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HTML化した人:lain.
綾野「私が死者」
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:13:34.31 ID:quBCikdvo


2002年夏―

週末の昼過ぎ、一年半ぶりの夜見山。
僕、榊原恒一は高校卒業後、希望通り美術系の大学に進学した。
夏休みになったことと、父親が一ヶ月ほど研究のため海外に行っているので
こうして夜見山に戻ってきているというわけだ。
夜見山に住んでいたのはわずか一年間のことだが、いろんな意味でここは僕の故郷なんだろうな。

しばらく川沿いに歩いた後、鞄からスケッチブックを取り出す。
昨日強い雨が降ったらしく、かなり地面が湿っていたが、構わず座ってスケッチを始める。
絵を書くのはあまり得意ではないが、夜見山に来た時には何枚か描くことにしている。

今回の旅行には、三つの目的がある。
一つは夜見山の景色を見ること、早速達成されたが、まだまだ行きたい所は残っている。
二つ目は中学校時代の同級生と会うこと、今日の夜、勅使河原の家に皆集まってくれるらしい。
三つ目については、明日の朝あたりに実行する予定だ。

(そろそろ時間かな)

時計を確認すると、もう少し余裕があったが、少々早めに行っても構わないだろう。
スケッチブックを片づけ、立ち上がる。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337353991(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:17:20.00 ID:quBCikdvo


すると、川原の上の道に女の子が一人歩いているのに気がついた。
夜見北の制服を着ている、どうやら部活帰りのようだ。
その子はよそ見をしながらスキップするような足取りで歩いていて……

  「わっ、きゃああああああ!」

こけた。

どうやら濡れた植物に滑ってしまったようだが、川原の上から転がり落ちてしまうとは運のないことだ。

榊原「大丈夫かい?」

綾野「う……い、いやへーきです」

本当に平気そうな顔で答えたあたり演技力はあるようだが、説得力はあまりない。

榊原「肘から血が出てるけど……」

綾野「いやいや、気にされなくても大丈夫ですから」

この状況で気にしないのは正直不可能だろう
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:19:58.63 ID:quBCikdvo

榊原「そんな事言っても……とりあえずこのハンカチで血ふきなよ」

綾野「あ、ありがとうございます」

榊原「地面が滑りやすくなってるから、気をつけたほうがいいよ」

綾野「そうですね、川にボチャーンってなったら危ないし、気をつけます、はい」

榊原「じゃあ、僕はこれで」

綾野「えっ、あ、ありがとうございました!お気をつけて!」

榊原「気をつけるべきなのはどっちかっていうと君の方だよ。。」

約束の方は少々時間に遅れそうだが、まあ大丈夫だ。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:21:35.19 ID:quBCikdvo

綾野「ちょ、ちょっと待ってください」

榊原「どうしたんだい?もしかしてほかにも怪我したところとかあるの?」

綾野「いや、そうじゃなくて……これを」

彼女の手には手帳が握られていた。

榊原「ああ、拾ってくれたんだね、ありがとう」

綾野「いえいえ、これで借りを返したってことでぜんぜんオーケーです」

榊原「いや、これには予定とか色々書いてあったし、無くしたら大変だったよ
   僕はこれから行かなくちゃいけないところがあるから、ろくにお礼もできないけど、ごめんね」

綾野「お礼なんていいですって」

榊原「それじゃ、もう転ばないように気をつけて」

綾野「わかってますよ!」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:23:36.61 ID:quBCikdvo


川原にいる間に、随分時間が経ってしまったようだ。
まあ、多少の遅刻ならお咎めはないだろう。
ここから歩いて二十分くらいかかるだろうか
夜見山のような田舎では車がないと移動が大変だ


 夜見のたそがれのうつろなる蒼き瞳の


(ふう……十分遅刻ってところか)

チリンチリン

天音「いらっしゃい……おや、きみは……」

いつもの様に怪しげな雰囲気の老婆が受付に座っている、天音さんとは一年半ぶりだ。

榊原「お久しぶりです、天音さん」

天音「一年半ぶりだねえ……あの子は多分上にいるよ、あとよかったら人形も見ていっておくれよ」

榊原「ええ」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:24:58.57 ID:quBCikdvo

三階に上がると、部屋の入口の前に見崎は立っていた

見崎「久しぶり……榊原くん」

夜見山に来るのは一年半ぶりだが、見崎とは三ヶ月前に東京で会っている。
それに週に一度は電話で声を聞いている、僕としてはもっと話したいのだが、
彼女の携帯電話嫌いは相変わらずで週一ペースでしか話していない。

榊原「そうだね、直接会うのは春以来かな、大学には慣れた?」

彼女は現在地元の国立大学に通っている、中学校のころの彼女の成績はお世辞にもいいとはいえなかったが、
高校時代それなりに努力したらしい。

見崎「まあある程度はね……そっちはどう?」

榊原「こっちもぼちぼちってとこだね、学校自体には慣れたかな」

見崎「そう……とりあえず中に入って」

部屋の中も一年半前と変わりがなく、綺麗に整理されていた。
家具の配置なども全く変わっていない。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:26:29.73 ID:quBCikdvo

見崎「とりあえず紅茶でいいわね、どうぞ」

榊原「ああ、ありがとう」

見崎「ふう……榊原くん、また背が伸びたみたいね」

榊原「そう?そろそろ止まったんじゃないかな、大きすぎるのもなんか嫌だしね」

高校三年生あたりから僕の身長は急に伸び始めて、今では180半ばほどある
ただでさえ細身だったのに身長が伸びたせいで、ますます細身に見えてしまうのが若干不満だ

榊原「そういう見崎は、変わってないね」

見崎「そうかしら」

榊原「中学校の頃から、ぜんぜんね」

見崎「それって、成長してないってこと?」

榊原「い、いや……そういうことじゃないよ」

見崎「へえ……どういうこと?」

榊原「東京にいると、全てのものがめまぐるしく変わっていくんだ
  
   それはそれでいいんだけど、時々、見失うっていうか、ついていけなくなるんだよ

   でも、ここはそうじゃない、夜見山の景色も、この家の雰囲気も、見崎も全然変わらない、だから……安心できるんだ」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:29:17.35 ID:quBCikdvo

  「そうね……確かに……ここは全然変わらない、そう見えるわね」



  「でも………本当に変わっていないのかしら」



  「もしかしたら……誰も気づかないうちに……変わっているのかもしれない」



  「ぜんぜん違う別のものに入れ替わっているかもしれない……」



  「だれも知らないうちに…………ね、ふふふ」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:30:21.86 ID:quBCikdvo

榊原「………………」

見崎「なんて、冗談よ、半分はね」

榊原「半分は本当なんだ…………」

見崎は時々、このような意味深な事を言う。
彼女としてはただの冗談なのかもしれないが
彼女のミステリアスな雰囲気と僕達の境遇も相まって正直かなり怖い
見崎はこういうふうに僕を怖がらせるのが好きらしい
僕の薦めるホラー小説は全然読んでくれないのに一方的に怖がらせてくるのは理不尽だと思う

見崎「ま、特に深い意味はないわ、ただそうかもしれないって思っただけ」

榊原「僕を怖がらせたいだけじゃないの」

見崎「それは否めない」

榊原「まったく……勘弁してよ」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:33:37.65 ID:quBCikdvo

コンコンとドアをノックし、霧果さん――見崎鳴の母親が入ってくる

霧果「いらっしゃい、恒一くん、ひさしぶりね、ゆっくりしていって」

榊原「ご無沙汰してます、霧果さん」

霧果「ああ、あと最近新しい人形ができたの、それもぜひ見ていって頂戴、感想を聞かせてくれるとなお嬉しいわ」

榊原「はい」

霧果さんは人形作りを生業としていて、ここの半分は展示場となっている。
人形に興味のある男の人は珍しいのか、僕がここに来るたび新作についての感想を求める。

霧果「鳴は今日は外食なのよね」

見崎「ええ、大丈夫よ、お母さんの晩御飯はすでに作ってあるから、温めて」

霧果「あら、ありがとう」

霧果さんは料理が苦手で、高校時代に料理を作れるようになった見崎に任せっきりである。
僕も似たような境遇だ、それにしても僕の前でそのやり取りをするのは少し情けないんじゃないか……?
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 00:34:36.74 ID:quBCikdvo

霧果「じゃあ私は奥にいるから」

ちょっとしてから霧果さんは自分の部屋に戻った。

見崎「霧果のリクエストもあったし、下に行かない?」

榊原「そうだね、行こうか」

僕達二人はこの家の地下にある展示場へエレベータで向かった
地下にある展示場は、一階のそれよりもさらに暗く、異様な雰囲気を醸し出している

見崎「たしか……新作は……これ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/05/19(土) 07:39:08.28 ID:iOf730xe0
続きはよ
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 23:58:20.45 ID:quBCikdvo
投下再開
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/19(土) 23:59:36.06 ID:quBCikdvo


見崎が指さした先には、茶髪でショートカットの女の子の人形があった。
黄色のワンピースを着て、椅子の上に座っている。

榊原「へえ……これが新作?」

見崎「そう……私はこれを始めてみた時、霧果の作品らしくないと思ったけどね」

確かにそう言われてみると、その人形は確かに他の人形たちとは少し違っていた
まわりの人形は美しさと儚さ、寂しさを感じさせるものが多い。
しかしこの人形はどちらかと言うと明るく、可愛らしい印象を受ける。

