◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/02(木) 21:20:47.09 ID:TDiw/bJ60<>

ーー私は、あまり運のある方じゃない。


 学校では、人前で話すことには全く慣れて等いないのに講演を頼まれる。

 戦闘では、使っている武器の為か前線を任される。

 クラスでは、はっきり言って世間一般に言う『女子』としての扱いはあまり受けたりはしない。


セブン「それにしても……」


 しかし、今挙げた3点は、全て自己の努力で解決できる事だ。

 話す事が苦手なら練習をすれば良い。戦闘が苦手なら鍛錬を積めば良い。女子の扱いを受けたければそういう振る舞いをしていれば良い。

  だから、『運』という言葉で解決するには、些か都合が良過ぎるのかもしれない。




 だが。


セブン「…………これは、運が悪いとしか……。表現はできないな」



 赤と黒で構色された制服を通り抜け、突き刺す様な直射日光。
 一面見渡し、視界に広がるのは怏々となるような砂、砂山、砂塵。


セブン「………………砂漠、だな」

 
 それ以外の表現方法は、思いつかない。
 運が悪い、という辛辣な言葉は、私の心に絡まるように留まっている。
 







SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1328185246(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>FinalFantasy零式 心寄/奇譚
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/02(木) 21:35:54.09 ID:TDiw/bJ60<>  腐系のカップルものSSなら結構見つけたのですが、男女のカップルSSは中々無いということで、零式SSです。


 更新はかなり遅めです。忙しい時はほとんどしません(できません)のでご注意を。

 
 それでは、次回以降の更新からゆっくりと始めて行きます。


    【前作】

シンク「零組の女子会」  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326102445/  <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 22:32:32.48 ID:19p62LuIO<> 早く <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/02(木) 22:46:39.75 ID:YpaneQcdo<> 一昨日から始めたけど面白いなこのゲーム <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/03(金) 00:43:34.92 ID:vC3vWs2Uo<> またお前か



待っていたぞ カプは前作のでよろしく頼む <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 00:59:30.76 ID:/hy93+Zuo<> セブンジャック期待 <> VIPにかわりましてNIPPERお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 07:21:21.41 ID:Zxbv6QJw0<> エスデュとマキレム期待  <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 08:25:23.70 ID:/ZdbU7+Ao<> うおおおおお期待ィィィィィィ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 13:50:30.22 ID:HprQnZ+o0<> 待ってた!
カップリングは>>1の好みでよろしく
腐ってなければ何でもいけるぜ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/03(金) 17:32:34.39 ID:LbNz7HTO0<> 前の人か、とても期待 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/03(金) 23:52:15.45 ID:8qcENTr10<> ー

 事の発端は、つい先日のクラサメ隊長からの指令だった。


クラサメ「各々、健闘を祈る」


 課外授業、とでも呼ぶのだろうか。
 皆が渋い顔をしてるのを理解していたのだろうが、隊長はあえて無視し、私たちにそう告げた。

 彼が我々の意見を含意しないことなどいつものことであるが、今回はいつもとは質は違うものだった。


『自足・自力による戦地からの帰還命令』


 私を含め、皆が嫌悪感を露にせざるを得ない理由は、これに尽きるだろう。

 ただの課外演習だったら、私たち零組は幾度と無くこなしていたし、
何より、私たちは昔から机に向かう勉強より実践の方が遥かに多かった。

 それが……だ。


クラサメ「白虎・青龍との戦いは我ら朱雀の勝利となった」

クラサメ「被害は甚大なものとなったが、我らが得たものはそれ以上に大きいと言えるだろう」

クラサメ「今はまだ諸国の攻撃による被害を受けた朱雀領土の補修・修繕を行っているが、いずれ朱雀は国家として大きく成長するはずである」

クラサメ「……だが、それは君たち朱雀候補生たちの自己抑制力を弛緩させ、稽古の怠慢・戦力の低下に繋がってしまうのではないか」

クラサメ「諸君らの任務は、ただ無為にアギトを目指すということだけではない。朱雀を外部からの侵略から守ることも含まれている」

クラサメ「それが、戦争を終えた途端に日和り、軟弱になってしまったのでは、零組という特別クラスを設けた意義がなくなってしまう」

ー <>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/03(金) 23:54:45.38 ID:8qcENTr10<> ー

 ここでナインやサイスたちがブチ切れたのは言うまでもない。
 
 元々乱暴な気質で耐え性の無いナインだ。
 実力不足、と揶揄されたことに腹が立ったのだろう。隊長に食って掛かった。

 もちろんクイーンやエース、そしてデュースと言った零組のメンバーは、通常授業の続行を希望したし、
私やトレイたちも不快感を外に出さざるを得なかった。
 
 だが、隊長はそんなことはお構いなしに、話を続けた。


クラサメ「よって、これから君たちに命ずる」

クラサメ「……そこの移動式魔方陣に乗り、各自無差別に選定した地域へ到着し次第、本国へ帰還せよ」

クラサメ「無論、支給物等は最低限の金銭、そして回復薬のみ」

クラサメ「諸君らの勲功を収める事を、期待している」

クラサメ「それでは、ーー」


 それから、1時間と待たずに、私たちは全員オリエンス各地に飛ばされた。



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:00:34.44 ID:2zaqy8UG0<> ー

セブン「……はぁ」


 思い出すだけでため息が出る。
 私は、戦争を終えたのにも関わらずまだ訓練を続ける意味が、よく分からなかったから。


 今回の件について、他の零組の人間はどう思っているかは知らない。
 もうしかしたらナインやケイトたちの様な好戦的な奴らにとっては都合のいい事かもしれない。

 だが、少なくとも私は戦闘なんて好き好んで行っているわけではないし、
モンスターや盗賊たちと言えど、不用意に怪我を負わせたりファントマ化させてしまう事は、あまりしたくはなかった。


セブン「(とりあえず、…………進むか)」


 どこに飛ばされたのかは分からない。
 と、言うよりも、私はこれから何をすれば良いのかすらあまり分かっていない。
 帰ればいいだけなのか、それとも新しい技術でも持って帰還しなければならないのか。

 ただ一つ私が分かる事は、ここにこのまま居ても無駄な日焼けをし、更には干涸びてしまうだろうということだけだ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:02:01.12 ID:2zaqy8UG0<> ー

【 Mon PM 13:30】


セブン「ぷはっ……」


 不幸中の幸いだった。
 砂漠各地に点在している水源、オアシスは一時間弱歩いた所に見つけられた。

 その場で渡されたポーチを確認したが、入っていたのは10個のポーションと、戦地用のテント、そして食器類。
飲料水等は入っていなかったのだ。


セブン「……」


 空を見た所、まだ昼を過ぎたばかりといったところか。
 じりじりと身体を照らしてくる太陽の位置がまだほとんど沈んでいないから、すぐに分かる。


セブン「(どうしたものかな……)」


 移動用のチョコボでも使えたら、かなり楽なのだろうが……。
 隊長の事だ。そんな甘えは許さないだろう。私は最初からチョコボを召還しようとはしなかった。

 しかし、目の前に見えるのは全て黄色い砂の山。
 足跡すら残らないレベルに研磨されたものだ。

 海の上やどこかの離島に飛ばされるよりは楽なのだろうが、それでもコンパスを頼りに進むには、遭難のリスクが高い。


セブン「かといって、動かないと帰れない……か」


デュケラトプス「ガァァァッ!!!!」


セブン「!?」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:02:48.15 ID:2zaqy8UG0<>

 迂闊だった。砂を踏みしめる音を聞き取れなかった。
 少し、先の見えない絶望感に浸り過ぎていたのかもしれない。
 

セブン「っ!」

 
 すぐに武器を出し反撃しようとするが、そこで反応が遅れたツケが来る。
 頭突きを肩に食らい、数メートル吹き飛ばされた事に気付くには数瞬の時間が必要だった。


セブン「……っぐ!」


 立て直そうとするが、三半規管を揺り動かされた為、頭が上手く回らない。
 普段腰に付けているウィップソードがやけに重く感じられたのもそのせいだろう。


デュケラトプス「っふるぅうぅううううっ!!!」


 しかし。
 敵は悠長に待つ事等、してはくれない。
 砂漠に獲物などはそうはいないだろう。血走った眼、口から滴り落ちる粘着性のある唾液から、余程の空腹である事が読み取れた。



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:04:18.25 ID:2zaqy8UG0<>

デュケラトプス「うぐううううううっ!!!!!ぐがあああああぁぁぁぁぁっ!」


 腰を低く屈め、一歩を踏み出す。さっきよりも勢いの付いた突進だ。
 そして、相手は無防備になった私。
 かなりの大ダメージは避けられない。


セブン「(く、そ……)」


「おっと、危ないよ〜?」


セブン「……(な、んだ……!?)」


デュケラトプス「ぎっ!!!ぐぁう!!!ぐがああぁあっ?!!」


「いやぁ〜、……最近、斬ってなかったんだけど……。ごめんねぇ〜?」


セブン「……っ」


 砂の山に倒れ込む私の目の前で戦闘は始まり、一瞬でそれは終息を迎えた。
 虚ろになり掠れ行く意識の中で確認できたのは、レッドファントマを受け取る人影と、倒れ込む大型の獣の姿だった。



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:05:23.05 ID:2zaqy8UG0<> 【 Mon PM20:34】


セブン「……っん、ぅ」


 しゃく、しゃく、と。
 定期的に鳴り響く靴底と砂の擦れる音を聴いて、目が覚めた。

 最初に気付いたのは、今の時間。
 どうやらもう既に夕刻を過ぎて、夜になってしまったようだ。
 暗い夜空には星が点々と灯っており、辺りを照らしている。


セブン「……」


 次に気付いたのは背中と太ももに感じる暖かさ。
 何か、私より大きいものに抱えられている様な……


セブン「(っ!?!?)」

ジャック「あ、起きた〜?」


 !?!??!?
 ど、どういうことだ!?
 な、何でジャックが、ここに?!
 いや、っというよりも何故私はこんな形で抱かれているんだ!?



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:06:41.01 ID:2zaqy8UG0<>

ジャック「大丈夫〜?一応ポーションでも飲んでおく〜?」

セブン「えぇっと……、あ、あーっ。じゃ、ジャック。ポーションは、大丈夫だから。……と、とりあえず降ろしてくれないか?」

ジャック「ん〜?僕は別に大丈夫だよ〜?」

セブン「いや、そ、その……。自分で歩いて夜風に当たりたいんだ……」

ジャック「あ、そういうことか〜。ごめんごめん」


 ジャックはゆっくりと腰を下げて、私を降ろした。
 先ほどまで触れられていた所に暖かさを感じて、もの凄く恥ずかしい。


セブン「(よ、ようやく降りれた……)」

ジャック「星をゆっくり眺めながら歩くのもいいもんだね〜」


 そう語りかけながら、ジャックはいつもの笑顔で私の方を見る。
 砂漠では月明かりが黄色の砂に反射し、完全に暗くなるという事が無い分、はっきりと表情が分かった。


セブン「……っ」

ジャック「ん〜?どうしかしたの〜?」

セブン「な、なんでも、ないっ……!」


 自分の顔を見られたくなくて、思わず顔を逸らした。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:09:05.07 ID:2zaqy8UG0<>

ジャック「それじゃ〜、セブンも目覚めた事だし〜」

セブン「?」

  
 よっ、という声と共に、ポーチの中からテントを取り出し、設置を始める。
 慌てて、私もそれを手伝う。


ジャック「風も冷たくなって来たし〜、ここら辺で野営しようよ〜」

セブン「そ、そうだな……」


 確かに、昼間のうだるような暑さが嘘の様に、夜の風は冷たかった。
 砂漠の天候は朝夜で大分違うという事は知っていたが、やはり現実。身を以て味わった方が早い。
 百聞は一見に如かず、だ。

 戦時中は、そんな所に気を回している余裕は無かったから、気付かなかったが……


セブン「こんなものか……」

ジャック「へへ〜、セブンがいてくれて助かったよ。僕はあまりテント建てるの上手くないからね〜」

セブン「……」


 組み立て終え、ちり紙にファイアを唱えた所で、ジャックが笑いながらそう言った。
 少し自重気味に言っているが、実際そうでもない事を、私は知っている。
 不器用に見えて、結構やる時にやっている奴なんだ。


ジャック「あ、崩れた〜」

セブン「……あそこは、お前が設置した部分じゃなかったか?」


 ……訂正。…………だと、思う。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:10:36.22 ID:2zaqy8UG0<> 【 Mon PM21:34】


セブン「……ところで」

ジャック「ん〜?」


 支給品の食料と、先ほどの獣から剥ぎ取ったとか言う肉を干し肉にした物を食べながら、話を切り出す。


セブン「ジャックは、どうしてここにいたんだ……?ランダムに移動するって話だっただろう」

ジャック「いや〜、それがね〜、実は始めから洞窟の中に飛ばされたんだけどさ」

ジャック「そこをとりあえず散策してたら、頂上に辿り着いてさ、飛竜のボスに会っちゃって」

セブン「そこは飛竜の巣だったという事か……」

ジャック「武器取り出す間も無く吹き飛ばされちゃってさ、参ったよ〜」

セブン「怪我は無かったのか……?」

ジャック「あはは〜、着地した時に少し腰打った位で何の問題も無いから大丈夫〜」


 飛竜の巣から砂漠のある地方まで飛ばされて腰を打つ?
 結構大丈夫な問題で済まない気がする。
 落ちる高さにも寄るし、下は砂だから助かったのか……?

