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HTML化した人:lain.
鈴音「いま、会いに行きます」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/11(土) 16:57:55.66 ID:wk5aOwOo0
その記憶は遠い昔。

幼稚園の頃だったか、小学生に上がった頃だったのか定かでない。

従来の兵器とは一線を画す存在――インフィニット・ストラトス――通称IS。

連日のように放映されるIS関連のニュース。

世は新しい技術に、大きく湧いた。

21世紀の革命だと、実際それまでの軍事力は意味を失い、女性優位の新しい社会が創られる。

そんな力も彼女には怖いものにしか見えなかった。

いかに速く、いかに強く、いかに優れているか、そのパフォーマンスが国同士で殺しの技術を競っているように感じ取れたから。

ただ、あの紫紺のISを見るまでは。

名前も所属も分からぬIS、その姿に魅了された。

あたしもいつか、あのように空を飛んでみたいと。

あたしもいつか、あのように強くなりたいと。

色あせることない、その記憶は彼女――鳳鈴音の原点であった。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1328947070(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/11(土) 17:02:01.03 ID:wk5aOwOo0
このSSは鈴メインです。

カップリングは隠す程のものではないのですが一応、一夏ではないとだけ言っておきます。(百合でもありません)

一週間に一度は最低でも投下なり生存報告などしていきたいと思ってます。

夜にでも冒頭を投下する予定。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[sage]:2012/02/11(土) 18:41:10.35 ID:y8jz3D+/0
期待
4 :ああああああ[sage]:2012/02/11(土) 23:12:48.54 ID:QeZPpLRD0

頑張ってくれ!
5 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/12(日) 00:50:33.99 ID:3uxnBp3ko
投下開始します
6 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 00:52:17.86 ID:3uxnBp3ko
キ〜ン コ〜ン カ〜ン コ〜ン
チャイムの音が鳴り響く。
普段もクラス担任の織斑千冬の影響もあり、朝のSHRは比較的静かなクラス。
ただ今日は少し特別。
決められたルーチンワークをこなす学生にとってのイレギュラー。
転入生の存在である。

「はーい。皆さん今日はお知らせがあります。新しく転入生が二人このクラスに入ることになりました。
それでは2とも自己紹介おねがいしまーす」

ガラリと開いたドアから2人の新入生が教室へ入ってくる。
黒板の前にたち、白いチョークを手に取ると慣れた手つきで走らせた。

「こんにちは。シャルル・デュノアといいます。フランスから来ました。今日から皆よろしく」

「「「きゃあああああああーーーー」」」

「男の子よ男の子!」

「しかも美形! 織斑くんとは違うタイプの守ってあげたくなる系!」

「あー神様ありがとう! こんなすばらしいクラスに私を入れてくださって」

あっちでもこっちでも歓喜の声が沸き起こる。
唯でさえ学園唯一の男が存在する1年1組。
そこにもう1人、男が転入してきたとなれば、彼女達の反応は当然である。
7 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 00:57:21.77 ID:3uxnBp3ko
勿論女性だけではなく、噂の男。
織斑一夏も1か月もの間まわりが女性だけという空間の辛さが身にしみているため、期待の眼差しをシャルルに向けている

(周りが女子だけなんて良いのは入る前までだからな。入学してみると酷い目にあったぜ)

などと失礼なことを考えている、クラス担任である織斑千冬が口を開いた。

「分かった、分かったその辺にしておけ。静まらんか馬鹿者。では、ラウラ。お前も自己紹介するんだ。」

「はっ、教官」

「ここでは教官ではない。織斑先生だ」

「了解です。織斑先生」

ビシッとした一般的な学生にはそぐわない敬礼をしてみせた後、一言だけ口を開く。

「ラウラ・ボーディビッヒだ」

次は何を言うのかクラス中が好奇の目で見守る中5秒が経ち10秒が経った。
……え? 終わり?

「えーっと……ボーデビィッヒさん? もう少し自分のことを話してくれるよ先生も皆も嬉しいだけどなあ……」

「出身はドイツ連邦共和国だ」

「えっと……」

「……」

努力の甲斐空しく彼女は何もしゃべらない。
悲しくて少し涙が出てしまった山田先生。

「はぃ。朝のSHRを終わります」
8 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 01:04:57.61 ID:3uxnBp3ko
普段ならばその号令により朝のSHRは幾分か平和的終結を迎はずだった。
ツカツカと一歩づつ織斑一夏の席に向かう生徒の姿。
ラウラ・ボーデヴィッヒである。
一歩。また一歩と近づくにつれてクラスの緊張度が上がっていくのを肌で感じている一夏。
ラウラが一夏の目の前まで来て真っ直ぐに見つめる。


「あの、俺になにかようか?」

「貴様が」

「え?」

「貴様の様な人間が教官の弟だと認めてたまるか!」

パアァァン!

偉い人は言いました。脳をゆらすなら拳打より掌打であると。
ラウラの放った改心の一撃を顎にくらい、一夏は世界が反転するのを感じた。
9 : ◆/jzjaujzT3yL[sage]:2012/02/12(日) 01:07:57.06 ID:3uxnBp3ko

「よし、全員そろったな。では各自専用機持ちを中心にグループを作りISの機動を確認しろ」

ここIS学園では、その名の通りISを専門扱う唯一の教育機関。
ISの操縦だけではなく整備士、技術開発者などもこの学園で教育することが出来る。
一般教養である国語や世界史といった科目も存在するが、多くはIS関連の科目が占めている。

今日の授業は1組2組合同の実技訓練。
実技といっても歩いたり飛んだりと、基礎的な動きの確認のようなものであるのだが。

「じゃあ順番にISを起動させて、向こうまで歩くから、あたしについてくんのよ」

専用機『甲龍』をもつ中国の代表候補生、鳳鈴音がISを起動させライン引かれた地点まで歩いていく。
ISの操縦は出来ればいいだけではなく、その起動にかかる時間が重要な要素となっている。
ISの展開、武器の呼び出し。
ただ単に歩いくだけの訓練においても鈴含む、専用機持ち代表候補正の実力のほどが伺える。

「それで? 一夏はそのラウラっていう子の一撃で保健室で眠り続けているわけ?」

「そうですのよ。初対面で不意打ちだったとはいえ、ああも綺麗に決まってしまうとは……」

「まあ相手も相手っぽいけど、それにしても一夏の奴はなさけないわね」

やれやれと少し呆れたように鈴はため息をつく。
辺りを見回すと噂のラウラ・ボーデヴィッヒが腕組みをして指示している姿が窺える。
指示といっても先ほどから「乗れ」「歩け」「降りろ」の3つしか発しておらず彼女のグループは重たい空気に包まれている。
10 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 01:11:38.06 ID:3uxnBp3ko
「ったく。この時期に転入生なんてこの学園も多すぎじゃない? それになんか変な人間ばっかだし」

(その理屈でいくと鈴さんも転入生で変な人間ということではないのでしょうか? ところ構わずISを展開する姿はとても……)

「セシリア。なんかすごい失礼なこと考えてない?」

「い、いえ、なんでもありませんのよ。そんなことよりデュノアさんも凄い人気ですわね」

右手の甲はどこぞのお嬢様の如く左頬に触れており、『おほほほほほ』などと笑う姿はどっからどうみても図星である。そして日本人にしか見えない。

(こいつどこで日本語勉強したのよ。そんなテンプレ通りの笑い方するお嬢様なんかいないつーの!)

