VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 21:48:14.46 ID:deJerKGDO<>半年近く前にVIPで中途半端に落とした物です。

再度書き直していくため、また他SSと同時進行のために遅れがちになります。

ちなみに1ヶ月以内に終わらせる予定です。

そのため、基本はsage進行で行きます。
「saga sagd」とかの入力ミスでageてしまう事があっても、突っ込まずに温かい目で見てくれたら幸いです。

遅筆な上に、つたない所もありますが、どうかご容赦ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1328186894(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>妹「悪魔を召喚して、お兄さまと恋人になるわ!」 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 22:08:29.25 ID:deJerKGDO<> 〜 放課後の学校、図書室 〜

兄「暗くなってきたし、そろそろ帰ろうか?」

妹「はい、どうぞお先に!」

勉強道具をカバンに詰め込んでいた兄は、妹の言葉に首をかしげた。

兄「あれ、まだ残るのかい? だったら僕もまだ……」

妹「いいえ、少し調べ物があるだけです、お兄さまの手をわずらわせる事はありませんわ」

兄「そうか……じゃ、また後で」

妹「はい、また後で」

兄は少し不思議そうな顔で妹と軽く言葉を交わしていたが、特に深入りもせずに図書室から出ていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 22:21:54.96 ID:deJerKGDO<> 妹「……」

兄が図書室を去ってしばらく後、妹は小動物のような素早い動きで、兄が消えた廊下の窓に張りついた。

妹「……行きましたわね」

廊下に人影が無いのを確認した妹は小さくうなずくと、これまた素早い動きで机に戻る。

妹「さて、やりましょうか」

そして妹はカバンから文庫本サイズの黒本を取り出すと、小さくほくそ笑んだ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 22:53:36.16 ID:deJerKGDO<> 〜 数日前、体育館の裏 〜

妹「ふんふ〜ん、お昼ご飯は静かな場所で〜、……って、あら?」

不良1「オラッ! 早く金をよこしな!」

男子「や、やめてっ!」

不良2「ぶん殴るぞ! おっ!」

……………………

妹「まあ、やかましい。死ねばいいのに」

不良2「あ〜!? なに見てんだテメェ!」

妹に気付いた不良2が、ずかずかと大足で妹へと近寄っていく。

不良2「んだぁ? 何しに来たんだテメェは?」

妹「…………」

不良2「もしかして、俺たちとニャンニャンしたいとか……」

妹「うせろゲス野郎」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 23:13:41.87 ID:deJerKGDO<> その瞬間、妹の体が揺らめいた。

不良2「へぶらっ!!」

それと同時に、不良2が短い声を出して吹き飛ぶ。
不良2はクルクルと木の葉のように宙を舞い、もといた場所から遠く離れた地面に受け身もとれないまま叩きつけられた。

不良2「ぐえぇっ!?」

不良1「不良2!? い、いったい何が!」

妹「少し強めに蹴り飛ばしただけですわ、さすがにサッカーボールよりかは飛ばないようですわね無能めが」

不良1「……なっ!?」

妹「それで、あなたはどうするの? 空を飛びたいの? 死ぬの?」

不良1「ひ、ヒイィ〜ッ!?」

黒くよどんだ瞳で問いかける妹に、不良は声を上げて逃げ出した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 23:23:19.04 ID:deJerKGDO<> 妹「ふう、一息ついたし、お昼ご飯を食べようかしら」

男子「た、助けてくれて、ありがとうございます!」

妹「?」

男子「な、名前を聞かせて……い、いえ! 僕に何か出来る事はありませんか? 何でもします!」


妹「あら? 何でも?」

男子「はい! 何でも!」

妹「なら、今持っている分だけでいいから、全財産を私によこしなさい」

男子「はい! ……え?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/02(木) 23:42:12.15 ID:deJerKGDO<> ……………………

妹は千円札と小銭を片手に握りしめながら、男子に向けて口を開いた。

妹「これだけ?」

男子「……はい、もう一円も持ってません」

妹「はい、ジャンプ」

男子「……」ジャランジャラン

妹「持ってるじゃない」

男子「うぅ……」

妹「ほら、泣いてないで、あそこで気絶してる不良2からもサイフを抜き取ってきなさい。その間にあなたのカバンを物色しといてあげるから」

男子「鬼だ! 悪魔だ!」

男子は泣きながら、しかし妹に逆らえずに、地面に大の字で倒れている不良2の下へと走っていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 00:15:23.37 ID:hvEwm0lDO<> 妹「さて、と」

妹は男子のカバンを開け、ひっくり返す。
カバンの中身が地面に落ちて、小気味よい音を鳴らした。

妹「何か金目の物は……あら、これは?」

男子「と、とってきましたサイフ!」

妹「ナイスタイミングね、この文庫本は何かしら?」
男子「そ、それは! 通販で買った魔術書!」

妹「魔術書? 詐欺にあったのね、かわいそう」

男子「かわいそうとか言いながら、何で汚物を見るような目に!?」

妹「どうせ、不良たちを呪い殺そうとか、あさはかな考えで買ったんでしょ? 救いようがないわ」

男子「……うっ」

妹「まったく、こんなバカな本に金をかけるなんて……」

ペラペラと本をめくりながら話していた妹の言葉が、唐突に止まった。

妹「…………」

男子「どうしたんです?」

妹「いえ、どんなバカな事が書いているか見てみるのも一興だと気付いただけよ」

妹はそう言って、本を自分の懐にしまった。

妹「というわけでもらって行くわね?」

男子「えーッ!?」

妹「あ、不良のサイフの中身はもらって行くけど、サイフはいらないからあなたにあげるわ、処分しときなさい」

男子「えーッ!?」

妹「それと、この事は内緒よ? もしも私のお兄さまに知られるような事になったら、あなたが責任を取って死になさい」

男子「なんでーっ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/02/03(金) 00:54:52.31 ID:hvEwm0lDO<> 〜 そして、今現在 〜

妹「意中の人と恋仲になれる魔術、……まあ、こんなバカな事は毛ほども信じてませんが、暇潰しにはいいでしょう」

放課後の図書室、誰もいない時間帯を見計らっての暇潰しもクソもないだろうが、妹はそんなこと気にもしない。

妹「さて、魔術に必要な物……足りない物は代替品で十分ですわね」

妹「まずは想い人の髪の毛……クリアー」

机の上に兄の髪の毛を一本乗せる。

妹「次に、丸い宝石? ……カエルの目玉で代用っと」

グチャッ。

妹「そして、ハートの形のアクセサリー? ……ネズミの心臓でオーケーっと」

ベチョッ。

妹「さらに、ミステリアスなアロマを部屋に充満? ……ヘビの生焼きっと」

ムワーン。

妹「最後に集めたすべてを業火で焼きながら、ピュアなハートで恋の成就を願う? 私の想いは世界で一番ピュアですわ! イッツ、ピュアニスト!」

妹は笑顔で意気揚々と、机の中央に消火器クラスのガスボンベをドンと置いた。

妹「ああ……お兄さまお兄さま……」

そして、妹は恍惚の笑みを浮かべながらガスボンベを手刀で切り裂く。
片方の手に、灯ったライターを握り締めながら。

次の瞬間、当然ながら図書室が炎に包まれた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/03(金) 03:29:29.90 ID:hvEwm0lDO<> 妹「ふう、私としたことが」

火災警報のベルがけたたましく鳴り響く炎の中で、妹は何事もなく衣服の乱れを直していた。

妹「お兄さまの事になるとまわりが見えなくなるのは……良いクセですわね、さすが私」

妹は自慢気に鼻を高くする。

妹「それでは、誰かが来る前にさっさとトンズラ……」

?「う、うむぅ……なんじゃ、このコゲ臭いにおいは?」

突然、図書室の中で声が上がる。
妹は声のした方へと、血走った目を向けた。

妹「誰だッ!」

?「ひぃっ!?」

そこには、小学生くらいの身長の少女がいた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 07:20:45.89 ID:hvEwm0lDO<> 妹「……小学生?」

?「なっ! 小学生じゃと!? ワシのどこが小学生……」

少女は言いながら顔を下げる。
そこにはヒモのような布キレで胸と股関を隠した、きわどいビキニ姿の体が……

?「って! なんじゃこりゃーッ!?」

妹「い、いきなりうるさいわね……」

?「胸が無いッ!? 身長も無いッ!? どうなっておるんじゃ!? うぅ……」

少女は両手で頭を抱えてうなり出す。
だが少女はすぐに、はっと気付いたように顔を上げて妹を見た。

?「貴様! ワシをどうやって召喚したんじゃ!」

妹「召喚?」

?「そうじゃ! 召喚者である貴様が何か細工をしたのであろう!」

妹「召喚も何も……ちょっとした恋占いをしていただけよ?」

?「恋占い!? どんな恋占いをしたら悪魔を召喚出来るんじゃッ!!」

妹「ああもう、さっきからうるさいガキね……って、悪魔?」

妹が小首をかしげる。
すると、少女は腕を胸の前で組み、大仰に背中を仰け反らせた。

?「左様! ワシこそは悪魔の中の悪魔!」

そして少女は両腕を解くと、その二つの腕を天に向けて伸ばした。

?「その名もアスモデウス! 七つの大罪の一つ、色欲を司る魔神なり!!」

よく張った少女の声が、燃え盛る図書室にこだました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 07:57:17.86 ID:hvEwm0lDO<> 妹「はいはい、ココは危ないから、さっさと家に帰りなさい」

アスモ「ふむ、信じておらぬな?」

アスモデウスと自称した少女はそう言うとその目を細め、閉じ、そして大きく見開いた。

アスモ「たわけがッ!!」

妹「……っ!?」

アスモデウスの怒声と共に、凄まじい気迫がその体から放たれる。
小学校低学年並みの小さな体躯からは想像も出来ないプレッシャーに押しつぶされるように、妹は体を硬直させた。

アスモ「くくく、ワシの魔力に当てられては、しばらくのあいだ動く事も、話すことすら出来まい?」

妹「……」

アスモ「さて、このまま焼け死ぬか? それともワシに体をバラバラに切り刻んで欲しいか?」

パチパチと火の粉が爆ぜ、赤い熱風がアスモデウスと妹の肌をなめ回す。

アスモ「くく、しゃべれないんじゃったな? おお、なんと人の子の無力な事よ」

妹「あなた、本当に悪魔なのね」

アスモ「ふふ、初めから言っておろう……って、貴様!? なぜしゃべれ」

アスモデウスの言葉は最後まで放たれなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 17:38:45.62 ID:hvEwm0lDO<> 妹「ふっ!」

妹が短く息を吐き、目にも留まらぬ速さで右手を伸ばす。

アスモ「へぶらばっ!?」

妹の右手はアスモデウスの顔面をわしづかみにして、その体を空中に高々と持ち上げた。

アスモ「あぐっ! き、きさま何をする!?」

妹「あなたは悪魔なのよね? 恋愛成就とかは出来るかしら?」

アスモ「な、なにを言っておる! 早くこの手を……」

アスモデウスの言葉の途中、妹の右手が万力のような力でアスモデウスの頭を締め付けた。

アスモ「あぎゃぎゃーっ!?」

妹「イエスかノーで答えなさい。……握り潰すわよ?」

暗くよどんだ、腐ったドブ川のような妹の瞳がアスモデウスを貫いた。

アスモ「ひ、ひいーっ!?」

妹「で、恋愛成就は出来るかしら?」

アスモ「はい! イエス! 出来る! 得意分野じゃ!」

妹「得意分野?」

アスモ「う、うむ! 男を色狂いにして、ところかまわず女を襲う性犯罪者に仕立てあげれば……」

妹「私のお兄さまをバカにしているの?」

ミシミシミシミシ……

アスモ「お、お兄さま? あぎゃーっ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 18:17:04.73 ID:hvEwm0lDO<> 妹「もっとこう……心を惹き付ける、みたいな力は無いのかしら?」

アスモ「あ、あるぞ! 男の心を惹き付ける力はワシにある!」

妹「あら、本当に?」

アスモ「うむ! じゃから、この手を早く離してくれ! 頭が割れそうじゃ!」

アスモデウスは妹のアイアンクローで持ち上げられたまま、じたばたと足を動かした。

妹「ダメよ」

だが妹、断る。

妹「悪魔って、願い事をかなえる代わりに魂を奪うのよね?」

アスモ「当然じゃ! 仕事の代価をもらうのは正当な権利じゃ!」

妹「タダにしなさい」

アスモ「……へ?」

妹「私の願い事、タダでかなえなさい」

アスモ「そ、そんなこと出来るわけが!」

ミシミシミシミシ……。
妹の右手がアスモデウスの頭を締め上げる。

アスモ「ひぎぃっ!」

妹「自分の立場がわかってないの? バカなの? 死にたいの?」

アスモ「う、うぅ……」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/03(金) 23:14:35.63 ID:hvEwm0lDO<> 女子高生に魔神が恐喝されていたその時、図書室の外に人影が揺らめいた。

先生「誰か中にいるのかッ! いたら返事をしろ!」

妹「しまった! トンズラし損じた!」

アスモ「な、何をそんなにあわてておる? 火事でもヤケド一つ負っておらぬのに」

妹「私が火事を起こした事をお兄さまに知られたらマズいのよ!」

アスモ「……ふむ」


アスモ(……チャンスか!)

姿は小学校低学年の女児だが、中身はれっきとした魔神である。
妹にアイアンクローを決められながらも、アスモデウスの脳内では瞬時に攻略フローチャートが組み上げられていった。

@ アスモ「助けてやろうか?」

A 妹「お願いします!」

B 先生や生徒たち、ついでに妹の兄を色狂いにして無理やり解決。

C 妹「うわーん! こんなのひどいよー!」

D アスモ「ワシをコケにした報いじゃ!」

E ついでに願いをかなえた事で妹の魂もゲット。

アスモ「うくく、素晴らしい案じゃ」

妹「何をいきなり笑い出してるの? 私をバカにしてるの?」

妹の右手に力がこもる。
アスモデウスの頭部がギリギリと締め付けられた。

アスモ「ぎにゃーっ!? 割れる! 頭部が割れちゃう!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/04(土) 03:35:21.91 ID:1lTSO6PDO<> 先生「くっ!? 誰かいるんだな! 今助けに行くから待っているんだ!」

妹「チッ! いらないお世話ですわ」

アスモ「入口は一つ、そこにあの教師がいては出られんのう?」

そして、アスモデウスは脳内フローチャートの導きに沿って取り引きを持ちかけた。

アスモ「そこで取り引きなんじゃが……」

小憎い妹の悲惨な結末を予想して、自然とアスモデウスの頬がゆるんでいく。

だが、アスモデウスの取り引きは是非を問う以前に、まったく相手にもしてもらえなかった。

妹「仕方ないわね、逃げるわよ!」

アスモ「……へっ?」

話を終えるのを待たずに、妹が走りだす。
向かう先は入口とは正反対の窓。

アスモ「ちょっ!? ココは結構な高さではないのか!?」

妹「四階、だけど問題ないわ!」

アスモデウスに答えつつ、妹は踏み込む足に力を入れて加速する。
赤い炎が揺らめき、陽炎揺らめくいびつな部屋を妹は一息で駆けた。

妹「おあつらえ向きに、ガスボンベの爆発で窓ガラスが割れているわね」

アスモ「え!? いや、まさか……えっ!?」

妹「歯を食い縛りなさい!」

妹が加速したまま両足を床から離す。
ちょうどドロップキックの体勢になった妹は、貧相に残った窓枠を蹴り潰し、そのまま部屋の外へと飛び降りた。

アスモ「う、ウソじゃろおぉぉぉーっ!?」

妹にがっちりと頭を掴まれたアスモデウスも、四階の高さから落下していく。
それからわずかばかり遅れて、燃え盛る図書室へと教師が飛び込んできた。

先生「おい、助けに来たぞ! ……って、あれ?」

すでに妹たちは去った後。
アスモデウスの絶叫が残響としてわずかに残っていたが、爆ぜる炎の中では教師がそれに気付く事も無かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/05(日) 03:44:40.82 ID:gAmgqvBDO<> 〜 学校近くのファミレス 〜

アスモ「つまり、実の兄に振り向いて欲しい、と?」

妹「そういう事よ」

部屋の隅、机をはさんで二人が言葉を交わす。
図書室から飛び降りた妹はその後、アスモデウスを抱えたままで学校の正門まで走破、人目につく事もなく見事に脱出を果たしたのだった。

妹「あら、店員が来たわね」

店員「ご注文はお決まりですか?」

妹「ドリンクバーを二つ、それと……あなたは嫌いな物があるかしら?」

アスモ「ワ、ワシか? なぜそんな事を聞く?」

妹「おごってやると言ってるのよ、それぐらいわかるでしょうに」

はぁ、と妹は馬鹿馬鹿しそうに息をついた。

アスモ「そ、そうか。……うむ、良い心がけじゃな」

すると、アスモデウスは少しばかり機嫌良く胸を張る。
丁重に扱われる事をこの上なく喜ぶ魔神ならではのゲンキンな仕草だった。

妹「早く言いなさい、店員を待たせたらいけないわ」

アスモ「そ、そうじゃな、ちなみにワシは魚が苦手じゃ」

妹「じゃ、焼き魚定食を二つ」

アスモ「……へ?」

妹「おごってやると言ったでしょ?」

アスモ「……」

妹「ん?」

アスモ「…………」

店員「えっと、以上でよろしいですか?」

妹「よろしいわ」

アスモ「よろしくないわーッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/05(日) 10:02:23.41 ID:gAmgqvBDO<> 〜 十数分後 〜

アスモ「いただきまーす!」

妹「チッ、よりによって一番高いステーキ定食を選ぶとはね」

アスモ「聞こえんのう、聞こえんのう」

アスモデウスはナイフとフォークで素早くステーキを切り分け、口の中へと運ぶ。

アスモ「おお、うましうまし」

妹「ま、臨時収入があったから大丈夫だけど、出した金の分は働いてもらうわよ?」

アスモ「むぐ? ひかふぃのお……」

妹「食べながら話さない」

妹に言われ、両頬をふくらませながらステーキをがっついていたアスモデウスは、口の中のステーキを一気に飲み込み、フォークを動かす手を止めた。

アスモ「おお、すまんすまん」

妹「頼りないわね……」

アスモ「む、ワシは色欲を司る魔神ぞ? これ以上に頼りがいのある奴はおらんぞ?」

妹「はいはい、それで話の件なんだけど」

アスモ「うむ、兄に振り向いて欲しい事は分かった、しかしその兄に魔術をかけるのはダメという話じゃったな」

そう言うと、アスモデウスはささやかな胸を張って、尊大な態度で続けた。

アスモ「任せよ! 世界中の男たちを虜(とりこ)にする魔性の美貌を貴様に与えてやろう!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/05(日) 11:47:31.53 ID:/FI+2BUho<> 期待してる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/05(日) 14:41:18.83 ID:gAmgqvBDO<> 妹「いいえ、結構ですわ」

アスモ「……ふえっ?」

妹「考え直したのよ、悪魔の力を使ってお兄さまに振り向いてもらっても、それはただむなしいだけなのよ」

アスモ「……」

──じゃあ、ハナッから召喚すんな!!
アスモデウスが心の中でツッコミを入れる。
だが、妹の話はそれで終わりではないようで、妹はドリンクバーから注いできたウーロン茶で軽く唇を湿らせると、ゆっくりと言葉を続けた。

妹「それで、話なんだけど……」

アスモ「?」

妹「えっと、あなた、色恋沙汰に詳しいのよね? 自分で色欲の魔神とか言ってるし」

妹はそわそわと落ち着かない様子でアスモデウスに話しかける。

アスモ「まあ、そうじゃが……何をあらたまっとるんじゃ?」

妹「……」

アスモデウスが尋ねると妹は一瞬だけ目を逸らし、だがすぐにアスモデウスへとその目を戻して答えた。

妹「あなた、私のアドバイザーになりなさい」

アスモ「……は?」

妹「アドバイザーよ、相談役ね」

アスモ「い、いや、言っておる意味が良くわからないんじゃが」

妹「@あなたは私の話を聞く。
A私と一緒に解決策を出す。
B私が実践する。
ユーアンダースタン?」

アスモ「お、おお、わかりやすい」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/05(日) 15:01:05.77 ID:gAmgqvBDO<> アスモ「ところで、ワシの報酬の件なんじゃが」

妹「食べたでしょ?」

アスモ「魂全部とは言わぬ、ほんの少しだけ……」

妹「食べたでしょ?」

アスモ「……えっ?」

妹「ステーキ、おいしく食べたでしょ?」

アスモ「…………」

妹「ね? おあいこよ」

アスモ「何が『おあいこよ』じゃーっ!!」

アスモデウスは椅子の上に立ち、声を張り上げた。

アスモ「返す! 吐いて返す!」

妹「汚い事はやめなさい」

アスモ「ぐえっ!?」

ガシッと、妹のアイアンクローがアスモデウスの頭を捕えた。

アスモ「く、暴力には屈しないわい!」

妹「なら、割るわよ?」

アスモ「……へ?」

ピシッとアスモデウスの動きが固まる。

妹「頭、割るわよ?」

妹は口元を吊り上げ、薄笑いを浮かべながら言い放った。
それはアスモデウスが初めて見る妹の笑顔だった。

ちなみに、笑顔というのは相手に牙を見せる行為と同等である。
気が付けば、アスモデウスは涙目になっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/05(日) 19:08:07.67 ID:gAmgqvBDO<> 魔神ピンチ。
だが、そこでファミレス内から声が上がった。

女子1「あー、うるさい」

声はファミレスの中央近くから聞こえる。
頭をがっちりと固定されているアスモデウスが目だけを動かしてそちらを見ると、三人の女子高生がダベりながら声を上げていた。

女子1「何だか部屋の隅が騒がしくて嫌な気分だわー」
女子2「メシもまずくなるわねー」
女子3「じゃあアタシが食べようか?」

女子高生たちは明らかに、妹とアスモデウスの二人に向かって毒を吐いていた。

アスモ「なんじゃあいつらは? 気分の悪い」

妹「……」

アスモ「ん? どうしたんじゃ?」

いきなり口をつぐんだ妹に、アスモデウスが首をかしげる。
その間にも女子高生たちの話は続いていた。

女子1「でもさー、一人くらいクラスにいるわよねー」

女子2「陰湿で根暗で輪を乱す奴ねー」

女子3「ムシャムシャ……うましうまし……」

女子1「そいつがさ、怪力とかだったらどうよ?」

女子2「いやー、ないっしょ? 存在的に?」

女子3「ごっつぁんでした」

女子2「アタシのご飯がっ!?」

そんな女子高生のやり取りを遠目に見ていたアスモデウスだったが、不意にその頭を締め付ける妹の指が緩んだ。

アスモ「おっ?」

アスモデウスが地面に下ろされる。
アスモデウスは何事かと妹の顔を見ると、妹は表情を消した顔でバカバカしげに目を細めて言った。

妹「帰るわよ」

アスモ「なんじゃ? お主の焼き魚定食はまだ半分も残っておるではないか?」

妹「なら、あなたが食べたらどう?」

妹はそれだけ言うと、一人でファミレスの会計へと向かい始めた。

アスモ「おっ、おーい!?」

妹「…………」

アスモデウスが声をかけるが、妹は無言のまま歩を進めていく。

アスモ「……」

一人残されたアスモデウスは少しだけ思案し、やがて言い訳がましくつぶやいた。

アスモ「……むう、魚は嫌いじゃと言うとるじゃろうに」

そしてアスモデウスはイスから立ち上がり、妹の後を早歩きで追っていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/05(日) 23:13:15.36 ID:5na0PVaDO<> 兄との絡みがすくないれす <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/06(月) 00:36:29.37 ID:P2pzqhaDO<> 〜 夕暮れを過ぎた、薄暗い帰り道 〜

妹「……」

アスモ「……」

数歩ほど遅れて、アスモデウスが妹の後ろについていく。

──はぁ、空気が重いのう。

アスモデウスは前を行く妹の背中を見ながら、一人でため息をついた。

──しかし、なぜ魔神であるワシが、小娘ごときに従わねばならんのじゃ?

