VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/07(火) 05:08:35.10 ID:bWR0pPbDO<>『ゆるゆり』の赤座あかりを主人公に据えた、禁書再構成。

インデックスは上条さんのベランダの干し布団じゃないと嫌だ!
という方にはおすすめできません。

遅筆ですが話の流れは大体決まっているので、要望はあまり聞き入れられないと思います。

日常の場面で誰々と絡ませてみたい、何処何処に行かせてみたい、程度ならぎりぎり可能(かも)。

※ちなつとは本当は中学校で再会ですが、本人気づいてないはずなので『出会った』と表現しています。ご了承下さい。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1328558915(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>インデックス「あかりんマジ天使なんだよ!」 >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:10:30.79 ID:bWR0pPbDO<> 1

もっと頼もしくなれたらなって、思ったことがある。
最初は単なる思いつき。
自分と違って大人びているお姉ちゃんに憧れて、漠然とそう思っただけ。
今すぐにはなれなくても、いつかなれたらいいな。
頭を優しく撫でられながら、ただただ憧憬の眼差しを送っていた。

でも、中学校に入学して、ちなつちゃん達と出会って。
昔からの親友、京子ちゃんや結衣ちゃんと一緒に娯楽部を作って。
時間が経ち仲良くなるにつれて、小学校までとは少し違うんだって感じた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/07(火) 05:10:32.32 ID:PH28yKWho<> アッカリーン <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県)<>sage<>2012/02/07(火) 05:11:45.56 ID:0FJaF7YP0<> こんな時間でも見てるよ!
期待 <> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:13:01.95 ID:bWR0pPbDO<> >>2

悩み事。
それくらいは小学校まででも普通にあることだけど、中学でのみんなが抱く悩みは、小学校で聞いたそれより切実に思えた。

恋の悩み、成績の悩み、部活動の悩み。
内容は人それぞれだけど、どれも一筋縄にはいきづらいことばかり。

自分は――あかりは、そんな人達を前にしても、大して役に立てなかった。
ううん、大してどころか全然……
いてもいなくても、同じだったかもしれない。
だって、自分には何もない。

京子ちゃんのような不思議と人を惹きつける魅力。
結衣ちゃんのようなしっかりとしていられる強さ。
ちなつちゃんのような積極性。

そして――お姉ちゃんのような包容力。

どれも、自分にはないものだ。
持とうとしても持てないもの。個性。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:15:47.21 ID:bWR0pPbDO<> >>5

本当のところ、影が薄いっていつも言われるのは、個性を持ってないからなんだって。
分かっていた。
個性があれば悩みをどうこう出来るわけじゃない。
けど、思いもよらない考え方で悩みを解決に導くのは、いつだって個性のある人だ。
京子ちゃんのような、結衣ちゃんのような、ちなつちゃんのような、お姉ちゃんのような誰か。

家族が、友達が、困っているのに何も出来ない無力感。
そんな自分が悔しくて、恨めしくて。
いつしか、憧憬の眼差しは羨望に変わっていた。
持っている他人《ひと》。持たざる自分。
焦りばかりが募っていく。

どうやったらなれるだろう。
京子ちゃんのような頭の良さ?
結衣ちゃんのような運動神経?
それとも、もっと違う何か?

分からない。
一体、どうしたらいいんだろう。

早く、早く。

大好きな人達を支えられる誰かになりたい――――。


<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:17:35.61 ID:bWR0pPbDO<> >>6



「――――あかり空気じゃないよっ!?」

ピンポイントでトラウマを抉る。
そんな悪夢に苛まれ、飛び上がるようにベッドから起き上がると、そこは知っているようで知らない部屋だった。

「……あれ?」

形容しがたい、もやっとした感覚。

コトン、と首を傾ぐ。

――なんだろう、何か違うような。
むむむ、と、しかつめらしく唸って、解けない謎に煩悶する。

おかしい。けど、おかしくない。
変だって思う気持ちはあるのに、変じゃないとも思う。

それに、うっすらとした膜に包まれている、とでも言い表すべきか。
自分とそれ以外とを隔てる何かがあるような気がした。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:19:44.42 ID:bWR0pPbDO<> >>7

って、あっ――寝起きだからまだ頭が半分寝てるだけか。

さもあらん。
そう考えてみれば、別段不思議なことじゃなかった。

なーんだ、深刻に考えすぎちゃったよ。
謎は解けたっ、なんてね。

同時に、もしかしたらこれでキャラが立つかも、なんて邪な期待も吹き飛ぶ。
こんなこと、みんな――特に、京子ちゃんに知られたら笑われちゃうよ。
気恥ずかしさに身をくねらせていると、横合いから突然声がかかった。

「何をしていらっしゃいますの?」

「えっ!?」

驚いて声のした方に振り向く。
するとそこには、見慣れない制服を着た女の子が一人。
隣のベッドに腰かけて、怪訝そうな顔をしていた。

「いきなり大声を出して飛び起きたかと思えば、今度は何なんですの?
近所迷惑、というか同室迷惑ですからほどほどになさいな」

同年代くらいだろうか。
やや赤みの強い茶髪でツインテールを作りつつ、真正面のわたしに苦言を呈す女の子。
字面だけ追えば慇懃だけど、敬うような響きは一切なかった。
むしろ刺々しいくらいだ。
と言っても、たしなめるような呆れているような、そんな感じだけど。
<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:21:23.13 ID:bWR0pPbDO<> >>8

……あれ、って言うかこの子誰なんだろう。

「あ、あの……どちら様ですか?」

「はあっ?」

ごくごく真っ当な質問をしてみたら、盛大に眉をひそめられた。
何を言ってるんだこいつは、とでも言いたげな顔だ。

あ、あれっ、もしかしてあかりがおかしい?
一人部屋なはずの寝室にベッドがもう一つあって、しかも知らない女の子まで居合わせている。
これって、割と普通のことだったりするのかな。

よく使っている寝間着に視線を落として考えてみるも、答えは出ない。
そんなこちらを見かねたのか、女の子が吐息した。
<> >>1<>saga<>2012/02/07(火) 05:23:31.89 ID:bWR0pPbDO<> >>9

「まったく……、寝ぼけてないで身支度なさいな。遅刻してしまいますの」

「あっ、ごめんね黒子ちゃん」

よろしい、と満足げに微笑んで去っていく。
あっちは洗面所、だったろうか。
当たり前の如くそれを理解している自分に気付いて――ぞっとした。

「あ、あれ……?」

白井黒子。さっきの女の子。
ここは常磐台中学の寮で、彼女が同室。
学園都市、能力開発、警備員≪アンチスキル≫、風紀委員≪ジャッジメント≫……。

他にも様々な単語が想起されては消えていき、戸惑いを一層深める。

「え……、えぇ……?」

混乱した。
寝た覚えのない寝室、事もなげに名前を答える自分、馴染みのない単語。

そうだ、今思えば部屋の内装がまるで違う。
全く別の部屋にいれば、おかしく感じて当然だ。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:27:37.03 ID:bWR0pPbDO<> >>10

おそるおそる、辺りを見回す。

この状況、この寝室、インテリアのひとつひとつに至るまで。
どれもこれも不自然なのに、自然だと囁く自分がいた。
――知らず、総身は震えていた。

落ち着こう。
そう思っても、震えは一向に止まらない。止められない。
得体の知れない出来事に対する恐怖が、何にも勝っていた。


<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:30:24.16 ID:bWR0pPbDO<> >>11



超能力者の街。
能力開発を行う学校とは、一体どんな人外魔境なのか。

戦々恐々としながらも登校し、授業に出る。
並み居る超能力者達と肩を並べて、一風変わったカリキュラムに興じて。

『すけすけ見える』なる、透視能力を測るものを始めとした、多種多様な能力テストも体験した。
自分自身はまぐれ当たりくらいしか期待出来なかったけれど、色んな能力を生で見られた。

