VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/03/16(金) 23:29:30.92 ID:9ef4yUEd0<>阿良々木月火の朝は早い。
まだ日も昇らない時間に私は目を覚ます。
二段ベッドの上の段で、私は覚醒する。
下の段では火憐ちゃんが眠り続けている。
「起きてもうた、かまってや〜」
とか。
そんなこと言ってお姉ちゃんを起こすつもりはない。
私は目を開けたまま、横になる。
あと一時間くらいはこのまま。
今は一月、外は真っ暗。
誰かが言っていたように、夜明け前が最も暗い。
暗闇。
暗黒。
私の物語もまた暗く、黒い。
だから、もし怖くなった人は目を瞑り、やり過ごしてほしい。
夜が過ぎてしまうまで、耐え忍んでほしい。
ああ……でも、真っ暗なんてことはなかった。
夜空には月が出ている。
私の名前にもある、月が。
太陽がなければ輝くこともできず。
真似するみたいに東から昇り西に沈み。
円環を繰り返す、月が。
あれを希望だと思えば、少しは楽になるかもしれない。
自分の名前が希望だなんて、自意識過剰だと思うけれど。
ロマンチックにすぎないと思うけれど。
あの月がこれからも変わらなければ。
永遠で、あり続ければ……。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1331908170(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>月火「たまたまお兄ちゃんの妹なわけだし」
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2012/03/16(金) 23:44:54.99 ID:9ef4yUEd0<> 来た。
私はまだベッドで横になっていた。
目が覚めてから十分程経っただろうか。
部屋のドアが静かに開かれ、何者かが侵入した。
静かだった。
抜き足差し足忍び足。
侵入者は忍者なのだろうか。
伊賀だろうか、甲賀だろうか。
それとも火影?
マテリア集めをやっているとか。
二段ベッドの梯子が軋んだ。
おやおや、どうやら狙いは私らしい。
誰かの恨みを買った覚えはないが、恨む人間はいるだろうな。
忍はその使いっ走りか。
ふふん。
この町の悪も味な真似をしてくれるじゃない。
いいだろう。
女、阿良々木月火。
格の、桁の違いを教えてやろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/16(金) 23:54:46.49 ID:9ef4yUEd0<> 理想としては、そうだな。
寝込みを襲う奴を返り討ち。
こんなところを狙うような奴だ、きっと隙を見せるに違いない。
ぎりぎりまで引き付けて、攻撃の瞬間、私が隠し持っていた千枚通しで胸をひと突きしてやる。
カウンターしてやる。
月火カウンター。
お、かっこいい!
よしよし、策は万全、刺すは三千。
こい、賊。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 00:08:25.16 ID:UmVPCRL70<> 「…………」
仕掛けてこない。
どうやら私をじっくり観察しているようだ。
手間取っているようで、実は熟練の仕事人かもしれない。
慌てず、確実に。
私の息の根を止めるつもりなのだろう。
今まで数々の強敵を撃破突破攻略してきた私だが。
もしかしたら最大のピンチに陥ったのかもしれない。
こんな伝奇小説みたいな展開になるなんて。
武者震いがしてきた。
まあ、これから落武者がひとり、できるんだけどね。
動いた。
さあさあ。
楽しい時間の始まりだ。
興奮興奮また興奮。
支離滅裂に八つ裂きだ。
奴が私に手を伸ばす気配があった。
絞め[ピーーー]気か。
声がでないように枕を使うかも。
私は寝返りをうつ振りをし、その枕から千枚通しを然り気無く取りだした。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 00:24:32.59 ID:UmVPCRL70<> しかし、奴の行動は予想と反したものだった。
「…………!」
何かで顔をなぞられた。
思わずぞくっとした。
冷や汗が出てきた。
何? 何? 何?
一体全体何事なの?
何かが私の顔をなぞっている。
額、鼻、頬、唇、顎。
上から順に下へ下へと辿っていく。
肌に当たるものは細いが鋭さはなく、固かった。
突き刺すことくらいはできるかも。
しまった。
完全に形勢は不利だ。
奴は上から下になぞるだけでなく、頬で円を描いたり、額に擦り付けるように私の顔を攻めた。
「…………」
なんだか、えっち、じゃあないか、これは。
え、何、そういう狙いだったの?
え。え。え。え。
ちょっと待って、待ってください。
ほんとそういうのは勘弁してください。
変態はお兄ちゃんで間に合ってるから!
どこの誰かも知らない奴に、変質者にそんな行為をされるのはあ!
「うーん……」
思わず声を出してしまった。
これくらいは寝惚けていると思ってくれるといいけど……。
しかし、どうしよう。
マジで人生最大の危機だ。
今そこにある危機だ。
奴が行為に夢中になっている隙を突ければ……。
いや、リスキーだ。
あまりにもリスキーだ。
私はリスが好きだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 00:32:36.58 ID:UmVPCRL70<> ボケてしまった。
しかし、突っ込む人はいない。
否、今や私自身が突っ込まれようと……。
いやいや。
今のはちょっと下品だ。
私のキャラはそういうんじゃあないはず。
奴は相変わらず私の顔をなぞっている。
ひとつ気づいたのは、得物がシンナーくさかった。
えー……それってやばくなあい?
マジでさあ……。
「…………」
動きに変化があった。
顔をなぞるのを止めたのである。
私は恐怖した。
次の奴の挙動が恐ろしくてたまらなかった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
お兄ちゃん。
助けて、お兄ちゃん。
怖いよ怖いよ怖いよ怖いよ。
そして。
私は胸を揉まれた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 00:38:25.83 ID:bI2Uu9SDO<> 期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 01:25:58.42 ID:UmVPCRL70<> 「うわあああああああっ!」
そこからはもう無我夢中だった。
記憶が曖昧なので、確実な描写ではなくなるがご了承願いたい。
私はがばっと起き上がり、反撃を試みたはず。
確か当て身を奴に食らわせ、よろめいたところに馬乗りになった。
それから千枚通しを振り降ろした。
かも。
何回か。何回か。何回もか。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
うん、こんな尋常ではない様子だったんだろうね。
どのタイミングかは覚えていないけれど、千枚通しも途中で捨てて、グーで殴りまくったような気もする。
奴はやめてくれと懇願していた、かな?
でもやっぱりはっきりとは言えないなあ。
私も自分を守るために必死だったし……。
そうだ。
それでどうしてこの場が収まったのかというと、
「月火ちゃん! やめっ、やめてっ! 僕だ! お兄ちゃんだ!」
という声が聴こえたからだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 01:48:41.60 ID:UmVPCRL70<> 夜目に慣れてくるにつれて、相手の輪郭がはっきりとしてきた。
長い髪。
隠れる左目。
阿良々木暦。
お兄ちゃんだった。
「あれ? お兄ちゃん? お兄ちゃんなのかな?」
「そうだ。あ、まだこっち見るなよ」
制止する兄。
何かを待っているみたいだった。
たとえば、自分の身体が回復するのを待っているような。
そんな感じが。
しばらく経つと、お兄ちゃんはおはようと挨拶をした。
「うん、おはよう。あのね、今ね、変な奴がいたの」
「変な奴? へえ、僕は今部屋に入ってきたところなんだけれども、まったくそんなこと気づかなかったなあ」
「そっか……いやだな、お正月から悪夢でも見たのかな」
「それは良くないな。年始から」
「うーん、でも顔にまだ感触が……」
「僕が見たところ、まったくもって問題はなさそうだぜ」
「そ? じゃーいいや」
「僕が言うのもなんだが、もう少し疑ってはどうだろう」
「でも、お兄ちゃんが言うんじゃあねえ」
「だから、お前からのその信頼は一体何処から出てくるんだよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 01:52:41.02 ID:UmVPCRL70<> ゆっくりやってく
よろしく <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/03/17(土) 02:08:29.95 ID:GTZJz/Lno<> イイヨイイヨー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/03/17(土) 02:58:52.81 ID:UEAJck+Xo<> 待ってるよ〜 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(和歌山県)<>sage<>2012/03/17(土) 10:06:28.95 ID:muMSr/7ko<> うめぇ…支援 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 13:51:25.30 ID:UmVPCRL70<> 「お兄ちゃん、ずいぶん早起きだね」
「ああ、なんか目がさめちゃって」
「ふうん。ま、わからなくはないけれど。もう今月だもんね」
センター試験。
高校三年生であるところのお兄ちゃんだ。
いよいよ本格的に受験シーズンを迎える。
今日は一月二日だから、本番は約二週間後。
当然プレッシャーを感じているんだろう。
けれど高校受験のときは余裕綽々お茶の湖西で合格していたから、今度もきっとあっさりクリアしちゃうかも。
夏頃からは頑張ってたもんね。
「勉強の邪魔だ」って生まれて初めて言われたなあ。
それに……この人、天才くんだし。
「おかしいよな、ついこないだまで僕は羽川とモラトリアムを満喫していたはずなのに」
「戦場ヶ原さんじゃなくて?」
「出会ったのは羽川が先だったんだよ」
紹介してもらった順番もそうだったな。
前から不思議に思ってたけど、なんで羽川さんと付き合ってないんだろう。
私の勘では、羽川さんはお兄ちゃんのことが好きなはず。
あれはどう見たって好意があるだろう。
夏に私達のお手伝いをしてくれたときにしたって。
お兄ちゃんに友達がいないから他に頼れる人がいなかったのかもしれないけどさ。
それとも、一度付き合ったけど、別れたとか?
告白くらいは、あったのかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 18:59:08.77 ID:UmVPCRL70<> 「羽川さんねえ。あの人は受験なんか関係ないんだろうなあ」
私は中高一貫の私立に通っているから、高校受験はないのだ。
火憐ちゃんは春から栂の木高校に移る。
私は三年生になる。
でも、私もいつかお兄ちゃんみたいにせっせとお勉強に励む日が来るのかもしれない。
やだなあ。
勉強は嫌いじゃないんだけどね。
「ああ、羽川は受験関係ないから」
「だよね。羽川さんにとっては受験なんて書類にサインをするようなもんだよね」
「いや、あいつ、大学行かないんだよ」
「は?」
「これ、人に言うなよ。羽川は受験する気が元からないんだ」
「なにそれ。羽川さんが学校でどういう立ち位置の人かは想像できるけど、お兄ちゃんさらっと言ったけど、それすごいことなんじゃなきの?」
「まあな。おかげでうちの高校の校長以下学年主任以上は入院する事態になった」
ストライキみたいだな……。
恐るべし、羽川翼。
でも、なんかわかるかも。
彼女が完璧超人八方美人という噂は私の学校にまで広まっている。
個人的にはその評価とは少し違って、ストレスに弱そうだな、なんて思ったんだけど。
まあ、そこまで深い付き合いじゃあないから、これは私のざっくり評価。
どんぶり勘定だ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 19:16:08.47 ID:UmVPCRL70<> 「ふうん。羽川さん、どうするの?」
「海外に行く」
「じゃあ、留学?」
「いや、旅行」
「旅行って!……これはちょっとしたトラベルだね」
「そうだな」
兄のジャッジは厳しかった。
まあ、我ながら今のはないな。
「旅行かあ。ヴェニスとかヴェネツィアあたりかなあ」
「おんなじ所じゃねえか」
「パリとかパリスとか」
「だからおんなじだって言ってんだろうがあっ! 俺のこと馬鹿にしてんのかっ!」
いきなりキレる兄。
「くそっ! くそっ! なめやがってっ!」
よかった。
ちゃんと乗ってもらえた。
そしてなぜか起きない火憐ちゃん。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/17(土) 19:55:21.14 ID:UmVPCRL70<> 「根掘り葉掘りってよぉ、そんな言葉覚えてよぉ、混乱しちまうだろうがぁ……」
「その口振りからするとお兄ちゃんちゃんと覚えてるじゃない」
「うん、でも確かに葉は掘れないよな」
「掘れないね」
「昔の人もさ、きっとノリで考えちゃったんだな。『根ェ掘れるんなら、葉も掘れんじゃね?』って」
「お兄ちゃんは昔の人の何を知ってるの?」
「『惚れた腫れた』ってのもさあ、本当は『掘れた腫れた』なんじゃねえ?」
「それはありうるね!」
ありうるかもね!
「衆道があった時代だもん、きっと掘って腫れるようなことがあったんだよ! 日常茶飯事だったんだよ!」
「あ、すいません。そっちの話題は勘弁してください。ほんっと、せっかく覚えた言い回しも忘れてしまうんでやめてください」
「お兄ちゃん、歴史のお勉強」
「そんな歴史知りたくない。誰かも、戦国時代は天国時代だったんだと主張していたが」
「ああ、なるほどー。うまいこと言うね、その人」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 03:26:31.07 ID:gUYrWnBDO<> プラチナかわいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 11:23:28.95 ID:czZrgwCe0<> 期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 17:11:26.15 ID:5ovHrpte0<> 「話を戻すぞ」
「どうぞどうぞ。えーと、親方様の話だっけ。でもぶっちゃけ歴史ものは興味ないなあ」
「そんな話はそもそも始まってない」
話が打ち切られた。打ち斬られてしまった。
理解がない兄なのだ。
普段から規制だなんだと声高に叫んでいるくせに。
理解できないジャンルであっても、認識することでこの世界はずいぶん平和になるとどうして気づかない?
「それで、羽川だけど」
待て。話は終わってない。
しかし、兄はお構い無く続ける。
「実はもう日本にいない。今ごろ、中国のどこかだよ」
「なんか、イメージと違うなあ」
「あっちで怪談を集めてるんだよ」
「怪談?」
「日本の怪談って源流が向こうのものも多いからな。お前もいくつか知ってるだろ?」
まあ。
昔読んだ岡元綺堂とか中国の怪談の翻案ものが多かったし。
懐かしいな。
お兄ちゃんの本棚にあったのだ。
まだお兄ちゃんが頭良かった頃や話。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 17:40:27.57 ID:5ovHrpte0<> 「さすが羽川さん、すごい行動力だね。将来は民俗学の先生になるのかな」
「かもな」
生返事だった。
羽川さんの旅の話は本当だろう。
でもただ怪談収集に行ったわけではないのかもしれない。
収集……何か探しに行ったんじゃないかな。
物か人かはわからないけれど。
「あ、そういえば羽川さんからの年賀状、海外からだったね」
「ああ。って、人の年賀状見てんじゃねえよ」
「だって何年ぶりよ? お兄ちゃんに年賀状きたの」
しかも何通も。
「片手で収まる数だったけどさ、なんか私まで嬉しくなっちゃったよ」
「そ、そうかあ?」
にやけだすお兄ちゃん。
「ははは、いやいや、まあでもこれくらい生きてれば普通? っていうの?」
当然だよ。
勝ち誇るように胸を張る兄。
どや顔である。
「うんうん、嬉しいし羨ましいね」
「そうだろそうだろ」
「お返事の年賀状が楽そうで」
「楽そうでってなんだよ!」
なんだよその上から目線!
さっきまでとは一転、激昂するお兄ちゃん。
「だってさ、私と火憐ちゃんなんてこれから数日間、ひたすらハガキにアドレスを記入する毎日だよ。冬休みの宿題を凌駕する分量だよ」
「はいはい、その内何人が友達っていえるんだか」
「深く親しくしてなくても、コミュニケーションするのは当然じゃない?」
「お前、僕をそんなにいじめたいのか」
もちろん友達がほとんどだけど、中には一度会ったきりの人もいる。
私と火憐ちゃんの活動の関係で。
そういう人達からもお年賀を送っていただいているので、初めに用意した分とはまた別に返信を大量に書くのだ。
尊大に聞こえるかもしれないけれど、実際私は恐縮してしまう。
誰かさんに比べたら、私達なんてまだまだだ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 18:05:17.87 ID:5ovHrpte0<> 「まあまあ。お兄ちゃんもよかったじゃない。一歩前進だよ。月面着陸だよ」
小さな一歩ではあるが。
「女の子ばかりで、男の子からはやっぱり一通も来ていなかったけれど」
「は? 男の子? もらったって何が嬉しいんだよ?」
「…………」
こういうところに問題がある気がするな……。
「彼女からも来てたし」
「あ、そうだ。今日、戦場ヶ原が家に来るから」
「今日だったっけ」
そういや、そんなことを言っていたけど。
「お父さん同伴でな。粗相はするなよ」
「ふーん」
「なんだよ」
「別にー」
お父さん同伴、ね。
まるで結納みたいだ。
「お正月からお熱いことで」
「皮肉っぽい言い方するな」
「お兄ちゃんは戦場ヶ原さんに骨抜きにされてるしね」
「なかなかうまいが、腹が立つな」
「年明けから兄のデレを見せられちゃ、お腹いっぱいだよ。おせちもお雑煮も食べられないよ」
「ふはは、せいぜい太鼓持ちしているがいい」
いがみあっているようだが、その実駄洒落合戦である。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 18:38:52.10 ID:5ovHrpte0<> 「お前だって、冬休みは家で修行のように年賀状を書いているばかりじゃないんだろう?」
「まあ」
「えーと、なんだっけ」
記憶を手繰り寄せるお兄ちゃん。
「蝋燭縄くんだっけ?」
「そんな危ない名前じゃねーよ」
どんなバイオレンスラブだよ。
一応、私は中学生らしい清い付き合いなんだよ。
「確かに胸騒ぎがするよな。これが恋か」
「違う」
「やっぱ、お前が女王様役なのか?」
「だから違うって言ってんだろっ!」
殴った。
兄の顔を。
しかしお兄ちゃんは殴ると嬉しそうになるだけなので、一回でやめておく。
ここで女王様ごっこを始めるのは御免被りたい。
「蝋燭沢くんね」
「あーそうそう、それそれ」
「それとか言うな」
「その蝋燭沢くんとなんかあるんじゃねーの?」
どうでもいいけどよ。
お兄ちゃんは言う。
明らかに気にしてるじゃない。
かわいくないなあ。
「ちょっと年末に喧嘩しちゃったっていうか……」
「喧嘩?」
「フラニーじゃないけど、蝋燭沢くんの悪気のない言葉にプチキレちゃった」
「プチキレちゃったのか」
「あー今思い出してもイライラするなあ!」
「明らかにブチキレてるじゃねえか」
実際些細なことだったのでそれほどむかついていない。
むかつくとすれば、さっきから余裕の態度を見せつけるお兄ちゃんだ。
「プラチナむかつく!」
「お前の自称口癖だけど、時々『ブラチラむかつく!』に聞こえてドキドキする」
「ブラチラなんてしてねー!」
「面倒だから?」
「着けてない! って着けてるよ!」
お兄ちゃんをどつく。
なんだろう、今日の突っ込みはよく手が出るな。
まあ、お正月だし。
無礼講だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 19:06:13.02 ID:5ovHrpte0<> 「月火ちゃんよ」
声色を変えたお兄ちゃん。
真面目な事を言う前降りだ。
「本当に何かひどいことを言われたんじゃあねえだろうな」
一気に空気が変わる。
目付きが殺人者のそれになる。
返答次第では、暴力も辞さない。
そんな雰囲気が。
「な、ないない、ないって」
「本当か? 嘘ついたり我慢したりしてないかい?」
「やだなあ、心配しないでよー」
「心肺を止めてやってもいいが」
誰の。
とは言わない。
「大丈夫大丈夫。何も悪いことは起こってないよー」
お兄ちゃんの頭を撫でる。
どうどうと、宥める。
「そうか。ならいいんだけどよ」
超サイヤ人が解けたみたいに穏やかになるお兄ちゃん。
あー焦った……。
お兄ちゃんは基本的に人畜無害の御人好し博愛主義者くんだけれど、キレると恐ろしいのだ。
特に身内関係で。
昔私と火憐ちゃんが暴走族に捕まったときも、それはそれは凄まじかった。
鬼神って感じだった。
普段怒らない人ほど、一度箍が外れると手がつけられない。
なんで、この人自分は平凡な高校生だと思ってるんだろう。
まあ、自分のことなんてわからないものだよね。
「何かあったら僕に言えよ。ちゃんと対処してやるから」
「考えとくよ」
やめておこう。
気を配ってくれるのは嬉しいけどね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 23:05:51.08 ID:5ovHrpte0<> 「それで、戦場ヶ原さん、何時頃に来るの?」
「昼過ぎかな」
「フェイトゼロの一挙放送の真っ最中だなあ」
「兄の彼女が親連れて来るってのに、アニメ見ようとしてんじゃねーよ」
「お兄ちゃんだって好きじゃん」
「好きだけどな」
追加カットがあるって話だし。
こないだまでDVD-Rに録画しちゃってたから、今度はBD-Rに録画したいし。
私が思案に耽っていると、お兄ちゃんは妙なことを言い出した。
「戦場ヶ原が来たらお前も同席するんだよ。あと火憐ちゃんも」
「はあ?」
何だって?
「なんで兄の彼女の新年の挨拶に、妹の私達がついてなきゃならないのよ」
「正直に言って、戦場ヶ原親子がいる場に親と、特にママと一緒になるのが居たたまれない」
「正直だな……」
お兄ちゃんはママがちょっと苦手なのだ。
私と火憐ちゃんはそんなことないんだけど。
「それにしたって、ちょっとカッコ悪いよ」
「そうかなー」
「そうだよ。それに戦場ヶ原さんだって嫌がるよ」
「それはないと思うぞ。あいつ、お前らのこと気に入ってるみたいだし」
「ふうん?」
「『うちに一人欲しいくらいだわ』って言ってた」
「…………」
いやいやいやいや。
生まれたての犬猫じゃないんだから。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/18(日) 23:30:18.98 ID:5ovHrpte0<> 「フェイト抜きにしたって、私今日は……」
「あーあ、こんなの、月火ちゃんにしか頼めないことなんだけどなー」
「…………」
「まあいいよ。どうしても駄目だ嫌だっていうんなら、僕はお前達抜きで戦場ヶ原をお迎えするよ。頼れるファイヤーシスターズがいないとなると、なんとも心細いけれども」
「…………」
「あー何? 用事があるのか? じゃあ仕方ねーな。僕は信頼のおけるお前達がいないまま、ママ達と一緒に戦場ヶ原を迎えるよ。ああ、残念だなあ」
「……お兄ちゃんがそこまで言うんじゃあ、仕方ないなあ」
私は身を正す。
拳を握り、自分の胸を叩いて、お兄ちゃんに言う。
「ほんとは大事な用があるけど、大切な用事があるけれど、そこまで弱気なお兄ちゃんを見ているのは辛いものがあるから」
しょうがないなあ。
本当にしょうがないなあ。
「私が一肌でも二肌でも脱いであげようじゃない。火憐ちゃんも呼んで、二人でヌードになってあげようじゃない」
「おお、引き受けてくれるのか」
「もうっ、今日だけだよっ! まったく、お兄ちゃんは私達がいないとなあんにもできないんだから」
「すまないなー。恩に着るぜ、月火ちゃん」
やれやれ。
ヘタレ兄を持つと妹は苦労するよ。
ま、今日はお正月だし。
無礼講だし。
いくらでも脱いであげようじゃない。
十二単だって脱いであげようじゃない。
そう、お年玉みたいなものだよ。
お兄ちゃんは子供なんだから。
かわいいかわいいお兄ちゃん。
なんか「してやったり」みたいにニヤリと笑っているけれど。
今日は、お兄ちゃんに尽くしてあげるよ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/19(月) 00:33:56.94 ID:sMOg3+d0o<> プラチナかわいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/19(月) 01:04:50.02 ID:CSSXgYIN0<> 支援 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 18:25:14.39 ID:3Sfz7DFP0<> 話もついたので、お兄ちゃんは部屋を出ていった。
これから自分の部屋で勉強するのかもしれない。
二度寝はしないだろう。
近頃は私達が叩き起こしにいくということもなくなっていた。
そもそも、お兄ちゃんが寝ているところを見ていない。
勉強しているか、家の中をうろうろしているか、出かけている。
兄の行動はその三通りだった。
受験のストレスが表れているように見える。
しかし、ちょっと落ち着きがなさすぎじゃあないか?
実際には全国に今こんな高校三年生が溢れているのが現実のかもしれない。
受験の経験のない私の思い過ごしかもしれない。
それでも、私はちょっとお兄ちゃんが心配だった。
不安がっているんじゃないか。
脅えているんじゃないだろうか。
変なところでかっこつけたがるから、人には絶対に言わないだろうけど。
妹の私とかには言ってくれてもいいじゃないか。
恋愛相談も受けたし。
まあ、あれは勘違いだったけれど……。
お昼には戦場ヶ原さんが来るし、ちょっとは気晴らしになるだろか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 18:59:33.15 ID:3Sfz7DFP0<> 「おはよー、月火ちゃん」
二段ベッドの梯子から火憐ちゃんが挨拶した。
午前五時きっかり。
目覚ましアラームもなしに、火憐ちゃんは目を覚ました。
ここ一ヶ月はこの調子。
正確な生活リズム。
精確な体内時計だった。
「おはよー」
「うんにゃ、じゃあいってくるー」
「いってらっしゃーい」
火憐ちゃんは起きたままの格好で部屋を出ていく。
寝巻き兼運動用のジャージの着ているのだ。
そして、ランニングに向かう。
朝食の時間まで帰ってこないだろう。
いつからか習慣化していて、姉妹で同室の私達だが、朝の会話も以前よりぐっと減ってしまった。
普段一緒にいる時間も、短くなっていた。
火と火を合わせて炎の姉妹。
ふたりはファイヤーシスターズ。
なんて。
今やほとんどソロ活動みたいなものだった。
前は24/7、5W1Hべったりの百合姉妹とお兄ちゃんからは揶揄されていたけれど。
仲が悪くなったわけじゃない。
ただなんとなく。
自然に。
距離ができた。
学校の友達と兄弟姉妹の話になると、他所の家では私達ほど仲がいいのは稀なんだとわかる。
だから、私達もそんなよくいる姉妹になったということなんだろう。
普通に。
普遍に。
一般的な姉妹になっただけなんだろう。
……逆に。
お兄ちゃんと火憐ちゃんは前よりずいぶん仲良くなったみたいだけど。
たまにお兄ちゃんの部屋で二人で寝てるし。
私抜きで。
ああいうのは、よくないと思う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/19(月) 23:41:45.40 ID:3Sfz7DFP0<> 「あ、戦場ヶ原さんの話伝えるの、忘れちゃった」
まあ、いいか。
帰ってきてから言えば。
火憐ちゃん、嫌がるかなあ。
戦場ヶ原さん嫌いだから。
ブラコンだから、お兄ちゃんの彼女という存在に心穏やかになれないのだ。
姉ながらそういうところが子供っぽいと思う。
夏ごろにちょっとやりあったらしく、それがまた嫌悪感を増していた。
だから普段、火憐ちゃんの前で戦場ヶ原さんの名前を出すのは控えている。
そうだな。
朝食時に嫌な話は聞きたくないだろうし、聞いてくれないだろうから、お兄ちゃんも揃ったところを見計らうか。
十一時からフェイトゼロが始まるから、その待機してる瞬間がベストか。
機嫌よくしてるだろうしね。
午前中の段取りを考えながら、私はまだベッドでごろごろしていた。
まだ、朝日は昇っていない。
外は、暗い。
そういえば、今日は一月二日だけれど、今日見た夢を初夢と呼ぶのだったか。
それとも、昨日の夢を指すのだったか。
もし、今日の夢が初夢だと、ちょっといけない。
朝っぱらからお兄ちゃんが私のベッドに忍び込んできたのはいいとして。
「あ!」
あー、違う違う。
賊に夜這いを仕掛けられる夢を見たんだった。
えーと、私の目が覚めたのはその賊を返り討ちにするあたり。
そして、隣にどういうわけかお兄ちゃんがいたのだった。うん。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 00:19:13.26 ID:rm9UJfuO0<> 一富士、二鷹、三茄子。
これらが出てくれ縁起がいいそうだ。
けれど、私が見た夢にはいずれも出てこなかった。
夢に見たのは女の子だった。
いなくなってしまった、ある女の子。
彼女は私の同級生で、視線恐怖症気味で、いつも前髪で顔を隠していた。
可愛い顔を。
人に見られるのが嫌だと言っていた彼女は、私の人生十四年を通じて最高の美少女だった。
けれど彼女はそんな自分が嫌だった。
可愛いだけの自分が。
可愛いさ以外に何もない、自分が。
彼女は恋心を抱いていた。
相手は私の兄だった。
何年も何年も想い続けていた。
けれど自信が持てない彼女。
今さら告白する勇気はないし、する気にもなれなかった。
ただいたずらに兄を想い、過ごす日々。
目の前で人が駄目になっていくのは、とても辛いことだ。
何より、彼女は私の友達だった。
だから、前髪を切った。
目を開かせた。
夢から覚めさせてあげた。
そして、彼女はいなくなった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 00:48:21.63 ID:rm9UJfuO0<> 両親が起きて、時刻は午前八時。
火憐ちゃんもジョギングから帰ってきたので、朝食となった。
今朝は昨日のおせちの残り。
まだまだお正月だ。
火憐ちゃんは物足りなかったようで、自分でトーストを焼いて食べていた。
さながらスポーツ少年だ。
火憐ちゃんは時々、運動部のお手伝いをしているから、あながち間違いではない。
その後、しばらくのんびりしてから、私は居間のBDレコーダーをいじり始めた。
もちろん、火憐ちゃんの気を引くために、
「さすがレグザだなあ、十話を超えるアニメも綺麗な画質でコンパクトに収めてくれるね!」
なんて、わざと大きな声で言う。
「んんー? なんかあんの?」
よしよし。
獲物は釣られているね。
「今日はねー、MXでフェイトゼロの一挙放送が午前十一時から始まるんだよー」
「へえ、そうなんだ!」
きらきらの笑顔を見せる火憐ちゃん。
アニメ・特撮大好きっ子なのだ。
「火憐ちゃんも好きだよね」
「うん。ウェイバー・ライダーコンビが好きー」
「私もー。特にウェイバーくんには惹かれるものがあるね」
「兄ちゃんみたいで!」
「お兄ちゃんみたいで!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 00:58:55.06 ID:rm9UJfuO0<> 「ん?」
「ん?」
お互いの顔を見る。
「チビなとことか」
「実は優しそうなとことか」
「頭いいとことか」
「泣き虫なとことか」
「…………」
「…………」
「まあ、そんだけなんだけどよー」
「うん、深い理由はないんだけどー」
「ていうか、よく考えたら似てねーな」
「似てないね、よく考えなくても」
「兄ちゃん、もっとキモいし」
「強いて言えば、キャスターに近いし」
「うん」
「うん」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 01:17:11.01 ID:rm9UJfuO0<> 「お正月からいいことあるなー。幸先いいなー」
どうやら今の話題は打ちきりらしい。
火憐ちゃんは私のリモコン操作を見ながら、そわそわし始めた。
そして、胡座をかいた足を両手で掴んで、左右に揺れだした。
「嬉しい」のボディランゲージ。
「お年玉ももらえたし」
「火憐ちゃん、今年いくら?」
耳打ちで教えてくれた。
去年聞いたのよりだいぶ増えている。
「いいなー。私、ほとんど変わらなかったよ」
「なんかお祖父ちゃんが、早めの卒業祝いだって」
「きっと卒業したらまた別にくれるんだろうな……」
「だから今あたし金持ちだぜ。月火ちゃん、お願いがあるなら今のうちだぜ」
ここだ。
戦場ヶ原さんの件を話すタイミングは。
火憐ちゃんは心広い姉のアピールなのだろう、両手を広げて胸を張っていた。
せっかくお姉ちゃんが寛大になっているところを狙うのはちょっと心が痛むけど。
仕方ない。
これもお兄ちゃんのため。
私に富士山のごとく大きな信頼を置くお兄ちゃんに報いるため。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 01:41:24.87 ID:rm9UJfuO0<> 「今日さ、戦場ヶ原さん来るらしいよ」
出来るだけ然り気無さを装って言う。
「知ってる?」
火憐ちゃん。
と、伺うと。
「…………………………………………………………………………………………………………チッ」
ええ……。
そんなに嫌なの?
そんなに三点リーダー使うほどに。
しかも半角で舌打ちって……。
「ふうん。あっそ。で? だから何?」
「露骨に苛立ってる……」
こんな火憐ちゃん初めて見た。
こんな嫌そうな顔したところ初めて見た。
「苛立ってなんかねーよ。立つとしたら棘だよ」
「ごめん、わかんない」
「棘の道のごとくよー、険しい困難を乗り越えるってことだろうがぁ」
「…………」
なんかもう戦場ヶ原さんが来た瞬間にプッツンしそうだけど。
スタープラチナ(「むかつく!」)を叩き込みそうだけれど。
「険しい困難を乗り越える、ってことは、戦場ヶ原さんが来るのは火憐ちゃん的にオッケーなのかな?」
「……OK」
返事がアルファベットだった。
KOする気なのかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/03/20(火) 01:42:24.05 ID:cCYjCrgio<> 見ておる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 02:14:55.82 ID:rm9UJfuO0<> 「今日ね、お父さんもご一緒らしいよ」
「……神隠しとかないといいな。お正月だし」
不穏な発言だ。
不吉な予言にならなければいいが。
「まあ、いいよ。あたし、ここでフェイト観てるから」
「あのね、お兄ちゃん、私達にも同席してほしいんだって」
血管が切れる音が聞こえた。
今横を向くと、血柱が見えるかもしれない。
おかしいな、まだフェイトゼロ始まってないのに。
放送前の煽り枠だろうか。
「月火ちゃんよ……」
「今日はお父さんもいらっしゃるから、きっと家族を紹介し合うんだろうね」
「あ?」
女子の出す発音じゃないな。
さあ、ここからが頑張り所だ。
「だからさ、両家向かい合って、改めて挨拶するんだよ。お互いの家族を」
「家族」
「そう。最初はもちろんお兄ちゃんと戦場ヶ原さんについてあれこれ喋るだろうけれど、親の仕事について話したりするだろうけれども、途中、確実に私達の話題にもなるだろうね」
「…………」
「聞けば戦場ヶ原さん、一人っ子だそうだよ。だったらその場に私達姉妹がいたら、戦場ヶ原さんのお父さんあたりが恐らくこう言うはずだよ、『いやあ、可愛らしいお嬢さん達ですなあ』」
「ですなあって」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 02:39:08.75 ID:rm9UJfuO0<> 「こんな風に私達に話が向いたら、私達はこう言うわけ、『妹にキスしたり、おっぱい揉んだりする兄ですが、どうぞよろしくお願いいたします!』」
「……いや、それただ戦場ヶ原さんのお父さんが顔をしかめるだけなんじゃ」
「そうだね。たぶん、そんな男に娘を付き合わせようとは、普通だったらとても思えなくなるよね」
「!」
そう。
私達は『素敵なお兄ちゃん』を戦場ヶ原家にアピールすればいい。
正直に。
誠実に。
お兄ちゃんの実像を教えてあげるのだ。
火憐ちゃんも私の言わんとすることに気づいたようである。
しかめ面から悪魔のような微笑みへと変わっていた。
「あたし達は兄ちゃんという人間を教えてさしあげるんだな」
「うん。もしかしたらショッキングな部分もあるかもしれないけど」
「しょうがねーよな、兄ちゃんだもんな」
「まあ、キスとかおっぱいはまずいかな。でも、レトリックでなんとでもなるよ」
「さすが月火ちゃんだ、恐ろしいことを考えやがる」
「恐ろしい? そんなはずないじゃない。私も、火憐ちゃんも」
ただの可愛らしいお嬢さん達で。
ただのお兄ちゃんの誇りだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 03:55:35.84 ID:rm9UJfuO0<> 手筈は整った。
あとはフェイトゼロを観ながら、のんびり戦場ヶ原親子の来訪を待てばいい。
時刻も十一時に近づいた。
私はお兄ちゃんを呼びに、部屋へ向かった。
「お兄ちゃーん、フェイト始まるよー」
話し声が聞こえる。
ドアを開けて入ると、電話中だった。
私に気づくのと同時にそれは終わったようで、お兄ちゃんは通話をオフにした。
「戦場ヶ原さんから?」
「そう。少し遅れるだと」
ふむ。
何も新年の挨拶が阿良々木家オンリーというわけでもないだろう。
親戚付き合いがあっても不思議じゃない。
来られなくなったりすれば、結果オーライだし。
残念だけど。
「そっか」
「さて、勉強もしたし、アニメ観るか」
「ちょっと待て」
出ていこうとする兄をむんずと捕まえた。
「謝罪を聞いていない」
「謝罪?」
「今朝の。顔の」
朝顔を洗ったときのこと。
洗面所の鏡に映った私は、黒のマジックで落書きされまくっていた。
顔中隈無く。
否、隈だらけだった。
瞼に目玉とか、額に肉とか、頬に花丸とか。
鼻の穴の縁をなぞっていたりもした。
早朝、私のベッドに忍び込んでやっていたのは、そういったことだったわけ。
まったく、人が寝たふりしてるからに……。
まあ、ふりなんかしてないけど。
変な夢から覚めてたまたまお兄ちゃんがいたんだけど。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/20(火) 04:23:18.92 ID:rm9UJfuO0<> 「なんのことだかわからないし、まったく身に覚えがないな」
「しらばっくれないでよ! 油性で書いたでしょ!」
「ゆるせい」
「うまくねえし! 落とすの大変だったんだぞ!」
「おい、今の僕に落とすとか気軽に口にするな」
「胸も触ったし!」
「繊細なタッチだったろう?」
「繊細どころか、遠慮のかけらもなかったよ!