考えてみても納得がいかない。
ただ、妹の見せた、暗くよどんだ瞳を思い出すたびに、アスモデウスの背筋には凄まじい悪寒が走るのだった。

アスモ「って! ワシはおびえてなどおらん!」

妹「……うるさいわね」

妹が立ち止まり、振り返ってアスモデウスをにらみつけた。

アスモ「ひぃっ!?」

妹「……ふん」

妹の視線に弾かれたように飛び退くアスモデウス。
それを見た妹は、バカバカしげに息をついた。
アスモデウスはその仕草を一日で何度も見ているので、妹のクセかもしれない。
そんな事をアスモデウスが考えていると、妹が静かに口を開いた。

妹「あなた、帰っていいわよ」

アスモ「……む?」

妹「おごってやった事は忘れていいわ、それじゃ」

アスモ「な! 散々振り回しておいて、何を言うか!」

好き勝手な事を言われて、アスモデウスが怒る。
だが妹は何も言わずにアスモデウスに背中を向けると、早足で歩き始めた。

アスモ「む、……く」

アスモデウスがくやしげに歯噛みする。

──じゃが、あの娘は普通ではない、ここで手を引くのもアリかもしれん。

アスモデウスがその場で頭を抱える。

──へたに時間をかけるよりも、他のエモノを狙った方が……

だが、そう考えているうちにも妹は一人で歩き続ける。
悩むアスモデウスが妹の様子を見るように顔を上げると、妹の背中はすでに遠く離れていた。

薄闇の中にまたたき始めた電灯が、妹の姿をほのかに映し出す。

近くでは妙な気迫に溢れている妹の背中が、どこか寂しげで、小さく頼りなく見えた……気がした。

アスモ「……ええいっ! 何を悩んでおるのじゃワシは!」

それを見たアスモデウスは、気合いを入れるように自分の両頬をたたいた。

アスモ「ココまでコケにされて逃げ帰っては魔神の名折れじゃ! 一矢報いてギャフンと言わせるまでは帰らんぞ!」

アスモデウスは自分に言い聞かせるように声に出すと、そのままアスファルトを蹴って走りだした。

ふと自分の中に湧いてきた、妹に手を伸ばしてあげたいと思う気持ちをかなぐり捨てるように。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/06(月) 02:47:29.21 ID:P2pzqhaDO<> 〜 妹の自宅前 〜

妹「何でついてきてるのよ?」

アスモ「ふん、悪魔を召喚しておいて逃げられると思うんじゃないわい」

妹「……まあいいわ」

妹は家の扉に手を伸ばした。

妹「ところで、私の家に入るなら一つ忠告しておくわね?」

アスモ「?」

妹「もし、お兄さまにちょっかいを出したりしたら……」

アスモ「出したりしたら?」

妹「躊躇無く殺すわね」

アスモ「っ!?」

妹は愕然とするアスモデウスを置いてドアノブをひねると、家の扉を引き開けた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/06(月) 07:07:20.60 ID:P2pzqhaDO<> 家の扉を開けた瞬間、妹が豹変した。

妹「ただいまー! お兄さまーっ!」

アスモ「っ!?」

満面の笑顔で、甘ったるい猫なで声を出す妹。
すると、家の奥から一人の青年がゆっくりと現れた。

兄「おお、やっと帰って来たのかい」

妹「はい、遅れて申し訳ありません……」

アスモ「!!??」

ウキウキとはしゃいだ様子から一転、今度はシュンとうなだれる妹。

兄「怒ってないよ、ただ、最近は物騒だから心配でね」

妹「……心配をおかけしてしまったんですね? ごめんなさい、お兄さま」

兄としては軽く流すつもりだったようだが、妹はますます頭を下げてうなだれてしまう。
困った兄はどうしたものかと苦笑いを浮かべ、そこで妹の背後にいるアスモデウスに初めて気が付いた。

兄「えっと……ん? その子は?」

妹「あっ、この子はですね……」

アスモ「ワシか? ワシは魔神アスモデウス、悪魔の中の悪魔じゃ」

妹「…………」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/06(月) 07:53:14.07 ID:P2pzqhaDO<> 兄「悪魔? 魔神?」

アスモ「うむ、ワシは七つの大罪のうち、色欲を司る魔神で……」

アスモデウスが説明を始めたその刹那。
ぞくり、とアスモデウスの背中を悪寒が走り抜けた。

アスモ「……!」

兄「……? どうしたんだい?」

兄が不思議そうに聞いてくるが、アスモデウスはそれどころではない。

妹「…………」

妹が、アスモデウスを見ていた。
──目を見開き、暗くよどんだ光彩をギラギラと揺らめかせながら。

アスモ「ひ、ひぃ!?」

兄「?」

妹は背後のアスモデウスに振り返る体勢、その幽鬼のごとき表情は兄から死角になっている。

妹「この子はアマゾン奥地のシャーマン一族なんですよ、お兄さま」

そして、妹が再び兄の方を振り向いた時、その顔には最初に見せたものと寸分違わぬ満面の笑みがあった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/07(火) 03:39:05.47 ID:VdZdmEhDO<> 兄「ああ、どうりで不思議な格好をしているんだね?」

妹「ふふふ、伝統的な部族の格好よね? アスモちゃん?」

アスモ「あ、あう……」

兄「でも、いいのかい?」

妹「何がですか?」

兄「もう暗いし、ウチで時間を過ごしたら完全な夜になってしまうよ?」

妹「そう、ですね」

兄「それとも、今日は泊まって……」

妹「アスモちゃん、自分のお家に帰りましょうか?」

アスモ「なぬっ!?」

妹「お兄さま、アスモちゃんと少しだけ話すので待っててください」

兄「ああ、わかったよ」

兄がうなずく。
妹はそれを見ると、アスモデウスの手を握って玄関前から路上へと戻った。

妹「というわけよ」

アスモ「さっぱりわからぬわ!」

妹「うるさいわね、家に上げてやるのは百万歩譲って良しとしても、泊めてやるわけにはいかないわ」

アスモ「な、なぜじゃ!?」

妹「私とお兄さまの大切な領域、そこに違う女が寝泊まりするなんて……考えただけでヘドが出るわ」

アスモ「そ、それじゃワシはどこに泊まればよいのじゃ!?」

妹「あなた悪魔でしょ? 地獄とかに家があるでしょうが」

アスモ「召喚されておいて、魔界に手ぶらで帰れるものか!」

妹「なら野宿でもしなさい」

アスモ「う、う〜っ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/07(火) 17:47:30.92 ID:VdZdmEhDO<> 妹「話は終わりましたわ」

頬をふくらませるアスモデウスを無視して、妹が笑顔で兄へと振り返った。

兄「そうか、それでどうするんだい?
その子……アスモちゃんはやっぱり家に帰るのかい?」

妹「ええ、やはり夜も遅くなると危ないですし……」

アスモ「ということで、きょうはとめてもらうことになりました〜っ!」

突然、アスモデウスが話に食い込んできた。

妹「っ!?」

アスモ「きょういちにち、おねがいしまーすっ! おにーさま!」

アスモデウスは舌ったらずな声を上げたかと思うと、続けて無邪気な笑顔を兄へと向ける。

兄「うん、こちらこそよろしくね、アスモちゃん」

アスモ「はーい! おにーさま!」

アスモデウスは兄に答えると妹の隣から逃げるように駆け出し、家の中へと侵入。
そして、玄関に立つ兄の右足へとそのまま勢いよく飛び付いた。

アスモ「よろしくおねがいしまーすっ! おにーさま!」

妹「っ!!」

その途端、妹の表情がぴしりと固まった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)<><>2012/02/07(火) 21:49:51.16 ID:4G4MjWca0<> 終わるなら終わりって書いてね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/02/07(火) 23:07:08.29 ID:VdZdmEhDO<> 1ヶ月ほどは続ける予定です。
遅筆でスマソ。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/07(火) 23:09:12.02 ID:VdZdmEhDO<> ageちまったでござる……orz。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/08(水) 00:33:13.49 ID:Io7+TBLDO<> アスモ(うくく、誰が野宿なんぞするか!)

アスモデウスは無邪気な笑顔の裏で、いやらしく目を細める。

アスモ(あやつ……妹はどうやら兄には逆らえんようじゃし、こうやれば無理にワシを追い出すことも出来んじゃろう)

完璧な算段。
兄を盾にして、傍若無人な妹を抑えつける妙案。
……その時まではそう思えていた。

アスモ(さて、妹の顔を見てみるかのう、さぞかし口惜しい顔をしておるじゃろうな)

アスモデウスが兄の足にくっつけていた頬を動かし、妹の方へと視線を動かす。

妹「…………」

だが、妹は口惜しい表情はおろか、怒りの表情さえ浮かべていなかった。
妹は一切の感情が抜け落ちた能面のような顔で、まばたき一つせず、アスモデウスの顔をじっと凝視していた。

アスモ「……!」

妹とアスモデウスの目が合う。
妹の瞳は暗く、ドブの底のように濁り、情愛と嫉妬、憤怒と憎悪の狂い乱れる業炎を揺らめかせていた。

アスモ「あ……あう……」

突き殺さんばかりの視線の圧力がアスモデウスへと襲い掛かり、その小さな体を硬直させる。
金縛りにあったように動かない、動けないアスモデウスの脳裏で、色欲を司る魔神としての記憶がよみがえって来た。

その記憶は、愛する者を手に入れるため、そして愛深きゆえに凶行に及ぶ事をためらわない、狂信じみた、ねじれた倫理思考を持つ者たちの記憶。
魔神であるアスモデウスも怖れを抱く、禍々しい魂たちの記憶であった。

なぜ、そんな記憶が今になってよみがえって来たのか?
答えはいちいちアスモデウスが考えるまでも無かった。

そんな連中の魂を寄せ集めた、深遠の底から這い出てきたような黒い瞳が、今まさにアスモデウスの目の前にあるのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/08(水) 03:35:33.31 ID:Io7+TBLDO<> 妹「お兄さま」

妹が兄へと話しかける。
その顔は、いつのまにか穏やかな表情へと変じていた。

兄「ん? どうしたんだい?」

妹「日も落ちてますし、外はすぐに寒くなって来ますよ、早く家の中に入りましょう?」

兄「あ、そうだね。ごめんごめん」
妹「アスモちゃんも家の中に入りましょう?」

アスモ「え? う、うむ」

妹に話をふられ、アスモデウスは戸惑いながらうなずく。
そして妹に急かされるまま、アスモデウスは玄関から家の廊下へと一歩踏み出した。
ちなみにアスモデウスは裸足だが、魔力で少しだけ浮いているために足の裏は汚れていない。

アスモ(ふう……なんじゃ、驚かせおって)

穏やかな妹の態度に、アスモデウスは内心胸を撫で下ろす。

アスモ(兄が盾になっておる以上、やはりワシには手出しができんようじゃな、くわばらくわばら)

妹の尋常ではない様子を見た時は冷や汗が出たが、ひとまずの危機は脱した。

アスモデウスがそう思った時だった。

ガチャリ、とアスモデウスの背後で鍵のかかる音が響いた。

同時に、妹のつぶやく声。

妹「絶対に逃がさない」

そこでアスモデウスは気が付いた。
猛獣が徘徊する狩場へと自分がみすみす飛び込んでしまった事に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/08(水) 16:43:43.51 ID:Io7+TBLDO<> 妹「アスモちゃん、私の部屋に行きましょう?」

妹がアスモデウスの右手をつかむ。
凄まじい力で。

アスモ「ひぃっ!」

妹「私の部屋は二階なの、『少しだけうるさくしても大丈夫』なのよ」

妹は靴を脱いで廊下に上がると、アスモデウスを引っ張って階段を目指し始めた。

アスモ(い、いかん! ワシを殺す気じゃッ!!)

兄が盾になっている以上は大丈夫。
逆を言えば、兄がいなければジ・エンドだ。

アスモ(ど、どうすれば……)

まともに召喚されているならばまだしも、今のアスモデウスに戦う力はほとんど無い。

アスモ(では、誰かに助けを……誰に!?)

必死に考えるアスモデウスの眼前。
そこに兄の背中が見えた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sagb<>2012/02/08(水) 18:22:06.08 ID:Io7+TBLDO<> アスモ「きゃーっ!」

アスモデウスが悲鳴を上げながら、その場で足をつまずかせた。
そしてアスモデウスはそのままの勢いで廊下に倒れこみ、体を床と激突させる。

アスモ「あぐっ……」

兄「だ、大丈夫かいっ!?」

アスモ「お、おねえちゃんがむりやりひっぱったー!!」

妹「っ!?」

アスモデウスの右手をつかんだままの姿で、妹が硬直した。

兄「こら、乱暴な事をしたらダメじゃないか!」

妹「ち、違いますっ!」

アスモ「うわーん! おねえちゃんがいじめるー!」

アスモデウスは立ち上がりぎわに妹のスキをついて、握りしめられている手を振りほどいた。

アスモ「おにーさま! たすけてー!」

続けてアスモデウスは床を蹴ってジャンプ。
高く飛び上がり、正面から兄の胸へと抱きついた。

妹「っ!!」

アスモ(ああ……妹の殺意が背後で膨れ上がっておる……)

アスモデウスの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。

アスモ(しかし、今のワシにはこれしかない! この男をたらしこんで味方につける以外に、ワシには生きる道が無いのじゃ!!) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<><>2012/02/09(木) 01:34:15.22 ID:PscDbaP10<> 遅いのはいいけど終わるなら終わりって書いてね今日はここまでとか

あと溜めてから書いたほうがいいんじゃない? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 02:24:10.25 ID:CHOA9H2DO<> アスモデウスは兄に抱きついたまま言葉をつむぎ始める。

アスモ「あのね、おねえちゃんひどいんだよ?」

兄「妹が?」

アスモ「うん、アスモのあたまを『ガシーッ』てつかんでいじめるの」

妹「なっ!?」

兄「それは本当かい、アスモちゃん?」

アスモ「うんうん」

妹「ち、ちょっとアスモちゃん! お兄さまに迷惑をかけてはダメじゃないの!」

妹があわてながら、兄とアスモデウスの会話に割って入る。

妹「そんなにくっついていないで、お兄さまから早く離れなさい!」

妹がアスモデウスの肩をつかみ、兄から引き剥がしにかかる。

アスモ「やめてー! はなしてー!」

兄「こら! やめるんだ妹!」

妹「お、お兄さま! でもアスモちゃんが」

アスモ「いたいよう……かたがいたいよう……う……うぅ……」

兄「ほら、アスモちゃんが泣いちゃったじゃないか!」

妹「う、ウソ泣きで……」

兄「謝りなさい」

妹「……え?」

兄「アスモちゃんに謝りなさい」

妹「…………」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 02:38:20.89 ID:CHOA9H2DO<> 妹「……ふ」

兄から叱責の眼差しを受ける妹の顔が、不意にクシャリと歪む。
そして、

妹「ふえぇぇぇーんっ!!」

──妹は大粒の涙を両の目からポロポロとこぼし始めた。

アスモ「なぬっ!?」

妹「ばかあぁぁーっ! アスモちゃんのばかあぁぁぁーっ!!」

妹は駄々っ子みたいに一息で叫ぶと、唖然とするアスモデウスを置いて、逃げるように階段を駆け上がっていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 03:41:54.59 ID:CHOA9H2DO<> 兄「あっ! ……まったく妹は」

アスモ「さ、さっきのは?」

兄「かわいいだろ? 少しわがままな所もあるけど、っと」

アスモ「あっ、すまぬ、いま離れるぞ」

アスモデウスの体で足元が隠れ、兄が体勢を崩しそうになる。
アスモデウスはすぐに兄の体から手を離し、廊下のフローリングの上へと飛び降りた。

アスモ「ふう」

兄「気丈に振る舞ってたりするけど、ああ見えてちゃんと女の子なんだよ、妹は」

アスモ「……?」

兄「家に女友達を連れてきたのは……小学校の低学年以来かな? すごい久しぶりだよ」

アスモ「なんじゃ、何の話じゃ?」

兄「よければ、これからも妹と仲良くして欲しい」

アスモ「断る! というか、妹と友達ですらないわ!!」

兄「はは、まあ考えておいてね?
ところで晩ご飯は食べるかい?
今、台所でカレーを作っているんだけど……」

アスモ「……む、少し前に食べた」

話の流れ的に面倒くさくなりそうなので、妹からおごってもらったとは言わない。

兄「そうか、シーフードかビーフで悩んでたから参考にしたかったんだけど」

アスモ「断然、ビーフじゃな」

即答する。

兄「……もしかして、お腹すいてる?」

アスモ「米は入らん、肉はまだ入る」

兄「ふふふ、わかった!
妹の友達のために、カレーの肉を普段の150%に増量だ!」

兄は大げさに腕まくりをして、廊下の奥へ向かって歩きだした。

アスモ「いや、だから友達ではないと言うとるのに……」

調子の狂う相手だとアスモデウスはため息をつく。

アスモ「…………」

そして、妹の消えた階段の上をしばらく見ていたが、やがて兄に呼ばれたので台所へと足を向けた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/09(木) 14:16:00.81 ID:98Tlc2/Ao<> これは期待できる <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 16:53:09.42 ID:CHOA9H2DO<> 兄「妹は人見知りが激しくてね」

兄は具材を鍋に入れながらアスモデウスに話しかけてくる。
当のアスモデウスはというと、こちらはテーブル前のイスに腰掛け、意味もなく足をブラブラと揺らしていた。

アスモ「ところで、家にはおぬしら二人しかいないのか?」

兄「うん、父さんと母さんは考古学の専門家でね、世界中を飛び回っているんだよ」

アスモ「そうか、大変じゃのう」

兄「家族仲はそこまで悪くは無いんだけどね」

兄は苦笑いを浮かべて、具材を放り込んだ鍋にフタをかぶせた。

兄「食材に火が通るまで待たないといけないから、テレビでも見てたらどうだい?」

アスモ「おぬしはどうするんじゃ?」

兄「火から目は離せないから、ここにいるよ」

アスモ「なら、ワシもここにおる」

アスモデウスは表情も変えずにそう返した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 17:50:18.43 ID:CHOA9H2DO<> やがて二人の間に会話も無くなり、台所には煮込まれている鍋のコトコトという小気味よい音だけが聞こえていた。

──家族か、『偉大なる父』はどうしておるんじゃろうか?

こんな静かな環境では、ついつい物思いにふけってしまう。
それが家族の話なんぞをした日には、なおさらだった。

──ワシの事で頭を悩ませておるじゃろうか? いや、ワシの事を覚えてくれておるのじゃろうか?

アスモデウスは『偉大なる父』への反発心から、自ら進んで堕天した。
その結果、『偉大なる父』からの音沙汰はパタリと途絶えた。
敵対した以上は当然である、当然であるが……

──さびしい。

無理やりにでも自分を天へと引きずり戻してはくれないのか?

あらゆる策謀を用いて、自分を籠絡してはくれないのか?

あなたは全知全能で、それが出来るのではないのか!

──つまり、ワシは相手にもされておらん……

一抹の寂しさ、悲しさ。
それらがアスモデウスの心をきしませる。

アスモ「……」

アスモデウスはテーブルの上で両腕を丸め、ゆっくりと顔をうずめた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 20:21:46.93 ID:CHOA9H2DO<> 兄「眠くなったのかい?」

アスモ「……いや、違う」

兄の声に、アスモデウスは物思いに深く落ち込みかけていた頭を上げた。

アスモ「少しだけ考え事をしておっただけじゃ、気にせんでくれ……」

兄「……うーん」

明らかに落ち込んでいるアスモデウスに、兄は頭をひねる。

兄「そうだ、今日は家に泊まるんだよね? お風呂に入るかい?」

アスモ「風呂?」

アスモデウスは眉をひそめて聞き返す。

兄「そう、お風呂だよ。ちょうど沸いているし、入ってきなよ」

アスモ「むう」

兄「服は妹のお古を用意しておくからさ、うん、そうしなって」

アスモ「……」

アスモデウスは背中を流れる自分の髪をつかみ寄せ、においを嗅いでみる。
図書室の火事で染み付いたのか、少しコゲ臭かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/09(木) 22:46:05.58 ID:CHOA9H2DO<> アスモ「では、お言葉に甘えようかのう」

兄「うんうん」

アスモ「ふむ、ちなみに風呂はどこじゃ?」

兄「あっちあっち」

アスモ「ところで」

兄「?」

アスモ「……覗くなよ?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/09(木) 23:16:04.18 ID:CHOA9H2DO<> 〜 風呂場 〜

アスモ「ババンババンバンバン〜」

アスモデウスは浴槽の中でまったりとしていた。

アスモ「あ〜、風呂はいいのう〜、鬱な気分が溶けていきそうじゃ〜」

のほほんとしながら、アスモデウスはぼんやりと天井を仰ぎ見た。

アスモ「しかし、今日は色々とあったのう」

アスモデウスは今日一日を振り返る。
召喚され、脅され、威圧され、睨まれ、アイアンクローをかまされた記憶が脳裏に浮かび上がってきた。

アスモ「……妹の魂は諦めた方がいいかもしれんなぁ」

しかし、手ぶらで帰るというのもバカらしい。
そう考えるアスモデウスの頭にふと、あるアイデアが閃いた。

アスモ「まて……そうじゃ! 妹ではなく、兄を狙えばよいではないか!」

以下、アスモデウスが閃いた作戦。

@ 兄を魔術で籠絡する。

A 妹「お兄さまを助けて! 私の命をあげるから!」

B 妹の魂ゲット。

アスモ「お、おお! 無理が無い! ……気がする」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/02/10(金) 00:45:35.27 ID:n2F6uLtUo<> ぷいぷいと雰囲気が似てるなぁ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 02:22:34.41 ID:J9xJDKt8o<> どっちにしろアスモちゃん√に行きそうでつら <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/10(金) 02:23:17.58 ID:L8/wVjSDO<> アスモ「しかし、兄を術中へ陥れるにはどうしたものかのう?」

魔神と人間。
本来、アスモデウスが悩むような事ではない。
まれに妹みたいな例外もいるが、大抵は力ずくでなんとかなる。
ただ、とにかくアスモデウスは謀(はかりごと)が好きなのだった。

アスモ「他の女を洗脳して……いや、せっかく地上に出て来たのじゃ、ワシの手を使わねば勿体ない」

踊る心にウキウキとしながら、アスモデウスは悪だくみを考えていく。

アスモ「そうじゃ! ワシの魅力的なボディで悩殺すれば……って、今はこの体か」

バスト・ウエスト・ヒップがほぼ同じの体を見て、アスモデウスはため息をつく。
しかし、すぐに息を荒く吐き出し気合いを入れると、右手を高く掲げて叫んだ。

アスモ「いや! 体のサイズなんぞ、ワシの内からあふれ出る『女としての魅力』の前ではささいな事! 些事中の些事じゃ!」

振り上げた右手がお湯の飛沫を散らし、天井の照明から注ぐオレンジ色の光を反射して、アスモデウスの頭の上で小さくまたたいた。

アスモ「一緒にお風呂はどうじゃ? とか………むふ、むふふふふ……」

そして、重力によって落下してきたお湯の飛沫を頭に浴びながら、アスモデウスは機嫌よさげにほくそ笑んだ。

ただ、ここまでの謀(はかりごと)と称した独り言をアスモデウスは現実に起こそうとは考えていない。
例え、兄を籠絡する行動を現実に起こすとしても『ある理由』から、アスモデウスが兄を魅力するような作戦はまず起こりえないだろうと、アスモデウス自身もそう考えていた。

つまりは、『伝説の剣が欲しいなー』とか、『竹やぶに一億円落ちて無いかなー』みたいな話となんら変わりの無い、アスモデウスの妄想だった。

──だから、風呂場の向こうに誰かの気配を感じた時、アスモデウスは心臓が止まるかと思うほどに驚いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(鹿児島県)<><>2012/02/10(金) 06:27:24.87 ID:Wv/PTWtI0<> アモス・・・・君の事は忘れるまで忘れないよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 07:20:00.49 ID:7cJuBQ9Bo<> >>50
ageた上に名前間違うとか、可哀相なくらい残念な奴だな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 09:09:47.13 ID:ghmX60PIO<> >>50
どこの石像モンスターだよ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/10(金) 15:22:36.65 ID:L8/wVjSDO<> アスモ「だ、誰じゃ!」

アスモデウスが風呂場の入口、洗面所へとつながる引き戸に首を向けて声を上げる。
答える声は無く、だが引き戸の曇りガラスの向こうには人影が揺らめいて見えていた。

アスモ「お、おにーさま?」

一階にいるのは兄だけ。
アスモデウスが幼女ボイスで兄の名を呼ぶが、やはり人影に反応は無い。

アスモ「わ、わたし、いまおふろに入っているから、でていってほしいなー?」

しかし人影は洗面所から出ていかず、それどころか服を脱ぐ衣擦れの音を出し始めた。

アスモ「…………」

アスモデウスの額に、お湯とは違う水玉が、どっと浮かび上がる。

アスモ(こ、これはまさか……やってしまったという状況か!?)

よくよく考えてみれば、女をお風呂に誘うというシチュエーションはアレだった。
さらに、オッケーしちゃってる自分も、かなりアレだった。

アスモ(うぅ、ワシとしたことが、まんまと男の策にはまってしまうとは!)