榊原「作風が変わったの?」

見崎「そんなことないと思うけど……ほぼ同時期に完成したこっちの方はいつもと変わらないし」

そう言って見崎は赤いツインテールの人形を指さした。
確かにそちらの人形には、他のものと同じ雰囲気が漂っていた。

見崎「気まぐれ、かもね」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:06:38.11 ID:5OkhKKO/o

その後も一年半の間に霧果さんが作った人形を一つ一つ見ていった。
それほど量があるわけではなかったが、あの人の作った人形を鑑賞するのは、かなり体力を消耗する。

見崎「そろそろ時間ね、いきましょう」

榊原「あ、ああ、そうだね」

人形を見るのに夢中で約束のことを忘れてしまっていた。
幸い今から出発すれば充分間に合いそうだ。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:10:34.29 ID:5OkhKKO/o

外は小雨が降っていて、傘を持たなければならなかった。
勅使河原の家までそれほど遠くはないのが救いだ。
雨の中、二人で歩いて行く、中学の時以来だろうか。

見崎「ねえ、榊原くん」

榊原「なに?」

見崎「榊原くん、こっちにいる間、どこに泊まるの?」

二年前に夜見山に住んでいた祖父母が共に亡くなり、僕は夜見山に身寄りがいない。
そのことは見崎も知っている。

榊原「ああ、父さんに旅費を頼れないからね……勅使河原に頼み込んで、泊めさせてもらう事になってるんだ
   ちょうど勅使河原の両親とも出張でいないらしいし」

見崎「そう……」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:15:51.79 ID:5OkhKKO/o

勅使河原の家が見えてきた、夜見山の民家はどこも大きく、広い庭がついているのが当たり前。
東京では考えられない感覚だが、勅使河原の家も例外ではない。
呼び鈴を鳴らすと、家の奥から勅使河原が走ってくるのが外からでも分かる。

勅使河原「うーっすサカキ、見崎、久しぶりー」

勅使河原のテンションの高さと私服のダサさは不変だ

勅使河原「みんな中でお前のことを待ってんぞ、早く来いよ」

榊原「じゃお邪魔します」

見崎「お邪魔します……」

中には懐かしい三年三組のクラスメイト達と、やたら豪華な食事が並んでいた
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:20:17.87 ID:5OkhKKO/o

望月「恒一くん、久しぶり」

望月は中学生の時の見た目のまま大きくなっていた。

猿田「しかし、久しぶりに会うとまたでっかくなってるぞな」

榊原「親戚のおばさんみたいなセリフだね」

猿田「実際会うたびにでっかくなってるぞな」

猿田の語尾も変わっていない。

多々良「榊原くん、ご無沙汰してます」

多々良さんの長く伸ばした黒髪は中学時代と変わらない。

榊原「久しぶりだね、多々良さんとは卒業以来かな?」

多々良「そうですね……」

僕を含め十人のクラスメイトが来ているようだ。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:21:06.09 ID:5OkhKKO/o

和久井「久しぶり榊原くん、僕のこと……覚えてるかな……」

和久井くんは色白で長身だ、今では僕も同じぐらいの背丈になったけど

榊原「和久井くんのことを忘れるわけ無いじゃないか、どう、元気でやってる?」

和久井「まあね……喘息はそのままだけどね、榊原くんは気胸良くなったんでしょ」

榊原「おかげ様でね、しかしこの豪華な食事は誰が作ったんだい?」

和久井「ああ……それはね……あの人が」

そこにはメガネをかけ、黒い服を着た男の人が立っていた
四年前より少し老けて見えるが、間違いなく千曳先生だ

千曳「恒一くんとは卒業以来ということになるのかな」

榊原「そうですね、この料理は千曳先生が?」

千曳「料理は数少ない趣味でね、久しぶりに気合を入れて作ったんだよ」

演劇といい、この人の趣味は見た目に合っていない気がする

榊原「まあ、口にあうかどうかはわからないがね」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:23:55.14 ID:5OkhKKO/o
ミスった
>>19

和久井「久しぶり榊原くん、僕のこと……覚えてるかな……」

和久井くんは色白で長身だ、今では僕も同じぐらいの背丈になったけど

榊原「和久井くんのことを忘れるわけ無いじゃないか、どう、元気でやってる?」

和久井「まあね……喘息はそのままだけどね、榊原くんは気胸良くなったんでしょ」

榊原「おかげ様でね、しかしこの豪華な食事は誰が作ったんだい?」

和久井「ああ……それはね……あの人が」

そこにはメガネをかけ、黒い服を着た男の人が立っていた
四年前より少し老けて見えるが、間違いなく千曳先生だ

千曳「恒一くんとは卒業以来ということになるのかな」

榊原「そうですね、この料理は千曳先生が?」

千曳「料理は数少ない趣味でね、久しぶりに気合を入れて作ったんだよ」

演劇といい、この人の趣味は見た目に合っていない気がする

千曳「まあ、口にあうかどうかはわからないがね」

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:25:16.46 ID:5OkhKKO/o

千曳先生の作った料理は見た目に違わずとても美味しかった。
あとでレシピを聞いてもいいかもしれない。

もう少し皆と昔話をしたかったのだが、
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

榊原「もう皆帰っちゃったね、見崎はどうするの?」

見崎「私もそろそろ家に帰ろうかな、あの人一人じゃ心配だしね」

基本的に霧果さんは信用されていないらしい。

榊原「家まで送っていこうか?」

見崎「榊原くんはここに泊まるんでしょ、それならわざわざ送ってもらわなくてもいい」

榊原「でももう遅いし……一人じゃ危ないんじゃないかな」

見崎「大丈夫」

彼女は良く自信満々で大丈夫や平気と言うが、危なっかしい事が多い。
正直言ってかなり心配だ。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:31:53.49 ID:5OkhKKO/o


見崎「もう雨も止んだみたいだし、一人で歩いていける」

榊原「そう……じゃ、気をつけて」

見崎「さようなら……榊原くん」

傘をさした見崎の後ろ姿が少しづつ遠ざかる。
やっぱり強引にでもついていったほうが良かったかな……

勅使河原「いやーサカキと見崎はラブラブだな」

突然現れた勅使河原がちゃかしてくる

榊原「普通の会話しかしてないと思うけど」

勅使河原「人んちの玄関でいちゃつきやがってこの野郎」

榊原「聞いてないし……」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:35:24.05 ID:5OkhKKO/o

勅使河原「でもさあ、お前ら二人全然会ってないんだろ?それなのに中学校時代から続いてるとかすげーよ」

榊原「まあ……見崎は積極的に会いたい会いたいってタイプじゃないしね、一人でも問題ないみたい
   それが僕としては寂しいっていうか、不安になるけどね」

勅使河原「そんな感じだから長く続いているんじゃねーのかな」

榊原「僕は怖いよ」

皆が帰ったので僕は片付けを手伝う、勅使河原は僕は客だから気にしなくてもいいと言ってくれたが、
なにもしないで片づけを見ている方が気持ち悪い
どうも勅使河原は僕に気を使いすぎている。

榊原「じゃ、明日は早く出かけるつもりだし、もう寝るよ」

勅使河原「おう、向こうの一番奥の部屋だぞ、間違えんなよ」

榊原「わかってるって、じゃ、お休み」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:45:32.63 ID:5OkhKKO/o

朝、目覚ましをセットした時間よりだいぶ早く起きる。
いつもと違う環境で寝ると、どうしてもゆっくりと眠ることができない。
別段眠気があるわけでもないし、三つ目の目的、墓参りのために早めに準備することにした。

勅使河原の作った?朝食は、朝食と思えないほどやたら豪華だった。
もしかしたら、ただ見栄を張っているだけなのかもしれない

外に出ると、まさに雲ひとつ無い青空だった、日差しは暑いが、雨が降っているよりマシだろう
目的地である墓地までにはそれなりに距離があったが、案外早く着くことができた。

ここの墓地には、僕の祖父母と母親、僕の叔母である怜子さんが眠っている。
そして災厄で命を落としたクラスメイトのお墓もいくつかある。
だからこの墓参りはクラスメイトと会うという目的も含んでいる
母さん達の墓を掃除して、花を供える。
僕には当然母さんとの思い出はない、怜子さんと過ごしたはずの半年間も、完全に記憶から抜け落ちてしまった。
でも、何もかも忘れてしまったわけではないのだ。
体が、覚えている、ここに来ると感じる懐かしさ、
母さんが、怜子さんが、おじいちゃんとおばあちゃんが確かにここにいる。
僕は静かに手を合わせると、墓地の奥の方に向かった。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:48:23.75 ID:5OkhKKO/o

千曳「恒一くん、君も来ていたんだね」

奥には、僕と同じく墓参りをしていた千曳先生が居た。
千曳先生が言うには、ここには今までの災厄によって命を落とした人のお墓が幾つもあるらしい。
千曳先生は毎週ここに来て、手を合わせているのだという。

千曳「まあ、こんな事をしても私の責任が無くなるわけではないが、せめてもの罪滅ぼしだよ、半分は自己満足だがね」

榊原「いや、千曳先生に責任はありませんよ、現象が起こったのは誰のせいでもないんです」

千曳「あのとき、私は止められる立場にあったわけだからね、責任は間違い無くあるさ」

僕は千曳先生と共に災厄で命を落とした人たちのお墓参りをした。
その中には、僕のクラスメイトのお墓ももちろんあった。
あの半年の間に、理不尽な現象によって何人もの人が亡くなってしまった。
合宿で起こったことについては全く思い出せないが、
桜木さん、高翌林くん、久保寺先生が死んだ時のことはぼんやりと覚えている
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:48:55.16 ID:5OkhKKO/o