そんなことを思いながらも、自分も今度から〜アルと語尾につけたらどうなるのか考えていたりする。
ただすぐに、こないだ一夏に借り漫画のキャラが頭から離れなくなり鈴は思考することをあきらめた。

「あの容姿ですし、一夏さんとは違うタイプでかっこいいですから無理もないでしょうけれど……」

「けど、なによ。」

そういって向けた視線の先にはクラスでの挨拶と変わらず質問攻めにあっているシャルルの存在があった。

「ねえねえ、デュノア君ってあのデュノア社と関係してるの?」

「うん。僕の父が経営している会社だよ」

「じゃあ御曹司ってやつ!?」

「もしかしたら結婚したら玉の輿!?」

シャルルが何か答えるたびに周囲の生徒から押し殺した黄色い声が発せられる。
言うまでもないことだが大きな声が出せないのは織斑千冬が怖いからである。もう一度言う、織斑千冬が怖いからである。
11 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 01:17:54.83 ID:3uxnBp3ko
全くIS学園を合コンの場か何かと勘違いしてもらっては困りますわ。ISの操縦者として節度ある行動と何事にも品もって――とセシリアが息巻くの聞いて鈴はあきれてしまう。

「セシリア。あんたがそれをいうわけ?」

「へ? なんでですの?」

「いや、別に」

心底わかりませんと疑問符を掲げているセシリアを無視してもう一度シャルルの方に目を向ける。
たしかにカッコイイ、イケメンである
ただなにか違和感を覚えてしまう。
普通にみれば、とても社交的で既にクラスに溶け込んでいる転入生。
でも。なにかが……変である。

(隠し事といった様子でもないし……トイレ?)

こういうときの鈴のカンは中々馬鹿にできない。
中学のころから一夏や弾の企みには、いち早く気づいてきた。
鳳鈴音という少女はすさまじく野生の鼻が利いている、そして最後の最後で謎の回答が導き出される。
要するに鋭いけど何かが足りない、動物的だといえる。

「鈴、鈴ってば!」

「えっ!? な、なに?」

「もう、みんなこっち来てるよ。次にいこうよ」

確かにすでに鈴のグループの人間はこちら側の白線をわたりきっていた。
上空に蒼い機体が舞っているのでセシリアのグループも、いつの間か飛行訓練に入っている。
どうやら少しと思っていたが随分シャルルに気をとられていたようである。

「ごめん、ごめん。じゃあ次は飛んでみせるからあたしと同じとこまで飛んできて」

すばやくISを展開すると彼女の甲龍もすぐに空の青さに溶けて行った。
12 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/12(日) 01:18:59.15 ID:3uxnBp3ko
今日はここまで。

13 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 13:12:38.97 ID:nkETay0AO
夕方再開予定。

書き貯めなくなるまでは投下スピード早めていこうと思います。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)[sage]:2012/02/12(日) 18:22:20.98 ID:Ii9PNr2AO
鈴が好きだから期待。

一夏でも百合ということでもないということは友情ものかな?
15 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/12(日) 18:53:54.46 ID:3uxnBp3ko

投稿再開します。
16 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/12(日) 18:56:57.85 ID:3uxnBp3ko

――保健室――

(あれ? 俺はたしかボーディビッヒに殴られてそれから……)

それからどうしたっけ? と頭をかきながらベットの上で体を起こす一夏。
辺りは一面真っ白。一夏の寝ている布団もシーツも、視界を遮っているカーテンもシミひとつなく真っ白である。

(そうか、保健室に運ばれたのか俺は)

時間を確認すると時計は2限を少しまわった辺りを指していた、つまりかれこれ1時間ほどここで寝ていたのか。
現状を把握すると物音に気づいたのが、カーテンが開けられ先生が顔をのぞかせる。

「あら、織斑君。もう起きて大丈夫?」

「先生。ありがとうございます。どうやら気を失っていたみたですね」

「そうよ〜、ここまで運んできてもらうの大変だったんだから。後で篠ノ之さんと、デュノア君のお礼いっときなさいね」

「箒とデュノアが……」

やれやれ女の一撃で意識を飛ばしたとあっては箒になに言われるかわかったもんじゃないなと、心配の種が増えてしまった一夏である。
17 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:05:16.11 ID:3uxnBp3ko

「う〜ん、たしかにボーディビッヒさんの一撃も綺麗に決まってたから気も失うかもしれないけど……」

人差し指を顎にあてる。真剣ともおふざけともとてるポーズだが、目は学生のことを心配する保険医の目である。。

「あの、先生まだなにか?」

「織斑君、最近しっかり体を休めている? 睡眠不足とか食欲不振とか気にかかる事ない?」

思い当たる節などいくらでもある。ただでさえ慣れない生活のなかで稽古だ稽古だと少々煩い幼馴染や、大変嬉しいのだが人間が食べられるものを調理してくださいよと言いたくなるイギリスのお嬢様など、この学園に入ってから心休まる時間がなかったかもしれない。

あれこれ考えて押し黙ってしまう一夏をみて、何か感じとってくれたのか先生はゴソゴソと棚をあさってる。

「確かに唯一の男性で疲れちゃうのも無理ないわね。大丈夫織斑先生には話をつけとくから安心しなさい」

「せ、先生……その手に持っている異常に太い注射器はどうするんでしょう?」

おそるおそる指し示す一夏の指の先には鉛筆ほどの太さの注射針に、赤や黄色に色が変わっている七色の液体が注がれている注射器が握られている。

「これ? これは、あの篠ノ之博士が織斑君になにかあったときは是非に言ってくれたもので、どこにもうってない非売品なのよ」

(束さん!? そ、そんなものを打たれたらなにがおこるか……)

逃げなくては脳が反応するよりも早く脊髄が動き出す。
反射的に逃げ出そうとするが、時すでに遅くガシリと肩を掴まれ、逃げ場を失う。

「大丈夫チクッとするだけだからチクッと」

先生確実にチクじゃないですズブです。

一夏の考えを知ってか知らずか、先生は残酷な一撃をズブリと突き刺した。

「GYAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 
18 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:07:29.90 ID:3uxnBp3ko

「全員、集合しろ」

千冬に一言により四方に散らばっていた生徒たちは速やかに集まる。

「来月にはタッグマッチトーナメントも控えている。前回の代表者だけが戦うのではなく学年全員がエントリーするものだ。全員、少しでも良い結果を残したかったらISに触れられる時間は無駄にするな。今日みたいな基礎訓練でも得られるものはたくさんある。良いな?」

