VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)<><>2012/03/28(水) 22:53:28.91 ID:kHlHFoXNo<>※注

・地の文有り
・書き溜め無し思いつき


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1332942803(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>夢と愛のIncarnation VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 22:58:05.02 ID:kHlHFoXNo<> 「愛とは何か、恋とは何か」

夢。

「散々問うて来た君だけど」

また、”彼女”の居る夢。

「そろそろ君が答えを出すべき番じゃないかな?」

こういうのを自覚夢、覚醒夢というらしいが

「聞いてる?」

またその覚醒夢とやらを僕は見ていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 23:10:14.29 ID:kHlHFoXNo<> 「ああ、聞いてる」

先程から一人で喋っている状態に在る彼女を、二人で喋っている状態に変える。

「聞いてるならちゃんと返事をしてほしいな」

「悪かった」

「謝罪が聞きたいんじゃないよ」

「礼儀ってやつだ」

「そんなの、結局実行されなきゃ逆効果」

少し御立腹のようで

「で、話なんだけど」

しかしながら話は依然続けるつもりらしかった。


「今まで、君の様々な恋愛観というのを聞いてきたけど」

恋愛観。そういうふうに言うとまるで利己的であるように見えるが、僕が彼女にしていたのは感情の投げつけでしかなかった。

「私は色々答えてきてみた。でも君は”それが正しいかわからない”っていつも話しの裏を取ってきたよね」

そう、僕はひねくれ者なのでいつも彼女の話を素直に聞き入れたことはかつて無かった。

「だから」

一文字一文字区切るように彼女は僕の方へ言葉を投げつける。

「君が答えを探して欲しいと思うの」

答えを探す?と、オウムのようについ反復してしまう

「そう、答えを探すの」

それに彼女は普通に答えを返した。

答えを探すという答えを。

「洒落?」

「違うわ。真面目よ真面目、大真面目」

「意図がわからないな」

そう言うと、彼女はやれやれ、と言った風に

「言ったじゃない」

格好付けて言った

「君が問うたものを君自身が答えて欲しいの」

そして付け加えるように

「Do you understand? 」

と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 23:17:28.95 ID:kHlHFoXNo<> 果たしてどうやって答えなんぞを探せようか。

異性となんぞ業務上会話の建前でしか喋らないこの僕が。

「大丈夫」

彼女がまた僕の方へ言葉を投げつける。

僕の心情でも読んでるのか

「ちゃんと”用意”しとくから」

用意?と聞き返そうとした時

「じゃ」

彼女は立ち去った。

正確には認識できなくなった、というべきだろうか。

よく考えると、夢の中での事、今現在の自分すらも靄のかかったようにしか認識できない。

彼女の姿をはっきり視覚で感じたことなんぞ無かった気がする。

あるのは存在だけ。

気配だけ。

神秘的な雰囲気がそこには漂う。


何故か彼女の立ち去った後を見て思い出したのは北欧神話に出てくる”フリッグ”という女神のことだった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 23:33:11.65 ID:kHlHFoXNo<>  翌朝



