◆e8lME0lo0A<>sage<>2012/06/02(土) 00:09:25.56 ID:FSDCyD1ro<>前スレ『鳴上「月光館学園か」有里「八十稲羽?」』の続編になります。
ペルソナ3、ペルソナ4をメインに、過去のアトラス作品からいくらかキャラクターが登場するクロスSSです。
ペルソナ3主人公は有里湊、ペルソナ4主人公は鳴上悠というネームで進行します。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1338563359(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
<>風花「鳴上悠?」
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/02(土) 00:13:43.78 ID:FSDCyD1ro<>
【2012/3/31(土) 晴れ 港区内アパート】
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/02(土) 00:14:09.91 ID:FSDCyD1ro<> 帰ってくるなり、ベッドに倒れこんだ。
最近どうも疲れが抜けない……。
「休みなのに疲れるってどうなんだろう……」
意味も無くぱたぱたと足を振ってみた。
誰もいない部屋に布団を叩く音が響くだけで、やっぱり意味は無い。
……溜め息が出た。
「……っと、そうだ」
最早日課となった作業をしなければ。
PCを立ち上げて、しばらく待つ。
「この子ももう大分使ったから、そろそろ交代の時期かも……」
HDDが回転する音がして、液晶にロゴマークが映る。
パスワードを入力してホーム画面へ。
ブラウザを起動してホームページを表示する。
……このサイトを始めてから、随分時間が経った。
もう五年近くになるだろうか。
最初はただの小さい掲示板だったのに、今では随分と巨大になってしまった。
「もうサーバーも自分で立てちゃおうかな……そうなると、本式にこの子もお休みだけど」
サイトのサブコンテンツ、自分のブログにログインする。
今日あった事を適当に書いておかなければ。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/02(土) 00:14:42.55 ID:FSDCyD1ro<> ……何があっただろう。
朝起きて、ご飯食べて、出かけて、買い物して、ご飯食べて、帰ってきて、今こうして……。
「……はぁ」
また溜め息が出た。
一人でぽつぽつ喋ったり、学校行ったり……本当にそんな事ばかり。
昔はこうじゃなかった気もする。
毎日、しんどくて、楽しくて……。
いつの頃からか、つまらないわけじゃないけれど、繰り返しばかりに思えて。
あの頃、私は最高だったと思う。
このまま埋もれていくのが多分人生。
大人になるって、色んな物を諦めて、繰り返す日常を享受する事なんだと思う。
「けど、もう一度くらい……」
……やめよう。
何も無い事を平和って言うんだし、考えてもどうにもならない。
あの頃の私は、他に代わりがいない存在だった。
今だって、それは変わっていないはず。
なのに、どうしてこうも寂しいのだろう。
どうしてこうも退屈なのだろう。
「……夏紀ちゃんにメールしてみよ」
明日は時価ネットたなかが放送される。
少し早めに起きてチェックしないと……。
スマートフォンを放り出して、着替えもせずに寝てしまった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/02(土) 00:16:03.43 ID:FSDCyD1ro<> 今日の所は触りだけ。
また毎日影時間更新を目標にやっていきたいと思います。
前スレから読んでくださってる方はまたお付き合いください。
今スレから読み始めようかなって方は是非前スレも読んでください。
というわけで、本日分は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)<><>2012/06/02(土) 01:30:34.22 ID:BsoTscY20<> 乙
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/02(土) 13:46:25.47 ID:t8zxwGA40<> 乙
前スレはユカリスタの俺には世知辛いものだったがな! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/06/02(土) 18:56:12.62 ID:DY7iWOkM0<> 乙
前スレの〆で新参煽る風花を思い浮かべたわ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)<>sage<>2012/06/02(土) 21:51:05.95 ID:KqhOpO2AO<> 乙!
前スレもっかい読み直してくる。
風花がシュタゲの助手みたいな事になっててワロス <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:22:30.61 ID:Ra3Lq0x6o<> ユカリスタ・・・実在していたの!?
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:23:11.71 ID:Ra3Lq0x6o<>
【2012/4/1(日) 晴れ 港区内アパート】
マリンバの音で目が覚めた。
「ん……あ、携帯」
体を起こすのが億劫で、思い切り手を伸ばしてスマートフォンを握る。
着信中。森山夏紀。
「あ、もしもし? 夏紀ちゃん?」
『どんだけ鳴らさせんのよ。おはよ、風花』
親友の声に、少し体が温かくなった気がした。
「うん、おはよう。ごめんね、寝てた……」
『アンタ、そんなキャラだっけ? もっとこう、しゃきっとしてた気がすんだけど』
「そうだったっけ? ちょっと疲れてるのかも」
『そーなん? あんま無理すんなよ。で、昨日メールしたっしょ』
「あ、うん。用事は無いんだけど、どうしてるかなって思って」
『どうもこうも無いって。毎日超キツイ。やっぱ大学行っときゃ良かったかなー』
「お仕事大変なんだ」
『上司のオッサンは鬱陶しいしさ、お局様が幅利かせてるし最悪。仕事自体はどってこと無いんだけどねぇ。ってか、そういう風花はどうなの?』
「私? 私は……」
どうなんだろう。
別にこれといって厳しい事があるわけではない。
勿論、楽しいとか嬉しい事があるわけでもない。
「……んー、私は普通かな」
『普通ねー、まぁそうだよね。そだ、今度また遊び行こうよ』
「いいの?」
『いいって。どうせ休みなんてやる事無いんだし。つって今日は予定あるから無理なんだけどさ。また今度都合いい日にメールでもするよ』
「うん、待ってるね。あの、夏紀ちゃん」
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:24:20.10 ID:Ra3Lq0x6o<>
『ん?』
「電話、ありがとう。久しぶりに話せて嬉しかった」
『……やめてよ、恥ずかしいじゃん。あたしで良けりゃいつでも相手なったげるっつーの』
「あはは、じゃあまたね。そろそろ時価ネット始まっちゃう」
『また通販? 無駄遣いすんなよー? んじゃ、また。……なんか、悩みとかあるんだったら言えよ?』
「うん、本当に大丈夫。ちょっとお話したかっただけだから。またね」
電話が切れた。
少しの時間だったが、久しぶりに心から笑えた気がする。
……テレビの電源をつけてチャンネルを合わせる。
特徴的なテーマソングが流れている。
「みんなの欲の友……っと。今日は何かな……」
癖のある声で社長が製品を紹介する。
今日は……ダイエットサプリ。
おまけに模造刀。
「模造刀は全然いらないけど、このサプリはちょっと欲しい……お値段は?」
『お値段なんと、4,980円でのご提供になります!』
……スマートフォンを手に取った。
「あれっ」
さっきは気付かなかったが、夏紀ちゃんとの電話中に着信があったようだ。
液晶には『岳羽ゆかり』の文字が表示されていた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:24:48.23 ID:Ra3Lq0x6o<>
【巌戸台駅】
「お、来た来た。久しぶりー」
「ごめん、待った? ゆかりちゃん」
岳羽ゆかり。
二年前まで一緒に住んでいた友達。
お互い進学して、今までより随分会う事が無くなったけど、まだ交流は続けている。
「待ってない待ってない。風花ってさ、先に着いてても待った? って言いそうだよね」
「い、言わないよぉ」
「冗談冗談。さて、どっか入ろっか」
「あ、私朝ご飯も食べたい」
「もう昼前だっつの」
「……えへへ」
「じゃあワイルダックとかでいっか」
二人でファーストフードの店に入る。
そうか、もう昼だった……。
最近、あんまり時間を気にせず過ごしていたからだろうか。
注文を済ませて席に着く。
コーヒーにミルクを入れた。
「いや、でもほんと久しぶりだよね。いつ以来?」
「今年のお正月に初詣行って以来じゃないかな? ほら、桐条先輩と……」
「あー、そんな前だっけ。って、もう一年四分の一終わっちゃったって事!? 早すぎない?」
ゆかりちゃんは驚いている。
……実は、私も驚いている。
自分で言って実感したが、もう一年は四分の一過ぎてしまった。
今年はまだ何もしていないような気がする……。
「そろそろ学校も始まるし、何があるってわけじゃないけど早い気はするよね」
「何も無いから早いんじゃない?」
「そうなのかな……」
何も無い、という言葉が少し心に刺さった気がする。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:25:16.96 ID:Ra3Lq0x6o<> 「風花、大学だよね」
「そうだよ、ゆかりちゃんもでしょ?」
「まぁ、そうなんだけど。ほら、風花は調理師学校行きたいって言ってたじゃない?」
「あ、言っちゃったんだっけ……そうしようかなって思ってたんだけど、普通に大学出てからにしようかなって」
「あー、大卒取ってからって事? 時間かかってもいいならそれが一番じゃない? やっぱりさ」
「うん……そうしとけば普通に就職するのにもいいかなって」
「ま、安定だよねー……ってか、私達がこんな話するようになるとは思わなかったね」
ゆかりちゃんは笑っている。
確かに、こんな話をする事になるとは思っていなかった。
ゆかりちゃんと仲良くなった頃はそれどころじゃなかったし……今にして思えば、まだまだ子供だったと思う。
「あの、さ」
不意に声のトーンが変わった。
笑顔だったはずの表情は曇り、眉根を寄せている。
「風花、最近変な事とか無かった? 三年前の……あの時みたいな」
「えっ?」
三年前の時のような、事?
「どうしたの、ゆかりちゃん。何かあったの?」
「何かあったってわけじゃないんだけどね。この前、急に夜目が覚めてさ……たまたま、日付が変わる直前だったから。ちょっと思い出しちゃって」
影時間……。
事件が終わった後、もう影時間は来ないとわかっていても目が覚めてしまった。
落ち着いて来た頃からは、その時間を迎える度に物悲しい気持ちになった。
今でも時々何とも言えない空虚な感覚に囚われる時がある。
彼女もそうなのだろうか。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:25:43.18 ID:Ra3Lq0x6o<> いや、この表情は違う。
これは、何かを隠してこちらを探ろうとしている時の顔だ。
「何かあったのね」
「いや、別に……」
「私、わかるんだから。ペルソナは使えなくても、ゆかりちゃんの考えてる事くらい」
ゆかりちゃんは一つ溜め息をこぼすと、気まずそうに話し始めた。
「美鶴先輩からね……連絡があったんだ、実は。噂が流れてて、捨て置くには少し気がかりだとかなんとかで」
「噂?」
「うん。……夜中に街を徘徊する悪魔がいるんだって。でもそれってさ、あの事件とちょっと似てるじゃん」
夜の一定の時間にうろつく……悪魔。
シャドウでは無いのだろうか。
影時間が存在していない以上、やはりシャドウでは無いのだろうが。
「確かにちょっと似てるかもね。でも、そんなはず無いんじゃ……」
「私もそう思うし、美鶴先輩もそう思ってるみたい。で、付近に住んでる私達にお鉢が回ってきたと」
「そっか……でもちょっと気になるね」
「うーん、私としてはあんまり興味無いんだけどね」
ゆかりちゃんは苦笑した。
「そう? だって気にならない? また何か起こってるんじゃないかって」
「まぁ、気にはなるよ。けどさ、普段の生活がそれどころじゃないってか。できるなら関わりたくないって感じ」
「……そうだよね。でも、放っておくわけにもいかないんじゃない?」
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:26:44.22 ID:Ra3Lq0x6o<> 「そうだけど、私達もうペルソナも使えないしさ。何かあっても何も出来ないと思うんだよね……」
「あ、それもそっか……じゃあ、ちょっと調べてみるくらいかな。私達に出来る事って」
「せいぜい噂を辿ってみたり、そんなもんだね。あ、ポテト冷めたら美味しくないよ」
話している内に、フライドポテトがしんなりしてきた。
「大丈夫、案外悪くないよ?」
「悪くないって……アンタ、結構ファーストフード通ってる?」
「ん、それなりに……」
「料理上手いのにねー。ていうか、前から思ってたけど何でそれで太らないワケ? 何かやってるの?」
「べ、別に太らないわけじゃ……実は、この前はかって見たらちょっと……」
「あー、じゃあ胸に行ってんだ。またおっきくなったっぽいもんね……」
「や、やめてよ!こんな所で……」
コーヒーが丁度良い温度まで冷めていたから、一口飲んだ。
噂……桐条先輩が聞き及んだって事は、かなり広く浸透しているんだろう。
だとしたら、一片の真実が含まれていてもおかしくはない。
例え真実が含まれていても、それをどうこうすることは私達には出来ないが……。
ゆかりちゃんと二人で他愛も無い話をした……。
「さて、と。今日はこんなとこで。私、そろそろ帰んないと」
「あ、うん……今日はありがとう。楽しかった」
「別に何もしてないって。風花、もしかしたらさっきの話気にしてる?」
「気にはなるけど……どうしようもないんじゃ、仕方ないよ」
「そうだよね。うん。ちょっと心配だっただけ。無茶はしないよーに。じゃ、また今度ね!」
「またね、ゆかりちゃん」
……やっぱり、結構鋭い。
例の噂、調べてみよう。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:27:11.05 ID:Ra3Lq0x6o<>
【2012/4/2(月) 晴れ 港区内アパート】
「うーん、勢いで注文しちゃったけど、やっぱりいらないなぁ……」
時価ネットさんから荷物が届いた。
のはいいのだが、サプリのオマケの模造刀が思った以上に本式で場所を取る。
……とりあえず、置いておこう。
「さて、と。何か情報は……」
PCを立ち上げて、自サイトの掲示板を見る。
昨日自分で立てたスレッドのツリーは随分伸びている。
「あ、すごい……なんだろう」
『ユノ@管理人:悪魔の噂
お友達から不思議な噂を聞きました
夜中に悪魔が街を徘徊してる……らしい
聞いた事ある人っているかな?』
ざっと眺めたが、茶化す書き込みばかりだ。
まぁ、元々オカルト系のサイトでも無いし、そんなものだろうとは思っていたけど……。
「……?」
気になる書き込みを見つけた。
けど、これは……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:27:39.94 ID:Ra3Lq0x6o<>
『葛葉:Re:悪魔の噂
詳細ハ連絡モトム。
XXXXX@XXXXXX』
「あ、怪しい……」
こんなに露骨に怪しい書き込みがあるだろうか。
しかし、事態が事態だけに妙な真実味があるというか。
……とりあえず、複数あるメールアカウントの一つからメールを送っておこう。
こんな所から何かがわかるなら儲けものだと思う事にした。
「他には……」
『Y子:Re:悪魔の噂
アタシもそれ聞いたことある!(^ヮ^)ノ
なんかー街歩いてたら急に化け物に会ったんだって!\(◎o◎)/
夜遊びしてた学生さんが何人か目撃してるみたい
これも噂だけど、実際に被害者もいくらか出てるとか……(/-\)
なんか怖いネ……ウチの街だけなのかな?』
実際の被害について書いているのはこの書き込みだけ。
それと、目撃したのが学生であるという、ソースに関するほんの少しの具体性。
最後に、自分のいる街だけなのかという部分。
「港区の事だとしたら、この書き込みはかなり信憑性があるように思えるけど……目撃者、あるいは被害者……か」
一応、桐条先輩に連絡しておくべきだろうか。
この辺りでもし何らかの被害が出たとすれば、恐らく辰巳記念病院に搬送されるだろう。
あそこなら桐条資本だったはずで、ならかなり融通が利くはずだ……。
「……何で私、こんなに」
楽しいんだろう。
昨日までの毎日が嘘のように充実している。
生活内容が、ではなく、精神的に。
ゆかりちゃんから話を聞いた時、一つ大きく心臓が鳴った。
あの瞬間、私のエンジンには火が入り、今も熱く燃えている。
「不謹慎っていうのかな、こういうの。でも……」
このまま沈んで行く、埋まって行くだけだと思っていた、その私が。
また一度、輝ける瞬間が来たのかもしれない。
そう思うと、あの噂がむしろ真実であってほしいと思えた。
こうして書き込みを追うだけでも、胸の一部が熱くなってくるのを感じている。
夏紀ちゃんやゆかりちゃんには悪いけど、二人と話した時よりもずっと。
もしかしたら、私はこの感覚から逃れられないのかもしれない。
私にしか出来ない事。
我ながら子供じみた願望だと思う。
けど、それ以上の原動力が私には存在しない。
私が誰かの役に立てる。
それだけで、それこそが。
「とりあえず、今夜」
街を見回ってみよう。
春休みの内に、ある程度話を進めたい。
この感情がどんなに危険かはわかっているけれど。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/03(日) 01:29:21.15 ID:Ra3Lq0x6o<> 事件、発生。
所用あって投下遅れました(マックスアナーキーの体験版やってた)
少々密度を高めたので、投下ペース……というか投下レス数は少なめになると思います。
というわけで本日分は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage <>2012/06/03(日) 01:53:39.99 ID:HzSIz79Eo<> マックスアナーキーおもしろいよなw
乙、今度はどんな展開が待ってるんだ、、、。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 07:22:15.38 ID:NtFWoTvIO<> 完全にペルソナ2である
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 11:25:26.12 ID:YhE0os+IO<> 噂の発信源になっちゃいそうだな <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/03(日) 22:50:17.01 ID:9CkAR62p0<> 某巨大いんたーねっつ掲示板でP5発売の噂を流せば現実に・・・? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/03(日) 23:38:20.37 ID:kX1XTNNCo<> P3アニメ化の噂を流せば・・・・・・! <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:00:20.36 ID:zeTZ2O6Ko<> 今誰かトリニティソウルの話した?
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:00:54.53 ID:zeTZ2O6Ko<>
【夜 クラブエスカペイド】
夜遊びと言えば、この辺りだと思ったのだが。
「あんまり人もいない……か」
たまたまか、あるいは噂が真実であるか。
「お客さん、注文は?」
「あ、えっと……こ、コーラで」
「……」
店員が怪訝な顔で私を見た。
場違いかな……場違いだろうな。
私以外には、数人の男女がグラスを傾けていたり、何をするでなくただ喋っていたり、そのくらいだ。
「っと、すんません」
立てかけておいた包みが倒れる。
隣に座ろうとした男性が足で触れてしまったらしい。
「あ、いえいえ」
男性はそのまま席に着くと、ジッポライターを取り出した。
「あ、別に煙草は吸わないんで」
こちらを気遣ってくれたようだ。
……見れば、私に負けず劣らずの場違い感だ。
二十台後半だろうか。
何故かこの場に背広を着て来ている。
仕事帰り……?
「あ、俺にもコーラを」
「……どうぞ」
グラスに注がれる黒い液体を見ながら、男はライターの蓋を開けた。
金属質な澄んだ音が響く。
そして、今度は蓋を閉めた。
弾ける様な、綺麗な音がした。
「すごい、かっこいい……」
「どうも。ま、見世物でも無いんだが」
「あ、ごめんなさい」
ついつい見入ってしまっていたようだ。
仕草がサマになっているというか、スマートでかっこよかったから。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:02:03.62 ID:zeTZ2O6Ko<> 「学生さん?」
「あ、そうです……」
「職業上、こんな時間まで遊んでる若者ってのは注意すべきかなとも思うんだが」
「え?」
「……夜遊びくらい誰でもするか。ただ、夜道は物騒だ。帰る時は気をつけな。うろついたりせず真っ直ぐ帰るんだ」
「あ、はい……」
注意されてしまった。
職業上……教師とかだろうか。
しかし、忠告に従うわけにもいかない。
そもそも目的がうろつくことなわけだし。
この人がいる事で少し居辛くなったし、時間もそろそろ12時を迎えようとしている。
「……ふぅ、はぁ。よし」
深呼吸を二つ。
それから包みを握って立ち上がる。
「帰るのか?」
「あ、はい。ご忠告ありがとうございました」
「君の分も俺が出しとくから。気をつけてな」
「えっ、そんな」
「いいから」
「……ありがとうございます。失礼します」
お礼を言ってエスカペイドを出た。
生暖かい風が髪を揺らす。
以前はここに溜まっていた人がいたものだが、今はいない。
噂が真実だとしたら、彼らが一番に目撃し……以降よりつかなくなったという流れがあってもおかしくない。
排気ガスの匂いがする。
路地裏というのは、人だけじゃなく空気も溜まっているのだろうか。
吹き溜まりとは良く言ったものだと思う。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:02:29.97 ID:zeTZ2O6Ko<> 「……ユノが使えれば、すぐにサーチできるのにな」
無い物をねだってもしょうがないが、これからどう動いたものか全く思いつかない。
人がいれば聞き込みでもしようと思っていたのだけど。
……?
足音が聞こえる。
雑踏からこちらへ向かってくる足音。
良かった、人がいたんだ。
そう思ってそちらを向くと、足音が止まった。
「え?」
知らない人だ。
それは間違いない。
銀色の髪の、男の人。
少し年下に見える。
高校生くらいだろう彼は、私を見ると驚いたように固まった。
「あ、あの」
一応聞き込みをしようと声をかける。
「……」
男は黙ったままだ。
「ええと、ここには良く来るんですか?」
……何か、悩んでいる?