アスモデウスは頭を抱え、しかしすぐに顔を上げて気を持ちなおした。

アスモ(じゃが! ワシには絶大な魔力がある! バカな真似をするようならば、全力で吹き飛ばしてくれるわ!)

女としての魅力を武器にして男を籠絡、という発想はアスモデウスの頭に無かった。
なぜならば……

アスモ(ワシの……ワシの……)

アスモデウスは肩を震わせながら、その両目を見開いた。

アスモ(ワシの『初めて』の相手は白馬の王子様と決まっとるんじゃー!!)

アスモデウス、色欲の魔神。
生まれてこの方、男との付き合いは無し。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/10(金) 17:34:10.56 ID:L8/wVjSDO<> アスモデウスが気合いを入れ直し終える頃、ちょうど曇りガラスの向こうの人影も動きを止めた。

アスモ(心の準備は出来た! 来るなら来てみよ、我が魔力をぶちかましてやろうぞ!)

そんなアスモデウスの心の叫びを聞いたかどうかは分からないが、風呂場と洗面所をつなぐ引き戸がゆっくりとスライドを始める。

アスモ(え? ま、マジで来るつもりか?)

アスモデウスの表情が凍り付いた。

アスモ(し、しかし……求められるのは悪くないというか『お前が欲しいー!』とか言われて一緒に合体奥義を発動、というシチュエーションは悪くないというか、ワシ的にはアリだし、でもいきなり体を求めてくるのは……)

混迷していく思考、だがアスモデウスが思考の迷宮から立ち戻る前に引き戸は開かれた。

アスモ(くっ!? しかたない! と、とにかく第一声を!)

アスモデウスは慌てながらも、現れた人物に声をかけた。

アスモ「よ、よく来たな!」

妹「ええ、来たわよ」

妹が、立っていた。

アスモ「…………」

妹「ん? 何か言いたいの?」

アスモ「な、な……」

妹を指差し、プルプルと震えるアスモデウス。
そんなアスモデウスの様子を見ながら、妹はクスリと笑った。

妹「あわてなくてもいいわ、ちゃんと聞いてあげる」

そして、妹の表情が笑顔から一転。
妹は表情を消し去り、ヘドを煮詰めたような黒い瞳を見開いてアスモデウスを睨み付けた。

妹「ちゃんと聞いてあげるわよ、アンタの最期の言葉をね」

アスモ「い、いやあぁぁぁッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/10(金) 19:10:42.20 ID:TmewtTmdo<> 積んだな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/02/10(金) 19:52:21.54 ID:L8/wVjSDO<> 〜 数分前 〜

妹「あの……お兄さま?」

兄「あっ、降りてきていたのかい?」

妹「はい、それで話があるんですけど」

兄「?」

妹「わたし、アスモちゃんに謝りたいんです! さっき、ひどいことを言ってしまったから……」

兄「っ!? 妹が他人への気遣いを……」

妹「……どうしたんですか?」

兄「あっ! い、いや、別に何でもないよ、それで?」

妹「はい、それでアスモちゃんに会いに来たんですが」

兄「ああ、アスモちゃんは今お風呂に入っているけど……ちょうどよかったよ、頼みがあるんだ」

妹「頼みですか?」

兄「ああ、アスモちゃんの着替えを用意したいから、妹の古着を貸してくれないか?」

妹「……いいですよ、ですけど私からもお願いがあります」

兄「お願い?」

妹「私、アスモちゃんと裸のお付き合いをして仲を取り戻して来ます、『少しだけ騒がしくなる』かも知れませんが、見てみぬフリをしてください」

兄「オッケーだよ、女同士の友情へ横やりを入れるなんて、そんな野暮な真似はしないさ」

妹「ありがとうございます! お兄さま!」

兄「アスモちゃんと仲良くね」

妹「はい! お兄さま!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/10(金) 21:46:10.97 ID:L8/wVjSDO<> 〜 そして現在 〜

妹「……というわけで、助けは来ないわよ?」

アスモ「ひぃーっ!?」

アスモデウスが絶叫を上げるのと同時に妹がダッシュ。
妹は洗面所から風呂場を一足で移動し、アスモデウスの口ごと顔面をワシづかみにした。

アスモ「む、むぐーっ!?」

そしてそのまま、妹はアスモデウスの頭をお湯の中へと一気に沈めた。

アスモ「ガボボボッ!?」

妹「大丈夫よ、殺すつもりはないから、お兄さまに知られたら困るし」

アスモ「ガボッ!」

妹「でも、死ぬほど苦しませるつもりはあるから、覚悟してね?」

アスモ「ゴボボボッ」

妹「はい、顔上げてー」

アスモデウスの頭を持ち上げる。

アスモ「ゲフッ……ガハッ」

妹「そしてダイブー」

アスモデウスの頭を湯船に沈める。

アスモ「ゴボゴボゴボッ!」

妹「また上げてー」

アスモ「グッ……き、きさま!」

妹「はい、ダイブー」

アスモ「ガボッ!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/10(金) 22:56:43.23 ID:K6Wue+0Lo<> お、鬼や... <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)<>sage<>2012/02/10(金) 23:34:46.38 ID:TmewtTmdo<> 悪魔より悪魔っぽいぞ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/10(金) 23:54:38.67 ID:L8/wVjSDO<> そんな拷問に似たやりとりが数度となく続けられる。
そして、アスモデウスがぐったりとし始めた頃合いを見て、妹がアスモデウスを片手で高く持ち上げた。

妹「でも、全部あなたが悪いんだからね」

アスモ「?」

妹「だってそうでしょう? 私とお兄さまの間に、ズカズカと割り込んで来るんですもの」

アスモ「そ、そんな理由でここまで……」

妹「『そんな理由』ですって!?」

口ごと顔面をつかむ妹の指の隙間からアスモデウスが言葉をしぼりだすと、妹が急に憤怒の表情へと変わった。

妹「あなたに何がわかるの! 私にはお兄さましかいないのよ!」

妹はアスモデウスの頭を湯船に沈め、だがすぐに持ち上げる。

妹「私はねっ! 親がいないのっ! 捨て子なの養子なの今の家族とは血が繋がっていないのよっ!!」

そして、妹はアスモデウスの頭を言葉に合わせて力任せに上下させ、何度も湯の中と外を往復させる。

妹「今のお父さんとお母さんは優しいわ、でも他人よ! 気兼ねなく話せた事なんて一度も無いわよ!」

アスモ「ぐ、がはっ……」

湯面が波打ち、湯船から豪快にお湯があふれ出ていく。

妹「私が物心ついた時、すでに私は『普通』じゃなかった!」

アスモ「ゲフッ……」

アスモデウスの視界が白く明滅し始める。

妹「力が凄く強くて、体が頑丈で……好きな物に嫌いな物、加減がわからずに何でも壊して!」

アスモ「……」

妹「お前は鬼とか悪魔とか! だから実の親に捨てられたとか! みんなして好き勝手に騒ぎ立てて!」

アスモデウスは声を出す余裕も無く、妹の声だけが風呂場に響いていく。

妹「周りはみんな敵で! 毎日が地獄で! それでも私が今まで生きてこられたのはお兄さまがいたからなのよ!」

そして、いきなり妹はアスモデウスの頭を自分の目線の高さまで持ち上げると、その乱暴な所業からは思いもつかない悲痛な声をアスモデウスに浴びせた。

妹「私に優しくしてくれるのはお兄さまだけよ!
  私を見てくれるのはお兄さまだけなのよ!
  私の居場所をこれ以上奪わないでよ!
  私とお兄さまだけを残して、みんながみんな死んでしまえばいいのよ!」

憎悪とも悲哀ともつかない激情に歪んだ妹の顔を、一筋のしずくが流れていく。
それが勢いで飛び散ったお湯なのか、違う何かなのかをアスモデウスが認識する猶予もなく、その頭は再び湯船の中へと沈められた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 00:11:11.68 ID:o6wP9GpDO<> 〜 アスモデウス 〜

アスモ(な、なんとなくは理解したぞ……)

狂気とも呼べる、妹の兄への妄執。
その原因が。

アスモ(しかし、そんなことよりも……身動きが……)

何度も上下されていた頭は、今や湯船の底に押し付けられてまったく持ち上げられる気配が無い。

アスモ(くっ、意識が……空気を……)

手を伸ばす……意味がない。
体をよじる……意味がない。
頭を動かそうともがく……動かない。

アスモ(う……うぅ……)

完全に詰んだお湯の中で、アスモデウスの意識は次第に薄らいでいった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 00:19:53.99 ID:o6wP9GpDO<> 〜 ? 〜

アスモ「パパーッ!」

GOD「ん? どうしたんだいアスモ?」

アスモ「キューピッドがわたしのオモチャをもっていって、かえしてくれないの!」

GOD「はは、無理に奪い返そうとするからダメなんだよ。
そんな時はね、『もうあげちゃえばいい』って思うんだよ」

アスモ「あげちゃえばいい?」

GOD「ああ、そうしたら、いずれキューピッドも飽きて返してくれるさ、発想の転換だよ、覚えておきなさい」

アスモ「うん! アスモ、ちゃんとおぼえてる!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)<>sage<>2012/02/11(土) 00:24:21.99 ID:TjCJBO7Xo<> ジョースター卿かよwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 00:52:00.72 ID:o6wP9GpDO<> 〜 湯船の中 〜

──っ!!

アスモデウスは遠のきかけた意識の手綱を握りしめ、全力で引き戻した。

アスモ(発想の転換! 逆転の発想!)

生命の危機に瀕したアスモデウスの脳内で、いくつもの事象が瞬き、繋がっていく。

愛は時折、悲劇を生み出す。
無関心同士の人間では起こりえない、残虐性を吐き出す事がある。
人への執着。
愛と憎悪は表裏一体なのである。

アスモ(つまり、愛が憎悪に変わる事もあれば、その逆もありうる!)

天啓を得たアスモデウスは体内で魔力を練り、術式を組み上げていく。

アスモ(じゃが、『この魔術』はワシの魔力の大半を消費する。成功しても失敗しても……)

魔界と違い、地上での魔力補給は困難である。
中級悪魔、下手したら下級悪魔として、しばらくは過ごさないといけなくなる。

アスモ(じゃが、迷っておるヒマは無い!)

アスモデウスは決心し、行動に移した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 01:16:59.33 ID:o6wP9GpDO<> 〜 妹 〜

魔神を自称する小娘を湯船に沈めて、しばらくの時が経った。

妹「……」

今、妹は平穏な心地だった。
怒りの炎は胸の奥で激しく燃えたぎり、憎しみもその炎の周りを色濃く渦巻いている。
だというのに、なぜか心がひどく落ち着いていた。

妹(……そうか、まともに悩みを話した相手なんて今まで……)

こんな話は大好きな兄にもできはしない。
最初に悩みをぶちまけた相手が人外とは、まったく自分らしい話だと妹は自嘲の笑みを浮かべた。

妹「……そろそろ限界かしら、殺しちゃまずいし」

妹は自由に動かせる左手で、濡れた頬を軽く拭い、鼻をすする。
そしてアスモデウスの頭を湯船の底に押しつけている右手を持ち上げようとした時、湯船に異変が起こった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 03:36:31.29 ID:o6wP9GpDO<> 妹「なっ!?」

湯船の底。
アスモデウスの体が、うっすらと桃色に光っていた。
妹がそれを理解するのとほぼ同時に、アスモデウスの体から桃色の光が弾けた。

妹「くっ!」

桃色の光の奔流が風呂場を走り回る。
光は空中で枝を分け、各々が複雑な幾何学模様を宙に描き出していく。

妹「な、なにを!?」

光に埋め尽くされた風呂場で妹はアスモデウスの頭から右手を離し、その場から跳び退いて距離をとった。
そしてそのまま妹は呆然と、桃色の光で創られていく幾何学模様に目を向ける。

妹「これはまさか……魔法?」

妹がつぶやく。
ゲームや映画でよく見る魔方陣に幾何学模様が酷似していたために出て来た妹の発想だったが、果たしてそれは正解だったようで、分散された光が全て個別に幾何学模様を描き切ると、その輪郭を構成する光が一層強く輝き始めた。

妹「う、くっ!?」

カメラのフラッシュを目の前で焚かれたような光量に網膜を焼かれ、妹は一時的に視界を失う。
その間にも光は強度を上げていき、やがて風呂場のすべてが桃色の光に塗り潰された。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)<><>2012/02/11(土) 07:50:26.90 ID:7T/fA9DUo<> 乙! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/02/11(土) 09:58:50.08 ID:i1jYa+nno<> 乙
お風呂がラブホ化したか
いったことないけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 16:50:47.63 ID:o6wP9GpDO<> ……………………

妹「…………」

妹が視界を取り戻したとき、魔方陣はすべて消え去り、風呂場は元通りのままでそこにあった。

妹「さっきのは一体? ……そうだ、アイツは」

妹が周囲に首を向ける。
だが、いちいち探すまでもなかった。
アスモデウスは死んだ魚のように、うつぶせで湯面にぷかぷかと浮いていた。

妹「……ダメじゃん」

無意識に身構えていた妹はゆっくりと肩を下ろした。

妹「さて、どうしたものかしら?」

妹は腕を組んで考える。

妹「うん、当初の予定通りに水攻めを続けましょう」

一人うなずき、妹は退避していた壁際からアスモデウスに近づく。

妹「まずは叩き起こして……」

妹が右手を上げる。
そして、アスモデウスの頭部に振り下ろそうとする。

妹「…………」

が、妹はなぜか右手を上げたまま硬直した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/11(土) 18:44:30.94 ID:o6wP9GpDO<> ──かわいい。

妹「あ、あれ?」

──かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいい。

妹「…………」

アスモデウスの艶やかな黒髪、ぷにぷにとしたお尻、全体的に柔らかそうな輪郭。
それらを見ているだけで、妹の心臓が早鐘を打ち始める。
妹は振り上げていた右手をそっと自分の胸の前に下ろした。

妹「……」

そして妹は少しだけためらった後に、今度は右手をアスモデウスへと伸ばす。

妹「……あっ」

指先がアスモデウスの肩に当たって、意識せずに妹の口から小さな声が漏れた。
妹は熱い物にでも触れたように、ぱっと手を離し、だが小さく息を飲んで再びアスモデウスの肩へ指を伸ばす。
妹の指がアスモデウスの肩の下へと滑り込み、アスモデウスの体を持ち上げ、その体を半回転させる。
身をよじるように、アスモデウスの顔が湯面の底から現れた。

妹「……っ!!」

伏せられた柳眉、お湯でほんのりと赤く染まった肌。
流れる湯のしずくが足跡を残していくのは、幼さが目立つものの美しく整った顔の各部位。
奇跡的なバランスで配されたそれらが形づくるアスモデウスの顔を見た妹の胸が、トクンと大きく一つ鼓動を刻んだ。
それと同時に妹の内から、ある衝動が込み上げてくる。
妹はその衝動に突き動かされるままにアスモデウスを湯船から両手で抱き上げた。

アスモ「う、……む?」

長い睫毛を揺らし、アスモデウスが目覚める。
だが、その目覚めは非常に非情な短いものだった。

妹「ぎゅーっ!!」

アスモ「あぎゃーっ!?」

妹がアスモデウスの体を力一杯抱き締める。
ベキゴリィ、と不穏な音を体から軋ませながら、アスモデウスの意識は再び闇へと落ちていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/12(日) 00:08:34.28 ID:t7sPFYBho<> 百合展開きた!!俺得!! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/12(日) 00:31:36.27 ID:aJxKwgZDO<> 〜 数千年前 〜

アスモ「逆ハーレム計画発動じゃー!」

悪魔「ヒャッハー! イケメンたちはアスモデウス様の下僕だぜー!」

イケメンたち「ぎゃーっ!」

アスモ「がーはっはっはっ!」

天使「ま、待ちなさいアスモデウス!」

アスモ「む、神の腰巾着が何をしに来た!? よもや、ワシと戦う気ではあるまいな?」

天使「そ、そんな滅相も無い! 魔神アスモデウス様と戦うなんて、そんな身の程知らずな……」

アスモ「くくく、よくわかっておるではないか」

天使「ところでアスモデウス様、お召し物がかなり時代遅れのようですね?」

アスモ「なんじゃと!」

天使「ぶっちゃけ、ダサいです。これでは心の中で部下たちも苦笑いですよ」

アスモ「む、むう」

天使「そんなアナタにこのドレス! 魚の皮をあしらった斬新でナウいドレスです! アスモデウス様にプレゼントしちゃいますよ!」

アスモ「ほ、本当か!?」
天使「はい、早速着てください」

アスモ「うむ、わかった!」

……………………

アスモ「着たぞ!」

天使「うわっ、魚くせえ……」

アスモ「……何か言ったか?」

天使「いいえ、あまりに似合っていたので、感嘆のため息が」

アスモ「そうかそうか! ところで、なんか油臭いんじゃが?」

天使「魚を加工するのに油を使ってますので」

アスモ「さっきからカチカチと音が聞こえるんじゃが」

天使「カチカチ谷からカチカチ音が響いてるだけです」

アスモ「何か背中が熱く……火っ!?」

天使「今ごろ気付いたかマヌケがっ!」

アスモ「ぎゃーっ!!」

ゴロゴロゴロゴロ。

天使「踊れ踊れ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/12(日) 00:54:29.61 ID:aJxKwgZDO<> アスモ「うぅ、ひどい目にあったぞ、あの天使め! 今度あったらタダではすまさん!」

天使「アスモデウスさまー!」

アスモ「き、貴様! よくもヌケヌケと再び現れおったな!」

天使「待ってください! 私と、前の天使は別人です!」

アスモ「誰が信じるか!」

天使「そんな、アスモデウス様が天使に火傷を負わされたと聞いて、良く効く薬を持って来たというのに」

アスモ「……なぜワシに薬を持って来る?」

天使「はい、相手が悪魔としても、口車に乗せて騙すような悪徳を行うのは天使の名折れだからです!」

アスモ「……」

天使「薬を受け取ってください、お願いします! もしアスモデウス様に薬を受け取ってもらえないと、わたし……わたし……」

そう言って、天使はポロポロと涙をこぼした。

アスモ「わかった、火傷も痛むし、薬をもらおうか」

天使「ありがとうございます! では私がお背中に塗りますね!」

アスモ「うむ、頼む」

天使「それでは、ぬーりぬーり」

アスモ「…………」

天使「ぬーりぬーり」

アスモ「……?」

天使「ぬーりぬーり」

アスモ「っ!!」

突然、アスモデウスが飛び上がった。

アスモ「痛い痛い痛い痛い! というか熱いっ!?」

天使「そりゃ、ハバネロ仕込みの激辛スパイスを傷口に練り込まれりゃ、そうなるわね」

アスモ「き、きさま! やはり、あの時の天使!」

天使「今ごろ気付いたかダアホが!」

アスモ「くぅ……痛い熱い! 背中が痛熱っ!!」

ゴロゴロゴロゴロ。

天使「ゲラゲラゲラゲラ」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/12(日) 01:13:01.29 ID:aJxKwgZDO<> アスモ「うぅ……」

天使「アスモデウスさまー!」

アスモ「もう騙されんぞ!」

天使「じゃあ実力行使だ」

アスモ「えっ!?」

天使はアスモデウスの頭をつかむと、凄まじい力でアスモデウスを放り投げた。

アスモ「あーれー!」

アスモデウスの体が空を飛び、バシャーンと派手な水柱を上げて、どこぞの湖に着水した。

アスモ「あ、あぷっ!」

天使「アスモデウスさまー! 近くに泥の船と木の船があるんで、好きな方に乗ってくださーい!」

アスモ「木の船に乗るに決まっておるじゃろうが!」

近くに浮かぶ木の船を見つけ、アスモデウスが這い上がった。
その瞬間、ふと伸びてきた影がアスモデウスを、いや、湖全体を覆った。

アスモ「?」

天使「あ、そうだ! その湖は『黙示録の贄』の餌場だから気を付けてねー!」

アスモ「なぬっ!?」

アスモデウスが顔を上げると、巨大な海獣が同じようにアスモデウスを見ていた。
そして海獣の口が大きく開き、生臭い魚のにおいが辺りに充満し、天使の高笑いが…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/12(日) 06:45:16.21 ID:aJxKwgZDO<> 〜 現在 〜

アスモ「はっ!?」

アスモデウスが目を見開く。
そこは湖でもなければ海獣の口の中でも無く、十畳強ほどの大きさの真っ暗な部屋だった。

アスモ「ゆ、夢か……ふう」

昔のトラウマを思い出して、アスモデウスは軽く身を震わせる。

アスモ「うう、ワシを魚嫌いにしたトラウマめ、いまだに夢にまで出て来るとは」

アスモデウスが自分の頭を押さえながら、そうつぶやく。
すると、不意にアスモデウスの隣から声が上がった。

?「そうね」

アスモ「うおっ! 誰じゃっ!?」

人間に比べると夜目が利くアスモデウスである。
すぐに声の主は見つかった。

妹「アスモちゃん……」

アスモ「ひいっ!?」

妹「すぅ……すぅ……」

アスモ「って、寝ておるのか? まったく、驚かせおって」

アスモデウスは胸を撫で下ろす。
しかしそこで、自分と妹のいる位置がおかしいことに気が付いた。

アスモ「ベッドの上? ワシだけ?」

妹は床に布団を敷いて寝ており、一方アスモデウスはベッドの上にいた。
どうやら、妹が寝床を譲ってくれたようだとアスモデウスは納得する。

アスモ「……ふむ、この待遇の様子ならば魔術は成功したようじゃな」

アスモデウスは布団から体を出してベッドに腰掛ける。
そしてそのままアスモデウスは足をぶらぶらと揺らしながら、静かな寝息を立てる妹を見下ろした。

アスモデウスが妹に仕掛けた魔術は、何を隠そう『魅了』の魔術だった。
魔神アスモデウスの魔力の大半を使用する『魅了』の魔術は、対象となる者の価値観を狂わし、アスモデウスを最上位の価値として置き換える驚異の大魔術である。
ただ、この大魔術にも欠点があった。

アスモ「しかし、成功してくれて助かった……この魔術は男にならばよく効くが、女にはほとんど効果が無いからの」

アスモデウスと同じ性である女の場合、『魅了』は効きにくくなる。
ただ、よほど魂の性質が近いか、『愛』や『憎悪』の執着心が強いと話は別だが。

アスモ「ワシの体も中途半端に召喚された状況じゃし、妹の執着心が生んだ奇跡……いや、すべてはワシの機転の賜物か」

アスモデウスは自慢気に鼻を高くして、にやりと笑った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/12(日) 15:28:20.94 ID:aJxKwgZDO<> アスモ「じゃが、うかうかともしてられん」

妹に魅了の魔術が効いたのは良いが、同じ女である以上、魅了の効果がいつ切れるともわからない。

アスモ「さっさと妹を叩き起こして、魅了の魔術が効いておるうちに魂をもらうかの」

そして、アスモデウスはベッドからブラブラと投げ出している足のつま先で、妹の頬をぺちぺちと軽く叩き始める。

アスモ「起きろー、魂をよこせー」

妹「ん……」

アスモ「朝だぞー、起きろー」

妹「……アスモちゃん」

アスモ「おお、起き……うおっ!!」

突然、妹がアスモデウスの足を凄まじい力で引っ張った。
アスモデウスはその力に為す術もなく、ベッドの上から、床に敷かれた妹の布団の中へと引きずり込まれた。

アスモ「な、なな……!?」

妹「行かないで、どこにも行かないで……」

妹は横になったままでアスモデウスを両腕で包むように抱きしめ上げる。

アスモ「い、行かん! どこにも行かんからこの腕を……って、また寝言か!?」

アスモデウスが身をよじって声を上げる。
だがアスモデウスの眼前、鼻先スレスレまで接近した妹の顔は両の瞳が閉じられていた。

アスモ「こ、こやつめ……」

アスモデウスが呆れたように肩から力を抜いた。
だが、妹の小さなつぶやきは止まらない。

妹「……行かないで」

アスモ「……」

悪い夢にでもうなされているのか、よく見てみると妹の両目からは涙があふれていた。

アスモ「……まったく、行かんと言うとるじゃろ」

アスモデウスは困ったような微笑むような、何とも言えない顔で妹にそう答えると、わずかに動かせる腕を妹の顔まで伸ばし、指先で妹の涙を拭った。

アスモ「……興が削がれたわい」

もう、妹の魂を取るような気分では無かった。
それに起こすのも気が引ける。

アスモ「しかし、朝までこうしておかねばならんのかのう?」

アスモデウスは妹の腕の中で、カーテンの隙間から差し込む星の光をぼんやりと見ながらつぶやいた。

耳の近くでは、妹の安らかな寝息が小さく聞こえていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/13(月) 21:33:55.33 ID:eMujJDDDO<> 〜 翌朝 〜

アスモ「むにゃむにゃ」

妹「……」

妹が姿見の前で服の裾を正す。
その格好はすでに制服姿だった。

アスモ「すぴーすぴー」

妹「起きて」

アスモ「へぶらっ!?」

妹の前蹴りがアスモデウスの顔面にめり込んだ。

アスモ「んなっ、なんじゃ!?」

妹「おはよう」

アスモ「あっ、お、おはよう……?」

アスモデウスが反射的に言葉を返すと、妹は首をわずかに上下させ、再び口を開いた。

妹「学校に行くわよ」

アスモ「う、うむ、行って来るといい」

アスモデウスが起き抜けの眠い目を擦りながら、うろたえ気味に答える。
すると、妹は不思議そうに目を細めた。

妹「何を言ってるの? アスモちゃんも来るのよ」

アスモ「ほうほう、ワシも……って、なぬぅっ!? なぜワシも行かねばならんのじゃ!?」

布団の上でアスモデウスが妹に向かって叫ぶ。
すると妹はブレザーを制服の上に羽織りながら、小さな声で答えた。

妹「……アスモちゃんと離れたくないからに決まってるでしょ」

そして、ぷいっと妹はすぐにアスモデウスから顔を逸らし、背中を向けた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/13(月) 21:37:58.33 ID:eMujJDDDO<> アスモ「……」

しばらく時間が止まる。
やがて、眠りから覚めたばかりのアスモデウスの頭にようやく血がめぐり始めると、アスモデウスはようやく理解した。

アスモ(ふむ、魅了が効いておるようじゃな)

だが、少しずつ頭が回るようになってくると、アスモデウスの胸中に疑問が首をもたげてきた。

アスモ(しかし、顔面を蹴られて起こされたような気がしたんじゃが……気のせいかの?)