炎や水、風を生み出す、比較的オーソドックスな能力から、磁力や加速度、温度といったものを操る力。
一度は憧れる瞬間移動、いわゆる空間移動≪テレポート≫能力など。

多岐に渡る能力の実演は、大パノラマを見ているような爽快感を与え、感動で好奇心を満たしてくれた。
テレビぐらいでしか見たことのないロボットもうようよしてるし、びっくりするほど高性能だし。

一歩間違えば刃物よりずっと怖い人達にびくびくしていたけど、話してみると物腰も柔らかくて良い人ばかりだし、勉強で分からないところは優しく教えてくれるし、食堂のご飯はおいしいし至って平和だし――――。

「あれ、普通に楽しくない?」

気づけば、普通に超能力者ライフを楽しんでいた。

「楽しいって、何がですの?」

「あっ、ううん、何でもない」

不思議そうに見つめてくる黒子ちゃんにぶんぶんと首を振って返し、笑顔で取り繕う。

黒子ちゃんは「変なことを言ってないで帰る支度をなさいな」と言って、机の中の教科書を鞄にしまい込んでいる。
自分も、言われた通りに支度を進めた。

そう、今は放課。
気づけば今日の学課は終了し、ホームルームも終わっていた。
光陰矢の如し、という格言さながらのひとときだった。
見るもの全てが目新しく、また興味深い。
今でも十分に幼いけど、もっと子供の頃。
絵本の世界も信じていた童心に立ち返る気分だった。
<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:33:09.00 ID:bWR0pPbDO<> >>12


「そういえば今日はどうしますの? わたくし、≪風紀委員≫の仕事がありますけれど」

夢の超能力映像を反芻して噛み締めていると、不意に黒子ちゃんがそんなことを言い出した。
作業しながらの言葉に、思わず首を捻る。

「どうするって、何を?」

「決まっています。一七七支部へ遊びに――もとい、実地見学しに来るのか来ないのか、ですの」

「ええっ、行ってもいいの!?」

「……? ええ、あまり仕事の邪魔をしなければ、ですけれど。――というか、いつも来ているでしょうに」

何を今さら、と云った風に言われて、はっとした。

記憶にある≪風紀委員≫の職務から考えて、そう軽々しく行ける場所じゃない。
でも、彼女の勤める支部に限れば、確かに入り浸っていたような記憶があった。

まるで、経験してきたかのよう。
実感の湧かないそれらに、複雑な気持ちは禁じ得ない。
とは言え、答えは決まっていた。

「あはっ、そうだったね」

「それでどうするんですの?」

「うん……あかりも行っていい?」

言ったと同時にちょうど支度を終え、椅子から立ち上がる。

まだ残っている生徒も多く、雑談が飛び交う教室。
人いきれでもあるのか、少しだけもわっとした。

黒子ちゃんも、楚々として立ち上がった。
そしてくるりと背を翻し、こちらに向き直った。

「もちろん。歓迎いたしますの、赤座さん」

にっこりと微笑む黒子ちゃん。
その二の腕には、≪風紀委員≫の腕章が巻かれていた。


<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:34:57.45 ID:bWR0pPbDO<> >>13



「みんなはいない、のかなぁ……」

≪風紀委員≫第一七七支部に向かう道すがら。
記憶の洗い出しをしているうち、ある可能性が濃厚であることに気づき、ぼそりとひとりごちた。

「頭に花飾りを乗っけているのが初春。
きっと、見かけたらすぐに分かりますの」

抜けるような青空の下、舗装された道を並び歩く黒子ちゃんは、先程から続いていた≪風紀委員≫の同僚の話題を振ってくる。

幸い、独り言には気づかなかったらしい。
雑多な喧騒の中に上手く溶け込んでくれたのだろう。

脱線しかけていた意識をさっと引き戻し、受け答えた。

「へえー、何だかトレードマークみたいだね。
どうして花飾りを乗せてるんだろう?」

「さあ、何かこだわりがありそうではありますが……」

どうしてなんでしょう、と考え込む素振りを見せる黒子ちゃん。
けれど断念したのか、早々に話を再開した。

「そういえば、赤座さんはお姉様も学園都市にいらっしゃるとか?」

「うん、そう……だよ。あかねって言うんだ」

危うく“みたい”と言いそうになって、間一髪堪える。
そう言ってしまうと、いらぬ誤解を招きそうだったからだ。
とは言え、学園都市にいるかは正直自信がない。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:37:56.62 ID:bWR0pPbDO<> >>14


今日目覚めてからまだ会えてないし、このヘンテコリンな記憶もどこまで信用していいものか。

ただ、携帯を見た限りでは、一応やり取りはあるようだ。
いることはいる……はず。
支部に寄った後、会いに行ってみようと思う。

「確か、赤座さんは≪原石≫だったと思うのですが……お姉様も?」

「ううん、お姉ちゃんは違うよ。えーっと、」

話しつつ、記憶を手繰り寄せる。
探し物はお姉ちゃんが持つ能力の情報。
首尾よく該当する情報を見つけ出し、引き出す――、

「えぇっ!?」

「あら、どうしたんですの?」

「あ……、ううん、何でもないよ。
えと、お姉ちゃんの能力は――」

気を取り直す。
予想に反しすぎていてつい取り乱してしまった。
引き出された情報、それは、

「『あかりレーダー』≪センシティブソナー≫だよ」
「センシティブソナー?」
自らの体表から、ある特殊な波動を発する能力。
張り巡らした波動の範囲内にいる限り、対象までの距離、対象の方位、対象の状態。
果ては、表層の心理すら読み取ることを可能にする。
ただし、対象にできるのは『赤座あかり』のみ。
<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:41:20.57 ID:bWR0pPbDO<> >>15


「ず、随分ピンポイントな能力ですのね……」

そんな、何かの冗談みたいな能力の説明を受けて、黒子ちゃんは反応に困っているようだった。
あかりも、反応に困る。

「あ、あはは。
一応、大能力者≪レベル4≫みたいだし……すごい、のかな?」

対象は限定的だが、原理の技術転用がある程度効くため、らしい。

難しいことはよく分からない。だから、いまいち感覚が掴めないのだ。

常磐台の勉強もちんぷんかんぷんだったよ……。
教育水準の高さに舌を巻いていると、黒子ちゃんが少し考えてから言った。

「そうですわね……
一見、使用者自身は応用の難しそうな能力ではありますが、その性能は現行のソナーやレーダーの比ではありませんから……。
門外漢のわたくしには詳しく分かりかねますけれど、相当に強力な能力だと思いますの」

黒子ちゃんの言っていることからして、よく分からなかった。
だけど、他ならぬ≪大能力者≫の黒子ちゃんが言うからにはそうなんだろう……たぶん。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:43:32.40 ID:bWR0pPbDO<> >>16


「あかりは黒子ちゃんみたいな能力が欲しかったなあ……」

素直な心情を吐き出す。

せっかくの学園都市。いるからには、不可思議な能力に憧れるというものだ。
中でも、最も有名な超能力の一つとも言われる、空間移動≪テレポート≫能力。
その使い手な黒子ちゃんには憧れてしまう。