考え込んでいるような仕草。
「……早く、帰った方がいい。もう時間も遅いから」
「……っ!?」
声を聞いた途端、何故か心臓が締め付けられるような気持ちになった。
痛い、苦しい。
……悲しい。
嬉しい?
知らない人にたまたま出会った、それだけのはずなのに。
気付けば、頬を涙が伝っていた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:03:02.13 ID:zeTZ2O6Ko<> 「……ふ、っ、あ、なたはっ」
喉がひくひくと鳴って声が出せない。
彼は黙っている。
……少し悲しそうに黙っている。
「あなたっ、はっ、だ、誰っなの? ぅ、ふっ、ひっ、んぐっ」
頭のどこか隅っこで冷静な自分が言う。
何で泣いてるの? 知らない人の前で。
あーあ、みっともない。
だけど、涙は止まらない。
嗚咽も止まらない。
彼は答えてくれない。
不意に、彼が明後日の方向を向いた。
「なんで……なんで泣いっ、てるの? 私、私は……」
彼が踵を返す。
「待って!」
「俺を追ってきてはいけない。あなたはそこからすぐに家に帰って、今日の事は忘れて眠る。そうすれば、全て丸く収まる」
振り向かずに歩いていく。
追いかけなくちゃ、と頭で思っても、体が動かない。
「でも……」
「いいから。平和に毎日を過ごしてください。お願いだから。……おやすみなさい」
彼が駆け出した。
追わなくちゃ。
ここで追いかけないと、大事な何かを全部なくしてしまう。
でも……
追いかけることは出来なかった。
彼は雑踏に紛れ、もうどこにいるのかもわからない。
私は泣きながら部屋に戻った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:03:30.32 ID:zeTZ2O6Ko<>
【2012/4/3(火) 晴れ 港区内アパート】
頭が痛い。
泣きながら寝てしまったから、多分顔が酷い事になっている。
この歳になって号泣する事になるとは思ってもみなかった……。
「顔、洗おう……」
昨夜の出来事ははっきり思い出せる。
しかし、彼に出会ってから湧き上がったあの感情の正体を私は知らない。
というか、彼をまず知らない。
知らない男のはずだ。
なのに、どこかであったような気がする。
いつか喋ったような気がする。
「なんていうんだっけ、こういうの。……あ」
桐条先輩から着信が入っている。
着信時刻は昨夜だ。
どうやら気付かずに寝てしまったらしい。
この時間じゃもしかすると出られないかもしれないけど、折り返し電話をかける。
……数度のコール音が鳴って、声が聞こえた。
『私だ、山岸か?』
「あ、お久しぶりです山岸です。メール、見ていただけましたか?」
『ああ。それで連絡したんだ。久しぶりの会話を楽しみたい所だが、悪いがあまり時間が無い。本題に入らせてもらうぞ』
「はい、お願いします」
『辰巳記念病院の入院患者についてだ。ここしばらくの間で、何人かの患者が奇妙な外傷を負っている』
「奇妙な?」
『まるで獣にでも襲われたような傷だ……実はそもそも、私がゆかりに調査を依頼したのもそれがあったからなんだが』
「あ、そうだったんですか」
『実害が無ければ放っておくつもりだったんだがな。被害者が出ているとなれば話は別だ。その患者や、同時に被害に遭った連中は皆口々に化け物、あるいは悪魔という言葉を口にしている』
「やっぱり、本当なんですかね」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:04:20.08 ID:zeTZ2O6Ko<> 『信じ難いが、本当だろうな。ただ、シャドウでは無いようだ。シャドウとは別種の怪物と考えるのが自然だろう』
「なぜシャドウでは無いと?」
『精神にはなんら影響が出ていないからだよ。錯乱してこそいるが、人間らしい反応だ。落ち着いてくれば普通の怪我人と変わらない』
「なるほど、そうなんですか……」
『今の所、夜中に街の人気の無い場所で出会ったという話が多い、とそのくらいしか言えることは無いな』
「進展は無し、ですね」
『……山岸。今我々はペルソナが使えない。それにそもそも、君は荒事に向く性質ではない。気になる事があったとしても、余り首を突っ込みすぎるな。頼んでおいておかしな話だがな』
「気になる事、ですか……あの、桐条先輩。もしかしたら全然関係ないかもしれないんですが、少し聞いて欲しい事があるんです」
私は昨夜あった出来事を説明した。
見知らぬ少年に出会ったこと、その少年を何故か知っている気がしたこと。
……泣いてしまったことは伏せておいた。
『奇妙な話だな。その少年というのは、誰かに似ていたとかそういう事では無いんだな?』
「はい、誰かに似てたとかじゃなくて、その人を知っている気がしたんです」
『……デジャ・ヴュの少年か』
「それに、あの人は何かを探していたみたいなんです。私と話してる途中、急にどこかを向いたと思うと急いでそっちに向かったみたいで」
『怪しいな。無関係かも知れないが、山岸の勘を信じるとしよう。特徴を言ってくれ。一応捜索してみる事にしよう』
「あ、はい……まず髪が銀色で、身長が……」
桐条先輩が手を伸ばせば、彼が見つかるのも時間の問題だろう。
デジャ・ヴュの少年。
その呼び方にも、奇妙な既視感がある。
彼は何者だろう。
私にとって、どういう存在なのだろう。
学校が始まるまでに、まだ数日ある。
今夜も、あの辺りに行ってみよう……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:04:45.99 ID:zeTZ2O6Ko<>
【夜 クラブエスカペイド】
結局、今日も路地裏には誰もいなかった。
桐条先輩の言っていた事が事実なら、やはり警戒しているのだろう。
クラブの店員にまた怪訝な顔で見られながら、コーラを注文した。
「……あの、少しいいですか?」
「なんでしょう」
二日続けてこの人がカウンターにいる。
もしかすると、何か知っているかもしれない。
「店員さん、噂話って好きですか?」
「俺はあんまり。ただ、そこに座って大声で話す奴らがいるもんで、詳しくはなりますね」
「そうですか、えっと、それなら……最近、この辺りで怪物が出るって話知ってます?」
「ああ、あなたもその話ですか。そんなに流行ってんのかね」
「私も?」
「昨日、そこに座ってた兄さんがいたでしょ、あの人にも聞かれて。怪我人も出てるらしいじゃないすか」
「そうなんですか……」
昨日、私の隣に座っていた男の人。
彼もこの噂について調べている……。
やはり教師なんだろうか。
自分の生徒が被害にあったから……。
「あ、でも教師はこんな時間まで背広着てないか……」
「あの人、刑事だって言ってましたよ。本当かどうかは知らないけどね」
「あ、そうですか。それで調べてるんですね……」
「その噂のせいで俺は暇なんで、いろいろ話しましたけど……さっさと解決してくれるといいんですけどね」
なるほど、刑事だったらあり得る。
いや、あり得るのか?
刑事という職業に対するイメージが驚く程貧困で、良くわからない。
とにかく、この噂を事件と見て調べているのだろう事はわかった。
「そうですね。早く解決したらいいのに。あ、ところで、人を探してるんですけど、見かけませんでした?」
「今度は人すか? ちなみにどんな?」
「ええと、男の人なんですけど。高校生くらいで、髪が銀色で、背がちょっと高くて……」
「銀色って、随分派手な奴っすね。うーん、覚えが無いなぁ」
「そうですか……」
「すんませんね。で、お姉さんは何者なんですか?」
「あ、ただの興味本位で。別に何かの調査ってわけじゃないんです」
「あ、そーすか。なんにせよ危ないみたいですよ。来てくれるのはいいんだけど、怪我でもされちゃたまらない」
「そうですね、気をつけます。……それじゃ、今日は帰ります」
「はい、それじゃ本当に気をつけて」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:05:49.73 ID:zeTZ2O6Ko<> コーラの代金をカウンターにおいて、クラブを出た。
さて、どうしたものか。
もう一度、彼に会えることを期待してこの辺りをうろついてみようか。
それとも、警察が介入している事を信じて後は放っておこうか。
桐条先輩にも言われた通り、例えペルソナが使えても私は戦えないし、もし本当に化け物なんていたとしたら……。
「それでも、気になる物は気になるんだもの」
相変わらず持ってきた包みをぎゅっと握る。
少し、辺りをぶらついてみよう。
それで会えなかったら、もう忘れる。
そう心に決めて、路地裏を歩き始めた。
直後。
「…………ル……ォ」
雑踏と反対方向、路地の更に奥。
雑踏のざわめきに混じって判然としなかったが、明らかに尋常ならざる声が聞こえた。
まるで、獣の唸り声のような。
「今の……なんだろう」
嫌な予感がする。
けれど、その嫌な予感の元へ行かなければならないように思う。
全て直感に過ぎないが、そこに探している物があるような気がした。
行こう。
路地の奥、時折聞こえる声を辿って入り込んでいく。
次第次第に街を歩く人たちの声も聞こえなくなってきて、逆にはっきりとその声が聞こえるようになってくる。
もうはっきりわかる。
近くに、それはいる。
包みの紐を解いて、いつでも使えるようにしておく。
がさがさと、何かを漁るような音も聞こえる。
「……誰か、いるんですか?」
返事は無い。
その代わり、声と音が止まった。
こちらを窺っている気配がする。
この角を曲がれば、声の主と対面できる。
逆に言えば、ここで帰ればまだ間に合うかもしれない。
デジャ・ヴュの少年が言っていた、平和に毎日を過ごしてくださいという懇願が頭を過ぎった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:06:23.17 ID:zeTZ2O6Ko<> 「……ッ!」
覚悟を決めて角を曲がった。
明かりの届かない隅に、ゴミが転がっている。
そのそのゴミをつついている……子供?
昔、漫画で見た事がある。
痩せ衰えて、眼と下腹だけが飛び出した地獄の小鬼。
名前は確か、餓鬼。
「ひっ……なに、これ」
人に近い形をしているだけで、確実に人では無い。
そういう存在である事が肌でわかる。
シャドウじゃない何か。
悪魔。
アクマ……。
「シャアアアアアアア!」
小鬼が喉から奇妙な音を出した。
しわがれた声のようなそれは、確実に私を威嚇する為のものだ。
「ごめ、なさ……あ、ぅ」
足が動かない。
小鬼はじりじりとこちらに近付いて来ている。
私は馬鹿だ。
何とかなると思っていた。
戦った事も無いくせに、何とかしようとしていた。
浮き足立って、用心したつもりで何も備えず、こうして引き返せない所まで来てしまった。
「逃げ……」
足がもつれる。
「あっ」
転んだ拍子に包みを取り落としてしまった。
カラカラと音を立てて転がっていく。
「フシャアアアアアア!!」
小鬼が今が機と飛び掛ってくる。
武器も無く、ペルソナも使えない。
終わったと思った。
目を閉じてぎゅっと体を硬直させる。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:09:34.02 ID:zeTZ2O6Ko<> 「助けて……」
誰に言ったのかわからない。
脳裏には、デジャ・ヴュの彼が浮かんでいた。
「そのまま、目を閉じてな」
背後から声がした。
続いて、悲鳴。
これは人の声じゃない。
多分、あの小鬼の……。
「……これどうなってんだ。斬れないぞ」
そっと目を開けると、昨日見た背広の男性が模造刀を握って立っていた。
「あ、あの!助け……」
「わかってる」
余程強く打ち据えられたのか、小鬼はもう瀕死といった所だった。
そこに力任せな一撃。
小鬼の体はゆっくりと灰のようになり、消滅していった。
「……すごいな、本物じゃないとはいえ良い出来だ。あんだけぶん殴っても曲がりも欠けもしない」
男は何か感心しているようだ。
お礼を言わないと……。
「あの、ありがとうございまし……」
あれ、おかしい。
立てない……。
それに、意識が段々と薄れて……。
…………。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/04(月) 00:12:35.00 ID:zeTZ2O6Ko<> 再会、ファーストコンタクト、ピンチ、救出。
というわけで本日分は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/04(月) 11:06:44.13 ID:9MSgbR7IO<> たっちゃんそれ音マネや
乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/04(月) 13:37:54.68 ID:xLAJHox7o<> ペルソナUまで世界観が広がってしまうか…
しかしトリニティソウルは面白かったんだよ?アイギスの後継機っぽいこもいたし… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/04(月) 19:30:10.53 ID:FrvE6fdRP<> かなるはかわいい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/06/04(月) 20:43:13.51 ID:Ajw97IMCo<> トリニティソウルはアクションシーンを除けばアニメとしての完成度はかなり高い <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:00:29.03 ID:wRQFBVy9o<> トリニティはペルソナ3がアニメ化!?っていう期待がなければあんなことには
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:01:06.64 ID:wRQFBVy9o<>
【2012/4/4(水) 晴れ ?】
「う……」
目が覚めると、畳の上に寝かされていた。
一応毛布がかけられていたが、敷布団はない。
腕や足に畳みの跡がくっきりついている。
かなり長い時間眠っていたようだ。
「ここって……」
見知らぬ部屋だ。
はっと気がついて自分の格好を見る。
昨日はストッキングを履いていたはずが、脱がされている。
「嘘っ、まさか……」
……体に違和感は無い。
良く見ると、両膝を擦りむいていて、手当てがしてある。
この為に脱がせたのだろうか。
「……何も、されてないよね?」
昨夜の事を思い出す。
あの小鬼がいなくなった後、多分緊張が解けたせいで私は気を失った。
という事は、その後あの人がここに連れてきてくれたのか、それとも他の誰かが……。
あんな路地裏に他に人が来るとも思えないし、やはりあの人なのだろう。
「本当に刑事さんだったら、変な事もしないはずだし……」
そして、気がついたらここで寝ていたのだが、ここがどこだかわからない。
とりあえず、きちんと揃えておいてあった自分のブーツを履いて、畳み敷きの部屋から出る。
疑問は、すぐに氷解した。
「起きたか」
この人は知っている。
黒沢巡査……辰巳東交番に勤務する警察官だ。
かつてある件でお世話になった事がある。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:01:45.46 ID:wRQFBVy9o<> 「……体は大丈夫か」
辺りを見回す。
確かに、いつだったかに見た覚えがある。
やはりここは……。
「あ、大丈夫です。あの、ここって……」
「知ってるだろう。交番だよ」
やっぱりそうだ。
ということは、さっきの部屋は当直用の休憩室だろうか。
「今、あいつは使いに出してる。その内帰って来るから待ってればいい」
あいつ?
「あいつ……私を連れてきてくれた人ですか」
「ああ。俺の同僚でな……刑事だ。聞きたい事があるらしいから、勝手に帰るなよ」
本当に刑事だったようだ。
丁度いい。私もあの人には聞きたい事がある。
警察なら私よりも情報を持っていておかしくないし、黒沢さんの同僚なら私の立場も説明しやすい。
上手くすれば協力を要請できるかもしれない。
「膝、大丈夫か」
「あっ、大丈夫で……これ、手当てしてくれたの黒沢さんですか?」
「いや、違う。あいつの知り合いらしい女がやってくれた。ああ、ストッキング、捨てちまったぞ。ズタズタだったからな」
多分、擦り剥いた時に一緒に破けたのだろう。
でも良かった、どうやら脱がせたのはあの人でも黒沢さんでも無さそうだ。
「あの、それで……あの人の名前ってなんていうんですか?」
「ああ、あいつか。あいつの名前は……」
「周防達哉。よろしく」
丁度名前を聞いたタイミングで彼が帰って来た。
コンビニ袋をがさがさ言わせている。
「おう、帰ったか」
「黒沢さん、煙草くらい自分で買いに行ってくださいよ」
「この子を放ってか?」
「俺が残ればいいだけじゃないですか」
「まあそう言うな。火くれ」
「はいはい」
また、あのライターだ。
相変わらずスマートな動きで蓋を開ける。
黒沢さんが咥えていた煙草に火をつけて、蓋を閉じる。
カチンッ、と綺麗な音がした。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:02:13.83 ID:wRQFBVy9o<> 「大丈夫か?」
周防と名乗った刑事……が、私に聞いた。
「あ、はい。昨夜は、その……有難うございました」
「……俺は、うろつくなって言ったはずだよな」
「……ごめんなさい」
周防さんは私をじっと見ている。
「いくつか聞きたい事がある。いいか?」
「はい、その代わり私の質問にも答えてくれませんか?」
「答えられることなら。……まず、君は何を調べている」
「……黒沢さんはご存知だと思いますが、私は桐条グループの秘密組織の一員です」
「おい、真面目に」
「本当だぞ」
黒沢さんがそう口添えしたら、周防さんは驚いたような、呆れたような顔になった。
「桐条って、あの桐条なんですか?」
「ああ、あの桐条だ。あそこの御令嬢がこの子と同じ学校に通っててな。その時に……ま、いろいろあって、今も交流があると。そんなとこだ」
「……なんか、すごい子助けちゃったか」
「まぁ、今はその組織……活動してないんですけど。桐条先輩が気になる噂を聞いたから調べてくれないかと」
「なるほどな。それはわかった。じゃあもう一つ。銀髪の少年を見かけなかったか」
どきりとした。
彼の事を知っている?
捜査対象?
なら、彼は敵側の……?
ここで本当の事を言うと、事態が思わぬ方向に向かうかもしれない。
「……見ました。周防さんとクラブで会った日、あのクラブを出てすぐに。多分、周防さんが気にしてる人だと思います」
「そう、か」
迷ったが、本当の事を言った。
彼が何かしているとはどうしても思えなかった。
ただの、直感だけど。
それを聞いた周防さんは顎に手をやって何か考え始めた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:03:04.47 ID:wRQFBVy9o<> 「あの、今度は私から質問していいですか?」
「……どうぞ」
「はい、まずこの事件……と見ていいんですよね。に、ついてわかっている事を出来る範囲で教えてください」
「そうだな……君はこの手のスペシャリストだと考えていいのか?」
周防さんの疑問は最もだ。
桐条傘下の組織であり、黒沢さんが関わっている……となると、それなりに力のあるグループだというのはわかるだろう。
しかし、私は昨夜とても情けない所を見られている。
……桐条先輩や真田先輩なら、ああはならなかったかもしれない。
ゆかりちゃんや、順平君でも、もしかしたら、天田君だって。
「……残念ながら、少し通じている程度です。けど、桐条には恐らく特化した組織が存在します。この事件に関しては、警察より遥かに適当だと思います」
「そうか。なら話そうか。まず昨日君も襲われたああいう生き物。生き物、と言うが生け捕りに成功した例は無い。だから、生き物だろうとしておく」
「はい。あれはなんなんですか?」
「何なのかはわからない。ただ、その殆どが妖怪や悪魔に由来する姿をしているらしい。オカルトサイトじゃ検証も始まってる」
「悪魔……」
「便宜的に、俺達も悪魔と呼んでる。で、その悪魔が人を襲っている」
それは、桐条先輩から聞いた。
しかし、悪魔……シャドウと戦ってきた身で言うのも変なのかもしれないが、今一つピンと来ない。
実際、昨日見たアレはかなり悪魔的であったが……。
「悪魔は何の目的で人を襲うのかわからない。だが基本的に気性が荒い奴が多いようだ。たまたま遭遇しちまったから襲われる、なんて場合もあるんだろうな」
「警察にもやっぱりわかってないんですか?」
「全く。一定以上のダメージを受けると気化して消えるって事は確かだ。血が出た場合は血痕も一緒に消える。痕跡は残らない。つまり、証拠も残らない」
物証が何も残らず、異形の怪物に襲われたという証言が頻出する。
なるほど、警察が苦手そうな事件だ。
「で、俺はそれを追ってる途中である事に気付いた。それが、銀髪の少年。まだヒットはしてないが、あいつの周りで特に事件が多いらしい」
「本当ですか!?」
思わず、声が大きくなった。
周防さんも黒沢さんも驚いている。
「あ、ごめんなさい……それって、あの人が犯人って事ですか?」
「そこまでは何とも。ただ重要参考人って事だ。目撃例も被害者もこのポートアイランド内でしか出てないのも気になる。答えるとは言ったが、わかってるのはこんなもんだ」
警察は何も掴んでいないに等しい。
とにかく、出てきた話を総合すると、デジャ・ヴュの少年……彼がこの騒動の中心にいるようだ。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:04:02.72 ID:wRQFBVy9o<> 「銀髪のあの人は、桐条先輩の方でも探してもらってます。多分、港区内にいるならすぐに見つかると思います」
「まずはそこからだな。……君、手は引けないか?」
「何でですか?」
「危険だからだ。わかってるだろ」
「それは……そうですけど」
自分は戦えない。
昨夜はっきりわかった。
私は、敵を倒す事よりも先に『自分の安全』を優先してしまう。
立ち向かう勇気も無ければ、その力も無い。
だから、本当ならここで手を引くべきなんだ。
桐条先輩もゆかりちゃんも、それを心配して忠告してくれた。
「話は終わったか?」
煙草を吸い終わった黒沢さんがやれやれといった感じでこっちに目を向ける。
「ああ、はい。これからこの子送ってきます」
「わかった、俺は留守番だな」
さっさと行け、と手を振られた。
慌てるように周防さんを追いかけて交番を出る。
「そうだ。昨日の刀、没収」
そういえばいつの間にか無くなっている。
「そんな、困ります……」
「あれ持ってたら、またうろうろするだろ」
確かにそのつもりだが……。
「……捜査はやめないんだろ」
「はい。あっ……」
突然聞かれて、思わず本音で答えてしまった。
誤魔化しておけば良かった……。
「あんな目にあってもやめないんだ、多分事情があるんだろ。だったら続けるのも構わない。ただ、条件がある」
周防さんはポケットを探ると、手帳の一ページを破って渡してくれた。
電話番号と、メールアドレス……?