今のはついでに言うと、筆触の意味もかかっている。
が、突っ込む余裕はない。
「あーっ! お兄ちゃん、妹のおっぱい触り過ぎ!」
「悲しいかな、お前には高尚過ぎたようだ」
孤高のアーティストを気取るお兄ちゃん。
しかし、実態はただのセクハラ兄貴である。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/03/20(火) 10:34:49.47 ID:tdfyZhBEo<> こよみちゃん変態可愛い <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/21(水) 01:23:26.63 ID:CZxPaqRDO<> 月火ちゃんの特徴捉えまくっててすごい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/03/21(水) 18:57:39.46 ID:VfUd+1iQo<> >「兄ちゃん、もっとキモいし」
>「強いて言えば、キャスターに近いし」
噴いたwwwwww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/03/21(水) 22:29:01.25 ID:3OUCIRuw0<> 囮後の月火の撫子に対する心情を書いたものは珍しい
原作でどうなってたのかスゲー気になるし
紫煙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 17:25:39.28 ID:HwMQWAcr0<> 「はあ。もういいよ。でも覚えてろよ」
お兄ちゃんはちっとも気にしていない素振りで居間に向かう。
背中を見ながら、私はなんて心の広い妹なんだろうと思う。
甘すぎやしないか。
でもなあ。
今に始まったことじゃないし。
ここでいちいち突っ込んでいたらこの人の妹はやっていられないのだ。
兄妹なんてそんなもんだろう。
「なんで戦場ヶ原さん遅れるんだって?」
「準備に手間取ってるった言ってたな」
「他の人と会ってたからだったりしてねー」
昔の男とか。
昔の男とか。
昔の男とか。
「はっはっは。悪いがラブラブっすよ。ラブラブラブリー」
「だといいけど」
意趣返しみたいな言い方だった。
うぜえなー。
別れればいいのに。
もしくは[ピーーー]ばいいのに。
お兄ちゃんだけ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/03/22(木) 17:53:58.55 ID:oEKC2x5a0<> >……逆に。
>お兄ちゃんと火憐ちゃんは前よりずいぶん仲良くなったみたいだけど。
>たまにお兄ちゃんの部屋で二人で寝てるし。
>私抜きで。
>ああいうのは、よくないと思う。
二人の関係どうなってんだ・・・
火憐ちゃんがガハラさんすっごい嫌ってるし・・・
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 18:04:17.36 ID:HwMQWAcr0<> お客様をお迎えするにあたり、私もそれなりにきちんとした格好をしていた。
お兄ちゃんにぐちぐち言われたくないからね。
帯もちゃんしてるし、丈も足元まで届いている。
紗綾綸子の生地でピンクの振り袖にした。
新年なので松竹梅が刺繍されている。
頭は少しラフでかわいく、固すぎない感じにしたかったので、ツーサイドアップにして、少し巻いた。
しゃらん!
とか言ってみたりして。
火憐ちゃんは「動きやすいように」といつものジャージだった。
動きやすいように、ね……。
ああ、お兄ちゃんはパーカーにジーンズ。
壊滅的に破滅的にださい、パーカーにジーンズ。
気負いというとのが一切合切感じられず、清涼飲料水か清涼院流水みたいに爽やかだった。
素晴らしき哉、阿良々木兄妹。
どこに出しても恥ずかしくない。
そして、フェイトゼロが始まり、テレビの前で仲良く鑑賞した。
レコーダーも正常に動いているし、画質は最高だった。
うーん、ウェイバーくんもかわいいけど、ランサーがかっこいい。
モテ自慢がむかつくけど。
あ、プラチナむかつくけど。
私のキャラちゃんと忘れてないよー。
正午を過ぎて時計の針が一、二週した頃。
戦場ヶ原親子がやって来た。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 18:47:23.45 ID:HwMQWAcr0<> 「あけましておめでとうございます。戦場ヶ原ひたぎと申します。新年のご挨拶に参りました。
「昨年は暦さんに大変、お世話になりました。
「この度は父共々お招きにあずかり、まことにありがとうございます。
「今日という日を機会に、お父様、お母様、妹さん達、そして暦さんとよりいっそう懇意にしていたただければ、幸いです」
戦場ヶ原さんのお父さんに続いて、こんな挨拶があった。
お父さんやほうはいかにもエリートビジネスマンといった感じで、ぱりっとしたスーツを着ていた。
どこかのブランドものなのだろう。
一方、戦場ヶ原さん。
彼女も私同様、振り袖だった。
でも、私とはまるで違っていた。
美しさが、まるで異なっていた。
紋意匠縮緬の黒地で青の差し色。
花柄。
一瞬、地味に見えるが、所々金銀の刺繍がしてあって、落ち着いたなかでも目を見張るものがあった。
黒い髪やボブカットが振り袖とまた合っていた。
髪は内側にカールしていて、ふわっとしていた。
大人っぽい中にも、ちゃんと可愛いらしさを出していた。
出来過ぎだった。
隙がないという意味ではない。
完全も不完全も取り込んだ、美しさだった。
正と誤の調和だった。
その証拠に、今お兄ちゃんと向き合っている彼女は、子供のように笑っていた。
「お、おめでとうございます」
お兄ちゃんが噛んで言う。
見蕩れていたようだ。
両親も挨拶を返し、親子を家の中に招いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/03/22(木) 18:54:02.03 ID:2NNbH+u5o<> 文章からガハラさんの美しさが伝わってくるで……。
サブヒロインスキーな俺も思わず目を見張ってしまう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 19:38:43.08 ID:HwMQWAcr0<> 客間に戦場ヶ原親子を通して、机を挟み、私達家族と向かい合う形になった。
戦場ヶ原さんのお父さん、戦場ヶ原さん。
パパ、ママ、お兄ちゃん、火憐ちゃん、私。
並びは以上だった。
初め、火憐ちゃんがお兄ちゃんの位置に座ろうとした。
お兄ちゃんを私との間に置く形にしようとしたのだ。
しかし、それは果たされなかった。
ママがそれを許さなかった。
火憐ちゃんを客間の外に引っ張っていくと、向こうから二回変な音が続いた。
ほんの二十秒ほど経って二人は戻った。
火憐ちゃんはお腹の辺りを押さえながら私の隣に座した。
席には既に昼食が用意されていた。
たまに外食で利用する小料理屋から運んでもらったものだ。
両親は「ささやかながら」と添えて、短くスピーチ。
戦場ヶ原親子もお辞儀をして応え、会食となった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 20:09:45.88 ID:HwMQWAcr0<> 親がいる場でそうなるのも当然だが、話し手は主に親達だった。
お兄ちゃんはなんだか気恥ずかしそうにもそもそとご飯を食べていた。
戦場ヶ原さんも静かに料理を口に運んでいる。
火憐ちゃんも行儀よくしていた。
いつもならあり得ないほど大人しかった。
というより萎縮していた。
慣れない雰囲気に呑まれているのだろうか。
正座だし。
足が痺れているのかも。
私は戦場ヶ原さんのお父さんの話に耳を傾けていた。
親子二人で暮らしていること。
奥さん、戦場ヶ原さんのお母さんとは離婚していること。
彼女が大病を患ったこと。
最近は元気を取り戻し、それは恐らくお兄ちゃんのおかげだということ。
出来た話だな、と思った。
けれど病気だったとは意外だ。
今まで言葉を交わした中に、そういった過去の部分を戦場ヶ原さんは匂わせたことはなかった。
別に私は仲良しじゃあないから、それはそうなんだけどさ。
お兄ちゃんはその辺、把握していただろうし。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/03/22(木) 20:14:07.52 ID:Mh4Lqaxv0<> ふむ
すばらしい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 20:39:10.73 ID:HwMQWAcr0<> 両親もお兄ちゃんについていろいろ話していた。
ここでは言えないようなことを。
中学生時代とか。
えー……。
それはさすがにまずいし、言わないほうがお兄ちゃんの、ないし我が家のためじゃないだろうか。
泉のように湧き出るお兄ちゃんの英雄譚。
否、いかにやんちゃ坊主だったかが語られていた。
公開禁止発禁焚書指定されそうなくらい、あまりに刺激の強い物語。
隣の火憐ちゃんなんか青冷めていた。
冷憐ちゃんって感じだった。
顔にお札を貼ればレイレイになりそうだった。
無理もない。
すっかり忘れていたのだから。
お兄ちゃんがつい最近までしていたことを。
平然と、やってのけていたことを。
私だって時限爆弾のカウントを聴いているような気分である。
しかし私の不安を他所に、彼ら、特にママの口は止まらない。
警察官という職業を忘れそうなほどに語り口が饒舌だ。
押収物を悪用する警官とかこんな感じなのかもしれない。
お兄ちゃんは下を向いて、顔を真っ赤にしていた。
戦場ヶ原さんは仏頂面というか、仏像みたいにその兄を見つめていた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 20:59:58.48 ID:HwMQWAcr0<> 私と火憐ちゃんの計画では軽く、お兄ちゃんの変態話をして笑いをとるくらいのつもりだった。
戦場ヶ原さんとの関係にひびを入れようなんてつゆほど思っていただけだった。
窓ガラスにできる露くらいに思っていたのだ。
しかし、両家の間に今や亀裂が走り、雨漏りしているような。
そんな空気だった。
湿っぽかった。
私と火憐ちゃんはさっきから汗と動悸が治まらないので、部屋の湿度は本当に上がっているのかもしれない。
お兄ちゃん、ちょっと涙目だし。
私がもうこの会食もおしまいだなんて思っていると。
(なんだって私がこんな思いをしなきゃならないのよ!)
戦場ヶ原さんがこう言った。
「自由奔放といった感じ」
向こうを張るつもりではないけれど。
彼女は続ける。
「私も、ホッチキスの針を彼に刺してあげたことがあります」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 21:15:02.21 ID:zInQzNmIO<> ワカメ「どうして僕の妹はッ…」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 21:35:02.71 ID:HwMQWAcr0<> ホッペにキス?
「あの頃は過剰に他人を警戒していて……」
戦場ヶ原さんは言う。
隣ではその父が目柱を押さえる。
身に覚えがあるのかもしれない。
「今のお話にもあったように私もやはり彼、阿良々木くんに助けてもらったんです」
病気を抱えた自分を。
病から逃げた自分を。
「友達もなくし、捨て鉢になっていたときでした」
戦場ヶ原さんが語るところ、お兄ちゃんがある日突然力になると言ってくれたという。
さながら王子様のように。
彼女は信じられなかった。
というより、面を食らったという。
そんな都合のいい話、おとぎだと思った。
囮だと思った。
餌を垂らして、自分を騙すつもりだろうと。
騙されるのは嫌だった。
嘘は嫌だった。
だから、その嘘を吐く口を。
「閉じようと思って」
綴じようと思って。
ホッチキスで。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 21:56:42.48 ID:HwMQWAcr0<> 「でも、彼はそれで見過ごさず、そこまでされて見限らず、私を助けてくれました」
と、戦場ヶ原さんは言う。
しかし、お兄ちゃんは医者ではない。
ブラック・ジャックみたいな無免許医でもない。
高校生だ。
お人好しの。
戦場ヶ原さんは病気について濁したが、精神的なものだったようだ。
つまり、心の病。
病は気から。
お兄ちゃんと話すうちに、まあいろいろあって、考え方も改まり。
回復した。
快復した。
「本当に久しぶりに体が重くなるのを感じました」
軽くなるのではなく。
重さを。
制服の。筆記用具の。部屋のドアノブの。
携帯電話の髪を乾かすドライヤーの。
空気の。重力の。日常の。
重みを感じ始めたのだという。
「毎日が、こんなに重みがあるのだと、彼は気づかせてくれました」
そこからすぐ。
「私から告白を」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 22:40:40.38 ID:HwMQWAcr0<> 「でも、今から思えば、やはり囮だったのかも。彼の中には魔があるとしか思えない。だって阿良々木くんに、こんなにも夢中なのだから」
戦場ヶ原さんは笑った。
それは彼女こそ魔性と呼べそうな微笑みだった。
彼女の馴れ初め話(だったんだろう、たぶん。お兄ちゃんへの助け船でもあったのかも)が終わると、ママは立て続けに質問した。
お兄ちゃんについて質問攻めた。
根掘り葉掘り。
しつこいくらいに。
戦場ヶ原さんは一つ一つに丁寧に答え、時々お兄ちゃんが補足した。
羽川さんも前に家に泊まったときもママは同じようにしたけれど、彼女は正直しんどそうだった。
戦場ヶ原さんはよく堪えている。
さっきの話を顧みるに、明け透けな人だ。
きっと、お兄ちゃんとの関係にやましいことはないのだろう。
答えづらいことなんかないのだろう。
話の中で、お兄ちゃんが戦場ヶ原さんに天体望遠鏡をプレゼントしていたことも初めて知った。
誕生日にあげたのだそうだ。
私達にも好きに触らせてくれなかったのに。
私や火憐ちゃんは蚊屋の外だった。
気づけばパパや戦場ヶ原さんのお父さんも混ざって盛り上がっている。
ああ、つまらなくなってきたな。
居間でテレビが観たい。
フェイトゼロ一挙放送を。
例の追加カットはもう流れてしまっただろうか。
録画してるから困るわけじゃないけど。
でもリアルタイムでしかない味というものがある。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 23:01:16.62 ID:HwMQWAcr0<> なんだか真綿で絞められているような気持ちになっていると、
「失礼ですが、お手洗いをお借りしたいのですが」
という戦場ヶ原さんの一言でその場は一時お開きとなった。
私は彼女にトイレと洗面所を案内した。
「ありがとう、月火さん」
「いいえー。ごゆっくりー」
「そうだ。こないだ無理言ってごめんなさいね」
「ん?」
前にもトイレを案内したことあったっけ。
私がわからないでいるのを見てとって、
「先日、千石さんの家を教えてもらったときのことよ」
「ああ」
そういえばそんなことあったっけ。
もう去年になるけど、戦場ヶ原さんに千石撫子の家を教えてほしいと頼まれたのだ。
「あれくらい、お安いご用だよ」
「ありがとう。あなたも辛いでしょうね」
「辛い……、どうなんだろうね。でも、どうして撫子ちゃんの住所なんて訊いたの、戦場ヶ原さん?」
「阿良々木くんを通じて知り合いだったから。私も気になってね」
「そっか。ああ、ごめんなさい、どうぞごゆっくりー」
話を切り上げ、戦場ヶ原さんはトイレに入った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 23:21:18.85 ID:HwMQWAcr0<> お兄ちゃんを通じて知り合いだった。
だから、気になった……ね。
本当かな。
千石撫子。
私の同級生。
お兄ちゃんが好きな子。
いなくなった子。
撫子ちゃん。
そう。
確かに知り合いが失踪すれば気にもするだろう。
行方不明。
立派な事件だ。
でも、戦場ヶ原さんが気にするというのがひっかかる。
お兄ちゃんを通じて知り合いだったのかもしれない。
言葉を交わしたことがあったのかもしれない。
もしかしたら意外に意気投合して大親友になっていたのかもしれない。
まさか。
うまく想像できない。
戦場ヶ原さんみたいな人と撫子ちゃんが楽しくお喋りしているなんて。
できるわけがない。
戦場ヶ原さんみたいに自分から告白できる人と、撫子ちゃんみたいに告白する気にもなれない子が仲良くなれるわけがない。
プライドが高い彼女と、プライドを守ることしかできない彼女が、相容れるはずない。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/22(木) 23:39:36.07 ID:HwMQWAcr0<> 私はさっきの戦場ヶ原さんの言葉を繰り返す。
あなたも辛いでしょうね。
あなたも……私も?
彼女は撫子ちゃんの失踪にそんなに胸を痛めているのか?
いや、違う。
それはない。
だからこれは却下。
じゃあ、なんだろう。
「…………」
駄目だ。
これ以上、さっきの会話から推測はできない。
ミステリじゃあるまいし。
憶測の域を出ない。
口から出任せ。
九マイルは遠すぎるのだ。
……私は?
私は撫子ちゃんの失踪に傷ついているのか。
あの時私がしたこと、言ったことがどの程度の影響があったかは知らない。
でもいなくなる直前のことを思えば、私のせいだという論理が成り立つかもしれない。
でも。
でも、私は、もう……。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 00:01:23.28 ID:q0hm2tmX0<> 私は突っ立ったまま、考え事がぐるぐる頭の中で回っていた。
客間のほうから笑い声が聴こえてきた。
火憐ちゃんとお兄ちゃんだ。
うちの両親はギャグを言ったり、笑ったりする面白人間ではない。
戦場ヶ原さんのお父さんか?
あのCV立木文彦みたいな顔したお父さんがギャグを言ったのか。
ギャップが激しすぎる……。
トイレの中から、戦場ヶ原さんの声も漏れていた。
彼女も笑っているので、やはりあのお父さんの面白さは娘の折り紙つき。
ではなく。
何やら彼女は中で話をしていた。
独り言の癖がなければ、携帯電話で誰かと話しているのだろう。
誰と。
三が日だ、友達からあけおめTELがきても不思議じゃない。
「千石撫子の住所は、そりゃ、わかるけれど」
そう聞こえた。
戦場ヶ原さんの声で、はっきりと。
小声ではあるが、私の耳の可聴範囲だった。
千石撫子の住所はわかる。
それはそうだ。
私が教えたんだから。
でもなぜ撫子ちゃんのことを?
一体誰と話しているのだろう。
私は彼女が続けて住所を述べるのを期待したが、反して訳のわからない早口言葉を聞いた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 00:18:29.97 ID:q0hm2tmX0<> また笑い声が聴こえてきた。
今度はトイレから。
中で戦場ヶ原さんは、必死に堪えているようだが、笑っていた。
「ちょ、ちょっと待って……、もちろん方法や手段はあなたに任せるつもりだけれど……」
方法?
手段?
何かするつもりなのか。
何をするつもりなんだ。
千石撫子の名前が出てきたのだから、あまり明るい話ではない。
当人は失踪しているんだから。
総合するに、戦場ヶ原さんは撫子ちゃんを捜そうとしているのか?
すると、電話の相手は私立探偵か何かだろうか。
フランクな感じがするから、けっこうな知り合いだろう。
探偵の知り合い。
急に現実感がなくなってきた。
探偵の存在にリアリティーを感じない辺り、小説の読みすぎかもしれない。
立派な職業なんだし。
何より、人捜しで探偵が出てくるのは自然じゃないか。
戦場ヶ原さんはまだ笑っていたが、聞こえてくる断片からすると、電話が切られたようだ。
あ、まずい。
私は素早く、音を立てないようにキッチンの方へ逃げた。
トイレから出てきた戦場ヶ原さんは、名残惜しそうな表情をして、洗面所へ入っていった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 00:31:40.63 ID:q0hm2tmX0<> 私は戦場ヶ原さんが客間に戻る頃合いを見はかり、遅れて入った。
飲み物を取りに行ったことにして。
変に思われないように、実際にお茶を煎れてきた。
私自身忘れそうになるけれど、茶道部なのだ。
これくらいはお手の物。
私は戦場ヶ原親子から順に湯飲みを渡した。
彼女は受け取ると、
「ありがとう」
と言った。
さっきの分も重ねた礼だったようだ。
「いいえー」
さっきは誰と電話してたのかな。
けっこう仲良さそうだったよね。
どうして撫子ちゃんをそこまで気にしてくれてるの。
お兄ちゃんに頼まれたの?
あなたは何を隠しているの?
戦場ヶ原さん。
戦場ヶ原ひたぎさん。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 18:13:27.97 ID:q0hm2tmX0<> 夕方と呼べる頃合いになり、会食は二次会になっていた。
火憐ちゃんはやはり戦場ヶ原さんに話しかけることはなかった。
けれど、彼女のお父さんのことは気に入ったらしく、よく二人で喋っていた。
もしくは一方的に喋っていた。
ほぼお兄ちゃんについて。
自慢するように、お兄ちゃんを語っていた。
誇張された偉大さを騙っていた。
まあ、火憐ちゃんからすれば本当にそう見えているということなのかも。
戦場ヶ原さんのお父さんは嫌がることもなく、聞いていた。
むしろ兄のいいところをアピールする、いじらしい妹ちゃんと認識しているようだった。
「だそうだよ。よかった」
と、隣に座る娘に度々言っていたし。
お兄ちゃんはいつの間にか彼女の横にいて、ただ大人しくしていた。
戦場ヶ原さんは時々、何か耳打ちして、くすくすと笑っていた。
私も火憐ちゃんを囃したりしながら、その輪に加わっていた。
パパとママも。
いい雰囲気だった。
本当に。
初の家族ぐるみのお付き合い、大成功だ。
おめでとう。
コングラチュレーション。
よかったよかった万歳万歳万々歳。
めでたくハッピーエンド、物語はここで終われ。
戦場ヶ原さんの秘密の電話なんてどうでもいい。
伏線は伏せたままにしろ。
脱線しろ断線しろ断絶しろ。
これ以上は無粋不細工極まりない。
ページはハサミでカットだ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
しかし、人生は時に物語的だけれど、物語的に終わることはない。
終わりがない。
終わりがないのが終わり。
私はひたすら退屈な本を読んでいる気分になっていて、ページを捲り捲り捲りたかった。
で、最後に作者不在のアトガキと解説者失踪の解説を流し読みしたかった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 18:31:55.07 ID:q0hm2tmX0<> 戦場ヶ原親子が帰り、私は洋服に着替えてテレビを観ていた。
火憐ちゃんはまたジョギングか何かに行っていた。
「月火ちゃん、僕も出かけてくる」
やっぱりジーンズにパーカーのお兄ちゃんが言った。
パパとママは片付けをして、別室にいる。
たぶん夫婦でのんびりしているんだろう。
「んー? さっそくお勉強会?」
「戦場ヶ原と」
一瞬言い訳を考えるような間があってから、
「うん、お勉強会」
「初詣か」
「…………」
当たりか。
お兄ちゃんは「図星」みたいな顔だ。
「初詣だ」
「嫌だなあ、何を恥ずかしがってるのよ」
中学生だってもっとうまく言い訳できるよ。
「まあ、初めての彼女と初めてのお正月、初詣。初めて尽くしだもんね」
「生意気な口を……」
「そして姫初めだものね」
「うるせえよ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 18:50:34.20 ID:q0hm2tmX0<> 「うんうん、その調子で頑張ってね、突っ込み」
「突っ込みのことは言うな」
でも否定しないんだなー。
明日はとうとうあれを言うのか。
言うべき日が来てしまったのか。
「昨夜はお楽しみでしたね」
「お前にそう言われるようなことにはならない」
「え、そうなの。意気地がないなあ、育児もないなあ」
「育児があってたまるか」
「まあ、私もこの歳で叔母さんはやだなー」
「今は……頭がいっぱいなんだよ」
受験で。
とはお兄ちゃんは続けなかった。
「そっか。お父さんまで連れてくるから、ずいぶん進展してるんだなと思ったけれど」
「あいつ、家族二人暮らしだろ。だから、賑やかな場所に連れていこうと思って」
彼女思いなことで。
たぶん他の人にこういう配慮をされたら、戦場ヶ原さん怒ってただろうな。
プライドが許さないだろうな。
お兄ちゃんの気遣いを全て見越して。
喜んで、来てくれたんだろう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 19:12:32.08 ID:q0hm2tmX0<> 「私はもうここでフェイトゼロを観ているよ。もう私にはアニメしかないよ」
「アニメしかないのか」
「兄しか目がいかないよ」
「そうかー、アニメしか目がいかない妹ってのも壮絶だな」
「アニメも終わったしね」
私の話、四話しかなかったし。
「おい、時系列が無茶苦茶だ。これから始まるんだよ」
「もう終わりなんだよ。スイートプリキュアも終わるし」
「やはり話題としては、遅れた感があるが……」
なんだかんだ、終盤になって楽しかった。
初めは前年度が凄すぎて霞んで見えたが。
「しかし、小学生が変身とは、いよいよ現代を代表する美少女戦士アニメの風格が出てきたな」
「小学生が変身すると、なんでそんな高評価なんだよ」
「タイガー&バニーも、ヒロインは小学生だったし」
「ヒロイン……?」
「実家に帰る話とか涙なしには観られなかったぜ。あんなにアニメの主人公に感情移入したのは久しぶりだったぜ」
いや。
確かにいい話だったとは思うけれど。
小学生の娘を助ける話に、なんでお兄ちゃんがそこまで入れ込むのだろう。
個人的には、父親が娘に自分がヒーローだと言えない葛藤は良かったかな。
お兄ちゃんがあんな超人マーヴルお助けマンだったら、まだ話は分かりやすいけどさあ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 19:31:37.29 ID:q0hm2tmX0<> 「プリキュアの話に戻すぞ」
「そんな凄んでまで戻す話なの。仕方ない、聞くよ聞きますよ」
「プリティーでキュアキュアってどういう意味なんだ?」
「初代まで戻すのかよ!」
遡り過ぎだ。
「次回作は五人らしいな」
「今度は未来の話になってるし……、なんか可愛いだけのあざといキャラがいるらしいね」
なんでも漫画大好きという設定らしい。
「きっとさー、わざとらしく転んで顔をぶつけたりするような、すごくむかつく子だよー」
「ドジっ子か」
「うん。ドジるしトチる、萌え萌えプリキュアなんだよ。変にサービスカットが多くて、ソフト化すると更に修正・追加作画されるような」
「まるで実例があるような言い方だな」
「一人称が自分の名前だったり、すぐ裸になったり、妄想が激しかったり、あげくにラスボスになったり」
「それ、ただの月火ちゃんが嫌いな女子じゃね?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/23(金) 19:44:25.78 ID:q0hm2tmX0<> 「まさか。私は女の子大好きだよ。百合姫とつぼみも購読しているよ」
「妹の趣味が極端だ……」
「お兄ちゃんが購読しているLOも読んでいるよ」
「読んでんじゃねーよっ!」
あれはまだ私が小学生の時。
お兄ちゃんの部屋で何か面白い漫画はないかなと物色していると、とってもお洒落な表紙の雑誌が。
「兄があんなの読んでると知った最初はトラウマになるかと思ったよ」
「僕もお前のエロ本でトラウマになるかと思ったよ」
失礼しちゃうなー。
「でも大変だよ。今、通販で買えなくなってるよ。お兄ちゃん」
「困ったもんだよな」
「ゾーニングは必要だけれど、隠蔽することに尽力するのもどうかと思うしね」
家庭内でのゾーニングを取り上げる者は、今この場にいない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/24(土) 03:04:55.25 ID:ddxjSSWhP<> 相変わらず上手いなー
プラチナかわいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/03/24(土) 03:46:04.21 ID:6Vprz9B70<> 火憐ちゃん、どんだけ戦場ヶ原のこと嫌いなんだよww
暦と関係してんじゃないのかもう・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/03/24(土) 05:38:14.61 ID:RPyyhV6Y0<> 月火ちゃんかわいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/24(土) 07:24:40.70 ID:wnU9POvDO<> こんな妹が欲しかった
読まされるなあ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/03/28(水) 08:42:24.53 ID:NfAf4g1zo<> まだかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/03/28(水) 18:37:48.04 ID:R7KY2G8k0<> まだかー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 18:57:01.12 ID:AD9XKrHx0<> 途中私が変なことを口走っていた気がするけれど、まあいいや。
ささいな誤字脱字だろう。
きっと第二刷からは修正されるだろうし。
ついでに私とお兄ちゃんの無駄無駄無駄な雑談も削られるかも。
「…………」
何のためにもならなかったけれど、お兄ちゃんと話すのは楽しかった。
下品だし、遠慮がないし、無神経なところもあるけれど。
最後は許すことができる。
受け入れることができる。
友達とか彼氏との間ではちょっとできないことだ。
こういうのが家族ってことなんだと思う。
認めるということが。
そこにいるだけでいいということが。
きっと私が誰か人を殺して刑務所に入っても、お兄ちゃんは毎日面会に来てくれる。
まあ、お兄ちゃんの人格を考えれば、私じゃなくてもそうなるだろうけどね。
戦場ヶ原さんも羽川さんも同様に接するはず。
でも。
それでも。
私は、ちょっとでも、自分がお兄ちゃんの特別枠に入っているといいなと思った。
「さて。お前もアニメばっか観てんじゃねーぞ」
「もう行くの?」
「うん」
「じゃあその前に、感謝を形にして示してもらおうかな」
「……ああ」
思いついたように、お兄ちゃんはポケットに手を入れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 19:22:05.37 ID:AD9XKrHx0<> 「手ェ出せ」
「はにゃ?」
言う通りにすると、お兄ちゃんは私に紙を握らせた。
千円札だった。
「釣りはいらない」
鼻っ柱に拳を叩き込んだ。
固いものが砕ける感触がした。
「な、何を……」
「それはこっちの台詞だーっ!」
鼻を押さえながら、詰め物をしたような声で抗議する兄に私は憤りに意を表す。
「なんだこれは」
見下ろす姿勢で兄に問うと、こう答えた。
「チップだ」
お年玉だ。
言い切る前にもう一度顔面に、今度は足の裏をお見舞いした。
「私がこんなもので納得すると思ったか」
舐めるな。
「…………」
舐められた。
足の裏を。
「ぎゃーっ!」
お風呂上がりに素足で真っ黒な昆虫を踏んづけてしまったときのように、私は迅速に神速にお兄ちゃんの顔から足を離した。
「汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いっ!」
「なんだよ、その反応。僕でも傷ついちゃうだろうが」
「妹を傷物にする勢いだったよ!」
肌にはうっすら涎が着いている。
私は部屋のカーペットで垢擦りのように、付着物を落とすことに努めた。
「だからさー、チップだってば。そのお駄賃でポテトチップでも買ってこいよ」
「今ので利息も含めて取り上げられた気分だよ! 何がポテトチップなのよ!」
「確かにうすしお味だったな」
「だからうまくないんだよ!」
「いやー、そんなことはなかったぜ。癖になりそうだ。止められない止まらない」
「スナック感覚!?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 19:55:20.75 ID:AD9XKrHx0<> 「私はね、イモい女でもなければ安い女でもないんだよ」
「足りないっていうのか? じゃあもう千円」
「金の話じゃねー!」
「じゃあ、もうひと舐め」
「それも違う!」
「月火ちゃんの足の裏千円から!」
「競売に出すな!」
掛け合いがひとまず終息し、私とお兄ちゃんはお互い正座した。
ふう。
「それで、お前は結局何が言いたいんだよ?」
「感謝だよ、感謝」
「濁点をつけると?」
「ガンジャ」
「これは危ないか」
「うん。パクりだし」
仕切り直し。
「感謝だよ、感謝」
「感謝」
「今日の私はお兄ちゃんに尽くしてあげました。だからその見返りが欲しいのよ」
「おいおーい、正義のファイヤーシスターズの参謀役が見返りかよー。結局、お前は美徳の使者じゃあないんだなー」
「私だって、聖人じゃあないよ」
むしろ俗人。
されど俗人。
「自己満足の綺麗事なんて、嘘くさいだけだよ」
「ふむ。まあ、お前の言わんとすることもわかる」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 20:45:50.99 ID:AD9XKrHx0<> 「ちょっとこっち来い」
「ふむん?」
正座のまま、お兄ちゃんのほうへにじり寄った。
なんだろう。
訝しんでいると、背中に腕を回され、ぐいっと抱き寄せられ。
キスをされ。
キスをされ。
キスをされ……た?
たっぷりと、ねっとりと唇を吸い。
一分か一時間か一日か一週間か一ヶ月か一年か一生ほど経ってから。
ようやく、離れた。
「ふあ……」
「ありがとう。月火ちゃん。今日はお前のおかげで助かったよ。これからもよろしく頼むよ」
「あう」
「じゃ、お兄ちゃんもう行くから。もし出かけるなら火遊びはほどほどにな」
と言い、回した腕を解き、兄は立ち上がる。
そして、そのまま部屋を後にした。
って。
って。
つて! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 21:14:38.34 ID:AD9XKrHx0<> 「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待てっ!」
待て。
何だ今の。
私は玄関へダッシュし、靴を履いているお兄ちゃんを引き止めにかかる。
「ちょっとお兄ちゃん! 何するのよ! 何したのよ!」
「ああ? 何って接吻だよ」
お兄ちゃんは逆ギレ気味に言う。
「お前が物欲しそうに口を開けてるから、してやったんだろうが」
物欲しそうにって。
確かに見返りを要求したよ。
しましたよ。
「だからってなんでちゅーになるのよ!」
「火憐ちゃんはこうしてやるとすぐに機嫌よくするからさ」
「かっ……」
火憐ちゃん?
火憐ちゃんにもちゅーしてるの?
しかもその口振りから察するに日常的に。
「だから、お前もちゅーのひとつでもしてやれば納得すると思って」
私が今聞いているのは日本語だろうか。
もしかして非人類の言語だろうか。
お兄ちゃんが言っていることが理解できない。
あ、そうか。
お兄ちゃんは人間じゃないんだ。
じゃあしょうがないよね。
私にはわからない話法文法を使ってるんだ。
ジョン・ポールだ。
「そうか、そうなんだ、もうすぐ世界の終わりなんだ」
「僕が殺されない限りは終わらねーよ」
なんかまた言ってるけど、エックスデーは近いと思う。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 21:31:52.76 ID:AD9XKrHx0<> 「最近気づいたんだけれど、十五歳以下の女子って可愛がったり、適当にちゅーしてやればすぐに従順になるんだよな」
「…………」
また何か言っている。
わからないけれど、たぶん恐ろしいことを。
「……お兄ちゃん、人の家の子に変なことしてないよね?」
「人の家の子に変なことしてないよ」
笑って答えた。
人の家の子以外にはしているのかもしれない……。
「まあそれならいいよ。まだ被害者が私達姉妹に止まっているなら」
「そういうところは妙に自己犠牲精神強いな」
「発情した兄を外の世界に解き放つなら、家の中で満足させてやるほうがまだましだよ」
「どんな妹だよ」
そのまま返したい。
どんな兄だよ。
「じゃあ、僕は今度こそ行くからな」
「んー、行ってらっしゃれ」
「行ってらっしゃる」
私は前髪を引かれる思いでお兄ちゃんを見送った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 22:10:42.63 ID:AD9XKrHx0<> あー、やっと章が切り替わった気がする。
私が部屋に戻ると同時に、アイフォンが鳴った。
変更してからほとんど皆メールかツイッターで連絡を取っている。
電話なんて誰だろう。
名前が表示されないところ、私のアドレス帳に載っていない人物だ。
私は通話をオンにした。
「はい、もしもし」
「もしもし、月火ちゃん!」
女の子の声だった。
が、聴いたことがない声だ。
「あなたは誰かな? どうして私の名前を知ってるのかな? 誰からこの番号を聞いたの? 教えてくれたらこの電話の件は怒らない」
「いきなり質問攻めだなー。それに君はもう怒ってるんじゃない?」
「いいからさっさと答えろ」
気に入らない口調だ。
私は出来る限り強く出て、主導権を握る。
電話の相手は溜め息をついてから、仕方無さそうに話し始めた。
「私は忍野扇だよ。君のクラスメイトでよく一緒に下校するくらいの友達さ」
「友達……?」
まるで初対面の自己紹介みたいだけど。
というより、「そういう設定を聞かせている」ような感じだ。
「一応、私は情報通でね。君達ファイヤーシスターズの手伝いをしたりもする。そうだな、夏休みに詐欺師が町に来ただろう? あの時君に頼まれてあいつを探ったりなんかしたよ。いやあ、今となっては何年も前に発行された小説のように懐かしいなー」
あれ、最近もそんなことテレビで見たような?
忍野扇は続ける。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 22:25:31.48 ID:AD9XKrHx0<> 「いやはやそれにしても光陰矢の如しとはこのことだね。
「君に、月火ちゃんと出逢ったのは四月なんだけれどね、その間にはいろいろあったよねえ。授業に休み時間に部活に文化祭体育祭創立記念日!
「まるでライトノベルのようにキッチュでキャッチーな毎日だったよ。
「私が月火ちゃんのことをつきちゃんと呼ぶことになるイベントもあったよねえ。
「あの時はちょっといざこざがあって、冷や冷やしたよ。
「いや、つきちゃんの名前に合わせて火や火やというべきかな?
「冬休みに入ってからも息災だったかな。そうであったことを願うよ。
「友達の私としてはね。
「そうだそうだ、君からの年賀状も届いたよ。
「私も送ったんだけれど、受け取ってくれたかな。
「え? 受け取ってない?
「それは残念無念だ。郵便局で手違いがあったのかもしれないね。
「なにせ私は今時パソコンを使わず、プリントゴッコで君のために君だけのために年賀状を書いたんだぜ。
「私のつきちゃんへの友情がどれほどのものか、察せられるだろう?