千曳「さてと……これでここにある災厄で亡くなった人のお墓は全部だ、
   久しぶりの夜見山滞在なのに貴重な時間を奪ってしまったようだね」

榊原「久しぶりに僕もクラスの皆と会えましたし、気にしなくてもいいですよ
   それよりひとつ聞いてもいいですか?」

千曳「今年の現象についてのことかい?」

榊原「ええ、良ければ」

千曳「今年は『ある年』だ、残念ながらね」

  「君たちの年、死者は怜子くんで合宿の時何らかの理由で災厄が止まった、
   実はその後去年までは連続して『無い年』が続いたんだよ」

  「だから私はもしかしたら災厄は無くなったのかもしれない、とも思ったんだが甘かったようだ
   四月からすでに四人亡くなっている」

  「君たちの年に何があったのかを知ることが出来ればいいんだがね
   誰も、合宿で何があったかを覚えていない、ただ、十人もの犠牲者が出たということしか分からない」

  「結局、八方ふさがりということだ」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:50:31.24 ID:5OkhKKO/o

榊原「そうですか……」

今の三年三組の生徒たちも、死の恐怖に怯えて毎日を暮らしているのだろうか。
友人や、家族を亡くした人もいるだろうか。
あまりの理不尽さに腹が立つが、自分にできることは何もない。
四年前も、僕は何もできなかった。
現象に対して、生徒たちはあまりにも無力だ。

千曳「さて、帰るとするか、君は歩いてきたんだろう、勅使河原くんの家までなら車で送ってあげてもいいんだが」

榊原「いや、僕は今日は歩いて帰ります」

千曳「そうか」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:55:03.90 ID:5OkhKKO/o

千曳先生と僕は墓地の出口へと向かった。
僕と千曳先生の間に会話はない。
今年の災厄の話はするべきではなかったのかもしれない。
二人共、一定の速度で黙々と歩く。

千曳「おや……」

前方に誰かがいるようだ、お墓の前でどうやら泣いているように見える

榊原「あれ……あの子は……」

墓地の入口近くに、昨日川原で出会ったショートカットの女の子がいた。

29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/20(日) 00:58:40.52 ID:5OkhKKO/o
こういっちゃんパート終わり

次から綾野さんパート


30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/05/20(日) 01:27:45.50 ID:WZ+pHgY8o
>>25
名前が正しく表示されないのはフェアじゃないよね
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/05/20(日) 01:38:11.30 ID:5OkhKKO/o
千曳「恒一くん、君も来ていたんだね」

奥には、僕と同じく墓参りをしていた千曳先生が居た。
千曳先生が言うには、ここには今までの災厄によって命を落とした人のお墓が幾つもあるらしい。
千曳先生は毎週ここに来て、手を合わせているのだという。

千曳「まあ、こんな事をしても私の責任が無くなるわけではないが、せめてもの罪滅ぼしだよ、半分は自己満足だがね」

榊原「いや、千曳先生に責任はありませんよ、現象が起こったのは誰のせいでもないんです」

千曳「あのとき、私は止められる立場にあったわけだからね、責任は間違い無くあるさ」

僕は千曳先生と共に災厄で命を落とした人たちのお墓参りをした。
その中には、僕のクラスメイトのお墓ももちろんあった。
あの半年の間に、理不尽な現象によって何人もの人が亡くなってしまった。
合宿で起こったことについては全く思い出せないが、
桜木さん、高林くん、久保寺先生が死んだ時のことはぼんやりと覚えている


これで大丈夫かな?
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/20(日) 16:32:01.48 ID:vt4j7HpXo
頑張って 期待します
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:05:27.40 ID:aMHhF8cdo



あまりにも、あまりにも理不尽すぎる
小学校の頃から、ずっとそばにいるのが当たり前だった
ずっと一緒だと、そう思っていたのに
なのに、こんなあっさりいなくなるなんて

綾野「うう……」

新学期が始まってから、もう四人も死んだ
次は自分が死ぬ番かもしれない

いやだ、死にたくない
まだまだやりたいことがいっぱいあるのに
東京だって行きたいし、海外にだって行きたい
食べたいものだってたくさんある

  「なんで……こんな……ぐすっ……ひどいよ……」

三年三組の呪いだか現象だか知らないけど、こんなことが許されるはずがない
人の命がこんな簡単に無くなるなんてあってはならないのに

  「う……げほっ、げほっ、……はあ……」

ここに来てから、どれほど時間が経っているだろうか
朝早くから来て、ずっと泣いていたような気がする
 
  「じゃあね、また今度来るから」

親友に別れを告げて、私はゆっくりと立ち上がる
気づかないうちに墓地に何人か人が増えているようだ
泣いている姿を見られるのは、なんとなく恥ずかしかった
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:09:47.12 ID:aMHhF8cdo

綾野「先生……?それに……」

あそこにいる黒尽くめの男は間違いなく千曳先生だ
夜見北の司書で、私の所属する演劇部の顧問でもある
千曳先生が週末の朝にここにいるのは知っている
一緒に線香を上げたことも何度かある
それより、先生の隣にいる背の高い男の人
昨日川原で絵を描いていた人で間違いない
たしか……榊原さんだったか……手帳に名前が書いてあったはず
なんで先生と一緒にいるんだろう

千曳「おはよう」

声をかけるタイミングが掴めないでいると、先生の方から声をかけてきた

綾野「おはようございます、千曳先生と……榊原さんでしたっけ?」

榊原「合ってるけど、どうして名前を」

綾野「手帳に書いてあったんで」

榊原「ああ、そういうことか」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:10:32.90 ID:aMHhF8cdo

千曳「む……君と綾野くんは知り合いなのか?」

榊原「知り合いというか……昨日たまたま会ったんです」

綾野「それよりも、榊原さんと千曳先生はどういう知り合いなんですか?」

千曳「ああ、彼は三年前の夜見北の卒業生でね、大学の休みを利用してこっちに来ている」

榊原「榊原恒一です、よろしく」

綾野「わ、わたしは綾野彩です、よろしくお願いします」

夜見北の卒業生だったとは、偶然というものはあるものだ

綾野「先生と仲いいってことは、もしかして演劇部でした?」

榊原「いや、僕はこっちでは部活は特にやってなかったんだ」

演劇部OBでなくて残念だけど、演劇部以外で千曳先生と親しい人というのも珍しいからよしとする
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:12:32.10 ID:aMHhF8cdo

その後は主に千曳先生についての話題で盛り上がった
どうやら彼も料理は得意らしい
まあ彼の見た目からしておかしくはないかな
先生の料理を始めてみたときは何かの間違いかと思ったくらいだけど

お互い慣れてきたところで私は榊原さんにある質問をした

綾野「榊原さんって三年前の卒業生ってことは、98年度ですよね」

榊原「そうだけど」

綾野「もしかして、三年三組、でした?」

しばしの沈黙、



榊原「ああ、僕は三年三組だったよ」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:18:26.14 ID:aMHhF8cdo

98年度の三年三組、ここ十年間の災厄の中で最も多くの犠牲者を出し、過去二度しかない途中で災厄が止まった年
千曳先生がそう話してくれたことがある
もしかしたら、今始まってしまった災厄を止める方法、ヒントだけでも分かるかもしれない

榊原「君も、三年三組なのかい?」

綾野「ええ……」

さっきまで明るかった雰囲気が、一気に暗くなる
雲ひとつ無い晴れの日なのに、なんとなく薄暗く感じるような気がする

榊原「僕らの年のことを聞きたいんだね?」

榊原さんの表情も暗い、きっと彼もその年にあったことは思い出したくないだろう

でも、だからこそ、わずかな希望にすがろうとする私の気持ちをわかってくれるはず

綾野「はい……辛いでしょうけど、お願いします」

榊原「役に立つかどうかはわからないけど、何か分かることがあるかもしれないしね」

そうして彼のいたクラス、98年度の三年三組の話を聞いた
彼は五月に東京から来た転校生で、いないものに話しかけてしまった
それから災厄が始まったと思われていたが、本当は四月から始まっていた
そして八月に合宿があり、そこで何かが起きて、災厄が止まった
合宿で何が起こったかは、やはり覚えていないらしい
98年度の死者は、彼の叔母で副担任の三神怜子という美術教師で、生徒以外が死者だったのは唯一らしい
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:19:55.96 ID:aMHhF8cdo

榊原「一応、僕の覚えていることはこれくらいかな、肝心な部分は忘れてしまっているけどね」

綾野「はい、ありがとうございました」

正直言って、榊原さんの話から解決の糸口は見つかりそうもない
現象による記憶の改竄は、完璧に働いていた
東京生まれで今も東京住みなので、現象による改竄が弱まっていないか期待したけれど、そう甘くはないようだ

ただ、彼の話の中で気になる部分が少しあった

綾野「榊原さんの年の前に止まった年が有りましたよね、その年の卒業生がその怜子さんなんですよね」

  「そして、甥の榊原さんの年も止まった」

  「もしかして、榊原さんの一族……に現象を止める何かがあるんじゃないかって」

もしそうなら、今年始まった現象を止めるすべはないということになる

千曳「確かに、私もその可能性を考えたことはあった、が、どうとも言えないという結論にならざるをえないね
 
   ただ……これは私の直感半分期待半分だがね、おそらく関係ないだろうと私自身は考えている

   榊原くんの母親が夜見山岬くんと同じクラスにいたが、二人に特別な関わりはなかった

   それに、現象が一族や血統というもので左右されるとは、私には到底思えない」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:23:54.40 ID:aMHhF8cdo

結局、現象の解決に繋がるような手がかりを得ることはできなかった
やっぱり、観測者である千曳先生や卒業生の榊原さんではなく、
今の三年三組の当事者である私達自身でしか解決できないのだろう
今までに止まった二年もそうだったのだから