「んなっ、学園都市でも数少ない≪原石≫の貴女が言うんですの?」

「それもひっくるめてだよ〜……」

珍しいだとか、希少性が高いのは分かるけど。
贅沢を言えば、やっぱりテレポートがよかった。

「はあ、そんなものですかねえ……」

「だってテレポートだよ、テレポートっ! 一瞬でびゅーんって行ってどくしゅーんって、ね?」

「どんな擬音ですの……。
同意を求められても、赤座さんの想像の中でテレポートは一体どうなって――っと、着信ですわ」

失礼します、と律儀に詫びてから、黒子ちゃんは電話に出た。

手持ち無沙汰になったので、周囲の景色でも見渡してみる。

――やっぱり、都会だなあ。

外の世界より三十年は進んでいるという、学園都市の科学技術。
東京西部にあることもあってか、田舎という言葉とは無縁の世界だ。

黒子ちゃんが耳に当てている携帯を盗み見る。
……近未来的なデザインだ。
景観はそこまで近未来的じゃないのに、どうして携帯だけ。
黒子ちゃんの使う携帯は、学園都市でも最先端の技術が駆使されているらしい。
三十年流行を先取りした結果があれなのかな。
少しだけ、三十年先の未来を憂いた。

「――赤座さん」

電話は終わったのか、いつの間にか黒子ちゃんがこっちを見ていた。

「支部に行く前に仕事ですの。少しだけ寄り道しても?」

断る理由もなく、あかりは首を縦に振った。

<> >>1<>sage<>2012/02/07(火) 05:47:31.57 ID:bWR0pPbDO<>
今日はここまで。

ここは面白いSSが多いからどれを読むか迷いますね
食指が伸びすぎて時間を忘れそうでした… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)<>sage saga<>2012/02/07(火) 10:03:18.34 ID:hpWVg7QOo<> 乙

期待してる。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2012/02/07(火) 19:34:09.35 ID:LkMy7B5O0<> >>1乙
期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<><>2012/02/07(火) 19:42:33.00 ID:LkMy7B5O0<> >>1乙
期待 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)<>sage<>2012/02/07(火) 19:43:29.58 ID:LkMy7B5O0<> ageてしまった
すまん <> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 21:58:29.48 ID:i3T+BxkDO<> 5


呼び出されたという公園。
そこに行くと、激しく言い争う人達を見かけた。

「あたしが不良共片付けてる間に胸を鷲掴みしてるなんて、イイ度胸してんじゃない」

「違っ、あれは偶然――」

「呼吸するようにセクハラを仕掛けてんじゃないわよ! 女の敵はいっぺん死んどきなさい!」

ちょっと訂正。
片っ方の人が一方的に言い掛かりをつけられてる。

「話を聞いてくれよ!」

「電流で黒焦げにしてから聞いてあげるわ」

「それ既に死んでますよね!?」

「あら、首の皮一枚繋がってるかもしんないわよ。運良く生き残ったら、冥土の土産に言わせてあげる」

「言い訳はいつからそんなにハードルが高くなったんだよ!?
あっごめんなさい、待って――
うっ、うわぁああっ、不幸ぉだぁああああああーーっ!!」

争いは会話に留まらず、青白く迸る電流まで交えて。
応酬ではなく、短い茶髪をした女の子だけが攻撃し、ツンツン頭の人は守るだけだ。
電流を何かで打ち消してる……?
って、それどころじゃない!

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:00:07.15 ID:i3T+BxkDO<> 「たっ、大変だよ黒子ちゃんっ! 早く止めなきゃ!」

争う二人を指で指し示し、大慌てして言う。

「そ、そうですわね。事情は飲み込めませんが、放っておく訳にはまいりません」

唐突に黒子ちゃんの姿が掻き消えたかと思うと、次の瞬間には争いの場に姿を現した。

「あ、あかりもっ!」

後を追って駆け出す。

戦える能力はなくても、指をくわえて見ていることなんて出来なかった。
何かっ……話し合いを促すだけでも出来るはずっ!

すぐ近くの地べたには、気絶している柄の悪そうな人達が数人。
乱暴に転がされている。
そして、二十代くらいの女の人が一人。
目の前で繰り広げられる争いを心配そうに見守っていた。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:02:15.80 ID:i3T+BxkDO<> >>24


精一杯急ぎながら状況を観察していると、黒子ちゃんの声が響き渡った。

「そこまでですのお姉様っ!」

「げっ、黒子――」

「ジャッジメント!? 助かった!」

しまった、と顔をしかめる女の子、対照的にぱあっと顔を輝かす男の人。
どちらも争いの手を止めた。

「呼び出しておいてげっ、とはご挨拶ですの……とにかく、そちらの殿方を襲うのはお止め下さいまし。
何かお姉様に不逞を働いたなら、制裁――ではなく、支部に連行いたしますから」

「うっ、分かったわよ……」

「せっ、制裁!? 制裁って言いましたか今!」

鶴の一声だった。
あんなに激しかった争いはたやすく鎮火され、あかりが着く頃には何もかも終わっていた。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:05:13.64 ID:i3T+BxkDO<> >>25

……何も出来なかったよ。
全力で走り、少しだけ上がった息を整えながら思う。
超能力があっても役に立てないんだなぁ……。

取り敢えず、黒子ちゃんの脇に並ぶ。
肩身が狭かった。

「ああ、それよりアイツら連れてってくんない?」

茶色い髪の女の子が、親指で豪快に指し示す。
その先には、さっき見た柄の悪そうな人達。

「軽く話したと思うけど、振られて強引に誘おうとしてたのをコイツが見かけて、叩きのめしといたの」

なるほど、そういう経緯なんだ。

あと、この人同じ制服だ、常磐台の人かな。
遅まきながら気づく。

「あの……御坂さん? さっきのは、本当に誤解なんデスヨ? 信じられないかもしれないけど、転けて――」

「ああもうっ、分かってるわよ! 偶然なんでしょ? それくらい知ってるっての」

「なんだ、それならよかった――って、よくねえ! ならなんで俺攻撃されてんだよ!? 危うく死ぬとこだったじゃねえか!」

「だって、普通に生き残りそうだし……」

なんだか、京子ちゃんと結衣ちゃんを思わせるやり取りだ。
どちらも、本気で怒ってはいない。
初対面のあかりでもそれが分かった。

京子ちゃんと結衣ちゃん、元気かなぁ……。
長いけど、これってやっぱり夢か何かだよね?
明晰夢なのかもしれないし、現実そっくりの感覚を伴う夢ってあるらしいし……。
超能力ライフは楽しいけど、そろそろ皆と会いたいなぁ……。

望郷のような恋しさに意識を飛ばしていると、
<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:09:14.45 ID:i3T+BxkDO<> >>26

「おっ、おおお、お姉様……っ!?」

「黒子ちゃん?」

黒子ちゃんが異様に肩を震わせているのに気付き、目の前に意識を戻す。
気安く話していた二人も、ただならぬ様子に疑問を抱いたのか。
二人してきょとんとしている。

「そ、そそっ、そちらの類人っ――いえ、殿方はいっ、いいいったい……!?」

二人を見て何か思うところでもあったのかな。
何度も吃って、黒子ちゃんらしからぬ取り乱し方だった。
付き合いは浅いけど、この取り乱しようは尋常じゃない。
そう思えるほどに動揺していた。
<> >>1<>sage<>2012/02/10(金) 22:13:17.89 ID:i3T+BxkDO<> >>27