むう、とアスモデウスが腕を組んで考えるが、よく思い出せない。
まあいいか、とやがてアスモデウスは結論付ける。

アスモ「ま、魅了されておるのならば、ワシに害のある行動はとれな……」

妹「もうっ! 遅いわよ!」

突然、妹が恥ずかしさを隠すような拗ねた声と共に右腕を伸ばした。
妹の右腕はアスモデウスの頭部へと雷光の如き速度で到達。
そして妹の手が開き、万力のような凄まじい力でアスモデウスの頭をつかみ上げた。

アスモ「ほげえぇぇっ!?」

妹「さ、目立たない格好に着替えて……あっ、今アスモちゃんが着てる服は私のお古なのよ? かなりダブダブだけど似合っているわね」

妹はそう言ってアスモデウスの腕をつかみ、およそ人体構造の限界を超えた角度に折り曲げる。
ベキン、と破滅的な音がアスモデウスの肩から響いた。

アスモ「みぎゃーっ!!」

妹「そうだ、体操着袋の中にアスモちゃんを詰め込めば教室でもばれないわね。
そうと決まればアスモちゃんを小さく折り畳んで」

アスモ「ストップ! ストォープッ!!」

妹「なに? アスモちゃん」

アスモデウスの手足に腕を伸ばそうとした姿のままで、妹が動きを止めた。

アスモ「ワシが悪かった! 謝る! じゃからこんな遠回しな虐待はやめてくれ!」

アスモデウスが叫ぶ。
その声は部屋に響き、二人の間に沈黙を降ろした。

妹「……」

アスモ「……」

しばらく続く沈黙。
やがて、妹がアスモデウスを見ながら、困ったような顔で首をかしげた。

妹「虐待? 何が?」

アスモ「……」

妹「……」

アスモ「えっ?」

妹「えっ?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)<>sage<>2012/02/14(火) 05:49:33.68 ID:ZHidtY78o<> 面白い!
兄に感情移入しちゃったけど大丈夫なんだろうかww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/14(火) 09:53:30.63 ID:IsXBpRjDO<> 〜 家、玄関 〜

妹「それじゃ、行ってくるわね」

兄「行ってきます」

アスモ「うむ、行ってらっしゃーい、じゃ」

妹「学校が終わったらすぐに戻るからねアスモちゃん」

アスモ「う、うむ」

兄「仲がいいなあ二人は、まるで姉妹みたいだ」

妹「もう! お兄さまったら」

アスモ「あ、あは……は……」

アスモデウスが苦笑いを浮かべる。
そして、兄と妹の二人は学校へと向かって歩きだした。
アスモデウスは玄関口で二人の背中が見えなくなるまで待った後、家の中へゆっくりと戻った。

アスモ「はあ、疲れたのう」

バタン、と後ろ手に扉を閉めて、アスモデウスは息を吐き出す。

アスモ「妹が暴力的で無神経だとは嫌というほど知っておったが、まさかアレほどとは……」

朝の事を思い出してアスモデウスが眉根を寄せる。
結論から言うと、妹はアスモデウスを虐待するつもりは皆無だった。
しかし、持って生まれた怪力と大雑把な性格が合わさり、妹の行動は一つ一つが非常に破壊的なものへと変貌していた。

アスモ「アレではこっちの身がもたん……しかも」

アスモデウスは右手を上げて、頭上に魔力を集中する。
そして、魔力が限界近くまで高まったのを見計らい、背後を振り返って玄関の扉へと魔力の塊を投げつける。

ポフン、と毛玉をぶつけたような気の抜けた音が響いた。

アスモ「致命的に魔力が欠乏しておる、どうしたものか」

アスモデウスは無傷の玄関扉を見て腕を組む。
今の状態でも子供だまし程度は出来るが、とにかく選択肢が少ない。

アスモ「魔力補給……魂か」

言いながらアスモデウスは眉をひそめた。
魅了状態になっている今の妹からならば、簡単に魂が手に入るかもしれない。
というか、それで目的達成なので、魔界に悠々と手を振って帰れる。

アスモ「むう……」

しかし、なんとなく、なぜか、その選択をすることに反発している自分がいることをアスモデウスは胸の奥に感じていた。

アスモ「……情が移った? いや、まさか」

──憎みこそすれど、情が移るような事は無い。

だが、そこまでアスモデウスが考えたところで、脳裏に記憶の影が浮かびあがってくる。
それは昨日の風呂場で見た、怒り、わめき散らす妹の姿。
湯船の中と外を上下運動させられていたアスモデウスからは意識がもうろうとしていた事も手伝って、妹の姿もおぼろげである。

しかし、最後に沈められる直前、頭を引き上げられて向かい合った妹の顔を、アスモデウスは確かに覚えていた。
妹の表情は、怒りとも、慟哭とも、そして嘆願ともとれる、世の様々な不条理に追い詰められた者だけが見せる表情で──

アスモ「ええいっ! やめじゃやめじゃ!」

アスモデウスは頭を乱暴に振って思考を中断した。

アスモ「何が救いじゃ! 何が神じゃ! 馬鹿らしい馬鹿らしい馬鹿らしいッ!!」

アスモデウスは溢れ出てきた怒りにまかせて暴れた。
体力が切れるまで廊下で暴れた。
冷静沈着な普段の姿からは思いもよらない行動だった。

でも身長や腕力の問題から、床に敷いてあるマットをベチーンベチーンと上下させるような、実にほほえましい暴れ方だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage<>2012/02/16(木) 17:26:40.04 ID:HmwO+za40<> 乙乙
アスモちゃんかわいいよぅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/18(土) 00:07:55.09 ID:EeqruQHDO<> ……………………

アスモ「はぁ……はぁ……」

マットのホコリもすっかりと落ち切った頃になって、やっとアスモデウスは暴れるのをやめた。

アスモ「何をやっとるんじゃワシは……」

馬鹿馬鹿しそうに吐き捨てると、アスモデウスは掴んでいたマットを放り投げ、廊下の床に寝転がる。
そのままアスモデウスは仰向けになり、廊下の白い天井を見ながらため息をついた。

アスモ「まったく、ワシは本当に……ん?」

そこでアスモデウスが何かに気づいたように首を横へ、廊下の壁際の方へと動かした。

アスモ「袋? ……ああ、妹の体操着袋か」

体を起こして手を伸ばし、廊下の壁にもたれかかる袋を取る。
袋の口を開いてアスモデウスが確認すると、中には体操着が詰め込まれていた。

アスモ「兄……いや妹か、忘れていったようじゃな、まったく」

おそらくは出かける時のやりとりの後、そのまま忘れて出ていったのであろう。
アスモデウスはそう考え、呆れたように肩を小さく上下に揺らした。

アスモ「……」

そしてアスモデウスは廊下に座ったまま動きを止める。
見つめるのは手に持つ妹の体操着袋。
だがすぐに体操着袋をその場に放り出してアスモデウスは立ち上がった。

アスモ「ふん、妹の事なぞワシには関係ないわ」

そしてアスモデウスは居間へ向かって歩き始める。

アスモ「だいたい、ワシは魔神じゃぞ? なぜ人間ごときに……」

ぶつぶつ言いながら歩を進め、フローリングと絨毯が半々の床を形成する居間へと到着。
しかし、何かをしに来たという訳でもなく、アスモデウスは視線を部屋にさまよわせる。
気分をまぎらわせる物でもないかという、特に考え無しの仕草だったが、それは思わぬ成果を上げた。

アスモ「む? メシか」

部屋の真ん中にはテーブルと椅子が数脚あり、さらにテーブルの上にはラッピングされた皿がチラホラと見える。
アスモデウスの身長よりもテーブルの方が高いようで全容はよくわからないが、ラップをしてある所を見ると、どうやら食べ残しという訳でもなさそうだった。

アスモ「ワシの分? いや、まさか……」

アスモデウスはテーブルに近寄り、腕をかけてテーブルの上に上半身を載せる。
そこには肉をメインにした、朝にしてはやや重い食卓が広がっていた。
そして、ラップの上には一様に『アスモちゃん』の文字。

アスモ「……昨日のカレーはどうしたんじゃ、まったく」

大鍋のカレーが一日で無くなるなんて事はない。
すぐに出て来た結論に、アスモデウスは眉間にシワを寄せた。

アスモ「まったく、あやつらは……まったく……」

アスモデウスは『自分のため』に用意された朝食から一切れの肉を素手でつまむと、口に放り込んでテーブルから降りた。

アスモ「……魂の契約前から貸しを作るのは不利じゃからの」

そして誰に言うでもなくアスモデウスは口に出すと、そのまま居間を進み廊下を抜け、途中で妹の体操着袋を拾うと玄関を出ていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/18(土) 01:38:07.70 ID:EeqruQHDO<> 〜 富士の山頂 〜

男1「……報告は以上です」

女2「何かの間違いではないのか?」

男3「『魔神』クラスが現れるとは、にわかには信じがたいが」

富士山の頂上。
そこには男が5人と女が4人、計9人が円陣を作って向かい会っている。
ただそこに居合わせる全員の顔は厳しく引き締められ、声の質もどこか切羽詰まった様子を見せていた。

女4「『魔神』クラスの超高魔力を感知、しかし同時に収束、減退してレーダーからロスト……ですか」

男5「魔力の収束と減退? 束縛? 式神として無理やり召喚された……とか?」

女6「『魔神』を手なずけられる人間がいると? いや、そもそもの話、『魔神』を召喚出来るほどの力を持った人間がいるのか?」

男7「無理だろうな。方法はわからないが、自力で魔界からやって来て、その後に気配を消したのだろう」

女8「もしくは現出に失敗、その場で魔界へと戻った……という杞憂」

男1「ちなみに、リーダーはどう考えてるのですか?」

リーダー「現世に『魔神』が現れた方法、その理由、それらは些末な事だ。
     ただ、我々は『上』から言われた任務をいつも通りにやればいい」

そう言うとリーダーは胸を張り、声を大きくして号令を飛ばした。

リーダー「国家霊法機関『九重』(ここのえ)!
     これより『魔神』討伐作戦に移る!」

全員「はっ!!」

皆がリーダーに敬礼しながら答える。
不安や怯えの浮かんでいたその顔は、一瞬で精悍な戦士の顔つきへと変わっていた。

男1「……ところで、なんで毎回集合地点が富士の山頂なんですかね?」

リーダー「カッコいい集合地点だからだ!」

全員「…………」

富士山頂から見る空は、無駄に青く澄み渡っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/18(土) 02:40:03.66 ID:EeqruQHDO<> 〜 そして学校、アスモデウス 〜

アスモ「むう、しっかりと食って来るんじゃった」

うなるお腹をさすりながら、アスモデウスが校門前で一人ごちる。

アスモ「しかたない、さっさと妹に体操着袋を届けて帰るか」

アスモデウスは軽く腕を回し、続けて両手を上げて魔力を集中し始める。
すると、アスモデウスの周囲の大気が揺らぎ、次第にアスモデウスの姿が消え始めた。

アスモ「子供だまし程度の魔力しか残っておらんが相手は子供……ま、十分じゃな」

体操着袋を含めてステルス状態に移行したアスモデウスは、足音を忍ばせながら静かに校門をくぐる。

アスモ「妹にばれたら面倒事になりそうじゃが、これなら大丈夫、安心安心」

そしてアスモデウスはニヤニヤと安堵の笑みを浮かべながら、校舎へと向かって歩いて行った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/20(月) 14:07:40.71 ID:tRiH7e6DO<> 〜 校庭 〜

妹「はぁっ!!」

烈迫の気合いのもとに、妹の拳がバレーボールを殴り飛ばす。
バレーボールは一瞬で音速の壁を軽々と超え、残像の軌跡を宙に描きながら校庭を彗星のごとく駆け抜けていった。

教師「い、いきなり何をしとるんだお前は!」

妹「すいませーん、手が滑りましたー。ボールとってきまーす」

教師があわてふためきながら言うと、妹は反省の色も無く答えた。

今は体育の授業中。
クラスメイトたちが唖然とする中、妹は上下ジャージ姿の格好でボールを追って小走りに移動を始める。

妹「ふんふ〜ん」

向かう先は校門前。
そして見つかるバレーボールだが、それに妹は目もくれない。
妹の真の目的はバレーボールの隣にある。
妹は、地面に倒れ伏してピクピクと小刻みにケイレンしているステルス状態のアスモデウスの足を的確につかむと、その体を引きずりながら走りだした。

妹「ありがとうアスモちゃん。
  このままランナウェイしたいけど、授業から抜けるとお兄さまに心配をかけるから、大人しく待っていてね?」

走りながら妹が笑顔でアスモデウスに話しかける。

アスモ「…………」

しかし失神しているアスモデウスは何も答えられず、妹にいいように引きずられていくだけ。

妹の投げたバレーボールで出来上がった巨大なアスモデウスのタンコブが、やけに悲壮感を漂わせていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2012/02/20(月) 18:59:40.38 ID:D6mNyIFlo<> wwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/21(火) 03:26:00.70 ID:xv7FPodDO<> 〜 更衣室 〜

アスモ「む、むう?」

アスモデウスが目を覚ますと、そこは暗い室内だった。
そして、肩や足が常に壁に当たる狭い場所で、そこでアスモデウスは気が付いた。

アスモ「ロッカーの中? な、なぜこんなところに?」

小さな隙間から差し込んでくる光を顔に受け、アスモデウスはまぶしそうに目を細めた。

アスモ「たしかワシはステルス状態で進んでおって、後頭部に強い衝撃を受けて、それから……ダメじゃ、何も思いだせん」

アスモデウスの頭が次第に明瞭(めいりょう)になってくるが、どうにも肝心なピースが抜け落ちていた。

アスモ「とにかく、ココから抜け出さねば……うぅ、タンコブが出来ておるではないか」

痛む頭を押さえながら、ロッカーの扉にアスモデウスが手をかける。
しかし、ガチャガチャと硬い金属音が返ってくるだけで、扉はびくとも動かなかった。

アスモ「鍵か……むう、魔力も底を尽きておるし、どうしたものか」

アスモデウスがタンコブを押さえながら首をひねる。
だがその時、アスモデウスの耳が、徐々に近づいて来る足音を捉えた。

アスモ「誰か来る? 仕方ない、やり過ごすか」

アスモデウスは口を閉じ、息を潜めて気配を消した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/21(火) 04:05:18.74 ID:xv7FPodDO<> 女子1「かったりー」
女子2「マジだりー」
女子3「エントリー」


扉を開け、更衣室に入って来たのは女子たち3人だった。

女子1「さっさと着替えてフケちまうか」
女子2「体育とかマジしんどいし」
女子3「く、コンテナカバーの一部が!」

そして女子たちはそれぞれのロッカーを開けて着替え始める。
チャイムが鳴った記憶もアスモデウスには無いため、おそらくサボりなのだろうとアスモデウスは理解した。

アスモデウス(しかし、はて? こやつらどこかで……)

なぜか女子たちに見覚えがあり、アスモデウスが眉をひそめる。
そして数秒後、アスモデウスは思い出した。

アスモ(ああ、昨日のファミレスで遠くから難癖をつけてきたやつらか!)

アスモデウスは納得し、反射的にうなずいた。
ロッカーの中で。

アスモ「あぐっ!?」

ゴインという鈍い音とアスモデウスの短い声が更衣室に響き渡った。

女子1「なに!?」
女子2「誰かいるの!?」
女子3「落ち着け、この地形からアンブッシュに適したポイントは……」

アスモ(し、しもうた! ワシとした事がなんとマヌケな!)

女子1「音は聞こえたけど姿は無い」
女子2「これはまさか……」
女子3「知っているのか!? 女子2!」

アスモ(あわわわ……)

女子2「ええ、これは間違いない……学校の怪談よ!」

アスモ(あわわ……え?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/22(水) 02:38:10.50 ID:3PzXnttDO<> 女子1「学校の怪談?」

女子2「そう、七不思議の一つにある『更衣室の悪魔』に間違いないわ!」

アスモ(……まあ、悪魔で間違っておらんが)

と、そこでアスモデウスの脳裏に名案が浮かんできた。

アスモ(待て、怪談話を利用すれば、こやつらを追い払えるのではないか?)

もし上手く恐がらせて煙に巻く事が出来れば、昨日の難癖のお返しも果たせる。

アスモ(それに、このままではすぐに見つかってしまう。
    先手を打たねば袋叩きじゃ)

アスモデウスは自分自身を納得させるように頷くと、声を低くし、おどろおどろしい様子でうなり始めた。

アスモ「オ、オオォォォォォン」

女子1「どこからともなくうなり声が!」

そして今度はノドをチョップしながらアスモデウスが続ける。

アスモ「デテイケェェー」

女子2「私たちの退室を要求してるわ!」

アスモ(よし、あとはホラー映画から決めゼリフを引っ張ってきてトドメじゃ!)

アスモデウスは小さく息を吸い込み、畳み掛けるように言葉を続けた。
いや、続けようとした。

アスモ「ノ、ノウミソヲ……」

アスモデウスが声を低くしぼり、決めゼリフを言い始めた瞬間。

──グウウゥゥ〜。

アスモデウスの口ではなく、お腹から低い音が響き渡った。

アスモ「……」

女子1「……?」

女子3「腹の音?」

アスモ「ち、違うぞ! これは朝飯を満足に食べてないからであって……」

女子2「おーッ! ロッカーの中に誰かいんぞーッ!!」

アスモ「し、しもうたーッ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/22(水) 17:47:10.93 ID:3PzXnttDO<> 女子1「オラオラ! 出て来いよ!」

女子2「舐めたマネしやがって!」

アスモ「やーめーろーよー! やーめーろーよー!」

殴られ続けるロッカーの中で、魔神様が悲鳴を上げる。

女子1「バケツに水を汲んでぶちまけてやろーぜ!」

女子2「よっしゃ! バケツを持って来い、女子3!」

女子3「そんな酷いこと……代わりに消火栓のホースで我慢しよう」

アスモ「殺る気じゃろ!? 水圧MAXでワシを殺る気じゃろッ!?」

女子1「観念するなら今のうちだぜ?」

アスモ「う、うぅ……」

逃げ場も打つ手も無く、このままイジメっ子の毒牙にかかるしかないのか。
アスモデウスがそう諦めかけた時だった。

「あなたたち、何をしているの?」

アスモデウスでも女子たちでもない第三者の声が更衣室に波紋を打った。

女子たち「っ!?」

女子たちが声の方へと振り返る。
アスモデウスもロッカーの隙間から様子をうかがう。
声は更衣室の入り口から聞こえており、そこには一人の女子が太陽の光を背に浴びながら立っていた。
そして、それはアスモデウスの良く知る相手でもあった。

妹「それ、私のロッカーなんだけど?」

声の主は妹だった。
妹は大股で更衣室に踏み込みと、アスモデウスの入っているロッカーに歩み寄る。
そのままロッカーの前に移動した妹は腕を組み、アスモデウス入りのロッカーを背にして女子たちと対峙した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/02/22(水) 23:18:31.32 ID:HK6QyouFo<> ドキドキする <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/23(木) 09:13:28.22 ID:ghhuXb0DO<> 女子1「あ、あんた! そのロッカーはなんなのよ!」

女子がわめきながら、妹とその背後のロッカーを指差す。
だが、妹は腕を組んだまま微動だにせず、つまらなそうに目を細めた。

妹「うるさいわ、私のロッカーがなんなの?」

女子1「うっ……」

妹の鋭い眼光が女子1を貫き、二の句も継がせずに女子1を沈黙させる。
しかし、状況は三人対一人。
女子1を沈黙させたところで、女子2がすかさず女子1に加勢した。

女子2「そ、そのロッカーの中に誰かがいるのよ!」

妹「私のロッカーの中に? 誰かが?」

妹が眉間にシワを寄せ、さらに威圧感を出し始める。
いぶかしむ、というよりも「それ以上聞くな」と言わんばかりの態度だった。

女子2「あ、うぅ……」

妹の威圧を前に女子2も続けて動けなくなった。
そこに妹が追撃する。

妹「いま、このロッカーは、私が、使ってるでしょ?
  中に、何があっても、私の勝手、でしょ?」

妹は言葉を区切り区切り、それにあわせて、細めていたまぶたを少しずつ開いていく。
言葉を終える頃になると妹のまぶたは完全に見開かれ、ガラス玉のように感情がこもっていない、ドブ川の底のような暗い瞳が爛々(らんらん)と女子たちを見つめていた。

女子1「あ、ぐ……」
女子2「う、うぅ……」

勝負あった。
妹が小さく息をついた、その瞬間──

女子3「待ちな」

一同から少し離れて傍観していた女子3が、話に加わってきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/23(木) 09:20:22.54 ID:ghhuXb0DO<> 妹「……なにか?」

一段落したと思っていた話を蒸し返されて、妹が嫌悪感も隠さずに女子3へと問う。
女子3は妹の方へ向かって歩き、女子1と女子2の前に進み出ると妹の前に体を立ちはだからせた。

女子3「ぶっちゃけ、ロッカーの中身なんか知ったこっちゃない。
    だが、中に人がいるとなったら話は別だ」

そして、女子3は妹と同じように腕を組んで続けた。

女子3「アンタの素行がおかしいのは周知の事実だ。    もし、よからぬ事をアンタが企てているのなら、アタシたちにはそれを止める義務がある」

妹の威圧を前にしても揺らぎのない力強い口調で、女子3が妹に話しかける。
しかし妹は女子3の話を聞き終えると、途端に顔を憎らしげに歪めた。

妹「はっ! 義務? 何様? 誰かに頭を下げて頼まれでもしたの?」

女子3「いや、そんなんじゃないさ」

妹「じゃあどんな義務か言ってみなさい! 私の事にズカズカと口を挟んで暴き立てようとするほど大層な義務ってのは何!」

妹が声を荒げて女子3に詰め寄る。
普段はすました態度の妹だが、この時はやけに気が立っていた。
しかしそれはロッカーの中のアスモデウスが女子たちに見つかるかもしれないという焦りから来るものでもなく、三対一という状況に虚勢を張っているわけでもなかった。

妹は怒っていたのだった。
妹はただひたすらに女子3が、何よりその背景である社会が憎かった。

自分を排斥し、言葉巧みに踏みにじっていく。
社会は妹にとって憎悪の対象でしかなく、また義務という綺麗事を盾に現れた女子3も妹にとっては醜悪な社会の一員、敵以外の何者でも無かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/27(月) 01:27:04.20 ID:yYNEELnDO<> 妹「早く! 何か答えなさい!」

妹は表面を取り繕いもせず、素の状態に戻ったままで怒りの声を女子3に浴びせる。
妹の迫力に女子1と女子2が、女子3の背後で小さく「ひっ」と声を漏らした。
しかし妹に正面から向かい合っている女子3は腕を組んだまま物怖じした様子も見せず、背筋を伸ばして堂々と胸を張ると、妹に負けない気迫のこもった声で答えた。