榊原「大した役に立てなくてごめんね」

綾野「いや、そんなことはないですって、そもそも、現象に対する体験談自体が貴重ですから」

榊原「もしかしたら、僕の同級生にもっと詳しく覚えている人がいるかもしれない
   僕は今同級生の家に滞在してるんだけど、その人も含めて何人かに話を聞いてみようか?」

綾野「あ、ありがとうございます、それなら、私が直接話を聞きに言ってもいいですか?」

榊原「多分構わないと思うけど……」

綾野「じゃあ、決まりですね、いつにします?私はいつでも構いませんよ」

榊原「僕の滞在期間もあるから……明日は日曜日だし、明日の午後でもいい?」

綾野「ええ、ぜんぜんいいですよ、よろしくお願いします」

千曳「それなら、私も参加したいのだが、かまわないかね、榊原くん、綾野くん」

綾野「千曳先生も来てくれるなら、ぜひお願いします」

そういえば、そろそろお腹が空いてきた、朝ごはんを食べて来なかったからかな
とにかく、明日、何か手がかりをつかめればいいな
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:25:46.31 ID:aMHhF8cdo

綾野「じゃあ、私はそろそろ帰ります」

千曳「ああ、明日は午前中部活もあることだし、終わったら私が送ってあげよう」

ああ、そういえば部活があるんだった、忘れてた

榊原「さようなら、綾野さん、また明日」

綾野「さようならー」

二人に別れを告げ、帰路につく
もしかしたら、明日、何か掴めるかもしれない
死んだ人間はもう戻らないけど、あの子の敵を討てるかもしれない
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:27:31.32 ID:aMHhF8cdo

しかし……榊原さんか……
東京からきた転校生で、料理ができて優しくてイケメンとはさぞかしモテたんだろうなあ
今のクラスにはそんな男子がいないんだよね、がさつなのばっかりで
まだ中学生だし、仕方ないけどね

(いやいや、何考えてるんだろ私)

そもそもあんなかっこいい人に彼女がいないわけないじゃん
あんな顔して東京じゃ女の子を泣かせまくってたりして、よっ、色男!



……どうも思考が暴走気味だ、おなががすいたせいということにしておこう
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/05/27(日) 23:43:00.29 ID:aMHhF8cdo
中断
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/05/27(日) 23:54:35.79 ID:nsClzD6Wo
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/28(月) 07:41:26.93 ID:cD3npPfDO
続き待ってる 面白い
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/28(月) 12:12:29.63 ID:EnZl6KLEo
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/05(火) 23:42:41.27 ID:q5K0E8Sdo
再開
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/05(火) 23:43:14.25 ID:q5K0E8Sdo

日曜日、午後二時

約束の時間だ、卒業生の勅使河原――ややこしい名前、とにかくその人の家で話を聞くことになっていた
お昼ごはんは千曳先生にファミレスでおごってもらった、先生デザートにパフェまで頼んでたし……

車の中で手鏡で髪型をチェックする
いつもより丁寧にセットしてある、服も昼食を食べた後、家に帰って着替えてきた
千曳先生は、黒い服にいつもの髪型しかパターンがない

勅使河原、表札にはほんとにそう書いてあった
テストの時とか名前書くの大変そうだなあ

千曳さんがさっさと呼び鈴を押す
すると、すぐに中から背の高い茶髪の男の人が出てきた、この人が変な名前の勅使河原直哉さんか

勅使河原「うっす、君がサカキが言ってた彩ちゃんか、とりあえず中に入って」

綾野「はい、お邪魔します」

リビングらしきところに案内されると、榊原さんと女の子みたいな顔立ちの人、望月さんというらしい――がいた
それと、奥からコーヒーを持ってきた眼帯をつけた女の人、見崎鳴さん
勅使河原さんと合わせて、全員で四人か

綾野「はじめまして、綾野彩です、今日はよろしくお願いします」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/06/05(火) 23:43:26.81 ID:w4w9DYmLo
キタ――(゚∀゚)――!!
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/05(火) 23:45:28.69 ID:q5K0E8Sdo

全員の自己紹介の後四人それぞねの98年度の災厄について覚えていることを話してもらう事となった
残念ながら誰も災厄が何故止まったかはわからないらしい
だから、現状分かっていることから何か推測するしか無い

他の人達の記憶も改竄されていることから、やはり合宿が重要な鍵だということはわかる
しかし、それはもうすでに分かっていることだ、なにか新しい情報がほしい

しかし、合宿について新しく分かったことは合宿で勅使河原さんと榊原さんが怪我を負ったということだけだった
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/05(火) 23:50:08.12 ID:q5K0E8Sdo

千曳「98年度の名簿を持ってきたから、ひとりひとり犠牲者を確認してみようか」

千曳先生は準備が良い、98年度の名簿を見るのは私は始めてだ

98年度の犠牲者はまず四月に亡くなった見崎さんと姉妹である藤岡さん
五月の死者は桜木ゆかりという女の子で、傘が喉に刺さっての事故死、母親も同日に事故死
次の犠牲者は水野という生徒の姉で、榊原さんが入院していた病院に勤めていた看護婦らしい
その後は高翌林という生徒で心臓発作で亡くなった
望月さんと榊原さんは倒れた時のことをうっすら覚えているらしい
七月には担任の久保寺という先生とその母親が亡くなった

千曳「そしてその後なんだが……中尾という生徒が脳挫傷で亡くなっている
   記録では夜見山市内で頭をぶつけて、その後夜見山市外で亡くなったとあるが」
 
望月「中尾くんか……確か……何かあったような気がする……夜見山市外か……思い出せない」

榊原「そうだね……確か……皆でどこかに行ったような気がする」

勅使河原「望月とサカキもか、俺もなんかそんな気がするんだよ」

見崎「私も……なんとなく違和感がある」

千曳「私は名簿に書かれていること以上のことは何も覚えていないね」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/05(火) 23:51:07.96 ID:q5K0E8Sdo
高林くん忘れてた


千曳「98年度の名簿を持ってきたから、ひとりひとり犠牲者を確認してみようか」

千曳先生は準備が良い、98年度の名簿を見るのは私は始めてだ

98年度の犠牲者はまず四月に亡くなった見崎さんと姉妹である藤岡さん
五月の死者は桜木ゆかりという女の子で、傘が喉に刺さっての事故死、母親も同日に事故死
次の犠牲者は水野という生徒の姉で、榊原さんが入院していた病院に勤めていた看護婦らしい
その後は高林という生徒が心臓発作で亡くなった
望月さんと榊原さんは倒れた時のことをうっすら覚えているらしい
七月には担任の久保寺という先生とその母親が亡くなった

千曳「そしてその後なんだが……中尾という生徒が脳挫傷で亡くなっている
   記録では夜見山市内で頭をぶつけて、その後夜見山市外で亡くなったとあるが」
 
望月「中尾くんか……確か……何かあったような気がする……夜見山市外か……思い出せない」

榊原「そうだね……確か……皆でどこかに行ったような気がする」

勅使河原「望月とサカキもか、俺もなんかそんな気がするんだよ」

見崎「私も……なんとなく違和感がある」

千曳「私は名簿に書かれていること以上のことは何も覚えていないね」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/05(火) 23:58:59.46 ID:q5K0E8Sdo

もしかしたら、その中尾順太という人に何かあるのかもしれない

綾野「なんとか思い出せませんか、お願いします」

お願いしてどうとなるものでもないだろうけど

望月「うーん、確か皆で海に居たような……」

勅使河原「海か!たしかにそんな気もするぞ、ナイス望月!」

榊原「なんで海に行ったのかは分からないけど、そう言われてみればそうかも」

綾野「海……やっぱり夜見山市外ですね……」

榊原「多分誰かに会いに行ったんだ、皆で」

勅使河原「おおっ確かにそんな気もするぞ、さすがサカキ!」

見崎「で……誰に、何のために会いに行ったのかわからないと意味ないんじゃない?」

榊原「見崎は何も覚えてないの?」

見崎「全然、私は海に行った記憶も曖昧だし」

榊原「そうか……」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:00:05.66 ID:MjJXZKkQo

望月「千曳さん、夜見北の卒業生、特に怜子先生の年の卒業生で、その辺りに住んでいる人ってわかります?」

千曳「なるほど、そういう可能性もあるな、調べて見る価値はある」

そうか、私と同じように、かつて災厄を止めた年の卒業生に会いに行ったのか……なるほど

千曳「とりあえず中尾くんに関してはこれくらいか、
   そのあとは小椋由美と言う生徒の兄が事故で亡くなっているが、これに関してはなんとも言えんな」

その後の合宿での死者十人も含めて、98年度の犠牲者は全部で十九名
合宿での死者に関しては、死因含めてほとんど何も分からないらしい

勅使河原「まあ、俺らが知ってることはこれぐらいかな…………」

その後いくつかこれらの情報について全員で考えたが、これという意見は出なかった
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:04:33.56 ID:MjJXZKkQo

勅使河原「ふう……ずっと話してて疲れたな……」

望月「どうしたの……勅使河原くん……顔色が悪いよ」

勅使河原「ああ、ちょっと朝から体調が良くなくてよ」

体調が良くないのにあんな元気だったのか、元気っぷりでいえば私以上かもしれない
しかしかなり辛そうだ、痩せ我慢していたのだろうか

綾野「でも、かなり辛そうですよ、寝ていたほうがいいんじゃないですか」

勅使河原「ああ、そうだな……俺、二階で寝てくるわ……」

望月「大丈夫?一人で二階いける?」

勅使河原「心配ねえって、望月にもうつしちゃ悪いしな、一人で行くよ
       じゃあ、後は皆で話しててくれ」

勅使河原さんがふらふらと部屋から出る、ほんとに大丈夫だろうか
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:05:55.81 ID:MjJXZKkQo