「これって……」
「俺の携帯。もし出かけるなら連絡しろ。一緒に動いた方がいくらか安全なはずだ」
「あ、は、はいっ! ありがとうございます!」
「俺の仕事をやるだけだから、礼はいらない。……今更なんだが、君の名前を聞いて無かったな」
「あ、私は山岸風花って言います。あの、よろしくお願いします!」
「……山岸か。よろしくな」
周防さんが捜査に協力してくれることになった。
もしまた悪魔と出会った時に、私だけでは太刀打ち出来ないだろう。
けれど、これで少し安心できる。
とれも力強い援軍を得た気分で、凄く嬉しかった……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:05:06.83 ID:wRQFBVy9o<>
【港区内アパート】
周防さんに送ってもらって帰って来た。
昨日でかけた時のままだ……。
「当たり前だけど……そうだ、書き込み」
新たな情報が無いか見ておこう。
PCを立ち上げてホーム画面に入ると、新着メールが届いている事に気付いた。
「あれ、メール……こっちに来るって事は、サイト関連か……あ、返信!」
そういえば例の怪しい書き込みの主にメールを送っていた。
もしかするとその返信かもしれない。
メールを確認する。
差出人の名前は……葛葉探偵事務所。
書き込みをした人のハンドルネームは、確か葛葉。
やっぱりそうだ。
「まさか、本当に返信が来るなんて……それに探偵事務所? もしかして、本当に……」
メールを展開する。
『差出人:葛葉探偵事務所
件名:悪魔ニツイテ
本文:連絡有難ウ。操作ニ慣レヌ故返事ガ遅クナリ申訳無シ。
当方、探偵事務所ヲ営ム者。
其方ニ益ノ有ル情報ヲ提供出来ル事ト思ウ。
ツイテハ一度御会イシタ上、幾ツカ相談シマショウ。
其方ノ都合ニ合ワセマスノデ再度連絡ヲ
葛葉探偵事務所所長 葛葉ライドウ』
「読み難い……そして怪しい。けど、微妙に気になるんだよね……」
一人で会うのは正直不安だが……周防さんに相談すればなんとかなるかもしれない。
なるべく早く会って話がしたい。
とはいえ、流石に今日は少し疲れたか……。
「まず周防さんの予定を聞いて、それに合わせて会う日を取り付けようかな」
他人任せな気もするが、周防さんも捜査に有益な情報が入るなら良いだろう。
とりあえず、一対一でなく立会人として周防さんを連れて行っても良いかと確認しておく。
メールを返信して、今度は掲示板をチェックしよう。
「……目立った情報は無し、か。後は桐条先輩の捜索が上手くいってくれればいいんだけど……」
今日は夜回りもやめておこう。
膝、痛いし。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:06:05.28 ID:wRQFBVy9o<>
【2012/4/5(木) 晴れ 港区内アパート】
起きて、早速PCを立ち上げた。
メールは……来ている。
『差出人:葛葉探偵事務所
件名:了解
本文:兎ニ角味方ハ多イ方ガ良イデショウ
事情ヲ理解シテイル方ナラ寧ロ慶ンデ
葛葉探偵事務所所長 葛葉ライドウ』
「そうだよね、中々わかってくれる人もいないだろうし、仲間が増えるなら凄く良い事だよね。後は、周防さんか……」
……。
周防さんに手を引け、と言われた。
桐条先輩にも釘を刺されたし、ゆかりちゃんにも無茶はするなと言われた。
その通りだと思う。
私は何故こんなに必死になっているのだろうか。
あのワクワクも随分希薄になってしまった。
実際、あの幽鬼……餓鬼とでも呼ぼうか。あれに出会ってから、タルタロスに閉じ込められた時の事が頭を占拠している。
死を、初めて強く意識した時の事。
今ではただ恐怖があるだけだ。
「正常に戻っただけなんだろうけど……じゃあ、何でまだ自分から関わろうとしてるの?」
それは、多分、自分の中の空虚を埋める方法があるからだと思う。
彼……デジャ・ヴュの少年に出会った時、私は自分の中に何も無い空間が広がっている事に気付いてしまった。
そこには、かつて誰かが入っていたはずで、今はもうその人はいなくて。
毎日に目標が無いのも、多分そのせい。
私が唯一、私自身を捧げても良いと思えた人。
その彼に似た……全然違うのに、何故かそっくりな感覚が、あの人からは流れてきた。
そして、多分彼よりも遥かに私にぴったりな温度が。
デジャ・ヴュの少年……彼を追う途中で、私はきっと何かを見つけられる。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:06:49.73 ID:wRQFBVy9o<> 「……有里君」
返事は無い。わかっている。
だけど、少し……ほんの少しだけ期待してしまう。
彼ならば、もしかすれば彼ならば、私を救ってくれるのではないか。
奇跡の一つや二つ起こして、私の苦悩を払ってくれるのではないか。
勿論、そんなはずは無いんだけれど。
スマートフォンが短い着信音を発する。
「あ、周防さん……」
例の探偵と会う時について来てくれるかどうか、というメールの返事だった。
『差出人:周防達哉
件名:わかった
本文:そいつに会う前に打ち合わせをしておきたい。
しばらく忙しいから、明後日の夜、例のクラブで会おう』
「そうだ、周防さんにも見てもらった方が安心できるかな」
PCから携帯にメールを転送しておこう。
もしかすると何か気付いてくれるかもしれない。
「……あ、そうだ」
デジャ・ヴュの少年……彼は、見た所高校生のようだった。
で、あるなら、同じ学生になら知っている人がいるかもしれない。
「桐条先輩ならもう当たってそうだけど……あの人、あれで抜けてるとこあるし。一応確認しておこうかな」
電話帳から、天田乾という名前を探して電話をかけた。
……コール音は鳴るが、いつまで立っても相手は出ない。
『プッ……ただいま、電話に出る事ができません。御用の方は……』 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:08:45.49 ID:wRQFBVy9o<> 「山岸です、久しぶり。天田君、高等科に知り合いとかいないかな? 人を探してます。銀色の髪をした男の子なんだけど、心当たりありませんか。折り返し連絡ください」
メッセージを吹き込んでおいた。
気付いたら連絡してくれるだろう。
周防さんが仕事の間、夜回りは危険な気もする。
武器もないし……あっても、多分使えなかったけど。
「でも、もしかしたら」
出会えるかもしれない。
その可能性が恐怖との天秤にかかって揺れる。
どうしよう、か……。
「……ダメダメ、危ないもの。私じゃ何も出来ないもの。だから、おとなしくしていないと」
戦う力が足りない。
世の中、何をするのにも力が必要だ。
権力、腕力、財力……とにかく、はっきり自分の中に力が必要で、私には今それが無い。
だから、黙って俯くしかない。
……力。
不要だと思っていたけど……。
「天田君からの連絡を待って……寝よう」
自分のやりたい事をやるだけの力。
そのくらいは、欲しいな。
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:11:06.72 ID:wRQFBVy9o<>
【2012/4/7(土) 晴れ 夜 クラブエスカペイド】
「これがそのメールです」
周防さんとの打ち合わせに来ている。
結局、天田君からの連絡は無かった。
忙しいのか、何か事情があるのか……とにかく、私に知る事は出来ない。
今は目前の事に集中することにした。
「……怪しいな」
「ですよね」
怪しいのはわかっている。
「怪しいなりに気になる部分もあったりするんです。ほら、普通の事件じゃないから……」
「胡散臭さが逆にアリって事か。そう言われればそんな気もしないでは無いか」
「それに、周防さんを連れて行く事もOKしてくれてます。もしかしたらって思うと、放ってもおけなくて」
「そうだな。藁にも縋りたいのは俺も同じだ。……実は、ついに死人が出てな」
「死っ……!」
「ああ、言葉が悪かった。少し直接的すぎたか。とにかく、そうなんだ。いよいよ看過出来ないぜ、こりゃ」
死人……。
今までは怪我人だけだったはずなのに、ついに死者が出た。
私ももしかすると、そうなっていたかもしれない。
この事件、一刻も早く解決しなければならない。
「でも、私に出来る事なんて……」
「どうした、日を置いたら随分弱気になったな」
周防さんは心配してくれているようだ。
「考えたんですけど、周防さんの言うとおり、危険ですよね。そんな所に、何の力も無い私がいってもどうしようもないなって」
「……最初からわかってた事だろ。それでやめていいような話なのか?」
「出来たら、捜査は続けたいです。でも、怖いなって思う私もいます。正直、今はどうしたらいいのか……」
「迷うくらいなら止めておけば良かったんだ。いや、今でも遅くない」
「……ですよ、ね」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:11:56.23 ID:wRQFBVy9o<> カチン。
ライターの蓋を閉める音がした。
……やっぱり、綺麗な音だ。
「そんなに不安定な状態で続けていくのも良くないな。この探偵ってのと会うの、俺だけで行っても構わないか?」
「あっ、でも……!」
「だから、迷うくらいなら止めておけって言ってるんだ。自分でもわかったんだろ、危険だって」
言い返せない。
もし何かあったとしたら、責任を取るのはきっとこの人だ。
私は、ただ駄々をこねているだけ。
急に悲しくなって、黙りこんでしまった。
「……ふぅ。とりあえず、探偵ってのがどの程度知ってるかによるな。もし詳しい事情を知っていたなら、それを聞いてから判断してもいいだろ」
「そう、ですね……え?」
「それ聞いて、覚悟が出来たら改めて捜査を続行すればいい。それで、やっぱり不安ならやめる。そうすることにしよう」
「あ、はい……そうですね。ありがとうございます」
「だから、捜査は元々俺の仕事で、山岸は情報提供者だろ。礼を言うのはこっちだ」
そんな事を言っているけれど、周防さんが私を少しでも元気付けようとしているのはわかった。
余り器用なやり方では無いけれど、優しい人なのが良くわかる。
嬉しかった。
「さて、じゃあ予定はまた連絡する。……なんでにやけてるんだ?」
「いえ、何でも無いです。ちょっと嬉しくて」
「まぁ、いい。また家まで送る」
「よろしくお願いします」
二人でエスカペイドを出た。
今日は明るい……。
月明かりが強いようだ。
「あ、満月」
「ん? ……そうだな」
夜空には煌々と丸い月が輝いていた。
どこかからアナウンスが聞こえる。
お店の有線放送?
それとも、誰かが聞いているラジオの音?
テレビかもしれない。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:12:24.55 ID:wRQFBVy9o<> 『……で、深夜12時をお知らせしま……』
もう日付が変わる。
満月を見ながら、一歩踏み出した。
『……ピッ……ポーン』
月の色が、変わった。
【巌戸台分寮】
「……う、ん?」
気がつくと見知らぬ場所にいた。
いや、私はこの場所を知っている。
「ここ、巌戸台分寮のラウンジ……えっ、なんで、ここに?」
私は確か、エスカペイドを出て、周防さんと家に帰る途中で……。
「それに、この感覚……忘れてない。影時間……!」
空気も停止してしまったかのような静寂と、窓から差し込む青緑の月光。
これは間違えようが無い。
「なんで……影時間は無くなったはずじゃ……!」
「風花さん?」
不意に背後から声がした。
「誰っ!」
振り返ると、そこにいたのは銀髪の……
「君は……何で、君がここに」
「それは俺の台詞です。全て忘れるようにと言ったはずなのに……」
「忘れるなんて、出来るわけないじゃない!」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:13:07.73 ID:wRQFBVy9o<> 思わず口走ってしまった。
その台詞に、彼は一瞬驚いた後、すぐに悲しそうな顔になって呟いた。
「俺だって、そうです」
胸の真ん中に杭を刺された気がした。
悲しそうな彼の顔を見ると、私まで悲しくなってくる。
また泣いてしまいそうだ。
「あなたも? それって、どういう……」
突如、轟音が響いた。
建物を揺らす程の音量。
爆発音と紛う程の音を立てたそれを、私は知っている気がする。
「くそっ……!風花さん、早く逃げてください!」
「なんで私の名前を……」
「いいから早く!逃げろ!」
ドン!と音がして、玄関が軋んだ。
「あっ、こっちから……!」
「上だ!屋上まで逃げろ!急いで!」
彼に言われるままに階段を駆け上がる。
てっきりついてくると思っていた彼は、ラウンジに向かって降りていった。
「ちょっと、何してるの!あなたも早く……」
「俺はここで戦います。風花さんは逃げてください。そして、無事逃げ切れたら、今度こそ全て忘れてください」
そう言うと、彼は持っていた刀を抜いた。
「そんな物でどうにかなる相手じゃないの!逃げて!」
「俺はこれで今まで何匹も悪魔を仕留めて来ました、だから安心して逃げていてください。さぁ、早く」
確かに、ここで残っても私に出来る事は無い。
誰か、誰か助けを……近くにいる、影時間に適正のある人。
「ゆかりちゃん……天田君も……あの!すぐ助けを呼んでくるから!倒そうとしないで、生き延びる事を考えて!」
階上からそう叫んで、脱出口を探して駆け出した。
今はあの二人もペルソナは使えない。
でも、私と彼だけで戦うより幾分マシに思えた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:14:28.15 ID:wRQFBVy9o<> 「窓からは……二階だし……怪我したら走れない。一階の窓から逃げれば良かった……」
出口らしい出口は無い。
結局、屋上まで逃げてしまった。
「どうしよう、私、いやあの人が死んじゃう……折角、折角また会えたのに。そんな、そんなのって……」
泣くな、私。
泣いてる暇があったら考えろ。
状況を打破する道を……。
私とあの人が生き残れる道を考えるべきだ。
「グオオオオオオオオオ」
すぐ近くから咆哮が聞こえる。
おかしい。
敵は、階下で彼と戦っているはず……。
「なんだろう、知らないはずなのに……この感じ。知ってる気がする、どこで……」
思い出した。
初めて彼がこの寮に来た日。
私はまだいなかったけど、ゆかりちゃんに聞いた事があった。
初めの大型シャドウが襲ってきた時の話。
「確か、ゆかりちゃんが彼を連れて屋上へ逃げて、そこで……」
べちゃっ。
話の続きを思い出す。
屋上で、小型のシャドウ二体を彼が倒した。
その後。
大型のシャドウが襲ってきて……。
「まさか……」
屋上の最端、縁の部分に黒い手がかかる。
「アレは、悪魔じゃない。この感覚は、私が知っているあの頃の感覚」
黒い手がそれに続く本体を引き上げようと何本もしがみついて。
「アレは、悪魔じゃない。アレは……シャドウ」
ついに、その体……仮面をつけた影そのものが姿を見せる。
かつてみた小型シャドウ、マーヤの大型化したようなその姿。
全て、ゆかりちゃんから聞いた話と一致している。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:15:05.71 ID:wRQFBVy9o<> 「今ペルソナは使えない。シャドウは、ペルソナ使いにしか倒せない」
ペルソナは、あの事件以降使えなくなってしまった。
何故かは後でわかった。
有里湊……彼の大いなる封印は、死の概念と人間を切り離す為に使われた。
結果、精神の深層にある力であるペルソナも、同時に封印されてしまったのだ。
その為、現実世界では誰もペルソナが使えない。
3/31、あの日のあの場所のような、作られた空間でも無い限りは。
それに例え、ペルソナが使えたとしても。
私のユノは、戦闘能力を持たない。
導き出された答えは、絶対的な絶望だった。
シャドウの巨体は完璧に屋上に上がりきっている。
……彼はどうなっただろう。
私の為に戦って、死んでしまったのだろうか。
今に私も同じ所に行くから、そこで少し話が出来たらいいな。
諦めが体を支配して、指一本さえ動かない。
どうしてこうなってしまったんだろう。
何が原因で……。
「グ、ググ……アグ」
シャドウが唸り、邪魔そうに何かを投げた。
シャドウの手に握られていたそれは、まるで物のように投げ捨てられ、一度小さくバウンドして勢いを失った。
「いや……嘘……!」
駆け寄って確かめる。
ボロボロになったそれは、紛れもなくデジャ・ヴュの彼だった。
「いや、返事して! ねぇ! 鳴上君!」
鳴上?
誰の事だろう。
自然と口をついて出た名前に、疑問を挟む余地は無かった。
「そうだ、息……!」
鼻の前に手を持っていく。
……不規則だけど、呼吸はしている。
「よかっ……」
手に、温かい液体がべっとりとついた。
正体はわかっている。
それでも、確認せずにはいられない。
月明かりに照らされて奇妙にてかるそれは、紛れも無く血液だった。
その量は、命が危険だとはっきりわかる程で。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:15:57.24 ID:wRQFBVy9o<> 「……はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
呼吸が苦しい。
さっきまであった絶望はどこかへ吹き飛んだ。
今私を支配しているのは、かつて感じた事が無いほどの熱。
体中を煮えた鉛が駆け巡っているようで、声を出すのも苦しかった。
これは、悔いだ。
何の力も無い自分への憤り。
彼に対する悔恨の念。
涙が一筋、頬を伝った。
シャドウは私に向かってその手を伸ばす。
きっと、私なんか一捻りなのだろう。
このまま死ぬのだろうか。
そんなの、嫌だ。
――大丈夫。
頭の中で声が響く。
――風花なら、大丈夫。
この声は、忘れるはずもない。
――さぁ、立って。
私を救ってくれた人。
「……有里君」
声に導かれるように立ち上がる。
さっきまでの熱は別の昂ぶりへ変わっている。
自分の限界を拡張する感覚。
駆け巡る歓喜のパトス。
頭の奥、どこか隅の方で鍵が開く音がした。
「ふぅ、はぁー……」
ゆったりと深呼吸。
お守り代わりにいつも持ち歩いている、召喚機を取り出す。
「ペ」
――少しだけ、扉を開けておいた。
「ル」
――誰かが僕を呼ぶから。
「ソ」
――出来れば、力になってあげて欲しい。
「ナ」
――さぁ、行こう。
自身に向けて引き金を引く。
私の中で、何かが弾けた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/05(火) 00:16:53.47 ID:wRQFBVy9o<> 風花、覚醒。
かなり長めの投下になった気がします。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)<>sage<>2012/06/05(火) 01:08:12.56 ID:Q+PWJoaAO<> 乙 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/06/05(火) 02:33:12.75 ID:8mDkcbSno<> 乙です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/05(火) 10:50:56.65 ID:Zo07Fke+0<> 乙。
ライドウキター! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/05(火) 11:46:50.68 ID:6yqq+KTIO<> ライドウ参戦か
P1勢は出番あるのかね <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:00:07.42 ID:P673WVTgo<> この書式にしてから投下ペースがイマイチ掴めてない。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:02:01.36 ID:P673WVTgo<> 私はこの力を知っている。
ただ前へと進む、それだけの力。
見方によっては愚かにも見える、そんな力。
愚直。
愚者。
彼の、力。
我は汝、汝は我……
我は汝の心の海より出でし者……
幽玄の奏者
オルフェウスなり!