 何にしても、受け身を取るとかその次元は遥かに越えているだろう。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:11:25.26 ID:2zaqy8UG0<> ジャック「そこで吹き飛ばされた先をまた宛も無く歩いてたらセブンが居たってわけだね〜」

セブン「……」


 結果的に見て、ジャックの不運が私の幸運だったわけ、か……。


セブン「すまなかったな……」

ジャック「?」

セブン「私の不注意で起きたことを、お前に拭ってもらってしまって。本当に申し訳ない」

ジャック「いや〜、気にする事なんて無いでしょ〜?」

セブン「……私は、心のどこかで『動きが鈍ってるわけが無い』と高をくくっていたのさ」

セブン「その慢心が、さっきの事態に繋がった」

ジャック「そんなに難しく考える必要も無いと思うよ〜?」

セブン「……本来、今回の課題は『自足・自力による戦地からの帰還命令』のはずだ」

セブン「それを、私はお前の力に頼り、開始早々で破ってしまった」

セブン「…………、さっきの事で、私は死んでいてもおかしくはなかったんだ。……ありがとう」


 素直に頭を下げる。
 戦争が終わった今、戦闘なんてしたくないなんて。私の甘い考えでしかなかった。

 モンスターは朱雀領にある街を襲うし、それを撃退するのは私たちなのに。
 どこで考えを履き違えたのだろう。隊長の言っている事が、本当に身に沁みた。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:12:17.08 ID:2zaqy8UG0<>
ジャック「ん〜……」


 ジャックは思い悩むように頭を人差し指で掻きながら、釈然としない表情をしている。
 私のせいで、ジャック自身にも罰が下るかもしれない。
 それを今理解して、やってしまったことを後悔しているのかもしれない。


セブン「(まぁ、それが当たり前、だな……)」


 『運が悪い』などと心に言い訳をして、警戒を怠った私に浴びせられるのは、当然叱責のはずだ。


ジャック「セブン〜、ちょっと手伝ってもらって良い〜?」

セブン「……?」


 ジャックの声に覚醒させられ、ふと見ると先ほどまで居た場所に、ジャックは居ない。
 地面に零組の証である紅蓮のマントを敷き、その上に置いたサラシにポーションを付着させていた。


セブン「それは……?」

ジャック「いや〜、やっぱり打った所が少し痛むからさ、巻きたいんだよね〜」

ジャック「手伝ってもらっていい〜?」

セブン「……なっ!?」


 しゅるり、という布と擦れる音と共に、ジャックは上着を脱ぎ捨てる。
 引き締まった背中には、無数の傷と、一際目立つ青い痣。
 恐らく、その痣が落ちた時についた傷だろう。


セブン「(……よくもまぁ、痣だけで済んだものだな…………)」



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:13:51.06 ID:2zaqy8UG0<>
 それにしても、やはり毎日のように刀を振るっているだけ有り、無駄な部分等ない程に身体が仕上がっている。
ごつごつと波立つ背筋に、少し男らしさを感じる。
 言っても、私は男性の上半身をまともに見たのは、これで初めてなのだが……


セブン「(な、何を考えているんだ、私は……)」


 呆けかけていた所で、意識を元に戻す。


ジャック「セブン〜?」

セブン「あ、あぁ……っ」


 おずおずとしつつも、ジャックの方まで小走りで寄る。
 

セブン「わ、私はサラシの巻き方を知らないんだが、大丈夫なのか……?」

ジャック「普通の包帯を巻くのと変わらないから大丈夫だよ〜」

ジャック「わ、分かった……」


 言われるがままにサラシを受け取り、ジャックの腰下から腰上までに掛けて巻いて行く。
 傷に触れないように、なるべく気を使いながら。


セブン「(腰回りが大きくて、中々届かないな……)」


 男と女の体付きの違いが浮き彫りになる。腕を思い切り回さないと、どうにもサラシを巻き辛い。
 だが、それだと必然的に抱きつく形になってしまう。

ー <>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:14:57.15 ID:2zaqy8UG0<>
セブン「(……う、ぅう…………)」


 しかし、頼まれたからにはやらざるを得ない。
 真面目にやらずに失敗するなんて、もう嫌だ。


セブン「……お、終わったが…………。問題無いか?」

ジャック「うん、大丈夫だね〜」


 腰を左右に捻って巻き具合を確認して、そう言われると何故か極度に安心してしまった。
 ……相当、緊張していたのだろうか。


ジャック「じゃあ、これでチャラだね〜」

セブン「……?」


 制服についた砂を払い、ボタンも付けずに適当に着こなすとジャックがそう言った。


セブン「何の事だ……?」

ジャック「ん〜、僕もセブンを助けたけど、セブンも僕を助けてくれたでしょ?」

セブン「……!」

ジャック「だから、これでセブンが悩むのはおしまいってことでしょ?お互い様なんだからさ」

セブン「い、いや!私はただ手伝っただけだ!お前は――」

ジャック「じゃあ僕もただ目の前にいた敵を斬っただけ、ってことだよ」

セブン「……っ」

ジャック「何かに悩むより、すぐそれを解決して楽しく過ごした方がいいよ〜」



<>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:16:18.84 ID:2zaqy8UG0<> セブン「だ、だが!それでは私の気が済まないんだ。助けられたの事実であるわけだし、私自身の心の弛みにもここで踏ん切りを付けたいんだ」

ジャック「セーブーンー」

セブン「っ!」


 突然ジャックは振り返ると、私に向かって振りかぶる。
 思わず、私は眼をつむってしまった。


セブン「……?!」


 その時。
 頭の上に、固くて暖かい物が乗った感覚がした。

 恐る恐る眼を開くと、
 

 …………ジャックが私の頭を撫でているのだ。


セブン「じゃ、ジャック?な、何を……?!」

ジャック「ん〜?いや〜、もうクリスタルの力で、誰にされてたのかは忘れちゃってるんだけど」

ジャック「僕は子供の頃に、こうされるとすっごく落ち着いた気がしたからさ〜」

セブン「……っっ」

セブン「わ、私は、子供じゃないんだぞ……っ」

ジャック「あはは〜、そうだね〜」

セブン「…………とう」

ジャック「ん〜?何か言った?」

セブン「な、何でも無いっ」


 口ではそう言いつつも。
 ジャックには少し笑われながらも。
 心地は悪くなかった。むしろ、ずっと撫でられていたかった。

 俯いた頭は、絶対に上げられない。
 ジャックには向けられない。絶対に見せたくない。
 顔が、熱い。


セブン「(………………うぅ……)」


 ある不運が続く日の一分間。
 人生で一番小さな声でお礼を言った、その時間だけは。忘れられない思い出になった。
 
ー <>
◆IfMuZOmnhU<>saga <>2012/02/04(土) 00:19:59.15 ID:2zaqy8UG0<>  今日の分更新終了です。

 セブンって絶対に不器用ですよね、絶対に。ある意味、サイスさんより。

 零式はキャラが全員カワイイからもうね……。

 前回とは違った地の文混みで見にくいSSかもしれませんが、よろしければ御付き合いください。

 それでは。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 00:47:28.56 ID:tImM23NAo<> あんた最高だ


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/04(土) 03:06:50.83 ID:RK0Gmrjto<> 乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/04(土) 09:02:00.50 ID:jDwnDOmMo<> うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/04(土) 10:50:39.74 ID:wL+m7h5q0<> 乙ぅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/04(土) 22:27:56.15 ID:V7aoQxu20<> 乙!!!セブン可愛い過ぎる!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/02/04(土) 22:39:37.88 ID:ch0nJQX80<> おっつー!

セブンいいねぇ!いいねぇ!さいっこうだねぇ!!!

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/05(日) 02:25:11.33 ID:KZN66Ekxo<> セブン最高だった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/05(日) 22:47:40.59 ID:i8M9U2K90<> >32 セロリさんちぃっす!!
セブン可愛いよセブン!乙っす!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/14(火) 07:59:49.88 ID:i0rgPw8O0<> バレンタインだしカプものが読みたいな〜…(チラッ <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:22:44.21 ID:aprothiY0<>











○oo○o Curious tales of SICE o○oo○









<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:33:59.62 ID:aprothiY0<>
【 Mon 13:24】

 [熱帯雨林]


 ……。


サイス「……」


 私は、戦うことに好きも嫌いもねぇ。


サイス「…………」


 黙々と、
 目の前に私を邪魔する糞共が来たら蹴散らす。
 それだけ。

 それが、多かっただけ。


サイス「………………」


 それだけでも、扱いは戦闘狂。好んでやっているように見られるときた。

 ただ、それは別に構わない。
 どう思われようと、私は私のやりたい事がやれてるのなら、どうでもいい。


サイス「……………………」


 他人なんて、所詮は駒。先輩も後輩も序列もねぇ。弱い奴は消えて強い奴だけが残る。
 世の中そんなもんだ。
 クリスタルの力で記憶をなくしていた時代は、そうやって納得してたし、それは今も変わらない。


サイス「…………………………おい」


トレイ「はい、何でしょうか?」


 気持ちわりい笑顔向けてくるコイツに対しても、そんな私の思いは変わらない。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:34:53.47 ID:aprothiY0<>
サイス「何でテメェは着いて来やがんだよ!消えろよボケナス!!」


トレイ「まぁまぁ。折角、近い場所に飛ばされたのですから。協力して戻りましょう」


サイス「私は誰っとも組むつもりはねぇーんだッつの!!」


トレイ「私にはあるので、それは受け入れられませんね。一人で戻る事に利点は有りませんし」


サイス「クラサメの野郎も一人の力でッつってただろ!っつーか、御託云々はいいから消えろっての!」


トレイ「御託云々……。私はそこまで多くの事を理論的に語ってはいないのですが……。と、言うより御託という言葉の所以は――」


サイス「……(んとに面倒くせえ野郎だ……)」スタスタ


トレイ「……ふふっ」

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:36:17.84 ID:aprothiY0<>
【 Mon 15:00】


モルボル「うごごごごご……」


サイス「くっせえんだよ、テメェ」バシュッ


モルボル「……ぐがっ、げりゅりゅりゅ…………」ズドン


 何の因果かは分からないが。
 私が一番気に入った武器は、自分の名前と一緒だった。


ムシュフシュ「ぶろおぉぉぉおおっっ!」


サイス「消えろ」ザッ


 それは、長い幹の先端についた片刃で、相手を切り裂く、『鎌』。
 とある言語で、サイス。綴りは違うものの同じ名前らしい。


ボム「ごぉぉぉおぉぉおっっ」


サイス「チッ……キリがねぇな、ほんと」


 ただ、名前が一致してることに私は別に特別な意識とか持ち合わせちゃいねぇ。
 相手をぶっつぶす為の道具が、『たまたま』私と同じ名前だったってだけ。

 戦えれば、そんなものはどうでもよかったんだ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:37:29.55 ID:aprothiY0<>
トレイ「はっ!」ビュッ


ボム「っ!?…………ビュ……りゅら……」ピクピク


サイス「……」


トレイ「致死性の猛毒塗着の弓矢です。……せめて苦しまずに逝けますように」


サイス「…………誰が手を出せっつった?」


トレイ「誰にも言われておりませんが。ただ、目の前にいたモンスターを倒したまでの事です」


サイス「……」


サイス「……糞が」


トレイ「何とでもどうぞ」ニコニコ


サイス「ふん……」スタスタ
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:38:19.85 ID:aprothiY0<>  

【 Mon 16:17】


サイス「……」ブチッ


トレイ「野犬の肉ですか……。少し栄養価に欠けますね」


サイス「……ぺっ」ピチャッ


トレイ「食事の時間帯も微妙です。昼食としては遅く、夕食としては早すぎます」


サイス「……」ゴクゴク


トレイ「せめて少しでも緑化野菜分の接種をする為に、こちらのギザール野菜でもどうですか?……おっと、勘違いしては駄目ですよ。ギザール野菜は今ではチョコボの餌として主に使われていますが、元々その高い栄養価は人間にも……」


サイス「……なぁ」


トレイ「はい?」


サイス「いい加減失せろって言ってんの。わかんねぇ?」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:39:32.07 ID:aprothiY0<>
 優しくされる事は、嫌いだった。
 

トレイ「それは私の勝手ですので」


 次に同じことが起きた時。
 同じように反応してくれるソイツがいないと、心が痛む事を知っているから。


サイス「……そうか」


 だから、私は一人が好きだった。
 
 何が起きても自己責任で。何をやっても誰かに文句を言われる事は無くて。
 そんな自由が、気に入っていた。


サイス「それなら、私がお前をぶっつぶす事にも異論はねぇな?」チャキ


 そうする為には、自分から他人を拒絶しないといけなかった。
 
 普通に接してるんじゃ、何にも分かってないバカ共が世の中には腐る程いるから。


トレイ「……穏やかじゃありませんね、それは」

 
 その為には、特別を作るわけにはいかなかった。
 親、兄弟、友達、クラスメート、それにマザーだって。全部、ただの人形と同じに思う必要があった。


サイス「……これで忠告は最後だ」


 従って。
 コイツも、例外なんかじゃない。そんなものは、この世に居ない。
 ……私にとって『自由の為の排除対象』だった。


サイス「…………『私の視界から、消えろ』」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:41:14.55 ID:aprothiY0<>
【 Mon 18:48】


 零組の奴らも、任務だから接する。
 それ以外では、誰にも指図されたくないし、
 誰にも気遣われたくない。


ザァァァァ...


サイス「……ちっ(ここいらはすぐに天候が変わりやがんな…………)」


 任務は嫌いじゃない。
 色んな世界を見る事に抱く感情は、怖さより楽しさの方が勝っていた。
 

サイス「(……あの野郎、これを予測してたのか?)」


 だから、任務には進んで出ていた。
 零組の物でなくても。今回の任務だって、私にとっては好都合だった。
 制限時間がない、ただ『帰還』を条件とする課外授業。


――トレイ『流れ落ちてくる葉溜水には御気をつけて……』


サイス「……っ!」バッ


ザパァン!!


