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HTML化した人:lain.
真、まことの剣豪
1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 15:43:46.34 ID:PUm5wcli0
こんにちは。
このSSは、765プロダクション製作の映画(という設定)です。

書きための投下となりますが、
まだ7割ほどしかできていない上に最近あまり時間がとれないので、完成まで時間がかかります。
(かといってお蔵入りももったいないのでスレッドお借りします)

更新も遅めになると思いますが、のんびりと読んでいってくださるとありがたいです。
(途中での茶茶もかまいません)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1337409825(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)[sage]:2012/05/19(土) 15:46:30.83 ID:bYsPpD2Qo
期待待ち
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 15:48:48.88 ID:PUm5wcli0
[登場人物]


菊地真之丞(きくちまことのすけ)
…菊地真

四条院貴音
…四条貴音

あずさ
…三浦あずさ

如月千早太(きさらぎちはやた)
…如月千早

はるか
…天海春香

やよい
…高槻やよい

いおり
…水瀬伊織

みき
星井美希

あみ
…双海亜美

まみ
…双海真美

ゆきほ
…萩原雪歩

りつこ
…秋月律子

ひびき
…我那覇響
4 :>>2さん、ありがとうございます[saga]:2012/05/19(土) 15:54:34.53 ID:PUm5wcli0
人が命をかけるほどのものが、
一体この世にいくつあるのか。

そもそも、そんなものは存在しうるのか。

全てのものに等しくあたる代価を、
自らの生をもってするほどのものが……。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/05/19(土) 15:57:23.33 ID:PUm5wcli0
あ、言い忘れました、
濡れ場が何箇所かあります。

苦手な方は各々、遠慮してください。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:01:50.44 ID:PUm5wcli0


第一章 剣の道、険しきこと
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:03:45.48 ID:PUm5wcli0
空が高くなった。

一年に一度はそう感じる季節、いや時期がある。

ああ、自分の背が縮んだのだ、と思わないでもない。

なぜなら、十五の元服の頃からほとんど変わらないこの躰(からだ)で、もう三年も経つ。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:05:45.56 ID:PUm5wcli0
とはいえ成人した男子として、
一人の剣術者として、
幼い時分から稽古を怠らない壮健さと、
誰にも負けはしないと磨いた剣の業は十分に持っていると、
そう思っている。

父親が、まだまだ鍛錬が足りぬなどと事あるごとに口を出してきた頃が懐かしい。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:08:08.55 ID:PUm5wcli0
孝行したい時に親は無しとはよく言ったものだ。

というより、親とは元々そういうものなのであろう。

父は私が十七の時に、肺の病で亡くなった。

天下の剣豪も、病には勝てぬ、
と城下では専ら話の種になったあの頃は、
自身の内に言い知れぬ怒りがふつふつとあったのが思い出される。

誰に向けたというものではない。

ただ父親が、文字通り、太刀打ちできない相手に斃(たお)されてしまうことに、
何故だかとても苛立った。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:15:15.58 ID:PUm5wcli0
剣での勝負なら……。

父上は負けはしませんのでしょうがと、
床に臥せる父親に一度訊いたことがあった。

するとその時は、むくりと起き上がり、静かに禅を組んでこう言った。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:18:35.07 ID:PUm5wcli0
例えこの躰は病んでも、気は決して病まず。

そうある限り、この刀は決して折れず、
おまえと……おまえの人生と共にある。

しかし勘違いするな、それは己が敵から身を守ってはくれまいぞ。

魂をもって振るうことに答えてくれるそれだけのためにある。

だが、そのことのなんと難しいことか。

命を捨てよと申すのではない。

命をかけても剣を使うその価値があるものに出会う機会があればよいのだが……」

12 :>>11は 「 補完願います[saga]:2012/05/19(土) 16:24:11.30 ID:PUm5wcli0

「父上、お躰にさわります」

「いや、大事ない」
父は続ける

「一つ、おまえの母上を、まだ幼かったあの女子を守った時のことだ。

守ったと言ったが、私も若輩者でな、
半分はあやつが片づけておった。

言っておくが、この江戸でおまえの母より強かったのは私だけであったのだぞ。

私たちの剣技を妬んで、何十人もの男たちが襲ってきた。

ひどい戦いであった……。

全てが終わり、返り血で刀が握れぬほどであったところに、
あの娘は駆けて来てこう言いおった」

私の為だけにお命を粗末になさらないでくださいな。

死んでもよいなどということはこの世にありませんから。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:28:55.84 ID:PUm5wcli0

「今のおまえとより一つ下の十六歳、
私が十八だった。

その言葉を言われてはっと気がついた。

命をかけるのは、命が最も惜しい時なのだと」

今は黙っていよう。

そう考え、じっと耳を傾けていた。

「父上」

今日はよく話すものだ、と感じる。

「よいか、この先どんな困難や大敵と出会うやもしれぬが、
自分の思ったことは曲げてはならん、
意志を強く持て。

それが人を二本の足で立たせる所以よ。

たくましく、そして、有意義にいきよ……真」

「はい、もちろんでございます」

私は父に対してそう答えたが、
頬を伝う涙をどうしたものかと思案に暮れていた。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:32:54.77 ID:PUm5wcli0

こうして父は、今はもういない。

後から部屋に入ってきた母上は、あらあらと首を少しかしげ、
頬に手を当て落ち着いた様子であったが、
その頬にも流れる涙があったのを私は見落とさなかった。

私の母親は名前をあずさ、というのだが、
今まさにその人と縁側にて話をしているところである。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:39:14.63 ID:PUm5wcli0



「これ、真之丞。

呆けた顔で空ばかり見て、どうしたのです?」
静かに座りながら言う。

「ええ、ちと昔のことを。

しかし、私はそれほど間の抜けた顔をしていましたでしょうか」

「侍にあるまじき顔。

おまえは母の私から見ても中々に整った面をしているのですから、
いつでも凛としていなくてはなりませぬ。

それをくずしてよいのはこの私が死んだ時のみです」

「はあ、そのお言葉は何度か頂いておりますゆえ」
そう頷く。

「そろそろ、妻を娶るのも良い年頃……」
ちらりとこちらを見て言った。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:43:58.02 ID:PUm5wcli0

息子から見ての母はというと、正直、
目の前の女以上に女らしい人間を真之丞は未だ目にしたことがない。

黒みがかった蒼く長い髪、
それだけでも不思議な色合いで目を引くのだが、
そこに見え隠れする綺麗なうなじ、
きりりと引いた口元の紅が珠のような白い肌によく映える。

これだけならば慎ましやかな容姿なのだが、
全く遠慮のないのが彼女の胸なのである。

腰から臀部への曲線はごく一般、といったところなのだ。

しかし、豊かな胸部のために着物も一つ丈の大きなものを着るしかない。

そうであるから母は新しいものを仕立てるのが面倒だと言って、
呉服屋へと足を向けることはしなくなって久しい。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:47:49.69 ID:PUm5wcli0

「比べられるとしたら四条院の姫君くらいか……」

「何か言いましたか」

口に出してしまったようだ。

「いいえ、お気になさらず」

これ以上話を続けると危ない。

母相手では間合いを違えると斬られる。

もちろん刃ではない。

「ちと用を思い出しまして、町へ出て参ります」

そうですか、帰りの遅くならぬように、
という母の言葉を背に、草鞋をはいて屋敷の外に向かう。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 16:59:37.40 ID:PUm5wcli0

居間に飾ってある薙刀は飾りではないのだ。

あれは真之丞の母が使う。

先程のような会話では実際に血の流れることはないが、
実際に剣を持ち、対峙すれば傷なしではすまない。

恥ずかしい話ではあるが、未だにあずさを相手に一本とれたためしはない。

「いや、恥ずべきほどのものではない。

母上が達者すぎるのだ。

現に見よ、道場で、この江戸であの人に敵う者があろうか」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:03:40.67 ID:PUm5wcli0
おっとりとした外見とは裏腹に、
鋭い刃筋、
巧みな足の運びで、
近づくのも至難の業であった。

なんたる腕、これが女子でなければ、という者もあったが、
あずさは、
男の身ではかように強くはなれませなんだ、
と優しく微笑みながら言っていた。

その後に相手はぼろ雑巾のようになっていたが。

弱点があるとするならば、極度の方向音痴ということくらいか……。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:07:55.27 ID:PUm5wcli0

そうこう考えるうちに四つ角で友人に出会った。

「真、しばらくだったな!」

「ああ、千早太か。

昨日会っただろう」

如月千早太、真之丞が気が置けないと心から感じる人間だ。

歳も同じ十八。

彼は奉行所につとめている。

趣味はうたを詠むこと。

内容はともかく、声に出すのが心地よいのだ、
という一風変わった心意気を持つ侍である。

剣の腕はまあそこそこ、
真之丞相手ならば十に一つもとれればよい、といったところ。

「なに、友と半日会わねばこれ一大事よ。

ときに真、また美しいおまえの母君と一戦交えたいものだな」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:11:17.48 ID:PUm5wcli0

真というのは彼に親しい者が使う呼び名である。

これは父の最期の言葉に由来する。

「おまえのその言い方はこの上なくふしだらに聞こえるな。

母が美しいのは認めるが、
おまえとの勝負は許さん、まずは私を負かせてからよ」

この前、千早太は菊地の道場へ押し掛け、
あずさとの勝負を申し出たのであった。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:14:32.76 ID:PUm5wcli0

「相変わらず、あずさ殿が好きなのだなあ、真は」

「そんなことはない、
この私がいざ全ての力を出し切り、
天地の間の運ことごとく味方してくれ、
さらに門弟十人を付けてくれたら母上など斬ってみせるわ」

「そんなことができるはずがなかろうに、大体なんだその条件は」

実際、母のことは大事にしている。父を失ってから余計に、ということもある。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:17:27.05 ID:PUm5wcli0

「して、何か用件があるのだろう」
と千早太に水を向ける。

これ以上こんな話はしていられない。

「そうであった。

これから四条院の姫君に会いに行こうと思うてな」

「なに貴音姫にか!」

つい勢いが口から出てしまう。

「……というのは戯言で、実は手伝ってもらいたい仕事があるのだ。

もちろん礼はする」
と千早太。

真之丞は、きっと睨みをくれてから答える。

少しむくれた表情だ。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:21:20.73 ID:PUm5wcli0

「で、その仕事の内容とは?」

「うむ、それが話せば長いのだがな、
町娘が一人かどわかされた。

今日の朝方のことらしい。

知り合いに話をきいたその母が駆けこんできたと言うていた。

名を、はるか、というそうだ」
千早太はそう言って真之丞に目をやる。

「今の話にどこか長いところがあったのか」

「某(それがし)と真との仲であろうか」

「……。

しかしどうして伝聞なのだ?」
という真之丞の問いかけに、にこと笑って答える。

「その時は、双海屋に行っておった」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/19(土) 17:25:16.17 ID:PUm5wcli0

「あきれた。

仕事を放って茶屋にいたのか。

なんたる忠勤ぶりよ」

「あそこの団子はうまくてな」

そんなことは、この際どうでもいいのだ。

訊きたいのは……。

「誰がやったか、であろう」
千早太が言う。

「そうだ」

「某の調べたところ」

「ほう、仕事をしているとみえる」
真之丞が口を挟む。

「えい、うるさい!

某の調べたところ、
手の負えないごろつきどもが山賊まがいのことをやっておるとのこと。

きっとその連中だろうと考えた」

「その娘、生きておればよいのだがな」

「なかなかの器量良しとの噂」

「なれば貞操が危うい」

行くぞ、というかけ声とともに二人は駆けだしていた。
26 :次は第二章[sage]:2012/05/19(土) 17:30:45.81 ID:PUm5wcli0

今日のところはここまでです。

また近いうちに余裕をみつけて投下していきますので、
それまでしばしのご辛抱を。

本当に、投下の合間も、している最中も適当にコメントしてもらって構いません。

それでは、また。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/05/21(月) 15:51:09.82 ID:Dg53WlQYo
ほう、これは期待
28 :こんばんは、1です[saga]:2012/05/21(月) 21:54:33.80 ID:sMurzLOZ0
第二章 牡丹の花
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 21:57:39.08 ID:sMurzLOZ0



「あ、あの、ここは?」

「やい小娘、運が無かったと諦めな。

お頭が帰ってきたらたっぷりと可愛がってやるからな」

「そんな……。
あたし、おっかさんに何て言えばいいの」
瞳に涙を溜めつつ娘は言う。

「心配すんなよ、もう会うこともないからな。

安心して俺達に使われる身になるこった」
汚いなりをした男が黒ずんだ歯をみせて笑う。

腰には一本刀を差していた。

「ああ、それにしても遅いな、早くこの娘を使ってやりてえよ」
もう一人が言う。

小さめの弓を背負い、肌には入れ墨がいくつかある。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:00:55.60 ID:sMurzLOZ0
「お願いです、うちに帰して……」

「それは無理なお願いってもんよ。

こら、じたばたすんじゃねい!」
そう言って娘の胸を揉む。

「きゃあ、やめてっ!」

嫌がるのも構わず尻に手を伸ばす。

「おい、そのくらいにしとけよ。

興が過ぎるとお頭にどやされるぜ」

娘の髪には牡丹色のかんざしが光っていて、とても綺麗だ。

「なんだ、金になりそうなもんしてやがる」

弓の男が気付いて言う。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:05:30.18 ID:sMurzLOZ0
「それはおとっつぁんが今年の桃の節句に無理して買ってくれたんです。

でも、今すぐ帰してくれるというのならあなた達にあげます」

「いくつになるんだ?」

「え、少しの足しには……なると思います」
と俯いて言う。

「歳の話だよ、何歳になるんだ?」

「十四です」

「へえ、俺の娘と同じ頃か」

「何だ、おめえ娘子なんていたのか」
と一本差しの男。

「いや、死んだよ。

生きていりゃの話だ。

昔は良かった。

好いた女を嫁にもらって、
金にあんまり余裕はなかったが、子供もできて……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:08:51.44 ID:sMurzLOZ0

「今が不満だってのか?」

「いや、今は好きなだけ金を奪って、
女を抱いて、別に不自由はねえさ。

思い出す昔はいつだって良いもんだろうよ」
しみじみとした感じで、弓の男はそう言った。

「確かになあ、
そんなもんなんだろうな、昔話って。

古いから良いんだな」
一本差しの男が何か諦観のようなものを漂わせながら言った。

その後、借金がかさんで妻をかたにとられて、
娘は病で死んだという男の話を訊いているうちに、
眠くなったのか、娘は目を閉じた。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:11:23.77 ID:sMurzLOZ0
「おっと、眠る前に、
こいつはいただくぜ。

へへ、良い色だな」

娘は何も言わない。

下を向き、唇をかんで涙を流していた。

「いい顔してやがる。

あとでたっぷりよがらせてやるからな」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:14:55.66 ID:sMurzLOZ0

ここは町からは外れた、
普段は誰も通らないような場所にある廃寺。

辺りには草がぼうぼうと生え、
幽霊がでそうなところである。

くずれ落ちた墓石がある墓地のほうで虫が鳴いているが、
何の虫かは分からない。

娘とごろつき二人、あわせて三人はその昔、
本尊があったであろう御堂の中にいる。

どうやらここが彼らの拠点らしい。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:16:04.12 ID:sMurzLOZ0

「用を足してくる」
弓を背負う男が立ちあがって外に出て、
墓の方へと向かう。

「ふん、なんだか変な話しちまったぜ」
残った男が一人ごちる。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:19:48.10 ID:sMurzLOZ0



こちらは千早太と真之丞の二人。

それぞれ、前後の並びだ。

「おい、前に出過ぎだ。

私の横を歩け」

「何を言う、一番槍の武功は某がいただいたぞ」

「槍など持っておらぬだろう」
真之丞が言う。

「意味が違う!」
千早太が返す。

廃寺の裏からまわり、
墓地に出ようという千早太の作戦で二人は山の斜面を木の葉踏み踏み歩いている。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:24:40.52 ID:sMurzLOZ0

「いざあ、到着」
そう言った千早太の前には今しがた、
用を足し終えたあの男が立っていた。

「ちょ、待て、待てい!」
これは千早太の叫び声。

「なんだおまえ!」
力強く、そして瞬時に矢をつがえ、
短弓を引絞る、
という動作を一呼吸のうちに終え、
男は放った。

「馬鹿大声を出すな」
遅れてたどり着いた真之丞の目にはちょうど腹に矢が突き立つ友人の姿が入った。

仰向けに倒れ、
今登ってきた緩やかだが長い斜面を転がるのを見たところで、
視界の端に刀を抜いた男が御堂から出てくるのが映る。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:30:41.64 ID:sMurzLOZ0

二つ目の矢をつがえ、射ようとする男。

真之丞は大股で駆け、間合いを詰める。

放たれる矢。

ふと腰を落とし半身(はんみ)になって柄に手を握り、胸を反る。

顔の横を矢が飛んでゆく。

肩は上げない。

腕に力は入れず、刀身が全て抜けたところで手首を返す。

一太刀目で弓の弦を斬る。

返す刀で同じ剣筋、しかし今度は上から下に男の袈裟を割った。

鮮やかにとぶ血飛沫。
39 :注です[saga]:2012/05/21(月) 22:38:37.40 ID:sMurzLOZ0

[補注]

まず、矢避けですが、特別なことではありません。
直線的にしか飛ばないので、軌道を見切って半身になれば矢は自然と脇を逸れていきます。
次に真之丞がおこなったのはいわゆる「居合」ですね。
走りながらの時点で少し変則的ですが、やることは変わりません。
胸の開きで刀身を抜いていきます。
このとき腕が伸びきってしまうと、遅く、威力のないものとなります。
その点、彼は完璧でした。
40 :すみません、注2です[saga]:2012/05/21(月) 22:44:48.24 ID:sMurzLOZ0

[補注2]

刀身が抜けたところで手首を返したのは、下からの居合斬りだからです。
この時代の刀は打刀なので、腰には刃を上にして差します。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:46:09.07 ID:sMurzLOZ0

残るはもう一人、
こちらも一人……。

一対一。

「よくもやってくれやがったな。

こうなりゃあ、
さっさとおめえをぶっ倒してあの娘で楽しむとするか」
汚い笑い顔で男は言った。

「ということは娘の操は無事か」

「さあ、どうだかな」
言いつつ、上段に構える。

盛り上がった肩の筋肉、
小柄な真之丞の倍はあろうかという太い腕。

こちらは下段に構える。

お互いにじりじりと間合いをはかる。

この体格差だと詰める間合いも大きく違う。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:51:24.25 ID:sMurzLOZ0

静かだ、と男は思った。

しかしそれが自分の後ろだけだと気がつく。

この若侍の背後では、虫が先程までと同様に、鳴いていた。

息が荒くなり、肩が上下する。

こいつは俺の出方を見ていると男は考えた。

落ち着こうとして、呼吸を深くする。

真之丞は相手が動くのを待っていた。

下段は元々、攻勢の構えではなく、
どちらかというと守りの太刀筋が多い。

自分の後ろでは虫がりんりんと鳴いている。

ふと笑みがこぼれた。

このまま眠ってしまえると思える程心地よい。

そう思ううちに、本当に目を閉じた。

撃ち掛かる声、勢いのある剣筋がみえる。

本当に見えているわけではない。

その時はまだ閉じたままであった。

さげた切っ先はそのままに、真之丞は右へと寄る。

切先を地面に向け、
柄が目の前にくるように振りかぶる。

すると刀身は左肩の前、剣先はその後ろへ。

ここで真之丞は目をあけた。

そこに、唐竹割りに殺到する男の刃。

自然と受け流すかたちとなる。

足を運んで、眼前の相手に振り下ろす。

一瞬の動き。

文字通り、閃く刃に、男は斃れる。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:54:21.13 ID:sMurzLOZ0

ふうと息をはく。

千早太はどうなった。

はるか、という娘は。

二つの問いが同時に頭に浮かんだ時、御堂の方から声がした。

「おう、御苦労であったな」
娘の肩を抱く千早太がいた。

「何ともないのか。

それから、娘の肩を抱くな」

はるかは頬を朱に染めている。

「すまぬな、性分ゆえ。

それにしても真、驚かんのか?」

「いや、だが、不思議と死にそうにはないからな、おまえは」

「なにを隠そう、
実はこんなこともあろうかと懐に板きれを忍ばせておいたのだ」
はははと笑い、千早太は言う。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:57:20.82 ID:sMurzLOZ0

「しかし、うまく当たったものだ」
それについては真之丞も感心せざるをえない。
「悪運の強いやつめ」

「いつぞや、真が教えてくれたではないか、矢の避け方を。

それに一つ、某は悪ではない」

見るのは、相手の視線、呼吸。

それから、射線をずらす……。

「教えたからといって、一朝一夕にできるものではない。

やはり運だな」
あきれ顔で真之丞は言った。

「運は実力なのだ」

全く、剣よりも口の達者なやつだ、と思った。

「そうだ。

某は、言葉で人を斬れる」

「その力が発揮されることを切に祈っておる」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 22:59:26.72 ID:sMurzLOZ0

「あの!」
はるかが、忘れてもらってはかなわぬといいたげに、
抗議の声をあげた。

「お侍さま、助けていただき、ありがとうございます。

お礼になりますかどうか分かりませぬが……
その男があたし、わ、私の大切なかんざしをもっております、
どうぞそれを……」

千早太が男の懐をあさる。

「綺麗だな。

しかしこれはいらん」

「では一体……」
消え入りそうな声で言う。

「そうだな、相手の大切なものはもらえん。

金という訳にもいかんしなあ」

悩む千早太の隣で、良策を思いついたとばかりに真之丞が言った。

「おい、双海屋に行こう」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/21(月) 23:01:40.33 ID:sMurzLOZ0



