ベヨネッタが上級三隊の邪魔を退けて、
テンパランチアを引き留めてくれることを祈るばかりである。

そうして押し寄せてくる天使たちの猛攻をなんとか退けながら、
上条達はテメンニグルの塔へと向かっていった。
文字通り『逃げるよう』に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/04(水) 00:04:20.15 ID:DxrDg9bpo<>
そして上条の考えている通り。


ベヨネッタ『―――――――――あっヤバっ―――』


テンパランチアは猛烈な嵐を纏い、
巨体に似合わぬ速度で飛びあがった。

もちろんベヨネッタにではなく―――上条達の方へ。

そうして入れ違いに彼女の前に次々と降り立つ天使たち。
その目的もまた当然、このベヨネッタを留める時間稼ぎのためだ。


上級三隊程度では、この史上最強の魔女を釘付けにすることなど決してできない。
だが無視できるほど弱くも無い。

一体が生じさせられる時間は僅か、しかしその積もり積もっていく屍が、
確実にテンパランチアとベヨネッタの差を広げていくのだ。


ベヨネッタ『―――待てこの腑抜け!木偶の坊!!』


ベヨネッタもまたすぐさま駆け出した。

あらゆる魔導器・魔具を使い、
先々に塞がる天使立ちを片っ端から屠り、テンパランチアを追い―――テメンニグルの塔へ。



こうして天と魔、そして人の戦場は一つに集束していくこととなった。
大いなる結末へと向けより加速して。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/04(水) 00:05:00.11 ID:DxrDg9bpo<> 今日はここまでです。
次は金曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/04(水) 00:07:34.99 ID:AmJQ3e6Ko<> お疲れ様でした。
ブレイブスの股ぐらは犠牲になったのだ・・・放置プレイのご褒美、その犠牲にな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/04(水) 01:33:33.81 ID:BjoSJtfdo<> 上条さん、やっぱ風斬とかに比べると弱いなぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<><>2012/04/04(水) 01:35:05.71 ID:hpsCdLg90<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/04/04(水) 01:35:28.76 ID:g/JnKVYmo<> お疲れ様でした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/04(水) 02:11:01.29 ID:DbkNlPHH0<> 乙です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/04/04(水) 20:46:44.95 ID:QXPBb0Bd0<> ここからの>>1は

 加
加速する
 す
 る <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/04/06(金) 17:23:51.19 ID:79FRZTLm0<> >>647
陸奥ネタ自粛 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:10:18.13 ID:QFFbkzNdo<>
―――

テメンニグルの塔、その中層から上層にかけての周囲にて。

押しよせてくる悪魔を前に、
ある『魔剣騎士』―――『最強の人間』が壮絶な戦いをくり広げていた。

ネロ「―――おおおお!!」

爆炎ひく大剣―――レッドクイーンを手に、魔塔の壁を駆けあがっていくネロ。
対するはベルゼブブ配下の大悪魔たちだ。

彼らは降臨するやすぐに憎悪と功名心、
そして強き力に魅せらせ次々とネロに向かっていった。

まず先陣を切ったのは巨大な獅子のような大悪魔だ。
とはいえ足は八本、目は四つあり、顔もトカゲのそれに似ていたが。

そのような、牙をむき出しに壁を駆け下りてくる獣神へとネロは真っ向から激突。
駆動する大剣を叩き込んだ。

ネロ「―――Die!」

前面を一掃するべく薙ぎふるわれた刃、
それがこの大悪魔の上顎を切断―――業火を交えて斬り飛ばす―――

―――だがそれでも大悪魔、差は歴然とはいえ一撃で滅びはしない。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:11:57.66 ID:QFFbkzNdo<>
『獅子』は頭部を欠損させられてもなお動きを止めず、
勢いを緩めることなくネロへと突貫、巨体による体当たりを仕掛けた。

その闘争心は天晴れなものだ。
やはり大悪魔、力と武を誇る生き様は徹底しているか。

そんな『気高き闘志』は、続くネロの二撃目で容赦なく粉砕されたが。


青き光で形成された大きな―――『魔騎士の頭突き』によって。


デビルブリンガーと呼んでいた力は健在だ。

それどころかネロは完全に我が物とさせ進化、
今や右手のみならず全身から顕現させることが出来る。

アリウス戦で行ったように巨大な青き足で蹴りとばすのはもちろん―――『頭突き』なんかだって可能だ。

直後、獅子の体を巨大な魔騎士の角が切り裂き、
そのまま跡形もなく叩き潰した。

ネロ「―――Ha! Bastard!!」

鋭くはき捨てると、ネロは獅子の躯をそのままぶち抜き前進。
さらなる戦いへ向けて飛び込んでいった。

叔父に横取りされた『百柱斬り』を今度こそ果す、
という一族特有の負けず嫌いの気も彼を滾らせていたかもしれない。


向かってくる何体もの大悪魔達へと、
一見すると力任せ―――それでいながら実は練り上げられた技術上にある身のこなしで、
レッドクイーンの刃を叩き込んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:12:58.19 ID:QFFbkzNdo<>
その様相は肉切り包丁、もしくは斧か。
大悪魔の固き外皮どころか、その爪や剣がもろとも圧倒的パワーで破断されていく。

ネロ「Si―――!」

大剣を振りぬいた合い間、それを隙と見て突撃してくるは、
牛頭の巨躯、ミノタウロスのごとき大悪魔。

だが当のネロにとっては隙なんて存在してなかった。

大悪魔の動きをすぐに察知するや、
ネロはすぐさま壁から跳躍。

そして回避と同時に出現させた、巨大な光足で『ミノタウロス』をけり弾き、魔塔に叩き込む―――

凄まじい轟音を響かせて魔塔に激突、
一面の壁を崩落させ、奥深くまでめり込む『ミノタウロス』の体。

そこへネロは蹴りぬきざまに右手に持つ拳銃―――ブルーローズを向けた。


すると連動して脇に―――同じく縦に砲口が二つ並んだ『青光の大砲』が出現。


ネロ「―――Get down! Sucker!」

そうして放たれた火力も、堂々とした外観に相応しく圧倒的なものだった。

青き閃光の柱が二つ連なってミノタウロスに直撃。
その身を貫くどころか、魔塔の一区画ごと木っ端微塵に吹っ飛ばしてしまった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:14:12.83 ID:QFFbkzNdo<>
ネロ「―――はは!こいつぁダンテも羨むぜ!」

この威力には、ネロ自身ですらも興奮に満ちた声をあげてしまった。
己の力は完全に掌握、こうして放つ魔弾にどれだけの威力があるかも把握しきってはいるも、
それでも直に効果を目にすると気が盛るものだ。

得意げに口笛を吹きながら、ふたたび魔塔の壁に着地したネロ。
コートをなびかせ彼は勢いを増して悪魔の中を突っ切っていった。


彼の『背後』、正確には『下方』の魔塔中層部まわりでは、
後衛のイフリートとサンダルフォンがネロが討ちもらした大悪魔を掃討していた。

これほどの存在を二者同時に相手にするなど、
いくら名だたる大悪魔でも手負いの状態では到底無理だ。

下に向かった者達はことごとく彼らに討ち取られているため、
ネロが応援に駆けつけて以来、
地表には一体の大悪魔も到達できなくなってしまった。


そもそも、いまやベルゼブブ軍団は人間界への侵攻ではなく、
ネロを打ち倒すことが至上目的と化しているようである。

自らに集中するこの狂気とも呼べる戦意を、ネロは明らかに感じ取っていた。
全ての大悪魔達が、己の首級を死に物狂いで求めているのだと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:15:30.63 ID:QFFbkzNdo<>
イフリート達のもとにまで達する大悪魔も、正確には自ら降りたのではなく、
正確にはネロの凶刃に遭い叩きおとされたもの。

一柱たりとも自らネロとの戦いから抜けようとする存在はいなかった。


魔界史上『最悪』の『反逆者』、その血族への変わらぬ憎しみと、
そして圧倒的な強者の力。
それらが闇の中の灯火のように機能し、魔界の猛者達をひき寄せているのだ。


ネロの側からすればこれは非常に好都合だった。

この莫大な戦力をネロが一手に引き受けることで、
人間側に大きな余裕が生じるのだ。

将たちがネロに執心で、その恐怖による服従から脱した下等悪魔たちが好き勝手動いてはいるも、
それも魔塔の門を守るラジエルたちの敵ではない。

そしてこのネロの戦いにしても流れは順調、好ましい結果が先に見えていた。
驕りでも過信でもない、ただ正確無比にネロは『事実』を把握しているのだ。


これらベルゼブブ以下全将が相手であっても―――己は勝てる、と。


それだけじゃない、もし他の十強が大挙して押し寄せてきても、
この戦場が存続する限りならいくらでも戦うことができ、勝ち続けられると。


―――そう、『この戦場』が保っている限り、だ。


それはつまり、この言葉を反転すれば悪魔側にとっての『突破口』になるということであるが。
具体的には―――滝壺と一方通行、そのどちらかの死である。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:17:02.20 ID:QFFbkzNdo<>
この時、誰しもがこのある『問題』を悟ることは出来なかった。

アーカムの存在は竜王の力によって支えられ、そのアーカムがこの悪魔達を手引きしている、
そしてアーカム自身は人間界が魔に染まることを望んでいる、

その関係性を『完璧』に把握していた上条当麻でさえ、
彼の置かれている状況的にここまで意識は回らなかったはずだ。


だが次なる展開で、この『問題』が誰の目からも明らかになる。

人間界への侵入を遮る障壁、
その壊し方を、四元徳のみならず――――――ベルゼブブもまた知らされていたのだと。


そのとき空気が変わった。


ネロ「―――やっとお出ましか」


空の上、渦巻く闇の置くから差し込んでくる圧にネロはすぐに確信した。
ベルゼブブがついに前線に現れると。

そうしてもう一つ。

特上の強者の出現にネロの力が歓喜したのも束の間、
それに気付いた彼の顔にはすぐに忌々しげな色が滲んだ。

殺意は向いている。
狂気に満ちた戦意が、変わりなく己に差し向けられていたのだが。

それとは別に、
陰険で悪意に満ちた『関心』が己を『突き抜けて』――――――遥か『下方』に伸びていたのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:18:44.78 ID:QFFbkzNdo<>
それが意味することは明らかだ。
ベルゼブブは、己と真っ向から戦う他に『何か』を企てているということである。

ネロにはこの企てに思い当たる節があった。
ステイルの記憶を覗いていたため、滝壺や一方通行の重要性は知っている―――

直感的にネロは確信する。


―――ベルゼブブの下への関心は恐らく『それら』に向けられているのだと。


そうして次の瞬間。
まわりの大悪魔達の動きが一瞬止まると同時にベルゼブブがついに現れた。


ネロ「―――」

下等悪魔にも同じ名を冠する者達が存在しているが、
あれらはこの存在の名を借りた別物である。

そのためネロも、本物のベルゼブブも『蝿』のような姿だとは限らないとはわかっていたも―――

ここで目にしたその姿は少し意外だった。

空にぽっかりあいた闇色の門、その先から出現したのは――――――黒い『靄』だった。

一見するとただの暗雲のようにも。
しかしそこに宿る力は間違えようが無い、この場にいる侵略者達の中でも桁違いに巨大、
これが紛れも無くベルゼブブなのだ。

この捉えどころ姿を一目見たとき、ネロは瞬間的に嫌な予感を覚えた。
それはもちろん気のせいなんかではなく、またしても確かな感覚で。

このベルゼブブは『曲者』だと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:20:27.66 ID:QFFbkzNdo<>
刹那、一斉に動き出しネロに向かってくる黒い『靄』。


考える間もない、彼は反射的にレッドクイーンのアクセルを絞り、
爆炎を迸らせてこの靄を斬り掃った。


ネロ「―――Blast!」

手加減は一切なしの本気の一振りだ。

そこにみなぎる力に相応しく、ネロの刃は巨大な靄を完全に分断、
ついで噴出す業火でひとまとめに焼き掃っていく。

そうして実に9割以上の『靄』を、ベルゼブブの巨大な力ごと抹消したも。


ごくわずかな分だけが、この一振りを逃れて下方へとすりぬけていった。

ネロ「―――!」

本来ならば、この程度の力の残滓を討ち漏らしたことは特に問題じゃない。
イフリート達の手にかかれば一瞬でかき消されてしまうような程度である。

だが『あれ』はかの十強である。

魔帝やスパーダの領域にはまだまだ達していないものの、
魔界において覇の頂点に立つその力量や機知は見くびってはならない。

覇王に匹敵するとも充分に考えられる存在達なのだ。


そしてこのとき、ネロのそんな懸念が的中した。
すり抜けた靄の欠片、それを横目で追ったさきに彼は目にする。

今しがた確かに斬り掃った莫大な力が、なぜかあの靄の欠片にふたたび宿り。

次の瞬間、この靄を処理しようとむかったイフリートが逆に―――靄から飛び出した『鎌』のような『何か』で、
彼方へ吹っ飛ばされてしまったのを。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:23:07.83 ID:QFFbkzNdo<>
嫌な予感は見事的中した。

ネロ「―――やっぱりそう来たかクソッタレ!」

明らかに手応えはあった。
レッドクイーンの渾身の一振りが、確かにあの靄の大半の力を剥ぎ取った。

それなのになぜ―――またあの靄に力が戻っている?

だがその理由よりも、まず先に対処せねばならない点があった。

結果的にほぼ無傷のまま靄が下に抜けてしまったことだ。

それに対するネロの責務はただ一つ、あの靄を追って下に向かわねばならない。
他に対処できる者がいない以上そうするしかない。


だがそうすると、またしてもある大きな問題が生じる―――ここにいる多数の大悪魔達を留める存在がいなくなってしまうことだ。

イフリートが戦闘可能だとしても、サンダルフォンと彼だけではこの数を相手にするのは無理だ。
袋叩きにされすぐに殺されてしまうのが目に見えている。

つまりは、自ずと主戦場を共に下に移さざるを得ない。
もちろんそれはあまりにも危険すぎた。


魔塔の門前付近で戦うと、大悪魔の魔塔進入を許してしまう可能性が格段に上昇してしまう。

その者達を倒すべくこちらも中に入ったとしても、
他の者達がいる中で―――ましてや普通の人間達がそばにいる場で、
複数の大悪魔相手に、ここでやっていたようにフルパワーで大立ち回りを強行するなんてできるわけがない。

己の余波で、滝壺などが死んでしまいかねない。
そして門前の防御も薄くなってさらなる進入を許してしまい、情勢は急激に悪化していくであろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:25:29.73 ID:QFFbkzNdo<>

ネロ「チッ!!」


しかし追わねば状況はもっと悪化するのは明白だった。

己がベルゼブブを止めなければ、どのみち滝壺は殺されることになる。

そして魔塔の隔離が解け、多数の大悪魔と大軍勢が一気に人間界に流入。
それもまずは人口密集地の学園都市、関東圏に。

それだけじゃない、様子見していた他の十強も確実に動き出し、
戦火は一気に全世界に拡大、
全十強配下の千体の悪しき神々がこの世界を瞬く間に蹂躙するだろう。

ここまで達してしまったら、もうネロという個人の勝ち負けは別として、
人間界を守りきることは不可能だ。


―――そのような最悪の結果だけは、なんとしてでも避けねばならない。


ネロはすぐに決断する。
多くの懸念をふりはらうと魔塔の壁をけって一転、『靄』の後を追った。

一斉に降下してくる大悪魔たちを引き連れて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:27:08.28 ID:QFFbkzNdo<>
靄は次いでサンダルフォンに向かっていた。
サンダルフォンの方も避けるつもりは無かったようだ。

彼も状況を的確に理解しているのだろう、
身を挺してでも時間を稼ぎネロに追いつかせようとしているのである。

そうしてこのサンダルフォンと接敵する瞬間、またしても靄の中から何かが飛び出し。

この時はネロにもはっきりと見えた。
ベルゼブブの『真の姿』が。

やはりと言うべきか。
『靄』の状態はかりそめ―――移動用か回避のための姿だったようだ。

よく『蝿』の表現を使われるだけあって、
その姿は『虫』と呼べるに相応しいものだった。


ただしネロの率直な感想では、蝿よりも―――黒い『カマキリ』に見えた。


頭から尻まで5mほど。
大きな角のある頭部は蝿のそれにそっくりか、
だが腹と上半身はすらりとのび、同じく長い四枚の翼。

そしてよりカマキリたらしめているのは、見るからに凶悪な大きな『鎌』である。


しかもその数は一対ではなく―――三対もあった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:29:27.04 ID:QFFbkzNdo<>
そうしてその一本が、
サンダルフォンの蹴り上げなどものともせずに彼の身を吹っ飛ばす瞬間。

かの天使の身を挺した行動は、
時間稼ぎ以上の収穫をネロに与えてくれることとなった。


ネロはここで一つ、かなりの確信をもって推測できたのである。

少なくとも攻撃するには、
ベルゼブブはあの『カマキリ』状でいなければならないのだろう、そうとなれば。


恐らくカマキリ状の時に切り倒せば―――今度はしっかりと殺せる可能性が高い、と。


とその直後。
ネロはまたもやこの場に生じた大きな波紋を目にした。


ネロ「―――ッ?!」


もはや姿を隠していない『カマキリ』を追う先、
はるか下の地表に見えるのは、どこからともなく魔塔に向かってくる三つの『光点』。

その正体はすぐに判別できた。
まずはベオウルフの巨体、
そして人間界の天使―――風斬と銀光纏った上条当麻である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:31:53.70 ID:QFFbkzNdo<>
三者は一目散にこの魔塔のふもとに向かってきていた。
後ろに敵と思われる天使達の光点をぞろぞろ引き連れて。

さらにその向こうには山のごとき『天の存在』と、例の魔女の圧も感じるか。

この一連の状況、何が起こっていたのかは正確には判断がつかなかったも、
さらなるあるものを見出して、ネロは大まかに悟ることが出来た。


風斬の背、巻かれている二枚の翼のうちその片方に―――人界神の新王、一方通行がいたのだ。


そして。


やはりベルゼブブもまた―――滝壺や一方通行のことを詳しく把握しているようだった。


鍵を握る少年を認めた途端、
さらに下降を速め―――彼へと真っ直ぐに向かい始める『カマキリ』。


ネロ「―――Hooooly―――fuuuck!!!!」


その存在を追い魔塔の壁を駆け下りていくネロ。
思わず口から漏れるは、
二重三重に問題が連なる展開への悪態である。

ただしここまで状況が転じようとも、幸いなことにネロの責務は特に変わらなかった。
彼の目下の最重要課題は、
ベルゼブブを含め―――滝壺と一方通行を狙う存在を皆殺しにすることであり。


変更点は単純にしてたったひとつ、その殺害リストに天の存在も加わっただけである。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:33:13.27 ID:QFFbkzNdo<> ―――

その上方からの脅威に気付いたのはただベオウルフのみ。

テメンニグルの塔の麓、門前の広場を目前に飛び込んできた上条たち、
彼らを迎え入れようとするシェリーとヴェント、
そしてラジエル、ザドキエル、ハニエルら名だたる天使たちは、
その全員が全く反応できなかった。

また唯一察知できたベオウルフでさえも、初撃を退けるだけで限界だった。


突然停止し、風斬と上条を叩きふせる魔獣。
その瞬間、己が倒されたと二人が認識するよりも早く。


倒されなければ一瞬後に上条達がいたであろう位置にて―――ベオウルフが『押し潰された』。


上から砲弾のように降って来た『何か』に。


上条『―――っ』

何が起こったのかまるで理解が追いつかない。
だが大まかな出来事は、親切なことに状況の方が自ら教えてくれた。
そこに提示された状況は『最悪』のものだったが。


目の前には、地にめり込むベオウルフの上に―――『カマキリ』のような姿をした存在。


その異形の『巨虫』から発せられる圧を認識した瞬間、
ここでようやくみなが本能的に悟り、到来した新たな『災い』に戦慄することとなった。


魔界十強に名を連ねる存在、その圧倒的な力を前に。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:35:06.30 ID:QFFbkzNdo<>
上条『っぁ―――!』

アスタロトを前にした時と似た感覚だ。

絶対に抗うことの出来ない圧倒的な敵意と悪意。

己とは天と地ほどの差があり、
何をどうやっても傷一つつけられないのは試すまでもなく明白。

無力な人間がはじめて大悪魔、神域を目にした際の衝撃と同じように、
逆らえぬ畏怖とともに本能的に悟るのだ、この存在はもはや次元が違うと。

ただしこの存在はアスタロトとは違った。
あの恐怖大公のように獲物を弄ぶ気は欠片もない、上条は瞬間的にそう受け取った。

目的は『殺す』、ただそれだけだと。
もちろんそれは『良いこと』ではない。


相手の狙い、次なる動きがわかっていても、
これほどの存在の速度にはついていけるわけがなかった。
それも手加減なしの必殺の攻撃ならばなおさら―――

地に伏せったまま、上条も風斬も何もできなかった。

あまりにも速すぎて何が起きたのかも、リアルタイムでは認識できなかった。
カマキリが、ベオウルフから鎌を引き抜く動きも認識できなければ、
ついで放たれた一振りさえも―――


―――そして鎌の切っ先が風斬を貫く寸前、真上から伸びてきた『青光の巨足』が―――カマキリを横へ蹴り飛ばし。


―――己たちが間一髪で救われたということも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:36:33.32 ID:QFFbkzNdo<>
上条『うぉぉっ―――?!』

よくやく彼が何らかのアクションを示せたのは、
目の前にコートはためくネロの後姿が降り立った頃だった。

上条『―――ベオウ―――!』

ベオウルフはまだ生きていた。
ネロの前にて、酷い傷を負いながらもなんとか起き上がろうとしている。

だがこの魔獣に手を貸す暇もまたなかった。
一難去ってまた一難だ。

上条が魔獣の名を口にしながら立ち上がりかけた時、
今度は背後上方から覚える猛烈なプレッシャー。

こちらの源の正体は明らかである。


―――四元徳、テンパランチアだ。


風斬『!』

そしてこれまた上条と風斬は如何なる対応もできなければ。
同じくまた『救われた』。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:38:14.13 ID:QFFbkzNdo<>
ネロなどお構いなしに一気に降下してくる節制―――


―――その巨体に押しつぶされる―――という直前。


上条達の頭上まであと3mと迫ったところで突然テンパランチアが『制止』した。

後方から現れた『大きな黒い腕』に、肩の基部を掴まれて止められたのだ。

さらに次の瞬間、
その腕によって一気に後方にひき倒され―――節制は猛烈な勢いで地に叩きつけられた。


そうしてテンパランチアが引き退けられていくのと入れ違いに、
この巨体の上をとび越えて上条達の前に降りたつ女が一人。


ベヨネッタ『―――やぁっと追いついたわ!』


節制をひき倒した巨腕の召喚主、ベヨネッタだ。
こうして上条達は二度連続、最強の人間たちに間一髪のところを救われることとなった。

ただ礼を言う暇もないほどに切迫していたのは変わらなかったが。


ベヨネッタ『―――ほらほらほらさっさと失せなさい!!』

それはようやく生じた余裕だった。

ネロ「―――行くなら早くしろ!!」

退避を促す声を連ねる、上条達を挟んで背中合わせの二人の最強―――
―――まさにこの場は噴火直前の火口といった状況だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/06(金) 23:40:57.92 ID:QFFbkzNdo<>
全貌は掴めぬもひとまずやるべき事はわかったのだろう。
押し寄せてきた上級三隊へと、武器を手に猛然と飛び込んでいくラジエルら三天使。

上方からは悪意に満ちた多数の大悪魔―――

―――そして起き上がるテンパランチアと、
遥か吹っ飛ばされたの『カマキリ』の再鼓動を示す、遠くで巻き上がる粉塵。


―――今にもここで、三つ巴の桁違いの決戦が始まるだろう。


声を交わす時間すらも惜しかった。
上条と風斬はすぐに移動用の光陣の構築に取りかかかり、
今度こそやっと最前線から離脱を果した。

直前に起き上がり手を伸ばしてきたベオウルフと共に上条、風斬、
カマエルと一方通行はすばやく人間界へと降りていった。



そのようにして。

ベルゼブブとテンパランチア。
上級三隊とベルゼブブ配下の将たち、
彼らの第一の勝利条件は滝壺の殺害に一本化することとなった。

一方でネロとベヨネッタ、人間界を守る者たちの勝利条件には変更は特に無い。
変わらず『敵』を排除することだ。


ネロ「足手まといになるんじゃねえぞバアさん―――!」


ベヨネッタ『―――そっちこそせいぜいチビらないようにねクソガキ!』


二人には『終わり』が薄っすらと見えていた。
ひとまずこの局面で勝利を収めれば―――天魔人の三つ巴の戦いはある程度の決着へと至る、と。


そしてその先、『次』に待ち構えている―――ただただ不穏な『最終局面』の存在も。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/06(金) 23:41:39.52 ID:QFFbkzNdo<> 今日はここまでです。
次は月曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 00:56:20.22 ID:IkxBTCkx0<> スタイリッシュ・クライマックス乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/04/07(土) 02:58:33.34 ID:BYgHYJzUo<> クールダウンする暇が全くない <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<><>2012/04/07(土) 03:32:50.01 ID:QBlSSHoN0<> ベルゼブブとテンパランチアとその他終了のお知らせ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 09:38:28.56 ID:RAIGc59t0<> 滝壺さんがここまで天使やら悪魔に狙われるSSが今まであっただろうか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/04/07(土) 12:08:41.20 ID:iRFGMB5Po<> お疲れ様です。
なんだこの大戦争は・・・誰も彼も確実に生き残れる保証が無い・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/04/07(土) 16:15:15.67 ID:DgTOlDKF0<> もしかしてベルゼブブのモデルってゴッドハンドの礼儀正しいあいつ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 20:13:54.06 ID:5Q8sXyxd0<> >>673
ああ真面目だけど四天王の中で一番地味で目立たない…ww
この戦いにジーンまでやってきたらとんでもないことになるなww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 19:39:16.22 ID:qjRiDJGi0<> むしろ>>1は何の作品の悪魔像をモチーフにしているんだ?
DMCやらベヨに出てるのはともかく、アスタロトとかベルゼブブとか
やっぱメガテン? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/09(月) 20:22:48.30 ID:uUB1eGKIo<> >>675
大体は一般的な伝承を元ネタにしてますが、それ以外の要素を挙げますと、

ねこキングは、>>1のトラウマがシャドウなのでいつか凶悪なボスにしたかった、
トリグラフは、ブリッツが好きだったから似たような姿の狂戦士的なボス、
アスタロトとネビロスはメガテン(アスタロトの変態趣向もメガテンの全裸から)、
ベルゼブブのベースは>>673さんの通りゴッドハンドのベルーゼと、+ベルセルクの使途もどきなどです。

ただしあくまで基礎モデルにしているだけで、元ネタ作品とリンクさせているなどの要素は特にありません。
似て非なるキャラとしていただければ。

投下は日付が変わる頃に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:09:21.34 ID:fsSBYkS5o<>
―――

準備の一貫として、22口径の小さな銃弾を飲み込んでおいた。
もちろんただの銃弾ではない。

こちらの意思次第すぐに魔術起動し炸裂するようになっており、
炸裂すると劇毒が解き放たれ、『自決』を果すという寸法だ。

毒物は多種多様の悪魔から抽出混合したものであり、
『普通の人間』ならば体内で解き放たれた瞬間、痛みを覚える暇もなく即死する。

確実にだ。
小さな弾頭に含まれるわずか滴ほどでも、実に致死量の10万倍なのだから。

それが『彼女』の『保険』にして『最終手段』である。


―――『父だった悪魔』をあの世に送り返すための。


しかし最終手段ではあるが、確実な手段とは断言できなかった。

己がこの手でアーカムを殺せば、そのまま葬れることは確信できる。
だが『決着』をつけぬままただ自死しただけで、
果たしてアーカムもそのまま消え去ってくれるのだろうか。

存在構築の源を失うために不死状態は解かれるだろう。
だがその後は?

潜在意識がアーカムを『再現』させてしまっている以上、
何らかの形でもう一度決着をつけねば完全に消え去ってはくれない、そんな可能性も捨てきれなかった。

ゆえに彼女は、まず第一に『彼』との戦いに挑んだのだ。


彼女にとってもっとも―――残酷な結果が待ち受けているとも知らずに。


テメンニグルの塔の中層。
バルコニー状に突きでたとある広間にて。

壮絶な戦場の眺望を前に、『父だった悪魔』は待っていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:13:16.29 ID:fsSBYkS5o<>
レディ「……」

元聖職者らしく背筋の通った昔と変わらぬ後姿。

ある頃までは飛びついてじゃれ付くこともあって。
だがある頃から疎遠になって、ただそれでも厳かで頼もしく見えて。

そしてある頃を境に―――憎悪と殺意の象徴と化した背中。


アーカム「……見ろ。この混沌の戦火を。今に人間界を包み、全てを貪り尽くすのだ」


声もだった。
書斎にて書物を捲りながら淡々と叱責する、そんな在りし日のものと変わらなければ。
母を殺したあの日、血染めの顔でこちらの名を呼んだ声とも同一。

何一つ変わらない。


レディ「……そうはならない。今はバージルも人間の側についてるし、ネロもいる」


だが世界は変わった。
あれから流れた月日は20年以上、その間に世界は大きく変わった。


レディ「そして三人とも―――もうスパーダを超えているわ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:15:05.52 ID:fsSBYkS5o<>
アーカム「…………スパーダを越えた、本当にそう思ってるのか。確たる証拠は存在しているのか」

まるで片手間のような淡々とした口調。
認めたくないくらいに懐かしく、同時に―――殺意を覚えるおぞましい声。

アーカム「それとも『願望』か。そう願い、自らもその不確かな栄光にあずかりたいだけなのでは?」

レディ「……」

アーカム「己も『偉大な父』を越えられる、と信じたいがためでは?」

その問答の仮面を被った挑発に、レディは最初は静かに答えた。


レディ「…………一つ確実な証拠がある。ネロは魔剣スパーダを破壊した」


静かながらも弦を張るかのように張り詰めさせ。


レディ「そしてもう二つ訂正してやる。お前は『偉大』でもなければ――――」


そして―――溜めた怒気を解き放つ。


レディ「―――――『父』でもない!!」


張りに張った闘争心とともに。

彼女は素早く戦闘姿勢をとるや、
5mという近距離でも躊躇わずに―――その後姿めがけロケットランチャーを放った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:16:26.19 ID:fsSBYkS5o<>
―――炸裂する弾頭。


ただし爆発域にはアーカムはもういなかった。
彼は一瞬にして離脱したのだ。

レディ「―――」

ただの人間の知覚ではとても追えない―――レディにとっても認識できない速度で。

アーカムは人間ではない、
妻を捧げた瞬間から正真正銘の―――悪魔である。

しかもその力は下手をするとそこらの大悪魔よりも上だ。

一時的ながらもフォースエッジを取り込み
かのスパーダの力を引き出せるという事実が現すとおりの領域だ。

そのような存在と。

己の魂から力を精製できない、外部からの力に頼るしかない人間の魔術師との間には、
やはり超えがたい潜在的な差が存在する。

―――それこそがデビルハンターの『真の敵』としても過言ではないだろう。


この差は『埋められない』。
だからデビルハンターはもちうる全ての技で『誤魔化し』、この差が発揮される前に勝負を決めねばならない。

攻撃は常に相手の意表をつき、相手に対応する時間を与えず、
手のうちを読まれる前に短期決戦を成すこと。

それが人の身のままで戦う狩人の最も重要な心得である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:17:40.90 ID:fsSBYkS5o<>
レディの初撃、そのロケット弾は、そもそも最初からアーカムにダメージを与えるためのものではなかった。
爆発からは炎の類も生じなければ、衝撃波も破片も放たれない。


周囲に飛び散るのは『粉塵』―――悪魔の『骨』を砕いた粉末である。


もちろん煙幕なんかではない。
これら骨粉にも魔術が施されており、その目的は―――『こちらの土俵』を作るため。
知覚の精度と速度、それらを一時的に補うための『フィールド』を形成するためだ。

シャックスに襲撃されたときとは違いこれら準備は完璧だ。

一気に拡散した骨粉は、粒ごとにリンクし魔術回路を形成。
周囲全体に『網』を張ったようなものだ。


レディ「―――ふっ」

そして漂う骨粉を軽く吸うことでその『網』と接続完了。
このバルコニー状の広間、20m四方が死角のない『彼女のフィールド』へと化し。

ここからようやく―――技術の粋を集めたあらゆる武器、
銀弾とロケット弾、手榴弾と銀杭等の出番である。


瞬間、レディは目で追えぬアーカムの位置を特定。

すかさず腰のサブマシンガンを右手にし―――振り向きざまに一連射、
魔弾を撃ち放った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:19:44.23 ID:fsSBYkS5o<>
ただ弾を撒き散らしたわけではない。
対象の動きを読んであらゆる予測位置へと弾を置き、回避先を同時に潰す『精密射撃』である。
しかもそんな複雑な作業を、彼女は思考せずに直感的にこなしていくのだ。

ただしこれは、彼女にとっては最良の戦闘状態でもなければ、
好きこのんでそうしているわけでもなかった。
そうせざるを得なかったのだ。

特に大悪魔級を相手にするときに、いちいち悠長に思考などしている暇などあるわけがない。
悪魔のように、戦いの最中で何かを得て『進化する』なんてことはできない。

血の滲む鍛錬と数多の死線を越えた経験、それら積み上げてきたもの『だけ』を頼りに、
闘争本能にすべてを委ねるしかまともに戦えないのだ。

ただしそんな不利な戦闘状況の中でも、一つだけレディにとって好都合な点があった。


―――『余計なこと』を考えないで済むのだ。


―――それこそ―――『この男』が相手であれば尚更。


彼女はそのまま引き金を絞ったまま、後方に飛び退き全弾発砲。
転がりながらすばやく弾倉を取り替え、
立ち上がりざまにロケットランチャーをもう一発。

サブマシンガンの『精密な弾幕』の中へ、
今度こそ殺傷能力のある大きな一撃を放った。


もちろんこれも直感的な精密射撃で。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:30:59.57 ID:fsSBYkS5o<>
壁にめり込んでいく弾丸、
そして一足遅れに空中炸裂するロケット弾。