サイス「……」


サイス「……けっ」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:42:18.73 ID:aprothiY0<>
【 Mon 20:34】


サイス「……」


 目測で見ても、降水量はかなりのもんだ。
 これじゃ、テントは建てられない。


サイス「(木陰で休むしかねぇか……)」


 ひたひた、ひたひた。
 雨粒が空から降っては落ちて、弾ける。
 複数の水溜まりは落ちては固まり、落ちては固まり。
 いずれは小さな川の様になった。


サイス「……(これじゃ、明日になっても足下がおぼつかねぇな……)」


 他のメンバーは、どうなったのか。
 止む目処の立たない雨を見ながら、少し考えてみる。

 私がこんなドが付くレベルの田舎にぶっ飛ばされたなら、他の奴らも……。


サイス「……」


 だが、それもすぐにやめた。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:43:47.36 ID:aprothiY0<>
サイス「……」スッ


 クラサメの言う事が正しいのであれば、だだっ広いオリエンス中に散りばめられたはず。
 誰がどこへ行ったかも分からない。
 
 そんなことは、考えるだけ無駄だった。


 それに――


サイス「………………ンだよ、おめぇは」


アダマンタイマイ「ぐるる…………」



 やっぱり、さっきのは言い直す。

 戦闘は、どっちかって言うと好きだ。


サイス「腹減ってんのか……?……来てみろよ、ポンコツ」


アダマンタイマイ「ぐがぁああああああああああああああああああああ!!!!!」


 戦う時に、無駄な考え事なんて、不要だったから。
 
 考えなければ、自分を見失わないで済んでいたから。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:44:57.61 ID:aprothiY0<>
【 Tue 0:02】


アダマンタイマイ「ぐぎゅ、ぶぎゅぎゅぎゅぎゅ……っ!?」バタ


サイス「……は、はっ、はぁ」


 沢山生き物がいるっつーことは、それだけ食物連鎖が激しいってことだ。


サイス「……ざまぁ、みろよ…………糞が……」


 その中で生き残る奴なんてのは、必然的にある程度の強さを誇らねばならない。


アダマンタイマイ「…………っ」ピクッ ピクッ


サイス「……かってぇ甲羅しやがって、亀如きがよ……」


 私が倒したコイツだって、何年生きて来てんのかわかんねぇような大物だ。
 どんだけの奴を食って、活動して、生きて来たんだか。


サイス「(刃こぼれ……してるよなぁ……)」


 やたらと凹凸の目立つ自分の鎌を見て、少し笑えてくる。
 偉そうな事言っておいて、どんだけ苦戦してんだよ、私は。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:45:25.46 ID:aprothiY0<>
サイス『私は、回復薬なんていらねぇ』


クラサメ『……いいのか?』


サイス『使う事もねぇだろ。今更』


クラサメ「……いいのか?一人の旅路は、仲間と居るのとは比べ物にならない程厳しいものだぞ』


サイス『……ナメんなよ?過去の四天王とやらとは、違うんでね』


クラサメ『…………そうか。……それでは、無事の帰還を祈っている』


 ふと、どうでも良い会話がフィードバックしてくる。
 悲しげな顔をしているクラサメの野郎の顔も、オマケ付きで。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:46:40.11 ID:aprothiY0<>
サイス「……がふっ、はぁっ…………!」ダンッ


 気付けば、雨は止んでいた。
 泥濘んだ土の動きにくさと不快さは相変わらずだったが。


サイス「……っは」ズズッ


 崖の様な場所。
 一部分だけ岩が突出し、屋根の様になった崖の下で、無意識に肩から崩れ落ちる。


サイス「…………自分の血、こんなに見たのは……。二度目かもなぁ……?」


 皇国の、シドとの戦いの時。
 試練とかいうアイツにとっての『遊び』のせいで、私たち零組のメンバーは全員死にかけになった。
 そのまんま、ゾンビが歩いてるんじゃねえかって位、全員がボロボロの布っきれみたいなもんで。
 歩くのもままならかったっけか。


サイス「……へへっ」


 何で生きてるのか分からないくらい流血で、身体がどんどん冷たくなっていくのが分かった。
 手足には切り傷だらけ、胸元には頭突きで受けた打撲が目立って。


サイス「(……私、何で女に生まれて来たんだかなぁ……)」


 冗談にもならない考えが、浮かぶ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:47:21.36 ID:aprothiY0<>
レム『この前から、リフレで新しいアイスクリーム店がオープンしたんだって!今度行ってみない?』


シンク『え〜っ!?それは聞き捨てならないよっ!行くしかないよ〜っ!』


ケイト『私たち、授業で結構忙しくて、最近リフレ行けてなかったもんねぇ』


レム『今日は時間もあるし、行ってみない?!』


シンク『賛成〜!今すぐ行こ〜!』


ケイト『今すぐ!?話が早いね!?』


シンク『善は急げだよ〜っ!』


レム『えへへ、そうだね!それじゃ行こっか!』
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:51:37.11 ID:aprothiY0<> レム『あ、でも!他の人は誘わなくてもいいの?』


ケイト『おっとっと、そうだね。デュースとかもこういうの好きそうだしね〜』


シンク『デュースとクイーンはクリスタリウムで、セブンは三組に行ってたはずだよ〜!』


ケイト『よっし!それじゃ呼びに行くか!』


シンク『お〜っ!』


レム『え、えっと……。サイスはいいの?』


シンク『ん〜?うん、大丈夫だよ〜!』


ケイト『……。うん、そうだね』


レム『……?そ、そっか……』


シンク『それより、早くいこ〜!私待ちきれないよ〜!』


ケイト『全く、食い意地だけは張ってるんだから……』


シンク『……。最近太ったケイトさんには言われたくありません〜』


ケイト『……ぶっ!?あ、アンタいつそれを!?』


シンク『実は後ろでちゃっかり見てたり……』


ケイト『私のプライバシーを返せ!!』


レム『あはは――』





サイス『――……』
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:54:36.54 ID:aprothiY0<> 【後日】


[リフレッシュルーム]


『すっごい美味しいね〜!』


『楽しみにしてた甲斐があったね!』


『待ちわびたよ〜!』


『お、美味しいですね、本当に……』


『こら、シンク。あまり騒いではリフレッシュルームの他の利用者の方々に迷惑です』


『そんな姑みたいな事言ったらだめだよ〜』


『しゅ……!?』


『値段の割に、本当に美味しいな……』


『ねっ!これからも皆で来ようね!』








『………………』 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:55:49.79 ID:aprothiY0<>

サイス「……群れるのは、好きじゃねぇんだから、仕方ねぇだろ…………?」


 誰に問いてるのかって?
 私にだって分からない。

 …………多分、自分に。


サイス「……ん?」


アダマンタイマイ「……うごご、があ、げげげぎゅ」


サイス「…………」


サイス「……………………へへっ」スッ


 一人で生きて来た奴ってのは、大概渋といんだ。


 だって、消えたら、誰も覚えてなんて、いてくれないから。



サイス「…………私もお前も、似たもん同士だなぁ?」


アダマンタイマイ「…………」ググッ


サイス「……来いよ。終わらせてやる」


アダマンタイマイ「…………………」ググググッ


サイス「どうした!?ビビってんのか!??!??こいっつってんだよ!!!」


アダマンタイマイ「…………ごおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」ダッ





 ――損な性格だ、本当に。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:56:21.71 ID:aprothiY0<>
【 Tue 6:46】


サイス「……」パチッ


サイス「…………ん」


サイス「!?」ガバッ
 

サイス「いっつ……」ビクン


トレイ「……おや、目が覚めましたか」


サイス「……!?」


トレイ「昨日は凄い雨でしたね。下着までびっしょり濡れてしまいました」


サイス「…………」


トレイ「……あれですか?」


トレイ「……私が手を下したわけではありません」


トレイ「私が来た時には、既に絶命していました」




「…………」

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:57:20.82 ID:aprothiY0<>
トレイ「……あの大きさから見るに、裕に1000年は生きて来たこの辺りの長級のモンスターでしょう」


サイス「…………」


トレイ「……しかし、長年生きて来た彼の甲羅だったからこそ、たくさんの薬草が生えていました」


サイス「…………っ」


トレイ「貴方の傷も、すぐにとは言いませんが、いずれは治るでしょう」


サイス「…………」


トレイ「無事で、良かったです。本当に……」


サイス「………………」


トレイ「さぁ、それではもう一眠りしてください」


トレイ「あれだけの傷です。流石にこれだけの睡眠では体力的にも精神的にもキツいはずです」


サイス「……………………」


トレイ「見張りは私がしますから。どうぞ、眠ってください」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:58:34.47 ID:aprothiY0<>
サイス「……なことすんなよ…………」


トレイ「はい?」


サイス「勝手な事すんなよ!!!」


トレイ「……」


サイス「誰が頼んだ!?誰が!!お前に!!っつーかなんだよ?!お前は私の保護者か!?赤の他人だろ!?」


トレイ「…………」


サイス「クラスメートだから当然ですってか!?きもっちわりい!!きもちわりいんだよ!!」


サイス「馴れ合いはやめろよ!!善人ぶんな!!私の前から消えろ!!何でいつも、いつもいつも!!いつもいつもいつもいつも!!」


サイス「お前は私を一人にしてくれないんだよ!!」


トレイ「………………」


サイス「私は、覚悟してたんだ!」


サイス「あの怪我じゃ、放っときゃ私は死んでた!」


サイス「それなのに……。なのに!お前が私を生き長らえさせた!」


サイス「お前に何の権利がある!?何の!!」


 言葉が溢れ出て、止まらなかった。

 生きていた事に、何より驚いて。
 それが嬉しいものなのか、悲しい物なのかも分からなくて。
 正直な話、私は、正常な思考を保っていなかったと思う。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 14:59:45.42 ID:aprothiY0<>
サイス「何で、お前は私に付き纏うんだよ!」


サイス「あの時、お前は去っただろ!?」


サイス「私に呆れて、消えたんだろ!?」


サイス「だったら群れたい奴だけで、群れてりゃいいじゃねえかよ!!」


サイス「私は、一人でいい!!」


サイス「クラスの奴らだって、私を好き好んで誘いやしねぇだろ!?」


サイス「いつでも一人だったんだ!戦争中だって、その前だって、もちろん!後も!!!」


サイス「…………私は!!あのまま、一人で!!」


サイス「……一人で、死んでればよ――」





パァン






サイス「……っ」


トレイ「…………」

 
 空気を裂く様な、乾いた音。
 朝日の出て、湿り気のある環境だからか、余計に音が響いた気がした。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:01:14.86 ID:aprothiY0<>
サイス「……っ何すんだよ!!」


トレイ「いい加減にしなさい!!」


サイス「!?」


 大きな声だった。
 それは、怒声でもあった。
 ただ、喧嘩の時にいつも相手から投げ掛けられていたそれとは、どこか違う。


トレイ「貴方は、いつまで自分の命は自分だけの物だと思っているのです!!」


サイス「……っ!!」


 感情がこもってるっつーのかな。 


トレイ「零組の皆さんが貴方を放っておいてる?!冗談じゃない!」


トレイ「零組は、貴方のことをいつも案じてるんですよ!」


 それも、私の知らない、感情。


サイス「はぁ!?戯言抜かしてんじゃねぇぞ!?」


トレイ「妄言なわけがないでしょう!」


サイス「!」ビクッ


 それは、力強くて。
 何故だか、圧倒されちまうような、さ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:02:39.90 ID:aprothiY0<>
トレイ「いつだって一人で行ってしまう貴方の後方から、敵が来ないのは……」


トレイ「本当に貴方一人で全員倒したからだと思っていたんですか?!」


サイス「……っ!!!!」


トレイ「貴方が店に行く時間帯を狙ってリフレに行く女子の皆さんの気持ちを、考えた事がありましたか?!」


サイス「……」


 知らなかった。
 ただ、用事が重なってただけであって。
 ただ、それだけだと、思ってた。
 見せつけてるのかと思った時期だって、あった。


トレイ「…………」


トレイ「……貴方は、自分が思っている以上に、一人になりきれていないのです」


トレイ「どこか危なっかしいというか、なんと言うか……」


トレイ「全く……」ギュ


サイス「……」


サイス「…………ふぇ?」


 息を吐き出した様な声が、思わず口から零れ出た。
 外から見たより、ずっと大きな肩が、目の前にあった。

 肩に付いている金具はずぶ濡れで、相当な時間外にいたことがわかった。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:29:09.20 ID:aprothiY0<> サイス「……やっ」


サイス「…………や、やめろよ、私に、気安く触るんじゃ、ねぇ」グッ


トレイ「いいえ、やめません」グイッ


サイス「…………ぁ……」


 何か、自分でも呆れるくらい、自覚した。
 コイツの力って、実はかなり強いんだな。


トレイ「本当に、こんな傷だらけで……」


サイス「……それは、お前だって――」


サイス「…………!?」


 ふと、私を包み込む腕を見る。

 無骨に破けた黒い制服から見える素肌は、真っ赤で、見てられないくらいに腫れ上がって。


サイス「(…………そっか)」


――トレイ『……しかし、長年生きて来た彼の甲羅だったからこそ、たくさんの薬草が生えていました』


 薬草が生えるくらい、栄養のある土壌なら。

 『毒草』が生えない理由は、ないもんなぁ。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:29:39.35 ID:aprothiY0<>
トレイ「……なんで付き纏うか、っと、貴方は聞きましたが」