「「「はい!」」」

「よし、各自着替えて格納庫に集合しろ。今日は各自、自機の整備も経験してもらう。専用機持ちは専用機と量産機、両方やってもらう。では解散!」


――女子更衣室――

「ふーう、だんだんと授業もISに触れる時間も増えてきましたわね」

学園の更衣室。
ロッカーから取り出した制服に袖を通しながら、ボソっとセシリアがつぶやく。

「そうだな。2年からはコース分けもあるし、夏には進路面談もある。入学してまだ1か月程度だと考えていたが、色々と考えねばならない時期かもな」

同じく着替え中であり、武士を連想させるようなしゃべり方をしているのは篠之ノ箒。
専用機持ちでも代表候補生でもないが姉が有名ということもあり学内では、一夏程ではないにしろ名が通っている。

「そうねー、あたしたちは国の代表を目指すからアレだけど、箒。あんた将来のビジョンはあるわけ?」

(将来か……)

自分としては不本意なまま、このIS学園に入学させられてしまった。
始めは不満や苛立ちを覚えることも少なくなかったが、今となってはここの生活も楽しいものだ。
ISという刺激的な毎日を送れるし、友人も多いとは言えないが本当に良い人達に恵まれた。
何より織斑一夏と再会できたことが箒にとっては何よりも幸せなことだったろう。

(一夏か……本当にまた会えるとは思わなかった。このままずっと一緒にいられたら……って私は何を考えている///)
19 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:09:17.25 ID:3uxnBp3ko

「なに想像してんのよ、エロ箒。」

「な!? 私は別になにも!」

パタンとロッカーを閉める音に反応して鈴は左に目を向けると、着替え終わったセシリアが何やら言いたそうに口元をニヤニヤさせながら鈴の顔を見ていた。

「まあまあ、良いじゃないですか。箒さん。愛する殿方を想ってしまうのは女性として当然のことですわ。鈴さんも先ほどはデュノアさんのことを熱心見つめていらっしゃったみたいですし」

「は!? それってどういう……」

言い終わる間もなくセシリアの発言が聞き取れる範囲内にいた生徒達が、鈴に詰め寄り、小柄な鈴はすぐに人ごみに覆われ見えなくなる。

「本当なの鳳さん!?」

「え!? 一夏くんは捨てられちゃうの?」

「もしかして浮気? ま、まさか二股!?」

「リンリン、やっるう〜」

「ちょ、ちょっと! セシリア! なんてこといってくれてんの!」

助けを求めるも空しく、既にセシリアは更衣室の外へとつながるドアを開けているのが、かろうじで見える。

「わたくし、機体の整備に行かなくては行けないので。鈴さんも遊んでる暇ありませんわよ、ではお先に〜」

ヒラヒラと鈴に向かって別れのあいさつをするとセシリアはそのまま更衣室を出る。
中からは必死に弁解する鈴と、犯罪者を追い詰める検事のような女子たちの怒号がとびかっているが耳まで届いていたのだが、1歩ごとにそのボリュームも減っていき、しまいにはブルー・ティーアーズの整備にのことが頭を覆い、鈴のことなど忘れてしまうセシリアであった。
20 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:11:16.29 ID:3uxnBp3ko

保健室。
4限が終わり、生徒たちは食堂へ行くか、持参したお弁当でも食べて、午後の授業への栄喜を養っている頃、シャルルは一夏の様子を見に保健室を訪れていた。
スライド式のドアを開けて中に入ると、保健室の長である、保険医の先生がシャルルに気づき声をかけてきた。


「あら、デュノア君。織斑君ならもう起きてるわよ。」

ベッドが設置してある、部屋と手前の机やら薬品の棚が置いてあるスペース分けるカーテンレールを引くと、起き上がり制服の袖に腕を通そうとしている織斑一夏がいた。

「おはよう。もう起きて大丈夫なの?」

「ああ、もう全然大丈夫……って、たしか今朝の転入生で名前は、えーっと」

なんて名前だったか今朝の記憶を遡ろうとするも、浮かぶのは長い銀髪重苦しい黒い眼帯のラウラの姿だけ
そんな、一夏を見てニコリとするとシャルルは今朝の様に背筋を真っ直ぐ伸ばし、2度目の自己紹介を始めた。
             
「シャルル・デュノアです。出身はフランス共和国。改めてよろしくね、織斑一夏くん」

「そうだ、シャルル・デュノアだ。悪いな名前も憶えてなくて」

「ううん。そんなことないよ。あんなことがあったんだし、気にしないで」
21 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:16:07.18 ID:3uxnBp3ko

「そっか、ありがとな。そういえば俺をここまで運んでくれたのもデュノアなんだろ?」

「うん。男は僕しかいないから、あ、でも篠ノ乃さんも手伝ってくれたよ」

一夏の体格は小さい訳でもなく平均的な男子高校生よりしっかりしている。
その一夏を1人で運ぶのは難しく、2人くらいで運ぶのだろう。
女性にこのようなことを言うのは大変失礼なのだが、剣道をやっていて割と力もある箒が運んでくるのは分かる。(他にも同室だったからだとか理由はあげられるのだが)
しかし男とはいえシャルルの体格はあまりにも――

(小さい、小柄だな。)

と一夏に思わせるものだった。
本当に男なのかと疑いたくなる位細く,華奢な体付きをしている。

「な、なにかな。ずっと僕のことみてるけど?」

「いや、大したことじゃないんだ。それよりデュノアもうメシは食べたか?」

(ま、千冬姉に比べれば不思議なことはなにもないか)

織斑千冬の様に素手でIS武装を扱う人間もいる。
それに比べれば少し小柄な男子高校正など、そこらの石ころとなんら変わりはない。

「まだなんだ。織斑くんが心配で昼休みに入ったらすぐにきたから」

「じゃあ食堂行こうぜ。デュノアは知らないだろ、この学園の食堂は本当に美味いんだから」

「ふふ、じゃあ期待させてもらおうかな」

ありがとうございましたと先生に一言だけあいさつをする
初めての学園での食事。初めて学園で同性との食事。
2人は別の思いに気持ちをワクワクさせながら、保健室を後にした。。
22 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/12(日) 19:20:37.11 ID:3uxnBp3ko

今日はここまで。

>>14 多分言わなくても、もう少し読んでいただければ簡単に分かると思います。

むしろそこからが本番なので早く本筋を書けるとこまで進めたいですね。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)[sage]:2012/02/12(日) 19:29:12.53 ID:LD9w8yqro
期待して舞ってる
24 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 21:25:04.47 ID:0N8iuvWTo

10時位に投下予定です
25 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:28:49.31 ID:0N8iuvWTo
食堂へと向かう長い廊下。
2,3人で立ち話をしている者、先生に何やら相談している者、昼休みということもあり廊下には多くの人間の姿が見られる。
転入してきたばかりのシャルルがいるので、一夏は家庭科室や視聴覚室などの教室の前を通る度に説明してあげていた。
ちょうど、教室へと続く階段に差し掛かったとき、上の方から「一夏」と聞きなれた声で呼ばれ、2人は足を止める。