「結局、某の払いになったではないか」
千早太が口をとがらせて言う。

「とはいえ、双海屋の双子と、
あの娘に囲まれ上機嫌の様子だったではないか」

「それはそうだ。

美しい女子は良いものだ」

「胸をはってそのような口をきくな」
今日、真之丞はこの友人相手に何度あきれたことか。

しかしそれが良い。

自分に持っていないものがいくつかある。

「礼は必ずだぞ」

「わかっておる、が、もう遅い。

また明日、菊地道場を伺おう」

「それでは、御免」
明日の約束をして千早太と別れる瞬間が好きだ、
と、そう感じる真之丞だった。

これから夜も更けていく。

見上げた先にある月を見て、どこか自分に似ている、と思った。
47 :次は第三章[sage]:2012/05/21(月) 23:04:09.80 ID:sMurzLOZ0

今日はこれで。

ここまでの感想など自由に書き込んでいってくださいね。

それでは、また。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/26(土) 18:56:20.98 ID:YpvS4p42o
三章マダー
49 :1です、こんにちは。[age]:2012/05/27(日) 15:15:10.07 ID:ErBideRw0
今夜更新する予定です。
お待たせしました。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/27(日) 15:32:59.75 ID:hnQOEx4So
まってたほい
51 :1です、こんばんは。[saga]:2012/05/27(日) 21:25:43.28 ID:ErBideRw0

第三章 扇編板嘉(せんぺんばんか)
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:27:10.80 ID:ErBideRw0



どうしてこんなにうちは貧しいのだろう。

働けど働けど、暮らしは楽にならず、
日々生きていくのがやっとである。

それともこんな状況はまだましな方なのか。

両親は共稼ぎで今夜も帰ってこない。

弟たちはすでに寝静まっている。

そんななか、皆の食事のことを色々と考え、やよいは目を閉じる。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:29:32.19 ID:ErBideRw0



「訊いたか?例の長屋の娘の話……」

ここは菊地家の居間、
そして真之丞は千早太の話を聞いている。

あずさが、茶を持ってきてくれた。

「母上、そんなことは私が……」

「よいのです。そなたが世のため役に立てるやも、
と千早太殿がわざわざ来てくれたのです。

ならば、茶などいくらでも出しましょう」

「あずさ殿、なに、構わぬこと。

某が共に真之丞を立派な男子にしますゆえ」

「おまえは、どうして母上を名前で呼んでおるのだ、千早太!」

「可愛そうな話だのう。

稼ぎに追いつく貧乏なしと言うのに……」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:32:20.98 ID:ErBideRw0

「真之丞、これを、その娘のところへ持ってゆきなさい」

「母上、この金子(きんす)は一体どこから?」
飛びあがって驚くほどの金額ではないが、
出所が気になった。

「……。

それは、母のものです。

渡してやりなさい。

しかし、憐みから施すものではありません。

たまたま菊池家に余裕があったのを、
おまえが偶然その娘の元へやってしまうのです。

良いですね?」

「はい、しかと」
千早太が答えた。

「私の代わりに返事をするな」

「ぐずぐずしていてもしかたがない、早いところ片づけてしまおう」

「そうだ、今ここでおまえをな」
55 :×菊池、○菊地[saga]:2012/05/27(日) 21:35:42.08 ID:ErBideRw0

冗談のつもりで柄に手をかけようと、
真之丞はしたのだが、
そうする前に強烈な一閃が右手の甲をぴしと叩いた。

「いた!」
こんなことができるのは、
この場に、いやこの江戸に、あずさをおいていない。

千早太は腹を抱えて、くくく、と笑いをこらえている。

「今日はいやに暑いようですから、この鉄扇をおまえに貸します」

人間業ではない。

自分の母親ながら、その動きに、さすがに汗をかいた。

確かに、この季節にしてはちと暑い。

途中で千早太に心太でも買わせようと思った。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:37:37.68 ID:ErBideRw0

鉄扇を手に取る。

「それでは」

「行って参ります」

挨拶をし、二人で縁側に向かおうとした時、
真之丞は振り向き様に、正座しているあずさに撃ち掛かった。

「えい!」

渾身の一撃は、あずさが右手に持つ盆によって流された。

そのまま、左手で、自分の右手を掴まれる。

体(たい)を崩され、引き倒される。

豊かな胸に顔をうずめる格好になり、真之丞は真っ赤になった。

「愛しい息子よ、おまえが私を倒すのは一体いつになるのでしょうね」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:39:17.04 ID:ErBideRw0

そうはなりませんな、
と千早太が呟くのが聞こえた。

だが、久しぶりに母に抱かれたことで、
体が熱くなるのを感じた。

欲情したのではない。

一人の子供として愛情を与えられている、
ということを改めて知って、嬉しかった。

「……行って参ります」

縁側で草鞋を履き、道場の横を通って外に出た。

稽古の声、木刀の音が響いている。

今日は秋にしては暑いな、と真之丞は感じた。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:41:07.96 ID:ErBideRw0



例の話の長屋に着くころには二人とも汗ばんでいた。

途中で道を間違えたせいもある。

というのも、心太を食べた店で、
近道をしようと考えたのがまずかった。

急がば回れ、急いでなくとも回るが吉、
とお互いにそう思った。

「やいやい、出てきやがれい!」
戸の前で酔っぱらった風体の侍がどなり散らしている。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:43:28.17 ID:ErBideRw0

「一目見てわかる、
あれは普通ではないな」
隣の千早太が当然のことを言う。

「今朝、アカガレイの煮つけでも食べたに違いない」
その後は全く普通ではないことを言った。

真之丞が「声をかけたら、襲ってくるだろう」と言い、
さらに続ける。
「手っとり早くていいか」

「喧嘩っ早いのはよくないな」

その言葉に真之丞はこう返した。
「今日は疲れた。特に足が」

それでは好きにしろという隣の声を訊いて、
隠れていた家の陰から出た。

すぐ横に井戸がある
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/27(日) 21:44:35.91 ID:hnQOEx4So
きてれう
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:45:24.74 ID:ErBideRw0

千早太が小声で言う。
「使うなら、鉄扇ではなくて、そこのまな板が良いぞ」

うるさいやつだと思いながら、
侍に声をかけようとしたのだが、その前にこちらに気づいたようだ。

「この家に何か用かい?」

「どちらかというと昼間から騒々しいそなたの方に用がある」
言った途端に案の定、襲いかかってきた。

どれほど単純なやつなのだと思いながら、
懐の鉄扇で太刀を受け、流す。

同時に左手で対手(たいて)の右腕を掴む。

引き寄せ、体を崩して、右肱(みぎひじ)で侍の左こめかみを撃つ。

うっ、と短く呻いて倒れた。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:50:18.93 ID:ErBideRw0

「終わったか?」

「どうするのだ、これは?」

「縛っておこう」
という千早太の提案。

結局、縛ることにした。

邪魔にならぬように脇に転がして、
千早太が静かに戸を叩き、声をかける。

「やよい、という娘はおるか。

外の侍はもう大丈夫だ、何も問題はない、
奉行所の者だ、少し話がしたい」

がらりと音がして戸があいた。

中から出てきたのは、可愛らしい顔だが、
疲れた目をした娘だった。

兄弟だろう、さらに歳の幼く見える子供たちが、
後ろの方で震えている。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:54:09.49 ID:ErBideRw0

「ほら、真」
と言い、こちらを見る。

「あ、ああ……。

その、私は菊地真之丞と申す者だ。

ここからすこしある屋敷で剣の道場をひらいておる。

これは、そなたへの金子だ、大層困っていると訊いたのでな」

「そんな、理由もないのに……
いきなりはいただけません、お侍さま」
俯き、答える。

「それなら今考えた、やよい、明日より菊地家へ参って、
掃除、洗濯、炊事、と母上を手助けせよ。

これは手付金だ」

沈黙、長い沈黙。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:56:27.24 ID:ErBideRw0

「そういうことでございましたら、
ありがたく頂戴いたします」
声は抑えているが、余程嬉しかったのであろう、
その顔には涙がとめどなく流れていた。

「これにて、万事解決か」
千早太も笑い泣きながら言った。

「いや、まだだ、
おまえを成敗していないからな」

「朝のことか?

待て待て、話せばわかる」
慌てる千早太に、鉄扇で撃ち込む。

瞬間、まな板で筋をそらされた。

下半身の動きで体勢を変えるが……。

「全く、とんでもないやつだ」
笑いながら、真之丞は言った。

二人を見て、その後、
千早太を見て、やよいは言った。

「お侍さまの方が、強いのですね」

侍たちは、お互いに視線を交わして、
そして、
どっと笑った。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 21:58:33.53 ID:ErBideRw0



「と、いうことがございましてな」

「それはまことに良き話なれど、
私(わたくし)に申してくださればお力添えできましたやもしれませぬのに……」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:00:58.41 ID:ErBideRw0

ここは四条院家のお屋敷。

真之丞は、月見屋敷と呼んでいる。

いわれは、
ここへ来るとどれほどの曇り夜空でも月が見えることからだ。

いつも不思議に思っている。

そして話している相手は四条院の姫、
その名を貴音、という。

髪が月の光の色をした美しい女である。

ふっくらとした、母性を感じさせる胸は、
あずさと比べるに足るものだ。

そんな姫君に、お抱えの武士として雇われている。

このお屋敷内に彼女の両親はいない。

よって貴音が全てを管理、支配していることになる。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:02:19.86 ID:ErBideRw0

お抱え、
とはいっても、仕事は何をするでもない。

たまに来ては日々の色々な話を聞かせてやるのだ。

だが、男と女、ということもあり、
それだけでは終わらない、
帰してくれないこともある。

そして、今日がその日だと何となく感じた。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:04:08.69 ID:ErBideRw0

おもむろに、
するりと着物を脱ぎ、
貴音が一糸まとわぬ姿で寄って来た。

実のところ、このために雇われているのではないかとも思う。

自分の佩刀(はいとう)はすでに、ここへ来る時預けてある。

今は、脇差のみだ。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:10:08.83 ID:ErBideRw0

されるがままに真之丞は脱がされた。

脇差も外し、
今は何も持たない。

躰を舌で愛撫される、
ぬらぬらと液体を滴らせながら。

ぴり、
と体に緊張がはしる。

こわばっているわけではないが、
この反応はどうしようもできない。

自分のものを口に含まれた時も、
言いようのない快感が躰を襲い、
ため息しか出せなくなる。

主導権は一貫して相手にある。

一人前の男が、女に乗られるなどと、
初めは思っていたのだが、
慣れというのか、だんだん素直にされるようになってきた。

虜、というのが正しいのかもしれない。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:16:51.27 ID:ErBideRw0

やがて、姫が頃合いと思うと、
真之丞の上に覆いかぶさってくる。

実に勝手だ。

形の良い尻が、
腰とぶつかって音を立てる。

銀の艶のある長い髪を、
振り乱して、
大きく、
だんだんと激しさを増していく。

この姿、
この仕草がとても色っぽいと感じた。

「ああ、真、真っ……」

妖しい光を宿す眼を見ていると、
時々、意識が遠のきそうになる。

「は、はあ、貴音姫……」
情けないが、今はこのくらいしか声が出せない。

いつもそうだ。

途中から情欲に任せ、打ちつけてくる。

躰を味わう余裕を与えてくれなくなる。

組み伏せられて、
身動きがとれないのを良いことに、
自分勝手に行為を続けられる。

そうしてしびれを切らすのはいつも真之丞の方だ。

先程まで遠のいていた意識が戻ってくるのと、
堪えきれない気持ちの良さが足から、頭へとはしるのは、
ほとんど同時だ。

暴れる自身を、
理性の元から放つこの瞬間が、
とても無防備だといつも感じる。

ここで何者かに斬りかかられたら、
なすすべがない。

そうは思うのだが、
野生の、
本能から未だに逃げられないのであった。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:19:03.36 ID:ErBideRw0

上になっていた彼女が、
繋がりを解く。

散々に貪られ、
ぐたりとしている真之丞に流し眼をくれて言う。
「真、今夜は泊っていきなさいな」

これが本当の彼女だ。

普段は淑やかさを纏っているが、
月夜の下ではこれほどまでに貪欲で、
冷たい微笑が、
男を狂わせる。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/05/27(日) 22:21:14.00 ID:ErBideRw0



いく度となく、
くりかえし、
男子としての尊厳を奪われた後、
湯浴み(ゆあみ)をし、
躰を拭き、
二人は床につく。

朝まで帰らないときは、
四条院の屋敷にいることをあずさは知っている。

真之丞から、母に伝えてあるのだ。

また明日からどんな日常があるのか、
と考えても仕方のないことを考えて、
瞼が閉じるのに任せた。
73 :次回、第四章。[sage]:2012/05/27(日) 22:24:51.45 ID:ErBideRw0

いかがでしたでしょうか、
今日はここまでです。

また時間をみつけて更新したいと思っています。

それまで、みなさん、
どうぞご自由に。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/05/27(日) 22:40:31.31 ID:tk3brbEVo
おおエロいエロい

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/05/28(月) 07:02:32.28 ID:QgUAXx6eo
おひめちんきたわー
76 :お知らせ[age]:2012/06/01(金) 20:46:39.32 ID:6NSdmr5x0
1です、こんばんは。

土曜か日曜で更新の予定ですので、
その時はまたお知らせします。
77 :お知らせ(続[age]:2012/06/02(土) 16:15:49.48 ID:cmlmztc50
こんにちは。
今夜投下です。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/02(土) 16:52:01.25 ID:cWUNTV/Do
おひめちんくるー?
79 :1[age]:2012/06/02(土) 20:15:01.98 ID:cmlmztc50
姫が登場するのはまた後の章です。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/02(土) 20:20:09.68 ID:cWUNTV/Do
そうかーでも楽しみや
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:18:21.27 ID:cmlmztc50

第四章 窮、救にして
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:21:39.69 ID:cmlmztc50



「で、結局、ひどくお叱りを受けたようだな」
千早太が口を開く。
「だからまな板にせよと言うたものを」

「鉄扇に傷がついたと言われて、私に傷が増えた」
赤く腫れた額を押さえながら、真之丞は言った。

「腫れただけではないか、それは傷とは言わん。

見よ、この向う脛(むこうずね)の傷跡を!」
千早太は、威勢良く袴をたくしあげ、脛を見せる。

「それは、おまえが犬にちょっかいをだして噛まれたときのものだろう」

「それは某と真との秘密、決して他人に漏らすでないぞ」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:27:48.46 ID:cmlmztc50

活気あふれる道場でのことである。

二人は門弟に稽古をつけたりすることもあるのだ。

真之丞は、菊地家の嫡男として、菊地一心流の師範として、
まだ十八ながらもここを任されている。

それは良いのだが、千早太は奉行所に勤める身、
どうしたらこれほどの暇がつくれるのかと問いたくなるほど、
年中出歩いては気ままに過ごしている。

「これも仕事のうちなのだ」
といつだか言っていたような気がした。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:32:04.46 ID:cmlmztc50

外を見やると、庭でやよいが重なり厚くなった木の葉を掃いている。

よく働く子だと、あずさも話していた。

弟たちの世話もあるために、昼時になると一度家に帰している。

「不思議な縁もあるものだ」
真之丞は呟いた。

「何をいまさら、礼には及ばんぞ」

「おまえではない」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:39:37.36 ID:cmlmztc50

それにしても得心ゆかぬのは今朝のこと。

月夜屋敷から帰って自室に行き、
物入れに隠した巾着を確認したところ中身がいやに軽い。

さてはやよいのあの金子はと分かったところでもう遅い。

母上に一言物申さんと意気込んで行ったは良いが、先手をうたれた。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:43:51.75 ID:cmlmztc50

「おはよう、真之丞」

「おはようございます、母上、時に一つ」と、ここから続きがあったのだが……。

「昨日貸した扇子を見せてみなさい」

「はあ、ここに」

「何ですかこの傷は」

「それは昨日、酔った風のやくざな侍を打ち倒した時にできたものにございます」
得意そうに言ったが、
この時のあずさの言外の含みを理解できなかったのがまずかったと今になって思う。

後悔先に立たず。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:48:41.96 ID:cmlmztc50

「このようなものは、上手く使えば傷も歪みもしないのです。

母がそれを見せてやりましょう」

言うが早いか、一陣の風が吹いた。

初太刀は、左足を前に、半身になって刀の柄で防ぐ。

しかしそこまで。

柄に衝撃を感じたと同時に、
鉄扇が重く冷たく真之丞の額を打っていた。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:53:17.40 ID:cmlmztc50

「いやあ、某もあずさ殿に、
したたかに打ち込まれてみたいものだ」

「黙れ痴れ者め。

ああ、まだひりひりと痛む」

改めて、あずさの腕には遠く及ばぬことを感じた……。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 21:59:17.53 ID:cmlmztc50



「いやよ、
なんでこのあたしがあんたなんかの妻にならなくちゃいけないの?」

「さすれば、水瀬屋も安泰だぞ」

「……。

汚い男はきらいよ、もう帰って」

「ふん、その威勢がいつまでもつかな」

太った男と娘の会話である。

男の方は脂ぎった顔、そして三重のあごで、
高価そうだが派手な着物を着ている。

娘の方は、きつそうな物の言い方で、
前髪を上げ、額が目立つ。

おでこが魅力的な少女は、帰ってゆく男の背中を睨みながら、
さて、これからどうしようかと考え始めていた。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:07:29.78 ID:cmlmztc50



 「黙れ痴れ者め。ああ、まだひりひりと痛む」

「黙れと言われて素直に従うとでも思うか」
千早太が、いたずらっぽく笑いながら言った。

「まあ聞け、水瀬家の娘の護衛の仕事を頼まれた」

「そうか、精進せい」

「真、おまえも来るのだ」

「その仕事を頼まれたのは私ではない」

「廻船問屋のご息女で、四条院家とも縁があるとか……」
真之丞をちらと見ながら言う。

「仕方がないな」

「よし、決まりだな。

では早速出るとするか」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:14:17.32 ID:cmlmztc50



「御免!」
千早太が勢いよくのれんをあげる。
「奉行所の者だ」

「へえ、あんたたちがそうなの。

とりあえず上がんなさい」
額の広い娘が高飛車に言う。

「おい、この無礼な娘は誰だ?」
真之丞が思わず口に出す。

「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」
と千早太。

「いおりはわたしよ!」

「なんと!」

二人して同じ反応をしてしまった。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/02(土) 22:17:44.21 ID:cWUNTV/Do
前から思ってたけど、千早さんの意外なキャラと演技力。このP凄腕だな
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:22:57.48 ID:cmlmztc50

「頼みたいことはひとつ。

同業者の悪井屋(わるいや)を消してほしいの」

「それはまたどうして」
真之丞が訊いた。

「富と権力にものをいわせて、私に婚約を迫ってくるからよ」

「お断り申す」
きっぱりと千早太が断った。

いつになく真剣な顔だ。

そのまま続ける。

「その悪井屋はたしかにやり方が汚いと聞く。

しかし、だからといって命を奪って良いなどとどうして言えようか」

いおりが反論する。
「だったら侍はどうして殺し合ったりするのよ?」

再び千早太。

「某たちは、殺し合うのではない。

相手が命をかけて臨むなら、それに失礼のないように対峙する。

その結果が生であり、あるいは死であるのだ」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/06/02(土) 22:26:19.08 ID:cmlmztc50
>>92

そうなのです。
まあ、撮影現場で色々あったりしたのですが……。
そういった話は完結後に用意してありますので。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:32:58.41 ID:cmlmztc50

「ふうん。

じゃあ、あんたはどうなの?」
いおりは、真之丞を見て言う。

「私は、命をかけたことがない。

まだ、それだけの価値のあるものに出会えていないからな。

もしかしたら、未熟さゆえに、
ただ気付いていないだけかも知れぬが……」

しばらくの沈黙の後、口を開いたのはいおりであった。

「それじゃあ、依頼をかえるわ。

と、いうより、初めの内容でお願い」

「そなたの護衛か」
真之丞が返事をする。
「任された」

お手並み拝見ね、といういおりの言葉と共に、
少し遅めの昼飯が運ばれてきた。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:36:14.62 ID:cmlmztc50



食欲を満たして満面の笑みを浮かべる千早太が話す。
「腹が膨れたな」

「このまま夜まで寝ていても構わんぞ」

「それでは夜に目が冴えてしまうではないか」

「そこまで面倒見きれぬ」
真之丞が立ちあがりながら言った。

「それに、真はどうするのだ?」

「起きて見廻る」

「では寝させてもらうかな」
そう言ってしばらくすると、
ぐうぐうという声が聞こえてきた。

「寝るのが早いやつめ」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 22:52:10.98 ID:cmlmztc50



昼間の喧騒はどこへやら。

この時間の町並みは、うって変わって息をひそめている。

人々が、暗くなると外へでなくなるのはどうしてか。

そんな中、闇の暗さを恐れぬ者達が、三人駆けている。

廻船問屋、水瀬の店前。

提灯には火が入って、
ぼんやりとした明かりがのれんの文字を浮かびあがらせている。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:00:57.90 ID:cmlmztc50

三人の男、見合う。

無言で頷いた。

まず、一人が入る。

と、土間に立つ小柄な侍がいた。

まだ十六、七くらいか。

「もう一歩入れば、斬る」
小柄な侍が言った。

男は腰を落として、居合いの構えをとる。

真之丞は、入ってきた男をみて、中々にできると見た。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:03:58.88 ID:cmlmztc50

落ち着いた居合いの型。

無駄な力の入っていない腕。

この相手に対して、
これから抜いて構えるのは危険だ、と思う。

こちらも居合いの構え。

先に動きたくはない。

と言って、後からあわせるのも至難の業。

店の前にはあともう、二人か。

二階に千早太がいるが、彼は今、心地よく睡眠をとっている、
あてにはできない。

もうどれほど経ったであろうか。

分からない。

真之丞は腹を決める。

間合いをはかる。

長い駆け引き。

それに対して、一瞬の勝負。

瞬間、相手の男が動く。

抜いて、
斬り込んでくる。

真之丞は抜かなかった。

半歩左に寄り、紙一重でかわす。

男は、返す刀でこちらの右胴をねらう。

真之丞、前に踏みこんで、
脇差を抜き、
右頸(みぎくび)を撃った。

凄まじい勢いで血が噴き出る。

半分割れた頸筋からは白い肉が見えた。

白との対比。

そこから、ぴゅう、と高い音が鳴る。

黒ずんだ赤に染まる壁。

崩れおちる侍。
100 :補注[saga]:2012/06/02(土) 23:09:12.53 ID:cmlmztc50

※男は刀身を返した状態で、次の瞬間には斬りかかることができます。
しかし、脇差の短い軌道ならばその前に撃てるというわけです。
(当然、普通より間合いの詰めが必要ですが)
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:12:30.29 ID:cmlmztc50

同時に、入口から二人が入ってくる。

それを見て、真之丞は叫んだ。
「千早太!」

背後の階段から、降りてくる気配は無い。

と、三人目が、入口前の道に立った。

三対一ともなると余程の腕の差がないと生き残るのは難しい。

万事休す、と思いきや、その男は敵ではなかった。

「千早太!