「私の力……誰かを、守れる力。ずっと欲しかった、戦える力」
涙を袖口で拭った。
もう、何も出来ないで泣く必要は無い。
「……オルフェウス! アギ!」
「グアアアアアアアア」
大型シャドウは悲鳴を上げて後ずさる。
……不思議な違和感がある。
心の中に、オルフェウス以外の力を感じる。
オルフェウスは、無色の力。
他にも二つ、別の色の力があるのがわかる。
「もしかして、これが」
有里君の感じていたモノ。
「チェンジ」
この色は良く知っている。
温かいライトグリーンの力。
「ユノ!」
もう一人の私。
「解析……弱点は火炎。なんだ、オルフェウスでよかったのね」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:04:32.94 ID:P673WVTgo<> シャドウの弱点はわかった。
しかし、心の中の力はこれに留まらない。
もう一つ、黄金色に輝く力が感じられる。
「これは、何? 私の知らない力……誰の……」
直観。
「これ、この色……周防さんだ」
周防さんとの絆。
それが私の中にこの力を生んだ。
「……チェンジ」
その力を呼び出す。
翼を広げた一羽の鴉。
「ヤタガラス!」
この力は……。
「お願い、ヤタガラス! ディアラマ!」
一声啼くと、癒しの力が彼を包む。
オルフェウスやユノだけでは出来なかった事。
彼の治療が行える。
「ありがとう周防さん……」
大型シャドウが体勢を整えた。
同時に、彼が目を覚ます。
「ぐ……あれ、俺は確か……」
「良かった、大丈夫みたいね」
「風花さん……? ペルソナは使えないはずじゃ……」
「私にも良くわかってないんです。だけど、今は君より私の方が戦える。下がってて。……私が、守るから」
シャドウの攻撃。
ヤタガラスが受け止める。
「チェンジ! オルフェウス! アギ!」
再びシャドウが体勢を崩す。
「行って、オルフェウス!」
オルフェウスが琴を振り回す。
「あのペルソナ……有里の……」
「知ってるの?」
「……ええ」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:06:53.30 ID:P673WVTgo<> 「後で色々話してもらうから。とにかく今は生き延びて。……ヤタガラス!」
ヤタガラスは二、三度羽ばたくと体ごとシャドウに突進する。
鎌鼬の如くその体を斬り付け、ついには……
「……残影」
大型シャドウを、細切れの欠片に変えてしまった。
「……っは、はぁっ!はぁ、ふぅ……つ、かれた……皆こんな事した後に普通に生活してたの……?」
何とか、と言った所だった。
体はともかく精神の消耗が凄まじい。
丁度数日前に泣き寝入った時のような、感情の荒波に飲み込まれた後のような感覚。
それでも、勝った。
「私が、勝った……」
勝つ、という事。
守れた、という事。
涙が溢れてきた。
さっきの涙とは違う、熱い涙が。
「あ、ど、どこか痛むんですか!?」
彼が心配してくれている。
「違う、違うの……ありがとう」
生きていてくれて。
助かってくれて。
守られてくれてありがとう。
「初めて……初めて私は誰かを守れた……!」
しゃがみこんで、子供のように泣いた。
「……結構、良く泣きますよね、風花さんって」
彼から手が差し伸べられた。
急に恥ずかしくなって、手を握らずに立ち上がった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:09:28.72 ID:P673WVTgo<> 「ち、違うの! 普段はこんな事無いんですよ? ……あ、そうだった。なんで、私の名前……あなたは、何なの?」
彼は寂しそうに笑っている。
どうして、そんな顔をするの?
「俺は、あなたや他の誰かを危険に巻き込む疫病神です。忘れてください」
「だって、でも……」
「今日のコレだって、俺を追っていなければ無かったかもしれない。そういう存在です、俺は」
背を向けて、立ち去ろうとする。
もう、逃がさない。
離すわけにはいかない。
「待って、鳴上君」
「……っ! どこで、名前を?」
「やっぱりそうなんだね。私にもわからない。けど、勝手に口が動いたの。多分、そうなんじゃないかなって」
「そうですか。……そう、ですか」
「ねぇ、あなたは何の為に戦ってるの? 一人で戦うなんて、辛すぎるよ……」
「……これは、俺の私怨から始まった戦いです。それなのに、犠牲者まで出てしまった。俺は、罰を受けなければならないんです」
「そんな……」
「いつか、全て終わったら……その時、全部話します。その時まで、俺の事は忘れていてください」
「無理だよ」
忘れるなんて……こんな気持ちを、忘れるなんて。
私には出来ない。
「鳴上君が、どう思ってても構わない。でも、私はあなたの力になりたいの。もう二度と、あなたを一人にしたくない」
もう二度と?
見知らぬ光景がフラッシュバックする。
驚いた顔の鳴上君。
微笑む鳴上君。
手を繋いだ事。
触れ合った事。
見上げた彼の、少し汗ばんで上気した顔。
腕の感触。
一緒にいたかった。
それなのに、私は。
「そっか……そうだったんだ」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:11:22.23 ID:P673WVTgo<> 気が付いた。
私は、鳴上君と一緒に生きていきたかった。
なのに、私はその手を離してしまったに違いない。
何の邪魔にも屈しないと覚悟していたのに。
「私がいなくなってから、色々大変だったんだね」
「風花さん……?」
鳴上君の腰と背中に手を回す。
ぐっと抱き寄せて、顔を見上げる。
「ごめんね、鳴上君……私は、君の止まり木になりたかったのに。全然、役に立たなかったね」
「そんな……そんなことは……」
「でもね、鳴上君。私は、ううん、皆だって。君だけに重荷を背負って欲しいなんて思ってなかったと思うよ。今の鳴上君を見るのは、とても辛いから……」
「風花さん……」
ぽたり。
熱い雫が頬に落ちた。
「……今は、私と鳴上君だけだから。我慢しなくていいと思う。ずっと、こうしていてあげるから」
鳴上君も私の背中に手を回した。
少し、痛いくらいに抱き締められる。
「俺は……うぁっ……風花……っ」
「はい。ちゃんといるよ」
「辛くて……誰にも、何も言えなくて……何度も、後悔して……」
「辛かったね。もう大丈夫だよ。私が聞いてあげる。なんだって」
「う、ううう……!うぁああ……」
鳴上君は大声を上げて泣いた。
溜め込んでいた物を、喉から絞り出すように。
「ぐっ、ううう……風花さんっ……」
「大丈夫、あなたは、大丈夫。私がいるから。いつでも、側にいるから」
「はい……はい……!」
これから先、どうなるのかは全くわからない。
だけどこの時は、全く怖くなかった。
彼への想いが、私の恐怖を焼き焦がして……
ただ、純粋な満足感だけがあった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:13:47.28 ID:P673WVTgo<>
【2012/4/8(日) 晴れ 港区内アパート】
カチン。
カチン。
カチン。
金属音が室内に響いている。
その音で目が覚めた。
「ん……」
ぼんやりする目を擦り立ち上がる。
昨夜は確か……。
「あ! 鳴上君! 大丈夫!?」
カチン。
「いや、誰の事だか知らんが」
「あ、あれ? 周防さん……」
「あいつならそこで寝てるぞ。……いつ見つけたんだ?」
見ると、壁にもたれかかるように鳴上君が眠っている。
「あれ? 私昨夜……」
昨夜の事を思い返す。
影時間が終わり、寮から二人で出て、周防さんから連絡があって。
そこで緊張の糸が切れて、腰抜かしちゃって……。
周防さんと鳴上君に肩貸してもらって、それから……。
「ベッドは鳴上君に譲ったはずなのに……」
「……山岸が寝付いた後に、起こさないように手伝ってくれって言われてな」
「そんな、私平気なのに」
「それが、男ってもんだ。良い奴なんだな、こいつ」
周防さんが鳴上君を小突いた。
「ちょ、ダメです!寝てるんですから……」
「う……」
「あ、ほら!」
「山岸の声がデカかったからじゃないか?」
鳴上君が目覚めたようだ。
一瞬、状況が理解できていないような顔をした。
「あれ……ここ……あっ、風花さん……体、大丈夫ですか?」
「うん。鳴上君こそ大丈夫なの?」
「俺は別に……」
「それも男ってもんだがな。大丈夫ではないだろ」
周防さんが鳴上君の着ていた服を捲り上げた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:14:23.27 ID:P673WVTgo<> 「きゃっ!ちょっと周防さ……え……」
鳴上君の体には、大小さまざまな傷が残っていた。
「ちょっと、やめてくださいよ!」
「隠したって心配かけるだろうが。昨日今日ってわけじゃないが、最近ついた傷ばかりだな。処置も適当。自分でやったのか?」
「嘘、これって……」
擦り傷、切り傷、火傷。
軽い物から、素人目に見ても重度の物まで様々な傷跡がついている。
中には瘡蓋も生々しいつい最近出来たであろう傷も多かった。
「昨日の傷は治したはずなんだけど……」
「これは、悪魔と戦ったときの傷です。あの時の傷とは別で……」
「なんでそんなになるまで……大丈夫、なわけないよね」
「仕方ないです、俺がやらないと被害は増えるばかりだし……っと」
鳴上君は立ち上がった。
「すみません、お世話になりました。ええと……」
「周防だ。礼を言うべきは俺か?」
「……ありがとうございました、風花さん。お陰で随分楽になりました。体も、心も」
「う、うん。えっ、どこへ行くの?」
「寮に帰らないと。一応高校生なんで」
「待て。勝手に帰るな。お前は重要参考人だ」
周防さんが手帳を出す。
……そっか、刑事さんだったっけ。
「……そうですね、犠牲者まで出たとなると、警察も動きますか」
「そうなる以前から動いてはいたさ。まぁ、それを抜きにしてもだ」
手帳をしまって、私の方をちらりと見る。
なんだろう?
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:16:41.05 ID:P673WVTgo<> 「一人で戦うとか、痩せ我慢とかは男らしくていいぜ。ただ、彼女を悲しませるのは違うだろ」
「か、彼女って、そんな……!」
彼女と言われて思わず照れた。
そういえば、昨夜は抱きついたりしてしまったけど……良く考えたら知りもしない相手によくもまぁあんな事をしたものだ。
今更だけど恥ずかしくなってきた。
「学校には俺が連絡しておく。今日は休め。それから、ついてこい。山岸も」
「えっ、ついていくって、どこへ?」
「頭でも打ったのか? お前、昨夜自分で連絡しただろ。あいつと会うんだよ」
「あいつ……あ!」
思い出した。
確かに昨日メールしたような気がする。
例の、探偵宛に……。
「今日でしたっけ」
「今日だ。早い方がいいだろうってことらしい」
「話が飲み込めてないんですけど、俺も行くんですか?」
「お前が一番事情に通じてるだろうからな。キツイのはわかるが、協力してもらうぞ」
鳴上君は何か悩んでいるみたいだ。
多分、素直に協力したものかどうかと考えているのだろう。
あんな体で、それでも一人で戦おうとしているのだろう。
止めなきゃ、と思った。
「鳴上君。お願い。私たちと協力して。私、もう見たく無いんです。あなたが傷付く所も、耐える所も。お願いだから」
手で遮られた。
手の主はは気まずそうにこっちを見ている。
「すみません、風花さん。実は、腹は決まってたんです。一人で戦おうなんて、やっぱり無理なんだって」
「じゃあ……」
「はい。……周防さん。協力させてください。負けられないんです、俺は」
「わかった。よろしくな、鳴上。それじゃ行くか」
カチン。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:18:19.51 ID:P673WVTgo<>
【カラオケ マンドラゴラ】
「本当に、ここで良いんですか?」
鳴上君が不安そうだ。
「うん、メールにはここだって……」
「騒がしいが、合法的に個室に入れるわけだからな。悪くないんじゃないか」
確かに、そう考えれば都合が良いとも言える。
葛葉ライドウなる人物が指定した待ち合わせ場所は、カラオケボックスだった。
「時間はそろそろのはずなんですけど……」
「らしい奴はいないな」
週末の今日は、満員に近い盛況ぶりだが、その波の中にそれらしい人物は見えない。
「見たらすぐにわかりますって書いてあるんだけど、どんな格好なんでしょう?」
「さぁな。しかし、これだけ満員だと人探しも一苦労だ。俺達が何をしていようとまず目立たないだろう。探偵……中々考えてるな」
成程、そういった面でも都合がいいわけだ。
本当に、期待できるかもしれない。
「って言っても、まず会えないんじゃな……」
「うわ、何だ、アレ……」
鳴上君が何かを見て驚いた。
周防さんと二人でその視線を辿る。
「……まさか」
「確かに、一目でわかるが……」
視線の先には一人の男性がいた。
端整な顔立ちの、すらりとした人だ。
普通にしていてもそれなりに目を引くだろうが、私たちが驚いたのはそこではなかった。
学帽だろうか、帽子を被っている。
それだけならまだ良かったのだが、教科書や漫画でしか見た事が無いような外套を羽織っている。
そして更に。
「あのモミアゲ……男らしいな」
モミアゲが鋭角に尖っている。
大正時代から一人抜け出してきたような男は、目敏く私たちを見つけると、伝えてあった目印を確認した。
「こっちに来るぞ」
「アレが探偵なんですか?」
「わ、私も実は良く知らなくて……」
しかし、三人が戸惑っている間にもその男はずんずんと近付いて来て、帽子を取らずに一礼した。
「間違っていたらすみません。山岸さんと周防さんでよろしいかな?」
「あ、はい……」
「アンタは?」
「僕は葛葉探偵事務所所長、18代目葛葉ライドウ。よろしくお願いします」
ライドウと名乗った男は、ぴくりとも表情を動かさずに言った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:23:24.59 ID:P673WVTgo<>
【204号室】
「あーなーたがっいーるー!それだーけーでよーかあったー!」
隣の部屋からは微妙に音の外れた歌が聞こえてきている。
「騒がしいな……」
「それも込みでこの場を選ばせてもらいました。その方が、我々の会話もかき消されようというもの」
「それはその通りだな。改めて、俺が刑事の周防達哉。こっちが、葛葉さんが書き込んだサイトの管理人……山岸風花」
「よ、よろしくお願いします」
「はい、どうも。……聞いていた人数より一人多いようですが、そちらの方は?」
「俺は、鳴上悠って言います。……この騒動の、初めになった人間です」
ライドウさんは帽子のツバを摘むと、深くかぶりなおした。
「どうやら、知らぬ間に随分と深く調べられたようですね。このような人物がいたとは」
「彼は犯人じゃありません!……と、思います……」
鳴上君が疑われている気がして、何も言っていないのに抗議してしまった。
「ああ、そうじゃありません。……そうですね、まず貴方方、山岸さんと周防さんが、どの程度あの存在を理解しているかを聞いておきましょうか」
あの存在?
「俺達が悪魔と呼んでいる、アレか」
「その通りです。まず、アレは紛れも無く悪魔です。そして僕は奴らと戦う力を持った……」
ライドウさんが外套を少しめくる。
その中から、拳銃と良くわからない缶を取り出した。
「デビルサマナー、という者です。周防さんは、現状が通常の警察にどうにかできるレベルで無い事をはっきり認識しているものと思いますが」
「……悔しいがな」
「ですので、この銃については内密に。重要なのはこちらです」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:24:01.57 ID:P673WVTgo<> 「あ、ちょ、ちょっといいですか?」
そっと手を挙げて言う。
「なんでしょう、山岸さん」
「あの、言いにくいんですが……」
「小さな事でもかまいません、何かあったら言ってください」
完全に事件の事だと思われている。
本当に、言いにくい。
「いえ、その……お手洗いに……」
周防さんは呆れ顔になったが、ライドウさんはやっぱり表情を変えなかった。
「どうぞ、その間は周防さんと少しお話しておきます」
「はい、ごめんなさい……すぐ帰ってきます」
部屋を出て、トイレに向かう。
隣の部屋からは相変わらずお世辞にも上手いとは言えない歌が聞こえている。
「どんな人なんだろう……」
「とーけてっゆっくー!」
扉に背を向けて歌っているのは、多分男。
くしゃくしゃの髪に、耳につけているピアスが印象的だった。
「あ、いけない。急がないと……」
「やっすらっいっだー!」
……下手だなぁ。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/06(水) 00:24:47.02 ID:P673WVTgo<> 伝統と格式を重んじるライドウスタイル。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/06/06(水) 02:45:52.32 ID:1KXyfhPQo<> 14代目と思ったら18代目かいな。
まあ14代目出したら「もう全部あいつ一人で(ry」ってなっちゃうからなww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)<>sage<>2012/06/06(水) 05:25:15.58 ID:hidvRuTr0<> 隣で歌ってるのってまさか・・・ww <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/06(水) 07:42:26.90 ID:+hvOiW8IO<> ペルソナシリーズの主人公総出かよw
と思ったら克哉兄さんが出てなかったでござる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/06(水) 11:47:27.29 ID:epL3ERbfo<> うん、別スレと内容被り始めて前スレから読んでたオレショック <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/06(水) 23:28:58.41 ID:ITRHtTGM0<> どっちも面白いから、同じ作品群題材にしてんだし、内容が似てくるのは一向に構わないけど
俺の脳内で二つのストーリーがミックスレイドされてコンセンテンタラフー状態
どっちがどっちの話なんだよ!こういうときスレ形式の読み直し難さが憎い <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:00:26.38 ID:wuSMILUno<> あっちも読んでるから、だだかぶりにはならない・・・と信じたい。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:02:35.73 ID:wuSMILUno<> 「すみません、お待たせしました」
部屋に戻るとライドウさんと周防さん、さらに鳴上君が加わって難しい顔をしている。
「あの……」
ライドウさんが手を組んで、話始める。
「……それでは、僕の事について説明させてもらいます」
周防さんはソフトドリンクを飲みながら話を聞いている。
何故か少し険悪な雰囲気だ。
「僕が先ほど名乗った『葛葉ライドウ』という名前は、歌舞伎などの屋号のような物だと考えてください。一族の中で修行を修め、優秀な者に与えられる称号です」
「アンタはその18代目なんだな」
「ええ。才能は13代目、容姿は14代目に酷似していると良く先代達に言われました。この格好も、数々の事件を解決した14代目にあやかってのものです」
「道理で、古めかしい格好だと思ったよ。それで、デビルサマナーってのは何だ」
「これは……説明するより見せた方が早いでしょうか。先ほど、こちらの方が重要だと言った筒をごらんください」
細長い銀色の筒が机の上におかれている。
試験管より少し細いプロポーションをしたそれは、照明を受けて怪しく輝いていた。
「これが、封魔管……魔を封じる管と書きます。我々葛葉の者は、代々これに悪魔を封印し、使役し、共に戦う……デビルサマナーの技能を引き継いで、世を守ってきました」
管の内一つを手に取ると、蓋を外す。
煙のような何かが立ち上り、中から何かが現れようとしている。
「現れ出でよ」
かぼちゃ……。
ハロウィンで使うかぼちゃのランプ、それにそっくり、というかそのものが現れる。
違う所があるとすれば、それはマントと帽子を被り、ランタンを手に持っているという所だろうか。
「これは……ジャックランタン……?」
鳴上君がぼそりと言った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:04:32.48 ID:wuSMILUno<> 「ほう、ご存知ですか。如何にも、こいつはジャックランタン……僕の仲魔の一体です」
『ヒーホー……あら? 今日は何だホ〜、珍しく戦闘中じゃ無いホ〜』
「あっ喋った! ……何だか、可愛いですね」
「僕の仲魔の中でも温厚でひょうきんな奴ですから。今日は捜査でも戦闘でも無いんだ、少しお前を紹介しておこうと思ってね」
『あ、そーなの? この人たちは何だホ〜?』
「新しく仲間になってくれるかも知れない人たちだ。失礼をしてはいけないぞ」
『そーかホ〜! よろしく頼むホ〜!』
「よろしくね、ジャコちゃん」
「……はい、ここまで」
ジャコちゃん……ジャックランタンは封魔管の中に戻ってしまった。
「このように、悪魔と意思疎通を取り、悪魔の力を借りる事が出来るのが我々がデビルサマナー……悪魔召喚士と呼ばれる由縁です」
「ちょっと待ってくれ。あんたは代々その仕事を引き継いでるって言ったな」
「ええ。周防さん、貴方のような警察の方と協力したり、あるいは別の誰かと協力したり……遥か昔から、我々は悪魔と戦ってきました」
「つまり、悪魔ってのは昔っからいたって事か。なら、何故それが突然この街に現れて人を襲う」
「それがわからないからこうして出向いたんです。僕は葛葉の名に賭けて、この事件を解決しなければならない」
そうか、代々という事は昔からこの手の事件があったって事で……。
「でも、私達にも何が何だか……」
「それに関しては、俺が説明しますよ」
鳴上君が言った。
「君は……この事件の初めになった、と言いましたね。その意味を教えていただけますか」
「言葉の通りです。この事件は、俺がきっかけになって起こった。少し、信じられないような話をします。ですが、全て真実です。聞いてください」
鳴上君は淡々と話し始めた。
「俺は、平行世界を体験しました。そこで、今回とはまた違う異変と戦い、結果として色んな物を失くしてしまいました」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:05:39.63 ID:wuSMILUno<> 鳴上君の話は良くわからなかった。
だけど、彼の言っている事が嘘じゃ無いのは雰囲気でわかった。