「なんだ、鈴か」

見上げると、上の階から降りてくるところだった鈴と目があう。

「なんだとは随分な言い草じゃない。こうして幼馴染がお見舞いに行こうとしてんだから、相応の言葉は無いわけ?」

「相応の言葉を欲しがるようじゃあ、お見舞いとは呼べないんじゃないか?」

「ほー一夏がこのあたしに口答えするとは、いい度胸してんじゃない」

皮肉たっぷり込められた一夏の発言に、強気で押し返す鈴。
見えないゴングが鳴り、戦いの火ぶたがきられ――

「まあまあ、鳳さんもわざわざ来てくれたわけだし素直に感謝しとこうよ」

「あら、デュノアもいたの」

デュノアの姿を見て組んでいた腕をほどく。さらっと酷い発言されたのだが、シャルルは気にする様子もなく「最初からね」、と鈴に返す。
26 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:29:53.98 ID:0N8iuvWTo

「お? デュノアは鈴のこと知ってるのか。2組なのに」

「僕もフランスの代表候補生だし、他の国のことは一通り勉強したから」

「へーあんた真面目ね。あたしなんかデュノアもセシリアも会うまでしらなかったわよ」

「デュノアを鈴と比べちゃまずいだろ。代表候補といってもいろいろあるんだろ?」

「さっきから黙って聞いてればアンタって人間は……あたしに喧嘩売ってるわけ!?」

なぜ、これほどまでにディスられなければならないのか。
あたしが何をしたというのか。(多分色々なことをしているのだが)
理不尽な一夏の発言にふつふつと怒りがこみ上げてくる。

鋭い眼差しで刺すような視線を放っているのだが、当の一夏は素知らぬ様子で自分が地雷を踏んでしまったことなど、まるで気づいていない。

「ほ、ほら織斑くん。僕なんか小さいときからISの勉強してたから代表候補になれたけど、鳳さんなんかたった1年で代表候補にまでなったんだよ。だから本当はすごいんだって」

なるほど。考えてみればそうかもなと感心したそぶりで鈴のことを見つめる。

「そうだなあ、確かに中2までは一緒の学校で授業受けてたんだよなあーそれが中国の代表候補かあ」

「ふふ〜ん♪ そうよ少しは一夏もあたしのこと見直したでしょ♪」

たしかにISが普通に使えるレベルには詰め込んでも1年はかかるだろう。
この学園でのカリキュラムでも1年で使えるように、残りの2年をかけて実践レベルまで上げていく形をとっている。
同じく代表候補生となる者も、幼い頃よりIS適正をはかり、数年をかけてISについての知識、実力を磨いていくものだ。
それらに比べると鈴の0から1年で候補生レベルに達することは才能はもちろん、並々ならぬ努力がうかがえる。

27 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:34:04.77 ID:0N8iuvWTo
あっ! と何か思いついた鈴がポンと手を叩く。

「呼び方」

「え?」

「デュノアの呼び方。織斑くんとか、鳳さんとか息がつまんのよね。だから鈴でいいわよ」
「鈴。ナイスアイディアだなそれ! うん。俺のことも一夏で良いぞ」

鈴冴えてるなー。でしょー一夏もあたしのこと……と似たようなやり取りをしている2人は大きく腕を振り上げてハイタッチを交わし、小気味良い音が廊下に響く。
唐突に出された提案にシャルルは戸惑う。
転入初日、まだ慣れない学園生活。
様々な学校を転々としてきたシャルルだが、こんなにも親しみやすく、話しやすい人に、15年間会ったことがなかった。

「い、一夏。り、鈴」


シャルルの緊張のあまりか2人を呼ぶ口調はとてもたどたどしい。
そんなシャルルを一夏がくすくすと楽しそうに笑う。

「なんだーシャル。もしかして緊張してんのか?」

「しゃ、シャル?」

「シャルル・デュノアだからシャル。良いだろう?」

「あら一夏。どうしたの? 今日は珍しく冴えてんじゃない」

「珍しくは余計だ――で、どうだシャル。気に入らないなら別n」


「ううん! 全然! すごく良いよ! ありがとう一夏、鈴。」

素敵な愛称をもらい、シャルルは興奮している様子。
目はキラキラと最高に輝いており、心の底から嬉しそうに笑う姿に、鈴も一夏も友人冥利に尽きるといったところか。

「じゃあ、よろしくねシャル」

「ああ、これからよろしくなシャル」

2人は手を差出しシャルルと握手を交わす。
乾燥しているのでも油っぽくもなく、新雪のようにサラサラしたシャルルの手の感触は心地よい。
表面の柔らかさの奥の確かな弾力が鈴の手を押し返す。
こうして触るとやはり男の子なのね。シャルルの手から、そんなことを鈴は思った。
28 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:35:06.65 ID:0N8iuvWTo

昼休みも20分程過ぎ、軽くなったお腹を抱え3人は当初の予定である食堂によった。
途中あのまま興奮したシャルと3人で輪になってぴょんぴょんしていたら大分時間をとってしまったようだ。
もうあんまり時間がないなと一夏。
手早くメニューを決め、カウンターで各々注文した品を受けるとると、窓際で箒とセシリアを見つけたので、一夏が声をかける。

「よっ」

「一夏」 「一夏さん」

「「もう体のほうは大丈夫なのか?(なんですの?)」」

「ああ、もう大丈夫だ。悪かったな心配かけさしたみたいで」

一夏さんの心配ならいくらでも……そして出来れば看病もと、思考ダダ漏れの赤くなった顔をしている2人。
毎度毎度のことながら分かりやすいものである。

その2人のアホ面を眺めてイライラしてきたのか、鈴がバンとトレイを机に激しく叩きつけると、妄想から帰ってきたセシリアがようやく鈴たちの存在に気付く。

「あら、デュノアさんと鈴さんもいらっしゃいましたの」

「なに? あんたら? 今日のあたしはそんなに影薄い訳? どいつもこいつも無視してくれてんじゃないつーの」

「まあまあ、鈴そういう日もあるよ。ちゃんと今日の占いみてきた?」

「占い? あーパスパスあたしそういうの信じない人だから。逆にシャル。あんた好きそうね、占いとか血液型とか」

「シャル?」

「鈴?」

2人のあまりにも親しげな態度に少し疑問を感じる2人。
いつの間にか呼び方も変わってるし、まだ転校初日。
一体3人になにがあったのか目をぱちくりさせている。

「えーっと、とりあえず座ろうぜ。せっかくの食事が冷めちゃったら勿体ないからな」
29 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:36:40.10 ID:0N8iuvWTo
確かにそうですねと言い、3人が座れる様に2人共席を詰める。
当然の如くだれが一夏の隣に座るかでもめ、最終的には箒の隣に一夏。
その向かいにセシリア、鈴、シャルルの順に落ち着いた。