おまえ、どこから?」

「ああ、呼ばれたからな、二階からおりた」
にこと笑う。

「まったく、頼もしい友人を持ったものだ……一人は任せた」

外に千早太、内に真之丞の構図。

「さて、真ほどではないが、某も相当の使い手。

どこからでもかかってくるが良い」

ふざけやがる、と相手は思っただろう。

「調子にの」男は、乗るな、と言いたかったに違いない。

しかしその前に、跳びかかった千早太の剣のもと、一刀両断にされた。

話し上手は聞き上手。剣よりも口の達者な千早太であった。

呼吸をはかる、その妙なることよ。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:16:56.09 ID:cmlmztc50

一方真之丞は、またも強敵。

今日は運が無いな、と思う。

当然、店の者は出てこない。

こんな斬り合いの場に顔をだす者などいない。

皆、息をのんで隠れているのだろう。

相手は正眼(せいがん)、対して、
こちらは抜いてはいるが、構えはとっていない。

おもむろに、ずかずかと間合いを詰める。

当然、面に撃ち込まれる。

ところを、思い切り腰を落とし右に一歩ずれて、
下から脛(すね)を撃つ。

相手の刀身が届く前に、右の脚を斬った。

もう一歩、左に寄り、左手を添え、両腕でもって上段へ。

男の右肩を一太刀、下腹まで割く。

これで終わった。

外を見ようとした時、ちょうど千早太が入ってきて言う。
「三人か」

「だが、これでは終わらぬだろうな」

真之丞は嫌な予感がしていた。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:19:01.29 ID:cmlmztc50

「その通りだわい」

道向こうから大声がした。

奥の部屋から、いおりが出てくる。

「あの声は、て、何よ、これ……」

今やこの土間は、
赤だか黒だかしれない色で染まりきっている。

「や、嫌」
言いながら、腰を抜かし、
嗚咽をもらす。

この惨状を見て気を失わないだけ大したものだと真之丞は思った。

「あれが例の商人だな?」
千早太が訊く。

いおりは目を固く閉じて、首を縦に振った。

「どうする?」

「外に出よう」
真之丞は答えた。

大柄な、というより、ずいぶんと太った男が歩いてくる。

派手な商人風である。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:22:42.10 ID:cmlmztc50

その後ろにはざっと見て十人程の侍がいる。

皆人相が悪い。

「どうする?」
今度は真之丞が訊いた。

「某に訊くなあ、と言うところだが、
助けを呼ぶため人をやってある」

「どれくらい来る?」
真之丞がまた訊く。

「一人だ」

「千早太、血迷うたか」

「十人程の相手ならば、三人で良いだろう」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:24:02.09 ID:cmlmztc50

程良く、角の店を曲がって歩いてきたのはあずさだった。

着物の袖をひしと襷(たすき)であげてある。

本来、こういった荒事をする場合は違う結び方をするものだが、
彼女はいつもの通りの花結びであった。

少し後ろから随ってくるのはやよいだ。

薙刀を持たされて大分、難儀な様子。

「こうなれば私たちはもはや帰っても支障はあるまい、
しかし千早太、人の母をなんと心得る」

「武人だ」
すぐさま答えが返ってくる。

「間違ってはおらぬが……」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:27:27.94 ID:cmlmztc50

すると、穏やかな声であずさが言った。
「真之丞、頼まれた仕事の助太刀に、
母親を呼ぶとはなんたる未熟者……」

「母上、それは……」
真之丞の言葉は遮られる。

「良いのです。

今日は何やら動きたい気分でした。

やよい、御苦労です。

そなたは店の中に入っていなさい」

ぱたぱたと駆けていくやよい。

「何だ、素晴らしく美しい女が来おったの。

これ、こっちへきて奉仕をせんか」
商人が言った。

がはがはといやらしい笑い声だ。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:30:44.91 ID:cmlmztc50

真之丞、千早太は、黙って刀を抜く。

あずさも凛とした太刀姿、
いや立ち姿で薙刀を構える。

「やる気か、これは面白い。

おまえたち、女は殺すな」

その声を聞いて、人相の悪い男たちは全員、刀を抜く。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:32:05.36 ID:cmlmztc50


勝負が決まるのには、そう長くかからなかった。

真之丞も、千早太も奮戦し、残るは一人。

今はあずさが相手をしている。

定寸の刀に対して薙刀はずっと長い。

そのために、懐に入るのは至難だ。

さらに扱う者があずさとあっては、
もう地上には勝てる相手がいないな、
と千早太は思う。

隣にいる真之丞もそう感じるに違いないと思った。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:34:47.13 ID:cmlmztc50

あずさは人を殺すのが好きなのではない。

刀を振るうこと
――自分の場合は薙刀だ――
が心地よいと感じるのだ。

そしてこの相手は斬り合いを臨んでいる。

もはやこの場には男自身、
一人が残るのみであるのに。

勇ましい、とあずさは感じた。

この対手に失礼がないようにしなくては……。

命のやりとりのさなか、そう感じた。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:37:39.11 ID:cmlmztc50

左足を前に、右足は後ろ。

半身に構える。

対剣術に対して普通は、
右足を前に、左足は後ろのほうが有利ではある。

しかしあずさにはそんなことは関係のないことであった。

この薙刀で、敗れたことは一度しかない。

ふい、と切先を下に落とした。

男は、猛然と斬りかかる。

あずさ、右足を軸に左足を引く。

体が変わる。

今度は右足が前に。

間合いが躰一つ分後退する。

空を斬る刃。

刀は返させない。

左肩を石突(いしづき)で撃つ。

骨が砕ける音。

血が流れる。

侍は膝をついた。

剣を落とす。

あずさ、そのまま右手を引き、

左手を前に出す。

真円を描いてはいけない。

それでは遅すぎる。

楕円より、
さらに細く。

迅く。

地面と足元、接地面が発する、びっという音。

相手の胸を突く。

あずさ、もう半身(はんしん)分、踏みこむ。

手は抜かない。

躰に、深く刺さってゆく。

そして、貫いた。

侍が最期に見たのは、美しい女の、慈愛に満ちた表情であった。
111 :補注[saga]:2012/06/02(土) 23:41:26.41 ID:cmlmztc50

※槍、薙刀、長巻などは、反対側(バットでいうグリップエンド)
には何も付いていないというわけではありません。
「石突き」という尖った部分があります。
それを使用すれば対手に強い打撃を与えられます。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:43:28.87 ID:cmlmztc50

あずさは、刃先を、ぐたりとした躰から抜く。

優しげな顔。

そのまま、商人の元へ。

すでに恐ろしさのあまり、腰があがらなくなっている。

「ひ、ひい!」

「このような手段で娘と契ろうなどとは男の風上に置けぬ者。

以後、手出しはせぬように」

先程までとは違う、
静かだが厳しい圧を感じさせる物言いだ。

そして、二人の方も見て言う。
「二人とも、良いですね、
再びこの男が動くようなら斬り捨てなさい」

台詞の最後は、ぞっとするような笑みであった。

「はい」二人は揃って返事をした。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/02(土) 23:45:09.03 ID:cmlmztc50



「助かったわ、ありがとう」
いおりが、恥ずかしそうに礼をした。

「なに、某と、真がおれば百人力よ」

「女の人がいたような気がしたけど?」

「そんな者はおらなんだ」
真之丞が言う。

あずさはことが終わるとやよいを連れてすぐに帰っている。

「ふうん、またなんかあったら、
もうないと思うけど、お願いね」

「承知」
と、威勢の良い千早太。

「今日はここで寝ていって良いわ、
明日の朝帰りなさいよ」

ずいぶんと気に入られたらしい。二人はそう思った。

「さて、寝るかな」

真之丞と、それから千早太が、同時に言った。
114 :次は、第5章[sage]:2012/06/02(土) 23:47:37.01 ID:cmlmztc50

はい、今夜はここまでです。
ずいぶん遅くなってしまいました。
(もう寝ます)

それでは、また次回にお会いしましょう。
(感想、意見、ご自由に)
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/03(日) 00:41:19.90 ID:eSE96Pvjo
あずささんチートすぎい!乙
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2012/06/03(日) 01:31:28.08 ID:/OBvb6t/o


まだ大学生ぐらいの年なのに、凛とした未亡人ができるあずささんマジ女優の鏡
真と千早は軽口叩き合う仲が似合うよね
117 :1です、こんばんは。[age]:2012/06/07(木) 21:43:32.50 ID:0lsELE/M0
次回の更新予定は土曜日
なのですが、
長野県からのお送りとなります。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/07(木) 23:33:12.32 ID:yZUVoAdJo
長野乙
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/09(土) 18:51:49.54 ID:4hXfaemXo
長野まだー
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:34:33.61 ID:0ZbynMkc0

第五章 誘いの呼吸
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:38:15.14 ID:1QroGwQJ0



「ねえ、みきの胸、大きいでしょう?」
そう言うと、娘は着物の胸元を、ちらと開け、また続ける。

「触っても、良いよ」

とある宿屋の脇の小道、細い路地の少し入ったところ。

先程出会ったこの娘、
ずいぶんと発育した躰で色気を使う。

色気を使っている、というのは百も承知なのだが、
しかし、自然と手が出てしまう。

柔らかく、張りのある乳房を揉む。

その勢いがだんだん強くなってきたところで、娘は言った。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:42:26.05 ID:617ojHiz0

「はいここまで、もうお終い。

それじゃ、ありがとう」

「金子は、いらんのか?」
男は声をかける。

「もう、もらったよ」
そう言うと娘は通りへと駆けだす。

男の持ち金は、全てなくなっていた。

「あ、待て!」

追いかけるが、もう姿は見えない。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:46:10.74 ID:Gxgk5uIp0

千早太は、遠くから見張っていた。

すると、路地から娘が出てきて、走り去った後に、
男が慌てたそぶりであたりをきょろきょろと見廻す。

「あの娘か……みき、というのは」
呟いて、道を歩いてゆく。

自然と菊地道場の方に足が向いていた。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:50:07.82 ID:Gxgk5uIp0



四条院のお屋敷。

月は出ていない。

今は昼間である。

「美味でございました」
真之丞は、飲み終えて言う。

日中、こうしてお茶をたてられることもたまにあるのだ。

その時は菊地家に使いの者が来て屋敷まで籠で連れられて来る。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 20:54:13.90 ID:yzncEEgS0

雇われているのだ、
呼び出されたとあっては、行くほかない。

まして、相手がこの姫君では。

あまり自分のことを教えてくれない、不思議なところがあるが、
真之丞は貴音を好いていた。

何となく、母に似ている、とも感じる。

どこが、とはっきりは言えぬが、ただ何となくそう思うのであった。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:01:13.87 ID:01viZwqh0

「真殿、今日は遅くなる前に帰るほうがよろしいでしょう。

なにやらお疲れのご様子」
貴音が抑揚のない落ち着いた声で言った。

普段はこうだが、正確にはこちらが裏の顔だ。

この姫のいつもは見せない、本性というものを真之丞は知っている。

「はあ、しかし、今しばらくここにいることにしましょう」

「逃げ遅れると、いただきますよ」
妖しく笑いながら貴音は言った。

口元を扇子で隠している。

昨年の夏、真之丞があげたものだ。

「はて、何をです?」

「あなたをです」

くくく、と妖しくまた、微笑んだ。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:06:05.64 ID:1QroGwQJ0



「たのもう!」

千早太は、菊地家の屋敷の前に立っている。

「如月千早太でござる」大声で言った。

「はい、しばらく……」
女の声がした。

がこんという音がする。

やよいが出てきて言った。
「如月様、お待たせしました」

「おう、やよい、真はおるか」

いかにも申し訳なさそうに答える。

「あの、四条院様のお屋敷に……」

茶にでも呼ばれたか……。

「うむ、あい分かった。

帰ったらよろしくな、
某はこれから一仕事あるゆえ、失礼する」

さて、気を入れていかねばと腰の秋水を見やる千早太だった。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:09:11.39 ID:yQFoDsOu0
※補注

「秋水」とは、侍の誇り、刀のことです。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:13:26.74 ID:dqMBfH/+0



「ねえ、触っても良いんだよ?」

そう言われて、男はたじろぐ。

無理もない。

若い娘に言い寄られて、
ぐらりとこない男はいないだろう。

「ほ、本当に良いのか?」

「うん、いいよ。

お兄さん格好良いから、特別にただで」

相手はとある大店の主人の息子、
つまり若旦那、という訳だ。

しかしお世辞にも麗しいとはいえない見た目をしている。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:17:08.54 ID:dqMBfH/+0

「それでは、存分に可愛がってやろう」

若旦那、目が据わっている。

「え、ちょっ……」

腕ずくで襲いかかってくる。

「あ、やめ」

人通りの少ない裏通り、助けを呼ぼうにも表まで聞こえるかどうか。

もっとも、こんなことをしているなんて人には知られたくはないのだが。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:21:08.79 ID:dqMBfH/+0

逃れようとしても、強い力で抑えられている。

咄嗟に、腰帯に隠した寸鉄を自由になった右手で握り、
こめかみに突き立てた。

威嚇のつもりだったが、当たり所が悪い。

「う?」

ふと、相手の力が抜け、みきの上に倒れてくる。

様子がおかしい。

「嘘、そんな……」

すでに息をしていない。

男をどかして、あわてて逃げる。

こんなはずでは、なかった。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:25:38.55 ID:jtYlRIjQ0

今までの人生、盗みなどして生きてきたが、
人を殺したことはなかった。

とんでもないことをした、
しかし、あいつがいけないのだ。

黙っていれば分かるまい、とみきは駆けながら考えた。

考える自身が、焦りながらも、そう自分に言い聞かせるのであった。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:30:57.71 ID:jtYlRIjQ0



「如月殿」

ふと、呼びとめられた。

今日は空模様が怪しい。

一日、奉行所にいようと思って来たところだった。

「川向こうの茶屋裏路地で、男が死んでおるということがござった」

「して、得物(えもの)は?」と、訊いてみた。

情報は、それが真であれ偽であれ、多い方が良いと思う千早太である。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:34:26.58 ID:jtYlRIjQ0

「寸鉄にて……こめかみを」

親指で耳の前を打つ仕草をしながら言う。

この侍はここへ仕えて長いが、
若輩者の千早太を気遣って、色々と良くしてくれる。

いつもはそれに大層甘えているのだ。

「それに、例の件に関わりあるやも知れぬとか……」

それを聞いて、千早太は反応する。
「みき、とか言う娘の?」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:38:05.41 ID:WsHDntHw0

「左様。

付近で、やたらと色香のある娘が駆け去ったのを見た者が」

「高木殿、某はこれにて失礼仕る」

こうしてはおれん、あやつめ殺しにまで手を出しおったか、
と考えが頭を巡り、踵(きびす)を返した。

「あいや待たれい」

古参の侍、高木が、子を見送る父のように言う。

空は、先程までよりも暗くなっていた。

「傘を持たれよ」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:43:20.29 ID:WsHDntHw0



ぽつり、と雨粒が落ちてくる。

もちろん一つや二つではない。

徐々に、
ぱらぱらと音がするまでになってきた。

幸い、それほど強くはないし、傘も持っている。

「や、助かった」
千早太は、雨音に消え入りそうな声で独り言を言う。

と、そのときである。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:49:33.07 ID:GfNYSJCt0

「お侍様……」

若い娘の声。

出た、と思った。

しかし慌てない。

自分で言うのもなんだが、奉行所一の剣の腕、
娘の一人や二人、いくらでも相手になるわと意気込んだ。

実際、千早太も達者なほう。

いつもいる真之丞が強すぎるだけなのだ。

そうっと傘をあげて、相手の顔を見る。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:54:53.39 ID:jtYlRIjQ0

どこかで見たことがあった。この女を知っている。

「高木の娘にございます」

「ああ、そうであった、そうであった……」

「如月殿が雨の日に傘をご用意とは、雨でも降りそうでございますな」
ほほ、と笑う。

「雨が降っておるゆえ、こうしてさしているのだ」

がっかりした内心を表には出さずに言った。

「ほら、濡れていますよ。

どうぞこの手ぬぐいをお使いくださいませ」

そう言って渡してくれる親切さが身に沁みる。

が、ずいぶんと分厚い。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 21:58:47.17 ID:jtYlRIjQ0

「これはまた、厚手な……」

苦笑いが出てしまう。

「良いのです。

後日、お礼の品と共にお返しいただければ」
まるで押し売りである。

いや、品を返す分、それよりもたちが悪い。

「では、ありがたく。

これにて、御免」

早くここから離れようと思った。

そのうち、とって喰われるに違いない。

「お気をつけて」
という言葉が背後から飛んできた。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:02:54.04 ID:jtYlRIjQ0



もうずいぶんと歩いた。

傘は左手にさしている。

まだ日中と呼べる時間だが、
雨雲のせいで空が暗い。

真之丞は四条院の姫の屋敷でどうしているだろうか、
と歩きながら思う。

そのときである。

「お侍さんっ」

弾んだ声に呼ばれた。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:06:42.17 ID:mPPla+3T0

「ん?何だ」

あくまでも何も知らないそぶりをする。

しかし、胸元に目のゆく娘だ。

顔も、千早太の好みだと思う。

「雨で濡れてしまいました、どうかここを拭いてくださいまし……」

つい、と着物の前を開いた。

濡れた指が、白く、熟れた桃のような胸に目がゆきそうなのを堪えて、千早太は動く。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:10:41.83 ID:WsHDntHw0

「みき、年貢の納め時だ」

言って、右手を掴む。

「え、何のことでしょうか」

とぼけた表情で言う。

そのまま引き寄せて捕らえようとすると、左足を払われた。

「うをっ」

そのままつんのめる。

剣の修行を積んだ侍にはあってはならぬ体勢である。

みきの腰帯を掴もうと一瞬触れる。

しかし、ひらりと軽い身のこなしで躱された。

ばしゃん、という音。

危なかった。

もう少しで、顔から地に着きそうなところをなんとか持ち直す。

「まあいいか」
そう呟いて、娘を追いかけた。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:13:49.89 ID:WsHDntHw0



町からは少し外れた場所。

ぽつり、と一軒、小屋が立っている。

ここまで追い詰めた。

さて、後は……。

「やい、出てこい!」
千早太は叫んだ。

語気はそれほど強くはない。

すると、出てきた……侍が。

いかにも頑強そうななりをしている。

「槍使い!」

「いかにも」
野太い声で男はそう答える。

「みきはどうした?」と訊いた。

「中にいる」

「雇われたか……」
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:18:01.34 ID:WsHDntHw0

傘を放り、
千早太は剣を抜いた。

すぐに右下段の構え。

そのまま突進する。

槍の間合いは受けると不利だ。

大事なのは、本突きを誘うこと。

ひゅん、と一度。

もう一度、ひゅう、と突きが繰り出される。

これを強く弾いてはいけない。

槍の反転が速くなり、威力が増してしまう。

かしり、微妙な音をさせて、刃で抑える。

勢いで押されるが、正中線を保ったまま対応する。

相手は穂先で斬りかかると見せて、
石突で撃ってきた。

千早太の左脇腹をえぐる感触。

その後に必殺の本突き。

侍は勝利を感じる。

そこで半歩右にずれる千早太。

穂先は躰のすぐ左を通ってゆく。

侍、驚きの表情。

千早太の袈裟斬り。

槍使いは二つになって、その場に転がる。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:21:41.35 ID:dU0o6zlQ0

小屋から、見られていることに気付いた。

声を張る。

「見ろ、これが人の死だ。

某はこの瞬間を一生忘れずに生きてゆく。

しかしそなたはどうであろうか。

人を殺め、逃げ、挙句の果ては人に殺させようとしたではないか」

みき、大泣きする。

傘を拾い上げながら言った。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:25:26.92 ID:dU0o6zlQ0

「奉行所へ来い。

某の下で生涯かけて罪を償うのだ」

千早太はこの娘を自分の附き人(つきびと)にしようとした。

言うだけではなかなか伝わるまい、
それならば行動で示せば良いこと。

「はい」
泣きながら、みきは頷いた。

どうやら想いが通じたらしい。

娘を右に抱えて、傘に入れる。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:28:03.40 ID:dU0o6zlQ0

それから、これを返しておく」
そう言って、寸鉄をみきの腰帯に押し込む。

「これで守るのだ、人の尊厳を」

「はい」また頷く。

千早太は、早く止まないものかと空を見上げた。

「しかし、この戦法は上手くないな……」
擦りきれた厚手の手ぬぐいを見て、誰にも聞こえぬように呟く。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/06/09(土) 22:30:38.54 ID:dU0o6zlQ0



「ということがございましてな」

夕方になり、雨は降るのを終いにしたらしい。

「そうなのですか。

にぎやかになってよろしいですね」
あずさはにこやかに答えた。

千早太の傍には、みきが控えている。

「時に、真のやつは遅いですな。

こやつのことをなんと説明すべきか、考えるだけで面倒だ」

「そろそろ帰ってくる頃です。それ、ちょうどそこに……」

きりりとした姿勢で歩きながらこちらにやって来る。

「おう。奉行所浪人」

「変な呼び名をつけるな」

「して、その娘は誰か?」

まったく事の次第を知らぬ真之丞をよそに、
あずさと千早太と、みきは笑った。
149 :次回、第六章。[sage]:2012/06/09(土) 22:35:06.05 ID:dU0o6zlQ0

はい、今夜はここまでです。

また来週、アイマスの世界で逢いましょう。

それでは。


(通信は長野の山からスマートフォンのテザリング機能でお送りしました。
便利で良いですね、これ)
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/09(土) 22:48:42.80 ID:FXm4zREAo
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/09(土) 23:56:52.35 ID:4hXfaemXo

千早やるじゃん
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/10(日) 00:54:46.95 ID:jOQ0bE+40


この千早さんはきっとゼノグラシア版。胸も大きい
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/10(日) 02:58:02.74 ID:oF5yFurIO
胸が大きかったら、男役やれないじゃないですか
154 :1です、こんにちは。[age]:2012/06/16(土) 13:10:46.24 ID:iK2FkONM0
お待たせしました

今夜更新します。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)[sage]:2012/06/16(土) 19:14:14.36 ID:9OsBekK70
やよいは出たっけ?
いつものやよい「うっうー」のやよいかな?それとも黒歴史のやよい姉御かな?
156 :1です、こんばんは。[age]:2012/06/16(土) 21:12:49.04 ID:iK2FkONM0
やよいは、三章で出ましたが、まだ出番はありますよ。
(それが今夜だったり、そうでなかったり)
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:19:56.30 ID:iK2FkONM0

第六章 不死の価値
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:25:01.84 ID:iK2FkONM0



「お姉ちゃん、お姉ちゃん?」

「何、亜美」

「最近、疲れてない?