生暖かい日差しの中で、そろそろ暑苦しくなってきたと布団を剥がし状態を起こす。

昨日の夢はいつもとは違った。

最近よく、”彼女”が居る夢へと行くが今回は特例というかなんというか。

とにかくいつもとは違った。

最後の”用意”という言葉が気に掛かる。

「お兄さん、ご飯できましたよ。冷めない内に召し上がって下さい」

襖の向こうから声が聞こえる。

声の主は僕の妹、料理が上手なのが取り柄の可愛いやつだ。

「わかった、すぐ行く」

僕が起きたのを見計らって声をかけたのかどうなのか

「今日は嫌な夢でも見ましたか?」

着替えて、襖を開けて出てきた僕を見るなりそう言うところを見ると、凄く感が鋭いとかそういったものなのかもしれない。

「いや、嫌って言う程でもないんだけどね」

そう切り出して、一部始終を簡単に説明する。

「不思議な話ですね」

「だろう」

「用意、という言葉が気になるとおっしゃいましたが」

「うん」

「お兄さん、今日は忘れ物が有りそうとかじゃないんでしょうか?ほら、昨日ルーズリーフが必要とか」

ふむ、そういう事なのかもしれないな。と一人納得する

「とにかくお兄さん、早くしないと遅刻ですよ」

「そうだった、じゃあ」

頂きます。





美味しい朝ごはんをしっかりと噛み締めて、僕は往路に着いた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 23:40:56.21 ID:kHlHFoXNo<> 学校


見慣れた校舎と靴箱を眺め、廊下に視線を這わせつつ教室へと向かう。

夢の”用意”という言葉が妙に気になる。

なにか忘れ物をしていないだろうか。

忘れ物に対するバツが、この学校は昭和のソレと一緒なのだ。

嫌だなぁ

「何が?」

「あ」

声が漏れる。

びっくりした。突然目の前に顔がにゅっと出るものだから。

「途中から声が出てたよ、君」

「独り言なんだ、気にしないでくれよ」

「私も嫌なんだよね、今日は忘れ物しちゃって」

――教室に行きたくない、らしい

「しかも忘れ物したのが一時限目の教科でさ」

一呼吸間をおいて


「一緒にサボらない?」

なんて言うものだから。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/28(水) 23:51:49.17 ID:kHlHFoXNo<> 結果、サボることになった。


彼女が僕の電話で学校に電話をかけ「今日は息子がお休みさせていただきます」と言い。

こんどは彼女が僕に携帯電話を渡し「今日は娘はお休みします」と言ってくれとせがまれる。

異性と話す機械をもっと多く持っていればよかったと今さらながらに後悔する。

異性だと対応の仕方がわからなくなるのだ。

少し涙目になる彼女を見て、仕方なしに電話を取る。

なるほど”女の涙は武器”か。



さてもとりあえず、学校内に居るわけにはいかないので、学校から少し離れた公園へと移動した。

教師、はたまた同学の生徒に見られるのも憚られる。

傍から見たら只の逢引きであり・・・

と、そこまで考えて思った。

逢引き

愛引き?

愛?

もしかすると、”用意”とはこのことだったのか。

だとすると

「なぁ、なんで俺みたいな奴に話しかけようと思ったんだ」

朝食らしいパンを頬張っていた彼女に問いかける

ん、と口に入ったパンを飲み込み喋れる状態に移行する


「んー、なんか神様に『話しかけたら?』って言われたような気がして?」


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 00:05:01.19 ID:EXC20qWpo<> 神だか何だか知らないが、全く迷惑な話だ。

僕は散々彼女に言ってきたはずだった。

夢の中の彼女に、僕の”恋愛観”とやらを。

なのにまぁ

「ん?」

こんな”用意”をして

「な、なにか私の顔についてる?」

「口の周り、クリーム。」

お約束イベントまで。

周到さ加減も凄まじい。


だがあえて言おう。

―――こんなものは嬉しくない、と。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 00:22:50.35 ID:EXC20qWpo<>
恋愛。