「ん? ああ、紹介してなかったわね。
コイツは――ええっと、面倒臭いから『おいツンツン!』とか『このイガグリ!』でいいわよ」

「せめて名前くらい言えよ! どっちも髪型バカにしてんじゃねえか!
――あっ、上条当麻です、お見知りおきを!」

選挙で演説してる人みたいに頭を下げてくる上条さん。

「あっ、はい! よろしくお願いします赤座あかりですっ!」

釣られて、つい頭を下げて挨拶してしまう。

「おおっ、お団子! 髪赤い! ハーフの方ですか?」

「へっ? 日本人ですけど……」

注目される理由が分からない。
上下左右、どこから見ても日本人だと思うんだけど……英語喋れないし。

「あれ、ああでもうちのクラスに青いのが若干一名いるし……小萌先生もらしくないと言えばらしくない、か」

声を潜めた独り言を漏らすと、一言謝られた。
なんだろう。
曖昧に笑っておいた。

「そっちの子、初めて見る子ね。黒子の友達? あたしは御坂美琴、よろしくね」

「はいっ、よろしくお願いします!」

御坂美琴と名乗り、気さくに話しかけてくる御坂さん。
上級生、だろうか。
黒子ちゃんの態度からして、同級生とは思えなかった。

<> >>1<>sage<>2012/02/10(金) 22:22:38.63 ID:i3T+BxkDO<> >>28


「…………白井黒子、ですの。『よろしく』お願いします」

続いて、黒子ちゃんも名乗る。
たっぷりと空いた間がちょっぴり不気味なんだけど……どうしたんだろう。
それに、刺々しい声。
目も据わってるし、敵愾心でも抱いてるみたい。
特に『よろしく』の部分は、必要以上に強調されて、並々ならぬ悪意を撒き散らしていた。

「何で不機嫌なのか分からないけど……起きたら面倒だし、取り敢えずアイツら運んでくれない?」

「……はあ、分かりました。申し訳ありませんが赤座さん、運び終わるまで少し待ってて欲しいんですの」

御坂さんに従って、搬送をはじめる黒子ちゃん。
およそ一三○キロの質量制限に引っ掛からないよう、配慮して。
手伝いたい、けど、こればかりは足を引っ張るだけだ。

偶然、第一七七支部の管轄区域内らしい。
所在も手近なので、搬送は比較的直ぐに済むだろう。
<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:31:31.89 ID:i3T+BxkDO<> >>29


「あの……先程は助けて頂いて有り難うございました」

さっき、心配そうに成り行きを見守っていた人だ。
当事者二人の前まで歩み寄り、ぺこりと頭を下げた。

「いえいえ、あんなのなら片手で捻れるから気にしないでください」

「こっちも。倒したの御坂ですし……というかすいません、さっきはその……胸を」

余裕のある態度で返す御坂さんと、気不味そうにする上条さん。

「いいえ、気にしていませんから。お気になさらず」

対照的な二人に、女の人は、生真面目な印象の顔を崩して微笑んでいた。

それにしても、服装が奇抜だ。
膝丈にカットされた青いジーンズに、上のぴったりした真っ白いTシャツ。

シャツの裾の片方は根元まで断裂して、臍が露出してしまっている。
ジーンズの片方はと言うと、太腿の際どいところまで露になっていた。

ぐるぐる巻きにされたベルトと言い、全体的にアシンメトリーを意識したかのよう。
腰に長い刀っぽいものまで佩びているあたり、筋金入りの奇抜さだ。

「……上条当麻さん、でしたか」

……なんだろう?
心なしか、上条さんに警戒の眼差しを向けている気がした。
名前も、反芻して覚え込むような響きに聞こえる。
……気のせい、かな?

「ああ、申し遅れました。神裂火織です、先程は本当に有り難うございました」

すっごく美人で、向日葵ちゃん並みに胸が豊かだけど……この格好は。

言葉にはしなかったけど、露出狂、という単語が脳裏を掠めた。

それから二言三言話して、神裂さんとは別れた。
残る三人で他愛ない世間話を繰り返し、黒子ちゃんが戻るまで時間を潰すのだった。


<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:33:22.53 ID:i3T+BxkDO<> >>30



≪風紀委員≫の支部に寄った帰り道。
陽が落ち、夕陽に赤く染まった街中を、とぼとぼと覚束ない足取りで歩く。

黒子ちゃんの同僚だと言う初春さん、その友達で遊びに来ていた佐天さん。
どちらも親しみやすい良い人達だった。

多分、仲の良い人達なんだと思う。
昨日までを学園都市で過ごした自分がいるとしたら、きっと、これくらいに親しい。

そう思わせる口振りだった。

「はあ……何だか噛み合わないし、どうすればいいんだろ」

会話している最中、常に思ってしまう。

自分と他の人との……微妙なずれ。
その溝は浅いようで険しくて、簡単には埋まってくれそうにない。

――他の人の思う『赤座あかり』は、自分であって自分じゃない。
どうしてもその考えが付き纏ってしまう。

それだけじゃなくて、京子ちゃんや結衣ちゃん、ちなつちゃん……七森中のみんなも、ようとして行方が知れない。
起きたらくっついていた記憶の中に、みんなの姿はなかった。
まるで……そう、まるで、最初からいなかったみたいに。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:35:25.56 ID:i3T+BxkDO<> >>31


これは……夢なのかな。

夢なら早く覚めて欲しい。
一向に覚める気配のない現状に、焦りが加速度的に募っていく。

知っているはずのない、科学や諸々の知識。
夢というには釈然としない違和感。

夢の原理なんて、難しいことはよく分からない。
でも、夢らしからぬところは最早見過ごせなかった。

「はあ……」

また、溜め息。
足取りが重たい。
肩にずっしりとのし掛かる重みは、きっと気持ちのせいなんだろう。

「確かめなくちゃ、駄目だよね……」

何やかんやで理由を付けて後回しにしていた、お姉ちゃんへの訪問。
忌避、していたのかもしれない。

もしも――――お姉ちゃんにまで溝を感じてしまったら。

それが、怖くてたまらなかった。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:38:02.77 ID:i3T+BxkDO<> >>32


「……着いちゃった」

考え事に夢中で歩いていたら、学生マンションのふもとまで来てしまっていた。

見上げる十二階建てのそれは高く、これから乗り越えなくてはいけない、高く険しい壁を思わせた。

緊張に顔を強張らせ、中へ足を踏み入れる。
昇降機で一足飛びにフロアを駆け上がれば、六階まではあっという間だった。
今は、玄関前の扉と対峙している。

「……お姉ちゃん」

冷たく無機質な扉に呼び掛ければ、自然とお姉ちゃんの顔が思い浮かんだ。
意を決して、呼び鈴を鳴らす。

「あらあかり、どうしたの?」

程なくして開かれた扉からは、期待通りお姉ちゃんが応対に出てきた。
他の誰も住んでいない筈だけど、一先ずは記憶通り。
いつものように穏やかな表情を浮かべて、快く出迎えてくれた。

「あの、お姉ちゃん……上がらせてもらってもいい?」

「ふふ、当たり前じゃない。そんな畏まらなくてもいいのに」


<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:40:27.34 ID:i3T+BxkDO<> >>33




***

通された居間に腰を落とす。
学園都市でも選良という枠組みにいる≪大能力者≫。
潤沢な資金を与えられているからか、間取りは3LDKと広めだった。

楽器の弦みたく張り詰めた気持ちに息がつまされる。
フローリングに敷かれたふかふかの絨毯の上で深呼吸を繰り返したけど、全然落ち着けない。

飲みたいものは、と訊かれれてどう答えたっけ。
さっぱり覚えていなかった。

「ね、それで――」

「へー、――」

運ばれてきたジュースをストローで啜りつつ、当たり障りのない世間話に花を咲かす。
ちびちびと喉に入ってくるジュース。
まるで味に気が回らない。
何を飲んでいるかすら曖昧だった。

だけど、目的は忘れていない。
覚悟を決め、口を開いた。

「……お姉ちゃん、あのね、」

伏し目がちにお姉ちゃんを見詰める。
にこにこと、人当たりの良い笑みを浮かべたその姿は、いつもと変わらない。
つい昨日まで、この目で見てきたお姉ちゃんと。

お姉ちゃんは、自分と同じなんだろうか。
もし同じなんだとしたら、お姉ちゃんも迷っているのかもしれない。
目に映るのは素知らぬ、といった顔。
……表情なんて、読めないよ。
知っている通りのお姉ちゃんなら、素直に聞けば教えてくれるだろう。
嘘をつかれることはまずないと思う。
だから、聞けばいいんだ。
聞けば……分かる。

言いかけて、だけどそこから先が出てこない。
<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:44:28.58 ID:i3T+BxkDO<> >>34


「……あかり?」

中々続かない言葉に待ち焦がれたのか、お姉ちゃんは不思議そうに目を丸めた。

「ええっと……その、」

凄まじく嫌な感覚が怒涛のように押し寄せ、重圧となって襲いかかる。

挫けちゃ駄目だ。
向き合わないといけない。
勇気を振り絞れ、赤座あかり――!