少し痩せた気がするよ」

「そう?

ううん、何ともないよ」

「嘘よ。

ずいぶんとやつれちゃったじゃない。

良く見たら肌も青白くなってるし、血の気がないよ。

しかも最近変な場所へ出入りしているとか……」

「はて、何のことやら」

「とぼけないで答えてよ!」

「知らないよ。

それに、例えどんな所に行こうと、私の勝手でしょ。

もし私がやましいことをしてたとしても、あんたには関係ないじゃない」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:29:55.51 ID:iK2FkONM0

「やっぱり、何かしてるじゃない。

訳があるなら教えてよ。

私たち姉妹でしょ」

「これは、ずっと前から決まっていたことなんだよ。

そう、私たちが生まれる前から……」

「な、何言ってんのさ?」

「亜美、もう少しの辛抱だよ。

もう少しすれば、私たち死ななくて済む身体になるんだから。

死を恐れない、死ぬことのない身体に!

ずっと生きていられるんだよ、こんな幸せないじゃない」

「ああ、もう、どうしよう」

「この私のことにいちいち口を出さないこと。

約束守れないなら、双子の姉妹といっても容赦いしないよ」

「このままじゃまずいよ。

誰かに相談して、真美を元に戻してもらわないと!

そうだ、奉行所なら……」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:40:32.98 ID:iK2FkONM0



程良い日差しのあたる廊下で、
秋風が涼しくなってきたなどと考えつつ、みきは声をかける。

「千早太さま」

今日は洗濯ものが特に良く乾きそうだ。

「どうした」

「門の前で娘が一人うろついております」

「歳頃合は?」と訊かれる。

「私より少し下で十二、三というところでしょうか」

彼の下で預かりになって働き、しばらく経つが、
この言葉使いをまだ歯がゆく感じてしまう。

かたい、と思うのではない。

相手がこのお人だからそう感じるだけだ。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:45:57.70 ID:iK2FkONM0

みきは千早太を好いていた。

いつからかわからないが。

自分の心に初めに違和感を抱いたのはあの雨の日、
傘に入れてもらった時からか……。

いや、もっと前だろう。

普段は金さえもらえばどうでもよかったのだが、
あの時は自然と惹かれるものがあって声をかけた。

きっとその時から、
このお人のことを想っていた……などと考えると気恥ずかしい。

なんにせよ、このことを悟られはすまい、と一人誓うのであった。

以来、その力を千早太の手伝いに奉仕している。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:49:47.19 ID:iK2FkONM0

「きっと入るに踏ん切りがつかずに迷っているのだろう。

みき、連れてくるのだ」

「はい」
そう言ってゆっくりと頷く姿は、以前の自分からは想像もできなかった。

ここへ来てよかった。

思えば自分の盗みの業も決して無駄ではなかったとも考えるのである。

門のところまで小走りで行った。

長く、後ろで結った髪が揺れる。

「どうしたのですか?」
娘に声をかける。

自分も娘だが、やはりこの子よりは年上だ、と思った。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:52:55.99 ID:iK2FkONM0

「あ、姉についてお助けいただこうと参ったのですが……」

まっすぐこちらの目を見ながら言って、
その後、俯いて続けた。

「なかなか入る決心がつかなくて」

「そういうことなら遠慮はいりませんよ」
みきは優しく応対した。

「それでは……」

「ええ、こちらに」
案内をする。

まずは千早太に会わせるのが良いだろうと思う。

「あの」

不意に訊かれた。

まだ何かあるのか。

「ここには女の人もいるのですね」

「あたしは特別、
色々あって如月千早太さま、という人の下で使われているの。

今から会いにいく人よ」

「そうなんですか。

凄いですね、何だか楽しそう」

「楽しいことだけじゃないのよ」

それにしてもこの娘は、
千早太の名前を出したら嬉しそうにしている。

何かあるのだろうか。

「相談を装って不意を突く……」みきは呟いた。

「何か?」

「いえ、何でも」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:55:32.83 ID:iK2FkONM0

これは気を付けたほうが良いかもしれない。

そう思って腰に忍ばせてある寸鉄を確認した。

用心に越したことはない。

それもあるが、自分の不注意で千早太を失いたくはなかった。

思い過ごしならば良いのだが、と考えを巡らせている時、娘がにやりと笑うのが目に入った。

「お連れいたしました」
千早太の部屋の前で一言。

入れ、という声を聞いて障子をあける。

ばたん。

教えられた女子ならば障子の開け閉めくらい音もなくやるだろうが、
あいにくみきは普通ではない。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 21:59:21.30 ID:iK2FkONM0

「も少し、静かにな」

それを分かってか笑いながら言ってはくれるが、
恥ずかしさに顔が熱くなった。

隣の娘もくすくすとしている。

きっと視線をやる。

部屋の中で少しでも変な動きをしたらこれをひと撃ちしてやると、
腰帯に触れながら座る。

「や、双海屋の!」

書きものの手を止め、こちらを向いた途端に千早太が叫ぶ。

「如月さま、まいどどうも」

正直、二人が何を話しているか分からなかった。

みきは混乱を隠せずに言う。
「千早太さま、これは一体、どういう……」

「某が良く行く双海屋の娘だ」

「はあ、団子屋の?」

使いに出されることは多くあったが、その店は行ったことがなかった。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:02:04.63 ID:iK2FkONM0

「あみです、よろしく」
可愛らしく笑った。

どうも面白くない。

この娘がこれ程慣れ馴れしく彼と話しているのを聞くと少し妬いた。

「それで、用件は何なのです」
みきはつん、として話を進めた。

「亜美よ、何があった?」

「それが……」

 聞けば双子の姉、まみの様子が変だ。

最近変な場所に出入りしているという噂があるらしい。

さらに昨日問いただしたところ怪しげなことを口走り始めた。

ここに相談しに来たことは内密にしてほしい、とのことだった。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:05:28.56 ID:iK2FkONM0

「申し出は承知したが、どこに出入りしておるかまず調べなくてはな。

あみ、新しく何か分かったことがあれば教えてくれ。

その時は悪いがもう一度ここに来てもらうことになる」
そしてみきのほうを向いて続ける。

「それから、みき」

「はい」

真剣な目でこちらを見られている。

思わず、視線をそらせた。

「某は別件を片づけねばならん。

やると言ってしまった以上こちらを手伝うのは無理だ」

嫌な予感がした。

しかし嫌な予感ほど良くあたるものはないとみきは日頃感じている。

「この件はそなたが調査するのだ」

身構えていたところに、予想通りの言葉が来たが、避ける訳にもいかない。

仕方のないことだと思って返事をする。

「はい、わかりました」
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:07:39.40 ID:iK2FkONM0

「しかし一人では捗らないこともあろう。

真の屋敷へ行き、手助けを求めるのだ」

「菊地様の?」

「如月様の親友ですね」
あみが口を挟む。

「左様。

あみも、これで良いな?

心配はいらん、みきは某が二番目に大事にしている者だからな。

必ずや解決してくれよう」

そう言われてみきは、俄然やる気が出た。

169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:09:52.35 ID:iK2FkONM0



「で、ここへ来たと」

今は菊地家の屋敷の庭で話をしている。

「はい、真之丞さまの力をお借りしろと」

菊地さま、ではなんだかおさまりが悪いから真之丞で良いと言われた。

お互い、いまさら縁の薄い者でもない。

しかし千早太は真、と呼んでいる。

ごくごく近しい者のみが使う名らしい。

由来は父上に関する何かと聞いていた。

「多分それはやよいのことを言っておるのではないか?」

「やよいを?」

彼女はここで働いている。

昔の貧乏からは抜け出して、今は楽しそうに奉仕しているのだ。

みきは何度か家に行ったこともある。

その度に弟たちが着物の上から胸を揉んでくるので退治しているのだ。

実は存外、楽しかったりもする。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:11:34.65 ID:iK2FkONM0

「私は出稽古でしばらく家を空けるのでな。

母をそなたに付ける訳にはゆくまい。

主人がいなくなるからな。

となれば自由のきくのはやよいだ、
良く気がきく者であるし、みきとも付き合いがある」

「なるほど……」

「上がって、中で話をしてみてくれ」
真之丞に言われて、そうすることにした。

「手伝ってくれる?」

「もちろん私は良いけれど……」

やよいに訊くと、すぐに返事がきたがあまり色が良くなさそうだ。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:14:17.06 ID:iK2FkONM0

すると障子が開いて、あずさが部屋へ入ってきた。

お茶を持っている。

これは好機だ、とみきは思った。

すかさず立ち上がって手刀(しゅとう)を当てに行く。

足が床をすべる音、
手刀が空を斬る音が合わさって、
びし、と鳴る。

一瞬の動きのうちに、
みきは動けなくなっていた。

あずさに半歩躱され、
さらに、
頭の上に湯呑みがのっている。

「参りました……」

「動くとこぼれて熱いですよ」
微笑みながら、意地悪く言う。

あずさが左手に持つ盆の上では、
もう一つの湯呑みが静かにのっていた。

一滴もこぼれてはいない。

「参りました!」

そうしてやっと解放された。

へたりとみきは座り込む。

「はい、どうぞ」

お茶が、二人に差し出された。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:17:12.34 ID:iK2FkONM0

固まっていたやよいが気を取り直して、彼女を見て言う。

「ありがとうございます。

本当なら私がしなくてはいけないのに……」

「良いのです。

これは二人の話なのですから、
お茶を出すのは私の仕事」

併せて、みきも礼を言った。

やよいが訊く。

「私が奉行所の仕事を手伝って、
お家のことを疎かにしていいものでしょうか」

すぐに答えが返ってくる。

「構いません。

いつもやよい任せにしては私も家のことが分からなくなりそうですからね」

「ありがとうございます」
二人して礼を述べた。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:20:58.95 ID:iK2FkONM0



「何回やってもだめだね」
やよいに言われる。

「どんな体移動の迅さよ」
みきは悔しがった。

「あずささまはお強いから」

「千早太さまも全然敵わないってさ」

「真之丞さまが手も足もでないもの」
やよいが慰めるように言った。

「みきは千早太さまのこと好いているの?」

続けて言われたその言葉にどきりとする。

「きっとそう。

あの人、格好良いから……」

「結構砕けた感じするよね」
やよいが笑いながら言った。

「うん。

でも真剣に仕事してる時もあって、
とても素敵。

あたしにたくさん話かけてくれると嬉しいんだ」

「いいね、そういうの」

やよいにはないのかと訊いてみた。

「ううん、なかなかね」

どうやらさっぱりらしい。

みきは笑った。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:22:54.89 ID:iK2FkONM0

「それにしても綺麗だね」

やよいの帯びる小刀を指して言う。

柄、鞘ともに黒檀色一色で塗られていて、
良く見ると縦に何本か蒼い筋が描かれている。

それが光の当たり具合で藍色から青色へ、黒になったりもする。

下緒は控えめな朱色で良く映えた。

「あずささまからお借りしたの」

「へえ、良いもの持ってるじゃない。

質に入れて行こうか?

きっと大層なお金になるよ」
ふざけてみきは言った。

「そんなことできると思う?」
やよいがじっと見つめてくる。

「嘘だって」

これから二人で、
調べなくてはならないことがたくさんあると思うと少し面倒だが、
楽しみでもあった。

これが一人前になる試験かもしれないと勝手にそう考えた。

日は、もう少しで暮れそうである。

やよいの持つ小刀の蒼い筋がはっきりと見えた。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:26:40.82 ID:iK2FkONM0



それから三日が過ぎる。

まだ三日、しかしもう三日。

やよいは前者、みきは後者だと感じた。

いくつか手に入れた情報がある。

まず一つ、まみがしようとしている、または巻き込まれていることについて。

どうやら不老不死の法を編み出しそれを教えてくれる者がいるらしい。

このことは妹のあみから得た話だ。

一昨日、律儀にも奉行所にやってきた時に話した。

解決したら団子をいくらでも食べてよいらしい。

ただし一日だけだが。

千早太は地団駄踏んで悔しがっていた。

二つ目はその人物。

不死の術を完成させたといっているのは町はずれのお寺の住職らしい。

しばらく行方不明だったのだがある時ふらりと帰ってきて再びその職についたようだ。

次いで、寺の名前が変わった。

幻惑寺、というらしい。

何とも怪しい名前だということでお互いの見解が一致している。

伝聞調なのは皆人から聞いた話だからだ。

二人はこれから実際に行って確かめようとしているところなのである。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:28:42.71 ID:iK2FkONM0

まずやよいが口を開いた。

「ここからが一番危ないよね……」

歩きながら、みきは答える。
「うん。

行って襲われたりしたらどうする?」

「あなたは大丈夫でしょうけどね」

そうは言うものの、
やよいも伊達に道場勤めではない。

真之丞に稽古をつけてもらったり、
あずさの遊び相手になったりして、
今や並みの人間より動けるようになった。

「とか言ってさ、あんたも弱くはないじゃないの。

その小刀も少しは使えるんでしょ」

「まあ、そうだけれど」

町はずれといってもさほど遠い訳ではないが、
深い森に囲まれた丘の上に位置しているのでとても目立たない。

用があって向かう者でないと、普段はあのあたりに寺がある、
という認識でしかないので見つけられないこともある。

別に隠されているのではないのだか……。

「思ったより、大変ね」
長い階段を登りながらみきは言う。

何段あるか、数える気にもなれない。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:32:48.76 ID:iK2FkONM0

「でも、ここを登ったら境内だよ」
やよいが言った。

百を越えたところで数えるのをやめている。

「早いところ解決して、お団子食べよう」

「帰れると良いね」

「やよい、不吉なこと言わないでよ」

「ごめんごめん。

ふたりなら何とかなるよね、きっと」

「下手して危なくなったらあんたを差し出して逃げれば良いしね」

さらりととんでもないことを言う。

「わ、あたしもおんなじこと考えてた」
やよいがうきうきとした表情で答える。

なるべくすんなりと事が終わりますようにと、みきは祈った。

「話してるうちに着いたね」
肌寒い空気感の中、やよいは話かけた。

みきは大きく息を吸い込んで声を張り上げ叫ぶ。
「こちらは名無子町奉行所である。

不老不死の件で参った、ご住職はおられるか!」

ひゅうと風が吹く。

と、そこには錫杖を手にする男の姿が、いつの間にかあった。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:34:24.77 ID:iK2FkONM0

やよいは小刀を抜く。

みきは素手のまま。

元々武器は自分のこの躰であった。

この前までは、違った方向で威力を発揮していたのだが。

とにかく、目の前の僧侶はとにかく怪しい。

奇妙さが形になったようななりをしていた。

乱雑に伸びた髪は顔のほとんどを覆い隠して、
右の目がわずかに分かるくらいだ。

来ている服も素晴らしく奇天烈である。

目につくのはその色、
なんと表現してよいものか、とみきは思った。

やよいもそう思った。

「さてはおぬしら、拙僧の不死の術の実験体として来たのだな?」

「違う!」
みきが叫んだ。

「なんと、では教えを乞いにか……」

「邪魔しに来たんです」
やよいの場違いな丁寧さにみきはじれったくなった。

「不老不死などと訳の分からぬ世迷言を、
江戸の安全のために捨て置けぬ、この場で召し捕るぞ!」
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:37:09.70 ID:iK2FkONM0

だがこの僧が言う術がどれほどのものなのかについては少し興味のあるやよいだったので、
訊いてみようと声をかけた。

「あの……」

僧侶がこちらを見た。

無言のままなので不気味さが増している。

どうしたのだろう、返事が返ってこないと思っていると、
自分の躰が動かせないことに気がついた。

「躰が、動かせない」

「どうしたのやよい?」
みきは対手から目を離さずに訊く。

「あいつの目を見ては駄目!」

ただならぬ気配を感じ、腰の寸鉄を投げる。

僧は錫杖を地面についた。

こおんと、澄んだ音が境内に響いて、
突き刺さるはずだった黒い筋は動きを止め、
ぽとりと落ちた。

みきは何をされたのか理解できなかった。

焦りを隠せず、懐に隠した二本の棒手裏剣を打った。

残りは腿の付け根に四本とあまりない。

もともと自分は千早太の補佐役で、
さほど戦闘に特化している訳ではない。

それだから武器と呼べるものは、寸鉄と手裏剣のみなのである。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:39:07.29 ID:iK2FkONM0

また、杖が地を打つ。

ひと際大きな音がして、その地面が揺れた。

みきは堪らず尻もちをつく。

そこへ僧が滑るように近づいてきて、馬乗りになった。

錫杖の下半分が落ちて、中から刀身があらわになる。

「仕込み杖!」
やよいが動けない躰のまま言った。

自分の意志で動かないのはとても気持ちが悪い。

僧は大きく振りかぶる。

もはや足までは手が届かない。

そして避けられもしない。

目を瞑ろうとした時、一つだけ使える武器があることを知った。

しかしこれは賭けでもある。

それでもやるしかない。

胸元を、思い切り開いた。

二つの乳房が弾けるように現れる。

若く、瑞々しい。

一瞬、僧の手が止まる。

腰が浮いた。

そこを、左足で蹴り上げる。

短いうめき声を放って、

男は気を失った。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/16(土) 22:42:26.82 ID:iK2FkONM0

「ふう」

深いため息をついて立ち上がる。

術が解けたのか、動けるようになったやよいがこちらにきて言う。

「良かった。

もう二人とも死んじゃうかと思ったよ」

「本当に危なかった」

「あたしじゃできないね、今の……」

「うん、これはあたしの、最高の隠し武器なんだから」

「いいなあ。

まあ、それはそうと、この人早く縛ろう。

そしたら、奉行所に知らせないと」

「そうだね、お団子も待ってるし」

「千早太さまじゃないの?」

それを聞いて、みきは自分の顔が熱くなるのを感じる。

「ここはもう良いから、呼んできなよ」

「あ、うん。

ありがとう!」

勢い良く駆けて行くみきの背中を見送りながらやよいは呟いた。
「あんなに嬉しそうにして……」

素敵に微笑んだが、その顔を見る者はこの場には誰もいない。
182 :次回、第七章。[sage]:2012/06/16(土) 22:45:12.33 ID:iK2FkONM0

今夜はここまでです。

第七章は今書いているところなのです。

来週までには仕上げたいですね。

(千早は、ゼノ版ではありません)
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2012/06/16(土) 23:05:24.67 ID:6iXsyE8ko


やよいがまやこさんで再生される
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/17(日) 03:00:38.14 ID:bNuwR5Uxo
乳の日
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/06/18(月) 17:41:55.21 ID:qLE7IZoYo
おもしろい
千早が殆ど面影ないのが笑えるが
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/06/18(月) 17:47:23.83 ID:7HPEqGgdo
まあ映画だから面影ないのも当たり前である
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/18(月) 20:29:38.56 ID:tXED6X7ho
特別編のヤクザ千早みたいな感じなんじゃない
188 :1です、こんにちは。[age]:2012/06/22(金) 17:15:46.46 ID:XUYD8c6e0

第七章書きました。(書けました)

明日、土曜日更新の予定です。(あの子の誕生日ですね)
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/22(金) 21:10:10.94 ID:/GUVrjl6o
明日明後日はちょっと本業忙しいねん・・・月曜日読もう
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2012/06/23(土) 02:08:05.93 ID:V5f0RiTOo
待ってた

>>189
奇遇だな、俺も明日明後日は横浜に出張だ
191 :1です、こんばんは。[saga]:2012/06/23(土) 20:15:06.02 ID:l9ykQD6T0

第七章 囚われの心、捕らわれの躰
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:17:59.44 ID:l9ykQD6T0



どこか愁いのある表情をしていた。

伏しめがちな瞳、
とても控えめに引かれた唇の紅、
微笑んではいるが、それは微笑みというには希薄すぎる。

胡桃色の髪が、短く切りそろえてある。

儚げだ。

まるで一夜を過ぎれば消えてしまいそうな、
人のみる夢幻のような、そんな雰囲気を纏っていた。

纏わりついていた。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:20:22.02 ID:l9ykQD6T0

決してひき剥がせないそれはもう自分の一部であって、嫌だとは思う。

しかし、もしもそれを失って、自分は自分でいられるのだろうか、
自らが憎むこの空気を、身の回りから消去して、自分は呼吸ができるのか、
生きていられるのか?