トレイ「…………心配なんですよ、私は」


トレイ「零組の中で、誰よりも気丈に振る舞っていて、何でも一人でこなそうとする、貴方が」


トレイ「…………何だか、放っておけないんです」


サイス「…………っは、はは」


サイス「それじゃ、……私がお前に子守りしてもらってるみたいじゃねぇか」


サイス「私は、一人で出来るんだよ。別に、誰にやってもらうとかじゃなくても、一人で……」


サイス「だから、お前の心配なんざ、よ、余計な、お世話……」


 何故、言葉が辛辣になって行くのか。
 何故、言っている自分の心が痛むのか。

 よく、わからねぇ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:30:10.63 ID:aprothiY0<>
トレイ「余計なお世話でもいい」


トレイ「……それで、貴方を守れるなら。別にどう思われようと構いません」ギュゥッ


サイス「……」


 背後に回る固い腕の感触が、更に増す。
 痛いくらいに締め付けてくる感触で、
 私の嫌いな『束縛』をしてるはずの腕なのに、
 別に、嫌じゃない。


トレイ「…………貴方は、目覚めなくても不思議ではなかった」


トレイ「それほどの傷だったんです」


トレイ「…………だけど、目を覚ましてくれた」


トレイ「……本当に、本当に良かった」


サイス「……」


トレイ「……誰も、貴方のことを疎んでなんていません」


サイス「っ!」


トレイ「男性陣だって、女性陣だって、教師の方々だって、……もちろん、私だって」


トレイ「貴方の事をとても大事に思っています」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:30:40.73 ID:aprothiY0<>
サイス「……っ?」ツー


サイス「…………!」


 自分の頬に、何か暖かい物が伝った事に気付いたのは、その時だ。


サイス「……はっ、大の男が、泣くんじゃねーよ……。気色わりい」


トレイ「…………これから言うのは、押し付けがましいことです。頼みです。お願いです」グッ


サイス「っ!」


 私の頬を、手の平で持って、無理矢理にでも目を合わせようとしてくる。
 その瞳は真っすぐ私の事を見ていて、逃れられない気がした。


サイス「――い、いい加減に……」グッ


トレイ「どんなことがあってもいい!!」


サイス「っ」ビクッ


トレイ「絶対に……。絶対に自分の命を粗末にしないでください」


サイス「……っ」


トレイ「死んでもいいなんて、言わないでください」


サイス「……うぇ、っ」


トレイ「何よりも貴方の事を思っている人間なら、ここに居ます。居ますから」


サイス「えぇ、ぁ、うぅぅう……」


トレイ「……生きていてくれて、本当にありがとう…………」


サイス「うぁぁ、うぁっ、ぇ、うああぁぁ…………」


 何かよくわかんねぇけど。
 知らねえ内に、こみ上げてくるもんがあってさ。



 それが自分の涙なんて認めるのは、すげえ小っ恥ずかしかった。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:31:26.48 ID:aprothiY0<>
【 Tue 12:00】



トレイ「それでは、行きますか!」


サイス「……」


 あの後、自然に寝ちまったみたいで、相当自分の身体が疲れていた事を実感した。


トレイ「この地帯は、以前の実践演習でも来ていますし、恐らく帰り道は分かりますから。焦らずゆっくり、怪我に触らない程度の早さで参りましょう!」


サイス「……おい」


トレイ「はい?」


サイス「……その、さっきのこと…………。誰にも言うなよ」


トレイ「さっき?さっきとは?」


サイス「そ、それは、その……さっきはさっきだろうが!!ボケ!!」スタスタ


トレイ「…………」


トレイ「やはり、女性の涙は美しいものですね」ニッコリ


サイス「……」ブチ


サイス「てんめぇ……。やっぱり、今ぶち殺してやる……」ユラァ


トレイ「ははは、それじゃ本当に出発しましょうか」タッタッタ


サイス「話逸らしてんじゃねぇぞ!!ごらあああああああああああああああああああ!!!」

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/23(木) 15:34:48.87 ID:aprothiY0<> すいません、二週間ぶりの更新です。

こんな感じで、一話ずつ、別キャラの話をやって行こうかなって思います。

何か閉鎖的なんだけど地味に優しいって感じの性格してる女の子って、萌えますよね!www
サイスとか、ドハマりでした。

さぁ次は零組の誰と誰にしようか迷い中ですが……。
まぁどのみちこんな話にしようという曖昧な目標もなしに、書き始めたときの妄想力で決まる物ですし、それはおいおい決まりますでしょう!ww


それでは!前回読んでくださった皆様ありがとうございました!今後とも御暇な時にちょろっと読んでやってください。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 15:38:45.09 ID:R5rfkNPco<> おお乙!!
サイスかわいい…
女子会のときのカップリングで嬉しかった <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/23(木) 16:43:53.76 ID:Jds7UDc0o<> 待ってたぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 17:25:20.94 ID:OSVJJBeh0<> 乙
やべぇ…ちょっと泣きそうになったわ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 20:26:23.77 ID:J63KEIpK0<> やべぇ……ちょい泣いてしまった……。これ見てサイス×ナインハマったわ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 21:10:58.27 ID:J63KEIpK0<> 恥ずかしい間違えしたあああああああ
サイス×トレイね! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/23(木) 23:26:29.06 ID:PYJdp8vIO<> 零式SSとは珍しい。
乙です。

なんかサイスはこんな感じなんだろうなっていうのはあるな…

トレイがイケメン過ぎるが…

とりあえず期待です <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/24(金) 00:03:48.32 ID:yfIUhjAIO<> おつ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/24(金) 19:41:58.17 ID:gk6Wp4lR0<> おつおつ サイス可愛いのぅ <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:12:38.49 ID:SV5H/fms0<>

 『勝つ』って、どういうことなんだろう。


 私は、時折考える。

 

 『報酬』って、何なんだろう。



 私は、時々物思う。



 勝ったら、全てが終わりなのかな。




 



 勝った人も、負けた人も。
 ――ううん、勝った国も、負けた国も。

 どっちも幸せって、あり得ないことなんだよね。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:13:24.34 ID:SV5H/fms0<>














〓〓= Curious tales of DEUCE =〓〓




<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:14:03.74 ID:SV5H/fms0<>
【 Mon 12:00】


[市街地]



デュース「ここで、しばらくじっとしていてくださいね」


「あ、ありがとうございます、ありがとうございます……。貴方は……一体?」


デュース「……私は、別の生存者が居ないか確かめて来ますね」



 助けを求めてこちらに伸びてくる手を、私は何度、見過ごしたんだろう。

 

デュース「確か、この付近で銃声が……!」


 ただ、目の前に広がる崩れた煉瓦造りの道をひた走る。

 黒煙が広がる市街地。
 静かに額を伝うそれが、血なのか汗なのか。
 でも、判断してる猶予も、無い。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:14:32.95 ID:SV5H/fms0<>
「うぁあああああああああああ!」

「助けてくれぇえええええ!!」

アッカド「ひゃっははははは!!!死ね、死ね死ねシネシネシネシねぇええええ」


デュース「……っ!」サッ


♪ ♪ ♪


アッカド「!?」


デュース「今のうちです。……逃げてください!!」


「…………!…………う、うああああああああ!!!」ダッ


 私が飛ばされたのは、暴動が起きる街の付近に広がる、森の中だった。

 嫌でも耳に入ってくる怯声は、まるでそれが潤滑油の様に足を滑らした。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:15:13.23 ID:SV5H/fms0<>

アッカド「んだぁ?おめえ……」


デュース「黒の、レクイエムです。その音色が響いた者の身体を、黒の音色が蝕みます」


アッカド「んぁぁ、そのかっこぉ、見覚え、あんぞぉ……?」


デュース「……これ以上の攻撃はしたくありません」


アッカド「んぉぉ、そうだぁ、そうだぁ、思い出したぁ」


デュース「お願いです。暴動はやめて、仲間と共にこの街からたい――」


アッカド「俺の、獲物だあああああああああああああああああ!!」ブン


デュース「っ!」


♪ ♪ ♪



ボトリ
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:15:41.77 ID:SV5H/fms0<>

アッカド「あれぇ〜?」


デュース「……」


アッカド「俺の腕、何で落ちてんだぁ〜?」


デュース「(……)」


アッカド「……ふひょ」ニヘラ


アッカド「ふひょ、ふひょひょひょひょひょひょひょぉぉぉおお!」


デュース「(……駄目なんだ)」


アッカド「あひゃああああああああああああああっ!!」ダッ


デュース「(……)」スッ


♪ ♪ ♪


アッカド「……あ、あひゃ」ズリュ


アッカド「首ィ、落ちて、りゅ――?」グルン


デュース「(……)」


 朱雀の統治に反対する各国の有志たちを募り、遂に起こした暴動だった。
 思いの外、メンバーにはばらつきが有る。


 例えば、モンスターも入れば。
 家族を質に脅され、無理矢理参加させられてる人もいるし。


デュース「……」


アッカド「……………………」


 首を落としてもなお、自身の剣を力強く握りしめ続けている、戦闘狂だっている。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:16:25.01 ID:SV5H/fms0<>

――クラサメ『諸君らの勲功を収める事を、期待している』

――クラサメ『それが、戦争を終えた途端に日和り、軟弱になってしまったのでは、零組という特別クラスを設けた意義がなくなってしまう』


 勲功って、そういうことなの?


デュース「……」ザッ


デュース「ごめんね……。ごめんね……。ごめん……、ごめんなさい……」


 剣にこびり付く薄桃色の内臓や、剣自体を染上げる様な、濃い鮮血。

 私は、彼らに謝る事しか出来ない。


デュース「……」


デュース「(……私って)」


 アギトって、何なのだろう。



デュース「(……分からない事だらけだなぁ)」




 私は、これまで何を学んで来たんだろう。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:17:17.96 ID:SV5H/fms0<>
【 Mon 14:29】


デュース「はい、これ」


「おねえちゃん、ありがと〜!」


デュース「いいえ、ゆっくり食べてね」ニコッ


 ひとまず暴動の沈静化に成功した。
 この街に派遣された兵たちが少なくて、助かった。

 もし大勢で来られていたら、私一人ではどうしようもなかった。


デュース「……」


 今は、シェルターとして使っている格納庫で、食事の配給をしている。
 食事と言っても有り合わせの物に自前の調味料を入れた、粗末な物。


「おいし〜!」

「そうだね〜!」


 だけど、彼らは嬉しそうに食してくれる。
 

デュース「(朱雀近郊の領土だったら……)」


 きっと、彼らにこんなことが起きるわけが無いし。
 こんなご飯、『美味しい』なんて言ってくれない。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:17:55.15 ID:SV5H/fms0<>
 元々、この街は白虎……皇国の領土だった。
 豪雪地帯で、作物なんてろくに取れない。

 そんな隅の場所でも、人は戦争をする。


 自分の目的の為に、他人を平気で傷付ける。


デュース「……」


 このまま、ずっとこの街を守れるわけじゃない。

 今はあくまで課外演習中。
 朱雀の学生が行う授業中、即ち、朱雀の意志に沿って行動している最中。

 一刻も早く戻らなければ、それは立派な物とは言えない。


デュース「(でも……)」


「〜っ!!〜っ!♪」


 放ってなんて、おけないよ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:19:02.04 ID:SV5H/fms0<>
【 Mon 15:43】


「……デュース」


デュース「……?」


デュース「…………!」


キング「この街に、いたのか」


デュース「キングさん……!」


 街の緊急避難令が解かれ、子供達を開け放った後。
 背後から声をかけて来たのは、キングさんだった。


キング「……ここで、何を?」


デュース「は、はい。レジスタンスと朱雀衛生軍の戦闘があったので、その応援を……」


キング「……」


キング「…………そうか」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:19:29.85 ID:SV5H/fms0<>
デュース「え、えと……。私はこの近くに飛ばされたんですが……。キングさんは何処へ?」


キング「……俺は、未知の飛空挺の発見された場所に、な」


デュース「っ!セッツァー、という方が残したと言われる飛空挺のあった、あそこですか……?」


キング「……あぁ」


 どうやら、キングさんは、私よりも、もっと奥地に飛ばされたようだ。
 皇国領土の西の先端の洞窟に飛ばされたというのだから。

 ……そう言えば、制服も所々破けてたり、ほつれてたりする気がする。


デュース「そ、それは。……大変でしたね?」


キング「……あぁ、それはもう」ムスッ


デュース「は、はうぅ……」アセアセ


 かける言葉も見つからない。
 だって、ここに飛ばされただけでげんなりしてる私が居るのに、
 彼は、もっともっと遠くまで飛ばされてるんだから。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:20:02.66 ID:SV5H/fms0<>

キング「……それで、お前はこれからどうするんだ」


デュース「ふぇ?」


キング「……この後、の話だ」


デュース「そ、それは――」




「奴らの増援だあああああああ!!!!」




デュース「!?」


キング「……」



「来たぞおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!女子供は真っ先に避難しろぉぉぉぉぉ!!!」


「く、くそっ!!なんだよ、なんなんだ!!あいつらは!!!!こんな所までええええ!!!!」


「は、早く銃を構えろ!!構えろ!!!う、うぁああああ!!」


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:20:29.53 ID:SV5H/fms0<>

デュース「ま、また……!?」


 再び多くの銃声が飛び交う様になった街で、私は、驚きを隠せない。
 
 くどいようだけど、ここは悪い言い方をすると、田舎の方なんだ。
 そんな所に、ただでさえ少数であるはずのレジスタンスが何度も増援を送るわけがない。



 何か、何か彼らが狙う物がこの街に無ければ、この街に――




デュース「……ぁ」


キング「…………どうやら、奴らの目的は」


デュース「………………格納庫の中の食料……!」


 兵糧は、多ければ多い程、いい。
 それに、ここを占拠できれば、他の基地との連絡を取るのに、格好の中継地点ともなりうる。

 なぜ、私はそこまで頭が回らなかったんだ……!
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:20:57.08 ID:SV5H/fms0<>
デュース「わ、私、行かないと……!」グッ