「あーっと、ごめんごめん。今日君にわざわざ電話をかけたのはね、教えたいことがあったからだよ」
忍野扇は続ける。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 22:42:37.11 ID:AD9XKrHx0<> 「相も変わらず情報通であるところの私、扇ちゃんだけれども、つきちゃんがずっと知りたがっていたことを今日は教えるよ」
「ちょっと待って」
「ん? なんだい?」
「ずいぶんと丁寧にこれまでの経緯を話してくれたけれど、扇ちゃん」
だっけ?
「それ、全部でっち上げでしょ」
ライトノベルのようにキッチュでキャッチーな毎日だったらしいけど。
思わせぶるだけで、具体的な部分はまったく触れていない。
プリントゴッコの件は知らないが。
「もしかして、つきちゃんは私を疑っているのかい?」
「もしかしなくても疑っているよ。疑問符だらけだよ。さっきの一言一言に(?)って入れたいくらいだよ」
しばらく沈黙があった。
「ふう、それじゃあこれはどうかな。実は私と君は幼い頃にも出逢っていてね」
「また捏造?」
「まあ聞けよ。私とつきちゃんの超絶運命的デスティニー関係を」
自信たっぷりに忍野扇は言った。
アイフォンを当てている耳が痛くなってきた。
「あれは小学校二年生の頃だったか」
情感を。
郷愁を込めて。
忍野扇は続ける。
「つきちゃん、君はお姉さんの火憐ちゃんを助けようと、学校の屋上から飛び降りたことがあったろう」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 22:59:44.48 ID:AD9XKrHx0<> 「…………」
「うん、今、『そんなことみんな知っている』と言おうとしたかな? つきちゃんは昔から有名人だったからね。でもね、私は当時近くで君が飛び降りるのを見ていたんだよ」
小学生の頃、私とつきちゃんはクラスメイトでね。
忍野扇はそう言った。
「私はあの時なぜ火憐ちゃんが追い詰められ、そしてつきちゃんが飛び降りることになったか、その一連の流れを間近で見ていたんだよ」
「…………」
「それには君のお兄さん、阿良々木暦先輩も関係している」
「…………」
「あの緊迫した場面を昨日のことのように思い出せるよ、火憐ちゃんは阿良々木先輩が」
「もういい」
私は忍野扇を遮った。
自分でもわかるくらい、冷えた声だった。
「もういいって? そんな、せっかくこれから私とつきちゃんの友情物語花物語が始まるのに」
「私は扇ちゃんがクラスメイトだろうと幼馴染みだろうと詐欺師だろうとどうでもいい」
昔話なんか聞きたくない。
あんな、もう終わったことの話なんか。
「私に教えたいことがあるんでしょう? 情報通の扇ちゃん」
「うん。そうだよ。私は君へのメッセンジャーだ」
忍野扇は続ける。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 23:15:56.53 ID:AD9XKrHx0<> 「千石撫子」
忍野扇は女の子の名前を告げた。
「千石撫子ちゃん。つきちゃんの友達で七百一中学校に通っていた子だよ」
通っていた。
いた。
過去形。
今は通っていない。
今は、いない。
「数ヵ月前から行方知れずになっているね。そして、つきちゃんは千石ちゃんをずっと探していた」
「…………」
「あれ? 受話器を通してもつきちゃんのいらつきが伝わってくる気がするよ。言われると恥ずかしいことだった? 隠しておきたいことだった? つきちゃんってツンデレ?」
「…………」
「うんうん、その気持ちわかるよー。でも照れ隠しってんじゃないよね。つきちゃん」
「…………」
「聞けば彼女、千石ちゃんはいなくなる前の最後の日、前髪がばっさりなくなっていたそうだね」
あれ、君がやったんだって?
忍野扇は続ける。
「うーん、もしかして千石ちゃん、つきちゃんに髪を切られたのがショックで失踪したのかもなー。髪は女の命というものね」
うんうん。
忍野扇は続ける。
「もちろん、これはあくまでもどこまでも私の仮説、妄想だよ。でもつきちゃん、君は」
忍野扇は続ける。
「千石ちゃんがいなくなってしまったことに、負い目があるんじゃないかい?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 23:28:17.90 ID:AD9XKrHx0<> 「私は……」
戦場ヶ原さんが言っていたこと。
「あなたも辛いでしょうね」
辛い。
あんなことになるなんて思いもしなかった。
目を開かせてあげたかった。
現実をみてほしかった。
だって、あのままお兄ちゃんに夢を見続けていたって、撫子が駄目になるだけだった。
磨り減って、台無しになるだけだった。
あんなに可愛い娘が潰れてしまうなんて耐えられなかった。
それに、もしかしたら夢だって持っていたかもしれない。
したいこと、なりたいもの。
いっぱい持っていたかもしれない。
そんなこと一回も聞いたことなかったけれど。
でも。
そうじゃなかったとしても。
「私は、撫子ちゃんを救いたかった」
ヒーローぶって。
正義の味方ぶって。
お兄ちゃんの真似をして。
撫子ちゃんを改善させたかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/29(木) 23:39:56.87 ID:AD9XKrHx0<> 「いや、でも髪切るのはないわ」
忍野扇は言う。
私を石を投げるように。
意思をぶつけるように。
「千石ちゃんはあの通り、普段前髪で顔を隠していたからね。いわばそれが彼女の防壁だったんだねえ」
「…………」
「ATフィールドといってもいいけど」
「……私達に心を開いていなかったってことか」
前に羽川さんから聞いたことがある。
引きこもりにも様々なタイプがあって、中には家に閉じ籠らず、旅行を趣味とする者もいると。
当然ひとりきりの旅。
ひとりで歩いて歩いて回り廻る。
その渦中で話す相手はいない。
要は、心を開いているかいないかなのだ。
接することを許しているか、いないか。
「まあ、見るからにインドアだしね、彼女。でも」
どうやら最近はアウトドアに走ったようだ。
忍野扇に続ける。
「千石ちゃんがいる場所を知りたいかい?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/30(金) 00:10:30.59 ID:xCPpHHxz0<> 「撫子ちゃんがいる場所、知ってるの?」
「答えはオフコース。フルコースだ。もちろん知っているとも」
「……あなた、誰?」
初めにクラスメイトだといった。
次に幼馴染みだといった。
でも私は今まで忍野扇なんて名前の子と知り合った覚えはない。
「言っただろう? 私は情報通の扇ちゃんだよ」
「……撫子ちゃんの居場所を教えてって言ったら、教えてくれるの?」
「当然」
「見返りは?」
「ん?」
「情報通とかいって、探偵を気取っているように聞こえるけれど、何か報酬を要求するでしょう」
「あー、まだ疑われてるなあ。心外だなー、でも私のハートに侵害だなー」
でもね。
忍野扇は続ける。
「つきちゃんのその疑い深いところは美徳とすべきだよ。みんな面の皮一枚の下で、何考えてるかわからないもんねえ」
「…………」
「もちろん中には無条件で信頼できる相手もいるだろうね。家族とか。恋人はちょっと厳しいかなー」
「…………」
「だからつきちゃん、君はこれからもそうして疑ってかかることだよ。今まで君が生き残れてきたのはそのおかげだろうからね。ライフスタイルを変えることは致命的なことになりかねない。一度飼い猫になった猫は、二度と野良猫としては生きていけないだろう?」
「…………」
「でも安心してよ、つきちゃん。別に騙そうってんじゃない。たとえば、つきちゃんに居場所を教えて千石ちゃんを無事連れ帰ってきてくれたら、同級生であるところの私も嬉しいし、情報通冥利に尽きるというものだよ。言ってしまえば、それが私への報酬、メリットだ」
「…………」
「だから、お願いだ。つきちゃん、阿良々木月火ちゃん」
「千石撫子ちゃんを助けてあげてくれないか」
君にはそれがきっとできる。
忍野扇はそう言って黙った。
私は……私は少し考えて。
彼女に、撫子ちゃんの居場所を訊いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/03/30(金) 02:31:37.91 ID:ipbZYN0w0<> >「人の家の子に変なことしてないよ」
>
>笑って答えた。
>人の家の子以外にはしているのかもしれない……。
火憐ちゃんに変なことしてるの確定じゃねーかww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/30(金) 03:20:41.74 ID:JirE6G4DO<> 八九寺にしてるのも確定だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/03/30(金) 03:38:41.99 ID:5BZr139DO<> 月火ちゃん可愛いよ月火ちゃん
阿良々木くんのクズっぷりが笑える いや、イケメンなのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2012/03/30(金) 09:25:05.08 ID:4xTOiKhAO<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)<><>2012/03/31(土) 23:33:02.41 ID:99fRr77Fo<> イモい女
妹虫か
C <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/04/03(火) 03:59:30.87 ID:OSty+yXJ0<> ……原作者本人?
にわかだから、ガハラさんが詐欺師さんと電話してるとこまでは補完ssだと分からなくて、色々ブワってなった。
支援。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<><>2012/04/03(火) 20:17:00.56 ID:7U79xj7i0<> 文章が西尾っぽくて上手いよね。
続き読みたいなあ。
まってます。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 22:32:02.63 ID:IbABqDLI0<> 見渡せば、一面、白金の世界。
否、白銀の世界だった。
境内は先日の雪が積もり、月に照らされた光景は田舎町には似つかわしくないほどに神秘的だった。
私は撫子ちゃんの許へすぐさま向かった。
わけではなく、フェイトゼロの一挙放送を最後まで目を通し、日が沈んでから両親に友達と初詣に行ってくると告げて家を出た。
デニムを穿き、赤いダッフルコートを羽織った。
普段和服を常用している私でもパンツルックになることもある。
まして、これから向かう場所は山だ。
山の中にある、神社なのだ。
北白蛇神社。
扇ちゃんはそこに撫子ちゃんがいると言った。
神社といっても都市伝説とかに出てくる廃屋みたいな場所だったが、最近改装されてすっかり綺麗になっているとママから聞いたことがある。
雨風を防ぐ家出先にはうってつけだ。
管理する人間もいないようで、まさに新居。
辺りは雪に覆われているけれど、足跡はあった。
ここに誰かが来たのは間違いない。
もしくは、いる。
私は賽銭箱の前に立って、見回す。
しんとしているが、何か気配なようなものはあった。
とりあえず言い訳通り、参拝しておこう。
五円玉を投げ入れ、二礼二拍手一礼。
「撫子だYO!」
頭を上げるのと同時に。
本殿から白いワンピース姿の少女が表れた。
繰り返すが今は一月、真冬だ。
彼女はへっちゃらのへいだった。
「うぇるかむ!」
彼女は言う。
こうして、私は千石撫子とあっさり再会した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 23:01:42.82 ID:IbABqDLI0<> 「ごおおええんだああまああ? ちぇー、さっきは一万円だったのにな。福沢さんだったのにな。お年玉もらったような気分だったのにな。それなのに今度は五円玉だよ。駄菓子も買えないよ。がっかり、ちょーがっかりだよ。でも、まあいいや。撫子も初詣のときは五円玉を出していたし。人のことは言えないよね。それに『ご縁がありますよーに』ってことだよね。うん、神頼みだ! いいよーいいよー、撫子はうぇるかむだよー。どんと来いだよ! どんと恋! あははー、今のはだじゃれだよー、わかったかなー?」
彼女は賽銭箱から五円玉を取り出すと空にかざしてみたり、真ん中の穴を覗いてみたり、あまつさえ口に含んで味を確かめるような真似をした。
撫子ちゃんが。
撫子ちゃんが?
撫子ちゃんはこんなキャラではなかった。
こんなハイテンションで、口数が多いような子では決してなかった。
そんな、真っ白な髪では、なかった。
見間違い人違いだと思った。
彼女の髪の毛は雪のように白くなっていた。
シュシュで後ろにまとめており、かつて隠していた顔はさらけ出していた。
剥き出しになっていた。
外見にしても言動にしても、まるで別人のよう。
けれど、あの可愛い声は確かに撫子ちゃんのものだった。
「あなたは撫子の信者第二号!」
「……撫子ちゃん?」
「うん?……ん? んん〜?」
撫子ちゃんは目を凝らすように、しかし実際にはそのままの表情で私を見た。
視線さ彼女一人によるものなはずなのに、衆人監視下に置かれたように、四方八方三百六十度から観察されているきぶんになった。
「ああ! あーあー! 月火ちゃん! 月火ちゃんだあ!」
「久し振り」
「久し振り……、ああ、そういえば最近会ってなかったっけ。どうでもいいんだけど。ひさしぶりー」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/06(金) 23:29:07.09 ID:IbABqDLI0<> 「撫子ちゃんはここで何をしているの?」
「え? 見てわからない?」
質問に質問で返された。
そう言われても私には撫子ちゃんがここで何をしているのかさっぱりわからない。
「家の人が心配しているよ」
「……はあ」
言っていることが飲み込めていないような感じだ。
「撫子ちゃんの家族が心配してるよ」
「『かぞく』……あーはいはいはい! うんうん、『かぞく』ね!」
撫子ちゃんは理解したと示すために頷いた。
『家族』という単語が意味するところを思い出すためのような間を置いてから。
「二ヶ月以上もこんなところで何してたの」
「何って、綾取りだけど?」
「綾取り?」
「うん! 前はねー、すっごく『ひま』だったけどねー、今は綾取りの練習で『ひまつぶし』をしてるの!」
そう言って、私に自分の手に絡ませた綾取りを見せた。
「はしご」のようだったが、上手とは言えなかった。
「私が聞きたいのはそういうことじゃない」
「えー。じゃあ何ー?」
「どうしてこんな神社に撫子がいるのかっていう理由を訊いてるのっ!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/07(土) 02:43:17.02 ID:1kZgWs8IO<> きてた <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/08(日) 16:46:28.90 ID:BmglvQJSO<> きてたな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/08(日) 21:51:32.25 ID:j9yIk0Oso<> ああ、きてたな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/08(日) 23:42:29.60 ID:9Nb0oukJo<> たしかにきてたな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/04/09(月) 00:59:58.04 ID:vN1i748bo<> ほんとにきてたのか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 08:14:23.03 ID:14sMx5dbo<> いつからきていたと錯覚した? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 13:19:32.26 ID:lPki+yP9o<> きて……いた……? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 15:02:57.01 ID:1l2EWgOso<> 来ていたと、思い込んでたんだ。
ぜんぶ、あいつの掌の上だったんだよ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 19:22:32.49 ID:eYbuYnuH0<> 真実、撫子ちゃんはここにいた。
覚悟はしていた。
会えたとしても私は拒絶されるんじゃないか。
まともに話もできないんじゃないだろうか。
二ヶ月以上姿を消していたのだ。
尋常ではない状態、たとえば完全なる世捨て人になっている可能性もあった。
私の言葉が通じないようだったら、無理矢理にでもここから連れ出すつもりだった。
それが私が取るべき責任であるはずだから。
そう、苦く痛い青春劇みたいな。
そんな予想をしていた。
その程度の想像しかできていなかった。
けれど。
今、目の前にいる撫子ちゃんは。
千石撫子は。
「撫子はね、ここで待ってるんだよ」
かける言葉が思い浮かばない。
動悸が激しさを増す。
寒空の下、汗が止まらない。
さっきにしても再会の切り出し方としては最善ではなく。
むしろ最悪。
最も、悪い。
「待ってる?」
「そうだよ。撫子もひまじゃないんだよ」
『ひまつぶし』にやっていた綾取りのことは既に彼方のようだった。
「撫子、ちょー忙しいんだから。予定がぎっしり。かみちゅスケジュールなんだよ」
興奮して話す撫子ちゃん。
噛んでしまったらしい。
「えーと、かみちゅスケ……かびつス……か、かみ、かみかみかみ」
「…………」
「かあああああみいいいいいちゅううううううううううっ!」
咆哮。
撫子ちゃんの叫びに呼応するように周りの木々がざわめく。
生き物のようにレスポンスをする。
そして、私達を取り囲むようにして、何十何百何千何万もの、蛇が。
白い蛇の群が、現れた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 19:53:33.53 ID:eYbuYnuH0<> 「改めまして初めまして月火ちゃん! 神様中学生撫子だよ! 歳は今年で十五になるよ! まあ、もう関係ないけれど!」
両手を広げ、撫子ちゃんは言う。
私を真っ直ぐに見据えて、言う。
「大好きな暦お兄ちゃんをぶっ[ピーーー]ために、撫子は三月までここで待っているんだよ!」
初めてのデートの約束を教えてくれるように。
嬉々として、話す。
「お兄ちゃんを……[ピーーー]?」
「そう! 撫子は暦お兄ちゃんが大好きだからぶっ殺してぶっ殺してぶっ[ピーーー]んだ!」
「…………」
「あれ、でも何で三月まで待たなきゃいけないんだっけ? 暦お兄ちゃんに言われたからだったっけ? うーん、忘れちゃった」
暦お兄ちゃんをぶっ[ピーーー]。
撫子ちゃんはそう言った。
何のてらいも迷いも、微塵もなく。
お兄ちゃんを[ピーーー]と言ってのけた。
「ま、待ってよ。意味わかんないよ、撫子ちゃん。お兄ちゃんが好きなんでしょう?」
「うん」
「なんで、[ピーーー]って……」
「え? だって暦お兄ちゃん、撫子のものにならないし」
「は?」
「あ、そうだ、暦お兄ちゃん以外にもいるんだった! ぶっ[ピーーー]人!」
ぽんと手を叩いて撫子ちゃんは続ける。
「暦お兄ちゃんの彼女のなんとかって人と、暦お兄ちゃんの……あーうざいなあ。あれが一番うざいなあ。はやくぶっ殺したいなあ。だいたい偉そうだしうるさいんだよ。撫子のこと何も知らないくせに、いちいち、えーとなんだっけ、うんまあとにかく、うざいし! 気に入らない! 早く消したい! あの人あの人あの人あの人あの人あの人」
頭をかきむしりながら撫子ちゃんはいったり来たりを繰り返す。
時々思い出したように地を這っている蛇を拾い上げ、折り曲げたり、振り回したり、地面に叩きつけたりする。
「うん!そういうわけなんだよ月火ちゃん!」
再び、私の方に向き直る。
「だから、撫子はここで待ってるんだよー。偉いなー、我ながら。我思う、我神なり。あ、雷じゃないよ? ピースサンダー!」
何かの振りを始める撫子ちゃん。
口で「びりびりー」と効果音を出しながら、見えない必殺技を繰り出していた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 20:19:09.73 ID:eYbuYnuH0<> 「そうだ! 月火ちゃん、せっかく来てくれたんだし、撫子の話し相手になってよ! ここ『誰も来ない』からさー、おしゃべりしようよ」
撫子ちゃんは本殿の階段に腰を下ろすと、私に隣に座るよう、ぽんぽんと叩いて促した。
にこにこ笑いながら。
にやにや笑いながら
友達にそうするように。
私は周りの蛇達に睨まれながら、彼女に従った。
生きた心地がしない。
「じゃあ……どうしてお兄ちゃんを殺したいの?」
「大好きだからだよ?」
「普通、好きな人を殺したいとは思わないんじゃないかな」
「『ふつう』……好きな人はぶっ殺したくなるものじゃないかな?」
「…………」
「だってそうじゃない? 一番大好きで欲しくて欲しくてたまらないものほど、手に入らないんだよ。そのせいで撫子はすごく大変な思いをしなければならなくなるし。だったらそんなのないほうが、いなくなってもらったほうが楽だよ」
苦しいだけなら。
狂ってしまうだけなら。
それは邪魔なだけだ。
「撫子、おかしいこと言ってる?」
「……おかしいよ。撫子ちゃん」
「うん?」
「自分が大好きな人なら、何が何でも手にいれるべきだよ。努力するべきなんだよ。こないだも言ったけれど、みんなそうしていることだし、そうするべきなんだよ。それができないなら、無理なのだというなら、それはただ逃げているだけだよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 21:14:50.27 ID:eYbuYnuH0<> 「でもそれは、月火ちゃんが『できる側』の人だからだよね?」
撫子ちゃんが切り返した。
「『できる側』って……」
「撫子はね、『できない側』なんだよ。やれと言われたこともできないし、欲しいものも手に入らないし、そのための努力もできない。『ふかのう』なんだよ。まあ、何でもできちゃう月火ちゃんにはわからないかもしれないけれど」
「…………」
「みんなそうしていることだし、って言ったけれど、撫子はしてないし、できないよ。撫子はそのみんなから外れてるんだよ。ほら、小学生のときによく椅子取りゲームやったよね。撫子はあれが大嫌いだったよ。どうしたって撫子には椅子を取ることなんてできないし、みんなが必死になってるのもわけわかんなかったし。月火ちゃんが言ってるのはああいうこと? 他の誰かを押し退けて、自分一人最後には勝ち残る、価値が残る競争みたいな」
撫子、そんなのやだよ。
彼女はまだ笑っている。
「めんどくさいし。どうでもいいけど、撫子以外にも椅子を取れない人はいるよ」
「競争社会の批判でもしてるつもりなのかな? でも、そんなの一面すぎないよ」
「違うよー。もっと簡単な話だよ。だからね」
私のほうに身を乗り出し、覗き込む撫子ちゃん。
その目は血走ったように赤くなっている。
「頑張って取らなきゃいけない椅子を、なくしちゃえばいいんだよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 21:47:36.60 ID:eYbuYnuH0<> 椅子取りゲームの椅子をなくす。
撫子ちゃんの場合、お兄ちゃんを[ピーーー]こと。
「ね! 簡単な話でしょ?」
「……ふざけないでよ」
「?」
自分は『できない側』だと?
椅子取りゲームで椅子が取れないなら、椅子をなくせばいいだと?
そんなの。
そんなことは。
「椅子を取ろうとしたことも、努力もしたことのないくせに、好き勝手言わないでよ! 自分から動き出さなきゃ、結果なんてあるわけない! 撫子ちゃんは棚からぼた餅が出てくるのを待っているだけ! そんなの、そんなのっ!」
私は立ち上がり、撫子ちゃんに向かって言う。
撫子ちゃんに向かって叫ぶ。
「生きた人間じゃない!」
「だって撫子、もう人間じゃなくて、神様だし」
撫子ちゃんは答えた。
それはさっきの『できない側』の人間の話を補強するかのような響きがあった。
私はもうあなた達とは違うのだ。
同じ場所に立ってすらいないのだ。
同じ視界を見てすらいないのだ。
「神様って……」
「だーかーらー! 撫子はもう月火ちゃんが言ってる訳のわからないあれこれなんか、ぶっちぎりで超越してるんだよね」
まるで自慢話のように言った。
既に、撫子ちゃんと私の間には修復不可能な断絶があった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 22:47:33.21 ID:eYbuYnuH0<> 「ねえ月火ちゃん。永遠の愛ってなんだと思う?」
撫子ちゃんは訊く。
私はまだ怒りが収まらず、的確な言葉が出てこなかった。
「撫子が思うに、相手をずっと思い続けることじゃないかな」
撫子ちゃんは言う。
うっとり顔になり、恋する少女そのものの表情になっている。
「最初に抱いた『好き』っていう気持ちを揺るがず、劣化させず、風化させず、腐敗させず、いつまでもいつまでも保てることができれば、それが永遠の愛って呼べるんじゃないかな」
「…………」
「あれ? 月火ちゃん言い返さないね? 撫子のこの意見には同意ってことかな」
「……だとしても、それは愛じゃない」
私は言う。
「撫子ちゃんの言っているのはどこまでいっても恋だよ。ただの自己満足で自己完結している独りよがりの勝手な思い込みだよ」
「でもね、撫子はそれで幸せな気持ちになれるんだ」
私の言うことは届いていないようだった。
撫子ちゃんも立ち上がり、私の方へ向き、言った。
「撫子は大好きな暦お兄ちゃんをぶっ殺して、この恋を、永遠の愛を成就させるの」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 23:09:58.35 ID:eYbuYnuH0<> 「ぶっ[ピーーー]ぶっ[ピーーー]って、そもそも人を[ピーーー]ことを何とも思わないの? 撫子ちゃん」
「何を思うっていうのかな? 何を思わなきゃいきないのかな?」
月火ちゃん。
撫子ちゃんは私に問いかける。
本殿の階段から勢いよく飛び降り、賽銭箱の上に着地した。
以前には見られなかった運動神経の働きだった。
「『どうとく』の時間みたいに人を殺しちゃいけない理由を説明してくれるのかな。どうせ法律で悪いことになってるからでしょー」
撫子ちゃんは続ける。
「でもね、撫子はもう人じゃないからそんなルールに縛られることもないよね。神様だもん。暦お兄ちゃんは撫子っていう神様のばちがあたるんだよ」
「神様だとか、ばちがあたるとか……撫子ちゃんはただ逆怨みしているだけだよ」
「あはは! 『さかうらみ』! そっかそっか! こういうときに使う言葉なんだね! でも撫子、暦お兄ちゃんをうらんでなんかないよ」
お腹を抱えて大笑いする撫子ちゃん。
本当に可笑しいと思っているようだった。
「今の撫子の頭の中はね、一つの思いでいっぱいなの。『暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]暦お兄ちゃんぶっ[ピーーー]』って、ただそれだけなんだよ」
この子は大嘘つきだ。
怨んでない?
そんなわけない。
撫子ちゃんはさっきから「ぶっ[ピーーー]」というお兄ちゃんへの呪詛ばかり口にしている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/09(月) 23:38:47.82 ID:eYbuYnuH0<> 「はあ。なんだか今日はたくさんしゃべったなー。しゃべり過ぎた気さえするなー」
唇に人差し指を当てて思案顔の撫子ちゃん。
私はここに来るまで、撫子ちゃんをまだ救うつもりでいた。
友達として。
お兄ちゃんの妹として。
説得して、彼女を家に送り届ける気ですらいた。
けれど。
今や、千石撫子は狂っていた。
神様を自称し、お兄ちゃんを[ピーーー]と言ってはばからず、こんな蛇しかいない神社に一人で居座っている。
髪を真っ白にして。
これは、もう無理だろう。
どうしたって手に負えない。
私は諦感と無力感を味わっていた。
しかし。
絶望はしていなかった。
まだ。
「うん、そうだ!」
撫子ちゃんは賽銭箱から飛び降り、私の方へ駆け寄ってきた。
キスでもするんじゃないかというほどに顔を近づけて言った。
「せっかくだし、今度は月火ちゃんの話が聞きたいな!」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 00:02:48.27 ID:e8zdXj0K0<> 「私の……話?」
「そうだよ。撫子、神様だもん。みんなの話を聞いてあげるのが仕事だもんね」
じり、じり、と。
撫子ちゃんは私の方へ身を寄せてくる。
「何でも相談してよ! 友達だもん! ね、月火ちゃん!」
じり、じり。
私はもはや撫子ちゃんに押し倒される形になっていた。
彼女は興奮したようにはあはあと息を吐いていた。
あれだけ目を合わせるのが嫌いだったのに、ちっとも逸らす気配がない。
私は怖くなった。
目の前にいるのが、友達の女の子ではなく、得体の知れないものに感じられた。
「ほら、えーとえーと、なんだっけ……あ! そうだそうだ」
月明かり以外ない夜中。
押し倒されている上に、逆光になっていたのでよく見えなかったが。
撫子ちゃんの手から細長い、「牙」のようなものが出てきた。
「女同士、腹を割って話そうよ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 00:22:51.34 ID:e8zdXj0K0<> まず、お腹に重みを感じた。
「え?」
そちらを窺うと「牙」が突き立てられていた。
そして一文字に横へお腹を切り裂いていく。
吹き零れみたいに血が流れ出てきた。
「あっ、あっ、あああああっ!」
「開いた、開いた」
目にしてから全身に電流のような激痛が走った。
私に馬乗りになっている撫子ちゃんはさも楽しげに、「牙」で傷をいっぱいに広げた。
混乱。
恐怖。
私は息すら困難になっていた。
口をぱくぱくさせて、言葉にならないような母音を呟いていた。
「あ……あっ……」
「これで心置きなく話せるんだよねー?」
撫子ちゃんは両手で傷口をこじ開けるようにすると、
「もしもおおおし! 聞こえますかああああ!」
と私の中に顔を突っ込んで叫んだ。
体が痙攣したみたいにびくんと跳ねた。
「なんてねー。あはは、どう月火ちゃん? 撫子にいろいろ打ち明けたくなったー?」
顔を私の血で真っ赤にして、撫子ちゃんが言う。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage saga<>2012/04/10(火) 00:35:16.45 ID:xy66bqaAo<> 割り込みすまそ
殺すとか死ねとかNGワードはメ欄にsagaでNG回避できるよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 00:44:38.79 ID:e8zdXj0K0<> 「んー……月火ちゃん、それじゃあ何を言いたいのか分からないよう」
撫子ちゃんは不満そうに言った。
私はもう痛みと恐ろしさで言葉が出てこなかった。
涙が止まらず、口からも血をこぼし、下のほうもどうなっているかわかったものじゃない。
私の上で撫子ちゃんが身をよじるたびに、激痛が走り、動物の呻き声みたいなものがく口から出た。
「大丈夫大丈夫。撫子、ちゃんと『ほうごう』してあげるから」
彼女はさっきまで遊んでいた綾取りを持ち出すと、私のお腹の中に入れ、何かに……多分いずれかの内臓にくくりつけ、引っ張った。
「ひぐんっ」
「うんしょ、うんしょ」
綾取りを突っ込んで、縛って、引っ張る。
それが繰り返された。
撫子ちゃんはうまくいかないとぼやきながら、何回も何回も試した。
私はなかなか意識がなくならなかった。
痛みが強すぎてそのせいで気絶を防いでいるのか。
だとしたら不幸だった。
この状態で意識がなくなるとしたらそれはつまり……。
でも、なんでもいい。
はやく終わって。
はやく、解放して。
「あれー、わけわかんなくなっちゃった……」
もういいや。
撫子ちゃんはそう言い、私の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 01:15:18.90 ID:e8zdXj0K0<> どうして私はここに来たんだっけ。
ああ……あのなんとかって子に「撫子ちゃんを助けて」って言われたんだ。
誰だっけ……クラスメイト……もう、どうでもいいか。
火憐ちゃん、もう家に帰ってるかな。
お兄ちゃん、今頃は……。
お兄ちゃん。
お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん。
私、私、お兄ちゃんに内緒にしてることがあるの。
言ってないことがあるの。
お兄ちゃん。
「なにこれ?」
撫子ちゃんの声で意識を取り戻した。
身体に力が入らない。
あれだけ血が流れ出たのだから、当然か。
私のお腹にはまだ大きな穴が……。
「ねえねえ、月火ちゃんのお腹、勝手に塞がっちゃったよ!」
「…………」
私は言われたほうを窺う。
コートから服まで切り裂かれ、お腹は真っ赤な血に染まっていた。
しかし、傷口はどこにもない。
撫子ちゃんは右手で私のお腹を撫でながら、左手で頭を押さえる。
「あれえ、あれえ、おかしいな、おかしいな」
「…………」
「……あー。なんだっけ。昔、月火ちゃん、屋上から飛び降りて、突き刺さって、それからそれから」
「…………」
「あは」
撫子ちゃんはシュシュを外した。
纏めていた髪が解き放たれたように広がった。
その一本一本は生き物のように蠢き、奮えた。
「そっか。そっか。壊しても治るんだ。何回やっても。何回繰り返しても」
「…………」
「撫子、ずっと月火ちゃんとは違う生き物みたいな気分だったの。だって、月火ちゃんは撫子にはできないことが全部できちゃうんだもん」
「…………」
「月火ちゃんは、撫子と同じだね」
「……私は」
「うん?」
「私は、撫子ちゃんとは違う」
蛇みたいな笑顔を見せられた。
そして、今のようなことが四度続けられた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 01:18:37.76 ID:e8zdXj0K0<> 全文[ピーーー]で埋まるように頑張るから応援してね! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/04/10(火) 01:19:38.64 ID:xy66bqaAo<> お、おう… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 05:50:13.19 ID:fxOOAcpmo<> かみちゅw <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/04/10(火) 07:06:18.42 ID:KUn5C2Qyo<> 撫子鬼畜すぎて笑ったwwww
撫子の本性って怖いな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/10(火) 13:00:48.07 ID:ytVIJ8PBP<> sageながらやりたいならsage sagaでも回避出来るぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/13(金) 13:15:02.80 ID:HsUF7rlOo<> たまたまお兄ちゃんか……
ふむ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 18:48:41.38 ID:aCX8zh730<> その日、私は日直だったのでクラスのみんなが帰ったあとも居残っていた。
ひとりきりの教室には夕日が射し込んでいた。
小学校の、いつ頃だったか。
クラブ活動ならともかく、学級日誌を書く作業に時間をかけるとも思えないので、季節は今と同じく冬だったのかもしれない。
日が早く沈む時期だったのだろう。
とにかく私は黙々淡々と「きょうのできごと」を書き込んでいた。
算数、国語などの授業内容。
クラスメイトの気になったところ。
交通事故が多いから、道路を渡るときに気をつけるよう先生に言われたこと。
一日観察したことを、記していた。
そろそろ紙面が埋まりそうだった。
これからどうしよう。
お兄ちゃんはもう中学生だから、一緒に帰るという選択肢はない。
最近は以前のように話しかけても答えてくれなくなっていて、周りからはちょっと不良みたいに思われていた。
目付きも優しくないし、近寄りがたい雰囲気があった。
今にして思えば、半分はただのポーズだったのだけれど、少なくとも兄妹間は険悪になりつつあった。
それじゃあ、火憐ちゃんと帰ろうか。
今頃上級生に混ざってサッカーでもしているだろうから、この日誌を職員室に提出して捜してみることにしよう。
決まりだ。
と。
まさに日誌に最後の読点を書いたとき、人が来た。
「ららちゃん……」
「あ、せんちゃん」
同級生の千石撫子が、教室のドアから顔だけ覗かせ、まるで謝るように声をかけてきた。
怒っている人間はこの場にひとりもいないのだが。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 20:52:49.41 ID:aCX8zh730<> 私はランドセルを背負って学級日誌を抱え、そちらに近づいた。
「せんちゃん、今帰り?」
私が訊くと、せんちゃんは一歩後退り、顔を背けて答えた。
「う、うん。今、帰るところ」
「こんな時間まで残ってるなんて、せんちゃんも日直だったの?」
同じクラスだったこともある私達だが、今は別々だった。
でも確か、彼女はクラブには入っていないはず。
「あ、あの、掃除当番だったんだけど、みんな用事があるからって帰っちゃって……」
「…………」
要するに押し付けられたわけか。
せんちゃんはどことなくぐったりしている。
きっと今まで教室の掃除をしていたんだろう。
三十以上ある机を運び、床一面を掃き、上まで届かない黒板を消すという教室掃除の一連の作業をずっとやっていたのだ。
ひとりで。
「用事なんて嘘だよ、絶対」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「あるんだって! もうっ」
私はむかついた。
せんちゃんに掃除を押し付けた連中の身勝手さにもだけれど、それに対して怒りも泣きもしない彼女自身に腹が立った。
言われるがままに、流されるままに、教室の掃除をひとりでしてしまったせんちゃんに。
「ごめんなさい……」
私の心情を悟ったかのように、せんちゃんは謝った。
「私に謝ったってしょーがないじゃん」
「そうかもしれないけど、なんとなく……」
「悪いことしてるわけじゃないんだから。あと、その顔逸らすのやめて」
「う、うん」
「ちょうど写真写りいいキメ角度みたいにかわいく見えるから。羨ましいんだよ、このやろう」
「うえっ!?」
ひとりで掃除をやらされても大人しく従ったせんちゃんは、私のこの一言で泣いた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 21:43:18.97 ID:aCX8zh730<> 「私、これ出したらお姉ちゃんと帰るつもりなんだけど」
学級日誌を見せて、私は言う。
「せんちゃん、一緒に帰ろうよ」
「お姉ちゃんって、えっと、可憐さん?」
と、せんちゃんは「純情可憐」な発音で訊いてきた。
相変わらずいい声をしている。
「うん、可憐じゃなくて火憐ね。か・れ・ん」
私は正しいイントネーションを教えてあげた。
「あ、そうか、佐天さんと同じ発音なんだね。火憐さん」
「いや、なんでライトノベルのキャラの名前と比較して納得してるのよ」
だいたい今は回想シーンなんだから、まだ始まってないかもしれないじゃない。
「あ、ご、ごめん、えっとね、電撃文庫っていうところからね、ブギーポップは笑わないっていう小説が出たんだけど……面白いよ?」
「そこまで時代背景を特定しなくていい」
「作者の名前が読めなくて……でも、あの小説、ジョジョのパクりなんじゃないかな」
「勧めておいてディスんなよ! あの人は偉いんだよ!」
あの御方と並ぶ神様なんだよ!