僕はこの造語が嫌いだ。

日本で作られた恋という文字。

中国で孔子が語った愛という文字。

その2つを並べるというのが物凄く不快だ。


愛とは、大切にすること、愛でること、可愛がること、慈しみあう心、生物や他人への思いやりである。

対して恋とはどうだろう。好きとか、一緒にいたいとか。

愛と並べるには薄すぎる。

僕はそういうふうに思っている。

別にちゃんと辞書を引いたわけでもなく、僕が感じたままに思っているだけなのだけど。


本題はここからで、果たして”恋”という感情が存在するかどうかという話だ。

”恋愛結婚”。よく聞く言葉だ。

恋愛の末結婚――――

恋し愛しあった末の結婚なのだ。

離れるはずなんて無い、そう思っていた時期が僕にもあった。

少し世間話を聞けば「離婚」「離婚」「離婚」

なにが恋愛結婚だと笑わせる。

でもそこで考える。

”恋”とは本質は何なのだ・・・と。


そもそもそれは感情の1つとしてカテゴライズしてしまっていいのかと。

デキ婚なんて言葉も耳にすると、恋=性欲なのではないか。

そう仮定できる。

結局恋なんて無いのだ。

じゃあ恋愛などという架空の行動はできない。

恋という架空の感情など生まれない。


そこにあるのは只々、”性欲”1つだけなんだろうと。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 00:38:45.00 ID:EXC20qWpo<> 此処まで風呂敷を広げておいてだが、話を戻そうと思う。

嬉しくない、そう言ったがあれは嘘だ。

異性と居られて正直嬉しい。

が、これは性欲だ。

性欲であり僕の欲であり

多分、夢の”彼女”の欲である。

欲に踊るは他人に踊らされるが如し。

癪に障る。

欲に踊らされた結果、二人はまた離れるのだ。

そんな結末など誰が欲しようか。

僕は欲しくない。

だったらどうするのか?

「?」

目線だけをこちらへ向けて、先ほどのものとは違うパンを頬張る彼女を見る。

まぁ、何もすまい。

触らぬ神に祟り無し。

君子危うきに近寄らず。

性欲を発してしまう前にこちらから退散。

恋、などというものに踊らされる気は毛頭ない。






しかし僕はどうしようもない臆病者で。

ただ相手に嫌われるのが怖いだけなのかもしれなかった。

只々、恋愛感情を否定して

嫌われるという現実から目を背けたいだけなのかもしれなかった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 00:46:17.69 ID:EXC20qWpo<> 人間が文化を作り上げ、そこに知性を生み出し、何万年もの時間が過ぎた。

人が生まれてるのだ。そこに異性との交際が無いわけがない。

本能だけでなく、知能がある人間には、そこに考える過程があると推測する。

僕の先祖も、恋愛で悩んだかもしれない。

いや、悩んだ人は一人はいるだろう。

それでも尚、ここに答えは無いのだ。


じゃあ、十数年ぽっちしか生きてない僕に答えが導き出せるだろうか?

規模的に言えば無茶な話だと思う。



恋愛なんて、わからない。

それが今の答えだ。

大々的に否定しておいて、わからない、なんて。

自分ながらに馬鹿らしいとは思うけど。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 01:03:50.93 ID:EXC20qWpo<> 「―――ねぇ」

やっとパンを食べ終わった彼女がこちらに向けて喋った。

何?と聞き返す。

「私の家に来ない?」

「遠慮する」

即座に断った。

意味がわからないけど、こんな甘い誘いには罠があるとおもう。

というより、これ以上この子と付き合う気は無い。

帰ろうと思っていたぐらいだ。

「ふっ」

と、何故かここで彼女が笑みをこぼした。

「なにか僕、おかしなことした?」

「いいや、なにもしてないよ?ただ」

「ただ?」

「私の誘いを断る男の子なんて初めてでね」

「へぇ」

「君、私の知ってる限りの男の子達と違うね?」

それはどういう意味なのだろうか。

暗いとか陰険とかそういう意味か

「良い意味で」

良い意味らしかった。

とにかく、とりあえず僕は僕の意向を伝えることにした。

「僕は帰るよ」

「え?」

「学校、休みになっちゃったし」

「う」

「いや、君を攻めてるわけじゃない。普通に家に帰ってのんびりしようと思ってね」

「家?お母さんとか・・・・」

「居ないよ」

「仕事?」

「いや、この世に居ないだけ。父親も」

「・・・・・・」

「気にしないで。同情は御免だ」

「ふふっ」

またここで彼女が笑みを漏らす。

彼女の笑点がわからない。

「君って・・・弱そうで強そうで頑固そうで柔軟で・・・面白いね?」

うーん、と首を傾げ


「ねぇ、君の家、私も行かせてもらっていい?」

また突拍子も無い事を言い始めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/29(木) 01:04:46.87 ID:EXC20qWpo<> 今日は此処までにしておきます。