「――で3人とも名前で呼び合うことになったのか」

「うん。僕初めてだよ。こんなに早く名前で呼び合えるなんて、2人とも全然遠慮とかしないでくれるから」

「当たり前じゃない。あたし達は友達なんだから」

当たり前でしょ、今さら何言ってんだがこの子はと、シャルの言ったことが鈴にとってあまりに当然のことだったので、何事もなかったかのようにデザートの杏仁豆腐を食べている

「友達……ともだちかぁ」

エヘヘ少しだけ照れくさそうに笑うシャルルの顔は、世の一般男性が見たならば確実に惚れてしまうのではいだろうか、と言えるほど可愛らしい。
(か、かわいい) (こいつ、本当に男?) (私より可愛い……)

「こ、コホン。成程な。では私のことも箒と呼んでくれ」

「そうですわね。わたくしのこともセシリアと」

「うん。ありがとう箒にセシリア。僕のこともシャルルって呼んでくれて良いからね」

お互いの呼称も改めいよいよというときに無情にも冷たい鐘の音が響く。
予鈴がなり次の授業まで後5分を知らせる。

「あー残念もう授業ですわね」

「そうだな、遅刻すると千冬姉になにされるか分かったもんじゃないし、とっとと帰るとしますか」
30 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/13(月) 22:39:08.86 ID:0N8iuvWTo

本日はここまで。
次はちょっとだけ物語の核に迫れるようなものになると思います。
ではまた
31 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:08:28.89 ID:TO8N/13no

投下開始します
32 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:14:17.92 ID:TO8N/13no
「それで織斑先生。用とはなんなのですか?」

窓から西日が差しこみ職員室はオレンジ色に染め上げる。
時刻は午後4時半をまわり、一夏、シャルル、箒の3人は千冬に呼ばれて職員室まで来ていた。

「大したことではない。男が2人になったことだしな部屋割り改めようと思ってな」

「あ」

「そうか俺がシャルルと一緒の部屋になるわけですね」

最初こそ恥ずかしがって見せたものの、今ではすっかり一夏との相部屋に慣れてしい、心地良かっただけに素直に納得できない箒。
苦虫を噛み潰したように顔をしかめる箒からは、部屋を替えたくはないが、事情が事情だけに強く出られない箒の心境が読みとれる

反対に一夏はいい加減、女子との共同生活にも疲れが見え、さらに箒との生活は朝練で必ずたたき起こされることや、なにかある度に竹刀を取り出すこともあり、今回の部屋替えは首を長くしてまっていたものである。

「そうだ。いかにお前たち2人といっても、いつまでも男女を同じ部屋にしとくわけにはいかんからな」

「え!? 一夏って1人部屋じゃなくて箒といっしょだったの?」

一夏が隣にいるシャル目をむけると、目を丸くして驚いているのがわかる。
そりゃ高校生の男女が何日も同室で過ごしているとは考えないだろうなと一夏は頷く
33 :「……そうか。お望み通り2度と立てない体にしてやる、覚悟しろ」[saga]:2012/02/15(水) 23:14:59.53 ID:TO8N/13no
「し、しかし、織斑先生。シャルルは今日転入したばかりですし、疲れも溜まっているでしょうから、今日すぐにというのは……」

「優しいんだね箒は。会ったばかりの僕の体調を心配してくれるなんて」

(本当は部屋を替えたくないから言った出まかせなのだが……)

「箒こそ今日まで男性と一緒だったなんて大変だったでしょ? 僕は疲れてないから始めちゃおうよ」


「う、うむ……」

もし、他の2人の専用機持ちがいたら頑なに箒は部屋替えを渋っただろう。
しかしシャルルの真っ直ぐな瞳を見れば、彼が心の底から自分のことを気にかけて話してくれているのが箒にもわかる。
その善意の気持ちを無下にするのは心苦しい。

「デュノアもこう言ってることだ。それに急な事情だったとはいえ、若い男女をいつまでも同じ部屋しとくわけにはいかん。学園の風紀もあるのでな」

「……はい」

反論の余地もなく2人に促されるまま、箒はしぶしぶ頷いた。
34 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:16:08.01 ID:TO8N/13no

「あれぇー? りんりんだ」

布仏本音はその日、最後のSHRが終えた後も友人達数人と教室に残っていた。
話のネタはもちろん、1年1組が誇るスパールーキー、シャルル・デュノアのことである。
私はデュノアくん派だな、だとか、いやいや織斑くんだよ、とガールズトークに話に花を咲かしていると、ドアから誰かを探している鳳鈴音が入ってきた。

「あら、本音。一夏たち見なかった?」

「おりむー? なんか織斑先生に呼ばれてでゅっちー達とどっか行っちゃった」

「でゅっちー?」

「うん、デュノアくんのことー」

おりむー、せっしー、りんりん、に続いてでゅっちーときたか。
思わず、良いセンスだ……心の中でつぶやく。
たしか中学の頃一夏や弾とさんざんやったゲームのセリフだったかなと思う

「鳳さん。デュノア君に一目ぼれしてアプローチかけたって話は本当なの?」

「え゛っ!?」

「そうだそうだー更衣室では逃げられたから、逃がさないぞー」

「そうそう、それでどうなの鳳さん。本当に織斑くんはもういいの?」

またその話か、さっきまで散々していたというのに……あまりのしつこさに段々頭が痛くなってくる。

「だから〜、更衣室でも話したようにあたしはシャルのことなんてこれっぽちも……」

「……シャル?」

余計なことを言ってしまったと慌てて両手で口元抑えるも、時すでに遅し。
皆がまだファミリーネームで呼ぶ中、彼女は親しげにファーストネームを口にしたことは、彼女達に余計な燃料を与える結果となる。
3人は更にヒートアップし鈴をまくし立てる。

「わわわ、りんりん。すごいね〜もう名前で呼んじゃうんだー」

「あーもう。だからシャルとは友達なだけで別に好きとかじゃないっての」

どうすれば分かってくれるのだろう、この人たちは。
確かに男性がいない学園に在籍している身として、この手の話に飢えているのは分かるが、それにしても……まあ女子高生なんてこんなものか。

状況の打開策に頭を抱えて唸る鈴は、この場での収束をあきらめ始めていた。
こうなりゃとことんまで付き合おうじゃないかと、半ばヤケクソ気味な鈴は視界の隅にある人物を捉える。
35 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:17:00.81 ID:TO8N/13no
「ボーデヴィッヒ」