千曳「とりあえず、海に行った時誰にあったのか、は重要かもしれない、私が調べておこう」

もしその人が見つかれば、解決に大きく近づけるかもしれない、一歩前進、だ

榊原「僕がもうちょっと覚えていればね……」

綾野「いやいや、これまでは何の手がかりもなかったんですよ、十分役に立ちますよ」

望月「とりあえず、今日はこれで解散でいいかな、もう五時だしさ」

綾野「はい、ありがとうございました、望月さん、それに見崎さんも、」

見崎「ええ……じゃあ頑張って」

見崎さんはミステリアスで暗い雰囲気の人だったが、その励ましは妙に心強かった

千曳「さあ、そろそろ帰ろうか」

先生が立ち上がる、私も帰ろう……ここからなら歩いて帰ってもそんなに時間はかからないだろう

そう思って私が部屋の扉を開けようとした、その時だった






ガンッ!
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:08:53.62 ID:MjJXZKkQo


部屋の外から、大きな音、まさか……
考える間もなく部屋から飛び出す



綾野「勅使河原さん!」

勅使河原「うう……」

勅使河原さんの頭からは血が出ていた

階段で……頭を打って……まさか……でも、勅使河原さんは現象の範囲外のはず……
もしかして……私がここで現象についての話をしたから……?

千曳「尋常では無いね」


  「とにかく、病院に連れて行こう、ここからなら私の車で行くのが一番早い
   私は車を出してくるから、恒一くんと望月くんは担架の代わりになるものを用意してくれ
   それまで綾野くんと見崎くんは勅使河原くんの様子を見ていてくれ」

綾野「はい!」

見崎「分かりました……」

三人は急いで走りだした、私はハンカチを勅使河原さんの傷口にあてる
傷はさほど深くないけど、頭を切ったからか出血は多い
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:11:38.69 ID:MjJXZKkQo

綾野「もしかして……私のせいで……」

見崎「心配しないで、あなたのせいじゃない。これは現象じゃなくて、ただの偶然の事故だから」

勅使河原「うう……俺のせいだ……俺の……」

綾野「勅使河原さん、しゃべらないで、じっとしてて下さい、千曳さんが病院に連れて行ってくれますから」

勅使河原「ちがう……ちがうんだ……俺のせいなんだよ……」

なにか様子がおかしい、発熱と頭をぶつけたこととで、頭が混乱しているのだろうか

勅使河原「俺が……俺がしっかりしていれば……かざ……もあかざ……もしなずに……」

綾野「大丈夫ですから、もうしゃべらないで」

勅使河原「ちがうんだよ……なんでこんな大事なこと忘れて……そうだ……教室に……
       教室に……残したんだよ……後輩のためにさあ……」

教室に……残した……何を……?

勅使河原「おれたちは……二十二人も……死んだ……そんなことが……ないように……」

二十二人?98年度の死者は十九人のはず……

勅使河原「そうだ……あやの……おまえも……ちくしょう…………」

私も……?全くわけがわからない、どういうこと?
ただ混乱しているだけなんだろうか……?それとも……
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:12:04.25 ID:MjJXZKkQo

榊原「綾野さん、勅使河原を運ぶの手伝って!」

榊原さんと望月さんが毛布と物干し竿で作った簡易担架を持って帰ってきた
私達四人で協力して、なるべく衝撃を与えないように勅使河原さんを車へ運ぶ

千曳「とにかく、君たちはここで待っていてくれ、病院についたらまた連絡する」

千曳先生の車が走りだし、すぐに見えなくなった
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:15:05.10 ID:MjJXZKkQo


望月「勅使河原くん……大丈夫かな」

望月さんの表情は恐怖に怯えているようだ
いや、望月さんだけでなく、その場にいる四人全員がそうだろう



中に入って待っている間も、誰も言葉を発しなかった

時計の針の音だけが、鳴り続けていた

十分ほど経った頃だろうか、見崎さんが口を開く

見崎「綾野さん……ここで待っているだけじゃ息苦しいし……風にあたってきましょう」

息が詰まりかけていた私にとってその申し出はありがたかった
望月さんと榊原さんを残して、私たち二人は家の外に出た
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:17:20.92 ID:MjJXZKkQo

外に出てから、再びしばらくの無言が続いた

今度は思い切って私から話を切り出すことにした

綾野「見崎さん……さっきの勅使河原さんの様子……おかしくありませんでした?」

見崎さんは軽くうなづいた

綾野「教室って言ってましたよね、何か心当たりはありますか?」

今度は首を振る

「誰かの名前を呼んでましたよね、そっちは分かりますか?」

見崎「たぶん……風見くんと赤沢さん……風見くんは彼の幼馴染で、赤沢さんは98年度の対策係だった」

風見智彦と赤沢泉美……どちらも合宿で亡くなった人のリストにあった名前だ

見崎「もしかしたら、二人の死に勅使河原が関係しているのかも、ね。殺したわけじゃないと思うけど」

綾野「二十二人って言ってましたけど、98年度の犠牲者は十九人のはずですよね?」

61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:20:40.42 ID:MjJXZKkQo

見崎「ええ、98年度の死者は十九人、千曳さんもさっきそう言ってたでしょう」

二十二人……十九人じゃなくて二十二人……?

綾野「でも、そもそも勅使河原が言ったことが真実だって決まったわけじゃないわ
   頭をぶつけて一時的におかしくなっただけかも、勅使河原はもともと少しおかしいしね」

なかなか毒舌だ、勅使河原さんのことを心配している素振りも見せない
でも、多分私を心配させないようにわざとそう振舞っているのだろう

見崎「ふう……もう質問はいいわね……じゃ……私は中に戻るから、あなたは?」

綾野「いえ……もう少しここにいます」

見崎「そう……気をつけて……」

とにかく、勅使河原さんの言ったことの中で一番具体的なこと……教室に何かを残した、明日の放課後にでも調べてみよう
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:22:43.46 ID:MjJXZKkQo

中に戻ってすぐ、千曳先生から電話があった
脳検査をしたところ、特に異常はなかったらしい
体調不良の原因はただの風邪で、頭もそれほど強く打ってはいないと言っていた
しかし様子見も兼ねて、病院で一泊するようだ

綾野「それじゃ、私もそろそろ帰ります、今日はわざわざありがとうございました」

望月「うん、それじゃあ」

榊原「帰り、気をつけてね、もう暗いから」

綾野「はい、気をつけます」

見崎「ちょっと待って……」

見崎さんは小さなメモを私に差し出してきた

見崎「これ……私の番号……」

私は普通にメモを受け取ったが、望月さんと榊原さんは何故か驚いていた

綾野「どうしたんですか?」

榊原「見崎は携帯嫌いでさ、見崎の番号を知ってるのは僕と彼女の母親ぐらいなんだ」

望月「僕なんて未だに持ってないんだよ、中高と同じ学校だったのに」

見崎「なんとなく、かな……」

教室の探しもの、頑張って、と彼女は私にしか聞こえないほどの声量でつぶやいた
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/06/06(水) 00:23:07.23 ID:5s/2mHQbo
綾野さんが毒舌になってる…
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:24:38.65 ID:MjJXZKkQo
なんというミス……


見崎「ええ、98年度の死者は十九人、千曳さんもさっきそう言ってたでしょう」

二十二人……十九人じゃなくて二十二人……?

見崎「でも、そもそも勅使河原が言ったことが真実だって決まったわけじゃないわ
   頭をぶつけて一時的におかしくなっただけかも、勅使河原はもともと少しおかしいしね」

なかなか毒舌だ、勅使河原さんのことを心配している素振りも見せない
でも、多分私を心配させないようにわざとそう振舞っているのだろう

見崎「ふう……もう質問はいいわね……じゃ……私は中に戻るから、あなたは?」

綾野「いえ……もう少しここにいます」

見崎「そう……気をつけて……」

とにかく、勅使河原さんの言ったことの中で一番具体的なこと……教室に何かを残した、明日の放課後にでも調べてみよう
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:25:18.50 ID:MjJXZKkQo

中に戻ってすぐ、千曳先生から電話があった
脳検査をしたところ、特に異常はなかったらしい
体調不良の原因はただの風邪で、頭もそれほど強く打ってはいないと言っていた
しかし様子見も兼ねて、病院で一泊するようだ

綾野「それじゃ、私もそろそろ帰ります、今日はわざわざありがとうございました」

望月「うん、それじゃあ」

榊原「帰り、気をつけてね、もう暗いから」

綾野「はい、気をつけます」

見崎「ちょっと待って……」

見崎さんは小さなメモを私に差し出してきた

見崎「これ……私の番号……」

私は普通にメモを受け取ったが、望月さんと榊原さんは何故か驚いていた

綾野「どうしたんですか?」

榊原「見崎は携帯嫌いでさ、見崎の番号を知ってるのは僕と彼女の母親ぐらいなんだ」

望月「僕なんて未だに持ってないんだよ、中高と同じ学校だったのに」

見崎「なんとなく、かな……」

教室の探しもの、頑張って、と彼女は私にしか聞こえないほどの声量でつぶやいた
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)[sage]:2012/06/06(水) 00:31:57.29 ID:aW1haOia0
鳴ちゃん邪気眼使えばいいのに
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/06(水) 00:47:38.54 ID:MjJXZKkQo
中断

二回もミスしてしまった、もうないよね?