いくら小型ロケットとはいえ、たかが20m四方の空間で爆発すれば、
人間にとってはきわめて危険なものである。

しかし彼女がそんな単純なことでダメージを負うわけも無い。
飛び散る破片も全て術式によって自動制御されており、
特にこのフィールドの中では最大の効果を発揮する。

レディ「―――」

アーカムの姿はいまだ目視できずも、
しかしその位置はフィールドの中にいる限りははっきりと『見え』。

炸裂によって生じた破片は、指向性のそれとなって―――この標的の方向一面に注がれる。


レディ「―――っ」

そしてフィールドの『網』を介して覚える手応え―――しかしこの程度でアーカムが倒れるわけが無い。
彼女は手を休めなかった。

半ば自動操縦とも言えるか、闘争本能に従い鍛え上げられた体が動いていく。

腰を落としもう一発、爆煙の中へと放たれるロケット弾。
さらに人差し指で安全ピンを抜かれすばやく放られる手榴弾。
それら連鎖し重なる爆発。


―――相手に対応する時間を与えない。

その悪魔に対する重要な心得の一つを、彼女はここに的確にこなしていく――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:35:25.16 ID:fsSBYkS5o<>
とその瞬間。

当然のことだが、アーカムも攻撃されてばかりではなかった。

レディ「―――」

これは彼女の天性によるところも大きいか。

古からの戦巫女の血を引いているため、
寿命など物理的身体特徴は現生人類と同一ながらも、
精神体はどちらかというと魔女や賢者といった原初人類に近いものがあるのだ。

『加護』とも呼べるか、先祖代々の直感能力は、
普通の人間なら到底悟れるものではない『危険』を検知する。

ただし思考を挟むことなく反射的に的確な回避行動に移れるのは、
やはり天性ではなく修練の賜物であろう。


瞬時に横に跳び転がるレディ―――直後、
ついさきほどまでいた位置に出現するのは―――『青い光の球』。

レディ「っ」

直感的にわかる。
あれに触れてしまえば、この人間の身などひとたまりも無いと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:37:48.83 ID:fsSBYkS5o<>
アーカムはこちらを殺せない―――その前提がはたして本当に正しいのか、
そう疑問を抱いてしまうほどに殺戮的な力が漲っている青い球。

この男は本当にこちらを殺す気なのだろうか―――

ここで少し、そのように彼女の中に思考が生じてしまった。
だがこの程度ならば特に問題は無い。
思考と闘争本能は完全分離されているため、動きを阻害することはないのだ。

それにこの思考が闘争本能に割り込むことはない。

アーカムがこちらを殺す気であろうとなかろうと、
戦い方に変化を加える必要はないのである。


体は止まることなく動いていく。

横に飛び転がり、立ち上がると同時にすかさず―――背後に現れていたアーカムへと、
ロケットランチャー先の刃を振るった。

突然の彼の出現にも、思考が及んでいないため彼女が怯むこともない。

レディの体は機械のように正確無比に対応、
その振り向きざまの右手にあるは―――銃口が二つ並ぶソードオフショットガンだ。

顔よりも先にその銃口をアーカムに向け、
目視などせずに―――散弾を撃ち放つ。


彼女がアーカムの姿をようやく目視したのは、彼の顔が至近距離からの散弾で歪になった後だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:39:10.22 ID:fsSBYkS5o<>
レディ「っ―――」

手応えはある。

この男のオッドアイからは相変わらず涼しげであるも、
確実にダメージを与えている。

今の散弾だけじゃない、これまでの一連の攻撃のダメージも明らかに蓄積されている。
レディはやっとここで確信に近い感覚を手に入れた。


やはり己の手ならば倒せる―――この男を『完全に殺せる』、と。


次いですばやく左手でランチャーのトリガーを絞り、
ロケット弾ではなく―――今度は特大の『杭』を放つレディ。

この至近距離ならば外すわけがない。
射出された黒金の杭は見事―――アーカムの胸部に突き刺さり、
彼の身を後方の壁際まで吹っ飛ばし―――磔に。


とてつもない因縁が紡がれている相手となれば、ここで一つや二つ言葉を向けるべきかもしれない。
ダンテならきっとそうしただろう。

だがレディはそうしなかった。
たとえアーカムを固定させようとも、彼女は決して攻撃の手を緩めなかった。

その理由はデビルハンターとしての心得に忠実に従ったため、そしてもう一つ。


もう何も言葉を向ける必要は無かったからだ。
なぜなら―――アーカムは20年前に『死んでいる』―――これはもう『終っている戦い』なのだから。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:40:51.86 ID:fsSBYkS5o<>
レディはスパーダの一族に劣らずの負けず嫌い、
さらにそこに独特のプライドも上乗せされているが、『これだけ』は彼女も認める。

アーカムは―――己にとっての『究極の悪夢』。


―――『恐怖と憎悪の象徴』であると。


だが今更、それで心の何かが揺れ動くことはない。

確かにあの頃は手も足も出ず、
結局この男を無力化したのはダンテとバージルだ。

だが最期にこの男の命を奪ったのは―――この『人差し指』―――己の意志である。

あの瞬間、この戦いは決着したのだ。
ゆえにアーカムという存在は『悪夢』であっても―――今や『呪縛』にはなり得ない。


アーカムを磔にするとほぼ同時に。
宙に放り投げたソードオフショットガンに、叩き付けるように弾を装填。
そして素早く手にすると間髪入れずに再び放った。

今度は散弾ではない、スラッグ弾だ。

ダブルバレルから同時に放った二発。
術式刻まれた銀と鉛の塊が、アーカムの首の根元に大きな穴を穿っていく―――

傍ら、もう片方の腕ですばやくランチャーを後ろに回しつつ―――その手でサブマシンガンを抜き取り、
立て続けに弾を叩き込んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:41:52.07 ID:fsSBYkS5o<>
レディのその動きには、一欠けらの躊躇いも怯みも無かった。


憎悪と恐怖が心の中に渦を巻くも、
その憎悪は記憶が蘇らせる幻像。
魂に纏わりつく恐怖も過去の産物だ。

そしてこの目の前にいるアーカムの姿そのものも―――『悪夢の残滓』にしか過ぎず。

今のレディにはもはや通用しない。
彼女はもうあの頃の『小娘』ではない―――


アーカム「―――強くなったな。メアリ」


―――弾幕の奥から響くそんな称賛の言葉。
けたたましい銃声が間にあるにもかかわらず、やけに明瞭な異質な声。

レディ「―――っ」

それとほぼ同時に、彼女は『網』を介して知覚した。
アーカムの体を貫く魔弾、その術式による『毒性』が―――瞬時に中和されていくのを。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:43:32.29 ID:fsSBYkS5o<>
通常ならばこれはありえないことだ。
上条当麻の幻想殺しでも無い限り、
術式を即座に解体して無力化するなんてまず不可能―――

だがそれは『通常』の場合だ。

このアーカムという男に限っては、とても通常の範疇には入らないだろう。

アーカムは神域の力を支配下におさめるのではなく、
自ら神になることを選んだ狂気の天才。


―――『魔神級の魔術の技を持つ大悪魔』だ。


その形容だけで、この男の異常な脅威性は明らか。

レディ「―――」

特にレディにとっては、そこにもう一つの問題が付随する。

この男から直接指導を受けたことは無いも、
彼女の技術はその礎の全てが彼が残した大量の研究資料、記録、そして魔導書によるもの―――だという点だ。


すなわち己の魔術は―――アーカムと非常に良く似ている―――『解読しやすい』。


アーカム「―――強くなったな」


アーカムはもう一度口にした。
決して父が娘に向けるような声色ではない、
淡々として、どうしようもなく冷え切っていて―――僅かな感情も篭っていない『死声』で。

無力化した魔弾の一つを『つまみ』ながら。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:47:45.76 ID:fsSBYkS5o<>
ただしこれは、別段レディにとって意外では無かった。

アーカムがとんでもない魔術の技をもっていたことは、
誰よりもレディが理解していたからだ。

ゆえに気構えは確実に勝つ気でも、
現実的には勝率は100%ではないことは理解しており。

そのためにあらゆる状況に対応できる準備を整えて―――さらには胃袋の中にも『保険』を仕込んでいるのだ。


だが―――アーカムはさらに一枚上手だった。


これは決して彼女の油断に突け込まれたわけではない。

それは仕方の無いことだった。
彼女が友から『レディ』と呼ばれる人物である限り、決して埋めることができない差。

どれだけ鍛錬しようが、追及しようが、
絶対に―――彼女が彼女である限り『知りえない隙間』からアーカムは手を打った。
これはアーカムをそこまで追い詰めたということでもあったのだが、
だからといってとても喜べるものではなかった。

絶対に。



レディ「ッ」

アーカムの二度目の『称賛』が聞えた―――直後だった。

身の底から覚える奇妙な感覚。
高揚感とも焦燥感とも似ているが、これまで経験した事の無い異質な『熱』だ。

すかさず弾幕を張りながら後ろに飛び退くレディ。
そして己が身を専用の術式で精密検査しようとしたも、
その必要は無かった。

変化はすぐに訪れた。
きわめて明らかな形で。


レディ「―――?!」


ここで彼女の鋼の精神がついに―――大きく揺れ動く。
『己の魂』から突如湧き出てくる―――『魔の力』に気付いて。


身の内から魔の力が生じることなんて有り得ないはずなのに―――


―――『人間』である限り、絶対に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:52:04.35 ID:fsSBYkS5o<>
レディ「ッ―――ッぁッッぐッ!!」

凄まじい衝撃に身も心も叩かれ、
彼女はその場に膝をついてしまった。

全身を覆う燃えるような激痛。
生まれて初めて味わう―――魂の『痛み』。

アーカム「―――『あの女』は悲鳴をあげ続けたが、お前は耐えるか。メアリ、本当に感服ものだ」


レディ「―――……何を―――したッ―――?!」

燃えるような熱を滲ませ、
喘ぎながらも問い返すレディ。


アーカム「何事も、『現物』を目の当たりにせねば決して知り得ぬ側面が存在する」


そんな『娘』に、『残酷な父』は胸の杭をひき抜きながら告げた。



アーカム「お前は知らないだろう。私の『転生術』の『完成形』は―――」


自由の身となり、こともなげに身にまとわりつく埃を掃いながら。
そう、在りし日の様に―――片手間に淡々とこちらを叱責してくるような声色で。


アーカム「―――当然だ。これについては一切記録に残していない。
      そして愚かな正義心が障害となり、お前は『人体実験』を行うこともできないからな」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:55:57.86 ID:fsSBYkS5o<>
それは彼女がダンテと同じ側にいる以上、
絶対に探求できない領域。


レディ「―――ッあぁ゛!」


転生術―――つまり己は―――『悪魔』になるというのか?


アーカム「お前は代価を支払わなくても良い。私の中を流れている『あの女』の血を捧げたからな」


しかもこの男と『同じく』―――母親の血を捧げて。


アーカム「どうした?悪魔にはなりなくないか?」

なりたいわけがない。
人間であることを誇りにしているのになぜ―――

アーカム「―――違う。正確には、お前は悪魔に成ることを恐れているのではない。
      悪魔に成ることで、私との相違点が無くなってしまうからだ」

いいや断じて違う。
そんなわけが無い。


アーカム「お前が人間側に甘んじているのは、単に復讐者が『こちら側』だったに過ぎない」


戯言だ。
人間世界を愛しているし、
スパーダの一族の信念に自らも身を捧げる覚悟だ。

アーカム「闘争に覚える喜びも偽りと言うか?至上の快楽に浸っていながら」


あれは―――そんなのじゃない。
決してそんなのじゃない――――――はずだ。


アーカム「人間という入れ物を失った時、お前は一体何者であろうか」


レディ「だま――――――」



アーカム「ただし不変の事実が一つある――――――お前は私の娘だ」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 01:58:18.88 ID:fsSBYkS5o<>
アーカムはそこで笑った。
偽りではない、『残虐きわまりない父性』をうっすらと覗かせて。


そしてその声、
類まれなる魔術の技と大悪魔の力、それらが組み合わされた『言霊』はとてつもなく強烈なものだった。

苦痛の中でも一語一句逃さずに明瞭に聞え、聞き流すこともできない。
すべての言葉が精神の奥底に突き刺さってくる。

偽りと悪意に満ちた虚言に過ぎないのに、
まるでこれが―――ある一定の説得力を有しているように聞えてしまう。

普通は負けてすぐに事実だとして飲み込んでしまうだろう。


だが鋼の精神を有す彼女は徹底的に抗った。
絶対に楽になろうとはしなかった。

うめき声を漏らしながらも手を上げ、この憎悪の象徴へとサブマシンガンを放った。
微々たるダメージしか与えられなくとも、震える手で弾倉を入れ替えて撃ち続けた。

ただしその気合だけで、この男を止められるわけもなかった。
アーカムは突然興味を失ったかのように踵を返すと、足早にこの場から離れていった。


アーカム「お前もこれはわかっているだろうが―――」


最後にこう。
レディも知っている、そして今の彼女にとってもっとも残酷な―――『事実』を言い添えて。



アーカム「悪魔の力は、本人が『求めなければ』手に入らない。『望まなければ』―――悪魔には転生し得ない」



そしてアーカムは消えた。
『悪魔へと変じつつある』レディを残して。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 02:02:31.63 ID:fsSBYkS5o<>
レディ「ッあ゛ッッ―――」


すぐに躊躇うことなく―――『保険』を胃袋の中で炸裂させるも、
単に苦痛を上乗せしただけ。

死ねなかった。

更にアーカムはご親切にも―――あらゆる魔術耐性を有する術式も付加して行ってくれたようである。

次いでこめかみを撃ちぬいても、魔弾は身に触れた瞬間に対魔性を喪失。
ただの銃弾となって反対側から抜け出るだけ。


『この身』はもう自決さえも許してはくれない。


レディ「――――――ちが……そんなはず―――」


こんなはずあるわけない。
己が魔の力を求めている―――悪魔になることを望んでいるなんて―――


―――アーカムと同じように―――『混沌』と『闘争』に狂っているなんて。


だが現実は現実だった。
彼女がどれだけ否定しようが―――その身は『悪魔』になってしまっていた。

記憶から呼び覚まされた『悪夢』はこうして、
想像し得なかったほどに残酷な形で現実化した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/10(火) 02:04:19.07 ID:fsSBYkS5o<>
彼女がここで敗北した最大の原因はアーカムではない。
彼女自身の奥底にある『何か』だった。

いや彼女の最大の武器である―――鍛え上げられた『闘争本能』そのものだ。

己の最大のアイデンティティの喪失による絶望、
自身の本質への疑念、そしてアーカムと『同じ』になる恐怖と―――


レディ『―――――――――あああああああああああああ!!』


もはや過去の産物ではない、今この瞬間に生み出された底無しの『憎悪』。
それらが折り重なった凄まじい咆哮が響き渡った。

―――『悪魔の力』を帯びて。

ただしそれでも、彼女が『自我』を失うことは無かった。
むしろ逆に―――そのむき出しの自我がより強靭になっていた。

残酷に証明されてしまった血塗れた『潜在欲求』は、
一方で彼女を『人間的な生存本能』から解放してしまったのである。

今の彼女は気迷うことはない。
レディの意識の全ては現在、たった一つのことに集束されている。

こうも言えるか。

この瞬間、彼女の潜在意識は人間として死ぬよりも、
悪魔になり身を滅ぼしてでも―――アーカムをもう一度殺すことを選択したと。


その証拠にこの咆哮には、
より鋭く凶暴な―――もはや自滅的とも言える―――殺意が溢れていた。



そんな強烈な『殺意宣言』はアーカムにも聞えていた。

『道化』に姿変えた彼は、呼応するかのように狂気の笑い声を漏らすと、
一目散にある場所へと向かっていった。

能力者、天草式、そして―――英王室第二王女のいる地下劇場へと。


ジェスター「―――Hello! Your Majesty!」


目的はもちろん―――この目障りな魔塔の隔離を解除するために。


一人のある少女を殺すために。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/10(火) 02:05:40.99 ID:fsSBYkS5o<> 今日はここまでです。
次は木曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/04/10(火) 07:44:30.03 ID:9jBUQz/k0<> 乙
レディが悪魔化したらどんな見た目なんかな
あとHD版やってるけどバグがひどいよ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 07:50:52.24 ID:Ty8LB9Os0<> 乙乙乙

展開がマッハでやばい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/10(火) 14:17:53.67 ID:WpV+D3p+o<> お疲れ様です。今回で一つ気になったことが。このSS的にアーカムの魂はどうなったんでしょう?
「悪魔」なら生まれた界の力場に還り、「人間」なら天界の餌箱逝きですが
『悪魔に転生した人間』の魂は何処逝きなんでしょう? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/10(火) 14:18:10.81 ID:WpV+D3p+o<> お疲れ様です。今回で一つ気になったことが。このSS的にDMC3で死んだアーカムの魂はどうなったんでしょう?
「悪魔」なら生まれた界の力場に還り、「人間」なら天界の餌箱逝きですが
『悪魔に転生した人間』の魂は何処逝きなんでしょう? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/10(火) 14:19:52.91 ID:WpV+D3p+o<> oh・・・二重投稿した罰としてベヨ姐にお仕置きしてもらいにいきます・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 14:32:20.86 ID:uYUHIzPPo<> 罰じゃなくてご褒美じゃん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/04/10(火) 23:54:19.25 ID:fsSBYkS5o<> >>697
人間が転生した場合は基本的には姿も人間のまま、としております。

>>699
『悪魔に転生した人間』は、例え心が人間であっても存在そのものは完璧『悪魔』なので魔界逝きです。
ステイルと神裂も[ピーーー]ば魔界逝き、
これが魔に転生したものを待ち受ける末路であり、最期は必ず魔界に『堕ちる』わけです。
またこれがあったからこそ、力に貪欲なアンブラでさえも魔への転生だけは基本的に禁忌だった、ともしております。

「では存在が半分人間のダンテとバージルはどうなのか」、という点についてはのちに。

ちなみにセフィロトの樹が切断された以降の人間の死者は、
今のところは逝き場を失って人間界の中を漂ってる状態です。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/11(水) 01:00:14.95 ID:7gp71jHdo<> あぁそうか。悪魔が逝く場所は出身獄の違いはあれど魔界である事に変わりは無いのか。
アラストルは雷獄。イフリートは炎獄などの違いはあれ、結局は魔界だもんなぁ。特徴的な魔界生まれが全部では無いだろうし。
返答ありがとうございます。あとベヨ姐のお仕置きは最高でした。特に木馬が。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/11(水) 11:47:29.75 ID:veEHXkKU0<> こいつめ。やっぱり罰になってねえじゃねえか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:35:43.85 ID:qVVseLHTo<> ―――


御坂「―――当麻!大丈夫?!本当に大丈夫?!本当に?!怪我してない?!」


人間界におり、第二の本陣に辿りついた一行を出迎えたのは、
目元を真っ赤にした御坂の怒涛の声だった。

もちろん大半を占めるは、上条の身を心配しての言葉である。

ベオウルフはグラシャラボラスと同じく外に。
カマエルも、その3m以上もの体躯(それに物理的にも大型トラック並みの体重があった)もあって、
大悪魔たちと共に外にいてもらうことに。

そうして上条と風斬りは、御坂の慌しい先導を受けながら、
一方通行に肩を貸して施設の中に入っていった。

『穴』とも呼べる、大砲でも撃ち込まれたかのような入り口を潜り、長い廊下を抜け。
非常用のエレベーターで地下に降りては、また長い廊下を通り。

そのように目的の部屋の前まで達すると、
一行の意識が向くのは、まずは廊下の壁際にある二つの医療ベッドだ。

上条「……」

一つには神裂が死んだように眠っていた。
ただし『死んだよう』にとはもちろん比喩表現で、実際は大丈夫だ。
かなり衰弱してはいるが、いまは回復に向かっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:37:36.78 ID:qVVseLHTo<>
そしてもう一つには、グループの一人―――結標淡希が横たわっていた。

白井黒子が看る下、点滴をはじめあらゆる医療機器につながれたその体、
それが示すとおり彼女も酷く消耗していたも、
それでも神裂よりは容態も良好でしっかり覚醒していた。

一方「よォ……また死にぞこなったな」

彼女はその皮肉にも、顔色悪くもハッと笑い返すと、

結標「私はね」

そう告げて、目である方向を指し示した。

視線の先、廊下の奥にはもう一人。
今度は床に横たわっていた。


―――シーツが爪先から頭まで覆いかけられて。


一方「……そォか」


上条「……」

上条には、視覚情報として捉えられなくともわかることだった。
『彼』にかぶせられているシーツは、大量の朱で染まりあがっており。
しかももう一部は乾き始めていると。

悪魔の知覚をもってしても、『彼』の鼓動は聞えてこなかった。
そして魂の息吹も。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:39:59.67 ID:qVVseLHTo<>

一方「海原だ」

盲目の瞳が『彼』に向いてるのを見て告げる一方通行、
それだけじゃ誤解を招くと思ったのか。

結標「…………一応言っておくけど、本物の海原光貴じゃないわよ。彼の皮をかぶったアステカの魔術師で……」

志を友にした死者へのそれなりの礼儀だろう、
結標が簡潔に加えてくれた。

ただしこのささやなか親切が必要なかったというわけではないも、
上条はそれについてはわかっていた。

悪魔としての直感力によるものか、それとも天使としてのそれか。
こうして今、動かぬ彼を前にしてすぐに気付いたのだ。

上条「…………ああ、知ってる」

彼のことは知っている。
覚えているとも、と。

とある建築現場における彼との戦い、
そしてそこで彼と交わした―――約束もはっきりと。

もちろん彼が『誰のため』にそうしていたのかまで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:44:45.57 ID:qVVseLHTo<>
上条「…………」

では、その彼の戦いの象徴だった御坂はどこまで知っているのだろうか。

ふとそう気にはなったも、
次の瞬間にはそれを明らかにする必要はないように思えた。

今そんなことを聞くなんて無粋は真似はできないし、それ以前にある程度は予想できるものだ。

場の空気が『彼』に向いた途端、思わずといった動きでこちらの肘あたりを掴み。
何かを堪えるように口を結ぶ、そんな御坂の様子から。

彼女は『彼』のために目元を真っ赤にさせていたのだと。


今この場では、それ以上『彼』のことを話題にする必要も暇もないか。
ふっと向き直った御坂に続き、一行は無言のまま部屋の中に入った。


まず最初に目につくのは、中央にあるいかにもな機器の類で固められているベッド、
その上の打ち止めの姿と、その真横に浮かび上がっている立体映像による地図。

次いでベッドの傍にいる、ラフな部屋着の上に白衣を羽織った女性と、
立体映像に向いているアニェーゼだ。
彼女はあの大きな杖を肘に通す形で腕を組み、
疲れ滲ませながらも鋭い目で、地図上の光点の動きを追っていた。

上条「……」

そして御坂の友人の佐天という少女に、もう一人、
壁際に並べられたモニターに向かっていた、幼い風貌の少女である。
ジャッジメントの腕章と、上着の下から覗くスカートからしてどうやら中学生か。

頭の花飾りとなで肩が印象的な少女だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:48:40.38 ID:qVVseLHTo<>
御坂「初春さんよ」

そう紹介された少女は振り向き軽く会釈するや、
こちらの反応を待たずにすぐにモニターに向き直ったが、
上条は別段不快には思わなかった。

手を離せないというのはその様子から明らかだ。
むしろ一瞬でも邪魔してしまったというのが申し訳ないくらいだ。


芳川「私は芳川桔梗。ラストオーダーの世話係りってところよ。あなたが例の子ね」

次に白衣の女性がそう軽く自己紹介。
例の子、と呼ばれるに理由については心当たりがありすぎて特定できないも、
人違いであることはまず無いだろう。

上条「上条当麻です」

と、軽く会釈しかけたところ。
肩を貸していた一方通行がのそりと動き出し。
半ば転び倒れるようにして床にあぐらをかき、ベッドの足に背をもたれかかった。

芳川「大丈夫?」

一方「……あァ」

そして芳川の言葉にはそっけない反応。

打ち止めとも、彼は軽く目を合わせただけだった。
とはいえ特にもよそよそしいものではない。
芳川とは、これだけでも慣れた付き合いであることがわかったし、打ち止めはそれ以上のもの―――

―――己とインデックスのように阿吽の状態なのだろうか、
二人の間では『会話』はそれで充分だったよう。

打ち止めの笑顔からもそれは明らかだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:51:07.61 ID:qVVseLHTo<>
ともかくこれでひとまず、安全域への一方通行の退避は完了となり。
上条はアニェーゼに向き、引継ぎも兼ねて確認のため言葉を交わらせた。

上条「じゃあアニェーゼ。アクセラレータを頼む」

アニェーゼ「わかりました。でもまあ、防衛の要は私じゃねーです。グラシャラボラスですよ」

かの悪魔の名前をこうして口にしていることがおかしいのだろうか、
ぎこちない苦笑いを含ませるアニェーゼ。

そんな表情を浮べてしまう気持ちは上条にも理解できた。

上条だって同じだ。

今はこうして己の過去を知りそのすべてを受け入れたも。

一方でこれまで『普通の高校生』として生きてきた自分は、
悪魔やらに関わってもう半年にもなろうのに、
いまだにふと夢物語の中にいるような浮遊感を覚えるものだ。


ただしそれは『気のせい』でもない。

後世に伝承として語り継がれ、もしかすると魔術偶像の源となるかもしれない
大いなる流れの中―――『伝説的物語』の中に身を置いているのだから。

しかもそれを綴っているのは、影響力に大小の差が有れど―――ここにいる『全員』だ。

もちろんアニェーゼも例外ではない―――御坂も白井黒子も佐天も、
そして初春というそこの少女だって。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:52:59.76 ID:qVVseLHTo<>
そう水面下でアニェーゼの表情に同調しつつ、
上条は言葉を進めていった。

上条「とりあえずベオウルフもここに残ってもらうよ」

この状況、防衛戦力が充分なんてことは有りえず、
要の一つとも言えるここの戦力を増強しておくにこしたことはない。

それに大悪魔が二柱いる事で、
一方通行たちの生存確率は大きくはね上がると上条には考えられた。

万が一ベオウルフとグラシャラボラスが抗し切れない敵が現れようとも、
ベオウルフが盾になっている間にグラシャラボラスが皆を連れて退避、ということも可能だからだ。

と、その「魔獣は残ってもらう」というこちらの口ぶりに、
続くであろう言葉に気付いたのか、御坂の不安げな表情。

それを代弁するかのようにすぐさまアニェーゼが問うた。

アニェーゼ「わかりました。それであなた達はどうするんですか?」

風斬『私はネロさん達の応援に』

これにまず答えたのは風斬だった。
かたや上条の方は数秒間、意味深に黙して。


上条「……俺は……」


そう発しかけて。

この部屋の隅にいたもう一人の人物―――アレイスターの方へと顔を向けた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:55:00.96 ID:qVVseLHTo<>
アレイスター=クロウリーは暗がりにうつむき座り込んでいた。
その美しくも儚げな妻の肉体のせいで、より一層濃くみえる悲壮感を纏って。

上条「……」

そんな哀れで途方もなく罪深い『敗者』の前に立った上条当麻。
その瞬間、様々な感情が渦をまき、すぐに放ちたい様々な言葉が湧きあがってくる。

もちろんその大多数は、とても聞いていられないような―――過激な憤怒の言葉だ。

しかし数秒の沈黙ののちの第一声。
そこで彼が選んだ言葉は。


上条「…………すまない」


謝罪だった。

その瞬間。

例え見えなくとも、後ろにいた御坂の顔色が変わったのがわかったも。
上条はそのまま続けた。


上条「―――俺のせいだ。お前の罪の全ては―――俺の罪でもある」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 01:58:09.65 ID:qVVseLHTo<>

御坂「―――ちょ―――ねえちょっと!!そいつは―――!」


驚愕と失念と、そして疑問が入り混じった複雑な表情を浮べてのものだろう、
耐えかねて飛び出してくるのは御坂の声。

だが上条は素早く手を後ろにむけ、その声を制止させた。

聞く必要がなかったからだ。


彼女の言いたいことは理解していた。
そして上条も文句なしにそれに同意しているからだ。


続いたであろう御坂の言葉はすべて正論、彼女の怒りは被害者としてのきわめて正当なもの。
紛れもない事実、覆りようの無いこの男の『悪行』の数々、
人類の敵としてもいいほどの大罪人。


アレイスター=クロウリーは決して許されることはない、地獄に堕ちて永遠の苦痛を味わって然るべき男だ。


だが上条はこれも理解していた。

アレイスター本人も、その己の罪を全て理解し引き受けた上で―――

―――その手法は歪んでいたとはいえ、
ミカエルの真意を理解しその意志を受け継ごうとした、という点を。


己の行いが大罪と認識される―――『そんな世界』を守り、完全なる存在に成そうとしたのだと。


それらを踏まえれば、この謝罪の言葉は、
上条当麻という人物の思考回路に照らせば当然の答えだった。

直接的な責任の有無は関係ない、
その結果がミカエルの残した『幻想』に起因しているのなら―――背負わなければならない、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:00:16.02 ID:qVVseLHTo<>
ただしこれは、御坂には到底飲み込めないことだろう。

上条も自覚していた。
御坂が向けてくる瞳には、親友へのもの・想い人へのもの以外に、

―――『崇拝』の光まで強く宿っていることには。


そんな彼女が今の光景を見てどんな思いをしているのかは想像に易い。

己にすれば、ダンテがムンドゥスに頭を下げる様を見るかのような、
とんでもない驚愕と耐え難い失念に苛まれているに違いない。


上条「……」

だが上条は、御坂には弁明する気もなく、
別に納得してもらおうとも思わなかった。

彼女が考えを変える必要はない、そもそも正しいのは御坂の方だからだ。

アレイスターは、己の断罪は世界の流れと新世界の人々の意志に委ねようとした。
上条もまた同じく、己は彼女ら「本来の人間」たちの理解の仕方に、
あれこれ口を出す立場ではないと考えていた。

御坂が己を慕ってくれているからって、
それに甘えて強引に人間としての倫理観を捻じ曲げてもらうわけにはいかない。


絶対に―――アレイスターには罪がないと『錯覚』してはならない。


上条当麻がアレイスターに謝罪、その責任も上条当麻にあるからと、
だからといってこの魔術師の罪を見直し、御坂の中の『善カテゴリ』に入れるのは間違いである。


上条当麻という人物を、アレイスターと同じ―――悪のカテゴリに放り込むことが正しいのだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:03:16.32 ID:qVVseLHTo<>
上条の言葉にゆらりと顔を上げ。
儚げな『女』は薄く笑った。


アレイスター「………………私と共に……この罪を背負うというのか?」


虚ろながらも、その瞳はこちらの真意をしっかりと読み取ったものだ。
さすがはといったところか、話が速い。

上条「それだけじゃない」

対し上条は肯定した上で否定し、単刀直入にこう続けた。


上条「……俺の力なんてちっぽけなもんだ、どこまでやれるかはわからねえ。でも……」


己が遺した理想からアレイスターが引き継いできた、多くの犠牲が注がれて血塗れた『バトン』。
それをいまさら罪の塊としてただ処理するわけにはいかない、と。

背負うからには―――最後までやり遂げねばならない、と。


上条「約束する。俺はお前の分も戦い続ける―――」


ミカエルだった頃から上条当麻である今の今まで、
己のすべてと向き合い芯を貫こうとする少年はここに宣言した。

筋書きが求める英雄じゃない。
この筋書きに潰された敗者が描く―――英雄を。



上条「お前が抱いた幻想を―――――――――現実にするために」



アレイスターが夢に見た―――英雄になってやる、と。


それが上条当麻による―――『筋書き』への宣戦布告の形だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:06:20.95 ID:qVVseLHTo<>
御坂は部屋から飛び出していくこともなければ、大声で割り込んでくることもなく。
あらゆる激情に肩を震わせながらも、辛抱強く堪えていてくれた。

上条「……」

彼女はじっと俯き、顔を真っ赤にさせ、
目にはぎらぎらと苦悩の光。

そして無言のままこちらの上着の袖を掴み、
やや、乱暴なやけっぱちのような仕草で引っ張って揺さぶってくる。

上条「……」

今この少女の心中では、壮絶な葛藤がくり広げられているだろう。
善悪の定義を上条当麻のために安易に覆してしまったら―――妹達の犠牲にはどう向き合えばいいのか、と。

だがこれは、実は彼女が受け入れるための『葛藤の形』をした準備作業に過ぎない。

上条当麻は知っている。
御坂美琴は、この程度で易々と倫理観を覆すような者ではないことを。

最終的には、上条当麻に見た失念は失念のまま。
上条当麻に覚えた怒りは怒りのまましっかりと受け入れ。


そして上条当麻という少年は、自身が思っていたような『完全無欠の正義』ではない、と気付いてくれるはずだと。


ただ別に弁明する気はなくとも、ここで一言二言彼女に言葉を捧げるべきだったかもしれない。
彼女の心の整理を邪魔しないことも大事だが、無反応というのもまた礼儀に欠けている行為だ。

だが、そう上条がふと思ったのも束の間、御坂へ捧げる言霊を精査する前に。

アニェーゼ「―――上条さん!」

アニェーゼの張り詰めた声が響いた。


アニェーゼ「土御門からです!至急こっちに来やがれと!」


瞬間、御坂美琴は袖から手を放した。
無言のまま静かに。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:08:14.40 ID:qVVseLHTo<>
―――

遡ることわずか。
魔塔地下深くの劇場にて。

土御門「―――」

厳重な結界を敷き目を光らせていたにもかかわらず、
土御門はその『狂気』の侵入を防ぐどころか、それが現れるまで存在に気付くこともなかった。

刹那、滝壺へと牙を向いた容赦のない殺意。
振るわれた凶悪な『ステッキ』を防いだのは―――キャーリサだった。

キャーリサ『っ』

ぞわりと身を走る悪寒。
それは主の力による警告だ。

瞬間、彼女はほぼ反射的にカーテナを手にすると、
すばやく滝壺と浜面の前に身を置き。

そうしてこの狂撃を間一髪のところで受け止めたところ。
ようやくキャーリサもこの狂気の姿を意識して目にすることが出来た。

カーテナと歪な『ステッキ』が火花散らす向こう、そこにあったのは。


「―――Hello! Your Majesty!」


おぞましくゆがむ―――狂気に満ちた『道化』の顔。
人型ながら一切血の気がない蒼白な肌に、
鋭く尖った鼻に大きく裂けた口という異質な存在だった。

しかも姿のみならず存在もまた異質―――大悪魔だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:10:09.87 ID:qVVseLHTo<>
そのようにして、彼女が道化の姿を一通り認識できた一拍ののち。

ここで滝壺と浜面がやっと目の前の光景に反応を示すことができた。

浜面「―――うぉおっ?!」

とはいっても認識できたのは光の瞬き、何が何だかわからない衝撃、
突然目の前に現れたキャーリサの背。
そしてその向こうの不気味な道化という、コマ落ちした断片的情報のみだ。