「ご、こめん。ららちゃん、小説とか読むんだ」
「お兄ちゃんがいるからね。せんちゃんこそ」
せんちゃんは全然自己主張しないから、どんな趣味なのかも私は知らない。
もしかしたら案外、読書家なのかもしれない。
ライトノベル以外、例えばミステリとか読んでいないかな。
だとすればそういった話の相手になってほしい。
お兄ちゃんは本棚は開かれているが、口のほうは固く閉ざされているから。
私がそんな期待をしていると、
「あ、あの……今日、暦お兄ちゃん、いるのかな」
と、質問がきた。
「お兄ちゃん? お兄ちゃんが家にいるかってこと?」
「うん」
「どうかな……また暴走族と喧嘩でもしてるんじゃないかな?」
「喧嘩……」
「あの人普通ぶってるけど、悪だよ。超悪。いや、実は悪ぶってるだけだから偽悪ともいえるんだけれど」
「ぎあく……よくわからないけれど、振りってことかな?」
「そうそう。だってさー、こないだなんてこんなこと言ってたよ、『僕に友達は必要ない。なぜなら人間強度が下がるから』」
「にんげん……え?」
「意味わかんないよねー。意味わかんないし、痛々しいよね」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 22:04:56.07 ID:aCX8zh730<> 昨夜、久々に口をきいてくれたのだけれど、その時に「どうしてお兄ちゃん、友達がいないの?」と訊ねたらそう答えられた。
私は子供心にもそんな発言をする兄がかわいそうになり、また、兄を「怖い」と思わせていた淀みのようなものも消え失せた。
「さらに言うとお兄ちゃんは偽悪ですら本当はないんだよ。お兄ちゃんがやってることって結局人助けなんだもん。むしろ偽善だよ」
「ぎぜん?」
「人のために良いことするのって、その人自身が損する場合が多いよね。例えばA」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 22:38:09.98 ID:aCX8zh730<> 私とせんちゃんは職員室へ行き、私の担任の先生に学級日誌を渡して、下駄箱に向かった。
そうそう。
昨夜、お兄ちゃんが久々に口をきいてくれたのだけれど、その時に「どうしてお兄ちゃん、友達がいないの?」と訊ねたらさっきのように答えられたのだ。
私は子供心にもそんな発言をする兄がかわいそうになり、また、私の中で兄を「怖い」と思わせていた淀みのようなものも消え失せた。
「さらに言うとお兄ちゃんは偽悪ですら本当はないんだよ。お兄ちゃんがやってることって結局人助けなんだもん。むしろ偽善だよ」
「ぎぜん?」
「前にね、お兄ちゃんのクラスメイトが万引きの疑いをかけられたことがあってね」
女の子だった。
「スーパーの化粧品売り場でその子がリップクリーム盗ったっていわれて、もうお店の人は決めてかかっちゃうし、女の子も泣いちゃうし」
そこへ、本当にたまたま通りかかったお兄ちゃんが、
「全然別の女の人連れてきて、その人が犯人だっていうの。お店の人が防犯カメラをよく確認したらばっちりその人が映っててさ」
彼女も観念したらしく、お店の人の奥に連れていかれ、後から警察も来た。
そしてその場は一件落着となったのである。
「へえ。すごい、暦お兄ちゃん。すてきだね」
「…………」
「あれ、撫子、おかしいこと言っちゃった、かな……」
「どうして私が知ってるの、とか。どうしてお兄ちゃんが犯人を捕まえられたの、とか。不思議に思わない?」
「な、なんでなのかな?」
せんちゃんはミステリは読んでなさそうだな……。
「この話には後日談というか、オチがあるの」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 22:39:40.86 ID:aCX8zh730<> >>132はミス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/18(水) 23:16:09.95 ID:aCX8zh730<> その一件から数日後のことである。
「その子が家に来たの。お礼がしたいからって。お兄ちゃんはその時いなくて、私が出たんだけど」
女の子がお兄ちゃんに会いに家まで来るなんて初めてだった。
お兄ちゃんが女の子を連れて来たことは後にも先にもないが。
私は彼女を中へ通し、待ってもらうことにした。
そして、万引きの話を教えてもらった。
彼女は感謝していた。
他人からお兄ちゃんの評価を聞いたのは初めてだったから、私は大人しく彼女の言うことに耳を傾けつつ、内心誇らしかった。
やっぱりお兄ちゃんは格好いい。
やっぱりお兄ちゃんは素敵だ。
そう、思った。
「ねえ、ららちゃん」
「ん?」
「その人は、暦お兄ちゃんのこと、好き……になっちゃったのかな」
せんちゃんはこの世の終わりとまではいわずとも、夢の終わりみたいな顔で訊いた。
「まあ、私にお兄ちゃん彼女いるか訊いてきたし、それなりだったんじゃない」
「そっか……、そうだよね、暦お兄ちゃん、かっこいいもんね」
お兄ちゃんに好印象を与えるためか、その彼女は私のことまで誉め出した。
かわいいとか、お兄ちゃんに似てるとか。
肌がぴちぴちだ、とか。
自分は乾燥肌なのでリップクリームが手放せないのだと言った。
そして、バッグからそれを取り出して、自分の唇に塗った。
妹ちゃんにもつけてあげると、私にも塗った。
そのリップクリームは真新しいチョークのようだった。
「だから、煎れてあげたお茶をぶっかけてやった」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/19(木) 06:34:34.14 ID:PcmLaFAIO<> 来てたか
続きに期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/24(火) 17:07:15.48 ID:PHRpD+HO0<> 「え、ぶっかけてやったって、な、なんで?」
戸惑うせんちゃん。
訳がわからないという風だ。
その様子がちょっと面白いので、私は少し間を置いてから答えた。
「その子のリップクリームが新品だったんだよ」
まだ手に入れてから間もないという具合に。
せいぜい昨日、一昨日に手に入れたのだろうと思われた。
それを唇に当てられた瞬間、私ははっとした。
この子、本当は万引きしていたんだ。
これはその時に盗ったリップクリームなんだ。
「で、でも、万引きした人は別にいたんでしょう? 暦お兄ちゃんが捕まえて……」
「うん。だから、どちらも万引きだったんだよ。あそこのスーパー、多いらしいから」
だからお店の人も彼女を捕まえた当初、憤慨していたのだ。
今まで我慢していただけ、彼女に強く当たったのだろう。
泣いても許さないという態度だったそうだし。
「証拠みたいなものは、あったの?」
「ううん、ないよ。私の唇に塗られたそのリップクリームから私が推測しただけ。でもさ、初めて会う子供にリップクリームを塗るなんて、図々しいというか遠慮がなさすぎると思わない?」
遠慮がないし。
自分本位だ。
利己的に行動するタイプだろう。
「暦お兄ちゃんは知ってたのかな……その、実は自分が助けた子が万引きだって」
「その子を追い出した後に、帰ってきたお兄ちゃんに訊いてみたよ」
念のため、今日その子が来たこと、その子が万引きをしていたかもしれないという私の推測を伏せて。
仮定の話として。
家庭の雑談のつもりで訊いてみた。
もし、その子が真実、万引きだったらどうするつもりだったのか。
「お兄ちゃんは言ってたよ」
「そうだったとしても、あの場は考えられなかったな。顔を知ってるくらいで、もしかしたらクラスメイトだったかもという認識だったけれど、困っているあいつを見たら、助けなきゃって思ってたから」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/24(火) 17:46:14.98 ID:PHRpD+HO0<> まったく。
これだ。
お兄ちゃんはこういう人なのだ。
言ってることはかっこいい風に聞こえるけれど。
せんちゃんは今の話に聞き惚れて、ぽわあっとしているし。
「で、一昨日のことなんだけど、その子万引きの現場が見つかって補導されたんだよね」
「え……」
今度はお兄ちゃんの預かり知らぬ場所で。
何の疑いもなく、現場をばっちりGメンのおばちゃんに見つかった。
「お兄ちゃんの学校じゃ、すぐ噂になっちゃったみたい。私も兄弟がいる友達に教えてもらったんだけれど」
「それで、どう……?」
せんちゃんが訊いた。
今の質問はその万引きの子がどうなったかという意味か。
いや、もちろん違うだろう、この子の場合。
「ちょっと昨日はくさってたねー、お兄ちゃん。文字通り腐ってどろどろになって、沈みまくっていたよ」
「そう、なんだ……」
「結果的にお兄ちゃんはその子を助けることで、つまりは万引き犯を見逃してしまったんだよね。今回はもう一人を捕まえているからチャラだとは思うけど」
お兄ちゃんは別に悪いことはしていない。
ただ助けた相手がそういう子だったというだけだ。
裏切られた気分になるのは仕方ないが、後先考えずに彼女を助けたお兄ちゃんも自業自得といえる。
善人が助けるのは善人とは限らないのだから。
言葉には出さなかったが、お兄ちゃんはその一件で傷ついているように見えた。
「その流れで『人間強度』の話が出たんだよ」
もう誰にも同情しないし、感情移入しない。
そういう相手を作らない。
見出ださない。
そんなことも言っていた。
「また口だけだと思うけどね。きっとさ、瀕死の吸血鬼とかが現れても助けちゃうのがお兄ちゃんって人だから。お兄ちゃんが偽善者だっていうのはそういうことだよ」
「うん。そう……なんだろうね。ねえ、ららちゃん」
「ん?」
「暦お兄ちゃんは、もし撫子が困っていたら、助けてくれるかな」
「もちろん、助けてはくれると思うけど」
「けど」
「せんちゃんの場合、助けてを待ってるだけじゃどうにもならないんじゃないかな」
「え、え?」
恋愛に限らず、待ってるだけじゃどうにもならない。
私は同い年のせんちゃんにそんなことを思ってしまうが、伝わらないみたい。
まあ。
私も、人のことは言えないか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/24(火) 18:36:34.50 ID:PHRpD+HO0<> 火憐ちゃんを捜すため、私とせんちゃんはグラウンドにやって来た。
上級生のクラブチームがサッカーをやっていた。
この頃は火憐ちゃんはお兄ちゃんより身長が低く、あの輪に加わっていれば見つけるのは至難だった。
が、どうやら火憐ちゃんはあの場にいないようだった。
「おっかしいなー。火憐ちゃんもう帰っちゃったのかな」
「サッカーって、すごく大変そう」
「そりゃ激しいスポーツだろうとは思うけど」
「野球も大変そうだけど」
なぜ野球?
「せんちゃんは野球が好きなの?」
「アストロ球団が好きだから。もし部活やるなら野球かなって」
「その認識で始めたら続かないと思う……」
「でも、スラムダンク読んでバスケ始める人はいっぱいいるし」
「漫画から離れようよ。ていうか、それなら漫研とかサークルとか入ればいいじゃん」
「ん、ん、い、いや、違うの」
両目を(><)にして首をぶんぶん振るせんちゃん。
首まで真っ赤である。
「撫子、どんくさいし、体鍛えた方がいいのかなって」
「ふーん。でも、うちの学校の野球部、女子は入れないし、中学生になったらソフトボール部にでも入れば?」
「う、うん……」
「火憐ちゃんなんか部員でもないのに、サッカー部に混じっちゃうけどね」
しかし今日は見当たらない。
毎日のように放課後はここにいるのに。
風邪でもひいて帰ったかな?
でも今朝はいつも通りだったしなあ。
今何時だろう?
私は校舎の大時計を見上げた。
夕日がそちらから差し込んできて、逆光で時計がよく見えない。
目を細めながらしばらく睨んでいると、屋上に黒い影が動いているのが見えた。
人だ。
たぶん私とそう変わらない学年の子だった。
その子は屋上の縁まで近づき、下を眺め下ろした。
当時、まだ学校の屋上にはフェンスがなく、だれでも簡単に乗り越えることのできる程度の塀しかなかった。
私は胸騒ぎがして、屋上に向かって駆け出した。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2012/04/25(水) 01:10:30.81 ID:gZX+JQtjo<> 続きは? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/25(水) 16:13:56.21 ID:onRUtKMI0<> スマホ調子悪いからちょっと待って <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/04/25(水) 18:32:19.23 ID:bOfP4iKIO<> 把握した
楽しみに舞ってる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/05/04(金) 01:01:13.34 ID:rssu1iMH0<> どんだけ調子悪いんだよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 18:58:35.08 ID:8jJsjmMg0<> 下駄箱まで戻り、土足のまま校舎に入った。
途中ツナギを着た人達にぶつかりそうになりながらもすり抜け、廊下をダッシュした。
学校が一部改装に入るんだったっけ。
後ろから「ごめんなさい!」という撫子ちゃんの声が聞こえた。
あの人達にぶつかってしまったようだ。
けど今は気にかけている余裕がない。
階段を一段、二段飛ばしで駆け上がった。
急な運動で足ががくがくする。
息も切れそう。
止まるわけにはいかない。
足を、筋肉を、間接を動かせ。
速く、速く、速く。
何度目かの踊り場で、私は扉を開けた。
視界が赤くなる。
夕日で染まる屋上はまるで火山だった。
両目が焼けてしまいそう。
前後左右を確認すると、女の子がいた。
あと一歩踏み出せば真っ逆さまという場所で、彼女は立ち尽くしていた。
刺激を与えてはいけない。
そっと、私は声をかけた。
「火憐ちゃん」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 19:25:00.10 ID:8jJsjmMg0<> 火憐ちゃんがこちらを向いた。
振り向くだけで、何も言わなかった。
いつものような、太陽のようにきらきらとした笑顔ではなく。
新月のときみたいに暗い顔をしていた。
「な、何やってるの。度胸試しとか?」
「死ぬ」
私の問いに、火憐ちゃんは二文字で答えた。
死ぬ。
聞き違いじゃあない。
確かにそう言った。
「どうして?」
私は声が震えていた。
「どうしてって……生きていたくないからだよ!」
叫びながら何かを払うような身振りをする火憐ちゃん。
そんなことをして後ろにふらついてしまったら落ちてしまう。
私は心臓が止まりそうだった。
「嫌なんだよ。もうここに、この世界にいるのがやんなっちゃったんだ!」
「どういうこと、わかんないよ、昨日までそんなふうじゃなかったよ。何があったの」
火憐ちゃんほど前向きな人を私は知らない。
自分から死ぬなんて言う性格じゃないし、そもそも動詞の「死ぬ」という単語を把握しているかさえ怪しいのだ。
むしろ自殺しようとしている子を引き止める側、思い止まらせる側のはずなのだ。
「あたしが生きてたってなんにも意味ないんだ。無意味なんだ。無価値なんだ」
「わかった、わかったよ。話を聞きたいからまずはそこからこっちへ来て」
火憐ちゃんは再度空の方を向いた。
そのまま行ってしまうのかと、私は駆け寄った。
火憐ちゃんの足はまだ地に着いていた。
屋上なので地ではないが。
「来るなよ、月火ちゃん。死にたくねえだろ」
「……これはお願いだから、何も言わないのだけはやめて。理由を教えて。火憐ちゃんがなんでそんなところに立たなきゃならなくなったのか、その訳を聞かせて」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 19:56:21.37 ID:8jJsjmMg0<> 「…………」
火憐ちゃんはその場に腰を下ろした。
後ろ姿はブランコに座っている子供みたいだが、ここには遊具はない。
「兄ちゃんが言ったんだ」
「お兄ちゃん?」
「あたしは、偽物なんだって」
火憐ちゃんは泣き声だった。
「あたしがどんなに頑張ったって、どんなになりたくたって、本物にはなれないんだって」
「本物とか偽物とか、わかんないよ。お兄ちゃんと何があったの」
火憐ちゃんは嗚咽混じりに昨夜の出来事を話してくれた。
初めはお兄ちゃんの万引きの件を聞いた火憐ちゃんがお兄ちゃんに色々質問したそうだ。
お兄ちゃんがクラスメイトを助けたことについて。
いつ、どこで、どうやって、なぜ彼女を助けたのか。
訊いたのだそうだ。
昨夜は既に真実万引きだったその子は補導されていた。
しかし、火憐ちゃんはそのことを知らなかった。
お兄ちゃんの「ちょっといい話」を嬉々として聞いていただけだった。
やっぱり兄ちゃんはすごいんだ。
やっぱり兄ちゃんは素敵なんだ。
そう思いながら。
だからこう言ったそうだ。
「すっげーな、兄ちゃん。正義の味方じゃん」
私だって似たような感想を持った。
火憐ちゃんを無邪気と一蹴できない。
でも、お兄ちゃんは。
いつものようについ助けた子の真相を知り、腐ってどろどろになって沈んでいたお兄ちゃんは、そんな火憐ちゃんを看過できなかった。
端的に言って、イラッとした。
そして。
「あたしも、兄ちゃんみたいな正義の味方になりたい」
と言った火憐ちゃんに、
「お前は正義の味方になれねえよ」
そう投げつけるように言った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 21:56:37.24 ID:8jJsjmMg0<> 自分のようにはなれない。
額面通りの意味に取った火憐ちゃんは、
「そ、そうだよね。あたしはまだまだ兄ちゃんみたいには」
なるまで時間がかかるよね。
と言うつもりが途中でお兄ちゃんに遮られた。
「お前が正義の味方なんかなれるわけないだろ」
「え……」
「勘違いしてんじゃあねえよ。いいか、おい。お前みたいなガキが、正義と悪の分別もつかないやつが正義の味方になれるわけがないだろ。お前は今、日曜日の朝テレビで観るようななんとか戦隊とかなんとかライダーとかなんとかプリキュアとかを思い浮かべているかもしれないけどな、あれは全部作り物なんだよ。フィクションなんだよ。あんなにわかりやすい正義と悪はこの世に存在していない。実際はもっと複雑なんだよ、もっとわけわかんないんだよ」
ニチアサは単純な善悪の構造でない作品もある。
抗議したいところだが、お兄ちゃんはあえてこの言い方を用いたんだろう。
今もニチアサを毎週欠かさず観ているんだから。
しかし火憐ちゃんにはこれが抜群の効果を発揮した。
「え、じゃ、じゃあ正義の味方とか、悪の組織とかいないの?」
「いねーよ。悪の組織ってなんだよ、何をする集まりなんだよ」
「せ、世界制服……」
「世界征服な。漢字くらい覚えとけよ。そういうところも含めて馬鹿なんだよ、お前は。世界征服とかやってどうするんだよ」
「せ、世界を、征服する……」
火憐ちゃんの中に世界征服の具体的なイメージはなかった。
「お前今まで生きてきて悪の組織が世界を征服してるとこ、見たことあるか?」
「……ない」
「怪人とか怪獣とか見たことあるか?」
「……ない」
「わかったか? 現実はテレビと違うんだよ。事情を抱えた人間がそれぞれ勝手に生きてるんだよ。正義と悪が衝突することなんてない。お前、正義の味方見たことあるか?」
「…………」
「ないだろ?」
「……ある」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 22:29:48.27 ID:8jJsjmMg0<> 「ああ?」
「兄ちゃんは正義の味方だ」
確かにスーツを着こなした戦隊とか改造人間とか変身する少女は見たことがなかった。
けれど。
「あたしにとって兄ちゃんは正義の味方だ。だって、その困ってたクラスメイトの子を助けたんだろ? いいことしたんだろ?」
「僕がしたことがいいこと?」
火憐ちゃんも必死だったのだと思う。
虚構の中の正義の味方は現実には存在しない。
それを教えられてしまったのだから。
現実の正義の味方はスーツも着ていないし生身の人間だし変身もしない。
彼女は現実で思い当たるものを脳内で探し、それをお兄ちゃんに伝えた。
それがまたお兄ちゃんの頭にきた。
「あんなことが正義のわけないだろ」
「だ、だって」
「教えてやるよ、僕が助けたそいつはな、昨日物を盗んでおまわりさんに怒られたんだよ」
万引きとかおまわりさんという言い方に配慮を感じる。
キレていても、実は余裕があったのだろうか。
もっとも、火憐ちゃんは胸に穴が開くんじゃないかという衝撃を受けていた。
「たとえ僕が正義だったとしてもな、僕がしたことは褒められたことじゃないんだよ」
「それじゃあ……そいつが悪者だったんだよ! そうだろ!?」
「悪者、ね。じゃあ、そいつが盗みをやらなきゃならない事情があるとしたらどうする?」
「そ、それは……」
「そうだとすると急に悪いやつに思えなくなってくるだろ。火憐ちゃん、今、悪者って言い方をしたけれど、そうしている間はそいつの事情とかに目をつむることになるんだぜ」
こう言われたのだと、火憐ちゃんは私に詳しく語った。
これだけ覚えているのは火憐ちゃん自身納得していたからなのだろうか。
妹の私から見てもお兄ちゃんは火憐ちゃんを誘導している。
もう自分が言いたいことを一方的に言っているだけだ。
いじめているようなものだ。
お兄ちゃんはこの後、私も含めて頻繁に妹をいじめるようになる。
この時がその始まりだったと言えよう。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 22:58:33.82 ID:8jJsjmMg0<> 「だからお前が今みたいに正義の味方になりたいって言ってる間はな、永遠になれない」
お兄ちゃんは最後に言った。
「お前は本物の正義の味方にはなれない。なれるとしたら偽物だ。わかったか、偽物」
火憐ちゃんは消えてしまいそうになって、この台詞をそのまま私に復唱した。
本物にはなれない。
偽物だと。
まるで呪いのようだ。
火憐ちゃんは今まで信じていたものに裏切られた気分だったに違いない。
正義があると思っていた世界に。
倒すべき悪がいると思っていた世界に。
何より、すべてを否定した、自分が憧れていた兄に。
「だから死ぬんだ。嘘ばっかりのこの世とさよならするんだ」
語り終えた火憐ちゃんは鼻をすすり、意を決したように立ち上がった。
「じゃあな、月火ちゃん。冷蔵庫にあるハーゲンダッツ食べといていいよ」
「何やってる!」
男の人の大きな声がした。
振り返ると先生数人と撫子ちゃんが屋上入口に立っていた。
たぶん撫子ちゃんが呼んだのだろう。
私は何も言わずここまで来てしまったから、ここの様子を見てしまい、人を捜しに行ったのかもしれない。
助けてくれそうな人を。
学校で頼れるのは普通の小学生からすれば当然先生だ。
でも、今は来ないでほしかった。
火憐ちゃんは誰も信じられない状態にある。
彼女を見てこっちに戻るよう叫ぶ先生達。
撫子ちゃんは顔を真っ青にしていた。
火憐ちゃんを見ると、気圧されたのか。
追いつめられてしまったように。
何もない方へ、倒れていった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 23:32:35.63 ID:8jJsjmMg0<> 私は咄嗟に飛び降りた。
火憐ちゃんは空を見上げながら落下していた。
当時、私達は双子と間違えられることもあった。
幼い顔が似ていたこともあるが、身長と体重がほとんど一緒だったからだ。
だから同時に飛び降りれば同じ速度で落下する。
私は空中で火憐ちゃんを捕まえ、抱き締めた。
地面はすぐそこ。
土に落ちてもきっと死んじゃうんだろうな。
あ……あれだ。
あそこに落ちてくれれば。
私は少しでも火憐ちゃんに守れるように、自分を盾にしようと身体を動かす。
彼女は何か言いたそうにしていた。
でももう時間はない。
ああ、お願いだから火憐ちゃんが助かりますように。
大きな怪我をしませんように。
私も出来れば……って無理か。
だって火憐ちゃんを庇ってるんだもんね。
小学校の校舎は高層ビルみたいに高くはないから、逆にこの程度の高さでは[ピーーー]なかったりして。
下手に助かって苦しい余生になったりして。
嫌だなあ。
火憐ちゃんが言ってたハーゲンダッツが食べられなくなったら最悪。
ていうかむかつく。
ちょっとっていう、かなりっていうか。
この微妙な感じをどう表現したらいいんだろう。
プチむかつくっていうのも違うよね。
プチ、プチ……プラチナ。
プラチナむかつく。
いーじゃん。
悪くないじゃん。
かわいいじゃん。
アニメで言ったら流行りそうじゃん。
今度、使ってみよう。
そして、私は激突して、プチッと音を立てた。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/04(金) 23:52:02.50 ID:8jJsjmMg0<> 「月火ちゃん! 月火ちゃん!」
火憐ちゃんの声で目を覚ました。
どうやら助かったらしい。
よかった。
あのトラックの幌に落ちてくれた。
校舎の改装作業に来ていたトラックの荷台に落ちたのだ。
名前がわからないけれど、建物の周りに組み立てる足場。
あれを部品まで分解して積み、緑色のカバーで覆っていた。
クッションにしては固すぎるけど、地面よりはましだろう。
火憐ちゃん、血があちこちから出てるけど、大声が出てるから平気そうだ。
よかった。
そう言おうとした。
が。
声が出ない。
あれ、おかしいな。
そういえば息苦しい。
あれ。
なんだ。
私の喉、なんか変。
触ってみる。
何かが突き出ている。
あれ。あれ。あれ。
なんだこれ。なんだこれ。
ひんやりしていて、太くて、固い。
まさか喉仏?
私、女の子なのに?
「月火ちゃん! す、すぐっ! すぐ抜くからあっ!」
火憐ちゃんが言う。
涙目で。
うなじの辺りを撫でてみた。
喉と同じものがある。
何かが貫通している。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 00:17:20.14 ID:OvTdHCuq0<> 「あ……あ?」
やっと声が出た。
けれどそれはなんというか瀕死状態の人みたいだった。
掠れているし、言葉は話せない。
これは金属か。
たぶんスポークみたいのが私の喉を貫いている。
痛い。
今まで何ともなかったのに、自分の体に異物が入り込んでいると認識した途端、激痛がやって来た。
首を焼かれているみたいだ。
痛い。痛い。痛い。
そういえばお腹の方も何ヵ所か痛い。
やだ、最低だ。
最悪だ。
火憐ちゃんが私の名前を叫びながら、体を起こすように引っ張って、スポークを抜こうとしていた。
私の首の中で大きな寄生虫が動いているような感覚だった。
ずる、ずる。
と、滑っていく。
息が詰まるとはよく言ったものだ。
私は呼吸が出来なくなっていた。
スポークが動く度に、頭を押し潰されているようだった。
火憐ちゃんが私をスポークから引き離すと、彼女は私を抱き締め、号泣し始めた。
さっきと逆転していた。
「ごめん! 月火ちゃん! ごめんなさい! ごめんなさい!」
泣かないで、火憐ちゃん。
ついやっちゃったけれど、火憐ちゃんが助かるのなら本望だよ。
あれで二人とも助かるなんて虫のいい話、あるわけない。
そういうのはお兄ちゃんが言ってるフィクションの中にしかないんだ。
とっても痛いし、言葉を伝えることもできないけれど。
火憐ちゃんは火憐ちゃんのままでいて。
偽物なんかじゃない。
火憐ちゃんが変わってしまったら、それこそ偽物だよ。
お兄ちゃんも八つ当たりしちゃっだけなんだよ。
だから、帰ったら仲良くしてね。
「何笑ってるんだよ! 何か言えよ妹!」
あ……すごく、痛い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 00:49:24.10 ID:OvTdHCuq0<> 「げほっ!」
溜まっていたものを吐き出すように、口から血が出た。
火憐ちゃんは顔で受け止める形になって、真っ赤に染まった。
「はぁ……はぁ……」
呼吸が戻ってきた。
相変わらず激痛でくらくらする。
お腹を触るとやっぱり何ヵ所か、それと胸にも穴が空いている。
女の子なのに。
最低だ。
「プラチナむかつく」
「月火ちゃん……首が」
埋まってる。
と、火憐ちゃんは言った。
「首が埋まってるって……」
私はミステリのあるトリックを思い出した。
「ここんとこ、ドーナツみたいな穴空いていたのに、なくなった」
「? 何を言って……、勝手になくなるわけ」
一瞬、固まった。
どうして息ができる?
どうしてしゃべれる?
さっきみたいに首の辺りを触って、確認してみる。
無傷だった。
どこにも異常はない。
穴も空いていないし、金属も刺さっていない。
自分の手のひらを見ると血で塗れていた。
首に血が着いているのは確実だった。
「なんで、私……」
「大丈夫、なのか?」
火憐ちゃんが訊く。
血塗れの顔を見て、私はなんとなく火憐ちゃんの名前の由来がわかった気がした。
気がしただけで、後日両親に確認したらまったく別の由来だった。
でも、火憐ちゃん。
私に優しく訊ねる彼女は、火のようだった。
「大丈夫みたい……、大丈夫なのは、なんで?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 01:14:06.41 ID:OvTdHCuq0<> その後先生達が駆けつけ、救急車もやって来た。
病院に搬送され、ママ曰く「大手術」をした。
全身あちこちを縫い、私は包帯だらけでミイラみたいになった。
術後、意識のある私とママは医師に呼ばれ、命の危険はないと告げられた。
ただし、胸の傷だけは一生残るだろうと言われた。
私は特に何の感慨も湧かず、「そうですか」とだけ答えた。
ママは終始冷静だったけれど、慰めるように私の頭を撫でてくれた。
生まれて初めての入院生活だった。
あっという間に数週間が過ぎ、面会も許されるようになった。
家族や友達も来てくれた。
クラスの子達は色紙を書いて持ってきてくれた。
せんちゃんは来なかった。
ある日、お兄ちゃんと火憐ちゃんが二人で来た。
適当に体の具合の話をした。
お兄ちゃんが売店でジュースを買ってきてやると言って、病室を出ていった。
「事件」以来、火憐ちゃんと二人きりになった。
「よかったな、月火ちゃん」
「うん、よかったよ、火憐ちゃん」
「超ラッキーだったな」
「うん、超ラッキーだったよ。でももう飛び降り自殺しちゃ駄目だよ、火憐ちゃん」
「うん、もうしないよ、月火ちゃん」
「…………」
「…………」
「私、なんで生きてるんだろう」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 01:37:43.26 ID:OvTdHCuq0<> あの時、確かに私の喉は穴が空いていたはず。
それがなぜかなくなった。
「夢だったんじゃねーかな」
「火憐ちゃんの方が覚えてるんじゃないかな」
落ちてから意識が回復したのは火憐ちゃんが先だった。
そして必死に私を「抜いて」くれたのだ。
「一番でけー傷は胸のとこのやつだったよ。それ見て、あたしは」
「嘘つかないで」
嘘ばっかりのこの世が嫌になったからあんなことしたんでしょう?
私は火憐ちゃんを目で捕らえる。
「今もあの首の感触と、血塗れの手のひらが忘れられないんだよ。ねえ、教えて。火憐ちゃん。火憐ちゃんから見て、私がどうなっていたかを」
「……の、喉から、ぼ、棒みたいのが出てて」
火憐ちゃんは恐る恐る話し始めた。
「他にもあちこち……、でも首がやっぱすごくて、血、血もすごく出てたし、月火ちゃんぐったりしてて、も、もう今にも……、だから引っこ抜かなきゃって思って、それで、抜いたら抜いたで、あ、ああ、穴が、穴、穴穴穴」
「それで? 頑張って続けてね。ほら」
「つ、月火ちゃん、笑ってて……、血ィげろったんだ、あたしの顔に……、うわってなって、もう一度見たら、な、ないんだよ、さ、さっきの穴が! それから、ひゅーひゅーって音がして、段々、なんていうか、声みたいなのも付いてきて、で、月火ちゃん、む、むかつくって」
「ありがとう。もういいよ。ごめんね、辛いことさせて」
「ごめん、月火ちゃん、ごめんなさい」
火憐ちゃんは病室の床に土下座した。
「あたしのせいで怪我して、むかついてるよな。そりゃそうだよ。あたし、許されないことをしたんだ」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 01:53:20.18 ID:OvTdHCuq0<> お姉ちゃんに土下座されるなんて初めてだった。
姉に土下座される妹の分母自体少ないだろうけど。
妹の分母って。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「いいよ」
火憐ちゃんが顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃだった。
「私は火憐ちゃんを許すよ、ていうかむかついてないし」
「い、いや、言ったんだよ。なんとかむかつくって」
「ああ。それはプラチナむかつくって言ったんだよ」
「ぷ、プラチナム?」
「プチむかつくからの派生でね、比較級というか最上級というか」
どうして小学生の私が比較級と最上級を知っているかというと、中学生のお兄ちゃん経由である。
「あんまりむかついてないってこと」
「ちょっとむかついてんじゃねーか」
火憐ちゃんが突っ込んだ。
「正直、入院生活って退屈だしねー」
「そっか」
笑った。
それでいい。
火憐ちゃんは、それでいい。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 02:13:19.53 ID:OvTdHCuq0<> 「でもほんとついてるよね。あんな大怪我して超再生とか」
「ついてるよな。マジでついてるよな」
「お、百円。やり、ラッキー。天気良いし、本当に幸先良い」
「おお、すげー」
「私ってあれ? もしかしてコッペリオンってやつ?」
「吸血鬼なんじゃねーの?」
「え、でもディオ様に会ったことないよ」
「じゃあ、究極生命体とか」
「ひゅー! 宇宙遊泳ー!」
「あたしの妹は世界一ぃぃぃぃぃぃ!」
きゃはははははは!
と。
二人で笑った。
大笑いしてやった。
「そっかー。どっちにしろ人間じゃないなー。まあそうだよね。異常だよね」
「いいんだよ、才能なんだと思えば」
「死なないことに関しては天才って? あはは、それいいね。でも化物の領域だよね」
「いいんだよ、天が付けばてんかぶつになるから」
「いや、ならないよ」
添加物だよ。
「そうだな。なんか悪い物みたいだもんな。これはやめよう」
「うん」
「じゃあ何だろう、コラーゲンとか? 確かに月火ちゃん、ぷりぷりしてるし」
「…………」
「ビタミン? それともミネラル……」
「私、何なのかな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 02:42:18.13 ID:OvTdHCuq0<> 私だって人間が死ぬことは知っている。
親戚のお葬式に出たことだってある。
人間は等しく死ぬ。
みんな、死ぬ。
「私は死ななかった。変だよ。おかしいよ」
「おかしくねーよ。ちょっとすごい回復力持ってるだけだよ。リジェネだよ」
「死んだらオートでフェニックスの尾とかね。あ! もしかして私ってフェニックスなのかも!」
「ちげーよ。人間だよ」
「うん! そうだよ、人間の振りしてるけど本当は不死鳥なんだよ! 幽遊白書の蔵馬みたいにさ! 本当は人間じゃないんだよ! 前世はすごい悪い妖怪だったりしてさ! うん、お兄ちゃんの言うとおりだよ! 偽物! 私、偽物の妹なんだよ! やっぱりお兄ちゃんはすごいなー、偉大だなー。ごめんね、火憐ちゃん、今まで嘘ついてて! 私がいたら死にたくなるよね! 嘘なんだもん! ほんっと、ごめんごめん、空気読んでないし行間読んでなかった! お詫びに今すぐ死ぬから安心して! まあどうしたらいいのかわからないけど!」
「違うって言ってんだろ!」
殴られた。
グーで。
私はしばらく固まった。
火憐ちゃんは肩を上下させていたけれど、怒っていたからなのか、泣いていたからなのか。
「月火ちゃんは偽物なんかじゃあねー! 正真正銘あたしの妹で兄ちゃんの妹なんだよ! それからフェニックスだとか妖狐でもなくて普通の人間だ! ちょっと怪我に強いけど! いいか、次に変なこと言ったらあたしが直接ぶっ殺してやるからな! 本気だぞ! 殺して解して並べて揃えて晒してやるぞ、みんなに! ちょー恥ずかしいぞ、お前! 恥ずかしい目に遇いたくなかったらなァ!」
火憐ちゃんに初めてお前という二人称で呼ばれた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 03:01:28.92 ID:OvTdHCuq0<> 「死ぬなんて、言わないでよ、月火ちゃん」
放心したままの私に火憐ちゃんが寄りかかった。
肩が濡れるのがわかった。
「火憐ちゃんだって言ったじゃん」
「ごめん、死ぬなんて言ってごめん」
「うん。火憐ちゃん、ごめん、死ぬなんて言って」
私は腕を回し、火憐ちゃんの肩に顔を埋めた。
火憐ちゃんも同じようにした。
「月火ちゃんは死なせない。あたしが守る。月火ちゃんの、正義の味方になる」
「じゃあ、私は火憐ちゃんの正義そのものなんだね」
こうして、私達はファイヤーシスターズになった。
ある意味での契約。
一種の運命共同体。
そして普通の姉妹。
そういう関係になった。
売店から帰ってきたお兄ちゃんは、ジュースをくれなかった。
ちょっとしたいたずらだ。
それを見た火憐ちゃんは、
「ここにいる奴を何だと思ってんだ! 怪我人だぞ! 妹様だぞ! 下手な意地悪してんじゃねーよ、くずが! 大人しくそのジュースを渡せばいいんだよ!」
初めてお兄ちゃんに手足を出した時がこれだった。
そして、ここから数年間、お兄ちゃんと私達姉妹の暴力を行使した喧嘩が頻発することになった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 03:26:09.19 ID:OvTdHCuq0<> 「あ、目が覚めた、月火ちゃん? 撫子だよ。一ヶ月くらい眠ってたようで実際は三十分くらいだったかな。どうでもいいけど。まあ、いっぱいお話して疲れちゃったよねー、月火ちゃんも。でも撫子の知らない世にも奇妙な物語が聞けてけっこう満足だよ」
私は賽銭箱を背にして腰を下ろす姿勢にされていた。
そして賽銭箱ごと私を、アナコンダみたいに大きい蛇が縛っていた。
北白蛇神社は依然夜の世界にあった。
「それにしても月火ちゃん、なんか撫子の扱いひどくない? むかついてたり、怒鳴ったり。撫子は月火ちゃんちょー好きだったのになあ。撫子の片想いだったかー」
「ふざけんな……」
「あ、怒った? 怒った? 怖いなあ。『ららちゃん』は怒らせると怖いんだ」
私は目前の自称神様を殴りたくって、仕方なかった。
大蛇に緊縛されているので、それは叶わない。
唾だけでもかけてやろうとしたが、喉がからからだった。
「ねえ月火ちゃん、お腹すいてない?」
「…………」
「おっとこんなところにペットボトルが」
彼女は徐にそれを手に取り、見せつける。
掲げると、中の液体がちゃぷんと音を立てた。
「欲しい?」
「…………」
「あーげるー」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 03:44:46.63 ID:OvTdHCuq0<> 彼女は私に近づくとペットボトルのキャップを外し、ゆっくり口に近づけて飲ませた。
正直飲ませてくれるとは思わなかった。
味はよくわからなかったが、私は夢中になって喉を潤した。
「ぷぷぷ。月火ちゃん、犬みたい」
顔に唾を吐いてやった。
左の瞼にかかって、たらりと彼女の肌を伝った。
「じゃあ月火ちゃん。次はご飯食べさせてあげるね」
彼女は気にする素振りもなく、動作にかかる。
くれたのは白いお饅頭みたいだった。
神社にあったものだろうか。
お皿に乗せているし。
彼女は手で掴み、それを私の口に運んだ。
咀嚼する。
なんか変な味。
でも本当にお腹はすいていたので、やはり食べた。
綺麗に平らげた。
「お腹いっぱいになった、月火ちゃん? 撫子に感謝だね!」
セイ・神様ありがとう!