分かりづらいところないかな……



68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)[sage]:2012/06/06(水) 00:58:24.30 ID:scMrhR4Co
saga忘れとか細かいミス位でそのレス修正してまた載せなくてもいいよ
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/17(日) 23:44:09.71 ID:VP8cT3Rio
>>1ですが明日の夜あたり投下します
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:13:32.50 ID:tI2iO+r/o
再開します
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:14:35.46 ID:tI2iO+r/o

もう空はすっかり暗くなっていた、こりゃ伯父さんに叱られるかも

私は四年前に事故で両親が他界し、同じ夜見山市内に住む伯父さんの家に住んでいる
伯父さん夫婦は子供がおらず、私を本当の子供のように扱ってくれるが、割と放任だった両親に比べると結構厳しい

家に帰って、三十分ほど説教を食らう、いつものことだ
説教の間も、明日の探しもののことをずっと考えていた
話を聞いてないのがバレて、十分延長されたけど

教室に一体何を残したのだろうか……
とにかく明日の放課後だ、今日は早く眠ろう


zzz……
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:16:14.01 ID:tI2iO+r/o

その日受けた授業の内容は殆ど覚えていない
早く放課後になってほしいと、そればかり考えていた
隣のクラスの演劇部の友人に今日は都合で休むと伝えた、私はめったに部活を休まないからか、少し驚かれた

綾野「さて……と」

皆が教室から出ていったのを確認して、私は教室の中を探し始める
教室の中で、物を隠せる場所はそれほど多くない

年度が変わると替えられてしまう机や椅子などには隠していないだろう
それに、隠すことが目的ではなく見つけ出されることが目的なのだから、それほど難しい場所にはないはずだ

そういうわけで、私が掃除用具入れの上に貼り付けてあるMDに気づくのにそう時間はかからなかった
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:20:47.63 ID:tI2iO+r/o

理不尽な災いに苦しめられるであろう三年三組の後輩たちへ

MDにはそう書かれている、間違いない、勅使河原さんが教室に残したのは、このMDだ
放送室に忍び込む訳にもいかないし、家に帰って聞くことにした

帰り道、いつもより少し緊張する
自分が現象に対抗するための唯一の鍵を握っているのだ
鞄のポケットにしっかりと入れているのに、家までに何度か中を開いて確認した

家の玄関を開け、自分の部屋までたどり着く
どうやら何事も無く帰ってこれたようだ
MDの入った鞄を机の上に丁寧に置き、一階の押し入れの中のラジカセを探す
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:26:09.17 ID:tI2iO+r/o

綾野「たしか……このへんに…………あった」

ラジカセを持って階段を上がる時もかなり緊張する
踏み外さないように一歩一歩慎重に歩く
再び自分の部屋に入って、とりあえず一息ついた

ラジカセをコンセントに繋ぎ、電源を入れる
緊張で震える手で、MDを入れる

MDの読み込み時間がとても長く感じる
再生が始まってから5秒ほどの空白と雑音、そして……

『あー、あ、うん、よし』

間違いない、勅使河原さんの声だ、このMDは本物だと確信する
心臓の音が聞こえるくらいに鳴り、足が震える
ラジカセから聞こえる声に、全神経を集中させる
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:28:35.71 ID:tI2iO+r/o


『後悔しないように』

MDの再生が終わった
頭の中でもういちど聞いた内容を繰り返す

ラジカセの中の勅使河原さんは、私の思っていた以上に具体的な、説得力のある解決法を示してくれた
しかし……それが実行できるかはまた、別の問題だ

綾野「死者を……死に……還す」

死者が蘇ることで始まる現象が、死者が死に還ることで止まる
確かに理屈として納得は行く
でも、それでは半分かそれ以下、死者が誰か分からなければ、意味が無い

四年前は一体どうやって死者を割り出したのだろうか
昨日の勅使河原さんのように、一時的なショックで記憶が戻った……とか

もしかして……死者を割り出してはいなかったのかもしれない
合宿での十人もの死者……このMDと同じ内容が皆に知れ渡れば、お互い疑心暗鬼になって……あり得ない話ではない
クラスの皆で殺し合い……想像しただけで寒気がする
どっちにしても、死者が誰か確定するまでこのMDの内容に関しては言わないほうがいい
観測者である千曳先生に言う必要はあるだろうけど

明日、先生にこのことを教えるついでに第二図書室でまた昔のクラス名簿を見せてもらおう
MDを大事に鞄にしまい、夕食までしばらくまどろむことにした
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:33:46.92 ID:tI2iO+r/o

薄暗い教室の中、私は包丁を持って立っていた

教室では皆が静かに授業を受けている
私はしばらく呆然としていたが、自分のやるべきことを思い出した

  「死者を……死に……」

そうだ、私がやらなくちゃ、でも……一体誰が死者なんだろう?

クラスの皆を見渡す、どうしてもこの中に死者がいるとは思えない
しかし、誰か一人が死者なんだ、それは間違いない、私が止めなくちゃ……

もう一度教室を見渡す、欠席者はいない、全員席に付いている
死んだはずのクラスメイトもなぜか生きているが、そんなことは重要ではない

あれ……私の席にも誰か座っている……

私の席には、紛れもなく私自身が座っていた、もう一人の私がこっちを向いた気がした

足元が突然蟻地獄のようになり、私の体を飲み込んでいく

私のまわりの視界がくるくる回り出し、私は闇の中に沈んでいく

私も死んでしまうのだろうか、嫌だ、死にたくない

私は必死にもがき、叫ぶがそれは全く意味を成さなかった

そして私の意識も徐々に薄れていって…………


――――――――――――――――
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:36:09.70 ID:tI2iO+r/o

綾野「うう…………」

最悪の目覚めだった、なにか悪夢を見たらしいが内容までは思い出せない
新学期が始まってから悪夢を見ることはちょくちょくあったが、こんな目覚めが悪いのは始めてだった
頭が痛い、窓を閉めたまま寝てしまったのは不覚だった
下の部屋から夕食に呼ぶおばさんの声が聞こえる

しかし頭が痛い、しかも熱っぽい、風邪をひいてしまったのだろうか
全身の倦怠感もある、間違いない
勅使河原さんに移されてしまったのか……多分そうだろう

おばさんが部屋をノックして、中に入ってくる
私が風邪を引いたというと、体温計と氷枕を持ってきてくれた
おかゆを食べるかと聞かれたが、食欲がないので遠慮しておいた

体温を測ると三十八度以上……勅使河原さんの馬鹿……
でも勅使河原さんのおかげでMDが見つかったわけだし、MDを残したのも彼なので特別に許してあげよう

それにしても頭が痛い、起きていても辛いだけだし今日は何も考えずに眠ろう
風邪は寝てなおせ、だ



zzz………
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:38:52.80 ID:tI2iO+r/o

朝、やっぱり目覚めは悪い
体温を測ったが、熱はあまり下がっていなかった
今日は学校を休むしかないか……

午前中のうちにおばさんと一緒に病院に向かった
診断結果は……ただの風邪
薬を飲んで、しばらく安静にしていなさい、と言われた
とりあえず死に繋がるような病気じゃないようだ
勅使河原さんから移されたわけだから現象で有る可能性は低かったが、それでも不安ではあったから、ほっとした

おかゆを食べて、午後からも寝て過ごす
クラスの皆はどうしているだろうか……

ふと不安になり、鞄の中をひっくり返す
MDはちゃんと鞄の中に入っていた、このMDは爆弾みたいなものだ、もし失くしたら大変なことになるかもしれない

鞄の中というのは、どうも危うい気がする
私は机の鍵付きの引き出しの奥にMDを入れることにした、ここなら誰かに見つかる心配はない

とりあえずMDを隠したので安心してまたしばらく寝ることにする
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:44:11.83 ID:tI2iO+r/o

部屋の扉を叩く音で目を覚ます
おばさんが勢い良く部屋に入ってきた

どうしたんだろう……私もうちょっと寝ていたいのに……

おばさんは今まで見たことがないほど悲しい顔をしていた

おばさん「彩ちゃん、今電話があってね、彩ちゃんのクラスの男の子が亡くなったって」

綾野「え……」

おばさん「下校中にひき逃げにあったって、それで……」

信じられなかった、いや、信じたくなかった
また……クラスメイトが死んだなんて

気持ち悪くなって、傍らにあった洗面器にもどす

綾野「うえっ…………」

胃の中のものを全部吐き出して、それでもまだ気持ち悪さが残っている

おばさん「綾ちゃん、大丈夫!?」

綾野「ああ……体調は心配ないから……しばらく一人にさせて……」

おばさんは心配そうな顔をしたけれど、しばらくして部屋から出ていった

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:46:25.93 ID:tI2iO+r/o


怖い、誰かが、自分が死ぬのが怖い
私たちの隣には常に死があって、それはすべてを容赦なく飲み込んでいく

これで五人が死んでしまった、まだ卒業まで半年以上あるのに

私は引き出しからまだMDを取り出す
死者を……死に……必ず、やってみせる、いや、やらなくちゃ
MDを引き出しにしまう、もう風邪を引いていることはすっかり忘れていた
悲しんでいる暇はない、亡くなった五人のためにも、このくだらない現象を止めてやるんだ

とはいっても死者を割り出す方法は今のところ、ない
明日千曳さんに相談するしかないか……、結局さっきと結論は変わらないな……
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/19(火) 00:51:02.35 ID:tI2iO+r/o
ちょっと短いけど中断
次回はたぶん週末でたぶん最終