なにより、表情や口調には出ないけど……その悲痛さが、ひしひしと伝わってきて、こっちも痛いくらいだった。
「最初に失くしたのは、一番大事な人でした。次に、世界で一番の親友になれただろう相手。そして、今までの友達」
「残ったのは、小さくない力と、俺一人。最も、後半は自ら進んで力を求めたんですが。そして、俺は全ての黒幕と対峙し……世界をやり直すことにした」
「どうしてもそいつが許せなかったから。何とかしてぶん殴ってやりたかった。その為に、全部捨てました。そして……」
「その結果、この世界に歪みが生まれた。その歪みを正すという大義名分の上に、悪魔は送り込まれている。つまりは、俺が世界を敵に回した結果が今の事態です」
全員が黙って聞いた。
もし平時だったら、笑い話か、病院を勧めるような話だが、今は違う。
それは、他の二人も同じようだった。
「……良くわかりませんでしたが、つまりは君がズルをしたせいでこの街に悪魔が現れたと」
「その通りです。全て俺のせいです」
「お前のせい、とは言いたく無いがな……何故か、俺も似たような事をした覚えがある。いや、してはないんだが、しそうというか……」
「本当は、協力するんじゃなく、皆さんに手を引いてもらえないか言う為に来ました。これは俺の責任で起こった事です。俺が戦えばそれで済むのなら」
鳴上君は私の方を見ている。
「と言っても、君一人で処理しきれる問題でも無いでしょう。事実、犠牲者が出てしまっている」
「それは……」
「今の話だけで、並ならぬ事情があった事は察します……それに、真に憎むべきは人を弄ぶその黒幕とやら……では無いでしょうか。俄かには納得できないのも確かですが」
「まぁ、お前に協力するわけで無くてもだ。俺はお巡りさんだしな」
「周防さん、ライドウさん……ありがとうございます」
「何故山岸さんが礼を……」
「いいね、青春だな。鳴上」
「……はい」
「もうお前だけの問題じゃないんだ。お前は余計な事を考えず、ただその黒幕だかをぶっ飛ばす事だけ考えろ。その為に出来る事は何でもしろ」
「私達は、私達の為にも戦うから。手を貸してください。お願いします」
鳴上君が驚いている。
多分、真実を話してもこんな風に言われると思っていなかったんだと思う。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:07:34.28 ID:wuSMILUno<> 「じゃあ、俺は……皆と一緒に戦っていいんですか?一人で戦わなくても……」
「……何だろうな、俺も昔そう言われた気がするから言うんだが。お前は、ここにいてもいい。一緒に戦おう」
「罪を憎んで人を憎まず。君の贖罪は戦い続ける事で成されるとしましょう」
「側にいるって、言ったでしょ。私、一緒に居たいの」
素直な気持ちを言っただけなのに、ライドウさんは酷く驚いたような顔をした。
……表情あったんだ。
「えっと……どうかしましたか?」
「成程、そういった関係でしたか。得心が行きました……。さて、それではお二人の為にも解決を図りましょう」
「お二人のため……」
「どうも、俺と風花さんがそういう関係だと思われてるみたいですね」
そういう関係……。
ちょっと、顔が熱くなった。
「お?照れてるな」
「し、知りません!」
「……話を続けてもよろしいか?」
「どうぞ、お願いします。……ライドウさん、初対面の俺を受け入れてくれてありがとうございます」
「人間、中々綺麗に生きる事は出来ない物です。僕や周防さん、山岸さんがいた幸運に感謝しましょう」
「はい……」
「さて、それでは対悪魔ですが……残念ながら、普通の人間では勝てません。ボロボロにされるか、最悪死んでしまうでしょう」
「雑魚なら俺でもどうとでもなるんだがな。そうじゃない奴もいるってことか」
「そういう事です。例えばさっきのジャックランタンですが、あれでもここにいる皆さんを一瞬で焼却するくらいの力はあります」
あんなに可愛いのに、悪魔は悪魔という事だろうか。
「では勝つにはどうするか。例えば、特殊な装備品を持っているか、あるいは僕のように悪魔を従える才能があるか。しかしこの中だと、山岸さんくらいでしょうか。才能がありそうなのは」
「えっ、私ですか?」
「ええ。山岸さんはジャックランタンの声が聞こえた……これは、結構凄い事です」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:10:46.67 ID:wuSMILUno<> 「あいつ、喋ってたのか?」
「さぁ、俺にはよく……」
「悪魔の声が聞こえる事。これは、最重要と言ってもよい部分です。山岸さんはそこをクリアしている。どうです、一度僕の里で修行してみては」
「……考えておきます」
この人は他の二人に輪をかけて表情に乏しい。
本気で言っているのかわからなくなって戸惑ってしまう。
「しかし、僕の見立てでは鳴上さんは馬鹿には見えません。恐らくは何とかして勝利する為の方策を持っているはずです。だからこそ、未だ戦い続けている。違いますか?」
「……策と言える程の事ではないですが、やろうとしている事はあります」
「それで構いません。何を狙っているのか、教えていただけますか」
「ある男が……今、自分を犠牲にして世界を守っています。その男を助け出し、協力してもらえれば何とかなるかと」
ある男。
多分、私はその人を知っている。
「男の名前は有里湊。あいつを助け出せば、同時にある力が覚醒するだろうと思います。そうなれば、俺達と一緒に戦ってくれそうな人にいくらか心当たりがある」
やっぱりそうだ。
鳴上君は彼を助け出そうとしている。
ペルソナを封印している彼を助け出すことで、その封印を解く。
そうなれば、皆も戦える。
でも、それって……
「それじゃ、Nyxはどうなるの?」
「……わかりません。ただ、人はもう滅びを求めていない。そう信じたいんです。中にはそういう人もいるけど、総意じゃないって思いたい」
「……でも、他に手は無いよね」
「何より、あいつ自身が強い。俺なんか足元にも及ば無い程。あいつとなら、不可能は無い。そんな気がするんです」
「感覚は根拠として薄弱ですが、僕はその彼を知らない。鳴上さんの勘を信じる事にしましょう」
「同じく。よくわからないけど、強いんだろ、そいつ」
「強いですよ、すっごく。ただ、どうやって助け出したらいいのか……」
「何だ、山岸も知り合いか」
「はい。昔……いろいろあって。今の彼は、いわば魂だけの状態です。たとえ封印を解いたとしても、そこからどうすればいいのかわからないんです」
いくら有里君でも、肉体が無ければどうすることも出来ないだろう。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:12:30.43 ID:wuSMILUno<> 「代わりの肉体を用意するあてはあります。ただ、そこに定着させることが出来るのかが疑問なんです」
鳴上君はそんな事を言う。
一体どんなあてだろうか。
「……それは、僕が何とかできるかもしれません。正確には、そういう力を持った悪魔がいる、という事ですが」
「本当ですか!?」
「ええ。魂を操る力……以前、僕と同じ葛葉の分家にあたるデビルサマナーがそんな風な目にあったとかあってないとか。調べればわかると思います」
「つまり、有里のいるあそこに行って封印を解いて、ライドウさんが悪魔を使えば……あ」
「今度は何ですか?」
「いえ。……ライドウさん、ペルソナって知ってますか?」
「……さぁ、存じていませんが」
「私……と、そこの鳴上君はペルソナ使いって言って、心の力を具体化できる能力があるんです。多分、その力が無いとあの場所には……」
「つまり、僕はそこに行く事が出来ないと。……困りましたね」
「それに、まずは封印を解かないといけないんだろ? それはどうするんだ?」
また、全員無言になってしまった。
封印を解くにはどうすればいいのか……。
そして、解いたとしてどうやってその悪魔をそこに連れていくのか。
「そうだ、そういえば……風花さん」
鳴上君が何かに気付いたようで、私の方を見た。
「はい。どうかしたの?」
「昨日のアレ、悪魔じゃありませんでしたよね」
昨日の……あっ。
もしかしたら、わかったかもしれない。
封印を解く方法。
「アレは、間違いなくシャドウだったよ。多分、一度は倒したシャドウ」
「それって、どういう……」
「再現されてたんです。私達がNyxを封印した事件の、始まりの時が」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:14:05.09 ID:wuSMILUno<> 鳴上君も気付いたようだ。
ライドウさんと周防さんは不思議そうな顔をしている。
「概要は聞いてます。確か……」
「うん。大型シャドウを全部倒してしまうと、Nyxが復活しちゃうの」
「アイツが、俺を挑発する目的でそれを再現しているとしたら」
「多分、またNyxは復活すると思う」
「そうなったら、封印は」
「解ける……と思う」
あの再現がこれから先も続くなら、きっとそうなるだろう。
一つ目の問題は解決の目が見えた。
「でも、結局ライドウさんをあそこに連れて行けなければ意味が無いんだよね……」
「それなら解決策がありますよ」
ライドウさんはさらっと言った。
「えっ!? それって、どういう……」
「簡単です。そのペルソナ能力とやらがある人が、悪魔を扱えるようになればいい」
なるほど、考えてみれば単純なことだった。
ん?
「あの、もしかしてそれって……」
「山岸さん。あなたには才能がある。悪魔を使役する部分に絞って教えます。本来は戦闘技能の教練もあるんですが、それは省きましょう」
「えっ」
「そうか、風花さんが悪魔を使えるようになれば、わざわざライドウさんを連れて行く必要は無くなるわけだ」
「悪魔が使えるようになりゃ、護身も楽そうだな。いい話じゃないか」
ええ?
「ええええええ!?」
どうやら、前途は多難そうだ……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:15:45.67 ID:wuSMILUno<>
【2012/4/5(木) 雨 八十稲羽】
「こっこが八十稲羽かー!」
旅行鞄をゴロゴロと引きずりながら駅を出た。
「なんていうか……静か?」
人がいない……。
電車で何時間か行くとこんな所もあるんだな……。
「うーん、大丈夫かな? 楽しい人がいると良いんだけど」
とにかく。
ここから、私の新しい生活が始まるんだ。
私……有里美奈子の、新生活が。
とりあえず、美鶴さんに世話してもらったアパートまで行こう。
……。
「ダメだ、迷った」
しかも、うろうろしている内に小雨が降り始めてしまった。
目印になる建物が無いから、どうも困る。
「商店街……? アパートどこぉ?」
唯一分かり易い建物といえば、そこにあるガソリンスタンドくらいだろうか。
……?
店員さんが暇そうにしている。
「そだ、あそこで道聞けばいいじゃん。世の中助け合いだよね。すいませーん!」
店員さんがこちらに気付いた。
にこりと笑うと手を振ってくれる。
不思議な雰囲気の人だ……。
「いらっしゃいませ。お姉さん、見ない顔だね」
「あ、今日からこの街で住むことになったんです。けど、道に迷っちゃったみたいで」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:16:15.55 ID:wuSMILUno<> 「ああ、それは大変。高校生?」
「はい、八十神高校の三年に転入する予定です!」
「で、住所とかわかる?」
「はい、ええと……ここです」
美鶴さんに貰ったメモを渡す。
「ああ、ここならすぐ近くだよ。ほら、そこの道を真っ直ぐ行って右に曲がって、そしたらちょっと先に見えてくるから」
「あ、そうなんですか? 結構近付いてたんだ。流石私」
「いい勘してるよ。それで、今ウチでバイト募集してるんだ。君みたいな高校生でも全然オッケーだから、落ち着いたらまた寄ってよ」
「はーい、ありがとうございます! えーっと……」
「ああ、私は神取鷹久。よろしく」
神取さんは右手を差し出してきた。
フレンドリーだな、と思いながら手を握り返す。
「よろしくお願いします! じゃあ、ご縁があったらまた!」
良かった、この街にはいい人がいるみたいだ。
きっと、上手くやっていけるだろう。
【アパート】
「やっと部屋入れたー……ポートアイランドからここまで、遠かったよぅ」
だけど、大家さんも親切そうな人だったし……。
「田舎は人が優しいっていうけど、ほんとなのかも。学校の友達も優しい人いっぱいいるといいなー」
……優しい人。
お兄ちゃんが死んで、私は本当に天涯孤独になった。
一応、親戚はいるけど……喜んで世話してくれるような人はいなかったから。
そんな時、お葬式で初めて会った美鶴さんが私を助けてくれた。
君のお兄さんには世話になったから、その恩を君に返させてくれ……。
そんな事を言って、私に何不自由ない生活を送れるようにしてくれた。
「ゆかりさんも順平さんも、皆優しかったなー……でも、あんな中にいたら、私甘えちゃうもんね」
だから、自分から他の学校へ行けるように頼んだ。
これも、結局は美鶴さんに頼っているんだけど。
「ま、世の中何事も経験経験! 一人暮らしは初めてだし、いろいろやってみないと! そーだ、明日からもう学校なんだし、制服とか準備しなきゃ!」
お兄ちゃん。
天国で見ていますか。
私は、しっかりやってます <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/07(木) 00:16:43.76 ID:wuSMILUno<> 天国へは行ってません。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<>sage<>2012/06/07(木) 18:21:24.38 ID:yqSt+C63o<> おつ
兄弟設定かwktk <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)<>sage<>2012/06/07(木) 18:41:50.27 ID:XBBsR50qo<> もしかしてもしかしなくてもGS神か?
だとしたらワロエネエ <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:00:13.54 ID:GHEJFIESo<> 今回美奈子ちゃんは一般人です。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:00:40.15 ID:GHEJFIESo<>
【2012/4/6(金) 晴れ 八十稲羽】
「転校初日って、何回目でもちょっと緊張するよねぇ」
誰かが聞いているわけでも無いのに言ってみた。
「そういや、セーラー服って初めて着るんだよね。これも可愛いなぁ。そうだ、楽しい子もそうだけど可愛い子もいっぱい……」
「お、お、お、おわああああ!どいたどいたどいたああああ!」
突如、背後から大声が聞こえてきた。
「ど、どけばいいの?」
さっと道の脇に避ける。
それとほぼ同時に、どう見てもコントロールを失った自転車が高速で走り抜けて行った。
「とま、止まら……アッー!!」
ドップラー効果付きの絶叫をひっさげて、自転車に乗っていた男子生徒がゴミ捨て用のポリバケツに頭から突っ込んだ。
「あの……えっと……遅刻しないように、急いでね」
とりあえず、そっとしておこう。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:01:08.96 ID:GHEJFIESo<>
【八十神高校 三年教室】
「えー、始業式も終わったしぃ、転校生を紹介しまぁす……」
教室内がざわついている。
先生のテンションは低い。
さっき挨拶に行った時も、先生は露骨に嫌そうな顔をしていたし、嫌われているのかもしれない。
「有里さん、さっさと入って」
「あ、はい!」
教室に入る。
歓声が上がった。
「はい、自己紹介」
「有里美奈子です! 港区の月光館学園に通っていましたが、高校最後の一年をここ八十神高校で過ごす事になりました。仲良くしてください!」
クラスメイトは拍手で迎えてくれた。
「席はあそこね。それとぉ、転校生はもう一人いるんだけど……今日は始業式だけだって聞いたら挨拶だけして帰っちゃったのよ」
偉く堂々としたサボりもあったものだ。
というか、転校初日からサボるとは……。
とりあえず席に着く。
……ん?
斜め前の男子、見覚えがある……。
肩をつついてみる。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:01:38.89 ID:GHEJFIESo<> 「お?」
「ねぇ、あなた今朝……」
「今朝? ……おー、そのポニーテール見覚えあるな! そっか、見た事無いと思ってたら転校生だったワケね。って、初日からダッセーとこ見られちゃったって事!?」
やっぱり今朝、盛大に事故った生徒は彼だったようだ。
「いや、ダサい以前に大丈夫だったの? すごい勢いで突っ込んでたけど」
「ああ、良くあるからな。つーか、有里だっけ?お前もひでーな! 助けてくれたって良かっただろうよ」
「あ、ごめん。何か……そっとしておいた方がいいのかと思って」
「何だそりゃ。ま、いいけどよ。俺、花村陽介。これから一年よろしく頼むわ!」
にかっと笑う花村君。
今朝の事が無ければさわやかに思えたのだろうが……。
少し、残念だ。
「何よ、花村。早速転校生にアタックしてんの?」
「いやいや、日常会話ですよ? どんだけ俺を見境無しだと思ってんだよ」
「実際無いっしょ」
「ある程度はありますー! お前にゃ何も言わねーだろが!」
「……まぁ、別に花村にそんな風に見られても嬉しかないけど。あ、有里さん。コイツ、あんまり構うと調子乗るから適当にね」
前の席の女子が笑顔で話しかけてくれた。
「あ、うん。適当にね。えっと……」
「私、里中千枝。千枝って呼んでよ。よろしくね」
「ん、よろしく! 良かった、皆楽しい人で」
「転校初日ってそうだよなー、不安と期待で胸いっぱいって感じでさ! わかるぜー」
「でさ、千枝ちゃんって可愛いよね。よかったら今度ウチ来ない?」
「えっ、どういう意味?」
「あのー、無視ですか?」
転校初日から二人も友達が出来た。
幸先の良いスタートだ。
今年一年、楽しい学校生活になりそうだ……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:02:11.28 ID:GHEJFIESo<>
【美奈子の部屋】
「そーなんですよー。花村君は顔は良いんだけど残念っぽいですねー」
『そうか、学校には馴染めそうだな。君に限ってその心配は不要だと思っていたが』
「えへへ、楽しく過ごせそうです。色々ありがとうございます!」
帰ってすぐに美鶴さんに電話した。
美鶴さんは私のしょうもない話を愉快そうに聞いてくれるから好きだ。
『気にするな。礼なら君のお兄さんに言うといい。私は彼に救われた。今度は、私が誰かを救う番だ』
「またそれですか? 美鶴さん、美人だしお金持ちだし、お兄ちゃんの事忘れて新しい彼氏とか見つけたらいいのに」
『別に、君のお兄さんとそういう関係だったわけではないよ。……まぁ、恋人はしばらくいらないがね』
「そうですか? 何なら私でもいいんですよ?」
『君とどうなれというんだ?』
「それを言わせますか?」
『……以前から思っていたが、兄に似ていじわるだな君は。余り年上をからかうんじゃない』
「あれ? ちょっと本気にしてます? あの人に似てるし、ちょっといいかなーとか思っちゃいました?」
『だから……! もう……からかうなと言っているだろう? 悪いがそろそろ切るぞ』
「やーん、私美鶴さんとだったら最後まで行っても……」
……電話を切られてしまった。
少しからかいすぎたか。
「もー、可愛いんだからっ! ……ふぅ」
アドレス帳に新しい名前が二つ増えた。
花村陽介と、里中千枝。
「えへへ……」
やっぱり、友達が増えるっていうのはいい。
そういえば、私の他にも転校生がいるらしい。
「男の子かな、女の子かな。友達になれるといいんだけど」
さて、明日の準備をしよう。
「あ、ご飯も買いに行かないと……けど、眠いしなぁ……うーん、ちょっと昼寝してから買い物。これで完璧!」
ベッドにダイブして、そのまま眠りに落ちた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:03:08.00 ID:GHEJFIESo<>
【夜 美奈子の部屋】
「……うぁ? ……暗っ!」
夕方に少し寝ようと思って、今の時間は……
「11時……昼じゃないよね、これ」
どう考えても夜だった。
晩御飯を買いに行かなければならなかったのに。
「まだどっかお店やってるかなー……もー、何で誰も起こして……一人暮らしだった! 馬鹿言ってないで急がないと」
確か、大型ショッピングモールがあったはずだ。
あそこなら、遅くまで開いているかもしれない。
とりあえず財布と携帯を持って出かける事にした。
「……夜だと余計寂しいなー。真っ暗」
都会と違い、夜の街を騒々しく照らす物は何も無い。
ぽつりぽつりと設置された街灯だけが夜道を照らしていた。
自分の靴音が良く聞こえる。
時折、虫の鳴く声も聞こえた。
「暗いのは平気だけど、何か……なーんか気味悪いなぁ。なんだろう、この感じ」
何故かはわからないけれど、肌がぴりぴりする。
無意識に拳を握り締めていた。
「何か、出そうっていうか。私そういうの別に苦手じゃない……はずなんだけど」
街灯が照らしきれない暗闇。
そこに何かが潜んでいる気がする。
……引き返そうか。
足を止めた丁度その時、聞こえてくる異常な音に気が付いた。
「何、この音。なんか……」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:03:37.62 ID:GHEJFIESo<> 湿った何かを叩きつける音。
連想するのは、肉と血。
もし、誰かがそんな目にあっているのなら、助けなくてはならない。
音は、目の前の角を曲がった所から聞こえている。
このまま行けば、音の主と鉢合わせるだろう。
意を決して角を曲がる。
そこには想像以上の光景が広がっていた。
「ちょっと、何やって……え?」
殴られている。
体の色んな部分から血を流しながら。
それは女性、に見えた。
殴っている。
体の色んな部分に血を浴びながら。
それは男性、に見えた。
しかし、女性は上半身裸、下半身はまるで蛇のようで、男性はその惨状を生み出しているにも関わらず全くと言っていいほど無表情だった。
「……アンタ、これが何に見える」
男の方が私に話しかけてきた。
不思議と、頭は冷えている。
「女の人?」
「女は下半身蛇だったりしない。もしアンタが通報しようって言うならやめた方がいい。これは人じゃないし、法律や警察は人の為にある」
言いながら、女を地面に投げ捨てる。
「すぐにわかる。これは、人間じゃなければ普通の生き物でもない。見てろ」
男は女の顔面をスニーカーを履いた踵で思い切り踏みつけた。
肉の潰れる音がして、その後、くぐもった破裂音がして。
しばらくびくびくと動いていた女の体が、ぴくりとも動かなくなった。
「……殺したの?」
「ああ。で、これからだ」
突如、女の体が灰色に変わる。