「聞きたいことがあるんだけど――――」




<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:46:48.84 ID:i3T+BxkDO<> >>35




たくさんの人が一斉に動き出す時間帯。朝。

茹だるような暑苦しさ漂う通学路を、他の生徒同様、うんざりとした面持ちで歩む。
晴れ上がった猛暑の中。
すぐ傍を並んで歩く黒子ちゃんの立ち居振舞いも、精彩を欠いているように見える。

「まったく、この暑さには困ったものですわね。
何かしようというやる気が根こそぎ削がれますの」

「ほんとに暑いよね〜。ほら見てあそこ、神父服かなぁ?」

二車線道路を挟んだ、向かい側の道路。
信号機の傍らにぽつねんと佇む、法衣を纏った男性を指差す。

到底、薄手とは言い難い装いだ。
暑苦しさを呼ぶ。

「うへえ……見ているだけで暑さが三割増しですの。
あんなモノの着用を義務づける教義なんてクソッタレ、ですの」

荒んだ目で繰り出された辛辣な罵倒に苦笑し、黒子ちゃんから、道端の神父さんへと目線を切る。

二メートル近い痩躯の長身、燃え上がるような赤い髪。
くわえた煙草は黙々と紫煙を燻らせ、耳には大量のピアス。
右の目元に彫られたバーコード型の刺青とあっては、近寄りがたい印象だ。

不良神父?
<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:48:34.48 ID:i3T+BxkDO<> >>36


「神父さんにもクールビズってあればいいのにねぇ」

「それはそれでシュールな気がしますけれど」

あんまり見つめるのも憚られ、黒子ちゃんに視線を戻す。

ついでに、昨日からあたためていた案を披露することにした。

「ねねっ、黒子ちゃん黒子ちゃん」

「? 何ですの?」

「実はね、ひとつ良いものがあるんだぁ〜」

鞄の中に手を突っ込み、ごそごそと漁る。

「それは……?」

「えへへ、冷凍ゲコ太くんだよ」

取りい出したるは、手のひら大のカプセルケースに入った、蛙のマスコット。
冷え○タみたいな感覚で使う、言わば冷却ジェルマスコットだ。
これ一つあれば、夏の暑苦しさも忽ち解決という、店員さんのお墨付き。
何より、愛らしい造作は他の追随を許さない。

手のひらに乗せられたカプセルケースを見て、黒子ちゃんは心底驚いているようだった。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:51:38.48 ID:i3T+BxkDO<> >>37


「そ、それは……」

「可愛いでしょ? 画期的なんだよぉ、これ。
この中に入れておくと保冷が効くし、使う時も手で弄くって遊べるんだぁ〜」

気をよくしたあかりは、面食らう黒子ちゃんをよそに、滔々と解説を進める。

「粘着するから額に張りつけてもいいし、他にも――」

「ちょっ、ちょっとお待ちなさい!」

突然遮られて、頬を膨らます。

「まだ途中なのに〜、使いたいの?」

「あの……カプセルの中、すごいことになっていますわ」

「え、――ええっ!? なにこれっ!?」

何と、カプセルの中身である『スライムジェル・冷凍ゲコ太くん』は、容器にべったりと張りつき、無残にも型崩れしていた!

二人とも、思わず立ち止まって話す。

「……ベトベ○ン?」

「いえ、どちらかというとグリーンスラ○ムかと」

「あっ、色的にそれっぽいねぇ〜」

「…………」

「…………」

「うえぇ、なんでこんなことに……」

「不気味ですの……」

それは最早、ゲコ太ではない。
グリーンス○イムもどきだった。

胴体と手足との判別がつかず、つぶらな瞳と口元は半ば溶解して、あたかもムンクの叫びのよう。

何か掴もうとするみたいに伸ばされた、手だか足だか分からないぶよぶよしたもの――たぶん手――が、助けを求めているかのようで居たたまれない。
というか、軽くホラーだ。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:54:16.70 ID:i3T+BxkDO<> >>38


「何でこうなったんでしょう?」

「たぶん……歩いた振動と暑さ、かな」

「……欠陥商品ですわね」

容器のそこかしこに飛び散った緑色の塊。
全体としてゲル状になっていて、ちょっと、小さい子にはお見せできない惨状になっていた。

「…………えいっ」

べちょっ。

開封し、石畳にぶちまける。
心なしかドップラー効果。

と――、

「きゃあっ!?」

パパパパン!

アスファルトに触れるとなぜか炸裂し、黒子ちゃんがあられもない声で叫ぶ。

「あっ、これってもしかして爆竹?」

「どうやったらこんなものが弾け飛びますの!?」

スライムジェル・冷凍ゲコ太くん。
西垣先生の発明品とどっこいの商品だった。
もう、あの店では買わない。

――閑話休題。 <> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 22:56:36.05 ID:i3T+BxkDO<> >>39


「はあ、赤座さんのお陰で暑いのが吹き飛びましたわ」

「ごめんね……ちゃんと使えると思ったんだけど」

「まあ、いいですけれど」

「ありがとう黒子ちゃん!」

黒子ちゃんは優しかった。

「ところで黒子ちゃん、実は、もう一ついいものがあるんだけど」

「あなたわざとでしょう!?」

合わせて買った冷蔵ゲコ太くんも駄目かな。
せっかくだから、お披露目したかったんだけど。

「あはっ、今日はあかりがボケ担当だね」

「全く……赤座さんは元気すぎて困ります。危なっかしい妹を持った気分ですわ、同い年なのに」

「じゃあ、黒子お姉ちゃんって呼ぼうかな」

「ふふ、何だかむず痒いですの」

一頻り笑い合うと、並んで歩き出す。

「今日も……帰れないのかな」

「? 何か言いまして?」

「今日のお昼ごはんは何にしようかなって」

「和洋中、一通りありますから迷いますわね。わたくしとしては、中華がおすすめですの。冷めたらゲロマズですけれど」

暑さに対する辟易とした色を払拭し、爽やかな笑顔でお薦めを挙げる黒子ちゃん。
その背後で瞬く電光掲示板には、大覇星祭の日程が早まったことを知らせる字幕が流れていた。


<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 23:00:44.40 ID:i3T+BxkDO<> >>40


***



十字教旧教三大宗派の一つ、イギリス清教。
その第零聖堂区を牛耳る『必要悪の教会』≪ネセサリウス≫に所属する魔術師、ステイル=マグヌスは苛立っていた。
隣には、同僚である神裂火織。
世界的に見ても指折りの実力者、聖人たる彼女の諫言も耳に入らない。

許せなかった。
これからしなければならないこと――『禁書目録』≪インデックス≫を連れ戻し、一年分の記憶を奪い去る。
助命という名目があろうと、それに加担する自分自身が許せなかった。

「ステイル……分かっているでしょう。記憶を消さなければ、あの子に未来はない」

神裂の言葉に誇張はない。
紛れもない事実だ。

彼女は――≪禁書目録≫は、一度見聞きしたものを自然に忘れることがない。
また、記憶したそれらをいつでも自在に想起できるという、完全記憶能力者だ。
その力に目をつけたイギリス清教は、彼女に十万三千冊もの魔道書を記憶させた。