人いないな
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)[sage]:2012/06/19(火) 00:54:05.49 ID:GzGYBlZ/o
見てるよ
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/19(火) 00:56:29.54 ID:V+hYT+1DO
ここじゃあVIPと違って投下中の支援はタブーらしいしね


84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/19(火) 14:00:24.90 ID:9c8WvJYKo
きてたあああ 頑張れ
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:07:10.82 ID:CwipJOLTo
再開します
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:12:17.74 ID:CwipJOLTo

毎週水曜日は私の苦手な授業が集中している、それになんとなく水曜日にはいい思い出がない気がする
大好きな演劇部も水曜日は休みだし、今日も朝から嫌な雨が降っている

今日はクラス中が朝から暗い表情だ、それも当たり前か……
先生もかなりやつれているように見えた、みんな限界が近づいているんだ

今日も授業は上の空、ぼーっとして一授業に一回は叱られてしまった
昼休みに弁当も食べなかったくらいだ

放課後になると、誰よりも早く教室を出て、第二図書室に向かう
今日はここには誰もいない、いつもいる千曳先生も席を外していた

とりあえず私は歴代のクラス名簿と写真を取ってくる
98年度のページを開く、当たり前だけど、日曜日に見たものと全く一緒だった
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:13:08.84 ID:CwipJOLTo

千曳「おや……綾野くんか……珍しいな」

千曳先生が来た、私は一旦名簿を閉じる

綾野「先生、ちょっと見せたいものがあるんです」

千曳「なんだね」

私は鞄の中のMDを探す――――ない、そんなバカな


隣のポケットにあった、どうも今の私は落ち着きを失っている

千曳「それは……MDか……」

何かを感じ取ったのか先生の表情も若干険しくなる

綾野「ええ、これは三年三組の教室に、勅使河原さんが隠したものなんです」

千曳「となると、災厄関係か」

先生は察しが良い

それから私はMDを手に入れた経緯とその内容について事細かに千曳さんに伝えた
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:14:01.12 ID:CwipJOLTo

綾野「と……いうことなんです、先生はどう思いますか?」

千曳「なるほど、実に興味深いな……こんなものが残されていたとは
   それで、このMDの内容が事実であるという仮定のもとでの私の意見だが、これは全く役に立たないね」

   「死者を見つける方法は全くないに等しい、死者本人ですら分からないことだからね
    それにもし死者が分かったとしてもどうしようもない」

そんなことくらい私だって分かる、一昨日の時点でわかっていたことだ、私はかなりいらついていた

千曳「死者は偽物じゃなくて本物なんだ、死人とはいえ、一年間はたしかにそこに生きているわけだし
   それにもし間違っていたら、生きている人を一人[ピーーー]ことにもなりかねない」

   「そうだ、このMDの内容についてクラスの皆には言ったのか?」

綾野「いいえ、聞いたのは私と先生だけです」

千曳「そうか、それならこのことは秘密にしておいたほうがいいな

   下手をすると更なる悲劇を呼びかねないからね」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:15:02.81 ID:CwipJOLTo
sagaつけっぱにしたほうがいいな


綾野「と……いうことなんです、先生はどう思いますか?」

千曳「なるほど、実に興味深いな……こんなものが残されていたとは
   それで、このMDの内容が事実であるという仮定のもとでの私の意見だが、これは全く役に立たないね」

   「死者を見つける方法は全くないに等しい、死者本人ですら分からないことだからね
    それにもし死者が分かったとしてもどうしようもない」

そんなことくらい私だって分かる、一昨日の時点でわかっていたことだ、私はかなりいらついていた

千曳「死者は偽物じゃなくて本物なんだ、死人とはいえ、一年間はたしかにそこに生きているわけだし
   それにもし間違っていたら、生きている人を一人殺すことにもなりかねない」

  「そうだ、このMDの内容についてクラスの皆には言ったのか?」

綾野「いいえ、聞いたのは私と先生だけです」

千曳「そうか、それならこのことは秘密にしておいたほうがいいな

   下手をすると更なる悲劇を呼びかねないからね」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:19:20.72 ID:CwipJOLTo


千曳「それともう一つ、もしその話が本当で、死者がわかったとして君はどうするつもりなんだね」

その質問をされることはわかっていた、返事も決まっている

綾野「私が……やります、このことについてはまだ私しか知らないわけだし、私は皆の敵を、討ちたい」



   「覚悟は……できてますから、間違っていたら、私が責任を取ります」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:22:02.77 ID:CwipJOLTo

千曳先生はふう、とため息をつき、少しうつむいて喋り出す

千曳「綾野くんは焦り過ぎだ、あの子が亡くなってから……その気持ちはわかるがね……もう少し落ち着いて考えなさい」

先生は的はずれな事を言う、だんだんイライラが増してくる

千曳「このMDは私が預かっておこう、今日はもう帰って休みなさい」

現実がわかってない、怒りが溢れだしてくる

綾野「そういうことを聞くためにここに来たんじゃありません」

  「さっきから分かりきったことばっかり言って、逃げてるだけじゃないですか

   私たちには時間がないんです、友達が、家族が、自分が、明日死ぬかもしれない恐怖に皆怯えているのに」

怒りが爆発する

綾野「あなたはただ見ているだけの傍観者だからそんな腑抜けたことが言えるんですよ
 
   現象の原因を作っておいて自分はさっさと逃げたくせに、焦るなだの落ち着けだの無責任なことを……」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:28:10.19 ID:CwipJOLTo

綾野「さっきの話だって……誰が[ピーーー]って二人しかこの話を知らないんだから私がやるしかないじゃないですか

   それとも先生がやってくれるんですか?」

ここまで言うつもりはなかった、しかしもう止められない

綾野「現象を起こした責任から逃げ出した先生が、さも現象について詳しいかのように振る舞って、
 
   肝心なことはひとつもわからない覚えてないで役に立たない……私たちはただ偶然巻き込まれただけなのに……」
 
怒りながら、涙が零れる
もう自分でも何を言っているかわからない

綾野「臆病者……」




最後まで言い切ってしまった、言っちゃいけないこともたくさん言ってしまった

先生はうつむいたまま黙っている
気まずい沈黙がその場を支配する
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:30:13.19 ID:CwipJOLTo
またsagaミス



綾野「さっきの話だって……誰が殺すって二人しかこの話を知らないんだから私がやるしかないじゃないですか

   それとも先生がやってくれるんですか?」

ここまで言うつもりはなかった、しかしもう止められない

綾野「現象を起こした責任から逃げ出した先生が、さも現象について詳しいかのように振る舞って、
 
   肝心なことはひとつもわからない覚えてないで役に立たない……私たちはただ偶然巻き込まれただけなのに……」
 
怒りながら、涙が零れる
もう自分でも何を言っているかわからない

綾野「臆病者……」




最後まで言い切ってしまった、言っちゃいけないこともたくさん言ってしまった

先生はうつむいたまま黙っている
気まずい沈黙がその場を支配する
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:38:33.65 ID:CwipJOLTo

下校時刻の鐘が鳴る

落ち着いて考えると、申し訳ないことをした
先生に怒ったって、何の解決にもならないじゃないか

私は死を恐れるあまり冷静さを失ってしまっていた
さっきも半分は事態が進まないことへの八つ当たりだったのに

千曳先生の責任なんて、今更追求してもどうしようもない
私はそんなことのためにここに来たんじゃなかったはずだ

綾野「先生、すいません……ちょっと私もおかしくなってました」

先生はうつむいたまま動かない
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:41:11.84 ID:CwipJOLTo


綾野「ちょっと言い過ぎた……というか、ごめんなさい」

先生は首を振る

千曳「謝る必要はない、間違いなく君の言っていることのほうが正しい、私は恨まれて当然だ」

千曳先生はまだわかっていない

綾野「正しい正しくないじゃなくて……そういうことでもないんです
 
   さっきはあんなひどいこと言いましたけど、ホントは私は千曳さんに協力して欲しくて……」

千曳「協力……?」

綾野「はい、『死者』を見つけるために」

先生はようやく立ち上がって、こっちを向く

千曳「…………わかった」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:44:47.21 ID:CwipJOLTo

綾野「ありがとうございます、じゃあ早速一緒に名簿を見て考えましょう」

千曳「ああ、いいよぉ」

私は再び98年度のページを開く

千曳「日曜日にも見たところだね、残念ながら死者の特定につながるものはなかったな
   死者十九人、うち生徒十二人」

綾野「そこなんです、その死者十九人なんですけど」

千曳「それがどうかしたのかい?」

綾野「勅使河原さんが頭を打った時、二十二人が死んだって言ってたんです」

千曳「ほう」

綾野「教室に災厄の確信に関わるMDが残してあったわけですし、そっちの情報も本当かもしれません」

千曳「と、なると……そういうことか」

綾野「はい……今年の死者、三年三組に紛れ込んでいるのは98年度の犠牲者のうちの一人……かもしれない、と」

千曳「どちらにしても、死者個人を特定する手がかりにはならないね」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:47:28.77 ID:CwipJOLTo