復唱を促されるが、従わない。
「もう! ノリ悪いなー。でも許しちゃう。神だから。そして本日のメニューの解説に移りましょー」
私が今食べたお饅頭について高説を垂れるつもりらしい。
確かに気になるけど。
元廃屋の神社にあったものなんて食べて大丈夫なんだろうか。
彼女はにこにこしながら言った。
嬉しそうに。
本当に楽しそうに。
「ハンニバルって映画観たことある?」
「…………」
吐いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 04:02:38.41 ID:OvTdHCuq0<> 「げええっ……げほっ、げほっ」
「あっはっはっは! 月火ちゃん汚いなー」
前を向いたまま吐くのがこんなに辛いなんて知りたくなかった。
涙でぼんやりした視界に映る彼女は解説を続ける。
「初めは食べさせてあげるつもりなかったんだけどねー。月火ちゃんのお話を聞くためにちょっと『開けた』んだよ。いやー、ハンターハンター読んでおいてよかったよー。イメージさえ出来れば割と可能なものなんだね。プロのスポーツ選手もイメトレはしっかりやるみたいだし、やっぱ気持ちが大事なんだよ! 気持ち! メスなんてないから神であるところの撫子はこの『髪』を使ったんだけどね。面白かったなー。だって月火ちゃん、本当に『あっあっあっあっ』とか言ってるんだもん! 爆笑しちゃったよ〜(爆)」
辺りが笑いで満ちる。
彼女の『髪』が呼応するように蠢いた。
「でまあ、せっかくだし食べるかなーって思って。そしたら本当に食べるんだもん。ちょー受けるー!」
お腹を押さえながら彼女は苦しそうだった。
涙を拭いて、彼女は言った。
「あー、戻しちゃって苦しそうだね。ほら、これ飲んで」
さっきのペットボトルをまた飲まされた。
私は何も口に入れたくなかったが、無理矢理流し込まれた。
「これはね、撫子のせーすい。きゃ」
また戻した。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/05(土) 04:25:00.71 ID:OvTdHCuq0<> 「でも本当に平気なんだ。死なないんだねー。火憐さんの言うとおり才能だよ、月火ちゃん。もしかして自分を食べてれば困らないんじゃない? ん? もしかして撫子、永久機関発見しちゃった?」
「火憐ちゃんの名前を……口にしないで」
「ん?」
「汚れるんだよ。脳味噌ド腐れゲロ豚ビッチ娘」
木が折れる音がした。
否。
私の足が切断されていた。
私の右の膝から下が、なくなった。
「あああああああああああああっ!」
「撫子、そういうの聞きたくないなー」
身体中びりびりする。
傷が焼けるように熱い。
「あ、そっか。致命傷じゃないと再生しないのだった。『三回目』で撫子は学んだのだった」
「さ、さんかい……?」
「ん? あー、その身体ねー、一応ルールあるみたいで。足取ったり、腕折ったくらいじゃ治らないのだった。一度全部粉々にしないと綺麗に元に戻らないのだった」
「三回……」
私は、三回、それ以上殺されたのだろうか。
粉々にされたのだろうか。
肌が粟立つのがわかった。
「撫子に感謝してねー。ちゃんと治してあげてるんだからー」
彼女が「牙」を構えると、背後に蛇の大群が現れた。
まるで舞台のセットが一瞬で変わったみたいだった。
「それでは、撫子は四十八回目の月火ちゃん粉砕作業に入るのだった」
「い、いやあああああああああああああっ!」
「あれ? 四十八回だっけ? 四百八回だっけ? ま、いいか。どうでもいいし」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/05/05(土) 06:25:02.75 ID:Aj+5+EVXo<> ぱ…ぱないの… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/05/05(土) 21:08:24.10 ID:HUaMEPFWo<> 続きが気になるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/05/08(火) 22:05:29.96 ID:/T7+9iuI0<> 人識の台紙があってニヤリとする
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/05/09(水) 15:45:09.31 ID:tMdEunSAO<> 撫子… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/20(日) 19:01:04.13 ID:aRse8xOIO<> もう元には戻れないな・・・
貝木が生きていたのが不思議だ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2012/05/20(日) 23:41:24.13 ID:JyIvGrMHo<> 何この猟奇シーン <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/05/20(日) 23:53:41.10 ID:HzasjcFAO<> これはいいリョナ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/05/27(日) 16:17:34.54 ID:VhyvWrzxo<> 期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/05/29(火) 01:00:54.65 ID:/W4ne+nAO<> まーだー? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 20:27:26.11 ID:CBJGlpkb0<> こんな夢を見た。
私はまだ幼く、お兄ちゃんに遊んでとねだっている。
そのお兄ちゃんもたぶん小学生くらいでずいぶん可愛らしい。
それでもまあ生意気盛りというか、初めは渋っている。
妹と、年下の女の子となんか遊んでやるものか、と。
でも結局は私達は人生ゲームに興じる。
無邪気に喜ぶ私。
お兄ちゃんの優しさが窺えるエピソードだ。
絵に描いたように出来た話だ。
都合が良
いことなのか悪いことなのかはわからないけれど、火憐ちゃんや友達は登場しなかった。
そして、人生ゲームの途中、私のターンで「結婚」が登場する。
私は結婚とは何かと(もちろん用語は知っていたので)具体的に訊いた。
お兄ちゃんはしばらく考え、「パパとママになること」と答えた。
私はふむと相槌を打って、ゲームを再開した。
あがりに着く頃には、私はおばあさんになっていた。
子供は男の子一人、女の子二人だった。
孫は三人共女の子だった。
子供達は一人づつ子供を生んだので、孫に兄妹はいなかった。
私は孫達に兄妹がいないと結婚できなくて不便だと言った。
お兄ちゃんは目を丸くし、兄妹は結婚できないと言った。
私は衝撃を受けた。
配偶者はてっきりお兄ちゃんだとばかり思ってゲームをしていたのだ。
お兄ちゃんは孫を指差し、誰かが男の子ならここは結婚できると教えてくれた。
さらに衝撃だった。
ということはお兄ちゃんは従姉妹の……ちゃんとは結婚できるのだ。
私はできないのに。
「えー、やだよ。私、お兄ちゃんと結婚したい」
この人生ゲームに倣えば、私は死ぬまでお兄ちゃんと一緒にいることはできない。
ずっと、一緒にいることはできない。
他の誰かにもらわれてしまうのは我慢できない。
わかってる?
そう言うと、困った顔をしながら、仕方ないからお前と結婚してやるよ、とお兄ちゃんは答えた。
私はたぶんドラマか何かの真似をして、「永遠の愛を誓いますか?」と訊いた。
お兄ちゃんは逆にお前は永遠を誓うのかと訊いてきた。
私は。
言うまでもない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 20:49:08.13 ID:CBJGlpkb0<> 夢から覚めると、夜明けだった。
空は青く、空気もひんやりしていた。
周りを確認するとどこかの山の中だった。
そして、見覚えのない服を着ていた。
妙に可愛らしいスカートで、私の所持品ではないことは間違いなかった。
私のセンスではない。
一体何が。
私はまるで一ヶ月の昏睡状態から回復したような気分だった。
それだけ時間があれば例えば小説家なら本を一冊書ける。
私が眠っている間に物語を一つ作れるということだ。
それに世間的にも金環日蝕とかアジア最終予選とか、何かイベントがあってもおかしくない。
いや、待て。
そうだ。
思い出した。
私は彼女に
に
か
悪寒。
そして吐き気がやって来た。
私は土の上に胃液を吐いた。
お腹に何も入っていなかった。
息が詰まりそう。
四つん這いになり、涙と涎を垂らしながら私は恐怖していた。
あれに。
アレに。
アレニアレニアレニアレニアレニ。
誰かいないの。
誰でもいい、助けて。
震える私を抱き締めてほしい。
こんなときヒーローが現れるのが物語の筋じゃないの。
さっきまでの夢の中にもう一度戻りたい。
「お兄ちゃん……」
「あ。起きたんだ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2012/06/03(日) 22:03:32.94 ID:2nVS99Wpo<> 来てたか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 22:18:47.71 ID:o8v6dQeJ0<> 声がする方に振り向くと。
知らない人が立っている。
流行りのアニメの演出みたいに影だけ、シルエットだけしか見えないが人だろう。
「おや、吐いたのかい。まあ寒空の下、裸でいたからね。体調を崩すのも当然だね」
がさがさと草木を掻き分けながら、シルエットはこちらに近づいてくる。
私は身構え、影を睨み付けた。
「そう固くならないでよ、お嬢ちゃん。隠すこともないから言っちゃうと、全裸で倒れている君を介抱したのは僕だ」
君が着ているその服も僕が用意した。
そう言った。
私は再度自分の格好を見た。
フリフリのフリルが付いたスカート。
ワンピース型になっているようで、上のブラウスの部分も「お嬢ちゃん」っぽい。
なんかのコスプレみたいだな。
「気に入ってもらえたかな?」
その問いに私は答えない。
助かったといえば助かったのだろう。
一時的には。
しかし、この人物が私に対して無害である保証はどこにもない。
先のことを思い出せば、いつ牙を向けられるかわからないのだから。
そう、疑うことだ。
でないと生き残ることができなくなる。
このシルエットが明らかになればアロハ服を着たロリコンが登場するかもしれない。
自分で言いながらアロハ着たロリコンとかかなりくるものがあるな。
そんなのと遭遇したら一目散に逃げたい。
「やれやれ。人に親切にされたら感謝しろって、親兄弟に教えられなかったのかい?」
いよいよ迫るシルエット。
私は傍にあった石ころと木の枝を拾い上げ、臨戦態勢に移った。
そして、影が顕になると、こんな台詞が続いた。
「怖がらなくていい。ぼ……、あ、違う違う。間違った。えーと……、うん。『朕』は貴様を助けた者だ。名を斧乃木余接という」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 23:08:00.05 ID:o8v6dQeJ0<> 「ヨーグルトと水だ。腹に入れるといい。嘔吐したとはいえ何か足しておかぬと生き残れんぞ。お姉ちゃんも吐いたあとはウコンとこれを……」
「お姉ちゃん?」
「はっ。『朕』に姉などおらぬわ。いるのは天上天下唯一人、券王のみよ」
「拳王じゃない?」
「券王のみよ」
間違いを認めないらしい。
でもさっき自分で「間違った」と言っていたから、人から指摘されるのが嫌いなのかもしれない。
うざそうだな……。
私の斧乃木余接の第一印象はそんな感じだった。
わざわざ言い直して『朕』とか言ってるけど実際の一人称は「僕」で、馬鹿みたいなしゃべり方も知り合いのお兄ちゃんに教えられたからやっているだけだと発覚するが、この時私はとりあえず恐るに足らずといったところだった。
斧乃木ちゃんは童女というくらいに見え、足が全部隠れるロングスカートを穿いていた。
もう少し歳を重ねていたら痛かったな。
「ふん。女、もうじきに日が見える頃合い。それを口にしたらさっさと家に帰るがいい」
「はあ……」
「よいか。ここで『朕』に遭ったことは他言無用である。この約定が破られたときは、その命ないものと思え」
童女は無表情でそう言った。
リーダーソフトが喋っているみたいに無機質だった。
なんかボーカロイドみたい。
髪の色もちょっと似てるし。
「とりあえず……ありがとう。えっと」
「ふん。今頃感謝の言葉とな。これには謀らずもふんだよ、ふん」
ふん、ふん。
抑揚のない癇癪だった。
「それにさ、その服用意するのにも一体どれだけ手間がかかったと思ってるんだい。『朕』のスキルがあったからよかったものの。これ、他の人だったら絶対君凍死していたし餓死していたよ。『朕』ってば博愛精神たくましいなー。お兄ちゃんみたいだぜ。さあ、もっと『朕』に感謝しろよ」
殴った。
正確には投石したのだがフォームはほぼ殴打だった。
文字通りのナックルボールは斧乃木ちゃんの左頬に命中し、彼女は「ぐはっ」とわざとらしく台詞を読み上げるように言った。
「痛いじゃなイカ。僕を何だと思ってるんだ」
「うるせえ。さっきから『朕』『朕』って、変態かお前は」
「だって『朕』」
今度は木の枝で叩いた。
無表情のまま泣いているみたいで、ちょっと面白い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 23:44:17.29 ID:o8v6dQeJ0<> 「とにかくさ、ほんと、さっさと帰りなよ」
斧乃木ちゃんは(><)になりながら言った。
「女の子がフルヌードでこんなところに倒れていたから、さすがの僕も色々堪えるのが大変だったよ」
「色々って」
「お嬢ちゃん、君、なかなかいいおっぱいを持っているね」
今度はアニメだったらそのまま終わっていい引きになりそうなほどのキメ顔だった。
「なんというか、同じ属性の者としては嫉妬さえ覚えるね。ふん」
「同じ属性って何だ……」
「ちなみに今のは嫉妬とふんがかかっていたんだよ」
「うまくねえよ!」
「英語でした」
「説明するくらいなら言うなよ!」
なんでこんな新人コンビみたいなことやってるんだろ。
斧乃木ちゃんはいつのまにか私のすぐ隣まで来ている。
並列になっている。
向こうにカメラか客席があるんだろうか……。
「嫉妬と言えば」
と、さっきの自分の発言から話題を拾う斧乃木ちゃん。
しかしそれはシリアスな匂いがした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/04(月) 10:53:12.39 ID:1qW2MbFco<> きていたのか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 19:40:02.19 ID:qSQ+Hl+N0<> 「この先の神社は蛇神信仰らしいね」
山の上を眺めながら斧乃木ちゃんは言った。
「蛇ということは弁天かな」
「弁天」
「弁財天さ」
それなら私も知っている。
神様の一人だ。
うる星やつらにも出てくるし。
「お嬢ちゃんは『漫画に出てくるあれだろ?』と思ったかもしれないけれど」
「…………」
「この国ではポピュラーな神の一人さ。元は川の神、つまり水神として農民に恵みをもたらすとされ、商売繁盛を祈願し神社に祭られることも多いそうだよ。まあ、これは忍野のお兄ちゃんの受け売りだ」
商売繁盛。
利を生む神様か。
なるほど、人気がありそうだな。
祈る相手としてとても都合がいいわけだ。
しかし、忍野ってどこかで聞いた名前だな。
「さて、このみんな大好き弁天ちゃん、実は女神なのさ」
斧乃木ちゃんは相変わらずクールだった。
冷徹というか冷血というか。
だからなのか。
続く話に私は寒気がしたのだった。
「そして、弁天は嫉妬深いという一面がある。こと恋愛、男女間についてはね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 20:53:24.27 ID:qSQ+Hl+N0<> 「嫉妬……」
「英語でいうとジェラシーさ」
斧乃木ちゃんは木の枝を二本拾いあげた。
「こんな話がある。二人の女が一人の男に同時に恋をしたんだ。一方は芸妓、一方は料理屋の娘。互いが互いを邪魔者だと思い、鉢合わせになれば火花が飛び散った。そんなに想われるなんて男は幸福者だね」
二人の女に見立てているのだろう。
斧乃木ちゃんは枝と枝をドラムスティックみたいに打ち鳴らした。
ぱち、ぱち、ぱちっ。
欠けた木が辺りに落ちた。
「そして二人の女は弁天に参詣した。どうかあの殿方と結ばれるようにってね。すると女達の枕元に弁天が現れた」
境内の柳の下を掘ってみろ。
そこに古い鏡が埋まっているだろう。
それを見つければ願いが叶う。
弁天はそう告げたのだそうだ。
「二人はもちろんその鏡を掘りに行った。そして一人が先に掘り出し、そこへもう一人がやって来た。当然奪い合いだ。揉み合いの果てに、鏡を取り上げた女はそいつで相手を殴り付けた。致命傷だった」
ぱきん、と音がした。
斧乃木ちゃんが持つ枝が一本折れていた。
「女が我に帰ったらときはもう遅かった。理性が戻れば自分が取り返しのつかないことをしたとすぐにわかった。賢者モードっていうのかな。まあ、彼女は当時の警察的な役所に行こうとするんだな」
けれども。
斧乃木ちゃんの手には既に木の枝は一本しかない。
そして、何かの象徴みたいに掲げた。
「彼女の足は男のもとへ向かっていた。自分は恋敵を殺した。しかし、『邪魔者がいなくなったのは確かだ』った。これで自分は想い人と共になれる。結果論だけれど、弁天は願いを叶えたともいえる」
「……でも、もう一人、殺されてしまった方は」
「そう、彼女も同じ願いを持っていたはず。皮肉な話じゃあないか。これじゃまるで殺しあうように仕向けられたみたいじゃないか。くわばら、くわばら」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 21:22:50.53 ID:qSQ+Hl+N0<> 「それにさ、そんなことをしておいて、気持ちよく男と結ばれるなんて土台無理な話だよね」
その通りだった。
人間誰しも後ろ暗い部分はある。
けれども人間関係、特に恋愛関係においてそれはネックになる。
あなたの想う別の女は私が殺した。
だから私はあなたと結ばれたの。
そんな関係に耐えられるものだろうか。
「ちなみにその鏡は鴛鴦鏡というそうだよ。鴛鴦夫婦というものね。いかにもご利益がありそうじゃないか。まったく、女ってやつは怖いね」
「あなたも女の子なんじゃないの」
「…………」
目を丸くした、ようだった。
斧乃木ちゃんは作り物みたいな瞳で私を見つめた。
「そうか。確かに僕も一応そういうことになるね。うん。でも僕は今の話みたいな恋愛には興味ない。そういう想いを抱くこともないし、相手もいない。お兄ちゃん的存在はたくさんいるけれど、みんな袖にしてやったよ」
「そうなんだ……」
お兄ちゃん的存在がたくさんいる、って凄まじいものがあるな。
「今の弁天の話もワンオブゼムから聞いたのさ。長くなってしまったけどね、お嬢ちゃんがこの先に恋愛絡みで行くなら、弁天様に願掛けに参詣するつもりなら、それはやめておいたほうがいいよ、と言いたかったのさ」
「恋愛絡み」
否定はできない。
だって彼女は……アレは恋愛絡みだから。
少しずつ自分の身に起こったあれこれを思い出してきた。
「ううん、恋愛絡みではないの」
もう一度確かめに行かなければならない。
アレを。
あの神様を。
「助けてくれたみたいでありがとう。斧乃木ちゃん。私は阿良々木月火です。私はこれからその神社に行くの」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 21:59:48.20 ID:qSQ+Hl+N0<> 私は山道ならぬ獣道を歩いていた。
斧乃木ちゃんは私の少し後ろをついてきていた。
「別にお嬢ちゃんが初詣に行こうと勝手だけれど、また全裸になられたら困るからね」
と言っていた。
無表情キャラが往々にしてそうであるよう、いい子なのかもしれない。
よく喋るし。
「それともお嬢ちゃんは露出狂の気があるのかい?」
「そんなわけないでしょ」
「どうかな。これは僕の勘だけれど、君は普段から淫らな格好で家を徘徊する、お色気キャラなんじゃないかと思うんだ」
「失礼しちゃうね。私はいつも清楚で純粋で健康的なキャラだよ」
健康のために全裸で寝ることもいとわないほどなんだよ。
勘違いしてもらっては困る。
「そうだね。お色気キャラというには少し貧相だものね」
「ひ、貧相だとっ!?」
「ああいや、僕はお嬢ちゃんのおっぱいを評価しているよ。でも君みたいな子でもあまり露出が多くなるとアニメになったとき大変なんだよ」
「兄の目? ああ、確かにお兄ちゃんには注意されたこともあったかな」
「まあ世間にしろ家の中にしろ、常に好奇と差別に晒されていると自覚するべきだよ」
うーん、一理あるな。
「そうだなー、お兄ちゃんに最近いやらしい目で見られる気がするし、お兄ちゃんに『女子はいいよなー、おっぱいがあって』と言われるし。え、いや待ってよもしかしてお兄ちゃんTS願望かよー、きゃーとか思わないでもないし」
「……君は家にしろ世間にしろ、まず出てくるのがお兄ちゃんなのかい?」
「え? だって当たり前じゃん。兄妹は他人の始まりというよ。知らないの?」
「いや、いいんだ、うん」
顔には一切出さないが、なんだろう、斧乃木ちゃんに引かれている気がする。
おかしなことは言っていないはずだけれど。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 22:32:00.12 ID:qSQ+Hl+N0<> 「しかし、兄妹は他人の始まり、か。面白いことを言うね」
と、斧乃木ちゃん。
「僕には兄妹、つまり家族って強い繋がりのようなものを持つイメージがある。イメージがあるのと信じているのはまた別だけどね。頭ではわかるけど、ってやつさ。まあそれはともかく、家族っていわゆる他人とは違うものだと思っている。けれど、お嬢ちゃんは家族は他人の始まりだという」
斧乃木ちゃんは腕を組んで考えることはしないが、そんな雰囲気をしていた。
「僕にはお兄ちゃん的存在以外にもお姉ちゃんがいる。偽物の姉妹だけどね」
「偽物」
偽物の姉妹。
偽物の兄妹。
本物ではない。
「どうしてこの人は僕を妹にしたんだろうと思っていた。ある人はお姉ちゃんがそう望んだからだと言った。そうありたいと望んだ結果だと。まあそんなもんかなと思ったよ。正直、それこそ嘘くさい、偽善くさいと思っていたけどね」
まあ、義理の姉妹?
なのかは知らないけれど。
「偽物の姉妹ならそう思うかもね」
「だから僕はお姉ちゃんを、お姉ちゃんとの関係を特別なものだと捉えてみた……気づけば僕は『他人以上のものを強いられているような気分』になっていた。勝手にね。だからここのところは見ての通り悩めるキャラを担っていたんだけれど」
「担っていたんだけれどって」
「ツイッターで呟いたりもした、『悩みキャラ担う』って」
「カジュアル過ぎるだろ」
本当は悩んでねーだろ、それ。
「僕はどうやら気持ちが表に出にくいタイプらしくてね」
「無自覚だったのか……」
「しかしお嬢ちゃん、君の意見はなかなか参考になったよ。うん、少し胸が軽くなったような気分だ。まあ、僕は元々胸が控えめだけどね」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/14(木) 22:51:28.96 ID:sl1KP8pro<> ちっぱいトーク継続中 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/15(金) 03:33:27.25 ID:cseOUJzIO<> 貧乳はステータス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<>sage<>2012/06/21(木) 04:16:24.44 ID:PAX72oUoo<> 頑張れ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 18:37:45.27 ID:tzbaojQA0<> 「ところでお嬢ちゃん、初詣に行くにしてはずいぶん変な時間だね。一人で来たようだし。それに全裸で倒れているときた。あれはもしかして参詣前に身を清めていたのかい?」
と斧乃木ちゃんは問う。
当然、疑問に思うところだろう。
でも、私はそれに答えるわけにはいかない。
「恋愛を成就させるため、ではないとすると、ふむ、お嬢ちゃんくらいの年代だと友達かやはり家族についてかな?」
「そうだね」
嘘ではない。
確かにアレは友達だったし、お兄ちゃんも関係している。
ここで私は既にあの神様との関係が過去のものになっていると認識している自分に気づいた。
「そうかい。いやなに、お嬢ちゃんを見つけた時間が時間だったからね。丑の刻参りかとも最初は考えたんだよ」
「年始からそんな恐ろしげなことしないよ」
丑の刻参り。
藁人形を忌まわしい相手に見立て、木に釘で打ち付ける。
呪いの方法。
私は賽銭箱に縛り付けられていたことを思い出した。
アレは私を恨んでいる部分もあったのだろうか。
「これは老婆心から言わせてもらうけど」
と童女が言う。
「人を恨みこそすれ、呪いなんてものに頼るべきではないぜ。必ずしっぺ返しをくう」
「人を呪わば……、ってやつ? だから私は別に」
「覚えておいてね。憎むべき者がいても、打倒すべき相手は往々にして別の場所にいるんだ。逆恨みなんて以ての外。さっきの鴛鴦鏡の話じゃないけれど、お嬢ちゃんが目を向けるべき方向を間違えないことだね」
斧乃木ちゃんは姿には似つかわしくないほどに、まるで諭すように言った。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 19:07:56.37 ID:tzbaojQA0<> 今思えばここが分岐点だった。
斧乃木余接は私を引き止めようとしていたのかもしれない。
このまま、私は下山し、お兄ちゃんに小言を言われ、火憐ちゃんに心配されていたかもしれない。
しかし、この先に進むことが運命だと私は思った。
宿命だと感じた。
運命は乗り換えができず、レールは一方通行だ。
私は運命に乗って進むしかない。
私自身が運命の上を走る列車だ。
自分の意思で曲がることはできないのだ。
「斧乃木ちゃん」
私は彼女に呼び掛けた。
社が視界に入るところだった。
「いろいろありがとう。もうここからは一人で行かなきゃ。もうあなたはお姉ちゃんのところに帰りなよ」
巻き込むわけにはいかない。
諭されても悟られるわけにはいかない。
これは私個人の問題だ。
「そうかい。まあ僕も暇人じゃあないからね。お払い箱だというなら喜んで払われるよ」
「そうなんだ……、でもあなたもこんなところで何やってたの?」
「ふん。ナイショ話ばかりのお嬢ちゃんに僕が本当のことを話すと思うかい?」
「…………」
「別にお嬢ちゃんがどうしようとどうなろうと関係ないし、気にもならないけどね。僕はそこまでお人好しじゃあないんだ。まあ性分ゆえかついついお嬢ちゃんを介抱してしまったけどさ、うん、そろそろ解放してあげないと若輩者にうざがられてしまうからね。せいぜい気をつけるがいいさ。ほら、さっさと行った行った。最後の最後にもう一度だけ忠告させてもらうなら、お嬢ちゃんはもう帰ったほうがいいよ」
ずいぶん別れが惜しいみたいだな……。
もしかしたらツンデレなのかもしれない。
話ぶりといい、格好といい、ただ者ではないのはわかる。
正義の味方だったりして。
正義。
正義か……。
「一個だけ訊いてもいいかな」
「なんだい。この愛らしい僕との別れが名残惜しい?」
「……正義って何だと思う?」
「正義?」
「それと、正義の味方」
「そんなの」
やれやれ、というふうに。
こんなもの火を見るより明らか、自明のことだと言わんばかりに。
斧乃木余接はそれに答えた。
「人の数だけあるに決まってるさ。だから正義の味方は誰かの味方なのさ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 19:19:18.45 ID:Dhf81ut4o<> ……と、キメ顔でイッた
かくあれかし <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 20:16:15.23 ID:tzbaojQA0<> 「ありがとう」
私は斧乃木ちゃんから神社の方へ向き、一歩前へ踏み出した。
「……あれ?」
足が地に着くの同時に、その場にしゃがみこんでしまった。
靴ひもがほどけていた……からではない。
私は今斧乃木ちゃんから与えられたミュールを履いていたのだから。
全身の力がふっと抜けた。
さらに目眩に襲われた。
どうしたことだろう。
貧血?
立てない。
「行くんじゃなかったの?」
斧乃木ちゃんの声。
でも姿が見えない。
目は開いているが、景色に集中できない。
「あれだけひどい目にあったんだし、足が向かないのも当たり前かな」
「…………」
動悸が激しくなるばかりだった。
「お嬢ちゃんはあそこへ行きたくないのさ。またひどい目にあいたくないから」
「どう……」
どういうこと。
「お嬢ちゃんは夜通しあそこで千石撫子にめちゃくちゃに蹂躙されていた。引きちぎられ、踏みにじられていた。四十九回骨を折られ、八十九回筋を断たれていた。文字通りの四苦八苦だ。頭蓋も三度はこじ開けられていたし、腸を根こそぎ引きずり出されていた。首を何回回せば千切れて取れるのか試されたりもした。爪がどうやって指から出てくるのか見たいからって、そこの部分を剥いだりもしていたよ。今まで鬼外道畜生は星の数ほど見てきた僕でも、千石撫子はトップクラス、上の上だ。本当に元人間かよ。いや、元々そういう素質があったってことかな」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 20:34:49.55 ID:tzbaojQA0<> 斧乃木ちゃんの口調にはやはり何の感情も読み取れなかった。
「ああ、お嬢ちゃんの股に興味があるようだったよ。だから」
「やめて……」
やめてください。
お願いします。
「あ……あ……」
私は言われた場面が目に浮かぶようだった。
体が震えだし、滝のように汗が流れた。
自分を抱き締めるようにして、なんとか抑え込もうとした。
「ずっと……見てたの?」
私の質問に童女は答えた。
「うん。監察役が今の僕の仕事なんだ。あくまで見るだけ。だからいたぶられるお嬢ちゃんを助けることは出来なかったんだ。悪いとは思うけど僕は悪くない。やるべきことは果たさなくちゃいけないからね。経緯を説明すると、千石撫子は明け方にはお嬢ちゃんに飽きたみたいで社からお嬢ちゃんを放り投げた。僕もそこを僕がお嬢ちゃんをさっきのところまで引っ張っていったわけさ。既に収穫はあったからね。お嬢ちゃんを助けたのは完全に僕の独断だ」
なるほど。
しかしわからない。
私はとにかく頭がパンクしそうだった。
思考が定まらず、ランダムなイメージが浮かんでは消えた。
「だから言ったろう、帰ったほうがいいって」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/21(木) 20:59:29.20 ID:tzbaojQA0<> 「監察役って、あなたは一体何をしているの?」
何をしようとしているの?
「それを言うわけにはいかない。一応秘密裏に動いているんだ。ただ『僕達』は今、千石撫子をどう対処するかということが課題なんだ」
「対処」
千石撫子に対する処置。
千石撫子に対する処分。
千石撫子に対する処理。
そうだ。
アレは言っていた。
「暦お兄ちゃんをぶっ[ピーーー]」
そう言っていた。
宣言していた。
それは許されることか。
答えはノーだ。
断固否定だ。
なら。
それならば。
「お兄ちゃんの妹である私」はどう対応するべきか。
どうすれば正解だ正確だ精確だ。
やるべきことは何だ為すべきことは何だ。
なるべきものは何だ。
「あの神社に、神の座に相応しい奴は一応決まっているからあんなガキに居座られたら困るんだ。あそこに在ること自体が悪いというか」
「あの子がいることは、悪いことなの」
「そうだね。ぶっちゃけ、邪魔だ」
悪いこと。
じゃああの子は悪い子だ。
見過ごすわけにはいかない悪だ。
私は何だ。
私は、正義そのもののはずでしょう。
それなら。
お兄ちゃんを[ピーーー]と言ってたアレ。
私が受けた暴力暴虐を考えれば、お兄ちゃんがどんな目に遭うかわかったものじゃないし、わかるものだ。
そんなことはさせてはならない。
そんなことは許されてはならない。
あれは私が処分しなくちゃ。
私が千石撫子を殺さなくっちゃ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<>sage<>2012/06/21(木) 23:14:27.66 ID:4G4J//NPo<> 月火VS撫子か…女の戦いは血なまぐさいだろうな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/22(金) 23:33:28.30 ID:AdPJZeSDO<> 続き期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)<>sage<>2012/06/23(土) 00:38:49.01 ID:sWqpxKKPo<> 良いとこで切れるな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2012/07/04(水) 01:19:52.02 ID:/AbQyTQ5o<> まだかな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<><>2012/07/04(水) 14:52:07.95 ID:npeqf8vd0<> きたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/14(土) 01:29:30.00 ID:2WXE1i510<> 私は下山することにした。
先程までの脱力感も嘘のように消え、私は立ち上がり踵を返した。
車道まで出て、斧乃木ちゃんとはそこでお別れになった。
「ここでさよならだ。同族嫌悪というけれど、僕はお嬢ちゃんに好感を抱いているよ。同族というより同属だからかな。やっぱり君と僕は似ている。だから嬉しいよ、同じ種類と出会えて。テンションアゲアゲ」
「ローテンション過ぎてまったく伝わらないんだけど」
依然としてその親近感はどこからくるのかわからない。
「好きってことさ」
「エヴァネタを振られても」
「まさか予告詐欺だったとはね」
金曜のロードショウを見ていない人にはわからないことを言うな。
「いずれにせよ、忘れるといい。今日ここであったこと、今日ここで見たこと、今日ここで聞いたこと、今日ここで知ったこと、そのすべてを。お嬢ちゃんには家があるんだろう? なら家の人達に無駄な心配はかけないことだ」
斧乃木ちゃんは言った。
山を下りるときも何も言わずについてきてくれたが。
気遣い?
まるで友達みたいじゃないか。
まさか。
「そうだね。なんならあなたも来る?」
「行かない。言ったろう、僕は忙しいのさ」
「ふうん。じゃあ、機会があったらまたね。あ、『玄関を壊して入る』のは人間のすることじゃないから」
「…………」
「次は、インターホンを鳴らしてね」
「……インターホンは鳴らしたよ」
それを締めに私達は別れた。
機会があったらまたね。
次は……。
自分の台詞を頭の中で反芻してみる。
私も斧乃木ちゃんに好感を持っているのだろうか。
嬉しい気持ちになったりしているのだろうか。
あの奇天烈奇怪な童女に?