備えも耐性もなく見れば、たちどころに精神を崩壊させるような、おぞましい魔の書物達。
それらを身の内に引き入れるということは、想像を絶する責め苦を伴う。

幾度となく襲う八つ裂きに等しい幻痛。
津波となって押し寄せる、正気を犯す呪いの文言。

視覚化した呪いの塊は、身体を、心を蝕み、耐性や備えが十全であろうと容赦なく、徹底的に苦しませる。

そして、延々と苦しみ抜いた彼女に待つのは、更なる地獄だ。

十万三千冊の魔道書を一身に背負う彼女は、一字一句違わず記憶したそれがあるために、脳の記憶容量を著しく圧迫されている。
一年間、ただ過ごすだけで、その分の思い出が増えるだけで――脳に致命的な負荷を与えるとされるほどに。

だから、記憶を消す。

負荷が彼女の命を奪う前に、危険な芽が寿命を脅かす前に。

自分達と知り合った一年を、かつては友達になった一年を、約束を交わした一年を。
それらの記憶を、思い出を、何の跡形もなく全て、全て全て全て――――消し去った。



<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 23:04:44.36 ID:i3T+BxkDO<> >>41


至極、合理的な判断だ。
正しいとは露ほども思えないが、間違ってはいない。
少なくとも、彼女を死から救う唯一の方法だった。

「未来がない、だって……?」

――だが、それでも。

それしか安全な道がなく、最も無難であると、重々承知していても。

そうすれば≪禁書目録≫に未来があるのだと嘯くような、神裂の言い草。

それが、感情に火をつけた。

「ふざけるな! 今の状態のどこに未来があるっていうんだ!? 一年経っては巻き戻しの繰り返し……こんなのが人生なんて言えるのか!?」

「っ……それは、」

神裂の顔色が劇的に変わる。
考えまいとしていた思考を、引きずり出されたかのように。
血色をなくした顔が罪の意識に歪み、続きを言おうとするより早く、ステイルは新たな言葉を叩きつけた。

「苦しんで苦しんで……苦しみ抜いたのにまだ苦しめというのか!? 彼女が何をした!? そんなの……っ、……そんなの……酷すぎるじゃないか……」

「ステイル……」

「なあ教えてくれ神裂……彼女が何をしたって言うんだ……?」

次第に萎れていく声。

彼女はなぜこんなにも、辛い目に遭わなければいけない。
完全な記憶力を持って生まれたことが罪なのか。
ふざけるな、罪があるとしたらそれを利用しようとした、自分達イギリス清教ではないか。

利用せんがために、責め苦を与え、記憶を奪い続ける。
これが人間のすることか。
博愛を至上とする十字教徒のやることか。

そこにどんなお題目があろうと、そんなこと赦されていいはずがない。
イギリス清教も、そこにいる神裂も、そして――自分も。

<> >>1<>saga<>2012/02/10(金) 23:08:40.59 ID:i3T+BxkDO<> >>42


利用せんがために、責め苦を与え、記憶を奪い続ける。
これが人間のすることか。
博愛を至上とする十字教徒のやることか。

そこにどんなお題目があろうと、そんなこと赦されていいはずがない。
イギリス清教も、そこにいる神裂も、そして――自分も。

「……すまない。無理なことかもしれないが、忘れてくれ」

思うままに感情を吐き出して、少し落ち着いてきた。
我ながら、勝手なことだと思う。
完全に八つ当たりだ。

「……いえ、構いません」

神裂は怒らなかった。
心の裡を知る術など持ち合わせていないが、声や表情に責める色は見えない。
いや、どうだろう。
自分の勝手な思い込みかもしれない、とステイルは自嘲した。

「貴方はまだ十四歳……そして、私も十八歳。小娘に過ぎません。この事を割り切るには、貴方も私も、まだ幼すぎるのでしょう」

「僕は何年経とうと割り切れる気がしないな」

「……そう、ですね。歳は、関係ないのかもしれません」

その会話を最後に、沈黙の帳が落ちた。

人気のない路地裏。
雑踏から届く、騒がしい音が遠く聞こえる。

二人して、街中を眺めていた。

いつか……彼女は救われるのだろうか。

身長二メートル。
図体ばかり大きくなってしまった自分は、その癖驚くほど無力だ。
年齢にそぐわぬ落ち着きと実力を兼ね備えた神裂でさえ、この問題には太刀打ちできない。

――忘れてはならない。
今の状況は、後退ではなく、前進してもいない。
ただ、立ち止まっているだけ。

それを心に刻み、ステイルは踵を返した。

「行こう、神裂。彼女を連れ戻す」

街中に背を向け、宣言する。
神裂の反応を待たず、ステイルは路地裏の暗がりに消えていった。 <> >>1<>sage<>2012/02/10(金) 23:14:04.59 ID:i3T+BxkDO<>


利用せんがために、責め苦を与え、記憶を奪い続ける。
これが人間のすることか。
博愛を至上とする十字教徒のやることか。

そこにどんなお題目があろうと、そんなこと赦されていいはずがない。
イギリス清教も、そこにいる神裂も、そして――自分も。

「……すまない。無理なことかもしれないが、忘れてくれ」

思うままに感情を吐き出して、少し落ち着いてきた。
我ながら、勝手なことだと思う。
完全に八つ当たりだ。

「……いえ、構いません」

神裂は怒らなかった。
心の裡を知る術など持ち合わせていないが、声や表情に責める色は見えない。
いや、どうだろう。
自分の勝手な思い込みかもしれない、とステイルは自嘲した。

「貴方はまだ十四歳……そして、私も十八歳。小娘に過ぎません。この事を割り切るには、貴方も私も、まだ幼すぎるのでしょう」

「僕は何年経とうと割り切れる気がしないな」

「……そう、ですね。歳は、関係ないのかもしれません」

その会話を最後に、沈黙の帳が落ちた。

人気のない路地裏。
雑踏から届く、騒がしい音が遠く聞こえる。

二人して、街中を眺めていた。

いつか……彼女は救われるのだろうか。

身長二メートル。
図体ばかり大きくなってしまった自分は、その癖驚くほど無力だ。
年齢にそぐわぬ落ち着きと実力を兼ね備えた神裂でさえ、この問題には太刀打ちできない。

――忘れてはならない。
今の状況は、後退ではなく、前進してもいない。
ただ、立ち止まっているだけ。

それを心に刻み、ステイルは踵を返した。

「行こう、神裂。彼女を連れ戻す」

きらびやかな街中に背を向け、宣言する。

華やかできれいな世界と決別するように。
自分にはそこと向き合う資格などないと、嘯くように。

神裂の反応を待たず、ステイルは路地裏の暗がりに消えていった。 <> >>1<>sage<>2012/02/10(金) 23:18:41.45 ID:i3T+BxkDO<> 最後の投稿だけ訂正しました。

投下終了です
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2012/02/10(金) 23:53:11.01 ID:9or6IG/i0<> 乙
あかりは普通によい子なんだけど、姫神と同じで周りが濃すぎて空気になってしまう・・・・・
あとステイルと神裂に感情共有できる画像↓
ttp://r0.prcm.jp/gazo/i/9J4aib <> >>1<>sage<>2012/02/11(土) 01:33:21.30 ID:OFxFy74DO<> >>46

主人公補正をもってしても補いきれないのか……

まあ、でも……うん、ステイル達のが主人公してる、まだ出番これだけなのに <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)<>sage<>2012/02/11(土) 09:16:26.56 ID:A6aBPNTco<> レスごとに安価つけなくていいんじゃない?少し読みにくいかも
何か意味あるの?意味あるんだったら仕方ないけど <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします <>sage<>2012/02/11(土) 10:22:13.30 ID:Y1N0fLzZ0<> >>46,>>47
■■「違う。あかりは原作者によって最初から意図的に空気にされている。ちなみに私は途中からそうなった・・・・自分の設定を吸血鬼にすればこうならなかったはず・・・・」