女子3「アタシがアンタの事に首を突っ込む義務、そんなものは決まっている」

そして女子3はその理由を口に出した。

女子3「アンタはアタシのクラスメイト、つまりは仲間だ。
    そいつが卒業式も待たずに警察に捕まってリタイアなんて、まっぴらゴメンだからね」

妹「なっ!?」

それは妹の予想の斜め上を行く理由だった。

妹「な、何を! あなたは!」

妹がひどく狼狽し始める。
くだらない正義を振りかざすだけの社会の尖兵なんか軽く論破し、その狭量なプライドをズタズタに切り裂いてやろうとしていた妹だったが、あろう事か女子3が言った理由は「妹が自分の仲間だから」。
そんな事を妹に言う相手は、今まで一人たりともいなかった。

妹「あ、ぐッ!」

嫌悪や怒りはともかく、言い様の無い不安が妹の胸中を支配し、妹の行動を阻害していく。
結果、先ほどまでの迫力はどこへ言ったのか、妹は顔を赤らめ、あたふたと身振り手振りしながら慌てるだけだった。

女子3「ふふ、意外にピュアなんだね」

妹「ば、馬鹿にして!」

女子3「いや、ゴメン、可愛いなって思ってさ」

妹「う、うぅッ!!」

妹は顔を一層赤くし、しかし目は逸らさずに歯を剥いて女子3を威嚇する。
その様子が楽しいのか、女子3は顔に浮かんだ笑みをさらに深くしていった。

女子3の言葉が嘘や偽りの類だったのならば、妹もこれほどまでに心を揺さ振られずにスルーしていただろう。
だが、女子3の言葉は本心から出た言葉。
それは嘘や偽りに囲まれ続け、相手の本心を嗅ぎ分けられるほどに発達した妹の嗅覚自身がそう告げていたのだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/28(火) 19:55:21.12 ID:N7HEHCDDO<> 妹「くっ」

このまま女子3のペースに惑わされてはいけないと妹が女子3から一歩退き、右手で自分の額を押さえて冷却の間をとる。

女子3「ま、とにかくそう言うわけだからさ、ロッカーの中にいる奴を見せてくれないかな?」

妹「……クソヤロウ」

妹は悪言を吐き捨てると、鋭い視線で女子3を睨みつける。
今にも殴り掛かりそうな肉食獣の目。
妹はそんな表情をしていたが、それは長く続かなかった。

妹「……いいわ、見せてあげる」

いきなり妹が了承した。
何を思いついたのか、口元を吊り上げて顔に満面の笑みを浮かべながら。

女子3「そうかい、なら今すぐ……」

妹「ちょっと待ちなさい、条件があるわ」

女子3「条件?」

女子3が首をかしげる。
妹はニヤリと笑いながら説明した。

妹「ええ、簡単な事よ。
  もしも私のロッカーの中に誰もいなかったら、責任を取ってこの場で土下座しなさい」

女子3「中に誰かがいるのは間違いないんだ、そんな条件くらいで尻込みしないさ」

女子3はさも当然と答えた。

妹「そう、なら今から開けるわ。
  ……準備はいいわね?」

女子3「準備?」

妹「気にしないで」

妹はジャージの後ろポケットから鍵を取り出すと、ロッカーの鍵穴へと差し込む。
そして、ロッカーの扉はゆっくりと開かれた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/28(火) 20:36:34.64 ID:N7HEHCDDO<> 女子1「……」
女子2「……」
女子3「……いないな」

開かれたロッカーの中には誰もいなかった。

女子1「そ、そんな!?」
女子2「じゃあ、あの声は!?」
女子3「……マジモンの悪魔とか?」

女子3の言葉に女子1と女子2が顔を見合わせる。
そして、絶叫。

女子1と2「いっ! いやーっ!!」

女子1と2は一目散に更衣室から飛び出し、走って逃げていった。
妹はそれを横目で見た後、一人残った女子3へと視線を戻した。

妹「さて、約束は守ってもらうわよ?」

妹が女子3へと勝ち誇った笑みを向ける。
女子3は眉間にシワを作りながら訝しげな視線をロッカーに送っていたが、妹の言葉にすぐに両肩を軽く上げ、おどけた様子で答えた。

女子3「土下座ね、オッケーオッケー」

答えた女子3はその場で体勢を前屈みにし、しかし、そこで妹の思いもしない行動を取った。

女子3「ふっ!」

前屈みになった女子3が一気に加速。
女子3は妹の脇をすり抜け、ロッカーの前へと左半身を滑り込ませた。

妹「なっ!?」

妹が驚きの表情に変わる。
だがその時、女子3はすでに次の行動を取っていた。
ロッカーの前に左半身を滑り込ませた女子3は左手の人差し指を折り曲げ、親指で留める。
そして女子3はそのデコピンを、何もないロッカーの中に向けて放った。

女子3「ていっ!」

ぺちーん、と軽い音。

アスモ「あだっ!」

続けて、何もないロッカーの中から小さな声が上がった。

妹「っ!?」

──見切られた!?

笑みを浮かべていた妹の表情が驚愕に歪む。

女子3「ふふっ、何か『ある』みたいだから土下座は無しだね?」

今度は女子3が笑みを浮かべる番だった。
しかし、女子3はそれ以上何かをするわけでもなく、妹のロッカーから離れていく。

女子3「じゃ、アタシは女子1と2を追うから」

固まる妹を置いて女子3はテキパキと着替えを済ますと、最後に軽く妹に右手を上げて更衣室を出ていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/02/28(火) 20:46:26.82 ID:qKa2l8QYo<> 風呂敷がどんどん拡がっていくな <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/28(火) 21:06:57.21 ID:8twwkf0Lo<> 女子3かトコトンうざい乙 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/28(火) 22:15:35.54 ID:N7HEHCDDO<> ……………………

妹「……」

アスモ「な、なんじゃ、あの女子は?」

妹以外に誰もいないのを確認して、アスモデウスがステルスを解除する。
そしてアスモデウスはデコピンで赤くなった額を擦りながらロッカーから出て来ると、妹を真っ先に睨みつけた。

アスモ「しかし、ワシもおぬしに聞きたい事がある。
    おぬしが使っておったロッカーにワシが閉じ込められておって、鍵をおぬしが持っておるとなると、おぬしがワシを閉じ込めた事になるんじゃが?」

妹「…………」

アスモデウスが腕を胸の前で組みながら妹に問い詰める。
しかし、妹は顔を伏せて何も答えず、代わりにゆっくりと目の前のロッカー、──アスモデウスが入っていたロッカーに手を伸ばした。

アスモ「?」

アスモデウスが首をかしげた次の瞬間、妹のつかんだロッカーから軋んだ金属音が鳴り響いた。

アスモ「っ!?」

アスモデウスがロッカーへと振り返ると、妹の両手がロッカーをつかみ、潰し、力任せにひきちぎっていた。

アスモ「な、な……」

アスモデウスがその場から跳び退き呆然とするなか、破壊的な多重奏が更衣室に響き渡っていく。
やがてその残響も立ち消える頃。
ロッカーはボーリング玉みたいな小球へと姿を変えていた。

アスモ「……」

──ヤバイ。

本能でそれを理解するアスモデウス。
すると、そんなアスモデウスの直感が正しい事を告げるように、小さなつぶやきが聞こえてきた。

妹「……クソヤロウ」

つぶやきの主は妹。
妹はボーリング玉になったロッカーを放り捨てると、次のロッカーへと手を伸ばす。

妹「クソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウクソヤロウッ!!」

そして妹は先程のロッカーと同様に、次々とロッカーをボーリング玉へと潰し始めた。

アスモ「そ、そうじゃ! 帰ってゴハン食べねば!」

アスモデウスはそう言い残すと、鬼気迫る様子の妹を置いて更衣室から飛び出した。
背後からはいつまでも金属的な破壊音が響いていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/28(火) 23:06:34.96 ID:N7HEHCDDO<> 〜 学校、帰り道 〜

アスモ「むう、危なかった」

来た道をトボトボと帰りながらアスモデウスは眉をひそめる。

アスモ「しかし、おかしいのう……『魅力』中ならばワシの言葉を無視は出来んじゃろうに」

アスモデウスは道の端に寄ると顔を下げ、ブロック塀を背にして静かに考え始めた。

アスモ(『魅力』の効果が無くなってきておるのか?
    いや、下手したらすでに……)

アスモデウスの頭の中に浮かんできた仮定、それが意味するものは昨日の風呂場で十分なほどに身に染みていた。

アスモ(……ヤバイ)

妹に打つ手が無くなる=死。
それを思い出したアスモデウスの顔から血の気が引いていった。

アスモ(しかし、今のワシは魔力を使い果たして下級悪魔並の力しか持っておらん。どうすれば……)

?「あの?」

アスモ(せめて、部下と連絡が取れたら……いや、魔神アスモデウスがこんな姿を部下に見せるわけには)

?「ちょっと! 聞いてください!」

アスモ「うおっ!?」

突然、アスモデウスの隣で誰かが声を上げた。
アスモデウスが驚いて勢い良く振り向くと、そこにはアスモデウスより背丈がちょっとだけあるボーイッシュな少女が立っていた。

アスモ「……なんじゃ、おぬしは?」

少女「はい、お初にお目にかかります『アスモデウス』様」

アスモ「む?」

名前を呼ばれたアスモデウスが目を細める。
すると、少女が言葉を続けた。

少女「わたくし、悪魔のバフォメットと申します。
   軽くバフォと読んでください」

アスモ「……ほう」

それはアスモデウスの記憶にもある、それなりの階級を持つ悪魔の名前だった。

アスモ「そのバフォとやらがワシに何用か?」

バフォ「いえ、まさか人間界でお会いになれるとは思いませんで、是非とも声をおかけしたく……」

アスモ「ふん」

うやうやしく、というよりも卑屈な感じのバフォメットにアスモデウスは小さく息を吐く。
おそらくは上手く取り入ろうとしているのだろう、アスモデウスはそう見限り、バフォメットから顔を逸らした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/29(水) 07:28:17.72 ID:ofqGY4TDO<> だがバフォメットは引き下がらない。
正攻法ではダメだと瞬時に理解したバフォメットは話題を変え、からめ手で攻めてきた。

バフォ「ところで、アスモデウス様はどうしてそのようなお姿に?」

アスモ「むっ、こ、これはじゃな……」

バフォ「いえ、アスモデウス様が説明せずとも大丈夫です。
    強大な力を巧みに消し、あえて姿も弱々しいものに変えているとなれば、私では理解出来ない巨大な陰謀を企てているのでしょう?」

アスモ「う、うむ! まさにその通り!」

バフォメットの言葉に乗っかったアスモデウスは、無い胸を張って自慢げに答えた。

バフォ「さすがです! アスモデウス様!」

アスモデウス「うむ!」

バフォメットもおだてるのを忘れない。
そして、ひとしきりアスモデウスが鼻を高くしたところで、バフォメットは本題を切り出してきた。

バフォ「それで、是非ともわたくしをその陰謀に加えて頂きたいのですが」

アスモ「貴様を?」

バフォ「はい!」

アスモ「うーむ」

アスモデウスは首をひねって考える。
妹は確かにコワイ。
先ほどまではアスモデウスも、確かに第三者の助けを借りようとしていた。
しかし、いざ助けの手を伸べられると、その手を取ることをアスモデウスは躊躇してしまう。
何というか、自分の手で決着をつけないと『負け』な気がして仕方がなかったのだった。

アスモ「いや、いい。助けはいらん」

バフォ「そうですか……」

アスモデウスは首を横に振って助けを断る。
その確かな態度にバフォメットも深くは追及せず、肩を落として残念そうにため息をついた。

二人の間で会話が途切れる。

しばらくして、再び会話を始めたのはアスモデウスからだった。

アスモ「あー、ところで」

バフォ「?」

アスモ「魔力を回復……いや、魔力の塊みたいな物をおぬしは持っておらんか?」

手助けはいらないが、それとこれは別。
助太刀や横槍ではなく、これは武器を借りるようなもの。
アスモデウスは自分をそう納得させて話を続けた。

妹はやっぱりこわかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/29(水) 21:17:50.93 ID:ofqGY4TDO<> 〜 妹と兄の家 〜

アスモ「昼過ぎに来てくれ、か……」

アスモデウスは居間のソファーに身を沈め、つまようじを口にくわえながらつぶやいた。
バフォメットによると、魔力のある物品を昼までに用意するという。
アスモデウスたちは集合場所と時間を決め、その場で一旦別れたのだった。

アスモ「これで一安心、というところか」

魔力が多少なりとも戻れば妹への対策も選択肢が増える。
兄と妹が用意していた遅めの朝食で腹を満たしたアスモデウスは、順風満帆とはいかないまでも落ち着いた心地となってダラけていた。

アスモ「しかし、料理が美味い。
    これは兄妹揃ってワシの眷属にしてやるのも悪くは無いかもしれん」

ソファーに寝転びながらアスモデウスはケタケタと笑った。
バフォメットとの待ち合わせまではまだ何時間もある。
アスモデウスはオレンジジュースをコップに注ぎながら、リモコンでテレビを点けてドラマを見始めた。
他人の家なのだが、アスモデウスは我が物顔。
召喚されて初めて訪れた優雅なひとときだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/29(水) 22:04:47.67 ID:ofqGY4TDO<> 〜 その頃、街 〜

女子1「あー、バカらしー」

女子2「今にして思えば妹のイタズラじゃね、アレ」

授業を抜けてきた女子三人が街の中、公園のベンチに腰掛けてダベっていた。

女子1「あー、腹立つわー、……ところで、何を食ってんの女子3?」

女子3「弁当」

女子1「いや、そうじゃなくて」

女子2「……アンタも独特だよねー」

女子3「そう?」

女子1「あー、イケメンに声をかけられないかなー」

女子2「金持ちならなおよしー」

女子3「アタシより強ければどうでもー」

女子1「……やっぱ独特たわー、アンタ」

女子3「そう?」

女子三人が他愛もない会話を続ける。
すると、そこにどこからか声が投げかけられた。

?「キミたち、ちょっといいかな?」

女子たち「ん?」

女子たちが一斉に声の方へと顔を向ける。
そこには金髪碧眼、まぶしいくらいのイケメンオーラを放つ、スーツ姿の男が立っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/02/29(水) 22:29:02.80 ID:ofqGY4TDO<> 女子1「イケメンだ!」

女子2「スーツを着こなしてる姿から仕事も出来る感じ!」

女子3「でも、あまり強そうじゃないなぁ」

女子1と2「アンタは黙ってろ!」

イケメン「はは、元気がいいお嬢さんたちだね」

イケメンはオールバックにした自分の金髪を軽く撫で、屈託ない笑みを浮かべた。

女子1と2「……きゅん」

女子1と2はその笑顔に一撃で落とされた。

イケメン「それで、ちょっとお茶でもしない?
     ……向こうの人気(ひとけ)が無い茂みとかで」

女子1「全然問題ないです!」
女子2「お茶菓子は是非とも私たちで!」

イケメン「そっちの子は?」

イケメンが女子3に笑顔を向ける。
しかし、女子3は藪睨みで返した。

女子3「うちら未成年っスけど、ヘタな事したらお縄になりますよ?」

イケメン「……え、っと」

たじろぐイケメン。
女子1と2があわてて女子3に突っ込んだ。

女子1「ちょっと黙ってろ!」
女子2「アンタにゃハッピーロードが見えてないのか!?」

女子3「……ま、無理には止めないけどさ」

女子3はそう言うと、再び弁当に箸を伸ばし始めた。

イケメン「そ、それじゃそっちの二人は着いて来てくれるかな?」

女子1と2「いいですとも!」

そして、イケメンと女子二人は女子3を残して公園の藪深くへと消えていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/01(木) 01:48:20.37 ID:ulWp9mODO<> 「きゃーっ!!」

女子3「っ!?」

イケメンと女子が藪に消えて数十秒後、突然女子たちの悲鳴が藪の方から上がった。
女子3は食べていた弁当を放り出し、すぐさまベンチから立ち上がると悲鳴の場所を目指して公園を駆け抜けた。

女子3「どうした!」

数秒のうちに藪の前へと辿り着いた女子3が藪に飛び込み、同時に目を見開いた。
藪の向こうには地面に倒れて動かない女子二人と、イケメンの姿。
女子は二人とも体から力が抜け切った様にだらしなく手足を伸ばし、白目を剥いている。
そして一人だけその場に立つイケメンは肉厚の重々しいナイフを右手に持ち、疲れたように肩を落としていた。

女子3「……お前」

女子3がイケメンに向けて口を開く。
その声は怒りで小さく震えていた。

イケメン「ん? ああ、キミも来たのか」

対するイケメンは女子3に気付くと、倒れている女子など気にもかけない様子で静かに頭を左右に振った。

イケメン「ちょっと疲れているんだ、待ってくれたまえ。
     『魂』を二つも抜き取ったからね」

イケメンの言葉が坦々とした調子で紡がれていく。
だが女子3は、その言葉が終わる前に行動に出た。

女子3「ふっ!」

女子3が短く気合の息を吐いた次の瞬間、女子3の体はイケメンの眼前に移動していた。

イケメン「なっ!?」

イケメンの顔が驚愕に歪む。
だが女子3は勢いを止めず、流れるような動きで拳を繰り出した。

女子3「はッ!」

まずは腹部を狙う。
右ストレートから左右の肘鉄二回に繋げて前進、連続してボディに執拗な打撃を叩き込んだ。
イケメンは肺の空気を搾り取られ「かはっ」と『く』の字に体を折り曲げる。
しかし女子3は止まらない。
体をひねって加速させた裏拳をイケメンの顔面に叩き込むと、トドメに体の回転の締めとして全体重を乗せた回し蹴りをイケメンのアゴ先へと放った。

イケメン「ぐげぇっ!」

イケメンの顔面に女子3の回し蹴りが吸い込まれた。
イケメンはその衝撃に遥か後方へと吹き飛ばされて宙を舞い、横方向へと回転しながら藪の向こうへと消えていった。

女子3「……二人は」

手応えあり。
女子3の拳と足先には、十分な効果を挙げたという確かな実感が微かな痺れとして残っている。
昏倒必至の連撃を叩き込んだイケメンを追いはせず、女子3は倒れている女子二人に目を向けた。
地面に倒れている女子二人の胸は軽く上下しており、そこから呼吸している事が確認できる。

女子3「ふう」

ひとまず、女子3の顔に僅かな安堵が灯る。

その時だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/01(木) 03:34:20.67 ID:ulWp9mODO<> 女子3の腹を衝撃が貫いた。

女子3「がッ!?」

女子3の視界が揺さ振られ、地面が遠く離れていく。
何が起こったのか、それを頭で理解するより先に、女子3の経験と直感が答えを導きだした。

──吹き飛ばされている。

女子3「くっ!」

視界には交互に地面と青空が現れている。
女子3は空中でその回転を殺すように体をひねり、徐々に近づいてくる地面の壁から頭部を離すように足を地面へと向ける。

女子3「つうッ!」

やがて落着する女子3。
上手く足から着地出来たのは僥倖か、身に染み付いた技のおかげか。
しかしながら、腹に食らったと思われる一撃が思いのほか足腰の力を奪っていた。
普段ならば地面を滑るようにして残りの衝撃を減退させるが、それは無理だと女子3は判断。
あえて地面に手足をついて転がる事で衝撃を抑えた。

女子3「っ! はぁ……はぁ……」

女子3はある程度地面を転がった後、その回転を上手く再利用して地面に跳ね起きる。
立ち上がり際に頭を振り、土を除けながら周囲に目を凝らすと、そこは先程までいた狭く鬱蒼とした藪とは違い、緑が所々に生い茂る開け放たれた広場だった。
どうやら数十メートルほど吹き飛ばされていたようだが、それに気付いた女子3の脳裏にすぐさま危険信号がわなないた。

──しまった。

逃げ場が無い。
足腰はまだ上手く動かず、隠れる場所は申し訳程度の草むらのみ。
敵とその攻撃手段は分からないが、このまま足を止めてしまっては不利になるのが目に見えている。
女子3はなんとか場所を移動しようと、ぎこちない足を動かそうとするが、それよりも先に女子3の視界が動く物を捉えた。

女子3「っ! なむさん!」

移動することを諦め、反射的に女子3が草むらへと飛び込んで姿を隠す。
それと間を置かずに、一人の男が藪を越えて現れた。

イケメン「どこだぁッ!!」

女子3(あれは……さっきのイケメン?)

草むらの間から姿を見せないように注意しながら視線を向けていた女子3が、ごくりと息を飲む。
自慢のアサルトコンバットを耐えられたのも去ることながら、何よりもイケメンのダメージ具合が女子3の目を引いた。

女子3の拳と回し蹴りが叩き込まれたイケメンの顔。
それはヒビ割れ、仮面のように細かな破片を撒き散らしていた。

女子3(仮面をつけていたから威力が減退したのか?
    しかし……)

イケメンのヒビ割れた仮面は信じられない事だが、肉のそれと同じく今もなお女子3の目の前で表情を作り続けている。
噴怒一色に染まって両目をぎらつかせるその顔はたとえヒビ割れていても、とても作り物の仮面だとは女子3には思えなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/01(木) 06:08:42.02 ID:DjyXIvZIO<> イビリブ思い出した <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/01(木) 09:12:56.51 ID:ulWp9mODO<> イケメン「出て来いクソ野郎がッ!!」

突然、イケメンが右手を大きく振り上げた。

女子3「……?」

それを見た女子3が草むらの中で訝しげに目を細めた。
女子3とイケメンとの距離は二、三十メートルはある。
いったい何をするのかと女子3がイケメンを注視していると、イケメンは振り上げた拳を、今度は勢い良く地面に向けて振り下ろした。

ゴゥン、とイケメンの拳が地面を殴る。
何事かと眉をひそめる女子3だったが、その目の前で『それ』は起こった。

僅かな揺れを女子3が感じたのは最初の一瞬、それからまばたきするまでの短い間に、女子3から左に数メートルほど離れた地面の一帯が大きく蠢いた。

女子3「ッ!?」

気配を消した女子3が草むらの中で目だけを動かし、その光景を見て唖然とする。
地面からは牙、もしくはツララのような形状の岩塊が無尽に現れ、地面を隆起させていた。
そしてなぜか、土砂と引きちぎられた草花が空から舞い落ちて来ていたが、その理由はすぐにわかった。

イケメン「どこだ! 隠れてんじゃねえぞ!」

イケメンがヒビ割れた顔で怒鳴りながら、地面を拳で数発、連続して殴る。
すると、その動きに連動するかのように、僅かな揺れの後に地面が次々と牙を突き出していった。
それを見た女子3はそこで初めて理解出来た。
つまり、地面が勢い良く突出していたのだった。
それも、イケメンの殴打に合わせて。

女子3(地面の中から攻撃だと!? 奴は何者? 武器の原理は?
    ……いや、今考えるのはそこじゃない!)

降り掛かる土砂を頭にかぶりながら女子3は瞳を開けると、視線と共に考えを走らせ、巡らせる。
敵の素性、武器の原理。
それらは戦力分析において重要な因子だが、今起きている事はすでに女子3の理解の範疇(はんちゅう)を超えている。
今この場において一番重要な事は、その武器のもたらす『結果』であった。
数多の戦地を駆けてきた女子3はすぐに既存の常識を捨て去り、眼前の敵のカテゴリーを脳内で新たに設定し始めた。

女子3(地面からの突出攻撃か、……おそらく、初撃でアタシを吹き飛ばしたのはこれだ)

いまだに女子3の腹は感覚が痺れている。
カーボンナノチューブという特殊炭素繊維を利用した薄い装甲布、もといサラシを普段から巻いているために防刃防弾効果は並みの警察装備よりあるが、純粋な質量攻撃による衝撃は防ぎようが無い。

女子3(もう一度、直撃を受けたらアウトか)

初撃で受けた、おおよその威力から女子3はそう判断する。
次に、女子3はイケメンへと意識を向けた。

女子3(攻撃のトリガーは……拳、だよなぁ)

イケメンが地面を殴ると、それに合わせて地面が突出。
安直だが、それしか思いつかなかった。

そして、気に掛かる事がもう一点。
イケメンは歩き方が独特であり、それは摺り足のような移動方法で、靴をあまり地面から離そうとしない歩き方だった。

女子3(アタシに殴られたダメージが残ってる? いや、クセか?) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/01(木) 21:12:45.50 ID:ulWp9mODO<> イケメンを観察する女子3だったが、不意にイケメンとの間に岩塊が土煙を吹き上げて出現、成人一人分くらいの身長はあるその灰白色の体に視界を奪われる。

女子3(ヤバイな……弾切れとか無いのか、コレは?)