ただしそれだけでも判断するには十分だった。


これは『敵襲』だと。


驚愕と動揺に震わせながらも、芯に刻まれた大切な者を守るという意志は揺らがない、
彼の体は実にすばやく明確に動いた。

咄嗟に滝壺を―――やや乱暴でもやむをえない―――後ろに押し倒し、
背で覆いかぶさるように彼女の盾になった少年。


キャーリサ『―――下がれ!!』


そしてキャーリサの声と同時に、
そこへ絹旗が応援に飛び込んですばやく二人を回収。

土御門の先導の下、他の者達に守られながら即座に劇場を脱していった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:14:35.47 ID:qVVseLHTo<>
しかし道化は動かず。
その初撃からして目的は滝壺であろうに、
すぐに彼女達を追おうとはしなかった。

キャーリサ『っ』

それどころかまるで見向きもせずに、
刃越しにキャーリサにぐいと顔を近づけて。


「ほ〜イギリスのじゃじゃ馬姫がン〜まご立派になっちゃって!」


耳障りな高笑いとともに恐ろしく下劣な声を吹きかけてきた。

「テレビで見た時はまだまだワンパクおチビさんだったのにだねェ!すっかりイイ女に〜おいしソー!」

キャーリサ『……!』

キャーリサはこれまで一癖も二癖もある連中を従えてきたため、
多少の無礼などはまったく気にしない。
面と向かって罵声を浴びせられようが、それで怒りに震えることなどまずない。

猛々しくも彼女は決して短気ではない、
むしろ鋼の辛抱強さを持ち合わせていると言ってもいい。


「それなのに独り身なんてモッタイナイ!もちろん人並みに遊んでるんだろゥ?いんやそれ以上だなきっと!」


だがこの道化の言葉は―――耐え難かった。


「キンッキンのロイヤルだもんねェ一人や二人お相手をカコッたりしてるのかなぁ?!気になるぜそこら辺のお事情!!」


ただの言葉ならばどうってことはない。
だがそこに大悪魔たる力がのると、ひとたび聞き流せぬ言霊となるのだ。

この道化の声には、あらゆる不快な要素が詰まっていた。
耳障りでこの上なく忌々しく―――それがあきらかな挑発だとわかっていても、
自然に柄を握る手に力が入ってしまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:17:24.53 ID:qVVseLHTo<>
「―――おンやあ?どうしたンだいダマっちゃって?もしかして図星?!」

より逆撫でしてくる道化。
その笑みがどうしようもなく憎たらしい、憎たらしくてたまらない。
侮辱の言葉にはより過激な言葉を返すことを『モットー』としているキャーリサであっても、
この道化の声にはもう真っ向から対抗することはできなかった。

「こりゃたまげた!と〜ンでもない王室スキャンダル掴んじゃったオレ?!英国第二王女のあそこはユルイって―――」


キャーリサ『―――黙れ!!』

もう聞いてなどいられない。
滾る怒りに身を任せ、キャーリサはそのまま刃を押し込み―――道化を斬り潰そうとした。

しかしカーテナの刃が断じたのはただの大気と床のみ。
一瞬の間に道化の姿は消失、
次の瞬間には、5m先の天井に逆さまに立ちまたあの高笑い―――


キャーリサ『―――べらべら抜かしやがってこの腐れピエロが!!』


「ヒョーベラベラベラベラベラベラベラベラ!!」

そうさらに低俗に茶化してくる道化へと、
次いでカーテナを振り上げざまに光刃を放ったも―――今度はステッキで弾かれてしまった。


キャーリサ『―――チッ!』

濃い青紫の光を伴って霧散する光刃。
ここまでの一連の流れで、この道化の力は明らかだった。

とことんこちらをコケにするその姿勢、溢れ出る余裕。
その上―――実力も伴っているなんて―――なんと凶悪な敵か―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:18:58.73 ID:qVVseLHTo<>
と、その時だった。
一撃で通らぬなら更に続けて、と彼女が光刃を放とうとすると。


「―――カーテナ=セカンド」


キャーリサ『―――っ』

悪魔の口からこの霊装の名が出てくるとは誰が予想しえたか。

「『剣』については昔から色々知る機会があってねぇ!カーテナも一通り調べたんだぜ!
 その現物をまさかここで拝められるとはねえ!」

しかもその口ぶり。
なんなのだろう、瞬間に覚えるこの妙な親近感・慣れた感覚は。


「でもさぁ、それ、そこまでスゴイモノじゃないよねジッサイ―――」


その謎の感覚の正体はすぐに判明した。
一定の親近感を覚えるのも当然だったのだ。

もちろんその親近感は、個として『親しみ』を覚えるという意味ではなく、
良くも悪くも『同属』という類のものだが。

次なる言葉で、キャーリサは確信する。
この道化は―――


「―――こうして見ててもさあ、オレから言わせると『術式』がチョー雑なのよ」


―――『魔術師』だ、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:22:06.73 ID:qVVseLHTo<>
悪魔なのに『魔術師』とは―――

そのとき脳裏を過ぎるは特別講師であったネロの言葉、
『魔術』は人間特有の技術であり、悪魔が使うことはまずないのだと。

たしかに神裂やステイルといった例外があるも、
二人は元は人間のきわめて優秀な魔術師だ。

ここでキャーリサも瞬時に思い至る。


まさかこの道化も―――元人間なのか、と。


そしてもう一つ。
この瞬間、キャーリサの頭に引っかかるある言葉があった。

確かに今、あの道化はカーテナを指して―――『雑』と言った。

いまや事実上イギリス最大の霊装であるこの剣をまるで―――劣悪な『贋物』として見るような声色で。


キャーリサ『ッ!』


ただそれ以上、思考を巡らすことは出来なかった。
天井に立っていた道化が一瞬にして目の前に現れたのだ。

そしてすばやく振るわれてくるステッキ。

しかし確かにこの道化は相当の力を有してはいたが、
キャーリサにはついていけない程でもなかった。

圧倒的に強いわけではない、充分に戦える―――
ただしそれは道化の悪魔として側面からのみ見た話だった。


ステッキをカーテナで打ち弾いた瞬間。


キャーリサはこの道化のもう一つの側面、魔術師である可能性を無視できなくなった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:24:48.86 ID:qVVseLHTo<>
キャーリサ『―――なッ?!』

それは弾いた瞬間、
すぐにわかるほどに強烈な違和感だった。


カーテナからの衝撃がやけに『ぎこちない』。


再度振るわれてくるステッキ、それと一撃、二撃、そして三撃。
打ち結ぶたびに増大していく違和感、
そうしてついにその不穏な感覚が明確になった。

カーテナを介して送られて来る主の力、それが急に弱まりはじめたのだ。
いや違う―――カーテナの機能が急に低下しだしたのだ。

キャーリサ『―――!』

原理はわからぬとも原因はあきらか。


道化のステッキと打ち合ったからだ。


もう間違いなかった―――キャーリサはすぐに悟った。
あの刃が激突する瞬間、このカーテナに何らかの魔術を仕込まれたのだと。


動揺を隠し切れないキャーリサに、道化は聞きもしていない概略を答えてくれた。
ステッキをくるくると回し得意げに。


「この程度の霊装ジャ、『主』の力なんて普通は許容できないんだけどサ、そこはほら、『主』が強引にゴマかしてるのよね」


もちろんそれは親切心によるものではないはず、
何が起こったかを明らかにさせ―――絶望を確信させるためであろう。


「そこをオレがチョォーット書き換えて―――ゴマかせなくしたダケ。わーかるゥ?」

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:27:07.23 ID:qVVseLHTo<>
この道化はただ魔術師というだけじゃない。
その技術はとんでもない水準、完全に常軌を逸している。

まさに超級の魔術師、
少なくともここまで高度な技を持っている者はイギリスにはいない―――


キャーリサ『―――かッ―――!』

力が抜けていく。
主の加護がみるみる薄れていく。

そして一方で荒々しく増大してくるのは―――これまで蓄積されてきたあらゆるダメージ。

―――わき腹に穿たれた穴からの耐え難い衝撃。

カーテナの機能停止が目前なのは確実。
主の加護が消え去って戦力を喪失し、後に残るは酷く消耗した『生肉』だけ。

いいや、生肉どころか『死肉』かもしれない。
もうキャーリサ自身、
この加護を解いてまで己が生きていられるかはわからない―――


―――だがこの女にとっては、もはや死という概念はいかなる枷にもなりやしなかった。
死から目を背けているのではない、
それを全て飲み込み承知の上でここに―――この戦場に参じたのだ。

彼女は決して戦うことを止めなかった。

カーテナの柄を握る手は緩めず。
戦意も一切弛ませず。


「ヤメといた方がイイんじゃな〜い?!無茶すると今にもカーテナがボーンってぶっ飛んじゃうぜ!!
 せめてキレイに死にたいジャン?!ロイヤルレディとしてさァ〜!」


これまで以上に癪に障る声でせせら笑う道化へと。
かまわずカーテナを振り構え、床を蹴った。


キャーリサ『―――うるせーっつってんだよ腐れピエロが―――!!』



――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:29:29.44 ID:qVVseLHTo<> ―――

劇場をあとにし、碧い洞窟を抜けいく中。
土御門はあの道化についてすばやく思考を巡らせていた。

土御門「……」

まず第一に浮かび上がった疑問は、なぜあの道化の侵入に気付けなかったか、だ。
結界を突破する以上、必ず検知できるはず。

それなのにああして目の前にするまでその存在に気付くことができなかった。
そして目にした後でも、不思議な事に結界からは何の異常も知らされてこなかった。

ここから一つ、あの道化について推測できる事柄が浮かび上がる。

『突破』したのではない、結界を『無効化』したのだ。

そして器用な真似をできるのは土御門が知る限り『幻想殺し』か、もしくは―――魔術師だ。
それももちろん己よりもずっと高度な技術を有している―――それこそ『魔神』級の。

土御門「―――」

そのように自ら導いた推理に、土御門は辟易としてしまった。

まさかアリウスほどか、それともオッレルスクラスか。
ただしオッレルス程度の水準であったにせよ、己よりも魔術技能は遥かに上だ。

しかもそれだけじゃない。
この慈母の残してくれた瞳で一目でわかる、あの存在は正真正銘の『大悪魔―――。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:31:42.26 ID:qVVseLHTo<>
土御門「クソッ……」

細部は違えど、重なり蘇ってくるのはあの圧倒的なアリウスの姿。

またしても規格外の魔術師と対峙せねばならないのか。
またここではやくも、後ろを任せてきたキャーリサの身が非常に心配だ。

慈母の目で見るかぎり彼女はたしかに主の力で守られてはいたも、
繋がりの要たるカーテナは人の手による霊装だ。

相手が普通の大悪魔ならばまだ良い。
戦いは純粋に力のぶつかり合いに終始し、それならばキャーリサだって充分に戦える。

しかし魔神と呼べるほどの魔術師の前に『霊装』を持ち出すのは、
まさに『術式を破壊してください』と差し出しているようなものだ。

『術式を自作維持できぬものでもその魔術を行使できる』ように現物化させたもの、
という側面も持つ『実体霊装』は、
魔神の高みに属すほどの者からすれば、言ってしまえば―――無防備を晒す『ガラクタ』に過ぎない。

これについては、霊装を使ってないとはいえ土御門だって他人事ではなかった。

己への慈母の力だって術式でもっている面もあるため、
このような超級の魔術師は天敵とも呼べる存在なのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/13(金) 02:34:20.35 ID:qVVseLHTo<>
―――ただし、何もかもが八方塞と言うわけでもなかった。

このような存在にも抗う術、
絶対的な希望が今は存在している。

『彼』が復活した報せはリアルタイムで来ていた。
魔術に対して圧倒的な有効性を誇る『ジョーカー』。


人間側には『魔術の天敵』―――


―――上条当麻がいるのだ。


彼の手が空いているか、なんて考慮する余裕はなかった。
これは『頼み』ではなく『命令』だ。
表現が乱暴かもしれないが、上条の事情など知ったことではないのだ。

彼の手がなければ、何もかもが崩壊しかねない状況なのだから当然だ。


そうして上条を呼び寄せるため、
エツァリに代わって本陣についたアニェーゼへと回線を開こうとしたとき。

広大な地底湖に達した一行の足は急停止せざるを得なかった。


進路上にあの―――道化が立っていたのだから。


いかにも喜劇的な、それでいてちっとも笑えない狂気と悪意に満ちた佇まいで。


そしてこの最悪の再会による衝撃だけじゃない、
道化が右手にしていた『あるもの』を見、みなはさらなる衝撃に震撼した。

道化が右手に持ち、うちわのようにして扇いでいたもの。
それは半ばから折れた刃だった。


―――べっとりと―――赤く染まったカーテナの。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/13(金) 02:34:56.04 ID:qVVseLHTo<> 今日はここまでです。
次は日曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/04/13(金) 02:57:24.13 ID:5O7Y3Dc3o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/13(金) 08:09:03.03 ID:IrHEbIQH0<> 乙乙乙

ジェスター無双だと…? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/13(金) 08:16:28.69 ID:/5c/iKpAO<> 乙乙乙

あいつそんな強かったのか……(- -;) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/13(金) 09:41:58.60 ID:kuG2BfsXo<> ダンテやバージル、ネロと比べたら三下でも普通の人間からすればなぁ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/13(金) 12:52:09.82 ID:mB0K3FbIO<> あんなんでも一時的にパパーダの力取り込む実力だし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/04/13(金) 18:54:47.88 ID:0HaL8mXDO<> 1のジェスターなら、BBAのトーチャーにも耐えそうだなwwwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/04/13(金) 22:44:39.27 ID:O9fF8NkCo<> まぁあれでも準ラスボスですし… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<><>2012/04/13(金) 23:19:21.65 ID:9NSTVTtm0<> やっと追いついた…

1から拝見させてもらってます乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/04/13(金) 23:19:56.00 ID:9NSTVTtm0<> やっと追いついた…

1から拝見させてもらってます乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/04/14(土) 15:23:02.68 ID:Gb7cq77z0<> ジェスターは単純な強さではなくトリッキーに戦うから強いんじゃね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/14(土) 17:54:35.39 ID:ua1kHPjAO<> 乙かも! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/04/15(日) 23:37:55.21 ID:46sOXDxp0<> セガ、カプコン、バンナムの三社共同開発ゲーム『プロジェクト クロスゾーン』の詳細が少しずつ明らかになってきて、
とにかくダンテの参戦は確実になった。後はネロは出てくれるかどうかということ。
そしてべヨネッタは参戦してくれるかどうかが一番重要だ。
セガとカプコンがコラボ組むなんて今後もあまりなさそうなんだから、是非このスレと同じように参戦してほしい。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:29:34.30 ID:89YzOhTFo<>
―――

五和「どう、どうどう!」

状況の変化には、魔塔内部を駆け巡っていた五和もすぐに気づいた。
土御門ら下の陣との魔術回線が突然切れたのだ。

何かがあったのは間違いないと、
とある入り組んだ廊下にて魔馬を制止させ、すばやく回線の復旧をこころみるも。

五和「……」

土御門には繋がらなかった。

何らかの術式で妨害されている気配はないため、こうなれば考えられることは二つ。
通信先が死亡したか、簡単な通信術式に応答できないほどに困窮しているかだ。

次いで建宮に通信を試みるも結果は同じ。

五和「……」

やはり状況はまた一つ転じたようだ。
それも確実に悪い方向へと。

このままレディの捜索を続けるか否か、それについてははっきりしていた。
彼女の件も捨てがたいが、やはり土御門たちの件が優先だ。
一秒でも早く彼らのもとへ駆けつけ、安全を確認し、問題があれば対処せねばならない。

五和「―――」

と、そのように来た道を戻ろうとした矢先。


ゲリュオンが突然大きくいなないた。


この魔馬と共にしてからまだ僅かとはいえ、とても平常のものには聞えない鳴き方だ。
聞えるとしたらかなり興奮した威嚇か、警告か、それか―――『嘆き』か。

五和にその真意を知る術はなかったも、
その原因についてはすぐに明らかになった。

そのとき、廊下の先から足早に向かってくる人影が一つ。
警戒するまでもなく誰なのかはわかった。


レディが歩いてきていたのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:32:56.42 ID:89YzOhTFo<>
探していた人物が現れたのだ、
これは運が良かったとも言えるかもしれないか。

五和「レディさん!」

そうして彼女を認めるや、すばやく魔馬の背から降り、
傍へと駆け寄る―――五和はそうしたはずだろう。


このときレディからの本能的な悪寒を覚えていなければ。


一気に緊張した本能が、
理解するよりもはやく彼女の身を安全地帯―――魔馬の背中に留めたのだ。

五和「……レディさん?―――」

次いで二度、漏れた今度の呼びかけは上ずった疑問系。
そして声はそれ以上は続かなかった。

悪寒の正体をようやく理解し言葉を失ってしまったのである。


レディのオッドアイに―――魔の光が灯っているのを見て。


数秒間、5m程の距離を置いての沈黙。
不気味なくらいに静かだった。

ゲリュオンは息をしていないのではというくらいに静か。
聞えるのは己の嫌に速くなる鼓動と、緊張によって徐々に勢いが強くなる呼吸音。

五和「……」

レディはこちらをじっと見つめたまま何も言わなかった。
いや、『見つめていた』とは言い難い。

『道端で小石を見る』ほどまでには希薄ではないも、
見えてはいるも特に意識下には留めていない、そんな様子だ。

ぼうっとしてはおらず意識は明瞭、思考はせわしく稼動してはいるが、
それが今瞳に映っている存在には一切向いていないといった風。


五和「……レディさん?」

そして三度声をかけても反応はなかった。

聞えていないかのように、ではない。
明らかに聞えていながらに一切反応を返してくれなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:36:16.58 ID:89YzOhTFo<>
それ以上、五和は声をかけられなかった。
レディであることには間違いないし、別に敵意を感じるわけでもない。
魔の瞳に威圧されてしまったわけでもない。

レディなのだが、先ほど会っていたときの『レディ』から―――何かが『抜け落ちて』しまっているような。

いいや、逆にその『何か』が爆発して彼女を『喰らってしまった』をかのような。

ついさきほどまで一緒にいた女性とは思えなかったからだ。


アスタロトがやってくる直前、
罠をしき終わったあとの会話の中で、ふと『あんな』表情を見せたものと同一人物とは―――


五和「―――っ……」


そこで五和ははっと気付いた。
このレディの何が変容してしまったのかが。
それは一体いかなる因子が、彼女に『あんな表情』で父を語らせたかが答えだ。


―――変容したのは『弱さ』である。


消えてしまったのか、それとも何かの拍子に『極端な強さ』に転じてしまったのか。
どちらにせよ、レディから『弱さ』というものの全てが消え失せていたのだ。

そしてこれこそが、五和が彼女の様子から意識的に受け取ってしまった不安の正体だった。
弱さの喪失は、良いこととは限らないのだ。


特に『人間』にとっては。


あらゆる弱さを喪失するということは―――結果的にあらゆる『恐怖』を感じなくなってしまうのだから。

レディは終始こちらを完全に無視、いや、捉えていながら無関心だった。
恩人の変容っぷりにショックを受けている五和をよそに、
彼女は何事も無かったかのようにふっと前を向くと。


風に霧散するかのように姿を消した。


明らかに人間のものではない業で。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:38:06.04 ID:89YzOhTFo<> ―――

四元徳が一柱テンパランチアと上級三隊。
巨大なカマキリ、もといベルゼブブと配下の将たち。

そしてネロとベヨネッタ、人間側についた天使たち。

この三勢力の凄まじい戦力が、テメンニグルの塔のふもとにて真っ向から激突していた。


ネロ「野郎―――」


―――とはいうものの、中には幾分かの例外があった。

『靄』に姿を変えたベルゼブブである。

ベオウルフを踏み潰し、ついで風斬もろとも一方通行を貫こうとしたベルゼブブは、
その直後にネロに蹴り飛ばされて以降、『靄』のままなのだ。

靄にはいくら攻撃しても無意味だった。


ネロ「……クソ虫が……」


おかげでネロは、門の直前から動けなくなってしまっていた。
この靄を魔塔の中に入れぬにはそうせざるを得なかったのである。

まわりにはラジエルたちもいたが、彼らに門番の任は無理だった。
ラジエルたちの程度では、カマキリはすぐに実体化して彼らなどものともせずに突破するだろう。

このベルゼブブ相手に門の守れるのはネロとベヨネッタのみ。
そしてネロがその役となったのは、ベルゼブブは彼の獲物という暗黙の了解のためだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:41:28.93 ID:89YzOhTFo<>
ネロ「……」

迫る靄へと向け、ブルーローズに連動する『青い光の大砲』をぶっ放すも、
ダメージは乏しい―――どころか皆無。

ただ何もかもすり抜けていくという訳ではない、
ダメージは与えられぬも、振るう刃の圧と業火で押し戻せるか。
だがそれでも完全に防げるとは言い切れない、悲観的に言ってしまえば時間稼ぎに過ぎないか。

現に、上での初コンタクトの際は見事に突破されているではないか。


そしてもし魔塔の中へと突破された場合は、四の五の言わずに後を追うしかない。
そうなればここを守るのはベヨネッタとラジエルたちとなるも、
彼女達だけではここの戦線は崩壊してしまうだろう。

ベヨネッタの存在で戦力は足りていても、この場の『頭数』が足りないのだ。


ネロ「(……まずいなこいつは……)」

やはりこの状況のままではダメだ。
ベルゼブブもあの手この手で門の突破を試みてくるであろうし、
早急にかの存在の『靄』状態を破らなければ―――


そのようにして、向かってくる大悪魔に刃ふるう傍ら思索するネロ。
そんな彼と同じく。


ベヨネッタ『(あれは……―――)』

ベヨネッタもまた、四方から向かってくる天使と悪魔を蹴散らしつつ、
冷めた思考の一画ではベルゼブブの『靄』に関心を向けていた。

あれは他人の獲物であるため本来ならば意に介さないものなのだが、
この時はさすがにそうはできなかった。


なにせ少し前に―――あの『靄』と同じ『類』の『力』を、ジャンヌとともに『潰してきた』ところなのだから。


基本的に身を変じたり、特定の事象に制限をつけたりする特殊能力は、
対する者が力で圧倒的に勝っていれば問答無用で突破してしまうことが可能だ。

それこそ魔剣スパーダを切り落としたほどのネロの刃の前には、いかなる『細工』も無意味である。


だがその特殊能力も―――ジュベレウスの因子となると話は大きく変わってくる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:45:07.44 ID:89YzOhTFo<>
やはり十強、どいつもこいつも一筋縄にはいかない。
さすがは魔界の統一玉座を狙うだけあるものだ。


―――ただしどうやらベルゼブブの『それ』は、
創造、破壊、具現、維持といった名称を与えるまでにはいかないようだった。

『世界の目』でベヨネッタはその力を見極めた。


魔帝や覇王のそれのように完成しきったものでもなければ、
アスタロトみたくある程度の形になったものですらない、まだまだ未熟なものだ。

ただしそれでも最低限、創世主由来のものと定義するに相応しい水準には達している。

魔剣スパーダを切り落としたネロの刃をもってしても突破できないという事実が、
そのことを明確に示していた。


創世主の領域の力は、ただ巨大な力をぶつけるだけでは破れはしない。

創世主由来の能力は文字通り『創世主の力』、
真理とも呼べる根幹への『究極の干渉権』であり、力ずくで捻じ伏せることは不可能なのだ。


ただそれでも完全無欠というわけではない。
過去の実例があるとおり破る手段はいくつか存在している。

アスタロトに行ったように使用者本人に機能を停止させることや、
かつての魔界の三神とジュベレウスの戦いのように、同じ創世主の力をぶつけたりなどだ。

ただしこれは限定的な相性によるところも大きく、
また三神の力はこちら側には揃っていないため、当然のことだが倣うことは無理だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:46:51.23 ID:89YzOhTFo<>
となれば、現実的な手段の一つ目は。

スパーダがかつて魔帝にとった戦法、
完全稼動状態の時の腕輪で創造のはたらきを遅延させ、
その間に『破壊』を叩き込むことだ。

この戦法ならば理論上、創造のみならずあらゆる因子に対しても有効なはずであり、
また実現も充分可能である―――どころか、もう現時点でその準備が整っている。


ただし準備は整っているのだが、
『彼』が―――バージルが『神儀の間』を離れられないため、『今』は使えなかった。


一応ベヨネッタも数分間は彼の役目を代わりに引き受けられるも、
それにはまず彼女が神儀の間に戻る必要があるため、これもまた無理な話だ。
ここはとても中途離席できるような状況ではない。


となると、残す有用な手段は一つ。

四つ目、これは当時の『あの日』まで誰も想像できなかったであろう。
『竜王』自身ですら、自らの力が創造に通用するとは夢にも思っていなかったはずだ。


そう―――『幻想殺し』である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:53:27.26 ID:89YzOhTFo<>
テンパランチア『―――何が滑稽か。忌まわしき魔女めが』

ベヨネッタ『あら、私笑ってた?』

地響き轟かせて地に立つ節制、その巨顔からの指摘で彼女はようやく気付いた。
もちろん見るものからすれば、悪事を企んでいるような類の笑みだが、
どうやら気付かぬうちに笑みが毀れてしまっていたようだった。

滑稽といえば確かに滑稽なのかもしれないが、
その傍ら―――彼女は少し苛立ちも覚えていた。


幻想殺し、すなわち竜王を元とする力は創世主の領域のものではない。
『その他』と分類される『凡庸』な『特殊能力』と同じ、言ってしまえばただの『小細工』に過ぎない。

ただし時の腕輪の例があるように、魔女の『小細工』で機能不全に陥ることもあるし、
幻想殺しが創世主の力に効果があることは『特別』ではあっても『異質』ではない。

しかしそれでも―――時空間魔術で干渉するにはスパーダ一族のように莫大な力が必要になってくるが、
幻想殺しの場合は実質―――干渉するに力の消費はない。

触れて認識さえすればそれだけで機能するのだ。


これこそ『異質』と呼ぶことができ、ベヨネッタが妙に滑稽に思えてしまっている点だろう。


竜王は上位の大悪魔程度、
上条当麻にいたっては大悪魔かそうでないかという境界上にいる程度の力量にかかわらず、
彼らの力は創世主の領域に絶大な影響力を有しているのである。

まさに幻想殺しこそ、たった一つの『真の弱点』としても良いくらいに。


そしてここがもう一つの感情、ベヨネッタの苛立ちの原因でもあった。
気に喰わなかったのだ。


この状況にこうも都合よく―――幻想殺しが当てはまるということが。


ベヨネッタ『……』


―――くだらない『筋書き』の匂いがプンプンする、と。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 01:59:43.64 ID:89YzOhTFo<>
ベヨネッタ『……』

上条当麻という少年はもはやこの戦いには欠かせない存在、
趨勢を大きく左右する重要な鍵だ。

竜王の創造・具現・破壊という、『なんでもアリ』の布陣を破れるのは、
今のところは時の腕輪を装備したバージルと―――上条当麻しかいないのだから。


ただしそれゆえに、ここにまた大きな懸念が頭を過ぎってしまう。

ここで上条当麻を使うリスクへの。
果たして筋書きが誘うとおりにしていいのかと。

これは『作られた英雄性』をより高めるための『悲劇のお膳立て』になるのではないか、と。



バージルは強い。
敵なんかいないくらいに強い。

だが上条当麻は違う。
確かに大悪魔の領域に足を踏み入れてはいるも、『生まれたばかり』。
この戦場においては上級三隊より頭一つ分出ている程度で、
相対的には決して『強者』とは呼べない。

大悪魔の将たちを相手にすればひとたまりも無いだろう。


ベルゼブブを破るために彼を呼び寄せたはいいも、
それは視点を換えれば、『希少な勝利への鍵』という守護対象が増えてしまうことにもなる。

守るべきものを身近にした状態での戦いは、
ベヨネッタのように超攻撃型の戦い方をする者にとってはとても実力を発揮しきれるものではない。

それにまた、幻想殺しを作用させるには触れなければならないというのも問題だった。
上条当麻が触れようとしてきた瞬間に、鎌でカウンターでも放たれればそれで一貫の終わりだ。

上条程度の動きを読んで合わせるなど、ベルゼブブからすれば造作も無いこと。

そして彼の死はあらゆるところへと影響を及ぼす。
彼を慕う大勢の者達が悲観に包まれ、声は高まり、
スパーダの一族の戦いには―――その仇を討つという、『いかにもな』因果を新たに付け足してしまうことになるだろう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:08:32.90 ID:89YzOhTFo<>
ベヨネッタ『……』

この瞬間にはもう、ネロもここまでは思考は至っていただろう。
こちらよりも上条達と関わりが深いため早くたどり着いたはずだ。

しかしそれでも目新しい動きはせず、機嫌悪そうに目を細めているところからすれば、
同じくこのリスクに直面しているに違いない。

ただしそれでも他に具体的な手段は見当たらず。

ベヨネッタには、やはり上条を使わざるをえないように思えた。
万が一筋書きが彼に手を出そうものなら、その時はその時だろう。

少なくとも己とネロ、上条本人は筋書きを認識しているため、
罠に嵌りきる前に気づくことができ対応が可能なはずである。


だからネロには悪いが、ベヨネッタはさっさと決断してしまうことにした。
生意気なスパーダの孫が「ばあさん」と呼んだ『あてつけ』ということにしてもいい。
『年寄り』は気が短いものだから、と。

こっそり頭の中でジャンヌに向けて通信回線を開き、
同じ神儀の間にいるインデックスへと言伝を頼んだ。

少女に伝われば、瞬時に上条当麻に届くだろう。


『こっち来なボーヤ』という有無を言わせぬ命令は。



テンパランチア『戦いの中に気を他所に向けるとは―――』

ベヨネッタ『あら、心配してくれてるのね』

と、節制の口から戦いという言葉が出てはくるも、
実質この四元徳はほとんど参加してはいなかった。

離れた位置から指先からの砲撃を行ってくるだけ。
上級三隊の攻撃の間を縫ってたまに拳をふるってくるも、一撃だけで即離脱。

もっぱら戦いの主役は上級三隊の者達に任せきりだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:11:58.82 ID:89YzOhTFo<>
ベヨネッタ『……』

ただし、テンパランチアが臆病風に吹かれたわけではない。
節制はベルゼブブが門を突破し能力者を殺害するのを待っているのだ。

悪魔を野放しにさせるのは天の者として許せず、
また『悪魔と共闘』なんて主神の意志に反することは思いつきもしないが、
悪魔を『利用』するということに関してはそれなりに考えられるようだ。

上級三隊をこちらに差し向けて相手にさせているのも、
それまでの時間稼ぎと、最強の魔女にベルゼブブを邪魔させないための支援とも言えるだろう。

ただし。
それもいつまでも続くものではない。

ベヨネッタ『アンタも他人の心配はしてられないと思うけど』

当然のことだが、
上級三隊が全滅した折にはテンパランチアは嫌でも戦わなければならなくなる。


ベヨネッタ『アンタがそうしてのらりくらり逃げるせいでほーらほら』


着実に増えつつある上級三隊の屍の中へもう一体。
足元に引き倒したジョイの頭をかかとで『撃ち潰して』加えつつ、彼女は微笑んだ。


ベヨネッタ『―――かわいそ〜なジュベレウスのイヌ共が減ってく減ってく』


ここにお前が加わるのも時間の問題だと。


ベヨネッタ『―――アンタの番ももうすぐよ』


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:13:49.74 ID:89YzOhTFo<> ―――


正義を掲げ人類を守るという大義に生きたとはいえ、
戦巫女を祖とする者としての宿命なのかもしれない。

レディ『……』

魔の手から人界を守るという信念の深淵にて、
実は己が潜在的に力と闘争を求めていたということ、
それを否定するのはもはや不可能。

そして拒絶する気も無かった。

この身が魔に喰われたのではない、
自ら魔となることを受け入れたのだ。

自我を保ったまま悪魔化している時点で、それはもう覆しようも無い事実である。

ただし今思い返してみれば、
それは別段意外なことでもなかったかもしれない。

戦いの中に至上の喜びと快感を求めていたことは昔から自覚していたし、
より『強くなること』を生涯の至上目標としてもいた。

それらの程度が、普通の人間の視点からすると狂気染みていたほどであったことも。
人々はそんな自らを指し、口をそろえてこう言ったものだ。


イカれてる、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:15:29.77 ID:89YzOhTFo<>
そこを踏まえると、レディはこう感じた。


悪魔になっても、己は大して変わってないじゃないか、と。


喪失したのは―――元から希薄だった『人間性』だけだ。
人間としてはもうずっと前から―――『壊れていた』のだから、何を今更―――と。

一瞬前までその最後の人間性が足掻いてはいたも、
峠を越えてしまったら軽いものだ。

僅かな人間性の喪失への絶望と悲壮も、
それが潰されてしまったためにもう抱きもしない。

なぜ魂にそこまで響かないのか、
今だからわかるが、それら表向きの人間性は、
『人間であるため』に身に着けた殻であり、魂の本質からのものではないからだ。


アーカムの言うとおりこうして人間ではなくなることで、
『種族性』による殻を取り払った先に、レディは己の本質を始めて知ることが出来た。

果たして悪魔か人間か、その魂は、その心は、
なんて定義はもうどうでもよかった。

重要なのはたった一つ。


こうして唯一残り、露となった己の本質。


それは生粋の戦いの亡者―――『デビルハンター』だということ。


―――悪魔を狩るために生きているということだ。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:17:51.13 ID:89YzOhTFo<>
レディ『……』

レディはそっと。
ジャケットのポケットから、小さなあるものを取り出した。

さきほどダンテから『返済』された、いや『奢られた』1セント硬貨である。

この小さな硬貨、『アーカムの冥土の渡し賃』にレディは、
集約されている己の生き様を見ることができた。

ここに実にコンパクトに、明確に記されている。


これに至る『経緯』だけでアイデンティティは充分なほどに。


レディ『…………』


今一度認めよう。
己は確かに『アーカムの娘』である。

だがもう二つ、絶対に覆せない不変の事実がある。


『私』はカリーナの娘の『メアリ』であり。



スパーダの息子、ダンテが認め絶対の信頼を寄せる悪魔狩人―――『レディ』であることだ。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/16(月) 02:20:59.25 ID:89YzOhTFo<>
アーカムは恐らく、こちらが小一時間ばかり悶え苦しむとでも予想して、
転生術を仕込んできたのだろう。