近日には完結させるつもりです。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)<>sage<>2012/03/30(金) 17:46:17.95 ID:4xTOiKhAO<> 乙
俺昔こんな感じの中学二年生だった

ウザすぎワロタ <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 19:28:04.31 ID:d3XGB+q8o<> 僕の家に向かう途中

「えっと・・・学校に電話したこと・・・」

俯きながら彼女は謝罪しようと口を開こうとしたみたいだ。

「いやいいよ」

どうせ電話に出たのは事務の先生だ。両親云々の事なんて知ってるわけがない。

「あ、有難う・・・」

「どういたしまして」

「・・・・・」

「・・・・・・・・」

彼女が僕の家に行きたいといった理由はよくわからないけど

「・・・・・・・・・」

とにかく彼女の口数が滅法減った。

別に喋ることもなかったので僕は彼女の前に立ってさっさと進んだ。

後ろについてくる気配からは元気は感じられなかった。

さっきまで元気だったのは何だったんだろう? <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 19:40:12.85 ID:d3XGB+q8o<> 家に着く。

するといきなり「君のお父さんとお母さんに挨拶させてもらえない?」と言うものだから。


チーン、と鉄の乾いた音が部屋に響き

「・・・・・・・・」

僕らは仏壇の前にいた。

少し前、彼女が僕の両親の遺影を見て少し硬直した時にはどうしたものかと途方に暮れたものだったけど

「・・・・・・・有難う」

普通に僕の両親に挨拶できたようで何よりだった。

「お茶でも飲むかい?」

僕は自分が喉が渇いたので提案する。

「じゃあいただこうかな」

と、彼女が笑う。

数刻ぶりに彼女の笑顔を見た気がする。

僕は台所に行って茶葉と急須を用意した。

「安物のお茶で悪いね」

社交辞令的にそう高くもないお茶を紹介しつつ、彼女のもとに湯のみを置く。

「そんなことないわ」

と、また社交辞令的に返し一口飲んで

「美味しい」


――まぁ、悪い気はしなかった。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 19:46:58.40 ID:d3XGB+q8o<> 3,4口お茶を啜って、一息ついた所で

「君の・・・」

と彼女が口を開いたので

「君、で思い出したんだけど」

彼女の話の腰を折る

「名前、なんて言うの?」

何故か少し彼女は戸惑いながら

「そう、だったね」

という。



改めて、僕と彼女は自己紹介し合った。

「まず僕の名前は」

「大丈夫、もう表札見て知ってるし」

「そう」

言いだしっぺが名前を言わせてもらえないなんて・・・

まぁいいけどさ、じゃあなんで僕を名前で呼ばないんだろう?

とは思ったものの言えず

「じゃあ私ね」

と彼女が先に口を開く。

「私の名前は―――」






彼女の名前は、どっかで聞いたような

いや、忘れちゃいけない苗字で、忘れられない名前だったような



そんな気がした。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 20:01:06.66 ID:d3XGB+q8o<> 自己紹介の後、やっぱり彼女はさっき話そうとした話を持ちかけてきた。