次第に地面からの攻撃が近付いてきている。……ような気がした。
狙うポイントが減って来ている以上、女子3の隠れている草むらに攻撃が当たる確率も上がっているはずだった。
その上、イケメンに弾切れの予兆も無いとなると、このまま無駄に打ち上げられるよりかは被弾覚悟で飛び出した方が幾分かマシかもしれない。

女子3(体は……なんとか大丈夫か)

女子3は全身に軽く力を込め、具合を確かめる。
まだ本調子とは言えないが、走る事は出来そうだった。

女子3(…………)

女子3は小さく息を飲み、止める。
これからやる事は一つ。
イケメンの攻撃の間隙を狙って突進、殴り倒す。
作戦とも言えない作戦だが、イケメンの突出攻撃には地面を殴るというトリガーが必要と思われる以上、そうそう無茶な連発は難しいはずだった。

女子3(すべて推測だけどね。
    さてさて、アタシの美脚とアイツの拳、どっちが優れているか……いざ勝負!)

決定したら即行動。
女子3が足に体重をかけ、草むらから飛び出る。
その寸前。

?「おーい!」

女子3「!」

どこからともなく、いや、遥か頭上から声が響いてきた。
駆け出そうとしていた女子3は素早く体勢を四つん這いにして身を伏せると、空を見上げる。
空からはボーイッシュな髪型の少女が、黒い翼を広げてゆっくりと降りてきていた。

少女「なにやってんだよサタナキア!」

イケメン「む、バフォメット」

ボーイッシュな少女は岩塊の向こう、イケメンの近くに着地して、女子3の視界から消える。

女子3(アイツ、イケメンの仲間か)

女子3が様子をうかがおうとするが、岩塊によって視界をさえぎられている。
女子3は息を殺し、素直にイケメンと少女の会話に耳を傾けた。

少女「お前はこの作戦の重要性を理解しているのか?」

イケメン「……ふん、それはこちらのセリフだ」

少女「なんだと!」

イケメン「当初の予定とは違う行動に出やがって、まさか魔神アスモデウスと接触するとは」

少女「うっ……」

イケメン「この作戦は我々の能力が認められたからこそ与えられた使命であって……」

少女「そ、そういうお前だって、さっきから何をやってんだよ! 畑仕事か!?」

イケメン「うっ……」

女子3(……仲は悪そうだな) <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/01(木) 22:11:38.86 ID:ulWp9mODO<> 少女「とにかく、早く準備に取り掛かれ! いいな!」

イケメン「チッ! わーったよ!」

女子3(話が終わったか)
イケメン「……でも、ラストに一発!」

イケメンが声を上げた瞬間、女子3の周囲の地面が軽く揺れる。
それに遅れて地面が突出。
突き出して来た岩塊は女子3の鼻先スレスレをかすめ、雄々しく天へ向けてそりたった。

女子3(あッ! あぶねーッ!!)

わずか数十センチ先の岩塊、それが巻き上げた土砂を全身に浴びながら、女子3が息を飲んだ。

イケメン「……チッ」

イケメンは成果が上がらなかった事を確認するとひとつ舌打ちをして、そのまま女子3とは反対の方向、藪へ向かって歩きだしたようだった。
岩塊の向こうに、ズルズルというイケメン独特の歩き方が発する引きずったような足音を聞きながら、女子3は草むらで静かに肩を落とした。

女子3「……土まみれの這いつくばり……完敗だね、『今回』は」

はたして、次があるかは分からないが。
どちらにせよ、危機は去った。
一発ぶん殴ってやったし、女子1と2の命に別状は無いようだったし。
むしろ、イケメン系に釣られやすい女子1と2には良い薬になったかもしれない。
女子3はそう考え、イケメンの足音が消えるのを大人しく待った。

やがて、周囲から気配が完全に消えた頃。

女子3はゆっくりと立ち上がり、女子1と2のいる藪の中へ向かって歩きだす。
数分後、女子3は藪へと辿り着いた。

しかし、そこに女子1と2の姿は見当たらなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/02(金) 00:21:48.37 ID:VeEdV4fDO<> 〜 数時間後の昼過ぎ、夕方前 〜

アスモ「確か、待ち合わせ場所はココで良かったはずじゃが」

キョロキョロと辺りを見回すアスモデウス。
アスモデウスは街外れにあるビル街まで来ていた。
ここはどうやら開発に失敗した区域のようで、建築途中の放棄されたビルばかりが周囲に乱雑と並び建っている。
黄色い『立ち入り禁止』のビニールテープが縦横無尽に走り、人の気配も感じない無音の空間を作る中をアスモデウスが歩き続けていくと、そのうちふと突然にアスモデウスの頭上から影が落ちてきた。

バフォ「お待たせしましたー! アスモデウス様ーッ!」

アスモ「おお、やっと来たか」

バフォ「申し訳ありません、少し手間取ってしまいました」

バフォメットは黒い翼を折りたたみ、アスモデウスの前に降り立つとペコリと頭を下げた。

アスモ「よいよい、それで魔力のある物品とやらはどこじゃ?」

バフォ「はい! このビルの上にあります!」

手前の廃ビルを指差すバフォメット。

アスモ「そうか、なら早く取ってこい」

バフォ「えっ!?」

アスモデウスの言葉に、なぜかバフォメットの表情がピシリと固まった。

アスモ「む、どうした?」

バフォ「あ、いえ、一緒に来て下さったら助かるかなー、と」

アスモ「?」

バフォ「ア、アスモデウス様のような偉大な魔神様でしたら、是非とも一度は高い場所から地上を見下ろすべきです!」

怪しすぎるバフォメットの態度。
普通ならば警戒するが、そこは偉大なアスモデウス様。

アスモ「うむ! 確かにそうじゃ!」

アスモデウスはバフォメットの態度なんぞ、まったく気にも留めずに大きくうなずいた。

バフォ「イエースッ!」

小さくガッツポーズを決めるバフォメット。

アスモ「……どうした?」

バフォ「いえ、何でもありません! それでは案内します!」

アスモ「うむ、頼むぞ」

アスモデウスは特に疑う事もなく、バフォメットに先導されて廃ビルを登っていった。

ちなみに、アスモデウスがバカというわけではない。
ただ、魔界でのアスモデウスは敵知らずなほどに強く、武力と知力がずば抜けた常時無双状態である。
ゆえに、相手の策謀や力なぞ物ともせず、ついつい過小評価してしまう悪癖がある。
それが魔力切れの今の状態でも適用されてしまっていたのだった。

アスモ「ふんふ〜ん」

機嫌良く鼻歌を歌いながらアスモデウスは廃ビルを登って行く。
……少し、能天気過ぎる感は否めなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sagd<>2012/03/03(土) 01:17:41.86 ID:TsXAM0SDO<> 〜 廃ビル、屋上 〜

アスモ「おお、やはり高い所はいいのう!」

傾き始めた太陽が世界を橙色に染めている。
鋼芯がいくつも突き出た廃ビルの屋上にも陽光は隔たり無く降り注ぎ、さながらハリネズミのようなシルエットを廃ビルが見せる中でアスモデウスは両手を上げて大きく「のび」をした。

バフォ「アスモデウス様、魔力のこもった物品はこちらにあります」

アスモ「うむ、案内せい」

バフォ「はい」

バフォメットがコンクリートの上をトテトテと歩いて先導を始める。

バフォ「まっすぐ、まっすぐです」

アスモ「うむ」

バフォメットの先導にしたがって歩いていくアスモデウス。

バフォ「ここで少し右に……はい、オッケーです」

アスモ「……うむ?」

バフォメットがアスモデウスに近づき、微妙に位置調整を始める。
とりあえず従っておくアスモデウス。

バフォ「では、最後にこのロープを引っ張ってください」

アスモ「……?」

アスモデウスに渡されたロープは突き出た建材の上、ここよりも上層を造る気だったのか、屋上よりも更に高い位置へと延びている。
アスモデウスは目を細めてロープの先へと視線を伸ばすが、太陽の逆光のせいでロープが何に繋がっているかはよく見えなかった。

バフォ「さあさあ、アスモデウス様」

アスモ「……うむ」

あまり釈然としないアスモデウスだったが特に断る気も起きず、バフォメットに促されるままにロープをつかんで引っ張った。

アスモ「てい」

ぐいっ、とアスモデウスの両手にロープを引っ張る感触が伝わる。
すると、アスモデウスの遥か頭上で『何か』がゴトリと鈍い音を出して動いた、ような気がした。

アスモ「お?」

見上げるアスモデウスの頭上で、何かがゆっくりとアスモデウスへ向かって落ちてきていた。
アスモデウスは反射的に後ろへ下がって避けようする。
だが、アスモデウスが一歩後ろに足を伸ばした所で思わぬ事が起きた。

バフォ「はい、ドーンッ!」

いつの間にかアスモデウスの背後に回っていたバフォメットが両手を勢いよく突き出し、下がろうとしていたアスモデウスを前方へと突き飛ばした。

アスモ「ぬわっ!?」

バフォメットの予期せぬ行動にアスモデウスは体勢を崩し、コンクリ打ちの屋上に倒れ込んだ。

アスモ「き、貴様! いったいなにを」

怒りに顔を歪めたアスモデウスがバフォメットに振り返り、叫ぶ。
しかし、その言葉の途中で、アスモデウスの頭上にあった『何か』がタイミングよく落着した。

──地面に這いつくばるアスモデウスの頭に。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/03(土) 03:38:04.47 ID:TsXAM0SDO<> アスモ「あぶぁッ!?」

硬質で安っぽい金属音が鳴り響き、続けて水音が周囲に広がる。
アスモデウスの頭の上に落ちてきたのは金タライ。
それはドリフよろしくその役目を果たすと、中に抱えていた液体をアスモデウスの体にぶちまけたのだった。

アスモ「ぬ、ぬわーっ!? ネバネバするぞーっ!?」

液体は強い粘性を持ち、モチのようにアスモデウスの体にまとわりついてくる。
あたふたと慌てふためくアスモデウスに、バフォメットがニヤリと悪者の笑みを浮かべた。

バフォ「特製トリモチです、当分まともには動けませんよ?」

アスモ「き、貴様! 何を企んでおる!」

バフォ「知れたこと! このバフォメット様が貴様の代わりに新たな魔神となるのだ!」

アスモ「な、なにぃ!」

魔神は悪魔の中でも最高位の称号である。
魔神であるアスモデウスを倒し、その最高位の称号をバフォメットが奪いとって君臨する。
一応は理にかなっているようにみえる、みえるが、それには致命的な問題があった。

アスモ「バカめ! 魔界は群雄割拠、弱肉強食ぞ!
    ワシを倒して魔神という称号を掠め取っても、貴様の魔力が増えるわけではない!
    すぐに他の悪魔たちが魔神という称号欲しさに貴様を倒しに来るぞ、今の貴様みたいにな!」

魔界は人間社会とは違う。
基本的に下剋上がまかり通る魔界において、高位の称号が意味する所は「コイツにケンカ売ったらマジヤベェ」という戦力の指標でしかない。
称号だけ奪っても、それに見合う力が無ければ悪魔たちがかしづく事は無いのだった。
アスモデウスはそれを指摘しながらバカらしげに鼻から息を軽く鳴らすが、バフォメットは笑みを顔に張りつけたままアスモデウスに答えた。

バフォ「いや、大丈夫だ。このバフォメット様に秘策がある」

アスモ「……秘策じゃと?」

アスモデウスが眉根を寄せて訝しげに答えると、バフォメットは何が楽しいのか、高笑いしながら説明した。

バフォ「ククク、秘策ってのはなぁ……魔神の力を持つアスモデウス!
    貴様をこのバフォメット様のシモベにすることさ!」

アスモ「……ほう」

企みをぶちまけてハイテンションのバフォメット。
しかし、その説明を聞いたアスモデウスは急激に冷め始めていた。

アスモ「ワシが? 貴様のシモベに?」

バフォ「ああ!」

アスモ「どうやってじゃ? この色欲の魔神に『魅了』の魔術でも仕掛けるか?」

アスモデウスの対精神防御は完璧である。
魔力切れを起こしている今でも、それは健在だった。

アスモ「おおかた、ワシが魔力切れを起こしておるのを見て魔が差したんじゃろうが……バカな真似はよした方がいい、今ならばまだ見逃して」

バフォ「フフフ、誰が魔術を使うと言ったよ?」

アスモ「……魔術ではない?」

アスモデウスが首をかしげて問う。
すると、バフォメットは自分の腰に両手をあてながら笑顔で叫んだ。

バフォ「ああ! これを見な、アスモデウス!」

バフォメットはハイテンションの勢いのままで、自分の腰にあてた両手を一気に下げた。
バフォメットのスカートが、そしてパンツまでもが一気にずり落ちる。
結果、バフォメットの隠れていた部位がアスモデウスの眼前に姿を現した。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/03(土) 03:59:42.59 ID:TsXAM0SDO<> パオーンと、ブラブラと、男の子がバフォメットの股間で揺れていた。

アスモ「……」

バフォ「……どうだ?」

アスモ「い、いやぁーッ!?」

絹を裂くようなアスモデウスの悲鳴が辺りにこだました。

アスモ「き、貴様! お、おと、男っ!?」

バフォ「違う! ただの両性具有だ!」

アスモ「知るかッ! その汚らしいモノをさっさとしまわんか!」

位置的に、立っているバフォメットの股間の高さと、地面に半ば倒れているアスモデウスの頭の高さが見事に水平に並んでいた。
アスモデウスはバフォメットのブツを見て、顔をゆでダコのように赤くしながら牙を剥く。
しかし、バフォメットは軽く首を横に振って拒絶した。

バフォ「いや、それは出来ない」

アスモ「な、なんでじゃ!」

バフォ「なぜなら……」

バフォメットは数秒間ほどたっぷりと溜めを作って答えた。

バフォ「なぜなら……アスモデウス! 貴様を『コマす』ためだ!」

アスモ「っ!?」

「コマす」
『えっちぃ事をして女の人に言う事を聞かせること』

アスモデウスの脳内メモリーが答えを弾き出すと同時に、アスモデウスの顔色は一気に青ざめていった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<><>2012/03/03(土) 04:36:25.23 ID:UhRvELvLo<> 百合支援 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/03(土) 08:37:00.19 ID:TsXAM0SDO<> アスモ「い、いやじゃーっ!!」

アスモデウスがジタバタとトリモチの中で暴れ始める。
それを見たバフォメットは嘲笑を顔に浮かべてアスモデウスへと口を開いた。

バフォ「おやおや、そういえばアスモデウス様は男の人とお付き合いしたことが無いんでしたよね?」

アスモ「なっ!?」

ピシッ、とアスモデウスの表情が固まった。

バフォ「あれー? もしかして、気付かれて無いと思ってましたー? みんな知ってますよー? アスモデウス様って、色欲を司ってるくせに男性経験が無いんですよねー?」

ニヤニヤとバフォメットが矢継ぎ早に言葉を紡いでいく。

アスモ「そ、そんなことないやいッ!
 一万……いや、一億くらいの男と付き合ったわい!」

子供でもしないような虚勢を張るアスモデウス。

バフォ「じゃあ、いまさら一人くらい増えてもオッケーですよね?」

アスモ「うっ……」

追い詰められるアスモデウス。

バフォ「じゃ、失礼して」

バフォメットがアスモデウスの方へと一歩、足を踏み出した。

アスモ「ま、待て! タンマ! 今の無し!」

バフォ「待ちません」

アスモ「泣くぞ!」

バフォ「どうぞ」

アスモ「びえぇーんッ!!」

バフォ「本当に泣きだしたッ!?」

恥も外聞も放り捨ててマジ泣きするアスモデウス。
でも、自分も相手も悪魔。
バフォメットが足を止めることはなかった。

バフォ「大丈夫ですよ、優しくしますから」

アスモ「いやじゃー! いーやーじゃー!
 ワシの初めての相手は七色の光燐を撒き散らしながら走り抜ける白馬にまたがっておってそれでワシを迎えに来てくれて一緒に星空をドライブするけど文通から始めるピュアな関係でワシの作ったお弁当でピクニックに行く仲までいくけどある日戦争が始まって彼は戦地に行かねばならなくなってそこで危機に陥って『く、すまないアスモデウス……君を守れそうにない』とか弱音を吐いた所でワシが太陽を背負って登場して『背中は任せるがいい』とワシが参戦したおかげで大逆転して戦場の皆に祝福されながら挙式して英知の湖畔にある白亜のお城で満月の夜に月明かりを頼りに初めてを迎えるんじゃーッ!!!!」

バフォ「なげぇーよッ! あとそれ、カグヤ姫オーダーフルセット並みに条件が無理ゲーじゃねえかッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)<>sage<>2012/03/03(土) 18:27:43.54 ID:eCl3tqF9o<> 設定wwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2012/03/03(土) 19:38:01.19 ID:Lz3XBcfAo<> 最近更新多くて嬉しい <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/04(日) 02:23:16.29 ID:UaZzHioDO<> アスモ「とにかく! イヤなものはイヤなんじゃー!」

バフォ「あきらめろ!」

アスモ「うっさいわい! この……オトコオンナ!」

バフォ「っ!!」

アスモデウスへと近づいていたバフォメットの足がピタリと止まった。

アスモ「?」

急に動きを止めたバフォメットにアスモデウスが怪訝な顔をする。
バフォメットはまるで雷に撃たれたように動きを止めていたが、不意にその瞳が揺らぎ、アスモデウスの見る前でポロポロと大粒の涙をこぼして泣き始めた。

バフォ「い、言ったな! オトコオンナって言ったな!」

アスモ「ワ、ワシは悪くないぞ! ワシの目の前で下品なブツをプラプラと揺らしておる貴様が悪いんじゃ!」

バフォ「うるさい! 許さない! 絶対に許してやんない!」

アスモ「ぎ、逆ギレじゃーっ!!」

アスモデウスも再び目に涙を浮かべる。
そして涙を流しながらバフォメットがアスモデウスの方へと歩き出すと、トリモチまみれで魔力切れの何もできないアスモデウスは大声で泣き叫んだ。

アスモ「だ、だれかー! 王子様ーっ! ワシの王子様ーっ!! たーすーけーてーっ!!」

アスモデウス、貞操の危機。

しかし、王子様はやって来そうに無かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/04(日) 03:35:22.30 ID:UaZzHioDO<> 叫んでも助けは現れなかった。
その間にもバフォメットはアスモデウスの目の前へと近づいてきていた。

アスモ(くっ……こ、こうなったら!)

アスモデウスは意を決し、粘つく体を動かして、バフォメットに向けて首を伸ばした。

バフォ「……なに?」

アスモ「せ、せめて……キスから始めてくれ」

アスモデウスは丸い瞳を細めながら、小さくつぶやいた。
アスモデウスの瞳は涙で潤い、そこにひとさじの憂い顔が絶妙な塩梅となって、小学校低学年並みの体とは不釣り合いな大人の色気を放っている。
その顔を見たバフォメットはすっかりアスモデウスの色気に魅了され、今しがたまで自分が腹を立てていた事も忘れて恥ずかしげに顔を赤く逸らした。

バフォ「そ、そうか、やっとあきらめたのか」

アスモ「うむ、じゃから顔を……」

バフォ「よ、よし」

バフォメットが片膝をつき、ゆっくりと首を伸ばす。
向かう先は、同じく首を伸ばして待つアスモデウスの唇。
そして、アスモデウスとバフォメットの唇が近づき、触れ合う……その瞬間。

アスモ「せい!」

アスモデウスの両腕がバフォメットの顔面の下から急上昇した。
腕はさほど速い動きではなかったが、位置的にちょうどバフォメットの死角だったために、バフォメットの反応は大きく遅れた。

バフォ「……え?」

べちょっ、とトリモチまみれのアスモデウスの両手がバフォメットの頭を両側からつかむ。

アスモ「とうっ!」

そのまま、ぐいっとアスモデウスの両手がバフォメットの頭を引っ張った。

バフォ「う、うわわっ」

アスモ「ククク……貴様もトリモチまみれになるがいいわッ!」

バフォ「なにっ!?」

アスモデウスが叫ぶ。
その言葉どおりにバフォメットの体はバランスを崩して傾き、トリモチの上へとダイブした。

──当然、アスモデウスはバフォメットに押しつぶされる形になった。

アスモ「お、重っ! し、しまったー!? これでは身動きがとれんではないかーッ!!」

バフォ「バカだろお前ッ!!」

アスモ「うっさいやい! 最初にバカって言った方がバカなんじゃ!」

状況はまったく変わっていなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/04(日) 06:45:30.51 ID:UaZzHioDO<> アスモ「く、とにかく離れて……」

バフォ「に、逃がさないぞ!」

トリモチの中を二人の悪魔がもがき、あがく。

アスモ「って、何で貴様は上まで脱いでおるんじゃーッ!?」

バフォ「トリモチに持ってかれてるんだよ! いいなぁそっちはヒモみたいな服で」

アスモ「いたた! ワシの髪を引っ張るでない!」

もがき続ける二人。

アスモ「はぁ……はぁ……」

バフォ「ぜい……ぜい……」

そして数分後。
トリモチまみれで動き続けるのは二人の予想以上に体力を奪い、あっという間に二人は息を切らして肩で呼吸する羽目になっていた。

バフォ「な、なあ、アスモデウス」

アスモ「……なんじゃ」

バフォメットが口を開き、アスモデウスがヤブニラミで返す。
するとバフォメットは疲労の色を深くした声で、ボソリと小さく答えた。

バフォ「……いったん、仕切りなおしにしよう」

アスモ「……うむ」

なんかもう色々とダメになっていたので、アスモデウスも反対はしなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/04(日) 07:10:20.45 ID:UaZzHioDO<> 〜 少し前、妹 〜

妹「……アスモちゃんが呼んでる?」

学校帰りの妹の耳に、アスモデウスの叫び声が届いていた。

兄「ん? どうしたんだい妹?」

妹「アスモちゃんが呼んでるみたいです、お兄さま」

兄「妹は耳がいいなあ」

妹「えへへ……ところでお兄さま?」

兄「うん、行ってあげなさい。妹の荷物はボクが家に持って帰っておいてあげるよ」

妹「ありがとうございます、お兄さま!」

兄が手を伸ばし、妹の荷物が入った袋(カバンは図書室で焼失)を受け取る。
妹はそんな兄に頭を下げると、軽くヒザを曲げ、それをバネにして跳躍した。

妹「とう!」

妹は近隣住宅の塀や屋根の高さを軽々と越え、悠々と電信柱の上に着地。
そのまま電信柱を蹴ってジャンプし、次の電信柱へと移動。
妹は次から次へと凄まじい勢いで電信柱の上を跳び抜け、数秒と待たずに兄の視界から消えていった。

兄「妹は元気だなぁ」

一人残された兄は微笑みながらつぶやくと、妹の荷物と自分の荷物を両肩に掛けて静かに歩きだした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/04(日) 12:47:03.33 ID:lHZrLPaZo<> この達観した感じ、兄もただ者ではないっぽいね <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/04(日) 19:58:07.52 ID:UaZzHioDO<> 〜 廃ビルが並ぶ区画 〜

妹「たしか、ここら辺からアスモちゃんの声がした気がするんだけど」

何者にも邪魔されない電信柱の上を移動し、驚異的な速度で廃ビル区画に到着した妹は辺りを見回して首をかしげる。

妹「でも、何でアスモちゃんはこんな所に……」

妹は居並ぶ廃ビルの間、クモの巣のように縦横無尽に入り組んでいる狭い道路の真ん中に立って、腕を組んで考え始めた。

そして、しばしの熟考の末(すえ)、出た結論は二つ。

妹「誰かに誘拐されたか、アスモちゃんが自分でココに来たか」

前者ならば誘拐犯を埋めて終了、問題は後者の場合なのだが。

妹「ま、アスモちゃんなら大丈夫よね」

おそらくは好奇心旺盛な散歩の途中で事故ったのだ。
妹はそう結論付けると腕を解き、悠然とした足取りで再び歩き始めた。

妹「でも、もしもアスモちゃんがいかがわしい事をしていたら『めっ』て、してあげないといけないかしら?」

そう冗談めかして、妹はデコピンを近くの廃ビルへ向けて放つ。
妹のデコピンは大気を歪め、指向性を持った強力な振動波となり、触れてもいないというのに廃ビルの一角をコナゴナに吹き飛ばした。
米軍の超兵器でも食らったかのように砂塵となって消えていく廃ビルの一角。
うっすらと笑みを浮かべてそれを見ていた妹だったが、突然、耳に手をあてて眉をひそめた。

妹「あら? アスモちゃんの声が……近いわね」

妹は音源の位置を大まかに特定すると、地面を蹴ってすぐさま移動を開始する。
妹の姿は一瞬で道路の上から掻き消え、代わりにジェット機並みの爆音だけが尾を引いて残っていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/03/04(日) 20:17:10.92 ID:JM0Y9+lqo<> なんかバキじみてきたなwwwwwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/05(月) 00:26:37.29 ID:8t64tjEDO<> 〜 廃ビル 〜

バフォ「それじゃ……いくぞ?」

アスモ「……うむ」

バフォ「よっ、と」

アスモ「い、いたっ……」
バフォ「あっ、……ごめん」

アスモ「か、かまわん……だから、はやく……うごけ」

バフォ「う、うん」

アスモ「う、くぅっ……!」

バフォ「すぐ、すぐ終わらせるから……待ってて」

アスモ「痛っ……はやく、はやく終わらせ……ろ……」

そして、数十秒後。

二人は両手の指と指を重ねた互いを支える姿で、なんとかその場に立ち上がっていた。

バフォ「や、やっと立てたぞ」

アスモ「よし、次はゆっくりと離れて」

お互いにうなずき、アスモデウスとバフォメットが離れるように一歩後ろへ下がろうとした時だった。

バフォ「……誰だ!?」

バフォメットが突然に声を上げる。
アスモデウスも反射的にバフォメットの視線の先へと顔を向け──

アスモ「い、妹!?」

妹「……」

悪鬼のような形相で視線を送ってくる妹とアスモデウスの目が合った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/05(月) 01:08:49.26 ID:8t64tjEDO<> アスモ「……」

異様な気配を漂わせる妹に、アスモデウスとバフォメットが小さく息を飲む。
ちなみに、妹に助けを求める選択肢なんぞ、妹の形相を見た時点でアスモデウスの脳内からは除外されていた。

アスモ(な、なんじゃ!? この妹の妙な気配は?)