そう考えた。

今日は澄んだ風が吹いているのだが、彼女はそのことを知らない。

綺麗な月が出ていることも……。

ここから見える月の形など、光など、どうでもよいことだ。

見えることを知る必要などない。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:23:20.89 ID:l9ykQD6T0

ここは遊郭、籠の中。

この中で生きてきたし、これからもずっとそのはずだ。

特に希望はない。

昔そんな響きが心の中にあったような気がするが、
年月が経つといつの間にかなくなっていた。

この身では何もできないが、情けないとは思わない。

翼が折れているのだから、飛べるはずもない。

仕方のないことなのだ、これは、この人生は……。

そんな諦めを抱いて今夜も、見知らぬ男と床へつく。

娘の名前は、雪歩、といった。

胡桃色の髪が、
月明かりの銀色に照らされて、
鈍く、
光る。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:27:09.75 ID:l9ykQD6T0



「遊郭ですか……」
真之丞が答えた。

「そうです。

まさか私と交わうまで女子を知らぬ訳ではなかったのでしょう?」

そろそろ帰り時だと感じていたが貴音の姫君は、
今日は良く話をしたいらしい。

「もちろん、一度や二度は登楼の経験は」

「そうでしょうとも、今は私の所有物でもあなたは一人の殿方。

しかし、これと決めた女子があれば、契るのもよろしいのですよ?」
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:30:27.85 ID:l9ykQD6T0

「そうなれば、ここへは来ることもありませんな」
少し意地の悪い問いをしてみる。

ささやかな仕返しだ。

「ええ、この私以上に気に入った女子があればの話ですが」

どきりとした。

「姫を好いていると言った覚えはありませぬが……」

「ふふ、そのようなものは見ていれば分かるもの。

隠さなくても良いのですよ。

まったく可愛げのあることです」

「なんのことやら……」

自分でも上手く誤魔化せていないのが分かる。

見てみると、くすくす笑っている貴音姫は機嫌が良さそうだ。

ここ最近、しばらく会っていなかったから、話すこともいくつかある。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:34:02.42 ID:l9ykQD6T0

「真、あなたの躰のことは、
私が一番良く知っているのですよ。

それはもう、隅々まで……」
言いながら寄って来た姫はとてもいい香りをさせている。

普段のものとは違うお香のようだ。

「そ、そろそろ、嫁御詣でに行かねばなりませぬゆえ……」
自分でも訳の分からない言い訳をして、この場から逃げようと立ち上がった。

「そのような者はおりますまい。

どこへ行こうと言うのです?」

「はあ、実は最近知り合うた者でしてな、
これがなかなかの美人。

気性も温和で、私の好みに合いました」

「戯言を。

では名前を言ってごらんなさい、
手の者に斬らせますから」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:38:01.43 ID:l9ykQD6T0

これ以上駄々をこねるとまずいなと思い、真之丞は座った。

「話を変えましょう」

「どういったお話なのですか?」

「不老不死の術」

「それは面妖な……、
しかしそのようなものが本当に存在すれば少し面白いやも知れませぬ」

「実際のところどうなのかはわかりませぬが、
幻惑寺の僧が編み出したもので、その者自体に魔力のようなものがあったらしいのです。

対峙した知り合いが言うておりました」

「それから?」

「何でも、杖を地につけば、
投げられた手裏剣もとぶのをやめてしまったとか、
ひと睨みで身動きがとれなくなったとか……」
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:41:48.32 ID:l9ykQD6T0

「興味深い話です。

それで、どう退治したのですか?」

「最後は、その、乳房を……」

「どうしたのですか」

「乳房を見せて、ひるんだ隙に急所を蹴ったようなのです」

「まことに、それは真理ですね。

得体のしれない幻惑の物より、
現実の力のほうが、はっきりと強いのでしょう」

「確かに」

「さらにおかしいのは不死の話です。

いずれやってくる死がなくなってしまえば、
今生きている意味がなくなりますから」

「確かに」

「死があってこその生ですよ。

全ての生き物は、死ぬために日々を生きているのです」

なるほど、もっともなことを言うと思い真之丞は何度も頷いていた。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:45:53.82 ID:l9ykQD6T0

「時に真?」

「はい」
すぐに答える。

「先程から相槌をうつばかりではありませんか」

「はあ、至極ごもっとも、と感じ入りまして」

「あなた様は、いけずです」

そういわれて、真之丞は頸をかしげた。

何がいけずなのだろうか。

ともかく、少し機嫌を損ねたらしい。

貴音はふいと向こうをむいてしまっている。

ふと、ある考えが浮かんだ。

――思いきって、姫を組み敷いてやろうか……。

いやいや、後がどうなるか知れぬ。

危険だ、とは思うが一度挑戦してみたい。

どうしたものか。

何も今日でなくとも良い。

しかし、貴重な好機であることに違いない。

こう逡巡しているうちに逃してはことだ。

よし、三つ数えたらかかれ。

自分に言い聞かせる。

一つ。

二つ。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:50:30.01 ID:l9ykQD6T0

「見抜けない私だと思ったのですか」

驚いた。

組み敷かれたのは自分の方であった。

いつもの体勢だ。

「は、いや……」
思わず苦笑してしまう。

「さて、いかがしましょう」

「お手柔らかに願います」

「嫌です」
言うが早いか、口を塞がれる。

貪るように、深く、強く。

ああ、まただ。

いつもこうなる。

快感を与えられるのは良いのだが、姫にはあきれる。

まだ夕方であろうか。

少なくとも夜ではない。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:54:43.99 ID:l9ykQD6T0

初めて貴音にされた時を思い出す。

あまりの気持ちよさに、気を失ってしまったのだった。

確かに、初めて、
というのもあったろうが、
人のわざとは思えなかった。

普段とは違う淫乱な血が、自分に襲いかかってくるのを見て、
これがこの女の本性なのだと、やっと気付いた。

しかし今日は、今日こそ一念発起して、
組み伏せると考えたではないか。

色々あってその企みは崩れたが、まだ機会はある。

貴音姫が服を脱ぐ時が、強いて言えば好機だ。

考えるうちに裸にされているのはこちらである。

真之丞は笑ってしまった。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 20:59:30.72 ID:l9ykQD6T0

「何がおかしいのですか」

そそりたつものを咥えようとするのを止めて貴音が訊いた。

「いつものことながら、手際が良いもので……」

「今、その口をきけなくしてあげます」
と言うなり、深く、のみ込んでいく。

びん、と体が張るのを感じる。

これは声も出ない。

息が口からわずかに洩れるばかりである。

「どうしたのですか?

女子のように喘いでもよろしいのです」

一度口からは出して、貴音が意地悪く、言葉で責める。

先端部を舌でちろちろとなぞられながら、
真之丞は頭が熱くなるのを感じた。

「ほら、もう数回味わえば、果ててしまいますよ」

裏筋に、歯を立てられて、震えた。

なんと心地の良い甘噛みであろうか。

もういくらも我慢ができない。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:04:23.59 ID:l9ykQD6T0

唇で、くちづけをされた時には、頭の中が真っ白になった。

「力強い射精ですこと」
高らかに笑いながら言う。

跳ねる自分のものを吸われながら、かろうじて息をした。

「さて、今日はいつもより興がのってきましたね」

恐ろしい言葉を耳にしながら、
真之丞は機会を狙っていた。

体が熱い。

するすると貴音が着物をはだいてゆく。

「姫、お覚悟!」
かけ声とともに押し倒した。

意外にも、あっけなく成功して、驚く。

「はて、この後はどうしてくれるのです?」

どうやらわざとらしい
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:08:18.12 ID:l9ykQD6T0

「このまま、手籠めに」

精一杯の虚勢を張って、真之丞は言った。

肥大したものを、貴音の秘部にあてがう。

姫のここは前戯など必要とせず、
いつもするりと受け入れてくれる。

しかしそれも罠なのだ。

一度入れてしまえば、
周りの壁がきゅうきゅうと押しついてきて、
抜けなくなる。

動くのもやっとだ。

たとえ動かなくとも、精を取られる。

初めて交わったあの時も、動かずに果てたことがあった。

跨ったまま、話をされていたのだが、
それだけできつく締め上げられて、射精していた。

だが、今日こそは……。

乱暴に姫の躰に打ちつける。

何度も、何度も。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:12:51.48 ID:l9ykQD6T0

顔をみると、とても楽しそうだった。

「真之丞様、もっと、強くできますか?」

猫をかぶった甘い声で囁く。

体勢は自分が上だが、結局、
主導権は相手のものだったことを知って、少しがっかりした。

「そう気を落とすことはありません」
そう言いながら、貴音は真之丞の腰部に白く美しい脚を絡ませてきた。

「天に昇る心地にしてさしあげます。

気を確かに持っていてくださいな」

腰が躍った。

正常位の状態で、自分が犯されている。

なめらかに揺れる貴音の腰に、吸い込まれるようであった。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:17:01.97 ID:l9ykQD6T0

感覚を、間隔をあけて波のように弄られた。

「ああ、素敵ですよ、真……。

こんなに出して」

それを聞いて、自分が射精していたことを知った。

ただ心地よさが躰を駆けてゆく。

自分は、動けないのに……。

何度も、何度も昇天させられて、
真之丞は貴音の躰に倒れ込んだ。

出した回数は分からない。

頭を殴られるような快感に、
ずっと支配されていた余韻を感じて、
そのまま、意識が薄れてゆく。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:20:05.37 ID:l9ykQD6T0



もう朝が来た。

昨日は帰ってきたのが夜であった。

ふらふらと布団に入り寝たのは覚えているが、その他は良く分からない。

今はもう朝になっていた。

のそりと起き上がって、部屋を出る。

やよいがばたばたと動き回っているのが目に入った。

こんなだらしのない生活はまずいなと思う。

きっと母には怒られる。

千早太はどうしているのだろうか。

ぼんやりとした頭であれこれと考えた。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:23:49.42 ID:l9ykQD6T0

「おはようございます、母上」

「おはよう、真之丞」
言いながら、あずさは息子の目を覗き込んだ。

「気が抜けていますね。

この後で、道場に行きなさい」

「はい、禅でも組みます。

丹田(たんでん)に力が入らないので……」

あずさは、
四条の姫君と真之丞が逢うのを許してはいるが、
黙認ということだ、今は。

あの娘、貴音には邪淫の性を感じる。

このままではいけない。

結婚するなどと言いだす前に、
相手を探してやらなくては……と考えている。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:27:19.75 ID:l9ykQD6T0

本当なら本人でやるべきことなのだが、
息子はたぶらかされている。

あのような精根尽きかけた様を見ては、焦るのもしかたない。

一人で町をふらふらとして、万が一があってからでは遅い。

今日は千早太が来てくれるであろうか。

彼は頼りになる。

命のやりとりを剣にて行なう今の世にいて、
武士として、人間として、言葉の使い方を知っている。

人の尊厳を失わない生き方ができる。

真之丞は本当に良い友人を持った。

もくもくと飯を口に運ぶ息子を見守って、
そんなことを考えた。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:30:13.70 ID:l9ykQD6T0



最近良くここへ来る。

来たくてそうしているのが、半分。
来なくてはならない気がするからが、半分。

ここには、籠の中の鳥がいる。

不憫だが、どうすることもできない。

本当は一つだけ手段があるが、

それを手段と呼べるかが疑問である。

ゆきほ、という名前。

正しい名前が何なのかは知らない。

訊く気もない。

「ここから出よう」

先ほどからずっと苦心していた自分を振りきって、
男は決心した。

「でも、どうやって?」

「金子が用意できれば良いのだが……仕方ない。

逃げるしかないな」

「しかし、それでは」

ゆきほはたじろいだ。

廓抜けは立派な犯罪である。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:34:27.80 ID:l9ykQD6T0

「案ずるな、遠くまで上手く逃げられれば。

仕損じて追手がかかっても、
この剣の腕があれば、なに、めったなことで斬られはせん」

「奉行所の如月様とそのご友人の菊地様の噂はご存知でしょう?」

着物の袖を口元にやりながらゆきほは言った。

「それは、もう。

こちらから手合わせ願いたいほどだ」
興奮した様子で、男が返す。

「危のうございますよ」

「とにかく、決めたのだ。

これでもずいぶん悩んだ。

しかし、お前も外へ出て自由に暮らしたくはないのか?

何にも縛られずに、いつでも、したいことをする。

そんな生活を。

そうだ、小料理屋でも始めよう。

きっと、今よりずっと楽しくなるはずだ」

実際、とても魅力的な申し出であった。

この男は自分のために勇気を出して行動を起こそうとしてくれている。

だが、実際に外の世界に出るとなると、
これほど恐ろしいことはない。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:37:25.16 ID:l9ykQD6T0

「私は、怖いのです」

「いつまでもそうではいられまい。

この先どうするのだ?

雛鳥でさえ殻を破って出てくるのだぞ。

えい、こうなれば思い切りあるのみだ。

今夜出よう」

長い長い思案の末、
ようやく、ゆきほの口から答えが、出た。

「もはや、全てをあなた様にお任せいたします」

希望を願うには伏し目がちな表情で、
ともすれば再び束縛の軛(くびき)の中に絡めとられてしまいそうな。

それでも、瞳に宿る光は、先程よりも強くあった。

今夜、星は見えない。

月も出ていなかった。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:40:46.08 ID:l9ykQD6T0



河原では、二人の男が対峙している。

じりじりと詰める間合い。

じゃり、と音のする足元。

双方、上段に構えて睨みあう。

千早太と真之丞であった。

どちらからともなく、動き合った。

ひゅん、と二つの刃が同時に鳴った。

相手の体の前でぴたりと止まる。

「気が剣に乗ってないな」

「ああ、そうだ。

実を言うと体が少々重い」

「今回は真は某の後ろでそっとしておるのが良いだろうな」
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:44:49.72 ID:l9ykQD6T0

心配するそぶりは露ほど見せずに千早太が言った。

傍らの石ころを蹴る。

彼の場合、外見と中身が一致していないことは良くあることだ。

「私もそう思います」
みきが口を挟む。

適当な呼吸だった。

「冴えぬなあ」
真之丞が空を見ながら言った。

視線の先の青色より表情は晴れていない。

魂もこの一時は曇り空なのである。

「無理をなさらないでください」

傍にいる娘は、自分のことを良く良く案じてくれている。

ここはおとなしく二人の言うようにしていたほうが良さそうだ。

剣者としても、今の状態を鑑みて、そういった判断を下した。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:49:04.16 ID:l9ykQD6T0

「千早太と、みきに任せる」

「それが良い」

「千早太様……」
みきが今いる所より奥の、
河原の終わりに目をやりながら彼の袖を引いて言う。

「あの男女、風体が例の一件の二人ではないでしょうか」

「どれ、私が訊いてこようか」

「真は下がっておれ」

「冗談だ」

やはり疲れているのか、
しまらない顔の真之丞を留めて、千早太は話を聞きに行く。

「もし、昨夜、廓抜けをした者を探しておってな。

何か知っていることがあれば教えて欲しい」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:53:09.26 ID:l9ykQD6T0

「あ、あの、私たちは……」
女の方が消え入りそうな小声で話すのを、
隣の武士が続けた。
「単なる旅の者。

ここへきたのは今朝のことだ」

「へえ、どこへも泊まらずに?」

「いや、
江戸に入る前の木賃宿に泊まって、朝早くきたのだ」

「ほう、と言うと、黒井屋ですかな」
千早太が顎に手をやりながら訊いた。

「左様」

「あなた様」

女の方が心配そうに見ているのを目の端にやった。

「しかし、あそこは今やってはおらんのだが」

男の顔が驚きの色に変わるのを千早太は逃さなかった。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 21:57:05.62 ID:l9ykQD6T0

次の瞬間、居合いが閃く。

「というのは嘘だ」
間一髪でかわしながら、言う。

「おのれ!」

思っていたよりもずっと鋭い斬撃を二度避けたところで、
剣を抜いて応戦する。

上段から撃った。

すかさず刀身を一文字に受けたのはさすが。

十字に交わる二つの剣。

千早太、そのまま押し込む。

男も負けじと力を入れる。

その時、千早太は一瞬力を抜いた。

対手は刹那のとまどい、そして驚き。

剣先を柄元ではね上げる。

「やめてください!」

女の悲痛な叫び。

そのまま一連の流れで、面を撃つ。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/06/23(土) 22:01:48.82 ID:l9ykQD6T0

その直前で止めた。

「俺の負けだ」

「お主は遊郭から逃げる時に一人斬ったな。

このまま捕まれば死罪は免れぬぞ」

「ここで腹を切る。

介錯を頼めるか?」

「あの女子はどうする」

「俺が勝手に外に出してやったのだ……ゆきほに罪はない。

どこか遠くへ、逃がしてやってくれ」

「そうしよう」
千早太は頷いた。

「かたじけなし……」

「なに、仕事熱心なほうではないのでな」

真之丞は、それからみきも、離れた場所から見ている。

命が散る様を、
目を逸らさずに。

それが生の、
確かに生の価値であるかのように、

この場にいるものは、決して。

「私がこれから生きて行くことが、何より、あなたがいた証です」
胡桃色の髪が、ほんの小さく揺れた。
220 :次回、第八章。[saga]:2012/06/23(土) 22:08:10.40 ID:l9ykQD6T0

はい、今夜はここまでです。

少し前からPCがなんだかやられてしまっていて、
右クリック封印状態なのです。

テンポが変わっていないと良いのですが……。

いつもはすぐ落ちるのですが、今日は少し時間があるので、
何か質問等あれば、どうぞ。
(土日が忙しい方が多いようですね)
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[sage]:2012/06/25(月) 00:24:18.23 ID:M+I7MSJuo
おお、来てたのか
相変わらず面白いな
持ち味を活かすキャラと変えるキャラのメリハリがきいてる
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/06/25(月) 13:01:40.84 ID:5VLme/S8o
面白いな。
短いストーリーがいくつもあるから、映画って言うよりはテレビの時代劇シリーズぽいな。NHKでやってるみたいな
223 :1です、こんにちは。そして、すみません。[age]:2012/06/29(金) 17:02:05.89 ID:SF/HMUo80

普段通りですと明日の更新となるはずなのですが、
未だ完成に至っていませんので、
明後日の日曜日、もしくは来週の土曜日更新とさせていただきます。

罵り文句等はこちらまで。
(尚、応援励ましも嫌いではなく……)
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/03(火) 22:10:06.60 ID:hXb9mVxwo
日曜来なかったな・・・週末まで松か
225 :1です、こんにちは。[age]:2012/07/06(金) 15:47:50.13 ID:mWLEjvev0

土曜日か、日曜日に更新します。
また明日、その旨告知しますね。
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/07(土) 03:13:15.68 ID:oxm7PeISo
舞ってる
227 :1です、こんにちは。[age]:2012/07/07(土) 12:26:37.11 ID:doRkRKjG0

更新は、明日の日曜日とします。
また仕事で某所に来ているところです。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/07(土) 13:28:23.92 ID:+TPlXYD/o
長野乙
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:32:43.31 ID:Fc6FME+Z0

第八章 像を結ぶは、人の姿か人の絆か
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:36:49.81 ID:Bi9OVRcn0



秋もずいぶん深まってきた。

空の高さは、この前見上げた時よりもずっと……。

隣には千早太がいる。

この前はほとんど役に立たなかった自分を反省しつつも、
なんだかんだで、彼は頼りになると感じていた。

だいぶ前から母は言っていたのだが。

それにしても貴音の姫には困らされた。

剣者としては気が第一のものであるにも関わらず、
それを貪るように奪われてしまった。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:40:17.33 ID:cs/FQl7x0

しかし、責任の半分は、自分にある。

あの人の前に立つと、自分の中の血が情欲にひきずられていくような感じがする。

このままではまずいとは思うのだが……。

あの姫を娶って、妻とする日がくるのだろうか?