無意味に人間性が抵抗を続けるため、転生しきるまで時間がかかり動けないはずだと。

だがおあいにくさまだ。
アーカム本人もここまでとは思っていなかったようだ。


レディが―――これほどにまで『魔への適性』が高かったとは。


まさかこんなにも―――『娘』が『父』に『似ている』どころか、それ以上の『素養』を秘めていたとは。



レディ『……』

彼女はすっとコインをポケットにしまい、
背負っているロケットランチャーの位置を直すと、
迷わず―――魔の力をフルに使って魔塔の内を進んでいった。

人間性を失い悪魔になったとしても、彼女がやるべきこと・欲する行いは変わらない。
彼女が武器を再び手に取り、歩みだす理由も普段と同じ。
これまでとの唯一の相違点は―――『それ』しか見えていないという点。


―――なぜ母の名をロケットランチャーに冠しているか。


その理由は『復讐』のため――――――すなわちアーカムを殺すただそれだけのため。


レディ『……』

そして早速のことだ。
魔術と悪魔の知覚の混成による索敵網が、アーカムの位置を検知し。


―――『狩り』の時間だ。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/16(月) 02:22:03.82 ID:89YzOhTFo<> 今日はここまでです。
次は水曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/04/16(月) 03:02:37.56 ID:7ts3Xbcbo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/16(月) 07:05:15.03 ID:E3xmrK9q0<> 乙乙乙
緊迫してきたなあ

でも、今の幻想殺しってどんな状態なんだ?
竜王とのリンクが切れたってのはわかるんだが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/16(月) 14:21:46.82 ID:KZWXhxRHo<> 乙です。レディさんがハイパーモードに・・・
>>759
基本的に竜王に合体する前の状態。つまりベオ条さんと同じ。
ただしナニカサレタカラ幻想殺しを制御できる状態に。普通の右手と同じように幻想殺さない事も可能。
でも戦力としてはネロさんとベヨ姐の言う通りゴニョゴニョ・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/16(月) 15:01:50.59 ID:tdmzWIOAO<> >>759
>>630によるとONOFF機能がついた以外は今までと同じ感じやね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/04/16(月) 15:58:18.60 ID:OuGQshTs0<> onoff切り替え可って何気に便利だな
不用意に術式を破壊したりせずに済むし右手にも悪魔の力の補正がかかるし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/16(月) 18:43:43.94 ID:ogDqiS1xo<> 制御可能って事は、もしかしたら右手で掻き消してた為だったと噂のある不幸属性も消えるのだろうか。
消しきれなかった幸運の恩寵がラッキースケベって形に表れてたのだとしたら…ゴクリ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/04/16(月) 20:09:07.04 ID:RVf+2aZD0<> レディさんマジ悪魔 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/17(火) 06:41:04.59 ID:udp+US2DO<> 乙乙乙
蠅王のモヤりにゲリュオンのクイックシルバーじゃ対応不能なんですかね?
クイックシルバー+ネロかベヨのフルパワーでごり押しじゃ突破不能? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/17(火) 10:29:06.65 ID:O31hSn/DO<> >>763
学園都市に入るまでの不幸は☆の手引きだから、それ以降だな。つか本当に右手は運を消してるのかね。右手関係なく単純に上条自身運が悪いだけとか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 12:56:35.22 ID:7p925yTIO<> 幸運は全部フラグ建築に回してるから±0だろ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 13:00:54.52 ID:SCnmabPFo<> つまり右手で本当に幸運を掻き消してたとしたら今まで以上にモゲれば良いのにって状況になるんですね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/04/18(水) 14:43:16.70 ID:/KgEPl680<> これ以上のかみやんエロスは18禁になるぞ笑 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<>sage<>2012/04/18(水) 20:00:04.46 ID:ruJ1wZqDo<> OFF状態だと性別・種族に関係なくフラグ建築しますってか
セロリにはもう建ってるけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/19(木) 02:04:16.93 ID:R3bKf4zdo<> >>765
同じ時間操作系とは括れても、ゲリュオン(クイックシルバー)と魔女の時空間魔術は
成り立ちから作用原理まで全く異なるものであり、
その性質上ゲリュオンの力では創世主のものには通用しない、とこのSSでは考えております。

長くなりますが詳しくは、
時の腕輪は、使用者の力量が許す限り・認識できる限りのあらゆる時間軸に直接作用し、
『あらゆる変化が一切生じない』レベルまでの遅延、完全な『時間停止』としても良い状態を作りあげることも可能です。

ゆえにバージルが行っているような人間界基盤の凍結という荒業も可能であり、
そして周囲世界とは隔絶している創世主の因子に対しても、
効果を直接埋め込むことで『因子そのもの』の時間軸に干渉し、内部から破壊して機能不全に陥れることが可能となります。
(内部から破壊するという点については幻想殺しと同じです)

一方でゲリュオンのものは、神域の存在の資格とも言える自身の世界改変力の延長線上で、
作用原理は『自らを加速させる』という限定的なもので、言ってしまえば『悪魔の力によるごり押し加速』とも。

ですから相手の肉体行動は相対的に遅延させることができても、
創世主の因子の独自の時間軸はそのままなので、機能不全に陥れることはできません。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:06:31.79 ID:R3bKf4zdo<>
―――

魔塔地下深くにある大地底湖。
その東側の岸は石造りの構造物で固められ、
港の岸壁のようなちょっとした広場になっていた。

北、滝を割った先には歌劇場へと続く碧い洞穴、南には『双児橋』へと向かう水路。

そして西、地底湖に降りて流れをさかのぼればギガピートの巣へとたどり着き、
魔塔の地上層に上がることが可能でなる。

土御門達がここに降りてきたのもこの西からであり、
魔塔の正門からの最短ルートだった。

また、これが非常時の際の逃走ルートでもあったのだが。


土御門「―――」

この時、彼らはそのルートを使えなかった。
洞穴を抜けた瞬間、すぐに前方に―――あの『道化』が立ち塞がったからだ。

湖は道化の背後すぐ。
土御門をはじめみなの脳裏に一瞬、この道化の脇を突破するという策が浮かんだも。

すぐに道化の手にある―――折れたカーテナの刃を認め、
そんな策など危険すぎると判断せざるをえず、その場に立ち止まるしかなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:08:07.69 ID:R3bKf4zdo<>
ただ、彼らは呆然と衝撃に打ちひしがれてるだけじゃなかった。
滝壺と浜面を抱える絹旗を中心として、能力者たちが後ろへとはね下がり、
入れ違いに天草式が前に飛びだし布陣。

そして土御門もまたすばやく作業を行った。


土御門『―――かみやんを!!』


魔術による回線を開き、アニェーゼへと叫びながら、
慈母が残してくれた力を解き放ち―――『一筆』。

『断神、一閃』

陰の王たる黒豹相手に使っていたもの比べれば、
ずっと出力は小さくも、それでも間違いなく慈母の『筆しらべ』。

破壊力は申し分ないものだ。
しかしどれだけ威力が高かろうと、当たらなければ意味がない。

土御門『ッ』

放った瞬間の手応えのなさが、
この攻撃が避けられたことを物語っていた。

一瞬ののち、目にうつるのは筆しらべが鋭利な溝を刻んだ岸壁のみ―――


そして姿消した道化は次の瞬間。
一行の背後、洞穴の方に現れていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:12:30.59 ID:R3bKf4zdo<>
土御門『―――ッ!』

道化の動きを検知できたのは土御門だけだった。
建宮をはじめとするその他の者達には、とても認識が追いつかぬ速度だ。

まばたきすらも許さぬ一幕。

土御門だけはすばやく振り向き、
絹旗・浜面・滝壺のすぐ後ろ、僅か3mのところに現れた道化の姿を視認―――するも。

続けざまに次の手に移ることはできなかった。
道化への射線に、滝壺たちを含め何人も重なっていたのである。

筆しらべによる『断神』は、前方の何もかもを破断するきわめて攻撃的な力。
何人もの肩や首元をすり抜けて放つには危険過ぎるのだ。


―――と、そこで土御門には一瞬の判断の迷いと、
そして精密射撃へ集中するためのラグが生じてしまう。


その瞬間にも依然、己以外は誰も背後にうつった脅威を認識できずに前を向いたまま。
慈母の力で精神速度が加速している土御門からすれば、
まるで時間が止まったかのように硬直して見えていた。

ただし。

道化の動きだけは、『時間が止まっている』どころか『早送り』だった。

ステッキをくるりと回し、たんっと跳ねて背後から滝壺へと―――


―――その動きに土御門は間に合わなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:14:25.63 ID:R3bKf4zdo<>
遅かった。
筆しらべを放てなかった。

判断と精密射撃のために費やしたわずかな時間が、
決定的な差になってしまったのだ。

しかしそんな不覚に悔恨を抱くにはまだ『早かった』。

刹那、ある人物の『再』介入で、
滝壺の死という最悪の結果が間一髪で回避されたのである。

道化がステッキをかざし跳んだと思ったのも束の間、彼が1mと距離を詰める前に―――


背後から道化を―――幾本もの『金色の光刃』が貫いてきて。


土御門『―――ッ』


道化の胸や腹から『突き生えてきた』金色の光刃、
それらがいかなる力なのかは、土御門には慈母の瞳で一目でわかった。

そして彼は瞬間、思わず笑みをこぼしてしまった。
ついさきほど、あの『衝撃』を受けた後のこの『再会』だ。

これが喜ばすにいられるか。
光刃を形作っている力は、『十字教の主』のものだったのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:17:06.93 ID:R3bKf4zdo<>
直後、背後からの強襲に道化は地に叩き伏せられ。

その背の上に獣のように降り立つ『彼女』。
壮絶なその姿を土御門は視認した。

しっかりと結われていた金髪は乱れ、
纏っていた胸甲は脱ぎ捨てられ、上は破れた鎧下姿。
下の腰巻も破れに破れ、あちこちに深い傷があり全身が血塗れ。


こうして再会したキャーリサは、まさに『血に狂った獅子』という様相だった。


そして一際衝撃なのは胸や胴、
肘や膝などにいくつも突き刺さっている光を放つ『金属片』。

一瞥しただけで土御門にはわかった。
それらは『カーテナの欠片』だと。

指の間にも欠片をいくつも挟みこみ、そこから熊手のように光刃が伸び、
彼女はその片方の腕で、道化を貫き押さえつけていた。


『―――おンやまぁ。ま〜だ生きておらっしゃったとは―――』


キャーリサの足の下からの声。
空気が混じり泡が立った血を吐きながらも、
道化は苦痛を一切見せずに笑った。

対し彼女は今にも喰らいつかんとばかりに歯をむき出しにし。


                  ワタシ
キャーリサ『覚えておけ!「獅子」の息の根を止めたくば―――首を落とすんだな!』


そしてもう片方の『熊手』を振り下ろし。
掃うようにして、道化の頭をなます切りにした。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:18:25.93 ID:R3bKf4zdo<>
―――と、普通ならばこれで勝負が決したところだろう。

だがこの相手は、魔術師でも人間でも悪魔でもいかなるものさしを当てはめようが、
決して普通ではなかった。

斬り捨てた余韻すらも許さず。


『―――じゃあこっちも教えちゃウ!』


どこからともなく響いてくる、調子の変わらぬ声。


『実は今のオレ――――――何をされても死なないんだなコレが』


足元の道化の『死体』は、酸に溶けるようにしてすぐに消えていったも、
声は平然と続き。
周囲を満たす異様な気配もそのまま、薄れることは無かった。

キャリーサの強襲が成功したにもかかわらず、
状況はほとんど変わらなかったということだ。

ゆえに再会と無事を喜ぶ言葉なんて交わしている暇など無かった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:21:32.67 ID:R3bKf4zdo<>
建宮「キャーリサ様!」

ようやく振り向いたほかの者達、
そしてキャーリサの姿を見て天草式の者達からもれる息。

生還の安堵と重傷の身を目にしての衝撃が入り混じった奇妙な声だ。

土御門はそのような声を漏らさなかったも、気持ちは同じだった。
慈母の目からすれば、その酷い見た目だけじゃない、
『中身』も滅茶苦茶だ。

カーテナはもう保護機能も何も無い、もはや単なる『力の爆弾』と化している。

彼女の魂は、今にも砕けつぶれそうな状態、安定している箇所が一つもない。
とにかく濁流のように力を注ぎ込んでは強引に押さえつけて、
なんとか形を保っているだけだ。


キャーリサ『―――行けェッ!!!!』

しかしそのようにて一瞬生じた空気も、
彼女自身からの怒号によってかき消され。
そして有無を言わせずに全員の背を叩き押した。

               ラビリンス
『ムダだぜ―――ここは「迷宮」さ!』

からかうように空間に響く道化の声など無視し、
土御門はすばやく前に向き直ると、すかさず筆しらべ。


『凍神、吹雪』


瞬時に凍結する地底湖の端。
一行はその上に飛び降り駆けていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:23:09.88 ID:R3bKf4zdo<>
もちろんたどるは西の流れを沿う、魔塔地上部へと向かうルートだ。

今一行にはこのルートの選択肢しかなかった。
魔塔の内部を把握しているのはゲリュオンと共にいる五和だけで、
土御門含め他の者はこの通ってきたルートしか知らないのである。

そのようにして暗き洞穴の中、凍結した流れを遡っていると、
前方から駆けおりてくる姿が二つ。

魔像に身を固めたシェリーと、天の光を纏う半天使のヴェントだ。
回線が切断されたのを受けてすぐに向かってきたのだろう。


シェリー『―――大丈夫か?!キャーリサ様は?!』

まず最初に声を放ったのはシェリーだった。
滝壺の姿を見て生きていることを確認し、次に己の主君の居場所を問う。

ただそれに土御門たちが声を返す必要は無かった。
背後、流れの下方から轟いてくる戦いの地響きが代わりに答えてくれたからだ。

シェリーはヴェントと一瞬目配せしたのち、流れを猛烈な勢いで駆けおり、
その地響きの源へと直行。

ヴェント『行くぞ!!』

残ったヴェントが土御門たちの護衛に加わり、
そして一行はまた流れを遡っていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:24:20.72 ID:R3bKf4zdo<>
延々と続く巨大な洞穴の流れ。
その闇の深さで果てしなく続くようにも思えてしまうが、
実際のところはそれほどの距離もない。

この速度でさかのぼれば、
すぐにギガピートの巣の列柱回廊が横に見えてくるはず―――なのだが。

その異常には、皆はすぐに勘付きはじめていた。
いつまで進んでも列柱回廊は見えず、そして徐々に―――流れの傾斜がゆるくなっていき。

ついに水平を通り越して―――今度は『下り』傾斜に。

あきらかに記憶とも食い違っているこの道なりに、
皆の違和感は確信に変わっていく。


―――『地形が変わっている』と。


だが、ことはそんな単純なものではなかった。

とにかく前に進んだ一行、その先で彼らをまず迎えたのは、
後ろから聞えてくるものと―――『同じ地響き』だった。


そう。
『前』からも『後ろ』からも。
キャーリサとシェリーによる戦いの轟音が響いてきたのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:26:36.45 ID:R3bKf4zdo<>
土御門「―――!」

これが幻聴であればどんなに良かったか。
しかし前方からの衝撃もまぎれもなく本物だった。

前、洞穴の流れの先には―――『地底湖』が見え。

そしてキャーリサのものと思われる、金色の光の波が覗いていたのだから。


ヴェント『―――なんだこれは―――どうなって―――』


たった今通って来たばかりのヴェントにはより衝撃だろう。
土御門自身も信じがたい。

己たちは戻ってきたのだ。
ではなぜ。

もともとこの洞穴は一本道なために迷いようは無いし、円を描いて戻ったと理由付けしても、
同じ方向どころか同じ入り口から地底湖にたどり着くわけがない。

引き戻さない限りこうはならないのだ。
そしてもちろん―――方向転換などしてはいない。


まるで狐につままれた気分だ。
だがこれは幻覚じゃない。
どれだけ巧妙な錯覚だとしても、慈母の目は誤魔化せるはずが無い。

土御門はすぐに理解した。
変わったのは地形じゃない。
ましてや、操られてでもして気付かぬうちに方向転換したわけでもない。


手が加えられているのは―――『空間』そのものだ、と。


先ほど響いた道化の声、そこにあった『迷宮』という言葉。
あれはご親切にも、実に状況を的確に表現していたものだったようだ。


恐らくあの道化の魔術だろう―――ここは『ループ構造』になっていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:28:28.73 ID:R3bKf4zdo<>
ヴェント『―――他に道は?!』

少なくともこの流れがループ構造だとなった以上、これ以上ここを進むのは無駄だ。
他の道を探さねば成らない。

土御門『地底湖の南側にも別の水路に向かう扉があるが、その先がどこに続いているかはわからない!』

ただし道と呼べるものについては、土御門はこの西のルートしかわからなかった。
南は双児橋という場所へと続いているとは五和から聞いたも、
それ以上はわからないのだ。

だが他に具体的な策は無さそうだった。


事実、二人はすでに互いに認めていた。
このような話をしている時点で、このループ構造の魔術を破るのは困難だと。

土御門『―――……!』

慈母の目でこれが魔術であることは明らかなのだが、
認識できるのと手を出せるか否かはまた別の話だ。

慈母は『魔術師』ではない。
魔術に対応するには、己自身の技術のみが頼りなのだ。

そして少なくとも己よりもずっと技術が上のヴェントですらも
魔術で抗うことを諦めたということは、もう『そういうこと』である。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:30:24.50 ID:R3bKf4zdo<>
―――では上条を待つか。


それが一番安全だろう。
彼の右手さえあれば、
魔術と呼べるものはほぼ無条件で破壊できるのだ。

だが問題は―――上条がやってくるまでの時間、
あの道化から逃げ切れるかどうかだ。


ヴェント『―――チッ』

次の瞬間、ヴェントと土御門はほぼ同時に気付いた。
洞穴の『天井』に『立っていた』道化の姿に。

次いだヴェントの迎撃行動は素早く、
かつ壮烈なものだった。

彼女の手から伸びる眩い光剣、それにより切り上げ一閃。

洞穴の天井ごと道化を縦に切り裂き、
さらにもう片方の手からは光剣を『投擲』。

道化の体を貫き、そのまま天井に磔に―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:32:28.47 ID:R3bKf4zdo<>
そして続く一連の行動もまた速やかなもの。


ヴェント『―――行け!行くんだ!!』

土御門『―――!』

どこに、と聞き返すのはもはや愚問だ。
今はとにかく離れるしかない。

それも早急に。

建宮「―――俺たちはいいのよな!行け土御門!!」

大人数で動くには遅すぎると判断してか、
さっととび退きそう促す建宮。
彼に続き他の天草式の者たちや能力者も一気に散開。


そして土御門は即座に―――『白狼』に姿を変え。


土御門『―――乗れ!!』


目の前の様々な光景に驚愕しながらも、
言われるがままに跨ってきた浜面と滝壺を乗せ、地底湖の方へと駆け下りていった。

前方から流れを駆け上がってくるは、道化の方へと急行するキャーリサとシェリー。
どうやら目を合わせただけでこちらが『土御門』だとわかってくれたらしく、
彼らは特に足並みを緩ませもせずにすれ違い、ヴェントに加勢。

そうして土御門の側は、今度は南の水路を目指した。

状況的に考えて南の先もループ構造であろうが、
それでも、少しでも今の道化の位置から距離を稼ごうと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:34:23.63 ID:R3bKf4zdo<>



シェリー『―――おおおおおおお!!』

天井に磔にされている道化へと叩き込まれるは、
魔像の巨拳による強烈な『アッパー』。

しかしそれで道化が完全に滅ぶことは無い。
例え『一回死んでも』だ。

魔像の拳が洞穴の天井を穿ったのも束の間、けたたましく響く狂ったような高笑い。


『だから〜オレを殺そうたってムダだって!あれっまさか今のオレってチョーォモテモテ?!』


そして間抜けな、喜劇に使われるような効果音つきであさっての方向にひょいと現れ、
元気たっぷりに徹底的にふざけた調子で踊る道化。


キャーリサ『チッ―――』

もう二度も殺しているが、この道化はまったく消耗してくれない。
まさに正真正銘の不死身か。

ただ、だからといってこの戦いが無駄だというわけではない。
少なくとも―――滝壺を殺すというこの道化の目的を、
現時点まで妨害し続けることに成功しているのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:36:28.18 ID:R3bKf4zdo<>

『でもサー美人サンばかりとはいえ、ここまでつき纏われちゃさすがにちょォーっとウザイねぇ―――』


それについては、道化の側もそれなりに苛立っていたらしい。
これはキャーリサ達にとっては非常に好ましい点である。
少しとはいえ、追い詰めることが出来ている証だ。

だが、そんなささやかな勝気をひっくり返してやるとばかりに。


『―――それジャ仕方ないね。オレだってイタイのはきらいだからこうはしたくなかったンだけどサ』


道化の顔に狡猾な悪意が覗く。

彼はそうわざとらしくぼやくと突然、
一切躊躇わずにステッキを―――自らの首に突き刺し。

キャーリサ『―――』

そのまま頭を捻じ切ってしまった。


そう―――『自殺』したのである。


そのとき。キャーリサは『あること』に気付いた。
この場で自ら命を絶ったということが大きなヒントとなって―――道化がなぜこの行動に移ったのか、その目的に。

一度目、背後から殺した時は、死体は消え、次に姿を現したのは少し離れたところ。
この洞穴の位置に突然道化が現れたのも、シェリーとともに地底湖で二度目の死を与えた直後。

つまり考えられるは、『再生する場所』は『死んだ場所』ではない。
ある程度の範囲で―――好きな位置に出現することができるという点。


キャーリサ『(しまった―――!)』

これらを踏まえれば、あとはもう明白だろう。
道化が次に出現するところは―――滝壺達のすぐ近くだということ。

土御門が稼いだ分だけ―――己たちから遠いということに。

アーカムの死体はこれまでの例に漏れず、
その場で酸に溶けるようにして無くなっていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:38:56.72 ID:R3bKf4zdo<>

浜面「うぉッおおお!!」

じっとしがみつく滝壺と、対照的に騒がしく声をあげる浜面を背にして、
白狼―――土御門は凄まじい速度で駆けていった。

地底湖の水面の上を走り、岸壁に飛びあがると南の扉を頭突きで開け放ち、
続く水路をも一気にぬけていく。

そしてたどり着くは『双児橋』。

そこは碧い筒状の空間だった。
巨大な円筒タンクの中のような場所だ。
ただし床が無く、下は底が見えないくらいに深い。

そんな空間を、壁から壁へと二本の橋が並んで渡っていた。

細い橋を前にして背の少年の声が一段と大きくなるが、
白狼は気にも留めずに駆け、そして橋の反対側の扉をまた頭突きで開け放ち、その先へ―――


―――としたかったのだが。

やはりこちら側もだった。
土御門はこれ以上進むのは無駄と判断し、足を止めた。
扉の先には、『今通ってきた水路』が伸びていたからだ―――

ここがこのループ構造の迷宮の最南端だということ。
これ以上の逃げ場は無いのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:42:07.12 ID:R3bKf4zdo<>
土御門『―――』

そのとき。

白狼は、背後に突如現れた圧力に気付いた。

すぐに飛び跳ねるようにして振り向くと。
橋のちょうど中ほどに立っている、しっかりとした神父服に身を包んだ―――スキンヘッドの男。

初めて見る姿の男であったも、
土御門はすぐに正体に気付いた。

一目瞭然だ。
特徴的な瞳―――『オッドアイ』で、あの道化だと。


そのようにして逃避もここまでかと、相手とのコンタクトを覚悟し、
土御門は牙と爪を剥き出し―――と、そこでまた―――状況に変化が生じた。


それも今度こそ、今度こそ―――喜ばしいことが。


土御門から見て、スキンヘッドの男挟んでちょうど端の先、
その上方の空間が目に見えて歪み。
限界点を超えて割れ、ガラスように砕け散る空間の欠片―――

それはこの場を迷宮化していた術式が破壊された瞬間だった。


そして空間の裂け目から『破壊者』が姿を現す。


巨大な『魔狼』の背に乗った―――上条当麻が。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:43:58.60 ID:R3bKf4zdo<>
これにはスキンヘッドの男も驚きだったに違いない。
少なくともこうなることは想定していなかったはずだ。

瞬間。

一度弾かれたように振り向き上条を見やると、
再びこちらに向き直り、そして身を落として今にも向かってくる体勢の男。

だが同時に上条を乗せた魔狼も橋に降り立ち、男へと背後から跳びかかろうという姿勢。

大丈夫だ、この状況ならば負けはしない。
この一瞬の中で土御門はそう判断した。
まぎれも無い大悪魔に上条当麻、これほどの増援がいれば滝壺を守りきることは可能だと。


しかしそうした状況分析も、次の瞬間にはまたやり直さざるをえなくなった。


この場に生じた大波紋は、上条の登場だけには終らなかったのだ。


スキンヘッドの男と上条を乗せた魔狼が同時に踏み切ろうとしたその瞬間。
この場へと、文字通りの『第三者』が飛び込んできた。


ちょうどスキンヘッドの男の真上に現れるは―、
ロケットランチャーを掲げ、その先端にある刃を男に向けている―――


レディ『―――アァァァァァァァカァァァァム!!』


―――『同じオッドアイ』のデビルハンターだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/19(木) 02:46:03.89 ID:R3bKf4zdo<>
この凄まじい強襲には、
スキンヘッドの男も一切反応ができなかったようだ。

強烈な語気を発しながら男に―――真上から凄まじい勢いで刃を突き刺すレディ。

その勢いはとてつもなかった。
男を突き刺したまま、彼女は橋をもぶち抜き―――そして男とともに深淵まで一気に落ちていったのである。

猛烈な地響きは断続的に轟いてはくるも、
彼女自体の姿は下にすぐに見えなくなってしまった。

土御門『―――』

そのようにして彼女の姿を視認できたのは一瞬であったも、土御門は見逃さなかった。
確かにレディだったのだが、『存在』が明らかに人間ではなくなっていたのを。


ただしそれを考えるには、今はいささか余裕がない。
彼はすぐに頭を切り替えると、折れた橋を飛び越えて上条の前に降り立った。

土御門『―――遅い!!遅すぎるぜぃ!!』

これに返って来た上条の反応は一泊要したものだった。
こちらと同じようにレディに違和感を覚え、
加えてこの『白狼』姿に驚いているのだろう。


上条『―――つっ土御門か?!一体どうなっ―――?!その「香り」はアマテ―――』


土御門『説明は後だかみやん!!まずは上に行く!!』

だが詳しく話している暇はない。

己を指して『その香りはアマテラス』と言いかけた上条。
一瞬、なぜ彼が本物のアマテラスを知っているのか、
そしてなぜ―――『その姿』ではなく『その香り』と言ったのかが土御門も気になったが、好奇心の我慢はお互いさまである。


二頭の狼は、それぞれの者を乗せて駆けて行った。
ようやく迷宮では無くなった水路を、地上部へと向けて。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/19(木) 02:46:31.66 ID:R3bKf4zdo<> 今日はここまでです。
次は土曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/04/19(木) 02:48:24.78 ID:6sB6BET+o<> 乙
スパーダ一族&魔女の絡んでいないシーンが全部『クソッタレな筋書き』に見えてしまってうーんってなる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/19(木) 03:16:17.80 ID:pyqJrt9AO<> 乙乙乙

>>792
上条復活で筋書きさんが決定的に狂っちゃったし今は筋書きにない方向に向かってるんじゃないか
筋書きどおりじゃないからあの手この手で修正しようとテンパってるわけだし <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/04/19(木) 08:16:11.62 ID:jBn6hfeu0<> 乙乙乙

香で判断とか事情を知らないと変態さんにしか見えないな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2012/04/19(木) 19:36:22.71 ID:Yk74A5t4o<> 事情を知ってても気配とか他にあるんじゃね?と思う
しかも記憶にあるって五体満足の時のだしすっげぇ昔だし、よくよく考えてもやっぱ変態・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/19(木) 19:55:01.47 ID:GBKSym1M0<> 大天使ミカ上さんなめんなよ

天界時代にアマ公にもフラグ立ててたんだろたぶん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/04/19(木) 20:46:01.36 ID:1imFk5bB0<> 天界スキャンダルわろた <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/04/19(木) 23:26:09.39 ID:QxKSr7Xlo<> お疲れ様です。現在のアマ御門はどの程度戦えるのか。でもここまで来たら尺度も何もわからないな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/04/20(金) 02:45:15.10 ID:NrXSHJyz0<> >>796
アマ公さん、一応女神らしいからな
モフモフしたい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/04/20(金) 12:18:12.60 ID:zC4XczWH0<> アマさんは弟と色々あったから
妹と色々やってる土御門に思うところがあったんかね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/20(金) 15:02:41.43 ID:se+OkQVO0<> アマ公の場合弟いるのだろうか
アマ公と一緒に常闇の皇が放ったヤマタノオロチ討伐した剣士のおっさんの名がスサノオじゃなかったか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/04/21(土) 01:05:12.58 ID:3HFZNmhN0<> そういやそうだった… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<><>2012/04/21(土) 20:08:50.10 ID:2FKPowpM0<> 軍覇でねーのかな… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/04/21(土) 23:07:43.43 ID:BC+qrTf3o<> すみません。
諸事情により一日遅れ、投下は明日になります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:31:15.18 ID:1J5YsII6o<>
―――

ベヨネッタ『……』

インデックス、そしてジャンヌから瞬時に伝達されてくる情報によると、
上条当麻はきわめて忙しい身ようだ。

こちらの命令が届く一瞬前に、別口から呼び出されて魔塔地下に行き、
すんでのところで例の能力者の安全を確保したらしい。

もっとも上条だけの手柄ではなく、むしろ彼は最後の一押しでしかないも、
一方で彼が欠けていたらこれまた成せなかった可能性が高い状況だったとも。

そうした諸々の情報を分析統合してみると、
筋書きに空いた『大きな穴』が実に明確に浮き彫りになってくる。

筋書きに沿うならば、新たな人界神―――一方通行は、
フォルティトゥードを破るも次いだテンパランチアにより殺されたはず。
だがそれは阻止された。

その狂いを修正するための例の能力者―――滝壺の殺害をも、結果は阻止。

魔塔の隔離と虚数学区が崩壊し人間界が神域の戦火に包まれるという、
『至高の英雄を生み出すための究極の災厄』のシナリオはこうして回避されたのだ。

そそもそも、筋書きにとってはこの虚数学区諸々の存在もイレギュラーなはず。
これら人間界を守る殻など本来は存在せず、
最初から人間世界が天魔入り乱れる大戦の舞台となっていたはずだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:33:15.20 ID:1J5YsII6o<>
この『誤差』の発端は、己とバージルが早期開戦を促したことである。

以降、ボディブローのように徐々に浸み込んでいた誤差、
それが決定的に表面化したのは、
デュマーリ島における魔剣スパーダを破壊した上でのネロの勝利。

かの青年の選択が、ついに何もかもをぶち壊しにしたのだ。

次いでバージルの選択、彼の生まれて初めての『妥協』が更に強烈な一撃となり。


そして上条当麻の帰還である。

彼の帰還は、竜王全能化の阻止、
『至高の英雄に対する最悪の敵』というシナリオをぶち壊しただけではない。

虚数学区の破壊という、もう一つの重要な修正点が、
『本来はいないはず』の彼の介入により叩き潰されてしまったのだ。


ではこの次、具体的に筋書きはどのような手で修正を試みてくるか。


ベヨネッタ『Humm……』

ブレイブスの大きな尻を鞭で引っぱたき、
ギロチンの刃を落としつつ、ベヨネッタはこう結論した。

次なる修正のかけ方はやはり予想していた通り。
先に覚えた直感通り、ここで上条当麻を殺すことだろう、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:34:23.94 ID:1J5YsII6o<>
いてはならないはずの彼を殺し、
さらに周りの悲劇性を強めるというという一石二鳥の修正方だ。

筋書きを認識している者達の中でも特に『弱くて』殺しやすいため、
上条が狙われるのは当然の成り行きだろう。

ベヨネッタ『……ふふ』

飛びかかってきたグロリアスを、サッカーよろしく拷問用の『万力』に蹴りこみながら、
筋書きのこの『馬鹿っぷり』に魔女はほくそ笑んだ。

この世界の不可侵の流れ、その影響力は絶大ではあるも、
動きは実にわかりやすいものだ、と。
水が低きに流れるのと同じ、
筋書きが書き換えようとするシナリオ案はなんとも安易で単純なもの。

そして安易で単純な策とは、
封じられてしまえば『どん詰まり』に落ちてしまうものである。


そうすると、今まで嫌な予感として捉えていた上条当麻の危機が、
ベヨネッタには一転して好機に見えた。
この修正を真っ向から叩き潰してしまえば、筋書きをより追い込むことが可能だ。


では具体的にどのようにして叩き潰すか―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:36:28.97 ID:1J5YsII6o<>
安易で単純な策に対する手段は、それもまた同じく簡単なもの。

挑戦を受けて文字通り真っ向から潰してしまえばいい。

筋書きは、この場において己とネロが上条を守りきるのは
困難だとしここで上条当麻を殺そうとしているのだ。

となれば、こちらはあえて彼をここに寄越し、
真正面から彼を守りきり。

天使と悪魔が入り乱れるこの戦いを一気に片付けてしまい、
人間界の勝利とともに『上条は死なない』という事実を突きつける。

これぞ戦いを終息へと加速させ、
かつ筋書きにもカウンターをぶちかます一石二鳥の最高の一手である。


ベヨネッタ『Ahh……』

ただしこの策は、ベヨネッタにとっては個人的に、
少し残念に思えてしまうものだった。
修羅刃でインスパイアドを三枚下ろしにしつつ、彼女はいかにも惜しむため息を漏らした。

この作戦はあまりにも味気ないと。

彼女としてはもっと『じっくり』天使達と楽しみたかったのだが、
これはそんなお楽しみ要素に欠けている。

―――『必殺技』を使うにしても、前振りもなくいきなりぶっ放すのは、面白みが乏しいものである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:38:50.33 ID:1J5YsII6o<>
ただしいくら快楽至上主義のベヨネッタとはいえ、
個人的趣向と大義の成就のどちらを優先するかは考えるまでもなかった。

彼女はすぐにこのプランをジャンヌ、
インデックスを介して上条へと伝えた。

上条には申し訳ないが、『彼ら』に『餌』になってもらうべく。


ネロにはこちらから伝えておかなくてもいいだろう。

グラシャラボラスからある程度のことは伝わるであろうし、
もし作戦全容を把握できなくとも、彼ならばアドリブで完璧にこなしてくれるはずである。

グラシアスからもぎ取った腕をブレイブスの尻に突っ込みつつ、
ネロへとむけにっこりと微笑みかけるベヨネッタ。

返って来るのは、胡散臭げな鋭い視線。
予想通りの『良い反応』だ。
あれならばこちらの挙動を逐一観察し、
次に起こることがわからなくとも的確に合わせてきてくれるだろう。