デュース「!?」


キング「……待て」


デュース「な、何ですか?早く行かないと、街の人たちが……!」


キング「俺たちの目的は、何だ」


デュース「……へ?」


 訥々と。
 呟く様に、キングさんは言葉を零した。
 その顔は、無表情で、何の念もこもっていない様に見える。


デュース「え、えと……」


キング「…………迅速に朱雀の学園まで戻り、帰還を報告する事だろう」


デュース「……」


キング「この付近に落とされたのなら、身を守る為の防衛手段として街の暴動の沈静化を計ったとは言える」


キング「……が、これ以上のこの街に留まるのであれば。それは目的から大幅に逸れていると思うんだが?」


デュース「……そ、それは…………」


 その通りだ。
 私が、さっき考えた事じゃないか。
 私たちにとっての成功は、一秒でも早く本国に戻ること。


 この街を守ることじゃ、ないんだ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:21:28.50 ID:SV5H/fms0<>
キング「違うか?」


デュース「……」


キング「今ならまだ目的をブラさずに行ける」


デュース「で、でも……私は、そのっ……」


キング「そもそも」


デュース「っ」


キング「この状況で。俺たちが出来る事って、何がある」


キング「散らしては湧いて、散らしては湧いて。そのイタチごっこを繰り返すのか?」


デュース「……うぅ…………」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:22:00.32 ID:SV5H/fms0<>
「くっ、ぁああああ!!あいつら、一体どれだけ居るんだ!!?」

「わからん!わからんが、このままじゃ格納庫まで侵攻されちまう!!」

「……く、くそぉ!!!」


デュース「!!」


キング「……ここも、そろそろだな」


デュース「…………キングさん、その、……わ、私は、……私は!!」


キング「……………………国の命と、私的な感情を天秤にかけて」


キング「我が侭を押し通そうとしてるのは、俺と、お前。……どちらだ」


デュース「……!!!!」


 身に、沁みた。
 キングさんの言葉が、心に突き刺さるみたいだった。
 身体に傷は無いのに、どこかが、痛い。
 ……とても、痛かった。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:22:33.06 ID:SV5H/fms0<>
「も、モンスターだあああぁぁぁあああああっ!!!」

「くっそ、青龍の残兵まで連れてきやがったのか……!」

「だ、だ、だだ、駄目だああああ!!突破される!!!」


ベヒーモス「ぐぉおおおおおおおぁぁあああぁぁっ!!!!」


キング「……」


デュース「き、キングさん!?あ、あぶな――」


キング「……」ドンッ


ベヒーモス「がぁぁぁ…………ぐぅぅううぅ…………」バタ


デュース「……」


 懐から取り出した二丁の拳銃は、音よりも早い弾丸を射出する。
 残った肉塊は、突進を止め、地面に身体を押し付ける様に滑走した。



キング「……」


 何の、躊躇いもなかった。
 今回は、モンスターだったけど。
 例えあれが人間だろうと、彼は何も考えずに撃ち抜いていたと思う。



キング「降り掛かる火の粉だけ、振り払って生きる者が」


キング「真に、国に仕えると言える」


キング「……俺は、そう思っている」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:23:02.43 ID:SV5H/fms0<>
【 Mon 19:04】


 間違ってたのかな。


デュース「……」サッ


♪ ♪ ♪


「ぐぁぁ!!……あれ?怪我が……」


デュース「天使の羽根を彷彿とさせる白い音色……。セレナーデは、人の身体だけではなく、精神も癒やします」


「あ、ありがとう!!」


こうやって、希望を振りまくだけ、振り撒いて。


デュース「いえ、私は――」


バゥンッ


「……あ、っぁへ……………」


 その『希望』を実現させては、あげられない。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:23:37.58 ID:SV5H/fms0<>
 キングさんは私に忠告してくれたんだと思う。


デュース「……」


デュース「ごめん、なさい……」


 『後悔するぞ』

 『できないことは、最初からするな』


デュース「……」ザッ


 つい、1秒前に生きていた人が平気で死ぬ世界。
 それが、戦争。


デュース「…………」タッタッタ


 いくら怪我を治したって、死んだら、意味ないもん。


デュース「(……あぁ)」


 慣れちゃったのかな。
 
 
 涙は、一滴も出ないや。


 機械みたいに、心が冷えきってる。
 

 戦争の時は、敵にひたすら向かって行けばよかったのに。
 だから、悲しみなんて無かったのに。


デュース「(……戦争が終われば、なんて考え、甘かったんだ)」


デュース「(………………平和、かぁ)」

 
 私たちは、

 なんて……


 なんて、陳腐な言葉を理想にして、戦って来たんだろう。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:24:08.62 ID:SV5H/fms0<>
【 Mon 22:03】


――キング『別にお前のやることを止めるつもりは無い』


デュース「!」


♪ ♪ ♪


「ぐぶっ……!?」



――キング『ただ』


――キング『手伝うつもりも、無い』


「うぉらっ!!」バキィッ


デュース「んぁ……っ!?」


デュース「……!」スッ


♪ ♪ ♪


「な、なんだこの玉……?……ぐ、っぐぁあああ!!」


――キング『……悪いな』

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/25(土) 18:24:35.65 ID:SV5H/fms0<>
 悪くなんて無い。


デュース「はああ!!!」


 キングさんが正しいんだ。

 色んな所で矛盾している私より、断然正しい。


「な、なんだよアイツ!」

「しらねえ!!だが、糞つええ!!」


デュース「……この街から、退いてください」


「……あぁん?」


デュース「これ以上、この街の人たちを傷つけないでください」


「……」


デュース「そうしてくれれば、私も……」


「……何言ってんだおめぇ?」バゥン


デュース「!」ザシュッ


「あろぁ……?」


 まだ、甘い考えを心に持って動いてる私より、ずっと。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/27(月) 21:25:11.24 ID:Lo8MPmZw0<> デュースたん…… <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 21:59:57.93 ID:1sErISL00<>
【 Tue 01:32】


 ……身体が重い。


 
 さっきから、少しのインターバルも無しに戦ってるからだろうか。


デュース「(……)」


 格納庫の前にある広場に、私は居た。



デュース「(もう夜更け……。ここを狙ってくるなら、この広場を通らなければ鳴りません)」


デュース「(動くより、待つ方が私の戦闘方法的にも、楽ですし――)」チラッ


 月明かりが静かにもたらしてくれる光が、手に持つフルートに反射してる。


デュース「(……結構、汚れちゃったな…………)」


 誰の血か分からない。
 誰に付けられた傷か分からない。

 そんな跡が、まるで刻み込まれる様に残っている。


デュース「……」


デュース「(…………はぁ)」


デュース「(早く、帰りたいな……)」


 心の底から、そう思う。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:00:41.12 ID:1sErISL00<>
「……テメェか」


デュース「!」


 優しい光に当たりながら、ゆっくりと睡眠につきたい。

 なんて妄想に浸りかけた時だった。


「俺たちの仲間を、さんざんぶち殺してくれたのは」


デュース「……そうです」


 私以上に傷だらけ。
 足を引きずる様にして来た彼は、もう満身創痍だ。


「……」


「朱雀の候補生ィ……!!」ダッ


デュース「っ」ギィン


 腰に持つ短剣で、刀身を受け止める。


「……!」


 いくら女の力でも、この人になら、押し負ける気がしない。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:01:32.43 ID:1sErISL00<>
ギリリリッ…


デュース「……」


「……くそ、くそ!なんでこんなガキ一人に押し勝てねぇんだよ…………!」


デュース「…………」


「ぐぉぉぉぉおぉああああ!!」


デュース「……」


「はっ、はぁ、はあっ……」


デュース「…………もう、貴方だけですね?」


「…………!」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:03:41.82 ID:1sErISL00<>

グググッ


「……っ」ブフッ


 男の人から、血が噴き出る。
 口、瞳、耳、鼻。
 水道から水が出てくるみたいに、垂れ流す。


デュース「……何でですか?」


デュース「もう、貴方は放っておいても死んでしまうレベルの怪我をしているんですよ?」


「……」


デュース「今すぐ退けば、私の持つポーションを分けてあげます。お願いです。意地を張らずに、ここは……」


「……優しいな、アンタ」


デュース「……!?」


ギリリリッ



「でも、無理だ」ブバッ

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:05:57.87 ID:1sErISL00<>
デュース「!!(……力が!!)」


「友達がいたんだ」


「皇国を復活させるんだ」



デュース「……!?」


「……アイツはいい奴だったんだ」


「俺の一人だけの幼なじみだった」


「朱雀侵略作戦に失敗した時、アイツはまだ生きてたんだ」


「皇国に帰還したんだ」ブフッ


「それを…………、カトルが殺したんだぁぁ!!」


「だから、俺はそれをぉぉぉ、ゆるさぬっぇぉえわ」


「カトルを越えるぅぅぅぁああぁ……」


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:10:19.58 ID:1sErISL00<>



デュース「……あ、貴方何を言って!?」


「……」ブツブツ


デュース「(この人、もう目も、耳も……!)」


「…………る……」


「朱雀…………や………は、皆……」ピンッ


デュース「!?!」


 遠くからでも、分かる。
 

「さ、ガ、ぶっ」ガフッ


 彼が引き抜いたのは、爆弾の栓だった。



デュース「(は、早く逃げ――)」



 内蔵されたクリスタルのかけらが、使用者本人の魔力を瞬時に吸収し、
 そして、それを源に大爆発を起こす、最後の華。



「っがふっ」ドバッ


デュース「きゃっ……!」


デュース「(しま……っ、血が、目に……!)」



「…………ふひゃ」



 真っ赤に染まる眼前の世界で倒れた彼の顔は、………………――
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:12:17.20 ID:1sErISL00<>
【 Tue 3:00】


[市街地:ベンチ]


エース「……もう、目の洗浄は済んだか?」


デュース「は、はいっ。……え、えと…………お、お水、ありがとうございますっ」カァァ


エース「いや、別に…………。ん?」パサッ


デュース「……!?」アセアセ


エース「……」フキフキ


エース「……これでいいな」


デュース「わ、私の顔が、どうかしましたか?」


エース「いや、まだちょっと泥汚れがあったから」


デュース「そ、そうですか……」


 ………………。


エース「……?デュース、まだ顔、少し赤いぞ?」


デュース「……っ!!こ、これは何でも無いです!」


エース「……?それならいいんだが……」


デュース「(急に顔近づけられたら、恥ずかしいですよぅ……)」

 
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:12:44.31 ID:1sErISL00<>
デュース「(き、綺麗な顔だったな……)」


エース「……僕も、横に座ってもいいかな?」


デュース「ひゅっ!?」


エース「え?」


デュース「い、いえ!!な、何でも無いです!!だ、大丈夫ですよ!どうぞ!」


デュース「(驚きすぎて息がつまっちゃった……)」カァァ


エース「……それじゃ、失礼するよ」スッ


デュース「……」


エース「……」


デュース「…………」


エース「…………」


デュース「……(な、何を話したら……)」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:13:27.51 ID:1sErISL00<>
エース「……すまなかった」


デュース「……?」


エース「助けるのが遅れて、な」


デュース「……!い、いえいえ!別に、私が勝手にしたことですし――」


エース「……本当は、もっと早く来れた」


デュース「……っ」


エース「遠くから、この街に異変が起きている事くらいは、分かったんだ」


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:14:33.98 ID:1sErISL00<>
エース「ただ、何だか気持ちが焦いていて。……こちらに来るか、本当に迷った」


デュース「……」


エース「……隊長の言う通りだ、僕は腑抜け、だよ」


エース「……僕は、戦場で決してしては行けない事をした」


デュース「……え?」


エース「……判断に迷う事」


デュース「!」


エース「自分でも知らない内に、浸かりきっていたのかもしれないな『虚構の平和』に」


エース「最初は僕も向かおうとした」


エース「ただ、キングに会ったから、デュースが居る事も知っていたんだ」


エース「……ただ、同時に諭されて。…………自分を貫けばいい、ただそれだけだったんだが」


エース「……最低だ」

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:17:12.64 ID:1sErISL00<>





デュース「!!!!」







 爆発の寸前。
 目の前を何かが通り過ぎた。




デュース『…………!?』



エース「……はぁぁ!!」



 それが、エースさんのトライレーザーだって気付くのには、少し時間がかかった。


 
 会えるとは、思わなかったから。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:17:49.60 ID:1sErISL00<>
デュース「……」


エース「……僕がもっと、早く来ていれば、こんな傷つくことは、なかった」


エース「……すまない」


デュース「……」


デュース「…………いいんですよ」ニコッ


エース「……デュース」


デュース「私だって、最低です」


エース「……?」


デュース「私は、守れもしないのに。街の人々を助けようとしました」


デュース「結果、沢山の人たちが死にました」


エース「……戦争なんだから、それは仕方が無い事じゃないか?」


デュース「仕方が無い、ですか」


デュース「確かに、そうかもしれません」


デュース「……でも」


デュース「私、目の前で人が死んじゃっても。……子供たちが死んでも」


デュース「涙どころか、怒りも湧かなかったんです」


 本当は、この話はしたくなかった。


エース「……」


 機械みたいな女だ、なんて思われたく無かった。
 心が無い女だ、なんて思われたく無かった。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:18:44.88 ID:1sErISL00<>
デュース「引いちゃい、ますよね……?」


エース「……」


 両手を組んで、額の前にあてがうエースさんは、何も話さない。
 

デュース「(……まぁ、そうなるよね)」


 こうなる事は分かっていたけど。
 何で話しちゃったんだろ……。


エース「……」スッ


デュース「……へ?」


ゴッ


デュース「!?!」


エース「……」



ポタ…ポタ…



デュース「え、エースさん!?」


 最初は、目の前に起きた事実を信じられなかった。
 
 突然、エースさんが自分の顔を殴ったのだ。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:19:40.06 ID:1sErISL00<>
デュース「な、何でそんな事するんですか!」フキフキ