おかねさんは実は黒子なみの変態だからあかりの貞操が心配だ・・・・・・ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/11(土) 22:16:21.22 ID:YK2D45r3o<> あかりと姫神と重福省帆の揃い踏みはちょっと見たいかもww <> >>48どこかのSSで見かけて真似してた ごめん抜く<>saga<>2012/02/12(日) 09:41:06.00 ID:mvCDHEODO<>


微睡みの中で夢を見ていた。
今でも鮮明に蘇る、みんなの顔ぶれ。――七森中のみんな。

あかりは、夢の世界で遊んでいた。
娯楽部の、本当は認められてないけど部室で、向日葵ちゃん、櫻子ちゃん、先輩たちも一緒に。

楽しい、けれど、遠い遠い世界。
今はもう――どうしたら帰れるかも分からない世界。

緩やかに意識が覚醒していく。
名残惜しい。けど、さよなら。

もう一度、また会えることを願って――――。




「おはよう、あかり」

目を開けると、お姉ちゃんの顔がすぐ傍にあった。
覗き込むような姿勢だ。
目と鼻の先。ふとすればキスしてしまいそうな近さに、目を瞠った。

「お、お姉ちゃん……おはよう」

些かの動揺を乗せて返す。
はからずも、飛び退くように後ずさっていた。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 09:43:43.08 ID:mvCDHEODO<>
「……ふふ、もうすぐご飯よ。顔を洗ってらっしゃい」

優しく言いつけると、お姉ちゃんは台所へと歩いていき、姿が見えなくなった。

緊張の糸が緩み、息を吐き出す。
ゆっくりと、落ち着くように。

壁に掛けられた時計の針は、午後五時を回ろうとしている。
夕ごはんには少し早めだけど、それも致し方ない。
常磐台の寮は門限にめっぽう厳しいのだ。
もし破れば、鬼のような寮監が……これ以上は言えない。
ただ、下手をすれば、ゲコ太そっくりの顔をした医者に看てもらうことになる、とまことしやかに語られている。
……ちょっとだけ、見てみたいかも。

窓の外を見やれば、紅い夕陽。
射し込んでくる緋の光に暫し目を奪われていると、ふと思いつく。

――干してある洗濯物を入れよう。

寛がせてもらって、ご飯もご馳走になってるんだから、家事くらい手伝わないと。
そんな思いが沸き上がる。

一念発起して立ち上がり、そそくさとベランダへ向かう。

そこで、思いがけないものを発見した。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 09:46:06.44 ID:mvCDHEODO<>
「お腹が空いて、力が出ないかも……」

あんパンのヒーローみたいなことをのたまう、青みがかった銀髪の少女。
ベランダに着き、開け放った窓の向こう。
洗濯物に紛れてあり得ないものを幻視したような気がして――――窓を閉めた、ゆっくりと。

「……ええっと、寝ぼけてるのかな」

窓際で、ベランダに背を向け、呟く。
そして、力なく笑った。

「あは、やり直しやり直し」

リテイクである。
自分でも訳の分からないことを口走ってから、再びベランダと向き合う。
まだ、幻覚の少女がいるような気がしたけど、気にしない。
今見ると、修道服を着ていることに気がつく。

……だからどうってわけじゃないけど。
とりあえず、余計に現実離れしてるよね。

暢気な感想を抱きつつ、もう一度窓を開け放った。

「がおーーっ!!!」

「うわーん! さっき力出ないって言ったのにーっ!?」

敵襲、敵襲、敵襲。
猛獣もかくやという勢いで飛びかかってきた少女に対し、率直な思いの丈を叫ぶ。

「わたしをあまり舐めない方がいいかな! 窮鼠猫を噛むなんだよ!!」

「どう見ても獰猛な肉食獣だよ、元からぁっ!」

眦に涙が浮かび、頭のお団子を置き忘れる勢いで回れ右、全速力で退却する。

夏も盛りの夕暮れ時。
その日、あかりは、インデックスとの邂逅を果たしたのでした。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 09:49:00.69 ID:mvCDHEODO<>

***




「――――問おう、貴方が私の扶養者か」

「違うよ」

「即答しないで欲しいんだよ! うんと迷って、最後には頷いて欲しいかも!」

居間。
外に放り出す勇気を持てず、成り行きでずるずると対話に持ち込まれたあかりは、銀髪の少女――インデックスちゃんと向かい合わせに座っていた。

「インデックスちゃん……だっけ?」

「そうなんだよ! こう見えてもわたし、十万三千冊の魔道書を秘めた、超絶美少女シスターかも!」

「自分で言うの!?」

独特な語尾で喋る彼女は、イギリス清教第零聖堂区、≪必要悪の教会≫で世を忍んで暮らしているらしい。
あの……忍んでるのに、あっさりばらしちゃっていいの?
突っ込みたい衝動に駆られたけど、そこは触れないでおく。
だって、

『フハハ! 秘密を知ったからには生きて帰せん!
我が一撃で無に帰せ、
エ タ ー ナ ル フ ォ ー ス ブ リ ザ ー ド!!』

とかってなったら、嫌だもん。
ひぃぃ。

それはさておき。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 09:54:07.74 ID:mvCDHEODO<>
「それで、インデックスちゃんのお家は? 道に迷ったんならあかりも手伝うよ〜」

どういう事情でベランダに干されてたんだろう。

見た感じ西欧風の顔立ち、歳は同じくらいで、体格は細くて小さめ。
透き通るような緑の瞳に、銀と青色が混じり合う、ふわりとした髪の毛。
修道服に押し込んでいるみたいだから、見た目よりずっと長いのかもしれない。
お人形さんみたいに可愛い子だった。

「……えっとね、お家はないかも」

「――――へっ?」

だから、見慣れない格好をしているだけで、大体は自分と同じ。
そう思い込んでいたから、飲み込むのに数秒を要した。

「え、えっと……、そのぉ……」

たじろぐ。
悪ふざけで言っているようには見えない。
状況はあからさまに怪しいのかもしれないけど、俯いて塞ぎ込む彼女を疑う気にはなれなかった。

どこか楽観していた考えが、瞬く間に萎んでいく。

「なんてね。ふふっ、英国風の冗談なんだよ」

顔を上げたインデックスちゃんに、悲しみの色はもうなくなっていた。

「そろそろ帰らないといけないかも。騒いじゃってごめんね、あかり」

教え合った名前で呼びかけられ、どくりと胸が鳴った。

立ち去っていく。
足取りに淀みはないし、鬱々としたふうでもない。
悠然と、何の気負いもなく、ただ戻る。
何度思い返しても、そうとしか見えない。

――――だけどあかりは、ベランダへと向かうその手を掴んだ。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 09:58:11.28 ID:mvCDHEODO<>
「どうしたの?」

振り返って訊いてくる。
まずぎゅっと繋がれた手に、次は立ち上がってきたあかりの顔を。
まじまじと見つめて、こくんと首を傾げた。

「離してほしいんだよ」

鈴と鳴る声に不審なところは見当たらない。
でも、そんなこと関係なかった。

振り離そうと力が込められた手を、それ以上の力で押さえ込む。
すると、困惑のこもった眼差しが向けられた。

「ごめん、さすがに迷惑かも」

「あかりはね、自分の信じたいものを信じる。そう決めてるんだぁ〜」

からからと、朗らかに笑う。
噛み合わない会話を訝しむように、髪と同じ、青みがかった銀色の眉根が寄る。

あかりは、ふっと笑みを消した。

「だから――――決めたよ。最初の言葉を信じる」

稚気も何もない、本気の、本心からの言葉。

白状すると、尻込みしてしまっていた。

魔術なんてちんぷんかんぷんだし、魔道書十万三千冊、なんて聞くからに凄い響きだし……。

この子の素性は知らない。人となりも、まだよく掴めていない。

でも不思議なことに、その言葉はすんなりと出てきた。

得体の知れないものに怯える気持ちはある。
人には牙を剥かないだろうという盲信も楽観もない。

だけど突き動かされる感情は、恐怖や迷いをわずかに凌駕している。
天秤の傾きの結果だった。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 10:02:09.43 ID:mvCDHEODO<>
インデックスちゃんが複雑そうに顔をしかめる。