そうして彼女は彼に艶かしく片目を瞑った。
こちらが色々と『企んでいる』からよろしく、と。

ベヨネッタ『Shut up! Bad boy!』

悲鳴をあげる巨人天使の背を踏みつけながら。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:39:59.75 ID:1J5YsII6o<> ―――

上条『―――?!』

インデックスを介してのベヨネッタの『命令』。
その内容は簡潔ながら無茶苦茶なものだった。

言ってしまえば、死が大口開けて待っている中へ飛び込めというものだ。

ただしそんな耳を疑いかねない命令でも、
そこに含まれる裏の意味を考えれば、仕方ないかもしれない。

上条にもわかる、
これは筋書きとの勝負の一つであることは。

その勝負の主題はずばり『上条当麻の死』である。

いずれは決着をつけねばならないことだ。
筋書き通りならば、インデックスが愛した『上条当麻』はもういないことになっている。
これはそこへ修正するための筋書きからの挑戦である。

いま魔塔から出でずに人間界に戻れば、それで一応は回避できる。
しかしそれではただ逃げただけで、
決着をつけぬ限り永劫つきまとってくるであろう。

伸びてくる筋書きの手を真っ向からへし折り、
修正は不可能だとつき示さなければならないのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:41:41.20 ID:1J5YsII6o<>
そして今、ベヨネッタとネロがいる。
勝負に打ち勝つにこれ以上の好機があるか。

しかも魔塔前で繰り広げられている激戦の膠着状態が崩れ、
趨勢は一気に人間側に転がり『消化試合』に化すという『オマケ』付。
もはや一石二鳥どころではないものだ。

判断に時間は要さなかった。
上条は迷わずこのサディスティックな魔女の作戦に乗ることにした。


上条『……』

ふと上条は自覚した。

インデックスによる再構築の際、
『ある男』による因子がより色濃く浮き上がってきたのかもしれない。
なにせあれほど自己主張の激しい男のものだ。

身の内で湧くクレイジーな息吹に、彼は思わずニヤけてしまっていた。
こんなにも常軌を逸した無謀な作戦であるにもかかわらずだ。


プランの具体的な内容は、そのイカれ具合には不釣合いなくらいにシンプルである。

魔塔の門から飛び出しそのまま直進する。
右手を前にかざし、幻想殺しを機能させながら。

ただそれだけだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:43:42.00 ID:1J5YsII6o<>
流れを駆け上がってギガピートの巣である回廊、
彷徨える禽獣の間に達した頃、上条は魔狼の腹を足で軽く叩き。

上条『―――門からそのまま外に出てくれ!!そして全速力で真っ直ぐに突っ走ってくれ!!』

魔狼からは了解の意を篭めた一唸りが返ってきた。
訳を問わずに快諾してくれるとは、じつに協力的で頼もしいものだ。

いや、どのような事であるかはわかっていたのだろう。
こちらがここまで湧き立っていれば、股下の大悪魔も当然把握するはずだ。
そして基本的に悪魔は、危険には喜んで飛び込んでいくタチ。
大悪魔とは武による叩き上げの神々としてもいい、そんな者がこの誘惑を拒否するわけもない。

上条『……』

そして同じく勘付かれた視線を、背後から続くもう一頭の狼―――土御門からも覚えた。
股下の魔狼のものとは違い、こちらは不安気なものだ。

彼もまた、ことらが何かを企んでいることに気付いたのだ。
それも大方『よからぬこと』では、と。

上条『はっ―――!』

さすがは狼、いや、土御門か。
鼻が良く効くものだ、彼のその直感は的中している。

彼も、そして彼の背の上にいる二人も、
悪いが道連れになってもらう必要があったのだ。

仕方無い、これもベヨネッタの指示である。


戦いのカタを一気につけるには、彼らもまた餌になってもらわなければならない。


無論、彼らにとっても悪い話ではない。
筋書きがかけてきているこの大勝負に正面から勝てば、
己と同じく彼らの『生存』も現実として刻まれ、もはや筋書きには手出しできなくなってしまうのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:45:06.11 ID:1J5YsII6o<>
ただしその込み入った理由を、上条は今ここで告げるつもりはなかった。
そんな時間なんて無かったし、そもそも言っても言わなくてもかわりはしないのだ。

リスクを理解した上でも、土御門は足は緩めはしないとわかっていたから。


―――最高の親友として。


上条は半身振り返り横顔を向けると、
有無を言わせぬ声を放った。


上条『―――そのままついて来い土御門!!俺が止まるまで!!』


もしくは死ぬまでか、
これは言わなかったがわかったはずだろう。

白狼は息を詰まらせたような空気を発した。
こちらが薄く笑っていたのがさらに不安を上乗せしたのだろう、
警戒の色をより強めて。

しかしそれでも考えていた通り、土御門は歩を緩めなかった。
今度は諦め混じりに唸ると、彼はそのまま着いてきてくれた。

やはり持つべきものは友である。
こちらの言葉に絶対的な信頼を寄せてくれる、その一方で盲信はせずに一定の警戒を常に持つ、
そんな公平で厳正な親友ほど頼もしいものはない。

上条は魔狼の腹を叩き、さらに足並みを加速させた。
後方に少年と少女を乗せた白狼を従えて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:47:02.73 ID:1J5YsII6o<>
黒き魔の影と白き天の光の尾を引いて、二頭の狼は駆けに駆けていった。

彷徨える禽獣の間を抜け、いくつかの部屋と回廊を通り、
吹き抜けの空間、邂逅せし災いの広間へと達する。

出でた場所はその広間の中層であり、
手すりを跳び越えて降りればもう外へと出る魔塔の門だ。

そこへ向けて躊躇わずに飛び降りる魔狼。


土御門『―――カミやん!本当に大丈夫なんだよな?!』

そしてそう吠えながらも同じく跳び続く白狼。

親友の最後の足掻きとも言える確認の声に、
上条は肯定も否定もしなかった。

もう一度半身振り返ってはただニヤリと笑い。


上条『―――祈ってろ!』


叫び、すばやく前に向きなおして右手を掲げ、幻想殺しを稼動。


あとは魔狼の勢いに任せて―――門へと突貫。


そうして大きな門扉が叩き開けられる衝撃に震え、
壮烈な激戦地帯に飛び出した上条当麻と魔狼。

凄まじい勢いで彼らの身が、そのまま―――
魔塔の門前に広がっていた『靄』の中に突っ込んだのは、決して偶然ではない。


その右手が向かう先で『靄』が急に晴れ、巨大なカマキリが姿を現したのも。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:48:51.40 ID:1J5YsII6o<> ―――


ネロ『―――』

あの魔女は一体何を企んでいるのだ―――そう思った矢先のことだった。

しつこく突破しようとしてくる靄を相手にしていたところ。
突如背後、門の向こうから急接近してくる気配―――そして開け放たれる扉。

自分の使い魔を見紛うはずもない、
誰が誰を背負って飛び出してきたのかはすぐに把握できた。

そしてこの状況が意味することにも瞬時に気付き、
彼は胸の内で悪態をつき罵った。


『ハメられた』、勝手になにしやがるあのババア、と。


確かにあの少年をこの戦場に呼び寄せる以外に選択肢は無さそうであったも、
それにもやり方というものがある。

こんな乱暴で危険極まりないやり方なんて―――ただしある点に置いては、
ネロもこれは上手いと納得せざるをえなかった。

意表を突かれたのは、ベルゼブブも同じだったことである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:51:43.42 ID:1J5YsII6o<>
叩き開かれた扉、そこから飛び出してた―――上条当麻を載せた魔狼。
ネロの脇を突きぬけ、そのまま前方の靄の中に突貫。


―――そして晴れる『靄』に、暴かれる―――ベルゼブブの姿。


その異形の顔からでも充分にわかる。
実に愉快で素晴らしい、最高の表情を浮べていた。

もちろんベルゼブブ本人にとっては間逆、唖然としたものであったろう。


ネロはその光景を前に今一度ベヨネッタを罵り、次いで称賛した。

あんたほどのイカれババアが、
至高の快楽よりも至上の大義を優先したその心意気を評価しよう、と。

これほどの相手との戦いをあっさり終らすのはもったいないも、
やはり戦乱の早期終結には代えがたいものだ。


そうしてネロもこのベヨネッタの無茶な要求に応じ、急展開にアドリブながらも完璧に対応した。

靄に触れた上条・グラシャラボラスが、
ベルゼブブの脇をすれ違うかという刹那。

すぐさまデビルブリンガーでカマキリの細長い胸を鷲掴みにし。


ネロ「―――Good to see you!! Fucker!!」


火を吐くレッドクイーンをもう片手で振り構えながら、
ようやく面と向かっての挨拶を行った。

同時に『別れ』の意も丁寧に篭めて。
そして刃には『一撃必殺』の力を篭めて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:53:27.43 ID:1J5YsII6o<>



上条『―――ッ!!』

門から飛び出した後は、
もう何が何だかわからなかった。

周囲に溢れるとんでもない力の塊、それらの衝突によって生じる衝撃。
天魔入り乱れる苛烈な戦場は、
とても即座に全容を把握できるような空間ではなかった。

『靄』に触れた瞬間、幻想殺しが解析し、
瞬時に構造を破壊したことだけははっきりしていたものの、
あとはまともに考えてはいられなかった。

ぱっと目の前に巨大なカマキリが出現したと思ったのも束の間、
そのそばを通り過ぎるよりも速く青光の巨腕が鷲掴み。


そうしてすれ違う瞬間、上条は視覚無くともあらゆる知覚の端で捉えた。

ベルゼブブを飲み込むように迸る閃光を―――

―――やっと獲物に喰らいついたことで、
それまでの鬱憤を晴らすかのように爆発するスパーダの孫の力を。


そして全ての知覚が消えた―――のは錯覚だ。


次いだネロの力の圧倒的な衝撃によって、何もかもが塗り潰されたのである。


そんな凄まじい噴火を後ろに、
上条をのせた魔狼と滝壺たちをのせた土御門は真っ直ぐと突っ走っていった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:55:31.21 ID:1J5YsII6o<>
前方にいるのは、ベルゼブブ配下の大悪魔達だ。
まともに激突すればグラシャラボラスといえども多勢に無勢である

だがこのときばかりは、彼らは親切に道を空けてくれた。
もちろん本当に上条達を通そうとしたつもりではない。

主たるベルゼブブの力が突然解除され、その張本人が大悪魔に乗って激走してくるのだ。
そんな未知なる相手を認識した瞬間、
考えるよりもまず反射的な回避が先に行われるものである。


だがジュベレウス派の者達は違った。

上条当麻には相応の力をもって向かえば恐れるに足らずと知っており、
そして彼の背後、土御門の背にいる少女のことも完全に把握していた。


ゆえに親切に道をあけてくれるどころか、その逆の行動をとる。

それこそがベヨネッタの『ついで』のもう一つの狙いであり、
滝壺達にも餌になってもらった理由であった。


―――魔塔の門から一直線、戦場を貫きゆく上条達。


その中の滝壺という餌を見て。
のらりくらりと様子を伺っていた天の大物がついに前に出てきてしまう。

息つく暇もない一瞬の間に魔塔の門を出で、
ベルゼブブの横を抜け、大悪魔達の間を通り―――そして次に上条達が前方に対面したのは―――『拳』。


振り下ろされてくる―――四元徳の巨大な拳である。


―――次の瞬間、節制による鉄槌が炸裂した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 01:58:19.32 ID:1J5YsII6o<>



―――その瞬間は、さすがのベヨネッタでさえもヒヤリとくるものがあった。

この作戦はかなりの無理があるということは、
立案した本人として重々承知であったも、それでもゾクリと来てしまうものだ。

ただし彼女にとってそれは不快な感覚であるとは限らない。
スリルもまた刺激的なスパイスになり得るからである。


特にこのように――――――間一髪のところで『大成功』となった際は。


ベヨネッタ『―――Huuuuh!!』


身を走るヘビー級の衝撃とスリルが魅せた快感に、
魔女は溜まらずに声を放った。


―――両腕を交差させ―――テンパランチアの拳を受け支える下で。


これにて上条達の激走劇は終点を迎えた。
ベヨネッタの背後で魔狼と白狼が、それぞれ四肢を踏ん張って急制動。

魔女が支える拳を見上げる形で停止した。


ベヨネッタとテンパランチアの動き、その差はほんの僅かだった。
上条が認識した節制の拳との最接近距離は実に10m少しにまで縮んでいたのだ。

ほんの一瞬、あともう少しベヨネッタが遅れていれば、
上条も魔狼も土御門も、その背の滝壺と浜面も皆が叩き潰されていたに違いない―――


筋書きの挑戦を受けた極限の勝負―――その危険な一戦に、
皆が真っ向から力ずくで勝った瞬間だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 02:02:14.07 ID:1J5YsII6o<>
直後、テンパランチアもこれは罠だったと気付いたようだ。
だが遅かった。

彼の判断よりも―――ネロの『アドリブ』の方が遥かに早かったのだ。

滝壺をしとめ損ねたとわかるや、
即座に嵐を纏い後方に離脱しようとするテンパランチア、しかし果せなかった。

いや、結果的にはベヨネッタから距離を置くことを達成できたも、
それは彼が全く意図していなかった形によるものであった。

刹那。


遥か後方から砲弾のように飛んで来た―――デビルブリンガーの巨拳が、節制の巨顔を叩き潰した。


―――僅かなうめき声すらも許さない、完全に顔面を陥没させる一撃だ。


激音ながらも鈍く痛々しい激突音が轟く中、
城のごとき巨体が転げ飛んでいく。

しかもただ殴り飛ばされただけではない。

ネロのデビルブリンガーはそのまま伸びて、
テンパランチアの肩の基部をがっしりと掴んでいた。


つまり節制は完全に捕縛されたわけである。
もう距離を置き様子見を行うなんてことはできない。

ベヨネッタが告げた『彼の番』がついに訪れた瞬間だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 02:04:27.22 ID:1J5YsII6o<>
大悪魔達は突然のベルゼブブの突然の死に震撼し、
上級三隊はその爆発したネロの力とベヨネッタにただただ圧倒されるばかり。

そのようにしてこの瞬間、一切の邪魔が入らない時間が生じた。


        新月の闇にて死を貪る王よ
ベヨネッタ『TELOCVOVIM AGRAM ORS!!』


少しばかり手のかかる召喚だって充分にこなせるくらいに。


        汝の名の下に 断罪の鉄槌を
ベヨネッタ『ADNA OVOF BALTIM GIZYAX!!』


ネロが押さえつけている間にすかさず舞い踊り、
『ある存在』の召喚式を組み上げていくベヨネッタ。


纏っていた黒きボディスーツが黒髪の束へと変じ、広がり伸びて―――遥か天空に特大の魔方陣を形成させる。


その規模は、なんとテメンニグルの塔よりも『太い』ほど。


          コンパクトに
ベヨネッタ『―――OBZA!!』


そうしてかかとが打ち鳴らされたのを合図に召喚式は稼動、
『それ』が魔界の深淵から引き出された。


魔界の力場が形を成した―――『クイーン=シバ』が―――『コンパクト』に『腕一本』だけ。


ただし『コンパクト』とはいえ、
その右肘までというだけでも、テメンニグルの塔とほぼ同じ大きさがあった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/23(月) 02:06:50.00 ID:1J5YsII6o<>
魔界の力場を引き出すという常軌を逸した大技を前にしては、
上級三隊たちはもちろん、
名だたる武人である大悪魔でさえもただ唖然と見ているしかなかった。

そしてテンパランチアにできることは、
潰れた顔面からなんとか―――この超級の拳を見上げて、己の死を覚悟するだけ。

顔面を潰されただけで、その身はまだなんとか戦うことはできたであろうも、
この魔界の力場に捕捉された時点でもはや無意味だ。


敗死はここに確定されたのである。


ただし、その自身の終末をじっくり味う猶予なんかは与えられなかった。

ベヨネッタは愉悦を求める様式よりも合理性を優先して、
溜めも前振りもなしに必殺技をぶっ放すのだ。
そこまで我慢しているのだから、彼女が親切に最期の『祈りの時間』を与えるはずもなかった。


テンパランチア『―――我らが主神ジュベレ―――』



           コイツをぶっ潰せ
ベヨネッタ『―――IA-IAL IADPIL!!』



主神の栄光を称える最期の言葉すらも、魔女は最後まで待ちはしなかった。

節制の声に重ねられた号令により、
即座に振り下ろされた超級の拳。


四元徳の巨体は虫のように叩き潰された。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/23(月) 02:07:20.92 ID:1J5YsII6o<> 今日はここまでです。
次は水曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/23(月) 04:55:51.29 ID:ETCekoKF0<> 乙乙乙

ベルゼブブとテンパランチア…
噛ませ犬かと思いきや噛ませてすらもらえなかった… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/23(月) 08:48:34.02 ID:8YOSynmyo<> ふおお、たまらんな。乙!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/23(月) 10:00:33.87 ID:9r6G8mcKo<> お疲れ様です。なにこのスーパー魔界大戦Z・・・
そして滝壺さんはともかく、この嵐の中、浜★面は正気を保てるんだろうか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/23(月) 11:12:12.32 ID:q/DNZ64IO<> 天界勢終わり過ぎw <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/04/23(月) 11:20:59.29 ID:EJb6rSin0<> 乙

浜面さんは絶賛ポルナレフ状態だろうな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:47:53.56 ID:D9XCEycfo<>
―――

テメンニグルの塔の遥か地下、
悪魔さえもほとんど足を踏み入れたことがないであろう闇の最深部。

いや、『生きた悪魔さえ』と訂正するべきだろう。


そこは広大な『墓穴』だった。


底を覆うは腐りきった悪魔の死骸の原である。
通常、悪魔の肉体は魂の消滅と共にしばらくしたら消えてしまうものなのだが、
この永劫の監獄としても使われた塔の底では、
死してもなお醜態な姿を晒され続けるのだ。

もっとも古き亡骸は魔女が魔塔を建立した万年前に遡るが、
その最古のものを含めて『全て』がいまだに『腐り続けている』。

そして墓穴の空気を満たすはしめった強烈な腐臭。
死した悪魔達の怨念と狂気だ。

それら渦を巻き、道連れの者を求めて蠢きうめく腐肉の海、
そのただ中にはある孤島、ちょっとした舞台とも言える円形の台があり。

そこに、またしても魔塔の悪しき運命に囚われ堕ちた者が二人―――
―――アーカムとレディが折り重なるようにして、落下してきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:49:27.39 ID:D9XCEycfo<>
アーカムの胸を貫いたままのロケットランチャーの刃が、
そのまま台の石畳に突き刺さり、彼の身を磔に。

レディはその彼を砕かんばかりに踏みつけ、灼熱の視線を差し向けた。

すると彼はレディの瞳を、そして身を眺めてこう言った。


アーカム「……そうか―――」


これまでのように狡猾に相手を苛むためではない、
ただ純粋に納得した独り言のように。


アーカム「―――お前は……私の娘だな」


歪み濁りきっていながらも、心から『父』としての声で。

レディ『……』

その言葉については同感だった。

こちらだって同じように納得させられていた。
これほどまでの魔の適性、
そして秘められた暴力的な深層意識は間違いなくアーカムからのものだと。

己の悪魔の身が証明している。

この男は間違いなく父親だ、己はこの男からはじまったのだ、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:51:21.02 ID:D9XCEycfo<>
アーカムの方もいまや同じ考えだったようだ。

かつてアーカムの目に映っていた敵はダンテとバージルであり、
レディという小娘は単に『鍵』にしか過ぎなかっただろう。

単純に血縁は認めてはいたも、そこに一切意味を見出してはいなかった。

だが今はもう違っていた。

レディを見上げる瞳に宿っているのは悪魔の暴力性に人間の暗黒面である欲望、
だがそれらが乗せられている眼差しは、間違いなく父親としてのものだった。

20年以上もの時を経て父親は娘を、娘は父親をここに認めたのである。


ただし『絆』が復活されたからといって、それが親愛なものだとは限らない。


彼らの繋がりにあるのは、
遠い昔に愛したがゆえの灼熱の憎悪。
幸せな日々だったがゆえの底なき悪夢―――


アーカム「やはり血は争えないな」


―――そして明確な殺意。


改めての『宣戦布告』は、レディの腹部に叩き込まれた凄まじい蹴りによって行われた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:52:46.86 ID:D9XCEycfo<>
レディ『―――ッ』

ランチャーを手放すことなく勢いに任せては引き抜き、
宙を翻って10mほどの場所に降り立つレディ。

立ち上がるアーカムの姿、そしてその瞳をすばやく見返して彼女は確信した。

アーカムはもはや自身が消失することを厭わない。
『野望』よりも『家族』を優先し―――父親として娘を殺す気だと。


かつてここは幽閉墓所としてだけではなく、
処刑場・闘技場としての側面も兼ねていたようだった。

魔女たちにより、罪人を死ぬまで戦わせるという催しが行われていたのだろう。

腐肉の海に浮かぶ直径20mばかりの処刑台は、
闘争と憎悪の血で結ばれた家族にはまさに相応しい場所か。

勝負は短時間のうちに終るとレディはわかっていた。
アーカムは胸に強烈な一撃を受けているし、
こちらの身はアーカムの手による転生で、しかもいまだ完全に安定はしきっていない。

すでに双方とも非常に不安定な状態であったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:54:46.08 ID:D9XCEycfo<>
父と娘の殺し合いが始まった。


低く身構えたのち、人の領域を超越した瞬発力を解き放つレディ。
左手のサブマシンガンで弾幕を張りつつ、
その弾に追いつくかという速度で一瞬で距離を詰め。

アーカムめがけ、片腕で小枝のようにランチャーを振るった。
図太い銃身が棍棒となって、石畳を大いにうち砕く。

だがそこにアーカムの姿はない。

彼の身があるのは2mほどのすぐ頭上。
そしてレディの顔面へと、長き足の蹴りを風車のように放つ。

対し、すかさずランチャーの手元を浮かせつつ身を低く捻り落とすレディ。
この大砲を『背負い盾』として蹴りを防ぎ、
ほぼ同時にもう片手のサブマシンガンを発砲、容赦なく魔弾を叩き込む。

しかしこのカウンターとも言える一連射も、
ランチャーを足場にされ、ひらりと後方に翻られて回避されてしまった。

だがレディの反応も早かった。

術式による補佐など必要ない、
ただ純粋な反射神経でアーカムの動きに対応していく。


彼女も即座に前に踏みだし、
後方へと翻ったアーカムとの距離が一定に保たれるほどの速さで駆け。

そして彼が降り立ったと同時に・
その腹部にランチャーの突きを先頭に、『悪魔の身』ならではの至近戦を挑んでいった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:56:14.24 ID:D9XCEycfo<>
両者は、呼吸すらも忘れたかのように僅かな声すらも漏らさず。
ただ殺意にのみ身委ねて手数を重ねていった。

ランチャーを棍として凄まじい速度で振りぬいていくレディ。
かたわら直感的に魔弾を放ち、
相手の行動を予測した未来位置に弾頭を『置いていき』、
動きの選択肢を封じていく。

対しアーカムも力を集束させた手刀によって魔弾をはじき、
目にも留まらぬ体術で応戦。

跳弾や衝撃で石畳に亀裂が走り、
平らだった処刑台を歪な岩場へと変じさせていく中、
両者かわしては激突し合い、魂の闘争を繰り広げていった。

父子の絆を確認し、その繋がりで相手を『縊り殺す』べく。


ただしその戦いは、傍目には互角に見えようとも、
実際は確かな差が生じつつあった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:57:38.05 ID:D9XCEycfo<>
一方は大悪魔の力を手に入れた、人類トップクラスともしても過言ではない魔術師。

だがもう一方は『それ以上』だった。

業界内では人類最強のデビルハンターと称されるほどの、
20年間以上にわたる無数の死線の経験と、過酷な修練によって磨き上げられた技術。

人の身のままそれらを用い、時には大悪魔にも相対するほどの戦士である。

そんな者が悪魔の力を手に入れたとなっては、
例えそれが与えられたもので不安定とはいえ、示される戦闘能力は計り知れないものだ。


現にここに浮き彫りになりつつあった。


確かに娘は、これまで父には勝てなかった。

しかし同じ女性―――カリーナの血を捧げての悪魔化という、
同一の条件のもとに殺意を交えたとき。

関係は明らかに逆転した。

特定の分野に置いてはそうとは限らないも、
総合的な見方をすれば今や堂々とこう断言できるものだった。


―――娘は父を超えていた、と。


戦いの中、ついに決定的な瞬間が訪れた。

研ぎ澄まされた技術による直感的な計算、
それによって放たれた魔弾の一つが、ついにアーカムの首元を貫いたことで。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 00:59:03.74 ID:D9XCEycfo<>
超至近距離からの一発、
その一瞬の怯みが、勝敗を確定的なものにする。

アーカムに生じた僅かな反応遅延。
次いだレディの一手目、飛来してきた魔弾は手刀で弾けたも、
続く二手目への対応は追いつかなかった。

レディの動きを察知し、すかさず飛び退こうとしたアーカム。
しかし間に合わず。

彼のわき腹に、振るわれてきた『棍棒』―――ランチャーの銃身が直撃。
その骨をうち砕き、身を捻じ曲げ、さらなる反応遅延へと連鎖。

その瞬間、表面的な拮抗すらも完全に崩れ去り、
戦いは終幕へと一気に転がっていく。

横後方へと吹っ飛ばされるアーカム。
倒れることなく足を踏ん張り、5mほど押し込まれたところでなんとか留まるも、
もはや攻勢には転じれず。

絶え間なく放たれてきたサブマシンガンの魔弾を、
避けるどころか弾くことすらもままならず、
盾として腕を犠牲にするしかなかった。


そしてその肉の盾すらも―――続けざまに飛来してきた『刃』によって貫かれた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:01:19.49 ID:D9XCEycfo<>
腕を貫通し胸、傷穴に重ねられて深く突きささる刃。
それはランチャーから射出された、鎖つきの刀身だった。

繋がれたと気付いたときには遅かった。

アーカム「―――」

鎖には術式に加え強烈な魔の力が宿っているため断ち切ることは出来ず、
また腕をも貫いているため、すぐに引き抜くことも不可能。

そうして成す術もなくぐんと引かれた先、
鎖が巻かれきり、刃が射出元に再び納まる機械的な音が響き。

アーカムは、自らの胸に突きつけられている図太いロケットランチャーを見た。

その向こうにある娘の顔も。



瞬間、何かしらの言葉が交わされることもなければ、
感慨の間も生じはしなかった。

互いに相手の表情を読み取ろうともしなかった。

そこに含まれていたのが家族間の血塗れた憎悪であっても、
戦いの内容、特に終わりは、機械的とも形容できるほどに淡々としていた。


父を引き寄せランチャーを突きつけた娘は、一切間を置かずに引き金を絞り。


『悪夢』に幕を引いた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:02:42.82 ID:D9XCEycfo<>
迸る爆炎、轟く爆轟、木っ端となるアーカムの上半身と。
残されレディの足元に転がる下半身。

レディ『―――……』

凄まじい至近距離の炸裂は、
レディのジャケットの表面をも焼き、いくらか破き飛ばしてしまっていた。

そしてそこから落ちる―――小さなコインが一枚。

ダンテから預かった1セント硬貨である。

それがアーカムの下半身の傍へと落ち、鈴に似た音を奏でた。
前の持ち主に似て妙に軽々しく、茶化すように景気良く。

レディ『……』

彼女は咄嗟に拾い上げようとしたも、
そんな風に転がっていく様子を見て手を止めた。
まさに前の持ち主の意思が宿っているように見えたのだ。

彼女は屈みかけたところを、また立ちなおして。



レディ『それ……ダンテからよ。驕りだって』


そうして言い切ると同時に、
アーカムの残骸は蒸発するように掻き消えて行った。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:04:53.08 ID:D9XCEycfo<>
こうしてアーカムという過去の影は消え去った。

あの男が敷いた術式は全て、彼の消失と共に瓦解していくはずだ。
強引に開かれていた魔界の門も閉じ、悪魔の流入も停止。

人間界はまた一つ大いなる脅威を退けることができるだろう。


そして彼女自身も―――『悪夢』から覚めるときが訪れた。


レディ『―――……」


始まりは悪魔の力の減衰。
それからの変化は急激なものだった。

力の喪失と入れ違いにずっしりと重くなる肉体に、
鈍化していく知覚。
そして強弱は変わらずとも、明らかに意識の中の占有率が増えていく節々の痛み。

間違いなかった。

いまやその身が人間に戻りつつあったのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:06:43.04 ID:D9XCEycfo<>
理由は単純だった。
アーカムというもはや存在しない男が、存在しないカリーナの血を使って行った転生術。

例えそれらが厳密には過去からの幻想であれ、
まがりなりにも現実として存在していた間は効力は存続する。

しかし現実ではなくなり、本来の『すでに存在しないもの』となってしまえば途端に消え去ってゆく。
『現実世界』の自己修復能力とも言えるか。

魔界の門をこじ開けた術式と同じく、
レディの身に叩き込まれた転生術式も消え去り、その効力も消滅したのだ。


レディ「……ぐッ……う……!!」


しかし一方、その人間への回帰も『半端』なものだった。

これも理由は単純なもの。

アーカムに手引きされたとはいえ、
レディの魂が魔に呼応したのは正真正銘の『現実』なのだから。


そしてその魂から生じた―――魔の力も。


例えアーカムが夢幻として消え去ろうとも、これだけは消えやしない。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:11:42.33 ID:D9XCEycfo<>
レディ「がッ……ぁ……」

この凄まじい痛みは、
先に胃袋で炸裂された『保険』の毒の残りカスによるものだろう。

『人間ならば即死する』苦痛の中で、彼女はイヤというほどに実感させられた。


この『悪夢』から完全に覚めることは、死ぬ以外に叶わないのだと。


アーカムの娘であるという事実、
あの男の存在を『悪夢』として押し込んでいたことへの、
彼なりの『父としての報復』にも思えてくる。

現に、片足を『悪夢』に踏み込みながら生き続けねばならないのだ。
これから死ぬまで永劫、寝ても覚めても、そして戦いの中でさえも、
アーカムという父親の影を引き続けるのだと。

レディ「……は……あは……」

ただし『罰』とも言えるとはいえ、もはやレディにとってはあまり苦痛でもなかった。
『凶悪なアーカム』が『父親』と同一人物だということはもう受け入れきっている以上、
なんの精神的ストレスにもならない。

それどころか妙に滑稽に思えもした。

同じじゃないか、と。
もうかれこれ20年間つき合ってきたあのデビルハンターと。


―――『父親』の影に囚われ続けている『半人半魔』だ、と。


唯一の相違点は、父親は『英雄』ではないことか。
ただしそれも見方によっては『同じ』とも言える。


スパーダは魔界から、アーカムは人間界から見れば両者とも同じく―――『反逆者』であるのだから。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/26(木) 01:14:32.11 ID:D9XCEycfo<>
そのように毒の傷みに苛まれ、
屈みこみながら自らの境遇を笑っていると。

ケルベロス『―――……ふむ。半魔の身か』

ぼそりと響く声。
この大悪魔が余りにも弱っていたこともあってか、
バックパックに彼を閉まっていたことをしばらく忘れてしまっていた。

レディ「……ああ……そういえばいたんだっけ」

ケルベロス『すまぬな。手を貸せなくて』

レディ「……いいわよ」

そもそも誰にも手出しさせないつもりだったのは、
この氷結の魔狼もわかりきっていることだろう。
謝罪は一応のものというわけだ。

ケルベロス『支援は呼んでおいた。その状態では、しばらく一人では動くことはできまい』

そして仕事が終われば、いくらでもお節介を焼くつもりというわけか。

無論、こちらも今さら意地は張らない。
確かに誰にだって、絶対に他者には踏み込ませない領域というものがあるも、
この世界はそれだけでは生きてはいけない。

レディ「……」

この際だ、このまま墓所に突っ伏していても仕方ないから充分に甘えさせてもらおう。
ただしそれでも誰でもいいというわけではないが。

この時、降り立ってきたのが―――魔馬に跨ったこの少女で本当に良かったところだ。


五和「レディさん!!大丈夫ですか―――?!」


もしダンテなんかが来ていたら、
かなり悔しい思いをしなければならなかっただろう。


あの男にはもう二度と、情けない姿は見られたくはなかった。
理由はどうであれ。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/26(木) 01:15:54.76 ID:D9XCEycfo<> 今日はここまで。
次の土曜投下予定の分で第二章は終ります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/26(木) 01:18:31.44 ID:9WX8sVxDO<> うおあああ乙!
今夜も最高だぜ…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/26(木) 01:40:45.46 ID:dK3V3RNH0<> 乙でしたー
次も楽しみにしております <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/26(木) 11:44:46.36 ID:LM0pIg6yo<> 乙!楽しみに待ってる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/26(木) 18:56:31.44 ID:HVFvTXd2o<> お疲れ様です。五和ちゃんマジスーパーサブ。
それにしても後1章+αで終わっちゃうのか・・・寂しい限りだ。とは言えまだまだ楽しめそうだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/04/27(金) 20:37:08.66 ID:7dM/G94P0<> 乙!トモノリとハルナと舞ってる! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:39:33.89 ID:DZ+Ys0t5o<>
―――

勝利を喜ぶ暇もなく、
上条達はすぐに魔塔へととんぼ返りしなければならかなった。

ベルゼブブとテンパランチアは倒れたも、
いまだ相当数のこれらの配下が魔塔の周囲にいたからである。

上級三隊は中には戦意を喪失して撤退する者がいるなど、
その勢力は瓦解しつつあったも、大悪魔達はそうもいかない。

ネロとベヨネッタの圧倒的な力を目の当たりに驚愕、
そうして一時硬直することはあっても、恐怖で戦意喪失などはしない。
むしろ主が討ち取られたことへの怒りが上乗せされ、
いっそう激しく戦いを挑んでくるのである。

ネロとベヨネッタとラジエルら天使たち、
そこに負傷の身ながらもサンダルフォンとイフリートが戦線復帰したとはいえ、
上条達の保護に手を回すには厳しいものがある状況だった。

ただし、そのゆく末はいまや明るかった。
少なくとも土御門にはそう思えた。

流れが確定したのだ、と。


土御門『―――……』


上条を乗せた魔狼に続き魔塔に飛び込む直前、
天空の魔界の門が閉じるのを見て、彼はそう確信した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:42:02.61 ID:DZ+Ys0t5o<>
上条『……』

また上条も、視覚で捉えはせずともすぐに把握できていた。

上級三隊はもはや撤退しつつあり、
あとは残った大悪魔達を倒せば、
ようやくこの天魔人の戦争に―――『勝った』と言えるかもしれない。

複数の大悪魔との戦いは確かに激しいものになろうも、
ネロとベヨネッタがいればあまり時間もかからずに殲滅させられるであろう。
特に、彼らが戦いの内容よりも短期終結を優先している今ならより早く。