そこには先ほど鈴が開けっ放しにしやドアに立っているラウラの姿があった。

この騒音の発生源であった彼女達も、鈴のつぶやきからラウラが入ってきたことがわかると、ピタリと誰もが口を閉じる。


「放課後にぎゃーぎゃー煩いと思ったら貴様達か」

研ぎ澄まされたナイフのように鋭く、感情を感じさせない無機質で冷たい声が教室に響く。

楽しかったハズの教室の空気はいまや、絶対零度にまで冷え切っている。

そんなことなど素知らぬ様子で、ラウラは自分の机に近づいていく。
机の中を確認しようとしゃがみ込むと、夕日を遮るように人型の影が自分のことを覆ってるのに気づき顔をあげる。

「あなたが、噂の転入生ラウラ・ボーデヴィッヒね」

「お前は……」

「あ〜あたし? あたしは中g」

「中国代表候補生。鳳鈴音だな」

ラウラはその場で立ち上がり、鈴が名乗り上げる前に鈴の名を口にする。
148cmと150cm。
2人の身長差はほぼ0であり、真っ直ぐ相手のことえお見据えると自然に視線がぶつかる。

「なんだーあたしのこと知ってんじゃない。色々聞きたいことがあるけど、とりあえず候補生同士仲良くしましょ」
36 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:18:00.58 ID:TO8N/13no

抑えられてはいるが鈴の口調に少しトゲがあるのを、その場にいる全員が感じていた。

(ねえ、鳳さん。なんか怒ってない?)

(う〜ん。やっぱおりむーがぶたれたこと、気にしてるんじゃない?)

転入早々、一夏のことを殴り、授業においても圧倒的な空気を放っていたラウラは既に爆弾を扱うような慎重さでクラスに接せられている。
1組では誰もが自分から話しかけよう、ましては強い口調で話す人間などいるはずもなく、現在鈴とラウラが会話していることに、その場にいた3人は目を離せなくなっていた。

「ふん。知らぬはずがないだろ。あの卑怯者の娘とあってはな」

「……は?」

唐突。なんの前触れもなく、誰も予想だにしない言葉を聞く。
娘? つまり鈴の母とラウラは知り合いなのだろうか……その意味を鈴が正確に理解したことが、少し怒気のこもった返事から分かる。

「その耳は飾りか? それとも貴様の脳は腐ってるのか? 苦労せず得た栄光の味は美味かったか、と聞いているんだチャイニーズ」

「違う!!」

鈴が叫喚する。
普段から喜怒哀楽ハッキリしている鈴。
怒っている姿も、悲しんでいる姿も、皆それなりに知っていると思っていたが、今まで目にしてきた怒り方とはまるで違う。
ラウラを睨むその瞳には、敵意なんて簡単の言葉では収まらない。
憎悪、殺意、復讐、嫌悪、苦痛、屈辱、傷を抉られた自分に対する痛み、相手に対する様々な負の感情が見てとれる。
37 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:18:56.95 ID:TO8N/13no

「なにが違う。貴様の母。鳳春梅【ファン・チュンメイ】は――」

「黙れ! あんたが、母の名前を口にするな!」

ラウラの口から放たれた、鈴の母の名。
その名がもたらした効果は十分であり、激怒した鈴のはぁはぁという荒い息遣いだけが教室に響く。
そんな激高する鈴を見向きもせず、侮蔑したように鼻で笑う。

「五月蠅い女だ。大した努力もせず、あのような珍しいだけの男にうつつを抜かし、享楽的に生きる。お前の母もそんなだったのだろう?」

ラウラは明らかに鈴のことを挑発している。
出来うる限り、汚く、狡猾で効果的に鈴の内面を傷つけ、相手の出方を待っている。
ここは抑えなくては駄目、相手の思惑に乗ってはいけない。
しかし、ここまで母を一夏を、そして自分侮辱されといて我慢できるほど、鈴は大人でも臆病者でもなかった。
38 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:20:23.60 ID:TO8N/13no

「あんたが、あたしの何を知ってんの? 今日初めて会って、あんたはあたしの15年間の何を知ってるっていうのよ!!!」

言い終わるや否や、鈴が力強く床を蹴りつけると、一足でラウラとの距離をつめる。
疾い。
髪が靡き、スカートが揺れる。
その速度に鈴は全体重を乗せ、握りしめた右の拳をラウラの左頬にむけて振りぬく。

ラウラは涼しい顔で僅かに上体を反らして攻撃を躱す。
鈴の拳は紙一重のところで鼻先をかすめ、2人の視線が交差し、ラウラの瞳の中に相手を憎む、攻撃的な意思が生きているのを、鈴は感じ取る。
その目はなにを意味するのか、ほんの少しの間、鈴の脳にそんな疑問が湧きラウラから意識がそれる。
この隙をラウラが見逃す筈もなく素早く鈴の右手をとり、鈴のスピードを殺さぬようもう一方の手で鈴の後頭部を乱暴に掴むと、そのままの勢いで顔面を机に叩きつける。

ゴンッという鈍い音。その音が今の鈴の頭に加えられた衝撃の大きさを伝え、さっきまで威勢の良かった鈴の姿はなく力なく机に突っ伏してしまった。

「この程度か」

心底つまらなそうに、ラウラが吐き捨てる。

「人数だけが取り柄の国で、お前のような人間が代表候補とはお国のレベルが伺えるな」

そう言い残し、鈴から手を放すと「お前ら」とあまりの光景に言葉を失っていた3人組に声をかける。

「!? な、なにかな?」

「強く頭をうった、どうせしばらく起きないだろう、保健室にでも連れて行ってやれ」

内容とは裏腹に微塵も思いやりを感じることは出来ない。敗者への情け。
あれ程のことをしたにも関わらず、何も変わった様子のないラウラの異様さに、布仏はただ首を縦に振ることしかできなかった。
39 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:21:48.41 ID:TO8N/13no

3人が鈴に駆け寄るのを眺めてからゆっくりと教室の出入り口に向けて歩き出す。
やり過ぎただろうか、歩きながら自分の行いを思い返す。

(いかに相手が、あの鳳春梅の娘とはいえ一般人相手に軍人の自分があのような行いとは……いや、教官の無念を考えれば)

彼女の今朝の一夏に対する行いも、現在の鈴に対する行いも完全なる八つ当たりである。
ただ尊敬する教官のためだと、身勝手な理由で自分の一方的な言い分を塗り固め、出来もしない正当化を無理やり行おうとしているにすぎない。

そんなことなど考えもせず、ラウラが教室から出ようとドアに手をかけたとき、大きな衝撃を頭部にくらい、黒板のある方に吹き飛ばされて後頭部を壁に激しく打ち付ける。

急な出来事だったが戸惑うそぶりも見せず、今襲いかかってきた襲撃者の姿を確認するべく、痛む頭を押さえながら衝撃のしてきた方向に目を向ける。

「……鳳、鈴音」

そこには確かにしずめたハズの鳳鈴音が腕を組み、不敵な笑みを浮かべている姿であった。

「第2ラウンドはあたしの勝ちね」


40 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:22:29.42 ID:TO8N/13no
「貴様……」