「君の両親の事故原因って・・・?」

と。

交通事故。

そう答えた。

別に即死じゃなくて、遺体も割と綺麗だったんだけどねと茶化して僕は話を明るくしてやろうと努力する。

が、

「・・・・・・・・・・・」

全くの逆効果だったみたいで、彼女の雰囲気は凄く沈んでいた。

こりゃあいけないと話をそらすことにした。


「母がね」

「・・・・?」

沈みつつ在った顔をこちらへ向ける

「意識なしの重体だったんだけど、最後に奇跡的に目を覚ましてさ僕らに言ったんだよ」

僕らっていうのは、僕と妹の二人なんだけどと付け加えて続ける

「『もし汝の兄弟、罪を犯さば、これを戒めよ。もし悔改めなば之をゆるせ。』―――聖書の言葉でね

その事故は相手側が一方的に悪い事故だったんだけどさ。これを最後に遺言で残しちゃう辺りが僕

の母らしいところなんだけど。要するに『悪いことしたらコラッ!でも反省したら受け入れてあげよう』

みたいな意味で。でもこんなの小さい頃の僕らにわかるわけ無いんだよね」

とここで笑って笑って?みたいな雰囲気を出すも彼女は黙ったままだった。

僕はバツが悪くなって一人話しを続ける。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 20:14:14.30 ID:d3XGB+q8o<> 「えーっと、まぁほら、いつも母が僕らに聞かせてた言葉と似ててさ子供ながらに探そうと思って。

まあたどり着いたのが聖書で、親戚のおじさんに聞いてやっと意味がわかってさ」

話すネタが尽きて、この先の話をどう展開したものかと捻ってる最中に

「――――相手側をさ、その事故を起こした方の人をさ」

――恨んでない?と、彼女は聞く。

僕は今言った話しを聞いてなかったの?と言う風に肩をすくめて

「愚問だよ、これっぽっちも恨んじゃないないね。いや、これっぽっち・・・っていうのは無いかもしれないけど

母の遺言通りにしようとずっと思って生きてきたからね。反省した人は許すさっていう?」

だから恨んじゃないない。と軽い話をするように返した。


「っ」




そこで彼女が突然泣き出すものだから僕はなにか悪いことを言ったかとここから数分あたふたすることになった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 20:28:25.80 ID:d3XGB+q8o<> 数分後。

泣き止み、けれども涙の筋を残したままの彼女がぽつぽつと懺悔のように話し始める。

あのね、から始まり。


――私の父はトラックの運転手で

―――事故を起こしてね


その後はご想像通りと言ったところか、なんというかよく出来た話である。


簡略化して言うと僕の両親を死に至らしめた人の子供。それが彼女らしい。




さっきの違和感はこれだったのか。

一つの思い出として処理してたから良く相手側の苗字を覚えていなかったけど

彼女の苗字は確かに相手側のそれと一緒だ。

名前もどっかで聞いたような気がしていたような気がするけど。

「私たちはお葬式で多分」

―――遭ったんだと思う。と彼女が重い口を開き

ああ、そういうことかと僕はまた納得した。

葬式の日、僕は事の重大さがよく飲み込めてなくて大人ばかりの葬式場から抜けだした。

そのときであったのが彼女だったんだと思う。

思う、っていうのはよく覚えてないからで。

まぁ、彼女も記憶がそんなにはっきりしてないと思うけど。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 20:35:00.76 ID:d3XGB+q8o<> ごめんね、と。

突然家に押しかけた挙句勝手に懺悔して本当にゴメンね―――と。

彼女は僕に何度も謝りだした。

僕はというと「いや、もう過ぎたことだし、いや、うん、いやこっちこそごめん」などと訳のわからないことを述べながら彼女の頭を上げさせることに熱心だった。

本当にまぁ過ぎたことだし、何故か罪悪感を感じてるから訳のわからない話じゃないのだけど。

とにかく彼女には今日はもう帰ることを勧めて、玄関先に送り出した所で

「―――また日をあらためてこさせてもらっていいかな?」

と、今度はマジな涙目で言うものだから

「ああ、喜んで」

と格好付けて返事して、彼女を見送った。





顔に手を当てて初めてわかったがこの時僕はにやけてた。

我ながら気持ち悪いし不謹慎だなぁと思いながら玄関を閉めた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 20:45:43.06 ID:d3XGB+q8o<> その日の夜、夕食を食べながら今日の話を洗いざらい妹に話す。