土御門『……ひゃー、とりあえず……ってところか』

魔塔の中、門前の吹き抜けに再び戻ったところで、
土御門はためにためていた緊張の息を解き放った。

床に腹つけて座りこみ舌を出すその姿、
印象については狼よりも『犬』らしいか。


上条『……』

その『大きな犬』に乗っている滝壺理后は、
白い毛皮の背に胸と腹すべてと頬をつけ、しっかりとしがみ付いていた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:43:13.98 ID:DZ+Ys0t5o<>
上条は対象を映像としては認識できなくとも、
その造形などは魔の知覚で充分に把握できる。

それにより、このときも滝壺の表情を把握することが出来た。

実に眠そうに思える彼女の顔を。
柔らかな白狼の毛に頬を埋めているその様子だと、余計にそう感じてしまう。

だがそれは表面的なものであり、
彼女は彼女なりに今の一連の出来事に衝撃を受けていたようだ。

上条『……』

圧迫感や混乱などの気の乱れ、それによる鼓動の加速や緊張などが、
滝壺の気配にはっきりと滲んでいたのである。

ただしそんな彼女の『恐怖』も、
背後のもう一人が放つ空気に比べればずっと堪えているものである。


浜面「お、お……お……終ったのか?」


滝壺の背に覆いかぶさる形でしがみついていた少年、
浜面仕上が半ば裏返っている声を発した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:45:47.56 ID:DZ+Ys0t5o<>
上条『……』

上条にとっては今や、
その声を『以前どこで』聞いたのかを思い出すのは容易なことだった。

すぐに気付いた。
この少年は、前に右手でぶっ飛ばしたことがある、と。

ただし相手は気付いていないよう。

それも仕方ないかもしれない。
ここまで超高密度の力の大気の中を超高速で突っ切って来たのだ、
土御門の力で保護されていようと常人には厳しいものがある。

そんないまにも失神してしまいそうな状態で、すぐに気づけというのが無理がある。

上条はここでは特に言及はしなかった。
相手のほうも無理に掘り出してほしくはないだろう。
こちらが右手で殴ったという点が示す、初めての出合った際の状況もあって。


上条『ああ。大方はな。でもまだ終わりきってはないから気をつけてくれ』

上条は魔狼の背から降りながら、
戦々恐々としている少年へと声を返した。

ただしこの返答についても、『何』が終ったのかは理解していないだろう。
滝壺の方はこの領域を能力化においているのだから、
リアルタイムでなくとも状況把握は充分にできるであろうも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:47:05.24 ID:DZ+Ys0t5o<>
浜面「そ、そうか」

土御門『まだ降りるな。警戒しておけ』

そう起き上がりかけた少年へとすぐに向けられた土御門の言葉。
彼は鞭で叩かれたようにまたしがみ付きなおした。

滝壺「はまづら、苦しい」

浜面「……っとと、すまん」

やや強すぎた勢いで。


それからしばらく、みはな一言も交わさなかった。

上条『……』

土御門『……』

時間にして十数秒程度だろうか。
それはようやくの状況分析と理解、
精神の安定化のために必要な間だった。

扉向こう、外から轟いてくる凄まじい地響きの中、
それぞれが己の頭の中を整理していった。

土御門はその冴えわたる『嗅覚』で魔塔内部の仲間たちの無事を確認し、
滝壺は自身の能力と虚数学区、そして戦線の全体状況をくまなくチェック。
その彼女に覆いかぶさる形の浜面はなんとか呼吸を落ち着かせ。


そして上条当麻は、ついに―――自分の『使命』を果すときが訪れたのを悟った。


魔塔の外が静かになったのを聞いて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:49:08.59 ID:DZ+Ys0t5o<>
土御門『終ったようだな』

くんと鼻先を動かして呟く白狼。
彼の言うとおり外の戦闘は終了したか。

上条もまた、視覚を省くあらゆる知覚で同じく結論つけることができた。
味方以外の大悪魔の気配は感じられず、
それまで渦を巻いていた濃密な力の大気も、いまや大きく退きつつある。


上条『……ああ』

そうして胸に湧くのはようやくの実感。
天界のジュベレウス派は事実上の崩壊、魔界からの侵入も停止。


とうとうこの『戦争』に人間界は勝ったのだと。


単に脅威が掃われたという以外にも、上条にはそこに様々な意味があった。
この争乱の原因の一端は古の自らの行いでもあり、
またインデックスを含む魔女と天界との因縁をある程度の形で清算するものにもなり、
そして人間界をとりまく環境、天界とのかかわりも一変したのである。

天界の主導権はジュベレウス派から穏健派である反乱勢力に移るであろうから、
人間界との関係もこれから大きく改善されるに違いない。

長きに渡って硬直しきっていた諸問題がようやく、ようやく前進したということだ。


それも筋書きが狙っていたような破滅的な形ではなく、
こうして大多数の命と人間世界を保持したまま。

ただしその筋書きに関してはもう一つ、
最後にもう一つの戦いを越えなければならなかった。


今度は人間界の戦いではなく―――上条自身の戦いだ。



筋書きがもつ最後の駒、『キング』の―――竜王を討ち倒さねばならない。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:52:01.24 ID:DZ+Ys0t5o<>
上条は黙ったまま、手際よく銃の確認、
そして体と力の点検調査を始めた。

相手は創造・破壊・具現を有する存在。
いまやスパーダの一族と同じ領域にある怪物である。
そんな存在に比べてしまえば、確かに己の力など塵に等しい。


しかしこちらには―――幻想殺しがある。


またこの右手が例え無くたって、上条は迷わずいくつもりだった。

どうであれ戦わねばならないのである。

そうしなければ『宿命』は変えられない。
本来は『もういないはず』の役者である己が、その極限の舞台に立つ。
それ自体が大いなる意味を持ち、それこそが上条当麻が自らに見た使命である。

そして何よりも、ごくごく個人的に、


上条『……』


竜王の、いや、あのフィアンマの高慢な顔を―――もう一度ぶっ飛ばさないとどうにも気が済まない。

一回負かしただけでは足りない。
決して許しはしない。

一時的であれ、インデックスを傀儡とし兵器として扱い、
彼女を死ぬまで使い潰そうとしていたあの男だけは絶対に、何があっても。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:54:43.93 ID:DZ+Ys0t5o<>
がこん、と重々しい音を響かせて開かれる扉。
姿を現したのはネロだった。

彼は扉に手をかけたまま、
今まで壮絶な戦いを繰り広げていたとは思えないくらいに、
冷めた視線を向けてくると。

ネロ「『上』に行く。来るか?―――」

上条『―――ああ、もちろん』

即答だった。

またネロも、この筋書きまわりの状況を良く理解していたよう。
特に話し合わせる必要は無かった。

ネロ「ついて来い」

そうしてネロはコートを翻すと、
入ってきたのと同じくまた淡々と外に出でていった。

その後を上条も同じ調子で追い外に向かった。


上条『じゃあ土御門、またな』

土御門『―――ああ。またな』

去り際、背後の親友とかるく言葉を交わして。
普段どおり、まるで下校の別れ際のように。

筋書きが認識できなくとも、ある程度この親友はわかってくれているのだろう。
彼と交わした挨拶の言葉には特に他意はない。

文字通りそのままの意味である。


『また会おう』、と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:57:29.31 ID:DZ+Ys0t5o<>
外に出でた上条は、ネロに続き魔塔の外壁を駆け上がっていった。

上条『……』

こうして彼の背を追いかけていると、在りし日のことを思い出す。
かつて学園都市における争乱の際も、
同じようにして彼の背についていったものだ。

と、そう思う出したところでふと上条は気付いた。


類似点はネロの背を追うだけではなかった。
似ている過去の事象も、学園都市の争乱のみだけではなかった。

上条はミカエル、ベオウルフの記憶を辿り、
そしてインデックスからの魔女が記した歴史を引き出して確信した。


竜王との決戦にはダンテとバージルも来るだろう、すると『こう』なる。


かつてスパーダが魔帝ムンドゥスの創造を破ったときと同じく、
魔女の時空間魔術を携えたスパーダの息子が現れ。

かつて学園都市にて行われたように、
終結したスパーダの血族に上条当麻の右手が加わり、圧倒的存在を討ち砕く。


そのようにただ重なるどころではない、『二重』の意味で過去をなぞり―――


―――誰しもが望む、完璧な形による大団円を迎える、と。


上条『―――』

信じたくはなかったも、
思考がここまで行き着いてしまった以上もう否定の余地はなかった。

今や己達は、逃れようがない罠に飛び込もうとしていたのだと。


竜王という駒を中心とした、筋書きの最後にして最大の挑戦。
再び流れの主導権を握ることが出来る、これぞ一発逆転を目論んだ切り札だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 22:59:17.94 ID:DZ+Ys0t5o<>
これを覆すには、これまで以上の行動が必要だった。
『絶対に有り得ない』ような、そんな行動が。

しかし果たしてそんな対抗策などあるのだろうか。

あることにはあるだろう。
大団円なんて、その中心になる人物のちょっとした選択で覆るものだ。

そして『大団円が覆る』ということは誰もが『望まない』、
何よりも中心人物たるダンテとバージル本人達が『望まない』、そんな選択となる。


上条『―――』

そこまで思考が至った時、上条は心が締め潰されるような感覚を覚えた。
ここにきてのあまりの『残酷』さに。

だが筋書き―――宿命にとどめを刺すには、『彼ら』にはその方法しかない。


ネロの方もちょうど同じくして気付いたのだろうか。
魔塔の頂上に降り立った頃には、彼の顔にも陰りが滲んでいた。

そんな彼へと、上条は問うた。


上条『…………なあ、ダンテとバージルは……』


いや、もはや問いですらない、それはただの確認だった。
事実聞くまでも無かった。


その時、神儀の間で『起こったあること』は、インデックスを通じではっきりと『見えていた』のだから。


そして『残念』なことにネロも即答した。
すべてをわかった上で。


ネロ「ああ、来ない―――」


これまで以上に冷ややかに。
それでいながら、語気には重く力を篭めて。


ネロ「―――二人は来ない」


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:01:09.01 ID:DZ+Ys0t5o<> ―――

魔界の深淵、煉獄の闇に浮かぶ神儀の間。

そこでは今、大掃除を終らせてきたばかりのベヨネッタとバージルの間で
仕事の引継ぎ作業が行われていた。

ベヨネッタ「人間界の標準時間で五分半よ。それ以上は無理」

バージルと時の腕輪による人間界基盤の時間軸抑制、
その役目を一時的にベヨネッタが担うのである。

ここまでで彼らの計画の消化率はほぼ99%に達していたも、
人間界の力場の再起動だけはまだ成されていなかった。

その前にやらなければならないことがあるのだ。
バージルが一時的にここから離れるのもそれが理由だ。


人間界の再覚醒よりも先に、竜王の排除を行うのである。

あの古竜はかつて人間界を支配していた存在だ。
残したままだとどのような影響を及ぼすことか。
またそれ以上に三神の力も有しているため、
ここまでの作業が最後の最後にぶち壊しにもされかねないのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:05:46.99 ID:DZ+Ys0t5o<>
バージルからベヨネッタへの引継ぎはすぐに終った。
魔女が同じように床に修羅刃を突き刺し、
青き魔剣士が閻魔刀をひき抜き鞘に納める。

アイゼン「わかっておるな。しつこいが五分半だ。ま、そなたらには充分な時間であろうが」

そうして魔女王の言葉に送られ、
二人のスパーダの息子たちは竜の討伐に戦いに赴く―――予定だったのだが。



ダンテ「―――……」

弟は気付いた。
いや、気付いていた。

ネロとバージルに続き、とうとう己が『選択』する番がまわってきたと。


ダンテ「……」

筋書きにとどめを刺す己の選択、
その内容は非常に成し難いことになるとわかってはいた。

しかし覚悟はしていても、実際に直面してみると、
やはりかなり堪えるもの。

ダンテの頭に浮かんでいた選択の内容は、最悪なものだったのである。
もはや思い浮かべているだけで腹立たしく、そして許し難い。


絶対に譲れない信念を、
この胸の中で守り続けてきた『人の心』を――――――『裏切る』必要があるなんて。


『人間の強さ』というものは時として―――『最大の弱さ』にもなってしまうことがある。
最強の魔剣士でさえも払拭できない『弱さ』へと。

この選択はまさにそこを突いて来ていたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:09:01.11 ID:DZ+Ys0t5o<>
だがそうでなければならないのだ。
究極の苦痛であり屈辱であり、どうにも成し難い条件でなければならない。

それだからこそ、筋書きへの究極の一撃になるのだ。

ダンテ「……」

しかし―――ダンテはここで迷った。


僅かな一瞬とはいえ、ダンテという男が―――ここで迷ってしまった。


『誘惑』に負けそうになってしまった。
筋書きに顔があったとしたら、それが脳裏に浮かんできそうだった。

―――どうだ?お前には不可能だろう?、とほくそ笑む顔が。

その通り、当然こんな選択なんてできるわけがなかった。
普段ならば例え死んでも思いつきもしない。

兄の後姿を見ていると瞬間、こう思ってしまう。


こんな選択など捨てて、『このまま』でも良いのではないか―――筋書きの望みどおり大団円を迎えても、と。


例え仕組まれたもの、
更なる大乱が再び訪れることが必然になろうとも。

それが今度こそ人類が絶滅に追い込まれるほどであろうとも、
それまで安寧を享受出来れば良いのではないか、と。


だがその微かな迷いも、当の兄によって叩き飛ばされた。
このまま黙ってやり過ごすことなんて到底出来なかった。

兄もすでに気付いていたのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:13:31.93 ID:DZ+Ys0t5o<>
こちらに背を向け、
移動用の魔法陣を浮べようと手を床にかざしたまま。
そこでバージルは動きを止めていた。


その空気の突然の異変には、周りの者達も気付いていた。
アイゼンは身を硬直させ、ジャンヌは得体の知れない緊張に警戒を示し、
ローラもインデックスを守る位置に動き。

筋書きを認識しているインデックスは、祈るようにゆっくりと目を閉じて。

ベヨネッタもまた、大きく息を吸うと目を閉じた。
これから起こることを理解し、とても見ていられないとばかりに。


ダンテ「……」

そしてバージルは動かなかった。
振り向きもせずただ悠然と立っている。

だが弟にとっては、それだけで兄からの意思表示は充分だった。


兄は告げていた。


お前の番だ、選択を果せ、と。



それがどれだけ頼もしくて、確かなものだったか。

その言霊で弟は―――すぐに決意した。


ああ、その通りだ、と。


兄と同じく『妥協』し―――命にかえてでも譲れなかった一線を放棄することを。


そうでもして筋書きを潰さなければ、本物の安寧は決して訪れないのだから。
更なる災厄と悲劇が未来に確定するのだから、必ず果さねばならないのだと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:15:51.22 ID:DZ+Ys0t5o<>
『ダンテ』が『ダンテ』である以上絶対に出来なかったこと。


それは―――『悪』になること。


      ヴィラン
すなわち悪役に徹し。


      ヒーロー
善を担う英雄を討ち砕くことだ。



ダンテ「Ha―――」


変わらぬ調子で、
いや、悪役であるためには変えてはならない調子のまま、ダンテは小さく笑い。


背の『反逆』を意味する名の魔剣に手をかけた。


あの竜王から究極の敵という役を奪うために。
全てを上回る負の因果を一手に担うために―――


唯一の救いは、『全て』をぶち壊しにする必要まではないであろうこと。
この『たった一つの選択』、『一時の悪役』は、それほどの影響力を有しているという点だ。


一人の父であり人間界の救世主でもある『英雄』を―――


―――不条理、不合理、狂気的とも言えるタイミングで滅ぼし。


栄えある一族の『英雄伝説』に―――『家族の血』で最大の『汚点』を記し、ここで幕を引く。


たった『それだけ』で、筋書きを完全敗北させるに充分な威力を持つのだ。

ただし『それだけで』とはいえ、
ダンテにとっては血の涙を流さねばならないほどの『悪夢』であるが。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/04/28(土) 23:19:49.18 ID:DZ+Ys0t5o<>
―――さあ、それではその悪夢の時間である。

何もかもをぶち壊しにしてしまえ。

この一戦には『人の心』は不要だ。
狂気に満ちた悪役に、残虐な悪魔に徹しろ。


父を、母を、甥を。

そして両親の忘れ形見である最愛の兄を――――――『裏切る』のだ。



―――――――――『反逆者』へと成れ。


バージル「―――ダンテ」


ゆっくりと振り返り。
閻魔刀の柄に手をかけ、呼びかけてくるバージル。

その兄の姿に、
若き頃ならば、噴火する心に耐えかねて咆哮したかもしれない。
兄に向けた次の声も怒号になっていたかもしれない。

しかしもう今は、そんなことなどない。

愛を知る人の心なんか完全に押さえ込み、押し潰し。
荒れ狂う身の内はひとかけらも表には出さず、ダンテは笑った。
普段のまま軽薄に、不敵に。


ダンテ「ああ、さっさと抜け―――」


そして先日の学園都市における衝突とは全く違う、本物の―――『殺意』を篭めて宣告した。


ダンテ「バージル、お前をもう一度―――」


ついさきほど、決して譲れなかった一線を『妥協』し、
家族と共に『生きること』を選択した兄へと向けて。


―――誰よりも救いたかった家族へと向けて―――



ダンテ「―――――――――――――――殺してやるからよ」



―――『死ね』と。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/04/28(土) 23:21:12.75 ID:DZ+Ys0t5o<> これにて第二章終了です。
第三章は一週間開いて来月の五日からとなります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/28(土) 23:22:40.50 ID:KKuqxOXlo<> お疲れ様です・・・今やっとわかった。本物の悪魔は>>1だ。
悪魔としか言いようが無いよう・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/04/28(土) 23:56:46.20 ID:4Lbqir6b0<> 一体ゴールデンウイークなにして過ごせってんだ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/04/29(日) 02:33:09.59 ID:+tUQccm5o<> あああああああぁぁぁぁぁ!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/29(日) 04:20:19.09 ID:fX3LPLJ2o<> ネロがいたたまれないな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/29(日) 11:24:05.73 ID:iZgtMky/o<> 乙
本当に>>1はすごいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/29(日) 12:28:00.09 ID:0YcpqsVU0<> 筋書き「やっぱり右方君じゃラスボスとしてちょっとねー」ニヤリ
夜神月ばりのドヤ顔してる筋書きさんが見える・・・! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/04/29(日) 17:43:58.15 ID:7v9xHE1Lo<> 違う違う。筋書きさんは「竜王THE右方くんマジラスボス!」でドヤりたかった。
で、ダンテが「おめーにラスボスの席やらねーから」でドヤった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/04/29(日) 21:48:38.44 ID:RX9t9WcWo<> うわああああああああああ
この1週間辛すぎだろwwwwwwww
何て>>1だ最低で最高過ぎる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/29(日) 23:53:02.90 ID:oTOKnPHDO<> ある程度ガチンコでやり合わなきゃ筋書き変えられないだろうからミ上条さん一瞬でぼろ雑巾の悪寒。
更にうっかり時間オーバーしたら虚数学区瞬時に消滅、更に学園都市中心に日本真っ二つになるだろうし。
ダンテさんマジマストダイモード突入だな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)<>sage<>2012/05/01(火) 10:36:53.13 ID:VOV5ngJJ0<> >>867
>>873

初めから読み直せばイイと思うよ
DeathNo!!!Yeah!!!とか言ってたのが懐かしすぎるww
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/01(火) 13:15:56.75 ID:j2rhitIDO<> 初期はDMC4の荒ぶる中年ダンテ、今はだんだんDMC2の寡黙なダンテに近づきつつあるような印象。
JudgementDeathNo!!Yeah!!と二の腕掴んでポーズ決めてたのが懐かしいww
トリプルJack Pod!!!は鳥肌立ったな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/01(火) 20:42:48.95 ID:e948RJwU0<> 乙
トリプルJack Podで思い出したけど相変わらずブルーローズの出番が来ないなwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 01:05:48.75 ID:lBo8LqKDO<> >>877
アリウスにとどめさしたのはブルーローズだからいいじゃないっすか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 03:22:08.82 ID:7N4tUK9IO<> 魔中年ダンテ
ダンテはやたら筋書きブレイクのハードル高いな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岡山県)<>sage<>2012/05/02(水) 06:22:02.11 ID:KLu3Mf/to<> ダンテがやろうとしてるのは筋書きの根っこを引っこ抜こうとしてるからじゃん?
上条ちゃんたちがやったのは軌道修正キャンセルだもの

イフリートそろそろ退場か・・・DMC1のコンビ両方とも消えてしまうんやなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/02(水) 13:25:14.92 ID:DGQB2Db2o<> 魔剣士筋書きブレイク工業
ネロ→『究極の破壊』スパーダをいらねーって言って叩き斬る 
バージル→この仕事は俺のものだ・・・俺だけのものだ!でも仕方ないから半分任せてやろう
ダンテ→愛故に魔剣士は裏切らねばならぬ!
・・・書き方の問題だが3者とも相当なハードルだよな。ネロにはまだ残ってるし。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 13:48:20.30 ID:XdcVRaiAO<> 善側に自ら立ったのは今回の戦いからのバージル
一族の力が覚醒してまだ4年そこそこしかたってないネロ
スパーダの意志を受け継いで20年以上最強ヒーローをやってきたダンテ

ダンテのハードルが高いのはこれまでの積み重ねでずば抜けて英雄性?が濃いせいもあると思う <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 23:53:08.89 ID:LLFZ+43DO<> 一方通行も今や神だもんな、ダンテに無理くり大事な女の写真見せろと脅されラストオーダーの写真見せて、
「Oh……」
とかネイティブにドン引きされてた頃が懐かしいぜ。

一年以上もこのクオリティを維持して連載してきた>>1さんは本当大したもんだよ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/03(木) 16:50:35.12 ID:7HQE6LkR0<> 魔帝VSダンテ・バージル・ネロ・上条とか
フィアンマVS上条・一方・ステイルの禁書奪還戦とか
ねこキングVSアマ御門・御坂・アックア・シルビアのデュマーリ島戦とか
熱い展開を続けてくれているのは嬉しい

あと俺…アスタロトマストダイも結構気に入ってたんだぜ…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<><>2012/05/03(木) 19:03:33.28 ID:afM+jhEh0<> 筋書殺しですかわかりません

>>1さんはもう脚本家になっていいと思う
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/03(木) 20:42:34.52 ID:HwG5Jhrn0<> >>885
禁書とかけてるのか
うまいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/04(金) 23:06:08.20 ID:DyOwyzUSo<> 見返してて気づいた。デュマーリ島編は戦いがどう転ぶか分からないギリギリ感が堪らなかった。
それでもメイン格は麦野、アラストルが死亡。倒したのはアリウス、ねこキング、トリグラフ。人造悪魔兵器も停止。
学園都市編は魔剣士、魔女の活躍でwwktkした。しかし味方側の死亡は特に無し。さすが筋書きブレイカーズ。
が、だんだん筋書きさんの魔の手が見え出してgkbrした。
この上げていってだんだん暗くなる感覚が最高だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)<>sage<>2012/05/05(土) 17:27:24.60 ID:EeXpZ2qAO<> 結局GW中だけで2周しちまった…

しっかしここのは何回読んでもいいね!
多分もう2桁は軽いけど未だにwktkが止まらん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:09:58.48 ID:JfmDtynuo<>
―――

人間の世界はいまだ、星一つない夜空に覆われていた。

ただの漆黒ではない。
今にも地上を押しつぶすかのような黒鉄の天蓋だ。

戦火に見舞われた人々は、廃墟と荒野の中からただ呆然と見上げるか、
恐れ戦き祈るしかない。
戦火に包まれていない地域の人々ですらも、
この世の終わりを予感させる闇の下で成す術もなく震えることしかできなかった。


人間は己の身に究極的な危機・圧迫的な恐怖を覚えたとき、
たびたび必要以上に暴力的な行動をとってしまう。

ただ生きるために手段を選ばず暴動、略奪から、超強行的な集団の形成。
戦争や災害が起こる度に常に見られてきた人間社会の一つの行動原理だ。

だが今は、地球上のどこにもそんな光景は見られなかった。
この世界を覆う底無しの終末感が、
彼らからパニックを起こす気力すらも奪っていたからだ。


どこの場所でも静かだった。
黙々と動いているのは、この非常事態下でただ義務を果そうとする軍や警察、政府機関のみ。

その他の大多数の人々はみな息を潜めていた。
イギリス北部に逃れた民も、イギリスへと逃れた地中海諸国の数千万の難民も。
欧州各地とロシアで生活の全てを失った者達も。
ロシアから進出してくる悪魔達と激しく戦火を交えたアジアも。
直接的な被害は免れた、聖地を省く中央アジア、アフリカ、南北アメリカも。

そしてアメリカ西海岸のとある大都市圏も。
その都市の中でも特に治安の悪いあるスラム街も。


トリッシュ「……」

今はしんと静まり返っていた。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:10:51.06 ID:JfmDtynuo<>
スラム街の片隅。
デビルメイクライの看板を掲げる事務所にて、トリッシュは静かに見守っていた。

広間にあるソファーに座し、
首から下をすっぽり隠すようにシーツを羽織った彼女、
その意識が向かうは繋がりの先のパートナー。

トリッシュ「……」


遥か繋がりの向こうに見えるはパートナーの『裏切り』。


同時に流れ込んでくるのは、パートナーの内で渦を巻くあらゆる感情だ。


この熱き魂を、トリッシュはまるで自分自身のことのように体感していた。

鮮烈に浮かび上がってくるのは彼の奥底で燃え盛る衝動。
人間界を、人類を、家族を慈しみ愛するがゆえの憤怒と悲壮。

ここまで内側が乱れたダンテなど、トリッシュは一度も見た事がなかった。
かつて己のために涙を流してくれた時のダンテでさえ、
これほど魂が震えてはいなかった。


当然である。

血の宿命に立ち向かうということ、
そして最後の役者になるということは『そういうこと』だ。

これまでの総決算、紡がれてきたスパーダ一族の伝説をまるごと覆す、
究極にしてとどめの一手。
それを成すには相応の代償と苦しみが伴うものである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:14:36.90 ID:JfmDtynuo<>
トリッシュ「……っ」

渦を巻くダンテの心に、
彼女は思わずシーツの胸元をぎゅっと握り締めた。

とにかく痛かった。
彼から流れ込んでくる魂の咆哮が耐え難かった。

それは魔界の理に生きる者はまず理解することが出来ない、
人間の強さであり弱さでもある心だ。

これに触れるのは初めてではない。
ダンテに救われて以来、彼を通して人の心というものを学び続けてきた。

しかし見て触れるのと、内から体感するのは全く別だ。
この時トリッシュはようやく、
人の心というものを『真の意味』で理解することが出来たのである。

頭ではなく魂で人間の精神の在り方を。


トリッシュ「……………………」

ダンテという『人間』の、愛情の深さと心の豊かさを。
彼にとってそれがどれだけ大切なものだったのかも。

父と母の思い出、兄との絆が、
アイデンティティの根幹における比重をどれだけ占めていたのかも。


そしてそれゆえに―――彼が今、どれだけの苦痛に耐えているのかも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:16:47.94 ID:JfmDtynuo<>


ネヴァン『あなたは理解できるのね』

向かいの壁に寄りかかっていたネヴァンがぼそりと口を開いた。
普段の妖しく見透かしたような口調ではなく、どことなく寂しげに。

ネヴァン『私はできなかった。結局わからなかったわぁ。彼の心の奥底は』

無言のまま視線だけを返したトリッシュへと、ぼんやりとした調子で続けた。

ネヴァン『どうしてなのかしら。彼と何度も溶け合って、何度も奏でてもらった私でもわからないのに、
      一度も溶け合ったことのないあなたが理解できちゃうなんて』

トリッシュ「…………」

そんな問いかけ。
だだ口ぶりからは、ネヴァン自身は答えを知っている風に見えた。
彼女から滲む寂しさは、疑念ではなくその覆りようのない答えによるものであると。

答えは今のトリッシュにとっても即答できるものだった。

己とネヴァンは同じく生粋の悪魔。
また今の己とダンテの繋がりには、特別な細工を施したわけではない。
ネヴァンたちが魔具として使用される際の繋がりともなんら変わりないものである。

だがダンテとの関係の上で決定的な違いが一つある。

彼の周りに集う悪魔達の中で、
唯一トリッシュだけはその絶大な力に魅せられたわけではない。

ダンテの側に付いたきっかけは、純粋に彼の人格に惹かれたからである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:22:04.50 ID:JfmDtynuo<>
ネヴァン達がダンテに心酔する理由は、
まず第一に超越的な力を誇るからである。
それがあってはじめて彼の性格や考え方に同調しようとするのだ。

言ってしまえば、ダンテとネヴァン達を繋ぎとめているのは魔界式の絆である。
ダンテがここまで強くなければ決して生じ得ない絆だ。

だがトリッシュは違う。
もちろん魔帝から救ってくれるにはその超越的な強さが必要ではあったが、
魔帝への反逆心を植えつける上では必ずしも必要ではなかった。

トリッシュにはこう断言できた。
ダンテが己と互角程度だったとしても、己は魔帝に反逆し彼の側に立っただろうと。



トリッシュ「…………」

ネヴァンの問いの直接的な答えは単純だったも、
そこから派生した思索は思わぬ疑問を生み出した。

ダンテ自身と『同じく』心うち震えるかたわら、
トリッシュはこれまで考えた事のないことを思ってしまった。


ネヴァン達とダンテの関係が魔界式ならば、己は一体『何式』なのだろうか、と。


ただしその答えも、改めて考える必要もなかった。
いや、今やトリッシュにとってはそんな定義などどうでも良かった。

魔界式か―――それとも『人界式』か、
明確に線引きできるものでもなければ、そうする意味も無い。

もともとダンテ自身が、愛を知る心に悪魔も人間も関係ないというスタンスなのだから。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:27:32.29 ID:JfmDtynuo<>
恐らくその点までもネヴァンは気付いていたのだろう。
真の意味でダンテの心を理解できなくとも、考えは表面的にも一応は把握できる。
ネヴァンはトリッシュの返答を別に求めてはいなかったよう。
つまりはただの『女のボヤキ』である。

彼女は壁に寄り掛けていた体を億劫そうに起こしては、魔性の吐息を漏らして体を伸ばした。


トリッシュ「そう…………あなたも行くのね」


その仕草が何の前振りなのか、トリッシュにはすぐにわかった。

力が絆の根幹の魔界式であろうと、愛は愛である。
魔界式の愛と忠誠には、魔界流の尽くし方がある。

ネヴァンは彼女なりに、ダンテへの愛と忠誠を果そうとしているのである。
たとえ主従関係が解かれようと、彼女を含む元使い魔たちの崇拝は潰えやしない。


ネヴァン『私は―――「闘争」でしか彼に尽くせないから』


ネヴァンはそう妖艶に微笑むと、トリッシュの方へと歩き進み、
彼女の前で軽く屈むと。


ネヴァン『「これ」が私とあなたの違いね―――』


頬を撫で、そこを伝っていた―――『露』を一滴。
指に絡め取って笑った。


ネヴァン『私にこれは―――「流せない」もの』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:33:18.93 ID:JfmDtynuo<>
ネヴァン『―――あなたのそういうところが妬ましかったけど、まあ別に嫌いではなかったわ』

そう告げると、今度はすっと立ち踵を返すネヴァン。
彼女は少し離れて広間の中央に立ち。

足元に魔方陣を浮べながら、こう最後に言霊を紡いだ。

ネヴァン『とにかくあなたにしか出来ないことだから、忘れないようにね』

トリッシュ「……」

その通りだ。
『これ』こそ己がやらなければならないこと。
己にしかできないこと。

ダンテがその役ゆえに心を発露してはならないのならば。



ネヴァン『彼のために――――――泣いてあげて』



彼の代わりに心の血を流さなくては。
人の心、愛ゆえの慟哭に身を委ねるままに。
それが『トリッシュ』という、もっとも親しきパートナーの義務、

ダンテのためにできる最大にして唯一のこと。



ネヴァン『―――さようなら。トリッシュ』

不吉な色気を交えながら微笑むと、
ネヴァンは光の中に姿を消した。


トリッシュ「……ええ。さようなら。ネヴァン」


自身の愛と忠誠を果しにゆくべく。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:39:01.34 ID:JfmDtynuo<> ―――

スパーダの息子、ダンテ。
彼の決戦へと向かう闘気に応えたのはネヴァンだけではなかった。

イフリート『……』

アグニ『……ふむ』

魔塔の麓の戦いを終えた彼らも。
魔塔の中、一人のデビルハンターを救助し終えたばかりの魔馬も。

その他、魔具として方々に預けられていた者も。
彼に魔界に帰っていた者も。

すでに主従関係を解かれた者も、今だ仕えている者も区別無く。


彼の力に魅せられ、彼に魂から絶対忠誠を誓った存在全てが、
爆発したダンテの闘争心に呼応する。

悪魔式の本能的にも、そして悪魔式の心情的にも。

超越的な力と共にし、極限の闘争の中で仕え果てることこそ、
彼らにとって至上の喜びなのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:40:47.89 ID:JfmDtynuo<>
煉獄における決戦はすぐに始まった。

もはや兄弟は声を交える必要はない。
彼らは互いを完全に理解し、受けれていたからだ。

長らく間に刻まれていた溝もすっかり消失し、
母が死する以前の関係―――理念の確執も無い、『ただの兄と弟』に戻っていたからだ。

父と母も黄泉から望んでいたであろう、
兄弟の完全和解がついに成立していたのである。


ゆえに声を交わす必要はない、
予め決めていたことかのように阿吽の呼吸で両者は動く。


それぞれが柄を握り、相手を斬り殺すべく―――刃を振り放つ。


抜刀され振るわれる閻魔刀と、
背から、天頂を切り裂き下ろされたリベリオン。

殺意の一振りは十字に交差した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:43:18.95 ID:JfmDtynuo<>
耳を劈く金属音、飛び散る火花。
それらを生じさせた初撃の激突は、まずはバージルの勝利だった。
閻魔刀はリベリオンごとダンテの身を押し弾き、神儀の間から叩き出したのである。


ベヨネッタ『―――ジャンヌ!結界を!―――』

遠のく彼女の叫びを後にダンテは宙を突き抜け、
300mほど離れたところで身を翻し、煉獄を覆う『影の海』に降り立った。

海とは言ってもくるぶしまでの深さしかなかったが、
ダンテの身の勢いもあって盛大に巻き上がる飛沫。
また飛沫とは言え、炎のように熱くゆらめき、溶けた鉛のように重い噴出であった。