「馬鹿じゃないのあんた? あんなので、この鈴音様に勝てると思ったわけ?」

思いっきりラウラのことを小馬鹿にした態度で挑発する鈴。
やれやれ、面倒くさい相手ことになりそうだと思いながらも、ラウラは立ち上がり鈴のことを見据える。

「一度気絶したフリをするとはやってくれるな。臆病者らしい戦法だがそれなり有効だったと誉めてやろう」

「戦いの最中に敵に背を向けるなんてドイツの軍隊は遅れてんのね。あんたみたいのが隊長なんて部隊、存在する意味あんのかしら?」

一撃が決まって落ち着いたのか、今度は逆に鈴から口汚くラウラのことを挑発するセリフを吐く。

「き、貴様もう一度言ってみろ!」

その発言に今の今まで、胸の内に秘めていた激しい感情が抑えきれなくなり、ラウラの表情が怒りで醜く歪む。
引っかかった。先程は鈴が挑発に乗せられたが、今度は逆にラウラのことは挑発に乗せることが出来た。
内心上手くいったとほくそ笑む鈴。

「眼帯してるから目が悪いのかと思ったら、耳も悪いのね。日本の優秀な補聴器でも買ってって早くそのナントカ部隊で慰めてもらえば? ウサギちゃん」

「……そうか。お望み通り2度と立てない体にしてやる、覚悟しろ」

本当にキレると人は逆に冷静になるという。
うってかわって怒りを鎮めたラウラらしい物言いだが、さっきよりも強い怒りを感じ取ることができる。
そんなラウラを前にして大きく深呼吸。
2、3度首を横に倒し、その場でジャンプしながら手首をほぐす。
準備完了。

「第3ラウンド……開始ね」
41 : ◆jXxX9w2lpg[saga]:2012/02/15(水) 23:27:18.33 ID:TO8N/13no

本日はこれで終了。

自分は原作を読んでいないので、鈴の母がどうなのか全く知らないです。
ただ、どうしても使いたかったので鳳春梅としてオリキャラのような立場で登場させることにしました、苦手な方は申し訳ありません。

あとウチの鈴は身体能力高めとなっており、ラウラに次ぐ実力の持ち主となっております。

ではまた。
42 : ◆jXxX9w2lpg2012/02/15(水) 23:33:16.04 ID:AM8E6MmAO
>>33 の名前欄はミスです。
気にしないで下さい。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2012/02/25(土) 13:13:55.09 ID:Wlk7YgFko
待ってる
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)[sage]:2012/02/27(月) 01:41:43.27 ID:ef0nsjEAO
いきなり修羅場だな……
45 : ◆ZqqPsVFhso[sage]:2012/02/28(火) 16:20:42.67 ID:0Go3LAQ6o

生存報告。
数日中に続きを投下できる予定です。
46 : ◆jXxX9w2lpg[sage]:2012/02/28(火) 16:22:39.65 ID:0Go3LAQ6o

名前欄ミスりました。
47 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 11:06:34.43 ID:Je5AlCbvo

22時頃投下します。
48 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:17:16.81 ID:Je5AlCbvo

「これで全部だな」

千冬に引っ越しを命ぜられ、一夏は急ぎ自分の部屋に戻った。
別にそんなに急がなくても良かったのかもしれないが、あまりゆっくりやっていると日が暮れてしまう。
そんな時間に荷造りを始めるとまわりの迷惑にもなってしまうと考えて取り掛かった次第である。

荷物をこれからお世話になる、現シャルの部屋の前まで運ぶ。
運ぶといっても、私物などほとんど持っていない一夏は中位の大きさの段ボール2つにおさまってしまった。

「一夏これだけ?」

ドアがガチャリと中からシャルが顔をのぞかせる。
シャルの問いの意味が分からず、一夏は多少困惑しながらも疑問形で返す。

「ああ、これだけだぞ?」

「ふ〜ん……僕なら、この5倍くらいかな」

「何が?」

「荷物」

「やっぱり、英国紳士は違うな!」

関心した様に一夏は言う。
一夏。僕フランスなんだけどね。そんな言葉を飲み込む。
代わりに、ジィーと一夏のことを横目で見る。効果はいまひとつのようだ。

まあ。荷物でも運び込みますか、と一夏。
荷物を部屋に運び込み、一夏にとっては久々の男だけの時間の予定だった。
いや、決して変な意味ではなく。
49 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:17:52.05 ID:Je5AlCbvo

「ぃ……いた。 おりむー……」

そんなとき、声も途切れ途切れに布仏本音が現る。
普段からのほほんとしていて癒し系とされている彼女の姿とはほど遠く、肩で息をし、髪は乱れている。

「ど。どうしたんだ!? そんなに慌てt」

その恰好に思わず一夏は尋ねる。
しかし、事態は急を要するのか、布仏が割って入る。

「せ、せつめーは、あ……と。早くきょーしつ、りんりんが」

一夏たちを探して走り回ったのだろうか、つっかえながら何とか要件を伝える。
どうやら鈴が何やら危険な目にあってるらしい、それだけわかると一夏は1年1組の教室に走り出す。


「一夏!」

その動きに少し遅れてシャルもつづく。
へたりとその場にすわりこんだ布仏を残し、2人は教室へと向かう。
50 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:19:11.72 ID:Je5AlCbvo

教室にたどり着いた2人を待っていたのは、不思議な光景だった。
本当に自分たちはここで授業を受けていたのかと疑いたくなる程、その場は様変わりしてしまっている。

満足に立っている机など一つもなく、横倒され、ひっくり返り、中にはいっていたのであろう、誰のかも分からぬノートや教科書が散らばっている。

そんな惨状の中で台風の目の如く、開かれた空間が真ん中にあった。
そこに片膝をつき息も絶え絶えな鈴がいた。

自慢のツインテールは解け、真っ直ぐと長い髪が床にまで届き表情を隠している。

「鈴!」

「はぁはぁ……い、一夏!? シャルも……どうしてここに?」

突然、一夏とシャルが現れたことに驚きを隠せず目を見開いている。
振り向き、髪が払われ素顔がを覆うものが取り払われる。
鈴の顔には痣のようなものも見受けられ、一夏は鈴に駆け寄る。

「鈴! どうしたんだその顔は? 誰かにやられたのか?」

近づいて間近で見てみると、唇が切れ血が滲んでおり、鈴の改造制服の左袖も破けて左肩から先が露わになっている。
思っていたよりも手痛くやられている姿に一夏はうろたえて、落ち着きがない。

51 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:20:24.03 ID:Je5AlCbvo

鈴は一夏達の登場に一瞬面喰らいはしたが、すぐに視線を元の場所にもどす。
シャルがその視線を追って教室の前方に目を向けると、教卓にもたれ掛っている銀髪の転入生――ラウラ・ボーデヴィッヒがいた。