「ものすごい勘違いかも。あかりは思い込みが激しいんだね」

「うん! 勘違いだったら一緒にごはん食べて、あかりが連れ出したのを謝る、それじゃあ……ダメ?」

上目遣いで、顔を覗き込むようにして言う。

たっぷり、十秒は経っただろうか。
長い沈黙を経て、小さな口元が動き出す。

「あなたは――――」

きゅうううう。

切り出した途端、盛大に腹の虫が鳴く。
出どころはインデックスちゃんだった。

「あはっ、とりあえずごはん食べてから話そうよ。お姉ちゃんにも紹介しないといけないし」

「で、でも――」

「食べないでもいいけど、ずっと手を繋いでるよ? お腹を空かしてる前で食べるのは心が痛むなぁ〜」

「……うう、意地悪なんだよ。ごはんを盾にするのは卑怯かも」

むくれるインデックスちゃんに、くすくすと笑いを零す。
より剥れっ面になったけど、あかりの気分は上々だった。

「わたしのことは、呼び捨てでいいかも。どうせすぐに別れるけど、ご相伴に預かるからせめてもの礼儀なんだよ」

「んと、じゃあ……インデックス」

今思えば、人を呼び捨てで呼んだことがない。
初めての呼び捨て。
どきどきした。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 10:18:45.51 ID:mvCDHEODO<>

***



いきなり降って沸いた来客にお姉ちゃんはびっくりしていたけど、あかりが頼み込むとすんなり許可を出してくれた。

夕食中、ずっと手を繋いで食べていた。
逃がさない。
なぜか、お姉ちゃんが鬼気迫るものを醸し出していたけど……怒ってるのかな。
寛容なお姉ちゃんでも、さすがにこれは我が儘すぎたよね。
最初からそうするつもりで『インデックスの分の食費は払いたいな』と、提案。

前に、あかりの食費もきちんと払いたい旨を伝えたら、頑として断られた。
だから、今回は強硬に。
提案しただけで呆気に取られるお姉ちゃんに、『インデックスのことは、あかりが責任持ちたいの!』と強めに一言飛ばす。

『あ、あはは……あかりが、呼び捨て……、責任、責任…………』

お姉ちゃんはうつろな目をして、熱に浮かされたみたいに訥々と呟いていた。
慌てて駆け寄ると、泥棒猫、とか、抹殺、とか意味の取れない単語を口にしていて、あわや救急車が必要かとも思った。
結局、何事もなかったかのように回復して――――現在に至る。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 10:19:30.88 ID:mvCDHEODO<>
「あかり……帰らなくていいの? いや、ずっといてくれていいんだけど、門限が危ないわ」

夕食のあと。
居間でインデックスと一息ついていると、お姉ちゃんに忠告された。

「うん……」

それは、念頭に入れていたたことだ。
どうしよう。
常磐台の寮にインデックスも連れ帰りたいけど、それはできない。
連帯責任が明文化されている寮だから、それじゃあ黒子ちゃんに迷惑をかけちゃう。

妙案が思いつかなくてインデックスに視線を移す。と、

「あかり、わたしはお暇するんだよ。すっごくおいしかったよ、ご馳走さま!」

邪気のない笑顔。
腰を上げて、立ち去ろうとする。
引き止められない。
直感して、その手を反射的に掴み取った。

「――あかりは優しいね」

インデックスは、微笑んでいた。
眩しいものを見るように目を細めて、ころころと笑う。

「でも、その優しさに甘えるにも限度があるかも」

言い渡されたのは、柔らかな拒絶だった。

苦心して言い方を選ぶみたいな……だけど、確かに拒む意思が感じられた。
煙に巻くでもなく、事情を認めた上での拒絶。
本当に、本心から、巻き込みたくないと“願っている”。

動くことも、異論を挟むこともできないでいると、繋いでいた手がするりと抜けていく。
そしてインデックスは、振り返ることなく玄関に消えていった。

去り際に、

「ねえあかり――――世の中には、関わっちゃいけないことがあるんだよ。
魔が差して巻き込もうとするわたしみたいなのもいるし、絶対に関わろうとしちゃダメ」

優しげな声色でそう言い残して。

「あかり……よかったの?」

お姉ちゃんが、言いづらそうに顔を曇らせて言った。

「……うん」

あかりは、それに肯定した。

望んでいないことをするのは、単なる押しつけだから。

それをしたくないと思うのがあかりで、つまり“あかりらしい”ことだった。
だから、これでいい。

「……そう」

「あかり、寮に帰るね」

戸惑った様子で頷くお姉ちゃんを尻目に、あかりはお姉ちゃんの家をあとにした。
帰り道。
暮れなずむ薄青色の空は、なぜだか滲んで見えた。
<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga<>2012/02/12(日) 10:21:02.72 ID:mvCDHEODO<>


いよいよ夏休みを明日に控えた七月十九日。

快晴の下、とあるデパートの入り口前。
あかりは所在なさげに立ち尽くしていた。
というのも、

「どうしたのかにゃーん? ビビりすぎて腰抜かしちゃったのかなー?」

「ああ? 調子こいてんじゃねえぞ、クソアマ。老けたツラしてサカってんのか?」

目の前にいる二人――麦野さんと垣根さんが、殺伐とした空気を醸し出していたから。

麦野さんに連れ添うあかりとしては、その後ろに立っているほかない。

「あ゛あ!? ブ チ コ ロ ス ぞこのクソメンヘラァアアアア!!!!」

「上等だ、三下が! 二位と四位じゃ相手にならないことを教えてやるよ!!!」

目の前で繰り広げられる争論は益々と熾烈さを増し、不穏な予感がよぎる。

「あ、あの……麦野さん」

「あ゛あ゛!?? ――――ああ、あかり。すこぉーし待っててね、すぐにぶち殺してくるから」

「ひっ……!」

なけなしの勇気を振り絞って物申すも、結果は破談。
豹変した時とそうじゃない時の著しい違いに凍りついた。

「ハッ、すぐにブチ殺されるの間違いだろ? オバサン」

「ハハッ、――ブチコロス」

その宣告を幕切れに、戦闘が始まる。
垣根さんは天使みたいな白い羽根を広げて、麦野さんは獰猛な笑みを深めた。

「あうあうあう……」

あまりの事態に思考回路が悲鳴を上げる。

どうして、こうなったんだつけ。
あかりは半ば逃避するように回想した。




<> >>1<>sage<>2012/02/12(日) 10:23:12.28 ID:mvCDHEODO<> 投下終了

やべえ重福さん存在忘れてたわ

やべえ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/12(日) 11:23:44.36 ID:mvCDHEODO<> >>49

たしかに……
原作で空気になったのは、能力の使い道が限定されすぎてるせいも大きい気がする


黒子はオープンすぎてギャグだけど、あかねさんはうすら寒いものを感じる…… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)<>sage<>2012/02/20(月) 11:45:25.52 ID:T9AUap8AO<> >>1が\アッカリーン/したか… <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/02/22(水) 23:46:36.36 ID:AD6gj51l0<> おもしろそうなクロス発見
ゆっくり舞っとくよ <>