「わかんないな」
でも、きっと二度と会うことはないだろう。
私の物語に斧乃木余接はもう登場しないだろう。
そう思ったし、そう語ってしまった以上事実になる。
斧乃木余接、退場。
民家が見える頃にはすっかり朝日が昇っていた。
そういえば今日は一月三日、まだ三が日なんだな。
そんなことを思った。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/14(土) 01:37:06.04 ID:9MIqT8PDO<> 待ってました <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/14(土) 01:54:49.48 ID:2WXE1i510<> 「ただいま」
帰宅。
久しぶりの我が家。
のはずはないんだけれど、そんな感じがした。
玄関でミュールを脱ぐと、そこへちょうどお兄ちゃんが来た。
「あ、お兄ちゃん。ただい」
「どこへ行ってたんだ月火ちゃん! 正月から朝帰りだなんて! 僕は心配で心配で夜も眠れなかったし朝飯も喉を通らなかったし火憐ちゃんには拒まれるしでてんやわんやだったんだぞ! 月火ちゃんのことを考えて頭使ってたら熱が出てきたくらいだ! 頭ファイヤーだよ、ファイヤーシスターズなだけに。あ、つまんなかった? まあそれはいいんだよ。とにかくよ、お前今までどこへ行ってたんだ。ええ? パパとママはまるで気にする素振りがなかったけどな、僕と火憐ちゃんはそりゃあ心配していたんだぜ。僕はお前帰ってこなかったら自[ピーーー]るか世界滅ぼそうと目論んでいたんだぜ。いやあよかったよー、そんなことせずにすんで。おっと、また僕の話をしてしまったじゃあないか。そんなことはどうでもいいんだよ。おい、腹ァ括って話そうぜ。火憐ちゃんは察しているようだったが、あれか、彼氏か。彼氏と正月デートか。蝋燭世界くんの止まった時の世界でチョメチョメしてったいうのか。ふざけるな。ふざけるなと言いたい。兄として頑な言いたい。お兄ちゃん、許さないんだからね。月火ちゃんはまあ遅くなったとはいえ僕の許へ帰ってきてくれたしそれほど咎めるつもりはないんだけれど、男の方はそうはいかない。そうは問屋が卸さない。妹に手を出すどころか指一本触れることすら万死に値する。さあさあ、今すぐ奴の住所を教えておくれよ、月火ちゃん。許されざる者はお兄ちゃんが裁く。ていうか未成年だから法的にも許されねえんだよ。東京都も許さねえんだよ。大丈夫、処刑方法なら僕全集読んで勉強してきたから余すところなく男には痛みを与えるよ。五体四散じゃあすまない、地獄という地獄を地獄したくなるくらいそれはそれはもう恐ろしい僕自身怯えてしまいそうな手段を用意してある。だから、ねっ、住所教えて、ねっ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/14(土) 02:16:32.08 ID:2WXE1i510<> 「……うんっ、そう」
「それにしてもそのファンシーな格好はなんなんだ! 知り合いの童女に似ていてとても萌えるんだが!」
お兄ちゃんは私の両肩をがしっと掴み、鼻を擦りつけながら「ふうふう」と匂いを嗅いでいた。
「ああ、月火ちゃん――可愛いな。可愛いな。可愛いな。可愛いな。可愛いな。可愛いな。可愛いな」
「怖いわっ!」
グーパン。
しかしお兄ちゃんは怯むことを知らなかった。
「ああ、月火ちゃんの手、柔らかくて気持ちいいなあ。殴られても全然痛くないところとか最高にキュートだよなあ」
ぞっとした。
寒気がするとはこのことだ。
突っ込みというかもほやボケですらなく、真正っぽいお兄ちゃんに私はなす術がない。
吉良吉影に手をスリスリされている女性みたいになっていると、階段から火憐ちゃんの姿が現れた。
「おー、月火ちゃん帰ったんだ」
「ただいま。そして助けて」
「あー……」
お兄ちゃんを見て、火憐ちゃんはげんなりして言う。
「昨夜、日を跨いだくらいからずっとこうなんだよ。口を開けば月火ちゃん月火ちゃんって。まあ、あたしも心配じゃねーって言ったら嘘になるけど蝋燭沢くんといたんだろうなって思って」
「…………」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/14(土) 02:32:48.37 ID:2WXE1i510<> 「今朝にはもうそんな感じ、禁断症状みたいになっていたんだぜ。普段はうるさいだの偽物だのって言うくせによお。これもツンデレってやつなのかなー」
「ツンデレにしても迷惑すぎるよ」
重いよ。
ていうかうざい。
この人、いつの間にか足舐めようとしてるし。
「はいはい、もうここまでー」
「あうんっ!」
我慢の限界に達した私は足を蹴り上げ、お兄ちゃんの顎に命中させた。
悲鳴は犬みたいだった。
着替えるために階段を昇る。
すれ違いに火憐ちゃんが言った。
「兄ちゃん、本当に昨夜から心配してたぜ」
そのお兄ちゃんを見遣ると痙攣して倒れている。
振りなのかもしれないが。
「お兄ちゃんだって戦場ヶ原さんと出かけてたんでしょ」
「おかげで夜はお勉強が捗らなかったみたいだぞ」
「ふうん」
「あたしが言えた義理じゃないかもしれないけれど、兄ちゃんの邪魔にならないようにな。ああいうの見たくねーし」
お姉ちゃんみたいなことを言う火憐ちゃん。
しかしその続きはちょっとニュアンスが違った。
「ああいうの見ると、妬けるからよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/14(土) 02:54:29.27 ID:2WXE1i510<> 部屋に入り、後ろ手でドアを閉めた。
背中をドアに付けたまま、ずずずと座り込んだ。
本当は私がどこへ行っていたのか、とか。
どんな目にあっていたのか、とか。
話すべきか話さずべきか、考えることはたくさんあったが。
お兄ちゃんが私を心配してくれてた?
一晩中?
あんなになるまで?
口元が綻ぶのを感じる。
そっか、そっか。
そっか、そっか、そっか、そっか、そっか、そっか。
そっか、そっか、そっか、そっか、そっか、そっか。
うん、知ってたよ、私もちろん知ってたよ。
お兄ちゃんは私達が大好き。
彼女がいても別次元のレベルで。
火憐ちゃんには悪いけれど、さっきのお兄ちゃんを見るに私にちょっとアドバンテージあるよね。
ふふ。
あの人、ばっかだなあ。
けど愛らしいなあ。
可愛い可愛い私のお兄ちゃん。
そうだ。
私のお兄ちゃんだ。
私の大切なお兄ちゃんだ。
あんな訳のわからない化物に殺させはしない。
そんなの、私が許さない。
あの悪には私が正義の鉄槌を下してやる。
邪魔者邪悪者は徹底排除だ。
さて、まずは自分の服を着るところから始めようかな。
「えへ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2012/07/14(土) 19:56:31.31 ID:FY/Xi06C0<> 乙です。
月火ちゃんが可愛過ぎて困る。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2012/07/15(日) 05:57:21.56 ID:D4ulWuEXo<> 素晴らしいb <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/07/15(日) 09:33:30.97 ID:Whg8non20<> 月火ちゃん最高だな
撫子はうぜぇけど <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/15(日) 12:43:41.89 ID:emvsHOCDO<> 乙
>>207
ンだとコラぷちコロっぞテメー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/07/15(日) 18:37:34.10 ID:5FtxMlwU0<> 撫子と関わっている内に月火までおかしくなってしまった…これが二人狂いってやつか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/15(日) 21:55:16.55 ID:ZEB2RH3U0<> 千石撫子を[ピーーー]。
それが私の目標となった。
何の策もないまま立ち向かえる相手ではないのは先日の件でわかっている。
確実に成功させるために計画を立てる必要があった。
私はお兄ちゃんのような自己を犠牲にする偽善者ではない。
私が目指すのは何人も犠牲者を出すことなく、千石撫子ただ一人を抹[ピーーー]ること。
脅威を取り除き、日常を取り戻すことなのだ。
害虫駆除、エクスターミネーターだ。
だからお兄ちゃんはもちろん私が死ぬことも駄目なのだ。
徹頭徹尾、用意周到であるべし。
今までに火憐ちゃんと共に町の苦難を払ってきたが、殺人(殺神?)は初めてだった。
[ピーーー]ということ。死に至らしめるということ。
それがもちろん倫理的に見れば良いことではないのは承知している。
けれど千石撫子はもう人ではないと自ら証言していたし、私が受けた暴力、お兄ちゃん殺害予告(あと何か他にも言ってたっけ)を考慮すれば正当防衛だ。
どう見たって、私は正しい。
それと、これは私個人の問題なのかもしれないけれど、彼女の思慕が狂気へと向かったのは元を辿れば私が千石撫子をお兄ちゃんと会わせてしまったからだとも言える。
つまり、今回は私がこの件を片づけることが義務であり道理であり責務といえる。
私は頭の中をこんなふうに整理し、モチベーションを上げた。
最初に課題となったのはどうやって[ピーーー]か、ということだった。
さっきも言った通り、私は「殺し」をしたことがない。
両親は警察官であるし、まあ実際はほとんど聞いたことはないけれど、彼らの口から漏れたそういう類の話はある。
わかっている、それが毎日現実にどこかで起きているということは。
しかしやはり私の中で「誰かを[ピーーー]」というのは漫画やアニメ、映画の中で起こること。
虚構、フィクションに近い。
私は例えば何かで(ナイフのような武器)千石撫子を(腹部や胸部に)殺傷する場面を想像してみる。
獲物がずぶりと肉体に侵入し、相手は苦しみ悶える。
その震えが私に伝わる。
そして実感し、目撃する。
命を奪う感覚を。
生命を消す瞬間を。
血で汚れる私の手。
「…………」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/15(日) 22:50:34.03 ID:QyddLh7g0<> これもただのイメージにしかならない。
夢想妄想の域を越えられない。
まあ当たり前か。
私はとにかく参考になるものを欲した。
[ピーーー]。
死ぬ。
そういったものを。
まるでSFのタイトルみたいだ。
しかし、私が手に取ったのはSFではなかった。
その日から私はミステリを読み耽るようになった。
ミステリは乱暴に言えば人が死ぬ話である。
加害者、被害者。
[ピーーー]者、殺される者。
そのオンパレードだからだ。
私は自分の部屋とお兄ちゃんのダンボールからたくさんの本を引っぱりだした。
この時ほど本を読む習慣があってよかったと思ったことはない。
お兄ちゃんと火憐ちゃんはそんな私を見て、新たなキャラ作りを図っているんじゃないかと勘ぐっていた。
違う、と言いたいところだが当たらずも遠からず。
私は殺人者の「キャラ」を求めていたのだから。
もちろんみんなにはそんなことは口に出さなかった。
私が読んだのは古今東西問わず。
登場人物が全員死ぬ名作もあるがそれはまるで参考にならなかった。
このジャンルには犯人――つまりは殺人者側の視点で進むいわゆる倒叙形式のものがある。
これはいいんじゃないかと思い、有名なものを三冊ほど読んだ。
が、あまり活用できなさそうだった。
ふりだしに戻る、だ。
事件。解決。事件。解決。事件。解決。
著名な作品は一通り読んでうんざりし始めたとき、私はふと思った。
ミステリにおいて通常、犯人が殺人を実行している場面が描写されることは少なく、解決編で探偵が披露する推理によって殺人シーンが再現されるのだ。
探偵による物語の中でこそ殺人は行われる。
ミステリの解決編は解説編というわけだ。
それであって探偵は殺人者になることはなく、むしろ小説の中ではヒーローなのだ。
これはいい。
私はもう一度解決編のページに絞り、おさらいをした。
そこで描かれるロジカルな殺害現場(マーダーシーン)を。
国名シリーズを読了するころにはぼんやりとだが、計画の雛型が浮かび上がっていた。
一応、ギラギラなサイコ系もグチャグチャな猟奇系もあったが、これも役には立ちそうになかった。
けれど、そこに登場するキャラクター達こそ私が[ピーーー]千石撫子に近い造形だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/15(日) 23:34:07.62 ID:QyddLh7g0<> 冬休みが終わった。
三学期が始まってからも学校、家で私は不断でミステリを読み続けた。
人付き合いも自然と減った。
とは言っても連絡はとっていたのでお兄ちゃんみたいになることはなかった。
その中で一人、忍野扇という女子生徒は毎日メールを送ってきた。
私が頼んでもいないのに、あの山の上の神社について教えてくるのだ。
「最近、あそこは人が入るようになってきているみたいだねえ」
ある日にはそんなことが書かれていた。
人が通うようになっているということは、千石撫子は誰かに危害を加えていないのだろうか。
そういえば確か三月を期限に待っていると言っていた。
けれど、私は殺害され、破壊され、解体され、粉砕された。
誰かが同じ目にあわないと言える?
既にお兄ちゃんは狙いの的にされている。
私は三月になる前、二月を「その時」と決めた。
できれば上旬、一日でもいいかもしれない。
時折、私は計画に必要になりそうなものを買いにホームセンターへ出かけた。
火憐ちゃんにはストレッチマシーンを自作すると嘘をついた。
「完成したら使わせてね!」
眩しい笑顔でそう言われたときは少し心が痛んだ。
一月も半ばになる頃。
お兄ちゃんはセンター試験を目前にし、死にそうになりながら勉強をしていた。
千石撫子に殺される前に死んでしまうんじゃないかと思ったほどに。
というかあまり受験に身が入らないみたいだった。
プレッシャー?
かつては神童と呼ばれた兄も二十歳過ぎればただの人ということか。
まだ十八歳だけど。
私と火憐ちゃんは努めて自分達からはちょっかいを出さず、応援した。
それでもお兄ちゃんは我慢の限界に達することがあるようで火憐ちゃんと「キスの練習」と称してさくらんぼのヘタを舌で結び続けたり、私と美空ひばりを歌ったりした(なぜ?)。
そんな時に。
私は戦場ヶ原さんに呼び出された。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/16(月) 01:01:42.47 ID:FZCAKkIS0<> 場所はスターバックス。
何ヶ月か前にオープンした店舗だった。
娯楽の少ない町ではあったが最近は少しずつこういったチェーン店も増えていた。
周り、女子ばかり。
今日は休日なのでなおさらだった。
そして私はテーブルを挟んで戦場ヶ原さんと向かい合っていた。
「ところで」
と彼女が切り出した。
お兄ちゃんの彼女である戦場ヶ原さんと二人きりで話すのはこれが初めて。
こないだとは違う無表情からはまったく意図が読めない。
なぜ私を、私一人を呼び出したのか。
「さっき頼んだこの飲み物、なんていうの?」
カップを持ち上げ、戦場ヶ原さんは訊いた。
「モカフェラペチーノ」
私は答えた。
「フェラペチーノ? 何それ下ネタ? びびるわ……」
「下ネタじゃない」
「さすがは中学二年生という感じね」
「だから違うよ! 何、ペペロンチーノがエッチな言葉だと勘違いしてるタイプなの!?」
ていうか知らないで頼んだのかよ!
「さすがは栂の木二中のオシャレ番長月火さん。こういうお店も慣れたものね」
「いや、ここ指定してきたのそっちだし」
「私なんてこんなお店、気遅れしてしまうわ。だからあなたと同じものを注文したのだけれど。まさかそんな淫靡な名前の飲み物だったなんて。彼氏の傍でこれを頼む女子は上級者ね」
「だから別にいやらしい意味とかないから」
「でも、最近は私みたいな奥手の……奥ゆかしい女子の方が人気があるらしいわよ」
「お兄ちゃんの彼女のくせにどこが奥手か! あとわざわざ言い直さないでよ!」
「私がモテないのはどう考えても阿良々木くんが悪い」
「何? お兄ちゃんとうまくいってないの?」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/16(月) 01:53:32.91 ID:FZCAKkIS0<> 「いいえ? 悪いけどラブラブっすよ。ラブラブボンバー」
「…………」
プラチナむかつく。
「今日はずいぶんフランクなんだね、戦場ヶ原さん。こないだは本当に奥ゆかしい感じだったけれども」
あれは猫被ってたわけだ。
否、この人の場合その言い方はふさわしくない気がする。
羊の皮を被った狼といったところだ。
「…………」
「?」
「あ、ごめんなさい、聞いてなかったわ。おいしいわね、このフェラチオ? で、何だっけ?」
「帰らせていただきます!」
私は立ち上がり、カップを手にする。
なんなんだ。
わざわざ嫌がらせするために呼んだのか。
今すぐバナナの皮を踏んで滑って転んで落下しろ。
「まあ待ちなさい。今のはジョークよ。ヶ原ジョーク」
「ジョークでもギリギリな単語が飛んできたけれど」
「初心なことを言わないで頂戴な。ガールズトークは基本ぶっちゃけでしょ?」
ガールズトークの相手にしたくない人だな。
お前がナンバーワンだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/16(月) 02:35:38.93 ID:FZCAKkIS0<> 「今日月火さんを呼んだのはもちろん理由があります」
こほん。
と、戦場ヶ原さんは咳払いをしてからこう言った。
「千石おでこについて聞きたいことがあるの」
「…………」
わざわざ咳払いして噛んだとも思えない。
なんか、私を馬鹿にしているニュアンスがあるような。
「ボタンを押せば裏音声で聞けるわよ」
「え、この世界って地デジ放送なの?」
あと、それを言うなら副音声じゃないの。
「兎に角。おっほん。えー、千石ナタデココさんについて聞きたいのよ」
「千石撫子だよ」
「あ、そうなんだ。ふーん。どこかの機動戦艦みたいな名前ね」
「ばかばっか!」
やっぱり帰る私!
死ぬ気で!
いやいや、私が死んではお話にならないのだ。
「なるほど。今のであなたもやはり阿良々木くんの妹とわかるけれど、火憐さんとはまた違うタイプなのね」
「火憐ちゃん? まあ、火憐ちゃんはきっと私みたいに戦場ヶ原さんに対してスマートに対応できないだろうね」
「どや顔で言えることかしら……」
「で、本当は一体全体何の用なのかな、戦場ヶ原さん。私と仲良くお茶がしたいだけ?」
「ずばり、そうよ」
びっ、と私を指して彼女は言った。
「あなたと仲良しになりたいのよ。阿良々木月火さん。いえ、親しみをこめてつっきーと呼ばせてもらうわ」
お兄ちゃんが相手だったら思わず兄妹言語が出てきそうな場面だったが。
私は戦場ヶ原さんと仲良しになれそうになかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)<>sage<>2012/07/16(月) 05:26:21.96 ID:QbkhJVeF0<> メール欄にsageだけじゃなくsagaも追加して欲しいんだぜ
ピーで笑ってしまう <>
名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/17(火) 18:37:51.14 ID:1+D5Wa+6o<> おつ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/20(金) 22:31:00.08 ID:2QPJ8P9Lo<> かれ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/21(土) 08:13:36.15 ID:vzkoRUu4o<> ん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/07/21(土) 12:45:22.10 ID:uXJl4lWCo<> ちゃん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/25(水) 20:33:50.77 ID:fTfudfOko<> 乙火憐 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/30(月) 15:19:20.01 ID:KL+5OjFD0<> 「だから私、阿良々木くんに言ってやったのよ。そんな[ピーーー]なら[ピーーー]で[ピーーー]なさいな、って。そしたら彼がまた言い訳を始めるものだからもう[ピーーー]してやったわ。[ピーーー]して[ピーーー]して[ピーーー]してもう延々と[ピーーー][ピーーー][ピーーー][ピーーー]してあげたの。やってるうちに楽しくなっちゃたから七時間くらいは[ピーーー]だったわね。彼、最後は涙目どころか掃き溜めって感じだったわ。ボロボロのボロカスだったわ。まーあの[ピーーー]にはちょうどいいくらいよ。いい気味だわ。でも[ピーーー]されてるのにどこか喜んでる風なのよね。自分を庇いながら実はほくそ笑んでる、みたいな。[ピーーー]ね。真正の[ピーーー]なのかも。やれやれ、どうしてあんな男と[ピーーー]なのかしら。私もそろそろ考えを改めるべきなのかも」
戦場ヶ原さんは言った。
「ねえ、月火さんはどう思う?」
「うーん。確かにお兄ちゃんって[ピーーー]だし[ピーーー]だし、妹の[ピーーー]を[ピーーー]するような[ピーーー]さんだけれど。こないだも私がさて寝よーと思って部屋に行こうとするところを呼びとめられて、ちょっと部屋に来いって言うの。私も正直な素直な誠実ちゃんだからハイハイって従ったんだよ。で、入るなりいきなり[ピーーー]だもん。いくら私でも引くよ。ありえないよ。だって[ピーーー]だよ? もー何考えてるんだかお兄ちゃんは。そりゃあ受験のストレスが溜まってるし、溜まってるんだろうと思うよ。年頃の男子だし。でもねー、[ピーーー]で続けて[ピーーー]もあったからねー。参考書じゃなくて[ピーーー]の読み過ぎなんじゃないかなあ。困るなあ、私はお兄ちゃんの[ピーーー]じゃないっての」
スタバに入店してもう二時間は経っただろうか。
私と戦場ヶ原さんはノンストップで話し続けている。
お正月の時より饒舌な戦場ヶ原さん。
人を罵倒する語彙がよくもまあそんなにあるなあ。
それに比べたら私なんて超淑女だね。
周りの人が聴いたらどん引きじゃないかな。
込み合ってる店内で私達の隣の席前後左右だけ空いてるし。
「へー。私の前ではそんな姿見せたことないわね。彼の知らない一面を知ってひたぎおねーさん、ちょっと驚き轟き桃の木よ」
「彼女さんの前ではかっこつけてるんじゃないかな」
「かっこつけてるというか、体裁を保とうとしているって感じよね」
「私もショックだね。お兄ちゃん、戦場ヶ原さんとそんなことしていたなんて」
「不思議なものね。女って男のためならこれくらい我慢しちゃおっかな、受け止めよっかな、許しちゃおっかなって気になるのよ」
手に顎を乗せてふうと息を吐く戦場ヶ原さん。
アンニュイな雰囲気だ。
「母性本能ってやつ?」
「母性……、さあ? 阿良々木くんだからこそ思うのかもしれないけれど」
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/30(月) 15:43:41.48 ID:KL+5OjFD0<> 母性っていう言葉で彼女の口が一瞬止まった。
そういえばお母さんがいないんだった。
私は寛大という意味で母性と言ったのだけれど、彼女には通じなかったようだ。
両親が離婚した理由は詳しく聞いていない。
けれど、戦場ヶ原さんの中に優しい母親のイメージがないのかもしれなかった。
いい思い出どころか、苦い思い出なのかも。
むしろ重荷だったりね。
私のママはちょっと無愛想なところあるけど、大好きだし尊敬してる。
「母親か……」
と戦場ヶ原さんが呟いた。
やっぱり思うところがあるのかもしれない。
そんなつもりじゃなかったのに、私はタブーに話題を誘導してしまったようで申し訳ない気持ちになる。
「子供は何人ほしい? 月火さん」
突然そう訊かれたので私は聞き間違いかと思う。
「は?」
「子供の数よ。何人がいいの?」
「え、いや、子供って、私にそんなこと言われても、子供は好きだけど、私達女同士だし、それはちょっと無理かなーって……」
「そりゃあ私とあなたじゃあ無理でしょう」
「じゃ、じゃあたまに漫画とかで出てくる、男の人を巻き込んで作るっていう展開に」
「ならない。一体どこでそういうことを覚えてくるのよ」
お兄ちゃんのベッドの下の本棚とか。
「戦場ヶ原さんってそういう……?」
「…………」
何その間。
「そうじゃなくて。私と阿良々木くんがってことよ」
「あ、ああ。なんだーびっくりしたー」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/30(月) 16:09:40.90 ID:KL+5OjFD0<> って、なんで私にそれを訊くのよ。
そう思い、そのまま言ってみる。
「参考に、よ。あなた末っ子でしょう。兄姉がいる人からするとどうなのかしら。一人っ子の方がよかった?」
さっきの母親のように、また彼女と私の差異が浮かぶ。
戦場ヶ原さん、一人っ子。
「やっぱりお兄ちゃんくさいなー、お姉ちゃんうざいなーって思うものなの?」
「それは戦場ヶ原さんが思ってることなんじゃ……」
繰り返すが、彼女は一人っ子。
「そうだなあ。ちょっと前までお兄ちゃんは私達のことよくいじめてたから、そういうときはぶっ[ピーーー]! とか思ったりもしたよ。火憐ちゃんはわかんないけど。でも私がもし一人っ子だったら寂しかったんじゃないかなー」
「ふむ」
「これは私が兄妹だから思うし言えることなんだろうけど。逆に自分がお兄ちゃんの妹じゃなければなーと思うことはあるかな」
「ん……?」
「でもこれも意味のないことっていうか。『もしも』ってみんな思うんだろうけど、なんか都合のいいパラレルワールドを想像するんだろうけど、結局ないものねだりなんだよね。有りもしない在りもしない、ないない尽くしの現実しかないんだから。あれ、なんか話ずれちゃったような。なんだっけ?」
「阿良々木くんくさいなー、火憐さんうざいなーって話」
「あ、そうだそうだ。もう、でもお兄ちゃんも急に色気づいちゃってさー、気にし過ぎなんだよ。『僕、くさくない?』とか。火憐ちゃんもあんなんで本当に春から高校に行けるのかって心配になるくらいだし」
「そうねえ。私はあなたもちょっと心配になるけれど」
「あっはっはっは。私はこれでもみんなから信頼と信奉を集めているからねー。無用な心配は火種、火事の元!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/30(月) 17:30:01.79 ID:KL+5OjFD0<> 「ところで。そろそろ本題に入ってもいいかしら、つっきー」
「つっきー言うな。ていうか他に話題があったの?」
「そうよ。今までのは副題よ。サブタイよ。今からが本番の舞台よ」
らしいので私は身を正す振りなんかしてみる。
でも私は今の話題をもう少し続けたかった。
もしもの話を。
意味がないと言った傍から矛盾しそうだけれど、そういったことを夢想するのは楽しい。
違う自分を想像するのは楽しい。
違う自分を創造するのは難しい。
そう思う。
ああなりたいなあ、こうしたいなあ、とイメージすることから人は何かをする動機を持つんだろう。
実際それを成し遂げるのは楽じゃないけど。
だからみんな悩むんだろうけど。
たとえば今の私は「自分がお兄ちゃんの妹じゃなければなあ」と思っている。
そして目の前の戦場ヶ原さんは「お兄ちゃんの妹」ではない。
他人は自分を映す鏡とはよく言ったものだ。
つまり戦場ヶ原さんは私のもしかしたらありえたかもしれない姿なのだ。
私の望みが形を持って存在し動いている。
それが私ではないというだけで。
そもそもどうして私がそんな夢想をしているのかというと長くなるので簡潔に言えば、「お兄ちゃんの妹」は枷だから。
縛り、ルールだから。
私はそれがうざくて仕方ないんだけれどそれを破ると倫理がどうとか禁忌がどうとか淫靡がどうとか世間的に責められる。
世間から責められれば、それはつまり社会から追放、人外扱いだ。
化物になるということだ。
それは嫌だ。
本当の本当で本当に嫌だ。
私は戦場ヶ原さんになりたい。
いや、彼女に限らず私は阿良々木の名前が付かない人みんなが、ああ、羨ましい。
羨ましいし恨めしい。
みんな別の私なのだ。
羽川さんも百足百代ちゃんも回り道過客ちゃんも遊亀雪ちゃんも根路銘年々ちゃんも音琴又旅ちゃんも八日市屋火隣ちゃんも同級生の女の子もどいつもこいつもあいつもそいつもみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんなみんな私なんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/07/30(月) 18:08:36.68 ID:KL+5OjFD0<> 「千石さんについて訊きたいのよ」
戦場ヶ原さんは言った。
そういえば二人は苗字が似てるな、と思った。
「千石」は「戦国」につながるし、「戦場ヶ原」さんは言わずもがな。
二人とも「戦」の人なのだ。
「撫子ちゃんか……今頃たくましく生きてたりするのかな」
私は暗い声で落ち込んでいるように見せる。
戦場ヶ原さんはばつが悪そうにしたりしなかったけど「そうね」と言った。
もちろん千石撫子は今もあの神社でたくましくしているのだろう。
私は自分の膝が少し震えていることに気づいた。
モカフェラペチーノを飲んで、身体が冷えたような身振りをした。
エアコン強いのかな、と呟いてから自分を抱くようにしてさする。
私は代謝が良いので冷房病になったことはない。
「前にも撫子ちゃんについて訊いてきたよね。やっぱり気になるの?」
「ええ。それ以上に気になるのはあなたよ、つっきー」
「…………」
「私も以前に友達がいなくなった時があるわ。まあ私の自業自得ということもあるんだけれど。こないだ私が病気だった話はしたわよね」
私は黙って頷く。
「そんな時、話ができる人がいるととても助かるものよ。もし、つっきーが楽になれるんだったら私に色々吐き出してみない?」
「戦場ヶ原さん……」
私は親身になってくれる彼女に感激しているように装う。
さて。
この人本当に私を気遣っているのかな?
実は他に狙いがあって、探りたいこと、聞き出したいことがあるんじゃないかな。
私は疑う。
だから私は戦場ヶ原さんの提案に乗ることにした。
逆に彼女の真意を私が探ってやろう。
本当に聞きたいことを当ててみよう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/07/31(火) 02:43:25.41 ID:xrZPkWUIO<> 来てた
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/01(水) 16:58:13.52 ID:fkO1CKV00<> 「撫子ちゃんは……昔から可愛い子でね」
私は亡くなった我が子を語るように、郷愁たっぷりに話し始める。
「見た目とか仕草とか声とかとにかくあちこち可愛いんだよ。小学生の頃に何人か撫子ちゃんに告白しようとした男子がいたし、きっと中学校でももてたんだろうね。本人はそういうこと全然自覚してなかったけれど。むしろ自分に人が近づいてくるのが困るって感じだったよ」
「困る?」
戦場ヶ原さんが訊く。
「うん。誰に何言われても『へ、へえ』とか『そ、そうなんだ』ってどもりながら相槌打つばっかり。でも怯えるっていうより疎ましく感じていたんじゃないかなあ。自分から相手が離れるとよく溜息ついてたよ。あー疲れた、みたいな。疲弊してたね」
「なるほどね」
と頷く彼女。
いい聞き手だ。
「みんな撫子ちゃんに目がいっちゃうから初めは無視できないんだよね。でも、特に女の子達はそんな撫子ちゃんと話すと違和感を覚えるっていうか、あれなんか変だな、って思ってた。小学生の頃はうまく言葉にできなかったけど、ようするに撫子ちゃんの態度が気に入らないんだね。うざい。きもい。むかつく。そういう感想を持っちゃう。中学校が別だから想像だけれど、男子にもてても同性の友達は多くなかったんじゃないかな。もしかしたらいじめられてたかも」
「あなたも千石さんに、その、違和感は覚えていたのかしら?」
「うん。だから言ったの、『どうしてそんなグズグズしてんの?』って」
「あ、言っちゃうの」
「月火ちゃんは『ぐ、グズグズしてないよう』って言ってたけど」
「月火ちゃん?」
「あ、間違えた。撫子ちゃんは『ぐ、グズグズしてないよう』って言ってたよ」
「どうして間違えるのかわからないけれど……」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/01(水) 17:42:13.79 ID:fkO1CKV00<> 「その言い方がまた可愛いんだよ。ああいうのってずるいね。腹がへってきちゃったよ」
「お腹がすいたの?」
「腹がたってきちゃったよ」
私はほとんど空になったグラスの底をストローでつっついてカッカッカッと音を立てた。
「もしかしたら戦場ヶ原さんは不思議に思うかもしれないね。なんで私と撫子ちゃんが友達なのか」
「……ええ」
今の流れからすれば当然の疑問だろう。
他人がストレスの彼女とどうやって友人関係を続けることができたのか。
建前でも私に気遣って聞き手に回っている以上、戦場ヶ原さんからはなかなか訊きづらいことだ。
だから私は自分から言ってしまう。
吐き出してしまう。
「最初は撫子ちゃんの可愛さに惹かれて友達になったんだよ。ちょっと退屈な部分もあったけれど、私は撫子ちゃんが好きだったしね」
「自分でも思ってもみなかった人間と仲良くなることはままあるわね」
「うん。でも、他にも理由があった。撫子ちゃんはたまに家に遊びにきてくれたんだけれど、その時にお兄ちゃんも混ざることがあったんだよ」
「へえ」
「撫子ちゃんはお兄ちゃんが好きだったから」
私は戦場ヶ原さんの反応を窺う。
彼女は動じた様子もなく、私に耳を傾けているようだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/02(木) 01:55:43.03 ID:RzHoV1LIO<> 月火ちゃん視点いいね
参謀担当っぷりがよく出てる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/08/02(木) 23:40:54.70 ID:BQ7lnxlGo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/13(月) 07:58:59.21 ID:a3t6xxd6o<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/23(木) 20:14:18.42 ID:gXUlEnAbo<> 玉玉おにいちゃん <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)<>sage<>2012/08/27(月) 16:01:30.86 ID:h5e2u8VAO<> 玉玉お兄ちゃんはよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 13:20:28.04 ID:oOu804PK0<> 「だから私は撫子ちゃんが遊びに来るとお兄ちゃんを引っぱてきたもんだよ。でも撫子ちゃんはあんな性格だし、お兄ちゃんは好意を寄せられているとは露知らずだったし」
「人間、変わらないものね」
「結局、学年が上がると撫子ちゃんとはクラスが別になって、去年の六月までは付き合いも途切れちゃってたんだ」
「六月……」
引っかかることがあるのか、思案顔の戦場ヶ原さん。
私は続ける。
「夏休みに入る前だったかな。お兄ちゃんが撫子ちゃんと偶然会ったからって家に呼んだんだよね。あれって私と撫子ちゃんを再会させるつもりだったんだろうけれど、あの子は私よりお兄ちゃんと会えたことの方が何百倍も嬉しそうだったね」
あの日、彼女は帰り際、お兄ちゃんに言っていた。
今度は撫子の家に遊びに来てね、と。
私のことは眼中にないようだった。
露骨な誘いに「数年ぶりに再会した友達の私には一言もなしかよプラチナむかつく!」と思ったりはしなかった。
その時はむしろ肉食系な態度に好感を持った。
「小学校のときに数回会っただけの、友達の兄をずっと想い続けるっていうのも壮絶だよね。歳を重ねると時間の流れが早くなっていくとよく言うけれど、お兄ちゃんと再会するまでの数年間、撫子ちゃんはどんな気持ちで生きていたんだろうね」
その間ずっとお兄ちゃんを想っていたのなら、それこそ永遠に感じられる時間だったのかもしれない。
否、永遠にもはや時間はない。
たとえば時計の針はただの指標に過ぎず、回転を続けているだけだ。
彼女の場合、永遠というより、円環だろうか。
お兄ちゃんと巡り合えた時の気持ちの上をずっとぐるぐる廻っている彼女。
「ぞっとしない話ね」
戦場ヶ原さんが言う。
ぞっとしないし、ぞっとする。
驚異だし狂気だ。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 13:48:51.98 ID:oOu804PK0<> 「そうかなー。私はちょっとわかるかな。撫子ちゃんはちょっと極端だと思うけれど、ずっと一人を想うってなかなかできることじゃないよ。尊敬しちゃうなー」
んなわけあるか。
あれはただの恋愛ニートだ。
円環、輪っかに出口はない。
出口を作るには輪っかを切るしかない。
しゃきん。
「じゃあ、あなたの千石さんへの友情はその尊敬故にということかしら、つっきー」
「そんな感じかな」
そんな感じってどんな感じだよ。
尊敬してねーし友情もねーよ。
「そう。私にはちょっと理解しかねるけれど、あなたと千石さんには相通じるものがあるのかもしれなわね」
相通じるものなんかねーよ。
私をあんな化物と同列に扱うんじゃねーよ。
相通じるって愛が通じてるみたいで気持ち悪いんだよ。
私には理解しかねるとか上から目線がうぜーんだよ。
遠くから見てるふうに言ってんじゃねーよ。
余裕ぶってんじゃねーよ。
「いやいやいやいや、私と月火ちゃんって全然タイプ違うしさー」
「月火ちゃん?」
「あーまた間違えちゃった。えーと私と撫子ちゃんって全然タイプ違うしさー」
怪訝な顔になる戦場ヶ原さん。
お兄ちゃんの彼女さん。
私はどこも怪しいところなんかない。
怪しくて、異なっていたりしない。
なんだかお腹が痛い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 14:11:53.13 ID:oOu804PK0<> 「ごめんね、戦場ヶ原さん。私ちょっとトイレに」
席を立って「に」を言いきらないうちに世界が傾いた。
私は床に倒れこんで、ばたん!と大きな音がした。
「月火さん!」
戦場ヶ原さんが私を起こそうとする。
一体どうして、と思ってふと見ると右足の膝から下がなくなっている。
「あれ、あれ、あれ」
「どうしたの?」
「ない。ない。ない。ないないないっ!」
「何がないの?」
「私の右足……」
そこにあるはずの脚を探るが空振りするばかりだった。
「何言ってるのよ。ちゃんと付いてるわよ」
「ないって言ってんだろっ! 嘘ついてんじゃねえよっ!」
吃驚した顔になる戦場ヶ原さん。
むかつくのでぶん殴ってやろうと左手を振るった。
けれど彼女の頬には何も当たらない。
「あ、あああっ、左手もなくなっちゃった!」
「落ち着いて。ちゃんとあるわ」
彼女は両手を私に見せるが、そこには何も握られていない。
また嘘ついてる。
店員やお客さんが事態を察し、距離を置きながらも私を見ていた。
引いている人もいれば笑っている人もいる。
私がそんなにおかしいのか。
私がそんなに怪しいのか。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 14:29:11.43 ID:oOu804PK0<> 「あっ!」
頭に激痛が走った。
頭蓋を無理やりこじ開けられているみたいだ。
筋肉や繊維がぶちぶちと音を立てて千切れていき、がりがりと骨が削られている。
「ぐぁっ、げひっ、ひっ、い、いいああああああっ!」
今度は左腕が正しくない方向に向けられる。
関節部がひしゃげて中から尖った骨が突き破って出てきた。
ほとんど達磨みたいな状態だった。
「もう、やめてよぉ……」
舌を引っこ抜かれて口は耳まで裂けていたから声になったとも思えない。
けれど懇願する私を誰かが抱きしめる。
「大丈夫よ。何も悪いことは起こっていない。右足もちゃんとあるわ」
こんなにぐちゃぐちゃにされちゃってるのに?
これ以上悪くなりようがないってこと?
最悪。
本当に最悪。
最も、悪い。
否、私は正義そのもの。
悪いことは起こったし、右足は切断されたんだ。
じゃあ目の前のこの人は嘘をついてるってことじゃない。
目の前にいるのに目を逸らしてるってことじゃない。
よく私を見ろよ。
よく私を見ろよ。
ひどいでしょう?