 すらっと整った鼻は少し曲がって、鼻血が出てる。
 もうしかしたら、折れているのかもしれない。


デュース「自分で自分を殴るなんて……!」


エース「……」


デュース「あぁ……少し痣もできてますし……」


エース「……ほら」スッ


デュース「え?」


エース「デュースは優しいじゃないか」ポンッ


デュース「……っ」


エース「……こうして、バカな事をした僕を、一生懸命に手当してくれる」


エース「街の人だって、そうやって助けたんだろう?」


デュース「……っ」


――『あ、ありがとう!!』

――『おいし〜ね〜っ!』



デュース「……」

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:21:34.11 ID:1sErISL00<>
エース「それに」


エース「……」ギュッ


デュース「ふぇぇっ……!?」カァァ


エース「……身体も震えてる」


デュース「あ、あれ?あれ……?」


エース「……さっきから、ずっと。小さく震えていたんだ」


デュース「(きづかな、かった……)」


エース「……」ギュ


デュース「あは、あはは……とことん、私って変なコですね、ほん、とに……」


エース「……我慢し過ぎは、良くない」


デュース「……?」


エース「……悲しい時に、感情をセーブすることになれちゃいけない」


エース「女性が、戦場に一人で立つなんて、怖いに決まってるじゃないか」


デュース「……っ!」フルフル
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:24:01.56 ID:1sErISL00<>
エース「……僕が最低だって思ったのは、遅れて来た事だけじゃない」


デュース「……」


エース「…………ずっと一人で頑張って。ずっと一人で我慢して来た女の子に」


エース「まだ笑顔でいさせてしまった事に対しても、言ったんだ」


デュース「……っく、ふっ、ぅっ」


エース「本当に、遅くなってごめん」


デュース「そ、ん、なっぁ、謝らないで、くだっ、さ、っぃ」


 身体中を覆っている、温かい体温。


エース「……もう、我慢しないでほしい」


エース「せめて、僕の前だけでは」


デュース「……っ、っひ、うぇっ、…………」


デュース「………ぁい。ひゃい。ふぇええ……」



 嬉しいんだか、悲しいんだか。

 私が一番自分に問いつめたい。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:25:00.24 ID:1sErISL00<>
【 Tue 14:55】


[公園]


デュース「……」


エース「……デュース、そろそろ行こうか」


デュース「…………。あ、はい!」


エース「……簡易墓地、か」


デュース「はい……。生きている人たちは、皆別の保護区に避難してしまいましたし。
……私が、埋葬してあげないと」


エース「……」ギュッ


デュース「……ぁ(手を、握って……)」カァァ


エース「やはり、デュースは優しいよ」


デュース「そ、そんなことは……」カァァ


エース「……それじゃ、本当に。出発しようか」


デュース「…………」


デュース「……はい」


ーー
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 22:32:57.85 ID:1sErISL00<>  何か分かりにくい話になっちゃいましたね、すいませんでした。
 デュースは自分を犠牲にして他人を建てようとする様な娘だと思ったので、こんな話になりましたw

 少し重くて誰得だよって感じだとは思いますがww
 とりあえず、これで次からはちゃんとしたカプもん書き始めます!
 
 次の話は、


 >>113の方の書き込んだ時間の小数点の二桁(00:00:00.『00』← ここ)が

00~33の場合はセブン

34~66の場合はサイス

67~99の場合はデュース


 の話となり、

 >>114の書き込んだ方の時間の小数点の二桁(00:00:00.『00』← ここ)が

00~20=手繋ぐ
21~50=ハグまたはそれに類するレベル
51~98=キス
99=……?w


 て感じで!次はいつになるやらって感じですが……。
 
 それでは!
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/02/28(火) 23:31:13.78 ID:1sErISL00<>  何か分かりにくい話になっちゃいましたね、すいませんでした。
 デュースは自分を犠牲にして他人を建てようとする様な娘だと思ったので、こんな話になりましたw

 少し重くて誰得だよって感じだとは思いますがww
 とりあえず、これで次からはちゃんとしたカプもん書き始めます!
 
 次の話は、


 >>113の方の書き込んだ時間の小数点の二桁(00:00:00.『00』← ここ)が

00~33の場合はセブン

34~66の場合はサイス

67~99の場合はデュース


 の話となり、

 >>114の書き込んだ方の時間の小数点の二桁(00:00:00.『00』← ここ)が

00~20=手繋ぐ
21~50=ハグまたはそれに類するレベル
51~98=キス
99=……?w


 て感じで!次はいつになるやらって感じですが……。
 
 それでは!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/28(火) 23:36:18.45 ID:+/tPF4GIO<> ほう <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)<>sage<>2012/02/28(火) 23:48:34.41 ID:SNoOntTqo<> これはどうなるんだ? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/29(水) 16:05:45.24 ID:XnSEfPeIO<> おつ。

まぁ次のレスからになるんじゃね? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/29(水) 22:15:30.06 ID:b+7idGK20<> 全部見たいなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/02(金) 15:58:13.79 ID:e38S1g0D0<> エイケイはないとですか <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/12(月) 23:56:13.98 ID:Qq7p7ckdo<> そういえば、前作ではナイケイな雰囲気だったが、あれエイケイじゃないか?
途中で修正でナイ→ケイに入ってたが、逆にしっくりこなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(茨城県)<><>2012/03/14(水) 00:22:17.28 ID:30+YyxWx0<> 前作見たんだけど、シンクとエイトとキングがソロっぽいな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/04(水) 17:55:56.55 ID:bZ5Vecwg0<> まだかな? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 04:22:34.52 ID:Tw8M9YEyo<> 是非再開を <> ◆a5tgAOwt1s<>saga<>2012/04/07(土) 01:42:34.39 ID:wvFOVG9U0<>  
 
 
 
 
 


○oo○o Curious tales of SICE  Uo○oo○ <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 01:56:34.87 ID:wvFOVG9U0<>

数日かけて森を抜けると、見えて来た街中を歩く。
ボロボロながら、確かな威圧感を放ってる赤いマントを着てるだけで、奇妙なもんを見る目で見てきやがる。



ただ、


サイス「(お、あの髪飾り、……少しいいかもな)」


トレイ「……あの髪飾りに付いた飾りは冬虫夏草ですね。 モンスター以外の植物では唯一、季節に寄って科学的分類をも変える種族でして……」


サイス「(あの服も、部屋着にぴったり……か?)」


トレイ「あれは化学合成で作られた最新の生地ですね。 とはいえ一般の市に出回っているということはそこまで原価が高くないわけですか……。
 一体お幾らくらいなんでしょうか?」


サイス「……」ピタッ


トレイ「……」ピタッ


サイス「……」クルッ


トレイ「……?」ニコニコ


サイス「二度と微笑めねぇように口縫い付けんぞ、こら」


喧しいバカが一人、私に付き纏う。
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 01:59:45.22 ID:wvFOVG9U0<>
トレイ「おやおや。 何かお気に召しませんでしたか?」


サイス「あぁ。 全てが気にいらねぇな」


トレイ「まぁまぁ。 互いに見聞を広げ、知識を確かめ合うと思えばまた……」


サイス「くどくどくどくど、てめぇはどこぞの主婦か!? ぶっ飛ばされたくなかったら黙れボケ!」


トレイ「遠くで喋っていたら私が奇人の様に見られるじゃないですか。 それに私は気になる事にはすぐ口出ししてしまうタチでして」


サイス「だからって、あんまし近づくんじゃねぇってーの!」グググッ


トレイ「いいじゃないですか、同じクラスメートなわけですし」ニコニコ


サイス「クラスメートだからって誰にでもベタベタくっつくのかテメェは!? あぁ!?」


トレイ「いえいえ。 それは貴方だからですよ」ニコニコ


サイス「はぁっ!?」ビクッ


トレイ「嘘です。 ……驚きましたか?」


サイス「……」


サイス「……やっぱりテメェ、死ね!!!!」
<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 02:10:09.25 ID:wvFOVG9U0<>
【 Sat 11:00】


[広場]


トレイ「ちょっと私は向こうの書店を見て来ますね」


サイス「勝手にしろ」


トレイ「はい、それではお言葉に甘えて。 失礼します」


 失礼って分かってって色々やってる奴が、そんな言葉口にすんじゃねえ。


サイス「……」


サイス「…………はぁ」


 空は青い。
 熱帯雨林のばかでけぇ木々に邪魔されて見えなかった空が、今は目の前に広がってる。


サイス「……」


 そこを無数に動く雲と同じ位の数の人間が、眼前を通り過ぎる。
 喋ったり、物食いながらだったり。
 諸動作は様々だ。


サイス「……っあぁ、もう」


 だが。



「ほら、アーン?」


「あーん! ……うまい!!これ、うまいよ!」


「私が口にいれてあげたんだもん、当然よっ♪」


「まさしく! その通りだね、あーたん?」


「うんっ♪ みーくん!」





サイス「(……)」


サイス「(…………きっもちわるっ)」ゾクッ


 何故だか男女のペアが、多い。

<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 02:20:13.39 ID:wvFOVG9U0<> サイス「(どうしてあんなにべったべたできんだよ……。 暑苦しくねぇのか?)」


サイス「(しかも同じカップのアイスをお互いに食べさせ合うって何だ? 効率悪すぎるし気色悪い)」


サイス「(…………私には一生無理な芸当だね)」


「そこの寂しそうに一人で歩いてる姉ちゃん!」


サイス「……あ"?」


「うっ」ビク


「って、そんな怖い顔しないでよ!」


サイス「んだよ」


「どうだい? 服でも見てってよ!」


サイス「そんな暇も興味もねえ」スタスタ


 疲弊した今のファッション界を新時代へ転換させようとしてる『救えニーズ』!その新作だよ! たっくさんの種類揃えてるよ〜!」


サイス「!」ピクッ


サイス「(……さっきの寝間着のブランド、確かそんな名前だったな…………)」


「安くしとくからさ〜、ちょっとでいいから見てってよ!」


サイス「(……)」


サイス「……ほんの少しだけなら付き合ってやるよ」


「おっ! いいねー! ゆっくり見てってよ! オススメはね〜!」


………………

…………


……




サイス「……」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 11:42:51.14 ID:oLQyRlSb0<> キテタカ!!
乙 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:06:10.03 ID:wvFOVG9U0<> \マイドアリー/





サイス「……」


サイス「(やべぇ……結局買い込んじまった……)」


サイス「(……しかも)」チラッ


サイス「……」


サイス「(……ぜってーにアイツだけには見せられねぇ…………!!!)」


サイス「(っつーか、このまま私が先に進んじまえば……)」


サイス「(……それが最善だな)」ウンウン


サイス「(……ってことで)」


サイス「(いこ――)」




トレイ「お待たせしました。 いや〜、やはり古本という物は最新の著書にはない趣がありますね〜!」


サイス「……!?」ビクッ


トレイ「おぉ、そうでした。 そういえばそこで――」


サイス「!!」ダッ



トレイ「!?」 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:17:34.12 ID:wvFOVG9U0<> サイス「(だああああああ!!! 何でアイツは毎度毎度タイミング最悪なんだよクソっ!!!)」ダダッ


サイス「(逃げてるみたいになるのはしゃくだが仕方がねえ! ……ここは早くこの街をでねぇと…………!)」


トレイ「何を急いでいるのですか?」


サイス「……別段急いで祖国に戻らなくてもこのペースで行けば明日の夜までには……」ダダッ


サイス「ついてくんじゃねええええええ!!!」



 何だコイツ!?何でこんな足はええんだよ!?
 

トレイ「何のつもりかは分かりませんが、私は長距離は得意ですよ。 気の済むまでお相手しましょう」ニコニコ


 ……インテリ野郎だと思って油断してた。
 そういや、一応コイツも零組の奴だったんだ。


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:31:17.02 ID:wvFOVG9U0<>  クラスメート云々の話をした後なのに今更感づく私も大概だが……。


サイス「(……これを見られるわけにはいかねぇ!!)」カッ


トレイ「急カーブ、ですか」


サイス「私の事なんて構ってねぇでお前は自分で帰国しとけ!じゃあな!」


トレイ「……」ピタッ


サイス「(はっ、ようやく諦めたか……)」


トレイ「……」ニヤッ


サイス「!?(笑った!?)」


トレイ「……ふふ、お待ちしておりますよ」


サイス「……?!」


<>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:41:03.32 ID:wvFOVG9U0<> 【Sat 14:03】

[路地裏]


 15分程度走り続けた先にあったのは昼から薄暗さが辺りを覆ってる路地裏だった。
 大抵、貧困層の生活する場所となる事が多いが、どうやらこの街では商品の在庫を置く倉庫として存在しているらしい。


サイス「はぁ、はぁ……」


サイス「とりあえずあれから追ってくる気配はなかった。 ……けど」


――『お待ちしておりますよ』


サイス「……ありゃ、どういう…………」


サイス「……ふん。 気にする必要もねぇ」


サイス「…………行くか」


「うぇぇええええん」


サイス「?」


「まま〜、まま、どこ〜?」


サイス「……」


 ……。
 どうやら、倉庫に一匹。……ネズミが居るみたいだ。 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:46:19.93 ID:wvFOVG9U0<> 「……えぐっ、ひっ、うぅ…………まっくらでこわいよぉ……」トボトボ