場を取り巻く空気は重く、胃のなかに鉛を詰め込んだような息苦しさがアスモデウスを襲う。
アスモデウスは妹の様子が変貌した理由を考えてみた。
考えてみたが、答えは出ず、その間にも妹からは殺意じみた波動が放たれていた。

妹「……私のアスモちゃんが汚された」

アスモ「え?」

不意に妹が口を開き、アスモデウスが戸惑いの声を上げる。
だが、妹はアスモデウスに何も答えず、坦々とした口調で再度違う質問を聞いてきた。

妹「隣の、男の子は、だれ?」

アスモ「男の子?」

アスモデウスが妹の視線を追って自分の隣を見るが、そこには半裸の……というか全裸一歩手前の姿で、街を歩いてたら確実にお縄になる状態のバフォメットしか──

アスモ「……あ」

アスモデウスは、なにか分かった気がした。

少し前の会話。
隣にはほぼ全裸で、プラプラと股間にてブツを揺らすバフォメット。
そして仲良く手を合わせる二人。
トドメに二人はトリモチ(白濁)まみれ。

もし、妹が場面を見ずに声だけを聞いていて、今しがた初めて二人の前に飛び出してきたとしたら。

──その仮定から導きだされる答えは、

妹「……事後」

アスモ「ち、ちがーうっ!?」

妹はとんでもない誤解をしていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/05(月) 01:26:08.49 ID:8t64tjEDO<> バフォ「ど、どういう事だアスモデウス!? この状況を説明してくれ!」

妹の殺意におびえるバフォメットが、アスモデウスに聞いてくる。
アスモデウスは叫んだ。

アスモ「ワシと貴様の身の潔白を証明せねば、死あるのみじゃ!」

バフォ「死ぃっ!?」

返された答えにバフォメットが目を見開いて驚く。
殺意のかたまりである妹を前にしては、さすがに笑って流せなかった。

アスモ「し、しかし、どうやって身の潔白を証明すれば……」

バフォ「ま、待てアスモデウス! 身の潔白を証明すればいいんだな!?」

アスモ「何か考えがあるのかっ!?」

バフォ「ある! ワタシに任せろ!」

バフォメットは胸を張って答えるとアスモデウスの指を解き、自分の手をイソイソと股間へと伸ばした。

アスモ「な、ナニをしとるんじゃ貴様はッ!?」

バフォ「いいから黙ってろ!」

アスモ「む、むう」

真剣なバフォメットの声に、アスモデウスが口を閉じる。
やがて、策を完成させたバフォメットは妹へと向き直った。

バフォ「おねーさん? ボク女の子だよぉ?」(股の間にゾウさんを挟んで隠しながら)

アスモ「……」

妹「……」

バフォ「……」

妹「いっぺん死んでみるか?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/05(月) 07:15:31.37 ID:8t64tjEDO<> バフォ「バカな! 看破されただと!?」

アスモ「バカは貴様じゃ!」

バフォ「な、なんだとー! アスモデウスのくせに!」

アスモ「『くせに』とはどういうことじゃーっ! このオトコオンナ!」

バフォ「い、言ったな! オトコオンナって言ったなッ!!」

アスモ「やるか!」

バフォ「やってやる!」

牙を剥き、威嚇しながら睨み合う二人。
そして、お互いに手と手を組み合わせて力比べを始めた、次の瞬間。

チュイーン、と甲高い音を奏でる雷光が二人の頭と頭の間、互いの眼前を横切った。

アスモ・バフォ「ッ!?」

鼻を突くオゾン臭、まぶたに残るまばゆい残光。
アスモデウスとバフォメットが驚きに目を丸くしていると、そこにもう一人の人物、妹が静かに言葉を発した。

妹「黙れ」

アスモデウスがムチに打たれたように素早く妹へ顔を向ける。
妹は目を細め、アスモデウスとバフォメットの二人を冷たく睨んでいた。

アスモ(な、なにが起きて……)

アスモデウスとバフォメットの間を通り抜けた雷光。
妹の仕業だとは直感的に理解できるが、その正体が分からない。
アスモデウスがバフォメットにチラリと視線を動かしてみると、バフォメットも何が起こったか分からないようで、問いかけるような疑問符付きの視線がアスモデウスと重なった。

バフォ「さ、さっきのは?」

アスモ「ワ、ワシが知るわけなかろう」

バフォ「ひ、ひざが震えてんぞ」

アスモ「き、貴様もな!」

妙な一体感からか、真の恐怖を前にしたからか、薄っぺらい作り笑顔を二人が浮かべる。
だが、そこに割り込む妹の声。

妹「黙れって言ったでしょ?」

妹は言いながら右手を近くの鉄芯へと伸ばし、凄まじい握力で鉄をちぎりとる。
そして妹はちぎりとった鉄をギュッと握りしめ、ビー玉ほどの大きさに圧縮し、拳の中に収め、親指で弾くように──

そして、雷光がアスモデウスとバフォメットの間を再度走り抜けた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/05(月) 21:45:51.88 ID:8t64tjEDO<> 雷光の正体は圧縮された鉄塊だった。
それが妹の手から打ち出された際に亜光速まで一気に加速され、プラズマ化していたのである。

バフォ「ひぃッ!?」

常軌を逸した妹の所業にバフォメットが肝を潰し、一目散に逃げ出した。

アスモ「ちょっ!? なんでワシまで!?」

トリモチで強く引っ付いているアスモデウスもバフォメットに引きずられ、転ばないように一歩踏み出すと、そのまま一緒に走りだしてしまった。

バフォ「うっさい! このままだとワタシが殺されかねない!」

アスモ「それは貴様だけじゃ! ワシはまだ多分……」

チラッと妹へ振り返るアスモデウス。
暗く、よどんだ妹の眼光が待っていた。

妹「愛の逃避行? ……矯正してやるわ」

アスモ「ああ……勘違いされておる……」

バフォ「死にたくなかったら走れ!」

アスモ「う……うぅ……」

アスモデウスも渋々ながら、しかし全力で足を動かし始める。

こうして、廃ビルを舞台に悪魔二人の逃走劇が始まった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2012/03/06(火) 02:41:36.48 ID:lFSoqLX/o<> 逃げてぇぇ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/06(火) 02:45:40.72 ID:ahGvLIUDO<> 〜 廃ビル内部 〜

コンクリートの灰白色だけが広がる無機質な廊下を二人で走りながら、アスモデウスとバフォメットが短く言葉を交わしていく。

バフォ「あの人間はなんなんだよ!! 学園で構成された都市の超能力者とかか!?」

アスモ「違う! 一般家庭のどこにでもおる、ただの妹じゃ!」

バフォ「ただの妹が素手でレールガンぶっ放せるわけねーだろーがッ!!」

走りながらバフォメットが怒声を上げる。
だが、そうする間にも二人の周囲を幾条もの光が尾を引いて通りすぎていく。
背後からは妹が着々と近づいて来ており、手に握り締めた鋼弾を次々に放っていた。

バフォ「くうッ! このままじゃマズい!」

アスモ「なにか策は無いのか? こずるい事を考えるのは得意じゃろう?」

バフォ「何がこずるい事だよ、チクショウ!」

妹の手から放たれる鋼弾は空気を切り裂き、甲高い音を響かせながら飛翔しては二人の行く手をコナゴナに粉砕していく。
廊下、空き部屋、階段に至るまで破壊され、その都度方向転換を二人は余儀なくされていた。

アスモ「お、おい!? ワシら、もしかして追い込まれておらんか!?」

バフォ「知ってるよぅ! うるさいよぅ!」

破壊された建材が巻き上げる粉塵が白煙と変わる中、アスモデウスの問いかけにバフォメットはとうとう涙目になって叫び返す。
それを見たアスモデウスは半目になってポツリとつぶやいた。

アスモ「……貴様、追い詰められたら弱いタイプじゃな」

バフォ「なんだよぅ! 悪いかよぅ!」

アスモ「い、いや別に……」

バフォ「バカにしてぇ! ならワタシのとっておきの策を見せてやるよぅ!」

アスモ「策があるのか!?」

バフォ「今思いついたんだよぅ!」

アスモ「……ふ、不安じゃが、とにかく話してみろ」

無策で動き回るよりはマシ。
アスモデウスはそう考え、バフォメットの策を聞いてみる事にした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/06(火) 03:19:28.50 ID:ahGvLIUDO<> 〜 廃ビル区画 〜

男1「この付近に悪魔の反応があったそうですが……」

女2「探索巫女を連れて来れば良かったのに」

妹と悪魔二人が命懸けの鬼ごっこを満喫している頃、国家霊法機関『九重』の九人は廃ビルの並ぶ区画をうろうろとさまよっていた。

男3「俺たち、完全な戦闘要員だしなぁ」

女4「文句言わない」

男5「で、どうする?」

女6「手分けして探した方が」

男7「こういう時はリーダーに指示を仰いでだなぁ」

女8「……待って! リーダーの様子が!」

女8が緊張した声を上げる。
すると、その場にいた全員が息を飲み、一斉にリーダーへと顔を向けた。

リーダー「……」

リーダーは日本刀を収めた鞘を正面の道路に垂直に突き立て、握りの部分に両手を重ね、瞳を一の字に閉じていた。
何か遠くに意識を集中しているような、声を上げることさえ気が引けるリーダーの雰囲気に皆が口を閉じる。
それから、いったいどれくらいの時間が経っただろうか。
短いようで長いような、そんなあやふやな時間が過ぎた後、ふと突然リーダーが瞳を大きく見開いた。

リーダー「呼んでいる」

男1「……は?」

男1が、そしてその場にいた全員が首をかしげる。
しかしリーダーは説明せず、ただ叫んだ。

リーダー「『魔法少女』が私を呼んでいるのだッ!!」

全員「……」

「なにをトチ狂ってんだ、このオッサン」
リーダー以外の全員がそんな顔をしていたが、あえて誰も口には出さなかった。
なぜなら、

リーダー「行くぞ! お前たち!!」

全員「イエッサー!」

──なぜなら、彼は質実共に彼らの『リーダー』であったのだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/06(火) 03:40:24.31 ID:ahGvLIUDO<> 〜 廃ビル 〜

アスモ「歌?」

バフォ「そう! 歌ってたら死なない! これ常識だよぅ!」

アスモ「バ、バカな!」

バフォ「思い出してみればいいよぅ! オープニングテーマが流れだしたら逆転の合図! 全員生存の布石!」

アスモ「む、むぅ……」

「アニメの話じゃねえか!」と普段のアスモデウスならばシカトしていただろう。
だが、今のアスモデウスは追い詰められていた。
精神と生命、両方の意味で。

アスモ(そ、そういえば、歌で活路を開く神話があったような)

そう考えると、あながち無い話とも思えなくなってくる。
しかし、そもそもそんな事を思う時点で泥沼に片足を突っ込んでいるという事にアスモデウスは最後まで気付かなかった。

バフォ「それじゃ、歌おう! 元気良く!」

アスモ「せ、選曲はどうする?」

バフォ「流行の歌に決まってるよぅ! とってもハッピーなヤツで!」

アスモ「わかった! 任せる!」

バフォ「任されたよぅ!」

そしてバフォメットがゆっくりと歌いだし、アスモデウスも合わせて声を上げ始めた。

バフォメットの瞳が焦点を失い、ヤケクソ状態になっている事にアスモデウスが気付くのは、もう少し後。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2012/03/06(火) 17:55:04.08 ID:ZmMNqI5ro<> 妹は魔法少女なのか・・・?
魔法というより物理の描写に見えてしまうー <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/03/06(火) 18:08:17.27 ID:zNog7Trlo<> 魔法も物理もほとんど変わらんよ
世界への干渉の仕方が違うだけ
肉体強化とかエネルギーの操作とか魔法の力が何処かに有るかもしれないだろ
妹がどうかは知らないけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/06(火) 19:42:28.99 ID:ahGvLIUDO<> アスモ・バフォ「せーのっ!」

二人は息を合わせ、そして歌いだした。

バフォ「かわしたや〜くそく〜わすれないよ〜」

アスモ「め〜をとじ〜たしかめる〜」

バフォ「おしよせ〜たやみ〜ふりはらってす〜すむよ〜」

と、出だしが終わった時点でアスモデウスは気が付いた。

アスモ(なぜこの歌をチョイスしたーッ!?)

前奏部分でアスモデウスが叫ぶ。
バフォメットは涙を流しながら、口元を引きつらせて笑みを作った。

バフォ(ほら、歌詞は今の状況にピッタリ!)

アスモ(アニメの内容が『生存率』と真逆ではないか!)

バフォ(でも、最後はみんな復活するし)

アスモ(一度死ねと!?)

バフォ(あ、前奏終わる)

指を鳴らしてリズムを取っていたバフォメットはアスモデウスを置いて、再度声を上げて歌いだした。

バフォ「いつになったら〜なくしたみらいを〜」

アスモ(くっ! バッドエンド直行な気がするが……歌い切るしかないのか!)

アスモデウスはしばらく悩んでいたが、やがて腹をくくって、バフォメットに合わせて歌い始めた。
声高らかに。

アスモ「あふれだしたふあんのかげを〜」

──彼女たちは追い詰められていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/06(火) 20:13:52.02 ID:ahGvLIUDO<> アスモ「とめど〜なく、きざま〜れ〜た」

妹の鋼弾がアスモデウスの頭上を奔る。

バフォ「とざされたとびらあけよう〜」

そして、鋼弾によって巻き上げられた粉塵と残骸を二人は飛び越えた。

アスモ「お、おお……妹の攻撃が大きく逸れている、気がする」

バフォ「ワタシの言った通りだよぅ!」

しかし、歌も後半にさしかかった所で、アスモデウスはふと疑問を覚える。
アスモデウスは歌が間奏に入った頃合いを見計らってバフォメットに聞いてみた。

アスモ「ところで、この歌が終わったらどうするんじゃ?」

バフォ「えっ?」

アスモ「えっ?」

バフォ「……」

アスモ「……」

しばしの沈黙。
その後、バフォメットは小さくポツリとつぶやいた。

バフォ「……みんな死ぬしかないじゃない?」

アスモ「なぜに疑問系!?」

バフォ「あ、歌わないと……くじ〜け〜な〜い」

アスモ「し、白々しい……」

しかし、アスモデウスも一緒に声を合わせて歌いながら走り続ける。

歌は、そしてアスモデウスたちの逃走劇も終わりに近づいていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 02:26:12.55 ID:myLt3n4DO<> アスモ「よし、階段が見えたぞ」

アスモデウスたちが床を蹴ってさらに加速する。
だが、そこに追いすがる妹の声。

妹「逃がさない」

ゾクリ、とアスモデウスの背後、廊下の向こうで気配が膨れ上がった。
次の瞬間、妹の鋼弾が輝きながらアスモデウスの頭上を飛び越え、目前に見えた上がりの階段を粉砕。
崩れ落ちるガレキが下りの階段も埋め尽くし、階層移動を不可能にした。

アスモ「くっ! 左じゃ!」

アスモデウスはバフォメットを引っ張りながら方向転換。
速度を殺す事無く、階段前の曲がり角を左へと進んでいく。

アスモ「右じゃ!」

そして右へ。

アスモ「左! 右! 左! 右! BA!!」

次から次へと曲がり角を進んでいくアスモデウス。
背後からは妹の気配が冷酷な靴音を響かせながら近づいてくる。
ちなみにその間、バフォメットはアスモデウスの横で坦々と歌い続けていた。

バフォ「あした〜しんじて〜いの〜って〜」

アスモ「ええい! やかましい!」

すっかりポンコツになってしまったバフォメットを小突きながら、アスモデウスは道を突き進んでいく。
プレッシャーに脳をやられたのか、涙を流しながら薄笑いを浮かべるバフォメット。
そんなもんを間近に見たらさすがにアスモデウスも冷静になり、いつからともなく歌うのを止めていた。

アスモ「うぅ、こやつの言う事を信じたワシがバカじゃった!!」

考えてみれば、逃げてる間にバフォメットのマインドは悪化し続けていた気がする。
というよりも、必殺の眼光を研ぎ澄ます妹と対面した時点でガラスのハートは砕け散っていたのだろう。

アスモ「じゃが、ここで足を止めたら本当に砕け散る……ワシの命が!」

捕まったら何をされるか分からない。
昨日の風呂場で起きた出来事を思い出し、走りながら身震いするアスモデウス。
しかし、そうこうするうちに新しい曲がり角が見えてきた。

アスモ「左、いや右じゃ!」

アスモデウスは頭を振って恐怖を拭い去り、直感で右の道を選ぶ。
そして、いざ角を曲がったところでアスモデウスの目に飛び込んできたものは、

アスモ「うおぅッ!?」

壁。
情け容赦なく三方を囲む壁だった。

アスモ「もう一方は!?」

アスモデウスは背後を振り返る。
だがそこは無情にも、アスモデウスの前方と同様に壁が道をふさいでいた。

アスモ「……」

アスモデウスは呆然と、丁字路の真ん中でバフォメットと立ち尽くす。
ただ一つだけ道が続いている、自分たちが駆けてきた廊下には、揺らめく妹の影。

バフォ「ずっと〜あした〜まって〜」

ちょうどバフォメットの歌も終わり、近づいてくる妹の靴音だけがコツコツと廊下に響いていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2012/03/07(水) 12:00:43.72 ID:ZBww61w7o<> 選曲ミスwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 17:55:15.84 ID:myLt3n4DO<> アスモ「お、終わった……」

ただ立ち尽くすしかないアスモデウスの前方で、妹の靴音が止まる。
妹はアスモデウスたちから一歩離れた所で足を止め、小首をかしげて髪を軽く流しながら口を開いた。

妹「どっちからがいい?」

アスモ「え?」

妹「どっちから矯正されたいの?」

アスモ「……」

妹の質問を理解したアスモデウスは無言で身を退き、バフォメットを前面に押し出した。

妹「そう、あなたからね?」

アスモ「……許せ」

バフォ「ふぇ?」

ポンコツになっていて話についていけないバフォメットが目を丸くし、前と後ろ、妹とアスモデウスの顔を交互に見回す。
そんなバフォメットにアスモデウスは顔を伏せ、妹はどこからかハサミを取り出し、チョキチョキと両刃を鳴らしながらバフォメットに見せ付けた。

妹「まずは……そうね……」

妹のハサミが一つ、ジャキンと甲高く音を立てて止まった。

妹「ちょんぎりましょうか?」

バフォ「?」

妹「ちょんぎるのよ、あなたのを」

バフォ「……な、なにを?」

妹「ナニを」

バフォ「……」

妹「……」

バフォメットの顔からゆっくりと血の気が引いていく。
すっかりと、顔面蒼白という言葉がピッタリの顔色へと変わったところでバフォメットは口を開き、大声で叫び出した。

バフォ「い、イヤァァァァーッ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 18:41:42.82 ID:myLt3n4DO<> 妹「大丈夫よ、犬や猫ちゃんもやってるでしょ?」

バフォ「イヤァァァァーッ!!」

アスモ「よかったな! 女の子の仲間入りじゃ! もうオトコオンナと呼ばれぬぞ!」

バフォ「イヤァァァァァーッ!!」

ドン、とバフォメットは両手でアスモデウスを突き飛ばし、トリモチごと引き離す。
妹の破壊の副産物である粉塵を大量に巻き込んだトリモチは、いつの間にか粘着力を大きく損なわれていたのだった。

アスモ「あだっ!?」

バフォ「う、うわーんっ!」

床にシリを突いて転がるアスモデウス。
バフォメットはそんなアスモデウスから顔を離し、妹を涙目で睨み付けた。

バフォ「わ、ワタシは悪魔だぞ! 魔法を使えるんだ! 人間なんかに負けるものか!」

アスモ「や、やめろっ!?」

床に腰を落としたままアスモデウスが制止の声を上げる。
だが、バフォメットは止まらなかった。

バフォ「悪魔の力を見せてやる!」

バフォメットはアスモデウスの声を無視し、両腕を高く掲げる。
すると、バフォメットの手の周囲が緑色に光り始めた。
大気がバフォメットの魔力を帯びて変質していっているのだと、それを見たアスモデウスは瞬時に理解した。

アスモ「風の形態、これがバフォメットの力」

ヤケクソ状態で気が高まっているようで、バフォメットの放つ魔力の緑光は、魔神であるアスモデウスも目を見張る輝きを秘めていた。

さすがの妹もコレを食らっては……

そのことにハッと気が付いたアスモデウスは、バフォメットに再度制止の声を飛ばした。
……今度はバフォメットの身を案じてではなく。

アスモ「やめよ! バフォメット!」

バフォ「もう遅い!」

バフォメットはアスモデウスに叫ぶと、体を弓のようにしならせ、両手に溜めた緑光をいったん背後へ。
そして、戻る力を利用して緑光を前方、妹に向けて勢いよく放った。

バフォ「バフォ・フィナーレ!」

アスモ「なんで自分からフラグを立てたーっ!?」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<>sage<>2012/03/07(水) 19:11:59.48 ID:ZBww61w7o<> やめろー選曲といい攻撃名といいフラグ立ちすぎwwww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 19:15:31.76 ID:myLt3n4DO<> 放たれたバフォメットの魔力は一陣の風となり、廊下を疾駆する。
それは幾重もの大気を身に纏い、鋼よりも硬い無慈悲なギロチンとなって、立ちふさがる敵を断罪するバフォメットの究極の魔術。

……だった。

妹「てい!」

ハエを払うかのように妹が手首を横に薙ぎ払う。

ボフゥゥン。

バフォメットの究極魔術はたやすく砕かれ、形を失い、そよ風となって消えた。

バフォ「……はい?」

バフォメットは、あんぐりと口を開けたまま固まる。
そこに響く妹の声。

妹「さて、ちゃっちゃっと済ませましょうか」

そう言って妹は廊下を蹴って跳躍。
空中で身をひねり、今度は天井を蹴り飛ばして加速。
空中で正三角形を描く軌道を描き、妹はバフォメットの背後に降り立った。
この間、わずか一秒足らず。

バフォ「え、え?」

妹「切りにくいから寝転がして、と」

妹の足払いが炸裂。
すっ転ぶバフォメット。

バフォ「ぐえっ!?」

妹「アスモちゃん、この子の足を押さえてて」

アスモ「う、うむ」

妹はアスモデウスに指示を出しながら、自身はバフォメットの上にマウントを取って身動きを封じる。
ここにきてバフォメットの頭は状況を理解した。

バフォ「や、やめて! やめてぇぇっ!!」

泣き叫ぶバフォメット。

妹「大丈夫、女の子はいいわよー」

バフォ「お願い! 許してぇぇっ!!」

アスモ「……すまん」

バフォ「堪忍してえぇぇぇーっ!!」

妹「一気に切るのと、ゆっくり切るの、どっちがいい?」

バフォ「どっちもイヤァァーッ!!」

妹のハサミがバフォメットの股間に近づいてくる。
しかし、それを跳ね除ける力はバフォメットに無く、また頼れる者もいなかった。

バフォ「だ、誰か! 誰か助けてえーっ!!」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 19:59:17.67 ID:myLt3n4DO<> バフォメットの叫びが無機質なコンクリート壁に吸い込まれ、消えていく。
バフォメットは泣き叫び、アスモデウスは目を閉じ、妹がハサミを下ろし、チョキンと切られるその間際。