女だった物は、気化して消えていった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:04:05.27 ID:GHEJFIESo<> 「え、ええ?」
「わかっただろ。まともじゃないモノだ、これは……。だから、始末しなきゃならなかった。気分は最悪だけどな」
見ると、男の体に飛び散っていた赤い染みも同様に消えている。
まるで最初から何も無かったかのように。
「君は何者なの?」
「ただの高校生。じゃ、そういう事で。アンタも早く帰った方がいいな。今日はもう遅い……」
彼は背中を向けると歩き出す。
「待って、名前……」
聞いてどうするのだろうか。
でも、何故かこの人とは関わらなければならない気がする。
不思議とそんな気がした。
「……その内どっかで会ったら教える。じゃあな」
彼は妙にふらふらした足取りで帰っていった。
今のは、何だったんだろう。
この街では普通なのだろうか。
「とんでも無いとこ来ちゃったのかな……」
ぐぅぅ〜……と、一際長くお腹が鳴った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:04:39.99 ID:GHEJFIESo<>
【2012/4/7(土) 晴れ 商店街】
「あ、いたいた。おーい、こっちこっち!」
千枝のがこっちに手を振っている。
「おっはよー。ど、どしたの?」
「昨夜から何も食べてなくて、お腹減ったの……」
結局晩御飯を買いそびれてしまって、朝は寝坊してまだ食べてない。
いい加減きゅるきゅる鳴るお腹も限界が来ていた。
「だ、大丈夫?」
千枝の隣には昨日ちらっと見た女の子がいる。
これまた美人だ……。
「大丈夫。ええと、クラスにいたよね。名前は……?」
「天城雪子。よろしくね、有里さん」
「美奈子でいいよ。その代わり私も雪子って呼ばせて?」
「あ、うん……美奈子」
「そうそう、そんな感じ。よろしくね、雪子!」
雪子と握手する。
白くて綺麗な手だ……美味しそう。
「ちょっと美奈子。涎、涎。何に餓えてんのよ」
「へ? ああごめんなさい。雪子の手が美味しそうだなーって」
「わ、私の手? 食べちゃダメだよ!」
「美奈子さ、昨日から思ってたんだけど良い度胸してるよね。よくもまぁ転校二日目でそんだけ馴れ馴れしくできるもんだわ」
「え!? ご、ごめん、まずかった?」
「いや、すごいなーって。お陰で何か付き合い長い友達増えた感じ。才能かな」
どうやら褒められているらしい。
えへへ、と照れ笑いすると、また豪快にお腹が鳴った。
「あははは、美奈子、お腹すごい音! ぷはっ、あはははははは!」
「ちょっと笑いすぎじゃない?」
「あー、雪子のアレは発作みたいなもんだから。でもお腹空いてるなら何か食べればよかったのに」
「だって、買いに行ってる間に千枝達来ちゃったらって思って」
「もー、しょうがないな。じゃあ今日は町内案内って事でグルメツアーでもしよっか」
「うん! それすっごくいいね! 是非行こう!」
「はいはい。雪子もそろそろ止まってよね」
「あっはは、ご、ごめんね。行こっか。あは、あはは」
雪子も楽しい人みたいだなー……。
八十稲羽グルメツアー、楽しみだ。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:05:39.44 ID:GHEJFIESo<>
【ジュネス】
「あとここくらいかなー。……美奈子、まだ食べるの?」
「一日分のカロリー摂取しないと。しっかしこの街、思ったより色々あっていいねー」
千枝に呆れられても食べる。
惣菜大学のビフテキ串も美味しかったし、愛家の肉丼も美味しかった。
……肉ばっかり食べてる気がする。
「私、胸焼けが……こんなにお肉ばっかり食べた事無かったから……」
雪子は苦しそうに口元を押さえている。
「雪子はだらしないなー。肉は私達を裏切らないんだよ?」
「何それ、千枝の人生哲学?」
「そんなとこ。ここもフードコートあってさー……って、あれは……」
千枝の視線を辿っていくと、茶髪と白髪の二人の男性が何か言いながら歩いてくる。
「あれ、花村じゃない?ほら、雪子」
「あ、ほんとだ。もう一人は誰だろうね」
二人はそんな事を言っているが、私はその一人を知っている。
「昨日の人だ」
こっちに近付いてくるにつれ、会話の内容がわかってくる。
「だからさ、わかるだろ? こう、セイシュンっつーの? 恋愛とかもしてみたいわけじゃん」
「いいよ、そういうの……。女とかめんどくさいだけだって」
「っかー! お前もそういう事言っちゃうタイプなのかよ! まぁな、刹那はアレだよな。女とか興味無さそうなとこあるしな」
「どーいう意味だよ」
……なんか、この二人って。
「声似てるよね」
「あ、美奈子も思った?」
「私もそう思う。なんか不思議な感じだね」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:11:54.20 ID:GHEJFIESo<> 三人が三人とも一致した。
花村君が私達に気付いたようで、大きく手を振りながら駆け寄ってくる。
「おーうお三方。早速よろしくしちゃってるわけ?」
「花村こそ、その人新しい友達?」
千枝が昨日の男の人を指差して言う。
「おお、見ない顔が来てんなーって思って声掛けたらさ、なんと転校生だってよ。ほら、先生言ってただろ?」
「あ、そっか。美奈子以外にもいるんだよね。初めまして!」
そうか、彼も転校生だったんだ。
「初めまして。あー……もしかしてクラスの人?」
「三人ともそうだっつの。初日からサボってっからそうなんだぜ」
「悪いな。あー、俺、甲斐刹那。よろしく」
「私、里中千枝。これからよろしくね」
「あ、私、天城雪子。ええと、甲斐君? ……なんだか携帯のCMに出てる犬みたいだね、あは」
「私は有里美奈子。あの、昨日会ったよね」
「お、そうなん?」
甲斐君は決まり悪そうに頭を掻いた。
「あー……悪い、覚えてない。とにかく、よろしくな」
「あ、うん……」
暗かったから、顔がわからなかったのだろうか。
ちょっと残念だ。
「あ、そうだ。甲斐、こいつらにも聞いとかないでいいのかよ」
「何々、何の話?」
またちょっとツボに入ったらしい雪子を宥めながら千枝が聞くと、甲斐君はまたバツが悪そうな顔をした。
「いや、妙な話で悪いんだけど。……この街に、悪魔とか、そういう噂って流れてない?」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/08(金) 00:14:22.01 ID:GHEJFIESo<> 転校生二人目との遭遇。
あっちほどアトラスオールスターにはならないけど、出てこなそうなキャラを出してみる。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<><>2012/06/08(金) 00:26:06.58 ID:6spHpF1X0<> ちょ、おまww刹那やと…高城でるフラグとかじゃないよな、コレ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/06/08(金) 00:41:16.39 ID:hmRVNHIWo<> アトラスでポケモンと言えばこいつら。
地味にデビチルでしか出てない悪魔とかもいて結構侮れないゲームだぜ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 01:11:32.35 ID:0tst4xfzo<> 刹那だと…懐かしい。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 01:25:14.76 ID:TDSob0mPo<> いやっふー!
少年誌のベルセルクだー!! <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 01:28:02.68 ID:oHjhDEhlo<> デビチルとか俺得すぎる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽)<>sage<>2012/06/08(金) 01:45:38.04 ID:eYi988pAO<> こんなにアトラスが集まるとTSの主人公が登場したり…
しないですよねスミマセン
<>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 02:12:56.73 ID:TDSob0mPo<> >>111
この当時の槙は奈菜子の2上だった思うんだが……
おにーちゃんの方なら出せるかもしれんが <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/08(金) 12:14:18.73 ID:q6qE/FqIO<> ヴィンセントの出番あるで <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:00:34.34 ID:kD7UHZgIo<> トリニティはこの話の随分後になるので出しにくいなぁ。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:03:00.85 ID:kD7UHZgIo<> 「悪魔ぁ?」
千枝の普段よりトーンの高い疑問詞が響く。
そりゃそうだろう、私だって、昨日のアレを見ていなければそう思っていたと思う。
「ちょっとわかんない……私はそういうの詳しくないし、千枝はそういうの苦手だし。美奈子は甲斐君と同じで転校生だし」
いつの間にか復帰した雪子も会話に参加する。
「ちょっと雪子、それじゃ私がすっごい怖がりみたいじゃん!」
「違うの?」
「……そうだけど」
千枝は可愛いなぁ……。
「甲斐君はどこでそんな噂聞いたの?」
ちょっと、カマを掛けてみる。
勿論、噂などで無く事実なのは知っている。
信じられない話ではあるけど。
「いや、俺も苦手なんだよ。だからまぁ、そういうホラーな噂があったら勘弁だなって」
「ふーん、そうなんだ。男の子なのにね」
「俺は平気だぜ!」
花村君が何故か自慢げにしているが、無視する。
「怖い噂ねぇ。滅多に無いよ、そんなの。あ……そういや、一時期変な噂はあったよね、雪子」
「変な噂……ああ、マヨナカテレビ」
「そうそう。私は結局見なかったんだけどさー、怖くて。結構見た人多かったみたいだね。夜の12時に、電源の入ってないテレビに変な番組が……」
「悪い、里中。その話やめてくんね?」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:03:35.31 ID:kD7UHZgIo<> さっきまで楽しそうにしていた花村君が、この話題になった途端表情を曇らせた。
千枝と雪子もハッとしたように話すのを止める。
何かあったようだが……追求するような事でも無い、と思う。
「あ……ゴメン、花村。でも、他に変な噂は知らないよ。安心して住んでいいんじゃない?」
「そうそう。この花村陽介が平和を守る八十稲羽! 妙な噂は蔓延らせねぇ!」
「頼もしいな、花村は。でもそっか、ならいいや。四人共、俺がビビりって事、内緒にしといてくれよ」
甲斐君は笑って言った。
……この人は嘘吐きだ。
「へへっ、どーうしよっかなー。来週にはクラスの女子全員、甲斐の事ビビり君って思ってっかもしんねーぜ」
「そりゃ……構いはしないけど。そうなったら俺は花村は約束も守れない奴って話を皆にするだけだぞ?」
「ぐっ、そりゃ勘弁」
今日出会ったばかりだというのに、二人はすごく仲良さそうにしている。
やっぱり、声が似てると仲も良くなるのだろうか。
一人で納得していると、甲斐君が肩を叩いた。
「有里さんだっけ? 良かったらアドレス教えてくれないか? 勿論、里中さんと天城さんも良かったら」
「手ぇ早えーな刹那。俺のは?」
「花村のは今度でいいよ」
「あはは。んじゃこれで……」
「あ、悪い。俺の赤外線無いんだわ」
「ええ!? あ、スマホとか?」
「いや……古いヤツでさ」
取り出した携帯は確かに古い……というか、見た事も無い型の携帯だった。
「うわー使い込んでんね。はい、そんじゃ美奈子ちゃんのアドレスを……打ち込んで、おきましたー。いつでも連絡してね」
「サンキュ。悪いな、面倒で」
「アドレス帳が増えるのはいい事だよ! なんか嬉しいしさ」
雪子と甲斐君が増えて、こっちに来てからもう四人。
この調子でどんどん友達が増えていったらいいな。
「っしゃ、じゃあ刹那! ちょっと付き合えよ」
「なんだよ、金かかる事は勘弁だぞ」
「ばーか、俺も金無えよ。んじゃ、三人共またな!」
花村君が甲斐君を連れて去っていく。
「さて、美奈子はまだ食べるんだっけ?」
「いや、ちょっと休んだらお腹膨れちゃってもう無理」
「今までが食べすぎだよ……」
さて……甲斐君を問い詰めるべきかな。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:04:14.77 ID:kD7UHZgIo<>
【商店街】
「お、来たな!」
甲斐君がダルそうに歩いてきた。
「よう。あの二人は?」
「おしゃべりして解散になったのだ。さて、甲斐君。昨夜、会ったよね?」
「だから……」
「ゆうべ、あったよね?」
「……」
笑顔で聞いてみる。
「そうだな。昨夜のは俺だし、有里だろうな。満足か?」
「やっぱり覚えてたんじゃない。酷いなぁ。……で、アレ何?」
「知る必要があるか?」
「そりゃ、私もこの街で暮らすわけだから。あんなモノが普通にいるようじゃ……」
「そうか。……そうだな。こっちに来てから、毎晩だ」
甲斐君が溜め息をつく。
妙にダルそうなのもそのせいだろうか。
毎夜毎夜、あんな事を……。
「前はこんな事無かった。あるはずが無いんだ。あいつらはあいつらで、普通に暮らしてるはずなんだから」
「あいつらって、甲斐君、悪魔とか言ってたよね」
「ああ、悪魔だよ。けど、悪魔って言っても何も皆が想像するような絶対悪じゃなくて、ちょっと特別な力があるだけで、普通に生活してる生き物なんだ」
「へぇ、でも私は今まで見た事無かったよ?」
「そうだろうな。悪魔は魔界って言って、こことはまた違う世界に住んでるんだ。そこは国もあって場合によっちゃ法律もあって……こっちとそんなに変わらない」
……これは、確かに言えないな。
私は現場を目撃しているからギリギリついていけてるけど、突然こんな話をされたら普通に引くだろう。
多分、甲斐君もそれがわかっているから私にだけ話す事にしたんだと思う。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:04:45.37 ID:kD7UHZgIo<> 「詳しいんだね。でも、なんていうか……駆除、して回ってるんでしょ?」
「まぁ、な。それでも交渉に応じない奴だけだ。そこまで数が多くないのが救いだけど……寝不足で、参るよ」
「交渉?」
「ああ。悪魔って言っても人を取って食う奴だけって訳でもないし、才能があれば普通の人間でも会話できるんだよ。俺はそうやって、なるべく穏便に済ませてる」
「でも、昨日のあの悪魔は交渉に応じなかったと」
「そうだな。今日買い物に来てたのは武器調達の意味もあるんだ。今まで素手だったけど……感触は最悪、場合によっちゃ怪我もする。だからな」
「……今夜もやるの?」
「そのつもりだけど、どうかしたのか?」
むぅ。
私は喧嘩をした事がない。
腕力も高校生女子のそれだ。
武器になりそうな物も……稽古用の薙刀くらいしかない。
けれど、一度知り合った相手を手放しで危険の中に放り込める程、どうやら勇敢でも無い。
「もし何かあったら後味サイアクだしね……」
「なんだって?」
「あのさ、それ、私も連れてってくれないかな」
「はぁ?」
そこまで大袈裟に言わなくてもいいのに、と思うくらいのリアクションを取られた。
「いや、私だって何か力になれるかもしれないし。喧嘩は出来なくても、何か……周りを警戒したりだとか?」
「……勘違いしてないか? 命がけなんだぞ?」
「実感は無いけど、正直めちゃくちゃ怖いよ。だけどさ、甲斐君はやるんだよね」
「放っておけば被害が出るだろうからな」
「じゃあ私もやる」
「だから……」
「私の為だから。甲斐君だけに任せるのも嫌だし、街に危ない悪魔が一杯ってのも我慢できないの」
甲斐君は心底呆れたというような顔をして、それから手をぐーぱーと握ったり開いたりし始めた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:05:23.82 ID:kD7UHZgIo<>
「ね、だから遠慮……というか心配しないで」
「いや、そうじゃない。……今から、俺はお前を殴る」
「え?」
昔何かのドラマで聞いたような台詞を言って、拳を顔の高さまで持ってくる。
捻りを加えて、肩を引いた。
「ちょ、ちょっと?」
「いいか、このパンチがそのまま行く。俺は格闘技はやってない、素人だ。だからただの力任せなパンチだ。避けるか受けるかしろよ」
「嘘でしょ? いくらなんでもそれは……」
「いくぞ」
甲斐君の体が一瞬緊張して、拳が動いた。
「ひぅっ……!」
目を閉じて、衝撃に備える。
……いつまで経っても痛みは来ない。
ゆっくり、目を開けた。
「……まぁ、そういうことだ。足手まといなんだよ、単純に。俺は素人だけど、例えばその辺の格闘家だったら物の数じゃないくらいはやれる」
「喧嘩自慢ってこと?」
「鍛えてんだよ、これでも。昔……魔界に行った事がある」
「ちょっと待ってついていけてない」
「話半分に聞けって。魔界では次代の魔王を決める為に戦争が起こってて、俺はその中に仲魔一体と丸腰で放り込まれた。鍛えなきゃ今生きて無いんだよ」
「……なんていうか、凄いね、いろいろ」
「だろ。だから有里は足手纏い。絶対に夜出歩くな。わかった?」
「……わか、った。ごめん」
「謝んなって。気遣わせて悪かったよ。……気持ちは受け取っとく。ありがとな」
「じゃあ、また月曜日に学校でね」
「おう。もう一回言うけど、夜遅くに出歩くなよ。危ないから」
「はいはい、もうわかりましたー」
甲斐君は苦笑いしながら帰っていった。
「まぁ、嘘だけどさ」
危険なのはわかったけど……。
何もしないなんて、出来ない。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:09:10.91 ID:kD7UHZgIo<>
【夜】
準備と、覚悟を決めるのに時間がかかってしまった。
今はもう日付が変わる頃だろうか。
「そう広くない町内だから、多分会えると思うんだけど……」
薙刀の柄をぎゅっと握る。
数は多くない、と言っていた。
噂にもなってないってことは、滅多に遭遇するものでも無いのだろう。
それか、甲斐君が未然に全て防いでいるか。
「大丈夫、大丈夫……。無理に戦わなくていいんだから。見つけたら、逃げるなり甲斐君に連絡するなり……」
体の奥のほうに、絶対に気温のせいではない寒気が残っている。
振り払うように頭を振って、空を見上げた。
「あ、満月だ」
綺麗だな……。
見蕩れていたのは、数十秒だったと思う。
視線を正面に戻すとほとんど同時に、街の空気が変わった。
「え?」
満月が、青緑の光で街を照らす。
さっきまでちらほらと見えた家の明かりは全て消えた。
「ちょっと、何これ……」
自分の立てる音以外は、何の音もしない。
まるで、世界が死んでしまったかのように。
「どうしよう、もしかして何かまずいんじゃ……」
心臓が痛い。
嫌な汗が滲む。
もしかして、知らない間に悪魔に狙われていて……? <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:09:39.90 ID:kD7UHZgIo<> 「とにかく、甲斐君を……」
携帯を取り出すも、当たり前のように圏外になっている。
「うそ、さっきまで確かに三本だったのに。どうしよう、どうしたら……」
とにかく、闇雲にでも動くしかない。
電話は通じなくても、甲斐君は見回っているはずで、それなら動いていればいつか鉢合わせるかもしれない。
私は駆け出した。
走る足音が気味悪く響く。
本当にこの世には自分しかいないのかもしれない。
どこまで走っても誰もいない。
「甲斐君……どこに……あっ」
ちらりと人影が見えた。
甲斐君じゃないけど、見覚えがある。
「花村君!」
茶髪とヘッドホン。
見間違えようがない、今日会った花村君だ。
「あ、ちょっと待ってってば!」
花村君は私に気付いていないように歩いていく。
「聞こえてないのかな……おーい、花村君!」
歩いている花村君に走って追いつく。
後ろから肩を掴んだ。
「ちょっと!ねぇって……?」
振り向いた花村君は薄ら笑いを浮かべている。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:10:30.63 ID:kD7UHZgIo<> 「ど、どうしたの花村君……」
「お? おー、なんだ。有里じゃん。お前こそどうしたんよ」
「いや、私はたまたま歩いてたら……そうだよ、この状況、変だと思わないの?」
「あー? まぁ、そういやそうだな。心配ないんじゃねーの? 俺に会えたって事は他の奴らも平気なんだろ」
確かに、そうかもしれない。
けれど、なんだろうこの違和感。
「そういう花村君こそ。こんな時間にどうしたの?」
「あー? 俺は……まぁ、どうだっていいじゃねえか、そんな事よ」
やっぱり様子がおかしい。
「花村君、何か変じゃない? やっぱり何か……」
「どーでもいいって。それよりさ、今日どう思った?」
様子のおかしい花村君が近付いてくる。
「どうって、何が?」
妙に威圧的で、後ずさってしまう。
「ほら、俺と甲斐が一緒に居ただろ? アレさ、どっちがいいと思った?」
後ずさった分を埋めるように、また近付く。
「何、どういうこと?」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:11:36.30 ID:kD7UHZgIo<> 後ずさる。
「だからさ、俺と刹那。どっちが好きだって話」
詰め寄られる。
「そんな、別にどっちがなんて……」
後ずさる。
「俺ってさ、自分で言うのもなんだけど結構イケてないか?」
詰め寄られる。
「そ、そりゃそうかもしれないけど……」
後ずさる。
「だったらさ、俺達付き合おうぜ。な? いいだろ?」
詰め寄られる。
「ちょっと待ってよ、私達、会ってまだ……」
背中が塀につく。
もう後ろは無い。
「年月なんて関係無いって。絶対、後悔させねーから。ほら、目閉じてくれよ……」
花村君が私の顎に手をかける。
くいっと持ち上げられて、まるでキスを迫られているような……。
「ちょっと、状況考えてよ! それに私、まだ花村君の事よく知らな……」
「あぁ?」
どん、と、塀に思い切り手をつかれた。
驚いて目を閉じてしまう。
「俺、良い奴だろ?他の男なんかより俺の方がいいだろ? なぁ。俺を見ろよ。有里。見ろって。俺を見ろよ!!」
怒鳴る花村君。
そっと目を開ける。
月を背負った花村君の瞳が、金色に輝いていた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:21:52.68 ID:kD7UHZgIo<>
「おい! 何やってんだ!」
花村君の声が聞こえる。
あれ?