でも、元通りになっちゃうの。
おかしいでしょう。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 14:45:56.32 ID:oOu804PK0<> あとで聞かされた話だけれど、戦場ヶ原さんは私をタクシーで家まで送ってくれたらしい。
スターバックスで発狂した私は糸が切れたように意識をなくしたそうだ。
その私を抱え、周りの人々に奇異の目で見られながら運んでくれたのだという。
私が目覚めたことを聞いた彼女は直接ではなく、電話で謝った。
「ごめんなさい」
と一言だけ。
私は洗面所で自分を確認した。
お兄ちゃんか火憐ちゃんがやったのだろう、浴衣に着替えさせられていた。
帯はいい加減だった。
私は五体満足だった。
脳みそが丸出しになっていないし、腸も納まるべきところにあるはず。
口も裂けていない。
両手のひらをじっと見つめてもいつもと変わらなく見えた。
爪もちゃんと揃っていた。
私が回復したのを見るとお兄ちゃんが部屋に呼んだ。
入ると机の上に参考書や赤本が散らばっている。
「何か用?」
と訊くと、凄まれた。
「先に言うことがあるんじゃねえのか」
中学生の頃の、よく私と火憐ちゃんをいじめていたお兄ちゃんに戻ったみたいだった。
「……ごめんなさい」
私は土下座した。
一分ほど額を床にくっつけていた。
「もういい。顔上げろよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 15:10:02.93 ID:oOu804PK0<> 「戦場ヶ原がひどく心配してたぞ。僕にもそんな心配してくれたことないんじゃないかってくらいにな。自分のせいでお前がおかしくなったんじゃないかって」
土下座が終わっても、お兄ちゃんの声には怒気があった。
私のこと以上に、見たこともないほど狼狽した彼女の方が心配らしい。
しばらく沈黙が続き、お兄ちゃんは「はあ」と息を漏らした。
「あまり気が進まないけれど、お前と一度、ちゃんと話し合うべきなのかもしれないな」
お兄ちゃんは私の目の前で胡坐をかいて、向き合う形になった。
「千石のことだけどな。お前のせいってわけじゃないんだからな」
お兄ちゃんは続ける。
「あれは、ひとえに僕が悪いんだ」
「意味わかんないよ。なんでお兄ちゃんが悪いの? 何かしたの?」
「聞けよ。それからもう一つ。千石は……無事だ」
無事?
無事というより大事じゃないか?
いや、それよりお兄ちゃんはあの神社のことを知っているのだろうか。
「それ、どういうこと?」
「詳しくは言えない。でも、そうだな、春にはきっと解決してるはずだ」
春。
それって確かお兄ちゃんが殺される期限じゃなかった?
「どうして春だってわかるの?」
「神様がそれくらいに終わるってよ」
まさか。
お兄ちゃん、自分が犠牲になって終わらせるつもりじゃないよね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)<><>2012/08/28(火) 15:12:52.31 ID:CNc2TbdBo<> 支援 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 15:48:35.83 ID:oOu804PK0<> 「ふざけんな!」
正座の姿勢だった私は思わず立ち上がり、叫んだ。
「お兄ちゃんにどうしてそんなことわかるのよ。お兄ちゃんは何でも知ってるわけ?」
「何でもは知らねーよ。知ってることだけだ」
「知ったかぶってんじゃねーよ!」
「…………」
「そんな曖昧な言葉で納得するとでも思ったら大間違いよ。人の気も知らないで、これからどうなるのかさもわかったように言わないでよ。ひとえに僕が悪い? はいはいお得意の偽善だよね。春にはきっと解決してる? お前は総理大臣か!」
私の激昂にお兄ちゃんは黙った。
涙まで出てきた。
「悪かった。今のは僕が無責任だったよ。辛いのは月火ちゃんの方だよな」
また「辛いよね」だ。
違う。
お兄ちゃんに同情なんかしてほしいんじゃない。
共感なんかしてほしくない。
私が許せないのは、お兄ちゃんが春に自分が殺されてもよしとしているように見えるからだ。
どんだけ博愛精神豊かなんだよ。
何、こういう事態になったのはマジでお兄ちゃんが、たとえばあの恋愛ニートの目の前で幼女を手籠めにしちゃったからとかそういうのが発端なの?
犯罪じゃん。
ママになんて言えばいいのよ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/28(火) 16:19:27.48 ID:oOu804PK0<> 私はべそかいて喋ることができなくなり、お兄ちゃんはすまんとかごめんとか言っていた。
たぶん友達が失踪して参ってしまっているとお兄ちゃんは思っているのだろう。
そうじゃない。
「謝んないでよ。うざいから。もういいでしょ」
「ああ……、部屋戻ってろ」
お兄ちゃんは扉を開けて、退室を促した。
それに従って私は自分の部屋に戻った。
二段ベッドを昇って横になった。
うかつに涙を見せた恥ずかしさと悔しさから、私は枕に顔を突っ伏した。
「月火ちゃ〜ん、大丈夫か?」
下から火憐ちゃんの声がする。
「あんまり気にするなよ。あたしは月火ちゃんの味方だからな」
「…………」
「おやすみ〜」
「ねえ、火憐ちゃん」
「なんだー?」
「火憐ちゃんは私の味方なんだよね。それじゃあ私が困ったときに手を貸してくれる?」
「何今さら水臭いこと言ってんだよ。あたしと月火ちゃん、二人でファイヤーシスターズだろう? あたしが実戦担当、月火ちゃんが参謀担当」
「じゃあ、そのうち手を貸してね」
「おう。任せとけよ」
それを聞いて私は眠りにつくことにした。
私は次の日からも変わらず過ごした。
怪しくなく、異ならない日々を送った。
やがて二月になった。
最初の日、下校中にお兄ちゃんから電話があった。
撫子ちゃんが見つかったから来てほしいという。
私は指示された場所に真っ直ぐ向かった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/28(火) 17:17:43.21 ID:RGNeZ4Wao<> キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/28(火) 19:53:18.25 ID:B6fKhZ6IO<> 原作でもそうだけど、だんだんお兄ちゃんが主人公っぽくなくなってきてる
お兄ちゃんしっかりして <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 14:54:10.95 ID:X7fCUwnU0<> お兄ちゃんが呼びだした場所は北白蛇神社だった。
嫌な場所。
嫌な記憶しかない場所。
私は境内に足を踏み入れる前に鞄の中身を確認した。
この日のために準備してきたものがそこにはあった。
こんなものが本当に通用するのかな。
一抹の不安を抱えながら私は前に進んだ。
「来たか、月火ちゃん」
お兄ちゃんがいた。
一面雪景色だった神社はここだけ春が来たように土を覗かせていた。
最近暖冬というニュースは聞いたことがない。
神主さんが掃除をしたとしても、これはちょっと異様な風景だ。
何かがあったんだ。
「来たよ。それで撫子ちゃんは?」
お兄ちゃんが見遣る方に彼女は横になっていた。
本殿で眠る姿はちょっと昼寝でもしているような、普通の中学生みたいだった。
前髪が短いせいでおでこが全開になっているし、七百一中学の制服を着ていた。
髪の色は黒だった。
この数カ月のことはなかったかのように、平凡は子に見えた。
髪の毛を真っ白にして、真冬にワンピース姿になって、蛇を使役し、私の肉を切り骨を断ったあの化け物には見えなかった。
彼女を見る限り、これまでのことはすべて白紙になったようだった。
けれど、やはりそうではない。
事実、それは起こったのだ。
少し身体が震えたのは冬の寒さからではなく、ここでの記憶が呼び覚まされて反応しているからだ。
「さっきここで眠っているところを保護した」
「こないだ事情を知っているふうなことを言っていたけれど、お兄ちゃんは撫子ちゃんがここにいるって前から知っていたんじゃないの?」
それに、「春になったら」という期限はどうなったのよ。
「実は知ってた」
お兄ちゃんは申し訳なさそうに言った。
「その……千石にしてみれば家出みたいなものだったんだ。少し周りと距離を置いて一人になる時間が必要だったんだよ」
一人になる時間が必要だった。
そう。
なら永遠に人前に出てこなければいい。
そうでないとみんなが困る。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 15:29:33.57 ID:X7fCUwnU0<> 「このあと、千石のこと任せてもいいか?」
「え?」
「僕がやることは、できることはもうないみたいだから」
「……いいけど、お兄ちゃんはそれでいいんだね?」
前にも夜中に歩き回っていたこの子を探しまわっていたお兄ちゃんが、もうできることはないと言う。
それはお兄ちゃんの意志に反することじゃあないのか。
ああ……そっか。
いつかの万引きの子のときと一緒だ。
お兄ちゃんは落ち込んでるのだ。
ちょっと立ち上がれなくて、下を向いているんだ。
「いいよ。僕より千石の友達のお前の方が適任だよ。ちゃんとこいつを家に送ってやってくれよな」
「わかった。頼れる妹月火ちゃんに頼っておきなよ。任せておきなよ」
「うん。じゃあ、任せたぞ」
お兄ちゃんは神社を後にして石段を下りていく。
私はその姿が見えなくなるまで向こうを見つめ続ける。
さて。
私は自分の仕事をしなきゃならない。
正義の味方にできなくて正義そのものにできることを。
私は手を離して鞄を落とし、ジッパーを開いて中から必要になるものを取り出した。
ペンチ、ロープ、雑巾、鋏、ガムテープを順に並べていく。
一つ一つを手に取って確認し、また置く。
鞄にはまだいろいろ入っているけれど、まだ必要じゃない。
私がそうしている間に、撫子ちゃんが目を覚ました。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 15:46:12.22 ID:X7fCUwnU0<> 「ううん……」
撫子ちゃんは目を擦りながら、見回した。
自分が今学校や家ではなく、誰もいない神社で横になっていたことを思い出してきたようだ。
「あっ……つ、月火、ちゃん」
私を見るとびくつきながら撫子ちゃんは言った。
まるで以前の彼女に戻ったみたいだ。
「おはよう、撫子ちゃん。よく眠れていたのかな」
「……よ」
「?」
「よく眠れたヨォ!」
ラップ調だった。
「あ、ご、ごめんなさい。今のは、ギャグ、です」
「…………」
「あの、月火ちゃん、撫子、その、ごめん。ごめんなさい」
撫子ちゃんは俯きながら言う。
「ひどいことしたの、覚えてる……、そのときは撫子は悪くないって思ってた。撫子がこんなことになったのは他の人のせいで、自分は悪くないんだって。でも、今目が覚めて、醒めてきて、月火ちゃんを目の前にしたら、すごく、申し訳ない気持ちになって……」
私は撫子ちゃんを殴った。
境内ににぱんっという音が響いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/08/29(水) 16:10:03.40 ID:X7fCUwnU0<> 「う……い、痛い」
私はペンチを掴んで、撫子ちゃんを押し倒した。
そしてペンチを逆手に持って構える。
彼女を見ると、泣き顔になっている。
可愛い。本当に可愛い泣き顔だった。
でも私は怖かった。
もう彼女を見てしまうと身体勝手に震えだすのだ。
皮膚も筋肉も内蔵も脳もすべてあの忌まわしい出来事を記憶している。
忘れられない物語となって隅々まで染み込んでいる。
「な、撫子を……」
「殺すよ」
言った瞬間、撫子ちゃんは青ざめた。
「い……いやだっ、やだあっ!」
撫子ちゃんは足をじたばたさせて抵抗する。
私達は身長も近いし、私自身力が強いわけじゃないのでマウントポジションが崩れそうになる。
私はペンチを本殿の床に突き刺した。
撫子ちゃんの耳元に触れるか触れないかくらいの位置に。
彼女は怯んで、静かになった。
「こないだお兄ちゃんをぶっ殺すって息巻いてたじゃない。どうしたの。元の撫子ちゃんに戻っちゃったみたいだよ」
「そ、そう、撫子、元に、元の……」
「何都合のいい言い逃れをしようとしてるのよ。さっき自分が言ったこともう忘れちゃった? ひどいことしたの覚えてるんでしょ? 申し訳ない気持ちになったんでしょ?」
私は床からペンチを引き抜き、彼女の顔の前に持ってくる。
「撫子ちゃん、自分は悪くないって思ってたみたいだけれど、どう見たって悪いよ。悪そのものだったよ。悪いことするために生まれてきたんじゃないかっていうくらい映えてたし、生き生きしてたよ。ねえ、私がどう呼ばれてるか知ってるよねえ?」
「…………」
「忘れちゃったの? そこだけ都合よく? 仕方ないから再確認のために教えてあげると、私はファイヤーシスターズの参謀担当にして正義そのものの阿良々木月火だよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 16:30:41.68 ID:X7fCUwnU0<> 「撫子ちゃんに散々、文字通り散々な目にあって私は思ったよ。これこそが化物だって。百害あって一利なし。撫子ちゃんがいるとみんなが迷惑するし困るんだよ。だから、撫子ちゃんにはいなくなってもらう」
「……いやだ」
「そうすればまたみんな楽しく過ごせる。もう誰も不安になる必要はなくなる。撫子ちゃんが消えれば」
「いやだ。いやだ」
「大丈夫だよ。別に撫子ちゃんに仕返ししようっていうんじゃないから。手足を引きちぎったりしないから。すぐに終わらせるから」
私は自分の体験が一瞬フラッシュバックしてくらっとした。
「いやだ。死にたくない。死にたくない。撫子、こんな終わり方したくない。まだ見たいものがあるの。まだやってみたいことがあるんだよ」
首を振りながら言われると少し決意が鈍る。
情状酌量の余地はあるだろうか。
けれど、私は自分が決めたことを優先させることにした。
「残念だね。もう少し早く気づいていれば、撫子ちゃん、そんなふうにならなかったのに。ツケが回ったんだね」
「正義の味方だったら、撫子のことも助けてよ」
撫子ちゃんの瞳から涙がこぼれて頬を伝った。
「私は正義の味方じゃなくて、正義そのものだよ、撫子ちゃん」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage sage<>2012/08/29(水) 16:52:07.99 ID:X7fCUwnU0<> 「正義そのものって、どういうこと?」
撫子ちゃんが訊く。
「その通りの意味だよ。私自身が正義なんだよ」
「じゃあ……月火ちゃんが正義だと思えば、何でも正義になるの? 何を言おうと、何をしようと」
「そうだよ。正義なんて不確かで曖昧なものなんて、私は初めから信じていない。だったら、自分が正しいと信じたことをやるしかないじゃない。それが正義だと思い込むしかないじゃない」
「……おかしいよ」
おかしい?
否、おかしくない。
むしろ正しい。
「暦お兄ちゃんは……一度だって自分のことを正義の味方とか正義そのものだなんて言わなかったよ。撫子から見たらヒーローだったけれど、暦お兄ちゃんはいつも自分から責任を背負いこもうとして、自分が悪い人だって思いこませようとしてるみたいだった。撫子のことだって……助けようとしてくれた」
「そのお兄ちゃんをぶっ殺そうとしていたのはどこの誰だか忘れたのっ!?」
私は撫子ちゃんの胸倉を掴み、目と鼻の先までペンチを突き付ける。
「妹でもないくせに暦お兄ちゃんなんて呼ぶな! お兄ちゃんと話すな! お兄ちゃんに近づくな! お兄ちゃんを見るな! お兄ちゃんを語るな!」
私は興奮から、撫子ちゃんは恐怖から、二人ともはあはあと息を切らしていた。
もういい加減終わらせよう。
このまま続けてもまた私が壊されてしまう。
私は額に狙いを定め、ペンチを振りおろそうとした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 17:12:34.47 ID:X7fCUwnU0<> 「前から思ってたんだけれど」
何、最後の抵抗?
そのままそれが遺言になるけれど。
しかし続く撫子ちゃんの言葉は私の予想に反した。
「月火ちゃん、暦お兄ちゃんのこと好きだよね」
「……好きだよ。兄妹だもん」
「違う。そうじゃない。『私』が言ってるのはそういう意味じゃない」
「はあ?」
「だって、暦お兄ちゃんが好きな私から見てそう思うんだから、そうだよ。月火ちゃんは暦お兄ちゃんのことをお兄ちゃんとして、それ以上に男の人として、性的な意味で好きなんだよね」
「…………」
「今まで誰か突っ込む人はいなかったのかな。いなかったとしたら、それはたぶんみんながそう思いたかったから。私はずっと可愛いだけって言われてきたからわかる。みんな、月火ちゃんのことを『お兄ちゃんが好きな妹』として見ようとしてきた。そうあるべきだし、そう思いたかったから。でも、月火ちゃんの言動を見てればそれが普通の妹のそれじゃないことは、一人っ子の私でもわかるよ」
急に饒舌になって何を言い始めているんだろう?
え?
なに?
「こないだの私が月火ちゃんに前髪を切られた日、言ってたよね。昔は男の子から告白されたら、『お兄ちゃんが好きだらか』って断ってたって」
それは小学生の頃だ。
別に飛びぬけておかしな話じゃないでしょう。
お兄ちゃんは周りの男の子達よりも歳が上だし、断然素敵だし大人だし男に見えていた。
ちょっと憧れていた。
それだけの話だ。
しかし、撫子ちゃんは続ける。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/29(水) 17:37:40.68 ID:X7fCUwnU0<> 「問題はそのあとだよ」
問題?
一体何が問題だっていうのよ。
何か間違っていたっていうの?
何も間違ってなんかいないよ。
「月火ちゃんの彼氏――蝋燭沢くんと付き合い始めた理由が、『お兄ちゃんと呼んでいる男性を好きだなんて言っても、説得力なんて本当は全然ない』って言われたから、だっけ。続けて月火ちゃんは私に暦お兄ちゃんを好きになる十分な理由がないって言ってた。あの時はそのまま聞いてしまったけれど、月火ちゃんは蝋燭沢くんと付き合う理由は教えてくれたけれど、好きになったとは一言も言っていないんだよ」
「……そうだったかな。私は好きだよ」
「誰のことが?」
「…………」
答えが出てこない。
口が石になってしまったみたいだ。
それとも。
それが私の意思なのか。
「月火ちゃんは『ていさい』のために蝋燭沢くんと付き合っているという感じがする。お兄ちゃんを好きになっても説得力なんてないって言われて、それじゃあ他の人っていうふうに聞えるよ。まるで妹っていうキャラを一生懸命演じているみたいだよ」
「私が猫被ってるって言いたいの?」
「そうじゃないけれど。月火ちゃんほど正直な子、私は他に知らないし。だけど、月火ちゃんが『誰を好きなのか』っていうところがすごく曖昧なんだよ。あと、早朝にベッドに潜り込んでお兄ちゃんを抱きしめるとか、たぶん普通の妹のすることじゃないよ」
そんなことない。
火憐ちゃんだってやってる。
普通のこと。
「月火ちゃんは暦お兄ちゃんのことが好きっていう気持ちを封じ込めて、なんでだかわからないけれど妹をやり続けている。そうしないといけないみたいに。でも、暦お兄ちゃんが好きな私にはわかる。月火ちゃんは暦お兄ちゃんが好きなんだよ」
「好きな人はぶっ殺したくなるって言ってたのと同じ口で、よくそんなことが言えるね。私の何がわかるの」
「今の私にはわかる。なんだかいろいろなことがはっきりとわかる」
何を言ってるんだろう。
何を言ってるんだろう。
何を言ってるんだろう。
「私と月火ちゃんは同じなんだよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/29(水) 17:52:55.25 ID:X7fCUwnU0<> 「私を化物のお前と一緒にするなあっ!」
「うぁ……」
私は拳を握って撫子ちゃんを殴りつける。
彼女は可愛い悲鳴をあげて、涙をこぼした。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「げほっ、げほっ……そうだよ、私と月火ちゃんはおんなじなんだよ。私達は暦お兄ちゃんが好き。そして」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!」
ペンチを思い切り振り下ろした。
血が本殿に飛び散り、彼女の顔もペンチも赤くなった。
「ほら、こないだみたいに私を痛めつけてみなよ! 化物でしょ!」
「もう……」
首を振りながら言う撫子ちゃん。
止めてほしいということか。
しかし、またも彼女は思ってもみないことを言う。
「もう、化物じゃない。神様じゃない」
「は?」
「大人の男の人に騙されて、神様じゃ、なくなった」
息も絶え絶えで言葉もうまく話せなくなってきていた。
「月火ちゃん、怖がらないで、いいよ」
「私は化物なんか怖く……」
「自分を」
撫子ちゃんは言った。
自分を怖がらなくていい。
そう言った。
「きっと、何か、怪異が憑いてるんだと、思う。暦お兄ちゃんに、相談すれば、きっと、助けてもらえる」
私みたいに。
そう続けた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/29(水) 18:07:40.27 ID:X7fCUwnU0<> 私は鋏を自分の手にとって、首筋を一気に切り裂いた。
血のシャワーが吹き出て、辺りをまた赤く染め上げた。
「ほら、見てよ。ここ頸動脈だよ。こんなに血が出てるよ。それでも死なないんだよ。おかしいよ」
おかしくて、笑いが止まらない。
怪しくて、異なる私は自分がおかしくてたまらない。
「今から、撫子ちゃんも死なないかどうか試してあげる。神様じゃなくなったって嘘ついてるかもしれないもんね」
疑ってかかることだ。
でなければ致命的なことになりかねない。
「……家に、帰りたかったなあ」
撫子ちゃんは呟いた。
相変わらず泣き続けている。
泣き虫の撫子ちゃん。
「帰って久々にお父さんとお母さんに会いたかったなあ。あの漫画読み直したかったなあ。夏休みにやる映画楽しみだったなあ。新しく始まったプリキュアが観たかったなあ。クラスがどうなったのか一回見てみたかったなあ。お金もたくさん貰ったから、今まで買えなかったものを買ってみたかったなあ。それからそれから」
「さようなら」
撫子ちゃんはまだ何かぶつぶつ言っていたけれど、限がないので私が決着をつけることにした。
撫子ちゃんが最後に呟いたのはお兄ちゃんの名前だった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2012/08/29(水) 22:40:33.42 ID:IjuQgVGS0<> 乙!
しかし何という所で切るのか……続きに期待せざるを得ない。
楽しみに待ってます。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/08/29(水) 23:11:30.22 ID:cP/9Tviio<> 乙です!
月火ちゃんこえー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/30(木) 15:12:03.32 ID:e2FgM72n0<> 日が沈む頃、私は火憐ちゃんを神社に呼び出した。
電話をかけてから十分後、火憐ちゃんは「たったったっ」という足音と共にやってきた。
栂の木二中の制服を着ていた。
下校途中だったのかもしれない。
「お待たせー」
にかっと笑いながら到着。
「火憐ちゃん。私が困っていたら手を貸してくれるってこないだ言ってたよね」
「おう。女に二言はねえ、そして約束は守る女があたしだ」
Vサインをする火憐ちゃん。
頼もしい限りだ。
「それで? あたしの手を貸りて何をするんだ?」
「これを埋めたいの」
私はそれを指差して言った。
それは青いビニールシートで包まれ、ロープでぐるぐるに縛り付けられている。
隙間を埋めるように所々ガムテープを張ってある。
大きさにして、ちょうど小柄な人、女性一人くらいの大きさだ。
「なにこれ?」
火憐ちゃんが訊ねた。
「私の黒歴史」
私はそう答えた。
「恥ずかしいから埋めて隠すんだよ。梱包できたんだけれど、土を掘り返すのは体力的に私一人じゃどうも無理そうだからね。そこで火憐ちゃんの手を貸してほしいっていうわけ」
「ふーん」
「…………」
「そっかー! うんうん、恥ずかしいものは埋めて隠すのが一番だよなー。わかるぜ、あたしも小学生のときに『将来の夢は兄ちゃんのお嫁さんになることです』って書いた作文を家の庭に埋めたもんだ。懐かしいな……。よしよし、わかったぜ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/30(木) 15:32:02.85 ID:e2FgM72n0<> 私は予め用意しておいたスコップで火憐ちゃんと一緒に穴を掘った。
境内から少し離れたところ、なるべく人目がつかないような所を選んだ。
火憐ちゃんはさすがというか、ものすごいペースで地面を掘っていき、私の予想した時間よりも早くそれは済んでしまった。
私はその前に一人であのビニールシートで包む作業なんかをしていたから疲弊していたっていうのもある。
深さおよそ三メートルほどの穴ができた。
私と火憐ちゃんはビニールシートを傍まで引っぱって行った。
「月火ちゃん。これけっこう重いけれど、中身は何なんだ?」
「それを言っちゃあしょうがないでしょ。黒歴史なんだから」
「あ、そっか……、あれ? このシート、血みたいのが付いてる」
火憐ちゃんは屈んでそこの部分を撫でた。
指先がちょっと赤くなって、匂いを嗅いだりした。
「みたいのじゃなくて、これ血だな」
私の方を見ながら言う火憐ちゃん。
私はこう返した。
「さっき作業してたとき手足を切っちゃってさ。そのときに付いたのかもしれないね」
「なるほどー。ああ、そういえば月火ちゃん、ここんとこ、首んとこ、赤くなってるぜ」
「本当? さっき拭いたんだけどなー」
「切ったって、深くやっちゃってないか?」
心配顔になって私を窺う火憐ちゃん。
首や腕を手に取って確認する。
「大丈夫だよ。ほら、私が怪我に強いの、知ってるでしょ?」
「……ああ、そうだったな」
声が暗くなった。
いつかの記憶が甦ったのかもしれない。
私が黒歴史とするべき、あの小学生のときの落下事件を。
この穴に埋めるべきなのはあの記憶なのかもしれない。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/30(木) 15:53:06.27 ID:e2FgM72n0<> 「さて、続きやろうぜ」
伸びをしたあと、火憐ちゃんはビニールシートの端を持ち、私に反対側を持つように言う。
そして、せーのっ、で持ち上げ……。
「なあ。これ、埋めちまう前に中の確認しない?」
突然、意地悪そうな顔をして火憐ちゃんが言った。
「え?」
「いや、月火ちゃんが隠したいものって気になるからよー。最後だしちょっとくらいだめ?」
「い、いや、本当に見られたら恥ずかしいんだよ。いくら火憐ちゃんでも……」
「なんかまるで死体みてーだしさー。どれ、ちょっくら拝見」
「火憐ちゃん!」
止めようとするが間に合わず、火憐ちゃんはガムテープを外し、緩んだところからビニールシートをこじ開けた。
「ん〜? これ……、月火ちゃん、これって」
私は火憐ちゃんに体当たりをしてどかせた。
開いてしまったビニールシート無理やり閉じた。
そのせいでガムテープが千切れ、そこから中身が少し見えてしまった。
「あ、ああ……」
「月火ちゃん」
「やっぱり他人なんか頼っちゃ駄目だったんだ。一人で全部やらないと。一人で全部始末しないと」
「その中身……」
「だ、だって! 仕方なかったんだよ! こうする以外に方法がなかったんだよ! そうしないとお兄ちゃんが……、ねえ火憐ちゃん、火憐ちゃんならわかってくれるよね? お兄ちゃんが助かる方法があるならどんな手段でも実行するべきだよね?」
火憐ちゃんは私の両肩を抱きしめる。
触れられて私は自分が震えていることに気づいた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/30(木) 16:30:31.95 ID:e2FgM72n0<> 「正直あたしにはよくわかんねー。でも月火ちゃんがそんなに震えているならあたしには十分な理由になるんだ。あたしは月火ちゃんの味方だ。月火ちゃんが『こんなこと』したって責めたりはしない」
私の目を見据えて火憐ちゃんは言う。
全身の力が抜けてしまったようだった。
それを見て、火憐ちゃんは残りは全部自分がやると言って、作業に移った。
ビニールシートはガムテープで補強し、穴の底に放り込まれた。
掘り出して山になっていた土を再びそこへ戻した。
私はテレビでも見ているみたいにその光景を見つめていた。
全てが済むと、火憐ちゃんは、
「勝手に中見て、ごめん」
と謝った。
私は首を振った。
謝るべきなのは私の方なのに。
火憐ちゃんを巻き込んではいけないとわかっているのに。
私はとても恥ずかしくなっていた。
今日そのものを黒歴史にしてしまいたかった。
「……なあ、月火ちゃんよ」
帰路で火憐ちゃんはこう話し始めた。
お姉ちゃんらしい優しい声だった。
「あたしは正義の味方で、それ以上に兄ちゃんの、そして月火ちゃんの味方だ。あたしと違って二人とも頭いいし」
まるで自分がそうでないみたいな言い方をする。
「だからあたしは二人を信じてるし、たとえ悪いことをしたとしてもそれを一緒に背負ってやるくらいの度量はあるつもりだぜ。家族なんだしよ。ま、むかついたときは殴るけどな」
「殴るんだ」
「蹴りもするし、頭も使う」
「頭を使ってそうな台詞じゃないけれど」
「頭といってもヘッドバッドだ」
自分の額を指しながら火憐ちゃんは言った。
「だからよ、今日の月火ちゃんのしたことは間違ってないと思うぜ。たぶん兄ちゃんもそう言うと思う」
「…………」
考える。
今日私がしたことによって、お兄ちゃんの命の危険は回避された。
もしかしたらそれ以上のことも。
「火憐ちゃん、今日のことは内緒だからね」
「おう。妹の恥ずかしい秘密をばらす姉がいるわけないだろう」
私は、正しいことをしたんだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage <>2012/08/30(木) 16:51:31.74 ID:e2FgM72n0<> 家に帰ると二人とも泥だらけだったから、一緒にお風呂に入った。
湯上りにリビングでぼーっとしているとお兄ちゃんが入ってきて、
「ご苦労さん」
と、一言だけ残し、また自室に戻って行った。
そして閃きがあった。
瞬く間ほどの瞬間、それが頭に浮かんだ。
今日のことがなければ今のようにお兄ちゃんが私に声をかけることも叶わなかったに違いない。
私は今になって誇らしい気分になっていた。
お兄ちゃんを守ることができた。
なんてことだ。
なんてことだ。
なんてことだ!
正義なんてあやふやなもの、半信半疑でここまで生きてきたけれど。
これは最高の見返りじゃないか。
日常を守り、秩序を保ち、危険を防ぎ、最悪を退ける。
これが正義なのか。
こんなに気持ちがいいものなのか。
自己満足だろうなんだろうと言われても構うものか。
こんなに素晴らしいことの他に何があるっていうんだ。
私は天職を見つけたようだ。
これが私のするべきことなんだ。
私の持てる力、それを有効に使い、尚且つ世のため人のためになること。
今頃気づくなんて私は間抜けだ。
間抜けにも程がある。
でも、これからは違う。
私は正義だ。
正義そのものだ。
私が許されざる者を裁く、正義の名であるのだ。
そうか、そうか、そうか、そうか。
私がこんな理不尽な身体で生まれてきたのは、そういう理由だったんだ。
私は神様なんて信じていないけれど。
自分自身がこのような道を辿ることになった運命に感謝したい気持ちだった。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/08/30(木) 18:30:06.32 ID:wPkalpVSo<> 順調に狂ってきてるな wktk <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)<>sage<>2012/08/31(金) 02:55:36.20 ID:OSF8l/2AO<> 更新来てたのか!乙
だんだんみんな狂ってく…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<><>2012/08/31(金) 18:52:39.22 ID:swy3yqDAO<> ひぐらし <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/09/01(土) 04:00:01.52 ID:h8HRxuQAO<> あれ?撫子が可哀想に思えてきた不思議 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)<>sage<>2012/09/01(土) 17:35:42.33 ID:4TcJ/sBv0<> これは・・・
期待 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/01(土) 21:03:29.33 ID:IuVxW7Eho<> 早く続き読みたい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)<>sage<>2012/09/02(日) 11:10:20.66 ID:jeqM1umXo<> 乙乙!
ニヤニヤが止まらない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/09/17(月) 15:46:47.85 ID:VPFnxxkko<> オムライス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)<><>2012/10/01(月) 05:07:09.30 ID:VftywPJ80<> 続きはまだか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)<>sage<>2012/10/03(水) 21:05:52.87 ID:t/mvOf4AO<> 待っとるよー <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/07(日) 14:57:02.75 ID:UJotALJgo<> 俺も待ってる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)<>sage<>2012/10/09(火) 01:54:24.76 ID:zrIFABzAO<> はよはよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/10/11(木) 22:33:50.96 ID:0DisDu+M0<> 毎日確認して待ってるよ
早くきてくれ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)<>sage<>2012/10/12(金) 00:08:24.41 ID:7qhCA1Pa0<> 薄気味悪くて良い酔い <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/10/15(月) 23:37:43.44 ID:K+27HSiXo<> はよ
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<><>2012/10/16(火) 19:26:07.25 ID:jBBm+/oa0<> 続きは......まだなのか?
か <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<><>2012/10/16(火) 23:35:47.79 ID:S3koBWQB0<> はよ来てくれい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/17(水) 07:48:08.28 ID:bX8dU/zc0<> 半年以上前からこんなに面白いのがあったとは知らなかった。
読んでて作者風の言い回しが上手いという印象だったが、
後半は・・・菊地秀行さんぽくなってた
続きを正座して待ってます。
C <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage saga<>2012/10/18(木) 08:25:22.84 ID:25WGLEX+0<> あげんな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/10/18(木) 21:28:14.24 ID:4XCahFJVo<> 乙支援
良い陶酔 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/19(金) 03:39:23.19 ID:I+GesHEd0<> 続きが気になるでありんす <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 16:27:47.94 ID:5Bo8w9TE0<> 四月五日。教室。私。
「五日」は「いつか」と読むから、平仮名にするとなんだか曖昧な響きだ。
本当は今っていつなんだろう?
何がなんだかわからなくなってくる。
ここはどこ?
わたしは誰?
見回すとここはやっぱり教室だった。
時計の針は十二と六を指しているからお昼だ。
目の前には数人の友達、数人分の机、数人分のお弁当。
「月火ちゃん」と呼ばれる私。
私は月火ちゃん。
私、阿良々木月火はお昼休みには友達と教室でご飯を食べる。
たぶん隣の教室でも似たような光景なんだろうし、職員室もたぶんそうだろうし、火憐ちゃんのいる校舎もきっとそうなんだろう。
ここが私の日常。
私の生きる世界。
「月火ちゃん!」
声をかけられた。
大きい声で、しかも焦りが感じられた。
ドアの方を見ると去年まで同じクラスだった女の子が立っていた。
彼女は他のクラスということもあり躊躇いながら教室に入ってきた。
それだけ急な要件なのだろう。
私の傍まで来ると他の子達には聞えないように耳打ちした。
「ん。わかった。みんな、ごめん。ちょっといってくるね」
私は席を立ち、彼女に先導してもらう。
一緒にご飯を食べていた友達は特に何も言わなかった。
よくあることだから。
慣れっこなのだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 16:51:24.53 ID:5Bo8w9TE0<> 私が連れていかれたのは女子トイレだった。
ここに来るまでに先導してもらった子から話の流れは聞いていた。
彼女はとにかく慌てていて汗なんかもすごいことになっていたので「漫画のキャラみたいだなー」なんて思った。
ちょっと萌えたりしてた。
なので私は頭の中で彼女に「萌ちゃん」とあだ名を付けた。
私は「萌ちゃんに」中には自分一人で行くから教室に戻っていいと言った。
「萌ちゃん」は気が引けるようだったけれど、結局教室に帰って行った。
彼女はただの善意ある匿名の通報だったのだ。
これから起きることに巻き込まれたくないのは当然、誰だって自分はかわいい。
たとえ萌える「萌ちゃん」でも。
女子トイレに入ると数人のグループが一人を囲っていた。
もちろんみんな女子(一応言っておくけどね)。
こちらからはグループの子達の背中しか見えないが、真ん中に立つ子が「盛ってんじゃねーよ」とか「色気づいてんじゃねーよ」とか「身の程弁えろよ」とか言っていた。
唯一顔を覗かせる子は、つまり「盛って、色気づいて、身の程を弁えていない」という子は頭がずぶ濡れだった。
黒くて長い髪はわかめみたいになっていた。
普段だったらつやつやのキューティクルが拝めたかもなんて想像した。
私がずんずん中に入って行くとグループの一人が気づいて「やべー」みたいな顔になった。
そして、真ん中の子も彼女に釣られる感じで振りかえり私を認識した。
「あ。月火ちゃ」
ん、と言い切る前に平手打ちをかました。
ぱちんっという音が女子トイレに響いた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 17:18:39.51 ID:5Bo8w9TE0<> しばらく間を置いてから真ん中に立っていた子(この子は真中(まなか)ちゃんと名付けよう)は、
「いってーな、何すん」
と私に噛みつかんばかりだった。
だから私はまた平手打ちを喰らわせた。
「まっ」と何か言おうとしたところを(「またやったな!」かな?)さらにぶった。
真中ちゃんは鬼のような形相で私を睨む。
ずぶ濡れキューティクルちゃん(この子は濡れ女。前にお兄ちゃんとそんな妖怪の話をした気がする)は黙っていた。
「一人相手に数人で追い詰めるとか新撰組みたい、今時流行らないよ」
「てめーに言われたくねーんだよ」
私と火憐ちゃんが昔起こしたある事が「池田屋事件」と呼ばれているのでそれを指しているのだろう。
「えーと。好きな男子がこの子と仲良しなのが気に入らなかったんだっけ? 又聞きだけれど。でも、やりすぎじゃないかな。この子、ずぶ濡れじゃん。午後も授業あるのに。こんな姿で出ろっていうの?」
「関係ねーだろ」
「関係するよ」
私は真中ちゃんの目と鼻の先まで近づく。
「……うるせーな! 正義の味方ぶってんじゃねーよ! ああ? 兄貴の七光で偉そうにしやがって!」
「は?」
「ブラコンビッチ!」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 17:39:18.05 ID:5Bo8w9TE0<> 私は真中ちゃんの髪の毛を掴みトイレのタイル壁に叩きつけていた。
そのまま洗面所まで引っぱっていく。
私は今年になってから身長が伸びて、女子の中でも高い方になっていた。
だから彼女を振り回すのくらい、簡単簡単。
蛇口を全開まで捻った。
水がどばどばと勢いよく出てきた。
そして、真中ちゃんの頭をそこへ突っ込んだ。
手足をじたばたさせて抵抗するので、私は両手で抑えつけた。
ああ、こんな弱い力でやってちゃあ息ができるかもしれない。
私はぐっと、もっと、さらに力を込めた。
「ぶっ、がはっ、はっ、がふっ、つべたっ、だっ!」
「えー何ー? 聞えなーい」
何語だよてめー。
日本語話せよ。
国語の授業さぼってんじゃねーぞ。
私はちょっとすっきりしたので(冷水だけに)、真中ちゃんを解放した。
鬼のような形相だった彼女も濡れ女になっていた。
洗面所の縁に手を着いて、はぁはぁ息をしながら恨めしそうに私を睨んでいた。
「ねえ。お昼休み終わっちゃうよ。みんなはご飯食べたの?」
と、私は取り巻きの子達に聞かせるように言う。
もちろん真中ちゃんに隙を見せないために振りかえらない。
後ろでそそくさとトイレを後にする気配があった。
あらら。
やっぱりただの付き添いだったんだね。
自分たちの薄情さを白状するようなものだった。
こうして女子トイレには三人が残った。
「あ、阿良々木さん」
濡れ女が私を初めて呼んだ。
彼女を見るとびくっと体を震わせた。
確か一度か二度話したことがある。
でも、なんだろう、この態度、風貌、声の感じ。
すっごく誰かに似ていた。
「月火ちゃん」
彼女が今度は私を名前で呼んだ。
四月五日。
女子トイレ。
私、阿良々木月火は中学三年生をやっていた。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 18:10:33.78 ID:5Bo8w9TE0<> 私は二人の濡れ女を保健室に連れて行った。
彼女達も事を大きくしたくないだろうし、私もそう思ったのでトイレでメイクしてたら滑って転んで便器に頭から突っ込んだということにした。
苦しい言い訳だとは思ったけれども、便器に頭を突っ込むという辺り女子的に苦しいとは思ったけれども、保健室の先生はそれで了解してくれた。
真中ちゃんの額に出来た傷も不問だった。
だって滑って転んで壁タイルにぶつけたんだもん。
トイレの壁にはけっこう血が付いていたけれど、彼女自身はほとんど水で落ちてしまっていた。
先生は絆創膏を貼って、すぐに塞がるとアバウトな処置とコメントを施した。
私は恋愛で悩んでることがあったら自分に相談して、と言った。
二人は「うん」と言って、とりあえず一件落着に見えた。
目は合わせてもらえなかったけど。
そして下校。
時計は四時を回っていた。
今日はあと八時間でお終いなんだなー。
でも、十二字時を跨げば直ぐに次の日がやってくる。
今日が死んで、明日が生まれる。
この先もそれの繰り返し繰り返し繰り返し……。
どうでもいいけど。
早く終わらないかな。
私が大きな古時計の歌とか、時計に気持ちはあるんだろうかとか考えているとアイフォンが鳴った。
電話だ。
「もしもし」
「やあ、つきちゃん! 私だよ」
忍野扇からだった。
あの私の同級生野郎。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 18:47:15.13 ID:5Bo8w9TE0<> 「昼休みの件は聞いたよ。今回も見事な大岡裁きだったねー」
「…………」
「水ぶっかけられたんでしょ、あの地味な子? それに対して水責めだもんね。目には目を、歯には歯を、水には水をだねえ。あ、その前にビンタもしたんだっけ。ひえー、女子って怖いなあ」
「扇ちゃんも女子じゃ……」
あれ?