そんな重い『礫』が降り注ぐ中、ダンテは低き姿勢のまま遠くのバージルを見据え、
一切の心情的要素を破棄して『敵』の状態を分析する。

今の初撃で弾き飛ばされた理由は、
単純にバージルの方が膂力があるというわけではない。

閻魔刀に制限無き力を与える『破壊』、
そして彼自身の規格外の器で稼動する時の腕輪。


かつて父が、実質『一人』で魔帝を倒した時と同じ状態だということ、それが今のバージルの『強さ』だ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:45:00.63 ID:JfmDtynuo<>
その異常なまでの強さは、今の軽い一合だけでもダンテに痕を刻んでいた。
リベリオンの刃が軽く欠け、
そこに力の流れの停滞という障害が生じていたのである。

ダンテ「Humm―――」

時の腕輪の作用は当然、創世主のものに対してのみではない、
閻魔刀とバージルと力が組み合えば、
斬り付けた対象全ての時間軸に干渉する事が出来るのだ。

つまり刃を重ねれば重ねるほど、
こちらの刃は激突による消耗以上の速度で衰えていくというわけだ。


通常の状態でさえ拮抗しているのだ、
バージル相手に刃を合わせずに戦うことなんて不可能だということは、
ダンテ自身が誰よりもわかっていた。


ではどうするか、どう戦うか―――と常道ならば思考が続いたであろうが、

ダンテの場合はその先は必要は無かった。
新たな戦い方を見出す必要そのものが無かったのだから。


彼の場合、『これまで通り』の戦い方を貫けば充分だったのだ。


『それ』はダンテが求めたわけではない。
ダンテの意識に呼応し、『彼ら』の方から馳せ参じて来たのである。



その瞬間、ダンテの周囲に―――百を超える大悪魔達が現れた。


『永久の主』にどこまでも追従するという意志を―――魔具の姿で現れることで示して。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:49:30.19 ID:JfmDtynuo<>

一本の刃では勝てぬのならば―――百の刃を使えばいい。


ダンテの周囲、虚空から出現し海に刺さり立つ百を超える魔具。
その様はさながら荒涼とした戦場の墓地のよう。


これこそがダンテの生き様、戦いの歴史、その全ての証明であり。


―――ダンテという魔剣士の『真の全力』である。


この『軍団』を『使い潰す』ことにダンテは抵抗はしなかった。


バージルはスパーダと同じ状態だということからも、
彼の肩には一族の『伝説』の全てが付加されているわけだ。

ならばこちらも―――『己の生き様』、『戦いの歴史』の全てを用いるのも当然である、と。


それにこれで釣り合いが取れ、より戦いの意味が色濃くなる。
この身に一族の『永遠の敵』の役をも付加することができるからだ。


バージルが担う『スパーダ』の役と対を成す―――『軍団を従えるムンドゥス』の役を。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:52:00.08 ID:JfmDtynuo<>
ルドラ『おお!我が同志達よ!―――共に魔道の果てに朽ちようぞ!!』

声を放つ背の魔剣をはじめ、魔具たちの声が意識の中に聞えてくる。

それらは全て悪魔的な歓喜に満ちていた。
ダンテの仕えるにあたりこれまで封じてきた魔の本能、
その純なる暴力の欲望を剥き出しに、闘争のみをただ純粋に求めゆく。

これぞ魔界の理が刻む悪魔のあるべき姿、彼らの真の本性。
力と血に飢えた魔窟の獣共へと回帰してゆくのだ。

彼らの第一人者であり『王』である―――『悪魔たるダンテ』の先導によって。



『弟たるダンテ』は兄が勝つことを、すなわち己が倒されることを望んでいる。
この戦いが始まった以上バージルが勝っても、
筋書きの破壊という目的は成就するのだ。


しかし―――ダンテがそのように手引きすることは許されない。


筋書きを完全に砕くにあたって、勝敗の結果は重要ではない。
重要なのは真の殺意を貫いて戦い抜くことなのだ。


兄を殺すこと、ただそれだけを求めて戦わねばならない―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 22:55:17.63 ID:JfmDtynuo<>
ダンテはまず背にあるルドラを左手にし、
右手のリベリオンと共に大きく広げ、低く構えた。

真正面に、影の水面を駆けてくるバージルを捉えて。


ダンテ「Ha-Ha!」

魔剣を携える手にはもはや『人たる心』は宿ってはいない。
満たすは首輪を外された悪魔たる闘争衝動だ。


そうして向かってくる兄へと、自らも水面を踏み切る瞬間。
ダンテは消えゆく人の心の中、『最後』に―――『懐かしい恐怖』を覚えた。

それは小さい頃、母が死に兄が姿を消した孤独の中で芽吹いたも、
兄に再会する前にはすでに克服していたはずの恐怖。


抑えがたい闘争心と殺戮願望に、かつて幼い少年は恐怖したものだ。


己はやはり悪魔―――『母を殺した者達』と同じなのではないか、と。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/05(土) 23:02:20.10 ID:JfmDtynuo<>
ただし。
そんなかつての恐怖も、
ここでは消え行く心の中に垣間見えた残滓に過ぎない。

もはや恐怖する必要は無かった。
母から受け継いだ人間性の喪失とその消滅を恐れることも。

この身から消え失せようとも、存在自体は消えやしないのである。

父から受け継いだ信念と、母から受け継いだ愛、
そして兄と共にある家族の思い出と安らぎ。


ダンテ「―――C'mon Bros! It's a good day!―――」


それら『人の心』は全て―――トリッシュに託すことができたのだから。


―――


 創世と終焉編


 第三章 『過去と未来が交差するとき』


―――


スパーダとエヴァの息子でありバージルの弟であるダンテ。
その名の男が、人間の愛と優しさを知っていたことは完全なる事実だ。

こうしている今もトリッシュの頬を流れている―――



ダンテ「―――To die!」



―――涙こそが何よりの証拠である。


――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/05(土) 23:03:14.30 ID:JfmDtynuo<> 今日はここまでです。
次は火曜日に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 23:37:49.15 ID:fJLVdyc4o<> うおおお・・・  乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/06(日) 00:22:20.55 ID:b5Ey/Lpb0<> 筋書きというか宇宙意思てめぇ絶対に許さない、許さないよ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/06(日) 01:40:53.13 ID:SqMv1FiZo<> 乙

何で……何で…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/05/06(日) 01:56:27.95 ID:xrv5OqSBo<> 血涙出そう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)<>sage<>2012/05/06(日) 04:12:20.16 ID:g7WxPfTe0<> だれか解説を <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/05/06(日) 06:17:43.45 ID:lLq8Ew9R0<> 死ぬには良い日か……
泣ける <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/06(日) 10:17:20.91 ID:Zz+VDQCFo<> お疲れ様です・・・もう、見続けるしか無いのか・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)<>sage<>2012/05/06(日) 11:49:37.00 ID:TpxuJaaHo<> あれ、未来でバージルとダンテが事務所に居たような感じだったが、あれはパラレルなんだっけな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/06(日) 13:12:47.93 ID:um6AFzT50<> >>909
どこぞの誰か様は>>805や>>872の通り、
『大混乱の人間界で、天vs魔vs人間という最悪な状況を作る。
 そして「全」を手に入れた竜王フィアンマをラスボスに仕立てあげ、
 それをスパーダ一族の誰かしらが倒して英雄となる』
という感じで話を進めていた。

しかし、それだと人間界はほぼ滅亡してしまうため
ファッキン筋書マジバッボーイとぶち壊そうとしたのが
ダンテやベヨネッタのような規格外の方々である。

実際にアリウスやアレイスターはおそらく本人たちの自覚のないままで、
四元徳の勇気と貯金箱もジュベレウス復活しか見えてなかったため、
まんまと乗せられ筋書き通りの演出をしてしまい、
竜王の復活を許してしまう。
魔帝も覇王も前座でしかなかった。

がしかし、一方神行さんなどの人間勢の予想外の活躍や
ベヨ姐達の介入で筋書きが少しづつねじ曲がっていった。
そして「人間は雑魚」「人間界なんて滅ぼされてなんぼだろ」という前提に基づく筋書きだったが、
ネロが魔剣スパーダを「人間なめんなよコラ」と言わんばかりに『最強の人間』としてへし折ったため、
「人間もやればできる」ということを示しちゃったため、
ものすごい乱れる。

どこぞの誰か様も流石に焦り、
アーカムやテメンニグルの塔の力で修正しようとするも、
我らがミカ条さんが復活したことで、直すどころか筋書きの後半がごっそり消えちゃった。

そしてここぞとばかりに、もうクソッタレな筋書きなんて書かせるわけにはいかねぇぜ!と考えたダンテは
「悪魔な兄を、人間の力で倒す弟」という従来のパターンを覆し、
「世界を救う礎になろうとする英雄(バージル)を、本気で邪魔する悪魔(ダンテ)」という
今までにないストーリーを書こうとしている。



これであっていますか>>1さん
違っていたらごめん <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/06(日) 13:43:12.75 ID:Zz+VDQCFo<> >ファッキン筋書マジバッボーイ
もうこれが合言葉でいいかな・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/06(日) 14:34:03.84 ID:yfJ38CKPo<> >>913
問題ありません。

そこにもう少し付け加えるとすれば、
ダンテにとっては変わらず人間界を守るための戦いですが、
今回はもう一つ、『バージルを死なせない』という至上目的があったという点でしょうか。

これが筋書き、もといスパーダ一族の宿命を断ち切ろうと決意した最大の理由であり、
従来の『人類種の守護』という大義と同時に、
家族を守ろうとする『弟』としての私的な戦いでもあったわけです。

しかしこの通り、そんなダンテであるがゆえの心が筋書きの要でもあったことで、
選択肢はたった一つになってしまいました。

筋書きが破壊でき、なおかつ兄が生き延びる可能性を含むとなれば、
自身の心を裏切って最悪の敵となる道しか残されていなかったわけです。
ただし描写したとおり、自らが負けるように仕組んでは意味がありませんから、
ダンテは本気で[ピーーー]べく挑み、勝利と生存権はバージル自身の手で掴んで貰わねばなりません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/05/07(月) 20:53:28.99 ID:DJE7t/fY0<> 乙!

ネヴァンいい女過ぎるぜ…
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/08(火) 00:22:01.80 ID:OL7oy4UDO<> http://www.youtube.com/watch?v=cyU5r3ZbrGc&sns=em 自然と脳内で流れ出すなこれが <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)<>sage<>2012/05/08(火) 01:42:39.37 ID:6bshYZrq0<> とある三界の筋書目録

いってみたかっただけ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(岐阜県)<>sage<>2012/05/08(火) 02:31:34.09 ID:UDcAv3q30<> まさかここまで分かりやすく解説していただけるとは…
完全に把握できました
ありがとうございます <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/08(火) 18:17:28.63 ID:dr5vXRtk0<> とある世界の英雄譚

とかどうよ(ドヤッ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:33:30.16 ID:WT+Pqukgo<>
―――

魔塔ふもとの決戦が終決、天魔入り乱れる戦火を免れたにもかかわらず、
人間界を覆う不穏な空気は晴れなかった。

御坂「……どうなってんの?終ったんじゃないの?」

理解が追いつかなくとも、誰しもが本能的に悪寒を覚えていた。
今この瞬間が『全て』の最後にして最大の転換点であり、
最も危険で困難な局面でもある、と。

アニェーゼ「……土御門によると『まだ』、だそうですね」


御坂「それで……当麻は?」

静まり返る地下本陣にて、
御坂は同時に個人的な悪寒をも覚えていた。
このこびりつく不穏な気配に、
上条当麻が大きく関係している気がしてならなかったのだ。

アニェーゼ「ネロさんと一緒に上に行ったと」

御坂「何しに?」

アニェーゼ「土御門が言うには、義務を果しにと。それ以上はわからないと」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:34:30.50 ID:WT+Pqukgo<>
御坂「……」

アニェーゼ、厳密には土御門の言葉で悪寒は確信に変わった。

やはり上条は今、事態の核に深く首を突っ込んでいるのだと。
ただしアニェーゼ、土御門からはそれ以上具体的な情報は引き出せなかった。
打ち止めがいるベッドの足元、
そこに座り込んでいる一方通行も小さく顔を振るだけ。

一方「あの野郎にも……『個人的』にケリをつけなきゃなンねェコトがあるンだろ……」

そうなのかもしれない、いやそうなのだろう。
だがその程度で御坂美琴が納得するわけがなかった。

ましてや先ほど『あんな事』を彼が言っていたのだから、
気になって仕方が無かったのだ。


アレイスターに向けて『俺のせいだ』、と。


アレイスターの忌まわしい所業に自身も関わっていたと考えているのか。
そう暗に悟った御坂の中では今、様々な考えと想いが渦を巻いていた。

これが誰か別の言葉だったらここまで気は乱れなかったであろう。

だがこの言葉を口にしたのは、
想い人であると同時に救世主である上条当麻だ。

彼への信頼、それを根幹から揺るがしたのは他ならぬ上条当麻の言霊なのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/09(水) 00:35:24.86 ID:6zaZZLP7o<> リアルタイムでキター <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:35:38.09 ID:WT+Pqukgo<> 御坂は鋭く踵を返すと、壁際に足早に歩き進み。
そして抱えていた大砲の先で軽く床を叩くと。

御坂「……アンタは知ってるんでしょ?当麻が何をしてるのか」

座り込み俯いているアレイスターへと問うた。
一度目は低く静かに。
二度目は銃口で強く床を叩き。


御坂「知ってるんでしょ?!」

声を張り上げて。

この怒号に、廊下で結標を看ていた黒子が飛び込んできたも、
当のアレイスターは特に反応もしなかった。
顔を上げもしない。

御坂「アイツが言ってた罪って何のことなのよ?!」

そんな態度に苛立ちを隠せず、御坂は更に強行的に出た。


御坂「一体何なのよ?!アイツとアンタが抱いた『幻想』って!!」


髪をつかみ上げ、
壁際に後頭部を打ち付けては自らを見上げさせて。


御坂「言え!!答えろぉぉぉッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:38:11.88 ID:WT+Pqukgo<>
一方「レールガン……そィつは……」

弱々しくも背後から聞えてくる声、
だが続けられたであろう彼の言葉を押しのけて御坂は叫んだ。

御坂「アクセラレータ!コイツを生かした理由は?!」

一方「……上条を元に戻すためだ」


御坂「それについてはもう完了してるわよね?!他には?!」


返答は沈黙。
御坂はそれを『無し』と受け取った。

問いの意図がわかっていたであろう一方通行、
彼がそのまま何も言ってこなかったとう点こそ、
アレイスターの身を引き継ぐ権利は自らにあると判断するに充分な材料だった。

黒子「お、お姉様……!」

呼びかける他どう声をかけて良いのか。
そう困惑している黒子をよそに、
御坂は今にも魔弾を放ちかねない殺気でアレイスターに命令した。

御坂「立て!外に出ろ!!」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:40:11.92 ID:WT+Pqukgo<>
乱暴すぎるというのはわかっていた。

いや、恐らく自ら認識していた以上に、
今の己は鬼のような怒気を放っていたのだろう。

黒子の目に怯えが滲んでいたのも、目を合わせなくとも把握できた。
初春も佐天も、一言も言えずにただ硬直しているのも。

だが御坂にはどうにも抑えられなかった。

アレイスターそのものへの怒りもある。
もちろん理性が自制しているも、この両手で直接絞め殺したい、
それどころか電撃による拷問で殺害したいというほどの憎悪だってある。

そして今はそれに加え、上条当麻についての感情も噴き上がっていたのだ。


今一度、上条当麻という人物の真の姿がどうしても知りたかった。
己が今ここに立っているきっかけであり理由である彼の真実を。


彼が本当はどこからやって来て、
過去に何をして、今は何をするつもりで、そしてどこへ行き何になろうとしているのかが。


御坂「立てッ!!進め―――」


そうした衝動に駆られ、声で鞭打ちアレイスターを立たせたとき。
御坂は思いがけぬものを目にして一瞬言葉を失った。

廃人同然に見えるアレイスター=クロウリー。
立ち上がり方も重病人のように覚束ないものだったのに、


拍子で袖から覗いた『拳』だけは―――しっかりと握り締められていたのだ。

それも結構な時間、力いっぱい握られ続けていたのだろう、
血の流れが滞って不気味な色になり、指の間からは血が滲んでいた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:41:19.97 ID:WT+Pqukgo<>

そして誰よりもそこに驚いていたのは、実はアレイスター自身だった。


アレイスター「……」

何がこの拳を握らせているのかわからなかったのだ。
怒りや憎しみ、悲しみといったものを含め、
竜王に全てをへし折られた今は、人間的な感情は朽ちてしまっているのに


『あの男』に何かを植えつけられでもしたのか。

ダンテの後姿を目にした瞬間にこの拳を握らせ、
今の今まで固めている源は一体何なのだろうか。


御坂「い、行け!進め!」


だが、もはや自立的な思考力は停止してしまっている以上、
探ることが出来なかったし、そもそも探ろうという気力すらなかった。

アレイスターは謎をぼんやりと放置したまま、
背を強く押されるままに従い進んでいった。

廊下を抜け、大砲を突きつけられたままエレベーターに乗り込み、
そしてまた長い通路を抜けて、破壊された入り口をくぐって闇空の下へ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:42:51.52 ID:WT+Pqukgo<>
外には白銀の魔獣、ベオウルフが巨体を横たえていた。

御坂「進め」

崩れた入り口から離れ10mほど、
ちょうど施設と魔獣の中間あたりか、アレイスターはそこまで歩き進むと、
御坂の足音が止まったのを聞いて、ゆっくりと振り向いた。

彼女はこちらへと大砲を向けていた。

その様子は互いの立ち位置からも、処刑直前の風景に見えただろう。
このまま刑が執行されようが、アレイスターは構わなかった。
これまでの行いからも彼女の手で殺されるのは当然であり、
もはや生きる理由も無いからだ。


―――そのはずなのだが。

アレイスター「……」

なぜか拳は握られたままだった。
まだこの世界と別れるわけにはいかないと、死の境にしがみついているように。


刑はすぐには執行されなかった。
御坂の目的を考えればそれも当然か。

そんな彼女の表情は、
怒気と切羽詰った興味が入り混じった実に奇妙なものだった。

だがアレイスターはすぐに悟った。
己はそれ以上に奇妙な面持ちになりつつあることを。

この拳を握らせる不可解な衝動が、今ここで急に肥大してきているために。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:44:32.24 ID:WT+Pqukgo<>
数秒間、言葉が交わされることは無く。

ようやく口を開いたのはアレイスターだった。
御坂が問い直す前に自らだ。

しかも自立的な思考ができず、
外部からの刺激には相応の反応しかできなかったのに、
この時は聞かれた以上のことを。

いいや、問われたから答えたのではない。
この拳を握らせている不思議な衝動に促されて、
アレイスターは自分から語り始めたのだ。


一体何のために。


アレイスター自身がそれに気付いたのはしばらく後のことであるが、
理由は御坂に聞かせるためではなかった。

単純に『過去』の全てを『思い出す』ことが目的だった。
何を思い、何を感じ、ここまで歩んできたのかを。


ではなぜその必要があったのか、そして何が―――『誰』がそうさせたのか。


それもまた、アレイスターはこのすぐ後に知ることになる。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:47:00.09 ID:WT+Pqukgo<>
やはり憎悪よりも上条当麻の真実への探究心が勝ったのだろう、
そのようにしてアレイスターが自ら語りを始めるそぶりを見せると、
御坂は嘘のように大人しくなった。

銃口を向けていたのは変わらなかったが。

アレイスターは足で軽く地を叩いては魔術を起動、
そんな彼女の前の虚空に、ある光の映像を二つ出現させた。

ただ視覚情報だけではなく、相手の意識内にあらゆる情報を流し込む魔術的な画面だ。

うち一つに映っているのは『過去』の上条当麻。

御坂「……これは……」


アレイスター「……上条当麻は学園都市、いや、今あるこの人間界の始まりだ」


そしてもう一つは。


アレイスター「彼は―――英雄になりきれなかった英雄であり―――』


『今』の上条当麻の姿。

上条当麻は虚空の果て、
創造と具現の力によってお膳立された舞台にネロと並び立っていた。
黄昏の光に包まれた石畳の世界。
かつての竜王の玉座の領域と瓜二つの地。

そして彼らの正面15m程のところに悠然と立つ、
純粋無垢な悪意と混沌の権化―――竜王フィアンマ。


『彼は大いなる流れに弄ばれ――――――「未来」に成り損ねた「幻想」だ』


『……当麻は今……何をしようとしてるの……?』



『今度こそ―――「未来」を成そうとしているのだよ。「君たち」の「未来」を』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:48:37.49 ID:WT+Pqukgo<>

竜王『―――やれやれ、困ったものだな。かの兄弟は』


片手はポケットに手を突っ込んだまま、
もう片手で髪をかきあげながらため息を漏らす竜王。

竜王『あそこまでして俺様と戦いたくないとは』

ネロ「そりゃあな。誰だってお前の薄汚い血で剣を濡らしたくはないさ。肥溜めに突っ込んだほうがまだマシだぜ」

そんな嘲り混じりの軽口に、ネロも同じ調子で応じた。
レッドクイーンを石畳に叩き刺してはイクシードを噴かし、
業火とともに殺気を放ちながら。

竜王『そこまで言うか。さすがの俺様でも傷心ものだよ』


上条「フィアンマ。決着をつけようぜ」

ただその空気もすぐに変わった。
ネロの隣にいた上条がそう声を放つと、竜王の態度は一変。

竜王『決着だと?お前ごときが笑わせる』

ちっと舌を鳴らすと、
あからさまに蔑みと苛立ちの色を浮べはき捨てた。


竜王『勘違いするなよ。お前は脇役以下、舞台装置ですらない。
    ただ殺されるためにここに戻ってきただけの―――「カス」に過ぎない』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:52:26.61 ID:WT+Pqukgo<>
上条「そうか。じゃあ『これ』もお前にとっては別にどうってこともないんだな」

だがそんな手厳しい言葉もなんのその。
上条は余裕たっぷりに笑い返すと、ここであるとっておきのものをここで披露した。

禁書『―――補填完了、稼動状態良好、いけるよ!』

遥か太古の記憶を掘り起こし、
それでも修復できない損傷部はインデックスのサポートで補完して。


―――右手に持つ銃の先から、金色の光剣を出現させた。


竜王『―――……』


竜王を倒す、ただそれだけのために、天の力と技術の粋を集めて造られた―――『ミカエルの聖剣』である。


それもアレイスターが魔術で実体化させたのとは違う『オリジナル』だ。


ただしオリジナルだからとはいえ、作用は保障できなかった。
この聖剣とは『鍵』のようなものであり、
遥か昔、当時の竜王という『鍵穴』合わせて正確に調整されたものだからだ。

ゆえに当時とは状態が違う今の竜王、
『顎』がなく、だが三神の力を有す彼に同じく効果があるかどうかは確証が無い。


竜王『……ふん、今更そのようなガラクタを持ち出すとはな』


上条「―――なんなら試してみようぜ。ほら、黙って刺されろよ。アレイスターの時みてえによ」


だがそれでも『オリジナル』であることは変わりなく。
その点を竜王フィアンマも強く警戒していたようだった。

証拠に、彼は一層怒りを滲ませて睨んでくるのみ。

竜王『……』

アレイスターの時のように勝気のまま、
自らの身で進んで確認するなんてことは決してしなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:54:17.08 ID:WT+Pqukgo<>

上条「どうした?もしかして―――ビビッてんのか?」


竜王『……本気でこの俺様を倒す気か?倒せると思っているのか?お前ごときが?』

黄昏色の光を炎のように揺らがせての声。
竜王は今や怒りを隠そうともしていなかった。

ただし追い詰められているのではない、
目障りな小虫に嫌悪するかのような尊大な怒りだ。

ネロ「そうとも」

そして応えたのはネロ。

ネロ「俺と上条でお前を倒す。そうしねえとあちこちから怒られちまうんでな」

明らかに逆撫でさせるつもりの薄ら笑いを浮べて。
瞬間、ついに竜王は耐えかねたのか、
足で石畳を打ち鳴らしては右手を横に伸ばして。


竜王『良いだろう!俺様はお前達を殺し―――かの兄弟をここに引き摺りだしてやろうじゃないか!』


怒気を放ちながら、上条と同じくある『剣』を出現させた。
創造、具現、そしてスパーダの欠片である破壊、
この三つを持ち合わせている彼だからこそ現出可能なある『魔剣』を。

ネロ「……」


右手に現れたのは、ネロが破壊したはずの刃―――魔剣スパーダだった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 00:57:36.20 ID:WT+Pqukgo<>
上条「……!」

かの圧倒的な力はもはや形容できるものではない。
究極の破壊、その名を体現する至上最凶にして最強の『刃』。

だがどれだけ圧倒的であろうと、
『究極の破壊』の冠は今や過去のもの。

ネロによって破壊されてしまった、という事実が刻まれている。

ゆえにどれだけ形を忠実に、どれだけ本物の破壊の力を注ぎ込もうが、
竜王の手にある魔剣は決して『オリジナル』にはなり得ない。


スパーダ一族の宿命を紡ぐことは出来ない、所詮は『贋物』なのだ。


竜王『残念なことにこれは、創造と具現で維持しているだけで完全体―――いや、「本物」ですらない』


その点については竜王自身も即座に言及した。


竜王『だからな、スパーダの孫にしてバージルの子、ネロよ―――』


そしてこれこそが本題、
自らが『最悪の敵』の座に返り咲く唯一の手段こそ、
魔剣スパーダの究極性をもう一度示すことであるということも。



竜王『―――返してもらおうか。お前がこの魔剣から奪った「因果」を』



ここでネロの刃を討ち砕くことによって。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/09(水) 01:00:00.53 ID:WT+Pqukgo<>
そのような三神の力を携えての殺害宣告、
どれだけ超越的で絶対的な言霊であろうか。

究極の座、本来の『役』から蹴落とされたとはいえ、
スパーダの一族三人で戦うはずであったほどの相手、
竜王の圧倒的な力は間違いなく本物である。

だが今さら、ネロと上条が怖気づくことはなかった。
ダンテの選択によりすでに賽は投げられてのだ。

あとはただ前へと邁進するのみである。


上条『―――絶対に負けやしねえ。絶対にだ』


上条は全身から白銀の光を放っては魔の力を解き放ち、
自らへと誓約たる言霊を打ちつけた。


ネロ「ああ―――親父とダンテは必ずやり遂げる。そして『俺たち』もだ」


そしてこの上なく頼もしい最強の人間、
真っ直ぐ前方を見据えたままのネロの声も受け。


禁書『―――うん。大丈夫、必ず勝てるんだよ!』


次いで意識内に響いた最愛の少女の声にも支えられて、
少年は聖剣を振るっては構え直し。


上条「―――OK、始めようぜ!!」


開幕を告げる声を放った。
こちらを『舞台装置ですらないカス』だと断じた竜王へと――――――『主役』の一人として。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/09(水) 01:00:40.60 ID:WT+Pqukgo<> 今日はここまでです。
次は金曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/09(水) 01:32:20.16 ID:tyG5hsYB0<> 乙です!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/05/09(水) 03:25:31.99 ID:PfqdjqB6o<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/09(水) 17:15:38.87 ID:R4miLIXDo<> お疲れ様です。わかっちゃいるが竜王とネロさんに並び立つミカ条さん・・・大丈夫なのか・・・?
筋書き補正は否定したから都合の良いことは起きない。下手こいたら二人の余波でぶっ飛ぶレベルなのに。
だからこそ期待してしまうなぁ。英雄に並び立つ英雄なのか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/09(水) 20:01:36.38 ID:S/7ev4U1o<> この出来事は人間界の真創世神話になるだろう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/10(木) 22:54:18.23 ID:gXz3xWQqo<> 楽しみにしてる。乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:00:26.06 ID:YYV6AaJco<>
―――

正真正銘の殺意を纏い、その身を魔人化させて、
二人の魔剣士は突き進み。

光の尾を引きながらついに激突する。

重なり合い、
渦となって周囲に噴き荒れる紅と蒼の閃光。

彩の源たる片方は閻魔刀、
だがもう片方はリベリオンでは無かった。

極なる刀を受け止めたのは疾風の魔剣、ルドラである。


ただし受け止めたとはいえ、
その状態を維持できていたのはごく一瞬だけであった。

ダンテが百本の刃を支配する一方、
バージルはたった一本の刃に全霊を注ぎ、その上に時の腕輪の力。

今や閻魔刀は、リベリオンですら互角には押し合えぬほどであり、
兄弟剣以外の刃がまともに抗することが不可能なのは当然。

おびただしい量の火花を撒きちらしながら、
閻魔刀は獰猛に―――ルドラの刀身にめり込んでいった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:01:49.21 ID:YYV6AaJco<>
もはや『受け止めた』とするよりも、『犠牲にした』と形容するべきだろう。
ダンテの使い方からもそれが正しかった。


ダンテ『―――Hah!!』

閻魔刀にルドラを『捧げた』隙に、
彼は右手のリベリオンを頭上から叩き込んだ。

狙うはもちろんバージルの脳天、彼の命―――。


とはいえそう易々と相手の命は奪えやしない。

あらゆる面が拮抗している上に、彼らが良く似た兄弟であることがよりいっそう、
両者にとって短期決戦を困難にしているのだ。

性格の差からか表面的な戦い方は違えど、
父に叩き込まれた根幹の戦闘理論と、受け継いだ『戦闘システム』は完全に同一。

ゆえに反射的な対応どころか。
どう分析し、どう攻めどう防ぐかといった考えすらももはや『共有状態』に等しい。

そのため両者間では奇襲攻撃は通じやしない、
意表をつくことは不可能。

互いにとってもっとも戦い易くも、
一方でもっとも決着をつけ難い相手でもあるのだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:05:21.44 ID:YYV6AaJco<>
ここには虚を突こうなどという読み合いは一切存在しない。

超越的な力が行使されていようとも、
戦いの内容自体はごくごくシンプルなもの。

真正面からただ激突するのみ、
手数に手数を重ね合い、ついていけなくなった側が敗者となるだけだ。


刹那。

バージルは、ルドラと交差させていた閻魔刀を瞬時に逆手に持ち直し。

柄をくんっと上へと押し出し、
完璧なタイミングで、鍔に近い根元でリベリオンを防いだ。

切っ先でルドラを受けたままというまさに離れ業。
だが両者にとってはその程度の技能などごく当たり前のもの。

戦いの中におけるただの一接触に過ぎず、
特に意識も止められぬまま加速する闘争に流されていく。


刃が火花散らした瞬間。
三本もの剣の隙間を抜けていくのは、バージルが左手に持つ鞘による突き。

だが切っ先が弟の喉を捕えることはなかった。
衝突したのは左足、ダンテが即座にギルガメスで蹴り弾いたのだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:06:51.33 ID:YYV6AaJco<>
この二人は本当に良く似ていた。
戦いの中の一手一手の呼吸すらも完全に同一。

鞘とギルガメスの激突で生じた衝撃、
それを自らの戦いのリズムに加えたこと、そのタイミングすらも。

閃光を引きながら、鏡合わせのように同時に大きく一歩分、
互いに後方にとび退いては『仕切りなおし』。


生じるのはほんの僅かな極限の一瞬、
彼らの領域でなければ認識できない一間。

三本の魔剣の激突を解消したのも束の間、互いに次の攻勢へと動く。


ダンテ『―――っ』

左手にあった疾風の魔剣は、
もはや『剣』の体を成してはいなかった。
三分の一近くが削り落とされ、刃のほとんどが消え去っていたのだ。

これが『今までの閻魔刀』が相手だったら、
どれだけ損傷しようがダンテの力が健在ならば修復可能、
そもそもここまで損傷すらしない。

しかし兄の刃は今や別物、これまで通りの使い方を許してはくれないのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:08:30.33 ID:YYV6AaJco<>
その瞬間、どれだけ心を失おうとも、
それでもダンテであるがゆえに僅かに躊躇いの心が生じたのだろう。

彼自身が自覚しなくとも、この魔剣が意識内で声を発したのだ。


ルドラ『―――手を止めるなスパーダの息子よ!!我に情けはいらぬ!!』


ダンテは次なる一手へと動いた。
少なくとも『外面的』には迷いの欠片もない動きで。

そして同じように踏み込んでるバージルへと、
彼が薙ぎ振るって来る閻魔刀へと再び―――ルドラを『捧げる』。

二度目の激突には、もはやこの魔剣は耐えられなかった。

衝突の鮮やかな閃光に混じらせ、
最期の雄たけびにも聞える爆風を巻き上げて。


ルドラ『これぞ究極の武よ!!これぞ我が栄光の―――!!』


今度こそ刀身を斬り飛ばされて、声は断絶。
二度と言霊が響いてくることはなかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:10:58.21 ID:YYV6AaJco<>
―――これが『使い潰す』ということ。


砕け散っていく刃、舞いちる破片。

それら煌きの中で想うことはあっても、
心そのものを封じてダンテは冷酷に徹し、淡々と身を動かしていく。

ルドラを切断した事で僅かに減速された閻魔刀、
その刃を紙一重で避け、入れ違いに放つリベリオンの突き。


『『―――Yeah!!』』

だが、そのとき発された掛け声はダンテのものだけではなかった。
またもや巧みな刀捌きでこの二撃目をも防いだ、
バージルの声も重なっていたのである。

彼は振りぬいた刀をそのままの形で引き戻し、
唾の部分でリベリオンの進路を僅かに変えたのだ。


そのようにしてダンテの刃がやり過ごされたことで、
図らずとも二人は体ごと激突することとなった。

ただし図らずともとはいえ、両者とも完璧に対応していた。
これまた予め段取りが決められていたかのように完璧に。

次には、同じタイミングで繰り出された二人の膝蹴りが交差していた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:13:30.48 ID:YYV6AaJco<>
魔人化された強固な外殻がぶつかりあい、
鈍い激突音と共に纏う光が飛び散っていく。

さなか、砕けていくルドラの柄を放っては突き出されるダンテの左手。


アグニ『―――弟よ!!我も続かん!!』

そこへ自ら飛び込んできた次なる『生贄』を手に、
ダンテは更なる狂気と闘争の深みへと自ら沈んでいった。


使うのは単純に剣』だけではない、
双方ともモノは違えど、強力な飛び道具も有していた。


猛烈な剣撃の応酬のかたわら、
幻影剣を次々と出現させては、
振り抜く刃の合い間に相手へと放っていくバージル。

対するダンテはそれらを手足からの魔弾で迎撃し、
さらに肩に出現したルシフェルから光剣を繰り出しては応戦。


至近距離からの次元斬のきらめきが空間を走り、
真紅の斬劇が影の水面を薙ぎさいていく。
周りでは幻影剣と魔弾、ルシフェルの光剣が次々と衝突して炸裂。

そんな光景は傍から見れば、壮麗の極みたる光の祭典であっただろう。
表面的に見ただけならば、だ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:16:26.97 ID:YYV6AaJco<>
二人の総力をもっての砲撃戦と剣撃戦。