でも花村君は今目の前に……。
「なんだよ……お前、何なんだよ!」
確かに花村君だ。
花村君が二人……?
「なぁんだよ、来ちゃったのかよ。せっかくいいとこだったのに。なぁ、有里?」
花村君が気持ちの悪い笑顔で私を見る。
「有里……お前、有里に何しやがった!」
「別に? ただ俺と付き合ってくれって言ってただけだぜ? 何かおかしい事でもあんのかよ」
「はぁ? 俺達まだ会ったばっかりじゃねーか。何言ってんだ、お前」
多分、あっちが本物の花村君だ。
こいつは、偽者……なの?
「会ったばっかなんて関係無いだろ。だって、お前忘れたかったんだろ? 小西先輩の事」
「なっ……」
小西先輩?
「だから、俺が忘れさせてやろうって言ってんだよ。有里と付き合って、楽しい思い出一杯作ろうぜ」
「ばっ、んなこと出来るかよ!」
「なんでだよ? 誰だっていいんだろ、本当は。ただお前の事を見て、認めてくれる奴がいればそれで。小西先輩だったのはたまたまで、俺はそれを証明しようってんだ」
「う、うるせえ……俺は、本気で……」
「ウソだろ、それってさ。お前は誰だって良かったんだよ。子供みたいに、『僕を見て! 僕を認めて! 僕はここにいるよ!』って」
「やめろよ、黙ってろよ……お前に何がわかるってんだよ」
偽者の花村君から強い力を感じる。
段々と、その力が強くなってきている……。
「わかるさ。俺は、お前なんだから」
花村君がぎくりと震えた。
「お前が、俺……?」
「ああ。お前の思ってる事を素直に行動に現してるだけだ。お調子者も疲れるだろ? でも、やってないと不安なんだよな」
「や、やめろよ」
花村君の声は震えている。
「友達! 俺の事をどう思ってるんだろうなあ。五月蝿い奴って思われてっかな? だーれも、お前とまっすぐ向き合ってくれちゃいねー」
「やめてくれ……」
「小西先輩だって、本当はただの社交辞令で話してくれたのかもしれないぜ? きっとそうだよなぁ。だって、俺は……」
「うるせえ! それ以上、一言だって喋るんじゃねえ! お前なんか……」
偽者の花村君から立ち上る力の奔流が、最早目に見える程になっている。
いけない、それ以上言っちゃ駄目。
「花村く……!」
「お前なんか、俺じゃねぇ!!」
一瞬の静寂があった。
「くくっ……はは、はははははははははははははははは!!」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/09(土) 00:22:23.34 ID:kD7UHZgIo<> 美奈子、ペルソナ、無いよ?
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/09(土) 00:28:12.99 ID:DpMg6lido<> 乙
刹那が居るってことは未来も出てくる事に期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/09(土) 14:39:13.04 ID:ZG29XaAG0<> 乙。
ペルソナ3映画化きたね。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)<>sage<>2012/06/09(土) 14:56:21.33 ID:DtEHWrebo<> >>127
kwsk <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)<>sage<>2012/06/09(土) 15:08:33.33 ID:FhtOzuT6o<> P4の映画見に行けばいいとおもうよ <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)<>sage<>2012/06/09(土) 15:35:39.51 ID:Dl5AcSfAo<> P4より内容濃いのに映画に収まるはずねーww
ガンダムUCみたいに分割か? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/09(土) 23:48:31.32 ID:zm+lICOL0<> P3映画化とか嬉しすぎる <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:17:22.29 ID:vTkfjeuGo<> 遅刻遅刻。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:18:46.49 ID:vTkfjeuGo<> 花村君だった物がその姿を変える。
同時に風景も変わっていく……。
『我は影……真なる我……』
「ここ、何……?」
さっきまで普通の街だったのに、今は不気味な空間に変わっている。
空はいつの間にか赤黒く染まり、雑然とガラクタが積まれたような場所で、花村君は変質した。
巨大なカエルのその上に、人型の何かがぶらぶらと揺れている。
振り回されている……のだろうか。
「あっ、そうだ、花村く……ん?」
本物の花村君を見る。
「嘘、どうしたの!? 花村君! ねえ!」
駆け寄って肩を揺する。
しかし反応は無い。
呼吸は……している。
「気絶してる……」
どうしよう。
アレが危険な物だという事はわかる。
しかし、私はきっと勝てない。
なんとかしなければ、と思う反面、諦観が頭をもたげてくる。
「今、ここにいるのは多分私だけ。私がなんとかしないと、花村君は……」
死ぬ?
でも、何とかしようとすれば、多分私が……。
死ぬ。
死……。
お兄ちゃんのお葬式で会った、お兄ちゃんの友達。
参列していた記憶は無いのに、気がつくとそこに立っていた、あの不思議な人。
『君も、いずれは死ぬ。それは絶対で、人間は逃れる事が出来ない』
『美奈子ちゃんはどう死にたい? ……何も、すぐ答えを出す事は無い。ほら、ご覧』
『君のお兄さんが死んで、これだけの人が集まって涙を流している。彼は自分の為に泣いてくれる人、その為に自分を賭けたんだ』
『美奈子ちゃんがそれを素晴らしいと思うなら、真似をするといい。誰かの為に生きて、納得して死ぬ。それはきっと……』 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:19:53.78 ID:vTkfjeuGo<> 『素晴らしい事だから』
その後、彼はマフラーをくれた。
「そうだ、私はいつか絶対に死ぬ」
だけど、その時。
「泣いてくれる人を一人でも多くするんだ。それが、私の生きた証になるから。だから、私は……」
誰かの為に。
「私が、コレを止める」
薙刀の包みを解いた。
「って、止まるわけ無いんだけどね」
自嘲してみるも、他に手立ても無し。
薙刀を構える。
『はははは、冗談だろ? そんなもんでどうにかなるかよ』
花村君だった物は笑う。
それだけで凄まじい衝撃が私を襲う。
前に進めない……。
「どうにもならなくても……何もしないのだけは、ゴメンだからね」
――それでこそ、君だ。
頭の中で声が聞こえる。
あれ? お兄ちゃん?
いや、違う。お兄ちゃんじゃなくて、マフラーの……。
目の前に、一枚のカードが浮かんでいる。
13番……タロットカード?
何となくわかるのは、これが私の壁だということ。
ここを越えれば、私は……。
自然と笑みが浮かぶ。
力を手に入れたという実感。
カードに手を伸ばし、力をこめていく。
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:21:00.37 ID:vTkfjeuGo<> 「はぁぁ……」
深く息を吐く。
しっかりと相手を見据え、カードを砕く。
ガラスが割れるような音がして、髑髏の描かれたカードが砕け散った。
「ペルソナ!!」
頭の中に浮かんだ名前を叫ぶ。
私から、花村君だった物に似た力が立ち上る。
『あれ? こんな姿なのかい?』
この声……。
「あ、貴方は……」
『やぁ、美奈子ちゃん。久しぶりだね』
やっぱりそうだ。
さっき聞こえた声の主。
確か望月、綾時さん。
「なんで、私の中に?」
『その話はまた今度。今は目の前のアレに集中して』
「うん……!」
『おーいおいなんだよそれ。聞いて無いって。女の子出して、それでどうなんだよ』
花村君だった物は私を嘲るように笑う。
花村君の、いつもの笑いとは全然違う。
「やっぱり、お前は花村君じゃない」
『今やそうさ。俺はあいつから切り離されて俺になった。あいつの影……ただのシャドウだった俺じゃねえ。一個の存在としての俺だ。その俺に、女の子二人で勝てると思ってるのかよ』
確かに、何故か金髪碧眼ロリータ服の綾時さんと、未だに少し震えている私では勝てそうもない。
「綾時さん、どうしたらいいですか? 私、負けたくないです!」
『落ち着いて。まず僕はもう綾時じゃない。君に合わせて姿を変えた……今は、アリスだ』
「アリス……」
『僕が美奈子ちゃんを助ける。だから、名前を呼んで。一緒に戦おう』
一緒に戦う。
それを意識したら、震えが止まった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:24:15.76 ID:vTkfjeuGo<> 「よし……行こう、アリス」
『了解。さて、それじゃそこの君』
『ああ? なんだよ』
「悪いんだけどさ……」
薙刀の先を相手に向ける。
後ろでアリスも指差した。
『死んでくれる?』
花村君のシャドウは一瞬固まった。
直後、激しく体を揺する。
『ギャハハハハハハ! お前らが、俺を? 面白い、来いよ!』
答える代わりに、軽く地面を蹴って駆け出す。
体が、自分の体じゃないように軽い。
「うっそ、何これ!」
『僕が助ける、そう言っただろ。君の身体能力は僕の力で増幅されてる。さ、思いっきり』
薙刀を振る。
カエルの顔に、一文字の傷が走った。
『効くワケねぇ……だろ? ぎ、ぎゃああああああ! なんつー馬鹿力だよ!』
「あれ、私がやったんだよね」
『そうさ。君はもう戦える。さぁ、次だ。僕の力を使おう』
「……アリス!」
『嘘だろ……俺が、俺がお前みたいなヤツに負けるわけが無ぇんだ!』
シャドウの攻撃が来る!
『おっと、それは良くない』
アリスがその細腕で相手の豪腕を受け止めている。
「やだ、強い」
『こう見えてもね。さて、こういう悪い事をする人にはお仕置きが必要だね』
アリスの体から光が湧き上がる。
『……メギド』
光は弾となり、シャドウの体を貫いていく。
『ぎゃっ、うぎゃああああ! 痛え、痛えよ……何なんだ、何なんだよぉ、お前ら……俺は、俺はただ……』
少し、心が痛む。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:24:44.32 ID:vTkfjeuGo<> 『まだだよ、美奈子。勝つまでは集中して。さ、トドメ行くよ』
「う、うん。お願い、アリス」
『さて、最初に言ったよね。僕のお願い、叶えてもらうよ』
『クソが、クソがよ……! どうして俺だけ上手く行かねえんだよ……!』
「……我侭言うだけじゃ、誰だってそうだよ。話を聞いて欲しい時は、まず相手の話を聞くこと」
『うるせえ! 上から目線で言うんじゃねえよ! 俺の気持ちなんて誰にもわかんねえんだ!』
『うるさいのは、君だよ。……死んで、くれるよね?』
地面から黒い手が湧き上がる。
シャドウの体が掴まれ、引き剥がされていく。
『嫌だ、俺は、俺は……俺はぁ!』
叫んでいるシャドウの姿は、さっきまでの強大な物じゃなくなっていた。
等身大の、花村君とそっくりな、最初の姿。
「う……」
気絶していた花村君が目を覚まして立ち上がる。
「あ、花村君! 大丈夫なの?」
「有里……か。すげえ疲れてっけど、とりあえず大丈夫っぽいわ。それより……」
花村君のシャドウは、何もかもを失ったように立ち尽くす。
そのシャドウに、花村君は近付いていった。
「あ、危ないよ!」
『美奈子。……平気だよ』
アリスにそう言われて、駆け寄ろうとしたのを止められた。
『俺……俺は……』
「……もう、わかったよ。お前の言ってる事、本気で聞きたくなかった。それって、俺が本当に思ってるからなんだよな」
『俺は……先輩……俺の話を……』
「お前は、間違いなく俺だよ。ガキみてーに自分の事ばっかで、他人を疑って。それが、俺だ。お前のお陰で良くわかったよ」
シャドウが光を放ち始める。
「受け入れる。お前を。お前は俺の一部だから……戻ってくれよ、俺の中に」
シャドウは花村君そっくりに微笑んだ。
シャドウが姿を変えていく……。
さっき、カエルの上に乗っていた人形のような姿。
しかし、そこから禍々しさは消えていた。
力が、花村君の中に戻っていく……。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:27:15.59 ID:vTkfjeuGo<> 「……有里」
「あ、はい」
花村君が私を見て笑う。
「悪い、助かった。……また、格好悪いとこ見られちまったな」
「……そんな事ないよ。多分、人って皆、何か悩んでるんだと思う。悩んで悩んで、悩みながらどう生きて、どう死ぬか。それが人生って事なんじゃないかな」
「はは、お前難しい事言うな。そっか、そうだよな。……ちっと疲れちまったな」
「そうだね……あはは」
花村君と二人で笑う。
そう、誰だって悩みは抱えている。
恥ずかしがる事なんかじゃない。
きっと、そうやって大人に……
「五月蝿いクマ」
突然、背後から声を掛けられた。
「ひっ! だ、誰?」
「クマクマ」
そこには、原色バリバリのカラーリングの……着ぐるみ? かなにか? が立っていた。
「あ、あなたは……」
「クマの事は放っておいて欲しいクマ。いいからさっさと出て行くクマ。それで、二度と来ないで欲しいクマ」
「出てけったって、俺ら、ここがどこだかもわかんねーんだよ。出してくれるっつーならこっちからお願いしたいぜ」
そういえばそうだった。
ここが普通じゃないことはわかるけど、どこから入ったのか、どこから出ればいいのかわからない。
綺麗に締めようと思っていたけど、問題は実は全然解決していなかった。
「そうだよ、どうやってここから帰れば……」
「わかったクマ。その代わり、もう来ないって約束するクマか?」
「えっ、クマさん、出してくれるの?」
「クマにはそれが出来るクマ。もう来ないって、約束するクマ?」
「お、おう! するする! 元から来たくて来たわけじゃねーし!」
「なら、こっから出られるクマ」
空間に窓が現れる。
その向こうには、何故か見覚えのある風景があった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:29:29.42 ID:vTkfjeuGo<> 「ここ通れば出られるの?」
「でもよ、それでおかしな所に出ちまったら……」
「いーからとっとと帰るクマっ!」
クマさんに背中を押されて、花村君と一緒に窓に飛び込んでしまった。
「おわぁああああああ!」
「こ、これ……落ちてるの!?」
「わっかんねーけど……あっ! 出口じゃねーか!?」
どすん。
「あいったたた……お尻打った……」
「ってて……あれ? ここって……ウチじゃねーか」
飛び出した先は、閉店後のジュネスだった。
「えっ、あそこジュネスだったの!?」
「んなわけねーだろ! ていうか、俺達今どっから……」
後ろを見ると、液晶テレビがあった。
「……まさか、だろ」
「……まさか、だよねぇ」
そっと手を触れてみる。
当然、液晶画面に触れるだけだった。
「まぁ、そうだよね」
「……しっかし、疲れたな。俺、帰るわ」
「あ、うん……またね」
「おう。あの、さ」
「ん?」
「……なんでもねー。サンキューな。そんじゃまた学校で」
「おやすみ、花村君」
花村君は笑って帰っていった。
さて、私も帰る事にしよう。
なんだか、どっと疲れた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:30:30.30 ID:vTkfjeuGo<> 「おい」
「あひゃいっ!?」
またも急に声を掛けられて、飛び上がりそうになってしまった。
「ちょっと花村君、脅かさないでよー」
笑いながら振り返ると、そこにいたのは花村君ではなく……
「出歩くなって言っただろ、俺」
若干お怒りの甲斐君だった。
「あ、あはは。えっと、これは、その……」
「ご丁寧に武器まで持って、たまたまだって言うのか?」
「……ゴメンナサイ」
「ったく……家まで送る」
「ええ!? いいよ、いいって」
「危ないって言ってんだよ。心配ばっかりかけんな」
ちょっとムっときた。
私だって、もう戦えるんだから。
「心配しなくても、私にはすっごく強い味方がいるんだもんね! お願い、アリス!」
……。
「あれ?」
「どうした、有里。頭でも打ったのか」
「いやいや! ……あっれー?」
ペルソナが出せない。
心の中に確かに存在しているのに……。
あの場所でしか、使えないのだろうか。
「まぁ、いいから送らせてくれ。これ以上心配事が増えたら身がもたない」
「う、うん……ごめんね……」
ペルソナが使えないって事は、甲斐君のお手伝いも結局出来ないのだろうか。
うーん……。
満月の照らす夜道を、二人で歩いて帰った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:30:58.13 ID:vTkfjeuGo<>
【2012/4/8(日) 晴れ 美奈子の部屋】
気は進まない。
あまり頼りたくないっていうのが本心だし、そもそも話してどうにかなる事なのか。
「けど、とにかく私じゃ組織力が足りないよね……。財力、権力、組織力。それで桐条に勝ってるってなると、国か、それか南条か……」
悪魔やシャドウの事を美鶴さんに相談するかどうか、朝からずっと迷っている。
あの人に動いてもらえば、解決は出来なくてもいくらかの改善は出来る……と思うけれど。
「んー……んー……! いいや! 電話しちゃえ!」
寝不足の甲斐君を助けたいし、シャドウっていう存在も不気味だ。
花村君はたまたま助かったけど、次誰かが同じような目にあったら……。
「まずは被害が出ない事が第一。それから何でも考えればいいよね。……何とか、なるのかな」
数度のコールが鳴って、美鶴さんが電話を取った。
『私だ。どうした、美奈子』
「あ、美鶴さん。あのー……すごく言い難いというか、聞いた側もどうリアクションを取ればいいのかわからない話があるんですけど、どうしましょうか」
『……何を言っている? 話があるなら言ってみなさい。何だって聞いてあげるから』
「あ、はい……あのー。ペルソナって何でしょうね」
沈黙。
そりゃ、こんなわけのわからない質問をされたら誰だって黙る。
ペルソナ……心理学用語にそんなのがあった気がするけど。
『ペルソナ……美奈子。昨夜何があった?』 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:31:30.21 ID:vTkfjeuGo<> 「えっ?」
『昨夜、何かあっただろう』
「確かにそうですけど……良くわかりましたね」
『そうだな、順を追って説明しよう。私が、君のお兄さんとどういう関係だったか……そして、何をしていたのか』
美鶴さんは言った。
昔、自分の祖父が原因で、お父さんやお母さん、お兄ちゃんがある事故にあった事。
そして、その後片付けを……何も知らないゆかりさんや順平さん、お兄ちゃんを巻き込んで行ったこと。
結果は……私も知ってる。
『許しは請わない。その資格も無い。ただ、その件の禍根は露も残さず始末するのが私の仕事だと思っている。私に出来る唯一の罪滅ぼしだ』
「……正直、なんて言ったらいいのか……。憎むべきなのか、怒るべきなのか。でも、そういう感情は不思議と湧いてきませんね」
『なぜだ? 君の家族を奪ったのは私の……親族だ。責は私が被る。君は、私を憎み、呪う権利がある』
「んー、だって、美鶴さんもう悩んだでしょ? 悩んで出した結果に文句言うわけにもいかないですよ。私は、美鶴さんに救われた身ですから」
受話器の向こうから、鼻を鳴らす音が聞こえた。
『……ありがとう。少し、楽になった。さて、本題と行こうか。昨夜、消失したはずの影時間が発生した事が確認されている。君が巻き込まれたのはそれだ』
「どうしてなんですか?」
『はっきり言ってわからない。今、港区内で得体の知れない怪物が横行している。こうなった以上無関係では無いだろうと思うから、そちらの調査が進めば……』
「そっちもなんですか?」
『何? 八十稲羽だったか。そっちでは何が起こっているんだ』
「こっちにも、悪魔っていう怪物が出てて……。シャドウとは違うみたいなんですけど」
『そうか……悪魔に関しては誰に聞いた?』 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:32:14.37 ID:vTkfjeuGo<> 「あ、友達です」
『友達か……良ければ、その友達に私に連絡するよう言ってもらえないか。少し話がしたい』
「わかりました。そっちでも調査してるんですか?」
『ああ、同様の件の捜査を現地に住んでいるメンバーに頼んである。そちらにも連絡を取ってみよう』
「何かわかったらまた教えてくださいね」
『ああ。……なぁ、美奈子』
美鶴さんの声が少し変わる。
優しい声だった。
「はい、なんでしょー」
『その、なんだ。君はお兄さんの事が随分と好きだったようだから、私が本当の事を話せば怒ると思っていた』
「まぁ、普通はそうなんでしょうけど……私、美鶴さんも好きだからなぁ」
『そうか……ありがとう。また今度遊びに来なさい。いや、私が遊びに行ってもいいな。では、何かわかったら連絡する。また』
「はい、待ってます」
とりあえず、これで打てる手は打った……と思う。
私は大した事できないけど、皆で力を合わせればきっと……。
「そうだ、甲斐君にメールしとこ」
美鶴さんの連絡先を添えて、詳しい話はこの人にしてください、と。
「どうなるのかな、これから……」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/10(日) 00:35:36.66 ID:vTkfjeuGo<> 小西先輩・・・一回しか出てこなかったけど地味に重要キャラ。
P3映画化とか嬉しすぎてどうしよう。
スクリーンで動く美鶴が見れたらそれだけで昇天しそう。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/10(日) 00:41:30.64 ID:mrhRPrIJ0<> 乙
P3映画化が嬉しすぎて眠れない <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/10(日) 19:28:23.18 ID:SuoXO3Yjo<> 延々とタルタロス登る映画だったら評価するわー