サイス「……おい、餓鬼」


「ひっ!?」ガタン


サイス「ちょっとしたことでビクついてんじゃねえ」


「……こ、こわいよぉ…………。鬼が出たよぉ……」


サイス「……っ。 鬼だぁ!?」ビキビキ


「ひぃぃぃぃいぃい!! こわいよ、こわいよぉ!」ガタガタ


サイス「……はぁ。 てめぇ、どっから来たんだよ」


「……へ?」


サイス「だから、お前はどっから来たか聞いてんだよ!」


「っ!?」ビクッ


「うえぇえええ、怖いよぉ、怖いよぉおおお」


サイス「…………はぁ」


 餓鬼は、嫌いだ。 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:50:12.67 ID:wvFOVG9U0<> 【 Sat 15:33】


[カフェ]


「えへへ、パフェはあまいな、おいしいな」


サイス「(……くそ、何で私がこんな糞餓鬼に……)」ハァ


 泣き止まねえ餓鬼。
 放っておこうとしても、泣きながら付いてきやがる。


サイス「……おら餓鬼。急いで食うと……」


「うぅ〜……。 あ、頭痛い……」


サイス「……バカ餓鬼」


 目立ってしょうがないから、仕方なく連れて来た。
 本来は今すぐにでも出発したい所なんだが……。

 やっぱり、最初から声をかけなければ良かったか。 <>
◆IfMuZOmnhU<>saga<>2012/04/07(土) 14:51:58.45 ID:wvFOVG9U0<> 駄目だ……。やっぱり自分は書き溜めしないと投下できないタイプですね……。


もう少し書きだめしてから一気に投下します。


見放したくても構っちゃうサイス可愛い。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 15:03:02.94 ID:Ity4o2JIO<> おつ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 19:02:58.17 ID:oLQyRlSb0<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/08(日) 06:14:05.81 ID:mIxY63I3o<> 乙!
なにこのサイスちゃんかわえええ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/04/09(月) 04:33:37.06 ID:4NTdjnvDo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/16(月) 18:42:14.35 ID:x0M48Y0u0<> 乙!サイス可愛いなぁ!トレサイいいなぁ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/11(金) 05:25:58.73 ID:kZDeNmd7o<> 忘れられてる…? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/11(金) 23:23:08.30 ID:bxrJ2jl/0<> >>141 俺も舞ってる。結構期待してんだけどなぁ。 <> ◆4oNsgSXF7Y<>sage<>2012/05/22(火) 23:56:30.75 ID:Bir5IhT70<>
サイス「んで、テメェはどいつの子供なわけ?」


「ん〜?」


サイス「最初の質問を忘れてんじゃねえぞ……。 テメェを置いて行ったバカ親とはどこで分かれたんだって聞いてんだよ!」バン


「ひぃっ!? うぇぇ……」


サイス「いちいち泣くんじゃねえっての面倒くせえ……」


 普段、街にいる餓鬼どもの扱いはデュースたちに任せてたからわかんねえ……。
 従卒たちとは育ちが違うってだけで、こうまで弱くなるもんなのか。
<>
◆RbUc9EcZXw<>saga<>2012/05/22(火) 23:57:50.95 ID:Bir5IhT70<>
サイス「(どうしたもんかねぇ……)」ハァ


「……じゃった……」


サイス「あぁ?」


「パパとママは、死んじゃった」


サイス「(……孤児か)」


 バカか私は。
 賑わう街で1人でいるもんだから、逸れ子だと思ったが、それは単なる決めつけだ。
 ……戦争孤児、っつーもんが、いるじゃねえかよ、今のご時世。


サイス「はーん、そんで、お前はあそこに住んでるわけ?」


「う、うん……。あそこしか、居る場所が無いから」


サイス「しっかしあんだけビャービャー泣いてたら盗賊やら警邏に見つかっちまうんじゃねぇのか?」


 孤児の過ごす夜って言うのは、厳しいもんだ。
 食料の確保、寝床の保持。それだけじゃねえ、闇ブローカーからだって身を守らないといけない。
 警邏に見つかったら、豚のエサみたいなもんを食わせてくる孤児院へ直行しちまう。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/22(火) 23:59:17.85 ID:Bir5IhT70<> あら……。
トリップ忘れてもうた……。
申し訳ないですが、本当に>>1ですwww

とりあえず待たせてしまい申し訳ないです。投下します。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:00:02.59 ID:XKyEKFoE0<>

「……僕、ちょっとだけお金、持ってるから……。 それ、使ってる」


サイス「金だぁ?」


「う、うん……。パパとママが持たせてくれてた、お金……」


サイス「幾らよ?」


「100まん」


サイス「……」


サイス「なぁ、私は今、真面目な話してんだ。 わかるよなぁ?」


「う、うん」ビクッ


サイス「い・く・ら持ってるかって聞いてるんだぜ?」


「……ひゃ、ひゃくま……」


サイス「ぶっ飛ばすぞ糞餓鬼!!」


「ひゃあああ!?」


サイス「世界のどこに100万もって浮浪してる餓鬼がいるんだっつーの!」


 まさかこの餓鬼、私をハメてんじゃねぇだろうな……。
 もし、そうだったらただじゃおかねぇ……。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:00:58.47 ID:XKyEKFoE0<>

「こ、これ!」


サイス「?」


「くれじっと、かーど……」


サイス「……んだとぉ……?」


 目の前に映ってんのは、黒光りした1枚の紙切れ。
 ……もとい、ブラックカード。


サイス「(どうなんってんだよ、コイツ……)」


 金額は流石にわかんねぇが、ブラックカードなんて持てるっつーことは100万ギル程度持っててもおかしくはない。
 ガキには不要ってのは確かだがな。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:02:07.70 ID:XKyEKFoE0<>
「……し、しんじて、くれる?」ビクビク


サイス「……おぉ。 でけぇ声だしちまって悪かったな、糞餓鬼」


「……お姉ちゃん」


サイス「あん?」


「とっても綺麗なのにくそとか、汚い言葉使っちゃだめだよぉ」


サイス「……はぁ!?」


「ひぃっ!? ご、ごめんなさい!」


サイス「わ、わわわ私が綺麗だとか、お、おおまえ目腐ってんじゃねえか!?」カァァ


「……え? とっても美人さんに見えるよ? さっきだってそこを通るお兄ちゃん達が……」


サイス「わーわーわー!! うるせえうるせえ! ガキ! もう一杯買ってやる!」


「え?  いいの?」


サイス「そんかわし私の事について触れるんじゃねえぞ!?わかったな!?」クワッ


「ひゃ、ひゃい!」ビクッ
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:03:00.69 ID:XKyEKFoE0<>

【 Sat 16:45】
 

[カフェ]


店員「来店中の皆様、まもなく当店は閉店となりますので、ご退席の準備をお願いしますー」


ざわざわ・・・

ぞろぞろ・・・


「……お姉ちゃんは、もう帰っちゃうの?」


サイス「……そうだな。 長居する用もないしな」


「ま、また来る? この街に!」


サイス「……どうだろーな。 祖国からは遠いし、何より統治している支部が別だから、来る機会もほとんどねぇんじゃねえかな」


「……。 そっか……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:04:01.41 ID:XKyEKFoE0<>
サイス「……」


サイス「……そういや。 まだバザーで買ってないモンがあったな……」


「……え?」


サイス「つっても、今日は無理だとして、この街の事はほとんど知らねえし。 明日いちいち探し回るっつーのも面倒だな……」


「……!」ガタッ


サイス「……あん?」


「ぼ、ぼくが案内するよ! この街の事は、どこでもわかるから!」


サイス「テメェみたいなガキに頼んでも平気なのかよ……」


「うんっ! 任せて!」


サイス「……使えなかったらすぐ置いてくからな」


「……!」パァァ


「そ、それじゃあ! 明日の朝も、ここで待ち合わせでいい!?」


サイス「気が向いたらな」


「うんっ!!」


サイス「(……私の、…………あほ)」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:04:29.04 ID:XKyEKFoE0<>
【 Sat 17:28】

[夕暮れの市]



サイス「……どうしたもんかね、今日は」


 ガキのお守りですっかり忘れていたが、そういや今日の寝床を確保してないのは私もだった。
 近場の宿は全て予約で埋まってやがるし……。
 

サイス「……待ちに来てまで野宿かぁ?」


トレイ「その心配には及びません」ヌッ


サイス「ぎゃあっ!!!!」バキッ


トレイ「……はは。 流石のカウンターです」タラ


サイス「てんめぇぇぇっぇ!!!!急に出てくんじゃねぇよ!! つか先に帰ったんじゃねぇのかよ!」


トレイ「この街は入り口が1つしかありませんよ。 なので出入り口でしばらく待っていたのですが、貴女が現れなかったので、探しに来たんですよ」


サイス「(『待ってます』ってそういうことかよボケ!)」ギリィ


トレイ「今日の分の宿はもう取ってありますので、行きましょう」


サイス「……テメェの世話なんぞ誰がなるか」プイッ


トレイ「……。 そうですか……。 実は女性はスパが無料で受けれるホテルを予約したのですが……」


サイス「……」ピクッ


トレイ「しかも、浴槽には肌の保湿効果があるとして有名なサボテンダーの花や、美容効果の高いクァールの涙が使われているとか……」


サイス「…………」


トレイ「……貴女が言うのなら仕方有りませんね。 お金ももったいないので、キャンセルを……」
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:05:08.40 ID:XKyEKFoE0<>
サイス「……待て」ガシッ


トレイ「……はい?」ニッコリ


サイス「……行く」


トレイ「はて、どこへ?」


サイス「……だから、私も……………」


トレイ「私も、とは?」


サイス「…………」プルプル


トレイ「?」ニヤニヤ


サイス「あああああ!!もううっぜーやつだなテメェはぁ!!! ホテルに行くっつってんだよ!わりぃかよ!」


トレイ「おや、それは有り難い話です。 折角女中の方に用意をする様に頼んでいたのに、肝心の女性が来ないんじゃ予約解除もし難いですからね」


サイス「はんっ!!金が勿体ねぇから行ってやる! ……でも礼はいわねぇからな!」ズカズカ


トレイ「……はい、承知しました」クスクス


トレイ「(全く、素直でないにも程が有りますよ、彼女は)」


トレイ「(まぁ、そこが良い……と思ってしまう私は、真性なのでしょうか?)」クスッ



…………

……



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/23(水) 00:07:29.44 ID:XKyEKFoE0<> あれ?終わっちまった……。

トリップ忘れて申し訳ない……。
まぁきっと私を語る者など現れないということが証拠になるでしょう。

とりあえず最近忙しくて投下できなかったのは申し訳ないです……。
近々、どばっと投下したい、という希望……。

他の零組メンバーはキャラ設定が難しいので厳しいかも……。何の設定もなしに、ただいちゃいちゃってだけなら書けますが……。

とりあえず一月半ぶりの投下は終了です。読んで下さってる方、ありがとうございます!!

ではまた! <>
◆qwyhZtbi7Y<>sage<>2012/05/23(水) 00:09:11.00 ID:XKyEKFoE0<> ちょっとトリップテスト……です。 <> ◆4oNsgSXF7Y<>sage<>2012/05/23(水) 00:10:02.21 ID:XKyEKFoE0<>
これでも違うなら諦めますww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/23(水) 00:10:58.08 ID:XKyEKFoE0<> あきらめました・・・すいませんです。


確実に自分は>>1ですので。ご了承ください;;

それでは、失礼しました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<>sage<>2012/05/23(水) 00:34:14.71 ID:WPp0i2kz0<> おひさ!
忘れてるのかと思ったww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/23(水) 03:21:34.78 ID:LDLLEprIO<> キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/23(水) 13:19:05.57 ID:mu9mAZ4s0<> 待ってたぞ!
おつ〜 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/23(水) 19:13:35.68 ID:z1aW7jBXo<> 待ってた!乙!
それにしても今回もサイスちゃんは可愛らしいなぁ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/23(水) 22:10:59.08 ID:2PO+NmxD0<> おぉ来た!舞ってました!サイスちゃんほんと可愛いなぁ!期待して待ってる!
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 00:49:42.19 ID:/PhLhFv40<> 【 20:15】

[ホテル 1002号室]


サイス「……」


トレイ「……ふむ、ここの水は人口の濾過水ではなく、天然の資源のようですね……」


サイス「……」イライラ


トレイ「景色も中々……。 おっ、チョコボの群れが見えますよ! ……どれどれ、戦陣を切ってるのはマスターチョコボですね。 凛々しい鬣に気品がある……」ウットリ


サイス「だぁーっ!!!!」


トレイ「おやおや、どうしたんですか、そんな大声を上げて」


サイス「何で……」


サイス「何で私がお前と一緒の部屋で寝ないといけないんだよ!!!!」ウガー

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 00:55:14.48 ID:/PhLhFv40<> トレイ「いやはや、それは私に言われても困るというもの……」


トレイ「何せ、予約を取るはずであるホテル側が部屋を用意しておけなかったと言っているのですから」


サイス「……っつっても、別の部屋を取るとか、あんだろ!! 色々!」


トレイ「でも、そうしますと……どうしてもグレードダウンは避けられません。 宵越しの銭は持たないと以前言っていたサイスさんのやることではないですよね?」


サイス「……チッ」


トレイ「それに、仮にそうしますと別途のサービスなど全て対象外になりますからね……」


サイス「……」ツヤツヤ


トレイ「なんだかんだと言って受けて来た貴女が今どう言った所で、どうしようもありません……」フゥ


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 00:59:29.85 ID:/PhLhFv40<>

 普段の私なら、そんなものどうでもいい、と吐き捨てるだろうが……。
 風呂も入らず、まともな睡眠も取れていない様な現状で、しかも身体中が汗やら血やらで
湿り切っている。
 ……やっぱり、私にもそれなりの羞恥心や対外心はあった。


サイス「……でも」


 だが。
 気に食わない事が、もう1つ。


トレイ「?」


サイス「……ベットも1つしかねぇってのはどう考えても可笑しいだろ!?!?」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:05:44.17 ID:/PhLhFv40<>