この私より気に入った女子があれば、と彼女は言っていたが、
そんな娘がこの先の人生で、目の前に現れるとは考えられなかった。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:44:26.74 ID:cPfXjMUz0

「どうした、先程から黙って」

「ん、なんでもない」

今は刀問屋に向かっているところだ。

日頃から手入れは欠かさないが、さすがに刀身の欠けや傷が目立つようになってきた。

放っておくと、曲がりや、折れの元となるので危険なのである。

「長船か?長船か?」
歩きながら、千早太が茶化してくる。

「銘などどうでも良い。

高価でなくとも」

「ふむ」

「しっかりとした作りならばそれで」

「が、著名な剣を提げていれば、それだけで気分の良いものだ」

「それについて異論はない」
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:47:41.72 ID:dUwnhAr60

ふと、角から何かが走ってきた。

思いのほか素早い。

ぶつかりそうになる所を、すんでのところで避けた。

黒く、長い髪の、娘だった。

心臓が大きく脈打った。

「失礼をいたしました」

ここらでは見ない女である。

肌も普通より少しだけ黒い。

長い髪が後ろのほうで結ってあり、馬の尾のように、ゆさゆさと揺れた。

背中に何か提げている。

袋の中は見えないが、あれは頃合いからみて刀だろう。

はっきりとした力強い瞳、
口元はほんのりと紅が引いてあるのが見てとれるが、
とても薄く、
ほとんど桃色であった。

膨らんだ胸。

腰回りが美しい。

脚にかけての曲線も、理想的だった。

愛嬌がある。

千早太はそう思った。

真之丞も同じようなことを思っていた。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:51:22.36 ID:n9gQtJ6k0

「や、何ともないぞ」

「しかし、ここらでは見ない美人だな」

むすめは少し笑いながら
「はい、遠い親戚の家がこのあたりにございまして。

私は、一度江戸の町を見てみたいと、よそから参った者です」
溌剌とした話し方だった。

わずかに覗いた八重歯が印象的だ。

会話をしているのは千早太である。

真は、目が離せなかった。

口を動かしている暇があったらこの娘を眺めていたい。

そう思えた。

「しばらくこちらに?」

「ええ」

「また、会えるかの」

「ご縁がございましたら……」

可憐に、軽やかに歩いて行った。

どうやら少し急ぎの用事らしい。

「いやあ、一目ぼれか」
千早太がぼんやりと呟いた。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:54:30.98 ID:4GC1MwhW0

「珍しいな、お前にそのようなことがあろうとは」

「何を言っておる、真のことだぞ」

どきり、とした。

「一言も話せなかったではないか」
からからと笑いながら言う。

確かにその通り、あの娘に惚れたようだ。

しかし、同時に、貴音姫の姿が頭をよぎるのであった。

「嘘はつけぬな」
真之丞は頷く。

もうすぐで着くはずだ。

町は人で賑わっている。

「そうであろう」
千早太は、まだ笑いながら、また話す。
「しかし、名を訊かなかった」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 20:57:29.22 ID:cs/FQl7x0



「りつこ、りつこや……」

「何さおとっつあん、あたいはまだ眠いんだよォ」

むくりと起き上がった。

なんだまだ朝ではないか。

店を開くには早すぎる。

自分は誰と話していたのだろうとぼんやり考えると、それは父だと分かった。

しかし、りつこの父親はもはやこの世にはいない。

ぼさぼさとした頭を掻き、なんとなく整えて、顔を洗う。

「まだ寝てられるってのに、仕ッ方ないねェ」

どうしてこんな自分が店を継いだのか、毎朝のように思うことだ。

「勝ッ手に死んで、
娘に仕事任せちゃあ世話ねェや。

さあて、と」

ようやく頭が回ってきた。

てきぱきと動き回り、店の支度を始めている。

自分の容姿を準備するのは一番後になりそうだと、りつこは手を止めることなく考えた。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:00:25.42 ID:jpS9qMgC0



「なんだか、今日は暇だねえ、お姉ちゃん」

「そうね」

「いつもなら、この時間は混むのにね」

「ええ」

「どうしてかな?」

「いつもとは、風の匂いが違うのよね」

「雨が降る?」

「ううん、そうじゃなくて」

「ふうん。

ま、良いけど」

「お団子、食べましょうか」

「見つかったら、怒られるよ」

「もちろん、内緒で」

「あ、あれ、みきさんじゃない?」

「あらほんと」

「どこに行くのかしら」

双海屋の看板娘二人の視線の先には、千早太の腹心、みきが走る姿があった。

238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:03:19.95 ID:jpS9qMgC0



調べの対象は、四条院貴音。

といっても、公務ではない。

あずさに頼まれたことだ。

手間賃を多く貰っているが、あそこに近づくのは少し気が引ける。

それでも彼女に言い寄られて、断る方が身の危険だと感じた。

「みき……私は、頭を下げているのです」

思い出すたびにぞっとする微笑みであった。

あれほど優しく、同時に残酷な瞳を覗いたことはなかったからだ。

あの時は、正直に言って、身も心も震えた。

真之丞の母として、とても心配なのです、
あの子のことが……とも言っていた。

頬を伝う涙を見て、みきは頷いたのだった。

とにかく、早い方が良いと思って、町を走る。

双海屋の前を通るのだが、あの姉妹は話し始めると止まらなくなるらしい。

絡まれる前に、さっさと通り過ぎようと考えながら、前を見た。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:06:09.31 ID:1F55OD2f0



御刀秋月屋の文字。

看板はふるぼけているが、汚くはない。

きっと店の主人がたまに磨いているのだろう。

二人がのれんをくぐると、さっぱりとした美人が出迎えた。

不思議とこの町には美しい女が多い。

「いらっしゃいまし」
上品な挨拶だ。

「なんだ、りつこ殿、猫を被っていても素性は知れておるぞ」
千早太が茶化して言った。

「ほほほ、嫌ですわお客様。

他のお武家様もいらしておりますのに……」

話しながら額に筋が立っているのを真之丞は見てとった。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:09:33.94 ID:VRw+s2kq0

「定寸の刀を探しておる」

「銘はいかがしましょう」

「無銘でも構わぬ。

造りが良ければ」

「それでは、吟味いたしましょう」

壁にかかっているのは野太刀や直刀ばかりで、
畳みの上に台と一緒に飾られているのは著名な作のものだ。

りつこは、幾つもある箪笥の一つの前に座り、引き出しを開けた。

すい、と軽く音をたてて数本の刀が現れる。

鞘が黒や紅、茶なども見えた。

「紅は伊達だのう」
千早太が呟く。

「紅はお嫌いで?」
振り向いて訊かれた。
その鞘と同じような色の着物から見える白いうなじが艶やかだ。 

「そうではないが、余り人目につくのもな」
真之丞が答える。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:13:23.36 ID:n9gQtJ6k0

「では……、こちらはいかがでしょうか」

隣の引き出しを開いて、艶のない黒色の鞘の刀を一振り持ち出した。

「良い色だが、中身がまともでなくては仕方がないのだ」

「使い良いと思いますよ。

少し短めで、真之丞様に合った二尺三寸五分」

やはり分かっている。

女だてらに刀問屋を切り盛りしているのは、
こういう所に良く気の付く女子であるからだろうと、千早太は感心した。

「ふむ、確かに」

刀身を出して、刃筋を日の光にかざす。

曲がりや歪みが無いかを入念に確かめるのは、
命を預ける道具を選んでいるのだから当然のことである。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:17:12.05 ID:n9gQtJ6k0

「どうだ、真」

「悪くない。

いや、良いものだ」

「決めたか」

「そういう訳にはいかぬ。

さらに吟味しなくては」

はいはいと頷きながら律子が腰を上げようとする。

「あ、そうでした。

遠縁の刀鍛冶の娘が一振り持って来ているのです。

先程着いたばかりで」

「ほう、それを見たいの」
千早太が興味津々に言う。

真之丞も、何か心の疼きを押さえられない感じがして、りつこの目を見た。

「今呼びましょう……、ひびき!」

生きていると、ふとしたことが重要であったということが多々ある。

そして大抵それは後から気付くものだ。

この時の真之丞がまさにそれであった。

とんとんと階段をおりてくる音。

「持って来た刀、見せてちょうだい」

「はい、ここに」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:22:07.24 ID:n9gQtJ6k0

はっとした。

「あら、お侍様は……」
という声が飛んでいたような気がするのだが、実のところは分からない。

真之丞はそんな状態だった。

何か口に出したような気もする。

あるいは、話そうとしただけかもしれない。

「おお、先程の」
これは千早太の口から出たものだ。

「あ、お知り合い?」

「真、話すのだ。

この娘と我らの出会いを」

「出会ったのは、私だ」
やっと声が出せた。

「ふふ、これがご縁でしょうか」

「ちょっと、あた……いけねェ、私には何のことか。

説明してくださるかしら」
りつこが口を尖らせて言った。

「先頃、お二人に辻で危うくぶつかりそうになってしまったのです」

「某は違うぞ、この男だ」
千早太が水を向けてくる。

「はい、そうでした。

あの、お名前を」

「菊地真之丞」
少し早口が過ぎたかもしれない。

「そして、某が如月千早太である」
大層な様子で答えていた。

「お前の名前は訊いていない」

「いや訊かれた」

というやりとりを横に、女二人も話をしている。

「とりあえず、刀を見てもらいましょうか」

「菊地様と、如月様ですね」

「ちょっと。

早く貸しなさいよ」
まだ話を続けようとするひびきから、刀をふんだくって、りつこは言った。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:25:10.15 ID:n9gQtJ6k0

「良い長さだ」
袋から出された剣を見て千早太が頸を振る。

「これより、も少し短いな」

「はい。

二尺二寸二分でございます」

「でも、定寸とは言いづらいわね」
ひびきの答えに、りつこが口を挟む。

「ぎりぎり、といったところか。

真、どうする?」

「刀身を見ぬことにはな……」

内心の乱れが、躰の外に拡散しはすまいかと思いつつ、
また同じ手順で調べてゆく。

目の前に立てた刀身は、ひびきの姿を綺麗に写していた。

曲がりもなく、刃文は直刃で、真之丞の好みである。

「良い、とても美しい」
それだけ言った。

「それは私が打ったものにございます。

短い分、軽く、強い刃で、粘りも秀でております」
余程自身があるのだろう。

臆面もなくこちらを見据えて話す姿がまた、美しかった。

「では、これを下取りにいくらになる?」

「なんだ、もう決めたのか。

それにしても、ずいぶん早く気に入るものが見つかったものだ」
千早太が笑いながら言う。

「ありがとうございます」
りつことひびきが、二人声を揃えて言った。
245 :補注[saga]:2012/07/08(日) 21:29:57.98 ID:G6JUN7P00

※定寸…一般的な刀の長さ(江戸時代)。二尺五寸ほど。
 
 刃文…刀身の焼きが入っている部分。
 直刃(すぐは)…乱れのない真っ直ぐな刃文⇔乱刃
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:32:40.86 ID:G6JUN7P00



「あずさ様……これは、迷ってしまったのではないでしょうか?」

さくさくと枯れ落ち葉を踏みながら話している。

「やよい、私にはそうなのかどうかも分かりませぬ」

「やっぱり」

「何か言いましたか?」
優しく微笑みながらあずさが言った。

「あたしも知らない場所へあずさ様と二人きりで行こうというのが、間違いでした」
持ち前の無邪気さで率直に意見を言えるのがやよいの良いところである。

「仕方ないですね。

帰りましょうか」
がっかりした様子だ。

今日は町で服を新調するつもりだったのだが。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:36:18.91 ID:G6JUN7P00

「はい。

それができたらですが。

ここは一体どこなのでしょうか」

「森の中でしょう」

「どうしたら呉服屋に出かけて森に……」

「ああ、やよいの着物も新しく買おうと思っていましたのに」
さらに残念そうに続けた。

「やい、そこの女共」
突然、横から口汚い言葉が飛んできた。

「先程から、こそこそと無礼です!」
やよいが叫ぶ。

「この娘、気づいていやがったか。

変に鋭いやつだ」

離れたところから男が一人、二人。

「やよい」

「あずさ様」

「この無礼者たちに、思い知らせてあげましょう」

「はい」
元気良く返事をした。

見た目は普通の女子であるが、
日頃の鍛錬から、闘いの仕方を学んでいる。

貧しく、金貸しの浪人に怯えて泣き暮らしていたあの日々のやよいではない。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:39:41.61 ID:JYv91j+b0

さらに三人、奥から出てきた。

全部で五人。

「金をよこしな。

そうすりゃ服をはぐくらいで許してやるぜ」

「俺はそれじゃあ我慢できねえな。

えらい美人だ」

男たちが脅し文句を言っている間にあずさが割って入った。

「あら、この子も可愛いではありませぬか」

「がきに興味はねえ」

「おい、俺はがきの方を見て言ったんだぜ」

「なんだと!」

今にも仲間割れが始まりそうな様子である。

「喧嘩していませんで、かかってきたらどうです?」
うふふと笑いながら、あずさが男たちを挑発する。

やよいは、その瞳を見て、これは楽しんでいるなと思った。

「なんだあ?

泣き顔を見ながら、その躰、好きにしてやるぜ」

前後にそれぞれ三人と二人であずさとやよいを囲むようにして、
男たちは剣を構える。

「へへ、丸腰でどうしようってんだ。

怖くて声もでないか」

「わあー」
やよいが朗らかに声を出した。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:42:12.58 ID:JYv91j+b0

「なめやがって!」

一斉に襲いかかる。

斬りかかってくるところをあずさは一歩踏み込んで、柄を押さえる。

対手がそのまま振り下ろすところを、半歩左へ。

伸びきった腕を捻る。

剣はあずさの手に。

刀身を翻して峰で、撃った。

右のわき腹に強い衝撃。

一瞬、息が止まる。

男はそのまま意識を失った。

「えい」

後ろではやよいの声がする。

鳩尾を肱で撃って、仰け反ったのを背負い投げている。

その一瞬の動作を見て、

次の男の刀身を躱す。

体移動をしつつ、脇差を奪った。

二の太刀をそれで受け流し面を叩く。

斬りはしない。

峰打ちだ。

やよいも、二人目の男の横薙ぎをしゃがんでやり過ごし、顎に掌底を当てる。

そのまま男は後ろに倒れた。

同時に最後の一人があずさを襲う。

男は何が起こったのか分からなかった。

斬りかかったはずが、突然天地が逆さになった。

年上の女の声がする。
「腕を落とされたいですか?」

左脇には脇差が当てられていて、身動きができない。

「まいった……」

「いいえ、許しはしません」
冷たく言い放つ。

「どうすれば」

「案内をしなさい。

呉服、天海屋まで」

後ろでは、やよいが男共を縛り上げていた。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:46:13.05 ID:rk+SvYZs0



「人の屋敷に無断で入るとは、無礼だと思いませんか?」
貴音が落ち着いた声で話す。

「く……この!」
みきは躰をよじって抗うが、固く縛った紐はびくともしない。

「逃げられはしません」

諦めたのか、みきは黙っている。

細く棒のような柱に手を後ろで縛られていた。

布の上からなので両手に紐の痛みはない。

「この屋敷に何か用ですか?」
ずい、と顔を近づけて問いかける。

「黙っていては分かりません。

それとも、言えない訳がおありなのでは?」

「そんなもの」

「何です?」

貴音の指先がみきの着物の胸元を開く。

「あ、いや」
恐怖の色が浮かぶ。

相手が悪かった。

これではこの先何をされるか分かったものではない。

やはり手を出すべきではなかったと、後悔が強く胸を締め付ける。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:50:17.10 ID:rk+SvYZs0

「心配することはありません。

とても気持ちの良いことです」

「そんな、待って」

あらわになった乳房のその谷間を舌でなぞられて思わす声をあげた。
「ああっ!」

そのまま上へ、鎖骨を舐められる。

頸筋まで来た時に、みきは涙を流した。

「泣くことはないではありませんか」
ふふ、と笑いながら貴音が言う。

さらに頸をしゃぶられて、嗚咽を漏らす。
「うう、あうっ」

昔躰を売って金を得ていたときはこのように悲しむことはなかった。

未だに生娘ではあるが、どうしてこんなに涙が出るのだろうと考えた時に、
千早太の顔が頭に浮かんだ。

きっと理由はそうであろうと納得しながらも、頬を伝う涙は止まらなかった。

「少しだけ、痛くなりますが、その後は……」

ぬらりと光る八重歯を頸元に押し付けられて、みきは絶頂していた。

一瞬頭の中を白い光が駆ける。

さらに強く、噛みつかれた。

「ああーっ!」
躰がびくびくと跳ねるのを押さえられずに、叫ぶ。

快感で、気が狂いそうだった。

「あなた、生娘でしょう」

「は、い」

「そう、可愛らしいのね」
そう言いながら微笑むのが、とても美しく、そして妖しかった。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:53:30.60 ID:rk+SvYZs0



「おい、この話、聞いたかい?」

「どの話だい」

「天海屋って呉服の店の前にな、
ふん縛った悪人ども五人に案内されて妙齢の美人と幼い娘が来たってんだよ」

「はやらなそうなおとぎ話だな」

「それがよ、えらくはやってんだ。

続きがあって、その悪人は全員その足で奉行所まで行ったってんだからよお」

町人二人の会話である。

「ねえ、その妙齢の美人の髪は黒みがかった蒼とか?」

それを聞きつけたあみが訊く。

「おう、あみちゃんその通りよ」

「へえ、ありがとう。

面白いね」
盆を胸にあて笑った。

「だってさ、真之丞様」
からかうように、まみが言う。

この二人とは以前より親しくなった。

それは良いのだが、侍としての威厳が少しだけ薄れた気がしないでもない。

「絶対、あずさ様よねー」

「うん、絶対そうだよねー」
双子が声を揃えて言い、けらけらと軽く笑った。

「江戸一番の強者と知らずに挑んだ悪漢たちも、これは災難」
千早太まで茶化してきた。

が、そんな軽口も気にはならない。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 21:57:06.81 ID:rk+SvYZs0

隣にはひびきが座っている。

秋月屋で刀を新しくしたその時に思い切って、この娘を茶に誘ったのだ。

真之丞は人生の半分ほどの度胸を使った心地がした。

この先は節約が必要だとぼんやり想いながら目の前の女子を見やる。

結ってあった長い髪が今は銀色の簪で留めてある。

突然、雨が降ってきた。

天候に普段差別的な目を向けている真之丞は、いきなり天気が悪くなったことに怒りを覚えた。

まさに水を差された思いだ。

「降ってきたな」

「ええ、本当に」

しかし、このように短い会話でも幸福を味わえている。

「真、某はそろそろ奉行所に帰る。

が、お前はひびき殿を連れて家に帰れ。

雨宿りだ」

「なんだと?」

ひびきを家に連れ帰ると聞いて驚いた。

「ここからでは秋月屋は遠いからな。

雨も降っていては何かと危なかろう、娘一人では」

人であろうと、植物であろうと、雨は恵みだ。

天候を差別することなどは道理ではないと思いなおして真之丞は頷いた。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 22:03:39.41 ID:rk+SvYZs0

「それでは、行きましょう」

「お願いします」

わずかに赤くなった顔を俯かせながら答える様に少し心が揺れた。

ここからであれば、家はすぐ近くだ。

ぼうっとしていれば話す暇もなくなってしまう。

真之丞は一生懸命に考えていた。

「私は、真之丞様にご縁がございましたようで……」

大胆な告白に驚き、返答するまで時間があいた。

「実は私も、出会った時にそう思っていた。

美しい女子であると。

そして、話していると分かった、
ひびき殿の心はきっと澄んでいると。

……どうだろう、妻として、菊地家にきてはもらえまいか?」

「はい、きっと私は、その方が幸せになれるとおもうのですが……」

「しかし、なんだ?」
一世一代の台詞を口にした真之丞だったが、素直な疑問がすぐ口に出る。

「今夜、あなたの床にて」
つやつやとした目をこちらに向けて言って、

それきり、ひびきは黙ってしまった。

暦では、冬ももう遠くはないというのに、その気配は全く近くなってはこない。

それは二人の為なのか、
それとも単に準備が遅れただけなのか、
それは考えても仕方のないことであった。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 22:07:39.36 ID:rk+SvYZs0



夜。

ただ、暗いのを夜と言うのではない。

人が求める、適度な暗さを、
不快ではなく加工されたその空間を切り取って、そう呼ぶのだ。

人間が触れたくはない、恐る恐る遠くから眺めるそれは、闇。

あずさは起きている。

寝られなかったのではない。

息子が昼間連れ帰ってきた娘。

ひびき、と言った。

大切な人だ、そんな風な言葉を覚えている。

その娘は、先程まで隣で寝ていた。

今はいない。

むくりと起き上がって真之丞の部屋の方に行った。

だから起きたのである。

息子の情事を邪魔するつもりはないが、あの身のこなし、普通の女子ではない。

何度か言葉を交わして、綺麗だと感じた。二つの意味で。

あの部屋で、若い躰が重なり合っていると考えると、心が疼いた。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 22:10:43.75 ID:RHgF3V3R0

そして、真之丞の部屋では……。

「あ、あの……
もちろん私は何一つ経験がございませんゆえ、どうか真之丞様……」

「真、で良い」
覆い被さりながら言った。

「真様」

横たわるひびきは着物をはだけさせていて、肩、胸、腹、太腿が見える。

汗ばんだ躰が艶やかで、
呼吸に合わせ上下する形の乳房に、真之丞はとても興奮した。

理性を捨てて、野生に従うこの瞬間が、
好きではないのだが、抑制できるものでもない。

構わずに吸いついた。

びく、とひびきが揺れる。

固く目を瞑っていた。

「怖くはない」

「はい」

この娘の瞳を覗いていたいというのが本音であった。

ひびきの陰部に手をやると、すでに濡れている。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 22:26:12.83 ID:oSI146ZD0

「う、んんっ」

身をよじるのを抑えつける。

整った曲線を描く腰に左手で触り、掴む。

もう片方の手で自分のものを握り、ひびきの秘部にあてがおうとする。

その瞬間、銀色が閃いた。

避けられなかった。

本能的に庇おうとして、左手を出す。

そこに鋭いものが突き刺さった。

色は鈍い銀色である。

先端が刃物に加工された簪、であった。

「ひびき殿、どうして……」
驚愕しながらも、必死で声を出す。

流れる血が、肱を伝って、ひびきの躰に滴り落ちる。

それを見て、綺麗だと思ってしまった。

しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

「江戸一番の剣客のあなたの命が欲しい者はたくさんいるのです。

そして私は刀鍛冶屋の娘ですが、人知れず殺し屋として育てられました」
話ながら、その瞳は涙で滲んでいた。

「私は、真様と結ばれて、普通に生きることなどできはしません……」
溜まった涙が、勢いを堪えきれずに、頬を流れている。

どくどくと、血が止まらない。

「それでも、愛している。

今からでも、きっと。

これから一生、ひびき殿を、私なら守れる。

もう一度訊こう、私の妻に……」
薄れゆく意識の中で、必死になって話す。

ひびきからの返事は、聞き取れず、
真之丞は、豊かに盛り上がった胸に、倒れ込んだ。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)[saga]:2012/07/08(日) 22:42:39.82 ID:o0/be17k0

今夜はここまでです。

次回はきっと、最終回となるでしょう。

また何かありましたら、どうぞ。

それでは。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/09(月) 20:12:27.09 ID:C9TN/RYlo
メインヒロインはひびきんだったかー
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/11(水) 18:18:05.46 ID:sdyvR4IQo
毎週楽しみにしてたけどもう終わっちゃうのか
またなんか書いてくれよ
261 :1です、こんにちは。[age]:2012/07/14(土) 14:20:00.19 ID:amX9VUjr0

更新は、明日の日曜日です。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:04:07.72 ID:StkKHyuC0



真之丞は夢を見た。

いやに生々しかった。

本当は現実かもしれない、そう感じた。

夢と現実の差など分からない。

しかし、夢は現実ではなく、現実は夢ではないとは思う。

月は雲間にその身を潜め、
星の一つも見えない闇夜であった。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:07:03.74 ID:StkKHyuC0

そこにいたのは母親だった。

あずさであった。

そう思っただけだったのかもしれない。

しかしその時は、母だと思った。

あの夜のことがどちらかなど、ずっと分からないだろう。

分かる必要がないのだから。

そう思い、考えるが……。

悪夢ではなかった。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:10:21.42 ID:StkKHyuC0

そう、決して悪い夢ではなかった。

現実にいる今、思い返してそう感じるのだから、
それは現実か?