乙 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:01:55.42 ID:z86F1TMwo<> そろそろゴールデン発売ですね。VITA無いので手つけてません。
というわけで本日分。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:02:58.88 ID:z86F1TMwo<>
【サイド:ポートアイランド】
【2012/4/19(木) 晴れ 路地裏】
白刃が閃き、鮮血が舞った。
闇を裂く刀の持ち主は、18代目葛葉ライドウ。
切り裂かれたのは闇と悪魔。
悪魔は一声唸るとうずくまる。
「山岸さん!」
後ろに控える女性に声を掛けると、女性は慌しく銀色の管を取り出した。
「はい、ふ、封魔!」
悪魔からエネルギーが放出され、管に吸い込まれていく。
「う、あっ!」
力比べに負け、手から封魔管が弾け飛ぶ。
同時に、悪魔が体勢を立て直して突進した。
「風花さん!」
横から男が割って入り、悪魔を横薙ぎに切断した。
「あ、ありがとう鳴上君……」
「……やれやれ、また失敗ですね。どうしたものか」
ライドウが吹っ飛んだ封魔管を拾い上げながら溜め息をつく。
風花がデビルサマナーとしての訓練を始めて、丁度10日が経った。
「10日で一体も仲魔を作れないとは……」
ライドウが言うと、風花は申し訳無さそうに視線を逸らした。
「そうは言っても、元々十年以上修行するような技術なんだろ? 風花さんが出来なくても仕方ないと思うんだが」
鳴上は風花を庇うように言う。
ライドウも首を縦に振った。
「それはその通り。しかし、その封魔管自体にかなり強力な封魔の効果があってこれでは……とにかく一体でも仲魔を作る事が出来れば、以降非常に楽になるから。山岸さんには何とかやってもらわねば」
<>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:04:18.49 ID:z86F1TMwo<> 風花はペルソナを再び目覚めさせる事が出来た……はずだった。
しかし、あの満月の夜以来、一度も呼び出す事は出来ていない。
ペルソナを影時間でしか呼ぶ事が出来ないのだとすれば、一刻も早く悪魔を仲魔にし、悪魔と戦う為の力を手に入れる必要がある。
それが、ライドウの結論だった。
「それで無理して危険な目にあったんじゃ本末転倒じゃないか? 早く解決したいのは同じだけど……風花さんは俺達と違って体力的には一般人だ」
鳴上からすればフォローの言葉なのだろうが、足手纏いだと言われている気がして風花は辛かった。
「ごめんなさい……私、頑張りますから。心配しないで」
風花が微笑むと、鳴上とライドウも肩から力を抜いた。
「ま、焦っても始まりません。確かに非常に難しい話ですし……」
「俺が出来るならやってるんですけど……色々、押し付けるみたいになってしまってすみません」
風花は、二人からの気遣いがわかるからこそ、自分の力の無さが辛かった。
あれから10日の間に、かなりの数の悪魔を退治してきた。
達哉の管理の下、警察組織からある程度の黙認をされた四人。
達哉は警官だけあって元々体力はあった。
鳴上も、一人で戦うつもりだったというのは嘘では無いようだ。
特に、ライドウと達哉の伝手で刀を手に入れてからは鬼に金棒とも言える戦いぶりをしている。
ライドウに関しては最早言うまでも無い。
時に拳銃を抜き、鳴上や達哉の援護を。
時に先ほどのように刀を手に取り、前線に立って風花に封魔の教授を。
更に強敵に対しては仲魔の力を使い、こと戦闘に関しては頭抜けた活躍を果たしていた。
「私が戦えれば、さっきみたいにライドウ君に戦ってもらう必要も無いんだけど……本当に、ごめんなさい」
「いや、だからそれは……仕方ないです。俺は出来れば風花さんには戦って欲しくないし……」
鳴上が再びフォローに入る。
ライドウはそんな二人を眺めながら、腕を組んで考える。
「……山岸さん」
鳴上に励まされ、風花が余計に心苦しくなって来た頃、ライドウが口を開いた。
「はい、どうかしましたか?」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:04:54.71 ID:z86F1TMwo<> 「僕達はこうして夜に集合して、悪魔退治を続けて来ました。が、昼日中に会った事はあの日以来ありませんでしたね」
その通りだったが、だからどうしたというのだろう。
鳴上も、勿論風花も、発言の意図が読み取れなかった。
「そういえば、そうですね。学校も始まったし、中々昼間は……」
「良ければ、明日の日中にお時間をください。授業があるのなら終わってからで構いません」
「それは大丈夫だけど……何をするの?」
ライドウは滅多に崩さない表情を崩して微笑んだ。
「一つ、僕とデェトなどしてください」
鳴上の口がぽかんと開いた。
風花は一瞬考えた後、はっと気付くと頬を少し染めて慌てる。
「デートって、その、時間はあるけど……私、ライドウ君の事そういう風に見た事は……」
「ライドウ、お前急に何言い出すんだ」
慌てる二人を見て、ライドウはまた表情を戻して言った。
「いえ、別に僕の事を好いてもらおうなどという話ではありません。少し、見極めてみたい事があるだけです。ご安心を」
「もう! びっくりしちゃうから、変な言い方しないでください! それなら……明日は午後丸々空いてますから、その時に」
風花は納得したようで、少し怒りながら笑っているが、鳴上は今一つ納得しきっていないようだった。
「デート……いや、必要なことなんだよな。なら仕方ない……」
空には細い月が切れ目のように浮かんでいた。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:05:35.96 ID:z86F1TMwo<>
【2012/4/20(金) 晴れ ポロニアンモール】
「お待たせしました、山岸さん」
待ち合わせ時間丁度に、ライドウは現れた。
風花の目が大きく見開かれ、待ってないよ、という言葉がどこかへ飛んでいった。
「ラ、ライドウ君……その格好……」
「ああ、そうか。いつもの学生服は仕事着なんです。特段センスがあるわけでもありませんが、普段は普通の格好もしますよ」
しかし、学帽だけは脱いでいない。
「そっか、ご先祖様にあやかってあの格好だって言ってたっけ。びっくりしちゃった」
「吃驚させてしまいましたか、すみません。さて、今日はどうしましょうか」
「お話するならコーヒーでもどうかな?」
「でしたらカフェーですか。すみませんが、案内を」
「はい。こっちです」
風花が先に立って歩くと、ライドウは数歩後ろから追従した。
付かず離れず、その距離を保ち続ける……。
傍から見ると少し不気味でもある。
「ここで……えっと、何?」
「少し、観察させてもらいました。歩き方に妙な癖がありますね……まるで、誰か隣にいるような」
ライドウは風花の体を上から下までじろりと眺めた。
射竦められるように、風花が体を抱く。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:06:05.67 ID:z86F1TMwo<> 「あ、すみません。職業病ですかね。不要な事でした。忘れてください」
「いや、別に平気なんだけど……そっか、ここ、一人で来る事無かったもんね。そのせいかも」
ライドウは無言で風花を見続けた。
「入ろっか」
「……ええ」
席に着くなり、ライドウは両肘をついて、組んだ手の上に顎を乗せた。
「あまりこういった場所には来ないので、少々気を張っていましたが……なんという事もありませんね」
突然のフランクな、軽薄とも取れる態度に風花は笑みを漏らす。
「それはそうだよ、普通の喫茶店なんだから。あ、ライドウ君注文どうする?」
「あ、メニュウを見ましたが良くわからないので……山岸さんと同じ物を。それから、今日は仕事ではないので、ライドウでは無く……」
「えっ、それじゃ葛葉君って……」
「いえ、錠平と。僕の本名です」
「あ、ライドウって屋号みたいなものだって言ってたもんね。そっか。それじゃ、改めてよろしくね、錠平君」
「……あ」
ライドウ……錠平は、帽子を深く被りなおした。
「どうしたの?」
「……いえ。久しぶりにその名で呼ばれたので少々困惑しまして。ええと、本題に入って良いでしょうか」
……照れている。
風花に名前を呼ばれたからだろうか。
普段はあれほどお硬くしっかりした態度を崩さないのに、休日になると歳相応、いや、今のご時世珍しい程初心な少年のようになる。
探偵、葛葉ライドウの殻を脱いだ素の錠平少年を垣間見た気がして、風花は何とも言えない微笑ましい気持ちになった。
「ふふ、どうぞ。何でも聞いて?」
「……はい。まず、僕が気にかかったのは山岸さんの闘争心の無さ、です」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:07:08.01 ID:z86F1TMwo<> 風花の中から、一瞬前までの暖かい気持ちが消えていった。
俯いた風花を見ながら、ライドウは続ける。
「僕達葛葉の封魔術は、言うなれば相手を無理やり従える法です。力の差を見せ付け、相手を弱らせ、弱点を突き隙を作って管に封ず。つまり、強い闘争心を必要とします」
言われるまでも無くわかっていた。
戦う、倒す、そのどちらにも未だに抵抗を覚える風花が、強さを見せ付ける事など出来るはずがない。
彼女は、満月のシャドウ戦以降一度も悪魔を倒していなかった。
戦闘力が無い事も勿論だが、誰かを害するという事がどうしても納得できない性格が一番の理由だ。
「山岸さんが優しいのは、付き合いの短い僕でも良くわかります。ですが、戦うと決めた以上このままではまずいとも思います」
「……やっぱり、そうですよね」
「ですので、少し教えて頂きたい。山岸さんは何故、何の為に戦う事にしたのか」
「私が、何故……?」
風花は自問する。
戦いが苦手な自分が、何故戦おうと決めたのか。
「私は、護りたかったんです」
「護る?」
「うん。友達や、思い出……そういう、私にとって大事な物。それが護りたくて、戦おうって決めたんだ」
「その為に、自分の命を犠牲にする事になるかもしれませんよ?」
「私がどうなっても構わないんだけどね。だけど……私のペルソナって、元々は命を感じ取るペルソナなんだ。そのせいかも知れないんだけど……」
切なげに、微笑む。
「何かの命を奪うとか、そういう事が凄く苦手みたい。向きじゃないよね、多分」
ライドウはじっと風花を見ていた。
自信も無い、覇気も無い。
それでも、戦う意思だけはしっかりと持っている。
戸惑いながらも、前に進もうとしている。
「……向いてないですね。本当に」 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:07:47.15 ID:z86F1TMwo<> ライドウから下された判断に、打ちのめされた気分だった。
「僕達のやり方は山岸さん向きじゃないかも知れません。ですが、恐らくは違うやり方があるはずです。今度、調べておきますよ……」
がっかりさせてしまったと思い、肩を落とす風花。
しかし、ライドウの思惑は別だった。
「そこまで戦う事が苦手な山岸さんが、それでも立った。護る事に対する意思は、恐らく僕達の誰よりも堅く大きいでしょう。であれば」
ライドウは笑う。
本当に短い付き合いであれど、探偵はしっかりと山岸風花の本質を見抜いていた。
「その意思を生かすやり方があるはずです。護ることは必ずしも戦う事ではない。やり方を変えれば、必ずや結実すると思っています」
「錠平君……」
「とにかく、今日の所は素直に楽しみましょう。エスコオト出来る程の器量はありませんが」
「休息も大事って事だよね。わかりました、二人で色々回ってみましょうか。……ありがとう、錠平君」
風花が小さく言うと、錠平少年はまた帽子を深く被ってしまった。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:08:38.31 ID:z86F1TMwo<>
【夜】
「さて……と。今日は休めって言われたけど、見回りくらいはしてもいいよね」
風花は一人、路地裏に来ていた。
悪魔退治は今日は休めと言われていたが、どうにも落ち着かなくて出てきてしまったのだった。
「悪魔も別に無差別に襲ってくるわけじゃないみたいだし……あれ? それなら被害に遭った人って……」
独り言を呟きながら周囲を探る。
相変わらず人の気配は無く、まるでそこだけ影時間に紛れ込んだような雰囲気だった。
「次の満月までには、一体くらい仲魔増やしておきたいなぁ」
影時間で悪魔が動けるのかどうか謎だったから、出来るなら実験を兼ねて持ち込みたかったのだが。
「……向いてない、か」
昼間のライドウの、どこか古風……というかズレた口調を思い出す。
「錠平君、横文字苦手なのかな」
一人で探索している事も忘れ、思い出し笑いしてしまった。
「『どうやら珈琲は得意では無いようです』だって。今時コーヒー飲んだ事ない人なんているんだ」
……答えてくれる人はいない。
「やっぱり、さっと流して帰ろうかな」
久しぶりの一人での捜査は、思った以上に寂しいものだった。
くるりと振り向いて、一歩踏み出す。
「……?」
歌声が聞こえる。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:09:18.64 ID:z86F1TMwo<> 綺麗な……のびのびとした歌声。
こんな場所で聞くには酷く不似合いな声だった。
「誰か、いる?」
さっきまで確かに誰もいなかった……はずなのに。
風花は神経を集中させる。
歌声はまるで風花を誘っているように、大きくなったり小さくなったりしている。
「こっち……?」
歌声に導かれるまま、路地を歩いていく。
随分近付いた頃、違和感に気付いた。
「これ、一人じゃない……女の人の声と、男の人の声が」
さっきから聞こえていた声は女声。
近付くにつれ、男声の歌声も混ざり始めた。
「しかも、何か下手。女の人はすごく上手なのに」
そして、風花はもう一つの事実に気付く。
声の主達もまた、こちらに近付いて来ている。
「……! どうしよう、一旦逃げて……いや、でも、本当に危険な物なの?」
確信が持てない。
例えこの歌声のどちらかが悪魔だったとして、今までこんなに穏やかな声をした悪魔を見た事が無かった。
一度立ち止まり、少しの間思案する。
結論は。
「行こう」
見なければ始まらない。
何度痛い目を見ても、この好奇心だけは治らないだろうな。
風花はそう思った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:10:04.48 ID:z86F1TMwo<> 『あーなーたがーいるーそれだーけでーよかーったー』
「たーだーひとーつーのーしんーじーつーだあーったーのー」
……驚いた。
歌っていたのはやはり二人だ。
正確には一人と一体。
男は人間だが、女は……悪魔だった。
「ん?こんばんわ」
「あ、こんばんわ……」
男がこちらに気付いて軽く会釈する。
耳に付けたピアスが光った。
『ナオヤ、この子誰?』
悪魔の女が言う。
「さぁ? 知らない人だ」
『ふーん。あ、もしかして私の歌で呼んじゃったかな。失敗失敗……』
二人は仲良さそうに会話している。
「あ、あの……」
「どうかしたか?」
「あ、いえ。その、そちらの女性……人じゃありませんよね」
ナオヤと呼ばれた男は頬を掻く。
「わかる人だったか。こいつはセイレーン。察しの通り、悪魔だ」
『私の声も聞こえてるみたい。やっほー、ごめんね呼んじゃって。ちょっと本気で歌っちゃったからさ』
「あ、いえそれは……じゃなくて。えっと、お二人はどういう関係なんですか?」
二人と言っていいものか、と違和感を覚えながらも風花は聞いた。
ナオヤとセイレーンは顔を見合わせて、それから笑った。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:10:34.29 ID:z86F1TMwo<> 「さっき会っただけ。俺がこいつの前で歌ってやったら気に入られたみたいで、仕方ないから一緒に歌ってた」
『気に入って無いわよ、あんまりへたくそだから教えてやろうと思っただけ』
「……そんなに下手か?」
下手だ、と、風花も思った。
「え、ちょ、ちょっと待ってください。主従では無いんですよね。さっき会ったばかり?」
「そうだよ。……ああ、そうか。知らないんだな。悪魔って言っても、皆が皆俺達に害意を持ってるわけじゃない。中には話のわかるヤツもいるんだ」
『私みたいなネー』
「そういう事。ほら、お前帰れよ。もう歌っただろ」
『えー、仕方ないなぁ。お腹も減るし帰るよ。じゃ、縁があったらまたね』
「ああ。それじゃな」
セイレーンはその姿を闇に溶かして消えていった。
風花はただぽかんと見ているしかなかった。
「あの……あの、悪魔と……悪魔と仲良くなる方法を教えてくれませんか!」
風花に合ったやり方。
戦わず、害さずに、手を取り合う方法。
「ん? いや、やめた方がいい。勿論話のわからないヤツだっているんだから。本当は関わらないのが一番」
「そうはいかないんです。私は、その技術が必要だから聞いてるんです。どうしたらいいんですか? 彼らと話をする方法を教えてください」
ナオヤはまた頬を掻く。
目の前の必死な女を見て、どうしたものかと思案しているようだった。
「お願いします……」
「……別に、技術なんていらない。人間と同じで、適当な話題で話しかけるきっかけさえ掴めば、コンタクトは取れる」
ライドウの仲魔や、さっきのセイレーンを思い出す。
確かに彼らは人間と変わらない。
思考ルーチンや常識において、凡そ人間とはかけ離れた部分がありこそすれ、だ。
目から鱗とはこの事だろうか。
考えたことも無かった。
悪魔と、コンタクトを取ろうなんて。
「あの、ありがとうございます。お陰で、色々見方が変わりました」
風花はペコリと礼をする。
ピアスの男……ナオヤは手を振って立ち去ろうとしている。
「あ、あの! 良ければお名前を……」
振り返ると、にかりと笑った。
「俺は藤堂尚也。これからも悪魔と関わっていくなら、また会う事もあるかもな。コンゴトモヨロシク」
藤堂はそういうと今度こそ立ち去った。
空に浮かんだ月は昨日より更に細く、糸のようだった。
「明日には新月かなぁ」
風花は、月を見ながら帰る事にした。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 00:11:26.86 ID:z86F1TMwo<> New moon。
というわけで本日は終わり。
では、また明日。 <>
◆e8lME0lo0A<>saga<>2012/06/11(月) 11:38:08.59 ID:z86F1TMwo<> ちらりと。
あと一週間ほどで前スレから二ヶ月が経とうとする今、一つ言い難い報告があります。
諸事情(大体自分の技量不足)あってこのスレ、落とそうと思います。
とはいえ色々と書きたい事もあるので、1からリファインした上で再度スレッド立ち上げると思います。
酉は今のままで立てるので、それらしいスレタイを見つけたら良ければ読んでくださると嬉しいです。
中途半端な地点で終わることになってしまい、本当に申し訳ありません。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)<>sage<>2012/06/11(月) 13:31:46.98 ID:0TjAnHvVo<> どうした?風呂敷広げ過ぎてまとめられなくなったとでも言うのか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/11(月) 14:50:39.22 ID:5wUstE++o<> 最初から見ていたけど
風呂敷広げ過ぎだよ
似たようなスレとは違う
P3-4だけの世界観で楽しいなと読んでいたのに
他スレとかぶるネタばかりで、ちょっと残念でした。 <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)<>sage<>2012/06/11(月) 14:59:15.70 ID:GcGDf6iT0<> よくあるP3・P4コラボじゃなくてP1・P2・ライドウコラボとか楽しみにしてたのに残念です <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<><>2012/06/11(月) 15:32:53.81 ID:PBf9FrMR0<> デビチルが出てきてワクワクしてきたんだけど残念だな
次のでも刹那が出てくるのを個人的に期待してる <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/12(火) 00:04:15.00 ID:Mv01AAHO0<> >・・・目を閉じますか? <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)<><>2012/06/12(火) 01:24:53.80 ID:ipLEjGbr0<> 刹那は通常ストーリに絡めるより特殊な形(TVやタルタロス内のみ)とかの方がいいかもしれない
P3〜4は同じ世界のなか同士だし余り問題なかったと思う。
P2も立ち位置は悪くなかったように思えるけど、ライドウと初代ペルソナは絡めるとしてはやりづらいかもしれんねえ… <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします<>sage<>2012/06/12(火) 01:25:03.07 ID:rPq9gNpDO<> 次も楽しみにしてるわ
今はただ翼を畳んでゆっくり眠りなさい <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)<><>2012/06/13(水) 05:21:48.82 ID:8gBxu3Vuo<> まあ残念だけど無理に続けてやらかすよりはいいんじゃない?
次スレ楽しみに待っている <>
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)<>sage<>2012/06/13(水) 22:42:16.98 ID:Ocmd9riAO<> 次スレたてたらここに貼ってくれたらうれしい <>