「何言ってるの、つきちゃん。僕はれっきとした男子生徒だよ。ちゃんと覚えておいてよー」
「あ、うん」
そうだそうだ。
私、何勘違いしてるんだろう。
なんで勘違いしてたんだろう。
扇くんが女子生徒だなんて。
「そして、僕達は付き合ってるんだよー」
「それはない」
ねーよ。
付き合ってたまるか。
「きっぱりだなー。ばっさりだなー」
「うるさいな。何の用?」
「おい、待てよ。話を切りかえるな。つきちゃんは僕と付き合いたくないの?」
「その話題を続けたら[ピーーー]ぞ」
「わかったよ……、これには僕も素直に傷ついたぜ」
ぶつぶつと呟く扇くん。
受話器越しのせいか濁って聞えた。
濁っているというか禍々しいというか。
もしかしてそれはこの先の展開を予期したせいでそう聞えたのか。
でもそれは今だからこそ思う。
そう思えてしまう。
なぜならば、扇くんが続けたのはこんな台詞だったから。
「『悪魔翌様』って知ってる?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/10/19(金) 19:29:05.10 ID:5Bo8w9TE0<> 悪魔翌翌翌様→悪魔翌様
ひどい誤字だな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)<>sage<>2012/10/19(金) 19:46:16.45 ID:0m/JT8nSo<> sagaって入れないと・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/10/19(金) 20:26:41.27 ID:KUEeDSa10<> こんな感じでね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/10/20(土) 13:28:14.70 ID:X9gOJIZk0<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/21(日) 10:20:14.78 ID:rOaEX1RIO<> 通りすがりですまんが、千石は月火ちゃんをららちゃんと呼び、月火ちゃんは千石をせんちゃんと呼ぶんだぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2012/10/21(日) 12:00:24.49 ID:7djk/UNH0<> >>294
それはアニメ、というか再会以前という設定。
原作の囮物語で、その呼び名は幼稚過ぎる感じがするってことで下の名前で呼ぶようになったと明らかにされている。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/10/22(月) 02:25:21.64 ID:LT6M2GfCo<> しったか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/10/22(月) 14:04:29.29 ID:Zeu4VsD4o<> この呼び方論争って定期的に来るよね
中途半端に知ったやつが口を出しても恥かくだけなのに <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/23(火) 16:17:47.11 ID:rV0ZvZpd0<> 私は毎日のように相談を受ける。
ほとんどが同年代の友達からで、たまに先輩や後輩からも話を聞く。
昼間の仲裁も含めて、その内容は人間関係から成績のことまで様々だ。
一言で言ってしまえば皆が持ちかけてくるのは不安だ。
不安というより障害といった方がいいだろうか。
そう、障害物競争で例えると、得手不得手に関わらず、ハードルに足を引っ掛けてしまった瞬間、何か嫌な感じがするだろう。
今日という日を快適に過ごすはずが、ちょっとした躓いたせいで台無しになる。
そんな気分になる。
もしそれが次の日、次の週、次の月、次の年まで持ち越していたら堪らない。
だからそれを解消したい。
心の中の引っ掛かりを取り除きたい。
皆が抱える不安はたぶんこういう感じ。
そして、私に相談する。
で、私は何をするのかというとそれを解決しに行く。
探偵が事件を解決するように。
別に私だって機械とか装置じゃあないから皆に都合のいい奴扱いされるのはごめんだ。
でも、私はそうせずにはいられない。
いてもたってもいられない。
だって、私は正義そのもの。
私自身が正しいと思ったことを実行していかなくちゃ。
「最近町で噂になってるよ。『悪魔様』に相談すれば何でも解決してくれるって」
私は扇くんが言っていたことを思い出していた。
「『悪魔様』ねえ」
この手の名前にしては、なんだか過剰だな、と私は思った。
ああ、でもサタン様とか言うし、そんなことないのかな。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/23(火) 16:34:03.69 ID:rV0ZvZpd0<> 「そう、『悪魔様』。ところで、破岩掌って言ってみてくれない?」
「やだ」
鉄拳制裁!
しかし、相手は電話の向こうだった。
独白を読まないでほしい。
「何なのそれ。黒ミサ同好会とかが始めた活動か何かなの?」
仮面ライダーフォーゼに出てくるみたいの。
「いやいや。さっき説明した通りだよ。その『悪魔様』に悩みを相談すると何でも解決してくれるって話さ」
胡散臭い……。
「何でも解決」っていう言葉がある時点で信用できない。
何でも出来るとか、何でも知っているとか、そういうことを言う人が一番危ない。
まあ、今回の場合は人じゃあないのかな。
「うーん、聞く限りではどうも人間の女の子がやっているらしいよ。高校生くらいだって」
「やっぱり黒ミサ、いや、中二病とかじゃないの?」
「あくまで噂だからさー、悪魔だけに。僕も聞いただけで会ったことはないし」
「……で、私にどうしてそんな噂話をするわけ?」
「情報通の扇ちゃ……おっと、扇くんとしてはいち早くつきちゃんのお耳に入れておこうと思ってね。それに、なんだか似てるなーと思ったんだよ」
「似てる?」
「月火ちゃんに」
扇くんは私をあだ名ではなく名前で呼んだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/23(火) 16:54:40.59 ID:rV0ZvZpd0<> 扇くんが集めてきた情報によれば『悪魔様』の人物像はかなり曖昧だった。
どこで会えるのか。
実際相談した人はいるのか。
その辺りもよく分からなかった。
それにいろんなヴァージョンの『悪魔様』が巡っているらしく、まあ噂話だから仕方ないとはいえ、かなりいい加減だった。
かろうじて特定の地名が彼の口から出てきたので、私はとりあえずそこへ向かった。
そこは更地だった。
かつてはビルが建っていたようだが、既に跡形もなかった。
「去年火事があった場所らしくてねー。夕方以降は人通りも少ないし、密会としては確かに適所だね」
と、扇くんは言っていたが。
人通りどころか、何もない。
空っぽって感じだった。
エアポケットというか。
こんなときに例えが特撮映画で申し訳ないけれど、平成シリーズのゴジラで一瞬だけ登場した第二の脳があるっていう設定みたいにどうでもいい箇所という印象だった。
いや、映画本編では重要な部分だけどその後のシリーズでは特に引き継がれた記憶はないし。
あまり居心地の良い場所じゃあないな。
決まりが悪い。
だいたい日も沈むというのに、どうして私はこんな所に来てしまったんだろう。
別に扇くんに何か相談されたわけでもないのに。
いや、何か引っかかることを彼は確か言っていた。
そうだ。
「なんだか似てるなーと思ったんだよ」
月火ちゃんに。
あの同級生野郎はそう言ったのだ。
私に似た人がここにいるらしい。
ここへ私を向かわせた動機は、それを確認したいという気持ちだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/23(火) 17:26:27.40 ID:rV0ZvZpd0<> 同属嫌悪という言葉がある。
文字通り自分と同じタイプの人を嫌うというあれだ。
共感とか共有っていうと良いイメージがあるけれど、他人の振る舞いに自分の中の嫌いな部分を見つけた瞬間、それは憎悪になる。
自分の中の嫌な部分を見せつけられているようで、恥ずかしくなる。
やめろ、やめろ、やめろ。
だから同属を嫌悪する。
他人の振り見て他人の振り直せ。
私がここへ来て、私のそっくりさんを確認したかった。
今の話に倣えば、会えばきっと嫌な思いをすることになるんだろうけれど。
でも、私の中で何かが引っ掛かっていた。
『悪魔様』は相談を受け、そして解決するという。
私はもしかして相談するつもりなのだろうか。
不安を抱えているのだろうか。
何に?
「…………」
私はびくりと身体を震わせた。
更地に、一匹の蛇がいたからだ。
蛇は舌をチロチロ出しながら、音もなく這っていた。
真っ白だった。
どこかでこんな種類の蛇を見たな。
こっちに近づいてくるので、私は身体が石になったように固まり、動けなくなった。
怖かった。
「う……」
蛇は私に接近すると、少し後退し、また近づくというのを繰り返した。
それからとぐろ状になって、じっと私の方を見た。
そういえば、蛇は悪魔の化身なんだっけ。
アダムとイヴを誑かして知恵の実を食べさせた張本人。
もしかして、私は『悪魔様』に会えたのかもしれなかった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/29(月) 15:35:19.48 ID:tHMOmv1w0<> 出遭った蛇が変身、バスタードに出てくるキャラみたいにすり寄って来て私をしきりに誘惑、そして世界の存亡を懸けた戦いが始まり、天が裂け、地が裂け、ついには地球いや宇宙そのものが圧縮粉砕されようとしたその時、お兄ちゃんがインフレを振りきったパワーを全開、ここからさらに十年に亘る物語が展開された。
ということはなく。
私は白蛇を見て「きもちわるっ」と感想を抱き、そそくさと家に帰った。
だって気持ち悪かったんだもん。
真っ白のライオンの画像をインターネットで見たことがあるけれど、あの蛇もその類だったんだろうか。
だとしたら珍しい動物が見られてラッキーだったのかも。
誰かに教えたいけど、この狭い町じゃあすぐに噂が広まって捕まえられてしまうだろうな。
捕獲されて、報道されて、見世物にされちゃうんだろうな。
世間に晒された珍種はそういう運命なんだ。
なんだかヘビーな話になってきたな、蛇だけに。
兎に角、私はあの蛇を誰にも教えないことに決めた。
白い蛇は秘密中の秘密、トップシークレットです。
私は何にも見てません。
そんな風に白々しくなってやる。
あれは私しか知らないことになる。
そういえば、白い蛇の昔話があったっけ。
蛇が人間の女性に化けて、ある男性に嫁ぐとか、そんな内容だったような。
鶴の恩返しみたいなもんなのかな。
ということは、蛇は悪魔であると同時に、女でもあるわけか。
あれ、じゃあ悪魔は女ってイコールで繋がっちゃう?
いやいや。
いやいやいや。
悪女とか魔女っていうのもいるけど、まさかそんな、ねえ。
でも、悪魔から知恵の実を貰い、先に食べたのは確か女のイヴだった。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/29(月) 16:02:37.61 ID:tHMOmv1w0<> 「ただいまー」
「おかえりー」
玄関を開けると同時に、今まさにローファーを脱ごうとしている火憐ちゃんに迎えられた。
制服を着ているから、ちょうど帰宅時間が重なったみたいだ。
火憐ちゃんが着ているのは栂の木二中じゃなくて、栂の木高校の制服。
今年の春から高校生になったからだ。
私達は私立の学校に通っていて、中学から高校まではエスカレーター式になっている。
受験もない。
お兄ちゃんはこないだまで受験に勤しんでいたけれど、なんだろう、ある意味それは分かりやすい節目になっていて、「ああ、これから高校生じゃなくなるんだな」って私は感じていた。
でも火憐ちゃんはいつも通りだった。
不変で普遍の火憐ちゃんだった。
だから同じ校舎に通わなくなって、火憐ちゃんがいなくなったみたいだった。
それに、ファイヤーシスターズも解散したし。
とはいっても火憐ちゃんが中学生の資格を持つ三月三十一日までは活動をし、その日を以ってソロ活動となった。
解散の理由は私はロックがやりたいのに火憐ちゃんはラップがやりたいから喧嘩になったから。
そんな話があった方が面白いとは思うのだけれど、私達はバンドをやっていなかった。
節目。
線引き
中学生から高校生。
実際はそれだけだ。
解散の日にはお兄ちゃん、それと友達を巻き込んでちょっと騒ぎになったんだけれど、今はもう何年も前のことみたいだ。
これが歳をとるってことなのかなあ。
「月火ちゃん、歳とったな」
「え……」
「あ、間違えた。これからとるんだ。今月誕生日だろ?」
「あ、うん。そうだね」
間違えたって。
文法とかそれ以前だよ。
火憐ちゃんに高校受験がなくて本当によかった。
独白を読まれたみたいでドキッとしたし。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/29(月) 16:28:45.44 ID:tHMOmv1w0<> 「誕生日かー。今年で十五だろ? 四捨五入したら二十歳じゃねえか。今までは四捨五入しても十歳だったのによー。大人への第一歩だな。大人の階段昇っちゃうわけだな」
久しぶりに会った親戚のおじさんみたいなこと言ってる……。
子供みたいに頭をぽんぽん叩かないでほしい。
身長がとうとう百八十センチを超え、今も変わらず伸び続けている火憐ちゃんからそういうことをされると本当に子供扱いされている気分になる。
私も去年の今頃より十センチくらいは伸びているんだけど。
「火憐ちゃんだってまだ十五歳でしょ。私達年子だから同い年になるんだよ」
火憐ちゃんにお姉ちゃんぶられるとなんか悔しいので反撃に出た。
「ふふん。あたしの誕生日は六月! つまり、あたしはすぐに! 十六歳になるんだなあ、これが。なっはっはっは」
変なポーズを決める火憐ちゃん。
バァアアアァァァーーン!
みたいな。
「十六歳ねえ」
「うん。十六歳だぜ。シックスティーンだぜ。シックスセンスだぜ」
「第六感なの?」
十六歳になると同時に眠っていた力が目覚めるんだろうか。
かっこいいけど、火憐ちゃんは既に地球人最強だと思うのでこれ以上はパワーバランスに支障をきたすなあ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/10/29(月) 16:54:20.10 ID:tHMOmv1w0<> 「第六感って何?」
と火憐ちゃんが訊いてきた。
わからないで言ってたのか……。
「うーん、霊感とか直感とか、まあ超能力だよ」
「ふーん。霊感ねー。ま、あたしには関係なさそうだな」
「十六歳になるとシックスセンスなんじゃなかったの?」
「ナンセンスです」
らしい。
いや、本当はそれが言いたいだけでしょ。
「でも、霊感とかはわかんねーけど、超能力にはちょっと興味あるな」
「へー、意外。肉体派の火憐ちゃんが超能力に興味があるなんて」
「超能力っていうか、波紋とかスタンドとか使ってみたい」
「それは私もあるあるー。ハーヴェストとか欲しいー」
「こないだまでラブ・デラックス使えそうだったけどな、月火ちゃん」
と私の髪を指して言う火憐ちゃん。
私が床に届くほど髪を伸ばしていたので、それのことを言っているのだろう。
ちょっとした願掛けのつもりだったんだけれど、それはもう終わったので切りました。
漫画のキャラみたいなヘアスタイルにならざるを得なくてそれはそれで面白いけど、すっごく維持が大変だったのでもうやんない。
「火憐ちゃんは何のスタンド使いたいの?」
「んー。名前忘れちゃったけど、あの心読めるやつかな」
「またまた意外だなー。てっきりスタープラチナかと」
ラッシュとかすごく火憐ちゃんのキャラに合ってるのに。
火憐ちゃんはそのセレクトの理由を教えてくれた。
その理由も意外なものだった
「人の気持ちがわかったら、善い人間になれると思わない?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/30(火) 11:42:36.36 ID:JZr9ZQVDo<> おつ! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/10/30(火) 19:27:55.28 ID:S+FHaSvvo<> 月火ちゃんの心が読めてしまった日には
死亡フラグとしか <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)<>sage<>2012/10/31(水) 21:57:01.02 ID:ZWNEkOcAO<> おつ
火憐ちゃんは相変わらず天使やでぇ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/02(金) 16:48:02.57 ID:UgTW4nNh0<> 「人の気持ちがわかったら、善い人間になれる、ってよくわかんないなー」
話は私達の部屋に入っても続いた。
人の心が読めたら。
人の気持ちがわかったら。
きっと善良になれる。
火憐ちゃんはそう言うのだ。
「困ってるやつを見たら助けたくなるのが人情ってもんだろう? 例えば、バスの中で気分が悪くなっているやつを見たとき、テストの日に消しゴムを忘れたやつを見たとき、手を貸してやりたくなるだろう。どうして助けたくなるのか? 感情移入するからだ。自分が同じ立場だったら……って想像するからだ。つまり同情するんだな」
ブラウスを脱ぎながら火憐ちゃんは解説する。
「でもよ、そういう人達はまだいいよ。問題は、本当は助けを求めているのに声に出せないやつがいるってことだ。普段あたし達が気づいていないだけで、本当に救われなきゃいけないのはそういう人達なんだ。だからそいつらの心の声が聞けたら、何かしてやれるかもしれないだろ」
いつになく真剣な語りだった。
普段、真面目なお喋りがないわけじゃあないけれど、こんなにマジな火憐ちゃんは初めてだった。
「火憐ちゃんの『困っている人を助けたい』って気持ちは分かったよ。でもさ、そこまでして、その人が表に出さない部分まで見通して、救う必要があるのかな?」
「む」
「さっき同情って言葉を使ったけれど、同情されるのを嫌うプライドが高い人もたくさんいるよね。火憐ちゃんの善意はその人からすれば余計なお世話かもしれないよ」
「だって、困ってたら、困難にぶつかっていたら、解決されればすっきりするだろう?」
「だからそれが余計かもしれないんだよ。きっとその人にしてみれば、その直面している困難とか悩みとかも自分にとって大切なものなんじゃないかな。他人に触れられたくない部分っていうのもあるでしょ」
火憐ちゃんは納得がいかないみたいだった。
それにしても、ある意味お兄ちゃん以上に正義を信じる火憐ちゃんがまさかそんなことを考えていたなんて。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/02(金) 17:06:38.09 ID:UgTW4nNh0<> 「仮に人の心をが読めるようになっても、決して気持ちのいいものじゃあないと思うよ」
「それは……あたしだってわかるよ」
だって、心の中は欲望、悪意にも満ちているはずだ。
あれしたい、これしたい。
解放されたい、引きこもりたい。
殺したい。殺されたくない。
死にたい、死にたくない。
みんな面の皮一枚の下で、何考えてるかわからない。
誰かがそんなことを言っていたのを思い出した。
そうだ、わからない。
わからないってことは恐怖だ。
恐怖は生きる上で障害だ。
障害は取り除かなくっちゃ阿いけない。
しかし、火憐ちゃんが心配していたのは別の部分だった。
「確かによー、心の中で『うんこ漏れそう』って思ってるやつがいたら戸惑っちゃいそうだよなー」
「…………」
「いやいや、生理現象を否定するつもりはないんだぜ? でもきっと一瞬考えちゃうよ。『こいつをトイレに連れていく間、出ちまったらどうしよう』……ってな」
恐怖だな。
火憐ちゃんは言った。
「まあ……それは確かに躊躇するね」
「だろう? でもエンガチョきっちゃうわけにいかねーだろう? うーん、そうかー。心を読む能力にはそういう弊害があるんだなー」
火憐ちゃんは既に制服を全部脱いでパンツ一枚になっていた。
丸出しのおっぱい(なぜブラをしない?)の前で腕を組み、うんうんと唸っていた。
「火憐ちゃんさー、ひょっとしてトイレに行きたいの?」
「うん。なんでわかったの? はっ、もしかしかてスタンド使い!?」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/02(金) 17:31:51.55 ID:UgTW4nNh0<> 火憐ちゃんは急いでタンクトップとジャージを着て、トイレに向かった。
もちろん私のスタンド能力が発現したわけではなく、火憐ちゃんは自分の気持ちに素直だっただけだ。
そう、素直。
だからさっきの話は本気だってことだ。
私も最近まで火憐ちゃんと奉仕活動をしていたし、助けを求められたら出来る限りのことはする。
でも、人の心を読んでまで人を助けたいというのは度が過ぎていると思う。
気持ち悪い。
例えば声にならない声で毎日助けを求めている人に誰かが手を差し伸べたら、祈りが通じたように思われるだろう。
たぶん、その手は神様の手に見えるだろう。
そもそも人の心を読むっていう前提条件から既に逸脱しているけれど、やはりそれは人間の領域じゃない。
しなくていいことだ。
つまり余計なことだ。
私はトイレのドア一枚を隔てた火憐ちゃんを想う。
「ふぅ……。家のトイレってのはいいな。学校の女子トイレってのはどうしてあんなに混むのかねー。中学以上だぜ、高校は。月火ちゃんもこっち来たら覚悟しておいた方がいいぜ。覚悟をしておけば幸福な生活が送れる! なーんてな」
女子トイレ。
相談。
濡れた女。
タイル壁に付いた血。
私が今日したこと。
「さーて、気分も晴れ晴れとなったし、ジョギングでもしようかなー」
本当に誰かの味方になれるなら。
心の底から誰かを救いたいと思えるなら。
それはその人の美徳といえるのかもしれない。
『同情』とは同じ情と書く。
同じ気持ちを持つこと。
心を共有するということ。
火憐ちゃんは持っているのかもしれない。
清く、純粋な魂を。
私にはないものを。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/11/03(土) 00:45:19.79 ID:1U/a43Ge0<> どうでもいいことだけど
女の子の場合、パンツではなくショーツね <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)<>sage<>2012/11/03(土) 01:44:46.72 ID:BTV1rrjy0<> 乙です。
少しずつ歪みとか綻びとかが出始めてる感じ?
このまま平穏にとは行かなそうだし、続き楽しみにしてます。
>>312
よく聞くけど、別にそれが唯一の解じゃないぞ。
ショーツにも丈の短いズボンって意味あるし。
基本的にパンツなら男女問わず下着の意味として正解のはず。
つーかそんなの気にせんでもいいと思うんだが。
仰る通りどうでもいいというか。
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/11/03(土) 02:34:16.53 ID:CeLLEG710<> >>312
ほんと、どーでもいいから黙ってろ
「パンツ一枚になっていた」
「ショーツ一枚(だけ)になっていた」
火憐ちゃんのキャラと、うんこが・・・って言う流れを鑑みれば、上の方が俺的にはしっくりくる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/11/03(土) 02:53:45.90 ID:5LFDLwEmo<> 1おつ
ショーチラとは言わないが、パンチラとは言う
だからパンツで良いんだと思う <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/03(土) 09:52:57.44 ID:t2cPHkDlo<> どうでもいいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/08(木) 07:57:23.89 ID:Zpx8dVHu0<> これ続くのか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)<>sage<>2012/11/16(金) 02:25:47.89 ID:pRk0SN14o<> あれ、来月終物語発売だよね? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/16(金) 17:05:28.44 ID:pdPBqCBC0<> 「火憐ちゃん、出かける前にいっこ訊いていい?」
「なに?」
「『悪魔様』って知ってる?」
「知らない。何それ」
私は概要を説明した。
「ふーん。コックリさんみたいなもんか」
「近いけどちょっと違うかな。コックリさんは呼ぶものってイメージあるじゃない。『悪魔様』は手紙を出したり、会いに行ったり、自分から近付かなきゃいけないから」
「去年のおまじないを思い出すな。まさかまた詐欺師が来て、金を巻き上げてるのか」
「今のところそういう被害はないみたいよ。これからどうなるかはわからないけれど」
そう、自分から近付かなければ、『悪魔様』と関わることもない。
しかし、扇くんの言う通りなら『悪魔様』を頼ろうとする子はいるのだ。
一体どんな気持ちなのだろう。
何があったら、悪魔にすがろうと思い立つのだろう。
「まだ情報が少なすぎるし、どう対処したらいいものやら」
「困ってる奴がいないんじゃ、動きようがないな」
「そうなんだよね。うん、とりあえずそれだけ訊きたかったの」
私は話を切り上げ、部屋に戻ろうとした。
「月火ちゃん」
すると、火憐ちゃんに呼び止められた。
「何?」
「もし悩んでることがあったら、『悪魔様』より先にあたしに相談しろよ」
親指で自分を指しながら、にっこり笑う火憐ちゃん。
「うん」
私の答えを確認すると、火憐ちゃんはジョギングに出かけ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/16(金) 17:31:00.95 ID:pdPBqCBC0<> 相談か。
去年はずっと一緒だったから、そんなことする必要なかったな。
私は誰よりも火憐ちゃんを理解し、火憐ちゃんは誰よりも私を理解している。
相談しなきゃいけないってことは、相手を百パーセント把握できてないってことでしょう?
見落としてる部分があるってことでしょう?
つまり、私と火憐ちゃんに隔たりができたのだ。
ああ、また火憐ちゃんと距離を感じてる。
嫌だな、子供っぽくて。
私はまるで半身をなくしたような気分だった。
私は自分の身体をケーキみたいにスライスして、分裂する様を想像した。
そりゃあ小さい頃は双子ちゃんって呼ばれたりすることもあったけれど、やっぱり火憐ちゃんは年上でお姉ちゃんなのだ。
もどかしい。
何かが足りない
この欠落感を埋めたい。
埋める。
そういえば私は何か埋めたような気がする。
何だっけ。
思い出せないな。
それより、さっきから私自身埋まっているような感じがする。
ネガティヴになってるからかな。
いや、なんかこう、体がずむずむと沈んでいるような……。
「はふんっ!?」
目が覚めた。
私は眠っていたようだ。
しかし、視界が真っ暗だった。
何も見えない。
それに息苦しい。
「んー! んー!」
顔に当たる生地からすると、私は毛布か何かに包まれているようだった。
あれ?
私もしかして埋められてる?
全身を動かして、そこから逃れようとすると右足が外に飛び出たようだった。
続けて右腕も解放された。
よし。
私は毛布を掴み、一気に剥した。
「ぷはあっ!」
ぜえぜえ言いながら、私は顔が熱くなっているのを感じた。
私はソファーで横になっていた。
火憐ちゃんは出かけた後、眠ってしまったらしい。
その上から毛布が掛けてある。
さらにその上に、お兄ちゃんが掛けてある。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/16(金) 17:54:42.16 ID:pdPBqCBC0<> 掛けお兄ちゃん。
私とお兄ちゃんの間にいるもう一人のお兄ちゃんとかではない。
私のお兄ちゃんは一人しかいない。
冬場に毛布と掛け布団を二重に被って寝る人は多いと思うが、その要領で私に掛った毛布の上にお兄ちゃんが横になっていたのだ。
やっぱりその要領じゃない気がしてきた。
いろいろ間違っている。
「おはよう、月火ちゃん。って、もう夕方だけどな」
「ちょっと、人の上で横にならないでよ! 妹の上に寝そべるとかどんな兄なのよ!」
「いやな、帰ってきたらお前がソファーで眠っているものだから、『このままでは風邪をひいてしまう』と兄は思ったわけだ。そこでわざわざお前の部屋まで行ってタンスの引き出しを探してから毛布を持って来てやったわけだ」
「毛布を持ってくるならタンスの引き出しを探す件いらないでしょ」
「起きぬけにそんな激昂するようなことはしていない。断じて。するなら僕に感謝しろよ」
ふんぞり返るお兄ちゃん。
実に偉そうだ。
「タンスの引き出しを探していたっていう部分には目を瞑るとして、実際私は目を閉じて眠っていたわけだし」
「心の広い妹で兄としては実に助かる」
「毛布を掛けてくれたっていう事実には感謝するよ、ありがと三三七拍子だよ」
でもね。
「私の上に横になっていたことは許せないよ。お天道様が許しても月火ちゃんが許さないよ。月に代わってお仕置きよ」
「どこの美少女戦士だお前は」
「ここの美少女戦士だ私は」
「だからどこだよ」
「おら。言い訳があるなら聞くだけ聞いてあげるから言ってみろよ」
私は立ち上がり、お兄ちゃんの頭を足蹴にしながら言う。
こういうことをしてもお兄ちゃんは喜ぶばかりなので、あまり効果がないのが痛い。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/16(金) 18:16:20.39 ID:pdPBqCBC0<> 「だからお前に毛布を掛けて僕はクールに去ろうと思ったわけだ。でも、夕方から見たいアニメがあったし、出来ることなら僕はここのソファーに座ってのんびり観賞したかった。でもソファーには既に月火。なら採るべき行動は一つしかないじゃないか」
「もう二、三あってもおかしくないと思うけど」
「妹に座って、フレッシュプリキュアの再放送を見るしかないじゃないか」
「床に座れよ!」
「だって、妹がソファーの上で横になっていたら、その上に寝てみたくなるのだ人情だろう?」
「妹の私には絶対ありえない人情だよ」
「でまあ、横になりながらプリキュア見てたんだけどさ」
「その流れからすると三十分は私横になられてたの!?」
どうりで息苦しいわけだ!
「問題だ! 大問題だよ! 家庭内暴力だよ!」
「なんだと。兄の愛が暴力だというのか」
「文字通り愛が重い!」
ていうか愛って。
「いいか、月火。これは何も僕に限った話じゃあないんだぜ。全国のお兄ちゃん達は常日頃、妹の上で寝たいと思っているんだ」
「妹に優しくない世界だなー」
「いいや、むしろ優しい。逆に考えてみろよ。僕自身がお前の毛布になっていたのさ。どうだ、なんだかいい話に聞こえてこないか?」
「いや、気持ち悪いよ」 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage saga<>2012/11/16(金) 18:43:50.63 ID:pdPBqCBC0<> でもまあ……私を慮って毛布を掛けてくれたあたり、悪い気はしない。
「しょうがないお兄ちゃんだなあ。よし、許してあげよう。月火ちゃんはすべて水に流す」
「本当かい? 月火の上で寝ころんでいた兄を許してくれるのかい?」
「うん、いいよいいよ。それくらいへっちゃらだよ」
「ありがとう、月火ちゃん。こんないい妹を持って、僕は果報者だなー」
「なんならおっぱいの一つや二つ触ってもいいよ。わっはっは」
「ああ、それなら既に四つくらい触った」
私は延髄斬りを喰らわせた。
お互いソファーの上、私は立ち上がり、お兄ちゃんは座っていたので綺麗に決まった。
「がはっ!」
お兄ちゃんは大ダメージを受けた風で、倒れる。
私はマウントをとって、初陣のエヴァ初号機みたいに兄を殴りまくる。
「つ、月火……許してくれるんじゃなかったのか。お前、兄を何だと思っているんだ」
「お兄ちゃん見てるとぽかぽかしたくなるの」
「それって嫌いってことじゃん!」
左頬にパンチで黙らせる。
私はぽかぽかとお兄ちゃんを殴る。
でもなあ。
もちろん怒ってるんだけど、やっぱ本気になれないんだよなー。
ほら、擬音もぽかぽかだし。
ほっかほっか弁当みたいだし。
可愛いものだ。
これが兄妹ってことか。
私はお兄ちゃんと自分の間に確固たる絆を感じていた。
あれ、お兄ちゃん、息してない? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/21(水) 01:29:38.70 ID:UB6yNcKIO<> ここまで一気読み
ここまでのwwktkは久々
勝手な願望だけど他の西尾シリーズでも書いて欲しいな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/11/26(月) 09:49:18.19 ID:HJGmaJIWo<> まだかえ? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)<>sage<>2012/11/27(火) 10:27:55.99 ID:NffpMSfP0<> 月火ちゃんカワユス <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage saga<>2012/12/14(金) 16:35:44.81 ID:EF6nR3ub0<> 『悪魔様』の話を聞かされてから一週間が経った。
クラスの中には既に噂を試してみようと、『悪魔様』に手紙を送ったり、電話をかけた子達がいた。
実際に会った子はいなかった。
手紙を送ったという子に話を聞いてみると、返信はなかったそうだ。
けれど、彼女は悩みを打ち明けることができて満足し、自身の問題も『悪魔様』のことも気にしていない風だった。
まあ、話せば楽になるというしね。
空いた時間を見つけては図書館に行き、過去の新聞記事の中に手がかりがないか調べてみたりもしたが、結果はボウズ。
お手上げだった。
どうしたものかと考えあぐねているある日、火憐ちゃんがある女の子のことを調べてほしいと言った。
「今、どこに住んでいるか調べてほしいんだ」
「誰、この子?」
子と言ってしまったが、私達より年上らしかった。
「駿河さんの友達……じゃあねーのかな? 聞いてないから知らない」
「ふうん。いいよ。今日中にはわかると思う」
「おお、そりゃ助かる! でもよ、速いのはもちろん嬉しいんだけど、今日じゃなくってもいいんだぜ」
「図書館行くし、その時に調べてきちゃうよ。それとも結果が出るのは遅い方がいい?」
「いや。じゃあよろしくな」
「うん」
「月火ちゃん」
「んにゃ?」
「あー……やっぱ何でもない」
「変な火憐ちゃん。変憐ちゃんだね」
「姉に変態っぽいあだ名付けんじゃねー」
「恋憐だとかわいいかも」
「おお! でもテストの名前欄に間違えて変憐って書いちゃいそう……ってだからそれがあたしの本名みたいに話を進めるなよ」
「火憐ちゃん、ノリ突っ込み出来たんだね……」
ちょっとショックだ。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/16(日) 11:24:35.08 ID:vW5g7hw3o<> 1レスだけかいwwww
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 01:34:24.69 ID:5XPkTYH60<> なかなか面白い。よく書けてるので続きが楽しみ。続き待ってるゾ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/12/26(水) 14:18:43.58 ID:5ZyJV5Eso<> 乙乙! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<><>2013/02/07(木) 18:37:30.12 ID:SD+1+hyw0<> 失礼してageます。
あと1週間で2ヶ月になるぞ〜! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 04:08:12.34 ID:Z9gnM6DAO<> はよ書いて下さい、打ち切りはつらいぞ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/08(金) 22:53:58.20 ID:5joJOedwo<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>saga sage<>2013/02/18(月) 23:54:29.65 ID:Ph529Yy50<> ダメか…… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/18(月) 23:56:43.42 ID:qeSgzogRo<> 解散 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/19(火) 00:04:21.48 ID:uo3MJD0jo<> これだから勢いだけのやつは・・・ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2013/02/19(火) 03:04:56.40 ID:c+J038pX0<> 実際に千石は死んでないわけだし、これはあくまでSS
なんかあまりにも上手いので、原作やアニメでの千石や月火のイメージが壊れそうになったけど、
二次創作ということでいいんだな? <>