凄まじい戦いは、ここ煉獄のみならず、
無限の広さと頑強度を誇るとされる魔界をも大きく震わせていく。

余波の力があちこちで渦を巻いては、紅と蒼の閃光が迸り。
影の海を穿ち、闇の空を切り裂いていく。



その戦火を更に燃え滾らせるべく、
ダンテは多種多様な魔具と力を惜しむことなく注ぎ込んだ。

いや、惜しむことも許されなければ、
彼らの身を案じることも許されなかった。


バージル『―――Die!!』


頭上からの渾身の斬り下ろし――――――兜割り。

力の残像を引いて天から襲い掛かってくる、爆発的に加速された刃。

その殺意の塊を、
左手にもっていた『斧状』の魔具で撃ち流しつつ、横へと飛び退くダンテ。

しかし兄は手を休める一瞬の間すら与えてはくれない。
着地した瞬間、バージルから繰り出されるは一気に突進しながらのもう一斬り。

殺し合いの場には不釣合いなくらいに、
涼やかで耳触りの良い音色を引いて。

神速の閻魔刀は、ダンテの左手にあった斧を捕らえた。


立て続けの二撃を受けた斧はここで粉砕。
力の爆散と共に魂の断末魔を轟かせ、これまでの列柱に続き朽ち果てていく―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:18:42.47 ID:YYV6AaJco<>
この時点でアグニとルドラを含め、
捧げられた大悪魔の数は両手で数えられなくなっていた。



次々とダンテの使い魔たちを屠っていくバージル。
その姿はまさに史上最強のデビルハンターにして無敵の救世主。

また相手が魔具か真の姿かの違いはあれど、
この極限の戦いっぷりは、かつて魔帝の軍団を相手にしたスパーダと同じ。

加減も無ければ慈悲も与えやしない。
敵意が僅かにでもあると見れば、徹底的に殲滅する鬼神である。


ダンテ『―――Ha!!』

『斧』の犠牲で閻魔刀を身に受けはしなかったも、
衝撃で後方へと50mほど押し弾かれるダンテ。
そんな彼へとすかさず追うように放たれて来たのは。

バージル『―――Take this!!』

雨あられというほどの幻影剣、それも360度全方位からだ。

魔弾やルシフェルで迎撃するのは間に合わない、
そう反射的に判断したダンテの左手へ次に現れたのは、
紫電を纏う巨大な鎌だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:20:38.15 ID:YYV6AaJco<>
ダンテ『―――Time to rock! Baby!!』

次なる魔具を手に取るや、
すかさず鎌をギターの形へと変じさせ、
リベリオンを叩き付けるようにして弦をかき鳴らし。


凄まじい電撃の嵐を奏で、周囲の幻影剣ごと焼き砕いていく。


バージル『―――This may be fun!!』


だが―――次いで放たれてきていた『次元斬の嵐』を退けることは出来なかった。


一度納刀し構えなおしたバージルからの、
神速の抜刀による次元斬の連撃。

しかも線状ではない、
深く沈むような音を発しては、
次元斬の『塊』が空間を根こそぎもぎ取っていく。

それに桁違いの威力に加え、時の腕輪の効力持ち。
僅かに触れでもしたら一気に深手を負ってしまうほどのもの―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:22:38.34 ID:YYV6AaJco<>
こればかりは紫電の幕でも防ぐことは不可能―――
遮るにはこのギターそのものを盾にするしかなかった。


ダンテはまたもや、
『外面的』には迷いのない動きでこの魔具を捧げた。


次の瞬間、盾とされては究極の次元斬の直撃を受け。
砕かれていく紫電の魔具。


ネヴァン『―――ダン……テ―――』


弦が弾け切れると同時に消失していく、
絶頂と至福と無念が入り混じる彼女の言霊。


―――耳を傾けてはならない。

トリッシュが見た彼女の姿を思い出してはならない。
トリッシュが聞いた彼女の声を思い出してはならない。

魔帝の役たる存在が、『道具』の喪失程度に意識を煩わせてはならないのだ。

徹しろ。
冷酷にして残虐な魔界の皇帝に徹しろ。

ダンテは徹した。
悪魔に徹した。

踏み切ると同時に、足先から魔弾を放って更に加速させ、
この次元斬の嵐の間をすり抜けて行き。

接触が避けられない瞬間には、朽ちていくネヴァンを最期まで盾として『使い捨てた』。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:25:00.54 ID:YYV6AaJco<>
彼女の最期の調である稲妻の嵐、
そして次元斬のきらめきの中、ダンテは一気に水面を駆けては距離を詰めていき。


ダンテ『―――Yeeeeahhh―――HA!!』


最大速のままの突き攻撃、
全力を載せたリベリオンの切っ先をバージルの喉もとへ。

対しバージルからは、
これまで次元斬を放ってきたのと同じ動作による一振り。


バージル『―――Huuuhhhh!!』

そして再び兄弟剣は激突した。

ここ煉獄すらをも砕かくかという光の爆轟。

この時一点に集束した力は、さすがに時の腕輪の効力があろうとも、
閻魔刀の側も完全に押さえ込むのは困難であった。

壮烈な衝突の爆発の中、両者とも刃を大きく弾かれてしまった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:27:08.69 ID:YYV6AaJco<>
だがそれで体制を崩すなんてことはおろか、
僅かなラグすらも両者に生じはしない。
弾かれたリベリオンと入れ違いにダンテから繰り出されるは、
ギルガメスが火花を散らす、左足による蹴り上げ。

同じくしてバージルから振るわれたのは鞘。

両閃光の嵐を切り裂き、
それらがついに標的を捉え互いに一撃を与える。


ギルガメスがバージルの顎に激突し、同時にダンテの喉にも食い込む鞘―――


そして直後―――両者の口から迸る鮮血。


両方とも、確かに一撃で致命傷を与える決定打ではない。

だがそうではないというだけで、
叩き込まれた殺意と力が圧倒的であるのは変わりなく、
二人の命は確実に削りとられていくのだ。

しかしそれほどの一撃を受けながらも、
互いに後ろに仰け反るどころか、苦悶の一声すらも漏らさず、
その場に押し留まっては更なる攻勢へと身を投じる。


刃を切り返し、至近距離からの幻影剣と魔弾、力に力の応酬を加速。

閃光を引く刃、生贄となり砕けていく魔具。
身から飛び散る朱色の滴が、互いの光と衝撃と混じりあって散っていく―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/11(金) 22:28:35.96 ID:YYV6AaJco<>
ダンテ『―――』

ダンテにとってはまだまだ足りなかった。
この戦いには更なる力と闘争が必要だ、と。

世界の流れを書き換えるには、
もっと強く、もっと凶悪に、もっと苛烈に。
この戦いを他に比する例がない、屈指の決戦にしなければならないのだ。


そしてそのために彼はより―――『力』を求めた。


正義を貫くために力を解き放つバージルとは真逆、対を成して、
闘争と殺戮をただ遂行するがために。

己の中にある『悪魔』から、
『悪魔であるスパーダ』から受け継いだ『破壊』から、
魂を売っては力を引き出してゆく―――


激突の中、次第にダンテの放つ輝きに変化が生じつつあった。
色合いが透き通った『真紅』から―――濁った『赤黒い』ものへと。


それが物語っていた事実は一つ。
『半人半魔』から『真魔』への変貌である。

――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/11(金) 22:29:33.49 ID:YYV6AaJco<> 今日はここまでです。
次は月曜に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/11(金) 23:05:54.73 ID:ac4g9ywHo<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/12(土) 00:15:57.09 ID:rsB/bDNSO<> 筋書きの破壊の為にどんどん魔具達が死んでしまう、いや、壊されてくのか……そしてダンテさん真魔人化か。最後の兄弟喧嘩には相応しいな。
>>1は本当にすごいな。2ちゃんねる以外のデビルメイクライのクロスオーバーを含めても、これが一番面白いのかもしれない。
設定もちゃんとしすぎ。
ホント、>>1は昔デビルメイクライのストーリーを創るのに関わってたんじゃないだろうかって思うくらいだ。余裕で小説版デビルメイクライを任せる事が出来る実力。
いや、もうデビルメイクライ5のストーリー書いちゃってよってくらい凄い。
小説家にだって普通になれる(上から目線みたいに言ってごめんなさい)
このSSの結末が楽しみだわ。乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)<>sage<>2012/05/12(土) 01:58:54.00 ID:o2Vmc8mTo<> 胸が痛いけど真魔人の登場に興奮を抑えきれないで乙
没になった4真魔人デザイン好きなんだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/12(土) 02:26:08.59 ID:i2jPgQJMo<> なにそれ見たい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/12(土) 06:09:10.77 ID:z4Rhq5eY0<> 乙乙乙

最強の兄弟の戦いの中[ピーーー]るとは、さぞ大悪魔たちも本望だろうよ
アグルド…(;ω;) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/12(土) 09:50:45.73 ID:JV3lkfhAO<> なんてこったネヴァンまで逝ったのか……乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/12(土) 17:35:19.98 ID:y4KmiyrMo<> お疲れ様です。準備と休息編でアイゼン様が言ってたスパーダ流カチコミ法がこんな形で再現されるなんて・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県)<>sage<>2012/05/12(土) 17:44:56.92 ID:tndMEi7S0<> これゲームだとプレイヤーはダンテとバージル、どっちを操作すんの? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/05/12(土) 18:04:27.88 ID:bEyvVIND0<> >>964
1Pがバージル2Pがダンテ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/05/12(土) 22:34:52.45 ID:v/Hry4wU0<> 乙
俺のケルたんは無事でよかった


(こう言っとけばエアハイク無いクソ武器ともおさらばやww) <>
◆tSIkT/4rTL3o<>sage<>2012/05/14(月) 00:20:19.92 ID:B8j0YwIpo<> すみません。
諸事情により次の投下は明日ではなく火曜になります。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(北海道)<>sage<>2012/05/14(月) 15:22:20.08 ID:83SkSh4Io<> !? どういう事だ……1? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/14(月) 15:26:22.22 ID:Drogmzxuo<> バージルさん時の腕輪ちゃんと制御してくださいよ。>>1に効果及んでるじゃないですか。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<>sage<>2012/05/14(月) 18:24:32.26 ID:oWeKr6eRo<> まだ日曜だと思ってたら既に月曜になってたんだな
このうっかりさんめっ <>
◆tSIkT/4rTL3o<>sage<>2012/05/16(水) 01:57:54.43 ID:f2pJ33CAo<> またしてもすみません。
途中で切ると流れがどうにも悪く、またスレもちょうど移行時なので、
今日16日の夜にまとめて40レス程度投下します。
本当にすみません。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(富山県)<>sage<>2012/05/16(水) 02:16:49.94 ID:RpkBtGi3o<> おk <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/16(水) 10:31:56.60 ID:uWdzCu2k0<> アニキにエネステしながら舞ってる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/16(水) 10:47:29.25 ID:zjjos2uIO<> 埋めるか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/05/16(水) 11:03:21.38 ID:8Ag1h/Hso<> 埋めるのは夜に>>1が来たのを確認してからにしないか? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/05/16(水) 12:55:54.67 ID:DM9KohgD0<> >>1000を例のアレにするためか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 22:41:17.41 ID:f2pJ33CAo<> ―――

兄弟の殺し合いの傍ら、もう一つの決戦も幕が開いていた。

開戦の号令となったのは、二つの刃の衝突音だ。
レッドクイーンと贋物のスパーダ、
現在と過去の最強が再び火花を散らすこととなった。

ネロ「Ha!!」

互いに地を蹴り真正面からの斬りこみ。
突進、衝突、そして光を迸らせての鍔迫り合い。

竜王『―――くっ―――ははは!!』

右方と呼ばれていた人間の姿、華奢で中性的な優男の肉体であっても、
竜王の身から迸るはそんな印象など欠片も抱かせない圧倒的な力だ。

ネロ「楽しいか?!カマ野郎!!」

竜王『期待通りではないが悪くはない!!』

そのようにして力の爆発の中、
二人は互いに刃を弾き合い、歯をむき出しにして笑いあった。
もちろん和やかなものではない、むせ返るほどの殺意を滾らせて。

加えてネロは見透かした色も滲ませて、
二撃目を振るいながらこう続けた。


ネロ「そうかい。俺は少し期待外れだな」

二度目の激突、再度生じる力の爆発。
だが今回は金属音と光の奔流だけではない、きらめく『欠片』も飛び散っていた。


ネロ「これじゃ―――アリウスと『同じ』だぜ」


レッドクイーンによって抉られたスパーダの刀身から。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:42:55.05 ID:f2pJ33CAo<>
レッドクイーンは魔剣スパーダを一度、完膚なきまでに破壊したのだ。

その事実からも、この二つの刃が互角にぶつかりあうことは無い。
魔剣スパーダが互角に、もしくはそれ以上にレッドクイーンに対することができるのならば、
そもそもこのような状況にすらなっていない。


竜王『くはは―――心配するな!』

しかし刃の劣勢を前にしても、
竜王は軽く笑い返した。


竜王『アリウスは―――コレはできなかっただろう?』


再度互いに刃弾く中、
左手に『もう一本』の――――――魔剣スパーダを出現させて。

これこそアリウスと竜王の最大の違い。
具現と破壊に加え絶大な創造の力。

三神の力を有すことで可能となる、途方もない戦い方だ。

無尽蔵の力を与えてくれる破壊と繋がったことで、
魔剣スパーダを『量産』できるのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:44:24.98 ID:f2pJ33CAo<>
しかも単に攻撃力を上乗せするだけではない。

竜王の右手にあった最初の一本、その欠けた刃が見る間に元通りになっていく。
これもまた創造の真価である。

単体ではレッドクイーンが負けることはない。
一方で、この魔剣スパーダ『たち』も破壊されることはないのだ。
創造の加護によって不滅の存在となっているのである。


ネロ「なるほど―――」

弾き合い20mほどの距離まで互いに押し下がる両者。
竜王フィアンマは両手の魔剣を振りひろげ、さらに絶なる創造の力を披露した。


竜王『父祖に刃向けた者よ!!』


造り出された魔剣は両手の二本どころではなかった。


竜王『―――その父祖の名に埋もれて滅ぶがいい!!』


スパーダ一族との決戦の際、
かつて魔帝が光の大剣を浮べていたのと同じように―――さら10本ものスパーダが、彼の頭上に出現したのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:48:17.52 ID:f2pJ33CAo<>
ネロ「ハッこいつはまた……!」

かの魔剣スパーダが並ぶ光景には、
ついネロも声を漏らしてしまった。

もちろん壮麗さへの感嘆ではない、辟易とした嫌気に参ってだ。

そんな呆れ笑いを漏らした孫へと向け、
父祖の名を冠する刃が襲いかかっていく。

まずは『赤黒い稲妻』を引いて飛来してくるスパーダが二本。


ネロ「―――きっとジイサンもびっくりだぜ!!」


ネロは横ではなく前に飛び込む形でそれらを回避した。

猛烈な速度で踏み切ったネロ、その動きに修正が追いつかずに、
コートを掠るも肉を切ることは叶わぬ刃たち。

そんな『後方』の石畳に突き刺さっていくスパーダを背に、
彼は竜王へと突進。

ネロ「Take this!! fuckin' FAG!!」

爆炎吐くレッドクイーンを薙ぎ振るった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:50:47.27 ID:f2pJ33CAo<>
その一撃は、交差させた二本のスパーダで防がれてしまうが、
ネロはその刃たちをもまとめて破断するべく、腕力に任せて一気に押し振るう。

しかし竜王を体ごと押し弾くことは可能であっても、
スパーダ『たち』は破壊しきれなかった。

またしてもレッドクイーンが刃を抉ったも、
切れ込みは刀身の半分にも達し得ず。
渾身の一振りでも、二本まとめて斬り砕くことはさすがにできなかったのだ。

しかもこの瞬間に与えたダメージすらも、瞬く間に造り直されて消失。

ネロ「Hum...!」

再生は本当に一瞬だった。
レッドクイーンと離れた直後には、
スパーダたちは『新品』同様の姿に戻っていたのである。


それを見ては、またもや声を漏らさずにいられなかったネロ。

そんな彼へと嘲笑を向けながら、
彼の腕力を利用して飛びのく竜王、
入れ違いに飛来してくるのはまたしてもスパーダ『たち』。

しかも今度は四本、竜王の頭上からの二本に加え、
後方に刺さっていた二本もネロの背へと飛来―――
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:52:08.42 ID:f2pJ33CAo<>
魔剣スパーダ。

いくら『量産型』とはいえ、またネロに因果を奪われていたとはいえ、
その力自体は紛れもなく『スパーダ』のもの。

ネロ「―――」

飛来してくる刃の速度には、この時ばかりは彼にとってさえも、
身を逸らす猶予はなく、
レッドクイーンを盾にするしかなかった。

ただし完全に防戦一方、余裕がなかった、というわけではない。
むしろこれを利用して更なる攻勢へと繋げていく。

すかさずレッドクイーンを前面に掲げ、前からの二本を弾くネロ。
同時に半身捻り、左手を後方に突き出して。

背後からの二本を、左手と連動するデビルブリンガーで『一掴み』にした。

巨手の人差し指と中指の間、
薬指と小指の間にそれぞれ一本ずつ、
まるで小さなナイフを挟み込むようにしてだ。


ネロ「こいつは返品するぜ!!」

そうして前方からの二本の衝撃も利用して、
彼は身を一回転させては―――勢い殺さずに二本のスパーダ投げ返した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:53:23.48 ID:f2pJ33CAo<>
竜王『―――』

元の速度にさらにネロの力も上乗せされた二撃。
これには竜王の対応も遅れ、
一本は弾いたも続く二本によって胸を貫かれてしまった。

しかし彼は平然、いいや、しっかりと苦悶の表情を浮かべ、
口からも鮮血を吐きはしたが。


薄ら笑いをも浮べていた。


ネロ「―――……チッ」


竜王『悪いな―――今の俺様に死の概念は存在しない』


竜王がそう笑い吐いて。

再びネロに突進してきた頃には、
胸を貫いていたスパーダは消えて頭上にまた出現。
体に空いた大穴も完全に消え失せていた。

そしてもちろん外面的なものだけではなく、魂や力の損傷もである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:54:36.72 ID:f2pJ33CAo<>
竜王『―――だがお前は違う!!ネロよ!!』

そして再び激突するスパーダとレッドクイーン。

飛び散る閃光とともにやはりスパーダの欠片が散るも、
瞬時に造り直し。
完全にへし折られても続けて量産可能。

その上、竜王自身が今や―――いくらでも復元可能。
つまり事実上の『不死』。


竜王『己が宿命が見えるか!!先に待ち構えている「死」を!!』


ネロ「―――Ha!!」


竜王にとって、ネロとは殺害が可能な存在だ。

これだけスパーダを量産してしまえば、
攻撃力の総量は彼を殺すには充分すぎるほどである。

いいや、単に殺すだけならば一本の攻撃力でも充分である。
魔剣スパーダ、その一撃をまともに受けては、
今のネロであろうがタダでは済まないからだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:55:44.35 ID:f2pJ33CAo<>
しかしネロの側は違った。

負けるかどうかはともかく、創造を打ち破る術を有していない以上、
ネロ単身で勝つことは絶対に不可能だった。
魔剣スパーダをへし折りどれだけ『最強』となろうとも、だ。

時の腕輪を有したバージルという、
勝利条件が破棄されてしまったのだから、『彼だけ』では勝利をつかめない。
この決戦の地は、そもそもは結集したスパーダ一族のために『デザイン』されていたのだから。

だがここにいるのは『彼だけ』ではない。
筋書きにはないイレギュラーな勝利条件も、この決戦の地に紛れ込んでいたのだ。


―――とは言え、レッドクイーンとスパーダが接触して以降、
ここまで『彼』は戦闘には参加していなかった。


竜王『―――ところで上条当麻!!』


ネロと刃を激突させる中、竜王は思い出したように叫んだ。


竜王『―――あれだけの口を叩いておきながらお前は観戦か?!』


開戦早々、ネロが竜王に向かったのとは反対に、
はるか後方に飛び退いていた上条当麻へ向けて。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 22:58:22.85 ID:f2pJ33CAo<>
上条『―――……』

上条当麻は、衝突する二人から300mほど離れた場所に下がっていた。
理由はもちろん、噴き荒れる絶大な力を避けるためにだ。

いくら戦う気に満ちてここに来たとはいえ、
まともに近接戦を行えば一瞬で屠られてしまうことはわかっている。
それは覆りようのない現実だ。

ただしだからと、ただ観戦してネロに全て任せるつもりでも無い。
今、彼なりに戦闘に加わる準備を急ピッチで進めているところだった。

禁書『―――もう少し!!』

インデックスによる『調整』と『改修』の傍ら、
ベオウルフからの支援も受けながら、身の敏捷性に力を注いでいく上条当麻。

今の竜王に爪や打撃が通るわけがないのは試すまでもない。
通常の力による攻撃力はもとから放棄し、力は全て回避に専念させているのだ。


そのようにして竜王の愚弄にも耳を貸さずに、黙々と準備を完了させて。
ついに上条当麻も戦いに参じるべく動き出した。

禁書『いいよ!!』

意識内に響いた彼女の声を合図に、
彼は銃を―――輝く『聖剣』が伸びている銃口を遠くの竜王へとむけ。


上条『よし―――派手に行こうぜ!!』


その聖剣を―――『射出』させた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:00:47.38 ID:f2pJ33CAo<>
竜王『―――ッ』

金色の光剣が放たれた瞬間、竜王の顔色が豹変した。

いかにも楽しげだった余裕は影を潜め、
変わらず薄ら笑いを浮べてはいるも、表情はぎこちなく硬直。

そしてこれほどにまで乗り気だったネロとの斬り合いを中断してまで、
竜王は聖剣の回避を優先させた。


10m以上も後方に跳躍し、
充分すぎる間合いと時間をもってやり過ごしていく。

彼がこの金色の光剣に並々ならぬ警戒を抱いているのは、
この一行動のみでも誰の目にも明らかであろう。


単純な攻撃力自体は、竜王にとっては塵に等しい。
だが問題はそこではなかった。
少し前まで上条とは同一体だったこともあり、彼にはわかっていたのである。

射出され上条の身を離れていてもなお、
ミカエルの聖剣としての作用は失っていない、と。


例えわずかに接触しただけでも、
程度の差があれ精神錯乱の影響は免れないだろう、と。

そして創造、破壊、具現といった強大な力を稼動させている今、
僅かな精神の異常でさえも致命的―――制御を誤り、強大な力で自滅しかねないであろうことも。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:02:31.12 ID:f2pJ33CAo<>
上条を嘲笑った途端に一転。
竜王は強烈なお返しを受けてしまうこととなった。

一本回避しただけで安心するのは早い。
続けて二本目どころか、雨あられと連射されてきたのだから。


竜王『はっ!全く目障りなカスだ!!』

次々と放たれてくる聖剣に思わず悪態。
同時に彼の背から伸びるのは『翼』、黄昏色の鱗におおわれた竜の羽。

そして羽ばたくと放出されるのは無数の赤い光矢、
魔帝が使っていたものと同じ『弾幕』だ。

しかしそれらの照準は寸前に狂わされてしまう。


竜王『―――消え失―――ッ!!』


ネロが親切に待ってくれはしなかったからだ。

瞬間、竜王の頭部が根こそぎ木っ端にされ、その身が人形のごとく吹っ飛んだ。
ネロが放ったブルーローズの魔弾に加え、
連動する巨大な光の大砲による砲撃によって。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:04:22.75 ID:f2pJ33CAo<>
直前に放たれかけていた光矢の弾幕は、
竜王の身がもんどりうったために大半が付近に着弾、派手に一帯を穿った。

しかし残る三分の一が進路修正を成功させ、上条の方へと。

上条『―――ッ!』

魔帝の光矢、上条にとっては一発でも貰えば致命傷もの。
固めた拳と爪でも防御することは困難、わずかな接触すら許されない。
回避に徹しなければならない。

だが三分の一の数とはいえ、
空の一面を覆うには充分すぎる量、それに速度も猛烈だった。

俊敏性に力を注いであるとはいえ、己の力量だけでは回避しきれない。
そう即座に判断した上条は、たんっと軽く跳ぶと。


上条『―――スフィンクス!』

すると呼びかけた彼の股下に―――魔女の魔方陣が浮かび、『白虎』が姿を現した。


上条『―――頼むぜ!俺の眼になってくれ!!』


大きな背にまたがり首筋をかるく叩く上条、
そこへ白虎は一唸りを返すと、すぐさま踏みきっては回避行動に移った。


インデックスとベオウルフの契約により、更なる強化を受けているスフィンクス。

たくましき四肢は、歩のたびに石畳を割り疾駆、
体は見事な捌きをみせて、この猛烈な弾幕を突破。

上条『いけ!!』

そしてその背から、上条当麻は聖剣の砲撃を続けていく――― <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:07:40.06 ID:f2pJ33CAo<>
竜王『―――チッ!!』

頭部の欠損など一切問題にはならなかったも、
再生した彼の顔色は優れなかった。

いくら予期せぬ事柄も愉悦になるとはいえ、
眼中にもなかった『小物』に調子を狂わされたのでは、苛立ちの方が勝るものだ。

ましてやネロとの対決というとっておきの一戦に水を注されれば尚更だ。


そんな竜王の『素直』な表情変化を、
当然ネロは見逃しはしなかった。

再び刃を激突させ、最強の人間は挑発的に言葉を投げかけていく。
瞳には、不気味な洞察の光をきらめかせて。

ネロ「―――どうした?!何か困り事でもあんのか?!」

竜王『心配しなくていい!些細なことだ!』

ネロ「その割にはやけにビビッてるな!」

竜王『―――俺様ではなく己が身を心配したらどうだ?!』
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:10:04.26 ID:f2pJ33CAo<>
剣劇は一進一退だった。

10本以上もの魔剣スパーダによる、物量に任せて押しこもうとする竜王。
両手の魔剣を叩き振るっては、
浮遊する魔剣をネロの隙を狙って次々と放ちこんでいく。

一方ネロは、見事な剣技と体捌きでそれらを退けていった。

刃の量は負けてはいるも、鋭さ・強度は確実に勝っているのだ。
魔剣スパーダの刃を抉り飛ばし、
デビルブリンガーで牽制しては強烈な一撃を見舞う。

と、そのように一見互角のように見えてはいるも、
両者の間にはある大きなアドバンテージがあった。

ネロは限りある魂である一方、竜王は事実上不死であるという点である。

ただしそんな竜王の優位性も、今や徐々に翳りが生じつつあった。

竜王『―――』

斬り合うかたわら、羽から赤い光矢を放ち続けてはいるも。
ネロに意識を向けなければならないために、
いまだにあの目障りな『小物』を捉えることはできぬまま。


そのような刃の応酬の中、決定的な瞬間が訪れる。


とある回避し損ねた聖剣。

この金色の刃が身に刺さることを免れるには、
竜王は左手の魔剣スパーダで弾かざるを得なかった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:11:29.69 ID:f2pJ33CAo<>
刃を振るい、聖剣を一瞬にして砕き散らしていく竜王。


魔剣スパーダにとっては、この程度の刃など塵に過ぎない。
傷一つ、汚れ一つ生じはしなかった。

しかし。
何も生じはしなかったも、既に『生じていたもの』には大きな変化があった。
いいや、むしろ『変化が止まった』のである。

ばきり、と光が弾けた直後。

レッドクイーンによって抉られていた刃の損傷、その再生が停止した。

竜王『―――』

その現象が何を示していたのかは明白。
竜王にとっては、こうして実際に触れなくともすでに予想はついていた。


創造の機能不全だ。

この一本へと向けていた意識に、幻想殺し―――ミカエルの聖剣の作用で障害が起こり、
正常な制御が損なわれてしまったのだ。

やはりアレイスターが魔術で構築したものとは違っていた。
オリジナルの聖剣は確かな作用を有していたのである。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:14:53.27 ID:f2pJ33CAo<>
ネロ「へえ―――」

そしてもちろん、
そうした竜王の事情はネロの目から隠すことも不可能だった。

小さくつぶやいては不敵にほくそ笑む最強の人間。
瞳の中にある洞察の光がひときわ不気味にきらめく。


ネロ「―――なるほどねえ」

彼はそうわざとらしく声を漏らしながら、
すかさずレッドクイーンを振るい、
創造の加護をなくした魔剣スパーダを―――完全に叩き斬った。


砕け、宙を舞う魔剣スパーダの切っ先。


この一連の光景で、ネロと竜王の思考は同じ結論に到達する。


竜王の身に聖剣を刺す、
それがネロの最重要目的となり、
竜王にとってはなんとしてでも防がねばならないということだ。


竜王『―――』

そして彼が成すべき具体的な手段は、上条当麻の早急なる排除―――

そのようにして、彼の中で優先順位が覆ってしまった。
頂点にいたネロは一つ下がり、順位の中にいもしなかった上条が頂点に。

これは単に順位の逆転というだけではない、ある大きな意味を含んでいた。

筋書きの意志に反するとはいえ、
上条当麻をこの決戦の中心に据えざるを得なくなったのである。


つまりは、上条当麻という『主役』の存在を認めてしまうということだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>saga<>2012/05/16(水) 23:17:24.70 ID:f2pJ33CAo<>
だが竜王には、そうした流れへの影響を懸念している余地はなかった。

影響を僅かなものに留めるに、また自らの勝利のためにも、
ここからは何よりも上条の排除に専念しなければならない。

確かに意識がそれたことで、ネロの猛撃に晒されることになろうも、
創造が存続する限りいくらでも再生できるのだ。

いくら最強の人間の攻撃といえど、この身を滅ぼすことは出来ない。


竜王『―――ははっ!!お前には恐れ入るよ上条当麻!!人を苛立たせる点に関しては超一流だ!!』


竜王は怒気と嘲笑を混じらせた声を吐き出しては、
上条の方へと振り向きざまに。

振りかぶった右手のスパーダを叩き下ろし、赤黒い斬撃を放出。


直後、その絶大なる光刃が一帯ごと―――上条とスフィンクスを消し飛―――ばすはずだったのだが、


上条『―――ッうおッ!!』

彼らは僅かな差で死を免れることができた。

斬撃の狙いが逸れてしまったのだ。
竜王が斬撃を放ったと同時に、
ネロのデビルブリンガーが彼の背を殴り飛ばしたために。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:18:05.98 ID:f2pJ33CAo<> 次スレ立ててきます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:20:28.43 ID:f2pJ33CAo<> 次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1337177956/

このスレは埋めます。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:20:55.74 ID:f2pJ33CAo<> うめ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:21:24.29 ID:f2pJ33CAo<> ume <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:21:52.92 ID:f2pJ33CAo<>                                             __          , - 、      _,、_
                                         └一 、 ̄L__,、   〈  }r─‐冖'ィ^´
                                             L.r‐- 、_  ` ̄` `ア^  {フ }
       , -─- 、                                         , -=マ      、_ |
.       /.::/ ̄`ヽ.:ヽ.                                     //^}::::}      \`´        _
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                  |:::_ノ^>_」 「ヽ`ヽ::::|                        ー'| ヒ__.ノZ||、\
                  |::ー::´::ヽ.ノ::::::ー′|  イ  ン  デ  ッ  ク  ス  「二−へヘ_ノ  Y^ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(青森県)<>sage<>2012/05/16(水) 23:22:20.83 ID:f2pJ33CAo<>                レ'〃〃.:.:.::::::::::.:イ:.:.ヽ
              レ'〃〃.:.:.::::::::::::..:!.::.:.ハ
               レ'//.:.:::::::::::::::::::.:.!.:.:.ハハ
                  l.:.:.:.:::::::::::::::::::::.:.:ノ.:.:.j:ハ:.:',
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            Nミ ゝェ式>=く ィrェ式ソ'´i:! i1:!
            リぃ`ー一' i   `ー一'  i:!ノノ:!              >>1000
             i:ハ   、_..       /リ_ノ.:li
             {j ハ  _ .._ _ ,    /.:.:V.:.!:!!
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      /.:.:.:/.:.:.:./〃: /: : : :,.  ´  ̄ ̄ ``ヽ、: : : : : : :.\ \.       and BAYONETTA <> 1001<><>Over 1000 Thread<>                     ___, - 、
                    /_____)
.                    | | /   ヽ || 父さんな、会社辞めて小説で食っていこうと思うんだ
                    |_|  ┃ ┃  ||  
                   (/   ⊂⊃  ヽ)        /  ̄ ̄ ̄ \
  \僕はSS!/           \_/  !        ( ( (ヽ     ヽ
                   ,\ _____ /、       | −、ヽ\     !  <私は二次創作
   ゝ/  ̄ ̄ ̄ \     /. \/ ̄\/   .\     | ・ |─ |__   /
   / _____ヽ    |  |  _┌l⊂⊃l  |  |    ┌ - ′  )   /
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   |__|─ |   ・| ・ |    |  /`, ──── 、 |  |     ` ─┐  ?h ̄
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    ヽ、  ┬─┬ノ / ̄ ./            ヽ- 、\    /   ̄ ヽ\
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  | |  /  `i'lノ))┘/ , ─│             !-l⊂⊃l┐__ヽ__/\ / |   | |
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<> 最近建ったスレッドのご案内★<><>Powered By VIP Service<>ダンテ「学園都市か」【MISSION 11】 @ 2012/05/16(水) 23:19:17.11 ID:f2pJ33CAo
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4年ぶりの彼女できだぜ!ふぅううぅぅうあぁあああぁぁぁああ!!!!!!! @ 2012/05/16(水) 23:04:28.01 ID:Vxf1qEQ80
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垢どこだああああああああああああああああああああああ @ 2012/05/16(水) 22:56:47.87 ID:PL2LToIbo
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煮干し出汁 @ 2012/05/16(水) 22:55:49.47 ID:Sm8X07/bo
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いーちゃん「安価で戯言シリーズ?」 @ 2012/05/16(水) 22:45:08.58 ID:MqeGUXaK0
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エッチ祐三のグロ画像ください! @ 2012/05/16(水) 22:19:20.72 ID:zULHtAZro
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【御新規さん歓迎】酔っぱらいだけど☆避難所★6【一人酒のお供に】 @ 2012/05/16(水) 21:57:23.94 ID:bM3A7jZPo
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色々と注ぎ込む @ 2012/05/16(水) 21:56:50.01 ID:2X+PleE8o
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