考えすぎだ、と思った。

これ以上考えたくない。

もはやどちらでも良いことだ。

とても心地よい時間だった。

あの日。

あの夜。

あの時は……。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:13:19.73 ID:StkKHyuC0


暑くはない。

むしろ涼しいくらいだ。

昔からの癖で、寝ている間に、夜着(よぎ)をはいでしまう。

寝相が悪いのではない。

睡眠時であっても、正中線は保っている。

夜着をはぐのが、癖なのだ。

今日は夜が暗い。

訳もなくそう感じて眠りについた。

そっと戸を開け、閉める音。

母だ、と思う。

こんな時分に?

夜着をずらされた。

その時は、少し怖かった。

理由はしらない。

躰の上にかかっていたものがどかされて、着物だけになった。
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:16:03.83 ID:StkKHyuC0

足元から、気配が寄ってくる。

自分のものが、漲ってゆくのを感じる。

素早く、手際の良い動作、隙のない動きで下半身を覆っていたものがなくなる。

何をされているのかは分かったが、
何が起きているのか分からなかった。

目は、閉じたまま。

開けないほうが良い、と思った。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:19:20.72 ID:StkKHyuC0

濡れた舌が、真之丞のものをなぞる。

下から上へ。

上から下へ。

ぴちゃりぴちゃりといやらしい音が立った。

次いで、唇が触れる。

慈愛に満ちた気配とは裏腹に、貪るように扱われた。

反り返ったものの裏側を責められる。

とても敵わない……遊ばれている。

寸毫(すんごう)も動けなかった。

そして、頭を電撃が貫き、真っ白になる。

口に含まれた時、思わず放ってしまった。

それでも衰えはしないが、長い時間、舌で弄ばれる。

感触がくすぐったかった。

まるで、眠くなるまでに、ずっと頭を撫でられるように。

感じる余裕ができるまでずっと焦らされていた。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:22:38.87 ID:StkKHyuC0

ちろちろと舐められて、濡れたあそこを、ふと柔らかいものが包んだ。

何だか懐かしい気がする。

とても懐かしい……。

それに挟まれて、気持ちが良いというより、気分が良くなった。

とても安らかな想い。

何度も、何度も、上下に動かれた。

優しく、柔らかなそれに。

先程までは涼しかったのに、今はずいぶんと熱くなったものだ、と真は思っていた。

下腹部に、疼きが集まっている。

強く、激しくしごく行為が、それを助長している。

ぴりぴりと、その量が増していった。

ある時、意識がとぶ。

あまりの快さに、声をあげたかもしれない。

挟まれている間に向かって、出した。

ぶちまけた、と言ったほうが良いかもしれない。

とにかく、二度目だ。

それだけ考えた。

それだけしか考えられなかった。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:26:12.74 ID:StkKHyuC0

躰を跨がれる。

自身をのみ込まれ、穴の中できゅうと締め付けられる。

苦しさと、嬉しさが、心の中にじわりと広がる。

とても熱い。

左右の太腿で、床に押し付けられた。

形の良い尻が、擦れるのを感じる。

左の手で丹田に、
右の手で頸元に触れられて、

動けなくなる。

それから、気配の内で、黒くて蒼い、長い髪が何度も揺れた。

そして、度を超えた快感が真之丞を襲い、
意識を深い闇の底へと連れて行った。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:29:17.97 ID:StkKHyuC0

朝起きて、周りを見廻す。

躰はひどく汗をかいていたが、夜具は乱れもなくきちんとしていた。

ふうと息を吐く。

昨夜は、夢で現実を見ていたのか。

何となく、そう考えた。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:32:41.45 ID:StkKHyuC0

十一

真之丞は、目が覚める。

覚醒したわけではなく、部屋に射し込む光の眩しさに目を開いた。

眩しいと目を瞑るのに、目覚めの瞬間だけは開くのはなぜだろうか。

むくりと起き上がろうとした。

支えにした左手が、使えないことをその時理解した。

「うう」
と呻いて、昨夜のことを思い出した。

ひびきはいない。

どこにいったのであろうか。

そんな問いが頭に浮かんだ。

「やよい、やよい!」

たたた、と軽い足音が廊下を渡ってくる。

「真之丞様、おはようございます。

お怪我の具合はいかがでしょうか?」

心配そうな顔が覗きこむ。

見たことのない柄の着物を着ている。

昨日買いにいったものであろう。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:35:23.16 ID:StkKHyuC0

「ん、ああ。

それより、ひびき殿は?」

「……蔵に、閉じ込めてございます」

「なんだと?」

「あずさ様のお言いつけで」

「母上は?」
そう訊いたところで、声がした。

「ここです」
あずさは、いつもよりにこやかに、柔らかく微笑みながら言う。

しかし、そういう時の母が最も恐ろしいことを、
息子は良く知っていた。

「母上」

「真之丞、己のことは、己でけりをつけるのです。

それができなければ、自分とは何の関わりもないということになりますよ」

頬の一つも張られると思ったが、どうやら違ったようだ。

「その覚悟が、お前にありますか?」
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:39:59.19 ID:StkKHyuC0

「もちろんです。

ひびき殿にまだお返事をいただいていませんのですが、
まずは四条院家に参ります」

母子が瞳で意志を交わらせるのを見て、
やよいは、この二人が強い訳を知ったような気がした。

「たのもーお」

間延びした、しかし良く通る声が門の方からする。

「千早太だ」

「やよい、案内を」

「はい」

駆けていくやよいの背を見ながら、母と話す。

「ひびき殿を妻にしたいのです。

それを昨日、言いました」

「ですが、あの娘はあなたの命を狙っています」

「今はもう、それはないでしょう。

だとしたら私はすでに死んでいます」

「……あの子は、自分で傷付けたお前を、自分で手当てしていましたよ。

私が様子を見た時は、泣きながら止血を」

「息子の危機かもしれないのに、助けてはくれなかったのですね」
笑いながら、真之丞は言う。

「殺気が感じられなかったので、放っておきました」
穏やかに話す母には、何か他の答えがありそうであったが、
それに触れるのはやめておいた。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:46:12.82 ID:StkKHyuC0

「真、一大事だ」
突然、千早太が駆けこんでくる。

「どうした」

「みきが昨日から帰っていなくてな。

おそらく四条院の屋敷だ、書き置きがあった」

「ちょうど良いのか分からぬが、私はまさにそこへ行こうとしているところだった」

「なれば二人で」

「いや、それはできない。

貴音姫と話さねばならぬことが一つある」

「ひびき殿のことか、今はどこに?」

その問いに真之丞は、左手を見せて答えた。
「蔵だ」

「なんだ、その傷は……まさか?」

千早太は驚きながらも、考えを巡らせているようだった。

彼は頭の回転が速い。

「そうまでされて、妻にするということか」

「そうだ、しかし、今はきっと分かってくれる。

ひびき殿も望まぬ人生を送ってきたのだ」
真之丞が力強く答えた。

「だからだ、私一人で行く。

みきのことも任せろ、何とかする故」

しばらく俯いて黙っていた千早太が、
顔をあげ、言う。

「任せた。

が、無茶はするなよ、
某が見ておらんと、心配でいかんな」
いつもの、軽い笑顔を見せた。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:50:44.22 ID:StkKHyuC0

「母上と、茶でも飲んで待っていてくれ」

それでは、と言って、門へと向かう。

外に出る所まで、やよいが見送りに来た。

「やよい、頼みがあるのだが」
真之丞は、首を傾げる娘の耳に、とある願いを聞かせた。

「ひびき殿がな――」

今日は天気が良い、陽は昇りきってはおらず、
天頂から少し傾いたところで輝きを放っている。

月が顔を見せるのは、まだずいぶん先のことだ。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 20:55:20.27 ID:StkKHyuC0

十二

「なるほど、話は分かりました。

この娘は返します。

人の屋敷に忍び込んだ代償は、いただきましたから」
冷たい瞳で視線をくれながら、貴音姫は言う。

下唇を細い舌で舐めながら、続けた。

「しかし、何ですか。

ひびき、という娘を嫁にする、それは許せません」

「そのお許しを頂戴するために参ったのです。

おいそれと帰る訳にはゆきませぬ」
傍らに、ぐったりとしたみきを抱えながら、言葉を返した。

「真、それでは、あなたを消すほかありませんね」

「どうかご勘弁を」

頸筋を、冷や汗が伝った。

「いいえ。

あなたの命をいただく他に、
真殿が私のものになる術はないようですから」

どこから出したのか、貴音の手には小刀が握られていた。

この状況はとてもまずい。

危ないと分かっていたが、死ぬようなことになるとは。

自分の認識の甘さを悔いていると、貴音が飛び込んできた。
「さようなら、真!」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:00:36.23 ID:StkKHyuC0

今はみきを右手に抱えていて、剣を抜ける状態ではなかった。

いや、例え右手が自由でも、
左手が使えないのでは、鞘を押さえられず刀身が抜けない。

避けようにも貧血ぎみで、体が言うことを聞かなかった。

一体どうしてこんな態でここへきたのだろうか。

そういえば、朝餉(あさげ)を食べるのを忘れた。

いつもなら、母にむりやりにでも食べさせられるのに。

一瞬でそんなことを考えられる自分に驚きながら、
真之丞は目を開いたまま、貴音の姿を見た。

刃が身近に迫ったそのとき、黒い影が目の前に現れた。

とても素早い動きである。

しかし、ぎりぎりだった、
受け止めるのが。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:04:36.64 ID:StkKHyuC0

十三

「あの」

「何でしょうか」
やよいは、蔵の閉じた扉の向こうから聞こえる声に返事をした。

「真様は、どちらへ?」

「四条院様のお屋敷に」

少しの沈黙。

「月夜屋敷の?」

「はい、月見邸などと呼ばれることもありますが」

「そこへ何をしに?」

「あなたとの結婚を許してもらうために、
らしいです貴音の姫君と真之丞様は心やすい仲ですから、
急にそんなことを申し出て、どうなることか心配なのです。

あずさ様は、きっと大丈夫だろうとのことでしたが……」

「私をここから、出してはくれませんか。

あの方のもとにはきっと、私がいたほうが良いと思うのです。

……必要だと思うのです」

悲痛な響きを伴う声が、やよいの耳に届いた。

「良いですよ。

真之丞様のお傍にいてあげてください」

閂を外し、ガラガラと音を立てて扉を開けると、ひびきが出てきた。

「ここから見える、あの大きなお屋敷です」

やよいの助言に深くお辞儀をした後、ひびきは走り出していた。

「真之丞様のお願いですからね」
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:11:06.79 ID:StkKHyuC0

十四

「あなたが、ひびき」
目を細めて、睨むように見据えながら言っている。

「はい」
と答えるひびきの左手には刃が突き立って、
そこから出る血が、ぼたぼたと床を濡らしてゆく。

「ひびき殿……腕が」
半分の予想外が、ひどく残酷なものであったことに、真之丞は愕然とした。

「真様、私を一生守っていただける約束は、明日からで構いませんので」
堪えているであろう痛みを顔には出さずに話す。

「ふふ、これはあなたに預けます」
刺した小刀から手を離して、貴音が囁いた。

床の血だまりを指ですくって、口に入れる。

唇が、紅を引いたように真っ赤に染まる。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:16:07.65 ID:StkKHyuC0

「それを使って、片目をよこしなさい。

どちらの瞳でも構いません。

あなたのは、とても綺麗ですから。

それと引き換えです」

ぞっとするような微笑だった。

そして、その答えにも驚いた。
「はい」

「待て、
女子の顔に傷をつける訳にはゆくまい。

私がやろう」

意識して言った言葉ではないが、自分自身、納得のゆくものだった。

「……。

それほどまでの決意なのですね」
ふいに、貴音が俯いて言葉を放った。

その瞳から漏れる悲しみを隠すように。

「はい」
真之丞とひびきは、同時に答える。

「なれば、致し方ありませぬ……。

お好きになさい」
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:22:34.64 ID:StkKHyuC0

十五

あの日、真之丞はひびきを背負って、
後からきた千早太はみきを背負って、
四条院の屋敷を後にした。

貴音姫が見せた残酷さと、優しさ、悲しみの心を、
真之丞はずっと忘れないだろう。

今は夏。

道場の外では、蝉がじいじいと鳴いている。

あずさは、白い胴着と紺の袴の姿で立っている。

真之丞も同じ格好だ。
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:28:30.64 ID:StkKHyuC0

「母上、いざ!」

かけ声とともに撃ちかかった。

初太刀を躱され、穂先で払われる。

もう一度。

今度は横薙ぎの一閃。

あずさがしゃがんで避けた所を、返す刀で下段に撃つ。

薙刀を反転させ、石突きの部分で受けた。

そしてそのまま、くるりと、穏やかな動きで一回転する。

真之丞は動かない。

この瞬間に懐に入ると、回ってきた穂先に斬られてしまうからだ。

円運動が止まったところで再び斬り込む。

唐竹割に撃ったのを、あずさは避けて切先を滑らせる。

今度は真之丞がしゃがんで躱す。

そこを、回転せずに、穂先を戻して脚斬りの一撃。

真之丞はその瞬間、跳ぶか、剣で受けるか迷った。

そして、跳ぶ。

次は回って、薙ぎ斬りが来ると思った。

が、とんできたのは突きであった。

刀身で受けるが、空中では正中線が保てず、着地の瞬間、よろめく。

そこに、反転した刃先が殺到して、頭上でぴたりと止まった。
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:33:04.55 ID:StkKHyuC0

「その二択では、どちらにせよ勝てませぬよ、真之丞」
勝負がついたので一礼をしながら、あずさは言った。

「ではどうすれば?」

「あの直前、しゃがみの直後に間合いを詰めて、懐に飛び込むのです」

「ああ、なるほど」
答えたのは、端で見ていた千早太である。

横にはみきが添っている。

ひびきが、手ぬぐいを持って来た。

二人は夫婦になっている。

これから先、真之丞はこの女子を守る責を負った。

それは決して重圧ではなく、生きる意味であるかのように思われた。

礼を言い、千早太のほうを向く。

「散歩だ、付き合ってくれ」

「おう」
答えて、立ち上がる。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:37:49.06 ID:StkKHyuC0

外に出ると、庭ではやよいが洗濯した物を干していた。

「あれから、意外と経ったな」

「ああ」

「貴音姫は?」

「奉行所に援助をくれておる。

前は謎のお屋敷だったが、今はひらけた所になった」

「千早太、みきはどうするのだ?

まさかあの娘の好意に気付かぬお前でもあるまい」

「ああ、もらうことにした」

「そうか……」

「ときに真、お父上の言葉のものはこれで見つかったのか?」

「それか、それを考えたのだが、一つ思った」

「何だ」

真之丞にしては珍しく、笑いながら答える。
「答えはきっと、死ぬときに分かるのだろう」


終わり
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 21:44:22.53 ID:StkKHyuC0

ああ、終わりました。
個人的には、長かったです。

これを読んでくださった皆さんには、文章を味わっていただけたようで、
書く側としては何とも嬉しい限りです。

後は、皆さんからの感想、意見等を募って、
(このスレッド内で)765プロの製作裏話みたいなものを書こうかなと考えています。

いかがでしょうか?
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/07/15(日) 21:45:33.84 ID:CHmEhWuzo

好きにしてくれ、書くなら読むから
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)[sage]:2012/07/15(日) 22:04:07.17 ID:CHmEhWuzo
それと、面白かったよ凄く
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/15(日) 22:31:19.60 ID:StkKHyuC0

書き始める時にはいつものように告知をします。

毎週スムーズに投下できる余裕があれば良いのですが……。

今後の予定
@765プロダクション、映画製作秘話(のようなもの)
A意見、感想タイム
B新作のお披露目(一部)
C意見、感想タイム
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/16(月) 00:29:35.16 ID:UDVe2CRpo

面白かった
濡れ場気合はいってたな
290 :1です、こんにちは。[age]:2012/07/16(月) 14:57:14.07 ID:KRhg61op0

今夜更新するかも、
しれません。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 21:50:26.83 ID:KRhg61op0

製作秘話&NG集

国民的なアイドルたちが集結する765プロ。
バラエティに歌番組、ドラマに映画、
なんでもござれの幅広いキャラクターの女の子たちを擁するこの事務所の映画作りの過程。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 21:55:14.06 ID:KRhg61op0

プロローグ

P「今日は皆に、重大な発表がある」

春香「えー、何だろう?」
千早「さあ」

P「その内容は、765プロダクションで映画製作が決まったということだ」

亜美「えー!」
真美「すっごーい!」
(左右のサイドテール、派手に揺れる)

P「もちろん、皆には女優として、演技をしてもらうことになる」

あずさ「あらあら〜」
貴音「これは、面白そうなことです」

P「今まで内緒にしてきたが、
ここにきて脚本や構成等の大まかな流れが一通り決まったから連絡しておく」

真「どんな内容なんだろうね」
雪歩「楽しみかも〜」
(二人、目を合わせる)

P「内容は時代劇、主人公は真と千早。他のメンバーは二人と関連する人物として出てくる」

やよい「すごいです〜!」
伊織「主役はこのあたしじゃないのね」

P「付け足しておくと、あずささん、
殺陣の演技指導が一番ハードになると思いますので覚悟しておいてください」

律子「私もこんなの知らなかったわよ」

P「実はそのために、全員のスケジュールを最大限調整してある。
来月から本格的に始動するからそのつもりでいてくれ」
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 22:00:08.23 ID:KRhg61op0

響「でも、どうしてメール連絡なんだ?」

P「追伸、このメールを読んでいるということは、俺はもう事務所にはいないだろう。打ち合わせが大変なんだ、すまん。わざわざ皆に集まってもらうのも面倒だしな」

美希「ん、あふぅ。あれ、メールが来てる……」
(携帯電話を手に取る、あくびしながら)

プロローグ終わり
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 22:05:13.37 ID:KRhg61op0



千早「勝手に決められたら、困ります」

P「まことにすまない」

真「えっ、なにがですか?」

P「そっちじゃない」

千早「私たちが主人公の理由は分かりますよ。男役だってことも」

P「凛とした格好良さというか、美しさは二人が一番だと思ってさ」

真「それでも、僕はお姫様役とか、やりたかったなあ」

P「真、一つ言っておく。この演技がままならないようでは、今後そんな話は一切回っては来ない。
逆に、成功させれば、十二単でもピンクのふりふりでも着て存分にお姫様できる機会がくるぞ」

真「はい、やります!」
(胸の前で拳を突き合わせる)

千早「私はどんなメリットがあるんですか?」

(P、背中を向け)
P「主題歌は千早に歌ってもらう。嫌と言うなら他のメンバーに頼むしかないな。
今度栃木にできる最新の録音スタジオなんだが……」

千早「そういうことなら、分かりました」

P「じゃあ、明日から収録だな。台本、良く読むんだぞ」
(去る)

真「大変そうだけど、がんばろうよ!」
千早「そうね。きっと成功させましょう」

P「あずささんとも確認しておくか」

295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 22:11:13.00 ID:KRhg61op0