「また大勢で来たものだな。中々人気者じゃないか鳳鈴音」

予期せぬ部外者の登場にも微動だにせず語る口調にはまだ余裕が感じられる。

「ふん、羨ましい? あんたみたいな、ぼっちには誰も気にかけてくれないものねー」

「馬鹿馬鹿しい。そんなもの只の足枷にしかならん。私の人生には不要なものだ」

「ったく……そこで『友達が欲しい……』くらい言ってみなさいよ、本当に可愛くないわね」

全く……そう思いながら、足にもうほとんど残ってもいない力を込め、フラフラしながらも何とか体を支える。

(立つのもやっと。劣勢なのは火をみるより明らかね。外野も増えてきたし、先生も来るかもしれない。次で最後ね)

自分の体力、戦い始めてからの経ってしまった時間、ラウラの実力。
今現在、自分の置かれている状況を冷静に判断すると最善の一手は自然と決まった。

一夏が鈴に声をかけるが、もう鈴の耳には届かない。
一夏達が来てくれたことも意識から外れラウラに目の焦点を合わせる。

一秒。二秒、突撃のタイミングを計る。

――今だ!両足で強く地面を蹴り十分に勢いをつけラウラに低空で突っ込む――ハズだった。

「一夏! 鈴を押さえて!」

シャルが飛び出し鈴が動けないように羽交い絞めにする。
鈴がタイミングを計っていたようにシャルも教室の外から鈴の後ろに回り込み抑えるタイミングを待っていたのである。
52 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:21:27.45 ID:Je5AlCbvo

「シャル!? 何すんのよ! 早くはなしなさいよ!!」

「駄目だ! 鈴。今度はかすり傷じゃすまないかもしれないんだよ?」

「うっさいわね! んなこと分かってんのよ。良いから早く離せー!」

シャルの忠告に聞く耳も持たずバタバタと暴れる鈴。
もう一度シャルが一夏に鈴を抑えるように促す。

鈴すまん。そういって鈴を抑えようと掴みに行く一夏の顎に、蹴り上げられた鈴の足がクリーンヒットする。

拘束から外れようと渾身の力を込められた蹴りの前に一夏は後ろに大きくひっくり返り、散らばっていた椅子とともに激しい音を立て沈む。

「一夏!?」

「シャルもいい加減、鬱陶しいっての!」

一瞬鈴の体から力が抜け前屈みになったかと思うと、勢いをつけて頭を思いっきり後ろに振る。

「うっ!?」

羽交い絞めにして後ろにいたシャルが鈴の頭突きを避けられる筈もなく、鈴の後頭部が鼻に打ち付けられる。
その衝撃と痛みに反射的に両手のから力が抜け鼻を抑える。
53 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:22:14.59 ID:Je5AlCbvo

「悪いわね、シャル、一夏」

友人に対し、1人ハイキックをもう1人に頭突きを食らわし、自由になった鈴は一応の謝罪の言葉を告げる。
その光景をつまらそうに見ていたラウラがようやく口を開く。

「もうお遊戯の時間は終わったのか?」

「あれ? わざわざ待っててくれるなんて殊勝な心がけじゃない」

「いやいや中々面白い見世物だったものでな、つい見入ってしまっただけだ」

「そりゃ、どうも」

「……別に誉めてない」

下らないやり取りだ。
テンプレ的でアニメや漫画の世界で何度も見てきた。



――今度こそ。

先に動いたのは鈴。

技術では幼い頃から戦闘を繰り返しているラウラに遠く及ばない。
しかし身体能力なら、先程までの感触からそこまでの差は感じない。

そこまでわかってるなら、小手先は無用。
自分の持てる最大の力で相手にぶつかりに行く。

誰にも邪魔されることなくスタートをきり、ラウラが目前まで迫る。

しかしまたもや、鈴の拳がラウラに届くことはなかった。

それどころか、何者かに襟首を掴まれ力任せに引っ張られる。
いかにスピードがついていようとも小柄な鈴は耐えられず、後方に投げ飛ばされ、背中全体を大きく床に打ち付ける。
54 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:23:01.70 ID:Je5AlCbvo

「痛ったぁー、何すんのよ! ……」

「教師に向かって『何すんのよ!』とは……お前は言葉づかいも習わなかったのか?」

鈴を片手で投げ飛ばし、現在進行形でラウラにアイアンクローをくらわし片手で持ち上げることが出来る人間など1人しかいない。

――学園最強、いや人類最強との呼び声もたかい織斑千冬である。

「き。きょう……かん、て、手を」

「ここでは織斑先生だと言わなかったか? ラウラ・ボーデヴィッヒ」

「お……織斑せんせー、て、手を放してください」

ふんと鼻で笑うと、ラウラを掴んでいた左手の力を緩め、ラウラがドサリと教室に倒れる。
パンパンと両手を払い千冬は改めて教室をしかっりと見渡す。

「貴様ら、この騒ぎは一体どういうことだ? 本来ならこの放課後は部活なり復讐なり学生の本分をまっとうするための時間なのだが、よりによって私のクラスで大ゲンカとは」

この場の首謀者であろうラウラと鈴の2人を鋭く睨み付ける。
その眼光はラウラの比ではなく蛇に睨まれたカエルとは、このようなときに使うのかとシャルは関心してしまう。

「まあ良い。詳しい話はおいおい聞くとして……デュノア」

「はい!」

まさか自分に声がかかるとは思っておらず、油断していたシャルの声が少し裏返る。

「鳳をつれて保険室まで行って来い」

はい! もう一度気持ちの良い返事を千冬に返すと、鈴の元に駆け寄り声をかける。
鈴。しかし鈴はその場を動こうとはせずに、一点を見つめている。

55 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:23:53.58 ID:Je5AlCbvo

「鳳。二度とは言わん。早くデュノアと一緒に保健室に行け。自分で思っている以上に酷い有様だぞ」

視線をラウラから外し、千冬を見上げる。
その目からは何か訴えているようにも見える、少なくとも萎縮しているようにも反抗の意思を感じ取れるような雰囲気ではない。
千冬にその意図が伝わったかどうかは、判断できないが無言のまま鈴と見つめあう。
しばらくすると、鈴の方から目をそらして立ち上がる。

「あ、鈴!」

何も言わずに教室の出口に向かう鈴を、追いかけてシャルも教室から出て行った。

「あの……千冬姉これは……」

「お前も何も知らんだろう、余計なことは喋らなくて良い。それより残った者と教室を綺麗にしておけ。話はそれからだ」

それだけ言うと返事も聞かずに、ラウラへ向き直り自分に付いてくるよう促す。

教室を出ていくとき一度だけ振り返り、終わったら寮長室の前で待っているようにと、一言だけ言い残し出て行った。

残された一夏、他三名は今目の前で行われていたことが、現実だったのか夢だったのか、そのあまりに衝撃的だった映像を忘れることは出来ないが、ひとまず千冬の言う通りにしようと、机や椅子を元に戻すのであった。
56 : ◆jXxX9w2lpg2012/03/02(金) 22:24:35.40 ID:Je5AlCbvo

本日はこれまで。
また来週くらいには投下できるようにします。



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