綾野「でも……勅使河原さんはどうしてMDのことを思い出せたんでしょうか?」

千曳「ふむ……やはりこれも私の推測だが何らかの精神的ショックによる記憶の混乱、

   それが一時的に改竄された記憶を引き出したというのはあるかもしれない」

一時的に記憶が混乱か……そういえば見崎さんもそんなふうなことを言っていた

千曳「もしそれが誰にでも通用するならばそれを利用して何らかの情報を得られるかもしれない、
 
   例えば私は現象による死者と分かる限りの死因、死亡日は完璧に記憶している、だから記憶が蘇れば確実に死者を特定できる」

綾野「そんな全部覚えてるんですか」

千曳「ああ……覚えてる事自体にはあまり意味は無いが……、君は私が今から階段を転げ落ちるべきだと思うかね」

ユーモアのつもりなのかまじめに言っているのかは分からないけど、笑えないな……

綾野「いえ、そうは思いません」

千曳「そうかね、私は割と試す価値はあると思うんだがね」

綾野「記憶を混乱させるなら酔っ払ったほうが楽だと思いますけど」

千曳「あいにく私はアルコールが入るとすぐ眠ってしまうんだよぉ」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:49:29.58 ID:CwipJOLTo

千曳「さて、話を戻そうか、勅使河原くんの発言が全て真実であるとして、何故二十人でなく二十二人なのかという疑問が残る」

綾野「あ、それ私も気になってました、なんで三人も減ったんだろう?」

千曳「残りの二人の死も現象によって改竄された……というわけか」

綾野「どうして蘇った死者じゃない人の死を隠したんでしょう?」

千曳「私の覚えている限り現象による改竄は最小限かつ完璧だ、何か理由があってのことだろう」

理由……?一つだけ思いついたことがある

綾野「今年は三人の死者が蘇っている、というのはありえますか」

千曳「ないとはいえない、ね、でももしそうならお手上げだ、あまりにもイレギュラーすぎる

   もちろんどんなイレギュラーもありえないとはいえないんだが」

うーん……違うか……三人ねえ……三人かあ……三人……?

綾野「そうだ先生、今年の名簿はここにありますか?」

千曳「もちろんあるよぉ、確かこっちに……あった、これだ」

今年の名簿にはすでに幾つか線が引いてあった
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:53:44.32 ID:CwipJOLTo

この線が引かれた人の中から、また新しい死者として蘇るかもしれないのか……
理不尽な現象は死後の安息すら与えてはくれない

綾野「この中に死者……98年度の三年三組のメンバーがいるんですよね」

千曳「ああ、そうだね」

綾野「あっ、でも98年度の生徒本人じゃなくて兄弟が紛れ込んでる可能性もあるんですよね

   最初に蘇った死者は夜見山岬の弟だったって先生も前言ってましたし」

千曳「ああ、それに関しては今年度の三年三組の生徒の二親等内に98年度の卒業生はいない

   もし死者が98年度からの復活ならそれは98年度の三年三組の生徒本人ということになる

   もちろん、今までには三年三組の生徒の兄弟が復活したケースはあるが、今年はそうではないようだね」

現象は生徒本人とその二親等内に影響をもたらす……今年はあるクラスメイトの三つ下の弟が亡くなっていた
その子が三年後以降の死者になる可能性もあるのか……
おじさん、おばさんやおじいちゃんおばあちゃんは三親等だから該当しない……
私は兄弟はいないし、両親とはすでに死別しているから関係ない
しかし、なにか引っかかるところがあるような……
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 01:55:35.00 ID:CwipJOLTo

一応、生徒の家族についても確認しておこう

綾野「今年のクラスメイトの家族構成が分かる資料ってありますか?」

千曳「ああ、あるよぉ」

先生は自分の机の中から別のファイルを取り出した

千曳「これがそうだ、生徒ひとりひとりの細かい情報が載っている、あまり見せちゃいけないものなんだがね」

パラパラとめくって確認する、今年の現象の対象となるのは生徒本人を含めて百人と少しほど
みんな親兄弟が現象の対象になっている、両親も兄弟もいないのは私だけだ

私は一人っ子だし、両親は四年前に事故で亡くなってしまっているから
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:57:42.50 ID:CwipJOLTo

待てよ……四年前に事故……夜見山市内で……九十八年の七月に……

『おれたちは……二十二人も……死んだ……そんなことが……ないように……』

二十二人……改竄された死は三人分……

『そうだ……あやの……おまえも……ちくしょう…………』

私も…………?
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:58:17.25 ID:CwipJOLTo


もしかして……そうなのかもしれない、いや、そんなはずはない

まさか……そんなはずはない、そんなはずは……いや……でも……

千曳「どうしたんだ綾野くん、まだ風邪が完治していないのか?」

綾野「いえ……すいません、私、ちょっと……すいません、もう帰ります」

千曳「なんだ、帰るのか、そういえば下校時刻をだいぶ過ぎてしまっているね」

綾野「はい、じゃ、さようなら、先生」

千曳「ああ、また明日」

逃げるようにして第二図書室を後にする
教室に鞄が置きっ放しであることに気づいたが、取りに行く気にはなれない
私はとりあえず一番近場にあるトイレに駆けこんだ
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 01:59:38.36 ID:CwipJOLTo

鏡を覗きこむと、私の顔が映る
口を開けると、鏡の中でも口を開ける、手を振ると、鏡の中でも手を振る

とりあえず私は今ここに生きているらしい

  「はあ……」

今年の三年三組の生徒の中で、親兄弟が亡くなっているのは私だけ

四年前両親が死んだ事故、車の運転を誤って崖下に転落した……
その事故で98年度の三年三組だった私も一緒に死んでいた……それなら辻褄は合う

私が死者として蘇れば、私が98年度の三年三組だったという記録は全て抹消される
つまり両親の死も災厄とは関係のないものとして扱われる

だから千曳先生の記録では犠牲者は十九人、でも本当は二十二人で勅使河原さんが偶然そのことを思い出した

あの時勅使河原さんは私のことを呼び捨てで呼んだ、それまではずっと「彩ちゃん」って呼んでいたのに、なんで?
それは勅使河原さんが私とクラスメイトだったから、そのことを思い出したから……

辻褄は、合う
もしかして、もしかしたら、
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)[saga]:2012/06/24(日) 02:00:35.65 ID:CwipJOLTo




            私が……死者かもしれない……



105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/06/24(日) 02:04:47.78 ID:CwipJOLTo
中断

アニメでも千曳さんはちょっと動かなすぎだと思います
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/24(日) 02:16:20.56 ID:Ih70SavDO
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/25(月) 07:04:38.18 ID:5RRyObLro
千曳こそ無能
108 :>>1です[saga]:2012/07/10(火) 22:46:44.88 ID:ovNqECZUo
随分遅くなりましたが今週土日で最終の投下します
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/07/10(火) 22:49:59.83 ID:S4XshQCX0
了解。座して待つ。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/11(水) 20:34:02.85 ID:t8TZxoG1o
待ってました!
111 :以下、名無しに変わりましてGN雨傘がお送りいたします[sage saga]:2012/07/15(日) 22:46:12.83 ID:GU5Qbgfb0
乙です!
112 :>>1です2012/07/16(月) 00:53:07.88 ID:Eywvv83jo
すいません、明日の夜に延期します
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/17(火) 08:40:40.90 ID:R19fOcIFo
今日の夜か…
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/07/18(水) 00:09:53.89 ID:4npM2djYo
投下します
投下ペースは遅め
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/07/18(水) 00:10:52.57 ID:4npM2djYo


胸に手を当てる、私の心臓はたしかに動いている、呼吸だってしている
私は自分で自分の手を握る、体温がある、生きている

これからどうすればいいのだろうか
私が死者だと確定したわけじゃない、今はあくまで一つの仮説にすぎない……が
私が死者であろうとなかろうと、ずっとここにいるわけにはいけない

とにかく、誰かに相談しなくては、誰に……?
おじさんおばさんは現象とは関係ないし、千曳先生に相談すべきだろうか……

そうだ、確かポケットに携帯が……

携帯を取り出して、電話をかける

――――――――――――――――
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/07/18(水) 00:26:07.78 ID:4npM2djYo




 夜見のたそがれのうつろなる蒼き瞳の


見崎さんの家は人形屋さんだった

中にはたくさんの人形があって、正直怖い

天音「おや……お客さんかい?」

綾野「いえ……見崎鳴さんにちょっと用事が……」

天音「あの子の知り合いかい、あの子は多分下にいるよ」

綾野「ありがとうございます」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/07/18(水) 00:39:01.13 ID:4npM2djYo

地下一階

下の階は一階よりさらにたくさんの人形に埋め尽くされていた

何かを吸い取られているような……そんな感じがする

見崎さんを探して奥に進む



綾野「あれ?」

棺桶の中の人形は見崎さんにそっくりで、一瞬見崎さんが棺桶の中に入っているのかと見間違えてしまった

見崎「似てる、でしょ」

綾野「えっ、はい、とても」

突然背後から話しかけられて驚いてしまった、見崎さんはそんな私の様子を見て楽しんでいるようだ

綾野「この人形って見崎さんがモデルなんですよね?」

見崎「ええ……半分、はね」

  「それよりも、私が似てるって言ったのはあれ」

見崎さんが指さした先には、見崎さんの人形より小さい人形があった。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2012/07/18(水) 00:56:32.44 ID:4npM2djYo

綾野「あれは……」

その人形は私と同じ髪の色で、同じ髪型だった、顔はそっくり似ているわけではなかったが、雰囲気はどことなく似ているような気がした

見崎「似てる、でしょ」

  「でも、ただの偶然、この子を作ったのは私の母親だけど、あの人はあなたに会ったことがないから」

…………ほんとうに偶然なんだろうか

見崎「立ち話も何だし、上に行きましょう」

エレベーターで上の階に移動した。そういえば私が来るのがわかってるのになんで下で待ってたんだろう?
上で話をするならはじめから上で待ってればいいのに
そんなに人形の話がしたかったのかな
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/24(火) 23:23:11.43 ID:g4YhNEdVo
まってる
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/06(木) 17:04:56.83 ID:HxcoaVx4o



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