「まず、お兄さん学校をサボるのは良く無いですね」

と最初にお叱りを受け

素直に「ごめんなさい」と謝る。

この流れは我が家ではいつもの流れで、ちゃんと謝るのがベターという結論づいている。


「―――それにしても、まぁなんというか偶然ですね」

偶然。知らない内に同じ学校に通い、同じ日に出会い、同じ日にサボって

「そうだな」

実はそんな二人が昔に因縁があったとかなんとか。

世界広しといえども狭い。

そんなのは日々犇々と感じていることではあるが最確認させられた今日だった。

「それにしても恨んでないなんてよく言えたものですねお兄さん。滅茶苦茶に荒れていた時期とか有ったじゃないですか」

「うるさい。あれは僕が勝手に荒れてただけだ」

「まぁ、お兄さんが一人称が”僕”に変わっただけでも本当に奇跡に感じますけど?」

「うるさいうるさい。僕は寝る。ご馳走様」

地味に精神攻撃を繰り出してくる妹を邪険に扱いつつ自分の部屋に行く。

全く、困った妹だ。

・・・・妹からすると僕は困った兄なんだろうが。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 21:36:17.53 ID:d3XGB+q8o<> 翌日。

玄関を出ると

「おはよう」

「お、おはよう・・・」

「お兄さん、えっと・・・・・・?」

例の彼女が玄関先に立っていた。

「日を改めて来まし・・・・た?」

疑問調でいう彼女。

「えー・・・っと」

この状況に説明を求める妹

「・・・・・・・・・・えっ」

状況の飲み込めてない僕。


とりあえず遅刻しそうだったので学校に行きつつ話を聞くことにした。

妹には帰ってから話すよと一言添えて、途中で別れた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 21:44:29.62 ID:d3XGB+q8o<> 往路途中

すぅ・・・っと息を吸い込み彼女が言う

「私、昨日一晩考えたんだけどね」

「うん」

「君の家でメイドをやらせて頂きたいと思う」

「うん?」

突拍子も無いどころじゃなかった。

「私の家さ、お父さん起訴されなくて、ほんと、君の家には感謝・・・っていうのもおかしいんだけど本当に償っても償いきれない、

払っても払いきれないものがあると思うんだよね」

「いや、そういうのは別に」

「私には在るの。そして君が償うべき人だって知った。だから私なりに出来るだけ償わせてもらおうと思って、さ」

昨日最初に見た飄々とした雰囲気は無く、そこには真剣な表情な彼女しか居ないから僕は断ることも有耶無耶にすることも出来ず

「バイトするのは・・・時間的にも校則的にもできないから・・・だから・・・・メイドさん的な家事手伝いくらいはできるかな・・・・って」



「ダメ、かな・・・?」


案の定、首を縦に振る事しか出来なかった僕だった。


<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 21:56:01.93 ID:d3XGB+q8o<> この後は省略して話そう。

まあ家に帰ると僕が話していた女の子、ましてや何故か玄関先にいた女の子が家の中に上がってて、更にご飯を作っていたとなれば

「・・・・・・・・・・・・・・?」

口を半開きにして荷物を落とす妹の気持ちもわからないでもない。



彼女から妹へのひと通りの説明があった後

「ああ、こんなお兄さんで良ければ」

と意味深な言葉を放った後、彼女の手伝いをし始めた。



ちなみに味は妹の折り紙つきで、非常に出来栄えの良い美味しいものだった。

これが続くのかと思うと僕は心が踊っていたことも嘘とは言えない。

いや、嘘じゃない。本心、僕は嬉しがっていた。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:01:17.97 ID:d3XGB+q8o<> 彼女が僕の家に通い始めてから、幾月もの日々が過ぎた。