──廊下に光が瞬いた。

妹「っ!?」

廊下に現れた光は太陽のような輝きを持った光ではなく、鈍いヌメリを帯びた生々しい光。
その光源は鋭利な日本刀。
日本刀は行き止まりのコンクリート壁から刄を立てて突き出ており、妹が顔をそちらに向ける間に数閃、音も無く白刃を瞬かせた。
すると、バターでも切ったように抵抗無く、コンクリート壁はブロック状に切り分けられ、廃ビルの外へとまとめて崩れ落ちていった。

妹「だれっ!?」

ぽっかりと口を開けた廃ビルの壁の向こうへ、妹が声を飛ばす。

?「貴様に名乗る名前は無い!」

そんなダンディーボイスを返しながら現われたのは、黒いスーツに黒いマントを羽織った中年男性。
中年男性は片手に日本刀を構え、顔にシワを刻みながら廊下にいる三人に視線を向ける。

中年「その娘が魔法少女か」

バフォ「……?」

妹にマウントをとられたままのバフォメットが、おびえた目を中年へ向ける。
中年はシワを浮かべた顔をわずかに緩め、バフォメットに笑みを作った。

中年「君を円環の理から解き放ちに来た」

バフォ「? ……助けて、くれるの?」

中年「もちろんだとも」

中年の言っている事は理解できない。
だが、敵ではない事を雰囲気で悟ったバフォメットは、ワラにもすがる思いで中年に頼み込んだ。

バフォ「なら、お願い! 助けて!!」

中年「任された!」

中年はバフォメットにうなずくと、日本刀を翻(ひるがえ)し、妹へと襲い掛かった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 20:33:33.69 ID:myLt3n4DO<> 中年「消え去れ! 憎しみの連鎖より生まれし魔女よ!」

妹「な、誰が魔女よ!」

中年が日本刀を振り回し、妹がそれを寸前で避けていく。
そこから少し距離を置いて、マウントから解き放たれたバフォメットが小さく胸を撫で下ろしていた。

バフォ「た、助かった……」

アスモ「よかったのう」

バフォ「……お前、ワタシを犠牲にして逃げようとしてただろ?」

アスモ「ま、まあ、結果オーライじゃ!」

バフォメットに恨みがましく睨まれ、アスモデウスは笑ってごまかす。
そして、アスモデウスはそのまま話題をすり替えた。

アスモ「しかし、いったいぜんたい、あやつは何者なんじゃ?」

日本刀を構えて妹と戦う中年を見ながらアスモデウスがそうつぶやく。
すると、答えは思わぬ所からやって来た。

男1「私が説明しましょう」

突然、一人の男がコンクリート壁に開いた穴から現れた。

アスモ「うおっ! 誰じゃ貴様!?」

男1「あ、言い遅れました。私はこういう者です」

アスモ「め、名刺?」

男1「どうぞどうぞ」

アスモ「えっと、なになに……国家霊法機関『九重』?」

男1「その男1です」

アスモ「で、その男1が何用じゃ?」

受け取った名刺から顔を離し、アスモデウスが男1を見る。
その時ちょうど、廃ビルの穴の向こうから幾つもの声がアスモデウスたちのいる廊下へと入って来た。

女2「ま、その話はボチボチと」

男3「いや、ここで説明しとこう、リーダーもアレだから」

アスモ「だ、誰じゃ貴様ら!?」

多人数がいきなり現れて、あたふたと慌てるアスモデウス。
それを見た男1はゆっくりと肩を下ろした。

男1「はい、一から説明しましょう」 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/07(水) 23:47:26.48 ID:myLt3n4DO<> ……………………

アスモ「ほうほう……国家と国民の安全を守るために設立された霊的機関、とな」

男1「はい、そうです」

女6「分かったかな? オチビちゃんたち」

バフォ「誰がオチビちゃんたちだ!」

女8「まあまあ、それよりも、その体に引っ付いてる……服? 寒そうだから私のコートを貸してあげるのです」

バフォ「あっ、……ありがと……」

アスモ「ワシはこのままでよい、気にするな」

男四人と女四人、そして悪魔二人を交えた計十人が廊下の片隅に車座になって話し合う。
はるか後方で妹と中年が繰り広げている死闘の音を背景に、みんなの話はトントン拍子で進んでいた。

アスモ「それで、その国家と国民を守るための霊的機関とやらがなぜココに?」

男1「申し訳ありません、それは機密事項なので」

女8「そうなのです、『魔神』クラスの悪魔がこの近辺に現出したらしい事は秘密なのです!」

男3「おい!」

女8「あ! も、申し訳ありませんなのです!」

アスモ「……はは」

口を滑らせた女8は慌てて周囲の仲間に謝る。
そんな茶目っ気たっぷりの愉快な姿にアスモデウスは軽く愛想笑いを返していたが、内心冷や汗ものだった。

──やべぇ。

たらり、とアスモデウスの頬を一筋の汗が流れた。

バフォ「ほう……魔神? へぇ……魔神……ねぇ?」

アスモデウスの隣にいるバフォメットの表情が薄笑み浮かべたものに変わる。
まるで、いじめられっ子が反撃の機会を見つけたような顔に。

アスモ「そ、それで『魔神』とやらを、おぬしらはどうするつもりじゃ?」

だが、アスモデウスはあえてバフォメットから視線を逸らし、その顔を見ないようにしながら震える声で男女に問うてみた。

男1「知られては仕方ありませんね」

男1は軽くため息をつき、そして表情を引き締めると、真っすぐ視線をアスモデウスに向けながら力強いハッキリとした声で答えた。

男1「『魔神』とその勢力を殲滅します。『魔神』の一片たりともこの世界に残さずに消し去るのが、国を守る我々の使命です」

場が水を打ったように静まりかえる。
そんな沈黙に落ちた場を再び動かし始めたのは、やはり愛想笑いを浮かべるアスモデウスの震える声だった。

アスモ「そ、そうじゃな……魔神とか、怖そうじゃもんな……」

バフォ「そうだね、アスモデ……」

アスモ「シャーラップ!!」

アスモデウスは慌ててバフォメットの口を押さえ込んだ。
アスモデウスという名前は悪魔の中でもトップクラスの存在で、魔術や霊法に造詣がある人間ならば誰もが知っている程だった。

アスモ「わかっとるじゃろ? わかっていてワシの名前を出そうとしたじゃろう?」

バフォ「ふぉんはふぉとはいよ、あふもふぇうす」(そんなことないよ、アスモデウス)

もごもごと、口を押さえられたバフォメットがニヤニヤ笑いながら答える。
それはとてもとても、悪魔らしい笑みだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/09(金) 01:20:27.52 ID:GvmW/kQDO<> 男1「ところで、君たちは何者なんだい? 見たところ霊的な力を持ってるようだけど」

アスモ「あ、ああ、それはじゃな」

バフォ「よくぞ聞いてくれました!」

アスモ「っ!?」

突然声を上げたバフォメットにアスモデウスはイヤな予感を覚える。
果たして、その予感は的中していたようで、バフォメットは堂々とアスモデウスの名乗りを勝手に挙げやがった。

バフォ「こちらにおわす御方をどなたと心得る! この方こそ『魔神』アスモデ……」

アスモ「ストープッ!」

右腕を大仰に横へ振り、女8に貸してもらったコートをはためかせながらバフォメットが口を開く。
アスモデウスはそんなバフォメットの口に手を伸ばし、無理やり言葉を途中で飲み込ませた。

バフォ「む……むぐっ」

アスモ「はぁ……はぁ……」

バフォ「ふぁれ〜? ほうひはんふぇふは〜? あふもふぇうすはま〜?」(訳 あれ〜? どうしたんですか〜? アスモデウス様〜?)

アスモ「こ、こやつ……!」

──増長してやがる。

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて小物っぷりを見せ付けるバフォメットに、アスモデウスのこめかみから青筋が浮き出てくる。
だが、バフォメットは懲りずにアスモデウスへちょっかいを出してきた。

バフォ「あ〜れ〜? どうしたんですか〜?」

バフォメットは小馬鹿にしたような声音で言いながら、アスモデウスの額をちょんちょんと人差し指でつついてきた。

アスモ「い、いっぺんぶん殴ってやろうか?」

バフォ「あ〜? そんなこと言っちゃうんですか〜? 名前を大声で叫んじゃいますよ〜?」

アスモデウスが怒りに震える声で言うと、バフォメットは一層調子に乗って答える。
そして、バフォメットが人差し指を折り曲げてアスモデウスの額にデコピンをかました時だった。

アスモ「……っ!」

ブチッと、アスモデウスの頭の中で何かがキレた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/09(金) 02:42:22.83 ID:GvmW/kQDO<> アスモ「あ?」

アスモデウスは眉間に深くシワを刻みながら悪態をつき、おもむろに右手を伸ばしてバフォメットのボーイッシュな前髪をつかみあげた。

バフォ「ひぃっ!?」

ガシッと前髪をつかまれたバフォメットがアスモデウスの気配に威圧され、短く悲鳴を上げる。
するとそこに、荒々しいアスモデウスの怒声が勢いよく追撃した。

アスモ「な〜にが、『名前を大声で叫んじゃいますよ〜?』じゃ!」

そして力任せにバフォメットの髪を引っ張るアスモデウス。

バフォ「いたっ! いたいッ!!」

アスモ「貴様に言われんでも自分から名乗ってやるわい!」

そしてアスモデウスはバフォメットの髪をつかんだまま大きく息を吸い込み、その場で高らかに名乗りを上げた。

アスモ「ワシはアスモデウス! 悪魔の中の悪魔! 魔神の中の魔神ぞ!!」

九重の連中「……っ!?」

ハッと、アスモデウスの名乗り上げを聞いた九重の面々が息を飲んだ。

バフォ「あ、あぁ……言っちゃった……」

アスモ「何をヘタレた顔をしておる! 貴様もバフォメットという立派な悪魔じゃろうが!!」

九重の連中「っ!?」

バフォ「ち、ちょっ!?」

バフォメットという名前を聞き、再び九重の面々が息を飲む。
正体をばらされたバフォメットは前髪をつかんでいるアスモデウスの手を振りほどくと、今度は逆にアスモデウスの腕につかみ掛かった。涙目で。

バフォ「なにをばらしてくれちゃってんだよぅ! 殺されるじゃねえかよぅ!」

アスモ「貴様がばらそうとしておったから、ワシが代わりにばらしたまでじゃ!」

バフォ「冗談だよぅ! ほんのお遊びだよぅ! 考えろよバカァ!」

アスモ「お遊びで魔神にケンカを売るな! このオトコオンナ!」

バフォ「う、うわ〜ん! オトコオンナって言ったな〜!」

腕や肩をつかみ合い、アスモデウスとバフォメットはケンカを始める。
その様子を、九重の男女はポカンと呆気にとられた顔で見ていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/09(金) 03:43:21.71 ID:GvmW/kQDO<> 〜 数分後 〜

アスモ「はぁ……はぁ……」

バフォ「ぜぃ……ぜぃ……」

取っ組み合いのケンカも終わり、力尽きた二人は「大」の字で仰向けになって、対称的に二人縦に並んで廊下に倒れていた。

アスモ「や、やるな……」

バフォ「お、おまえこそ……」

ケンカの後に生まれた小さな友情を感じながら、二人は倒れたままで言葉を交わしていく。

バフォ「ところで、どうする?」

アスモ「そうじゃな、最後くらいは悪魔の意地を見せねばな」

九重の連中に正体がばれてしまった以上、どうにかしないといけない。
アスモデウスはゆっくりと顔を上げ、バフォメットの方を向いた。

アスモ「ワシは魔力切れじゃが、おぬしは?」

バフォ「妹にぶっ放したヤツで全部」

アスモ「お互いにスッカラカンか……くくく」

バフォ「ふふふ……愉快だよ」

アスモデウスとバフォメットは、なぜだか笑いが止まらなかった。
それは多分、生き様のせい。
神の庇護を離れ、誇り高く自分の生き様を貫いた悪魔だからこそ到達しうる……

男1「ところで、ちょっといいかな」

男1がズカズカと割り込んできた。

アスモ「なんじゃ、それっぽく決めておったのに」

バフォ「そうだぞー、変身ロボを途中で破壊するくらい空気を読んでないぞー」

男1「い、いや……というか、君たちは悪魔じゃないよね?」

アスモ・バフォ「……へ?」

何を言っているのかわからない、と言わんばかりにアスモデウスとバフォメットが首をかしげる。
すると、男1は苦笑いを浮かべながら続けた。

男1「ここにいる九重の連中は『探索』や『感知』といった能力は低いけど、君たちが言ったバフォメットやアスモデウスみたいな悪魔を間近にしたら、さすがに気が付くよ」

女8「そうです! 世の中は恐い人たちが多いのです! 少しくらい霊力があるからって自分を悪魔と偽っては危険ですよ!」

女8が話に付け加える。
アスモデウスとバフォメットは、目を丸くして互いに顔を見合せた。

アスモ「えっと……」

バフォ「つまり……」

二人の頭の中でカシャンカシャンと、今の状況に対する答えが組み上がっていく。

(訳)
お互いに魔力がスッカラカン。

悪魔として感知されるラインを下回る。

やったね! 気付かれてない!

バフォ「た、助かった……助かったのはいいけど……」

アスモ「ふ、複雑な気分じゃ……」

誇り高い生き様を持つ悪魔二人は、肩を落として小さくため息をついた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/09(金) 07:26:29.66 ID:GvmW/kQDO<> 男1「まあ、君たちの事はさておき」

男7「向こうの嬢さんは何者なんだ?」

男たちが視線で廊下の向こうを指し示す。
そこにはいまだに死闘を続ける妹と中年がいた。

アスモ「それはこっちのセリフじゃ」

アスモデウスは腕を組み、妹と中年の戦いへと顔を向ける。

中年が持つ日本刀の軌跡が鈍色の紋様を宙に描き、妹はそれを紙一重で避け続けている。
一見すると妹が一方的に押されているように見えるが、これはきっと面倒事になるのを妹が避けているせいなのだろうとアスモデウスは考えていた。
実際、妹はアスモデウスたちに放っていた鋼弾を中年には一度も撃たず、また壁を破壊したり天井を蹴ったりといった常軌を逸した怪力を、中年や九重の連中が来てから一度も見せていない。
これは近所や自分の町の人々とは違い、「何らかの組織」に怪力を見せる事の危険性を妹が承知しているからに間違いなかった。

しかし、怪力を隠して戦っているからといって妹に余裕があるのかと言われたらそうでもない。
中年の日本刀は的確に妹の動きを捉え、妹は超人的な反射速度でそれを感知できるが、怪力を使わない「常人」的な回避を行わなければならなかった。
これまで妹が反撃を行えなかったのはそのせいで、つまり怪力を使えない「常人」クラスでは手が出せない程の刀術を中年が体得しているという証明だった。

アスモ「あの中年、ただ者ではない」

ハンディキャップ付きながらも、妹と互角に渡り合う中年にアスモデウスが小さく唸った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/03/09(金) 14:55:34.42 ID:GvmW/kQDO<> 男3「そりゃ、うちらのリーダーは『日本のドン・キホーテ』と呼ばれる人だからな」

アスモデウスの言葉に男3が答えた。

アスモ「日本のドン・キホー?」

アスモデウスは記憶をまさぐってみる。
ドン・キホーテは小説の題名かつ主人公の名前。
内容は騎士道小説を読みふける男が自分を伝説の騎士と思い込んで発狂する話。
大まかな内容をアスモデウスが軽くうつむきながら思い出していると、隣から落ち着いた様子の女がアスモデウスに話し掛けてきた。

女6「あなたたちも霊力があるのなら、霊法の初歩くらいは知っているでしょう?」

バフォ「初歩?」

女8「信じる事です! 自分自身や霊法の力を!」

首をかしげたバフォメットに女8が説明する。
そこでアスモデウスはドン・キホーテという意味を理解した。

アスモ「あの中年、思い込みが強いのか?」

魔術を行使する際には自己の存在を拡張し、世界への影響力を増すのが常套手段である。
クスリや香などの道具を使う例もあるが、手っ取り早いのは思い込みによる暗示であり、魔術師で思い込みが強いという事はイコールで行使する魔術も強い事が多い。
アスモデウスは東洋の魔術に詳しくないが、根底の部分は同じで間違いないはずだった。

男5「いや、ただの思い込みじゃない。パソコンモニターの向こうには嫁と娘がいて、毎日おやすみなさいのキスまでしているらしい」

アスモ「……それって、ただの病気」

女8「で、でも! その思い込みのおかげでリーダーの霊法は日本最強なんです!」

男3「そう、リーダーは思い込みによって『暗黒に捕われたヒロインを助ける主人公』補正が常にかかっているんだ」

男1「信じる力は偉大という訳です」

バフォ「いいから病院に連れてってやりなよ」

アスモデウスの言葉を隠すように男女が矢継ぎ早に口を開き、バフォメットが静かに突っ込む。
すると、そこへ女2が真剣な表情で割って入り、アスモデウスとバフォメットの二人を正面から見据えた。

女2「リーダーから狂信的な思い込みを取ったらタダのゴミムシよ、一応は社会貢献できてるから放置してあげて」

有無を言わさぬ口調。
そこには「俺たちだって好きでやってんじゃねーんだよバカ!」という大人の事情が垣間見えていた。

アスモ「……おぬしらも大変じゃな」

男1「仕事ですから」

そう言って男1は小さく肩を上下させた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)<>sage<>2012/03/10(土) 16:49:27.81 ID:OMPPgGXgo<> おつかれ!
妹なにものだよww <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/03/16(金) 20:27:18.54 ID:xZQnTxClo<> ふええ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<>sage<>2012/03/17(土) 00:09:34.24 ID:Mf5RFxQKo<> 続きないと死ぬぅ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)<>sage<>2012/03/19(月) 02:44:42.87 ID:CfGWdSGAo<> ふぇ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/04/10(火) 01:26:07.24 ID:H+SX7ivDO<> アスモ「しかし、なぜ妹が襲われておる? おぬしらや、あの中年は妹を『魔神』と勘違いしておるのか?」

男3「……あんたら、某魔法少女のOP曲を歌っただろ?」

バフォ「歌? ……あー、一応は」

女8「それでリーダーがトリップしちゃったんです!」

男1「今のリーダーは魔法少女を悲劇から助ける英雄キャラになりきっている、というわけです」

バフォ「いや、止めろよ」

バフォメットがジト目でツッコミを入れる。
すると、男1はバフォメットに顔を向け、困ったように小さく首を振って答えた。

男1「申し訳ありません、それは『もう』出来ません」

アスモ「『もう』?」

男1の妙な含みにアスモデウスが首をかしげる。
男1はアスモデウスに小さくうなずいて説明を始めた。

男1「はい。あなた方は多分知らないでしょうが、この日本国にはたくさんの術師がいます」

男3「そういう超常の力を悪い事に使う奴らがいるから、政府は管理しやすいように術師になった奴らへ役所への登録義務を課しているんだよ」

アスモ「……話がよく見えんぞ?」

内容が妹の話から逸れていってる気がしたアスモデウスが男たちへと問い詰めるように目を細めると、女8があわてて口をはさんできた。

女8「えーっと、まれに手続きをしていない超強い術師がいるんですよ! 困ったことに!」

女6「そう、例えば……うちらのリーダーと互角かそれ以上の実力を持ってたり、ね?」

アスモ「……」

ふむ、とアスモデウスは口を閉じて考える。
どうやら、妹の能力はこの連中にとってもイレギュラーという事らしい。

アスモ(身元を確認するまで奴らは妹を逃がすつもりが無い、か)

リーダーとやらを止めないのは、妹の力量の底を把握するためなのだろう。
タイミングがタイミングなので、魔神との関連も疑っているかも知れない。
アスモデウスがそんな風に頭をひねっていた時だった。

バフォ「おい、どうするんだよ?」

バフォメットがアスモデウスに小声で話しかけてきた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/04/11(水) 18:02:50.90 ID:xEnFzN32o<> 待ってた! <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/05/01(火) 16:56:57.79 ID:BKntfQyDO<> アスモ「なんじゃ、いきなり」

バフォ「耳を貸せ、耳を」

アスモ「はいはい」

アスモデウスが首をバフォメットに傾けると、バフォメットはすかさずアスモデウスに近づき、小さく耳打ちした。

バフォ(この状況から早く逃げ出す方法を考えにゃ、ヤバイだろうが)

アスモ(うむ? そうでもないと思うが)

政府組織に嗅ぎ付けられたのは危ういが、自分たちの正体はまだ知られていない。
いずれバレるだろうが、おそらくそれは今や明日と早急ではないだろう。
またアスモデウスもそこまで地上に長居するつもりがない。
政府がアスモデウスを魔神だと気付いた時には、すでに魔界にトンズラこいてる算段である。
首をひねるアスモデウス。
そんなアスモデウスの姿を見て、バフォメットは語気を荒げた。

バフォ(違う! 妹の事だよ! 妹の事!)

アスモ(妹? ……力量差から見れば、あの中年よりも……)

バフォ(そうじゃない! さっきまで三人で死の鬼ごっこをしてただろうが!)

アスモ(……あ)

すっかり忘れていた。
中年の登場で無意識に「敵」というカテゴリーが埋まり、妹がフリーになっていた。
だだ、それは少なくとも、アスモデウスの中では妹が「口や態度は滅茶苦茶だが、ギリギリで生かしておいてくれる」という程度に信頼を獲得して……

アスモ(い、いやじゃ! そんな信頼関係いやじゃっ!)

バフォ(何をぶつくさ言ってるんだよ! アスモデウスも、この機会に上手く逃げる方法を考えてくれよ!)

アスモ(う、うむ。仕方ない)

そう、アスモデウスが答えた時だった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/05/01(火) 17:15:38.35 ID:BKntfQyDO<> 中年「ええい! やるな、魔女めっ!」

妹「誰が魔女よっ! ……ったく」

死闘を繰り広げていた二人が、互いに跳び退いて距離を取った。

中年「だがコレで全力と思うなよ! 私には奥の手があるのだ!」

妹「奥の手?」

妹が切れ長の瞳を細める。
すると、中年ではなく九重の連中が騒ぎだした。

男1「まさか、アレを!?」

女9「『オラクル』を使う気ですかーっ!?」

アスモ「『オラクル』?」

男3「あ、ああ……リーダーがトランス状態を強化するための術法だ」

女4「別名『戦闘BGM追加』!!」

バフォ「び、びーじーえむ?」

男7「まあ見てろ、今から始まるぞ」

男7の言葉に、アスモデウスとバフォメットが口を閉じて中年を注視する。
変化はすぐに現れた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/05/01(火) 17:25:12.74 ID:BKntfQyDO<> 妹「……!」

突然、周囲から音が消えた。
人がいなくても、空のジェット機や小鳥のさえずり、音は世界に散らばっているというのにだ。

妹の表情がにわかに硬くなる。
緊張に辺りの空気が張り詰めていくが、音はすぐに戻ってきた。

……妙に荘厳なBGM付きで。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/05/01(火) 18:03:38.78 ID:BKntfQyDO<> 男1「BGMを確認しろ!」

男3「そうだ! オラクルによるBGMはランダム再生、もし『Nice boat.』なんて事になったらリーダーの戦力が0になる!」

全員「……」

九重の全員が耳を澄ませる。
聞こえてきたBGMは勇壮で、荘厳なオーケストラ演奏。
魂を奮い立たせるその旋律は、明らかに雑魚戦仕様のBGMではない。

サビに入らずとも、すぐに答えは出た。

全員「『vs ロードブレイザー』!!」

アスモデウスとバフォメット、そして妹以外の連中が同時に声を上げた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2012/05/01(火) 18:23:10.80 ID:BKntfQyDO<> その瞬間、中年にも変化が起きた。

中年「うぉぉッ!」

妹「なに!?」

中年の日本刀が蒼く輝き始める。
力強いその蒼光は中年の気合いに呼応するかのように輝きを増していき、やがてその光が最高潮に高まるやいなや、中年は地面を蹴って妹へと走りだした。

中年「覚悟っ!」

妹「っ!?」

中年の動きに妹は目を剥いた。

──速い。

それは先ほどまでの中年からは想像もつかない素早さだった。
妹が反応して動き出す頃には、すでに中年は一足飛びで日本刀の間合いに妹を捉えている。
そのまま中年は日本刀を振り上げ、妹に斬り掛かって来た。

中年「でえりゃあぁぁッ!」

妹「くっ!」

紙一重、妹が身を横に反らして難を逃れる。
肩口すれすれを蒼い残光の軌跡が奔り、妹の長い黒髪を数本ほど斬り飛ばしていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/02(水) 01:49:27.13 ID:wA+WdcKBP<> しえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(三重県)<>sage<>2012/05/05(土) 01:15:32.49 ID:+kkCIDM9o<> きたい <>