トレイ「?」


サイス「何が?みてぇな顔してんじゃねぇ。 目玉引っこ抜くぞ」


トレイ「失礼。 何が気に食わないのかが如何せんわからなかったもので……」クスッ


サイス「(薄ら笑い浮かべやがって……)」


トレイ「元々シングルの部屋を二つ取ってあったのですから。 一部屋にするのであればベットが1つ。 それは当たり前ではないですか?」


サイス「そんなら最初から言っときやがれボケ!! 何で私がてめぇと一緒の布団で仲良しこよししねぇといけねえんだよクソッタレが!!」


トレイ「おやおや……。 ここにも誤解があるようですが……」


サイス「あぁん!?」


トレイ「私は一言も一緒のベットで寝る等と言っておりませんが……」


サイス「……は?」


トレイ「私は床にタオルでも敷いて寝させて頂きますよ。 もちろん、二枚重なっているうちの掛け布団のうち、1枚は頂きたいですが……」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:11:24.04 ID:/PhLhFv40<> サイス「……そんなら、別に文句はねぇが……」


トレイ「流石の私も、女性と2人で同じ布団で寝ようとは思っておりませんよ」


サイス「……」


トレイ「……おや? 何かしおらしいですね。 ……もうしかして、期待していたんですか?」


サイス「……一生勉強できねぇ身体になりてぇのか?」ギロッ


トレイ「はははっ。 冗談でも手厳しいですね」


サイス「言って良い冗談と悪い冗談があるってことを身体に教え込まねえといけないようだな、お前」


トレイ「おっとっと。 それは遠慮しておきますよ」スッ


サイス「……?」


トレイ「私もそろそろ身体を洗い流したいので、部屋風呂を使わせてもらって良いですか?」


サイス「……私に聞く事でもねぇだろ。 人にいわれねぇとわかんねぇのか?」


トレイ「うーむ、正しい一言です。 それでは、失礼しますよ」バタン


サイス「……」


サイス「(……へや、ぶろ?)」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:21:25.99 ID:/PhLhFv40<> 【 22:08 Sat】


サイス「……」


 武器の手入れ。
 先日のバカでけぇ奴の固い甲羅のせいで、全体的に刃こぼれがひどい。
 朱雀の鍛冶屋特注の合金が、ここまでになるってんだから……。
 あれ以上の長丁場だったら、危うかったってことか。


サイス「……ふっ」


 砂塵と化してく、元の金属。
 唇を近づけると、鉄臭さと共に、生臭い香りがする。
 切って来た奴らの血の匂いだってそれを自覚しなくてもいいのは、もう本能が知ってしまってるからだろう。


サイス「……」


 ぎり、ぎり。
 そんな金切り音が部屋に響く。
 大層なシャンデリアのついた明るい風景とは似つかわしくない、鎌。
 死神が持つとか、大層な謂れがある、私の武器。


サイス「……こんなもんか」


 死ぬ、生きるって、表裏一体だって、知識としてはわかってる。
 けど、あんなになったのはシドの時以来。 ……いや、1人だった時点で、有る意味それ以上の『死』に直面した。
 あの野郎が来てなかったら、私は……。


――!


サイス「……」ブンブン


サイス「……気にかけんじゃねえ、私のあほんだら」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:27:48.77 ID:/PhLhFv40<> ガチャッ


トレイ「……ふう、良い湯でした」


サイス「……女みてぇな長風呂だな、色男」


トレイ「ふふ、私も身体がベタついてしかたがなかったので、普段より念入りに洗ってしまいました」


サイス「……それでまた同じ服着てたら意味ないだろ」


 馬鹿かこいつは。
 汗ばんだ同じ服をきたら、全く洗い流した意味が無いだろうが。


トレイ「いやはや、生憎変えの服等は持ち合わせていないんですよ。 バザーで買えば良かったですかね」


サイス「そこん棚にバスローブがあんだろ? それでも着ろよ」


トレイ「いや、私は遠慮しておきますよ。 この服が落ち着くので」


サイス「……はん、んなこと知らねえよ。 とりあえずそんなきったねぇ服着た奴となんか、私が過ごしたくねぇんだっての」


トレイ「……ですが」


サイス「いいから早くしろよボケ。 無理矢理ひんむいて追い出すぞ」


トレイ「……わいせつ罪ですよ?」クスッ


サイス「……ごたくはいいから早く着替えろっつってんだよウスノロ」ゲシッ


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:34:02.25 ID:/PhLhFv40<>



トレイ「……お待たせしました」


サイス「待ってねぇんだけど」


トレイ「これまた厳しい」


サイス「……ふん」


トレイ「……おや、ひいておいてくれたのですか、シーツを」


サイス「別に……。 後で私が寝てるときにやられんのもウゼェから」


トレイ「それでも、ありがとうございます」


サイス「……ふん」


トレイ「……それでは、先に寝ていて大丈夫ですよ。 私はまだ弓の点検がありますので」


サイス「……。 言われなくても、テメェなんざと合わせようとは思ってねぇよバーカ」


トレイ「ふふ。 それでは、おやすみなさい」


サイス「……」


 大して返事もせずに、布団にもぐる。
 たかだか数日ぶりの布団が、なんだか何年ぶりかにも感じる。
 柔らかくて温かい空間。 次第に眠くなっていく意識に身を委ねるのは、思いのほか早かった。


………………

……

… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:40:40.93 ID:/PhLhFv40<> 【 25:33 Mon】


サイス「……ぅ、ん…………」


サイス「……」パチッ


 眩しい。
 そう感じて、私は目を覚ました。
 夢なんて見ていなかった分、寝覚めは良い。


サイス「……月明かり、か」


 どうやら、東に面した窓から、月明かりが大量に入ってきているようだ。
 人口の電灯は消え、ほろ暗い一室を月の白い光だけが部分的に照らしている。


サイス「……」チラッ


 左下を見る。
 深々とシーツを被ったクソ野郎が、隣りで寝てる。


トレイ「……」


 寝息は静かなもので、そこらのゴツい男では一生できないような、小さな音。
 一定のリズムで刻まれる胸の浮き沈みで、完全に寝ている事が伺えた。


サイス「……また、こいつは」


 月明かりが照らしているのは、丁度その胸の辺り。
 掛け布団の上に、さらにボロボロでクシャクシャの制服を被せている。


サイス「(学ばねえ奴だ……)」


 別に臭うとか、そういうわけじゃねえが、なんとなく居心地が悪い。
 とりあえず引き去って、別の場所においておく事にする。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:44:15.41 ID:/PhLhFv40<>

トレイ「……」バッ


サイス「!??!」


 腕を掴まれた。
 流石の私も、この不意打ちには対応できない。


サイス「っ」


 引きずられるがままに、コイツの胸の方へと引っ張られてしまう。


トレイ「……」


サイス「……このっ!!!」


 寝ててもクソ野郎はクソ野郎か。
 思い切りの良い掌撃で、目覚めるどころか昇天させてやるか。

 

 ……そう、思った。


サイス「……?!」


サイス「(……震えてる?)」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:50:28.76 ID:/PhLhFv40<>  私が振り上げた手を止めるなんざ、滅多に無い。
 ただ、それだけの『異変』、『異質』だった。


サイス「(……こいつ…………)」


 ベットの上から見た時は静かなもんだと思ったが……。
 吐息が荒い。 常人にはわからねえだろうが、一定の呼吸のリズムを乱してる。
 どっちかっつーと無呼吸症ってより、……運動後みたいな、そんな粗さだ。


サイス「(……汗?」


 ほとんど弛緩していた腕をほどくと、空調のスイッチの近くにある温度計を見る。
 ……24度。
 人間が暮らすのに最も適してるって温度だ。

 暑くもないし寒くもない、理想的な温度。


 ……なのに、何でコイツは?
 しかも、布団の上に制服まで……。


サイス「…………!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 01:57:07.81 ID:/PhLhFv40<> サイス「……!」バッ


サイス「……クソっ、コイツ……!!」


 バイオ。
 ポイズン。
 クラウダ。

 ……バカか、馬鹿かコイツ!?


サイス「(……私はエスナなんざ使えないっての……!!)」


サイス「(ポイゾナ……!)」


 私の両の手から淡白い光が灯る。
 薄い青色をした光は、コイツの腕へと吸収されていく。


サイス「(クソ……ッ! 私の魔法なんて、あってないようなもんなんだよボケ!)」


 何で気付かなかったのか。
 腕の毒。
 赤く爛れ、見るのも痛ましい様な。

 あの毒が、一朝一夕、数日程度で自然治癒するのが人間なのか?


 ……私は、馬鹿だ。 大馬鹿なのは、私の方だよ、クソが!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 02:05:37.50 ID:/PhLhFv40<> サイス「……何で、お前……ッ!」


トレイ「……」


 起きない。


サイス「……っ!」バチン


 鈍い音がする。
 殴った手が痛い。
 だけど、覚めない。それどころか、コイツの頬は、赤くならない。

 毒が、脳まで浸食してるのかもしれない。 血色が悪い。


サイス「……くそ! くそ!」


 長風呂?
 色男?
 ……こんな爛れた皮膚洗うのに、どんだけの気力が必要なんだよ……!
 

 受け止めらんねーよ、こんなの。なんだってんだよ、馬鹿!!


サイス「……クソォ!!」


 前に見た時より、圧倒的にひどかった。
 化膿し切った腕は、ぶくぶくと泡立つ様に赤黒い玉が皮膚上に広がって、見るだけで目が痛くなりそうだ。

 汚染し切った血液を出そうとして付いたと見られるナイフの傷は数カ所ある。
 そんなの、根本から治さないとイタチごっこ……いや、それよりタチが悪い。


サイス「なんで……何で……!?」


 何でそこまでする必要がある!?
 私なんかに付き合うより……。 私なんかを出口で待つより!!! 私と一緒に街を回ろうとするより!!!!!
 どう考えても医療機関に行くべきだろ!?
 おかしいだろ、おかしい、おかしい、おかしい!!!

 ……ワケ、わかんねぇ。



<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 02:15:16.74 ID:/PhLhFv40<>  

 数日も強がる意味は?
 私に見えない様に腕を隠す意味は?
 ……そもそも、私を助けた意味は?


サイス「ばっかやろぉ……」


トレイ「……」


サイス「……っ!」


 魔法を放つ腕の光が弱まる。
 ポイズンの状態がかなり弱まったみたいだった。
 でも、まだまだ。 まだまだ、コイツの身体には、複数の、両手両足じゃ数えきれない位の毒が眠ってるはずだ。


サイス「(私じゃ、治せない……!)」


 通常、毒が身体中を蝕むまでは、その毒の種類に寄るが、大体一日か三日。
 本当なら。 既に、コイツの身体の中は隅々まで至ってしまってるはずだ。
 ……こいつが、使えもしない魔法で延命してなけりゃ、な。


サイス「……」


サイス「……死なせねぇ」


サイス「…………お前は、私が殺す」


 むかつく。

 1人がいいのに。
 頼りたくなんて無いのに。
 気を遣いたくなんて無いのに。

 それを崩したコイツが憎い。
 ……毒なんかで、簡単に死なせてたまるか。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/24(木) 02:16:42.35 ID:/PhLhFv40<> ……おぁぁ。
なんとなくこんな感じで。


クラウダとか覚えてる方居ますかね……?

さて、とりあえず投下しました!
今回のサイス編は次回がラストかな……?

見て下さってる方、ありがとうございます!これからもよろしくです!

ではっ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/24(木) 11:50:41.01 ID:ngHNHnvc0<> おつ! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/24(木) 22:59:14.87 ID:gBv6uxQy0<> うわああああああ乙ううううう!トレイいい奴すぎて泣ける………。次回楽しみしてます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/25(金) 18:20:50.09 ID:zvi06K+9o<> 楽しみだ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/26(土) 16:57:33.56 ID:BYkOxFF2o<> 乙!
年甲斐もなく胸が熱くなりながら読ませて頂いた! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/05/28(月) 23:32:57.31 ID:hD75i2hE0<>
【 Mon 26:30】

[街路]



サイス「……ッ、くそっ、医者はどこだ!」


 魔法で錬成した毒は、自分の魔力をもとに生成されるから、まだ優しいもんだ。
 本当に怖いのは、自然の中にある純粋な毒なんだ。


サイス「……ここは、クソ、昨日が定休日かよ!」


 自然に発生した毒っつーのは魔法での区分けが難しい。
 症状や状態である程度の区別はつくが、それでも100%なんてものはない。

 更にその毒には雑菌がまと回り着いてる事が多くて、一番怖いのがそれにより引き起こされる併発症だ。


サイス「……! 駄目だ! ……畜生が! どいつもこいつも!!」


 今は、誰もが就寝し切っていて当たり前の時間帯だ。
 だが焦りは私の思考回路を狭めて、焦燥感だけを生み出し続ける。


――トレイ「ふふ。 それでは、おやすみなさい」


サイス「……」


サイス「…………くそっ!」


 走れど走れど、見つけど見つけど、明かりのついてるはずなんてない医療施設を、駕篭で回るハムスターみてえに動き回るってのは苦痛だ。


サイス「(あんな気持ち悪い笑顔が最後だなんて、みとめねぇんだからな、バカ男ぉ!)」


 でも、それ以上に。
 あの男がここで死んじまうかもしれないっていう事実の方が、何より苦痛だった。 <> 名無しさん<>sage<>2012/06/13(水) 22:29:21.95 ID:aiVxCTes0<> J8 K8 K9 9A クラ9 クラA <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/17(日) 21:27:32.48 ID:i+Hl5JH/0<> マダー? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/07/09(月) 14:42:29.20 ID:0ACeHY4C0<> 待ってます! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/19(木) 05:19:48.17 ID:iVtYVqXfo<> 是非続きを! <>