第一章 剣の道、険しきこと

千早「まさか本物の父だったとはね」
(腹を抱えて笑う)

真「ちょい役で、父親が出てくるなんて思わなかったよ……」

あずさ「真ちゃん、ごめんなさいね、NG何度も出しちゃって……」

千早「あずささんは普段、優しい喋り方ですから、
いきなりはきはきと、厳しい感じは出しづらいですよ」」

真「それに、これから続けていけば慣れますよ、きっと」

あずさ「ええ、頑張るわ」

千早「それにしても、回想シーンの大人数相手の殺陣、凄かったですよね」

真「うん、本当!あんなの僕もできないよ」

あずさ「実はね、三日三晩、寝ないで練習したのよ」

(二人、顔を見合わせて)
千早「アイドルにそこまでさせる監督って」
真「一体……」

あずさ「映画が完成するころには私、強くなっちゃうかも〜」

P「みんな初めは辛いだろうけど、早く慣れていってな」
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 22:14:47.15 ID:KRhg61op0

真「はい、僕はまだましなほうなんですけど」

千早「私の役、なんですか、あれ!」

あずさ「格好良かったわよー、千早ちゃん」

P「ですよねー。何だか千早の新しい一面が見られたようで、凄く嬉しかったぞ」

千早「そ、そんなこと言ってもごまかされないですよ」

P「いやいや、あんな素敵な演技されたら、しまいにゃ惚れ直すな」
(真にウインク)

真「え、ああ、そうだよ!ファンの数もウナギ登り、
CDもバンバン売れて、千早の歌を聞いてくれる人がたくさんになるって」

(頬赤くしながら)
千早「うーん……そこまで言われるのなら」

あずさ「変わった演技もできるようになれば、可愛さもアップ、するんじゃないかしら〜」

真「僕の役だって、何か言動がエロいし、お互い頑張ろうよ」

P「そんなわけで、皆、これからよろしく」
(去る)
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/16(月) 22:17:13.53 ID:UDVe2CRpo
(ちょろい)
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/16(月) 22:25:03.24 ID:KRhg61op0

今日はここまでなのですが……
我ながら書いていて、違和感。
(台本形式、読むのは大好きなのですが、書くのはちょっと)

今後が悩ましいところです。
やると言ったので、最後まで続けたいとは思います。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/16(月) 22:57:58.74 ID:UDVe2CRpo
確かに、Pの動きまで台本形式はなんか違和感あるな。
まあ書きたい用に書けばいいよ
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/18(水) 20:52:00.59 ID:5ZkdhjKc0

突如更新します。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/18(水) 20:58:52.92 ID:5ZkdhjKc0



第二章 牡丹の花



千早「お……おう、御苦労であったな」

監督「カーット!」
(撮影止まる)

千早「すみません」

監督「ここは、天海さんが赤くなる場面。如月さんが頬染めちゃいかんよ」

スタッフ「テイク2行きまーす」

千早「おう、御苦労であったな」
春香「痛っ」

監督「カット」

千早「……」

監督「抱くのはそっとだよ。それじゃあ潰れるでしょ」

千早「すみません」

スタッフ「テイク3行きまーす」

千早「おう、御苦労であったな」
(自然な演技。監督、うんうんと頷いている)

春香「ぶわーっくしょい!」

監督「カット……」
(涙目)

スタッフ「っ……!」
(息殺して、腹抱える)

真「僕に回ってこないな」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/18(水) 21:13:19.76 ID:5ZkdhjKc0

――

真「いや、だが、不思議と死にそうにはないからな、おまえは」

千早「……」

監督「カット!如月さん、台詞どうしたの?」

千早「嫌です、こんな台詞言えません。言いたくありません!」

監督「なんだとお」

スタッフ「!10分休憩はいりまーす」

P「千早、頼むよ」

千早「何なんですか、この台詞」

P「脚本家の1さん、お前のこと大好きで、本当に良くストーリー練ってくれたんだぞ」

千早「……」

P「ちなみに俺も、好きだったんだがな。それも、さっきまでのことだ」
(遠い眼)

千早「!」
(驚いて黙る。監督のほうまで歩いて)

千早「すみませんでした。次からしっかりやります」

監督「ああ、切り替えて。よろしく」

スタッフ「撮影はいりまーす。テイク2」

千早「72を隠そう、実はこんなこともあろうかと懐に板きれを忍ばせておいたのだ」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/18(水) 21:16:31.74 ID:pQvrSh2ao
あかん、完璧に気づかなかったww
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/18(水) 21:30:35.59 ID:5ZkdhjKc0

はい、今夜はここまでです。
それでは。
305 :1です、こんにちは。[saga]:2012/07/21(土) 11:46:53.76 ID:Wn08l/310

第三章 扇編板嘉(せんぺんばんか)



真「大丈夫?」

千早「気分が悪いわ」

真「でもさ、頑張ろうってプロデューサーとみんなと言ったじゃないか」

千早「ええ」

スタッフ「撮影はいりまーす」

千早「使うなら、鉄扇ではなくて、そこのま、まな板が……良いぞ」

監督「カット!」

千早「すみません、一分下さい」
(現場から走り去る。遠くまで)

千早「こんちくしょーっ!」
(大声、凄まじく良く通る声)
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 11:52:21.93 ID:Wn08l/310

――

真「あ、ああ……。その、私は菊地真之丞と申す者だ。
ここからすこしある屋敷で剣の道場をひらいておる。
これは、そなたへの金子だ、大層困っていると訊いたのでな」

やよい「そんなあ、理由もないのに……いきなりはいただけません、おさむらいさま」

真「それなら今考えた、やよい、明日より菊地家へ参って、
掃除、洗濯、炊事、と母上を手助けせよ。これは手付金だ」

やよい「そういうことでございましたら、ありがたくちょうだいいたします」

監督「カット、う〜ん……。高槻さん、もっと歯切れの良い感じでお願いします」

やよい「はいです!」

真「やよい、台本の難しい漢字、良く読めたね」
千早「ええ、本当」

やよい「プロデューサーさんが、よみがなふってくれたんです!」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 12:00:39.92 ID:Wn08l/310



真「つ、次は、いよいよ、濡れ場だね」
(額に汗)

貴音「ええ、妖艶に演じましょう」

千早「この映画、R−18がつくらしいわよ」

真「そりゃあ、これだけのことをやるんだから……。しかも、僕は男役だよ」

千早「演技指導とかって、どうしたの?」

真「プロデューサーに教えてもらったよ」

(勢い良くスタッフのほうを見て)
千早「プロデューサーァァ!」

308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 12:06:16.35 ID:Wn08l/310



濡れ場の撮影終わって、真、貴音があがってくる。

千早「お疲れ様」

真「う、うん」
(顔真っ赤)

貴音「まこと、熱くなりましたね」
(汗が光る)

真「プロデューサーは?」

千早「さっきまでここにいたのだけれど」

P「ん、おお、お疲れ様」

貴音「あなた様、どちらへ?」

P「あ、いやあ、お手洗い」
(はにかむ)

千早「!」
(Pの腰に蹴り)
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 12:11:02.81 ID:Wn08l/310

ひとまずここで。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/21(土) 12:37:43.13 ID:gPfEKwxjo
千早とPがいいなww
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 16:06:32.51 ID:Wn08l/310

第四章 窮、救にして



千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわたしよ!」

真「なんと!」
千早「なんと!」

監督「カット!菊地さん如月さんは、間髪入れずに、それから同時にセリフ!」

スタッフ「テイク2、いきまーす」

千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわたしよ!」
真「なんと!」
千早「なんと!」

監督「カット!呼吸は良いけど、二人同時にお願いします」

スタッフ「テイク3、いきまーす」

千早「これ、主人のいおりという娘はおらんかな」

いおり「いおりはわた」真・千早「なんと!」
監督「カット!!」
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 16:15:29.95 ID:Wn08l/310



いおり「助かったわ、ありがとう」

真「なに、某と、真がおれば百人力よ」

いおり「女の人がいたような気がしたけど?」

真「そんな者はおらにゃんだ」

いおり「……」
(チラ見)

監督「カット。菊地さん、次お願いしますね」

千早「にゃん、っ、にゃん……」
(腹抱えて震えている)

スタッフ「テイク2、いきまーす」

P「おりゃにゃんだ……」
(ぼそり)

千早「ぶはーっ!ひいー、ひぃー!」
(転がり回る)

監督「ちょっと、如月さん」

千早「あっはっはっは!可笑しいー、可笑しいーっ」

スタッフ「……休憩、10分はいりまーす」

千早「し、死ぬ、ぶふーっ!」
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 17:45:47.65 ID:Wn08l/310

第五章 誘いの呼吸



美希「ねえ、みきの胸、大きいでしょう?」

美希「触っても、良いよ」

美希「はいここまで、もうお終い。それじゃ、ありがとう」

男「金子は、いらんのか?」

美希「もう、もらったよ」

男「あ、待て!」

千早「あの娘か……みき、というのは」

監督「はい、OKです!いや〜星井さん、迫真の演技だったね」

美希「とーぜんなの!」

P「美希、ちょっと良いか?」

美希「どうしたの?ハニー」

P「これくらいで良いか?」
(二千円)

美希「……?あは、分かった、そういうこと」

P「お、良いか?」

美希「ハニーなら、タダで良いよ」

P「じゃ、ちょっと裏でな」
(連れて行こうとする)

(角を曲がる所で)

Pに鉄槌

千早「!」
(鳩尾パンチ)

真「!!」
(顎パンチ)

貴音「!」
(腹、掌底)

あずさ「!!」
(股間、蹴り)

P、崩れ落ちる

美希「わあーっ、ハニーが!」

伊織「げしげし」
(踏みつける)
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:14:24.03 ID:Wn08l/310

今日で一気にいきます。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:18:25.91 ID:Wn08l/310

第六章 不死の価値



亜美「お姉ちゃーん、お姉ちゃーん?」

真美「なにぃ、亜美」

亜美「最近、疲れてなーい?少し痩せた気がするよ→」

監督「カット、カット!二人とも、勝手に台詞変えない」

亜美真美「はーい」
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:29:30.40 ID:Wn08l/310



(頭の上に湯呑みがのっている)

美希「参りました……」

あずさ「動くとこぼれて熱い……」
(湯呑み、ぐらつく)

(頭上でこぼれる)
美希「あっつぁー!」

監督「カット!濡れタオル急いで!」

(10分後)

スタッフ「テイク2、いきまーす」

美希「参りました……」

あずさ「動くとこぼれて熱いですよ」

美希「参りました!」

あずさ「はい、どうぞ」
(机、滑りが悪い。つっかかって、お茶こぼれる)

美希「うあっつぁー!!」
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:32:49.36 ID:Wn08l/310

第七章 囚われの心、捕らわれの躰



男「ここから出よう」

雪歩「でも、どうやって?」

男「金子が用意できれば良いのだが……仕方ない。逃げるしかないな」

雪歩「しかし、それでは」

男「案ずるな、遠くまで上手く逃げられれば。仕損じて追手がかかっても、
この剣の腕があれば、なに、めったなことで斬られはせん」

雪歩「奉行所の如月様とそのご友人の真ちゃ……菊地様の噂はご存知でしょう?」

監督「カット。そこで本当の名前と混ぜない!」

雪歩「す、すみません」
(半べそ)

P「雪歩、しっかりな。終わったら真と二人っきりにしてやるから」

雪歩「はい!頑張ります。それから、例の件は……」

P「ああ、真の生着替え写真、ばっちり焼き増ししてあるからな、この後渡せるぞ」

雪歩「プロデューサーも、悪いですねぇ」

P「お前ほどじゃないよ」

スタッフ「テイク2、いきまーす」
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:36:37.47 ID:Wn08l/310

第八章 像を結ぶは、人の姿か人の絆か



律子「何さおとっつあん、あたいはまだ眠いんだよォ」

律子「まだ寝てられるってのに、仕ッ方ないねェ」

律子「勝ッ手に死んで、娘に仕事任せちゃあ世話ねェや。さあて、と」

監督「はい、OK!久しぶりに一発出たね」

P「律子、完璧だ」

律子「あたしのキャラって……」

P「これは、律子にしかできないよなあ」

律子「プロデューサーも出ればよかったのに」
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:41:10.86 ID:Wn08l/310



律子「あ、お知り合い?」

千早「真、話すのだ。この娘と我らの出会いの時を」

真「出会ったのは、私だ」

響「ふふ……えーっと、なんだっけ?」

監督「カットー!我那覇さん、台詞しっかり!」

P「響、そこは『ふふ、これがご縁でしょうか』だぞ」

響「ありがとう、自分、頑張るぞ!」

P「そうしないと、困るのは響だからな。
見ろ、NGを出すたびにお前の家族が痛めつけられていく」

響「わ、わあ!やめるんだ、プロデューサー!」

P「今のはおまけだが、次からは容赦しないぞ」

千早「やたら響には厳しいわね」
真「うん、確かに」

律子「いじめたくなるのよ、きっと。プロデューサーは響のこと気に入っているから、余計」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:48:33.97 ID:Wn08l/310



真とあずさが交わるシーン

P「うわあ、エロい、エロい!」

P「よし、そこだ!」

P「あずささん、最高です」

P「ああ、すごい……」

P「ちょっとトイレ」
(椅子から腰を上げる)

背後に不吉な気配

千早「せいっ!」
(後頭部に打撃)

P「うっ……ふう」
(気絶)

終わり
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 20:50:29.64 ID:Wn08l/310

最後、駆け足になってしまいました、すみません。

しばらくしたら、新作の一部分を見てもらおうと思っています。
(そっちのほうにスイッチ入ってしまって)
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/21(土) 22:32:12.91 ID:gPfEKwxjo
長い間乙。面白かった。
新作タイトルだけでも書いて毛
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:39:33.32 ID:Wn08l/310

いま作っているのは探偵もので、皆さんから依頼を募集して、
オーダーメイド的に書こうかなと思っています。(安価にはしません)

以下に投下するプロットは、主人公がアイマスの二人なのですが、本編はオリジナルにします。

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:44:16.99 ID:Wn08l/310

仮題『さつき探偵事務所』

 長野県、長野市と松本市のあいだ、佐久市よりは左のほう。
うねうねと長い河が流れている小さな市の某所。
蒼のような黒のような、良く分からない色をした屋根、正確には瓦なのだが、とにかく古風な建物。
あるいは、単に古いだけのおうち。
どちらにしろ、ものは言いようだ。
点在する家屋の中にとけて『みき探偵事務所』とは書いてはあるが、
何の変哲もない、普通の一軒家。
大きな庭に、黄色く、背丈のあるひまわりが咲いている。
小学6年生の男の子よりは身長がありそうだ。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:46:58.80 ID:Wn08l/310

 「暑いわあ。あの黄色いのがソーラーパネルなら、うちにケーブルひいてクーラー、がんがんにかけるのにー」
大きな胸を揺らしながら、女性が一人出てきた。
がらがらと音がする引き戸。
玄関からは白黒の犬が一匹。
耳は上半分が折れて垂れ下がっている。
しなやかな筋肉が前脚から後ろ脚まで流れるようなフォルムだ。
重力に逆らわない尻尾、利発そうな顔。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:49:59.70 ID:Wn08l/310

 「ねえー、トルク」
起伏のある、曲線の多い、女性らしい躰。
蒼い髪の色で、てっぺんにはどこにも属さず独立した毛がぴょこんと立っている。
裸足にサンダル、ゆったりとした紺の半ズボンに半袖の白いシャツ。
ときおり、シャツをぱたぱたとめくり上げ、腰のラインと、それからおへそが見え隠れして煽情的だ。
その上の膨らみを想像するだけで、何とも言えない気持ちになってくる。      
名前は、三浦あずさ。
この探偵事務所の所長だ。
と言っても、メンバーはもう一人しかいないのだが。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:54:02.16 ID:Wn08l/310

 「千早ちゃん、遅いわね、まだかしらー」
しゃがんで、トルク、と呼んだ犬に話す。
はあはあと舌を出しながら、息が荒い。
 「あなたよりは涼しいわ、ごめんなさい。そんな瞳で見ないでー」
言いながら、わしゃわしゃと首の周りを撫でる。
犬はごろんと仰向けになり、腹を見せた。
本当なら、触ってやると喜ぶのだが、
遠くから、メカノイズの混じったエンジン音が聞こえてきたので、そうするのをやめた。
あずさは立ち上がり、呟く。
 「あら、帰って来たわね」
犬はそのままの体勢で転がったままじっとりとした目で睨んでいる。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:57:01.07 ID:Wn08l/310

 「トルク、ゴー!」
大きな声で言うと、犬は跳ね起きて駐車場のほうへ駆けていく。
二つの意味で、凄まじい反転である。
一つは肉体的な反応。
さすがの動物らしさで、一瞬にして視界から消えたこと。
もう一つは、精神的な反応。
この女では、遊んでくれないのだろうという判断が、切り替えの速さであらわれたこと。
 「あ、待てー」
口に出した言葉ほど慌てた素振りはなく、のんびりと歩いていく。
ゴーサインを出したのは、犬に向けてであって、自分にではない。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 22:59:32.43 ID:Wn08l/310

 駐車場、というのは家の裏手にある、何もない所を指して言っている。
実際に、二人はここに駐車しているし、お客さんも停めることが多い。
幹線道路からは少し奥に入った坂の上に位置している。
そこに、青いZZRが入ってきた。
車体の両側にそれぞれ一本ずつ、マフラーが出ているのが、バランス良い。
このバイクを見るたびに、あずさは戦艦を思い浮かべる。
乗り手の細い躰も相まってのことだろう。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:02:24.20 ID:Wn08l/310

 「今日も調子が良い。綺麗に鳴ってくれた」
そう独り言を呟いて、ギアをニュートラルに入れ、エンジンを切る。
サイドスタンドを立てながら白いヘルメットを外し、バイクと同じ青色の髪を振りながら言った。
額には汗が、銀色の水玉のように滲んでいる。
名前は、如月千早。
もう一人の事務所員。
言いかえれば、三浦あずさのパートナー。
彼女のすぐそばには、白黒の犬が伏せていた。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:05:06.18 ID:Wn08l/310

 「トルク、ただいま」
「千早ちゃん、おかえり」
もちろん、返事をしたのは家のほうから来たあずさで、犬では無い。
「ただいま、あずささん」
跨っていたバイクからおりて、返事をする。
「どうだった?」
「ありましたよ。掃除機に付けて、土間を掃除できるフィルター」
「やったー。どこに?」
それを聞いて嬉しそうに、両手をぽんと合わせた。
「マツキヨ商店」
きつく掛けたショルダーバックをはずしながら千早が言う。
「こんなの買わないで、箒で掃けば良いじゃないですか……
ってそんなことより、汗だくなので、お風呂に行きます」
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:08:04.28 ID:Wn08l/310

 歩きながら、通気性が良さそうな、薄手の白いライダースーツ、
その前のジッパーを開けてキャミソール一枚になる。
あずさと比べると、ずっと起伏に乏しい躰のラインだが、
すらりとした体型が、上から下まで統一されていて、美しさを感じられる。
N700系のぞみ号が好きな人ならきっと、一目惚れするに違いない。
「千早ちゃん、下はそんな格好だったの?」
「ええ、買い物するだけですし、すぐに帰る予定でしたから」
玄関に入り、土間の脇に設置されたお風呂セットの棚をごそごそとやる。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:11:12.47 ID:Wn08l/310

 「あっ、シャンプーが切れそうなんだった!」
悔しそうに言った。
 「すっかり忘れていたわねー。しょうがない、今度買わなくちゃ」
外に干してあったズボンを渡して、あずさが言った。
 「どうも。そうですね、ああ、悔しい、そして面倒」
受け取ったのは黒の半ズボン。下方向に三本矢印が出ているメーカーのものだ。
 「鍵、おかなくちゃ」
下半身、綺麗な爪、すらりとした踵、細くつややかな脚、小ぶりなヒップを露出させながら、
鍵置き場にバイクのキーを置いて、代わりにそこにある風呂場の鍵を持った。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:13:31.95 ID:Wn08l/310

 「早く着替えなさいよう」
薄いピンクの下着が、白い肌に良く映えた。
 「よし、行ってきます」
 「待った、靴、そのままじゃない」
 「あ、いけない」
ズボッと音をさせて靴から足を取り出す。
名前は知らないが、沖縄に生えているあの赤い花がデコレーションされたサンダルに履き替えて、
つま先をとんとん、と地面につける。
 「うん、私は夕方にしよう」
あずさはそう言って家の中に入って行った。
千早は、風呂桶にバスタオルと垢すり、石鹸とシャンプーを抱えて歩き始めた。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)[saga]:2012/07/21(土) 23:20:20.72 ID:Wn08l/310

324でいきなり事務所の名前が違いますね。

つくづく思うのが、縦書きの紙面で読んでほしいのです。

そういう仕様にならないものですかね。

加筆修正するので、感想ありましたらお願いします。

スレッドをたてるとしたら明日です。(その時ここでお知らせしますね)
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)[sage]:2012/07/22(日) 01:24:32.18 ID:Idr0sEZ7o

撮影裏話面白かった。
この雪歩は貴音と真の濡れ場見て大丈夫何だろうか

新作も面白そう
探偵ものと言っても日常の中の事件を解決していくような、割とほのぼのとした感じなんだろうか
楽しみに待ってます
337 :purekyouju ◆LLlqMaS2Hg[saga]:2012/07/22(日) 13:18:48.56 ID:O4NrDKBa0

新作
さつき探偵事務所

たてました
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2012/07/22(日) 17:43:14.95 ID:NHZiz+i5o



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