ある日は台風で

ある日は快晴で

ある日は大雨で

ある日は初雪で

ある日は曇で

ある日は雷で


いろんな日を、3人で過ごした。

いろんな日を、3人で乗り越えた。


一人増えただけなのに、笑顔が2倍にも3倍にも増えた。

一人増えたから、笑顔が増えた。


メイドと称してきていた彼女は、いつしか家族のように

僕も思っていたし、妹も思っていたし。

彼女ももしかしたら思ってたかもしれない。




幸せ、っていうのはこういうことなのかなと思わさせられる、安心感のある温かい”家”になって行った。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:12:33.07 ID:d3XGB+q8o<>






また、あの夢をみた。


女神にも似たあの彼女の居る夢。

靄がかかった彼女へと言葉を掛ける。

「答えは探せましたよ」

彼女は嬉しそうに

「それで?」

と答えを急かす。


一呼吸おいて、偉そうに僕は言う。

「一緒にいて、一緒にいたいと思って。」



「――――――いつの間にか一緒にいる。それが、いやそうあって欲しいのが恋愛、みたいな」



「それが僕の答え、ですかね?」


よくわかんないけど。

今この胸にある、毎日かかさず家に来てくれる彼女への思いっていうのは、恋愛という言葉に置き換えてもいいんじゃないかなと

そう思い始めた、今の僕の答え。

これが僕の、今思ってる答え。


数カ月前の僕には「何を分けの解らない事言ってるんだ」と言って殴られそうだけど。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:17:41.11 ID:d3XGB+q8o<> 「良かった。自分なりの答えを導き出せて」

夢の彼女は微笑んだ。

「貴方のお陰ですよ」

僕は貴方のお陰で、彼女に出会って、彼女と過ごせた。

貴方の不思議な力で事を運ばせたんでしょう?

そう、告げると

「違うわよ?」

と返してきた。

「きっかけを作ったのは私かもしれないけどね。今のあなた達を作ったのは貴方たち自身。私は何もしてないし何もできないわ。

私ができるのはせいぜい夢に出てきてお話をすることぐらい。」

ふふっ、と柔らかい笑みをこぼし

「貴方がいい子に育って良かったわ」


靄の中からすっと出てきて僕を抱く。

懐かしい匂いがした。

どこかで嗅いだことのあるような、優しい、匂い。



「じゃあ、またね」





そう言って、また何処かへ消え去る彼女の最後に見えた顔は


いつも遺影の中で笑っている母の顔だった。

<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:26:03.20 ID:d3XGB+q8o<> ________________________________________________
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「お兄さん、起きて下さい。ご飯できましたよ」

いつもの妹の声でまた起きる。

今日の妹はいつも以上に元気だ。

「気合入れて作りました。どうぞお兄さんも気合入れて食べて下さい」

「気合・・・?」

「気合です。一生に一度の晴れ舞台なんですから」

「うーん・・・・」

「ほら、シャキッとして」

「うんうん」

「早く食べて」

「うんうん」

「うんうんじゃないです」

いつもより厳しい妹に急かされながら準備をする。



「じゃあ、父さん、母さん。行ってくるよ」

仏壇に向かって、声をかける

「お兄さんっ、もう迎えのタクシー来てますよーっ」

「わかった、すぐ行く」

妹がすべての支度を済ませ、僕のかばんを持って玄関でまってる。


「じゃあ、また後で」


二人の遺影に手を振って玄関に向かう。




<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:26:54.43 ID:d3XGB+q8o<>






―――――――――今日は、彼女との結婚式だ。―――――――――












<> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)<><>2012/03/31(土) 22:27:33.26 ID:d3XGB+q8o<> 終わりです。


此処までお付き合いしてくださった方有難うございました。 <> VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中国・四国)<>sage<>2012/04/01(日) 08:28:13.06 ID:uoNFx/cAO<> 乙
なかなか良かった。

どうせなら被害者遺族と加害者遺族同士の恋愛の葛藤とかもう少し掘り下げるとさらに面白かった気がする。 <>